バカとテストとスポンサー (アスランLS)
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プロローグ

間違えてプロローグよりキャラ紹介を先に投稿してしまった……幸先悪いなぁ……


 

ここ文月学園では、学年末に行われる進級テストの成績によりA~Fのクラスに振り分けられる。

最上位のAクラスになれば豪華な設備の教室を与えられ最高の待遇を受けられるが、反対に最底辺のFクラスになれば劣等生の烙印を押され最低ランクの設備でみじめな学園生活を過ごすことになるという、良くも悪くも完全実力主義な学校なのだ。

当然生徒達は少しでも上のクラスになれるようこの日のため死に物狂いで努力し、また努力を怠ってしまった生徒は不安を抱えながら試験に望む訳だが……

 

明久(これが難しいと噂の振り分け試験か……確かに難しいけど問題ない……この程度なら

 

 

十 問 に 一 問 は 解 け る!)

 

 

流石と言うかなんと言うか、のちに「学年を代表するバカ」と呼ばれる吉井 明久の名に恥じない素晴らしく的はずれな理論である。学力どうこう以前に、いったいどうしてその正答率に希望を抱けるのか不思議で仕方ない。

 

明久(二十点は堅いな)

 

そんなことを考えながら明久が気楽に問題を解いていると、突然背後から大きな音がした。明久が後ろを振り向むいて見ると、女子生徒の一人が椅子から転げ落ちたようだ。

学年でも指折りの成績を誇る優等生、姫路瑞希だ。

 

明久「姫路さんッ!大丈夫!?」

 

と言いつつもどうみても大丈夫そうには見えない。どうやら風邪気味で試験を受けていたらしく、熱にうなされて倒れてしまったらしい。試験続行はとてもじゃないができそうにない。周りがざわつく中、試験監督の教師が

 

「試験途中での退席は“無得点”扱いとなるが、それでいいかね?」

 

と無慈悲な確認し、それに姫路が答えようとしたとき、

 

明久「ちょ、ちょっと先生!具合が悪くなって退席するだけでそれは酷いじゃないですか!」

 

二人の間に割って入り、明久が教師に抗議した。

 

 

 

 

明久と教師がもめている後ろで坂本 雄二は思う。

 

雄二(はあ、相変わらず馬鹿で愚直なやつだな、あいつは。

自分の体調管理はあくまで自己責任、実力主義を掲げるここでそんな抗議受け付けるわけがねぇ。姫路のFクラス行きは確定だな…………………………しょうがねぇな)

 

そして、おもむろに自分の答案用紙の一部を消しゴムで消し始めた。

 

 

 

 

 

 

同時期、明久達とは別のクラスで、同じく振り分け試験を受けている柊 和真と霧島 翔子は科学では決して説明できない直感力で何かを感じとった。

二人(雄二が点数調整してFクラスに行こうとしている!)

 

超能力顔負けである。片や野性的な勘、片やいわゆる「愛の力」とやら、とでも説明すればよいのだろうか?

それはさておき、この二人はまともに試験を受ければAクラス確定圏内の、学年でも最上位の優等生である。雄二がFクラスに都落ちしようがこの二人にはさして関係はない。

 

 

和真(俺の勘がFクラスに行けば俺にとって楽しいことが起きると告げている。……俺はこの直感を信じ、この試験を捨てる!)

 

 

翔子(……あの日私は誓った。どこまでも雄二についていくと)

 

二人は、おもむろに自分の答案用紙の名前を消しゴムで消し始めた。そう、彼等が優等生であると同時に問題児どありさえしなければ、全く関係の無いままであっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして新学期当日の早朝、新入生を迎える桜の木々に挟まれた文月学園校舎へと続く、お年寄りとインドア派に優しくない坂道を全力疾走する二人の青年がいた。

鞄を抱えているのに凄いスピードでペースを落とすことなく走っている。

 

蒼介「今日は勝たせて貰うぞカズマ!」

和真「残念だが今日も俺の勝ちだソウスケェ!」

 

どうやらこの二人は競争しているようである。仲が悪い訳ではない。何かを賭けている訳でもない。

この競争は二人がこの学園に入学したときから絶えずしており、部活の朝練などのため早めに登校している生徒にとっては一種の風物詩でもある。やや和真ペースで進み、そのまま文月学園の門を和真がいち早くタッチした。

 

和真「よっしゃあ!これで競争は262勝13敗だ!」

蒼介「流石だなカズマ。まだまだお前と私の間には壁があるらしい」

和真「いやいや、今回は結構ヤバかったぜ。トップスピードも瞬発力も俺の方が上なのになんでついてこれるかねぇ」

 

そしてお互いを労い、握手をする。

二人が決めた真剣勝負後のルールだ。

 

西村「おはよう、朝から元気がいいなお前ら」

和真「あ、西村センセ。おはよー」

蒼介「おはようございます、西村教諭」

 

彼は生活指導の西村宗一。浅黒い肌に屈強な体格、そして趣味はトライアスロンであり真冬でも半袖でいることから、生徒からは陰で「鉄人」と呼ばれている。和真曰く、「この学園で唯一自分がリアルファイトで勝てそうにない人」らしい。鉄人は二人に振り分け試験の結果の入った封筒を渡す。

掲示板か何かで一斉に張り出せば良いんじゃないかと誰もが思うが、ある理由があってそれぞれの点数及び所属クラスは公開されない。

 

西村「流石は鳳だ。お前は我が校の誇りだよ。それはそうと……柊、お前何故あんなことをした?」

 

鉄人は蒼介を褒めた後、溜め息まじりに和真に問いかけた。

質問しつつも何か諦めたような表情に見えるのは決して気のせいではない。

 

蒼介「? 教諭、あんなこととは、」

“学年主席”と書かれた結果を確認しながら聞くと和真は、

和真「こんなこと」

“Fクラス”と書かれた紙を蒼介に見せる。

蒼介「…………………………!?」

 

驚きのあまり目をこれでもかと見開く。いつも冷静沈着な蒼介がここまで驚くのは結構なレアケースだったりする。

 

蒼介「な!? いや、どうしてお前が……」

和真「なんかすげぇ面白いことがFクラスで起きそうな気がしてな。そういうことに関して外れたことのない俺の勘がそう言っているんだから行くしかねぇだろ、娯楽主義・柊 和真の名にかけて」

西村「気がするって……お前なぁ……」

 

さも当然のように試験をボイコットしたと自白した和真に鉄人は呆れるように嘆息するが、去年から和真を見てきた彼は半ば諦めている。こいつはこういう奴だ、こいつの性分は死ぬまで治らない、と。

 

和真「そしてソウスケ、二年からいよいよ始まるあれも当然積極的に参加するつもりだぜ。御大層な成績に胡座を掻いていると、容赦なく最底辺まで叩き落としてやらぁ!」

蒼介「……なるほど、試験召喚戦争か。上等だ、私達Aクラスは全力でお前達を迎え撃つ!」

 

 

 

 

 




という訳でプロローグでした。この作品は基本この二人と原作主人公の明久を中心に物語を進めていきます。

早速やらかしてしまった通り、私は隙あらばこういうミスをちょくちょくしてしまううっかり者です。
不備な点があればどうかご報告下さい。では。


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キャラ紹介その1

とりあえずキャラ紹介から。
オリキャラは結構出すつもりですが、いっぺんに出すと一人一人が印象に残らず読者を置き去りになってまうので、しっかりとキャラを立ててから小出ししていきたいと思います。

ではまずは主人公とその親友から。

※ネタバレ要素を含みますので注意してください。


・柊 和真(ヒイラギ・カズマ)

2年Fクラス

身長178㎝→182㎝(二学期)

体重78kg→85㎏(二学期)

髪:黒紅色

得意教科:文系全般→全般

苦手教科:数学・物理(克服済み)

趣味:スポーツ、人脈の構築

好きなこと:戦闘、スポーツ全般、娯楽、他人の弱点を抉り出すこと、人の成長、(四巻末以降)木下優子

嫌いなこと:デスクワーク(苦手ではない)、細かい作業(同じく苦手ではない)、玉野美紀の暴走、指図されること、見下されること、歯医者、注射

座右の銘:百聞は一見に如かず、叩くなら砕けるまで、降りかかる火の粉は薙ぎ払う

コンプレックス:童顔

通称:Fクラス最強の槍、紅き修羅、ナチュラルサド、飼い猫、牙の抜けた虎、箱入り娘、ヒロイン

備考:社交性No.1

 

本作の主人公。

坂本 雄二がFクラスで面白いことをやろうとして()()という理由だけでAクラスへ行く権利を躊躇無く投げ捨てた豪傑。しかしこうした彼の勘は外れた試しが無い。

良くも悪くも子どもっぽい性格で、誰とでも友好的に接することができる一方で子ども特有の残虐性も併せ持っており、基本的にサディストである。もちろんかなりの悪戯好きでもある。

勉強、スポーツなどあらゆることを非常に高いレベルでこなすことができるが、本人はだいたいなんとなくでやっている感覚派である(しかし現在は蒼介を倒すためだけに陰で克苦勉励の日々を送っていたりと非常に負けず嫌い)。

前述の通りとても勘が鋭く、彼の直感はほぼ100%あたる(但し、自分の好奇心を満たせることと自分の命の危機にのみ適応される)。

喧嘩はとんでもなく強く、並外れた反射神経と驚異の身体能力を有しており前述の直感と併用すれば文月学園で鉄人に次ぐ戦闘力を有している。

父親は鳳財閥の子会社を経営しており結構裕福だが、物欲は希薄で嗜好も割と庶民派。

蒼介とは小学生からの親友同士である。

学園の6割以上の生徒と連絡先を交換している。童顔だがかなりのイケメンであり女子生徒からよく告白されフリーのときは全てOKしているが、彼のアウトドア趣味に付き合わされあっちこっち引きずり回され誰もがうんざりして去っていく。当の本人は他人に合わせる気皆無なため全く気にしていない。あくまで自分の趣味優先であり、去っていく者は引き留めるどころか惜しむ気配すらないなど、シビアでドライな一面も。それらの性格が災いして、高い社交性とは裏腹に敵も少なくない。

エロに対しての免疫はあまりない。

 

四巻で木下優子に告白して恋人関係になる。惚れた弱味なのか本人の隠れ甘えん坊属性のせいか、彼女には頭が上がらず早くも尻に敷かれている(ぞんざいに扱われているわけではなく、むしろ必要以上に可愛がられている)。実はくすぐりに弱く、敏感な部分が普通の人よりかなり多い(もっともこの弱点をつけるのは木下優子ただ一人のみ)。軽いノリで人を地獄の淵に追い込んだりするなどまさに筋金入りのサディストだが、優子に対してのみM疑惑が浮上している。

 

・パラメーター

ルックス…4

知能…5

格闘…5

器用…4

社交性…5

美術…4

音楽…4

料理…2

根性…5

理性…5

人徳…3

幸運…4

カリスマ…4

性欲…2

 

 

 

・鳳 蒼介(オオトリ・ソウスケ)

2年Aクラス(代表)

身長175㎝→179㎝(二学期)

体重70kg→75㎏(二学期)

髪の色:つやのある明るめの紺

得意教科:強いて言うなら国語→全般

苦手教科:無し

趣味:自己鍛練、料理

好きなこと:学園生活の日々、柊とのバトル

嫌いなこと:料理への冒涜

座右の銘:千里の道も一歩から

悩み:父親に剣で勝てない

通称:蒼の英雄、鳳家始まって以来の天才、最も完全に近い人間、

備考:生徒会長

 

柊の親友にして最大のライバル。

四大企業の一角、鳳財閥の御曹司。鳳家は放任主義らしく企業の跡取りなのに護衛一人としてついていない(後述の通り必要無いのだが)。

母親は料亭“赤羽”の料理長であり蒼介はそこに住んでいる。幼い頃から母親から料理を教わっているため日本料理の腕前は並のプロを遥かに凌駕する。その経緯から食べ物を粗末にする行為を嫌う。そのことで和真には面白半分で恐ろしいキャラ付けをされているのだが本人はまだ知らない。

真面目で責任感が強く冷静で思慮深い性格で、生徒はもちろん教師からの信頼も厚いが、実は柊に負けず劣らず行動力があり持久戦や搦め手を好まない。

学力は同年代で抜きん出ており、ほぼ全ての科目で学年1位を記録しているが、保健体育だけは2位である。そのためムッツリーニに少なからず興味を持っている(正体は特定されていない)。

指揮官としての彼は『後の先を取る』ことを主体としており、相手の作戦や戦術を読み切り対応するタイプで、生半可な奇策はまるで通じない。

剣道、柔道、合気道など様々な格闘技に精通しているが、特に剣術に優れ、普段から折り畳み式の特注木刀を護身刀とて持ち歩いている。

3年の高城雅春に匹敵するイケメンのため柊以上によく告白されるが、許嫁がいるらしく全て丁重に断っている。

堅物。

 

 

・パラメーター

ルックス…5

知能…5

格闘…5

器用…5

社交性…3

美術…4

音楽…4

料理…5

根性…5

理性…5

人徳…5

幸運…3

カリスマ…5

性欲…1

 

 

 

 

 




以上主要キャラ2名でした。
ときに競い合い、ときに協力する、それがこいつらです。
行動派と頭脳派のコンビと見せかけて二人とも行動派。
ドラクエで言うと「ガンガンいこうぜ」固定。
柊はともかく鳳はクラス代表なのにガンガンいっちゃダメだろ……どう見ても経営者に向かない気がする。
ちなみに原作クラス代表の翔子さんは紆余曲折を経て雄二と和解し、Fクラスについて来ました。
では。


パラメーター基準
5…桁違い、化物(一握り)
4…優秀、天才(少数)
3…まあまあ、及第点(大半がココ)
2…低い、苦手
1…絶望的、無きに等しい(極少数)





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一巻開始・登校

怪盗キッドさん感想ありがとうございます!
読んでくれている人が少しでもいると執筆がはかどります。


 

流石に早く来すぎたので、二人は運動でもして時間を潰すことにした。

ちょうど朝練中の剣道部に混じり、ついでに試合をした。

先ほどの負けを取り返すかのように蒼介がストレート勝ちした。一通りこなした後、二年の教室に向かう。

 

和真「流石に剣道じゃお前の方が強ぇな」

蒼介「流石に剣術で遅れを取るわけにはいかないからな。そもそもお前は竹刀の使い方が拙い。素手の方が遥かに驚異なほどな」

和真「余計なお世話だ。まあステゴロの方がしっくりくるけどよ」

蒼介「それに私もまだまだだよ。不甲斐ないことに、未だに父様には手も足もでない」

和真「いや、それはお前が不甲斐ないんじゃなくてあの人が尋常じゃなく強いだけだろ。リアルファイトでも西村センセと渡り合えるんじゃねぇか、あの人」

蒼介「……それでも、いずれ越えなければならない。それがあの人の意思を継ぐ者としての責務だ」

和真「……金持ちは金持ちで苦労してるってな……お、ここでお別れだな。じゃあなソウスケ、首洗って待ってろよ!」

蒼介「あまり待たせてくれるなよ、カズマ」

 

二人は軽口を叩き合いながらそれぞれの教室に向っていった。

 

 

 

 

 

 

蒼介と別れた後、和真は廃墟のような外観のFクラスのドアの前まで来ていた。

 

和真(……ボロいのもここまで極まればある意味芸術だな)

 

予想以上にひどい外観に和真は呆れを通り越して感心しつつドアを開けた。外もひどかったが決して見かけ倒しではなく教室の中も期待を裏切らない。流石最低クラスと言うべきか、学業に支障がでかねないほどの劣悪な設備だ。まあその程度のことで足を引っ張られる和真ではないのだが。

 

和真「よぉ雄二、おはよー」

 

ずかずかと教室に上がりこみ教壇に立っている、恐らくはクラス代表である坂本 雄二に話しかけた。なにか悩んでいるのか、心ここにあらずのようで、声をかけられるまで和真の接近に全く気づいていなかった。

 

雄二「ん?あぁ和真かおはよ……和真ぁ!?」

 

一瞬スルーして適当に挨拶する前に、脳が予想外過ぎる情報をなんとか処理できた雄二は思わず仰天する。

 

和真「おいおい何だよその反応は、人を化け物みてぇに」

雄二「いや何でお前がここにいるんだよ!? お前はAクラス確実の成績だっただろうが!」

和真「それはお前もだろ? なに、この教室でお前が面白いことをするような気がしてな」

 

にやりと笑いながら和真がそう言うと、雄二は何かを諦めたかのように脱力する。心なしかどこか哀愁が漂っている。そのうち白髪とか生えてくるのではないだろうか。

しかし別に彼は和真の奇行だけでここまで辟易した訳ではない。

 

雄二「お前もかよ……どうして俺の周りには、伝えてもないのに俺がなにを考えてるか察知できる奴がゴロゴロいるんだよ……」

和真「お前もってことはもしかして…やっぱりお前もいるのか翔子」

 

いつの間にか和真のすぐ後ろに来ていた霧島 翔子に振り向きもしないで問いかける。実を言うと雄二の疲労の原因はこの少女だったりする。

 

翔子「……おはよう和真。また一年よろしく」

和真「こっちこそよろしくな」

 

この二人は去年から同じクラスであり、けっこう仲が良い。彼女が名前で呼ぶ男子は雄二と和真だけである。

 

和真「ところで、俺もだけどお前は雄二がFクラスに行こうとしていたのをどうやって察知した?」

翔子「……それは勿論、」

「「勘」」

 

和真は後ろを振り向き、翔子と固く握手する。男と女の友情は成り立つと証明した瞬間である。二人とも実にいい笑顔だ。その空気にいたたまれなくなったのか、取り残されていた雄二が不満を爆発させる。

 

雄二「お前ら打ち合わせでもしたのか!?なんでそんなに息ぴったりなんだよ!?」

和真「バカめ雄二、ほんとお前愚か。感覚派の人間同士は言葉を交わさずともわかり合えるもんなんだよ!」

 

どや顔で力説する和真。好き放題虚仮にされた雄二は思わずぶん殴りたい衝動に駆られた。しかし新学期始まって初めての乱闘に移行する前に翔子は雄二に詰め寄る。

 

翔子「……そんなことより雄二、なんで私に何も言わずFクラスに行こうとしたか、説明してもらってない」

雄二「うっ、それはだなぁ…」

 

翔子に問い詰められ狼狽える雄二。なるほど、さっき悩んでいたのはどうやらこれが原因らしい。和真は面白い玩具を見つけたと言わんばかりの邪悪な笑みを浮かべて翔子に耳打ちする。

 

和真「翔子よぉ…雄二はFクラスでしなければならないことがあって、だけどお前をこんな汚い教室に入れたくなかったんだよ。でもこいつ素直じゃねぇから恥ずかしくてそんなこと打ち明けられないんだよ、察してやれ」

 

明らかに雄二にも聞き取れる声量で。

 

雄二「てめえぇぇぇぇぇ!」

 

憤怒の形相で雄二が殴りかかるが、ある程度予想していた和真は軽快なステップでかわす。無駄に洗練された動きである。

 

翔子「……雄二、嬉しい。でも私は雄二と一緒にいたい」

雄二「………………ふん」

 

照れくさいのか、雄二はそっぽを向く。バカップル全快である。このとき異端審問会が結成されていれば間違いなく抹殺対象だ。悪運の強い男だ。

 

和真「いい雰囲気のとこ悪いけどよ、これで全員そろったのか?誰か足りないような気がするが」

雄二「いや、まだ二人来ていない…お、来たようだ」

 

雄二がそう言った直後、狙っていたかのようなタイミングでFクラスのドアが開いた。

 

明久「すいません、ちょっと遅れちゃいました♪」

雄二「早く座れこのウジ虫野郎」

明久「台無しだ!?」

 

観察処分者・吉井明久だ。




という訳で原作キャラ3人と顔合わせです。
雄二関連限定ですが、翔子さんは和真と同等の感覚の持ち主です。原作でもその片鱗を垣間見ることができます。
次回からは2日おきに投稿していく予定です。
では。


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それぞれの自己紹介

文章量が一気に4倍近くになってしまった…
この小説バランス悪っ!



和真「あーそうだそうだ。お前がいなきゃ学力最底辺クラスは完成しねぇもんな。一番重要なバカのこと忘れるなんざ俺としたことが、うっかりしてたぜ」

明久「いきなり失礼すぎない!?…ってなんで和真がFクラスに?」

 

和真のあんまりな物言い(明久からすればだが)に憤慨した後、明久は雄二と同じ疑問を抱く。

 

和真「雄二がなにか面白いことをしようとしてる気がしてな、Aクラスへ行く資格を夕日の向こうに投げ捨てて来てやったぜあっはっはっは!」

明久「あはは、なんかすごく和真らしいねその理由……あ、じゃあ霧島さんは……………………雄二か……

畜生!何故あんなゴリラがモテるんだ!」

 

明久は和真がFクラスである理由に納得した後、翔子がここにいる理由を訪ねようとするが、訪ねる前に理由を察する。バカの彼にしては珍しく察しが良いが、明久でも簡単に察せる程翔子が一途であるということである(雄二の努力と和真の協力の甲斐あってか、翔子が雄二に一途であることは一部の人間しか知らないが)。

明久はこの世の不公平さに血の涙を流しながら悔しがる。彼に好意を寄せている女子も少なからずいるのだが、それを伝えると色々と面倒事が起きそうな気がするので和真はスルーした。

 

「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」

 

ドアの外から覇気のない声が聞こえてきた。その声の主は寝癖のついた髪にヨレヨレのシャツを着た冴えないおっさんだった。おそらくFクラスの担任だろう。

 

福原「えー、おはようございます。このクラスの担任の福原 慎です。よろしくお願いします」

 

福原教諭はそう言うと黒板に名前を書こうとしたが、チョークが支給されていなかった。

 

和真(それは教育機関としてどうなんだ?)

福原「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し出て下さい」

 

そもそも支給されているものが既におかしい。流石はFクラス、設備がまさかの昭和スタイルだ。

 

和真(まあ別にいいだろ。勉強なんざ教科書と紙とペンがあればどうとでもなる)

 

もともと天才肌の和真は設備がどうであろうと大して興味を持っていないものの、一般的な生徒のモチベーションは大いに下落するだろう。Fクラスの生徒が一般的生徒かどうかは首を捻らざるを得ないが。

 

Fクラス生徒「先生、俺の座布団に綿がほとんど入ってないです!」

福原「あー、はい。我慢してください」

 

不備を申し出ても受理されないらしい。

 

Fクラス生徒「先生、俺の卓袱台の足が折れています」

福原「木工用ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください」 

 

新品と取り替えるという発想はないらしい。

 

Fクラス生徒「先生、窓が割れていて風が寒いんですけど」

福原「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」

 

ガラスで補強などする気ないらしい。

 

明久(改めてこの教室を見渡すと……教室の隅には蜘蛛の巣が張られ、壁はひび割れや落書きだらけ。さらに部屋全体がホコリっぽい……ここは本当に学校なのか!?)

 

その問いに首を縦にふるものなどそういないだろう。

 

福原「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。廊下側の人からお願いします」

 

福原先生がそう言った後に立ち上がったのは、肩にかかる程度の長さの髪の女子生徒……と思ったらその生徒は男子制服を着ていた。

 

「木下 秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。今年一年よろしく頼むぞい」

 

軽やかに微笑みを作って自己紹介を終える秀吉。

 

和真(いつ見ても優子にそっくりだな。優子の弟なのにあいつはスポーツが苦手だったっけ……)

 

木下 優子は和真や翔子の元クラスメイトであり、社交性の乏しい翔子の数少ない友人の一人である。

余談だが、和真は仲良くなった人は誰であろうとアウトドアスポーツ巡りに巻き込む。そのハードさは肉体よりメンタルの是非を問われ、最後までついていける人はほんの一握りという過酷さであるが、木下 優子は持ち前の負けず嫌い精神によりそれをやり遂げた一人である。このことから、和真の優子に対する評価はかなり高い。

「………土屋 康太」

 

次の生徒は小柄な男子だ。土屋は名前だけ言うと自己紹介を終わらせた。個性もへったくれもない。

 

和真(あんな愛想ない奴が今後Fクラスの切り札的存在になるなんだよなぁ。雄二がソウスケにぶつけるとしたら、多分あいつかな。本当は俺が闘りてぇところだが、いくらなんでもこんな早い時期からワガママ言うのもなぁ……)

 

一見殊勝な心掛けだが、後々ワガママを押し通そうとしていることに一切疑問を持っていない時点で突っ込みどころ満載だ。和真がそんなことを考えている間も自己紹介は続く。黄色いリボンで髪をポニーテールにまとめた女子生徒が立ち上がる。

 

「島田 美波です。海外育ちで日本語はできるけど読み書きが苦手です。あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は…吉井 明久を殴ることです☆」

明久(誰だっ!?恐ろしくピンポイントかつ危険な趣味を持つ奴は……島田さんしかいないよなぁ)

島田「はろはろー」

 

笑顔で明久に手を振る島田。明久も引き気味に返事をする。自分を殴ることが趣味の人間に友好的に接することなどできない。それでも普段からつるんでいるのは、明久のお人好しな性格を差し引いても、なんだかんだで仲は良いのだろう。

 

和真(島田も相変わらずだなー。好意を寄せている相手を殴るのが趣味ってもうそれただの危ない人だぞオイ。ったく、雄二といいこいつといい…)

 

本人が良く告白されるからか、和真は以外とそういうことに目ざとい。まあ察したところでなにかしてやる訳でもないが。過去にキューピッド的役割をしたことがないこともないが、基本的に興味が無いのでノータッチである。

その後は淡々と自分の名前を告げるだけの作業が進み、明久の番になる。

 

明久(さて、自己紹介だ。こういったものは出だしが肝心。沢山の仲間を作るためにも、僕が気さくで明るい好青年ということをアピールしないと)

「ーーコホン。えーっと、吉井 明久です。気軽に『ダーリン』って呼んで下さいね♪」

 

『ダァァァァァァァァリィィィィィィィン!!!』

 

野太い声の大合唱。非常に不愉快であり、流石の和真も顔をしかめる。

明久「ーー失礼。忘れて下さい。とにかくよろしくお願い致します」

 

作り笑いで誤魔化しているつもりらしいが、今の明久はどう見ても気分が悪そうだ。

 

和真(予想以上にバカばっかりだなここ……大丈夫かなこれ……さて、次は俺か)

 

勘に従ってFクラスに来たことを若干後悔し始めつつ、和真は立ち上がる。

 

和真「知った顔も知らない顔もこんにちは。アウトドア派娯楽主義者こと柊 和真だ」

 

ちなみに同じ学年で和真と面識が無い生徒などいないので、この自己紹介の意味はあんまり無い。

 

和真「趣味はスポーツ全般と、そうだな……吉井 明久を殴ることです☆」

 

明久「おかしいでしょ!?」

 

後ろの席で和真の自己紹介を聞いていた明久は、突然のデジャブに我慢できずシャウトする。

 

明久「いつから僕の周りは僕を殴ることが趣味の人間だらけになったのさ!?」

和真「明久、天丼って知ってるか」

明久「それを自己紹介でやる意味は!?」

和真「特に無い」

明久「じゃあすんなよ!」

和真「ま、そんな訳でこれから一年よろしくな」

 

明久の抗議を華麗にスルーし、和真は前にいる翔子にバトンタッチした。

 

翔子「…霧島翔子。この一年間よろしく」

 

翔子は艶やかな黒髪の美少女で、凛とした雰囲気も加わって、男女ともに人気がある。

因みに雄二と付き合っているが生徒には知られていない。

 

「はいっ!質問です!」

 

既に自己紹介を終えた男子生徒が高々と手を挙げる。

翔子「……何?」

 

「なんでここにいるんですか?」

 

聞きようによっては失礼な質問だがその疑問は無理もないだろう。去年翔子は首席の蒼介には及ばないまでも、学年二位の成績をキープし続けている。多少調子が悪かったぐらいで最下層に位置するFクラスまで落ちるはずがない。ちなみに和真も学年六位の成績を残しているが誰にも突っ込まれなかったのは、彼の行動をいちいち疑問に感じていたらキリがないからである。この学年の生徒は彼のする謎の行動の大概は「柊だから」で納得するレベルまでに至っている。

 

翔子「…ここが私のいるべきクラスだから」

 

質問の応答としては微妙にずれた答えだが、それで皆は「なるほどー」と納得する。バカは扱いやすい。

 

和真(釘をさしといて良かったぜ。これから戦争を仕掛けるクラスの大将が女にうつつを抜かしてると知られちゃあ勝てるもんも勝てなくなるしな)

雄二(助かったぜ…まさか和真の奴まさかそこまで考えて……るわけねぇよな、どうせいつものムカつく程当たる勘だろう)

 

その後も名前を告げるだけの単調な作業が続き、和真が飽き始めた頃に不意に教室のドアが開き、息を切らせて胸に手をあてている女子生徒が現れた。

 

「あの、遅れて、すいま、せん……」

 

教室全体から驚いたような声が上がる。騒がしくなるクラスの中で福原先生がその姿を見て話しかけた。

 

福原「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」

姫路「は、はい!あの、姫路 瑞希といいます。よろしくお願いします……」

 

文月学園の女子生徒はなぜか全体的に強気な生徒がかなり多い中、保護欲をかきたてるような可憐な容姿は非常に人目を引く。

 

「はいっ!質問です!」

 

先ほどの男子生徒がまた手を挙げる。

 

姫路「あ、は、はい。なんですか?」

「なんでここにいるんですか?」

 

一字一句違わない全く同じ質問。彼に学習能力及びデリカシーというものはないらしい。しかし姫路も去年学年3位の成績を残しているため、その疑問もまた仕方ない。

 

姫路「その、振り分け試験の最中、高熱をだしてしまいまして……」

その言葉を聴きクラスの人々は納得した。

試験途中での退席は0点扱いとなる。姫路は振り分け試験を最後まで受けることができずFクラスに振り分けられてしまったというわけだ。

そんな姫路の言い分を聞き、クラス内でもちらほらと言い訳の声が上がる。

 

「そう言えば俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに」

「ああ。科学だろ?アレは難しかったな」

「俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて」

「黙れ一人っ子」

「前の晩、彼女が寝かせてくれなくて」

「今年一番の大嘘をありがとう」

和真(せめてもっとましな言い訳考えろよ……)

 

言ってることは正論だが、娯楽を求めてFクラスに来た和真に言う資格はない。

 

姫路「で、では、一年間よろしくお願いしますっ!」

 

そんな中、姫路は逃げるように明久の隣の空いている卓袱台に座り、安堵の息を吐いて卓袱台に突っ伏す。よほど緊張したのだろう。

 

明久「あのさ、姫―」

雄二「姫路」

 

明久の台詞にかぶせて声をかける雄二。

ナイスインターセプト、完全にわざとだろう。

 

姫路「は、はいっ。何ですか?えーっと……」

雄二「坂本 雄二だ。体調はもう大丈夫なのか?」

明久「あ、それは僕も気になる」

 

試験で倒れた光景を目の前で目の当たりにしていた明久はその話題になったので思わず口を挟む。

 

姫路「よ、吉井君!?」

 

なぜか明久の顔を見て姫路は必要以上に驚く。和真はもしやと思ったが確定するには情報が少なすぎるため脳内で保留にした。

 

姫路「姫路。明久がブサイクですまん」

 

雄二が全くありがたくない悪意あるフォローをする。というかフォローするつもりなどハナから無いのだろう。

姫路が過剰に驚いたのにはちゃんとした理由があるのだが、間違ってもそんなあんまりな理由ではないだろう、。

 

姫路「そ、そんな!目もパッチリしてるし、顔のラインも細くて綺麗だし、全然ブサイクなんかじゃないですよ!その、むしろ……」

雄二「そう言われると、確かに見てくれは悪くない顔をしているかもしれないな。俺の知人にも明久に興味を持っている奴がいたような気もするし」

和真(お、島田が露骨にビクッてなった。安心しろお前じゃねーよ。絶対になんらかのオチがある)

明久「え?それは誰―」

姫路「そ、それって誰ですかっ!?」

 

ナイスインターセプトpart2。明久は言葉を遮られ続ける星の下にでも生まれてきたのだろうか。ちなみに和真はここまでの流れで先程保留したばかりの推測を確定する。なんてことない、彼女も翔子や島田と同類であっただけである。

 

雄二「確か、久保………………

 

 

利光だったかな」

和真「……マジでっ!?」

 

よほど信じられない情報だったのか、不干渉に徹していた和真が思わず口を挟む。

 

姫路「ひ、柊君!?」

雄二「なんだ和真、盗み聞きしてたのか? 行儀悪いな」

和真「そんなでけぇ声で談笑してたら嫌でも耳に入って来るわ。それよりさっきのマジか!? あの堅物によりによってそんな趣味が!?」

雄二「半分冗談だ」

明久「え?残り半分は?」

雄二「ところで姫路。体は大丈夫なのか?」

姫路「あ、はい。もうすっかり元気です」

明久「ねぇ雄二!残りの半分は!?」

福原「はいはい。そこの人達、静かにしてくださいね」

 

教卓を軽く叩いて福原先生が警告を発すると。

 

バキィッ バラバラバラ・・・・・・

 

突如、教卓はゴミ屑と化した。

 

福原「えー……替えを用意してきます。少し待っていてください。」

 

気まずそうにそう告げると、先生は教室から出て行った。

姫路が苦笑いをしている。

 

明久「……雄二、ちょっといい?ここじゃ話しにくいから、廊下で」

雄二「!……別に構わんが」

 

そう言って明久は真剣な表情でそそくさと廊下に出ていき、何かを察した雄二も教室を出た。

 

姫路「あの、柊君。お二人、どうしたんでしょうか?」

和真「……さぁね」

 

和真(久保の件は聞かなかったことにしよう。それにしても……なるほど、相変わらず雄二は面倒な性格してんなぁ)「ククク……」

姫路「?」

 

和真は何かが府に落ちたように頷く。姫路はそれを不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

その頃Aクラスでは、

「では最後に鳳 蒼介君、前に来て挨拶して下さい」

 

蒼介以外の自己紹介を済ませた後、高橋先生がそう告げる。呼ばれた蒼介は紺色の髪をかき上げ、前に出る。

芸術と言っても過言ではない容姿とカリスマ性のようなオーラを兼ね備えた彼は、無条件に人を惹き付ける。

 

蒼介「Aクラス代表の鳳 蒼介だ。これから一年よろしく頼む。まず早急に、男女一人ずつ代表代理を決めなければならない。とても責任が伴う重要な役職だ。この役目を背負う覚悟がある者は立候補してくれ」

 

代表代理とは学年主席が生徒会長に着任したとき、不在のときの代役として行事の指揮や宣戦布告の対応にあたる役職だ。「生徒の見本となるべき生徒会長は学年で最も優秀な生徒が望ましい」という学園の方針から、毎年二年の主席に声がかかる。しかしクラス代表の責務と生徒会長の責務を同時に背負うため大抵の生徒は拒否し、代わりに学年次席が生徒会長に就くことがほとんどだ。そのためこの役職は設置されることはまずない。

ちなみに代理が活動中そのクラスは試験召喚戦争に参加できない。

 

「女子はアタシがやるよ」

「では男子は僕が引き受けよう」

 

二人の生徒が立候補した。

女子生徒が木下優子、男子生徒が久保利光だ。

二人とも蒼介に次ぐ成績を誇る上リーダーシップも申し分ないので周りから特に異議はない。

 

蒼介「では二人に任せよう。感謝する」

優子「どういたしまして♪ ところでなんで早急に決めなければならないの?」

久保「それは僕も気になるな。新学期早々試召戦争が起きるわけがないし特別な行事も今月は特にないだろう?」

 

二人はそう訪ねると、蒼介は真剣な顔つきになる。

 

蒼介「理由は新学期早々試召戦争を起こすクラスがいるからだ。学年でも指折りの学力を持つ生徒数名を中心にな」




というわけでFクラスの自己紹介+@でした。
この小説の優子さんは休日主人公にあっちこっち振り回されるも持ち前のガッツで食らい付いていき、気がつけば作中でも上位の武闘派になりました。学力と腕力が両方備わり最強に見えます。
ちなみにBL趣味は休日をスポーツで潰しているうちに興味を失って行きました。

では。


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戦争の引き金

タグを一部編集しました。

早く試召戦争を始めたいけどvsDクラスはイレギュラー二人が両方とも途中参加の分、原作と全く同じ展開になってしまうのでほぼダイジェストにするしかないというジレンマ。



雄二と明久、ついでに福原先生が教室に戻って来た。教卓を取り替えた後は特に何も起こらず、淡々とした自己紹介の時間が流れる。

 

福原「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ」

雄二「了解」

 

先生に呼ばれて雄二が席を立つ。180㎝以上もある身長に、やや細身だがボクサーのような機能美を備えた体型、さらに意思の強そうな目をした野性味溢れる顔つきをしており、堂々と教壇に歩み寄るその姿は、鳳 蒼介とは違った貫禄を身に纏っている。

 

福原「坂本君はFクラスの代表でしたよね?」

 

そう問われ、鷹揚にうなずく雄二。もっとも、クラス代表といっても最低クラスの成績者の中での一番に過ぎないので、雄二の本来の成績はともかくその点で彼が評価されることはないだろう。

 

雄二「Fクラス代表の坂本 雄二だ。俺の事は代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれていい」

和真「マジでか。じゃあお前のこと『露出狂』って呼ぶように後で他のクラスにも通達しておくわ」

雄二「おーいお前ら、さっき言ったことは無しの方向で頼む。それよりも、皆にひとつ聞きたい」

 

雄二はゆっくりと、全員の目を見るように告げる。

間の取り方が上手く、全員の視線はすぐに雄二に向けられるようになった。それを確認した後、雄二の視線は教室内の各所に移りだす。

 

かび臭い教室

 

古く汚れた座布団

 

薄汚れた卓袱台

 

雄二「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが……不満はないか?」

 

 

 

『大ありじゃぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

 

和真を除くFクラス男子生徒の、心の底の底の底の底の底の底からの魂の叫び。

 

雄二「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。」

『そうだそうだ!』

『いくら学費が安いからってこの設備はあんまりだ!』

 

堰を切ったかのように次々とあがる不満の声。この勢いはちょっとやそっとのことでは収まりそうもない。

 

雄二「皆の意見は最もだ。そこで、俺達FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 

代表・坂本 雄二は自信に溢れた顔に不敵な笑みを浮かべながら、戦争の引き金を引いた。

だが、

 

『勝てるわけがない』

『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ』

『姫路さんがいたら何もいらない』

『霧島さん、愛している』

 

先ほどまでの勢いはどこへやら、盛り上がりがあっという間に収まった。先程までの不満はどうした不満は。まあそれも仕方ないのだが。

文月学園のテストは世にも珍しい制限時間内の問題数無制限というシステムだ。その為学力次第ではどこまでも点数を取ることができ、成績が優秀な生徒と低い生徒との明暗がはっきりと出る。一般的なAクラスの生徒の点数は大雑把に見てFクラスの生徒一人の3倍程もある。その戦力の差は歴然だ。

 

雄二「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせて見せる。」

 

その戦力差にもかかわらず、雄二は自信満々にそう宣言した。しかしそれでもクラスメイトの猜疑心は拭えない。

 

『何を馬鹿なことを』

『何の根拠があってそんなことを』

雄二「根拠ならあるさ、このクラスには試召戦争で勝つ事のできる要素が揃っている。それを今から証明してやる」

 

この反応は予想通りと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた後、とある男子生徒の方を向く。

 

雄二「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートを除いてないで前に来い」

土屋「…………!!(ブンブン)」

姫路「は、はわっ」

 

必死になって顔と手を左右に振る否定のポーズを取る土屋。

あそこまで恥も外聞もなくローアングルから覗くとはそれはそれで大したもんだ。

 

雄二「土屋 康太。こいつがあの有名な、寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ」

土屋「…………!!(ぶんぶん)」

 

その名は男子には畏怖と畏敬を、女子には軽蔑を以て挙げられる異名だ。畳の跡を手で自分で押さえる土屋。既にバレバレだが、隠し通せていると本気で思っているあたり、この異名は伊達じゃないようだ。

また、彼の成績はほとんどがこのFクラス内でも最底辺だが、その並外れたスケベ心から保健体育は学年首席の蒼介をも凌駕する。そのことから土屋 康太という名も割と有名だが、Fクラス生徒のほとんどは成績上位者のことなどいちいちチェックしていないので、自己紹介では無反応であった。

 

『バカな……やつがあのムッツリーニだと…』

『いや、あれを見ろ!明らかにバレバレな証拠を未だに隠そうとしているぞ!』

『ああ、ムッツリの名に恥じない振る舞いだ…』

和真(それはどちらかと言うと恥じるべきなんじゃないか?あと毎回思うがあそこまでダイレクトに行動する奴はムッツリと言っていいのか?)

 

本人は隠し通せてるつもりなので定義付けはムッツリでいいのだろう、多分。

 

雄二「姫路 瑞希、霧島 翔子、柊 和真。いずれも学年トップクラスの学力を持っている。三人とも、主戦力として期待しているぞ!」

翔子「……わかった」

姫路「が、頑張りますっ!」

和真「あいよ、頼まれるまでもなく盛大に暴れてやるぜ!」

 

Fクラスの生命線と言っても過言でない彼等はそれぞれやる気十分に返事をする。

 

『ああ、姫路さんがいればそれで満足だ』

『霧島さん、まずはお友達からでも!』

和真(さっきから熱烈にラブコール送ってる奴がいるなぁ。その積極性と正直さを1割でいいから島田に分けてやってくれ)

雄二「木下 秀吉だっている」

 

木下秀吉は学力はFクラスの中では優秀な程度だが、演劇部のホープとして期待されている優秀な若者だ。

 

『おお……!』

『ああ。アイツ確か、木下 優子の』

『戦力として期待できるな』

和真(残念だができねぇ。優子と違ってあいつの学力は正真正銘Fクラスレベルだ。だかあいつの強みは学力じゃねぇ。まぁここで名を挙げたのはこいつらの士気を高めるためだろーな)

 

雄二「島田、お前は数学は優秀だったよな?」

島田「漢字が苦手でもある程度なんとかなるからね」

和真(俺と真逆の成績だな。まぁその数学もAクラス相手では力不足だがな。だがあいつは前線で指揮を取れる。そういうやつは貴重だ。指揮なんざ俺は絶対やりたくねぇけど)

 

和真は団体行動より一人で切り込む方が性に合っているので、周りを動かす司令塔ポジションはノーセンキューなのである。サッカーでもMFは断固としてやりたがらない。

 

雄二「当然、俺も全力を尽くす」

『確かになんだかやってくれそうな奴だ』

『坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていなかったか?』

『それじゃ、振り分け試験の時は姫路さんと同じく体調不良だったのか』

和真(あいつがFクラスなのは点数調整した結果だけどな)

 

『実力はAクラス上位レベルが四人もいるってことだよな?』

『もしかしたらいけるかもしれないぞこれは!』

 

気がつけば、一度ゼロにまで下落したクラスの士気は再び勢いを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

雄二「それに、吉井 明久だっている」

 

……シンーー

 

そんな盛り上がった士気が、再び一瞬でゼロになる。

 

明久「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!?全くそんな必要はないよね!」

 

オチ同然に使われた明久は雄二に猛然と抗議するが、当の雄二は知らん顔。

 

『誰だよ吉井明久って』

『聞いた事ないぞ』

明久「ホラ!せっかく上がりかけてた士気に翳りが見えてるし!僕は雄二たちと違って普通のにんげんなんだから、普通の扱いをーってなんで僕を睨むの?士気が下がったのは僕のせいじゃないでしょう!」

 

明久の抗議を余所に、吹き出しそうになるのを和真は卓袱台に突っ伏して必死にこらえる。

 

和真(確実に明久への嫌がらせだ……畜生雄二の奴、俺の腹筋を殺しに来てやがる!なんて奴だ!)

 

それは和真が勝手に自滅しているだけで、おそらく雄二にそんな目論見はない。

 

雄二「そうか。知らないようなら教えてやる。こいつの肩書きは……〈観察処分者〉だ!」

 

バンッ!という効果音を背景に、雄二が高らかに宣言する。

 

『……それって、バカの代名詞じゃなかったっけ?』

しかしクラスの誰かがもっともな事を言う。

明久「ち、違うよっ!ちょっとお茶目な十六歳につけられる愛称で」

雄二「そうだ。バカの代名詞だ」

明久「肯定するな、バカ雄二!」

 

〈観察処分者〉とは学園生活を営む上で問題のある生徒に課せられる処分で、明久がこの学園で唯一その処分を受けている肩書きだ。

 

姫路「あの、それってどういうものなんですか?

雄二「具体的には教師の雑用係だな。力仕事などの類の雑用を、特例として物に触れられるようになった召喚獣でこなすといった具合だ」

 

召喚獣は本来は召喚獣以外の物に触れる事ができない。もっとも学園の床には特殊な処理が施されて、立つことはできるらしい。

しかし明久の召喚獣は雄二の言うとおり、物に触れられる特別仕様だ。

もっとも、物理干渉能力のある召喚獣は召喚獣の負担の何割かは召喚獣の召喚者にフィードバックされるというデメリットつきだが。

 

『おいおい。〈観察処分者〉ってことは、試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいって事だろ?』

『だよな、それならおいそれと召喚できないヤツが一人いるってことだよな』

 

観察処分者の召喚獣の仕様を知っている生徒も何人かいるようで、それぞれが苦言を呈する。

 

和真(まあ確かにリスキーだが、それ相応の見返りはあるんだがな)

 

無制限腹筋耐久地獄からどうにか復活したらしく、和真は観察処分者としての利点を冷静に考察する。

 

雄二「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」

明久「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきだよね?」

和真「そうだぞ雄二。いざというときにストレス解消のサンドバッグにもなれるし、壁にぶち当てて壁を破壊して予想外の方向から奇襲をかけられる」

雄二「おっ、いいなそれ。採用」

明久「キサマらはホントに人間か!?」

 

しかし頭で考えてることよりも悪ノリを優先する和真。

明久のいじられキャラポジションが新クラス内で早くも固定固定されつつある。南無。

 

和真「まあ悪ふざけはこの辺にしとくか」

雄二「そうだな。とにかく、俺たちの力の証明として、まずはDクラスを征服しようと思う!皆、この境遇は大いに不満だろう?」

『当然だ!』

 

雄二の言葉に触発され、クラス中が大いに盛り上がる。翔子や姫路もその雰囲気に圧されたのか、小さく拳を作り掲げていた。

 

雄二「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

 

明久を捨てゴマにすることに関して定評のある雄二は、ここぞとばかりに明久に貧乏くじをさりげなく押し付けようとする。

 

明久「……下位勢力の宣戦布告の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」

雄二「大丈夫だ。やつらがお前に危害を加えることはない。騙されたと思って行ってみろ」

明久「本当に?」

雄二「もちろんだ。俺を誰だと思っている。そもそも乱闘が起こるなら真っ先に和真が行こうとするだろ?」

明久「それもそうだね、わかったよ。それなら使者は僕がやるよ」

雄二「ああ、頼んだぞ!」

 

クラスメイトの拍手と歓声に送り出され吉井は毅然とした態度で教室を出て行った。その様子を見送ったあと、和真は呆れ半分面白半分といった表情で雄二に向き直る。

 

和真「お前も悪どいなぁ、同学年で俺に喧嘩ふっかけるやつなんざいねぇの知ってんだろ?」

雄二「知ってるのはあいつもだろ?なのに騙されるバカなあいつが悪い」

和真「まぁそうだが……あいつのためにここに来たのに随分扱い悪いじゃねぇか」

雄二「………何を言ってるんだお前は?俺はただ、学力が全てじゃない事を証明したいだけだ」

和真「…そうかい」

 

 

 

明久「騙されたぁ!」

 

しばらくして、見るも無惨にズタボロの姿になった明久が教室に転がり込んできた。すごい剣幕で雄二に詰め寄るが雄二は毅然とした表情で返答した。

 

雄二「やはりそうきたか」

明久「やはりってなんだよ!?やっぱり使者への暴行は予想通りだったんじゃないか!?」

雄二が「当然だ。そんな事も予想できないで代表が務まるか」

明久「少しは悪びれろよ!」

 

猛然と抗議するが、初めから明久を陥れるつもりであった雄二は当然相手にしない。

 

姫路「吉井君、大丈夫ですか?」

明久「あ、うん、大丈夫。ほとんどかすり傷」

 

唯一駆け寄ってきてくれた姫路を心配させまいと強がる明久。そんなかすり傷があってたまるか。

 

島田「吉井、本当に大丈夫?」

 

明久のあまりの痛々しさに、珍しく島田も心配しだした。

あまりに不自然な光景に和真も思わず目を見開く。

 

和真(ん? いつもと違って素直に心配すんのか)

明久「平気だよ。心配してくれてありがとう」

島田「そう、良かった…。ウチが殴る余地はまだあるんだ……。」

和真(訂正、いつもの島田だった)

明久「ああっ!もうダメ!死にそう!」

 

腕を押さえて転げまわる明久。

毎回こんなかんじで、島田は上がった明久の好感度を次々とどぶに捨てているのである。

 

雄二「そんなことはどうでもいい、それより今からミーティングを行うぞ」

 

雄二は扉を開けて外に出て行った。それに続く和真、明久、翔子、姫路、島田、ムッツリーニ、秀吉の7人。

開戦のときは近い。

 




もともと私は読み専だったのですが、実際に書いてみると予想以上に難しいですね。

では。


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作戦会議

今さらですがこの作品は原作の試召戦争のシステムを少し変更していますので注意して下さい。

“読者層が似ている作品”になぜか姫路・島田アンチの作品ばかりが並んでました。解せぬ…


 

和真はひとまず飲み物を買いに購買に寄った後、明久達がいる屋上に足を運んだ。春風とともに訪れた陽光を肌で感じ、和真は無性にサッカーでもやりたくなり、試召戦争の後サッカー部に殴り込むことにする。参加できそうなメンバーでフォーメーションを考えているうちに屋上に到着した。

 

雄二「明久。宣戦布告はしてきたな?」

明久「一応今日の午後に開戦予定と告げて来たけど」

島田「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」

雄二「そうなるな。明久、今日の昼ぐらいはまともな物を食べろよ?」

明久「そう思うならパンでもおごってくれると嬉しいんだけど」

姫路「えっ?吉井君ってお昼食べない人なんですか?」

 

明久達のやりとりを聞いた姫路が心配そうに訪ねる。朝ごはんならともかく、“昼食べない人間”なぞカテゴリー化するほどいない。ましてやそんな学生は明久のみだ。

 

明久「いや、一応食べてるよ」

雄二「……あれは食べていると言えるのか?」

明久「……何が言いたいのさ」

雄二「いや、お前の主食って……水と塩だろう?」

明久「なんて失礼な!僕を馬鹿にするにも程がある!きちんと砂糖だって食べているさ!」

姫路「あの、吉井君。水と塩と砂糖って、食べるとは言いませんよ……」

秀吉「舐める、が正解じゃろうな」

翔子「…吉井、苦労してる」

 

心なしか皆の目が妙に優しい。どちらかと言えばいつも彼らにぞんざいに扱われている明久であるが、今回に限ってはそのいたわるようなまなざしは余計に明久のハートを抉った。

 

和真「おーい明久、ほらよ」

 

Fクラス劇場を一通り楽しんだ後、和真は明久に飲み物のついでに買ってきた物を投げ渡す。

いでに買ってきた物を投げ渡す。

 

明久「わっ!もうなにさいきなり……こ、これは!カツサンド!」

和真「戦争中お腹が空き過ぎて倒れた、とかになったらギャグだろ?それやるからしっかりエネルギー補給しとけ」

 

笑いながらついでに飲み物(野菜ジュース)も投げ渡す。

 

明久「か……和真、ありがとう!僕は猛烈に感動しているよ!」

 

高校生にもなってカツサンドと野菜ジュースでここまで感動できるとは、なんともお手軽である…

 

雄二「相変わらずなんだかんだで他人に甘いな、お前は。飯代まで遊びに使い込むこいつが悪いんだからほっといてもいいのによ」

和真「別にいいだろ?こいつが我慢できるとは思えねぇし。自制心をどこか遠くに投げ捨ててきたようなバカだしな、こいつ」

明久「和真、先ほどとはうってかわって殺意が沸いてきたんだけど、一発殴ってもいいよね?」

和真「じゃあそれ返せ」

明久「申し訳ございません閣下」

 

“胃袋を握る”

相手を最も平和的に支配する方法の一つである。流れるように土下座する明久、哀れ。

 

姫路「あの、良かったら私がお弁当作ってきましょうか?」

 

明久「え?」

姫路がおずおずと声をかけ、明久は一瞬フリーズする。

 

明久「本当にいいの?二日連続で昼に塩と砂糖以外のものを

食べられるなんて、そんな贅沢許されていいの?」

和真「スラム街じゃねぇんだからよ……」

姫路「はい。明日のお昼で良ければ」

雄二「良かったじゃないか明久。手作り弁当だぞ?」

翔子「……雄二が望むなら今度私も作る」

雄二「それは構わないが怪しい薬とかは入れるなよ?」

翔子「………………………………………………

…………………………

………………………

…………………

………………

……わかった」

雄二「なんだ今の長い間は!?」

 

脳内で我々には想像もつかないような凄まじい葛藤でもあったのだろう。

 

島田「……ふーん。瑞希って随分優しいんだね。吉井“だけ”に作ってくるなんて」

 

露骨とも言える姫路の積極的なアピールにこれまたわかりやすすぎる焼き餅を焼く島田。「面白くありません」と顔に書いてある。

 

和真(これに気づかない明久も明久だよな。今もカロリー摂取のチャンスが失われる可能性に焦って島田のほう全く見てねぇし、やれやれ)

姫路「あ、いえ!その、皆さんにも……」

雄二「俺達にも?いいのか?」

姫路「はい。嫌じゃなかったら」

秀吉「それは楽しみじゃのう」

ムッツリーニ「…………(コクコク)」

翔子「……じゃあお言葉に甘えて」

和真「まあ期待しておく」

島田「……お手並み拝見ね」

 

本人も含めて八人分ともなると、かなりの重労働になる。それにもかかわらず姫路は嫌そうな顔一つせず笑顔で頷いた。

 

姫路「わかりました。それじゃ、皆に作って来ますね」

和真(なるほど、明久が惚れんのもなんとなくわかるな)

明久「姫路さん、今だから言うけど、僕、初めて会う前からキミのこと好き」

雄二「おい明久。今振られると弁当の話はなくなるぞ」

明久「……にしたいと思ってました」

和真「いやおかしいだろ!?どう誤魔化そうとしたらそうなる!?」

秀吉「それではただの変態じゃぞ…」

雄二「お前たまに俺の想像を越えた人間になるな」

明久「だって……お弁当が……」

和真「普通ならもうこの時点で距離を置かれてるぞ……」

 

告白と痴漢願望宣言、どちらがドン引きされるのかは悩む余地がない。まあ当の姫路はなんのことかわかってないのか、?マークを頭に浮かべているだけなのだが。

 

雄二「さて、話がかなり逸れたな。試召戦争に戻ろう」

秀吉「雄二。気になっていたんじゃが、どうしてDクラスなんじゃ?段階を踏んでいくならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」

姫路「そういえば、確かにそうですね」

雄二「まあな、当然考えあってのことだ」

 

秀吉達の疑問を聞き雄二が作戦を説明し始める。

 

雄二「色々と理由はあるが、Eクラスを攻めない理由は戦うまでもない相手だからだ。明久、お前の周りにいる面子をよく見てみろ」

明久「え?えーっと…………美少女が三人と馬鹿が二人とムッツリが一人、戦闘狂が一人いるね」

雄二「誰が美少女だと!?」

明久「ええっ!?雄二が美少女に反応するの!?」

ムッツリーニ「…………(ポッ)」

明久「ムッツリーニまで!?どうしよう、僕だけじゃツッコミ切れない!」

和真「くだらねーことしてんじゃねーよ……話の腰折れちまったじゃねーか」

 

呆れ気味に言う戦闘狂。本来の和真はその物騒な評価に違わず専ら周りを振り回す台風のような存在なのだが、クラスメイトのあまりのバカさ加減に今のところ常識人枠に当てはまりつつある。

 

雄二「わりぃわりぃ。ま、要するにだ。姫路、和真、翔子がいるんだ。正面からやってもEクラスには勝てる。全く意味のない戦いだ。だがDクラスとなると正面からだと確実に勝てるとは言えない」

明久「だったら最初から目標のAクラスに挑もうよ」

雄二「初陣だからな。派手にやって今後の景気づけにしたいだろ?それに、さっき廊下で話したときに言いかけた打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスなんだよ」

和真(流石にいきなりAクラスに突っ込むなんてバカなことはしねぇよな。さて、果たしてこいつはどんな作戦でAクラスに挑もうとしてんのかねぇ)

 

和真は雄二のとっておきの策略がいったい何なのか楽しそうに熟考していると、姫路が珍しく大きな声で話を切り出す。

 

姫路「あ、あの!」

雄二「ん?どうした姫路」

姫路「えっと、その。さっき言いかけた、て……吉井君と坂本君は、廊下で試召戦争について話し合ってたんですか?」

雄二「ああ、それか。それはついさっき、姫路のためにって明久に相談されて-」

明久「それはそうと!」

 

ナイスインターセプトpart3。雄二が言いかけた話の内容を姫路に知られることは、年頃の高校生にとっては苦行に等しい。

 

明久「さっきの話、Dクラスに勝てなかったら意味がないよ」

雄二「負けるわけないさ。お前らが協力してくれるなら必ず勝てる」

 

勝利を確信していると言わんばかりの自信に満ちた笑顔で雄二は言う。

 

雄二「いいか、お前ら。ウチのクラスは……最強だ」

 

根拠のない言葉なのに、何故かその気になってくる。雄二の言葉にはそんな力があった。

 

島田「いいわね。面白そうじゃない!」

秀吉「そうじゃな。Aクラスの連中を引きずり落としてやるかの!」

ムッツリーニ「……(グッ)」

明久「僕達は絶対に勝つ!」

姫路「が、頑張りますっ!」

翔子「…雄二は私が守ってみせる!」

和真「なら俺は勝利の道を切り開いてやるよ。

俺達の命運、お前に預けるぜ!」

 

雄二「……そうか!それじゃ、作戦を説明をするぞ!」

 

 

 

 

〈文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール〉

 

一、原則としてクラス対抗戦とする。各科目担当教師の立ち会いにより試験召喚システムが起動し、召喚が可能となる。

二、召喚獣は各人一体のみ所有。この召喚獣は、該当科目において最も近い時期に受けたテストの点数と去年の二学期の心理テスト力の結果によるタイプによって『攻撃力・機動力・防御力』が決定される。(例・攻撃重視なら攻撃力が伸びやすく防御力と機動力が少し伸びにくい)

三、召喚獣が消耗するとその割合に応じて点数も減算され、戦死に至ると0点となり、その戦争を行っている間は補習室にて補習を受講する義務を負う。

四、召喚獣はとどめを刺されて戦死しない限りは、テストを受け直して点数を補充することで何度でも回復可能である。

五、相手が召喚獣を呼び出したにも関わらず召喚を行わなかった場合は戦闘放棄と見なし、戦死者同様に補習室にて戦争終了まで補習を受ける。

六、召喚可能範囲は、担当教師の周囲半径10メートル程度(個人差あり)。

七、戦闘は召喚獣同士で行うこと。召喚者自身の参加は反則行為として処罰の対象となる。

八、戦争の勝敗は、クラス代表の敗北をもってのみ決定される。この勝敗に対し、教師が認めた勝負である限り、経緯や手段は不問とする。あくまでもテストの点数を用いた「戦争」であるという点を常に意識すること。

 




ようやく次回から試召戦争が始まります。
予定ではここまででBクラス戦前まで進めるつもりだったのに、まだDクラス戦すら始まってません。
スケジュールは計画的にしないといけませんね……
では。


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vsDクラス

あんなに前振り引っ張ったのに一話で終わった……
試召戦争メインなんてタグ付けたのにこれじゃ、下手すれば詐欺で訴えられかねないな……



※人と召喚獣は〈〉で区別します。


FクラスとDクラスの試召戦争が始まった。

試召戦争中に教師は戦争に総動員されるため、関係のないクラスは自習となる。自習と言っても、他クラスの試召戦争が原因で授業範囲が終わりきらず長期休暇に補修が追加、ではあまりにもあんまりなので学校側は授業でする予定だったプリントを配るという措置をとっている。

 

優子「代表の言った通り初日から仕掛けてきたわね」

 

Aクラスで自習中の木下 優子は近くにいるメンバーに小声で話しかける。

 

「まあ和真達の情報が知られていないうちに攻めた方が合理的だからね」

 

前の席の銀髪ストレートの男子生徒、大門 徹(ダイモン トオル)は抑揚なく答える。

身長154㎝と男子にしてはかなり小柄で和真以上に童顔だが、本人はかなり気にしているので触れてはいけない。命が惜しいのならば間違っても「“大”門なのに大きくないね?」などと言ってはいけない。

 

「それに和真の性格からしてすぐにでもしたがるだろうしね。人を乗せるのもうまいからこうなるのは概ね予想通りね」

 

徹の席の隣に座る金髪セミショートの女子生徒、橘 飛鳥(タチバナ アスカ)が徹に続く。

伸長168㎝と徹とは対照的に女子にしてはかなり高く、制服の上からではわかりにくいが、余分な脂肪や贅肉といったものを全て削ぎ落とした、美術作品ような体つきをしている。物心ついたときから柔道の稽古を欠かさずしている内にこのような洗練された肉体になったらしい。

 

愛子「ところで、いったいどっちが勝つと思う?」

 

優子の隣の席の工藤 愛子の質問に、三人は即座に返答する。

 

三人「100%Fクラス」

愛子「だろうね♪」

 

三人は迷うことなく即答し、愛子もそう返してくると思っていたようだ。

 

優子「あのクラスには和真、翔子、姫路さんといったそうそうたるメンバーがいるもの」

徹「明らかに過剰戦力だね」

飛鳥「Dクラスが可哀想になるくらいの、ね…」

 

たった三人いるだけでクラス間のパワーバランスが逆転する、それほどまでにあの三人は規格外なのだ。

 

蒼介「大門、飛鳥、そろそろ時間だ。生徒会室に行くぞ」

 

生徒会顧問の一人である高橋先生に、午後生徒会室に集まるよう言われている蒼介は生徒会役員である二人に言い、教室を出る。もっともその高橋先生は試召戦争のため欠席するのだが。

 

徹「ああわかった」

飛鳥「今行くよ」

 

二人は蒼介に続いて教室を出る。そして優子達はそれを見届けた後それぞれの自習に没頭し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路、翔子、和真の三人は戦線に出ないで回復試験を受けていた。振り分け試験の点数が全科目0点扱いで、回復試験を受けてから出ないと戦力にならないからだ。

 

雄二「頼むぞお前ら。この闘いはあいつらが時間を稼いでいる間にお前達の点数補充が済むかどうかにかかっているんだ」

姫路「は、はい!頑張りますっ!」

翔子「……任せて」

和真「はいよ。……まぁ俺の役割はお前の護衛だけだろうがな、やれやれつまらん」

 

他の二人がやる気十分に返事をする中、和真はぼやき気味にそんなことを言う。姫路と翔子は驚いたように和真を見るが、事情を理解している雄二はため息をはいている。

 

姫路「え?」

雄二「それほとんど自業自得じゃねぇか」

和真「はは、否定できねー」

姫路「あの、柊君は前線に参加しないんですか?」

翔子「……真っ先にクラス代表に突撃すると思ったのに、意外」

和真「そうしてぇのは山々だけどよ、残念なことに今回の作戦的にそれは無理なんだわ」

翔子「……なるほど」

雄二「ああ。今回の作戦はシンプルで、お前らがDクラス代表平賀 源二を速攻で討ち取るだけだ」

姫路「え? でも多分平賀君は護衛の人を沢山連れてると思うので、私達二人でも護衛の人たちを全員と戦ってたら時間がかかってしまいますよ?」

 

和真達の意図が理解できていない姫路がおずおずと質問する。確かに普通に考えれば、敵対しているクラスの人間を代表のもとに素通りさせてくれるわけがない。

 

翔子「……瑞希、Dクラスの人達は私達を見てどこのクラスに所属していると思う?」

姫路「え? それは……あっ」

 

ようやく姫路は把握したようだ。

そう、普通に考えれば、だ。

 

雄二「そうだ、新学期初日に他クラスの生徒まで把握してるはずがねぇ。だったら平賀含めDクラスの連中はお前達をAクラスだと判断して、ごく自然に警戒を解いて素通りさせるだろう。注意を引き付けるために代表である俺もついていく。そうして注意が俺に向いているところを一気に叩く。だが、和真はバッチリ警戒されるだろう」

姫路「…あれ? でも柊君もAクラス並の点数じゃ…」

翔子「……成績よりむしろ和真の性格に問題がある」

雄二「ああ、こいつの性格は学年の誰もが知っている。わざとFクラスに行く程度のことはこいつならやりかねない、とほとんどが考えるだろうな」

柊「実際にそうなんだから正しい反応だな」

姫路「な、なるほど…あはは」

 

苦笑しながら姫路はようやく納得する。

その後は淡々とテストをこなす作業が続く。

途中雄二が各部隊長に脅迫文を送ったり、消耗した生徒が点数を補充しに来たり、なぜか怒り狂った島田が須川に引きずられてやって来たり、雄二が須川に『明久の船越先生(婚期を過ぎて単位を盾に生徒に迫るおばさん教師)への意味深な誘い』を放送室で流させたり、姫路はその放送で明久の好みを勘違いして勝手に落ち込んでたり、明久がその報復を雄二にしようとして軽くあしらわれたりしたが、特に問題はない。

 

和真「おーい、終わったぞ」

姫路「私も終わりました!」

翔子「……私も」

 

三人の回復試験がようやく終わったようだ。

 

雄二「よしお前ら、明久達に加勢するぞ!翔子と姫路はFクラスだとバレないように平賀に勝負を申し込んで来てくれ。それから和真、俺はDクラス連中を引き付けるから、お前は死ぬ気で俺を守れ。お前は別に死んでもいいから」

和真「もっとましな頼み方できねーのかよ、ったく……まあやっと暴れられるんだ、文句はねーよ。あと雄二、死にたくなかったら俺の近くで召喚獣は絶対だすなよ?」

 

 

 

 

『あ、あれはFクラス代表の坂本と…ひ、柊だぁ!』

 

布施先生を連れた雄二と和真を見つけたDクラス生徒が叫ぶ。やはり和真はしっかり警戒されたらしく、Dクラス生徒達は呂布に遭遇した雑魚兵士のような反応をする。

 

「本隊の半分は坂本達を獲りに行け! さすがの和真でも複数で囲めば勝ち目はあるはずだ! 他のメンバーは囲まれている奴を助けるんだ! 」

『お…おおー!』

 

Dクラス代表平賀 源二の号令の下、あっという間に雄二達の周りがDクラスメンバーで囲まれる。

 

和真「なるほど、気合い十分だな。布施センセ、Fクラス柊 和真がDクラス8人に化学勝負を申し込むぜ、試獣召喚(サモン)!」

Dクラス生徒『さ、試獣召喚!』

 

叫んだ直後、足元に顕れる魔方陣。

そして現れる、和真の分身。

 

 

『Fクラス 柊 和真 328点

VS

Dクラス 生徒×8 平均115点』

 

 

黒いジャケットを身に纏い.その下に赤いシャツを着た和真の召喚獣。

まともな防具は一切身につけておらず、彼の点数にしては異常なほど軽装備だ。しかし、Dクラス生徒達の注目を集めたのは、手に持っている巨大な槍だ。

長さが背丈より3倍以上あるゴツい槍を軽々とかついでる召喚獣は、一目で強敵だと判断できる。

 

『ひっ、怯むなぁ! 全員で襲いかかれぇ!』

 

一人がそう叫ぶと、Dクラスの召喚獣達は一斉に飛びかかる。

周りを囲んで同時攻撃、多対一の定石に沿ったお手本のような攻め方だろう。

 

 

だが、今回ばかりは完全に悪手だ。

 

 

和真「だりゃぁああああああっ!!」

 

〈和真〉が槍の端を持って軽々と振り回し、Dクラス生徒を一人残らず薙ぎ払う。

 

『Fクラス 柊 和真 328点

VS

Dクラス 生徒×8 戦死』

 

宙を舞う8体の召喚獣。まさに一撃必殺だ。

 

『ば、馬鹿な!? 一瞬で全滅だとぉ!?』

『だから俺は嫌だったんだ! なんかやられ役押し付けられた感じだったしよぉ!』

『そもそも私達死亡フラグ建てすぎでしょ!?』

混乱のあまり、意味不明なことを叫び出す始末。

鉄人「0点になった戦死者は補習ぅぅぅ!」

『ぎゃぁああああああああ!』

 

無惨にも和真のデビュー戦の噛ませに成り下がったやられ役達はどこからともなく現れた鉄人にまとめて連行されていった。

 

雄二「相変わらず滅茶苦茶だな……そんなバカでかい槍をなんであんなに速くぶん回せるんだよ?」

和真「そりゃ防御を極限まで削って腕力と機動力を上げているからな。おかげでAクラス上位レベルとは思えねぇほど紙装甲だぜ!」フンス

雄二「なんでそこでどや顔だよ…」

 

『勝者、Fクラス!』

 

雄二「お、翔子達が平賀を殺ったみたいだな」

和真「それじゃあ行くか、お楽しみの戦後対談に」

 

二人はDクラスにむかって凱旋とばかりに肩で風を切って歩き出す。

 

 

 

 

 




和真君無双! さんざんぼやいておきながら美味しいところは持っていくちゃっかりものです。
バトルシーンすらなく殺られた平賀君、ごめん、悪気はなかったんだ……

ここに書くことも無くなってきたので召喚獣のデータでも載せていきます。まずはこの作品の主人公その1。

柊 和真
・性質……攻撃特化&防御度外視型
・総合科目……3800点前後 (学年6位)
・400点以上……現代文・古典・歴史・現社・英語・地理
・ステータス(F・E・D・C・B・A・S・SSで表す)
(総合科目)
攻撃力……SS
機動力……A+
防御力……F+
・腕輪……まだ不明
『攻撃は最大の防御』を体現したかのようなステータス。「やられる前にやる・当たらなければどうということはない」がモットーである。攻撃力は高橋女史さえも凌駕し文句無しに学園最強だが、防御力はFクラス上位程度でしかなく、Aクラスレベルが相手だとまともに食らえば一撃で半分ほど持っていかれる。これほど偏ったステータスは和真以外にいない。そもそも上位成績者は弱点を突かれることを好まないので偏りが小さくなっていく。槍も全武器中最大。積極的にトップを狙いにいく姿勢はある意味立派である。また、腕輪の能力も攻撃に特化した能力らしい。

モチーフはデオキシスアタックフォルムです。
では。


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キャラ紹介その2

前話でちょっとだけ出た二人の紹介です。

あと、読み方は
桐谷…キリタニ
御門…ミカド
です。

※ネタバレ要素を含みますので注意してください。


・大門 徹(ダイモン・トオル)

2年Aクラス

身長154㎝→155㎝(二学期)

体重44kg→45㎏(二学期)

髪:銀髪

得意教科:物理・数学

苦手教科:特になし

趣味:手品、握力トレーニング

好きなこと:スイーツ巡り

嫌いなこと:身体的特徴を馬鹿にされること

コンプレックス:…………………………察しろ

通称:リトルバーサーカー、文月1器の小さい男、リトルフードファイター

備考:生徒会書記

 

Aクラスの男子生徒。

クールに見えるが沸点は高くなく、挑発にも乗せられ易い。そして非常に執念深く器も小さい。

成績は和真に次ぐ学年7位の成績であり、特に物理と数学に至っては霧島 翔子をも凌駕する。

男子にしては極めて小柄で非常に幼い顔だちをしているので、見ず知らずの人からはよく小学生と間違われる。本人はこのことをかなり気にしており、遊び半分でおちょくる輩には暴力も辞さない。

小学生のころ『小門』というアダ名をつけられ、悪ガキどもにいじめられていたことがある。屈辱を味わった彼はいじめっ子どもをねじ伏せる力を求めるようになり、どういうわけか、最終的に全てを握り潰す握力を手に入れた(その後、まとめて返り討ちにし、いじめはなくなった)。そのおかげで握力がトランプの束を契れるほどある。

非常に小柄だが運動神経はかなり良く身体能力もかなり高い。また、書記役員だけあってなかなか達筆である。

意外と性欲は人並にあるが、常識とモラルとそれなりのプライドはあるので普段は表に出さない、真のムッツリ。

重度の甘党でありとあらゆる物に練乳をかけて食べる。どこからともなく自身と同じくらいのサイズのケーキを取り出す手品が得意。実は二学年一の大食い。

 

 

・パラメーター

ルックス…4

知能…4

格闘…4

器用…4

社交性…2

美術…2(お菓子作り限定なら5)

音楽…5

料理…3(お菓子作り限定なら5)

根性…4

理性…2

人徳…2

幸運…3

カリスマ…2

性欲…3

 

 

 

 

 

 

 

・橘 飛鳥(タチバナ アスカ)

2年Aクラス

身長168㎝→170㎝(二学期)

体重58kg→60㎏

髪の色:金色のセミショート

得意教科:無し

苦手教科:無し

趣味:自己鍛練、紅茶、華道

好きなこと:努力が報われること

嫌いなこと:他人の努力を笑うこと、無駄に贅沢なこと

悩み:女子からラブレターをよく貰うこと

備考:生徒会副会長・柔道部エース→主将

 

 

Aクラスの女子生徒。

可愛らしいというよりカッコいい顔だちでなかなかの美人。幼い頃から稽古を欠かしたことがなく、女子特有の線の細さと格闘家のように引き締まった筋肉を併せ持っている。島田と同じレベルの貧乳だが本人は何一つ気にしてないし、あると邪魔になるので大きくならないで欲しいと思っている。

困っている人がいたらとりあえず助けにいくほど正義感が強い。「自分に厳しく他人に優しく」がポリシー。

四大企業、橘社の一人娘であり蒼介の許嫁。

幼い頃から和真、蒼介と仲良しだが、二人と比べて才能に恵まれず、友情と嫉妬の板挟みで悩んでいたがなんとか吹っ切り、才能が足りないなら努力で補い二人に食らい付いていこうと誓った。長年の努力の成果か、身体能力は女子のレベルを逸脱しており、喧嘩も並大抵の男子では歯が立たず、ぶっちぎりで女子1位である(ちなみに2位は優子)。

勉学にも真剣に取り組み、学年10位の成績を残している。

許嫁は企業同士の決めた政略結婚ではなく、彼女が蒼介に思いを告げた形である。むしろ“鳳”と“橘”の結びつきを警戒した“桐谷”と“御門”が接近し、二対二の構図ができてしまった。4つ上の兄がいて、企業を継ぐために海外の大学に留学している。和真とも仲が良いだが和真が屋外スポーツ派に対し彼女は屋内スポーツ派のため、趣味は合わない。

 

一学期末、夏のインターハイで見事悲願の全国優勝を果たした。

 

 

・パラメーター

ルックス…4

知能…3

格闘…4

器用…2

社交性…4

美術…1

音楽…4

料理…4

根性…5

理性…4

人徳…4

幸運…3

カリスマ…4

性欲…2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このプロフィール書いていて思ったことは『むしろ飛鳥さんの方が主人公向きなんじゃないか』と。
まあそれは置いといて、この作品では去年の振り分け試験前の学年順位は

一位、鳳 蒼介 ???点
二位、霧島 翔子 4698点
三位、姫路 瑞希 3987点
四位、久保 利光 3970点
五位、木下 優子 3832点
六位、柊 和真 3775点
七位、大門 徹 3643点
八位、佐藤 美穂 3456点
九位、工藤 愛子 3229点
十位、橘 飛鳥 3106点

となっています。

余談ですが、いくつかのオリキャラ達の名前は『スクライド』という作品のキャラに由来しています。しかし転生者というわけでわなく、特に関係はないのでご注意を。

では。


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戦後対談

投稿した後も何度か読み返しているのですが、誤植がもうでるわでるわ。見つけるたびに自己嫌悪に陥ってしまいます…


 

Dクラス代表 平賀源二 討死

 

『うぉぉぉぉぉっ!』

 

その報せを聞いたFクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴が混ざり合い、耳をつんざく大音響が校舎内に響き渡る。

 

『凄ぇよ! 本当にDクラスに勝てるなんて!』

『これで、畳や卓袱台ともおさらばだな!』

『ああ。アレはDクラスの連中の物になるんだがらな』

『坂本 雄二サマサマだな!』

『やっぱりアイツは凄い奴だったんだな!』

『坂本万歳!』

『姫路さん愛しています!』

『霧島さんがこの世にいてくれるだけで僕は幸せです!』

代表である雄二を褒め称える声があちこちから聞こえる。

和真(というか最後の奴どんどん妥協してるな)

 

Dクラスの生徒達はというと、殆どがガックリとうなだれた状態である。その表情は現実を受け入れることができないといと言わんばかりに苦悶に満ちている。最底辺クラスに負けたのだ、その心情は推してしるべきであろう。

その奥では、雄二がFクラスのメンバーに囲まれている。

 

雄二「あー、まぁ、なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか…」

 

頬を搔きながら照れ臭そうに明後日の方向を見る雄二。ずいぶんと意外な反応である。

 

『坂本!握手してくれ!』

『俺も!』

 

完全に英雄扱いの雄二。あの教室にどれだけ不満があったかがわかる。そんな中、笑顔の奥に殺意を滲ませた明久が雄二にゆっくりと近づいていく。

 

明久「雄二!」

雄二「ん?明久か」

坂本が振り向く。そこへ、明久が駆け寄って手を突き出す。

 

明久「僕も雄二と握手を!」

雄二「ぬぉぉ!」

 

ガシィッ

 

明久「雄二……! どうして握手なのに手首を押さえてるのかな……!」

 

雄二「押さえるに……決まっているだろうが……!フンッ!」

 

雄二は明久の手首を捻りあげると、明久は握っていた包丁を取り落とす。

 

和真(いや流石に憎みすぎだろ…と思ったがそうでもねー…か?)

 

試召戦争中のやり取りを思い出し、どう判断するか迷う和真。明久は無い知恵を絞ってどうにか誤魔化そうとするが、流石にもう手遅れであると思われる。

 

明久「雄二、皆で何かをやり遂げるって、素晴らしいね」

雄二「……」

明久「僕、仲間との達成感がこんなにもいいものだなんて、今まで知らな間接が折れるように痛いぃっ!」

雄二「今、何をしようとした」

 

おそらく全年齢対象のこの小説では決してしてはいけないことだろう。この小説は全年齢対象でやっていくつもりなので、阻止できた雄二GJである。

 

明久「も、もちろん、喜びを分かち合うための握手を手首がもげるほどに痛いぃっ!」

雄二「おーい。誰かぺンチを持ってきてくれ!」

明久「す、ストップ!僕が悪かった!」

雄二「…チッ」

 

舌打ちをして明久を解放する。R-15指定ルートはなんとか避けられたようだ。

 

平賀「まさか、姫路さんと霧島さんがFクラスだなんて……信じられん」

 

その後ろから力無く歩み寄る平賀。平静を装ってはいるが、無理しているのは誰の目にも明らかである。

 

 

和真「あれ? 源二、俺は?」

平賀「お前の場合わざとFクラスに行くことぐらい、別に不思議でもなんでもないからな」

和真「あっそ……」

 

友人の冷たい反応に和真は少し悲しくなる。

 

姫路「あ、その、さっきはすいません……」

平賀「いや、謝ることはない。全てはFクラスを甘く見ていた俺達が悪いんだ」

 

姫路達のやり方はまさに騙し討ちだったが、これも戦略の内、咎められることでもない。

 

平賀「ルールに則ってクラスを明け渡そう。ただ、今日はこんな時間だから、作業は明日からで良いか?」

明久「もちろん明日で良いよね、雄二?」

 

これから三ヶ月の間戦犯扱いされ、肩身のせまい思いをするであろう平賀を可哀想に思ったのか、明久は雄二にそう聞く。

 

雄二「いや、その必要はない」

和真(…なに? 設備交換しねぇのか?)

 

それは明久は勿論、和真にとっても予想外の返事だったようだ。

 

吉井「え?なんで?」

雄二「Dクラスを奪う気はないからだ」

 

さも当然のことのように告げる雄二。その態度に明久はますます混乱する一方である。

 

明久「雄二、どういうこと?折角普通の設備を手に入れることができるのに」

雄二「忘れたか? 俺達の目的はあくまでもAクラスのはずだろう?ここで設備を替えたらまずいだろ」

和真(なるほどねぇ……モチベーション維持のためか)

明久「???」

和真(やっぱり明久はわかってねぇか、仕方ねぇな)

 

雄二の目論見をようやく察した和真はまるで理解していない明久に説明する。

 

和真「明久、今まで最底辺の設備だったのがまともなものになったら喜ぶだろ?」

明久「え?そ、そりゃそうだよ!だから」

和真「まあ聞け。でもな、それと同時にその設備を失うのが嫌になる奴もいるだろ?つまりそう言うことだ」

明久「え?ど、どういうこと」

和真「……はぁ……つまりAクラスに戦争を仕掛けることに反対する奴が出てくるんだよ、交換しちまうと」

明久「な、なるほど…」

雄二「…和真、お疲れさん」

和真「もっとねぎらえ…可能な限り」

 

疲れたように言う和真。ちなみに話についていけなくなった明久にわかりやすく説明するのは、去年からだいたい和真の役目だったりする。

 

明久「でもそれなら、何で標的をAクラスにしないのさ。設備を替えないならこんな回りくどいことをしなくてもいいじゃないか」

雄二「少しは自分で考えろ。そんなんだから、お前は近所の中学生に『馬鹿なお兄ちゃん』なんて愛称をつけられるんだ」

明久「なっ!そんな半端にリアルな嘘をつかないでよ!?」

和真「そうだぞ雄二。小学生だよ、多分」

明久「…………人違いです」

雄二「まさか……本当に言われた事があるのか……?」

和真「…………マジかよ」

 

悪ノリがまさかの的中で思わず絶句する和真。そのときの明久は穴があったら入りたい気分だったという。

 

雄二「と、とにかくだな。そういうわけでDクラスの設備には一切手を出すつもりはない」

平賀「それは俺達にはありがたいが……それでいいのか?」

雄二「もちろん、条件がある」

 

おそらくその条件が、Dクラスと試召戦争をした最大の目的だろう。

 

平賀「……一応きかせてもらおうか」

雄二「なに。そんなに大したことじゃない。俺が指示を出したら、窓の外にあるあれを動かなくしてもらいたい。それだけだ」

 

雄二が指したのはDクラスの窓の外に設置されているエアコンの室外機。しかしあれはDクラスの物ではなく、

 

平賀「Bクラスの室外機か」

雄二「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨まれる可能性もあるとは思うが、そう悪い取引じゃないだろう?」

 

それだけでFクラスの設備を回避出来るなら確かに悪い取引ではないし、うまく事故に見せかければ厳重注意程度で済むだろう。

和真(あれを壊すってことは次の標的はBクラス……学年で二番目のクラスか、腕が鳴るぜ!)

 

今日散々やりたい放題しておいてもう次の戦争のことを考えている和真。思考回路が完全にバトルジャンキーのそれである。

 

平賀「それはこちらとしては願ってもない提案だが、なぜそんなことを?」

雄二「次のBクラスの作戦に必要なんでな」

平賀「……そうか。ではこちらはありがたくその提案を呑ませて貰おう」

雄二「タイミングについては後日詳しく話す。今日はもう行っていいぞ」

平賀「ああ。ありがとう。お前らがAクラスに勝てるよう願っているよ」

雄二「ははっ。無理するなよ。勝てっこないと思っているだろ?」

平賀「それはそうだ。AクラスにFクラスが勝てるわけがない。霧島さん達がいても、Aクラスには鳳がいるしな」

 

軽口を叩きあった後、平賀は去っていった。

 

雄二「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくりと休んでくれ!解散!」

 

雄二が号令をかけるとFクラスの連中は雑談を交えながら教室に向かい始める。帰り支度をするのだろう。

 

和真「…さてとっ!一段落したことだし10人集めてサッカー部に試合でも申し込むか!明久、お前も混ざるか?」

明久「いや、流石に疲れたから今日は帰るよ」

和真「そうか。じゃあ誰を誘うかな、とりあえず『アクティブ』のメンバーに、残りはこいつとこいつと…」

 

そう言いながら連絡先を吟味する和真。ちなみに二年生の連絡先は男女問わずほぼコンプリートしている。

 

明久(相変わらずすごい量だね…女の子のメアド教えてくれるよう頼んじゃダメかな)

 

駄目に決まっているだろ。

 

ちなみに『アクティブ』というのは和真が一年生のときに結成した部活荒らしチームであり、各部活に練習試合を申込むときはこのチームのメンバーが中心となる。

 

姫路「あ、あのっ、柊君っ」

和真「あん?」

 

参加メンバーを吟味し終えた和真に姫路が話しかける。

 

和真「姫路か、どうした?」

姫路「実は、柊君に聞きたいことがあるんです」

和真「…どんなことだ?」

 

大事な話みたいなので明久は二人から離れる。

しかしやはり気になるのか二人の方を見る明久。

姫路はまっすぐに和真の目を見ていた。

余程大事な用件なのか、姫路の表情は真剣そのものだ。

しかししばらくすると、二人とも楽しそうに笑っていた。

 

明久(和真が楽しそうに笑うのは珍しくないけど、姫路さんまであんなに楽しそうにしているってことは……まさか愛の告白!?そうか!姫路さんは和真が好きだったのか!和真だって男だもんね、趣味が合わないとはいえ、あんな可愛い子に好意を寄せられたら悪い気はしないだろう)

雄二「おーい明久、そろそろ帰るぞ」

 

雄二と翔子が声をかけてくる。雄二達とは家の方向が同じだからよく一緒に帰っている。

 

明久「(二人とも楽しそうだからそっとしておいてあげよう)……わかった、すぐ行くよ!」

 

そうして明久達は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「あ、そうそう。明久が試召戦争を仕掛けた理由は今言った通りだけど、雄二が翔子とクラスが離れることを覚悟してまでFクラスに来た理由もついでに教えてやろうか?」

姫路「え?はっはい、是非!」

和真「明久のためだよ」

姫路「吉井君のため…ですか?」

和真「普段から努力していたお前が手違いでFクラスなんかに入れられたら、明久が試召戦争を仕掛けようとすることなんて雄二にはお見通しだ。だが明久だけじゃ成功するはずがねぇ。俺や翔子は雄二にとっても予想外だっただろうしな。あいつはお前のために頑張る明久を助けてやりたくてここに来たんだよ。素直じゃねぇから絶対認めねぇだろうがな」

姫路「そんな理由があったんですか……やっぱりあの二人は仲が良いんですね♪」

和真「普段は全力でお互いの足を引っ張り合っているがな、それはもう不毛なほど」

姫路「ふふっ……あ、柊君はなぜFクラスに?」

和真「なんとなく面白いことが起きそうな気がしたんだよ。現在進行形で起きてるしな」

姫路「なんだかすごく柊君らしいですね」

和真「そりゃな。自分らしく生きてこそ人生だろ。姫路はどうなんだ?」

姫路「え?」

和真「自分のために一生懸命な奴がいる…それを知ってどう行動するのが“姫路 瑞希らしい”んだ?」

姫路「……それは勿論---です!」

和真「…そうか、頑張れよ!おっ返信来てる来てる…よしよし全員オーケーだな…そろそろグラウンドに行くか、じゃあな姫路!」

姫路「はいっ、また明日!」

 

 

 

 




和真と姫路の会話。
原作では雄二がしてましたが翔子さんがいる以上、明久が愛の告白だと勘違いするのは、またそれをおとなしく見ているのは流石に無理があったのでチェンジしました。
確認しますが、この作品の雄二は原作よりほんの少し明久に優しい性格です。スプーン一杯分くらいは。

吉井 明久
・性質……速度重視型
・総合科目……800点前後
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……F
機動力……E
防御力……F

雑魚。以上。
操縦者が明久でなければ、Fクラス雑兵レベルである。


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ラブレターとお弁当

本編にサッカー及びキャプつばネタが多々出てきますが、別に無視しても構いません。
伏線でもなんでもない茶番なので。


雄二達と一緒に帰っていたが、教科書を卓袱台の下に忘れたので校舎に取りに戻って来た明久。

 

明久「はあ、やれやれ…ん?和真?」

 

余計なカロリーを浪費した明久は嘆息しながら上履きを履きFクラスに向かおうとすると、グラウンドでサッカーをしている和真を見つけた。

 

和真「どけぇぇぇぇぇ!」

『で、でたぁ! 和真の強引なドリブルだぁ!』

『おいびびってんじゃねぇよ、ボール取りに行け!』

『いや、でもよう…』

 

ただ全速力でドリブルしているだけなのだが、和真のあまりの気迫とスピードに萎縮してプレスをかけに行くのを躊躇してしまうサッカー部員。

 

和真「勝つ気のねぇディフェンスで俺を止めようなんざ……思ってんじゃねぇぇぇぇぇ!」

 

それをあっさりと突破する和真。日頃練習に励んでいるであろうサッカー部レギュラー達をまったく寄せ付けぬそのプレーは圧巻である。

 

『サッカー部レギュラーがびびってんじゃねぇ!いいから複数で取り囲め!』

 

『お、おおー!』

キャプテンらしき人に渇を入れられ持ち直すサッカー部員達。4人がかりで和真を取り囲んだ。

 

和真「上等だぁぁぁぁぁぁ!

 

……なんてな♪」

『な、なにィ!』

強引にドリブルで切り込むと思わせてペナルティエリア内にセンタリングを上げる和真。そのボールの先にいたのは…

優子「とりゃっ!」

 

ノートラップランニングボレーで正確にシュートを決めるAクラス代表代理の木下 優子。キーパーは一歩も反応できずにボールはゴールネットに突き刺さる。

 

『ゴーーール!』

 

和真「ナイスシュート!」

優子「ナイスアシスト!」

 

ハイタッチした後自分達側のピッチに引き返していく二人。

 

明久(…すごいの見てしまった。秀吉のお姉さんなのに運動神経抜群だなぁ木下さん。)

 

微妙に秀吉に失礼なことを考えながら、明久は自分の教室に向かう。

 

明久「たっだいまー」

 

まるで我が家のように声をかけて教室に入る明久。しかし教室内にはすでに先客がいた。

 

明久「あれ? 姫路さん?」

姫路「よ、吉井君!? とどどどうしたんですか?」

 

必要以上に慌てる姫路。座っている卓袱台の上には可愛らしい便箋と封筒が置いてあった。

 

姫路「あ、あのっ、これはっ」

明久(何をしているんだろう。まるで和真へのラブレターに使うような便箋と和真へのラブレターに使うような封筒を用意しているみたいだけど、使い道がわからない)

 

『現実を見ろ。明らかにラブレターだ』

 

明久の中の悪魔が語りかける。

こんな奴が脳内にいる時点で、明久は相当愉快な人間である。

 

明久(黙れ僕の中の悪魔! これがラブレターだという証拠でもあるのか!)

姫路「これはですね、そのっ」

明久「うんうん。わかってる。大丈夫だよ」

姫路「えっとーーふあっ」

 

姫路は卓袱台につまずいて転ける。その拍子に隠そうとしていた手紙が明久の前に飛んでいき、その一文が目に入る。

 

《あなたのことが好きです》

 

明久「…………」

『……これ以上ない物的証拠だと思うが』

明久「…………」

『わかっただろう?これが現実だよ。さ、諦めて認めようぜ?』

 

明久は飛んできた手紙を綺麗にたたみ、姫路に返す。

そして笑顔で一言。

 

明久「変わった不幸の手紙だね」

『コイツ認めない気だ!?』

明久(何を言うんだこの悪魔め!お前の言葉はいつも僕を不幸にする!もう騙されないからな!)

 

脳内のキャラに騙されたことが多々あるのが、明久が明久たる所以である。

 

姫路「あ、あの、吉井君…それは不幸の手紙なんかじゃないですから」

明久「嘘だ!それは不幸の手紙だ!なぜなら…実際に僕はこんなにも不幸な気分になっているじゃないか!」

姫路「吉井君」

 

取り乱す明久を抑えようと姫路がそっと手を握る。

 

姫路「落ち着いて下さい。そんなに暴れると身体をぶつけて怪我をしちゃいますよ?」

 

諭すように姫路が言うと、明久は落ち着く。それと同時に、現実が明久の中に浸透し始める。

 

明久「……仕方ない。現実を認めよう……

その手紙、相手はウチのクラスの…」

姫路「……はい。クラスメイトです」

 

顔を真っ赤にしながらも迷いなく答える姫路。明久は相手が和真だと確信する。

 

明久(それにしても和真か…)

 

ちらっとグラウンドにいる和真を見ると……

 

『やべぇ! ペナルティエリア内に切り込まれた!』

『今度こそくるぞ! 今度こそしっかり止めろよキーパー!』

『わ、わかった!』

和真「くらえサッカー部! これが俺のタイガーショットだぁあああ!」

『ぶべらぁっっっ!』

『なにィ!』

 

和真のシュートの威力は凄まじく、キーパーを吹き飛ばしゴールネットをも突き破った。

 

『ゴォーーーーーール!』

 

『バカヤロー! 止めろっつっただろ!』

『いや無理に決まってんだろ! だってタイガーショットだぜ!?』

『なーにがだってタイガーショットだぜ、だ! ただおもいっきり蹴っただけじゃねーか!』

『そうだよ!ただおもいっきり蹴っただけだよ! かつて全国の小~中学生がどれだけ真似したと思ってんだ!?』

『知るかぁあああ!』

 

チームワークが乱れ始めるサッカー部。

すでに得点は0-4と一方的な試合だ。

 

明久(…………まあ和真は外見は良いし、 姫路さんほどじゃないけど成績も良い。人当たりも良いし、若干サディストで戦闘狂だけど本当に困っているときには絶対に助けてくれる優しさもある…姫路さんが好意を持つのもわかるな。もし相手が雄二とかだったら腕の良い脳外科医を紹介しているところだけど)「姫路さんはそいつのどこが良いの?実は優しいところ、とか?」

姫路「はいっ!優しくて、明るくて、いつも楽しそうで……私の憧れなんです」

明久「……その手紙、良い返事が貰えるといいね」

明久(これは邪魔なんてできるワケがない。クラスメイトとして応援してあげよう)

姫路「はいっ!」

 

元気よく返事し、嬉しそうに笑う姫路。

明久は和真を心の底から羨ましいと思った。

 

『よし! マークを振り切った! サッカー部の威信に賭けて、なんとしても1点は取るぞ!』

 

和真側ディフェンダーがプレスを仕掛けるがサッカー部員はいち早くシュートモーションに入る。

 

『遅いぜ! くらぇぇぇ!』

 

ペナルティエリア外からサッカー部員は強烈なシュートを放つ。だが、

 

蒼介「無駄だ!」

蒼介はあっさりとキャッチする。

『ばかなぁぁぁ!』

『うちのエースのシュートをあんな簡単に…』

『まさにS・G・G・K……』

 

そして試合終了のホイッスルが鳴る。

結果は0-7。サッカー部の惨敗である。

この試合後、レギュラー達は監督に地獄のような猛特訓をさせられるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

翌朝、いつも通り学校に向かう。クラスの大半の生徒は昨日消耗した点数を補充する為のテストを受ける。和真は昨日のうちに回復試験を済ませ、その後も一点も消耗してない為その必要はないが、流石に外に出るわけには行かないので、死ぬほど退屈している。

そんな時、近くで明久と島田が揉めていた。

 

島田「おかげで彼女にしたくないランキングが上がっちゃったじゃない!」

 

どうやら昨日の試召戦争で明久が何かをしでかし、その責任を島田になすりつけたらしい。

島田「……と、本来は掴みかかっているんだけど」

 

そのセリフはまだ危害を加えてない人が言うセリフである。既に明久の顔には殴られたような跡があるし、ついでに鼻血も出ている。

 

島田「アンタにはもう充分罰が与えられているようだし、許してあげる」

明久「うん、さっきから鼻血が止まらないんだ」

島田「いや。そうじゃなくてね」

明久「ん?それじゃ何?」

 

島田は心から楽しそうに告げる。

 

島田「一時間目の数学のテストだけど。監督の先生、船越先生だって♪」

 

全速力で明久は教室から出ていった。

和真の脳裏に昨日の校内放送が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

明久「うあー……づがれだー」

 

力を使い果たし、明久は机に突っ伏す。

とりあえず四教科が終了した(ちなみに船越先生は明久が近所のお兄さん(?)を身代わりにし、事なきを得た)

 

雄二「よし、昼飯食いに行くぞ! 今日は確か姫路が弁当を振る舞ってくれるんだったな」

姫路「は、はいっ。迷惑じゃなかったらどうぞっ」

 

そういって弁当が入っているであろうバッグを嬉しそうに出す姫路。

 

明久(そうだった! 姫路さん、君はなんていい子なんだ!君のおかげで僕はもう少し長生きできるよ!) 

 

もちろんカロリー的な意味である。

 

明久「迷惑なもんか! ね、雄二!」

雄二「ああ、そうだな。ありがたい」

姫路「そうですか?良かったぁ~」

 

それはもう嬉しそうに笑う姫路。

 

明久(やっぱり僕には優しい女の子の気持ちってよくわからないな)

 

島田「むー……っ。瑞希って、意外と積極的なのね……」

 

そして割と理不尽な動機で明久を親の仇のように睨む島田。

 

明久(そして厳しい女の子の気持ちもわからない)

 

秀吉「それでは、せっかくのご馳走じゃし、こんな教室ではなくて屋上でも行くかのう」

明久「そうだね……あれ?そう言えば和真は?」

 

いつも悪戯好きのような笑みを浮かべた友人がいつの間にかいなくなっていることに明久は気付く。

 

翔子「……和真なら、さっき『今日は別の教室で食べる』と言って出ていった。多分忘れてたんだと思う」

明久「なんだって!? 全く和真のやつ!」

雄二「和真の交遊関係は恐ろしく広いからな、探し出すのは無理だろう。今回は諦めるしかないな」

姫路「そうですか…残念です…」

明久(全く…自分に好意を持っている女の子との約束を忘れるなんて和真もデリカシーがないなぁ…姫路さんが落ち込んじゃってるよ…後でガツンと言ってやる!)

 

 

 

 

 

 

その頃、Aクラスでは…

 

優子「ところで、別にいいけどなんでアンタはこっちで食べてんの?」

 

弁当を食べながら優子が聞く。

 

和真「ああ、何だか身の危険を感じてな…」

工藤「え?そんな理由で?」

蒼介「ふむ…お前がそう感じたなら、なにかあるんだろうな」

飛鳥「あなたの勘は昔から当たるものね」

徹「前から思っていたけど、それは予知能力のようなものなのかい?」

和真「そんなオカルトじみた便利なもんじゃねぇよ。俺が感じとれんのは身の危険と面白いことの気配だけだ」

優子「その時点ですでにオカルトじゃない」

蒼介「オカルト…というよりは本来人間持っていた力じゃないだろうか。望むものと自分にとっての危険を察知する、人間が進化の過程で失ってしまった感覚、言うなれば“天性の直感”とも言うべきか」

 

そんな他愛ない話をしているうちに、和真達は食事を終えた。

 

和真「さてと、次の試召戦争前の前哨戦だ!徹、フリスペでバトルしようぜ!」

 

召喚獣訓練フリースペース、通称フリスペ。

四大企業、桐谷グループ発案で職員室に設置された常時展開型召喚フィールドだ。教師の許可を得て召喚獣の操作訓練を自由に行える場所であり、このフィールドで闘っても終了後点数が戻るというオプション付きだ。

と、中々便利なシステムなのだが、利用者はほとんどいない。なぜかというと、成績が悪い生徒は使用許可が降りないのだ。召喚獣の操作以前に成績をなんとかするべきだからだろう。逆に成績優秀な生徒(一部を覗く)は試召戦争の旨みが少ない上、成績不良者は使用できないので操作技能で差がでることはあんまりないのでメリットが少ないのだ。また、成績優秀者ほど真面目な生徒が多いので、やはりテストの点数を重視するからだ。よってフリスペ利用者は毎年ほんの数名だ。だが、このシステムが設置された後、学年の成績は明らかに伸びたらしい。それにはちゃんと理由がある。

 

徹「それはかまわないけど、どうして鳳じゃないんだい?」

 

食後のデザートを食べながら徹は問いかける。ケーキに練乳をふんだんにかけて食べている光景は見ているだけで胸焼けがしてくる。甘党にも限度があるだろう。

 

和真「だから言っただろ、試召戦争前だって。戦争前にもし負けちまったら縁起でもねぇだろ?」

徹「…なるほどなるほど。つまり君は、僕相手なら確実に勝てると、そう言いたいのかい?」

 

怒りを滲ませながら言う徹。表情はクールを装っているが、こめかみがひきつっているあたり冷静さを失いかけている。

 

和真「あぁそうだ、お前になら確実に勝てるぜ! ただし数学と物理以外でな!」

 

挑発しつつもさりげなく自分の苦手科目で相手の得意科目の二つを外す和真。抜け目がない。

 

徹「よーしわかった、そのふざけた自信をバラバラに引き裂いてやるよ!」

和真「へへっそう来なくちゃな!」

 

あっさりと挑発に乗せられ、職員室に向かう二人。

 

(ちょ…ちょろすぎる…)

 

残りの皆は呆れつつも気になるのか、彼等に着いていく。

 




というわけで和真君死亡フラグをキッチリ回避&オリジナルシステム登場でした。
今回は島田。

島田 美波
・性質……バランス型
・総合科目……950点前後
・ステータス(F・E・D・C・B・A・S・SSで表す)
(総合科目)
攻撃力……F+
機動力……F+
防御力……F+
(数学)
攻撃力……C+
機動力……C+
防御力……C+

総合科目はFクラス内では上位だがFクラスはFクラス、全体的に低スペックである。しかし数学科目だけはBクラス上位レベルであり、Fクラスの貴重な戦力である。

では。




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料理人の心構え

注意:大門 徹君とのバトルはカットされました。
徹「バカな!?」


和真「もらったぁっ!」

 

〈和真〉の槍が身に纏っている鎧ごと〈徹〉を貫く。意気揚々と勝負を引き受けた徹であったが、割と一方的な展開で決着が着いた。

 

徹「くっ、僕の負けか…相変わらず無駄に操作がうまい…」

和真「まあキャリアが違うからな」

 

同学年で和真ほどフリスペを利用している生徒はいない。召喚獣を手に入れたときから週に四回ほどのペースで誰かと闘っている。そのお陰で和真の召喚獣の操作技術は学年でもトップクラスだ。まあ間違いなくトップではないのだが。

 

工藤「それにしても…このフリースペース、利用者が和真君ぐらいしかいないのになんで設置し続けているのかな?結構場所もとるのに」

優子「言われてみれば……なんでかしら?」

蒼介「それはこの装置が生徒の学力向上に貢献しているからだろう」

飛鳥「え?そうなの?」

徹「あんまり使われてないのにかい?」

 

不思議そうにしている四人に蒼介は説明する。

そもそもこの装置は利用されなくてもいいのだ。正確にはこれを設置しているだけで効果がある。

成績上位者はあまり利用しない、といってももしかしたら利用しているかもしれない。成績不良者は職員室など行きたがらないので確認するすべもない。

言うまでもなく試召戦争を仕掛けたがるのは下位クラスが多い。上位クラスに勝つためには成績か操作技術、どちらかを向上させる必要がある。しかし成績不良者はフリスペを利用できないので操作技術を上げる機会は中々巡ってこない。

もし成績優秀者がフリスペを利用しているなら、成績だけじゃなく操作技術も劣ってしまうことになる。操作技術で勝てない以上、試召戦争に本気で勝とうとしているなら、自ずと成績を上げようとする。反対に、成績優秀者も自分達の設備を守るために勉強を怠らないようにするだろう。

結果、生徒の学習意識の向上に繋がるのだ。

 

優子「…なるほど。この装置はモチベーションの向上に関わっているわけね」

蒼介「そういうことだ」

和真「まあいい暇潰しになるならなんだっていいぜ。じゃあ俺そろそろ屋上に行くわ。ミーティングもするだろうしな」

 

そう言って和真はAクラスメンバーと別れ、屋上に向かう。

 

 

 

 

和真「おーっす。揃ってんな!」

島田「あっ柊、どこ行ってたのよ!せっかく瑞希が皆にお弁当作って来てくれてたのに!」

和真「あー、すまんすまんす、フリスペで徹とバトってた」

 

大して悪びれていない態度で謝罪しながら、和真は明久達とアイコンタクトで会話する。地味にすごい技術である。

 

明久(和真!君がいない間僕達は死ぬところだったんだよ!ハッまさかキサマ、いつもの勘で事前に察知して一人だけ逃げやがったな!?)

和真(悪かったって。ごめん、わりぃ、すまねえ、許せ。ところで何があった?)

 

明久達は姫路の料理が殺戮兵器であったことを説明した。アイコンタクトで。

 

和真(おいおいシャレになんねぇぞそれ…味見の段階でおかしいって気付くだろ…まさか姫路の味覚がぶっ壊れてやがんのか?)

雄二(それがな、姫路は太るのを気にして味見してないらしいんだ)

和真(……………………) 

 

信じられないとはまかりに思わず絶句する和真。

 

和真(俺、姫路に言いたいことがあるから行ってくる)

明久(なにいってんのさ和真!?そんなことしたら姫路さんが傷ついちゃうじゃないか!)

 

劇物を食べさせられかけた相手を庇うとは、どこまでも女子に甘い男である。しかし和真はそんな明久に深刻な表情で言い返す。

 

和真(そんなこと気にしてる場合じゃねぇんだよ!いいか、このことが蒼介の耳に入れば姫路は死ぬ)

明久(え、えええええ!?なんで!?)

和真(蒼介が住んでいる家はこの辺りでも有名な由緒正しい料亭だ。あいつも幼い頃に母親に料理を教わったらしく、料理というものに敬意を払っている。そんなあいつが姫路が食べ物に劇物を混ぜ、あまつさえ味見もせずに人に食べさせたなんてことを聞いたら…姫路の奴、スープのだしにされるぞ)

 

男子一同(スープのだしに!?)

 

戦慄する明久達。実のところ、流石にそこまではされないのだが明久達を納得させるため話を盛る和真。仮に蒼介がそんなことをしても、財閥の金と権力で事件を揉み消すことができるだけに信憑性がある。嫌な時代になったものだ。

 

和真(心配すんな、姫路を傷つけはしねーよ。俺に任せとけって)

明久(わ、わかったよ……)

 

アイコンタクト終了。

 

和真「おーい姫路、ちょっと話したいことがあるからついてきてくれ」

姫路「え?はっ、はい!」。

明久(まあ和真なら大丈夫だよね、姫路さんも和真と二人っきりになれて嬉しいだろうし)

 

 

 

 

和真「…ここでいいか。あ、そう言えば姫路、約束忘れちまっててすまんな」

姫路「いえ、少し残念でしたけど大丈夫です」

和真「そっか。それはそうと姫路、味見はしないってさっき聞いたけど、なんでしないんだ?」

 

遠回しに言えば余計こじれると思ったのか、直球で本題に入る和真。

 

姫路「あの……太っちゃいそうので……」

和真「なるほどねぇ…なあ姫路、ひとつ問題を出すから答えてくれ」

姫路「え?はっはい、わかりました」

和真「とびきり美味しそうな料理ができたとき、その料理人はまず誰に食べさせると思う?」

 

一見すると正しい答えがないように思える問題を出す和真。姫路は料理ができたらだれに食べさせたいか考えたところ、明久の顔が思い浮かんだので赤面しつつ答える。

 

姫路「えーと…やっぱり、その人にとって大切な人……でしょうか?」

和真「残念ながらハズレだ。正解は………自分だ。なぜだかわかるか?」

姫路「……わかりません」

 

どうしてその答えになるのか姫路にはわからなかった。なぜなら姫路は今まで自分の作った料理を最初にどころか一度も口にしたことがないからである。

 

和真「それはな、その料理はとびきり美味し“そう”な料理だからだ。食べてみるまで美味しいかどうかはわからねぇ。料理を作る奴は自分で美味しいと納得できるものでないなら人に食べさせるべきではない」

姫路「な…なるほど…」

和真「姫路、これはお前にも当てはまるぞ」

姫路「え?…………あっ」

和真「気付いたみてぇだな。いくら美味しそうにできたからといって、味見もしないで他人に食わせてはいけねぇよ。明久達が言うには美味しかったらしいが、もしそうでなかった場合取り返しがつかねぇからな」

 

実際取り返しのつかない事態が起きていたのだが、姫路を傷つけないように平然と嘘をつく和真。嘘も方便とはこのことである。

 

姫路「そうですか……私、なんてことを…」

和真「そんなに落ち込む必要はねぇよ。あいつらは優しいからそんなもん気にしねぇよ。それに人は失敗するから成長できるんだからよ。だがこういうもんはその道のプロに聞くのが一番だ。そこで…」

 

そういうと和真はメモを取りだし、何かを書き始めた。書き終わると、姫路にそのメモを手渡した。

 

姫路「これは?」

和真「料亭『赤羽』の住所と俺からの紹介状。Aクラスとの試召戦争が終わった後そこ行って修行して来い」

姫路「え…えぇ!?『赤羽』ってあの有名な!?な、なんでそんな有名な所にコネがあるんですか!?」

和真「だって蒼介の家だし、そこ」

 

驚きながら聞く姫路に、和真はあっけらかんと答える。

 

姫路「…わかりました!色々とありがとうございます!」

和真「なに、クラスメイトを手助けしてもバチは当たらねぇだろ?さて、屋上に戻るぞ」

姫路「はいっ!」

 

 

 

 

 

 




というわけで、姫路の殺人料理スキルはこの後没収されます。
以外と面倒見が良い和真君。
ちなみにこの話の元ネタは『焼きたて!!ジャぱん』の一流パン職人の格言です。

今回はAクラス代表代理、優子さんです。

木下優子
・性質……攻撃重視型
・総合科目……3850点前後 (学年5位)
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……A
機動力……B
防御力……B

学年5位だけあって全ステータスが高水準である。
欠点を挙げるなら、400点以上を越えている科目が無いことぐらいだ。



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先手必勝・開戦の号砲

前回少し短かった分、今回は長めです。


島田「そういえば坂本、次の目標だけど」

雄二「ん?試召戦争のか?」

島田「うん」

 

屋上に戻った姫路は律儀にも明久達に味見をしていなかったことを謝った。それに対して明久達は二つ返事で許した。

 

島田「どうして次はBクラスなの?目標はAクラスなんでしょう?」

 

雄二が次の目標をBクラスにしたことについて疑問を投げかける。島田。それを聞いた雄二はいきなり神妙な面持ちになる。

 

雄二「正直に言おう。どんな作戦でも、うちの戦力じゃAクラスに勝てやしない」

 

戦う前から降伏宣言。自信満々にクラスを焚き付けた雄二らしくもないが、無理もないことだ。文月学園はAからFの6クラスから成るが、Aクラスは他5クラスとは格が違う。学年順位トップ50の内、11位までは精々Bクラスよりも少々点数が上の普通の生徒だ、が残りのトップ10は次元が違う

。Aクラスはそのトップ10の内、7人が在籍している(残りの3人は和真、姫路、翔子)。特に代表の鳳 蒼介は学生のレベルを完全に逸脱しており、学年3位の姫路を遥かに上回る成績の翔子とすら隔絶している。まともに挑んでも勝ち目は無いだろう。

 

島田「それじゃ、ウチらの最終目標はBクラスに変更ってこと?」

 

AクラスほどじゃないがBクラスの設備も通常の3倍の広さと十分豪華なので、妥協点としては悪くないだろう。しかし雄二はそんな妥協をする男ではない。

 

雄二「いいや、そんなことはない。Aクラスをやる」

明久「雄二、さっきといってることが違うじゃないか」

翔子「……クラス単位では勝てないから、一騎討ちに持ち込むの?」

雄二「そうだ」

和真「なるほど…考えたな」

明久「一騎討ちに?どうやって?」

雄二「Bクラスを使う」

 

不適な笑みを浮かべて雄二は自信の策を打ち明けるが、当然明久は理解できてないようだった。

 

雄二「試召戦争で下位クラスが負けた場合どうなるか知ってるよな?」

明久「え?も、もちろん!」

和真(知らない…だろうなぁ)

姫路(吉井君、下位クラスは負けたら設備のランクを一つ落とされるんですよ)ボソボソ

明久「設備のランクを落とされるんだよ」

 

さもわかってましたと言わんばかりに答える明久だが、姫路が助け舟を出したのがバレバレである。つっこむのもバカらしくなったのか雄二は嘆息する。

 

雄二「……まあいい。つまり、BクラスならCクラスの設備に落とされるわけだ」

明久「そうだね。常識だね」

和真(よく言う……)

雄二「では、上位クラスが負けた場合は?」

明久「悔しい」

 

もしそうなら下位クラスにとって試召戦争は驚くほどメリットがない。

 

雄二「ムッツリーニ、ぺンチ」

明久「ややっ僕を爪切り要らずの身体にする動きがっ」

和真(というかお前から持ちかけた話だろう、試召戦争……なんで知らねぇんだよ……)

姫路「相手クラスと設備が入れ替えられちゃうんですよ」

和真「つまり、うちに負けたら最低の設備に替えられるんだよ。そのシステムを使って交渉する訳だ」

島田「交渉って?」

雄二「Bクラスをやったら、設備を入れ替えない代わりにAクラスへと攻め込むように交渉する。設備を入れ替えたらFクラスだが、Aクラスに負けるだけならCクラスの設で済むからな。まずうまくいくだろう。そしてそれをネタに交渉する。『Bクラスとの戦いの直後に攻め込むぞ』という風にな」

明久「なるほどね!」

 

Aクラスは試召戦争をしても授業が遅れるというデメリットしかない。Fクラスと違って勉学に意欲的な彼等は連戦などできれば避けたいだろう。

 

秀吉「…じゃが、果たして一騎討ちをしたとして勝てるのじゃろうか?」

翔子「…まともに戦えば私でも歯が立たない」

姫路「すみません、私でもちょっと…」

和真「俺も何度かフリスペで闘ったが点数差が有りすぎて勝ったことねーな。そのときは腕輪も無かったし」

雄二「そのへんに関しては考えてある。心配すんな」

和真(十中八九ムッツリーニをぶつけるんだろうな)

 

今のFクラスで蒼介に勝ち目があるのは保健体育学年1位のムッツリーニだけだと和真は見ている。本当は自分が闘いたいのだが、和真は勝敗を度外視して私情に走るような男ではない。

 

雄二「ま、そんなわけで明久、今日のテストが終わったら、Bクラスに宣戦布告してこい」

明久「断る。雄二が行けばいいじゃないか」

 

先日Dクラスにボコられた経験が生きたのか、明久も少しは学習したらしい。

 

雄二「やれやれ、ならジャンケンできめるか?」

明久「ジャンケン?」

和真(確実に罠だなこりゃ…さて明久はどうする?)

明久「OK。乗った」

和真(ですよねー)

 

前言撤回、学習能力のないやつであった。いつになったら雄二の手口を警戒するようになるのだろうか。

 

雄二「ただのジャンケンじゃつまらないし、心理戦ありでいこう」

明久「わかった、僕はグーを出すよ」

雄二「そうか、なら俺は、お前がグーを出さなかったら……ブチ殺す」

 

心理戦でもなんでもなくただの脅迫である、。

 

雄二「行くぞ、ジャンケン」

明久「わぁぁっ!」

 

あまりにも非常識な心理戦に慌てる明久を無視して雄二がじゃんけんを進める。

雄二はパーで明久はグー。

 

雄二「決まりだ、言って来い」

明久「絶対に嫌だ!」

雄二「Dクラスのときみたいに殴られるのを心配してるのか?それなら今度こそ大丈夫だ。保証する」

 

やけに自信満々の雄二。これは勿論また明久を嵌める手口なのだが、当然明久はそのことを微塵も疑わない。将来よくわからないうちに怪しい宗教にでも入信させられたりしないか割と心配になる和真り

 

雄二「なぜなら、Bクラスは美少年好きが多いらしい」

明久「そっか。それなら確かに大丈夫だね」

 

割と自惚れが強い性格をしているようだ。あまりにも自信満々な態度が面白くなかったのか、雄二は即座に明久をディスる。

 

雄二「でも、お前ブサイクだしな……」

明久「失礼な!365度どう見ても美少年じゃないか!」

和真「明久、円の角度は360度だぞ」

雄二「5度多いな」

秀吉「実質5度じゃな」

明久「三人なんて嫌いだっ」

 

そう言いながらもBクラスに駆け出す明久。

 

 

 

 

しばらくして…

 

明久「……言い訳を聞こうか」

 

再びズタボロになって戻ってきた。

ちなみに和真はもうすでにラグビー部の練習に混ざりに行って教室にはもういない。 

 

雄二「予想通りだ」

明久「くきぃー!殺す!殺し切るーっ!」

雄二「落ち着け」

明久「ぐふぁっ!」

 

飛びかかる明久の行動を予想済みだった雄二は容赦なく鳩尾を強打し、明久は無惨にも畳の上に崩れ落ちる。

 

雄二「先に帰ってるぞ。明日も午前中はテストなんだから、あんまり寝てるんじゃないぞ」

 

そう言ってさっさと教室を出て行く雄二。清々しいまでに外道である。

 

明久「うぅ……腹が……」

 

あまりのダメージに起き上がれない明久。

 

明久(誰も心配して保健室に連れて行ってくれないなんて、僕って嫌われるんだろうか?こういうとき助けてくれる和真は放課後だからいないにしても、姫路さんなら駆け寄ってきてくれそうな気がするんだけど)

 

そう思い首だけで教室を巡らすと、鞄を抱え込んで何かを警戒するように周囲を見回している姫路が見えた。

 

明久(……ああ、そういえば昨日手紙を書いていたんだっけ。もしかしてそれをどこに置くべきか考えているのかな)

 

そんなもん持って帰れとか言ってはいけない。

それ以上見ていたら悪い気がして、明久は教室を出た。匍匐前進で。

 

 

その頃、Aクラスでは…

 

蒼介(FクラスがBクラスに試召戦争を申し込んだか。Bクラス、ついでにDクラスを利用して私との一騎討ちを申込もうというわけか)

 

学年首席・鳳 蒼介は雄二の策を早くも見破ったようだ。学力だけじゃなく、頭のキレも申し分ない。

 

蒼介(なるほど、確かにその方法ならAクラスとFクラスの絶望的な差を埋めることができる。恐らく挑んで来るのは土屋 康太だろう。坂本 雄二か、見事な戦術だ。ここまで入念に布石を打っているとは。それに人の心理をよく理解している)

 

蒼介は雄二の策略に感心し、その手腕を称賛した。

 

蒼介(さて、そうとわかれば、私はどう対処する?相手の提案を飲まないことが一番確実ではある。土屋 康太は唯一私よりも点数が高い生徒、一騎討ちを受けるは危険だ)

 

連続で試召戦争、辛いし面倒だが一騎討ちよりも確実な方法である。だがこの方法を選ぶことが、本当に正しいことなのだろうか。いや、

 

蒼介(……否。断じて否。私はクラス代表だ。クラスメイトのことを考え行動することがトップに立つ私の責務であろう。……土屋康太、その一騎討ち受けてたとうじゃないか)

 

試召戦争が重なるとクラスメイトが疲弊する上、授業も遅れてしまう。そのことを避けるため、蒼介はムッツリーニを真っ向から撃破することを決意した。

 

蒼介(…まあしかし、みすみす相手の策略に乗るのも癪だ。それに、不安に思うクラスメイトも出るだろう。……よし、先手を打っておくとしよう)

 

何を思ったのか、メモ用紙に何かを書き出す蒼介。

それが書き終わると、

 

蒼介「木下、久保、大門、工藤。帰るまえにちょっと集まってほしい」

 

Aクラスの生徒数名を呼び寄せる。

 

優子「どうしたの代表?」

久保「何かあったのかい?」

 

呼ばれた四人は蒼介の机の回りに集まる。

 

蒼介「ああ、これからBクラス戦後に攻めてくるであろうFクラスに対するミーティングをしようと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「さて、いよいよBクラス戦だな」

 

総合科目テストを終え、昼食を済ませ、いよいよBクラス戦が始まろうとしている。

 

和真「おい雄二、試召戦争前の景気付けにクラスメイトを鼓舞してやるよ」

雄二「ん、そうか?じゃあ頼むぞ」

 

モチベーションは高い方が良いので、雄二は二つ返事で了承した。和真は教卓の前に立つ。しかし個性の強いクラスメイトの多岐にわたるフォローで鬱憤が溜まりに溜まっていた和真は、火種に迷うことなくガソリンをぶちまけた。

 

和真「いいか野郎共!俺達の標的はAクラスだ!つまりBクラスなど取るに足らん雑魚に過ぎん!守りや回復は考えんな!真っ向から敵を一人残さず撃破するぞ!」

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!』

 

雄二「まてまてまてまてまてぇぇぇ!」

和真「なんだよ、何か文句でもあんのかよ?」

雄二「文句しかねぇよ!自力で負けてるんだからそんなことをしたらあっという間に全滅するだろうが!」

和真「俺の辞書に“特攻”以外の文字はねぇ、それ以外のページは全部白紙だ!」

雄二「捨てちまえそんな使いづらい辞書!もはやただのメモ帳じゃねぇか!」

 

猛然と抗議する雄二。文字通り玉砕作戦には問題が山積みである。ある程度溜飲が下がった和真は真面目モードに切り替える。

 

和真「まあジョークはこのくらいにして…雄二、前線部隊に俺と姫路を入れろ」

雄二「……なに?」

和真「相手に奇襲をかける。腕輪持ちの俺ら二人で相手の部隊をぶち破る。先んずれば人を制す、ってやつだ。」

 

今回の戦闘は敵を教室に押し込むことが重要になる。その為、開戦直後の戦闘は絶対に負けられない。作戦としては中々理にかなっている

それにBクラスは文系が多いため相手は文系科目の教師を連れてくるだろうが、それは和真の独壇場だ。

 

雄二「…いいだろう。だが奇襲が終わったら姫路は前線部隊から外すぞ。他の部隊の層が薄くなってしまうからな」

和真「オーケー。聞いたか姫路。派手に暴れるぞ、出し惜しみは無しだ!」

姫路「わっ、わかりました!がんばります!」

和真「というわけで野郎共、ガンガン行こうぜ!」

『うおぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

前線部隊の士気は最高潮に達していた。姫路と一緒に戦えることもあるが、和真には大衆のボルテージをヒートアップさせる才能がある。

 

キーンコーンカーンコーン

昼休み終了のベルが鳴る。開戦の合図だ。

 

雄二「よし行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」

『サー、イェッサー!』

 

前線部隊は全力でBクラスへと向かう廊下を駆け出した。

体力の差を考慮して、和真は姫路に合わせて少しゆっくり走る。

 

 

《総合》

『Bクラス 野中 長男 1943点

VS

Fクラス 近藤 吉宗 764点』

 

《数学》

『Bクラス 金田一 佑子 159点

VS

Fクラス 武藤 啓太 69点』

 

《英語》

『Bクラス 里井 真由子 188点

VS

Fクラス 君島 博 73点』

 

文字通り桁が違う点数差でどんどん戦死していく第一陣。ここまでは想定内であるが、このまま放っておけば全滅してしまうだろう。

 

和真「よし追い付いた!姫路、お前は数学のフィールドに行け!俺は英語のフィールドに行く!」

姫路「わかりました!」

 

主戦力の二人が到着し、それぞれ得意分野のフィールドに別れる。

 

岩下「来た!姫路さんだわ!Bクラス岩下、菊入、金田一がFクラス姫路 瑞希さんに勝負を挑みます!」

四人『試獣召喚(サモン)!』

 

それぞれの試験召喚獣が顔を出す。

 

 

《数学》

『Fクラス 姫路 瑞希 412点

VS

Bクラス生徒×3 平均160点』

 

 

姫路の召喚獣の装備は西洋鎧に自身の身長の2倍はある巨大な剣。和真ほど極端ではないが、攻撃を重視した武器だ。左腕に腕輪をしている。これはテストで400点以上の成績を納めた生徒には特殊能力を備えた腕輪が装備される、言わば強者の特権のようなものだ。

 

キュポッ!

