金色の英雄 IS 【更新凍結中】 (ソウソウ)
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1章 学園入学
第1話 IS学園


何か間違いや矛盾箇所等を見つけたら、ご指摘してもらえるとありがたいです。
早めの更新を心掛けるつもりですが、善処します(汗)

───では、どうぞ!!


『インフィニットストラトス』

 

 女性にしか反応しない世界最強の兵器、通称“IS”(アイエス)の出現後、男女の社会的パワーバランスが一変し、女尊男卑が当たり前になってしまった時代。その時代の中である衝撃的なニュースが世界中に広がった。それは………。

 

 ───ISの男性操縦者が見つかったのだ。

 

 ISは唯一女性にしか反応しないはずなのに男性である織斑一夏はISを動かせることの出来る世界中で一人だけの男性操縦者である。

 一人男性操縦者が見つかったので『もう一人ぐらいいるんではないか?』と単純な考えで世界中の男性の検査を始めた。結果…一人だけ見つかった。世界中で二人しかいない男性操縦者達はIS操縦者育英を目的としたIS学園に入学することとになった。

男性操縦者二人目の名は───

 ───『波大蒼星(なみだい そうせい)』

 蒼星はある事件に巻き込まれた過去を持つ男性である。これはその蒼星と一夏の物語である………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…きついな……」

 

 俺──波大蒼星──は今IS学園の一年一組の教室にいる。先ほど入学式が終わりこの教室に来て自分の席に来ていたが周りの目線がすごいのである。───しかも女子だらけで。

 それもそのはず、俺は世界中でたった二人しかいない男性操縦者の内の一人なのだから注目を浴びるのは仕方がないのだが………。

 

「あいつよりはまだましか…」

 

 俺の席は運の良いことに一番後ろである。つまり皆の目線は自然と自分の列の一番前にいるもう一人の男性操縦者の方へといくのだから気持ちはまだ楽な方だ。

 

「はぁ~い、そろそろSHR始めるので席についてください。」

 

 そういい言いながら教室にひとりの女性が入ってきた。

 一瞬先生なのかと疑いたくなるようなほど、身長が低かったがある部分が強調されていた。本物の先生のようだ。

 

「えー、私はこのクラスの副担任を務めさして頂きます、山田真耶と言います。よろしくお願いします」

 

「「「「…………」」」」

 

 誰も返事をしない………皆目線が違う方向に向いているせいだと俺は思った。極一部の生徒は山田先生に同情の視線を送っていた。

 

「あわ……わ…じゃ、じゃあ名前の順で自己紹介をしてもらおうかな………」

 

 山田先生は涙目になりながら、事を進めようとしているけど、なんというか可哀想だと俺は思った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………らくん、織斑君!」

 

「……あ、はい!」

 

 自己紹介の真っ最中、もう一人の男性操縦者は何か考え事でもしていたのか山田先生が呼んでもなかなか気づかず、気づいたと思ったら声を張り上げて席をあわてて立った。クスクスと周りから笑い声が聞こえてくる。

 

「今、『あ』から始まって『お』なんだよね。織斑君、自己紹介してくれるかな」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 織斑はこっち側を向いて………。

 

「えー、織斑一夏です。」

 

 とだけ言った。周りはもっと何かを言って欲しいのかソワソワしている。そして………。

 

「以上です!」

 

 そう言いはなった。斜め上を行く回答にたちまちクラスは大転倒に包まれ皆は椅子から転げ落ちていた。もちろん、俺は落ちてない。

 すると、バァッン!と普通なら有り得ない音が鳴り響く。

「いてぇ…」

 

 第三者の手によって織斑は頭を抱えて第三者の顔を見た。

 

「げ!関羽」

 

「誰が三国武将だ。バカ者」

 

 織斑先生はもう一度さっきはあれで叩いたと思われる出席簿で叩かれていた。痛そうである……。

 というか、よくこん状況の中でも冗談を言える余裕があるなぁ………と俺は感心していた。

 

「貴様はろくに自己紹介もできないのか」

 

「い、いや~千冬姉………」

 

 また叩かれた。

 本日3度目である………。

 

「ここでは織斑先生と、呼べ」

 

「わ、分かった」

 

「あ!織斑先生、会議は終わったんですね♪」

 

「ああ、山田君。クラスの挨拶を押し付けてすまなかった」

 

「い、いぇ。副担任ですから、これくらいのことは………」

 

 山田先生と織斑先生が会話している間、あの先生と織斑一夏はあの、やりとりから兄弟だと俺は冷静に分析をしていた。

 

「諸君、私が織斑 千冬(おりむら ちふゆ)だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 うわ、そんな言葉使いでいいのかよ、と俺は心の中で、思ってると───

 

「キャーーー千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 まるで兵器だ、と俺は思った。

 女子達の黄色い声援が辺り一帯に響いて、正直うるさい。

 咄嗟に耳を塞いだが、それでも鼓膜に響いてくる。

 

「全く。毎年よくこんなに馬鹿者共が集まるものだな。感心させられる。それと何だ?私のクラスに馬鹿者たちを集めさせているのか?クラスにわざわざ集めているのか?」

 

 織斑先生は…はあ~、とため息をついて呟いた。

 全力で賛成します!!織斑先生!!

 俺がそう考えているのをよそに、女子達の盛り上がりようはなかなか収まりようがないほどになっている。

 

「───で?お前は満足にも挨拶ができないのか」

 

 と、織斑先生は左手に拳をぶつけて一夏のほうを向く。話を逸らしたと思いきやの、再びの到来に一夏はしろどもどろ気味に答える。

 

「い、いや、千冬姉。俺は……ぐぁっ!?」

 

 そして織斑先生は一夏の頭を机に叩きつけた。

 

「ここでは織斑先生だ」

 

「は、はい、織斑先生」

 

「え?織斑君って千冬様の弟?」

 

「もしかして世界で初めてISを動かせたのもそれが?」

 

「いいなぁ。私と変わって欲しい!」

 

 相変わらず女子達は騒がしい………。

 バンッ、と出席簿を織斑先生が叩いた瞬間、教室が静かになった…………。

 その時、織斑先生と目があった。

 

「さて、波大。自己紹介をしろ」

 

 織斑先生のご指名を受けて俺は席を立った。

 

「え~と、俺は波大蒼星と言います。趣味は機械いじりとかゲームとか………とにかく機械関連がそうです。他に聞きたいこととかがあったら話しかけたりして下さい。以上です」

 

 俺はちょっとした優越感に浸されながら席に座った。

 その時、ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴った。

 

「SHR(ショートホームルーム)は終わりだ。諸君らには最初の半年でISの基礎知識を、もう半年でISの基本動作を覚えてもらう。分かったなら返事をしろ。分からなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

 クラス全員が、はい!と返事をして終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………えーと、波大だったかな」

 

 そう俺が休み時間になり、机の上に上半身を置いて寝る体勢に入ろうとしたときに俺の耳に男の声が聞こえた。

 

「ああ、そうだよ、織斑一夏君」

 

「俺のことは一夏でいいぜ」

 

「なら、こっちも蒼星で構わないぞ」

 

「男子同士、よろしくな」

 

「おう、こっちこそ」

 

 やっぱり男子同士での会話は楽だな~、と心の中で考えていた。

 そんな俺と一夏の所に接近する影が一つ。

 

「………ちょっと、いいか」

 

 その声に一夏が反応して振り替える。そこには綺麗な黒いろでポニーテールの髪型をした撫子風の女性がいた。

 

「…っあ。箒」

 

 一夏は知り合いみたいだ。

 

「一夏、行ってこいよ」

 

「ん?どこにだ?」

 

「そこの方と話してこいよ」

 

「蒼星はどうするんだ?」

 

「俺はここにいるわ。ほら……早く行ってこいよ」

 

「………すまない」

 

 箒と呼ばれた人は俺の方に軽く一礼をしてから、一夏を連れて廊下へと出ていった。

 再び一人になった俺は特にすることもなく、時たま聞こえる女子達の、先に行けばよかったぁ、とかの男子からしたら少し怖い内容を聞いては心の中でひやひやとしてた。

 緊迫感満載の現状の中、ひたすら時が過ぎるのを待つしかない。だが時間は意地悪だ。こういう時に限って、ゆっくりと時計の針が動いているような錯覚を覚える。

 

「……………大丈夫?」

 

 その声に俺の思考はドキッ、と肩を震わすと共に思考を停止した。

 ───即座に起動。

 

「~っ、ビックリした。リリーかよ」

 

「私じゃ駄目だったの?」

 

「いや、そういう事じゃないから」

 

 ショートヘアーが似合っている栗色の髪の毛を纏っていて、美少女の中に入るぐらいの綺麗さがあるこの少女は俺の幼馴染みである。リリーこと『遠堂璃里亜(えんどう りりあ)』である。

 璃里亜は俺の返答に納得していないのか、首を傾げていたが結局は話を変えた。

 

「………で、大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「ちょっと様子が変だったから……」

 

「そうかなぁ…俺はいつも通りだけど」

 

「ならいいんだけど………」

 

「…………もしかして、それだけか?」

 

「え!!…………………あ…………うん」

 

 璃里亜は小さく頷いた。とにかく何か話すきっかけが欲しかったみたいだ。

 

「ほら、もうチャイムが鳴るぞ」

 

「うん。じゃあ、またね、ソウ君」

 

 ソウ君、とは璃里亜が俺の事を呼ぶときに使っているあだ名だ。ちなみに俺は璃里亜のことをリリー、と呼んでいる。

 

 いつの間にか一夏達も教室に戻っておりチャイムが鳴り響いた。

 

 

続く─────────────────────────────

 




とりあえずセシリア戦まで行くつもりです


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第2話 セシリア・オルコット

どんどん行こー!


 IS学園は入学式当日からいきなり授業がある。なので、今その授業を受けている最中なんだけれども内容がとにかく難しい。

 入学するまでの魔の1ヶ月猛特訓が効いたおかげかある程度は理解することが蒼星はできていたが、一番先頭の席にいる一夏は頭を抱えていた。因みにその時の先生は璃里亜と彼女の両親だ。

 

 お~い、一夏そんなことしてると、先生に当てられるぞ………。

 

 一時間目の授業をしているのは山田先生。織斑先生は入口近くの時間割り表にもたれ掛かっており、何も言わない。

 

「───であるからして、ISな基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、逸脱した───」

 ああ、やばい………限界ギリギリな男子がここにいた。頭から煙が出るとは、きっとあれのことなんだろうな………。

 

「織斑君!何か分からないことはありませんか?」

 

 ほら、俺の思った通り!…と思っているのをよそに山田先生は───なにせ、先生ですから!……とえっへん、と胸を張っていた。

 

「…………山田先生」

 

 何か考えごとをしていた一夏が何かを決意したような声を放つ。

 

「はい!なんでしょう!」

 

「全然わかりません………」

 

「へ?…………」

 

 一夏の発言が衝撃だったのか、まるで雷に打たれたかのように山田先生が胸を張り自慢げにしながら固まってしまった。

 

「えーと、他に分からない人はいませんか………」

 

 山田先生は辺りを見回して確認する。もちろん誰も手を挙げない。

 

「…波大君は大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。なんとか………」

 

「そうですか」

 

 蒼星は大丈夫だということに山田先生は少し安心した様子。

 

「………織斑」

 

「はい」

 

 何もせずにただ立っていた織斑先生が一夏の近くへと移動していく。

 

「ISの参考書はどうした?」

 

「…………もしかして、電話帳みたいに分厚いやつ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「電話帳と間違って捨ててしまっ────」

 

 バシン!………。

 

 出席簿が再び一夏の頭へと一直線に降り下ろされる。

 

「必読と書いてあっただろが、馬鹿者目」

 

「………すみません」

 

「仕方ない、もう一度発行してやるから、一週間で覚えろ」

 

「え………いやいや、無理でしょ────」

 

「いいか?」

 

 織斑先生のどす黒いオーラに思わず一夏ははい。と頷いてしまった。怖いよ、もう無茶苦茶を通り越してしまいそうな感じだと、蒼星は思っていると………。

 

「波大、お前何を考えていた」

 

 蒼星の思考を織斑先生に読まれてしまった。読心術にも程度と言うのがあるはずなのに、織斑先生はそれを普通に乗り越えたような感じだろうか。

 

「いえ、何も」

 

「そうか。波大、お前は織斑を手伝え」

 

「あ…はい。分かりました」

 

 ここで何か抵抗するとどんな目に遭うか分からないので大人しく返事をした。

 

「山田先生、授業の続きを」

 

「…はい、分かりました」

 

 再び授業が再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休み時間になり、クラスの中が騒がしくなるなか、織斑君の机に二人の男子が頭を抱えているかのようにしていた。

 

「おい、なんで俺もこんな目に遭うんだ」

 

「ごめん………頼むから、まじで」

 

「まあ……やるからにはやるけど」

 

 男子達が悲鳴をあげているなか、廊下では2,3年生の人達が男性操縦者を一目見ようと混雑していた。

 クラスの中も抜け駆けは禁止みたいなオーラがあり、なんだかやりにくいと私───璃里亜───は感じていた。

 

「ちょっと、よろしくて。」

 

 もちろん私に向けられたわけがなく、男子達に一人の生徒が話しかけていた。

 

 あ!………先越された…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて」

 

「へ?」「ん?」

 

 一夏とISについて勉強している蒼星は話しかけてきた生徒の方へと体を向けた。

 そこにはブロンドの女性が立っていた。

 肌は陶磁器の様に白く綺麗で、少し垂れたような瞳は美しいサファイア。恐らくは欧州ヨーロッパ系だろうか。

 フリル付きのカチューシャと、クルリと巻かれたロールヘアーがバネのように弾み、また見事なものである。

 

「まぁ、なんてお返事!? 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、”それ相応の態度”というものがあるのではないかしら!?」

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないんだ。ゴメンな」

 

「同じく」

 

 俺は一夏のセリフに同意した。

 

「知らないっ!? この『セシリア・オルコット』を……イギリスの代表候補生にして、入試首席のこの私をッ!?」

 

 バシン、と一夏の机を叩き、驚きとそれ以上の怒りをこめて、セシリアはずい、と迫ってきた。

 

「あ、質問」

 

「フッ、下々の要求に答えるのも貴族の務めですわ。宜しくてよ?」

 

 一秒前までの怒りは何処へやら。セシリアは鼻を鳴らして髪を掻き上げた。

 

「………ダイヒョウコウホセイって、何?」

 

  ………ちなみに俺じゃない。

 

 ガタタタターーーーーーーーン!

 

 本日二度目の大転倒がクラス内で発生した。

 

「あ……あ………!」

 

 セシリアは余りの事に頬をヒクヒクとさせている。どうやら突発的な出来事に弱いようだ。

 それもそうだろう。まさか、そんな事を聞かれるとは思いもしなかったのだ。

 というか、これには俺も頭を抱えていた。

 

「あ……!」

 

「あ……?」

 

「あ……なたはぁっ!!」

 

 キッ!と、再起動を果たしたセシリアが一夏に迫る。

 

「信じられませんわ!! 日本の男性というのは、こんなにも知識に乏しいものなのかしら!?」

 

「それはひどいなあ…こんなことを言うのは世界中で一夏だけだ!」

 

「うわ!酷くねぇか!」

 

 俺は一夏の突っ込みをスルーした。

 

「……織斑君、代表候補生ていうのはね、言葉から想像できる通りに国家代表になれる可能性がある人達のことを言うんだよ。ねぇ、ソウ君」

 

 割り込む隙を見つけた璃里亜が俺に同意を求めて来る。

 

「そうだな、いわばエリートってところかな」

 

「へえ………わかったよ。ありがとな」

 

「それぐらい余裕です♪」

 

 俺達の会話に入れたのが、嬉しいのか少し機嫌が良い璃里亜。

 

「そう!!エリートですわ!」

 

 俺の頭からすっかり抜けていたセシリアがそう言った。

 

「そうだな………」

 

 一夏が何気なく返した返事にセシリアは不満を持ったのか一夏に食いつく。

 

「…あなた、私をばかにしてますの」

 

「そんなつもりはないけど……」

 

 たぶん、一夏は正直に言っているだけだと俺は思う。

 

「大体……何も知らないでよく、この学園に入れましたわね? 男で、ISを操縦できると聞いていましたけど……期待はずれですわ」

 

「俺に何かを期待されてもな……」

 

「まぁ、私は優秀ですから……あなたのような人間にも、優しくしてあげますわよ」

 

「………」

 

 そう思うなら、早く解放して欲しい。

 

「分からない事があれば……そう、泣いて頼むのでしたら、教えて差し上げても良くてよ?」

 

「何せ私は入試で唯一、教官を倒した……エリート中のエリートなのですから!」

 

「あ、俺も倒したぞ」

 

「は────」

 

 その瞬間、セシリアが凍りついた。

 

「はぁあああああああああああああっ!?」

 

 またもや再起動した彼女は、一夏に信じられないといった視線を向けてきた。

 

「いや、倒したって言うか……いきなり突っ込んできたからそれを避けて……そしたら、壁に突っ込んで……で、気絶しちまって……」

 

「へぇ~、すごいな…」

 

「私だけだと聞いてましたが………」

 

「女子だけっていうオチじゃないのか」

 

「っ………!」

 

 一夏がとどめを刺した。

 

「そういう蒼星はどうだったんだ?」

 

「ん?そりゃ勝てなかったよ」

 

「そ、そうですわね。そこの方の言うとおり、教官に勝てたのは私だけのはず……」

 

 セシリアが何か呟いていたが気にせず続けた。

 

「そりゃあ、元世界一の織斑先生に勝てるわけないだろ。───精々、時間ギリギリまで耐えるのが限界だったよ」

 

「「「え…………」」」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「……蒼星、千冬姉に引き分けたのか?」

 

「時間切れで、引き分けってなったけどあのまま行けば普通に負けてたわ」

 

「それでも、すごいよ、ソウ君」

 

「そうか、アハハハハ」

 

「どうなってますの………この方といいその方といい………」

 

 セシリアは黙り混んでしまった。

 そして─────怒りに頬を紅潮させ、眉は釣り上がり、目鼻先まで顔が迫っている。

 

「お、落ち着け……なっ?」

 

「これが落ち着いて───!!」

 

 その瞬間救いの鐘の音が鳴った。休み時間が終わったのだ。

 流石にこの場ではこれ以上は無理と、セシリアもすぐに理解した。

 

「この続きは、また改めてしますわ!!」

 

 だが、言葉通りに解釈すると次があるらしい。折角の上昇気分が段々と下り坂になっていく。

 ズンズンと床を踏み抜くように、セシリアは自分の席に戻っていった。

 

「俺も行くわ、一夏」

 

「ああ、わかった」

 

 俺と璃里亜も自分の席へと戻った。もちろん、あの出席簿で叩かれたくないためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、もうすぐ二時間目が開始される。

 今度は織斑先生が担当するらしく、壇には彼女が立っている。

 

「おっと!忘れるとこだった。授業を始める前にクラス代表を決めておく」

 

 クラス代表とは、再来週に行われるクラス対抗戦に出場する選手であり、同時にこのクラスのクラス長も兼任する。

 その為、生徒会や委員会など、色々と駆り出されるポジションである。

 絶対になりたくねぇ!

 説明を聞き、一夏が思ったのはそれだった。

 

「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

「はい」

 

 一人の生徒が手を上げた。立候補かと思われたがそうではなかった。

 

「織斑君を推薦します!」

 

「なっ……!?」

 

「私もそれがいいと思います」

 

「え……?」

 

「私も〜!」

 

「えぇ、何で俺っ!?」

 

「他には居ないか? いないなら、無投票当選だぞ?」

 

「はい、波大君を推薦します」

 

 俺を推薦したのは、なんと璃里亜だった。

 

「私も~~」

 

 次に手を挙げたのは、確か本音というのんびりした子だった。

 他にも次々に同意の声が上がる。

 

「他には居ないか? いないなら、無投票当選だぞ?」

 

 俺と一夏の気持ちはよそに次々と話が進んでいく。

 

「納得できませんわッ!!」

 

 だが、それを遮って凛とした声が響いた。

 

「そんな選出は認められませんっ!」

 

 セシリア・オルコットである。

 

「男がクラス代表だなんて、いい恥晒しですわ!! このセシリア・オルコットに、そんな屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 彼女はプライドが高い上、どうやら女尊男卑主義者のようだ。

 そして彼女の怒りは止まらない。いよいよもってとんでもない所へ走りだした。

 

「大体、文化としても後進的なこんな国で暮らさなくてはいけない事自体、耐え難い屈辱だというのに……!!」

 

「……イギリスだって、大したお国自慢は無いだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ?」

 

 流石にこれにはカチンときた一夏は、内心の怒りに任せて暴言を吐く。

 

「美味しい料理はたくさんありますわっ!!あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」

 

「その侮辱を先にやったのはお前だろうがっ!!」

 

 それが更に、セシリアの怒りに油を注ぐ。売り言葉に買い言葉だ。

 

「決闘ですわ!!」

 

 怒りを込めた指先を突きつけ、セシリアが叫ぶ。

 

「おぉ、いいぜ? 四の五の言うよりは、よっぽど分り易い!」

 

「私が勝ったらあなたを小間使い……いえ、奴隷にして差し上げますわ!!」

 

「好きにしろよ。で、ハンデはどのぐらいつける?」

 

「あら……早速、お願いかしら?」

 

 それをハンデの申し入れと思ったのか、セシリアがフフンと鼻を鳴らした。

 

「”俺が”どのぐらい、ハンデをつければ良いかって事だよ」

 

「は……?」

 

 一瞬の沈黙。

 そして、クラス中が爆笑した。

 

「ちょっと織斑君、それ本気?」

「男が女より強いなんて……ISが出来る前の話だよ?」

「もしも男と女が戦争したら、三日持たないって言われてるのに」

 

 次々に飛ぶ言葉。一夏はしまったと自分の迂闊な発言を後悔した。

 

「それはおかしいと思うけどな…………」

 

 俺は誰にも気づかれない大きさで呟いた。

 が──────。

 

「波大、どういうことだ、言ってみろ」

 

 何故か織斑先生には聞こえたみたいだ。

 

 

続く───────────────────────────

 

 

 



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第3話 同室の相手

主に三人称と主人公目線で書いていくつもりです。たまに他の人目線で書くかも………。

───では、どぞどぞ!


 俺は席を立った。

 

「え~と、女性は男性よりも強いってなっているけど、それはおかしいということです」

 

「何故あなたはそう思いますの!!」

 

 セシリアが聞いてきた。そんなに大声で言わなくても言うつもりだ。しかも俺のいう内容は少し考えれば分かることなのに。証拠は目の前にあるんだから。

 

「女性が強いのはさあ、あくまでもISが使えたらっていう話だということだよ。つまり、女性がISを使えない状況に陥った場合、もしくは男性がISを使えるとなったら話が変わってくるんじゃないかと言っています」

 

「「「「「「「…………っ!」」」」」」

 

 クラスのほとんどが目を見開いた。ここまでこんな簡単なことに気付いていなかったとはこっちも目を見開きたい気分だ。

 

「現に今、ここにISを使える男性が一人ならず二人いるじゃないですか。だから、男性は女性より弱いのはのはあながち間違っていると思います……………それと、一夏!」

 

「………!!」

 

 急に自分の名前を呼ばれるとは思っていなかったみたいでつい、一夏は驚いてしまった。

 

「こんな奴等にハンデなんて与える必要なんてないからな!!思いっきり打ちのめしてこい」

 

「おう、任しとけ」

 

 一段落がついたと思った織斑先生はざわついているのを静めた。

 

「それでは、勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。織斑とオルコットと波大はそれぞれ、準備をしておけ」

 

「分かりました」

 

「承知しましたわ」

 

「………了解です」

 

 うわ、俺も決闘するのかよ………と巻き込まれてしまった蒼星だった。あんなことを言った意味がないではないか。

一夏に全てを託す感じで言ってみたのだが、結局は巻き込まれる羽目になった。

 授業終了後、何人かのクラスメイトの女子が何故か謝りにきた。俺は───「気にしてないから」と言い和解した。それに璃里亜が顔を赤くしながら「かっこよかったよ」、と言って逃げ出してしまったことについてはよく分からない。

 

 一夏の方はというとセシリアから何か言われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぅ………」

 

 放課後、一夏は、机にぐったりもたれ掛かっていた。

 今、教室にいるのは俺と一夏だけだ。

 

「なんで……こんなに難しいんだ?」

 

「さあね、頑張るしかないんじゃないのか?」

 

「蒼星は分かるのか?」

 

「ある程度は分かるよ」

 

「へえ~、すごいな」

 

「そりゃ、誰かさんとは違って予習してますから」

 

「う………それを言われるとおしまいだ」

 

「取り敢えず、試合までにはどうにかしないとな」

 

「誰かに教えてもらうか」

 

「まあ、それが一番かな」

 

「誰が良いだろうか………千冬姉はちょっとあれだし………そうだ!山田先生はどうかな?」

 

 一夏はそう蒼星に提案をしてくると教室の扉がガラリ、と開いた。

 

「あ!ここにいたんですね、織斑君、波大君」

 

 山田先生、タイミングが良すぎるのは気のせいだろうか。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

 一夏が話を進めようとする。山田先生は何かを思い出しながら言った。

 

「えっとですね………寮の部屋が決まりました」

 

 そう言って部屋番号の書かれた紙とキーを、一夏と蒼星に渡す山田先生。

 IS学園は全寮制だ。その表立っての理由は生徒の安全確保とか言うもの。何処の国も優秀な操縦者の確保に必死になっている現状、妥当な制度と言える。一夏や蒼星が自宅から通学すると確実に学園にたどり着かないだろう。

蒼星は元々、寮で暮らすものだと思っていたので驚きは少ないが、一夏はそうではなかったようだ。

 

「あれ?俺の部屋、決まってないんじゃなかったんですか?前に聞いた話だと、一週間は自宅から通うって話でしたけど」

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理やり変更したらしいです」

 

「しかも俺と一夏は同じ部屋じゃないんですね…………」

 

「うわ、まじかよ」

 

「すみません…………ちょっと時間がなくてこんなってしまいました。ちなみに織斑君は1025室。波大君は1026室となっています」

 

「隣だな、一夏」

 

「おう」

 

「それでですね、織斑君と波大君の荷物のことなんですけど────」

 

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

 

「ど、どうもありがとうございます……」

 

「まぁ生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

 そう言う織斑先生はいかにも感謝しろというような態度を取っている。ていうかそれだけって大丈夫かよ。一夏よ、どんまいだなと心の中で密かに思っておく。

 

「波大の方はお前が世話になってるところの両親方が送ってくれたぞ」

 

「そうですか。分かりました」

 

「ん?蒼星の両親はどうしたんだ?」

 

 一夏はふとそんな疑問が沸いてきたので思わず蒼星に聞いていた。

 

「俺の両親は知らないっていうか────記憶がないんだ………」

 

「───っ!…わ、悪い………」

 

 軽い気持ちで聞いてしまった一夏は慌てて謝る。だが、蒼星は特に気にした様子はない。

 

「別にいいけど、小学2年のことだし俺はもう気にしてないしな。」

 

 少し暗い雰囲気になってしまった。それに気づいた山田先生は────

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、お二人は今のところ使えません」

 

 ───と言った………。

 

「え!入れないんですか?」

 

 すると一夏が爆弾発言した。一夏は少し発言に気を付けて欲しいところがある。

 

「お前、女子と入りたいのか?」

 

「いや!そんなわけはない!」

 

「え!織斑君、女の子に興味ないんですか。それはそれでちょっと────」

 

 変な方向へと山田先生が暴走し始めてしまった。さらに────

 

「織斑君って男好きなの?──」

「じゃあ、波大君は攻めかな?───」

「きゃあー!やばいよ、それ──」

「いますぐに織斑君の交遊関係をしぼって──」

 

 いつの間にか廊下に固まっていた女子達にも聞こえてしまい酷いことになっている。

 

「おい、一夏。あれをどうにかしろ!」

 

「どうにかしろって言われてもなぁ………」

 

「じゃあ、私は仕事があるのでこれで…」

 

 そう言い山田先生はどこかへと逃げてしまった。

 

「さっさとここを抜けて行くぞ、一夏よ」

 

「そうだな」

 

 蒼星達は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え~と、ここか!」

 

「俺も見つけた。隣だしな」

 

 無事教室から寮まで迷わずに来れた俺達は渡された鍵の部屋へと来ていた。

 

「じゃあな、蒼星」

 

「隣だから言う必要ないだろ」

 

「それもそうか」

 

 そう言い俺達は部屋へと入ろうとした。が、その前にドアをノックする。

 そういえば、一夏はノック無しで入ったようだが、大丈夫なのだろうか。まあ、そもそも俺の心配することでもないので、思考から省く。

 

 コンコン…………。反応はない。

 

「よし、誰もいないみたいだ」

 

 俺は中に人はいないことを確認してから中へと入っていった。

 

「おお!すごいな、これ」

 

 中には想像してたよりも綺麗な部屋があった。ひとまず俺は荷物を適当に置いてからベッドへとダイブした。

 

「気持ちいいな、これ………」

 

 感傷に浸っているとドアがノックされていることに俺は気づいた。

 

「誰ですか」

 

「───俺だよ」

 

 一夏だった。

 

「とにかく部屋に入れてくれ」

 

 一夏がそう言うので俺は部屋に入れてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、色々大変だな………」

 

 俺は一夏のどんな目にあったのかを聞いてきた。

 一夏が部屋に入ると誰もいなかったみたいだか荷物は置いてあったみたいで一夏はとりあえず荷物を置こうとしたら洗面所からバスタオル1枚だけを身につけた一夏の幼馴染みである篠ノ之箒がいたという。思わず箒は竹刀を振り回してしまい危険を感じた一夏はこっちに避難してきたというわけだ。

 

「謝ってこい、一夏が!」

 

「なんでだよ!?」

 

「女にとって裸を見られることは一生の恥だって俺の知り合いが言ってたし、それに一夏が確認もせずに部屋に入るからだ」

 

「そ、そうか………」

 

「ほら、行ってこい」

 

 一夏は自分の部屋へと歩き出した。

 しばらくして、一夏がドアをノックしてきた。開けると、そこには一夏と後ろに箒がいた。

 

「蒼星も食堂行かないか?」

 

 無事一夏と箒は和解できたみたいで元通りになっていた。────箒が一夏に好意を抱いていることも分かった。一夏は気付いていないみたいだ────

 

 未だに俺のルームメイトが来ないのでとりあえず俺は食堂へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂での料理はとても美味しかったと言っておこう。ただ周りからの目線が凄くてあまり味わうことが出来なかった。ごめんなさい、作ってくれた人。

 部屋に戻った俺はすることがなく、相変わらずルームメイトもいないのか帰ってこないのかは分からないがとりあえず今、ここにいないので暇である。

 

「シャワーでも浴びるか………」

 

 そう決めた俺はシャワールームへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、疲れたよ……」

 

 璃里亜は放課後からずっと自分の両親がいる研究所への報告等をかねて電話を母親にしていたがその母親が自分にソウ君のことばかりを聞いてくるので対応に困ってしまい時間がかかってしまった。食堂へとぎりぎりの時間に向かって食事を取ってから寮にある自分の部屋へと荷物を持って行った。

 

(あ!ルームメイトって誰だろ?)

 

 ふとそんな疑問が頭に思い浮かんだが、出来るなら大人しい人がいいなぁと思っている璃里亜であった。

 

 自分の持っている鍵の番号と同じ部屋の前へと到着した璃里亜はとりあえず深呼吸した。なぜ、これをする必要があるのか自分でもよく分からないが気持ちが落ち着いたのを確認して扉を開けた……。

 

 ガヂャリ・・・と音がして中に入ろうとした璃里亜だが目の前にある確かシャワールームだったはずの扉が勝手に開いた。出てきたのは下にジャージを着ていて、上半身は裸で肩にバスタオルをかけている人がいた。

 

「リリーか……どうしたんだ?」

 

 目の前にソウ君が現れて気が動転してしまい私は思わず────

 

「え…………」

 その場で固まってしまった。

 

 

 

続く───────────────────────────




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第4話 専用機

「あんなに俺から見ても分かりやすいほどに驚かなくてもいいだろ」

 

「…ごめんなさい」

 

 あの後、ひとまず私が状況を整理して落ち着いてくれるのを待ってくれてから、お互いにベッドの上に座って対面している。

「リリーはなんでここに来たんだ?」

 

「だって、私…部屋がここだもん」

 

「え………あ、そうか……リリーなのか」

 

「え………じゃあ、ソウ君もここなの?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 部屋がソウ君と一緒…………私は少し顔が赤くなってきている気がした。

 

「顔を赤くするほどでもないだろ」

 

「//////っ!……ソウ君の意地悪」

 

「ごめん、ごめん」

 

 ふん!と私はそっぽを向いた。こんな当たり前のような日常の会話も何だか楽しいと私は感じていた。

 

「じゃあ、私、シャワー行くね」

 

「おう、行ってら」

 

「……………」

 

「な、何?」

 

「………覗かないでね」

 

「覗くか!!」

 

「フフ、冗談だよ」

 

 冗談で言ったことにソウ君は速攻で否定した。顔を赤らめてくらなかったのは残念だ。

 その後、色々と生活に必要なことを決めて 就寝へとつく。その時に聞いたんだけど箒さんは一夏君と同じ部屋になったときに暴走したみたいだったらしいけど、私はそんなことはない。ソウ君に信頼を置いてあるからこそ、断言出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日─────

「おい、一夏。なんで、篠ノ之さんは機嫌が悪いんだ」

 

「さあ、よく分からないんだよな?」

 

 朝御飯を食べようと俺と璃里亜は食堂へと向かった。その途中で一夏達と出会い一緒に行こうということになり、今食堂で食べているが何故だか、篠ノ之の機嫌が悪いように見える。折角、機嫌が戻ったと安心しておけば、これだ。

 

「また、怒らせることでもしたの?」

 

 璃里亜がお気に入りのカレーを食べながら一夏に聞く。ここの食堂のカレーをお気に入りに追加したのは昨日の話らしい。

 

「ん~、心当たりがないんだよ。────ていうか、“また"って何!?俺、そんなに頻繁にやってねえーよ」

 

「それにしても、二人とも和食なんだ~」

 

「え!俺の話は無視ですか!」

 

 一夏の必死のツッコミを無視して璃里亜は話題を普通に変えた。

 

「たまたまだ。今日は和食を食べたい気分だったし、明日は洋食かもしれない」

 

「へぇ~、そうなんだ」

 

 俺が朝に和食と洋食、どちらかをその日によって変えて食べていることを知っている璃里亜はわざとらしく頷く。

 

「なみむー、隣いいかな~」

 

 俺にそう声をかけてきたのは確か、同じクラスメイトの人だ。本音と言う名前の独特の雰囲気を持った子。

 

「………のほほんさんだっけ?いいよ、座っても。どうぞ、どうぞ」

 

 愛称“のほほんさん”は俺の隣の席へと座り、のほほんの後ろにいた二人の女子もガッツポーズをして席に座った。

 

「なんで、なみむーなの?」

 

 いつの間にか自分のあだ名が謎のあだ名になっていた俺は疑問に思うばかりであった。

 

「なみむーは、なみむーなの~」

 

 のほほんさんは呑気に答えた。抗議してもこの人には通じなさそうと結論付けたので、「まあ、いいや」と気にしないことに俺はそう決めた。

 

「織斑くんって朝からたくさん食べるんだ」

 

「男の子だねー」

 

 ちょっと待った。その理屈でいうと俺や一夏と同じだけ食べている篠ノ之は男という事になってしまうぞ。それに璃里亜も朝からカレーを食べている。

 

「さっきから、気になっていたんだけど織斑君は篠ノ之さんと知り合いなの?」

 

 三人のうちの一人の女子が一夏に聞いた。

 

「ああ。箒とは幼馴染みなんだ」

 

 一夏がそう言うと篠ノ之の機嫌が良くなっているような気がした。

 

「波大君は遠堂さんとどういう関係なの?」

 

 質問の矛先が俺に向いてきたみたいだ。

 

「そっちと同じく幼馴染み」

 

 俺がそう言うと璃里亜はえっ!と思わせる表情になっていた。俺は璃里亜に静かにするようにと指を自分の口に当ててサインを出した。すると、璃里亜はぷくーと頬っぺたを膨らまして少し機嫌が悪くなった。

 本来はもっと深い関係にあるのだが、ややこしい事態になるのは防ぎたい。

 すると、出席簿を叩く音が聞こえた。別に誰かの脳天に降り下ろされた訳ではなくただ単に手を合わせるようにして叩いただけである。

 

「いつまで食べている!さっさと行動しろ!遅い者はグラウンドを10周させるぞ!」

 

 織斑先生の登場だ。しかし生徒達はその登場にうっとりせず、むしろ真っ青になって一気に手元の朝食を食べ始めた。

 IS学園の生徒達は知識以外の能力をISに頼りきっているため身体能力は一般の女子のそれと変わりない。一部の生徒会や代表候補生などは例外で自力、もしくは義務でトレーニングを積んでいるうえ立場がそもそも一般ではない。

 

「先に行っておくからな」

 

「私も行く」

 

 流石にグラウンドを朝から走りたくないので璃里亜と一緒に先に教室へと向かった。

 

「え!おい、ちょっと待てよ!」

 

 一夏のことは考えないで───────

 

 結果、ギリギリ間に合った一夏だが、織斑先生に出席簿で叩かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ISは宇宙での作業を想定されて作られたので、宇宙空間でも活動が可能なように操縦者の全身を特殊なエネルギーで包んでいます。また生体機能を補助する役割もあり─────」

 

 山田先生の授業が続くなか、一夏はというと勉強不足で煙が頭から発生しそうになっていた。

 内容が理解出来ずにまるで、念仏を唱えているかのように聞こえる。

 蒼星はというと…………。

 

「………」

 

 寝ていた────

 音もたてずに顔を伏せて蒼星は寝ていた。

 

「……ソウ君……ソウ君…」

 

 璃里亜が山田先生の隙を見て、蒼星を起こそうとするが起きる気配を感じさせない。

 そこに近づく悪魔。

 

「あ……………」

 

 璃里亜は次の瞬間の一部始終の光景を見て、感嘆の声を漏らした。

 

「あ…あぶねぇ…」

 

 寝ていた蒼星の隣に織斑先生がゆっくりと接近。そして、出席簿を蒼星の頭目掛けて叩こうとしたが蒼星がその瞬間、横に回避したのだ。

 

「うわぁ……机が……へっこんでる」

 

 織斑先生の出席簿はそのまま蒼星の机に命中し、跡がついていた。出席簿の威力を目の当たりにした瞬間だった。

 

「織斑先生!何するんですか。こんなの喰らったらヤバイですよね!!」

 

「お前が真面目に授業に参加していればいい話だ。堂々と私の目の前で居眠りしおって」

 

「ええ!俺、寝てたんですか?」

 

「ソウ君……気づいてなかったの?」

 

「じゃあ、あれは夢なのか…だがなんで夢の中までISの勉強しなくちゃいけないんだ…」

 

「波大!今度居眠りしてたら、覚えておくんだな」

 

「はい。すみませんでした」

 

 織斑先生は元の位置へと戻っていった。

 

「え、えっとぉ。次の時間は空中でのIS基本動作についてやりますからね!」

 

 と同時にチャイムが鳴り、そう言って織斑先生と共に教室を出る山田先生。するとクラスの生徒ほぼ全員が蒼星や一夏に群がった。

 

「織斑君にしつもーん!」

「あのさ、織斑君ってさぁ」

「織斑君って今日暇ある?」

「波大君、昼休み空いている?」

「波大君は放課後空いてる?」

 

 一夏がこっちに助けてほしいと眼差しを送ってくるがこちらも逆に助けてほしいくらいの蒼星には無意味だ。

 

「…………………むー」

 

 一夏の下に集まらない数少ない女子の1人の篠ノ之は、一夏が女子に囲まれてちやほやされているのを見て不機嫌だった。しかし他の女子とは違い、IS無しの生身での身体能力が中々な実力がある篠ノ之はその視線でも圧力を発生させることができた。

 おかげで一夏の顔には大量の汗が漫画のように流れていた。それと反比例するかのように群がっている女子の殆どは一夏の優しさにやられていた。

 

「ぷくっーーー」

 

 蒼星の方はというと璃里亜がわざとらしく頬っぺたを膨らまして怒ってますアピールをしてきていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい、次の質もーん!千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?やっぱり家でもクールに過ごしているの!?」

 

「い、いや。意外とだらし…な”っ」

 

「もう休み時間は終わりだぞ。くだらない話をしてないでとっとと座れ」

 

「のおおおおおおぉぉぉぉぉ」

 

 織斑先生にとってのタブーを言いそうになった一夏は、教室に入ってきた織斑先生の持つ出席簿で撃墜された。一夏が撃墜された後それまで一夏と蒼星に群がっていた生徒は出席簿の餌食になる前に自分たちの席に移動していた。

 今のは然り気無く流せば良いものを正直に答えようとするから、あんなことになるのだ。

 織斑先生が本題に入る。

 

「織斑、波大、1つお前達に知らせがある。お前らの使用するISなんだが、学園で使える予備機が無いため準備に時間がかかる」

 

「痛つつ…………準備?予備機?どう言うことなんだ千冬姉ぇ…え”っ!?」

 

「織斑先生と呼べと何度言えば…お前らには学園から専用機が用意される事になっている。だからそれが来るまで待て」

 

どうしても千冬姉と呼んでしまう一夏は先程からずっと叩かれていた。癖を直すのは一苦労すると言うが本当らしい。何故なら直せるものなら、早く治して出席簿攻撃を避けたいからだ。

 何度も頭を叩かれる一夏は、何とか織斑先生の説明を聞くが理解が追いついていないようだった。しかしクラスの女子達は違う。専用機を持つと言うことがどれだけ凄いのか知っているためざわざわと騒ぎ出す。

 

「せ、専用機!?まだ1年生なのに!?」

 

「つまり政府から支援されてるってこと…!?」

 

「いいなぁ~、私も専用機欲しいなぁ」

 

「えぇと…どういうこと?」

 

 バシン!と数えるのもめんどくさく成る程一夏は叩かれる。

 

「教科書を読め」

 

「は、はい!」

 

 そして一夏は慌てて教科書を読む。

 

「え、えーと『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』」

 

「つまりだ一夏。本来だったら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられないんだ。だから何も当てはまらない一夏が専用機を与えられるのは異例中の異例なんだと」

 

「へぇ~そうなのか」

 

 一夏が蒼星の説明にふむふむと頷いていると……。

 

「蒼星は違うのか?」

 

「大体は一夏と同じだが、俺は企業に既に属しているからな」

 

「へぇ~そうなのか」

 

「波大の場合もそうだが、お前らの場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解出来たか?」

 

「な、なんとなく……」

 

 織斑先生が言った途端に一夏は急に歯切れの悪い返事をした。

 

「あの、先生。思ったんですけど、篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

 女子の一人がおずおずと織斑先生に質問した。

そう言えば篠ノ之博士って此処にいる篠ノ之さんと同じ苗字だった。気になってはいたが、だからと言って詮索する気は無い。肉親だとしても、そんな事をどうこう言える立場じゃないからだ。

増してや、相手の個人情報をいくらなんでも織斑先生が教えるわけが……。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

 あっさりと教えてしまった織斑先生。個人情報の保護は一体どうなったのかと疑いたくなった。

 

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内がふたりもいる!」

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよ!」

 

 篠ノ之の周りに続々とクラスメイトが集まっていき次々と質問をしていく。

 

「あの人は関係ないっ!!」

 

 蒼星が女子達の行動に呆れていると、篠ノ之が突然大声を上げた。その事に、篠ノ之に群がっていた女子達はポカンとする。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」 

 

 そう言って、篠ノ之は窓の外に顔を向ける。女子達は盛り上がったところに冷水を浴びせられた気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。

 あの態度から察するに彼女は姉に対してあまり良いイメージを抱いていないような気がする。

 

「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」

 

「は、はいっ!」

 

 山田先生も篠ノ之が気になる様子だったが、そこはやはり教師だ。授業を優先している。そして蒼星も教科書を開き再び寝ないように注意しながら授業に集中した。

 ………睡魔に負けずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 休み時間になるとセシリアは早速一夏の席にやってきて、腰に手を当ててそう言った。昨日と同じポーズをしていることに気付いた俺は、気に入っているのだろうか?と別のことを考えていた。

 

「まあ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

 

「何で?」

 

 一夏は理解できない様子で聞き返していた。蒼星はその時、他のお嬢様もこういうポーズをとるんだろうか………と思っていた。

 

「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたたちに教えて差し上げましょう」

 

 俺も地味に含まれていた。

 結局、俺のどうでも良い疑問は放っておくことにして現実に意識を戻す。

 

「このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

「へー」

 

「それは良かったな。凄いすごーい」

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

 一夏の頷きと、俺の棒読みの台詞にセシリアは引き攣った顔をしている。彼女の癪に触れたようだ。

 

「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」

 

「俺も思った事を口にしただけだけど」

 

「それを一般的に馬鹿にしていると言うでしょう!?」

 ババァッン!と音が鳴り響く。

 セシリアが突っ込みながら両手で一夏の机を叩く。一夏の机の上に置いてあったノートが落ちた。人の机は本来、叩いてはいけない。無論、今でもだ。

 

「……こほん。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

 

「ふーん、じゃあ璃里亜もエリートということになるのか?」

 

「どうしてなんだ?」

 

「璃里亜も日本の代表候補生だからだよ」

 

「「!!!」」

 

 俺の発言に相当驚いたらしく二人とも固まってしまった。

 

「蒼星の幼馴染みはすごいな」

 

「君にだけは言われたくないよ」

 

幼馴染みの姉はISを作った本人。さらに彼自身の姉も世界最強と賞されている人物ではないか。そんな、ある意味無敵の人材に囲まれている本人から凄いと言われても嫌みにしか聞こえない。

 

「……こほん。つまり、その方も含めて私は全人類六十億の中でエリートなのですわ!」

 

 俺と一夏の謎のコントが始まったと思ったらセシリアが気を取り直してそう言った。さっき、同じような事を聞いた気がした。

 

「そ、そうなのか」

 

「そうですわ」

 

「人類って六十億超えてたのか!」

 

「え!七十億じゃなかったっけ?」

 

「そこは重要ではないでしょう!?」

 

再び両手で一夏の机を叩くセシリア。今度は教科書が落ちたみたいだ。一夏も気の毒だ。

案外、こういうやり取りも楽しいものだと俺は内心思っていた。

セシリアは矛先を俺の方へと向けた。

 

「あなた!本当に馬鹿にしていますの!?」

 

「いやそんなことはない」

 

「だったらなぜ棒読みなのかしら?」

 

「………さぁ?」

 

「あなたも覚悟しておきなさいよ!」

 

「ん?何をだ?」

 

「勿論、あなたが私に敗北することを、ですわ」

 

「はぁ~………その台詞そっくりそのまま返すよ」

 

「~~~~!わたくしに勝てると思ってるのですか、身の程知らずも大概にしなさい!」

 

「勝てるから言ってるんだがな。そっちこそ、“負けても悔しくないように覚悟しておけよ"。こちとら、一切合切の責任を負うつもりはまったくないので、そこんとこのご了承はお願いします♪」

 

「キィ~ーーーーーー!!!!もう泣いても謝っても許しませんわ!!覚悟しておくように!!」

 

 もはや淑女なんて知った事かと言わんばかりに、ヅカヅカと教室から立ち去っていくセシリアであった。

 

「おい、蒼星。あんなこと言っても大丈夫なのか?」

 

 一夏が不安そうに聞いてくる。

 

「勝負ってのはな、こういう試合前の駆け引きも重要となってくるんだ。今のは予め挑発しておいて、本番になって彼女本来の実力を出せなくするのが狙いだ」

 

「………それは分かるが、怒らせて大丈夫なのか?」

 

「それもそうだな………よし、今から決めるぞ」

 

「え!何をだ?」

 

「今後の予定をだ!ということで、ひとまず食堂に向かうぞ!」

 

 俺と一夏は食堂へと向かった。

 

 

続く───────────────────────────────

 




文章が合ってるかどうか不安………。


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第5話 剣の実力

この話の後半、SAO要素が少し含まれているので気を付けてください。
時間があれば、蒼星のSAO時代の話も書こうとは思ってはいるが………いつになることやら………。

───では、どうぞ!


 蒼星は一人で食堂に行くつもりだったが……。

 

「で、君はいつまでそうしているんだい?」

 

 先程からのほほんさんが腕に捕まってきている。そのせいで歩きにくいこと、ありゃしない。

 一夏はというと教室から出る直前に篠ノ之に捕まっていたので遅れるみたいだ。璃里亜も何か別の用事があると言っていた。

 

「食堂に着くまで~」

 

「はいはい、そうですか」

 

 抵抗しても無駄だろうと思った蒼星はこのまま食堂へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂へ着くとのほほんさんはどこかへと去っていってしまった。誰かをみつけた様子だったが、俺が気にすることでもないだろう。

 周りに女子達はたくさんいるのだが皆、話しかけにくいようで変な空気になってしまっている。居心地は悪い。

 再び一人になった俺が醤油ラーメンを独りで食べていると一夏と篠ノ之がやって来た。

 

「お!蒼星、こんなところにいたのか」

 

「分かったから、早く座れ」

 

「んで、何を決めるんだ?」

 

「今後の予定だ!」

 

「──というと?」

 

「簡単に言うと特訓だな」

 

「おお!さっきの話の続きか。んで、誰にしてもらうんだ?」

 

「俺の場合は璃里亜がいるから、良いとして一夏は誰が良いんだ?」

 

「ん~………千冬姉は忙しそうだしな………山田先生とかはどうだ?」

 

「そうだな………補修授業してもらうのもいいかもしれないな」

 

 「だろ!」と一夏は頷く。

 

「でも、山田先生もあれでも先生だからなぁー、他にいないのか?」

 

俺がそう言うと考え込む一夏。しばらくして何か思い付いたのか隣に座っている篠ノ之の方へと向く。

 

「なぁ箒」

 

「……なんだ」

 

「良かったら俺にISのこと教えてくれないか?」

 

「断る」

 

 一夏が両手を合わせて篠ノ之にお願いをしていたが一蹴されていた。

 

「一夏、何も篠ノ之さんに頼まなくてもいいんじゃないか?今回やる試合に関しては俺と一夏の問題なんだから、篠ノ之さんにあんまり迷惑を掛けてしまうのは……」

 

「そうは言うけどな蒼星。いくら自分の心に勝てると意気込んでも、ある程度のISの知識が無かったら意味無いぜ」

 

「そりゃ、そうか……独学だと限界も来るしな……って、俺はリリーに教えてもらうんだった」

 

 一人で突っ込んでいた蒼星だった。

 

「やっぱり山田先生に教えてもらったほうが良いんじゃないか?あの人なら喜んで補習してくれそうだし」

 

「そうするしかないかなぁ……」

 

「!ま…待て、やはり私が……!」

 

 俺の提案に一夏がポンと手を叩くと、突然篠ノ之が何か言おうとしたが……。

 

「ねえ。君たちって噂のコたちでしょ?」

 

「「ん?」」

 

 いきなり見知らぬ女子に話しかけられた。よく見ると相手は三年生のようだ。リボンの色が違う。一年は青で、二年は黄色、三年は赤らしい。

 この先輩は癖毛なのかやや外側に跳ねた髪が特徴的で、妙にリスをイメージする人懐っこい顔立ちだ。隣で不機嫌そうな顔をしている篠ノ之とは大違い。本人には勿論言わない。そんな勇気はいらない。

 流石に三年生だけあって容姿だけじゃなく雰囲気も大人びている。今のところ篠ノ之にはこう言う社交性が欠けていると思う。とはいえ、俺もあまり人の事は言えないが。

 

「はあ、たぶん」

 

 一夏が曖昧な返事をする。

 

「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」

 

「はい、そうですけど」

 

「一応そうなっています」

 

 先輩の問いに一夏と俺は答える。

 それはそうと、本当にこの学園はアッと言う間に噂が広がることを実感した。噂と特売には目がないとよく聞くが、正にその通りだろう。

 

「でも君たち、素人だよね?IS稼働時間いくつくらい?」

 

「いくつって……二〇分くらいだと思いますけど」

 

「俺は十五分程度ですね」

 

「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ?だったら軽く三〇〇時間はやってるわよ」

 

 成程、成程。確かに稼働時間だけで言えば俺と一夏には差があり過ぎてとても勝てない。

 

「でさ、私が教えてあげよっか?ISについて……そっちの君もどうかしら?」

 

 そう言いながらずずいっと一夏に身を寄せてくる先輩。一夏は喜んでいるが俺は御免だった。何故なら、もう先客が入っているからだ。俺が断ろうとすると────

 

「…すみませ─────」

 

「ぜひ!お──────」

 

 一夏が遮って答えようとするがさらにそれを遮って────

 

「結構です。私が教えることになっていますので」

 

 承諾しようとする一夏に食事を続けていた篠ノ之が遮って断った。男の発言出来る立場がない。

 

「あなたも一年でしょ?私の方がうまく教えられると思うなぁ」

 

「……私は、篠ノ之束の妹ですから」

 

 奥の手なのか、関係無いと言ってた身内の名前を使ってまで一夏に教えようとする。相当この先輩が一夏に教えられるのが我慢出来ない様子。

 

「え………ええ!!」

 

 篠ノ之の発言に先輩は驚いた。そりゃ確かに、この世界の元凶であるISの設計者の妹が目の前にいたら誰だって驚くだろう。

 

「ですので、結構です」

 

「そ、そう。それなら仕方ないわね……」

 

 流石に織斑先生並みの強力な人物の前では形無しみたいだろうか。あの先輩は軽く引いた感じで行ってる。それに一夏、気持ちは分かるが何も残念そうな顔をしなくても良いと思う。

 

「なんだ?」

 

「なんだって……いや、教えてくれるのか?」

 

 篠ノ之をジッと見る一夏。結論から言うとそうなるが、また問い詰めるのはどうかと思う。

 

「そう言っている」

 

「良かったじゃないか一夏。教えてくれる相手がいてくれて」

 

「あ…ああ、そうだな。だったら蒼星も一緒に……」

 

 このバカ!俺がいたら邪魔になるだけだっての!って一夏にそんな事言っても無駄だろう。会ってからそんなに経っていないが、これぐらいのことは分かる。

 

「俺は璃里亜に教えて……」

 

「波大。お前もついでに教えてやる」

 

「え?良いの?」

 

「構わない」

 

 璃里亜には悪いけど、教えてくれる人は多い方が良いだろうと俺は思うので、ありがたく教えてもらうことにした。

 

「今日の放課後、剣道場に来い。一度、一夏の腕がなまってないか見てやる」

 

 ん?ISの事を教えるのに何ゆえ剣道場なんだろうか?

 

「いや、俺はISのことを───」

 

 一夏も篠ノ之さんの予想外な台詞に突っ込もうとするが……。

 

「見てやる」

 

「……わかったよ」

 

 有無を言わさない篠ノ之であった。気が短い上に強情な性格のようだ。一夏も相当の曲者を惚れさせてしまったかもしれない。

 

「えっと……一夏を剣道場に連れて行くんだったら、俺はやっぱり璃里亜に教え て……」

 

「お前も一緒に来い。少しばかり試したい事がある」

 

「……はいはい」

 

 俺を試す……。一体何を試されるんだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、剣道場にて……。

 

「どういうことだ」

 

「いや、どういうことって言われても」

 

 ギャラリー満載の中、一夏は篠ノ之と手合わせ開始して十分後にアッサリと負けた。一夏の無様な姿に篠ノ之はすぐに面具を外して目じりがつり上がって怒っている。

 

「一夏はサボっていたみたいだな」

 

「そう言われても俺、受験勉強してたし」

 

 呆れながら言う俺に一夏は言い訳をすると、次に篠ノ之が激昂しながら問い詰める。

 

「どうしてここまで弱くなっている!?」

 

「さっき一夏が言っただろ?受験勉強してたから、って」

 

「……中学では何部に所属していた」

 

「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」

 

 一夏ははっきりと自慢げに言った。

 

「ねえ、ソウ君」

 

 因みに今、俺の隣に璃里亜がいる。

 たったの一言、自分の耳に聞こえた俺は危機的状況に陥ったような感覚に見舞われた。

 

「な、何かな………」

 

「なんで、ソウ君も篠ノ之さんに教わることになってるのかなぁー」

 

「そ……それは……やっぱり色んな人から教わった方がいいだろうって思って……」

 

「別にそれはいいんだけど………せっかくの二人の時間が………」

 

 「はぁ~…」と璃里亜は溜め息をつく。

 

「おーい、蒼星の番だぞ」

 

 篠ノ之の一夏へのお説教は終わったのか俺のことを呼んでいる一夏がいた。

 

「ソウ君……本気になったら駄目だからね」

 

「大丈夫!体はまだ万全じゃないから」

 

「え!それって駄目なんじゃ─────」

 

 俺は二人の方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣道は久しぶりだけど、よろしくね、篠ノ之さん」

 

「ああ」

 

 短く答えた篠ノ之はもう集中しているのだろうか…形が様になっている。流石に剣道をし続けているだけのことはあると素人から見ても分かるほどだ。何故か上から目線口調で言っているが気にしない。

 

「一夏、竹刀とってくれ」

 

「おう」

 

 一夏から竹刀を受け取った蒼星は竹刀を軽々と振る。

 

「思った以上に軽いな、これ」

 

「竹刀の中でも、重たい方だぞ、それ」

 

「いや、なんというかイメージしてたのとはちょっと違ったっていうか」

 

 そう蒼星は言うと竹刀を右手に持ち構えをとった。

 

「何あれ、あれでとってるつもり?」

「あんなの見たことないよ」

「ふざけてるんじゃないの」

「でも、雰囲気はでてる」

 

 蒼星の構えを見ていたギャラリーがひそひそと話し出す。蒼星の今の状態はただ足を少し前後に斜めに広げ竹刀を少し前に先端が出すようにぶら下げるようにしていた。

 

「貴様、それでいいのか?」

 

「ああ、準備完了だよ」

 

 蒼星はにこりと笑った。その笑顔を見た一夏は一瞬何かを感じ取った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(隙がない………だと)

 見たこともない構えをとった蒼星を前に余裕な気持ちであった箒だったが、いざ始まろうとすると攻め場所がないことに気付いた。

 

(とにかく………攻める!)

 

 こちらから先手を打つことにした箒は竹刀を縦へと蒼星に振った。が─────

 

(かわした!!)

 

 初撃をかわすことは自分のスピードでは難しく、竹刀で止められるかと思っていたが、蒼星はその一回り上の回避を選択してひらりとかわしたのである。

 

(────っく!)

 

 即座に反撃が襲ってきた。一夏の時とは比べ物にならないほどのスピード、重さ、全国大会で優勝したことがある箒でも追い付くのに必死だった。

 それでも蒼星の竹刀に対しての防御の対応が徐々に遅れていく。

 そして──────

 バシッと共に箒の手から竹刀が弾かれてしまい箒の後ろへとドサリと落ちてそのまま、箒の首筋に蒼星の竹刀の先端が当てられた。

 

「勝負ついたみたいだね」

 

 そう蒼星は言うと竹刀を下ろして後ろに一歩下がり竹刀を二回宙に振り右肩から後ろ腰にかけて竹刀を差し込むような仕草をした。

 

「ソウ君、何してるの?」

 

 璃里亜にそう言われた蒼星ははっ!とした表情になり、あわてて竹刀を一夏へと返した。

 

「なんで、貴様、私より強いんだ?」

 

 箒はそう聞いた。自分は全国大会で優勝したこともあるのだ。なのに目の前の人に油断していたとは言え完敗だった。

 箒は何も仕掛けることも出来ずにあっという間に勝負はついた。

その時に気づいたのだが蒼星の太刀筋は剣道の太刀筋とは少し違うと感じた。

 そこから蒼星はまた別のことでもやっていたのだろうと思われるが今はそんなことよりも自分とは一体何が違うのかそこが気になった箒は率直に聞く。

 

「まあ、ちょっとね。教えてもらったんだよ」

 

「見たことがない流派だったがどこの流派なのだ?」

 

「自作だよ。しいていうなら“アインクラッド流"かな」

 

「……………」

 

 蒼星がそう言うと篠ノ之は何かを考え始めたみたいだ。と、急にこちらを見て───

 

「波大!私のことは箒と呼んで欲しい」

 

「藪から棒だな」

 

「私は波大の強さを認めたのだ」

 

「まあ、いいけどよ。じゃあ、遠慮なしにこれからは呼ばせてもらうよ」

 

「ああ」

 

 箒は嬉しそうに頷いた。

 

(世界にはこんな奴等がまだまだいるのか…………ということは私はまだまだ強くなれるのか!!)

 

 箒にとって蒼星の存在は自分の強くなるための目標だと箒は感じていた。

 それに、まだこれ以上強くなれる可能性があると箒は分かり自然と嬉しくなっていた。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 

 




箒が蒼星に負けた要因は箒自身の自分の強さの過信と、蒼星に対しての油断です。もう一度やるとなれば、結果は………どうだろう?

ここからは興味ない人はスルーで結構です。

蒼星はSAO時代では大剣をメインに使ってました。じゃあ、何故あんな剣道の試合が出来たかというと彼の適応力の高さと両手で握っていた為に違和感があるもののSAO時代の動きを再現出来たためだと思ってくれた嬉しいです。無理矢理感が満載ですが、そういうことにしておいてください。
そして、キリト(いつ出てくるかは未定)と似たような癖を持っています。


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第6話 麒麟

やり過ぎたような気もするが、後悔はしていない(キリッ

───では、どうぞ~!


「なあ、箒」

 

「なんだ」

 

「ISの訓練もしていいんじゃないか?」

 

「駄目だ!一夏はまだ体が出来ていない」

 

 剣道場での一件があった後、3日が過ぎた。

 

 現在、食堂で蒼星の目の前で一夏と箒が言い争っている。蒼星は醤油ラーメンを啜りながら特に気にしてる様子もなく、璃里亜は苦笑いを浮かべながら見ている。

 

「───蒼星もそう思うだろ?」

 

 一夏が同意を求めてくるように言ってくる。危うく話を聞きそびれそうになっていたので、危なかった。

 

「俺は箒の言うとおりだと思うけど」

 

「な!蒼星まで…………」

 

 まるで裏切られたかのような表情に一夏はなっていた。

 いや………本当に裏切られたのだから、そんな表情になるはずだろう。

 

「訓練機で練習するのもいいけど、それでいざ!専用機で対戦するときになって変な癖でも付いていたら大変だよ」

 

 璃里亜が追い打ちをかけるように言うと一夏はう~ん……と唸っている。

 

「だからって剣道ばかりなのは………」

 

 一夏から聞いた話だと箒の指導は殆どが剣道だけでそれも、本気でしてくるから色々としんどいらしい…。

 

「まあ、諦めろ…」

 

「そんなぁ……………」

 

 一夏の叫びはむなしく宙に散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は過ぎて…。

 

「…箒。結局ISに乗った訓練出来なかったけど…剣道と璃里亜の特訓しかしてなかったよな?」

 

「し、仕方ないだろう。訓練機が借りられなかったのだから」

 

「それでもISの勉強をするとかあったろ?何で剣道と映画ばっかりだったんだ」

 

「…」

 

「目を逸らすな!」

 

「何してたんだお前ら…」

 

「さ、さあ…………?」

 

 4人は今、アリーナのビットで待機をしていた。一夏は剣道の特訓ばかりさせられていたらしく、箒に問い詰めていた。

 璃里亜は初め、一夏に名前で呼ばれることを嫌がっていたが結局は諦めているらしい。だが、リリーと呼ばせることだけは譲らないと拳を掲げていた。

 俺はと言うとしっかりISの事も最低限、璃里亜から教わっている。ちなみに彼女の特訓というと映画を見てイメージを養うというものだった。

 まだ、俺と一夏のISは届いていないらしくて俺は映像が写っている方へと視線を向けた。映像越しに見えるアリーナの会場にはISが一機浮かんでいるのが分かる。

 

『ブルー・ティアーズ』

 

 青色のISであり、またオルコット・セシリアの専用機で完全な遠距離タイプである。専用装備のBT兵器はレーザータイプが四基にミサイルタイプが二機だと璃里亜が言っていたような気がする……。

 

「織斑君!織斑君!」

 

 山田先生の声がピット内に響く。いきなり名指しされた一夏はその場で慌てながら反応する。

 

「はあ………はあ…………」

 

 山田先生は急いで来たらしく息を切らしている。

 

「山田先生、深呼吸」

 

「スーー……………」

 

「はい!そこで止めて!」

 

「うっ……………」

 

 一夏の冗談半分で言ったことが通じなかったらしく山田先生は本当に息を止めてしまった。

 

「山田先生、一夏の冗談に乗ってる場合ですか?」

 

「え!そうなんですか!」

 

 俺が呆れながら言うと山田先生は驚いていた。ていうか…教師として大丈夫なんだろうか……と本気で俺は考えてしまった。

 

「目上の人間には敬意を払え馬鹿者」

 

「ぐっ、ち、千冬姉ぇ…っだっ」

 

「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね」

 

「教育者の言葉じゃないですよね…一夏起きろー。お前が居ないと話が進まないんだ、ですよね?」

 

「そうでした!!来ましたよ!これが、織斑君専用のIS、『白式』です!!」

 

 山田先生の声と共にピットの壁際にあるエレベーターから何かが上がってくる音が響く。その音が止むと同時に壁の扉が開いた。

 

「これが……」

 

 まるで誘い込まれる様にゆっくりと一夏は扉から出てくるISに歩み寄る。俺達も一夏に続いて後を追った。

 

「これが、一夏のISか……」

 

 感慨深そうに箒が言葉を漏らす。装甲が白色に鈍く光って操縦者を待っていた。そして次の瞬間、驚くべき織斑先生の一言がピット内に響きわたる。

 

「時間が無い、さっさとしろ。フォーマットとフッティングは試合中に行え」

 

「え!大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だ、リリー。そうだろ、一夏!男ならこれくらい乗り越えて見せろ!」

 

「あ、ああ。…あれ?」

 

「ん?どうした一夏?」

 

 一夏が白式に触れた時、一夏は疑問の声を上げた。それは織斑先生の言葉に反応したのでは無い。

 

「いや、試験の時始めてISに触れた時に感じた電撃の様な感覚が無いんだ」

 

「それって…あれか………頭に直接色んな情報が入り込んできたようなやつ……」

 

「蒼星もか…でも、何だったんだろう、あれ」

 

一夏は白式に乗り込み体を任せるようにする。

 

「背中を預ける様に、そうだ、座る感じでいい。後は機体の方でやってくれる」

 

 織斑先生がそう言って一夏に指示を出す。一夏が織斑先生の言うとおりにするやいなや、白式が反応して一夏の体に装甲を合わせていく。カシュカシュと装甲が動き音を立てて空気を抜き完全に一夏にマッチする。直後一夏の目の前に薄い電子の膜が貼られハイパーセンサーが起動された事を告げ色々なゲージや数値が表れる。

 

「ところで、山田先生。俺のはまだなんですか?」

 

「すみません。まだみたいです」

 

「んー、お父さん達、何やってるんだろう?」

 

 璃里亜の両親はどちらも研究者をしており、俺のISと璃里亜のISの開発の担当をしている。

 

「波大、お前は更衣室で待機しておけ」

 

「はい、分かりました」

 

 織斑先生がそう言ったのは自分にオルコットのISの機体の情報が与えられてハンデが出ないようにするためだろうと考えられる。

 

「じゃ、一夏。頑張れよ」

 

 俺は一夏の傍へとより、一声かける。

 

「ああ………………箒」

 

「なんだ?」

 

「行ってくる」

 

「ああ……」

 

(何やってるんだ、あいつら?)

 

 俺はそんなことを考えながら更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏君がアリーナに行ってから私と箒さんと先生方は管制室へと向かった。

 たくさんの映像が写し出されているなか、二機のISが宙で向かい合っている映像が私の目に写る。

 

《あら、逃げずに来たのですか?》

 

 オルコットさんが相変わらずの挑発混じりに言う。

 オルコットさんはイギリスの代表候補生なので、まだ初心者である一夏君の勝機は薄いと見える。でも、ソウ君の場合は行けるんじゃないかと私は思ってしまうが。さらに一夏君の白式はまだ一次移行(ファーストシフト)が済んでいないので機体が体の反応とずれるので余計に不利となっている。

 一次移行(ファーストシフト)は簡単に言うと自分の体に合うように機体を設定し直して自分専用の機体にするということだ。普通だと戦闘中にすることではないのだが、織斑先生は戦闘中にするように命じて一夏君はそれを承った。

 

(ということは………ソウ君もなのかな?)

 

 ソウ君の機体もあと少しで到着するはずだが時間がなければ一夏君と同じで一次移行せずに代表候補生と対戦するということになる。

 

(ふふふ……ソウ君、絶対に驚くんだから)

 

 私にとってそれはあまり問題にはならないと思っていた。なぜなら、ソウ君の機体にはある“特別な機能"があるからだ。

 

(私も楽しみだなぁ~)

 

 両親からはその特別な機能を私の機体が使用しても良いと許可はもらっている。そうではないと困るのだが、今の私にはソウ君がどんな反応するのか心待ちにしていた。

 

 ビーーーーー

 

 そうこうしている間に試合開始のブザーが鳴りオルコットさんが一夏君に銃を撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの方向から歓声が聞こえる。始まってから時間が経つので状況が変わったのであろう。蒼星は生徒達の声から盛り上がりを感じていた。

 所謂暇状態なので、彼は座って天井をただ眺めていた。

 

「……!」

 

 しばらくすると生徒達の声が戸惑いと驚きのざわめきに変わる。

 

(一次移行が終わったのかな)

 

 やることがない蒼星にとって会場の状況の予想することで退屈をどうにかしようとしていた。

 

《波大君!波大君!》

 

 突如、更衣室に山田先生のアナウンス───かどうかは分からない───が響き渡る。思わず蒼星は耳を塞ぐ。

 

《波大君のISが来ました!!ビットに来てください》

 

(よし!来たか!)

 

 蒼星は即座にビットへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが波大君のIS『麒麟』です!」

 

 ビットには一言で言い表すのなら、金色のISがあった。金色のなかに少し黒を混ぜたような色をしており、背中には大きな歯車みたいなのが付いており左右にはブースターがある。

 全体的に装甲は薄く、機動面を重視した造りとなっている。俺がそちらの方がやり易いと言ったからだ。

 

「おお!」

 

 俺は思わず感嘆の声が上がる。

 すると、ビーー!と、またブザーが会場に鳴り響いた。

 

「あ、試合が終わった見たいですね」

 

 しばらくすると、織斑先生達が管制室から、一夏が一次移行を済ましてより白くなった白式を纏いながらビットへと降りてきた。

箒は一夏の方へ、璃里亜はこちらへと歩いてくる。

 

「リリー、どっちが勝ったんだ?」

 

「オルコットさんだよ」

 

 離れたところで「馬鹿者!」と織斑先生に言われている一夏を見て璃里亜が言わなくても分かった。

 

「試合の内容は?」

 

 璃里亜によると一次移行を済ました白式にセシリアは驚いたが、直ぐ様攻撃したが一夏の専用機となった白式に翻弄されていたらしい。調子に乗った一夏は白式の自分のエネルギーを大量に消費する代わりに、相手のシールドバリアを無効化して直接攻撃出来る能力を使ってセシリアを斬る寸前まで行ったらしいがそこでエネルギーが尽きたらしい。

 

「へえー、これが蒼星の機体かぁー」

 

 織斑先生と箒の説教が終わったのか一夏はこちらへと来るなり、麒麟を凝視するかのように見ている。

 

「波大の試合は10分後だ。それまでに済ませておけ」

 

 そう言うなり織斑先生はビットから離れていった。

 

「一夏、負けたんだってな」

 

「あ、ああ。悪い」

 

「まあ、終わったことだし…それに俺が勝てばいいだけのことだ」

 

「頼むよ、蒼星」

 

 カッコいいセリフを吐きながら俺は麒麟へと乗り込む。取り敢えず今は、取り返しのつかない失態を犯すことだけは止めようと思う。

 カチッカチッと俺の体に合わせながら麒麟が装着されていき、目の前に色んなデータが写る。

 

《パパ、おそーい》

 

 麒麟を装着し終わると同時に頭に声が響いてくる。俺は思わず辺りを見回すが声の主と思われる人物はいない。

 

「なんか言ったか、お前ら」

 

「何も言ってないぞ」

 

 代表して箒がそう答える。けど、確かに俺には聞こえたのだ。空耳だろうか。

 

《パパ~、私はここだよ》

 

 また、頭に直接聞こえてくる。──ん!ていうか。

(パパ!って言ったのか)

 謎の声の主が俺のことをパパと呼んでいる。そう呼ぶのに心当たりがあるのはただひとつ………。

 

「───ユカ!!ユカなのか!!」

 

「「「「??」」」」

 

 思わず声を上げるが目の前にいる一夏達は首を傾げている。──ただ一人を除いて。

 璃里亜がニコニコしながらこちらをみていたのだ。

 

《パパ、声を出さなくても大丈夫だよ》

 

《ユカなのか………》

 

 声に従って頭で語りかけるようにするとうまく出来たみたいだ。

 

《うん!》

 

《でも、なんでISに……》

 

 俺がユカと呼んだのはメンタルヘルスプログラムと呼ばれる自意識をもったAIのことであり、“あの世界"で俺と璃里亜は会ったことがあるのだ。だが………それが余計に疑問を深める。

 ユカはAIなのでISに入れる事なんて出来ないと思っていた。いや、実際にそうだとユカと同じAIを持っている友人から聞かされている。

 

《私、元々ISだったんだ》

 

《え………じゃあ、ユカはISのコアなのか》

 

《んー…それに近い存在かな…》

 

《え!それって……》

 

《ごめんね、パパ。自分でもよく分かんないの》

 

《そうか……》

 

ユカの言っていることが本当だとすると辻褄がある程度合っている。ユカはAIからISになったのではなく、戻ったと言っているのだ。

 

「波大、そろそろ時間だ」

 

 思考の渦に入りそうになった俺を織斑先生の一言で現実へと戻す。

 

「蒼星、大丈夫か?」

 

 一夏が心配そうにこちらを見てくる。隣の箒も少し心配しているみたいだ。

 

「大丈夫だ、勝ってくるよ」

 

「ところで、蒼星。その後ろにあるやつはなんだ?」

 

 箒が指差したのは麒麟の背中に付くようにしている───よくみたら浮いている歯車みたいなものだ。真ん中は穴が開いている。

 

「ごめん、それがない。一次移行していないからな、データがないみたいなんだ」

 

「そうか」

 

「波大君、カタパルトに乗って下さい」

 

 俺は山田先生の指示に従ってアリーナに出るための装置であるカタパルトに乗る。すると、璃里亜が隣までやって来た

 

「どうした、リリー?」

 

「ユカちゃんのこと頼んだからね」

 

「え!?それってどういう──────」

 

「発射ーー!!」

 

 俺が話している途中で織斑先生が合図を出してしまいそのまま、俺はアリーナへと飛ばされていくかのように出ていった。

 

「大丈夫か?蒼星………」

 

「ソウ君なら、勝てるよ、きっと」

 

 不安そうに一夏が呟くが璃里亜がそれを退けるかのように告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら…あなたも逃げずに来たのですか?」

 

 今、俺の目の前にはブルー・ティアーズが浮かんでいる。彼女の雰囲気が少し変わっているような気がした。

 

「当たり前だろ」

 

 改めて俺はセシリアの方へ意識を向ける。

 鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。

 特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従えている。そして手に持つ二メートルを超す長大な銃器。

 

《パパ、あれは六七口径特殊ビームライフル『スターライトmkⅢ』だよ》

 

 ユカが目の前の武器について教えてくれる。指示すら出していないのに、言いたいことを先にしてくれるのはありがたい。

 

《一次移行まで、あと何分かかる?》

 

《急いで、15分。それと、あと他に5分必要になるよ》

 

《なんでなんだ?》

 

《それは後のお楽しみにー》

 

 普通は教えるところなのにユカはあえて、教えないらしい。こういうところがただのAIとは違う所だ。

 アリーナの直径はおよそ200メートル。俺にとっては少し狭いと言ったところだろうか。

 重粒子ビームとはいえ発射から此方への到達時間は計算上〇.四秒ほど───ISの演算が確かならだが。

 そして、俺がアリーナに立った時点で既に試合開始の鐘は鳴っている。

 つまり、いつ此方へその銃口を向け、撃ってきてもおかしくはない。

 あとはどうやって時間を稼ぐか、だけど────

 

《パパ、射撃モードに入ったよ》

 

 どうやら、そう簡単にはさせてくれないみたいだ。

 ユカがそう警告した瞬間俺は横へと回避するかのように動く。すると、俺のいた場所にレーザーが通った。

 

「な……あなた、今、どうやって避けましたの」

 

「さあな」

 

 やはり、一次移行が出来ていないのか、麒麟の反応が遅い。それでも、どうにか思い通りにはいけるので平気だ。次々とレーザーが襲ってくるが俺は何とか避ける。

 

「くっ………こうなったら……」

 

セシリアは機体から4つのフィンみたいなのが、出てきた。あれも兵器の一種だろうか。

 

《あれはイギリスの第3世代兵器だよ》

 

 ユカの説明によると、BT兵器と呼ばれるものは俺に向かって一斉に青いレーザーを放ってきた。

 

「あぶな!」

 

 思わず直撃になりそうなのを無理矢理回避してとにかく逃げるように回避する。

 

「先程の一夏さんと同じ手は効きませんわ!!」

 

「え!一夏もやってたの、これ」

 

 自分の作戦が一夏と被っていたことにカルチャーショックを受けて俺は作戦を変更する。

 

《ユカ、武器は何がある》

 

《アサルトライフルだけだよ》

 

 まじかよ………と言っても変わらないものは仕方ないのでとにかくアサルトライフルを展開した。

 

「まあ、撃ってみよう」

 

 セシリアのレーザー攻撃の隙を突くようにして弾丸を放っていく。一発目はどんな風に飛んでいくのか試し撃ちの感覚で。その後は、セシリア本人目掛けて直接狙う。レーザーを避けながらの射撃なので、集中力はだいぶ要する。

 

「あなた!なんで、こんなに正確に狙えるんですか!」

 

「え!そんなに上手いの、俺って」

 

 俺の放った弾丸のいくらかが命中したように思えたがセシリアの機体の装甲を見る限りダメージは殆どないに等しかった。

 褒められたことは素直に受けとる。

 

「これだけで私を倒せると思っていたのかしら」

 

 セシリアは先程から余裕の態度を見せつけてくる。

 

《パパ、準備完了だよ》

 

《よし、じゃあ、行くぞ》

 その瞬間、停止した隙を突いた4つのBT兵器のレーザーが麒麟に命中し爆発した。

 

 

 

続く───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここで、ユカの軽い経緯。
注・SAOを知っていないと理解出来ない可能性大

ユカの存在を知っているのは、蒼星と璃里亜とその両親。
元々はISのコアだったが、実験の一つとして、SAOの世界と接続されてしまうと同時にユカという自意識が誕生した。初めに出会ったのはソウとリリーの二人。一目で二人を気に入ってしまったユカはまるで、親のように親しんでいる。
その後、璃里亜の両親がユカのいるISコアを使って麒麟を製作した。そして蒼星の専用機となり再会を果たす。
メンタルヘルスプログラムのユイとは仲が良くユカは「ユイ姉」と呼んでいる。


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第7話 ムーンテライト

「波大君もすごいですねー」

 

 山田先生はモニターを眺めながら感心するように言った。モニターにはオルコットさんが放ったレーザーをソウ君がひらりとかわしているシーンだった。

 

「───遠堂」

 

「は、はい!」

 

 モニターを眺めていた織斑先生がいきなり、不意打ちに近い形で私のことを呼んだので思わず声が裏返ってしまう………。

 

「今の波大は本気なのか?」

 

 モニターを見つめながら織斑先生は私に聞いてくる。

 

「え!千冬姉、それってどう─────」

 

「織斑先生と呼べと言ってるだろ」

 

 バシィンと相変わらずの出席簿で叩かれた音が聞こえてくる。痛くないのかなぁ~織斑君は……ソウ君は───

 

『あれだけはやばい!!!』

 

 ───って冷や汗を垂らしながら言ってたけど…。まだ私は一度も経験がないので、何とも言えない。見た目から言うと、とても痛そうには見えるが。

 

「なんで、そう思うんですか?」

 

「なっ!……一夏、よく見ろ!!」

 

 私の質問に答えたのは、織斑先生ではなく驚いた表情でモニターを見つめている箒さんだった。

 

「な!…………笑っている」

 

 織斑君もモニターを見てようやく気づいたみたいだ。

 モニターにはオルコットさんの機体と同じ名前の特殊兵器『ブルー・ティアーズ』を使って攻撃している。ソウ君はそれをかわしながら隙を見てアサルトライフルを撃っている。あんな過酷そうな状況の中でもソウ君は楽しんでいるかのように笑っているのだ。

 

「────で、どうなんだ?」

 

「ソウ君はまだ余裕みたいですし、それだけじゃなくてただ単に今の状況を楽しんでいるだけだと思います。───だって、ソウ君が本気を出すのは……“命"がかかっている時だけですから」

 

 「そうか」と織斑先生はモニターをくいるように見つめながら私に返事をした。

 

「へぇ~さすが幼馴染みだな」

 

「織斑君も箒さんのことは分かるでしょ」

 

「そりゃあそうだけど……たまに分からないことがあるんだよ」

 

「む……………」

 

 箒さん、織斑君を睨み付けると嫌われますよ~。

 

「あ!」

 

 山田先生がモニターを見つめながらそう小さく声を漏らす。私はモニターへと視線を戻すとそこには────

 

「おい!レーザーすべてが命中したぞ!」

 

「蒼星のやつ、大丈夫か………」

 

「ソウ君…………」

 

 モニターにはブルー・ティアーズのレーザーによって起きた爆発の煙が映されていた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなりにやるようですが、私にとってはまだまだのようですわね。

 セシリア・オルコットは目の前の光景をみてそう結論付けた。

 一夏との試合は油断してしまったセシリアだったが、今度は絶対に負けないと意気込んでセシリアは蒼星との試合に望んだのだ。

 そして、この試合をあの人───織斑一夏は観戦しているのだろうかと考えてしまう。

 セシリアにとって一夏は自分の理想の姿だった。何事にも揺らぐことのないあの目を前にしてセシリアは思わず惚れてしまった。

 ふと、そこまで思考が昇ったときセシリアに一つの疑問が生じた。

 ブザーが鳴らないのだ。

 本来、鳴るはずの試合終了の合図であるブザーが鳴らないのである。

 

「───っ!」

 

 セシリアの脳裏に電撃が走る。

 セシリアが考えたブザーが鳴らない理由……それはもしかして一夏と同じパターンだったとすると………。

 それを裏付けるかのように今の蒼星の状態は不自然だ。爆発で機体はまだ見えないが何も無さすぎるのだ。直撃したとなると到底無傷どころでは済まされずに機体に大きな損傷が走り、装備の幾らかは屑鉄となって使い物にならずに地面へと落ちるはず。………ISのハイパーセンサーでそれらは、本来ならすぐ分かるはずだが、それがない…………つまり、まだ試合は終わってないということになる。

 

「くっ…………」

 

 セシリアの思考がそこまで至ると同時に自分の手に握ってあるライフルを爆発の中心へと向ける。

 

「これで終わりですわ!!」

 

 引き金を引き、銃口から出たレーザーは真っ直ぐに煙の中心へと向かう。

 

「な…………………」

 

 結論から言うと、セシリアの考えは当たっていた。故にそれで相手にペースを奪われないためにも早めの対策にうって出たセシリアだったが、レーザーが同じく煙の中心から出てきたレーザーと命中し激突し合う。そして、自分の目の横にそのレーザーが通過したのだ。相手の攻撃力の方が自分のよりも上回っていると感じさせるものだった。

 やがて煙が晴れて蒼星のISが姿を現した。

 先程の機体よりも黄金色に輝きが増しており、後ろに浮かんでいる歯車もバチバチと音を立てながら回転している。

 

「やはり………あなたも一次移行でしたか…」

 

「あれ?思ったよりも反応が薄いな」

 

 予想よりもリアクションのないセシリアに『麒麟』の操縦者は首をかしげていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?思ったよりも反応が薄いな」

 

 セシリアの反応が想像したのと違って疑問を浮かべてるなか麒麟の一次移行が済んだことで色んな情報が頭に入ってくる。

 まず、後ろにある歯車は『エネルギア』と言ってエネルギーを生産、増幅することが出来るらしい。その『エネルギア』が生産しているエネルギーは────

 

(電気とは………また………厄介なもので)

 

 電気だった。攻撃にも使用できてその時には電撃となって襲いかかるようになっている。つまり、この機体は雷を自由に操れるみたいなのだ。

 

『パパ、白式も私たちと似たような展開だからじゃないかな』

 

(まじか…………)

 

 頭に聞こえてくるユカの声に少し変な気分になりながら、新しく増えた武器一覧へと目を通す。

 

(電子粒砲に…………エネギア………それに)

 

 電子粒砲────まあ、名前から想像すると大砲だよね…………電撃を発射する……今使うと想像がつかないので次の機会にでも……。 エネギア────これはよく分からないので後回しにすることにしよう…………。

 

 そして、俺は最後の武器へと目を通す。

 

(月光影剣(ムーンテライト)か……………)

 

 ひとまずこれを使うしか選択肢がない俺は直ぐ様、それの名前を心のなかで呼ぶ。

 

(来い、ムーンテライト)

 

 そう言うと目の前に巨大な刀身を持つ大きな剣が現れた。黄金色にひかり輝いている剣がそこにあった。

 俺はそれを握り感触を確かめるかのように剣を振るう。懐かしい感覚を確かめながら、あることを考える。これを製作してくれたのは離里亜の両親だ。もし、その二人が俺の最も手慣れている大剣を用意してくれたのだったら、ありがたい話になる。

 

「さあ、行こうか」

 

 ムーンテライトを右手に持ち、麒麟をブルー・ティアーズの方へと動かす。

 

「そう簡単にさせるもんですか!!」

 

 セシリアも負けじとレーザーを撃ってくるが一次移行をした麒麟のスピードにひらりとかわされてしまう。

 

「まずはっと────」

 

 ひとまず近くに接近してきたビットを一台切り落とす。後ろで爆発がするがそんなことは気にせず、直ぐ様、2台目に移る。

 麒麟のスピードが急激に早くなったのは一次移行が済んだだけではない。じゃあ、何故なのかというと、エネルギアによって作られた電撃エネルギー───略して電エネが機体の動きにより鋭さが増すようにしていたのだ。

 

「は、早いですわね………」

 

 セシリアが驚いている間に、既に俺は3 台目に取りかかっていた。

 

「くっ…………簡単にやられてたまるもんですか!!」

 

 3台目が爆発すると同時に4台目のビットがレーザーを放ってきた。俺はムーンテライトの刀身で防御するかのようにする。レーザーは刀身に直撃し、反射するかのように弾かれた。

 

「な………その剣、レーザー系が効かないんですか!…………」

 

「そうしないと、もたないからね!」

 

 麒麟の装備の殆どがエネルギーを利用して攻撃するので相手からのエネルギー兵器が効かない場合が多いのである。

 

「おらああぁぁぁーー」

 

「………っ!」

 

 遂に自分の懐に俺という害悪の侵入を許してしまったセシリア。だが、セシリアはまだ諦めていなかった。

 

「これでも、喰らいなさい!!」

 

 ブルー・ティアーズから実弾のミサイルが二つ発射された。奥の手ばかりと出したようだが、まだまだ余裕で対処出来る。

 

「遅い!!」

 

 俺はいとも軽く正面から迫ってくるミサイルを回避し、そのままムーンテライトで斬りかかっていく。

 

「──────っ!」

 

 だが、何故かムーンテライトが機体に触れる瞬間、麒麟の動きが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何故この方は止めを……さしてこないのでしょうか?)

 

 理由は不明だが、セシリアにとっては好都合だった。

 

「インターセプター!!」

 

 すぐさま、近接装備をコールして呼び出し直前まで迫っている蒼星に襲いかかる。セシリアにとって近接戦闘は苦手だが今はそう言っていられる状況ではない。

 一旦、距離を置こうと離れようとした麒麟にセシリアの放ったミサイルが麒麟の背中の歯車へと命中しゆっくりと麒麟はアリーナの地面へと落ちていった………。

 

 ────勝者、セシリア・オルコット!

 

 自分の勝利が決まるアナウンスが鳴り、本来喜ぶところだが、セシリアはただじっと蒼星の乗っている麒麟を見つめていた。

 

(私はやはり……まだまだですわね)

 本来の目的である勝ち星は手にいれることは出来たが、今回の勝利はセシリアにとって、あまり素直に喜べるものではなかった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────勝者、セシリア・オルコット。

 

《負けたか、俺?》

 

《うん、エネルギーがなくなったよ》

 

 俺は今、地面へと横たわっている。敗因はあの時だ……。

 ムーンテライトでセシリアの機体を攻撃する寸前までいったのだ。だが、その瞬間に無意識に攻撃するのを躊躇ってしまった。

 

(あの世界の影響なのか…………)

 

 やはり、ISという兵器は意図も簡単に人の命を奪えることができ、傷つけることが出来る。今の試合ではそんな事は絶対にないのだが、もしもの場合が脳裏に浮かんで思わず止まってしまったのかもしれない。

 

《…………パパ》

 

 ユカも心配そうになっているのが声を通じて伝わってくる。俺はまだ、未だに過去に捕らわれたままなのかもしれない。

 

《ユカ、戻ろうか、ママも待ってるから》

 

《うん!でも、ママと話せるのはまだ先だよ、パパ》

 

《ママの専用機が来てからか?》

 

 《うん!》と声越しに勢いよく頷いていそうなほど、ユカの声は弾んでいる。

 俺はその場を立ち上がり、璃里亜達が待っているであろうビットへと麒麟を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、蒼星。惜しかったな」

 

 ビットに戻った俺を待っていたのは一夏達だった。

 「ああ……」と言いながら俺は麒麟を解除して足をビットへと着ける。

 麒麟の待機状態は稲妻の形をしたペンダントが付いてあるネックレスみたいな物だった。けど、ここまで雷にこだわる必要はあるのだろうか…………?

 

「え~と、波大君。試合、残念でしたね。あ!あと、これを読んでおいてくださいね」

 

 山田先生の腕には巨大とも言える重たそうな本があった。

 

「それ……読まないと駄目なんですか?」

 

「大丈夫だよ、ソウ君。私が教えてあげるから」

 

 目が点になってしまっている俺を璃里亜は励ますかのように言ってくる。

 だけど…これ…“あなたの町の電話帳"三冊位の分厚さがあるような………。

 そこに一人の人影が近づく。

 

「───蒼星、ひとつ聞きたいことがある」

 

 そう言ってきたのは箒だった。

 

「え!何?」

 

「……何故、あの時躊躇(・・・・)したのだ?」

 

「!!」

 

 箒が言っているのは俺が攻撃しなかった理由を聞いているのだろう。だが、それを教えるということは今までの経緯をすべて話さないといけないことになる。理由を知っている璃里亜の表情も暗くなっている。

 

「え!何も躊躇ってはいないけど………まだ機体の調子が完全じゃないからそう見えただけだと思うが?」

 

「……そうか」

 

 俺は思わず誤魔化してしまったが箒はそれで納得してくれたみたいで思わず胸を撫で下ろしてしまう。

 

「おい、貴様ら!早く自分の部屋に戻れ────波大と織斑は部屋でゆっくり休んでおけ」

 

 織斑先生の一言で全員が自分の部屋へと移動していったのであった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑 一夏…」

 

 部屋に備え付けられたシャワールームで今日の試合の汗を流すセシリア。その整った体に沿って温水が流れるがセシリアの頭の中には自分に立ち向かって来る一夏の姿があった。

 

「あの方は…」

 

 セシリアの男性に対する一般像は女尊男卑に染まっていると思われるが厳密には違う。セシリアの家庭から来る外来的な原因にあった。

 セシリアの家族は母親と父親とセシリアの3人家族。そして、側にはメイドが付いている。

 しかし父親はオルコット家に来た婿養子であり立場は母親よりも低いものだった。まだ幼いセシリアは父が母の顔色を伺っている姿しか見ておらず、他にいた男性も母のご機嫌取りなどをして碌な者が居なかったせいでイメージが歪んでしまっていた。

 女尊男卑による男性を見下す風潮は歪みを深くさせただけに過ぎない。そんな男性のイメージが強くなっていたせいか彼女は自然と他人に高圧的になり、代わりに無意識で他人に自分以上の強さと勇ましさを求めていた。

 そこに世界初の男性操縦者が目の前に現われ素人にも関わらず自分を撃墜あと一歩まで、一歩も引かずに追い詰めた。その意思の強さはセシリアが男性に求めていた理想の人物であった。

 簡単に言えば、一夏はセシリアのストライクゾーンど真ん中であったのだ。

 これまで良い出会いが無かった彼女が恋に落ちるのは自然の流れだっただろう。

 

「一夏さん…」

 

 ウットリとトリップしながら今日の試合での一夏の雄姿を思い浮かべるセシリア。それと───

 

「波大…蒼星…」

 

 一夏の後から戦った二人目の男性。セシリアは今日の戦闘を通して蒼星をライバルみたいな存在だと感じていた。試合の内容はセシリアがビットで攻撃し続けているように思えたがあの人は時折、油断していると弾丸が直撃コースに飛んでくるのだ。

 それも当の本人は牽制程度にしか思っていない様子だった。あの弾丸の威力はセシリアにとっては脅威とはほど遠いものだったがやはり、それでも同じ狙撃主のセシリアには蒼星が雲の上の存在位に感じていた。

 

(でも………どうして……)

 

 一夏と同じく一次移行を終えた麒麟は自分の想像以上のスピードで一夏の時とはまた違った迷いが生じた。そして、気づいた時には自分の目の前に侵入を許してしまった大剣が迫ってきていた。だが、蒼星は剣を振るうことはなく結局蒼星の背中に追尾機能で戻ってきたミサイルが命中し、セシリアの勝ちで終わった。

 

(理由はともあれ………今度は本気の勝負をしてみたいですわ)

 

 セシリアはそう心のなかで誓っていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──へっくしゅん!」

 

「ソウ君、大丈夫?」

 

 寮の部屋へと戻った俺を待っていたのは何故か盛大なくしゃみだった。璃里亜も思わず心配している。

 誰か、噂でもしているんだろうか………。

 

「あ!そういえば、リリー!なんでユカが麒麟にいるってことを知ってるんだ?」

 

 セシリアとの試合前に璃里亜は俺に、ユカをよろしくと言っていたのだ。

 

「お父さんから聞いてたからだよー」

 

 そう璃里亜は明後日の方向を向きながら答える。

 璃里亜の両親は俺の麒麟とまだ出来ていないが璃里亜の専用機の開発、整備を担当している。

 

「なぜ、俺に言わないのだ!」

 

「ふふ…驚いたでしょ」

 

「驚くわ!誰だって」

 

 そりゃ…AIが元々、ISでした…なんて言われて驚かない方がおかしいと思うぞ。

 

「じゃあ、お休みー」

 

「あ…………………寝やがった」

 

 璃里亜がベッドに潜り込んでしまったので俺も寝ることにした。

 

 

続く───────────────────────────

 

 

 

 




最後に攻撃出来なかったのは、蒼星のトラウマの一端のせいだからですよ。また、そこの所も後に書くつもりです。ただ、どれくらい先になるかは………。


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第8話 クラス代表

連日投稿です!このままのペースだと今あるストックがあっという間になくなってしまう………。まあ、頑張りたいと思います(-.-)


「では、一年一組のクラス代表は織班一夏君に決定です。あ、一繋がりで良い感じですね♪」

 

 朝のSHR、山田先生が嬉々として喋っている。クラスの女子達も大いに賑わっている。

 ……そして一番最前列にいる一夏は、呆然と周囲を見ている。

 

「山田先生!なんで俺がクラス代表になってるんですか!」

 

 気をとり直した一夏が山田先生に質問した。まさか自分が選ばれるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「それはですね───」

 

「私が辞退したからですわ!!」

 

 山田先生の言葉を遮って誰かが大声を上げる。俺の目には背後にババーンという文字を浮かび上がらせながら、勢い良く席を立つセシリア・オルコットが映っていた。

 教室中が静まる中、セシリアは一人声を張る。

 

「あの後私も反省いたしまして。いくら私が国家代表候補生とはいえ大人気なかったのも事実。そこで私はクラス代表を辞退しまして一夏さんに譲ったという訳ですわ!!」

 

「セシリア、分かってる~」

 

「やっぱり男の子がいるんだから立てないとね!」

 

 女子連中は勝手なことばかり言うが当の本人からすればたまったものではないだろう。すると、一夏が何かに気づいたみたいで表情が少し変わる。

 

「なんで蒼星じゃなくて俺なんだ?」

 

「それは、俺よりもお前が弱いからだよ」

 

「ぐっ────そうだった……」

 

 実を言うと俺と一夏も別の日にアリーナを少しの時間だけ借りて勝負をしていた。結果、俺の余裕勝ちだった。まあ…一夏が自分の機体の事をよく知らないお陰で自滅したのが殆どなんだけれど………。

 一夏の機体『白式』は他の機体とは違って一次移行をした時点で単一仕様能力(ワンオブアビリティー)という機体によって変わってかるがどれも強力な能力の一つが使えるらしい。

 普通、それは二次移行をしたら使える場合が殆どなのだが白式だけは例外みたく原因は不明らしい。ユカも麒麟の単一能力は二次移行してからじゃないと出来ないと言っていた。

 閑話休題。

 話がそれたが、一夏のその能力が『零式白夜』と言うらしい。簡単に説明するとそれを使って相手を攻撃したらISが自動的に操縦者を守る機能“絶対防御"が絶対発動してエネルギーを大量に消費させるものだ。そして、一夏の負けた原因でもある欠点だが…それは自分のエネルギーも消費することだ。元々白式自体の燃費も悪いのにさらに追い討ちをかけるようにエネルギーを激しく消費したら自分が負けるに決まっているのだ。

 俺の麒麟の背中にあるエネルギアは零式白夜とは正反対とも言ってもいいぐらいだ。といってもエネルギアの生産するものはISを動かすエネルギーとは違うらしく武器の攻撃用に消費するしかない。変換も出来るらしいがそれほど回復は見込めないらしい。

 

「それでは皆さん、今日はこれでおしまいです。気をつけて帰ってくださいね~」

 

 山田先生の一言で今日の授業が終わりだということを告げた。

 しばらくすると、箒とセシリアがどっちが一夏の指導をするかということで揉めていた。

 

「ねえ、ソウ君。オルコットさんってもしかして…………」

 

 巻き込まれたくないクラスメイトと同じように少し離れている俺の隣に璃里亜が来た。

 

「リリーの考えてる通りだと思うよ」

 

 俺はあいつらの方を眺めたまま言った。璃里亜が言っているのはセシリアは一夏に惚れているのではないかということだ。

 

「ふぅ…………ライバルが減ったね」

 

 ボソッと璃里亜が何かを呟いているのが聞こえてくるが聞き返しても教えてくれないことは分かっているのであえて聞かないことにした俺だった。

 

「それにしても…オルコットさん…雰囲気が変わったね」

 

 璃里亜のいう通り、セシリアの雰囲気は最初とは全く違っていた。クラスメイトも皆、そう感じているはず。それもそのはず、セシリアはあの試合の後にクラスメイト全員に謝罪をしているのだ。

 俺や一夏は個人で謝罪されたのでこちらも謝罪はしておいてこの話はこれで幕を閉じることにした。

 

「リリー、食堂行くか?」

 

「うん、行く」

 

 俺と璃里亜はあの二人と一夏はそのままにしておくことで食堂に二人で向かおうと───

 

「あ~!!私も行く~」

 

 そう言ってきたのはのほほんさんだ。断る理由はないので三人で食堂へと向かった。璃里亜の機嫌が少し悪くなっていることに俺は気付いてしまったがあえて見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が過ぎるのは早いものでもう一夏がクラス代表になってから早3週間が過ぎていた。

 相変わらずあの二人は争っていたが結局二人で一夏を指導をすることに落ち着いたみたいだった。一夏としては困った話でどうにかしてほしそうにしていたが、俺はあえて何もしていない。

 あの光景を眺めていると、暇潰しにはちょうど良いからだ。

 一夏には悪いがあの一夏を争ってのやり取りはそれなりに第三者から見ると面白い。特に俺としては周りが女子だらけということもあり、少しストレスも溜まりそうだったがあの二人のお陰で楽しく過ごさせてもらっている。

 そして、今俺たちはグラウンドへと来ている。何故かというと今からここでISの実習訓練を行うためだ。

 

「これからISの飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、波大は前に出ろ」

 

 織斑先生の言葉に従って素早く俺と一夏とセシリアが列から外れて前に出る。セシリアは前に出て耳に手を当てるとすぐにISを展開し終えるが、一夏はセシリアのISに目を奪われていて微動だにしない。俺はもう既に麒麟を展開している。

 

「遅いぞ。熟練した操縦者なら展開に一秒とも掛からないぞ」

 

 一夏は少し焦りながらも、右手にある白式の待機状態であるガントレットに手を添える。

そして眩い光と共に一夏は白式をようやく展開した。

 

「よし。では飛べ!」

 

 織斑先生の合図と共に俺たちは飛び出した。麒麟の充電はもう既に満タンであるので初めから猛スピードでぐんぐん上がる。

 

「蒼星さんの機体は相変わらずお早いですわね」

 

 後から付いてきたセシリアがそう感嘆の声を漏らしてくる。

 

「まあ…早いだけが取り柄みたいだからな」

 

《早いだけが取り柄じゃないもん!》

 

 冗談ぽく言ったのに、ユカは真面目に受け取ってしまったみたいで拗ねてしまった。

 

《分かってるって、ユカは可愛いからな》

 

《うんうん、そうだよそうだよ》

 

 “可愛い"と聞こえたユカはすぐに機嫌を元に戻す。

 

「一夏はどうしたんだろうか?」

 

 そういえばと、先程から一緒に飛んだはずの一夏がまだ来ていないのだ。

 

「一夏さんはまだあそこですわ」

 

 セシリアが指差したのは織斑先生にしかられながらまだ地上辺りにいる一夏だった。なんとかフラフラしながらこちらに向かってきている。

 

「一夏、なにやってんだ、遅いぞ」

 

 しばらくしてようやく近くまでやって来た一夏に俺は待ちくたびれたかのように言う。

 

「なんだかな~、慣れないんだよ」

 

「そうか?俺はもう慣れたけど」

 

「早いな!結構難しいんだぞ。えぇとなんだっけ?自分の前に角錘を展開するイメージだっけ?」

 

「一夏さん。所詮イメージはイメージ。自分でやりやすい方法を探し出すのが建設的でしてよ」

 

 と、俺が居る反対側の一夏の隣にセシリアがやってきた。

 

「やりやすいイメージねぇ。うーん」

 

 一夏は納得出来ていないみたいだったが、俺はなんというかユカのお陰でもあるのかすぐに飛ぶということに溶け込んでしまった。というより、昔に疑似体験をしている。

 

「──しかし、どうやって浮いてるのか不思議なものだな~」

 

 セシリア、俺のISを一夏は交互に見ると、セシリアが口を開く。

 

「一夏さん、説明しても構いませんが、長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

 

「──結構です」

 

 一夏は即答で断った。確かにこれは頭が割れそうになるほどの難しさである。どうして分かる風な口を利いているのかと言われても………そりゃ、璃里亜に教えてもらったからだ。

 

「一夏さん…よろしければ、放課後二人で一緒に特訓しませんこと」

 

 箒がいないのをチャンスとばかりにセシリアは一夏と約束を取ろうと頑張っている。

 セシリアが話していると、更に割って入るように通信回路が開き───

 

『一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!』

 

 何かを感じ取ったのかは分からないが地上にいる箒のどなり声が聞こえてくる。

 

(ていうか、なんでスピーカーをもってるんだよ………)

 

 隣にいる山田先生はスピーカーを箒に取られてしまっていておろおろしていた。

 何故、俺たち三人が地上の山田先生や篠ノ之、他のクラスメイトが見えるのかというと、ISに備わっているハイパーセンサーによる補正のおかげだ。

 上空二百メートルのこの位置から、クラスメイトの顔や睫毛まで鮮明に見える……。

 これでも、まだ制限がかかっていいと言うんだから凄いもんだ………。

 

『織斑、オルコット、波大、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ』

 

「分かりました。では、お先に失礼しますわ。一夏さん、蒼星さん」

 

 一番乗りでセシリアが完全停止をするために地上に向かった。代表候補生でもあるのでしっかり10センチのところで停止をしていた。

 

「さすがだな~…じゃ一夏。先行くからな」

 

 俺はエネルギアの回転数を少し速くして、地上に向かって高速で移動し、そして少しづつ減速していき停止していく。ギリギリなことに地上から3センチのところで止まった。

 

「波大、早すぎるぞ。もう少しゆっくりでも大丈夫だ」

 

 そう言ったのは織斑先生だ。地上からギリギリのところで止まってさらにスピードも周りから見ればそれなりに早かったせいで砂ぼこりが発生したみたいだ。実際にあまり俺からも周りが見えない。

 

 と────

 

 ドーーーンと、近くで大きな爆発が起きた。原因は一夏が制御を誤ってそのままグラウンドに激突して大きなクレーターを作っていたからだ。

 

(なにやってるんだ、あいつ……)

 

 俺がそう考えていると、一夏の元に接近する影があった。しかも、ふたつ。

 

「一夏、大丈夫か!?」

 

「一夏さん、お怪我はございませんか?」

 

「あ、ああ。大丈夫」

 

「ふん、ISを装着していれば怪我などしない。そんな心配をする必要はないだろう」

 

「あら、人を心配するのは当然の事ですわよ。篠ノ之さんは配慮が足りないのでは?」

 

「ぬぬぬ……」

 

「むむむ……」

 

 とうとう一夏そっちのけで睨み合いを始めた二人。一夏は地面に座り込んだまま何をしていいのか分からずじまいだ。

 

(おーい、そんなことしてると───)

 

「何がしたいのだ、貴様らは」

 

「ふぎゃっ!!」

 

「っ!!」

 

 いつの間にか織斑先生が箒達の隣に移動し、出席簿を二人の頭に振り下ろしていた。あまりの痛みに二人揃って頭を抱えて蹲る。

 

「全く……織斑はさっさと立ち上がれ」

 

「は、はいっ!!」

 

 織斑先生の言葉には謎の強制力があるように感じられた。一夏はそそくさとクレーターから出てきた。

 

「織斑、あとで穴は塞いでおけよ。さっさと進めるぞ。次は武装展開の実演だ。まずはオルコット、やってみろ」

 

 「はい!」と勢いよく返事をしたセシリアは直ぐ様、ライフルを取り出す。流石、代表候補生だが、問題が一つ───

 

「セシリア、ちょっと危ないんですけど」

 

 何故か隣にいる俺に銃口が向けられているのだ。いきなりだったので俺は少し身を屈んでしまった。

 

「波大のいう通りだ。横に向けて銃身を向けるのはやめろ。それで誰を撃つ気だ」

 

「し、しかし、これはわたくしのイメージを固めるのに──────」

 

「直せ。いいな」

 

「は、はい」

 

 彼女の選択肢は一つしかない。

 

「ではセシリア、近接用の武装を展開しろ」

 

 セシリアは銃器を光の粒子に変換した。これを『収納』と呼ぶらしい。

 そして新たに近接用の武装を『展開』と呼ぶ。

 ──だが、セシリアの手のひらの上の光はなかなか像を結ばず、くるくると空中をさ迷っていた。

 

「くっ……」

 

「まだか?」

 

 急かす織斑先生の言葉に、セシリアは───

 

「す、すぐです。──ああ、もぅっ……!!