 

『きゃあぁぁーっ!』

 

召喚と同時に〈姫路〉が先手必勝とばかりに熱線を放ち、三人を飲み込んだ。まさに鎧袖一触の圧倒的な威力である。

 

姫路「ご、ごめんなさい。これも勝負ですのでっ」

 

 

 

 

和真「四人か……全部で十人しかいねぇのに随分景気が良いじゃねぇか」

『皆、油断するなよ!』

『わかっている!こいつは姫路以上に危険だ!』

『不用意に近づくなよ!全滅するぞ!』

 

 

《英語》

『Fクラス 柊 和真 400点

VS

Bクラス生徒×4 平均180点』

 

 

先日のDクラス戦での出来事を知っているのか、警戒して距離をとり隊を組む四人。

だが彼等は見落としていた。先日とは違い、和真の得点が400点だということを。

 

和真「固まってくれるとは親切だなぁ。見せてやるよ、10連…装填」

 

『Fクラス 柊 和真 300点

VS

Bクラス生徒×4 平均180点』

 

〈和真〉の周りに合計10門の大砲の砲身が出現する。そしてそれぞれの砲身がBクラス生徒の召喚獣に照準を合わせる。

 

『な、なんだ…?』

『何だかヤバイ予感…』

『もしかして私達…詰んでる?』

『多分ね…避けられそうにないし…』

 

Bクラス生徒達は己の末路を悟ったようだ。

 

和真「いくぜ…一斉砲撃(ガトリングカノン)!」

 

ドガガガガガガガガガン

 

『『『ぎゃぁぁぁあああああ!!!』』』

 

それぞれの砲身から一発ずつ射撃が繰り出される。

広範囲の弾幕攻撃にBクラス生徒の召喚獣はなすすべもなく、あっという間に全滅してしまった。

 

和真「これぞ超火力特化砲撃だ。まぁ燃費が悪過ぎるのが玉に瑕だがな」

 

姫路に殺られた生徒と一緒に鉄人に補修室に連れて行かれる生徒達を眺めがら、和真は一人呟く。




やっとBクラス戦が始まりました。
和真君無双part2。そこ、マンネリとか言わない。
雄二の策略はもうバレてしまいましたが問題ありませんでした。蒼介君はどうやら思ったより負けず嫌い性格のようです。

『一斉砲撃(ガトリングカノン)』
和真の腕輪能力。支払った点数10点につき1つ砲身を出現させ、一斉に砲弾を射つ。高火力かつ広範囲の攻撃が可能だが、デメリットがいくつもある。
・400点を切ると使えない。
・必ず10発刻み。つまり最低でも100点もの点数を消費しなければならない
・砲身の照準は一つ一つ自分が調節しなければならない。これがかなり難しく、大抵の人は全て前を向けるくらいしかできないため、ある程度機動力があれば射つ前に避けられなくもない(ただし和真は並外れた感覚でそれぞれ自在に調節できるのでこのデメリットはあってないようなもの)。
あと一つありますが、それは本編で明らかになります。

大砲は男のロマン。異論は断じて認めない!、
ちなみに一対一で闘う場合よっぽどの相手じゃない限り使いません。点数が勿体な過ぎるので。

では。


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ワン・フォー・オール

試召戦争が白熱してきました。
そういえば気になったんですが、美波さん、姫路さん、翔子さんの三人は過剰な暴行を加えてるシーンはそんなに差はないのに、なぜ翔子さんアンチの作品はほとんどないんでしょう?


明久「……うわ、こりゃ酷い」

和真「あいつは相変わらずやることがせこいなぁ……」

 

相手の前線部隊を片付けた後、教室に戻った和真達が見た光景は、穴だらけになった卓袱台と折られたシャープペンと消しゴムだった。恐らくクラス代表、根本 恭二の指示だろう。根本という男はとにかく評判が悪い。噂ではカンニングの常連だとか。目的の為には手段を選ばないらしく、曰く『球技大会で相手チームに一服盛った』とか『喧嘩に刃物はデフォルト装備』とか。まあそれらは噂に尾ひれがついたものだろうが。

ちなみに『やるからには当然勝ちにいくが、勝負は楽しんでこそ』が信条の和真にとって根本は当然いまいちソリが合わない相手である。

 

明久「これじゃ補給がままならないよ」

秀吉「地味じゃが、点数に影響の出る嫌がらせじゃな…」

雄二「あまり気にするな。修復に時間はかかるが、作戦に大きな支障はない」

明久「…雄二がそういうならいいけど」

 

何かしら気になりながらも、大したダメージではないと断定した雄二の言葉に明久は納得する。

 

明久「でも、どうして雄二は教室がこんなんになってるのに気づかなかったの?」

 

これは明らかに戦闘開始から今までの間にやられた嫌がらせだろう。雄二が教室にいたのなら気づかないはずがない。つまり雄二は何かしらの事情で教室を空けていたことになる。

 

雄二「協定を結びたいという申し出があってな。調印の為に教室を空にしていた」

秀吉「協定じゃと?」

雄二「ああ。四時までに決着がつかなかったら戦況をそのままにして続きは明日午前九時に持ち越し。その間は試召戦争に関わる一切の行為を禁止する。ってな。それを承諾してきた」

明久「え?でも体力勝負に持ち込んだ方がウチとしては有利なんじゃないの?」

 

Fクラスは学力はからっきしだが男子の比率がとても高い分、他のクラスに比べて体力にはアドバンテージがある。だから一見その協定はFクラスにメリットが無いように思えるが、実はそうではない。

 

翔子「……吉井、うちには瑞希がいる」

明久「あ、そっか」

雄二「本丸はまだ落とせそうにない。あいつ等を教室に押し込んだら今日の戦闘は終了になるだろう。そうすると作戦の本番は明日になる。その時はクラス全体の戦闘力より姫路個人の戦闘力の方が重要になる」

和真(……それは建前でおそらく姫路はフェイク。俺と翔子と姫路はまず間違いなく最大限に警戒されているからそう自由には動けねぇだろう。Bクラスにはあいつもいることだしな。となると、根本を殺るのはあいつか)

雄二「つまりこの協定は俺達にとってもかなり都合がいい」

明久(なるほど、確かにその通りだ……でも何かがおかしい。机に嫌がらせをするためだけにそんな協定を申し出るなんて、根本君はそんな甘い男なのだろうか)

秀吉「明久。とりあえずワシらは前線に戻るぞい。向こうでも何かされているかもしれん」

 

そう言って秀吉は舞台を率いて教室を出て行った。

 

和真「まだ時間あるな。じゃあ俺はノコノコうろついてるBクラスの奴等を手当たり次第狩ってくるぜ」

 

お前は通り魔かと言いたくなるようなセリフを残し、和真も教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

和真「戦争中だっつうのに何やってんだお前らは……」

 

あれから三人ほど殺った後四時になったので教室に戻る途中、明久をぼこぼこにして引きずり回していた島田と会う。

 

島田「あ、柊!ちょっと聞いてよもう!」

 

明久を投げ捨ててから、若干涙目になりながらながら和真に駆け寄る島田。

話をまとめると、明久が保健室に運ばれたという嘘に騙されてBクラスの生徒に捕まり、明久は何を勘違いしたか島田を偽物と勘違いしてBクラスごと始末しようとし、なんとか誤解が解けた後明久が、自分は最初から本物だと気付いてた、とほざいたらしい。部隊の指揮官が勝手に持ち場を離れるなと途中思ったが、それ以上に明久が救い用のないバカだとわかったので水に流した。

 

和真「それにしても、お前も災難だなぁ~」

島田「そうよ!全く…」

 

 

 

 

和真「こんなバカに惚れちまったんだからな」

島田「そうそ……ふみゅっ!?」

 

適当にふっかけた和真の誘導尋問にあっさり引っ掛かる島田。

 

島田「なななななななに言ってるのよっ!ウ、ウチがこんなバカのこと好きなわけないでしょ!」

 

これ以上無いほど露骨に動揺している。これで気付かない奴は明久(バカ)くらいであろう。これ以上切り込んでも頑として認めようとしないであろうと判断した和真は追及はしないでおく。普段ならサディズム全開で弄り倒しているが先程も言った通り今は戦争中、下手に苛めて士気に関わると面倒だ。

 

和真「……そうかい。まぁそれはそれとして、取り敢えず教室に戻るか」

島田「そ、そうね……」

和真(相変わらず素直じゃねぇな…あんまりのんびりしてると置いてかれるぞ。姫路は思ったより行動力がありそうだしな)

 

そんなことを考えたながら、和真はは明久を引きずる島田と共にFクラスの教室に戻る。

 

和真「おーい、戻ったぞ」

雄二「ああ、おつかれさん」

和真「さてと、今日はもうやることねぇな。……ふわぁ……急に眠気が…………少し寝るか」

 

急に気が抜けたのか畳に横になる和真。この些細な気の緩みが命取りになるとも知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「…………んむ…ふわぁあ…あれ?おい秀吉、あいつらもう帰ったのか?」

 

目が覚めると教室内には秀吉以外居なくなっていることに気付き、そのことを聞く。

 

秀吉「雄二達はCクラスと協定を結びにいったぞい。なんでもワシらの戦いの後攻めこむ準備をしておるらしくてのう」

和真「……んだとぉっ!?くそ、このままじゃ不味い!」

秀吉「ど、どうしたのじゃいきなり!?」

和真「Cクラス代表の小山 優香は根本の彼女、確実にグルだ!これは明らかに俺達を嵌める罠なんだよ絶対!」

秀吉「大丈夫じゃ和真!霧島も姫路もついていった!Bクラスにそう簡単にあやつらを倒せる者がいるとは思えん!」

 

秀吉は和真を落ち着かせようとそう言う。だがBクラスがとんでもないジョーカーを握っていることを和真は知っていた。

 

和真「それがいるんだよ、一人だけ!取り敢えず俺は行ってくる!お前は念のため待っててくれ!」

 

そういって和真は全速力でCクラスに向かう。そのときの和真の表情は、いつもの飄々とした不敵な笑みの面影すらない、鬼気迫るものだったと言う。

 

和真(くそ、俺としたことが!なんでこんなときに寝てんだよ!もし根本が源太を連れてたら不味い……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「Fクラス代表の坂本 雄二だ。このクラスの代表は?」

 

雄二がCクラス教室の扉を開き教室の全員に告げる。教室には大勢残っており、ムッツリーニの情報どおり漁夫の利を狙って試召戦争の準備をしてるようだ。

 

「私だけど、何か用かしら?」

 

名乗り出たのはきつい性格だと一目でわかるような表情を浮かべたショートヘアーの女子。バレー部の小山 友香だ。

 

雄二「Fクラス代表としてクラス間交渉に来た。時間はあるかは?」

小山「クラス間交渉?ふぅん……」

 

いやらしい笑みを浮かべる小山。見た目通り性格はあまり良くなさそうである。

 

雄二「ああ。不可侵条約を結びたい」

小山「不可侵条約ねぇ……。どうしようかしらね、

 

 

 

 

根本君?」

根本「当然却下。だって、必要ないだろ?」

 

教室の奥から取り巻きを連れて、根本と一人の男子生徒が前に立った。灰色のたてがみのような髪に猛禽類のような鋭い目つきをした、いかにも不良といった生徒だ。

 

明久「な、根本君!Bクラスの君がどうしてこんなところに!?」

根本「酷いじゃないかFクラスの皆さん。協定を破るなんて。試召戦争に関する一切の行為を禁止したよな」

明久「何を言って……」

根本「先に協定を破ったのはそっちだからお互い様、だよな。五十嵐(イガラシ)、やれ!」

五十嵐「あいよ」

雄二「五十嵐だと!?やばい!」

 

五十嵐と呼ばれた根本の隣の生徒が前にでる。

 

五十嵐「遠藤先生!Bクラス五十嵐が-」

翔子「……させない!Fクラス霧島が受けて立つ!試獣召喚(サモン!)」

雄二「待て翔子!?」

 

雄二が制止するも召喚獣が出現する。

翔子の召喚獣は武者鎧に日本刀、

五十嵐の召喚獣は民族衣装にトマホークだ。

 

 

《英語》

『Fクラス 霧島 翔子 432点

VS

Bクラス 五十嵐 源太 486点』

 

 

明久「なっ!?」

 

表示された点数に驚きを隠せない明久。それも仕方ない、五十嵐の点数は学年首席に匹敵するほどの高得点であったのだから。

 

五十嵐「ここに来る前二年間、イギリスにいたんでなぁ!悪ぃが俺様にとって高校生レベルの英語なんざゴミ同然だぜ!」

明久「僕らは協定違反なんてしてない!これはCクラスとFクラスの-」

雄二「無駄だ明久!根本は条文の『試召戦争に関する一切の行為』を盾にしらを切るに決まってる!」

根本「ま、そゆこと♪」

明久「屁理屈だ!」

根本「屁理屈も理屈の内ってな」

翔子「…雄二、逃げて!」

雄二「翔子!だがお前は-」

翔子「…早く!」

雄二「…くそっ!お前等、ここは逃げるぞ!」

 

悔しそうに雄二が言うと、明久達はCクラス教室から離脱した。

 

根本「五十嵐、霧島は任せたぞ。わかってると思うが確実に仕留めろよ?」

五十嵐「へいへい」

 

根本はそう言うと、取り巻きと共にFクラスを追って教室を出た。

 

五十嵐「悪ぃな、あんまりすっきりしねぇやり口だがよ……これは戦争なんでな」

 

五十嵐は若干ばつが悪そうに翔子にそう謝罪する。チンピラみたいな見かけの割に意外にも正々堂々を好む性格のようだ。

 

翔子「……別に謝らなくてもいい。ただ…」

五十嵐「あん?」

翔子「……私は負けてあげるつもりなんかない!」

五十嵐「…ハッ、テメェ面白ぇな!じゃあ始めようか……腕輪持ち同士の闘いをよぉっ!」

 

二人はそれぞれ腕輪の能力を発動させる。

〈翔子〉の周りに氷の礫が舞う。

〈源太〉の召喚獣の左腕が鋭い爪を備えた巨大な黒い腕に変わる。

 

翔子「……アイスブロック!」

五十嵐「巨人の爪!」

 

無数の氷の礫と巨大な腕がぶつかり合う。

その衝撃はすさまじく、召喚フィールドが音を立てて軋む。しかし徐々に腕の方が押し始める。

 

五十嵐「どうやら点数差があるせいか、パワーは俺様に分があるらしいなぁ!」

翔子「………………」

五十嵐「覚悟は良いな?じぁあ…トドメだぁぁぁ!」

 

そのままフルパワーで〈五十嵐〉の腕は〈翔子〉を蹴散らした。〈翔子〉が力尽きる。

 

 

 

だが、

 

五十嵐「な、なにぃ!?」 

 

その直後、隙ができた〈五十嵐〉の両側から氷の礫が飛来し、そのまま串刺しにした。

フルパワーが来る前に氷の結晶を〈五十嵐〉の横にさりげなく潜ませていたらしい。礫がまともに突き刺さり、〈五十嵐〉も倒れる。

 

《英語》

『Fクラス 霧島 翔子 戦死

VS

Bクラス 五十嵐 源太 戦死』

 

結果は相討ち。

 

翔子「……ごめん、でもこれは戦争だから」

五十嵐「…アッハッハ!テメェほんと面白ぇな!」

 

勝てる勝負を落とした結果だが、五十嵐は悔いはないと言わんばかりに満足そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

和真「どうやら間に合ったようだな!」

 

和真はなんとか逃走中の明久達と合流した。

 

明久「和真!?来てくれたんだね!」

和真「事情は把握してる!ここは俺に任せて先行け!」

 

そう言うと和真は明久達とBクラスの間に立ちふさがる。しかし少し間に合わず、二人ほど逃がしてしまった。

 

和真(ち、二人逃がしたか…それに、翔子がいなかったな…源太にやられたか、チクショウ!)

 

根本「おいおい柊。もう少しでFクラス代表を討ち取れたのに、邪魔しないでくれよ」

和真「俺が邪魔なら力づくで排除しろよ。これは戦争だぜ?田中センセ、Fクラス柊が世界史勝負を申込むぜ!試獣召喚!」

根本「じゃあそうさせて貰うさ。お前等、例の作戦通りにやれ」

 

根本がいやらしい笑みを浮かべながらそう言うと、Bクラス生徒達は和真を取り囲んだ。

 

『試獣召喚!』

 

和真の召喚獣をとり囲むようにBクラス生徒達の召喚獣が出現する。

 

 

《世界史》

『Fクラス 柊 和真 400点

VS

Bクラス生徒×8 平均185点』

 

 

和真「お前等も学習しねぇな…俺相手に大人数で来たらどうなるのかわかってねぇのか?」

根本「残念だが、お前の弱点はもう割れてんだよ」

 

勝ちを確信しているかのように、自信たっぷりに根本は言う。

 

和真「…弱点だぁ?」

根本「お前の腕輪の能力はいくつもの大砲を召喚する能力。確かに大した破壊力らしいが、こうやってバラければ避けられないことはないんだよ」

 

そう。〈和真〉の大砲のスピードはそこまで速くはない。Bクラス召喚獣のスペックなら避けに専念すれば単発ならなんとか避けられるレベルだ。一対一や相手が固まっているなら砲身を並べて弾幕状に放つことでその弱点をカバーできるが、今回のように囲まれてはそれができない。何人かは確実に始末できるが残った召喚獣に隙を突かれて戦死するのがオチだ。

 

和真「…なるほど、思ったより頭がキレるな。確かに腕輪能力を封じられた状態でこんだけのBクラスレベルの人数は流石の俺でも捌ききれねぇな」

根本「どうだ、諦めたか?」

 

勝ち誇る根本。しかし和真はなんら萎縮することなくいつもの笑みを浮かべている。

 

和真「ほざけ。誰が諦めるかよ」

根本「この状況をなんとかできるとでも?無謀だな」

 

そういって根本はせせら笑う。

 

和真「はっ、言ってろ。

 

無茶で無謀と笑われようと、意地が支えのケンカ道!

 

壁があったら殴って壊す!

 

道がなければこの手で創る!

俺を、誰だと思っていやがる!

Fクラスの勝利への道は、俺が切り開く!!!」

 

柊 和真は諦めない。たとえどれほど絶望的な状況であろうと、突破口をこじ開け希望をその手に掴もうとする。

 

 

根本「…チッ、だからお前は気に食わないんだよ!そんな強がりを言ってどうなるというんだ!」

和真「強がりかどうかは今見せてやるよ……フル装填!」

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ…

 

根本「っ!お前等注意しろ!」

和真「残念だが無駄だぜ…」

 

〈和真〉の周りに40門の、以前とは形状の異なる砲身が出現する。そして、

 

和真「一斉閃光砲撃(ガトリングレーザー)!」

 

それぞれの砲身から閃光が放たれ、一瞬でBクラス生徒達の召喚獣を消滅させた。

 

『……………………え?』

 

あまりの出来事に、Bクラス生徒達は何の反応もできなかった。

 

『Fクラス 柊 和真 1点

VS

Bクラス生徒×8 戦死』

 

根本「ば、ばかな!?お前、何をしたぁぁぁ!?」

 

根本は狼狽える。まあ無理もないだろう、確実に挽回不可能と思われた状況から、相手が予想だにしないジョーカーを用いて形勢をひっくり返されたのだから。

 

和真「特別大サービスで教えてやるよ。俺の腕輪は点数を限界まで注ぎ込んだとき、砲弾が光速のレーザーになる裏技があんのよ。ただまぁ…」

 

〈和真〉は持っている槍を支えきれず床に落としてしまった。

 

和真「当然使用後は瀕死になるし、おまけにこれ使った日は召喚獣のスペックが最低まで落ちるデメリットがあるがな。400ぴったりなのになぜか1点残る仕様だけどよ」

 

それはつまり、追撃されれば戦死は免れない上、逃げ延びたとしてもその後最低レベルのスペックの上丸腰で闘わなければならないということだ。和真の武器は大きすぎて、そんなスペックでは持ち運ぶことすらままならないのだ。

 

根本「ば、バカな!?そんな状態でどうやって俺を倒そうっていうんだ!?」

和真「おいおい、なに的外れなこと言ってんだよ、」

 

馬鹿にするように笑いながら根本を指差し、

 

和真「試召戦争はチーム戦だぜ?仲間が俺の代わりにお前をぶちのめしてくれるだろうよ!」

 

そう宣言した。

 

根本「お…おのれぇ!試獣召喚!」

 

根本の召喚獣が和真の召喚獣を切り裂いた。

 

 

 

 

柊和真、戦死

 

 

 

 

 

 

根本「…くそ、気に入らねぇ……好き放題言いやがって……だが俺にはまだ切り札がある。これで要注意の三人は全て封じたぜ!」




というわけで、和真君&翔子さんフェードアウトです。
翔子さんは敵の絶対的エースを道ずれにし、和真君に至っては15人もの生徒を戦死させたので、戦績としては十分でしょう。

あと、カズマなのにカミナでした。

和真の腕輪の奥の手は、技そのものが死亡フラグです。今回のようにやむを得ない場合以外は決して使いません。

霧島 翔子
・性質……バランス型
・総合科目……4700点前後 (学年2位)
・400点以上……保健体育以外
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……A
機動力……A
防御力……A
・腕輪……アイスブロック
学年二位の肩書きに恥じないスペック。
弱点らしい弱点は無い。

『アイスブロック』
50点を消費して氷の塊を召喚する能力。温度を下げたり相手を凍らせたりはできない。無数の氷の礫を生み出し相手に撃ったり、氷の壁を生み出し身を守ったり相手を閉じ込めたり、フィールドに氷を敷いたりなど、応用力の高い能力。
ただし50点につき1種類しかできない。

では。


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キャラ紹介その3

一巻で出そうと思ったオリキャラは以上です。
この五人がメインとなるオリキャラで、後は大体サブキャラクターです。


・五十嵐 源太(イガラシ ゲンタ)

2年Bクラス

身長180㎝→184㎝(二学期)

体重70kg→75㎏

髪:灰色

得意教科:英語

苦手教科:それ以外→古文

趣味:スポーツ、アクションゲーム、バイク、料理

好きなこと:スポーツ全般

嫌いなこと:卑怯な策

コンプレックス:チンピラのような外見

通称:ウルトラ非モテ

備考:元不良、外見に似合わず繊細

 

Bクラスの副官。

不良のような見た目と乱暴な言葉遣いからよく誤解されるが、学園生活態度は至って真面目で真っ向勝負を好む熱血漢。そのため和真達と意気投合し、暇さえあれば一緒に遊ぶ仲になる。しかしなぜか損な役回りが多く、基本的に弄られキャラである。徹とは好きあらば喧嘩するが、仲はそれほど悪くない。

したたかで意思の強い人間を好む。その外見と本人の一匹狼気質、加えてBクラスはインドアな生徒が多いことから、クラス内ではかなり浮いていることが最近の悩み。小学校五年のときから二年イギリスに留学していたため、英語は学年トップクラス。また、物心ついていたときに留学したので島田と違って日本語に不自由していない。

日本に帰国した当初はむこうの生活に馴染んでいたため、文化の擦れからクラスで孤立してしまい自暴自棄になり、実は中学生の頃は見かけ通り不良であった。しかし中3のとき、たまたま出くわした和真に喧嘩を売り手も足もでず惨敗しまった挙げ句それ以上は特に何もされず見逃されたことにより、今の自分の矮小さを思い知り、真剣に人生を生きようと更正する。ちなみに二人ともお互いの顔を覚えていなかった。

 

元々料理はどちらかと言えば得意では無かったが、清涼祭でハブられた屈辱をバネに、たった1ヶ月ちょいで明久レベルまでスキルアップした。マイナス感情も使いようである。

 

 

・パラメーター

ルックス…2

知能…3

格闘…4

器用…4

社交性…3

美術…4

音楽…2

料理…5

根性…3

理性…4

人徳…3

幸運…2

カリスマ…2

性欲…2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・チーム『アクティブ』

構成員…柊 和真、鳳 蒼介、木下 優子、大門 徹、五十嵐 源太、(工藤 愛子)、(橘 飛鳥)

リーダー…柊 和真

スローガン…『No sports no life』

活動内容…部活荒らし

入団条件…運動が得意であること、スポーツが大好きであること

 

柊が一年生の終わりに結成した部活荒らしチーム。各部活に練習試合を申込むときはこのメンバーが中心となる(参加メンバーが足りないときは誰かを誘う)

工藤と橘はそれぞれ部活に所属しているのでたまに時間が空いているときのみ参加する仮メンバーである。

学年でも屈指の運動神経を持つメンバーが集まっているので、その実力は折り紙つき。『試合は正々堂々、何よりも楽しく、そして全力で勝利を目指す』がモットーである。

活動するかどうかは全て柊の気分次第の超権力集中集団。このチームとの練習試合に負けた部は次の日から練習が凄まじくきつくなるという恐ろしいジンクスがあるため、各部活は死に物狂いで勝ちに行く。

土日はそれぞれ予定が揃わないのと、鳳が多忙で参加できないため活動しない。

 




このグループ各部活にとっちゃ迷惑すぎる…
では。


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キング・オブ・バカの実力

和真達が犠牲になってしまった(と思われる)ので、明久がいつにも増して熱いです。

バトルシーンは書いていてテンション上がりますね。


『逃がすな!坂本を討ち取れ!』

和真が取り逃がしたBクラス生徒2人に途中1人が合流し、合計3人の生徒から逃げる明久達。

 

明久(このままじゃまずいな…)

 

連れている長谷川先生は数学教師、姫路は先程腕輪の能力の代償で点数を消費してしまっている。それに加えて、

 

姫路「はぁ、ふぅ…」

 

ここまでの全力疾走で息が上がっている。この状態ではとても召喚獣の操作など無理だろう。まさに絶対絶命の状況だ。

 

明久(代表の雄二は倒されると僕達の負けになるから闘わせるわけにはいかない。ここは…)「島田さん!」

島田「何よ!」

明久「Bクラスを迎え撃つ!だから手を貸してほしい!」

島田「ハァ!?アンタ正気!?相手はBクラスよ!数学が得意なウチはともかく、アンタがまともに闘って勝てる相手じゃないわよ!それに相手は3人もいるのよ!?」

 

勝ち目はほとんどないと島田は明久に言い聞かせるように抗議するが、明久は覚悟を決めた表情でその抗議を突っぱねる。

 

 

 

明久「それでも…やるしかないんだ!和真と霧島さんが繋いでくれた希望を…失うわけにはいかない!」

 

ここで雄二が討ち取られたら、二人が犠牲になった意味がない。確かに点数差は絶望的であり、その上人数も向こうのほうが多い。勝てる可能性はあまりにも低いだろう。

 

 

だがそれがどうしたというのだ。

 

 

明久「僕達はAクラスに挑むんだ!こんなところで挫けてなんかいられるもんか!」

 

 

島田「吉井………わかったわよ。しかたないから、一緒に闘ってあげる。」

明久「島田さん、ありがとう。雄二!ここは僕達が引き受ける!雄二は姫路さんを連れて逃げてくれ!」

雄二「…わかった!ここは任せる!」

 

状況を冷静に把握し、雄二は姫路を連れて逃げる。姫路は申し訳なさそうにしながらも、ここで自分が残っても状況は好転しないと理解しているため黙って従う。

 

ムッツリーニ「…………(ピタッ)」

明久「いや、ムッツリーニも逃げてほしい。多分明日ッツリーニが戦争の鍵を握るから」

 

勿論明久は雄二の作戦など理解していない。ただ、ムッツリーニという切り札に雄二が重要な役割を与えないはずがないことは流石にわかる。

明久「………来るよ、島田さん!」

島田「そうね…ねぇ吉井」

明久「ん?どうしたの」

島田「今後ウチはアンタのことを『アキ』って呼ぶから、アンタもウチのこと名前で呼ぶように」

明久「え、どうしてさ?」

島田「以前柊が言ってたの。信頼できる仲間同士は名前で呼び合うものだって。アンタに背中預けるわけだから、そうしないと勝てるものも勝てないでしょ?」

 

島田は悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう答える。ちなみにその話は暇をもて余した和真が島田に明久と仲良くなるチャンスを与えるために、適当に考えた作り話である。苗字で呼び合っていてもお互いに信頼し合っている人達もいる。

 

明久「…わかったよ、美波」

美波「よろしい♪さ、そろそろ来るわよ!」

明久「まずは任せて。とっておきの秘策があるんだ」

美波「ふーん。そこまで言うなら信用しましょうか」

 

『いたぞっ!Fクラスの吉井と島田だ!』

『ぶち殺せ!』

 

明久「Bクラス!そこで止まるんだ!」

 

相手の気勢を削ぐように、強い口調で呼び止める。

 

『いい度胸だ。くい止めようってのか』

明久「いや、その前に長谷川先生に話がある」

 

相手に主導権を握られないように強い口調で話す。

 

「なんですか、吉井君」

 

息を切らしながら長谷川先生は前に出る。

 

明久「Bクラスが協定違反をしていることはご存知ですか?」

美波(相手の協定違反を訴える気?でも…)

長谷川「話を聞く限り、休戦協定を破ったのはFクラスのようですね。そこで反撃を受けて協定違反を訴えるのはどうかと思いますよ」

 

教育者らしく、厳しい口調で諭すように言う長谷川先生。

 

美波(あの根本のことだからうまく言ってあるのでしょうね。……さて、どうするつもりなの?)

明久「………………」

美波(アンタの考え、期待しているからね)

 

明久に片目を瞑って見せる美波。

しばらくして明久はこう応えた。

 

 

 

 

明久「……万策、尽きたか……」

 

『『『こいつ馬鹿だぁぁあああっ!?』』』

 

Bクラスの生徒及び美波の心が一つになる。明久の秘策など信じてもろくなことにならない。さきほどまでの勇ましい明久はどこに行ってしまったのか……。

 

 

 

 

 

姫路「坂本君、吉井君は、大丈夫、なんですか……?」

雄二「もちろんだ。明久ならなんとかなる」

姫路「でも……」

雄二「確かにアイツは勉強ができない。でもな……学力が低いからといって、全てが決まるわけじゃないだろう?」

姫路「そ、それはどういう……」

雄二「あのバカも、伊達に《観察処分者》なんて呼ばれてないってことだ」

 

 

 

 

 

明久「仕方ない!こうなったら真っ向勝負だよ美波!」

美波「最初からそうしなさいよ!まったく…」

『さっさと片付けて坂本達を追うわよ』

『お前は確か点数が万全じゃなかったな、一応下がってろ。俺ら二人で十分だ』

『わかった』

 

犬死にを防ぐため消耗しているらしきBクラスの生徒が一人、距離を取った。

 

『『『試獣召喚(サモン)』』』

 

それぞれの召喚獣が出現する。明久の召喚獣は特攻服に木刀、島田の召喚獣は軍服にサーベルだ。

 

 

《数学》

『Fクラス 吉井 明久 51点

Fクラス 島田 美波 171点

VS

Bクラス 工藤 信二 159点

Bクラス 真田 由香 166点』

 

 

『な!?なんだその点数!?』

 

最下位クラスの生徒が自分達と同等の点数叩き出した証を見て驚くBクラス生徒達。

 

美波「数学を選んだのが間違いだったわね。これなら漢字が読めなくてもなんとか解けるのよ。この教科だけは柊にも匹敵するわ!」

明久「ちなみに美波、古典の点数は?」

美波「一桁よ!」

 

ここまで言い切られるといっそ清々しい。ちなみに和真に匹敵という話のカラクリは、和真の数学と物理の点数が他教科に比べてものすごく低いだけだったりする。

 

『島田は後だ!さきに吉井(ザコ)から殺るぞ!』

『了解!』

 

二人がかりで明久に向かっていくBクラスの召喚獣。

 

しかし、

 

明久「なめるなぁ!」

 

先に向かって来た召喚獣を〈明久〉は足払いでよろけさせ、木刀でしばいてこかせて、次にやってきた召喚獣の攻撃を紙一重でかわし、その背中に木刀を投げつけ先に倒れていた召喚獣のもとに飛ばす。

結果、二体の召喚獣は綺麗に激突し美波の召喚獣の近くに倒れ込んだ。

 

明久「美波、今だぁぁぁ!」

美波「え、あ…とりゃあああ!!」

 

明久の指示を受けた〈美波〉のサーベルが、身動きがとれない二体の召喚獣をまとめてバラバラに切り裂いた。

 

『Fクラス 吉井 明久 51点

Fクラス 島田 美波 171点

VS

Bクラス 工藤 信二 戦死

Bクラス 真田 由香 戦死』

 

『なん……だと……!?』

 

呆然とするBクラスの生徒。圧倒的に優位な状況だったのにいつの間にか戦死していたんだから無理もない。

 

鉄人「戦死者は補習!」

 

どこからともなく鉄人が現れて、呆然としたままのBクラス生徒を補習室に連れて行った。

 

美波「すごいじゃないアキ!」

明久「伊達に日頃こき使われてないよ。召喚獣の操作技術なら和真にだって負けないさ」

 

召喚獣の操作は思ったより難しい。

召喚獣は力が人間よりずっと強く、手足は短い。

この感覚は一朝一夕で慣れるものじゃない。大概の生徒は単純な操作しかできないため、点数の差で勝敗が決定してしまう。

しかし明久は《観察処分者》として日頃から召喚獣を使用した雑用を任されている上、フィールドバックで感覚を共有してきたため、もはや召喚獣と一心同体というレベルに達している。

 

明久「さて、と」

美波「形勢逆転したみたいだけど、どうする?」

『く、くそ!』

 

二対一では部が悪いと思ったのか、撤退する残りの一人。召喚フィールドの外にいたため、敵前逃亡にはならない。

 

明久「ふぅ……なんとか勝ったね」

美波「そうね…………1つ聞いてもいい?」

明久「ん?なに?」

美波「あんなことできるならDクラス戦でウチを見捨てる必用あった?」

 

Dクラス戦のとき怒り狂った美波が須川に引きづられていた理由は、それだったりする。

 

明久「………………………………」

 

しばし沈黙。

 

 

 

 

全力でダッシュする明久、それを追う美波。

最終的にいつも通りの二人だった。

 

 

 

 

明久「あー、疲れた!」

 

二人は教室に戻ってきた。何故か明久の頬に紅葉ができているが気にしないで貰いたい。

 

姫路「吉井君!無事だったんですね!」

 

戻ってきた明久に姫路が駆け寄る。

 

明久「うん、これぐらいなんともいだいっ!」

 

突然美波に足を踏まれ、明久は訳がわからない思いで美波の顔を伺う。

 

明久「し、島田さん。僕が何か悪い事でも」

美波「(ジトッ)」

明久「あ、ごめん、美波」

 

美波は不機嫌そうに明久を見る。姫路にでれでれしていたことと名前で呼ばれなかったことが不服らしい。

 

姫路「……随分と二人とも仲良くなってますね?」

明久「え?これで?」

 

明久(バカ)は気づいていないが随分距離が縮まっている。

 

雄二「お。戻ったか。お疲れさん」

秀吉「無事じゃったようじゃな」

 

秀吉と雄二もやってきて、ムッツリーニも明久を見て小さく頷く。明久がやられるとは誰も思ってなかったらしい。

 

雄二(だが、まだなんとかカバー可能な範囲だが、失ったものはデカいな…チクショウ!)

 

柊 和真と霧島 翔子、Fクラス三大戦力のうち二人の戦死。このことは士気にもかなり響くだろう。

実のところ雄二はこのBクラス戦を楽観視していた。もともとあの二人抜きでAクラスを倒すまでの作戦を考えていたため、あの二人のイレギュラーの参加により大幅にゆとりができていた。

結果、まんまと根本の策に嵌まってしまい、警戒していたはずの五十嵐 源太によって翔子を潰され、自分達を逃がすために和真までも犠牲になった。

雄二は自分の詰めの甘さを痛感していた。

 

雄二(だが和真が多くの敵を蹴散らし、そして翔子は一番警戒すべき五十嵐を倒してくれた。これで差し引きはゼロだ……根本、この借りは必ず返すぞ!)

 

その場に残る全員を見渡し雄二がいつになく真剣な表情で今後の作戦を告げる。

 

雄二「こうなった以上、Cクラスも敵だ。同盟戦がない以上は連戦という形になるだろうが、正直Bクラス戦の直後のCクラス戦はきつい」

明久「それならどうしようか?このままじゃ勝ってもCクラスの餌食だよ?」

秀吉「そうじゃな……」

雄二「心配するな。向こうがそう来るなら、こっちにも考えがある」

明久「考え?」

雄二「ああ。明日の朝に実行する。目には目を、だ」

 

この日はこれで解散し、続きは翌日に持ち越しとなった。

 




明久、大活躍!
一方美波は原作より距離を縮めることに成功しました。

今回はAクラス次席の久保君。

久保 利光
・性質……機動力度外視型
・総合科目……4000点前後 (学年4位)
・400点以上……現代文・古典
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……S
機動力……C
防御力……A
・腕輪……風の刃

細かい技術を捨てた重戦車型。相手の攻撃を避けずに受け止め、最大威力の攻撃を叩き込む。まさに『レベルを上げて物理で殴る』理論。使用者の見た目に反して脳筋スタイルである。

『風の刃』
消費50で武器のデスサイズから風の刃を飛ばす。シンプルだがそれゆえ使いやすく、対処もしにくい。

では。


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Bクラス戦決着

まさかの7000字オーバーです。
ちょっと詰め込みすぎました。


和真「やれやれ、もうこんな時間か。今日はラクロス部に殴り込みに行こうと思ってたのに」

翔子「……愚痴を言ってもしょうがない。戦死者は放課後まで補習の義務がある」

源太「………………」

和真「いやまぁそうだけどよ。明日もイキナリ補習室に直行しなきゃならねぇと思うと憂鬱だぜ…あぁ、体動かしてー」

翔子「……和真、なんだか鮫みたい」

源太「………………」

和真「はは、間違ってねぇかもな。それはそうと翔子、雄二は待ってくれてんのか?」

翔子「……うん。校門で待っててくれるって」

源太「………………」

和真「なんだかんだ言って大事にされてんなーお前。もう7時だぜ?普通帰ってるぞ流石に」

翔子「……こうして今雄二と一緒に下校できるのも和真のおかげ。あらためてありがとう」

源太「………………」

和真「俺は大したことしてねぇよ、最終的に行動したのはあいつだ。……ところで源太、なんでさっきから何も喋らねぇんだよ?」

源太「…………いやなんでテメェ等はそんな元気なんだよォォォ!?」

 

五十嵐源太の魂の叫び。

 

源太「おかしいだろ!?あの鉄人の扱きの後でなんでそんな何事もなかったように下校できるんだよ!?俺様なんかあと一歩で趣味は勉強、尊敬する人が二ノ宮金次郎になる寸前だったんだぞ!?俺様が尊敬するのはウルフ○ズだけだってのに!」

翔子「……そんなこと言われても」

和真「お前とは鍛え方が違うんだよ、ウルフ○ズが好きなくせにガッツ0の軟弱者が。せいぜい帰って明日の補習にビビりながら部屋の隅でガクブル震えてろこのチンピラが」

源太「ねぇなにこいつ?何様?殺っちゃっていいよな?原型なくなるほど顔面しばき回しても許されるよな?」

雄二「…………なにやってんだお前ら……」

 

 

 

 

 

 

翌朝、登校した明久達は昨日雄二が言っていた作戦を聞きに集まる。

 

雄二「まず秀吉にコイツを着てもらう」

 

そう言って鞄から取り出したのは女子の制服。

 

明久(雄二、それどうやって手に入れたの?君に何があったんだい?)

 

入手経路は十中八九ムッツリーニだろう。

 

秀吉「それは別に構わんが、ワシが女装してどうするんじゃ?」

 

女装させられることに対してまるで抵抗が無い。これでは女性扱いされても仕方がないのではなかろうか。

 

雄二「秀吉には木下優子として、Aクラスの使者を装いCクラスを挑発してもらう」

 

Aクラスには秀吉の双子の姉の木下優子が所属しており、一卵双生児のようにそっくりな容姿をしている。優子に化けてAクラスとして圧力をかけるという策だ。

 

雄二「と、いうわけで秀吉。用意してくれ」

秀吉「う、うむ……」

 

雄二から制服を受け取り、その場で生着替えを始める秀吉。男子制服とは着方からして別物なのにも関わらずなれた手つきで着替えていく。

 

明久(な、なんだろうこの胸のときめきは。相手は男なのに目が離せない)

 

明久が脳内で葛藤している傍ら、隣でムッツリーニが迷うことなく凄い速さでカメラのシャッターを切っていた。

 

雄二「よし、着替え終わったぞい。ん、皆どうした?」

 

着替え終わった秀吉は雄二をのぞくメンバーのなんとも言えない雰囲気を不思議に思う。

 

雄二「さぁな?俺にもよくわからん」

秀吉「おかしな連中じゃのう」

明久「…………でも冬服で助かったね!」

雄二「ああ、まったくだ」

秀吉「? どういうことじゃ?」

雄二「木下姉がちゃんと対策しているからか日焼け具合はさほど変わらないが、夏服だと秀吉の女々しい貧弱な体つきじゃあ一目で区別がついてしまうからな」

明久「そうそう。木下さん和真の影響で鍛えてるからか、アスリート体型らしいから」

秀吉「泣くぞお主等?ワシかてたまには引くぐらい本気で泣くぞ?」

雄二「とにかく、Cクラスに行くぞ」

秀吉「……うむ…」

 

雄二が半泣きの秀吉を連れて教室を出て行き、明久も後に続く。そのまましばらく歩き、Cクラスを目の前に立ち止まる明久達。

 

雄二「さて、ここからはすまないが一人で頼むぞ、秀吉」

 

Aクラスの使者を装うのならFクラスの明久達が一緒にいるのはまずいため、離れた場所に隠れ様子を見る事にする。

 

秀吉「気が進まんのう……」

 

当の木下はあまり乗り気ではないようだ。姉のふりをして敵を騙す、決して気持ちの良い話ではないだろう。

 

雄二「そこをなんとか頼む」

秀吉「むぅ……。仕方ないのう……」

雄二「悪いな。とにかくあいつらを挑発して、Aクラスに敵意を抱くように仕向けてくれ。秀吉なら出来るはずだ」

 

ただでさえ瓜二つの容姿に加えて秀吉は演劇部のホープと名高い演技の鬼、それくらい造作もないだろう。

 

秀吉「はぁ……。あまり期待せんでくれよ……」

 

溜め息と共に力なくCクラスに向かう秀吉。そんな様子を見届けた明久は不安そうに雄二に訪ねる。

 

明久「秀吉は大丈夫なの?別の作戦を考えた方が……」

雄二「多分大丈夫だろう」

明久「心配だなぁ……」

雄二「シッ。秀吉が教室に入るぞ」

 

秀吉がCクラスの教室に入る。

 

 

『静かにしなさい、この薄汚い豚ども!』

 

 

明久(……うわぁ)

『な、何よアンタ!』

 

この怒声は昨日のCクラス代表の小山だろう。いきなり豚呼ばわりされてご立腹のようだ。

 

『話しかけないで!豚臭いわ!』

 

自分から来ておいて豚呼ばわり、突っ込みどころが多すぎる。

 

『アンタはAクラスの木下!ちょっと点数がいいからっていい気になってるんじゃないわよ!何の用よ!』

 

雄二の思惑通り、小山は秀吉を優子だと思い込んでいる。

おまけにどうやら面識もあるようだ。

 

『アタシはね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの!貴方達なんて豚小屋で充分だわ!』

『なっ!言うに事欠いて私達にはFクラスがお似合いですって!?』

 

小山にとってFクラス=豚小屋のようだ。

 

『聞いた話ではなんでもFクラスとBクラスの戦争終結後、勝ったほうに攻めこむつもりじゃない?ハッ、家畜にも劣る下劣な魂胆ね!

手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、もう一度アンタを叩き潰して、負け犬のアンタに相応しい教室に送ってあげようかと思っているの。覚悟しておきなさい、近いうちにアタシ達が薄汚いアンタ達を始末してあげるから!』

 

そう言い残し、木下は戻ってきた。 

 

秀吉「これで良かったかのう?」

 

妙にスッキリとした表情で秀吉は帰還した。姉に対して不満でもたまっていたのであろうかと思わざるを得ないほどノリノリの演技であった。

 

雄二「ああ、素晴らしい仕事だった」

『キィィィー!ムカツクぅ!Fクラスなんて相手にしてられないわ!Aクラス戦の準備を始めるわよ!あのときの屈辱、倍にして返してやるわ!』

 

Cクラスの教室からは小山のヒステリックな声が聞こえる。完全に頭に血が上っているようでこの後すぐにでもAクラスに宣戦布告をするだろう。

 

雄二「作戦もうまくいったことだし、俺達もBクラス戦の準備を始めるぞ」

明久「あ、うん」

 

Cクラスを罠に嵌め終わったFクラス一同はあと十分後に迫った試召戦争に備えるために明久達はFクラスへ向かった。

 

明久「ところで小山さんと木下さんに何があったの?もう一度とか屈辱とか」

秀吉「以前小山の所属するバレー部が『アクティブ』に惨敗したと聞いておってのう」

明久「……ああ……なるほど」

 

友達も多いが恨みを持っている人もそこそこ多いのが和真である。

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「ドアと壁をうまく使うんじゃ!戦線を拡大させるでないぞ!」

 

あの後午前九時よりBクラス戦が再開され、明久達は昨日中断されたBクラス前に行き進軍を始めている。雄二曰く、『敵を教室内に閉じ込めよ』とのこと。ここで一つ問題があった。

姫路の様子が明らかにおかしい。

本来は総司令官である彼女が今日は一向に指示を出す気配がない。それどころか何にも参加しないようにしているようにも見える。

 

秀吉「勝負は極力単教科で挑むのじゃ!補給も念入りに行え!」

 

現在指揮をとっているのは秀吉。ここまでは指示どおり上手くやれている。

 

『左側出入口、押し戻されています!』

『古典の戦力が足りない!援軍を頼む!』

 

左側の出入口が押し戻される。Bクラスは文系が多いため、このままではまずい。

 

明久「姫路さん、左側に援護を!」

姫路「あ、そ、そのっ……」

 

姫路は戦線に加わらず何故か泣きそうな顔をしてオロオロしていて役に立ちそうもない。

 

明久(まずい!突破される!)「だあぁっ!」

 

人混みを掻き分け、左側の出入口に突っ込む。そして明久は立会人の竹中先生の耳元でささやく。

 

明久「……ヅラ、ずれてますよ」

竹中「っ!!少々席を外します!」

明久(やれやれ、いざという時の為の脅迫ネタ~古典教師編~をこんなところで使う羽目になるなんて)

 

いったいいくつあるんだとか、いざという時っていつだとか、色々つっこみたいが取り敢えずgjである。

 

明久「古典の点数が残っている人は左側の出入口に!消耗した人は補給に回って!」

 

明久の機転によりなんとか持ち直すことに成功するが、姫路の不自然な振る舞いが気になったのか明久は事情を聞きに行く。

 

明久「姫路さん、どうかしたの?」

姫路「そ、その、なんでもないですっ」

明久「そうは見えないよ。何かあったなら話してくれないかな」

姫路「ほ、本当になんでもないんです!」

 

『右側出入口、教科が現国に変更されました!』

『数学教師はどうした!』

『Bクラスに拉致された模様!』

 

両側がBクラスの得意科目……正直言ってかなりピンチである。

 

姫路「私が行きますっ!」

 

そう言って姫路は体の震えを振り払い、戦線に加わろうと駆け出した。

 

だが、

 

姫路「あ………うう………」

 

急にその動きを止めてうつむいてしまった。今にも泣きそうな表情で両拳を握り締めている。

 

明久(なんだろう?何かを見て動けなくなったようだけど……)

 

明久は姫路が見た方を目で追ってみる。その先には窓際で腕を組んでこちらを見下ろす根本の姿があった。何かを手に持っているようだ。

 

明久「っ!!」

 

それは三日前の放課後、姫路が恥ずかしがって明久から隠した封筒だった。明久の脳内で点と点が一つの線になる。

 

明久「……なるほどね。そういうことか」

 

昨日の協定から明久はずっと引っ掛かっていた。なぜ、あの根本があんな対等な条件の提案をしてきたのか。

根本はあの時点で既に姫路を無力化する算段が立っていたのだ。姫路が参加できないのなら、あの協定はBクラスが圧倒的に有利な条件である。

さらにその協定を利用して和真・翔子をも討ち取ることに成功する。結果、Fクラスの三大戦力は全て根本に封じられてしまった。

 

明久「姫路さん」

姫路「は、はい……?」

明久「具合が悪そうだからあまり戦線には加わらないように。試召戦争はこれで終わりじゃないんだから、体調管理には気をつけてもらわないと」

姫路「……はい」

明久「じゃあ、僕は用があるから行くね」

姫路「あ……!」

 

何か言いたげな姫路を置いて明久は駆け出す。姫路は何かを言いかけようとしたが、どうしても言葉が出てこなかった。

 

姫路「……私…………最低だ…………」

 

 

 

Fクラスの教室へと歩みを進める明久の表情は、とても柔和な笑顔を浮かべている。

 

明久「面白いことしてくれるじゃないか、根本君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久(あの野郎、ブチ殺す)

 

ただし、眼には殺意の炎を灯しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「雄二っ!」

雄二「うん?どうした明久。脱走か?チョキでシバくぞ」

明久「話があるんだ」

雄二「……とりあえず、聞こうか」

 

雄二は明久の憤怒の目を見て何かを察したのか真面目な顔で聞く。 

 

明久「根本君の着ている制服が欲しいんだ」

雄二「……お前に何があったんだ?」

 

真剣な眼差しからの、あまりにぶっ飛んだ要求に雄二はどう反応すれば良いかわからなくなる。

 

姫路のラブレターをが根本に奪われた→それを取り返したい→でも姫路の心境を考えると、できればだれにも知られたくない→まず制服を没収してそこから抜き取ればいい→根本の制服が欲しい

 

いくらなんでもはしょりすぎである。それでは変な趣味に目覚めたと思われても仕方がない。

 

明久「ああ、いや、その。えーっと……」

雄二「…ま、まぁいいだろう。勝利の暁にはそれぐらいなんとかしてやろう」

 

完全に引き気味に雄二は答える。案の定である。

 

明久「それと、姫路さんを今回の戦闘から外して欲しい」

雄二「…理由は?」

明久「理由は言えない」

雄二「どうしても外さないとダメなのか?」

明久「うん。どうしても」

 

雄二は顎に手を当てて考える。

和真達がいない以上、姫路抜きでBクラスに挑むなど自殺行為もいいとこだ。普通はこんな頼み聞き入れられるわけがない。

 

雄二「……条件がある」

明久「条件?」

雄二「姫路が担うはずだった役割をお前がやるんだ。どうやってもいい。必ず成功させろ」

 

しかし雄二は明久の無茶な頼みを聞き入れた。

 

明久「もちろんやってみせる!絶対に成功させる!」

雄二「良い返事だ」

明久「それで、僕は何をしたらいい?」

雄二「タイミングを見計らって根本に攻撃をしかけろ。科目は何でもいい」

明久「皆のフォローは?」

雄二「ない。しかも、Bクラス教室の出入り口は今の状態のままだ」

明久「……難しい事を言ってくれるね」

 

今の戦闘はBクラスの前後の扉の二ヶ所で行われており、場所の条件から常に一対一となっている。これは少しでも時間を稼ぐためと、雄二の作戦に必要な行動らしい。この状況で根本に近づくには姫路達のような圧倒的火力が必要になる。当然明久にはそんな火力は明久にはない。

しかし明久はふとあることを思い出した。

 

明久「…わかった。やってみせる」

雄二「よし、じゃあ俺はDクラスに指示を出してくる。絶対に失敗するなよ。俺はお前を信頼している」

 

そう言って雄二は柄にもないセリフを吐いたのち、教室を後にした。

 

 

 

明久「……痛そうだよなぁ」

 

これからすることを想像するだけで身体に痛みが走る。

だが明久はすぐ覚悟を決めた。

 

明久「よっしゃ!あの外道に目に物見せてやる!」

 

頬を叩き自らを奮い立たせる。背負うことになるいくつものリスクを差し引いても、根本を潰さない理由は無い。

 

明久(方法がある。勝算もある。根性さえあればやれるのだから、やらない理由はどこにもない!後のことなんか知るもんか!)

 

明久「美波!武藤君と君島君も、協力してくれ!」

 

この三人は既に点数をかなり消費し、当面は補給テストを受けるのが任務になっている。

 

美波「どうしたの?」

武藤「何か用か?」

君島「補給テストがあるんだが」

明久「補給テストは中断。その代わり、僕に協力して欲しい。この戦争の鍵を握る大切な役割なんだ」

美波「……随分とマジな話みたいね」

明久「うん。ここからは冗談抜きだ」

美波「何をすればいいの?」

 

明久「僕と召喚獣で勝負して欲しい」

 

 

 

 

 

 

「二人とも、本当にやるんですか?」

 

Dクラスに召喚獣勝負の立会人として呼ばれた英語の遠藤先生がかなり困惑した表情で明久達二人に念を押す。

 

明久「はい。もちろんです」

美波「このバカとは一度決着をつけなきゃいけないんです」

向かい合う明久と美波。

遠藤「それならDクラスでやらなくても良いんじゃないですか?」

美波「仕方ないんです。このバカは《観察処分者》ですから。オンボロのFクラスで召喚したら、召喚獣の戦いの勢いで教室が崩れちゃうんで」

遠藤「もう一度考え直しては」

明久「いえ。やります。彼女には日頃の礼をしないと気が済みません」

遠藤「……わかりました。お互いを知る為に喧嘩をするというのも、教育としては重要かもしれませんね」

 

『試獣召喚(サモン)!』

 

明久「行けっ!」

 

〈美波〉目がけて駆け出す〈明久〉。木刀を強く握りしめ、壁を背にした相手に対し、駆ける勢いを乗せて大きく拳を振るった。

 

ドンッ!

 

明久「ぐ……ぅっ!」 

 

そのモーションの大きな攻撃はたやすくかわされる。

 

美波「どこ狙ってるのよこの下手くそ」

明久「こん……のぉっ!」

 

更に力を込めた一撃を〈明久〉が放つ。

しかし〈美波〉は横っ飛びでそれをかわし、〈明久〉の拳はまたも壁を打つ羽目になった。

 

明久「つぅ……っ!」

 

教室を揺るがすほどの力を込めた一撃だ。その反動も半端じゃない。脳天から爪先にかけて激痛が走った。

 

美波「アキ、時間がないわよ」

 

壁にかけてある時計を見上げながら美波は励ますように告げる。現在の時刻は午後二時五十七分。作戦開始まであと三分。

 

『お前らいい加減諦めろよな。機能から教室の出入り口に集まりやがって、暑苦しいことこの上ないっての』

『どうした?軟弱なBクラス代表サマはそろそろギブアップか?』

 

根本と雄二の声。姫路が戦えない分、雄二率いる本隊まで出場せざるを得なくなったのだろう。

 

明久「らぁっ!」

 

学習能力がないかのように壁に〈明久〉の拳が叩きつけられる。先の痛みが抜けないうちに新しい痛みが訪れる。

 

『はァ?ギブアップするのはそっちだろ?』

『無用な心配だな』

『そうか?柊も霧島も戦死して、頼みの綱の姫路も調子が悪そうだぜ?』

『……お前らじゃ役不足だからな。休ませておくさ』

『けっ!口だけは達者だな。負け組代表さんよぉ』

『負け組?それはお前のことになるだろうな』

 

明久「はぁぁっ!」

 

四度目の攻撃。

よく見ると拳から血が吹き出し、教室の床に血溜まりができていた。

 

『……さっきからドンドンと、壁がうるせぇな。何かやっているのか?』

『さぁな。人望のないお前に対しての嫌がらせじゃないのか?』

『けっ。言ってろ。どうせもうすぐ決着だ。お前ら、一気に押し出せ!』

『……態勢を立て直す!一旦下がるぞ!』

『どうした、散々ふかしておきながら逃げるのか!』

 

美波「アキ、そろそろよ」

明久「うん。わかっている」

 

明久(痛い…………苦しい…………だけど諦めるもんか!)

 

初日の和真の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

『壁にぶち当てて壁を破壊して予想外の方向から奇襲をかけられる』

 

明久の狙いは最初からこのBクラスにつながる壁だった。

どうしても倒したい相手が壁の向こうにいる。その相手に通じる道はない。

ならばするべき行動は一つのみ。

 

明久(壁があったら殴って壊す!

 

道がなければこの手で創る!

 

僕を………僕達Fクラスを………誰だと思っている!!!

 

……そうだよね、和真)

 

『あとは任せたぞ、明久!』

 

敵の本隊を引き付け、雄二は壁の向こう側の明久によく通る声で告げる。時間はジャスト午後三時。作戦開始だ。

 

明久「だぁぁーーっしゃぁーっ!」

 

召喚獣に持てる力全てを注ぎ込んで、壁を攻撃する。

 

明久「ぐぅぅぅっ!」

 

全身に走る衝撃に神経が軋む。気絶しそうなほどの痛みが明久の体内で暴れ狂う。

 

しかしそれでも明久は諦めない。

 

明久「負ける……もんかぁぁぁ!」

 

ドゴォオオオオオッッッ!

 

豪快な音が響き渡り、BクラスとDクラスを隔てていた壁が跡形もなく崩壊した。

 

根本「ンなっ!?」

明久「くたばれ、根本 恭二ぃぃぃ!」

美波「遠藤先生!Fクラス島田が…」

『Bクラス山本が受けます!試獣召喚!』

明久「くっ近衛兵か!」

 

明久達と根本の距離は20メートル程度。広い教室のせいで随分と距離があるため近衛兵はすぐさまカバーに入る。

 

根本「は、ははっ!驚かせやがって!残念だったな!お前らの奇襲は失敗だ!」

 

取り繕うように笑う根本。

確かに明久達の奇襲は失敗だ。既に周りを近衛部隊全員に取り囲まれている。こうなった以上、点数に劣る明久達にこの場を切り抜ける術はない。

 

だが明久達の役目はすでに終えている。

 

ダン、ダンッ!

 

出入口を人で埋め尽くされ、四月とは思えないほどの熱気がこもった教室。そこに突如現れた生徒と教師、二人分の着地音が響き渡る。

エアコンが停止したので、涼を求める為に開け放たれた窓。そこから屋上よりロープを使って二人の人影が飛び込み、根本恭二の前に降り立った。

体育教師の大島先生だからこそできる荒業だ。

 

「…Fクラス、土屋 康太」

 

根本「き、キサマ……!」

 

「……Bクラス根本 恭二に保健体育勝負を申し込む」

 

根本「ムッツリィニィーーッ!」

 

明久達が近衛兵を引き付け丸裸になったので、根本にもう逃げ場はない。

 

ムッツリーニ「…試獣召喚」

 

 

『Fクラス 土屋康太 保健体育 541点

VS

Bクラス 根本恭二 保健体育 203点』

 

 

〈ムッツリーニ〉は手にした小太刀を一閃し、一撃で敵を切り捨てる。

今ここに、Bクラス戦は終結した。

 




原作とほぼ同じ展開でしたがこのシーンは個人的に変えたくなかったので仕方ありません。
直接聞いたわけでもないのに伝染するカミナウィルス。

今日はBクラス戦に終止符を打ったムッツリーニの召喚獣。

土屋 康太
・性質……防御軽視&速度重視型
・総合科目……950点前後
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……F+
機動力……E
防御力……F
(保健体育)
攻撃力……A+
機動力……S+
防御力……A
・腕輪……加速

総合科目はあくまでFクラス上位レベル。しかし保健体育のスペックは学年首席すらも上回る。さらに本人のモチベーション次第ではさらに上の点数も狙える。

『加速』
文字通り速度が上がる。直接的な攻撃力は無いが消費点数が30点と他と比べて低い。そもそもこのステータスで先制攻撃されるのだからたまったものではない。ちなみに人間が操作するには手に余るほどのスピードのため、発動中召喚獣は近くの敵にオートで斬りかかる補正がさりげなくつく。
和真の腕輪能力の天敵。攻撃は全部避けられ、その隙をついて切り裂かれる。まぁ和真は保健体育では能力が使えないので意味はないが。

では。


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因果応報

散々出し惜しみしていた蒼介の召喚獣と点数が今回ようやく明かされます。


翔子「……雄二……!」

和真「無事勝ったみてぇだな!」

 

終戦後、生き残っていた生徒も戦死していた生徒もBクラス教室に集合した。

 

明久「うぅ……。痛いよう、痛いよう……」

和真「……なあ秀吉、明久が痛がってんのはそこのぶっ壊れた壁と関係があんのか?」

秀吉「まさにその通りじゃ。明久、随分と思い切った行動にでたのう」

 

素手でコンクリートの壁を壊したのだ、痛みが100%跳ね返るわけじゃないとは言え、痛いに決まっている。

 

秀吉「なんともお主らしい作戦じゃったな」

明久「で、でしょ?もっと褒めてもいいと思うよ?」

秀吉「後のことを何も考えず、自分の立場を追い詰める、男気溢れる素晴らしい作戦じゃな」

明久「……遠まわしに馬鹿って言ってない?」

和真「まぁどう考えてもバカの所業だな」

明久「失礼な!?そもそもこの作戦の発案者は和真でしょ!?」

和真「確かに前そんなこと言ったがサンドバック案と並んでいる時点でろくな案じゃねぇだろ…」

 

校舎の壁を破壊。問題にならないわけがない。これで明久の放課後の予定は職員室でのhurtful communicationで埋まってしまった。初犯でなければ留年や退学になっていたかもしれない。

 

雄二「ま、それが明久の強みだからな」

明久「馬鹿が強み!?なんて不名誉な!」

雄二「さて、それじゃ嬉し恥ずかし戦後対談といくか。な、負け組み代表?」

根本「……」

 

床に座り込み黙り込んでいる根本。負けたことが余程信じられないことなのだろう。

 

雄二「本来なら設備を明け渡してもらい、お前らには素敵な卓袱台をプレゼントするところだが、特別に免除してやらんでもない」

 

そんな雄二の発言に、周囲の連中が騒ぎ出す。

 

雄二「落ち着け、お前ら。前にも言ったが俺達の目標はAクラスだ。Bクラスを手に入れる必要はない」

秀吉「うむ。確かに」

雄二「ここはあくまで通過点だ。だから、Bクラスが条件を呑めば解放してやろうかと思う」

 

その言葉でFクラスの皆は納得したような表情になる。Dクラス戦のときにも言った事だし、雄二の性格を理解してきたのだろう。

 

和真(さて、次はいよいよAクラスか。やっとここまで来たぜ……ソウスケ!)

 

ちなみに和真はもう次の戦争のことを考えていてBクラスなどすでに眼中に無いのか毛ほども意識を向けていなかったりする。

 

根本「……条件は何だ」

雄二「条件?それはお前だよ、負け組み代表さん」

根本「俺、だと?」

雄二「ああ。お前には散々好き勝手やってもらったし、正直去年から目障りだったんだよな」

 

すごい言われ様だか否定できないので、周りの人間は誰もフォローしない。本人もわかってるみたいだ。

 

雄二「そこで、お前らBクラスに特別チャンスだ。Aクラスに言って、試召戦争の準備ができていると宣言して来い。そうすれば今回は設備については見逃してやってもいい。ただし、宣戦布告はするな。すると戦争は避けられないからな。あくまでも戦争の意思と準備があるとだけ伝えるんだ」

根本「……それだけでいいのか?」

 

疑うような根本の視線。雄二の当初の計画ではそれだけのはずだったのだが。

 

雄二「ああ。Bクラス代表がコレを着て、言ったとおりにしたら見逃そう」 

 

そう言って雄二が取り出したのは、先程秀吉が来ていた制服。これは明久が制服を手に入れるための手段だが、恐らく雄二の個人的恨みも含まれてるだろう。

 

根本「ば、馬鹿なことを言うな!この俺がそんなふざけたことを……!」

 

予想外の要求に根本が慌てふためく。

 

和真(そりゃ嫌だよな。あれを抵抗なく着れる男なんざいねぇ……と思う)

秀吉(なぜじゃろう……何か心に重いものが…)

 

『Bクラス生徒全員で必ず実行させよう!』

『任せて!必ずやらせるから!』

『それだけで教室を守れるなら、やらない手ないな!』

 

突如、アゲアゲになるBクラス一同。この光景を見ると根本の人望のなさが窺える。

 

雄二「んじゃ、決定だな」

根本「くっ!よ、寄るな!変態ぐふぅっ!」

源太「とりあえず黙らせといたぜ。あースッキリした」

雄二「お、おう。ありがとう」

 

散々気に食わない作戦に付き合わされた恨み+鉄人の補修&和真の罵詈雑言で蓄積したストレスを込めた源太の一撃が根本のボディに直撃する。

 

源太「そういうわけで和真、俺様は今日行けねぇわ」

和真「ああ了解。ソウスケ達もこの後Cクラスとの試召戦争があるから無理らしいし、ラクロス部に殴り込みはまた今度か…」

 

やっぱり忘れていなかったようであるが、優先順位としてそこまで高くはないので先送りにする。

 

秀吉「では、着付けに移るとするか。明久、任せたぞ」

明久「了解っ」

 

明久が倒れている根本に近づき、制服を脱がせる。その表情は当然、不愉快そうな顔である。

 

根本「う、うぅ……」

 

気色悪いうめき声をあげる根本。このままだと目を覚ましてしまいそうだ。

 

明久「ていっ!」

根本「がふっ!」 

 

そこで明久が追加攻撃。その後男子制服を剥ぎ、女子の制服をあてがうが、やり方がわからず手が止まる。

 

「私がやってあげるよ」

 

するとBクラスの女子の一人がそう提案した。

 

明久「そう?悪いね。それじゃ、折角だし可愛くしてあげて」

「それは無理。土台が腐ってるから」

 

笑顔で容赦ない評価を下すBクラス女子。

根本には一片の慈悲もないらしい。

 

明久「じゃ、よろしく」

 

明久はそう言い。根本の制服を持ってその場を離れた。

ごそごそと根本の制服を探る。

 

和真「なにやってんだ明久?いくら金欠で相手が根本だからって財布盗むのはよせ」

明久「違うよ!?…………って、あぁ!」

和真「?」

明久「違うからね!?姫路さんの大切なもの探してるとかじゃないからね!」

 

語るに落ちるとはこのことだ。この男は本当に誤魔化そうという意思はあるのだろうか。

 

和真「……そうかい」

 

しかし事情を察したのか気を聞かせて明久から離れる和真。

 

明久(よし、なんとか誤魔化せた…)

 

本当にこいつはおめでたい頭である。

 

明久「……あったあった」

 

姫路の封筒を取り出し、ポケットに入れる。

 

明久(さて、この制服はどうしよう?……よし、捨てちゃおう。折角だから根本君には女子の制服の着心地を家まで楽しんでもらおう)

 

それを楽しめるのはよほど業の深い人間だろう。当然明久もそれは理解している。理解しているからこそ実行するのだ。

 

明久「落とし物は持ち主に、っと」

 

取り戻したブツを姫路の鞄に入れておく。これでミッションコンプリートだ。

 

「吉井君!」

明久「ふぇっ!?」

 

背後から急に声をかけられて間の抜けた悲鳴をあげる明久。慌てて振り向くと、そこにはなにやら申し訳なさそうな姫路が立っていた。

 

姫路「吉井君……!」

明久「ど、どうかした?」

 

鞄をいじっている姿を見られ、慌てる明久。すると、そんな明久に姫路は涙を浮かべて正面から抱きついてきた。

 

明久「ほわぁぁっっと!?」

 

ほわっと=what + why(訳)なに!?なんで!?

 

姫路「あ、ありがとう、ございます……!わ、私、ずっと、どうしていいか、わかんなくて……!」

 

今どうしていいかわからないのは間違いなく明久の方であると思う。

 

明久「と、とにかく落ち着いて。泣かれると僕も困るよ」

姫路「は、はい……」

 

精神の安定を図るため姫路を引き離す明久。

 

明久(……ってしまった!引き離してどうする!こんなチャンスは二度とないだろうが)

 

後の祭りである。

 

姫路「いきなりすみません……」

明久(ああっ言いたい!もう一度抱きついてってお願いしたい!)

明久「も、もう一度…」

姫路「はい?」

明久(げっ!思わず口に出てた!なんとか誤魔化さないと!)

明久「もう一度壁を壊したい!」(って馬鹿ぁっ!僕の馬鹿ぁっ!お前はどこのテロリストだよ!)

 

壁があったら殴って壊すと言っても流石に限度というものがある。

 

姫路「あの、更に壊したら留年させられちゃうと思いますよ……」

 

姫路はとても気の毒そうな目で明久を見る。先程までの不安定な表情はより不安定な明久を見ていたお陰で安定したようだ。

 

明久「……それじゃ、皆のところに行こうか」

姫路「あ、待ってください!」

 

いたたまれない気持ちで逃げようとする明久の袖を握って引き留める姫路。

 

明久「な、なに?」

姫路「あの……手紙、ありがとうございました」

 

うつむきがちに小さな声で言う姫路。

 

明久「別に、ただ根本君の制服から姫路さんの手紙が出てきたから戻しただけだよ」

姫路「それってウソ、ですよね?」

明久「いや、そんなことは」

姫路「やっぱり吉井君は優しいです。振り分け試験で途中退席した時だって『具合が悪くて退席するだけでFクラス行きはおかしい』って、私の為にあんなに先生と言い合いをしてくれていたし……」

明久(そういえばそんなこともあったなぁ。あのときは先生に冷たくあしらわれたから、逆に熱くなっちゃったっけ)

姫路「それに、この戦争って……私の為にやってくれてるんですよね?」

明久「え!?い、いや!そんなことは!」

姫路「ふふっ。誤魔化してもダメです。柊君に全部聞いちゃいましたから」

明久(和真ァァァ!?なんでばらしちゃったの!?ねえ!?)

 

『わりぃ、全部ばらしちゃった♪』

 

全く悪いと思っていなさそうな満面の笑みを浮かべた和真が明久の脳裏に浮かんだ。思わずぶん殴りたくなるような笑顔だ。

 

姫路「凄く嬉しかったです。吉井君は優しくて、小学校の時から変わっていなくて…」

明久「そ、その手紙、うまくいくといいね!」

 

妙な空気にむずがゆくなり、強引に話題を変える。

 

姫路「あ……。はいっ!頑張りますっ!」

 

満面の笑みで姫路は応える。

 

明久(この子は本当に和真のことが好きなんだな。わかっていたことだし、僕が和真に敵わないことも自覚している。悔しいけどしょうがない)

明久「で、いつ告白するの?」

姫路「え、ええと……全部が終わったら……」

明久「そっか。けど、それなら直接言った方がいいかもね」

姫路「そ、そうですか?吉井君はその方が好きですか?」

明久「うん。少なくとも僕なら顔を合わせて行ってもらう方が嬉しいよ」

姫路「本当ですか?今言ったこと、忘れないで下さいね?」

明久「え?あ、うん」(まあ和真も多分直接言ってもらうほうが好きだよね、あの性格的に)

 

『こ、この服、ヤケにスカートが短いぞ!』

『いいからキリキリ歩け』

『さ、坂本め!よくも俺にこんなことを』

「無駄口を叩くんじゃねぇよ!これから撮影会もあるから時間がねぇんだぞ!』

『き、聞いてないぞ五十嵐!』

『当たり前だ!今思い付いたからな!』

『OK、採用!』

『貴様等ァァァ!』

 

いつの間にか源太が撮影会までスケジュールに入れていた。これからの出来事は根本には一生忘れられないトラウマになるに違いない。

 

明久「…とにかく、頑張ってね」

姫路「はいっ!ありがとうございます!」

 

元気よく返事をして、姫路はとても軽やかな足取りで教室を出て行った。

 

明久「………………さてと」

 

和真の席に歩み寄り、鞄を取り出す。

 

明久「とりあえず、和真の教科書に卑猥な落書きでもしておこう」(僕がそう簡単に人の幸せを祝ってやる人間だと思うなよ!)

 

お前は小学生か。

 

和真「随分愉快なことしようとしてるじゃねぇか」

明久「そうでし………………ょ…………」

 

悪が栄えた試しなしとは良くいったもので、いつの間にか明久の隣に和真がいた。

 

和真「で?誰が誰の何に何をするって?」

 

バキボキと腕を鳴らしながら明久に問う。気のせいか、和真の後ろにライオンらしき動物が浮き出ている。

 

明久「スミマセンごめんなさい僕が悪かったです許してください心からお詫びしますアイムソーリー」

 

自らが補食される側であると痛感させられた明久はそれはもう見事な平謝り。

 

和真「ったく。何くだらねぇこと企んでんだよ……んじゃ俺テニス部に用があるからもう行くぞ」

明久「今日も?……ちょっとはスポーツもほどほどにできないかな?」(姫路さんのために少し自重してもらおう)

 

体が弱い姫路のために、和真の運動部巡りを減らそうとする明久。だが、

 

和真「死んでもやだ」

明久「そこまで!?」

 

そんな提案をこのアウトドア派筆頭が聞き入れるはずがない。

 

和真「当たり前だろ。何もせずおとなしくしているだけなんざ御免だ。つか、そんな奴もう俺じゃねぇよ」

明久「…そっか……そうだよね……和真だもんね……」(姫路さん、君の恋路は思ったより険しいらしい)

 

確かに明久がこの様子だと、姫路の恋が実を結ぶのはまだまだ先のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BクラスとFクラスの試召戦争修了直後、すぐさまCクラス対Aクラスの試召戦争が始まった。

 

小山(見てなさいよ木下!ギッタギタにしてやるわ!)

 

Cクラス代表の小山 優香は怒りに燃えていた。

そんななか、教室前で待機させていたはずの生徒が教室に駆け込んできた

『だ、代表!』

小山「なによ!持ち場を離れるんじゃないわよ!」

『それどころじゃないんです!』

小山「?いったいどういう…」

直後、Cクラスのドアが勢いよく開かれ、一人の生徒が入ってきた。

 

「正直、手応えのあるアイテとは言えないな…」

 

小山「…なっ!?あ…あんたは!?」

 

 

 

 

蒼介「さて、この戦争を終わらせよう」

 

学年主任高橋先生を連れたAクラス学年代表、鳳 蒼介であった。

AクラスとCクラスは教室が隣同士であり、どうやったって短期決戦になる。

雄二達Fクラスは戦力不足が否めないので後半は代表である雄二自らが戦線に出ることもある。

 

だがAクラス代表が開始早々自ら敵地に乗り込んで来るなんて誰が予想できよう。

 

小山「…はっ!何を血迷ったかしらないけど探す手間が省けたわ!あんた達、こいつを仕留めなさい!」

 

小山に命令され、近衛兵達が前に出る。

 

蒼介「高橋先生、Aクラス鳳が総合科目勝負を申し込みます。試獣召喚(サモン)!」

『試獣召喚!』

 

それぞれの召喚獣が出現する。蒼介の召喚獣は蒼を基調とした武者鎧に和服、武器は草薙の剣だ。続けて点数が表示される。

 

 

『Aクラス 鳳 蒼介 5833点

VS

Cクラス生徒×10 平均1700点』

 

 

表示された蒼介の点数は、教師すらも凌駕しかねない反則的なまでの数値であった。

 

『うっ…』

『覚悟はしていたが、なんて点数だ…』

『あんなのいったいどうすれば…』

 

あまりの点数差にCクラス生徒一同の闘争心はどんどん削がれていく。急激にへたれていく近衛兵達に小山は鼻息荒く激を飛ばす。

 

小山「なにびびってるのよアンタ達!全員で囲めば倒せない相手じゃないでしょ!早く殺りなさい!」

 

小山の鶴の一声を受け、覚悟を決め〈蒼介〉を取り囲む近衛兵達。

 

『やあぁぁぁぁぁ!』

 

〈蒼介〉に一斉に攻撃を仕掛ける。〈蒼介〉の武器では和真のように巨大でなく薙ぎ払うことはできないため、そのまま攻撃を受けてしまう。

 

しかし、

 

蒼介「無駄だ」

 

〈蒼介〉はそれらの攻撃に動じることなく近衛兵達を一人残らず切り裂いた。点数差もあり一撃で全員戦死した。

 

 

『Aクラス 鳳 蒼介 5833点

VS

Cクラス生徒×10 戦死』

 

 

小山「どういうこと……なんであんたは傷ひとつついてないのよ!?」

 

小山の言った通り、蒼介の召喚獣は近衛兵達の攻撃を受けたのにもかかわらず一切ダメージを受けていなかった。

 

蒼介「お前が知る必要などない。さぁ決着だ、その首貰い受ける」

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥「改めて見ると…えげつないわね、蒼介の腕輪」

優子「そうね…というか、ほとんど代表一人で片付けちゃったわね…」

飛鳥「試召戦争のセオリーをガン無視した作戦だったしね…」

 

念のため教室の外で待機していた二人は驚き半分、呆れ半分

といった様子で代表の一人舞台を見届けた。

 

優子「というか秀吉のやつ…後で覚えてなさいよ…」

飛鳥「優子、禍々しいオーラが出てるわよ…」

 

どうやら秀吉の寿命は長くはもたないらしい。




というわけで蒼介君無双でした。
二位の翔子さんですら千点差以上……
大人数で闘うと敗北する法則。
彼の武者鎧のモチーフは神羅万象シリーズの『聖龍王サイガ』をイメージしています。

鳳 蒼介
・性質……バランス型
・総合科目……5800点前後 (学年1位)
・400点以上……全科目
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……A+
機動力……A+
防御力……A+
・腕輪……まだ不明

全能力が最高レベルの完璧なオールラウンダー。
Cクラスの猛攻が通用しなかったのはどうやら彼の腕輪能力が関係しているらしい。

では。


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交渉

今回はまだ試召戦争は始まりません。


Bクラス戦が終結してから二日後、和真達が点数補給のテストを終えた日の朝。残すAクラス戦についての最後の説明会を受けていた。

 

雄二「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」

 

壇上の雄二が珍しく素直に礼を言う。

 

明久「ゆ、雄二、どうしたのさ。らしくないよ?」

和真「素直なお前なんざきしょいだけだよ。自重しろバカヤロー」

雄二「ああ。自分でもそう思…んだと和真テメェ!……とにかく、これは偽らざる俺の気持ちだ。ここまで来た以上、絶対Aクラスにも勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってもんじゃないという現実を、教師どもに突きつけるんだ!」

『おおーっ!』

『そうだーっ!』

『勉強だけじゃねぇんだーっ!』

和真(確かにデスクワークのみで全てが決まる世界なんざ死んでもごめんだな)

雄二「皆ありがとう。そして残るAクラス戦だが、これは一騎討ちで決着をつけたいと考えている」

 

先日の昼食時にいたメンバーは既に聞いた話だったので明久達は驚かなかったがそれ以外の連中はかなり驚いており、教室中にざわめきが広がった。

 

『どういうことだ?』

『誰と誰が一騎討ちをするんだ?』

『それで本当に勝てるのか?』

 

雄二「落ち着いてくれ。それを今から説明する」

 

バンバン、と机を叩いて皆を静まらせる。蒼介を上回る点数を期待できる生徒などFクラスで、と言うより二年でたった一人しかいない。

 

雄二「やるのはこちらからはムッツリーニ、相手は恐らく鳳をだしてくるだろう。やってくれるな?ムッツリーニ」

ムッツリーニ「…………(グッ)」

 

そう。ムッツリーニの保健体育の成績はあの蒼介をも上回るので、人選としては彼が妥当だろう。

しかしこの作戦には問題がある。

 

明久「でも雄二、そんな提案Aクラスが聞き入れてくれるの?」

雄二「まあ普通に頼んでも無理だな」

 

言うまでもなくこの提案はFクラスに有利すぎる。一騎討ちだと二クラスの戦力差が大幅に縮まってしまう上、ムッツリーニが出る以上、科目選択権もFクラスに無ければ成り立たない。普通こんな提案がまかり通るはずがないだろう。

 

明久「じゃあどうするのさ?」

雄二「そこで今まで勝ち取ってきたものが聞いてくるんだよ。今からそれを説明してやる。」

 

一度言葉を切って雄二は作戦を説明する。

 

雄二「まず交渉に行く時間は今日この後行われる生徒会会議の間だ。この間、生徒会長である鳳を含む数名は会議に出席していて、クラス間の交渉権は設置されている代表代理に移る」

 

クラス代表が生徒会会議に出席中、試召戦争を除く代表の権限は全て代表代理が受け持つ。

 

美波「? なんでわざわざそんなことするのよ?」

雄二「鳳は生徒会長だ。各クラスにどの生徒が在籍しているか、調べようと思えばすぐ調べられる立場だ」

秀吉「なるほど。学年で唯一自分を上回る点数を持つムッツリーニのことを調べていても不思議ではないのう」

雄二「ああ。それでこちらの狙いがバレてしまうかもしれないからな」

和真「………………………………」

 

雄二「次にBクラスが俺達次第でAクラスに戦争を仕掛けることになることを仄めかす。メリットが無い試召戦争の二連続、相手にとってはたまったものではないだろう」

明久「なるほど。代理の人は多分こちらが霧島さんをだしてくると思ってそれを引き受ける、と」

雄二「いや、代理を任されているほどの生徒だ、そんな軽はずみな行動をとるとは思えない。それにこのままじゃ科目選択権は手に入らない」

翔子「…じゃあ、どうするの?」

雄二「相手は恐らく念のため、一騎討ちを複数回やることを提案してくる。この提案を五回勝負で提案する」

明久「へ?どういうこと?」

雄二「まあ聞け。そして、科目選択権を交代制にする。それの先攻は頼めば格下の俺達におそらく譲ってくれるだろう」

翔子「…つまり選択権のある三試合を勝ちに行き、二試合は捨てるの?」

姫路「でもそれって鳳君が何試合目に出るかわからないと…」

雄二「その点は心配ない。なあ和真」

和真「ああ。あいつの性格からしてラストに自分を置くだろうし、Aクラスの連中もそうさせるだろう。絶対的エースを大将に据えるのは常識だ」

雄二「そうだ。向こうに選択権がある二試合はどうしようもねぇ。だがこっちに選択権がある試合は全部頂く。そうすれば俺達の机は…」

『システムデスクだ!』

和真「………………………(果たしてそううまくいくかね?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「一騎討ち?」

雄二「ああ。Fクラスは試召戦争として、Aクラスに一騎討ちを申し込む」

 

恒例の宣戦布告。今回は代表の雄二を筆頭に、和真、明久、姫路、秀吉、ムッツリーニ、翔子、美波と首脳陣を揃えてAクラスに来ていた。

 

明久(…毎回こうしてたら僕の制服は繕いだらけにならなかったのでは?)

 

そんな簡単なことに気づかないバカが悪い。

 

優子「うーん、何が狙いなの?」

 

雄二と交渉のテーブルについているのは秀吉の双子の姉で代表代理の一人である優子。学力、身体能力ともに秀吉よりはるかに高く、『アクティブ』のメンバーでもある。

 

雄二「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ」

 

優子が訝しむのも無理はない。下位クラスの雄二達が一騎討ちで学園トップの蒼介に挑む事時代不自然なのだし何か裏あると考えているのだろう。

 

優子「面倒な試召戦争を手軽に終わらせる事が出来るのはありがたいけどね、だからと言ってわざわざリスクを冒す必要もないかな」

雄二「賢明だな」

 

ここまでは予想通り。ここからが交渉の本番となる。

 

雄二「ところで、Cクラスとの試召戦争はどうだった?」

優子「大体5分くらいでうちの代表が一人で片付けたわ」

雄二「………………そ、そうか」

 

あまりの衝撃発言に一瞬フリーズする雄二。

試召戦争はどちらかのクラス代表が戦死すれば終結する。それゆえ代表は極力戦線にでないことが常識だ。

蒼介のやったそれは、将棋で例えると王将を敵陣に斬り込ませるような暴挙、邪道中の邪道な行動なのだ。

 

和真「おいおい、やりたい放題だなあいつ」

優子「とりあえずアンタが言う資格はないと思う」

皆『同感』

和真「お前ら打ち合わせでもしたのかよ…」

 

クラスの垣根を越えた50人以上の生徒の心が一つになる。かなりのレアケースと言っていいだろう。

 

雄二「……まあそれはともかく、Bクラスとやりあう気はないか?」

優子「Bクラスって……昨日来ていたあの……」

 

思い出したくもないものを思い出してしまったのか、優子の顔色が急速に悪くなる。交渉を見守っていたAクラス生徒もトラウマを掘り起こされたようにもがき苦しんでいる。

 

雄二「ああ。アレが代表がやってるクラスだ。幸い宣戦布告はまだされていないようだが、さてさて。どうなることやら」

優子「でも、BクラスはFクラスと戦争したから、三ヶ月の準備期間を取らない限り試召戦争はできないはずよね?」

 

試召戦争の決まりの一つ、準備期間。

戦争に負けたクラスは三ヶ月の間、自分から宣戦布告できない。これは負けたクラスがすぐに再戦を申し込んで、戦争が泥沼化しない為の取り決めだ。

 

雄二「知ってるだろ?実情はどうあれ、対外的にはあの戦争は『和平交渉にて終結』という形になってることを。規約にはなんの問題もない。……そしてDクラスもだ」

優子「……それって脅迫?」

和真(なんかこのやり方、スッキリしねぇなぁ……)

 

優子「うーん……わかったわよ。何を企んでるか知らないけど、代表が負けるなんてありえないし、その提案受けるわ」

明久「え?本当?」

 

一触即発になるかと思えば意外とあっさりとした返事に驚き、会話に参加していない明久が声をあげてしまう。

 

優子「だってあんな格好した代表のいるクラスと戦争なんて嫌だし……」

 

よほど根本の女装姿がお気に召さなかったらしい。周りのAクラス生徒もほっと一息つく。

 

雄二(さて、ここからだ)

優子「でも、こちらからも提案」

雄二(やっぱり来たな)

 

 

 

 

優子「Fクラスがそういう交渉をしてきたらこのルールで受けろって代表から言われてるから、このルールなら受けてもいいわよ」

 

 

 

 

雄二「…………なに?」

 

そう言って優子は雄二に何かが書かれたメモ用紙を渡す。用紙には達筆な楷書体で文字がずらり。

 

雄二「………………っ!?」

 

書かれた内容を読み進めると、雄二の顔が驚愕に染まる。それを見てFクラスのメンバーもメモ用紙に目を通す。そこに書かれた内容は、

 

『…………………………こ、これは!?』

和真(……………………やっぱり読まれてたか)

 

 

『~Aクラス対Fクラス試召戦争特別ルール~

・勝負は一騎討ちを五回行い、勝ち数が多いクラスが勝利となる

・選択科目権は一回戦をFクラスが持ち、その後交代で科目を決めていく

・どの生徒が何回戦に戦うかをお互い決めておき、事前に立会人の教師に報告する』

 

雄二が先程述べた勝負方法とほとんど同じ無いようであった。雄二は苦虫を噛み潰したような表情でAクラスの提案を受け入れた。

 

雄二「…………わかった。その条件を呑もう」

優子「ホント?嬉しいな♪」

雄二「十一時からで構わないか?」

優子「わかったわ、代表もその時間には戻ってくるだろうし」

 

明久「交渉する手間が省けたね、和真」

和真「……そんな簡単な話じゃないんだがな」

明久「?」

 

雄二「よし。交渉成立だ。一旦教室に戻るぞ」

明久「そうだね。皆にも報告しなくちゃいけないからね」

 

交渉を終了し、Aクラスをあとにしようとする。

しかし優子は双子の弟を無事に帰すつもりは微塵もなかった。

 

優子「あ、ちょっと待って。秀吉に用があるんだった」

秀吉「? なんじゃ姉上?」

優子「秀吉、Cクラスの小山さんって知ってる?」

秀吉「はて、誰じゃ?」

明久(ん?なんかマズいことが起きている気がする。Cクラスの小山さんって、確かこの前秀吉が……)

和真(あ、ダメだ、かなり怒ってるなありゃ。ああなったら俺でも手に負えねぇ。なにがあったか知らんが秀吉、ドンマイ)

優子「ならいいわ。その代わり、ちょっとこっちに来てくれる?」

秀吉「うん?ワシを廊下に連れ出してどうするんじゃ姉上?」

明久(秀吉が木下さんのフリをして罵倒しまくった相手だったような……)

 

 

『姉上、どうし…どうしてワシの腕を掴む?』

『アンタ、Cクラスで何してくれたのかしら?どうしてアタシがCクラスの人達を豚呼ばわりしていることになっているのかなぁ?』

『はっはっは。それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して……あ、姉上っ!ちがっ……!その間接はそっちには曲がらなっ……!』

 

 

ガラガラガラ

 

扉を開けて優子だけ戻ってくる。

 

優子「秀吉は具合が悪いから早退するってさ♪」

雄二「そ、そうか……」

 

にこやかに笑いかけながらハンカチで返り血を拭う優子。さすがの雄二も恐怖でなにも言えないみたいだ。

 

和真(えげつねぇ……相変わらず秀吉だけには容赦ねぇな、あいつ……さらば秀吉、お前のことは忘れない)

 

交渉を終了し、Fクラス一同はAクラスを後にする。

 

 




注:秀吉は生きてます
今回はBクラスのエース、源太くんです。

五十嵐 源太
・性質……攻撃重視&防御軽視視型
・総合科目……1900点前後(学年52位)
・400点以上……英語
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……A
機動力……C+
防御力……D
・腕輪……巨人の爪

和真と似たタイプのステータスである。まああそこまで極端ではないが。

『巨人の爪』
消費50で左手を鋭い爪を持った巨大な腕に変える能力。破壊力もかなり高く、状況に応じて攻撃も防御も可能であるが、あまりの重量から発動中召喚獣は動けないというリスクがある。


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vsAクラス

よく料理で耳にしますけど、コクっていったいなんなんでしょう?


雄二「和真。ちょっといいか」

和真「どうした?」

雄二「お前が一番Aクラスに詳しいだろ?試召戦争のオーダーを決めるの手伝ってくれ」

和真「そういうことか。了解」

翔子「……私も手伝う」

 

試召戦争の際の大まかな流れは大抵自頭の良いこの三人で決める。その後状況に応じて雄二の奇抜な作戦を臨機応変に組み込んでいく。といっても今回は代表戦のため対戦オーダーを決めるだけで終了しそうだ。

 

和真「しかしお前の策ソウスケには全部バレてたみてぇだな」

雄二「ああ、あんなメモを用意してたんだ、こちらの目論見は全部筒抜けだろう…」 

翔子「……学年主席は伊達じゃなかった」

 

こちらの挑み方、なぜBクラスを攻めたのか、最終的にどういうルールになるよう交渉を進めるのか、それら全てバレていたことになる。雄二にとっては屈辱的この上ないだろう。

 

雄二「だから腑に落ちねぇ……なぜあんな提案をしてきたんだ?確かに連続でメリットの無い試召戦争は面倒かもしれないが、リスキー過ぎるだろ…」

翔子「……確かに相手の意図が読めない」

 

そう。相手がしてきた提案はどう考えても得策とは言えないのだ。いかに面倒だからといって、設備を失うかもしれないリスクがあるルールでの勝負は受けるべきではない。蒼介ほどの男がそんなことにも気づかないわけがない。大して付き合いのない雄二と翔子はそこが疑問であった。

 

和真「残念だがそんな考え方だと永遠に答えは出ねぇよ」

翔子「……?」

雄二「どういうことだ?」

和真「恐らくこの提案をしてきた理由は三つ。一つはお前の言うように面倒事をさっさと終わらせるため。二つ目は授業進行の妨げを嫌ったからだな」

 

試召戦争中は当然授業を進めることはできない。Fクラス辺りは特に気にしないろうがAクラスは学年一の真面目集団、授業の進度が気になって当たり前。連続で行うとしたら尚更だ。おそらく蒼介はこのことを良しとしなかったのだろう。

 

雄二「まあそれはわかるが、まだ附に落ちねぇな…………最後の一つはなんだ?」

和真「最後の一つはあいつと仲良い奴じゃねぇとわかるわけねぇんだがよ、」

 

一度言葉を切って和真は続ける。

 

 

和真「あいつ実は生粋の負けず嫌いなんだよ」

 

 

雄二「…………そんな理由かよ…」

翔子「……最初から真っ向勝負するつもりだったと」

 

つまり、結局のところ蒼介は最初からムッツリーニを真っ向から叩き潰すつもりだったようだ。勝負を五対五のルールにしたのはクラスメイトを納得させる為の保険だろう。

なるほど、他人にあまり興味を示さない翔子や基本的に物事を論理で考える雄二では大して面識の無い蒼介にそんな考えがあったなどわかるはずもない。

 

雄二「……ん?つーことはこのルールを俺達より先に提案してきたのも…」

和真「大方お前の思い通りにことが進むのが癪だったんだろ」

雄二「……案外ガキみたいな性格してんだな…」

翔子「……案外和真と似た者通し」

 

少なくとも学園の大半が抱く蒼介のクールでエレガントなイメージとはかけ離れている。

 

雄二「……まあそれはともかく。和真、相手がオーダーをどう組んでくるかわかるか?一応聞いておく」

和真「科目選択権のある二試合には徹と愛子、後は学力的に優子、久保、ソウスケだろうな」

 

ちなみに和真は同学年の生徒がそれぞれどんな成績かを全て把握している。

 

雄二「そうか…………さて、どう組もうか…」

和真「? なに悩んでんだ?とりあえず科目選択権のある三試合は翔子、姫路、ムッツリーニだろ?」

雄二「…なに?お前は出なくて良いのか」

和真「バカ言うな。残り二試合のどっちかは俺が貰うに決まってんだろ」

翔子「……和真、いいの?」

雄二「ああ、いくらお前でも勝ち目は薄いぞ?

徹と愛子の得意教科はあの翔子をも上回る。つまりその二試合は事実上捨てゴマのようなものだ。

 

和真「勿論、負けてやるつもりなんかねぇよ」

 

それでも、和真は勝つつもりのようだ。

 

雄二「…お前らしいな。よし、オーダーが決まった」

和真「あん?あと一人はどうすんだよ?お前が出るのか?」

雄二「勿論明久だ」

翔子「……雄二、いくらなんでもそれは…」

和真「……完全に捨てゴマじゃねぇか」

 

やはり雄二はどこまでいっても雄二であった。わざわざフィードバックのある明久を選ぶあたり、底意地の悪さが透けて見える。、

 

和真「あとムッツリーニは大丈夫なのか?Bクラス戦の点数聞いたけど、そんなに点差はねぇぞ」

雄二「大丈夫だ。事前に俺の秘蔵のパワーアップアイテムを渡してある」

和真「それ要はエロ本じゃねぇか……」

翔子「……雄二、覚悟はいい?」

雄二「しょ、翔子!?違う!これには深いわけがmらぶaゃらjげだp!」

翔子「……和真ごめん、少し用事ができた」

 

十万ボルトのスタンガンをまともに食らい、ぶっ倒れる雄二。翔子はそんな雄二を引きずって教室を出ていった。

 

和真「…試召戦争前に味方がどんどん減っていくぞおい」

 

その後雄二はなんとか回復した。すさまじい生命力である。

 

 

 

 

 

高橋「では、両者共準備は良いですか?」

 

立会人を務めるのはAクラスの担任であり二年学年主任の高橋先生。

 

雄二「ああ」

蒼介「はい」

 

クラス代表の二人が向かい合う。

一騎討ちの会場はAクラス。ボルテージ最高潮に盛り上がったラストバトルの場がFクラスのボロ教室では締まらないだろう。

 

高橋「それでは第一試合、Aクラス・木下 優子さんVSFクラス・霧島 翔子さん」

 

呼ばれた二人が前に出る。去年からの友達同士である二人がお互いのクラスの命運を背負って向かい合う。

 

翔子「……優子、負けない」

優子「アタシもそう簡単に負けるわけにはいかないわ」

高橋「霧島さん、科目は何にしますか?」

翔子「……総合科目」

優子「うっ、やっぱり容赦ないわね…」 

 

総合科目は学年順位がそのまま実力差になる。バランス良く高得点をとっている翔子の強さをフルに発揮するにはやはりこの科目だろう。

 

『試獣召喚(サモン)』

 

二人の召喚獣が出現する。優子の召喚獣は西洋鎧にランス、翔子の召喚獣は武者鎧に日本刀だ。

 

《総合科目》

『Fクラス 霧島 翔子 4766点

VS

Aクラス 木下 優子 3862点』

 

点数差が千点近くある。しかし優子が低いわけではなく、むしろあの和真以上の点数をとっているので学年でも指折りの優等生であると言える。その優子を圧倒する翔子の点数が高すぎるのだ。

 

翔子「……アイス・ブロック」

優子「えぇっ!?いきなり腕輪!?」

 

召喚と同時に〈翔子〉の周りに氷の礫が出現し、〈優子〉に襲いかかる。いくつかをランスで弾き返すも多勢に無勢、〈優子〉瞬く間にズタズタになっていき、結局何の抵抗もできずに戦死してしまった。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 霧島 翔子 4266点

VS

Aクラス 木下 優子 戦死』

 

 

翔子「……優子、私の勝ち」

優子「うぅ…なにもできず終わっちゃった…」

 

……まあこれは仕方ない、腕輪持ちの召喚獣とそうでない召喚獣には絶対的な壁があるのだ。

これで1対0、Fクラスが一歩リードである。

 

高橋「では二回戦、Aクラス・工藤 愛子さんVSFクラス・吉井 明久君」 

 

高橋先生の指示で二回戦が始まる。

 

明久「え!?僕!?」

 

雄二が取って置きの捨てゴマを出す。内心では爆笑しながらも明久に対しては真剣な表情で激励する。

 

雄二「大丈夫だ。俺はお前を信じている」

和真(なんて白々しい……)

明久「ふぅ……やれやれ、僕に本気を出せってこと?」

和真(…え、なんだこの流れ?)

雄二「ああ。もう隠さなくていいだろう。この場に全員に、お前の本気を見せてやれ」 

 

『おい、吉井って実は凄いのか?』

『いや、そんな話は聞いたことないが』

『いつものジョークだろ?』

 

明久「しょうがないなぁ…じゃあ行ってくるよ」

 

自信たっぷりに死地に向かう明久。その顔に恐れは一切ない。Aクラスからは工藤愛子だ。

 

高橋「工藤さん、科目は何にしますか?」

愛子「保険体育で!」

明久「なんだって!?」

 

選択した科目は我らがムッツリーニのムッツリーニによるムッツリーニのための科目……保険体育。

 

愛子「驚いてるね。ボクもこの科目かなり得意なんだよ?そっちのクラスの土屋くんと違って、実技で、ね♪」

明久(なんだかとっても問題発言!?でもなんでだろう?今僕は凄くときめいている!)

和真「確かに愛子の運動神経はかなりのもんだが、俺達『アクティブ』の中では残念だが下の方だな」

 

和真にとって実技=スポーツ一択である。学生としては健全だが思春期の男子としてはある意味すごく不健全だが、和真は良くも悪くも感性がお子様なのど仕方ないだろう。

 

愛子「吉井君だっけ?勉強苦手そうだし保健体育で良かったらボクが教えてあげようか?もちろん実技で」

明久「フッ。望むところ-」

美波「アキには永遠にそんな機会なんて来ないから、保健体育なんて要らないわよ!」

姫路「そうです!永遠に必要ありません!」

明久「……」

雄二「島田に姫路。明久が死ぬほど哀しそうな顔をしているんだが」

和真(言い方ってもんがあるだろお前ら……)

 

明久に対して含みを持たせた発言は悪手でしかない。もはやギャグの域なほど鈍感な彼は額縁通りにしか言葉を受け取れない。

 

高橋「そろそろ召喚してください」

和真(……ちょっと遊ぶか♪)「おい明久!散々こけにされたんだ、お前の真の力でねじ伏せてやれ!」

明久「和真…わかったよ。工藤さんって言ったっけ?残念だけど今までの僕はぜんぜん本気なんか出しちゃいない」

愛子「なんだって!?それじゃ、君は…」

明久「そうさ。君の想像通りだよ。今まで隠してたけど、実は僕……」

   

 

 

 

 

明久「左利きなんだ」

 

 

《保険体育》

『Fクラス 吉井 明久 66点

VS

Aクラス 工藤 愛子 446点』

 

 

明久「いだぁぁぁぁぁっ!身体が焼けるように痛ぁぁぁぁぁい!」

 

〈愛子〉が電撃を纏った斧で〈明久〉を一閃、まさに瞬殺だ。結果何のドラマもなく下馬評通り愛子の勝利で二回戦は幕を閉じた。

 

美波「この大バカ!テストの点数に!利き腕は関係にでしょーが!」

明久「み、美波!フィードバックで痛んでるのに、更に殴るのは勘弁して!」

 

ここまで点数差があれば操作技術だけではどうにもならないだろう。Bクラス戦では最高に輝いていた明久だが、今はもう面影すらなくなっている。

 

雄二「よし。本当の勝負はここからだ」

明久「ちょっと雄二!アンタ僕をぜんぜん信頼してなかったでしょう!」

雄二「信頼?何ソレ?食えんの?」

和真「ちなみに俺はちょっとお前で遊んでみた。

まあまあ面白かったぜ」

明久「貴様等を本気を出した左で殴りたい!」

 

これで1対1となった。さて、ここからの試合は片方の一方的な蹂躙という無粋きわまりない消化試合ではなく…

 

高橋「では三回戦、Aクラス・久保 利光君VSFクラス・姫路 瑞希さん」

 

強者同士のガチンコバトルだ。

 




というわけで今日は翔子さん圧勝&明久君惨敗でした。さすがに七倍以上の点数の上腕輪もある相手じゃ勝てないよね…
今日は明久君を瞬殺した工藤さんの召喚獣。

工藤 愛子
・性質……攻撃重視&防御軽視型
・総合科目……3250点前後 (学年9位)
・400点以上……保険体育
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……A
機動力……B
防御力……C
・腕輪……雷撃

攻撃力を重視して防御を削っている。『アクティブ』のメンバーは攻撃力を重視する生徒が多いが、十中八九和真の影響である。

『雷撃』
消費50で召喚獣と武器に電気を纏わせる。攻撃力が増加しスピードもアップする。ただし加速力はムッツリーニの『加速』に大きく劣る。万能型の腕輪は応用力がある反面、能力の質は一点特化型に劣る。

ちなみに総合科目では腕輪は4000点以上で装備され、単科目の十倍コストがかかる。あまりにコストパフォーマンスが悪いため普通は使わない。

では。


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姫路の決意、和真の意地

今回はバトル100%です。
一番書いていて楽しかったです。


雄二「とうとう来たか、Aクラス次席」

 

久保利光。彼は姫路に次ぐ学年四位の実力者で、姫路と翔子がFクラス入りしたため、学年次席の座についている。ちなみに最近明久に危険な意味で興味を抱いてるという噂があるが事実無根であろう……多分恐らく十中八九98パーセント間違いない、と和真は無理矢理言い聞かせるように頷く。

 

高橋「科目はどうしますか?」

姫路「……総合科目でお願いしますっ!」

雄二「な!?待て、姫路!」

 

姫路の発言に雄二は慌てる。久保と姫路の実力はほぼ互角、総合点数ではせいぜい20点程の違いでしかない。絶対に負けられないFクラスとしては、久保の苦手科目を攻めるのがセオリーだろう。

 

姫路「坂本君…お願いします!」

雄二「! ……わかった。

ただし、何があっても負けるなよ」

姫路「はいっ!」

 

以前には無かった強い決意を姫路から感じ取ったのか、危険な賭けであると承知で雄二が了承する。

 

久保「試獣召喚(サモン)」

 

召喚獣が出現する。久保の装備は鎧と袴と二振りのデスサイズだ。

 

『Aクラス 久保 利光 4282点』

 

『な、なにィ!?』

明久「4282点だって!?」

和真「すげぇな、以前より300点弱も上がってんじゃねぇかこの短期間でよくもここまであげたな」

 

予想外の点数に驚くFクラス一同。

 

蒼介(苦手科目をついて来なかったか。だが私達がお前達が攻めて来るまでの間、何もしていなかったわけがないだろう)

 

 

 

 

 

 

FクラスとBクラスの試召戦争が始まる前。

 

蒼介「―というわけだ。そこで木下、相手の代表がそう交渉してきたらこのメモに書かれたルールを提案してくれ」

 

そう言って試召戦争の特別ルールを書いたメモを優子に渡す。

 

優子「わかったわ」

蒼介「頼んだぞ。次に…久保、Fクラスとの試召戦争前までに苦手科目を克服してくれ」

久保「僕の苦手科目というと…物理と数学だね」

 

Aクラス次席の久保と言えど典型的な文系であるため、その二科目はAクラス平均程度でしかない。

 

蒼介「ああ、おそらく相手はお前の弱点を攻めてくる。事前に対策しておくに越したことはない。そこで…大門、久保のサポートを頼めるか?」

徹「了解したよ」

 

徹の物理、数学は蒼介には劣るものの次席の翔子をも上回る。この人選は妥当だろう。

 

蒼介「よし。皆、私達にはクラスの命運がかかっている。必ず勝つぞ!」

木下「勿論よ!」

工藤「任せといて♪」

久保「全力を尽くそう」

徹「情け容赦なく捻り潰すよ」

 

 

 

 

 

 

蒼介(さてどうする?姫路が以前と同じような点数なら、勝ち目は無いぞ、カズマ)

和真(大方ソウスケの入れ知恵だろうな。ほんと何手先まで手を打ってやがんだよ……だがな)

明久「姫路さん!」

美波「瑞希!」

 

姫路「……試獣召喚!」

 

 

 

 

 

 

『Fクラス 姫路 瑞希 4406点』

 

 

和真(姫路だって負けちゃいねぇよ)

 

『な、なにィィィ!?』 

 

今度はAクラスが驚く番だ。姫路の点数は久保以上に上がっていた。

 

久保「くっ……姫路さん、まさかここまでの点数とは……」

 

悔しそうに姫路に尋ねる。自分よりも数歩先を進んでいたことにショックを受けているようだ。

 

姫路「……私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」

久保「Fクラスが好き?」

姫路「はい。だから、頑張れるんです」

 

明久は姫路のために試召戦争を雄二に提案した。そして、Bクラス戦では姫路のために身を削って壁を破壊した。

 

姫路瑞希という女性は、そんなことを知って頑張らないようなつまらない人間ではない。

 

 

『自分のために一生懸命な奴がいる…それを知ってどう行動するのが“姫路 瑞希らしい”んだ?』

『……それは勿論、私も皆の力になれるよう頑張ります!私も、吉井君達の力になりたいです!』

 

 

ここで頑張らないようでは、“姫路 瑞希らしく”ない。

 

和真(まあ、姫路がここまで頑張った理由はもう一つあるだろうがな)

久保「…そうか、君もクラスの皆の想いを背負っているんだね。

だけど、それは僕も同じこと!Aクラス次席として、クラス代表代理として、負けるわけにはいかない!

いくぞ姫路さん!」

姫路「望むところです!」

 

そう言って二人は武器を構える。そして両者の腕輪が光り、能力が発動する。

ぶつかり合う熱線と風の刃が教室を震撼させた。

同系統の腕輪で点数差もそこまでないので、二人の力は拮抗してお互い一歩も譲らない。

そのまま二人とも二撃、三撃と腕輪を発動させる。

風と熱のエネルギーはぶつかり合うごとに中心にどんどん溜まり続け、限界に達したエネルギーが両者の召喚獣に襲いかかる。

 

久保「…くっ!」

姫路「きゃあっ!」

 

 

『Fクラス 姫路 瑞希 1625点

VS

Aクラス 久保 利光 1536点』

 

フィールドの両端までぶっ飛ぶお互いの召喚獣。

両者とも凄いダメージを受けたが召喚獣に別状はない。

二人とも武器を構え直す。

 

姫路「えぇいっ!」

 

〈姫路〉が大剣で斬りかかり、それを〈久保〉は避けもせずまともに喰らい、

 

久保「はぁっ!」

 

返す刀でデスサイズで〈姫路〉を切り裂いた。

久保の戦闘スタイルに避けるという選択肢は無い。相手に攻撃を喰らわせることのみを重視している、見た目に反して随分と攻撃的な戦法だ。

 

 

『Fクラス 姫路 瑞希 633点

VS

Aクラス 久保 利光 577点』

 

 

点数的におそらく次の攻撃で決着が着く。

この状況、普通なら二人とも戦死に注意して相手の様子を伺い始めるだろう。

 

姫路「行きます、久保君!」

久保「望むところだ姫路さん!」

 

しかしこの二人は攻撃することを躊躇わない。絶対に勝ってみせるという強い意志があるからだ。

 

お互いの武器が真っ向からぶつかり合う。

こうなってはスピードやテクニックが入り込む余地など無い、純粋な力比べだ。

 

姫路(私は、なんの役にも立てませんでした…)

 

大剣とデスサイズがぶつかり合う中、姫路の脳裏にBクラスが思い浮かぶ。

 

姫路(私の勝手な都合で、皆の思いを踏みにじってしまいました…)

 

ずっと思い悩んでいたのだろう。

根本の脅しに屈してしまったことを。

そのせいで今までのFクラスの頑張りを無駄にしかけてしまったことを。

あのまま負けていれば姫路は決して立ち直れなかっただろう。自分を責め続け、深い海の底に沈んでしまったかのように心が壊れてしまったに違いない。

 

しかしそうはならなかった。

明久が海の底から自分を引っ張り上げてくれた。

 

(私はもう、あんな過ちは侵したくない……今度は私が、皆の勝利の道を切り開くって決めたんです!)

 

激戦の末、とうとう姫路の決意が久保の責任感を上回ったのか、

 

姫路「やぁぁぁぁぁっ!」

久保「な、なんだと!?」

 

〈姫路〉の剣はデスサイズごと〈久保〉を一刀両断した。

 

 

『Fクラス 姫路 瑞希 89点

VS

Aクラス 久保 利光 戦死』

 

 

久保「……完敗だよ姫路さん。いい勝負だった」

姫路「……はいっ!」

 

そう言って二人は握手し、お互いのクラスメイトのもとに戻る。

 

久保「鳳君、皆、すまない。力及ばず負けてしまったよ」 

 

申し訳なさそうに久保はそう謝罪する。

 

蒼介「気にするな久保、素晴らしい闘いだった。お前を非難するような愚か者など、私達のクラスにはおるまいよ」

久保「……ありがとう」

蒼介「だが、この借りはいつか必ず返せ。お前も負けたままではいたくないだろう?」

久保「…ああ、勿論だよ」

高橋「これで二対一です」 

 

さすがの高橋先生もこの展開には流石に驚いたのか、若干表情が変化していた。

 

高橋「では四回戦、Aクラス・大門 徹君vsFクラス・柊 和真君」

和真「じゃ、行ってくるぜ」

 

いつものように不敵な笑みを浮かべながら、和真は意気揚々と戦場に向かう。 

 

徹「この間の借り、この場で返させてもらうよ」

和真「まだ根に持っていたのかよ。相変わらず執念深いんだなお前は」

 

試合前に軽口を叩き合う二人。表面上は友好的であるものの、お互いの眼は闘争心で満ちている。

 

高橋「科目は何にしますか?」

徹「数学でお願いします」

和真「っ……やっぱそう来るかよ。借りを返すとか言ってた割りに一方的に自分に有利な科目で闘うなんざ、セコいことしやがるぜ」

徹「何とでも言いなよ。クラスに後がない以上、百パーセント君を討ち取ることができる科目で挑むのは当たり前さ」

和真「これだから器も身長も小さい奴は…」

徹「オイ今なんつったテメェ、八つ裂きにすんぞコラ」

和真「何とでも言えって言ったのはお前じゃねぇか…」

 

試合前に相手の地雷源を全力で踏み抜く和真に対し、徹は殺意を剥き出しにして臨戦態勢をとる。

 

『試獣召喚!』

 

掛け声と共に召喚獣が出現する。徹の召喚獣は甲冑に鉄のガントレット。見るからに重戦車タイプだ。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊 和真 183点

VS

Aクラス 大門 徹 458点』

 

 

和真にしては驚くほど低い点数である。

もともと文系タイプということもあるが、数学や物理は答えだけではなく計算過程もチェックされる。感覚派の和真はその部分がおざなりで大幅に減点されているのだ。

 

徹「じゃあ行くよ。弱いものいじめするようで悪いけど、これは戦争だか」

和真「どりゃあああああ!」

明久「相手の話無視していきなり槍をぶん投げたぁ!?」

 

〈和真〉の武器は見た目通りとても重い。攻撃に特化した〈和真〉でも、この程度の点数では自由自在に操ることができない。自在に扱えない武器なと邪魔なだけ。和真はそう判断し、使い捨ての飛び道具感覚で槍を投擲した。

 

徹「ふん、くだらない」

 

そう言うと同時に、〈徹〉の腕輪が光りだす。

すると、徹の召喚獣に直撃した槍は弾かれ、衝撃の一部が〈和真〉に跳ね返った。

 

和真「あぶねっ!?」

 

なんとか避ける〈和真〉。圧倒的な攻撃力を代償に装甲は異常に薄いため、もし喰らっていたら最悪戦死、そうでなくても致命的なダメージを負っていただろう。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊 和真 183点

VS

Aクラス 大門 徹 408点』

 

 

和真「なるほど……それがお前の能力か」

徹「そうだ。僕の『リフレクトアーマー』は防御力を大幅に上げ、さらに装備が相手の攻撃の一部を反射する鎧になる。君の能力とは正反対の防御特化能力だよ」

 

自らの召喚獣に槍をへし折らせながら、徹は得意気に説明する。

 

雄二「くっ……万策尽きたか」

明久「えっ、どういうことさ!?」

雄二「素手で闘う以上、どうしてもあいつの召喚獣に触れなきゃならない…相手に反射効果がある以上、純粋に点数の勝負になる…」

明久「そんな…」

姫路「柊君…」

 

 

 

 

 

和真「関係ねぇ!それがどうしたぁ!」

 

それごどうしたと言わんばかりに、〈和真〉が〈徹〉を殴り倒す。先程とは違って衝撃が拳に直接跳ね返りダメージを受ける。しかし〈和真〉間髪入れず二撃目、三撃目を喰らわせる。殴るたびに拳がボロボロになっていくが一切気にもとめないその様子は、見方によっては気でも狂ったかのように写るだろう。

 

徹「馬鹿が…そんなことをしても無駄だよ!『リフレクトアーマー』が有る限り先に死ぬのは君だとなぜわからない!」

和真「はっ!だったらその『リフレクトアーマー』をぶっ壊すまでよ!」

 

一切構わず追撃する〈和真〉。両拳は既に血にまみれて赤くなっており点数もどんどん削られているが、やはりまるで気にも留めていない。

 

徹「バカな……その程度の点数でそんなことが可能だとでも思っているのか!?」

和真「んなもん知ったことか!可能かどうかなんざわからねぇよ!やるっつったらやるんだよ!」

 

途切れることなく次々と攻撃を加えていく。しかし両者の差はまるで縮まらない。

 

 

和真「諦めるわけにはいかねぇんだよ…

意地があんだよ!男の子にはなぁ!」

 

 

徹「っ!このままにしておくと危険だね…さっさと決着を着けさせてもらうよ!」

 

なにか嫌な気配を感じ取ったのか、〈徹〉はガントレットで〈和真〉に殴りかかる。

 

和真「んなもん当たるかよ!」

 

しかし〈和真〉は後ろに跳んでかわす。

徹は召喚獣までも徹底して防御特化であり、機動力はこの科目の和真にも劣る。そして操作技術も和真に軍配が上がる。考えなしに繰り出した攻撃など決して当たりはしない。

 

和真「じゃあ…行くぜぇぇぇ!」

 

既に瀕死になりながらも、相手に向かって特攻する。

点数が0にならない限り、和真は決して諦めない。

それが和真の…

 

 

「これが……俺の意地だぁぁぁぁぁ!」

 

 

全速力で放った〈和真〉の拳は身に付けている甲冑を破壊し、徹の召喚獣を吹っ飛ばした。

 

徹「そんな…まさか…」

 

あまりの出来事に呆然とする徹。

なんとか立ち上がる〈徹〉。しかしかなりのダメージを負ったようで若干ふらついている。甲冑が壊れてしまったのだ、防具を媒介とする『リフレクトアーマー』ももう使えない。

 

明久「やった!あと一息だよ!」

雄二「…………………………いや、」

 

 

しかし力を使い果たしてしまったらしくその場で崩れ落ちる〈和真〉。

 

雄二「限界が来たらしい……」

 

 

『Fクラス 柊 和真 戦死

VS

Aクラス 大門 徹 122点』

 

 

和真「………負けちまったか。いい勝負だったぜ、徹」

徹「……すまない。どうやら君を見くびっていたようだ……いい勝負だった」

 

お互いに握手をしてそれぞれのクラスに戻る二人。

 

和真「……わりぃ、負けちまった。後は頼んだ」

ムッツリーニ「……任せろ」

 

和真はやる気十分なムッツリーニにバトンを託した後、Aクラスのソファーに座り込む。

 

翔子「……和真、落ち込んでる?」 

 

心なしか心配そうな表情で翔子が近寄る。

 

和真「……結構な。やっぱ負けんのは悔しいぜ…」

翔子「……大丈夫。和真なら次は勝てる。元気を出して」

和真「……サンキュ、翔子」

 

 

 

明久「前々から思ってたけど霧島さん和真と仲良いよね」

雄二「まあ一年のとき色々あってな。今でもあいつは暇なとき娯楽を求めて翔子に手を貸すときがたまにあるんだよ……そのときは大概俺が被害を被るがなぁ…!」

明久「雄二、よくわからないけど落ち着いて」

 

高橋「それでは最終戦、Aクラス・鳳 蒼介君VSFクラス・土屋 康太君」

 

高橋先生がそう告げる。いよいよラストだ。

 

雄二「まかせたぞムッツリーニ」

翔子「…土屋、頑張って」

明久「頼んだよムッツリーニ!」

美波「絶対に勝ちなさいよ、土屋!」

姫路「土屋君、頑張ってください!」

和真「ソウスケをぶっ倒せ!」

 

Fクラスの面々がムッツリーニを激励する。

 

ムッツリーニ「……………(グッ)」

 

ガッツポーズをした後、ムッツリーニは既にスタンバイしている蒼介のもとに歩きだした。

 




というわけで主人公初敗北でした。
え?根本?さぁ?