『インターセプター』!」

 

 こうして武器の名前を呼んで取り出す方法はまだ初心者の人が使う方法で代表候補生のセシリアにとっては屈辱みたいらしい。俺は名前を呼びながら展開するのはカッコいいと思うが。

 

「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

 

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですから、問題ありませんわ!」

 

「ほう。……織斑と波大との対戦で初心者に懐を許していたように見えたが?」

 

「あ、あれは、その……」

 

 何だか、俺にも罪悪感が芽生えたきたのは何故だろう………。

 

「次に、織斑。武器を展開して見せろ。そのくらい自在にできるだろう」

 

「は、はい」

 

 そして一夏は右手に集中した。

 白式の右手に雪片弐型を展開させた。展開までの一秒であった。

 

「遅い。0,5秒で出せるようにしろ」

 

(相変わらず厳しいんだな~)

 

 ふとそんなことを考えていると織斑先生がこっちの方に目を向けてきた。

 

「最後に波大。近接武器を展開してみろ」

 

 二十四時間心の中をあの人は読んでるんじゃないか?と思いながらも俺はムーンテライトを展開する。

 

「0,7秒か、まあまあだな」

 

 微妙に誉めているのかいないのか分からないが……まあ……誉めているほうだと思う。

 

「どうも?」

 

「射撃武器も展開しろ」

 

 織斑先生はセシリアの時と同じようにもう一つの装備を展開するように言ってくる。

 

「え!蒼星、射撃武器もあるのか!」

 

「まだ装備がありましたの!」

 

 一夏とセシリアが驚いていた。あぁ……そういえば、見せたことがなかったな。ん?使う機会がなかったのか。

 

「え………でも…先生」

 

「ん、何か、問題でもあるのか?」

 

「いえ、特にないです……」

 

 俺は諦めて射撃武器──電子粒砲(でんしりゅうほう)を展開する。

 

「0,8秒か…こちらもまあまあだな」

 

 電子粒砲は見た目はバズーカなのだが砲口が上下に別れているかのように真ん中に亀裂が走っているかなような隙間が出来ている。というか殆ど内部も見えている。

 

「弾はどこにあるんだ?」

 

 一夏は電子粒砲の近くまできて色んな方向から眺めている。

 

「弾はないよ」

 

 俺がそう言うと一夏だけでなくクラス全員が驚いた顔をしていた──璃里亜はしていないが──。

 

「これ、エネルギー砲なんだ」

 

 電子粒砲もエネルギアで生産した雷によって初めて使える麒麟専用の装備の一つだ。

 

「ということは、これも第3世代兵器ですの?」

 

 セシリアもいつの間にか近くまでやって来ていた。

 

「んー………少し違うかな」

 

「というとですの?」

 

「第3世代兵器は多分、これじゃなくてこっち」

 

 俺は背中に浮いてぐるぐる回っているエネルギアの方を指差す。

 

「そういえば、なんで回ってるんだ、それ?」

 

「そうですわね。何か、意味があるんですの?」

 

「あるよ。これが回ることによって、エネルギーを生産してるから。そのエネルギーを使ってこの電子粒砲が使えるって訳」

 

「それは本当ですの!?」

 

「シールドエネルギーとは別のエネルギーだけどね」

 

「電気エネルギーみたいなものか?」

 

「へえ、よく分かったな。そう!一夏の言ったとおり麒麟は雷を自由に操れる機体なんだ」

 

「なるほど…だからあんなスピードが出ますのね……」

 

 セシリアも納得したのか、頷いている。それに何故かクラスメイトも全員頷いている。

 

「波大、それほどにしておけ」

 

 授業の時間が迫っているのか、それともまた別の理由なのかは分からないが、織斑先生の終わりの言葉が入る。

 

「時間だな。これで授業を終了する。織斑、ちゃんと片付けておけよ」

 

「は、はい」

 

 授業は無事終了を告げて、一夏以外は皆教室に戻る。

 

「蒼星~、手伝ってくれよ~」

 

「じゃあ、なんか奢れよ」

 

 こういうときに女子たちはアピールできるチャンスなのだが重労働は嫌なのか、もう誰もいない。

 こうして穴を塞いだ俺たちは時間ギリギリになってしまったが、なんとか次の授業に間に合った。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 




麒麟の装備の一部の紹介となっています。出番はまた今度ですけどね。


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第9話 転校生

ついに鈴の登場です!と言っても何もないですが。


「それでは、織斑君のクラス代表就任を祝って!かんぱーい!!」

 

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

「かんぱーい……」

 

 クラスの女子が揃って元気な声でグラスを掲げる。当の本人である一夏は覇気の無い声でそれに続いた。

 

「いやーしかしうちのクラスに二人も男子が来てくれて、ほんと良かったねー」

 

 先程乾杯の音頭を取った女子生徒がテーブルの食事に手をつける。日課の授業も終わった一年一組の生徒達は、一夏がクラス代表に就任した事を寮の食堂で祝っていた。貸切のため他の生徒もいない中、一夏を中心に女子達が騒いでいる。

 

(楽しそうだな………)

 

 俺は少し離れた席に座って一人でジュースを飲んでいた。一夏の周りには一組以外の生徒がいるがそれは気にしてもきりがないので俺は当の昔に諦めている。と、中心人物の一夏がこちらに向かってくる。

 

「蒼星、何やってるんだ?」

 

「特になにも」

 

 女子たちは自分達だけで話が盛り上がっている。

 

「まだ納得はいかないんだけどな~」

 

 一夏はクラス代表になったことをあまり納得していないみたいだ。

 

「クラスの皆が認めてるんだぞ、頑張るしかないだろ」

 

「そうだよな~…」

 

「せめてクラス代表戦には勝てよ、一夏」

 

「ん、なんなんだ、それ?」

 

「お前……今後の予定とか見ておけよ。クラス代表戦はクラスごとの代表が試合をすることだ」

 

「善処します………」

 

「あいつらも特訓してくれて──」

 

「はいはーい!ちょっといいですかー!」

 

「へ?」

 

 一夏がいきなりの乱入者に惚けた声を上げる。三人が座っているテーブルに近づいてきたのは、左の上腕部に“新聞部”と書かれた腕章をつけている生徒だった。首にはカメラが下げられ、右手にはボイスレコーダーを持っている。

 

「あの、あなた誰ですか?」

 

「ああ、私は新聞部で副部長の黛 薫子って言うんだけど。お三方、ちょっと質問いいかな?」

 

「俺たちなんて取材して、何するんですか?」

 

「おっと、期待のクラス代表君は分かっていないみたいだね。いきなり現れた二人の男子IS操縦者!その片方はいきなりクラス代表に!!キャッチコピーとしては十分過ぎるわ」

 

 今の状況に俺はあまり乗り気ではなかった。一夏も俺と同様なのか、目を泳がさせている。

 

「じゃあまずは織斑君に質問しようかな~」

 

「は、はい。何ですか?」

 

 ずい、と一夏の顔にボイスレコーダーを近づける薫子先輩。一夏も戸惑いながら何とか応じようとする

 

「じゃあまず質問。ズバリ、クラス代表になった感想は?」

 

「え、ええっと……さっき蒼星にも言ったけど、とにかく頑張ります」

 

「つまんないなぁ~。じゃあさ、この学園でやりたい事とかは?」

 

「まだ特には無いですけど……」

 

「うっわ、つまんない。まあこの辺りは捏造しておけばいいか……」

 

(いや、それでいいのか!?)

 

 俺は口に出さずに心の中でつっこみを入れておく。薫子先輩は一夏の回答を聞き終えると、何やらポケットから取り出した手帳に書き込んだ。それが終わる。と今度は俺に質問の矛先を向けてくる。

 

「さあ、次は波大 蒼星君に質問!君がこの学園でやりたい事は?」

 

「……特には無いですかね」

 

「もう~つまんないなぁ。二人は折角女の園のIS学園に入学したんだよ?もっとこう、何かあるでしょ!?」

 

「いや、女の園って……」

 

「こう、“俺の女は絶対に守る!!”とか“仲間はやらせねぇ!!”とか」

 

 この人、マンガやアニメの見すぎではないかと不安に思う俺だった。

 

「まあ、ここで過ごす内に何か出てくるかもね。何しろ入学してまだ20日くらいしか経ってないし。それじゃあ次は……時間が無いから捏造しとくね」

 

「そんなんで大丈夫なんですね………」

 

「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」

 

 黛子先輩がセシリアを見つけ、声をかけると飲みかけの飲み物を此方の机のスペースへ置き───

 

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

 ───そう言いつつも、満更でもない様子のセシリア。

 

「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかと言うと、それはつまり────」

 

「あぁ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」

 

「さ、最後まで聞いてくださいな!」

 

「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑君に惚れたからって事にしよう」

 

「な…な…そんなことは…………」

 

 セシリアが顔を真っ赤にして否定するが説得力が全く感じられない。

 

「じゃ、次に三人の写真を撮らせてもらおうかな」

 

 薫子先輩がこっちにくるように指示を出す。

 俺たちは真ん中に一夏がくるように並んだ。

 

「ほら、真ん中に手を出して重ねて」

 

 俺が最初に出してその上に一夏が、少し躊躇ってからセシリアが手を重ねる。

 

「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」

 

「え!?───き、9」

 

「74.375」

 

 「波大君、せいかーい」と共にパシャリとデジカメのシャッターが切られた。

 と、その写真の中にはクラスの皆がいつの間にか乱入していた。

 

「オルコットさんにだけ抜け駆けはさせないよ~」

 

「っ!…そんなことはしませんわ!!」

 

 「あはは」と辺りから笑顔が出てくる。微笑ましい光景である。

 こうして、無事パーティーは終了したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー織斑君、波大君。ねぇ聞いた転校生の噂?」

 

「転校生?今の時期に?」

 

「そう。なんでも、中国の代表候補生なんだってさ」

 

「珍しいな」

 

 HR前の空いた時間、一般の高校の様にざわついている教室にて。俺と一夏はようやく環境に慣れてきたのか、女子との会話に戸惑いを感じる事が少なくなっていた。

 

「あら、私の存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら?」

 

「このクラスに転入する訳では無いのだろう?騒ぐほどのことでもあるまい」

 

「どんな人なんだろうね~」

 

 席が離れているセシリアと箒がいつの間にか側に居た。ちなみに場所は一夏の席である。俺と璃里亜も荷物を自分の席に置いて一夏の席に集まっている。

 

「む、気になるのか?」

 

「ん?ああそうだな、少し」

 

 すると、箒は少し不機嫌そうになる。

 

「ふん…今のお前に他人を気にしている余裕が有るのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

「そうですわ一夏さん!対抗戦に向けて実戦に近い訓練をいたしましょう!」

 

 先程からセシリアは手を腰に置いて謎のポーズをとっている。イギリスの人は皆、こんなのだろうか……俺には意味が理解不能なのだが………。

 

「そうだな…俺が頑張らないとな!」

 

「頑張れ!!男性操縦者!!」

 

「いや、蒼星も一緒だろ」

 

 普通に俺のボケに突っ込まれてしまった。

 

「蒼星は他人事みたいに言いやがって…」

 

「いやだって、そうだし」

 

「おい!」

 

「そう言っているソウ君!他人事じゃないんだよ!」

 

「そうだよ。織斑君が優勝したらクラス全員が幸せなんだよ」

 何故、こんなに一夏に期待が寄せられているかというと優勝商品が半年間デザートが無料になるフリーパス券だからだ。

 

《私も食べたいな~》

 

 ユカが俺に聞こえるようにわざとらしく呟く。ちなみに俺の脳内に直接聞こえるので他の皆には聞こえていない。

 

「それに、専用機持ちはここと四組しかない、楽勝…のはずだよ」

 

 何やら自信がない発言だな。おい。

 

「───その情報は古いよ!」

 

 と、教室の入り口から声がして見てみると、一人の女子がいた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単にはいかないわよ」

 

 と、腕を組んで、片膝を上げて壁にもたれかかっているのは───

 

「鈴?お前…鈴なのか?」

 

 勿論、言ったのは俺じゃない。

 

「そうよ。中国代表候補生…凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 と、決まった。と言うような感じに頭を振るうと、ツインテールが揺れる。

 

「お前何かっこ付けてんだ?すげぇ似合わないぞ」

 

「なぁ!?なんてこと言うのよ、あんた!」

 

 顔を赤らめて少女は動揺する。一夏のいう通りだとあれが本来の姿みたいだ。一夏の知り合いというと、勿論あの人とも知り合いというわけで………。

 バシィンと教室に響き渡る甲高い音。あの人が出席簿で叩いた音だ。

 

「痛ぁ!!邪魔するんじゃないわよ!!」

 

 少女が謎の人物を見ないで攻撃的な声を上げる。丁度少女の背後にその人物が立っているので、少女はその人物が誰かは分からなかった。

 しかし少女以外はその人物が誰なのか分かっているため、誰も声を上げない。

 

「ほぉ?いつから貴様は教師に口答え出来る身分になったのだ?」

 

「教師が何よ!私は───」

 

 少女の言葉が最後まで一夏達に届く事は無かった。何故なら謎の人物が手に持った出席簿を少女の頭を思いきり振り下ろしたのである。少女は痛みで涙を滲ませると共に振り返ると、ようやくその人物が誰かを理解した。

 

「ち、千冬さん……」

 

「ここでは織斑先生と呼ばんか。さて、私の記憶によれば貴様は二組だったはずだが?さっさと教室に戻れ」

 

「一夏、また後で来るからね!逃げるんじゃないわよ!!」

 

 そう言い残すと再び走り去っていく少女。

 

「リリー、俺たちも戻るぞ」

 

「うん………」

 

 俺と璃里亜もあんな目に遭いたくないのでさっさと席に戻る。だが、勇敢なのか先ほどの少女について聞きたいらしく一夏の席の周りに人が集まる。

 

「「「「「「痛いっ!?」」」」」」

 

「むぐっ」「きゃうっ」「あっだァ」

 

「席に着け馬鹿共」

 

「学習しろよ…」

 

 席を立っていた生徒達は織斑先生の出席簿アタック(一夏の時、威力1.5倍の気が…)を喰らい沈黙する。席に着いた後何事も無かったかの様にSHRが行われ授業が始まる。

 セシリアと箒は朝の一夏の反応の事で頭が一杯だったのか織斑先生に制裁を何度も食らっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「一夏(さん)のせいだ(ですわ)!!」」

 

「なんでだよ………」

 

 授業が一通り終わり、昼休みに入った。すると、箒とセシリアの二人は一夏に文句を言いつけていた。

 一夏のいうとおり一夏には非がないはずなのだが………。

 

「一夏~、先に食堂行くからな~」

 

「え!おい、ちょっ────」

 

 相手するのも気疲れするので一夏は置いて先に行くことにした。

 

「んで、のほほんさん、何してるの?」

 

「んー、抱きついてるの」

 

 最近、ずっとのほほんさんが俺の腕に抱きついてきていると気づいた。何故かは相変わらず不明。のほほさんだからということで納得しておくことにした。

 

「じゃ私もー」

 

 そう言うと璃里亜も腕に抱きついてくる。

 

《パパ、浮気はだめだよ》

 

 ユカの注意が入ってくるが俺はそんなに余裕がなかった。周りの視線がなんだか怖いんですけど………。

 ていうか!浮気って言葉なんで知ってるの!しかもまだ結婚してないんですけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼星、ここいいか?」

 

「ん、どうぞ」

 

 いつも通り、のほほんさんは食堂に着くなりどこかへ行ってしまった。空いてる席に俺と璃里亜は座って、俺は焼きうどんに璃里亜は焼きそばを食べているところに一夏がやって来たところだ。

 今、座っている席は6人までいけるので特に一夏達が座っても問題はない。

 

「ん、あれ…………?」

 

 一夏の後ろにいたのは箒でも、セシリアでもなくてあの噂の転校生だった。それに気づいた一夏が紹介を始める。

 

「ああ、こっちは鈴。二組のクラス代表で俺の幼馴染みだよ」

 

 そう言うと一夏は俺の隣に座り、鈴は一夏の隣に座る。

 

「アンタ、名前は?」

 

「ああ、俺は波大蒼星。んで、こっちが遠堂璃里亜」

 

「あんた………どこかで見たような……」

 

 鈴はそう言うなり、俺の顔をじっと見つめてくる。

 

「テレビで見たんだろ、男性操縦者で有名だからな」

 

「……まあ、いいや」

 

 鈴はそれほど深く考えない性格みたいだと俺はそう思った。

 

「そういや鈴、お前いつの間にこっち来たんだ?それにこっちに戻って来るなら一言言ってくれよ」

 

「そんな事よりアンタ何やってんの?男でIS動かすなんて前代未聞よ?」

 

 一夏と鈴は幼馴染みらしく近況について話をしていた。話に入れない俺と璃里亜は目の前の麺をどんどん減らしていく。話しているといきなり机に箒とセシリアが群がってきた。

 

「さあ、説明してもらおうか一夏!その女は一体誰なのだ!?」

 

「私も聞きたいですわ!可及的速やかに!!」

 

「い、いや俺の幼馴染みだよ。前に言ってなかったか?」

 

「は、初耳だ!!そもそも──」

 

 その言葉を皮切りに箒とセシリア、鈴が騒ぎ出した。女三人寄れば姦しいとは良く言った物で、一夏すら会話に入る事は出来なかった。俺はずっと麺を啜る。

 

「そういや鈴と箒って面識無かったよな?ほら鈴、こっちが箒。前に話しただろ?俺が小学校の時通ってた剣道道場の娘だ」

 

「ふぅん、そうなんだ。はじめまして、これからよろしくね」

 

「ああ。こちらこそ」

 

 一夏の目には竜と虎がにらみあっているように見えているだろう。大丈夫、俺も見えているから………。

 

「ん、んんっ。私の存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰 鈴音さん?」

 

「…誰?」

 

「な!?私はイギリス代表候補生セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存知無いないと!?」

 

「うん、アタシ他の国とか興味無いし」

 

「んなっ、なっ…!」

 

(あれ?……このやり取り、二度目じゃないか?)

 

 このやり取りに親近感を俺は覚えていたが黙っていることにする……。

 

「い、言っておきますけど私あなたの様な方には負けませんわ!」

 

「そ。でも戦ったらアタシが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

「い、言ってくれますわね…」

 

 鈴のためらいの無い言葉の勢いにセシリアはタジタジ。箒も箸を置き拳を握り締めていた。食べ終わっている璃里亜はただ楽しそうに眺めている。

 

「実をいうことな、リリー。俺にも幼馴染みがいるんだ」

 

「え!本当なの!?」

 

 俺がボソッと呟くように言うと璃里亜は盛大に反応する。

 その反応を見た俺は思わず噴き出してしまうと自分がはめられたことに気づいた璃里亜は顔を赤くしてそっぽを向く。

 

《パパ!いたずらは駄目!》

 

 ユカにも怒られてしまった………。

 

「ごめん、ごめん、あれ見てるとつい……」

 

「ふん、ソウ君、知らない!」

 

「じゃあ、先に退散しますか」

 

「え……ちょっと待ってよーー」

 

 俺はさっさと退散するようにその場を去る。後ろから璃里亜が追いかけてきた。

 

「あの二人は仲がいいの?」

 

「ああ、あの二人も幼馴染みだからな」

 

 「へぇー」と鈴は興味げがなさそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあー、めんどくさー」

 

 授業も終わり特訓でも使用かと考えていたら織斑先生から資料を運ぶように言われた。思ったよりも時間がかかってしまい、俺は部屋へと戻る為に歩いていた。

 

「ただいまー…………って」

 

 扉を呑気に開けながら中に入ると璃里亜がいる。それはいいとして何故だろう……俺のベッドの上に丸まって顔を伏せている子猫みたいなのがいる……。

 

「鈴さん……なの?」

 

「あ!ソウ君!こっち、こっち」

 

 俺が来たことに気づいた璃里亜がこっちにくるように手を向ける。

 

「ほら、ソウ君も来たことだし始めましょう」

 

「ぐすっ……」

 

(あれ?泣いてるのか……)

 

 鈴を見てみると体がびくびく動いていることが分かる。

 

「なんで、こんな状況に……?」

 

「私が廊下で鈴ちゃんがへこんでいるのを見つけたから連れてきたの」

 

 璃里亜が当たり前のように言う。

 

(鈴ちゃん…ってもう仲良くなってるのか?)

 

 璃里亜は昔は人見知りの性格だったが、今はそんなことは感じさせないほどになっている。

 

「んで、何があった?」

 

 俺がそう言うと鈴はぽつりぽつりと話始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり一夏と約束してたけど当の一夏は約束を忘れていたばかりか、意味を間違えて覚えていたって事?」

 

「そういう事よ。ったく、ホントあいつは……」

 

 鈴の話だと一夏と昔にある約束をしていたらしいが当の本人は間違って意味を捉えていたらしい。それも。

 

『料理が上手くなったら毎日私の酢豚を食べてほしい』

 

 を、一夏は………。

 

『毎日酢豚をおごってもらえる』

 

 と解釈していた。何故、酢豚なのかというと鈴は中国人なので、日本特有の告白を自分で少し換えたらしい。

 

「ふーん、鈴ちゃんは一夏君のことが好きなの?」

 

「へっ!?べべべ別にそんな事……」

 

 鈴は手を左右に振りながら否定の意思を示していたが、途中から失速して顔を俯かせてしまう。耳まで真っ赤な鈴を見て、俺の方も恥ずかしくなった。

 

「じゃ、じゃあ落ち着いたみたいだし、そろそろ──」

 

「あんたたち、私に協力しなさい!」

 

 鈴がいきなり、そんなことを言い出した。俺はぽかーんとなるが璃里亜は誰が見たって乗り気になっていると見える。

 

「別にいいけど……俺たちでいいのか?」

 

「あんたたちも幼馴染みでしょ!なら、私の気持ちも分かってくれるから」

 

「俺にはセカンドとかいないけど……」

 

 「それは関係ないわよ!!」と思いっきり否定されてしまった。

 一夏によると箒がファースト幼馴染み。鈴がセカンド幼馴染みらしい。ていうか幼馴染みに順番ってつけるものかな………。

 

「うん!分かるよ!鈴ちゃん!」

 

 璃里亜は完全にノリノリである。

 

「え!あんたも似たようなような事あったの!?」

 

「うん!」

 

「おーい嘘をつくんじゃないんですよー」

 

「今日のお昼」

 

(まだ根に持ってたんですか………)

 

 璃里亜が言っているのは今日のお昼にまだ璃里亜が知らない幼馴染みがいると冗談でからかったことだ。

 

「あんたの事、蒼星って呼ぶから私のことも鈴で呼び捨てで構わないわ」

 

「分かったよ……」

 

 ここまで来るともう俺たちが協力することは決定事項みたいなものだ。

 

「で、どうするつもりだ?」

 

「そうね…………」

 

 鈴は何も考えていなかったらしく考え込む。

 

「クラス代表戦ってどう?」

 

「フリーパス券はどうするんだ?」

 

「それよりも、鈴ちゃん優先!」

 

 もうここまで来ると誰にも璃里亜は止められないと幼馴染みが言っている。

 

「そうね……そうだ!来月のクラス対抗戦、そこで一夏をギャフンと言わせてやるのよ!!」

 

「そう言えば君って、二組のクラス代表だっけ?」

 

「ええ。と言うことでアンタ達、私が勝つ為に協力しなさいね!!」

 

 そう言うと鈴はこちらに手を出してくる。

 

「よろしくね、蒼星」

 

 

続く───────────────────────────────

 

 



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第10話 謎の襲来

2話連続投稿。このままだとあっという間にストックがなくなる(T_T)まぁ、精々悪足掻きぐらいはしますよ。
今、ふと思ったんですが鈴のアダ名ってあまり見かけないんですよね。単純に“りん”と呼びやすいからアダ名が誕生しないんですかね?見たと言えば、リンリンってぐらいでしょうか?なので、作者なりに彼女のアダ名を考えてみました。

───では、どぞ~。


「それでアイツなんて言ったと思う?よりにも寄って“約束はちゃんと覚えていただろうが!”って言ったのよ、信じられる!?」

 

「……あのさ、鈴」

 

「何よ、蒼星」

 

「俺たちの部屋に来て愚痴るの、やめてくれないか?」

 

「えー、いいじゃん、ソウ君」

 

 あの鈴の友人宣言から数週間後、今日も鈴は俺たちの部屋に来て俺と璃里亜相手に愚痴っていた。それも毎日のようにだ。

 まあ愚痴るだけではなく、それなりに世間話や璃里亜相手に女の子らしい話もしているのだが。二人ともすっかり打ち解けたのか、楽しそうに。

 時間は午後七時、今日も俺達の部屋にやってきて椅子を占拠、ベッドの上にいる俺と璃里亜相手に愚痴っている。

 さらに璃里亜は時々納得できるのか相づちを打つ始末。

 

「え、別にいいじゃないの」

 

 「そうだ!そうだ!」と璃里亜が追い打ちをかけてくる。

 

「まあ……いいけどよ……それよりも一夏に勝つ算段はついてるのか?」

 

「んー…それはまだね」

 

 俺はもう完全に鈴サイドになっていた。約束の内容を間違えて受け取っていたのはまだしも、流石に女の子との約束を破るどころか覚えていなかったのは全面的に一夏が悪いと思っている俺であった。

 教室で一夏に質問されても“流石に今回はお前が悪いだろう”と一貫した態度を取っていた。俺に言われた一夏は終始首を捻っていたが。

 

「あんたたちも何か考えなさいよ」

 

 鈴は無理難題を押し付けてくる。

 

「んー………………ないね」

 

「鈴ちゃんのIS見てもらう?」

 

「誰によ?」

 

「パパとママ」

 

「え!あんたの両親って研究者なの!?」

 

「そうだけど…リリー、それは流石に駄目だろ」

 

 鈴の機体を璃里亜の両親に見せるのはいいが、それは中国の技術を公開するようなものだ。

 璃里亜の両親がそんなことをするとは思えないが周りが許さないだろう。

 

「そういえば、あんたたちってお互いの事あだ名で呼んでるのね」

 

 鈴は羨ましいのかなんか寂しそうに呟く。

 

「一夏に頼めばいいじゃないか?」

 

「そ、そんなこと………」

 

 「───出来るわけないでしょ」と鈴は言う。

 

「じゃあ、鈴ちゃんのあだ名を考えちゃえー」

 

「え、ええー!!」

 

「早速いきまーす、リンリン」

 

「パンダみたいだな」

 

「絶対嫌!」

 

 勿論、鈴は首を横にふる。

 

「次、ソウ君」

 

「え!………じゃあ、チンチクリン」

 

「むっ………」

 

「勇気リンリン」

 

「……」

 

「リンゴリラ」

 

 リンゴとゴリラをかけています。

 

「あんた、それら全部悪口よね……」

 

「はい…スミマセン」

 

「じゃあ、スズーは?」

 

「スズー………いいわよ」

 

(ああ…多分、鈴を訓読みにして語尾を伸ばしたんだろうな………)

 

 スズー…スズー……と先程からそんなに嬉しいのか同じことを繰り返し呟く。

 

「それじゃ、私はもう戻るわ。おやすみ」

 

 鈴は部屋を出ていった。鈴は出ていったあとはまるで台風が過ぎ去ったあとみたいだ。

 

「ソウ君………このまま内緒にしておくの」

 

 璃里亜が鈴の出ていった後を見つめがら不安そうに口にだす。彼女の言いたいことは分かっている。

 

「話す時が来たら話すさ………」

 

「そうだね…スズーも思い出しそうだしね」

 

 鈴と俺が初めてちゃんとした会話をしたときに鈴が俺のことをどこかで見たと言っていた。

 あの時は男性操縦者だったからテレビで見たんでは?と誤魔化したが実は俺と間接的に璃里亜もだが、“別の出来事"でニュースに載っていたことがあるのだ。

 

「寝ますか………」

 

「……うん」

 

 俺たちはそれぞれベッドに潜り込んで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、とうとう試合当日となった。既にアリーナは満席、次の試合を今か今かと待っている状態である。俺は管制室で箒、セシリア、織斑先生、山田先生と一緒にモニターを見ていた。璃里亜は鈴のビットで送り出してからその場のモニターで観戦すると言っていた。

 

「ところで………一夏はどんな特訓をしてたんだ」

 

 最近、鈴の協力者となったお陰で一夏の訓練には付き合っていなかった───参加しようと思えば出来たが───ので一夏がこの試合に向けてどんな事をしてきたのか俺は知らないのだ。だから、俺は指導役である二人に聞いた。

 

「え!それはだな…………その………」

 

「え………ええ………まあ……」

 

 何故か言葉を濁して答える二人。その反応からある程度のことは推測出来る。

 

(もうほとんど訓練にはなっていなかったのか………)

 

 どちらが一夏に教えるのかアリーナであの二人が揉めている光景が目に写るように浮かぶ。

 

(一夏………御愁傷様)

 

はあ~、とため息をつく俺は一夏の身を按じることしか出来なかった………。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』

 

 アナウンスで一夏と鈴が空中で向かい合う。開放回線(オープンチャンネル)で話しているのか会話が筒抜けだった。

 

『一夏、今謝るんなら痛めつけるレベルを少し下げてあげるけど?』

 

『雀の涙程度だろ?そんなのいらねぇよ、全力で来い』

 

『一応言っておくけど、ISの絶対防御も完全じゃないのよ。シールドエネルギーを突破出来る攻撃力があれば本体にダメージを与えられる』

 

 鈴の言うとおり、ISを纏っているからというだけで絶対防御が発動して安全と言うわけではない。本体にダメージを与えるだけの武器も存在しているらしいとの噂もある。

 しばらくして一夏と鈴の会話が終わりざわめきのみが場を支配する。そして───

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 ビーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 俺の謎のややこしい気持ちのなか、二人が激突した────。

 ブザーが切れると同時に一夏と鈴の両方が動いた。

 ガキィンと音を鳴らし互いの得物をぶつけ合う。一夏は瞬時に呼び出した『雪片弐型』を、鈴はハルバートの様な青龍刀を2振り持ち回転を加えながら一夏を弾き飛ばす。

 

『へぇ、今のを防ぐ何てやるじゃない。でも!』

 

『くっ…!』

 

『この連撃はどうかしらね!』

 

『くっ、うおっ!』

 

 一夏は距離をとろうとする。

 

『………甘い!今のはジャブよ!』

 

『ぐあぁ!』

 

 クルクルと青龍刀を回転させながら一夏と切り結ぶが、一夏がその勢いに押され距離を取ろうとしたとき鈴のIS『甲龍』の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)がその機能を発揮し一夏を吹き飛ばす。

 一夏は地面に叩きつけられ肉体にもダメージを受けてしまう。

 

「あれは…?」

 

「未来ロボットの空気砲か?」

 

「それが何なのかはご存知ありませんが、あれは『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけ砲身を生成、余剰で生じる衝撃をそのまま砲弾化して打ち出す、私のBTや蒼星さんのエネルギアと同じ第3世代兵器ですわね」

 

「しかも全て圧力でやるお陰で砲身も砲弾も見えないのか……避けるには操縦者の視線で砲撃地点を予測するか、殺気を感じて回避するか、衝撃砲の射程、射線上から退避するかぐらいだな」

 

「そんなこと出来ますの?」

 

「ん……まあ、一番やり易いのは目線で回避かな」

 

 画面では一夏が鈴の衝撃砲から逃れる為にアリーナを縦横無尽に駆け回っているのが映っていた。俺と織斑先生には緊張を感じられなかったが、箒は無言になって心配そうに一夏を見続け、セシリアは甲龍の武装と鈴の腕をよく観察し、山田先生は副担任として勝負の行方を見守っていた。

 

『鈴』

 

『な、なによ』

 

『…本気で行くからな』

 

『なっなによ、そんなの当たり前じゃないっ。と、とにかく、格の違いってやつを見せてあげるわよ!』

 

『………』

 

『………』

 

『…ハアァ!』

 

 一夏は不適な笑みを浮かべたあとに鈴に向かって突撃する。俺はそれを見て、何かを察した。

 

「織斑先生」

 

「ん、なんだ?」

 

「一夏は何するつもりですか?」

 

「何故そう思う?」

 

「あいつ…何かやるぞ!みたいな顔をしてるんですよ」

 

「ふっ……そうか……『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を使い一気に零落白夜で決めに行くつもりだろう」

 

「なるほど………」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)はその名前の通りに一時的にスピードを上げて相手の隙をつくというものだ。だが、難易度もそれなりにあったはずなのだが…織斑先生にでも教わったのだろうか………。

 一夏は真正面から瞬時加速で鈴に切り掛る。一瞬で加速した事で鈴はその速度に面くらい対応が遅れ、一夏の剣筋は直撃するラインを描く。

 その時──────

 

《パパ、何か来るよ!》

 

「「!?」」

 

 ユカの通信と同時にアリーナに先程とは全然異なる激しい音が会場に響き渡り、大きな煙が上がる。

 動揺は試合中の二人にも広がる。

 

「な、なんだ!?何が起こって…!?」

 

「一夏!試合は中止よ!今すぐピットに戻って!」

 

「はぁ!?何を言って…!」

 

 ───ステージの中央と上空に熱源反応。

 

「なっ」

 

「何なの、あれ………」

 

 ISのハイパーセンサーが侵入者を知らせる。アリーナのシールドはISと同じ物で出来ている。

 つまりISのシールドを貫通出来る攻撃力を持った機体が乱入し一夏をロックしているという事。鈴の声に釣られるように一夏は鈴と共に、いまだに煙が上がるアリーナの中央を見る。

 そこには姿形からして異形なものがあった。

 深い灰色をしたそのアンノウン機は手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びていた。

 そして、首がまったく見当たらず、肩と頭が一体化しているような形をしている。そして何よりも特異なのが、『全身装甲(フル・スキン)』だった。

 通常のISは、部分的にしか装甲を形成しないはずなのだが……………。

 突然の乱入者にアリーナに居た殆どの人間が混乱しパニックになっていた。しかし一夏の試合の行方を見守っていた管制室でもそれは起きていた。

 

「織斑君、鳳さん!今すぐアリーナから避難してください!すぐに先生方がISで向かいます!」

 

『いや、でも───うわっ!』

 

「!何だ、あの機体は!?」

 

「蒼星さん!あれは何か分かりますか!?」

 

「いや………分からないな」

 

「織斑君、鳳さん!大丈夫ですか!?早く避難を!」

 

『…いや、先生達が来るまで俺たちで食い止めます』

 

「なっ!?無茶です!シールドを突破出来る火力を持ってあああ!お、お2人共!」

 

 山田先生の言葉も虚しく、一夏と鈴は交戦状態に入ってしまう。

 鈴が衝撃砲で牽制し一夏が斬りに掛かるというやり方でいくのだろう。幼馴染というだけあってコンビネーションはなかなかのものだった。

 

「どうやら通信妨害されているようだな。あの二人の距離ならば問題はないだろうが、ここからでは通信は無理か」

 

「そ、そんな。あの二人にアンノウンを戦わせるのはあまりにも危険すぎます!」

 

「だとしても、あの二人はやる気でいる。やらせてもいいだろう」

 

「お、織斑先生!?何を呑気なことを!?」

 

「落ち着け。コーヒーでも一杯どうだ。少しでも気持ちは収まるだろう」

 

 と、織斑先生はコーヒーカップにコーヒーを注ぐと、なぜか塩のほうを入れた。

 

「あ、あの…それ塩ですけど」

 

「………………」

 

 すると織斑先生は少し顔を赤らめて、黙り込む。

 

「織斑先生!このままだと一夏さんが危ないですわ!ISの使用許可を!」

 

「そうしたいのは山々だがな………これを見ろ」

 

「これは…」

 

「アリーナの遮断シールドレベルが4に強制変更…しかもご丁寧に全ての扉をロックしているとは…」

 

「だったら織斑先生…麒麟の電子粒砲でシールドを破壊すれば良いですよね」

 

「可能か?」

 

「はい、時間は少しかかりますが支障はないはずです」

 

「はあ~、仕方ない。今回は特別に緊急措置として許可する。だがあまり無茶はするな。それと出来ればでいい、捕獲しろ。原因の追求と調査を徹底的に行う」

 

「了解しました」

 

《ユカ、電子粒砲の準備しておいて》

 

《パパ、もうしているよ》

 

《そうか、流石だな》

 

《へへー、そうでしょー》

 

「分かりましたわ!」

 

「………あれ?篠ノ之さんは何処に行ったのでしょうか?」

 

「「「!!!」」」

 

 俺とセシリアが物騒な方向で許可を千冬から得た時、ふと箒が居ない事に気付いた山田先生の言葉で硬直する。

 今までこの状況を何とかしようと集中していた為、すっかり箒の存在を忘れていたのだ。

 

「もしかして……だとしたら!」

 

「あっ、蒼星さん!お待ちになって!?」

 

 俺は管制室を飛び出した。俺の予想が当たってなければいいが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ」

 

「一夏!ちゃんと狙いなさいよ!」

 

「狙ってるっつーの!」

 

「だったらちゃんと当てなさいよね!!一夏、離脱!」

 

「お、おう!」

 

「ああもう!めんどくさいわねコイツ!」

 

「くっそ、まるで遊ばれているみたいだ…!」

 

 一夏と鈴は、衝撃砲の援護と白式の加速で絶対に反応出来ない速度と角度で射撃型に攻撃していた。しかし射撃型はその攻撃をことごとく躱しビームによる砲撃や、ビーム発射口で肥大化した両腕で攻撃してくる。

 2人は戦い方も何もない無茶苦茶な攻撃に翻弄されていた。先程の攻撃もこれで4、5度目の試みだった。

 

「鈴、シールドエネルギー、あとどれくらい残ってる?」

 

「180ってところね。このままだとちょっとキツイわね…今の火力でアイツのシールドを突破して機能停止させるのは確立的に一桁台ってところじゃない?」

 

「ゼロじゃなきゃいいさ」

 

「あっきれた。確立はデカイほどいいじゃない。んで、どうするの」

 

「逃げたきゃ逃げてもいいぜ」

 

「なっ!?馬鹿にしないでよ!アタシはこれでも代表候補生なのよ!こんなところで尻尾巻いて逃げるなんて、笑い話にもならないわ」

 

「そうか。じゃあ、お前の背中は、守ってみせる」

 

「え!?あ、う、うん。ありが─────うひぃ!?」

 

「大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫よ!」

 

 一夏のセリフで鈴がモジモジしたが敵の攻撃で一気に現実に引き戻される。

 一夏はここで目の前の機体に違和感を感じ鈴に話す。

 

「なぁ鈴。なんかあの機体の動き、機械じみてないか?」

 

「ISは機械よ」

 

「いや、そうじゃなくてだな…あの機体、本当に人が乗っているのか?」

 

「はぁ?人が乗らなきゃISは動かな────そういえばあの機体、さっきからあたし達が話している時はあんま攻撃してこないわね。まるで興味がありますって感じ…」

 

「だろ?」

 

「ううん、でも無人機なんて“有り得ない"

。ISは人が乗らなきゃ動かない。そういうものだもの」

 

「でもさ。仮に、仮にだ。もし無人機だったらどうだ?」

 

「何?無人だったら勝てるって言うの?」

 

「ああ。人が乗ってないなら全力を出しても大丈夫だしな」

 

 一夏の判断で目の前の敵に集中する。一夏の頭には1つだけ策があった。

 

「でも全力もなにも攻撃自体当たらないじゃない」

 

「次は当てる」

 

「言い切ったわね。じゃぁあの機体が絶対に有り得ないけど無人機と仮定して攻めましょうか。…一夏」

 

「なんだ?」

 

「どうしたらいい?」

 

「俺が合図したらアイツに向けて最大出力で衝撃砲撃ってくれ」

 

「いいけど、当たんないわよ?」

 

「いいんだよ、当たらなくても」

 

「そ、じゃ早速───」

 

『一夏ぁ!』

 

「───なっ!?何してんだ、箒!?」

 

『男なら…男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』

 

 突然一夏と鈴の耳に箒の声が響く。見ると一夏が出たピットから箒が生身で声をあげていた。箒の奇行に戸惑う一夏と鈴。

 しかし敵は待ってはくれない。敵ISはうっとおしそうに銃口を箒に向ける。

 

「!マズイ、箒!逃げ───」

 

 虚しく箒に向かってレーザーが放たれる。

 

「箒ー!」

 

『っ!』

 

「「『「!!!!」』」」

 

 ドサッ!!

 と、突然箒の目の前に巨大な剣が地面に突き刺さるように現れた。かと思うとレーザーを弾いた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ……ああ」

 

 遅れて現れたのは金色に輝くIS『麒麟』を纏った蒼星だった。そして、箒の目の前に突き刺さっているのは大剣『ムーンテライト』だった────

 

 

 

続く──────────────────────────

 




次回は蒼星の本領が垣間見えるかもしれないです!


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第11話 アンノウン戦

ついに蒼星と本音の関係が垣間見える気が………

するだけです!!詳細はまた今度に!!残念です!!

勘の鋭い人は分かると思いますが、心の中に秘めておいてください。

───では、行こうか!


「大丈夫か?」

 

「あ……ああ」

 

 箒は状況が飲み込めないのか、ゆっくり頷いた。

 

「ていうか、危ないんだから出てきたら駄目だろ!」

 

「すまない……」

 

 箒は申し訳なさそうに顔を下げる。

 

「ほら、あそこから避難して」

 

 俺が指差したのは自分が電子粒砲でぶっ壊してきた扉だ。扉の周りがまだビリビリ電流が走っているが箒が通る頃には収まっているだろうし、何よりここよりは安全だろう。

 「ああ……」と箒は俺の指差した方へと走っていった。

 それを見届けた俺は地面に刺さっているムーンテライトを引き抜いて一夏達の近くへと移動する。

 

「一夏、大丈夫か?」

 

「ああ………蒼星。箒を助けてくれてありがとな」

 

「お礼は後だ。それに今はこいつをどうにかしないとな」

 

「そうだな…」

 

 謎の機体はまだ動いてこない。

 

「あんたのISってそんなのなのね……」

 

「そういえば、スズーは見るの初めてだったな」

 

「で、何なの背中についているやつ……」

 

 やはり、ほとんどの人が俺の背中に付いているエネルギアは気になるみたいだ。

 

「後で教えるから────ところで一夏、作戦はあるのか?」

 

「俺が懐に飛び込んでこれで斬る」

 

 一夏は自分の手に握っている雪片弐型をより強く握り締める。

 

「じゃあ、俺が引き寄せるから隙を狙って攻撃してくれ」

「蒼星はどうするんだ?」

 

「避けるから大丈夫だ」

 

「ならわたしも────」

 

「鈴は一夏と一緒に待機で、鈴が合図するまで一夏はじっとしておいてくれ」

 

「ああ……」

 

「分かったわ……」

 

「じゃ、行くぞ!!」

 

 俺は真正面から謎のISに向かって飛び込んでいった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのあいつ…………」

 

 鈴はボソッと呟く。鈴が驚くのも無理はない。蒼星は相手のビームも当たり前のように避けて隙を見つけて急接近して大剣で近接戦闘に持ちかける。そして、すぐに距離を取りまたビームを避ける。

 一見、簡単そうに見えるが実際にやってみると全然違うということは一夏と鈴は体験しているのでよく分かるのだ。

 

「俺も会ったときからあんな奴だったぜ」

 

「そう………あいつほんと!何者よ」

 

 そんな会話の中で一夏はいつでも飛び込んで行けるように集中している。と、一夏は目の前の光景であることに気付いた。

 

「なあ……鈴」

 

「なによ…」

 

「蒼星にさぁ、あれが無人機かもしれないって話したっけ?」

 

「え……そういえば…話してないわね」

 

「でもさあ…蒼星はまるで操縦者がいないかのように攻撃してるぜ」

 

「あ!…ほんとだ……」

 

 蒼星にはあれが無人機の可能性があると話していないはずだが、蒼星は既に分かっているかのように普段なら攻撃してはいないところにまで斬りかかっている。

 具体的に言うのなら首もと、そして人の心臓辺りになる箇所などだ。

 

「あいつ……何もかもお見通しって感じがする……」

 

「同感だ…」

 

 何故か蒼星のことでは息が合う二人だった。

 

『おい!お前ら、行くぞ!!』

 

「「!!」」

 

 いきなり、蒼星から通信が入ってきて思わず肩が上がる。

 鈴は「あいつ……どんだけ余裕なのよ……」とぶつぶつ言っている。

 

「鈴……いついけばいい……」

 

「っ!……そうね……」

 

 鈴も一夏も蒼星の方にと意識を集中する。

 

 と─────

 

「一夏!今よ!!」

 

「ああ!!」

 

 謎の機体が蒼星に気を取られてこちらに背中を向ける。これがチャンスとばかりに一夏は同時に加速する。

 蒼星は即座に距離を取り、そのまま謎の機体と向かい合うようにする。

 一夏のその速さは見事謎の機体の右腕を切り離す事に成功するが、残った左腕で地面に叩きつけられ銃口が近距離で向けられる。

 一夏はピンチのはずだったが顔には笑みが浮かんでいた。

 

「一夏!」

 

「…狙いは?」

 

『完璧ですわ!』

 

 蒼星の後にピットに入っていたセシリアが謎の機体を狙撃、貫いた。その攻撃で謎の機体が倒れ機能停止した────

 

『ギリギリ間に合いましたわ』

 

「セシリアなら出来ると思っていたさ」

 

『そ、そうですの…当然ですわ!なにせ私はセシリア・オルコット、イギリスの国家代表候補生ですもの!』

 

「一夏、お疲れさん」

 

「はあ……やっと終わったよ…」

 

 と、一夏は安心したのか一気に疲れが被ってくる。

 

《パパ!!まだ、終わってないよ!!》

 

「なっ!………」

 

 ユカの忠告と同時に蒼星は煙の上がる謎の機体の方へと視線を向ける。そこには煙でよく見えないが腕を上げて一夏を狙おうとしている光景があった。

 

「一夏ぁ!避けろーーー!」

 

 叫ぶと同時に謎の機体に攻撃しても間に合わないと判断した蒼星は一夏を庇うように立ち、謎の機体のビームを思わず喰らってしまう。

 

「「蒼星!」」

 

『蒼星さん!』

 

 周りから自分を呼ぶ声が聞こえた蒼星だったが、そのまま倒れて気を失ってしまった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウ君!」

 

 私は思わず保健室の扉を開けるなり大声をあげてしまう。先程、織斑先生からソウ君が負傷したと聞いて思わず走ってきたのだ。

 勿論、返事はない。カーテンで見えないが多分あそこでソウ君は眠っているのだろう。私はゆっくりと歩み寄る。

 

「……………」

 

 ソウ君がベッドの中で眠っている。それにカーテンで見えなかったのだろうか、体に被さるようにしている人がいた。

 

「のほほんさん………」

 

 私よりも先に来てソウ君の看病でもしていたのだろうか………なんか、少し悔しくなったのでそれに安心感からなのか、眠気も襲ってきたので私もソウ君の体にもたれ掛かるようにして目を瞑る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………んっ………」

 

 眠りから目覚めた俺は取り敢えず天井を見上げる。ていうか、天井があるということはどこかの部屋の中だろうか……自分の部屋ではないのは確かだ………。

 

「目覚めたか」

 

 相変わらずの変わらない声が俺の耳に聞こえてくる。

 

「織斑先生……ここはどこですか?」

 

 多分、そこに立っているであろう織斑先生に取り敢えず疑問をぶつける。

 

「ここは保健室だ」

 

「そうですか………あの後はどうなったんですか?」

 

「あの後、一夏がすぐに破壊した」

 

 織斑先生が珍しく一夏と言った。ということは今はプライベートなのだろうか?

 

「皆は無事何ですか?」

 

「ああ、気絶した貴様以外はな」

 

「あはは………」

 

 取り敢えず、から笑いをしておく俺だった。話題を変えなければ……。

 

「俺の体って調子悪いんですか?」

 

「ん、そんなことはないはずだが…ああ」

 

 織斑先生は何故か一人で納得するかのように頷いている。

 

「じゃあ、なんで俺の体動かないんですかね?ていうか腕の辺りが重いんですけど………」

 

 俺の体は何故か頭と足しか動かない。理由を知りたいのだが布団を被っているせいで首から下から見えないのだ。

 

「お守りが乗っているからだろうな」

 

 なんか意味深なことを言うと織斑先生は廊下へと出ていった。

 

「おーい………どういう意味ですか~……」

 

 俺の呟きは天井を反射して誰にも聞こえないまま消えていった。と、俺の体の上で何かが動いているような気が………

 

「…………おにいちゃん……………」

 

(ん?…………誰かいるのか?)

 

 寝ているのだろうか?だとすると今のは寝言なのだろうか?よく聞こえなかったが誰かがいるのは確かだろう。

 

(もしかして…のほほんさんかな?…)

 

 はっきりとは聞こえなかったが、あののんびりとした口調を話すのはのほほんさんしか浮かばなかった。

 すると、俺の体の重りが外れたかのように軽くなり、同時に一人の影が見えた。

 

「リリー?」

 

 璃里亜だった。顔が少し赤くなっている。心配してくれていたのだろうか?

 

「ソウ君……起きたの…?」

 

「ああ。さっき起きたばかりだよ」

 

 やっと体が起こせるほどに軽くなったので上半身を起こす。そして、織斑先生の意味深な言葉の意味がはっきりと理解した。

 

「のほほんさんも、いたんだ」

 

「うん………」

 

 のほほんさんはとても気持ち良さそうにふにゃふにゃと寝ている。

 

「ほら、のほほんさん起きろー」

 

 俺はのほほんさんの肩を軽く揺らす。しばらくして「む………」と言いながらのほほんさんは目を擦りながらこちらを焦点が合わないままこちらを見てくる。

 

「起きたの…なみむー。……あ、リリーだ」

 

 辺りを見回してのほほんさんは状況を掴めたみたいだ。

 璃里亜のことは俺と同じくリリーと呼んでおり仲良くしているみたいだ。

 

「ありがとな。心配してくれて」

 

 俺は素直に二人に感謝の礼を述べる。

 

「うん……」と頷く璃里亜。

 

「そんなことないよー」とのほほんさん。

 

 璃里亜にいたっては先程から目に涙を浮かべている。

 

「大丈夫だって……な、そうだろ」

 

「………良かった!……本当に良かった…」

 

 璃里亜はやがて不安が一気につのったのか、俺に抱きつくなり胸元で泣き出してしまった。俺はおとなしく受け入れて璃里亜が落ち着くように頭を撫で続ける。

 

(あれ?…)

 

 のほほんさんは微笑ましそうにこちらを見ていたが、俺の目には一瞬悲しみが含まれている表情になったように映った。

 何故そう見えたか、不思議に思った。まるで、自分もそうしたいかのような瞳。

 

(…んなわけないよな……)

 

 そう考えて俺は璃里亜が泣き止むまでじっとすることにしたのだった──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、璃里亜が落ち着きを取り戻すと同時に一夏達が入ってきた。のほほんさんは既に何処かへと行ってしまっている。

 

「お………大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫!」

 

 一夏の顔には不安の表情が見える。だから、俺は無事であることをアピールするため余裕な態度で答える。

 

「蒼星さん、具合はいかがですか?」

 

 一夏の背後にいるセシリアも俺を心配してくれているのだろう。

 

「特に問題はないぞ」

 

「そうですか………良かったですわ」

 

 セシリアも安堵の表情に変わる。

 

「蒼星………すまない!」

 

「え!?何!?」

 

 いきなり箒が俺に頭を下げてきた。急にだったので俺は思わずたじろいでしまう。

 

「あの時、助けてしまってもらって………本当にすまなかった」

 

 あの時とは、多分自分の投げたムーンテライトで箒に襲っていたレーザーを弾いた時のことだろう。

 

「ま、気にすんなって────せめて、あんな危ないことはこれ以降にしてほしいよ」

 

「分かった………」

 

 箒も随分反省しているみたいなので、軽く注意を促す程度にしておく。

 

「蒼星、ちょっといい?」

 

 次に話しかけてきたのは鈴だった。

 

「スズーか………そういえば試合はどうなったんだ?」

 

「中止になったわよ…」

 

「ふーん……じゃあ、あれはどうしたんだ?」

 

「え………あー……あれはその──」

 

 何故か鈴は声を濁らせている。ということは────

 

「もしかして……一夏が理解したのか?」

 

「う………うん………けど………」

 

 悲しそうな表情になる鈴。一夏は約束の意味をちゃんと捉えたらしいが鈴はそれを台無しにでもしてしまったのだろうと思われる。

 

「まあ……頑張れ………」

 

 俺の考えが正しいかどうかは別としてとにかく一声かけておくことにした。

 

「うん、ありがと…………────それよりよ!」

 

 何かを思い出したかのように大声をあげる鈴に思わず周りのメンバーは驚いてしまう。

 

「おい!鈴!急に大声だ──────」

 

「なんであんた!あれが無人機だって分かってたのよ!」

 

 一夏の文句を遮り、鈴はこちらにビシリ!と指差しながら聞いてくる。

 

「あれって無人機だったのか?」

 

「そうだよ、ソウ君」

 

「なんでって…いわれてもなあ……あれだ、人が乗っていると感じられる雰囲気がなかったからかなぁ~……?」

 

「そういう物なの?…………」

 

「そういう物─────なあ、リリー?」

 

「…え!…………あー、うん。そうだよ」

 

 何か別のことを考えていたのか璃里亜は慌てて反応する。

 

「じゃあ、私たちそろそろいくね」

 

「俺も行けるようになったら行くよ」

 

 璃里亜もその場を立ち上がりぞろぞろ保健室を出ていった。今、この場を支配するのは静寂のみ……。

 

《ユカ、いるか?》

 

《何、パパ?》

 

《機体の状況は?》

 

《もうほとんど修復出来てるよ》

 

《そうか………》

 

 気がかりもなくなり、することがなくなった俺はまた寝ることにしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本音は保健室を出てから真っ直ぐにある場所へと向かって歩いていた。

 

(なみむー…………)

 

 本音は一夏よりも蒼星の方に近寄ることが多かった。ほとんどの生徒は男子二人のどちらがいいと聞かれればどっちも!と答えそうだが、本音は真っ先に蒼星の方を選ぶだろうと考えていた。理由はある。

 それは学園に入学してからすぐに自分の実の姉から衝撃的事実を聞かされたからだ……。

 やがて、目的地へと辿り着いた本音はテクテク中へといつも通りに入っていく。本音の入った所は“生徒会室"と呼ばれているところだった。

 

「本音ちゃん、どうだった?」

 

 本音が部屋に入ると同時に一番奥の席に座っている水色の髪をした少女が本音に尋ねる。

 

「ん~…元気になったよ~」

 いつも通りののんびりした口調で答える本音。

 

「生徒会長、ほら手が止まってますよ」

 

 そう促すのは本音に似ていると聞かれれば似ていると答えそうな容姿だが、性格は本音とは逆といっていいほどの女性だった。

 彼女こそが本音の姉“布仏虚"。生徒会メンバーの一人であり、書記を務めている。

 

「えー、いいじゃない~」

 

 いかにもだるそうに机に倒れているのはこう見えて生徒会長の“更識楯無"。学園最強の座を保ち続けている凄腕の持ち主なのだ。

 

「ダメです!まだ書類が残ってますよ」

 

 学園最強のはずだが、実は仕事はめんどくさいのかサボってばかりの手のかかるやつなのだ。

 

「会長~、あれは本当なの~?」

 

 本音も会長と同じように机にもたれ掛かりだるそうにしていた。

 

「んー、調べてみたらあの子、記憶喪失になっているらしくて……もう5年も過ぎてるのよね……思い出してくれるのかしら?」

 

「かんちゃんは…知ってるの?」

 

「かんちゃんとは話出来なくて……まだなのよ」

 

「いい加減に仲直りしたらどうです?」

 

「したいわよー、でもー……」

 

「はあー……そうですか」

 

「それよりも!本音ちゃん!私もそろそろ実行することにするわ!」

 

「わーーーー………」

 

 本音はわざとらしく声を上げて盛り上げる。だけど、なんか本音にしては元気がないように思える。

 

「蒼星君、待ってなさいよ!」

 

 そんな声が生徒会室内に響いたとかなんとか……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ!」

 

 俺は背中に悪寒が走ったかのように感じて思わず目を覚ましてしまう。

 

(…気のせいだよな……)

 

 辺りを見回してからそんなことはない、と結論付けて再び眠りにつく俺だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園地下50m。レベル4権限を持つ一部の人間のみが知ることを許された区画に織斑先生と山田先生は居た。

 目の前には運び込まれた無人機3機が台に横に並べられ解析用のアームが伸びていた。ガラス越しにその光景を見ている。

 

「織斑先生、解析結果が出ました。…全て無人機です」

 

「そうか…やはりな」

 

「どのような方法で動いていたかは不明です。波大君達との戦闘による損傷が激しいため修復は不可能です」

 

「コアはどうだった?」

 

「はい。無事だったコアを調べた所、登録されていないコアでした」

 

  「はあー」と織斑先生はため息をつく。

 無人機が開発されたとなればコアを作れるということになり、大惨事になってしまうのが目に見えてしまっている。だが、そんな事ができる企業や会社などは存在しない。

 故に織斑先生の中で犯人と目星がつくのは一人だけだった…………。

 

(束………何を考えているんだ………)

 

 織斑先生は顔をしかめるのであった───

 

 

 

続く──────────────────────────────

 

 




自分で展開しておいて、思ったんですが………伏線多い気がします(;o;)


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第12話 五反田食堂

あの人の登場かと思いきやのまさかの男の休日!!
騙されたと思って見てください!!言ってる時点でアウトですけどね!!

───さっさと、どうぞ!


『You lose』

 

 今の一夏は目の前に映っているこの二文字を直視しているだろう。

 

「うわぁー、また負けたー」

 

 そう言い一夏はバタンと、その場に倒れる。その隣には赤髪の俺と同じような少年がニヤリとゲームパッドを持ちながら一夏をみている。

 

「ほら、一夏の負けだぞ」

 

 赤髪の少年の名は“五反田 弾”。一夏の友達だという。知り合ったのはつい数時間前のことだ。

 一夏はゲームパッドをこちらに渡してくる。俺はテレビの前に移動して居座る。今、俺達がやっているのはTVゲーム“IS/VS”で、その名の通りISを題材にした3Dの対戦格闘ゲームだ。発売月で100万本売れた超名作。

 

「VRMMORPGのやつの方が良かったな~」

 

 俺の言ったのは頭に専用の装置を付けて簡単に言うと仮想世界に意識を移動してゲームを行えることを言っている。最近になり安全性も高くなり人気も出てきている。

 

「仕方ないだろ、売ってないんだから」

 

 一夏が寝転びながら諦めが含んだ声で言ってくる。

 一夏の言う通り、ゲーム会社も開発しようとしたらしい。だが、それは結果的には成功したとはならなかった。ISを仮想世界にしようとすることまでは出来た。販売まで行き着いた。勿論、人気も出た。

 人気の一番の理由が男性でも使えることが出来るようになっているからだ。だが、逆にそのせいで女性達が反抗したのだ。さらに操縦者達が誤差があると主張したのだ。なら、やるなよ!と俺は思うが。

 困り果てた会社側はやむ無く販売中止に決断付けたのだ。今ではMMORPGのISのゲームは伝説となっている。

 

「麒麟がないなー………」

 

 そう呟く俺に一夏は「あったら凄ぇよ」と言ってくる。テレビの画面にはISの選択画面が映っている。取り敢えず俺は打鉄を選び弾と対戦を始めた。

 その前に何故、ここにいるのか順を追って説明しよう………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保健室からも無事退院して平和的な日常を過ごした俺は久しぶりの休みに心が浮きだっていた。

 

「まあ…あいつらは相変わらず騒がしいが………」

 

 箒とセシリア、さらにスズーこと鈴が混ざったことで余計に騒がしくなった一夏の周り。一夏も唐変木なだけあってなかなか彼女達の思いは進展しない。

 話は戻り、急に来た休日に俺はすることがないのだ。璃里亜も璃里亜の両親へと報告するために会いに行っているらしい。璃里亜の専用機の調整も兼ねていると言っていた。

 

「あー…………暇だ」

 

《パパ~……暇だね》

 

 俺もユカもやることがない………寝よう。

 そう決めた俺はベッドにダイブした。だが、今日に限り目が冴えて寝られない。なんという運命のイタズラなんだろうか…さすがにそこまで大袈裟にしないが、こうなると手持ちが完全になくなったので麒麟をいじくり回そうともしくはユカと何かしようと考えていた時だ────

 

「蒼星~、暇か?だったら遊びに行こうぜ♪」

 

 俺の部屋の扉を開けるなり、一夏は何処かへと行こうと俺を誘ってくる。

 

(ちょうどいいや……)

 

 俺は起き上がり扉の方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園から久しぶりに外に出て一夏の友達の家に着いた所だが……。

 

「ほら、行くぜ」

 

 何故か一夏は目の前の建物に躊躇なく入っていく。

 

(“五反田食堂”って………店じゃん!?)

 

 一夏の友達はお店を経営しているのだろうか……取り敢えず一夏の後ろについていくことに俺はした。

 裏口から一夏は扉を開けて誰かがいるか声を上げる。と、家の階段から一人の男性が降りてきたではないか。

 

「おー、一夏。久しぶりだな」

 

「遊びに来たぜ、弾」

 

 一夏の友達なのは真実みたいだ。

 

「で、そちらの方は?」

 

「俺と同じ男性操縦者の波大 蒼星」

 

「俺の名前は“五反田 弾"。 弾って呼んでくれて構わないぜ、よろしく」

 

 弾はこちらに手を出して握手を求めてくる。

 

「俺のことも蒼星でいいぜ、よろしく」

 

 俺と弾は固く握手したのだった。

 これが俺と弾の出逢いだったのだ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたー~ー!」

 

 時は戻り現在。俺と弾の対戦に決着がついた。勝ったのは─────

 

「まだまだ甘いな、弾よ」

 

 俺だった。俺はこういうゲーム関連のことは得意なのだ。

 

「なんで蒼星はそんなに強いんだ?」

 

「俺の趣味がゲーム関連だといったはずだが?」

 

「あー……そんなこと言ってたわ」

 

 そんなやり取りの後、一夏と弾が選手交替して入れ替わる。お互いに機体を選んでから第二ラウンドが開幕した。

 

「で?」

 

「“で?”って、何がだよ…っおぅ!」

 

「ん?行き成り何の話だ?っと!」

 

「だから、女の園の話だよ。いい思いしてんだろ?お前ら」

 

 後ろから弾が妨害をしてくる。一夏はとても苦戦しているように思える。俺のせいでもあるのだが、気にせずに目の前の画面に集中する。

 その間、一夏は弾にそんなことはないと言っていたが、それを聞いた弾は即答した。

 

「嘘をつくな嘘を。お前のメール見てるだけでも楽園じゃねぇかコノヤロ!そのヘヴンに招待券とかねぇの?」

 

「ねぇよバカ」

 

「あるよ」

 

「え!まじか!」

 

「学園祭の招待券があるらしいな」

 

 俺がそう言うと弾はガッツポーズを取る。だが、弾よ……お前の想像以上にあそこは男子にとってきついんだぞ……。

 

「一夏にもらいなよ、俺はもう渡す人は決めてあるから」

 

「そうか…一夏!俺にくれるよな」

 

「あ…ああ………」

 

 そんなに欲しいのか凄い勢いで一夏に詰め寄る弾。

 その時にだ。

 勢いよく扉が開いた。扉を開いた本人は弾と同じ赤髪の少女だった。

 

「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに───」

 

「あ、久しぶり。邪魔してる」

 

「いっ、一夏……さん!?それに………」

 

「あ!俺?波大 蒼星。蒼星でいいからね」

 

「あ、よろしくお願いします。私は五反田 蘭です。そこのくそ兄の妹です」

 

「蘭ちゃんだね。よろしくー」

 

 弾の妹である蘭が一夏と俺を見て固まっていたので取り敢えず声をかけて自己紹介をしておく。

 

「弾、お前尻に敷かれてるな」

 

「ああ…昔はこうじゃなかったのに…」

 

 兄としての立場が一切ない弾はしくしく悲しい表情になる。

 俺はもう一度蘭の方をを見てみる。今の蘭の格好はとてもラフな格好である。肩まである髪を後ろでクリップに挟んだだけの状態で、服装もショートパンツにタンクトップという機能性重視の格好だ。

 

「い、いやっ、あのっ、き、来てたんですか……?全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

 

 一夏に対しての態度が急に変わった。ということはこの子も………。

 

「ああうん、今日はちょっとした外出。家の様子見たついでに寄ったんだ」

 

 一夏は蘭の急変した態度を気にせずに普通に答える。

 

「俺はその付き添い。一夏の友人さんとも会ってみたかったしね」

 

「そ、そうですか…」

 

「蘭、お前なぁ、ノックぐらいしろよ。恥知らずな女だと─────」

 

 弾がそう言った瞬間、蘭は弾を睨み付ける。余計なことを言わないでとばかりに迫力があり、弾は思わず萎縮する。

 弾よ…兄としての威厳はどうした?

 

「…お兄、何で言わないのよ………」

 

「い、いや、言ってなかったか?わ、悪い。ハハハ…」

 

 もう完全にから笑いで誤魔化す弾。

 

「そ、それで………よかったら一夏さんと蒼星さんもお昼どうぞ。お昼、まだですよね?」

 

「あー、うんそうだな。頂くよ」

 

 一夏がそう言うので俺も頂くことにした。と、蘭は扉を閉めて階段をかけ降りてしまった。

 

「いやしかし、蘭とはかれこれ3年の付き合いになるけど、未だに俺に心開いてくれないのな」

 

「ハァ?何言ってんのコイツ」

 

「それは本気なのか!?」

 

 一夏の衝撃発言に思わず俺と弾は声が弾んでしまった。

 

「いやほら、だってよそよそしいだろ、俺と話している時は。今もさっさと部屋から出ていったし」

 

「「…………ふぅ」」

 

「なんだよ2人して」

 

「いやー何て言うのか、お前はわざとやっているんじゃないかと思うな」

 

「お前、相変わらずだな。中学生でもこんなんだったのか、弾よ?」

 

「ああ、蒼星よ。今までこいつが何人撃ち抜いてきたのか…」

 

「やはりな…弾。悲しいかどうか微妙だが大事なお知らせがある」

 

「というと?」

 

「こいつ!金髪の美少女を撃ち抜いてるんだぁ!」

 

「何!?一夏ぁ!お前ずるいぞ~!」

 

「それってセシリアのことか?撃ち抜いた覚えがないんだけど」

 

「いや、撃ち抜いているからな」

 

「そういう蒼星はどうなんだ?」

 

 弾はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「そうそう、蒼星は璃里亜って言う幼馴染みがいてお互いあだ名で呼ぶ仲なんだぞ」

 

 おい、一夏。余計なことを言うでないぞ。

 

「そうか…残念だ………」

 

「ちょっと、まて。そういう一夏だって鈴と幼馴染みだろうが」

 

「ん?鈴ってあいつのことか?」

 

「そう。中国から帰ってきたんだってさ」

 

「え!?じゃああの約束はどうなったんだ?」

 

 弾は一夏と鈴との約束の内容を知っているみたいだ。

 

「弾の想像通りだと、思うよ。残念、無念!」

 

「やっぱり!お前は敵だ、一夏ぁー!!」

 

 俺が弾の耳元で結果をボソッと教えたら弾が声を張り上げる。

 

「ていうか、早く行こうぜ」

 

 俺の一言により、三人は一階へと移動していったのであった………。

 

「うげ」

 

「ん?」

 

「どうかしたのか?」

 

「…………………」

 

 露骨に嫌そうな声を出す弾に、一夏と俺は後ろから覗く。

 そこには俺達の昼食が用意してあるテーブルがあるんだけど、先客が無言で立っていた。

 

「なに?何か問題でもあるの?あるならお兄だけ外で食べてもいいよ」

 

「聞いたか蒼星?今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ」

 

「ま、それだけ妹さんは一夏と二人で食べたいって言う魂胆が見え見えなのが良く分かるよ。俺も弾とさよならでもしますか」

 

「んなっ!な、何を言ってるんですか蒼星さん!」

 

 手で涙を拭う弾を見て俺がちょっとばかり嫌味を言うと、蘭は図星を突かれたかのように顔を真っ赤にした。

 

「いや、別に四人で食べればいいだろ。それより他のお客さんもいるし、さっさと座ろうぜ」

 

「そ、そうよバカ兄と蒼星さん。さっさと座ったらどうですか?」

 

 一夏の発言に蘭が頷きながら座るように促してきた。さっきと言ってる事が矛盾してるんだが。

 

「へいへい……」

 

「はい……」

 

 弾と俺は蘭の台詞に呆れながらテーブルに座った。因みにテーブルには俺、一夏、弾、蘭の並びで座っている。

 そんな時、一夏が今更何か気付いたように蘭を見る。

 

「蘭さぁ」

 

「は、はひっ?」

 

「着替えたの?どっか出かける予定?」

 

「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」

 

 なにかを躊躇うようになかなか答えようとしない蘭。と、一夏は思いついた表情になり───「デートか?」と自信ありげにあった。

 今のが正解………そんなわけがない。

 蘭は勿論───

 

「ち、違います!!」

 

 バンッと即座に否定をして机を叩く。一夏の鈍感は相変わらずだ。

 

「ご、ごめん」

 

「あ、いえ……。と、とにかく、違います」

 

「違うっつーか、むしろ兄としては違って欲しくもないんだがな。何せお前そんなに気合を入れて化粧するのは数ヵ月に一度むぐっ!」

 

「っ!………っ!」

 

「!………………!」

 

 弾がこちらに助けてーと目で訴えてくるがどうしようもないんだ…弾よ自業自得だ…。

 

「おお、怖い怖い。それにしても、仲いいよな、お前ら兄妹」

 

「「ハァ!?」」

 

 蘭が弾にアイアンクローをかましアイコンタクトで弾に釘を刺す。4人で騒いでいると店の調理場から弾に向けて鋭い視線が向かられる。

 

「食わねぇなら下げるぞガキども」

 

「く、食います食います」

 

「すみませーん。頂きまーす」

 

「「「いただきます」」」

 

「おう。食え」

 

 五反田食堂調理人にして五反田家の頂点、五反田 (げん)(80才)。俺の第一印象は雰囲気やば!……威厳十分で蘭には甘いらしいおじいちゃん。マッチョ、その拳骨は織斑先生に勝るとも劣らない。

 一夏達が昼食を食べるのを満足そうに見た後は調理場に戻り中華鍋を豪快に振るう。なかなか繁盛している為、注文はそれなりに入るみたいだ。

 

(旨いな~、これ)

 

 そんなことを思う俺を余所に弾と一夏が会話を始めた。

 

「でさぁ一夏。鈴と、えーっとなんだっけ、ファースト幼馴染?と再会したって?」

 

「ああ、箒な」

 

「ほうき…?誰ですか?」

 

「俺とのファースト幼馴染」

 

「一夏、そのファーストとかセカンドとか付けるものなのか?あ、セカンドは鈴らしいよ」

 

「らしいってなんですか。っていうか鈴さん、複雑だろうなぁ…」

 

「ん?鈴が帰って来ている事に驚かないのか?」

 

「いえ、鈴さん、帰ってきた時1度ここに寄ったんですよ。なんで驚きはその時に済ませました」

 

「え!そうなの!?」

 

「お兄はその時、どっかに行ってました」

 

「あ…そうですか………」

 

「そうそう、その箒と同じ部屋だったんだよ。まぁ今は…」

 

「お、同じ部屋ぁ!?」

 

「蘭、落ち着け」

 

「………!」

 

「うっ…」

 

 相変わらず妹に弱い兄貴。俺の知っている兄弟とは真逆だな………いや、案外そうではないかもしれない。

 

「…弾ェ…」

 

「い、一夏さん?つまりその箒さんと寝食を共に…?」

 

「まぁ、そうなるかな。あ、でもそれは先月までの話で、当然今は違って1人部屋だけどな」

 

「い、1ヶ月以上同せ…同居していたって事ですか!?」

 

「そうなるな。まあ、蒼星も似たようなもんだよ」

 

「あはは…………」

 

 “ここで振ってくるなよ"と心の中で思いながらなんとか笑って場を乗り切る俺。

 蘭は拳を握り締め何やら体を小刻みに震わせて、瞳に決意の光りを宿した。

 

「…決めました。私、来年IS学園を受験します」

 

「なっ…!?───っと」

 

「お!取れた。俺、すげぇ~」

 

「サンキュー、蒼星」

 

 弾が椅子から音を立てて立ち上がった時、厳から顔面目掛けておたまが飛んできた。弾は反応出来なかったが、ぶつかる直前で俺がおたまをキャッチ。自分でも感心するぐらいの威力だった

 

「さ、流石だな蒼星。俺はとてもじゃないが出来ないぜ……って受験?なんで?蘭の学校はエスカレーター式で大学まで行ける有名校だろ?」

 

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

 

「IS学園に推薦は無いぞ…」

 

「お兄と違い筆記で余裕です」

 

「で、でもなぁ…蒼星!あそこって実技あったよな!」

 

「ん…ああ。ISの起動試験の事か?適正が無ければ即落選、有ればそのまま適正ランクの判定だったと思うが」

 

 すると蘭はポケットから1枚の紙を取り出し3人に見える様にテーブルの上に置く。

 

「げぇっ!?IS簡易適正試験…判定A…」

 

 すごいな…………。

 

「既に問題は解決済みですが…」

 

「これって確か希望者なら誰でも受けられるやつだよな?政府がIS操縦者を集める為にやってるやつ」

 

「はい。タダです」

 

「タダはいい…タダであるほどいい」

 

「で、ですので!い、一夏さんにはその時是非先輩としてご指導をお願いしたいのですが!」

 

「おう、いいぞ。受かったらな」

 

「はいはい、 安請け合いか、修羅場確定か。…弾、これが日常茶飯事なんだよ…」

 

「ほっ本当ですか!?や、約束ですよ!?」

 

「お、おう」

 

「お、おい蘭!なに学校勝手に変える事決めてんだよ!」

 

「あらいいじゃない別に。一夏君、蘭の事、よろしくね」

 

「あ、はい」

 

「はいじゃねぇ!お袋も何言ってんだ!」

 

 一夏の安請け合いで蘭はテンションを上げ、話を聞いていた食堂の自称看板娘、五反田 蓮(れん)───弾と蘭の母親と教えてもらった───の発言で弾が大声を上げる。蓮さんはぱっと見20代にしか見えない美人。いつもニコニコしており性格も柔らか。

 

「だあーっ!親父も居ねぇし!いいのか!じーちゃん!?」

 

「蘭が自分で決めた事だ。どうこう言う筋合いはねェわな」

 

「いやだって」

 

「弾、お前文句あんのか?」

 

「………ありません」

 

 弾の立場は一体どうなっているのだろうと何度も考えさせられる。はっきり言って俺には関係ないことだが、一夏関連で共感出来る仲間として一応考えておく。

 結論から俺がどうこう出来ることではないことが分かった。

 だが、蘭がIS学園入学希望ならあれを伝えておく必要がある。

 

「それじゃあ、先輩として一言だけ注意点を言っておこうか」

 

「坊主………赤の他人が口を挟むなよ」

 

 厳さんが睨み付けて来るが、もう別の機会に慣れてしまっているので気にしない。

 

「そうつもりじゃないですよ。蘭ちゃん、君はISをどう思っている?」

 

「え?………スポーツだと思いますが……」

 

「やっぱりそうか………次に俺の一番言いたいことを聞いてもいい?…………命ってなんだと思う?」

 

「……?」

 

 俺の質問の意図が掴めず困惑する蘭と一夏と弾。

 

「一夏、君は誰かを傷つけたことはあるかい?それも殺すほどの」

 

「…ないはずに決まってるだろ」

 

 確かに一夏の言うとおりだ。だが───

 

「波大の坊主はあるような言い方だな」

 

「ええ、ありますよ。友人を守る為だといってね」

 

「!!」

 

 一夏と弾、それに蘭。話を聞いた人が驚きの表情に包まれる。

 

「表では俺はただの男性操縦者。でも、俺は殺人者とほとんどかわりないことしてしまったんです」

 

「………でも、蒼星」

 

「その時に学んだんです。人の命は重い。けど、一度奪ってしまうと軽いものになってしまうってね」

 

「その話はどういう関係に?」

 

「自分でも話すのは嫌なんですけど…まあ、いいです。俺は武器を使って自らの手で殺したんですよ。幾ら友人のためだと、相手が悪者だといってもね、自分が殺ったことには変わりがないんだよ。分かる?分かるはずがないよな。普通はそういうことは経験しないんだよ。けど、ISは別の見方をすれば兵器だ。よって人を傷つけることも殺すことも簡単に出来る。すると段々と人を傷つけることに抵抗が薄くなる。蘭ちゃん、君はそんな世界に飛び込むことになるんだよ」

 

 あくまで、これらは俺一人の考えに過ぎない。他人がどういう意味で受けとるかはその人次第なのだ。

 

「さらに言うのなら、この世界は矛盾していることが沢山ある。それも相当重大なことでだ」

 

「具体的に言うと?」

 

「───ISの軍事利用」

 

「もっと詳しく説明してもらおうか、坊主」

 

「波大で良いですよ。何故、軍事利用に矛盾点が生じているかと言うとおかしいんです。どうして、戦車や戦闘機の存在が徐々に薄れていっていることに。俺の予想だとそれらは不必要となったから、つまりそれ以上の代物を手にいれたからだと思うんですよ」

 

「なるほどね、あなたの言っているその代物がISってことかしら?」

 

「そうです。でも、ISの軍事利用は禁止されているんですよ。これっておかしいじゃないですか。ISの軍事利用禁止なのに、唯一の戦力となる戦車等の放棄。話が噛み合わないです」

 

「………」

 

 一夏は思い詰めた表情になり、思考に浸っていた。弾に至っては話のスケールが大き過ぎて付いていけずにポカーンと口を開けていた。

 後、何点か指摘したい点は幾つもあるがそれらは自身の心の中に閉まっておくことにした。ここで、言っても何も変わりはしないのだから。

 

「わ、私は…………」

 

「考える時間はあるさ。それで決めたことに俺は反対しない。学園に来るなら一夏共々歓迎するさ」

 

「蒼星……それは璃里亜もか…?」

 

「璃里亜は関係ない。あいつの手は潔白だ。俺の親友も彼女を守るために俺と同じ運命を辿っているからな、そいつに聞いてみればいいさ」

 

「……そうか……」

 

「はい、話は終わり!!」

 

 俺はそう言い暗くなった雰囲気を戻す。

 

「そうだ!今度、一夏たちにも俺の親友を紹介してやるよ」

 

 一夏達の表情はまだ暗い。

 

「ありがとよ、坊主」

 

 厳さんがそう言ってくる。

 

「いえいえ、そろそろいくぞ。お前ら、厳さん、ご馳走さまでーす」

 

「蒼星、待てって!あ、ご馳走様でした、厳さん、蓮さん」

 

「えっと、じーちゃん、お袋、それに蘭。行ってきます」

 

「…おう」

 

「…行ってらしゃい」

 

「………」

 

 もうこれ以上言う必要はないと判断した俺は五反田食堂を出る。

 

「……一夏」

 

「ん!何だ?」

 

「皆を守るんってなら覚悟しておけ。自分の手を汚してまで守りたいんだったら」

 

「…おう」

 

「あと、あの話は璃里亜には言わないでくれな」

 

「分かった」

 

 そのあとは三人でゲーセンに回ったりして色々と楽しんだのであった

 

続く──────────────────────────────

 

 

 




蒼星の密かに感じてた疑念です。どうして、そんなことを知っているのかと言うと暇潰しにユカに協力してもらって色々と調べていたんです。


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2章 貴人軍人
第13話 二人の転校生


まだ、あの人の出番は来ないです(|| ゜Д゜)
早めに出したいんですが後、数話は出てこないことは確定ですのでご勘弁を(T_T)

───では、行こう!



「やっぱりハズキ社製のがいいな~」

 

「えー、あそこのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインが良いのよ!」

 

「私は性能的にミューレイ社のが良いなぁ。特にスムーズモデル」

 

「あー、アレは確かにいいんだけどねー、結構高いじゃん」

 

 本日は月曜日、俺が色々言いまくった日が過ぎて今は学園の教室へと俺は来ていた。すると、女子たちは会話に花を咲かせていた。

 俺と一夏が教室に入るとそれに気づいた女子生徒が話しかけてくる。

 

「ねえねえ織斑君、織斑君のISスーツってどこ製のやつなの?見たことない型だけど」

 

「あー、特注品だって。男のスーツが無いからどっかのラボが作ったらしいよ。えーっと、たしか………………」

 

「イングリッドのストレートアームモデルだろ」

 

「そうそう。それ。って、なんで蒼星が知ってるんだ?」

 

「勉強の成果だ。んで、俺が『レクト』って企業の特注品だよ」

 

「私もソウ君と一緒だよ」

 

 璃里亜の両親が務めているのは『レクト』のIS開発研究部門というところだと璃里亜から聞いた。レクトはそれなりに大企業らしく世界にもそれなりに名が広まっている。

 ISスーツとはISを展開している時に特殊なフィットスーツのことだ。着ていなくてもISを操縦することは可能だが反応が鈍くなるらしい。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検地することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃はきえませんのであしからず」

 

 突然すらすらと説明しながら教室のドアを開けて現れたのは、俺達のクラスの副担任である山田先生だった。

 先生としての誇りを保つために猛勉強をしたようだ。だが、それもあまり意味はないと思う。

 

「山ちゃん詳しい!」

 

「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん!?」

 

「山ぴー見直した!」

 

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー!?」

 

 山田先生は人気があるのか、もうすでに8,9個ほどのあだ名が付けられている。

 

「えー、いいじゃんいいじゃん」

 

「まーやんは真面目っ子だねぇ」

 

「ま、まーやんって…」

 

「あれ?マヤマヤの方が良かった?」

 

「そ、それもちょっと…」

 

「もーじゃぁ、前のヤマヤに戻す?」

 

「あ、あれだけはやめてください!と、とにかくですね、ちゃんと先生と言って下さい。分かりましたか?わかりましたね?」

 

 何か…トラウマでもあるのだろうか…山田先生が物凄く否定している。

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

「うう…、織斑君や波大君は大丈夫ですよね?」

 

 こちらに振ってきたので取り敢えず俺は──

 

「ノーコメントで」

 

 ───と答えた。すると山田先生は、

 

「うう…、波大君まで…………」

 

 もうダウン状態になっていた。

 と、織斑先生が教室に入ってきた。それだけでも空気が変わったような錯覚を覚えてしまう。

 

「諸君、おはよう」

 

「お、おはようございます!」

 

「「「「「「おはようございます」」」」」」

 

 まるで軍隊みたいだな。と感じていた俺。

 

「おはようございます(あ、昨日俺が出した夏スーツ、早速着てくれてるな)」

 ちなみにこれは一夏。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので気を引き締めるように。各々のISスーツが届くまで学校指定の物を使うので忘れないように。忘れた者には代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも無い者は、まぁ下着でもいいだろう」

 

「「いやいやいやいや」」

 

 駄目だろ!おい!

 

「む、そういえばお前らが居たか。2人に見られたくなければ気を付ける様に」

 

 何か織斑先生にダシに使われたような気がするが………ていうか殆どの女子の顔が赤いよ…。

 

「では山田先生。HRを」

 

「は、はいっ。ええとですね…今日はなんと転校生を紹介します!しかも2名です!」

 

「え…」

 

「「「「「「ええええ!?」」」」」」

 

 クラス全員が驚くのも無理はない。普通は転校生は分担させるものをわざわざ一組に集中しているからだ。

 山田先生の促しでその転校生が入って来る。すると教室に沈黙が降りた。

 

「お2人共、入ってきて下さい」

 

「はい。失礼します」

 

「………」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

「………お、男…?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入を――」

 

 見た目は随分と人懐っこそうな顔だな。それに礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整ってる顔立ちで、髪は金髪。その髪を首の後ろで丁寧に束ねている。

 体は……何かとても男とは思えないほどの華奢な体型で、脚もスラッとしている。本当に男か………。

 

(今度、あいつに聞いてみるか?)

 

 学園にいると外がどんなことになっているのか分からない。もしかしたら外では目の前の転校生で騒ぎになっている可能性があるのでメールをしておくことにした。

 と、その前に俺は耳を出来るだけ塞いだ。

 

(一夏、来るぞ!)

 

(ああ……もう懲り懲りだよ)

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

 きょとんと首を傾げる転校生。まあ、誰だってそんな反応になるだろう………。

 

「きゃあああああああああーーーーっ!」

 

 いきなり歓喜の叫びをあげる女子達。耳を塞いでも聞こえてくる。もうこれは一種の兵器だと思わせるほどだ。

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 面倒そうに織斑先生が言う。見た感じだと十代女子の反応が鬱陶しいのだろう。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 山田先生が宥めている最中、もう一人の転校生は……シャルルとはまったくの正反対のようだ。オセロのようにはっきりと白黒が別れている。

 白に近い輝くような銀髪で、腰近くまで長く下ろしているロングストレートヘアー。綺麗だが手を加えている感じはなく、ただ伸ばしっ放しと言う印象。そして一番気になるのが左目を覆っている眼帯。それは医療用の白い物ではなく、古い戦争映画に出てくる偉い大佐がしてそうな黒眼帯。そしてもう片方の右目は赤色だが、その色とは対照に冷徹な目線を放っていた。

この転校生を見て最初に思ったのは『軍人』と言うイメージだろうか。身長はもう一人より小さいが、全身からは冷たくて鋭い気配をはなっている。

 

(雰囲気がなんだか違う……本物の訓練でも受けた軍人なのか?それにあの目………)

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

(教官?織斑先生がか?)

 

昔に織斑先生がどこかで指導していのか一夏に聞くことにした。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」 

 

「了解しました」

 

そう答えるラウラはピッと伸ばした手を体の真横に付け、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。どこからどう見てもよくテレビで見る軍人形式の対応に、俺はラウラが間違いなく軍人だと結論付けた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……………………」

 

 クラスメイト達が沈黙し、続く言葉を待っているが、ラウラ・ボーデヴィッヒは名前を言っただけで再び口を閉ざした。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

(はは、一夏と一緒だな)

 

 俺は一夏の自己紹介の時を思い出していた。あの時も今のラウラとまったく同じことを言っていた。と言っても今回は誰もずっこけないが

 そんなラウラの返答に山田先生は泣きそうな顔をしている。

 ファイトだ!山田先生!

 心の中で応援している俺は余所にラウラは一夏の席へと近寄る。そして、俺はラウラが一夏に敵意を向けていることに気づく。

 

「!貴様が…!」

 

(あ……やべ!ユカ、エネギア一個展開)

 

《ラジャーです、パパ》

 

 だから、どこからそんなことを学んでんだよ!と突っ込みたいところだがそれよりも今は一夏を助けないといけない。

 

「………?」

 

 一夏は目の前のラウラに何をされるのか分かっていないみたいだ。ラウラはそのまま右腕を上げて平手打ちをした。

 

「っおと!」

 

「な、なんだ!?」

 

 一夏は驚いただけでどこにもダメージはない。ラウラが驚いたのは今、自分が叩いたものが意外なものだったからだ。

 

「歯車…………?」

 

 シャルルも驚きを隠せず小さく呟く。

 一夏とラウラの間には直径15センチほどの小さな歯車があった。というか浮かんでいてぐるぐる一定のペースで回転している。真ん中は穴が空いており周りはでこぼこしていて誰が見ても歯車だ。そして一番の特徴は───

 

「…………っ!」

 

 思わずラウラは後ずさる。何故か?それは歯車にバチバチと軽い電流らしきものが流れたからである。

 

「いきなり、人を叩くとは駄目だね、転校生君」

 

 そんな声が教室の後ろから聞こえる。

 

「蒼星、これは蒼星のか?」

 

「そうだよ。まあ、生身の人間でも平気なほどの電流にしてあるから触れても大丈夫だ。どうだ、一夏、やってみるか?」

 

「……遠慮しておく」

 

 まあ、そうだろうと思っていた俺は自分の席に座りながらラウラの方へと向く。

 

「貴様!邪魔するのか!」

 

 ラウラは頭にきたのかこちらに近付いてくる。

 

「ラウラ、いい加減にしろ。早く席に着け。波大、ISの無許可での展開は違反だが今回は無しにしておいてやろう」

 

「………………」

 

「了解しました」

 

 織斑先生の指示にボーデヴィッヒは気に入らなさそうに俺を一瞥した後、

 

「織斑一夏、私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

「はぁ?」

 

 一夏に向かってそう言うとスタスタと立ち去っていく。空いてる席に座ると腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなった。

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 そう言って行動を促す織斑先生。

 

「おい織斑、波大。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

「あ、はい」

 

「了」

 

「君が織斑君に波大君?はじめまして。僕は────」

 

「ああ、いいから。とにかく移動が先、早くしないと」

 

「そうそう。挨拶は後にした方がいい。………もう来てるぞ、完全に包囲される前に急ごう」

 

「もうか!取り敢えず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替えるんだ。これから実習の度にこの移動だから早めに慣れてくれ」

 

「う、うん…」

 

「ん、どうした?トイレか?」

 

「トイ…ち、違うよ!」

 

「あのさ、行き成り他人に手を握られたら誰だって戸惑うだろうよ。なんで気づかないんだお前は…」

 

「あ、そうか。ゴメン」

 

「い、いいよ別に…」

 

(まるで女の子みたいな反応だな………)

 

「ああっ!転校生発見!」

 

「しかも織斑君と波大君と一緒!しかも織斑君と転校生君は手を繋いでる!」

 

「うわぁー、また来たかー」

 

 俺達の道を塞ぐかのように現れたのは、たくさんの女子達。さらに躊躇している間に完全に囲まれてしまった。

 一夏と手を繋いで顔を赤くしているシャルルを見て本当に男性かどうか俺は不信に思っていたがそんなことよりも今はこの状況を脱出する方法を考えないといけない。

 

「者共~、であえ!であえ!」

 

 あー………武家屋敷みたいになってるぞ、そこの人。

 

「めんどくさいな」

 

「そうだな」

 

「えぇと、どうして?」

 

「どうしてって、俺たちしかISを動かせる男は居ないからな」

 

「あっ。そうだね」

 

「…………」

 

 やはり女ではないかと俺は疑念をもつ。もしくは男性としての自覚が足りない天然なのか……もう少し様子を見てみないと断定出来ない。

 ていうか…話している内にどんどん女子生徒が増えていっているような気がする……。

 

「仕方ない…あれを使うか………」

 

「あれって?」

 

 俺は覚悟を決めた。その様子を首を傾げながら聞いてくるシャルル。

 

「あ!あそこに織斑先生が!」

 

 俺はそう言うと廊下の奥の方へと指差す。

 

「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」

 

 すると面白いことに殆どの生徒が俺の指差した方へと振り向く。織斑先生……さすがです。

 

「シャルル、行くぞ」

 

「え…あっ!ちょっと!」

 

 俺は一瞬の隙をついてどうにかシャルルと抜け出すことに成功しそのまま更衣室へと向かう。

 

「あー!波大君がいない!」

 

 俺の作戦に見事に引っ掛かった女子生徒達は少し残念がる。だが、まだ希望はある。

 

「うわ、俺置いてかれた!」

 

 一夏だった。一夏も蒼星の作戦に見事に引っ掛かり思わず振り向いてしまい蒼星達を見失ってしまった。味方も引っ掛かると残念なことだ。

 

(骨は拾ってやるよ……一夏)

 

 「俺はまだ死んでない!!」と後ろから聞こえたような気がしたがスルーして俺とシャルルはとっとと更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、到着~」

 

「そ、そうだね」

 

 俺はひとまず安堵の息を吐く。と、忘れそうになっていたがシャルルの手を放す。

 

「俺は波大蒼星。蒼星って呼んでくれて構わないぞ」

 

「僕はシャルル。さっきはありがとね、蒼星君。ところで織斑君は大丈夫なの?」

 

「どうにかなるだろ…………多分」

 

「多分って……………」

 

 一夏のことはどうにもならないので今は自分のことを考えるとしよう。うん、それしかない……。

 

「うわっ!」

 

「ん?どうした?」

 

 俺が着替えをするために制服を脱ぐとシャルルは何故か驚く。

 

(男なのか……ホントに?)

 

「早く着替えないと担任の織斑先生からヤバイものをもらうことになるぞ。それとも忘れ物か?」

 

「う、うんっ?き、着替えるよ?でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「あっち向いててって……」

 

まるで自分の着替えを見られちゃ不味いみたいな言い方だ。シャルルの不審な言動に俺はどんどん疑問が膨らんでいく。

 

「俺にそんな趣味とかはないんだが………シャルルこそ見てないよな?」

 

「み、見てない!別に見てないよ!」

 

 否定しながら両手を突き出し、慌てて顔を床に向けてるシャルル。

 何故そんなに過剰に反応するのかシャルルに直接聞いてみたいところだが、今はそんな余裕もないし、シャルルにも何かしらの理由があるのだろうと俺は思う。

 

「じゃあ、行くぞー………って着替えるの早いな!シャルル」

 

「ま、まあね………」

 

「んじゃ、行きますか」

 

 俺とシャルルは第二グラウンドへと向かった。

 後からなんとかやって来た一夏はギリギリの時間に間に合ってはいたが結局、織斑先生に出席簿を喰らわされていた。

 

続く───────────────────────────

 

 

 

 

 




織斑先生の力は伊達じゃない(断言)!!
というか本当にいたのなら、指を指しません。してしまうと、出席簿攻撃は確実ですから。


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第14話 エンドロード降臨

今回の話の後半はオリジナルとなっています。そしてオリ機体の初陣ともなっています!!

───いざ、出陣!


「おい、蒼星。ひどいぞ!置いていくなんて」

 

 列の端に並んでいた俺とシャルルの所に一夏がやって来た。やって来るなり、一夏は文句を垂らしてくるがそんなことは俺の知ったこっちゃない。

 

「なんで、お前も引っ掛かってるんだよ」

 

「いや、誰だってあんなこと言われたらああなってしまうだろ」

 

「だからこそだよ。そうしないと脱出出来なかったからな」

 

 もし、あそこに本当に織斑先生がいたとなれば俺の真っ赤な嘘は真っ青になっていた。諺にも嘘を言ったつもりが、現実になってしまったと言うものもある。故に一種の賭けだったのだ。

 

「ずいぶんゆっくりでしたわね」

 

 一夏の隣にいる蒼いISスーツ姿のセシリアがいかにも不機嫌ですみたいに言う。

 

「それにしても一夏さんはさぞかし女性との縁が多いようですから?そうでないと二月続けて女性からはたかれたりしませんよね。尤も、先程のHRの時には蒼星さんが止めてくれましたが」

 

 そんな嫌味を言っているセシリア。だが、一夏も無意識にやっているために防ぎようがないのだ。 

 

「なに?一夏またなんかやったの?」

 

 今度は鈴。因みに鈴は一夏の後ろにいる。

 

「後ろにいるわよ、バカ!」

 

 鈴があんな風に怒鳴ると言う事は、一夏がまた下らない事を考えていたんだろう。毎度毎度飽きないのだろうか。

 

「こちらの一夏さん、今日来た転校生の女子にはたかれそうになりましたの」

 

「はあ!?一夏、アンタなんでそうバカなの!?」

 

(どっちが馬鹿なんだか…視野が狭い)

 

 俺が呆れているなか、ひとつの影が一夏の元に接近していた。

 

「………安心しろ。馬鹿は私の目の前に2名も居る」

 

(織斑先生、ついでに一夏も)

 

「………そうだな波大、3名だな」

 

「へっ?」

 

 織斑先生の出席簿がバカ三人どもに炸裂したのだった。そして、俺の心の呟きがどうして織斑先生に分かったのか永遠の謎になった。

 

「では本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 出席簿アタックが響いた後、織斑先生の言葉に一組と二組の生徒達は大きく返事をする。勿論、あの三人は………。

 

「くうっ……。何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」

 

「……一夏と蒼星のせい一夏と蒼星のせい一夏と蒼星のせい」

 

「なんで…俺まで…………」

 

 叩かれた箇所が未だに痛いのか、セシリアと鈴それに一夏は涙目になりながら頭を押さえていた。

 あと、スズー。なんで勝手に俺のせいにしてんだ。自分が騒いでいたのが悪いんだろ。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。───凰!オルコット!」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

 自分が指名されるとは思ってもいなかったセシリアが声を上げる。そりゃあ、鈴と同じくらい騒いでいたからな…選ばれるだろう。

 

「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」

 

「だからってどうしてわたくしが……」

 

「一夏と蒼星のせいなのになんでアタシが……」

 

 だから、俺のせいにしないでくれ。

 

「お前らすこしはやる気を出せ。───アイツにいいところを見せられるぞ?」

 

 織斑先生に耳打ちをされて二人は───

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

 いきなりやる気を出した。ここからでは、よく聞こえなかったが、専ら一夏に良いところを見せられるとでも言ったんだろう。

 

「あの二人は単純だねー」

 

 俺の隣にいる璃里亜も呆れながら言う。

 

「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「慌てるなバカども。対戦相手は────」

 

 何か何処からか雑音に近い音が俺の耳にはいる。

 

「リリー、何か聞こえる?」

 

「うん。何か聞こえるよ」

 

 そして俺はふと空を見上げる。

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

 何かこっちに向かって落ちてきているではないか!それも墜落しながら!

 上空から落ちてきた隕石もどきは幸いにも俺ではなく一夏に激突した。物の見事に喰らった一夏は数メートル吹っ飛ばされた後、ゴロゴロと地面を転がっていた。それでも白式の展開はしてたから一応無事みたいだ。

 けど間一髪だったようだ。もし反応が遅れてたら、俺も一夏と同じ目に遭っていた。

 

「あ、あのう、織斑くん……ひゃんっ!」

 

 そんな一夏はついにやってしまったようだ。状況が状況とは言え、山田先生を押し倒してる上に胸を鷲掴みしてる。

 

「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。いえ!場所だけじゃなくてですね!私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね!……ああでも、このまま行けば織斑先生が義姉さんってことで、それはとても魅力的な───」

 

 山田先生も山田先生で何やら妄想してる。あの人は本当に妄想癖が酷いよ。ホントに。

 

「一夏、早く移動しないと危ないぞ」

 

「え!?」

 

 俺の忠告を聞いた一夏は殺気を感じたので即座にその場を離れる。

 すると、その瞬間にレーザー線が一夏の先程までいたところを通ったのだ。

 

「ホホホホホ……。残念です。蒼星さんが余計な事を言ったせいで外してしまいましたわ……」

 

 うわ怖い……顔は笑ってるけど、どう見ても笑ってない。額にはハッキリと血管が浮いてる。

 ていうか、セシリア。一夏を殺すつもりだったのか……。

 次にガシーンと何かが組み合わさる音が聞こえた。今の音は確か鈴の武器である“双天牙月”を連結した音だったような…。

鈴もセシリアと同じく一夏を殺す気満々で双天牙月を大きく振りかぶって投げた。

 

「うおっと!」

 

 一夏は仰向けに倒れる。だがそれがいけなかった。

 投げた双天牙月はブーメランと同じような動きをして返ってきていた。

 

(一夏………ご愁傷さま)

 

 俺は心の中で一夏の無事を願っておくことにした。刃はもう一夏の目の前まで迫る。

 ───その瞬間。

 

「大丈夫ですか?織斑君?」

 

 短い発砲音が二つ響いたかと思うと双天牙月の両端に命中し軌道を反らして一夏に当たらずに済んだ。

 声をかけたのは山田先生だった。しかも寝ながら銃を構えているのでその体勢のままで撃ったと思われる。

 今までのあのドジで色々心配になりそうな山田先生の面影は今の山田先生にはなかった。

 

「………………」

 

 当然驚いているのは俺だけじゃなく、一夏・セシリア・鈴は勿論、他の女子も唖然としたままだ。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし」

 

 候補生止まりであれほどのことが可能なのですか。俺がそう思ってると、山田先生の雰囲気がいつもの感じに戻っていた。

 普段もあんな感じにしておけば山田先生のあだ名も増えることはないと思うけど……。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」

 

「え?あの、二対一で……?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「安心しろ、今のお前たちではすぐ負ける」

 

 今の織斑先生の断言に頭に来たのか、二人は戦闘体制にはいる。二人の目には闘志が宿っているようだ。セシリアは一度入試の時に教師に勝っているから余計に力が入りそうだ。

 

「では、はじめ!」

 

 号令と同時にセシリアと鈴が飛翔すると、山田先生が目で確認してから空中へと躍り出た。

 

「手加減はしませんわ!」

 

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

「い、行きます!」

 

 言葉とは裏腹に、山田先生の目は先程一夏を助けた時の鋭く冷静な目へとなってる。先制攻撃を仕掛けるセシリアと鈴だったが、それはすぐに回避されてしまった。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あっ、はい」

 

 空中での戦闘を見ながら、織斑先生はシャルルに指示すると説明を始めた。

 俺は軽く聞き流しながら思考を巡らせる。

 

(隙をつくとしたらあそこか……)

 

 山田先生はビットを的確に避け、衝撃砲すら回避している。それでいて攻撃は確実に的中させている。それに二人を誘導して自分に有利になるようにしている。

 二人はそれに気づいていない。

 それにコンビネーションもとれていないのでバラバラで攻撃すらなっていない。

 ───戦場が動いた。

 二人がお互いの位置を把握してないがためにぶつかってしまったのだ。お互いが悪いと言い合おうとした時に山田先生が動きが止まってチャンスとなっている二人にグレネードを投下して二人はグラウンドへと吹き飛ばされた。

 

「くっ、うう……まさかこのわたくしが……」

 

「あ、あんたねえ………何面白いように回避先読まれてんの………」

 

 地面にクレーターを作った二人はその場で言い争いを始め出した。

 

「り、鈴さんこそ!無駄にバカスカと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちの台詞よ!なんですぐにビットを出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐっ………!!」

 

「ぎぎぎぎっ………!!」

 

 なんかオーラが見えたり髪が逆立って見えるの気のせいだろうか。

 

「これで教職員の実力が分かったのだろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 織斑先生の言葉に、山田先生が再び照れくさそうに髪を掻きながら笑う。さっきの戦闘で俺達生徒は彼女の実力を思い知らされた。

 

「ふむ。まだ時間は残っているな。山田先生、まだいけますか」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

 腕時計で時間を確認した織斑先生はもう一試合するつもりなのか、山田先生にいけるかどうか確認を取る。

 

「時間がまだ残っておるのでもう一試合をする。そうだな……………波大。それに遠堂、出てこい」

 

 俺と璃里亜が呼ばれたので前に出る。

 

「え…遠堂さんって専用機持っていたの?」

「日本代表候補生だからじゃないの?」

「波大君と同じ企業なのかな?」

 

 璃里亜が呼ばれたことに疑問を持つクラスメイト達。それもそうだ。璃里亜の専用機が来たのは最近の話だからだ。知らない人のほうが多いはずなのだ。現に───

 

「璃里亜って専用機持っていたのか?」

 

 一夏も首を傾げていた。

 

「うん。ようやくもらったんだよ」

 

 璃里亜は嬉しそうに答える。それほど専用機が欲しかったみたいだ。

 

「リリー、行くぞ」

 

「ソウ君、了解!」

 

 俺と璃里亜は周りに人がいないかを確認してISを展開する。

 

 璃里亜の専用機は一言で言うなら“天使"だ。レモン色の装甲は薄く所々、肌が露出していてスピード重視の設計になっている。そして丁寧なことに璃里亜の頭の上には天使のような輪があった。

 

「どうだ?『エンドロード』の調子は?」

 

「特に異常はないよ」

 

 そう言うと璃里亜は背中にあるブラスターを広げる。その姿がまるで翼を広げる天使を思わせる。

 

「「「「……………」」」」

 

 璃里亜の専用機を目の前にした一夏達は言葉を失っていた。それほどの見とれてしまうほどの輝きをエンドロードは持っていたのだ。

 

《ママー、やっと会えたよー》

 

《ユカちゃん!元気だった?》

 

《うん。パパに見てもらって元気、元気》

 

 ユカと璃里亜が秘匿回線(プライベートチャンネル)を使って会話をし始めた。俺は聞こえるが他の人からは何をしているのかは分からないので問題はないのだが……まあ、いいや。

 

「準備はいいか?」

 

 織斑先生が尋ねてくる。

 

《ユカに璃里亜。準備しておけよ》

 

《ん~………分かったよ》

 

 名残惜しそうに璃里亜は秘匿回線(プライベートチャンネル)を切って山田先生の方へと向き直る。

 

《パパ、エネギアは使うの?》

 

《使うぞ。リリーのことは大丈夫。ママならあれぐらい避けられるから心配は無用で行くぞ、ユカ》

 

《うん!!》

 

 声が弾んでいるユカ。そんなにママと話せたり一緒に戦うことが嬉しいみたいだ。

 俺は新兵器『エネギア』の展開の準備をして同時に大剣『ムーンテライト』を展開する。

 

「はじめ!」

 

 織斑先生の合図が出た。

 

「さあ、行こうか!」

 

 蒼星、璃里亜対山田先生による第二ラウンドが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、蒼星君が飛び出したね」

 

 試合開始と同時に蒼星は山田先生に向かって突進していく。

 山田先生は予想外だったのか慌てて銃を構える。

 

「あ、あいつ、何をするつもりなの?」

 

 銃口を向けられた蒼星はまるで地上をジャンプするように円周上に上に上昇する。

 山田先生もしっかり反応して銃口を蒼星に向け続ける。

 

『!!』

 

 そこで山田先生は蒼星が笑っていることにハイパーセンサーで確認して気づいた。 自分の思惑通りに動いたと思わせるような笑顔だ。

 その瞬間、山田先生は直観で回避しようと動こうとしたが山田先生の機体にダメージが走った。その衝撃で少し態勢を崩すがすぐに立て直しその場を移動する。

 

(今のは蒼星君が攻撃したのでしょうか………まさか!)

 

 山田先生はすぐにもう一人の敵がどこにいるのかハイパーセンサーで調べる。

 

「あれは銃なのか?」

 

 箒の呟きに誰も答えない。一夏達の目線は山田先生にダメージを与えた璃里亜の手にある銃だった。いや、銃とは少し違う。何故なら剣にも見えるからだ。箒が分からなかったのはそのためである。

 始まってから璃里亜はその場を移動しておらずずっと待機していた。銃口を山田先生に向けたまま。移動しなくてもチャンスが来るのが分かっていたかのように。現に蒼星がその状況を作り出して、璃里亜は引き金を引いただけである。

 

「ふん、開始直後に突進して山田先生の意識をそちらに向けて遠堂に向ける意識をなくし、チャンスを作り攻撃か。まあまあだな」

 

「織斑先生、私たちの時には山田先生には通用しなかったのですが………」

 

「それは波大本人と近接戦闘をするとなれば危険だと山田先生は判断してそうするしか選択肢がなかったのだろう」

 

「へぇー、すごいなあいつら」

 

 織斑先生の解説を聞いた生徒達は感心していた。たったあれだけの動作なのだが、先程とは全く違うと生徒達は思わざるをえなかった。

 

『んー、やっぱり山田先生だね。少し避けられちゃった』

 

『リリー。しっかり当てろよ』

 

『当てたよ!でも、あれだけじゃ通用しないよ』

 

『そうですね。油断してましたがもう同じ手は通用しませんよ』

 

 オープンチャンネルでの会話が一夏達の耳に届く。あの二人の会話を見る限りあれでもまだ余裕があると思わせる。

 

「あの二人凄いね。打ち合わせでもしてたのかな?」

 

「いいえ、それだけしてもあれほど上手くは出来ないと思いますわ」

 

 シャルルとセシリアが口論しているなか、蒼星が動いた。

 蒼星は電子流砲を展開し、発射。エネルギー弾が雷を帯びながら山田先生に向かっていく

 山田先生はそれを回避し、アサルトライフルで反撃する。

 蒼星も回避をしようとしたが電子流砲の反動で最初の弾は避けられそうになかった。そう判断した蒼星は右手に持つムーンテライトを高速で奮う。

 

「な………」

 

 地上でもその光景が見えた。だが、これは現実なのかと思わせるものだった。

 

「今、蒼星。弾を斬ったわね…………」

 

「ああ………まじかよ」

 

 言葉に出すのに躊躇するようなことが先程、繰り広げられたのだ。信じようにも信じるしかなかった。

 

『────な!………』

 

 山田先生も初めて見る防御方法だ。体が一瞬固まってしまうが璃里亜がいることで油断は出来ない。

 

(あれ?どこにいったのでしょう?)

 

 ハイパーセンサーが有る限り本来、見失うことはないのだが山田先生は璃里亜を見失ってしまった。

 

『後ろですか!』

 

背後に気配を感じた山田先生はまた射撃されると思いその場を移動しながら振り向く。

 

『………!!』

 

 振り向いた先には目の前に天使の輪があった。つまりそれは璃里亜の機体が目の前に迫っていたことを告げていた。

 璃里亜は剣を握ってある右手を振り上げる。なんとか山田先生は致命傷を負わずに済んだが装甲が剥がれてしまった。

 

「あれって銃じゃなかったか?」

 

 一夏がそう疑問に思うのは璃里亜の手に握ってあるのが先程の銃と似ていたからだ。

 

「あれは“銃剣”だね」

 

 シャルルが答える。

 

「銃剣って……そんなのありかよ」

 

 近接戦闘、遠距離戦闘が可能となる万能装備とされている銃剣。だが、それを使うものは少ない。

 何故なら両方を使いこなす必要があり、それよりはどちらかにしたほうがダメージを与えるときの効率のよさを考えて、結果的にそちらの方が良いからだ。

 山田先生は懸命に璃里亜と距離をおこうとするがなかなか出来ずにいた。璃里亜の剣術は蒼星に届かないといえ一般の人では対処出来ないほどのものだ。

 山田先生はやっとのことで対処出来ていたがそこに蒼星の電子流砲による援護が入るので無理に距離を取ろうとするとエネルギー弾が命中して機体の性能が電撃により下がってしまいさらにこれ以上にきつくなる可能性があった。

 それは避けないといけない山田先生は必死にアサルトライフルで反撃するしかなかった。

 

「リリー、すごい~」

 

 のほほんさんが感心していた。いや、織斑先生を除く殆どが感心していた。

 璃里亜は至近距離からの銃弾を被弾はいくらかしてるものの回避している数のほうが多いのだ。

 

(な……今度はなんです)

 

 山田先生の機体に電撃が走ったと警告が出て動きが鈍くなってしまった。と、同時に五つの電撃弾が機体に命中した。

 蒼星と璃里亜は電撃が走っている時に山田先生と距離を置いている。それなら先程の攻撃は誰からのだと。それはすぐに判明した。

 蒼星と璃里亜を囲むようにして浮かんでいる五つの小さな歯車。一つ一つバチバチと雷が走っている。

 

『どうです?山田先生。クモの巣に引っ掛かった気分は?』

 

『最悪ですね……』

 

 今ので自分に何をされたのかはっきりとした。自分は誘導されたのだ。クモの巣の言う名の電撃の網に。

 あの歯車が五角形になるように離れて浮かび共鳴するかのようにお互いに電流を放出してお互いに受けとることで網もどきが完成し、そこを通ったとなれば機体にダメージが走り同時に動きが鈍くなってしまう。

 

『行きます!』

 

 蒼星はムーンテライトを山田先生に向けて二度目の突進。先程とは違い、今度は正面突破で来ていることが山田先生にも分かった。

 

「そこまで!!時間だ!!」

 

 あと、数十メートルの所で織斑先生の終わりの合図が出て蒼星はその場で急停止をしてグラウンドへと降りていく。璃里亜も銃剣をしまい、グラウンドへと降りていった。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 




二人のコンビネーションはまだまだこんなものじゃありません!!


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第15話 昼休み

 織斑先生の終了の合図が告げられたので俺と璃里亜は装備を戻してグラウンドへと降りていく。山田先生も一緒に。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、波大、遠堂だな。では七人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」

 

 織斑先生の指示に生徒達は一斉に動き出して列を作り出す。それだけは良かったんだけど………。

 

「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

「わかんないトコ教えて!」

 

「あ、ああ」

 

「デュノア君の操縦技術見たいな~」

 

「ね、ね。私も同じグループに入れて!」

 

「う、うん。皆さんよろしく」

 

「波大君、その、お手柔らかに」

 

「なみむーよろしく~」

 

「分かった。分かった。ていうか多くないかここだけ!おい!」

 

 生徒の数が一部に集中しているのだ。特に俺と一夏とシャルルに。

 

「馬鹿共が………出席番号順に先程言ったメンバーの順で並べ!さっさと並ばなければISを背負ってグラウンド100周させるぞ!」

 

 織斑先生の鶴の一声で3人に群がっていた女子は1度散り、2分と掛からない内に指示通り並んだ。そんなに嫌なんだな…走るのが………。

 

「……やったぁ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ……」

 

 一夏と同じグループになった女子は喜ぶ。

 

「……うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。はぁ……」

 

「……鳳さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」

 

 セシリアと鈴は先程山田先生にぼこぼこにされていたのであまり反応は良くない。

 

「……デュノア君!わからないことがあったら何でも聞いてね!ちなみに私はフリーだよ!……」

 

 シャルルの周りには手を差し出す女性達。

 

「……やった、波大君だ!……」

 

「……遠堂さん、さっきはすごかったね!私にも教えて!……」

 

 自分で言うのもあれだが、激戦を繰り広げた俺と璃里亜には反応がいい女子。

 

「…………………………」

 

 予想通りというか、なんと言うかラウラのグループだけは会話が一切ない。会話が出来ない状況に陥っている女子達は困っている。

 改善しようにも本人が凄い拒絶のオーラを出しておりどうしようもないのだから言いようがない。

 

「ええと、いいですか皆さん。これから訓練機を1班1機取りに来て下さい。『打鉄』と『リヴァイヴ』が4機ずつです。好きな方を班で決めてください。あ、早い者勝ちですよ」

 

「「「「「「はい」」」」」」

 

「んじゃ早速取りに行きますとしますか。皆、『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』どっちがいい?因みに早いもん勝ちで行く予定」

 

「そ、そう?じゃあ『打鉄』がいいかなぁ。なんだか扱い易そうだし」

 

「あたしもー」

 

「んー私はどっちでもいいかな」

 

「適正試験の時乗ってたのが『リヴァイヴ』だったからそっちの方がいいなー」

 

「多数決の方が早いな。『打鉄』が良い人、手ぇ上げー」

 

 俺は挙げた手を確認する。

 

「よし、『打鉄』に決定ー。取りにレリゴー」

 

 俺たちのグループは全員でいくことにした。

 

《各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね》

 

 ISのオープンチャネルで山田先生が連絡してきた。取り敢えず簡単にまとめると装着の手伝いと起動に、歩行をやれば良いみたいだ。

 

「では、俺が装着のサポートをして起動してから歩行に移行するってことでいくから」

 

「「「「「ラジャー」」」」」

 

(何故にラジャー………?)

 

「では訓練を始める。一番手は誰だ?」

 

 ちょっと調子に乗って軍の訓練風にしてみる。

 

「はい!私です!」

 

 ビシッと敬礼をする一人の女子生徒。

 

 お、乗ってくれた。ありがたい、ありがたい。ここで乗ってくれないと俺が寂しい人になっていたところだ。

 

「ふむ。では、ここに足を入れて……そうだ。その調子だ!」

 

「はい、了解です!」

 

「よし、では起動してみよう!」

 

《波大君、ふざけないでちゃんとしてくださーい》

 

《あ、はい。すみません》

 

 あーあ、山田先生に注意されてしまったではないか。

 

「はい。起動っと………ぅわあ」

 

「ここからはちゃんと行くよ。俺の所までゆっくりでいいから歩いてきて」

 

「わ、わかった」

 

 俺は麒麟を展開して距離をとるためにジャンプする。

 

「おーい、準備できたらここまで歩いてこいよー。因みに次の人からも一緒だからよく見ておけよー」

 

 手を振りながら声を出して準備完了の合図を出す。

 

「ちょ、ちょっと…待って!」

 

 ゆっくり、ぎこちない動作で打鉄は歩いて来る。1歩1歩。そして時間を掛けて俺の元に着く。

 

「ふー到着」

 

「よしあともう半分。ファイトだ」

 

「んー、波大君、何か操縦する上でのコツとか無い?何か意識するとかさ」

 

「人によって変わってはくるが、やっぱりISは何回も使うことによって慣れた方が良いだろう。まあ、俺からはISを道具だとは思わずにパートナーと思って動かしてみたらいいと思う」

 

「パートナー?」

 

「そう、自分の相棒となるからね。ISに語りかけるのもいい方法かな」

 

「語りかける………」

 

(俺の場合はユカと話しているんだけどな…)

 

 この事は誰にも知られてはいけないので口に出さないことにする。

 

「次の人も待ってるから行こうか」

 

「う、うん」

 

 帰り道は比較的時間が短縮されていた。

 俺のアドバイスが効いたのか初めの頃とは比べて比較的上手になった。

 

「ありがとう、波大君のお陰でなんだか上手くなったような気がするよ」

 

「いやいや、君が自分で頑張ったからだよ。───じゃあ、次の人ー」

 

 「は~い」と元気な声で出てきたのはのほほんさんだった。

 

「なみむー。これ、どうやって乗るの?」

 

「え!あー………立ち状態のままかぁ……」

 

 訓練機は専用機と違い解除するときに気を付けないとこういうことになってめんどくさいことになるのだ。

 

《波大君がコックピッドまで運んでやってくださいね》

 

 通信で山田先生からの解決方法を言われて俺は早速実行に移す。

 

「ちょっとのほほんさん。失礼するね」

 

「んー、なにー────ってえー」

 

「「「「……っ!」」」」

 

 周りの女子達が驚いた表情でこちらを見てくる。それもそうだろう。今、俺はのほほんさんをお姫様抱っこをしているからだ。

 ハイパーセンサーで辺りを見回すと一夏のグループも俺のグループと同じことになっており箒を抱っこしていた。箒は嬉そうに顔を赤らめていた。

 

「ほら、降りて」

 

「うん、なみむー。またやってね~」

 

 俺が操縦席に降りるように促すとのほほんさんは顔を赤らめながらそう言ってくる。

 

「はいはい。機会があればね。先程と手順は一緒だから大体は分かるよね。ほら、あそこまで歩いてみよう」

 

「えー、なみむー。分かんない」

 

「話聞いてなかったのか……まあ、いいや。ついでに全員に説明しますか」

 

 ちょっと声を大きくして周りの反応を見る。と、やはりラウラのグループの女子達がこちらに耳を傾けてきている。

 ラウラはやり方だけを指示しており後は何もしていないのでコツとか教えてほしいのに聞けなくて困っているように見えたのでしょうがなく一番近い俺が言うことになる。

 

「えー、まず機体に自分の体を合わせるようにしてセットしていく。次に起動してから歩くんだけど出来る限り慎重にすること。慣れたら速くしていっても構わないけど無茶はしないこと。そして、基本的に動かす時に意識しなくても自然と動く事ができるようになっている。だから機械に乗って動いているイメージより自身の手足と同じような感覚でいけるからそんなに力は入れなくてもいいからな。最後にランクが低い人はまず手を握ったりして感覚を掴んでから動くように」

 

 ラウラのグループの女子達もうんうんと頷いている。ラウラのグループでも歩行訓練が始まったみたいだ。今ので理解出来たのなら良いのだが………それよりも………。

 

「分かった~」

 

 ホントに分かったのか不安になりながらものほほんさんの番も順調に進んでいった。

 のほほんさんの番も終わり次の人が乗ろうとするとあることが発覚した。

 

「んで、のほほんさん。これ、わざとだろ」

 

「え?……なんのこと~?」

 

「なんで、立ち状態のまま解除してるんだ?」

 

 俺がちょっと目を話した隙にのほほんさんは立ち状態でISを解除していた。これでは誰も乗れない。つまり俺がそこまで運ばないといけない。絶対にわざとだろ……これ………。

 

「「「「私達もしてほしい!」」」」

 

「あー!もう!分かった、全員してやるよ」

 

「「「「やったーー」」」」

 

 結局、全員をお姫様抱っこするはめになった俺は璃里亜からの嫉妬の目線をハイパーセンサーで感じながらこなしていくのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使ったISの整備を行う。故に各々格納庫にて班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

「どっちにしろ整備するんだから、今のうちに細部は見ておこう」

 

 織斑先生の言葉と同時に訓練が終わり片付けとなる。

 俺は自分も加わり格納庫に班のメンバーと打鉄を戻すが、シャルルの所はシャルル以外の体育会系の生徒が点数稼ぎを目的に片付け、一夏の所は反対に生徒はさっさと帰ってしまい一夏が1人で片付けていた。

 

「……せっかくのアピールチャンスを無駄にして何やってんだか………」

 

 俺の呟きを聞いていた女子達は一夏のグループの女子達を哀れむ。最終的に俺とシャルルと一夏を狙う別のグループの女子達が運んでいったのだった。

 因みにISの片付けは人力で行うので結構疲れる。

 

「取り敢えず着替えるか」

 

「あ、ああ。シャルルも行こうぜ。またアリーナの更衣室まで行かなきゃいけないし」

 

「え、えぇっと、僕はちょっと機体の微調整をしてから行くから、先に行ってて。時間が掛かるかもしれないから待ってなくてもいいから」

 

 シャルルは慌てて言う。この反応もどちらかというと女の子がする反応に見える。やはりシャルルは女なのでは……と思ってしまう。

 人間不信みたいだな……と思う。

 

「んじゃ、俺は先に行くから」

 

「いや、別に待ってても平気だぞ? 蒼星と違って俺は待つのには慣れ───」

 

「い、いいからいいから!僕が平気じゃないから!ね?先に教室に戻っててね?」

 

「お、おう。わかった。そ、それじゃ行くよ。おーい、待てよ蒼星」

 

 シャルルの妙な気迫に押され、一夏はつい頷いて俺に付いて来た。

 それと俺は待つことが苦手ではない。

 

「なあ蒼星、何でシャルルはあそこまで必死だったんだ?」

 

「さあ?もしかしたらか一夏からの危険信号を直感的に感じたかもしれないんじゃないか?」

 

「何でだよ!俺はそんなもんは無いぞ!」

 

「冗談に決まってるだろ。そう向きになって怒るな。けどシャルルもああ言ってる事だから、さっさと更衣室に行くぞ」

 

 食って掛かる一夏に俺が軽く流してると更衣室に着いてすぐに着替え始める。

 

「そうだ蒼星。今日の昼は空いてるか?」

 

「昼か?え~………特に何もないな」

 

「箒が俺と一緒に昼飯を食べないかと誘われてさ。けど俺だけってのもなんだし、良かったら蒼星も一緒にどうかと思って。あ、勿論シャルルも誘うつもりだ」

 

「……箒、どんまい…………」

 

 相変わらずの一夏の唐変木が発揮して箒の小さな勇気は水の泡となるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうことだ」

 

「ん?」

 

「ごめん、どうしようもなかったんだ」

 

 昼休みの屋上。そこに俺達がいた。

 

 本来、最近の高校の屋上は生徒立ち入り禁止となっているが、このIS学園ではそんな決まりはない。それどころか誰でも入れるように開放されており、花壇には綺麗に配置された季節の花々、欧州にありそうな石畳が設置されている。そしてそれぞれ円テーブルには椅子が用意され、晴れた日の昼休みには女子達で賑わう快適な場所となってる。

 その女子達はシャルル目当てで学食に向かったと思われるので、屋上には俺達以外誰もいなかった。

 今日は貸し切り状態みたいで何よりだ。裏の裏を取ったような気分になる。

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」

 

「そうではなくてだな……!」

 

 箒の睨む先には“出し抜けると思っていたのか?“と言いたげに笑うセシリアと鈴。

 訳も解らずおびえるシャルル。

 なんでこんな事態になっているのかすら分からない一夏。

 俺に付いてきた璃里亜も苦笑いを浮かべている。

 

「修羅場だね、ソウ君」

 

 いや、むしろ璃里亜はこの状況を楽しんでいるように思える。ライバルがいないからって余裕な態度の璃里亜。いつか、苦労するぞ。その調子だと。

 でも、そうなると俺も大変な目にあうことになるのか……。

 

「せっかくの昼飯だし、大勢で食った方がうまいだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左もわからないだろうし」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「諦めろ箒。一夏がこう言う奴だって事くらいはお前だって分かってる筈だと思うぞ?」

 

「む、むう……」

 

 俺の台詞に箒は何か言いたげにしながら持ち上げた拳を握り締める。そう、諦めるしかないのだ。その手には包みに包んだ手作りの弁当が握られていた。成程。成程。

 どうやら箒は一夏の為に手作り弁当を作ったみたいだ。それで、一夏をお昼に二人で食べようと誘いたかったのか。

 

「あれ?箒どうして弁当箱二つなんだ?」

 

「……これはお前の分だ」

 

「俺に!?ありがとな箒!!」

 

 そう言って笑顔で弁当箱を受け取る一夏。

 一方箒は顔を赤くして顔を背ける。

 

「あ、ああ。…気にするな」

 

 と言いながら嬉しそうにしている。

 ───だが残念なことに弁当を持ってきたのは箒だけではないのだった。

 

「はい一夏と蒼星。アンタたちの分」

 

 そう言ってタッパーを俺と一夏に向かって放る鈴。食べ物を投げるな。

 

「おお、酢豚だ!」

 

「これは美味そう……だな」

 

「そ。今朝作ったのよ。アンタたち前に食べたいって言ってたでしょ。蒼星はついでだけど。リリーもいる?」

 

「うん、頂戴~」

 

「あー、ついでですか。そうですか」

 

「コホンコホン。………一夏さん、わたくしも今朝はたまたま偶然何の因果か早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの。よろしければおひとつどうぞ」

 

 セシリアがバスケットを開くと、中にはサンドイッチが綺麗に並んでいる。

 

(なんか、ヤバイぞ…………)

 

 見た目は普通のサンドイッチ。だが、何か本能的に拒否信号が脳から出ている。

 

「鈴もセシリアもありがとな。それじゃあまずは箒の弁当から……」

 

 一夏はから揚げを箸で取り口に含んだ。

 そしてその、後目を見開いて驚いたように話す。

 

「うまい!!箒、本当にうまいぞこれ」

 

「そうか美味しいか。それは良かった」

 

 と言ってさらにから揚げを口にする一夏。

 それを見て箒はほっとしたように自身の弁当のふたを開けた。

 それを横目で見た一夏がふと気がついたように話す。

 

「あれ?箒の方にはから揚げ入って無いのか?」

 

「え?あ、いやそれは……うまくできたのはそれだけだから…」

 

 と最後の方は小さな声で話す。

 しかし一夏には聞こえていなかったらしく首をかしげている。

 箒もなんと説明するべきか考え、ひらめいたように口に出す。

 

「わ、私はダイエット中なんだ!だから一品減らしただけだ」

 

「え?何でダイエットなんてしてるんだ?」

 

 きょとんとした顔をしながら箒を見る一夏。

 まぁ普通に考えても箒は痩せている方だ。むしろこれ以上痩せたら病気を疑う。

 だが女性からしてみればそれくらいは普通なのか?

 言い訳として通用するのか俺が悩んでいると箒が顔を赤くして叫ぶ。

 

「一夏!!お前どこを見ている!!」

 

「どこって…体?」

 

 もっぱら、一夏からしたら“見た目は別に太っては無い”と思っているのだろう。

 

「ソウ君。見てないよね」

 

「見てない。見てない」

 

「女性の体を凝視するなんて……紳士的じゃありませんわ!!」

 

「あんた…なに胸ジロジロ見てんのよ!!それにダイエットって言うのは太ってるからやるもんじゃないの!!」

 

 案の定、他の二人から厳しいツッコミが入る。

 助けを求めるようにこっちを見るでない。こっちだってピンチなんだから。

 

「ほら、ソウ君。いる?」

 

 箒に対抗心を燃やしたのか璃里亜も対抗して俺に璃里亜の弁当箱に入っていた玉子焼きを出してくる。

 

「うん…………美味しい」

 

「そう!…良かった、この味出すのに苦労したんだよ………」

 

 璃里亜は安堵の表情を浮かべて何かを呟く。と、一夏が凄いことをし始める。

 

「ほら、箒あーん」

 

「「「「────っ!!?」」」」

 

「え!?一夏!?」

 

「いや、おいしいから自分でも食べてみろって。あーん」

 

 驚くセシリア、鈴、シャルルだった。

 セシリアと鈴は一夏をにらんでいる。

 シャルルは顔を真っ赤にしながらその光景を見ている。

 俺はあきれた顔をしながらも一夏を尊敬していた、普通自然に出来るもんじゃない。

 一方箒の方は本当に食べてもいいのか恐る恐るそして少し恥ずかしそうにだか一夏の差し出すから揚げに口を近づけ……食べた。

 一夏は笑いながら、から揚げの味を聞く。

 

「どうだ?」

 

「……いいものだな…」

 

「な、すげーうまいよな!!」

 

「そういう意味じゃないが…ああ、そうだな…」

 

 箒は完全に顔がにやけて緩みきっていた。

 それを見てシャルルは顔を赤くしながら───

 

「カップルみたいだね………」

 

 と呟くが、それを聞き逃していない二人が反応する。

 

「ちょっと!!二人のどこがカップルみたいですって!?」

 

「適当なこと言ってんじゃないわよ!!」

 

「え、あ、ごめんなさい…」

 

 つい勢いに押されて咄嗟に謝るシャルル。二人は自分の物も食べるように一夏に詰め寄る。苦笑いを浮かべている俺はふと隣にいる璃里亜の方を見る。

 すると、璃里亜は顔を赤らめ俯いている。もしかして何かを想像でもしていたのだろうか……何かは聞きたくない………。

 

「ねえ、蒼星君」

 

 シャルルが小さな声で話しかけてきた。

 

「ん?何かあった?」

 

「いや…そうじゃなくて、もしかしてあの三人って………」

 

「一夏のことが好きだよ」

 

「へぇ~、だからあんなに必死なんだね」

 

 シャルルは納得したのか頷いていた。そのシャルルもここまで来るのに大変なことになっていた。

 三人目の男子争奪戦とばかりに一年一組には鬱陶しいと思う位に女子が大挙して押し寄せてきてしまった。織斑先生はいないので追い返すことも出来ない。

 そんな女子達にブロンドの貴公子のシャルルは、実に見事としか言いようのない対応でお引取り願っていた。

 女子一同はシャルルの対応と姿に強くアピールするのが逆に恥ずかしくなるばかりか、嬉しいような困ったような顔をして引き上げて言った。

 

 何しろ───

 

『僕のようなもののために咲き誇る花の一時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』

 

………絶句をする以外に選択肢はない。

 

 シャルルにはこの台詞が似合っていた。 シャルルが言っても全然嫌味じゃなかった。それはもう本当にそう思ってると言う感じの態度、堂々とした雰囲気の中にある儚げの印象、その言葉の輝きを引き立たせていた。

 そしてどこか優しいと言うのが更に良かったのだろう。手を握られた三年の先輩が速攻で失神してたほどの破壊力だった。

 まあ結局そのあとにセシリアと鈴と璃里亜が合流してこんな騒がしい昼食になっているのだ。

 

「僕はここにいても良かったのかな?」

 

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうが、まあ協力してやっていこう。わからないことがあったらなんでも聞いてくれ。───IS以外で」

 

「アンタはもうちょっと勉強しなさいよ」

 

「一夏、折角の頼れる男が一気に崩れ落ちたな。そうならないためにも勉強したらどうだ?」

 

「してるって。多すぎるんだよ、覚えることが。お前らは入学前から予習してるからわかるだけだろ」

 

「ええまあ、適性検査を受けた時期にもよりますが、遅くてもみんなジュニアスクールのうちに専門の学習をはじめますわね」

 

 俺や一夏は分厚い教科書だけで予習してただけだ。尤も一夏はやっていなかったみたいだが。

 俺としては機械の構造を知ることは楽しいと心から思えるので、それほど苦とは感じない。国語などの普通教科は別としてだ。

 

「ありがとう。一夏って優しいね」

 

 シャルルが笑顔で礼を言った事により、一夏は妙におかしな反応をしていた。

 お~い一夏、シャルルは男なんだぞ……って突っ込みたいところなのだがシャルルが女の子かもしれないと疑惑を感じている俺は何とも言えない。

 

「ていうか食べようぜ。食べてすぐダッシュは避けたい。俺と蒼星とシャルルはまたアリーナの更衣室まで行かないといけないんだからな」

 

 どうやら一夏達は一段落しているようで話題が変わっていた。

 

「ちょっと一夏、一つ聞いて良いか?」

 

「何をだ?」

 

「もしかして、実習の度に毎回スーツを脱いでいるのか?」

 

「え?脱がないとダメだろ?」

 

 俺の問いに一夏は聞き返すと鈴が呆れたように言おうとする。

 

「あんたねぇ。女子は半分くらいの子が着たままよ?だって面倒じゃん」

 

 鈴の言葉に一夏は今更気付いた顔になる。道理で午後からの実習がいつもギリギリに来ていた訳だ。少しは出席簿攻撃を避ける方法とかを考えないのだろうか。

 

「蒼星、お前今は……」

 

「そりゃあ勿論着てるよ。ほれ」

 

「………俺、てっきり素早く着替えているのかと思ってた」

 

 俺がズボンの裾を上げてスーツの一部を見せると一夏はガックリとなった。いくら俺でも時間を浪費する事は避けたいからだ。

 

「ていうことは………」

 

 次に一夏は箒達を見始める。流石の一夏もそれはよした方がよい気がする。

 

「な、なに女子の体をジロジロ見てるのよ!このスケベ!」

 

「織斑君の変態!」

 

「え?いや、別にそういう意味で──」

 

「い、意味がどうであれ、紳士的ではないと言っているのですわ!」

 

「織斑君のあほー!」

 

「だから眺めていただけ──」

 

「お、女の体を凝視しておいて眺めていただけとはなんだ!不埒だぞ!」

 

「織斑君の唐変木!」

 

「ちょっ!最後のは何!?」

 

 璃里亜がさりげに一番一夏の悪口を言いまくっている。

 

「でも……ソウ君になら………」

 

「もしかして遠堂さんは蒼星君を?」

 

「え!?あー、うん」

 

 シャルルに言われて顔を赤くする璃里亜。

 

「シャルル、何か呼んだか?」

 

「え!違うよ!」

 

「そ……ならいいが……」

 

 よく聞こえなかったが俺の名前が出ていたような気がして聞いてみたら必死に否定されてしまった。なんだろう…………。

 一夏は「はぁ……」と溜息を吐いて反論する事を諦めて弁当を食べ始めた。懸命な判断だろう。今の箒達に何を言っても無駄だから。

 

「……………」

 

「どうかしたの、一夏?」

 

「何かに目覚めたのか?」

 

 一夏は何となくと言った感じでシャルルと俺を見た。俺は軽く冗談を言ってみた。

 

「男同士っていいなと思ってな」

 

 すると、訳の分からない事を言った。別の意味に勘違いされても可笑しくない発言だ。が、一夏の気持ちは何となくだが分からなくもなかった。

 多分、一夏の事だから新しい男子が転入して来た事に嬉しく思っているんだろう。ついでに寮の大浴場もようやく使えるかもしれないと。

 因みに大浴場についてだが、男の俺や一夏、シャルルは現在使う事が出来ない。以前は時間をずらして使用出来る予定だったのだが、かなりの女子達から異議があったみたいだから結局は入らずじまいに終わっている。

 その異議とは『私たちのあとに男子が入るなんて、どういう風にお風呂に入ったらいいかわかりません!』だそうだ。

 だったら女子の前の時間───と言う編成では更に倍の数の女子達が異論を唱えたみたいだ。『男子の後のお風呂なんてどういう風に使えばいいんですか!』だそうだ。なんだそりゃ!と思うがこれが現実である。

 こんなことも色々あって昼休みもあっという間に過ぎていったのだった。

 

「一夏さん!!どうしましたの!?」

 

 さっきセシリアのサンドイッチを食べた一夏が倒れてしまったが………。

 

 

続く──────────────────────────────

 




次回、いよいよあの姉妹の登場!?


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第16話 更識姉妹

もう察しているとは思いますが、あの姉妹の登場となります。
そして、ヒロインの現れる時期が今更ですが、遅いような気がします。

───では、スタート!!


 

 シャルルとラウラが転校して無事に午後の授業も終わり、放課後になった。

 

「一夏、今日も訓練か?」

 

「いや、今日はシャルルの引っ越しの手伝いをするつもりだ」

 

「そういやー、そうだったな」

 

「蒼星は一人部屋になったんだってな」

 

 一夏のいうとおり俺はクラス代表戦が終わって数日過ぎた頃に山田先生から璃里亜の引っ越しが言い渡されて一人部屋になったのだ。

 

 

 

 

 

 それはある日のこと……………。

 

「波大君、遠堂さん。居ますか?」

 

「はい。居ますよー」

 

「失礼しますねー」

 

 そう言いながら扉を開けて山田先生が部屋に入ってきた。俺は机で勉強しており、璃里亜はベッドの上で本を読んでいる。

 

「どうしたんですか?山田先生?」

 

「はい。引っ越しです」

 

 いきなり言われても分かりません。

 

「山田先生がですか?」

 

 璃里亜も同じ疑問を持ったのか山田先生に聞いていた。

 

「え!私じゃないです!遠堂さんですよ」

 

「え…………ええー!!」

 

 ───というやり取りがあって璃里亜はどこか別の部屋へと移動していった。何故かとても名残惜しそうに出ていくから俺にも罪悪感が芽生えてきたのは余談だ。山田先生も何を言えばいいか困っていた。

 

「じゃあ、なにしようかなー」

 

 特にやることもなくなった俺は何をしようかを考える。

 

「射撃場にでも行きますか」

 

 ふと頭に浮かんだのはあまり人がいたことが見たことない射撃場。それなりに練習になるので使わしてもらっている。

 

《パパー、私の整備はー?》

 

 ユカに言われて思い出した。麒麟の調整をしないといけなかったのだ。俺が………一度整備科志望ののほほんさんに麒麟の整備を頼んだのだが問題が発生したのだ。

 

 

 

 

 

「なみむー、はい、これー」

 

 とある日、のほほんさんに麒麟の待機状態であるペンダントを貰う。

 

「どうだった?」

 

 俺は軽い気分で聞いてみるとのほほんさんは少し表情を変えて────

 

「んーそれが出来なかったのー」

 

「え!?なんで!?」

 

「麒麟ちゃんがデータをなかなか開かせてくれないの」

 

 のほほんさんが言うには何度も色んな方法で試したらしいがデータをウィンドゥに表示せずに最終的には俺じゃないと解除出来ない所までいったらしい。まるで機嫌が悪くなったかのように…………。

 

「でもなみむーの名前を出したらいけそうだったんだよー」

 

 なんだよ、それ!と突っ込みそうになった俺だが心当たりがあるので喉の奥で飲み込む。

 

「分かった。ありがとのほほんさん。こっちで調べてみるよ」

 

「なみむー、またね~」

 

 のほほんさんは手を振りながらどこかへと行ってしまった。周りに誰もいないことを確認した俺はチャンネルを早速開く。

 

《ユカ~、聞こえるかー》

 

《…………何、パパ》

 

 あー…予想通りにユカの機嫌は不機嫌である。

 

《なんで、整備してもらわなかったんだ?》

 

《だって…嫌だったんだもん》

 

《どうして?》

 

《どうしても!》

 

 やはり麒麟のAIであるユカは他の機体と違って麒麟の中身を見られることは自分の体を弄られると感じるのだろう。さらに前にもそんな経験があったので余計に無意識に拒んだと思われる。

 

《じゃあ、どうすんだよ》

 

 整備をしないといつか麒麟が壊れてしまうので出来れば毎日したいのだが………。

 

《パパがして》

 

《…え……》

 

《パパじゃないと、いやーーー!!》

 

《しょうがない……………》

 

 困った子だと思いながら渋々了承するしかなかった………。

 

《やったーーー!!》

 

 声でもユカの機嫌が良くなっていることが分かる。それほど嬉しいみたいだ。

 

《でも、俺、何も出来ないぞ》

 

 俺は一応ISの構造は勉強しているが本物をいじったことはまだないので初心者と言ってもいいほどのレベルなのが現状だ。

 

《大丈夫!私が教えるから!》

 

 結局俺が麒麟の整備と調整などをするはめになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、整備室に俺は来ていた。璃里亜にも手伝ってもらおうとしたが、まだ専用機の書類の手続きがあるみたいで無理そうだったので一人で来た。言っておくがユカも璃里亜には麒麟を触られても大丈夫だと言っていた。

 ユカが麒麟の整備をしても良いと許可を出しているのは俺こと蒼星。璃里亜。璃里亜の両親(ユカはじぃじとばぁばと呼んでいる)。そして何故か俺と璃里亜の親友でもあるカップル。その二人もユカと同じISのではないけどAIを娘として面倒を見ているが色々と問題があって現実では話が出来ないので苦労している。

 

「さあーて、始めますか……」

 

 俺は麒麟を展開して早速調整に入る。もう既に何回かしているのである程度のことは分かる。もともと機械いじりが趣味だったのですぐに出来たのも理由の一つだ。

 

《パパ、もう少し出力弱くして》

 

《こうか?》

 

《うん。ばっちし》

 

 順調に麒麟の調整をしていく。他の機体とはエネルギアがあるお陰で色々と項目が多くなってしまっているので自分の部屋でやると少し危険なのでこうしてわざわざ整備室でしている。あまり俺は気にしないけど、他の生徒も何人か見られる。

 

(あの子……さっきからこっち見てるな…)

 

 先程から俺の方に視線を感じる。ハイパーセンサーで一瞬確認してみると一人の女子生徒がこちらを見ている。というか今この整備室にあの子しかいない。

 

(なんか……躊躇しているように見える…)

 

 自分に話しかけたいのかどうかは判断出来ないが何かを躊躇っているように感じる。

 

「あの~………なんか用か?」

 

「────っ!」

 

 少し離れた所に立っている少女に俺は振り返って一声かけただけなのに凄く驚かれてしまった。こちらも傷付いてしまう……。

 

「……何してるの?」

 

 よく見ると眼鏡をかけており、水色の髪をしたショートヘアーの女の子だった。その子は声を振り絞る感じで聞いてきた。

 

「自分の機体の調整だけど」

 

「…なんで波大君だけで?」

 

 一瞬なんで名前を知っている?と思ったがそういえば男子は俺と一夏、シャルルしかいないのですぐに分かると思い出した。その子が不思議に思うのも普通の人なら誰しも思うことなので簡単に説明する

 

「この子が俺以外の人だと駄目なんだと」

 

「……そうなの」

 

「俺、波大、蒼星。君は?」

 

「え……更識 簪……」

 

「更識さんか、よろしくね」

 

「……簪」

 

「ん?」

 

「私のことは…簪でいい………」

 

「ん、いいのか?」

 

 「……うん」と簪はこくりと頷く

 

「じゃあ、改めてよろしくね。簪ちゃん」

 

「ちゃん……………」

 

 ちゃん付けで呼ばれたのが恥ずかしかったのか簪は顔を赤らめていた。

 

「簪ちゃんって確か四組の代表候補生だったね」

 

「う、うん」

 

「すごいなー」

 

 まあ……俺の場合は一夏に譲ってしまったのだが……。

 

「蒼星君ほどではない………」

 

「いやいや、そんなことはないよ」

 

「だって一人でISを整備してるし」

 

 俺は一瞬固まってしまう。簪は俺一人だけでって言ったからだ…………。

 

(あー…そうか。周りから見ると俺だけでやっているように見えてるのか……)

 

 ユカも他の人にばれないように人前での俺との会話はしないようにしている。ていうかそうするように俺が言い聞かせている。ユカ本人は早く皆と話したいと言っていたが……。

 

「慣れたら簡単だって、簪ちゃんはここで何をしていたの?」

 

「…………作ってたの………ISを」

 

「ISを作ってるのか!?一人で!?」

 

「うん」

 

「いやー、俺では出来ないねぇー」

 

「え!でも一人で整備してる………」

 

「一人じゃないって、俺だけの力では無理だね」

 

「………そうなの?」

 

「一人でするって大変なんだよ、色々と。もし良かったら手伝おうか?」

 

「いいの?」

 

「勿論!」

 

「……………」

 

 簪は少し考え込む。しばらくしてから顔を上げてゆっくりと口を開ける

 

「……よ、よろしく……」

 

「おう、よろしく。簪ちゃん」

 

 こうして俺は簪のIS作りを手伝うことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この回路がずれてるよ」

 

「あ…ありがと」

 

 そう言うと簪はあっという間に修正していく。とにかく、簪は凄かった。両手を動かしてキーボードを叩いてながらも俺が話しかけるとちゃんと答えるという神業に近いことをしているのだ。

 何故一人で作っているのか?と聞いたら原因は一夏のIS『白式』にあった。

 白式と簪のIS『打鉄弐式』は同じ企業───確か、『倉持技研』で作られていた。簪のISは順調に進んでいったがそこに一夏が登場して簪のは後回しにされてしまったのだ。それで“自分で作る"と言った簪は一人で作り始めたという。

 

「このままだと臨海学校には武装は間に合わないな」

 

「………大丈夫」

 

 お互いに何も言わずに静寂が空間を支配していく。しばらくそんな状態が続いて……。

 

「簪ちゃん、もうそろそろ食堂行こうか」

 

「え………あ、ほんとだ」

 

 そろそろお腹が減ってもおかしくない時間帯に差し掛かっていた。

 簪は立ち上がり食堂へと歩いていく。俺もその後に付いていき廊下へと出る。

 

「あ!簪ちゃん。俺、急用思い出したわ。またねー」

 

「え………蒼星君………」

 

 廊下に出たところで急に俺はわざと簪から離れるようにしむけて食堂とは反対方向へと走る。簪がこちらに手を伸ばすが何も掴めずその場で立ち止まる。

 簪に罪悪感を抱きながらも廊下を歩いていく。用事があるといったのは嘘だ。いや、ちょっと違う。気になることを確かめるだけだからだ。

 

「いい加減、出て来てくれませんか?」

 

 整備室に居たときから気づいていた視線。簪は好奇心の目線だったので気にしていなかったが今度のは全く分からない。故に俺は誘きだして本人に直接聞く方法を選んだ。俺の予想通りに謎の視線は俺を付いてきたので声を大きくして言う。

 

「あれ?ばれちゃた?」

 

 後ろの角から出てきたのは意外な人物だった。

 

(あれ!?簪ちゃんに似てる!?)

 

 目の前の人物が簪に酷似していたのだ。眼鏡はかけていなかったが同じ水色の髪をした女子。口元は手に持っている扇子で隠している。

 

「私のことは分かるかしら?」

 

「分かるわけないでしょ。何ですか、新手のナンパですか?」

 

「そう………ならいいわ」

 

 バサッと扇子を広げて目の前の人物はうふふと笑う。扇子には“残念"と書かれていた。

 

「私は学園の長。生徒会長の更識 楯無よ。以後、よろしくね」

 

 更識ってことはやはり………。

 

「更識ってことは簪の姉さんですか?」

 

「そうよ。かんちゃんのお姉ちゃんよ。今はあれだけどね………」

 

 最後の方が聞き取れなかったが気を取り直して会長を見る。

 

「で、会長が何のようですか?整備室も監視していたでしょ」

 

「あら、気づいてたの。かんちゃんには気づかれないのにね」

 

「いいから、早く本題に入ってください、会長」

 

「楯無って呼んでくれたら言ってあげてもいいわよ」

 

「なんでそうなるんですか………」

 

「た~て~な~し~!」

 

 目の前まで迫られて思わず心臓が跳ね上がりそうになる。なんたって簪も会長も美人だからだ。

 

「楯無先輩………」

 

「よろしい!」

 

 また扇子を広げる会長。そこには“満足"の文字が書いてある。一体どんな仕組みになっているのやら………。

 

「蒼星君、かんちゃんのことどう思う?」

 

「え…簪ちゃんは…真面目ですね」

 

 唐突な質問だったので取り敢えず今日で分かったことを言ってみる。

 

「そう…………聞きたいことはそれだけよ」

 

「それだけって………」

 

 会長の一体何が目的なのか検討がつかない。

 

「また後でね……“空剣士"君」

 

「え……なんでそれを────」

 

 あの世界での俺の二つ名を言われてしまって思わず動揺してしまうが会長はあっという間に何処かに行ってしまった。

 どこでそれを知ったのかも気になるし、それを知っている会長は底が計り知れない人物かもしれない。

 しかも“また後でね"って言ってたし。そのままの意味だとなんかあるのかな…………憂鬱だな………。

 少し気が重くなりながらも俺は食堂へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い」

 

 俺はその場に立ち、そのまま脳も停止する。目の前には食堂の入り口。そこに立っている一人の少女。簪が俺のことを待っていたのか少し不機嫌になっている。

 

「待ってたの」

 

 とぶっきらぼうに答える簪。俺は待っているように言ったかなぁー?と頭で記憶を探りながらも一緒に食堂へと入る。

 

「簪ちゃん、何がいい?」

 

 券売機の前に俺は後ろにいる簪に聞く。

 

「波大君と一緒でいい」

 

 俺と一緒なのがいいとのことなので“醤油ラーメン"と書かれた券を二枚購入した。

 というより、整備室では名前で呼んでいたのに、ここでは名字で簪は俺のことを呼んだ。

 俺としては特に気にしないのだから、別に良いのだが。

 食堂のおばちゃんたちから醤油ラーメンを貰い、空いている席を見回す。と、四人まで座れる丸テーブルが空いていたのでそこまで移動する

 

「「いただきます」」

 

 二人が席についたことを確認してから醤油ラーメンを食べる。

 

「簪ちゃん。いつぐらいまでに仕上げるつもりなんだ?」

 

「………二学期が始まるまでには完成するつもり」

 

「トーナメントはどうするつもり?」

 

「このままのペースだと武装は軽いものだけになるけど“打鉄弐式"でいくつもり」

 

「起動テストも兼ねてか?」

 

「……うん」

 

「分かった。あともう一つだけ聞いてもいいかな?」

 

「何?」

 

「簪ちゃんってお姉さんがいるよな?」

 

 俺がそう言った瞬間簪の手が止まった。こちらを驚きの表情で見つめてくる。

 

「どこで…知ったの?」

 

「さっき会ってきたよ」

 

「っ!!」

 

「といってもそんなに会話らしい会話はしてないけどね」

 

「あの人は越えるべき存在………」

 

 何かあるのだろうか?簪は自分の拳を見つめている。

 

「うん、それはいいことだ。でも。なんでそんなに仲が悪いんだ?」

 

「……………」

 

 簪は黙りこんでしまった。さすがに他人の事情には突っ込むわけにはいかないだろう。

 二人の仲が悪いと分かったのは姉があんなことをしていたからだ。普通、仲の良い姉妹だとあんなことはしない。

 

「ごめん、言い過ぎた。誰かに相談するってのも一つの手段だと俺は思うぞ。まぁ、こんな俺でも何か協力できることがあったら全力でするから」

 

「………ありがと」

 

 照れてしまったのか簪は俯いてしまった。

 

「あー!なみむー。かんちゃんに何したの~?」

 

 と、言いながら来たのは本音だった。

 

「のほほんさんはこの子を知ってるのか?」

 

「うん。私、かんちゃんのメイドなの~」

 

 メイドって………大丈夫なのか?そもそも本音がメイドということすら信じがたい事実なのだ。

 

「本音も来たの?」

 

「なみむーに届け物があるの~」

 

「届け物?」

 

「うん。ほら、あそこ~」

 

 本音が指差した先には一人の生徒が辺りを見回している所だった。と、こちらに気づいたのかこっちにお盆を持って歩いてきた。

 

「ふぅー、やっと見つけた。ソウ君、どこいってたの!」

 

 届け物って璃里亜のことかよ!

 

「麒麟の調整をするために整備室にと」

 

「なんで私を誘わなかったの!」

 

 璃里亜は自分が見放されたと思って少し不機嫌になっている。

 

《パパー、ママが怖いねー》

 

「璃里亜は専用機の書類の手続きがあったんだろ?」

 

「すぐに終わるって言ったでしょ!もぅー、ソウ君のバカ!」

 

 ふんっと顔を横に向けて怒ってますアピールをする璃里亜。

 

「ほら、簪ちゃん。俺の言った通り一人でしてないだろ。誰だって一人でやるには限界があるんだって」

 

「…………うん」

 

「ソウ君、その子は誰なの?」

 

 俺と簪が一緒にいるのに気づいた璃里亜が聞いてくる。

 

「更識 簪さん。整備室で知り合ったの」

 

「へぇー────私は遠堂 璃里亜です。簪さん、よろしくね」

 

「……よろしく」

 

 二人が目の前で握手をしているけど、鈴と箒が握手したときのように後ろにオーラが漂っている。なんか怖い………。

 

「あなたは確か……日本の代表候補生」

 

 へぇーよく知ってるな~……あ!だからあんなにオーラが出ていたのか!と感心していると璃里亜は───

 

「あなたもでしょ?」

 

 笑いながらそう返した。───って璃里亜は今なんて言ったんだ!?

 

「え!?簪ちゃんも代表候補生なのか?」

 

 つまり、この二人は日本代表を争うライバル同士になるってことだ。

 

「んー、そうだよ~。ていうかなみむーはかんちゃんのことちゃん付けで呼んでる~」

 

「ホントだ。ソウ君はいつもさん付けなのに」

 

「さあ?なんでだろう……なんかそんな感じがしたからそう呼んでる。許可も出てるんだからいいだろ」

 

「出した覚えがない………」

 

「ん……そうだっけ?だとするとなんて呼べばいい?」

 

「やっぱりそのままでいい。でも………」

 

 言うのが恥ずかしいんだろうか……簪は躊躇うようにしてモジモジしている。

 

「なんでもない………」

 

 本人がそう言っているので俺は諦めることにした。

 というか、また二人でバチバチしないで欲しい。

 

「じゃあ俺はもう部屋に行くわ。バイバイ~」

 

 俺はお盆を返却してから逃げるように寮へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なみむー行ってしまったねー」

 

 本音がソウ君の後ろ姿を見つめながら呟く。

 私にとってソウ君がいなくなったのはこれからすることに都合が良かった。

 本音と色々話している少女。眼鏡をかけており大人しい雰囲気を放っている。スタイルもよく少し羨ましいと私は思う。

 

「簪さん。聞きたいことはあるのだけれど良い?」

 

「何?」

 

「ソウ君とは今日、初めて知り合ったの?」

 

 簪さんは首を縦に振った。

 

「蒼星君とは今日話しただけ」

 

「そうなの………」

 

「私、もう行くから」

 

 簪さんはテーブルを離れて食堂の入り口へと歩いていった。

 私から見る限り簪さんのソウ君に対する態度が女の子らしくなっているように見えた。ついに私にも箒達と同じようにライバルの出現かと思う。だとしたらこれから頑張らないと………。

 

「本音ちゃんはどうするの?」

 

「私も行くよ~」

 

「それじゃあ、私も行く」

 

 胸にモヤモヤを感じながら私と本音は食堂を一緒に出るのだった………。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に!!登場しました、簪!!
後、簪があんなにあっさりと蒼星の申し出を許諾したのには理由がありますので、皆さん、突っ込まないで!!
だって簪はこう言ってるんです。“今日話しただけ”と。


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第17話 私にしますか?

タイトルから分かるんですけど………まぁ、恒例みたいな事が蒼星に降りかかります。

───勇気を持って、行こう!


 璃里亜達と離れて自分の部屋に戻ろうと俺は歩いていた。

 

(今日は大変な1日だったなぁー)

 

 男子のシャルルが転校してきてより一層騒がしくなった一組。シャルルが女の子かもしれない疑惑はまだ消えない。それにラウラが一夏にビンタしようとしたのは気になるがそれは後回しにする……。

 また訓練での山田先生が鈴とセシリアに無双を発揮しているのは凄かった。その後の俺と璃里亜の二人がかりでもそう簡単に倒せなかった。そして、璃里亜の専用機『エンドロード』の初陣によって遂に璃里亜も専用機持ちの一員となる日ともなった。

 

(そして…簪ちゃんか………)

 

 自分でISを作っている少女。整備室で見かけてはいたけど直接会話をしたのは初めてだった。何処かで会ったことはないはずだと思うが懐かしい気分になったのは不思議だった。俺はISの製作に手伝えるかを聞いた。簪は承諾してくれた。

 何故か簪のことがほっておけなくてあんなことを聞いてしまったけど、簪は喜んでもらえて良かった。うん、良かった。璃里亜の機嫌を良くするのは難題だが………。

 と、そこまで思考が回った時に自分の部屋の前まで着いた。俺はドアを開けて中へ入ろうとする。

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

 バタンとドアを取り敢えず閉める。今、俺…何を見たんだ………夢じゃなかったらさっきまで話していた人がいたぞ!楯無先輩が!

 もう一回、夢だということを信じてドアを開ける。

 

「お帰りなさい♪私にします?私に────ちょっとー閉めないでよー!」

 

 少し開いた瞬間にドアを閉めてドアに背もたれかかるようにする。何か言われたような気がするがそんなことを気にしてる余裕はない。

 

「三度目の正直だ。そうにちがいない!」

 

 拳を握りしめてそう自分に言い聞かした俺は勇気を持って(無茶苦茶緊張する)ドアを開けた────

 

「お帰りなさい♪私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」

 

 やはりいた!………それも選択肢がないというね……二度あることは三度あるということでしたか……そうですか。

 楯無先輩の格好は白エプロンだけだ。世間の人はこれを裸エプロンというだろう。白いエプロンから伸びる、白い肌がとても眩しい。この人、自分のスタイルが良いって自覚しているんだろうか。いや、自覚しているからこそ故にこんな行動に出ているはずだ。確信犯だ、この人。

 

「……………」

 

「えー!無視なのー!お姉さん!怒るわよ♪」

 

「……それよりもさっさと出ていってください」

 俺の脳内にはある台詞が浮かんでいた。会長が去り際に言いはなった“また後でね"の一言。それはこういうことだったのかと理解させられる羽目になっているのが現状だ。

 出来る限り会長が視界に入らないようにする。

 

「それは出来ない相談ね」

 

「どうしてですか?」

 

「私、今日からこの部屋に住むから♪」

 

 「え!」と出来るだけ会長の方を見ないようにしていた俺だったが振り返ってしまう。うふっと笑う会長の格好を見てすぐに顔を赤くして目線を背ける。そんな俺の反応をクスクスと笑って見ている会長。

 

「あらあら、可愛いわね」

 

「それよりも!どうしてこの部屋なんですか!?ていうか織斑先生が許可したんですか!」

 

「ええ。生徒会長権限を使ってね」

 

 どう考えったって使い方が間違ってると思いますよ。生徒会長って何でもありなんですかぁ!という現実逃避をしてみる。

 

「取り敢えず服を着てください!」

 

「あら?私はこのままでもいいんだけど?」

 

 会長が俺の背中に女子特有の膨らみを押し付けてきた。

 

「駄目に決まってます。ほら、早く」

 

 そう急かすと会長は渋々上着を着てくれた。

 

(俺の一人部屋生活も終わったな…………)

 

 ほんの少しの期間の夢のような時間はあっという間だったと今更後悔していた自分だった。せめてもう少し満喫すべきだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態も落ち着いた所で───会長が服を着ただけだが───状況を整理をすることにした。

 

「………楯無先輩、ここに来た理由はなんですか」

 

「教えてほしいのかしら?」

 

「いいから、言ってください」

 

「あらあら蒼星君たら強引ね。まあ、いいわ。どっちにしろあなたにも知ってもらいたかったことだからね。じゃあ質問、蒼星君と一夏君は決定的な違いがあるのだけれど何か分かるかしら?」

 

「俺と一夏ですか………」

 

 俺と一夏を比べるとするとやはり、身体的な能力だとは考えにくい。そうだとしても会長がここに来ても繋がりが薄いからだ。だとすると………。

 

「後ろ楯ですね………」

 

「そうよ。一夏君には世界最強の姉の織斑先生に篠ノ乃博士という強力すぎるほどの楯があるのよ。それで何処も手出しが出来ないってわけなの」

 

 会長の言うとおり。一夏の背後には世界最強の二人がいる。それでも一夏を無理矢理に調べようとすることは世界を敵に回すと等しいことになる。さすがにそこまでの覚悟でやろうとする馬鹿はいないだろう。

 

「俺には何もないってことですか」

 

「ええ。蒼星君は一応企業に属しているけど、それでもまだ到底足りないのよ。企業に属しているだけでもIS委員会がうるさいんだから」

 

「言い換えると会長は監視役だということになりますね」

 

「私達『更識』は代々暗部として各国の裏事情を把握しているわ。故に色々と私がやると都合が良いのよ」

 

「それ、俺に言ってもいいんですか?」

 

 なんか今のは俺が聞いてはいけなさそうなほどの事だったような感じがするが会長は意図もあっさりと言った。

 

「大丈夫よ」

 

 「元々貴方もその立場なのにね………」とポツリと付け足すように呟くが蒼星には聞こえない。

 

「だったら、あと何個か質問しますよ。───この時期に会長が来るよりも初めからの方が良かったのでは?」

 

「そうしたかったんだけど、こちらも忙しくてね。それに蒼星君はあの事件の被害者で貴方の精神状態が分からないから、もしものことを考えて幼馴染みの璃里亜ちゃんと一緒の部屋にしたら精神状態も安定するんじゃないか?との結論が出てこうなったのよ」

 

「で、とうとう会長の登場っと」

 

「私はラスボスじゃないわよ。これでも生徒会は忙しいのよ。ということで────」

 会長が立ち上がりこちらに指差した瞬間に蒼星のパソコンからメールの着信音が鳴り響く。

 

「あ……友達からのメールですね」

 

「タイミングが良いのか…悪いのか……」

 

「で、会長が裏に詳しいってことはあの事件についても?」

 

 蒼星に話題転換をされて会長は少し残念な気持ちになる。

 

「大体のことは知ってるわ。でも、蒼星君達が内部でどんなことをしてきたのかは分からないわ」

 

「それ、誰かに言ってるんですか?」

 

「勿論言ってないわよ。あ!でも、私のメイドちゃんと織斑先生には少しだけ伝えてあるわ」

 

「んー……………まあ、大丈夫か………」

 

 あの事件のことはできる限りあいつらには知られてほしくない。璃里亜もそうだがあの事件の影響はとても大きい。同情されてもこちらの気持ちなど第三者が分かりはしないし、何よりも今の関係が壊れそうで怖いからだ。

 

「言わないでくださいよ」

 

「分かってるわよ」

 

「じゃあ、俺シャワー浴びて寝ますんで」

 

 俺はそう言い、シャワー室に入る。と、その前に。

 

「ちょっかいをかけないでくださいよ」

 

「はいはい、分かったわよ~」

 

 ベッドに転がりながら会長は返事をする。その態度に本当かどうか怪しいところだが鍵はかけれるのでシャワーを浴びることにした。

 無事、あの後も何事もなく眠りにつくことが出来た…朝に一騒動あるのも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、朝からなんだよ……」

 

 俺は朝一番にため息をついた。原因はさっき生徒会の仕事で朝早く出ていった会長だ。

 なんと!会長は朝から俺のベッドの中に潜り込もうとしてきたのだ。俺はそれにどうにかいち早く察知して回避することにしたがそのせいで思いっきり目が覚めてしまった。

 

「メモ………………」

 

 ふと目線の向けた先にはテーブルの上に紙が置いてあった。こんなことが出来るのは会長しかいない。嫌な予感に襲われながらもメモの内容を見てみる。

 

『暇になったら生徒会室に来てね♪』

 

 最後に“愛しの楯無より♪"と書かれていた。

 

(なんだ…これは…………)

 

 気分が重くなりがらも俺は朝御飯を食べるために食堂へと向かうのだった……。

 

 ………因みに生徒会へは行っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、俺は一夏達の訓練の様子を見るためにアリーナへと来ていたが……

 

「こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかんっ!という感じだ」

 

「なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。……はあ?なんでわかんないのよバカ」

 

「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ」

 

「…………率直に言わせてもらう。全然分からん!」

 

「……何、このカオス?」

 

「あはは……………」

 

 本日のIS学園は土曜日の午前には理論学習、午後は完全な自由時間になってる。かと言って土曜日の午後はアリーナが全開放だから殆どが実習に使ってる。俺や一夏達もアリーナでISの練習をしているのは言うまでも無いのだが。

 俺は目の前の光景に呆れていた。一夏に教えている指導者達の指導の仕方にだ。

 箒、鈴、セシリアにやらせてみたのだが全然ダメだった。箒は訳の分からん擬音だらけの説明で、鈴は感覚の一点張り。そしてセシリアは細かすぎて逆に分かり辛かった。

 ちなみに璃里亜は最初に一通り説明してから自分で見せてくれる有言実行的なタイプだ。

 

「シャルル、一夏と模擬戦してくれないか?」

 

「うん。分かったよ」

 

 俺の隣にいるシャルルに一夏と試合をしてくれるように頼むと快くシャルルは承諾してくれた。一夏のほうへと歩いていき早速、声をかける。

 

「一夏、ちょっと相手してくれる?白式と戦ってみたいんだ」

 

 ISを纏ったシャルルが一夏に勝負を申し込む。その事に一夏は助かったかのようにシャルルを見ている。

 逃げる口実が出来たようだ。

 

「分かった、シャルル。と言う訳だから三人とも、また後でな」

 

「「「むぅ……」」」

 

「リリー、行くぞ」

 

「はぁーい」

 

 あの三人の指導を見ているよりもシャルルと一夏の模擬戦を見ている方が断然いいからなと俺は思う。

 シャルルが纏ってるISは見た感じ“ラファール・リヴァイヴ”だと思うがIS学園にある量産機と違って専用機のようだ。恐らくスペックは量産機よりかなり上に違いない。何よりも機体の色がオレンジと色々改造している。

模擬戦の結果は一夏のぼろ敗けだった。俺的にはもう少し頑張って善処して欲しかった。まあ、射撃武器を把握してないからすぐに負けてしまうのは仕方ないけど。

 

「ええとね、一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが……」

 

「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほどんど間合いを詰められなかったよね?」

 

「うっ……、確かに。『瞬時加速(イグニッションブースト)』も読まれてたしな……そういや蒼星にも読まれてたし」

 

「一夏の攻めかたは単純だからな」

 

「蒼星とはまだ戦ってないから分からないけど、一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

 

「直線的か……うーん」

 

「言っておくけど織斑君。瞬時加速中に下手に軌道を変えようなんて考えは止めた方がいいよ」

 

 俺の左隣にいる璃里亜がアドバイスを挟む。

 

「え?何でだ?直線的な攻撃じゃ読まれ易いんだろ?」

 

「確かにそうなんだけど、そういう事をしちゃうと逆に織斑君の体に負担が掛かってしまうんだよ。そうでしょシャルル君?」

 

「うん。遠堂さんの言うとおり、空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

 

「……なるほど」

 

 璃里亜とシャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話の度に頷く一夏。やはりあの三人よりも同じ男子の方が良いのだろう。離里亜は別として。その証拠に一夏は意気揚々とシャルルの説明を聞いている。

 さらに女子相手だと、あのスーツだしな。殆ど水着に近い。それによって俺や一夏は色々な所に目が行ってしまう事がしばしばある。正直やり辛いのが本音。

 

「ふん。ワタシのアドバイスをちゃんと聞かないからだ。蒼星も蒼星でアイツの味方をするとは……」

 

「あんなにわかりやすく教えてやったのに、なによ。リリーもなんで分かってくれないのよ」

 

「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら。それに蒼星さんも」

 

 もうこの三人は無茶苦茶だ。後で一夏の実習訓練の相手でもさせてあげないとヤバイかもな……と璃里亜が三人の方にちゃんと納得させる為か向かっていった。

 

「おっと……危ない………」

 

 璃里亜の機体を見ていると俺の目の前を弾丸が通る。この第三アリーナでも多くの生徒が訓練に励んでいる。だが、学園で三名しかいない男子が目当てに、第三アリーナは使用希望者が続出している。

 正直言って生徒が多すぎるから訓練スペースが狭い。同時に別のグループ同士が一夏やシャルルにぶつかったり流れ弾に当たったりとちょっとしたトラブルがあった。

 

「一夏の『白式』って後付武装がないんだよね?」

 

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域が空いてないらしい。だから量子変換は無理だって言われた」

 

「多分だけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」

 

「ワンオフ・アビリティーっていうと……蒼星、なんだっけ?」

 

「お前なぁ……この間の授業で出てたのをもう忘れたのかよ。簡単に言うと必殺技だ」

 

「あはは、そうかもね。各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のことだよ」

 

 シャルルは代表候補生でもあるのですらすらと専門用語を出して説明をしている。しかも分かりやすく。璃里亜といい勝負だな。

 

「でも普通はセカンドシフトの時に発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いけどね。それでそれ以外の特殊能力を誰でも使える様にしたのが第3世代IS。オルコットさんのBTや凰さんの衝撃砲がそうだよ」

 

「あ!それで思い出した。蒼星に聞きたいことが……………」

 

 二人で会話しているのを眺めていた俺だが一夏がこちらに向いたなり、言葉を止める。

 

「ん?どうした?」

 

「蒼星、何してるの?」

 

 一夏と後から見たシャルルがこちらを見て固まっている。シャルルの説明は既に知っていたので取り敢えずエネギアを十個ほど展開して体の周りをぐるぐる回転さしていただけなのだが………。

 

「まだ慣れないから特訓してる最中だが?」

 

「俺、初めてみるんだが?」

 

「え!そうなの、てっきり知っているものだと………」

 

「最近になって使い始めたからな……これ集中力がだいぶいるからな。疲れるわ」

 

「詳しく教えてくれないかな?」

 

「いいよ。この装備の名前は“エネギア”。後ろにあるエネルギアのちびバージョンだな。セシリアのビットと同じようにエネルギー弾を発射出来たり合体させてシールドにさせたり、前に俺が見せたトラップなんかにも応用出来たり優れものだ」

 

「セシリアのと同じなら蒼星も動けないのか?」

 

 一夏の不謹慎な発言を聞いてしまったセシリアは顔をしかめる。弱点を言われるのはあまり気分が良くないからな。

 

「いや、自分も動けるほどに使ってるからそんなことはないぞ」

 

「何個まで同時に可能なの?」

 

「えー、自分も動けるようにするんだったら10個。エネギアだけに集中するなら25個だな」

 

「へえー、結構な数だね」

 

「麒麟の能力もついてるのか?」

 

 さっきから一方的な質問が多いような気がするが……。

 

「麒麟の能力って?」

 

麒麟を知らないシャルルが首を傾げる。それに気づいた一夏が俺の代わりに説明し始める。

 

「シャルルは知らないのか。蒼星の機体の名前が麒麟でな。最大の特徴が雷を操れるところなんだ」

 

「え!すごいね」

 

「一夏、よく考えろよ。山田先生と戦ったときの最後に山田先生の動きが鈍くなったのは気づかなかったのか?」

 

「いや………分からなかった…」

 

「あれはエネギアの電撃の網に山田先生が捕まったからだ」

 

「でもなんで山田先生は避けなかったの?」

 

「璃里亜の攻撃に必死だからな」

 

「へえー………蒼星と璃里亜は凄いな。鈴とセシリアはぼろ敗けだったのに」

 

 また一夏の不用意な発言に遠くから聞き耳を立てている少女二人は不機嫌になる。

 

「話を変えて一夏のやっぱ白式の単一仕様って『零落白夜』だよな」

 

「そうだね。でも白式は第1形態なのにアビリティーがあるってすごい異常事態だよ。前例が全く無いからね。しかもそのアビリティーって織斑先生の…初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じなんだよね?」

 

「そそ。まぁ姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」

 

「うぅん、姉弟だからってだけじゃ理由にならないよ。さっき一夏が言った様にISと操縦者が最高状態の時に発現するものだし、姉妹で同じだった人は居ないからね」

 

「そっか。この話は結論も出なさそうだし置いといて。訓練再会しないか?」

 

「あ、うんそうだね。じゃあ、はいこれ」

 

 俺たちは訓練を再開することにした。

 

続く──────────────────────────────

 




次回はオリ要素を入れるつもりです!


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第18話 シュヴァルツェア・レーゲン

今回は長めです。

───飽きずに、最後まで行こう!


「じゃあ、はいこれ」

 

 訓練を再会すると、シャルルは一夏に先程まで使っていた55口径アサルトライフル『ヴェント』を渡した。

 

「あれ?そう言えば他のやつの装備って使えないんじゃないのか?そうしたら俺が使っても無理なんじゃ……」

 

「普通はね。でも所有者が使用承諾すれば、登録してある人全員が使えるんだよ。───うん、今一夏と白式に使用承諾を発行したから、試しに撃ってみて」

 

「へぇー初めて知ったわ。よし!一夏が訓練するなら、俺も近接戦闘の訓練でもしますか」

 

「蒼星がしても意味あるのか?」

 

「あるに決まってるだろ。なんだ、一夏。嫌みか?」

 

「そういうわけじゃなくてな、蒼星が強すぎるんだよ」

 

「へぇー、蒼星って近接タイプなの?」

 

「違うよ、中距離タイプ」

 

「でもさ、箒にも近接で勝ってさ皆と勝負しても余裕の表情でいるやつがなぁー…」

 

「俺よりも近接戦闘のプロがいるじゃないか」

 

「え!誰なの?」

 

 俺は頭に鬼を浮かべる────と思ったが後から痛い目に遭いそうなので止めておく。

 

「───織斑先生」

 

「ああ。織斑先生は世界最強だしね」

 

 織斑先生のことを言うとシャルルは納得しており一夏は満足の笑みを浮かべる。もしや、一夏はシスコンではないかという疑惑が浮かぶ。

 

「あと一人俺と同じくらいの人がいるけどな」

 

「はぁ!ほんとか!?」

 

「ほら、あそこ」

 

 俺の指差した先には箒たちに何か色々としゃべっている璃里亜がいた。いや、よく見ると離里亜が一方的に話している。

 

「遠堂さん?」

 

「そうそう」

 

「え!マジかよ!」

 

 一夏が先程から驚いてばかりだけど気にしない。

 

「じゃ、シャルル。一夏のことをよろしくな」

 

「う、うん。分かった」

 

 シャルルが頷いたのを確認した俺は璃里亜達の元へと向かう。

 「蒼星は俺の親かよ!」と一夏の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────だから、箒は擬音ばかりで言われても分からないの!スズーも感覚だけでなくてもっと具体的に!セシリアちゃんはあんなに詳しく言っても通じないの!抽象的に織斑君に分かりやすく!分かった!」

 

「リリーが怖いわよ………」

 

「知らなかった……」

 

「そうですわね………」

 

 あー……指導者達が指導されている。しかも三人はその場に正座をしている。璃里亜がさしたんだろうけど。璃里亜は一度スイッチが入るとそのまま止まらなくなって暴走してしまうときがあるが今そんな状況になっている。

 

「おーい、リリー………」

 

「────セシリアちゃんの場合はもっと数値での表現を減らして曖昧にしないとかえって織斑君には分かりにくいの」

 

「はい!分かりましたわ!」

 

 セシリアは完全に手元に置かれている。というか目を輝かしている。

 

「………………」

 

「私はどうすればいいのだ」

 

「箒はもう少し擬音じゃなくて中身を詳しく説明すべきなの。もしくは私みたいに実践で見せるかのどちらかにした方がいいの。とにかく擬音は禁止!」

 

「ぐっ…………分かった」

 

 璃里亜の正論に反論できず渋々納得する箒。

 

「……………そうだ」

 

「最後ににスズー!」

 

「あ、はい!」

 

 蒼星に気づいて目線を向けてくる鈴は蒼星に気付いていない璃里亜に呼ばれてつい生返事をしてしまう。

 

「スズーも箒と同じだけど、もっと詳しく説明したらいいの。同じ近接型なんだから教えやすいでしょ!」

 

「それよりもリリー」

 

「ん?何?」

 

 鈴は答える代わりに璃里亜の後ろを指差す。璃里亜が振り返るとそこには……。

 ───何かが光っていた。

 目の前に歯車が浮いており真ん中の穴には何かが光って見えた。璃里亜にはまるで獲物を狙う猛獣の目のように………。

 さらにその穴の中から人の手ような物が伸びてきて───

 

「きゃあああぁぁー!」

 

 驚いた璃里亜は叫びながら即座にエンドロードを展開すると飛んでいってしまった。

 振り返ると人の顔ではなく別のものがあったら驚いてしまうのは無理はないが、あそこまでリアクションを取られてしまっては、こちらはどういう反応をすれば良いのか分からない。さらにそこから手が出てきて、より恐怖感に拍車をかけてしまったのだろう。

 

「やり過ぎだ、蒼星」

 

「そうよ、リリーが何処かに行っちゃたじゃない」

 

「璃里亜さん、御愁傷様です………」

 

「色々、言われるな………本人が気付かないのが悪いんだけどな………」

 

 歯車───エネギア───がぷかぷかゆっくり上昇して浮かび上がり蒼星の顔が三人の目に写る。

 流石に穴から腕を通してみたのはやり過ぎたかとは思ったが。

 

(あー……戻ってくるかな………)

 

 璃里亜が戻ってきたのは数分後の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、何の用なの、ソウ君」

 

 しばらくしてから戻ってきた璃里亜は自分の失態に触れて欲しくないのかすぐに本題に入ろうとする。

 だが、易々とそれを逃そうとはしない。

 

「ふふふ……リリーを脅かしにきた─────はいぃ!嘘です!ごめんなさい!」

 

 やはり思った通りに璃里亜は先程のことを話に出すとすごい威圧感を放ってくる。

 

「蒼星さんも璃里亜さんの指導をされたいのですの?」

 

 セシリア達もあの事にはあえて触れないようにしている。自ら火に飛び込むような真似だけはしたくない。

 

「いや、リリーに久しぶりにデュエルしないかって誘いに来ただけだ」

 

「デュエル?」

 

「まあ簡単に言うと一対一の近接試合みたいなもの」

 

「それっていつものと同じじゃない」

 

 鈴が言っているのは俺と一夏がずっと同じ近接戦闘をしていることを言っている。因みに一夏が勝ったのは今までにたったの一回だ。

 

「ISをある程度制限するんだ」

 

「あー、なるほど~」

 

「別にいいよ、ソウ君。ルールはどうするの?」

 

「俺はムーンテライトだけで行く。リリーも近接武器だけで来い。後は……空中戦も有りってことでいいだろう」

 

「OKだよ。じゃ、早速やろうよ」

 

「セシリア達は少し離れておいてくれ」

 

 俺が指示を出すとセシリア達は俺と璃里亜からISを展開してからジャンプしてある程度距離を置く。

 俺も璃里亜から距離を置いてムーンへライトを展開して構える。箒と剣道をしたときと同じ構えだ。

 

《ユカ、今回は自分自身の力だけで行くから見ておいてくれ》

 

《うん、分かった!》

 

 ユカにサポートはいらないように伝えておいて準備はこれで万全となる。

 

「箒ちゃん、合図よろしくー」

 

 そう言った璃里亜は対山田先生の時に使用した銃剣を剣モードで展開して姿勢をとっている。あれを見るのも久しぶりだと俺は感じていた。

 

「わ、分かった─────それでは始め!」

 

 箒の合図とともにデュエルが開始した───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼星と璃里亜から距離を取った三人はデュエルを観戦することにした。ISを展開したままでいるのはそうした方がセンサーによる補助とか色々あって見やすいからだ。

 

「遠堂は近接は出来るのか?」

 

「分かりませんわ。ただ山田先生と試合をしていた時はそれなりに出来ていましたわね」

 

 箒の疑問に答えたのはセシリアだったがセシリア本人も璃里亜の腕は知らないので返事は曖昧になってしまう。蒼星の近接戦闘の腕は箒達は充分に知っているので何も言わない。

 

「ほら、始まるみたいわよ」

 

 鈴の目線の先にはムーンへライトを構えた蒼星と銃剣を構えた璃里亜が見つめあっていたところだった。二人とも真剣な眼差しで。

 

『箒ちゃん、合図よろしくー』

 

 璃里亜からのいきなりの通信に箒は驚いてしまうがすぐに璃里亜の指示通りに動く。

 

「始め!」

 

「あれ?動かないわね」

 

 箒の合図と同時にどちらかが動くかと鈴は考えていたが思惑は外れてどちらも向き合ったまま動かない。

 

「どうしたのでしょう?」

 

 セシリアも鈴と同じ疑問を持っていた。

 

「あれは…隙を伺っているのだ」

 

 剣道経験者の箒だけがこの状態の意味を分かっていた。

 二人の対戦に気づいたのか野次馬がだんだんと増えて騒がしくなってくる。が二人はまだ動かない。

 

「「「…!」」」

 

 次の瞬間、璃里亜が動いた。思わず三人は息を飲む。

 璃里亜の剣は蒼星の大剣に止められて押し合いに入る。二つの剣がぶつかった衝撃が辺りに広がる感覚を箒は覚えた。

 

「………うわぁ………」

 

 押し合いに勝ったのは蒼星だった。そのまま大剣で攻めようと奮うが璃里亜もどうにか銃剣で対応して剣筋を剃らす。その光景に鈴は思わず感嘆の声を漏らす。

 

「………あ」

 

 このまま攻めてもらちが飽かないと判断したのか蒼星は勝負に出る。大剣を切り上げるように動かすと同時に大剣を空中にほおり投げた。

 

「あいつ、剣を投げたわよ」

 

「ああ………」

 

 璃里亜も予想外だったのか慌てるが銃剣を構える。と、蒼星が素手で璃里亜に接近した。

 

「体術ですわね」

 

 セシリアが言った通りに蒼星は体術で攻めだした。璃里亜はガードが間に合わずダメージを少し負ってしまうが反撃にと銃剣を突くように動かす。蒼星はなんとかかわすが少し機体にダメージがいってしまう。再び体術で攻められると思った璃里亜だったが蒼星は機体を浮かした。

 そして大剣を空中でキャッチして降り下ろした。

 璃里亜は危機一髪に後ろに退避してかわす。大剣は地面へと激突して地面にひびが入る。

 

「何あれ…………」

 

「もはや、芸だな」

 

「初めて見ましたわ」

 

 観戦している生徒達も驚きが表情に隠せないほどだった

 璃里亜は銃剣を縦に構えて接近して猛攻撃を仕掛けた。蒼星の大剣は細かい動きが難しいが、璃里亜はそれが得意げに仕掛ける。突きと斬を交互に色んな方向からしていく。その数、12連撃………。

 

「璃里亜もなのか…………」

 

「すごっ…………」

 

 箒も今の技を見て蒼星と同じ剣術の使い手だと感じた。鈴は一番の理解者の強さにただただ驚くのみだった。

 蒼星は冷や汗をかきながらも必死に璃里亜の剣に付いていく。攻撃が緩んだ隙を見つけて反撃するために。と、今がチャンスだと判断した蒼星は思いっきり銃剣の刀身に大剣をぶつける。璃里亜はなんとか手放さずにいるが弾かれた銃剣はすぐには動かせない。蒼星はある技の体勢に入る。

 

『え……ちょっと……』

 

 璃里亜は思わず声を漏らすが、蒼星はニヤリと笑みを浮かべて大剣による15連撃に入った。一撃目は正面から二、三撃目からは横からそして後ろに周り攻撃、一回転するかのように動き、攻撃する。

 

「速い…………」

 

 蒼星の移動スピードが異常だった。故にまるで瞬間移動してから切りつけられているような錯覚に鈴は感じた

 やがて結果がついた……璃里亜が蒼星の15連撃に耐えきれなくてエンドロードのエネルギーが切れたのだ。

 

「もうわけが分かんないわよ」

 

「私もだ………」

 

「私もですわ…………」

 

 次元が違うと思い知らされた三人と先程の試合を見ていた生徒達だった───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウ君!ずるい!あれは使ったら駄目でしょ!」

 

 デュエルが終わるなり璃里亜がそう言ってくる。あれとは最後に使った大剣スキル『ムーンラッシュ』のことだろう……。

 

「リリーだって使ってきただろ」

 

 そうなのだ。璃里亜だって短剣最上級スキルを地味に使用してきたのだ……。

 

「バレたか、テヘ♪」

 

「バレたかって…………まあ……いいが」

 

 自覚はあったのか璃里亜はそれ以上何も言わない。というか初めに決めておけば良かったなと後悔する。

 

《パパ、なんだか騒がしいよ》

 

 ユカから通信が入る。聞き耳を立ててみると騒がしいのは俺と璃里亜のデュエルを見たからだと思っていたが違うみたいだ。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

 取り敢えず騒ぎの元となっている方へと目を向ける。

 

「………………」

 

 そこにいたのはシャルルと同じ転校生である、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 この学園に来て以降、ラウラはクラスの誰とも仲良くしようともしないだけでなく会話さえもしない女子。

 そのラウラは一夏の方を睨み付けていた。

 

「何やってるんだ、あいつら?」

 

「さぁ?…………」

 

 璃里亜にわかるはずもなくそちらへと向かうことにした。エンドロードも移動するには何の問題もないので取り敢えず移動する

 

「織斑一夏」

 

ISの開放回線(オープン・チャネル)で名指しの声が入った。それは言うまでも無くラウラ本人の声。

 

「……なんだよ」

 

 取り敢えず返事をする一夏。名指しをされた以上無視する訳にはいかないと言う感じだ。そんな一夏にラウラがふわりと飛翔してきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

 一夏から織斑先生はドイツに教官として行っていたことがあると聞いていた。織斑先生が教官だった頃にラウラに一体何があったのかは分からないがこういう事は俺としてはあまり好ましくない態度だった。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を───貴様の存在を認めない」

 

 ラウラの台詞の意味のすべてを俺は理解出来なかったが、一夏は理解したのか表情が変わる。が、一夏自身も戦う気が無さそうだ

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば──戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 そう言った直後、ラウラは漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。そして左肩に装備された大型の実弾砲が撃たれた。

 

「「!」」

 

「…なっ……………」

 

 実弾砲が一夏に迫るが横から飛んできたエネルギー弾に打ち落とされた。

 

「大丈夫か、一夏?あと、シャルル、余計な手間かけさせて悪いね」

 

「ううん、平気だよ」

 

 電子流砲を肩にかついでいる俺はシャルルに一声かける。シャルルも一夏を守るためにシールドを展開していたからだ。

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだ。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「それともドイツの軍人は周りがどうなろうと知った事じゃない……などと言う自分勝手な考えを持っているのか?」

 

「貴様、邪魔をするのか!」

 

「ああ。するよ。というか君、視野が狭いね」

 

「貴様、何を言って───────っ!」

 

 俺に指摘されてラウラはようやく気づく。ラウラは怒ると周りが見えなくなってしまうタイプなのか自分の周りを囲んでいるエネギアの存在に気づかなかった。エネギアは攻撃準備は万端と見せつけるかのようにバチバチと雷を穴の所に集めている

それにしてもシャルルの装備呼び出しの技術には驚いた。通常は一~二秒かかる量子構成をほんの一瞬と同時に照準も合わせていたからだ。それが出来るということは大量の装備を格納してると言ったところだろう。事前に呼び出しを行わなくても戦闘状況に合わせて最適な武器を使用出来るだけでなく、同時に弾薬の供給も高速で可能だ。要するに持久戦では圧倒的なアドバンテージを持っているということになり、相手の装備を見てから自分の装備を変更出来る強みがあると思われる。

 実際に手合わせをするとなると、また一味違う試合となり苦戦することは間違いない。

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 睨み合いをしてる最中、突然アリーナにスピーカーからの声が響いた。さっきの騒ぎを聞いて駆けつけた担当の教師みたいだ。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

 二度の横槍に興が削がれたのか、ラウラは戦闘体勢を解いてアリーナゲートへ去っていく。彼女の性格から察するに、教師が怒り心頭で怒鳴っても無視するだろう。

 

「一体、何がしたいんだろうな、あいつ。一夏、何かしたのか?」

 

「いや………何もしてないはずだが……」

 

「一夏、大丈夫?」

 

「あ、ああ。二人とも、助かったよ」

 

 ラウラがいなくなった事に俺とシャルルは警戒を解いて一夏の方を見る。

 

「………もうそろそろ終わろうか。周りから注目浴びすぎて、集中出来そうもないしな」

 

「そうだね。それに四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

 

「おう。そうだな。あ、銃サンキュ。色々と参考になった」

 

「それなら良かった」

 

 一夏の礼ににっこりと微笑むシャルル。そんなシャルルに一夏は妙に照れてる感じになっている。別にこれぐらいなら本人の性格とかでなんとも思わないのだが───

 

「えっと…じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

 これだ。いつも、シャルルはこうして先に促しているのだ。よっぽど俺達と着替えるのが嫌なのか、他に何か理由があるのかどっちかだろ。俺は後者だと思うが真相は本人に聞くしかない。

 

「というかどうしてシャルルは俺と着替えたがらないんだ?」

 

「どうしてって……その、は、恥ずかしいから……」

 

 これもいつものやり取りで、一夏は着替えを断るシャルルを強引に誘おうとしている。流石に嫌がってる相手に無理に着替えようとする一夏もどうかと思う。

 

「一夏、シャルルがこう言ってるんだから早く行くぞ」

 

「ちょ!ま、待てよ蒼星……!」

 

 先に行こうとする俺に一夏は呼び止めようとする。

 

「蒼星、早く一夏を連れて行きなさい。それと一夏、引き際を知らないやつは友達なくすわよ」

 

「そうだよ、織斑君。早くいってらっしゃ~い」

 

「こ、コホン!……い、一夏さん。どうしても誰かと着替えたいのでしたら、そうですわね。気が進みませんが仕方がありません。わ、わたくしが一緒に着替えて差し上げましょう。蒼星さん、申し訳ありませんが後はわたくしが───」

 

「こっちも着替えに行くぞ。セシリア、早く来い」

 

「ほ、箒さん!首根っこを掴むのはやめ────わ、わかりました!すぐ行きましょう!ええ!ちゃんと女子更衣室で着替えますから!」

 

 反論しようとするセシリアだったが、箒が有無を言わさず首をグイッと引っ張るので根負けした。

 

「さて、こっちも行くぞ一夏」

 

「わ、分かった。分かったから離してくれ蒼星!」

 

「そうか。それじゃシャルル、先に行ってる」

 

「あ、うん」

 

 シャルルにそう言い、一夏を連れた俺はゲートへ向かう。

 

「ったく……首根っこを掴まなくてもいいだろ………」

 

「まあまあ、ほら着替えるぞ」

 

「しかしまあ、この更衣室を俺達だけ使うなんて贅沢っちゃあ贅沢だな」

 

「確かにな。俺と一夏とシャルルだけ使うにしても広すぎる」

 

 がらーんと広い更衣室に入るとそこにはロッカーの数が五十程あって、当然室内も広い作りだ。俺達はISを待機状態のアクセサリーに変換し、俺はそのまま着替えを入れておいたロッカーを開け、一夏はベンチに腰掛けながらISスーツを脱いだ。

 

「はー、風呂に入りてえ……」

 

「着替える度に毎回そう言ってるよな」

 

「シャワーだけじゃ物足りないんだよ。蒼星も風呂に入りたいって考えた事は無いのか?」

 

「まあ気持ちは分かるけど。俺はそんなことはあまり考えないんだけどな」

 

「そうなのか?あ~あ、いつになったら大浴場が使えるんだろうな~」

 

「確か山田先生が大浴場のタイムテーブルを組み直してるって聞いてはいるらしいが、いつになったら使えるんだろうな」

 

 そう話してる内に俺達は着替え終わる。

 

「よし、着替え終わり」

 

「それじゃ行くか」

 

「あのー、織斑君と波大君とデュノア君はいますかー?」

 

 更衣室から出ようとすると、ドア越しから呼んでいる声が聞こえた。山田先生のようだ。

 

「はい? えーと、織斑と波大がいます」

 

「入っても大丈夫ですかー? まだ着替え中だったりしますー?」

 

「大丈夫ですよ、着替え終わってますから」

 

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

 一夏が問い掛けに答えると、パシュッとドアが開いて山田先生が入って来る。どうでも良いが、圧縮空気の開閉音はなんかいい感じがする

 

「デュノア君は一緒ではないんですか? 今日は織斑君と波大君と一緒に実習しているって聞いていましたけど」

 

「まだアリーナにいますよ。大事な用件だったら呼びにいきますが?」

 

「ああ、いえ、そんなに大事な話でもないです。後で織斑君か波大君のどちらから伝えておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に二回の使用日を設けることにしました」

 

「本当ですか!」

 

 話を聞いた一夏は感激の余りに山田先生の手を取った。風呂好きの一夏にとって嬉しい話だろう。さっきもそれについて話していたからだ。

 

「嬉しいです。助かります。ありがとうございます、山田先生!」

 

「い、いえ、仕事ですから……」

 

「おーい一夏、少しは落ち着けー」

 

 山田先生に感謝してる一夏に俺が落ち着かせるように言うが、当の本人はそんなのお構い無しだ。

 

「これが落ち着いていられるか。山田先生のおかげでやっと風呂に入れるんだぞ。山田先生、本当にありがとうございます」

 

「そ、そうですか? そう言われると照れちゃいますね。あはは……」

 

「一夏。俺からは山田先生に迫っているようになってるぞ………」

 

「せ、せま……!」

 

「………え?」

 

 俺の台詞にやっと自分の今の状況に気づいた一夏は、そのまま山田先生の顔を見て手を握っている事を確認する。箒達が見たら絶対に嫉妬する展開になるだろうな

 

「……一夏?何してるの?」

 

 背後から声がすると、そこにはシャルルがいた

 

「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生の手を握って何してるの?」

 

「あ、いや。なんでもない」

 

 シャルルの台詞に一夏は握っていた手を離す。山田先生も流石に俺やシャルルに言われて凄く恥ずかしくなったのか、一夏から開放されてすぐにクルンと回転して背中を向けた。

 

「二人とも、先に戻ってって言ったよね」

 

「お、おう。すまん」

 

「戻ろうとした直後に山田先生が来たから、此処で話し込んでただけだよ」

 

「ふ~ん」

 

 俺が戻らなかった理由を言っても、シャルルは妙に不機嫌そうだ。特に一夏を見ながら。何故だろう…………。

 

「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

 

「そう」

 

 興奮気味な一夏とは対照的に冷静な返事をするシャルル。あんまり興味無さそうな感じにみえる。

 

「ああ、そういえば織斑君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いて欲しい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?白式の正式な登録に関する書類なので、ちょっと枚数が多いんですけど」

 

「わかりました。────じゃあシャルル、ちょっと長くなりそうだから今日は先にシャワーを使っててくれよ」

 

「うん。わかった」

 

「蒼星、夕食はいつもの時間な」

 

「はいはい、分かったよ」

 

「じゃ山田先生、行きましょうか」

 

 一夏は俺達に言った後、山田先生と一緒に更衣室を後にする

 

「シャルル、一つ聞いていいかな?」

 

 更衣室にいるのは俺とシャルルの二人だけだ。あのことについて聞くのに絶好のチャンスだと見た俺は畳み掛ける。

 

「何かな?」

 

「シャルルって女の子みたいって言われたことあるか?」

 

「えっ!…………な、ないよ。周りの人は大人が多かったしね……」

 

「そうか……悪かったな……俺は先に行くな」

 

「う、うん………」

 

「……動作には気を付けろよ」

 

「え!………」

 

 そんな忠告だけをシャルルに残しておいて俺は更衣室を出てある所に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしかして………バレてる………?)

 

 シャルルは蒼星の出ていった扉が閉まるのを確認してから更衣室のベンチに座る。そして先程のやり取りを思い返した。何故あんな質問をしたのだろうか……蒼星の好奇心からなのか……それとも………

 

(やっぱり…分かりやすいんだろうか……)

 

 もし蒼星にバレていたとするなら何か対策を模索しないといけないことになるがシャルルには具体案が咄嗟に思い浮かばない。

 

(それに………あれは…………)

 

 会話の最後に“動作には気を付けろよ"と蒼星はそう言ったがどういう意味を込められていたのかは分からない。

 男のくせに女の子に見える動作は気を付けろよなのか…男装してるのに女の子に見える動作になるのは気を付けろよなのか…思考がぐるぐる回るだけで結論付かない。

 シャルルは考えるのをやめてさっさと着替えることにした。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 

 




活動報告にて、新作品についての参考意見を募集しています。もし良ければそちらの方も覗いてください!


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第19話 シャルルの秘密

ついに!!ついに!!UA数が20000を突破していた!!
できる限り続けられるようにはしますので、これからもどうぞご贔屓に!!

───この調子で、行こう!!


「簪ちゃん、調子はどう?」

 

 更衣室から出た俺は真っ先に簪のいる整備室に向かった。先に来ていた簪は相変わらずウィンドウを表示させて手元のキーボードでカチカチ打ち込んでいた。

 目が疲れそうな作業を何時間も続けている彼女の集中力は計り知れない。

 

「それなりに…………」

 

 「どれくらい?」と言いながら俺は簪の隣に座る。麒麟の整備も兼ねて簪のIS造りの手伝いをするためだ。

 

「あと機体は17パーセントぐらい…」

 

「んで、武器の方はまったく…っと………」

 

 やはり二人だけではなかなか進まないもので武器の方も仕上げないと完成とまで言えないのだ。

 他の皆に手伝ってもらうのも良いのだと考えたのだが、簪はこのIS造りにそれなりの信念を込めているかのように思えたので、無闇にそれを壊すような真似はしたくなかった。

 

「近接武器は普通につくるとして……荷電粒子砲とミサイル兵器は何かのデータを元に作らなきゃダメなんじゃないか?」

 

「うん……だから、それは後回し。取り敢えず機体と近接用の武装が……最優先」

 

「まぁ、そうなるか」

 

 荷電粒子砲は麒麟の電子流砲を参考にすることも出来るかもしれない……まあ…造りが全然違うからあまり当てには出来ないな…。

 

《パパー、こっちもー》

 

「はいはい、分かりましたよっと」

 

 そう返事しながら麒麟のウィンドウまで手を伸ばした俺は思わず固まってしまう。

 

(やば…………今声出てた……俺……)

 

 思わず声を出してユカに返事をしてしまったが簪がいることを忘れていた。ぎこちなく簪の方へと向くと当の本人は作業に集中しており気づいていなさそうだ……良かった。

 

「あーー!いた!なみむー!」

 

 すると扉の方から声が聞こえて振り向くとそこには何故かのほほんさんがいた。

 

「かんちゃん、なみむー借りてくねー」

 

「え……なに、ちょぉー」

 

「あ……………」

 

 俺の近くまできたのほほんさんは俺の腕を引っ張って整備室の扉の方へと向かっていく。

 

「取り敢えずまた今度ね、簪ちゃん!!」

 

 俺はのほほんさんにどこかに連れていかれたのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着~」

 

「何故に生徒会室?」

 

 のほほんさんに連れてこられた場所は生徒会だった。来る途中からは普通に隣を歩いていた。

 

「俺、何か悪いことしたのか!」

 

 真っ先に思い付いたのはそれだった。だが思い当たることがないので余計に不安が脳内をよぎる。

 

「いいから、いいから~」

 

 のほほんさんに背中を押されてそのまま生徒会の中へと入ってしまう。

 

「いらっしゃーい、蒼星君」

 

 生徒会に入るなりそんな言葉で歓迎されてしまった。中にはそういえば会長だと言っていた楯無先輩とのほほんさんに似ている女性が一人。

 制服のリボンの色から三年生だと思われるがのほほんさんとは違って真面目そうなイメージを持ってしまった。

 

「その方は?」

 

「私のお姉ちゃん~」

 

「本音はお茶でも入れてなさい。初めまして、私は“布仏 虚”と言います。蒼星君、よろしくお願いいたしますね」

 

「こっちこそよろしくです。で、ここに呼ばれた理由は何ですか?」

 

「何ですか?じゃないわよ!どうしてここに今まで来なかったの!」

 

「だって来る理由がないですから」

 

「私が来なさいと言ったでしょ!」

 

「あの置き手紙のことですか?でも“暇だったら"って書いてあったので忙しい俺には関係ない話です」

 

「うぅ……蒼星君が冷たい……」

 

「会長、早く進めてください」

 

 うそ泣きをしだした会長を虚が手厳しく注意する。真面目そうなイメージではなく、本当に真面目な性格のようだ。

 

「虚ちゃんも冷たい……まあいいわ。蒼星君!あなた、生徒会に入りなさい!」

 

「嫌です」

 

 俺はバッサリと切り捨てた。

 

「嫌でもさせてもらうわ。その方が何かと都合がいいのよ」

 

「はあ………何を言っても無駄だってことは分かってますんで好きにしてください」

 

「蒼星君も大変ですね」

 

「あなたには生徒会長補佐をやってもらうわ」

 

「はいはい、わかりました」

 

 虚が同情してくる。余計にキツくなりそうなので正直やめてほしい。

 

「話は終わりですか?───だったらやりたいことがまだあるんですけど」

 

「ちょっと待ってくれる。後あなたに頼みたいことがあるのよ」

 

「何ですか?」

 

「あ………え……えーとね………」

 

 珍しく会長が挙動不審になっている。そんなに話しにくいことなのだろうか………。

 

「もういいです。私が話します」

 

 虚が代わりに説明をし始めてしまった。どうにか吹っ切れた会長も途中から虚の説明に参加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、どうにかしろと」

 

 俺は思わず何をやっているんだこの人…と思ってしまう。何故なら虚の話だと…。

 会長は現在簪と喧嘩の真っ只中らしい。と言っても簪が会長を避けているのだが。始まりは会長が簪に“あなたは弱い"と口走ってしまったのが始まりだった。

 それに腹が立った簪は自分一人でも強い、何でも出来ると姉に証明するためにたったの一人でISの製作を始めたのだ。会長も一人でISを作ったと聞いた簪はそれに対抗するために。

 実を言うと会長もISは一人では作っていないのだがそんなことも本人の口から言えずにダラダラ時間が過ぎて姉妹の間に亀裂が走っていったというわけだ。簡単に言うと二人とも不器用なだけなのである。

 

「簪ちゃんはすごいわよ。一人でISを一から作ろうとして……私には出来ないことよ」

 

 俺にはその仲直りの仲裁をしてほしいのことらしいが…………。

 

「そもそも俺なんかでいいんですか?」

 

 そう、それが問題なのだ。家族の問題なのに赤の他人である俺が干渉しても良くないからだ。

 

「蒼星君は無意識みたいだけど、あなた、凄いことしてるのよ」

 

「何をしたっていうですか?」

 

「実を言うと今までかんちゃんのISの製作の手伝いをした人がいないのよ、本人がそれを拒否してね」

 

「え………でも………」

 

「そう、蒼星君は手伝っているのよ」

 

 会長の言うとおりだとじゃあ、何故簪は俺の場合のみにあんなに意図も容易く許可を出してくれたのだろうか………。

 

「だからこそ、蒼星君の協力が必要不可欠なのよ!」

 

 会長自身の問題のはずなのに何故かテンションが上がっている会長。まあ、話を聞いている限り会長は簪と今すぐにでも、仲直りしたい様子だ。

 

「いいですけど………具体的には何をすればいいんですか?」

 

「ぐっ………それは…」

 

 言葉に詰まる。会長は考えていなかったみたいだ。

 

「一つ提案が有ります」

 

 このままでは拉致があかないので俺が考えた解決策を言うことにする。

 

「簪ちゃんと試合をしてください、会長」

 

「試合ねぇ………」

 

「やっぱりこういうのはお互い本気でぶつかりあった方が早いです。それならお互い専用機持ちなんでISで勝負して本音をさらけ出したらいいんじゃないんかと思いますが」

 

「あー、私の名前が出てきたー」

 

 会長がなにかを考えているのをよそにのほほんさんは呑気にそんなことを言っている。そういえばのほほんさんは本音って名前だったはずだ。

 

「まあ…まだIS自体が完成してないんでまだ先になりますけどそれまでには充分時間はあるはずですので………それでは……」

 

 それだけを言い残して俺は生徒会室を出たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長、どうします?」

 

 蒼星が出ていった後、それを確認したのちに虚が尋ねる。

 

「私……やるわ」

 

 楯無はそう宣言した。自分の愛しい妹のためにも真っ正面からぶつかっていくことを決めたのだ。

 

「そうですか、じゃあそれまでにはこれらを片付けておいてくださいよ」

 

 ニコリと笑った虚は楯無の目の前の机の上に大量の書類をどーんと置く。楯無の顔に冷や汗がたらりと流れる。

 

「蒼星君は行ってしまったので会長が頑張ってください」

 

 そう冷たくいい放つ虚を楯無は鬼に見えた。と同時に先程出ていった蒼星を恨むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…………」

 

生徒会室から出て廊下を歩いていたら携帯にメールがきたので中身を確認する。

 

「うわぁー、めんどくせ」

 

 メールの送り主は一夏だった。なんでも分からない 所があるので教えて欲しいとのこと。正直言うとめんどくさいの一言だが仕方がないので一夏の部屋に向かうことにしたのだった。

 女に教えてもらうより男の方が気が楽になるのは共感するのだが、一夏の場合はあまり意識していないと思われる。

 簪には、しっかりメールでそちらには用事が出来て、今日はもう行けないと伝えてある。

 

「おい、一夏。来てやったぞー」

 

「サンキュ、蒼星。助かるぜ」

 

 一夏の部屋へと入った俺は部屋にある椅子を手元に引き寄せて座る。

 部屋内を見渡しても、相方のシャルルがいない。俺は少し気にかかったので尋ねてみることにした。

 

「シャルルはどうした?」

 

「シャルルならシャワーを浴びてるぜ」

 

「そうか。それで、どこを教えてほしいんだ?」

 

「ああ、ここなんだけどさ……」

 

 一夏は自分の鞄から教科書を引っ張り出して俺に見せる。幸い、開かれたページは俺が理解している所なので簡単だった。そのまま一夏と俺だけで勉強していると、ふと何かを思い出したかのように顔を上げる。

 

「───そうだ。シャンプー、切れかけてたんだ」

 

「何故に今、それを思い出すんだよ」

 

「いいだろ別に。それより、シャワー長くないか?シャルルの奴」

 

「シャルルはそういうタイプなんだろ。俺はいいから早くシャンプー届けに行ってやれよ」

 

「ああ、分かった」

 

 立ち上がった一夏はシャワールームに向かっていく。やることがない俺は暇なのでパラパラ教科書をめくったりしておく。

 と、席を立ってから一分もしない内に一夏が部屋に戻ってきた。

 

「蒼星…」

 

「ん?何?なんか宇宙人でも見たような顔になってるぞ」

 

 一夏の顔色は先程とは一変していた。頭に手を添えながらベッドに倒れこむ一夏。

 

「どうしたんだ?」

 

「女子がいた……」

 

(ついに……バレたのか?)