さりげなく久保君が強化され、さらに強化フラグまで建ちました。
今回はそんな久保君を見事打ち倒した姫路さんの召喚獣。

姫路 瑞希
・性質……攻撃重視型
・総合科目……4400点前後 (学年3位)
・400点以上……数学、物理、科学、英語
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……S
機動力……B
防御力……B+
・腕輪……熱線
攻撃を重視したステータスだが、和真のような紙装甲ではない。

『熱線』
消費50でビームを放つ。シンプルイズベスト。


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Aクラス戦決着

さあ、いよいよAクラス戦もクライマックスです。


最終戦を闘う二人の成績はまさに正反対である。

片方は全教科で学生レベルを逸脱した成績を誇る、まさに“パーフェクト・プレイヤー”と呼ぶに相応しい生徒、鳳蒼介。

もう片方は総合力は下の下、あの吉井 明久をも下回る劣等生だが、『保健体育』のみは教師にすら匹敵する点数をたたき出す、いわば“オンリーワン・プレイヤー”、土屋康太。

 

高橋「教科は何にしますか?」

ムッツリーニ「…………保健体育」 

 

高橋先生の質問に対し迷わず答えるムッツリーニ。

科目が保健体育である以上、自らの土俵で勝負できる“オンリーワン・プレイヤー”が圧倒的に有利である。

 

『試獣召喚!』

 

掛け声と共に魔法陣が現れ、それぞれの召喚獣が出現する。

 

《保健体育》

『Fクラス 土屋 康太 615点

VS

Aクラス 鳳 蒼介 522点』

 

両者の点数はどちらも、これまで闘っていた生徒の点数が児戯に見えるほど一線を画していた。

 

明久「なっ…ムッツリーニはともかく、相手もとんでもない点数だ!?もしや、鳳君はムッツリーニに次ぐスケベなのか!?」

和真「んなわけねぇだろ…あいつほど堅物な奴はいねぇよ。それにあいつの点数はどの教科もあれくらいあるんだよ」

明久「バカな!?全教科500点オーバー!?そんな反則、僕が許さないよ!僕なんて総合でそれくらいなのに!」

和真「いやお前に許しを乞う必要なんて無いし、Aクラスの連中もいるんだからそんな大声で身内の恥を暴露しないでくんない?」(にしても妙だな、Aクラスの連中が不気味なくらい落ち着いてやがる…相手が自分達の代表を百点近く上回る点数ならある程度ざわつくはずなんだがな)

 

しかしAクラス生徒は一切慌てた様子がない。それほど自分達の代表を信頼しているのだろうか。

 

蒼介「さあ、始めようか」

ムッツリーニ「…………(コクリ)」

 

両者の召喚獣は武器を構える。

先に動いたのは〈蒼介〉。草薙の剣を振りかざし、凄まじいスピードで〈ムッツリーニ〉に斬りかかる。

だが〈ムッツリーニ〉はそれを上回るスピードで後ろに跳んでかわす。

間髪入れずに〈蒼介〉は斬り込むがムッツリーニの召喚獣は横っ飛びで避ける。しかし-

 

蒼介「甘い!」

 

即座に刃の向きを変え、弐の太刀を浴びせる。

〈ムッツリーニ〉は小太刀でなんとかガードするが、勢いを殺し切れず吹っ飛ばされる。

 

ムッツリーニ「………くっ」

 

吹っ飛ばされた先でなんとか体勢を立て直すも容赦なく〈蒼介〉は草薙の剣で斬り込んで来た。

〈ムッツリーニ〉それを小太刀でガードするが〈蒼介〉が即座に剣を引っ込めたため鍔迫り合いにはならず、力を込めすぎていた〈ムッツリーニ〉の体勢が崩れる。

〈蒼介〉がそんな隙を逃すはずもなく剣をギロチンの如く降り下ろすが、スピードで勝る〈ムッツリーニ〉は間一髪でかわす。しかし蒼介は攻めの手を緩めず、その後も次々と攻撃を繰り出していく。

 

 

《保健体育》

『Fクラス 土屋 康太 598点

VS

Aクラス 鳳 蒼介 522点』

 

 

明久「ねぇ、大丈夫なのムッツリーニは!?」

 

防戦一方のムッツリーニを見ながら明久が慌てたように和真達に聞く。

 

雄二「まあ、ここまでは予想通りだ。点数は勝っていても操作技術は明らかに負けている」

和真「あいつもフリスペをたまに利用してるからなぁ。お前や俺には及ばないものの、なかなかのレベルだぜアイツは」

明久「なんでそんな落ち着いてるの!?このままじゃ…」

雄二「落ち着け明久。今ムッツリーニは相手の隙を伺ってるだけだ」

明久「…相手の隙?」

和真「具体的には腕輪を使うチャンスだな。隙をついて『加速』で相手を一刀両断、その後体勢を崩した相手に追撃を加えて、勝負を決めるつもりだ」

 

ムッツリーニの『加速』は直接的な攻撃力は持ち合わせてないが、その凄まじいスピードでどんな状況でも先手が取れるというアドバンテージがある。

それにムッツリーニの暴力的なまでの点数による攻撃力が加われば、まさに必殺の居合い斬りとなる。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 土屋 康太 586点

VS

Aクラス 鳳 蒼介 522点』

 

蒼介(点数差は少しずつ縮まってはいるが、このままでは埒が明かないな………………よし、仕掛けるか)

 

小競り合いをしていた〈蒼介〉が突如草薙の剣を構え直し、〈ムッツリーニ〉に大振りで斬りかかる。

しかしその隙のできる攻撃こそ、ずっとムッツリーニが待っていた攻撃だ。

 

ムッツリーニ「……今だ、加速!」

 

大振りの隙を逃がさず腕輪を発動させ、〈ムッツリーニ〉は信じられないスピードで〈蒼介〉を切り裂いた。誰の目から見ても明らかな、100点満点の直撃であった。

 

明久「やった!そのまま追撃すれば-」

 

 

 

しかし、

 

 

 

和真「………なっ!?」

雄二「バカな!?」

 

 

《保健体育》

『Fクラス 土屋 康太 291点

VS

Aクラス 鳳 蒼介 508点』

 

 

〈ムッツリーニ〉は深いダメージにより膝をつく。どうやら〈蒼介〉を斬った瞬間にカウンターを喰らっていたのだが、それはまだ納得できないこともない。

問題は、直撃を喰らったの〈蒼介〉が、なぜかほとんどダメージを受けていないことである。これには流石の和真と雄二も予想外だったらしく、目を見開いて愕然としている。

 

蒼介「終わりだ」

 

すかさず〈蒼介〉は追撃する。

防御も回避も間に合わず、〈ムッツリーニ〉は無惨にも首を飛ばされてしまった。

 

 

《保健体育》

『Fクラス 土屋 康太 戦死

VS

Aクラス 鳳 蒼介 508点』

 

 

Fクラスの卓袱台がみかん箱になった。

 

 

 

 

 

 

高橋「三対二でAクラスの勝利です」

 

わざわざ言うまでも無く和真達の完敗だった。

 

蒼介「カズマ、初戦は私達の勝利だ」

和真「そうだな。言い訳のしようのねぇ惨敗と言っていいくらいのな」

明久を中心にFクラス男子生徒がムッツリーニと、ついでに雄二を吊し上げている異様な光景をスルーして二人は話し合う。

 

 

雄二「おいまてコラ!なんでムッツリーニは洗濯ばさみなのに俺にはスタンガンなんだよ!」

明久「黙れ雄二!そもそもキサマの作戦でこうなったんじゃないか!メインはキサマだ!」

ムッツリーニ「…………辛い」

雄二「いや確実に俺の方が辛くなるだろ!?まてテメェらはやまるnあばばばばばばば!」

 

 

和真「そう言えば、最後の攻防なんか不自然だったな。あれ、お前の腕輪の効果か?」

蒼介「そうだ。私の腕輪『インビンシブル・オーラ』は相手の攻撃を300点分無効化することができる常時展開型の能力だ。一度壊れれば召喚し直さなければ張り直せないがな。わずかにダメージを喰らったのは土屋の攻撃が300点を上回った超過ダメージだろう」

和真「…………おかしくね?なにその反則性能?」

 

ただ単純に体力が300点上がっただけ済む話ではない。300点分ダメージを与えるまで攻撃を一切受けないのだからその間一方的に相手を攻撃できるということだ。

おまけに先程の試合を見るに点数を消費しないらしい。

さらに召喚し直せば張り直せるということは、どれだけ点数を削られても確実に300点以上の余裕が、無敵効果付きであるということだ。

 

和真「どう考えてもオーバースペックじぇねぇか」

蒼介「当たり前だ。元々の能力は点数を50点消費する上、耐久力も200、おまけに300点以上でないと使えなかったからな」

 

その能力なら攻防のバランスのとれた常識的な性能だっただろう。

 

蒼介「全教科500点以上の成績を修めた生徒は腕輪がランクアップし、能力が強化されるんだ」

和真「なんだそりゃ?そんな話聞いたこともねぇぞ」

蒼介「ランクアップした生徒にしか通達されないからな。理由は言わなくてもわかるだろう?」

和真「………なるほど、大学の内容は大学でやれと」

 

文月学園のテストは点数無制限であるが、先に進むにつれて難易度が上がって行く。

そして、400~500点の問題はテスト範囲外、つまり授業で習っていない範囲まで含めた高校レベルの総合問題になる。この辺りは授業を真面目に聞いているだけでは解けず、ずっと先の範囲まで予習している必要がある。

そして、500点以降の問題は高校生レベルを逸脱した問題、つまり大学ないし大学院レベルの問題となっている(受験に必要のない保健体育は先に進むにつれてよりマニアックな問題になっていく)。

進学校としては、そんな先のレベルよりも大学受験を目標としてほしいので、この話は通達されていないのだろう。ちなみに和真の点数が得意教科でも400点ジャストなのは和真が予習の類いを全くしないからである。

 

蒼介「カズマ、お前に1つ聞いておきたいことがある」

和真「あん?なんだよ?」

蒼介「私からみてもこのランクアップした腕輪は反則的なまでに強い。試召戦争というシステムが成り立たなくなるほどに」

和真「何が言いてぇんだ?自慢か?」

蒼介「それを踏まえた上で、お前達Fクラスはまだ私達Aクラスに挑もうというのか?」

 

Fクラスのジョーカーであり600点オーバーの点数を誇るムッツリーニですら惨敗。Aクラスへの勝利は万に一つもあり得ない、そう考えても仕方ないと言える強さを蒼介は備えている。

 

 

 

だが、

 

 

 

和真「挑まねぇと思うか?」

蒼介「……思わないな」

 

だからどうしたというのだ。

 

和真「アホなこと聞くんじゃねぇよソウスケ。俺は勝てそうにないからという理由で引き下がるような物分かりのいい人間じゃねぇんだよ。0%でなきゃ勝負捨てんのはまだ早ぇ。それにな、」

 

1%だろうと0コンマ1%だろうと勝てる可能性があるなら、柊 和真に諦めるという選択は無い。

否、たとえ可能性が無かったとしても和真は諦めない。

 

和真「勝てる手段が無いなら勝てる手段を創るまでだ。勝てる可能性が無いなら勝てる可能性を生み出すだけだ」

 

己の前に頂へ続く道がある。

 

その道は険しいのか?己に向いているのか?果たして登りきることは可能なのか?

 

そんなものは関係ない。ただ“登る”、

 

それが柊 和真という男だ。

 

蒼介「…それを聴いて安心したよ。もし諦めるなどとほざいていたらこの手で張り飛ばしていた」

和真「おーこわ。御曹司で生徒会長のくせに随分野蛮なこと考えてんじゃねぇか」

蒼介「大丈夫さ、それを実行する機会など永遠に来ないからな」

和真「そうかい。さてと、三ヶ月後覚悟しておけよ?トップの座に胡座かいてたら容赦なく首をはねるぜ?」

蒼介「なぁに、また返り討ちにしてやるさ」

 

そして二人は楽しそうに笑い合った。

 

雄二「ぐぉぉ……アイツ等…特に明久、絶対ぶち殺す…」

明久「なにィ!?もう復活しやがった!?ゴキブリみたいにしぶとい奴だ!」

 

クラスメイトから処刑された雄二が起き上がる。

肩を怒らせ、今にも明久達に報復しようとしている。

 

翔子「…雄二」

雄二「あ?なんだよ翔子?今取り込み中-」

 

 

翔子「…試召戦争も終わったし、今からデートに行く」

 

 

『……………………………………え?』

あまりに予想外の発言にフリーズするFクラス一同。

和真(…あ)

明久(…あ)

美波(…あ)

姫路(…あ)

土屋(…あ)

 

そしてやってしまったと思う事情を知る一部の人達。

 

雄二「おい翔子!?そのことは内緒だって-」

翔子「…ずっと隠して通すのは無理があるからもう全部話す。私は雄二と付き合っている」

和真(まあ翔子にしては良く我慢した方だよな。今日まですごくおとなしかったし)

 

あまりにも衝撃すぎるカミングアウトに未だ立ち直れないFクラス生徒一同。

翔子「…じゃあ行く」

雄二「ぐぁっ!放せ!無理矢理過ぎるだろ-」

 

ぐいっ つかつかつか

 

翔子は雄二の首根っこを掴み、教室を出て行った。

あまりの出来事に誰も言葉が出ず、教室にしばしの沈黙が訪れる。

 

「さて、Fクラスの諸君。お遊びの時間は終わりだ」

 

突如教室に野太い声がかかる。

音をした方を見ると、そこには生活指導の西村先生(鉄人)が立っていた。

 

和真「西村センセ?どうしたんすか?」

鉄人「ああ。今から我がFクラスの補習について説明をしようと思ってな」

和真「……我がFクラス?」

鉄人「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ」

 

『なにぃっ!?』

 

和真以外の男子全員が悲鳴をあげる。

生活指導の鉄人と言えば『鬼』の二つ名を持つほど厳しい教育をする先生である。

 

鉄人「いいか。確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまで来るとは正直思わなかった。でもな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。ないがしろにしていいものじゃない」

和真(まあ間違ってねぇな。将来何を目指すにしても武器は多いに越したことねぇしな)

鉄人「吉井。お前と坂本は特に念入りに監視してやる。なにせ、学園きっての問題児コンビだからな」

明久「そうは行きませんよ!何としても監視の目を掻い潜って、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

西村「……お前には悔い改めるという発想は無いのか」

 

溜め息混じりに言う鉄人。そんな無い物ねだりしても仕方ないであろう。

 

和真「あれ? センセ、俺は?」

鉄人「お前はこっちが注意しようと腰を上げたときにはもう引き上げているだろうが」

和真「まあそうっすけど」

鉄人「少しは否定せんか!…まったく、似なくていい部分まで父親に似おって……」

和真「おいコラふざけんな。いくら先生でも言って良いことと悪いことがあるぞコラ」

 

さらに溜め息が深くなる鉄人と何故か半ギレになる和真。

どうやら和真の父親とは相当問題のある人物のようだ。

 

鉄人「取り敢えず明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう」

和真「げっ!?放課後の部活巡りの時間が減ってしまうのか……やべぇ、動かねぇと呼吸が出来なくて死ぬってのに」

鉄人「お前は鮪か」

 

以前同じようなやりとりがあった気がする。

そんな話をしていると、美波が明久に歩み寄って来た。

 

美波「さぁ~て、アキ。補習は明日からみたいだし、今日はクレープでも食べに行きましょうか?」

明久「えぇっ!?僕にそんな余裕ないよ!」

美波が明久をデートに誘う(明久は気づいていないが)。

姫路「だ、ダメです! 吉井君は私と映画を観に行くんです!」

明久「姫路さんまで!?」

 

それに対抗して姫路もそんなことを言い出した。経済的危機に直面して普段勉強嫌いなはずの明久は鬼教師にすがる。

 

明久「に、西村先生! 明日からと言わず、補習は今日からやりましょう! 思い立ったが仏滅です!」

鉄人「『吉日』だ、バカ」

明久「そんな事どうでもいいですから!」

 

今後の食生活がかかっているからか、試召戦争中並に必死になる明久。

 

鉄人「うーん、お前にやる気が出たのは嬉しいが……」

 

言葉を区切って、明久と美波と姫路を見る。

 

鉄人「無理する事は無い。今日だけは存分に遊ぶといい」

 

ニヤニヤと嫌な笑顔で告げる。これは遠回しな鉄人の気遣いなのであるがバカな明久は当然そのことに気付かない。

 

明久「おのれ鉄人!僕が苦境にいると知った上での狼藉だな!こうなったら卒業式には伝説の木の下で釘バットを持って貴様を待つ!」

鉄人「斬新な告白だな、オイ」

明久「…まてよ、まだ和真がいた!和真ならきっと僕を助けてくれ…………あれ、和真は?」

鉄人「柊ならさっき鳳、木下、大門と教室から出ていったぞ。ラクロス部との試合前の練習をするそうだ」

明久「ほんとアクティブだな畜生!」

 

気がつけばいなくなっている、それが和真である。

 

美波「アキ!こんな時だけやる気を見せて逃げようったって、そうは行かないからね!」

明久「ち、違うよ! 本当にやる気が出ているんだってば!」

姫路「吉井君!その前に私と映画です!」

明久「姫路さん、それは和真じゃなくて僕となの!?」

姫路「?? 柊君? 何の事ですか? 私はずっと前から吉井君の事を……」

美波「アキ! いいから来なさい!」

明久「あがぁっ! 美波、首は致命傷になるから優しく………」

 

 

『いやぁぁっ!生活費が!僕の栄養がぁっ!』

 

どうやら明久の主食は明日から公園の水になりそうだ。まあ幸せ税というやつであろう。本人はその幸せに気付いていないため、一方的に損しているのだが。

 

 

 

 

 

 

和真「よし、そろそろ時間だな」

蒼介「今回の相手は女子ラクロス部レギュラーか」

木下「女子ラクロス部は創部三年目で全国出場を果たした強豪よ」

徹「今までの相手とは比べ物にならないほどの強敵だね」

源太「ハッ、関係無ぇよ!俺達が負けるはずがねぇ!俺達『アクティブ』は……無敵だ!」

 

和真「皆気合い充分だな。それじゃあ……

ガンガン行こうぜ!」

 

『おおー!』

 

 

 

 

 




というわけで試召戦争一回目は蒼介の勝利で終わりました。次回で第一巻終了となります。

『インビンシブル・オーラ』
ランクアップした蒼介の腕輪。13マナの光呪文とは全く関係ない。
召喚獣に耐久力300点分のバリアを張る。300点分は相手の攻撃を完全に無効化するため、攻撃を受けても一切のけぞらないし体勢からも崩れない。
消費コストが無く召喚し直す度に張られるので、例え点数が1点まで減らされても召喚し直せば実質Aクラス上位レベルの点数になる。

簡潔に言うと、要はラスボス補正である。

この作品のオリジナル設定、『ランクアップ』ですが、ほとんど蒼介君専用オプションです。とある理由で教師の召喚獣には腕輪が装備されないからです。

では。


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第一巻終了

ようやく一巻が終了しました。
今回の話は別にいらない気がしますが気にしないでください。


和真「……さて、さっきの敗戦の反省会でもするか」

 

流石全国区、運動神経抜群でもラクロス未経験者ばかりのチームではさすがに無茶だったのか、結成以来初の敗北を喫してしまった『アクティブ』。

どことなく雰囲気がギスギスしている。

 

源太「ったく。あのとき徹が俺のパス捕り損なうから…」

徹「なんだと?あれは源太のパスが荒いのが悪いんじゃないか。責任を僕に押し付けるな」

 

『アクティブ』随一の犬猿コンビがここぞとばかりにお互いを貶し合う。

 

源太「んだとぉ!?あの程度のパスくらい捕れねぇ奴が全国レベルに対抗できるとでも思ってんのかよ!『アクティブ』の面汚しがよぉ!」

徹「それはこっちのセリフだよ。あんな繊細さの欠片もないパスで全国区に挑もうなどお笑い草だよ。なーにが『アクティブ』は無敵だ!だよ、お荷物のチンピラ君?」

源太「誰がチンピラだこのクソガキィィィ!」

徹「誰がガキだゴルァァァァァ!」

 

レベルの低い争いからそのまま殴り合いに発展する二人。というか、途中からラクロス関係無いじゃないか。

 

優子「やめなさい二人とも!喧嘩していたら進まないでしょ!」

二人「弟に男子からの人気負けてる残念女は黙ってろ!」

優子「なんですってぇぇぇぇぇ!」

 

喧嘩を収めようとした優子も密かに気にしているコンプレックスを刺激され参戦、三つ巴のキャットファイトが繰り広げられる。

 

和真「あーもう喧嘩すんなお前等!」

蒼介「まったくだ!見苦しい!」

 

業を煮やした和真と蒼介が止めに入る。

『アクティブ』の中心の二人の渇により三人は取り敢えず矛を収める。

 

優子「代表…和真…」

源太「いや、でもよ…」

和真「でももストもねぇよ。くだらねぇことで争うなよ」

蒼介「そもそも今回の敗北は個人のではなくチームの敗北、その理由を誰かに押し付けようなど言語道断。恥を知れ」

優子「…そうね。ごめんなさい、熱くなってしまったわ」

源太「それもそうだな…スマン」

徹「まあ仕方ないね、謝っておいて上げるよ」

和真「あぁ?」

 

他の二人が素直に謝罪する中、器も小さく空気も読まない徹の物言いにイラッとする和真。

 

和真「…………そんなんだからお前は成長しねぇんだよ、中身も“見た目”も」

徹「なんだと和真テメェェェ!」

和真「ていっ」

徹「がふぅっ!?」

 

和真に殴りかかるが足払いされて顔面を強打する徹。とても痛そうだ。

 

蒼介「やめろ大門!カズマも煽るな馬鹿者!」

和真「わりぃ、徹の返しがすごくイラッとしてつい」

蒼介「それについては私も同感だが、このままでは話が進まないだろう」

和真「まあそれもそうだな。それに、よく考えたら試合の反省会よりすることがあったな」

 

そう言うと和真はおもむろに立ち上がり、皆に向かって話す。

 

和真「俺達は今日初めて敗北した。相手はラクロスの全国レベル、連携も俺達とは比べ物にならなかった。そして向こうには絶対的なスコアラー・沢渡がいる。今の俺達では何度やっても結果は同じだろう。そこで一つ確認の意味も込めて聞きたい」

 

一旦言葉を切り、全員を見回してからこう告げる。

 

 

和真「お前等、このままでいいのか?」

 

このまま負けたままで終わるのか?そういう和真の問いに対して、

 

源太「いいわけねぇだろ!」

蒼介「愚問だな」

優子「もちろんリベンジするわよ!」

徹「この屈辱は、倍にして返すよ!」

 

チーム全員の思いは一つになった。

 

和真「…よし!ではこれから暫くラクロス練習期間に入るぞ!数ヶ月後にリベンジだ!」

和真がそう言うと五人は輪になって中央に手をかざした。

 

『おぉー!』

 

チーム『アクティブ』の闘いは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「うぅ………大事な食費が……」

 

時刻は四時半。

ようやく姫路と美波から解放された明久は大分軽くなった財布を携え、家の近くの河原で黄昏ていた。16歳とは思えないほど哀愁が漂っている。

 

明久「明日から断食修行が始まっちゃうよ……この若さで悟りなんか開きたくないなぁ……」

 

仏門では修行だけでは悟りを開くことはできないとされているのだが、明久は当然そんなことは知るよしもない。

というか、そんななし崩し的な断食で開けてたまるか。

 

もっとも割り勘にしておけばここまでの被害を受けることはなかったのだが。食費がピンチなのに自分から進んで奢りに行く姿勢はある意味とても男らしい。

 

 

明久「………………試召戦争、負けちゃったな」

 

ふと明久の脳裏に今日の出来事がフラッシュバックする。

負けてしまったので、3ヶ月間は試召戦争を申し込むことはできない。

その上さらに設備を落とされてしまった。

姫路の為により良い設備を手に入れようと試召戦争を始めたのに、逆に悪化させてしまったのだ。

 

明久「……肝心のAクラス戦では、何の役にも立てなかったな」

 

明久はそのことを悔やんでいた。

確かに自分は雄二に捨て駒として扱われた。

だが自分にAクラスを倒せる力があれば話は別だったただろう。自分がバカであることを今日ほど恨めしかったことはない。

 

明久「かといってそんなすぐ成績が伸びるわけないし……このままじゃ、三ヶ月後も役立たずのまま戦死しちゃうだろうな……はぁ」

「随分と憂鬱そうな顔だなぁ、少年」

明久「そりゃ憂鬱にもなるよ…頑張ってる人が報われないのが悔しくて始めたのに……」

 

 

 

 

 

 

 

明久(………………………え?僕、誰に話しかけられたの?)

 

横を向くといつの間にか男性が隣に腰かけていた。

 

所々はねまくったボサボサの黒髪

 

覇気の欠片も感じない濁った目

 

あまり手入れされていない口元の無精髭

 

他にも着ているスーツがぐしゃぐしゃだったりボタンがきちんと留められていなかったりシャツがはみ出ていたりネクタイがゆるゆるだったり……

 

明久(………………………………ふむ)

「? なんだよ人のことじろじろ見て」

明久「なんだ、ホームレスの人か」

「ストレートに失礼だなオイ…」

 

謎の男性は呆れたようにツッコむ。

 

「おっちゃんはこう見えても会社員だよ。こんなナリしてんのはただ性格がズボラなだけだ」

明久「ズボラにも限度があるでしょ…というかおっちゃん、なにしてるんですか?まだ夕方なのに」

 

謎の男性、改めおっちゃんにそんなことを聞く明久。確かに平日のこんな時間に河原でのんびりしているのは不自然だ。

 

おっちゃん「ああ、だるくなったんで早退したんだよ。残業など死んでもやってたまるかアホらしい」

明久「…………あぁ……そうですか」(この人…………ダメ人間の代名詞だ)

おっちゃん「話を戻すが、何をそんなに落ち込んでたんだ?」

明久「え?……ちょっと自分の無力さを痛感していたというか」

 

こんな胡散臭いおっちゃんに悩みを打ち明けるなど正気の沙汰ではないが、誰でもいいから聞いて欲しかった明久は内容を抽象的に告げる。

 

おっちゃん「ふーん…お前さん文月学園の生徒だろ?ということは……試験召喚戦争がらみか?」

明久「…え!?なんでわかったんですか!?」

おっちゃん「あそこほど世間の注目を集めている学校はねーよ。なにしろ四大企業全てがスポンサーを買ってでたとこだからな」

 

総合計で世界資本の5%近くを保有する四大企業は社会への影響力も極めて強い。その四大企業が支援する文月学園は世間からの注目をとても浴びている。もし試験召喚システムがシステムが全世界の学校教育に取り入れられることになれば、数百億単位のお金が動くことになるからだ。

 

おっちゃん「まあ十中八九点数が低いからクラスの役に立てなかった、とかだろ?みるからにバカっぽいしな、お前」

明久「全部ばれた!?というか初対面の相手にバカって失礼過ぎませんか!?、」

おっちゃん「人をホームレス扱いしたお前に言われたくねーよ」

明久「ぐ……なんで僕はこんな小汚いおっちゃんに常識を説かれているんだ…」

おっちゃん「ほんと失礼だなお前……まあいい。年上として、一つお前にアドバイスしてやるよ」

 

突如真剣な顔つきになるおっちゃん。

 

明久「アドバイス……ですか?」

おっちゃん「ああ…………何事もいっぺんにしようとするな。自分にできないことは一つずつできるしていけばいい」

明久「一つずつ…か…」

おっちゃん「例えばすぐに結果を出したけりゃ暗記科目を取り組め。お前みたいなバカでも数をこなしゃ結果はでるさ」

明久「バカは余計だけど……なるほど……」

 

八方塞がりだった明久に光が差したような気がした。

 

明久「……よし、やってみよう。

ありがとうございました!ホームレスのおっちゃん」

 

そう言って明久は帰っていった。

 

おっちゃん「だからホームレスじゃねぇっつの…」

 

愚痴るように呟いたあと、河原に設置された自販機に近寄る。三つ葉に玄武、“御門エンタープライズ”のマークがついている煙草の自販機だ。

おっちゃんは小銭を数枚入れ煙草を購入し、一服しようと箱を開けたとき、ポケットから着信音が鳴り響いた。

 

おっちゃん「はいもしも-」

『どこほっつき歩いてやがるんですかぁぁぁ!まだ勤務時間でしょうがぁぁぁ!』

 

電話に出るや否や怒鳴り散らす女性の声。

相当怒っているようだ。

 

おっちゃん「おう、キュウリか」

 

『桐生(キリュウ)です!そのアダ名いい加減やめてって言ってるでしょ!?』

おっちゃん「黙れ。お前の呼び方は俺が決める」

『横暴過ぎる!』

おっちゃん「なんの用だよ?今日の分の俺の仕事はもう片付けたからもう帰っていいだろ?」

『いいわけないでしょ!?毎回いってますけど勝手に帰らないでください!苦情は私に来るんですからね!とにかく今すぐ会社に戻-』

おっちゃん「却下だボケ」ピッ

 

強引に電話を切った後、電源を切りかけ直せないようにする。よほど行きたくないらしい。

 

おっちゃん「どいつもこいつも仕事仕事……ったく、俺の味方はいつだってニコチンだけだぜ…」

 

一服しながらそう呟いた。




雑談コーナー・その1
蒼介「第一巻が無事終了したな」

和真「それはいいけど、なんだよこのコーナー?」

蒼介「このコーナーでは巻の終わりの間に主に本編ではできない話などをしていくコーナーだ。本編中はメタ発言はなるべく控えているからな」

和真「なるほどな。でも俺達二人だけで進めるのはなんか味気無ぇから誰か呼ぼうぜ」

蒼介「ふむ、それもそうだな。では誰をゲストに呼ぶかはお前が決めてくれ」

和真「あいよ!じゃあ今回は第一巻ではろくに出番の無かった不遇ヒロイン、橘 飛鳥を呼んだぜ!」

飛鳥「……間違ってないけどもうちょっと言い方ってものがあるでしょう」

蒼介「基本的にFクラス目線で進んだため出番が少ないのは大門や五十嵐も同じだが、お前に至っては試召戦争すら参加しなかったからな」

飛鳥「まあ仕方ないわよ。私の成績では代表戦に出るには力不足だし」

和真「それがな飛鳥、実は当初お前も闘う予定だったんだぜ?」

飛鳥「…え?どういうこと?」

蒼介「オリジナルキャラクターが追加された分、当初vsAクラスは七対七の形式で進める予定だったんだが…」

和真「二つ追加されたら雄二は万全を期して科目選択権がある方に俺を入れるだろ?Aクラス側で追加されるのはお前と佐藤。で、選択権がある方には全科目同じような点数のお前じゃなくて理数系の点数が高い佐藤が入るだろう」

飛鳥「ということはつまり……」

蒼介「ああ、カズマVS飛鳥という構図になってしまう。開始直後カズマの一斉砲撃を浴びて終了だ。流石にデビュー戦がそれではあんまりなのと、カズマ無双が4回目になり読者も飽きるだろう、ということでお前の出番はカットされたんだ」

和真「久保と姫路の闘いは決定事項だったし、仮に俺が優子、お前が翔子と当たっても似たような結果になるしな」

飛鳥「そんな裏話があったなんて……」

蒼介「安心しろ、お前は私と違ってこの後に出番がいくつも用意されている。闘う機会はいくらでもある」

飛鳥「それなら構わな……私と違って?蒼介、この後出番ないの?」

蒼介「そういうわけではない。仮にも第二の主人公なのだから出番は結構ある。ただ、召喚獣で闘う機会はかなり少なくなるだろう」

飛鳥「え、どうしてなの?」

和真「率直に言うと強すぎてバランスが崩壊するんだよ。だから今後はさまざまな理由でソウスケが闘う機会はカットされる。まあラスボスなんだし、最終戦まではどっしり構えていた方がいいだろ」

蒼介「まことに遺憾で不満で不本意だが、仕方なく渋々泣く泣く嫌々同意した」

飛鳥(あ……やっぱり闘いたかったんだ……)

和真「それじゃあそろそろ本題に入るか」

蒼介「そうだな。まず最初に、読者の皆はこれについてどう思う?」→和真「」

和真「名前を台詞の前に着けているのは誰が喋っているかわかり易いようにという配慮なんだが、もし『んなもんいるかボケェ!邪魔なんだよとっとと外さんかいワァァァレェェェ!』という人は直接メッセージを送ってくれ。何人か集まったら即、外す」

飛鳥「いつの時代のチンピラよそれ…」

蒼介「続いては巻と巻の間に投稿しようと思っている番外編についてだな」

飛鳥「この後にも二巻が始まる前に番外編を二つ挟むつもりね」

和真「今後も巻と巻の間に番外編をいくつか入れていくつもりだ。そこで……どんな番外編をして欲しいか募集しようと思う」

飛鳥「なんでそんなことを?作者が話を考えるの面倒だから?」

蒼介「いや、以前書かれた感想に『~して欲しい』という内容があったんだが、作者は最終話までの構成はおおまかにできているため、小さいことならともかく大がかりな変更はできないんだ」

和真「その点番外編は本編と関係ないからどんだけはっちゃけてもいいしな」

飛鳥「その認識はどうかと思うけど…なるほど、折角提案してくれたんだし、あまり無下にはしたくないものね」

蒼介「そういう訳で、『○○が○○する話』といった意見があるなら、同じく直接メッセージを送って欲しい。どの案を採用したかは次回からのこのコーナーで随時発表していく。全て採用することはできないかもしれないが、可能な限り実現させよう」

和真「ただし一人につき一つで頼むぜ。本編が進まなくなっちまうからな」

飛鳥「巻と巻の間に最多で3つづつ載せていくわ。多すぎたら本編が進まなくなってしまうからね」

蒼介「続いては0.5巻についてだな」

飛鳥「この作品の主人公はあなた達二人だから、カットせざるを得ない話がいくつかあるわね」

和真「明久達の一年生の頃の話とか、それぞれの小学生時代とかな。一年生の頃の話は俺達の目線で進めればいいが、それぞれの小学生時代はなぁ……」

蒼介「私達が絡まない以上原作通りになってしまうからな。他にも木下姉弟の入れ替わりの話は物理的に不可能になってしまったな」

和真「まあ代わりの話は用意しているけどな。翔子と雄二はどうやって和解したのか、とかな」

飛鳥「読者の皆様、原作キャラ達の過去話を詳しく知りたい人は、原作を読みましょう」

蒼介「さて、ラストだ。いくつかある疑問を解決していく」

和真「まず一つ目は、なぜタイトルが『バカとテストとスポンサー』なのにスポンサーがあんまり出てこないのか?だな」

飛鳥「それは私も気になっていたわ」

蒼介「別に構わないだろう?『炎のゴブレット』もタイトルにまでなっておいて、蓋開けたらただの抽選装置だったのだし」

飛鳥「いやそういう問題!?」

和真「そんなもんドンキで買ってきたビンゴマシーンでいいだろ別に」

飛鳥「いいわけないでしょ!?魔法使い達の祭典の代表者をそんな物で選んでたらシュール過ぎるわよ!」

蒼介「まあ冗談はさておき、一巻はクラス同士の試召戦争がメインのため、スポンサー云々は話に絡まないからだ。四大企業なついてはこれから先徐々に明らかになっていく」

和真「まあ関係者のお前等が学園にいる以上、嫌でも関わってくるだろうしな」

蒼介「続いての疑問は、この内容をなぜバカテスでするのか?だな」

飛鳥「まあ明らかに世界観がずれているものね。ギャグも少ないし、バトルがガチ過ぎるし、知略より根性に重きを置いているように見えるし……」

和真「まあ作者はあんな感じの泥臭い漫画や小説が好きだしな」

蒼介「作者がバカテスの二次創作を書こうと思ったのは、友人からバカテスの小説全巻頂いたからだ」

和真「それで、全部読破したことだし折角だから書いてみようと思って投稿を始めた、と」

飛鳥「短絡的にもほどがあるわね…」



蒼介「以上だ」

和真「次回、バカとテストとスポンサー番外編『伝説の勇者ユージ』!絶対読んでくれよな!」

飛鳥「大丈夫なのその話?すごく長そうなんだけど」

和真「大丈夫だ。一話で終わるから」

飛鳥「……え?」


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伝説の勇者ユージの冒険

番外編part1です。
ギャグ100%です。


ここはモンスリー王国

 

人々は平和に暮らし、大地は豊かな緑に覆われ空には鳥が舞い、穏やかな風が綿雲を運んでいた

 

だがある日、空に闇が滲み、大地に邪悪な影を落とした

 

大魔王カヲルシフェルが永き眠りから目覚めたのだ!

 

次々に魔物を生みだし、人々を襲い殺戮の限りを尽くした

 

この世界は暗黒の時代を重ね、いつしかこう呼ばれるようになった……

 

“モンスター・ワールド”

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だが、そこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れ、カヲルシフェルを倒すべく大地に一歩踏み出そうとしていた

 

 

「勇者・ユージ!」

 

 

「武闘家・アキヒサ!」

 

 

「武闘家・カズマ!」

 

 

「…武闘家・ショーコ!」

 

目指すは悪の根城・カヲール城!

魔王と勇者の対決が、今幕を開け-

ユージ「ちょっと待て」

 

アキヒサ「どうしたのさユージ?まだナレーションの途中だよ?」

 

ユージ「………………違う」

 

カズマ「は?」

 

ユージ「お前らおかしい。

なんでパーティーの4分の3が武闘家なんだよ?

どう考えてもバランス悪いだろうが」

 

ショーコ「…そんなこと言われても困る」

 

カズマ「俺達はそれぞれ代々続く武闘家の家系だからな」

 

ユージ「いや、そういうのいいから。こんなパーティーでカヲルシフェル倒せるわけねぇだろ。都合の良いことにそこに転職できる店があるからジョブチェンジしてこい」

 

カズマ「やれやれしかたねぇな…ソウスケ、ナレーション中盤くらいからもう一回頼むわ」

 

 

仕方ないな…

 

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だがそこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れ、カヲルシフェルを倒すべく大地に一歩踏み出そうとしていた

 

「勇者・ユージ!」

 

 

「盗賊・アキヒサ!」

 

 

「山賊・カズマ!」

 

 

「…海賊・ショーコ!」

 

目指すは悪の根城・カヲール城!

魔王と勇者の対決が、今幕を開け-

ユージ「待てこら」

 

アキヒサ「なんなのさユージさっきから」

 

ユージ「なんだよお前らその職…」

 

カズマ「文句あんのか?ちゃんとバラバラじゃねぇか」

 

ユージ「勇者、盗賊、山賊、海賊ってどんな団体だよ!?俺以外どう見ても無法者集団じゃねぇか!」

 

ショーコ「…ユージも他人の家のタンス勝手に開けてお金とか取っていくから同じ穴の狢」

 

ユージ「そこはツッコむなよ!RPGの仕様なんだから!とにかく、もう一回転職してこい!」

 

カズマ「またかよ…ソウスケ、もう一回!」

 

 

やれやれ…

 

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だがそこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れ、カヲルシフェルを倒すべく大地に一歩踏み出そうとしていた

 

「勇者・ユージ!」

 

 

「スライム・アキヒサ!」

 

 

「ゴーレム・カズマ!」

 

 

「…ドラゴン・ショーコ!」

 

目指すは悪の-

ユージ「はいカットォォォ!」

 

アキヒサ「今度はなんなのさ?」

 

ユージ「お前ら自分の外見見ておかしいと思わないのか!?いつからこの話は『ユージのワンダーランド』になったんだよ!?」

 

ショーコ「…味方が人間だけだと考えてる時点で常識に囚われている証拠」

ユージ「囚われてていいから、その常識には。これじゃ明らかに俺が魔物勢力側だと誤解されるじゃねぇか。物資の調達とか宿とかはどうするつもりなんだよ?」

 

カズマ「そんな物その辺の村から略奪してくれば解決するだろ?」

 

ユージ「完全に悪党じゃねぇか……勇者のする所業じゃねぇよ……とにかくこんなもん認められるか!もう一回行ってこい!」

 

カズマ「ったく、我が儘だな…ソウスケ、ワンモアセット!」

 

 

全然進まないな…

 

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だがそこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れ、カヲルシフェルを倒すべく大地に一歩踏み出そうとしていた

 

「勇者・ユージ!」

 

 

「オルゴデミーラ・アキヒサ!」

 

 

「ラプソーン・カズマ!」

 

 

「…ダークドレアム・ショーコ!」

 

目指すは悪の-

ユージ「お前ら正座ァァァ!」

 

アキヒサ「またぁ!?」

 

カズマ「ほんとめんどくせぇなお前」

 

ユージ「誰がモンスターの格を上げろっつたよ!?なんで魔王退治しに行くメンバーが魔王引き連れてんだよ!?」

 

ショーコ「…毒を持って毒を制す」

 

ユージ「やかましいわ!というかよく転職できたなそれ!?……とにかく、もう一回行ってこい!もっと普通のやつな」

 

カズマ「ほんと注文が多いな…ソウスケェ!泣きの一回!」

 

 

もしやこのまま終わるんではないだろうな…

 

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だがそこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れ、カヲルシフェルを倒すべく大地に一歩踏み出そうとしていた

 

「勇者・ユージ!」

 

 

「派遣社員・アキヒサ!」

 

 

「正社員・カズマ!」

 

 

「…公務員・ショーコ!」

 

目指すは-

ユージ「違ぁぁぁぁぁう!」

 

アキヒサ「いい加減にしてよユージ!」

 

ショーコ「…全然話が進まない」

 

ユージ「こっちのセリフだ!番外編だからって好き放題ボケ倒しやがって!」

 

カズマ「なんだよ、ちゃんと普通の職業だろ?」

 

ユージ「いや確かに普通だけど普通じゃねぇよ!世界観にまるで合ってねぇし!だれがこの集団見て魔王を倒しに行く勇者一行だって気づくんだよ!」

 

アキヒサ「やっぱり安定した職業が一番だよね」

 

ユージ「そんな一般論どうでもいいわ!大体そんな装備でどうやってモンスターを倒すんだよ!?」

 

カズマ「そりゃ勿論この名刺手裏剣を使うんだよ」

 

ユージ「地味過ぎるし弱過ぎるしシュール過ぎるわ!もう一回行ってこいゴルァ!」

 

カズマ「短気だなぁ…ソウスケェ!」

 

 

私もさっさと休みたいんだがな…

 

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だがそこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れ、カヲルシフェルを倒すべく大地に一歩踏み出そうとしていた

 

「勇者・ユージ!」

 

 

「ピザ屋・アキヒサ!」

 

 

「プロゴルファー・カズマ!」

 

 

「…マッチ売りの少女・ショーコ!」

 

目指すは悪の根城・カヲール城!

魔王と勇者の対決が、今幕を開けたのだ!

 

 

ユージ「……………………もうこれでいいか……」

 

 

続く?

 

 




以上です。
要望があれば巻と巻の間に続きを挟んでいきます

では。


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全て答えは自分の中

今回は和真対姫路のガチンコバトルです。
といってもシリアス度0%ですが。


明久「ん? あれは…和真と…誰だろう?」

 

めずらしく早めに登校した明久は、和真が見知らぬ女子生徒といるのを見かけた。

明久(まさか告白!?だとしたら和真といえど生かして帰さな-)

「別れましょう!もう先輩にはついていけませんっ!」

明久(真逆だったーーーー!?)

 

告白現場かと思ったら破局現場だった。

 

和真「ん、オーケー。じゃあさいなら」

 

和真は特に驚きもせず、つまらなそうなガッカリしたような、それでいて予想通りといった表情でそれを受理した。

 

 

 

 

 

 

 

明久「和真、元気出しなよ」

和真「いきなりなんだよ明久?」

 

Fクラス教室にて、明久は今朝のことを励まそうとするが、いかんせん脈絡がなさ過ぎたのか、和真は何のことだかわからないようだ。

 

明久「だって、今朝後輩の女の子に別れてって言われてたでしょ。それで落ち込んでるだろうと思って」

和真「ああ、それか」

 

和真はどうでもやさそうな反応をする。

もし読者の皆さんが友達そういう場面を目撃してしまったら、しばらくそっとしておいてあげましょう。間違っても他の人が大勢いる場所で励ましたりしてはいけません。

 

美波「え、柊フラれちゃったの?」

秀吉「それは気の毒じゃのう…」

雄二「ははは!ザマァ!」

 

高校生とは基本的に下世話な生き物である。友達がこういう話をしていたらそりゃ集まる。気の毒そうに励ます者ややこりゃ愉快言わんばかりのいやらしい笑みを浮かべた者に囲まれても、和真はさして気にすることなく告げる。

 

和真「別に気にすることでもねぇよ。もう53回目だからな」

 

『53回!?』

 

和真「そ。ちなみに別れを切り出すのはいつも向こうからで、理由はおそらく53人とも一緒」

明久「そ……その理由は?」

翔子「……和真のスポーツ趣味についていけなくなった」

和真「正解。というかごく自然に混ざったなお前、さっきまでいなかったのに」

翔子「……雄二の携帯をチェックしていたから」

雄二「!?……アドレス帳の連絡先が翔子以外消えてるじゃねぇか!」

和真&明久「ザマァ」

雄二「お前らぶち殺すぞ!特に明久!」

 

気にしてはなくてもチャンスがあればしっかりとやり返すのが和真流。ここぞとばかりに明久も便乗する。

 

明久「それにしてもやっぱりその理由か…」 

 

和真は基本的に放課後、休日ともにだいたいスポーツに明け暮れている。恋人らしいことなどほとんど期待できそうにない。美波が呆れたように忠告する。

 

美波「あんた付き合ってるんだったらスポーツはほどほどに 「却下」 して彼女の…って、まだ言い終わってないわよ!」

和真「スポーツをほどほどにって時点で悩む余地は無ぇ。そんなことしなけりゃならないならこっちから願い下げだ」

 

和真にとっては恋愛<スポーツである。

 

雄二「だったら断りゃいいじゃねぇか」

和真「そうだけどよ、全員最初はそれでも構わないって言うんだぜ?蓋開けたらこの体たらくだがよー」

美波「そうはいってもやっぱり構ってほしいに決まってるじゃない」

和真「知るか。だいたい女は不合理な部分が多過ぎる。例えばそうだな、女子は皆痩せたいだのカロリーだのダイエットだの常々ほざいてるが、本当に痩せたいと思ってんのかねぇ?」

 

姫路「勿論痩せたいに決まってるじゃないですか!」

 

ちょうど登校してきた姫路の、おそらく人生で1,2を争う心からの切実な叫び。よほど体重に関して神経質になっているのだろう。

 

和真「じゃあ聞くがよ姫路、なんでお前等はダイエット食品やらダイエット法やらを次から次へと変えているんだ?」

姫路「そっ、それは効果が出なかったから…」

和真「それだよ、俺の気になるのは」

 

姫路に指を突きつける。人差し指だけだと失礼なので中指を重ねて。

 

和真「なんでそんな確実性のかけるやつをしたがるんだ?絶対に痩せられる方法は誰もが知っているはずなのによ。自分の中にある答えから目を背けてんじゃねぇよ」

姫路「絶対に痩せられる方法…ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

和真「痩せたいなら動け!運動しろ!」

 

段々と和真の声に力が入ってきた。

 

姫路「で、でも…運動は苦手なので…」

和真「それだよそれ!痩せたいと言ってる割に運動しない奴が決まって言うセリフ!」

 

さらに指を突きつける。今度は薬指も重ねて。

 

和真「要はそういうことだろ!だるいからしないんだろ!できるだけ楽がしたいんだろ!つまり、お前達にとって痩せたいという願望はその程度のもんなんだろ!」

姫路「ち、違-」

和真「違わねぇだろ!心の底からの渇望ならどんなに辛かろうが苦しかろうが気にならねぇはずだろ!

それは無理だ?自分には向いていない?もっと楽な方法がある?この方が効率がいい筈だ?次頑張ればいい?

ハッ、そんな中途半端な心構えで痩せられるわけねぇだろうが!」

 

姫路は衝撃を受けたような表情になり、そのまま膝から崩れ落ちた。

 

和真「以上、柊 和真のダイエットセミナーだ」

『ちょっと待て!』

 

最初の破局の話から随分と脱線したものだ。

 

和真「まあとにかく、スポーツの時間は絶対減らさねぇ。一緒にいる時間を多くしてほしいならそれにに混ざってもらうしかねぇな」

明久「そんなこと言ってもさ、和真についていける女の子なんて…」

 

ガラガラ

 

優子「和真ー。アンタ昨日グラウンドにタオル忘れていったでしょ?はい」

和真「あ、しまった。わざわざサンキューな、ご丁寧に洗濯までしてくれて」

優子「どういたしまして……って、アンタ手怪我してるじゃない!?」

和真「ああこれか、今朝陸上部の朝練に混じったときに何かで切ったんだろ。まあこの程度なら放っておいても-」

優子「いいわけないでしょ!ほら手貸して!消毒液と絆創膏あるから」

和真「いやなんであるんだよ!?百歩譲って絆創膏はともかく消毒液なんざ普通持ち歩かねぇだろ!?」

優子「アンタがしょっちゅう生傷作るからでしょうが!いいから、ほら!」

和真「いたたたっ!かけすぎだバカ!やるならもっと丁寧にやれ!繊細さの欠片もねぇなお前!」

優子「う、うるさいわね!ちょっとは我慢しなさい、男でしょ!」

和真「我慢できるタイプの痛みじゃねぇよこれは!」

優子「そもそも繊細さとかアンタにだけは言われたくないわよ!」

和真「細かい作業は嫌いなだけでできねぇわけじゃないしー、トランプタワーも7段までできるしー」

優子「アタシだってできるわよ!……5段までだけど」

和真「ふははははは!5段ごときでなにいきがってやがんだ雑魚が!」

優子「アンタだってアタシより一段多いだけでしょうが!」

和真「7段と5段じゃ天と地ほど差があるんだよ、このガサツ女が」

優子「誰がガサツ女よ!ガキみたいな性格してるくせに!」

和真「お前と徹にだけは言われたかねぇよ!」

 

 

 

 

『……………………………………』

 

痴話喧嘩まがいの非常にレベルの低い争いをただ黙って見ている明久達。とても学年トップレベルの学力を持つ人達の争いには見えない。

 

明久「………なんか、別れた原因が他にあるような気がするんだけど」

『同感』

 

 

 

 

 

 




以上です。
和真君のヒロインは優子さんですが、和真の性格があんな感じなので今後進展するかどうかは未定です。
では。


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二巻開始・生徒会と暗躍する影

以前ちょろっとだけ出てきた生徒会からのスタートです。


「全員そろったようですね。それでは、生徒会会議を始めたいと思います」

 

三年学年主任の綾倉先生がにこやかにそう告げる。

 

文月学園生徒会

全校生徒の代表として、生徒がより良い学園生活を過ごすために活動する集団…と、ここまでは一般的な生徒会と一緒だ。ただ、この生徒会は少しだけ一般的な生徒会とは違っている。

 

蒼介「今回の議題は一ヶ月後に控えた『清涼祭』について行います」

 

蒼介がそう言った後、副会長の橘 飛鳥はは各役員と顧問に用紙を数枚ずつ配る。

 

蒼介「まず各クラスに割り当てられる予算についてですが…」

「おい鳳!どうなってんだよ!」

「俺達の案と全然違うじゃねぇか!」

 

会計職に着いている夏川 俊平と常村 勇作が蒼介に抗議する。話の腰を折られた蒼介は剣呑な表情を二人に向ける。

 

蒼介「あなた方の予算案はAクラスが全体の六割を占め、それに対してFクラスには支給されてないも同然でしたね」

夏川「そうだよ、なんか文句でもあんのかよ?」

蒼介「あるに決まっているでしょう。確かに予算は上位のクラスほど優遇されますが限度というものがあります」

常村「わかってねぇなぁ。予算をバカどもに分配しても豚に真珠だ。それなら俺達優等生が使ってやった方が有意義だろうが」

蒼介「そんな主張は断じて認められません。私達は学園を代表する生徒会、私利私欲で行動するなど言語道断です」

夏川「んだと?テメェ先輩に逆らおうってのか?

蒼介「あなた方は先輩以前に生徒会会計職、つまり私の部下です。あまり出過ぎた発言は慎んでください」

蒼介は目上の人間にはきちんと敬意を払うが、決して媚びへつらうようなことはせしない。

間違っていると思ったことは真っ向からねじ伏せる。

常村「テメェ…」

夏川「言わせておけば…」

 

怒りに任せ、常村と夏川が立ち上がる。今にも乱闘に持ち込みそうな二人に対して、

 

「ええ加減にせえよこのバカコンビ!」

 

蒼介の隣に座っているタレ目が特徴的な女子生徒が一喝する。

前生徒会長にして現副会長の一人であり柔道部主将でもある三年生学年次席、佐伯 梓(サエキ アズサ)だ。

エメラルドグリーンの髪をツインテールにしており、普段はいつも人懐っこい笑みを浮かべているのだが、今は「不機嫌ここに極まれり」と言わんばかりのしかめっ面である。

 

常村「さ、佐伯……」

夏川「で、でもよ……」

佐伯「でももストもあるかい!さっきから聞いてたら好き放題言いよって!内申の為に生徒会入ったような奴等がブチブチ文句言うなや!鬱陶しいわ!」

 

これでもかとボロクソ言われているが、否定できないのか押し黙る二人。すると佐伯の発言に納得できないい生徒約一名が話に割り込む。

 

「……え?あの佐伯嬢、少しよろしいでしょうか?」

 

生徒会庶務であり三年首席の高城 雅春がおずおずと声をかける。

 

佐伯「あん?なんや高城?」

高城「私と常村君と夏川君は生徒会に入ることを義務付けられていたのでは?」

小暮「高城君、そんなの梓の嘘に決まっていますわ」

高城「……………………………………」

 

書記の一人である小暮 葵がそう告げると高城はすごく悲しそうな表情になる。

 

高城 雅春の特徴を一言で言うなら、騙されやすい。この十七年間あらゆる人に幾度となく騙されてきた実績は伊達ではない。

 

佐伯「……スマン、去年人員足りひんかったからつい……」

高城「構いませんよ佐伯嬢。慣れて…………ますから………………」

 

見ていていたたまれなくなる光景だ。

 

蒼介「…………とにかく、予算はこのように分配されます。お二方もそれでよろしいですね?」

常村「あ、ああ…」

夏川「つ、つっかかって悪かったな…」

 

佐伯の一喝と高城のあまりにもかわいそうな光景が随分効いたようで、蒼介と夏川達の一触即発な雰囲気も完全に雲散霧消。

 

蒼介「では次に『試験召喚大会』についてですが、この中で参加をするという方は―」

 

その場にいたほとんどの生徒が手を挙げる。

 

蒼介「―私と高城先輩以外、ですか」

徹「あれ?君は出ないのかい?こういう行事は積極的に参加していたはずだけど」

 

もう一人の書記職である小柄な男子生徒、大門 徹が質問する。

蒼介は意外と好戦的な性格だ。この手の大会に参加しないのは些か不自然である。

 

蒼介「私はクラス代表だ。途中で抜けるわけにはいかないだろう」

高城「私も同様の理由です」

 

二人ともそれぞれクラス代表としてこのような行事ではクラスメイトを指揮する責務がある。どうやら二人とも責任感の強い性格をしているようだ。

 

高城「このような仕事をしないと騙されやすい馬鹿であることがばれるとお伺いしましたので」

小暮「高城君、台無しですわ。色々と」

 

片方は騙されているだけだった。犯人はおそらく私は無関係ですとでも言いたげに明後日の方向に目を背けて口笛を吹いている前生徒会長だろう。高城が仕事をしないと次席である自分に回ってくることを見越しているあたり意外とちゃっかり者のようだ。

 

蒼介「まあそれはともかく、この大会の副賞について教頭先生、ご説明を」

竹原「ああわかった。まず一つ目は我が校のスポンサー“桐谷グループ”の系列である“如月グループ”が経営する『如月ハイランド プレオープンプレミアムペアチケット』、もう一つは学園長が新たに開発した『白金の腕輪』だ」

 

その後は竹原教頭の腕輪についての説明が続いた。

 

竹原「―以上だ」

蒼介「ご説明ありがとうございました。では次に―」

 

そう、これが前述した文月学園生徒会特有の業務、学園の経営への参加である。

文月学園は試験召喚システムのための試験高であり、世間の注目を浴びやすい。世間に叩かれないようにどのような経営方針で行うかは非常にデリケートな業務である。そこで実際に学園生活を送っている生徒の意見も取り入れるため、このような会議を度々開くことになっている。

 

蒼介「―以上です。綾倉教諭、これで今日の議題は全て終了しました」

綾倉「そうですか。では、本日の生徒会会議はこれで終わりです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例の腕輪を無事大会の優勝賞品にすることができたようですね」

「学園長は学校の経営を全て丸投げしているからな、出し抜くことなど造作もないさ」

「それにせっかくの新技術、技術者として使わずにはいられないでしょうしねぇ」

「それについて確認しておく。あの腕輪は本当に高得点者が使用すると暴走するのか?そうでなければ話にならんのだがね」

「私を甘く見ないでくださいよ。あの程度の細工は朝飯前ですよ」

「ああ、それはすまなかったな。ところでなぜ片方だけに細工したんだね?」

「そうしておいた方が都合がいいんですよ。こうすれば学園長は自分が回収するという手段を取らずに腕輪の回収を生徒の誰かに依頼するでしょう。そうなると細工をした方の腕輪を回収する役目を請け負うのは誰になるか絞られます」

「…ああ、観察処分者のバカか。ならばおそらく相方もわかりきっているな。それならば私の用意した刺客には到底敵わないだろうな」

「…だといいですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「……なあ木下、工藤。いくつか聞きたいんだが」

優子「? どうしたの代表?」

愛子「何か問題でもあったのカナ?」

蒼介「まず一つ目、どうして私が知らない内にクラスの出し物が決定しているんだ?」

愛子「代表がここんところ働きづめだから、クラスのみんなが負担を少しでも軽くしようとしたんだよ」

蒼介「まあその気遣いには感謝する。二つ目、【執事喫茶 お嬢様とお呼び!】……この店名は無いだろう」

優子「アタシも薄々おかしいと思ってたけど、気がついたらそれになってたわ」

蒼介「…………まあそれは置いといて。最後の質問だが、

 

 

どうして私は知らないうちにウェイターにされているんだ?」

 

愛子「またまた~。そんな女泣かせな顔で何を言ってるんだよ」

蒼介「少なくとも顔立ちで女子を泣かせたことはないのだがな」

愛子「ん?それ以外ではあるってこと?」

蒼介「……昔飛鳥と初めて会った時、柔道の稽古で―」

飛鳥「その話は黙ってて蒼介、お願いだから」

蒼介「……そうか。ならこの話は終わりだ」

愛子「えー。気になるから教えてよー」

蒼介「却下だ。話を戻すが、どうしても私はウェイターなのか?」

愛子「満場一致で決まったからね~。もう決定事項だと思うよ~」

蒼介「……………仕方ない」

 

 




以上です。
本当は厨房に行きたかった蒼介君、ドンマイ。
この作品では腕輪の欠陥は誰かに仕組まれたという設定になっています。

【生徒会】
会長…鳳 蒼介
副会長…佐伯 梓、橘 飛鳥
書記…小暮 葵、大門 徹
会計…常村勇作、夏川俊平
庶務…高城 雅春
顧問…竹原(教頭)、池本(一年学年主任)、高橋(二年学年主任)、綾倉(三年学年主任)

・役員志願資格はAクラス所属であること。
・会長は二年の学年主席もしくは次席が着任する。
・前生徒会長は三年では副会長として現生徒会長をサポートする
・三年生は一学期終了時にその任を解かれる
・一年生は二学期から志願可能
・役職志願者が定員を越えた場合生徒会選挙が行われる。

では。


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学園祭準備

【前書きコーナー】
蒼介「今回から『清涼祭編』に突入する」

和真「……オイ、なんだよコレ?」

蒼介「? 何か不都合な点でも?」

和真「不都合な点しか見当たらねぇよ………この作者とうとう前書きまでサボるようになったのか?ただでさえ後書きを誰が得するのかもわからねぇ召喚獣のステータスとかで潰してんのに」

蒼介「いや、作者は確かに横着者だがこの件には関わっていない。そもそもどう考えてもこちらの方が負担は大きいからな」

和真「まあ確かに……じゃあなんでこんなコーナーが始まったんだよ?」

蒼介「この巻では私の出番はかなり少なくてな、その腹いせにこのスペースを占拠した」

和真「いやお前何してんだよ!?小説内のキャラがそんな理由で前書きのスペース乗っ取るなんて聞いたことねぇよ!」

蒼介「なかなか斬新だろう?」

和真「そんな斬新さ誰も求めてねぇよ!というかこの部分に割く労力と時間が増えたせいで投稿が遅れることになったりしたらどうするつもりだよ!」

蒼介「心配ない。その責任は全て作者に行くからな、私は痛くも痒くもない」

和真「お前本編と比べて傍若無人過ぎじゃね?」

蒼介「まあここで何をしても本編には何の影響も無いからな、多少はっちゃけても問題無いだろう」

和真「限度っつうもんがあんだろ!?」

蒼介「まあそれはともかく、前回のあらすじでもしようか。誰かが何か企んでた、以上」

和真「雑だなオイ!?」


「……雄二」

「なんだ?」

「……『如月ハイランド』って知ってる?」

「ああ。今建設中の巨大テーマパークだろ?もうすぐプレオープンっていう話の」

「……とても怖い幽霊屋敷があるらしい」

「廃病院を改造したっていうアレか?面白そうだよな」

「……日本一の観覧車とか」

「おお、相当デカいみたいだな。聞いた話だけでも凄そうだ」

「……他にも面白いものが沢山ある」

「それは凄いな。きっと楽しいぞ」

「……それで、今度そこがオープンしたら、私と」

「ああ、お前の言いたいことはよくわかった。そこまで行きたいなら―」

「……うん」

「今度友達と行ってこいよ」

「……タイガーショット」ドゴォ

「ぐああぁっ!弁慶さんはよせぇぇぇ!」

「……私と雄二、二人で一緒に行く」

「オープン直後は混みあっているから嫌(ドゴォ)ぐぎゃあっ!和真の奴余計な技伝授しやがってぇぇぇ!」

「……それなら、プレオープンのチケットがあったら行ってくれる」

「プ、プレオープンチケット?あれは相当入手が困難らしいぞ?」

「……行ってくれる?」

「んー、そうだなー、手に入ったらなー」

「……本当?」

「あーあー。本当本当」

「……それなら、約束。もし破ったら―」

「大丈夫だっての。この俺が約束を破るような奴に見えるか?」

「―この婚姻届に判を押してもらう」

「命に代えても約束を守ろう」

 

(……計画通り)

 

 

 

 

 

 

桜色の花びらが坂道から姿を消し、代わりに新緑が芽吹き始めたこの季節。

和真達の通う文月学園では、新学期最初の行事である『清涼祭』の準備が始まりつつある。

学園祭の準備の為のLHR(ロングホームルーム)の時間では、どの教室も活気が溢れている。

そして、毎度お馴染み、我らがFクラスはというと……

 

 

 

和真「来やがれ明久!」

明久「勝負だ、和真!」

和真「もう一度場外までかっ飛ばしてやるぜ!」

 

準備もせずに、校庭で野球をして遊んでいた。

 

明久「次こそは意地でも打たせるもんか!」

 

ザッとマウンドを足で均し、明久はミットを構えている雄二のサインを待つ。

 

明久(神童とまで呼ばれるほどの頭脳を持った雄二のことだ、たとえ相手が和真でもうまく打ち取れるような指示を出してくれるに違いない)

雄二『次の球は……カーブを、』

明久(ふむふむ)

 

雄二『和真の頭に』

 

明久「それ反則じゃないの!?というかキサマ僕に死ねと!?」

 

そんなことをすれば恐らく血祭りに上げられるだろう。

和真は普段は基本的に温厚だがスポーツに悪意を持ち込むとかなり怒るのだ。

 

「貴様ら、学園祭の準備をサボって何をしているか!」

 

明久「ヤバい!鉄人だ!」

 

新しくFクラスの担任となった生徒指導の西村先生(通称・鉄人)が怒髪天をつく勢いで校舎から走ってきた。

 

鉄人「吉井!貴様がサボりの主犯か!」

明久「ち、違います!どうしていつも僕を目の仇にするんですか!?」

和真(んなもん日頃の行いだろ)

明久と並んで走る和真は心の中でそうツッコむ。相手が鉄人でも瞬発力では和真に分があるのですごく余裕そうだ。

 

明久「雄二です!クラス代表の坂本 雄二が野球を提案したんです!」

 

まあ確かに出し物の内容を決める時間に野球をやろうと言い出したのは雄二である。クラスの9割以上がそれに便乗するのは正直どうかと思うが。

 

明久(きっと責任を取って制裁を受けてくれるはず!)

そう考えて雄二の方を見ると、明久に視線でこう訴えてきた。

『フォークを 鉄人の 股関に』

明久「違う!今は球種やコースを求めているんじゃない!しかも、それをやったら単に僕が怒られるだけだよね!?」

鉄人「柊!お前まで何をやっている!」

和真「いやいや、だってさ西村センセ、クラスが一丸となって積極的に取り組んでたんだぜ?俺が参加しない訳にはいかないっすよ」

鉄人「一丸となってするべきことが違うだろうが!とにかく全員教室に戻れ!この時期になってもまだ出し物が決まっていないなんて、うちのクラスだけだぞ!」

 

 

 

 

 

雄二「さて、そろそろ春の学園祭、『清涼祭』の出し物を決めなくちゃいけない時期が来たんだが、とりあえず、議事進行並びに実行委員として誰かを任命する。そいつに全権を委ねるので、後は任せた」

 

野球を中断された後、雄二は床にござを敷いて座るFクラス一同を見下ろしながら本当にどうでも良さそうな態度でそう告げた。他人に面倒な仕事を全部押し付けようという魂胆が見え見えである。

ちなみに和真はなんの躊躇いも無く爆睡していた。

こちらもこちらでやる気の欠片もない。

 

姫路「吉井君。坂本君も柊君も学園祭はあまり好きじゃないんですか?」

 

話し合いの邪魔にならない程度の小声で姫路は明久に話しかけてきた。

 

明久「雄二は直接聞いたわけじゃないからわからないけど、楽しみにしているってことなさそうだね。興味があるならもっと率先して動いているはずだから。和真は放課後の時間が潰れるからどちらかと言えば嫌いなんじゃないかな」

 

只でさえ最近はラクロス部へのリベンジのため練習していたのだ。その時間が潰れるとなればいい気はしないだろう。

 

姫路「そうなんですか……寂しいです……吉井君も興味がないですか?」

 

姫路は少しだけ上目遣いで明久の顔を覗き込む。

 

明久「う~ん、別にそこまで何かをやりたいってわけでもないしなぁ」

 

授業が潰れるのは嬉しいが、さしてやりたいものもない、というのが明久の本心だ。

 

姫路「私は……吉井君と一緒に、学園祭で思い出を作りたいです」

明久「ほぇ?」

 

姫路の意味深な台詞に明久は思わず間抜けな声が出てしまう。

 

姫路「その、吉井君は知ってますか……?うちの学園祭ではとっても幸せなカップルが出来やすいって噂が―ケホケホッ」

 

急に姫路が口に手を当てて咳をし始めた。

 

明久「大丈夫?」

姫路「は、はい。すいません……」

 

そう言う姫路の目は若干潤んでいる。

腐った畳から更に設備のランクを下げられた今、この教室には傷んだこざとみかん箱しかない。机と椅子に比べて格段に疲れるし不衛生でもある。

こんな設備では身体の弱い姫路が体調を崩しても何の不思議も無い。

 

明久「そのうち、なんとかしないとなぁ……」

雄二「んじゃ、学園祭実行委員は島田ということでいいか?」

 

不意に雄二の言葉が耳に飛び込む。

 

明久(そう言えば学園祭についての話し合いをしているんだった)

美波「え?ウチがやるの?うーん……ウチは召喚大会に出るから、ちょっと困るかな」

 

雄二に推薦された美波だが、どうやらあまり乗り気じゃないようだった。

 

明久「雄二。実行委員なら、美波より姫路さんの方が適任じゃないの?」

姫路「え?私ですか?」

 

そこに明久が姫路を推薦する。気の強い美波よりも優しい姫路の方が話し合いで荒れないで済むと思ったのだろう。

 

雄二「姫路には無理だな。多分全員の意見を聞いてるうちにタイムアップになる」

 

雄二の言うとおり、姫路は少数意見を切り捨てるような事はできないからそうなる可能性は高い。野球で時間を潰しに潰してしまったFクラスに今更そんな余裕はない。

 

美波「それにね、アキ。瑞希も召喚大会に出るのよ」

明久「え?そうなの?」

姫路「はい。美波ちゃんと組んで出場するんですよ」

明久「学校の宣伝みたいな行事なのに。二人とも物好きだなぁ」

 

清涼祭のイベントの一つに『試験召喚大会』という企画があり、これの目的は明久の言うとおり『試験召喚システム』を世間に公開するための文月学園の宣伝活動のようなものだ。

 

美波「ウチは瑞希に誘われてなんだけどね。瑞希ってばお父さんを見返したいって言ってきかないんだから」

明久「お父さんを見返す?」

美波「うん。家で色々言われたんだって。『Fクラスの事をバカにされたんです!許せません!』って怒ってるの」

明久「あらら。姫路さんが怒るなんて珍しいね」

姫路「だって、皆の事を何も分かってないくせに、Fクラスって言う理由だけでバカにするんですよ?許せませんっ」

明久「…………」

 

事実、一部を除けばFクラスはバカの集まりなので明久は閉口してしまう。

 

美波「だから、Fクラスのウチと組んで、召喚大会で優勝してお父さんの鼻をあかそうってワケ」

明久「なるほど……あれ?それだったら霧島さんか和真と組んで出た方が良くない?」

翔子「……吉井、私も和真も既に別の相手とエントリーしている」

 

話を聞きつけ、雄二の彼女こと霧島 翔子が明久達の近くに来る。

 

明久「え、そうなの?霧島さんがこういう大会に出るなんて珍しいね」

霧島「……私は私で負けられない理由がある」

明久「え?それっていったい…」

雄二「四人とも。こっちの話を続けていいか?」

明久「あ、ゴメン雄二。美波が実行委員になる話だよね?」

美波「だからウチは召喚大会に出るって言ってるのに」

雄二「なら、サポートとして副実行委員を選出しよう。それなら良いだろ?」

 

チラッと明久の方を見る雄二。どうやら明久を人身御供にするつもりのようだ。いつものことである。

 

美波「ん~そうね、その副実行委員次第でやってもいいけど……」

雄二「そうか。では、まず皆に副実行委員の候補を挙げてもらう。その中から島田が二人を選んで決定投票をしたらいいだろう」

 

皆もいいな、と雄二がクラスメイト達に告げる。すると、教室内からちらほらと推薦の声が聞こえてきた。

 

『吉井が適任だと思う』

『やはり坂本がやるべきじゃないか?』

『柊なら上手くやってくれるはず』

『ここは須川にやってもらった方が』

『姫路さんと結婚したい』

『霧島さんを奪った坂本を殺してやりたい』

 

クラス内から何人かの適任者の名前が挙がる。(最後の二名を除く除く)

 

「ワシは明久が適任じゃと思うがの」

 

そう言い明久に秀吉が一票を投じる。

 

明久「って、秀吉。僕もそう言う面倒な役は、できればパスしたいな~なんて」

秀吉「それは他の皆とて同意見じゃ。ならば適任の者にやってもらった方が良いじゃろう?」

明久「むぅ……それはそうだけど……」

 

秀吉の言うことが正論ゆえか反論できない様子の明久。

 

明久(でも、まぁいっか。まだ候補ってだけで決定したわけじゃないし二人の候補を美波が選んで、決戦投票をやって初めて決まるんだから)

 

その考えはマロングラッセより甘いと言わざるを得ない。なぜなら、

 

雄二「よし島田。今挙がった連中から二人を選んでくれ」

美波「そうね~。それじゃ……」

 

ある程度候補の名前が挙がると、美波はボロボロの黒板に決選投票候補者の名前を書き連ねた。

 

『候補①……吉井』

明久(あ、やっぱり僕だ)

 

『候補②……明久』

明久(あ、これも僕だ)

 

明久は貧乏くじを引く運命にあるからだ。

 

雄二「さて、この二人の中からどちらが良いか、選んでくれ」

明久「ねぇ雄二。明らかに美波の候補の挙げ方はおかしいと思わない?」

『どうする?どっちが良いと思う?』

『そうだなぁ……どちらもクズには変わりないんだが……』

明久「こらぁっ!真面目に悩んでるフリするんじゃない!あと、平然とクラスメイトをクズ呼ばわりなんて、君らは人間のクズだ!このクラスのモラルはどうなってるんだ!」

 

確か人であるなら備わっていて当たり前のものであるが、Fクラスに所属している以上そんな贅沢品を求めてはいけない。

 

美波「ほらほら、アキってば。そんな事より、ウチとアンタでやることに決まったんだから、前に出て議事をやらないと」

明久「なんだか僕はいつもこんな貧乏くじを引かされている気がするよ……」

 

美波に促され、明久は渋々と席を立って前に出た。美波の行為にまるで気付いていない明久にとって、副実行委員の肩書きなど足枷でしかない。

 

雄二「んじゃ、あとは任せたぞ。ふぁ~……」

 

入れ替わり席に戻る雄二。

席に戻った途端和真の後を追って夢の世界に入っていった。

 

美波「ウチは議事をやるから、アキは板書をお願いね」

明久「ん、了解」

 

ボロボロの黒板の前に立ち、かなり短くなったチョークを手に取る。

余談だが補充されるチョークも最初から短くされている。短くなったチョークを再利用しているのかわざわざ短くしているのかわからないが、後者ならば誰も得しないだろう。不合理の極みと言ってもいい。

 

美波「それじゃ、ちゃっちゃと決めるわよ。クラスの出し物でやりたいものがあれば挙手してもらえる?」 

 

美波が告げると何人かが手を挙げる。意外なことに、やる気のある生徒も何人かはいるようだ。

美波「はい、土屋」

ムッツリーニ「……(スクッ)」

 

名前を呼ばれて立ち上がったのはムッツリーニ。

 

ムッツリーニ「………写真館」

美波「……土屋の言う写真館って、かなり危険な予感がするんだけど」

 

美波が思い切り嫌そうな顔をする。

 

明久(確かに女子から見ればムッツリーニの撮る写真は嫌かもしれない。けど、男子からするとその写真館は宝の山と言える……覗き部屋とも言えるかもしれないけど)

美波「アキ、一応候補だから黒板に書いてもらえる?」

明久「あいよー」

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

どう考えても18禁だろう、そのタイトルは。

 

美波「次。はい、横溝」

横溝「メイド喫茶―と言いたいけど、流石に使い古されていると思うので、ここは斬新にウェディング喫茶を提案します」

美波「ウェディング喫茶?それってどういうの?」

横溝「別に普通の喫茶店だけど、ウェイトレスがウェディングドレスを着てるんだ」

 

つまり中身はただの喫茶店だが、着ている衣装が違うという事だ。

 

『斬新ではあるな』

『憧れる女子も多そうだ』

『でも、ウェディングドレスって動きにくくないか?』

『調達するのも大変そうだぞ?』

『それに、男は嫌がらないか?人生の墓場、とか言うぐらいだしな』

 

そんな意見に、クラスの中が少しざわめく。

 

美波「ほら、アキ。今の意見も黒板に書いて」

明久「あ、うん」

美波に促されて、明久が黒板に横溝の提案を書く。

 

【候補②ウェディング喫茶『人生の墓場』】

縁起でもない。結婚に幻想を抱いた人達の考えを容赦なくブチ殺す冷徹なタイトルだ。

 

美波「さて、他に意見は、はい、須川」

須川「俺は中華喫茶を提案する」

美波「中華喫茶?チャイナドレスでも着せようって言うの?」

須川「いや、違う。俺の提案する中華喫茶は本格的なウーロン茶と簡単な飲茶を出す店だ。そうやってイロモノ的な格好をして稼ごうってワケじゃない。そもそも、食の起源は中国にあるという言葉があることからもわかるように、こと『食べる』という文化に対しては中国ほど奥の深いジャンルはない。近年、ヨーロピアン文化による中華料理の淘汰が世間では見られるが、本来食というのは―」

明久(な、なんだ?よくわからないけど、相当なこだわりでもあるんだろうか?内容は全然理解できないけど)

美波「アキ、それじゃ、須川の意見も黒板に書いてくれる?」

明久「あ、うん」(……さて困った。須川君は一体何を話していたんだろう?全く内容が頭に入ってこなかった。黒板になんて書けば良いんだろう?)

美波「どうしたの?早く書いてよ」

明久「りょ、了解」

 

美波に急かされて慌てて書き始める。

 

【候補③中華喫茶『ヨーロピアン』】

『超巨大小惑星』に通ずるものがある店名だ。どうやら明久の中では中華料理文化は完全に淘汰されてしまったらしい。

 

和真「………………んむ……ふわぁ…」

姫路「あ、柊君起きたんですか」

和真「そろそろ来る気がしてな」

姫路「? それはどういう―」

 

姫路が言い終わらない内に教室の扉が開き、鉄人が入って来た。これを予知したとすれば、相変わらずすごい直感である。

 

鉄人「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」

美波「今のところ、候補は黒板に書いてある三つです」

 

鉄人はそれを聞くとゆっくりと黒板に目をやった。

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

【候補②ウェディング喫茶『人生の墓場』】

【候補③中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

鉄人「……補習の時間を倍にしたほうが良いかもしれんな」

 

こめかみをひくつかせながら鉄人が呟く。どうせバカな意見が述べられているだろうとある程度予想していたようだが、それらを遥かに上回るどうしようもなさだったらしい。

 

『せ、先生!それは違うんです!』

『そうです!それは吉井が勝手に書いたんです!』

『僕らがバカなわけじゃありません!』

 

補習の時間を増やされたくないクラスの皆が明久一人をバカ扱いして逃れようと抗弁する。

 

鉄人「馬鹿者!みっともない言い訳をするな!」

 

鉄人の一喝で、背筋が伸びる一同。その毅然とした態度に明久は思わず感心する。

 

明久(流石は腐っても教師。クラスメイトを売ってその場を逃れようとする魂胆が気に入らないなんて、ちょっと見直したよ)

 

鉄人「先生は、バカな吉井を選んだ事自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」

明久(同級生だったらシバいているところだ)

 

結局鉄人はやはり鉄人であると痛感する明久であった。

 

鉄人「全くお前達は……少しは真面目にやったらどうだ。稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そう言ういった気持ちすらないのか?」

 

溜息まじりの鉄人の台詞。それを聞いて、クラスの連中の目が急に輝き出した。

 

『そうか、その手があったか!』

『なにも試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないよな!』

『いい加減このミカン箱にも我慢の限界だ!』

 

一気に活気づく教室内。元々設備に不満を感じて試召戦争を始めたんだ。当時より更に低い設備では我慢などしていられるはずもない。

 

姫路「み、皆さんっ!頑張りましょう!」

 

これは姫路の声だった。立ち上がって胸の前でグーを握りやる気を見せている。自身も設備に不満が無かった訳ではないだろうが、ここまで率先して動くのはどちらかというと姫路らしくない。

 

『出し物はどうする?利潤の多い喫茶店が良いんじゃないか?』

『いや、初期投資の少ない写真館の方が』

『けど、それだと運営委員会の見回りで営業停止処分を受ける可能性もあるぞ』

『中華喫茶ならはずれはないだろう』

『それだと目新しさに欠けるな。汚いせいであまり人が来ない旧校舎だと、その特徴のなさは致命傷じゃないか?』

『ウェディング喫茶はどうだ?』

『初期投資が高すぎる。たった二日の清涼祭じゃ儲けは出ないんじゃないか』

『リスクが高いからこそリターンも大きいはずだ』

クラスの皆はやる気になったものの意見がまとまりそうになかった。

美波「はいはい!ちょっと静かにして!」

 

島田がパンパンと手を叩いて注意するが、効果はあまりない。次から次へと湯水のごとく意見が湧き出てくる。

 

『お化け屋敷なんかの方が受けると思う』

『簡単なカジノを作ろう』

『焼きとうもろこしを売ろう』

 

さらに意見がバラバラになっていく。試召戦争のときとは比べ物にならないほどのまとまりの無さだ。こんなクラスをまとめていた雄二のクラス代表としての手腕はやはり相当なものだろう。

 

美波「はぁ……まったくもう……。ねぇ、アキ。坂本か柊を引っ張り出せない?これじゃ、あまりにまとまりが悪すぎるわ」

明久「う~ん……無理だと思うよ。二人とも興味の無いことにはどこまでも無関心だから」

 

Aクラスレベルの実力があるのにも関わらずわざわざFクラスに来たような二人だ、当然設備に不満など特に無いだろう。

 

明久「それに和真は全体の指揮は苦手らしいから」 

 

和真の出す指示内容が「あれやっといて」とか「それはあっちに」みたいな超アバウトな為である。

『アクティブ』のメンバーが上位クラスの面子で固められている理由のひとつであったりする。『アクティブ』はハイレベルな頭脳、メンタル、身体能力を要求される、何気に狭き門だったりするのだ。

 

美波「そっか……もうっ。とにかく静かにして!決まりそうにないから、店はさっきの挙がった候補から選ぶからね!」

 

業を煮やし、無理矢理話をまとめた。これはこれで正しい判断だろう。

 

美波「ほらっ!ブーブー言わないの!この三つの中から一つだけ選んで手を挙げる事いいわね!」

 

反論を眼力で押さえ、決を採りにかかる美波。こういった役は明久や姫路はもちろん、翔子にもできそうにない。

 

美波「それじゃ、写真館に賛成の人!―はい、次はウェディング喫茶!最後、中華喫茶!」

 

クラス中に美波の声が響くが、それでも喧騒は収まらない。騒がしい中、美波が挙げられた手の本数をカウントし始めた。結果、

 

美波「Fクラスの出し物は中華喫茶にします!全員、協力するように!」

 

接戦で中華喫茶が勝利となった。

 

須川「それなら、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ」

 

提案者の須川が立ち上がる。

 

ムッツリーニ「………(スクッ)」

 

そして何故かムッツリーニも立ち上がった。

 

明久「ムッツリーニ、料理なんてできるの?」

ムッツリーニ「…………紳士の嗜み」

 

おそらくチャイナドレス見たさで中華料理店に通っているうちに見よう見まねでできるようになった、とかであろう。ムッツリーニのスキル習得の大半は下心が絡んでいる。

 

美波「まずは厨房班とホール班に分かれてねもらうからね。厨房班は須川と土屋のところ、ホール班はアキのところに集まって!」

 

いつの間にか明久がホール班のトップになっていた。

 

姫路「それじゃ、私は厨房班に―」

明久「ダメだ姫路さん!キミはホール班じゃないと!」

 

平然と厨房班に入ろうとした姫路を前回の出来事を考慮して明久が止めにかかる。

 

『明久、グッジョブじゃ』

『………!(コクコク)』

 

その殺傷能力を知っている秀吉、ムッツリーニからのアイコンタクト。前回最大の犠牲者であった雄二は寝ている為か気づかない……はずなのだが、よく見ると微妙に小刻みに震えていた。夢の中で姫路の料理でも食べてるのだろうか。

 

姫路「え?吉井君、どうして私はホール班じゃないとダメなんですか?」

明久「あ、えーと、ほら、姫路さんは可愛いから、ホールでお客さんに接したほうがお店として利益が痛あっ!み、美波!僕の背中はサンドバックじゃないよ!?」

 

明久にしては上手い言い訳だったが、美波の機嫌を損ねてしまったらしい。

姫路「か、可愛いだなんて……吉井君がそう言うなら、ホールでも頑張りますねっ♪」

明久(できればホールだけで頑張って欲しい)

和真(………明久、人は成長するんだぜ?)

 

そのやり取りを眺めながら色々と事情を知っている和真はそんなことを思う。

 

美波「アキ。ウチは厨房にしようかな~?」

明久「うん。適任だと思う」

美波「…………」

 

明久は今、地雷を全力で踏み抜いた。

 

霧島「……じゃあ、私も厨房で」

明久「いや、霧島さんみたいな美人は是非ともホールにするべきだよ!」

霧島「……わかった」

美波「………………」

 

さらに地雷を踏み続ける明久。

 

秀吉「なら、ワシも厨房にしようかの」

明久「秀吉、何を馬鹿なことを言ってるのさ。そんなに可愛いんだから、もちろんホールに決まってみぎゃあぁっ!み、美波様!折れます!腰骨が!命に関わる大事な骨が!」

 

とうとう我慢の限界が来たようだ。地雷源でタップダンスを踊りきった明久は美波の私刑によってその場に崩れ落ちる。

 

和真「島田、気持ちはわかるが落ち着け。明久に悪気は無い」

美波「だからこそ余計腹立つんだけど……まあいいわ、ウチもホールにするから」

明久「そ、そうですね……それが、いいと、思います……」

和真「じゃあ俺もホールな。中華料理なんて細けぇ料理作れねぇし」

明久「まあ和真はホールだよね。見た目も良いし接客も得意そうだし」

 

中性的かつ実年齢マイナス3歳くらいの可愛らしい系の顔立ちはもとより、和真の社交性は他の追随を許さないレベルだ。厨房で遊ばせておく手は無いだろう。

 

そういうわけで、Fクラスの人並みの生活が懸かった学園祭は幕を開けることになった。

 

 




過去最長の9000文字オーバー。
導入部分はしっかりと描写しなければならないとはいえ、疲れました。

坂本 雄二
・性質……防御度外視型
・総合科目……2700点前後 (学年15位)
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……B+
防御力……D+

ステータスはなかなかのレベルである。しかしクラス代表であることと雄二が指揮官タイプであることからあまり闘わない。装備を決定する時期ではまだはろくに勉強をしていなかったため、点数に比べて貧相な装備である。

では。


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FULLSWING

【前書きコーナー】

蒼介「前回のあらすじ……ピッコロの魔貫光殺砲によってラディッツを打倒することに成功するも、その代償として悟空が死んでしまう。さらにピッコロが漏らしたある情報をラディッツの盗聴器ごしに別のサイヤ人、ベジータとナッパに傍受され―」

源太「いや違ぇだろ!なんでドラゴンボール!?」

蒼介「おっと間違えてしまった。中華喫茶『ヨーロピアン』、以上」

源太「適当過ぎるだろオイ!……まあそれはともかく、なんで俺様がここに連れて来られたんだよ?ついでに和真もいねぇし」

蒼介「流石に毎回私達二人で進めるのは読者も飽きるだろうからな。カズマ、五十嵐、大門、飛鳥でローテーションすることになったのだ」

源太「なるほど……ん?ちょっと待て。なんでテメェは代わってねぇんだよ?」

蒼介「私が代わりたくないからだ」

源太「いやおかしいだろ!?そんなわがままが認められるとでも―」

蒼介「何を言っている。このスペースは私が乗っ取ったのだぞ?つまりここは私の所有物であり、私がルールだ」

源太「テメェ本編に影響しねぇからって傍若無人過ぎだろ……」



帰りのHRも終わって放課後。

 

和真「さーてと、たまには真っ直ぐ家に帰るか」

明久「珍しいね、それじゃあ途中まで一緒に帰ろうよ」

和真「ん、オーケー」

美波「アキ、柊……ちょっといい?」

 

文化祭間近で放課後が暇になった和真は明久を連れて帰ろうとするが、教室を出る前に美波が声をかけてきた。

 

明久「ん?何か用?」

美波「用って言うか、相談なんだけど」

和真「…その様子じゃ割と真面目な話だな」

明久「僕達で良ければ聞かせてもらうけど」

美波「うん。ありがと。多分、アキが言うのが一番だと思うんだけど……その、やっぱり坂本をなんとか学園祭に引っ張り出せないかな?」

 

実行委員を引き受けたものの、Fクラスの喫茶店の成功には雄二の先導が必要だと判断したらしい。

ムキになって自分で何とかしようとしないあたり、そっち方面では意地っ張りではないらしい。

 

和真「無理だと思うぜ?あいつは興味のないことには俺以上にやる気を出さねぇから」

明久「多分クラスの出し物が何に決まったかさえ知らないと思うよ」

美波「でも、アキが頼めばきっと動いてくれるよね?」

 

根拠も何もあったもんじゃないが、何かを期待するような美波の眼差しに二人は不思議に思う。

 

明久「え?別に僕が頼んだからって、アイツの返事は変わらないと思うけど」

和真「あいつ曰く、明久との関係は他人未満宿敵以上らしいからな」

美波「ううん、そんなことない。きっとアキの頼みなら引き受けてくれるはず。だって―」

明久「そりゃ確かに、よくつるんではいるけど、だからと言って別に」

美波「だってアンタたち、愛し合ってるんでしょう?」

和真「ブフォッ!」

明久「もう僕お嫁にいけないっ!それから和真!笑いごとじゃないでしょ!?」

和真「いやいや、笑いごとだろ」ゲラゲラ

 

ツボにはまったのか、腹を抱えて大爆笑する和真。

 

明久「だいたいなんで雄二なんかと!だったら僕は断然秀吉の方がいいよ!」

秀吉「……あ、明久?」

 

偶然近くにいた秀吉の動きが止まる。

 

秀吉「そ、その、お主の気持ちは嬉しいが、そんなことを言われても、ワシらには色々と障害があると思うのじゃ。その、ホラ。年の差とか……」

明久「ひ、秀吉!違うんだ!もの凄い誤解だよ!さっきのはただの言葉のアヤで!それと、僕らの間にある障害は決して年の差じゃないと思う!」

 

一番大きな障害は同性であることだろう。

しかし秀吉は顔を赤らめて俯いてしまっている。

 

明久(ど、どうしよう!秀吉ならいいかも、って思えてきた!)

 

その障害も今にも崩れそうだった。

 

和真「……送信、と」カチカチ

明久「? 和真、何やってるの?」

和真「気にすんな。お前と雄二が愛し合ってるっつうニュースを学園の可能な限りの生徒に送信しただけだから」

明久「なんてことしてくれたんだキサマァァァァァァ!」

 

あまりの衝撃発言にフリーズした後、明久は力の限りシャウトした。

和真基準での可能な限り=ほぼ全ての生徒である。

 

和真「まあそう怒るなよ」

明久「怒るに決まってるじゃないか!!!キサマのせいで僕は…僕は…」

和真「ちょっとしたジョークだから」

明久「………………」

和真「…?」

明久「…………良かった…………本当に良かったよう」

 

安心のあまり泣き出す明久。戦地に赴いた恋人が無事帰還してきたかのような号泣ぶりに、さしもの和真も罪悪感が湧く。

 

和真「……すまん、やり過ぎた。だいたい島田も島田だ、雄二は翔子の所有物なんだからそんなことあるわけねぇだろ」

 

この場に雄二がいたら猛然と抗議してきそうな発言である。

 

美波「だって、同性は別腹ってDクラスの玉野さんが言ってたし」

和真「いやデザートじゃねぇんだからよ……それからあいつの言うことは真に受けるな。色々と終わってるから、あいつの思考回路」

 

いつもよりやけに辛辣な物言いである。

玉野と以前何かあったようだ。

 

美波「それじゃ、坂本は動いてくれないってこと?」

明久「え?あ、うん。そういうことになるかな」

美波「なんとかできないの?このままじゃ喫茶店が失敗に終わるような……」

 

目を伏せ、沈んだ面持ちになる美波。

 

秀吉「ところで、お主らは何の話をしておるのじゃ?随分と深刻な話のようじゃが」

明久「深刻って程じゃないんだけど、喫茶店の経営とクラスの設備の話で-」

美波「アキ、そうじゃないの。本当に深刻なのよ……」

明久「え?どういうこと?」

和真「何かあったのか?お前がそこまで設備の悪さに不満があるとは思えねぇし」

美波「本人には誰にも言わないで欲しいって言われてたんだけど、事情が事情だし……けど、一応秘密の話だからね?」

明久「う、うん。わかった」

和真「あいよ」

 

美波の真剣な顔に明久が少し気圧されてるようだった。

和真はいつも通り気楽に返答しているが。

 

美波「実は、瑞希なんだけど」

明久「姫路さん?姫路さんがどうしたの?」

美波「あの子、転校するかもしれないの」

明久「ほぇ?」

和真「……なるほどな。まあ無理もねぇか」

 

明久(姫路さんが転校?そんな馬鹿な。折角同じクラスになって、いよいよこれからって時に転校しちゃうなんて。まだ楽しい思い出も作ってないし、膝枕も耳掃除もしてもらってない。だいたい、彼女が転校しちゃったらこのクラスはどうなる?清涼剤である彼女がいなくなれば、クラスは荒廃し、暴力と略奪が蔓延る地獄になるだろう。そして全員の髪型が某世紀末救世主伝説の脇役のようにモヒカンになること間違い無しだ。それできっと秀吉と霧島さんを巡って血で血を洗うような抗争が続く日々に―)

 

和真「あ、ダメだ。処理落ちしてらぁ」

美波「このバカ!不測の事態に弱いんだから!」

秀吉「明久、目を覚ますのじゃ!」

 

明久の肩を揺すって起こそうとする秀吉。トリップしていた明久はなんとか覚醒する。

 

明久「秀吉……、モヒカンになった僕でも、好きでいてくれるかい……?」

美波「……どういう処理をしたら、瑞希の転校からこういう反応が得られるのかしら」

秀吉「ある意味、稀有な才能かもしれんのう」

和真「多分、

姫路が転校→女子が減る→クラスが荒れる→クラスの男子が皆北斗の拳のザコキャラみたいになる→北斗のザコキャラと言ったらモヒカン、だろうな」

二人「なんでわかったの(じゃ)!?」

和真「感覚派の人間同士は言葉を交わさずともわかり合えるもんなんだよ。まあこいつはバ感覚派だがな」

明久「そんな派閥になった覚えはないよ……ハッ!美波!姫路さんが転校ってどういうこと?」

 

明久は正気に戻り、詳しい事情を聞こうと美波に詰め寄る。

 

美波「どうもこうも、そのままの意味。このままだと瑞希は転校しちゃうかもしれないの」

明久「このままだと……?」

 

妙な言い回しだ。この言い方だと転校はまだ確定したわけではないようである。

 

秀吉「島田よ。その姫路の転校と、さっきの話が全然繋がらんのじゃが」

美波「そうでもないのよ。瑞季の転校の理由が『Fクラスの環境』なんだから」

和真「身体が弱い姫路なら下手したら病気になりそうなひでぇ設備に、周囲の人間は悪影響しかないバカばっか。娘が大切ならそりゃ転校させるよな」

明久「な、なるほど」

秀吉「言われてみればそうじゃのう…」

 

和真の説明に納得した様子の二人。そういう事情を知っていたとするなら、美波がやけに清涼祭の行事に精力的に取り組んでいるのも頷ける。

 

秀吉「なるほどのう。じゃから喫茶店を成功させ、設備を向上させたいのじゃな」

美波「うん。瑞希も抵抗して『召喚大会で優勝して両親にFクラスを見直してもらおう』とか考えているみたいなんだけど、やっぱり設備をどうにかしないと」

 

Fクラスはバカの集まりだからというのが転校を勧められる一因の一つだから、姫路の行動も無駄ではない。

だが、やはりそれ以上に姫路の健康の方が問題になる。

それをなんとかしない限り両親の考えは変わらないだろう。

 

美波「……アキはその……瑞希が転校したりとか嫌だよね……?」

 

不安そうな目で明久を見るが、その心配は杞憂であると言わざるを得ない。

 

明久「もちろん嫌に決まってる!姫路さんに限らず、それが美波や秀吉や和真であっても!家庭の事情でどうしようもないならともかく、そんな理由で仲間が離れていくなんて絶対に嫌だ!」

 

美波「そっか……うん、アンタはそうだよね!」

 

嬉しそうに頷く美波。

 

 

 

明久(雄二だったらどうでもいいけど)

 

台無しだよ。色々と。

 

明久「そういうことなら、なんとしても雄二を焚き付けてやるさ!」

秀吉「そうじゃな。ワシもクラスメイトの転校と聞いては黙っておれん」

和真「学園祭は正直あまり好きじゃねぇが、そういう理由なら力を貸してやるよ」

明久「それじゃ、まずは雄二に連絡を取らないとね」

 

そう言って雄二に携帯をかける。

呼び出し音が受信器から響く。

 

『―もしもし』

明久「あ、雄二。ちょっと話が―」

『明久か。丁度良かった悪いが俺の鞄を後に届けに―げっ!翔子!』

明久「え?雄二。今何をしてるの?」

『くそっ!見つかっちまった!とにかく、鞄を頼んだぞ!』

明久「雄二!?もしもし!もしもーし!」

 

どうやら翔子の射程範囲に入ったらしく、こちらの話を伝える前に切られてしまった。

 

美波「坂本はなんて言ってた?」

明久「えっと『見つかっちまった』とか『鞄を頼む』とか言ってた」

美波「……また翔子絡み?」

和真「十中八九そうだろうな」

秀吉「雄二はああ見えて異性には滅法弱いからの」

 

Fクラスでは特に珍しいことでは無いので三人とも理解が早く欠片も驚かない。

 

美波「そうすると、坂本と連絡取るのは難しいわね」

明久「いや、これはチャンスだ」

美波「え?どういうこと?」

和真「おっ、何か思いついたか?」

明久「雄二を喫茶店に引っ張り出すには丁度いい状況なんだよ。うん。ちょっと三人とも聞いてくれるかな?」

美波「それはいいけど……坂本の居場所はわかっているの?」

明久「大丈夫。相手の考えが読めるのは、なにも雄二だけじゃない」

秀吉「何か考えがあるようじゃな」

明久「まぁね」

 

三人は明久に連れられて教室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「よぉ雄二」

明久「奇遇だね」

 

二人は部屋の物陰で大きな身体を小さくしている雄二に話しかける。雄二は死んだ魚のような目ど二人に問いかける。

 

雄二「……どういう偶然があれば女子更衣室で鉢合わせするのか教えてくれ」

 

そう。ここは体育館にある女子更衣室。男子生徒がどこにいるか探すとき、まず訪れないであろう場所である。

 

明久「やだな。ただの偶然だよ」

雄二「嘘をつけ。こんな場所で偶然会うわけが―」

 

ガチャッ

 

音を立ててドアが開くと、体操服姿の木下 優子が入って来た。

 

優子「えーっと……あれ?和真と…Fクラスの問題児コンビ?ここ、女子更衣室だよね?」

和真「なんだ優子か。奇遇だな」

明久「やぁ木下 優子さん。奇遇だね」

雄二「秀吉の姉さんか。奇遇じゃないか」

優子「あ、うん。奇遇ね」

 

 

アッハッハッハッハッハッハッハ

 

 

優子「先生!覗きです!変態です!」

雄二「逃げるぞお前等!」

明久「了解っ!」

和真「あいよっ!」

 

三人は更衣室の窓から表に飛び出していった。

笑って誤魔化せるほど世の中は甘くないのである。

 

鉄人「大丈夫か木下!」

 

鬼の形相でFクラスの怪物教師、西村宗一こと鉄人が飛び込んで来た。

 

優子「Fクラスの吉井君と坂本君です!そこの窓から逃げて行きました!」

鉄人「またアイツらかっ!」

 

そのまま鉄人は窓から飛び出していった。それを確認した優子は疲れたようにように溜め息を吐いてから口を開く。

 

 

優子「…………いるんでしょ?出てきなさい和真」

 

窓に近づいて優子は呆れるような声でそう呟く。

すると……

 

和真「よく気づいたな優子」

 

窓から和真が顔を覗かせた。

どうやら窓の上の壁に気配を消して張り付いていたようだ。忍者顔負けである。

 

優子「アンタ以前も同じような手段でやり過ごしてたじゃない」

和真「そういや、そんなこともあったなぁ」

 

そのまま女子更衣室内に戻り、いつも通りの笑みを浮かべながらなぜか諭すように優子に注意する和真。

 

和真「だけどなんでアイツ等だけチクったんだよ?差別は良くねぇぜ、閣下」

優子「誰が閣下よ……アンタは要領が良いからあまり教師に目をつけられてないからね。あの二人ならともかく、アンタの名前を出したら西村先生は確認をとるでしょ。その間に逃げられちゃうじゃない」

和真「そいつはなかなか良い判断だな。……それにしても、折角雄二を捕獲できたのに逃げられちまったぜ」

優子「ああ、アンタ達は代表の坂本君を探してたの…いやおかしいわよ。なんで坂本君はこんなところにいたのよ?」

和真「そりゃ、翔子から逃げるためだろ」

 

なにを当たり前のことを、と言わんばかりに和真は質問に応答する。その返答にこめかみを手を当て再び嘆息する優子。

 

優子「そうだとしても、やっていいことと悪いことがあるでしょ……」

和真「甘いぜ優子。あいつは翔子から逃げるためなら手段を選ばない。翔子も翔子で男子トイレ程度なら躊躇いなく入って行くだろうしな」

優子「やっぱりおかしいわよ…どっちも……」

和真「まあ、アイツらならうまく逃げ切るだろ。そうなると明久は雄二を教室に連れて来てくれるだろうし、俺もさっさと戻るか。じゃあな、優子」

優子「ちょっと待ちなさい」

 

女子更衣室から出ていこうとする和真の手を優子が掴む。

決して逃がさないように固く、強く。

 

和真「? なんだよ?」

優子「女子更衣室に入っておいて何のお咎めも無しとはいかないわよ。このままアタシが職員室まで連行します」

 

問題児コンビは鉄人に任せ、和真は自分が捕獲する。Aクラス生徒らしい合理的な作戦だ。

これに対して和真は、

 

和真「見逃して」

 

『そこの醤油取って』ぐらいのノリで頼んだ。第三者から見れば、女子更衣室に忍び込んだけど急いでいるから見なかったことにしろ、と無茶苦茶なお願いである。

しかし和真はこの要求が通ると確信していた。

なぜなら、優子が問答無用で職員室まで連行する女子なら、彼女が入って来る前に和真の直感で察知できたはずである。

 

優子「ふ~ん……なら、一つ提案があるんだけど」

和真「ほう?どんな提案だ?」

 

何かを期待するような顔つきになる和真。

 

優子「アタシと召喚獣で勝負しなさい。アンタが勝ったらこの件は見逃してあげる。ただし、アタシが勝ったらおとなしくお縄につく。どう?この提案受け―」

和真「受けるぜ」

優子「…早いわね。まだ言い終わってないわよ」

和真「俺も丁度試したいことがあったし…何より挑戦状叩きつけられたんだ、受けない手は無ぇよ」

そう言って和真は心底楽しそうに笑う。

優子「アンタらしいわね、でも負けないわよ。今回はちゃんと反省してもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

二人は職員室に行き、先生の許可を取ってフリスペを利用する。

 

和真「科目はどうする?選ばせてやるよ」

優子「じゃあ、総合科目で。今のアンタの成績がどのくらいか確認しておきたいし」

 

和真はそれを聞くと隣に設置されたパソコンに総合科目と打ち込む。

すると、召喚フィールドが現れた。

 

『試獣召喚(サモン)!』

 

掛け声とともに、西洋鎧とランスを身に付けた優子の召喚獣と、黒ジャケットに赤いシャツに巨大な槍を身に付けた和真の召喚獣がそれぞれ出現する。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊 和真 3869点

VS

Aクラス 木下 優子 3883点』

 

 

優子「う……点差が大分縮まってる」

和真「いつまでも苦手科目をそのままにはしねぇよ。ましてや、その科目で負けちまったからにはな」

 

Aクラス戦で何か思うところがあったのか、あれ以来和真は真剣に物理と数学をとある先生に教えてもらっている。

 

和真「さて優子、特別にこの槍に隠された特殊能力を見せてやるよ」

優子「……特殊能力?」

和真「実はな、この槍は長さを変えられるんだよ」

優子「なんですって!?」(腕輪能力でもないのにそんな機能がついているなんて……ちょっとズルくない?)

 

 

 

 

 

和真「ていっ!」

 

おもむろに膝で槍の柄の部分を真っ二つに折る〈和真〉。

 

優子「…って、それただの力技じゃない!?」

 

強引にもほどがある。まさに『槍を短くしたければ折れば良いじゃない』理論だ。

 

和真「喰らえ!棒キャノン!」

優子「…って、えぇっ!?」

 

折った棒を〈和真〉はおもいっきりぶん投げた。

放物線を描きながら、軽くスピンがかかった棒は弧を描きながら〈優子〉に向かって飛んで行く。

 

優子「そんなものっ…」

 

降ってきた棒を〈優子〉はランスで弾く。スピードが合わさった棒はかなりの重量であったがダメージは特に受けていない。

 

和真「かかったな!」

優子「!? しまっ―」

 

優子が棒に気を取られている間に、いつの間にか目と鼻の先まで接近していた〈和真〉。相変わらず凄まじい機動力だ。そして〈優子〉は上から降ってきた棒をランスで弾くために両腕を上げており、脇腹ががら空きになっている。

 

和真(見せてやるぜ!さっき野球しているときに思いついた新必殺技…)

 

〈和真〉はおもむろにバッティングフォームを構えた。〈優子〉は慌ててガードしようとするも間に合わない。

 

和真「カズマホームラァァァン!」

 

カッキィィィィィィィィン!

 

まさにジャストミート。

〈優子〉はスーパボールのように飛んで行き、フィールドの壁に激突し、辺りに血飛沫が舞う。

バーチャルみたいなものとはいえ、実にグロテスクな光景である。

 

《総合科目》

『Fクラス 柊 和真 3869点

VS

Aクラス 木下 優子 戦死』

 

 

優子「ふぅ……負けちゃったか」

和真「つーわけで、賭けは俺の勝ちな。リターンマッチは試験召喚大会で受け付けるぜ」

優子「翔子もやる気満々だし、大会では負けないわよ!」

和真「やっぱり折れてねぇな。それでこそ『アクティブ』の一員だぜ。じゃあ俺は教室に戻るわ」

優子「うん。じゃあね」

 

 

 




和真君は新技『カズマホームラン』を習得した!
ちなみにこの作品では召喚フィールドの端は召喚獣のみを弾く壁になっています。
もともとはフィールド外に出ると召喚獣が消滅し、戦死扱いだったんですが、去年H.Kという男子生徒が槍で相手の召喚獣をフィールド外へガンガン撥ね飛ばしまくったおかげでこういう仕様になりました。

優子さんは和真君が悪ノリしたときのストッパー役ですが、止められるかどうかは五分五分です。
では。


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ギブ・アンド・テイク

【前書きコーナー】

蒼介「前回のあらすじ……さくらテレビ、警察の協力によりキラ容疑者・火口を逮捕することに成功した月とL。しかしノートに触れたことによりキラとしての記憶を取り戻した月によって火口が殺害されてしまった」

飛鳥「真面目にやりなさいよ……それはDEATH NOTEのあらすじでしょうが」

蒼介「仕方がない……北斗のザコはやっぱりモヒカン、以上」

飛鳥「よりによってそこを抜粋するの!?」


雄二「そうか。姫路の転校か……」

 

Fクラス教室にて、和真、明久、雄二、美波、秀吉の五人が集まっていた。

 

雄二「そうなると喫茶店の成功だけじゃ不十分だな」

 

オンボロの教室内を見渡しながら雄二は冷静にそう告げる。

 

明久「不十分?どうして?」

雄二「姫路の父親が転校を勧めた要因は恐らく三つ」

 

そう言って、雄二は指を三本立てて見せた。 

 

雄二「まず一つ目。ござとみかん箱という貧相な設備。快適な学習環境ではない、という面だな。これは喫茶店が成功したらなんとかなるだろう」

 

そういいながら指を一本引っ込める。

 

雄二「二つ目は、老朽化した教室。これは健康に害のある学習環境という面だ」

明久「一つ目は設備で、二つ目は教室自体ってこと?」

雄二「そうだ。これに関しては喫茶店の利益程度じゃ改善できそうにない。教室全体の改修となると学校側の協力が必要になる」

 

教室の改修となると業者の出入りや手続きが必要になる。これは生徒個人にできることではない。

 

雄二「そして、三つ目。レベルの低いクラスメイト。つまり姫路の成長を促すことのできない教育環境だ」

 

能力を伸ばすために実力の近いもの同士を競わせる事は普通によくある話だ。逆に言えば、周りの人間が遥かにレベルの低い人ばかりでは、その人は落ちていく一方だということだ。

 

明久「……あれ?それは問題無くない?和真とか霧島さんがいるし、雄二もAクラス並の成績だったよね?」

雄二「それはそうだが、やはりFクラスというレッテルはお前が思っているより重いんだ。なにかしらの結果を出す必要がある」

明久「なるほど……参ったね、随分と問題だらけだ」

秀吉「そうじゃな。一つ目だけならともかく、二つ目と三つ目は難しいのう」

 

惜しむらくは、それら全てを解決できる試召戦争があと二ヶ月できないということだろう。

 

雄二「そうでもないさ。三つ目の方は既に姫路と島田で対策を練っているんだろう?翔子も何故か参加するみたいだし、和真、お前も出るんだろう」

和真「まぁな」

 

確かに、今日のLHRで姫路は『お父さんの鼻をあかす』と姫路は言っていた。もし和真達が勝ち進められたらFクラスにも学年トップクラスの生徒達と渡り合える生徒がいるという証明になるだろう。

 

美波「この前、瑞希に頼まれちゃったからね。『どうしても転校したくないから協力して下さい』って。召喚大会なんて見せ物にされるだけみたいで嫌だけど、あそこまで必死に頼まれたら、ね?」

 

その優しさを少しでいいから明久にも分けてあげれば、もう少し色々と上手くいくであろうのに。

 

雄二「本当なら姫路抜きでFクラスの生徒が優勝するのが望ましいけどな。というか和真、お前が翔子と組んでいたら全て丸く収まったんだが」

和真「だって翔子とも闘ってみてぇし」

雄二「この戦闘狂が…」

 

思考回路が完全にサイヤ人のそれである。ちなみに雄二は今呆れたように嘆息しているが、ある理由から和真が翔子と組んでなくて良かったと心から思うことになるだろう。

 

秀吉「まあお主等の誰かが優勝したら、喫茶店の宣伝にもなるじゃろうし、一石二鳥じゃな」

和真「あ。明久、一石二鳥っていうのはな…」

明久「それくらい知ってるよ!?一つの石で鳥を二羽撃ち落とす熟練の技のことでしょ!?」

明久以外「………………」

明久「…………あれ?」

 

美波「……そ、それはそうと坂本。二つ目の問題はどうするの?」

 

いたたまれない空気に耐えきれなくなった美波のファインプレーによって上手く話題を変えることに成功する。

 

雄二「どうするも何も、学園長に直訴したらいいだけだろ?」

明久「それだけ?僕らが学園長に言ったくらいで何とかしてくれるかな?」

雄二「あのな。ここは曲がりなりにも教育機関だぞ?いくら方針とは言え、生徒の健康に害を及ぼすような状態であるなら、改善要求は当然の権利だ」

和真(…………さて、それはどうかね?)