 

 シャルルの男装が一夏にもばれるとは思ってもいたがこんなに早くなるとは思わなかった。だが俺はあえて気づかないふりをしておく。

 どうしてシャルルが男装しているのを断言出来るかと言うと、親友から会長と話している際に届いた一通のメールからだ。

 その内容は───

『ソウともう一人以外に男性操縦者が出たってニュースは流れてないぞ。その三人目は何か秘密でもあるんじゃないのか?

 それよりもそろそろログ───』

 本題は最初だけで、後半になってくるにつれてまったく関係ない話になってくるので省略するとして、俺はその時思った。

 ニュースにシャルルの存在が放映されないのではなく、出来ないからではないかと。そうなるとシャルルは世間に存在がバレないほどの相当な極秘を抱えた人物。もしくは───

 

 ───“女性”だから───

 

 ISを女性が操縦するのは当たり前で、そんな事はニュースになるわけがない。だから、取り上げる必要性はない。

 そうなってくると、シャルルの今までの不審に思える行動も意図が浮かび上がってくる。そして、わざわざ男装までしてIS学園に転入してきた理由も予測が着く。

 

「…そりゃあ、この学園には俺たち以外男はいないんだから全員女に決まってるだろ」

 

「違うんだ……今、そこに女子がいた」

 

「それこそありえない。今この部屋にいるのは俺とお前と、シャワー浴びてるシャルルだけだろ」

 

「そうだよな……やっぱ俺の目がおかしいのかな……」

 

「寝ぼけた事言ってないで、ほら、続きやるぞ」

 

「そうだな、うん。そうしよう」

 

 一夏はベッドから飛び起きて、いすに座り勉強を再開する。数分後、先程一夏が出てきた扉から、シャルルが出てきた。俺はシャルルの格好に息を飲む。

 

「……シャルル、だよな?」

 

「な、何で蒼星もここに……?」

 

「あ、俺が勉強教えてもらいたかったから……」

 

 俺の目の前にいるシャルルは昼間のとはまるで違っていた。結んでいた髪をストレートに下ろし、シャワーを浴びていたせいか頬も紅潮している。何より違っているのは胸の部分が昼間より膨らんでいる事だった。

 予想は的中していた。

 

「シャルル、それ……」

 

「ごめんね。蒼星、一夏」

 

 シャルルは顔を俯かせ、涙声で謝罪の言葉を口にした。一夏は余りの驚きにシャルルの言葉を聞くことしかできない。俺は黙って聞いている。

 

「僕、二人に嘘ついてたんだ……」

 

 彼女の口から明かされる真実が、二人の耳朶を打つ。柔らかな光に照らされるシャルルの顔には、何処か物悲しい表情が浮かんでいた。

 

「男装してたことなら知ってたぞ」

 

「……やっぱりバレてたんだね」

 

「え!蒼星、まじかよ!」

 

「ああ。友達から聞いた限りでは男性操縦者の三人目が出たってニュースはないみたいだったし。それにシャルルの態度も男にしてはおかしいところがいくらか見受けられたからな」

 

 あんなに不謹慎な態度を取られたら分かるだろうと俺は思う。

 

「あはは………分かりやすかったね」

 

 簡単に見破られたのがショックだったのかシャルルは余計に落ち込んでしまう。

 

「だがこれだけは断定出来なかった。シャルルが男装をしていた理由は何?」

 

「なんだと思う?」

 

「まさかの返しでくるのかよ………考えられるのは俺と一夏に接近するためだろうか」

 

「正解……実家の方からそうしろって言われて……」

 

「うん?実家っていうと、デュノア社の────」

 

「そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」

 

 一夏が言ってる最中、シャルルはすぐに頷く。父親からの命の割りにはシャルルは距離を置いたような呼び方をしていた。

 

「父親からの命令、ねぇ……」

 

「命令って……親だろう?なんでそんな───」

 

「僕はね、二人とも。愛人の子なんだよ」

 

 シャルルの発言に思わず絶句する俺と一夏。当然だろう。普通に世間を知る俺達に、『愛人の子』と言う意味の言葉が知らない訳が無い。

 

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適正が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

 あまり言いたくないであろう話しを健気に喋ってくれるシャルル。その事に俺と一夏は、何も言わず黙って話しを聞く事に専念した。

 

「父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あのときはひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

 

「「…………………」」

 

 あはは、と愛想笑いを繋げるシャルルであったが、その声はちっとも笑っていなかった。俺と一夏は何も返さずに無言である。特に一夏からは怒りを表していた。その証拠に拳をきつく握り締めている。

 都合が良いときだけ利用する、使い物回しのような扱いをシャルルは受けているよだ。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「え?だってデュノア社って量産機ISのシェアが世界第三位だろ?」

 

「それは量産機だけを視点においた時だけの話だ」

 

「うん。蒼星の言うとおり、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発っていうのはものすごくお金がかかるんだ。ほとんどの企業は国からの支援があってやっと成り立っているところばかりだよ。それで、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防のためもあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨なことになるんだよ」

 

 以前にセシリアが第三世代型の開発に関していくつか言っていた。

 そういえば、あれは確か訓練中に───

 

『現在、欧州連合では第三次イグニッション・プランの次期主力機の選定中なのですわ。今のところトライアルに参加しているのは我がイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、それにイタリアのテンペスタⅡ型。今のところ実用化ではイギリスがリードしていますが、まだ難しい状況です。そのための実稼動データを取るために、わたくしがIS学園へと送られましたのよ』

 

───と、セシリアが軽く説明していた。恐らくラウラもIS学園にわざわざこんな中途半端な時期に入学したのはセシリアと似た事情だろう。俺と璃里亜もだが。

 

「話を戻すね。それでデュノア社でも第三世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの」

 

「なんとなく話はわかったが、それがどうして男装に繋がるんだ?」

 

「成程。注目を浴びる為の宣伝と同時に、男子である俺達……いや、正確には一夏に近付く算段と言ったところか」

 

「え?蒼星、それって一体……?」

 

 俺が結論を出したにも拘らず、一夏は未だに分かっていなかった。シャルルの説明で大体分かる筈だろう。

 

「早い話、シャルルが男子と偽れば俺達と接触しやすく、更には機体と一夏のデータを取れるかもしれないって事だ。因みに本命が一夏で、俺はあくまでついでの一人ってとこだろ」

 

「俺の?そんなの俺より強い蒼星のデータの方が良いんじゃないか……?」

 

「俺がその立場だったら全く無名である俺なんかより一夏を選ぶ。何しろお前は織斑先生の弟だからな。シャルルの国も方もそう思ってるんだろうよ」

 

「そう、白式のデータを盗んでこいって言われているんだよ。僕は、あの人にね。そして万が一に盗めなかったら蒼星のデータを盗めってね」

 

 シャルルの父親は話を聞く限りでは酷い人だと思う。いくら愛人の子だったとしてもここまで道具扱いにするのはおかしい。

 その人にとってはシャルルは利用価値のある人形とでも思っているのだろう。

 こんなことを言わずともシャルルはちゃんと理解している。その証拠に他人行儀に自分の父親のことを話しているからだ。

 

「とまあ、そんなところかな。でも一夏と蒼星にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……つぶれるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

 

「「…………………………」」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメン」

 

 深々と頭を下げるシャルルに俺は黙って見ていたが、一夏が肩を掴んで顔を上げさせていた。

 

「いいのか、それで」

 

「え……?」

 

「それでいいのか?いいはずないだろ。親が何だっていうんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろう、そんなものは!」

 

「い、一夏……?」

 

「一夏、少し落ち着けって。シャルルが戸惑っているだろう」

 

 戸惑いと怯えの表情をしてるシャルルに俺が一夏を落ち着かせようとするが、当の本人は全く聞く耳持たずだった。

 

「これが落ち着いていられるか!親がいなけりゃ子供は生まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって、親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるか!生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ。それを、親なんかに邪魔されるいわれなんて無いはずだ!蒼星だってそう思うだろう!?」

 

 ここまで言う一夏は珍しい。ただ俺には今の台詞は一夏自身のことを言っているように聞こえるが一夏にも何かあったのだろうか………。

 

「それには一先ず同意するが、取り敢えず落ち着けよ」

 

「ど、どうしたの?一夏、変だよ?」

 

「あ、ああ……悪い。つい熱くなってしまって」

 

 シャルルが加わった事により一夏はやっと落ち着いてくれた。

 

「いいけど……本当にどうしたの?」

 

「俺は───俺と千冬姉は両親に捨てられたからな………つい」

 

「その……ゴメン」

 

「気にしなくていい。俺の家族は千冬姉だけだから、別に親になんて今更会いたいとも思わない。それに蒼星もだろ………」

 

「まあ二人とも病気で、なんだけどな……」

 

「…そうなんだ」

 

 俺の両親は二人ともあの事件が起こっている最中に病気にかかり死んでしまった。俺にとっては恩人とも言える人だったが、あの二人は本物の両親ではないことは知っている。一夏は勿論、璃里亜にも言っていない。けれどあの二人の優しさにはただただ感謝するしかない。今となっては遅い親孝行をするために今の俺は遺言に書かれた事実を確かめている最中だ。

 

『蒼星は、いずれ本当の家族と出会うだろう』

 

 遺言のひと文にそう書かれてあった。それがいつになるのかは分からないがあの二人が言うならば本当なんだろうと思う。

 

「それでシャルルはこれからどうするんだ?」

 

「どうって……時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋とかじゃないかな」

 

「それでいいのか?」

 

「シャルルにも訴えるぐらいの権利はあると思うが?」

 

「良いも悪いもないよ。そもそも僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」

 

 一夏と俺の問いにシャルルが痛々しそうな微笑を見せながら答えた。それには絶望さえ通り越して何かも諦めている。そんなシャルルに俺と一夏は顔を顰めると同時に腹が立った。何も出来ない自分に。

 

「……だったら、ここにいろ」

 

「え?」

 

「特記事項第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

 思ったとおり、一夏はIS学園の特記事項を利用してシャルルを踏み止まらせようとした。けど凄い。さっきまで気持ちが高ぶっていたのに、あの長い特記事項を落ち着いてスラスラと言えるとは。少しでも噛めば代わりに言ってやろうと思っていたのだが、どうやら不要のようだ。

 

「───つまり、この学園にいれば、すくなくとも三年間は大丈夫だろ?それだけ時間あれば、なんとかなる方法だって見つけられる。別に急ぐ必要だってないだろ」

 

 確かにそうかもしれないが、あくまでそれは一時的な物に過ぎない。もし何も方法が無く三年経ったらアウト。それでシャルルの人生が終わってしまうとは言わないが、好ましくない事態になるのは目に見えている。

 言い換えれば問題の先送りにしていることになっているが、他に最善の手段は思い当たらないので何も言わないことにする。

 

「僕がいたら、一夏と蒼星に迷惑かけちゃう……僕はそんな事したくないよ」

 

「別にいいだろ。そんな事」

 

「え?」

 

「俺達が迷惑と感じなきゃ迷惑じゃない。そうだろ?蒼星」

 

「まあ……そうだな」

 

「一夏……蒼星……」

 

 二人の優しさに触れたシャルルは胸に何か熱いものがこみ上がってくるのを感じていた。

 

「ありがとう……ありがとう、二人とも」

 

「別にいいよ、礼を言われる程の事じゃない」

 

 俺が返答したその時、部屋の扉がノックされた。俺と一夏は揃ってシャルルを見る。

 今、この状態を見られるとヤバイことになる。

 

「あー……やばいことになりそうだぞ、一夏よ」

 

「ああ……って落ち着きすぎだろ!シャルル、取り敢えず隠れろ」

 

「う、うん」

 

「何故、タンスの中に隠れるんだ!ベッドのなかでいいだろ!」

 

「シャルルは佳境に弱いみたいだな」

 

「ご、ごめん…」

 

 シャルルがベッドの中に隠れたのを確認したのちに一夏と俺はアイコンタクトを取る。お互い頷いた後に俺はゆっくりと扉に近づき恐る恐る扉を開けた。

 

 

続く──────────────────────────────

 




まだまだ活動報告の方では意見募集していますよ!


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第20話 交差する思い

段々と更新速度が遅れているような予感………


───気にせず、行こう!!(汗)


「あら、蒼星さんですの?」

 

「セシリアか。どうしたんだ?」

 

「ええ。一夏さんと夕食をご一緒しようかと思ったのですが……」

 

「あ、ああ!今ちょっとシャルルの気分が悪くてさ。一夏と俺で面倒見てるんだよ。な、一夏!」

 

 俺は振り返って部屋の中へと声を張り上げる。一夏はどもりながらも俺に合わせた。

 

「あ、ああ!シャルルがちょっとな!シャルル」

 

「う、うん。ゴホッゴホッ!!」

 

(下手だな………)

 

 嘘をつくのが苦手なのか、風邪を引いた真似が恐ろしく下手なシャルル。しかし純真なセシリアはあっさりと騙されてくれたようだ。心配そうな表情をしつつ、部屋の中を覗く。

 

「そうでしたの……それは大変ですわね。お大事になさって下さい」

 

 あえて、シャルルの風邪の件には触れていないような気がする。早く一夏を連れ出したいがために。

 

「そ、それでセシリアはどうしてここに?」

 

「ええ。丁度良い時間なので一夏さんと夕食をご一緒しようかと」

 

「わ、分かった!行く、一緒に行く!!」

 

 慌てて一夏は飛び出した。シャルルの正体がバレないように必死だ。逆にそれが俺にとっては不自然過ぎるのだが。

 

「シャルルの事、頼む」

 

「分かった」

 

「そういえば璃里亜さんに蒼星さんを見つけたら連れてこいと言われていましたわね……」

 

 うわ……セシリアが思い出してはいけないことを思い出したみたいだ……。

 セシリアと目が合う。俺はすぐに逸らした。

 

「蒼星さんも食堂にいきますわよ」

 

「う……ごめん、シャルル。俺も行くとことにするわ」

 

「うん、大丈夫だよ、ゴホッ…ゴホッ」

 

 部屋のなかから聞こえてくる。これ以上やると逆にわざとらしくて怪しいから風邪を引いている真似はやめて欲しいと言いたいが言えない。

 

「俺、後から追い付くから一夏達は先に行っておいてくれ」

 

「分かった」

 

「さあ一夏さん、行きましょうか」

 

 廊下を二人揃って進んでいくのを見送ったあと、俺はゆっくりとドアを閉めて部屋の中に戻る。シャルルは毛布から顔を半分だけ出して待っていた。

 

「もう大丈夫だ。セシリアは行ったよ」

 

「ありがとね、蒼星」

 

「晩御飯は一夏に持ってこさせるから」

 

「うん、わかった」

 

「じゃあ俺も行くから」

 

「……ねえ、聞かせて蒼星」

 

「何を?」

 

「何でそんな風に考えられるの?」

 

「……」

 

「この事を黙ってたら、二人に迷惑がかかっちゃうんだよ?さっきは迷惑に感じなければいいって言ってたけど、何でそんな考え方が出来るの?」

 

 唐突なシャルルの問いに俺は数秒間考え込む。シャルルはじっと答えを待つ。俺は自分の考えをゆっくり話す。

 

「一夏は知らないが…こういうことをすることは俺のモットーなんだよ」

 

「モットー?」

 

「まあ、自分の信念みたいなもの。俺の場合は“後悔しないように始めから全力"ってのをモットーにしてるんだ。だからシャルルのことを庇うのもほんのそれらの一つでしかないんだ。だからシャルルはこの件については気にしなくてもいいぞ」

 

「ありがと………それでも僕は救われたんだ。感謝しきれないよ。それに僕は良いことだと思うよ、蒼星のモットー」

 

「ありがとな」

 

 そう言い残して俺は扉を閉めた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎて次の日の朝になり俺と一夏とシャルルは教室へと向かう。

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

「え、ええーーーーー」

 

 教室に向かっている最中、廊下にまで聞こえる声に何事かと思った。

 

「なんだ?」

 

「さあ?」

 

「さっきの声はセシリアとスズー、それにリリーの声だろうか。あいつらは一体どうしてあんな大きい声を出してるんだ?」

 

 一夏の問いにシャルルは不可解な顔になり、俺も分からなかったが声の主は分かった。因みに今のシャルルは男装バージョンになっている。

 

「本当だってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君か波大君と交際でき───」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

 何だろう。教室に入った一夏が声を掛けただけで、クラスの女子達が取り乱した悲鳴を上げてる。

 

「で、何の話だったんだ?俺の名前が出ていたみたいだけど」

 

「俺の名前も聞こえたような………」

 

「う、うん?そうだっけ?」

 

「さ、さあ、どうだったかしら?」

 

「ど………どうしよ……」

 

 一夏の問いに鈴とセシリアはあははうふふと言いながら話を逸らしている。璃里亜は一人で慌てている。一体どうしたんだ?

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

 

「そ、そうですわね!わたくしも自分の席につきませんと」

 

 二人は逃げるようにその場を離れていった。そして残ったは男子組と璃里亜だけ。

 

「ねえ……ソウ君………」

 

「ん?何?」

 

「あの噂は本当な───────」

 

「璃里亜ちゃん、ちょっと!」

 

「ダメダメ、それ聞いちゃ!」

 

  璃里亜が何かを言おうとしたらクラスの女子達に連行されていった。あまりの速さに俺は口をポカーンと開けているだけだった。

 

「何だったんだ?………一体?」

 

「なんだろうね?」

 

 男子組の疑問は深まるばかりであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼星、少し話がしたい」

 

 昼休みになって俺に声をかけてきたのは珍しく箒だった。朝から箒は暗くなっていたのには気づいていたので何かあったのかとは思っていたがこうして箒から頼み事をしてくるのは数えるほどしかない。といっても内容が全部一夏関連だという。

 剣道の試合をしてから箒にとって俺の扱いはなんか先輩扱いみたいになっているのだがどうしてかは不明だ。

 

「じゃ、屋上にでも行こうか」

 

 俺は席を立ち屋上へと移動した。

 屋上へと着くと、俺は柵にもたれ掛かりながら箒に本題について問いかける。

 

「で、話って?」

 

「ああ…それが…」

 

 それから箒の話をしばらくの間、俺はは頷きを入れながら聞いた。

 判明したことは思わず何度も溜め息をついてしまうほどの内容だった。

 

「…つまり今度のトーナメント、優勝に一夏か俺のデート権が付いてくる。そしてその噂の発端は箒で、箒からすればこの噂は寝耳に水と」

 

「………そういう事だ」

 

「まじかよー………おーーーーい!!」

 

「ど、どうしたんだ……」

 

 頭を抱えて俺は叫んでしまった。そんな怪奇な行動を見た箒はうろたえている。

 

「ああ…だから…リリーはあんなことになっていたのか……」

 

「お、おい……」

 

「ていうか!なんで俺にまで被害を喰らってるんだよ!一夏だけで充分じゃないのか!」

 

「落ち着け!蒼星」

 

 箒にそう言われてはっ!となる蒼星。ふぅー…と深呼吸をしてひとまず落ち着く。

 

「悪かった……思わず取り乱したよ」

 

「ああ…大丈夫か?」

 

「もう今更、言っても変わらないしな。それは置いといてだ。ひとまず一夏がそれを受け取ったかどうかだけど?」

 

「…受け取ったさ」

 

「そうか」

 

 一夏は多分勘違いをして、買い物とかいう結論に至っているだろう。全く、彼女達は一夏の鈍感の恐ろしさを知らないとわかっているはずなのだが何故こうも遠回しに接するのだろうか。

 

「頑張ったんだな」

 

「そうだ。あの1言を言うのにどれだけ勇気を出したか…」

 

 勇気を出すところが違うと思いますが言っても箒には無意味なので言わない。

 

「んで、俺にはどうしろと?」

 

「私に特訓をしてほしい…」

 

「というと?」

 

「私を強くしてほしいのだ」

 

 箒ははっきりと言い切る。俺が箒に近接戦闘のコツとかを教えることは可能だが箒が教えて欲しいのはもっと根本的なものだろう。

 剣道をしている者としてだ。

 だが箒がしているのは剣道であり、俺のしているのは剣術だ。指導してもいいが、まだいろんな面で未熟な箒にはまだ早いと思う。

 

「それはちょっと無理だね……」

 

「どうしてだ!」

 

「俺が箒に教えることは出来ないから。それに剣道ってさぁ…自分との戦いなんだと思う」

 

「それはそうだが………」

 

「ただ助言をすることは出来るから応援はするよ」

 

「本当か!ありがと、蒼星」

 

 箒の喜ぶ姿を見て悪くはないと思った俺だった。話を終えて教室へと戻る。一夏もどこかに行っていたのか教室へと戻ってきた。シャルルは女子達に囲まれて動けなかったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり第3アリーナに璃里亜は来ていたが先客がいた。それも身近にいる人物達。

 

「「あ」」

 

「スズーにセシリアちゃんまで。二人とも特訓なの?」

 

 同じ目的で来たと思われる鈴とセシリアの間にはもう既にバチバチと火花が走っている。

 

「リリーもセシリアも奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

 

「あら、奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ。璃里亜さんは?」

 

「私も特訓。どうしても負けられない理由が出来たんでね」

 

 そう。あの噂が本当だとすると蒼星が誰かにとられてしまう可能性があるのだ。とられるのは言い過ぎだけどそれだけは絶対に食い止めないといけない───

 

「ちょうどいい機会だし、この前の実習の事も含めてどっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

 

「あら、珍しく意見が一致しましたわ。どちらの方がより強くより優雅であるか、この場ではっきりとさせましょうではありませんか」

 

「あ……私、来る場所間違ったみたいだね…」

 

 ───が…………特訓はしたいと思ったいたがそれ以上に二人の火花が散っている中には入りたくない……と離里亜は冷や汗をかいていた。

 

「ちょっと二人とも。今は駄目だよ。決着はトーナメントでつけるとして、せっかくだから三人で一緒に特訓しよ、ね」

 

 璃里亜の説得に二人はどうにか渋々納得してくれたみたいで火花が散らなくなった。

 

「───そうですわね。戦って実力差を見せあうよりも、ライバルと切磋琢磨した方が建設的ですわね」

 

「……うん。トーナメントで当たった時に決着つければいいんだし。今は休戦って事で。それでいいわよね、リリー?」

 

「そうだ────」

 

 「ね」と璃里亜が喋ろうとすると、それを遮るように砲弾が飛来する。

 

「「「!?」」」

 

 緊急回避の後、璃里亜と鈴とセシリアは揃って砲弾が飛んできた方向を見ると、そこには漆黒の機体が佇んでいた。

 機体名“シュヴァルツェア・レーゲン”。登録操縦者は確か───

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 セシリアの表情が苦く強ばる。恐らく以前話していた欧州連合のトライアル関連の事を思い出しているのだろう。そうでなければ、あのセシリアがあのような表情はしない筈だと璃里亜は推測する。

 

「……どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

 連結した『双天牙月』を肩に預けながら、鈴は衝撃砲を準戦闘状態へとシフトさせた。

 

「ふ、二人とも落ち着いて?確かにいきなり砲弾が飛んできたのはびっくりしたけど…」

 

 璃里亜もさっきと同じようになだめようとする。

 璃里亜は争いは苦手であり出来る限り戦闘は避けたいところなのだ。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』、それと日本の『エンドロード』か。……ふん、お前らの第三世代型はデータで見たときの方がまだ強そうではあったな」

 

 いきなりの挑発的な物言いに、鈴とセシリアの両方が口元を引きつらせ、璃里亜はラウラの挑発に乗らずに二人を落ち着かせようとはしているものの、二人には届いていなかった。

 

「何?やるの?わざわざドイツきんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

 

「あらあら鈴さん、此方の方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ?犬だってまだワンと言いますのに」

 

「スズーもセシリアちゃんも落ち着いてって。───ボーデヴィッヒさんも同じ学年の人にそんなことを言ったら駄目だよ」

 

「はっ……。二人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

 そのラウラの挑発とも言える言葉に、鈴とセシリアは頭に来て装備の最終安全装置を外す──が。

 

「ちょっとボーデヴィッヒさん。今のは酷すぎじゃないかなー」

 

 間に仁王立ちする璃里亜。その表情はニコヤカだが目が怖い。

 

「ふん。貴様…あの男の近くにいたやつか。───あいつもヘタレだったが、貴様もそうみたいだな」

 

「なっ…………!私………もう無理………セシリア、スズー誰がやるか決めるよ!」

 

「………いいわよ。どっちでもアタシはいいわよ」

 

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが───」

 

「はっ!三人がかりで来たらどうだ?一をいくら足しても一ずつしか増えん。下らん種馬を取り合うようなメス達にその種馬の相手に、この私が負けるものか」

 

 明らかな挑発で、堪忍袋の緒が切れた二人にはどうでもよく、璃里亜もその発言に完全に怒っていた。

 

「───今なんて言った?あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど?」

 

「場にいない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」

 

「私の悪口はいくら言っても構わない───でもね、あなたには知らないソウ君の悪口を聞いて黙ってられるほど…私は心が広くないんだよ!」

 

 得物を握りしめる手にきつく力を込める三人、それを冷ややかな視線で流したラウラ。

 ──そしてラウラは僅かに両手を広げると、自分側に向けて振った。

 

「とっとと来い」

 

「「「上等!!」」」

 

 今、第3アリーナで幕がおりようとしたしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起動テストかぁ……もう少しだな」

 

「うん………本体はほとんど出来てる……」

やっと簪の専用機『打鉄弐式』の本体が出来たのだ。後は簪本人に乗って操縦してもらって稼働データをとって細かい調整をして学年トーナメントには出れるようにはしておきたいところ。武装は間に合わないので打鉄の初期装備を頼るので火力は不安だがしょうがない所だ。

 

「ロックオンシステムは色々大変そうだなー」

 

「打鉄弐式の中で一番の曲者だと思う」

 

ロックオンシステムが未成熟な上、稼働データもほとんど満足に取れていない。そのため、データ取りは急務だった。

 

「アリーナに行こうか、確か………」

 

「…第4アリーナ」

 

簪に言われながらも目的地へと向かっていく俺。と、行く途中ガヤガヤ生徒達が密集して何かを見ているのを発見した。その中にのほほんさんを発見した俺は何が起きているのかを聞く。

 

「どうかしたのか?」

 

「今、第三アリーナで代表候補生同士が模擬戦やってるんだって~」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

一先ず、簪の所へと戻る。後ろからのほほんさんも付いてきた。

 

「第三アリーナって言うと……一夏達が特訓している所か?」

 

「でも……凰さんとオルコットさんが模擬戦するだけでこんなに人が集まるなんて、考えにくい」

 

「リリーも行くっていったよー」

 

「じゃあ、リリーと戦ってるのか?」

 

「あ、それにボーデヴィッヒさんも見かけたよ」

 

「そう言えば……ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツの代表候補生、だったはず……」

 

「それじゃ、戦ってるのはスズー達とボーデヴィッヒさんだってのか?」

 

「寄ってみたらいいと思う」

 

何か嫌な予感を感じながらものほほんさんを連れて三人で第3アリーナに行った。

 

「「「!!!」」」

 

「いまのは?」

 

「…爆発音」

 

第3アリーナから爆発音が聞こえてきた。ただ事ではなさそうな事態になっていたら大変だ。

慌てて階段をかけ上がり、上空の爆発した場所に視線を向けると、その煙を切り裂くように影が飛び出してくる。

 

「……リリー!?セシリア!スズー!!」

 

特殊なエネルギーシールドで隔離されたステージから此方に爆発や衝撃波が及ぶことはない───が、此方側からの声も三人には聞こえない。

セシリア、鈴は苦い表情のまま視線を爆発の中心部へ、璃里亜は直ぐ様体勢を整えると二人が視線を向けている中心部へと銃剣を構えたまま突撃していった。

その爆発の中心部にいたのは、漆黒のIS“シュヴァルツェア・レーゲン”を駆るラウラの姿だった

よく見ると、突撃したのISは翼の形をしたブラスターはボロボロ、セシリアと鈴も璃里亜程ではないがISにかなりのダメージを受けていた。

 

「リリー、あの時とは違うねー」

 

のほほんさんはそう言うがそれもそうだ。璃里亜の戦闘スタイルは二人を庇いながらも必死に足掻いているからだ。

辺りを見回すと同じようにくいるように見つめている一夏、箒、シャルルがいたので直ぐ様駆けつける。

 

「一夏、これはどうなってるんだ!?」

 

「蒼星!俺も来たらこうなっていて……ってその子誰だ?」

 

一夏の言ったその子とは俺の後ろにいる簪のことだが今はそんなことは言っていられない。

三対一の模擬戦だが、明らかに追い込まれているのは璃里亜、セシリア、鈴達だった。

 

「くらえっ!!」

 

鈴のIS“甲龍”の両肩が開く。

そこに搭載されている第三世代型空間圧作用兵器・衝撃砲『龍咆』の最大出力攻撃だ。

当たりかたが悪ければ専用機のアーマーも破壊し、訓練機だとそのまま沈められるかもしれない危険性を含んだその砲撃を、ラウラは回避行動をとろうともしなかった。

 

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

右手を鈴の方へと突き出すラウラ、放たれた衝撃砲による一撃が本来なら当たるはずが、その攻撃はいくら待っても届くことは無かった。

 

「くっ!まさかこうまで相性が悪いだなんて……!」

 

見る限りではバリアー等を展開しているようには全く見えない、だが衝撃砲が無力化されているのも事実だ。

そして、そのまま攻撃へと転じるラウラ。

肩に搭載された刃が左右一対で射出、鈴のISへと飛翔する。

その武器は本体とワイヤーで接続されているためか、複雑な軌道を描いて鈴の迎撃射撃を潜り抜け、鈴の右足を捕らえた。

 

「そうそう何度もさせるものですかっ!」

 

「私だって…まだまだ動けるんだよっ!!」

 

鈴の援護のため、射撃を行いつつビットを射出、ボーデヴィッヒを包囲するように向かわせる。

璃里亜も銃剣を銃モードに変型し、援護射撃を行った。

セシリア、璃里亜による十字砲火による射撃を交わしつつ、先ほどと同様に腕を突き出す、だが今度は左右同時であり、その交差させた腕の先では目に見えない何かに捕まれたかのようにビットと、拳銃の弾丸がその場で固定されたように止まった。

 

「動きが止まりましたわね!」

 

「貴様もな」

 

セシリアの正確な射撃、だがボーデヴィッヒの肩の大型カノンの砲撃で相殺されてしまう。

 

「私も忘れないでね!」

 

「なっ!いつの間に!」

 

背後を璃里亜に取られたラウラは思わず慌ててしまうがすぐに落ち着きを取り戻し背後を振り向くと同時に右手をつき出す。

セシリアは直ぐ様連続射撃に移行しようとするが、ラウラは捕まえていた鈴音をぶつけて阻害した。

 

「きゃああっ!」

 

「セシリアっ!スズーっ───」

 

「貴様、なにか使っているのか?この私が先程から見失うことが多いが……」

 

璃里亜はもしかしてエンドロードの第3兵器の一部を使っているか……。

ラウラは璃里亜はワイヤーで掴んで飛ばしてから二人を攻撃し出す。鈴とセシリアはラウラの展開するワイヤーブレードに捕まり、身動き一つ取れない。対するラウラは二人に拳を打ち込み続けている。やり過ぎなのは火を見るより明らかだった。

 

「止めろおおおおっ!!」

 

その時、光と共に観客席のシールドが破れ、隣にいた白式を纏った一夏がアリーナに躍り出た。

 

「俺も行く、簪ちゃんはここにいて」

 

俺も即座に麒麟を展開してアリーナに出る。

 

「一夏、鈴とセシリアを運べ」

 

「分かった」

 

ラウラに突進した後、即座に離脱した一夏は俺の電子流砲でラウラを動かした隙をついて鈴とセシリアを回収してその場を離れる。一安心する俺を余所にラウラはレールカノンを璃里亜の方へと向けていた。

 

「これで終わりだ」

 

璃里亜は壁にもたれ掛かるようにして動けそうにない。だったら………。

 

「おりゃああぁぁ」

 

ムーンへライトを盾代わりに使いどうにか璃里亜に攻撃がいかないようにする。

 

「…ソウ君……」

 

「リリーは休んでな……」

 

「ふんっ…すぐに貴様もあいつらと同じ目に逢わせてやる」

 

ラウラは右手を俺につき出す。動きを止めるあれをするつもりだろうが甘い。

 

「そうはさせないよ!」

 

シャルルの援護射撃が入り、ラウラも思わずその場を退避する。

 

「シャルル、助かった」

 

「いやいや、当たり前のことしただけだよ」

 

「あと、リリーを運んでやってくれないか?」

 

「え!でも、蒼星一人で相手にすることになるよ」

 

「大丈夫だ、心配ない」

 

シャルルはまた何かを言おうとしたが俺の真剣な眼差しを見て小さくため息をつく。

 

「分かった、でも気を付けてね」

 

「ああ。感謝するよ」

 

シャルルは璃里亜を担いで鈴達の所へと運んでいった。目の前に対峙しているラウラはなにもしてこない──

 

「貴様、どういうつもりだ、この私に一人で挑もうとは、アホだな」

 

「そうだ。お前にはアホ一人で充分だからな」

 

「なっ…貴様、その減らず口も叩きのめしてやる!」

 

「やってみろやぁ!軍人野郎ぉ!」

 

麒麟対シュヴァルツェア・レーゲンの戦いが今、始まった。

 

 

続く──────────────────────────────

 




よし!早く次の話を仕上げる!

閑話もいつか投稿する!………………(はず)


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第21話 学年トーナメント

遂に蒼星の過去編になるSAOでの話を別作品で投稿し始めました。勿論、同じ筆者です。もし、良ければそちらの方もご覧ください!!

───とっとと、行こう!!


 一夏はすぐにセシリアと鈴を安全な場所へと移動させる。一夏が見る限り、重傷を負っているようには見えないが心配をすることに変わりはない。

 

「セシリア、鈴、意識はあるか?」

 

「う…一夏……なんとか」

 

「一夏さん…無様な姿を……お見せしまいましたわね…」

 

 二人の反応に一夏は安堵の表情を浮かべる。本当に無事のようでなりよりだ。

 

「……リリーはまだなの?」

 

 周りを確認した鈴がそう尋ねる。一夏はラウラと応戦している蒼星達の方へと目を向ける。と────

 

「一夏!」

 

「シャルル!そうかシャルルが運んでくれたのか」

 

 シャルルがこちらに璃里亜を抱えながらきた。璃里亜の意識はなんとかあるがとても弱々しい……。

 

「シャルル君、もう大丈夫…」

 

 それだけを言うと璃里亜はシャルルに下ろしてもらいその場に立つ。

 

「大丈夫なのか?」

 

 あの二人もなんとか意識を持たせているのに璃里亜はそう感じさせないほどの余裕さがあった。と言っても普段よりは弱々しいが───

 

「それよりも……ソウ君が……」

 

 自分よりも幼馴染みの心配をする璃里亜の視線の先には二機のISが入り交じって交戦していた……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなものか?軍人さん」

 

「ぐっ………好き放題言うな」

 

 俺はラウラの放つ砲弾を回避して動きを停止させる装備も効果範囲が及ばないほどに距離を取る。二人の間に平行状態が続く。そんな状況にラウラは目の前の敵に攻撃が当たらないことに自身のプライドを傷づけていた。

 だが、同時に俺も密かに焦っていた。ラウラの決定打と言えるものは受けてはいないが逆にこちらも攻めることが難しくなっているからだ。やはり電子流砲のみの戦闘だとラウラのISに攻撃を与えることは難しい。故に俺は勝負に出る。

 

《ユカ、エネギア10個展開して》

 

《パパ、分かったよ》

 

 エネギアを展開する。こうしたのにも理由がある。何故ならラウラの動きを止める───いやどちらかというと拘束する停止結界にある。あれはラウラが意識して拘束ることが出来るみたいだ。でも逆に言うと目の前の物にしか影響させることが出来ないのでエネギアによるあちこちからの同時攻撃にラウラは対処できないはず。

 

「君のそのAICは同時攻撃を止めることは出来るのかな?」

 

「貴様………黙れ!」

 

 揺さぶりをかける。ラウラの反応を見る限り予想通りだと確信する。AICに止められても構わないので麒麟のブースターを使って正面から攻めようとする。がラウラは俺よりも先に動いた。プラズマ手刀で俺に振り降ろす。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「……織斑先生」

 

 ───振り下ろされたラウラの一撃を受け止めたのは俺ではなく織斑先生だった。

 しかもその姿は普段と同じスーツ姿で、ISの装着どころかISスーツさえ着ていなかった。

 ───だがその手に持っているのはIS用刀型近接ブレードであり、その長大なブレードをISの補佐無しで軽々と扱っていた。

 

「……模擬戦をやるのは構わん。───が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「……教官がそう仰るなら」

 

 そう素直に頷いたラウラは、ISの装着状態を解除した───と同時に俺も装着を解除し、アリーナへと着地した。

 

「波大、織斑、デュノア、お前たちもそれでいいな?」

 

「了解しました」

 

「あ、ああ……」

 

 そう間の抜けた返事したのは先程戻ってきた一夏だ。

 

「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」

 

「は、はい!」

 

 一夏のここの所はどうも直らないらしい。

 

「僕も…それで構いません」

 

 返事をし直した一夏に、シャルルも追従する形で返事をした。

 その言葉を聞いて、織斑先生は改めてアリーナ内全ての生徒に向けて言葉を言い放った───

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 そう言い放つと、織斑先生が強く手を叩きアリーナ中に強く、鋭く鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一時間が経過して現在俺は保健室へと来ている

 あの後、簪の専用機の起動テストをどうするかを二人で話し合った結果後回しにした。後日にすることにして今は三人の容態を心配することにしたのだ。さすがにあの後でやるのは気が重いと考えていた俺を簪は気遣ってくれたのだろう………ありがたい……。

 ベッドの上では治療を受けて頭部や腕、脚に包帯が巻かれた璃里亜、セシリア、鈴の三人が居てる。

 ────ただ璃里亜は表情が若干暗く、セシリアと鈴は若干膨れっ面になりながら視線を別方向へと向けていた。

 

「……別に助けてくれなくてよかったのに」

 

 ───と、鈴は此方に視線を向けず壁側に顔を背けていた。

 

「……あのまま続けていれば勝っていましたわ…」

 

 ───セシリアも、鈴とは反対側の壁の方へと顔を背けている。

 二人がこんな態度をとっているのは俺の隣に一夏がいるからだろう。思い人に恥ずかしい姿を見られるのは嫌だから誤魔化している。因みに簪はのほほんさんと一緒にどこかに行ってしまった。打鉄弐式の調整でもするのだろうと思われる。

 

「ありがとね、助けてくれて」

 

 そんな二人とは対称的にお礼を述べる璃里亜。だがいまだに表情は暗い。

 

「リリー、なんでそんなに落ち込んでるんだ?」

 

「だって…私………」

 

 俺の質問にそれ以上何も言わない璃里亜。だが言いたいことは分かった。自分の力で何も出来なくて悔しかったのだ。せっかくの力を無駄遣いして本番にはまったく出せなかったことに璃里亜自身腹が立っているのだ。

 

「まあまあ。でも、3人の怪我が大した事無かったみたいで良かったぜ」

 

 改めて言う一夏だったがそれに反論する二人がいた。

 

「こんなの怪我の内に入らな───いたたたっ!」

 

「そもそもこうやって横になっている事自体無意味───つううぅっ!」

 

(馬鹿なんだろうか………)

 

「バカって何よ一夏! アンタの方が馬鹿じゃない!」

 

「一夏さんこそ大馬鹿ですわ!」

 

「うわ、織斑君ひどっ!」

 

「また心読まれた!」

 

「お前は分かりやすいんだよ……」

 

 と、順に鈴、セシリア、璃里亜が声を荒げた。

 そして、保健室のドアが開くなり入ってきたのは飲み物を抱えたシャルルだ。

 

「好きな人達に格好悪い所を見られたから、恥ずかしいんだよ?」

 

「ん?なんだって?」

 

 さっきのシャルルの言ったことに何故か聞こえていない一夏。よくこういう特殊能力が発生しているが大丈夫かよ…こいつ…と、つい思ってしまうことが多々ある。

 

「なななな何を言っているのか全然分っかんないわね!こここここれだからヨーロッパ人って困るのよねぇっ!」

 

「べべべべ別に私はっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」

 

「私の場合はもうたくさん見られてるから今更なんだよね……………」

 

 二人は顔を赤くして否定する。璃里亜は余計に落ち込む。

 

「あはは…はい、ウーロン茶と紅茶。それに緑茶。これ飲んで落ち着いて、ね?」

 

「ふ、ふん!」

 

「不本意ですが頂きましょう!」

 

「ありがとー、シャルル君」

 

 三人は渡された飲み物を受けとると、そのまま一気に飲み干していく。

 ───余程喉が乾いていたのだろう、あっという間に空になっていた。俺はタイミングを見計らって璃里亜に近づき話を切り出す

 

「なあリリー。あいつらがさあ久し振りに会おうって言ってるけどさぁ今度行くか?」

 

「え!本当に!?」

 

「まあ時間があえばの話だけどな」

 

 いつまでも璃里亜を落ち込むさせるわけには行かないので話の話題を変える。それも璃里亜が楽しみにしている話にすることで璃里亜の機嫌も良くなる。

 

「ま、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってるし、暫く休んだら───」

 

 と、シャルルの言葉を遮るように地鳴りみたいな音が聞こえてきた。

 

「な、何なんだ?」

 

「うわ………嫌な予感しかしない……」

 

 そうして揺れが近付いてくるのを聞いていると勢い良く扉が文字通り吹き飛ぶ。扉を吹き飛ぶ所を見たのは初めてだ。そりゃそうだろう………普通の光景では目にしないものだからだ。

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「波大君!」

 

「な、何だ何だ!?」

 

「み、皆どうしたの!?」

 

「「「「「「これ!」」」」」」

 

「なになに…」

 

「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、2人組で参加を必須とする。尚、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締切は───』」

 

「ああ、そこまででいいから!」

 

「「「「「「私と組んで!」」」」」」

 

 全てを読み終える前に告知文を没収され、一斉に一夏やシャルルに向かって伸びていく女子の手───そして、俺にも手が伸びてきていた。

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

「私と組もうよ、波大君!!」

 

 それよりもだ、シャルルが女の子なので他の女子と組むと色々不味いことになりそうな気がする……。

 

「悪いな、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

「まぁ、そう言う事なら…」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし…」

 

「男同士って言うのも絵になるし…」

 

 先手を打った一夏はシャルルと組むことになり特に反対しない女子達。すると俺の方に目線が注目していき───

 

「だったら波大君!」

 

「優勝目指して!」

 

「私と組んで!」

 

「いや、俺はもう組む人決めてあるから」

 

「え……それってもしかして………」

 

「教えてほしいのか?」

 

 女子達は同時にうん!と、頷く。

 

「四組の更識さんだが?」

 

「それなら…………」

 

「大丈夫よね……」

 

 何が大丈夫なのかは分からないがとにかく納得してくれたみたいだ。女子達は保健室を出ていき保健室が静かになる。と思ったら今度は室内の方から───

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

「あ、あたしと組みなさいよ! 幼馴染でしょうが!」

 

「いえ、クラスメイトとしてここは私と!」

 

「駄目ですよ!」

 

 二人の言葉を遮ったのは保健室に入ってきた山田先生だった。

 

「えっとお2人のISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。あ!遠堂さんのISのダメージレベルはBだったので大丈夫ですよ。二人の場合は当分は修復に専念していただかないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ?ISを休ませる意味でも、トーナメントに参加は許可出来ません」

 

「うっ、ぐっ………!わ、わかりました………」

 

「不本意ですが…非常に、非っ常に!不本意ですが!トーナメント参加は諦めます……」

 

「分かってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分で支払う事になりますからね。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念な事です。あなた達にはそうなって欲しくはないですからね」

 

「はい………」

 

「わかりました………」

 

 渋々引き下がる二人。だがまだ引き下がらない人がいた。

 

「ソウ君!更識さんと組むって本当なの!?」

 

「本当だ。本人に頼まれたからな」

 

 簪に頼まれたのは先程話し合った時にだ。特に反対する理由もなかったので俺は快諾したのだった。簪が密かにガッツポーズをとっていたような気がするが………そんなに嬉しいのだろうか……。

 

「うぅー…………ソウ君がいじわるだ!」

 

 自分が選ばれなかったことで不機嫌に戻ってしまう璃里亜。ぷくっーと頬を膨らまし顔を背け出した。

 

「はぁ……しょうがない……もしリリーが俺に勝ったら俺のこと一日自由にしていいから…」

 

「本当?!本当だね!」

 

 取り敢えずこう言っておけば後はどうにかなる………多分………。

 

「話は変わるけどさぁ、なんで鈴とセシリアと璃里亜はラウラと戦うことになったんだ?」

 

 さっきシャルルに何か難しいことを教えられていた一夏がそう言う。

 と、彼女達はギクッとあからさまに態度が変貌した。

 

「え、いや、それは……」

 

「ま、まあ、何と言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」

 

「なんでって……向こうが────ふぐっ」

 

「黙っててくださいまし!」

 

 セシリアが璃里亜の口元を封じて言わせないようにしている。どうせ一夏と俺の悪口でも言われたからそんなことになったんだろうと思うが……。

 

「ああ。もしかして蒼星や一夏の事を───」

 

「あああっ!デュノアは一言多いわねぇ!」

 

「そ、そうですわ!まったくです!おほほほほ!」

 

 今度は鈴がシャルルの口を封じようとする。

 口を覆われたシャルルは苦しそうにもがいている。

 

「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎだぞ。ほれ」

 

 そう言って一夏は鈴とセシリアの肩を指でつつく。

 

「「ぴぐっ!」」

 

 痛みが走った二人は変な言葉かつ甲高い声を上げて、その場で凍りついた。

 

「ソウ君、私もやって?」

 

「なんでだよ!」

 

「…………けち」

 

「俺、なにもしてないよね!」

 

「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」

 

 鈴とセシリアの沈黙と恨みがましい視線に一夏はすぐに謝る。璃里亜が変なことを言ってくるが俺は相手にしない。

 一夏の後のことが残念なことになるがどうでもいいので俺は保健室を出たのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『学年トーナメント』

 

 それは全校生徒が参加するIS学園独自のイベントである。女子達は各自にそれに向けて色々準備をしたり、またはめんどくさいと感じたり、目標を立てたりしたりと様々である。

 学年ごとにトーナメントを組まれるので大掛かりなイベントになる。それも何日間かけて。それはあまり関係ないが今回の学年トーナメントはいつも以上に気合いが入っていた。

 何故なら優勝したものには“男子の誰かと付き合える"という特典付きだからだ。2,3年生はどうなるの?という先輩からの意見も飛び交っている。こんな機会は滅多にない。しかも誰でも狙える絶好のチャンスにほとんどの女子達が張り切っていた。

 そこに一つのルール変更が入り込んだ───それは急遽、タッグ戦に変更するという今までにはない異例の事態だった。何故こういうことになったのかと言うと学園側の意図は単にこの前の無人機襲来があったので今回も何かあった際に出来る限り人数がいたほうが良いという判断からだ。

 そんなことは露知らず女子達は一夏派、蒼星派、シャルル派に別れてお互いに重なりあわないようにタッグを組んでいった。優勝したときに取り合わないようにするためだ。噂は本当になっているが一夏とシャルルはそんな事は知らないのに急にそんなことにされても困るだけなのだが今更になってどうすることも出来ないので流れに任せることに蒼星はしていた。

 タッグと言えば………ときたところで1,2組の生徒はある事を思い出した。それもとても重要な事だ。

 それは蒼星と璃里亜にタッグを組まれたらやばい!ということ。

 あの二人のコンビネーションを目の当たりにした生徒はそう焦りを感じた。というかほとんど組む可能性が高いのだ。

 専用機持ち達はリミッターをかけられるので性能では訓練機とほとんどなんら変わらない。まあ、一夏と言う例外もいるが。

 なので勝負の決めてとなるのは操縦技術とお互いのコンビネーションが鍵となる。操縦技術は一年生の間ではまだそんなに訓練しておらず専用機持ち以外ではそんなに差がないので必然的にコンビネーションがどれだけ取れるかに勝敗が変わってくる。

 けれどあの二人は組ませたら無敵といってもいいレベル。あれに対抗するために今から特訓しようがもう遅すぎる。だから根本的にあの二人のタッグを組ませないことに生徒達はしたのだ。

 この女子達にとってある意味危機な情報はすぐに広まる。そして直ぐ様、行動を開始したIS学園の生徒達。色々模索したところで保健室に男子達が全員いるのが判明した。

 ………ということで突入。

 結果、扉を突き破ってしまうほどの勢いだった(後で織斑先生に怒られそう……)がそんなことは関係なしにと単刀直入に本題に入る。一夏はシャルルと組むとなったがこれはこれで一部の女子達は大喜び。ほとんどの生徒の納得にいく選択だった。だが、まだ終わっていない。蒼星が誰と組むということだ

 

「俺もう組む人決めてあるから」

 

 この言葉を聞いた女子達は終わりと絶望的な何かを感じた。その相手が璃里亜だと自分達が優勝できる可能性が大幅にダウンしてしまう。女子達はどうにか蒼星のタッグの相手が聞き出そうとしていた。

 と、本人からそう言ってきてもらえるようだ。女子達は絶望を感じながら───同時にもしかしたら……の可能性をかけて耳を傾ける

 

「四組の更識さんだが?」

 

 思わず女子達は安堵のため息をつく。そして良かったぁー!と心の中で全力で喜ぶ。だが顔に出してはいけない。とにかく目的は達成されたので女子達は軽い気持ちで保健室から去っていった。

 

「ちょっと待って…更識さんって確か………日本の代表候補生だったよね……」

 

 誰かがそう言った瞬間空気が固まった。一気にその場の温度が下がったような幻覚さえ覚える。

 こうして女子達の苦労はほとんど意味をなさなかったのである────────

 

 

 

 

 

 

「………一つお願いがある」

 

 起動テストはまた後日にすると決めて一段落ついた時に簪は改まってそう言う。

 

「何かな?」

 

「私とタッグを組んでほしい」

 

 ここまで蒼星にはっきりと言ったのは初めてだった。簪は恥ずかしくなり顔を俯ける。そして目の前の人からの返事を待つ。

 

「タッグって言うと……学年トーナメントのやつか?」

 

 「うん……」と簪は俯きながら答える。

 

「いいよ」

 

 蒼星はあっさりとそう答えた。何故蒼星が既にタッグの事について知っていたのかと言うと部屋で蒼星は会長に教えてもらったからだ。

 予想外のあっさりさに簪は顔を上げて蒼星を見つめる。そしてつい一番の不安要素について尋ねてしまう。

 

「遠堂さんは………」

 

 てっきり蒼星は璃里亜と組んでいると簪

は考えていたので断られる覚悟までしていたのにこれはこれで驚きを隠せない。

 

「ああ……リリーともいいけど……まだあの時の決着もついてないからね……」

 

 あの時が何を指しているのかは簪は分からなかったがそんなことよりも嬉しさで胸が一杯になる。こんなに嬉しいと思ったのは久し振りだ。すっかり忘れていた感情に浸されながら簪は思わず手を握りしめガッツポーズを小さくとった。

 一人の少女の小さな勇気が叶った瞬間だった───

 

 

続く──────────────────────────────

 




蒼星のパートナーは離里亜と見せかけてのまさかの簪ちゃん。
因みに蒼星と離里亜が対戦する可能性は低いです。筆者の実力不足なもので………すみません。


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第22話 トーナメント始動

もうそろそろ2章も終盤ですかね。まぁ、ほとんどここら辺は原作通りになってるんで、3章からは力を入れていこうかと。

───試合、開始!!


 本日は晴天なり………。

 

 今日はいよいよ学年トーナメント本番の日になった。朝からIS学園は騒がしく全生徒が慌ただしく準備をしていた。

 という俺も成り行きというかなんというか生徒会の一員になっているので会長に連行されて書類の作業や一般生徒への指示だし、先生方の連携等を任されてしまい色々忙しかった。さらに力仕事などは殆どが俺に回されて試合前からくたばりそうな勢いだった……。

 それらが終わった生徒達は皆、各アリーナへと移動していく。俺も男子専用となっているアリーナへと移動する。

 俺と一夏とシャルルしかいないのに無駄に広いアリーナでは空虚な感覚を覚えてしまう。一夏とシャルルは悠々と使っているが女子達の方は窮屈そうに使っていることだろう。気の毒なことだ。

 

「しかし凄いなこりゃ………」

 

 一夏は観客席を映し出しているモニターを見ている。

 確かに一夏がそう言うのも頷ける。観客席は殆どが埋まっており来賓の人もたくさん来ており各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々のお偉いさん達が一同に会している。

 名前は………殆ど分からない。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

「ん?一夏、他人事のように言うことか?まぁ、そんなの関係なしに一夏にはチェックは入っていると思うぞ。なんたってあのプリュンヒルデの弟だし」

 

 “プリュンヒルデ”とはIS操縦者の最強の証である称号である。それを持っているのは織斑先生なのだ。故に弟にも期待が寄りかかるというわけだ。本人からしたら迷惑なことだろうけど……。

 

「それはそれで嫌だな……」

 

 いつもの反応とは少し違う一夏。興味がないのだろうかそれとも何か別のことを考えていて返事が曖昧になっているのだろうか………多分後者だろう。

 

「蒼星もなんじゃない?」

 

「俺の場合は何もないからな、ついで程度なんじゃないか」

 

「そうかな?」

 

「それも大した実力もない奴だから放っておけとか思ってるんじゃないのか」

 

「蒼星でそう言われるなら俺は一体どうなるんだよ!?」

 

「そうだよ、もう少しポジティブに考えたらいいよ」

 

 俺はあまり考えずに言ったのだが二人はお気に召さなかったみたいだ。

 

「やっぱりスズーとセシリアは不参加か」

 

「………そうみたいだ」

 

 話題を変えると一夏はすぐに顔を顰めながら頷く。

 この前のラウラ戦で、二人のISのダメージが酷かったから辞退せざるを得なかったようだ。璃里亜はなんとか無事だったので今回は参加してある。というよりも意気揚々に学年トーナメントを楽しみにしていた。

 話を戻して、普通の生徒ならいざ知らず、あの二人は国家代表候補生であり専用機持ちだから、今回のトーナメントが出れないどころか参加すら出来ないのは立場上として悪くなるだろう。

 それはそうと璃里亜のタッグの相手は誰になったのか気になった俺は璃里亜に聞いてみたのだが本人は教えないと口をそれ以上開いてくれなかった。まあ、相手が誰であろうと善処するしかないがな────

 

「二人の分まで頑張りますか」

 

「そうだね、僕たちが頑張らないと」

 

「ああ………」

 

「でも一夏はボーデヴィッヒさんとの対決が気になるみたいだね」

 

「当然だ。売られた喧嘩で鈴とセシリアと璃里亜が怪我したんだ。その借りはキッチリ返す」

 

「その意気だけど、あくまで最近の訓練で身に付けたコンビネーションは付け焼き刃に近いからな。油断するなよ」

 

「おおう!分かってるよ」

 

「でも気を付けていこう。ボーデヴィッヒさんは1年の中で蒼星と同じくらいかそれ以上に強い筈だから」

 

「いやー…照れるねー…」

 

 シャルルに褒められて俺はちょっと鼻が高くなった。

 

「ああ、わかってる」

 

 俺のボケはスルーされてしまったが…何かこの二人、更に親しくなっている感じになっている。まぁ同室だから、今の二人は親友以上恋人未満と言ったところだろう。  尤も、シャルルとしては一夏の恋人になりたいと思っているんだろう。儚く遠い夢だが。

 時折、一夏に恋する乙女のような視線を送ってる。俺でも遠くから見ても分かるほどに。

 そんなシャルルに一夏は全く気付いていないけど。

 逆に尊敬するに値する、一夏よ。

 

「さて、こっちの準備はできたぞ」

 

「僕も大丈夫だよ」

 

「よし」

 

 一夏、シャルル、俺はISスーツへの着替えは済んでいる。一夏と俺はIS装着前の最終チェックをし、シャルルは男装用スーツの確認を終えた。

 因みにシャルルのスーツはボディラインの肉付きを男のそれに見せる仕組みだそうだ。ISスーツって色々と便利な物だなとつくづく感じる。

 

「そろそろ対戦表が決まるはずだよね」

 

 どう言う理由かは分からないが、突然のペア対戦への変更をされてから従来まで使用してたシステムが機能しなかったみたいだ。 本来であれば前日に出来ていたはずの対戦表が、今朝から生徒達が作っていた手作りの抽選クジで決める事になった。俺も少し手伝わされた………。

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」

 

「え?二人ともどうして?」

 

 一夏の台詞にシャルルが何故かと尋ねると、一夏が答える。

 

「待ち時間に色々考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。出たとこ勝負、思い切りのよさで行きたいだろ」

 

「ふふっ、そうかもね。僕だったら一番最初に手の内を晒すことになるから、ちょっと考えがマイナスに入っていたかも」

 

 視野が広いシャルルらしい考えだと思う。確かに相手が先に手の内を見たら対策を立てられて逆に不利になる事もある。俺もそれに賛成だ。

 それとは逆に一夏の方は単純だと思われるだろうが、別にそれはそれで間違っていない。下手に考えすぎて警戒して挑んだら、大して力を出せないまま負けると言うオチになる。まあ一夏らしいと言えば一夏らしいが……。

 

「俺は嫌だな……」

 

 戦闘になると、どれだけ相手の情報を掴んで隙を突けるかが勝敗を分けると言っても過言ではない。故に俺はどうしても相手のことを何も知らずに立ち向かうと、どうしても引きぎみになってしまう。

 

「どうしてなんだ?」

 

「やっぱりいきなりは苦手意識を持ってしまうだよな…俺」

 

「へぇ~…そうなんだ」

 

 シャルルは俺の発言が意外だったのか深く頷いている。俺は気にせずモニターを見ていると、さっきまで観客席が映っていた画面が切り替わった。

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

 画面が変わった事にシャルルも気付き、一夏も食い入る様に見つめると、

 

「「────え?」」

 

「運命を感じるな」

 

 出てきた文字を見て、一夏とシャルルは同時にぽかんとした声をあげ、俺は少し驚きながら声を上げた。

 一回戦で一夏とシャルルの対戦相手がラウラそれに抽選で選ばれた箒だったからだ。

 

「で、俺はっと…………」

 

 目線を横にずらしていき俺の名前がどこにあるかを探していく。

 

「あった、あった────って………マジかよ」

 

 俺の名前はすぐ近くにあった。簪の名前も俺の隣にある。対戦相手は四組の生徒だったはずの名前が書かれていた。

 さらにその隣には璃里亜の文字。

 だとすると、ぶつかるのは一回戦を突破して二回戦目ということになる。するともう一人は……………。

 

「のほほんさんかよ」

 

 そこには“布仏本音”の文字があった。あの二人は仲が良かったのもあってこういうのでも息が合うのだと璃里亜は考えたのであろう。確かにそっちの方が俺としてもやり易いし実力よりもそちらを選択したと思うが……なんというか簪もやりにくいだろう…自分のメイドが対戦相手だと一体どんな気持ちなんだろうかな…。

 

「蒼星は二回戦目が本番か」

 

「ああ……一夏頑張れよ」

 

「任しとけ、絶対に勝ってやる!」

 

 一夏がそう宣言する。と、更衣室の扉が開いて一人の少女が入ってくる。

 

「波大君…迎えに来た…」

 

「簪ちゃん?どうしたんだ?」

 

「最後の仕上げをするからきてほしい…」

 

「そうだな…分かった、行くよ」

 

 俺は一夏とシャルルに別れを告げて更衣室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか一戦目で貴様と当たるとはな、織斑一夏。待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 アリーナのフィールドで相対する一夏とラウラ。隣にはそれぞれシャルルと箒が居た。試合開始のブザーが鳴る。

 

 3…2…1…ビーーーーーーーーーーーー!

 

「「叩きのめす!!」」

 

 一夏とラウラは同時に飛び出した。一夏は瞬間加速を使い、ラウラはその一夏を見て右手を出す。その動作でAICが来るのは分かっているが避けることは不可能と一夏は判断する。

 

「───開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

 

「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」

 

 ラウラがそう言った直後、シュヴァルツェア・レーゲンに装備されている大型カノンがガキンッと巨大なリボルバーの回転音が轟いた。

 動きが完全に止まってる一夏に大型カノンが狙いを定める。これにより一夏の敗北は決まるが──────

 

「させないよ」

 

「ぐぅうっ…!」

 

「何…?!くっ────」

 

 一夏が捕まった事でラウラの集中が逸れて射線が開きシャルルのラファール・リヴァイブⅡのマシンガンが火を吹く。ラウラは反応しきれず、被弾した直後にAICを発動しそれ以上の被弾を防ぐ。

 

「蒼星のいった通りに上手くいったな」

 

「うん、そうだね」

 

 一旦距離を取った一夏はシャルルと通信を取り、気を抜かずにラウラを見る。

 

『まあ…一夏のことだから、ラウラ君は考えずに飛び込んで来ると思ってるだろな』

 

 こう試合前蒼星に言われた一夏は少し心を痛めてしまった。

自分はそんなに単純なのかと自覚はないのだがシャルルも隣で頷いていた事によりショックを受ける。

 

『だからあえて、そうしろ。そうしてラウラ君を油断さした所にシャルルがどーん!と行く』

 

 蒼星の作戦に特に異論はなかった二人。試してみた結果、確かにうまくいった。

 

「でえええい!」

 

 一夏がラウラを横から強襲する。しかしその斬撃は箒の打鉄によって防がれる。

 

「私を忘れてもらっては困るな、一夏! 流石にボーデヴィッヒがやられるとマズイからな!」

 

「箒か!」

 

 白式の雪平と打鉄の近接ブレードが火花を散らす。まだまだ試合はこれからだと一夏は改めて気を引き締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客席の一角。璃里亜、本音、セシリア、鈴の4人が並んで席に座っていた。

 

「織斑君、わざとAICに捕まったのかな?それ気を背けて、その内にシャルル君の集中砲火を浴びせる作戦だったみたいだね」

 

 璃里亜には一夏とシャルルの作戦は即座に理解する。

 

「それに分断することも出来ましたわね」

 

 セシリアのいった通り試合の状況が変わった。ラウラと一夏がぶつかり合い、箒とシャルルが戦闘にそれぞれ入ったのだ。一夏とシャルルの次の作戦がこれに持ち込むことだった。

 

「箒ちゃんだと───」

 

「デュノアさんには勝てませんわね」

 

「そうだよね~。でもおりむーがその間にやられちゃったら」

 

「デュノアだけじゃ勝てないでしょうね。デュノアがどれだけ早く篠ノ之を倒せるかが勝負ね」

 

「箒ちゃんも頑張るとは思うけど、シャルル君相手じゃ箒ちゃんに勝ち目は無いと思う。いくら強くてもそれは剣道での話だし。ISを使う試合やシャルル君の様な射撃型、それも熟練相手じゃせいぜい時間稼ぎが限度だと思うよ」

 

「厳しい事言いますわね…」

 

「あはは………ソウ君のが移っちゃったのかな…」

 

 冷静に試合の状況を解説していく4人。と、そこに蒼星と簪がやって来た。

 

「おー…一夏…頑張ってるね」

 

「蒼星さん。入らしたのですか?」

 

「おう。んで…一夏たちの方は順調か」

 

「なんであんたが言うのよ」

 

「一夏に作戦伝えたの俺だし」

 

 蒼星があっけなく言ったことに少し驚くがやはり納得してしまう所もあった。あの一夏がそんな事は考えないだろうと鈴とセシリアは心のすみで思っていたが現実になってしまった。

 

「簪ちゃん、調整は済んだの?」

 

「大丈夫……最終仕上げは済んだ」

 

「そっかぁ…楽しみだね♪」

 

「ところで、そちらのかたは?」

 

「ん?あぁ…更識 簪って言うんだ。因みにリリーと同じ日本代表候補生」

 

「へぇ~…あんたが蒼星のパートナーなのね。私のことは鈴でいいわよ」

 

「わたくしはセシリア・オルコットですわ。セシリアとお呼びくださいませ」

 

「うん…よろしく……」

 

 照れながらもどうにか返事を返す簪。だが少し嬉しそうだ。

 

「もうそろそろ現状が変わりそうだな。箒もそろそろ限界だろう。後は二人がAICの弱点を突きながらの戦法で勝てるはずだ」

 

 部屋に居るときに会長からある程度のことは聞いていたので、弱点を推測するのは容易いことだった。

 

「弱点って言うと…集中の事…」

 

「そう。AICは相手の慣性を殺して拘束する機能だってな。だけど使用する場合相手に集中して発動しなきゃ駄目だ。1対1じゃ無敵に成りえるが今回はタッグ戦、今の様に分断されている間に1人削らないと不利になるのが目に見えている」

 

「もう分断されてる時点で勝負は決まっているんだね」

 

「だといいがな………」

 

 璃里亜の言う通りに進むと一夏達が勝利を収めるだろう。だが蒼星には嫌な胸騒ぎがして落ち着かなかった。

 気のせいだと思いたい蒼星だが前の無人機の襲来もあり最後まで油断できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒を戦闘不能に追い込んだシャルルは即座に一夏の援護へと向かう。

 

「残念だったな」

 

「くっ!」

 

「限界までシールドエネルギーを消耗してはもう戦えまい!あと1撃でも入れば私の勝ちだ!」

 

「やらせないよ!」

 

「邪魔だ!」

 

 ラウラが一夏に止めを刺そうとするがシャルルが妨害する。しかしラウラは4本のワイヤーで牽制して一夏への斬撃を止めない。

 

「うぁ!」

 

「シャルル!くっ!」

 

「次は貴様だ!落ちろ!」

 

「ぐあっ…!」

 

「は、ははっ!手こずらせて!私の勝ちだ!」

 

「まだ終わってないよ!」

 

 ラウラが一夏と白式が脱力するのを見て勝利宣言をするが、シャルルが瞬間加速を使いラウラを強襲する。ラウラは思わず目を見開く。

 

「な、瞬間加速だと!?データでは…」

 

「使って無かった?当然だよ、今初めて使ったからね」

 

「なんだと…!まさか、この戦いで覚えたというのか!?」

 

「データに頼り過ぎだよ!」

 

「ふっ…だが私の停止結界の前では無力!」

 

 ラウラがシャルルに対してAICを発動させようとする……。

 ───しかし寸での所でラウラの予想していない所から射撃が叩き込まれる。ラウラが銃撃の元を見ると、一夏が以前訓練の時使っていた55口径アサルトライフル『ヴェント』を構えて不敵に笑っていた。

 

「これならAICは使えないだろ!」

 

「この…死に損ないがぁ!」

 

 一夏は最後の作戦通りに進み思わず笑みを浮かべる。これを思い付いたのも蒼星の一言だった。

 

『一夏、たまには射撃でもしろよ』

 

 白式には射撃装備がないので蒼星の言うことは出来なかった。しかしシャルルから教えてもらった許可を出してもらえば他の機体から装備を使えることが出来るのでこの作戦も決行することにしたのだ。

 

「でも、間合いに入る事は出来た」

 

「それが、どうしたぁ!第2世代型の攻撃力では、このシュヴァルツェア・レーゲンを落とす事など………!」

 

「この距離なら、外さない…!」

 

 シャルルはラウラの目を見ながらほぼ零距離で盾の表面装甲を強制解除(パージ)する。中から出てきたのは69口径パイルバンカー“灰色の鱗殻(グレー・スケール)”。別名“盾殺し(シールド・ピアース)”。

 ここに来てようやくラウラに焦りの表情が浮かぶ。

 盾殺しは単純な攻撃力では第2世代最強武器と言われており、その威力は第3世代に引けを取らない化け物級の装備である。

 

「「おおおお!」」

 

 シャルルとラウラの声と影が重なる。お互いに相手に近接武器を当てようと交錯。だがラウラの悪足掻きもむなしく意味なく終わってしまう。

 

「ぐうぅっ…!」

 

 盾殺しの杭がラウラの腹部に叩きつけられ、パイルバンカーとしての効果を発揮する。リボルバー機構により何度も零距離から強力な衝撃を与え内部に無視出来ないダメージを与えていく。

 あと少しでラウラを倒せるという所で異変が起きた。

 

「あああああああぁぁっっ!!」

 

 ラウラは悲鳴をあげた。

 

(私はあいつに負けるのか……)

 

 ラウラの脳裏にその言葉がよぎる。一夏に負けるということ。ラウラにとって織斑先生とはいつも厳しく凛々しく堂々としている教官だった。

 故にその表情と、そんな表情をさせる一夏の存在が許せなかった。認められなかった。それにもう一人の男にもいまだに戦うことすら出来ていない。

 

『───願うか……?汝、力を欲するか……?』

 

 突然ラウラの頭の中から何かが呟くのを聞こえた。

 それを聞いた事にラウラは何の疑問も抱かずにこう答える。

 

(言うまでもない。力があるのなら、奴を倒す力を得られるのなら、私の全てをくれてやる!だから、力を……比類なき最強を、唯一無二の絶対を───織斑一夏を倒す力を私によこせ!!)

 

 次の瞬間ラウラに異変が起きた───

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 




感想、指摘等どんどんと送ってください。四六時中募集してますよ!!


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第23話 緊急事態

台風が接近してきて、すごいことになってますね………。そのおかげで家に籠ることになってるんですけど、まあ投稿出来たんで万事OKですね!!

───では、スタート!!


「なんで…あたるんだよ!おい!」

 

 俺の予感の鋭さに少しイラつきを感じてしまうが今はそれどころではない。

 他の人には分かりにくいがラウラに異変が起きた。今回の問題は外部ではなく内部から来るとは予想もしていなかった。

 だが今から応援に行ってもギリギリ間に合うだろう。試合中だが、異常事態にとやかく言っていられる暇はない。

 そう結論付けた俺はその場を勢いよく立つ。

 

「なみむー、どうしたの?」

 

「あ!ソウ君、どこ行くのー」

 

 俺はそそくさと現場に向かうのであった。

 

『非常事態発生!トーナメントの全試合は現時刻をもって中止!状況をレベルDと断定、鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓及び生徒はすぐに避難すること!繰り返す!来賓及び生徒は───』

 

 そんな放送が俺の耳に入る。

 走りながらなのではっきりとは聞こえにくいが今のが避難を呼び掛ける放送だろう。

 気になることはあの謎のISが持っていた武器に見覚えがあった。というよりあれは一夏の主要武器“雪片”に酷似しているのだ。もし、同一の雪片の“零落白夜”はシールドエネルギーを喰らう。

 そしてISを斬れば絶対防御に同化し強制的にエネルギーを減らすことになる。

 しかしその実態はどう抗ってもエネルギーによる刃、つまり複雑な原理の入ったビームサーベルである。そんな物で斬られれば人は傷付けられるしかない。故に危険物すれすれの代物だ。

 今のISにエネルギーが無い一夏、シャルル、箒の3人は自然と危険な状況に入っている。俺の思考は最悪な状況も想定する必要があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅ……ぁああああああアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 ラウラの絶叫が走る。一夏の渾身の一撃を阻むようにして、閃光と雷光が迸った。

 

「くぅぅ………っ!?」

 

 雪片の切っ先が弾かれ、一夏の進撃も止まる。それどころか、白式は大きく弾かれてしまった。

 

「一夏、一旦離れて!!」

 

「くそっ……!!」

 

 何が起きているのか分からず、一夏はそのまま間合いを取り直した。

 その目の前で、シュヴァルツェア・レーゲンは見るも無惨に形を失い───そして新たな形に生まれ変わる。ラウラは銀色の液体の様なものに覆われ見えなくなった。ISごとその銀色に包まれると一気にその姿を変えていく。

 生まれたのは───その手に世界最強の刃を携えた、漆黒のIS。

 

「あれは……まさか!?」

 

 黒いISが装備していたのは“雪片”だった。織斑先生の使用していた武器であり一夏の先代となる武器でもある。

 

「───ッ!!」

 

 一夏は戸惑いと、それ以上の怒りを込めて雪片弐型を構えた。

 直後に黒いISは一足で踏み込み、中腰から居合に見立てた繰り出された一撃を放つ。

 それは、織斑千冬の太刀筋そのものだった。

 

「グッ!!」

 

 構えた雪片が弾かれる。がら空きにされた懐目掛けて、黒いISは上段に刃を構えた。

 

「ちぃっ!!」

 

 一夏は即座に緊急回避。唐竹に振り下ろされた一閃は、僅かに胸部のIS装甲を斬り裂く。

 

「くそっ……! 何でこいつ……ッ!!」

 

 憤りと戸惑いと、混乱しグシャグシャになった頭で、それだけを何とか吐き出す。

 

「この野郎ぉぉぉ!! 千冬姉の真似してんじゃねぇぇ~!!」

 

「一夏ぁ!?」

 

 一夏は黒いISに攻撃を仕掛けようとしていた。黒いISはターゲットを一夏に変えて迎撃しようとする。

 

「───!」

 

「ぐうっ!」

 

 一夏の攻撃も空しく、黒いISはあっと言う間に雪片を弾いた。そして相手はそのまま上段の構えと移って、一夏に止めを差そうとする。

 ───すると。

 

「やらせるかっ!」

 

 その間に巨大な剣が立ち塞がる。一夏には見慣れた剣がそこにあった

 

「大丈夫か、一夏?」

 

「蒼星…助かった…」

 

 麒麟を展開した蒼星がムーンテライトを構えたまま後ろを振り向かず確認を取る。黒いISの攻撃を受け止めている蒼星だがその表情は珍しく曇っている。

 一夏は一旦その場を退く。あのままいれば蒼星の戦闘に巻き込まれる可能性が高いと今までの付き合いから分かっていたからだ。が────

 

「んなっ!白式がっ!」

 

 光と共に一夏のISが解除されてしまったのだ。

 

「一夏っ!白式が使えない以上、ここは俺に任せて、お前はすぐにシャルルを連れて避難しろ!」

 

「………がどうした……」

 

「え?」

 

「それがどうしたああっ!」

 

「ちょっ!お前何をしようとしてるんだよ!?」

 

 黒いISの攻撃を流して同じように一度退いた蒼星は早くシャルルと箒を連れて避難するように促すが一夏はそんなことはしなかった。一夏にとって黒いISは自分が倒さないといけない相手だと頭が回らないのだ。

 

「仕方ない…」

 

《ユカ…エネギア展開頼む》

 

《分かったよー、パパ》

 

 エネギアを展開した蒼星は生身のまま襲いかかろうとしている一夏の進路を阻むようにエネギアを動かす。

 電流をバチバチ流して通ろうとするば危険だと思わせて動きを止める。

 

「やめろ!蒼星!」

 

「うっさいな。今のお前には何も出来ないだろ!」

 

「関係ねぇ!あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」

 

「落ち着け!このあほ!」

 

「あほって何だ!どかないんなら蒼星も──」

 

「黙れ───」

 

「──!!」

 

 一夏は思わず言葉を止めてしまう。怒る素振りをまったく見せなかった蒼星からとんでもない黒いオーラが出ている。一夏には感じたことのない威圧感だ。

 

「冷静になったか……」

 

「あ、ああ……」

 

 怒りは何処かへと飛んでいってしまったやら一夏は落ち着きを取り戻す。蒼星もいつもの雰囲気に元通りになっていた。

 

「そんなに織斑先生のISに姿が似ているのが気に入らないのか?」

 

「違う。あいつ……あれは、千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

 

 どうやら一夏は姿形より織斑先生のデータを利用してる事が気に入らなかったみたいだ。

 

「ほほー………一夏、他にあるよね」

 

「なんで分かるんだよ……確かにある。あんな、わけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねえと気がすまねえ」

 

「へぇー」

 

 一夏が言った理由に蒼星は少し感心気味に声を上げる。

 確かにラウラが使ってるあの力は、蒼星から見ても強いとは言えないと思えた。ただ単にIS任せだけの力で、操縦者自身の力ではない。そう感じられた。

 

「とにかく、俺はあいつをぶん殴るぞ。そのためにはまず正気に戻してからだ。止めないでくれよ、蒼星」

 

「……それはいい。けどな、今のお前に何が出来るんだ?白式のエネルギーが殆ど無い状態で、一体どうやって戦うつもりだ?もし、生身で戦いに行った所で、何も出来ずに負けるのが見え見えだ。ましてや、殺される場合だってあるんだぞ」

 

「ぐっ……」

 

 蒼星の指摘に何も言えない一夏。黒いISは微動だにしていない。

 何故かは分からないが都合がいいと蒼星は思う。

 

「もうすぐ教師陣の援護も来る。一夏がやる必要はまったく無くなるわけだが、俺はそれまでの時間稼ぎでもするが───」

 

「それでも、俺はやらなくてはならないんだ!!!」

 

 蒼星の台詞を遮り、一夏は自分の決意を口に出す。

 蒼星からしてみれば、ただのわがままな子供にしか思えなかった。

 

「いい加減にしろよ。はっきり言って今の一夏は無用だ。早くシャルルとここを離れろよ」

 

「蒼星君、ちょっといいかな?」

 

 シャルルが二人の会話に入り込んできた。

 

「僕のリヴァイヴのエネルギーを白式に送ることが出来るはずだよ」

 

「本当か!?シャルル!?」

 

「落ち着け一夏。シャルル、そういうことなら、早速だが頼む」

 

「うん、任せて」

 

 シャルルは早速、一夏の白式にエネルギーを供給する準備を始めた。

 エネルギーを送ることが出来る技術は確か、相当なものだったはずだ。それが可能なのもシャルルがIS操縦者の熟練者ということになるからだ。

 

「箒、一つ頼みがある」

 

「蒼星、私は何をすればいいのだ?」

 

「箒には一夏の突っ込むタイミングの合図だ。あと一夏がたくさん、それについて聞いてくるから答えてくれるか?」

 

「ああ、分かった…」

 

「蒼星はどうするつもりだ?」

 

「動きを止める」

 

 確実に一夏の一撃必殺を決めるにはあの黒いISの動きを制限する必要がある。

 故にその役を引き受けるのは蒼星しかいない。

 

「一夏、無駄な心配だと思うが負けんなよ。そうだな……負けたら明日から女子生徒の制服で通うに決定だからな」

 

「なっ……分かってる。ここまで言って負けるとか男じゃなくなるからな」

 

 完全に今ので、一夏が万が一負けることになれば一夏の後が終わることになる 。

 シャルルからのエネルギーの受け渡しが終わったみたいで一夏は白式を展開してみる。

 だが、まだ足りないみたいで展開出来たのは右腕装甲のみだった。

 

「よし、行くか」

 

「ああ……こっちは準備完了だ」

 

 一夏の右手に握り締めた雪片が意思に呼応するかのように刀身が開いた。

 

「零落白夜───発動」

 

 その台詞を言った直後に発動し、全てのエネルギーを消し去る刃が本来の刃の二倍近い長さに展開された。

 一夏が意識を集中するように目を閉じると、さっきまで無駄にあった刃の長さがドンドンと短く細くなるが、逆に鋭さが増していった。

 蒼星はそれを確認したのち頷くと黒いISへと接近。

 相手は剣を上から振るって蒼星に襲いかかる。蒼星はムーンテライトを迎え撃つように下から上へと持ち上げた。

 二つの剣が交差して、金属音が発生する。

 ───重い。だが、いける。

 小競り合いのなか、蒼星は相手の剣をどうにか横へと反らし、その影響で相手の体勢がずれる。その瞬間、思いっきり自分の大剣を横一線へと振るった。

 弾かれた剣は手から離れなかったものの、大きな隙を産み出した。けれど、蒼星も反動ですぐには動けない。

 問題はない。止めは自分がする必要はないのだ。

 

「一夏!今だ!」

 

 蒼星の合図する前に動き出していた一夏は真っ直ぐ相手を断ち斬った。

 

「やった!」

 

 シャルルが歓喜の声を上げる。

 黒いISが一夏によって真っ二つに割れると、割れた中からラウラが出てきた。

 いつも付けていた眼帯が外れて、露わになった金色の左目を右目と共に一夏を見ている。

 ラウラは酷く衰弱しきっている様子で、すぐに力を失って体勢を崩して倒れそうになるところを一夏が抱きかかえた。

 その後は、非常事態警戒が解かれて遅れてやって来た教師陣がすぐにラウラを医務室へと連れて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ………うぅ……」

 

 意識が覚醒してきた。上半身をベッドから起こし辺りを見回す。

 どうやら、ここは保健室のようだ。

 だが、自分は何故ここにいるのだ?とラウラは疑問に思った。

 が、その瞬間先程までの記憶が甦るように脳裏に流れ込んできた。

 自分は何かに飲み込まれてしまい、その後は記憶が飛んでいることも。

 

「気がついたようだな、ボーデヴィッヒ」

 

 すると、ベッドの周りを囲うカーテンが開けられて、織斑先生が入ってきた。

 

「きょ、教官」

 

「医者の話では全身に軽い打撲をしているようだ。しばらくは痛みに耐えることだな」

 

「…………」

 

 織斑先生は近くにあったイスを引き寄せると、それに座った。

 

「い、一体…な、何があったのですか?」

 

「一応機密事項なのだがな…VTシステムは知っているな」

 

「は、はい。ヴァルキリートレースシステムですね。し、しかし、あれはもう無いはずでは?」

 

「そうだ。アラスカ条約によって使用はおろか、研究、開発が禁止にされている代物だ。そうであればもう無いものだが、それがお前のISに組み込まれていた」

 

「………」

 

 ラウラは無言になった。織斑先生もそんなラウラの様子を黙って見つめていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「は、はい!」

 

 突然呼ばれたことに驚いたラウラは声が上らいでしまった。

 

「お前は誰だ?」

 

「私は……」

 

 再び訪れた静寂。数秒後、織斑先生は口を開く。

 

「誰でもないのならちょうどいい。お前は今から、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』になるがいい。何、時間は山の様にあるぞ。なにせ3年間はこの学園に在籍しなければならないからな。その後も、まぁ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」

 

「あ………」

 

 織斑先生の言葉にラウラは衝撃を受けた。

 あの鬼教官が励ましてくれるとは微塵も思っていなかったからだ。

 

「なんだ?私が言うのがそんなに不服か?」

 

「い、いえ!」

 

「冗談だ。はは」

 

 ラウラの素直な反応に織斑先生は軽く笑みを浮かべる。

 

「………教官、一つお尋ねしたいことがあります」

 

「先生と呼べと言っただろ。───まあ、いい。何が知りたい」

 

「あのもう一人の男性操縦者についてです」

 

「波大 蒼星のことか」

 

「はい、あの男は何者なんですか?」

 

 あの男からは自分には理解しがたい何かを感じた。

 まるで命懸けの死闘を繰り広げた後のオーラが見られた。

 はっきりと感じたのはあの男と対峙したときだ。

 それは今までに感じたことのなかったものだった。一般人から見れば他の人となんらかわりないと思うほどの小さなものだったが、ラウラは軍人からなのか感じた。

 

「あいつのことは私にも分からん。ただ、あいつは強い」

 

「強いですか………」

 

「ああ。あいつの剣には重さがある」

 

「それは……?」

 

「私でも本気で行かないと足元を掬われるだろうな」

 

「な……教官が!?」

 

 つまり、あいつには相当の実力が備わっているということになる。

 それにあいつはそれを出さずに隠蔽している。

 一体、何がしたいのか。ただ、単に力を隠しているだけなのだろうか。

 

「波大……蒼星……」

 

 ラウラはこの時一つの決断をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、学年トーナメントはどうなるんだ?」

 

「ん~。中止だって~。でも、データは取りたいみたいだから一回戦はやるみたいだよ~」

 

「へぇーそうなんだ」

 

 食堂で和風定食を食べている蒼星の疑問に答えたのは蒼星の目の前に座って食べている本音だった。

 その本音の隣には何故か無茶苦茶落ち込んでいる璃里亜の姿が見られた。

 一夏とシャルルはまだ教師達による事情聴取が続いているみたいだ。蒼星は担当が織斑先生だったので軽く話をするだけで終わった。

 テーブルにいるのは璃里亜と本音と蒼星の三人。他の専用機持ち達は皆、何らかの報告とかがあるみたいで食堂に来ていない。

 

「リリー、どうしたんだ?さっきから?」

 

「う……………」

 

 蒼星には璃里亜の落ち込んでいる理由が分からなかった。

 落ち込みだしたのは食堂で会ったときにはもうなっていたから、その前だということになる。となると考えられるのは、やはり学年トーナメントに関することだと思われるが…………。

 

「あ……」

 

 そこまで考えて蒼星の頭にある一つの答えが出てきた。

 

「もしかして……あの約束のことか?」

 

 簪とパートナーを組んだことで機嫌を悪く出した璃里亜に出した条件が───

 

『俺に勝てたら一日俺のこと自由にしてやるから』

 

 あの時は後になったらどうにかなるだろうと浅ましい気持ちで言ってしまった。

 けど、学年トーナメントは一回戦しかしない。蒼星と璃里亜が当たるのは二回戦なのだ。つまり戦えない。

 そのことで璃里亜は残念がっているんだと思われる。

 

「うん……もう…あの約束は無効なんだね……」

 

「わぁ~、ソウ君が女の子泣かした~」

 

「いやいや、何もしてないから」

 

 そこまでされると、男としてどうかと思うがしょうがない。

 蒼星はため息をついてしょうがなく言う。

 

「今度、遊びに行くか」

 

「え!?本当!?」

 

 相当どこかに一緒に行きたいらしく、蒼星の一言に即様食いついた璃里亜。

 本音は微笑ましそうに眺めている。

 

「もうすぐ臨海学校もあるし、水着とか買いにいかないとな」

 

「やったー!」

 

 機嫌を良くした璃里亜は喜びのあまり、立ち上がってしまった。周りからの注目を浴びてしまい璃里亜は顔を赤くしながら席に座る。

 

「何してるんだよ」

 

「だって………///」

 

 上目使いで蒼星の方を見る璃里亜にそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

「あ!いました。波大君。こんなところにいたんですね。探しましたよ」

 

 そう言いながらやって来たのは山田先生だった。

 相当探していたらしく少し息が切れていた。

 

「どうしたんです?もしかしてまだ事情聴取が終わってないとか?」

 

「いえいえ、そうじゃないです。なんと!朗報です。波大君!」

 

 ガッツポーズをしてくる山田先生。

 

「なんとですね。遂に遂に男子の大浴場の使用が解禁です!」

 

「あ、そですか」

 

 素っ気なく答えた蒼星に山田先生は意外そうな顔をした。

 

「あ、あれれ……おかしいですね?織斑君は喜んでいましたのに……はぅ」

 

 オーバーリアクション気味に言ったことに今更羞恥心を感じたのか山田先生がだんだんと小さくなっていく。

 お風呂と言われてもそれほどこだわりがない蒼星。

 一夏には同じ部屋の時に散々風呂に入りたいという話をされてきたので一夏のお風呂好きはいやというほど知っている。

 だが、蒼星は別にお風呂は嫌いではないがそこまでして入りたくはない。

 これでも日本人だ。

 まあ、折角なんで蒼星は後で入ることにした。

 

「何で大浴場が解禁になったんですか?」

 

 若干涙目になっておろおろしている山田先生に聞いたのは璃里亜だ。

 いきなり男子が使えるようになったと思うと疑問に思うところもあるのだろう。

 

「え、えーっとですねー。本来なら昨日が大浴場のボイラー点検だったのですが業者の手違いで今日、点検になったのですよ。それで点検は既に終わりましたので、それなら男子の三人に使ってもらおうっていう上層部の粋な計らいってやつなんですよー」

 

「山田先生、俺は後から入るので先に一夏に入るように言っておいてください」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 そういえばシャルルが風呂に入るとか、色んな意味でやばくなる。

 まあ、一夏がどうにかするだろうと任せることにした。

 その後は蒼星は部屋に戻るのだった。

 

続く───────────────────────────────

 

 

 

 




感想、誤字脱字の指摘などお待ちしてま~す。


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閑話① 舞姫日記・その一

本編とは別に離里亜からの視点でとある一日を書いてみました。余裕があらば、同じ日の蒼星版も投稿するつもりなんですけど期待のハードルは低めで(´д`|||)

因みに“舞姫”はSAOでの離里亜の二つ名のことです。

───さぁ、いこうか!!


 ───これはとある日の他愛のない彼女の平和な日常である。

 

「ふわぁぁぁ~~」

 

 今朝。部屋に差し込んだ朝陽の光に導かれるがままに、現実の世界へと引き込まれる時間帯。

 大きな欠伸と共に体を伸ばしてストレッチをする。まだ眠気が少しある。

 

「もぅ~あさぁ~………」

 

 腑抜けた声を上げた。脳がまだはっきりと起動していないのか、意識が安定しない。

 目蓋を擦り、ベッドから降りるとふらふらな足取りのままカーテンの方へと近づく。バサッ!と勢いよくカーテンを開くとそこからより一層輝かしい光が部屋へと突き刺さる。

 カーテンを開けた彼女“離里亜”は窓越しに大きく欠伸をした。本日二度目である。

 

「うぅ………」

 

 二つある内のベッドの一つ、その上で毛布にくるまっているもう一人の同居人の呻き声が漏れる。

 明るくなった部屋内でもぞもぞと動く毛布の塊。動くだけで、中から出てくる気配はなさそうだ。

 

「ほら、朝だよ~」

 

 ベッドに近づくなり離里亜は毛布を思いっきりまくり上げた。中にいた人が、ゴロゴロと転がりながらベッドへと落ちた。

 

「リリ~、なにするの~」

 

 そのまま猫のように身を丸めてしまったのは離里亜と同じ部屋の住人である“本音”だ。彼女は離里亜に文句を言い付けるが、そんな気が一切感じられない。

 

「早く起きないと遅れるよ~、本ちゃん」

 

「平気~」

 

 ひらひらと掌をさせて、余裕な態度をアピールしてくる本音に離里亜は不安感を抱いた。本当に平気なのだろうかと不安になる。

 本音を見ていると、どうしてか二度寝したくなるような気分に襲われてしまう。なるがされるがままに離里亜も自分のベッドへとバタン!と倒れてしまった。そして、そのまま重たい目蓋を閉じる。

 そして、再び無が部屋内を覆った。

 数分後───

 

「うわぁ!寝ちゃったら、遅れるよ!」

 

 離里亜は勢いよく顔を上げた。そのまま急いで仕度をし始める。早くしないと、もし遅刻をするということになれば魔の出席簿攻撃を喰らう羽目になるかもしれない。

 

「ほら!本ちゃんも早く!!」

 

 未だにぼやぁ~としている本音を急かすように言うと、渋々本音も動き出した。

 よく思えば、毎回同じことをしているのではないかと思う。二人とも朝には弱いらしく、こうして毎回時間ギリギリなことになってしまうのだ。眠気に負けそうになった離里亜にも一理あるかもしれないが、今はそんな細かいことはなし。

 本音がようやく着替え終えると、彼女を引っ張るようにして部屋を出る。

 向かう場所は食堂。

 さて、今日の朝御飯は何にしようかと期待に胸を膨らましていた離里亜だった。

 

「リリ~、寝癖ついてる~」

 

「えぇ!?」

 

 ………時間が危ない。

 

 

 ───【6月27日“料理研究”】───

 

 

 ふぅ~と離里亜が心から安心して、溜め息をつけたのは教室に入って自分の席についた時だった。

 寝癖を急いで直して、食堂で朝御飯を噛み締めてどうにかチャイムが鳴る直前に入ることに成功した。朝御飯の味はあまり覚えていない。

 本音はどうしてかチャイムに間に合っており、さらに寝癖直しというアクシデントがあったとはいえ先に彼女が席に座っていたのにはちょっとしたショックを覚えた。

 山田先生がいつものように教室に入ってくる。一目見渡すと教卓の前へと移動して、出席簿を開いた。

 全員の出席を確認した後に、山田先生は軽く今日の連絡事項をて短めに説明をする。今日は特に何ら変わりのない日だ。

 やがて、授業がいつも通りに始まる。

 その時、離里亜はふと気付いたのだが、蒼星が先程から何度も頭をフラフラさして安定して座っていないのだ。

 誰も知らないのだが、蒼星は朝から自分の寝床に侵入しようと企んでいた会長の楯無の退治をしていた為にお疲れモードに入っているのだ。

 そんなことは露知らない離里亜はまた織斑先生に目をつけられないようにだけ、心の中で注意しておくのであった。

 午前中の授業はあっという間に過ぎていき、あと一つ受けると昼休みになる時間帯になってきていた。今は休み時間。次の授業は数学なので移動する必要もない。教室内では、女子達が談笑して盛り上がっている。

 一夏の周りでは、相変わらずのメンバーが囲んでいる。

 そんな中、離里亜もそこに入ろうと自分の席を立ち上がろうとしたのだが一人の生徒が話しかけてきた為に止めた。

 

「離里亜さん、ちょっとよろしくて?」

 

「ん?セシリアちゃん、どうしたの?」

 

「今晩、空いてるでしょうか?」

 

「確か………うん、予定はないよ。でも、何で?」

 

 セシリアだった。一体何の用事で自分に用があるのか、離里亜は尋ねた。

 セシリアは言いにくいのか、ゴホンと空咳をする。そして、覚悟を決めた様子で口を開いた。

 

「わ、私に………料理(・・・・)を教えてくださいまし………」

 

「ふぇ?料理(・・・・)?」

 

 思わずあっけらかんな返事をしてしまった。無理もない。あのセシリアが、あの料理が下手な彼女が教えてくれと頼んできたのだ。

 彼女の料理下手は離里亜も知っている。というか肌身を持って実感したこともある。味の記憶は殆どないが。どれ程のレベルか、具体的に言うとISなんて目じゃないほどの破壊力が込められているぐらいだ。

 

「え?でも、なんで私?」

 

「日本の料理を学んでみるのも良いと思いまして」

 

「あ………もしかして、織斑君に?」

 

「はい、そうですわ」

 

 一夏は根っからの日本人。彼の好みも自然と日本料理になるのも普通だ。彼女も少しでも彼の気を引くために、自分も日本料理に挑戦しようとしているのだろう。

 だが、セシリアはある問題と対面することになった。

 それは作り方が知らないという、料理の根本的な問題だった。そこでセシリアは同じ日本出身で料理上手な離里亜に頼むことにしたのだ。

 別に離里亜にとって、セシリアに料理を教えることに問題はない。人に教える経験は初めてだが、そこはなんとかなる。

 問題はセシリアの料理に対しての認識だ。彼女の場合、少しずれている。

 離里亜は上手く彼女に作り方を伝授出来るのか、不安だった。と、ここで離里亜はふとあることを思った。

 

「箒ちゃんにも頼んだの?」

 

 日本育ちで料理が出来るのは離里亜だけではないのだ。箒もそれなりに弁当を作れるくらい余裕の腕はあったはず。

 セシリアは首を横にふった。

 

「箒さんは諸事情があるとことで断られましたわ」

 

「そうなんだ………」

 

 ここで自分の失態に気付いた。先程、離里亜は放課後の予定がないと言ってしまっているのだ。箒と同じ言い逃れは出来ない。

 

「駄目でしょうか?」

 

「い、いや………う、うん。任せて」

 

「よろしくお願いしますわ♪」

 

 上機嫌になったセシリアは自席へと戻っていった。チャイムの鳴る時間がすぐそこまで迫っていたからだ。

 ───次の授業が始まった。

 授業の内容はあまり頭に入らなかった。

 

「何にしようかな………」

 

 離里亜の頭の中を占めていたのは、何の料理を教えれば、良いのだろうか。それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───放課後。

 

 離里亜は一人で廊下を歩いていた。もうすぐアリーナでの特訓を予定しているのだが、途中で忘れ物をしてきたことに気付き部屋に取りに戻っていた所なのだ。

 しっかりと右手にはタオルが握られている。これは昔から愛用しているお気に入りの代物なのだ。

 離里亜は寮の玄関前のちょっとしたスペースに来ていた。彼女の視線の先には二人の少女が設置されたソファに座り、こちらに背を向けて楽しそうに団欒している。

 離里亜は二人の方へと歩き出していく。二人が誰なのか、彼女は既に知っている。

 鈴とラウラだ。

 鈴は片手にそこの自動販売機で購入したと思われる缶を持っており、ラウラも同じものを持っていた。まだ離里亜の存在には気付いておらず、ソファの上でくつろいでいるようだ。

 

「ごめん、待った?」

 

 離里亜が後ろから声をかけると、二人は同時に後ろに振り向いた。特に驚いた仕草は見せずに彼女の手元を見る。

 

「いや、思ってたよりも早い帰還だったな」

 

「帰還って………それよりも、忘れ物はあった?」

 

「うん。待たせちゃって、ゴメンね」

 

 二人にはわざわざ忘れ物をしてしまった離里亜に付き添ってくれていたのだ。離里亜本人は先にアリーナに行ってくれても構わないと言ったのだが、二人は断固して付いていくと意見を変えずに、結局はここまで来てしまっていた。

 二人は頷くと、ソファから立ち上がる。鈴は手をラウラの方へと伸ばした。指先を軽く手招きする。

 

「あんたの缶も空でしょ。私がまとめて捨ててくるわ」

 

「ん、あぁ、すまない」

 

 ラウラは軽くお礼を述べると、空の缶を鈴に渡した。鈴は受けとると、ゴミ箱の方へと早足で向かっていった。

 ラウラは鈴の背中姿を見ながら、離里亜に話し掛ける。

 

「この後、私と模擬戦をしないか」

 

「ん?私と?」

 

「そうだ。一度もリリー個人して、手合わせをしていないなと先程思ってな」

 

 鈴と話をしている時にふとラウラの頭をよぎったのだろう。

 そういえば………一度も離里亜はラウラと個人戦をした覚えがなかった。やろうと思えば幾らでも出来たが、どうしてなのか今の今までしていなかった。

 

「良いかも。でも、周りの人に影響が及ばないようにしないと」

 

「そのことなら心配ない。今日は専用機持ち同士の実戦形式がメインだそうだ」

 

「そう言えば、そんなことを言ってたね」

 

 確か一夏が発案して、蒼星がそれに乗って手配した話は聞いていた。専用機持ち本人のレベルアップにもなり、また一般生徒にも自由に観戦することが許可されており、ISの操縦の参考にすることも出来て一石二鳥だと一夏が今日の昼休み頃に言っていたのは離里亜の記憶に新しい。

 それでもアリーナを借りれる時間は少なく、一人一回しか対決をする余裕しかないとのこと。

 その中で、ラウラは対戦相手を離里亜に決めていたのだ。離里亜は誰にしようかとは考えてすらいなかったので、ラウラの提案を反対する理由はなかった。

 

「ラウラちゃん、よろしくね」

 

「負けないぞ」

 

「こちらこそ」

 

 少し楽しみになってきていた離里亜。ラウラも心なしか浮きだっているように見える。

 そこに缶を捨ててきた鈴が戻ってきた。鈴は様子が変わったように見えた二人に首を傾げる。

 

「何話してたのよ」

 

「何も無いよ。ほら早く行かないと」

 

「むぅ………」

 

 何処か誤魔化されたような気もするが、鈴は気にしないことにした。

 アリーナへと向かう三人だか、寮からアリーナまでは距離がある。時間もかかる為に自然と三人の間で会話が始まってしまう。

 

「リリーの忘れ物ってそれ?」

 

 鈴の指差したのは、離里亜が握っているタオルだ。鈴は正直、わざわざ持っていく必要性は薄いのではないかと思った。

 

「宝物かな?昔にソウ君と買い物に行ったときに買ったんだよ」

 

「へぇ~、私も分かる気がするわ」

 

「ふむ。今度嫁にも買わせよう」

 

「っ!!私にも買わせてやるわ!!」

 

 然り気無いラウラの一言に鈴は対抗心を燃やしていた。

 知らない間で一夏の財布の中身がどんどんと減っていっているような気がする。だが、離里亜の知ったことではない。

 すると、ラウラがふと離里亜の方を見て、何かを思い出したかのように告げた。鈴は密かに嫌な予感を感じていた。

 

「兄様とリリーが“結婚”するとなると───」

 

「け、結婚!!」

 

「リリーは私にとって“叔母”になるのか?」

 

「お………叔母………!!」

 

 ラウラの唐突なとんでもない爆弾発言に二人は驚く。鈴は思わず自分の場合はどうなるのかと妄想してしまい、顔を赤らめる。離里亜は自分がまだ高校生なのに、叔母と呼ばれるかもしれないことにとてつもない衝撃を受けていた。

 

「どうなのだ?」

 

「ラ、ラウラちゃん。ソウ君とは結婚出来ないんだって………まだ///」

 

「私は出来るぞ。というより既にしている───」

 

「してないわ!!」

 

 堂々と言い放ったラウラに対して、鈴のツッコミが入る。

 実際に彼女が勝手に一夏を嫁にしてしまっているのだ。無論、相手の許可などは聞く暇すら与えない。というより、彼女の場合は嫁と言うのではなく婿だ。

 ここで、鈴がようやく落ち着いた様子で説明を始めた。

 

「日本の男性は18歳からではないと出来ないのよ」

 

「そうなのか?」

 

「う、うん。そ、そうだよ!!」

 

 ラウラは明らかに動揺してしまっている離里亜に鈴の言っていることが事実なのかを確かめた。

 ラウラは残念そうな表情になる。

 

「まだってことはやっぱり狙ってんのね」

 

「ふふん!!何か文句でもあるの////?」

 

「………何で、吹っ切れてんのよ」

 

 吹っ切れたかのように離里亜は頬を桜色に染めて、堂々と鼻を鳴らした。鈴は彼女の方向性が違っていることにため息をついた。

 反撃とばかりに離里亜が鈴にとっては卑しい笑みを浮かべた。

 

「スズーだって狙ってるんでしょ??」

 

「そ、そうよ////。………ライバル多いけど」

 

 顔を真っ赤にして肯定する鈴。ボソッと呟いた内容はなんとも虚しいものであった。

 最大のライバルは当の本人が気持ちに気付いてくれるかどうかである。

 

「嫁は渡さんぞ!!」

 

「の、臨むところよ!!」

 

 二人の間でバチバチと火花が散る。応援に入る離里亜としてはどちらも平等に応援はするつもりだ。

 いつの間にか話が盛り上がってきており、アリーナにもうすぐで着くのだが三人とも恋心に夢中で誰も気付かない。

 そこに───

 

「なぁ、蒼星~、頼むよ~」

 

「お前とやるの飽きたんだ。たまには他の人とやりたいんだって」

 

 三人の目の前の通路に蒼星と一夏がバッタリと出くわす。そして、蒼星は離里亜と、一夏は鈴と目線が合う。

 先程まで彼らの話の真っ最中だった彼女たちにとってそれは予測の出来ない不意打ちだった。

 ───故に逃走。

 

「………逃げたな」

 

「なんで逃げるんだよ」

 

 ただ会っただけなのに、怖がられるかのように去っていった二人を尻目に男達はただ呟く。

 と、蒼星はポツリとその場に残っていたラウラに一言。

 

「ラウラは行かないのか?」

 

 そんなことを聞かれたラウラの返事は───

 

「私は決して逃げないのだ」

 

「「………??」」

 

 何のことなのか、頭を捻らす蒼星と一夏であった。

 ───その後、二人はすぐに戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふん♪」

 

 上機嫌になりながら、離里亜は料理の準備をしていた。主に食材や器具のセッティングなのだが、これから作る料理には少ししか使わないのですぐに終わる。

 彼女のいる場所は自室。他に誰の姿も見当たらない。

 ルームメイトの本音は先程離里亜がセシリアにここで料理を教えることを伝えたら逃げるように部屋を出ていった。簪もしくは蒼星の所に遊びに行ってくると言っていた。冷や汗を掻いていたのは気のせいだろう。

 コンコンと扉がノックされる。

 離里亜が扉を開けるとそこには、セシリアが立っていた。両手にはエプロンと───

 

「え………なんで……?」

 

 不可解な代物を持っていたセシリアに離里亜はあり得ないと言葉が詰まる。

 彼女が手にしていた袋の中にいたのは(・・)。本物の鶏だ。しかも生きている。

 

「コケコッコッーー!!!」

 

 バサバサと鶏冠を捕まれている鶏は必死にセシリアから逃れようともがいている。

 

「セシリアちゃん、なんでそれ?」

 

「“卵”が必要ですので、わざわざお取り寄せましたのよ♪」

 

「………確かに卵を持ってきてとは言ったんだけど………」

 

 必要なのは卵であって、それの産みの親である鶏は不必要。ましてや鶏だけを持ってきても、都合よく卵は産んでくれない。

 まさか、ここまで彼女が料理の知識に乏しいとは完全に誤算だった。離里亜は頭を抱える。これは難航しそうだ。

 

「その鶏は要らないから、戻してきて」

 

「そうですの?折角の鶏ですのに………」

 

 離里亜に冷たく放たれた一言にセシリアは渋々といった感じで従っていった。とぼとぼと部屋に戻っていった。

 しばらくしたら、また戻ってきた。今度は余計な物は何も持っていないようだ。卵は予め離里亜が用意していた物を使うことにした。

 エプロン姿になった二人はキッチンに並ぶ。

 

「では、始めます!!」

 

「はい!!」

 

 そして離里亜の料理講座が始まる。

 二人が作ろうとしているのは弁当には定番と言える料理“玉子焼き”だ。また初心者でもコツさえ掴めれば、誰だって美味しく仕上げれる料理でもある。

 滞りなく離里亜の手元をよく見ながらも、セシリアはそれに従うようにして真似をしていく。

 離里亜が玉子焼きを作る際に利用する長方形のフライパンを取り出した時には、セシリアは少し驚いていた。イギリスではこんなフライパンを目にする機会はないだろう。

 

「その調子だよ!!セシリアちゃん!!」

 

「は、はい!!」

 

 薄い卵の生地を何枚も層のように丸めることで玉子焼きは出来上がる。セシリアは今、その丸める作業に神経を集中さしていた。

 

「で、出来ましたわ!!」

 

 そして、数十分かけて出来上がったのはそれなりに食欲をそそる玉子焼きだった。

 

「よし、今度はセシリアちゃん一人で作ってみようか」

 

 最初は離里亜の手助けもあって、玉子焼きとして出来上がったが本来はセシリア自身一人で調理しないといけない。

 故に離里亜は今度は自分の助け無しで作ってみようかと提案したのだった。

 

「はい、分かりましたわ」

 

「あ、そうだ。セシリアちゃんに料理の秘訣を教えるね」

 

「秘訣………とはなんですの?」

 

「それはね……料理とは味が勝負なんだよ」

 

「そうなんですの?」

 

「うん。それに必要なのは、セシリアちゃんが食べてほしいと願う気持ち、後は余計な物は入れずにシンプルに仕上げることだよ」

 

「はい。分かりましたわ!」

 

「じゃあ、私邪魔しないようにジュースでも飲んで時間を潰してくるね」

 

 離里亜は部屋を後にした。

 離里亜が彼女にアドバイスしたことは、今の彼女にとっての必要なことだと離里亜は考えていた。

 誰だって最初は上手くいかないものである。料理だけでなく、他のことでもそうだ。だから大切になってくるのは相手を思って精一杯の想いを込めること。そうすれば、相手に自分の頑張りは伝わるものなのだ。

 それに料理はある意味、人間と似ている。人間は外見だけで、判断せずに内面も人としての価値が現れてくる。料理だって、そうだ。例えどんなに見映えが良かっても味が最悪だと、一瞬でその料理の価値は下がってしまう。

 だからと言っても、余計な手間暇はそんなにかける必要性もない。やり過ぎても駄目なのだ。大事なのはバランス。シンプルイズベストと言うやつだ。

 離里亜は自動販売機の前まで来たが、飲み物を買う気力はなかった。結局、何も買わずに近くのソファへと腰を下ろす。

 無心になる。こうしないと心配で心臓が押し潰されそうなのだ。だからと言って、側にいると絶対に手助けしてしまい、セシリアの成長のためにもならない。ここは我慢するしかないのだ。

 数分間、何も考えずに上を見上げていた。天井は何もなく、無心になれる。

 すると、離里亜の首筋にヒンヤリとした感触が襲う。思わず短い悲鳴を上げた。

 

「キャ!!」

 

「良いリアクションだな」

 

 離里亜が慌てて振り返ると、そこに立っていたのは蒼星。彼はイタズラ成功とばかりに微笑ましく笑っていた。

 両手にはジュースがあった。あの片方を離里亜の首筋に当てたのだ。

 

「ほら、いるか?」

 

「う、うん」

 

 離里亜の隣に腰を下ろした蒼星は、ジュースの片方を離里亜の方へと差し出した。

 離里亜はジュースを手に取ると、両手で握り締めるように持つ。

 

「心配事でもあるのか?」

 

 口元へと持っていこうとしない離里亜を見て、彼はそんなことを尋ねていた。

 元気がない、調子でも悪い、そう相手の体調を伺うのが普通だが、彼は真っ先に離里亜に心の中の問題について尋ねている。分かるのだ、彼には。

 

「セシリアちゃんが一人で出来るかどうか………」

 

「あー………言ってたな、そんなこと」

 

 事前に離里亜は蒼星にセシリアが出来そうな料理は何か相談に乗ってもらっていた。玉子焼きを提案したのも彼だ。

 

「そんなに心配することか?」

 

「余計なことをしそうで、心配になっちゃうの」

 

「確かにしそうだな」

 

 彼は、あははと笑った。そして、自分のジュースを口に含む。

 

「まぁ、精々頑張りたまえよ」

 

「むぅ………他人事のような言い方をして」

 

「俺はただリリーに期待してるだけだって。お前の作る料理は絶品だってことは俺の舌が知っているしな」

 

「本当?」

 

「本当だって。嘘ついても意味ないだろ?」

 

 確かに今の彼は嘘をついているようには見えなかった。

 

「それじゃあ、先行くからな」

 

「うん、お休みなさい」

 

「おう、お休み~」

 

 彼は立ち上がると、廊下の方へと歩いていった。

 彼が人を褒めるとは珍しい。感想を要求すると言ってはくれるが、向こうの方からは滅多にないからだ。

 離里亜はジュースの蓋を開けた。一度も飲んでみたことがなかったが、試しに飲んでみた。

 

「甘い………」

 

 ………彼のくれたジュースは甘かった。

 

 

続く?──────────────────────────

 




ソウ「さて、やるか?でもめんどくさい」

ユカ「パパ!!やるったらやるんだよ!!」

ソウ「でも、ママはいないぞ」

ユカ「ゲスト呼んであるから大丈夫です!!」

ソウ「はぁ………ちなみに誰?」

ユカ「この人です!!」

クライン「おう!!風林火山のリーダーのクラインだ!!女の子のギルドメンバーは大歓迎だからな、どんどん来てくれよな!!」

ユカ「クラインさん、ここはALOではないよ」

クライン「甘いな、ユカちゃん。こういう緻密な努力こそが我がギルドの発展に繋がるんだ」

ユカ「へぇ~………そうなの?」

ソウ「………よし、帰れ!!」

クライン「おい!!いきなり酷くねぇか!!」

ソウ「なら、終わる!!」

クライン「それもダメだ!!俺がここに来た意味がねぇ!!」

ソウ「そんなもんはいらん!!」

ユカ「早くお題発表してもいい~?」

クライン「おう!!いいぞ!!ソウは俺が押さえとくから!!」

ソウ「クラインごときに、捕まる俺ではない!!」

クライン「うるせぇ!!俺の出番がないんだ!!」

ソウ「当たり前だ!!ISとはまったく関係ないお前に出番はない!!」

クライン「かぁー、だからだ!!ここ以外じゃあ、俺は出るどころか存在すらしてねぇ」

ソウ「知らん」

クライン「頼むよ~、ソウ~」

ユカ「………発表しても、良・い・か・な?」

ソウ・クライン「「………はい」」

ユカ「今日の題はこちらでさぁ!!」

 ───離里亜の料理疑惑!?

ユカ「私のママは実際はどれくらい料理が出来るの?ということなのである」

クライン「んで、ソウ。どうなんだ?」

ソウ「ニヤニヤすんな!!………まぁ、リリーは料理スキルはコンプリートしてたからなぁ………」

クライン「それだけかぁ?」

ソウ「他に何か言えってのか!?」

クライン「あるんだろぉ?」

ソウ「………作るやつは美味しいよ。全部」

クライン「ほほぉ~、いただきやした!!」

ユカ「うん!!ママに報告しなくちゃ!!」

ソウ「よし、帰る!!」

クライン「他にもあるんだろぉ?ニヤニヤ」

ソウ「うるさいわ!!あ、そうだ。もう、クラインは呼ばないことにしよう」

クライン「そ、それだけはご勘弁をぉぉ!!」

ユカ「あ、そろそろ時間なので、皆さん、さような──────」

クライン「ソウ!!頼むからそれだけは!!」

ソウ「ふっ、男に二言はない」

クライン「そんなぁぁぁぁぁあああ!!」

ユカ「………クラインさんなんて、もう呼ばないことに私も決めた!!」

クライン「え!?ユカちゃん!?」

ソウ「じゃあ、また次回で!!」

 ───以上。


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閑話② 空剣士日記・その一

本編よりもどうしてか、これを仕上げてしまった。
理由は………あれだ!!テストがあるから、本編を仕上げるよりもこっちの方が手っ取り早いからだぁ!!

………本編を楽しみにしている皆さん、スミマセン。蒼星のこれで我慢してやってください(´д`|||)

───んじゃ、やるか。



 

 今朝。

 とある部屋の中では、早朝から騒ぎが起きていた。と言っても被害を受けているのは一人だけで、加害者も同じ部屋に住んでいるルームメイトだ。他の人に迷惑が及ぶほどの大惨事ではない。

 

「やめんかい!!」

 

 被害者、“波大蒼星”は異変を感じたその瞬間に被っていた布団を巻き上げて瞬間的に寝ていた体を起こしてその場を離れた。

 そこにいたのは彼だけではない。彼と同じ寝巻き姿の女性が正座してぷくっーと頬を膨らまして不機嫌そうにしていた。

 

「もぅ~、蒼星君ったら、お姉さんと一緒に寝かせてよ~」

 

「嫌です!!というか自分の布団で寝ろ!!」

 

「………ケチ」

 

「何がケチだ!!」

 

「ふふふ、可愛いわね」

 

 彼からしてみれば、迷惑極まりない笑顔を浮かべたのは蒼星のルームメイトであり、また今回のちょっとしたトラブルの首謀者でもある“更識楯無”。顔を真っ赤にしながら否定をしている彼を面白がっていた。

 だが、残念なことが一つ。またしても、作戦は寸前で未遂に終わってしまった。

 彼は意外と警戒心が高い。布団の中まで侵入するのは容易いが彼の体に触れると即座に反応して、こういう展開になってしまう。彼を抱き枕にしようという楯無の密かな企みはなかなか成功しない。既に何回か分からないほど、仕掛けてはいるが彼は滅多に隙を見せない。

 だったら、今度は別の手段でも使ってみようかと楯無は考えた。無論、彼にそんなことを言うつもりはない。

 

「いい加減、諦めてください」

 

「イヤよ!!!」

 

「………断言しちゃったよ、この人………」

 

 自分の布団の上で、堂々と胸を張って高々と宣言したお困り者に蒼星は頭を抱えた。防ごうにも、相手は学園最強の名を連ねる生徒会長だ。一筋縄どころではなく、下手をすれば三筋縄でも無理な可能性がある。

 今はどうにか、ギリギリセーフと言った感じに保っているが何時なんどき楯無の餌食にされるのか分からない。何をされるのかも分からない。不安すぎて夜もまともに寝れずに、疲労感が徐々に積み重なっているような気がした。

 そろそろ一旦、何かしらのストレス発散をしないと疲労でぶっ倒れそうになる。そうなったら、周りの皆に迷惑が及ぶのでそれだけは避けたい。

 楯無はぐいっと迫ってきた。

 蒼星の額に冷や汗が浮かぶ。

 

「お姉さん、いつでも歓迎よ♪」

 

「………何がですか」

 

「あら、可愛い女の子に言わせちゃって良いのかしら~?」

 

「ぐっ………」

 

 自分で自分を可愛いと言うなというツッコミをする余裕もない蒼星は、言葉を濁らせる。

 駄目だ、この人。確信犯だ、この人。

 

「よし、充電開始」

 

「え………ちょっ、ちょっと!!」

 

 蒼星の呟きに楯無は慌て出した。彼のIS“麒麟”の電撃エネルギーを貯め出しているからだ。楯無にとって、色んな意味で電撃は相性が悪いのでそれだけは出来れば避けたい。

 これは彼のいつもの秘策だった。麒麟をこんなことで使うのは少し気が引けるが、身と心の安全を確保するためだ。仕方ない。

 

「分かった!!だから、それだけは勘弁して!!」

 

「イヤです!!」

 

「なら、私だって逃げるわけにはいかないわ!!」

 

 いつの間にか取り出した扇子で、口元を隠し不吉な笑みを浮かべる。

 両者の間で、不穏な空気が流れる。普通は朝から流してはいけない。

 ───その時だった。

 

「貴様ら!!」

 

 扉が開いたかと思うと、廊下で仁王立ちにしていたのは織斑先生。まるで今までの二人のやり取りを知っていたかのように、口を開いた。

 蒼星と楯無は織斑先生が扉を開ける直前にいつも通りに戻っていた。さらに言うのなら、蒼星は椅子に座り、楯無はベッドの上で正座をしている。

 

「一体何をしようとしていた」

 

「いえ、何も!!」

 

「そうか」

 

  蒼星の返答を聞いた織斑先生はすぐに扉を閉めた。ひとまず、何も罰が起きなかったことに安堵する蒼星。

 いや多分、あれは気付いていた。今もまた廊下の部屋の前で騒ぎが起きてもすぐに対処出来るように待ち構えているのではないかと思う。男性操縦者と会長の騒ぎなど、一般生徒よりも派手になるからだ。もし、廊下に居なくても警戒はどうしても解けない。怖いものである。

 ふぅ~と深呼吸をする。織斑先生の登場により、一気に興が冷めた。今更、楯無とやり合おうという気はなかった。

 そもそも電撃エネルギーを充電していないのでやる気はなかった。というか、出来ない。ユカがISのくせに寝てしまっているからだ。夢の中で情報処理でもしているのだろう。

 

「蒼星君、なにかいる~?」

 

 そして、楯無はと言うと何故か冷蔵庫の中を探っていた。

 

「適当にジュース投げてください」

 

「ほい」

 

 楯無は後ろを見向きもせずに缶を放り投げた。円を描くようにして、見事に蒼星の手に捕まれる。

 彼は缶を確認した後、渋い顔になった。

 

「なんで、おでんが入ってんだよ!!」

 

 ちゃっかり、缶の側面には“火傷注意”と書かれていた。蒼星はこんなものを冷蔵庫に入れた覚えはない。

 

「この前、本音ちゃんが入れてたわよ」

 

「………何故に?って───熱いわ!!」

 

 首を傾げて、頭を捻らすが、掌に熱が篭り予想外な熱さにおでん缶を落とした。

 自分でもどうして朝からこんなハイテンションなのか、訳が分からない。

 

「あれ?何もないわね」

 

 冷蔵庫の中身を確認した楯無は、思っていた以上に空きがあることに気付いた。まさか、いつの間にか本音辺りの誰かが漁ったのかもしれない。

 ───と、目立たない奥に佇んでいたある食材を見つけて取り出した。

 それは“小麦粉”だった。

 

「ねぇ、これは蒼星君が入れたのかしら?」

 

「ん?あ、そうですよ。そういえば、作ろうって思って結局作ってませんでしたね」

 

 ふと楯無は思った。確か彼は料理は得意分野ではなかったはずだと。だが、今の発言から特定の料理だけには自信があるようないいぶりだ。

 楯無の目が光った。

 

「私、食べたいんだけど作ってくれる?」

 

「そうですね。構いませんよ」

 

 あっさりと許可が降りたことに意外そうな表情になる楯無。

 

「けど、また今度でお願いしますね」

 

「ええ~!!」

 

 まさかの日にちを遠ざけるという手段に出た。だが、どうしてそんな遠回しに喋り出したのか彼の様子が気になり、後ろを振り返った。

 彼は着替えの真っ最中だった。会話数を増やして時間を稼ぐつもりだろうか。

 

「ふふふ………」

 

 楯無は気付いた。今の彼は、上を脱いでいるので視界がほとんど見えない。故に唯一無二と言えるチャンスだった。

 そっと立ち上がり、忍び足で寄っていく。慎重に気付かれないように彼に接近する。

 そして───

 

「よっと!!」

 

 ───避けられた。

 彼は紙一重でひらりと楯無の攻撃(抱きつき)を避けた。

 

「いい加減懲りてください」

 

「蒼星君が今日、作ってくれるって約束してくれるまで止めないわ」

 

 蒼星は思った。もう勘弁してくれと。故に渋々了承せざるを得ない。

 

「………了解しました。今日の晩飯に御馳走しますよ」

 

「やったわ♪」

 

 喜んでくれるのは普通、嬉しいのだが蒼星の気分は憂鬱だった。ここは素直に受け止めるべきなのだろうか。

 

 ───彼の朝は一苦労な朝である。

 

 

 

 ───【6月27日“Cooking”】───

 

 

 

 授業はなんとかフラフラになりながらも、蒼星は乗り越えた。特に眠気が異様なほどに夢世界へと誘ってきたので断るのに一苦労し過ぎた。

 あ………と彼はあることを思い出した。

 今日の放課後は模擬戦祭り。専用機持ちが試合をする予定となっていたはずだ。

 織斑先生から既に許可は降りている。そのことを提案した際に断られるかと思いきや、あっさりと許諾したときには思わず聞き返したほどだ。が、その代わりに条件を出されてしまったが。その条件とは一般生徒にも公開することだった。普通だとらこういう試合を観戦出来る機会は滅多にないからだろう。蒼星も別に構わないので二つ返事で了承した。

 

「あ、いた!!蒼星!!」

 

 アリーナへと入り、着替えようと更衣室まで通路を通っている時に蒼星は一夏と遭遇した。一夏は蒼星を探していたらしく、蒼星は顔をしかめた。

 

「何か用か?」

 

「何でそんなに不機嫌なんだ?………まぁ、いいや。俺と試合してくれ!!」

 

「やっぱりか………」

 

 模擬戦とは言え、本格的に一対一で試合をするということは滅多にない。さらに言えば一夏は毎日鈴やセシリア、シャルロットにラウラ達と特訓をしているために蒼星や離里亜とはなかなか手合わせが出来ない。それ故に、一夏は蒼星に頼み込んだのだ、自分と試合をしてくれと。

 

「またなのか?」

 

 だが、蒼星としては正直気が乗らない。理由は至極簡単。蒼星の対戦相手は大抵が一夏であるからだ。一言で言うなら、飽きる。

 

「ああ、蒼星と出来るのはなかなかないんだ!!」

 

 頑固たる態度で諦める気配を見せない一夏は、もう一つどうしても蒼星と対戦したい理由がある。

 それは蒼星が一夏と同じ近接タイプだからだ。それも相当の実力者。故に一夏は彼の技能を教わりたかったのだ。完全なる再現は無理でも、何か一夏は自分が強くなれるヒントさえ掴めればそれで良いのだ。故に直接剣を交えた方が何かと好都合でもある。

 蒼星は「はぁ~………」と溜め息をついた。彼の今の表情はどう見ても不機嫌そうだ。

 

「却下だ」

 

 彼はそう告げると、早足でその場を逃げるかのように去っていく。慌てて一夏も後を追う。

 

「なぁ、蒼星~、頼むよ~」

 

「お前とやるの飽きたんだ。たまには他の人とやりたいんだって」

 

 しぶとく自分に迫ってくる一夏に蒼星も鬱陶しくなってきていた。

 その時だ。ふと、曲がり角が目に入り、その曲がった所で三人の少女らと遭遇。

 左から鈴、離里亜、ラウラだ。

 特に鈴と離里亜の二人は頬を桜色に染めて、こちらをパチクリとまばたきを何度も繰り返して見ている。

 蒼星は自分の顔に何か顔に付いているのかと尋ねようとした矢先───二人は文字どおり逃げた。

 

「………逃げたな」

 

「なんで逃げるんだよ」

 

 どうやら一夏も二人から逃げられた理由に見当もつかないのか、蒼星とまったく同じリアクションをとった。

 

「ラウラは行かないのか?」

 

 蒼星は唯一残っていた人物───ラウラに質問を投げかけていた。そんなことを聞かれたラウラの返事は───

 

「私は決して逃げないのだ」

 

「「………??」」

 

 頑固たる決意を持ったラウラの様子に二人はより困惑する。何から逃げないつもりなんだろうかと。

 

「そういやぁ、ラウラは誰と試合するつもりなんだ?」

 

 一夏は話を逸らした。

 

「私はリリーとするつもりだ」

 

「ん?珍しい組み合わせだな」

 

「そう言う兄様と嫁はまたなのか?」

 

 ラウラも呆れるほどそんなに蒼星と試合をした覚えのない一夏は不服だったが、逆に蒼星はチャンスとばかりにラウラに意見を求めた。

 

「たまには別の人とやってみるべきだろ?ラウラ」

 

「うむ。多種多様な者との経験は大事だと思うぞ」

 

「そうかなぁ………」

 

 ラウラにも言われて、本気で一夏は頭を悩ませ始めた。ここで、後もう一つ追撃があれば一夏を確実に落とせるはずだと蒼星は考えていた。

 ───そこに救世主が現れる。

 

「あら?皆様、こんな所でどうされましたの?」

 

 会話に入ってきたのはセシリアだ。彼女も今さっきアリーナへと来たばかりのようだ。

 

「セシリアは誰と試合するんだ?」

 

「いえ、まだ決めてませんわ」

 

「なら、俺とやらないか?」

 

「蒼星さんとですの?」

 

「あぁ………遠距離タイプのISとも慣れておかないとな」

 

 セシリアは蒼星の提案にすぐには返事をせずに、頭をかしげる。

 ほんの数秒後、彼女の中で決断が降りたようで口を開いた。

 

「ええ♪こちらこそお願いしますわ♪」

 

「ということでだ。一夏、諦めろ」

 

 蒼星は口角を釣り上げる。勝ったと言いたげな態度だ。

 

「そんなぁ~~………」

 

 一夏の叫びも虚しく、蒼星とセシリアの対戦が決まってしまった。

 ………結局、一夏はしばらくして戻ってきた一応近接タイプの鈴と試合をすることにしたのだった。勿論、選ばれた鈴の機嫌はその日ずっと上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓も終わり、既に夜の時間帯。

 先程、飲料を買いに行ってきた蒼星は部屋へと戻っている最中だった。

 彼はついさっきまで話していた璃里亜のことを考えていた。彼女はセシリアに料理を教えていた真っ最中だったようで、今は一人でセシリアが出来るかどうか任している所らしい。彼女は邪魔をしないようにと寮の広場に出てきており、そこで蒼星と出会ったのだ。

 その後蒼星は余分に買っておいた新発売の炭酸飲料を彼女に渡して、軽く話をしてから別れた。

 

 ………手が冷たいな。

 

 誰とも出会すことなく、じぶんの部屋の前へと辿り着いた蒼星は扉へと手を伸ばした。ただし、3個の缶を両腕で抱えているので苦しい体勢になりながらになっている。

 段々と缶越しに伝わってくる冷気に徐々に変な感覚に襲われながらも、どうにか開けることに成功する。

 

「なみむー、お疲れ~」

 

 扉の開口と同時に部屋から迎えに駆けつけたのは、とぼとぼとした服装に身を包んだ少女、“本音”だ。

 本来なら本音の部屋はここではないのだが、蒼星のルームメイトの楯無に呼ばれた為に部屋にいたのだ。彼は既に彼女が部屋にいたことは知っていたので、特に驚く素振りはみせない。

 彼からジュースを受け取ると、本音は部屋に置かれた簡易式のテーブルの上へと移動させた。

 

「それじゃあ、やるか」

 

 蒼星は本日のメインディナーである料理を作るための器具を持ち出した。

 ホットプレートだ。

 コンセントを繋ぎ、スイッチを入れる。

 本音がホットプレートの上に油をひく。

 

「そういえば会長は?」

 

「まだ帰ってきてないよー」

 

「なら、先に始めますか」

 

 彼は台所から既に用意してあったボウルを持ってくると、ボウルの中に入ってあるものをかき混ぜた。

 それを鉄板の上に流し込むと、油が飛び跳ねて香ばしい匂いを漂わせる。さらにその上に豚肉を敷く。

 ───彼が作っているのは、お好み焼きだ。

 今回は水にといた小麦粉、キャベツ、豚肉とシンプルに関西風に仕上げるつもりでいる。

 

「なみむー、どうしてお好み焼きなの?」

 

「一度テレビで作り方を紹介してたのを見て、なんとなくやってみたら思ってた以上に上手くできたんだ。それで何回か作ってる内に得意になったんだよ」

 

「ふーーん」

 

「興味なさそうだな」

 

 蒼星は苦笑いをする。本音の興味はどうやら彼の技量ではなく、生地の出来上がりの方へと向いている。

 彼自身で一番の納得のいく仕上がりになる料理なのだ。これなら、璃里亜とも接戦に持ち込めるのは間違いがないと自負している。

 因みにお好み焼きが蒼星の得意料理になっていることを璃里亜は知らない。

 

「おおー、美味しそう~」

 

 数分後すると、生地に熱が通ってきたのか鉄板と接している部分が黄金色になってきている。

 蒼星は気を引き締めた。

 今からすることはこのお好み焼きにとって一大事となる手順だからだ。

 

「オッキー、頑張れ~」

 

「オッキーって何だよ………よし、行くぞ」

 

 両手にヘラを握り、緊張した顔つきでいる蒼星はお好み焼きの生地と鉄板の間にヘラを滑り込ませる。隣の本音もワクワクしながら、彼の行方を見守る。

 ───後はひっくり返すだけ………。

 そっと持ち上げる。形状を崩さないように慎重に動く。

 

 ()()()

 ここで負けてはテンションが急下降。

 ここで勝てればテンションは急上昇。

 勝敗の決め手は“タイミング”だ。

 手首の角度。ヘラを持ち上げる力加減。焼き加減を見極める瞬間。まだまだ他にもたくさんあるが、これら全てを合わせないと、最高の美味たるお好み焼きには到底辿り着けない。

 敵との牽制が続く。どちらが先に攻撃を仕掛けてくるか。にらみ合いが続く。

 負けてはならないのだ。

 

「今だ!!」

 

 蒼星は叫ぶと同時に決死の覚悟を持って、お好み焼きを持ち上げたヘラを傾けようとした。

 ───その時だった。

 

「ただいま~♪」

 

 バタンと勢いよく扉が開いて、楯無が部屋へと入ってきた。

 そして、蒼星は反応してしまった。扉の開閉音に反応した彼はビクッと手を動かしてしまい、その反動でお好み焼きはするりとヘラから滑っていく。

 

「「あ………」」

 

 止まることを知らないかのようにお好み焼きは宙へと飛び出した。蒼星と本音は揃って後を目で追いかける。

 重力に従って、それは本来なら平らな面から鉄板に着地を果たすのだが今回は違う。

 どう見てもお好み焼きは垂直に下降している。そのまま行くと、形脆いお好み焼きは無情な姿へと変わり果ててしまうだろう。

 そして、遂にお好み焼きと鉄板が目と鼻の先まで接する。

 

 ………グチャリ。

 

 見事にお好み焼きは平らな面を潰して、無惨な姿へと変貌を遂げた。蒼星と本音の目が見開く。

 事情を知らない楯無も雰囲気で察したのか、恐る恐る声を発する。

 

「………もしかして、私、悪いことしちゃったのかしら………?」

 

「「オッキィィィィィィィーー!!!」」

 

 ………微かに無事だった生地は綺麗な黄金色だった。

 

続く?──────────────────────────

 




そういえば、二人の日記に簪ちゃんが出ていないことに気付いた。ヒロインなのに。

次には出てくるはず………だ(多分)( ̄▽ ̄;)

後、しばらくしたらこの話は舞姫日記・その一の次に移動させるつもりですよ。


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3章 臨海学校
第24話 シャルルの決意


今回からちょっとしたコーナーを始めてみました。初めはこれからの予告のようなものなので最後までお付き合いください。

───では、始めます!!


《パパ、こんな時間だけどいいの?》

 

「お……こんな時間か……」

 

 部屋で麒麟についてのある程度の資料をまとめていると思っていたよりも時間が過ぎていたことに気づいた俺は浴場へとむかうことにした。

 大浴場の前には山田先生が立っていた。女子達が余計なことをしないようにと見張りをしているだろう。

 

「山田先生、入ってもいいですか?」

 

「はい、構いませんよ。ただ、織斑君とデュノア君が入っているままですけどね」

 

 おい、駄目だろ。

 なんでシャルルが男子の大浴場に入っているんだよ。思わず突っ込みたくなった。

 一夏のことだから多分、シャルルが後から大浴場に潜入したってところだろうか。

 

「何か、言いました、波大君?」

 

「え、いや。何もないですよ」

 

 声が少し漏れていたらしく山田先生に聞かれそうになった。

 大浴場に入り、着替えを置くと、服を雑に脱いで篭に入れた。

 麒麟の待機状態であるペンダントも置こうとしたのだが…………。

 

《パパ!私を置いていくの!》

 

「いや、そうじゃないから」

 

 何故か怒られてしまった。

 ユカを風呂に連れていくのも………どうかと迷ったが視界は遮断しておけば大丈夫だろうと判断してペンダントは付けたままでドアの前まで行く。

 ドアを開けようとしたとき、ドア越しに声が聞こえた。

 

『と、と、ところでだな。あの、いつまでもこの体勢でいられると、正直色々マズイ事態が起こりうるんだが………』

 

 一夏の声だ。

 ───というよりもこの体勢ってどの体勢だよ。一体何がこのドアの向こうで起きてるんだろうか。開けようにも開けがたい。

 

《ん~、背中会わせて体操座りしているみたいだね》

 

 脳に直接聞こえるユカの声。

 視界は遮断しているはずなのに。何故分かる。

 

「勝手にセンサー使うなよ」

 

《ごめんなさーい》

 

 まだ健全で幼いユカに見せるのは早い。いや、視界は遮断してるから見えないか。

 けど、ここまで来て風呂に入らずに引き返すのも気が引ける。

 だったら───

 

「何をやっている、お前らー」

 

「うわ、蒼星!」

 

「蒼星のエッチ……」

 

「いやいや、逆だろ!なんでシャルルがこんなところにいるんだよ!」

 

 こうして大浴場は混浴状態に飲み込まれるのだった。

 

《パパ、浮気駄目だよ》

 

 ───だから、なんだよ、それ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。朝。

 

「皆さん…おはようございます…」

 

 いつにもまして元気がない状態の山田先生が教室へと入ってきた。「はぁ……部屋割りが…」と呟いているが生徒全員が頭に疑問符を浮かべている。

 

「……今日はみなさんに転校生を紹介します。けど紹介は既に済んでいるといいますか……」

 

 朝のホームルームで山田先生が訳の分からない事を言っていた。

 すると、教室の扉が開いて一人の生徒が入ってきた。それも見覚えのある生徒。

 その生徒はなんと、シャルルだった。

 しかも女子の制服を身に付けてだ。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 自己紹介が終わるとシャルル───シャルロットは頭を下げるがクラスの皆はポカーンと口を開けて見ていた。

 

「ええっ…と。デュノア君はデュノアさんってことでした……はぁ…また部屋割りが…」

 

 だから、山田先生が落ち込み気味になっていたように見えたのか。

 部屋割りといっても確実に俺と会長は一緒の部屋だろう。あの人、会長権限なんて卑怯な手を使ってるんだから。

「え?デュノア君って女の子……?」

 

「美少年じゃなくて美少女だったのね」

 

「って、織斑君、同じ部屋だったから知らないってことは───」

 

 そこまで言ってクラス内がざわめきだした。嫌な予感しかしない……。

 俺はガン!と頭を抱えて寝たふりをした。

 

「おい!蒼星。ずるいぞ!」

 

「一夏…何も言わないでくれ……」

 

 前の方から一夏の文句も軽くあしはらって何も考えないようにする。

 そしてついに放たれてはいけない言葉が放たれる───

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 ………終わった。

 クラス中が喧騒に包まれてしまいもう混乱状態だ。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 予想通り、一夏愛好家の一人である鈴が教室のドアを蹴破って登場した。それもISの甲龍を纏って。

 

「死ね!!!!」

 

《パパ、助けなくていいの?》

「いい機会だ。そのまま吹き飛ばされてしまえ」

 

 そのまま一夏に向かっていくが───

 

「あれ?………あ、ラウラだ」

 

「ら、ラウラ!?」

 

 本来聞こえるはずの衝撃音が聞こえずに疑問に思い、顔を上げた。

 突然一夏と鈴の間に割って入って来たラウラが一夏を助けていた。『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ってAICで相殺して。

 そんなラウラに一夏はすぐに礼を言おうと近付く。

 

「助かったぜ、サンキュ───むぐっ!?」

 

「…………へ?」

 

 礼を言ってる一夏にラウラが突然、一夏の胸倉をつかんで引き寄せてキスをした。 余りの超展開に俺は目が点になって呆然としていた。それは俺だけじゃなく、鈴やこの場にいる全員があんぐりとしている。当然当の本人である一夏もだ。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「……嫁?婿じゃなくて?」

 

「いやいや一夏、突っ込むところはそこじゃないだろ……」

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』と言うのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 

「それどう見たって立場が逆だろ…」

 

 何があったのかは知らないがラウラがおかしくなってしまったかもしれない。

 すると、ラウラが俺の方へと向いた。

 

「そ、それと……波大蒼星!その……私を妹にしてくれ!」

 

「妹………」

 

 誰だ。ラウラに間違った日本の知識を教えてやがるのは。

 妹にしてくれって頼むやつが日本にいるのだろうか。いや、いない。

 

「お兄ちゃん」

 

「───っ!」

 

 一瞬、悪くないな、って思ってしまった。仕方ないじゃないか、ラウラは見た目はとても可愛いんだから。

 

《ユイ姉に怒られるよ》

 

 いや、駄目だ。俺にはユカと同じユイという少女から兄として慕われているじゃないか。

 

「せめて、兄貴とか兄様あたりにしてくれ……」

 

「承知した。では兄様と呼ばせてもらう」

 

「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああ!?」」」」」」」」

 

 阿鼻叫喚。今の現状にぴったりの言葉だ。

 最早クラス中とんでもない事になっていた。ラウラは素早いことにISを解除して一夏の右腕に抱きついている。セシリアと鈴は一夏にすごい勢いで噛み付いてる。箒は一夏の左手をちゃっかり握りながらラウラに威嚇している。

 一夏は噛み付いてくる二人に反応しながらも混乱していた。

 クラスメイトたちは完全に今、目の前で起こった現実に一夏と同じように混乱して騒いでいる……山田先生まで混乱して一緒に騒いで誰も止める人がいない。

 こりゃ織斑先生以外どうしようもないな…そう思ってシャルロットの方を見ると完全に雰囲気に呑まれてポカーンとして口を開けていると思いきやの、それは一瞬のことでシャルロットも地味に参戦していた。

 そんな中、接近してくる影が一つ。

 

「ねぇ、ソウ君。ちょっといい?」

 

 声だけで怒っていることが分かってしまった。振り替えるとやはりそこには璃里亜がいた。

 

「なんでラウラちゃんを妹にしてるのかな?」

 

「してないです。ただ、ちょっと欲が入って……」

 

「まあ、それはいいの」

 

 良いのかよ!?と思ったがここで口に出してしまえば後が見えなくなる。

 璃里亜は何故か体をもぞもぞし出した。そんなに言いにくいことなのだろうか。

 

「ソウ君は………入ったの?」

 

 もしかしてお風呂のことだろうか。いや、そうに違いない。

 

《ユカ、何も言うなよ。ママ、怒ると怖いからな》

 

《了解しましたであります》

 

 いつ覚えたのか分からない口調で答えるユカに不安を感じながらも答える。

 

「いやいや………入ってないから……多分」

 

「むっ……後でしっかり話してもらうからね」

 

 そう告げると璃里亜は席へと戻っていった。

 一夏の方はというと未だに専用機持ち達が争っていた。

 皆が皆、専用機を展開しており誰にも止められそうにない状態になっていた。

 けど、織斑先生の登場によってあっという間に場は静まり、一夏達は説教を食らうはめとなった。

 俺と璃里亜は自分の席について知らないフリをしていたので何とか免れた。そのせいで一夏からジト目で睨まれてしまったが、自業自得だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のトレーニングを終わらした俺は部屋へと戻ろうと歩いていた。

 なんでも会長が「蒼星君の実力はまだまだよ!」とか何とか言いながら紙を渡してきた。紙にはトレーニングの内容について書いてあった。

 まあ……やってみるのも良いかと始めてみたのだが思ってよりもハードだった。朝から何日かやっていくにつれてだんだんと慣れていった自分に驚きながらもトレーニングをこなしていた。

 部屋割りについてだが、やはり俺の願いは空しく会長と同じ部屋のまま変わらない。一夏は同じ部屋になれずに嘆いていたが、自分としてはどうでも良くなってきた。

 たまに会長がベッドに潜入してくるときがあるがその時はそく退場してもらうので問題はない……はず。

 

「一夏!?ななっ、何をしているこの軟弱者!?」

 

「ん……一夏の部屋からか?」

 

 一夏の部屋方向から箒の声が聞こえた。自分の部屋に行くには一夏の部屋の前を通らないといけないので必然的に目撃することになる。

 

「ま、待て箒!これは違うぞ!」

 

「どっかの浮気がバレた夫だな」

 

《パパも将来言いそうだね》

 

「いや、言わねーから!」

 

 最近、うちの娘が辛口になってきているような気がする。

 一夏の部屋へと向かう。中に入ってその光景を目撃した瞬間、俺はユカの視界を遮断した。

 

《うわー、パパー何するのー》

 

《幼い子には早いから駄目》

 

 部屋の中には刀を持った箒。危ない。

 そしてベッドに寝転んでいる一夏。その隣にはラウラがいるのだが……。

 

「蒼星!いいところに来た!助けてくれー!」

 

「朝から何してるんだよ……というより箒。状況説明を求む」

 

「私に聞くな!私とて食事に誘いにこれば……」

 

「分かった。助ける前に一ついいか」

 

 そして俺は深呼吸をして自分の心を落ち着かせる。

 

「なんで!ラウラ!!生まれた時のままなんだよ!?」

 

 ラウラは全裸の姿のままだ。俺は見ないように背中を向けた。

 

「む、兄様。何故こちらを向かないのですか?」

 

「向くか!取り敢えず服着ろ!」

 

「兄弟関係と言うのは、裸の付き合いをするほど強い絆で結ばれているものだと聞ききました。だからコッチを向いてください兄様」

 

 なんていうかもう何を言えばいいのか分からなくなってきた。

 

「服を着ろって!」

 

「部屋に置いてきました」

 

「何故に!?っておい、こっち来るなぁー」

 

「避けないでください、兄様」

 

「ラウラぁ~、いるの~───って、えぇ!何この状況!?」

 

「リリー!それは!」

 

 璃里亜の手に握られているのは運の良いことにラウラの制服だ。

 璃里亜はラウラを探して一夏の部屋に来たみたいだ。璃里亜は積極的にラウラと仲良くしようとしている。

 

「早くラウラに!」

 

「えっ!あ……うん。分かった。ほら、ラウラ、制服着ないと駄目でしょ」

 

「む……だが……」

 

「服を着ろって!服をぉ!?」

 

「兄様がそう言うなら………」

 

「はぁ……助かった……」

 

 ラウラが璃里亜から服を受けとり着替え始めたのを確認した俺と一夏は安堵のため息をついた。

 そしてラウラが着替え終わると同時に一夏が唐突に───。

 

「ん?ラウラ、今更気付いたんだが、眼帯外したのか」

 

 一夏が少し驚くようにそう言ったので俺も不意にラウラの左目を見た。それは金色に輝く左目だった。

 確かあの目は特殊なナノマシンを注入して疑似ハイパーセンサーとなったが、事故によって目の色が金色に変化したとラウラから昨日俺に教えてもらった。変化と同時に常に稼動状態のままカット出来ない制御不能であると。故にラウラはそれを防ぐ処置として眼帯をしているそうだ。

 それを聞いた俺はふと『じゃあ何故トーナメントでそれを使わなかったんだ?勝ちたいんじゃなかったのか?』と尋ねた。

 俺の不謹慎な問いにラウラは『この目は嫌いだから使いたくなかった』と答えた。

 

「確かに、かつて私はこの目を嫌っていたが、今はそうでもない」

 

「へぇ、そうなのか。それは何よりだ。うんうん」

 

 どうやら今のラウラはもうそんなに嫌っていないみたいだ。

 頷いている一夏にラウラの顔が何故か桜色に染まった。

 

「よ、嫁がきれいだと言うからだ……」

 

 ………もう、完全にラウラは恋する乙女になったみたいだ。この前の刺々しい態度はどこに行ったのか一変して一人の女の子だ。良い傾向だ。

 

「俺、お邪魔みたいだからとっとと退散することにしますわ」

 

「蒼星!最後まで助けてくれよー!」

 

「嫁よ。兄様が気を利かしてくれたのだ。それまで二人だけの時間を過ごそうではないか」

 

「一夏ぁーー!」

 

 俺が部屋から出ると同時に箒が詰め寄った。いつもと変わらず片手にはとても怖いものが握られている。

 隣には怪しいとばかりに目を細めてこちらを見てくる璃里亜。

 

「………ねぇ、ソウ君」

 

「………何かな……?」

 

 ………今日もIS学園は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はなんとか、騒動が大袈裟になって事態がややこしくなる前に引き上げた。というより逃げた。

 現在いるのは1年寮食堂。

 俺と璃里亜が一夏騒動から巻き込まれないように先に避難して朝御飯を食べていたら、遅れて一夏に箒、ラウラがやって来た。

 俺と璃里亜は驚くことに朝からラーメンと言う普通の生活では有り得ない選択をしている。と言っても、器がいつもより一回り小さいお得サイズなのだが。それを見た一夏に「朝からヘビーなの、食べるなよ」と言われて、俺と璃里亜は二人で苦笑した。

 一夏と箒は和食を選択。ラウラは洋食を選んでいた。

 席は俺の右隣に璃里亜。左隣に一夏。一夏の正面に箒。璃里亜の正面にラウラが座っているという構図だ。

 俺は醤油ラーメンの麺は腹の中に吸い込まれてしまっているので、残ったスープを啜っていた。これが意外にも美味しい。一夏は何を思ったのかラウラの料理を見つめていた。

 

「ん、欲しいのか?」

 

 視線に気づいたラウラはパンを口にくわえた。そして、くわえたまま一夏に接近する。一夏も流石に驚く。

 

「ん………。どうした、かじってもいいぞ?」

 

「ラウラちゃん………。それは大胆過ぎると思うよ」

 

「どういう事だ、リリー?」

 

 璃里亜の言ったことがあまり理解出来なかったのか、ラウラは首を傾げた。

 ラウラが璃里亜をリリーと呼んでいるのは親しくなった証とばかりに璃里亜本人が喜んでいたのは記憶に新しい。

 

「り、璃里亜の言う通りだ!一夏にそんな食べ方が出来るか!それでは、まるで──」

 

 最後まで言い終えることなく、箒は力を込めてテーブルを両手で叩き付ける。

 叩いた衝撃で器の中のスープが溢れそうになるのを俺は持ち上げることで阻止。璃里亜は既にスープを飲み終えているので何もしない。

 最後まで言い切れなかったせいで箒がテーブルを叩いたのだが、そのせいで周りの目線を一気に集める結果となる。

 

「うおっ、危ないな………。少しは落ちついたらどうだ」

 

「全くだ。食事の時ぐらい落ち着いたらどうだ……?」

 

 俺が宥めようとしたら、ラウラが余計な発言をして追い打ちをかける。

 箒の顔はひくひくと口元が上がっており、笑顔がとっても怖いことになっている。

 それを見たラウラはさらに一言。

 

「ふむ。嫉妬か……」

 

「なっ!?」

 

「自分が出来ないものだから、羨ましいとでも思っているのか」

 

 ここで素直に認めれば良いものを箒は意地を張ってしまい言い返してしまう。

 ラウラと箒の間で火花が散る。無論、席に座ったままなのだが。原因の一夏は気付く素振りをまったく見せない。

 ここで、俺は璃里亜にアイコンタクトを送る。俺に気付いた璃里亜がこちらと目線を合わせて会話を開始。

 ───間に入って、二人を大人しくさせるべきか。

 ───面倒くさいので、相手にせずに先に教室に移動する。

 ───面白そうなので、あえて見守る。

 

「………これ!」

 

 璃里亜は人差し指と中指を伸ばした。2個目。つまり、お先に失礼してしまえということだ。

 同時に頷くと、俺と璃里亜はこっそりとその場を立ち上がった。

 食器をしっかり返却してから食堂を出ようとしたのだが、そこで慌てるように向こうから走ってくるシャルロットの姿が見られた。

 

「あ!蒼星に、璃里亜ちゃん。おはよう!」

 

「おはよう。シャルロットが寝坊とは珍しいな」

 

「ちょっと、二度寝しちゃって」

 

「シャルロットちゃんも二度寝するんだ~」

 

「夢を見ちゃって」

 

「夢?一夏と何かしている夢でも見たのか?」

 

「~~っ///」

 

 何気無く言った俺の一言にシャルロットは顔を真っ赤にしてしまった。当たっていたらしい。さらに璃里亜は微笑ましそうにして、頷いていた。

 

「私もよくあるよ。気にしない、気にしない、シャルロットちゃん」

 

 助言にしては些か、変だがそれでもシャルロットには効果覿面だったようだ。

 

「じゃあ、またね!」

 

 急ぐようにして立ち去っていったシャルロットの後ろ姿を見送って自分達も早めに教室に向かう。

 今日は確か、織斑先生がSHRの担当のはず。つまり、遅刻するということは死を意味しているということになっている。

 これが、1年1組の中での最悪の方程式なのだ。

 もうすぐ予鈴が鳴ってしまうが一夏達の身がどうなるかは正直、今は知ったこっちゃない。

 ………自業自得というやつだ。

 

 

続く───────────────────────────




リリー「では!!始めます!!」

ソウ「………何をだ?」

リリー「ソウ君!!私達の裏事情についてだよ!!」

ソウ「あ~………あれか。本編では描写しにくいSAO要素についてか?」

リリー「イエス!!でも、今回は何もない………」

ソウ「テンション高いな………」

リリー「ゲストも呼ぶつもりだかね。テンション上げていかないと、緊張で………」

ソウ「あ、そう。ゲストって言っても別に知らない人でもないんだろ。普段通りにいけばいいさ」

リリー「うん。分かったよ」

ソウ「なら、今回はこれで終わりだな。次回も楽しみにしておいてくれ!!では、また!!」

リリー「あ!!私の台詞言わないで────」

 ───以上。




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第25話 レゾナンスへの覚悟

更新遅れました………テストのせいです。学生の身の上、本業である勉強に励んでましたんで(´д`|||)

それと3章に突入です。少し文章が変わっているのとは思いますが、こっちの勝手な影響なので気にしないでくださいね

───let's!!START!!


 教室に着いた俺と璃里亜は取り敢えず席に座った。

 織斑先生はどうやら、まだ来てないらしい。が、あの人のことだ。油断は出来ない。

 そんな事を考えていると、セシリアが近付いてきた。もっぱら、一夏関連のことだろう。

 

「あの、蒼星さん。一夏さんを知りませんこと?」

 

「あぁ………あいつなら、あと少しで来るはずだから」

 

 それで納得したのか、セシリアは自分の席に戻った。と言っても俺から見て左前の席なのであまり、遠くない。

 それに先程ちょうど、噂の織斑先生が到着していたので、どっちにしろセシリアは席に避難していたと思う。

 SHRが始まるにしては、少し早い時間帯に来た織斑先生だったが、理由は遅れて判明する。

 

「到着!」

 

 扉を一気に開けられて、間一髪とばかりに入ってきたシャルルと一夏。だが、時すでに遅く織斑先生が仁王立ちして構えている。

 密かに俺は常識人であるはずのシャルルが規則を破っていたことに衝撃を受けていた。

 

「あ~………シャルルまで………」

 

「あの、蒼星さん?」

 

「………今頃、どうしてるかな~あいつら」

 

「蒼星さん!?しっかりしてくださいまし!!」

 

 蒼星の目が完全に泳いでしまっている。セシリアは慌てて蒼星を元に引き戻そうとする。

 

「そういえば最近、あれもやってないな。………そう思うとキリトは良いとしてアスナには怒られそうな気がしてきた……」

 

「誰ですの?そのお2方は?」

 

「友達」

 

「そうなんですの」

 

「いつか、紹介することになるから。それまでの楽しみってことで」

 

 あの二人を一夏達と会わせるとなると、まだ随分先の話になりそうだが、できる限り早めにしておきたい。璃里亜も早く会いたいだろうからと俺は思う。

 

《ユイ姉と喋れるかなぁー?》

 

《大丈夫じゃないか?キリトがどうにかするだろ》

 

 ユカと他愛のない会話をこなす。勿論、声に出さずに。

 織斑先生から罰を言い渡された一夏とシャルルは、落ち込みながらも席に戻る。いや、シャルルは少し上機嫌。

 その罰と言うのが、放課後の教室掃除。つまり、シャルルは一夏と二人きりになれると心が浮きだっているのだろう。

 チャイムが鳴る。そのまま、SHRが始まった。

 普段なら山田先生が担当しているのだが、今日は珍しく織斑先生がしていた。

 なんでも山田先生は臨海学校の下調べに行っていると織斑先生談から判明。

 一足先に行った山田先生にクラスの女子達は、自分も行きたかったと声を上げる。

 

《パパ、“海”ってあの大きな湖のこと?》

 

《湖?少し違うけど、大体は合ってると思う。正確には俺達の世界の7割ぐらいが海で全部が塩水なんだ》

 

《えー!私、データでしか見れないから本物見てみたいなぁ~》

 

《そうか………ユカは見たことないのか………》

 

 俺は頭を捻らす。周りには不信に思われないように、注意はしているが。

 ユカに海を見せることは、俺の視覚情報からでも出来るがそれではやっぱり、面白くない。ユカにも自分の目で見てもらいのだ。

 それをするには、ユカを人間の姿で地上に顕現する必要があるが、万が一にでも他人に少女姿のユカを目撃されたらたまったものじゃない。

 故に人影の少ない所で、こっそりとユカに海を堪能さした方が良いだろう。

《よし、ユカ。その時は人間姿になって良いぞ》

 

《え!?本当!?》

 

《ただしだ!俺が許可を出した時だけな》

 

《うん、分かったよ!パパ、大好き!》

 

 たまにはこういうことをしてやらないとユカの調子も悪くなる。

 やっぱり、動くのは夜だろうか。

 そう結論付けた俺だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうしよう………」

 

 簪は寮の廊下のある扉の前に立ち止まっていた。彼女の見つめる先には“1026号室”と書かれた部屋がある。蒼星の部屋だ。

 簪は自分でもここまで来たことに驚いていた。こんな行動力が自分の中に秘められていたのかと。

 ここに来た理由はただ単に蒼星を買い物に誘いに来ただけなのだが、何故こんなに緊張する必要があるのだろうか。手を胸に当てて一先ず深呼吸。

 臨海学校も近いこともあり、水着が必要となってくるこの時期。簪は臨海学校は休もうかと考えていたが、気が変わった。

 一番の行かない理由が専用機の未完成なのだが、既に自分の専用機もある程度は仕上がっている。これも蒼星が何気によく手伝ってくれたお陰だ。

 それに理由はもう一つ。どうしても、聞きたいことがあったからだ。その話は、簡単に切り出して良いものではない。慎重に行かないと、また自身を傷つける羽目になる。

 必死に高鳴る鼓動を押さえつけながら、簪は扉をノックした。心臓のバクバクが止まらない。

 部屋の中から足音が聞こえてきた。徐々に近づいてくると、扉がゆっくりと開く。

 

「え~誰ですか~………って簪ちゃん。どうしたんだ?」

 

「………話が………ある」

 

 どうしても、しどろもどろ気味になってしまうが蒼星は気にしていないのか簪の言葉の意味に首を傾げた。

 

「朝から俺に話って、何について?」

 

「私と付き合って欲しい………」

 

「ん?買い物にか?」

 

 あえて、重要な所を抜いてみたのだが、あっさりと見破られてしまった。今の自分の顔は真っ赤だろうと意識せざるをえない。

 ………本音はもう少し、別の意味でとらえてほしかった。

 

「買い物に付き合うのはいいけど………」

 

 言葉を濁すように蒼星は言った。何か、別の用事でもあるのだろうか。少し罪悪感が芽生えてくる。

 蒼星は頭を掻くと、う~んと悩み始めた。

 

「用事があるならいい………」

 

「いや、そうじゃないんだ。元々俺も行く予定だったから………」

 

 蒼星は吹っ切れたように言葉を続けた。

 

「簪ちゃん。リリーも一緒になるけど、構わないか?」

 

「え………」

 

「おはよう、ソウ君!───簪ちゃん?」

 

 思わず、開いた口が閉じない簪。そこにタイミングよく現れた璃里亜が元気よく挨拶をする。

 二人が対面する。

 お互いに私服姿のこともあり、より一層相手に対する不信感が増大する。

 蒼星は二人が火花を散らしそうになるまえに遮るように入る。蒼星は同じ日本代表候補生同士、ライバルとも言える関係上だが仲良くして欲しいと思っている。

 

「リリー、簪ちゃんも一緒に行くけど構わないか?」

 

「え!………あ~………うん。大丈夫」

 

 折角の二人きりのチャンスを逃す羽目となる璃里亜。だったらここはポジティブに捉える。この買い物で簪のことをよく知るチャンスではないかと。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 IS学園から最寄りの“レゾナンス”という巨大なショッピングセンターに3人は来ていた。学園からはモノレールで直行出来る。さらにここに来たら、何でも揃っているとさえ噂されている人気のスポットだ。

 レゾナンスの広場へと取りあえずやって来た一行。

 

「さて、どこから行きますか」

 

「まずは洋服だね」

 

「私もそう思う………」

 

 女子二人の意見が一致した所で、洋服を買いに洋服屋へと向かうことにした。

 

「よし、簪ちゃん。行こ!」

 

「え………た、助けて!……」

 

「行ってらー」

 

 店に入るなり、多種多様な衣服に目を輝かせた璃里亜。一体何を企んだのか簪の腕を引っ張って店の奥へと進んでいった。簪に懇願の眼差しを送られた蒼星はその一部始終を苦笑いしながら、見送った。

 一人になった蒼星はこれからどうしようかと悩んだ。

 このまま、ここで待つのは良いのだがかういう店に男性一人でいると、女尊男卑の世界によって自分が偉いと錯覚した女が絡んでくる時があるのだ。面倒ごとは避けたい蒼星は、どこか適当にぶらつくことにしたのだった。

 

「これとか良いと思うよ!」

 

「本当ですか………?」

 

「うんうん。ぴったり!ソウ君も思うでしょ────って………」

 

「………いない………」

 

 数分後、店の入り口付近にいるはずの蒼星がいないことに気付いた二人。顔を見合わせて一体彼はどこにいったのだろうかと考える。

 

「また、ソウ君………。どっかに行ったのかなぁ………」

 

「いつものこと何ですか?」

 

「まあね………放浪癖があるんだよ。ソウ君には」

 

「………そうですか」

 

 璃里亜に言われてどこか簪には、心当たりがあった。

 この前、専用機の製作作業を手伝ってもらえないかと教室まで向かったのだがいなかった。代わりにそこに居た本音に食堂に行ったという情報を入手したので、行ってみたのだが不在。

 結局探し回って、発見した場所が何故か屋上というよく分からない所だった。

 

「しばらくしたら戻ってくるから、それまで楽しもうか、簪ちゃん」

 

「ひぃ………」

 

 璃里亜の笑顔の奥に秘められた何かに簪はちょっとした恐怖感を覚えた。

 二人が買い物に集中し出した時、レゾナンスを探索していた蒼星はふと、目に入ったゲームショップへと足を向けていた。

 多種多様なゲームに興味を示した蒼星は店の中へと入り、色々と歩き回る。

 一番気になったのは、銃を主要とした仮想世界にいけるゲームだった。ISのおかげかどうかは分からないが、最近銃も詳しくなってきた。

 

「───よし、殺そう!」

 

「ん?今のは………」

 

 どこか聞き慣れた声が蒼星の耳に届き、正体を確かめようと行動に移すことにした。店から、出て辺りを見回すとどうも人際目立っている一団の姿を発見した。不運なことにも蒼星のよく知っている人物達だった。

 蒼星は背後から近づき、呆れるように声をかけた。

 

「何してるんだ、お前ら………」

 

「蒼星!なんで、あんたが!」

 

「蒼星さん!」

 

「兄様!どうしてこちらに?」

 

 鈴、セシリア、ラウラが物陰に隠れて何かをしているようだった。3人の見ていた方へと視線を向けると、洋服屋へと入ろうとしている一夏とシャルロットがいた。ということは、この3人は気になって追跡しているという所だろう。

 

「へぇー、シャルロットもやるようになったなぁ~」

 

「やるようにって何がよ!」

 

「そうですわ!蒼星さんを何を仰られているのですか!」

 

 軽く呟いただけなのだが、二人に即答とばかりに反論された。

 ラウラは二人とは、少しずれた反応をしていた。

 

「ふむ、こうなったら私が───」

 

「あー!ダメダメっ!」

 

「逆に目立ってるな………」

 

 ラウラが一夏の元へと向かおうとしたいたのを、鈴が慌てて取り抑える。その光景のお陰でほとんど隠れている意味がない。

 

「そういえば、蒼星さんは一人でこられたんですの?」

 

「何………俺………そんな目で見られていたのか………」

 

「え!そんなつもりでは!────」

 

 セシリアの一言に蒼星はガーンとショックを受けたふりをして落ち込む。セシリアが前言撤回とばかりに言うが………。

 

「まあ、冗談なんだけど」

 

「冗談………ですの………」

 

 セシリアにジト目で見られてしまったが蒼星は気にしない。

 

「リリーと簪ちゃんの二人と一緒にここに来た」

 

「あの二人は良いわよね………」

 

「何が?」

 

「な、なんでもないわよ!」

 

 鈴がよく分からないことを呟いていた。蒼星は首を傾げるばかりだ。

 

「俺、一夏のところに行ってくるわ」

 

「はいはい。早く行ってきなさい」

 

「では、私も───」

 

「ラウラさんは駄目ですわ!」

 

 同じことを繰り返すラウラだが、どうしても誰かに止められてしまう。

 蒼星は一夏の方へと合流しようとしていたのだが、ふと足を止めた。

 

「あれ、いない………」

 

 先程まで洋服店にいたはずの一夏とシャルロットがいつの間にか居なくなっていた。どこに行ったのだろうかと辺りを見回すが見当たらない。

 蒼星は先程まで二人のいた場所まで移動した。

 

「あれ、波大君ですか?」

 

「山田先生に、織斑先生。こんな所に何をしに来たんですか?」

 

「無論、買い物だが」

 

「そんなこともあるんですね」

 

「どういう意味だ、波大?」

 

「いえ………特に深い意味は………」

 

 苦笑いを浮かべて失言を誤魔化そうとする蒼星。すると、織斑先生は意識を別に向けた。矛先は試着室。誰かが使用しているようで、カーテンが閉まっている。

 ゆっくりと音を立てずに、歩み寄っていく。まさか、中を覗くつもりだろうかと蒼星は織斑先生の動きを追っていた。

 ───次の瞬間。

 

「ち、千冬姉!」

 

「お、お、織斑君っ!デュノアさんっ!」

 

「バカ者どもが………」

 

 驚くことに中にいたのは、二人。何をしていたのかは分からないが二人の顔がほんのり赤みを帯びている。

 山田先生は慌ててしまい、織斑先生は頭を抱えてため息をついていた。

 

「一夏。流石にこんなところでそれはやり過ぎだと思うぞ」

 

「波大君の言うとおりですっ!教育的にもダメです!」

 

「………す、すみません」

 

 蒼星の台詞に頷く山田先生は語尾を強めに言いはなった。

 シャルロットがペコリと頭を下げる。

 こう言いながらも蒼星は疑問に思っていたことがあった。今の蒼星の台詞だと、一夏はまるで常習犯みたいな感じになっているがそれは別問題。問題は山田先生が二人を正座さして説教しているのだが、何故か店の中。さらに山田先生自身も正座というなんとも妙な空間が出来ていた。

 それは置いといて、常識人のシャルロットがこんな行動に走ったのか考える。一夏はこんなことは出来ないので必然的にシャルロットがしたのだが理由はある程度蒼星は予想がついている。

 やはり、シャルロットは気付いていたのだ。こそこそとしている一団に。気づかない方が有り得ないとかいう問題は置いといておく。邪魔でもされたらたまらないとシャルロットはこんな行動に走ったのだろうと思われた。

 その原因の一団の方へと目を向けると、柱に隠れながらこちらに覗いている鈴とセシリアを発見。さらに────

 

「ふ、増えてる………」

 

「そういや、なんで蒼星は山田先生と千冬ね───織斑先生と一緒にいるんだ?」

 

「波大君とは先程出会ったばかりなんですよ」

 

 いつの間にか、鈴とセシリア以外に別の人物がいたことに密かに気付いてしまった蒼星は冷や汗を掻いていた。

 ………すっかり忘れてしまっていた。

 

「じゃあ、蒼星は一人で来たのか?」

 

「その質問は2回目だな。ほら、あそこに」

 

指差した方向に一夏は顔を向けるとそこには、璃里亜と簪が立っていた。

「やっと見つけた!ソウ君!」

 

「あれ?あいつらは?」

 

 尾行していた彼女たちのことである。

 

「もう少し様子見をするって言ってた……」

 

「あ、そう。んで、リリーと簪ちゃんの買い物は終わったのか?」

 

「まだ!ソウ君に見てもらいたいものがあるの!」

 

「はいはい………。ということで、山田先生。一足先にお邪魔しますね」

 

「あ、はい!分かりました」

 

 山田先生から許可をもらったところで蒼星は璃里亜と簪に引っ張られていくのだった。

 

「んで、なんで俺は荷物持ち?」

 

「勝手にどっかに行ったからです!」

 

「重たくない?」

 

「別に重たくはないのだが………」

 

 次の目的地まで移動する間、蒼星は璃里亜と簪の荷物を強制的に持たされていた。簪は不安そうに声をかけるが、蒼星は別に平気とばかりに答えた。

 数分後、3人が着いたのは先程とはまた別の洋服屋だった。

 

「ソウ君はここで待ってて。私たち、水着を選んでくるから」

 

「はいはい。了解了解」

 

「蒼星君は………何が好み………?」

 

「んー………あまり、鮮やか過ぎるってのも正直好みじゃない。まあ、その人に合った物がいいと俺は思うぞ」

 

「………分かった」

 

 簪は思い詰めた表情で、蒼星の言葉を聞いていたが蒼星が言い終わると頷いて璃里亜の後を追った。

 蒼星は店の中の椅子へと腰をおろして、荷物を両隣においた。

 

『パパー!凄いよ!こんなに沢山の装備があるよ!』

 

『装備じゃなくて、服って言うんだ。防御力とか一切上がらんしな』

 

『ふーん。あ!あれとかどうかな?』

 

『あの紅色のワンピースか?確かにユカには似合いそうだな』

 

『でしょ!でしょ!』

 

 ユカと脳内通信で、会話をして暇な時間を潰している。

 ユカもこんな賑やかな所には来たことが一度もないので、興奮状態になっている。

 人間形態になって他人からも見えるようになっては、事態がややこしくなるのでユカには悪いがこうして待機状態のまま楽しんでもらうしかないのだ。

 人間形態になれるのは、誰もいない時。会長がいない部屋の中とかではユカは人間形態になって過ごしている。

 

「ねぇ、ソウ君。これ、どうかな?」

 

「似合ってると思うぞ」

 

 璃里亜が持ってきたのは黄土色の水着だった。蒼星は正直に思ったことを告げた。

 

「よし、これに決定~」

 

「………蒼星君。私のは?」

 

「似合ってる。簪ちゃんにぴったりだと俺は思うよ」

 

 簪が持ってきたのは、水色の水着。先程の蒼星のアドバイス通りに自分の髪に合わせてきたのだろうか。

 

「私もこれにしよ」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「え!───何も言ってない!」

 

「なら、いいが………」

 

 必死に顔を横にふる簪の姿に蒼星は渋々納得するのだった。

 二人が買い物を終えたのを確認してから、蒼星は忘れずに荷物を両手に持って店を出た。

 

「もうそろそろ、時間だし帰るか」

 

「そうだね。今日は色々楽しかったよ。だよね、簪ちゃん?」

 

「………楽しかった………!」

 

 そういえば、一夏達の方はどうなったのだろうかと蒼星の脳裏によぎったが、せめて寮の門限までに帰ってくれればそれで良いのだからほっておくことにした。

 3人は行きと同じようにモノレールに乗ってIS学園へと戻るのだった。

 

 

 

続く───────────────────────────

 

 




ソウ「さて、始めようか」

リリー「うん、そだね」

ソウ「と言っても何かあったか?」

リリー「ソウ君が名前を漏らしていたくらいだね」

ソウ「誰の?」

キリト「俺だよ」

ソウ「あぁ~キリトね」

リリー「うえぇ!!なんでいるの!?」

キリト「なんでって………心外だなリリー。さっき呼ばれたから、来ただけだ」

リリー「でも、今回はSAO要素ないからゲストは無しって………」

ソウ「めんどくさいから先に呼んでおいた」

リリー「ええ!!ありなの!!」

キリト「俺もそっちが良かった………」

ソウ「だったら、早く本題に入ろうぜ」

キリト「………まだ、なにかあるのか?」

ソウ「………悪いことはしてないからな」

リリー「うん、そうだね。では発表します!」

 ───“波大蒼星の放浪癖疑惑!?”

ソウ「ん?なんだそれは?」

リリー「ソウ君、勝手に居なくなるでしょ。ダンジョンに行った時だって滅多に帰ってこないし」

キリト「確かに。フレンド欄も大体は真っ黒だったな」

ソウ「キリトに言われたくない。お前も大抵ダンジョンに引きこもりだっただろが」

キリト「そうか?」

ソウ「そうだ。それと俺にそんな自覚はない!!」

リリー「で、簪ちゃんが探してた時なんで屋上にいたの?」

ソウ「あぁ、あれはユカと喋ってたんだ」

リリー「へぇ~、私最近全然ユカちゃんと喋ってない………」

キリト「ユイも早く現実世界でも会話が出来るようにしたいな」

ソウ「まぁ、ユカもまだ公表は出来ないから早めにするつもりなんだけど………」

キリト「え?まだ出来ないのか?」

ソウ「ユカを皆に紹介するとなると────」

リリー「あぁ!!もう、余裕がない!!次回もゲストはキリト君でいくのでどうかご覧になってください!!さようなら~ー!!」

ソウ「………遮られた」

 ───以上。


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第26話 臨海学校

つい、気まぐれでifストーリーを書いてみたくなってしまいました。内容はISメンバーとSAOメンバーがもし顔を合わしたら、どうなるのか?という話です。
───で、誰と誰のやり取りを書いてみようかと悩んでいるのが現状なんで、何かしらの要望があれば活動報告の方にも記しておくのでそちらに!!

───おお!!ついに、海だぁー!!


 “海”というものは広い。

 よく海を見てると自分の悩みなんてちっぽけなものだと言われている。確かに海は広すぎて、どうでも良い願いとしては水平線の彼方まで一度でも良いから行ってみたいものである。

 

「海だぁぁぁーーーー!!」

 

 誰かの叫び声を聞き流しながら、蒼星はただ無心で外の景色を眺めていた。トンネルを先程抜けて、一面爽快な海と太陽の光に反射して光っている砂浜が映りだされた。

 今、蒼星達はバスで臨海学校の目的地を目指している真っ最中である。

 

「海だね………」

 

 盛り上がるバスの中、対称的に蒼星のテンションはどうも低そうだった。

 前の席の一夏が頭を後ろへと向けて蒼星に話しかけた。

 

「蒼星、トランプやらねえか?」

 

「………いい」

 

「調子でも悪いの?」

 

 一夏の隣のシャルルも同じように後ろへと向ける。いつもにしては元気がなさそうな様子の蒼星に、疑問を持ったシャルルは尋ねた。

 

「………酔った」

 

「あぁ………ご愁傷さまです」

 

「が、頑張ってね………」

 長旅に乗り物酔いを引き起こしたために、蒼星は気を紛らわそうと景色を眺めていたのだ。

 一夏とシャルルは苦笑いを浮かべて心の中で合掌する。

 

「離里亜もぐっすり寝ちゃってるね」

 

 蒼真の隣には気持ちよさそうに寝ている離里亜の姿が見られた。蒼真の肩に頭が、もたれ掛かるようにして眠っているためにより一層、蒼真は寝ることが出来ない。

 

「そろそろ目的地に到着する。各自荷物の準備をし、すぐに降りれるようにしろ」

 

 織斑先生の言葉は、まるで、天の声のように聞こえた。

 あと目的地まで少しだと思うと、気が楽になり症状も幾分ましになったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着いた先は海辺の側に建っている旅館だった。バスから未だに眠そうに目を擦る離里亜を引きずるようにして降ろしてから、蒼星は外の空気を懸命に吸った。

 ふぅ~と息を吐く。帰りもバスだということは今は考えたくもなかった。潮風がこんなに気持ちいいと感じたのは久しぶりだった。

 

「蒼星、行くぞ」

 

 一夏にそう促されて、男子達は列の中に入る。まだ頭が回転していないなか、蒼星は整列をした。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月壮だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

『よろしくおねがいしまーす』

 

 織斑先生の言葉の後に全員で挨拶をすると、着物姿の女将さんが皆に丁寧にお辞儀をした。蒼星も一応、声には出しておく。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 女将さんがこちらを見た。

 

「あら、そちらが噂の…?」

 

「ええ。まぁ今年は男子が2名も居るせいで浴場分けが難しくなってしまい申し訳ありません」

 

「いえいえそんな。それにいい男の子達じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者」

 

 織斑先生はグイッと一夏の頭を押さえると、一夏は取り敢えず挨拶をしようとする。蒼星も続けて挨拶をする。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「え~………波大蒼星です。色々とお世話になります」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です。それにしても波大君、顔色が良くないみたいだけど、大丈夫?」

 

「大丈夫です。しばらくしたら勝手に治りますんで」

 

 そんなに初対面の人でも分かるほど、青ざめているのだろうか。後で、離里亜や簪に心配されないように早めに調子を取り戻したい。

 

「不出来の弟でご迷惑をお掛けします」

 

「あらあら織斑先生ったら、弟さんには随分厳しいのですね」

 

「いつも手を焼かされていますので」

 

 そう言いながら、一番一夏の気にしているのは織斑先生本人だろうと考えていたところだが、未だに頭が活性化しない。

 そのおかげなのか、織斑先生に睨まれずにすんだ。

 

「うふふ。それじゃあ皆さん、お部屋の方へどうぞ。(・・)に行かれる方は別館の方で着替えられるようになってますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければいつでも気軽に従業員に聞いてくださいまし」

 

『はーい』

 

 女将の“海”の単語にいち早く反応した女子達は我先にと旅館の中へ入っていく。それを黙って蒼星は見つめており、同じように一夏と織斑先生もその場から動かない。

 そこに眠気が覚めたようで、目がパッチリとしている離里亜。相変わらずのんびりした雰囲気を漂わせている本音。眼鏡をかけた大人しそうな簪の3人がやって来た。

 

「ソウ君、まだ酔ってるの?」

 

「ナミムー、具合は大丈夫なの~?」

 

「平気。もう少ししたら、元の調子に戻るから」

 

「波大君は車とかに弱い?」

 

「まあね。船や飛行機は平気なんだけどな………」

 

 地面を走る乗り物に弱いのは昔からで、今もそれは治らない。

 

「それはそうと、ソウ君の部屋ってどこ?一覧に書いてなかったよ」

 

 その瞬間、一斉に女子の動きが止まった。それを見た一夏は興味津々なのは別に良いが、何か恐ろしいものを感じたと言う。蒼星は何も感じてないようで、平然と答えた。

 

「………一夏は知ってるか?」

 

「いや、俺も知らないぞ」

 

「だってさ。男子は野外キャンプでもするんじゃないか」

 

「そっちのほうが楽しそう~」

 

 冗談で言ってみたのだが、本音が羨ましそうにしていた。本当にしても良いのだが、今は旅館の布団でぐっすり眠りたい気分。

 

「織斑、波大、お前らの部屋はこっちだ。ついて来い」

 

「お呼びがかかったということで、お前らもまた後で」

 

「うん、わかった」

 

「また後で来てよね~」

 

「わかった~また後でね~」

 

 織斑先生に連れられて、黙々と歩いていく。どうにか気持ち悪い感触から耐えながらも歩いていくと織斑先生が歩みを止めた。ようやく落ち着いてきた所なのに、いきなり止まるから、危うく嘔吐感が戻ってきそうになってしまったではないか。

 

「ここだ」

 

 ドアに貼られてある張り紙には“教員室”と書かれてあった。ただ、蒼星は思考が停止したまま、見つめる。予想範囲内なので、驚きはしないが一夏はそうではなかったようだ。

「え?ここって…」

 

「それは分かるんでいいんですけど、何で2部屋ですか?」

 

「右の部屋が私と織斑、左の部屋が波大と山田先生の部屋だ。何分、お前らを固めて部屋に入れれば就寝時間を無視した馬鹿が押しかけるだろうという事になってな。2人共監視の意味でこうなった。これなら、おいそれと女子は近付いて来ないだろう」

 

「あぁ~……納得です」

 

 織斑先生に逆らおうとする生徒なんて、一人もいない。そんなことをするのは命が何個あっても足りない。

 

「一応、大浴場も使えるが男の織斑と波大は時間交代だ。本来ならば男女別になっているが、何せ一学年全員だからな。お前ら二人のために残りの全員が窮屈な思いをするのはおかしいだろう。よって、一部の時間のみ使用可だ。深夜、早朝に入りたければ部屋の方を使え」

 

「あ、はい」

 

「了解しました」

 

「さて、今日1日は自由時間だ。荷物を置いたら好きにしろ」

 

「わかった」

 

「海に行って、のんびりしますか」

 

 蒼星は部屋に入って邪魔にならなさそうなところに荷物を置くと、中から水着やタオルなどの荷物を取り出す。

 

「うわぁ!?波大君!?」

 

「………なんで驚いてるんですか。こっちが驚きましたよ」

 

 振り向くと、山田先生がこちらを見ていて固まっていた。彼女は自分と一緒の部屋だと聞いているはずなのに、なぜこうも派手なリアクションを取れるのだろうか。

 だとすると、少し前に隣から悲鳴らしきものが聞こえたのも、まさか山田先生のせいなのか。

 

「そ、そうでしたね。これは私が提案したものでしたね。すみません、波大君」

 

「いえいえ。お陰ではっきりと目が覚めたんで良かったです」

 

 ようやく意識もはっきりしてきたようで、体が軽くなったような気がした。

 その後は一夏を誘って、水着に着替えるために別館へと向かうことした。

 織斑先生から、羽目を外さないようにと注意もされて、やっぱり一夏が心配なんだなぁと思ったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途中、地面に突き刺さった謎のニンジンらしき物体とそれを抜いてくださいと旨が述べられた看板が建てられていたが、無視してきた。どうも、嫌な予感がしてならなかったからだ。いや、どちらかと言うと関わるのがめんどくさかった方が正しいかもしれない。一夏はそういう類いは無自覚の得意分野なのでニンジンと睨め合いを始めていたが、俺はそんなのは放っておいて一人で更衣室に向かった。

 だが、酷いことに男子の更衣室は女子の更衣室の前を通らないといけない。覗く気は皆無だが、自然と中からの会話が聞こえてくる。会話の内容が女子特有のもので、男子には幸福かもしれないが今の俺にとっては、ある意味病み上がりなので一種の毒に近かった。

 早足で魔の通り道をすり抜けて、水着に着替えるとビーチへと向かう。

 

「いや~、絶景~、絶景~」

 

 そんなことを言いながら、ビーチを一望する。すでに数人の女子が水着姿で遊んでいた。

 

「さて、寝ますか」

 

 乗り物酔いから解放されると、一気に眠気が襲ってくる。少しでも、解消したい気分なのでどこか昼寝によい場所はないかと辺りを見回す。

 場所を定めて、そこに移動すると持ってきたビーチパラソルの先端を砂へと突き刺す。シートも敷くと準備は完了だ。

 寝転んで、目をつぶるがやっぱり真夏の太陽は暑い。額に汗が上り、とてもじゃないが眠れそうにない。

 

「ソウーー君ーー!!」

 

 聞き覚えのある声に上半身を起こすと、そちらの方へと顔を向ける。

 

「………波大君」

 

「簪ちゃん。やっぱり、似合ってるじゃないか」

 

「あ、ありがと///」

 

「ナミムー、私は?」

 

「………ノーコメント」

 

 水着と言うよりは着ぐるみのようなものを着ている本音に何を言えば良いのか分からない。狐の着ぐるみで可愛いのは間違いがなかったが。

 最後に期待の眼差しを送っているのは離里亜だ。

 

「ソウ君。私は?」

 

「馬子にも衣装だな」

 

「むぅー。ソウ君のいけず!」

 

「はいはい。ニアッテマスヨ」

 

「褒められた気がしない!」

 

 内心、とても似合っていて見惚れてしまっていたなんて口に出すわけにはいかない。

 

「もし、良かったら座りなよ」

 

「うん」

 

「お言葉に甘えるね~」

 

「話逸らされたような………」

 

 3人は俺に促されてビニールシートに座る。離里亜はまだ不服みたいだが、その内機嫌は直るので良いだろう。

 すると、一夏が砂浜へとやって来た。そして、準備体操を始めたのか体のあちこちを伸ばしていく。体操を終えると同時に背後から鈴が一夏に飛びつき、そのまま肩車の体勢に入る。

 セシリアもやって来て、鈴と何か言い争っている様子がここからでも見える。微笑ましいと言えばそうなのだが相変わらず一夏の唐変木が改善する気は微塵もない。

 鈴の前世は人魚とか言う会話も聞こえてきた。

 

「青春だね~」

 

「ナミムーは行かないの?」

 

「暑いの苦手なんだよ」

 

「私も苦手………」

 

「暑いよ………」

 

 パタパタと手を仰ぐが、それでも熱気は収まりそうにない。やっぱり、さっぱりするには海に入るしかなさそうだ。

 3人は動くきにもなれないらしく、まったく動こうとはしない。俺も実際、その通りなので何も言わないが。

 一夏と鈴がこちらに近づいてきた。

「一夏、どこ行くんだ?」

 

「セシリアのサンオイルを塗りにあそこまでだよ………」

 

 一夏が指差したのは、また別のビーチパラソルだった。自業自得で引き起こした災難なので、俺が助けてあげるなどという選択肢は一切ない。

 隣の鈴が余計なことを口ずさむ。

 

「蒼星、あんた。思ってたよりも、筋肉ついてないわね。一体どこから、あんな回避が出来るのよ」

 

「余計なお世話だ。これでも、結構戻ってきてるんだから」

 

「戻ってきてる?」

 

「……こっちの話だ。忘れてくれ」

 

 危うく余計なことを言おうとするのをとうにか誤魔化す。今のが、分かるのは離里亜しかいない。

 セシリアに再度呼び出された一夏は、そちらの方へと歩いていった。

 

「私にもサンオイル塗ってよ、ソウ君」

 

「嫌だ。あんなもん誰がやるか」

 

「私にも………してほしい」

 

「………簪ちゃんに言われても、今回は断固拒否です」

 

「ナミムー、一瞬迷ったでしょ~」

 

 本音に核心を指摘されて、嫌な顔をした俺。想像してしまったのだから、仕方のないことなのだ。

 

「気のせいだって」

 

 そんなことを言い、寝そべることにした俺は後ろへと上半身を倒して仰向けになる。

 その時、向こうからセシリアらしき人物と思われる悲鳴が聞こえてきた。体を起こそうとして、確認しようとするが何故か簪と離里亜に体を押さえつけられる。

 

「なんで肩を押さえてんの?」

 

「波大君は見たらダメ」

 

 よく分からないまま、両肩を簪と離里亜に挟まれて押さえつけらている。向こうは二人の両腕でしているので、力が強い。

 目のそばには、水着姿の二人が目の前にいるので目のやり場に困る。

 ほどなくして解放された。結局、何を目的としたかは不明のままだった。

 

「取り敢えず海に行ってみますか」

 

 ここまで来たのに海水と無縁の時間を過ごすとは寂しいだけだ。折角なので、泳いでみることにした。

 

「準備運動は完了してるから、後は海に行くだけだね」

 

「いつの間に!?」

 

「ここに来る途中………」

 

「あー、なるほど。じゃあ、先に行っておいて」

 

「うん。わかった~」

 

「………それで海に入るのか?」

 

「そうだよ~」

 

「………マジか………」

 

 本音は水着とはほど遠いものなのに平気な表情を浮かべている。本当にそれで大丈夫なのか謎である。

 3人を視界に入れながらも、俺はのんびりと準備運動をしていく。時間はまだまだあるのだ。あせる必要はない。

 すると誰かが接近してきた。というのも本当に誰か分からない。二人の内、一人は普通に分かる。

 

「シャルロットも来たのか?」

 

「うん。一夏はどこにいるか知ってる?」

 

「さあ?今頃はスズー辺りに捕まってるんじゃないか」

 

「う~ん…………なかなか探してもいないからね。どうしよ………」

 

「ところでお隣さんは誰?」

 

「その声は………兄様か?」

 

「………ラウラかよ」

 

 包帯………いや、よく見るとバスタオルにぐるぐる巻きにされているラウラ。その姿はまるでお化けだ。

 試しに指先で頭辺りをつついてみると、ミイラ状態のラウラはされるがままになっている。

 

「恥ずかしいんだって」

 

「あ、そう………」

 

「やはり、私にはこんなものは似合わないのだ!」

 

「一夏に見せたのか?」

 

「いや、まだ………だ」

 

「見せて似合わないって言われてから諦めろよ」

 

「そ、そうだな!」

 

 タオル越しに声が伝わってくるので、どうも違和感を感じる。

 そもそも一夏は似合わないとか絶対に言いそうにないので、こんな説得方法はあり得ないのだが本人が満足そうにしているので良いだろう。

 そして、肝心の一夏がどこにいるのか辺りを見回す。

 

「あ、いた。お前ら、俺は先に海に行っておくからな」

 

「あ、うん。分かった」

 

 二人を跡目に俺は海の方へと歩いていく。正確には海辺近くで集まっている離里亜達の元にだ。

 そこには離里亜達は勿論、一夏と鈴もいる。他にも数人いる。ただ鈴だけが、砂辺に寝そべっている状況に俺は頭が追い付かない。

 

「何があったんだ?」

 

「スズーが溺れたんだって」

 

 話によると、一夏と鈴は海に浮かんでいるブイまでにどちらが先に泳げるか勝負をしていた。先手必勝と鈴は飛び出したのは良かったが、つい足をつってしまった。異変に気付いた一夏が慌ててここまで運んできたらしい。

「ん?確かスズーの前世って人魚じゃなかったのか?」

 

「う、うるさいわね!」

 

 こんな返事が出来るということは、まだ元気があるという証拠だ。

 すると、そこにセシリアが登場。彼女の目はまるで獲物を見つけたかのような鋭い目になっていた。

 セシリアは鈴を捕縛すると、あっという間に鈴の抵抗も虚しく何処かへと運ばれていった。

 

「そういえば、一夏。ラウラとシャルロットが探してたぞ」

 

「そうか。分かった。探してみるよ」

 

 一夏にしっかりと伝言も伝えたところで後はようやく海へと着水だ。

 

「ひゃほぉぉぉーー!!」

 

 俺は勢いよく海へと駆け出していく。そして、思いっきりジャンプして海水の中へと飛び込んだ。

 ………その時、周りの人が驚いていたのはきのせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海での一泳ぎに満足した蒼星は離里亜、簪、本音と共にビーチバレーの会場へと移動する。

 そこは既に和気藹々と盛り上っており、コートには織斑先生が異様なオーラを解き放ちながら構えていた。

 同じくコートにいる一夏が蒼星達に気づき、大きく手を振る。

 

「あ!蒼星!ちょうど良かった!ラウラがいた所に入ってくれ!」

 

「ラウラは何で寝てるんだ?」

 

「目を回しているみたいだね」

 

 倒れてくたびれているラウラに対して、冷静な状況判断をする離里亜はある意味凄いと言わざるを得ない。

 そして今のラウラはタオルをとって水着姿になっていた。

 

「フ、次は波大か、面白い」

 

「“次”ってなに!?バレーの本質ってこんなのだったか!?」

 

 おかしい。蒼星は直感的にそう感じた。そもそも観客がコートから一定の距離を保っている時点で不自然に思うべきなのだ。

 それでも、観客からは期待の眼差しを送られている。簪と本音もいつの間にか、移動しており期待の眼差しを一緒に送っていた。

 一回りして、もはや恐怖を感じさせるほどのバレーボールに蒼星は決死の覚悟で立ち向かうことを決意する。

 

「仕方ない。俺も参加しますよ」

 

「た、助かった………」

 

 一夏が安堵のため息を吐いた。それほど、蒼星が参戦したことに安心したのだろうか。

 

「ふ、波大なら手加減は不要だな。山田先生!本気でいきます!」

 

「え………あれが本気じゃないの………!?」

 

 闘志を燃やす織斑先生に対して、シャルロットは絶望の表情を浮かべていた。

 山田が慌てて返事を返す。

 

「は、はい!」

 

「ら、ラウラでも反応できなかったのに!?」

 

「………かかってこいやぁぁああ!!」

 

「「蒼星が壊れた!?」」

 

 こうして熱戦の火蓋が切って落とされた。白熱した試合は一般人には到底理解しがたいレベルになっており、後に伝説として語られる。

 ───『ビーチバレー界の悪夢』───と。

 ………一方、離里亜達は呑気にパラソルの影の元で観戦していた。

 

「あ、ソウ君。今のミスったね」

 

「わ、分かるの………!?」

 

「大体は分かるよ」

 

「リリーは凄いね~」

 

 隣の人も次元が違うのではないかと、内心ヒヤリとした簪であった。

 

 

続く─────────────────────────────




ソウ「さて、とっとと終わら───始めようか」

リリー「今、終わらせるって言わなかった~?」

ソウ「気のせいだ」

キリト「いや、俺もそう聞こえた」

リリー「あ!キリト君!呼んでないのに、出てきちゃ駄目じゃない!!」

キリト「え?もうバレてるんだから、問題はないはずだが?」

リリー「まぁ………そうだよね。早く本題に入ろうっと」

 ───“波大蒼星の謎発言について”

ソウ「また俺かよ」

リリー「だって、こういうのは私とソウ君しかいないんだから」

キリト「で、何が謎発言なんだ?」

リリー「えーと、スズーに皮肉を言われたさいにソウ君が思わず『これでも結構戻ってきてる』って口を滑らしてしまったことだよ」

キリト「それって………筋肉のことか?」

ソウ「まぁな。そもそもリハビリしてから日がたたない内にIS学園に行っちゃったからまだ本調子じゃなかったしな。欲を言えば、もう少し力は欲しい所だ」

キリト「でも、ISの操縦には影響はないんだろ?」

ソウ「そりゃね。自分の力で金属の塊を動かすなんて無理だ」

リリー「私達がISでSAOの動きを再現出来るのもその援助があるからだからね」

ソウ「分かってるんなら、わざわざ取り上げる必要はなかっただろ」

キリト「今日のソウはやけに早く締めようとするよな」

ソウ「バレーのせいで、両手が痛いんだよ。なんだよ………あの隕石みたいなサーブは………!!」

キリト「………なるほど。じゃあ、終わるか」

リリー「そうだね。それでは、皆さん!!またのごきげんよう~」

 ───以上。

 感想お待ちしてます\(^-^)/



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第27話 初夜の晩餐

活動報告の欄にて、要望受付中なのでそちらの方にも目を通して頂ければ……。

そういえば後書きでやっているあれの正式名称を決めてみましたけど、正直どうでもいいですね\(^-^)/

───さて、行くか!!