 

明久「それなら、早速学園長室に行こうよ」

雄二「そうだな。学園長室に乗り込むか」

和真「一応俺もついていくわ。ばーさんとは面識あるし」

雄二「秀吉と島田は学園祭の準備計画でも考えておいてくれ。それと、鉄人が来たら俺達は帰ったと伝えてくれ」

秀吉「うむ。了解じゃ。鉄人と、ついでに霧島にも見かけたらそう伝えておこう」

美波「アキ、しっかりやってきなさいよ」

明久「オッケー。任せといてよ」

 

 

 

 

 

 

『……賞品の……として隠し……』

『……こそ……勝手に……如月ハイランドに……』

 

新校舎の一角にある学園長室の前まで来ると、扉の向こうから誰かが言い争っている声が聞こえてきた。

 

雄二「どうした、明久」

明久「いや、中で何か話をしているみたいなんだよ」

和真「取り込み中みてぇだな。出直すか?」

雄二「そんなもん面倒臭い。さっさと入るぞ」

明久「そうだね。失礼しまーす!」

 

学園長室の立派なドアをノックして、明久と雄二は中にずんずんと入っていった。

 

和真「…………まあいいか♪」

 

和真もそれに続いて入っていった。

 

「本当に失礼なガキどもだねぇ。普通は返事を待つもんだよ」

 

その室内で明久達を迎えたのは、長い白髪が特徴の藤堂カヲル学園長だ。試験召喚システム開発の第一人者でもある。元々は技術畑出身だからか、随分規格外なところが多いらしい。

 

「やれやれ。取り込み中だというのに、とんだ来客ですね。これではまともに話を続ける事もできません。……まさか、貴女の差し金ですか?」

 

眼鏡を弄りながら学園長を睨み付けたのは教頭の竹原先生だ。鋭い目つきとクールな態度で一部の女子生徒には人気が高い。

 

学園長「どうしてこのアタシがそんなセコい手を使わなきゃならんのさ。さっきも言ったように隠し事なんて無いね。アンタの見当違いだよ」

竹原「……そうですか。それではこの場ではそういう事にしておきましょう。では、失礼します」

和真「…………」

 

そう告げると、竹原先生は部屋の隅に一瞬視線を送り、踵を返して学園長室を出て行った。

 

学園長「んで、ガキ共。アンタ等は何の用だい?」

 

竹原先生との会話を中断された事を大して気にした様子も無く、和真達に話を振ってくる学園長。

 

和真「よぉばーさん、久しぶり」

学園長「学園長と呼びなクソジャリ」

 

どうやら和真は学園長と軽口を叩き合う仲のようだ。

 

雄二「今日は学園長にお話があって来ました」

学園長「私は今それどころじゃないんでね。学園の経営に関する事なら、教頭の竹原か生徒会にでも言いな。それと、まずは名前を名乗るのが社会の礼儀ってもんだ。覚えておきな」

 

こんな横柄な人が礼儀を説くとは、世も末である。

 

雄二「失礼しました。俺は二年F組代表の坂本雄二。それでこっちが―

 

二年生を代表するバカです」

明久「なぜキサマは普通に名前を言えないんだ」

学園長「ほぅ……。そうかい。アンタ達がFクラスの坂本と吉井かい」

明久「ちょっと待って学園長!僕はまだ名前を名乗っていませんよね!?」

和真(…………明久、ドンマイ)

 

どうやら学園長は雄二の紹介で連想して明久だと分かったみたいだ。明久が今にも泣きそうな顔をしている。

 

学園長「気が変わったよ。話しを聞いてやろうじゃないか」

 

そう言って映画の悪役のように口の端を吊り上げる学園長。どうみても聖職についている人がしていい顔ではない。

 

雄二「ありがとうございます」

学園長「礼なんか言う暇があったらさっさと話しな、ウスノロ」

雄二「分かりました」

和真(相変わらず口悪いなぁ……にしても、雄二にしては随分冷静に対処してるじゃねぇか)

雄二「Fクラスの設備について改善を要求しに来ました」

学園長「そうかい。それは暇そうで羨ましい事だね」

雄二「今のFクラスの教室は、まるで学園長の脳みそのように穴だらけで、隙間風が吹き込んでくるような酷い状態です」

和真(あ、ダメだ。早くもボロが出始めてやがる)

雄二「学園長のように戦国時代から生きている老いぼれならともかく、今の普通の高校生にこの状態は危険です。健康に害を及ぼす可能性が非常に高いと思われます」

和真(落ち着いてんのは見かけと言動だけだな。完全にキレてやがる)

雄二「要するに、隙間風の吹き込むような教室のせいで体調を崩す生徒が出てくるから、さっさと直せクソババァ、と言うワケです」

和真(まあつまり、いつもの雄二だな)

 

しかし学園長は雄二の慇懃無礼な説明を受けても、思案顔となって黙り込んでいた。

 

「……ふむ。丁度良いタイミングさね……」ボソッ

 

和真(ほう……)

学園長「よしよし、お前達の言いたい事は良く分かった」

明久「え? それじゃ、直してもらえるんですね!」

学園長「却下だね」

明久「雄二、このババァをコンクリに詰めて捨ててこよう」

雄二「……明久。もう少し態度に気を遣え」

和真「暴力団かお前は」

雄二「まったく、このバカが失礼しました。どうか理由をお聞かせ願えますか、ババァ」

明久「そうですね。教えてください、ババァ」

和真「俺からも頼むわ、ばーさん」

学園長「……お前たち、本当に聞かせてもらいたいと思っているのかい?」

 

呆れ顔で相手を敬う気ゼロの明久達を見る学園長。

 

学園長「理由も何も、設備に差をつけるのはこの学園の教育方針だからね。ガタガタ抜かすんじゃないよ、なまっちろいガキ共」

明久(こ、このババァ……!)「それは困ります! そうなると、僕等はともかく体の弱い子が倒れて」

学園長「―と、いつもなら言っているんだけどね、可愛い生徒の頼みだ。こちらの頼みを聞くなら、相談に乗ってやろうじゃないか」

和真「あんたが可愛い生徒とか言っても普段の言動のせいで説得力0だけどな」

学園長「いちいち揚げ足を取るんじゃないよ」

雄二「……………」

 

口元に手を当てて何か考えている雄二。

絶対何か裏がある。

雄二はそう考えてるのだが、おそらく正解だろう。

 

明久「その条件って何ですか?」

雄二が黙りこんでいるので、仕方なく明久が話を進める。

学園長「清涼祭で行われる召喚大会は知ってるかい?」

明久「ええ、まぁ」

学園長「じゃ、その優勝賞品は知ってるかい?」

明久「え?優勝賞品?」

和真(んなもんあったのか)

 

召喚大会は和真にとって強敵達との闘いがメインなので優勝すればどうなるかなど毛ほども気にしていなかった。

 

学園長「学校から送られる正賞には、賞状とトロフィーと『白金の腕輪』、副賞には『如月ハイランド・プレオープンプレミアムチケット』が用意してあるのさ」

 

プレオープンチケット、と聞いて雄二が何かしら不都合な点が見つかったようにピクッと反応した。

 

明久「はぁ……。それと交換条件に何の関係が」

学園長「話は最後まで聞きな。慌てるナントカは貰いが少ないって言葉を知らないのかい?」

和真「あまり明久をバカにすんなよばーさん、ひじきだってこと位わかってるさ。なぁ明久?」

明久「も、勿論だよ!『慌てるひじきは貰いが少ない』!常識だよね」

和真「すまん。実は乞食が正解だ」

明久「キサマァァァ!謀ったなァァァ!これじゃババァに僕がバカだと思われるじゃないか!」

学園長「もう手遅れだよバカジャリ。

話を戻すが、この副賞のペアチケットなんだけど、ちょっと良からぬ噂を聞いてね。出来れば回収したいのさ」

明久「回収?それなら、賞品に出さなければ良いじゃないですか」

学園長「そうできるならしているさ。けどね、この話は教頭が進めたとは言え、文月学園として如月グループと行った正式な契約だ。今更覆す訳には行かないんだよ。如月グループは桐谷グループの傘下、そんなことをすれば桐谷の口煩いクソガキが難癖をつけてくるだろうしね」

 

自分のスポンサーをクソガキと呼ぶ人間は世界広しと言えどそういないだろう。

 

明久「契約する前に気付いて下さいよ。学園長なんだから」

学園長「五月蝿いガキだね。白金の腕輪の開発で手一杯だったんだよ。それに、悪い噂を聞いたのはつい最近だしね」

 

そう言って眉をしかめる学園長。口調とは裏腹に、若干責任を感じているようだ。

 

明久「それで、悪い噂ってのは何ですか?」

 

つまらない内容なんだがね、と前置きを言って学園長は噂の内容を言い始める。

 

学園長「如月グループは如月ハイランドに一つのジンクスを作ろうとしているのさ。『此処を訪れたカップルは幸せになれる』って言うジンクスをね」

明久「? それのどこが悪い噂なんです? 良い話じゃないですか」

学園長「そのジンクスを作る為に、プレミアムチケットを使ってやって来たカップルを結婚までコーディネートするつもりらしい。企業として、多少強引な手段を用いてもね」

雄二「な、なんだと!?」

 

突然雄二が明らかに動揺した表情で大声を上げた。  

 

和真(なーるほど……翔子がこういう大会に出るのは珍しいと思ってたが、そういうことか)

明久「どうしたのさ、雄二。そんなに慌てて」

雄二「慌てるに決まってるだろう! 今ババアが言った事は『プレオープンプレミアムペアチケットでやって来たカップルを如月グループで強引に結婚させる』って事だぞ!?」

明久「うん。言い直さなくても分かってるけど」

 

いまだかつてないほど狼狽える雄二。実に面白い光景である。

 

学園長「そのカップルを出す候補が、我が文月学園って訳さ」

雄二「くそっ!うちの学校は何故か美人揃いだし、試験召喚システムと言う話題性もたっぷりだからな。学生から結婚まで行けばジンクスまで申し分ないし、如月グループが目をつけるのも当然って事か……」

学園長「ふむ。流石は神童と呼ばれていただけはあるね。頭の回転はまずまずじゃないか」

 

学園長が坂本の独白に頷く。

雄二について随分と詳しい。学園の長と言うだけあって、生徒のことは把握しているのかもしれない。

 

明久「雄二、取り敢えず落ち着きなよ。如月グループの計画は別にそこまで悪い事でもないし、第一僕等はその話しを知っているんだから、行かなければ済む話じゃないか」

雄二「……アイツが参加したのはこのためだったのか……。行けば結婚、行かなくても『約束を破ったから』と結婚……。俺の……将来は……!」

和真「大体事情は把握したが、お前もそんな約束しなきゃいいのにな」

 

本人の迂闊さに加え、清涼祭に対して消極的だった弊害がこんな所で出てきたようだ。

 

学園長「ま、そんな訳で、本人の意思を無視して、うちの可愛い生徒の将来を決定しようって計画が気に入らないのさ」

和真(だから説得力無ぇっての)

明久「つまり交換条件ってのは―」

学園長「そうさね。『召喚大会の賞品』と交換。それが出来るなら、教室の改修くらいしてやろうじゃないか」

明久(ふむ、召喚大会の賞品と交換か。それなら、)

学園長「無論、優勝者から強奪なんて真似はするんじゃないよ。譲ってもらうのも不可だ。私はお前達に召喚大会で優勝しろ、と言ってるんだからね」

 

学園長が釘を刺すかのように言ってきた。

 

和真「明久達のペア、もしくは俺のペアが優勝すりゃいいの?」

学園長「アンタの相方は別のクラスじゃないか。それは認められないね」

和真「……やれやれ、つーことは明久達とあたった場合わざと負けるか」

明久「え?和真、いいの?」

 

闘いが大好きな和真とは思えない発言に思わず確認する明久。

 

和真「正直不本意だが、事情が事情だしな」

明久「でも、相方の人怒らない?別のクラスの人なんでしょ?」

和真「大丈夫だ、俺が強引に誘った奴だから」

 

このように和真は意外と(いや、別に意外でもないか……)傍若無人ところがある。

 

明久「それで、僕達が優勝したら、教室の改修と設備の向上を約束してくれるんですね?」

学園長「何を言ってるんだい。やってやるのは教室の改修だけ。設備についてはうちの教育方針だ。変える気はないよ」 

 

まあ確かに、こんな取引で設備を導入なんてしたら他のクラスに示しがつかないだろう。

 

学園長「ただし、清涼祭で得た利益で何とかしようって言うなら話は別だよ。特別に今回だけは勝手に設備を変更する事に目を瞑ってやってもいい」

和真(おいおい西村センセ……勝手に設備変えたら駄目らしいじゃねぇか)

 

和真は心の中でこの場にいない生徒指導教師を詰る。

 

明久「そこを何とかオマケして設備の向上をお願い出来ませんか?僕等にとっては教室の改修と同じくらい設備の向上も重要なんです」

学園長「それで?」

明久「もしも喫茶店が上手く行かずに設備の向上が危うかったら、そっちが気になって集中出来ずに僕等も学園長も困った事に……」

学園長「なんだ、それだけかい。ダメだね。そこは譲れないよ」

明久「でも!設備の向上を約束してくれたら大会だけに―」

雄二「明久、無駄だ。ババァに譲る気が無いのは明白だ。この取引に応じるしか方法はない」

和真「気持ちはわかるが諦めろ。このばーさんは年寄りらしく大分頑固だからな、そう簡単に意見は変えねぇよ」

 

和真と、いつの間にか正気に戻った雄二が明久を宥める。

 

明久(……くそっ。悔しいけど、元々僕たちには取引に応じる以外の選択肢なんてないんだった)

「……分かりました。この話、引き受けます」

学園長「そうかい。それなら交渉成立だね」

 

『……勝った……計画通り』と言わんばかりの表情をして学園長はニヤリと笑った。

 

雄二「ただし、こちらからも提案がある」

学園長「なんだい?言ってみな」

雄二「召喚大会は二対二のタッグマッチ。形式はトーナメント制で、一回戦は数学だと二回戦は化学、と言った具合に進めて行くと聞いている」

 

一回戦の科目が数学だと決まれば、一回戦に参加する全員が数学で戦う。勝ち上がる度に教科が変わるのは、一回戦で消耗した点数でそのままやり合うと、試合の派手さに欠けるからだろう。

 

学園長「それがどうかしたのかい?」

雄二「対戦表が決まったら、その科目の指定を俺にやらせてもらいたい」

 

まるで学園長を試しているような目つきで雄二が告げる。

 

学園長「一応聞いておくが柊、アンタはそれで言いのかい?」

和真「構わねぇっすよ」

学園長「ふむ……。いいだろう。点数の水増しとかだったら一蹴していたけど、それくらいなら協力してやろうじゃないか。」

雄二「……ありがとうございます」

 

目つきが更に鋭くなった。これは 何かしらの疑念が確信に変わった目だ

 

学園長「さて、ここまで協力するんだ。当然召喚大会で、優勝出来るんだろうね?」

雄二「無論だ。俺達を誰だと思っている?」 

 

不敵な笑みを浮かべる雄二。試召戦争の時に見せた、やる気全開の表情だ。

 

明久「絶対に優勝して見せます。そっちこそ、約束を忘れないように!」

 

そしてお返しと言わんばかり学園長に念を押す明久。

 

学園長「それじゃ、ボウズ共。任せたよ」

「「「おうよっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「なるほど、やはりFクラスの問題児コンビに学園の未来を託しましたか」

竹原「学園長も耄碌したものだな。あのようなバカどもにすがるとは」

?「……彼らをどうします?」

竹原「放っておけ。どうせ一回戦で敗退するだろう」

?「油断は禁物ですよ?」

竹原「君も用心深いな。なあに、もし上がってきた場合は手を打つさ」




ここ最近詰め込み過ぎていると思う……

竹原の協力者はコナンの犯人スーツをイメージしてください。

では。


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上達

蒼介「新たなる神器、唯我独尊の力でドンを倒した植木。しかし、満身創痍の植木にロベルト十団の次なる刺客・マルコと鈴子が襲いかろうとしていた」

徹「今回は植木の法則かい?そろそろこのくだりもマンネリ化してきたような気がするよ」

蒼介「ストックが切れるまでは続けようと思っている。ちなみに前回のあらすじは慌てるひじき、だ」

徹「そのワンフレーズから前回の話を誰が推測できるんだい……」

蒼介「前回の話を読めば推測できるだろう」

徹「あらすじの意味が無いじゃないか」


美波「いつもはただのバカに見えるけど、坂本の統率力は凄いわね」

明久「ホント、いつもはただのバカなのにね」

翔子「……雄二はやる気を出しているときは頼りになる」

和真「やる気を出してないときは粗大ごみ同然だがな」

 

清涼祭初日の朝。

Fクラス教室は普段の小汚い模様を一新して、中華風の喫茶店に姿を変えていた。

 

明久「このテーブルなんて、パッと見は本物と区別がつかないよ」

 

教室のいたるところに設置されているテーブルは、実は積み重ねて小綺麗なクロスをかけて作ったみかん箱だったりする。

 

姫路「あ、それは木下君が作ってくれたんですよ。どこからか綺麗なクロスを持ってきて、こう手際よくテキパキと」

 

尊敬の目で秀吉を見る姫路。

つまりこのクロスは演劇部で使ってる小道具だ。

 

秀吉「ま、見かけはそれなりのものになったがの。その分、クロスを捲るとこの通りじゃ」

 

秀吉がクロスを捲ると、その下には見慣れた汚いみかん箱が。不衛生極まりないが無い物ねだりしても仕方がない。

 

美波「これを見られたら店の評判はガタ落ちね」

 

美波が明久の隣から覗き込んでいる。彼女の言う通り、これを見られたらイメージダウンは免れない。

 

明久「きっと大丈夫だよ。こんなところまで見ないだろうし、見たとしてもその人の胸の内にしまっておいてもらえるさ」

姫路「そうですね。わざわざクロスを剥がしてアピールするような人は来ませんよ、きっと」

和真「もしいたとしたら営業妨害か、徹より小せぇ奴かだな」

翔子「……和真、いくらなんでも大門に失礼」

和真「大丈夫だ。俺が言ったのは器の方だから」

 

どう考えても侮辱なのだが、身長の方だった場合はより怒り狂うのが大門 徹という男である。

 

明久「室内の装飾も綺麗だし、これならうまくいくよね?」

 

学園祭のレベルにしては充分なぐらいの完成度だろう。

 

ムッツリーニ「………飲茶も完璧」

明久「おわっ」

 

いきなり後ろから響くムッツリーニの声。翔子と並んで相変わらず気配を消すのが巧い。する必要はあまり無いと思うが。

 

明久「ムッツリーニ、厨房の方もオーケー?」

ムッツリーニ「………味見用」

 

そう言ってムッツリーニが差し出したのは、木のお盆。上には陶器のティーセットと胡麻団子が載っていた。

 

姫路「わぁ……美味しそう……」

美波「土屋、これウチらが食べちゃっていいの?」

ムッツリーニ「………(コクリ)」

秀吉「では、遠慮なく頂こうかの」

和真「どれどれ」

翔子「……いただきます」

 

姫路、美波、秀吉、和真、翔子が手を伸ばし、作りたての胡麻団子を頬張る。

 

姫路「お、美味しいです!」

美波「本当!表面はカリカリで中はモチモチで食感も良いし!」

秀吉「甘すぎないところも良いのう」

和真「後味も悪くねぇな」

翔子「……とても美味しい」

姫路「お茶も美味しいです。幸せ……」

美波「本当ね~……」

 

姫路と美波が目がトロンとしてトリップ状態になっていた。麻薬中毒者じゃないんだからいくらなんでもオーバー過ぎるだろう。

 

明久「それじゃ、僕も頂こうかな」

ムッツリーニ「………(コクコク)」

 

残った一つを明久に差し出す。なぜだかその一つはなんとしてでも明久に処理させようという、ムッツリーニの頑なな手捌きで。事情をすべて知っている秀吉も我が身かわいさで閉口する。

 

明久「ふむふむ…表面はカリカリで中はモチモチ、甘過ぎない味わいがとっても美味しいよ」

秀吉「!?」

ムッツリーニ「………………!?」

 

信じられない光景を見たように驚愕するムッツリーニと秀吉。

 

明久「? どうしたのさムッツリーニ」

秀吉「明久よ……なんともないのか?」

明久「へ?特に無いけど」

秀吉「お主が口にした胡麻団子……姫路が作ったものなんじゃが……」

明久「………………え?」(これが姫路さん作ったもの?バカ言っちゃいけない。前回の惨劇は今も僕の脳裏に焼きついているんだ……でも秀吉はそんなひどい嘘をつくような人間じゃない……ならなぜ僕は今生きているんだ?そういえばこの前テレビで特殊な毒物を見たぞ。その毒は時間とともに体内を蝕んでいき、最終的に全身が衰弱して死んじゃうんだっけ。てことは僕ももうすぐ死んでしまうのか……だったらせめて最後くらいは幸せになりたい。今この場で秀吉に言うんだ、結婚してくださいって……いや待てよ?そんな悠長なこと言ってられない、僕の最後はどんどん迫ってきているのだから。ここはちょっと巻きで行こう。そうと決まれば)

明久「秀吉と同じ墓に入りたい!」

秀吉「どうしたのじゃ急に!?」

和真「相変わらず愉快な思考回路してるなぁ。安心しろ、多分遅効性の毒ってわけじゃねぇよ」

秀吉(だからなぜ和真は理解できるのじゃ!?)

明久「え?……じゃあどうして僕は無事なの?」

和真「人がいつまでも成長しないと思ったら大間違いだぜ。……姫路ィ!」

姫路「ふぇ!?…は、はいっ!」

 

トリップ状態の姫路は和真に呼ばれて正気を取り戻した。

明久達のもとへトコトコと小動物のような足取りで歩み寄る。

 

姫路「柊君、どうしたんですか?」

和真「胡麻団子なんて良く作れたなぁ。中華料理なんて教えて貰ってねぇはずだろ?」

姫路「えぇと…作り方は須川君に一から教えて貰いました」

和真「へぇ、レシピ通りに作ったのか。以前はオリジナリティーを重視していたのに」

姫路「オリジナリティーを求めるのはまずその料理の基礎を完璧にしてから、と藍華さんから教わりましたから」

明久「え?どういうこと?」

姫路「ええと、実は試召戦争の後、柊君の紹介で料亭『赤羽』に料理を習いに通ってたんです」

 

『赤羽』は蒼介の母親・鳳 藍華(オオトリ アイカ)が経営する全国でも有名な料亭である。

 

和真(ま、そんなわけで料理が上達したらしい)

明久(すごいよ和真!これで僕の命を脅かすものが一つ減ったよ!)

秀吉(無くなったわけではないのじゃな……それはそうと、流石和真じゃ)

ムッツリーニ(………………グッジョブ)

和真(俺は何もしてねぇよ、姫路が成長したのは姫路が頑張ったからだ)

 

ここまでアイコンタクト。

 

和真「それにしてもよく1ヶ月も頑張ったな。藍華さんのしごきは生半可なものじゃねぇのに」

姫路「……柊君、そのことには触れないでください」

和真「…………すまん」

(((なにそのリアクション!?)))

 

何があったのか非常に気になる三人だった。余談だが、赤羽流の門を叩く料理人は数多くいるが、あまりの厳しさに脱落する者が跡を絶たないそうな。

 

 

 

雄二「うーっす。戻ってきたぞ」

明久「あ、雄二お帰り」

秀吉「何処に行っておったのじゃ?」

雄二「ああ、ちょっと話し合いにな」

 

いつもとは違いやや歯切れの悪い返事をする。

雄二は学園長室に行って、例の試験科目の指定をしてきたのだろう。とてもフェアな事じゃないから正直には話せず、ああ言って適当に誤魔化したのだ。

 

姫路「そうですか~。それはお疲れ様でした」

 

人を全く疑わない姫路が雄二の言葉を信じて笑みを贈る。

それは美点であると同時に思い込みも激しいという難点でもある。

 

雄二「いやいや、気にするな。それより、喫茶店はいつでも行けるな?」

秀吉「バッチリじゃ」

ムッツリーニ「…………お茶と飲茶は完璧」

雄二「よし。少しの間、喫茶店は秀吉とムッツリーニに任せる。俺と明久は召喚大会の一回戦を済ませてくるからな」

 

そう言って雄二は秀吉とムッツリーニの肩を叩く。

 

美波「あれ?アンタ達も召喚大会に出るの?」

明久「え?あ、うん。色々あってね」

 

明久は適当に言葉を濁している。

学園長から『チケットの裏事情については誰にも話すな』と口止めされているので下手なことは言えないのだ。

 

美波「もしかして、賞品が目的とか……?」

 

何かを探るような美波の視線が明久に刺さる。

 

明久「う~ん、一応そう言う事になるかな」

美波「……誰と行くつもり?」

 

明久の発言を聞くと、美波の目がスッと細くなった。どうやら戦闘態勢になったようだ。 

 

明久「ほぇ?」

姫路「吉井君。私も知りたいです。誰と行こうと思っていたんですか?」

 

気が付けばいつのまにか姫路も戦闘態勢に。

 

翔子「……雄二、どういうこと?」

雄二「なっ!?しょ、翔子!?」

 

当然、翔子も戦闘態勢。

 

雄二「ま、まぁ待て、落ち着け」

明久「だ、誰と行くって言われても……」

 

事情を話すわけにはいかないため、明久はどうして良いかわからなくなる。

雄二も翔子が相手なので、いつもの悪知恵が働かずしどろもどろになる。それを見かねた和真がフォローを入れる。

 

和真「あーお前ら、そいつ等の目的はチケットなんかじゃねぇよ」

「「「え?」」」

 

和真「店の宣伝のためだよ。あの大会は一般客にも生徒にも少なからず注目されてるだろ?四回戦まで勝ち進めば一般公開されるし、それだけで店の宣伝になるんだよ。それに、副賞の腕輪も他クラスに渡したくねぇしな」

 

チケット以外の賞品には『白金の腕輪』と言う物がある。召喚獣を二体同時に呼び出せるタイプと、先生の代わりに立会人になれるタイプがある。

これらの腕輪は試召戦争において少なからずアドバンテージとなるだろう。

 

美波「ふ、ふーん。なるほど……」

姫路「そ、そうでしたか……」

翔子「…………」

 

二人は納得したようだが翔子は何かが腑に落ちないらしく探るようなような目で雄二を見据えている。

 

和真「翔子、向こうで話したいことがあるからついてきてくれ」

翔子「……わかった」

 

そのまま二人は教室を出ていった。

 

雄二(頼んだぞ和真……うまく誤魔化してくれ……)

 

なぜか翔子が絡むと冷静さを失ってしまう元「神童」なのであった。

 

 

翔子「……話って何?」

和真「お前さっき説明した雄二が召喚大会に出る理由聞いてどう思った?」

翔子「……正直違和感があった。それだけの理由で雄二が参加するとは思えない」

和真「流石俺と同じ感覚派、正解だ。雄二はお前にプレオープンチケットが渡るのを阻止したいそうだ」

翔子「…………そう」

 

雄二の動機に少なからずショックを受けているようだ。

それを見た和真は諭すような目で言葉を続ける。

 

和真「よく聞け翔子、あいつほど天の邪鬼な奴はいねぇ。

お前がチケットを手に入れさえすればなんだかんだいって一緒に行ってくれるはずだ。そんな約束していたなら尚更な。

もしお前が心の底からあいつと如月ハイランドに行きてぇなら―」

和真は一度言葉を切って翔子の目を見据える。

 

「―真っ向からぶちのめして優勝を掴みとれ!」

 

翔子「……!わかった!」

 

しょんぼりした表情から一転、やる気に満ち溢れた表情になる翔子。

 

和真「じゃあそろそろ一回戦だから行ってくるぜ。さっきトーナメント表確認したけど、もしお前とあたるとしたら決勝だったな」

翔子「……和真、私はあなたにも絶対に負けない」

和真「それはこっちの台詞だ。じゃあな!」

 

 

 

 

 

「ようやく来たね。待ちくたびれたよ」

 

どう見ても小学校高学年くらいにしか見えない見た目の銀髪の男子生徒が、召喚大会の舞台前で壁にもたれかかり腕を組んで立っていた。

 

『アクティブ』のメンバーであり先日和真と壮絶なバトルを繰り広げた二年Aクラスの男子生徒、大門 徹だ。

 

和真「待ちくたびれたってまだ始まる前じゃねぇかよ。そんな前から待機してるとか、お前どんだけ暇なんだよ」

徹「嘘だよ。実はついさっき来たところだ」

和真「ったく、嘘つきは短足の始まりって諺知らねぇのかよ」

徹「いくつかツッコミどころがあるけど誰が短足だコラ……あと結構な頻度で嘘ついてる君には言われたくないよ」

和真「あ、苛立ってる?カルシウム足りてないんじゃね?いろんな意味で」

徹「喧嘩売ってんのかテメェェェ!こちとらテメェが強引に誘うから仕方なくエントリーしてやったっつうのによぉ!」

 

和真に掴みかかる徹。握力が90以上あるので掴まれたら和真でも痛いじゃ済まないだろう。

まあ当然のごとく全てかわされたのだが。

ちなみに徹はキレると口調が源太みたいになる癖がある。

 

和真「冗談だって。試合前なんだから落ち着けって」

徹「誰のせいだと……(ブツブツ)……それにしてもこの対戦カードはなんだい?いきなり骨の折れる相手じゃないか」

和真「何言ってんだよ、敵は強い方がおもしれぇじゃねぇか」

徹「せめて最初は楽な相手が良かったよ……」

 

 

 

 

 

《一回戦・数学》

『Fクラス 柊 和真

Aクラス 大門 徹

VS

Aクラス 工藤 愛子

Aクラス 佐藤 美穂』

 

 




雄二「ちゃんと誤魔化してくれたか?」
和真「ああ、大会でお前らを完膚なきまでにぶちのめすってよ」
雄二「キサマどんな説明したんだ!?」


いきなり第二学年トップ10の四人が激突。
和真君達のブロックは泣く子も黙るハードモード仕様となっています。
さて、姫路さんの殺人料理スキルが完全に消滅してしまいました。
後々の姫路料理イベントどうやって埋め合わせしようか……

では。


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必殺の武器

【前書きコーナー】
蒼介「前回のあらすじ……長年の夢だった画家セリアルの絵を見ることができた小暮 君明はこの世に未練が無くなったことにより、スイッチを押してしまうのであった……」

和真「今度は『スイッチを押すとき』かよ……」

蒼介「そろそろこのくだりも飽きてきたな……よし、前回のあらすじ今回で最終回だ」

和真「いや待てぇ!?ストック切れるまで続けるんじゃなかったのかよ!?」

蒼介「ああ、それなら―」火→ストックの山

蒼介「たった今切れたぞ」

和真「そんな切らせ方でいいの!?」

蒼介「何度でも言わせてもらうが、ここではわたし私がルールだ」

和真「このスペースでのお前傍若無人過ぎて最早別キャラだぞ!?」

蒼介「本編にまるで関係無いから間違ってはいないな。しかしお前にだけは傍若無人とか言われたくないな、今回の
話であんなことをしたお前には」

和真「………………それもそうだけどよ」





「それでは、試験召喚大会一回戦を始めます」

 

校庭に作られた特設ステージ。ここで召喚大会が催される。

 

「四回戦までは一般公開もありませんので、リラックスして全力を出してください」

 

立会人は数学の長谷川先生。つまり勝負科目は数学。そして闘うのは……

 

和真「いきなりお前らとはなぁ、気乗りしねぇなぁ」

佐藤「あの、柊君?……どうみてもノリノリに見えるんだけど……」

 

凶悪そうな笑みを浮かべた和真にボブカットのメガネが特徴的な少女、佐藤美穂がひきつった笑みを浮かべつつそうつっこむ。

 

徹「実際にノリノリなんだよ佐藤さん」

愛子「やっぱりやる気満々だねー。でも、ボク達も負けないヨ?」

 

黄緑ベリーショートのボーイッシュな女子、工藤愛子が挑戦的な笑みを浮かべている。

 

闘うのは、第二学年6~9位の生徒達だ。

一回戦とは思えないそうそうたるメンバーが揃ったものである。

 

長谷川「それでは召喚してください」

「「「「試験召喚(サモン)!」」」」

 

長谷川先生の合図で四人同時にキーワードを唱え!それぞれの召喚獣が幾何学模様から出現する。

黒ジャケットに赤シャツ、規格外に大きい槍を装備した和真の召喚獣が。甲冑に鉄のガントレット装備の徹の召喚獣が。セーラー服に斧装備の愛子の召喚獣が。カンフー着に鎖付き鉄球装備の佐藤の召喚獣が。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊 和真 241点

Aクラス 大門 徹 442点

VS

Aクラス 工藤 愛子 283点

Aクラス 佐藤 美穂 387点』

 

 

長谷川「それでは、一回戦を開始します!」

 

佐藤「……点数差はほぼ互角、ね」

徹「というか、僕と闘ったときと比べて大分点数が上がったようだね和真」

和真「この俺が苦手なもんを苦手なままにしておくわけねぇだろ」

愛子「あはは、和真君らし―」

和真「だりゃぁぁぁ!」

愛子「えぇっ!?」

佐藤「いきなり!?」

 

愛子が喋っている途中いきなり〈和真〉が持っている巨大な槍をぶん投げた。槍はそのまま凄いスピードで回転しながら飛んでいき、〈佐藤〉はガードするも力負けして吹っ飛ばされた。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊 和真 241点

Aクラス 大門 徹 442点

VS

Aクラス 工藤 愛子 283点

Aクラス 佐藤 美穂 299点』

 

 

ガードしたのにもかかわらずこのダメージである。もし直撃していたら戦死一歩手前まで削られていたかもしれない。しかしそんなことどうでもいいと言わんばかりに、和真の行動に女子二名が抗議する。

 

佐藤「まだ工藤さんが話してたでしょ!」

愛子「不意討ちなんて見損なったよ!」

和真「バカヤロー、勝負はもう始まってんだよ。それとあれは攻撃じゃねぇ、邪魔な荷物を捨てただけだ」

徹「そんなダイナミックな捨て方しなくてもいいじゃないか……」

 

自在に扱えない武器などいらない、しかしただ捨てるだけではつまらない。だったら相手にぶん投げちゃえばいいじゃん、という発想から生まれた必殺技…『カズマジャベリン』。

 

佐藤「……ふふふ……上等よ……」

愛子「そっちがそう来るなら……こっちも容赦しないよ?」

 

何かのスイッチが入ったのか、怒りのオーラを纏い臨戦態勢に入る二人。

 

和真「ハッ、上等じゃねぇか。徹、俺達のコンビ技をこいつらに見せてやろうぜ!」

徹「ちょっと待て!?コンビ技ってなんだよ、聞いて無いぞ!?」

和真「説明している暇は無ぇ、ぶっつけ本番で行くぞ!お前はまず腕輪を発動させてくれ!」

徹「…仕方ないな、君に任せるよ!」

 

そう言って〈徹〉は腕輪能力『リフレクトアーマー』を発動させた。

 

愛子「っ!?佐藤さん、何かするつもりだよ!早めに攻めよう!」

佐藤「了解!」

 

何かを察知したのか、猛スピードで飛びかかる二人の召喚獣。

 

和真「残念ながら準備は終わったぜ」

 

そう言うと何を思ったのか、〈和真〉はおもむろに〈徹〉の足を掴み…

 

徹「は?和真、何を-」

和真「必殺・カズマハンマァァァ!!」

 

……あろうことか、そのまま二人の召喚獣をぶん殴ったではないか。

 

「「「えぇぇぇ!?」」」

 

驚愕する三人を尻目に〈和真〉は〈徹〉を鈍器のように振り回し、次々と相手にぶち当てていく。ヒットするたびに『リフレクトアーマー』の効果でぶつかった衝撃の一部が反射され、さらに傷だらけにしていく。

 

和真「おらおらおらおらおらぁぁぁ!」

徹「いやちょっと待てぇぇぇ!?テメェ人の召喚獣をなんだと思ってやがる!?」

和真「戦場においてその場にある物は全てが武器!敵を叩き潰す鈍器になるんだよ!」

徹「僕の一番の敵は間違いなくテメェだぁぁぁ!」

 

一切躊躇することなく〈和真〉は愛子達の召喚獣をしばき回していく。

 

佐藤「あぁ!?このままじゃまずい!」

愛子「でも立ち上がろうとするたび的確に転ばせてくるから態勢も立て直せない!」

和真「見たかお前ら!俺と徹の一心同体のコンビネーションを!」

徹「こんな独り善がりなコンビネーションがあるかぁぁぁ!あと一心同体ってそういうことじゃねぇよ!」

 

まさに血も涙も無い鬼畜の所業。

味方の召喚獣を武器にいたいけな女の子の召喚獣を容赦無く殴りまくるその姿はどう見ても悪役である。

 

長谷川「……教育者としては、柊・大門ペアにはぜひとも負けてもらいたいものです」

 

公平な立場である審判としては少々問題発言であるがそう思うのも無理は無い。

もし一般公開されていたら中止になりかねないほどグロテスクな光景が出来上がりつつあるのだから。

 

佐藤「くっ、このぉ!」

愛子「えぇいっ!」

 

二人はなんとか体勢を立て直し、〈和真〉に反撃する。しかし〈和真〉にカズマハンマーという名の〈徹〉であっさりとガードされ、

 

「「きゃあああああ!?」」

 

『リフレクトアーマー』による衝撃の反射を喰らって吹き飛ばされる。

 

和真「それじゃあ……とどめぇ!」

 

〈和真〉は素早く接近し、カズマハンマーを倒れている〈愛子〉と〈佐藤〉とに全力で叩きつけ、二人の召喚獣は潰れて見るも無惨な姿に成り果てた。最後まで欠片も容赦が無い。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊 和真 241点

Aクラス 大門 徹 331点

VS

Aクラス 工藤 愛子 戦死

Aクラス 佐藤 美穂 戦死』

 

 

長谷川「……勝者、柊・大門ペア」

 

凄く、それほもうスッゴく不服そうに、長谷川先生が勝者の名を告げる。

 

佐藤「うぅ……負けちゃった……」

和真「まぁこれは真剣勝負だしな、悪く思うなよ」

愛子「和真君って試召戦争になると性格変わるよね…」

和真「お前らにフィードバック機能なんざついてねぇからな、安心して殺れるぜ」

佐藤「なんか“やる”のニュアンスがおかしい気がするんだけど、気のせいかしら……」

工藤「まぁ仕方ないか…ボク達に勝ったんだから、この先絶対勝ち進んでよ」

和真「最初から誰にも負けるつもりはねぇよ」

徹「………………」

 

その後四人は特設ステージから退場した。

 

 

 

 

 

和真「……さてと、」

徹「和真ァァァァァァ!」

 

徹は鬼気迫る表情で和真に掴みかかるが和真はケルビステップで華麗に避ける。

 

和真「なんだよ徹、文句でもあんのか?」

徹「文句しかねぇよ!なんだよあの試合!?僕の召喚獣、武器になってただけじゃねぇか!」

和真「わりぃわりぃ、以前あれを思い付いてやりたくなっちゃった♪」

徹「そんな理由であんな冷徹なことやってのけたのかテメェは!なにその満足顔!?すげぇイラつくんだけど!」

 

面白いことを思い付いたらとりあえずやってみるのが和真のスタンスだ。周りからすればはた迷惑この上ないが。

 

徹「とにかく、次あんなことしたらもう僕は棄権させてもらうからな!」

和真「はいはいわかったわかった反省してまーす」

徹「まるで説得力が無ぇよその言い方!……ったく、君はいつもいつも……」

和真「はいはい。じゃあ俺はあれを回収して教室に帰るから」

徹「? あれ?」

 

和真は校庭の別のステージを指差す。

 

雄二「さっきの決着つけるぞクソ野郎!」

明久「それはこっちの台詞だよ馬鹿野郎!」

 

和真「じゃあまた二回戦で!」

 

そう言って和真は明久達がいるステージに駆けて行った。

 

徹「……コンビネーションは僕達と五分五分だね……」

 

勿論、団栗の背比べ的な意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「あなたの予想に反して吉井・坂本ペアが勝ち上がりましたね、どういたしましょうか?」

竹原「君は何もしなくていい。私達の協力者にFクラスの出し物を妨害するよう指示を出した。彼らはどうやら召喚大会で勝たなくてはいけないと同時に喫茶店も成功させなければいけないらしいからな」

?「なるほど……喫茶店を妨害することで召喚大会に集中させなくするというわけですか。フフフ、クールな外見に反してかなり悪どい作戦ですね」

竹原「知略に富んでいるといいたまえ」

 

 




はい、今回は和真君やりたい放題回でした。
味方を盾にしたり囮にしたり生け贄にしたりするのがFクラス流ですが、和真君は味方を武器にしました。
まあ徹君に禁止されたためもう出て来ないでしょう………………………………多分。

今回は惜しくも(?)敗れた佐藤さんの召喚獣

佐藤 美穂
・性質……攻撃重視型
・総合科目……3450点前後 (学年8位)
・400点以上……なし
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……B
防御力……B

やや攻撃型だがほとんどバランス型と言っていい。
理数系の科目ではステータスがより強くなる。


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営業妨害

【前書きコーナー】

蒼介「とりあえず今回は新コーナーを発表する」

源太「そういや前回まで細々と続けていたあらすじコーナーをテメェが強引に打ち切ったんだったな……」

蒼介「次回からはバカテストをこのスペースでやっていく」

源太「そりゃまた無難なチョイスだな」

蒼介「毎回載せるとなると、オリジナルの問題も作らざるを得ない分すごく面倒だから、ギリギリまで悩んだんだがな」

源太「そういうのは黙っとこうぜ……」


和真「なにやってんだよお前ら……さっさと教室に戻るぞ」

 

特設ステージで殴りあっている明久と雄二を呆れるような目で見ながら声をかけた。

 

雄二「後にしろ!今日という今日はこのバカに上下関係っつうもんをキッチリ叩きこんでやらなきゃならねぇんだよ!」

明久「それはこっちの台詞だよ!雄二みたいなバカが僕と対等だなんて片腹痛いよ!」

和真「どっちもバカだろ……チームワークの欠片も無ぇなお前ら」

 

皆さん御覧ください。呆れるように溜め息を吐きつつチームワークのなんたるかを説いているこの人こそが、前回相棒を無許可で武器にして散々やりたい放題だった柊 和真君です。

 

秀吉「お主ら、殴り合いなぞしておらんで、急いで教室に来てくれんかの?」

 

明久達が不毛な争いをしていると、特設ステージに秀吉がやってきた。少し息が弾んでいるところを見ると、急いでいるみたいだ。

 

明久「あれ?喫茶店で何かあったの?」

秀吉「うむ。少々面倒な客がおっての。すまぬが話は歩きながらで頼む」

明久「あ、うん。了解」

 

そう言って急ぎ足で教室に向かう四人。

 

雄二「……営業妨害か?」

 

歩いている雄二が学園長のところに行ったときと同じ鋭い目つきになる。

 

明久「あはは、まさか。学園祭の出店程度で営業妨害なんて出てこないんじゃない?そんな真似をしたところで何のメリットもないと思うよ」

秀吉「いや、雄二の言ったとおりなんじゃ」

雄二「そうか。相手はどこのどいつだ?」

和真「アタシだよっ!」

雄二「話の腰を折るな。おまけにネタのチョイスも古いしよ」

秀吉「うちの学校の三年じゃな」

明久「よりによって三年生?まったく、生徒の中では一番大人なくせに」

和真「まぁそういうことなら雄二の出番だな」

明久「そうだね、チンピラにはチンピラを充てるのが一番だよ」

雄二「それが人にものを頼む態度か?……まぁいい。喫茶店がうまくいかなければ、“明久の大好きな”姫路が転校してしまうからな。協力してやる」

 

意地悪な顔である部分を露骨に強調する雄二。

 

明久「べっ!別にそんなことは一言も……!」

雄二「あー。わかったわかった」

明久「その態度は全然わかってない!」

雄二「つーか和真、お前まで俺任せかよ?」

和真「直接殴る蹴るといった荒事はあんま好きじゃねぇからな、手加減しなきゃならねぇから」

雄二「なんだその理由……」

 

和真は素手でレンガくらいは軽くぶち破れる。そんな人間が全力で人を殴ったら間違いなく警察沙汰になるだろう。

常に手加減を強要される喧嘩は、何事も全力でやりたい和真にとってあまり歓迎すべきものではないのだ。

教室近くまで来ると、廊下にまで響く大声が聞こえてきた。

 

秀吉「む。あの連中じゃな」

雄二「じゃ、ちょっくら始末してやるか」

和真「悪鬼羅刹(笑)の力(笑)を見せてやれ(笑)」

雄二「あいつらの前にお前を始末してやろうかコノヤロー。ったく……」

 

首をコキコキと鳴らしながら教室の扉に手をかける雄二。

 

「マジできたねぇ机だな!これで食い物扱っていいのかよ!」

 

雄二が扉を開けるなり罵声が聞こえてくる。

どうやらクロスで覆い隠したみかん箱がお気に召さなかったらしく、クロスを剥がして文句を言っていた。

 

『うわ……確かに酷いな……』

『クロスで誤魔化していたみたいね……』

『学園祭とは言っても、一応食べ物のお店なのに……』

 

その様子を見たお客さんが口々に呟く。飲食店で衛生面での悪評は致命的である。

 

明久「雄二、早くなんとかしないと経営に響くよ」

雄二「そうだな……。秀吉、ちょっと来てくれ」

秀吉「?なんじゃ?」

 

雄二が秀吉に耳打ちをする。

秀吉に頼むという事は、おそらく演劇用の小道具関係だろう。

 

秀吉「了解じゃ。すぐに戻る」

 

そう言い残して、教室内のクラスメイト数名に声をかけて秀吉は足早に去っていった。

 

雄二「明久、和真。お前はあの小悪党どもの特徴をよく覚えとけ」

和真「あいよ」

明久「? よくわかんないけど、了解」

 

営業妨害をしているのは二人。いずれも男だ。

片方は中肉中背の一般的な体格と、小さなモヒカンという非一般的な髪形をしている。もう一方も175センチくらいの普通の体格で丸坊主。

なんとも覚えやすい髪型の二人である。

というか、生徒会の常村と夏川だ。

 

夏川「まったく、責任者はいないのか!このクラスの代表ゴペッ!」

雄二「私が代表の坂本雄二です。何かご不満な点でも御座いましたか?」

 

表面上は模範的な責任者を思わせるような物腰で恭しく頭を下げる雄二。

 

常村「不満も何も、今連れが殴り飛ばされたんだが……」

 

殴られていないソフトモヒカン(常村)が面食らったような表情をしている。

 

雄二「それは私のモットーの『パンチから始まる交渉術』に対する冒涜ですか?」

 

それ自体が冒涜の塊のような交渉術だ。

 

夏川「ふ、ふざけんなよこの野郎……!なにが交渉術ふぎゃあっ!」

雄二「そして『キックでつなぐ交渉術』です。最後には『プロレス技で締める交渉術』が待っていますので」

常村「わ、わかった!こちらはこの夏川を交渉に出そう!俺は何もしないから交渉は不要だぞ!」

夏川「ちょ、ちょっと待てや常村!お前、俺を売ろうと言うのか!?」

 

仲間に売られそうになって慌てる夏川と呼ばれた坊主頭。なんと薄っぺらい友情であろうか。

 

雄二「それで常夏コンビとらや。まだ交渉を続けるのか?」

 

もう雄二の仮面が外れたようだ。やはり慇懃な態度はあんまり継続しないらしい。

 

明久(それにしても、常夏コンビとは巧い命名だ。座布団一枚)

常村「い、いや、もう充分だ。退散させてもらう」

 

雄二から剣呑な雰囲気を感じ取った常村(モヒカン)が撤退を選ぶ。賢明な判断だ。

 

雄二「そうか。それなら―」

 

大きく頷いた後、夏川(ボウズ)の腰を抱え込む雄二。

 

夏川「おいっ!俺はもう何にもしてないよな!?どうしてそんな大技をげぶるぁっ!」

雄二「これにて交渉は終了だ」

 

バックドロップを決めて平然と立ち上がる。

その交渉術は決して後世に残らないだろう。

 

常村「お、覚えてろよっ!」

 

倒れた相棒を抱えて去っていく常村。

これで問題は片付いた……

 

『流石にこれじゃ、食っていく気はしないな』

『折角美味しそうだったんだけどね』

『食ったら腹壊しそうだからなぁ』

 

わけではなかった。

クロスの中を目の当たりにし、とうとう音を立てて一人目が席を立つ。

その人物は竹原教頭だった。

 

和真(! ………………)

 

『店、変えるか』

『そうしようか』

 

一人目が立つと、次々と客が席を立ってしまう。集団心理だ。このままでは悪評は間違いなく学校中に広まるだろう。

 

雄二「失礼しました。こちらの手違いでテーブルの到着が遅れたので、暫定的にこのような物を使ってしまいました。ですが、たった今本物のテーブルが到着しましたのでご安心下さい」

 

そんな客達に頭を下げる雄二。その後ろには秀吉や男子数名が立派なテーブルを運んでいる姿がある。

 

和真(あれは……演劇部で使ってる大道具のテーブルか。こうすりゃ客の前で衛生面を改善した姿を見せられるってことか。雄二も風評とかについてちゃんと考えてたようだな)

 

「あれ?テーブルを入れ替えてるの?」

 

そんな時、明久達の後ろから美波が声をかけてきた。

 

明久「あ、おかえり。美波に姫路さん。一回戦はどうだった?」

姫路「はいっ。なんとかか勝てました」

 

Vサインを決める姫路。普段はそこまで勝負にこだわる性格ではないのだが、事情が事情なだけにらしくもなく勝負にこだわってるようだ。 

 

美波「そんなことより、テーブルを入れ替えちゃっていいの?演劇部にあるテーブルなんて、そこまで多くはないはずでしょう?」

 

美波の指摘ももっともだ。秀吉は二つ程度しかないと言っていたし、かといって残りのテーブルをそのままにというわけにもいかない。

 

雄二「ふぅ。こんなところか」

 

雄二が小さく息を吐く。慣れない丁寧語で疲れたのだろうか。

 

明久「お疲れ、雄二」

和真「ご苦労さん」

美波「何があったかわからないけど、お疲れ様」

姫路「お疲れ様です」

雄二「おう。姫路に島田か。その様子だと勝ったみたいだな」

美波「一応ね。それより、喫茶店は大丈夫なの?」

 

さっきの騒動で客は減ったし、悪評も流れるだろう。喫茶店も姫路の転校を阻止するための要素なので、失敗は許されない。

 

雄二「このまま何も妨害がなければ問題ないな」

 

この先の妨害を危篤しているように雄二は言う。

 

姫路「あの、持ってくるテーブルは足りるんですか?」

雄二「ああ、それか。そうだな……明久、和真、二回戦まであとどのくらい時間がある?」

 

それを聞かれて和真と明久は腕時計を見て確認する。

 

明久「僕らは小一時間ってとこかな」

和真「俺らはそれよりちょっと早い」

雄二「そうか。あまり時間がないな……。ちゃっちゃと行くか。二人ともついて来い」

 

雄二が和真と明久に向かってクイクイ、と指を動かす。

 

美波「ウチらは手伝わなくていいの?」

雄二「お前らは喫茶店でウェイトレスをやってくれ。落ちた評判を取り戻す為に、笑顔で愛想よく、な」

姫路「はいっ!頑張ります」

明久(いいなぁ……。僕も客として入って笑顔を振りまいてもらいたいよ)

 

金はどうするんだ、金は。

 

和真「ところでどうするんだ?まさか無断で借りるわけじゃねぇだろうな?」

雄二「ああそうだ」

 

こともなげに雄二は肯定する。

 

雄二「一旦喫茶店に使っちまえばこっちのもんだ。一般客が使用中のテーブルを回収なんて真似は、いくら教師でもできないだろうからな」

 

雄二が思いつきそうな悪どい策である。

しかし、

 

和真「んなリスキーな手段じゃ無くてもテーブル調達する手段なんざいくらでもあるだろうが……」

雄二「ほう?なにかあてがあるのか?」

和真「まあ見てろって」

 

そう言って和真は三人を引き連れて教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

和真「―というわけで、応接室のテーブルを借りてもいいっすか?布施センセ」

布施「そういう事情でしたら構いませんよ。但し、壊さないでくださいね」

和真「了解しやした~」 

 

布施先生に事情を説明した後、和真達は応接室から机を運び出した。

 

明久「すごいね和真。テーブルを貸してくれるように交渉するなんて」

 

テーブルを運びながら和真に話かける和真。

 

和真「こんなの交渉でもなんでもねぇよ。ただ頼んだだけだっつの」

雄二「いや、俺や明久が頼んでも受理されなかったと思うぞ」

和真「んなもん日頃の行いだろ」

雄二「納得できねぇ……」

 

和真は明久や雄二と一緒にバカをやることも少なくないが、天性の勘の良さから一度たりとも捕まっていない。それどころか実行中はほとんどバレてすらいない。

また、授業や宿題などやるべきことはきちんとやっており、時間があるときには教師の手伝い(主に力仕事)などもやったりしているので、基本的に教師達からの評判は良く、こういった頼みごとはだいたい聞き入れてもらえる。

要するに、和真は雄二や明久に比べて世渡りが非常に上手いのである。

鉄人が「ある意味吉井や坂本よりもやっかいな生徒」と日頃ぼやいているのも無理はない。

 

和真「そろそろ時間だな、じゃあ後は任せたぜ」

明久「もう行くの?」

和真「徹は待つの嫌いなくせに予定時間より早く待機してるだろうし。なんのプライドか知らんが待ったとは絶対に言わねぇけどな、」

 

そう言って和真は二人と別れて特設ステージに向かう。

 

 

 

和真「はぁ……気が進まねぇ……」

 

手にしたトーナメント表を見ながら和真はダルそうにぼやく。好戦的な彼にしては意外な態度である。

 

和真「よりによってこいつらが相手かよ……100%勝てるけど闘いたくねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《二回戦・英語》

『Fクラス 柊 和真

Aクラス 大門

VS

Dクラス 清水 美春

Dクラス 玉野 美紀』

 




というわけで次回はVSDクラス問題児コンビです。
結果はわかりきっているけど重要なのはそこじゃない!

大門 徹
・性質……防御特化&機動度外視型
・総合科目……3650点前後 (学年7位)
・400点以上……数学・物理
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……D
防御力……S
・腕輪……リフレクトアーマー

相手の攻撃を受け止め、攻撃を喰らわせる重戦車型。久保と似たような戦闘スタイルだがこちらは防御を重視している。現実では不可能な闘い方だからせめて召喚獣は……と考えるとなんだかやるせない気持ちになる。

『リフレクトアーマー』
コスト50で召喚獣に防御力が増幅し、攻撃の一部を反射する鎧を装備させる。壊された場合、召喚し直さなければ張り替えることはできない。
全身を覆っているため急所がなく、まさに要塞である。
自分が敵を殴った場合、反作用の力まで反射するため実質攻撃も強化されている。
ほぼ無敵の能力だが弱点はいくつかある。
一つ目は、攻撃は全て反射できるわけではなくしっかりダメージは鎧に蓄積していくのでやられ過ぎると壊れる。
二つ目は、スピードは落ちるためこちらからの攻撃は当てにくい。試召戦争で相手の召喚獣に逃げ回られたら時間がものすごくかかってしまうだろう。


では。


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我が道を行く者達

『バカテスト・英語W』
次の文を英文に直しなさい。

その問題は難し過ぎて解けない。

柊 和真の答え
The question is too difficult to solve.
蒼介「正解だ。『too~to…』で『~過ぎて…できない』という意味になる」

土屋 康太の答え
The
飛鳥「訳せたのは『その』だけなのね……」

吉井 明久の答え
Me too.
蒼介「問題文に同意されてもな……それと否定文なので『Me either.』、もしくは『Neither do I. 』が適切だろう」


和真「はぁ……気が進まねぇ……」

 

校舎にある特設ステージに重い足取りで向かいながら、和真はぼやく。

この戦闘狂がここまでテンションが低いのは対戦相手のDクラス問題児コンビ、というよりその片方の玉野 美紀が原因である。去年同じクラスだった玉野と和真の間にはちょっとした因縁があり、数少ない和真の苦手としている生徒の一人なのである。

 

「おや、和真君じゃないか」

 

そんなローテンションな和真の後ろから一人の男性が声をかける。和真は面倒臭そうに振り向き、

 

自分の目を疑った。

 

その男性は大学生くらいの外見をしているが、実は40手前だということを和真は知っている。

長身で細身だが服の上からでもわかる引き締まった体つき、艶やかな黒髪に中性的で、それでいて芯の強さや品格、カリスマ性のようなものを感じさせる顔立ちをしており、無条件に人を惹き付けるその外見は和真のよく知る人物を思い起こさせる。

 

そして、片方の胸元に剣に朱雀―“鳳財閥”のマーク、もう片方に鳳家の家紋「鳳仙花」の刺繍が施された和服を来ていた。

 

和真「……なんでここにいるんすか、秀介さん」

 

この人こそが鳳家現当主であり“鳳財閥”会長、そして蒼介の父親……鳳 秀介(オオトリ シュウスケ)である。

 

秀介「ふむ、父親が息子の様子を見に来ることがそんなにおかしいかい?」

和真「いや、あんた自分の立場わかってるんすか?四大企業の一角の会長が仕事ボイコットするのはまずいでしょ」

秀介「それなら心配ないよ。“鳳”はこの学園のスポンサーだからね、『出資先の視察』という建前があるからこれも仕事のうちなんだよ。もっとも社長自ら来ているのは私だけらしいけどね」

和真「建前って言っちゃってるじゃないすか……というか、流石に付き人くらいは連れて来ましょうよ……」

秀介「とは言っても、私より強い付き人がなかなかいなくてねぇ……あ、そうそう、蒼介のクラスの教室はどこにあるんだい?さっきから探してるんだが全然見つからなくて」

和真「そうなるから付き人が必要なんすよ!あんた只でさえ方向音痴なんだから!」

秀介「知らないうちにウェイターをやることになったと珍しくぼやいていたけど、やっぱり息子が頑張っているすがたは見に行きたいからね」

和真「人の話を聞いてくださいお願いだから!」

 

常に周りを振り回している和真が逆に振り回されている、なかなかお目にかかれない光景だ。

ご覧のとおり、秀介はかなりの天然な性格である。蒼介のしっかりした部分は全て母親から受け継がれたようだ。

 

秀介「それで、二年Aクラスはどこにあるんだい?」

和真「いや、口で説明しても地図を渡してもあんたは迷うわ、断言できるわ。Aクラスまで連れて行くしかないけど、俺も時間ねぇし、誰かに頼むか……」

 

そう言って和真は辺りを見回す。

すると試召戦争後、最近理数系科目のコツを教えて貰っていた教師を見つける。

 

和真「おーい!綾倉センセ!」

 

名前を呼ばれたその教師は和真に歩み寄る。

栗色の長めの髪に、眼鏡をかけ柔和な笑顔を浮かべている糸目の男性だ。

 

「どうかしましたか?柊君」

 

名前は綾倉 慶(アヤクラ ケイ)。数学教師にして三年学年主任という肩書きを持つ。

 

試召戦争を用いるこの学年では学年主任及び補修担当の生徒指導は全ての教科に秀でた教師のみが着ける役職だ。

その中でも、文月学園は進学校なので、進学にダイレクトに関わる第三学年主任には学園で最も秀でた教師しか着くことができない。

つまりこの綾倉先生は、文月学園教師陣の頂点に君臨しているということである。

 

和真「この人が二年Aクラスに行きたいらしいんすけど俺もうすぐ召喚大会なんで、代わりに頼んでいいすか?」

綾倉「えぇ。お安いご用ですよ」

和真「あざーす。じゃあ俺そろそろ行くんで。秀介さん、綾倉センセ、サイナラー」

秀介「ああ、頑張りなさい」

和真「はいよー!」

 

そう言って特設ステージに走っていった。

 

綾倉「ではいきましょうか」

秀介「すみませんねぇ。昔からよく道に迷うもんで」

綾倉「人間ひとつやふたつそういうところがあるものですよ」

秀介「ははっ、違いないですね」

 

軽く談笑しながら歩き出す二人。実は彼等は生徒会の顧問と出資者として知った仲である。

 

綾倉「そうそう鳳さん、例の件ですが……」

 

 

 

 

 

 

 

徹「相変わらず君は来るのが遅いね。僕もさっき来たところだけど」 

 

相変わらず特設ステージ前で壁にもたれかかり腕を組んで立っていた。

 

和真「わりぃな、今回は早く来ようと思ったんだけどよ、来る途中ものすごく自由な人に振り回されてよ」

徹と特設ステージに向かいながら和真が説明する。

徹「もう少しまともな言い訳は無いのかい?君より自由な人間などいるわけないだろう」

 

先ほどの試合を思い浮かべながら揶揄するように言う。

 

和真「……いや、いっぱいいるだろ。例えば俺等の対戦相手とか」

徹「……それもそうか」 

 

そして二人ともテンションががくっと下がる。どうやらやる気が無いのは和真だけでは無いようだ。

重い足取りで特設ステージに向かうと、対戦相手は既にスタンバイしていた。

 

「ようやく来ましたね!待ちくたびれました!」

「カズナちゃんトーコちゃん久しぶりっ!」

 

不機嫌そうにしている女子生徒が清水 美春。

ドリルのようにロールしたオレンジ色の髪を左右に垂らしている。

和真達を特殊な愛称で呼んだ女子生徒が玉野 美紀。

黒髪を三つ編みにしており、なぜか熱っぽい表情で和真達をおかしな名前で呼ぶ。

 

和真「わりぃな清水、次からは気をつけるわ。美紀はもう死んでくれねぇかな?」

徹「まぁ時間には間に合ったんだし、別にいいじゃないか。死ぬのがいやならせめて転校してくれないかな玉野さん」

玉野「二人とも酷いっ!?」

 

血も涙も無い暴言を浴びせる二人。

しかし彼等は理由も無くこんな冷たい対応をしているわけではない。

 

 

 

玉野「私は二人に可愛い服を着て欲しいだけなのにっ!」

和真「だからそれが嫌だっつってんだろォォォ!いい加減諦めろやクソがァァァ!」

玉野「大丈夫だよ!きっと似合うから!」

徹「似合う似合わない以前にそんなもん来たら社会的に抹殺されるわァァァ!」

 

 

その理由がこれだ。玉野は可愛らしい顔立ちの男子生徒に可愛らしい服を着せたがるという、はた迷惑な趣味を持っている。誰が見ても童顔な和真と徹は去年ことあるごとに被害を被りかけた。同じクラスということもありその回数は尋常じゃない。

〈例〉

・体育の時間に制服をゴスロリにすり替えられそうになった。

 

・部活に参加している最中に部室においていた制服をメイド服に(ry

 

・家庭科の調理実習に使うエプロンを(ry

 

・毎朝の挨拶が「おはよう!それじゃあちょっと着替えよう!」with女子制服

 

etc...

 

そんなわけで和真達の玉野への対応は基本突き放し気味である。突き放しどころかもう突き落とす勢いである。

 

玉野「私が勝ったら今日こそはこのメイド服を着て貰うからね!」

徹「上等だよ……打ち砕いてあげるよ。君の野望も、君の召喚獣も……ついでに君自身も」

和真「……んで清水、お前の目的はやっぱりプレミアムチケットか?」

 

面倒臭くなったのか玉野をスルーして和真がもう一人の女子生徒に確認するように聞く。

 

清水「当然です!これから私と美波お姉さまのシンデレラストーリーが始まるのです!」

 

このセリフからわかる通り、清水は生粋の同性愛者だ。ちなみに細身の貧乳美人が好みである。

 

和真「誘う相手が島田だけってことは、飛鳥のことは諦めがついたみてぇだな」

 

その条件にはAクラスの橘 飛鳥も当てはまるため、以前は二人とも手中に納めようという野望を持っていた。

 

清水「とても悲しいことですが…………飛鳥お姉さまが私に振り向くことは……ありませんので……」

 

今にも泣きそうな表情で告げる清水。どう見ても未練タラタラで振り切れていない。

 

なあなあですませている美波とは違って、以前飛鳥は蒼介という婚約者がいるという理由で清水の告白をはっきりと断っている。

その後清水は自分にとって邪魔者である蒼介を排除しようとするが手も足もでず返り討ちに遭う。

そしてその後、飛鳥のストーキングを実行するがそのことが“橘”にバレてしまい、筆舌に尽くしがたいほどのこの世の真の恐怖を味わった後、あやうく社会的に抹殺されそうになった。

そのときは話を聞き付けた和真と蒼介の口添えで事なきを得た。そのため男子嫌いの清水であるが和真とはある程度友好的な関係を築けている。

 

「それでは、試験召喚大会二回戦を始めて下さい」

 

立会人の遠藤先生かそう告げる。

 

『試獣召喚(サモン)!』

 

掛け声と共に四体の召喚獣が出現する。

 

遠藤「それでは始めてください」

 

清水「さあ、覚悟しなさ(ダダダダダダダダダ!)さい……って、えぇぇぇぇ!?」

玉野「そんなっ!?」

 

《英語W》

『Fクラス 柊 和真 300点

Aクラス 大門 徹 329点

VS

Dクラス 清水 美春 戦死

Dクラス 玉野 美紀 戦死』

 

鎧袖一触とはまさにこのこと。

清水達の召喚獣は〈和真〉の腕輪能力『一斉砲撃』のあっとうてきな?火力を前に、一瞬で肉塊と化した。

 

遠藤「勝者、柊・大門ペア!」

 

清水「お姉さま……非力な私を許してください……」

 

orzの体勢で落ち込む清水。

心なしか清水のバックに木枯らしが見える。

 

玉野「カズナちゃん……トーカちゃん……次こそは、可愛らしいお洋服を着て貰うからねっ!」

徹「もう口閉じててくれ、一生」

和真「諦めろよ、そこで試合終了だ」

 

安西先生もビックリな突き放しっぷりである。

これで和真達の三回戦進出が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、Aクラスでは…

 

蒼介「お帰りなさいま……父様?」

秀介「やぁ蒼介、随分繁盛してるねぇ」

 

【執事喫茶 お嬢様とお呼び!】は通常の六倍の広さにもかかわらずほぼ満席となっていて、和真と別れてから今になってようやく教室の中に入ることができた。

まあここまで繁盛している理由の半分以上は蒼介にあるのだが。

 

秀介「ふむ…親の贔屓目を抜きにしても似合ってるね」

蒼介「それはどうも」

 

今、蒼介は薄いグレーの燕尾服を来ている。コバルトブルーの髪と非常にマッチしており、それに蒼介の上品な佇まいが合わさり、神聖さすら感じさせる。

 

秀介「しかし、どう見ても人に仕えているようには見えないね」

蒼介「クラス全員から同じ感想を聞きました」

 

口元に扇子をあてて笑いをこらえる秀介。

これではよっぽどの相手でなければ引き立て役になってしまうこと請け合いである。

そういう意味では、誰よりも執事に向いていない男と言えるのかもしれない。

 

 

 

 




というわけで本作品リアルファイト最強候補&試召戦争最強キャラが登場しました!(綾倉先生は既に出ていたけど)
キャラ紹介は巻のラストにまとめて掲載しますのでそれまでお待ちください。
闘う機会はまだまだ先ですが、綾倉先生の数学と物理はチートを通り越してもはやバグです。和真君だろうが蒼介君だろうが太刀打ちできません。


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【バカテスト・数学】
(x + 1)(x + 2)(x + 3)(x + 4)を展開せよ。

姫路 瑞希の答え
x^4 + 10x^3 + 35x^2 + 50x+24

蒼介「正解だ。解き方としては内側と外側をそれぞれ掛け合わせると、(x^2 + 5x + 4)(x^2 + 5x + 6)となるから、
x^2 + 5xをAと置いて展開すれば良い」

土屋 康太の答え
4x + 10 ()()()()

徹「邪魔だからって()を分別しないように」

吉井 明久の答え
姫路さんの答えが正しいことをここに証明する。

蒼介「証明ではなく展開しろ」


和真「ただいま……ってあんま客来てねぇな」

 

テーブルを取り替えたものの、何故か喫茶店内には客が殆どいなかった。

 

秀吉「お、戻ってきたようじゃの」

 

あまり仕事が無いようで、ウエイター(?)の秀吉も暇そうである。 

 

和真「もう昼前だってのに……このままじゃまずくね?」

秀吉「うむ、そうじゃのう……しかし一体どうすればよいものか」

 

二人がそう手をこまねいていると、明久が戻ってきた。

 

明久「ただいまー……って、あんまりお客さんがいないなぁ……」

秀吉「明久も戻ってきたようじゃの」

明久「無事勝ってきたよ。……根本君の尊い犠牲によって」

 

どんな試合内容だったのかとても気になる。

 

秀吉「それは何よりじゃ。ところで、雄二の姿が見えんが?」

明久「うん。トイレに寄ってくるってさ。それより秀吉と和真、これはどういうこと?お客さんがいないじゃないか」

秀吉「……むぅ。ワシはずっとここにいるが、妙な客はあれ以降来ておらんぞ?」

和真「俺は今さっき戻って来たとこだから知らねぇ」

明久「ってことは、教室の外で何か起きているのかな?」

秀吉「かもしれんのう」

 

三人が今後の喫茶店の経営について話し込んでいると、大会を済ませた翔子が帰って来た。

 

翔子「……ただいま」

和真「よぉ翔子、なんか久しぶりに会った気がするんだがまぁ気のせいだな。一応聞くが、勝ったか?」

翔子「……うん。ところで、なんでこんな状態なの?」

和真「さぁね」

 

『お兄さん、すいませんです』

『いや。気にするな、チビッ子』

『チビッ子じゃなくて葉月ですっ』

 

四人が話混んでいると、雄二と少女の声が聞こえてきた。

 

秀吉「雄二が戻ってきたようじゃの」

明久「あ、うん。そうみたいだね」

和真「子供を連れてるみてぇだな。随分面倒見が良いじゃねぇかお前の旦那」

翔子「……雄二は意外と子ども好きだから」

 

旦那発言に周りが一切違和感を覚えないのはご愛敬。

 

『んで、探しているのはどんなヤツだ?』

 

教室の扉が開き、雄二の姿をが見えた。雄二の話し相手の子は小柄なのか、雄二の陰になって姿が見えない。

 

『お、坂本。妹か?』

『可愛い子だな~。ねぇ、五年後にお兄さんと付き合わない?』

『俺はむしろ、今だからこそ付き合いたいなぁ』

 

二人はあっという間にクラスの野郎どもに囲まれた。客がいなくて暇なのだろう

明久「ねぇ和真……今一人ロリコンが紛れてなかった……?」

和真「下手したらそれが原因で姫路転校してしまうかもな」

誰だってそんな危ない奴がいる教室に娘を預けたくはないだろう。

 

『あ、あの、葉月はお兄ちゃんを探しているんですっ』

どうやら少女は人を探していて雄二に声をかけたらしい。

『お兄ちゃん?名前はなんて言うんだ?』

『あぅ……わからないです……』

『? 家族の兄じゃないのか?それなら、何か特徴は?』

 

名前がわからない相手でも探してあげようという雄二の温かい気遣いが感じられる。わざわざ屈んで目線を合わせてあげていることからも、子ども好きであることが伺える。

 

『えっと……バカなお兄ちゃんでした!』

 

なんとも凄いというか、不名誉な特徴である。

 

『そうか』

 

雄二が首を巡らせて、該当する人物を探す。

 

『……沢山いるんだが?』

 

Fクラスはバカの掃き溜めと揶揄されているくらいだから否定はできないだろう。

 

『あ、あの、そうじゃなくて、その……』

『うん?他にも何か特徴があるのか?』

『その……すっごくバカなお兄ちゃんだったんです!』

 

『『『吉井だな!』』』

 

明久を除くFクラス生徒全員の心が一つになった。

そして明久はクラスメイトの不名誉な認識に今にも泣きそうな表情をしていた。

 

明久「全く失礼な!僕に小さな女の子の知り合いなんていないよ!絶対に人違い……」

葉月「あっ!バカなお兄ちゃんだっ!」

 

明久の言葉が言い終わらないうちに少女が駆けていき、明久に抱きついた。

 

雄二「絶対に人違い、がどうした?」

和真「諦めろ明久、お前はそういう役回りだ」

明久「……人違いだと、いいなぁ……」

 

いつだって現実は非情である。

 

明久「って、君は誰?見たところ小学生だけど、僕にそんな年の知り合いはいないよ?」

 

ひとまず顔を見る為に明久は少女を引き剥がす。

 

葉月「え?お兄ちゃん……。知らないって、ひどい……」

 

少女の表情が歪む。どうやら泣かせてしまったようだ。

 

葉月「バカなお兄ちゃんのバカぁっ!バカなお兄ちゃんに会いたくて、葉月、一生懸命『バカなお兄ちゃんを知りませんか?』って聞きながら来たのに!」

明久「どうしよう、僕まで泣きたくなってきた…」

雄二「明久―じゃなくて、バカなお兄ちゃんがバカでごめんな?」

秀吉「バカなお兄ちゃんはバカなんじゃ。許してやってくれんかのう?」

和真「悪いのはバカなお兄ちゃんの頭であってバカなお兄ちゃんは悪くねぇんだ、責めないでやってくれ」

 

少女をなだめるためにこれでもかと言うくらい明久を罵倒する三人。ここまでバカを連呼された人間はそういないだろう。

 

葉月「でもでも、バカなお兄ちゃん、葉月と結婚の約束もしたのに―」

美波「瑞希!」

姫路「美波ちゃん!」

「「殺るわよ!」」

明久「ごふぁっ!」

 

ちょうど教室に戻って来た二人が明久にネプチューンマン顔負けのクロスボンバーをお見舞いした。

 

雄二「姫路に島田か。どうやら勝ったようだな」

和真「なんだかんだで全員勝ち残れてんな」

 

目の前でデンジャラスな光景が繰り広げられているにもかかわらずやけに落ち着いている二人。

 

美波「瑞希。そのまま首を真後ろに捻って。ウチは膝を逆方向に曲げるから」

姫路「こ、こうですか?」

 

それはもはやただの殺戮である。

 

明久「ちょっと待って!結婚の約束なんて、僕は全然―」

葉月「ふえぇぇんっ!酷いですっ!ファーストキスもあげたのにーっ!」

美波「坂本は包丁を持ってきて。五本あれば足りると思う」

姫路「吉井君、そんな悪いことをするのはこの口ですか?」

明久「お願いひまふっ!はなひを聞いてくらはいっ!」

 

このままだとクラスから幼女暴行犯がでた挙句、その容疑者が殺害される事件になりかねない。

 

和真(しかたねぇな……)「そろそろやめとけ二人ともー」

 

明久をリンチしている二人を制服の襟を摘まんで引き剥がす。

 

美波「ひ、柊!なにすんのよ!離しなさい!」

和真「そんな乱暴な性格だから女にしかモテねぇんだよ、お前は(ボソッ)」

美波「うぐぅっ!」

 

和真は美波の耳元で囁いた。

美波の精神に999ポイントのダメージ。

 

姫路「柊君、お仕置きの邪魔をしないでください!」

和真「体脂肪率が俺の五倍もある豚肉女は黙ってろよ(ボソッ)」

姫路「はぅあっ!」

 

和真は姫路の耳元で囁いた。

姫路の精神に9999ポイントのダメージ。

 

「「orz」」

 

二人は目の前が真っ暗になった…… 

 

明久「……助かったけど、二人に何を言ったの?」

和真「聞かない方がいいぜ?」

 

そう言ってニヤリと悪戯っぽく笑った。

持ち前の社交性でこれまであらゆる人間と接してきた和真は、相手が気にしていることやコンプレックスを見抜き、的確に抉ることができるのだ。

 

葉月「あ、お姉ちゃん。遊びに来たよ……って、お姉ちゃん大丈夫です!?」

 

少女が島田を見て泣き止むが、そして真っ白になっている美波を見て驚く。

 

和真「そっとしておいてやれ葉月、そのうち回復するだろうから」

葉月「そうですか……あ、強いお兄ちゃんも久しぶりですっ!」

和真「おー、久しぶり」

明久「……ああっ!あのときのぬいぐるみの子か!」

和真「いきなりデケェ声出すなよ…って、やっぱり知り合いなんじゃねぇか」

 

明久は以前、姉にプレゼント(大きなぬいぐるみ)をしたいけどお金が足りない、という状況だった葉月を助けたことがある。

 

明久(その後監察処分者に認定されたりして色々とバタバタしてたから、すっかり忘れていたよ)

葉月「ぬいぐるみの子じゃないです。葉月です」

明久「そっか、葉月ちゃんか。久しぶりだね。元気だった?」

葉月「はいですっ!」

明久「うんうん。それは良かった。それにしても、よく僕の学校がわかったね?」

葉月「お兄ちゃん、この学校の制服着てましたから」

和真「偉いぞ葉月、明久には到底できねぇ頭脳プレーだ」

明久「和真、君とは一度拳で語り……やっぱりいいや」

和真「諦め早えぇなオイ……」

 

三人で仲良く談笑していると、瀕死状態からなんとか復活した美波が近寄ってきた。

 

美波「あれ?葉月とアキ達って知り合いなの?」

 

三人の様子を見て美波が首を傾げた。

 

明久「うん。去年ちょっとね」

和真「俺は以前公園で俺とこいつと源太、あと仕事サボって河原でのんびりしてたおっちゃんと缶蹴りした仲だ」

美波「アンタなにやってんの!?なんでその辺のおじさんを交えての缶蹴り!?」

明久(なんだろう……その人に凄く心当たりがある……)

 

河原、仕事サボってた、おっちゃん、と聞いて明久はある人物を思い浮かべた。

 

和真「あの時は大変だったなぁ、俺の蹴った缶がその辺を歩いていたチンピラにぶつかってよぉ、そいつが仲間を20人くらい連れて襲ってきてなぁ」

美波「アンタさらっととんでもない事件引き起こしてるのよ!?葉月大丈夫だったの!?」

葉月「はいっ!その時は強いお兄ちゃんと怖そうなお兄ちゃんとだるそうなおじさんが守ってくれたので大丈夫です!」

和真「あぁ、あのおっちゃんやけに強かったな」

美波「…………もうつっこむ気も失せたわ」

 

和真は基本的に周りを振り回すタイプの人間である。一部の例外(例:玉野、蒼介父)を除いては。

 

明久「そう言えば美波こそ葉月ちゃんのこと知ってるの?」

美波「知ってるも何も、ウチの妹だもの」

明久「へ?」

 

まじまじと葉月の顔を見る明久。なるほど言われてみれば確かに雰囲気や顔立ちが似通っている。

 

姫路「吉井君はずるいです……。どうして美波ちゃんとは家族ぐるみの付き合いなんですか?私はまだ両親にも会ってもらってないのに……。もしかして、実はもう『お義兄ちゃん』になっちゃてたり……」

 

姫路の思考回路は日に日に悪化の一途を辿っている。

もしかしたら姫路の父親の判断は正しいのかもしれない。

 

葉月「あ、あの時の綺麗なお姉ちゃん!ぬいぐるみありがとうでしたっ!」

 

そう言ってぺこりとお辞儀をする。闇の帝王も絶賛するほど礼儀正しい子である。

 

姫路「こんにちは、葉月ちゃん。あの子、可愛がってくれてる?」

葉月「はいですっ!毎日一緒に寝てます!」

姫路「良かった~気にってくれたんだ」

和真「つーか、お前ら二人とも知り合いかよ……明久襲う前に確認とれや……」

 

人の話を聞かない、それがFクラス・クオリティ。

 

雄二「ところで、この客の少なさはどういうことだ?」

 

教室内を見渡しながら雄二が皆に聞く。

元々それを考えていたのだが葉月の登場で全員がすっかり忘れていた。

 

葉月「そういえば葉月、ここに来る途中で色々な話を聞いたよ?」

雄二「ん?どんな話だ?」

 

再び屈んで葉月の目線に合わせる雄二。

 

葉月「えっとね、中華喫茶は汚いから行かない方がいい、って」

雄二「ふむ……。例の連中の妨害がまだ続いてるんだろうな。探し出してシバき倒すか」

 

口元に手を当て、まるで確信しているかのように断言する。

 

明久「例の連中って、あの常夏コンビ?まさか、そこまで暇じゃないでしょ」

 

どうやら明久は常夏コンビをただの嫌がらせ目的のチンピラぐらいにしか認識してないようだ。

 

和真「明久、学園祭の出店の悪評流すような暇な連中はあの先輩達しかいねぇだろ」

明久「あ、それもそうか」

 

和真の説明を聞いて明久は納得する。

 

和真「んじゃ、Bクラスに行くぞお前らー」

雄二「待て、どうしてBクラスなんだ?」

和真「悪評広めたいなら人が集まっているところでするのが効果的だろうが」

翔子「……それだったらAクラスの方が」

和真「ソウスケのテリトリーでそんなふざけたことやってみろ、悪評が広まる前にスープのだしにされてるわ」

 

女子一同「スープのだしに!?」

男子一同「やっぱりそれ!?」

 

初めて聞いた女子と以前聞いていた男子で反応が違っているが、その場にいる人間全員が戦慄する。

果たして和真は蒼介をどんなキャラに仕立て上げたいのだろうか?

 

秀吉「和真よ、Bクラスにも五十嵐がおったじゃろう?あやつも大層腕っぷしが強いと聞いているが」

和真「源太はいねぇよ」

明久「え、どうして?何か病気とか?」

和真「Bクラスも喫茶店なんだがよ、アイツ料理できねぇからホールに回ろうとしたんだが…」

『ふむふむ』

和真「あいつ顔が怖いだろ?店のイメージが悪くなるから清涼祭中教室に来ないでってクラスの奴に言われてな、それで拗ねて休むらしい」

『…………………………』

 

非常にいたたまれない気持ちになる一同。

いかつい顔をしている人ほど繊細な性格だったりするのである。なお、この件をきっかけに源太はメキメキと料理の腕を伸ばすことになるのはまた別の話。

 

雄二「じ、じゃあとりあえずBクラスの様子を見に行くか」

明久「そ、そうだね」

 

強引に気まずくなる話を切り替えたた二人。

見事なファインプレーである。

 

葉月「お兄ちゃん、葉月と遊びにいこっ」

明久「ごめんね、葉月ちゃん。お兄ちゃんはどうしても喫茶店を成功させなきゃいけないから、あんまり一緒に遊べないんだ」

葉月「む~。折角会に来たのに~」

 

明久は葉月の頭を撫でながら諭すように言うが、葉月は不満げに頬膨らませる。

喫茶店の成功は姫路の転校にダイレクトに関わる問題だから明久としても全力を尽くしたいのだろう。

 

雄二「それなら、そのチビッ子も連れて行けばいい。飲食店をやっている他の店を偵察する必要もあるからな」

 

そこで雄二のフォローが入る。

敵情視察は経営戦略の基本である。

 

明久「ん~、そっか。それじゃ、一緒にお昼ご飯でも食べに行く?」

葉月「うんっ」

 

膨れっ面から一転して満面の笑みになる葉月。

 

美波「じゃあ葉月、お姉ちゃんも一緒に行くね」

秀吉「ふむ。ならば姫路も雄二と一緒に行くと良いじゃろ。召喚大会もあるじゃろうし、早めに昼を済ませてくるとよい。霧島は―」

翔子「……私も行く」

秀吉「―聞くまでもなかったのう」

 

これでBクラスに偵察に行くメンバーは7人となった。

混雑する学園祭の中を歩き回るには結構な人数である。

 

雄二「それじゃあ行くか、獲物を狩りに!」

『了解!』

 

こうしてFクラス殲滅班がBクラスへ向かった。




はい、というわけで葉月ちゃん登場回。
和真君の交遊関係は相変わらず広すぎです。

それにしても……幼女、おっさん、童顔高校生、強面高校生が公園で仲良く缶蹴り、か

……シュール過ぎる
ちなみに鬼は半ほとんど源太君でした。
缶蹴りは戦場である。

では。


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TRANSVESTISM

【バカテスト・生物】
人間の血液・組織液と浸透圧の等しい、濃度が約0.9パーセントの食塩水を何と言うか。

姫路 瑞希、霧島 翔子の答え
「生理食塩水」

蒼介「正解だ。これに塩化ナトリウム ・ 塩化カリウム・ 塩化カルシウム水和物を加えたものはリンガー液と呼ばれる。こちらは体液の代用液にも使えるので覚えておこう」

吉井 明久の答え
「僕の主食」

和真「悲しいこと言うなよ……」

坂本 雄二、木下 秀吉、土屋 康太、島田 美波の答え
「吉井 明久の主食」

和真・蒼介「……………………」




和真「これがBクラスの店か……」

 

七人はBクラスの店の前まで来ていた。

Bクラスはメイド喫茶。正直言ってベタではあるが無難なチョイスである。

ただ、その店名が……

 

和真「【メイド喫茶『大暴落』】って……Aクラスといい、うちといい、ここといい……まともな店名が一つたりともねぇぞ……」

 

とはいえ流石は上位設備、なかなか繁盛している。

 

ムッツリーニ「…………!!(パシャパシャパシャパシャ!)」 

 

隣を見てみると、指が擦り切れんばかりにシャッターを切るカメラ小僧が一人。

 

明久「……ムッツリーニ?」

ムッツリーニ「………人違い」

 

厨房責任者のクラスメイトはカメラを片手に否定のポーズを取っていた。

 

美波「どこからどう見ても土屋でしょうが。アンタ何してるの?」

ムッツリーニ「………敵情視察」

 

最近の敵情視察とはローアングルから女の子を撮影する事を指すようだ。

 

明久「ムッツリーニ、ダメじゃないか。盗撮とか、そんなことをしたら撮られている女の子が可愛そうだと―」

ムッツリーニ「…………一枚百円」

明久「2ダース貰おう―可愛そうだと思わないのかい?」

美波「アキ、普通に注文してるわよ」

 

美波に指摘されて気づいたような表情の明久。

どうやら無意識だったらしい。

 

ムッツリーニ「………そろそろ当番だから戻る」

 

明久に写真を渡し、ムッツリーニは教室の方に去っていった。

 

明久「まったく、ムッツリーニにも困ったもんだね」

 

そういう台詞はさりげなく写真をポケットに仕舞いながら言うものではない。

 

姫路「吉井君、その写真をどうするつもりなんですか?」

明久(あ、バレた)「やだな~。もちろん処分するに決まってるじゃないか。それよりそろそろお店に入ろうよ。もうすごくお腹減っちゃたよ」

 

秀吉が見れば鼻で笑いそうな白々しい演技である。

流石にこれに騙される人は三年の高城ぐらい……

 

姫路「あ、そうですね。入りましょうか」

 

どうやら姫路は高城に匹敵するほどの騙されやすさのようだ。

 

明久「うんうん。早く敵情視察も済ませないと―写ってるのは男の足ばっかりじゃないか畜生!」

姫路「やっぱり見てるじゃないですかっ!」

明久「ご、ごめんなひゃい!くひをひっぱらないで!」

 

姫路に頬をつねられる明久。そして足元では葉月が明久の腿をつねっていた。

 

雄二「それじゃ、入るぞ」

 

一番手でドアをくぐる雄二。

 

 

「おかえりなさ―あ、アンタは!?」

「Fクラスの……!」

 

ドアを開けるとメイド服を来た女子生徒二名が笑顔で出迎えるが、雄二と明久の顔を見た途端しかめっ面になった。

 

「「……お帰りくださいませ、ご主人様」」

雄二「んだとコラ!」

明久「ちょっひどくない!?」 

 

そして「帰れ」宣言。

客に対してあまりにも失礼な物言いだが、別に明久達が問題児であるからこういう態度をとっている訳ではない。

この二人は岩下 律子と菊入 真由美。

Bクラス戦で姫路の『熱線』の餌食となった生徒達であり、今回の召喚大会では明久と雄二の一回戦の相手だったりする。

二度に渡って辛酸を舐めさせられているためFクラス、特に一回戦で屈辱的な敗北を喫した明久と雄二を良く思っていないのである。

 

岩下「……Fクラスのバカどもが何しに来たのよ?」

菊入「言っておくけど、うちで騒ぎを起こしたらただじゃおかな―」

和真「はいストップー」

 

険悪になりつつあった雰囲気に和真が割り込む。

するとしかめっ面を浮かべていた二人の態度が急変した。

 

岩下「ひ、柊!?」

菊入「柊君!?」

和真「岩下、菊入、こいつらと何があったか知らねぇが、接客中に私情持ち込んだらダメだぜ?」

 

小さい子をたしなめるように言う和真。

 

岩下「わ、わかったわよ……」

菊入「……ごめんなさい」

和真「わかれば良し」ナデナデ

 

そう言って二人の頭を撫でる和真。

完全に二人を子ども扱いしている。

 

岩下「っ! お席にご案内いたします///」

菊入「…………///」

 

顔を紅潮させた二人が歩き出したので、和真達はその後ろ姿についていった。

 

明久「ねぇ和真」

和真「あん?」

明久「一発だけでいいから殴らせて」

和真「やだね」

 

このように、和真は誰にでも壁を作らず気軽に接する為、意図せず異性を虜にする性質を持っている。

もっとも本人はスポーツ優先のため、付き合う→別れる→付き合う→別れるのサイクルを50回以上繰り返しているのだが。

店内に入ると、流石は上位クラス、Aクラスほどではないがやはり繁盛しているようだ。客はほとんど男なのはメイド喫茶だからだという理由だけでなく、女性客はだいたいAクラスに流れているからである。

 

岩下「では、メニューをどうぞ」

美波「ええと……。ウチは『ふわふわシフォンケーキ』で」

姫路「あ、私もそれがいいです」

葉月「葉月もー!」

 

美波、姫路、葉月は揃ってシフォンケーキ。

 

明久「僕は『水』で。付け合せに塩があると嬉しい」

和真「奢ってやるからもっとマシなもん頼め……悲しくなってくるわ……」

明久「マジで!?ありがとう和真!じゃあ僕はカルボナーラで!」

和真「さっきまで俺を殴りたいとか言ってたのに現金だなオイ……俺はこの特盛カツカレー『壮大かつ華麗』ってやつで」

雄二「じゃあ俺もそれで。翔子、お前は」

翔子「……婚姻届」

雄二「んなもん飲食店にあるか!」

和真「そうだぞ翔子。第一お前婚姻届なら持ってるじゃねぇか、実印込みで」

翔子「……そうだった。じゃあ私もシフォンケーキ」

雄二「待て待て待て待て待てぇっ!今聞き捨てならねぇこと言ったよな!?」

 

和真は翔子をたしなめるが、予想外の発言に動揺した雄二が叫び声をあげる。

 

雄二「おい翔子!今の本当なのか!?嘘だよな!?嘘だと言ってくれ!」

 

見事にいいように翻弄されている雄二。

和真、雄二、翔子の三人が集まるとだいたい雄二が弄られ役になるのは言うまでもない。

 

菊入「食器をご用意します」

 

注文の確認をとり、それぞれに食器を配ったあと、二人は優雅にお辞儀してキッチンへ歩いていった。

 

雄二「……明久。俺はどうしても召喚大会に優勝しないといけないんだ……!」

明久「あ、うん。それはもちろん僕もそうだけど」

雄二(和真にも負けられねぇ……あいつは絶対面白半分で翔子にチケットを譲る。あいつはそういう奴だ……!

上等だ……俺の自由は絶対に守りきってやる!)

 

雄二はいまだかつてないほど闘志を燃やしていた。

今手を組んでいる相棒も、和真と似たり寄ったりな行動をするだろうことが頭から抜け落ちているあたり、元神童の頭脳はやはり空回りしているようだ。

 

明久「んで、葉月ちゃん。キミの言ってた場所ってここで良かった?」

 

昼食を取りながら明久が葉月に聞いた。

 

葉月「うんっ。ここで嫌な感じのお兄さん二人がおっきな声でお話してたの!」

 

明久の質問に葉月が元気良く答える。

嫌な感じのお兄さん二人といえば……

 

『おかえりなさいませ、ご主人様』

『おう。二人だ。中央付近の席は空いてるか?』

 

「あ、あの人達だよ。さっき大きな声で『中華喫茶は汚い』って言ってたの」

 

大方の予想通り常夏コンビであった。

さっきもこの辺で聞いたという事はどうやら通いつめているようだ。

 

『それにしてもこの喫茶店は綺麗でいいな!」

『そうだな。さっきいった2-Fの中華喫茶は酷かったからな!』

『テーブルが腐った箱だし虫も沸いてたもんな!』

 

人の多い喫茶店の中央で、わざわざ大声で叫びあう。

そんなことをされたら悪評が広がる一方である。

 

雄二「待て、明久」

 

殴りかかりに行こうと立ち上がった明久を雄二が止める。

 

明久「雄二、どうして止めるのさ!あの連中を早く止めないと!」

雄二「落ち着け。こんなところで殴り倒せば、悪評は更に広まるぞ」

 

こんなに人の多い場所で殴り飛ばしたら、Fクラスは悪童の溜まり場なんて言われかねない。

そうなれば喫茶店の経営も厳しくなり、もし姫路の父親の耳に入れば姫路の転校が確定してしまう。

 

明久「けど、だからってこのまま指をくわえて見えいるなんて……!」

雄二「いや、やるなら頭を使えということだ。和真」

和真「あん?(モキュモキュ)」

雄二は『壮大かつ華麗(二杯目)』をやけに美味しそうに掻っ食らっている和真に声をかける。

 

雄二「Bクラスから予備のメイド服を借りてきてくれないか」

和真「………なるほどな、了解。おーい、菊入ー!」

 

常夏コンビをがいることを確認して事情を察した和真は近くにいた菊入に声をかける。

 

菊入「ど、どうしたの柊君?」

和真「あそこにいる坊主とモヒカン、ここに来んのは初めてか?」

菊入「いや、さっき出て行ってまた入ってきたよ。ずっと同じようなことを言ってるの」

 

顔をしかめながら答える菊入。Bクラスにとっても迷惑な客のようだ。

 

和真「そっか、それじゃあとりあえず、予備のメイド服貸してくれ」

菊入「え?どうして?」

和真「あいつらが邪魔だけど手が出しずらいのはお互い様だろ?俺達が合法的に始末してやるよ」

菊入「う~ん、よくわからないけど柊君がそう言うなら…わかった、持ってくるよ」

 

そう言って菊入は去っていった。

 

『あの店、出している食い物もヤバいんじゃないか?』

『言えてるな。食中毒でも起こさなければいいけどな!』

『に二-Fには気をつけろってことだよな!』

 

明久「雄二、和真!なんでもいいから早く連中を!」

雄二「いいからもう少し待っていろ。姫路に島田、櫛を持ってはいないか?」

姫路「? 持っていますけど……」

雄二「ちょっと貸してくれ。他にも身だしなみ用の物があれば全部」

姫路「はぁ……」

 

ごそごそと上着のポケットをあさって小さなポーチを取り出し、雄二に渡す。

 

雄二「悪いな。あとで必ず返す」 

 

それからちょっとして、菊入もメイド服を抱えて戻って来た。

 

菊入「柊君、はい」

和真「お、サンキュー」

菊入「あ…あの、できればさっきみたいに撫でて欲しいな……」

和真「あいよ。あ、ほれ、雄二」ナデナデ

菊入「はうぅ……///」

 

片手で菊入の頭を撫でながら和真は雄二にメイド服を渡す。

 

雄二「……お前が30分足らずでフラグを建築したことはとりあえずスルーして……一通り集まったな」

明久「普段なら殴りかかっているところだけど時間が惜しいから今はスルーして……で、これをどうするんの?」

雄二「着るんだ」

 

雄二はあっけらかんと言う。

明久を見ながら。

 

明久「だってさ、姫路さん」

姫路「え?わ、私が着るんですか?」

雄二「バカを言うな。姫路が着ても攻撃なんてできないだろうが。翔子も同じ理由で除外だ」

 

勘違いされやすいが、翔子が攻撃するのは雄二onlyである。

 

明久「それじゃ、美波?でも、胸が余っちゃうとぶべらぁっ!」

美波「ツギハ、ホンキデ、ウツ」

和真(脇が甘ぇ、50点)

 

美波の殺気に明久がおののいている一方で、和真は和真でずれたことを考えていた。

おまけに無駄に採点が厳しい。

 

明久「じゃ、じゃあ和真?」

和真「え?なにその案?死ねよ屑が」

明久「あれ!?和真ってそこまで辛辣な人だった!?」

 

しつこく女装を強要してくるバカにフラストレーションが溜まっているため、この手の話題では辛辣度300%の和真であった。

 

明久「……まさか」

雄二「着るのはお前だ」

明久「いやあぁぁぁっ!」

 

その瞬間、明久は心の底の底から叫んだ。

 

明久「雄二が着ればいいじゃないか!無理をしたら着られるはずだよ!」

雄二「やれやれ。わがままを言うヤツだな。それなら、あっち向いてホイで決めないか?」

 

雄二の提案。それは明久を陥れる前触れである。

しかし以前あれだけ騙されたのだ。流石これを受けるほどバカではないだろう。

 

明久「よし、その提案を受けるよ」

 

吉井 明久は本当に、予想を悪い意味で越えてくる。

 

雄二「それなら行くぞ、ジャンケン」

明久「ポン」

 

明久がパーで雄二がチョキ、ここは明久の負け。

 

雄二の「あっち-」

 

雄二が勢いよく人差し指を出す。

 

明久(これは-あれか!指を避けようとして顔を背けたら、その方向を指して勝負を決定付ける裏技か!)「その手に乗るかっ!」

 

明久が目を逸らさず、キッと雄二の指先を見つめる。

 

雄二「向いて-」

 

ブスッ(←雄二の指が明久の目に刺さる音)

 

明久「ぎいやぁぁっ!目が、目がぁっ!」

 

目を押さえてのけぞる明久。

その隙に雄二が明久がのけぞった方向を指す。

 

雄二「ホイ!……ふっ!俺の勝ちだな」

 

坂本 雄二がそのような生ぬるい策など立てる筈がない。ましてや明久に配慮した策など論外だ。

 

姫路「あの、吉井君。大丈夫ですか?」 

 

心配しながら明久にハンカチを差し出す姫路。

 

明久「ありがとう。まったく、雄二の卑劣さには驚かされるよ」

 

明久は渡されたハンカチを受け取って目に当てる。

 

姫路「あ、あはは……でも、きっと大丈夫ですよ」

明久「そうだよね。あんな卑怯な勝負は無効-」

姫路「吉井君ならきっと可愛いと思いますっ」

 

果たしてそこは問題なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「こ、この上ない屈辱だ……!」

秀吉「明久、存外似合っておるぞ」

和真「…………まあドンマイ」

 

雄二から連絡を受けてわざわざやってきた秀吉が、男子トイレで明久の着付けをたった数分で片付けた。

いつもなら爆笑しているであろう和真だが自分も玉野に何度も迫られているため、同情的なまなざしを送っていた。

 

秀吉「では、ワシは喫茶店に戻るぞい。存分に悪党をのしてくるが良い」

明久「ん、りょーかい」

 

そのまま二-Aの教室に入り、明久は周囲の目を気にしながら常夏コンビに近寄る。

 

常村「とにかく汚い教室だったよな」

夏川「ま、教室のある旧校舎自体も汚いし、当然だよな」

明久(こいつらにとってははただの嫌がらせでも、僕達にしてみれば大事なクラスメイトの命運をかけた喫茶店なのに……許せない)「お客様」

 

明久がこのクラスのウェイトレスを装い声をかける。

 

明久(こいつら…………絶対に潰す)

 

夏川「なんだ?-へぇ。こんなコもいたんだな」

常村「結構可愛いな」

 

舐めるような視線を明久に向ける。

 

明久(き、気持ち悪っ!) 

 

先程までの闘志が一瞬で萎えかけたがなんとか持ち直す。

 

明久「お客様、足元を掃除しますので、少々よろしいでしょうか?」

夏川「掃除?さっさと済ませてくれよ?」

明久「ありがとうございます。それでは-」

夏川「ん?なんで俺の腰に抱きつくんだ?まさか俺に惚れて」

 

明久「-くたばれぇぇっ!」

夏川「ごばぁぁっ!」

 

明久のバックドロップが決まった。これで夏川は本日二度目の脳天痛打となる。

 

夏川「き、キサマは、Fクラスの吉井……!まさか女装趣味が……」

明久「こ、この人、今私の胸を触りました!」

夏川「ちょっと待て!バックドロップする為に当ててきたのはそっちだし、だいだいお前は男だと-ぐぶぁっ!」

雄二「こんな公衆の面前で痴漢行為とは、このゲス野郎が!」

 

痴漢退治という大義名分を得て意気揚々と雄二が登場。表面上は怒りを露にしているが腹の中ではほくそ笑んでいることだろう。

 

常村「何を見てたんだ!?明らかに被害者はこっちだぞ!」

倒れている夏川に代わり常村が雄二に食ってかかる。

雄二「黙れ!たった今、コイツはこのウェイトレスの胸をもみしだいていただろうが!俺の目は節穴ではないぞ!」

 

和真「どう考えても節穴だろ(モッサモッサ)」

美波「アンタ本当にマイペースね……」

 

デザートのフルーツタルトを頬張りながらつっこむ和真に美波は呆れたように呟く。

 

雄二「ウェイトレス。そっちの坊主は任せたぞ」

明久「え?あ、はい。わかりました」

倒れている夏川に近づく明久。

明久(う~ん。この坊主、どうしよう?とりあえず……

 

秀吉に押し付けられたブラジャーでも頭に付けてみるかな。瞬間接着剤で)

 

ど う し て そ う な っ た

 

雄二「さて。痴漢行為の取調べの為、ちょっと来てもらおうか」

 

一方でバキボキと指を鳴らしながら常村に近づく雄二。

 

常村「くっ!行くぞ夏川」

夏川「こ、これ、外れねぇじゃねぇか!畜生!覚えてろ変態めっ!」

 

夏川は頭にブラをつけたまま走り去って行った。

今日のお前が言うなスレはここである。

 

雄二「逃がすか!追うぞアキちゃん!」

明久「了解!でもその呼び方勘弁して!」

 

二人の後を追って明久と雄二も廊下に飛び出す。

 

和真「さて、そろそろ校庭に行くか。ほい、俺と明久の飯代。雄二の分は翔子が出すと思うから」

 

そう言って和真は会計の岩下にお金を渡す。

 

岩下「どうもありがとうございます。あと、例の二人組追っ払ってくれてありがとね」

和真「迷惑してたのはこっちも同じだからな。あと礼は実行した二人に言ってやれ、もういねぇけど。じゃあそろそろ行くか」

岩下「いってらっしゃいませご主人様!召喚大会頑張ってね、応援してるから!」

和真「そいつはどーも」

 

そう言って和真は颯爽と教室を出ていった。岩下と菊入だけでなく、Bクラス女子の何人かも熱い視線を送っている。

 

 

 

美波「…アイツ、いつか後ろから刺されるんじゃない?」

翔子「……和真に闇討ちは通用しないから大丈夫」

美波「翔子、問題はそこじゃなくてね……」

 

 

 

 

 

 

徹「おや、今回は早いんだね(モッサモッサ)」

 

特設ステージ前で和真が待機していると、御手洗団子に練乳をかけて食べながら徹がやって来た。

 

和真(……毎回思うが甘い物に甘い物かけて食べるのはどうなんだ?見るだけで胸焼けがしてくるんだけど)

 

糖尿病に向かってノンストップで全力疾走している。将来確実に医者のお世話になるだろう。

 

徹「で、今回の対戦相手が……この人達か……」

和真「前回とはうってかわって強敵だなぁ♪」

 

おもちゃを買ってもらった子どものようにとても楽しそうに笑う和真。

 

徹「前回もある意味強敵だったけどね」

和真「や め ろ」

徹「……そうだね、すまない」

 

 

 

 

 

 

《三回戦・現代社会》

『Fクラス 柊 和真

Aクラス 大門 徹

VS

Aクラス 小暮 葵

Aクラス 金田一 真之介』

 

 

 

 




というわけで、常夏コンビ撃退part2でした。
フラグを建築→ぶっ壊すを繰り返す和真君はさながら積み木崩しのようです。

金田一真之介…七巻の野球大会でAクラス四番というかなりの重要ポジションにいながら見せ場も無く姫路の凶球で散ったバカテスでも一、二を争う不遇キャラです。
本作品では学年三位の実力者という位置付けにしました。

名前出は初ですが、金田一君は既に出しています。
さて、どこでしょうか?

Bクラス人気メニュー、
特盛カツカレー『壮大かつ華麗(壮大カツカレー)』
1500キロカロリーでお値段600円

姫路「…………ちなみに、柊君の体脂肪率は?」
和真「5%」
姫路「orz」

では。


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二人の差

【バカテスト・古典】
()の中に適語を入れなさい
及ばざるは( )

柊 和真・霧島翔子の答え
(過ぎたるに勝れり)

蒼介「正解だ。これは徳川家康の遺訓で、物事はやりすぎたものを元に戻して修復するのは困難であり、まだ不十分であった方がこれから努力するなど手を施すことができるので始末が良い、という意味だ」

木下 秀吉の答え
(過ぎたるが如し)

源太「問題作成者の期待通りの引っ掛かりだな。それは『過ぎたるは及ばざるが如し』の間違いだろ(まあ俺様も同じ間違いだったんだが……)」

吉井 明久の答え
(カロリー)

蒼介「一応言っておくがテストは食生活の愚痴を書くことでは無いぞ」

島田 美波の答え
(……ウチの胸)

源太「だからってコンプレックスをカミングアウトすることでもねぇよ」

大門 徹の答え
(……僕の身長)

蒼介「大門、お前もか」


金田一「よぉ柊、この間の練習試合以来だな」

和真「あれからサッカー部の調子はどうすか?金田一先輩」

金田一「そりゃ毎日くたばるまで猛練習だよ。近々リターンマッチ申し込むから首洗って待ってろよ」

和真「望むところっす」

 

金田一 真之介。

サッカー部主将かつ第三学年三位の優等生。

黒髪のスポーツ刈りといった、いかにもさわやか系スポーツマン風の青年である。

以前『アクティブ』に歴史的大敗を喫するという屈辱を味あわされているが、どうやら本人は『アクティブ』を疎んでいるわけではないようだ。

常夏コンビに彼の爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。

 

金田一「ま、サッカーの前に召喚獣で勝たせてもらうがな」

和真「……そいつはできねぇ相談ですなぁ」

 

金田一が挑発的に笑い、和真も笑みを浮かべている。闘いは勝負の前に既に始まっているようだ。

 

小暮「大門君が相手ですか、これは気を引き締めなければなりませんわ」

大門「できれば舐めきってくれているほうがいいんですけどね、足を掬い易いんで」

 

小暮 葵。茶道部及び新体操部に所属しており、三年学年五位のこれまた優等生。

黒髪を結い上げた切れ長の目の美女であり、第三学年のマドンナ的存在だ。

この女子生徒が金田一と組んで召喚大会に出場していることをFクラス生徒が知れば、確実に暴動が起きるだろう。

ちなみにこの二人の仲は悪くないが、付き合っているわけではない。お互い受験前の記念に召喚大会にでも出ようと考えていたところ、利害が一致しただけである。

 

「では、召喚して下さい」

 

立会人を務める福原先生が召喚を促す。

 

『試獣召喚(サモン)!』

 

お馴染みの魔方陣からそれぞれの召喚獣が出現する。

金田一の召喚獣は騎士鎧にツヴァイハンダー(両手剣)、小暮の召喚獣は着物に鉄扇だ。

 

《現代社会》

『Fクラス 柊 和真 400点

Aクラス 大門 徹 308点

VS

Aクラス 小暮 葵 336点

Aクラス 金田一 真之介 389点』

 

お互いの点数はほぼ互角である。

 

和真「三年生は俺達よりテストムズいのに、流石ですね、二人とも」

金田一「これでも学年三位と五位だぜ?」

和真「三年生にもピンキリあるんすね」

 

常夏コンビを脳裏に浮かべながら和真は呟く。

 

和真「それじゃあ……始めましょうか!」

 

そう言った直後、和真と徹はそれぞれの召喚獣と共に左右に移動した。

 

金田一「むっ!……小暮、大門を頼んだ!」

小暮「承知しましたわ」

 

それを追うように二人も左右に離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【大門 徹VS小暮 葵】

 

小暮「まだまだですわね」

徹「くっ……!やはり操作にも慣れているか」

 

〈徹〉はガントレットで果敢に攻めるも、〈小暮〉は素早い動きでそれをかわし、隙を突いては反撃をしてダメージを重ねていく。

〈小暮〉の装備は装甲が薄い分機動力に優れているので、ガッチガチの重戦車型である〈徹〉では相性はあまり良くないのだ。

 

小暮「隙あり!」

 

大振りの隙を突いて〈小暮〉は鉄扇を浴びせる。甲冑ごしなのでダメージは大きくないが、両者の点数差はどんどん開いていく。

 

 

《現代社会》

『Aクラス 大門 徹 173点

VS

Aクラス 小暮 葵 336点』

 

徹(このままじゃジリ貧になるな…………それなら!)

 

先ほどまでがむしゃらに攻撃していた〈徹〉が、突然動きの一切を放棄した。

 

小暮(ふむ、なるほど……私の攻撃を誘い、カウンターで反撃しようとしているのですね。大門君の召喚獣は防御に秀でているので、確かにそれは良い手段ですわ………………しかし残念ながら、)

 

おもむろに〈小暮〉は鉄扇を折り畳み、

 

 

 

高速で〈徹〉の、唯一鉄鎧に覆われていない顔を正確に突き刺した。

 

徹「……なっ!?」

小暮(そう闘ってくる相手の対処法は心得てますわ)

 

三年生が二年生より上回っていることはなにも召喚獣の操作技術だけではない。

一年長くこの学園にいる彼等は、二年生に比べてより多くの試召戦争を経験している。

その中で様々な装備、あらゆる武器、多種多様の戦術を駆使する敵と闘って来たのだ。その戦闘経験は二年生に対して大きなアドバンテージとなる。

つまり、キャリアが違うのだ。徹の策は小暮にとっては飽きるほど見てきたものであり、それの対策は既に体に染み付いている。

生身の部分に直撃を喰らい、のたうち回る〈徹〉。そんな隙を小暮が見逃す筈もなく、追撃を加えて止めを差した。

 

 

《現代社会》

『Aクラス 大門 徹 戦死

VS

Aクラス 小暮 葵 336点 』

 

 

小暮「それでは、失礼いたしますわ」

 

呆然と立ち尽くす徹に優雅に一礼した後、小暮は金田一を援護しに行った。

 

徹(1点も削れなかった……惨敗だ、チクショウ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【柊 和真VS金田一 真之介 】

 

小暮が徹を手玉にとっている頃、こちらの二人はお互い様子見と言わんばかりに鍔迫り合いをしていた。

 

金田一「オメーら開始早々二手に分かれやがって。これじゃタッグマッチの意味ないだろうが」

和真「そっちは三年ですからねぇ、コンビネーションじゃ勝ち目ないで……しょっ!」

 

〈和真〉は槍を構え直し、すぐさま横に薙ぐ。〈金田一〉はバックステップでそれをあっさりとかわし、すぐさま唐竹割りで反撃する。しかし〈和真〉は一瞬で体勢を直しそれを交わす。

 

和真「それにな、基本的に俺ぁ一人で闘う方が得意でねぇ!」

金田一「まぁそんなごっつい武器でそんな闘い方ならそうだろうな」

 

召喚獣の操作技術はほぼ互角、一進一退の攻防である。

 

 

《現代社会》

『Fクラス 柊 和真 326点

VS

Aクラス 金田一 真之介 303点』

 

 

金田一「ところで、なんでお前は腕輪能力使わないんだ?」

 

その科目で400点以上(総合科目で4000点以上)の点数の召喚獣には特殊能力を持った『金の腕輪』が装備される。

その力はどれも極めて強力であり、400点と399点の間には絶対的な壁が存在する。

和真の腕輪能力は点数消費の激しさと引き換えに数ある腕輪の中でも最上級の殲滅力を備えている。もし開戦と同時にそれを使っていればその時点で勝負が決まっていたかもしれない。

それに対する和真の返答はこうだ。

 

和真「せっかくの召喚大会だ、こんなつまらねぇもん使ったらもったいないじゃないっすか」

金田一「それはそれは…いかにも、オメーらしい理由だな」

 

クラスの命運がかかった試召戦争とは違って、この召喚大会は趣味で参加したものである。

当然優勝商品などに興味は無く、クラスの宣伝も投書は姫路の事情を知らなかったので後付けである。

 

和真の目的は、ただ闘うことだけ。

大会に参加した強者達と闘い、ねじ伏せる。

そうすることによって和真の心は満たされる。

腕輪など使ってしまったら、和真がこの大会に参加した意味が無いのである。

 

和真「じゃあそろそろ……攻めるかぁ!」

 

和真の召喚獣は槍を構え、高速でダッシュしながら槍を右から左に薙ぐ。

 

金田一(またそれか……無駄だ!)

 

先程と同じように〈金田一〉はバックステップでそれをかわす……が、

 

 

 

和真「オラァァァァァァ!」

 

〈和真〉はさらにもう一歩踏み込み、今度は左から右に槍を薙ぎはらった。

 

金田一「なにィっ!?」

 

回避中だったためろくにガードもできず、槍の柄の部分がクリーンヒットし、〈金田一〉は吹っ飛ばされる。

 

和真は翔子や姫路を差し置いてFクラス最強との呼び声が高い。その理由は大きく分けて三つある。

一つ目は召喚獣のスペックと武器のコンボだ。

和真の槍は召喚獣よりも遥かに大きい。この武器はリーチと破壊力がある代わりにとても重く、普通は突き技専門の武器である。だが和真はその常識にあてはまらない。和真の召喚獣は防御を犠牲にして、学年でも並ぶものがいないほどの膂力を備えている。その圧倒的な膂力と三年生にも引けを取らない操作技術により、普通なら大きく振りかぶらなければならない大振りの攻撃をノーモーションでくり出す、薙ぎ払いを中断し逆の方向に薙ぐ、といった変幻自在の攻撃を可能とする。そして、攻撃と攻撃の間の間隔が短いために相手は攻撃をしずらくなり、それによって致命的な防御力の低さを補っているのだ。

 

 

《現代社会》

『Fクラス 柊 和真 326点

VS

Aクラス 金田一 真之介 178点』

 

鎧ごしの攻撃にもかかわらず〈金田一〉はかなりのダメージを負ったが、和真の攻めはこの程度では終わらない。

 

和真「まだまだぁっ!」

 

吹っ飛ばされた相手の召喚獣に超スピードで突っ込む〈和真〉。

 

金田一「チィッ!あんま見くびってんじゃねぇぞ!」

 

すぐさま体勢を立て直し、〈金田一〉はツヴァイハンダーで槍を受け止める。この操作技術と判断力は流石三年生といったところだ。

しかし〈和真〉は即座に槍から手を離し、素手で殴りかかった。

 

金田一「なっ!?」

 

予想外の攻撃に〈金田一〉がのけぞっている隙に、〈和真〉は槍を拾い追撃を加える。 〈金田一〉はなんとかかわしていくも、時間がたつにつれどんどん追い詰められていく。

 

《現代社会》

『Fクラス 柊 和真 326点

VS

Aクラス 金田一 真之介 96点』

 

金田一(くっ、この読めない攻め方、まるで佐伯と闘ってるみたいだぜ……)

 

そして二つはそのトリッキーな戦術。

先程も述べたように、三年生は召喚獣の戦闘経験が豊富であるため、相手がどう攻めてこようが大抵の攻め方に対する対処法は熟知している。

しかし和真と闘う場合そんな戦闘マニュアルなどまるで役に立たない。闘い中に獲物から手を離すような相手との戦闘経験などなかなかないだろう。

言うまでもなく和真は天才と言える人間である。

彼の柔軟な思考が相手が予測できない型にはまらないトリッキーな戦法を可能にしているのだ。

 

金田一(まずい……このままじゃ……)

小暮「金田一君、援護しますわ!」

 

駆けつけた〈小暮〉が後ろから〈和真〉を攻撃しようとするも、そんなことを和真が許すハズもない。

 

和真「オラァァァッ!」

 

即座に後ろを向き、〈和真〉は突きを食らわせようとする。

 

小暮(っ!?回避は間に合わない!ここはガード……)

 

その奇襲に冷静に対処し、〈小暮〉は鉄扇でガードしようとする。

 

 

 

だが、

 

 

 

《現代社会》

『Fクラス 柊 和真 326点

VS

Aクラス 小暮 葵 戦死』

 

 

小暮「……っ!?」

 

〈和真〉の破壊力を見誤ったのが運の尽き、巨大な槍は鉄扇ごと〈小暮〉を貫いた。

 

三つの理由は説明するまでもない。

そのパワーからくり出される圧倒的な攻撃力、腕輪能力にも匹敵しかねない突きである。

 

金田一(小暮、お前の犠牲は無駄にはしねぇ!)

 

背を向けている〈和真〉に〈金田一〉は斬りかかる。

 

和真「甘ぇよ!」

 

だが〈和真〉は背を向けたまま〈小暮〉が刺さったままの槍を引き戻し、

 

 

 

〈小暮〉が消滅する前に体を引きちぎり、〈金田一〉に向けて投げつけた。

 

金田一「うぉ!?」

 

〈金田一〉は〈小暮〉の上半身が肩に当たったことで、そのままバランスを崩して崩して倒れ込んだ。

その隙に〈和真〉は再び必殺の突きを繰りだし、〈金田一〉はガードも回避もできずに槍の餌食になった。

 

 

《現代社会》

『Fクラス 柊 和真 326点

Aクラス 大門 徹 戦死

VS

Aクラス 小暮 葵 戦死

Aクラス 金田一 真之介 戦死』

  

 

福原「勝者、柊・大門ペア」

 

 

 

小暮「私達の完敗ですわ」

金田一「まさか、戦死した小暮の召喚獣を武器にするとわねぇ……」

和真「戦場にあるものは全て武器っつうスタンスなんで」

 

一回戦で相棒を武器にした人が言うと説得力がある。

 

金田一「ま、俺等に勝ったんだ。……次の試合、引き締めて行けよ」

小暮「……梓は私達よりもずっと手強いですわよ」

和真「……言われなくてもわかってますよ」

 

軽く言葉を交わした後、四人は特設ステージから解散した。

 

 

 

 

 

徹「……和真、すまない」

和真「んあ?何が?」

 

教室へ戻る途中、藪から棒に徹が謝罪する。

 

徹「全く手も足もでなかったよ……こんなんじゃあパートナー失格だな……」

 

1ヶ月前、試召戦争で刃を交えた二人。

片方は一切ダメージを与えられず、惨敗。

もう片方は二人を相手取って勝利した。

徹は自分と和真の差が大きく広がってしまったを痛感していているようだ。

 

和真「なんだそんなことか、あんま気にすんなよ」

徹「気にしないわけがないだろう!僕は―」

和真「あのな、」

 

徹の言葉を遮って和真は言葉を続ける。

 

和真「負けて悔しいなら次勝てよ。一回の失敗に悔いが残ってんなら、さっさとそれを精算するよう努力しろ。お前は、『アクティブ』の一員だろ?」

 

そう言い残し、和真はFクラス教室に向けて去っていった。

 

 

徹「…………ふっ、君は相変わらずだね……」

 

徹のその呟きを聞いた人は誰もいなかった。




というわけで、過去最長のバトルシーンでした。
徹君が惨敗した一番の理由は、致命的に相性が悪かったからです。そこまで実力に差はありません。

今回は半オリジナルキャラの金田一君で。

金田一 真之介
・性質……攻撃特化&防御軽視型
・総合科目……3900点前後 (学年3位)
・400点以上……古典・英語
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……S
機動力……B
防御力……C+
・腕輪……まだ不明

和真とほぼ同等の点数を誇る第三学年の主力。
しかし、首席及び次席とは結構差があるらしい。


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営業戦略

【バカテスト・日本史】
大和絵の一派である住吉派の住吉如慶の子で、江戸幕府御用絵師として活躍した人物は誰か。

柊 和真の答え
『住吉 具慶』

蒼介「正解だ。ちなみに『洛中洛外図巻』、『東照宮縁起絵巻』などが代表作だ」
飛鳥「幕府の御用絵師は当時『狩野派』の独占状態だったから、彼が召し抱えられたことがどれだけ凄いかがわかるわね」

島田 美波の答え
『住吉 愚兄』

蒼介「まだ漢字には慣れていないようだな」
飛鳥「これだとただのバカ兄貴になるわね」

木下 秀吉の答え
『吉井 明久』

蒼介「微妙に島田の答えとリンクしているな」
飛鳥「愚兄=バカなお兄ちゃん=吉井君ってことね……」


秀吉「で、三回戦は不戦勝じゃったと?」

明久「うん。食中毒で棄権したんだ」

 

Fクラス教室内で、秀吉、和真、翔子、明久、雄二が話し合う。

あれから色々あって常夏コンビを取り逃がした後、慌てて会場に向かった三回戦だが、対戦相手がまさかの食中毒で棄権という拍子抜けの結果だった。

 

和真「ったく、こっちは激戦だったってのになにもせず勝ち抜くとはいい身分だなオイ」

 

こんな言い方をしているが戦闘狂の和真のことだ、同じことが自分に降りかかれば間違いなくがっかりしていただろう。

 

秀吉「ならば、済まぬがこっちの立て直しに協力してくれんか?」

雄二「そうだな。一度失った客を取り戻す為にも、何かインパクトのあることをやる必要がありそうだな」

 

教室の中は相変わらず空席だらけ。悪評の元は潰したが、流れた噂はどうしようもない。ここらで一つ大きなことをやらないとお客さんは来てくれないだろう。

 

翔子「……雄二、どうするの?」

 

教室内を見渡しても、できそうなことは特に無い。

 

雄二「任せておけ。中華とコレでは安直過ぎる発想だが、効果は絶大なはずだ」

 

そう言って雄二は見事な刺繍の入ったチャイナドレスを数着取り出す。

 

秀吉「ほう。若干裾が短いような気もするが、こるならば確かにインパクトはあるじゃろうな。コレを宣伝用に―」

雄二「ああ。コレを明久と和真が―」

 

ドゴォォォォォ!

 

雄二が言い終わる前に、和真は雄二の後頭部を片手で掴み、顔面から床に叩きつけた。

 

雄二「いだぁぁぁ!?」

和真「さて、今からお前の土手っ腹に『ネオタイガーショット』を喰らわせるが、遺言があるなら聞いてやる」

 

床でのたうち回る雄二を恐ろしく冷たい目で見下ろし、シュート体勢に入りながら和真は死の宣告をする。

 

雄二「待て待て待て待て待てぇぇぇ!冗談!冗談だからよせぇぇぇ!」

 

ぶつかった衝撃で鼻から血を流しながら猛然と命乞いをする雄二。和真の脚力で無防備の腹にネオタイガーショット(タイガーショットよりも力強く蹴ること)なんか喰らったら最低でも病院送り間違いなしだ。

 

和真「お前は知ってたよな?俺がそれ(女装)を勧めてくるバカに、どれだけストレスとイライラとフラストレーションが溜まってるかを。それを知った上であんなふざけた提案をするってことは、命がいらねぇと考えていいよな?」

雄二「待てぇ!一旦落ち着こう!穏便に済ませよう!」

和真「まあ遺言云々は冗談だ。安心しろ、10分の9殺し程度で勘弁してやるから」

雄二「安心できねぇよ!?もうそれほとんど死んでるからな!風前の灯火だからな!」

翔子「……和真、そろそろ許してあげて?」

和真「ったく、しょうがねぇな……まあ十分追いつめたし、これくらいにしといてやるよ」

 

ひと通り雄二を苛めて満足したのか、和真は矛を収める。

 

秀吉「それで、結局誰が着るのじゃ?」

雄二「翔子と秀吉と姫路と島田に着てもらうつもりだ。翔子、頼めるか?」

翔子「……わかった」

秀吉「ワシが着るのは冗談ではないのかのぅ……?」

雄二「それから、和真」

和真「今度こそ死ぬか?」

雄二「違ぇよ!これだよ!」

 

そう言って和真に男性用のチャイナ服を渡す。

 

和真「それあるなら最初から出せよ……お前完全にやられ損じゃねぇか」

 

やった本人が言うのはいかがなものかと。

 

美波「たっだいま~!って、なんだ。アキってばメイド服脱いじゃったんだ」

姫路「あ……残念です。可愛かったのに……」

葉月「お兄ちゃん。葉月もう一回見たいな~」

 

三回戦を終えた二人が教室に帰って来た。

 

明久「あはは。残念ながら、ただで人のコスプレを見られるほど世の中甘くないよ?」

 

邪悪な笑みを浮かべ、明久は姫路達に近づいていく。

 

雄二「そういうことだ。姫路に島田、クラスの売り上げの為に協力してもらうぞ」

 

雄二と明久はエモノを逃がさないように、チャイナを片手に退路を断つ。

 

姫路「な、なんだか二人とも、目が怖いですよ……?」

美波「凄く邪悪な気配を感じるんだけど……」

和真(どう見ても変質者だな、この絵面)

雄二「やれ、明久!」

明久「オーケー!へっへっへっおとなしくこのチャイナ服に着替え「タイガーショット!(ドゴォ)」痛ぁっ!マジすんませんした!自分チョーシくれてましたっ!」

雄二「弱いな、お前……というかタイガーショット流行ってんのか?」

和真「ただ思いっきり蹴ってるだけだけどな」

美波「どうしてまた、急にそんなことを言い出すのよ?前に須川はチャイナドレスを着たりすることはない、って言ってたじゃない」

雄二「店の宣伝の為と、明久の趣味だ。明久はチャイナドレスが好きだよな?」

明久(え!?そんなこと急に言われても……本当は大好きだけど、なんだかそういった趣味を知られるのも恥ずかしい気がする。ここは上手くお茶を濁す程度で誤魔化そう)

 

「大好―愛してる!」

 

雄二「……お前は本当に嘘をつけないヤツだな」

 

明久は決して政治家にはなれないだろう、色んな意味で。

 

美波「し、仕方ないわね!店の売り上げの為に、仕方なく着てあげるわ!」

姫路「そ、そうですね!お店の為ですしね!」

 

そう言って二人はそれぞれ服を手に取る。

実に現金な奴らである。

 

葉月「お兄ちゃん、葉月の分は?」

明久「え?葉月ちゃんも手伝ってくれるの?」

葉月「お手伝い……?あ、うん!手伝うから、あの服葉月にもちょうだい!」

明久(なんて良い子なんだ。美波の妹とは思えない)

 

口に出さない辺り明久も少しは成長したようだ。

 

明久「けど、ごめんね。気持ちは嬉しいんだけど、葉月ちゃんの分は数が―」

ムッツリーニ「…………!!(チクチクチクチク)」

明久「ム、ムッツリーニ!どうしてそんな凄い勢いで裁縫を!?って言うかさっきまでいなかったよね!?」

ムッツリーニ「…………俺の嗅覚を舐めるな」

 

彼のセリフは字面だけ見ればとてもカッコいいセリフが多い。ほぼ内容が台無しにしているが。

 

姫路「それじゃ、着替えて来ますね」

 

そう言って姫路と美波はチャイナドレスを抱えて教室を出て行った。

 

和真「…よっと、着替え完了」

明久「早っ!?」

 

さっきまで制服だったのにいつのまにか和真がチャイナ服に着替え終わっていた。

 

明久「しかし……なんというか、拳法とか使えそうだね」

和真「そういう型にはまったの俺はあんま得意じゃねぇな」

ムッツリーニ「…………できた」

葉月「わ、このお兄さん凄いです!」

 

神の如きスピードでムッツリーニで葉月用のチャイナドレスを完成させていた。

下心が絡んだムッツリーニに不可能は無い。

 

秀吉「ふむ。それでは着替えるとするかの」

明久「ちょ、ちょっと秀吉!ここで着替えるの!?きちんと女子更衣室で着替えないとダメだよ!」

秀吉「……最近、明久がワシの事を女として見ておるような気がするんじゃが」

雄二「気のせいだ。秀吉は秀吉だろう」

明久「うん。雄二の言うとおりだよ。秀吉は性別が『秀吉』で良いと思う。男とか女とかじゃないさ」

雄二「……俺が言ったのはそう言う意味じゃない」

明久「……あれ?違った?」

葉月「んしょ、んしょ……」

ムッツリーニ「……………!!(ボタボタボタ)」

明久「は、葉月ちゃん!キミもこんなところで着替えちゃダメだよ!ムッツリーニが出血多量で死んじゃうから」

和真「前々から思ってたけど、こいつ普段あんな感じなのにウブ過ぎるだろオイ……」

 

大量に出血しているはずなのに、鼻を押さえているムッツリーニは心から幸せそうだった。




というわけで、雄二ドンマイ……
和真君はリアルファイト最強クラスの設定なのに、攻撃描写は初めてです。
普段は暴力とか振るわない(言葉の暴力は別)和真君ですが、女装関連とスポーツ関連では本物の鬼になります。

今回は徹君をフルボッコにした小暮さんです。

小暮 葵
・性質……速度重視&防御度外視型
・総合科目……3700点前後 (学年5位)
・400点以上……古典
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……A+
防御力……D+
・腕輪……まだ不明

素早い動きで翻弄し、相手の隙を突く戦術。
徹や久保のようなタイプに強く、余程のことが無い限り負けはしない。
逆に和真のような多彩かつ広範囲攻撃が可能なタイプとの相性は最悪。






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赤き世界

【バカテスト・科学】
以下の文章の( )にはいる正しい物質を答えなさい

ハーバー法と呼ばれる方法にてアンモニアを生成する場合、用いられる材料は塩化アンモニウムと( )である

姫路 瑞希の答え
「水酸化カルシウム」

蒼介「正解だ。アンモニアを生成するハーバー法は工業的にも重要な内容なので、確実に覚えておくように」

土屋 康太の答え
「塩化吸収材」

徹「勝手に便利な物質を作らないように」

吉井明久の答え
「アンモニア」

蒼介「それは反則だ」




明久「うん。いい具合に繁盛してきたね」

和真「それは結構だが、俺の負担大き過ぎね?なんで女性客ほとんど俺担当?」

明久「仕方ないじゃないか、お客さんの要望なんだし」

ムッツリーニ「…………殺したいほど妬ましい……が、それどころではないので今回は不問にする」

和真「お前厨房責任者だろ、サボってんじゃねぇよ」

雄二「お前もだバカ」

 

着替えた後、宣伝の為に和真達は校舎内を歩き回った(途中和真がチャイナドレスを着ていないことにショックを受けている玉野がいたが和真は無視した)。

そうすると徐々にお客さんは増えていき、今のところ順調と言えるだろう。

 

「君。注文をしてもいいかな?」

 

近くにいた明久に声をかけたのは、先程もこの店に着ていた竹原教頭であった。

 

明久「あ。はい、どうぞ」

竹原「本格ウーロン茶と、胡麻団子を」

明久「かしこまりました。本格ウーロン茶と胡麻団子ですね?ありがとうございます。後ほどお待ちしますので、少々お待ちください」

竹原「それと聞きたいことがあるんだが、いいかね?」

 

厨房に向かおうとした明久を教頭が呼び止める。

 

明久「はい。なんでしょうか」

竹原「このクラスに吉井 明久という生徒がいると聞いたのだが、どの子かな?」

明久「え?吉井 明久は僕ですけど……」

竹原「ああ、そうかい。君が

 

吉井君(笑)か」

明久「教頭先生。人の名前に(笑)はおかしいかと思います」

竹原「ああ、それはすまない。だが、私はどうしても教え子である君のことを吉井君(馬)とは呼べなくてね」

明久「あの、僕は職員室でなんて呼ばれてるんですか……?」

 

確実に『馬鹿の吉井』とかであろう。まあ日頃の行いが行いなのでフォローは不可能なのだが。

 

美波「アキ、厨房の土屋からの伝言。茶葉がなくなったから持ってきて欲しい、だって」

明久「ん、わかったよ。先生、ちょっと行ってきてもいいですか?」

竹原「構わんよ。特に用があったわけではないのでね」

明久「? そうだったんですか?」(それなら何で僕のことを尋ねたんだろう?教頭先生とは特になにもつながりがないはずだけどなぁ)

美波「アキ、土屋が急いで欲しいって言ってたわよ?」

明久「はーい」

 

とりあえず用事を済ませるのが先だと思い、明久は教室を出ていった。

 

和真(……さてと)「おーい雄二!」

雄二「どうした和真?」

和真「野暮用ができたんで接客は任せた」

雄二「は!?いやちょ待っ―」

 

近くにいた雄二に仕事を押し付けて和真は一目散に教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

明久は茶葉のストックの置いてある旧校舎の空き教室に来ていた。

 

明久(えっと、いくつぐらい持っていけばいいかな?きちんと数を聞いておけばよかったなぁ)

「おい」

明久「うん?」

 

空き教室の中で明久が熟考していると突然後ろから声をかけられた。

声の主は明久と同年代くらいのいかにもチンピラといった三人組。

 

明久「ああ、ここは部外者立ち入り禁止だから出て行ってもらえます?」

チンピラA「そうはいかねぇ。吉井 明久に用があるんでな」

明久「へ?僕に何か?」

チンピラA「お前に恨みはねぇけど、ちょっとおとなしくしててくれや!」

明久「えぇ!?」

 

そう言うやいなや、チンピラの一人が明久に殴りかかろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「はい、ざ~んね~ん♪」

チンピラA「ゴファァッ!」

 

いつの間にかいた和真が殴りかかろうとしたチンピラの足首を掴んだ。

チンピラは全速力で前に行こうとしたエネルギーを処理することができず、顔面から床にダイブした。

 

チンピラB「な、なんだテメェ!」

チンピラC「やんのかコルァ!」

 

残りの二人が和真に殴りかかるも和真は後ろに下がってそれを避ける。

そして二人の頭をそれぞれ片手で掴み―

 

ゴッチィィィン!