 夕刻になり、一行は夕食をご馳走になろうとしていた。

 テーブル席と座席を自由に選択出来る仕様になっているようだが、蒼星はテーブル席の方を選んだ。

 理由は至極簡単。こちらの方が人数が少ないからである。一夏が座席に座っているので、そっちにある程度の人数が集中している。それでも、正座の苦手な人はテーブル席に座っているが。

 ふと刺身をかぶりつきながら一夏の様子を見てみると、隣のシャルロットに山椒の説明をしているようだった。するとシャルロットは勇敢にも山椒の山をそのまま口の中へと入れた。蒼星はあんなことをする人を始めて見た。

 一夏はこちらの方を指差して何かを言っている。

 

「ほら、蒼星みたいに食べるんだよ」

 

 確かに刺身に山椒を少し付けて食べていたが、わざわざ手本にこちらを指差す必要はない。一夏が直接教えればシャルロットも満足だろうに。

 隣の離里亜も首を傾げている。

 ちなみに蒼星の向かい側に簪。彼女の隣には本音が座っている。

 

「セシリアちゃん、大丈夫なのかな?」

 

 離里亜が首を傾げた理由はまた別の理由のようだった。

 一夏の隣に正座で座っているセシリアは、離れて見てもキツそうだった。

 本来なら蒼星が座る予定だったのだが、蒼星があっさりとセシリアに譲った。セシリアは食い付いて必死に一夏の隣を守ろうとしている。それでも、まだ正座には慣れないようだ。

 一夏も気付いたようで、心配そうに声をかける。

 

「セシリア」

 

「移動は………しませんわ」

 

 ただ名前を呼んだだけなのに、脚下されてしまった一夏。

 

「大丈夫なのか?もし、食べにくいのなら食べさせてやるぞ?前にシャルに───」

 

「一夏!」

 

「………スマン」

 

 爆弾発言をした一夏が小さくなっていく。蒼星は知らないが、そんな機会があるとすれば多分シャルロットが体調崩したふりをしたときぐらいだろうか。

 勿論、セシリアが聞き逃さないわけがない。

 

「い、一夏さん!?今のは本当ですの!?」

 

「えーと、あの時はシャルが体調を崩して………」

 

「シャルロットさんの事はいいんです!そ、その、食事を食べさせてくれるというのは…!」

 

 少しずれているようだが、セシリアにとってはそこが大事なのだろう。

 

「う、うん?別に、いいぞ。足のしびれが取れるのを待っていたら料理が冷めるだろ。それに刺身、カワハギだぞ。鮮度が落ちたら勿体無いしな」

 

「そ、そうですわね!ええ、ええ!せっかくの料理が痛んでは、シェフに申し訳ありませんものね!」

 

 今のセシリアにとってはそんなことを考えている余裕はないはずだ。セシリアの頭のなかは食べさせてもらうことでいっぱいなのだ。

 セシリアの台詞に呆れている蒼星はカワハギを食べていると、セシリアは一夏に箸を預ける。それを受け取った一夏は早速刺身を一切れ摘まむ。

 

「セシリア、わさびは平気だったか?」

 

「わ、わさびは、少量で……」

 

 シャルロットが丸々食べていたことを思い出したのだろうか。遠慮ぎみになっている。

 そう思ってる中、一夏がセシリアに刺身を食べさせていると、反応するのは周りの女子。

 

「あああーっ!セシリアずるい!何してるのよ!」

 

「織斑君に食べさせてもらってる!卑怯者!」

 

「ズルイ!インチキ!イカサマ!」

 

 他の女子達が気付いて猛抗議した。並んで座っているので気付くのは時間の問題。

 さらに蒼星にとって起きてほしくない事態が発生する。

 隣の離里亜と前の簪が何かを訴えるかのようにこちらを見ているのだ。にこにこ笑顔な本音は助ける様子など一切ない。

 

「「………」」

 

「………一回だけだぞ」

 

「え!?本当!?」

 

 呆れ混じりに呟いた一言に食いついた離里亜は表情が一変して明るくなる。

 蒼星は箸で適当に刺身を掴むと離里亜の口元へと持っていく。それを羨ましそうに見ている簪。

「とでと言うと思ったのは後の話」

 

「………え!」

 

 刺身は離里亜の口ではなく、蒼星の口の中へと吸い込まれていく。直前で彼の箸の行き先が変更されてしまい、離里亜の期待していたものは初めから計画になかったというわけだ。

 簪は何故か安心したかのように、また食べはじめる。騙された離里亜は顔を真っ赤にして抗議する。

 

「むぅ!ソウ君のけち!」

 

「ほらほら、怒るなって」

 

「っ!」

 

 ポンポンと離里亜の頭を軽く叩く。これを蒼星は離里亜の機嫌が悪くなる時に、いつもの癖でやっているのだ。これには離里亜も怒る気が失せたようだった。

 だが、逆に簪の目線が鋭くなる。

 

「ん?どうした?簪ちゃん」

 

「……何もない」

 

 蒼星は簪の様子に違和感を感じたので、聞いてみたが簪は首を横に振って否定する。蒼星は府に落ちないものの、本人がそう言ってるのだから気にしないことにして早くご飯を食べ終えることに専念する。

 終始、離里亜の機嫌は上々で簪の機嫌は下々だったのに気付いたのは本音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終えて、部屋でのんびりしていた。持ってきた雑誌は既に読み終えてしまい、後は何もないというのが現実というものだ。

 だったら、折角ここまで来ているのだから温泉に浸かることにした蒼星は温泉に向かった。

 誰もいない中で、脳内のユカの楽しそうな話を聞きながらのんびり過ごしたのは先程までの話だ。

 そもそも一夏がいないのだから、温泉に誰もいないのは当たり前である。もうしばらくは温泉に入れる男子の時間は余裕がある。

 そしてその帰り道に蒼星は遭遇してしまったのだ。具体的には織斑先生と一夏がいる部屋の扉に張り付いている箒、鈴、シャルロット、ラウラ。そして離里亜の面子だ。後は簪が見守るように離れて立っている。

 

「……何してるんだ?」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「ソウ君だ」

 

「あ、波大君………」

 

「んでそこから面白いものでも聞こえるのか?」

 

「うん!とっても───」

 

「リリーは余計なことを言わない!」

 

 扉から離れて蒼星の質問に答えようとした離里亜だったが、鈴に口元を塞がれてしまった。

 鈴は軽く離里亜に耳打ちをして、離里亜は頷く。すると鈴は塞いでる手を解放した。

 

「知らないよ!知らない!うん!」

 

「………簪ちゃんは?」

 

「知らない」

 

「あ、そうなの………」

 

 よく耳を塞いでみると、セシリアのあえぎ声らしきものが聞こえてくる。

 もしかして一夏はセシリアにあれをしているのだろうか。蒼星も一度やれたことがある。だとしたら、今の盗み聞きしている集団は大きな勘違いをしていることになる。

 突然、扉が勢いよく開いた。簪と離里亜は扉から離れていたので無事だが、残りの面子は部屋へと雪崩れ込む。

 

「「「「「うわぁ!」」」」」

 

 中には呆然と箒達を見ている一夏と、扉を開けた張本人の織斑先生だ。それにうつ伏せになっているセシリアの姿も見られる。

 

「………4人とも何をしていたんだ?」

 

「な、なんにもないわ!」

 

「ならなんでそんなところに?」

 

「一夏、マッサージはもういいだろう。ちょうど、いい。お前ら全員、好きな所に座れ」

 

「はーい」

 

「はい」

 

 織斑先生の指示に普通に動いていく離里亜と簪だが、まったく別のことを考えていた人達は固まってしまっている。

 

「「「「は、はい………」」」」

 

 謎の間を置いてから、同時に再起動した4人はそそくさと座る。

 

「ふー。流石に2人連続ですると汗かくな」

 

「手を抜かないからだ。少しは要領よくやればいい」

 

「いや、そりゃせっかく時間を割いてくれてる相手に失礼だって」

 

「愚直だな」

 

「千冬姉、たまには褒めてくれてもいいだろ?」

 

「どうだかな」

 

 その時、遅れて蒼星は気づく。

 

「流れ的に俺も座った方が良さそうだな………」

 

 蒼星も離里亜の隣に腰をかける。

 

「は、はは……はぁ」

 

「ま、まぁ、あたしはわかってたけどね」

 

 マッサージをしてると分かった箒はズルリと脱力し、鈴は妙な強がりを見せてる。鈴は今更そんな強がったところで誤解してたのはバレバレである。

 

「「………………」」

 

 そして、ついさっきまで聞き耳を立てていたシャルロットとラウラは、顔を真っ赤にして俯いていた。この二人も箒達と同じくエッチな事をしてると誤解してたのだ。

 

「ねぇ、かんちゃんは分かってた?」

 

「なんのことです?」

 

 離里亜と簪は別に平気な態度を示していた。というよりかは離里亜は興味本意で盗み聞きしていたようだし、簪は何のことかすら分かっていなかったようだ。

 さらにいつの間にか離里亜の簪に対する呼び方が変わっている。

 

「まあ、一夏は御風呂にでも入ってこい。部屋を汗臭くされては困る」

 

「ん。そうする。蒼星はどうする?」

 

「俺はもう行ってきたんだけど」

 

「波大も行ってこい」

 

「へ?何故ですか?」

 

「なに、たまにはコイツらと女の話をするのもいいと思ってな。お前も参加するつもりなのか?」

 

「………二度風呂も悪くないかなぁ~」

 

織斑先生な鋭い目線に蒼星は大きく背を伸ばした。そして次の瞬間、駆ける。

 離里亜と簪は、今の蒼星は完全にここから逃げたと思った。あっという間に蒼星は部屋から退散していく。その動きは俊敏で、気付いたときにはもう姿はない。

 普段ならさっきの行動に対して、誰か一言口にするのだが、今回は違う。

 静寂が部屋を包み込み、誰も声を発っしようとはしない。

 

「どうした?おいおい、葬式か通夜か? いつもの馬鹿騒ぎはどうした」

 

「い、いえ、その………」

 

「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと………」

 

「は、初めてですし………」

 

「私、意外と人見知りなんです」

 

「私も………」

 

「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。篠ノ之、何がいい?」

 

「えっ!?えっと………」

 

 箒がいきなり話を振られ戸惑い何も言えない。その間に織斑先生が備え付けの冷蔵庫にから飲み物を7人分取り出す。

 

「ほれ、ラムネとオレンジとスポーツドリンク、コーヒーにコーラ、紅茶と緑茶だ。それぞれ他のがいい奴は各自で交換しろ」

 

 順に彼女達は受け取っていく。交換はされなかった。離里亜はコーラの缶を手にしたが、どちらかというと鈴のラムネが良かった。そんなことは空気が重いので言えるわけがない。

 

「「「「「い、いただきます」」」」」

 

 全員が飲み物を口にする。それを確認した織斑先生はにやりと笑った。

 

「…飲んだな?」

 

「は、はい?」

 

「そ、そりゃ、飲みましたけど…」

 

「な、何か入っていましたの!?」

 

「そんなわけがないだろ馬鹿め。単なる口封じだ」

 

 そんなことを言うと、織斑先生は錯覚しているのでないかと思うほどの物騒なものを取り出してきた。

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

 ビールだ。あのアルコールが含まれていて、大人にしか飲めない代物。

 全員が驚愕して織斑先生を見つめる。特にラウラはこれが夢だと思いたいのか何度も瞼をパチクリさしている。

 

「おかしな顔をするなよ。私だって人間だ。酒くらいは飲むさ。それとも、私は作業オイルを飲む物体に見えるのか?」

 

「い、いえ、そういう訳では…」

 

「ないですけど…」

 

「でも、その、今は…」

 

「仕事中なんじゃ…?」

 

「堅い事を言うな。それに、口止め料はもう払ったぞ」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「………やっぱり、そんなことだろうと思いました」

 

 離里亜の言葉に織斑先生は満足そうな笑みを浮かべる。

「さて、前座はこれくらいでいいだろう。肝心の話をしようじゃないか。………………遠堂と更識を除いてのお前ら、アイツのドコが良いんだ?」

 

 アイツと言われて誰のことを指しているのかは誰もが瞬時に理解している。今回、離里亜と簪の二人は関係ないため見守る体勢に入っている。

 まず、答えたのは箒だ。そして鈴、セシリアと続く。

 

「わ、私は別に………以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」

 

「あたしは、腐れ縁なだけだし………」

 

「わ、私はクラス代表として、もっとしっかりしてほしいだけです」

 

「ふむ、そうか。では、そう一夏に伝えておこう」

 

「「「言わなくていいです!」」」

 

 即答で答える3人。

 もはや、完全に遊び半分で聞いている織斑先生は楽しそうである。

 

「はっはっは!で?デュノアはどうだ?」

 

「僕………わ、私は、その………や、やさしい所です」

 

「ほう。しかしなぁ。あいつは誰にでも優しいぞ?」

 

「そ、そうですね。そこが、悔しいかなぁ…」

 

 健気なシャルロットの一言に周りの皆は同情した。

 これで残ったのは後一人。

 

「で?お前はどうだ?ボーデヴィッヒ」

 

「つ、強いところが…でしょうか」

 

「いや弱いだろ。同じ環境下では波大の方が明らかに強い」

 

「つ、強いです。少なくとも私より」

 

「そうかねぇ………」

 

 意味深なことを呟きながら、織斑先生は2本目のビールへと手を伸ばした。

 

「まぁ強いかは別にして、だ。あいつは役に立つぞ。家事も料理も中々だし、マッサージだって上手い。先程のセシリアを見れば分かるだろ?な?」

 

「は、はい………///」

 

「と、いうわけで、付き合える女は得だな。どうだ?欲しいか?」

 

「「「「「くれるんですか!?」」」」」

 

「やるかバカ」

 

「「「「「そんなぁ~」」」」」

 

「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」

 

 一夏のことになると息ぴったりな態度を見せる四人に織斑先生はからかって満足そうな表情になる。

 今度は笑いを堪えている離里亜と、他人目線のような視線をしていた簪に話をふる。

 

「さて、まず遠堂。波大のどこがいいんだ?」

 

「それは………いざって時には期待に答えてくれるところ………でしょうか」

 

「もっと詳しく言ってみろ」

 

「普段のソウ君は、自由気ままに行動していて私の相手とかしてくれない時が多いんですよ。でも、本当に必要となったときには必ず手を差し伸べてくれるんです。昔から変わらないままです」

 

「なるほど。更識はどうなんだ?」

 

 よくよく考えてみると離里亜は簪が蒼星に惚れる理由を知らなかった。なので、耳を澄まして答えを聞き取ろうとする。

 

「えっと………優しくて………強くて……それで………」

 

「「「「「それで?」」」」」」

 

「一緒にいると安心する所です………」

 

「ふむ。私から見ても確かに持ってそうだな」

 

 簪の言うことは一理あるような気がする離里亜。よくいなくなることが多い蒼星だが、数年前自分が寂しい思いをしていた時には黙って隣にいることもある。その時は自然と心が落ち着いた。

 

「この際、ちょうどいい。波大について聞いておきたいことがあった」

 

「え?ソウ君のことで?」

 

「私………あまり知らないわよ」

 

「私もだ」

 

 箒と鈴はまだ会ったばかりなので蒼星のことについて聞かれても答える自信がないのは当たり前だ。

 

「あいつのISの戦闘を見ても分かるが、異常に勝負慣れをしているような感じだ。そのことについて何か知ってるか?」

 

「いえ。僕が似たようなことを聞いても、はぐらかされました」

 

 数日前にシャルロットは一度蒼星に「なんでそんなにISの操縦が上手いの?」と尋ねていた。

 蒼星は「日々の努力たりもの」と拳を握りながら言っていたが、言葉が濁っていたために怪しい。彼の答えは嘘ではないが、根本的なものが違うとシャルロットはそう結論付けていた。

 

「そうか………遠堂は知らないのか?」

 

「ゲーム好きで色々とやってたからじゃないですか?」

 

 離里亜の答えは蒼星の強さの秘訣に半分は合っているが、もう半分は違うようなものだった。

 織斑先生も流石にそこまでは勘づけないので、納得したかのように頷いた。

 

「波大は強い。力だけではなく心もな。試験の時なんて剣さばきに度肝を抜かされたほどだ」

 

「織斑先生って蒼星の試験を担当したと聞いたんですけど本当なんですか?」

 

 箒はこの際気になっていたことを尋ねた。蒼星はIS学園の試験では織斑先生と手を合わせているのだ。

 

「ああ、そうだ。思わず本気になってしまいそうだった」

 

 あの世界最強の織斑先生を不意打ちとはいえ、本気にさせるとは既に蒼星はその頃から実力の一片を出していたのだ。

 それに最も同意したのはセシリアだ。

 

「蒼星さんのあれは異常ですわ!」

 

「そうよ!特に近接なんて無敵すぎるわよ!」

 

 蒼星に近接で1回でも良いから勝ってみようとするのは至難の技とも言える。同じタイプの一夏の単純な戦闘方法とは違って、彼はまるで技を使ってくるのかような先の読めないスタイルで勝負をしている。

 

「確かにAICで動きを捉えようとしても、すぐにかわされる」

 

「銃弾もたまに斬っちゃうし、あんなのアリなの!?って思うくらいだよ」

 

「でもソウ君、遠距離戦はあまり得意じゃないよ」

 

「確かに蒼星はどちらかと言うと近接タイプだ。あの歯車があるにも関わらず」

 

 唯一の麒麟の装備のなかで遠距離武器の電子粒砲を蒼星が使うことはなかなかない。主に敵への牽制目的での使用が多く、他には確実に相手に命中させるときにしか使ったことがない。

 

「………遠距離戦は滅多に経験したことがないって言ってた」

 

 簪は自身のISの製作を手伝ってもらっていた際に蒼星がそのように愚痴っていたことが記憶にあった。だからと言って、自ら遠距離戦をやりたいというわけではないらしい。

 途中から、蒼星をどうやって倒すかの作戦会議のようになってしまっている。

 今まで黙って聞いていた織斑先生が話に入る。

 

「そこまでだ。話を戻すが、結局はあいつら次第だがな。波大はともかくあのバカは、お前らの気持ちに気付いていないからな。まずはそれをなんとかせねばな」

 

 全員が織斑先生の格言に頷いた。

 

 

続く───────────────────────────




 “SAO帰還者内密談笑会”

ユカ「では、始まるよー」

ソウ「今日はユカが司会なんだな」

ユカ「うん。ママは今日はお休みだって~」

ソウ「それじゃあ取り敢えず、進めようか」

ユカ「なら早速、ゲストの登場でーす!!」

キリト「………よろしく」

ソウ「また、お前か」

キリト「俺だって飽きたよ」

ソウ「まぁ、別に今回は特に取りあげる点もなかったからキリトでも良いや」

キリト「良いのかよ!!」

ユカ「パパ、お題あるよ」

ソウ・キリト「「あるの!?」」

ユカ「じゃじゃーん!!“入学試験疑惑”です!!」

キリト「ソウ………不正行為でもしたのか………!!」

ソウ「してないからな。そもそも相手が織斑先生にどうしろってんだよ」

キリト「え?筆記試験じゃないのか?」

ユカ「パパの場合は模擬試合でのテストをしていて、筆記試験はパスなんだよ。時間もなかったからね」

キリト「へぇ~、そうなのか」

ソウ「キリトも勝てないぞ、あの鬼には」

キリト「ソウがそこまで言うのなら、やってみたいな」

ユカ「ねえねえパパ、今の台詞って戦闘狂って言うの?」

ソウ「ユカは流石だな、正解だ。ほーら、よしよし~」

ユカ「へへへ~」

キリト「ちょっと待て!!なんでそうなる!?」

ユカ「あっ、時間だ。では、皆さんさようなら~」

キリト「人の話を聞い──────────」

 ───以上。


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第28話 天災の襲来

気付けば11月………。寒くなってきましたね。
まぁ逆に蒼星達は夏を迎えてるんですけどね。

それはそうと、蒼星と束の関係をどうしようかと悩んでいます。お互いに敵視をするか、また束が蒼星のことを気に入るのか………何か、案があれば感想まで。

───では、スタート!!


 次の日、俺は朝ごはんを食べ終えた後に浜辺から離れた岩場へと来ていた。

 これからするのは一般生徒にはあまり関係ないが、専用機持ちや開発者などには必須のことだ。具体的に言うと、ISの各種装備試験運用とそのデータ取り等をしなくてはならないのだ。

 俺の元に新たに送られてきたのは一つだけだったので、後は麒麟の整備に回そうと考えていた。ユカが色々と調整してほしい所があるそうなので主にその対応をするつもりでいる。

 離里亜は俺とは違って、たくさんの装備と“エンドロード”本来の装備である第3兵器の調整に時間を取られるそうだ。

 簪は機体の方はほとんど完成しているので、装備の細かい設定に本格的に入るつもりでいるらしい。

 俺の一番気になっていることといえば、何故か専用機を持っていない箒もここにいるということなのだ。織斑先生の指示だったので説明はあると思うが、考えてもきりはない。

 

「ようやく全員集まったか。───おい、そこの遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

 織斑先生に呼ばれて身を竦ませたのは、凄く意外な人物であるラウラだ。

 軍人であるラウラが珍しく寝坊したみたいで、集合時間に五分遅れてやってきたから遅刻となっていた。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが──」

 

 ラウラは織斑先生に言われたとおり説明を始める。しかも一切噛むことなく俺でもあんなに自然に言うのは難しい。あそこまですらすら言えるという事は、ラウラ自身が優秀且つ織斑先生に相当叩き込まれたってところだろう。俺の隣にいる一夏なんてラウラの説明を聞いて凄く感心してる。

 

「さすがに優秀だな。では遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 そう言われると、ラウラはふうと息を吐いて安堵した。あの様子を見る限り、恐らく織斑先生のドイツ教官時代にかなりしごかれたようだ。因みに教官をしていたことは一夏から聞いている。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 生徒一同が一斉にはーい、と返事をする。一学年全員が一斉に並んでいるから、かなりの大人数だ。

 今から始めようと織斑先生は専用機持ち達に声をかけるが、セシリアが「あのぅ………」と恐る恐るといった感じで声を発した。

 

「どうしんだ?オルコット」

 

「箒さんは違うのでは?」

 

「あぁ、そのことなんだが───」

 

 誰もが思っていた疑問をぶつけられた織斑先生は答えようとするが、第3者による大声に遮れる。

 

「ち~~ちゃぁぁぁぁ~~ん!!」

 

「………あの馬鹿が」

 

 織斑先生はため息をついた。

 原因だろうと思われるのは、あの崖から凄いスピードで駆け降りてきている人と思われる。

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、今すぐにハグハグしよう! そして愛を確かめ───ぶへっ」

 

 遠慮なくアイアンクローをするとは流石織斑先生だろうか。しかも思いっきり指が食い込んでいるから、全く手加減してない。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」

 

 織斑先生の強力なアイアンクローからあっと言う間に抜け出すとは………やはり見た目とは裏腹にかなりの身体能力を持っているようだ。

 隣の簪と離里亜に謎の人物について伺ってみる。

 

「誰だ、あの人?」

 

「さあ?どこかで見たことはあるけど………」

 

「篠ノ之博士だと思う」

 

「へぇ~。あんな人が」

 

 簪の言うとおりだとすると、あんな破天荒な人がISの生みの親だとは見ただけでは思えない。

 そして篠ノ之束は次に箒の方を向く。

 離里亜は時間が惜しいのと、簪は興味がないので作業に入っていってしまった。

 

「やあ!」

 

「………どうも」

 

 嫌そうに答える箒。姉妹であるはずなのに、箒は拒絶の態度を示している。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが───」

 

 今、物凄い音が鳴ったような気がした。

 

「殴りますよ」

 

「殴ってから言ったぁ!しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどいよ箒ちゃんひど~い!」

 

 殴られた頭を抱えて涙目で訴える束。俺は勿論、周りの皆は状況に追い付けないようで表情がポカーンとしている。

 

「あ、あのうこの合宿では関係者以外立ち入り禁止の───」

 

「これは、珍妙奇天烈なこと言うね。ISにおいての関係者は私をおいて他にいないよ!」

 

「そ、そうですね」

 

 山田先生ですら撃沈。だが、この人を止めようなんて俺はしない。そんなことをしても無駄に疲れが溜まりそうだからだ。

 

「おい、束。自己紹介ぐらいはしろ。私達以外の生徒が驚いている」

 

「ええ、面倒だな。私が天才束さんだよ~、よろしく。はい終わり」

 

 そして全員がこの人があの篠ノ之束だと分かると全員が驚愕した。これがあのISの生みの親だとは俺も思いたくはない。しかしこれだからこそのISなのかもしれない。

 ユカが通信で話すが、些か口調が暗い。

 

《パパ~、早くしてよ~》

 

《そうだな。早くやりますか》

 

《私、あの人は苦手~》

 

《苦手?ユカを作ったのはあの人じゃあ?》

 

《そうだけど、苦手なの~》

 

 ユカとはどこか気の合わなかった所があったのだろう。ユカがこうして嫌そうな感じをするのは滅多にない。

 騒動の場から離れた所で、作業を開始した俺は麒麟のデータをユカのサポートと、麒麟の開発の担当しているレクトから送られてきたデータを参考にして進める。コンテナも送られてきていたようだが、それは後回しにする。

 

「うおっ!?なんだ!?」

 

 突如襲ってきた揺れに俺は作業を中断した。周りを見渡して確認すると、一夏達の方にとてつもなく大きなコンテナが地面へと突き刺さっていた。あれが揺れの原因のようだ。

 

「波大君、今のは………?」

 

「多分、あそこにある物体のせいだろ。………というか簪ちゃんはもう終わった?」

 

「ちょっと蒼星君に聞きたいことがあって………」

 

「ん、どれ?」

 

「でも………邪魔するのも………」

 

「そんなに急ぐ必要はないから、大丈夫だって」

 

 遠慮する簪を説得さして、俺は簪の疑問に答える。

 内容は装備の細かな調整についてだった。これなら俺でも相談に乗ることが出来るほどだったので正直に答える。

 

「────でどうかな?」

 

「うん。試してみる」

 

 簪は頷くと、俺の麒麟の調整の邪魔にならない位置で再び作業を始めた。

 俺もほとんど終わりかけの作業にてをかけているが、最後の難関が立ち塞がりどうしうもなく頭を掻いていた。

 

「………ナニコレ?」

 

 レクトとからはデータと共にコンテナも送られてきていたが、その送られてきた物が目を疑う物だった。

 

「でっかい盾だな………」

 

 とてもない大きさの盾がコンテナの中に居座っていた。これを麒麟で持てるかどうか不安なほどの巨大さを誇っていた。丁寧に盾の所に“蒼星君専用~”と書かれた貼り紙が貼られていた。これを張ったのは、離里亜の母親だ。遊び心満天で作られているような気がした。

 

 ───『ジャイアントシールド』───

 

 この名前を見たとき、確信した。自分の考えは正しかったのだと。

 よく見ると隣に“冗談だよ~”と追加書きがされていた。ちょっとした出来心で書いたようだ。

 

 ───『ヴォルスシールド』───

 

 ………これが本当の名前らしい。

 

「なみむー、何してるの?」

 

「のほほんさんか。これをどうにかしようとしてる」

 

 コンテナの中で巨大盾をどうしようかと頭を捻らせていると、本音がピョコと顔を出した。簪の様子を見に来たついでにこちらにも顔を出したのだろう。

 本音はこれを見ると「ほぇ~」と声を出した。

 

「凄いね~、これ」

 

「こんなの使う機会あるのだろうか…」

 

「ないよね」

 

「だよね~」

 

 本音に断言されて、俺も頷く。

 防御用装備を欲しいとなんとなく伝えてはみたが、まさかこんな代物が届くとは思いもしない。

 取り敢えず麒麟の中にしまっておくことにして事なきを得ることにした。

 麒麟を装備しながら、一度どのくらいの重量なのか試しに持ってみたが意外と軽かった。

 その時に気付いたのだが、これの縁に沿って何かを嵌めるようなくぼみがあった。それも5ヶ所。

 データによる説明によると、この巨大盾の中にコイルの働きをする部品も入れておいたらしい。それも俺の考えていた使い道に絶好な所にだ。

 そうなると、案外これの用途は広くなるかもしれない。さらに言うと、これは完全に麒麟専用装備になる。

 コンテナを出ると、簪が空を見上げている様子が目に入る。つられて俺も目線を上へと上げる。

 空にはISが舞っていた。

 

「あれは………見たことないISだな」

 

「篠ノ之さんのISらしいよ~」

 

「箒のか?」

 

 だから、専用機持ちが集められた時に箒も織斑先生に呼ばれていたのか。納得だ。

 それにしても箒の乗っている深紅のISはとてつもないスピードで空を舞っている。麒麟のスピードよりも早いかもしれない。そこが、大事というわけではないので俺は特に気にしないが。

 箒は2本の刀を取り出した。右手に握っていた片方を左肩に持っていき前へと突きを放った。あれは確か、剣術で防御型に入るものだったはずだ。

 すると赤色のレーザーの球体が出現したかと思うとそれらは弾丸と化して辺りいったいの雲を四散さした。

 

「ミサイル………」

 

 突如、どこから現れたのか分からない大量のミサイルが箒の方へと向かっていく。

 箒は問題ないとばかりにもう一本の刀を振り上げた。帯状のレーザーが現れてミサイル全てを撃墜した。

 

「なみむー、どうしたの?」

 

「いや………あれはちょっと危ないなって思っただけだ」

 

「あのISが?」

 

「違う。箒のほう」

 

 今までのが、テストだったのか箒は一夏達の方へと降りていく。そこと俺のいる場所は距離があるため遠目になってしまうがそれでも分かった。

 ───今の箒は浮かれている。

 玩具を貰った子供のように箒は嬉しそうな表情をしていた。いつも通りの態度をとっているつもりなのだろうが、俺から見ればいつもと違うのは丸わかりだ。

 そこまで思考が走ったとき、離里亜からのプライベート通信が入ってきた。

 

『ソウ君。あのIS凄く高性能みたいだよ』

 

「そうだな。世界は広いもんだなぁ」

 

『やっぱりそんなに驚かないの?』

 

 離里亜には予想通りといった感じで返事をされてしまった。まあ、これも想定範囲内なので驚きはしないが。

 

「使い手があれだと、持ち腐れだろ」

 

『う~ん、私も同じ考えだけど………ソウ君は紅椿に勝てるの?』

 

「微妙だな。曖昧な所だからやってみないと分からない。というかリリーはもう終わったのか?」

 

『あ!まだ残ってたんだ!』

 

 それを最後に通信は切られた。箒の方へと気を取られていたらしい。

 離里亜の言葉の中にあったのだが、あの深紅のISは“紅椿”と言うらしい。さらにあれほどのスピードを出せるのは、敵となれば強敵となりうる存在になるだろう。

 それでも、搭乗者があの状態だとそんな心配をする必要はない。本人が慢心だという自覚に気づけば良いのだがその可能性は今の箒を見る限り、薄い。

「なみむ~、来るよ~」

 

「ん?誰が?」

 

「織斑先生」

 

 本音に言われて、ようやく織斑先生がこちらに向かって歩いてきていることに気付いた。

 その表情は複雑そうな感情に惑わされているような感じだ。

 

「波大、付いてきてもらっても良いか」

 

「何かあったんですか?」

 

「束がお前を呼んでるんだ」

 

「俺を?ISはどうすれば?」

 

「………すまんがそのままで構わん」

 

 織斑先生はいつもとは違って申し訳なさそうに話している。これは異例だ。

 麒麟を待機状態にしたまま織斑先生に付いていこうとしたのだが、制服の袖を引っ張られて足を止める。

 

「………」

 

「簪ちゃん?」

 

 掴んだのはISの調整に夢中になっていたはずの簪だった。彼女の目はどこか不安げに儚くなっていた。

 

「私………嫌な予感がする」

 

「大丈夫だって。話をするだけだから」

 

 ポンポンと簪の頭に手を置いて、安心させる。今はそれで納得してもらえたようで掴んでいた手が離される。簪の頬が少し赤く染まっていた。

 本音と簪に見送られて、一夏達の方へと移動する。そこは一目では表しにくい状況になっていた。

 セシリアが落ち込んでいるようで、鈴が慰めながら篠ノ之博士の方へと敵意を向けている。一夏はどうすれば良いのか判断出来ずにおろおろしているし、ラウラは考え事をしているのかその場から動く気配がない。

 そして………箒は申し訳なさそうな瞳で俺のことを見ていた。何故そんな視線を送るのか疑問だったが、それはすぐに解決されることになる。

 

「波大、単刀直入に言う。すまないが箒と戦ってもらってもいいか?」

 

「藪から棒にですね。どうして、俺なんかが?」

 

「説明しろ、束」

 

「えぇ~、めんどくさい~」

 

「理由もなしに私の生徒に手を出させるわけにはいないからな」

 

「しょうがないなぁ~。ただ単に箒ちゃんがその子のことを尊重していたからね~。この紅椿とどこまでやれるのかこの目で直に見てみたいんだよぉ~」

 

「だそうだ」

 

 そんなことを言われたって、俺としては興味はない。ただ………織斑先生も教師というよりは個人としての頼みのようなので、何か考えでもあるのだろうか。

 でも俺の考えを変えることはない。

 

「お断りします」

 

「………理由を聞こうか、波大」

 

「そちらには利点があるのですが、俺にはない。ましてや、まだその機体に慣れてない箒と試合をするのは時間の無駄だと思います」

 

「なっ………!!」

 

 箒が絶句したようだが、そんなことは気にしない。束は想定済みとばかりに、新たな提案を出してくる。

 

「もし箒ちゃんに勝てたら、私がそこの金髪に謝って、ついでにISを見てやっても良いよ?」

 

 この提案に俺はなんのことかさっぱりだったが、織斑先生は驚愕していた。セシリアと一夏の方も同じように驚いていた。

 織斑先生は束を見据えて尋ねる。

 

「束、お前それは本気で言ってるのだろうな?」

 

「勿論だよ、ちーちゃん」

 

 あっさりと頷く束に織斑先生はまだ信じられないような顔をしていた。話が読めない俺は話の分かりそうな鈴と一夏にプライベートチャンネルを開いた。

 

『セシリアに謝るって何があったんだ?』

 

『セシリアがISを見てくれるように頼んだのに一刀両断されて、罵倒されたのよ!』

 

『なるほど。一夏は他にあるか?』

 

『束さんが謝罪するって性格からしてあり得ないんだ。束さんは他人にはまったく興味を示さない人だから』

 

 そう言われると織斑先生が驚くのも無理はない話だ。話を聞く限り、噂の天才はまったく他人には関わりを持たないらしい。

 そこに出た俺が箒に勝てれば、謝罪するの一言。先程から怪しい笑みを浮かべている束が何を考えているかは読めない。

 

『分かった。サンキューな』

 

『え!?蒼せ───』

 

『ちょっと!?何する───』

 

 こちらから一方的に通信を終了さして、束の方へと向き直る。

 

「答えは決まったかなぁ~?」

 

「分かりました。こちらにも利点が出来たのでやってもいいですよ」

 

そう言うと同時にユカにも確認をとる。

 

《機体の方は大丈夫か?》

 

《うん!準備万端だよ!》

 

 ユカの許可も取れた所で、俺は覚悟を決める。

 再び俺の台詞に織斑先生は驚愕する羽目になるが、俺の覚悟を決めた瞳に言っても無駄だろうと判断したのかため息をついた。

 

「…………はぁっ。束、模擬戦をやるにしても制限時間を付けさせてもらうぞ。良いな?」

 

「オーケーだよ~ちーちゃん。その子がやってくれるなら文句は言わないよ~。箒ちゃ~ん、今から模擬戦を───」

 

 織斑先生から模擬戦許可を貰った俺が準備をすると、篠ノ之束は箒に通信をしていたのであった。

 ………あ。後で簪ちゃんに謝らないと…。

 話をするだけと言っただけなのに、試合をするといつの間にか話が大事になってしまった。

 離里亜にも一言言っておかないと色々と言われそうだし、少し試合を許諾したことを後悔した俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩場から離れて、海面の上に向き合う2機のIS。周りに被害が及ばないようにこちらへと移動してきた。

 ───“麒麟”と“紅椿”。

 麒麟の搭乗者は呑気に肩を回したり、ストレッチしたりと試合前の準備体操をしていた。

 紅椿の搭乗者はまだこの展開に躊躇しているのか些か、覇気がない。

 

 数分前───

 

『なあ、俺、試合をすることにしたから』

 

『ええ!?なんで!?』

 

『やっぱり………話をするだけじゃなかったの?』

 

『………ごめんなさい。後で埋め合わせはするから簪ちゃん』

 

『分かった』

 

『もぅ~!ソウ君!後で聞くから覚えておいてよ!』

 

 先程二人の少女に試合をすると伝えたら、少し説教させられそうになった蒼星は箒の様子を見かねて近づく。

 

「箒、通信は切ってるか?」

 

「あぁ………言いたいことがあるのなら、言ってくれ………」

 

「んじゃあ、折角なんだし楽しもうか」

 

「楽しむ?」

 

「別に迷惑かけてるって思ってるなら気にすんなよ」

 

「………だが」

 

「こうなるとは思ってなかったんだろ?今は試合に集中だ。後のことは一夏と一緒にでも考えればいいさ」

 

「………分かった。蒼星、私は一切手を抜くつもりはないぞ」

 

「そうか、そうか。その調子でかかってこい」

 

「それと………一つ頼みがある……」

 

「何?雷でも落としてほしいのか?」

 

「いや…それは遠慮しておく」

 

 冗談を言ってみたが、箒は苦笑いで返した。実際に雷は流石の麒麟でも落とせない。

 

「本気で勝負してほしい」

 

「俺、本気出す主義じゃないんだよ」

 

「それを承知で頼んでるのだ!お願いだ!」

 

「なら………そうだなぁ………箒が攻撃を3回当てれたら、本気を出しとくか考えとくわ」

 

「3回………分かった。ではよろしく頼む」

 

 するとちょうど良いタイミングで、織斑先生から通信が入ってきた。箒もそれに気付いたのか蒼星から距離をとる。

 織斑先生の態度は依然として変わらない。

 

『こちらの準備は終わった。二人とも準備は良いか?』

 

『はい。大丈夫です』

 

「あ、今緊張で手足がカチカチになりました」

 

『特に問題はないようだな』

 

「そうですよね………スルーですよね~」

 

『余計なことをしとらんと、さっさと武器を構えんか馬鹿者が』

 

「ラジャーです」

 

『それでは試合、始め!!』

 

 蒼星の目付きが変わる。まだ完全に慣れていない箒とは言え、油断していたら危険だからだ。

 

「さあ、行こうか………」

 

 麒麟vs紅椿が今、開幕した。

 

 

続く─────────────────────────────

 

 




 “SAO帰還者内密談笑会”

リリー「では、始めます!!」

ユカ「始めよ♪始めよ♪」

リリー「あれ?ソウ君は?」

ユカ「パパは試合中だから、お休みだって~」

リリー「あ!そうだったね。じゃあ、どんどん進めようか、ユカちゃん」

ユカ「うん!!まずはあれだね!!」

リリー「よし、あれだね!!ではでは、ユカちゃんがお待ちかねのゲストの登場でーす!!」

アスナ「結城明日奈です。よろしくね、リリーちゃんにユカちゃん」

ユカ「わーい、アス姉だぁ!!」

アスナ「ユカちゃん久しぶりだね」

ユカ「うん!」

リリー「じゃあ、アスナ。早速本題に入っても良い?」

アスナ「良いよ。何かな?」

リリー「発表します!!今回の話題は!!………あれ?…………あれあれ?」

ユカ「ママ?」

リリー「………無くしたかも………」

アスナ「どこかに落としたの?」

リリー「う~ん………何処で落としたんだろう………」

アスナ「なら別の話でも良いんじゃない?」

リリー「例えば?」

ユカ「あっ!私、アス姉とパパがどんな関係か知りたい!!」

アスナ「ソウ君と?」

リリー「むっ………」

アスナ「そうだね。よくソウ君にはキリト君関連について相談に乗ってくれたりしてたよ」

リリー「………本当?」

アスナ「本当だってば!!リリーちゃん!!それに既にソウ君には予約相手がいたから、そんな気はないよ!!」

ユカ「アス姉はキリトさん一筋だもんね~」」

アスナ「ユカちゃん!!余計なことを言わないの!!」

ユカ「ごめんちゃーい」

リリー「うん、分かった。アスナを信じるよ」

アスナ「ありがとう、リリーちゃん」

ユカ「あ、もう時間だよ」

リリー「あっ………ホントだ。今回はここまでにしてまた次話でお会いしましょう。さようなら~」

ユカ・アスナ「「さようなら~」」

 ───閉幕。



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第29話 嵐の予兆

段々と更新速度が落ちてきてます。多分、これからも早くなることはないかと……


───ス、スタート!!


「さあ、行こうか………」

 

 決まり文句に近いものを呟きながら、俺はいきなり“電子粒砲”を具現化さして、構える。

 この電子粒砲には2つの攻撃手段が存在する。一つは、エネルギー弾として放つこと。電力消費が少ないまま、攻撃することが可能である。連続で続けることも出来る。そして、もう片方がレーザー砲として放つことだ。これは電気の消費が激しい代わりに命中すれば、確実に相手の機動力を落とすことが出来る。

 今回、俺が選んだのはレーザーの方だ。

 接近戦に持ってくると思っていた箒は俺の行動に驚く。さらに砲門からエネルギーが貯まっている証拠の漏れ光が出ていることからいち早くその場から動いた。

 その瞬間、箒がいた空間をレーザーが突き刺さる。避けられてしまったようだが、少し紅椿に接触した反応が出た。だが、これだけでは、レーザー砲本来の特徴によって紅椿の動きの低下は期待出来ないだろう。

 追撃したいのはやまやまだが、連発は難しい。何故ならレーザー砲は現状で2発が限界だからだ。さらに電気を生成するエネルギアも再び撃てるようにするにはレーザー砲一発につき、10分ほど時間がかかる。多用はあまり出来ない。

 電子粒砲をしまい、代わりにムーンテライトを両手で掴んで構える。

 箒が自慢のスラスターを吹かして、急接近して切りかかってくる。それを俺は大剣で防御する。上からの大振りなので、剣で防ぐのは容易い。

「っ!やはり、凄いな」

 

「そうか?それはそうと、気を付けた方がいいぞ?」

 

「───っ!あれか!」

 

 笑みを浮かべた俺の考えを読んだのか、箒は距離をとる。箒が考えたのは電撃による一時的な機能の低下の回避。つまり、エネギアのエネルギー弾を警戒したのは正しい。もう既にエネギアは俺の周りに浮かんでいるのだから。

 

「いつの間に………」

 

「最初の不意打ちのときにね」

 

 レーザー砲を放つと同時にエネギアも出しておき、体制を万全にしておく。

 それにしても、紅椿はやはり、他の機体とは違って速い。今のも予想より少し速く箒が攻撃してきたので、危ない所だった。

 

「んじゃ、こっちからも行くかなぁ!」

 

 俺はスラスターを使って箒に大剣を振りかざす。

 箒は後ろへと避けようとしているつもりだが、甘い。一撃目は宙を切るが、勢いで俺自身が一回転。縦斬りから水平斬りへと切り替える。

 箒の左肩辺りに延びた大剣。それでも、箒はどうにか剣で対応しようとしてくる。

 が、箒は刀に対して、俺は大剣だ。重さが違う。ましてや、今の大剣には一撃目から繋げた分の勢いが追加されている。

 ぐっ!と奥歯を噛み締めた箒だが、大剣の重さに耐えきれずに吹き飛ばされた。

 

「これなら、どうだ!」

 

 体勢を戻した箒は右手に構えていた刀“天月”を振る。弾丸のようなエネルギー弾が出現してこちらに襲い掛かってくる。初見では対応が遅れていたと思うが、1度遠目とはいえ見ている。

 ───全て撃ち落せば良い。

 エネギアによる電撃弾で相討ちを狙って負けじとこちらも放つ。小爆発が幾つも発生し、爆発で生じた煙により箒の姿が視認できなくなった。

 すると、第二波が襲ってきた。

 向こうも俺の位置を完全に把握していないのか、少しずれているがそれでも何個かは命中するだろう。

 俺はあくまでも冷静だった。

 箒のエネルギー弾の速度は確認済みで、あとはタイミングさえぴったりになれば確実に斬れる。

 瞬時に計算されたデータによると、確実に機体に当たるのは3つ。当たる箇所も想定してもらい必要最低限の動きが出来るようにする。

 まず、ムーンテライトを右肩から左斜め下に斬り、続けざまに水平斬り、最後に縦に振る。ダメージは麒麟に通ってはいないようだ。

《パパ、ビットを確認したよ》

 

 ユカの通信が入る。

 ビットを紅椿に搭載していたとは知らなかった。爆発による煙で未だに視界は悪いままだが、センサーによる箒の居場所は特定できる。

 ユカの言うとおり、2機のビットの動きが確認された。

 そして、箒がまた刀を振りかざすのも同時に確認した。今のは左手───“空裂”による帯状のレーザーによる攻撃だ。

 今度もムーンテライトで対応しようとするが、想像以上の大きさに大剣の振り方が合わない。

 咄嗟に回避に変更するが、それでも少し機体にかすってしまった。

 

「ようやく、一発目だな」

 

「まだまだこれからだろう?」

 

 ようやく煙が晴れて、お互いの姿がはっきりと確認する。箒の周りにはビットが浮いていた。対する麒麟の周りにも多数のエネギアが円を描くようにして動きながら浮いている。

 軽口を叩いてみるが、箒は俺にかすったとは言え攻撃を当てれたことに舞い上がっている様子なのであまり意味はない。

 あの慢心さはどうにか改善すべきだ。

 

「次はもっと本気でいく!」

 

「………」

 

 箒は両手の刀を輝かせ、さらにビットもこちらへと向ける。

 多数によるごり押しで攻めるつもりなのか。だったら、こちらもそれなりに順応さしてもらうしかない。

 今度は完全に避けることに集中する。

 

「っ!全てかわされるのか!」

 

 箒はそれでも、懲りずに攻撃を仕掛けてくる。ここは作戦を変更すべきなのに、冷静ではないかのか、それとも………。

 

《ユカ、充電率はどのくらいだ?》

 

《う~ん、83%越えたところだよ》

 

《よし、もうそろそろ行くか》

 

《了解でやっさぁー》

 

 だから、どこでそんな言葉を覚えてくるんだよと内心、苦笑しながらも箒の隙を伺う。狙うのは疲れで攻撃が止む瞬間。

 ───今だ。

 

「───っ!」

 

 結果、瞬間的に箒に接近戦を持ちかけることに成功する。ここまで行けば、後は俺の領域だ。

 だが、今回はあえて隙を作って箒の行動を確かめさせてもらう。ここで、俺の考えが正しいと狙ってくるはずだ。

 わざと距離をとると箒がそこを突いてきた。

 

「今だぁ!」

 

「………やっぱりか」

 

 左手に握る空裂からエネルギーの斬撃が襲い掛かってくる。この行動に俺は確信したと同時に悲観した。

 箒は紅椿の性能に頼りすぎている。その反面、自身では完全に制御できずに逆に自分がもてあそばれているとも気づいていない。普通、相手に効かないと判断すれば少しはやり方を変えるのだが、箒の場合は強引に変えずに押しきった。それは紅椿の性能に自信を持ちすぎているからだ。

 今度は確実に避けようと、動こうとするがユカの慌てた通信が入る。

 

《パパ!後ろに皆が!》

 

「はあ!?嘘だろ!?」

 

 背後には海岸があり、ここからでも皆が俺と箒の試合を見ていることが分かる。

 このまま避けてしまうと、皆に被害が及んでしまう。それだけは駄目だ。箒はこの事態には気づいていないのか!?

 自分の位置取りの失態に奥歯を噛み締めると同時にユカにある指示を出した。躊躇している暇はない。

 

《ユカ!あれを展開だ!》

 

《うん!》

 

 ───次の瞬間、爆発が俺を大きく包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、海岸でも動揺が走っていた。一夏もその一人である。

 

「当たったのでしょか!?」

 

「今のは確実に蒼星に命中したわよ!」

 

 セシリアと鈴も同じような反応を見せる。あの回避と剣術が飛び抜けている蒼星が被弾したのだ。驚くのも無理はない。

 

「ねぇ、僕には蒼星が避けようとしたように見えたんだけど………」

 

「あぁ………私もだ」

 

 シャルロットとラウラは気付いていた。避ける素振りを見せていた蒼星に。だが、それをしなかったことに疑問が上がる。

 一夏は隣の千冬へと視線を向けた。彼女は微動だに狼狽えた様子はない。隣の束も自身の妹が攻撃を与えたのに反応は薄い。

 そして、一夏は一番慌てそうな離里亜、それに簪へと視線を向けた。

 簪は今にも飛び出しそうな勢いになっている。それを離里亜が止めているとよく分からないことになっていた。

 

「かんちゃん、大丈夫だって」

 

「う、うん」

 

 簪の慌てようは異常とも取れるほどだった。そんなに蒼星のことを気にかけているのだろうか。

 

「あいつ、わざと受けたな」

 

「千ふ───織斑先生、どういうことですか?」

 

 危うくいつもの癖で出そうになったが、どうにか喉の奥で止める。

 

「今頃、あいつが避けていたらどうなっていた?」

 

「………?」

 

 質問の意図が読み取れない一夏。シャルロットとラウラはそれで理解したらしく、頷いていた。

 呆れ口調で答えたのは離里亜だった。

 

「織斑君、分からないの?いまの箒ちゃんの攻撃のことだよ」

 

 ここで、鈴とセシリアもようやく理解する。そうなると、蒼星の不可解な行動も納得できる。

 

「だからなのね」

「箒さんは………?」

 

「目の前に集中して気づいていないようだね」

 

「………蒼星君は大丈夫でしょうか?」

 

「あぁ………本来は避けるはずだったのだが、気付いてしまって仕方なくだろうな。それでも兄様のことだから大丈夫だろう」

 

「どういうことだ?」

 

 唯一分かっていない一夏が尋ねる。

 

「兄様が避けてなかったら、どうなっていた?」

 

「箒の放った斬撃が私たちのほうに来てるのよ」

 

「───っ!だからなのか!」

 

「ソウ君のお陰で私達は助けられたんだよ。かんちゃんもその事に気づいてISを展開しようとしたんだよね?」

 

「はい………そうです」

 

 簪の慌てようにもこれで、説明がつく。

 そうなると蒼星はわざと攻撃を受けないといけない事態に陥ったことになる。

 いつの間にか蒼星に救われたことに一夏は唖然とする。

 蒼星の容態はどうなっているのかと一同は視線を元に戻す。そこには有り得ないものが鎮座していた。

 

「あれは………盾………でしょうか?」

 

 セシリアも自信がないのか曖昧になってしまう。無理もない。盾にしては形がいびつなのだ。

 所々くぼみらしきものが見えるし、特に問題なのが盾自体が巨大過ぎる。あれでは構えていると敵の動きが見えない。

 

「なみむー、使い道ないって言ってたのに~」

 

「………本音、どういうこと?」

 

「大きすぎて持てないって言ってたよ~」

 

「でも、持ってるじゃない」

 

 こちらからは蒼星の背中しか見えないので、巨大盾はあまり見えない。彼が盾を持っているように見えるのだ。

 

「え!?浮いていますわ!」

 

 セシリアが驚愕の声を上げる。

 巨大盾が蒼星の背中に移動したのだ。しかも勝手に。本人が操作しているものだろうと思われるが、それにしても違和感が満載だ。

 離里亜だけが詳細を知っているようで、皆の疑惑に答えた。

 

「エネギアを嵌めてるんだよ」

 

「あ!だから操れるんだね」

 

「なるほど、それであの大きさでも平気なのか。いや、あれほどではないと出来ないのか?」

 

 あのくぼみにはちょうどエネギアが嵌まるほどの物だった。そういう仕様だろうか。あんなに巨大になるのも理由がありそうだ。

 

「私の両親が遊び気分で作ったって言ってたから、デタラメらしいよ………あれ」

 

 苦笑いした離里亜の台詞を聞いた後、再び視線を試合に戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ヴォルスシールド”はとてつもない大きさを誇る盾であり、さらに取っ手がないという、普通だと持つことさえ不可能とされる装備である。つまり、まったく使えない失敗作である。

 だが、俺はある窪みの存在に気付くと同時にある使い道の可能性が脳裏に浮かんだ。そうなると、取っ手なんて不要となるのでないかと思った。

 この窪みはエネギアとぴったり同じサイズなのだ。もしや、エネギアをここに嵌めてみればどうなるのか。

 一か八かの賭けに出るつもりはなかったのだが、とやかく言ってる暇がなかったのでヴォルスシールドを展開して即座にエネギアをくぼみに嵌めた。

 結論から言うと、俺の考えは正しかった。

 ちょうどエネギアが嵌まり、歪な形の盾も六角形へと変貌。さらにエネギアから電流を流すことで盾本体から磁力が発生してエネギアを一切離さないのだ。

 この仕組みは電磁石の応用だろう。

 ハイパーセンサーで箒を見てみると、彼女は面を食らったような表情をしていた。まあ………初見なので普通の反応だろう。

 

「な、なんなのだ………それは!?」

 

「見ての通りだろうよ。………まあ、遊び心満載だけどな」

 

 俺は苦笑すると同時に離里亜の両親に尊敬の念を祈る。

 他の機体にとっては、巨大で、持つことが出来ない鬱陶しいこと極まりない代物なのだが、麒麟にとってはありがたい物だった。何故ならこれは麒麟しか使えない盾なのだから。

 俺専用と書かれたあの貼り紙もそんな意図があったのだろうか。………いや、多分それはあまり関係ないだろう。

 頭で意識することで操作できるヴォルスシールドは応用性が増す。それに両手も空いているのだ。盾などは片手などが塞がるのが大抵だが、これはそんな理屈を底からひっくり返す。

 データによると、これは主に実弾などを防ぐ物らしい。麒麟はエネルギー兵器がほとんどだったので、これは戦闘を有利に進められる。

 

「箒」

 

「何だ?」

 

「………いや、何でもない」

 

 箒には自身で気づいてもらいたい。そんな気持ちから俺は黙っておくことにした。

 ヴォルスシールドの配置を変える。

 

「さて、今のは攻撃は当たってないから無効だよな」

 

「あ………あぁ」

 

 箒が曖昧な返事をしている間にヴォルスシールドを背中辺りへと場所を変える。エネルギアを防御するためだ。エネルギアは麒麟にとって第二の心臓と言っても過言ではないので、こうして守るのは当たり前なのだ。

「ほら、まだ本番はこれからだ!」

 

「っ!!」

 

 大剣を握り締め直して、箒に襲い掛かる。流石の2回目は防がれる。箒の2本の刀と俺のムーンテライトがぶつかり合い火花を散らす。

 箒は苦悶の表情を浮かべた。対する俺は余裕の表情だ。

 

「はぁぁぁああああ!!」

 

 気合いのかけ声と共に箒の大剣を押してくる力が増してくる。その力を利用して俺は一気に力を抜いた。箒が体勢を崩す素振りを見せる。

 

「そう来ると思っていたぞ!!」

 

「そうかい!なら!!」

 

 反撃とばかりに箒が刀を振りかざす。が、それを受け止めたのは俺ではない。

 

「っ!厄介な!」

 

 身代わりとなったのはヴォルスシールドだ。いつでも、こうして敵との間に滑り込ませることでどんな不利な体勢でも防げる。

 さらにヴォルスシールドの中央が開く。そこから氷山の一角を現したのは巨大な機関銃の砲身だ。

 唖然とする箒に俺は容赦はしない。

 とてつもない轟音と共に銃弾が放たれる。至近距離からの攻撃となったので、確実に箒は手負いをおうはずだ。それはそうと、雨のような弾丸の量に俺自身も少し舌を巻いていた。

 箒は数十発をもろに喰らった様子だが展開装甲を防御形態へと移動し、残りを防いだ。

 

「びっくり?」

 

「あぁ、デタラメ兵器だな………」

 

「ははは、流石にこれ以上の機能はないので期待はしない方が身のためだよ」

 

 今の台詞を箒がどう受け取ったかは分からないが、そのままの意味でこれ以上のドッキリは一切仕込まれていない。

 警戒してくれるか、俺の言葉を信用して突撃してくるか悩ましい所だ。

 箒が選んだのは後者の方だった。

 少しの自分を信じてくれた信用感の喜びを感じるが、それよりも言葉を鵜呑みにするのは実戦では危ないので今の俺の気持ちの大半を占めるのは落胆だった。

 こういう会話のやり取りも一種の戦闘だと俺は思うからだ。相手の心を探る心理戦と言ったところだろうか。

 巨大盾を前へと突き放つ。箒の視界が盾に遮られている、その内に次の攻撃体制へと移行する。

 箒は巨大盾をさらりとかわす。勢いは衰えることを知らない。

 俺は麒麟の最大スピードで箒の背後へと回る。

 

  “瞬時回転(イグニッション・ターン)”。

 

 これは、瞬時加速(イグニッション・ブースト)円周回転(グリッド・ターン)の合併技である。使えるようになったのは、最近のこと。会長の付き添いの元に完成した。何でも重心のバランスを維持するのが困難で、出来たことがある人は数人いるが普段から多用する人はいないらしい。

 さらに瞬間加速に必要なエネルギーは電撃エネルギーで補うことで、シールドエネルギーは減らない。電撃エネルギーは実に便利な物である。

「なんだ!?今のは!?」

 

「最近覚えたんだよっ!!」

 

 俺はがら空きの箒の背に向かって大剣を降りおろす。が、次の瞬間に動きが停止した。俺自身の意志で反射的に止めざるを得なかった。

 

『二人とも試合はそこまでだ!!』

 

 織斑先生からの試合の中断を旨とする通信によって俺は大剣を振るうのを止めた。

 剣先は箒の体の目の前寸前で停止していた。少しでも近づけば触れるほどの至近距離だ。

 

「もうタイムアップですか?」

 

『わ、私はまだやれます!』

 

 俺の感覚だとまだ、制限時間は過ぎていないはずだ。織斑先生は、重い口調で告げた。

 

『問題が発生した。こちらと合流しろ』

 

「なるほど。了解です」

 

「…………了解しました」

 

 これ以上の展開は必要ないので、全ての装備をしまう。頑張ってくれたユカにも一言声をかけておく。

 

《ユカ、お疲れさま》

 

《うん………でも、パパ………》

 

《あぁ、何があったんだろうな》

 

 ただ事ではないのは確かだ。それも相当の事態を及ぼすものだと、俺は直感的に感じていた。

 嫌な予感で、心は落ち着かなかった。

 

 

続く───────────────────────────




 “SAO帰還者内密談笑会”

ソウ「では、本題に入るぞ」

リリー「早速!?早いよ!!」

ソウ「でも、アスナも暇そうにしてるぞ」

アスナ「え!?し、してないよ!!」

ユカ「でも、アス姉、さっき欠伸してたよね?」

アスナ「ユ、ユカちゃん!!」

ソウ「ということで、ほら早く発表しろって」

リリー「では、今回のテーマはこちら!!」

ユカ「“パパのSAO装備について”だよ」

ソウ「何?俺が何を使っていたかって?」

アスナ「確か、両手剣だったよね?」

ソウ「まあね。最初は片手剣だったんだけど、両手剣に変えたんだ」

リリー「でも、なんで?」

ソウ「ソロだったから、効率よくモンスターを倒したいがために攻撃力の高いものを選んだら両手剣になった」

リリー「そういえば、キリト君とソウ君ってどっちが強いの?」

ソウ「さあ?あいつが二刀流で来るなら、こっちも月歩でやるまでだ」

アスナ「キリト君もデュエルしてみないと分からんって言ってたね」

ユカ「なら、やってみよう!!」

ソウ「また今度な」

ユカ・リリー・アスナ「「「えぇ~」」」

ソウ「よし、今回はこれで終わりだな」

ユカ・リリー・アスナ「「「えぇ~」」」

ソウ「………やらないからな!!」

 ───以上。




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第30話 銀の福音

いよいよ戦闘描写も入ってくるんですけど………上手く伝わるかどうか、微妙ですね。
話は変わるんですけど、今回の後書きは特にテーマはなしとなってます。

───では、BEGIN!!


 旅館の大広間。いつもなら、旅館自慢の料理が並べられて客の舌鼓を打つ空間となるのだが、蒼星が入ったときには雰囲気はまったく異なるものだった。

 機材がいくつも置かれており、液晶画面が綺麗に並べており画面は一目では何を映し出しているのか分からない。

 既に蒼星以外の専用機持ちは全員、集合しており、自分が最後となった彼も座る。照明が薄暗くなり、皆に囲まれるようにして大型の空中投影ディスプレイがゆっくりと浮かび上がる。

 

「では、現状を説明する。二時間ほど前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用ISである『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。そして監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 ───その瞬間、全員に緊張が走る。蒼星も無論、例外ではなく表情に真剣さが増した。

「………お、おい蒼星……なんで千冬姉は俺達にこんな連絡をするんだ?」

 

「さあ?今は黙って聞いとくべきだろ」

 

 一夏はこういうのに慣れていないらしく軽い混乱に見舞われながら、こそこそと蒼星に小声で話しかける。蒼星も実は似たような状況は幾度となく経験しているが、この雰囲気はどうしても慣れない所があった。

 箒も混乱している様子だった。

 そんな3人とはうってかわって専用機持ち達は厳しい顔つきになっていた。正式な国家代表候補生でもある彼女たちは経験してきているからこその成果だろう。特に離里亜のことは幼馴染みの蒼星は知っているのだ。彼女は何度も、嫌になるほど今と似たような会議に参加しているのを。それも会議の代表者のサポート役としてなので尚更である。ラウラも現役の軍人であるので、彼女の眼差しは真剣その物だ。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから10km先の空域を約一時間後に通過する事が分かった。学園上層部からの通達によって、我々がこの事態に対処する事になった」

 

 ───“対処”───

 その言葉に蒼星はある予感をした。否、ほとんど確信したと言っても良い。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

「え?」

 

 一夏が府抜けた声を上げるが、誰も反応しない。それほど深刻だということだ。

 

「では作戦会議を始める。意見のある者は挙手しろ」

 

「はい、質問です」

 

「なんだ?波大」

 

 セシリアが手を挙げようとしていたが、それよりも一足先に挙げた蒼星の方に織斑先生の視線は移る。

「そもそもこれは俺達で対応すべきものではないはずだと思います。軍用ISと呼ばれている物なんですから、当然それには他国に知られたら不味い重要機密情報が盛り沢山の筈です。他国者である俺達が対処なんかしたら、向こうにとって色々と不味いのでは?」

 

「尤もな質問だ。これは本来、アメリカとイスラエルが対処すべきなのだが、向こうも軍用ISの暴走によって緊急事態の為に今は手が回せない状態なので、我々学園側に白羽の矢が立って対処する事になった」

「………分かりました」

 これではある意味、自分達に尻拭いをさせようとしているのではないかと蒼星は思う。

 蒼星の質問は終わり、セシリアが挙手をする。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「分かった。ただしこれは二ヶ国の最重要軍事機密だ。漏洩した場合、査問委員会による裁判と最低二年の監視が付けられる。良いな?」

 

「了解しました」

 

 そうして『銀の福音』の細かなデータが公開されて、画面に表示される。同時に蒼星は脳内でユカに呼び掛ける。

 同じISのユカと相談した方が良いとの判断からだった。

 

《ユカ、どうだ?》

 

《う~ん、最大の特徴は広域殲滅を目的として開発されている点だね。広域殲滅型特殊兵装との一体型スラスター翼……スペックはママやスズーさんの機体よりも上だから、一苦労だよ》

 

《そういえば、ユカは何のために作られたんだ?》

 

《勿論!パパの為だよ!》

 

《あはは………そうか。話を戻して───》

 

 蒼星は今後、口を慎むことにした。余計な話題は入れない。その後も話を戻して、対策を二人で練っていく。

 ───故に蒼星は気づかなかった。

「お~い、蒼星~………」

 

 一夏が小声で必死に呼び掛けるも蒼星は一向に反応する気配がない。彼は画面を見つめたまま固まっており、まるで自分の世界に捕らわれたかようだ。

 こうなると、話にまったく付いていけない一夏はおいてけぼりになってしまう。なので、隣の蒼星にも助けを求めるのだが返事はない。一夏は焦る。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型………私と蒼星さんと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね、厄介だわ。しかもスペック上ではあたしの甲龍(シェンロン)を上回っているから、向こうの方が有利」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。丁度本国からリヴァイブ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しいと思う」

 

「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん」

 

「賭け事は避けたいところなんだけど………」

 

「織斑先生、偵察は出来ないのですか…?」

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは出来て1回が限度だろう」

 

「ソウ君、何かない?」

 

 離里亜の一言に一同の目線が蒼星の元に集まる。だが、彼はまったく反応を見せない。一夏が肩を揺らす。

 

「おい、蒼星。何か意見はないのか?」

 

「………ん?そうだなぁ……ここは妥当に一撃で決めた方が手っ取り早いな」

 

 ようやく反応を示した蒼星が提案したのは単純なものだった。それに賛同したのは山田先生。

 

「私も同じ意見です。一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たる方法が良いかと」

 

 山田先生の言葉に、蒼星を除く全員が一夏を見る。

 

「え……?って事はまさか……」

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。ですが問題は───」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないといけないから、肝心の移動をどうするか」

 

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけない。超高感度ハイパーセンサーも必要だな」

 

「それに織斑君とのある程度の連携も必須となってくるね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺が行くのか!?」

 

「「「「「「当然」」」」」」

 

 一夏は困惑するのも無理はない。誰だってこんな大役をいきなり任せられた戸惑うのは普通だ。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟が無いのなら、無理強いはしない」

 

「………やります。俺が、やってみせます!」

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、最高速度が出るのは誰の機体だ?」

 

「波大君の麒麟かと………」

 

「いや、簪ちゃん、麒麟は一夏を運ぶとなるとスピードは格段に落ちるよ。麒麟はちょっと特殊だから」

 

 さらに加えるなら、電撃が運んでいる最中に一夏の機体に及ばないように配慮する必要がある。

 

「それなら、私のブルーティアーズが。丁度イギリス本国から強襲用高機動パッケージ『ストライクガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いてます」

 

「ふむ。オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「20時間です」

 

 パッケージとは、IS用換装装備の総称である。これは武装だけでなく、増設スラスターや追加装甲なども含まれる。

 この他、『オートクチュール』という、専用機専用機能特化パッケージも存在する。

 シャルロットを除く全員の専用機は、セミカスタムの標準装備(デフォルト)。シャルロット本人は機体をフルカスタムした上で、標準装備である。

「なら、適任だな……では、早速───」

 

「ちょっと待った! 待ったなのだよ、ちーちゃんっ!!」

 

 織斑先生からの声を遮った主は天井からだった。するといきなり天井が開き、逆さまに覗き込んでくる顔があった。世界一の天才、篠ノ之束である。いつの間にか行方を眩ましていたのに再び登場である。

 

「もっと良い作戦が今正に、私の頭の中にナウ・プリンティングなのだよ!!」

 

「よし分かった。すぐ帰れ」

 

「いや〜ん、ちーちゃん冷たいよ〜! とうっ」

 

 束は眉を八の字にして、笑いながら天井裏から降りてきた。動きは手慣れたものだったことを蒼星は見逃さない。

 

「束……関係者以外立ち入り禁止だ」

 

「まぁまぁ、ちーちゃんも硬い事言わないでさ。そんなことより!!ここは断然紅椿の出番なんだよ!!」

 

「なんだと?どういうことだ?」

 

「紅椿の……?」

 

「そう、そのとおり!!」

 

 束の言葉に箒が驚く。と、彼女はキラーン、と目を光らせた。

 そこから第四世代である紅椿の説明が始まる。その説明によると、一夏の白式にもその第四世代の一部が組み込まれていたらしい。それが成功したので紅椿に取り込んでみたとあっさり言う。これには、開いた口が塞がらない。他の者達も似たような反応だ。

 

「さっきも説明したけど、紅椿に使われている展開装甲は即時万能対応機(リアルタイムマルチロールアクトレス)を目指してつくった物だよ。だから、この展開装甲をちょいちょいと弄ってしまえば、超音速での飛行なんて、ビフォア・ブレックファーストなのだ!!」

 

 いつの間にか中央のモニターには紅椿のスペックデータが出現していた。確かに説明通りのデータが映し出されている。

 

「…束、紅椿の調整にはどれくらいかかる?」

 

「7分あれば余裕だよ♪」

 

「そうか…やれるか篠ノ之?」

 

「え?」

 

 織斑先生は箒に問いかける。

 

「はい!やります!」

 

 一瞬戸惑いを見せた箒だったが、声を上げてはっきりと答える。

 織斑先生の判断に驚きながらも蒼星は声を上げた。

 

「俺は賛成出来ません」

 

「…何言ってるの?あんたの意見は聞いて無いんだよ?」

 

 と蒼星が反対と言うとすぐさまに束が冷たい視線で蒼星をにらみつける。その束を離里亜と簪が敵意を込めたような瞳で見ている。

 気の進まないことに手を出すつもりは蒼星にはないのだが、こうでもしないと後に後悔するはめになりそうだからだ。故に今がチャンスとはっきり告げるべきなのだ。

 

「今の箒よりも、セシリアの方が信用できます。より現実的に考えて、高機動パッケージを搭載してあるブルー・ティアーズで行くべきかと」

 

「そ、そうですわ!蒼星さんの言うとおり、わたくしとブルー・ティアーズで必ず成功してみせますわ!」

 

「では訊くがオルコット。そのパッケージは既に量子変換(インストール)してあるのか?」

 

「そ、それは……まだですが……」

 

 織斑先生に痛いところを突かれたかのように、セシリアは勢いを失ってもごもごと小声になってしまった。

 

「私もソウ君と同じ意見です。時間をかけてでもセシリアちゃんを優先すべきかと」

 

「………私もそう思います」

 

 離里亜と簪も蒼星の味方に入る。好意を寄せているからとは一切関係ない。他人の視線から見ても同意はし難い。

 反論する箒も少し怒りぎみになっている。

 

「そんなに!私のことが信用出来ないのか!!」

 

「違う。下手したら死人が出るこの作戦に、舞い上がってる箒は適任ではないと言ったんだ」

 

「私と紅椿ならやれる!!」

 

「はぁ~………手合わせしたからこそ、言ってるんだ。はっきり言うと今の箒には作戦を成功させるとは到底思えない」

 

「な………っ!」

 

「波大、そこまでだ」

 

 織斑先生からの止めが入る。ふと、蒼星は目線を横に向けると、束が完全にこちらに目を向けているのが分かった。目を付けられたことに気付いた蒼星は面倒な事になったと内心、大きな溜め息を付いた。

 

「篠ノ之………今の言葉を聞いてでも、やれるか?」

 

「………覚悟は出来てます」

 

「そうか、なら準備をしろ。作戦開始は30分後。総員、直ちに準備にかかれ!」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

「「な………っ!」」

 

「は、はい!」

 

「………」

 

 箒は噛みながらも返事をする。

 離里亜と簪は織斑先生が蒼星の意見をまったく組み入れなかったことに驚愕する。束はうんうんと納得そうに頷くが、二人は猛反対だ。だが、二人は蒼星が何も言わないことに疑問を持ち、声を発することはなかった。無理に通された意見に蒼星が何も口を出さないのだ。

 

「手が空いている者はそれぞれ運搬など手伝える範囲で行動しろ。作戦要員はISの調整を行え。オルコットはいざと言う時の為にパッケージの量子変換の作業をしろ」

 

「わ、わかりましたわ」

 

 ここで、ようやく蒼星は動いた。

 

「織斑先生………俺もそれじゃあ、せめて俺だけでも行かせてください。麒麟のスピードなら問題ないはずです」

 

「ソウ君………」

 

「………仕方ない、許可する」

 

 織斑先生も苦渋の決断のようで、蒼星の同行を認めた。彼はそれなりに実力はあり、また一夏と箒のアフターケアも必要だろうと考えたのだ。

 蒼星は頷くと、その場を立ち上がった。その時、何かを思い出したかのように一夏の方を見る。

 

「白式のセットアップを済ますのと燃料は満タンにしておけよ、一夏」

 

「お、おう」

 

 そう言うと、蒼星は部屋を後にした。

 彼が出ていった後は、微妙な空気に包まれていた。原因は彼の今までに誰もが見たことがない態度による困惑だった。

 普段通りの彼なら、賛成するかと思っていたが今回は箒が作戦に組み込まれるのを相当嫌がっていた。それでも、無理矢理に決定された箒の作戦参加で、自分も付いていくと発言したときの周りの反応は皆、あの蒼星が………!?と言った感じだ。

 面倒事は極力避けて、他人にそれほど興味を見せない彼からは似つかわしくない行動だった。故に彼が何を思っての判断なのか分からない。

 一番理解出来そうな離里亜は彼の後を追って部屋を出ていってしまっている。

 

「箒!!蒼星のこと、見返してやりなさい!!」

 

 作戦会議が終わり、箒のセッティング以外に特にすることがない中、鈴は箒の肩を叩いた。

 

「だが………蒼星の言うことも………」

 

「なぁに?自信無くしちゃったわけ?あんなの、蒼星の作戦の一つと思っちゃえばいいのよ」

 

「そうだね。また、いつもの奇策かもしれないよ?」

 

「そうだろうか………」

 

「ああ。今は福音を倒すことだけに集中すれば良い。兄様のことは、また後で聞けば良いのだから」

 

「作戦のことは安心しろ。必ず、俺が成功さしてみせる!箒だって大丈夫だ!」

 

 シャルロット、ラウラ、一夏からの励ましの言葉を受ける箒。

 蒼星の考えは幾ら考えても分かりそうにない。だから、今は目の前のことに集中する。

 箒の参加に反対だったセシリアと簪も箒の元へと寄っていく。

 

「箒さん、選ばれたからにはしっかりしてくださいましよ!」

 

「…3人の無事を祈ってます」

 

「分かった。全力で押しとおるつもりだ」

 

「そしたら、一言蒼星に言い返してやりなさい!」

 

「そうだな………あいつに一言言ってやろう」

 

 箒の固くなっていた表情も、柔らかくなってきている。

 今の箒の瞳は決意の込めたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 離里亜は蒼星の後を追って廊下へと飛び出していた。辺りを見回して、彼の居場所を探す。ここ辺りには、既にいない。

 離里亜の見た蒼星の態度は、完全に意識を集中している時に出るものだ。その状態の間、彼に話しかけても返事は曖昧なものになってしまうのとあまり相手にしてくれなくなる。IS学園に入ってから、初めての彼の態度に皆は戸惑いを隠せなかったようだ。

 後でその辺りのことも弁解しておいて、彼本人にも悪気はなかったと伝える必要があるだろう。長年一緒にいたからこそ、分かる。彼も箒の心をあんなに落ち込ませるようなことを言うつもりはなかったはずなのだ。

 旅館を歩き回り、彼を見つけることは出来なかった。旅館内ではないとすると、どこに行ったのだろうか。ビーチに行くとは思えない。そもそも、彼は何をしに行ったのか。それは勿論、ISの調整だ。

─そうなると、離里亜が思い浮かべるのは、誰もいない場所。ユカとの会話を聞き取られないためだ。それでいて、それなりのスペースがあると好ましい。

 もしかして………と心当たりのある場所を思い出した離里亜は早速向かった。

 予想は当たっていた。

 場所は誰もいない格納庫。そこの中心で麒麟を展開して、細かな調整をしている蒼星の背中姿が離里亜の目に映る。

 超音速戦闘をするとなると、色々と設定しないといけない箇所が多く、彼はそれを取り掛かっている様子だ。

 離里亜が背後から恐る恐る近づくと、彼の顔を両手で隠した。

 

「だぁれ~だ?」

 

「リリーだろ?こんなことするのは」

 

「正解~」

 

 璃里亜は両手を離した。

 彼女の存在に気付いた蒼星は彼女の方へと顔を向けた。

 

「ユカちゃんと相談でもしてたの?」

 

「まぁな」

 

 普段なら、気配に敏感な蒼星だが今回は気づかなかったので、離里亜はユカと話に夢中になっていたのではないかと考察した。彼の返事を聞く限り正解のようだ。

 離里亜は声質を暗くして尋ねた。

 

「皆、戸惑ってたよ………ソウ君」

 

「分かってる。箒にもこの一件が終われば謝るつもりだ」

 

「ソウ君………」

 

「………嫌な胸騒ぎがするんだ」

 

「え?」

 

「あの世界で何度も経験してきたからな……俺の勘も敏感になってしまったようだな。………これから、何かが起こる。そうな気がするんだ…」

 

「私は心配だよ………また、勝手に行ってしまうんじゃないかって」

 

「リリーとは一緒に行くって約束しただろ。ただ、今回は俺一人で食い止めるんべきなんだ」

 

「頑張ってね、ソウ君」

 

「ああ。任しとけ」

 

 彼の向けた微笑ましい笑みは何処か遠かった。そんな気がした離里亜は何も出来ない自分にがっかりした。

 それを最後に、離里亜は格納庫を後にした。

 

 数時間後───蒼星の嫌な予感は適中することになるとは誰も知らない。

 

 

続く───────────────────────────




 “SAO帰還者内密談笑会”

ユカ「始め~る~よ~」

 …………。

ユカ「あれ!?誰もいない!?」

ユカ「………パパ~、ママ~?」

 …………。

ユカ「うわぁ~ーん!!誰もいないよぉぉ!!」

ユカ「皆、どこぉーーー???」





 “SAO帰還者内密談笑会・2”

ソウ「あれ、ユカはどこ行ったんだ?」

リリー「ホントだ。さっきまでいたのに」

アスナ「はぐれたみたいだね」

ソウ「いやいや、AIが迷子って………」

リリー「でも、立派な女の子なんだよ!!」

アスナ「そうだよ!!ユカちゃんもユイちゃんも女の子なんだからね!!」

ソウ「はいはい、なら探しに行くか」

ユカ「パパァァァァァァァアアア!!」

ソウ「ユカ!?───ちょっ、止まれって!!────ごふっ!?」

アスナ「あっ、見つかったね」

リリー「ユカちゃん、何してたの?」

ユカ「いく場所、間違えたの」

リリー「そうなの?今後は気を付けてね」

ユカ「うん!!分かった!!」

アスナ「もう時間だね」

リリー「何も出来なかったけど………しょうがないよね」

アスナ「じゃあ、皆、またね~ー!!」

ソウ「………ちょっと、俺は………」

リリー・アスナ「「あっ、そういえば………」」

ソウ「………酷い」

 ───以上。


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第31話 撃墜された白騎士

今回の後半からオリジナル要素を含んでいます。色々と無理矢理感満載になってますが、気にしないで頂ければと思って………ます(;´_ゝ`)

───いざ、出陣!!


 織斑先生の宣言から30分が経過しようとしており、ついに作戦決行となる時間が刻々と迫ってきた。

 砂浜で待機している一夏と箒は既にISを展開しており、他のメンバーは全員作戦室に待機している。だが、本来いるはずの蒼星の姿が見られない。

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

 ISのオープン・チャネルから織斑先生からの声が聞こえる。一夏は耳を澄ませる。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決着を心がけろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『そうだな。だが無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然なにかしら問題が出るかもしれない』

 

「蒼星が居ないんですが………何かあったんですか?」

 

『波大は後で遅れてお前たちと合流することになっている』

 

 てっきり一緒に行くと思っていた一夏は少し残念がる。箒の表情に変化はない。

 

『───………一夏、これはプライベート・チャネルだ。篠ノ之には聞かれない』

 

「は、はぁ………」

 

 いきなりのプライベート・チャンネルによる通信に一夏は生返事をしてしまう。

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態では何かをし損じるやもしれん。いざというときはお前がサポートしてやれ』

 

「わかりました。意識しておきます」

 

『頼むぞ』

 

 箒が浮き足だっていたということは蒼星が作戦会議で指摘してから注意深く見てみたが、確かにその通りだと薄々一夏は思っていた。

 それから再びオープン・チャネルに切り替わる。

 

『では始め!!」

 

「では、行くぞ!」

 

「おう!」

 

 二人は空へと飛び出していった。

 

 

 

 数分後、誰もいなくなった砂浜に一人のISスーツを着た人が歩いてくる。

 波大蒼星だ。

 麒麟の調整に思ったよりも時間がかかってしまったために一歩出遅れた形での出動となる。

 

「………」

 

 蒼星の意識は最早、銀の福音のみだった。他のことは不要とばかりに切り捨てているかのように。

 織斑先生から通信が入る。

 

『二人と福音の座標を転送する。直ちに、合流しろ』

 

「了解です」

 

 麒麟を展開して、送られてきた座標を確認する。追い付くことは出来ないので、遅れての戦闘参加になるだろうか。それまでに二人が持ちこたえてくれたら、良いのだが。………そもそも蒼星が間に合う前に、福音を撃墜出来れば万事解決だ。

 スラスターを吹かして、一気に上昇。電撃エネルギーを惜しまなく使い、さらにスピードを向上させる。

 

『波大君、織斑君の攻撃は失敗。そのまま戦闘に入っていますので急いでください』

 

『了。急ぎます』

 

 山田先生からの報告に蒼星は舌を巻いた。そして、麒麟のスピードを限界まで上げる。

 一夏の初撃が不発となると、一夏と箒の二人は高速戦闘を余儀無くされる。ましてや、一夏の白式は効率が悪い。あっという間にエネルギーが無くなってしまう。

 ようやく麒麟が二人のISを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 二人の元に山田先生から通信が入る。福音と戦闘中なので聞き取るのがやっとだ。

 

『今波大君がそちらに向かいました!データを送ります!』

 

「はいっ!───っく!」

 

「こうも弾幕が濃いと………!ええい!引いていられるか!一夏!」

 

「おう!」

 

 銀の福音と接触後、一夏の零落白夜の1撃は躱され交戦に入る。必殺の1撃を躱された後福音はその背に装備した翼型のマルチスラスターで方向転換をして、脅威の機動性を2人に見せつける。その姿は離里亜のエンドロードとはまた別の天使を催すものだった。同じく翼に付いた砲口を向けて光弾を次々と発射。機動性と火力を惜しみなく使われ攻撃は当たらずエネルギーをいたずらに消費するだけだった。

 

「おおお!」

 

「いけぇ!」

 

 幾度となく突撃と回避を繰り返す。箒も紅椿の機能を使い攻撃するが全て避けられ逆に打撃によるカウンターを返されてしまう。このままでは苦戦する一方だ。

 

「チィ!たあアアアア!」

 

 箒が紅椿の武装を全て使い2刀流で怒涛の斬撃を放つ。これに福音は後退を強いられた。その際隙が出来る。しかし福音も攪乱の為か光弾を拡散させて放つ。しかし出来た隙を埋めるには弾幕は足りなかった。

 

「一夏ぁ!」

 

「うおおおお!」

 

 その隙を逃さない様にと箒は一夏に叫ぶ。そして一夏は最大加速で飛ぶ。

 ………下方に。零落白夜で海面に落ちる弾幕の幾つかを消す。そんなことは無駄だと箒は一夏の行動に文句をつけようとした。

 

「何をしている一夏ぁ!?」

 

「船が居るんだ!海上は先生方が封鎖していたはずなのに…!密漁船が!」

 

 既に辺り一帯は封鎖しているはずなのに、下には船が停滞していた。つまり、あれは封鎖の隙間をくぐり抜けて危険区域の海域に入っているのだ。

 

「馬鹿者!犯罪者などをかばって…!そんな奴等は!」

 

「箒ッ!」

 

「!?」

 

「箒、そんな、そんな寂しい事は言うなよ。力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて………らしくないじゃないか。箒らしくないぜ。蒼星があんなこと、言うのも少しは理解できるな………」

 

「わ、私は………」

 

 箒は明らかな動揺をその顔に浮かべ、それを隠すかのように手で覆う。そのときに落とした刀が光の粒子となって消える。

 その瞬間───白式にも異変が発生する。

 具現維持限界───つまりエネルギー切れだ。今は実戦の真っ最中にあるので、決定的なピンチになる。

 

「箒ぃぃぃっ!!」

 

 一夏は残りのエネルギーを全て注ぎ込み、瞬時加速を行う。ISはシールドエネルギーが無ければもろい。視線の先では福音が一斉射撃モードへと入っており、その標準は箒にかかっていた。

 そしてちょうど発射されるタイミングで一夏は箒と福音の間に入り込み、箒を庇う様に抱き締める。

 

「ぐあああああっ!!」

 

 爆発光弾が一斉に背中に降り注ぎ、シールドバリアで相殺し切れないほどの衝撃が連続で続き、みしみしと骨があげる軋みがす聞こえる。同様に悲鳴をあげる筋肉、アーマーが破壊され、熱波で肌が焼かれるのを感じる。気が狂いそうな痛みの中、一夏は箒を見る。

 一夏は意識が朦朧としているなか、微かに見えた箒のロングヘアー姿。彼女のリボンが焦げてしまったことを残念がった。

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」

 

 一夏と箒は爆発で海に落ちていき、福音の姿を最後に一夏の意識はそこで途絶えた。

 そこに黄金が現れる。

「くそがぁぁぁぁぁああ!」

 

 海へと落下していく一夏と箒を海面ギリギリで現場に到着した蒼星が抱える。彼はモニター越しに一夏が被弾したのをこの目でしっかりと見ていた。

 絶望に満ちたような態度の箒に色々と言いたいことはあったが、全て飲み込む。今はどうにか状況を打開しないといけないからだ。

 

「箒っ!一夏と早く離脱しろ!」

 

「だが、蒼星一人では………!」

 

「良いから!早くいけ!」

 

『LaLa………』

 

「っ!来るぞ!」

 

 福音が隙を逃すまいと光弾を大量に放ってくる。蒼星はエネギアを10個展開。電撃弾を光弾に向けて発射。ダメージを負わないようにする。命中弾を相殺された福音は驚いたのか一瞬、ひるむ。

 

「今だ!撤退しろ!」

 

「わ、分かった!」

 

 一夏を抱えて離れようとするが、福音はそれをそう簡単に見逃してくれなかった。

 福音から放たれたエネルギー誘導弾。だが、箒は一切振り返らない。

 間に巨大な影が入り込み、福音の攻撃が全て無効化される。

 爆発が晴れたそこには、ムーンテライトを展開した麒麟が電撃をバチバチと弾きながら、福音を見ていた。

 

「お前の相手は俺だ。かかってこい!」

 

 蒼星は大剣を構えた。

 麒麟vs福音がいざ、開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦室の内部では暗い雰囲気が包んでいた。

 先程一夏と箒が旅館へと帰ってきた。一夏は重態だったので、即座に部屋へと運ばれ治療に専念する。箒は落ち込んでしまい、もぬけの殻のようになってしまっている。ようやく自分の失態に気付いたようだった。

 

「………波大君、既に福音と数十分近く交戦しています」

 

 静かに響き渡る山田先生の報告。離里亜は不安でまだ5分も経過していないんじゃないかと思っていた。

 海岸で一夏の出迎えを終えた専用機持ち達は少し前に作戦室に戻ってきてはいるが、誰も声を発しようとはしない。

 みんなの視線の先にはモニターに映し出された2機のIS。麒麟と福音。黄金と白銀。

線を帯びるかのように舞う2機はとても綺麗だった。

 

「麒麟の状態は?」

 

「………ダメージはそれなりに受けていますが、戦える状態ではあります」

 

 織斑先生も蒼星の容態を気にしている様子だった。だが、彼でもあとどのくらい保つことが出来るのか分からない。

 

「波大、貴様も帰還しろ!」

 

『あぁ………そうしたいのは山々なんですけどね~、どうやら気に入られちゃったようで、逃がしてくれないです』

 

 彼も先程から離脱を何回も試みているが福音がそれを完全に防いでおり、彼は余儀無く戦闘をしている。

 エネギアで飛んでくる光弾を無効化しているが、それでも福音が一度に放つ弾幕はエネギアだけでは到底防ぎきれない。彼は残りの弾を大剣で弾くという荒業で耐えているが、それでも集中力を相当必要となってくるのでできる限り対応しなくてはいけない。

 だが、織斑先生はそこまでわかっていながら何も出来ない自分に歯を食い縛る。

 教師陣を増援として送っても確実に彼の足手まといになるのは目に見えている。最悪、彼の動きを妨げるかもしれない。

 するとラウラが突然立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「ちょっとあんた!どこに行くのよ!?」

 

「そんなの決まっている、師匠の援護に向かうんだ」

 

「お待ちなさい!いくらあなたでも福音が相手では返り討ちにされるだけですわ!」

 

「そうよ!今行ってもただやられるだけよ!」

 

「…いくら何でも危険……」

 

「ならこのまま黙って見てろと言うのか!?私は1人でも行くぞ!!」

 

 そして部屋から出ようとしたところを、離里亜が部屋の入り口の前に立ってラウラを止める。

 

「…どけ」

 

「どかないよ」

 

 ラウラの殺気を含めた言葉に意にもかかさず離里亜は頑なにどかない。

 

「どけと言っている!!」

 

「………」

 

 ラウラは平手打ちをかまそうとしたがその手を止めた。ラウラは離里亜の表情をその時にようやく見たのだ。彼女は必死に涙を抑えていた。自分も彼の元へと行きたいが、必死に押さえている。そうラウラには感じられた。

 ラウラは問う。

 

「…何故だ?離里亜は兄様の事が心配じゃないのか?」

 

「…心配だよ。でもラウラちゃん達を行かせるなってソウ君から言われているんだ…」

 

「何!?」

 

「……私にも“もしも福音と戦うことになっても彼女達は行かせないでください”と聞かされている」

 

「………教官………」

 

 織斑先生が増援に専用機持ち達をいれないのはその為である。

 その時、蒼星から独り言のような通信が入ってくる。

 

『福音倒したらさぁ、なんか貰えるのかな?こいつは、ボス級だからな。ん?そうなると、ラストアタックボーナスとか俺独り占めになるんだよな……はは』

 

「ラスト………アタック………ボーナス?」

 

「ソウ君?」

 

 離里亜は直感的に感じた。蒼星はこの場で秘密をばらそうとしているのだ。彼らしく遠回りに。

 

『元々、俺ソロだったからこういうのはお手の物だったな………まあ、最後はリリーやキリトと一緒に居たことが多かったか』

 

「ソロ?独りと言うことでしょうか?」

 

「キリトとは、なんだ?」

 

「いきなり何を言い出してるのよ?」

 

『そういやぁ、最近行ってないなぁ………あいつらに色々と文句言われそうだけど………仕方ないだろ。現実では忙しいんだから』

 

「誰に弁護してるんだろう?」

 

「まったく分からないな」

 

 誰もが、蒼星の呟きに首を傾げる。唯一の離里亜だけは、暗い表情になっていた。

 

「リリー、あんた、何か知ってるの?」

 

 鈴が離里亜の異変に気付き、問いかけるが彼女が答える前に山田先生が驚きの声を上げる。

 

「織斑先生っ!福音を撃墜しました!」

 

「何!?」

 

 モニターに映し出されたのは、ちょうど蒼星が福音の頭上からムーンテライトを降り下ろしているシーンだった。福音は吹き飛ばさせて、海面へと衝突。大きな水飛沫を上げる。

 

「………やった!」

 

 今までじっと見ていた簪が思わず声をあげてしまうほどの急展開だった。

 慌てて山田先生は何度も彼の元へと名前を口にする。

 

「波大君波大君波大君波大君波大───」

 

『聞こえてますって!───ってあれ!?通信入れっぱなしじゃねぇか!?うわぁ!』

 

「………あれ、独り言だったんだね」

 

「にしては昔のこと振り返りすぎでしょ」

 

 モニターには、頭を抱えている蒼星の姿が映る。そんな彼の周りには、慰めるようにエネギアがぐるぐると回っている。なんともシュールな光景である。

 

「今のうちに、こちらに帰還しろ」

 

『分かりました』

 

 そう言うと、彼はその場を後にした。後は彼が帰ってくれば一段落なのだ現実はそうはさせてくれなかった。

 

『織斑先生、先生達はISを使って俺の方に来てますか?』

 

「いや、来ていないが………」

 

 一体なんのことを聞くのかと思った織斑先生は自信なさげに答える。

 返答を聞いた彼の取った行動はその場に停止することだった。

 

「なっ!?何があったんだ!?」

 

「織斑先生っ!大変です!」

 

「どうした!」

 

「未所属の謎のISが旅館に向かって急接近しています!」

 

「こんな時にか!」

 

「それも1……2……3機です!性能の高い光学迷彩を使用しているようで、感知が遅れています」

 蒼星が不審に思ったのも、その謎の機体を確認したからだろう。

 問題はまだ続く。

 

「さらに福音が再起動しましたっ!こちらは、場所を変えて日本に向けて移動しているようです!」

 

「厄介なことになったものだな……」

 

『俺は侵入者の方を相手にします』

 

「いや、波大は急いで帰還しろ!」

 

『大丈夫です。まだ、麒麟は余裕なんで。それに多分、あいつらの目的は俺だと思うんで』

 

「どういうことだ!?」

 

 蒼星からの返答はなし。代わりに麒麟が移動方向を変えて、謎の機体を方へと進んでく様子がレーダーで確認された。

 やがて、蒼星から送られてきた映像には3体のISが映っていた。2体は量産機である“ラファール”。真ん中にいるリーダー格の機体は見たことがないものだった。すると、さらに映像が細かく映し出された。中央の肩の装甲を映し出されていた。そこに映っていたのは棺桶のようなマーク。

 これに一番、狼狽えたのは珍しく離里亜だった。

 

「な、なんで!?なんで、あれがあるの!?」

 

「リリー、どうしたのよ!?」

 

 離里亜の仰天ぶりに鈴もたまらず驚きながらも彼女を落ち着かせる。

 

「遠堂、何か知ってるのか?」

 

 織斑先生が離里亜に尋ねる。皆の視線も離里亜の方へと向けられる。やがて、離里亜は決心がついたかのようにポツリと答えた。

 

「………あいつらは………私とソウ君にとって“許すことの出来ない敵”…です………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な胸騒ぎの原因はこいつらだ。

 向こう側に相対しているISの操縦者。女性なのは当たり前だが、普通………とは言い難い。顔は隠されて見えないので、正体は分からない。

 嫌、俺は知っている。だがどうしても、思い出せない。

 この雰囲気、何処かで会ったような気がする。どこだ。どこでこいつと言葉をまじらわした。

 それに後ろの二人………見たところ機体はラファールだろうか。

 

「………誰だ」

 

 俺は張り詰めた声で訊ねた。

 目の前のリーダー格の機体の操縦者が答えた。

『あなたに会いに来たのよ“空剣士”さん』

 

「っ!帰還者か!」

 

 今ので、出会った場所は確定した。よりにもよって、あの世界とは………。あの世界でこいつとは剣を打ち合った。その時に会話をしたのだ。

 

「何の用だ」

 

『今回は挨拶に来ただけよ。そんな怖い顔をしないの』

 

 そのわりには、後ろの二人は敵意がこちらに向いている。

 目の前の機体はその場を一回転する。

『ふふ、どう?この“ラメイル・コフィン”は?結構お気に入りなのよ~』

 

「………どこで手に入れた」

 

 専用機は普通では手に入らない。だが、目の前のこいつの機体は見たことがないものだった。

 紫を基準としてあちこちに赤が斑点模様のように付いている。装甲は俺よりも薄く、離里亜のエンドロードよりは多いと言ったところか。それに最大の特徴は大きな棺桶。あれが名前の由来だろう。

 俺は胸くそ悪い気分になる。そんなものを見たら、どうしてもあれを思い出してしまうからだ。棺桶に刻まれた一番見たくないマーク。

 

『………亡国機業(ファントムタスク)って知ってるかしら?私はその組織に最近入ったのよ』

 

「………」

 

 “亡国機業”………楯無からそんな名前の組織があるとは薄々聞かされていた。というよりも、彼女の愚痴の中に出てきただけだったような………今は関係ない。

 悪の組織に自ら入るとは、本当に懲りないやつだ。

 

『まぁ、自慢のコフィンちゃんを見せびらかしたいんだけどぉ、私の出るまでもなさそうだしぃ~ロゼリア、アマス出番よ』

 

 すると2機のラファールは1歩前へと出てくる。この二人の表情は確認できた。

 片方は見覚えがある。赤髪の大人の女性。そして、俺があの世界で罪人として捕まえた人物でもある。

『お久しぶりね、空剣士さん』

 

『“ロザリア”………また、牢獄にでも入れられに来たのか』

 

『いいえ、もう遠慮しておくわ』

 

 苦笑気味に答えたロザリア。彼女とは嫌な思い出しかないので、再会に余韻に浸ることはない。

 毒々しい笑みを浮かべるのは会ったときから変わっていない。

 俺はもう一人の方を見た。

 俺と同じ青みがかかった髪のロングヘアーの少女。簪よりも冷徹な無表情を見せる彼女と会ったという記憶はない。つまり初対面のはずなのだが、どうしてか初対面とは心の何処かで思えなかった。

 アマスと呼ばれた少女は無表情を変えない。何も言わないことから無口らしい。その反動なのか、ロザリアがよく喋る。

 

『そういえば、あの子は元気?』

 

「お前に答えても意味はない」

 

 あの世界で、ロザリアと俺が会ったきっかけはある少女だ。

 ロザリアが罠にかけようとしていた一人の少女を結果的に俺はあの時、その子を逆に囮に利用してロザリア達を誘きだし検挙する手段をとった。ロザリアは俺の作戦に見事に上手くはまった。そのお陰でその子はロザリアの罠にかかることもなく、無事だった。ロザリアを牢獄に送り込んだのもその時だ。

 俺は囮にしたことを謝ろうとしたが、少女は気にしていない様子だった。

 だが、これらは全てロザリアが知る必要はない事実。さらに教えたとしてもろくなことがない。

 

『それもそうね。………あの日以来、アタシはアンタに復讐を誓ってたのよ。それが今、こうしてチャンスが訪れたってわけ』

 

「元とは言え攻略組を甘くは見ない方がいいぞ。オレンジプレイヤー」

 

『そうかしら?アンタ、さっきまで福音とやりあってたんでしょ?』

 

「………関係ないな。今の俺でもお前らを倒すには、充分すぎるだろう」

 

 内心、ロザリアの台詞に驚きながらも表に出さないようにして答える。

 俺が福音と戦闘していたことをまるで当たり前かのように知っていた。もしかすると、福音の暴走さした犯人はこいつらではないかと一瞬疑ったが、即座に有り得ないと否定する。

 悪の組織となると、福音を暴走させるよりかは、確実に福音のコアをとってくるはずだ。そちらの方が利点が高い。例え、福音を暴走さしたとして亡国機業は何を得るのかを考えたら、確実にコアを手に入れて戦力を上げる方が良いと俺は考える。

「………とっとと終わらして帰ってもらう」

 

『前は油断したけど、今度は負けないわ!』

 

『───滅殺』

 

 アマスの第一声は不気味なものだった。

 これは油断していると揚げ足を取られそうだ。

 ───第二ラウンドの幕が開いた。

 

 

続く──────────────────────────────




 “SAO帰還者内密談笑会”

アスナ「では、そろそろ始めようか、ユカちゃん」

ユカ「うん………」

アスナ「元気が無いようだけど………大丈夫?」

ユカ「大丈夫………」

アスナ「リリーちゃんとソウ君は二人とも忙しいから、今回は休みって言ってたからね。心配だよね………」

ユカ「うん………」

ユイ「ソウ兄とリリ姉なら、大丈夫ですよ!!ユカ!!」

ユカ「え………ユイ姉………なんで、ここに………!?」

アスナ「私が連れてきたの。少しでも不安が無くせればと思ってね」

ユイ「ユカはダメダメです!!何をそんなに不安がることがあるんですか!!」

アスナ「ユイちゃん………張り切ってるね………」

ユカ「………そうだよね。私のパパとママなら、大丈夫だもんね。うん!!大丈夫!!」

アスナ「ユカちゃん、元気になったようだね」

ユカ「うん!!私は信じる!!」

ユイ「では、今回のお題に………と思ったのですけど、時間がもう迫ってますね。ママ、どうしますか?」

アスナ「次に回して今回はここまでってことに、で良いかな?ユカちゃん」

ユカ「うん!!良いよ」

ユイ「なら、お別れですね。ご覧くださった皆さん!!」

三人「「「さようなら~!!」」」

 ───以上。


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第32話 過去の因縁

───前回のおさらい───

蒼星はある人物達と遭遇。そいつらは彼にとって、忘れられない世界で出会った者達だった。

また一方で璃里亜では謎のIS到来に困惑していた。その様子を心配がる専用機持ち達。

徐々に二人に対する疑惑が浮上していく中、一体彼らは何をすべきなのだろうか。

ちょっとした前ふりを入れてみました\(^-^)/
あ、それとアンケートまだ続けてますので、どうかそちらもご覧頂ければ。

───では、どうぞ!!


 初めに仕掛けてきたのはロザリアだ。

 槍を展開したかと思うと、矛先を真っ直ぐ俺の方に向けながら突進してくる。

 ラファールの初期装備に槍は含まれていない。つまり、追加装備で新たに加えたことになる。

 俺は体を傾けて右に避けた。

 すると、ロザリアは手慣れた手付きで槍を横に振り回し追撃を仕掛けようとしてくる。

 ムーンテライトでそれを防ぐ。刀身と矛先が激突し、甲高い金属音が響く。完全には衝撃を防ぎきれずに俺は少し吹き飛んでしまった。

 

『あら?攻略組がその程度?』

 

 挑発染みた発言をしてくるロザリアだが、俺は完全に意識には入ってこない。

 ロザリアの背後から、出てきたのはアサルトライフルを構えたアマス。銃撃を開始。俺に休む暇すら与えてもらえないようだ。

 銃弾を避けるために一気にその場から離れる。アマスも銃口を俺の方に向けて追い掛けてくる。

 カチャカチャと空音が聞こえてくる。アサルトライフルの弾が切れたのだ。

 その隙を狙って近接戦闘に持ち込む。大剣を大きく振るうが、間に割り込んだロザリアに防がれる。

 今度は俺の番だと、大剣を勢いに逆らわずにロザリアに向け続ける。そのままロザリアを追い詰めていく。

 俺は振り回していた槍を大きく上へと弾く。ロザリアの両手も槍を離さないとするために、絶好の隙が生まれる。

 ───空中専用剣技5連続『スターライド』

 そう心で言ってみるが、あくまで見よう見まねだ。システム補助なんてものは存在しない。だが、体が自然と覚えていた。いや、正確には脳が覚えていたという方が正しいだろうか。

 最後の一撃を浴びせようとした俺はロザリアの表情を伺う。ロザリアは不敵な笑みを浮かべていた。

 思い詰めた表情をしているのではと思っていた俺は内心、驚きながらもロザリアの意図を考察する。

 そして、そのまま大剣をロザリアへと降り下ろした。

 

《ユカ、展開だ》

 

《了解っ!》

 

 何をとは言わずに省略しているのだが、ユカは分かっていてくれているようだ。

 ロザリアは海面へと吹き飛ばされて大きな水飛沫を上げる。

「甘い」

 

 ロザリアが打ち付けられているのを、見ながら俺は小さく呟いた。俺の背後にいるであろうアマスに向けてだ。

 俺がロザリアに意識を向けている間に隙を取ろうと、背後へと回る。この作戦は悪くはない。確かに大剣を完全に降り下ろした俺はすぐには身動きが取れないのだが、避けるまでもない。

 アマスは一気に弾幕を張って麒麟の心臓とも言えるエネルギアへと弾丸を放った。だが、それは叶わなかった。

 

『───!』

 

 無表情の彼女がここでようやく目を見開いた。目の前の物体をアマスはまるで壁のように感じたからだ。

 “ヴォルスシールド”。巨大な六角形の盾は実弾を全て防いだ。

 その時、アマスの機体に電撃が襲った。

 盾から放たれたエネギアの電撃弾が幾つか命中したからだ。アマスは即座にその場から距離を取った。

 その間に俺は完全に体勢を整えていた。アマスも無闇な攻撃はしないのだろう。距離を取って動こうとはしない。

 それにしても、この二人の連携にしては、あまり成り立っていない。こう動けばこう動くとマニュアルのような動きが目立つ。まだそんなに訓練をしていないのだろうか。麒麟の調子が完全でない中、不幸中の幸いだった。

 ヴォルスシールドをしまう。

 海中からロザリアが姿を現して、アマスの隣へと移動する。装甲が幾つか削がれていた。

《ユカ、麒麟はまだ行けるか?》

 

《うん………でも、電撃エネルギーはあまりないよ》

 

 連戦となると、エネルギアで充電しているものの電撃の消費には追い付かない。精々、電子粒砲の電撃砲一発で空になってしまうといったところか。

 ここは短期決戦を持ちかけるべきか。

 そんな俺を見透かすかのようにロザリアは呑気に話し出した。

 

『流石ね。アマスの攻撃も防ぐとは』

 

「行く!」

 

 電子粒砲を展開して構えたのち、俺は瞬時回転を利用してロザリアとアマスが一直線上になるようにする。

 ロザリアは話の途中で仕掛けられた為に反応が少し遅れた。その一瞬でも、命取りになる。ロザリアがそこの所に甘くて良かった。猛者は一瞬足りとも気を抜かないので、賭けに近かったが天は味方してくれたようだ。

 だが、アマスはずっと俺の動きを観察していたのか、反応されてしまった。観察していたからって対応できるスピードではないのだが、アマスの反射神経がそれを可能としていたのだろうか。彼女は思っていた以上の強敵だ。

 まあ………いい。故に確実に落とせる物から落とす。

 電子粒砲の砲口をロザリアへと定めて、全力の電撃砲を放つ。

 辺りを揺るがすほどの威力を秘めた一撃は真っ直ぐ電撃の柱と化してロザリアの方へと放たれた。

 どうにか避けようともがいたロザリアは致命傷を避けた様子だった。それでも、麒麟の精一杯の攻撃に左肩の装甲は完全に剥がれ、ブラスターもかすったとはいえ電撃の影響でボロボロだ。

 アマスの方は影響はない。

 

『アマス、なんでアタシを置いて逃げんのよ!?』

 

『………知らない』

 

 特にロザリアに仲間意識を持っている様子はないアマスはロザリアを助ける素振りを一切見せなかった。

 アマスはロザリアを仲間として認識していない。連携が微妙だった要因の一つは、この為だったのか。

 ロザリアはアマスを睨み付けた。アマスは視線を合わそうとはしない。

 その時、間にあいつが割り込んでくる。

 

『二人ともォ、時間よォ』

 

『どうしてよ?これからって時に?』

 

『IS学園の教師陣が来たのよ。それにオータムから帰還命令が出てるしね~』

 

『それじゃあ仕方ないわね。空剣士、この借りは返すわ。覚えときなさいよ!』

 

 捨て台詞を吐き、ロザリアとアマスはその場を去ろうとする。

 

『空剣士さん。またの機会に会いましょ~』

 

「もう来んな、“痺獄槍”ネル」

 

『あらァ?私の覚えてくれてたのねェ~。それじゃあ、またねェ~』

 

 ラメイル・コヒィンの操縦者“ネル”は微笑ましい笑顔を俺に送ってから、旅館のある海岸とは逆の方へと飛んでいった。

 俺は後を追うことはなかった。

 このまま追いかけて、追撃を仕掛けて勝負を挑んでも今の俺に勝てる自信は正直ない。二人の相手でも今の機体の状態ではギリギリだったのに、ネルが参加してくるとなると俺が劣勢になっていたことだろう。

 戦闘中の間、何故かネルは傍観をしていただけのようだった。途中、手を出してくるかと思いきや、最後まで見ているだけだった。相変わらず何を考えているのか見当がつかない。

 姿が見えなくなってもハイパーセンサーがあいつらを捉えている間、気を緩めることはしないが、効果範囲を越えた瞬間、一気に体に疲労感が襲った。肩の荷が一気に降りた。

 ───あぁ………本当に危なかった。

 充電が完全になくなり、しばらくの間はムーンテライトとヴォルスシールド(手持ち)だけで戦うことを覚悟したのだが、教師陣が来たことで退散してくれた。あのまま、戦闘を続行となると確実に俺が劣勢のまま負けていた。

 福音からの連戦でそのままの二人の相手をするのはもう懲り懲りだ。ユカにも相当苦労さしてしまったみたいで、後でゆっくりと休まないといけない。

 だが、現実というのは俺に休む暇なんて与えてくれないらしい。

 

《パパァ!福音がこっちに来てるよ!》

 

「おいおい………勘弁してよ………」

 

 手応えがなかったのと福音があれごときで倒せたとは思っていなかったが、再び来るタイミングが悪すぎである。もしかすると、先程の最大威力の電撃砲を危険因子として判断さたのかもしれない。

 折角の福音のお出ましなのに、最早麒麟の要となる電撃エネルギーはほとんどなし。シールドエネルギーもあと少ししかないために戦闘をするなど無理だ。帰るだけで尽きてしまうだろう。

 …………帰りは遅くなってしまうな。

 

《ユカ、伝言を残せるか?》

 

《うん。出来るけど………何処に送るの?》

 

《旅館にいる織斑先生の所》

 

《うん。分かった》

 

 そして、ユカに皆への詫びの伝言を伝える。全てを言い終えた時には、最早今の状態を保つだけでも限界だった。

 さらに俺自身も意識が朦朧としており……これ以上は────

 

《パパァ!?パパァ!!パパァァー!!》

 

 ユカが必死に呼び掛けるが、麒麟は真っ逆さまに下へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。専用機持ちたちは司令室の近くの部屋で待機をしていた。あのまま、蒼星の経緯を見ていたかったが、織斑先生がここで待機しておくように命じられたのだ。 皆の表情は暗い。

 一夏は意識を未だに取り戻しておらず、安静状態を保ったままだ。箒もまだ殻に引きこもっている。

 部屋の中にいる全員の中で、離里亜だけが、あの謎の襲撃者達の正体を知っている様子だった。それらを全て説明してもらう話だったのだが状況が危険なだけに、また事が片付けしだい蒼星と共に話してもらうことになっていた。だが、簪にはどうしても知りたいことがあった。だけど今の離里亜に尋ねる勇気など出なかった。

 

「リリー、あいつらは何者?」

 

 言葉を発したのは簪ではなく、鈴。

 鈴は恐る恐る離里亜の勘に触らないように尋ねた。他の者も気になるのか耳を傾けている。

 

「簡単に言うと………因縁。詳しくは長くなるから今は言えない………」

 

「それは、兄様も関係しているのか?」

 

「うん。まさか、今になって帰ってくるとは思ってなかったよ………」

 

 離里亜はラウラの疑問に答えるものの意識は完全に上の空だった。蒼星の安否を心配しているのだ。それは誰もが同じ。

 次の瞬間、部屋の襖が開いた。

 バッ!と離里亜が振り向く。蒼星が帰ってきたと思ったのだ。が、そこにいたのは箒だった。

 彼女は髪も乱れたまま、まるで死んだかのような顔をしている。

 

「…織斑先生が……全員を呼んでいる…」

 

「……すぐに行きましょう」

 

 セシリアの言葉で全員立ち上がる。

 福音はどうにかなったのだろうか。それにあの謎の襲撃達は………。

 司令室内に向かうと中の雰囲気は暗いことに皆は気付く。山田先生は目を赤くしていた。

 嫌な予感がするがまさか蒼星に限ってそんなわけがない……誰もがそう思った。

 織斑先生がゆっくりと口を開く。

 

「……今から10分前、波大は襲撃達の撃退に成功し…あいつらはアメリカ方面へと逃走した………」

 

「本当ですか!!千冬さん!!」

 

「さすが蒼星さんです!!」

 

 鈴とセシリアが声をあげて喜ぶ。

 ならその本人はどこにいるのだろうか。まだ戻ってきていないだけなのか。

 それに作戦が成功したというのになぜこんなにこの部屋の雰囲気は重苦しいのだろうか。

 織斑先生が言葉をひねり出すように話す。

 

「……その後……事態は急変した」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

「…銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が復活し再び起動を開始、波大の方へとに向けて移動を開始した…」

 

「先生……ソウ君は?」

 

「……今から2分前、銀の福音との戦闘をする前にシールドエネルギーが尽きてしまい海へと墜落した………」

 

 織斑先生は手をきつく握っている…。かなり強く力をこめているのだろう…血が滴り落ちている。

 

「千冬さん…?冗談ですよね?」

 

「……」

 

「先生……蒼星君は…今どこに?」

 

「教官……教えてください」

 

「……現在、波大蒼星は……作戦行動中行方不明にされており……さらに捜索はおこなえない……」

 

「な!?なぜですか!!」

 

「……あいつが撃墜された所で銀の福音

が停止している……下手に調査隊を出そうものなら確実に動き出すだろう。そうなると、返り討ちに遭うのは目に見えている…現在、教員の方で撃墜計画を建てているが…出動がいつになるかは未明だ」

 

 その瞬間、世界が一変したかのような錯覚を簪は覚えた。あの蒼星が帰ってこない………これは夢だと何度も自分自身に言い聞かせるが、現実というのは過酷だ。

 簪は離里亜の後ろ姿を見た。自分でもこんなにショックなのだ。彼女の受ける衝撃は半端ではない。

 離里亜の膝ががくり、と曲がる。

 倒れそうになった離里亜を簪とセシリアが慌てて支える。彼女も耐えるのが既に限界だったのだ。

 話を聞くや否やラウラが飛び出した。

 

「ボーデヴイッヒ!!………どこに行く気だ…」

 

「……兄様を探しに行ってきます」

 

「駄目だ。捜索は行えない」

 

「僕も行きます!」

 

「デュノアもか。それでも、許可を出すことは───」

 

「それでは兄様を見捨てろと言うのですか!!」

 

 ラウラが両目に涙を浮かべながら、抗議する。シャルロットも覚悟を決意した瞳を織斑先生に向ける。

 それに対して鈴が声を上げる。

 

「二人とも!!今、ここでそれを言っても仕方ないでしょ!!」

 

「なら、どうしろと言うのだ!?」

 

「だけどよ、もし私達だけで探しに行くと仮定するとしたらどうなると思う!?途中、銀の福音がこちらに攻めてきたらどうする気よ!!もし蒼星が無事だったとしても巻き込まれて終わりでしょ!!」

 

「だが………今の兄様は動けないんだ………!!」

 

「皆さん!静かにしてくださいまし!離里亜さんと簪さんの前ですよ!」

 

 セシリアの一喝により、一気に場が静まる。

 私は大丈夫………平気だと何度も言い聞かせるが、簪の感情は一線を越えようとしていた。

 離里亜も同じだ。

 彼女は焦点が定まっておらず、頭がまったく追い付いていないようだ。

 

「…お前たちに伝言が届いておる。だが…今のお前たちに聞かせるのは───」

 

「織斑先生………私は大丈夫です。聴かせてください」

 

「私も………」

 

「そうか………山田先生……頼む…」

 

「はい………」

 

 山田先生はスクリーンに映像を映し出した。辺りいったいは海面、向こうには水平線が広がっていた。

 2度目の戦闘が終了した後に、録画したものだと思われる。

 

『えー、テステス。ん?もう、入ってる?なら、始めますか………ゴホン!』

 

 呑気にわざとらしい咳をする蒼星の姿が目に写った。蒼星の今のやり取りは、まるで誰かと会話をしているようだが、誰も気付くことはない。

 

『まず、こんなに疲れたのは久しぶりだ。本来なら一夏の奴に押し付けようと思ってたのに、結局俺がするはめになった』

 

 箒が申し訳なさそうな表情をする。

 

『あぁ!箒よ!悪口じゃないぞ!どんな結果であろうと過ぎたことをいつまでも悔やむ俺じゃないからな。あの馬鹿に笑われるぞ』

 

「あぁ………知っている………」

 

『一先ず、箒にはこれで言いとして他の奴等に何を言おうかと数秒考えた結果、あるアドバイスをすることにしました』

 

 こんな時に何を言い出すのかと思えば、蒼星のペースは相変わらず不動のようだった。数秒とは短すぎる。

 

『まず、セシリア!』

 

「は、はい!」

 

 自分がいきなり名指しされたことで、セシリアの声が裏返る。

 

『もし福音と戦うつもりなら、癖を覚えてからにしろよ。まあ、セシリアのことだから既にやってると思うが』

 

「はい、分かりましたわ、蒼星さん」

 

『次~シャルロット~』

 

「え?私?」

 

『せめて、某愛好会の中で、唯一の常識人になってくれ。じゃないと、俺の精神的苦痛がヤバイから………』

 

「よく分からないけど………頑張ってみるよ………」

 

 苦笑いをしながら、シャルロットは答える。本当は蒼星の言いたいことは分かっているように簪は見えた。

 

『ネクスト、ラウラー!』

 

「私か」

 

『………ラウラは、もう少し常識を覚えましょう。後、ラウラに日本の事を教えている人と会わせてくれ、一言言いたいことがあるから』

 

「承知した」

 

『後………簪ちゃん』

 

 簪はコクリと頷いた。

 

『ほとんど機体も完成したことだし、もうそろそろ動き出すからな。覚悟しておいた方がいいぞ。相手は強敵だからな』

 

「うん………分かった」

 

『それに………リリー………さん』

 

「何………ソウ君?」

 

 蒼星は何故か“さん”付けで離里亜の名前を呼んだ。離れた場所でも彼は感じているようだ。

 画面にあるものが映った。

 それは大きなの剣の先だった。彼はムーンテライトを展開して前に向けたのだ。

 

『俺は必ず帰る。だからさぁ、ちょっと待ってくれないか?それにもうそろそろ潮時だ。皆には話しておかないとな』

 

「そうだね。待ってるよ」

 

 離里亜は少し笑みを浮かべた。簪からは何の話か分からなかったが、彼女には伝わっているようだ。

 

『これで遺書は────』

 

「ちょっと!!私は!?」

 

 最後まで名前を呼ばれなかった鈴がついに叫んだ。ついでに今、不吉なことを彼は言っていたような気がした。

 

『そういえば、スズーがいたな………』

 

「“いたな”じゃないわよ!!」

 

『え~………スズー───いや、鈴………ごめん!!!特に何もない!!!』

 

「無いのかよ!!」

 

『嘘だ』

 

「もう!!どっちよ!!」

 

 完全に蒼星のペースにはまってしまった鈴は「はぁはぁ………」と呼吸を整える。すると、彼の笑い声が聞こえてきた。頭の中で、突っ込みを入れる鈴の姿を想像してしまったのだろう。

 ふぅ~と一呼吸置いた彼は続けた。

 

『お前は周りを引っ張っていける素質がある。皆を引っ張ってくれるのを頼むぞ!それと、自分だけの得意があるってことは胸を張って良いんだぞ………例え平らでも』

 

「余計なお世話よ………あのバカ」

 

『そろそろ限界だな………まあ、早めに帰るつもりなんで怒らないでね。以上、じゃあ、また』

 

 その瞬間、映像はプツリと途切れた。

 

 

 

続く───────────────────────────

 




 “SAO帰還者内密談笑会”

キリト「今回は肝心のソウ達が全員忙しいので代わりに俺とアスナが務めることとなった」

アスナ「キリト君?いきなりどうしたの?」

キリト「いや、なんか言っておかないと駄目な気がして」

ユイ「パパ!!私もいますよ!!」

キリト「分かってるって」

アスナ「ではでは、早速ゲストを呼んじゃおうか」

キリト「いるのか!?」

ユイ「なんでもこの話の重要人物らしいですよ」

アスナ「では、どうぞ!!」

シリカ「シリカです!!よ、よろしくお願いします!!」

キリト「あぁ~、シリカか」

シリカ「なんですか!?その反応は!?」

アスナ「よろしくね、シリカちゃん。ではユカちゃんから預かっているこの進行紙に従っていきます」

キリト「用意周到なんだな」

アスナ「えぇーと?シリカちゃんはソウ君とはどのような出会いで知り合ったの?」

シリカ「モンスターに追い込まれて、危ない所をソウさんに助けてもらったのがきっかけです。その後もキリトさんと合流して一緒にピナの蘇生を手伝ってくれたり、色々とお世話になりました」

キリト「そういえばそうだったな~。懐かしいなぁ~」

シリカ「そ、その際キリトさんには見られてしまったんですけど………///」

キリト「え!?」

アスナ「キ~リ~ト~く~ん、どういうことなのかなぁー?」

キリト「ア、アスナ…さん!!あれは事故でして…………!!」

アスナ「や、やっぱり!!見たの!?」

キリト「はっ!!まさか、揺さぶりを!!」

アスナ「分かってるよね、キリト君」

キリト「は、はい…………すみませんでしたぁぁぁぁぁあああ!!」

シリカ「あはは…………」

ユイ「今回はここで終わりとなります。皆さん、さようなら~」

シリカ「ユイちゃん………凄いんだね………」

ユイ「何のことですか?」

シリカ「ううん、何もないよ!!」

ユイ「そうですか?なら良いんですけど……」

 ───以上。



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第33話 飛び立つ少女

今回はこっちの勝手な都合により、後書きは無しとなっています。もし、楽しみにしていただいていた方がいるのなら申し訳ないの一言です(´д`|||)


───行くよ、皆!!by璃里亜


 あの後、部屋を追い出された。簪はこの後、何をどうしようかと迷った挙げ句、廊下で話をするつもりの皆の中に参加することにした。流石に部屋の前だと、また注意をされそうなので部屋に続く縁側へと来ている。

 ただ、箒だけは一夏の様子を見にいくと告げると彼の寝ている部屋へと戻った。

 皆の面影は暗いまま。

 向こうから、セシリアが戻ってきた。彼女は織斑先生の元へ作戦の参加の旨を伝えようとしているのだが、まるで意気消沈したかのように凹んでいる。

 

「………あ、セシリア。どうだった?」

 

 鈴も向こうからやってきたセシリアに気付く。

 

「ダメでしたわ。やはり“作戦中だから入室許可出来ない。待機しろ”の一点張りでしたわ」

 

「やっぱりそう簡単には行かないね」

 

 セシリアは首を振った。作戦室に入れたのは、作戦会議と蒼星が墜落したという事実を知らされた時だけである。シャルロットも八方塞がりの様子でう~んと唸りだした。

 

「先生は……心配じゃ……ないのかな?」

 

 簪はポツリと呟いた。ふと、思ったことを口にしただけだった。

 

「そんな訳あるまい」

 

 そう言ったのはラウラだった。

 

「教官にとって一夏は大事な家族だ。それを心配しない訳がない」

 

「だったら……どうして?」

 

「一夏と兄様の命はISが守っている。だからこそ今は福音を補足し、その動きを捉える事を……今やるべき事をやっているのだ。自身の心を必死に抑えてな」

 

 ラウラは冷静に、しかし真っ直ぐに言葉にする。

 

「っ………」

 

 簪は、それでも何処か納得できない様子で、ギュッと唇を噛み締めていた。理解は出来るがどうしても心の底から同意は出来ない。

 

「………分かる気がするよ」

 

「え?」

 

 今まで黙っていた離里亜が呟いた。思わず、簪は聞き返してしまう。

 

「私………昔は何も出来なかったんだ。まあ、今も出来ないことは多いけど………ソウ君はよくその時から私の手助けをしてくれたんだ。一歩踏み出す勇気をくれた。でもあくまで、手を貸すだけなんだけどね」

 

 離里亜は微笑ましい笑みを浮かべてながら、続けた。

 

「でも、自分のことはいっつも適当で自分の心配なんてしない。そんなところが、根本的に織斑先生と少し似てるのかなぁ…」

 

 織斑先生の自分を押し殺す所。蒼星の自分を後回しにする所。どちらも共通するのは他人の為だという所だ。

 

「蒼星さんはいつもそうでしたわね」

 

「そうね。それには同意するわ」

 

「うん。言われてみれば………」

 

 自己犠牲………と言うよりかは、自己援助が近いかもしれない。彼は自身の力だけで出来るだけのことをしているのに過ぎないし、いつも当たり前のように楽しんでいたからだ。簪から見た彼の姿からの勝手な想像だったが、間違っているとは思えない。

 離里亜は決意をしたのか、いきなり立ち上がるとこの場を後にしようとする。

「リリー、どこにいくつもりだ?」

 

 ラウラは離里亜の背中に問いかける。彼女は振り返ると、優しく答えた。

 

「倒しにいくんだよ、福音。皆はどうするの?」

 

「行くに決まってるでしょ!」

 

「そうだね。一夏と蒼星の敵をとらないと!」

 

「はぁ………仕方ないですわ。わたくしもお付きあいします」

 

「ふむ。教官達が籠っている今がチャンスと言えよう」

 

「私も行く」

 

 皆は同時に頷く。彼女達の思いは一つしかない。福音を倒して、さっさと今の状況を打開する。そして、男子達に一言言ってやらないと気がすまない。

 

「後は………」

 

 福音の元へと行くには、一人足りない。その人の元へと彼女達は移動を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚まさない一夏の側に居座る箒は、後悔の念に押し潰されていた。

 ───自分は馬鹿だった。

 蒼星との試合でまんまとペースに嵌められて、それを福音戦で挽回しようと必死になりそのせいで周りが見えていなかった。そして、一夏に怪我をさせる羽目になった。作戦会議の時に言った彼の予言通りになってしまった。今、彼とは会わせる顔がない。

 作戦が失敗に終わり、自身を責められると思っていた箒は織斑先生から何も言われなかったことが逆に辛かった。誰かに責めてもらいたかった。

 箒は頭を捻り出して、考える。

 自分は一体、何処で見失った?