 

「「いだぁぁぁ!?」」

 

―シンバルのように叩きつけた。

 

和真「明久ァ!そこで倒れてる奴にこいつを押し込めぇ!」

 

そう言って明久にオレンジ色のスナック菓子を渡す。

明久は言われた通りチンピラAの口にそれを押し込み、ついでに咀嚼させる。和真も残りのチンピラ共に同じスナックを食わせる。すると…

 

 

「「「$=@%辛&€&$ァァァァァ!!!&^&%=水’&$&=&%ゥゥゥゥゥ!」」」

 

文字にできないような悲鳴を上げて逃げて行った。

 

和真「ヒャハハハハハ!最高のショーじゃねぇか!」

 

そんな哀れな不良達を和真は爆笑しながら見送った。

チンピラとは言え、少し同情を誘う光景である。

 

明久「……ねぇ和真、何食べさせたの?」

和真「激辛スナック『辛世界(シンセカイ)』だけど?」

 

激辛スナック『辛世界』とは、寒いネーミングと桁外れの辛さが一部の辛党に人気のスナック菓子である。

常人が口にすると、あのチンピラ達のように地獄の苦しみを味わうことになる、恐るべき一品だ。

 

明久「なんでそんなもの持ってるの?」

和真「マイブームなんだよ、罰ゲームとかであれを誰かに食わせるの」

 

あまりにもえげつない内容をさらりと言うあたり、どうやら和真は基本的にサディストのようだ。

 

明久「ところで、どうしてここに」

和真「…ん~、お前が危ない気がしてな。まぁいつもの勘だ」

明久(…………あれ?なんだか違和感が…)

和真「とりあえず急いで戻るぞ。雄二に仕事押し付けてるから」

明久「う、うんわかった」

 

そうして和真と明久は教室に戻っていった。

 

明久(和真にしては……歯切れの悪い返事だったなぁ)

 

~そんなこんなで二時間が過ぎ~

 

雄二「明久。そろそろ四回戦だ」

明久「え?もうそんな時間?」

 

時計を確認すると、現在午後二時過ぎである。

 

美波「あれ?アキ達もそろそろなの?」

姫路「そうなんですか?実は私たちもそろそろ出番なんですよ~」

美波「じゃあ瑞希、そろそろ着替えよっか」

雄二「いや、着替えなくていい」

「「え?」」

雄二「一応宣伝の為だ。そのまま召喚大会に出てくれ」

 

四回戦からは一般公開が始まる。折角人が集まるのだから宣伝しておくに越したことはないだろう。

 

美波「こ、これを着たまま出場しろって言うの……?」

姫路「流石に恥ずかしいです……」

 

おそらく一般客だけでなくメディアもいるから、チャイナドレスを着て動き回るのは流石に恥ずかしいだろう。

 

明久「二人とも、お願いだ」

 

姫路の転校がかかっているため、いつになく真剣な表情で頭を下げる明久。

 

雄二「明久……。お前は本当に―チャイナが好きなんだな……」

明久(それも否定しない)

 

そこは形だけでもいいから否定しておけ。

 

姫路「もしかして吉井君、私の事情を知って―」

美波「仕方ないわね。クラスの設備の為だし、協力してあげるわ。ね、瑞希?」

 

美波が姫路の言葉を遮って色よい返事をする。

 

姫路「あ。は、はいっ! これくらいお安い御用です!」

明久(それにしても良いことを聞いた。お安い御用なら、今後もちょくちょくお願いしてみよう)

 

どうやら先ほどまでの真剣な明久は殉職してしまったらしい。

 

葉月「お兄ちゃん、葉月を置いてどこか行っちゃうの?」

 

寂しそうにズボンの裾を握る葉月。

 

雄二「チビッ子。バカなお兄ちゃんは今から大切な用事があるんだ。だからおとなしく待ってないとダメだ」

 

そう言って葉月の頭をグシグシと撫でる雄二。

 

明久(コイツ、子どもの扱いに慣れてるな。ここはうまく説得してくれそうだ)

葉月「う~。でも……」

雄二「その代わり、良い子にしていたら―」

 

不満げに頬を膨らます葉月を元気付けるように、雄二は小さく微笑んで、

 

雄二「バカなお兄ちゃんが大人のデートを教えてくれるからな」

 

核弾頭クラスの爆弾を投下した。

 

葉月「葉月お手伝いしてくるですっ!」

明久「ち、違うんだよ葉月ちゃん!僕には君が期待するような財力はないんだ!ねぇ、聞いてる!?」

 

しかし既に葉月の姿は厨房に消えてしまった。

そして明久が危機感を抱くべき物は経済などというチャチなものではなく―

 

美波「アキ、ちょっと校舎裏まで来て?」

 

―自分の命そのものである。

 

姫路「美波ちゃん、ちょっと待ってください」 

 

しかしそこに姫路が仲裁に入る。

 

姫路「次の対戦相手は吉井君たちのようですから。召喚獣でお仕置きした方が遠慮なくできますよ?」 

 

そしてより合理的な殺戮方法を提案した。

もしかしたら姫路の父親が彼女を転校させても、もう手遅れかもしれない。

 

明久「ちょっと待って!僕の召喚獣はダメージのフィードバックつきなんだよ!?姫路さんの召喚獣に攻撃されたら僕自身も酷い目に―」

雄二「フン、望むところだ」

明久「僕は全然望んでいない!」

美波「上等よ。早く会場に向かいましょうか。アキがどんな声で啼くのか楽しみだわ」

雄二「いいだろう。そこまで言うなら、明久にどこまで大きな悲鳴をあげさせられるのか、じっくりと見せてもらおうか」

 

勝手に明久の命を生け贄にして、バチバチと火花を散らす雄二、美波、姫路。痛めつけられる予定の本人だけが茅の外である。

 

明久「和真ぁぁぁ!助けてぇぇぇ!」

和真「痛いのが嫌なら、殺られる前に殺っちまえばいいじゃねぇか」

明久「それができれば苦労はしないよ!」

 

『降りかかる火の粉は薙ぎ払う』のが和真のスタンスであるのだが、明久の点数にそれを求めるのは酷だろう。

 

和真「さて、じゃあ俺も行くか」

雄二「? お前はまだ次の試合までまだ時間があるだろう?」

和真「次の対戦相手は別格なんでね、試合前に作戦を立てておきてぇんだよ」

そう聞くと雄二はトーナメント表を取り出して和真の対戦相手を探す。

雄二「……なるほどな、」

 

 

『二年Fクラス 柊 和真

二年Aクラス 大門 徹

VS

三年Aクラス 佐伯 梓

二年Aクラス 橘 飛鳥』

 

 

雄二「よりによって前回王者かよ……災難だな」

和真「災難?バカ言え。むしろこの大会で一番闘いたかった相手だぜ、この最強の女子コンビとはよぉ」

 

そう言って和真は心底楽しそうに笑う。

 

雄二「なら絶対に勝ってくれよ。こいつらに決勝まで勝ち進まれたら、はっきり言って俺達の点数じゃどうあがいても勝ち目は無いからな」

和真「言われるまでもねぇ。俺は、俺達『アクティブ』は負け戦はしねぇからな」

 

 

 

 

 

竹原「チッ……失敗したか。やはりクズはクズだな、三人程度じゃあてにならん」

?「……では、待機させている彼らを動かすのですか?」

竹原「いや、それはあのバカどもが決勝まで勝ち残り、常村と夏川が途中で敗退したときの最終手段だ。あれだけの人数を動かせば足がつく可能性があるのでな、私もできれば使いたくない手段だ」

?「……そうですね」

 




『赤き世界』なんて大層なサブタイトルつけておいて、蓋明けたら激辛スナック菓子でした。
恐れ入ったかコラ。

次回はようやく闘う機会が回ってきた飛鳥さんと。昨年の召喚大会のチャンピオンの佐伯さんが相手です(昨年も行われていたというのは勿論オリ設定です。ちなみにタッグ戦ではありません)
四回戦を加えると闘った敵が70%以上Aクラストップクラスの成績と、和真君以外からすると絶望的なまでにくじ運が悪い……

既に投稿してある話の大規模な修正を行います。
時間が有り余っている時間セレブの方はチェックしてみてください。

では。


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戦慄のトンファー流

【バカテスト・現代文】
()に適語を入れなさい
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は()

姫路 瑞希、霧島 翔子の答え
(百合の花)

蒼介「正解だ。この内容は美しい女性の容姿や立ち居振る舞いを花にたとえて形容する言葉だ」

吉井 明久の答え
(彼岸花)

和真「不吉すぎるだろうが」

清水 美春の答え
(私と美波お姉様の愛の結晶)

蒼介「ブレないなお前は」

島田 美波の答え
(だから私は普通に男が好きって言ってるでしょ!)

和真「お前も直感力高いなオイ」



文月学園の教育方針は「生徒を社会で実力を発揮できる人間に育てること」である。

それは勉学だけにおいてではなく部活の方面にも力を入れており、部活に使われる設備なども他校を圧倒しているため、運動部では歴史は浅いものの大会などで結果を残している部も少なくない。

その中でも、世間に最も注目されている部活が……

創部三年目でインターハイ団体戦を制覇し、個人戦ベスト8の秀才・橘 飛鳥と、インターハイ個人戦を含むあらゆる大会で無敗の天才・佐伯 梓を擁する柔道部である。

 

 

徹「やあ、そっちもそっちで大変だね(モッサモッサ)」

 

和真(チャイナ服装備)が特設ステージ前に着くと、燕尾服を着た徹が練乳を大量にかけたワッフルを頬張っていた。

 

和真(子ども執事…)「まぁた舌が疲れそうなモンを……つーかお前さっきも食って無かった?」

徹(なぜかイラッとしたけど気のせいか……)「さっきのは食後のデザート、これはおやつだよ」

和真「あっそ……」

 

徹の甘党は今に始まったことではないので、和真はこの話題をさっさと終わらせた。

 

和真「徹、言うまでもねぇと思うが、今回の敵はやべぇぞ」

徹「わかってるよ。橘も厄介な相手だけど、何より脅威なのはチャンピオンだね……」

和真「正直俺が一対一で闘っても、多分勝てねぇな」

 

いつも自身に満ちた和真らしくない後ろ向きな発言。

そう考えざるを得ないほど、今回の相手は圧倒的に強いのだ。

 

徹「君の腕輪を使うのはどうだい?今回の科目は古典なのだし」

和真「それができりゃ苦労はしねぇよ」

 

いくら闘いを楽しみたいからといって、それで負けるのは論外である。もし腕輪が使用可能だったら和真は躊躇いなく使用するだろう。

そう、もしも使用可能だったら、の話だ。

 

和真「佐伯先輩は去年の大会で青銅の腕輪を勝ち取っている。腕輪は使えねぇよ」

 

青銅の腕輪……これを腕につけている生徒が召喚フィールド内にいるとき、自分を含めた召喚獣は腕輪能力を使うことができない。

腕輪能力による蹂躙を封殺することができるが、使いどころを間違えると自らを弱体化させてしまうという、玄人向けの腕輪てある。

 

徹「ならばどうするんだい?」

 

和真「作戦は考えてある。今から説明するからよーく聞けよ。まず―」

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「-それでフィニッシュだ。わかったか?」

徹「……これは作戦と呼んでいいのかい?」

 

作戦の全容を聞いた徹は呆れるような目で和真を見る。その様子を見る限り、よほど杜撰な内容なのだろう。

 

和真「いいんだよ、闘う前の作戦なんざこんなんで。俺はアドリブの方が好きなんだよ」

 

和真は頭もかなりキレるが、雄二のような策謀を巡らすタイプでも、蒼介のように相手の作戦を先読みし先手を打つタイプでもない。作戦はシンプルに立て、闘いの中で即興で策を練っていくタイプの人間である。勿論例外はあるのだが。

 

徹「まあ君に複雑な作戦は似合わないから、それでいいけどね」

和真「ずいぶんな物言いだなオイ。ろくに作戦も立てられねぇ子ども執事風情が」

徹「言ってはならないことを言ったなキサマァァァァァァァ!

この格好で僕がどれだけ屈辱を味わったか、 テメェにはわからねぇよぉぉぉぉぉぉ!」

 

全力で悔し泣きしながら和真にキレる徹。

しかも「しくしく」でもなく「メソメソ」でもない、「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」といった感じの本気泣きだ。

徹の脳裏に浮かぶのは、さきほど接客中「可愛い」だの「ちっちゃい」だのほざく客の女どもにいじくり回された苦い記憶。お客様相手なのでキレることもできないことがなんとも歯痒い。

 

和真「お、そろそろ時間だな。泣いてねぇでいくぞ徹」

徹「ぐすっ、えぐっ…チクショウ…絶対テメェよりデカくなってやる……」

和真「わかったわかった悪かったよ、お前はいつか大きくなるよ」

 

徹をヨシヨシと宥めながら特設ステージへ向かう和真。

果たしてこの光景を見て、二人が同年代だと思う人はいるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『それでは四回戦を始めたいと思います。出場者は前へどうぞ』

 

マイクを持った審判の教師に呼ばれ、四人はステージへと上がる。外部からの来場客の為に作られた見学者用の席はほぼ満席の状態だ。よく見るとその席に鳳秀介が茶を啜りながら観戦している。

 

佐伯「おう柊、この前の合同稽古以来やな」

飛鳥「あなた達が相手でも、手加減はしないわよ」

 

和真達の対戦相手の二人が話しかけて来た。

片方は金髪のセミショートの凛とした顔立ちの女子生徒、“橘社”の令嬢、橘 飛鳥。

もう片方はエメラルドグリーンの髪をツインテールにし人懐っこそうな笑みを浮かべた、和真や徹に負けず劣らずの童顔な女子生徒……チャンピオン・佐伯 梓。

 

和真「凡骨にタレ目先輩……」

佐伯「誰がタレ目先輩や。先輩を身体的特長で呼ぶのやめぇ」

飛鳥「凡人は自覚してるけどその呼び方はやめて……さすがに傷つくから……」

 

聞き捨てならない和真の愛称に律儀につっこみをいれる二人。

 

和真「ところで1つ聞きてぇんだが……飛鳥、なんでお前も燕尾服来てるんだ?」

飛鳥「……愛子に需要があるとか言われて、強引に着せられたのよ」

佐伯「飛鳥あんた女の子にもてるからなぁ。先日も稽古の終わりに女の子からラブレター貰ってたし」

飛鳥「梓先輩、それは言わないでください……」

 

どうやら飛鳥はそんじょそこらの男よりも男らしいという評価を、少なからず気にしているらしい。

 

佐伯「じゃあウチも1つ聞きたいんやけど……大門に何があったん?」

飛鳥「あ、私もそれ気になってた」

 

さきほどの悔し泣きによって徹の目は真っ赤に充血し、涙の跡がくっきりと残っていた。

 

徹「ほうっておいてください……」

佐伯「さ、さよか……」

飛鳥「わ、わかったわ……」

 

追及すれば八つ裂きにしてやると言わんばかりにの鋭い眼光に、流石の二人も引き下がる。

 

『四人とも、そろそろ良いですか?』

佐伯「えらいすんませんな、ほんなら……」

『試獣召喚(サモン)!』

 

お馴染みの魔方陣から召喚獣が飛び出した。

飛鳥の召喚獣は忍装束に二刀流のクナイ、

佐伯は防刃スーツにトンファーだ。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 400点

二年Aクラス 大門 徹 268点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 392点

二年Aクラス 橘 飛鳥 289点』

 

 

観客に配慮して大型ディスプレイにそれぞれの点数が表示される。佐伯は三学年次席というだけあってかなりの高得点であるが、文系科目のため和真はそれを上回る。飛鳥は全教科似たような点数だが、生粋の理系である徹はAクラス平均より少し上くらいの点数だ。

 

『では、四回戦を開始します!』

 

審判の向井先生の開始の合図とともに、先ほどの試合と同じく両端に移動する和真と徹。

 

佐伯「チーム戦の意味無いやんその戦法……飛鳥、大門は頼むわ」

飛鳥「了解!」

 

佐伯と飛鳥も二人を追ってそれぞれ両端に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【柊 和真VS佐伯 梓】

 

和真「しかしアンタら柔道部なのに、二人とも両手ふさがる武器なんすね」

佐伯「アホ、試召戦争と柔道は全く別モンや。こんなチンチクリンのボディーで技かけられるかいな」

 

先ほどからお互い様子見と言わんばかりに、距離をとって攻防を繰り返してる。

相手の戦闘スタイルの観察という目的もあるが、この戦いから一般公開されるので、観客に対するファンサービスも兼ねている。

二人の目論見通り、召喚獣の戦いを見届けている観客のボルテージは右肩上がりしている。

 

佐伯「さてと、観客へのサービスはこのぐらいにしておいて……そろそろ攻めるで?」

 

〈佐伯〉がトンファーを構え直し、力を溜めるようなポーズをとる。

 

和真(あん? 何をする気だ?)

 

〈和真も〉も槍を構え直し、敵の攻撃を警戒する。

 

佐伯「トンファー流奥義……」

 

突然〈佐伯〉が〈和真〉の方に向かって走りだした。

 

和真(突っ込んで来たか……上等だ!カウンターに『こいつ』を食らわせてやる!)

 

和真の召喚獣はバッティングフォームを構え、相手がギリギリまで接近してくるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

佐伯「トンファーキィィィィィック!」

和真「なにィィィィィ!?」

 

トンファーで殴りかかると見せかけて、〈佐伯〉は〈和真〉を思いっきり蹴り飛ばした。

予想外の出来事に不意をつかれ、ガードしきれずふっ飛ぶ〈和真〉だが、なんとか上手く着地し武器を構え直す。しかし装甲の薄さが災いし、ただの蹴りとは言え結構ダメージを負ってしまった。

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 307点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 392点』

 

和真「ふざけんじゃねぇぞなにがトンファー流だ!?トンファー両手に持って蹴っただけじゃねぇか!」

佐伯「やかましいわ!トンファー持っとるからこその『トンファーキック』なんや!串カツかて串に刺さっとらんかったらただのカツやろうが!」

和真「なんだそのムチャクチャな理屈!?」

 

トンファーを持って行った攻撃はいかなるものであろうと、全て奥義として認められる……それが『トンファー流』である。

 

佐伯「ほんなら次いくでぇ、トンファー流お-」

和真「くたばれぇぇぇぇぇ!」

佐伯「はぁぁあああ!?」

 

再びトンファーを構えるも、佐伯が奥義の口上を言っている途中に〈和真〉が槍で思いっきりしばく。〈佐伯〉はガードするも、腕力に差があり過ぎるため吹っ飛ばされる。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 307点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 285点』

 

 

佐伯「あんたそんなんありか!?口上述べてるときはおとなしくせぇよアホ!」

和真「知るかぁぁぁ! 俺は戦隊物の脇役じゃねぇんだよ! むざむざやられてたまるかボケ!」

 

和真は目上の人間には多少くだけてはいるがきちんと敬語で話すのだが、今はそれも忘れて佐伯とレベルの低い口喧嘩をしている。二人とも精神はどちらかというとお子ちゃまなのである。

 

佐伯「……ま、ええわ。おふざけはこのくらいにしておくか」

和真「あぁん?」 

 

不毛な口喧嘩を急に終わらせて、一旦目を閉じる佐伯。そして目を開き和真を見据えてこう告げた。

 

佐伯「ちょっとでも気ぃ抜いたら……終わるで?」

和真(っ!?雰囲気がガラリと変わりやがった!?)

佐伯「じゃあ、行くでぇ!」 

 

そう言うと〈佐伯〉は右手のトンファーを構え、高速で〈和真〉に殴りかかった。

 

和真「真っ向勝負か、上等だ!」

 

相手の攻撃に対して〈和真〉は防御でも回避ではなく攻撃を選択し、槍で薙ぎ払おうとする。

しかし〈佐伯〉は横からきた槍を上からぶっ叩き地面に激突させ〈和真〉の懐、トンファーの射程範囲内に入り込む。

 

和真「甘ぇよ!」

 

持ち前の豪腕を活かして〈和真〉は相手がトンファーで攻撃する前に槍を構え直す。これでどんな攻撃をしてこようが迎撃することが可能となった。

 

 

 

 

 

 

佐伯「甘いのはそっちや」

 

ただしその攻撃が、ダメージの通りやすい部分への攻撃だったらの話だが。

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 289点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 285点』

 

和真「肩に攻撃……だと?」

 

〈佐伯〉は攻撃する瞬間左手のトンファーを反対に回し、〈和真〉の召喚獣の肩を貫いた。

召喚獣の急所などは人間とだいたい同じである。点数差がどれだけあっても首を飛ばされたりすれば即死する。

だからこそ急所への防御は必須スキルであり、一年生の頃から練習させられている。

反対に肩のような部分は点数が一桁でもない限り致命傷にはならない。ゆえに、そのような部分を狙う人間はまずいない。

しかし、どれだけ小さくてもダメージを食らうことには変わりは無いのである。そして誰も狙わないということは、普段狙われないということであり、学校側も訓練で教えたりは特にしていない。つまり、誰もがその部分の防御が慣れていないということだ。

 

 

佐伯「あんたの闘い方はだいたい読めたわ。あんたはその高い攻撃力と機動力のために防御を犠牲にしとる。一発でもまともに攻撃を食らえば勝負が終わってまうほどまでな。せやからそういう攻撃には人一倍対処が上手い。それを攻略するのは流石のウチでも骨が折れるわ」

 

〈和真〉を怒濤の攻撃で追い詰めながら佐伯は言う。

先ほどの戦闘だけでそこまで見抜かれていたことに、和真は表面上は冷静そのものだが内心少なからず動揺する。

その心の隙を見抜いているのか、佐伯は攻撃の手を緩めない。せやけどな、と佐伯は言葉を続ける。

 

佐伯「それやったら小っさいダメージを蓄積させていけば済む話や」

 

言葉通り、〈佐伯〉のジャブを繰り返すかのような攻撃を喰らわせ続け、和真の点数は見る見る削られていく。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 241点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 285点』

 

 

和真「ハッ、簡単に言ってくれるぜ。そんな芸当、アンタか明久ぐらいしかできねぇよ……」

 

鍔迫り合いの最中にローキックを足に喰らい転倒した召喚獣をすぐさま起き上がらせながら、和真は揶揄するように言う。

 

言うが易し行うが難し。

佐伯の考えた作戦を実行するには、極めて高度な操作技術が必用不可欠である。

和真の操作技術とて並ではないのだ。その戦法で和真に攻撃を当てるためには、攻撃を防がれてから二撃目、三撃目とありとあらゆる方向から攻撃を繰り出していけるようなレベルでなければ話にならない。

しかし、そのレベルは普通に学校生活を送っているようでは決して到達できない境地である。

召喚獣を自分の手足のように操ることができる明久ならそれも可能であろう。

もっとも、明久では点数差がありすぎて勝負にならないだろうが。

ではなぜ佐伯は観察処分者でもないのに操作技術が高いのか。

その理由は佐伯の他の追随を許さない戦闘経験にある。Aクラス次席として試召戦争では、クラス代表が自由に戦えないので、佐伯はクラスの最大戦力として常に最前線で闘って来た。

学園の宣伝の為の召喚獣の大会などにも積極的に参加し、その全てで王者で居続けた。

ついでに柔剣道場の第四土曜日の使用権を剣道部主将と毎回フリスペで取り合っていた。

それらの経験が、佐伯の操作技術を明久と同等にまで引き上げたのだ。

 

佐伯「いや多分高城もできるで?観察処分者が出るまで生徒会が手伝ってた召喚獣絡みの雑用を、ウチが散々騙して押し付けてきたから」

和真「……高城先輩不憫過ぎる。そんな悲しい理由で操作技術が上がったなんて」

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 213点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 276点』

 

 

そうこうしているうちに和真の点数がAクラス平均レベルにまで削られていた。

 

佐伯「さぁて、このままやと終わってまうで?」

和真(チィ…………覚悟してたとはいえ……ここまで手も足も出ねぇとはな……徹、しくじんなよ)

 

 

 




というわけで、佐伯先輩無双回でした。
点数もほぼ互角、両者ともトリッキーな戦闘スタイルなので、操作技術が勝敗の分かれ目となります。
果たして和真君達の作戦とは……?

橘 飛鳥
・性質……速度重視型
・総合科目……3100点前後 (学年10位)
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……C+
機動力……A
防御力……C+

小暮と同じく素早い動きと手数の多さで敵を翻弄するタイプ。前回に続いて今回も徹にとって相性の悪い相手だが果たして……


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矛盾

【バカテスト・日本史】
天文・測量術などを学び、田沼意次の蝦夷地調査で派遣された人物は誰か?

柊 和真の答え
『最上 徳内』

蒼介「正解だ。寛政期に幕府の千島列島探査に参加したということも覚えておこう」

吉井 明久の答え
『最上川』

源太「“最上”まで出てきたけど“徳内”がでなかったパターンだな……だけどよ、人物って聞かれたら人物で答えような」

木下 秀吉の答え
『ナイル川』

蒼介「原型が無くなってしまったぞ」

土屋 康太の答え
『エジプト文明』

源太「オイ、マジカルバナナみてぇになってるじゃねぇか?お前らゼッテェ真面目にテスト受けてるふりして遊んでるだろ?」

須川 亮太の答え
『ちょっとなに言ってるかわかんないです』

蒼介「木下~須川の答案は西村教諭に渡しておく。
補習室でその腐った性根を叩き直されてこい馬鹿者どもが」


橘 飛鳥という人間を一言で簡潔に説明するならば、『才能に恵まれない人』である。

 

彼女は日本屈指の名家・橘家の長女として生まれ、父親が世界的大企業“橘社”のCEOということもあり、生まれながらの勝者、成功を約束された人間と言っても過言ではない。

 

だが、当の本人は悲しいほど才能に乏しいのだ。

物覚えも頭の回転も運動神経も凡人レベル、どれだけ一生懸命に取り組もうと決してトップに立つことはない。

物心ついたときから血のにじむほど努力を重ねてきた柔道も、鳳 蒼介に手も足も出ず完敗した。

 

そんな彼女が父親の部下達に“劣等”の烙印を押されるのは火を見るより明らかであった。

 

“無能”、“出涸らし”、“橘家の恥さらし”

 

と、噂されていた。

そんな心無い仕打ちに年端もいかぬ少女が耐えられるはずもなく、下手をすれば自殺をしかねないほどまで心を閉ざしてしまった。

 

そんな彼女が、二人の友人のお陰で立ち直ることができたのは、今はまだ語るときではない。

 

 

 

 

 

【大門 徹VS橘 飛鳥】

 

《古典》

『二年Aクラス 大門 徹 246点

VS

二年Aクラス 橘 飛鳥 273点』

 

現段階では意外にも飛鳥が押していた。

飛鳥の戦闘スタイルは攻撃後離脱しダメージを蓄積させていくヒットアンドアウェイ戦法。前回闘った小暮 葵と同じく、スピードを犠牲にした徹にとって相性の良くない相手だ。

 

徹(ったく、連続で相性の良くない相手とはね。ついてない……というか、ここまで僕にとってろくな思い出がないな……)

 

相手に翻弄されるなか、これまでの闘いを思いおこし、少々鬱な気分になる徹。

 

徹(……でもまあ、)

飛鳥「……?」

 

〈徹〉は脱力したような体勢になる。

飛鳥は訝しむも、その隙を突こうと接近する。

が、

 

徹「だからこそ、負けるわけにはいかないんだよねぇ!」

飛鳥「っ!?しまっ―」

 

〈徹〉は敵の攻撃を真っ向から受け止め、その隙に鉄拳を喰らわせた。

 

 

《古典》

『二年Aクラス 大門 徹 229点

VS

二年Aクラス 橘 飛鳥 225点』

 

 

徹「それに、君には小暮先輩には通用しなかった戦法が通用するみたいだからね」

 

飛鳥と小暮の戦闘スタイルは、どちらも徹にとって相性が悪い。だが、飛鳥は小暮ほど操作技術に秀でているわけではなく、甲冑の隙間を縫って攻撃を当てるような芸当は不可能である。よって、相手の攻撃を受け止め、攻撃を正確に当てていけば先に倒れるのはパワー負けしている〈飛鳥〉である。

 

徹「さて、君のスタイルでは勝てないようだけど、どうするんだい?」

飛鳥「…………」

 

徹の挑発に押し黙る飛鳥。

確かにこのままでは負けは確実である。

普通ならば何か別の方法で闘おうとするだろう。

飛鳥もその例に漏れず戦法を変えた。そう……

 

 

 

 

飛鳥「上等!ならこっちはありったけの攻撃を、あなたに喰らわせるのみ!」

 

小細工抜きの真っ向勝負に。

 

飛鳥「はぁあああっ!」

 

先ほどまでの浅い攻撃とは比べ物にならない渾身の一刀で〈徹〉に斬りかかる。

クナイと鉄鎧がぶつかり合い召喚フィールド内に耳障りな金属音が響き渡る。

 

徹「オラァ!」

 

〈飛鳥〉の繰り出した斬撃に一切怯まず、〈徹〉ガントレットで〈飛鳥〉を殴り倒す。防御を重視した〈徹〉とは違い、薄めの装甲である〈飛鳥〉には小さくないダメージが入る。しかし、〈徹〉の渾身の一撃を喰らったのにもかかわらず、〈飛鳥〉は倒れも飛ばされもせずその場に踏みとどまり……

 

飛鳥「負けるかぁっ!」

 

再び〈徹〉を切り裂く。徹も一切気圧されることなく〈飛鳥〉の顔面をぶん殴る。

 

徹「……大企業のお嬢様にしては、随分と荒っぽい戦法じゃないか」

飛鳥「今この召喚に必要なのは、上品に振る舞うことじゃない…………

目の前の敵を倒すことよ!」

徹「違いないね…………では…」

飛鳥「ええ…」

 

 

徹・飛鳥「「うぉおおおおお!!!」」

 

斬る、殴る、斬る、殴る、斬る、殴る

防御も回避お互いの選択肢から既に消え失せている。

1回でも多く相手に攻撃する。

一回斬られたら二回殴る、三回殴られたら四回殴る。

戦術も駆け引きも一切入り込む余地の無い、単純かつ豪快な闘いが繰り広げられる。

 

そして、立っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

《古典》

『二年Aクラス 大門 徹 125点

VS

二年Aクラス 橘 飛鳥 戦死』

 

 

徹「一つ聞くけど、どうして真っ向勝負なんか仕掛けたんだい?こういう展開攻撃と防御両方とも僕より劣っている君が、手数を対等にしてしまったら圧倒的に不利になることぐらいわかっていただろう?」

飛鳥「悲しいことにそれ以外の作戦が思いつくほど、私のオツムは良くないのよ」

 

それにね、と飛鳥は言葉を続ける。

 

飛鳥「不利な条件で闘うことには慣れているのよ」

徹「……君らしいね。じゃあ僕はそろそろ行くよ」

 

そう言って徹は和真の援護に向かっていった。

 

飛鳥「負けちゃったかぁ……まあ悔いはないな。やっぱり私はチマチマ闘うより、真っ直ぐぶつかっていく方が性にあってるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

【柊 和真VS佐伯 梓】

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 88点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 276点』

 

こちらの闘いは一方的な展開となっていた。

点差は互角、戦術も互角、ならば二人の差は召喚獣の操作技術によって決まってしまうのだ。

和真の操作技術も三年に匹敵するレベルなのだが言ってしまえばその程度、召喚獣を手足のように自在に扱える佐伯には到底及ばないのである。

だが、ここまで一方的な試合となったのにはもうひとつ理由がある。

 

佐伯「随分守りに入るなぁ……あんた、守るのは嫌いやなかったか?」

和真「……確かに嫌いだよ。嫌いも嫌い、大っっっ嫌いさ。

だがな、勝敗に関わるならそれぐらい我慢してやるよ。勝つことを諦めてまで貫き通してぇものじゃねぇんだよ」

 

そう、ここまで和真は守りと回避一辺倒で、一切攻めていないのだ。和真を知る人間ならば目を疑う光景だが、あの和真がそうしなければならないほど、佐伯の実力は圧倒的なのである。

 

佐伯「ふーん、まあええわ……

 

 

 

どうやらあんたが待ってた味方も来たみたいやしな」

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 88点

二年Aクラス 大門 徹 125点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 276点』

 

 

和真「来ないんじゃねぇかとヒヤヒヤしたぜ、徹」

徹「そいつは取り越し苦労だね。君こそ随分やられているじゃないか」

和真「死んでなきゃ安いだろ?」

徹「それもそうか」

佐伯「で? 二人がかりでウチに挑むのがあんたらの作戦か?」

和真「おお、よく気づいたな」

佐伯「そもそも隠す気無かったやろあんた。

あんな闘い方、時間稼ぎやってまるわかりやわ。まあそれはええけど、」

 

そう言って佐伯は二人を見据える。

 

佐伯「二人がかりやったらウチに勝てると思っとんのか?

随分と甘く見られたもんやなぁ?」

 

そう言って二人に殺気をぶつける佐伯。

高校柔道の頂点に君臨している佐伯の重圧に、しかし二人は一切臆した様子はなかった。

 

和真「勿論思ってるよ!いくぞ徹!」

徹「しくじんなよ和真!」

「「うぉおおおおお!」」

 

咆哮と共に二人の召喚獣は〈佐伯〉に向かって駆け出す。

 

佐伯(甘いなぁ……大勢を同時に相手取ることなんか去年散々やったわ)

 

冷静にカウンターの構えをとる〈佐伯〉。

しかし…

 

和真「おらぁあああああ!」

 

相手に間合いに入る直前、〈和真〉は〈徹〉を片手で掴み、〈佐伯〉に向かってぶん投げた。

 

佐伯「なっ!? ……せやけど甘いわ!」

 

一瞬虚を突かれるも、飛んできた〈徹〉にトンファーでカウンターを入れる。

だが……

 

ガキィィィンッ

 

佐伯「硬っ!?……しもたぁ!!」

 

〈徹〉あらかじめ防御体勢に入っており、〈佐伯〉のトンファーは弾かれてしまう。そしてバランスを崩した〈佐伯〉の目の前には、

 

 

 

槍を構え、攻撃体勢の〈和真〉が鎮座していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~試合前~

 

和真「今の俺じゃあ、佐伯先輩に勝つのはおそらく無理だ。だから勝つためには二人がかりで挑むしかねぇ」

徹「なら、橘はどうするんだい?」

和真「何言ってるんだ? お前は飛鳥を撃破してから俺と合流するんだよ」

徹「あぁ……やっぱりそうか……まあいい。それで、具体的な作戦は」

和真「作戦はいたってシンプルだ。二人で同時に特攻して、相手の間合いに入る前にお前の召喚獣を投げ飛ばすから、お前は全力でガードしてろ」

徹「なるほど……僕の召喚獣の防御体勢なら、佐伯先輩の攻撃だろうと弾き返せるだろうからね」

和真「そうだ。そうして攻撃を弾かれバランスを崩している先輩の召喚獣に、全身全霊フルパワーの突きを喰らわせる。それでフィニッシュだ」

 

 

 

 

 

 

 

和真「これで……終わりだぁぁぁぁぁ!!!」

 

〈和真〉の全力の突きが〈佐伯〉に襲いかかる。いかに佐伯が操作技術に秀でていても、バランスを崩している状態では回避することはできない。 かといってトンファーで防御したところで焼け石に水、和真の槍はそのチャチかガードもろとも敵を貫くだろう。

 

佐伯(…盾(徹)でウチの攻撃を防御し、その隙に矛(和真)がウチを貫く。見事なコンビネーションや……完敗やな、くやしいけど………

 

 

……せやけどなぁ…………ウチはただでは負けへん! 三年の先輩として、悪あがきぐらいはさせてもらうで!) 「おりゃぁあああ!!」

和真「……マジかよ」

 

最後の足掻きとして、〈佐伯〉ら弾かれていないトンファーを〈和真〉に投げつける。〈和真〉は現在進行形で攻撃中なので、その攻撃をかわせるはずもなく……

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 戦死

二年Aクラス 大門 徹 75点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 戦死』

 

 

両者の召喚獣はお互いの攻撃をまともに喰らい、共に力尽きるように倒れた。

 

『見事なコンビネーションで強敵を打ち倒した柊・大門ペアの勝利!』

 

ワァアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

審判の先生が勝利チームの勝鬨を上げると、特設ステージを観客席からの拍手喝采が包み込んだ。

 

 

 

佐伯「ふぅ……まさかウチが負けるとはなぁ、大したもんやであんたら」

和真「試合に勝って勝負に負けた感じだけどな。あそこからイーブンに持っていくか? 普通」

佐伯「ま、ただでは負けんのは癪やからな。というかあんた、ウチに対する話し方、以前までと大分変わったな」

和真「前みてぇに敬語に戻そうか?」

佐伯「いや、そのままでええわ。ついでに名前呼びでええよ、ウチもこれから和真って呼ぶし」

和真「そっか。それじゃ改めてよろしくな、梓先輩」

佐伯「こっちこそよろしゅうな、和真。あ、そっちの二人もタメ口でええで?」

徹「僕は遠慮します」

飛鳥「部の皆に示しがつきませんので辞退させてもらいます」

佐伯「さよか………まあええわ。あんたらこの先もがんばりや」

 

そう言って佐伯は一足先に特設ステージを後にした。

 

飛鳥「それじゃあ私達もいきましょうか」

和真「クラスの宣伝には十分なったな」

徹「ということは……この先もあんな目にあうのか……」

 

そして三人も校舎の方に歩いていった。




VS佐伯・橘戦、決着!
まさかここまで長くなるとは……
佐伯先輩改め梓先輩はこの先も和真の前に立ちふさがる予定です。現状ではタイマンじゃどうあがいても勝てなさそうですが……

-佐伯 梓
・性質……機動重視型
・総合科目……4300点前後 (学年2位)
・400点以上……現代文・数学・英語
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……A+
防御力……B+
・腕輪……まだ不明、青銅の腕輪『妨害』

召喚獣のスペック、戦術、操作技術全てが一級品である。
和真を真っ向から打ち倒せるごく少数の生徒の一人。
また、能力を封じる効果のある特殊な腕輪を所持している為、下手したら蒼介すら倒しかねない。
まさに生徒最強候補。








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正体

【バカテスト・世界史】
イスラーム教の聖典をなんというか。

姫路 瑞希の答え
『クルアーン』

蒼介「正解だ。ちなみにコーランでもOKだ」

木下 秀吉の答え
『クルーン』

飛鳥「惜しい。けどそれだと100マイルの外人投手になってしまうわ」

島田 美波の答え
『クウラ』

蒼介「それだと戦闘力53万の兄になってしまうぞ」

土屋 康太及びFクラス男子一同の答え
『成人向けの写真集』

飛鳥「……あなた達の頭にはそれしかないの?」


和真「おーっす、今戻―っと、随分客増えたなオイ」

 

四回戦終了後、教室に戻った和真を待ち受けていたのは、行く前とは比べ物にならない大勢の客だった。一般公開の宣伝効果はなかなか馬鹿にならないようだ。

 

秀吉「和真、戻って来て早々悪いが接客を頼む。お主へのリクエストがかなり多いのじゃ」

翔子「……主に女性客の」

和真「ったく、息つく間も無く労働かよ……骨が折れるな」

 

軽くぼやきつつも和真は接客に回る。

基本自由気ままに振る舞う和真だが、するべきことはする男なのだ。

 

『あ、柊!さっきの試合凄かったな!』

『とても格好良かったよ柊君!』

『おめでとう!まさかアズに勝っちゃうなんてね』

 

和真「そいつはどーも、黒崎、古河、寿先輩。相討ちみたいなもんだけどな」

 

先ほどの試合を称賛する客に和真は。律儀に礼を言っていく。

 

秀吉「和真の交遊関係はどこまで広いんじゃ……」

翔子「……和真は友達が多いから」

 

この学園で和真と面識の無い人間などもういない。

 

 

 

 

 

雄二「―っと。ほぅ。なかなかに盛況じゃないか。ここまでとは予想外だ」

明久「そうだね。かなりいい感じだね」

姫路「良かった。宣伝の効果があったみたいですね」

美波「そうでなきゃ、こんな恥ずかしい格好で大会に出た意味がないものね」

 

それからちょっとして、明久達四人が戻って来た。和真達より早く試合が始まったのにもかかわらず遅れたのは、色々と誤解を解く必要があったからだ(葉月関連)。

 

葉月「あ! バカなお兄ちゃん! お客さんがいっぱい来てくれたんだよ!」

 

葉月が明久達を見つけて、店の中からトトトッと駆け寄ってきた。

 

明久「そうだね。葉月ちゃん、お手伝いどうもありがとうね」

葉月「んにゃ~……」

 

明久が頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めている。反応が猫みたいでとても愛くるしい。

 

『お、あの子たちだ!』

『近くで見ると一層可愛いな!』

『手伝いの小さな子も教室内にいる子も可愛いし、レベルが高いな!』

 

お客さんたちの中からそんな声があがる。

 

明久(やっぱりチャイナドレスは男を惑わす効果があるね)

 

誰よりも惑わされている男が言うと説得力が違う。

 

秀吉「明久。戻ってきたようじゃな。どちらが勝ったのじゃ?」

和真「まあ大体予想つくけどな」

 

秀吉と和真がトレイ片手に明久達に寄ってくる。

訂正、和真は両手にトレイを持った上にさらにもう一つ頭に乗せている。そのトレイの上にはお客さんにだす飲茶やドリンクなども乗っているが、全く意に介さず普通に歩いてきた。目を疑うほどのバランス感覚である。

 

明久「雄二、かな?」

美波「そうね。坂本の一人勝ちね」

姫路「ですね」

秀吉「? 明久は同じチームなのに負けじゃったのか?」

和真「大方、雄二が明久もろとも敵を始末したとかだろ?」

明久「流石和真、理解が速いね」

 

ある意味明久の一人負けのような内容だったらしい。

 

明久「ちなみに和真は?」

和真「なんとか勝ちを拾った。俺の召喚獣は戦死したがな」

雄二「そんなことよりも、数少ないウェイトレスが固まっていたら客が落胆するぞ。今は喫茶店に専念してくれ」

 

気がつくとお客さんの視線がこちらに随分と集中していた。

 

姫路「そうですね。喫茶店のお手伝いをしないといけませんよね」

美波「そうね。ちょっと視線が気になるけど、売り上げの為に頑張りますか!」

葉月「はいっ。葉月も頑張りますっ」

和真「明らかに俺の負担が大きい気がするが……まあいいか」

秀吉「……ワシは一応男なのじゃが……」

明久「秀吉。絶対に性別をバラしちゃダメだからね?」

和真「もしバレたら、明日からお前は女装趣味のオカマ野郎という烙印を押されたまま生きていくことになるぞ」

 

背筋も凍るほど恐ろしい脅し文句である。間違ってはいないのだが、もう少し言い方というものがあるだろう。

 

秀吉「そ、それは嫌じゃな……。やれやれ、仕方ないのぅ……。あ、いらっしゃいませ!中華喫茶ヨーロピアンへようこそ!」

新規入店のお客さんが来た途端に秀吉の口調が変わった。

演劇部ホープの悲しい習性である。

 

雄二「さて、俺達も突っ立ってないで手伝うか」

和真「そうだな~(ガッチャガッチャ)」

雄二「和真、それ心臓に悪いからやめろ」

和真「仕方ねぇだろ、仕事多いんだから」

明久「せめてスキップで移動しないで、お願い」

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「……さて、そろそろだな。行くぞー、お前ら」

明久「ほーい。それじゃ、準決勝に行ってくるね」

姫路「はい。四人とも頑張ってくださいね」

翔子「……わかった。絶対に勝ってくる」

雄二「そうはいくか。勝つのは俺達だ」

 

喫茶店の中で動き回ること一時間。いよいよ準決勝の時間となった。

決勝戦は明日の午後に予定されているので、今日の試合はこれで最後になる。

そして対戦カードは…

 

『二年Fクラス 柊 和真

二年Aクラス 大門 徹

VS

三年Aクラス 夏川 俊平

三年Aクラス 常村 勇作 』

 

『二年Fクラス 吉井 明久

二年Fクラス 坂本 雄二

VS

二年Fクラス 霧島 翔子

二年Aクラス 木下 優子』

 

和真「常夏コンビが相手か……きっちり引導を渡してやるぜ。つーことでじゃあな、お前らも頑張れよ!」

 

三人を激励を送った後、和真は明久達とは別の特設ステージに移動しにいった

翔子「……雄二、負けないから」

 

雄二達に宣戦布告をした後、翔子は特設ステージの反対側に移動しにいった。

 

雄二(この試合だけは負けねぇ……負けられねぇ!)

 

いまだかつてないほど雄二の闘志は燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竹原「―では、私が合図すると同時に実行しろ、わかったな?」

 

電話ごしの相手の了承を確認すると、竹原は通話を切った。

 

?「……教頭、吉井君達が勝てば、やはり例の作戦を実行するのですか?」

竹原「ああ。あのバカどもが勝つことは無いとは思うが、念のためだ。Fクラスの従業員どもをエサにあいつらをおびき寄せ、少々痛めつけてもらう。明日の決勝戦を棄権せざるを得ない程度にな。坂本は中学時代有名な不良だそうだがこちらの用意した人数は50人、万に一つも勝ち目など無いだろう」

?「………………」

 

竹原の作戦を改めて聞き、男は苦渋に満ちた顔になる。

 

竹原「どうしたんだね?」

?「……やはりこの作戦はどうかと思うのですが。流石に生徒を傷つけるやり方は……」

竹原「まだそんなことを言っているのか君は」

 

男の否定的な意見を聞き、竹原は呆れた表情になる。

 

竹原「あのバカどもが怪我をしようが誰が悲しむ? あいつらはもともといない方が世の中のためであるくらいの、正真正銘のクズどもなのだよ」

?「………では。では人質にされる生徒はどうなのですか?あのような連中が彼女達に手をださない保証は―」

竹原「それがどうした?」

 

男の反論を竹原が遮る。まるでどうでもいいと言わんばかりの表情で。

 

竹原「まったく、君は優秀だが少々甘すぎるな、

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉先生」

 

綾倉「…………」

 

教頭の呆れたような物言いに綾倉は押し黙る。

 

竹原「いいか、我々の計画が成就すれば文月学園は解体される。そうなれば彼女達と私達は生徒と教師の関係ではなくなるのだよ。無関係な小娘がどうなろうと知ったことではないだろう?」

綾倉「………………そう、ですね」

竹原「わかったかね。なら話は終わりだ。職員室に戻りたまえ。君が教頭室にいるところを学園長に見られると、いろいろとまずいことになるのでね」

綾倉「…………失礼します」

 

それを聞き、綾倉は踵を返し教頭室を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、というわけでコナンスーツの男の正体は、三年学年主任の綾倉 慶先生でした。しかしどうやらなにか訳ありのご様子です。
果たして……?

あと、この作品では竹原の救済とかはありません。
全世界1億7000万の竹原ファンの皆様、申し訳ない。

では。


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激昂の槍

【バカテスト・現代文】
『胸三寸』という語句を使って例文を作りなさい。

霧島 翔子の答え
「上司の胸三寸で許可を出すかどうかを決められる」

蒼介「正解だ。『胸三寸』とは、心の中にある考えという意味になる」


吉井 明久の答え
「美波の胸は三寸だ」

和真「さっき明久がズタボロになってた理由はこれか……」


五十嵐 源太
「徹の身長は三寸だ」

蒼介「そして源太が半殺しにされていた理由はこれか……というか語句が変わってしまっている時点で確信犯だなこれは」


『お待たせしました!これより準決勝を開始したいと思います!』

 

和真達が特設ステージに到着すると、審判役の教師のアナウンスが流れた。

 

徹「まったく、時間ギリギリじゃないか」

和真「わりぃ、喫茶店が忙しくてな」

徹(うちも忙しかったけど早めに抜けてきたんだよね……もうオモチャにされるのは御免だよ)

 

心なしか、徹の背中に哀愁が漂っている。

 

『出場選手の入場です!』

 

アナウンスに従い、和真と徹はステージに入場する。

和真達の向かいからは対戦相手の、今日散々Fクラスの邪魔をしてきた常夏コンビがやってきた。

 

徹「どうも先輩方。生徒会役員ともあろう者が、随分とセコい小細工をしていたようですね」

 

ついさっき和真から事情を聞いていた徹は、揶揄するように夏川達に話しかける。

 

夏川「あれはあのバカ共が公衆の面前で恥をかかないように、という優しい配慮なんだよ。ま、Fクラスの奴なんかとつるんでるような奴のオツムじゃあ理解できなかったか?」

 

それに対して夏川は顎を手で擦り、挑発してきた。

 

徹「そうでしたか、だとしたら無駄な努力ですねぇ。あなた方は今ここで、僕達に無様に負ける運命なんですから」

 

その挑発を欠片も意に介することなく、ものすごく見下した表情で挑発し返す徹。

 

夏川「んだとテメェ……試召戦争は点数だけで結果は決まらねぇんだよ。お前らみたいなケツ青いクソガキに負けるわけ―」

徹「誰がガキだゴルァ! 顔の皮剥がされてぇのか、あぁん!?」

常夏「「いやなんでだよ!?」」

 

さっきまで憎たらしいくらいに冷静だった徹が突然ぶちギレる。

徹のあまりのキレっぷりに思わずたじろぐ二人。

ガキ、チビ、ミニ、リトル、スモール、チャイルド、その他小さいことを意味するワードは禁句である。

 

和真「……なぁ先輩、一つ聞きてぇんだけどよ」

 

しばらく静観していた和真が、突然おもむろに口を開いた。

 

夏川「? なんだよ?」

和真「なんであんたら教頭なんかに協力してんだよ?」

夏川「! ……そうかい。事情は理解してるってコトかい」

和真「最初にあんたらが妨害してた時に、率先して席を立ったのは教頭だ。二回目に教頭が来たとき明久のことを確認して、そしてその直後に明久が襲われた。それだけのことがあれば教頭とあんたら、ついでにあのチンピラどもがグルだってわかるわ。ついでにあんたらが何を狙ってるかも調べはついてる」

常村「……こいつは驚いた。お前、Fクラスのクセに随分頭が回るじゃねぇか」

和真「そいつはどーも。で、あんたらは何が目的なんだ?文月学園を潰そうとしてる奴に肩入れしてるんだ、何かしらあんだろ?」

夏川「進学だよ。上手くやれば推薦状を書いてくれるらしい。そうすりゃ受験勉強とはオサラバだ」

和真「……なるほど。常村先輩も同じか?」

常村「まぁな」

和真「…………ハァ」

 

二人の目的を聞いた和真は、呆れるようにため息を吐いた後、氷のように冷たい目で二人を見据える。

 

 

和真「…………気に入らねぇな……

 

俺は、あんたらが心底気にいらねぇ!!!」

 

 

夏川「なんだとコラ……先輩に向かって……!」

常村「まぐれで佐伯に勝ったことで調子に乗ってんのか? だったら俺達が現実っつうもんを教えてやるよ!」

 

『そ、それでは試合に入りましょう! 選手の皆さん、どうぞ!』

 

一色触発の雰囲気を察したのか、審判役の先生がたじろぎながら四人に召喚を促す。

 

和真「………………徹、すまん」

徹「? 何がだい?」

和真「この試合…………お前の出番は無さそうだ」

徹「! …………」(これは……相当イラついてるね、まあ無理もないか……)

 

『試獣召喚(サモン)!』

 

掛け声をあげ、それぞれが分身を呼び出した。

常夏コンビの召喚獣の装備は二人ともオーソドックスな剣と鎧。姫路の装備をワンランクダウンしたような感じである。

 

 

《保健体育》

『二年Fクラス 柊 和真 322点

二年Aクラス 大門 徹 315点

VS

三年Aクラス 夏川 俊平 195点

三年Aクラス 常村 勇作 203点 』

 

 

『それでは、準決勝開始!』

 

 

夏川「さぁて、三年の強さを思い知らせ…………」

 

夏川の言葉は最後まで続かなかった。

なぜなら……

 

 

 

 

 

自分の召喚獣が、〈和真〉が神速で投擲した槍に貫かれ、壁に突き刺さって息絶えてしまったからだ。

 

夏川「ば……馬鹿なッ!?」

 

 

《保健体育》

『二年Fクラス 柊 和真 322点

二年Aクラス 大門 徹 315点

VS

三年Aクラス 夏川 俊平 戦死

三年Aクラス 常村 勇作 203点 』

 

 

〈和真〉がやったことは至極単純。

全速力でダッシュしながら槍を投擲しただけだ。

ただし学園でもトップクラスのスピードで、だが。

その圧倒的な加速力が、〈和真〉の規格外の豪腕から放たれる槍のスピードをさらに加速させ、見てからではガードも回避も間に合わないほどの攻撃へと昇華されたのである。そしてこの技にはもう一つメリットがある。それは全速力で槍を放った相手の方向ににダッシュしているので、

 

 

 

和真「次ィ!」

 

すぐさま投擲した槍を回収できるということだ。

 

常村「っ!? こ、この野郎っ!」

 

槍を回収し、そのまま自分に襲いかかって来た〈和真〉を迎え撃とうと武器を構える〈常村〉。

 

和真「おらぁあああ!」

 

〈常村〉めがけて〈和真〉が槍を横に薙ぐ。

 

常村「喰らうかそんな攻撃!」

 

即座にしゃがんで槍の攻撃を回避しようとする〈常村〉に対して〈和真〉は、

 

和真「もらったぁあああ!」

 

横に振り切った槍の威力を損なわずに構え直し、〈常村〉の上から渾身の力で叩きつけた。

 

常村「………………嘘だろ?」

 

 

《保健体育》

『二年Fクラス 柊 和真 322点

二年Aクラス 大門 徹 315点

VS

三年Aクラス 夏川 俊平 戦死

三年Aクラス 常村 勇作 戦死』

 

 

『勝者、柊・大門ペア!』

 

審判の先生に勝ち名乗りを受け、観客の拍手喝采に包まれるも、和真は不満足げな表情をしていた。失望、落胆、脱力、そんな感情がむき出しになっている。

 

和真「……つまんねぇ…………今までで一番つまんなかったよ、この試合は」

 

和真は心底失望したような冷めきった目で常村と夏川を見下ろす。

 

常村「な、なんだと!」

夏川「この野郎!先輩に向かって……!」

和真「あんたらのしょうもなさを、他にどう表現すりゃあいいっつうんだよ? あぁん?」

夏川「テメェ……!」

常村「言わせておけば……!」

 

情け容赦無い罵詈雑言を浴びせられた二人は、今にも和真に殴りかかろうとしていた。

 

和真「……あのな、俺は別にあんたらが教頭に加担してこの学園潰そうとしていることを、ゴチャゴチャ言うつもりはねぇんだよ」

常村「…………なに?」

 

思ってもみなかった意外な発言に常村は予想外といった表情をする。

 

和真「俺は善人でも正義の味方でもねぇ。そういうのはソウスケとか飛鳥の役目だしな」

常村「……だったらお前は何が気に入らないんだよ?」

 

いよいよ和真の考えがわからなくなってきたのか、二人は困惑した表情になる。

 

和真「俺が気に入らねぇのはあんたらが他人にすがって、楽に生きようとしていることだよ」

夏川「他人に……すがってる……だと?どういう意味―うぐっ!」

 

夏川が言い終わらないうちに、和真は夏川の胸ぐらを掴む。

 

 

和真「お前らそんなに楽がしてぇのか。

 

誰かに命令されるまま他人の邪魔をして、その見返りを誰かから恵んでもらって、お前らはそれで満足なのか。

 

この先も嫌なことから逃げ続けるけるのか、誰かが助けてくれるのを待つのか、人の足平気で引っ張って甘い汁すすって生きていくのか。

 

 

 

 

甘ったれてんじゃねよ!!!

 

他人に支えてもらわなきゃ、テメェは立ち上がることもできねぇのか!

つらい? しんどい? 投げ出したい? 誰か助けに来て欲しい?

あぁそうだよ! 生きてりゃそんなこと腐るほどあるわ!

だがなぁ! たとえ困難障害艱難苦痛不幸不条理に悩まされようと、自分だけで乗り越えていかなきゃならねぇことがあるんだよ!

それに立ち向かうのが人生だろうが!…………少なくとも俺のダチは立ち向っているぜ、どんな不条理なことが起きようともな」

 

言うだけ言うと和真は夏川から手を放し、夏川はそのまま床に崩れ落ちた。

 

和真「俺の言いたいことは以上だ。それでどうするかはあんたらの自由だ。行くぞ、徹」

徹「了解」

 

放心したように押し黙っている二人を捨て置き、二人は特設ステージから立ち去った。

 

夏川「…………なあ、常村」

常村「…………なんだ?」

夏川「……俺達……いつから後輩に説教されるほど落ちぶれちまったんだ?」

常村「……さあな。もしかしたら俺達……受験勉強から逃れたいばかりに、すごく情けない人間になってたのかもな……」

 

二人がこの後どうなったかは、

今は語るときではない。

 

 

 

 

 

 

 

徹「やれやれ。結局僕はなにもしてないよ」

 

階段を上りながら、試合中完全に空気だった徹は和真を詰るように愚痴る。

 

和真「そいつは悪ぃな。飛鳥の過去を考えると、どうもムカついて」

徹「まぁ、そんなことだろうと思ったよ。

確かに人生には不条理なことが多いよ……身長とか背が伸びないこととか常日頃カルシウム過剰摂取してるのにまるで効果がないこととか」

和真「お前そればっかじゃねぇか……それにカルシウムっつったって、お前が摂取してるのは練乳だろうが」

徹「練乳=砂糖+牛乳じゃないか。まさに趣味と実益を兼ね備えた至高の一品だろう?」

和真「実益は備えてねぇだろ、伸びてねぇんだから」

徹「…………グスン」

 

気にしている部分にダイレクトアタックされ、徹は今にも泣きそうな表情になる。

 

徹「……伸びるもん……絶対にいつか伸びるもん」

和真「わかったわかった悪かったって」

 

セカイーヲーテラーシテーク- ヨゾラーノーツキーノヨウニー♪

 

和真「お、俺の携帯だ。……はいもしもーし!」

徹(意外な着信音のチョイス……)

和真「…………了解。それじゃあ」

 

そう言って和真は通話を切る。

 

和真「それじゃあ徹、また明日」

徹「……ああ、また明日」

 

そのまま和真はなぜか上ってきた階段を、また下りていっていってしまった。

 

徹「……何か面倒ごとを引き受けたようだね、和真」




帰ってきた和真君無双。
まあ本作品最強候補の梓さんと闘った後で、今更得意科目でもない常夏コンビに出て来られてもねぇ……

新技『カズマジャベリン改』を習得した。
ただしこの技、相手に向かってなりふり構わず全力疾走するため、避けられると相手にカウンターされて即死という危険があります。
もし梓さんなんかに使ったりした日には……

和真君は本人の性格とある事情から、他人をあてにして生きているような人が大嫌いです。
あと、何気に常夏コンビに更正フラグが建ちました。

では。


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誘拐…………?

【バカテスト・化学】
問題(科学)
『ベンゼンの化学式を答えなさい』

姫路 瑞希の答え
『C6H6』

蒼介「正解だ。特に言うことは無い」

土屋 康太の答え
『ベン+ゼン=ベンゼン』

源太「テメェ化学舐めてんだろ」

吉井 明久の答え
『B-E-N-Z-E-N』

蒼介「お前達二人に布施教諭からの伝言、『あとで職員室に来るように』。わかったか馬鹿共」


雄二「明久。今日という今日はお前をコロス」

明久「あはは。やだなぁ雄二。目が怖いよ?」

翔子「…………(ウットリ)」

 

雄二は今にも明久に掴みかかりそうな表情をしており、それに対して翔子はとても幸せそうな表情をしている。

見た感じ明久達が無様に敗北した後の光景に見えるが、勝者は明久と雄二のペアだったりする。

 

準決勝、明久・雄二ペアの相手は翔子・優子ペア。

雄二の考えていた作戦は優子を秀吉と入れ換えて三体一で翔子を倒す、というものだった。

 

だがその考えは甘い。天津甘栗よりも甘い。

 

入れ替わりを行う以上本人を拘束しておく必要があり、秀吉がその役を買ってでたのだが、心技体全てにおいて上回る優子に敵うはずもなく、手も足もでず返り討ちに遭い逆に拘束されてしまう。

普段の雄二ならばこの程度のことを見落とすわけがないのだが、なぜか翔子が絡むと雄二の頭のキレが凄く悪くなるのだ。

作戦は失敗、まさに絶体絶命の状況をどのように切り抜けたかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

明久(雄二。僕に考えがあるから、指示通りの台詞を言って欲しい)

雄二(考え?一体何を―)

明久(今は迷ってる余裕なんてないよ。とにかくよろしく!)

雄二(お、おう)

 

自分の指示だとバレないように明久は雄二の陰にそれとなく身を隠す。そして念のためジェスチャーでムッツリーニに、救出された秀吉にこっちに来るように指示をだす。

 

明久(それじゃ行くよ。僕の言ったことをそのまま言うんだ。棒読みにならないようにね?)

雄二(わかった。今回はお前に任せよう)

 

明久<翔子、俺の話を聞いてくれ>

雄二「翔子、俺の話を聞いてくれ」

明久<お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ>

雄二「お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ」

翔子「……雄二の考え?」

明久<俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたいんだ!>

雄二「俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたい―って、ちょっと待て!」

 

慌てて明久の方をを向こうとするが、明久は後ろから強引に雄二の頭を押さえつける。

 

翔子「……雄二」 

 

翔子はうっとりした表情で雄二を見ている。

 

明久(やはり僕の作戦に間違いはなかった)<だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう>

雄二「だっ誰がそんなこと言うかボケェッ!」

明久(ふん、バカめ!キサマの反応などお見通しだ!)「くたばれ」

雄二「くぺっ!?」

 

明久が後ろから雄二の頸動脈を押さえつける。

 

翔子「……雄二?」

明久(秀吉、よろしく)

秀吉(うむ。了解じゃ)

 

ここにきてようやく待機させておいた秀吉の出番のようだ。秀吉は雄二の本人と区別のつかない声まねで最後の台詞を紡ぐ。

 

秀吉(雄二)「だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう。愛してる、翔子」

明久(指示していない台詞まで追加されていたけと……実は秀吉もこういった真似が好きなのかな?)

翔子「……雄二。私も愛してる……」

雄二「ま、待て……。勝手に話を進め……こぺっ!?」

 

明久は雄二が反論できないよう首を捻りあげた。

 

明久「ふはははは! これで最強の敵は封じ込めた! 残るはキミだけだ、木下 優子さん!」

優子「ひ、卑怯な……!」

 

ちなみに翔子は雄二の亡骸に抱きついて、胸元に顔を埋めている。

雄二の手足は力なく垂れ下がっているが大した問題ではない、多分。

 

優子「こうなったらアタシ一人で片付ける! 『アクティブ』を舐めないでよね!

行くわよ―試獣召喚(サモン)!」

明久「ふふっ。それはどうかな? この勝負の科目が保健体育だったことを恨むんだね!」

 

そう言ってムッツリーニに目配せする。これは元々雄二(故)が考えていた秘策である。

 

明久「行くよっ!新巻鮭(サーモン)!」

ムッツリーニ「…………試獣召喚(ボソッ)」

 

喚び声に応え、出現する召喚獣。それはたとえ優子であろうと太刀打ちできない強さを持った―

 

《保健体育》

『二年Fクラス 土屋 康太 583点

VS

二年Aクラス 木下 優子 353点』

 

優子「……え!?それ、土屋くんの……」

 

―ムッツリーニの召喚獣だ。

 

明久(これが秘策、『代理召喚(バレない反則は高等技術)』だ!)

ムッツリーニ「…………加速(ボソッ)」

優子「ほ、本当に卑怯―きゃぁっ!」

 

 

 

 

 

 

まあ要するに、雄二の自由を生け贄に勝利をもぎ取ったというわけだ。雄二が翔子が関系したことに弱いのと同様、翔子も雄二が関係したことに弱いのだ。

やり口が外道そのものだが、雄二も普段明久を陥れているので文句を言える身分ではない。

『アクティブ』のメンバー達のような「助け合う友情」でもなければ、和真と蒼介の「競い合う友情」でもない。

この二人は言わば「蹴落とし合う友情」である。それを友達関係と呼んで良いのか甚だ疑問であるが。

 

明久「だいたい、雄二の作戦が読まれていたのがいけないんじゃないか。木下さんと秀吉の力関係を考慮していなかったなんてらしくないよ?」

雄二「ぐっ。それを言われると反論できん……」

このように、雄二は翔子が相手だと冷静さを失ってしまうのである。

雄二「ところで翔子、姫路や島田は教室にいるのか?」

翔子「……確認はしてないけどまだ喫茶店でウェイトレスをやっている時間」

雄二(多分、そろそろ仕掛けてくるはずだと思うんだが……)

 

 

 

 

ムッツリーニ「…………雄二」

 

教室の前まで戻ってくると、ドアの前に立っていたムッツリーニが駆け寄ってきた。

 

雄二「ムッツリーニか。何かあったのか?」

ムッツリーニ「………ウェイトレスが連れて行かれた」

明久「えぇっ!? 姫路さんたちが!?」

雄二「やはり俺達と直接やり合っても勝ち目がないと考えたか。当然といえば当然の判断だな」

 

確かに中学時代喧嘩に明け暮れていた雄二は並の人間ならだろう。さらに、Fクラスにはその雄二を遥かに凌駕する化け物もいるのだ。相手がそう考えたと判断するのが妥当だろう。

 

明久「ってそんなことより、姫路さん達は大丈夫なの!? どこに連れて行かれたの!? 相手はどんな連中!?」

雄二「落ち着け明久。これは予想の範疇だ」

翔子「……そうなの?」

雄二「ああ。もう一度俺達に直接何かを仕掛けてくるか、あるいはまた喫茶店にちょっかいを出してくるか。そのどちらかで妨害工作を仕掛けてくることは予想できたからな」

 

雄二はどうやら今回はウェイトレスを連れ出すという喫茶店の妨害と予想しているらしい。確かにそんなことをされては売り上げに影響が出るだろう。

 

明久「なんだか随分と物騒な予想をしてたんだね。今回の場合下手をすると警察沙汰になるというのに」

雄二「引っかかることが随所にあったからな」

 

ここ最近の雄二の考えるような素振りはなにかしら違和感を感じていたからであろう。

 

ムッツリーニ「…………行き先はわかる」

 

と、おもむろに取り出したのは何かの機械。

 

明久「なにこれ? ラジオみたいに見えるけど」

ムッツリーニ「………盗聴器の受信機」

明久「オーケー。敢えて何で持ってるのかは聞かないよ」

 

これも下手したら警察沙汰になるだろう。

 

雄二「さて、場所がわかるなら簡単だ。かる~くお姫様たちを助け出すとしましょうか、王子様?」

明久「そのニヤついた目つきは気に入らないけど、今回は感謝しておくよ。姫路さん達に何かあったら、召喚大会どころの騒ぎじゃないからね」

雄二「……それが向こうの目的だろうな」

明久「え?」

雄二「とにかく、まずはあいつらを助け出そう。翔子は教室で待っていてくれ」

翔子「……わかった」

 

まず最初に翔子を危険から遠ざけようとする辺り、なんだかんだで大切にしているようだ。

 

雄二「ムッツリーニ、タイミングを見て裏から姫路たちを助けてやってくれ」

ムッツリーニ「…………わかった」

明久「雄二、僕らはどうするの?」

雄二「王子様の役目は昔から決まっているだろう?」

茶目っ気を含んだ目を明久に向ける雄二。

明久「王子様の役目って?」

雄二「お姫様をさらった悪党を退治する事さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と、まあそんな感じで意気込んで文月学園から歩いて五分程度のカラオケボックスのパーティールームに乗り込んだのだが、

 

葉月「あ、バカなお兄ちゃんです! (モッサモッサ)」

美波「来るのが遅いわよ(モッサモッサ)」

姫路「駄目ですよ美波ちゃん、そんの言い方しちゃ(モッサモッサ)」

秀吉「心配させたかのう? (モッサモッサ)」

「「「ど う し て そ う な っ た !」」」

 

なぜか誘拐された四人は、パーティールームでドーナツを頬張りながらくつろいでいた。

周りには気絶したチンピラ七人が、縄で縛られて無造作に転がっていた。

 

雄二「……あれ、お前らがやったのか?」

美波「そんなわけないでしょ。いくらウチでも七人は無理よ」

明久「……じゃあ誰がやったの?」

秀吉「ふむ、一から説明した方が良さそうじゃな」

 

そう言って秀吉は一部始終を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

葉月「お、お姉ちゃん……」

美波「ちょっとアンタたち! 葉月を放しなさいよ! ウチらをどうするつもり!」 

 

美波達四人はチンピラ達に葉月を人質に取られ、ろくに抵抗もできずこの部屋まで連れてこられていた。

 

チンピラA「まあそう焦んなよ。お嬢ちゃん達は吉井と坂本を呼び出すエサになってくれればいいんだから」

姫路「よ、吉井君達に何をするつもりですか!?」

チンピラB「そりゃ勿論適度に痛めつけるんだよ。かつて『悪鬼羅刹』と呼ばれた坂本だろうが、人質がいるんならろくに手出しできねぇだろうからな~」

秀吉「なんと卑怯な奴等じゃ! 根本の奴がマシに見えてくるぞい!」

 

人として最低のことをしようとしているチンピラ共を嫌悪に満ちた表情で睨む秀吉と美波。

 

チンピラC「おいおい口の聞き方に気をつけた方がいいぜ? 依頼人からはお前らをどうしようが構わないって言われてんだからよ」

『ギャハハハハハハハ!』

 

吐き気すら覚えるような笑い方をし、下卑た目で秀吉達をみるチンピラ共。秀吉と美波は悔しそうに唇を噛む。

 

チンピラA「まあしばらくおとなしくしてな無事に帰りたけりゃあよ」

「そいつの言う通りちょっとの間おとなしくしとけよガキども。巻き込まれたくなけりゃな」

『ギャハハハハハハハ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………………は?』 

 

いつの間にか一人の男がチンピラ共の隣に立っていた。

「くたばれ」

チンピラA「がはぁあっ!」

チンピラB「げぼぉっ!」

 

そのことをその場にいる全員が認識した瞬間、チンピラの一人が顔面をぶん殴られて吹っ飛ばされ、一人を巻き込んで壁に激突して気を失った。

 

チンピラC・D「「な、なんだテメ―ぐぎゃあっ!?」」 

 

二人のチンピラの言葉が言い終わらないうちに、男は両手で二人の頭を掴み、シンバルの要領でおもいっきりぶち当てた。

 

そして男はすかさず残り三人の中で一番手近にいた一人の足を掴み、逆さ吊りにし、

 

チンピラF「な、なにするんだテメ―ほごあぁぁぁっ!」

チンピラE「く、来るな!?あがぁぁぁっ!」

 

鈍器のように別のチンピラに殴りかかった。

 

「はい、おしまい」

 

男は鈍器にしたチンピラを無造作に投げ捨てた後、即座に上半身を低く沈め、そのまま空中で一回転、後ろ足を蠍のように跳ね上げ、最後のチンピラの土手っ腹に全体重を載せた蹴りを炸裂させた。

最後の一人は肺の酸素を全て吐き出させられ、声を上げることもできずに意識を失った。

 

「さてと、仕上げだ」

 

男は倒れているチンピラ共を持参した縄で手際良く縛り上げた。

 

チンピラA「テ……テメェはなんなんだよ?…… (ゴキュッ)ゴファッ」

 

意識を取り戻したチンピラの一人がそう言うも、男に首を捻られ再び失神する。

 

「あ? 俺? 俺は―」

 

 

その男は、

 

所々はねまくったボサボサの黒髪

 

あまり手入れされていない口元の無精髭

 

すごくだらしない着方をしたスーツ

 

そして……覇気の欠片も感じない濁った目をしていた。

 

男は煙草に火をつけながら気だるげに答えた。

 

「通りすがりのちょっと無気力なおっちゃんだ」

 




原作通り姫路達は誘拐されましたが、再登場したおっちゃんがスピード解決しました。無駄に強い……
しかし、竹原の配下はまだ40人ほど残っています。

では。


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撃退

【バカテスト・地理】
ベルギー・オランダ・ルクセンブルクからなる経済協力同盟をなんというか。

柊 和真の答え
『ベネルクス三国関税同盟』

蒼介「正解だ。この三国がEUの起源なので、決して忘れないように」

土屋 康太の答え
『EC』

源太「惜しいな、だがEC(ヨーロッパ共同体)はその三国以外にも加盟国がいるので不正解だ。
…………というかまともな間違い方初めてじゃねぇか、テメェ」

吉井 明久
『ETC』

蒼介「土屋の解答にTが加わっただけでここまで正解から遠ざかるとはな……」


おっちゃん「おーガキども、大丈夫だったか?……って、なんでお前さんだけ縛られてんの?」

秀吉「色々と事情があってのう……」

 

おっちゃんは優子に拘束されたときのロープをまだ持っていたせいで、一人だけ縛られた状態であった秀吉を解放する。 

姫路「あ、あのっ、助けて頂いてありがとうございました!」

おっちゃん「あー、まぁ気にすんな。おっちゃんも頼まれただけだし」

美波「頼まれたって……誰にですか?」

おっちゃん「すまんがそいつは言えねぇ」

秀吉「ふむ、そうか……まあ助けて貰った身じゃ、文句は言えん」

おっちゃん「いやいやいや、そいつと会う機会があったら言っとけ言っとけ。ミステリアスぶってんじゃねぇよ死ね、とでも」

美波「そ、それは流石に……」

 

なぜか個人的な恨みがあるかのような物言いである。

 

葉月「あっ!だるそうなおじさん久し振りです!」

 

一段落した後、恐怖から立ち直った葉月が、おっちゃんが見知った顔だとわかり挨拶する。

 

おっちゃん「あぁ? ……あー、お前さんあのときのチビガキか」

葉月「チビガキじゃないです葉月ですっ」

おっちゃん「へー、ほー」

葉月「む~」

 

まるで興味ありませんといった態度で、二本目の煙草に火をつけながら聞き流すおっちゃんに、葉月は不満気に頬を膨らませる。

 

美波「あ、あの……葉月と知り合いなんですか?」

 

助けてもらったとは言え、こんな胡散臭さを具現化ようなオッサンと妹が知り合いなのは複雑な心境なのか、美波は恐る恐る尋ねる。

 

おっちゃん「あぁ、以前こいつらの缶蹴りに強引に巻き込まれたことがあってな。よりによってせっかく仕事を部下に押し付けることに成功した日にな……」

美波(缶蹴り?そういえば今日そんな話を聞いたわね。

……それにしても、)

缶蹴り、と聞いて美波はクラスメイトの娯楽主義者がした話を思い出す。そして、

 

美波(ダメ人間ね、この人……)

秀吉(ダメ人間じゃな……)

姫路(ダメ人間、ですね……)

 

絶体絶命のピンチを救ったおっちゃんの株価が、急激に下落し始めたようだ。

 

チンピラA「ククク……いい気になるなよ…………

俺達の連絡が途絶えたことで、直に仲間がここに突入し―んごぱっ!?」

おっちゃん「誰が喋っていいっつったよ、だるいんだからそこで死んでろよ」

 

気絶から復活し不吉なことをいい始めたチンピラを、おっちゃんが再び首をねじ切って黙らせる。

 

秀吉「お、おい!? 今こやつ大事ことを話そうとしておったぞ!?」

おっちゃん「いいんだよ。そんなもんとっくに知ってる」

 

そう言うとおっちゃんはそのチンピラの懐をまさぐり、無線機を取り出した。

 

おっちゃん「あーあー、聞こえてるかー、こっちはガキどもの救出に成功したぞー」

チンピラ×10「」

鉄人「こちら西村、北側に待機していたバカどもの鎮圧を終えました」

 

チンピラに教育指導(物理)を施し、縛り上げた状態にしたまま生徒指導の鬼は任務完遂の報告をした。

 

鉄人「さて、他のブロックのバカどもも回収し補習室に連行しなくてはな。やれやれ……まさか校内生以外に生徒指導をすることになるとは」

チンピラ×10「」

秀介「こちら鳳 秀介とその息子蒼介、西側を制圧完了」

 

木刀でチンピラ共を昏倒させた秀介と蒼介は任務完遂の報告をした。

 

秀介「ふふふ、それにしても蒼介、随分と腕を上げたようだね」

蒼介「それでもまだあなたと同じ境地には辿り着けていませんよ、父様」

秀介「焦る必要はない。お前なら辿り着けるさ、明鏡止水の境地に。今後とも日々精進したまえ」

蒼介「……わかりました」

秀介「さて、一先ず学園に戻るとしようか」

蒼介「父様、そっちは学園と逆方向です」

 

チンピラ共を一子相伝の剣術で鎮圧した後、アグレッシブ社長&御曹司は文月学園へ凱旋する。

チンピラ×10「」

和真「こちら和真、南側のチンピラ共の殲滅が終わったぜ」

 

死屍累々に積み上げられたチンピラ共の山に腰かけ、和真はつまらなそうに任務完遂の報告をした。

 

和真「はぁ………やっぱ10人程度じゃ面白くもなんともねぇな」

 

チンピラ共を瞬殺した娯楽主義者は期待はずれといった表情で文月学園へ舞い戻る。

チンピラ×10「ぐぅっ……!」

高橋「こちら高橋、東側を制圧完了」

 

チンピラ達を召喚獣のムチで縛り上げた状態で、高橋先生は淡々と任務完遂の報告をし、鉄人が来るのを待つ。

おっちゃん「全滅させたようだな、結構結構」

 

満足そうにそう呟くと、おっちゃん手に持った無線機を無造作に投げ捨てる。

 

おっちゃん「じゃあなガキども。ミスドここに置いとくから、食べながら仲間が助けに来るまでここで待ってな」

 

そう言い残し三本目の煙草に火を点けながら、おっちゃんは部屋から出ていこうとする。

 

美波「ち、ちょっと待って下さい!助けに来るって、誰がですか?」

 

事態が飲み込めていない美波は慌てておっちゃんを引き留めようとするが、おっちゃんは面倒臭そうに返事する。

 

おっちゃん「そりゃあ、お前さん達のお友達だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「……ということがあってのう」

明久(へえ……あのおっちゃんがそんなことを)

 

秀吉達からことの顛末を聞いた明久は、かなり下の方だったおっちゃんに対する評価を上方修正する。

 

美波「でも色々とわからないことが多いわねあの人。どうして面識のある柊はともかく、西村先生達や鳳親子ともパイプがあったのかしら?」

明久「言われて見れば確かに……まあ和真なら何か知ってるんじゃない?」

秀吉「少なくとも鳳についてならおそらく知っておるじゃろうしな」

美波「それもそうね」

雄二「…………………………」

 

三人が納得するなか、雄二は難しい顔をしたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誘拐騒ぎも解決して、喫茶店の一日目も終了したFクラスの教室。そこに明久と雄二と翔子が残っていた。(翔子には事情を説明済み。ちなみにチケットの説明の辺りで雄二が死にかけるハプニングがあったが、そこはまあ置いておこう)。

 

雄二「お前ら。そろそろ来る時間だぞ」

明久「? 来るって、誰が」

雄二「ババァだ」

明久「学園長がわざわざここに来るの?」

 

どうやらババァ=学園長ということは、いちいち説明しなくても伝わるようだ。

 

雄二「俺が呼び出した。さっき廊下で会った時に、『話を聞かせろ』ってな」

翔子「……雄二、相手は目上の人なんだから、用事があるならこちらから行かなきゃ」

雄二「用事もクソも……この一連の妨害はあのババァに原因があるはずだからな。事情を説明させないと気が済まん」

明久「ババァに原因が―えぇぇっ!? あ、あのババァ! 僕らに何か隠してたのか! そのせいで姫路さんたちが危険な目に遭いそうになるし、喫茶店の経営は苦労するし、ここは文句言ってやらないと!」

 

「……やれやれ。わざわざ来てやったのに、随分な挨拶だねぇ、ガキどもが」

 

声と同時に教室の扉が開き、学園長が姿を現す。

 

雄二「来たかババァ」

明久「でたな諸悪の根源め!」

学園長「おやおや、いつの間にかアタシが黒幕扱いされてないかい? だいたいなんで部外者までいるんだい?」

 

学園長まるで被害者であるかのように肩をすくめた後、雄二の隣にいる翔子を見据えるが、

 

翔子「……さっき雄二から無理矢理自白させた」

学園長「そ、そうかい……」

 

翔子の恫喝報告にさすがの学園長も気圧される。

そもそも雄二も話すつもりは無かった。まぁ仕方ないだろう、力関係は圧倒的に翔子が上なのだから。

 

雄二「黒幕ではないだろうが、俺達に話すべきことを話してないのは充分な裏切りだと思うがな」

学園長「ふむ……。やれやれ。賢しいヤツだと思っていけど、まさかアタシの考えに気づくとは思ってなかったよ」

雄二「最初に取引を持ち掛けられた時からおかしいとは思っていたんだ。あの話だったら、何も俺達に頼む必要はない。もっと高得点を叩き出せる優勝候補を使えばいいからな。一緒にいた和真とか、前回チャンピオンの佐伯先輩にでもな」

明久「あ、そういえばそうだね。優勝者に後から事情を話して譲ってもらうとかの手段を取れたはずだし」

雄二「そうだ。わざわざ俺達を擁立するなんて、効率が悪すぎる」

翔子「……つまり、雄二達を召喚大会に出場させる為にわざと渋った?」

雄二「そういうことになるな」

 

せれが事実なら、中々に狡猾な方法を使うクソババァである。

 

雄二「明久。俺がババァに一つの提案をしたのを覚えているか?」

明久「提案? えーっと」

学園長「科目を決めさせろってヤツかい。なるほどね。アレでアタシを試したワケかい」

雄二「ああ。めぼしい参加者に同じような提案をしている可能性を考えてな。もしそうだとしたら、俺達だけが有利になるような話しには乗ってこない。だが、ババァは提案を呑んだ」

 

雄二の提案を呑んだということは、他の人ではなく明久達が優勝しなければ学園長が困るということだ。

 

雄二「他にも学園祭の喫茶店ごときで営業妨害が出たりしていたしな。何より、俺たちの邪魔をしてくる連中が姫路たちを連れ出したりしたのが決定的だった。ただの嫌がらせならここまではしない」

学園長「そうかい。向こうはそこまで手段を選ばなかったか……すまなかったね」

 

と、突然学園長が頭を下げた。とんでもなくレアケースなことである。

 

学園長「あんたらの点数だったら集中力を乱す程度で勝手に潰れるだろうと最初は考えてたんだろうけど……決勝まで進まれて焦ったんだろうね」

雄二「こちらのタネ明かしはこれで終わりだ。今度はそっちの番だ」

学園長「はぁ……アタシの無能を晒すような話だから、できれば伏せておきたかったんだけどね……」

 

誰にも公言しないで欲しい、そんな前置きをして、学園長は明久達に真相を明かし始めた。

 

学園長「アタシの目的は如月ハイランドのペアチケットなんかじゃないのさ」

明久「ペアチケットじゃない!? どういうことですか!?」

学園長「アタシにとっちゃあ企業の企みなんかどうでもいいんだよ。アタシの目的はもう一つの賞品なのさ」

翔子「……もう一つというと、『白金の腕輪』?」

明久「ああ。あの特殊能力がつくとかなんとかってやつ?」

 

白金の腕輪は二種類ある。

一つ目は点数を二分して二対の召喚獣を同時に召喚する腕輪。

もう一つは教師の代わりに立会人になって召喚フィールドを作る腕輪。こっちは使用者の点数に応じてフィールドの広さが変化し、科目は自由に選択できる。

 

学園長「そうさ。その腕輪をアンタらに勝ち取って貰いたかったのさ」

明久「僕らが勝ち取る? 回収して欲しいじゃないわけじゃなくて?」

雄二「あのな……回収が目的なら俺たちに依頼する必要はないだろう?そもそも、回収なんて真似は極力避けたいだろうし、な」

 

雄二が学園長を揶揄するように話を振る。

 

学園長「本当にアンタはよく頭が回るねぇ……そうさ。できれば回収なんて真似はしたくない。新技術は使って見せてナンボのものだからね。デモンストレーションもなしに回収したら、新技術の存在自体を疑われることになる」

 

できればということは、最悪の場合はそれも考慮していたんだろう。

 

明久「それで、何でその『白金の腕輪』を手に入れるのが僕らじゃないとダメなんですか?」

学園長「……原因不明の欠陥が生じたからさ」

 

苦々しく顔をしかめる学園長。技術屋にとって新技術に欠陥が発生し、しかもその原因がわからないことは耐え難い恥のはずだ。それを生徒である明久達に話すのだから無理もない。

 

雄二「その欠陥は俺達であれば問題ないのか?」

学園長「お前達というか吉井だね。欠陥が生じたのは片方だけだからね。吉井が使うんなら暴走は起こらずに済むのは、不具合は入出力が一定水準を超えた時だからね。だから他の生徒には頼めなかったのさ」

明久「えーっと、つまり……?」

学園長「アンタみたいな片方が『優勝の可能性のある低得点者』のコンビが一番都合が良かったってわけさ」

明久「よくわからないけど、とりあえず褒められてるってことでいいのかな?」

雄二「いや、お前はバカだと言われているんだ」

明久「なんだとババァ!」

雄二「説明されないとわからない時点で否定できないと思うんだが……」

学園長「二つある腕輪のうちの同時召喚用は、現状だと平均点程度で暴走する可能性がある。だからそっちは吉井専用にと」

明久「雄二、これは褒められていると取っていいだよね?」

雄二「いや、バカにされてる。お前は平均点すらとれっこないバカだと」

明久「なんだとババァ!」

雄二「いい加減自分で気づけ!」

翔子「……どう解釈したら誉められてると?」

 

それは明久のみぞ知ることだ。

 

雄二「そうか。そうなると、俺達の邪魔をしてくるのは学園長の失脚を狙っている立場の人間―他校の経営者とその内通者といったところだな」

明久「雄二、そうやって僕を会話から置き去りにするのはやめて欲しいな?」

翔子「……吉井、雄二達の邪魔をするのは腕輪の暴走を阻止されたら困るってこと。そんな学園の醜聞をよしとするのはうちに生徒を取られた他校の経営者くらい」

 

のみこみが絶望的に悪い明久に、翔子がわかりやすく説明する。

 

学園長「ご名答。身内の恥を晒すみたいだけど、隠しておくわけにもいかないからね。恐らく一連の手引きは教頭の竹原によるものだね。近隣の私立校に出入りしていたなんて話も聞くし、まず間違いないさね」

明久「それじゃ、僕らの邪魔をしてきた常夏コンビとか、例のチンピラとかは」

雄二「教頭の差し金だろうな。協力している理由はわからんが」

学園長「ついでに綾倉も教頭に味方しているようさね。うまく誤魔化してるつもりかしらんが、腕輪の欠陥はおそらく人為的である以上、そんな芸当ができそうな人間は奴しかいないからね」

雄二「綾倉? 三年の学年主任がか? 実の娘がこの学校に通っているのに何を考えているんだ?」

学園長「さぁね」

 

自分に聞くなと言わんばかりに学園長は肩をすくめた。

 

 

 

 

 

「おや、気になるのですか? ならば全て説明いたしましょうか?」

 

そう言って、綾倉先生がFクラスに入って来た。

教頭の味方と、ちょうど今学園長から聞かされたところなので、四人の顔が強張る。

 

学園長「綾倉先生……教頭サイドであるアンタがアタシらになんのようだい?」

 

綾倉先生を睨みつけながら学園長が問う。しかし綾倉先生はそんな学園長の様子を気にも止めずに悩む素振りをする。

 

綾倉「うーん……口で説明するよりこちらを御覧になられた方が早く済みそうですね」

 

そう言っておもむろに携帯電話をいじくり、学園長に渡した。

 

学園長「? ………………なっ!?」

 

訝しむように携帯を覗きこんだ学園長の顔が、一瞬にして驚愕に染まった。




はい、いいところでカットします。
さて、綾倉先生の見せた物は……?


では。


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真相

【バカテスト】
AB=4、AC=3、角BAC=150度の三角形ABCの面積を求めよ

島田 美波の答え
『3』

蒼介「正解だ。
三角形の面積は1/2×sinBAC×AB×ACで求められる」

吉井 明久の答え
「わかりません!!!!!」

飛鳥「そんな力強く書かなくても……」


綾倉先生の携帯電話に表示されていたのは、なんと竹原教頭が警察に連行されている画像であった。

明久・雄二・翔子の三人もその画像を見て驚愕する。

無理もない、この一連のゴタゴタの首謀者だとついさっき聞かされていた相手が、既にドロップアウトしていたのだから。

 

雄二「……綾倉先生、どういうことか説明してもらおうか」

綾倉「答えられることであるなら」

 

雄二は値踏みするように綾倉先生を睨めつけるが、睨めつけられた本人はどこ吹く風、いつものニコニコ顔で微笑んでいる。

 

雄二「まず、なんで竹原は逮捕されたんだ?」

綾倉「盗聴した情報の漏洩と暴力教唆が主な理由ですね」

学園長「盗聴!? まさか学園長室にかい!?」

綾倉「ええ、ほんの少し前からですね。

……ああご心配無く、先程外して処分しておきましたので」

雄二「なるほど……あいつらは俺達の妨害してきたが、よく考えれば俺達とババァのつながってるとバレてたのは不可解だな」

 

ちなみに日本の法では、「販売・購入・設置」「盗聴波の傍受」だけでは盗聴器を罪に問うことはできない。

しかし傍受した情報を第三者に漏らすと電波法に触れてしまう。

 

雄二「暴行教唆ってことは、姫路達を拐ったあのチンピラどもの目的は……」

綾倉「ええ、決勝に進出したあなた達を、大会に出場できないよう痛めつけることです」

学園長「…………それだけのことがわかっていながら、アンタは教頭の側にいたのにもかかわらず止めなかったのかい? アンタ、それでも教育者かい?」

綾倉「そうは言っても未遂なら証拠不十分とされる可能性がありました。あの男はその方面にもコネがあったので。確実に検挙するために、言い逃れできない証拠が欲しかったのですよ」

 

学園長は責めるように言うが、それでも綾倉先生は表情を崩さない。

 

明久「ふざけるな! それって僕達を利用したってことじゃないか! 姫路さん達にもしものことがあったらどうするつもりだったんだよ!」

 

人質にされた生徒の安全を度外視していたかのような綾倉先生の態度に明久は憤慨し、彼の胸ぐらを乱暴に掴む。

 

綾倉「ゲホッ……まるで私が彼女達を見捨てたかのような言い方ですね」

明久「違うとでも言うのかよ! たまたまおっちゃんや和真達が助けてくれたから良かったものの-」

 

 

 

 

 

 

「そんな都合良すぎる偶然があってたまるかよ…」

 

呆れるような声とともに、和真、蒼介、秀介、鉄人、高橋先生の5人が教室に入ってきた。

 

明久「和真!? 鉄人!? ど、どういうこと!?」

鉄人「吉井、まずは綾倉先生から手を離せ。それと鉄人ではなく西村先生と呼べ」

 

鉄人に咎められて、明久は一先ず綾倉先生の胸ぐらから手を離した。

 

雄二「なるほど……ずっと都合が良すぎると思ってたんだ、竹原があちこちに待機させていたチンピラ共が全滅したことも、俺達と大したつながりがないオッサンが姫路達を助けに来たこともな。綾倉先生、アンタが全部裏から手を回してたな」

綾倉「ええ、生徒を危険に晒すわけにはいかないので、彼らには随分と手伝ってもらいました。特に、柊君には一番身近で吉井君の護衛を」 

 

その言葉を聞き、明久は四回戦前の出来事を思い出す。

 

どうして和真は明久がチンピラ達に襲われることを、前以て知っていたかのように行動したのか。

和真は直感だと説明したが、和真の勘は自分に関したことでなければ必中というわけではないのだ。

種明かしをすれば、竹原の策略を聞いていた綾倉先生が、和真に情報をリークしていたのである。

 

綾倉「あの男は、私が腕輪の欠陥の糾弾を提案しなかろうと、遅かれ早かれ行動していたでしょう。

三年学年主任として、生徒に危害を及ぼそうが気にも留めない教師を私は許せません。

また父として、娘が通うこの学園を潰そうとする輩を放っておくつもりもありません」

 

つまり、それが綾倉先生の目的。

腕輪に欠陥が生じるよう細工したのも、独りよがりな野心で学園を脅かそうとする竹原を追放するための罠ということである。

彼は生徒を見捨てたのではない。自分の出来る限りのの手を尽くして、生徒を守ろうと行動したのだ。

 

明久「あ、あの……さっきはすみません……」

 

先程早とちりで怒りに任せて暴行を加えてしまったので、明久はばつが悪そうに謝罪する。

 

綾倉「気にする必要はありません。

友達のために怒ることができることは、とても素晴らしいことだと私は思っていますよ」

明久「先生……」

鉄人「まあお前は後で指導するがな」

明久「台無しだよ鉄人!」

鉄人「だから西村先生と呼べ!」

 

そんな感じで教室内で騒がしくなってきたのだが、学園長は苦々しい表情で綾倉先生他五名にに疑問を投げかける。

 

学園長「……そんな大事なことを、どうしてアタシに黙ってたんだい?」

 

学年主任、生徒指導、スポンサーのトップを含めた学園の関係者が、自分の知らないところで『竹原(社会的)抹殺計画』を進めていたことが、学園長にとっては面白くないようだ。

その疑問にそれぞれが答えた。

 

綾倉「たまには学園長を手のひらで転がしたくなったので」

高橋「教えるメリットが無かったので」

鉄人「開発にかまけてばかりいる学園長にはいい薬になるかと」

秀介「私は忙しいので」

蒼介「同じく」

和真「ばーさんがやきもきしているのが笑えるから」

学園長「あんた達とは個別にじっくり話し合う必要があるようだね………………まあいい。綾倉先生、腕輪の欠陥についてはどうするつもりだい? あしたは決勝戦だよ?」

綾倉「腕輪の欠陥ならすでに修復していますよ」

学園長「…………何から何まであんたの計算通りってわけかい……なんか腹立たしいね」

 

学園長は疲れたように嘆息する。この男、ありとあらゆる点で学園長より一枚上手だったようだ。

 

雄二「ということは、学園の脅威は全て片付いたわけだな」

明久「そうだね。あとは和真達にわざと負けて貰って、教室の改修をしてもらって、めでたしめでたしだね」

学園長「? なに言ってるんだい?学園の問題が片付いたんだから-」

和真「はいばーさんストーップ!」

 

学園長が何かを言いかけるが、和真はそれを制止する。それを見た雄二は、なにやら嫌そうな表情になる。

 

学園長「……ったく、お前はどこまでも自由だね」

明久「? 学園長、どうしたんですか?」

学園長「いや、なんでもないさね」

明久「???」




というわけで、竹原に執行された処刑方法は「これといった描写も無くリタイアさせられている」でした。
ある意味何よりも悲惨な末路ですね。

綾倉先生はどうやら腹黒属性&親バカのようです。
腕輪の欠陥は既に修理してある以上、もし明久達が脱落しても学園長室から盗聴器を回収し、他校とつながっている証拠を学園長にリークするだけで竹原は詰んでました。
つまり事態がどう転ぼうが竹原は学園から追放される運命でした。
学園の危機など無かった。


では。


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牙をむく槍使い

【バカテスト・英語】
次の文を英訳しなさい。

法廷は彼に有罪判決を下した

五十嵐 源太の答え
『The court judged him guilty.』

蒼介「正解だ。英訳は英語の問題の中でも頭ひとつ抜けて難しいのだが、流石は帰国子女だな」


坂本 雄二の答え
『The court judged Muttulini guilty.』

和真「将来的にそうなるかもしれんがテストで遊ぶんじゃねぇよ」



文月学園のグラウンドの隣に設置されたテニスコートで、二人の男子生徒がテニスをしていた。

柊和真と鳳蒼介。

どちらも二年生で最も有名であろう生徒の二人だ。

 

蒼介「それで、例のごろつき共に動きは無かったのか? ()()閏年高校の不良達がやられっぱなしで引き下がるとは思えないんだが」

 

蒼介はネットにつめてきた和真の裏をかき、トップスピンロブを放つ。それに対して和真は信じられないようなスピードでボールに追い着き、強烈なフラットショットで返球する。

 

和真「だよな。遅かれ早かれ仲間増やして報復に来るだろうぜ。俺としてはさっさと沈めたいから、早いうちに来やがれって思うんだがよ」

 

蒼介はラケットの角度を調節し、和真のパワーショットの威力を受け流し、ネット際に落とすようにドロップボレーを放った。

 

蒼介「まあ今はそのことを気にしても仕方がない。……それはそうとカズマ、召喚大会は楽しめたか?」

 

それを読んでいたかのように、和真は速攻で再びネットまでつめてきて、フルパワーでボレーを放った。

 

和真「かなり楽しめたぜ。綾倉先生にバレないようにトーナメント表いじってもらった甲斐があったってもんよ」

 

蒼介は球威に押されながらもなんとか返球に成功。しかし和真はお構い無しに第二波をお見舞いする。

 

蒼介「……生徒会長として一言言いたいところだが、まあいい。その召喚大会も決勝戦、しかも相手は同じクラスの二人。……聞くまでもないが、お前はどうするつもりだ?」

 

蒼介はボールの威力を殺しながら、再びトップスピンロブを放つ。このトップスピンロブは先程の相手の裏をかくためのものではなく、苦し紛れの一手に過ぎない。

 

和真「んなもん決まってる……ぜっ!」

蒼介「ッ……!」

 

和真は凄まじい跳躍力でロブ気味のボールにラケットを届かせ、そのまま蒼介の後ろのコートにスマッシュを叩き込む。

それに対して蒼介は和真に匹敵するスピードでボールに追い付いたが、威力を受け流しきれずに弾かれてしまった。

 

和真「俺は俺のやりたいようにやるだけさ、いつだってな。 6-3(シックスゲームス トゥスリー)で俺の勝ち♪」

蒼介「……お前らしいな。……これで3連敗か」

 

 

 

中林「なんでアンタ達そんな超人的なバトルしながら悠長に会話できるのよ……」

 

女子テニス部次期キャプテンの疑問に答える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「さてと。行こうか雄二、和真」

雄二「そうだな。島田、俺達は抜けるが大丈夫か?」

美波「大丈夫じゃなくても行かないとダメでしょうが。決勝戦なんだからね?」

 

店の手伝いその他諸々をしているうちに、決勝戦の時間になった。その他諸々の内容については後日語ることにする。

 

姫路「後で私たちも応援に行きますね」

葉月「お兄ちゃん達。ファイトです!」

秀吉「どちらも頑張るのじゃぞ!」

ムッツリーニ「………厨房は任せた」

翔子「……雄二、頑張って」

 

クラスメイトからの熱い激励。一人全くぶれない人がいるのだがいつものことなので和真は特に気にしていない。

 

明久「あはは、真剣に闘うわけじゃないんだからそんなオーバーな……」

和真「…………」

雄二「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「ほほぅ。ずいぶんと観客が多いな」

明久「流石は決勝戦だね」

 

会場を前に明久は、闘う気もないのに緊張しているような様子であった。

 

「吉井君と坂本くん。入場が始まりますので急いでください」 

 

明久達の姿を見つけた係員の先生が手招きをしている。こうして係員をわざわざ配置しているあたり、決勝戦は今までの試合とは扱いが違うらしい。

 

『さて皆様。長らくお待たせ致しました! これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!

では、出場選手の入場です!』

 

「さ、入場してください」

 

先生に促され、明久と雄二は軽く頷き合ってから、観衆の前に歩み出ていった。

 

『二年Fクラス所属・坂本 雄二君と、同じくFクラス所属・吉井 明久君です! 皆様拍手でお出迎え下さい』

 

盛大な拍手と共に入場する明久と雄二。

 

『そして対する選手は、二年Fクラス所属・柊和真君と、二年Aクラス所属・大門徹君です! 皆様、こちらも拍手でお出迎え下さい!』

 

先程よりもずっと大きな拍手を受けながら、和真と徹の二人は明久達の前にやってきた。この辺はまあ、今までの試合からの期待度の差であろう。

 

『なんと、決勝に進出した四名のうち三人が、二年生の最下級であるFクラスの生徒です。 これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかもしれません』

 

雄二(あの司会、嬉しいことを言ってくれるな)

明久(だね。姫路さんのお父さんに好印象になるね)

和真(まあ総合的にはバカなのは間違いねぇがな)

明久(シッ!)

 

その後司会が観客に試験召喚システムの説明を一通りする。あくまでこの大会はPRが目的なのでこういうところを欠かしてはいけないのである。

 

『それでは試合に入りましょう! 選手の皆さん、どうぞ!』

 

説明も終わり、審判役の先生が明久達の前に立つ。

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

掛け声を上げ、それぞれの召喚獣が出現した。

明久達の召喚は木刀orメリケンサック+特効服と、和真達の召喚獣に比べて装備が貧相なのはご愛嬌。

 

 

《日本史》

『Fクラス 坂本 雄二 337点

Fクラス 吉井 明久 241点

VS

Fクラス 柊 和真 322点

Aクラス 大門 徹 281点』

 

 

『それでは、召喚大会決勝戦、開始!』

 

それぞれの点数がディスプレイに表示されるのを確認すると、司会の人は戦いの引き金を引いた。

 

和真「以前と比べて随分と上がったな。Aクラス並の成績じゃねぇか」

明久「この1ヶ月和真と雄二に散々教えてもらったからね。まあこの教科以外は変わってないけどね」

徹「なるほど、それで坂本の点数も伸びてるわけだね」

雄二「明久の家に入り浸ってたお陰で、翔子にあらぬ疑いをかけられたりしたがな……」

 

明久はAクラスとの試召戦争後、謎のおっちゃんのアドバイスを受け、ひたすら日本史をとりくんでいたのである。ちなみに和真はともかく雄二は普通なら明久を助けたりなどしないのだが、雄二はAクラスへのリベンジを狙っているので協力した。

 

明久「和真こそどうしたのさ、その点数。前は400点じゃ無かった?」

和真「まぁハンデとしちゃこのくらいだろ?」

明久「え?それってどういう-」

 

 

 

 

和真「こういう意味だよ!」

明久「えっ-」

 

明久の台詞が言い終わらないうちに、〈和真〉は槍を構えて襲いかかった。 

 

明久「うわぁ!?」

 

突然の反応に面食らうも〈明久〉は体を大きく捻ることで必殺の威力を持った〈和真〉の槍を間一髪でかわす。

 

雄二「やっぱりそうかよ!」

明久「やっぱりって、どういうこと雄二!?」

雄二「こいつらは、ハナからわざと負けるつもりなんざねぇってことだよ!」

明久「えぇ!?」

 

全く予想してなかった事実に明久は困惑する。

無理もない、この試合は姫路の転校がかかった大事な試合なのだから。

 

徹「そこまでわかってるなら話は早い! 君の相手は僕だよ!」

雄二「ぐっ……!」

 

〈徹〉はガントレットで〈雄二〉をぶん殴る。なんとかメリケンサックで防御したためダメージは無いが、ガードが甘かったのか勢いは殺しきれず〈雄二〉吹っ飛ばされる。

 

徹「逃がすか!」

 

ぶっ飛んだ〈雄二〉を徹は召喚獣とともに追っていく。放っておけばろくに指示も出せずに戦死すると判断した雄二は苦肉の決断をする。

 

雄二「明久! 和真はお前がどうにかしろ!」

 

この場の戦局を明久に託し、雄二は徹を追っていった。しかしこちらの戦場を任された明久は、未だ目の前の現実を許容できないでいた。

 

明久「なに考えてるのさ和真!? 僕達がこの試合に勝たないとどうなるのかわかってるの!?」

和真「知ったこっちゃねぇな。お前の言いたぇことはそれだけか?

 

 

 

 

ならさっさと死ね」

 

和真は一片の慈悲すらない冷たい目で明久を一瞥してから、〈和真〉は必殺の槍で〈明久〉に襲いかかった。

 




和真君暴走!
一体どうしてしまったのか!? そして、果たして明久に勝ち目はあるのか?
徹「これ完全に僕達が悪役の構図だよね」
和真「ラスボスと言えラスボスと」

では。


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闘う理由

【バカテスト・現代文】
次の四字熟語の意味を答えなさい。

漱石沈流

柊 和真の答え
『負け惜しみが強く、自分の意見をあくまでも押し通したり、こじつけなどが上手いこと』

蒼介「正解だ。明治の文豪・塩原金之助のペンネーム『夏目漱石』はこの四字熟語に由来する」
 

吉井 明久の答え
『gibu me 千円札!』

源太「あのよぉ……本編は現在シリアスモードなんだからもうちょっとまともな回答にしろよ……
gibu じゃなくてgiveだしな……」



【和真VS明久】

 

明久「ほんとにどうしちゃったのさ!? 約束が違うじゃないか!」

和真「……」

 

明久は抗議するが和真は何も言わず、容赦なく巨槍が振るわれる。

以前までの〈明久〉ならば操作性云々以前にそのスピードに着いていくことができず、なすすべもなくやられていただろう。だが、Aクラス相当の点数をとり召喚獣のスペックが大幅に強化されたことにより、〈和真〉の猛攻をなんとか紙一重で交わすことができている。

 

明久「君が勝ってしまったら、学園長は教室を改修してくれないんだよ!? そうなったら……姫路さんは転校してしまうんだよ!?」

和真「…………」

 

明久は呼び掛けるが和真はそれを無視し、〈和真〉は槍をやや短く持って明久の召喚獣に接近した。規格外の腕力から繰り出される薙ぎ払いを、しかし〈明久〉は木刀でガードする。召喚獣のスペックが大幅に上がったとはいえ、〈和真〉と〈明久〉のパワーには覆し難いほどの圧倒的な差がある。普通にガードすれば確実に木刀ごと粉砕されてしまうだろう。

しかし〈明久〉はガード直後、力が加わった方向に自発的に飛ぶことにより、木刀にかかるパワーを軽減した。

 

明久「こんなのおかしいよ! 僕達は何のためこの清涼祭を頑張って来たんだよ!? 何のために、この召喚大会に出たんだよ!? 姫路さんのためじゃないのかよ! 答えろよ和真!」

和真「………………」

 

明久が問い詰めるが、やはり和真は冷たい表情のまま何も答えない。

〈和真〉は短く持った槍をアッパーのようなフォームで殴りかかる。〈明久〉はそれをかわすが、〈和真〉は即座に槍で上からぶっ叩く。 さすがに避けきることができず、槍の先が〈明久〉の肩をかすめる。たったそれだけの接触で明久の体に絶叫してしまいそうになるほどの激痛が走るが、明久はなんとか踏みとどまる。

 

明久「和真は姫路さんがいなくなってもいいの!? あの時協力してくれると言ったのは嘘だったの!? ねぇ……答えてよ…………!」

和真「……………………」

 

明久の悲痛な問いかけに、しかし和真は冷たい表情を崩すことはない。

怯んだ〈明久〉になおも〈和真〉情け容赦ない追撃を加える。〈明久〉もなんとかその攻撃を捌いていくが、防戦一方なのば誰の目にも明らかである。

 

明久「最後はいつも皆を助けてくれたじゃないか! たまにえげつないことをしても、僕達を過酷な状況に追い込んだりしても、本当に困っているときは手を差し伸べてくれたじゃないか! どうして姫路さんをこの学校から追い出そうとするのさ!?

…………なぁ…………答えろよ…!」

和真「…………………………」

 

怒りさえ滲ませた明久の糾弾すら、和真は気にも留めることはない。

〈和真〉は〈明久〉の手に巨槍を叩きつけた。

明久の手に激痛が走り、攻撃を喰らった〈明久〉も木刀を取り落とす。いっさいの躊躇もなく、〈和真〉はとどめとばかりに巨槍を降り下ろした。

 

 

 

明久「おい…………答えろよ………この馬鹿野郎ォォォォォォォォォォ!」

 

降り下ろされた槍の側面を、〈明久〉は全力で殴りつけた。骨がへし折れたのではないかと思うほどの痛みが明久の手にフィードバックされたが、槍の軌道をずらすことに成功し、そのまま槍は地面に激突した。

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 195点

VS

Fクラス 柊 和真 322点』

 

真「…………お前はそれで良いのか?」

明久「え……?」

 

戦闘体制を一旦とき、槍の構えを崩させながら和真はようやく口を開き、明久に問いかけた。

 

和真「お前のその点数……この1ヶ月、お前がひたすら努力したのは試召戦争のため、ひいては姫路のため……そうだろ?」

明久「そ、それがどうしたの-」

和真「甘ったれてんじゃねぇよ!」

明久「ぐぅ!? がはぁっ……!」

 

〈和真〉は〈明久〉を殴り倒す。フィードバックの影響で思わず胃液が飛び出そうになり、召喚獣は腹を抱えてその場にうずくまる。

 

和真「相手に勝ちを譲ってもらう? そんなみっともない勝ち方でいいとでも思ってんのかよ? 」

明久「いいじゃないかそれでも! 姫路さんがそれで救われるなら! 僕は、誰かから誉められたくてこの大会に出場したんじゃない!」

 

今度は〈明久〉が〈和真〉をぶん殴った。

〈和真〉の頬が腫れ上がるが、当然本体の和真には何の影響もない。

 

和真「んなこと見りゃわかんだよ! 俺が言いてぇのはな、確かに今俺がお前に勝ちを譲りゃ今回は助かる!だがよぉ、それから先はどうするんだよ!」

明久「それから……先……?」

和真「これから先も姫路には、Fクラスには困難が待ち受けている!これは確定だ、俺の直感がそう言っている!今そんな体たらくでこの先お前は姫路を守れんのかよ!」

明久「うぐぅぅぅ…………!」

 

〈和真〉は〈明久〉に痛烈なローキックを浴びせる。

 

和真「それだけじゃねぇ! 俺達はこの先試召戦争でAクラスに勝たなきゃならねぇ! だがよぉ、俺達だって無敵じゃねぇ! 現にこの大会で俺は梓先輩にボコられた! 」

 

反撃を許さず〈和真〉の拳が〈明久〉の顔面に突き刺さる。

 

和真「俺や翔子や姫路だってやられるときはやられるんだよ! それでお前は、俺達が全滅したとしてどうするんだ? 今みてぇに相手に勝ちを譲ってて貰うよう懇願すんのか!? あぁ!?」

明久「ぐ……ぅ…………!」

 

〈和真に〉が〈明久〉を蹴り飛す。

度重なる暴行を受け、明久はあまりの激痛に意識が飛びそうになるが、気絶寸前で唇を噛み千切ることでなんとか意識を繋いだ。

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 102点

VS

Fクラス 柊 和真 299点』

 

 

和真「お前が大切に思っている人なら、お前の手で守れよ! 行く手に立ち塞がる障害(オレ)は、力づくで排除してみろよ!」

明久「……和真…………でも…………」

和真「お前はまだ踏ん切りがつかねぇのか…………

だったら、その甘えを絶ち切ってやるよ」

 

そう吐き捨てた後、〈和真〉は槍を投擲するモーションになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【徹VS雄二】

 

雄二「オラァッ!」

徹「ッ………!」

 

〈雄二〉のメリケンサックが〈徹〉に突き刺さる。

それに対して〈徹〉はガントレットで反撃するが、〈雄二〉はバックステップでなんなくかわす。

雄二も小暮や飛鳥と同様、フットワーク重視のヒット&アウェイ戦法、またもや徹にとって相性が悪い相手だ。それに加えて〈雄二〉の武器はメリケンサックなので、それほど操作が上手いわけではない雄二でも……

 

雄二「喰らえ!」

徹(チィッ! 顔面殴られたら流石にのけぞるか……!)

 

相手の急所を正確に突くことができる。

これでは、飛鳥と戦ったときのような戦法は通用しない。

 

 

《日本史》

『Fクラス 坂本 雄二 319点

VS

Aクラス 大門 徹 201点』

 

 

一方、雄二の方も余裕たっぷりというわけではなかった。表面上は至極余裕たっぷりの笑みを浮かべてはいるものの、内心ではもう一方の戦場が気になって仕方がなかった。

 

雄二(操作技術に一日の長があるとはいえ、それだけで明久が和真を倒せるとは思えねぇ……早いとここいつを倒してあっちに合流しねぇと……)

 

そんなことを思いながら、再び〈雄二〉は〈徹〉の顔面をぶん殴った。

 

 

 

 

しかし、

 

ガキィィィイイン!

 

雄二「なぁっ!?」

 

〈雄二〉の拳が〈徹〉の顔面をとらえたると同時に、〈徹〉の拳も〈雄二〉の顔面に突き刺さっていた。

 

 

《日本史》

『Fクラス 坂本 雄二 228点

VS

Aクラス 大門 徹 163点』

 

 

徹「本当にこの召喚大会は災難続きだよ……

自分の召喚獣を武器にされたり、女装教唆の馬鹿に出くわしたり、まともに闘った相手が皆相性の悪い相手だったり……やれやれ……

 

 

良かったことと言えば、その手の輩の対処法が手に入ったぐらいだよ」

 

勝負は、まだ始まったばかりである。




以上です。
徹君は新技『クロスカウンター』を習得した。
まあ和真君みたいなリーチの長い武器が相手だと使えないんですが。詳しい説明は次回で。

中盤の明久の召喚獣を一方的にボコるシーンでは、実は全力でていません。もしそうならもう戦死してます。
逆に、序盤の攻撃はガチで潰しにかかってます。
喰らう=致命傷です。

激化する召喚大会決勝、果たして勝つのはどちらだ?

では


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決意

【バカテスト・日本史】
ホトトギスという語句を使って、豊臣秀吉を指す俳句を答えなさい。

霧島 翔子の答え
『鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス』

蒼介「正解だ。ちなみにこれらの俳句は本人達が読んだものではない。安土桃山文化を調べればわかるが、派手さを追求するだけの戦国武将が風流を理解する心を持っていたとは思えん」

吉井 明久の答え
『鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス』

飛鳥「職員室で日本史の先生が吉井君の答案の採点後号泣したそうよ」

柊 和真の答え
『ホトトギス たとえ鳴こうが 殺すまで』

蒼介「残酷過ぎるわ! 点数調整が目的とはいえはっちゃけすぎだろう!」

玉野 美紀の答え
『啼かぬなら 啼かせてみせよう 男の娘』

飛鳥「ホトトギスはどこ行ったのよホトトギスは」


雄二「オラァ!」

 

即座に拳を引き戻し、〈雄二〉は再びメリケンサックで殴りかかる。しかし、

 

徹「甘いね!」

 

攻撃があたる直前、〈徹〉もガントレットで反撃した。またしてもお互いの拳が再び相手の顔面に突き刺さる。

 

 

《日本史》

『Fクラス 坂本 雄二 133点

VS

Aクラス 大門 徹 114点』

 

 

これが対近接専用技『クロスカウンター』。

狩りは相手を狩る瞬間が最も危険である。

梓・飛鳥ペア戦のときと同様に、基本的に攻撃中は相手の攻撃を回避もガードも難しいのだ。徹はその瞬間を突いて、スピード負けしている雄二に反撃している。

当然相手の攻撃をまともに喰らうことになるのだが、それこそ徹の独壇場、耐久性では遥かに雄二を上回っている。

 

これが大門徹の真骨頂。相手の攻撃を真正面から受け止め反撃する、カウンター特化の重戦車。

 

雄二(クソッ……このままじゃ確実にこっちがくたばる!

 

 

 

 

 

…………ん? 待てよ………………試してみるか)

 

何か勘づいたのか、〈雄二〉は再び拳を構えた。

 

徹(バカの一つ覚えか……期待外れだよ、坂本 雄二)

 

雄二に軽い失望を覚えつつ、徹もクロスカウンターの準備をする。そして〈〉雄二はまたメリケンサックでぶん殴った、

 

 

 

 

 

徹の召喚獣のガントレットに。

 

徹「なっ!? …このぉ!」

 

一瞬面食らうものの、すぐに切り替えて拳を押し返そうとする〈徹〉。

二体の拳は拮抗するかに思えたが、〈雄二〉が〈徹〉を吹き飛ばした。

 

徹「しまっ……!」

 

雄二と徹の初期の点数には結構な差がある。にもかかわらず、クロスカウンターで雄二のダメージの方がが大きかったのは、徹が防御力を重視したスペックであることと、雄二の防御力を軽視したスペックのせいであろう。しかし、どうやら腕力のみならば雄二に分があったようだ。

 

雄二「とどめだ!」

 

弾かれて空中で身動きがとれなくなっている〈徹〉の顔面に、〈雄二〉の両拳がクリーンヒットした。ダンプカーの衝突に匹敵するほどの直撃×2、防御に秀でた徹の召喚獣といえども、100点そこそこ程度では流石に耐えきれない。

 

雄二「よし、勝っ-」

 

 

 

 

ズガァァァァァァアアァァァン!!!

 

雄二が勝利を確信した瞬間、突如襲来した巨槍に〈雄二〉が貫かれ、そのまま召喚フィールドの端に叩きつけられる。耳をつんざくような轟音が、この不意打ちがどれだけの威力であったかを物語っている。

 

 

《日本史》

『Fクラス 坂本 雄二 戦死

VS

Aクラス 大門 徹 戦死

Fクラス 柊 和真 299点』

 

 

和真「これでイーブンだな」

 

いつのまにかこちらに来ていた和真は、突き刺さった槍を召喚獣に回収させた。

 

明久「ちょっ、和真! ?君の相手は僕じゃなかったのかよ!?」

和真「これはタッグマッチだぜ? もう片方が隙だらけならそっちを狙うだろうが」

明久「だからってそんな不意打ち、和真のすることじゃないよ!」

和真「なんで俺がお前のイメージに沿って行動しなきゃなんねぇんだよ。俺のルールは俺が決める 、俺は誰にも囚われたりはしねぇ。まあそんな訳で徹と雄二、邪魔だから下がってろ」

徹「はいはい」

 

和真に促され、徹はさっさと移動していった。

表面上は冷静に振る舞いながら、血が出そうなほど拳を握りしめながら。

 

雄二「くそっ、油断した…………明久、和真の撃破はお前に任せた。負けたら承知しねぇぞ」

 

そう言って雄二もすごすごと引き下がる。

 

和真「さぁて、これでお前の味方はいなくなった。

……で、どうするんだ?」

明久「…………」 

 

前髪をいじりながら和真は問いかけるが、明久は押し黙ったまま目を伏せている。

 

和真「姫路の転校を阻止したけりゃ、俺をぶっ倒す必要がある。だが、俺とお前じゃあ力の差がありすぎる。お前が俺を上回っているのは操作技術だけだ」

 

それは決して自信過剰な訳でも、明久を見くびっているわけでもない、純然たる事実。残り点数、召喚獣のスペック、武器の強さ、戦術性など、敗北する要素が揃いすぎている。まさに『オンリーワン』と『パーフェクト』の構図なのだ。

 

和真「……それでお前は諦めるのか?まぁ姫路は優しいからな、ここでお前がギブアップしようが責めやしね-」

明久「……める……だろ……」

和真「あん? 何だって?」

 

 

 

明久「諦めるわけないだろ!!

上等だよ! 僕は君をぶっ倒して優勝してやる!

君という壁が立ち塞がるなら殴り壊す!

勝利への道がなければ創りだしてやる!

 

僕を……誰だと思っている!!!」

 

明久の瞳から迷いが消え、〈明久〉も木刀を固く固く握りしめる。相手が学年6位の優等生だろうと、Fクラス最強の矛だろうと、大切な友人だろうと関係ない!

明久の頭に姫路を見捨てる選択肢など、どこにも存在しないのである!

 

和真「ほぉ、俺に勝てる気でいんのかよ?

そこまでの啖呵を切ったんだ、何か勝てる根拠があるんだろうな?」

 

興味半分、挑発半分で和真は問いかける。

 

明久「……前に姫路さんが言っていた

 

 

 

『好きな人の為なら頑張れる』って!」

 

啖呵とともに〈明久〉が木刀を握りしめて突撃する。〈和真〉はタイミングを合わせて槍を薙ぎ払ったが、槍が命中する直前に〈明久〉はスライディングでそれを潜り抜ける。

槍を振り切った後〈和真〉は即座に二撃目を上から叩きつけるが、〈明久〉は降り下ろされた槍を木刀で受け流した。受け流しただけなので力の勢いは殺されることなく、槍はそのまま地面に叩きつけられた。

〈和真〉が槍を引き戻すまでの間、その僅かな隙を逃さず〈明久〉は高速で踏み込み、木刀で思い切り殴りつけた。

しかし〈和真〉は殴られた瞬間に自分から後ろに飛ぶことで、ある程度威力を弱めることに成功する。〈和真〉は防御力を完全に度外視したスペックなので、このアクションを行っていなければ即死していただろう。

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 102点

VS

Fクラス 柊 和真 146点』

 

 

明久「僕も今この瞬間、心からそう思ったよ」

和真(へぇ……こいつの強さがここまでとはな)

 

これが吉井明久の全力。

急上昇した召喚獣のスペックを余すところ無く十全に発揮する操作技術は和真のそれを遥かに上回っている。これに対抗できるのは生徒の中では今のところ佐伯梓ぐらいであろう。

今の明久の強さはFクラスレベルの点数のときとは比べ物にならない。どれだけ優れた操作技術を持っていようが、操作する召喚獣が劣悪なスペックでは大した戦力にはなり得ない。『弘法は筆を選ばず』などということわざがあるが、空海だってちゃんとした筆を選んだ方が、より力を発揮できるはずなのである。

 

明久「僕と雄二はあらゆる策を使ってこの決勝戦まで勝ち進んだ。でも君にはそんなもの通用しないよね?

だから……和真! 君は小細工なしの真っ向勝負でぶっ倒してやる!」

和真「……いいね、ククク……やっと面白くなってきたじゃねぇか!」

 

満足そうにそう言った後、〈和真〉は突如槍を真っ二つにへし折った。

 

和真「やっぱ喧嘩はそうでなくちゃなあ! 来いよ明久! 俺の全力をもって狩りとってやるよ!」

 

〈和真〉が刃先のついていない方の棒をゴミのように放り投げる傍ら、和真は実に凶悪そうな笑みを浮かべる。

獣が牙をむく行為が原点とされる、この上なく攻撃的な笑みを。

 




徹君「はいはい」(ぐぬぬぬぬぬ)
『アクティブ』のメンバーだけあって、徹君も相当の負けず嫌いなようです。
徹君はまだまだ発展途上です。
明久のように攻撃を受け流せてこそ一流。

前回と今回の和真君は説得モードでした。
あくまでも和真君にとっては趣味なので、明久が弱いままぶちのめしても意味ナインです。
しかし明久が本気になったので、次回の和真君は一切容赦しません。南無。

吉井 明久
・性質……速度重視型
・ステータス
(日本史)
攻撃力……C+
機動力……B+
防御力……C+

大幅に強化された明久の召喚獣。
このスペックに操作技術が加わるためかなり協力。
しかし戦闘の経験はあまり無いため、戦いのテクニックは佐伯 梓に劣る。


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決勝戦決着

【バカテスト・現代文】
次の()に適語を入れ、ことわざを完成させなさい

塵も積もれば()

柊 和真の答え
(山となる)

蒼介「正解だ。特に言うことは無い」

島田 美波の答え
(大和成る)

徹「随分大層な物が出来上がったね」

木下 秀吉の答え
(邪魔になる)

蒼介「…………確かにそうだが……」

吉井 明久の答え
(DUSKINに依頼)

徹「業者呼んでんじゃねぇよ馬鹿」



 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 102点

VS

Fクラス 柊 和真 146点』

 

点数をAクラスレベルにまで昇華させた明久の召喚獣は以前までのような貧弱なスペックではない。

明久に比べれば操作技術が未熟な和真では、あのような巨大な槍で闘えば隙を突かれて敗北する可能性は決して低くない。

和真は先日の佐伯梓との闘いで、自分がまだ槍を十全に扱えていないことを自覚していた。

故に、躊躇無くへし折った。和真は一見大雑把に見えて、相手の勝てる要素を念入りに潰していく慎重さを備えているのである。

 

和真「オラァァァ!」

 

先手必勝とばかりに、〈和真〉は高速で接近しながら短くなった槍を片手で横に薙ぐ。

 

明久「そんな単純な攻撃なんか……!」

 

直線的としか言いようがない雑な攻めだが速度は申し分ない。おそらくは大半の二年生相手には通じるだろう。しかし操作技術、特に敵の攻撃を回避することに長けた明久からすれば児戯に等しく、〈明久〉は余裕綽々としゃがんでそれをかわし、

 

 

 

 

 

和真「甘ぇよ!」

明久「ぐっ……!?」

 

もう片方の拳を喰らって吹き飛ばされた。

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 79点

VS

Fクラス 柊 和真 146点』

 

 

まともに喰らったのにもかかわらず、〈明久〉にはほとんどダメージが無い。〈明久〉は〈徹〉のような防御を重視したスペックというわけではではなく、これにはちゃんとしたからくりがある。

拳を喰らう直前に〈明久〉は即座に木刀でガードし、さらに先程和真がしたように自分から後ろに飛ぶことで勢いを軽減したのである。この僅かな時間の間にそれだけの芸当ができるのは、生徒では明久、梓、高城ぐらいであろう。

逆にそれだけのことをしてなおダメージを喰らってしまうほど、〈和真〉の攻撃力は凄まじいということなのだが。

 

和真「休んでる暇は無ぇぞオラァ!」

 

本気になった和真に守りや様子見、搦め手などの回りくどい選択肢は無い。〈和真〉は一瞬で距離を詰め、容赦なく槍を振り下ろす。

 

明久(それなら受け流せば…)

 

さっきと同じように、〈明久〉は木刀を使って槍の力を受け流した。そして同じように槍は地面に激突した。

 

 

 

そして〈明久〉は、〈和真〉の手刀を頭に喰らい転倒した。

 

明久(痛ぅっ…!? や、やばい!)

和真「とどめだ!」

 

そのまま〈和真〉は倒れた〈明久〉に蹴りをお見舞いしようとして、

 

明久「負けるかぁあああああああ!」

和真「なっ!? このっ……!」

 

転倒した状態の〈明久〉に足払いされて同じくすっ転んだ。そして先に体勢を立て直した〈明久〉は即座に〈和真〉から離れる。〈和真〉は倒れたまま追い討ちに槍を横に薙いだが、間一髪のところで回避できた。もし明久が距離をとることではなく攻撃を選択していれば、まず間違いなくここで終わっていただろう。

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 18点

VS

Fクラス 柊 和真 135点』

 

 

しかし明久の点数はもう風前の灯火であった。この点数ではかすっただけで絶命するだろう。

 

和真「ちょこまか逃げてくれたが、次でシメーみてぇだな……じゃあいくぜ、往生しやがれ!」

 

〈和真〉は槍を構え止め、〈明久〉にとどめを差すために接近する。

 

明久(く……このままじゃ………

 

 

こうなったら最後の賭けにでるしかない!)「うぉおおおおおおおお!」

 

和真「ハッ、血迷ったか明久! パワーでこの俺に勝てるとでも?」

 

〈明久〉は、接近してきた〈和真〉を木刀で薙ぎ払おうとした。それに対して〈和真〉も槍で迎え撃つように薙ぎ払う。

木刀と槍がぶつかり合う。極限まで破壊に特化した〈和真〉に真っ向勝負など愚策中の愚策、それらは当然拮抗するはずもなく〈和真〉の槍が木刀をへし折った。

それだけでは終わらず、そのまま延長線上にいる〈明久〉を粉砕する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことなく槍は空を切った。

 

和真「…んなっ!? どこいきやがっ-」

明久「今だぁぁぁぁぁ!」

 

〈明久〉は後ろから和真の召喚獣の槍を握りしめている腕をありったけの力でぶん殴った。

一部始終を解説するならば、〈明久〉は木刀を薙ぎ払うと同時に獲物から手を離し、そしてすぐさま後ろに回ったのだ。和真が相手の武器ごと破壊するつもりでなかったら、例えばもし避けてから反撃しようとしていたらTHE ENDの危ない賭けだった。もしそうなっていたら〈明久〉は丸腰のまま潰されていただろう。

そして全力のパンチを喰らった〈和真〉は、ダメージで思わず武器を取り落としてしまう。そしてその隙を逃すほど明久は間抜けではない。

 

明久「喰らぇええええええ!」

 

〈明久〉はもう一度丸腰の〈和真〉をぶん殴った。今度は顔面にクリーンヒットし、〈和真〉は後方へ勢いよくぶっ飛ばされる。

 

和真「チィ……!」

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 18点

VS

Fクラス 柊 和真 48点』

 

 

やはり直撃の瞬間後ろに飛ぶことでダメージを軽減するが

、和真の召喚獣もデッドラインに入った。

どちらの召喚獣もあと一撃喰らえば戦死してしまうだろう。

 

和真「……まさかお前がここまでやるたぁな。だが……」

明久「和真こそ、やっぱり強いね。でも……」

 

 

和真・明久「「勝つのは俺(僕)だ!」」

 

そして二人の召喚獣は拳を握りしめ、お互いに向かって走り出した。

 

 

和真・明久「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

 

ズガァァァァァァァアアアン!

 

 

轟音と共に、二体の全力の拳はお互いの顔面に突き刺さり、そのまま二体とも崩れ落ちた。ついでに凄まじいフィードバックを受けた明久本体も。

 

 

《日本史》

『Fクラス 吉井 明久 戦死

VS

Fクラス 柊 和真 戦死』

 

 

徹「……相討ち?」

雄二「おい審判、こういう場合どうなるんだ?」

『えーっと……両者ともに先頭不能となった場合、どちらが先に戦死したかコンピューターを使って確認します』

 

審議の先生がそう言ったあと、大型ディスプレイに結果が表示された。それを見た司会の人が勝鬨を挙げる。

 

『勝者……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂本・吉井ペア!』

 

ワァアアアアアアアアアアアアアアアア

 

特設ステージ全体に大音量の爆音が響き渡った。

下馬評の覆しほど大衆をエキサイトさせるものもそうそうないだろう。

 

和真「……負けちまったか。悪いな徹、散々付き合わせちまったってのに」

徹「君の強引さは今に始まったことではないだろう? ま、僕もそれなりに楽しめたし特に文句は無いよ」

和真「……男のツンデレなんざきしょいだけだぞ」

徹「張り倒すぞテメェ!」

 

ぎゃーぎゃー騒いでいる徹をスルーして、和真は自分を打ち負かした相手に近づく。 

 

和真「あらら……こいつ気を失ってら」

 

ダンプカーの衝突に匹敵する雄二の召喚獣よりもさらに重い一撃をまともに喰らったのだ、無理も無いだろう。

 

和真「馬鹿正直に突っこんできやがって。ちょっと考えればもっとスマートな方法があっただろーが。大体俺がフェイントとか混ぜたりしたらどうするつもりだったんだよ」

 

そう呆れるように呟いた後、和真はしゃがみこむ。

 

和真「完敗だ。お前の覚悟、見せてもらったぜ」

 

どこか満足したようにそう言った後、和真は特設ステージから出ていった。

この様子だと、腕輪のデモンストレーションは明久が目を覚ますまでおあずけのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉野「カズナちゃんと吉井君が急接近…………………………………………………………イケる!」

飛鳥「玉野さんちょっと黙ってて、色々とぶち壊しだから」

 

何でこの子の隣に座ったのだろう、と飛鳥は観客席で半ば後悔の念に駆られた後、隣にいる蒼介に向き直る。

 

飛鳥「この試合、どう思う?」

蒼介「……最後のクロスカウンターの直前、カズマの召喚獣の拳がほんの一瞬止まったな」

飛鳥「もしかしてと思ったけど、やっぱり? この試合、和真が勝ってもメリットが少ないしね」

 

優勝商品である『白銀の腕輪』は、どちらの腕輪にしても試召戦争においてアドバンテージになる。

AクラスにリベンジしようとしてるFクラスにとっては、そのアドバンテージの半分をAクラスである徹に持っていかれることはあまり喜ばしくない。

 

蒼介「とはいえ、ラストのあれ以外は確実に本気で潰しにそうとしていた。あいつはあくまで自分が楽しむことを第一に優先したようだ」

飛鳥「まあ、それが和真らしいんじゃない」

蒼介「そうだな、実にあいつらしい」

 

そう言って二人は目覚めのキスだのなんだの痛々しい妄想に浸かっている玉野を捨て置いて、Aクラスに戻っていった。




勝者・明久ァァァァァァァァァァ!
流石原作主人公、勝つところはきっちり勝ちます(最後和真がガチで殴っていたら召喚獣のスピード差で撃沈していたでしょうけど)
今回和真君が用いた片手殺法には弱点が二つあります。一つは元々の槍だとリーチが長すぎて二撃目の拳が届かないこと。二つ目は武器を落としやすいこと。
特に二つ目は痛いです。
佐伯 梓と再戦したときこの戦法を使えば、即座にトンファーで武器をはたき落とされた挙げ句、丸腰のままボコられまくります。


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ネタバラシ

【バカテスト・現代社会】
一年に一回開かれ、主に新年度の予算関連法案などを議論する国会をなんというか。

霧島 翔子の答え
『通常国会』

蒼介「正解だ。日本国民として国会の種類は区別できるようにしておこう」

吉井 明久
『井戸端会議』

和真「そんなんに任せていいのかお前は」


明久「えぇぇぇぇ!?僕達が負けても校舎の改修やってくれたの!?」

 

あの後目を冷まし、学園長から賞品を受け取り、腕輪のデモンストレーションも済ませた後、教室に戻る途中雄二から信じられないことを聞いた明久は思わず絶叫する。

 

雄二「当たり前だろうが。もともとあの交換条件をだされた理由は欠陥のある腕輪があったからだろ? その欠陥が無くなった以上、渋る理由はどこにも無いだろう。そもそも教育方針なんてものの前に、まず生徒の健康状態が重要なはずだ」

明久「じゃあなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ!? フィードバックのせいで頬がまだ痛いんだけど!」

 

恐竜を撲殺できるのではないかと思うほどの和真の召喚獣の渾身のパンチを喰らった明久としては、今になるまで説明してくれなかったことにものすごく不満があるようだ。

 

雄二「和真に口止めされてたんだよ。バラせば腕輪使って問答無用でまとめて爆殺するっていう脅し付きでな」

 

そうなっていたら明久達に勝ち目は無い。どれだけ操作技術が優れてようが、逃げ場の無い弾幕攻撃は避けようが無いのだ。

また、そんな爆撃を喰らえばただのパンチとは比較にならないほどのフィードバックが明久を襲っていただろう。その光景を想像すると、明久は頭から氷水をぶっかけられたような感覚にうち震える。

 

明久「……じゃあ、なんで和真はそんなことを」

雄二「さぁな。大方、点数が上がったお前とガチでやり合いたいってとこじゃねぇの?」

明久「…………あの戦闘狂がぁあああ……」

 

そんな理由でボコられまくったことにまるで納得がいかない明久は今ここにいない友人に対して怒りを募らせる。

 

葉月「お兄ちゃん! すっっごい格好よかったよ!」

明久「ぐふっ! は、葉月ちゃん……。今日も来てくれたんだ。どうもありがとう」

 

突然凄い勢いで葉月が明久に飛びついた。どうやら明久を迎えに来たらしい。身長差のせいで頭が明久の鳩尾にクリーンヒットしたが、明久のプライドにかけてなんとか持ちこたえる。

美波「二人とも、お疲れ様。まさか柊に勝っちゃうなんてね」

明久「……やっぱり皆闘うことになるって知ってたの?」

美波「……ごめん。でも柊に口止めされてて。バラしたらスポーツ刈りの刑って脅し付きで」

明久「どんな脅迫!?」

 

女子にとって自分の髪の毛がスポーツ刈りにされるなんて発狂ものである。流石和真、発想が恐ろし過ぎる。

ちなみに和真はバリカンなど持っていない。

 

葉月「お兄ちゃん、凄いです~っ!」

美波「葉月ってば、アキが困ってるわよ?」

 

明久にグリグリと頭を押し付けている葉月ちゃんを見て美波が苦笑している。

これ以上鳩尾を圧迫されると致命傷になりかねないので、やんわりと葉月の身体を遠ざける。

 

姫路「あの、吉井君」

明久「あ、姫路さん。僕の活躍見てくれた?」

 

もちろん姫路も和真からしっかり口止めされていた。

脅し文句は「明久に体重をばらす」だ。

ちなみに和真は姫路の体重など知らない。

 

姫路「はいっ!とっても素敵でした! 今度土屋君にビデオをコピーしてもらおうと思うくらい!」

明久「……ビデオ、ねぇ……。ムッツリーニ、撮影なんかしていたの?」

姫路「はい。ずっと熱心に撮っていましたよ。ね?」

ムッツリーニ「…………(プイッ)」

 

この男、十中八九試合そっちのけでミニスカートの観客とかを撮影していたのだろう。

案の定ムッツリーニも口止めされていた。

脅し文句は「玉野に女装が似合いそうな男子として紹介する」

ちなみに和真は真っ先に標的にされること間違いなしなので、そういう内容では決して玉野に近づこうとしない。

 

美波「坂本。よくアキがあんな点数取れたわね」

雄二「Aクラスとの試召戦争の後、俺や和真は何度か日本史の勉強に付き合わされたりしたからな。あいつの点数が上がると俺にもメリットがあるから引き受けたが」

美波「ふぅん、あの勉強嫌いなアキがなんでまた?」

雄二「なんでも、河原にいたおっちゃんにアドバイスもらったからだそうだ」

美波「…………その人ってもしかして……」

雄二「さぁな。……そういえば結局お前らを助けたおっちゃんはわからずじまいだな。綾倉先生に聞きそびれちまったが……」

 

雄二と美波が姫路さんに向けてそんな会話をしている。

姫路に明久を達が転校の話を知っていることがバレないように配慮したのだろう。

 

姫路「そ、それで、ですね……」

明久「ん? ああ、なにかな?」

姫路「後夜祭の時、お話があるので駐輪場まで来てください!」

 

トマトのように顔を真っ赤にしてそう告げると、姫路はダッシュでウェイトレス業務に戻っていった。

 

明久(おおっ告白前の前フリみたいだ。これは良いものを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ? 何か違和感があるな。えーっと、さっきの台詞って姫路さんは誰に言ったんだっけ)

悪魔『お前だ。吉井明久』

明久(やぁ久しぶり僕の中の悪魔。相変わらずそうやって僕に甘言を吹き込もうとするんだね。

キミは本当に悪魔だよ)

悪魔『いや、そうじゃなくて真実だ。一連の会話を思い出してみたらわかるだろう?』

明久(一連の会話? そういえば……)

天使『嘘だっ! バカでブサイクで解消なしの明久にそんなことあるわけないじゃないか! 悪魔の言葉に惑わされちゃダメだよ!』

明久「テメェ初登場の第一声がそれかクソ天使!」

 

またもや明久の脳内にファンタジーな存在が生まれたようだ。天使なのに神々しさの欠片も感じられないような発言をしているところが実に明久の脳内生物らしい特徴だ。

 

悪魔『それなら確認してみたらいいだろう。もし俺が間違ってたら和真に殴りかかってやるよ』

天使『上等だよ! それならもし俺が間違っていたら鉄人に殴りかかってやるよ!』

明久(ごめん。本体を無視して勝手に話を進めないで。そもそも、どっちに転んでも実行するのは僕なんだけど)

 

文月の二大怪物に喧嘩を売るのだ、どう転んでもただでは済まないだろう。

 

秀吉「雄二に明久。話し込んでいるところ悪いのじゃが、喫茶店を手伝ってくれんかの?」

翔子「……雄二達が勝った後、お客さんが大幅に増えて混雑している」

 

明久が脳内の生物と喧嘩していると、教室の方から秀吉と翔子がチャイナドレスの裾を際どく翻しながら駆けてきた。ちなみにこの二人は特に脅されることなく和真の頼みを二つ返事で引き受けた。

 

美波「あ、そういえばそうだったわね。ほらアキ! もう大会もないんだから、きっちり手伝ってもらうからね!」

明久「うん。今まであまり手伝えなかった分頑張るよ!」

雄二「やれやれかったるいな。というか和真はどうしたんだ?」

翔子「……和真なら、女性客の2/3を一人で捌いている」

雄二「……ということは、またあの見てるこっちが心臓に悪いトレイの運び方してんのか」

秀吉「いや、今はトレイの量が三枚から七枚に増えておる」

明久「どうやってるのそれ!? 気になるけど見たくない気もする!」

 

 

 

 

 

 

『ただいまの時刻をもって、清涼祭の一般公開を終了しました。各生徒は速やかに撤収の作業を行ってください』

 

明久「お、終わった……」「秀吉「さすがに疲れたのう……」

ムッツリーニ「…………(コクコク)」

 

放送を聞いた途端、ほとんどのFクラス生徒はグロッキー状態となった。召喚大会の宣伝効果は少々強すぎたらしい。

明久達の五倍くらい働いていた和真は何故か全く疲れた様子が無く、余ったゴマ団子を胃の中に処分しているのだが。

 

明久「そう言えば、姫路さんのお父さんはどうしたんだろう?」

雄二「ん? お義父さんが気になるのか?」

明久「なっ!? べ、べつにそういうわけじゃなくて!」

秀吉「後夜祭の後で話しに行くと言っておったのう。結論はその時じゃな」

 

秀吉がそう返事をする。多分大丈夫だが、明久はまだ不安そうであった。

 

美波「じゃ、ウチらは着替えてくるわ」

明久「えぇ!? どうして!?」

美波「どうして、って言われても……恥ずかしいからに決まってるでしょ?」

姫路「すいません。すぐ戻りますので」

明久「待って! 二人とも考え直すんだ!カムバァーック!」

 

明久の説得も虚しく、二人は無情にも着替えの為に去っていった。ちなみに葉月はそのままの格好で帰った。思春期真っ盛りの女子高生には到底出来ない芸当である。

 

明久「……あれ? 霧島さんは?」

雄二「そう言えば見当たらないな…………なんだか物凄く嫌な予感がするんだが……」

和真(多分気のせいじゃねぇなソレ。営業中に雄二がプレミアムチケット明久に預けたっつうことムッツリーニから聞いてたし。たった今婚姻届け持って教室から出ていったしな)

 

そこまで知っておいて黙秘を貫くのが和真である。

 

秀吉「ふむ。ならばワシも―」

明久「させるかっ! せめて秀吉だけは着替えさせない!」

 

満身創痍の明久が秀吉の足にタックルした。

 

秀吉「なっ!?何をするのじゃ明久!」

ムッツリーニ「………(フルフル)」

和真「お前等、さっきまでくたばってたのに元気だな……」

おそらく別腹というやつだろう。いや違うか。

 

雄二「おい明久、和真。遊んでないで学園長室に行くぞ」

和真「ん、あいよ」

秀吉「学園長室じゃと?二人とも学園長室に何か用でもあるのか?」

雄二「ちょっとした確認作業だ。喫茶店が忙しくて行けなかったからな。遅くなったが今から行こうと思う」

秀吉「そうか。ならばその間にワシは着替えを」

明久「そうはいかない! 秀吉も一緒に連れていく!」

ムッツリーニ「…………(クイクイ)」

明久「あ、ムッツリーニも来る?」

ムッツリーニ「…………(コクコク)」

秀吉「困ったのう。雄二、なんとかやってくれんか?」

雄二「ん~……。ま、いいだろ。秀吉とムッツリーニも行こうぜ。明久を説得するのも面倒だし」

秀吉「やれやれ。雄二まで……。仕方ないのう。着替えは後回しじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「……! ほほう…… 鳳君、橘さん、ようやく動き出したようですよ」

 

パソコンのモニター画面の“何か”を確認し、綾倉先生は二人に合図を送る。

 

蒼介「そうですか。では和真に連絡を入れます」

飛鳥「暴力は好きじゃないけど、そうも言ってられないものね……」

蒼介「……来るなら来い。迎え撃ってやるまでだ、閏年高校」

 

 

 

 

 

 

 

 




ここに来て明久にネタバラシ。
まあ、作中人物だけではなく読者の皆様もわかりきっていたことですが。
どうやらクライマックスにはまだ早いようですよ?

ちなみに姫路さん達は教頭の思惑や綾倉先生の罠のことは全く知りませんが、和真君がこの手の勝負事でわざと負けるはずがないと今までの経験から察知しました。


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『最凶』と『最強』

【バカテスト・現代社会】
日本国民の三大義務を答えよ

姫路 瑞希の答え
『勤労の義務、納税の義務、教育を受けさせる義務 』

蒼介「正解だ。特に言うことはない」

土屋 康太の答え
『盗聴の義務、盗撮の義務、成人向けの本を読む義務』

源太「すぐ滅ぶだろうな、そんな国」

吉井 明久
『負けない義務♪ 投げ出さない義務♪ 逃げ出さない義務♪』

蒼介「信じ抜く義務♪ …………ハッ!?」

源太「ダメになりそうなのか? ん?」ニヤニヤ

蒼介「や、やかましい!///」


明久「失礼しまーす」

雄二「邪魔するぞ」

 

ノックだけして明久が返事も待たずにすぐさま学園長室の扉を開け、そのまま二人はずかずかと中に入っていく。彼等の辞書に遠慮の文字は無い。

 

秀吉「お主ら、全く敬意を払っておらん気がするのじゃが……」

和真「気のせいなんじゃなくて事実そうなんだろ」

 

と言いつつ他の三人も特に躊躇することなく明久達に続いて入っていくのだが。

 

明久「そう? きちんとノックをして挨拶したけど?」

学園長「アタシは前に返事を待つようにいったはずだがねぇ」

 

明久達の振る舞いを見て呆れたような表情になるバ…学園長。

 

明久「あ、学園長。優勝の報告に来ました」

学園長「言われなくてもわかっているよ。アンタたちに賞状を渡したのは誰だと思ってるんだい」

明久(相変わらず遠慮のないババァだ。少しは相手に気を遣うことを覚えた方が良いと思う)

 

Look who’s talking.

 

学園長「それにしても……また仲間を増やして来たもんだねぇ」

 

ムッツリーニと秀吉を見て咎めるように言い捨てるババァ。

 

雄二「こいつらもババァのせいで迷惑を被ったからな。元凶の顔ぐらい拝んでもばちはあたらないはずだ」

学園長「……ふん、そうかい。そいつは悪かったね」

 

つまらなそうに鼻を鳴らす学え…ババァ。

 

アイヲコメーテーハーナタバヲー オオゲサダーケード-ウケトーッテー♪

 

和真「お、蒼介からだ。……はいもしもーし」

学園長「アタシの部屋に入るんなら携帯ぐらい切っときな。 というかアンタの着信音意外過ぎるね……」

((((同感))))

 

男がSup○rfly好きで何が悪い。

 

和真「―んじゃ今から行くわ。じゃあな」

 

いくつか通話してから和真は通話を切る。

 

和真「…さて、お前等に簡潔に説明すると、竹原が雇ったチンピラどもが仲間引き連れて仕返しに来やがった」

明久「な、なんだって!?」

学園長「どういうことさね!? 既に竹原が捕まったんだからもう-」

雄二「……いや、そうとは限らないぞ」

 

取り乱す明久達と違い、思い当たる節があるのか、雄二は冷静であった。

 

雄二「和真、あのチンピラ共は閏年高校の生徒だろ?」

和真「だろうな。そこしか考えられねぇ」

明久「閏年高校!? 確か『最凶』と言われている、この辺りで一番不良が集まっている学校だよね!?」

和真「ああ。メンツとプライドで生きているような連中だからな、進学校の俺達にボコられて黙ったままのはずがねぇ」

明久「ど、どうするの和真!」

和真「んなもん決まってる。返り討ちにしてお引き取り願うだけだ。」

雄二「おい和真、俺も混ぜろよ。ストレス解消に-」

和真「ふざけんな。あんだけ重労働押しつけられたんだ、分けてやるわけねぇだろ。それに、お前等にはやって欲しいことがあるしな」

明久「そ、それって何!?」

和真「何か目立つことをして残っている生徒を学園から出させないでくれ。流石に第三者を守りながら対処できるほど甘い奴等じゃねぇ」

明久「わかったよ和真!」

ムッツリーニ「…………引き受けた!」

秀吉「任せるのじゃ!」

 

三人は迷うことなく了承した。

 

雄二「待て! やっぱり俺も-」

和真「断ればお前の夢と笑顔を奪う♪」

雄二「どんな脅しだ!? ……あーっもう仕方ねぇな!」

 

反発していた雄二も力技で納得させた。

 

学園長「柊!」

和真「あん? どうしたばーさん」

学園長「…………無茶はするんじゃないよ」

和真「! …………あいよっ!」

 

軽く返事して和真は学園長室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文月学園の坂道で、三人の生徒か集まっていた。

 

和真「待たせたな。まだ来てねぇのか」

飛鳥「ええ。でも、そろそろ来ると思うわ」

蒼介「学園の方は大丈夫なのか?」

和真「問題無ぇだろ、西村センセもいるしな。

……にしても、向こうは学校規模で報復に来てるっつうのにこっちは三人か」

蒼介「……撃退する自信が無いのか?」

和真「ハッ、んなわけねぇだろ。

 

 

……あいつらが『最凶』だろうと、俺達は『最強』だ」

蒼介「……そうだな。あのようなごろつき共に遅れをとるほど、私達は弱くない」

飛鳥「……来たわ」

 

飛鳥の言った通り、三人の目の前に鉄パイプやらチェーンやらバットやらを携えた、100人近くもの団体が姿を表す。

地域『最凶』の不良学校、私立閏年高校のチンピラ共だ。

その団体の一番前にいる男が、和真達を見つけると顔を歪ませた。

 

チンピラ1「ほぅ……テメェらか、俺達『最凶』に喧嘩売った命知らず共は」

和真「だったらどうなんだよ」

チンピラ1「そりゃあ勿論、きっちり礼をさせてもらうだけだぜ」

蒼介「おかしなことを言う。そもそも、うちの生徒に手を出してきたのはお前達だろう?」

チンピラ1「んなもん関係無ぇんだよ。俺達“閏年”が進学校のボンボンに遅れを取るなんてことあってはならねぇんだわ。……そんなわけで潰すわ、悪く思うなよ。

お前等! まずはこいつらから痛めつけてやるぞ!」

 

その男の合図とともに、後ろにいるチンピラ共が武器を構えて殺気立つ。

 

蒼介「やはり話し合いで解決はできそうに無いな……仕方がない」

 

呆れるように嘆息した後、懐から折り畳み式の木刀を取り出し、臨戦態勢に入る蒼介。

 

飛鳥「正直荒事は好きじゃないけど、そうも言ってられないわね……さっさと終わらして帰るわよ二人とも」

 

続いて飛鳥も柔道の構えをしながら臨戦態勢に入る。

 

チンピラ1「何言ってやがる。お前等がこれから行くのは学校でも自宅でもねぇ……病院のベッドの上だ! かかれぇお前r-」

 

 

 

 

和真「全然遅ぇわお前」

 

男の言葉が言い終わらない内に、和真は信じられないスピードで男の目と鼻の先まで接近し胸ぐらを掴む。

 

チンピラ1「んなっ!? 何しや-」

 

和真「飛んでけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

チンピラ1「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

そしてそのままその男を他のチンピラ共に向かって全力でぶん投げた。そのまま男はチンピラ共に激突し、ボウリングのピンの如く数十人が将棋倒しになる。

その様子を愉快そうに見ながら、和真は凶悪そうな笑みを浮かべた。

 

和真「さぁ、楽しい蹂躙(パーティー)の始まりだ」

 

そこからは、とても100対3の闘いとは思えない、完全に一方的な展開となった。

飛鳥は向かってくる敵を長年鍛練を積んできた柔道技で次々と捌き、

蒼介は父親から教わった一子相伝の剣術で自分に群がるチンピラを最小限の攻撃で昏倒させていき、

和真は変幻自在かつ超高速、そして破壊的な強さを以て、雑草を刈るかの如く敵を狩っていった。

 

これが『アクティブ』の戦闘担当の力。数を揃えただけの烏合の衆では決して彼等を倒せはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「……大したものですね、これは」

 

約10分後、辺り一面に死屍累々と転がる閏年高校の生徒を見回ながら、綾倉先生は感嘆する。

これで倒れている生徒が怪我らしい怪我を一つも負っていないことが、彼ら『最強』の凄まじさを際立てている。

そしてこの光景を作りだした三人は、少しも疲れた様子を見せず呑気に談笑している。

 

綾倉「何はともあれ、これで一件落着ですね」

 

栗色の髪を掻き上げながら、綾倉先生は満足そうにそう呟いた。

 

 




『アクティブ』無双! 和真君の人間ボウリングが炸裂しました!
ちなみに怪我をさせずに倒せたのは、蒼介君&飛鳥さん=技術で和真君=感覚です。
あと、戦闘担当には源太君も含まれています。

泣いても笑っても残り2話で第二巻終了となります。

では。


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賑やかな打ち上げ

【バカテスト・英語】
「①」と「②」に当てはまる語を答えてください。
マザー(母)から「①」を取ったら「②」(他人)です

姫路瑞希の答え
『マザー(母)から「M」を取ったら「Other」(他人)です』

蒼介「正解だ。Motherから「M」が無くなると他人という単語になる。このような関連付けによる覚え方も知っておくと便利だ」

土屋 康太の答え
『マザー(母)から「M」を取ったら「S」(他人)です』

飛鳥「土屋君のお母さんが『MS』でも『SM』でもリアクションに困わるわね……」

吉井明久の答え
『マザー(母)から「お金」を取ったら「親子の縁を切られるの」(他人)です』

蒼介「英語はどこにいった」



和真「クッ……フフ…………ヒャハハハハハハハハハハハハハハ!!!なんだよその面ァ!? もはや別人じゃねぇかお前ら!」

雄二「和真テメェ笑い過ぎなんだよ!」

明久「うんわかってた。和真がどういう反応するか手に取るようにわかってたよ僕」

 

チンピラ共を一蹴してからFクラスの皆と合流(蒼介と飛鳥はAクラスの皆との打ち上げがあるので別れた)し、公園で打ち上げの準備をしていると、顔の面積が倍になるほど腫れ上がった明久と雄二がやって来た。

明久達が学園中の注意を惹き付けるためにやった行動は、屋上に保管されていた打ち上げ花火用の火薬を召喚獣でぶん投げてあちこち爆破するという物だった。

ただ最後の一発で投球ミスをして、(元)教頭室を瓦礫の山にしてしまったので、鉄人から厳重注意(物理)をされてしまったらしい。

 

和真「ク……ぐふ、ククククク……」

明久「いくらなんでもツボに入り過ぎでしょ!?」

雄二「痛ぇ……くそ、鉄人め。あの野郎は加減を知らないのか」

 

まあ校舎を爆破しておいてその程度の処分で済んだのは、事情を理解している学園長が裏から手を回したからであろう。校舎の爆破など、普通は下手したら退学ものである。

 

秀吉「む。やっと来たようじゃな。遅かったのう」

ムッツリーニ「…………先に始めておいた」

明久「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと鉄人がしつこくてさ」

翔子「……雄二、その怪我大丈夫?」

雄二「あん? ああ、別に大したことはねぇ。というかお前今までどこにいたんだ?」

翔子「市役所に婚姻届けを出しに行ってた」

雄二「待て。俺はそんな物に判を押した覚えはないぞ」

翔子「……受理されなかった」

雄二「当たり前だ!」

 

二人の夫婦漫才はいつものことなのでこの際捨て置こう。

集合場所の公園は既にFクラスのメンバーで一杯になっている。特に店も取らずに、菓子とジュースを用意しての公園での打ち上げである。

 

秀吉「お主ら、もはや学園中で知らぬ者はおらんほどの有名人になってしまったのう」

翔子「……知名度だけなら和真や鳳に匹敵する」

 

決して良い意味では100パーセントないがな。

 

雄二「……コイツと同じ扱いだとは不本意だ」

明久「それは僕の台詞だよ」

美波「あれだけのことをやっておいて、退学になるどころか停学にすらならないんだもの。妙な噂が流れて当然でしょ?ウチだって気になるし。はい」

明久「ん、ありがとう」

 

美波が雄二と明久にオレンジジュース(?)の入ったコップを渡し、明久が礼を言って受けとる。

明久(む……ちょっと苦いな…さては安物を買ってきたな?)

 

余談だがオレンジジュース一杯の原価は20~30円程度である。

 

明久「そういや、店の売り上げはどうだったの?」

 

ふと気になって明久は飲み物を持ってきたままその場に溜まっている美波に聞いてみる。

一応実行委員だから一番わかっているだろう。

 

美波「そうね。たった二日間の稼ぎにしてはかなり額になったんじゃないかしら」

 

美波が収支の書かれたノートを見せてくれる。二日間の額としてはなかなかのものだ。

 

雄二「ふむ、どれどれ」

 

それを後ろから雄二が覗き込んできた。

 

雄二「この額だと、机と椅子は苦しいな。畳と卓袱台+αってとこだ」

明久「う~ん……。やっぱり出だしの妨害が痛かったよね」

 

喫茶店ともなると、どんなに人気が出ようとも客の回転に限界がある。短時間ではこれが限界だろう。

 

和真「じゃあ遮光カーテンでも買おうぜ。俺達夏休みの最初らへんに補習あるし」

雄二「……そうだな。それでいいだろ」

 

日差しがきつすぎて姫路が倒れでもしたらまた振り出しに戻ってしまう。そうならないように和真は先手を打っておく。

 

和真「さぁて、適当に何人か捕まえて缶蹴りでもしてくるかぁ!」

 

とても100近くもの不良を退けた後とは思えないほど活力に満ち溢れた様子で、和真は空き缶を片手に人員を確保しに行った。

 

姫路「すいません。遅くなりました~」

 

そこに後ろから姫路の声が聞こえてきた。

 

美波「あ、瑞希。どうだった?」

姫路「はいっ!お父さんもわかってくれました!美波ちゃんの協力のおかげです!」

 

どうやら転校は阻止できたらしい。

明久はやった、と声に出しそうになるが姫路に悟られないようにグッと堪える。

 

明久「姫路さん、お疲れ様」

姫路「あ、吉井君……」

 

明久の顔をみて、なぜか一瞬姫路は微妙な表情になる。

 

姫路「……すいません。私も飲み物を貰っていいですか? 沢山お話したのでのどが渇いちゃって」

明久「あ、うん。どうぞ」

姫路「ありがとうございます」

 

明久から手渡されたオレンジジュースを姫路は一息に飲み干した。

 

美波「あ……っ!」

 

その様子を見た美波が急に声をあげる。

 

明久「ん? 美波、どうかした?」

姫路「あれ? もしかして、美波ちゃんのだったんですか」

美波「そ、そういうわけじゃないけど、その……」

明久「美波も飲みたかったとか?」

美波「飲みたかった……? そ、そうね! 瑞希、悪いけどウチも一口貰っていい?」

姫路「あ、ごめんなさい。全部呑んじゃったんです。新しいの貰ってきますから、ちょっと待っててくださいね」

 

そう言って姫路はジュースのまとめられているあたりに駆け寄っていった。

 

美波(……新しいのじゃ意味がないじゃない……)

明久(? 随分と不満そうだね?)

 

美波にどうして不満そうなのか明久が聞こうとしたそのとき、

 

 

ゴッチィイイイイイン!

 

美波「いだぁあああっ!?」

 

かなりのスピードで飛んできた空き缶が、美波の側頭部におもっくそぶち当たった。怪我は無いようだがあまりの痛みに美波は思わずその場にうずくまる。

 

須川「くっそぉまた俺が鬼……か……」

 

缶を回収に来た須川が目の前の光景を察してフリーズする。

 

美波「………………覚悟は良いかしら?」

 

どす黒いオーラをバックから放出しながら美波は須川ににじり寄る。目だけが全く笑ってない笑顔に須川は萎縮し思わずその場から後ずさる。

 

美波「よくもやったわねぇえええええ!」

須川「島田違うから!? 缶蹴ったの柊だから!」

美波「安心しなさい! 全員仲良く葬ってあげるから!」

須川「どこに安心できる要素がぐぼぇぇぇ!? 」

 

その地獄絵図を明久が顔をひきつらせながら見ていると、遠くから姫路の小さな悲鳴が聞こえてきた。

そちらに目をやると、姫路さんが缶ジュースを持って転んでいる姿が見えた。

 

明久「姫路さん、大丈夫?

すぐさま明久は駆け寄って手を差し出す。

 

姫路「あ、はい。大丈夫れす……」

明久「そっか。それじゃ掴まって……

 

 

 

 

(大丈夫-れす?)」

姫路「はい。それじゃ、ぎゅ~……」

明久「ひひひ、姫路さんっ!?」

 

差し出した手をスルーして姫路は明久の腰に巻きついた。

 

姫路「明久君は、いい匂いです~」

 

そのまま明久の胸に顔を埋めてゴロゴロする。

 

明久「(このままじゃマズい! 何がマズいって僕の心拍数とか理性とかが!)姫路さん、どうしちゃったの!?」

 

今の姫路は明らかに正気ではない。

顔が紅潮し目はトロンとしていて、まるで酔っ払いのようである。

 

明久(ん? 酔っ払い? ……さっきのジュースの苦味……もしや―酒か! クラスの誰かが配ってるジュースに酒を混ぜたな!)

姫路「明久君、私は怒っているんですよ?」

 

突然頬を膨らませる姫路。といっても明久には心当たりが無いようだ。

 

姫路「むぅ~っ! 私が怒っている理由すらわからないんですねっ!」

明久「いひゃいれふ! くひがのびそうれふ!」

 

業を煮やした姫路に頬を思い切り左右に引っ張られる明久。

 

姫路「……約束」

明久「約束?」

姫路「召喚大会から戻って来た時にした約束ですっ」

明久「(はて、約束。そういえば何かあったような……

 

 

 

 

 

……っあ)

 

ああっ! 校舎裏!」

姫路「私ずっと待っていたのに、忘れるなんて酷いです!

 

閏年高校とのトラブルがあってすっかり頭から抜けていたようである。最初の微妙な表情はこれが原因だろう。

 

明久「心の底からごめんなさい。その、話せないけど、色々と事情があって……」

 

くっつかれていなかったら土下座しかねないほど低姿勢で謝る明久。

 

姫路「む~……っ! 許しませんっ!」

明久「そこをなんとか!」

姫路「絶対ダメですっ!

 

 

―なんて冗談です」

明久「はぇ?」

 

思いもよらない台詞に明久は思わず間抜けな声を上げていまう。

 

姫路「実は、明久君がどうして約束を守れなかったのか、教えてもらっちゃいました」

明久「へ? 誰に?」

 

果たして一体どこの誰が事情を話したのだろうか。

 

姫路「だから、私が怒っているのは―私自信です」

 

そう言って姫路は目を伏せる。

 

姫路「私、明久君が私の為に頑張ってくれているのに、約束の場所に来てくれなかったことに怒っていました」

明久「あ、いや。それはその、姫路さんは事情を……」

姫路「事情を知らなかったなんて関係ないんです。私は私の為に頑張ってくれている人に対して怒っていた自分が許せないんです。だって―」

 

一息入れて、姫路は顔を上げて明久に目線を合わせてくる。

 

姫路「だって、明久君は優しい人だって、前から知っていたんですから」

明久「そ、そんなことを気にしなくても」

 

まっすぐに目を見られて、明久は思わず目を逸らしてしまう。

 

姫路「前の試召戦争の時も、今回も、私は助けられてばかりで、それなのに私は自分の想いを伝えることばかり考えていて……」

 

姫路は落としてしまった缶を拾い上げている。

その缶の表記には『大人のオレンジジュース』。早い話それも酒だった。

 

明久「姫路さん、その飲み物はやめておいた方が―」

制止するも姫路は耳を傾けず、そのまま勢いよくプルタブを引き上げる。

姫路「だから、明久君に何かお礼をしたいんですっ」

 

そして缶に口をつけて勢いよく一気飲みした。

 

※お酒の一気飲みは急性アルコール中毒を引き起こす恐れがあるので、家族や友人が大切であるならば絶対に真似しないでください。

 

姫路「……そういうわけですから、明久君」

明久「は、はい」

 

心なしか、姫路の目が据わっているような気がする。

 

姫路「服をぬいでください」

明久「なにゆえっ!?」

 

言動にまるで脈絡が無い。物凄い勢いで酔っているらしい。

 

姫路「今からお礼をする為ですっ! 抵抗しないで下さい!」

明久「ちょ、ちょっと待ってよ! それ明らかにおかしいから!」

姫路「おかしくありません! 皆していることです!」

 

何処の世界の人々だ、その「皆」は。

 

零距離で掴まられていたせいで明久の制服のボタンが次々と外されていく。この距離ではうまく引き剥がせないため、まさに絶体絶命である。

 

雄二「お~、明久。楽しそうじゃないか」

 

そこにタイミン良く瓶を片手にしま雄二が通りかかる。

 

明久「ゆ、雄二っ! 丁度良かった! 姫路さんをなんとかして!」

雄二「ん? そうだな……。だが、邪魔するのも悪いし……」

 

ニヤニヤと明らかに悪ノリしている雄二。散々翔子にやきもきさせられた八つ当たりであろうか。

 

明久「それなら、せめて白金の腕輪を起動してよ! 自分でなんとかするから!」

雄二「ん? そうか? それなら……科目は数学でいいか……

―起動(アウェイクン)」

 

雄二が白金の腕輪で召喚フィールドを作り出した。

ただ、科目のチョイスに雄二の悪意が見え隠れしているような……

 

明久「ふぅ。僕の召喚獣が人に触れることができるやつで良かった。行くぞ―試獣召喚(サモン)っ!」

 

呼び出された小さな明久が姫路に触れようと近づいてくる。明久の点数程度でも力が人の何倍ある召喚獣なら、用意に姫路を引き剥がせるだろう。

 

姫路「むぅ~……! 邪魔ですっ! 試獣召喚っ!」

 

―キュポッ

 

一瞬で消し炭にされた明久の召喚獣。

召喚大会で和真をも退けた明久でも、腕輪の前では無力であった。南無。

 

明久「熱ぅああああああっ!? 身体が焼けるように熱いぃぃぃぃぃぃぃ!?」

姫路「それは服を着ているからですっ!」

 

明らかにお前の召喚獣が原因です、本当にありがとうございました。

あまりのフィールドバックの強烈さに明久は気絶することすら許されない。

ちなみに雄二はこの光景を見て腹を抱えて爆笑している。どうやらこうなることを予測できていたらしい。

 

姫路「とにかく、私は美波ちゃんには負けられないんですっ! だから名前だって『明久君』って呼んじゃいます! そして――いつかきっと――明久君と――」

 

と、突然姫路の声が尻すぼみになっていった。

 

明久「もしもし、姫路さん?」

姫路「……ずっと……一緒に……」

 

明久の耳にすぅすぅと規則正しい呼吸音が聞こえてくる。どうやら眠ったみたいだ。

 

明久(ここまでお酒に弱いとなると、今後は飲ませないように気をつけておかないといけないな。男の前で眠っちゃうなんて危ないし)

 

案の定姫路の想いは何一つ伝わっていないようだ。仕方がないか、バカだし。

 

美波「……ウチが少し目を離したら、その隙に一体何をしてたのかしらねぇ……!」

明久「え!? み、美波! 違うんだ! これは…………ゴファァッ!…………み、美波……ッ…どうしたのその顔……」

 

怒気を滲ませた美波の声が耳に入り、慌てて弁解しようと明久は美波の方を向くが、変わり果てた美波の顔に思わず盛大に吹き出してしまう。

額に“肉”の一文字、両頬に渦巻き、顎に髭、某警察官よろしくつなげられた眉毛、そして鼻の下に「50%OFF」……とどのつまり顔全体がマジックで落書きされていた。

 

美波「…………へぇえええええ…………そんなにウチの顔が滑稽しらぁあああ……」

明久「ち……違うんだ美波……これには深い訳が……」

 

笑いを堪えながらした明久の弁明虚しく、公園には悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

和真「……わりぃ明久、ちとやり過ぎちまった」

 

片手で油性マジックを弄びながら和真はあまり心のこもってない謝罪をする。

和真の周囲には美波にボコられた缶蹴りに参加したFクラス生徒が数名横たわっていたが、この事態を引き起こした和真は無傷であった。

 

和真「……ククククク……我ながら良い仕上がりだったぜ……」

 

どうやら彼の辞書に“反省”の文字は無いようだ。

 

 

 

Fクラスはこれから先も賑やかな日々が続いていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清涼祭の翌日、生徒会室には学園長・藤堂 カヲル、三年学年代表・綾倉 慶、そして四大企業の代表者達、計6名が円卓のようなテーブルに腰かけていた。

円卓の真ん中にはとても一般流通しているとは思えないスーパーコンピュータが設置されている。

 

綾倉「……18時になりました。では、文月学園経営会議を始めます」

 

 

 

 

 

 




美波さん缶をぶち当てられてバイオレンスモードに入るも、和真君には返り討ち(落書き)に遭いました。
和真君にギャグ補正による強化は通用しない!

とうとう次回で二巻終了です。
もう五十話も過ぎて、ようやく四大企業重役の顔見せになります。
な……長かった……ここまで本当に長かった……


では。


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第二巻終了

【バカテスト・生物】
単細胞生物の例を答えなさい。

姫路 瑞希の答え
『アメーバ』

蒼介「正解だ。特に言うことは無い」

吉井 明久の答え
『坂本 雄二』

坂本 雄二の答え
『吉井 明久』

徹「相変わらずだね君達は(まあ僕もこの問題は源太って答えたんだけど)」

蒼介「ちなみに源太はこの問題は徹だと答えたようだぞ」
(源太の答案を見ながら)

徹「あんのチンピラがぁあああ!ふざけやがってぇえええ!」

蒼介「お前も人のこと言えないだろうが馬鹿者」(徹の答案を見ながら)



学園長「始めますじゃないよバカタレ。なんだいこの状況は?」

 

周囲のスーツを着た人間を見回してから、綾倉先生の隣に座っている藤堂カヲル学園長は不機嫌そうに告げる。

それに同意するように、学園長の隣に座っている栗色のオールバックの、聖杯に青龍の刺繍が胸元に施されたスーツを着た、少々いかつい顔つきの中年男性はうんうんと頷く。

 

綾倉「はて? 学園長と桐谷社長は何かご不満でも?」

 

いかにもわざとらしく首を傾げる腹黒糸目栗毛眼鏡と属性のバーゲンセール状態の学年主任。

桐谷と呼ばれた男は溜め息を吐いた後、ジロリと他の三人を見回してから再び綾倉先生の方を向き、重々しく口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐谷「なぜ、私以外の企業のトップは今回の重要な会議にもかかわらず揃って欠席しておるのだ?」

 

そう、この会議に出席した企業のトップは桐谷 蓮(キリタニ レン)一名のみであり、その他は三企業とも代理の人間だったのだ。

 

綾倉「ふむ、言われてみればそうですね。一応理由も聞いておきましょうか。では、鳳婦人は何か知っていますか?」

 

綾倉は隣にいる藍色のセミロングの、剣に朱雀の刺繍が施されたスーツを着ている女性に事情を聞く。

 

この女性は蒼介の母であり秀介の夫である鳳 藍華(オオトリ アイカ)。蒼介は父親似なので顔立ちに面影はあまりないが、こちらもかなり整った顔立ちをしている。

ちなみに料亭『赤羽』の経営者兼料理長であり、蒼介や姫路の料理の師匠でもある。

 

藍華「会長はどうやらここに来るまでの道のりを間違えたようで、現在なぜか青森にいるそうです…」

 

やや疲れたように藍華が事情を説明すると、綾倉先生を覗いた全員が呆れたように溜め息を吐く。

 

桐谷「…………また、かね?」

藍華「また、です…………」

学園長「あんの天然ボケは…………いい加減秘書でもつけとくよう、後で言っといてくれるかい?」

藍華「承りました。後できつく言っておきます」

 

それぞれの様子を見るに、どうやら常習犯らしい。天性の方向音痴、ここに極まる。

 

綾倉「あっはっはっはっは、あの人は相変わらずですねぇ……では、橘社長はどうしてですか?」

 

綾倉は秀介がいつも通りであることを確認した後、藍華の隣に座っている金髪の青年に話を振る。この青年が着ているスーツには、金剛石に白虎の刺繍が施されている。

 

彼は“橘”の次期跡取りであり飛鳥の兄、橘 光輝(タチバナ コウキ)。現在イギリスのケンブリッジ大学に留学しているのだが、父親の代理としてわざわざ来日してきたらしい。

 

光輝「…………『激辛! お汁粉スパゲティ』の開発に忙しいから代わりに出ておいて欲しい、と父に言われこの会議に出席致しました」

桐谷「なんだその理由は!?」

 

光輝が心底申し訳なさそうに説明すると、あまりに納得できそうにない理由に思わず声を荒げてしまう桐谷社長。

 

桐谷「……奴が常日頃“新しいもの”とやらの開発に余念が無いことは知っている……だが! 重要な会議をさぼっていい理由にはならんだろう!

大体なんだその商品!? 甘いのか辛いのか和風か洋風かハッキリしたまえよ!」

光輝「……仰る通りですね。父に代わって謝罪いたします、誠に申し訳ございませんでした」

 

そう言って深々と頭を下げる光輝。こちらも妹同様礼節を重んじる性格のようだ。

 

桐谷「……いや、君を責めるつもりはない。こちらこそ取り乱してすまなかった」

 

光輝の真摯な態度に溜飲が下がったらしく、桐谷社長も謝罪する。

 

学園長「この件はあのバカタレに問い詰めるからあんたが気に病む必要は無いさね」

桐谷「その通り、悪いのは全部あの馬鹿だ」

 

しかし橘社長の愚行を許したわけでは無いようだ。学園長もかなりキレているらしく、額に青筋が浮き出ている。

 

桐谷「……………それはそうと、御門社長はなぜ出席してないんだ? 桐生君」

 

今日一番不機嫌な声で隣の桐生と呼ばれた、眼鏡がトレードマークの茶髪ロングストレートの女性に話しかける。

ちなみにこの女性が着ているスーツには三つ葉に玄武の刺繍が施されている。

桐生と呼ばれたこの女性は肩身が狭そうにしながらおずおずと口を開いた。

 

 

 

桐生「…あの~……その~……えぇっとですね……先程、『めんどくさいからサボる』と私の携帯にメールが……」

 

 

ブチィイイイ!×2

 

 

 

 

消え入りそうな桐生の声を聞き、しばらくの間沈黙が続いたが、突如何かが切れる音が二回ほど聞こえたような気がした。

その音とともに、どす黒いオーラを身に纏った桐谷社長と学園長の二人が席から立ち上がり、息を力強く吸い込んだ後、可能な限りシャウトした。

 

 

 

 

「「あん、の、クソガキがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鼓膜をぶち破りかねない大音響が生徒会室を縦横無尽に暴れ回った後、なんとか二人は冷静さを取り戻した。

ちなみに生徒会室は完全防音のため外にこの雑音は漏れていない。その分、内部に物凄く反響したのだが。

 

学園長「……まぁ、あのクソジャリをブチ殺すのはまたの機会にするとしようかね」

桐谷「……そうだな…………もうやだあいつ等……なんで世界的企業のトップが揃いも揃ってあんなんなの……」

 

やはり冷静になっただけで学園長の怒りは消えていないらしい。一方で、自分と同格の三人が色々とアレな人ばかりな状況に、桐谷社長の心が折れかけている。

 

綾倉「気を取り直して、では今回のテーマは昨日行われた清涼祭、そして10月に行われる例の祭典についてです」

桐生「……わかった。話を進めてくれ」

 

しかし、いざ議題に入るとそれぞれが真剣な顔つきに戻る。さすご企業のトップ及びその代理、プロ意識が伺える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「―以上で今回の会議は終了です。お疲れさまでした」

 

綾倉先生がそう告げると、桐谷社長、光輝、藍華、学園長は予定が詰まっていると言わんばかりに慌ただしく生徒会室から出ていった。綾倉先生も生徒会室の鍵をテーブルに置いてさっさと出ていってじった。

一人生徒会室に残った御門エンタープライズの代役・桐生 舞(キリュウ マイ)はハイライトの消えた眼でおもむろに携帯を取り出した。

 

桐生「…………あんのボケェエエエ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は17時前、吉井 明久はへとへとになりながら帰宅していた。

 

明久「あぁ疲れた~……高校生にもなってあそこまで鬼ごっこで楽しめるの、和真達ぐらいだよね……」

 

本日特に予定も無かったので、明久は『アクティブ』のメンツと鬼ごっこをしていた。その際和真に執拗に追いかけ回され、明久は体力を0にまですり減らしてしまいましたとさ。

全力で走ればなんとか逃げ切れるレベルのスピードで追いかけじわじわといたぶってくる和真は、ごっこではなく“鬼”そのものであった。

 

明久「 ……それにしても何で姫路さんは昨日のこと忘れているはずなのに僕の呼び方は変わってたんだろう? ……まぁいいか、っと……河原かぁ………………あっ!?」

 

そうこうしている内に家の近くにある河原まで来ていた明久は、見覚えのある人がベンチに腰かけ缶のコーンポタージュを飲みながら一服していたので、その人に近づいていった。

 

明久「おっちゃん、久しぶり!」

おっちゃん「んあ? ……よう少年、相変わらずアホ面だなぁお前さん」

明久「出会い頭に罵倒された!? しかもこんな小汚いおっちゃんに!」

おっちゃん「相変わらず遠慮が無いな、お前さんも」

 

やれやれと首を振ったあと後、缶の残りを一気に飲み干した。ちなみにおっちゃんの周りには空になったコンポタの缶が数個散らばっていた。

 

明久「……というかなんでこの時期にコンポタ?」

おっちゃん「『つめた~い』に決まっているだろうが馬鹿め」

明久「そういう問題!?」

 

いやはや、相も変わらずフリーダムなおっちゃんである。周りの人間を無差別に振り回す性格は、どことなく和真に通ずるものがある。

 

明久「……一昨日はありがとうございました」

おっちゃん「あん? ……あー、あれか。俺は頼まれてやっただけだからお礼はk…綾倉にでも…………いや、あのボケに言うくらいならやっぱ俺に言え、ひれ伏せ崇め奉れ」

明久「いやどっち!?そもそも 流石にそこまではしないから! 」

おっちゃん「冗談だ……1割くらいは」

明久「残りの九割は!?」

 

その後もいくつか話をした後、明久は自分の家に帰っていった。

 

御門「……以前見たときよりマシな面構えになったな、吉井の弟」

 

感慨深く呟いた後、煙草が切れたのでいつものように自販機に向かう。しかし小銭を入れる前にポケットから着信音が鳴り響いた。おっちゃんは軽く舌打ちしてから、もう片方のポケットから耳栓を取り出して両耳につけた後、携帯の通話ボタンを押した。

 

おっちゃん「はいもしm―」

『どこほっつき歩いてやがんだゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

河原全体を凄まじい爆音が暴れ回る。、その辺にいた鳩は皆空に羽ばたいていき、河の魚はばしゃばしゃと音をたてて散り散りになっていった。

 

おっちゃん「ぎゃあぎゃあうるせぇな、近所迷惑考えろキュウリ」

『桐生だボケェェェ! つぅかテメェは少しは私の迷惑を考えろ、しばき回すぞおんどれぇぇぇぇ!』

おっちゃん「そうカッカすんなよ、綺麗で瑞々しくて緑色の肌が荒れちまうぞ?」

『だからキュウリじゃないって言ってるでしょうが!

……いいですか! あなたはもう少し御自身の立場と言うものを―』

おっちゃん「あーうぜぇ(ピッ)」

 

前と同じように強引に通話を切り、これまた同じように電源を落とす。

 

おっちゃん「ったく……俺にあんな会議出る気があるとでも思ってんのかねぇ、舞の奴は」

 

あまりにも身勝手なことを呟いた後、おっちゃんは煙草を購入してそのまま一服した。すると、

 

 

ピリリリリリリリリリリリリリリリ

 

 

持っているもう一つの携帯から着信音が鳴り響いた。

おっちゃんは急に苦虫を噛み潰したような表情になり、鬱陶しそうに通話ボタンを押した。

 

おっちゃん「…………なんか用かコラ」

『いきなり随分喧嘩腰ですね、御門 空雅(ミカド クウガ)社長。いやはや、私も嫌われたものだ』

おっちゃん「御託はいらねーよ。今度はどんな厄介ごと押しつけるつもりだ」

『ふむ、それもそうですね。実は―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―では頼みましたよ、御門社長』

おっちゃん「二度とかけてくんじゃねー」ピッ

 

内容を聞き終えると、おっちゃんは乱暴に通話を切った。

二本目の煙草に火を着けながら呟く。

 

御門「はたしてテメーの思い通りに進むかねぇ……腹黒糸目野郎」

 

 

 

 

 




雑談コーナー・その2

蒼介「第二巻も無事終了したな」

和真「今回は召喚大会にリアルファイトと、バトル三昧だったな」

蒼介「ほとんどお前がやりたい放題やっていただけだがな。特に召喚大会は撃墜数がなんと11体と、徹の存在意義が疑問視されるほどだしな」

和真「といっても明久には負けちまったし、梓先輩は徹のサポート込みでなんとか相討ちにできただけだけどな」

蒼介「あの先輩が参加するなら私も出て良かったのでは? ……まぁいいか。カズマ、そろそろゲストを呼んでくれ」

和真「あいよ! じゃあ今回はチンピラ帰国子女の五十嵐 源太を呼んだぜ!」

源太「……その紹介にも文句を挟みてぇがとりあえずそれは置いておく。俺様はテメェ等(と作者)に言いてぇことがある」

蒼介「? 何か不満な点でもあるのか?」





源太「なんでこの巻俺様の出番オールカットなんだよ!? おかしいだろオイ!」

和真「あぁ、やっぱそれか。まぁドンマイー」

源太「なにその投げやりすぎる慰め!? さてはテメェ心の中でどうでもいいとか思ってるな!? 」

和真「まぁそうだけど」

源太「少しは躊躇えよ! ……というかわざわざ原作ではAクラスに行くシーンをわざわざBクラスにチェンジしたのになんで俺様が出ねぇんだよ!?」

和真「いやお前その顔で接客なんてしてみろ、子ども泣くぞ?」

源太「人の顔をなまはげみてぇに言うんじゃねぇよ!
……まぁ百歩譲ってクラスの出し物に参加できねぇのは良いとしてもよ、召喚大会で出してくれてもいいじゃねぇか……金田一とか原作ではモブ同然の奴出すくらいならよぉ……」

和真「いやいや、だってお前ぼっちだから相方いねぇじゃん」

源太「ぼっち言うな!」

蒼介「余計な補足かもしれんが、『アクティブ』のメンバー以外の絡みが根本くらいしか無いな」

源太「本当に余計な補足だよチクショオオオ!
……ん? だったら『アクティブ』の誰かと組めば-」

和真「だから無理なんだって。優子や愛子と組ますわけにはいかねぇし、ソウスケが参加すれば俺達詰むし、徹は俺とペアだし……」

源太「それェェェェェ! 俺がツッコミたいのはそこ! なんであのクソチビがテメェの相棒ポジなんだよ!? あいつ前巻でも割と出番あったんだからそこは俺様でも良かっただろ! 断固納得できねぇ! なんだこの格差は!? 」

和真「いや、だってお前の点数……英語以外基本的にカスじゃねぇか」

源太「カス!?」

蒼介「設定では英語以外はCクラス上位程度だな。そこまで酷いこともないがカズマの相棒としては少しばかり見劣りする点数ではある」

和真「今お前と組んで出場したとしてシュミレートしたが、一回戦の愛子・佐藤ペア(数学)に負けてはいおしまい、だな」

源太「orz」

和真「まあそう落ち込みなさんな、お前の本格的な出番は三巻だからな」

源太「そうかそうか! だよなー俺様がこのまま出番も無く消えていくはずねぇもんな!」

和真・蒼介(単純過ぎる……)


和真「まぁ正直源太の今後なんざどうだっていいんでこの話は捨て置いて、読者発案番外編を発表するぜ」

源太「おいテメェどういうことだ!? 今なんつった!?」

和真「うるさい黙れ話の腰折るなこの悪党面両腕千切られてぇのかドブネズミみてぇなカラーリングしやがって……さて、今回採用されたのは~」

源太「なにこの投げやりかつ毒のある対応……俺様何かした?」

蒼介「諦めろ。カズマは興味の無いことは物凄く雑に処理する悪癖がある」

和真「怪盗キッドさんの『女装コンテスト』だ!」

源太「随分無難なチョイスだな。……あ? 確かもう一つ案があったような…」

和真「あー、“蒼龍”さんの案についてだが……」

蒼介「とりあえずストーリーは組み上げたのだが、話の展開に必要不可欠なキャラがまだ登場してないので、この案は先送りとなった」

和真「……つーことで“蒼龍”さんすまねぇ! ボツになったわけじゃねぇから気長に待っててくれ!」



源太「……とまあ今回はこんなところか?」

蒼介「そうだな。次回からは番外編三つ挟んだ後、3.5巻に突入する」

和真「番外編一発目は大人気につき続編決定した『伝説の勇者ユージの冒険』だ!」

蒼介「この話は作者もお気に入りだからか、本編と並列で連載しようと魔が差したこともあるらしい」

源太「確実に投稿ペース落ちんじゃねぇか……」


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キャラ紹介その4

新キャラが出まくりましたが、今回は特に重要な四人を紹介します。



※ネタバレ要素を含みますので注意してください。



・佐伯 梓(サエキ アズサ)

3年Aクラス

身長153㎝

体重47kg

髪:エメラルドグリーンのツインテール

得意教科:現代文・数学・英語

苦手教科:特に無し

趣味:サッカー観戦

好きなこと:柔道で勝つこと

嫌いなこと:セレッソ大阪の負け試合

座右の銘:外柔内剛、有言不実行&不言実行

チャームポイント:タレ目

通称:チャンピオン、稀代のペテン師、合法ロリツインテール

備考:元生徒会長、現副会長、柔道インターハイチャンピオン

 

三年Aクラスの学年次席(一学期終了時には学年トップに)。和真と飛鳥の越えるべき壁。中学まで大阪に住んでいたので関西弁で話す。

徹に負けず劣らずの童顔だが、非常に端正な顔立ちをしており社交性もかなりあるので、男女ともにかなり人気がある。

基本的に真面目で責任感が強く、常夏コンビを一喝して黙らせるなど度胸もかなりあるが、その一方で高城をかなりの頻度で騙したり仕事を押しつけたりするなどちゃっかりした一面もある。

女子の中でもやや小柄な体格で身体能力も飛鳥にはかなり劣るが、それを補って余りある圧倒的な柔道センスがあり、こと柔道という競技に限ればその技術は和真や蒼介すらも凌駕する。元生徒会長かつ現副会長にして学年次席。

さらに柔道部を全国優勝の立役者であり自信は公式戦練習試合問わず負けなしの、名実ともにNo.1。

それゆえ生徒からも教師からも信頼は厚い。

三年生の中でも群を抜いた戦闘経験をがあるため、明久に匹敵する操作技術を持つ。さらに自分を含めた召喚フィールド内の全ての腕輪を無効化する『青銅の腕輪』を所持している。試召戦争において現時点の和真より確実に強い五人のうちの一人。

一学期終了後に三年間無敗のまま柔道部を引退、また生徒会の任期も終了した。

詐欺師として天性の資質があり、一切嘘をつかなくても人を造作もなく騙せる。

 

・パラメーター

ルックス…5

知能…5

格闘…5

器用…5

社交性…5

美術…3

音楽…3

料理…2

根性…4

理性…4

人徳…3

幸運…4

カリスマ…4

性欲…3

 

 

 

 

 

・鳳 秀介(オオトリ シュウスケ)

年齢39歳

身長183㎝

体重73kg

髪:艶のある黒髪

得意教科:古文、英語

苦手教科:特に無し

趣味:剣道、弓道、華道

好きなもの:和食全般

嫌いなもの:節足動物

座右の銘:一騎当千

チャームポイント:迷子

備考:世界的企業の社長、日本有数の名家の当主

 

 

蒼介の父親にして四大企業の一角『鳳財閥』のトップ。

やや細身の長身で中性的のイケメンであり、どう見ても20代にしか見えない。

性格は蒼介とは似ても似つかず非常に天然で、登場するたびに迷子になっている。しかし鳳家の人間らしく能力は極めて優秀であり、また詳細は不明だが剣の達人であり、木刀を握らせれば和真や蒼介すら軽く凌駕するらしい。

 

 

ルックス…5

知能…5

格闘…5

器用…5

社交性…4

美術…4

音楽…4

料理…4

根性…5

理性…5

人徳…3

幸運…4

カリスマ…5

性欲…2

 

 

 

 

・綾倉 慶(アヤクラ ケイ)

年齢28歳

身長168㎝

体重57kg

髪:栗色の長め

得意教科:数学、物理

苦手教科:特に無し

趣味:ハッキング、特性ドリンク製作

好きなこと:暗躍、謀略、探り合い

嫌いなこと:暴力

座右の銘:知は力なり

チャームポイント:糸目

備考:元数学オリンピック世界王者

 

 

三年学年主任を勤める教師。

人畜無害そうな見た目と丁寧な言葉遣いに反して本性は非常に狡猾で腹黒い。第二巻の黒幕である竹原を何の描写も無しにリタイアさせるという、数ある二次創作の中でもでもトップクラスのえげつない手段で葬った。

学力は教師の中でも群を抜いて優秀であり、特に物理と数学は点数が高過ぎて危険という理由で物理干渉能力が解除されているほど。

それなりの性能を持ったパソコン数台あれば個人でサイバーテロを仕掛けられるほどのハッキングコンピューター技術も持っており、その能力を駆使して白銀の腕輪のデータに欠陥を生じさせた。技術力では完全に学園長の上をいっており何かと対抗意識を持たれているが、彼は彼で学園長の自由奔放ぶりに辟易している。

 

 

若干14歳でハーバード大学を首席卒業した天才であり、また同大学で教鞭を取っていた過去を持つ。御門空雅に嫌われている理由は教え子である彼を散々玩具にして遊んでいたかららしい。

 

 

一年主席の綾倉詩織は彼の娘である。

 

 

ルックス…4

知能…6

格闘…3

器用…5

社交性…3

美術…3

音楽…3

料理…3

根性…3

理性…3

人徳…3

幸運…3

カリスマ…3

性欲…1

 

 

 

 

 

 

・御門 空雅(ミカド クウガ)

年齢25歳

身長174㎝

体重65kg

髪:ボサボサの黒髪

得意教科:?

苦手教科:?

趣味:昼寝、桐生いじめ

好きなもの:煙草、コンポタ

嫌いなもの:残業、綾倉、残業、人混み、残業、騒音、残業、甘い物、残業、アルコール、残業、“残業”、アドラメレク

座右の銘:晴耕雨読

チャームポイント:濁った目

備考:無気力ダルダルおじさん兼敏腕社長→無気力教師

 

河原に出没する無気力なおっちゃん。

実は四大企業『御門エンタープライズ』の社長である。ちなみに公園の自販機は彼が快適なサボり空間を作るために設置された。煙草とコンポタをこよなく愛し、不足した栄養は全てサプリメント類で補っている。

無気力、野放図、無精の集合体のような外見と性格をしている。

能力は確かであり、社長であるはずの彼の帰宅が異常に早いのは仕事をこなすスピードが異常に速いからである。その反面、残業はまるでする気が無く提携関係にある会社との談合なども全て秘書である桐生に押しつけているなどやはり人格にかなり問題がある。

チンピラ数人を一瞬で全滅させるなど、見た目に反してかなり喧嘩慣れしている。

名前の由来は勿論最速のアルター使い。

こう見えてハーバード大学を首席で卒業した天才であり、綾倉とは当時恩師と教え子の関係であった(本人にとっては無かったことにしたい過去)。

このたび“御門”と完全に縁を切り、第一学年主任へと就任した。目的は自立型召喚獣アドラメレクの打倒ただ一つ。

 

自堕落極まりない性格ではあるが根は優しく何だかんだ面倒見も良い。困っている人や苦しんでいる人にはあれこれ心の中もしくは外で理由をつけつつ必ず手を差し伸べる。素直じゃないとかツンデレというわけではなく、「打算的な理由で手を差し伸べているだけ」という自己暗示を自分にかけ、自分から他人と距離を縮めないようにしているからである。

彼は親しい人や大切な人が次々と不幸な目(それも再起不能レベルの)に遭うという重いジンクスを背負っていて、その影響で「自分は疫病神である」という罪業妄想が心の内にある。そのため自分に歩み寄ってくる人にはそっけない態度で壁を作って遠ざける。

 

 

 

ルックス…3

知能…5

格闘…5

器用…5

社交性…2

美術…2

音楽…2

料理…1

根性…1(5)

理性…3

人徳…4

幸運…2

カリスマ…1

性欲…2

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。

桐谷社長、鳳 藍華、橘 光輝、桐生 舞の紹介はまた別の機会に。

では。


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伝説の勇者ユージの冒険 ~モンスターが金なんざ持ってるわきゃねぇだろ! 地道に働いて稼げ地道に!~

【注意!】
・和真君が本編よりずっとやりたい放題です
・今回蒼介君はナレーションに徹します
・雄二はずっとツッコミです。オールウェイズツッコミです。エンドレスツッコミです。エターナルツッコミです。


ここはモンスリー王国

 

人々は平和に暮らし、大地は豊かな緑に覆われ空には鳥が舞い、穏やかな風が綿雲を運んでいた

 

だがある日、空に闇が滲み、大地に邪悪な影を落とした

 

大魔王カヲルシフェルが永き眠りから目覚めたのだ!

 

次々に魔物を生みだし、人々を襲い殺戮の限りを尽くした

 

この世界は暗黒の時代を重ね、いつしかこう呼ばれるようになった……

 

“モンスター・ワールド”

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だが、そこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れた勇者一行は、カヲルシフェルを倒すべく今日もカオール城に向けて旅立った!

 

 

 

 

ユージ(勇者)「……なあお前ら……ちょっといいか?」

 

カズマ(プロゴルファー)「あん? どうした?」

 

ショーコ(マッチ売りの少女)「……まだ町を出て10分も経ってない」

 

アキヒサ(ピザ屋)「何か忘れ物? 今ならまだ間に合うけど」

 

ユージ「明らかに常識っつう概念を忘れてるよなこのパーティー。本当に今ならまだ間に合うのか?」

 

カズマ「要領得ねぇな、もったいぶらずにさっさと言えや」

 

ユージ「じゃあ遠慮無く言わせて貰うが……

 

 

 

 

 

お前等のジョブおかし過ぎるだろ!」

 

アキヒサ「えぇ!? またその話!?」

 

ショーコ「……ユージ、いい加減しつこい」

 

ユージ「いやいやいやいやいやいやいやいや!

前回はツッコミ疲れて思わず流してしまったが明らかにおかしいだろうが! プロゴルファーにマッチ売りの少女にピザ屋? それでどうやって闘えって言うんだよ!?」

 

アキヒサ「そんなこと言ったって前回職業変えまくったせいでもうお金が無いよ?」

 

カズマ「つーわけだ、とにもかくにもまず金を工面しねぇとな」

 

ユージ(チィ……まさか冒険開始する前に所持金が無くなるとはな……仕方ねぇ、ここはモンスターを倒してコツコツ稼ぐか。まあまだ序盤だし、俺一人でもどうにかなるだろ)

 

チャララ~ン♪

 

カズマ「おっ、モンスター出現の合図だな」

 

ユージ「その効果音、実際にあんのな……最初だし、どうせスライムとかだろ-」

 

 

 

 

 

 

 

【ジェノサイドサイクロプスの群れがあらわれた! ▼】

 

 

颯爽と出現したのは五体のまさに『モンスター』と呼ぶべき、ライトノベルの世界観とはまるで合わないアメコミに出てきそうな化け物ども。

三メートルほどの筋骨隆々の肉体に、返り血が付着して所々錆びた棍棒を片手に持ち、血走った一つ目でユージ達を睨んでいる。

 

「「「「「アゥウウウーッ! コ……コロス……コロシテヤルゾォォォォォォォォ!」」」」」

 

ユージ「なんでだァァァァァァァァァ!!!」

 

勇者ユージの全力のシャウトが戦場にこだました。

 

カズマ「出やがったなモンスター! (五番アイアンを構える)」

 

ユージ「待てェェェェェ! お願いだからちょっと待てェェェ! おかしいだろ!? なんであんな中ボスみたいな奴が団体で襲ってくるんだよ!?」

 

カズマ「戦闘中にそんなチンタラ説明してる暇あるわけねぇだろ! 四の五の言わず行けコラ!(ドゴォオオオ!)」

 

ユージ「ごふぁっ!?」

 

カズマの理不尽で不条理な蹴りを喰らって、ユージは敵のすぐ近くまでぶっ飛ぶ。

 

【カズマのキック! かいしんのいちげき!ユージに46のダメージ ! ▼】

 

カズマ「あ、いけね」

 

ユージ(2/48)「「いけね」じゃねぇよ「いけね」じゃああああああ! どうすんだよオイ!? 敵と戦う前にもう瀕死じゃねぇか!?」

 

カズマ「負けるな雄二ー。ほらお前あの、『勇者の力』的なもんでなんとかしろー」

 

ユージ「なにそのアバウト過ぎる助言!? あと俺のこと瀕死にしておいてなんでそんなふてぶてしいのお前!? 」

 

カズマ「あーそういうのもういいからさっさとやれよ」

 

ユージ「チクショウこのサディスト最悪だ! お前後で覚えてろろよぉおおおおお!」

 

半ば自棄になりながらも、勇者ユージは剣を構えサイクロプスの一体に斬りかかった。

 

A「シネェエエエエエ!」

 

ユージ「もうヤケクソだゴルァアアアアア!」

 

 

ズバァアアアアアアアアアアン

 

 

【ユージのまものぎり! ジェノサイドサイクロプスAに18のダメージ! ジェノサイドサイクロプスAをたおした! ▼】

 

ジェノサイドサイクロプスはユージの剣によってまるで豆腐のように真っ二つにされた。

 

ユージ「…………………………………………あれ?

 

 

 

 

 

 

 

(予想以上に弱かったァァァァァァァァァァ!

なんだあの見かけ倒し!? 内心びびってた俺がバカみたいじゃねえか! )」

 

 

『【まもの図鑑】ジェノサイドサイクロプス(HP15)……とても屈強に見える肉体を誇る見かけ倒しの究極形。その強そうな見た目と裏腹に、村娘でも頑張ればなんとかなるレベル。ちなみに手に持っている棍棒の血は単なる絵の具である。ベンチプレスはまさかの50㎏』

 

 

カズマ「…っつうわけだ。序盤にそんな強い奴出るわけねぇだろ」

 

ユージ「お前絶対わざと黙ってただろ! ……まあいい、あれなら俺一人でもなんとかなるな。 よし、お前らは危ないから下がって-」

 

カズマ「オイオイ、なに寝惚けたこといってんだよ。俺達はチームだぜ? なぁショーコ、お前の力を見せてやれ」

 

ショーコ「……わかった」

 

【ショーコはジェノサイドサイクロプスBに近づいていった ▼】

 

ユージ「おい危ねーぞ!? いくら雑魚敵とはいえ職業『マッチ売りの少女』でどうにかなるわけ-」

 

ショーコ「……無限の火器製(アンリミテッド・ブレイズワークス)」

 

ブォオオオオオオオオオオ

 

【ショーコのかえんほうしゃ! ジェノサイドサイクロプスBに56のダメージ! ジェノサイドサイクロプスは倒れた! ▼】

 

ショーコはどこからともなく取り出したガスバーナーでサイクロプスを火炙りにした。

 

ユージ「いや待てェェェェェ!? おかしい! 俺に知っているマッチ売りの少女はそんな物騒な物常備していない!」

 

ショーコ「……私はガスバーナーに限らず、古今東西ありとあらゆる火器を創造することができる」

 

ユージ「うんお前もう職業名改名しろ、放火魔とかに」

 

ショーコ「……いくらユージでも言って良いことと悪いことがある(ジャコッ)」←ガスバーナーを向ける

 

ユージ(瀕死)「待て! 落ち着け! 今はそんな場合じゃない! 俺が悪かった! 命だけは!」

 

カズマ「ショーコ、ストップ。次の町まで棺桶引きずっていくのは流石にめんどい」

 

ショーコ「……わかった」

 

ユージ「おいカズマ、助けてくれたことには礼を言うがお前俺のこと1ミリも心配してねぇだろ」

 

カズマ「? 当たり前だろ?」

 

カズマがショーコを止めた理由は紛れもなく純度100%自分の都合のみを考慮してである。

 

CDE「ウガァアアアアア!」

 

カズマ「-っと、まだ戦闘中だったな!

アキヒサァ!次はお前の力を見せてやれ!」

 

アキヒサ「オーケィ!」←ピザを手のひらに乗せる

 

ユージ(それでどうやって戦うんだよ!? ……いや、もしかするとこいつもショーコみたく隠し玉が……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

アキヒサ「さぁいく(ドゴォォォ!)ずぅぶらぁぁ!?」

 

【ジェノサイドサイクロプスCのこうげき!アキヒサに6のダメージ ! ▼】

 

C「イマシネェ!」ドカバキドゴォ

D「スグシネェ!」ドカバキバァン

E「ホネマデクダケロォ!」ドカバキグチャ

 

アキヒサ「ちょ…!? やめっ!? 待って!? ストッ……ひでぶっ!?」

 

【ジェノサイドサイクロプスCのこうげき!アキヒサに6のダメージ! ジェノサイドサイクロプスDのこうげき! アキヒサに6のダメージ! ジェノ(ry ▼】

 

アキヒサ「」チーン

 

【アキヒサはしんだ! ▼】

 

ユージ「ああ、やっぱりか。うっすら予想はしてたけどやっぱりこうなるか。どこの世界だろうとアキヒサはアキヒサか、糞の役にも立たねぇ」

 

カズマ「多分読者の大半もこの展開予想できただろうな」

 

仲間が死んだのにもかかわらずこの冷めきった対応

世界が変わっても人間関係は変わらないらしい

 

カズマ「……んじゃ、そろそろ終わらせてくるわ」スタスタ

 

そう言って五番アイアンを構えてモンスター達に近づいて行くカズマ

 

 

 

 

 

 

カズマ「くたばれぇえええええ!(ドゴァァァァァァアアアァァァン!!!)」

 

CDE「!!?」

 

【カズマのなぎはらい! かいしんのいちげき! サイクロプスCに82のダメージ! サイクロプスDに96のダメージ! サイクロプスEに101のダメージ! まものはぜんめつした! いちどうはけいけんちをもらった! ▼】

 

カズマのゴルフクラブがクリティカルヒットし、ジェノサイドサイクロプス達はみんな仲良く星になった。

 

カズマ「よーし、いっちょあがりィ! (アイコンタクトでショーコに合図する)」

 

ショーコ「……パパラパーパーラーパッパパー ♪(FFのファンファーレ風)」

 

ユージ「色々とツッコみたいところはあるがとりあえず…………そんなんあるなら最初からやれよ!」

 

カズマ「まーいいじゃんいいじゃん! ともかく初戦闘も切り抜けたことだし冒険を再開すんぞ! ユージ、あれ運べ」↓

 

アキヒサ(棺桶)「返事がない。ただのバカのようだ」

 

ユージ「いやなんで俺なんだよ!? お前がもたもたしてるからこうなったんだからお前が運べよ!」

 

カズマ「俺箸より重いもん持てないしー」

 

ユージ「じゃあそのこれ見よがしに担いでる五番アイアンはなんなんだよ!? ったく…………あれ?」

 

ショーコ「……ユージ、どうしたの?」

 

ユージ「モンスター倒したのになんでお金落とさないんだ?」

 

カズマ「はぁ? あんな害獣どもがそんな文明のシステム取り入れているわけねーだろ」

 

ユージ「いやなんでだよ!? だったらお金どうすんだよ!? このバカの蘇生とか武器の調達とか宿の確保とかは!」

 

カズマ「金は地道に稼ぐもんだろ。アキヒサはピザのバイト、ショーコはマッチ売り、俺はカツアゲ」

 

ユージ「お前はゴルフだろ!?」

 

カズマ「冗談だ。それよりお前もなんか働けよ、一人だけ楽しようったってそうはいかねぇ」

 

ユージ「どう考えても俺が一番しんどいポジションなんだが……それに仕事っつったって俺勇者だぜ? 魔物退治が本業なのになにやればいいんだよ?」

 

カズマ「あーやだやだ、『魔物を退治することが俺の使命だから仕事なんぞ探している暇はねぇ』ってかぁ? やれやれ、これだから穀潰しは…」

ユージ(いつかこの勇者の剣でぶった斬ってやる)

 

カズマ「まあ安心しろ、お前のバイト先はもう俺が決めておいた。すぐ近くだから今から行くぞー」

 

ユージ「なぜだろうな? 嫌な予感しかしないんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンタ「働け働け(ピシピシッ!)」

 

ユージ「痛っ……痛ぁっ!?」

 

ユージはカズマにとある施設に強引に連れて行かれた後、現在進行形でコワモテの監視員に無知で背中を打たれ、自分と同じくらいの大きさの立方体の石を延々と運ばされていた

 

カズマ「頑張れー、ゴールはすぐそこだぞー(モグモグ)」

 

ショーコ「……ユージ、頑張って(モキュモキュ)」

 

カズマとショーコはドーナツを頬張りつつユージについていく

 

 

 

ユージ「いやこれなんのバイトォォォォォ!?」

 

 

 

 

 

勇者一行の旅はまだまだ続く




以上です。
この回が一番書いてて楽しいな。

(プチ)キャラ紹介
・ユージ(レベル5・HP48)
ジョブ…勇者
スキル…ツッコミ(あらゆるボケにツッコむ)、勇者の力(詳細不明)

主人公にして苦労人。この世界観ではツッコミは彼一人のみなので、全てのボケを処理する運命を背負わされた悲しき戦士。今日も胃薬片手に抜け毛を気にしながらユージはモンスターやボケを次々と捌いていく。


・カズマ(レベル5・HP300)
ジョブ…プロゴルファー
スキル…スーパークリティカル(攻撃が全て会心の一撃になる)

ユージのストレスの原因その1。
世界観が割と世紀末なため、本編とは比較にならないほどやりたい放題している。誰がどう見てもぶっ壊れのスキルとステータスをしており、その戦闘能力は勇者一行の中でも突出している。ただ非常に気まぐれなため、真面目に戦闘することはあんまりない。

・ショーコ(レベル5・HP40)
ジョブ…マッチ売りの少女
スキル…無限の火器製(火に関係した器具ならどんな物でも創造できる)

ユージのストレスの原因その2。
職業はマッチ売りの少女だが原型はまるで残っていない。
ユージへ好意を寄せているのは本編と同様だがマンネリ化を避けるため割と淡白な間柄に修正された。カズマに匹敵するチートスキルを持っているが武器の性能上一つ一つしか使えないためいっぱい創造してもあんまり意味無い。
余談だが彼女の職業がマッチ売りの少女なのは、作者が『マッチ売りの翔子』なんてクソ寒いダジャレを思いついたことが原因。

アキヒサ(レベル1・HP20)
ジョブ…ピザ屋
スキル…バカ(バカである)

言わずと知れたバカテスの主人公。
ただ、上記のステータス然り真っ先に殉職したこと然り、
この世界での彼の扱いは決して良くない。
カッコいい明久などいなかった。
ちなみに強さ比較は現在、

カズマ>>>>>>>>>>ショーコ>>>>>ユージ>>>《越えられない壁》>>>アキヒサ

だったりする。
アキヒサに恨みはこれといって無い。
だから生きろ。


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伝説の勇者ユージの冒険 ~RPGの酒場の諜報力は世界一ィィィ!~

少々スランプ気味なので、調子を取り戻すまでこっちでいこうと思います……


ここはモンスリー王国

 

人々は平和に暮らし、大地は豊かな緑に覆われ空には鳥が舞い、穏やかな風が綿雲を運んでいた

 

だがある日、空に闇が滲み、大地に邪悪な影を落とした

 

大魔王カヲルシフェルが永き眠りから目覚めたのだ!

 

次々に魔物を生みだし、人々を襲い殺戮の限りを尽くした

 

この世界は暗黒の時代を重ね、いつしかこう呼ばれるようになった……

 

“モンスター・ワールド”

 

残された人々は脅え、泣き叫び、己が生を呪った

 

だが、そこに一人の勇者が立ち上がった

 

希望の光を剣に宿し、三人の仲間を連れた勇者一行は、カヲルシフェルを倒すべく今日もカオール城に向けて旅を続ける!

 

 

 

 

【ケネディ町】

 

 

テーンテーンテテテーン♪

 

 

アイコ「はい、お預かりしたポケモンは皆元気になったよ。 またのご利用お待ちしてまーす♪」

 

アキヒサ「モンスリーよ、 僕は帰ってきた!」

 

ユージ「誰もお前の帰還なんざ期待していねぇよ。……つか今度はポケモンかよ……この世界節操なさ過ぎだろ……」

 

カズマ「細かいこといちいち気にしていると溶けるぞ?」

 

ユージ「溶けてたまるか」

 

前回の戦闘でアキヒサが戦死してしまったため、教会で復活させるために資金を集めていたユージ達だったが、教会へ向かう途中たまたま『ポケモンセンター』があったらしい。

 

ユージ「しかもタダかよ……俺の前回の苦労はなんだったんだ……」

 

ショーコ「……ユージ、元気出して」

 

カズマ「ったく、さっきからグチグチグチグチ……何事もポジティブシーンキーング! に考えやがれよ。その金で装備強化するとか、色々あるだろ」

 

ユージ「お前らがもう少し自重してくれたらずっと楽になるんだがな。……まぁ装備の強化は必須かもな、特にアキヒサ」

 

アキヒサ「え? 僕? 僕にはこの聖剣ピッツゥアがあるけど」

 

ユージ「これほど聖剣を語ることがおこがましい武器が今まであっただろうか? つーかそれただのピザだろうが」

 

 

 

 

 

そういうわけで勇者一行は、汗水たらして稼いだ金で装備を整えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

ユージ……勇者の剣(?)、銅の鎧(ぼうぎょ+10)、風の靴(すばやさ+15)

 

ユージ「ふむ、なかなか強化されたな」

 

 

 

 

カズマ……五番アイアン(こうげき+10)、ゴルフウェア(ぼうぎょ+3・すばやさ+5)、怪しい腕輪(MP+10)

 

ユージ「カズマにしては普通の装備だな。若干俺の感覚が麻痺してる可能性も否めないが」

 

 

 

 

ショーコ……怪しい服(MP+10)、怪しい靴(MP+10)、怪しい腕輪(MP+10)

 

ユージ「もうこれただの怪しい人じゃねぇか……まぁまだ許容範囲だ。問題は……」

 

 

 

 

 

 

アキヒサ……全身タイツ(こうげき+3・ぼうぎょ+3・MP+3)、2002年眼鏡(MP+20)、J・I・T・B(こうげき+30)

 

ユージ「テメェだァァァァァ!」

 

アキヒサ「? 何か問題が?」

 

ユージ「問題しかねぇよ! なんだよその怪しい装備一式より遥かに怪しいラインナップ!? どう贔屓目に見てもただの不審者じゃねぇか! だいたいなんだその武器!?」

 

そう言ってユージはアキヒサが手に持っている武器に指を突きつける。その武器は鎖に繋がれた鉄球である。見るからに殺傷能力の高そうなトゲも複数ついており、なかなか強そうではあるのだが、どう見ても光の陣営が使いそうな武器ではない。

 

アキヒサ「何って…ジャスティス・アイアン・トルネード・ボールだけど?」

 

ユージ「いや、だからなんだよそれ!?」

 

アキヒサ「ジャスティス・アイアン・トルネード・ボールはジャスティス・アイアン・トルネード・ボールであってそれ以上でも以下でもないよ?」

 

ユージ「なに一つわからねぇよその説明じゃあよぉ! 結局なんなんだよその禍々しい器物はよぉ!?」

 

アキヒサ「勝てる! カヲルシフェルがどんなヤツであろうと負けるはずがない!僕はいま究極のパワーを手に入れたのだーっ!!」

 

ユージ「ダメだこいつ……ネイルと合体して調子こいたピッコロみたいなこと言ってやがる……」

 

カズマ「さて、装備も整えたし……次は情報収集か?」

 

ユージ「(流された……)ああ。今のまじゃ目的が大魔王討伐ということ以外何もわからないからな」

 

ショーコ「……それもこれもちゃんと設定を用意していなかった作者が原因」

 

ユージ「仕方ないだろ、本来一発ネタだったんだから」

 

アキヒサ「ところで、情報を集めると言ってもどこでするのさ?」

 

ユージ「そりゃお前、RPGで情報集めっつったら酒場だろうが」

 

カズマ「ちょうどそこにあるしな」

 

 

酒場【ラディカルグッドスピード】

 

 

ユージ「なんてご都合主義……まあ良いか……」

 

装備を整えた勇者一行は、情報収集のため酒場に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クウガ「よー、俺がこの酒場の店長だ。つっても従業員なんざいねーけどな。まぁ気軽におっちゃんと読んでくれや…っと、タバコタバコ…」グデー

 

ユージ(なんだこのやる気の無いだらけた接客!?どこが【ラディカルグッドスピード】だよ、 店名改名しろ!

……あんま大した情報持ってなさそうだな。まあダメ元で聞いておくけどな)

 

カズマ「おっちゃん、俺達大魔王倒しに行きてぇんだけど、どうすりゃいい?」

 

クウガ「あ? 大魔王を倒しに行きてーならとりあえず東西南北の最奥部にある4つの珠が必要だ。カヲール城の扉の鍵はその4つの珠だからな。だが4つの珠はカヲルシフェル直属の部下、『四天王』と呼ばれる強力な魔人達が守っている。半端な実力じゃあ手も足もでないほど強いらしい。南の『ウィルソン火山』にある炎の珠を守っているのは火を司る魔人『龍人・トールゴン』、北の『ルーズベル島』にある海の珠を守っているのは水を司る魔人『魚人・タマノオトシゴ』、東の『ワシン塔』にある嵐の珠を守っているのは風を司る魔人『翼人・アーシュカ』、西の『レーガン砂漠』にある大地の珠を守っているのは土を司る魔人『鉄人・イッソウ』。ここから一番近いのは『ウィルソン火山』だな」

 

ユージ「そ…そうすか……

 

 

 

 

 

 

 

(予想した100倍情報持ってたァァァァァ!? なんかジャンプの打ちきり予定漫画ばりのハイペースで情報が集まったよ!? え、なに!? ラディカルグッドスピードってこういうこと!?)」

 

 

クウガ「とりあえず情報教えてやったんだから何か飲んでいけよー」つメニュー

 

ユージ「は、はぁ……じゃあ何か頼もうか、どれどれ-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【メニュー】

 

・コンポタ

 

・コンポタのコンポタ割り

 

・コンポタ(ロック)

 

・ノンアルコールコンポタ

 

・ビールじゃなくてコンポタ

 

・ジュースよりもコンポタ

 

・コンポタとみせかけてワイン……とみせかけてやっぱりコンポタ

 

・どうあがいてもコンポタ

 

・安定のコンポタ

 

・KONPOTA

 

・いとしさとせつなさとコンポタ

 

・やっぱこれだねロッテのコンポタ

 

・あなたの喉に狙いを決めてコンポタ

 

・コンポタと泪と男と女

 

・シャア専用コンポタ

 

・魂歩佗

 

・違いのわかる人のためのコンポタ

 

・違いのわからない人のためのコンポタ

 

・違いがわからないのにわかった気でいる人のためのコンポタ

 

・違いをわかりたい人のためのコンポタ

 

・違いをわかった気でいた……そうやって自分を騙し続けていた……だけど、かけがえのない沢山の仲間達のお陰で自分の過ちに気づくことができた!

もう遅いかもしれない……もう可能性なんて残っていないのかもしれない……だけど私は諦めない! 最後の最後まであがき続ける! そうして希望をつかみとってみせる!

違いを……わかるようになってみせる!

……という人のためのコンポタ

 

・コーンポタージュ

 

 

 

 

 

ユージ「コンポタしか無ェェェェェェェ!

なんだよこのメニュー!? 酒場っつうか最早コンポタ場じゃねぇか!」

 

クウガ「あー、俺自分の気に入った物しか出さねぇ主義なんだ」

 

ユージ「限度があるだろ限度が! こんなんで経営やっていけるのかよ!?」

 

クウガ「情報目的でここに来る奴多いからなー、こんなメニューでもやっていけるんだよ、これが」

 

ユージ(ダメだこいつ……早くなんとかしないと……)

 

カズマ「じゃあ俺コンポタのコンポタ割りで」

 

ユージ(コンポタのコンポタ割りってなに!? 割り切れねぇよ! コンポタも俺の感情も!)

 

アキヒサ「僕はコンポタ(ロック)で」

 

ユージ(それただのコンポタじゃねぇか! なにちょっと格好良く言ってんだよ!?)

 

ショーコ「……私はノンアルコールコンポタ」

 

ユージ(だからそれもただのコンポタだろうが! なんでさっきからコンポタにアルコールが入ってること前提なんだよ!?)

 

クウガ「あいよ。 ……で、お前は?」

 

ユージ「…………。違いをわかった気でいた……そうやって自分を騙し続けていた……だけど、かけがえのない沢山の仲間達のお陰で自分の過ちに気づくことができた! もう遅いかもしれない……もう可能性なんて残っていないのかもしれない……だけど私は諦めない! 最後の最後まであがき続ける! そうして希望をつかみとってみせる! 違いを……わかるようになってみせる! ……という人のためのコンポt」

 

クウガ「長ーよバカ、死ね」

 

ユージ「お前がメニューに載せたんだろうがァァァァァァァ!」

 

 

 

 

勇者一行の旅はまだまだ続く




・ユージ(レベル10)
HP…100
MP…50
こうげき…45
ぼうぎょ…39
すばやさ…48
スキル…ツッコミ、勇者の力

・カズマ(レベル10)
HP…800
MP…40
こうげき…115
ぼうぎょ…96
すばやさ…108
スキル…スーパークリティカル

・ショーコ(レベル10)
HP…80
MP…150
こうげき…20
ぼうぎょ…22
すばやさ…35
スキル…無限の火器製

・アキヒサ(レベル1)
HP…20
MP…33
こうげき…50
ぼうぎょ…12
すばやさ…17
スキル…バカ




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伝説の勇者ユージの冒険 ~盗賊だって友情・努力・勝利~

番外編は話が書きやすい反面、白けたらどうしようという恐怖が常につきまとう、まさに諸刃の剣です……

今回で主要キャラ四人の方向性がある程度固まりました。


【バラクの宿】

 

タカシロ「昨晩はお楽しみでしたね」

 

カズマ「そうだな、すごく楽しかった」

 

ユージ「てめふざけんな、執拗に顔面目掛けて投げてきやがって。回復した気がしねぇぞコラ」

 

アキヒサ「あっはっは、だらしないなぁユージは」

 

ユージ「開始早々鳩尾にジャストヒットして昏倒したテメェには言われたかねぇな」

 

ショーコ「……カズマ、ちょっとやり過ぎ」

 

ユージ「ショーコ、お前が安全地帯からさりげなくカズマに枕手渡してたことを俺は知っているんだが?」

 

ショーコ「…………てへ♪」

 

ユージ「殴りたい、この笑顔。いや割とマジで」

 

どうやら勇者一行は泊まった宿屋で枕投げ合戦をしていたらしい。ノリが完全に中学生とか言ってはいけない。

 

ユージ「さて、昨日の得た情報から俺達が行く場所は決まったな。ところで、東西南北どこから行くかだが…」

 

アキヒサ「西は最後だね」

 

カズマ「ああ、明らかに他の3つとは格が違う気がするぜ」

 

ショーコ「……今のレベルだと戦っても返り討ちにあうだけ」

 

ユージ「だな」

 

満場一致で西を後回しにすることが決定。

『西』、そして『鉄人』と聞けば嫌な予感しかしないであろう。

 

ユージ「まあ一番近くの『ウィルソン火山』から行くとするか」

 

アキヒサ「そだね」

 

 

カヲール城の扉をの鍵である4つの珠を集めるため、勇者一行はまず最初に南の『ウィルソン火山』へ向かう。

果たして勇者一行は炎の珠を守る『龍人・トールゴン』に打ち勝つことができるのか?

 

カズマ「じゃあタクシーでも止めるか」

 

ユージ「いや、RPGの世界にそんな近代的なもん-」

 

キキィーッ!

 

ユージ「……俺、この世界嫌いになりそうだ」

 

ユージが世界のシステムに嫌気がさしてきたのを尻目に、カズマは“偶然”止まったタクシーに近づいてゆく。

 

スガワ「まいどー!FFFタクシーだ! 今ならただでいいぞ、ただし女子限定だけどnぐえぇっ!?」

 

ユージ「!?」

 

タクシーの運転手が窓を開けるや否やカズマは持ち前の腕力で運転手を外に引きずり出した。

 

ゴキャアッ

 

スガワ「も”ぁ”あ”っ!?」

 

ユージ「……」

 

カズマ「さてと…(ポイッ)」

 

スガワ「」ドサッ

 

すかさずカズマは運転手の首をねじ曲げて気絶させると、それをゴミのようにその辺に無造作に投げ捨てた。

 

ユージ「…………」

 

カズマ「(バタン)……よし、準備完了。お前ら乗り込めー」

 

アキヒサ「OK」

 

ショーコ「……わかった」

 

ユージ「………………」

 

タクシーに乗り込んだカズマは乗り込むように促し、三人

もそれに従いタクシーに乗り込む。

 

カズマ「よしっ! ウィルソン火山に向けて出発だ!」

 

二人「おー!」

 

ユージ「……………………」

 

勇者一行を乗せたタクシーはウィルソン火山に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージ「……ってこれただの犯罪じゃねぇかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

ユージのシャウトも虚しくタクシーはその歩みを止めないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージ「やべーよ完全に俺達お尋ね者だよこれ……」

 

ショーコ「……ユージ盗賊団、結成」

 

カズマ「懸賞金とかつくかね?」

 

アキヒサ「まあまだ初犯だし、僕は3000万ベリーぐらいかな?」

 

ユージ「なんでお前らそんな呑気なわけ!? あとお前ごときにそんな高額な懸賞金つくわけねぇだろ! そもそもここの貨幣単位ベリーじゃなくてゴールドだし!」

 

今日もユージのツッコミは絶好調である。

 

カズマ「心配しなさんな。こんなモンスターが幅をきかせている世紀末な世界で法律が正常に機能してるわけねぇだろ」

 

ユージ「……それはそうかもしれんが……本編ならともかく、いちおう今俺達勇者一行だぞ?」

 

カズマ「大切なことは肩書きじゃねぇ、どう行動するかだ」

 

ユージ「だからその行動が不味いんだが……大体お前なんで運転できるんだ?」

 

カズマ「こんなこともあろうかと頭文字Dを全巻読破してきたからな」

 

ユージ「大丈夫だよな!? 急に事故する予感がしてきたんだが!?」

 

 

そんな感じでカズマとユージが押し問答をしていると……

 

盗賊団「止まりやがれテメェら!」

 

チャララ~ン♪

 

【とうぞく×5があらわれた! ▼】

 

盗賊A「命が惜しければ金目の物を置いていきなァ!」

 

盗賊B「ついでにその車もなァ!」

 

カズマ「んだとコラ……運が無かったなぁ……テメェら俺達勇者一行に対して盗賊行為たぁ良い度胸だなァ!

テメェらみてぇな下賤な輩は…生かして帰さねぇ!」

 

ユージ「お前の面の皮は広辞苑か? ついさっきの所業をもう無かったことにしたよコイツ」

 

ユージ、アキヒサ、ショーコの三人は盗賊団と交戦するためにタクシーから降りるが、何故かカズマはタクシーに乗ったままであった。

 

ユージ「? なにやってんだカズマ? 早く降り-」

 

 

 

カズマ「オラァァァァァァァ!」

 

 

 

何を思ったかカズマはアクセルを全力で踏み込み、盗賊団目掛けて突っ込んでいった。

 

盗賊C「なっ!?」

 

盗賊D「うわぁあああバカ止ま-」

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

 

タクシーは盗賊団もろとも炎上した。辺り一面に土煙が舞い上がる。

 

ユージ「……」

 

あまりの出来事に言葉を失うユージ。

 

カズマ「そんなもん欲しけりゃくれてやるよ。ご自由の持っていきな……あの世までなぁ!」

 

ユージ「いい加減自重しやがれこの野郎。お前のせいで世界観がRPGからグラセフにシフトチェンジしそうじゃねぇか……」

 

ぶつかる直前で脱出していつのまにか隣にきていたカズマに、ユージは痛くなってきた頭を手で押さえながらつっこむ。

 

 

 

やがて土煙が晴れるとそこには……

 

 

 

 

 

 

 

盗賊A「が……はぁ……」

 

ユージ「!?」

 

「「「「あ…兄者ァァァァァァァ!?」」」」

 

盗賊の一人が四人を庇うように両手を広げて立っていた。タクシーの爆発をまともに受け、全身が焼けただれている。

 

 

盗賊A「ど……うやら……俺は……ここまで……らしい………………お...お前達といた数年......わ...わるく...なかったぜ......。死ぬ...な...よ.......弟...........達......」

 

 

そう言った後盗賊Aは前に倒れ、そのまま動かなくなった。

 

【カズマのタクシーボム! かいしんのいちげき! とうぞくAに739のダメージ! とうぞくAはしんだ。▼】

 

「「「「兄者ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」」

 

 

 

 

 

カズマ「チッ、一回きりだってのに一人しか葬れなかったか」

 

ユージ「やべーよこれ完全に俺達の所業の方が極悪じゃねーかどうすんだよこれマジで……」

 

いい感じにユージの精神が壊れ始めてきた。

 

カズマ「だったら……(チラッ)……アキヒサァ、殺れェ!」

 

ショーコ「……!」

 

アキヒサ「オーケー、 一瞬で蹴散らしてくるよ!」

 

カズマは一瞬ショーコとアイコンタクトを交わした後、アキヒサに指示をだす。

 

盗賊E「おんどれぇえええええ…………兄者の仇ィィィィィィィ!」

 

盗賊Aの仇を討つため、盗賊Eがサーベルを構え、アキヒサに斬りかかる。

 

アキヒサ「フッ、雑魚が……必殺! ジャスティスアイアントルネードボォォォォォル!」

 

盗賊E「がはぁっ!」

 

【アキヒサのJ・I・T・B! とうぞくEに45のダメージ!】

 

鉄球をまともに喰らい、その場に崩れ落ちる盗賊E。

 

アキヒサ「他愛もないね……残りの3匹もこの僕一人で片付けてやるぜ」

 

鉄球を手もとに引き戻し、そのまま残りの盗賊達に向かって歩いていくアキヒサ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

アキヒサ「……!?」

 

盗賊E「へへっ………………さらばだ兄者達………」

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

 

【とうぞくEはじばくした! アキヒサに317のダメージ! アキヒサはしんだ。 とうぞくEはしんだ 。▼】

 

 

 

「「「弟ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」」」

 

カズマ「ヤムt…アキヒサァァァァァ!」

 

ユージ「ほんと出落ちに定評があるな、あいつは」

 

カズマ「テメェらよくも……くくっ……アキヒサを殺ってくれたなぁ……うくくく……」

 

ユージ「こらえきれてねぇぞ全然」

 

盗賊B「…………お前らは……お前らだけは……絶対の許せねぇ……!」

 

盗賊C「兄者と弟の仇……」

 

盗賊D「討たせてもらうぞ!」

 

三人の盗賊とカズマ(半笑い)が前にでる。まさに一触即発の状況だ。

 

カズマ「それで? テメェら盗賊風情はまさか、三人がかりなら俺を倒せるとでも思っているのか? あぁん?」

 

ユージ「お前どんどんセリフが悪役っぽくなってるな……」

 

盗賊B「……確かに俺達は所詮ただの盗賊……一人一人はそこまで強くない」

 

盗賊C「全員でかかっても勝ち目は薄いだろう……」

 

カズマ「へぇ……身の丈っつうもんを理解してるみたいだなぁ」

 

盗賊D「……だがな、俺達はお前を倒せる!」

 

カズマ「……あ?」

 

盗賊B「いくぞお前ら!」

 

盗賊C「了解だ!」

 

盗賊D「いつでもいいぜ!」

 

 

 

 

「「「融☆合!」」」

 

【とうぞくBととうぞくCととうぞくDは融合して、とうぞくおうになった! ▼】

 

 

 

 

カズマ「……なん……だと……!」

 

盗賊王「これが俺達兄弟の絆の結晶だ! 一人一人が弱くても力を合わせればどんな困難だろうと乗り越えてゆける! 人を人とも思わないテメェにはわからねぇだろうがな!」

 

カズマ「クッ……!」

 

ユージ「もう完全に向こうが主人公じゃん! なんなのこれ!? 命が惜しければ金目の物云々言ってた奴らのセリフじゃねぇよもう!」

 

盗賊王「うぉおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチッ

 

盗賊王「……ゑ?」

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

【とうぞくおうはじらいをふんだ! とうぞくおうに306のダメージ! とうぞくおうはしんだ。 いちどうはけいけんちをもらった! ▼ 】

 

カズマ「はいおつかれさん(アイコンタクトでショーコに合図する)」

 

ショーコ「……パパラパーパーラーパッパパー ♪(FFのファンファーレ風)」

 

ユージ「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てまえぇえええええええええ! 何だ今の!?」

 

カズマ「? 何って、地雷」

 

ユージ「地雷!? なんでそんな近代兵器が都合良く埋まってたの!?」

 

カズマ「いや埋めたのショーコだよ、無限の火器製の応用で。さっき俺が指示しといた」

 

ショーコ「……ぴーす♪」

 

ユージ「お前話に絡んでこないと思ったらそんなことしてたの!?…… えええええ!? ……っつか……えええええ!?」

 

カズマ「なんだようるせぇな、どうした?」

 

ユージ「いや、あの展開でこのオチ!? じゃ……じゃあさっきまでの焦った反応とかは!? 」

 

カズマ「ブラフだけど?」

 

ユージ「…………………………はぁ……もうやだ……番外編入ってから自由過ぎだろこの外道コンビ……」

 

カズマ「じゃあさっさと行くぞ。タクシー無くなったから歩きだけどな」スタスタ

 

ショーコ「……ウィルソン火山まであと少し」スタスタ

 

そう言って二人は歩きだす。

 

ユージ「……大体なんで俺以外にツッコミがいねぇんだよ(ブツブツ)……

 

……ん? あ” ! あいつらまた棺桶置いていきやがった!」

 

先ほど盗賊Eの自爆に巻き込まれてしまったので、アキヒサは再び棺桶になってしまったのであった。

 

ユージ「……また俺が運ぶのかよ……大して役に立たねぇんだから置いていっていいかなこれ?」

 

とても動けない仲間に対する発言とは思えない愚痴をこぼしながら、まあ使い捨て装甲板くらいにはなるかと思い直し、棺桶を引きずって二人のあとを追うユージであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチッ

 

ユージ「……ゑ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーコ「……あっ」

 

カズマ「あん? どうした?」

 

ショーコ「……予備で埋めておいた地雷回収するの忘れた」

 

カズマ「……なんか嫌な予感がするから一旦引き返すぞ」

 

 

 

 

勇者一行の旅はまだまだ続く

 




・ユージ(レベル15)
HP…150
MP…70
こうげき…60
ぼうぎょ…50
すばやさ…55
スキル…ツッコミ、勇者の力
役割…苦労人担当

相も変わらず気苦労の絶えないある意味一番可哀想な人。
本編では一、二を争う外道キャラであるが番外編では勇者という立場なので振る舞いには気をつけないといけない宿命も背負わされている。
勇者の力の詳細については未だに謎のままである。

・カズマ(レベル15)
HP…1200
MP…58
こうげき…160
ぼうぎょ…142
すばやさ…156
スキル…スーパークリティカル
役割…ヒール担当

ボケキャラの差別化のため外道キャラとなった。
間違いなくこの番外編で一番やりたい放題な人。所業がRPGというよりグランド・セフト・オートの住人である。
本編の和真から良識と自重を取り除き、法治国家ではない世界に放り込まれたのがカズマである。
なぜ勇者一行に加わっているのかは謎。
明らかに他と比べてステータス成長率が抜きん出ている理由も謎。

・ショーコ(レベル10)
HP…100
MP…220
こうげき…30
ぼうぎょ…34
すばやさ…50
スキル…無限の火器製
役割…特殊工作担当

ボケキャラの差別化のためテロリストとなった。
チートスキルを用いてどこぞのテロリストもびっくりのテロ工作を行う。しかし地雷を回収し忘れるといったドジっ娘な一面も。それをドジで済ませていいのかどうかは甚だ疑問だが。


・アキヒサ(レベル1)
HP…20
MP…33
こうげき…50
ぼうぎょ…12
すばやさ…17
スキル…バカ
役割…出落ち・かませ担当

ボケキャラの差別化のためヤムチャ化した。
闘う前のセリフ、敵を倒したと思い込んで有頂天になる、死に様、どれをとっても模範的なかませである。
くどいようだが本編のような格好良い明久はいない。


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伝説の勇者ユージの冒険 ~『キャプテン翼・ワールドユース編』のオランダ戦を2ページ見開きで済ますなんて酷すぎる!~


バカテスの二次創作で明久が天才である作品を少なからず見かけるのですが、あれはどうなんでしょう……?
努力して成績が上がったならともかく最初から天才設定の明久……その設定は明久じゃないと駄目なんでしょうか?
個人的に「頭が良い明久」は「ブルーアイズが入っていない海馬デッキ」ぐらいアイデンティティーに欠けると思っています。























…………………………姫路から「殺人料理スキル」を削った私がとやかく言えたことではないですね……



 

アキヒサ「モンスリーよ、僕は帰ってきた!」フッカーッツ!

 

ユージ「屈辱だ……この上ない屈辱だ……こんなバカと同じ扱いなんて」フッカーッツ!

 

前回敵と相討ちになったアキヒサと地雷を踏んで爆死したユージは、RPGによくある回復の泉で無事棺桶の状態から復活したのであった。

 

カズマ「オイオイ、復活して第一声がそれかよ? わざわざここまで棺桶運んでやったのによぉ」

 

ユージ「そうか、それはご苦労だったな。ところで俺達の棺桶が二つとも明らかにへし折れているんだが、何か知らないか?」

 

カズマ「知らね」ピュー♪

 

ショーコ「……見当もつかない」

 

アキヒサ「そっか、じゃあ仕方ないね」

 

ユージ(明らかにあいつが原因だ! だってわざとらし過ぎるだろ! 口笛とか!)