 考えれば、考えるほど自責の威圧が重くなっていく。この無限ループから、箒は抜け出せそうになかった。

 ガラッ………と音がして、誰かが入ってきた気配がする。箒は正体すら、確かめようとはしない。

 入ってきた鈴はため息をついた。

 

「はぁ………ウジウジしてないで、早く行くわよ」

 

「私は………」

 

「何?私のせいで一夏がこうなったって?」

 

 鈴は真剣な眼差しになった。

 

「それで?落ち込んでますってポーズ?………ふざけんじゃないわよ!!」

 

 鈴は箒の胸ぐらを掴んで持ち上げた。箒の体は自然と鈴の方へと向かされる。

 

「やるべきことがあるでしょうが!今戦わなくてどうすんのよ!!」

 

「……私は、もうISは使わない……」

 

 ────次の瞬間だった。

 箒の頬をビンタされ、甲高い音が室内に響く。そして、再度鈴は締め上げるように胸ぐらを掴んできた。

 

「甘ったれてるんじゃないわよ!!専用機持ちっつーのはね、そんなワガママが許されるような立場じゃないのよ!!それともあんたは……戦うべきに戦えない、臆病者なわけ!?」

 

 鈴のその言葉に流石の箒の心にも火が点いた。

 

「なら…ならどうしろと言うんだ!?もう敵の居所もわからない!戦えるなら、私だって戦う!!」

 

 箒は自分の思いをぶつけると鈴はため息をついた。まるで、今まで芝居をしてきたかのような………。

 

「やっとやる気になったわね。…あ~あ、めんどくさかった」

 

「な、何?」

 

「場所ならわかるわ。今ラウラが───」

 

 言葉の途中でちょうど扉が開く。そこに立っていたのはラウラだった。

 

「敵の所在が掴めたぞ。ここから30キロ離れた沖合い上空に目標を確認した」

 

「さすがはドイツ軍の特殊部隊、仕事が早いわね」

 

「これ位は造作もない。それはそうと、貴様の方こそ準備はできているのか?」

 

「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済み。3人は?」

 

 鈴はラウラの後ろにいるセシリア、シャルロット、簪にも確認をとる。

 

「こちらも完了していますわ」

 

「僕も準備OKだよ」

 

「いつでも…行ける」

 

「ま、待ってくれ。本当に行くのか?命令違反じゃ…」

 

「だから?あんた今言ったわよね。戦うって。命令違反だからってこのまま何もしないでいられるの?」

 

「私は…戦う、戦って勝つ。今度こそ負けはしない!」

 

「決まりね。ところで、リリーは?」

 

「準備をしている。後少しで、終了するから間に合うと言っていたぞ」

 

「なら、大丈夫ね。今から作戦会議よ!今度こそ福音を確実に墜とすのよ!」

 

「ああ!」

 

 箒は決めた。己の力を見誤らず、自身との戦いに勝つのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦は簡単なものだ。

 まず、ラウラの初弾で幕を降ろし、セシリアとシャルロットが奇襲をかける。そして、離脱しようとした隙を箒と鈴が福音へと急接近して防ぐ。離里亜は福音の全方位攻撃『銀の鐘』から新武装『エンジェルロッド』を使って、被害を防ぐと同時に、全員の指揮官の役割を担っている。簪は機体がまだ完全ではないために、皆のサポートに入っていた。

 『エンジェルロッド』とは離里亜の専用機“エンドロード”に搭載されている遠距離武器だ。展開するときには両肩に担ぐようにして、持つ。先端には四砲の大砲が付いておりグレネードランチャーに似ている。追尾ミサイルを発射するごとに回転する仕組みになっており、補給しながら連発することで攻撃力を上げている。弾の入れ換えなしだと、最大16連発まで可能である。これで、福音のエネルギー弾を迎え撃つのだ。

 目的地まで五キロという所までようやく辿り着くと、福音は丸く丸まって海面に浮かんでいたのをハイパーセンサーで目視できた。その姿は、一夏と蒼星から受けた傷を癒しているようだった。

 

『皆、準備は万端?』

 

『『『『いつでもOK』』』』』

 

『なら、ラウラちゃん!1発派手に行こうか!』

 

『了解だ!』

 

 彼の口調を真似しながら、離里亜は合図を出した。

 ラウラはIS“シュヴァルツェア・レーゲン”に装備されている大型カノンを使おうとする。だが、その大型カノンは以前まで使っていたものとは異なっている。

 その姿は以前の大型カノンとは大きく違い、口径だけでなく、二門左右それぞれの肩に装備している。更には遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして、左右と正面を守るかのように四枚の物理シールドがある。

 砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』と言う名前の装備をラウラは躊躇いもなく使った。

 

『では、行く!』

 

 放たれた砲弾は音速を越えるスピードで福音に向かって行くと、さっきまで胎児のような格好で蹲って膝を抱くように丸めた体を、不意に顔をあげた。

 その次の瞬間、砲弾が福音の頭部を直撃して大爆発する。

 

『初弾命中を確認した』

 

『ラウラちゃん、そのまま砲撃続行で』

 

『了解した、リリー』

 

 本来なら、現役の軍人でもあるラウラが指揮をとるのが、有力だと思われたが意外なことに離里亜が自ら志願したことによって今、こうして彼女の指示の元に動いている。

 離里亜の指揮能力は他の者達は知らないが、彼女の実力や覚悟の眼差しを見たからか反対をする者は誰一人としていなかった。

 期待を裏切ることがないようにと、離里亜は手際よく指揮を取る。

 

『ラウラちゃん、一旦引いて体勢を戻して!』

 

 ラウラの砲撃も最初のが命中しただけで、福音の機動力の高さの前に当たらない。

 離里亜の指示通りラウラは引こうとする が、それよりも早く福音が急加速を行い接近、右手を伸ばした。

 それを見た離里亜は慌てることなく告げる。

 

『セシリアちゃん!GO!』

 

『了解ですわ!』

 

 遥か彼方上空から、姿を現した“ブルー・ティアーズ”とその操縦者のセシリアが福音へと体当たりをかます。

 ステルスモードで、接近していたが為に福音は存在に気付くことはなかった。

 セシリアはそのまま射撃へと移項。強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』に搭載されたレーザーライフルの銃口を福音へと向け続ける。その威力は下手をすれば相当のダメージを負うことになる。

 福音は吹き飛ばされながらも、体勢を即座に整えてセシリアの攻撃を難なく自慢の機動力で避けていく。

 

『次、シャルロットちゃん!GO!』

 

『りょーかい!』

 

 セシリアと同じくステルスモードで待機していたシャルロットが姿を見せると同時に、両手に握ったショットガンを吹かせた。

 また、姿勢を崩す素振りを見せるが今度は速攻とばかりに反撃をしてきた。

 ───“銀の鐘”だ。

 それもシャルロットに向けての集中攻撃だ。だが、シャルロットの対応は冷静だった。

 

「そのくらいじゃあ、まだまだ落ちないよ!」

 

 シャルロットは、リヴァイブ専用防御パッケージに付いてある『ガーデン・カーテン』で防ぐ。実態シールドとエネルギーシールドの両方を行使しての防御なので、余裕はまだある。

 防御の間に得意分野の“高速切替(ラピッド・スイッチ)”を使い、別の銃器を呼び出す。逃さないようにタイミングを伺い、反撃を開始した。

 さらにセシリアの高機動射撃。ラウラの大型カノンによる遠距離砲撃に、包囲されてしまった福音はいくら機動力が優れているとはいえ、所々被弾してしまう。

 ここまでは皆の作戦通りに進んでいる。不利になった福音が取る行動は一つしかない。

 

『箒ちゃん、そろそろだよ』

 

『分かっている』

 

『頑張ってよね!私がその代わりに撃ち落としてやるんだから!』

 

『スズーも期待してるからね』

 

 離里亜は二人に通信をとると、すぐに返事が帰ってきた。一瞬も気を緩めるわけにはいかない。

 その瞬間、福音が動いた。

 グルリ、と全身を一回転させると同時に全方位に向かって銀の鐘を発射。

 全員がそれを避ける間を突くように、全スラスターを吹かせて包囲網からの離脱を計る。

「させるかぁぁぁ!!」

 

 海面から大きく爆ぜると、そこから箒と背中に乗った鈴が出現する。

 鈴は、箒の背を蹴ると上空に上がり、新たに増設したパッケージ『崩山』を構えた。箒は勢いを止めることなく福音へと突進していく。

 鈴のIS“甲龍”には両肩にある衝撃砲の砲口が二つ増設されて計四門ある。その四門の衝撃砲が一斉に火を噴いた。

 福音に激突するかと思いきや、紅椿は側を通過して、福音は吊られて後ろを振り向く。そして、福音の後ろから衝撃砲による弾丸のシャワーが一斉に降り注いだ。だがいつもの不可視の衝撃砲ではなく、赤い炎を纏っていた。福音のエネルギー弾と同等かそれ以上の代物だ。

 さらに振り返った箒が“雨月”を振るい、挟み撃ちとなる形で福音を襲った。

 

『───!?』

 

 上方と背後からの同時に攻撃を受けて、福音は悲鳴に似た声を上げた。

 

「やった………!?」

 

「いや、まだだ」

 

『───来る!!』

 

 箒の断言通り、福音はダメージを受けつつも両手を大きく広げ、翼を外側へと大きく羽ばたかせた。

 離里亜はそれを見た瞬間に指示を出した。

 

『箒ちゃんはシャルロットちゃん!かんちゃんは私の後ろに!』

 

 簪の機体はまだ不完全なので、大ダメージを負うわけにはいかなかった。故に離里亜がそれを担っている。

 箒の“紅椿”はエネルギー切れを防ぐために展開装甲に制限をかけている。本来なら、攻撃、防御、機動において圧倒的なスペックを誇る展開装甲なのだが、今回はあえて使わないことにした。

 防御面に不安が残るが、それは仲間が解決してくれる。

 

『皆!大丈夫!?』

 

『僕と箒は大丈夫だよ!』

 

『こっちも平気よ』

 

『リリーと簪こそ、大丈夫か?』

 

『うん………こっちも平気』

 

 誰も目立った負傷はしておらず、安堵する離里亜。だが、問題が一つ起きていた。

 

『でも、福音の異常な連射のせいでシールドが……』

 

「えっ!?」

 

 シャルロットの台詞を聞いて思わず振り向くと、リヴァイヴの物理シールドが一枚、完全に破壊されていた。

 あの銀の鐘の連発によって流石に耐えきれなかったのだろうか。

 

『シャルロットは後退!ラウラとセシリアは左右から攻めて!』

 

『う、うん!』

 

『言われずとも!』

 

『了解ですわ!』

 

 離里亜の皆に対する呼び方は呼び捨てになってしまっているが、誰も気にする余裕はない。

 ラウラとセシリアはそれぞれ左右に旋回した後に、砲撃を開始。

 

『スズー!お願い!!』

 

『勿論!足が止まればこっちのもんよ!』

 

 福音の直下にいる鈴が突撃する。鈴は双天牙月による斬撃の後、福音に至近距離からの拡散衝撃砲を浴びせた。狙うは翼。

 

「もらったあああっ!!」

 

 鈴は玉砕覚悟で福音のエネルギー弾を全身に浴びながらも斬撃を止めない。

 同時に拡散衝撃砲のシャワーを降らせて、互いにダメージを受けながら、鈴はついにその斬撃で福音の片翼を奪った。

 

「はっ、はっ……!これでどうよ───ってやばっ!」

 

 片翼になった福音は一度姿勢を崩すもののすぐに立て直し、鈴に回し蹴りを浴びせようとする。

 その時、福音にエネルギー弾が大量に命中し、福音は攻撃を中断せざるを得なくなる。

 

『助かったわ、簪』

 

『うん……』

 

 荷電粒子砲を撃った簪に感謝の言葉を述べる鈴。

 

『離里亜さん!簪さん!そちらに行きましたわ!』

 

 セシリアの通信が入る。

 完全に福音は二人に目をつけたのかこちらへと急接近してきた。離里亜が指揮をしているのを感じ取ったのだろうか。初めに福音は離里亜の方へ接近攻撃を仕掛ける。

 だが、彼女に仕掛けたのは間違いだった。

 

『シャルロットちゃん、ネットの準備をお願い!』

 

『分かった!』

 

 離里亜はシャルロットに準備を頼んでから、エンドロードのある能力を発動した。

 

『………??』

 

 攻撃を仕掛けたはずの福音はおかしなことに宙を舞った。空振りだ。いや、先程までここに離里亜がいたはずなのだが。姿どころか気配すらない。

 まるで、存在自体がなくなった離里亜を福音は懸命に探すが見つからない。

 すると、福音は標的を簪に変更。簪に襲い掛かった。

 だが、それも邪魔が入り、失敗に終わる。突然、何もない所から離里亜が姿を現したかと思うと、手に握った銃剣を福音へと斬りかかられたせいだ。

 周りの皆が少し、面を喰らった表情をしているがあらかじめ離里亜本人から聞いていたので、驚きは少なかった。無知の状態で目撃したとなると、何が起きたのかすら分からないだろう。

 離里亜のIS“エンドロード”の最大の特徴………それが今の一部始終で頭角を現しているのだ。

 “透先天使(ブラム・エンジェル)”。

 頭の上に浮かぶようにしている輪から、特殊のジャミング性の音波が放たれて、ハイパセンサー等による検知を無効化。さらに機体には機動音など一切の騒音を消す機能を付けてある。使用時間制限などが設けられているが、それでも光学迷彩を使用した際の彼女を見つけるのは至難の技だと言える。

 欠点は味方にもそれは通用してしまい、自身の場所が悟られなくなってしまうことだ。

 離里亜は銃剣を振るう。その速さは閃光のようだった。

 

『キヤァァァァァ!!』

 

 残りの片方の翼を離里亜の銃剣で斬られた福音は悲鳴を上げる。

 離里亜はそんなことはお構いなしにと、エンジェルロッドを至近距離で浴びせる。

 そこにシャルロットが接近。

 

「これもお付けするよ!!」

 

 シャルロットがバズーカ砲を構え、福音に向かってトリガーを引く。

放たれた砲弾が真っ直ぐに飛び、そして弾けた。弾頭から飛び出すのは───特殊金属繊維で作られた捕獲ネット。

 

『───!?』

 

 それが福音を捕らえ、更に電流を流し込む。蒼星の麒麟に比べたら、全然甘いが今はこれで十分だ。

 

「動きさえ止まればっ!!」

 

「恐るるに足らず、ですわ!!」

 

『皆!ありったけの力を込めて、集中攻撃して!』

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 全員が返事をした直後、ラウラは砲撃、セシリアはレーザー射撃、鈴は拡散衝撃砲、シャルロットはグレネードランチャー、簪は荷電粒子砲、そして箒は天月の弾丸レーザーと空裂の帯状レーザーを一斉に撃ち出す。

 

「これで、終わり!」

 

 留めに福音の真上からエンジェルロッドの残りの砲弾を全て煙の中心へと放つ。

 そして、錐揉み状態で福音が吹き飛ばされ、そのまま海へと堕ちていった。

 ブクブクと泡沫が上がり、福音はそのまま沈んでいき、消えて行く。

 しばらくの間、全員が注視していたが───福音は浮上しては来なかった。

 

 

続く───────────────────────────

 



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第34話 幕切れ

SAO要素存分にあります。気を付けてください。

あと、UA数が50000突破。お気に入り数が300越えてました!!(゜ロ゜ノ)ノ

───力は欲しいと言えば欲しい。欲しくないと言えば欲しくない。by蒼星


 目を覚ました。

 仰向けになっていた体を起こして、居場所を確認しようとした俺は目を見開いた。

 

「ここは………!どこだ?」

 

 床一面がまるで透明なガラスのようになっており、周りは何もない。ガラスは光を反射しており、まるで空と地が一体化したような錯覚を覚える。心当たりどころか、そもそもここは地球なのかと疑いたくなるような幻想的な空間に俺はいた。

 俺は………一体………。

 今まで何をしていたのか、頭を捻り出して思い出そうとする。

 

「そうだ!俺は確か………」

 

 福音と戦って、海面に叩きつけて離脱に成功する。だが、帰り道にまた別の襲撃者が出現し迎え撃つはめになった。襲撃者達は昔の因縁に近い相手だったがどうにか追い返すことに成功したはずだ。

 そこにリベンジとばかりに福音が急接近したと情報が入り、そこで意識が途切れた。

 福音はどうなったのか知りたい所だが、見渡す限りでは誰もいない。

 だったら、ここにどうやって来たんだと疑問が湧くが幾ら考えたって答えは出ない。

 仕方なく、俺は重い体を見つけて適当に歩いていくのだった。

 

「さて、どっちに行こうか………」

 

 宛も何もない現状で、途方に暮れるしかない。直感的にこっちに何かありそうな方に歩いてみようかと考えていた。

 

『───』

 

「………誰だ?」

 

 誰か呼んでいる。脳に直接訴えかけてくるような感覚に戸惑いながらも、正体を確かめようと目を凝らして探す。

 

『───っちだよ』

 

 また語りかけてくる声。

 俺は声に導かれて何処かへと歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりましたわよ!箒さん!」

 

「そ、そうだな………!」

 

 福音を見事に撃墜したことに、セシリアは興奮して箒の手を掴んで何度も上下に振る。箒は戸惑いながらも、笑みを浮かべる。

 

「ようやく、終わったか」

 

「うん。これで、終わりなんだね………」

 

 シャルロットとラウラも満足そうな笑みを浮かべる。

 

「やった!────リリー?」

 

 簪も歓喜の声を上げるが、隣の離里亜の表情に曇りげがあるのに疑問を持ち、恐る恐る名前を呼んだ。

 離里亜の機体から、ガチャンと金属音がする。エンジェルロッドの砲弾を装填したのだ。

 つまり、それはまだ戦闘が終わっていないことを示唆していた。

 

『まだ………まだ私達の闘いは終わっていないよ』

 

『リリー、流石にあれを食らったら───』

 

「────っ!」

 

 鈴が言う最中に異変が起きた。

 バチっと小さな音をセンサーが拾う。

 一体何が起きたのか、と思う暇もなく事態は変貌する。

 

「なっ───!?」

 

 いきなり海面が爆ぜ、球状の光の玉が海を蒸発させながら、上昇してきたのだ。

 嵐のように吹き荒れる暴風に落雷。

 海を押し退けるほどのエネルギーの中、その中心にうずくまるような格好の銀の福音。

 

「これは……何だ!?」

 

「まずいっ! これは……『二次形態移行(セカンド・シフト)』だ!!」

 

 ラウラの叫びに反応するかのように、福音がその顔を持ち上げる。

 呆然とする敵の顔を確かめるかのように、福音はゆっくりと、その体を立ち上げる。ISが警鐘を鳴らす中、福音はその姿を変えていく。

 

『キャアアアアア』

 

 甲高い金属を引き裂くような咆哮を放つと、福音は信じられない行動に移る。

 福音の主軸となる翼が砕けたのだ。

 さらにそこから生えるようにして、また光の翼が現れる。それに光の羽根が傷ついた装甲を埋めるようにしていく。

 福音を包んでいた光の球体は消滅。重力に従って海水は元に戻ろうと大波をたてた。

 水飛沫に当たりながらも、福音は神々しい翼を羽ばたかせた。

 

「え………」

 

 一瞬だった。

 福音は全員の側を通り抜けると、最初のターゲットへと襲い掛かった。

 狙われたのはシャルロット。

 急接近されてからの至近距離からの銀の鐘をもろに受けてしまう。流石の彼女もこれには耐えきれずに吹き飛ばされた。

 福音はシャルロットを最も除外すべき対象として判断したのだ。

 

「ぐっ………ぁぁぁあああ!!」

 

「シャルロットちゃん!?」

 

 海面へと叩きつけられてしまったシャルロット。璃里亜もこれには顔をしかめた。

 

「みんな!散開して!」

 

 固まっては危険。璃里亜は必死に声を上げて指示を出す。他のメンバーもこれで、はっと意識を戻して福音と距離をとった。

 

「行くわ!」

 

「鈴、行くぞ!」

 

 鈴と箒が左右から同時に攻撃を仕掛けようとする。

 同時に、福音は凄まじい弾幕を放った。今までとは比べ物にならないほどの数は逃げ場所を完全に無くしていた。

 

「くっ……なんて数よ……!!」

 

「これでは……近づくことも……!?」

 

 回避と接近を試みてはみるが、福音に近づくことさえ叶わない。このままでは圧倒的不利な現状は変わらないことは目に見えていた。

 福音が次なるターゲットへと定めたのは───

 

「ぐわぁぁぁあああ!!」

 

 ラウラだった。シールドで防御を図るもののシールドが崩壊をして直撃を受けてしまった。

 次次と倒れていく仲間を何も出来ずに傍観している自分。そんな自分が璃里亜にとって、恥ずかしかった。

 福音は猛攻を続ける。

 

「このストライク・ガンナーに易々と………追い付けると!」

 

高速戦闘を意識したブルー・ティアーズに福音もそう簡単には追い付けない。

 だが、セシリア本人もビットを操縦することが出来ずにただ逃げ回るだけだった。対する福音は攻撃も同時進行で可能となり、セシリアの劣勢は明らかだった。

 

「セシリア!乗れ!」

 

「はい!」

 

 攻撃を回避しつつ、箒の方へと旋回していく。紅椿の背へと乗っかることに成功したことを確認した瞬間、箒は一気にブラスターを吹かそうとするが───

 

「なっ………!?」

 

福音は今までにない速度で二人に接近した。箒は目を見開いた。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)。福音が使ったのはそれだった。

 

「っぁ………!」

 

 白銀が視界一面に包んでいたセシリアを待っていた運命は大量の光弾。悲鳴さえ包み込む銀の鐘が無情にも発射された。

 

「セシリアちゃん!箒ちゃん!」

 

「璃里亜さん………!」

 

セシリアは海面へと、箒は無人島へと吹き飛ばされた。安否を確認したかったのだが、そんな余裕はなかった。

 

『リリー!!次、あんたよ!!』

 

「っ!かんちゃん、気を付けて!」

 

「う、うん」

 

 福音はこちらへと向かいながら、光弾を放っていく。それをエンジェルロッドで相撃ちにしながらも、銃剣を構えた。

 意識を集中さして、遅れを取らないように璃里亜の眼差しは揺るがない。

 ───故に遅れた。

 自分ではなく、後ろの簪をターゲットにしていたことを。

「かんちゃん!!」

 

璃里亜の近くを閃光のように福音は通過する。璃里亜は振り返り、後を追った。

 完全に勘違いをしていた。てっきり、止めをさしたのは自分なので先に狙われるかと思い込んでいたのだ。だが、福音はどうしてか簪を狙った。苦戦する璃里亜よりも、確実に落とせる簪を狙ったのだ。

 

「行けぇ………『山嵐』!」

 

簪も何も抵抗せずに殺られるわけにはいかないと、とっておきの装備を行使した。

幾つものミサイルが標的の福音へと飛び交った。光弾とミサイルがぶつかり合い、爆発を引き起こした。まだマルチロックオンシステムが、完全に調節出来ていないので本来の威力を発揮することは叶わないがそれでもダメージを与えたはずだ。

 

「なっ………」

 

 爆風から飛び出してきたのは、殆ど無傷の装甲を誇った福音だった。

 あり得ないと簪は思考が停止して、思わずその場から動くのに遅れてしまった。

 その間に、福音は大きな翼を広げて簪を包み込むかのようにしていく。

その瞬間、景色が変わった───

 

「ごめんね、かんちゃん」

 

「え………璃里亜………さん」

 

 突如、簪の機体に衝撃が走る。それは、璃里亜が猛スピードで体当たりをしてきた為だ。

何が起きたのか理解できないまま簪は宙へと投げ出されたまま福音の方へと見ると、璃里亜は申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。

簪でも彼女が身代わりになるつもりなのは、瞬時に分かった。

 

「璃里亜さん!!」

 

「リリー!!」

 

簪と鈴が必死に呼び掛ける。そんな必死の呼び声を親身に感じながらも璃里亜は思考を巡らせる。

そういえば、似たようなことが………あの世界でもあった。

結局、福音を倒すと皆で意気込んで挑んだ結果はこれだ。無力というのを痛感してしまうのは辛い。さらに誰かの身代わりのような事をするのに自覚はあるが、咄嗟になると、ついしてしまう。仕方ないのだ。その時の自分は必死なので、何でも行動に移そうとしてしまうのだから。

こういう時は大抵、ある人が救ってくれる。今回もそうなると良いのだが、その人は今、ここにはいない。

 

「「「璃里亜!!」」」

 

「「璃里亜さん!!」」

 

ボロボロになりながらも、諦めずに立ち上がった仲間達。彼女達の呼び掛けに満足させられるほどの返答は出来ないだろう。でも、それでも、返さないと行けない。

 

「みんな………ごめんね………」

 

 完全に翼が璃里亜を覆い、もう逃げることなど不可能。あとはされるがままである。

 

「ソウ君も………ごめんなさ───」

 

「謝るのは早いんじゃないか?」

 

「え?」

 

 次の瞬間、福音の翼が切断されたかと思うと、中にいたはずの璃里亜は誰かに運ばれる感覚を覚えた。正体を確認しようと、顔を向けるとそこには───

 

「な、そうだろ?リリー」

 

 ───黄金のIS、そしてあの人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい歩いただろうか………。

 せめて時間さえ分かれば、距離感は掴めるのだがその手段がまったくない。その為にお手上げ状態の中で、俺はただひたすらに何処かへと行くのか分からずに歩いていた。

 相変わらず景色は変わらない。ガラスが床一面に敷かれたように何もない。空も真っ白で何もない。とにかく今は自分に出来ることをして、この意味不明な状況のことを頭で理解することに努めた。

 

「───っ!」

 

 すると、突如視界が真っ白に包まれた。まるで、閃光が放たれたかのように。思わず俺は腕で隠すようにしてしまう。

 いきなりだったので、発生源どころか何が起きたのかさえ分かっていなかったが反射的に目をつぶっていた。

 恐る恐る収まったのを感じながらゆっくりと瞼を開いた。目に写ったのは、信じがたいものだった。

 少し先で、くっきりと横一線にガラスのような床が無くなっており、そこからはまるで別世界のような光景を露にしていた。

 床の切れ目まで、歩いていくと下を覗いた。俺のいる場所は宙に浮いているのか、下は何もなく、その代わりに先程まで見ることのなかった暗闇が広がっていた。

 顔を上げる。そこで俺は体が固まってしまったのを実感する羽目になる。

 

「………アインクラッド………」

 

 俺の視界の殆どを埋めるかのように、とてつもない大きさを誇る浮遊城『アインクラッド』が浮かんでいた。それは俺の見覚えのあるものだった。

 というよりも、俺は昔あそこにいたのだ。層がいくつも積み重なって出来た構造の城を俺は最下層から順に仲間たちと共にかけ上がっていったのだ。それも命懸けで。

 だが、あの城はもう存在しないはずなのだ。俺自身のこの目で崩れる一部始終を確認したではないか。でも、目の前にはちゃんと城は実在していた。

 この事実はあることを示していた。

 

「………ここは、ゲームの中なのか………」

 

 そもそもアインクラッドは現実には存在しない。故に今、俺のいるここは現実ではないことを示唆していた。心の何処かでまだここは現実だと思っていた自分がいたかもしれないが、これだけは疑いようのない事実だ。

 

「………なら」

 

 もしも、自分の仮定が正しかったとすると、あれがあるはずだ。俺は早速、行動に移った。

 右手の人差し指を伸ばし、上から下へと宙にたて線を描くように動かす。

 そのまま何か起きないかと待っていたが、何も起きない。

 

「SAOじゃないのなら、ここは………」

 

 ………分からない。幾ら頭を捻らせ全知力を振り絞っても確信のある答えを導かせることは不可能だった。

 あのアインクラッドに行くことは無理だ。向こうは宙に浮いている。さらにここからでは俺の力で行ける距離ではないことは感覚的に分かる。

 他に何か手掛かりとならような物はないかと俺は辺り一帯を見回した。

 そして、背後を振り返った時にさらに驚愕せざるを得なくなる。

 

「パパ」

 

 少し距離を置いて立っていたのは、幼い少女。簡素なワンピースを着ておりショートの黒髪を靡かせて、俺の瞳をはっきりと見ていた。

 そして、聞こえた声。毎日俺の脳裏に響く今とはなってはなくてはならない存在の人の声。

 

「ユカ?」

 

「パパァ!」

 

 ユカは顔を綻ばせ、俺に向かって両手を広げて走ってきた。そのまま、どん!と俺の体に抱き付く。俺も無抵抗のまま、受け入れた。

 ユカの着ていたワンピースは、離里亜と簪の二人と共に買い物に行ったときにたまたま目に入った紅いワンピースのようだった。

 まさか、ここで人間姿のユカを見るとは思えなかった。見渡したところ、他に誰もいる気配がない。だとすると、どうして彼女だけがここにいるのか不思議だった。

 

「パパ?」

 

 ユカは首を傾げながら顔を上げた。そんな彼女の頭の上に俺は手を置いて撫でる。気持ち良さそうに彼女は目を細めた。

 

「ユカ………ここはどこなんだ?」

 

「………う~ん、私の中?」

 

「どういうことだ?」

 

「私よりも、あの人の方が良いよ?」

 

「あの人?」

 

 ユカは頷く。そして、俺の手を掴むと何処かへと歩き出した。俺も遅れないように付いていく。

 ユカはさっき、ここを“自身の心の中”と言った。彼女自身も自分が一体どういう存在なのか明確していないのではっきりとは言えないが、もしかしたらここはISの意識の中ではないだろうか。さらに言うと“麒麟”の意識となる。

 ISに意識があるのかないのかは研究者達の中でも白熱した議論となっている。そんな中、もし俺の推測が正しければこれは異例の事態ではないのだろうか。そもそも俺や一夏がISを操縦出来る時点で元も子もないのだが。

 そういえば………一夏の方も同じような目に会っていそうな気がする。元々、一夏は戦場で実力を発揮する土壇場タイプ。もし、俺と同じことをしておいても別におかしくはない。

 そうこうしている内に、ユカの足取りは止まる。途中から隣を歩いていた俺も足を止めた。

 

「連れてきたよ~」

 

 俺とユカ以外誰もいない真っ白な空間の中で、誰かを呼ぶように声を発した。

 すると俺の目の前の視界の一部が歪むようになり、亀裂から一人の人間が出てきた。あそこから出てくるのは化物とかなのだが、見た目がどう見ても人だ。

 年齢は察するに30代後半の男性。白衣に身を包み、科学者のようなオーラを照りつけていた。

 そして、俺はその人を知っていた。

 

「茅場………晃彦………」

 

「いや、ソウ君。私はその人ではない」

 

「………じゃあ、誰なんだよ」

 

 俺の名前もはっきりと口にした。それもあの世界での名前だ。さらに何度も目を瞬きさしても本人にしか見えなかった。

 

「そこにいるユカ君のデータから、この人の容姿をコピーさして貰った次第だよ」

 

「あ、そう」

 

 なら、その口調もコピーしたせいでまったく同じようになっているのだろうか。俺は半信半疑になる。

 

「ユカ君、ここまでの彼の誘導には感謝するよ」

 

「うんうん。どうも~♪」

 

 俺の手を繋いだまま、ユカは返事を返した。だとすると、ユカは俺を彼と会わせるために迎えに来たことになる。

 

「そして、ソウ君。君とこうして直接対面するのは初めてとなるね」

 

「“直接”?」

 

「改めて名乗ろう。私は“麒麟”の自我意識。簡単に言うと、そこのユカ君の本体と成りうる存在だろうか」

 

「………へぇ~、そうか」

 

「………随分と反応が薄いようだね」

 

「まぁ、大体は想像出来た。それにユカも自分のことはあまり分かっていなかったようだから誰かが管理してるじゃないかとは思っていた」

 

「なるほど………君をユカ君が気に入った理由も分かるかもしれないな」

 

 ユカ自体が、“麒麟”本体の自我意識でないということはある程度密かに思っていた。根拠も自信も何もないちょっとした疑問だったのだが、当たっていたようだ。

 彼はふむふむと何度も頷く。

 

「もうそろそろ良いだろ?俺をここに呼んだ理由は何?」

 

「そうだね。早速、本題に入るとしよう」

 

 ごくり、と俺は息を飲んだ。

 彼は余計な前置きなどは一切なく単刀直入に聞いてきた。

 

「君は力が欲しいか?」

 

「力か………欲しいと言えば欲しい。欲しくないと言えば欲しくない」

 

「というと?」

 

「俺はただ、簪ちゃんやリリー、そしてユカを守れるだけの力があれば良い」

 

「ユカ君を守る………つまり、君はISを守るのかい?」

 

「俺は大切なものを失いたく無いだけだ」

 

 俺ははっきりと断言した。隣のユカが「パパ………」と不安そうに見つめてくる。

 俺の求める力はただ自分の宝物を守ることの出来るだけで、それ以外には何もいらない。人を傷付けるなんてもっての他だ。

 だが、たったのそれだけでも大変だというのは身に染みて分かっているつもりだ。それを承知しながらも俺はきっぱりと言ったのだ。

 “大切なものを失いたく無いだけだ”と。

 そして、それ以外は何もいらない。

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

 俺がそう尋ねると、彼はにっこりと笑みを浮かべた。まるで俺の言ってないことまで言葉の裏から読み取ったような感じで。

 

「これ以上は君にとって愚問のようだと理解したからね。止めておこう」

 

 そう言うと彼は右手を真っ直ぐ俺の方に向かって伸ばした。手のひらを広げ、その上では何かが光っていた。

 

「では、私はそれに答えるとしよう。受けたまえ、そして行きたまえ。彼女達の元へと!」

 

「………言われてなくても分かってるさ」

 

 俺はその光に触れようと歩き出す。隣のユカも同じように近づく。

 やがて、手が触れる距離になると俺はユカの方へと視線を向けた。彼女はただ笑っていた。

 俺は黙って頷くと、光に右手で触れた。その瞬間、再び視界が真っ白になり意識が遠ざかっていく。

 

「───ユカ君をまかせたよ」

 

 ふと見ると、彼の口からそんなことが聞こえたような気がした。

 

 

 

続く───────────────────────────

 




 “SAO帰還者内密談笑会”

キリト「ふと思ったんだが、これはソウ達がSAO帰還者ってバレたらどうなるんだ?」

ソウ「その前に俺はお前が普通にいることに疑問を抱いているんだが」

キリト「細かいことは気にすんなって」

ソウ「それもそうだな」

キリト「納得するのか!?そこ!?」

ソウ「んで、実際の所、どうなんだ?」

アスナ「リリーちゃん曰く、不定期開催になるらしいよ」

キリト「へぇ~」

ソウ「ふーん」

キリト「………突っ込まないんだな」

ソウ「もう俺の中で、悟りは開いている」

キリト「要するに、めんどくさいんだな」

ソウ「そうとも言う」

アスナ「何の話をしてるの?」

ソウ・キリト「「何でもないです」」

アスナ「怪しい………まぁ、テーマもあるし、早く進めないといけないから勘弁してあげる」

ソウ「何を?」

キリト「ソウ、アスナのやりたいようにさせておけって」

ソウ「ふむふむ」

アスナ「キ~リ~ト~く~ん!!余計なことを言ってないよね~?」

キリト「言ってないです!!」

アスナ「もう!!どんどん時間がなくなっていく!!」

ソウ「次に回せば?どうせ、次のテーマとか決まってないんだろうし」

アスナ「………ソウ君のいう通りだね」

キリト「んじゃあ、また次話で!!」

アスナ「あっ!!私の台詞!!」

ソウ「いや、俺のだぁ!」

キリト「え?今回は俺じゃなかったのか?」

三人「「「………」」」

アスナ「………誰でも良いよね?」

キリト・ソウ「「うん」」

 ───以上。


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第35話 月歩と雪羅

やっとテストが終わった………え??結果??そんなおそれ多い!!(゜ロ゜ノ)ノ

で、やっと福音との戦闘も終盤に!!

思ったよりも長かったですね………まぁ、まだ続くんですけどね(´д`|||)


───では、どぞ!!


 蒼星はやがて、現実の世界へと意識を戻した。重い体を起こすと、そこは小さな島のような所だった。人気がなく、どうやら無人島のようだ。

 あの時、蒼星は海面へと墜落しながらも麒麟を解除すると同時にたまたま近くを漂流していた大きな流木に掴まっていた。殆ど無意識での行動だった。そして、潮の流れに身を任せている内にどっと疲れが押し寄せて掴まるだけでも既に限界だったせいで意識が飛んでしまっていた。そのまま流されていき、いつの間にか知らずの内にこんな地図に乗りそうもない名もなき無人島へと投げ出されたのだろう。

 蒼星は首にかかっている稲妻のペンダントを握りしめた。

 

《ユカ、いるか?》

 

《うん!いるよー!!》

 

 念のために確認を取ってみると、相変わらずの無邪気な返事が帰ってきた。思わず蒼星も苦笑する。いつになってもユカにはこういう面で頼ってばかりだと蒼星は思う。彼女がいないとこれからすることも夢のまた夢だからだ。

 

《ここから数キロ離れた所で、戦闘中の機体をたくさん確認したよ、パパ》

 

《………あいつらか。やっぱり来たんだな》

 

 ユカの報告に蒼星は口を緩ました。

 

《どうする?行くの?》

 

《ユカはどっちだ?》

 

《行く!》

 

《なら、行こうか》

 

 そして、蒼星は自身のIS“麒麟”を展開さした。が、麒麟の姿形がだいぶ変わっていた。

 装甲が幾つかなくなっており、代わりに黒光りのコートを羽織っていた。

 麒麟の特徴であるエネルギアも少し縮小されており、 代わりに二つに増加して蒼星の両肩の後ろに浮かぶようにしていた。

 麒麟は二次形態移行をしていた。

 

「これが………“月歩”か。運命は皮肉だな。また、この名前と会うことになるとは」

 

 蒼星はそんなことを呟く。と、地面を思いっきり蹴って飛翔した。

 そして、宙に()()。体を屈ませて、その反動でまた飛翔する。その姿は空中を変幻自在に移動する光のようなものだった。

 ここでユカの然り気無い一言が蒼星の脳内に入る。

 

《パパ、スラスターは使わないの?》

 

《………あるんかよ!!》

 

 このままジャンプだけで、移動するのは疲れると考えていた蒼星は思わず突っ込んだ。てっきり、見た目からスラスターなどはないと思い込んでいたのだ。

 展開してみたスラスターはどんな原理で浮遊しているのか気になる所だったが、後回しにして今は空を飛んで行くことにした。

 今のうちに蒼星は武装の確認をしてみることにした。主に変わっている様子はなく、追加武装も見当たらない。変わったことと言えば、新たな機能が追加されたことぐらいだろうか。

 

《パパ!!皆が!!》

 

 ユカの慌てたような声に、蒼星は気を引き締めて移動速度を上げた。

 ようやく視認出来るほどの距離に入ると、ちょうど福音が離里亜と簪に襲い掛かっている所だった。福音は前にいる離里亜をスルーして簪に接近。対する簪も大量のミサイル弾を発射して応戦するが、福音にとっては時間稼ぎすらならない。

 福音の巨大な翼が簪を包もうとするその瞬間、離里亜が簪に体当たり。そのお陰で簪は福音から逃れるが、代わりに離里亜が犠牲になろうとしていた。

 

『みんな………ごめんね………』

 

 今にも泣きそうなほどの脆い声がコアネットワーク越しに蒼星の鼓膜を震わせる。

 彼女は昔から自己犠牲してしまう性格なのは、長年の付き合いから蒼星は知っている。故にそんな無茶苦茶なことをした後処理をするのは自分だってことも蒼星は身をもって知っている。

 

『ソウ君も………ごめんなさ───』

 

「謝るのは早いんじゃないか?」

 

『え?』

 

 展開したムーンテライトで福音の巨大な翼を斬り捨てる。離里亜の府抜けた声が聞こえたが、そんなことは気にせずにそのまま福音を吹き飛ばす。

 

「な、そうだろ?リリー」

 

「ソ、ソウ君!?」

 

「ん?そんなに驚くことか?」

 

「お、驚くよ!!」

 

「そんなことより、他に言うことあるだろ?」

 

「うん………ありがとう、ソウ君」

 

「どういたまして、リリー」

 

 にっこりと頬筋に涙が通りながらも、エンドロードに負けないほどの笑顔を浮かべた離里亜。蒼星もそれに答える。

 他の皆は唖然としているようで、体が固まってしまっている。

 

「あれ?お前ら、今ので死んだのか?」

 

「死んでませんわ!!」

 

「そうよ!!ちょっと、驚いてみただけよ!!」

 

「兄様、無事だったのか!?」

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

 軽口を叩いてみると、即答とばかりに次々と返ってきた。まだまだ彼女達は元気そうである。

 

「………」

 

 ただ唯一声を発していないのは簪。一瞬、目を見開いたかとおもうと両手を口元に当てて───

 

「簪ちゃん!!泣いたら駄目だって!!」

 

 うるうると号泣しそうな彼女の姿に蒼星も流石に慌てる。

 

「………本当に……本当に良かった………!!」

 

 どうにかそれだけを口にした簪。蒼星は何も言わずにただ頷いた。

 そうこうしている内に、吹き飛ばしたはずの福音がまたこちらへと近付いてきていた。懲りない機体だ。

 

「さて、ちゃっちゃと終わらして帰りますか」

 

「うん」

 

 蒼星はコートを纏いながら、簪達から距離を取るようにして福音の方へと移動した。

 そして、何も持たずに両手を広げ出した。

 

「ちょっと!!なにしてんのよ!!」

 

「蒼星さん!!危ないですわよ!!」

 

 まるで攻撃してくださいと主張しているかのような蒼星に鈴とセシリアは声をあらげて、注意をするが彼はそんなことを無視するかのようにさらに福音に徐々に近づく。

 

「さあ!!勝負だぁ、福音!!かかってこい!!」

 

 さらに煽るかのように叫んだ蒼星。一体何を考えているのか分からずに、けど邪魔をするわけにはいかずにオロオロする鈴達だったが、離里亜と簪は慌てることなく普通に彼の背中を見つめていた。

 そして福音は真っ先に蒼星へと狙いを定めた。

 

「俺達の闘いはまだ終わらない!!なぁ!!そうだろぉ!?()()()!!」

 

 蒼星にぶつかり合う寸前に、突然割って入るかのように何かが福音に命中してそのまま吹き飛んだ。簪の荷電粒子砲に似ているが、簪は蒼星の後ろにいるので違う。

 

「ああ!!俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

 

 突然の乱入者を来ることが分かっていたかのように蒼星はその乱入者へと視線を向けた。

 皆も同じように視線を向ける。

 そこには、白式なのだが一風変わったかのよう白式を纏った一夏がいたのだ。

 一夏は蒼星の隣まで来ると、先程の攻撃をしたかと思われる左手に装着された武装を切り換えていた。

 

「蒼星、よく俺が来るって分かったな」

 

「勘だ」

 

「勘かよ!!もし、俺が射たなかったからどうするつもりだったんだよ!?」

 

「その時は別の方法で避けてた」

 

「くそっ………蒼星のことだから嘘に思えないのが悔しい………」

 

「それよりお前のせいで、福音さんがお怒りのようだが?」

 

「知るかよ!早く終わらす!」

 

「なら、お前はまずあっち」

 

 蒼星はある方向を指差した。その指先の先には箒がいた。

 

「一夏ぁ………」

 

「おう!箒、大丈夫か?」

 

「なっ!一夏こそ大丈夫なのか!?」

 

「見ての通り、元気だぜ」

 

「………俺が相手してくるから、しばらく一夏は飲まれろ!」

 

「おい!どういう意味だ!?」

 

「知るか!ってね!じゃあ、お先!」

 

 感動の対面を邪魔させないように、蒼星は一人で福音を相手にするつもりで接近。だが、それはあっさりと裏切られる。

 

『ソウ君!私も手伝う!』

 

『私も………!』

 

『分かった。リリー!ツーマンセルで行くぞ!簪ちゃんは援護を頼む!』

 

『『了解!』』

 

 福音は銀の鐘を発動して、蒼星の接近を防ごうとする。が、対する蒼星はエネギアを限界まで展開してこちらも負けじとエネルギー弾を発射して相撃ち。それでも、無理だった場合は回避を繰り返して徐々に福音へと近づく。

 攻撃範囲まで入ると同時に、蒼星はムーンテライトを展開して構える。そして、そのまま福音へと降り下ろした。

 福音はまたしても再生機能により復活した翼を重ねて盾代わりで防ぐ。蒼星は一旦、大剣を引くと、今度は振り上げた。大剣の勢いに負けて、福音の翼がバサリ!と羽ばたかれて機体が露となる。

 

「スイッチ!!」

 

 完全なる福音が見せた隙。そこを突いたのは蒼星ではない。入れ換わるようにして、選手交代した離里亜だ。手には銃剣を構えている。

 離里亜は三度銃剣による突きを浴びせた後、蒼星と共に距離を取る。福音も負けじと反撃をしようと体勢を整えるが、そこに簪の荷電粒子砲による援護砲撃が入る。絶妙なタイミングだった。

 

「簪ちゃん!ジャストタイミングだ!」

 

 蒼星に褒められたことで、簪の頬が少し赤く染まる。正直、二人の剣技の速さに惑わされそうになったのだがどうにか狙いを定めた一撃は上手く成功したようで一安心する。

 だが、福音も負けてはいない。

 大きく翼を広げて、煙を一気に巻き上げる。次の瞬間、瞬間加速を使用して一番の危険と認識している蒼星を狙った。

 福音は大きく光の翼を広げる。より一層大きくなった翼が蒼星を大きく包み込む。

 彼は意外にも冷静そうな表情をしていた。そして、引っ掛かったなと言いたげな感じである言葉を口にした。

 

「何を捕まえ気でいるんだ?」

 

 次の瞬間、蒼星が消えた。代わりに出てきたのは、バチバチと音を立てた電撃の塊ような物だった。

 そして───爆散。

 辺り一体に電撃が走り、近くにいた福音は巻き込まれる。簪は一部始終は見ていたはずだったのだが、彼を見失った。

 

「え………どこ………」

 

「ここだよ、簪ちゃん」

 

「っ!!」

 

 まるで瞬間移動でもしてきたかのように、簪の隣で前を向いていた蒼星がいた。移動してくる瞬間がまったく見えなかった。あの電撃は彼が仕掛けたので間違いはなかったが、何が起こったのかはまったく検討がつかなかった。

 

「今のが“幻影裏月”。麒麟の単一使用(ワンオブ・アビリティー)でさっき使えるようになった」

 

「あれが………」

 

「まぁ、初めてだから“幻弾”しか使ってないが」

 

「げんだん?」

 

 麒麟の単一使用能力───“幻影裏月”。

 機体に限界ギリギリまで電撃による負荷をかけて最速の移動を可能とする能力だ。その速度は福音の最高速度を余裕で越える。故に速すぎて残像が残ってしまうほどであり、所謂影分身のようなものを作ることも出来る。

 “幻弾”。先程福音が巻き込まれたのも、それの爆発によってである。言わば、それは雷の塊と言っても良い。蒼星が幻影裏月を発動したと同時に置き土産のように幻弾を宙に放つことで、確実に敵に当てる。因みに両肩上にあるエネルギアの真ん中の空洞で、幻弾は作られている。

 他にも幻影裏月はいくつか能力が秘められているが、今の蒼星には使いこなせる自信が無いために使う気はなかった。

 

「ふぅ~、ソウ君。速すぎだよ」

 

 そして、遅れるように簪の隣で蒼星の反対側に現れたのは離里亜だった。彼女も“透先天使”を使用して、姿を眩ましていたのを解除したおかげでようやく先程簪でも視界で確認出来たのだ。

 

「気を抜いてたら意識吹き飛びそうだな、これ」

 

「だったら、多用は駄目だよ?」

 

「大丈夫。慣れたから問題はないって」

 

「本当?」

 

「本当だ」

 

「なら、信じるよ」

 

 二人は簪を間に挟んで、楽しそうに会話をし始めた。聞いているだけなら楽しそうなのだが二人の視線は福音の方へと向けられており、どちらも真剣な眼差しだ。

 やがて、煙が晴れる。そこにはしぶとくも倒れる気配は一切有り得ないと言わんばかりの福音がいた。だが、幻弾が効いているのか所々からバチバチと火花が散っている。

 

『蒼星!俺らも参加するぞ!』

 

『よし。しばらくの間は動きが鈍るはずだ。今のうちにけりをつけるぞ!』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 一夏達も参戦することになり、勢いもこちらに乗ってきたと感じた蒼星はここで一気に勝負に出ることにする。

 機能の低下を余儀無くされている福音を倒すのには、まだまだ油断は出来ないがそれでもこれまで以上の可能性は見込める。

 

『行け!』

 

 ラウラの合図を皮切りにまず、鈴とセシリアが牽制をするために衝撃砲とレーザー砲を放った。

 あっけなく福音には避けられてしまうが、今までのよりかは幾分余裕がなさそうに見られた。

 追撃が止むことはない。当たり前だ。こんな絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。だが、福音もしぶとく動き回り近距離戦を出来る限りしないような素振りを見せていた。

 時折、一夏が福音の動きがとまる瞬間を見計らって零落白夜による一撃必殺を試みるが、掠りともせずに抗戦状態が続く。

 

『一夏ぁ!これで、三度目よ!早く当てなさいよ!』

 

『分かってる!もう少しなんだけど!!』

 

 鈴も痺れを切らしているほどに、一夏の決定打はなかなか当たらない。一時的に機能を低下していると言っても忘れがちだが福音は軍用ISなのだ。その為に圧倒的な容量を誇っている。競技用にリミッターをかけられている蒼星達のISとは根本的に違う。

 福音の弾幕を一夏はシールドモードに切り換えて防ぎながらも、内心では慌てていた。

 この調子だと一夏のIS“雪羅”のシールドエネルギーが空になってしまうのだ。さらなる消費は避けたいところだ。二次形態移行をした後でも、この機体の消耗の早さは変わらなかったのだ。

 

『来るよ!』

 

 離里亜の一言と共に、福音は攻撃の予兆へと入る。それぞれが動きを見せるなか、福音はそれを撃つことはしなかった。いや、撃てなかったのだ。新たに割り込んだ影によって。

 

「ハァアアアア!!」

 

 ───箒だった。

 箒の機体は既に限界までに達しようとしていたので、戦闘への参加はしていなかったはずなのだが、確かに箒は福音へと斬りかかっていた。

 彼女はそのまま斬撃エネルギーを放ち、牽制をする。

 

「皆!!少しの間だけ福音を抑えておいてくれ!!」

 

「何をする気ですの………?」

 

「よし、了解だ。リリー、指揮を頼むぞ」

 

「うん。シャルロットとラウラは左右に旋回して援護射撃を、スズーはソウ君と私と接近戦をかけるよ。かんちゃんは箒ちゃんと織斑君の援護に回って」

 

「ラウラ、行くよ!」

 

「了解だ!!」

 

「了解よ」

 

「………うん。分かった」

 

「私の質問はスルーですの!?そうですの!?分かりましたわ!!」

 

「セシリアちゃんは後方からの援護射撃をお願い!」

 

「承りましたわ!!」

 

 セシリアが一人で突っ込んでいたが、誰も相手にはしなかった。代わりに来たのは離里亜からの指示。やけくそぎみに彼女は返事をしていた。

 福音へと攻撃を仕掛けることで、福音の意識が完全に自分から蚊帳の外に出たことを確認した箒は、一夏へと近づいた。

 

「箒、何を……?」

 

「いいから、そのままだ……!」

 

 箒は瞳を閉じて、意識を研ぎ澄ます。思い出すのだ……あの感覚を。

 すると、展開装甲が開き、金色の光が溢れ出た。それはそのまま、白式を包みこんで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼星と一夏の福音戦の参戦の影響は作戦室にも伝わっていた。主に山田先生が感激のあまりに涙ぐましくなっているのが、要因なのだが。

 

「波大ぐ~んに、織斑ぐ~んも無事だったんですね~!!!」

 

 二人の連続の登場により、戦況はこちらの流れへと来ていることを織斑先生は感じ取っていた。

 その時、蒼星は不可思議な行動を取った。まるで瞬間移動のような動きをとった。

 

「波大君の今のは………何でしょうか?」

 

「はっきりとは断定出来ん。今のは私でも追うだけでやっとだ」

 

 動きを追うだけでも一苦労した織斑先生。もし今のを実戦で使われたとしたら、上手く対応できるかどうかは分からない。

 そういう意図を含んだ織斑先生の物言いに山田先生は仰天する。

 

「織斑先生がそうなると………誰も反応出来ないのでは………」

 

「分からん」

 

 そうなると、蒼星の操る機体の麒麟は一種の驚異的な存在となりうるのではないのだろうか。さらに彼本人の技術も重ね合わせになると、もはや対抗策すら浮かび上がらなくなるのではとさえ思ってしまうほどの驚異的なスピードを誇っていた。

 山田先生の意識はもう一つの新しい機体の方へと注がれる。

 

「あ!!織斑君の機体に新武装が搭載されたんですね!!」

 

 福音の攻撃を一夏がシールドで防いでいるのをモニター越しに見た山田先生は、まるで我が子のように嬉しそうな表情になっている。

 

「………」

 

 対する織斑先生は何も言わず、ただじっとモニターを凝視していた。

 ───たったの一人の彼の姉として。

 

 

続く───────────────────────────

 




 “SAO帰還者内密談笑会”

ユカ「ついに帰ってきたよ!!」

ユイ「やりましたね!!」

キリト「ソウのISの新しい名前が月歩とはねぇ。なら、俺の場合は二刀流ってことになるのかな?」

ユカ・ユイ「「ない」」

キリト「だよなぁ………俺がIS乗れても、二刀流使えれるのかなぁ………」

アスナ「それって普通に両手に持ったら大丈夫でしょ?」

キリト「あ、それもそうか」

ユカ「キリト兄さんは天然ということで、本題に入るよ!!」

キリト「どういうことだよっ!?」

ユイ「ソウ兄のユニークスキルについてです」

キリト「えっ~と、確かスキル名が“月歩”で………」

アスナ「最大の特徴は空中を自在に飛び移れることだよね。それにオリジナルのソードスキルも何個あったような………」

ソウ「さらに俊敏値が1,5倍になるのは卑怯だろ」

アスナ「でも時間制限が厳しかったはず」

ユイ「はい、ママ。常に使える訳ではなかったようです。最高でも10分が限界のようだとリリ姉が言ってました」

ユカ「ゲームマスターからは、空間認識能力が一番優れているプレイヤーに与えられるって聞いてるよ」

キリト「昔からあいつは射撃とか得意だったからな」

ユカ「あ、だからISの遠距離攻撃も命中率高いんだね 」

ユイ「パパ、ママ、そろそろ時間なので、ここまでのようですよ」

キリト「なら、今回は区切りも良いしこれで終わるか」

アスナ「今度こそは私がやるね。皆さん、さようなら~」

ユイ・ユカ「「さようなら~」」

 ───以上。


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第36話 帰還

さて、随分と日にちが空きましたが………理由を言わしてください。

ソウ達が自分はSAO帰還者と告げるのか、それとも誤魔化すのかの苦渋の決断に渋っていました。

結果は…………見てくれたら分かるかと( ̄▽ ̄;)

───さぁ、行こうか!!


 “絢爛舞踏”。

 その名は箒の専用機である紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。その効能は彼女が最も望んだもの。

 ───戦う力。

 その能力はとてつもない物だった。

 ───私は大切な人の背中が守りたい。

 箒はただひたすらに福音と戦っている彼の後ろ姿を見つめて、そう願った。今の自分にはもう既に彼の隣に立つほどの力は残っていない。

 そんな彼女の期待に応えるかのように紅椿は突如金色の光を放つ。そして、勝手に展開装甲がバイパス接続を始めてしまう。

 一体何が起きているのか分からずに混乱する彼女だったが、次に起きた現象に目を見開いた。

 ───エネルギーが回復していく!?

 通常では絶対に不可能な速度で回復していく自分の専用機に箒は不思議と慌てることはなかった。

 白と並び立つ者。

 これがどう意味しているのかは分からないが、今の自分に出来るのはこれしかないと箒は決断した。

 

「………箒?」

 

 一夏はそっと声をかけた。

 箒はハッとする。

 

「な、何だ!?」

 

 今もエネルギーを白式に受け渡している最中に彼は話し掛けてきた。と、思ったが白式のエネルギーは既に満タンになっていたことに箒は気付いた。意識が完全に別の方向へと向いていたらしい。

 彼はそんな箒の様子を気にかける様子もなく、口を開く。

 

「サンキューな。理屈は分からないが……これなら行ける!」

 

「う、うむ………そうだな!」

 

 彼の隣に立ち、共に戦う。箒の願いは叶えられていた。

 

「行くぞ、箒!」

 

「ああ!」

 

 白と紅は戦場へと駆け出していった。

 

 

 

 

 ◇

 

 ───福音は手強い。

 幻弾による一時的な機能低下を負いながらも、なかなか尻尾を掴ませてくれない。だが状況は確実にこちらが有利になっていた。

 

『蒼星、準備完了だ!!』

 

 一夏からの通信が入る。

 驚くことに白式のシールドエネルギーが殆ど回復していた。そのことを蒼星が気にしたのは、ほんの一瞬だった。今の彼は細かいことは後回しにしている。

 

『動きを止めるから、頼むぞ』

 

『おう!!任しとけ!!』

 

 迷いのない返事に彼は笑った。そして展開していた電子粒砲を収納すると、代わりに相棒のムーンテライトを展開。

 ───駆けるんだ、福音に一直線に。

 

『スズー、リリー、俺が相手をする!!』

 

『了解よ!!』

 

『分かった!!』

 

 二人が離脱したのを確認したのちに、蒼星は大剣を猛直進に振る。とつてもないスピードでの接近だった。

 福音と大剣が衝突。甲高い金属音が辺りに響く。そのままどちらも一歩も譲らずに硬直状態が続く。

 

『蒼星、来るよ!!』

 

 シャルロットからの忠告が入る。

 その瞬間、福音は光の翼を大きく羽ばたかせたかと思えば、彼を覆おうとする。

 だが、彼も易々と捕まる訳がない。

 エネルギアの配置を転換する。一つは右肩に、もう一つは左肩。エネルギアの穴はそれぞれ左右を向いている。そして、周りに並ぶかのように幾つかのエネギアが連結する。

 バチバチと電撃を散らしたエネルギアの充電。電線が繋がっていくかのようにエネギアにも伝わっていく。

 ───刹那、無限なる数の電撃弾が一斉に全方向に向けて放たれた。福音の翼は彼を包み込んでいるが故に、それらは全て翼へと命中。

 エネギアの電撃弾を連射するのには、ほんの少しだがタイムラグが生じる。何故な弾の元である電撃の補給が必要なためだ。そこで、蒼星はエネルギアにその役割を担すことでエネギアの圧倒的なスピードによる連射を可能としたのだ。今回は全方位が攻撃対称だったので、無差別に彼は弾を発射させた。

 爆発音と電撃が走る音が鳴り響き、福音は思わず動きを一瞬だが動きを止めた。そこに彼が畳み掛ける。結果、福音に絶対的なチャンスが発生。

 ───そこを見逃す訳はない。

 

「おらァァァァァァァァ!!!」

 

 蒼星と福音の間に入り込んできたのは一夏だ。彼は零落白夜の刃を真っ直ぐ突き立てながら、福音へと衝突していった。

 あっという間に二つの白銀は麒麟からどんどんと距離を遠ざけていく。一夏は零落白夜を決して離さないと歯を噛み締めた。

 一夏の勢いは止まることを知らずに、近くの無人島へと突っ込んでいく。蒼星が先程までいた無人島とはまた別の島だ。

 砂浜に墜ちたことにより、砂埃が大きく舞う。そのなか、一夏はしばらく刃を福音に押し付けていたが福音を停止した後に離す。

 彼の元へ遅れて蒼星達も砂浜へと降りた。

 

「終わったのか………?」

 

「ボス戦クリアだな」

 

 一夏は蒼星の浮かべる笑みで悟った。ようやく、長かった戦いに決着が着いたのだ。

 シールドエネルギーが空になった福音はアーマーを収納する。そして、中からは女の人が姿を見せた。

 彼女こそが福音の操縦者であり、この一連の事故の一番の被害者でもある。

 蒼星は内心で謝罪する。仕方ないとは言え彼女に攻撃をしてまった事実は避けられない。ましてや、自分の場合は電撃による攻撃なので痺れさせてしまったかもしれないからだ。

 一夏の周りには専用機持ち達が囲んで、勝利を分かち合っている。なんとも微笑ましい光景だ。

 

「さて、その人の為にもさっさと帰らないと………」

 

 蒼星が振り返ると、目の前には簪。彼女の瞳は決意が籠められていた。

 

「………聞きたいことがある」

 

「ふぅ…………何かな?」

 

「───蒼星君が追い返したISのこと」

 

「………分かった。でも、長話になるから帰ってからな」

 

「………うん」

 

 これは言い逃れは出来そうにないことに気付いてしまった蒼星。帰って今すぐにでも休みたいが、旅館では彼女たちの疑問が解消するまで付き合わないといけない。

 ………なんという選択肢の無さ。

 だがもしも、あのことを話してしまえば彼女たちはどんな反応を見せるのか。最悪、拒絶の意を示すかもしれない。

 自分は嫌われるのが怖いのだろうか。蒼星は黙考する。人というのは、単純な生き物だとつくづく痛感した。彼女たちはそんな傷物をどんな瞳で見つめてくるのだろうか。汚物を見るような瞳でくるのだろうか。

 ………いや………考えすぎだ。

 何時にもまして今の自分はマイナスな方へと思考を進めてしまうことに蒼星は気付いた。

 

「そうだ!!蒼星!!あんたに聞きたいことが山ほどあんのよ!!」

 

「はいはい、また今度な」

 

「そうはさせませんわ!!」

 

 ふと思い返したかのように彼の元へと迫ってくる鈴とセシリア。彼女達も簪と同じことを聞きたいのだろうと蒼星は思ったので、掌をひらひらとさして話を逸らす。

 だが、次のシャルロット、ラウラの言い分でどうやら簪とはまた別の疑惑について尋ねたいことが分かった。

 

「蒼星のISについて教えてくれるまで、逃がさないからね」

 

「さぁ、兄様、説明を要求する」

 

 どうやら“幻影裏月”のことを知りたいらしい。何度も福音との戦いの際に使っているので、その理屈を知りたいのはIS操縦者としての本能だろう。

 別に蒼星としては説明しても構わないのだが───

 

『現時刻を持って、銀の福音の撃墜をこちらでも確認した。作戦終了だ。全員、ただちに帰還しろ』

 

「よーーし!!帰ろーー!!」

 

「あっ!!逃げたわよ!!」

 

 逃走を測る蒼星の後を追う鈴達。一夏も遅れて後を付いていき、簪と離里亜も付いていこうとする。が、離里亜が簪を呼び止めた。

 因みに気絶してしまった福音の操縦者は離里亜が運ぶことになっている。

 

「ねぇ、かんちゃん」

 

「はい、何ですか?」

 

「やっと………終わったんだね………」

 

「うん………」

 

 いつもと変わらない光景。離里亜は安心感に浸されていた。

 

「あ………」

 

 だが、同時に思い出してしまった。旅館ではあの鬼のような織斑先生が待ち構えていることに。

 なんたって無断出撃をしてしまっているからだ。

 でも、それも良いかもしれない。説教されるのは一人ではない。皆がいるからだ。怖いけど、恐くはない。

 

 ───さぁ、帰ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 とある海上の上を飛行中の3機のIS。

 2機のラファールと新紫のIS“ラメイル・コフィン”。ネルを先頭にアマス、ロザリアが後ろから追従する形で飛行していた。

 

「はぁ………もう少しだけでも楽しみたかったわぁ」

 

「ネル様。アタシも同意見です」

 

「そうよねぇ?あのスコールが、招集さえなければ彼と遊べたのにぃ」

 

 久しぶりに見た彼は前会ったときよりかは平和ボケしていたが、より一層彼の心の中に秘められた何かは確実に成長していた。

 後、少しで熟成すると言ったところか。

 

「アマスは彼のこと、どうだったぁ?」

 

 ネルは一言も話そうとはしない彼女に話を振った。また無反応かと思いきや、今回はまた別の方法をとった。

 

「………知らない」

 

「あらぁ?そうなのぉ?」

 

「………知らない」

 

 意外に頑固者っぽい彼女はその一点張りでそれ以上は深く潜り込んでくるなと警告しているかのような態度を取っていた。

 彼女は本当は彼のことを会う前から知っている。

 恥ずかしいのか、またネルとロザリアに話しても無意味だと判断したのかどうかは不明だが、どっちにしろこれ以上追求してしまうと彼女の怒点に触れてしまいそうなので止めておくことにした。

 

「ふふふ、今度こそは遊んであげるんだからねぇ、空剣士さん」

 

 ネルは不吉な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 皆で旅館に戻るなり、玄関前で待ち構えていたのは織斑先生だった。後ろには山田先生もいる。

 

「作戦完了…と、言いたいところだが、お前達8人は重大な違反を犯した。帰ったらすぐに反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるからそのつもりでいろ」

 

『はい…って、え!?』

 

 ここにいるのは9人。つまり、誰か一人が罰を受けずに済む必要はない。その可能性があるのは────蒼星だ。

 彼だけは任務として出動してから戻ってきただけになるからだ。一夏達と違って、無断ではなくちゃっかりしっかり許可が降りての出動だったので問題はない。さらに任務内容は福音の撃墜だったので、任務完了してからの帰還となる。違反など侵していない。

 

「………一人足りなくないか?」

 

 が、当の本人は気づいていなかった。

 

「兄様は罰を受ける必要はないはずだ」

 

「え?………あ~そうか、ラッキー」

 

 ラウラに言われてようやく理解した彼は一気に荷の肩が降りたようだが、鈴とセシリアはじっと彼を睨み付けていた。もっぱら、一人だけズルいとでも思っているのだろう。

 

「そうだ。波大は例外だ」

 

「余計な心配でしたね」

 

「そうか………なら、貴様も受けるか?」

 

「いえ、結構です!!」

 

 自ら織斑先生の特訓メニューに参加しようなど、蒼星といえそこまで命知らずではないと自負している。

 冗談だったのか、鼻で笑った織斑先生。

 

「織斑先生、もうそろそろ………波大君と織斑君のこともあるので………」

 

 山田先生がそっと話しかける。彼女は今のところ、平気そうな態度の彼らだが体に異常がないかどうか調べないといけない。特に蒼星は一度、福音に撃墜されているし、一夏もつい先程まで重傷で寝込んでいたからだ。

 

「ん………そうだな」

 

「あ………織斑先生」

 

「何か気になることでもあるのか、遠堂」

 

「いえ………私達のことは聞かないんですか?」

 

「まずは検査をしてからだ。お前達の事情とやらはその後だ」

 

「はい。分かりました」

 

 今はその話は後回し。離里亜の表情はあまり良いものではなかった。蒼星もその話の事情とらやらは帰る途中に彼女本人から聞かされていたので、何も言わず離里亜を見つめていた。

 

「では、男子から始めますね」

 

「ほら、行くぞ一夏」

 

「お、おう」

 

 蒼星は歯切れの悪い返事をした一夏を引き連れて、旅館の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 無事、検査を終えた蒼星は一人、部屋でのんびりと過ごしていた。

 少し前に男二人検査しようとした際にどちらが先に受けるか軽く揉めた。結局は一夏の頑固たる態度と蒼星の面倒ごとは早く終わらせたい性格ゆえに先に彼の方が折れた。特に一通り検査を終えて体に目立つ異常はなかったので、先に彼は部屋へと戻っていた。山田先生もあんな激しい戦闘をさたのに、何事もないことに驚愕していた。あくまで彼の推測だが、一夏の方も異常が見つかることはないだろう。

 部屋に寝転び、蒼星は考える。

 ───“ネル”。

 あの世界で人殺しと言う罪を犯した人物。自分も世間から見れば、人殺しと殆ど変わりのないのだがネルは根本的に違っている。蒼星の場合はあくまで自身と大切な者を失わない為の苦渋の決断の上で手を出してしまったのだがネルはそれ自体を楽しんでいるのだ。

 つまり、()()()()()()()()()()()

 おかしい。人を斬ることが楽しいなどと感じられる思考経路なんて理解したくない。あるのは人を斬ったという罪悪感のみ。彼らはそれを嗜好として楽しんでいた。蒼星は罪悪感からは乗り越えたとは思っていない。逃げ出したいのは山々だが逃げるなんて行為を赦してはくれない。多分、一生脳裏から消えないだろう。

 それでも、彼は密かに自身から隠していた。何故なら今の今までネルや同じ奴等の存在を頭から忘れていたからだ。

 

 ───俺は正面から闘うんだ。

 

 あの世界での影響をここに引っ張ってくることには抵抗感があった。一人で解決すべき問題なのに、一夏や離里亜達を巻き込むなんてへまだけはしたくなかった。

 もうそれは無理な相談かもしれない。あいつらにはこれからあの世界でのことをありのままに白状しないといけない。いつか誰かに勘づかれて問い詰められるとは察していたので、その時期が今だと思うだけだ。

 

《パパ、出てもいい?》

 

《ん………いいぞ》

 

 寝転んだ体を起こした蒼星の目の前に光の粒子がどんどんと集まっていく。やがて、それは少女となり真っ白な足を地面へと付けた。少女の名は“ユカ”。

 部屋には蒼星以外は誰も居らず、ユカがこうして人間姿で顕現しても平気だろうと彼は判断したのだ。それに………彼女の存在ももうすぐ明かされる。

 

「パパ………どうしたの?」

 

 ユカはちょこんと彼の前に正座で座る。そして、彼の不安そうな表情をその純粋な瞳でじっと見つめる。彼は少し微笑む。

 

「いや………何でもない」

 

「本当?」

 

「本当だって」

 

 ユカはむすっとした表情を浮かべる。

 

「むぅ~。私は嘘つきパパは嫌いです!!」

 

「そうか………俺だってそんなパパは嫌いだな………」

 

 蒼星はユカの頭をそっと撫でる。気持ち良さそうに目を細める彼女の和ましい姿にほんわり心が浸されながらも、彼は何もない代わりに心配事を口にした。

 

「ユカは皆と話したいのか?」

 

「それも良いんだけど………私はこの目で色んな物を見てみたいの」

 

「見たいのか?」

 

「うん。パパとママと一緒に隣に立って、同じ景色を見るの」

 

「そうか………良い夢だ。うん………ユカ、ありがと。俺はもう決めた。だから、もう大丈夫だ」

 

 決めた。彼は彼女の願いを叶えるために、過去の己を恥じらいそして新たな決意を改めることを。初めから無理だなんて自分らしくない。

 ユカは返事の仕方が分からず、頭を捻らす。

 

「どういたしましてなのかな?」

 

「さあな。ユカの好きなようにしな」

 

 次の瞬間、ユカがとった行動は言葉ではなく行動による表現だった。彼に勢いよく抱き付いたのだ。彼もこんなことをするのは、ユカらしいとしっかり受け止める。

 

「………ふんわりして気持ちいい~」

 

 両腕を彼の背中にしっかりと回して、繋ぐ。頬を彼の胸へと擦り付けるかのようにする。決して、あの世界では感じられない暖かみ、匂い、全身からそれらを一気に取り込むように感じた。

 彼もただ、黙ってユカの甘えに逆らわず受け止める。そっと手を彼女の頭へと添えた。

 

「そうだ………約束まだだったな」

 

「うん。後で行こ?」

 

「分かった」

 

 もごもごと彼女は彼の腕の中で動く。

 その時だった。蒼星は顔を上げて、視線を扉の方に向けた。誰かが来たようだ。

 彼女の肩をトントンと二回軽く叩く。彼女はそれに気付き、顔を彼の方へと合わせる。

 

「ユカ、呼ぶまで待っててくれるか?」

 

「………うん。分かった」

 

 名残惜しそうに彼から離れると、ユカは光の粒子となり宙に舞ってあっという間に姿を部屋内から消した。

 それと同じタイミングで扉がノックされる。

 

「おーーい、蒼星~、いるか~?」

 

「一夏か………」

 

 蒼星は立ち上がると、扉の方へと歩み寄る。そして、ドアノブを捻って扉を開ける。向こう側には先程声を出した一夏は勿論、検査を終えた様子の専用機持ち達が全員待っていた。

 扉をフルオープンにして、彼は道を空けた。

 

「ほら、中に入れって」

 

「おう。サンキューな」

 

「お邪魔する」

 

「お邪魔しますわ」

 

「邪魔するわよ~」

 

 一夏、箒、セシリア、鈴の3人が彼の部屋内へと足を踏み入れる。勿論、靴は扉を開けた所で脱いでいる。

 

「お、お邪魔します……」

 

「ふむ。お邪魔するぞ」

 

 遠慮がちのシャルロットと、遠慮を知らないラウラが入る。

 

「お邪魔しまーす!!」

 

「………お、お邪魔します………」

 

 離里亜と簪も部屋へと入る。緊張がない様子の離里亜に対して、簪はとても緊張したような態度を取っていた。

 

「さて、始めるか」

 

 ───遂に、明かされる彼と彼女の過去。各々の思惑が交差するなか、蒼星はその重い口を開いた。

 

 ───俺は正面から闘うんだ。

 

 彼の脳裏に響いていたのは先程心の底で決めた結束だった。

 

続く───────────────────────────

 

 




 “SAO帰還者内密談笑会”

ソウ「まず、メンバー確認をしようか」

リリー「1!」

ソウ「先に言うなよ………2!」

ユカ「3!」

リズ「4!」

ソウ・リリー「「誰?」」

リズ「その言い方はひどいわよ!!アタシを呼んだのはリリーでしょうが!!」

リリー「あ………うん、そうだったね」

リズ「んで、アスナから聞いたわよ。今回が最後なんでしょ?」

ソウ「まぁ、正確には不定期開催になるんだけどな」

ユカ「言い方替えれば、作者の気分次第だよ」

リリー「ユカちゃん!?そういうことは言ったら駄目だよ!!」

ユカ「え?でも、こうでも言わないと駄目ってキリ兄から言われたよ?」

リズ「本題に入りましょうか」

ソウ「そうだな」

 ───“笑う棺桶”───

ユカ「最大規模を誇るレッドギルドだよ。既に壊滅となっているんだけど、その後のメンバーの行方は分からずじまいで本名も不明だから探しようがないんだよね」

ソウ「ああ。Pohをリーダーに幹部が数人いる。その中でも、俺が直接対峙したのは“ネル”という女。痺れ液を槍の先端に浸けて、攻撃をしてくることから“痺獄槍”とも言われていたな」

リリー「SAOでも珍しい女性プレイヤーだったから、初めて聞いたときは少しびっくりしたかな」

リズ「あんた達………そんなのと闘ってたのね………」

ソウ「あの鬱陶しい性格を見た感じでは、女尊男卑の世間の影響に飲まれたようだな」

リリー「そうなの?そう言えば、女尊男卑とか言われてるけど………私もそうなのかな?」

リズ「リリーは根っから違うわ。というか、SAOじゃあそんな細かいことに気にする余裕もなかったしね」

ユカ「ママはそんなことはないよ!!」

リリー「それもそうだね!」

ソウ「なんか話がずれてきてるな………(でもネルの野郎は俺一人で決着をつけないといけないから、あまり触れない方が良いかもな)」

リリー「ソウ君、何考えたの?」

ソウ「いや、何も?」

リリー「絶対何か考えたよね?また、私に隠し事をするのかなぁ?」

ソウ「いやいやいや、そんな大層なことは思ってないから」

リリー「なら教えてくれたって良いでしょ?」

ソウ「それは………」

リリー「むっ!やっぱり!!早く白状しなさい!!」

リズ「ま~た始まった………あの二人はラブラブモード全開だけど、この二人はいっつもこんな感じよね………」

ユカ「うん。パパとママは仲良しだよ」

リズ「そうよね………もう時間だけど、こんな終わりかたで大丈夫なのか不安になってきたわ………」

ユカ「皆、バイバイー」

 ───以上。


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第37話 過去の強さ

多分、年末で最後の更新になるかと思います………。

まぁ、代わりと言っては変でしょうが伏線も少し入れてみたり………

───レッツラ!!ゴーゴー!!


 床へと腰を下ろした一夏は挙動不審に部屋内を見渡していた。

 原因は彼、波大蒼星。

 IS学園に来てからの唯一の男友達であり、互いの悩みなどをぶつけたり、技を競いあったりしたり一夏にとっての彼の存在はライバルでもあり、そして“尊敬する人”でもあった。大抵一夏の隣にいて同じ日常を過ごしていたのは彼であり、同時に彼なりの強さに一夏は惹かれていた面もある。

 身近にいて、遠い人………それが蒼星だ。

 それこそ、ラウラの暴走事件の際に垣間見た彼の気迫には目を見張る物があった。彼と過ごした期間は短いながらも始めて目撃したそれに、その時の一夏は畏縮した。あんなのが彼の中に秘められていたなんて、一夏は知らなかった。

 いや、知ろうとしなかった。

 彼の一連の態度の中には、一夏は密かに脳裏に引っ掛かっていた物もあった。それこそ特筆すべき点はIS操縦の慣れの順応性の速さ。セシリアとの一戦の後、一夏は飛行操縦の特訓を始めていたが彼はそんなのは関係なしに初めからセシリアと同じスピードで飛行が出来るほど操縦が上手かった。個人差も影響してくるだろうが、彼はまるで手慣れた感じでいつも通りに操縦していた印象が一夏にはあった。ISの起動時間は殆ど変わりないはずなのに。

 

 

 一夏の隣に座った凰鈴音は黙って前を見据えている。

 鈴もまた彼、波大蒼星と彼女、遠堂離里亜の二人の間には並々ならぬ何かが鎮座しているのではないかと感じていた。

 例えるなら………絶対に切れない絆の糸。

 鈴もまた一夏という幼馴染みがいるからこそ、蒼星と離里亜の今の幼馴染みの関係は正直羨ましかった。と同時に、幼馴染みとはここまでの物だったのかと驚愕した時も幾つかあった。典型的な例が、二人がIS戦でタッグを組んだ時だ。無敵とも言える連携を当たり前のように使われてはあまり勝てる自信が出ない。一度、相棒が一夏で二人と鈴は戦える機会があったが、鈴はあることに気付いた。

 二人は視線すら合わせていなかった。

 鈴はてっきりお互いに目線である程度の疎通をしているのではないかと思っていた(密かに一夏とやりたい)が、二人はさらにそれを上回っていた。まるで相方の行動は見なくても分かるかのように戦況を予測して独自に動く。が、完全に味方との疎通はしない。それを二人はしていた。 

 鈴も初めは目を疑った。が、どう見ても合図や次の作戦の打ち合せ等の仕草などは試合の間、見せなかった。まさか試合前に決めておいたとしても、試合が作戦通りに進むとは限らない。試合前に作戦を組み立てた可能性は低い。というか試合の組み合わせが決まって直ぐに始まったので、蒼星と離里亜はその間に作戦を決めれるほどの時間はなかったはずなのだ。

 二人の絆の固さに鈴は嫉妬に似た感覚も覚えたが、別の疑惑が心を占めていた。

 ………あそこまでの信頼をどうやって手に入れたの?───と。

 

 

 鈴の隣では、箒が落ち着きなくそわそわしていた。

 箒は剣道で全国大会優勝という経歴を持っている。が、その時の箒はただ八つ当たりに近い剣道をしていた。姉のせいで、自分にまで及ぼされた影響によるストレス。それが箒を苦しめていた。

 IS学園に入って、一夏と再会してからはストレスは緩和されてはいたものの剣道に対する自身の向き合い方はあまり変わっていなかった。その時だった、しっかりとした意思を持った剣を奮うことができる者を見つけたのは。その者とは蒼星だ。

 一目見て、箒は感動した。一目惚れしたような感覚だった。まさに自分の理想とする剣技を彼は見せつけてくれたのだ。どちらかというと彼は竹刀などの細いものではなく、大剣を好き好んでいたようだが箒にとっては気にすることのない問題だ。本質はそのなか、何を理念として、支えとしてその剣の重みを持ち上げているかだと言うことなのだから。

 一度、箒は恥を忍んで彼にある質問をした。どうしてお前はそんなに強いのか?───と。彼の返答はこうだった。

 ───俺は強くなんかない。

 彼によれば箒が見ているのはただの技量。誰だって練習さえすれば出来る、そんな特別といったものでもないらしい。さらに彼は『もし、強くなりたいんなら自分の為ではなく、大切な者の為に強くなった方が案外得するぞ。それに………いざって時に逃げる奴はやっぱり強いと俺は思う』と言っていた。逃げる行為は責任を投げ出しているのではないか。なのに、何故それが強い人と繋がってくるのか。箒には全てを理解することは出来なかった。

 

 

 シャルロットは慣れない正座による足の痺れを痛感しながら、黙って静観している。

 秘密を話す………シャルロットもそれをする覚悟・決意は相当な精神を費やした。あの時、蒼星と一夏に話した時は既に一夏に女体としての体を見られてしまったので諦めが付いたのか、自分でも嘘のようにスラスラと話せた。が、彼の場合は違う。シャルロットの場合、二人に相談するに近かったが彼は皆に白状するかのようだからだ。

 蒼星の異常な強さに驚かされる場面は幾つもあったが、それ以上にシャルロットが驚いたのは他でもない───離里亜だ。

 彼女の操縦スキルは普通の人とは少し変わっていた。攻撃を避ける姿はまるで、その場を舞っているかのようだ。彼女の無駄のない一連の回避行動にシャルロットは度肝を抜かれた。さらに言うと、そこから彼女は自身の攻撃に展開出来るように考慮している為なのか、こちらに向けられる気迫が凄い。数々の戦場を渡り歩いてきた猛者のようだった。

 シャルロットも訓練は受けているが、彼等の動きを真似しろと言われても困難に近い。訓練で習得出来る域じゃないのだ。だから、知りかった。どうしても自分が強くなりたいが為に知りかった。

 ───どうやって、そこまでの力をてに入れたの?………と。

 

 

 ラウラは両目を瞑り、微動だにしていなかった。

 ラウラはIS学園に来たときには、一夏しか目に入っていなかった。頭の片隅にあったのは、ただもう一人男性操縦者がいた程度だった。蒼星の存在を認識したのは、一夏をビンタしようとした際に彼のISの装備の一つ“エネギア”に止められた時だ。まだ、その時は邪魔物としか思っていなかった。

 一度、彼と相対する機会があった。ラウラは連戦で状況は不利だったが、勝てる自信はあったので気にすることはなかった。だが、織斑先生が割り込んでくるまで決着がつかなかった。あのまま、続けていたらどうなっていたことだろうか。感想を言えと言われれば、あいつは戦闘中でも冷静だった………こっちは散々だったのになとラウラはそう述べる。何故なら彼は相手を観察・分析を常にしていた。そうでないと、冷静に物事を見ないと出来ないからだ。AICの弱点もすぐに見破られていたようだ。

 だからだろうか、ラウラは蒼星に憧れを感じた。クラリッサにそのことを報告してみたら『日本では………妹は兄に忠誠を誓っているのは常識!!故に兄に憧れを感じる妹がいて当たり前なのです!!』と言われたので、ラウラは蒼星に妹にしてくれと頼んだのだ。

 彼からしてみれば、頭を痛めたのは間違いないだろう………。

 

 

 簪は先程から何度も世話しなく眼鏡を拭き直していた。

 蒼星と出会ったのはとある日での整備室。その日は珍しく自分以外に誰かいたので、少し気になって見ていたらその人に話しかけられた。

 その人こそが、蒼星だ。

 一人で専用機の調整をしているようだが、簪は気になることがあった。そもそも一人でISの調整をしているのは凄いことなのだが、彼はそれを楽しそうにしていたのだ。そんな彼を見て、自分はどうだろうと簪は思い返した。簪はただISを作ることに拘ってその行為を楽しもうとは思わなかった。

 彼がIS製作の手伝いを提案してくれた時、簪は承諾した。他でもない、簪は自分も楽しんでみようかなと考えたからだ。

 時を共に過ごすと共に簪はある感情が芽生えていた。似ているのだ、昔家の事情で別れ離れになったまま再会を果たせていないあの子に。

 ───()は………元気かな………。

 もし、これから話される内容が簪の聞きたい件についてだとすれば、自分はどんな反応をすれば良いのだろうか。彼の口から言われるまでなんとも言えないが。

 簪はごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

 

 蒼星は立ち上がると、部屋の隅にポツンと置かれた鞄の方へと移動した。

 

「さて、まずはこれだな」

 

 彼が中から取り出したのはなんの変鉄もない雑誌。彼は一夏達の真ん中となる位置へ雑誌を放り投げた。

 

「えーと………『これを読めば“SAO事件”の全てが分かる!!』………これがどうしたんだ?」

 

 一夏が雑誌を片手に蒼星へと尋ねた。これが、どう関係してくるのか知りたかったからである。

 鈴が一夏から雑誌を奪い取ると、それを床に広げた。上から彼女は覗きこむようにして記事を読み取る。さらに周りからも他の面子が囲むようにして記事を読んでいく。

 

「一夏はこの事件のことを知ってるか?」

 

「あぁ………一時期はどのテレビでも、その事件ばっか放映されてたから、嫌でも知ってるぞ」

 

「そうか」

 

 蒼星は一夏の言うことに納得した。もしも一夏が知らないとなれば、初めから説明しないと考えていた蒼星は余分な話は切り捨てることにする。

 真っ先に一夏を選んだのは理由が二つある。

 一つは、雑誌に記されていた事件は日本で発生したものである。同じ日本にいた彼が知らないとなると、外国人の知名度も低い。

 もう一つが彼が男であるからだ。そもそもあれが事件になる前は特に男子が興味を示していた。故に彼なら知っていてもおかしくはないからだ。

 

「私は知っている」

 

「私もよ」

 

「私もです」

 

 同じ日本に暮らしていた鈴、箒、簪も一連の流れは知っているらしい。

 対するセシリア、シャルロットは申し訳なさそうな態度で告げる。

 

「ごめん………僕、よく知らないんだ………」

 

「わたくしも………ですわ」

 

 すると、ラウラはふん!と鼻を鳴らした。

 

「一度、このVRMMOという技術を使って訓練をしようかと言う意見も上がっていた。だが、この事件のお陰で中止となったがな」

 

「中国でも訓練に取り入れようとしてたようだけど、結局は断念してたわね」

 

 鈴もどうやら小耳に挟んでいたらしい。

 

「簡単に事件の説明すると、一万人をソードアート・オンラインと言うゲームの中に閉じ込めた。さらにそのゲームの中でのゲームオーバーは現実での死を意味する。そのせいで閉じ込められた人々は恐怖して、世間からは恐れられた。故にデスゲームと呼ばれるようになったんだ」

 

「そう………なんだ………」

 

 シャルロットとセシリアは事件の危険性に気付いたのか、表情に驚愕が包まれていた。

 

「んで、次のページ」

 

「お、おう」

 

 蒼星に急かされて一夏は雑誌のページをめくる。

 そこには大きく『黒の剣士・空剣士がゲームクリア!!』と見出しが書かれており、内容はSAO事件の結末を説明している記事だった。

 

「黒の剣士………」

 

「それに………空剣士………」

 

 一同は彼の説明を待った。

 

「はっきり結論から言う。俺とリリーはそのSAO事件の()()()だ」

 

「え………」

 

 誰が発したかは分からないが、蒼星と璃里亜を除く全員の動きが止まった。

 そして───

 

「「「「「ええーー!!!」」」」」」

 

 部屋中に叫び声がこだました。

 

「ちょっと静かにしてよ、皆」

 

 璃里亜が注意をすると、すぐに静まる。

 

「んで、その空剣士ってのが俺の二つ名なんだよ」

 

「「「「「「う、嘘ぉ!!」」」」」」

 

 が、再び彼の発言により到来した。

 

「それって………つまり、アンタが………ゲームクリアを………」

 

 鈴がゆっくりと事実を口にする。

 蒼星は頷く。

 

「まぁ、正確にはその黒の剣士さんと二人がかりでなんだけどな」

 

「え?ちょっと待って。今、璃里亜もって言ったの?」

 

 シャルロットが蒼星の発言に含まれたふとしたことを見逃さずに話題に出す。

 

「ああ。俺はプレイヤー名、ソウ。璃里亜はプレイヤー名、リリーとしてそのゲームに参加していた」

 

「なるほど、お互いをあだ名で呼びあうのはそういう理由があったのだな」

 

 ラウラはうんうんと頷く。

 

「リリーはさらに攻略組と呼ばれるSAOクリアを目指している最大の勢力を誇っていたとされるギルドに所属、副団長の補佐を務めてたほどなんだ」

 

「えへ~、なんか恥ずかしいね」

 

 璃里亜は照れてるのか、ほっこりと顔を赤く染めた。

 

「因みにリリーの場合、二つ名は“舞姫”」

 

「え!?言っちゃうの、それ!?」

 

「俺だけ知られるのも不服だからな」

 

 いつもの感じで話を進めていく二人。そんな二人を見た一夏は違和感を感じていた。

 ───どうしてこんなに楽しそうなんだ。

 中で何が起きたのか、詳しいことは一夏は何も知らない。それでもこれだけは分かる。あの過酷で残酷な舞台を乗り越えてきたはずの二人には、思い出したくないと思

わないのだろうか。辛くはないのだろうか。後悔はないのだろうか。一夏は余計に混乱していた。

 二人はまるで昔話に花を咲かせる普通の学生のように見えた。

 

「俺達は言葉通り、死闘を繰り広げた。少しの油断から起こるミスがSAOの中じゃ、直接の死を意味するからな」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん。実際にSAOから退場していく人達は何人もいたけど、誰も帰ってはこなかったよ」

 

 璃里亜はあえて言わなかった。

 ───何処から帰ってこなかったのか。

 それは勿論、死の世界からである。ゲームで死亡すればゲームオーバーもしくはセーブ地点に戻されるか、ゲームによって対応は異なるがどれも、ゲーム内には無事に帰ってこられるのだ。

 だが、彼らは帰ってこなかった。また戻るのは怖いかもしれないSAOに帰還出来ないのは理解できる。でも、彼らはそれ以前に“現実世界”にまで姿を見せなかった。

 

 ───つまり、死んだ。

 

 SAOでHPが0になると言うことは、現実でも同じ死を味わうのと同義なのだ。ただ単なるゲームごときでゲームオーバーになっただけなのにだ。

 

「んで、本題だ」

 

「あの謎の侵入者のこと?」

 

 シャルロットの疑問に蒼星は頷く。

 

「あいつらも元SAO帰還者だ。一人だけは分からなかったが」

 

「………っ!!そいつらと蒼星とはどういう関係になるのよ?」

 

「その前に一つ説明しておかなければならないことがある」

 

「………何ですか?」

 

「そもそもSAOに幽閉されたプレイヤーは一万人。その中には多種多様なプレイヤーがいた。ただひたすら攻略に励む者。安全にゲーム内で暮らす者とかな」

 

「え?それって出来るの?」

 

 シャルロットはどこか引っ掛かったのか、彼に聞き返す。

 

「自分のレベルで倒すのに余裕なモンスターを狩って、金を集めたりしたりすることぐらいは誰だって出来たんだ。殆どのプレイヤーはそれに属していたな」

 

「迂闊に死ぬのを避けたのね」

 

「鈴の言う通り、死を恐れた。だけど、ごく一部にそのまったく逆の思考を持ったプレイヤーもいた」

 

「それって………」

 

 一夏が察したのか、途中で黙りこむ。

 

「あぁ。()()を平気でする奴等がいた」

 

「「「「「───っ!!」」」」」

 

「ルール違反を犯せば、プレイヤーの頭上にあるカーソルってやつがグリーンからオレンジに変わるんだ。でも、それはクエストですぐに戻せるんだが、殺人をする奴等は平気でルール違反をしてもそれをしない。またオレンジになるからだ」

 

「だから私達はその人たちのことを“レッドプレイヤー”と呼んで区別することにしたんだよ」

 

「んで、話が戻る。俺が戦ったのは、レッドプレイヤーが集まったギルド“笑う棺桶(ラフィン・コフィン)”のメンバーだ。さらに一人は元幹部」

 

「だが、どうしてだ?蒼星はそいつらとは関わっていなかったのだろう?」

 

「いや、箒。少し違う。攻略に励む俺達“攻略組”はその笑う棺桶の度の過ぎた行為に流石にこれ以上は無視できないとなって、討伐隊が組まれた。俺と璃里亜もそれに参加していた。あくまで俺達は奴等を牢獄へとぶちこむつもりで、作戦を組み立てたんだ。だが………」

 

「だが?」

 

「どうしてか作戦は向こうにバレていた。そのせいでたちまち事態は混乱。そのまま攻略組対笑う棺桶の乱戦に入った」

 

 あの時の光景を蒼星は思い出したくはなかった。無惨すぎたのだ。あちこちから悲鳴が上がり、誰かが死ぬ。最悪としか言いようがない。

 

「無事、何人かの犠牲は出したが笑う棺桶の壊滅に追い込むことに成功したんだ…………したはずなんだ………っ!」

 

「………だけど、また私達の目の前にあの笑う棺桶のマークが現れんだよ」

 

「リリーが慌てたのもそのためね」

 

「うん」

 

「大体の事情は理解しましたわ」

 

「殺人を楽しむか………最低だな」

 

「………僕には考えられないよ」

 

「………私もです」

 

 話が一段落して、次々に頷いていく専用機持ち達。彼女たちの表情は何をすれば良いのか分からずに微妙な感じになっていた。

 一夏だけは真剣な表情で黙考していた。

 

「どうした?一夏」

 

「いや、この前に蒼星が言って───」

 

「一夏」

 

 途中で、遮られた一夏は驚いて、蒼星を見た。彼は黙って首を横にふる。

 

「一夏、どうしたのよ?」

 

「何でもない。気にすんな」

 

 鈴に聞かれても、一夏ははぐらかした。彼の笑顔を向けた鈴は照れてしまい、思わず顔を背けた。

 

「なんか他に訊きたいこととかあるか?」

 

「一つありますわ」

 

「どうぞ、セシリア君」

 

「わたくしとの最初の試合の時、蒼星さんはわたくしを斬るのを躊躇ったように感じましたわ。それもやっぱりSAOとの何らかの関係が?」

 

 セシリアの質問に蒼星は苦笑いを浮かべた。

 

「やっぱり分かった?」

 

「ええ」

 

 クラス代表戦での彼の突如として動きを止めた理由について、セシリアは気にかけているのだ。やはり彼女には感ずかれていたようで、蒼星の自信は損なわれる。

 実を言うと箒も同じ質問をしていた。が、その時は彼に適当にはぐらかせられたので今の箒はジト目で彼を睨み付けていた。

 

「怖かったんだ。人を攻撃するのには、少し抵抗があってね………」

 

「やはり、あれはそういう訳でしたのね。今度は正々堂々とお願いしますわね」

 

「了解。他に訊きたいことは───」

 

 その時だった。

 

「え!?なんだよ、これ!?」

 

 どこからともなく光の粒子が現れたかと思うと、部屋の中心へと導かれるように集まっていく。あまりの異例の事態に誰もが固まってしまう。

 一夏が仰天していた。

 やがて、光の粒子は段々と形作っていく。それは人の形のようだった。

 ───ついにはヒラリと、可憐な舞いと共に部屋の中心にゆっくりと足をつけた。

 舞い降りたのは謎の少女。

 

「もぅ、遅いんだよ!!」

 

 白いワンピースに身を包んだその少女は蒼星に不満タラタラに両頬を膨らましていた。

 

続く───────────────────────────

 



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第38話 ユカ

新年初投稿~\(^-^)/\(^-^)/\(^-^)/

そろそろ臨海学校編も終盤に入ってきましたね~。次は夏休み?まぁ、のんびりと行きたいですね( ̄▽ ̄;)

───では、スタート!!