 

どう考えてもカズマが犯人なのだが、死人には目も口も無かったのでそれを確認することはできなかった。

 

ユージ(仕方ねぇ、後でショーコを問い詰めるか。……それにしてもこいつら外道コンビ、この番外編で結託し過ぎじゃね? 本編に戻ったとき逆輸入とかされねぇだろうな……? )

 

もしそうなれば一番被害を被るのは、まず間違いなくユージであることは言うまでもない。

 

ユージ「さて、それじゃあウィルソン火山に向けて出発するぞ」

 

カズマ「まあそう焦るなよ。とりあえずその前に、まずあっちを見てみろよ」

 

ユージ「? なんだよ?」

 

カズマが指差した方向にユージが目を向けると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウィルソン火山】ハロ-♪

 

ユージ「」

 

目的地、ウィルソン火山がそびえ立っていた。

標高およそ1000メートル、一年に数十回噴火する活火山であり、大規模な噴気活動や地熱活動が見られ、その影響で所々熱水が吹き出していおり、よく見ると火山内部に通じる洞窟がある。洞窟内には屈強なモンスターが生息している上、登山中に大噴火! なんてことがあってもなんらおかしくないという、一般人の生存率10%以下の超危険地帯である。

 

ユージ「…………(チラッ)…………」

 

しばらく呆然とした後、ユージは日付を確認する。

すると、どうやら自分が爆死してから一日もたっていないようだ。

 

ユージ「いやいや待て待ておかしいおかしい。 『ウィルソン火山』はケネディ町から一番近いとは言え、一応最奥部にあるダンジョンだぞ? そんな簡単に辿り着けるわけねぇだろうが」

 

カズマ「そんなこと言っても着いちまったもんはしょうがねぇだろ」

 

ユージ「いやいやいや絶対おかしいだろ!? 俺が死んでる間に何があったんだよ!?」

 

カズマ「仕方ねぇな、俺が一から回想してやるよ。はい、ホワンホワンホワワ~ン」

 

ユージ「いや回想に行く音とかいらねぇから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

 

カズマ「……悪い予感ほど良く当たるな、棺桶が二つになってらぁ」

 

ショーコ「……ユージ、こんなに冷たくなって…」

 

戻って見ると、案の定死体が増えていたことにブルーになる二人(まあ、ブルーになる理由はそれぞれ別なのだが)。

本編との差別化のため若干薄められたとはいえショーコはショーコ、やはりユージが心配なのだろう。

ちなみにユージが冷たくなった元凶はショーコが回収し忘れた地雷だったりするのだが。

 

カズマ「……まあこれで俺の魔法の発動条件が満たせたし、とりあえず良しとするか」

 

ショーコ「……カズマ、魔法なんて使えたの?」

 

カズマ「まあな。ただ習得できる魔法は発動条件が面倒臭かったり重すぎるデメリットがあったりするやつばっかだけどな。……今回の発動条件はパーティーの生きている奴と死んだ奴が同じ人数であることだ。ショーコ、アキヒサの棺桶に乗れ」

 

ショーコ「……わかった(チョコン)」

 

カズマ「よーし、準備完了。さて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃白白式テレポォォォォォォォォォト!」

 

 

シャーーーーーーー

 

 

カズマはアキヒサの棺桶を、上に乗ったショーコごと空の彼方にぶん投げた。どう見ても力技にしか見えないがれっきとした魔法である。

 

カズマ「ワンモアセェェェェェッッット!」

 

 

シャーーーーーーー

 

 

カズマ「とうっ! (スタッ)」

 

ユージの棺桶も同じ要領でぶん投げ、カズマはそれに飛び乗った。

 

 

ゴーーーーーーーーッ!×2

 

 

二人を乗せた棺桶はどんどん速度を増していき、あっという間にこのウィルソン火山の麓に-

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォ!

 

 

 

 

……まあ当然着地がそうなるのは御約束である。

 

カズマ「あ、いっけね…」

 

ショーコ「……ユージ、こんなに曲がっちゃって」

 

 

 

 

~回想~

 

 

 

カズマ「…というわけだ。恐れ入ったかコラ」

 

ユージ「やっぱあの棺桶テメェが原因じゃねぇかこの野郎!」

 

カズマ「そんなもん既に時効だ」

 

ユージ「早過ぎんだろ!?」

 

カズマ「俺ルールでは時効は五秒だ」

 

ユージ「誰かマジで止めてくれこの暴君……」

 

アキヒサ「フフフ、感じるよ……この山に、僕が闘うにふさわしい強敵が潜んでいると!」

 

ユージ「お前はその辺でスライムとでも戯れてろ」

 

ショーコ「……もたもたしてると噴火してしまうかもしれない。早く行こう」

 

ユージ「……ったく、仕方ねぇか」

 

色々不満が残るものの仲間に押しきられる形で、ユージは渋々登山することに決めるのであった。

 

 

 

 

 

カズマ「あ、そうそう。前回まであったRPG風の【】システムは今回で終わりだ。次回からは無かったことになるから」

 

アキヒサ「テンポ悪くなるし読者もそろそろ飽きてくるだろうしね」

 

ユージ「マジでこの番外編ノリと勢いだけだなオイ……」

 

ショーコ「……そもそもスランプ抜け出すまでの場繋ぎだし、それは仕方ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウィルソン火山・洞窟内部】

 

 

ユージ「あっつ……流石に火山だけあって暑いな……」

 

カズマ「おいユージ見ろこれ、ガ○ガリ君も一瞬で棒から滑り落ちて蒸発しちまうぜ」

 

ユージ「だからどうした……」

 

そんな不毛な会話をしながら洞窟内部を進んでいると、

 

 

 

 

 

ガラガラガラ

 

 

 

突然の落石、

 

 

 

 

カズマ「よっ、と(ポイッ)」

 

ユージ「は? (ガツゥゥゥン!) 痛ぇ!?」

 

 

 

【ユージに62のダメージ! ▼】

 

 

 

それを見たカズマは手近にあるユージを落石に向かって投げつけた。

 

 

カズマ「ふっ、奥義・勇者の盾-(ガツゥン)痛っ!?」

 

 

【カズマに12のダメージ!】

 

 

流石に頭に来たのか、降ってきた石をカズマに向かって投げつける。

ステータス差もあり大したダメージにはならないが痛いものは痛いようだ。

 

 

カズマ「なにしやがんだユージ! 痛ぇだろうが!」

 

ユージ「痛ぇもなにしやがんだもこっちのセリフじゃゴルァ! 人を勝手に弾除け代わりにしてんじゃねぇよ!」

 

カズマ「あぁん!?」

 

ユージ「おぉう!?」

 

お互いの胸ぐらを掴んでメンチを切り合う二人。勇者とその仲間、と言うより二人とも完全にチンピラのそれである。

 

そんな二人の前に、

 

 

?「ゲェーッゲッゲッ! 敵を前に仲間割れとは浅ましいことよ人間ども!」

 

カズマ「あぁ!? 今取り込み中だ! 後にしろボケ!」

 

?「な、なんだと!? キサマ! 人間の分際で-」

 

ユージ「だーまーれっつってんのが聞こえねぇのか! 殺すぞゴルァ!」

 

?「え、いや、あの君達状況わかってる? ねぇ? ここ敵の本拠地よ?」

 

カズマ「知るかぁボケェ! 適当に暴れ回って噴火させんぞボケコラカスゥ!?」

 

?「え!? いやそれはちょっと-」

 

ユージ「嫌なら下がってろ敵キャラ風情が! こいつには上下関係をきっちり叩きこまなきゃなんねぇんだよ! わかったかハゲェ!」

 

カズマ「後でちゃんと殺してやるから引っ込んでろ虫けらァ! テメェより先にぶちのめしてぇ奴が目の前にいんだよ空気読め雑魚がァ!」

 

?「………………ゴメンナサイ(グスン)」

 

 

表れた敵キャラを完全放置して取っ組み合いの喧嘩を始めた二人。ユージもツッコミを放棄するほどキレているようだ。

 

 

 

 

 

 

(数分後)

 

 

カズマ(1084/1200)「待たせたな、名乗っていいぜ」

 

?「あ……うん……」

 

喧嘩が終わったのかカズマが戦闘モードに入るが、敵キャラはどことなくげんなりした様子である。

 

その後ろでは満身創痍になったユージがショーコに膝枕されてぐったりしていた。

 

ショーコ「……大丈夫?」

 

ユージ(7/150)「……ちくしょう……なんでこんなにステータス格差があるんだ……」

 

仕様である。

 

 

ダイナソー軍団「ゲェーッゲッゲッ! 我らはトールゴン様の部下、ダイナソー軍団だぁ!」

 

 

【フレイムダイナソー×30があらわれた! ▼】

 

 

ユージ「なん…で…複数? 」

 

満身創痍のためかツッコミのキレも悪くなっているようだ。霧島、回復してやれ。

 

ショーコ「……了解」

 

ユージ「なんでナレーションが指示だして(チョロチョロチョロ)ムグゥ!?」

 

【ユージはコラーゲンをのんだ! たいりょくが100かいふくした! ▼】

 

ユージ「いや回復アイテムがコラーゲンってどんなチョイスゥゥゥ!? 」

 

ツッコミのキレも戻ったな、これでよし。

 

ユージ「よくねぇよ!? テメェ(ナレーション=蒼介)何ごく自然に会話に参加してんだよ!?」

 

アキヒサ「そんな場合じゃないでしょ!? どうするのアレ!」

 

ショーコ「30体も相手にしてたらスタミナが持たない」

 

ユージ「む……確かにあの量を三人で捌くのは少し厳しいか……」

 

さも当然のようにアキヒサを戦力から外すユージ。

 

カズマ「安心しな、ここは一つ俺の必殺技で片付けてやる」

 

そう言ってカズマは五番アイアンを構える。

 

ユージ(必殺技……?)

 

ダイナソー軍団「ゲェーッゲッゲッ! 必殺技だと!? そんなハッタリに我らが怯むとでも!?」

 

カズマ「ハッタリかどうか……確かめて見るんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いくぞソウスケェ!」

 

了解した。魔物共、思い知るがいい!

 

ユージ&ダイナソー軍団「ゑ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者達一行はダイナソー軍団の攻撃を一切寄せ付けず、瞬く間に蹂躙するかのごとく粉砕していったのであった。

 

 

 

 

ダイナソー軍団「グハァァァァァァァ!?」

 

【カズマのダイジェストキル! フレイムダイナソー1に9999のダメージ! ダイナソー2に9999のダメージ! フレイムダイナソー3に9999のダメージ! フレ(ry

ダイナソーたちはぜんめつした! ▼】

 

 

 

 

カズマ「よし、一丁上がりィ!」

 

アキヒサ「やったぁ!」

 

ショーコ「……パパラp-」

 

ユージ「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! お前今何やった!? ちゃんと一から説明しろ!」

 

カズマ「あー、これは『ダイジェストキル』っつー魔法だ。効果はナレーションのソウスケと協力して明らかに格下の敵との戦闘をカットすることができる」

 

ユージ「なんだその掟破り魔法!? いくらなんでも無茶苦茶だろ!?」

 

ただし、経験値もカットされてしまうので多用は危険だ。

使いどころを見極める必要がある諸刃の剣の技だな。

 

ユージ「そしてお前も当たり前のように会話に参加してくんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウィルソン火山・最奥部】

 

 

?「……随分騒がしいな……僕の平穏を脅かそうとする奴は……誰であろうと容赦しないよ」

 

 

 

 

勇者一行の旅はまだまだ続く。




この番外編の長所は気に入らない設定は自由に無かったことにできる点、短所は作者のギャグセンスが無いに等しいので話の大半がオリジナリティーに欠ける点です……


『魔物図鑑』
フレイムダイナソー(HP200)……火山地域に生息するモンスター。最奥部のダンジョンに生息しているだけあって結構強い上に、集団で獲物に襲いかかる習性を持つため犠牲になる冒険者はかなり多いが、カズマの掟破り魔法によってぶちのめされる。



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ハーメルンよ!私は帰って来た!(人物相関)

※ネタバレ要素を含みますので注意してください。


西村「待ちに待った時が来たのだ……!

 

 

 

 

 

 

この空白の二年の間マイリストを外さず待ち続けた人の行いが無駄で無かったことの証の為に……

 

 

 

 

 

 

再び『バカテス二次創作』の理想を掲げる為に!

 

 

 

 

 

 

作品完結成就のために!

 

 

 

 

 

 

ハーメルンよ!私は帰ってきた!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「……っと、茶番はここまでにして、」

 

おっちゃん「バカとテストとスポンサー……」

 

梓「連載再開記念~♪」

 

 

 

「「「人物相関まとめー!」」」

 

 

 

和真「んじゃ、久しぶりなんで自己紹介から。バカとテストとスポンサー主人公、サディスティックアスリートこと柊和真だぜ!」

 

おっちゃん「初めて聞いたぞそんな通り名……。あー、おっちゃんこと御門空雅だ」

 

梓「もうちょい言うことあるやろ……少しはやる気出しぃや仮にも代表取締役やねんから……。

三年Aクラス生徒会副会長にして柔道部主将でエース、佐伯梓やでー♪」

 

和真「しかしよぉ、せっかく連載再開したってのにいきなり番外編かよオイ」

 

おっちゃん「あー、何でも連載再開するにあたって作者がこの小説を一から全部読み直したんだがよぉ…」

 

梓「フムフム」

 

おっちゃん「思ったよりボリュームあったことに気づいてな…新しく読み始めてくれる人or以前読んだことあるけど設定忘れてる人にこんな苦行を強いて良いのか?いや良くない!…って結論に達してよー、いちいち振り返らなくてもいいように簡単な相関図を作ろうと思ったらしい」

 

和真「あぁ!?勝手にエタッておいて恩着せがましいなぁオイ!随分と厚い面の皮ですこと!」

 

佐伯「あんま意地悪言わんとったって。作者は実の母曰く風船メンタルやねんから」

 

和真「何だ風船メンタルって?」

 

おっちゃん「何を言われても一見一切傷ついてるようには見えないが、ストレスはどんどん膨らんでいって、やがて破裂してしまうようなメンタルって意味だ」

 

和真「めんどくせっ!?そこはかとなくめんどくせっ!?」

 

佐伯「ちなみに執筆できなかったのはここ二年間受験や大学生活やバイトや部活が忙しかったってのもあるなぁ。部活に関しては大失敗やったみたいやけど」

 

おっちゃん「入る前はガチガチの体育会系みたいな振る舞いだったのに、入ってみれば小姑みてーな先輩に囲まれてストレスフルな毎日だったらしい」

 

和真「読者諸君は履歴書の充実させようとか安易な気持ちで部活とかするなよ?大学は勉強するために行くように」

 

おっちゃん「あんま雑談しすぎるとグダグダになるからさっさと人物相関表を発表するぞ、はいどーん」

 

 

 

《バカテスポ人物相関・その1》

 

和真←(親友兼ライバル)→蒼介

和真←(尊敬)→飛鳥

和真→(友達兼弄り対象)→徹、源太

和真←(黄金コンビ、相思相愛)→優子

和真→(骨抜き、従順)→優子

和真←(心配、躾ける)←優子

和真←(友達)→愛子、久保、佐藤、平賀、翔子

和真←(クラスメイト、仲間)→土屋、秀吉、姫路、島田、翔子、明久、雄二

和真→(期待)→雄二、明久

和真、徹→(いい加減諦めろ)→玉野

和真←(ライバル)→梓

和真→(いつか越えてやる)→鉄人

和真→(理数系教わる)→綾倉

和真←(気安い関係)→学園長

和真→(振り回される)→秀介

和真→(いつかボコる)→守那

 

蒼介←(許嫁)→飛鳥

蒼介←(信頼)→久保、優子、徹、愛子、佐藤、二宮、沢渡、その他Aクラス一同

蒼介→(一目置く)→土屋、雄二

蒼介→(敬意)→梓、小暮

蒼介→(同情)→高城

蒼介→(肉親)→秀介、藍華

蒼介→(目標)→秀介

蒼介→(警戒)→詩織、泰山、鉄平、千莉

 

『飛鳥→(劣等感)→蒼介、和真、梓、橘光輝』やや解消済

飛鳥←(親友)→愛子、優子、翔子

飛鳥→(目標)→梓、和真

飛鳥→(呆れ)→玉野

飛鳥→(気持ちはうれしいけど……)→清水

飛鳥→(友人)→美波、姫路

 

徹→(チビ言うな!)→和真

徹←(喧嘩するほどなんとやら)→源太

徹→(劣等感、身長的な意味で)→飛鳥

徹→(借りは必ず返す!)→小暮

徹→(殺したいほど妬ましい、身長的な意味で)→杏里

 

源太→(俺様の扱い悪くね?)→和真

源太→(代表)→根本

源太←(ライバル)→翔子

 

空雅→(知り合いの弟)→明久

空雅→(弄り対称、大事な後輩)→桐生

空雅→(恨み)→綾倉  

空雅→(ウゼェ…)→桐谷

 

梓→(信頼)→蒼介

梓→(友人)→小暮、杏里

梓→(罪悪感を感じつつも利用)→高城

梓→(可愛い後輩)→飛鳥

 

 

 

おっちゃん「-とまぁ、ひとまずこんなところだ。ストーリーが進むにつれどんどん追加していくつもりだ」

 

梓「誰々→誰々、の相関が知りたいというリクエストも受け付けてるから遠慮なく聞かせてなー♪」

 

和真「次回からはようやく本編三巻開始だ。楽しみに待っててくれよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三巻開始・学力強化合宿に向けて

【バカテスト・国語】
()内の『私』がなぜこのような痛みを感じたのか答えなさい。

父が沈痛の面持ちで私に告げた
『彼は今朝早くに出て行った。もう忘れなさい』
その話を聞いた時、(私は身を引き裂かれるような痛みを感じた)彼の事は何とも思っていなかった。彼がどうなろうとも知った事ではなかった。私と彼は何の関係もない。そう思っていたはずなのに、どうしてこんなにも気持ちが揺れるのだろう。

姫路の答え
『私にとって彼は自分の半身のように大切な存在であったから』

綾倉「そうですね。自分の半身のように大切であった為、いなくなったことで『私』はまさに身を引き裂かれたかのような痛みを感じたという事です」

徹の答え
『「私」という存在を定義する上で、「彼」は最早必要不可欠な存在になっていることに「私」は気づいてしまったから』

蒼介「内容は正しいが不正解だ。この回答では「引き裂かれるような痛み」に結びつかない」

明久の答え
『私にとって彼は自分の下半身の様に大切な存在だったから』

綾倉「どうして下半身に限定するのですか」

土屋の答え
『私にとって彼は下半身の存在だったから』

蒼介「お前という奴は…」



「翔子」

「……隠し事なんてしていない」

「まだ何も言っていないぞ?」

「……誘導尋問は卑怯」

「今度誘導尋問の意味を辞書で調べて来い。んで、今背中に隠したものはなんだ?」

「……別に何も」

「翔子、手をつなごう」

「うん」

「よっと……ふむ、MP3プレーヤーか」

「……雄二、酷い……」

「機会オンチのお前がどうしてこんなものを……何が入ってるんだ?」

「……普通の音楽」

 

 

……ピッ 《そして翔子、卒業したら結婚しよう。愛している、翔子》

 

 

「………」

「……普通の音楽」

「これは削除して明日返すからな」

「……まだお父さんに聞かせていないのに酷い……。手もつないでくれないし……」

「お父さんってキサマ……これをネタに俺を脅迫する気か?」

「……そうじゃない。お父さんに聞かせて結婚の話を進めてもらうだけ」

「翔子、病院に行こう。今ならまだ2,3発シバいてもらえば治るかもしれない」

「……子供はまだできていないと思う」

「行くのは精神科だ!……ん?ポケットにも何か隠してないか?」

「……これは別に大したものじゃない」

「え~、なになに?『私と雄二の子供の名前リスト』か。……ちょっと待てやコラ」

「……お勧めは、最後に書いてある私達の名前を組み合わせたやつ」

「『しょうこ』と『ゆうじ』で『しょうゆ』か。……なぜそこを組み合わせるんだ」

「……きっと味のある子に育つと思う」

「俺には捻くれ者に育つ未来しか見えてこない」

「……そんなことない。それは和真が一生懸命考えてくれた名前」

「この名前をお前に教えるとき多分あのボケは半笑いだっただろう?」

「……どうしてわかったの?」

「わかるわ!あの野郎面白半分でいらんこと吹き込みやがって!」

「……ちなみに、男の子だったら、『こしょう』が良い」

「しかも『しょうゆ』って女の名前かよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期になって二ヶ月弱、日本国民の敵『梅雨前線』が日本を蒸し暑さと不愉快さが渦巻く混沌の地に陥れようと手ぐすねを引いている、ちょうどほどよい気温の時期。

そんな快適な環境のなか、我らが柊 和真はというと…

 

和真「よーし、今日の朝練はここまで!なかなかチームプレーが板についてきたじゃねぇか」

 

朝早くから登校して『アクティブ』のメンバーとともにラクロスの練習に励んでいた。

事情の知らない人からすればインターハイに向けてラクロスに青春を捧げた熱心な部活動にしか見えないが、彼等は別にラクロス部ではない。2ヶ月前の手痛い敗北が無ければ、彼等はここまで一つのスポーツだけに集中して取り組んではいない。彼等を突き動かす動力源は『ラクロス部へのリベンジ』ただ一つ。よくもまあ、ここまで負けず嫌いの連中が集まったものである。

 

徹「そういえば明日から強化合宿があるけど向こうでも朝練はするのかい?」

和真「そうしてぇが物理的に無理だろ。西村センセに練習道具没収されるオチが見えるぜ」

優子「勉強しに行くんだから没収されんのは当たり前でしょ。アンタ、向こうではいい子にしてなさいよ?」

和真「俺をガキ扱いとはさっすが余裕ですなぁ~、最近総合点で俺に抜かれた優等生様は」

優子「何ですってぇぇぇ!?アンタ一回勝ったぐらいで調子に乗ってんじゃないわよ!」

源太「だぁあああ!俺様の両隣で喧嘩するんじゃねぇよバカップルが!」

優子/和真「誰がカップルよ!?チンピラ顔の癖に!」「黙れ清涼祭ハブられ欠席馬鹿!」

源太「テメェら人の古傷抉ってそんなに楽しいか!?」

 

源太への深いダメージと引き換えに不毛な争いは一旦沈下した。どれだけスポーツで抜群のチームワークを発揮しようと彼等が多感な高校生であることに変わりはない。くだらない理由が発端の争いなど掃いて捨てるほど出てくるのだ。そして理由がくだらないからこそ、ちょっとしたきっかけですぐ収束するのもご愛敬。

 

和真「強化合宿と言えばソウスケ、お前欠席するんだっけ?」

蒼介「ああ。どうしても外せない用事があってな」

徹「まあ、君ほど今回の合宿に参加するメリットのない生徒はいないけどね」

 

学力強化合宿中といっても、この合宿の主な目的は生徒の成績を向上させることではない。そもそも勉強とは1日1日の努力を長期的に継続するからこそ実を結ぶもの。数日机にかじりついて勉強した程度上がる成績など一瞬である。

この合宿の目的はむしろ生徒の『学習意欲』の向上、つまり生徒に「勉強しよう」という心構えを持ってもらうことにある。和真や優子のような学年上位常連、より具体的なラインを言えば3000点オーバーを叩き出すような優等生はその気になればこの合宿を免除できる。ましてや、ほとんどの教師よりも優れた学力を備えた蒼介にとっては要らんお世話にも程があるだろう。

 

優子「てっきりアタシは和真、アンタも休むんじゃないかと思ってたんだけど」

和真「…まぁ俺にも色々あんだよ」

 

優子に訝しいとそう訪ねられても投げ遣りに返事をする和真だが、その内心では…

 

和真(俺の勘が告げている…この合宿には何かしらアクシデントが起こると!俺はそれに乗じて…ククク…

まあこんなことぶっちゃけたら優子にまたどやされるな、あっはっは)

 

案の定ろくでもない計画を立てていた。長い付き合いからそのことを少なからず察知した優子は猜疑心に満ちた目で追及しようとしたところで…

 

翔子「……和真」

優子「わっ、脅かさないでよ翔子!」

和真「どうした翔子?お前が雄二を持ち歩いていないなんて珍しいな」

 

いつの間にか優子の背後にいた翔子のお陰で和真は追及を免れた。和真は内心で翔子に感謝しつつ、半分冗談半分本気の疑問をぶつけた。

 

翔子「……和真が私を探してたって雄二が」

和真(……ほう?)

 

坂本 雄二は理由の良し悪し問わず無意味なことはしない男だ。彼が翔子を和真のいる場所に遣わした理由はおそらく教室で翔子に知られたくないことをしているのだろう。そのことを翔子に吹き込んで雄二を追いつめるのも一計、と割と外道なことを考えた和真だったがその選択は自らの娯楽をもおじゃんにしてしまうリスクがある、と思いとどまる。よって和真がとる行動は一つ、別のベクトルから雄二を追いつめることである。

 

和真「俺が考えたお前らの子どもの名前、あいつはどう言ってた?」

翔子「……不満そうだった。良い名前なのに」

和真「いーや、あいつが不満だったのは子どもの名前じゃねぇ。あいつは素直じゃねぇから言葉通りに受け取っちゃいけねぇぜ?」

翔子「……和真は何が不満なのかわかるの?」

和真「わかるわかる。ツンデレ検定準1級の俺からすれば朝飯前よ!」

優子「何よその怪しげな検定……。聞いたことな-」

和真「ほらあいつってああ見えて子ども好きそうじゃん。清涼祭のときも葉月に対して優しかったし」

翔子「……確かに」

優子「へぇ、意外な一面ね」

和真「つまりあいつが不満だったのは名前の候補の数だ。もっと子ども欲しいのに5~6こしか用意してないんじゃそりゃ拗ねるわあいつも」

翔子「!……それは盲点だった」

優子「いやその理屈はおかしくない!?明らかにこじつけ-」

和真「いっそのこと22こぐらい考えようぜ!サッカーできるぐらいいりゃ欲張りなあいつでも流石に満足するだろ!」

優子「多っ!?限度ってものがあるでしょ限度ってものが!」

翔子「……和真、」

優子「翔子も言ってあげて、流石に付き合い切れな-」

翔子「私は30人以上欲しい」

優子「こっちもこっちでぶっ飛んでたぁーっ!?」

和真「良いじゃん良いじゃん♪こういうもんは妥協したらダメな奴だぜ。まあ長くなりそうだからこれについては合宿後に改めて考えるとして、そろそろ時間だから教室戻るか。よし、解散!」

 

とても良い笑顔を浮かべて教室へと歩を進める二人を呆然と見送る優子の両肩に、同情するような眼差しを送りつつ蒼介と源太は手を置く(徹はいつの間にかいなくなっていた)。

 

蒼介「木下、気に病む必要はない。ああなったカズマは私でもどうすることもできない」

源太「ま…まあ、あいつらは楽しそうだったしいいんじゃねーの?満面の笑みで帰っていったしよ」

優子「少なくとも片方は、蟻の巣に水を流し込んで全滅させた子が浮かべるような笑顔に感じたけどね……」

 

三人「「「………………………………南無」」」

 

三人は憐れなFクラス代表に黙祷した後、教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「お、西村センセじゃん」

翔子「……おはようございます」

鉄人「ん?柊に霧島か、おはよう」

 

教室に向かう途中、大きな箱を抱えた鉄人こと西村教諭と会ったので三人は一緒にFクラスに向かう。二人とも成績優秀の優等生(異論は全て認めるが表面上は優等生なのでグレーゾーンと見逃していただきたい)なので、明久や雄二と比べれば鉄人の対応も大分柔らかい。ちなみに箱は鉄人のプライドを尊重して和真は持って上げる気はさらさらなかった。

三人が合宿の内容や予定について話してるうちに教室にたどり着く。

 

鉄人「遅くなってすまないな。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった。HRを始めるから席についてくれ。」

 

ムッツリーニ「……とにかく、調べておく。」

雄二「すまん。報酬に今度お前の気に入りそうな本を持ってくる。」

明久「僕も最近仕入れた秘蔵コレクションその二を持ってくるよ。」

ムッツリーニ「……必ず調べ上げておく。」

 

怪しい会話をしていた三人は鉄人に目をつけられないうちにいうちに素早く席に戻る。和真はその様子を面白そうに見届けた後、黙って席についた。

 

 

鉄人「さて、明日から始まる『学力強化合宿』だが、だいたいのことは今配っている強化合宿のしおりに書いてあるので確認しておくように。まぁ旅行に行くわけではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば特に問題はないはずだが」

 

前の席から冊子が回ってきたので、和真は一冊撮って後ろに回した。表紙には挿絵も一切なく、『学力強化合宿のしおり』と楷書で書かれているのみの無機質な一品。変なとこで合理主義な学校である。

 

鉄人「集合の時間と場所だけはくれぐれも間違えないように」

 

鉄人のドスのきいた声が教室中に響き渡る。和真は冊子を捲って集合時間と場所を確認する。今回向かうのは卯月高山という避暑地で、この街だと車でおよそ四時間ぐらい、電車とバスの乗継だと五時間ぐらいかかるところだ。

 

鉄人「特に他のクラスの集合場所と間違えるなよ。クラスごとでそれぞれ違うからな」

 

AクラスやBクラスは立派な高級車などで快適に向かうんだろうが、最底辺のFクラスはせいぜい鉄人が引率する程度の待遇であろう。

 

鉄人に「いいか、他のクラスと違って我々Fクラスは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現地集合だからな」

『『『案内すらないのかよっ!?』』』

 

あまりの扱いにクラス中が涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またまた蒼介君の出番カット。
いやね…堅物くそ真面目の彼は三巻の騒動が起こると間違いなく和真達と敵対しちゃいます。そうなると彼の格を落とさないで話を進めると詰んじゃうんですよ。

強すぎる力はときに足枷となるのさ……!


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乱入

強化合宿一日目の日誌を書きなさい。



姫路の日誌
『電車が止まり駅に降り立つと、不意に眩暈のような感覚が訪れました。風景や香り、空気までもがいつも暮らしている街とは違う場所で、何か素敵な事が起きるような、そんな予感がしました』

綾倉「環境が変わることで良い刺激を得られたようですね。姫路さんに高校二年生という今この時にしか作ることのできない思い出がたくさんできる事を願っています」

土屋の日誌
『電車が停まり駅に降り立つと、不意に眩暈の様な感覚が訪れた。あの感覚はなんだったのだろうか』

蒼介「それはおそらく乗り物酔いだ」


雄二の日誌
『駅のホームで大きく息を吸い込むと、少し甘い様な、仄かに酸っぱい様な、不思議な何かの香りがした。これがこの町の持つ匂いなんだなと、感慨深く思った』

綾倉「隣で土屋君が吐いていなければ、もっと違った香りがしたかもしれませんね」

和真の日誌『ちなみに電車のくだりは姫路の殺人料理スキルが消滅したせいで山場が無くなったのでカットするぞ』

蒼介「そんな報告を日誌に書くな」






秀介「ふう……どうやらなんとか間に合いそうだね」

蒼介「……父様が五度も迷子にならなければ4時間前には着くペースだったのですがね」

秀介「蒼介よ、それはちょっとせっかち過ぎやしないかい?その若さで落ち着きがないのはいただけないよ」

蒼介「……父様が単独行動を控えて私の指示に大人しくしたがってくれるのでしたら私も落ち着けるのですが」 

秀介「そうは言ってもねぇ、私も“鳳”当主の身の上、我が子の指示に従うというのはどうもねぇ」

蒼介「今回のことは当然母様に報告させてもらいます」

秀介「ふふふ、怖い怖い」

 

文月学園から遠く離れた地に、鳳 蒼介及び鳳 秀介は四大企業の一角“鳳”のトップ、及びその後継者の立場として足を運んだ。この地に至るまでの大冒険は質実剛健を地でいく蒼介が、実の父に対して不自然なまでに刺々しくなるまでストレスを溜め込むほど壮絶なものだったため割愛する。

ちなみに秀介は現在進行形で息子に詰るような眼で睨まれてもまるで堪えた様子が無い。口では怖いと言いつつも、口元に扇子を広げてにこにこしていては説得力がまるで無い。息子や妻が何を言ったところで暖簾に腕押しであろう。この態度は世界的企業を統べる者の貫禄であるのか、ただ天然なだけなのかは物議を醸すだろう。

 

秀介「それはそうと悪かったね蒼介、学校の行事とバッティングしてしまうなんて」

蒼介「大した問題ではありません。あの合宿は私が参加する意義はあまりありませんので」

秀介「しかしお前は確か生徒会長だろう?合宿先で生徒達が問題を起こせば、お前に監督不行届と責任が生じやしないかい?」

蒼介「確かに私達の学年は例年に比べて騒がしいと言われていますが、そうそう連続して問題行動は起こさないでしょう」

秀介「それもそうだね、あっはっはっは」

 

何が楽しいのかよくわからない秀介は放っておいて、蒼介は考える。確かに今回問題が起きることはまず無い。第一、いつも騒ぎを起こすあのクラスだが、試召戦争然り教頭室爆破事件然り、それらの行動の裏には何かしらの正当な理由を伴っている。あくまでも勉強をしに行くだけの合宿では騒ぎを起こす理由が無いのだ。他のクラスは例年通りまともであると思われるため、あのクラスが騒ぎを起こさない以上つつがなく平和に終わる可能性は極めて高いと断言できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介(この嫌な予感はなんだ……?さっきから収まらない胸騒ぎはなんなんだ……?私の思い過ごしか?)

 

その予感が思い過ごしではなかったと彼が痛感するのは、ほんの少し未来の話。彼の人生、本当に苦労が耐えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「まったく贅沢な学校だよな。この旅館、文月学園が買い取って合宿所に作り変えたらしいぞ」

秀吉「つまり召喚獣も召喚出来るようになってるわけじゃのう」

和真「四大企業がスポンサーなんだ、金なんざ腐るほどあるんだろうよ」

 

蒼介が遠くの地で苦労している一方、和真達は合宿先の旅館に到着し荷ほどきを済ませ、ムッツリーニを除く四人は部屋で寛いでいた。

サイズからして八人部屋のようだが和真、雄二、明久、秀吉、ムッツリーニの五人で使うことになっている。

問題児を一ヶ所に固めるためなのか、普段つるんでいるメンバーだからと手心を加えてくれたのかは教師のみぞ知る。

 

明久「ムッツリーニはどこに行ったの?覗き?盗撮?」

秀吉「友人に対してそんな台詞がサラッと出てくるのはどうかと思うのじゃが……」

和真「まあこればっかりは日頃の行いだな」

 

当人のいないときに言いたい放題いっていると、ちょうどいいタイミングでムッツリーニが部屋に戻ってきた。

 

ムッツリーニ「………ただいま」

明久「おかえりムッツリーニ。どこ行ってたの?」

ムッツリーニ「……例の情報集め」

雄二「昨日俺と明久が頼んだ例のヤツか。随分と早いな」

和真「そういや昨日怪しい取引してたなお前ら。ムッツリーニになんか頼んでたのか?」

 

昨日のことを思い出したように和真が訪ねると、明久となぜか秀吉は気まずそうに顔をそらす。

一方雄二は苦々しい顔で返答した。

 

雄二「和真、お前清涼祭で俺たちが翔子・木下姉ペアにどうやって勝ったか聞いているよな?」

和真「優子から恨み言とセットで聞いてるぜ。確か明久が雄二を気絶させて翔子に秀吉の声真似で作ったプロポーズの台詞を聴かせ……まさか」

雄二「察しが良くて助かる。その時の捏造プロポーズがMP3プレーヤーに録音されてて、婚約の証拠として父親に聞かせようとしてるらしい」

和真「そのMP3は没収しただろうがおそらくコピーだな。で、オリジナルを見つけようとしてるわけか」

雄二「ああ、翔子は機械音痴だからおそらくその手に長けた協力者がいると思ってな、ムッツリーニに頼んでたんだ」

和真「それで昨日の朝翔子を俺のもとに遠ざけてたのか。こんなこと聞かれたら100パー妨害されるだろうし」

雄二「そういうことだ」

 

雄二の内容に関しては納得したのか、和真は明久の方に向き直り説明を催促する。しかし明久は和真と目を合わせようとしない。よほど聞かれたくない内容なのだろうか。根掘り葉掘り聞き出しても口を割らせることは難しいと判断したのか、和真はムッツリーニの方に視線を移し話の続きを促す。

 

ムッツリーニ「……昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

明久「おおっ。さすがはムッツリーニだね」

ムッツリーニ「……手口や使用機器から、明久と雄二の件は同一人物の犯行と断定できる」

雄二「そうなのか。まぁ、そんなことをするヤツなんて何人もいないだろうし、断定しても間違いなさそうだな」

 

誤解なきよう釘を刺しておくが、彼等は一般高校生であって諜報機関ではない。そのようなことに精通した人間が二人もいる時点で異常なのである。

 

明久「それで、その犯人は誰だったの?」

明久が尋ねるものの、ムッツリーニは申し訳なさそうに首を縦に振った。

明久「あ、やっぱり犯人はまだわからないの?」

ムッツリーニ「………すまない」

明久「いや、そんな。協力してくれるだけでも感謝だよ」

和真「盗聴の犯人なんざそんな簡単に見つかるもんでもねぇだろ、気にすんな」

ムッツリーニ「………『犯人は女生徒でお尻に火傷の痕がある』ということしかわからなかった」

明久「君は一体何を調べたんだ」

和真「絶妙に使いづらい情報だなおい……」

 

二人の呆れるような視線をスルーして、おもむろにムッツリーニは小さな機械を取り出す。形状から見てどうやら録音機のようだ。スイッチを押すと、内蔵されている音源からノイズ混じりの音が部屋に響いた。

 

明久「随分と音が悪いね」

雄二「校内全てを網羅したなら仕方ないだろう。音質や精度に拘る余裕はないからな」

和真「本当にこのクラスはどこまでも崖っぷちだな。ムッツリーニ、ソウスケにバレんじゃねぇぞ?」

ムッツリーニ「……任せろ」

 

《……雄二のプロポーズを、もう一度お願い》

 

ようやく女の声が聞き取れるようになった。この独特の話し方と台詞の内容から翔子である事は言うまでもない。

 

雄二「しょ、翔子……アイツ、もう動いていたのか……!」

明久「よっぽど早く手に入れたいんだね」

和真「雄二が絡めばあいつの行動力は俺以上だからな」

 

《毎度。二度目だから安くするよ》

《……値段はどうでもいいから、早く》

《流石はお嬢様、太っ腹だね。それじゃあ明日……と言いたいところだけど、明日からは強化合宿だから引渡しは来週の月曜日で》

《……わかった。我慢する》

 

雄二「あ、危ねぇ……。強化合宿があって助かった……」

明久「タイムリミットが来週の月曜までに延びたね」

和真「つっても、土日はほとんど行動できないだろうから、こいつの命運は実質あと四日で尽きるな(ニヤニヤ)」

雄二「ずいぶん楽しそうだなキサマ」

ムッツリーニ「………それで、こっちが犯人特定のヒント」

 

和真のいじめっ子気質がだんだんとにじみ出てきたところで、ムッツリーニが機械を操作する。

 

《相変わらず凄い写真ですね。こんな写真を撮っているのがバレたら酷い目に遭うんじゃないですか?》

《ここだけの話、前に一度母親にバレてね》

《大丈夫だったんですか?》

《文字通り尻にお灸を据えられたよ。全くいつの時代の罰なんだか》

《それはまた……》

《おかげで未だに火傷の痕が残ってるよ。乙女に対して酷いと思わないかい?》

 

それ以降は他愛のない商談が続くだけでめぼしい情報は得られなかった。

 

ムッツリーニ「……わかったのはこれだけ」

明久「なるほどね。それでお尻に火傷の痕か」

雄二「今の会話を聞いても女子というのは間違いなさそうだな」

明久「口調は芝居がかっていたけど女子なのは間違いなさそうだね」

和真「自分で乙女とか言っちゃってる以上女だろ。そっちの人って可能性もあるが、この合宿に参加している生徒に少なくともそういう趣味だと周りに公言している奴はいないしな(久保の奴は少しベクトルが違うし)」

秀吉「さらっと言ったがお主の社交性は相変わらず恐ろしいな……」

明久「犯人を特定できる有益な情報だけど、お尻の火傷か……仮にスカートを捲ったとしてもわからない可能性があるし、う~ん……!」

雄二「赤外線カメラでも火傷の痕なんて写らないだろうしなぁ……」

 

明久と雄二は真顔で女子の尻を見る方法を考える。最も学習意欲向上が必要なクラスの中でも特に問題児である二人がこのザマである以上、今回の合宿は早くも失敗の可能性が高まってきている。先生方も大変だなと和真が他人事のようにしみじみと思っていると明久が妙案を思いついたように立ち上がる。

 

明久「そうだ!もうすぐお風呂の時間だし、秀吉に見てきてもらえばいいじゃないか!」

秀吉「明久。なぜにワシが女子風呂に入る事が前提になっておるのじゃ?」

和真「お前そろそろ諦めたら?その方が楽だぜ?」

秀吉「お主も涼しい顔して何を言うか!?嫌に決まって-」

雄二「それは無理だ明久」

 

秀吉の抗議を遮りつつ、雄二は何明久に合宿のしおりを放ってよこした。

 

明久「どうして無理なの?」

秀吉「いや、じゃからワシは男じゃと」

雄二「3ページ目を開いてみろ」

 

明久がしおりの3ページ目を開いてみると…

 

~合宿所での入浴について~

・男子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(男)

・男子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(男)

・女子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(女)

・女子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(女)

・Fクラス木下秀吉…20:00~21:00 個室風呂④

 

明久「……くそっ!これじゃ秀吉に見てきてもらうことができない!」

雄二「そういうことだ」

秀吉「おかしいじゃろそれ以前に!?どうしてワシだけ個室風呂なのじゃ!?」

和真「諦めろ。お前はもうそういう役回りって世界が認識してるんだよ多分」

 

そんなふうに五人はてんやわんやしながら妙案が浮かばずに唸っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員手を頭の後ろに組んで伏せなさい!」

 

怒号と共に凄い勢いで部屋の扉が開け放たれ、怒りの表情を浮かべた女子達がぞろぞろと中に入ってきた。

 




秀介さんの方向音痴ぶりを体感したい方へ。


①まずコイン(裏表あるもの)を用意します。
②目的地(例:家から駅まで)を決めて出発します。
③別れ道の選択はは全てコインに委ねてください。


秀介さんのファンタジスタぶりを嫌というほど体感すること請け合いです。





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悪ノリ和真

綾倉「さて、今回の話は怒り狂った女子達が柊君達の部屋に突入したところから始まりますね。今回の話はタイトル通り柊くんが悪ノリしまくります。小山さんのファンは注意してください」

蒼介「本編に入る前に、前回電車での移動中をカットしたわけだが、もし原作での島田の心理テストを我々がやっていた場合の結果を発表しようと思う」

和真「俺は 緑→翔子、橙→飛鳥、青→優子 だな」

蒼介「私は 緑→木下、橙→工藤、青→飛鳥だ」

源太「これもうタグに『オリ×優子』追加しといた方がいいんじゃねぇか?」

徹「といっても和真はガキだからね、作者すらこれから進展する気がしないみたいだよ」

和真(お前にだけはガキとかいわれたくないんだが……)

翔子「……ちなみに私は 緑→和真、橙→雄二、青→雄二になる」

飛鳥「やや反則に思うかもしれないけど、霧島さんはこの二人以外男子との交流が希薄だから仕方がないわね」

和真「ところで読者から中学生時には子持ち疑惑をかけられた綾倉センセ、実際のところどうなんだ?」

蒼介「十四歳の母ならぬ十四歳の父、か……」

綾倉「好き放題言ってくれますねあなた方も。まあ、法に触れる手段はとってない、とだけ言っておきましょう」



秀吉「な、なにごとじゃ!?」

美波「木下はこっちへ!そっちのバカ四人は抵抗をやめなさい!」

和真「お前なんざにバカ呼ばわりされる謂れは無ぇんだが?」

 

突然の不躾な暴言に和真が不快感を露にする一方、危険を即座に察した明久と雄二とムッツリーニは美波の一喝を受け窓から脱出する寸前で固まっていた。

 

秀吉「なぜお主らは咄嗟の行動で窓に向かえるのじゃ……?」

 

窓からの脱出は不可能と判断したのか、窓を閉めながら雄二は女子勢に向き合う。明久とムッツリーニも貴重品の入った鞄を下ろしながらそちらを向く。

 

雄二「仰々しくぞろぞろと、一体何の真似だ?」

小山「よくもまぁ、そんなシラが切れるものね。あなたたちが犯人だってことくらいすぐにわかるというのに」

 

美波の後ろから出てきて高圧的に言い放ったのは、Cクラス代表のヒステリックでおなじみの小山だ。後ろで並んでいる女達も腕を組んで頷いている。

 

明久「犯人?犯人ってなんのことさ?」

小山「コレのことよ」

ムッツリーニ「……CCDカメラと小型集音マイク」

 

小山が突きつけたものに、その手の知識に長けたムッツリーニが反応する。

 

小山「女子風呂の脱衣所に設置されていたの」

明久「え!?それって盗撮じゃないか!」

和真「それで、俺達がやったと短絡的に決めつけて因縁つけに来たってわけか。おやおや、頭の程度が知れる浅い推理だこと」

小山「なんですって!?とぼけても無駄よ!あなた達以外に誰がこんなことをするっていうの!?」

 

馬鹿にするような笑みを浮かべた和真の挑発が癇に障ったのか小山はヒステリックに喚き散らす。

相も変わらず沸点が低い女だが、決めつけてかかる小山達の態度にFクラスの良心である秀吉が抗議しようと前に歩み出た。

 

秀吉「違う!ワシらはそんなことをしておらん!覗きや盗撮なんてそのような真似は……」

 

明久「そうだよ!僕らはそんなことはしない!」

ムッツリーニ「……!(コクコク)」

 

秀吉の反論に便乗して前に出た明久とムッツリーニのまるで説得力の無い否定を聞いたおかげか、沸騰していた頭が急激に絶対零度に至る程冷却される小山。

 

小山「そんな真似は……何?」

秀吉「……否定……できん……っ!」

明久「えぇっ!信頼足りなくない!?」

和真(ごめん明久、俺でもフォローしきれない)

 

明久は自分の信頼の無さがムッツリーニと同じという事実に正直泣きそうになるが、和真からしても二人の女子からの評判は五十歩百歩であると言わざるを得ない。

 

姫路「まさか、本当に明久君たちがこんなことをしていたなんて……」

 

殺気立つ女子の中から一人悲しそうな声をあげたのは姫路だった。実際は無実であるはずの明久も信頼を裏切ったみたいな空気に思わず罪悪感が沸く。

 

美波「アキ……信じていたのに、どうしてこんなことを……」

明久「美波。信じていたなら拷問器具は用意してこないよね?」

和真「石抱なんてどっから調達してきたんだお前ら……」

 

女子達が用意した拷問器具は『石抱(いしだき)』という名前で、三角形の木を並べた台の上に相手を正座させ、膝にどんどん重石を乗せていく、江戸時代に幅広く使われた由緒正しき道具である。

土台が平坦なため本家ほど痛々しいものではないが、学力強化合宿に来た生徒が本来おいそれと用意できる代物ではないはずである。

 

明久「姫路さん、違うんだ!本当に僕らは-」

姫路「もう怒りました!よりによってお夕飯を欲張って食べちゃった時に覗きをしようなんて……!い、いつももう少しその、スリムなんですからねっ!?」

和真「怒るとこそこかよ……」

美波「う、ウチだっていつもはもう少し胸が大きいんだからね!?」

明久「それはウソ」

美波「皆、やっておしまい」

明久「ご、ごめんなさい!つい咄嗟に本音が!」

 

素早い動きで周りを取り囲まれ。明久とムッツリーニは土台の上に座らされた。窮地に立たされた明久は、ピンチのときにこそ頼りになる我らがFクラス代表に助けを乞う。

 

明久「雄二頼むっ!この場をなんとか収めて」

 

『……浮気は許さない』

『翔子待て!落ち着きぎゃぁぁああっ!』

 

まあ読者の皆様は予想していただろうが、雄二は既に霧島のアイアンクローの餌食になっていた。

 

美波「さて。真実を認めるまでたっぷりと可愛がってあげるからね?」

姫路「明久君、正直に話してくださいね♪」

 

そして明久達にも嗜虐スイッチが入った二人の手によって私刑が執行されようとしていた。彼等の命運が尽きようとしている頃、和真はというと……

 

 

 

 

 

 

和真「ほらほらどうしたバレー部のお嬢ちゃん達よぉ?さっきまでの意気込みはどこ行ったよ?」

『くっ……このぉ!!』

『うう……全然駄目だ……』

小山「チョロチョロと往生際の悪いわね!さっさと捕まりなさいよ!」

和真「やなこった」

 

和真を取り囲んでいるのは小山率いる女子バレー部の面々。多かれ少なかれ和真を疎ましく思っている彼女らは、今回の覗き騒動への罰を大義名分に痛い目にあわせてやろうと意気込んで乗り込んで来たわけだが、本格的なヤンキー数十人に真っ向から挑んで圧勝できるほどの戦闘力を有する和真にとって、たかが女子数名の猛攻を捌ききることなど造作もない。

この光景は一方的に危害を加えようとする女子であっても反撃しない和真の紳士的対応に見えるかもしれないが、間違いなくそうではないと断言できる。

 

 

 

和真「ねぇねぇ、今どんな気持ち?俺を痛めつけようと鼻息荒く乗り込んで来たのに良いように手玉に取られてどんな気持ち?恨み骨髄の相手に適当にあしらわれてる気分はどう?あまつさえその相手に情けをかけられて悔しくなーい?

ねぇねぇ?ねぇねぇねぇねぇねぇ?」

 

(((こいつムカつくぅぅぅううううう!!)))

 

煽る。

 

この男、明らかに相手をこけにするような表情を浮かべてひたすら煽りまくる。嗜虐スイッチが入っているのは姫路達だけではないようだ。

 

小山達は鬼の形相でさらに苛烈に掴みかかるものの、やはり捕らえられそうもない。

 

和真「ねぇねぇ小山、新学期早々Aクラスに喧嘩売ってソウスケに瞬殺されて設備落とされたらしいじゃん?

ねぇねぇどんな気持ち?仮にも“戦争”の名を冠した競技なのに、カップうどん作れるかどうかの時間で惨敗して恥ずかしくなかったの?そんなことがあったのに何事もなくクラス代表としてふんぞり返っていられるのはどうして?どんだけ面の皮厚いの?ついでにそんな残念な奴に仕切られてるその他大勢の端役の皆さん、生きてて楽しい?

ねぇねぇ?ねぇねぇねぇねぇねぇ?」

 

『『『うがぁあああああ!!』』』

 

小山達は女性がしてはいけないレベルのキレ顔にまど豹変するが、それでも歴然たる実力差があるのか和真にはまるで当たらない。彼女らの反応が予想以上に面白かったようで、和真は別の切り口から煽りにかかる。

 

和真「大体よぉ、本当に俺達がお前らを覗こうとすると思ってんのかよ?」

小山「こんなバカなことあんた達意外にだれが企むって言うのよ!?いい加減認めなさいよ見苦しい!」

和真「自惚れてんじゃねぇよ、負け犬どもが(ペッ)」

小山「~~~~~~~~~っ!!」

 

これ以上無い侮辱を受け、小山はヒステリーのあまり言葉を失うが、和真は情け容赦なく追い討ちする。

 

和真「よほど自分達の体に自信がおありのようでなによりですあいたたたたたたた~、痛いよ~、頭が可哀想な重度のナルシストがこんなにいっぱいいるよ~、痛々しいよ~、この人達存在そのものが痛々し過ぎるよ~」

 

小山「殺れぇぇぇぇぇえええええ!!!」

『『『殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!』』』

 

もはや男女どうこう以前に人間だった面影すら残っていない妖怪じみた表情で、バレー部改め小山率いる百鬼夜行は和真に対して本気で殺すつもりで飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後、証拠不十分という形で明久達が解放された頃には、百鬼夜行と化したバレー部一同はスタミナを使い切ったらしく地面に這いつくばっていた。

 

和真「お、あいつらも解放されたみてぇだな。さてと、こいつらにもお引き取り願おうか」

 

和真は横たわっているバレー部達をまとめて担ぎ上げる。疲れきっているのか、男子に抱き抱えられても反論すらできない。そのまま和真は扉を開けて、

 

 

ポイポイポイポイポイポ(ry

 

 

和真「二度と来るんじゃねぇ三下どもが」バターン

 

 

部屋の外にまとめて不法投棄した後、扉を勢いよく閉めた。

そうして最後に部屋の外に向かってとどめの一声。

 

 

ぶわぁぁぁーーーーーーーーかっ!

 

 

小山(………………ふふふ…

 

 

 

 

 

 

 

 

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!

 

覚えてなさいよ、柊 和真!いずれアタシ達が受けた屈辱を三乗にして返してやるんだから!)

 

 

小山及びバレー部一同は扉の向こうにいる怨敵に対して以前とは比べ物にならない憎悪と殺意と復讐の焔を心に点火するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真くん絶好調(悪い意味で)
筆者は別に小山さんに恨みとかは特にありません。

和真「俺も今回の話の二次創作でよくある『確証も無いのに拷問にかけようとする女子達を許せない!』、なんてまっとうな感性は持ってねぇ。『疑うのは自由、拷問も好きにかければよい。ただしできるもんならな!』っつうスタンスだ」






一巻の稚拙すぎる文章を大幅に修正しました。少しでも興味が湧いた人は暇なときにでも読んでください。



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覗き決行!?

徹「原作で一番扱いが悪いのは、実を言うと小山さんなんじゃないかな?」

飛鳥「え?そこまで不憫な人だった?」

和真「えーと原作での活躍は、と…」
 
一巻……Fクラスの罠にまんまと嵌まり、Aクラスに攻めこむも敗北、設備ランクダウン
二巻……付き合っている男が女装趣味の変態だった(誤解であるが)。別れる寸前にキスを迫られと後で判明。
三巻……あたかも覗きに憤慨する女子グループのリーダー格のように登場するも出番それだけで、誰にも言及されずフェードアウト。
八、九巻……Fクラスに善戦できたのは相手の仲間割れと高城の策があってこそなので完全に置物に。しかも負けて今度はFクラスの設備に。
十一巻……雄二に気がある宣言。それ以前は翔子一強であった状況に一石を投じるか?と思われたが……雄二と翔子が和解した頃には戦死してました。
ちなみに番外編での出番は一切無し。

飛鳥「これはあまりにも不憫ね……」

源太「特に最後が輪をかけて酷ぇな……」

和真「当て馬系女子とはまさにこいつのことだな」

徹「この小説でもあんな扱いだしね」

蒼介「言いたい放題かお前ら」




秀吉「酷い濡れ衣じゃったのう……。なぜだかワシは被害者扱いじゃったのも解せぬが」

和真「まったく血も涙も無い連中だぜ。精神、肉体ともにボロボロだ」

明久「和真は拷問受けてないじゃないか!?それから精神的にボロボロになったのって明らかに小山さん達だよね!?」 

秀吉「人の傷口を抉ることにかけて和真の右に出る者はおらんからのう。しかし、いつにも増してノリノリじゃったな」

和真「俺とて旅行先では多少浮かれたりするんだよ」

明久「浮かれた結果あの地獄絵図なんだ……。しかしホント、酷い誤解だったよ」

ムッツリーニ「………見つかるようなヘマはしないのに」

 

今回は本当に濡れ衣だったとはいえ、ムッツリーニの色々ギリギリな弁解を聞くに、女子達の犯人の目のつけどころはなかなかに優秀であったと言わざるを得ない。

 

明久「雄二、大丈夫? さっきから黙っているけど」

 

先ほどからなぜか不気味なほどおとなしい雄二「不思議に思い、明久は何事かと話しかける。すると雄二は目に怒りの炎を宿し、何かを決意したように立ち上がった。

 

雄二「……上等じゃねぇか」

明久「え?雄二。どうしたの?」

雄二「どうせここまでされたんだ。だったら本格的にやってやろうじゃねぇか……!」

和真(あーダメだこりゃ、完全に頭にきてんな)

明久「ま、まさか本当にって……」

雄二「ああ、そのまさかだ。あっちがそう来るのなら、本当に覗いてやろうじゃねぇかゴルァ!!」

 

話している最中にも雄二の怒りはどんどんヒートアップし、とうとうこらえきれず爆発した。そんな雄二の無茶な宣言に明久と和真は呆れるような表情で諭すように言う。

 

明久「雄二さぁ、そんなに霧島さんの裸が見たいなら、個人的にお願いしたらいいんじゃない?」

和真「多分二つ返事でOKしてくれるぞ。その後の選択を間違えたらでき婚ルートに突入するリスクはあるが」

雄二「バ、バカを言うな!翔子の裸なんかに興味があるか!それから和真キサマ恐ろしいこと言うんじゃねぇ!?俺はもっと気楽な人生を送りたいんだ!」

 

明久の提案には異様に慌てながら、和真の発言には青ざめながら否定する雄二。この態度からして、翔子との関係は満更でもないのは明白だが、後半の願望もどうやら嘘ではないらしい。

 

秀吉「もしや、例の尻に火傷のある犯人探しかの?」

雄二「そうだ。流石に覗きなんて真似はやりすぎだと思って遠慮していたが……向こうがあんな態度で来るなら遠慮は無用だ。思う存分覗いて犯人を見つけてやろうじゃないか」

ムッツリーニ「……さっきのカメラとマイクは、脅迫犯の物と同じだった」

秀吉「なんじゃと? それは本当かの、ムッツリーニ?」

ムッツリーニ「……間違いない」

和真(話の流れからして脅迫犯ってのは明久関連か。こいつは本当に面倒事に溺愛されてんな……)

 

当面の目標が決まったのか、明久を除く四人は覚悟を決めた表情になる。そして明久だけが会話に乗り遅れるのもFクラスの日常茶飯事。

 

明久「つまり、どういうこと?」

雄二「流石明久だな、この程度の会話にもついてこられなかったか。和真、解説」

和真「雄二お前な……。しかたねぇ、いいかよく聞け明久。お前と雄二を脅している犯人は同じで、さっきの覗き犯のカメラとマイクがその犯人と同じ物だった。そして、覗き犯は火傷の痕があるという話だ」

明久「ああ、なるほど!その火傷の痕がある人を探したら全部解決するってわけだ!」

和真「思ったより理解が早くて助かる」

 

この程度の内容をいちいち丁寧に説明しなければいけない時点で色々とアレなのだが、ひどいときには今の数倍の労力を必要とする場合があるので、一回で済んだことに和真はほっとする。

 

雄二「これでもう迷う余地はないな」

明久「そうだね!やってやろう!……それにしても、相変わらず雄二は霧島さんのことになるとやる気が凄いよね。どうしてそこまで頑張るのかって疑問に思うくらいだよ」

和真「いい加減素直になれよ。男のツンデレほど見苦しいものはねぇってのに」

雄二「ブチ殺すぞ和真。……実はこの前、いつものように翔子にクスリをかがされて気を失ったんだが」

明久「ごめんその前置きから既にイロイロと厳しいと思う」

和真「一応翔子にはそういうのはほどほどにって軽く注意しておいたんだが」

雄二「もっとやる気だせよ!どう考えても軽く注意するレベルの内容じゃねぇだろ!?……話を戻すと、目が覚めたらヤツの家に拉致されていたんだ」

 

恋する乙女は猪と同じでただ一直線に突っ走るのみである。たかが法律の一つや二つ障害ですらない。

 

和真(こいつがそんな態度とってなきゃ、そもそもそんな目にはあってねぇと思うんだけどな)

明久「ふぅん。そこで霧島さんの両親と挨拶をしたとか?」

雄二「いや、そうじゃない。ただ、ヤツの家に……

俺の部屋が用意されていたんだ」

和真「翔子の行動力は日々加速してるな。あとお前の自由が削られていくスピードも」

雄二「加速させてる張本人がそれを言うか!?」

秀吉「そ、そうとなれば、すぐにでも向かわれば風呂の時間が終わってしまうぞ!」

ムッツリーニ「…………(コクコク)」

和真「それもそうだな、善は急げだ」

 

やや話が脱線してきたので、秀吉とムッツリーニは軌道修正を行う。このまま雄二をいじり倒すのもそれはそれで面白いのだが、そんな暇はないと思い直し和真も秀吉達に賛同する。

 

明久「え?和真と秀吉とムッツリーニも協力してくれるの?」

和真「たりめーだ」

秀吉「うむ。友人の危機なのじゃ。当然じゃろう」

ムッツリーニ「…………(コクコク)」

 

苦労も汚名も顧みずに自分達のために行動してくれる友人達(ムッツリーニは別の目的がありそうな気がしないでもないが)に明久が感動する一方、雄二は和真に対して疑うような視線を送りながら問いかける。

 

雄二「何か企んでるんじゃないだろうな?世渡りが上手いお前なら俺らに加担することが、今まで築いた信頼を失墜させるリスクがあるとわからない筈がない」

和真「見くびんな雄二。脅迫されたり濡れ衣着せられたダチ見捨ててまで保身に走る気はねぇよ」

雄二「そうか、疑って悪かったな。……ところでその言い回しだと俺単体なら見捨ててたかのように聞こえるんだが?」

和真「だって俺『翔子の恋路を手伝い隊』の隊長だしそれはまあ仕方なくね?」

雄二「お前とは今度サシでじっくりと話し合う必要があるみたいだな。なんだその俺にとって悪い展開になるとしか思えない部隊は」

 

ちなみに参加メンバーは翔子の友達であるAクラスの優子と愛子、Fクラスの美波に姫路、そして今ここにいる雄二以外の四人と、すでに状況は四面楚歌である。

 

ムッツリーニ「……女子風呂の場所なら確認済み。後半組の入浴時間は残り四十分」

 

腕時計で時間を確認しながらムッツリーニは迷いの無い足取りで部屋を出て行き、残りのメンバーもそれに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

布施「君たち、止まりなさい!」

 

女子風呂へと続く廊下を全速力で駆け抜ける五人の前に、化学教師の布施先生が立ちはだかる。

 

布施「更衣室にカメラが設置されていたと聞いて警戒してみたら……まさか本当に覗き犯がやってくるとは思いませんでした」

明久「雄二、どうする!?布施先生だよ!」

雄二「構わん、ブチのめせ!」

布施「そこは構いなさい坂本君!?私は一応教師ですよ!?」

明久「了解!一撃でけりをつける!」

布施「吉井くんも了解じゃないでしょうッ!?」

明久(これは僕らの濡れ衣を晴らすための行動なんだ!正義はきっと僕らにある!)「この前の補習の恨みをくらえぇっ!」

秀吉「思いっきり私心で行動しておらんか!?」

和真(甘いな……。布施センセは教師、とっておきの切り札がある)

布施「ひぃぃいいっ!試獣召喚(サモン)!」

 

明久の正義と逆恨みを込めた必殺の拳は、突如現れた召喚獣のフラスコによって阻まれた。

 

雄二「しょ、召喚獣だと!?おまけに教師用の召喚獣は、物に触れるのか……!」

 

どうやら教師の召喚獣は明久の召喚獣と同じく、物理干渉能力を持っているようだ。召喚獣の強さは点数に比例する。明久の点数程度の召喚獣でさえ壁を破壊するほどの力を持つ召喚獣が教師レベルの点数を与えられたとしたら、例え和真でも力ずくでの突破は無謀と見てよいだろう。

 

明久「卑怯じゃないですか!自分たちが作ったテストで召喚獣を喚び出したら強いに決まってますよね!?」

和真「一方的に殴り飛ばそうとしたお前がそれを言うか?」

明久「どっちの味方なのさ和真!?」

布施「それに、教師もテストを受けているのですよ?他の学年の先生が作った問題で。『教える側にもそれに相応しい学力が必要だ』というのが学園長の方針ですからね」

和真「ますますお前の旗色が悪くなったな明久」 

明久「だから君はどっちの味方なのさ!?」

 

色々と問題の多い振る舞いの学園長だが、たまには教育者らしいこともしているのだなと心の中で和真は感心しつつ、和真は雄二の手を逃がさないようにがっちり掴む。

 

和真「先に行け明久、秀吉、ムッツリーニ。

この勝負は俺と雄二が引き受ける」

雄二「ちょ、おま-」

明久「わかった二人とも!絶対あとから追い付いてきてね!」

 

無許可で道連れにされた雄二が抗議する前に、明久は二人を連れて先に進む。

 

布施「こ、こら!君たち待ちなさい!」

和真「させねーよ布施センセ!やるぞ雄二!」

雄二「ったくしかたねぇ、さっさと片付けるか!」

 

和真・雄二「「試獣召喚!」」

 

 

《化学》

『Fクラス  柊和真    369点

 Fクラス 坂本雄二   293点

VS

 化学教師  布施文博 586点』

 

 

二人は召喚獣を喚び出し、明久達を追おうとしていた布施先生の召喚獣の行く手を阻む。布施先生は和真に向かって困惑するように問いかける。

 

布施「吉井君達はともかく、なぜですか柊君……?確かに君は少々自由奔放過ぎるところがある生徒ではありますが、こんなことに加担する生徒じゃなかったはず」

和真「まあ確かに、先生達の信頼を裏切る行為だってのは理解してるし、その事に対してすまないと思わないわけじゃねぇ」

 

和真は何かを葛藤するような表情で一度布施先生から目を逸らした後、覚悟を決めたように真剣な表情で布施先生に向き直る。

 

和真「ごめんな布施先生、それでも俺は友達が大事だ。こいつらを見捨てるなんて俺にはできやしねぇ」

布施「……そうですか、あなたにも譲れないものがあるのですね。

……あなたの覚悟は伝わりました。ですが私も教師のはしくれ、ここを通りたければ、全力でかかって来なさい!」

和真「ああ……いくぜ!」

 

布施先生も覚悟を決めた表情で立ちはだかる。そんなどこぞのスポ根漫画的な熱い展開を冷めた目で見る雄二。

先ほど保身は考えないと言うことを自分に言いつつ、ちゃっかり信頼を失墜させない算段はついていた和真に対して呆れざるを得ない。

 

雄二(こいつマジで世渡りうまいな……。なんださっきの申し訳なさそうな表情?そんな感情確実に毛ほども抱いてないのにどうして平然とあんな顔ができるんだ?)

 

色々と納得できないもののそんな場合ではないので、雄二も和真に加勢するため召喚獣の歩を進める。

 

和真「オラオラオラオラオラァっ!」

 

キキキキキキキキキキキィィイイインッ!

 

布施「くっ……やりますね!」

 

速攻が得意な〈和真〉が早々に百烈突きを仕掛けるも、〈布施〉はやや押されながらも手に持った三角フラスコで防ぎきる。

攻撃力や武器のリーチでは特化型の〈和真〉に分があるものの、布施先生の操作技術は明久に匹敵するものであり点数差もかなりあるため、回避に専念すれば防ぐのは難しくない。

 

雄二「相手が和真だけだと思うなよ!」

和真「あ、バカっ!」

 

〈布施〉が猛攻に耐えてる隙に〈雄二〉は後ろに回り込み、メリケンサックで殴りかかった。しかしその戦法は紛れもなく悪手!

 

布施「勿論あなたのことも警戒していましたよ坂本くん!」

 

ダンプカーの衝突をも上回る威力の〈雄二〉の拳はクリーンヒットしたにもかかわらず、ダメージらしいダメージは与えられなかった。それどころか〈布施〉は反撃とばかりに〈雄二〉をフラスコで殴り飛ばし、遥か彼方へ吹き飛ばした。

 

和真「ちぃっ、余計な手間を……!」

 

召喚フィールドの障壁に激突する寸前に、〈和真〉が〈雄二〉をなんとかキャッチする。もし激突していれば〈雄二〉は無惨にも圧死していただろう。

 

 

《化学》

『Fクラス  柊 和真  369点

 Fクラス 坂本 雄二 105点

VS

化学教師  布施 文博 525点

 

とはいえ今の攻防で雄二の点数は半分以上失ってしまった。それに対し布施先生の点数はほとんど削れていない。

一気に戦況が不利になってしまった。

 

和真「ほんと使えねぇなお前は!やる気あんのか!?」

雄二「うるせぇ!大して戦闘経験無いんだからお前や明久みたいに闘い慣れてると思うなよ!……しかしそれにしてもあの点数差で直撃食らったのに思ったほど減ってねぇな。腕輪も装備されてねぇし布施先生、そこんとこどうなんだ?」

 

ただでさえ希薄だった雄二と和真のチームワークが完全に雲散霧消した一方、雄二はふと疑問に思ったことを布施先生に訪ねる。

雄二の点数は確かに大幅に減少したが、点数差を考えると本来なら即死かその一歩前まで減らされていてもなんらおかしくない。さらによく見ると布施先生の点数は400点を越えているにもかかわらず金の腕輪を身につけていない。

そうした雄二の疑問に布施先生は苦笑しながら答える。

 

布施「私達教師の召喚獣は暴走した場合のリスクを考慮して、攻撃力がある程度セーブされているのですよ」

和真「それに物理干渉能力のある召喚獣で金の腕輪なんざ使ったら……」

雄二「なるほど、建物がレゴブロックみたいにぶっ壊れるということか」

布施先生「そういうことです。さて、そろそろ年貢の納め時ですよ二人とも」

 

フラスコを構えながら〈布施〉が二人の召喚獣にジリジリと近寄ってくる。追い詰められた表情の雄二に和真はバレないようにアイコンタクトで作戦を伝える。

 

和真(一つ、ここを切り抜けられる策があるんだが…………実行しても良いか)

雄二(構わん、やれ。集団での指揮はともかく、試召戦争ではお前に一日の長があるからな)

和真(お前がそう言うなら遠慮なくいくぜ……悪いな)

雄二(……?悪いって何が-)

 

 

 

 

和真「カズマジャンピングサァァァアアアブ!」

雄二・布施「「何ィィイイイ!?」」

 

〈和真〉は〈雄二〉を天高く放り投げた後自身も全力で跳躍、そのまま槍の腹で〈雄二〉を敵に向かって全力で殴り飛ばした。

 

布施「あわわわ…」

 

〈布施〉は向かってくる召喚獣(死体)を思わずフラスコで防御する。しかしその判断は先ほどの雄二同様、限りなく悪手。

 

召喚獣の質量+落下のエネルギー+〈和真〉の桁外れのパワーが合わさった比類なき破壊力なのだ、ここはなんとしてでも避けるべきであった。

〈布施〉は必死で押し返そうとするが流石に相手が悪く、遥か後方に吹き飛ばされてしまう。

 

そんなあからさまな隙を見逃す和真ではない。

 

 

和真「続けてカズマジャベリン!」

 

〈布施〉が立ち上がる前に、空中から投擲された必殺の槍が突き刺さり、為す術もなく地面に縫い付けられてしまう。

 

 

《化学》

『Fクラス  柊 和真  369点

 Fクラス 坂本 雄二 戦死

VS

化学教師  布施 文博 139点』

 

 

防御力と点数の高さでなんとか生き延びるが身動きがとれない以上既に詰んでいると、戦闘経験の乏しい布施先生にも理解できた。

 

和真「とどめのカズマブロォォォオオオ!」

 

この状況から番狂わせなぞ起こりようもなく、〈布施〉が右拳を食らってあっさりと戦死する。

 

和真「よし、さっさといくぞ雄二!」

雄二「俺を生け贄にしたことについて色々言いたいことはあるが……まあ後にするか」

 

二人を止めるすべを失い、項垂れる布施先生を放置し、二人は明久達に追いつくために全力疾走する。

 

 

 

 

 

しかし二人の前に飛び込んできたのは、 

 

大島「布施先生を突破するとはやるじゃないか」

鉄人「だがお前達の快進撃もここまでだ」

 

召喚獣に捕縛された秀吉とムッツリーニ、地面に這いつくばった明久、そして立ちはだかる文月学園でも屈指の武闘派教師の二人という、絶望的な光景であった。

 

雄二「くそ、いったいどうすればこの状況を…」

和真「どうやらここまでだな。西村センセ、投降するぜ」

雄二「なっ!?……ちぃ、仕方ねぇ」

 

なんとか状況を覆す策を捻り出そうとする傍ら和真が無条件降伏宣言。雄二は一瞬呆気にとられるが冷静に状況を分析し、渋々敗北を認める。そんな二人を明久だけではなく、鉄人も信じられないような目で見る。

 

明久「どうしたのさ二人とも!?やる前から諦めるなんて和真らしくないよ!」

鉄人「吉井の言う通りだ、貴様らはいったい何を企んでいる?」

和真「別に何も企んじゃいねぇよ。そりゃな、1%でも可能性があるなら足掻きの一つでもするけどよー、流石に可能性が無いんじゃなぁ……」

雄二「布施センも俺の犠牲でどうにか突破できたんだ。流石の和真でもおそらく布施センより闘い慣れしてる上に、」

 

そこまで言って雄二は大島先生の召喚獣に表示されている点数に目を向ける。

 

《保健体育》

体育教師 大島 武 543点

 

雄二「ムッツリーニですら歯が立たねぇ大島先生を倒せる訳がねぇ」

 

大島先生の点数はムッツリーニとの闘いで多少減った現段階でも、学年首席の蒼介すら凌駕している。

和真の保健体育の成績は300点程度、タイマンでの突破は不可能である。

 

和真「それに加えて西村センセだ。この人の相手する以上、召喚獣の操作に割く余裕なんざあるわけねぇ」

雄二(それにチャンスはまだ三回あるんだ。ここは無理する時じゃねぇ。ここは大人しくしておくぞ)

三人「「「!」」」

鉄人「中々潔い判断じゃないか。その気概に免じて、停学は勘弁してやろう」

 

雄二は鉄人に隠れてアイコンタクトで明久達を説得する。幸い、和真に目を向けていた鉄人には気づかれなかった。

 

鉄人「なに。俺も鬼ではない。きっちり指導を終えたら解放してやる。さて、それでは英語で反省文でも書いてもらおうか。文法や単語を間違えていたら何度でもやり直しだ!

終わった者から部屋のシャワーを浴びて寝ても良し!」

 

こうして、明久達は廊下で正座しながら英語の反省文を書かされる羽目になった。

余談だが、普通に成績の良い和真と雄二が2、3分で反省文を書き上げさっさと部屋に戻っていったあたりで、明久達三人は和真達が自分達には被害が微々たるものである内にさっさと降参したのだと理解した。

 

 

 

 

 




蒼介「布施先生との戦闘シーン~覗き失敗までの流れが追記されたな」

源太「また和真が新技を編み出したようだな」

飛鳥「貴方は本当にことあるごとに仲間を捨て石にするわね……」

和真「人聞きの悪いこと言うな。勝利への布石と呼べ」

徹「どちらも石ころには変わりないじゃないか」











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慈愛の微笑み(憎)

蒼介「前話に布施先生との闘いを追加しておいた。申し訳ないが今話の前に前話を見返してくれ」

徹「本来はその内容を今回するつもりだったんだけど、ちょうどいい区切れで切ると文字数が物足りなすぎたんだよね」

和真「後先考えない作者を持つと苦労するぜ……」

という訳で今回は学力強化合宿二日目をお送りいたします。
決して二回読ませてUAを稼ごうとか狡いことは考えておりません、文字数配分を間違えて変なとこで区切ったことが原因の純然たる凡ミスです……。


【バカテスト】
強化合宿二日目の日誌を書きなさい


姫路 瑞希の日誌
『今日は少し苦手な物理を重点的に勉強しました。いつもと違ってAクラスの人たちと交流しながら勉強もできたし、とても有意義な時間を過ごせました』 

綾倉「Aクラスと一緒に勉強する事で姫路さんに得られるものがあったようで何よりです。来年クラスメイトになるであろう人たちと交流を深めておくと良いでしょう、おそらく来年担任となる私も気が楽になりますし」

蒼介「綾倉先生、一言多いです」


大門 徹の日誌
『僕としてはやや苦手な文系科目を重点的にしたかったのだが、ここぞとばかりに理数系を教えを請うクラスメイト達が多く予定していたよりはかどらなかった。仮にも最優秀クラス所属なのだから少しはこちらの事情を察して欲しかった。そんな感じで僕も忙しかったので、僕以上に生徒に囲まれていた和真のSOSを無視したことに罪悪感はない』

蒼介「私がいない以上、二年で最も理数系に精通しているのはお前だからな。持つ者の義務であると我慢してくれ。カズマを見捨てたことに関して私がとやかく言うつもりは無いし、あいつはそんな小さいことを後から愚痴愚痴言う奴ではない。あまり気にする必要も無いだろう。
……別にお前に対して小さいと言ったわけではないと釘を刺しておく」


柊 和真の答え
『やけに俺に勉強を教えて欲しがるAクラス生徒(大多数)だの、工藤とムッツリーニに翻弄される明久だの、Fクラスに来てからどんどん暴力的になっていく姫路だの、言及したいことは多々あるが一番気がかりなのは優子に俺のプライバシーがどんどん流出していることだ。この合宿が終わった後の予定も決まった』

綾倉「柊君は多感なお年頃の君達高校生にとって、なかなかきついダメージを負ったようですね。 
悪巧みならいつでも相談に乗りますよ。以前手伝ってもらったお礼に、とっておきの策を伝授しましょう」

蒼介「綾倉先生、大分余計です」


土屋 康太の日誌
『前略。夜になって寝た』

蒼介「前略はそうやって使う物ではない」


吉井 明久の日誌
『全略』


綾倉「豪快な手抜きに思わず感心しました。今度学園長への報告書が面倒になったら使ってみようと思いました」

蒼介「綾倉先生、もしかしてわざとやっていませんか?私も怒るときは怒りますからね?」




『柊、平安後期の院政期についての記述問題がちょっと自信ないんだが添削してくれないか?』

『柊君、仮定法過去の応用部分でちょっと躓いちゃったんだけど……』

『あっ俺も俺も、古典の四鏡の-』

和真「聖徳太子か俺は!?いっぺんに聞いてくるんじゃねぇよ!?」

 

強化合宿二日目、今日の予定はAクラスとの合同学習となっていた。学習内容は基本的に自由。質問があれば周囲や外にいる教師に聞いてもよく、要するに自習のようなものであり机の並びも生徒同士が向かい合うような形になっている。

和真は苦手意識が無くなりつつある理数系を重点的に復習しようと思っていたのだが、Aクラス生徒に囲まれて全く自習が進まずにいた。

 

和真の成績はAクラス基準で考えても優秀であり、文系科目に至っては翔子に次ぐ成績を叩き出している。おまけにAクラスの生徒は真面目で人間ができているので和真に対して筋違いな妬みを抱いたりしないので、Aクラス内での和真の評価はとても高い。

それらの要素が合わさって現在のすし詰め空間が出来上がる。 

一度は徹に助けを求めたが無情にもスルーされたため、仕方なく和真は一人一人面倒を見てやることにしたのだった。何だかんだで面倒見の良い男である。

十数人を捌ききって流石の和真も疲れたのか、黙々と自習する気はとうに失せて優子達の方に勉強道具を持って移動する。

 

和真「あぁ…疲れた……いよいよこの合宿に参加したメリットが無くなったなオイ」

優子「まあアンタは普段が普段だから、アンタに勉強を教えてもらう機会なんて限られてるからそうなるのも無理は無いんじゃない?」

飛鳥「それにほら、貴方だけじゃなく姫路さんの周りにも人が集まってるわよ」

和真「それにしては翔子には誰も集まってないな」

優子「坂本くんと勉強する時間を減らしたくないって翔子に頼まれたから、アタシが事前に根回ししておいたわ」

和真「良い仕事したな副隊長」

優子「誰が副隊長よ」

 

ちなみにFクラスとAクラスを合同でやらせているのにはちゃんとした理由がある。

以前も述べた通り、この合宿の趣旨はモチベーションの向上である。AクラスはFクラスを見て『ああはなるまい』と、FクラスはAクラスを見て『ああなりたい』と考えさせることがこの合同自習の目的だ。

まあ、怠惰と無気力の極みである我らがFクラスが、たかだか数日程度優等生達と一緒に勉強したところでモチベーションなど向上するはずがないのだが。

事実、現在真剣に自習に取り組んでいるFクラスの生徒は1割にも満たない。この合宿のプログラムを真剣に考えたであろう先生はマジで泣いていい。

 

飛鳥「あら?いつのまにか愛子が霧島さん達に合流してるわ」

和真「悪戯好きなあいつのことだから、大方弄られキャラとして天下に名高い明久を弄ろうとでも思ってんだろ?」

優子「愛子もアンタにだけは悪戯好きとか言われたくないでしょうね……」

 

《工藤さん》《僕》《こんなにドキドキしているんだ》《やらない?》

 

和真「予想通りだったな」

優子「愛子ったら……。先日うちのクラスでもあの小型録音機で男子をからかって遊んでいたのよね」

飛鳥「最終的には蒼介に正座させられて説教されてたわね」

 

悪意のある編集に明久が悶えている後ろの方で、絶対零度の微笑をたたえて立ち上がるFクラス女子が計二名。

 

美波「……ええ。最っっ高に面白いわ」

姫路「……本当に、面白い台詞ですね」

 

そのまま二人は机に勉強道具を置き去りにして、学習室を出ていった。

入れ違いで入ってきた秀吉に何かを訪ねられた明久の顔から見る見る冷や汗が。

 

優子「秀吉の奴、吉井君に何を言ったのかしら……?」

和真「あー、多分拷問器具運ぶの手伝って欲しいだの姫路達に言われたことについてだろ」

飛鳥「待って和真。どうしてあの二人は拷問器具なんて所持してるの?万歩譲って持ってること事態は良いとしても、どうして学力強化合宿に拷問器具を持ってきたの?」

和真「旅館にあったんじゃねぇの?昨日あいつらだけじゃなくCクラスの小山達も持ってたし」

優子「あ、そうそう。昨日、で思い出したんだけど」

和真「あん?いきなり何だ(ガシッ)……あ、やべ」

 

優子は何のことだかわからないと言った表情をしている和真の頬を両手でガッチリと掴む。

優子が何を言いたいのかを察したのか、しまったという表情になるが時既に遅し。

優子はそのまま和真の両頬をぐにぐにと伸ばす。

 

優子「風の噂でアンタと秀吉を含むFクラスのバカ5人が女子風呂を覗こうとして教師に捕まったって聞いたんだけど、そこのところどうなのかしら和真~♪」

和真「いひゃひゃひゃひゃひゃ!?ほおをひゃっはうあ!?」

優子「あーあー、何て言ったか聞こえな~い♪」

 

元神童の雄二ですらつけいる隙を見つけることができなった和真を、ここぞとばかりにこれでもかと懲らしめる優子。

満面の笑みを浮かべてはいるが、「怒ってます」と雰囲気だけで察することができる。

飛鳥はそんな優子の暴走を諌めることはせず、それどころか和真の背後に回り込み脇の下に手を添える。

 

和真「!?!!?!??あ、あふかへめぇ!?」

飛鳥「確か貴方、脇の下が弱点だったわよね?」

 

こちらも笑ってる気がしない満面の笑みを浮かべている。

どうやらAクラスの真面目系女子二人は、余程昨夜の和真達の行動にご立腹らしい。

 

《僕にお尻を見せてくれると嬉しいっ!》

 

向こうではまた明久が愛子に陥れられているらしいが、飛鳥はそんなことなどお構い無しに和真の脇の下を全力でくすぐる。

 

こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ…

 

和真「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!や、やみぇ…やみぇおぉぉぉおおお!!」

 

『姫路さん、美波。よく聞いて。

さっきのは誤解で、僕は《お尻が好き》って言いたかったんだ。《特に雄二》《の》《が好き》ってムッツリィニィィーッ!、後半はキサマの仕業だな!?うまくやるって、工藤さんよりも上手に僕を追い込むってことなの!?』

 

愛子とムッツリーニの小競り合いによって同性愛申告に加工された明久の弁明を伴奏に、和真の悲鳴が部屋中に響き渡る。

レアケースにもほどがある状況に、騒動の中の明久達を除くほとんどの生徒の目が和真達に集中する(Fクラスの生徒は嫉妬から上履きを和真にぶつけようとする本能と、後々起こるであろう報復の恐ろしさを計算する理性の間で揺れていた)。

 

美波「アキ……。そんなに坂本がいいの……?ウチじゃダメなの……?」

姫路「前からわかっていたことですけど、そうはっきり言われるとショックです……」

明久「二人ともどうしてすぐに僕を同性愛者扱いするの!?僕にそんな趣味は」

 

明久が否定しきる前に突如学習室のドアが開きDクラスの清水 美春が登場。明久達を険しい目つきで睥睨し、声高に告げる。

 

清水「同性愛を馬鹿にしないで下さいっ!」

明久(ああ、また変な人が増えたよっ!?)

 

こちらはこちらでどんどん収拾がつかなくなってきたが、優子達はお構い無しに私刑を続ける。

というか、いつの間にか優子と飛鳥のポジションが入れ替わっている。

 

美波「み、美春?なんでここに?」

清水「お姉さま!美春はお姉さまに遭いたくて、Dクラスをこっそり抜け出してきちゃいましたっ!」

 

美波の姿を確認した途端、清水はルパンダイブの体勢で勢いよく飛びつく。

しかし美波は邪な気配をすぐさま察知し、近くにいた須川の後ろに回り込む。

 

結果、清水と須川が抱き合う形に。

 

美波「須川バリアー」

清水「け、汚らわしい!腐った豚にも劣る抱き心地ですっ!」

 

盾にされた挙句に腐った豚以下の烙印を押された須川は涙を堪えるように上を向いている。

これには流石に同情を禁じ得ない。

 

清水「お姉さまは酷いです……。美春はこんなにもお姉さまを愛しているのに、こんな豚野郎を掴ませるなんてあんまりです……」

美波「ちょっと美春!こんなところで愛してるとか言わないでよ!アキに勘違いされちゃうでしょ!?」

 

部外者まで乱入し、そろそろいつもの生徒指導教師が怒鳴り込んでくるのではないかいうときに、

 

「君達、少し静かにしてくれないか?」

 

部屋中に凛とした声が響き渡る。

声の主は学園次席にして蒼介が不在の間、Aクラスのまとめ役を任されているインテリ眼鏡、久保 利光のものだった。

 

明久「あ、ごめん久保君」

久保「吉井君か、とにかく気をつけてくれ。まったく、姫路さんといい島田さんといい、Fクラスには危険人物が多くて困る。……それから、」

 

明久に注意したあと、久保は優子達の方にも非難するような目を向ける。

 

久保「木下さん、橘さん。いったい何があったのかはしらないが流石に悪ふざけが過ぎないかい?代表代理、生徒会副会長という自分達の立場をよく考えて行動してくれ」

優子「ご、ごめんなさい久保君……」

飛鳥「少し思慮が足らなかったわ……」

 

有無を言わさぬ眼差しで注意を受けた二人はばつが悪そうな表情で和真を解放する。

地獄から解放された和真だが未だにどうにか肩で息をしている状態であった。

 

和真「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ……はぁあああ……

助かったぜ久保、今度流しそうめん奢ってやる」

久保「気持ちだけ受け取っておくよ」

 

クールな対応を崩さず和真の微妙に嬉しくない誘いに丁重に断りを入れた後、再び明久達に向き直る。

 

久保「それと、同性愛者を馬鹿にする発言はどうかと思う。彼らは別に異常者ではなく、個人的嗜好が世間一般と少し食い違っているだけの普通の人達なのだがら」

明久「え?あ、うん。そうだね」

 

何故だかわからないがまるで実体験のような重みが感じられる久保の台詞。

和真にはひとつの可能性がよぎるが、まだ確定材料が少ないと頭から振り払う。

 

呼吸が完全に落ち着いてきた和真に優子と飛鳥は申し訳なさそうに声をかける。

 

優子「和真、その、ゴメンなさい……。ちょっと調子に乗りすぎちゃった」

飛鳥「されるがままになってる和真は滅多に無いから、つい……」

和真「終わったことだし大して気にしてねぇよ。この借りは合宿中にしっかり返させてもらうから、お前らもあまり気にすんなよー」

優子「しっかり根に持ってるじゃない!?」

飛鳥「そんな不吉なこと言われたら気にするに決まってるでしょう……」

 

とてもとても爽やかな笑顔で報復宣言をした和真に、二人はばつが悪そうな表情から一転して呆れるような表情になる。

 

優子「だいたいアンタとアタシ達じゃ腕力に差があるんだから、振り払おうと思えばできたでしょう?どうして抵抗しなかったのよ?」

和真「お前ら二人はボンクラがつくほど真面目だからな、どんな事情があろうと覗きなんてやろうとした日にゃ、烈火の如く怒ることは用意に想像できる」

飛鳥「うん、とりあえず『ボンクラ真面目』なんて不名誉な称号初耳なのだけれど」

和真「お前らには怒るに値する理由があるからな。みすみす捕まる気はもちろん無かったが、もし捕まったら捕まったでお前らが何してこようと甘んじて受けるつもりだっただけだ」

優子「アンタって相変わらず、人の神経を嬉々として逆撫でする割には意外と義理固いわね……」

 

それならもうちょっと普段自重して欲しいという、叶いそうもない願望を頭から追い出しつつ優子はため息をつく。

 

優子「何か事情があることぐらいわかってるわよ。去年アタシがしっかり処世術を教え込んだんだから何の考えもなく覗きなんてするはずがないし、そもそもその手の本すららくに直視できないアンタが覗きなんてできるとは思えな-」

和真「ちょっと待て優子、俺がエロ本すら直視できないことヲ何故オマエガ知ッテイル?」

優子「ひっ」

 

さらりと爆弾発言をした優子に和真がストップをかける。

無表情ではあるが、動揺を隠しきれないかのように後半片言になっているのがやけに怖く、優子は思わず小さく悲鳴を上げる。

さらに和真はもうひとつ気がかりなことを思い出したのか、やけに威圧感のある無表情のまま飛鳥の方に首だけ向き直る。

 

和真「飛鳥もさ、何で俺が脇の下くすぐられるのに弱イッテ知ッテルンダ?」

飛鳥「えっ…と。その……」

和真「ソノ?」

 

下手にごまかせば命は無い、と思わせるような和真のいまだかつてない威圧感に耐えられなくなったのか、二人は本来黙秘しなければならない犯人の情報をリークする。

 

優子「アタシは、その、アンタのお父さんが……」

飛鳥「私も、守那(カミナ)さんに聞かされたわ……」

和真「………………………………………………そうか」

 

二人から元凶を聞き出した和真は瞑想するように目を閉じた。脳内に実の父のバカ面が克明に浮かぶ。

 

 

 

和真「………………やっぱりあのクソ親父か」

 

優子と飛鳥は目を閉じたまま沸々と怒りのボルテージを上昇させている和真を黙ってみてることしかできなかった。

正体不明の圧迫感が和真を中心に広がっていき、優子達は心なしか息苦しく感じ始める。

向こうで明久達がまた騒ぎを起こして鉄人が襲来して来ているようだが、優子達にはそちらに意識を割く余裕など欠片も無かった。 

 

いつ爆発するのだろうかと、まるで不発弾処理現場にいるかのように戦々恐々していた優子達だったが、ふと和真から発せられる圧迫感が一瞬で雲散霧消し、ようやく目を開けた和真は優子達に向けて何故か慈愛に満ちた表情をしていた。

 

正直ぶちギレた顔よりも遥かに怖い。

 

優子「か、和真……?」

和真「さっき合宿中に借りを返すっていったよな?やっぱあれ無しにしてくれ」

飛鳥「えぇ、と……いったいどうして?」

和真「お前らには今、十分すぎるほど返して貰ったからな」

 

そう言って優子達に微笑んだ後、和真は教科書を広げて自習を始めた。

これ以上この話題に触れれば取り返しのつかないことになりかねないと判断した二人は、まるで何事も無かったかのように自習を再会した。

 

このとき優子と飛鳥は「読心術でも使えたらよかったのに」と思っていたようだが、二人が読心術を使えなくて本当によかった。

 

 

 

 




和真君、弄られる。
やっぱ二次創作とは言えバカテスの主人公を名乗るなら一度は弄られないとね。

本文でも述べた通り、雄二ですら舌を巻いた和真君の世渡りの上手さは優子さんが下地を作ったようです。


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覗き決行!

綾倉「0.5巻&オリジナル番外編を纏めた【バカとテストとスポンサー~愉快な彼等のバカバカしくも素晴らしき日常~】を新規投稿しました。せっかくなのでそっちも見てくれると嬉しいです」

和真「ここぞとばかりに宣伝始めたのは良いけどよ、なんでわざわざ分割したんだよ?」

綾倉「原作は基本的に一人称視点でしょう?」

和真「?そうだな」

綾倉「作者が一人称新規でも書きたくなったそうです。ほら、こっちだと三人称視点でしょう?」

和真「相変わらず行き当たりばったりなことで……」




そんなこんなで波瀾万丈な勉強時間が終わり、夕食を済ませていよいよ入浴の時間。その頃には和真もいつものコンディションに戻っており、明久達と割り当てられた部屋で顔を付き合わせて意見を交換していた。

 

明久「僕は工藤さんが犯人だと思うんだけど」

和真「愛子が?あいつは確かに自由奔放な奴だが、やって良いことと悪いことの区別はつく奴だと思うぞ?」

雄二「しかしあれだけの録音技術を持つ奴が早々いるとは思えねぇ。警戒するに越したことはない」

 

正規メンバーではないとは言え『アクティブ』の一員である愛子を疑うことに難色を示すが、雄二達の言い分も一理あるので一先ず納得する。

 

明久「それじゃ、工藤さんを一気に取り押さえる?」

ムッツリーニ「……それはやめた方がいい」

明久「やめた方がいいって、何か問題でもあるの?」

ムッツリーニ「……チャンスは一度きり。失敗したら犯人は見つからない」

 

本人の理解力の乏しさとムッツリーニの言葉足らずさが噛み合い、いつものように明久が混乱し始めたので、雄二はアイコンタクトで和真に説明を促す。

 

和真「また俺か……明久、仮にお前が覗きの犯人だとする。もしお前の目の前で自分を捕まえようとする連中が動いているとしたら、お前はどうする?」

明久「ああ、そうか。証拠を隠滅するとか、自分を探さないように更に脅迫するとか、そういったことを考えるね」

和真「そういうことだ」

 

和真達の行動の真意は絶対に真犯人に伝わってはいけない。相手は明久達を抹殺する武器を所持しているのだから、大した確証もない相手を強引に捕らえるのはリスキー過ぎる。

 

明久「けど、あんなに怪しいのに手が出せないなんて……」

秀吉「例の火傷の痕を確認できたら良いのじゃが……」

明久「いっそ怒られるのを承知でスカート捲りでもしてみる?」

ムッツリーニ「……ヤツは、スパッツを穿いている……!」

明久「げ。そういえばそうだった」

雄二「今更言うのもなんだが和真、お前の知り合いの女子に頼んで調べて貰えないか?」

和真「うちの学校は頭のネジが外れた奴やゴシップ好きが多いから、入浴中に女子の尻を調べさせたりしたら、そいつにレズ疑惑がかけられる恐れがあるだろ?そんな訳で却下だ」

 

その場の誰一人否定できない和真の危惧に流石の雄二も押し黙る。明久も同性愛疑惑をかけられたことがあるし、ただでさえ同性愛者が二人(一人はまだ疑惑だが)もいるので、十分有り得る話だ。

 

ムッツリーニ「……確認するには女子風呂を覗くしかない」

明久「けど、どうしようか?何か作戦を練らないと先生達のあの警備を突破するのは難しそうだよ」

秀吉「作戦とは言うが、あの場所はただ広い一本道じゃったからのう。正面突破しかないと思うぞい」

 

女子風呂の前は見晴らしの良い一本道だった。

遮蔽物が全く存在しないような通路を教師に見つからずに抜けるのは不可能だろう。

 

雄二「そうだな。作戦を立てる時間もないし、基本は正面から攻める以外はないな」

 

午前中明久達は清水達と揉めていたし、午後は昨日失った点数の補給の為にテストを受けていた。

急繕いの杜撰な策にすがるよりは、正面から突入する方がマシと雄二は考えたのだろう。

 

雄二「だが、方法がないわけでもない」

明久「え?作戦あるの?」

雄二「作戦なんて立派なもんじゃないがな。要するに、正面突破を成功させたらいいだけだろう?」

明久「いや、それが難しいから困っているんだけど……」

 

相手の戦力は確認されているだけで教師の召喚獣二体と鉄人が一人。こちら側の戦力はAクラス並の点数の雄二と和真、保健体育だけなら教師並のムッツリーニ、操作技術に優れ日本史だけならAクラス並の明久、そして白銀の腕輪が2つ。

教師は点数を補充する時間があまり取れないので、やりようによってはなんとかなりそうな気もする。しかし回を重ねれば他の教師も増員されるだろうし、女子生徒が黙ったままとは思えない。

 

雄二「正面突破しか方法がないなら、それを成功させるだけの戦力を揃えたらいい。質は向こうが上でも、数で上回れば勝気はある」

和真(なるほど……そのついでに保険をかけておくわけか。相変わらず悪知恵の働く奴だ)

明久「えっと、つまり覗き仲間を増やすってことかな?」

雄二「そうだ」

明久「それじゃ、すぐにでも話をしてこないと。もうすぐお風呂の時間になっちゃうよ?」

雄二「安心しろ。夕食時に既に声をかけてある。そろそろ来るはずだ」

 

雄二がそう言うと、狙っていたかのようなタイミングぴったりにノックの音が聞こえてきた。須川を先頭に、Fクラスの男子がぞろぞろと部屋に入ってくる。八人で使うことを想定された部屋であるため、一部のメンバーが入り切らず廊下に残っているものもいた。

 

雄二「よく来てくれた。実は皆に提案がある」

『提案?』

『今度は何だよ。正直疲れて何もやりたくないんだけど』

『早く部屋に戻ってダラダラしてぇな~』

 

全員がダルそうにしている。普段やりなれてない勉強漬けの1日だったため無理もないが、ざわめく皆を見ても雄二は焦って話を切り出す真似はせず、静かになるのを待ってから続きを口にする。

 

雄二「……皆、女子風呂の覗きに興味はないか?」

『『『詳しく聞かせろ』』』

明久(僕はこのクラスが大好きです)

和真(粗末に扱ったり使い捨てにしても全く心が痛まないあたりが特に最高だな)

雄二「昨夜俺たちは女子風呂の覗きに向かったんだが、そこで卑劣にも待ち伏せしていた教師陣の妨害を受けたんだ」

『ふむ、それで?』

 

全員がなんの疑いもツッコミもなく、授業中の1億倍くらいの真剣さで雄二の話に真剣に耳を傾けている。

 

雄二「そこで、風呂の時間になったら女子風呂警備部隊の排除に協力してもらいたい。報酬はその後に得られる理想卿(アガルタ)の光景だ。どうだ?」

『『『乗った!』』』

 

雄二が正直に『脅迫犯を見つけたいから協力してくれ』と言わなかったのは正しい判断だろう。単純に覗き目的と言った方が説明が楽だし協力も得やすい。

 

雄二「ムッツリーニ、今の時間は?」

ムッツリーニ「………二〇一〇時」

 

入浴時間は前半組が二〇〇〇時からなので、今から行けば脱衣を終えて丁度良いタイミングになっているだろう。

最底辺とは言えクラスのほぼ全員が一丸となれば突破できる可能性は十分にある。

向こうが戦力を増員しなければの話だが。

 

 

雄二「今から隊を五つに分けるぞ。A班は俺に、B班は明久、C班は秀吉、D班はムッツリーニにそれぞれ従ってくれ。和真は明久の班に入れ!」

『『『了解っ!』』』

和真(俺だけ一隊員かい。まあ、指揮とか正直面倒だから別に良いけどよ)

雄二「いいか、俺たちの目的は一つ!理想卿への到達だ!途中に何があろうとも、己が神気を四肢に込め、目的地まで突き進め!神魔必滅・見敵必殺!ここが我らが行く末の分水嶺と思え!」

『『『おおおおっっ!』』』

雄二「全員気合を入れろ!Fクラス、出陣でるぞ!」

『『『おっしゃぁぁー!』』』

 

Fクラスの心が一つになっているなか、和真はあることを考えていた。

 

和真(女子風呂を盗撮している真犯人は何故か女子、高い盗撮技術を持っている、この二点から考えると……十中八九犯人は清水だな。だがまぁ、万が一のことがある。それに、もし犯人があいつなら覗きを進めていけば接触してくるだろうな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

布施「西村先生、流石に今日は彼らも現れないのでは?昨日あれほど指導したのですから」

鉄人「布施先生、彼らを侮ってはいけません。彼らは生粋のバカです。あの程度で懲りるようであれば今頃は模範的な生徒になっているはずですから。それに、気がかりなのは柊です。世渡りのうまいあいつは本来ならこの手のことには参加しないはず」

布施「……確かにそうかもしれませんね。彼が参加している以上、あちら側にも譲れないものがあると…」

 

ドドドドドドドド!!!

 

『おおおっ!障害は排除だーっ!』

『邪魔するヤツは誰であれブチ殺せーっ!』

『サーチ&デェース!』

 

布施「……そう言ってる間に変態が編隊を組んでやってきましたね」

鉄人「まさか懲りるどころか数を増やしてくるとは。これだからあの連中は……!布施先生、警備部隊全員に連絡を!一人として通してはいけません!私は定位置につきます!」

布施「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須川「吉井!木下のC班が布施と接触したぞ!」

明久「オーケー須川君、秀吉たちがやり合っている間に一気に駆け抜けるよ!全員遅れないようにね!」

和真「よし、俺も加勢に…」

明久「行っちゃ駄目だよ!?和真は僕達の生命線なんだから!」

和真「冗談だ」

 

明久達B班は一気に階段を駆け下りた。そのまま勢いを殺さずに廊下を疾走する。布施先生は慌てて追いかけてきたが、ある程度走ると悔しそうに顔を歪ませながらも足を止めた。

 

明久「あれ?諦めたのかな?まだ追ってくると思ったんだけど」

和真「諦めたってよりは《干渉》を嫌ったんじゃねぇの?」

 

《干渉》の意味をわかってない明久だったが、説明している暇は無いので先送りにする和真。

 

和真「秀吉の部隊が布施先生を取り囲んだか。戦況は今のところは上々だな」

明久「そうだね。このままなら無事に辿り着けそうだね」

 

勿論そううまくいかないのが人生だ。

廊下を曲がった明久達に飛び込んできた光景は、

 

清水「そこまでです、薄汚い豚ども!この先は男子禁制の場所!おとなしく引き返しなさい!」

明久「し、清水さん!あと、その他女子多数!?」

和真「まあ予想通りだが、よりによってこいつか……」

 

広い廊下に展開された、清水率いる女子多数による召喚獣部隊。

 

須川「吉井、圧倒的にこちらが不利だ……!」

明久「そうだね。だけど残念だったね、この程度の相手では障害にもならないよ」

 

こちらの戦力はFクラス一分隊、対して向こうは少なく見積もっても2クラス分の女子、戦力差は一目瞭然だが、明久はFクラスの最大戦力を保持しているため余裕の表情をしている。

 

明久「さあ、出番だよ和真!」

和真「却下」

明久「却下!?」

 

最大戦力のやる気の無い返答に、明久は先程までの余裕を全て失い、気だるげな表情を浮かべた和真に詰め寄る。

 

明久「なにそのやる気の無い表情!?和真、いったいどうしたのさ!?」

和真「どうしたもこうしたもあるか!さっき布施センセをスルーしておいて、闘う相手は数集めただけの烏合の衆だぁ!?モチベーション保てるかこんなもん!」

明久「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうがこの戦闘狂がァァァ!?」

清水「おのれ、随分と言いたい放題言ってくれますね柊 和真……!」

 

プライドが高く男性蔑視の強い清水は和真の明らかにこちら側を舐めている発言に憤るが、清水以外の女子は和真の性格(バトルジャンキー気質)を理解しているので苦笑するのみだ。

 

和真(それに清水がここにいる以上、こいつをぶちのめした時点で今日の覗きが徒労に終わる可能性がかなり高くなるしな)

 

和真は清水を真犯人だと予想しているので、ここで清水を粉砕する気がどうしても起きなかった。とはいえ、確かに明久の言う通り闘わないのは流石にアレなので、とりあえず参加している女子を見回しし、何人か点数の高い相手を見繕う。

 

和真「試獣召喚(サモン)!

岩下、菊入、横田、森!かかって来やがれ!」

岩下「行くわよ柊君!」

菊入「負けないよ柊君!」

『今日勉強教えてもらっておいてなんだけど……』

『それとこれとは話が別だからね!』

和真「その意気や良し。なんだよ、思ったより楽しめそうだなオイ!」

 

清涼祭のときから和真に好意を持っているBクラスの岩下と菊入にAクラスの女子生徒二人、計四名は隊列を組みながら和真の召喚獣に向かっていく。和真はいつもの不敵な笑みを浮かべつつ迎え撃った。

 

明久「清水さんお願いだ!そこをどいてほしい!」

美春「ダメです!そうやってお姉さまのペッタンコを堪能しようなんて、神が許しても私が許しません!」

明久「違うんだ清水さん!僕の目的は美波のペッタンコじゃないんだ!信じて!」

美春「嘘です!お姉さまのペッタンコに興味がない男子なんているはずがありません!」

明久「本当だよ!ペッタンコは所詮ペッタンコなんだ。今の僕には美波の地平線のようなペッタンコよりも大事な右ひじがねじ切れるように痛いぃぃっ!」

美波「黙って聞いていれば人の事をペッタンコペッタンコと……!」

 

清水との言い争いに夢中になっていた明久は怒り心頭で接近してくる美波に気付かず、その結果いつものように右腕を破壊される。

 

明久「み、美波、今は入浴時間じゃ……?」

美波「忘れたの?ウチと瑞希はFクラスだから後半組なのよ。……もっとも、前半組のクラスからも参加している人がいるみたいだけどね」

 

美波が指差した廊下の奥に明久が目をやると、手を振る女の子の姿があった。

 

愛子「やっほー、吉井君。何を見に来たのかな?ボクを覗きに来てくれたのなら嬉しいんだけど♪」

明久「工藤さん!?どうしてここに!?」

 

犯人を愛子だと疑っているので、明久は女子風呂を覗いても確認をとれなくなったことに狼狽する。ちなみにこのとき雄二は明久達のすぐそばで翔子に捕まってお仕置きされていた。

 

愛子「あ。さてはボクからこれを取り戻そうとしているのかな?」

 

学習室で猛威を奮った小型録音機を取り出して微笑みかける愛子。明久はますます愛子への疑いを強めていく。

 

ムッツリーニ「………チャンスは一度きり」

 

明久が先走って踏み切ろうとしたのをムッツリーニが止める。明久は頭を冷静にし、確信を得るために愛子に質問する。

 

明久「工藤さん。質問なんだけど、どうしてキミは録音機なんて物を持っているの?」

愛子「勿論、先生の授業を録音しておいて後から復習する為だよ」

 

これはあながち嘘とは言いきれない。ムッツリーニのような保健体育一点特化に見える愛子だが、総合点でも飛鳥を上回る成績をキープしている。それぐらいのことをしていても別に不思議ではない。 まあ、愛子のことをよく知らない明久にはそこまで頭が回らないのだが。

 

愛子「それより、吉井君たちの目的は?もしかして、脱衣所の盗み撮りとか?」

明久「くっ……!」

 

愛子にがふざけ半分で言うが、明久にとっては冗談では済まない。基本フェミニストであるが流石に怒りを覚える明久に、愛子は近付いて耳打ちする。

 

愛子「じゃ、一つイイコト教えてあげるよ……まだ脱衣所には見つかっていないカメラが一台残っているよ?」

明久「……工藤さん、キミは!?」

愛子「ボクが仕掛けたわけじゃないけど、偶然見つけちゃってね」

明久(偶然見つけた?白々しい!僕らの状況を知りながらからかって遊ぶなんて、どこまで悪趣味なんだ!)

愛子「さて、おしゃべりはここまで。そろそろ始めようか、ムッツリーニ君?」

ムッツリーニ「……わかっている」

 

愛子だけならおそらく問題なく倒せるだろう。しかしその後には昨晩敗北した保健体育の大島先生がいる。そのことを理解しているムッツリーニの声は苦々しい。

 

須川「気にするな!女子の召喚獣なんかじゃ俺たちは止められない!」

明久「あっ!待つんだ須川君!」

 

明久や教師の召喚獣とは違い、一般生徒の召喚獣は人に触れられない。そのため無視して目的地に向かおうとする須川の判断は正しい。まあ、

 

鉄人「教育的指導っ!」

須川「ふぐぅっ!」

 

鉄人が目的地を死守していなければの話だが。

 

『て、鉄人だと!?』

『ヤツを生身で突破しないといけないのか!?』

『バカを言うな!そんなの無理に決まっているだろ!?』

 

Fクラスの戦意が急速に消失していく。男子生徒、特にFクラスの彼等には鉄人の人智を越えた鬼のような強さが身に染みているのだ、無理もない。

 

鉄人「吉井。やはりキサマは危険人物だったな。今日は特に念入りに指導してやろう。」

 

須川の亡骸を床に捨て、鉄人は明久のもとへ歩を進めてくる。周囲は大勢の女子、これはもう将棋で言う詰みというやつだろう。

明久は部隊の全滅を覚悟した。が、

 

 

 

 

和真「相変わらず世話の焼ける部隊長だな」

 

希望はまだ潰えていなかった。

 

明久「か、和真!?女子の召喚獣部隊と闘っていたはずじゃ!?」

和真「あの4人を倒した後、さらに15人ほど葬ったところで流石に力尽きた。人海戦術ってシンプルだけど厄介だな」

 

いつも通りの一騎当千ぶりだったが、流石に和真一人で全滅させるのは無理があったらしい。明久と鉄人の間に入った和真は周りを見渡し、ここから挽回するのは不可能だと判断するも、目の前には自身の戦闘欲求を満たしてくれるであろう獲物が一人。

和真のすることは決まった。

 

和真「ここは俺にに任せて、お前らは邪魔だから脇にどいてろ」

明久「えっ!?任せろって和真…」

和真「西村センセとは……俺が闘う!」

「「「なっ!?」」」

鉄人「ほう……良い度胸だ」

 

明久達が驚くなか、鉄人はニヤリと笑い、目の前の狂喜を浮かべた和真を見据える。

 

『正気か柊!あの化け物に勝てるわけが…』

『だ、だが……柊ならあるいは……』

 

鉄人「面白い。もしキサマが勝てばこいつら共々今日の騒動は不問にしてやろう」

和真「随分と気前が良いじゃねぇか」

鉄人「なに、前々からお前には指導してやりたかったんだ。だが困ったことに、このバカどもとは違ってお前は要領が良いから、なかなかその機会が巡ってこなくてな!」

 

拳を構えた鉄人の全身から迸るような闘気に、明久達が思わず身震いするなか、和真は一切気圧されず構えを作る。

 

和真「西村センセ、意外かもしれないが俺は喧嘩や暴力があまり好きじゃないんだ。なぜかって?手加減を間違えると取り返しのつかないことになるからだ。だが、アンタとは一度闘り合ってみたかった 

 

 

 

アンタに手加減は必要無いからな!」

 

 




【ミニコント】
テーマ:人生経験  

和真「なあ優子」 
 
優子「何よ?」

和真「豊かな人生経験は人格に持たせると思うんだが」

優子「へぇ……興味深い話ね」

ザーザー

和真「と言うわけで今日の帰り道は雨だが、傘をささずにみじめな気持ちを味わってみよう」

優子「アタシもやるの!?」

和真「やる」

ザーザー

和真「……」トボトボ

優子「……」トボトボ

和真「お、いいぞ優子。良い感じに目が死んできているぞ」

優子(本当にみじめだ……)




次回、頂上決戦!鉄人VS和真



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頂上決戦!西村宗一VS柊和真

れ、煉獄さぁぁあああん!(号泣)

最近私の中でジャンプの『鬼滅の刃』が半端なく熱いです。上弦の鬼マジでヤバい……。


「「うぉぉぉおおおおお!!」」

 

ドギャァァァアアァァァン!!!

 

和真と鉄人の拳が真っ正面からぶつかり合い、生じた轟音によって周りにいる生徒は勿論、建物全体までもが震え上がった。

どちらも人間とは思えないほどの膂力だが、それでも腕力に関しては鉄人に分がある。それに加え、和真が178㎝/75㎏に対し鉄人は189㎝/97kgと、流石にサイズに差がありすぎたため、最初の激突は鉄人が制した。後ろ方向に吹っ飛ばされるも、和真は持ち前の運動神経を駆使して難なく着地する。真っ向から打ち破られたものの、痛そうに拳をさすっているところ以外にダメージらしいダメージは負っていない。

 

和真「いってぇ……。わかっちゃいたがなんつう馬鹿力だよ……。力負けしたのなんざこの前のクソ親父との喧嘩以来だぜ」

鉄人「割と最近じゃないか。そして俺とて思ってもみなかったぞ。教え子相手に本気でかからねば敗北しかねないと思う日が来るとはな!」

 

鉄人はその巨体からは想像もつかないようなスピードで和真に詰め寄り、必殺の拳を突き出す。パワーもスピードも明久や雄二を相手にしているときとはまるで比べ物にならないが、和真はそれに臆することなく頭を回転させる。

 

和真(もう一度拳で応戦?先程の二の舞だ。真っ正面から受け止める?論外。体格差的に考えて、一発でもまともに入ったら勝負は決まると見て良い。となると、)

 

 

 

バシィィィッ!

 

鉄人「む!」

和真(側面からぶっ叩いて捌くしかねぇな!)

 

向かっていくる攻撃にタイミングを合わせ、和真は鉄人の拳を手刀ではたき落とした。腕力で勝ってようが側面から衝撃を加えられては、直線的な攻撃は意外と脆いのだ。

 

鉄人「ふんっ!」

 

すかさず鉄人が反対の手で追撃する。

 

和真「ハァッ!」

 

バシィィィッ!

 

しかし同じようにはたき落とされる。

 

鉄人「うぉぉぉおおお!」

和真「おらぁぁあああ!」

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドォォォッ!

 

 

鉄人は様々な角度から攻撃を繰り出すものの、和真はそれら全てを捌ききる。相手の猛攻全てに対応し的確に防御する。和真のような並外れた反射神経があってこそ初めて成立する芸当である。

 

鉄人(なるほど、素晴らしい反応速度だ。だが、これならどうだ!)

和真「むっ!?」

 

突如鉄人は和真に向かって不自然なほど大振りの攻撃を繰り出そうとする。和真はそのあまりに隙だらけなその攻撃に気をとられてしまい、視線がその攻撃に集中する。

 

鉄人(かかったな!)

 

勿論それは視線を誘導するためのフェイク。 

鉄人はすぐさま和真の視界の外から反対側の拳で殴りかかる。和真からは完全に盲点となる一撃だ。

いくら超人的な反射神経を持ってようが、見えなければ反応することもできない。

鉄人の拳はそのまま和真の体に突き刺さり、威力に耐えきれず和真はその場に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシィッ!

 

鉄人「なっ!?」

 

そう、本来ならそうなっているはずだった。しかし現実には、和真が死角からの鉄人の腕を掴むという、有り得ない光景が広がっていた。

 

和真「ここだァッ!」

鉄人「(ドゴォッ)ぐっ!?」

 

会心の攻撃を予想外にも防がれ、流石に鉄人にも隙ができた瞬間、和真はすかさず反撃の蹴りを鉄人に叩き込む。先程の和真ほどではないが、鉄人の巨体が後方に吹き飛んだ。

 

和真「西村センセともあろう者がまんまと油断してくれたな」

鉄人「柊お前……死角からの俺の攻撃をどうやって察知した?俺の拳は見えなかったはずだ」

和真「ああ見えちゃいねぇよ。ネタばらしをすれば、ただの勘だ。だが極限までに集中したときの俺の勘に、察知できない攻撃は無ぇ。奇策や小細工で撃ち取れるほど、俺は甘くねぇんだよ!」

 

和真には並外れた反射神経の他にもう一つ、天性の直感が備わっている。決して理屈では説明できないが、和真は自分の身に降りかかるありとあらゆる危険を即座に察知、対処することができる。そのため、和真に暗殺や謀殺の類いは一切通用しない。それと同様に、いかに鉄人がフェイントを織り混ぜたところで和真に拳が届くことは無いのである。

 

和真「さあ来いよ西村センセ!この程度で終わるアンタじゃねぇはずだ!」

鉄人「ふっ、面白い……ならば余計な小細工など必要ない、真っ向からいかせてもらおう!」

 

再び和真に接近し鍛え上げられた拳で再び猛攻を仕掛ける鉄人と、それら全てを紙一重で防ぎきる和真。 

そのまま二人応酬が続くが、鉄人の攻撃が一度も当たらないのに対し、隙が生じるたびに和真の拳が鉄人に命中していく。

 

『すげぇ……。あの鉄人が押されているだと……』

『柊ってあそこまで強かったのか!』

明久「すごいよ和真!そのまま憎き鉄人をぶちのめすんだ!」

 

一見和真有利な状況に明久を含むFクラス男子達が活気を取り戻すが、和真の内心は正直穏やかではなかった。

 

和真(クソが……。何発か当てられることは当てられるが所詮防御に集中した状態での半端な攻撃、そこらの三下ならともかくこの耐久オバケはこんなもん何万発いれても倒せねぇよな。しかし防御への集中を疎かにすれば攻撃を喰らっちまってゲームオーバーだ。かといってこのままじゃ俺の体力が先に尽きるよなぁ……)

 

どれだけ凄い反射神経だろうが第六感じみた直感を持っていようが、和真も人の子である以上体力に限界はある。そして両者の体力を比較すると、先にこちら側がガス欠してしまうことが和真にはわかっていた。 

状況は一見和真が優勢に見えるが実際はその逆。お互い決定打が無く膠着状態に入っていて、その状態が続けば敗北するという、和真が追い詰められているのが現状だ。

すると、ロクな打開策が思い付かずに焦る和真の心情を察したのか、鉄人が猛攻を止めて和真を見据え、ある提案をする。

 

鉄人「なあ柊、このまま拮抗した状態でダラダラと時間を浪費するのは、お互いにとってもメリットがないと思わないか?」

和真「まあ、そっスね」

鉄人「そこで、一つ賭けをしないか?」

 

鉄人の提案に和真は眉を潜める。

このままこちらのスタミナが切れるのを待っていればノーリスクで勝つことが出来るなど、鉄人はすでに理解しているはずだ。それを投げ出してまでもしなければならない賭けとはいったいなんなんだ?

 

和真「……なんの賭けっすか?」

鉄人「今から俺がお前の渾身の一撃を回避も防御もせずに受け止める。もし俺が耐えきれたら、お前も俺の攻撃を避けるな」

 

突然の提案に周りの生徒がざわつく。

彼等の目には和真が鉄人を追い詰めているように見えているため、こんな提案には乗るメリットがまるで無いように思えるのだから無理はない。

 

『ふざけんじゃねぇーぞ鉄人』

『追い詰められたからって自分に有利な賭け持ち出しやがって、それでも教師か!』

明久「そうだよ和真!こんな不公平な賭けに乗る必要は全く無-」

和真「受けようじゃねぇか」

明久「……和真!?どうしてさ!?」

 

わけがわからないといった様子の明久の方に向き直り、和真が呆れたような表情で説明する。

 

和真「あのなぁ……。相手はあの西村センセだぞ?あの程度の攻撃どんだけ喰らわせても意味ねぇんだよ」

『『『確かに』』』

明久「言われてみれば、そうかもしれない……」

 

Fクラス男子一同の心が一つになる。

 

和真「助走つけてもいいんすよね?」

鉄人「隙にしろ」

 

和真は腕組みをして仁王立ちした鉄人に背を向け、ある程度の距離を取ってから再び向き合う。

 

和真「ああ、一応言っておきます」

鉄人「なんだ?」

和真「条件無視してカウンター仕掛てきても、俺は別に恨まねっすよ?」

 

和真の挑発的な言葉を聞いた鉄人は一瞬間を置いて、それから口を大きく開けて豪快に笑った。

 

鉄人「バカを言うな柊。いいか?」

 

和真に指を突き付けて、鉄人ははっきりと告げる。

 

鉄人「俺達教師は、お前たちに模範を示すべき存在だ。それなのに、向かってくる生徒を正面から受け止めもせずに、何を教えられるというんだ?」

 

そう言われた明久を含むFクラス一同は少し言葉を失ったようだった。

この教師が常日頃から体罰を行っているにもかかわらず、なぜ皆が教育委員会に訴えたりしないのかが明久達には少しだけ理解できた。そして、期待していた返答を聞けた和真はいつもの不敵な笑みを浮かべ、鉄人に向けて全力疾走した。

 

和真「そうか……。アンタが俺の担任で本当に良かったぜ!なら俺も遠慮はしねぇ!

 

この一撃に、俺の全てを賭ける!」

鉄人「来るが良い、柊!」

和真「西村センセ!アンタの土手っ腹抉ってやるぜ!走れ稲妻!」

 

射程距離に入った和真は目の前の敵を粉砕すべく、右足を振り上げ、シュート態勢に入る。鉄人はそれを見ても回避も防御もせず、腕を組みただただ仁王立ちしたままでいる。

 

和真「ライトニングタイガァァァアアア!!!」

 

ズガァァァァァァアアァァァン!!!