 可憐な雰囲気を放ちながら、白いワンピース姿の少女はゆったりとその場に足をつけた。

 クルリ、と一回転すると蒼星の顔をジト目で両頬をぷくっーと膨らますと、

 

「何時になったら、呼んでくれるのっ!」

 

 いかにも不満そうな態度を彼にぶつけていた。彼は目を泳がせて、頭をポリポリ掻いている。

 周りの皆は、謎の少女の突然の登場に唖然と口をポカーンと開いたままである。唯一、璃里亜だけはニコニコと蒼星と謎の少女との様子を見守っていた。

 

「まあまあ、取り敢えず落ち着け。もうすぐで呼ぶつもりだったんだから」

 

 彼は少女の頭を撫でる。その一連の動作に違和感はなく、それが何時ものやり取りかのようになっていた。

 

「ほら、自己紹介」

 

「うん」

 

 少女は頷く。そして、パチパチと何度もまばたきを繰り返している一夏の方へと体を向けた。

 

「皆さん、初めまして!!私は、麒麟のISである自我意識の“ユカ”と言います。よろしくね!!」

 

「え?」

 

「今………なんて言ったの?」

 

「ん?ユカだよ?」

 

「え!あ………いやぁ………そうじゃくて………」

 

 鈴が小首をきょとんと傾げる無垢なユカに両手はあたふたとさせて、狼狽えている。彼女のこんな一面を見るのは滅多にない機会なので、蒼星は少し楽しんでいた。

 

「………すみませんが、もう一度お願い出来ますでしょうか?」

 

 セシリアが恐る恐る口にした。

 

「えぇ~と、改めましてユカです。皆さんとは初対面だよ。あ、さっき言うの忘れたけど、待機状態ではこの姿になれるんだよ!!」

 

 再び自己紹介してもらいながらも、セシリアは完全に納得出来な様子だった。無理もない。普通なら有り得ない現象だからだ。

 

 ───ISの擬人化。

 

 そもそも研究者の間では、コアに意識があるのかすら不明という現状の中なのだから、彼女がこうして現れていることは凄いことなのである。

 一夏がハッと顔を上げる。

 

「ユカって………蒼星がセシリアと対戦する前に言っていたような………」

 

「え?一夏さん、それは本当ですの?」

 

 セシリアは反射的に聞き返す。

 一夏の言っていたことが事実なら、彼女は蒼星のISに───出会った当初からいたことになる。

 箒が代わりに答えた。

 

「私も聞いたぞ」

 

 蒼星がビクリと肩を震わす。

 やはりユカとの初対面の際に事情を知らなかったとは言え、大声をあらげてしまったのは失態だったと蒼星は後悔していた。

 

「………ユカ、と言ったな。兄様のISにはいつから居たのだ?」

 

 ラウラが訊ねる。

 彼女の表情は不満ぎみだ。蒼星の胡座(あぐら)の上にユカが何気無く座っているからだ。

 

()()とは会ったときから、ずっと一緒だよ」

 

「あ~………言っちゃったか………」

 

「え?………パ………パパァ!?」

 

 ユカの然り気無い一言に蒼星は額を押さえる。

 彼が額を押さえた原因に一夏が気付いてしまったようで、大声をあげた。周りの皆も一夏の驚いた理由に面を喰らって目を見開いた。

 

「どどど、どういうことよ!?」

 

「蒼星さん、説明くださいまし!!」

 

「今のは、本当なの!?」

 

「聞き間違いではないだろうな!?」

 

「兄様!!私に黙って子供を………っ!!」

 

「………本当っ!?」

 

 蒼星の顔の間近まで一気に詰め寄る。

 最後の簪に至っては普段からは想像できないほどの積極ぶりだ。

 

「色んな成り行きでな………ユカとは俺がSAOにいた頃に一度出会ってるんだ。まぁ、その時はこいつがISだとは知るよしがないから、安全のために一緒に過ごすことになって………そのまま俺が保護者みたいになったってだけだ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そうだ。というか、そうしろ」

 

 一夏の曖昧な返事に蒼星はそう告げた。

 今まで、一度も質問をしてこなかった簪が口を開く。

 

「じゃ、じゃあ………ママって………璃里亜さん………?」

 

 簪は嘘であって欲しいと言わんばかりに、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 蒼星が父親となれば、無論母親の存在もあるわけで………実際にその役割にぴったりな人物が彼の隣にいる。

 ユカはその場に勢いよく立ち上がる。

 

「ママはママだよ!!」

 

「うん。そうなんだよね~」

 

「「「「「───っ!!」」」」」

 

 何度目か分からない驚愕の事実の判明に唖然と口をパクパクとさせている。

 璃里亜は健気に笑顔を浮かべる。

 

「リリーに子供………っ!」

 

「正確にはちょっと違うんだけどね」

 

「わ、私は伯母に………っ!」

 

「それは絶対におかしいよね!!」

 

 ラウラの妄想愚痴に璃里亜が間髪なき突っ込みを入れる。

 と、ユカが顔を上げる。

 

「パパ、誰か来たよ」

 

「ん?誰だ?」

 

 大体の面子は揃っている。では、誰がこの部屋に向かってきているのだろうか。

 

「なみむー、お?皆、こんな所にいたんだ~」

 

 部屋の扉が開くと同時に聞き覚えのあるのんびりとした声が聞こえてきた。

 不動のだぼだぼとした服装に身を包んだ本音は一夏達を見つけるとこう言った。

 

「夕食の準備が出来たのに、来ないから探してたんだよ~」

 

「あ、もうこんな時間か」

 

 本音の言った通り、時刻は夕刻。夕食の予定の時間となっていた。

 笑顔で「随分と探したよー」と本音は後付けた。愚痴のように話す彼女曰く、他のクラスメイトも何人か協力してもらい、一緒に探してもらっていたらしい。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

 璃里亜が先導するかのように、立ち上がると部屋の扉の方へと歩いていく。

 それに続き、一夏達も同じように移動を開始しようとするが───

 

「簪ちゃん」

 

「蒼星君、どうしたの?」

 

「皆にさ、寄り道するから俺は後から行くって言っといてくるないか?大丈夫、すぐに用事はすぐに終わるから」

 

「うん。分かった」

 

 最後に出ていこうとした所、簪は彼に呼び止められる。

 簪は頷くと、先に向かった璃里亜達の後を追って早足で移動していった。

 部屋に取り残されたのは、蒼星とユカ。

 

「うし、行くぞ、ユカ」

 

「あいさー!!」

 

 目指すはあそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 専用機持ち一同が腹を満たす為に食堂へと向かうなか、蒼星だけは別のルートとなる通路を歩いていた。

 彼が足を止めたのは、とある部屋の前。

 がらり、と音をたてながら彼は中へと踏みいった。

 

「あ、波大君?どうされたんですか?」

 

 真っ先に彼に気付き、声をかけたのは山田先生だった。彼女は回転椅子に座り、パソコンと向き合っていたようだ。

 山田先生の隣で仁王立ちしていた織斑先生も振り返る。

 

「波大、貴様、ノックもしないとは良い度胸だな」

 

「あぁ………すみません。ちょっと相談事がありまして」

 

「まあ、いい。言ってみろ」

 

 いきなり部屋に押し掛けたことは不問のようだ。彼は心の中で一撫で下ろすと、本題に入る。

 山田先生が彼の方へと座っている椅子を回転さした。

 

「ユカについてです」

 

「というと?───あ、その子は?」

 

 山田先生が首を傾げると同時に蒼星の背後に隠れていたユカを発見した。

 ユカは彼の隣に並び立つと、緊張を含んだ声で喋り出す。

 

「えぇ~と、ユカでふっ!」

 

 ………噛んだな。

 蒼星はそう思った。

 緊張からユカは勢い余って盛大な失態を犯していた。羞恥心のあまり、彼女はすぐに蒼星の背中へと隠れる。

 ただ山田先生が反応したのはそこではない。彼女は両手で口元を隠すと、何故か蒼星に同情の視線を送ろうとする。

 

「波大君っ!?まさかっ!!子供が出来たんじゃあ………っ!!」

 

「違いますから」

 

 ───いや、ある意味合ってるのか?

 その疑問が頭に浮かんだが、妄想癖の激しい彼女の妄想をひとまずバッサリと切り捨てた。

 山田先生は悲しげに目を細めた。

 

「そうなんですか………」

 

「なんでそんなに落ち込んでるんですか………山田先生」

 

「いえ!気にしないでください!!」

 

 首を横に振って何もないとアピールする山田先生。

 蒼星は腑に落ちないのだが、話を元に戻すことにした。

 

「こいつは俺の麒麟が人格化したようなものです」

 

「え?人格化?………って、えぇっ~!!」

 

「山田先生、静かに」

 

「あ、はい………」

 

 驚愕のあまりに叫んだ山田先生とは対照的に、織斑先生は驚く素振りを見せるどころかユカを目を凝らして睨み付けるように見ていた。

 

「嘘を言ってるのではないな?」

 

「はい」

 

「なら、信じよう」

 

 あっさりとユカを認めた織斑先生。

 蒼星は思わず訊ねる。

 

「疑ったりはしないんですか?」

 

「ん?貴様が何かを隠していたことぐらい、初めから分かっていた。面倒ごとを引き起こすのなら対策を考えたが、その心配は無用と判断したまでだ」

 

「そ、そうなんですか………」

 

 織斑先生には隠し事をしていたことを勘づかれていたらしい。流石の世界最強と評される彼女だからこその鋭い観察眼なのだろう。

 山田先生は知らないらしく、蒼星と織斑先生を交互に眺めては小首を傾げる。

 

「それで、お願いがあるんですが───」

 

 蒼星は織斑先生と山田先生に頼み事をこと細か目に話した。相談する理由もしっかり付けてだ。

 この頼み事はユカが望んだことでもあり、また彼女の成長に繋がると踏んだ彼が決めた決断だった。

 蒼星が一通り話し終えると、織斑先生は彼の言いたいことが理解できたらしく何度も頷いた。

 

「それぐらいなら構わん。好きにしろ」

 

「私からも許可は出しておきますね」

 

「ありがとうございます」

 

 蒼星が軽く頭を下げる。

 それを見た隣のユカも慌てて愛らしく頭を下げた。山田先生が微笑ましくなる。

 と、急に山田先生は真剣な表情へと移り変わる。蒼星も黙って、話を聞く体勢に入った。

 

「先程、遠堂さんから大体の事情はお伺いしました」

 

 織斑先生と山田先生には璃里亜の方から説明をされている。その時の山田先生は驚いていたようで、織斑先生もその報告は初見だったのか、静かに耳を傾けていたと璃里亜本人から蒼星は聞いていた。

 

「あいつの言っていたことは本当です」

 

「はい。彼女を疑っている訳ではないのですが………どうも、話が信じられなくて………」

 

「多分、俺も似たような反応をすると思いますので気にしないでください」

 

 山田先生は真っ直ぐ彼を見つめた。

 

「でも、私はそれを聞いて納得しました。二人とも他の生徒とは………なんと言いますでしょうか……オーラが違ってたように感じてたんです。すみません、例えが抽象的過ぎました。

 ………今考えてみれば、当たり前なんですよね。二人とも無事にあの死のゲームと呼ばれたSAOから帰還を果たしてるんですから」

 

 山田先生はそっと微笑む。

 その姿は彼の秘めた昔の記憶を傷つけないかのように言葉を選んでいるようだ。

 

「無論、このことは私から無闇に他の者に口外するつもりはありません。織斑先生も同じです」

 

「はい、元々この話は俺もしくは璃里亜から直接話しても大丈夫と判断した人にしか言わないつもりですから」

 

 山田先生は蒼星の返答に満足したのか、笑顔を浮かべる。

 

「波大、一つ尋ねる」

 

 そこにずっと見守っていた織斑先生が話に入ってくる。

 蒼星はすぐにこう答えた。

 

「何でしょうか?」

 

「貴様は何を見た」

 

「そう来ますか………今は、織斑先生の質問にははっきりとは答えられません。俺自身もよく見てはいるものの、理解は出来ていないようなものですから」

 

「そうか………ならいい。今はな」

 

 蒼星は織斑先生が簡単に引き下がったことに少し疑問符を浮かべるが、彼が真っ先に感じたのは別のことだった。

 

 “今はな”。

 

 つまりそれは何時かは答えないといけない。そう解釈しないといけないのだろうか。

 

「あぁ、そうだ。この件についてだが、あいつの耳には届いておるのか?」

 

「届いておる所か、中身まで覗きこんでますよ」

 

 蒼星は冗談っぽく半笑いで言う。

 

「なら余計なお世話は不要か」

 

 すると、織斑先生の表情が少し明るくなったような気がした。負担が削減されたことで肩の荷が降りたことを実感して、それがつい表情に出てしまったのだろう。

 福音の戦闘の指揮を筆頭に今もこうして事後処理に追われている彼女の身としては少しでも仕事を早く終わらせたいようだ。

 

「あ、そういえば福音の操縦者はどうなりました?」

 

「え~………彼女には特に身体に異常はなかったようなので、安静にしてもらっています。機体の方はこちらで預かっていますので心配することはありませんよ」

 

「なに、あいつのことだ。貴様ごときにどうこう出来る奴ではない」

 

「織斑先生は知り合いなんですか?」

 

「ああ、少しな」

 

 意外な収穫に蒼星は満足そうに頷く。と言っても、あまり需要がない情報なので自己満足にしか過ぎない。

 すると、蒼星があることに気付く。

 

「ん?」

 

 ユカが彼の服の袖を軽く引っ張っていた。彼女は力なさげな瞳をしていた。

 彼女の片手は腹部を擦っていた。

 

「ふふ、波大君もそろそろ夕食の方へと行かれたらどうですか?」

 

「それもそうですね」

 

 彼はユカの頭をそっと撫でる。ユカは気持ち良さそうに目を細めていた。

 

「あ、でも最後に一つ」

 

 彼は続けてこう言った。

 

「今日の夜、ユカを連れて外に散歩に出ても良いでしょうか?」

 

 その時、ユカは真っ直ぐ二人を無邪気な瞳で見つめていた。

 織斑先生は呆れた顔をして答えた。

 

「好きにしろ」

 

 織斑先生も子供のおねだりには弱い。

 ふと、思った蒼星だった。

 

 ───では、失礼しました。

 

 そして、蒼星とユカが部屋を後にしていく。彼らの姿が見えなくなるまで見送った山田先生はふとぽつりと呟いた。

 

「危うく頭が混乱しそうになりましたよ………。波大君のあの落ち着きぶりは冷静さを取り戻す特効薬みたいだと思いません?織斑先生」

 

「あぁ、そうだな」

 

 二人は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 相変わらずの豪華な夕食に舌鼓を打ちつつ、生徒達は各々に豪華な料理を堪能していた。

 シャルロットを筆頭に専用機持ち達は福音戦の事情を一切知らない生徒達に囲まれて、詰め寄っていた。が、知る代わりに監視がつくと言われるとすぐに引き下がった。誤魔化すように食事に没頭する。

 その中、一つの席が未だに空いていた。

 

「………遅いですね」

 

「うん………何してるんだろう………」

 

 空席の隣には、璃里亜。向かい側には簪が座っており、簪の隣には本音がいる。初日と同じ席配置となっている。

 璃里亜と簪の二人は目の前の食事には手をつけておらず、じっと待っていた。彼が来るのを待っているのだ。

 そんなことは遠慮なしにと本音は口いっぱいに頬を膨らましている。そんな本音も二人の寂しそうな様子に気づき、

 

「ふぅひゃひぃほぉも、へゃべひゃいの?」

 

「本ちゃん、食べながら喋らない」

 

「ほぉーぃ」

 

「食べないのは蒼星君に悪いから………」

 

「今の!?分かったの!?」

 

 璃里亜は驚愕に包まれた目で簪を見た。

 簪は解答を口にする。

 

「本音は“二人とも、食べないの?”って言ってる」

 

 すると、本音は何度も頷いた。正解と言いたいのだろう。

 よく通じたなぁ………と感心せざるを得なかった。

 ───と、次の瞬間、障子が開いた。食事をしていた者達の箸が止まり、視線がそちらへと集まる。

 蒼星が入ってきた。

 一目見た者は特に気にする様子はなく、また箸を動かして食事を再開した。

 だが、大半の者はそのまま動きが固まり、彼の肩に乗っている()()に目が釘付けとされていた。食事を再開した者には見えなかったのだ。

 彼の肩には小さな妖精の姿をした女の子が座っていたのだ。

 一夏やセシリアも気付いていて、声には発しないもののびっくりしている。

 

「なぁ………俺には見えるんだが………」

 

「わたくしも………ですわ………」

 

 幻覚ではないようだ。

 

「ねぇねぇ、あれって………」

 

「か………可愛い………」

 

「お?なになに?」

 

 気付いてる者といない者に別れていた。

 蒼星は周りの不穏な空気に惑わされた様子もなく、自分の席となる場所を見つけると普通に歩き始めた。

 彼は席に座る。と、璃里亜と簪が食事に手をつけていないことに目が止まった。

 

「待っててたんだな。ごめん、思ったよりも長くなって………食べないのか?」

 

「うん。食べるんだけど………」

 

「………」

 

 言葉を濁らせた璃里亜。簪に至っては無言で彼を凝視していた。正確には彼の肩付近。

 

「いただきますっと」

 

 周りの視線を気にすることなく、蒼星は普通に箸を手に取るとご飯に手をつけていく。

 生徒達は隣の子とひそしそと会話を始めていた。視線の先には妖精の女の子。

 その妖精は彼が食事を始めたのを確認すると、綺麗な羽を広げて彼の肩からふわりと離れると彼のいるテーブルの上へと降りた。

 簪は妖精を何度も瞬きをして、見つめた後はゆっくりと刺身をつまみ出した。

 

「ユカちゃん………出てきても大丈夫なの?」

 

 璃里亜は指先を伸ばすと、小さな妖精───ユカの頭を撫でた。

 

「うにゅ~」

 

 気持ち良さそうに声を上げるユカは璃里亜に撫でてもらいながら答えた。

 

「うん。さっき、パパと許可を貰いに行ったんだよ~」

 

「あ………蒼星君の寄り道って………」

 

 ユカの台詞を聞いた簪が蒼星の方へと向いた。

 蒼星は刺身を咀嚼してから、言った。

 

「まあね。折角だし、この際にユカにはできる限り出てきてもらおうと思ったからな。さっき、織斑先生直々に許可は下りたから問題はない」

 

 だがこれはあくまでも、学園内だけの話に収まる。外でユカの存在を無闇に公開する訳にはいかないのだ。理由として、主に男性がISを操縦することを気に食わないとばかりに目の敵にしている連中が何をしでかすのか分からないからだ。織斑先生や山田先生からも念を押すように学園外でのユカの人間化について言われていた。

 

「でも、ユカちゃん………そんな姿にもなれたんだね………」

 

「私に不可能はないんだよ!!」

 

 簪の言うとおり、ユカは少女ではなく妖精のような姿をとっていた。

 本人によると、どちらでも構わないのだそうだ。故に己の気分次第で決めている場合が殆どであるとのこと。

 そして、今は妖精の姿。

 姿は小さいと言えど、その存在感は案外大きいものである。

 

『………』

 

 生の妖精を目撃してしまった生徒一同。

 目が止まり、口も止まる。

 誰もが胸裏で同じことを秘めていた。

 

 ───か………可愛い………。

 

「うにゅ?」

 

 ユカはちょこんと首を傾げた。

 

 

続く───────────────────────────

 




さっき、一話を見返してみると書き方がまったく異なっていましたね。これからはいまどおりになると思うんで、時間があれば一話辺りも書き直そうかなぁと考えてみたり………。

では、いつ?

・・・(;´Д`)


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第39話 月下の波紋

結構、期間が空いてしまいましたね………。これからは、さらに話の構成に時間がかかるかと思うで、これまで以上になる可能性が………!!(゜ロ゜ノ)ノ

感想くれたら、早く更新するかも(;・∀・)

───では、スタート!!


 波の音が静かに鼓膜を震わせる。

 人気はなく、静寂が辺りを包み込む。

 蒼星はそんな優雅なムードの中にいた。隣には彼が連れてきたユカの姿も見受けられる。

 

「初めての海の感想は?」

 

「先っぽが見えないほど、広いんだね~」

 

 岩場に腰を下ろして、ただ無心に目の前を眺める。

 月光に照らされ、反射した海面はどこまでも途切れることなく壮大な空に向かって広がっていく。

 ユカの興味津々な反応に彼は連れてきて良かったと思っていた。

 

「これもほんの一部って言ったら信じるか?」

 

「本当?」

 

「本当なんだよ」

 

「おー!!拍手喝采だね!!」

 

 両手を大きく広げている少女。

 その姿はまるで海をまるごと掴もうとしているような………現実には不可能なのだが、そんなことは無関係とばかりに挑戦しているような………そんな気がした。

 

「この海の向こうには、色んな人がいるんだね」

 

「そうだな。何十億の人という生き物が俺らの知らない場所で、知らない人と住んでいる。つまりはその分、数多くの出会いが待っているってことなんだよ。ユカはもう友達とかは出来たのか?」

 

 蒼星が夕食を食べている間、ユカは他の生徒達と色んなことを話していたのだ。特に蒼星も何も口出しはしておらず、ユカのやりたいようにさせていたので、ユカは意気揚々と生徒の会話の中に飛び込んでいった。

 その後はユカのおおらかな性格も考慮してか、彼女が皆に囲まれるほどの人気ぶりで一気に注目の的である。

 

「出来たよ!!」

 

 ユカは自慢出来るのが嬉しいのか、声が弾んでいる。

 蒼星は優しく耳を向けた。

 

「えっーと、ほんねに、かんざしに、セシリアに、ナギに、カナでしょ!!あ、後は~ラウラに、シャルルに、りんもいるでしょ!!他にも、しずねや、かぐらに、ゆこに、りこに、さゆかとか、い~っぱい皆と友達になったんだよ!!」

 

「そ………その調子だとあっという間だな………」

 

「うん。皆、優しいんだよ」

 

 余計な心配は不用だったようだと蒼星は思った。この彼女の調子だとIS学園全員と友達になってしまいそうな勢いだ。

 すると、一転してユカは真剣みを帯びた声で彼を呼ぶ。

 

「パパ」

 

「ん?なんだ?」

 

「私、パパと一緒にいるからね」

 

「急にどうしたんだ?」

 

 蒼星はユカが決意を込めた宣告に疑問を抱いた。

 

「だって、世界ってもっと広いんでしょ?もしも、パパとママが迷子になった時に探すのは大変だもん」

 

「ユカは迷子にならないのか?」

 

「あっ!!その時はちょっと寂しいかなぁ………でもパパはすぐ見つけてくれるてしょ?」

 

 ユカはから笑いをする。

 

「分かった。俺はユカの側から消えたりなんてしない。絶対にだ」

 

「約束だよ!!私とパパとだけの!!」

 

 すると、ユカは小指をたてる。

 蒼星も彼女の小指に自分の小指を絡ませる。

 

「指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲~ますっ!!」

 

 ユカは「指きった!!」と笑顔で括った。

 

「誰にこれを教えてもらったんだ?」

 

「えっーと、ほんねだよ?」

 

 蒼星は納得する。確かに、こんなことを教えるとは本音らしい。

 

「なら、俺からもお得なことを教えようか?」

 

「うん。教えて!!」

 

 蒼星は人差し指をたてる。

 もう片方もたてると、両指の先端同士をユカの目前で合わせる。

 

「人間ってのは、お互いに相手を思いやる気持ちが繋がって、初めて友達という関係になれるんだ。覚えておけよ」

 

「うーん?よく分かんないよ~」

 

「ユカはひたすら友達を信じてれば良い」

 

「信じる?」

 

「そう。自分を心から思ってくれる人を嫌いになる人なんて滅多にいないからな」

 

「分かった。そうしてみるよ」

 

「もし、何かあっても俺に頼ってくれれば、万事解決だってね。どーんと当たって砕けろってやつだ、ユカ」

 

「アイアイサー!!」

 

 ピシッと、ユカは敬礼を決めた。微笑ましい姿だ。

 と、蒼星は前触れもなく辺りを見回し始めた。

 何か物音が聞こえてきたのだ。

 

「パパ、向こうに皆が集まってるようだよ?」

 

「ん?誰が集まってるんだ?」

 

「えっとね、りんとセシリアとラウラとシャルルと───」

 

「もう言わなくて良いぞ、ユカ」

 

 蒼星は途中で制止をかける。

 またあのメンバーが騒動を惹き起こしているのだ。あんな怪我すれすれの騒動に巻き込まれるとかひとたまりもない。

 

「もう、そろそろ帰るか」

 

「良いけど、パパ、あっちはどうするの?」

 

 ユカの素朴な疑問。

 蒼星ははっきりとこう言った。

 

「知らん」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 時は少し遡る。

 

「やぁ、ちーちゃん」

 

 断崖絶壁に座っているのは、ISを開発した張本人“篠ノ之束”。

 そして、彼女の呟きに返事をしたのは世界最強と名が高い“織斑千冬”。

 束は千冬に背を向けたまま、尋ねた。

 

 ───『白騎士』は何処に行ったのか?

 

 千冬はこう答えた。

 

 ───『白式(びゃくしき)』を『白式(しろしき)』と読めば見えてくる。

 

 束は笑った。白騎士を伊達に操縦してきた彼女だからこその台詞に。

 そんな彼女に束はもしもの話をする。

 

 ───もしもだ。

 コア・ネットワークと呼ばれるIS独自の巨大な一つの情報網の中で情報のやり取りが行われていたのなら、同一のコアで同一の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発動してもなんら不思議ではないのだろうか。

 さらに初期化しても結果は変わらないのではないのだろうかと。

 千冬は不思議なものだと答える。

 代わりにお返しと千冬も一つのもしもの話を口にする。

 束は黙っている。

 ───もし、とある天才が、一人の妹を華々しいデビューさせたいと考えたとする。

 天才が自信を持って用意したのは最新鋭の専用機、そしてISの暴走事件。

 すると、妹は専用機と共に事件に関与して解決する。結果として、妹は華々しいデビューを成功させた。

 

「すごい科学者がいたもんだね~」

 

「そうだな。12ヶ国の軍事コンピューターを同時にハッキングした自作自演の、天才がな」

 

 束はにこりと微笑んだ。

 

「それにしても困ったもんだよ~。まさか、あの機体が動いてるとはね~」

 

「あの機体?どれを言っている、束」

 

「え~と、誰だっかなぁ~?あいつ、あいつだったけど~………」

 

「名前で言え」

 

「確かぁ、“波大蒼星”だったかな?ソー君だね」

 

「っ!?………お前が波大に興味を示すとは珍しいな」

 

「そりゃあ、ちーちゃん、ソー君もいっくんと同じISを動かせる男性なんだからIS最高責任者の私が興味を持つのは別に普通だと思うんだけど?」

 

 本当にそれだけだろうか。

 千冬は脳裏に思い浮かべながらも、口には出さなかった。

 ただ、束は蒼星がどうしてISを動かせるのか分かっていないようだ。

 

「波大をどうするつもりだ?事によれば、私は容赦しないぞ」

 

 束が箒や一夏を親しみを込めてあだ名で呼んでいる。赤の他人だと最早ごみ以下の扱いをする彼女が、赤の他人である蒼星をあだ名“ソー君”と呼ぶのには千冬に衝撃を与えるのには十分過ぎた。

 故に千冬は束が何かを企んでいるのではないかと考えた。

 彼女の考えることは一線を逸している。常識なんて通用しないのだ。

 

「おぉ~怖いね。どちらかって言うと、私はISの方に惹かれたよ。機体名は“麒麟”って言ったね。あ、今は“麒麟・月歩界”だったかな?」

 

「どうしてそれを知っているんだ、束」

 

 二次移行を果たした彼のISは新たに“月歩界”を付けた機体へと変貌していた。束はその事実を知っていた。

 

「ちーちゃんなら分かるよね?」

 

「はぁ………そうだったな」

 

 千冬は諦めを含んだため息をつく。

 

「ちーちゃん、覚えてる?あの機体のこと」

 

「お前でも手に終えなかった機体のことか?」

 

「手に終えなかったんじゃないよ。正確には言うことを聞いてくれなかったんだけどね」

 

「確か“絶影”と言ったな」

 

「うん。我儘な子で、全然動いてくれなかったんだよね。理論上なら動いてくれるはずなんだけど、私も何が原因が分からないから、その機体のコアはそのまま適当にあげちゃった。最終的にはソー君の元に辿り着いたみたいだね」

 

「今ならその原因とやらは分かるのか?」

 

 束は海を眺めながら、首を横にふる。

 

「ううん、相変わらず。さっき麒麟の自我意識であるユカって子にアプローチしてみたんだけど、“あなたみたいな人とは話したくないんだよ!!”だってね。嫌われちゃった、アハ」

 

「反抗期のようだな」

 

「何でだろうね?私なりに考えたつもりなんだけどね。それにユカって子もなかなか興味深いんだよ。あの子、自我意識って言っても完全体ではないみたいなんだ」

 

 千冬にとっては初耳だ。本人の蒼星でさえ、そのことは口にしていない。

 

「完全体とはなんだ?」

 

「ISに心があったとすると、その心の一部があの子みたいなものなんだよ」

 

「つまりはまだ成長過程の中にいると?」

 

「うーん………半分正解かな。過程の中にいるのは間違いないけど、成長はしてないと思うよ。あくまでも私の推測に過ぎないんだけどね。そのことも含めて、色々と聞きたかったんだけど………もう時間だね」

 

 束は話を切り上げる。

 崖っぷちに立つと、彼女は潮風に髪を靡かせながらこう言った。

 

「ねぇ、ちーちゃん」

 

「なんだ?」

 

 束はうーん、と背伸びをする。

 

「今の世界は………楽しい?」

 

「そこそこな」

 

 海風が強くうねりを上げた。

 

「………そうなんだ」

 

 束の呟きは千冬の目前で溶けて消えた。

 何故なら、離れた所から喧騒音が聞こえてきたからだ。束の呟きは消される。

 千冬の視界には見慣れたISが飛翔してきた。彼女は一目見た瞬間、鬼と化けた。

 

「お前達ぃぃぃぃいいいい!!」

 

 余談だが───激昂した声を聞いた者は、絶望を感じたらしい。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 蒼星は旅館に戻る。ユカは妖精姿になり、彼の頭の上に座る。

 蒼星がロビーに行くと、そこには簪と璃里亜の二人が待っていた。

 

「ソウ君、どこに行ってたの?」

 

「ユカと海を見に行ってた」

 

「なら、鈴さん達を見かけませんでした?」

 

 簪の質問に即答で答える。

 

「見たぞ」

 

 どうやら、二人はあの現在進行形で問題を起こしている彼女達を探しているらしい。

 

「どこで?」

 

「姿は見てないけど、向こうの海岸脇にいたと思うぞ。というか、あいつらに何か用でもあるのか?」

 

「さっきまで一緒に話してたんだけど、急にどこかに行っちゃってね。それでどこに行ったんかなぁ~って」

 

「あ、そう」

 

「スズーが“嫌な予感がするわ………”って呟いてたね」

 

 乙女の勘ってやつだろうか、と蒼星はふと思っていた。別に確かめようとは思わないので何も言わない。

 ん………?ちょっと、待てよ………。

 蒼星の脳裏に何かが引っ掛かる。

 一夏愛好家の抜け駆け防止センサーである彼女達の乙女の勘が発動しているということは、誰かが実行に走ったということである。

 では、その人物は一体誰か。その前に状況を確認する。そういえば騒動は外で起こっていた。言い換えれば、一夏愛好家が乱入するまではその人と、一夏だけで月夜に照らされた海辺に男女二人っきりとなっていたのだ。本人は気付いていないと思うが、その人にとっては一大事だろう。

 まぁ、本人の心情を推測しても仕方無いのでとっとと犯人探しに移行する。

 まず、鈴は除外。

 先程、簪と璃里亜は館内で鈴達と談笑をしていたらしいからだ。他にも数人一緒に話していたのだとすると、途中で抜け出しては誰かに逆に怪しまれる。つまりは、そこに始めから居なかった人物が犯人だ。

 

「なぁ、会話に参加してなかったいつものメンバーっていたか?」

 

「え?ん~っと………織斑君!!」

 

 やはり一夏は騒動のど真ん中に常にいるようだ。本人の気持ちを他所に勝手にそあなっているので、たまったものではないだろう。

 蒼星の推測通りに別のもう一人がその場にいたようで、簪が記憶を探りながら答えた。

 

「後……()さんが居ませんでした」

 

「箒かぁ………」

 

「箒ちゃんがどうかしたの?」

 

 正直、蒼星にとっては誰でも良い。

 欲をいうなら、彼女達が暴れるのは構わないが、こちらに被害が及ばないようにしてほしいぐらいだ。

 

「いや別に───」

 

「「────っ!!」」

 

 刹那、背筋に悪寒が走った。

 怒号が聞こえてきたのだ。璃里亜と簪も察したのか、音源の方へと顔を向けている。

 

「今のは………」

 

「織斑先生だな………」

 

「織斑先生だね………」

 

 蒼星も一夏騒動が大事になったら、簪と璃里亜の協力を仰いで、留めに麒麟のフル電撃で痺れさして、大人しくさせようとも考えていた。が、その必要はなくなった。

 

「ご愁傷さま………」

 

 簪が同情を込めて呟く。

 自然現象()よりも怪奇現象()が怖いと立証された瞬間だった。

 と、これまでずっと黙っていたユカが急に話し出す。

 

「パパ、ちょっと戻るね」

 

「ん?あぁ、分かった」

 

 ユカは光の粒子となって消えてしまった。

 

「急にどうしたんだろうね?」

 

 璃里亜の言う通り、ユカの様子が少し暗いような感じがした。

 何かあったのだろうか。相談してくるまで、待つことしか出来ない蒼星にとっては何処か空虚感を感じられずにはいられなかった。

 

 ───数分後。

しばらく世界の終演を視てしまったかのような表情を浮かべた一夏達が戻ってきた。やはり、鬼に捕まっていた。

 蒼星達は知らぬが仏と何も見なかったことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 真っ白な空間。

 何もないそこに一人の少女が座っている。

 

「どうしたの?」

 

 少女の背後から、また別の少女が話しかける。

 話しかけた少女は“ユカ”。

 

「あなたと話したかった」

 

 少女は立ち上がり、振り返る。

 

「うん。私もあなたと話かったよ」

 

 お互いに視線を交わす。

 

「あ、その前に私のことはユカって呼んでね」

 

「なら、私は………“福”がいいかな?」

 

「福ちゃんね!!分かったよ!!」

 

 銀の福音。それがユカの話し相手である。

 機体自体は厳重に研究所で管理されてはいるものの、ISはコアネット・ワークにより繋がっておりIS同士での情報のやり取りは可能である。

 人間がこれを感知するのは至難の技。よって、IS同士がコンタクトを交わす様子はまず普通では見られない。 

 ただ、こうして人間の姿を互いにとって会話をすることは珍しい。情報のやり取りをするだけに人間の姿をとる必要はないのだ。

 

「ユカちゃん、随分と雰囲気が変わったんだね」

 

「そうかな?」

 

「うん。違う子達からはもっと無口な性格だって聞いてたから」

 

 昔はそうだったかもしれない。ユカはふと思った。

 

「それは………パパのお陰かな?」

 

「パパ?………あっ、もしかして、あの人?」

 

「そうだよ。パパのお陰で私は変われたんだと思うんだ」

 

「その人のこと………好き………なんだね」

 

「うん!!誇り高く大好きって言えるよ!!」

 

 すると、福の表情が暗くなる。

 彼女を見たユカは不味いことを言ってしまったと思い、口元を隠す。

 

「ごめんね。私、福ちゃんのこと考えないで………」

 

 福は首をゆっくりと横にふる。

 

「ううん、気にしないで。ただ、羨ましく思っちゃっただけだから」

 

「福ちゃんにもそういう人はいるの?」

 

「うん。いる………でも………」

 

 福はそれ以上、何も言わなかった。

 数秒間の沈黙が二人を包んだ。

 やがて、福がそっとポツリポツリと語り始めた。

 

「私………その人に迷惑をたくさんかけちゃった………こんなことしたくないって分かってたんだけど、意識が勝手に動いちゃって………」

 

「そうなんだ」

 

「いきなりだった。突然、何か得たいの知らない物が私の中に入り込んできて………ただ、怖くて………その時の私はじっとしておくことしか出来なくて………気がついた時には私、あの人を巻き込んじゃった………」

 

「福ちゃんは悪くないよ」

 

「でも………っ!!私がしっかりしていればっ!!こんなとこにはならなかった………っ!!」

 

 気がつけば、彼女の頬に線が通る。

 

「福ちゃんは悪くなんかないよ!!悪いのは、福ちゃんを乗っ取ったやつなんだよ!!」

 

「っ!!」

 

 ユカは声を張り上げて、反論する。

 

「それに福ちゃんはその人本人から嫌いって言われたの?言われてないはずだよ。自分の気持ちを考えてる人のことを嫌いになる人なんて、居ないってパパはそう言ってたんだから!! 」

 

「………ホントかな」

 

「パパは嘘なんかつかない。それにその人はきっと福ちゃんが悪いとは思ってないはすだよ」

 

 ユカは人差し指をたてる。

 

「福ちゃんがその好きな人を信じないと、向こうも福ちゃんのこと、信じてくれないよ?」

 

「信じる………?」

 

「うん。信じて欲しいなら、まず自分から信じないとね!!」

 

 やがて、福に落ち着きが戻る。

 

「そう………かもしれない。私、あの人のどこかを疑っていたのかもしれない」

 

「だけど?」

 

「今聞いて、あなたの言う通りだと思った。私が信じないで、あの人からは私のことを信用するってそんな押し付けなこと………絶対に有り得ないよね」

 

「………」

 

「だから、私も今度は逃げない。ユカちゃんのお陰で私は逃げないことに決めた」

 

 福の瞳には決意の灯火が燃えていた。

 

「頑張ってね!!私、応援してるから!!」

 

「うん。頑張ってみるよ」

 

 福に自信が戻った様子に心から歓喜するユカ。その姿は昔のユカの背景を耳にしていた福にとって、信じられないものだった。

 だけど、彼女本来の姿はこれなのだ。福は素直に受け止めた。予想よりもすんなりと出来た。

 

「あ………」

 

「福ちゃん、どうしたの?」

 

 声を漏らした福は残念そうな表情をした。

 

「もうそろそろ限界かな………」

 

「えっ!?もう、そんな時間なの?」

 

 驚くユカに、福はゆっくりと頷く。

 それは福がこれ以上、ここに居られないことを意味していた。

 

「また会えるよね?」

 

 福はユカにそう尋ねた。

 ユカの答えは勿論、決まっている。

 

「当たり前でしょ!!福ちゃんと、私はもう立派な()()だよ!!」

 

「………友達。そうだね………」

 

 福の姿が徐々にゆっくりと薄くなる。限界がすぐそこまで近付いていた。

 

「最後にユカちゃん、いいかな?」

 

「なに?」

 

 すると、福は満面の笑みを浮かべた。

 

「私とあの人を救ってくれて───」

 

 その後、福は言い終えるとその場からゆっくりと心置き無く消えていった。ユカは彼女の姿が見えなくなっても、手を振り続けた。

 

 ───ありがとね。

 

 福は最後にそう言った。

 

 

続く───────────────────────────




因みにユカが友達を名前を上げた時に、箒と一夏の名前がないのは仕様です。わざとです。
箒は初めからユカと話そうとはしなかっただろうし、一夏はユカに詰め寄った女子達にたじろいで、それどころではなかったのでは?と思ったからですよ。


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第40話 弱点

はい、1ヶ月ぶりの投稿ですね。いまここで、生存報告しておきます。なにかと忙しかったので、なかなか進まなかったんですよー。………ストックはとうの昔に尽きていますので。
3月いっぱいもまとまった時間がとれるかどうか怪しいので、予め言っておきます。

3月の内に投稿出来るかどうかは分かりません!!

───では、どぞ!!


 次の日。

 生徒達は早朝からISの撤収作業に勤しんでいた。各々の作業に別れて、滞りなく進んでいく。

 その中、昨日の夜に、織斑先生の説教を浴びた何人かの生徒の足取りは重くなっていた。事情の知らない者は特に気にしていない様子だが、逆に知っている者は彼女達に同情はする。だが、手伝いはしない。自分の作業を早く終らしたい為だ。

 そして、作業が終了を迎えた。

 

「ふう~、終わった~~!!」

 

「さぁ、帰ろーー!!」

 

 解放された生徒達はテンションを上げながら、自分のクラスのバスへ搭乗していく。

 中には名残惜しそうに海を眺めてから、バスへと乗り込む人もいる。人それぞれだ。

 蒼星と璃里亜も同じように作業を終えて、バスへと乗り込もうとしていた。

 ………乗り込もうとしていたのだ。

 

「………」

 

「ん?」

 

 直前、蒼星の足取りが止まった。彼の視線の先にはバス。

 蒼星は今まさに極限の境地を脳裏で駆け巡っていた。原因はこのバス。

 自分は乗り物酔いに弱いのだ。特に地道を走る車関連がとても弱い。何故か飛行機や船などはあまり酔わないが。

 そして、これからバスに乗ってIS学園に帰る。それだけなのだが、蒼星にとってはとても苦痛なのだ。

 酔う。

 それは抗うことのできない症状。降りるまで治ることは見込めずに、車内で未知なる敵と格闘を続けないといけない。

 分からない者にとっては一生分からないであろう、この死闘。蒼星にとっては避けれるのなら絶対に避ける。それぐらい、強敵なのである。

 

「ほら、ソウ君。乗らないと置いてかれるよ~」

 

 璃里亜が満面の笑みで、彼を呼ぶ。

 彼女は知っている。蒼星がバスに乗るのに躊躇している理由を。あえて、知りながらも彼を呼んでいるのだ。それもとても楽しそうに。

 今すぐにでも逃げ出したい。

 だが、乗らないと───

 

 ───帰れない。

 

 帰るのには乗らないと、だが、バス内では確実に乗り物酔いとの乱闘が始まる。正直、遠慮願いたい。

 だからって、帰らない、という手段を取れるかというと───不可能だ。自分は二人しかいないIS男性操縦者でもあるわけなので、ここに留まることは出来ない。

 

「ほら、早く!!」

 

 珍しく躊躇している蒼星に、璃里亜はいつもと変わらずに彼の側へと接近すると、遠慮なく彼の右手を掴んだ。

 そのまま、蒼星をバス内へと連行しようと試みる。無論、蒼星も黙って引き込まれる訳がない。

 

「ちょちょ、ちょっと!!待てって!!」

 

「本ちゃん、手伝って!!」

 

「了解~」

 

「どっから来たんだよっ!?」

 

 疾風の如く参上した本音。

 本音は蒼星の何もない左手を掴んで、彼を引っ張る。

 女子二人に手を引っ張られる状況に陥った蒼星。無理に力ずくで引き払うことも出来ずにされるがままになっていく。

 

「………長丁場は勘弁して………」

 

 もう覚悟を決めるしかなかった。

 

 

 

 

 ◇

 

 バス内では既に殆どの生徒が自席についていた。一組のバスでは織斑先生の姿が見えないが、他の生徒は全員座っている。

 帰りとあって、全体的に思い出話に花を咲かせる和やかな雰囲気があった。

 

「………ヘルプ」

 

 だが、特定の一ヶ所からは、負のオーラが漂っている。

 蒼星から漂う暗い雰囲気に周りの生徒は少し萎縮していた。

 

「………ヤバい」

 

 まだ出発はしていないものの、バスに乗ったという認識だけで既に乗り物酔いに襲われそうな蒼星。

 隣の璃里亜は、呑気に彼の顔を横から覗きこむ。

 

「ここで、吐いちゃ駄目だよ」

 

「………そんな気分じゃない」

 

「気分の問題なんだね」

 

「………早く帰りたい」

 

 苦痛な彼の願い。

 残念なことにそれは叶えそうにない。織斑先生が戻ってきていないのだ。何処に行ったのかは知らないが、しばらくは戻ってきそうにない。

 と、一番前の席に座っている山田先生が心配そうに声をかける。

 

「波大君、もしも限界が来てしまったら早めにお願いしますねー」

 

「………善処します」

 

 ぼっーとしておこう。

 璃里亜の配慮で、窓側の席に座らされた蒼星は窓ぶちにもたれ掛かるとひたらすら無心で外を眺め始めた。

 まだ乗り物酔いは本格的に発動していないので、こうしておけば大丈夫のはずだ。

海が見える。

 真っ青な青空から日光が照らし、海面がキラキラと煌めている。この海ともお別れとなると、名残惜しさを感じる。

 水平線の向こうには何があるのだろうか。『外国』とか『大陸』などの夢のないことを言ってはいけない。夢を見ようではないか。蒼星はひたすら意識を酔いから逸らそうと頑張る。

 そう言えば、頬に誰かに触られている感触がする。

 

「プニプニ~♪」

 

 蒼星が現実逃避に近い方向に走っている時、彼の後ろの席の本音が前の席に持たれると、面白半分に彼の頬をつついていた。

蒼星も蒼星で、無抵抗になっている。抵抗する気力すらないようだ。

 本音は止めるどころか、何秒置きにつついていたのが、段々と連続につつくようになり、間隙がなくなっていく。

 

「なみむーのほっぺた、プニプニだね~」

 

 そんな感想を最後に本音はつつくのを止めると、自分の席へとちゃんと座った。彼女の表情は満足感に満ち溢れている。

 一部始終を黙って観ていた璃里亜。しばらく考えていたが結局、本音が何に満足したのかは分からなかった。

 

「誰か~、飲み物持ってないか~?」

 

 へとへとの一夏。彼も寝不足からの重労働により、疲れが限界まで来ていたのだ。

 離れた席にいるシャルロットが真っ先に反応した。

 

「あ………さっき、飲み干しちゃった」

 

 残念そうに一夏の肩が少し揺れる。

 

「蒼星は………ないな」

 

 璃里亜は隣の彼を見た。

 手元には水の入った容器が力なく握られている。一夏からは手元が見えないので、蒼星は持っていないと判断したのだろう。本人に直接聞けるほど、蒼星の顔色は優れない。

 ゴソゴソッ、と鞄を探る物音がする。

 ラウラ、セシリア、箒がいそいそと飲み物を取り出そうと善戦していた。乙女の闘いも大変だなぁ、と璃里亜は他人のように思っていた。

 懸念すべき簪も四組のバス内である。

 

「誰か来たよー」

 

 ユカの声に、璃里亜はようやく気付く。

 女性がバスの中へと入ってきた。それも相当の美人。

 端麗な金髪と、大人らしく魅せる体型。一目見たら思わず止まってしまうほどの整えられた顔立ち。

 璃里亜も見惚れてしまっていた。

 

「織斑一夏君はいるかしら?」

 

「あ、俺です」

 

「あら、そう………君が」

 

 一夏の近くへと歩み寄ると、かけていたサングラスを胸元へとしまう。というか、胸の谷間に預けている。彼女は腰を折ると、一夏をじっと見つめた。

 品定めというより、純粋な好奇心から彼を観察しているようだ。彼女の瞳からは悪い気はしない。

 一夏が戸惑い気味になる。

 

「あの、あなたは?」

 

「私は“ナターシャ・ファルイス”。“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”の操縦者よ」

 

「あ………だから………」

 

 璃里亜は彼女の正体を聞いて、あることを思い出した。福音戦終了してから、帰還する際に自分が彼女を安全な所まで運んだのだ。

 一目見て、どこか引っ掛かっていたのだがようやく解消された。

 璃里亜の蟠りが取れたことは余所にナターシャは大胆な行動へと出た。

 

「これはお礼よ。ありがとう、白い騎士さん」

 

 ───チュッ………。

 

「「「「「────っ!!!」」」」」

 

 一部始終を目撃した者は唖然とする。

 一夏も何が起きたのか分からず、呆然としていた。

 一夏の頬にいきなり口付けをなすりつけたナターシャは彼の初な反応に微笑みを浮かべる。

 

「となると、この子が織斑君だとすると、彼がもう一人の?」

 

 ナターシャの視線が蒼星の方へと移った。

 璃里亜はとっさに身構える。まだ、彼女にとって一夏にあんなことをされるのは享受の範囲内だが、彼にそんなことをされてはたまらない。

 璃里亜の警戒心を向けられていることに気付いたナターシャは大人の笑みを浮かべる。

 

「あらあら、そんなに警戒しなくても」

 

「ソウ君に何をするつもりなんですか」

 

「お礼に言いにきただけよ。流石にさっきのはしてはもらえないようだけど………もしかして………あなたの名前は?」

 

「えっ………?遠堂璃里亜ですけど………」

 

 璃里亜は目を丸くしながらも答えた。

 返答に確信を持ったのか、ナターシャの声が少し元気になる。

 

「やっぱりあなたが私を運んでくれたのね。ありがと、お嬢ちゃん」

 

「えへへ………当たり前のことをしただけですよ………」

 

 面と向かってお礼を言われれば、正直照れてしまうものである。璃里亜も例に漏れずに頬を掻いて、照れてしまっていた。そのまま未知なる自分だけの別世界へと入っていった。璃里亜は褒めに弱いのだ。

 そこを隙と見たナターシャはまたしても咄嗟に行動に移ろうとするが───

 

「パパに触っちゃ駄目!!めっ!!」

 

「あら、小さな妖精さんだこと」

 

 ユカの登場にナターシャも驚く。

 小さな体で精一杯に両手を広げて、蒼星の前に立ち塞がる。

 

「あっ!!私ったら、つい………」

 

 璃里亜もようやく戻ってきた。

 

「私はユカ。麒麟の自我意識なの。パパに許可なしでやるなんて私が許さないんだから!!」

 

「そう………ユカちゃんね。ISが自我意識を獲得してるのも驚きだけど、それ以前にあの子があんな態度になってるのも納得したわ。なるほど、あなたのお陰だったのね」

 

「………ん?」

 

 一人で勝手に納得している。誰も彼女の話がいまいち掴めずに首を傾げている。

 ナターシャは肩を下ろす。

 

「仕方ない。可愛い妖精さんとお姫様に見張られてちゃ、王子を奪還するのも難しそうだし諦めることにするわ」

 

「私ぃ、お姫様…………!!」

 

「リリ~、戻ってきてよー」

 

 またしても昇華していきそうな璃里亜に本音が呼びかける。まだ時間がかかりそうだった。

 

「金の英雄さんによろしく言っといてね」

 

 私の力のお陰で諦めてくれたかと、ユカが自慢そうに頷きを繰り返していた。

 

「それと、織斑君もまたね~、バーイ♪」

 

 最後にそんな捨て台詞を残して、ナターシャはバスを後にした。彼女が去ったバス内に取り残されたのは不穏な空気。

 

「「「「………」」」」

 

 具体的には四名の者から流れ出ている。

 一夏が一足遅く気付く。やばいと危険を全身で感じたときには手遅れだった。

 

「出発はまだか~………」

 

 蒼星はまだ酔いが治りそうにない。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ナターシャはある人の所へと向かった。

 

「どういうつもりだ?」

 

「想像よりも素敵でしたので、つい」

 

 数分前のことを思い返し、熱を帯びた頬を押さえるナターシャ。そんな彼女を機嫌悪そうに見ている千冬はため息をつく。

 

「どちらかと言うと、騎士さんより英雄さんの方が好みだったんだけど………なんか彼、既にダウン状態だったようで」

 

「波大のことか。乗り物に弱いらしくてな、行きもあんな感じだった」

 

「男性操縦者が乗り物に弱いって大丈夫でしょうかね?」

 

 はは、と冗談げに笑う両者。

 

「彼を狙うのは止めておきます。既に先客もいるようですし」

 

「他にもいるようだがな」

 

「あらら、ではもう一人の王子も?」

 

「そっちの方が大変だな」

 

「それはそれで面白そうですね」

 

 冗談なのか、本気なのか。千冬はナターシャの微笑みに区別がつけられなかった。

 

「それはそうと、随分波大の電撃を浴びていたようだが昨日の今日で出歩いても良いのか?」

 

「ええ。それが驚くことに全然後遺症がないようです。彼がある程度手を抜いておいたおかげでしょうかね。バスであんな姿をしている彼からは想像も出来ないほどの絶妙な技量ですよ」

 

「そうか。私だってあいつについてはよく分からん所が多い」

 

「あのブリュンヒルデが、ですか?」

 

「無茶を言うな」

 

「てっきり知っているもんだと思ってました」

 

 千冬は苦笑いをした。世界最強だからと言って、何もかもを手中に収めているとはとんだ勘違いだ。誰にだって、分からないことはたくさんある。

 例えば、親友の束が今、何処で、何を企んでいるのか───

 

「後、彼の側にいたユカちゃんでしたっけ?彼女には色々とあの子を励ましてくれたようで」

 

「会っていたというのは初耳だな」

 

「そうですか?かという私も保証はないんですけど。ただ、あの子とこの前、会ったときに心の中に直接謝られたような気がしましてね。あの子なりの精一杯の気持ちの中に、誰かに背中を押されて、勇気を出した。そんな風にも感じましたので、多分その誰かがユカちゃんかと私は思うんです」

 

「それは良かったな」

 

「えぇ。嬉しい限りです」

 

 その後、事務的な連絡事項を交わした。

 主に福音の処理についての件や、ナターシャの今後の対処などだ。

 

「では、私はこれで」

 

 話し終えると、ナターシャはその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 IS学園。

 ようやく辿り着いた一行。各々が思い出話に花を咲かせながら、荷物を運んで寮へと入っていく。まだ臨海学校の余韻が冷めていないようだ。

 そして、バスから降りた蒼星も両手を大きく広げて、清々しい笑顔になっていた。

 

「帰ってきたぁぁぁぁあああ!!」

 

 随分とハイテンションな蒼星。

 地獄のような過酷なバス内を過ごして、たっぷりと新鮮な空気を肺一杯に取り込めるこの時間が彼にとっては何よりも嬉しいことなのだ。

 特に大変だったのはあれだ。

 バスでの帰り道、元気が有り余っていた様子の一組のクラスメイトはなんとカラオケを始めてしまったのだ。はつらつな声を発するのは良いが、蒼星にとっては五月蝿いの一言。とっとと寝かせてくれ。

 そんな彼のことはお構い無しに周りはカラオケで盛り上がるのだから、地獄のような時間だったのだ。

 

「なみむー、元気だねー」

 

「あれだよ、本ちゃん。バス酔いの反動で降りてから一定の時間、ソウ君、テンション上がっちゃうんだって」

 

「あー、だから海行ったときもいきなり飛び込んで行ったんだねー」

 

 冷たい目線がきつい。

 だが、今の蒼星にとやかく気にしていられるほど余裕はない。

 彼から少し離れている一夏、シャルロット、ラウラ、セシリアもまた彼の不可思議な行動に不安を覚える。

 

「蒼星、大丈夫なのか?」

 

「あの様子だと心配も不要って気がするけど」

 

「でも以外でしたわね。蒼星さんの弱点が乗り物なんて思いもしませんでしたわ」

 

「そうだな。正直、あまりISでの戦闘とは関係ない気もするが、兄様のことを知れるのは良いことだろう」

 

 まぁ、弱点っていっても肝心のISを使用する際には、殆どその効力を発揮していない。つまりは、知っている知らない前後で彼との試合に勝てる見込みが上がる可能性はない。

 ラウラは何度も嬉しそうに頷いているが、どうしてそこまで嬉しそうなのかは誰も分からない。

 

「何度麒麟を使って、速く帰ろうと考えたことか!!」

 

 実際は寝ていただけである。

 

「ユカには何度も頬を引っ張られて痛いし!!」

 

 ユカは彼に構って欲しかったのだろう。何回も蒼星を動かそうと試みていた。そんな風景を見ているとまるで、父と娘の和やかな日常の一環に見える。せっかくの休日を存分に休みたい父親に対して、遊んでくれとせがむ子供だ。

 その後、ユカはついにせがむのを諦めたのか、妖精の羽を広げて途中から居場所を移動していた。と言っても、隣の座っていた璃里亜の所だ。 

 

「自由だぁーー!!」

 

 彼は清々しい笑顔になっている。

 そんな時に、二人の少女がやって来た。

 他のバスから降りてきた簪と鈴だ。一夏達の方へと合流する。

 

「蒼星君………」

 

「あんなのほっときなさい」

 

 簪は心配そうに見つめ、鈴は興味なさそうにしていた。

 最終的に一夏はあんな様子な彼を見て、触れない方がよいと判断した。

 

「行こうか」

 

 一夏の呼び掛けを聞いた皆は黙って頷くら、一人何も知らされないまま、各自勝手に自室へと戻っていった。

 ───そして。

 数秒後、蒼星は辺りを見回した。

 誰もいないことに気付いた。

 

「あれ?皆は?」

 

「置いてかれたよ」

 

 左肩に現れたユカが答える。

 叫んだお陰でだいぶ酔いが冷めたようで、気分はまあまあよい蒼星。寛大な心である今、独りぼっちにされたことを責める気はない。

 

「なら、戻るか」

 

 蒼星は歩き出す。

 彼の脳裏にふと過ったのは山田先生が帰る途中に言っていたある言葉。

 

『部屋に帰るまでが、臨海学校ですよ~。最後まで油断しては駄目ですからね!!』

 

 ───山田先生らしいや。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「お帰りなさい♪」

 

「………何してるんですか………」

 

 部屋の扉前で蒼星は困り顔になる。

 原因は一応彼のルームメイトとなっていた楯無がニコニコ笑顔になって、出迎えてくれていたからだ。ただ、その格好が些か違和感満載である。

 所謂、裸エプロンである。

 エプロン一枚に身を包んだ彼女。きらびやかな手足がさらけ出されており、胸元が今にも見えそうである。

 この人は自覚はあるのだろうかと、蒼星は思う。大人しくしておけば何かと美人の部類に余裕ではいるだろうに損だ。

 終始、無言の彼に楯無は不機嫌。

 

「ちょっと。何か感想は?」

 

「老けました?」

 

「そうなのよね………生徒会の仕事が山積みで色々と大変だったのよ………」

 

 蒼星や本音が不在だったので、実質楯無と虚の二人での作業だったのだろう。ラウラとシャルロットの件については片付いてはいたものの、新たに別の用件が舞い込んで来ていたはずだ。それが相当苦痛だったのか、うっすらと楯無の目元に隈がある。

 と、楯無はノリツッコミを切り換えた。

 

「って!!違うわよ!!というか、可愛い女の子に老けたって言ったら駄目でしょ!!」

 

「あ………」

 

「“そう言えば”みたいな顔するのは止めてもらえるかしら!!」

 

 楯無の頬がひきつって来たので、蒼星は自重することにした。

 バサリ、と楯無は扇子を広げた。扇子には『お疲れ』と書かれていた。彼女なりの歓迎の表現の仕方なのだろう。

 

「それで、その妖精が噂のユカちゃん?」

 

「うん。そだよ」

 

 蒼星の左肩に乗っていたユカが元気よく答える。因みに楯無と蒼星のやり取りは初めから傍観している。

 

「私のことは楯無って呼んでね」

 

「うん、分かったよ、たてなし」

 

「っ!!………遥かに想像以上に可愛い………!!」

 

 楯無はボソッと呟いていたが、何て言ったんだろうと、蒼星は小首を傾げる。一瞬疑問に思うが興味が湧かなかったので、すぐに忘れる。

 後でじっくりと堪能してあげるなどと不気味な呟きが聞こえたような気がしたと思いきや、楯無は真剣な表情になった。

 

「あなたの耳に入れてもらいたい話があるのよ」

 

 どうでもよい………という訳には片付けられないらしい。わざわざこうして前フリを入れるということは何かしら重大な話であることは確かだ。

 が、その前に蒼星はどうしても言いたかったことが一つ。

 

「とりあえず服を着てください」

 

「あら♪エッチ♪」

 

 今更、小悪魔の笑みを浮かべても遅い。

 だが、蒼星は口には出さないが改めて思っていた。

 ………結構、会長って綺麗なんだな。

 

 

続く────────────────────────────




(-_-).。oO会長もヒロインに入れちゃおうかなぁ………。二人のやり取りは書きやすいし。


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第41話 力の代償

今回からは会話間の行間を詰めて、書いてます。作者の他の作品と書き方を同一にするためですね。驚かないでください。といっても、あまり変わらないですけど。

そして、今後の予定をある程度………。
一学期での話を後、閑話を含めて3話程度。
夏休みはついに念願の対面を果たす予定であり、また姉妹喧嘩を勃発させます。最低では4話は必要かも。
二学期ではしばらくは原作通りですかね。

───では、どぞ!!



「さてと、用意は良いかしら?」

「何の用意ですか………」

「あら?そりゃ、もちろん───」

「そういうのは良いから早く本題に入ってください」

 

 何か余計なことを言わせまいと、蒼星が先手を打つ。楯無は不満そうに口を尖らせた。

 現在の彼女は寝巻き姿。先程まで着ていたエプロンは収納されている。着替える際にエプロンの下に着ていたという水着を見せびらかそうとしてきたが、蒼星が一刀両断したために、渋々着替えていた。女性の着替えを拝見する訳にはいかないので、その間、彼は部屋の扉まで待機していた。

 互いのベッドに向かい合うように腰を下ろしている蒼星と楯無。楯無はいつもよりハイテンションな様子。だとすると、彼女の度が過ぎた行動の裏には生徒会の仕事が大変だったのだろうと推測される。

 

「ちょっと!!お姉さんのタメになる話は最後まで聞くものよ!!」

「………はぁ」

 

 まぁ、今の彼女に付き合うのも生徒会の仕事の内に入ると思えば、どうにか乗り越えられるだろうと蒼星はため息をついた。

 ユカはというとテレビに釘付けとなっており、今は小さな子供向けのアニメ番組を観ている。しばらくはあのまま放っておいて平気だろう。

 

「まぁ、それもそうね。とっとと、入りましょうか」

 

 楯無は軽く頷きを入れる。

 

「まず、一つ目の本題は篠ノ之箒ちゃんの紅椿と、所属について」

「ん?あぁ………そうでしたね」

「今最先端の第四世代のISを持ちながら、どの国家にも属していない。これが結構重大なんだけど………」

「問題は、本人の自覚がまったく無しってことですね」

 

 言えば今の箒は国にとって最高級の餌。

 紅椿をぜひ、自国にと考える政府の者は多数。どんな手段を使ってでも引き込もうとする者も現れない可能性は完全に否定出来ない。それほど、紅椿の存在は大きいのだ。

 だが、肝心の本人にはその事実を認識していない。確証は箒の行動から見て分かる。

 

「専用機は本来、あっさりと貰えることはないのよ。数が限られてるのも一因であるけど、何より操縦者本人の技量が求められるから。自分の専用機を持つということを目標としている生徒だっているし、努力の証と見ている生徒も少なくないわ。けれど、蒼星君と織斑君は例外として、篠ノ之箒ちゃんはいとも簡単に手に入れてしまった」

 

 蒼星と一夏は男だ。男がISに乗れるのは異例なのだが、実際に乗れてしまっている。なので、その原因を突き止めるために彼らに専用機を与えて詳しく調べようとするのはまだ納得出来る享受の範囲内だ。

 それに他の面子。

 セシリアと“ブルー・ティアーズ”。

 鈴と“甲龍”。

 シャルロットと“ラフォール・リヴァイヴ・カスタムⅡ”。

 ラウラと“シュヴァルツェア・レーゲン”。

 璃里亜と“エンドロード”。

 後は一応専用機なのだが、未完成であるので微妙な立ち位置の簪と“打鉄弐式”。

 見たことはないが、楯無と“ミステリアス・レイディ”。

 彼女達は全員、どこかの国家に属する代表候補生。楯無に至ってはロシアの代表でもある。

 普段接している彼女達からは、代表候補生という肩書きにあまり凄みを感じないのだが、実際は違う。

 そもそも代表候補生の座を狙っている者は何人なのだろうか。数百人、いや下手をすれば数千人ものライバルが数少ない代表候補生の席を取り合うのだ。

 そのレースに彼女達は勝利をもぎ取り、その座に見事に居座っている。そして、さらなる高みを彼女達なりに目指して進んでいるのだ。

 生半端な努力ではなれない。

 だからこそ、専用機が彼女達に与えられても可笑しくない。そこまでに辿り着いた過程に十分努力が滲み出ているから。例え不満があっても、だったら正々堂々と正面から勝ってみろと言い返されればぐうの音も出ない。

 だが、箒はどうだろうか。

 篠ノ之束博士の妹。彼女の最大の肩書きと言われれば、真っ先にこれが上げられる。とは言うものの、それは血縁関係に過ぎず、それ以下でも以上にもならない事実だ。

 束の妹なので箒もISが得意───とは謙遜にも言えず、蒼星が多目に見ても箒のIS操縦技術は下手でもなく平坦だ。剣道の経験からか、近接が少し得意なぐらいだろうか。だが、それでも剣道の癖で常に足を地につけていたので空中戦は苦手な様子だ。

 つまりは箒の強さを保証する要素は何一つない。男でもなければ、代表候補生でもない。言い換えれば、一般生徒と同じレベルなのだ。

 他の専用機組に刺激されて、訓練機をよく積極的に使用していた為、普通の生徒よりは搭乗時間が多いものの、根本的な所は変わらない。

 

 結論───箒に専用機はまだ早かった。

 

 それでも、箒は求めてしまった。力が欲しいからと、入学当初は束を姉として拒絶していたにも関わらず、姉からのプレゼントを意図も簡単に受け取り、一人で舞い上がる。

 今はある程度改善されているが、紅椿を授かった当初、箒は完全に浮かれていた。彼女は浮かれていると実感もないままに紅椿を手に入れたことに歓喜していたのだ。

 

「虚ちゃんはあまり好印象は持っていないようね。彼女がそれなりの力を手にいれるまで、IS学園が預かっておくって言う考えも出てたわ」

「宝の持ち腐れは避けたいですからね」

 

 蒼星は真面目な表情になる。

 

「俺はこう思ってるんです」

「?」

「力は代償の象徴」

「つまり?」

「何かしらを犠牲にし得ないと得られない非効率的な存在。それが力だと。俺は実際、二年間を向こうで過ごしてきて結果的に今のIS操縦の手枷となった」

「………」

「過去に何があろうと、残るのは結果だけというのがこの世界。酷いもんですよ。過程なんて大事だとも世の偉人は言っていると思いますが、実際は赤の他人にとってはそんなものはどうでも良い。理由は簡単、見えないから、分からないから。だからといって、そもそも興味がないので知ろうとはしない。最終的に、都合の良いように知ったこっちゃないって言われてしまえば終わりです」

 

 箒にだってそうだ。

 彼女の姉がISを開発したのが原因で、家族は別れ離れとなり、たったの一人で孤独な時間を過ごす。友達なんて出来ない。常に監視を浴びて、学校は数ヵ月経てば転校を繰り返すそんな生活。

 一夏から聞いた限りだと、箒はそんな生活を6年ほど過ごしていたようだ。

 そんな過酷な過去を持ってしても自分から知ろうとしない限り、誰も彼女の過去を知る機会はない。箒の性格からして、彼女の口から出ることはまずないだろう。故に形に出ないからこその必然的な運命かもしれない。蒼星だって、一夏の口から間接的に呟いたのを問いただしたお陰で知ることが出来たが、それがなければ一生知らないかもしれない可能性だってある。

 よくよく慎重に考えれば彼女がそんな生活を耐えて乗りきってきたことは分かるかもしれない。けれど人って指摘さればそれが川切れとなってどっと溢れるが、自分から気づくと言うのは本当に稀だ。ましてや、他の感情に覆われた心では気付く素振りすら見せない。

 

「俺としては箒が専用機を持つことに賛成もしなければ、反対もしないです。今更、専用機を返せと怒鳴られても無理なもんは無理ですし、要は箒が強くなれば万事解決な話ですからね」

 

 楯無は珍しく黙って聞いている。

 

「結局は箒の専用機持ちについての件についてはしばらく様子見をするのが、妥当だと俺は思います」

「ええ、そうね。それにぶっちゃけ、例え彼女が専用機を持ってどこかの国に所属するかは、まだIS学園にいる間は構わないのよ」

 

 IS学園はどこからも一切の干渉を受け付けない。楯無はそれを利用するつもりだ。シャルロットもその校則を使って、一応卒業するまでは安全とされている。

 決断の先送りような感じになってしまうが、仕方ない。問題は卒業後に流してしまうが、楯無が懸念していたのはまた別の問題。

 

「私の予想だと、2,3年生が黙ってくれないのよね~」

「やっぱり女って恐いなぁ………」

「何か言った?」

「いえ!!それで、やっぱり対策とかするつもりなんでしょ!?」

 

 楯無は話を拗らせたことで不満そうに口を尖らせるが、彼の質問には答える。

 

「生徒会………私と虚ちゃんの二人だけど、予想では二学期まで動きはないと見ているわ。夏休みにできる限りの手回しはするつもりだけど、本人の意識がない限り無意味となるから蒼星君にはそこ辺りの対処をお願いするわ」

「つまりは夏休みの間に箒を鍛えろと?」

「そっちもお願いしたい所だけど、蒼星君は自分のことで精一杯でしょう?」

「………そうですね。俺も早く新しい機体には慣れておかないといけないですから」

 

 二次移行した蒼星のIS“麒麟・月歩界”。

 本人の蒼星でさえ、まだ未知数となる単一仕様能力は完全に把握できていない。なので、夏休みという長期休暇を利用して、麒麟の担当である璃里亜の両親の元で色々と詳しく調べる予定なのだ。

 

「それに………」

「それに?」

 

 蒼星は他に理由はないのだが、楯無にとっては譲れないものらしい。

 

「生徒会の仕事が山積みよ!!」

「え?俺もやるんですか?」

「生徒会の一員として、当たり前のことを今更言うんじゃないわよ!!」

 

 蒼星の気分は憂鬱だ。

 主に書類関係の分類となるので気苦労の多い作業となり、とにかくしんどい。

 

「で、今はその話は置いといて………蒼星君には主に人間関係の方を頼みたいのよ」

「というと………あぁ、一般生徒、一夏や専用機持ち達の反応に対しての応対ですね」

「えぇ。織斑君とはまだ会ってないから、これは想像に過ぎないんだけど、彼は正義感が強いようね」

 

 楯無の言う通り、一夏は正義感が人一倍強い。何か問題が発生すれば、確実に解決へと走ってくるだろう。例え、それが無謀で危険であろうとも関係ない。

 弱くては何も出来ない。それは楯無と蒼星はよく痛感している。楯無は今までの暗部としての経験から、蒼星はSAOで味わった残酷さから学んでいる。

 正直、一夏と箒は弱い。一夏は代表候補生に滅多に勝てることはなく、負け続き。箒も今のままでは紅椿は宝物の持ち腐れとなっている。

 

「彼なら彼女に何かあれば、身をもって介入すると私は見たわ」

「だけど、一夏は弱いから───」

「───彼女にとっては逆効果となる」

 

 弱い者に守られて、強くなるなんて矛盾した酷い妄想は現実に絶対に起こらない。

 

「夏休みまでは大丈夫として、二学期からは相当な確率でイジメが起きるはず。彼はそれを止めようとするでしょ」

「それが追い風となり、箒は一夏に守られるという安心感から強くなろうとはしなくなる」

「えぇ。まだ向こうは私のことを知らないから、何かと私では対処しにくい所もあるの。そこを蒼星君に任せたいのよ」

「なら、しばらくは放置ですね」

「あら、意外。てっきり、色んな策を用意するかと思ってたわ」

「箒にとっては絶好のチャンスですからね。これを無駄にしては勿体無いです。少しでも、紅椿の存在の重要さを理解してくれればそれで良いので」

 

 誰かに教えてもらうより、自分で気付く方がその後の成長の度合いが大きくなる。箒には一度自分の現状と向き合う機会が必要だろう。

 楯無はニヤリと笑う。

 

「案外、蒼星君は黒いのね」

「いえ、黒に染まった白です」

「灰色ってことかしら?」

「そういうことにしておいてください」

 

 ずれた話を戻す。

 

「最善策としては彼女が全員の前で実力を見せつけることがベストだと思うのよ」

「ですが………そんな行事やイベント、一学期はもう流石にありませんね」

「そうね。二学期に入ってからじゃ、手遅れだと思うけど仕方ないわ」

「二学期の行事と言えば“キャノンボール・ファスト”と“タッグマッチトーナメント”ですかね」

 

 キャノンボール・ファスト。

 俗に言うISでの高機動レースだ。特徴は他のレーサーの妨害もありということ。

 他国のお偉いさんも訪問して観戦する予定なので、そこで結果を出せば周りの見方も変わるだろう。

 タッグマッチトーナメント。

 一般生徒は参加せず、参加資格があるのは専用機持ちのみ。相手は代表候補生以上となるので善戦を繰り広げられるほどの実力は必要不可欠。

 認められれば、成功。だが逆に失敗するとより一層罵声や中傷は酷くなる。一種の賭けとなるが、それぐらいは箒に頑張ってもらわないといけない。

 

「それと学園祭があるわよ」

「そういえばそんなのがありましたね」

「勿論あるわ。生徒会としても出し物はする予定だから、期待しておいて損はないはずよ」

「うわ、嫌な予感しかしない」

「本音が駄々漏れよ」

 

 蒼星は苦笑い。

 

「ちょうど話題に上がったから、二つ目の本題に入るわ」

 

 となると、学園祭関連。

 

「学園祭ではクラスごとに出し物をすることになっているの。IS学園から他国に招待状を出しているから、その人達をもてなすためね。生徒も一人まで招待状を出せるわよ」

 

 因みに蒼星は彼を誘うつもりでいる。

 

「そうなると自然と警備も甘くなるのよ。先生達にも頑張ってもらうつもりだけど、どうしても人数が足りないわ。そして、その日は確実に亡国企業が攻めてくると見ているのよ」

「亡国企業………」

 

 蒼星が思い返したのは、臨海学校の時に現れた亡国企業。操縦技術はなかなかの物なので、学園祭に乱入してくると事態は混乱を極めるだろう。

 さらにその日は来訪者等で、人口密度は高いと予想される。戦闘での余波で怪我して被害が及んでしまったら、なにかと大変だ。

 

「色々と対策は練っておくつもりよ。それでも当日、蒼星君には警備に当たってもらうわ」

「え?俺がですか?」

「えぇ。あなたの強さは私がしっかり認めてるから、特に心配はないわ」

 

 これは蒼星にとっては意外な発言。

 学園最強の彼女に認めてもらえるなど、少し自慢げになってしまいそうだ。

 

「もちろん私に勝とうなんて一億年早いわよ♪」

「はいはい」

 

 今ので、台無しだが。

 

「話を戻して、亡国企業が学園祭に来ると仮定しましょう。亡国企業の狙いは確実にあなたと織斑君のISね」

「まぁ、要心はしますよ」

「襲撃してきた時には私達はすぐに駆け付けるつもりでいるけど、どうしてもちょっとした時間は必要になってくるわ」

「それまでは俺や一夏自身が足止めをしておく必要があるってことですね」

「あなたのことはそれなりに信用してるわ。織斑君については私が直々に指導してあげるつもりよ」

「あーあ、一夏も災難だな」

「………どういうことかしら?」

「いえ、流石にあのメニューは………」

 

 楯無と同部屋にされた頃から、蒼星は彼女の製作した特訓メニューをこなしていた。主に朝にしているのだが、あれをいきなりやるのは地獄だと蒼星は思う。

 

「蒼星君は基礎技術はついていたから、あのメニューをしてもらって体力を戻すのが最大の目的だったのよ。織斑君の場合はまったくの逆ね。主にIS技術を教える方向に考えているわ」

「それで少しでも一夏の奴に強くなってもらって、どうするつもりなんですか」

「期限が少ないから彼に教えられることは正直、付け焼き刃ね。結果として少しでも敵との戦闘のさいに時間稼ぎが出来れば、それ以上は高望みしないわ」

 

 楯無の言っていることの裏をとれば、一夏にはまだ敵を倒すことは出来ないと言っているようなものだ。

 実質、一夏は織斑千冬という存在に守られてきたので、彼が自分を守ることの出来る力は殆ど皆無に等しいと楯無の判断は厳しいものになっている。

 

「まぁ、結局はどれも二学期になってが本番ですね」

「夏休みは勿論、生徒会で決定よ♪」

「嫌です」

「やりなさい」

「嫌です」

「やりなさい」

 

 二人の間にバチバチと火花が散る。

 面倒事に時間を費やしたくない蒼星。

 少しでも仕事を楽にしたい魂胆の楯無。

 

「あっ………虚ちゃんから電話かしら………」

 

 静寂を破ったのは一本の電話。

 コール音に気付いた楯無がベッドを立つと、机へと歩いていく。ユカが気配を感じて、振り向くが楯無だと分かるとすぐにテレビへと戻った。

 

「………!!」

 

 電話に出た楯無が蒼星が見てもはっきりと分かるほど、顔が青ざめていく。

 ほどなくして通話が終了しても、彼女の表情が改善させる様子はない。

 

「………仕事がまた増えたですって………」

「そりゃあ、災難でしたね」

「蒼星君の分もあるわよ」

「そりゃあ、気のせいですよね………」

 

 蒼星の表情が固まる。

 

「はぁ………手伝います。手伝いますから。これで、満足でしょう?」

「お姉さん、超嬉しいわぁ!!」

「えっ!?」

 

 歓喜に溢れた楯無が勢い良く蒼星の方へとダイブ。

 

「ぐへぇ!!」

 

 蒼星が楯無の下敷きとなる。

 仰向けの体勢になった蒼星の目の前には楯無の端麗な顔が目前まで迫っていた。

 

「ちょっ!?近すぎますって!?」

「あら?そうかしら?」

 

 馬乗りになっている楯無はさらにグイッと蒼星の顔へと近づく。

 

「うふふ………油断したわね、蒼星君。さぁ、全て洗いざらい吐いて貰うわよ」

「何を!?」

 

 楯無が彼を誘惑するかのようにゆっくりと、時間をじっくりかけて互いの両顔が接近する。

 無理に離そうとしても、何故か上手く力が入らない。楯無が巧妙に押さえ込んでいるのだ。蒼星としては暗部としての力をどうしてこんな所で発揮するのか、突っ込みたい。

 

「パパ」

「あら、ユカちゃん」

 

 すると、テレビを見終えたユカがベッドで寝転んでいる二人を見下ろすように立っていた。

 

「浮気は駄目だよ?」

「いや、だったら手伝ってくれない?」

「うん、分かった♪」

 

 バチバチ、火花が散る音。

 ユカは電撃を操る機体“麒麟”の自我意識であるので、電撃は平気である。というか、自らの意思で発生することも可能。

 

「ビリビリ~♪」

「えっと………ユカ………なんで、距離をとってるんだ………?」

「ユカちゃん………もしかして………」

 

 楯無の頬がひきつり、蒼星の顔が青白くなっていく。

 ユカが笑顔で走ってくる。

 

「ダーイブ!!」

「「───っ!!」」

 

 ───バチッ………。

 ………因みにユカが元気良くベッドへとダイブしたのが原因で、寮内でしばらくの間、停電が発生してしまった。

 

 

続く────────────────────────────

 




〈蒼星の結論〉
 箒の専用機については、彼はその事実を受け止めることだけに専念した。彼女が長年耐えてきた6年の時間の代償として、紅椿を手に入れたとするのなら彼から彼女に直接何も言うことはない。


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第42話 期末試験

春ですね…………本編は夏ですけど………。

あ、それはそうと活動報告にてあるアンケートを行っていますので、一目でも見てもらえればありがたいです!!

───では、どうぞ!!


 IS学園1年1組教室。

 

「………忘れとった」

 

 とある席に座る彼は表情が点となってしまっていて動かない。周りのクラスメイト達が不安そうに彼を見つめる。

 

「蒼星の様子がおかしくないか?」

「いえ、私には普段通りに見えますわよ」

「どこか、魂が抜けたようになっているがな」

 

 一夏やセシリア、箒も遠目から彼についての会話をする。

 

「なみむー、何かあったの?」

「今は近づかない方が良いよ」

 

 彼に声をかけようとしていた本音を璃里亜が苦笑いしながら止める。

 

「「「「───っ!!」」」」

 

 すると、唐突に彼が席から立ち上がる。何人かの生徒が椅子を引き摺った音に反応して肩がビクッとなっていた。

 彼は天井に向かって叫ぶ───

 

「もうすぐテストじゃんかぁーー!!」

 

 本日、期末テスト開始7日前。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「ということで、どうしようか」

「いきなりだね」

 

 昼休み。

 食堂で俺と席を共にしているのは3人。

 隣の璃里亜。さらにその隣の本音。俺の前には簪。ユカは本音の膝に座っている。俺はカレー、簪と本音は和風セット、璃里亜は洋風セットを食べている。

 ふと、思い返すといつも彼女たちと一緒に昼を過ごしていると思う。一夏達の方はというと、俺の後ろの席にいる。

 たまにはメンバーを変えてみるのも良いかもしれない。だが、自覚が皆無の一夏の修羅場の中には入りたくはないので難しい。

 話を戻して、俺が言ったことに苦笑したのは璃里亜だ。話の内容は俺が今朝まですっかり記憶から抜けていたテストについて。

 

「なみむー、勉強出来ないんだ~」

「そう言う人よりは出来るはずと俺は自負する」

「この前のIS関連の筆記テスト、本音は平均92点だった」

「ふん!」

「………嘘ぉ」

 

 因みに俺は82点。本音がまさかの予想を裏切る優等生ぶりに開いた口が塞がらないとはきっと、このことだ。

 璃里亜は遠慮なしに尋ねる。

 

「一般教科は?」

「え………」

 

 本音が言いずらそうに黙り混んだ。

 俺は察した。彼女は一般教科は自慢できるほどではなかったのだろうと。整備科を希望している本音にとって、IS関連のテストで好成績を出すのは当たり前という認識なのだろう。その分、一般教科が疎かになってしまったという所だ。

 

「ふふん!!」

「分かった。悪かったんだな」

「悪くないよー!!語学が54点だって悪くないもん!!」

「誰もそこまで言ってない………」

 

 簪がぐったり落ち込む。

 自分のメイドがこんな自慢げに悲しげな点数を公表している姿は、彼女にとってはどのように見えるのだろう。

 

「話を戻すか」

「私だけ点数を言うのはズルいよ~。かんちゃんとリリーも白状しなさい」

「一般教科は平均90点。専門教科は94点」

「私の場合、一般教科は97点。専門教科は89点と言ったところだね」

「何この、優等生しかいない空間は」

「なみむーは?」

「71点と82点だ!!」

 

 これ以上、過去の損害を大きくしてはいけないと俺の理性が抑制をかけてくる。

 すっかり忘れていたが、簪と璃里亜は日本代表候補生なのだ。テストが出来るのは納得がいく。

 

「蒼星君、今回は大丈夫?」

 

 簪が心配そうに見つめてくる。

 自分よりも他人を心配する彼女の性格は本当に優しいとつくづく感じる。

 璃里亜がわざとらしく言ってきた。

 

「難しいよね~。朝から叫んでいたようだし」

「あの時はビックリしたねー」

 

 朝に叫んだのは流石に不味かった。

 あの後、軽く軽蔑の視線を浴びさせられて、挙げ句の果てにたまたま教室に入ろうとしていた山田先生に熱があるのではないかと、保健室に連れていかれそうになった。

 とまぁ、現実を見よう。

 

「IS関連は問題ないんだけどなぁ」

「私のお陰だね♪」

 

 そう、ユカ───ISの張本人が直々に指導してくるので特に問題はないのだ。むしろ、この前の授業中に山田先生に当てられたさいに答えた解答がピッタリ過ぎて、逆に不信がられたほどだ。

 因みにテスト当日、不正防止のためにユカは織斑先生に預けることになっている。

 

「問題は一般教科だ」

「特に?」

「社会」

「この前のは?」

「58。ラストセカンド」

 

 因みに最下位は一夏の57点。

 ………危なかった。

 

「やばいね~」

「………なんで苦手なの?」

「覚えるのは全般的に苦手。地理は五十歩譲ってよしとする。歴史も起こったものは百歩譲ってまだ良い………だが!!何故、同じ年に起こらない!!バラバラすぎだろ!!フランス革命とか、産業革命とか、世界恐慌とか金融危機とか同時に起きろよ!!」

「無茶苦茶だね」

「………そうなったら、世界はもうないと思う」

「なみむー、大丈夫~?」

 

 本音の心配はきつい。

 何かが心に刺さったような気がする。

 

「大丈夫じゃないかもな………」

「なみむーーーー!!」

 

 社会は苦手。

 寝込んだ俺に本音は本格的な臨場感を持って叫ぶ。

 

「ソウ君、対策はどうするの?」

「………私、社会は出来るよ」

「なら頼む!!」

「うん」

「私は………自分ので手一杯だから、かんちゃんに任せっきりになるね」

「大丈夫、任せて」

 

 ということで、社会は簪に教えてもらえることになった。彼女のことだから、一安心して大丈夫だろう。

 今は………それよりも

 

「………」

「………」

 

 璃里亜と簪の間にバチバチと火花が散っているのは気のせいだろうか。

 ………気のせいであってくれ。

 

「おぉ~、ビリビリ~」

 

 そこのユカ、喜ぶな。

 

 

 

 

 ◇

 

 簪の部屋。

 

「そこ間違えてる」

「あ、ホントだ」

「それも違う」

「………これだ」

「ブー」

「これか」

「ブー」

「………もしかしてっ!!」

「ブー」

「………教えてください………」

 

 後に語る、蒼星の感想───

 ───『想像以上の鬼畜さでした』。

 

 

 

 

 ◇

 

「よっしゃあああーー!!」

 

 期末テストが終わり、数日後。

 念願のテストが返ってきた。

 結果を見て、俺はたまらずガッツポーズ。

 社会科───73点。

 

「ギりセーフ!!」

 

 赤点は70点よりも低い点数。あと二問でも間違えていれば、危うく夏休みに補習という地獄に引き込まれていた。

 簪がテストに出そうな所を纏めて一覧にしてくれたお陰で本番ではやまを外すことなく、用紙にすらすらと書けた。今度、お返しに何かをしないといけない。そうしないと、俺の気が済まない。

 他の教科もこれと言って、特筆すべきほど悪かった教科はなかった。

 

「いいな、蒼星は………なのに俺は………!!」

 

 現在、またしても昼休み。

 食堂で俺と相席しているのはテスト前の時、自分から絡むのはめんどくさいと思った一夏。

 他には………。

 

「アンタたち、横から見てるとレベルが低すぎるわよ」

「一夏さん。お困りでしたら、私が教えて差し上げますわよ?」

 

 鈴とセシリアだ。

 一夏は醤油ラーメン、鈴は豚骨ラーメン、セシリアはパンケーキセットを頼んでいる。俺はカツカレー。鈴はラーメンを食べていることが多いが、流石にそれ以外を食べているのだろうか。

 何故、俺はカツカレーなのか。無論、テストに勝ったからそのお祝いに普通のカレーライスからカツカレーにランクアップしたからだ。

 

「おうおう一夏君、今回も最下位ですかぁー?」

「言い方が腹にくる………っ!!」

「だーかーらー!!もっと効率的に勉強しなさいって言ったでしょ!!」

 

 一夏は残念だ。補習がある。あの織斑先生直々の補習だ。一部の人にとっては歓喜かもしれないが、俺は断固拒否。

 鈴が飽きれ口調で言う。テスト前からある程度、アドバイスはしていたようだ。

 セシリアはというと、自分の誘いがスルーされていたことに軽くショックを受けて、パンケーキを寂しく切り分けている。

 鈴は俺の肩辺りを見ながら、言う。

 

「そういえば、ユカはどうしたのよ?」

「ユカならリリーのとこ」

「ホントに自由よね、あの子」

「ISの自我意識なんだよな。俺には普通の女の子にしか見えないが………」

 

 璃里亜はシャルロットとラウラを合わせた珍しい組み合わせでいる。そこにユカの姿もある。

 簪と本音は食堂に来ていないようだ。

 一人で食べるのも良かったが、一夏が誘ってきたのでこうなった。

 

「まぁ殆ど人間に近いしな」

 

 ユカは感情を持っていても不思議と納得できるほど、感情表現が豊かになっている。

 悲しい顔も、怒った顔も、笑った顔も父親からしてみれば可愛いものだ。自慢できるほどに。

 

「ユカさんは私と初めて試合した時から居ましたのよね?蒼星さん」

「ん?………あぁ、そだな」

「ズルくありません?」

「今更、過ぎたことだ。それにその試合はセシリアが勝ったんだから問題ない」

「ふふ………それもそうですわね」

 

 セシリアは納得した様子でパンケーキをかぶりつく。かぶりつくと言っても、その姿は気品を一切損なわない御嬢様。

 一体セシリアはユカと俺を見て、何を思ったのだろうか。本人に直球に聞いてもはぐらかされそうなので止めておこう。

 とにかく、今は思う存分弄んでやる。

 

「一夏のアホんだらぁー」

「~~~っ!!言い返せねぇーー!!」

 

 これ以上は俺の正義感により遠慮しておいてやろう。

 ………また気が向いたらやるかもしれんが。

 

「そう言えば、もう一学期は終わりだな」

「そうね………思ったよりも早かったわね」

「ええ。あっという間でしたわ」

 

 ゆっくりと思い返す。

 クラス代表戦。クラス対抗戦。タッグトーナメント。臨海学校。

 そして………IS学園で出会った彼女たち。彼女達と出会ったことは運命の糸に引っ張られてきたものによるものだ。数十億という人間が世界にいるなかで、二人が出会うというのは運命の他ならない。

 最後に俺がSAO帰還者だということを信用できる皆に話したことは俺の中では結構一大事な出来事だったと思う。

 今でもこうして、俺と気兼ねなく接してくれている彼女達には本当に救われているとつくづく感じる。

 

「そういやぁ、皆は夏休みは予定どうするんだ?」

 

 一夏がそう言う。

 

「私はイギリスへ帰国するつもりですわ」

「そうね。私も一応、報告がてら中国へは戻るつもりよ」

 

 代表候補生は何かと大変らしい。

 

「一夏は何かあるのか?」

「俺も家には戻るつもりだぜ」

「ふーん」

 

 代表候補生とは無縁の一夏も里帰りするとのこと。となると、夏休みの間のIS学園は普段より寂しくなるようだ。

 

「興味なさそうだな」

「なさそうじゃなくて、ないから」

「だったら、蒼星も来るか?」

「一夏の家にか?」

「おう」

「そうだなぁ………気が向いたら」

 

 行ってみるのも悪くないが、今の俺はそんな気分ではない。

 と、あることを思い出す。

 

「あ、そういえばお前らに紹介しておきたい奴等がいるんだった」

「誰?アンタの友達?」

「俺とリリーの共通の友達」

「その方々はもしかして………SAOにいた方々ですか?」

 

 セシリアが遠慮ぎみに聞いてくる。

 俺の一線に触れないように彼女には気を使わせてしまっている。

 

「まぁな。夏休みの間に一度でも会ってみるように調整してみるつもりだ」

「そりゃあ、楽しみだな!!」

 

 一夏がとても嬉しそうにしている。

 そして、向こうからも紹介するように希望されている。特にあの調子者から。丁度良い機会だから、今度日程を組んでみよう。そいつらは今はそれなりに元気に過ごしているだろうし、俺自身しばらく会ってないので、会ってみたいという本音もある。

 

「それで、蒼星は他に予定とかあるの?」

 

 鈴が聞いてきた。

 あまり答えたくないが、この際だ。自慢げに言ってみる。

 

「寝る」

 

 俺の返答に呆れた鈴が反応する。

 

「要するに、予定がないんでしょ」

「家帰っても誰も居ないしな」

「蒼星の両親がいるんじゃないの?」

 

 鈴はふと疑問に思ったことをそのまま口にしたのだろう。

 

「おい、鈴!」

「私、変なこと言った?」

 

 一夏が咎めるが、事情の知らない鈴は首をかしげる。

 俺の両親について、確か一夏には言ったが他には誰にも言っていなかったはすだ。

 

「俺は昔、記憶喪失になったことがある」

「「───っ!!」」

 

 セシリアも初耳だったようで、驚いている。

 もしかしたら、生徒でこの話を知っているのは一夏と璃里亜だけなのかもしれない。

 ………あ、会長は知ってそうだな。

 

「小学2,3年生からの記憶はあるが、それ以前の記憶は全然思い出せない」

 

 まるで記憶の入った箱に鍵がかかっているように、昔のことをまったく思い出せないのだ。何があったのかは不明だが、結構重大なことのような気がする。

 その鍵さえ開ければ一気に思い出せるはずなのだろうが、鍵の見当は一切ないのが現状。今となっては半分諦めている。

 

「その時に両親とも別れ離れになったようで、代わりに親戚の老夫婦が俺を育ててくれたんだ」

 

 老夫婦は優しかった。記憶喪失で困惑してあたふたしていた俺をそっと迎え入れてくれた。

 老夫婦からの優しさを触れると同時に、何度もお前の本当の両親は自分達ではなく、他にいるんだと教えられてきた。二人とも、それなりに歳をとっていたので、いつ亡くなってもおかしくない生活だった。それ故に、俺が一人になっても心配することはない。お前には正真正銘の家族はいるんだと安心させようとしていたのではないか?と俺は思っている。

 

「二人とも俺がSAOに囚われている間に亡くなったからな。IS学園に来るまでは独り暮らしをしていた。近くに住んでいた友人に協力してもらいながらな」

 

 どうして、必要以上に俺に家族の存在を知らせようとしたのか………真相は確かめようがない。

 老夫婦の言う俺の家族が一体何者なのか、どこにいるのか。まったく情報はない。宛もないので、俺は探していない。

 ただ………探さない理由は他にある。

 最大の理由は、家族を見つけるのが怖いからかもしれない。そのせいで記憶が戻るのを本能的に避けたいのかもしれないからだ。

 世界には冷酷な記憶など忘れておきたい記憶はいくらでもある。今回も俺が記憶喪失になった要因は自身の脳から無意識に忘れたかったかもしれない。だったら、無理に思い出すことはないのでは?と思ってしまう。

 

「ご、ごめんなさい………悪いことを思い出させちゃって………」

「珍しいな、スズーが素直に謝るとは」

「何よ!!私だって謝りぐらいするわよ!!」

 

 鈴がばつが悪そうな表情をしていたが、俺が気にしていない様子が分かるとすぐに本来の彼女の姿に戻った。

 ネガティブよりもポジティブに考えよう。

 

「それはそうと、せっかくだし一回ぐらい家には戻ってみるか。何かとほったらかしにしたままだし、掃除しておく必要もあるかもしれない」

「なら、俺も行っていいか?」

「構わんが………予定が合えばな」

 

 一夏は掃除が得意なはずだ。彼を手取り足取り使って部屋の掃除でもさせようと俺は企む。

 

「アンタも物好きよね~」

「え?何が?」

「そんなに他人の家にお邪魔することが嬉しいの?」

「だったら、鈴も俺の家に来るか?」

「えっ!?………うん。日程が空いたら行こうかな………」

 

 出ました。一夏の無意識な女の子落とし。今の、何かと問題発言に捉えられてもおかしくないのだが本人は気付かない。

 鈴もこれには、予想外だったようで頬に熱が帯びている。すると、セシリアが隣の鈴を横目に負けじと名乗りだす。

 

「私も行っても良いでしょうか!?一夏さん!!」

「あ、あぁ………別に良いぞ」

 

 セシリアの様子が少し変わる。彼女の脳内では、妄想を始めたようだ。

 なんとなく、時間を確認してみると昼休みが終わりかけの時間帯に突入していた。

 俺が食器を持って立ち上がると、一夏が不思議そうな目線を送る。

 

「蒼星、もう行くのか?」

「そろそろ時間だって。早く行かないと遅刻してまうぞ。それに次の授業の先生は───」

「千冬姉ぇだ!!」

 

 青白くなった一夏は急ぐように残っていた料理を平らげていく。鈴とセシリアは既に完食していたので、とっとと教室へ向かう。

 俺も教室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 ピロン。ピッ、ピッ。

 

『もしもし~』

「じゃ、またな」

『ちょっと待て!!いきなりは無いだろ!!』

「俺………見知らぬ人とは話さない主義なんで」

『かけてきたのそっちだろ!?』

「ん?そだっけ?」

『数秒前のことぐらい覚えておけよ!!』

「わりぃ、わりぃ、それで何の用だ?」

『こっちの台詞!!』

「ん?そだっけ?」

『またやるのか!?』

「そうだな………それで何の用だ?」

『結局戻るのかい!!』

 

 飽きたので、本題に入ろう。

 

「“()()()”、夏休みの間に会わせたい奴等がいるけど予定空いてるか?」

『予定?ちょっと待ってくれ。カレンダー見てくる………』

 

 ふう………と電話相手が出なくなったので一息つく。

 十秒後にまた画面から声がする。確認がとれたようだ。

 

『盆休みの前に空いてるぞ。大型のクエストも休み前ってことであまりないようだし、他のメンバーも多分、その日辺りは空いてるって言っていた気がするから皆集まれると思う。今からでも聞こうか?』

「んや、後で纏めてメールで送ってくれ。その後に日時は決めるから」

『了解。それで、最近はどうなんだ?』

「どうとは?」

『ソウ、この頃“ALO”にログインする頻度が減っただろ?やっぱり、そっちは忙しいのか?』

「そりゃね。ISの勉強は大変だ」

『はは、災難だな』

「他人事のように言うな。世界に二人しかいない男性操縦者の俺は予言するぞ、キリトもいつかISを動かす第三の男になるってな」

『それはそれで楽しそうだから、問題はないぞ。ISは男のロマンみたいに感じる』

 

 ………ポジティブ野郎。

 

『たまにはALOに顔を見せろって。シリカも寂しがっていたし、スグもソウと久しぶりに手合わせしてみたいって言ってたしな。あ、後、アスナもALOに近いうちに来るんだったらリリーも一緒に連れてこいって言ってた』

「はいはい、余裕が出来たら、そっちに行くって伝えておけ。リリーのことは知らん」

『アスナに怒られても知らないぞ?』

「………善処する」

『はは、来るんだったら予め連絡してこいよ。いつものとこで待ってるからな』

「あ~あそこか。んじゃ、またな」

『おう、バイバイ』

 

 電話を切る。

 ベッドに座っている彼女に尋ねた。

 

「ユカ、なんかあったか?」

「何もナッシング。盗聴されてるとかの異変は特に発見されなかったよ」

「そうか………毎度毎度、ありがとな」

「へへへ~パパの為ならユカは何でも頑張れるんだよ!!」

 

 ユカは笑顔でそう言う。

 

「そういえば、夏休みにユイとも会えるかもしれないぞ」

「え!?ほんと!?やったー!!」

 

 彼らとの邂逅も後少しである。

 

 

続く────────────────────────────




(-_-).。oO(久しぶりにソウ目線で書いたような気がする)


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