 

鉄人「ガハァッ!?」

 

コンクリート程度なら容易くぶち破れるような恐ろしい蹴りが鉄人に突き刺さる。

鉄人の口から胃液のようなものが飛び散る。

人を蹴ったときに出る音とは思えない稲妻のような轟音が、最初の衝突と同じように廊下全体に拡散する。

 

和真(手応えありだ!流石の西村センセでも-)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

和真(!?…………。……クソッ……)

 

天性の直感が和真の脳裏にいち早く危険信号を放つ。

 

瞬時に和真はこの後どうなるかを理解する。

 

理解したところで、和真には最早どうすることもできない。避けることは、許されない。

 

 

 

 

 

 

ガシィッ

 

西村「……うぉおおおおおおおおおお!!!」

和真(……ここまで、だな……)

 

ダァァァァァァアアアアアアン!

 

和真「かっ……は……っ!?」

 

鉄人は和真の渾身の蹴りを耐えきり、返す刀で和真の腕を掴み、完璧な一本背負いで勝負を決めた。受け身を取ったため怪我は見当たらないが、体内の空気を全て失ったかのように苦しむ和真。流石に相当なダメージを負ったのか、鉄人はふらつきながらも毅然とした表情を作り、倒れたまま起き上がれないでいる和真を真っ直ぐに見据え、静かに言い放った。

 

鉄人「……俺の………………勝ちだ……っ!」

 

 

 

 

 




蒼介「接戦だったが、惜しくも敗れたなカズマ」

綾倉「流石の和真君でも公式チート相手では厳しかったようですね」

和真「まあなそうだな。悔しいが、現段階の俺では勝つことは不可能と言って良い。負けないだけならどうとでもなるんだがな」 

徹「勝てはしないけど負けないことはできる?どういうことだい?」

和真「スピードも身軽さも俺の方が上だから、全力で逃走すれば西村センセでは追いつけない。少々気に入らねぇ戦法だがな」

綾倉「それにしても、和真君は高スペックの割に意外と黒星が多いですね」

蒼介「さらっと流しているが召喚獣もまた戦死したな」

和真「密かに気にしてることを……」



【ミニコント】
テーマ:落とし穴

明久「な、何でこんなところに落とし穴が!?というか深いな!?3メートルくらいあるよ!」

和真「(ヒョコ)俺が明久のために掘った落とし穴だ」

明久「和真!?何でこんなことを!?」

和真「明久、穴があったら入りたいってことわざはな、身を隠したいほど恥ずかしいって意味なんだ」

明久「へぇーそうなんだ。……だから!?」

和真「明久はほら、恥の多い人生だろ?」

明久「何て失礼なっ!?」

















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最強(覗き)チームを結成せよ!

強化合宿三日目の日誌を書きなさい。

土屋 康太の日誌
『前略。(坂本雄二に続く)』

蒼介「今度はリレー形式か。次から次へとよく思いつくものだな」


坂本 雄二の日誌
『そして翔子が俺の前で浴衣の帯を緩めようとした。俺は慌ててその手を押さえつけ、思い止るように説得した。ところが、隣では島田が明久に迫っていて妙な雰囲気になっており(吉井明久に続く)』
 
蒼介「お前達に一体何があったのだ!?土屋が略した部分が気になってしょうがないんだが!?」


吉井 明久の日誌
『後略』

蒼介「ここでその引きはないだろう……」


柊 和真の日誌
『続きは君の目で確かめよう!』

蒼介「ゲームの攻略本か」




翌朝、和真は一番早くに起きて自己鍛練に精を出していた。別に昨日の敗北を引き摺っているわけではなく、日課のランニングの代わりにしているだけである。用意周到なことにわざわざジャージも数着持ってきている。

 

明久「夢オチ!?がっかりだよ畜生!」

和真「なんだ起きて早々喧しい」

 

一通りトレーニングを済ませて一息ついたところで、いつのまにか起きた明久が意味不明な叫び声を上げる。

 

明久「あ、和真おはよう。それより聞いてよ!折角秀吉が寝ボケて僕の布団に入り込んできて目の前にその可愛い寝顔をみせてくれた上に、あとちょっとで事故を装ってキスできると思ったのに……まさかの夢オチ!

木下さんと仲が良い和真なら、僕の悲痛な気持ちをわかってくれるよね!?」

和真「お前が俺をどう見ているかについては今度じっくり聞き出すとして……似たような状況ならお前の後ろにあるぞ」

明久「似たような状況?」

 

和真の少々意味不明な言葉に首を捻りながらも、とりあえず後ろを向いてみると……。

 

雄二「ぐう……」

明久「………最悪だ」

和真「似たようなシチュエーションだろ?違うのはキャストだけだ」

明久「一番違っちゃいけない部分だよそこは!?」

 

秀吉とは似ても似つかぬむさ苦しい男が明久の布団に入り込んでいた。明久が吐き気を催していることどいざ知らず、雄二は大きく身じろぎをし、口が大きく開いて吐息が洩れる。この光景だけ見ると、何故この男が学年でも屈指の人気を誇る翔子に惚れられているのかまるで理解できないだろう。

 

明久「起きろコラぁっ!タイガーショット!」

雄二「ぐふぁっ!」

和真「毎度騒がしいなお前らは(カチャカチャ……ジャー)」

 

この清々しい朝に反比例した最悪の気分を払拭すべく、雄二を布団から蹴りだす。

特に珍しい光景でもないので、和真は何故か充実しているティーセットを取りだし、紅茶を淹れ始める。上流階級出身の幼馴染み二人の影響かやけに手際が良い。

 

秀吉「んむ?なんじゃ?雄二はまた自分の布団から離れた場所で寝ておったのか」

 

目を擦りながら秀吉が上体を起こす。その隣ではムッツリーニも同じような動きをして意識の覚醒を促している。

 

明久「秀吉、またってどういうこと?」

和真(適度に蒸らして、と)

秀吉「いや、別に大したことではないのじゃが……雄二は寝相が大層悪いようでのう。明け方はワシの布団の中に入ってきておって……やめるのじゃ明久!?花瓶を振りかざしてどうするつもりなのじゃ!?」

明久「殴る!コイツの耳からドス黒い血が流れるまで殴り続ける!」

和真「朝からグロテスクなもん見せようとすんじゃねぇよ……」(暖めておいたミルクピッチャーにミルクを入れて紅茶に注ぐ、と)

 

ガチャッ

 

鉄人「おいお前ら!起床時間だ……ぞ……!」

明久「死ね雄二!死んで詫びるんだ!あるいは法廷に出頭するんだ!」

雄二「なんだ!?朝からいきなり明久がキまっているぞ!?持病か!?」

秀吉「落ち着くのじゃ明久!」

ムッツリーニ「………!(コクコク)」

 

生徒を起こすために部屋に入ってきた鉄人の目に飛び込んできた光景は、あまりにもエキセントリックなものであった。

 

和真「あ。おはよっす西村センセ(ズズ…)」

鉄人「あいつらが朝から何をやっているのかも聞きたいところだが……お前はお前で何故あれを放置して優雅にティータイムを堪能しているんだ?」

和真「Fクラスじゃ別に珍しいことでもないでしょ。それより西村センセも一杯どうすか?たまには安らぎも欲しいでしょ?」

鉄人「ありがたいが気持ちだけ受け取っておこう……」

 

その後、鉄人の介入でどうにか明久の殺戮衝動を阻止することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

寝起きのの騒動を終えた後の朝食時、メンバーは昨日得た情報を共有する。

 

明久「雄二、そう言えば昨夜妙なことを言われたよ」

雄二「ん?なんだ?」

明久「工藤さんに『脱衣所にまだ見つかってないカメラが一台残っている』って」

雄二「なんだと?」

明久「怪しいよね。そんなことを知っているなんて、やっぱり彼女が犯人じゃないかな?」

和真「だったらバラすメリットは無ぇだろ」

秀吉「それもそうじゃな。わざわざ怪しまれるようなことを言うとは思えん」

 

昨日の件で愛子への疑いを強めた明久だが、和真はその話を聞いて愛子が犯人という可能性を捨てる。

 

和真(もし清水が犯人なら、そのデジカメを回収すれば短絡的なあいつのことだ、強引に奪い返しに来るだろう)

ムッツリーニ「……確認するしかない」

雄二「やっぱりそれしかないか……」

 

話し合ったものの、結局昨日までと同じ方針のまま変化はなかった。

 

雄二「だが、工藤の情報はありがたいぞ」

明久「え?カメラが残っているってことが?」

雄二「ああ。それを工藤しか知らないってことは、そのカメラに女子の着替えが撮影されている可能性が高い。それを手に入れたら入浴していない女子の確認もできるからな」

ムッツリーニ「……隠し場所なら5秒で見つける自信がある」

和真「というか、俺から愛子に頼んで取ってきてもらうってのはどうだ?」

雄二「いや、まだ工藤が犯人だと言う線も捨て切れないからやめてくれ」

和真「…りょーかい」

 

目の前に労せず解決する手段が転がっているのに、明久達の愛子への信頼度の低さが原因で断念。

和真は内心で自分のことを棚に上げて愛子の日頃の行いを詰る。

 

明久「けど、本当にそんなカメラがあるのかも怪しいよ?」

雄二「いや。最初にカメラが脱衣所で見つかった方がおかしいんだ。あんなに盗撮や盗聴に長けている犯人のカメラが素人に見つけられるなんて考えにくい。となると……」

和真「隙を生じぬ二段構え、ってわけか」

雄二「どこの飛天御剣流だ……とにかく、最初に見つかったカメラはカムフラージュだった可能性が高い」

秀吉「用意周到じゃな」

 

あっさりと発見されたことで女子の油断を誘い、本命のカメラで無防備なところを撮影しようという魂胆で間違いないだろう。実に狡猾な手口である。

 

明久「だったらお風呂の時間を避けてカメラを取りにいけば解決ってことだね」

ムッツリーニ「……それは無理」

明久「え?なんで?」

ムッツリーニ「……時間外だと脱衣所は厳重に施錠されている」

和真「教師達も馬鹿じゃねぇってことだな」

 

初日のカメラ発見から二日間にかけての除き騒動が原因で、教師も厳重な警戒態勢を敷いているということだろう。

明久達のやることなすこと全てが裏目に出ているのは日頃の行い故か。

 

雄二「諦めて今までどおりの方法を貫けってことか……」

秀吉「そのようじゃな」

雄二「そこで昨日の反省だ。明久、昨日の敗因はなんだと思う?」

和真「俺が西村センセを突破できなかったからじゃね?」

雄二「流石にそこまで求めてない。というか、あの化け物に生身のままである程度対抗できたお前に俺は若干引いた」

和真「失礼な」

 

そして自分にその攻撃が向いたらと想定して、雄二は背筋がヒヤッとした。

まあ女装ネタでも振らない限り、和真が人に殴りかかることはないのだが。

 

明久「あはは……えっと、向こうが女子の半分を防衛に回してきたことじゃないかな?」

 

教師側が一昨日と同じ戦力であれば用意に勝利できたであろう。ネックであった鉄人も和真がある程度渡り合えることがわかった以上尚更だ。

 

雄二「そうだ。昨日の敗因はAクラスを含め、敵の戦力が大幅に増強されていたことだ。そこで、こちらも更に戦力を増強しようと思う。Fクラスだけではなく他のクラスも味方につけて対抗するんだ」

 

いつものように困難な状況に対抗するべく雄二が元神童の頭脳を駆使して作戦を提案するが、何故か明久が腑に落ちないという表情をしていた。

 

秀吉「む?明久、どうしたのじゃ?」

明久「う~ん。なんか、この作戦がいつものやり方と違う感じがしてなんだか……。ほら、向こうの戦力が大きいからってこっちの戦力を増やすっていうのが、イマイチ僕達らしくないというか……」

和真「そりゃ、保険の意味も兼ねているからな」

明久「へ?保険?確かに日々金欠の僕には願ってもないことだけど……」

雄二「生命保険と勘違いしてないかお前?そうじゃなくて、戦力を増強する以外にも、俺達の保身という狙いがある」

明久「僕らの身を守る?誰から?」

雄二「いいか?今のところは未遂で終わっているから大した問題になっていないが、覗きは立派な犯罪だ。作戦が成功して女子風呂に至ったとしても、例の真犯人が見つからない限り俺たちは処分を受けることになる」

 

もし突破が成功したとしても、真犯人及び犯行の証拠を抑えられない場合明久達の無罪を証明する手立てがない。そうなれば何らかの処分は逃れようもなくなる。

 

雄二「それを避ける為の戦力増強……つまり、メンバーの増員だ」

明久「増員が処分を逃れる手段になるって?」

和真「人数を増やせば特定は難しくなるだろ?向こうだって戦いながらその場にいる全員の顔を覚えるのは厳しいだろうし」

明久「でも、既に僕らは面が割れてるよね? それなら無意味なんじゃないの?」

 

珍しく明久が的を射た意見を言うが、雄二はその答えを待っていたかのような不敵な笑みを浮かべて説明を続ける。

 

雄二「文月学園は世界中から注目を集めている試験校だからな。そんな不祥事があった場合はひた隠しにするかキッチリと一人残らず処分をするかのどちらかしか選べない。中途半端に一部の生徒だけを罰するようなことになれば、ただでさえ叩かれている『クラス間の扱いの差』についてマイナス要因を増やすだけだからな」

 

もし明久達だけを罰する事になったら、『出来の悪いFクラスだけは処分を受けて、他の優秀なクラスは手心を加えている』と言う風に差別してるのではないかと見えてしまう。

世間から注目されている上に四大企業に恨みを抱えている敵の多さを考えれば、学校側はバッシングの元になるような話は避けて隠蔽するに違いない。

 

明久「なるほど。流石は雄二。汚いことを考えさせたら右に出る人はいないね」

和真「よっ!生徒版綾倉センセ!」

雄二「知略に富んでいると言え明久。それから和真なんだそのおぞましい肩書きは」

 

脳内に浮かぶのは清涼祭のときの、綾倉先生が張り巡らせたえげつないトラップの数々。

 

秀吉「ふむ。ならば今日は協力者の確保を主軸に行動するわけじゃな?」

雄二「ああ。幸い合同授業の上に殆ど自習みたいなものだからな。動きは取り易いはずだ」

明久「それじゃ、まずはどこから行く?」

雄二「当然Aクラスからだ。同じ手間なら能力が高い方が良いからな」

秀吉「Aクラスならば昨日の合同授業で交流もあるしのう。話もしやすいじゃろうて」

和真「しかしソウスケが合宿に参加してなくて心底良かったぜ」

明久「えっ?どうして?鳳君がいたら百人力なんじゃない?」

和真「その百人力の強さが向こう側に持ってかれるからだ。あいつは堅物を擬人化させたような奴だし」

雄二「もしそうなっていたら流石に詰んでたな……。あっぶねぇ……」

 

ただでさえ全教科教師レベルの点数に加えて反則的なまでのランクアップ腕輪。教師に金の腕輪がついてないことを考えると下手すれば高橋先生より厄介かもしれない。

 

雄二「それじゃ決まりだな。合同授業の間にAクラスと話をするぞ」

明久「了解。ムッツリーニと和真もそれでいいよね?」

ムッツリーニ「……問題ない」

和真「あっわりぃ、俺参加できねぇ」

明久「えっ!?ど、どうして?」

 

まさかの非協力に狼狽する明久だが、別に和真は意地悪で断ったわけではなく、単に先約があっただけである。

 

和真「昨日飛鳥に勉強教えて欲しいと頼まれててな、全教科」

明久「飛鳥っていうと……橘さん?へぇ~、柔道で凄い結果を残してるのに勤勉だね」

和真「『部活に全力で取り組むことは、勉学を疎かにして良い理由にはならない』ってのがあいつのポリシーだからな。聞いてるか秀吉?」

秀吉「意地悪言わないでほしいのじゃ……」

 

演劇にのめり込むあまり成績を落としFクラスになった秀吉は耳の痛い内容に頭を抱える。Eクラスの面々もこの話をすれば秀吉と同じようなリアクションをするであろう。

 

和真「そのポリシーが優子の耳に入ったらお前が大変なことになると思って事前に箝口令を敷いた俺に何か言うことは-」

秀吉「(ガシッ)お主が姉上と友達で、そしてワシとお主が友達で本当に良かったのじゃ」

和真「お前も割と現金なやつだな……」

 

秀吉は輝く笑顔を浮かべて、和真の手に必要以上に固く握手をする。生きる喜びを噛み締めているような溢れんばかりの笑顔である。 

 

 

明久「あのさ、秀吉。そこまで木下さんが怖いの?」

秀吉「うむ、切実にの。和真と仲良くなってからは多少理不尽さは薄れたのじゃが……」

和真「それでも秀吉がアレな行動をすると容赦なく私刑に処すぐらいには秀吉に厳しいし、そもそも、力の差がありすぎるってのがな」

雄二「以前木下姉の佇まいを間近で見たから相当できる奴ってのは知っているが、実際秀吉とどれだけ差があるんだ?」

和真「ドラゴンボールで例えると、ラディッツとドドリアぐらいの差かな」

秀吉「その例えはあんまりじゃなかろうか!?」

 

ラディッツ……1500

ドドリア……22000

 

悲しすぎる比較に全秀吉が泣いた。

 

雄二「まあ先約があるなら仕方ないな。仲間集めは俺達でなんとかしておくから気にすんな」

和真「あ、待った。Bクラスに行くときは呼びに来い。あいつには大きな強みがあるし、もしクラス全体は協力してくれなくても俺が誘えばあいつは乗ってくるはずだ」 

雄二「Bクラス……あいつか。わかった」

 

和真達は方針を決めると、俺と同じく朝食を再会した。

 

 

 

 

 

 

 




【ミニコント】
テーマ:明久は知っている

明久「勉強に興味が持てないよ~……」

姫路「そうですね……。あっ!勉強を明久君が大好きなRPGだと思ってみるのはどうですか?」

明久「宿題を経験値稼ぎだと思えば頑張れるんじゃないかってこと?……うーん…」

姫路「そうですね♪他にも、雰囲気を出すために教科書を古の魔導書って言い換えてみたり…」 

和真「姫路、それ以上何を言っても無駄だ」 

姫路「ふぇっ!?どうしてですか?」

和真「明久の目を見てみな」

明久「フッ…………」

和真「あれは知ってる者の目だ……現実ってヤツをな!」

姫路「……」


















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優子の葛藤

【ミニコント】
テーマ:ささいな怪我

優子「アンタ膝怪我してるじゃない!?」

和真「ああ、ちょっと擦り剥いただけだ。唾つけときゃ治る」

優子「ダメよ!悪化したらどうするのよ!?今治療するからじっとしてて」

和真「相変わらず心配性だなぁ……」

優子「痛いの痛いの……飛んでいけ……!」

和真「えっ!?まさかの念治療!?」







和真「まあそんなわけで、地方の領主は荘園の寄進先を摂関家から法皇へ乗り換え、この寄進された荘園からの地代が院政の経済基盤となり、寄進先の所有者の名を取って八条院領、長講堂領などと呼ばれるようになったわけだ。

試験の後半に記述問題で出題されたら、今重要だと説明した部分を主軸にしてまとめろよ?」

飛鳥「ええ、わかったわ」

優子「文系科目ならお手の物ね」

 

Aクラスとの合同授業中、和真は飛鳥とついでに優子に勉強を教えていた。文系科目のみならば姫路をも凌駕する和真の教え方は非常にわかりやすくかつ的確で、どうしてそれができて指揮のセンスは全く無いのか疑問が出てくる程であった。

 

和真「つーか徹はどこ行ったんだよ?あいつ文系あんまりできないのによ」

飛鳥(うん、貴方基準でだけどね……)

優子「徹なら佐藤さんに頼まれて物理を教えてると思うわよ。なんでももう少しで400点を越えそうだとか」

和真「流石Aクラス、日々進歩してんなぁ……。ところでお前らは400点越えそうな教科ねぇの?」

優子「この前の英語が点数が388点だったから、あと一息かな」

飛鳥「私はそもそも300点以上ある教科の方が少ないんだけれど……」

 

このことは別に飛鳥の成績が大したことないわけではなく、むしろ学年トップ10にランクインしている飛鳥ですら300点台は難しいということだ。400点台ともなると全国のどの学校に行こうと最優等生として扱われるレベルであり、ましてや500点オーバーなどもはや高学生レベルで取れる点数ではない。そう考えると、全教科500点オーバーの蒼介が代表を務めるAクラス打倒への道はまだまだ険しいようだ。

 

雄二「おい和真、こっちの準備は終わった。急いで指定の場所まで来てくれ」

和真「ん、りょーかい」

 

ある程度勉強が進んだところで雄二から催促が入る。

今からB・Cクラスへ交渉へ行くのだろう。

 

和真「んじゃ一旦席外すぞ。飛鳥、俺が戻るまでに古典の教材を開いとけ。優子もできる範囲で見てやってくれ」

飛鳥「わかったわ」

優子「……あのさ、和真」

 

飛鳥に次の準備を通達して席を立つ和真を呼び止める優子。何故かややバツが悪そうな表情をしている。

 

和真「なんだ?」

優子「アタシも飛鳥もアンタがどういう奴かわかってる。意味もなく覗きに参加する奴じゃないってのは理解している……」

和真「……」

 

一度顔を伏せ少しの葛藤の後、優子は黙って耳を傾けている和真に覚悟を決めたような表情で向き合う。

 

優子「だけど今日アタシ達は、アンタ達を止めるために動くわ!」

和真「だよな」

 

えっ、と言わんばかりの呆けた表情をする優子を、物珍しそうな顔でしげしげと見つめる。

この展開をだいたい予測していた飛鳥は苦笑する。

 

和真「むしろ何で昨日参加してなかったか疑問に思ってたぜ。お前ら二人に久保とソウスケを加えて、2年堅物四天王だもんな」

飛鳥「うん、そんな仰々しい呼ばれ方初めて聞いたんだけどね……」

和真「おまけに昨日久保に責任ある立場云々言われたところだし、俺達のことを率先して止めねぇと駄目だろ。何故迷った表情してたんだお前?」

優子「な…何よそんな言い方!アンタにも絶対に譲れない理由があるんでしょ!?それを邪魔するんだから多少の申し訳なさとか-」

和真「はぁ……」

 

やれやれまったくこいつは……、と言っているような仕草をした後、和真は優子に近づいて肩を組む。

 

優子「ふぇっ!?」

和真「いらん心配すんな。たとえお前らが俺をボロクソに負かしたとしても、そんなことでは俺達の関係は変わらねぇよ。そうだろ、相棒?」

優子「……そう言ってくれるのはうれしいんだけど……あの……その……近い」

和真「おっと、わりぃわりぃ」

 

真っ赤になって照れる優子から離れ、面白いものを見つけたと言わんばかりの笑みを見せる和真。

 

和真「意外と可愛らしいとこもあんのな」

優子「あ…あああああアンタねぇ!?」

和真「冗談冗談。んじゃさっさと終わらせてくるわ。

あ、そうそう、逆に俺がお前らをボロクソに負かしても恨まないでくれよ?」

 

一通り優子をからかったから、和真は悠々と指定された場所に向かっていった。

取り残された優子は羞恥と怒りが混ざりあった表情で憤慨する。

 

優子「ア・イ・ツ・は~!こっちの気持ちも知らずに平然と肩なんか組んできて……!少しは動揺しなさいよ……!飛鳥!絶対和真に勝つわよ!いいわね!?」

飛鳥「はいはい、わかったからあんまり騒がないの」(少しは動揺……ねぇ……ふふふ)

 

怒り狂う優子をなだめつつ、恐らくは本人すら気づかないであろう幼馴染みの変化に思わず吹き出しそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「あっ和真、やっときた……どうしたの!?」

秀吉「なぜ涙目になっておるのじゃ!?」

和真「いや大したことねぇんだけど、ここに来る途中机に足の小指ぶつけてよ…痛ぇ……」

ムッツリーニ「……珍しい」

秀吉「うむ、天性の直感を持つお主らしくもない。どこか具合が悪いのかの?」

和真「いや、特には。……まさかもう体の衰えが?」

明久「昨日鉄人と互角に闘っておいて体の衰えがどうとか言われても……」

和真「まあそれもそうか。となると、流石に勉強合宿三日目ともなると気が抜けてきてんのかもな」

 

気を抜いた状態では和真の直感は仕事しない。

他にも、疲れきったときやかなり動揺しているときも同じく役に立たなくなる。

 

雄二「ほーう、なるほどなぁ(ニヤニヤ)」

和真「なんだよ雄二気持ち悪いな」

 

何かを悟ったのか、うっとうしいほどのニヤケ面を向けてくる雄二に和真は多少イラっとする。

 

雄二「いやいや、お前にもちゃんと弱点はあるんだなと安心してよぉ」

和真「要領を得ねぇな、スキンヘッドにするぞ」

雄二「ペナルティが斜め上過ぎるぞ!?」

 

痛め付けるのが好きなのではなく、追い詰めるのが好きな和真に下手な挑発など問題外だ。突然の毛髪の危機に雄二は何とかして話題を変えようとする。

 

雄二「ま、まぁ和真も合流したことだし、次はBクラスとCクラスだな。もう一度頼むぞ明久」

明久「そう簡単に引き受けるわけにはいかないよ。さっきの勝負も納得がいってないし、もう一度勝負だ!」

雄二「別にいいが、時間の無駄だと思うぞ?」

明久「ふふ、そうかな?僕をさっきまでの僕と思わない方がいいよ」  

和真「秀吉、勝負ってなんのことだ?」

秀吉「先ほどE・Dクラスに侵入する際、教師を引き付ける囮役を古今東西で決めたのじゃ」

和真「なるほどね。いつもの雄二の汚い手ではなく普通に負けたわけか。明久、俺も参加してやるよ」

明久「いいの?今の僕は和真が相手でも手加減とかしないよ?」

秀吉(明久……和真が雄二よりずっと英語得意なことをすっかり忘れているようじゃな……)

ムッツリーニ(……どう考えても勝ち目がない)

 

古今東西に参加しない二人は明久の負けを確信していた。

 

明久「それじゃあ、吉井 明久から始まるっ」(明久のコール)

 

「「「「イェーッ!」」」」(雄二と秀吉とムッツリーニと和真の合いの手)

 

明久「【O】から始まる英単語っ」

 

パンパン→明久の番

 

明久「オーガスト!(August)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「おい源太」

 

明久が頑張って先生を引き付けているうちに、和真達は合同学習室に侵入する。

雄二がBクラス代表の根本及びCクラス男子の中心である黒崎に交渉している傍ら、和真はライオンのような髪型の男子生徒、『アクティブ』メンバーである五十嵐 源太のもとに駆けつける。180㎝超えの悪党面が黙々と自習に励んでいる姿はかなりシュールである。

 

源太「あ?和真じゃねぇか?俺様になんかようか?」

和真「ほれ渡したぞ。じゃ、俺急いでるから」

 

本来ここにいるはずのない怪訝な表情をしている源太に和真はメモ用紙を渡すと、さっさと学習室から出ていってしまう相変わらずせわしない奴だなと呆れつつ、メモ用紙に書いてある内容に目を通し、直後ギラついた表情になる。

 

源太「……くくく、ははははは。丁度いい、俺様も勉強漬けの合宿には俺も飽き飽きしていたところだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『翔子との決着をつけたくはないか?だったら今夜俺達に協力しろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真「久しぶりの源太の出番だな」

源太「ものの数行で終わったがな……」

蒼介「私もカズマと並ぶ主人公格という設定なのに、後書きと前書きくらいしか出番が無いのはどういうことだ……」

飛鳥「それにしても、一・二巻ではつけ入る隙がまるでなかった和真にどんどんポンコツ属性が追加されてるわね」

和真「キャラに深みが出てきたと言ってもらおうか」

徹「ポジティブだね」





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空・恋・嵐

【バカテスト・英語】
『Although Jhon tried to take the airplane for Japan with his wife’s handmake lunch,he noticed that he forgot the passport on the way.』

五十嵐 源太の答え
『ジョンは妻の手作りの弁当を持って日本行きの飛行機に乗ろうとしていたが、途中でパスポートを忘れていることに気がついた』

蒼介「正解だ」


土屋 康太の答え
『ジャンは』

綾倉「ジョンです」


吉井 明久の答え
『ジョンは手作りのパスポートを持って日本行きの飛行機に乗った』

蒼介「それだと不法入国じゃないか……」







恒例の出撃前ブリーフィング。

 

秀吉「結局、手を貸してくれたのはD・Eクラスだけじゃったな」

雄二「まあ仕方ないだろう。Bクラスは代表がアレだからまとまりがないし、Cクラス代表はあの小山だから男子連中が尻込みするのも無理はない。五十嵐の協力が得られただけでも良しとするしかない」 

明久「でも和真、どうせだったら大門君を引き込めなかったの?」

和真「徹は無理だ。こいつと違って真正のムッツリだからな(チラッ)」

明久「え?(チラッ)」

秀吉「真正の……(チラッ)」 

雄二「ムッツリねぇ……(チラッ)」

ムッツリーニ「……なぜ俺をチラ見する……ッ!」

 

ムッツリと言う単語を聞いた瞬間にチラ見してきた三人にムッツリと言うにはオープン過ぎる寡黙なる性識者は憤慨するが、他の四人は全く悪びれない。

 

明久「けどD・Eクラスが協力してくれるだけでも、昨日よりずっと状況が良くなったよ」

秀吉「まぁそうじゃな。女子側とて入浴の為に最大でも半数しか出てこられんじゃろうし、教師を抑えることができればなんとかなるじゃろ」

和真「教師の召喚獣さえ倒せば、物理干渉能力を持たない召喚獣は無視して良いしな」

明久「でも、ここまで大きな騒ぎにすると女子の入浴自体が中止になったりしないかな?」

雄二「それはないだろ。教師側にもプライドがあるからな。『覗きを阻止できないかもしれないので入浴を控えてくれ』なんて言うと思うか?」

明久が「ああ、そっか」

 

教師としても意地がある。召喚獣を使った勝負で生徒に防衛戦を抜かれるなど屈辱に違いない。

というか、そんな弱腰なことを言ったとあの学園長に知られたら、下手すれば暇を出されかねない。

 

雄二「それと、これは憶測だが……教師側はこの事態を好ましく思っている可能性もあるな」

明久「え?僕らの覗きを?」

雄二「ああ。あくまでこの合宿の目的は『生徒の学習意欲の向上』だからな。目的がなんであれ、召喚獣を使って戦闘を行う以上勉強せざるを得ない。女子側も同様だ。防衛の為には召喚獣が不可欠だからな」

和真「まぁ俺達を確実に止めたきゃ、この時間に拘束するなり部屋で見張るなりするのが一番だろうしな」

雄二「そういうことだ。……さてムッツリーニ。作戦開始時刻と集合場所は両クラス、あと五十嵐に通達してきたか?」

ムッツリーニ「……問題ない」

 

作戦開始時刻は二〇一〇時。

一階にある大食堂に集合して、前半組が脱衣を終えて入浴しているところを狙って総攻撃を仕掛ける手筈だ。

 

和真「最大の懸念は雄二の作戦が翔子あたりに読まれることかな。こいつ翔子に滅法弱ぇし」

雄二「んだとコラ。俺の練りに練った作戦はあいつだろうとそう簡単に予想できるわけ-」

 

 

須川「大変だ!大食堂で敵が待ち伏せしてた!今は戦力が分断されて、各階で散り散りになってる!」

 

 

突如ドアが開かれ、須川がひどく狼狽した様子で飛び込んできた。全てを察した和真は呆然とした表情の雄二を明らかにバカにしたような冷めた目で見る。

 

和真「あいつだろうとそう簡単に……何だって?」

雄二「和真ァァァ!余計なフラグ建てやがって!」

和真「逆ギレとは見苦しいな、この負け犬が」

 

どうやら翔子は雄二が戦力を増強して正面突破を図るのを読んでいたようだ。普通は隠密行動にでると考える所の裏をかいた作戦を読みきるあたり、完全に雄二の思考回路を熟知している。

 

ムッツリーニ「……迷っている時間はない」

明久「そ、そうだね!雄二どうする?」

雄二「どうするもこうするも、こうなっては作戦なんて殆どないようなものだ。分断された戦力を一旦編成し直すしかない!とにかく出るぞ!」

「「「了解!」」」

和真(こりゃ今日も失敗だな……。となると、俺はあいつらとの約束を優先するか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このスケベども!おとなしくお縄に付きなさい!』

『覗きなんてさせないからね!』

 

『くそおっ!どうしてこんなところに女子が!?』

『知るか!とにかく応戦しろ!』

 

徒党を組んで攻め込んでくる女子生徒を相手に男子側は召喚獣を喚んで応戦するが所詮は下位クラス、点数差の暴力に次々と打ちのめされていく。

 

須川「皆落ち着け!召喚獣は俺達に触ることができない!無視して突っ切れば良いんだ!」

明久「須川君、駄目だ!気をつけなきゃいけないのは鉄人だけじゃないんだ!」

 

明久の静止も間に合わず、須川は女子の間を駆け抜けていく。一見理にかなっているがその判断は紛れもなく悪手……!

 

布施「Fクラス、須川亮君ですね?特別指導室に連行させてもらいます」

 

女子の陰から出てきた布施先生の召喚獣に即座に捕らえられる須川。召喚が行われているからには向こうには教師がいる。そのためここを突破するにはその召喚獣を倒す必要がある。だからこその戦力一点集中の作戦だった。あの和真でさえ一度に相手にできる数には限度があるのだ。教師の数は生徒ほど多くないため、頭数さえ揃えばどうにかできるはずだった。……こうまで後手に回らされてはその素晴らしい作戦も単なる悪足掻きでしかないのだが。

 

雄二「全員聞け!とにかく一点集中でこの場を突っ切る!俺の後に続け!」

明久「雄二!そっちは敵の層が一番厚いよ!?階段を下りたほうが突破し易いんじゃ!?」

雄二「だからこそだ!層の薄い方を突破すると、その先に罠が仕掛けられてる可能性がある!ここは苦しくても一番危険な方向を進むんだ!」

和真(相変わらず頭がキレる奴だ。だがおそらくこれは、翔子が仕掛けた二重のトラップ……)

 

先ほども作戦を先読みされたこともあり、和真には霧島の裏の裏をかいた作戦としか思えなかった。しかし既に敗色濃厚のため和真は雄二の指揮には口出ししなかった。

 

和真(まあ翔子のことだ、層の薄い方にもそれ相応の対策をしてあるだろ。……ん?) 「……お前ら、先に行ってろ」

明久「え!?どうしたの-」

 

 

小山「見つけたわよ柊ィィィィィィ!!!」

 

 

明久が理由を聞く前に鬼のような形相と共にCクラス代表の小山が召喚獣とともに突っ込んできた。どうやら(当たり前だが)初日のことを根に持っているようだ。全てを察した明久達はそそくさと先を急ぐ。

 

小山「アンタだけはアタシが始末してやるわ!さっさと召喚獣を出しなさい!」

和真「ちっ、めんどくせぇ。お前ごときが俺を倒す?寝言は寝て言えヒス女」

小山「Fクラスのバカの癖に、大口叩くのも大概にしなさいよ!」

和真「上等だ。そのまやかしの、ガラス細工の自信をバッキバキにしてやるよ」

 

鼻息荒く詰め寄ってくる小山をさっさと始末するため、和真は召喚獣を喚ぼうとする。

しかしそんな和真と小山の間に割って入る者が。

 

源太「待てよ和真、ここは俺様に任せてもらう。丁度科目も英語だしな」

和真「源太?良いのか?」

源太「どっちみち今日は失敗くせーだろ?霧島との決着の前に、新しい力の試運転をしておきたくてな」

和真「なにそれスゲー気になる。気になるが、そんな場合じゃないか……ここは任せた」

 

源太の新しい力とやらは和真の琴線に触れたが、状況が状況なのでさっさと明久達を追いかける。こうなると面白くないのはもちろん小山である。

 

小山「待ちなさい柊和真!絶対に逃がさないわよ!」

源太「そうはさせねーよ。試獣召喚(サモン)!」

 

幾何学模様と共にトマホークを携えた源太の召喚獣が出現し、小山の行く手を阻む。

 

小山「何なのよアンタ!?邪魔よ!」

源太「邪魔してんだよ。月並なセリフだが、ここを通りたけりゃ俺様を倒してからにしな」

小山「上等よ!さっさと片付けてやるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「いったあああああッ!?これは凄く痛い!?流石は拷問用の道具だよ!!!!」

和真「ちょっと目を離した隙にもうやられてる!?」

 

遅れて合流した和真を出迎えたのは明久の絶叫だった。

どうやら学年主任の高橋先生の召喚獣(装備:鞭)の前に無惨にも散ったようだった。

 

《総合科目》

『学年主任 高橋 洋子 7792点

VS

Fクラス 吉井 明久 1036点』

 

それはもう比較するのも馬鹿らしくなるような圧倒的点差だった。学園全体を見ても、この人より高い点数を取れるのは三年学年主任の綾倉先生しかいない。

 

雄二「仕方がない。こうなったら各自の判断で行動しろ!」

『『『おうっ!任せておけっ!』』

 

事実上の撤退宣言が雄二から発せられた。

作戦の指示がなくなり、全員がそれぞれの判断で行動を始める。果して彼らはどのようにしてこの場を切り抜けるのだろうか。

 

『…………』(←土下座)

『…………』(←土下座)

『…………』(←土下座)

 

明久(バカばっかりだぁっ!?)

高橋「吉井君と坂本君と柊君は彼らのような真似はしないのですね。指揮官としての矜持というものですか?」

 

土下座に移行しない明久達を見て、高橋先生が感心したように目を細めた。しかしその予想はてんで的はずれである。

 

雄二「違うな、高橋女史。俺たちにはわかっているのさ」

明久「ええ。雄二の言う通りです。僕らにはわかっているんです。そんなことをする必要はないということが」

和真「というかそもそも俺指揮官じゃねーし」

 

明久と雄二は何かを悟っているような笑みを浮かべている。事情を知らない高橋先生から見れば余裕の笑みに移るかもしれない。

 

高橋「いくら柊君でも、この私を突破するのは難しいと思いますが?」

雄二「違うな。アンタは何もわかっちゃいない」

明久「そうですね。僕らが言っているのはそういうことじゃない」

 

明久と雄二が土下座をしない理由。それは指揮官としての矜持でもなければ和真頼みになっているわけでもなく、ましてや援軍を期待してるわけでもない。

正解は--

 

 

姫路「坂本君、明久君。覗きは立派な犯罪なんですよ?」

美波「そういえばアキには昼間のお礼もしないとね?」

霧島「……雄二。浮気は許さないと言った」

 

土下座しても許してもらえそうにないからだ。

 

 

和真「……サモン!」

 

今にも始末されようとしている明久達を放置して、和真はいつもの笑みを浮かべながら召喚獣を喚び出す。

 

高橋「この状況でもまだ諦めないとは。荷担している内容はともかく、その心意気は素晴らしいことです。

いいでしょう、かかってきなさい!」

和真「却下」 

高橋「えっ」

 

〈和真〉を迎え撃つため意気揚々と戦闘体制に入った〈高橋〉だったが、和真の予想外の拒否に珍しく間の抜けた表情になる。

 

高橋「えっと……あの……」 

和真「混乱させて悪いな。あんたと闘り合うってのも充分そそられるんだがよ、今日は先約が入っていてな。

……出てこいよ、二人とも!」

 

和真の呼び掛けと共に、奥の扉から優子と飛鳥がゆっくりと姿を現した。

 

優子「待たせたわね……サモン!」

飛鳥「サモン!……高橋先生、すみませんが下がっていてください。和真の相手は私達がしますので」

高橋「……なるほど、そういうことでしたか。わかりました。健闘を祈ります」

 

点と点が繋がったような納得の表情で、高橋先生は言われた通りに後方で待機する。この時点でもう突破は不可能であろう。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 木下 優子 3943点

 Aクラス 橘 飛鳥  3088点

VS

Fクラス 柊 和真  3927点』

 

 

和真「げっ!?いつの間にか抜かれてやがる!?

コソ勉しやがったな優子このやろー」

優子「堂々と勉強したわよ!そう簡単に学年5位の座を死守できると思わないことね!」

和真「そして飛鳥、微妙に下がってるじゃねぇか!?」

飛鳥「面目ない……もうすぐIH予選で……」

 

覗く側とそれを阻む側とは思えないほど和気藹々とする三人。ちなみに彼らのすぐ近くでは実に惨たらしい結末を迎えているバカが約二名。

 

和真「さてと、じゃあ始めるか」

優子「あ、待って和真。私達と一つ、賭けをしない?」

和真「賭けだと?」

飛鳥「なに、簡単な賭けよ。この勝負に負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くってのはどう?」

和真「あからさまに俺に不利な条件だなオイ」

 

ただでさえ二体一の時点でフェアなんて言葉はどこにも見当たらないというのに、和真が負けたら飛鳥と優子に一つずつ、つまり実質二つ言うことを聞かなければならない。

 

和真「総じて、受け入れられると思っている時点で正気の沙汰とは思えないな」

優子「そう。で、返答は?」

和真「面白ぇ!受けて立ぁぁぁつ!」

優子「それでこそ和真ね♪」

飛鳥「つくづく損な性格ね……」

 

ぐちぐちとマイナス要素を並べていたのも当然全て前振り。和真のモットーは「365日誰からの挑戦でも受け付ける」なので断る理由が見当たらなかった。

 

和真「それじゃあ行くぜ!二人がかりだろうが、急造コンビにやられるほど俺は甘くねぇぞ!」

 

槍を構え、意気揚々と疾走する〈和真〉。

装甲を犠牲にした分パワーだけじゃなくスピードも桁違いに速い。

 

優子「急造コンビかは、」

飛鳥「その目で確かめることね!」

 

和真に啖呵を切ると共に〈飛鳥〉が〈優子〉の前に走り込み、そして何を思ったのか〈優子〉はランスを振りかぶる。その様子を見た和真はとある光景とデシャブした。

 

和真(あれは……俺の得意とするデコイ戦術?)

 

デコイ戦術とは、和真が格上の相手を倒すためによく用いるテクニック(?)の一つ。文字通り、自分以外の召喚獣を犠牲にして相手の隙を作るという、いかにもFクラスらしい極悪非道な戦法である。

 

しかし、

 

和真(何だよ……期待させておいてやることは猿真似かよ……つまらねぇ……)

 

和真に浮かんだ感情は『失望』。

デコイ戦術はあくまで相手の相手の不意をつくからこそ効果的なのである。あらかじめわかっていれば何てことはない、デコイとなった召喚獣を手堅くカウンターで討ち取り、本命の召喚獣にも警戒しておくだけで事足りる。

和真はこの二人のことを舐めてはいない。いやむしろ女子の中では特に一目置いている二人であるため、自習の時間に優子が宣戦布告をした段階から今この瞬間まで二人との闘いを楽しみにしていた。それが蓋を明けたら二人の取った手段が自分がお遊びとして用いているだけに過ぎない戦術と来た日には、ガッカリするなと言う方が無茶な話であろう。

ややテンションを下げつつも、〈和真〉に『カズマホームラン』の構えを取らせる。このままが射出されるやいなや〈飛鳥〉は仕留められるであろう。

しかし〈優子〉は相手がカウンターを狙ってようがお構い無しフルスイングし、ランスはそのまま〈飛鳥〉にぶち当たる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「なっ!?」

 

寸前で、〈飛鳥〉はタイミング良くジャンプして〈優子〉のスイングをかわした。一度出した指令はもう止められない。〈和真〉はそのまま盛大に空振りする。

 

飛鳥「ここよ!」

優子「ここで決めるわ!」

 

〈飛鳥〉の後を追うように〈優子〉も跳躍する。ひと足先に落下を始めた〈飛鳥〉はそのまま空中で半回転し、背中から地面に着地し足の裏を天に向けつつ膝を折り畳む。そして〈優子〉は〈飛鳥〉の足の裏に着地し、同じく膝を折り畳み足をドッキングさせる。

 

和真(この技は……まさか!?)

 

飛鳥「いくよ、私達の…」

優子「空中必殺技…」

 

 

二人の召喚獣は敵の方向に焦点を合わせ、タイミングを揃えて折り畳んでいた足を一気に伸ばす。

 

 

 

結果、

 

 

 

「「スカイラブハリケーン!」」

 

反動で超加速した〈優子〉がランスを突き出し、空振りして隙のできた〈和真〉目掛けて突撃する。

 

和真「舐めるなぁ!」

 

多少呆気に取られたもののこのまま反応もできずにやられるほど、和真の反射神経は鈍くない。並外れた俊敏さで即座に超高速で突っ込んでくる〈優子〉に焦点を合わせ、〈和真〉はバックハンドでフルスイングする。

 

二つの槍の真っ向からのぶつかり合いを制したのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「まさか俺が……力負けするとはな……」

 

 

《総合科目》

『Aクラス 木下 優子 2876点

VS

Fクラス 柊 和真  戦死』

 

 

〈優子〉の方だった。

スカイラブハリケーンの超加速が加わったランスの一点突破力は凄まじく、フルスイングされた〈和真〉の槍をへし折り、その勢いのまま敵を貫通した。

ちなみに点数が減っている理由は〈和真〉の反撃を受けたわけではなく、着地に失敗して喰らったダメージである。

 

和真「…………」

 

始めて真っ向から打ちのめされたのがよほどショックだったのか、和真は目を閉じて黙ったままである。

この言いようもない空気に耐えられなくなったのか、二人が声をかけようとしたそのとき、

 

和真「あぁ……ほんとに悔しいなぁ畜生ォォォ!」

二人「ビクッ」

 

よほど悔しかったのか、廊下全体に響く程の大声で叫んだ後、その場に大の字に寝転がる。

 

その表情は、どこかスッキリとした表情をしていた。

 

和真「次は……俺が勝つからな!」

飛鳥「……ふふ、そうはいかないよ」

優子「次も返り討ちにしてやるわ!」

 

やや心配そうな表情をしていた二人も一転、楽しげな笑顔を浮かべる。

優子の懸念は完全に杞憂であったようで、

その場にはヒビひとつない絆が存在していた。

 

和真「……それにしても、スカイラブハリケーンなんてよく一発で成功させたな」

 

思い出したように起き上がり、和真は不思議そうな顔で尋ねる。確かにぶっつけ本番で成功させるのは厳しい大技だ。

と言うのも、ジャンプの時間差、背中からの着地、足裏に正確に着地、飛ぶ角度、膝を伸ばすタイミング、その他どれか一つでもミスをすれば失敗する高等技術である。

 

優子「あのさ和真、アタシ達が昨日参加しなかったことを不思議がっていたでしょ?」

和真「ああ。……なるほど、そういうからくりか……」

優子「そう。アタシ達が昨日参加しなかったのは、奥の方で高橋先生に許可をもらって連携の特訓をしていたからよ」

飛鳥「あの技は偶然思い付いたものだけどね」

和真「コソ勉じゃなくてコソ練をしてたわけね……」

 

一本とられたと苦笑する裏で、和真はAクラス打倒がまた遠ざかったのではないかと懸念する。あれだけの技を苦もなく成功させたんだ、それ以外の連携もおそらく半端なものではないだろう。

 

和真「それで、お前らは俺にどんな命令をするんだ?」

優子「実を言うとまだ考えてないから、アタシは保留にしておくわ」

和真「保留!?そんなのアリかよ!?」

優子「アリよ」

 

365日誰からの挑戦でも受け付けるのがポリシーであったが、和真は安易に引き受けたことを後悔する。

いつどこで何を要求してくるかわからないため、保留という選択は正直怖すぎる。

 

和真(まあこいつはなんだかんだで優しいから、そこまで酷い命令はしてこないのが救いだな)「……で、お前はどうするんだ、飛鳥?」

飛鳥「うん、それなんだけどね……」

 

既に意識を失っている雄二と明久に視線を移してから、飛鳥は再び和真に向き直る。

 

飛鳥「吉井君や坂本君がああなっているのに、貴方だけ楽するのはフェアじゃないと思わない?」

和真「…………何が言いたい?」

 

嫌な予感が体全体を覆い尽くし、今すぐにでもここから逃げ出したい衝動に駆られつつも、敗者の義務感と持ち前のプライドを駆使して押し留め、黙って飛鳥の言葉に耳を傾ける。

 

すると飛鳥は優子を引き連れて和真に近づいてくる。

 

悪戯っぽい笑顔を浮かべ手をわきわきさせながら。

 

 

飛鳥「今からしばらく脇をくすぐるけど、一切抵抗しちゃ駄目よ♪優子、後ろに回って抑えてて」

優子「あ、うん。……和真、ごめんね」

和真「…………マジかよ」

 

 

先程の絶叫よりもずっと大きい和真の笑い声が、廊下全体に響き渡ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、足止めを任された源太はと言うと…

 

 

源太「こんなところか。なるほど、制圧力はスゲェがその代償もデカイな……」

小山「嘘よ……!こいつ一人に……こんなことって……」

 

死屍累々となった召喚獣を眺めつつ、新しい力のメリットとリスクを考察する。

戦死しているのは小山の召喚獣だけではなく、その場の女子生徒10数名、ついでに味方であるはずの男子生徒数名、挙げ句の果てには教師の召喚獣さえも討ち取られてしまったようだ。

 

源太「じゃあな、俺様は部屋に戻らせてもらうぜ」

小山「あっ……ま、待ちなさいよ!?」

 

そう言われて待つはずもなく、源太はさっさと寝室に戻っていった。教師の召喚獣が倒されてしまったので女子陣営には源太を止めるすべは無く、女子達は悔しそうな表情で源太の帰宅を見送った。

 

 

 

 

 

源太(テストプレイは上々、決戦は明日だな。

次は勝たせてもらうぜ霧島ァ……!)

 

 

 

 

 

 




和真「だぁぁぁっ!また負けたぁ!」

徹「まさかのスカイラブハリケーンだったね」

蒼介「『キャプテン翼』の超人サッカープレイの一つだな。現実でやれば一発退場ものだが」

飛鳥「非紳士的行為で反則取られるのよね」


【ミニコント】
テーマ:無限ループ

明久「あっ、このゲーム良いなぁ。……でもこれ買っちゃうと、今月水だけで生活しなくちゃいけなくなるよなぁ」

雄二「相変わらずギリギリの生活送ってるな……」

和真「明久、そういうときは三日買うかどうか考えてみろ。三日後も買いたいなら、それは本当に買いたいものっつうことだからよ」

明久「ん~、わかった。やってみるよ」

《三日後》

明久「何か欲しいものがあった気がするけど、忘れちゃった」

和真「忘れるくらいなら、大して欲しいものでもなかったんだろ」

明久「そっかぁ……あっ、このゲーム良いなぁ。……でもこれ買っちゃうと今月水だけで生活しなくちゃいけなくなるよなぁ」

和真(明久!?)

雄二(それ三日前のやつじゃねぇか!?)










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真・最強(覗き)チームを結成せよ!

綾倉「感想欄で和真君が設定詐欺と批判されましたね」 

和真「耳が痛い話だが、確かにここのところ負け続きだしな……これ以上黒星を貰うわけにはいかねぇな」

徹「そんなこと言って大丈夫なのかい?軽いネタバレになるけど、最終日に君が闘う相手、高橋先生だよ?」

和真「上等だ!やるからには勝ぁぁぁつ!」







雄二「まさか高橋女史まで参戦してくるとはな」

明久「あの人、もう反則なまでの強さだったよ……」

 

姫路や美波に痛めつけられた後遺症からか、明久の顔色はあまり良くない。同じく痛めつけられた雄二は耐性がついているのか平然している。しかし明久に耐性がついていないわけではなく、もし和真が同じだけのダメージを負えば再起不能になっている恐れがある。身体能力は突出しているが耐久力のみなら和真は二人に比べて劣っていると言えるだろう。

 

秀吉「じゃがどうする?このままではお主らは脅迫犯の影に怯え、且つ覗き犯という不名誉な称号を掲げられてしまうぞい」

 

秀吉は昨日に引き続いて無罪放免だった。入浴が分けられている時点である程度予想できたが、とうとう教師からも男扱いされなくなってきたようだ。もうこいつが男扱いされる日は来ないんじゃないかと和真は心の内で残酷な推測をする。

 

雄二「勿論諦める気は毛頭ない。残るチャンスは明日だけだが、逆に言えばまだ明日が残っているんだからな」

 

明日はいよいよ合宿四日目。五日目は帰るだけの移動日だから、覗きのチャンスは明日で最後となる。

 

明久「そうだね。圧倒的な戦力差だったけど、そんなのは僕らにとってはいつものことだし。こういった逆境を覆す力こそ僕らの真骨頂だよね」

和真「無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが俺達Fクラスのやり方だ。絶望的な状況だろうが関係ねぇよ」

ムッツリーニ「……このまま引き下がれない」

秀吉「そうじゃな。こんなことはFクラスに入ってからは慣れっこじゃ。今更慌てるまでもない」

 

五人とも目は死んでいない。

この場にはいない他のクラスメイトたちも、諦めている者はきっといないだろう。

 

雄二「そうか。お前らが諦めていないのなら、まだ手は残されている」

明久「流石は雄二!何か考えがあるんだね!」

雄二「当然だ。俺を誰だと思ってやがる?」

和真「妻帯者」

雄二「お前ほんといい加減にしろよコラ」

明久(このやり取りはいつものこととして……雄二は、手段はともかくいつも逆境を跳ね返す策を編み出してきた。きっと今回もうまくいくはずだ)「それで、今度はどんな作戦を考えているの?」

雄二「正面突破」

明久(前言撤回。今回はもうダメかもしれない)

 

急速に明久の目が死んでいく。秀吉とムッツリーニの士気も落ち始め、あの和真でさえ難色を示す。

 

和真「あのよ、雄二……俺としてはそういう無茶は嫌いじゃねぇんだけどよ、お前らの人生を左右するこの局面で流石にそれはどうかと思うぜ?」

雄二「話は最後まで聞け。正面突破の基本スタンスは変えないが、その分事前の準備で考えがある」

和真(なるほど……無策ってわけじゃねぇみたいだな)

明久「正面突破を続行するってことは、こっちの戦力をさらに増やすってこと?」

雄二「そうだ。向こうの戦力はもう頭打ちだ。今日は負けたが、おかげで相手の戦力を把握できた。これは大きいぞ」

ムッツリーニ「……他のクラスでの目撃情報も集めた」

 

ムッツリーニの言う他のクラスとは、協力してくれたE・Dクラスのことだろう。

 

雄二「向こうの布陣は教師を中心とした防御主体の形だが、色々と弱点がある。それがなんだかわかるか?」

明久「微塵もわからないね」

雄二「チョキの正しい使い方を教えてやる」

明久「ふぎゃぁあっ!目が、目がぁっ!」

 

雄二のチョキが明久の眼球にフレンチキスをプレゼントしていった(詩的表現)。

 

和真「明久相手に高望みしすぎだお前は。あんまり贅沢言うんじゃねぇよ」

雄二「悲しいことにそのとおりだな……。いいか?召喚獣を喚び出すフィールドには《干渉》と言うものがある。これは一定範囲内でそれぞれの教師がフィールドを展開すると、科目同士が打ち消し合って召喚獣が消えてしまうというものだ。つまり、」

秀吉「要するに教師は余程開けた場所以外では複数人数を配置することができないということじゃろう?」

和真「そういうこと。わかったか明久」

明久「う、うん」

 

召喚獣がいなければ、鉄人や大島先生のような肉体派以外は男子高校性の体力に対抗する力は無い。教師にとっては《干渉》は最も避けたい事態ということだ。

 

雄二「その現象とムッツリーニが調べてくれた目撃情報を総合して判断すると、明日の相手側の布陣はだいだいこんな感じになると予想できる」

 

そう言って雄二がテーブルに広げた紙に、敵の配置の予想を書いていく。

 

明久「あれ?高橋先生は今日と違う場所になるの?」

雄二「確実ってわけじゃないが、俺が向こうの立場ならそうする。絶対に通らなければならない道に主力を置くのは定石だからな」

 

雄二の予想では高橋先生の配置は地下へと続く階段の前。

女子風呂に至る階段はそこだけだから、向こうも主力を配置してくるだろうとのこと。

 

明久「なんで今日はそうしてこなかったのかな?」

雄二「圧倒的な力を見せてこちらの戦意を挫きたかったんじゃないか?俺たちの進路は予想できていたみたいだしな」

秀吉「ふむ。あの点数は圧巻じゃったのう」

和真「まあ、打倒Aクラスをまだ諦めていない俺達に、そんな思惑が成功するわけねぇけどな」

明久「だね」

 

Aクラス代表の鳳 蒼介は点数や操作技術は下回るものの、腕輪能力を加味すれば高橋先生以上に厄介な相手である。そんな相手を倒そうとしている雄二達が、この程度のことで絶望するはずもない。

 

明久「それにしても、こうしてみると随分と苦しい勝負だよね。鉄人と大島先生と高橋先生のいる場所は絶対に通らないといけないし」

 

かと言って他の教師達も無視できない。雄二の予想では要所要所に配置されているし、この予想はおそらく外れていない。現在のこちらの戦力はD・E・Fクラスの男子とBクラスの源太のみ。士気は高いものの、Aクラスも協力している女子側に比べると戦力としては劣っている。

 

雄二「俺たちの勝利の為には、どうしてもあるヤツを極力無傷で鉄人の前まで連れて行く必要がある」

明久「あるヤツ?和真のこと?」

和真「お前だお前。明久が西村センセと戦って勝利する。これはどうあっても外せねぇ条件だ」

明久「それってやっぱり僕が《観察処分者》だから?」

雄二「そうだ。鉄人は最後の砦として女子風呂の前に陣を敷いているだろう。ここはどうあっても通過せざるを得ないポイントだからな。だが和真ですら敗北した以上、ヤツを生身の人間が倒すのは不可能だ」

和真「猛獣と人間は武器を持って初めて対等の敵たり得る、てな。その武器を持ってるのは明久、お前だけだ」

雄二「万全を期すために和真も一緒に送り込みたいのは山々だが、そんな贅沢な使い方ができるほど俺達に余裕はない」

 

人より遥かに強い力を持つ召喚獣だが、普通の召喚獣は人どころか物にも触れることは出来ない。《観察処分者》である明久の召喚獣以外は。ならば必然的に鉄人の相手をするのは明久となる。

 

秀吉「じゃが、そうなると高橋女史の場所を無傷で通過する必要があるじゃろう」

雄二「ああ。大島はムッツリーニにやってもらうとしても、そもそも今の戦力では高橋女史のところに辿りつくことすらできない」

 

教師一人当たり十人くらいの戦力が必要だと考えるのが妥当、そうなると二階と三階だけでも八十人もの戦力が必要になる。更に向こうには女子生徒達らがいるので、こちらの戦力が圧倒的に不足しているのは否めない。

 

和真「となると、作戦を成功させるにはA・B・Cクラスの協力がどうしてもいるな」

雄二「そういうことだ。そこで、明日の作戦時刻までにはその根回しに全力を注ぐことにする」

明久「要するにA~Cクラスを仲間にするってことでしょ?でも、一度断られたわけだし、そう簡単にいくかな?」

雄二「そこをなんとかするのが俺たちの仕事だ」

 

そう言って雄二が手に掲げたのは、デジタルカメラと各客室に備え付けられている浴衣。

備え付けの浴衣は使うなと言われたはずだが、まあ今更そんな些細ことを守る雄二ではないだろう。

 

明久「でも、それをどうするの?」

雄二「着せて写真を撮り、A~Cクラスの連中の劣情を煽る。うまくやれば覗きへの興味が湧いて協力を取り付けられるはずだ」

和真「お前の作戦って割とそんなんばっかだな」

雄二「ほっとけ」

明久「でも、効果はありそうだしやってみる価値はあるね。はい、秀吉」

秀吉「……またワシが着るのかのう……?」

 

浴衣を渡された秀吉は露骨に不満な顔をする。

正直秀吉の望みはもう絶望的だろうが、それでも諦めない精神は嫌いじゃないと和真は思う。

 

雄二「安心しろ、秀吉だけじゃない。姫路と島田にも着てもらう」

秀吉「いや、ワシ一人で着るのが不満だとかそういうワケではないのじゃが」

明久「あれ、霧島さんは?」

和真「明久、デリカシー皆無か。嫁に劣情を抱かれるのを嫌がらない夫がいるわけねぇだろ察しろよ。すまんな雄二」

雄二「お前全てが解決したら覚えとけよ」

 

と言いつつ翔子にも着せると言い出さない辺り、相当大事にしていることが伺えるため、和真以外の三人もニヤニヤし始める。雄二からすれば屈辱この上ない。

 

雄二「そこまで言うなら和真、橘や木下姉にも協力してもらおうじゃないか」

和真「オイオイ冗談だろ?天下に名高い堅物四天王のあいつら二人に規則を破れと?」

雄二「いや、そんな通り名は聞いたことないが……。

他ならぬお前が頼み込めば来てくれるんじゃないか?特に木下姉は(ニヤニヤ)」

和真「なんでにやついてんだお前気色悪いな……。

まあいい、ダメ元で頼んでみるか。……あっそうそう、これが原因でソウスケや橘家の怒りを買ってもお前が責任とれよ」

雄二「やっぱり頼むのは木下姉だけにしてくれ。後生だから」

 

青ざめつつ雄二は和真に懇願する。傲岸不遜を地で行く雄二でも、世界的大企業を二つも敵に回して平然としていられるほどの度胸はない。

 

雄二「そ、それじゃ、明久と和真はそれぞれに連絡を取ってくれ。ムッツリーニはカメラの準備を」

秀吉(姉上にも頼むのなら、ワシが着る必要はないんじゃないかの……?)

 

秀吉のもっともらしい疑問はさておき、和真は多分断られるだろうなと思いつつも優子に部屋に来てくれるようメールを送る。 

しかし、予想外にも二つ返事で了承メールが返ってきて流石に面食らう。堅物四天王の座は近い内に佐藤と入れ替わるかもな、と不毛なことを和真が考えていると…

 

明久「バカぁっ!僕のバカぁっ!ある意味自分の才能にビックリだよ畜生!」

 

突然明久の絶叫が部屋に響き渡る。

何事かと和真が明久の方を見ると、全身冷や汗まみれになってわかりやすいくらいに動揺していた。

 

雄二「どうした明久?さっき何か悲鳴が聞こえたが」

明久「色々と大変なことになっちゃったんだ!今は僕の邪魔をしないで……」

雄二「大変なこと?それは……っとと」

 

ツルン(雄二がバナナの皮で滑る音)

 

ドタッ(雄二が明久を巻き込んで倒れる音)

 

バキッ(雄二が明久の携帯電話を踏み潰す音)

 

雄二「明久。大変なこととは何だ?」

明久「たった今キサマが作った状況だ」

和真「狙ってやったかのように綺麗にいったなー……」

 

明久の携帯電話は複数の電子パーツへと分解されて、見るも無残な状態になりもう使えそうにもなかった。

 

雄二「ん?これはお前の携帯電話か。すまん。今度修理して返す」

明久「いや、今はそんなことどうでもいいから、とりあえず雄二の携帯電話を貸して!」

雄二「あ、ああ。別に構わんが」

 

明久にシンプルな形状の携帯を差し出す雄二。

 

 

坂本 雄二のアドレス帳登録……

→三件

→『霧島 翔子』『柊 和真』『吉井 明久』

 

 

雄二「む。翔子のヤツ、また勝手に俺の携帯を弄りやがったか。機械オンチのクセに……。これでまた家でアドレス帳を入力し直さないとならないじゃないか。何故か毎回お前らのだけ残っているのが謎だが」

和真(こいつが俺たちに連絡してきた内容をそのまま翔子にリークしてると知ったら絶対怒るだろうな)

 

そして明久はというと、まるで世界の終わりを迎えたような無駄に神々しい表情になっていた。

 

雄二「明久。そんな悟ったような顔をしてどうしたんだ?まるで間違えて島田に告白とも取れるようなメールを送ってしまって、弁明しようとしたところで俺に携帯を壊されてなにもできなくなってしまった…なんて顔をしているぞ?」

和真「何だその予想……ピンポイント過ぎるだろ」

明久「そうだよ雄二。流石にそんなことあるわけないじゃないか」

雄二「そうだよな。そんなことになっていたら携帯を壊した俺が極悪人みたいだもんな」

明久「まったくだよ。あははははっ」

和真(…………)

 

ふと気になったので明久が笑いながら操作している雄二の携帯を覗き込む和真。

 

【To:霧島翔子 From:坂本雄二

もう一度きちんとプロポーズをしたい。今夜浴衣を着て俺の部屋まで来てくれ】

 

和真(どうやらビンゴだったようだな……)

 

最悪なことに雄二の推測は当たっていたらしい。

そのまま無慈悲に死の宣告を下す明久。

 

雄二「うん?明久、俺の携帯で誰に何を送信し……ゴふっ!?ななななんてことをしてくれるんだキサマ!」

明久「黙れ!キサマも僕と同じように色々なものを失え!どりゃぁぁーっ!」

雄二「おわぁっ!俺の携帯をお茶の中に突っ込みやがったな!?これじゃ壊れて弁明もできないだろうがこのクズ野郎!」

明久「そう!その気持ち!それが今僕が雄二に抱いている気持ちだよ!」

雄二「何をわけのわからんことを!と、とにかく今は翔子の部屋に行って誤解を解いてこないと大変なことに……」

 

ガラッ(雄二が廊下に続くドアを開ける音)

 

ドゴッ(廊下にいた鉄人が雄二に拳を叩き込む音)

 

グシャベキグチャッ(雄二がテーブルを巻き込んで壁に激突する音)

 

鉄人「部屋を出るな」

明久「了解です」

和真「哀れだな……」

 

ピクリとも動かない雄二の代わりに明久が返事をする。覗きの主犯格が集うこの部屋に対する警戒態勢は万全だ。

 

明久「ちなみに秀吉とムッツリーニはまだ携帯電話買ってないの?」

秀吉「うむ。特に必要ないからの」

ムッツリーニ「……いざというときに鳴り出すと困る」

明久「じゃあ和真、携帯貸して!」

和真「却下」

明久「なんで!?僕達友達だよね!?」

和真「嫌な予感がするんだよ。例えばお前が俺の携帯で弁明している最中に雄二が目を覚まして、二人で奪い合っているうちに俺の携帯もめでたくお釈迦になってしまう、とか」

明久「うっ……なんて具体的でピンポイントかつ否定できない予想……」

和真「一応控えは取ってあるけどよ、いちいち入れ直すのは大変なんだよ」

 

和真の電話帳の登録件数は1000近くある。全て入力し直すのには大量の時間と労力を使うであろう。仕方なく明久は明日会ったときにでも事情を説明することにする。

 

秀吉「ところで、この部屋は片付けないとまずいのではないかの?これでは布団も敷けぬぞ」

明久「そうだね。とりあえず片付けて秀吉の撮影を始めようか」

 

倒れたテーブルを起こし、床に散らばったものを拾い、ごみはゴミ箱に捨てていく。

すると明久は、気絶した雄二をゴミと判断して、ガラスの破片の落ちている辺りに投げ捨てる。

 

雄二「ぐぁあっ!せ、背中にガラスの破片がっ!」

明久「あ、雄二。起きたなら手伝ってよ」

和真(日頃周りにサディスト云々言われてる俺でも流石に引くぞそれは……)

雄二「お前には俺の背中の傷が見えないのか!?」

明久「大丈夫。致命傷ではなさそうだから」

和真(まあ、そんだけ叫べるなら大丈夫そうだな)

雄二「そう思うならお前にも、こうだっ!」

明久「ああっ!僕の着替えがガラスの破片まみれに!?」

雄二「お前もこの痛みを味わえ!」

明久「それなら浴衣を着るからいいさ!秀吉とペアルックだしね!」

ムッツリーニ「……羨ましい」

秀吉「お主ら……ワシの性別を完全に忘れておらんか?」

和真「わざわざ遠くまで合宿に来たのにやってることなんも違わねぇなこいつらは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真「せっかくだし、試験召喚戦争における現時点での総合的な強さトップ4を紹介するぞ。

まず第一位は三年学年主任、通称腹黒糸目こと綾倉 慶先生だ」

綾倉「おや、私ですか」

和真「具体的な点数はまだ未公開だが、今までの描写から高橋先生をも凌駕するでたらめな実力を持っていることは確実だ」

綾倉「デビュー戦ではご期待に添えるよう努力しましょう」

和真「二位は学年主任の高橋先生、二年首席のソウスケ、そして三年次席の佐伯 梓先輩の同率三人だ。この三人はいわゆる三竦みの関係になる」

蒼介「チートクラスの腕輪能力を加味すれば私は高橋先生を上回る」
梓「そんな鳳のチート腕輪もウチの青銅の腕輪の前では無力やし、あとは操作技術と場数の差で上回れるなぁ」
高橋「私は佐伯さんには圧倒的な点差で対処できます」

和真「5位以降は教科によってまちまちだ」






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夜の侵入者

綾倉「さて、今回は姫路さんの殺人料理が抜けた穴を埋めるスーパーアイテムが出てきますよ♪」

蒼介「あなたは何故、よりによってあいつにあんなものを与えたのですか……?」

綾倉「彼と私は色々と通じ合うものがあるので♪」


和真「さてと、優子達が来る前に西村センセを始末しておくか」

明久「あ、確かに鉄人に止められるかもしれないからね。でもどうやってあの鉄人を?」

和真「正攻法じゃなけりゃ、やりようはある」

 

そういうと和真はカバンから水筒を取りだし、部屋に備え付けてあるコップに中の液体を注いでいく。

 

 

濁った沼のような色をした液体を。

 

「「「「……ッ!?」」」」

 

雄二、明久、秀吉、ムッツリーニの四人はそれを見た途端に顔を強ばらせる。そんな四人に構うことなく、和真はコップを片手に廊下へと続くドアを無造作に開ける。

途端に鉄人の拳が飛んでくるが、和真はコップを持っていない方の手で難なくはたき落とす。雄二や明久用の手加減された拳のため、和真は中の液体を一滴も溢すことなく余裕で対処できた。

 

鉄人「……何のつもりだ柊」

和真「合宿先でも休むことなく激務に追われている西村センセに差し入れ持ってきただけっすよ」

鉄人「誰のせいで激務に追われていると思……っ!?」

 

呆れたような表情になる鉄人だが、和真の持っているコップに気付いた途端凍りついたように固まる。

 

和真「さぁ、グッといっちゃってグッと♪安心してくれ、神に誓って変な物は入れてないっすから」

鉄人「そのドリンク事態が既に変な物だろうが……。何で生徒のお前がそれを持っているんだ……

 

その、綾倉先生特製野菜汁を……」

和真「以前理数系の勉強教えてもらうついでに伝授してもらったんすよ」

鉄人「あの人は何てことをしてくれたんだ……」

 

特製野菜汁とは、綾倉先生が趣味で製作した悪魔のドリンクである。「栄養バランスに優れることや健康に良いといった大義名分を維持しつつ、どれだけ不味い飲み物を作ることができるか」という悪意に満ちたコンセプトで作られており、教師が何か軽い失態を演じる(例えば定期的に行われている教員用テストで目標点に届かなかったり)たびに綾倉先生が権力を行使して強制的に飲ませており、何故か平然としている高橋先生を除いた全ての教師が多大な被害を被ってきた。

無論、強靭な肉体を持つ鉄人でさえ例外ではない。

 

和真「さあさ飲んで飲んで。生徒の好意は素直に受け取るべきだぜ♪」

鉄人「あのな柊……」

和真「つうかよ西村センセ、」

 

非常に楽しそうに特製野菜汁を薦めていた和真だったが、何故か突然真剣な顔つきで鉄人を睨み付ける。

 

和真「俺に勝っといて、たかだか不味いだけの飲み物にビクビクしてんじゃねぇよ」

鉄人「む……」

和真「ああ、ぶっちゃけ面白半分で薦めてるよ。一昨日に土をつけられた腹いせも少しはある」

鉄人(薄々それはわかっていたが、少しは取り繕わんのかこいつは……)

和真「だけどアンタは言ったじゃねぇか……向かってくる生徒は正面から受け止めるって!あれは嘘だったのかよ!?」

鉄人「……!」

 

和真は悲痛そうな表情で声を荒げて鉄人を糾弾するが、勿論腹の中では爆笑している。

だが、生徒にここまで言われて立ち上がらない鉄人ではない。

 

鉄人「良いだろう!あのときの俺の言葉が、でまかせなんかではないと教えてやろうじゃないか!コップを渡せ柊!」

和真「西村センセ……!」

 

内心でガッツポーズを取りながら、和真は表面上は尊敬の眼差しを浮かべつつ特製野菜汁を鉄人に渡す。

 

鉄人(…………南無三!)

 

ゴクゴクゴク…

鉄人「少し席を外すが、部屋からは出るんじゃないぞ(スタスタスタ)」

和真「了解♪」

 

無謀にも一気飲みした鉄人はしばらく耐えていたが、限界が来たのかその場から席を立つ。廊下ではゆっくりと歩いていたが、角を曲がって和真の視界から外れた途端に全力疾走する音が聞こえてきた。

何とかギリギリのところで教師としての面子は守り通したものの、結果は惨敗と言って良いだろう。

 

和真「よし、邪魔者排除完了♪」

雄二「お前……悪魔だな……」

ムッツリーニ「……血も涙もない」

明久「さらば鉄人。安らかに眠れ……」

秀吉「中々の演技力じゃったぞ。今度演劇部に顔を出してみないかの」

和真「考えておく」

 

一仕事終えてスッキリした表情をした和真をドン引きした表情で迎える二人と、弔うように十字を切る明久。どうやら以前に綾倉特製ドリンクの威力を味わったことがあるようだ。一方、演劇バカの秀吉は和真の迫真の演技に光るものを感じたのか、さりげなく部活に勧誘をしていた。

 

 

 

コンコン

 

控えめなノックの音が扉から聞こえてきた。

 

明久「あ、いらっしゃい、姫路さんに木下さん」

優子「さっき鬼気迫る表情で全力疾走する西村先生を見たんだけど、アンタ達いったい何をやったの?」

和真「特製ドリンクで抹殺しただけだ」

優子「アンタ容赦ないわね……」

 

ちなみに最近和真は『アクティブ』内でもこのドリンクを罰ゲームに組もうとしている。どうやらサディストの考えることは一緒のようだ。

 

姫路「ところで、明久君はどうして浴衣姿なんですか?」

明久「これ?部屋にあったのを着てみたんだ。折角あるならと思ってさ、似合うかな?」

 

実は明久の着替えがガラスまみれになったからなのだが、いちいちそんなことを説明する必要もないだろう。

 

姫路「はい!綺麗な肌や細い鎖骨が凄く色っぽくて!」

明久「…そ、そうかな」

優子「和真、姫路さんは吉井君に何を求めているのよ……?(小声)」

和真「何も言うな優子。Fクラスの過酷な環境で生活するなかで、姫路は色々と大切なものが失われつつあるんだよ(小声)」

 

もう新学期の頃の清廉潔白品行方正な、優等生そのものだった姫路には戻れないと言って良いだろう。

 

雄二「二人とも、よく来てくれた」

姫路「こんばんわ坂本君」

優子「お邪魔するわ」

雄二「早速だが、プレゼントだ」

 

雄二が手に持っていたものを姫路達に手渡す。

 

瑞希「浴衣、ですか?ありがとうございます。ところで話って……?」

優子「……アタシ達に何をさせるつもりよ?」

 

姫路は何の脈絡もなく手渡された浴衣に戸惑っていた。

優子は薄々わかってきたが一応尋ねておく。

 

明久「話というか、二人にお願いがあるんだ」

姫路「お願い?」

明久「うん。実はね、その浴衣を着た二人の写真を撮らせて欲しいんだ」

姫路「え……っ?」

優子「そんなことだろうと思った……」

 

姫路は突然の話でパチパチと瞬かせ、優子はあまり当たって欲しくない推測が的中したのか嘆息する。

 

和真「明久、姫路に詳しく説明しておけ。優子はちょっとこっちに(チョイチョイ)」

優子「はいはい……」

明久「え!?あ~、その、なんて言うか……」

 

姫路に関しては明久が一人で説得した方が上手く行くと判断し、和真は優子を連れて二人から離れる。

 

優子「それで、何でアタシにそんなことさせるのよ?」

和真「詳しく話すと長くなるから簡潔に説明するが、A~Cクラスの男子を味方に引き込むためだ」

優子「……あのねぇ、一応アタシはアンタ達を止める側よ?堂々とそんな魂胆バラしちゃって良いの?」

和真「お前に半端な隠し事はすぐバレるからな。流石は秀吉キラー」

優子「誰が秀吉キラーよ……。わかったわ、引き受けて上げる。その代わり今度何か奢ってよ?」

和真「交渉成立だな。しっかしお前も随分柔軟になったもんだ、初めて会った頃はもっとガッチガチの堅物だったのによ」

優子「そう言うアンタこそ、初めて会った頃は今よりずっと無鉄砲な性格だったでしょうが。代表や飛鳥は随分苦労したそうじゃない」

 

呆れるように嘆息しつつも、あっさり了承してくれる優子。立場上止めなくてはならないものの、和真達が覗きそのものではない明確な目的があると薄々察しているためである。

交渉を終わらせた和真達は明久達のもとへ移動する。明久と和真はアイコンタクトで、お互い交渉成立したことを伝え合った。

 

優子「さっさと済ませてしまいましょう」

姫路「そうですね木下さん。ちょっと着替えてきます」

明久「二人とも、ちょっと待って」

姫路「はい?」

優子「どうしたの吉井君?」

 

明久は二人を呼び止めると、和真と雄二にアイコンタクトで『姫路さんたちに写真を見せることを教えるからね』と送ってきたので、和真は『そりゃそうだろ』、雄二は『まさか教えないつもりだったのか?』と送り返す。

 

明久「実は撮る写真なんだけどさ、友達とかに見せてもいいかな?」

優子「……アタシは別に構わないわ」

姫路「浴衣姿をですか?そ、それは少し恥ずかしいです……」

 

和真から目的を教えられた優子はある程度覚悟していたのか少々躊躇いつつも了承するものの、事情を教えられていない姫路は恥ずかしがってやんわりと断ろうとする。

 

雄二「何を言っているんだ姫路。浴衣姿程度で恥ずかしいと思っていたら明久の存在はどうなる?バカの上に変態なんて、生きていけないほど恥ずかしいことじゃないか」

明久「放して和真っ!雄二の頭をカチ割ってやるんだ!」

和真「気持ちはわかるけど今は我慢しろ!」

優子「秀吉と和真から色々聞いてはいたけど、この二人って本当に友達なの……?」

秀吉「明久と雄二の絆はトイレットペーパーより薄っぺらいからのう……」

 

彼等二人の関係は、本人達曰くこの先いつまでも他人未満宿敵以上だそうだ。

 

雄二「とは言え、何もタダで頼もうってワケじゃない。それなりの礼はさせてもらおう。木下姉にも用意しているぞ」

 

そう言って雄二は明久や和真から遠ざけるように姫路達を手招きする。二人は特に警戒することもなく雄二に歩み寄り、三人は和真達に背を向けて小声で会話を始めた。

 

明久「何の話をしてるのかな?」

和真「さぁな」(姫路の方はだいたい予想はつく。大方明久の写真かなんかだろ。だが優子の方は何だ……?こそこそやってる以上俺に聞かれたくねぇってのはわかるが、俺と優子はそういうのじゃねぇしな……)

雄二「交渉は成立した。問題ないそうだ」

姫路「はいっ!少しくらいなら浴衣の裾をはだけてもいいですっ!」

優子「アタシも多少のことなら我慢するわ」

和真「お前何貰ったんだよ?」

優子「言いたくないって言ったら?」

和真「じゃあしゃあねぇな」

 

多少気になったものの、嫌がる相手から無理矢理聞き出してまで聞きたいとも思えないため、さっさと興味を無くす和真。

 

明久「とにかく協力してくれてありがとう。それなら早速準備をお願いできる?」

優子「わかったわ」

姫路「はいっ!」

 

浴衣を抱えて部屋のトイレに入る姫路と優子。衣擦れの音が妙に明久の心を乱している傍ら、和真は秀吉とあることについて話していた。今さらではあるが秀吉は既に撮影を済ませて、和真の指示に従って普段着に戻っている。

 

和真「秀吉、お前も浴衣着て撮影に参加したってことは優子には絶対に隠し通しておけよ」

秀吉「言われるまでもないのじゃ。ワシも命は惜しいからのう」

 

ただでさえこの部屋には鉄人をも葬り去る悪魔のドリンクがあるのだ。もしバレたら秀吉に対してやたら厳しい優子のことだ、どんな末路を迎えるのか容易に想像できる。

 

ムッツリーニ「……………(キュッキュッ)」

 

ちなみにムッツリーニは一心不乱にカメラのレンズを磨いている。妥協を許さない職人気質と言えば大分聞こえはよくなるだろうが、彼を突き動かすのは勿論欲望のみである。

 

明久「ムッツリーニ。お願いがあるんだけど?」

ムッツリーニ「……?」

明久「あのさ、一枚だけでいいから、その、僕と姫路さんのツーショットを……(小声)」

ムッツリーニ「……貸し、一つ(ニヤリ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんやでムッツリーニが血の海に沈んだりした為に若干時間はかかったものの、優子と姫路の浴衣は無事写真に収めることができた。

写真を撮り終えて二人が自分の部屋に戻ると、早寝早起きを心掛けている和真はもちろんのこと、明久達も昨夜に遅くまで鉄人のシゴキに遭っていたせいもあってか、部屋はすぐに電気を消してすぐに寝息が聞こえ始めた。

そのせいか、誰も部屋に誰かが入ってきたことに気づかなかった。

 

?「……キ、起きて……」

明久「んむぅ……」

 

明久はゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚に意識が覚醒しそうになるものの、非常に疲れてるため無視することにした。

 

?「もう、どうして寝てるのよ……」

 

ユサユサ

 

明久「んにゃっ!」

 

鬱陶しくなったのか、揺さぶる手を払いのける明久。

 

?「起きなさいっての」

 

ゴキッ ゴキン

 

明久「っっっ!?」

 

侵入者は明久の左手の関節を外し、さらに証拠隠滅の為にハメ直した。もう既にお察しであろうが、侵入者の招待は先ほど明久から告白紛いのメールを受け取ったらしき美波である。

 

美波「アキ。起きた?」

明久「え?ああ、なんだ美波か。それなら納得だよ」

 

そこは納得するところではないと思うが、明久ひいてはFクラスに生半可な常識は通じない。

 

明久「ってどうして美波がムグゥッ!?」

美波「大声ださないのっ」

 

慌てた様子で美波が明久の口と、何故か鼻も塞ぐ。

 

美波「目が覚めた?落ち着いたなら手を離すけど……」

明久「……!(コクコクコク!)」

 

美波の言葉に激しく頷く明久。ちなみにこういう場面で塞ぐのは口だけで充分である。

 

美波「大きな声を出しちゃダメだからね……」

 

そう告げて美波は明久の気道を開放する。明久は足りなくなっていた酸素を充分体に蓄えてから、もう一度正面にいる姿をじっと見る。

 

明久「……え~っと、美波、だよね……?」

美波「……なによその目は?」

 

どうやら明久は髪を下ろしていつもと大分印象の変わった美波に見惚れている様だった。

 

美波「……アキ……?」

 

不安げに明久を見つめている美波は、常日頃の勝ち気で男勝りな雰囲気とはうって変わって心細そうで、とても彼女にしたくないランキング上位に名を連ねている女子にはとても見えない。

 

明久(……でも、どうして美波が夜中に僕の部屋にいるんだろう?)

 

このような時間に女子が男子部屋に来るなど余程のことが無い限り有り得ない。服装もかなり薄着なのだから、何らかの間違いが起こる可能性もゼロではない。

そこまでのリスクを冒してまで美波が来た理由は何なのか?

 

そこまで考えて明久は、疲れで脳が麻痺していることも上手い具合に作用したのか、

 

 

 

明久(もしかすると、だけど……美波は僕のことが好き、だとか……?)

 

普段ならば決してたどり着くことの無い核心へと迫る。

 

が、

 

明久(いやいやいや、落ち着け僕!そんな短絡思考でどうする!いつもはバカだバカだと言われているけど、本当は物事をよく考える頭のいい男のはずだろう?この程度のシチュエーションで向こうが僕に惚れているなんて考えるのはあまりに単純じゃないのか?)

 

深読みし過ぎた明久は、いつものように核心から遠ざかっていく。

 

明久(以前和真にも言われたじゃないか!困ったときには冷静に物事を整理して考えるんだ。状況を分析にして、じっくりと考えてみよう)

 

《クラスの女の子が薄着で真夜中に僕の前にいる》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《イケるっ!》

 

明久「あれ!?やたらと単純!?」

美波「アキッ、邪魔者が起きちゃうでしょ!?」

 

奇しくも再び核心に近付くものの、美波によって再び口を塞がれたため、明久はさらに考えを巡らせる。

 

《イケるっ!》

《でも本当に僕のことが好きなんだろうか?》

《今までの行動を見る限り有り得ない》

《そういえばさっき告白紛いのメールを送ってしまった》

《きっと美波は気分を害している》

《美波は全てをなかったことにしようと考える》

《夜中+浸入+全身凶器》

 

明久「……美波。せめて苦しまないように頼むよ……」

美波「……アンタってどういう思考回路しているの……?」

 

紆余曲折を経て最終的に暗殺、闇討ちなどの結論に達してしまったようだ。まあ普段の美波の行動を考えればそういう結論に至ったのも仕方ないことも事実ではあるが。

 

美波「……その、ウチだって勇気を出してここまで来たんだよ……?だから、その、ああいうことはメールじゃなくて、きちんとした言葉で……」

明久「ほぇ?」

 

一瞬混乱した後、既に暗殺だと断定している明久は辞世の句的な意味であると解釈する。そしてやはりまだ死にたくないので、周囲の状況を見回して打開策を考える。

 

今、明久の周囲にあるものは……

 

 

・可愛らしい秀吉の寝顔

・普段とは全く別物の、和真の純粋無垢な寝顔

・カメラを構えているムッツリーニ

・浴衣姿で雄二の布団に侵入しようとしている翔子

 

 

明久「………………」

 

 

何か色々間違っているように思えた明久は、もう一度よく観察してみることにする。

 

 

・あどけない秀吉の寝顔

・もし強引に起こそうものなら容赦なく私刑を執行してくるような奴には思えない、和真の人畜無害そうな寝顔

・静かにシャッターを切るムッツリーニ

・慌てふためく雄二をよそに浴衣の帯を緩めようとする翔子

 

現実は非情である。

 

明久「困った……今の僕の役に立ちそうなものがない」

雄二「その前に俺を助ける気はないのかっ!?」

美波「ちょ、ちょっと!柊と木下以外は全員起きてるの!?早く言いなさいよねっ!」

 

明久の超至近距離にいた美波は慌てて距離を取る。

 

美波「そ、そっか。周りが起きてたんだ……だからアキは知らない振りをしていたのね……」

 

そして美波が都合の良い勘違いをしていると、ドアが急に開く音がした。 

 

清水「お姉さま無事ですか!?美春が助けに来ましたよ!」

明久(わかってた。この程度で終わるわけないなんて、予想通りだよ畜生!)

美波「み、美春!?どうしてアンタがここにくるのよ!」

清水「さっきお姉さまのお布団に入ったら誰もいなかったから、もしやと思ったら……!やっぱりここに探しに来て正解です!」

 

『布団に入ったら誰もいない』なんて、探そうとした切っ掛けからして普通ではない。合宿三日目で思いきって大勝負に出たのだろうか。

 

美波「あ、危なかったわ……。昨日で懲りたと思って完全に油断していたもの……」

 

どうやら既に実行済みだったようだ。

 

清水「お姉さま!男の部屋に来るなんて不潔です!おとなしく美春と一緒に裸で寝ましょう!いえ、勿論イロイロするので寝かせませんけど!」

 

明久「やめるんだ清水さん!それ以上の会話はムッツリーニの命に関わる!」

ムッツリーニ「……………!!(ボタボタボタボタ)」

翔子「……雄二、とにかく続き」

雄二「お前は本当にマイペースだな!?」

秀吉「な、なんじゃ!?目が覚めたら女子が三名もおる上に雄二は押し倒されてムッツリーニが布団を血で染めておるぞ!?」

和真「……zzz」

明久「ああああっ!皆してそんなに騒いじゃダメだよっ!このままじゃ鉄人に気づかれて…」

 

 

 

鉄人『なにごとだっ!今吉井の声が聞こえたぞっ!』

 

階下から聞こえてくる鉄人の声。

 

「「「「「……………」」」」」

明久「え?なに?なんで全員が『吉井が声を出したせいで見つかったじゃないか』みたいな目で僕を見るの?」

 

鉄人は日頃苦労させられている明久の声には凄く敏感になったいるため、この状況は正しく明久のせいである。

 

雄二「くそっ!明久のせいで面倒なことになった!とにかくお前らは見つからないようにここから逃げろ!」

明久「なんだか納得いかない物言いだけど雄二の言う通りだ!とりあえずここは僕らに任せて!」

美波「で、でも……」

清水「お姉さま、躊躇っている時間はありません!とにかく服を脱いで美春の部屋にいきましょう!」

美波「美春は黙ってなさいっ!」

 

この状況で尚口説きにかかる清水はある意味大物だ。

 

『吉井に坂本ぉ!お前らだとはわかっているんだ!その場を動くなよっ!』

 

バタバタしているうちに再度ドスの利いた声が廊下から響いてくる。もう一種のホラーゲームのようだ。

 

明久「鉄人の声だ!もうかなり近いよ!」

雄二「時間がない!こうなったら俺が『必殺アキちゃん爆弾』で鉄人の注意を引き付けるから、その間に三人は部屋を出ろ!」

美波「わかったわ!」

明久「美波!そこはわかっちゃダメだ!」

 

雄二はいつものように明久をデコイにして事を治めようとするも当然明久は断固拒否する。

 

明久「まず僕と雄二が飛び出して鉄人の注意を引き付ける。その隙に三人はドアから出て一気に部屋まで走るんだ。いいね?」

美波「うん。ごめんね。ウチらの為に」

翔子「……ありがとう」

清水「お姉さま、愛しています」

 

状況を理解していない奴が一人いるものの作戦は決まった。あとは実行するだけである。

 

明久「雄二、行くよ!」

雄二「仕方ない、付き合ってやる!」

 

ドアの取っ手に手をかけ、二人が一気に押し開けた。

 

バン! ガスッ!

 

鉄人「ふぬぉぉっ!?よ、吉井、キサマぁああ!」

明久「げっ!?鉄人が扉を頭で痛打したみたいなんだけど!?」

雄二「それはファインプレイだ明久!」

 

そのファインプレイで生じた鉄人の怒りが明久に向かうのは言うまでもないだろう。

 

雄二「逃げるぞ明久!」

明久「了か……」

 

そこで明久達にとって計算違いが起きる。鉄人が頭を打って出遅れたせいで、部屋の中を覗き込もうとしていた。

 

明久「鉄人!僕はこっちだよ!」

 

必殺アキちゃん爆弾を仕掛けようと後頭部を鷲掴みしている雄二の手を振りほどき、明久は浴衣の帯に手をかけながら鉄人に駆け寄る。明久の声にいち早く反応したため、中にいる三人は見つからなかったようだ。

 

鉄人「貴様は西村先生と呼べと何度言えば……」

明久「どりゃぁぁあーっ!」

 

迷いの無い手つきで鉄人の顔に着ていた浴衣を巻きつける明久。

 

鉄人「こ、こらっ!何を」

明久「おまけっ!」

 

 

さらにその上から帯で縛り付ける。

 

明久「今のうちだ!」

 

間髪いれず明久が美波たちに指示を出す。三人は頷いた後、全速力で廊下を走って行った。

 

鉄人「吉井。貴様はつくづく俺の指導を受けたいようだな……」

 

そしてこれからは怒り心頭の鉄人による明久への鉄拳制裁が始まろうとしていた。

 

雄二「明久、あとは頑張れよっ」

明久「西村先生すいません!坂本 雄二がこっそり持ち込んだ酒を隠す為に注意を逸らせと言ってきたものですから!」

雄二「キサマなんてことを言ってくれるんだ!?」

鉄人「吉井……。坂本……。貴様ら……覚悟は出来ているんだろうなぁぁああっ!」

「「出来てませんっ!」」

 

雄二と明久は鉄人が顔にかけられた浴衣を剥がし終わる前に走り出し、怒りの形相を浮かべた鉄人が追いかけていく。もう完全にそこらのホラーゲームより恐怖感を掻き立てられる。

 

秀吉「やれやれ、当面の危機はさったようじゃな」

ムッツリーニ「……(コクコク)」

 

部屋に取り残された秀吉とムッツリーニがほっと一息つく。そして二人はもう一人残っている人物に視線を移す。

 

和真「…………zzz」

秀吉「あんな騒ぎがあったのに和真はどうして何事も無く熟睡しておられるのじゃ?」

ムッツリーニ「……しかし無理矢理起こされたときの和真の機嫌を考えると、起きなくて良かった」

秀吉「寝惚けてるせいか、いつもの10割増しで容赦がなくなるからのう……」

 

余談だが、結局あの後捕まった明久と雄二は三日連続で鉄人と熱い夜を過ごしたようだ。

 

 

 

 




綾倉「というわけで、姫路さんの必殺料理の代行を勤めるのは、私特製の尋常じゃないほど不味いドリンクでした」

飛鳥「不味くなるように作っている時点でこの人の性格の悪さが滲み出てるわね……」

徹「ちなみに元ネタはテニスの王子様の『乾汁』だよ」

【ミニコント】
テーマ:原因追求

飛鳥「今回の中間テスト、前より成績下がってしまったわ……。ごめんなさい優子、わざわざ勉強見てもらったのに……」

優子「飛鳥はちょっと落ち込みすぎ。そんな風に自分を責めてたら身が持たなくなるわよ?」

飛鳥「だけど……」

優子「ほら、多少下がっても冷静な徹を見習ったら?」


徹「僕の成績が下がった要因は……。
試験日の朝の冷え込みが0.4%
朝食のバランス0.2%
新しいシャーペン0.5%
学校近くの工事の音3%
朝の占い0.1%
寝る前に読んだ本のチョイス0.1%
枕の高さ0.1%
星の配列0.05%……(ブツブツ)」


優子「……まぁアレはちょっと森羅万象に責任転嫁し過ぎだけど」

飛鳥「星の配列って……」















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ラストチャンス!

この強化合宿全体のまとめを書きなさい。

姫路 瑞希のまとめ
『他のクラスの人と勉強をすることで良い刺激が得られました。伸び悩んでいた科目についての学習方法や使い易い参考書についても教えて貰うことができたので、今後は更に頑張っていきたいと思います。夜はいつものように騒ぎがありましたが、これはこれで私達の学校らしいと思います。ある人から内緒で素敵な写真も貰えて大満足です!』

綾倉「姫路さんは全体的にそつなくこなしている様子だったので伸び悩んている科目があったということは意外ですね。無事に解決できそうなので何よりです。やはり姫路さんにはAクラスで学習する方が良い影響がありそうですね。次回の振り分け試験では是非とも頑張ってください」

島田 美波のまとめ
『三日目の夜のことが忘れられない。ウチはどうしたらいいんだろう。こんなことは誰にも相談できないし、アイツとはあれ以来話ができてないし……。瑞希の気持ちを知っているのに、これって裏切りになっちゃうのかな……?けど、ウチのは去年からの気持ちだから、こっちの方が先で……。ああもう!どうしていいのかわかんない!』


綾倉「なぜ誰にも相談できない悩みをこのまとめに書いたのかはわかりませんが、推測するにおそらく恋愛絡みでしょう。私から言えることは一つです。自分が後から思い出して後悔する事のないように行動するのが一番です。色々と悩んで立派な大人になるのが学生の仕事ですよ」


吉井 明久の日誌
『あまりに多くのトラブルがあって驚いた。初日はいきなり意識を失って宿泊所に運ばれたので記憶がない。その後は覗き犯の疑いをかけられて、自分に対する周りの見る目について悩まされた。勉強も、女子風呂を覗く為に頑張ろうと思ったけれど今のやり方でいいか不安が残るし、色々と考えさせられる強化合宿になったと思う。』

綾倉「あなたもあなたで色々と苦労しているようですが、私からアドバイスできることは特に無さそうですね」


柊 和真のまとめ
『正直今回の合宿は参加するメリットが特に無かったためさほど期待してなかったが、終わってみれば非常に充実した合宿だったと思う。学年全体や教師まで全てを巻き込んだ総力戦や、圧倒的格上の相手との手に汗握る闘いは、教科書を読んだり机に向かっているだけじゃ決して得られない価値のあるものだと俺は考えている』

綾倉「良くも悪くも君は自分が信じた道を迷わず進んでいるようですね。教師の私が言うのもなんですが、君の強みは他人の言うことに素直に従っていては発揮できませんからね」


大門 徹のまとめ
『今回僕の影薄すぎないか?』

綾倉「我慢してください」




明久「ふぁ……あふ……」

雄二「流石に眠いぞこら……」

 

朝食の時間だと言うのに明久と雄二は非常に眠たそうにしている。結局二人とも昨夜は鉄人に捕まって朝まで教育について(拳で)語られたようだ。

これで三日連続ともなると、いくら体力自慢の二人でも限界に近い。

 

秀吉「お主ら災難じゃったのう……」

和真「随分大変だったみてぇだな。後でレモンティーでも淹れてやるか…」

 

秀吉は二人だけが説教を受けた事を申し訳なさそうにしている。和真は後で知ったことなので罪悪感の類いは存在しないが、かなり同情できる内容だったためとりあえずアフターケアでもしてやろうと思う。

 

明久「災難と言えば災難だったかも……ふわぁぁああ」

和真「自習時間に点数の補給とか色々やることはあるが、そんな調子で本当に大丈夫かよ?」

秀吉「弱ったのぅ。お主らがそんな様子では、今夜はとても……」

明久「別に全く寝てないわけじゃないから、気合さえ入れば目が覚めると思うけど……ふわぁ」

 

口を開くたびに欠伸が出ている。“あの”明久が目の前にあるカロリーよりも睡眠を優先しようとしているほど深刻な事態である。

 

雄二「俺もダメだ……。全然気合が入らふおぉぉおっ!?」

明久「ど、どうしたの雄二!?」

和真「げっ、汚ぇな!?ご飯に唾入るとこだったぞ!」

 

隣でダルそうにしていた雄二が、何かを見た瞬間一気に覚醒した。それにより和真の意外と神経質な一面も発覚したりする。

 

ムッツリーニ「……効果は抜群」

明久「あ、ムッツリーニ。おはよう」

 

後ろの出入り口から手に何かを持ってムッツリーニが入ってきた。彼にしては珍しく、誇らしげに胸を張っている。

 

秀吉「ムッツリーニ。今しがた雄二に見せたのは何じゃ?えらく興奮しておるように見えるのじゃが?」

ムッツリーニ「……魔法の写真」

和真「どれどれ、俺らにも見せてくれよ」

ムッツリーニ「………(スッ)」

 

手にしている写真四枚を和真達に手渡し、明久を中心に和真と秀吉が左右から覗き込む。

 

明久「魔法の写真だって?何を言っているんだか。僕らももう高校生なんだし、たかだか写真程度で気合なんかが入るわけがふおぉぉおっ!」

和真「だから唾飛ばすなぶん殴るぞ!……しかし、流石ムッツリーニ、すげぇ完成度だな……」

秀吉「ほう。これはまた……」

 

ムッツリーニが見せてくれた写真の一枚目は、昨夜撮影した姫路と優子の浴衣姿だった。ただでさえ二人とも恥ずかしそうに上目遣いをしながらの浴衣姿で色っぽい上に、少し胸元もはだけている。雄二と明久が覚醒したのも頷ける。

 

明久「僕、生きていて良かった……!」

和真「流石に大袈裟だろそれは……。しかし、大して露出してるわけでもねぇのにこれは……うん……アリだな」

秀吉「和真は普段この手のことに淡白じゃが、そういう反応を見るに、お主もちゃんと男なのじゃな」

和真(そしてお前はそんなだから女扱いされるんだよ……)「それにしても上目遣いか……。優子の奴よくこんな要望に答えたな。あいついったい何貰ったんだ?何があいつをここまで駆り立てたんだ?」

秀吉(薄々予想できるのう……この機会に少しでも進展すれば姉上も浮かばれるんじゃが)「……明久、二枚目は何が写っておるのじゃ?」

明久「えっと……」

 

渡された写真を捲ると、今度は浴衣を着た秀吉の写真。双子だけあって見た目は瓜二つだが、姉の優子が凛々しくて綺麗なタイプなのに対し、秀吉は可愛くて庇護欲をかきたてるタイプ。それらの違いが浴衣姿にも反映されている。

 

明久「やっぱり秀吉は何を着ても可愛いねぇ~」

和真「ムッツリーニも完全に可愛い路線で姉貴と差別化してるな。秀吉、そこんとこどう思うよ?」

秀吉「せめて…せめて姉上よりは男らしくなりたいのじゃが……」

和真「無理だろ」

秀吉「即答とはひどくないかの!?」

和真「だってよぉ、お前が優子より男にモテて、優子がお前より女にモテてるのは純然たる事実だろ?」

秀吉「聞こえん!ワシは何も聞いておらぬのじゃ!」

 

都合の悪い現実から全力で目を背ける秀吉。

異性より同性からモテるのが、二人の共通の悩みだったりする。

 

和真「明久、秀吉のメンタルが無事な内に三枚目を」

明久「あ…うん」(でも秀吉が女子にモテてもねぇ……)

 

割とひどいことを考えつつ明久は写真を捲る。すると今度は浴衣姿で迫る霧島とハーフパンツ姿の美波のツーショットが出てきた。

 

明久「す、凄いっ!これも凄いよムッツリーニ!今僕はキミを心から尊敬している!」

秀吉「確かにすごいのう……うまく明久と雄二が写らんような角度で撮ってあるし、もはやプロの業じゃな」

和真(翔子はいつものこととして……島田は何しに来たんだ?まさか夜這いってやつか?あのヘタレにしては随分頑張ったなオイ)

 

和真が翔子の恋路は全力で支援しているのに対し、美波や姫路には何の手も貸そうとしないのは、二人が直接明久に気持ちを伝えようとしないからである。

何があったか知らないがここまで難易度の高いことをやってのけた美波を見直しつつも、ここまでできるなら告白の一つや二つさっさとやれと和真は呆れる。

 

秀吉「して、四枚目は?」

明久「あ、うん。四枚目は……」

 

更に写真を捲る明久。すると、そこに写っていたのは、

 

 

 

セーラー服姿の明久。

 

ムッツリーニ「……綺麗に撮れたので印刷してみた」

明久「離して秀吉!和真!このバカの頭をカチ割ってやるんだ!」

秀吉「落ち着くのじゃ明久!よく撮れておるではないか!」

和真「気持ちは痛いほどわかるが今は抑えろ!というか、お前らほんとに昨日の夜何してたんだよ!?」

 

秀吉と一緒に暴れる明久を羽交い絞めにしつつ、こんなことなら自分も昨日起きておけば良かったと少々後悔する和真。

 

雄二「驚いたぞムッツリーニ。まさかここまで凄い写真を撮るとは」

 

目に輝きを取り戻した雄二がムッツリーニを労う。あまり女子に興味を示さない雄二や、日頃からまだ思春期を迎えてないなどと揶揄されている和真ですらあの反応だ。普通の男子が見たらどうなるかは想像に難くない。

 

秀吉「これで増員も期待できるというわけじゃな」

明久「……これ、他の皆にも見せないとダメかな?」

和真「お前な……」

雄二「明久。俺たちの目的を忘れるな。大局を見誤る人間に成功はないぞ」

明久「う……それはそうだけど……」

 

確かに大衆に晒すにはあまりにも勿体無い一品であることは否定しない。しかし彼らの目的はこの写真ではなく、脅迫犯を見つけ出すことである。目先の欲に流されては、ここまでしてきたことが全て無駄になってしまうことは明久にもわかっていた。

 

明久「ごめん。確かに間違えていた。この写真は目的の為の手段だし、そんな未練は断ち切る。後でムッツリーニに1グロスほど焼き増しして貰うだけで我慢するよ」

雄二「1グロスは多すぎだろ」

和真「流石に144枚は嵩張るわ」

秀吉「未練タラタラじゃな」

雄二「まあこいつは放っといて、と」

 

どこからかペンを取り出し、雄二は写真の裏に荒々しく警告文を書き殴った。

 

『この写真を全男子に回すこと。女子及び教師に見つからないよう注意!尚、パクったヤツは柊和真の名の下に私刑を執行する』

 

明久「なるほど、確かにこうやって注意書きをしておかないと一瞬で盗まれそうだね」

秀吉「じゃがこれで安心じゃろう。和真の私刑を恐れない者など二年にはおるまい」

和真「人の名前を印籠みたいに使いやがって……。まあことがことだし仕方ないか……」

 

若干不本意ではあるものの、そんなこといっている場合ではないので和真は黙認する。

 

雄二「おい須川。コレを男子に順番に回してくれ」

 

近くで食事をしていた須川に写真を渡す。須川は疑問符を浮かべながらも受け取り、

 

須川「ふぉおおおおおーーーーっ」

 

覚醒する。

 

明久「ところで雄二。僕の写真はきちんと抜いておいてくれた?」

雄二「安心しろ。あんなものを流したら士気がガタ落ちだからな。キッチリ抜いておいた」

明久「そっか。それは良かったよ」

和真(なんか引っ掛かるな……気のせいか久保あたりに回そうとしている気が……いやいや、まだ確定したわけじゃねぇ)

秀吉「うん?ムッツリーニ。お主、他にも写真を持っておったのか?」

 

和真が珍しく自分の天性の直感に目を背けている傍ら、秀吉がムッツリーニの手にはまだ写真があることに気がつく。

 

秀吉「どれどれ、何が写っておるのじゃ?」

明久「あ、僕にも見せてよ」

和真「俺にも頼む」

 

秀吉が受け取った写真を明久と和真は隣から覗き込む。そこに写っていたのは、

 

 

 

セーラー服姿の明久(WITHパンチラ)。

 

ムッツリーニ「……思わず撮ってしまった」

明久「放して秀吉!和真!コイツの脳髄を引きずり出してやるんだ!」

秀吉「見ておらん!ワシは何も見ておらんから落ち着くのじゃ!」

和真「マジで昨日お前に何があったんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチッ カチッ

 

 

時計の音だけがこの部屋に鳴り響く。いつもより妙に大きく聞こえるのは、全員の気持ちが昂っているからだろうか。

 

雄二「明久。今更ジタバタするな。補充テストも全て受けたし、写真も回した。やるべきことは全てやったのだから、あとは何も考えずに戦うだけだ」

秀吉「D・E・Fクラスは昨日に続いて全員参加のようじゃ。あとはA・B・Cクラスが協力してくれるかどうか、じゃな」

 

今日彼らは点数補充の為のテストせいで殆ど根回しに行けなかったので、写真を回した結果がどうなるかわからない。結果は作戦開始後になってから初めてわかる。

 

ムッツリーニ「……今日こそ借りを返す」

 

秘かに闘志を燃やすムッツリーニ。あの写真は撮った本人にも会心の出来だったみたいで、昼間の補充テストで凄い勢いで問題が解けたようだ。

 

和真(優子、飛鳥……今日は絶対負けねぇ。

高橋センセ……今日はあんたにも挑ませてもらう。

そして西村センセだが……俺が行くまでやられんじゃねぇって思うのは、流石に俺のエゴだよなぁ)

 

意外と執念深い和真は、この合宿中にできた借りを全て清算するつもりで闘いに臨む。

 

雄二「作戦開始も近い。最後の打ち合わせを始めるぞ。俺たちがいるのは三階だから、三階・二階・一階・女子風呂前の四ヵ所を突破しないと目的地には辿りつけない」

 

部屋の割り振りは三階にE・Fクラス、二回にC・Dクラス、一階にA・Bクラスとなっている。彼らのいる場所は女子風呂から一番遠い。

 

雄二「三階の敵はE・Fクラスの仲間が抑える。二階の敵はDクラスが抑える手筈になっているんだが……」

秀吉「Dクラスだけだと、少々厳しいじゃろうな」

 

教師側も各クラスの生徒の強さに応じて戦力を配置している。Cクラス抜きでの突破は正直難しいだろう。

 

明久「でも、ここまで来たらやるしかないよ」

雄二「もちろんそのつもりだ。それで、二階を突破すると立ち塞がるのはおそらく……」

ムッツリーニ「……高橋先生」

雄二「そうだ。学年主任の高橋女史が率いる一階教師陣だ。恐らくここには翔子や姫路、木下姉や橘、もしかすると学年8位の佐藤 美穂も参加するかもしれない」

 

今回の作戦の大きな課題の一つが、この高橋先生率いる女子側最高戦力である。ここをどうするかで作戦の成否が大きく変わってくるだろう。

 

雄二「明久とムッツリーニを通す一瞬の隙は俺が作る。そしてその足止めは…」

和真「俺と秀吉と源太、もし参加していればAクラスの久保と徹を中心に行う。可能ならば倒すつもりだ」

 

AクラスとBクラスが参加してくれさえすれば、総合的な戦力はやや不利ではあるものの絶望的というほどでもない。ある一人を除いては。

 

明久「和真……大丈夫なの?」

和真「まあまともにやりゃ無謀極まりないな。優子と飛鳥の連携には俺も昨日してやられたし、翔子と姫路と佐藤は作戦の出来次第でどうにかなるとして、最大のネックは高橋先生だな」

明久「う……あの人か……」

和真「心配するな。事前に策を雄二に伝えてある。秀吉も作戦通りに頼むぞ」

秀吉「う~む……あまり気が進まんのう……和真よ、本当にこれでいいのかの……?」  

 

どうやら和真の考えた策には秀吉の働きが重要になってくるようだが、当の秀吉は何故か乗り気でない様子。

 

和真「俺に後ろめたさを感じる必要はねぇよ。これは戦争、何より優先すべきは勝つことだ」

秀吉「……お主がそこまで言うなら、ワシも迷わんぞい。じゃが、ここで足止めさえもままならなければ……」

雄二「ああ。明久とムッツリーニは前後を挟まれて終わりだ。作戦は失敗、俺は翔子に残りの人生を奪われ、明久は変態として生きていくことになる」

秀吉「作戦が失敗しても大して現状と変わらん気がするのじゃが……?」

明久「なんてことを言うんだ」

雄二「……とにかく、A・Bクラスが協力してくれたら勝機は充分にある」

秀吉「Aクラスはともかく、Bクラスは大丈夫じゃろ。きちんと全員が、特に代表格が女に興味を持っておるからの。あの写真が効くはずじゃ」

明久「あははっ。秀吉の言い方だとAクラスの男子代表格は女の子に興味がないみたいだよ?」

「「「………………」」」

明久(え?何で気まずそうに目を逸らすの?ねえ?)

和真(もう流石に確定かな……)

 

別に和真は同性愛者に対して否定的な意見は特に持ち合わせていない。しかし想像してみてほしい、真面目で誠実だった友人が何故か知らない間に目覚めていたとしたら、どう思うだろうか?

 

雄二「そこまで行ったらあとはお前たちの仕事だ。わかっているな?」

ムッツリーニ「……大島先生を倒す」

明久「そして僕は鉄人、だね?」

 

正直、今までの戦いでもこれほど厳しいものはなかった。今回の作戦はあまりにギャンブル要素が多すぎる。

 

 

しかし、

 

 

ムッツリーニ「……大丈夫。きっとうまくいく」

和真「たりめーだ」

明久「うん」

雄二「当然だな」

秀吉「じゃな」

 

このメンバーならきっと何だってできるだろう。それこそ不可能を可能にすることも。

 

 

──ピピッ

 

どこかで電子音が聞こえた。

これは八時を告げる時報。

開戦の狼煙である。

 

五人は士気を高めるためため、肩を組んで円陣を作る。

 

雄二「……よし。てめぇら、気合は入っているか!」

 

「「「「「おうっ!」」」」」

 

雄二「女子も教師も、AクラスもFクラスも関係ねぇ!

男の底力、とくと見せてやろうじゃねぇか!」

 

「「「「おうっ!」」」」

 

雄二「これがラストチャンスだ!俺たち五人から始まったこの騒ぎ、勝利で幕を閉じる以外の結果はありえねぇ!」

 

「「「「当然だっ!」」」」

 

雄二「強化合宿第四夜・最終決戦、出陣るぞっ!」

 

「「「「よっしゃぁーーーっ!!」」」」

 

 

強化合宿四日目二〇〇〇時。

今、覗きを巡る最後の勝負が始まろうとしていた。

 




【ミニコント】
テーマ:カーナビ

和真[ポーン♪三十歩先、右折してください]

秀吉「了解したのじゃ!」

明久「ねぇねぇ、二人とも何やってんの?」

秀吉「……暇じゃから、カーナビごっこして遊んでおる」

和真[目的地に着きました]

明久「高校生の暇の潰し方としてはどうかと思うけど、確かに楽しそうだね。
よーし、カズナビ!僕の輝かしいスターダムな未来へ、最短ルートでナビゲートして!」

和真[ルートを大きく外れました。人生の目的地の再設定をしてください]

明久「……」

雄二「随分高性能だな」









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栄光のウイニングロード

いよいよ覗き騒動も最終局面です。




『いたわっ!主犯格の五人組よ!』

 

部屋を出てすぐのところに長谷川教諭率いる女子部隊が展開されていた。どうやら雄二達は徹底的にマークされているようだ。先陣を切るのはEクラス代表の中林宏美と副官の三上美子。

 

中林「長谷川先生!向こうの五人をやります!試獣召喚(サモン)」

三上「ここで沈めるわ!……サモン!」

雄二「サモン!」

 

先行してきた女子二人に対して雄二が召喚獣を展開する。

 

《数学》

『Fクラス 坂本雄二 283点

VS

 Eクラス 三上美子 108点

 Eクラス 中林宏美 116点』

 

中林「Fクラスの分際で……」

雄二「勉強してから出直してきやがれっ!」

「「きゃぁああーっ!」」

 

〈雄二〉が素早い動きで接近しそれぞれに拳を叩き込んだことで、二人の召喚獣は鎧袖一触とばかりに瞬殺される。ただでさえEクラスは戦闘経験に乏しい上に、Eクラスのエース級程度では既にAクラス上位レベルの雄二に叶うはずもない。

 

雄二「雑魚に構ってる暇はねぇ、先を急ぐぞ!」

長谷川「坂本君!待ちなさい!」

 

倒された中林達に遅れてこのグループの頭の長谷川先生が縋ってきたが、その判断はあまりにも遅すぎる。

 

須川「長谷川先生。残念ながらここは通しませんよ」

 

隙を逃さずクラスメイトの須川たちが長谷川先生と和真達の間に割って入る。

 

須川「坂本!ここは任せて先に行け!サモン!」

「「「サモン!」」」

 

壁を作るように須川たちが召喚獣を並べる。

 

明久「頼んだよ須川君!」

須川「任せろ!それより、きちんと鉄人を倒しておけよ!そうじゃないと、ここを片付けた後で覗きに行けないからな!」

明久「わかってるよ!ヴァルハラでまた会おう!」

 

須川たちに背を向けて廊下を走り出す俺たち。後ろからは教師を前に一歩も退かないクラスメイト達の怒号が聞こえてきた。

 

『翔子たん!翔子たん!はぁはぁはぁああっ!!』

『島田のぺったんこぉぉーっ!』

『姫路さん結婚しましょおーっ!』

 

和真(気色悪っ!?

もういっそのこと全滅してしまえ!)

秀吉「凄い士気じゃな。これならば三階の制圧は問題なさそうじゃ」

明久「皆の気持ちが一つになってるからね」

 

奥側の階段のところまで配置されていた教師は長谷川先生を含めて四人。共にした女子を含め、誰もがEクラスとFクラスの男子生徒に圧倒されていた。もはや三階は安全地帯と言ってもいいだろう。

 

ムッツリーニ「……だが、こっからが勝負」

雄二「そうだな。Dクラスだけで戦っているのか、Cクラスが参戦しているのか。援軍がいなければ、ここまでだな」

 

廊下でも戦闘の気配がする。もしDクラスだけで戦っているとしたら、教師の注意を潜って二階を通り抜けられるのほ難しいだろう。もっとも、二階を制圧されたら通過しても挟み撃ちにされてゲームオーバーなのだが。

 

ムッツリーニ「……躊躇っている時間はない」

和真「そうだな。鬼が出るか、蛇が出るかだ!」

 

 

広めの階段を五人で駆け下りる。二段飛ばしで進み、踊り場を曲がって見えた先には、

 

 

『俺たちの覗きの邪魔はさせない……サモン!』

『先生、覚悟してもらいます……サモン!』

『き、君たちまで……!どうして……!?』

 

 

《科学》

『科学教師 布施文博 563点

 VS   

 Cクラス 黒崎トオル 174点

Dクラス 平賀源二  149点』

 

明久「Cクラスの黒崎君に、」

和真「Dクラスの源二!」

 

昨日から力を貸してくれているDクラス代表の平賀と、参加を決意してくれたCクラスの中心である黒崎が、各クラスの男子を率いて応戦していた。

 

黒崎「ムッツリーニに見せてもらった浴衣姿の写真。この世に、あれほど胸を熱くするものがあっただろうか?」

平賀「俺達は心底、あの浴衣の中を見たいと思った!」

和真(格好良く言ってるけど、内容はただの変態だよなこれ……)

 

士気にかかわるので、和真はふと思った本音を胸の奥にしまって厳重に封印することにする。

 

雄二「Cクラス・Dクラスの野郎ども、協力に感謝するっ!二階は……俺たちの背中は、お前らに任せるぞ!」

平賀「俺達も、お前らに夢を預ける!」

黒崎「D・Cクラス一同!あいつらに道を作るんだ!栄光の、ウイニングロードォォォ!」

『『『おおおーーっ!』』』

 

頼れる仲間に戦場を託し、雄二達はゴールに向かってひたすら突き進む。

 

明久「あのさ、こういうのって凄く嬉しいよね」

秀吉「そうじゃな。仲間が増えていく喜びとでも言うべきじゃろうかの」

和真「その分、仲間だった女子が敵だけどな」

明久「そこは気にしない方向で」

 

これで二階も制圧しただろう。残った問題は最大の難所である一階と風呂場前。

 

明久「この調子ならA・Bクラスもきっと協力してくれるよね!」

雄二「いや……Aクラスはわからん」

ムッツリーニ「……久保に、あの写真は聞かない」

明久「そんなぁ!?ま、まさか……久保君はもっとすごいコレクションを……?」

「「「「…………」」」」

 

更に階段を降り、一階に近づく。ここで両クラスの協力がなければ戦闘の音が聞こえないはずなのだが……。

 

『……護してくれっ……』

『……メだ!……倒的過ぎる……!』

 

どうやら一階で戦闘自体は行われているようだ。

 

明久「よしっ!これで一階の制圧もうまく……」

雄二「いや、違う!様子がおかしいぞ!」

 

踊り場で折り返し、階下の様子を見渡す。

するとそこには、教師・女子生徒連合軍に押されているBクラス男子の姿があった。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 霧島翔子 4762点

Fクラス 姫路瑞希 4422点

 VS   

 Bクラス 加西真一 1692点』

 

 

Fクラスの双璧である二人の圧倒的な戦力差に、為す術も無く仲間が倒されていく。

 

翔子「……………雄二。オイタはそこまで」

姫路「ここは通しませんよ、明久君」

雄二「翔子か……っ!」

明久「姫路さん……っ!」

 

地下へと続く階段の手前。そこには翔子と姫路が待ち構えていた。周囲には既に打ち倒された召喚獣が死屍累々と転がっている。和真は作戦のキーマンとして、腕を組んで後ろで壁に寄りかかって待機している源太に近寄る。

 

和真「聞くまでもねぇが、戦況は?」

源太「言うまでもねぇが、絶望的だ。まずAクラスが参加してねぇのが痛ぇ」

 

周囲を見回してみても、ここの総合科目戦闘でも、離れたところの物理科目戦闘でも、Aクラスの生徒らしき姿は見当たらない。どうやら立ち上がってくれたのはBクラスだけだったようだ。

 

源太「それに加えてこの用心深い布陣だ。ハッ、もう笑うしかねぇな」

 

階段前の向こうの配置に目をやり、源太は渇いた笑みを浮かべる。階段の真ん中に高橋先生がいて、先生はそこを動く気配を見せない。その周囲に霧島、姫路、優子、飛鳥に佐藤までも立っている。あくまで高橋先生は階段を通過しようとするヤツを打ち倒すだけで、あの場を動かない以上隙をついての突破は難しい。

 

明久(雄二、例の隙を作る方法は?)

雄二(それは問題ないが、通過したあとで地下で挟み込まれる。最低でもここの連中を退き付けておく程度の戦力がないと話にならない)

和真(認めたくねぇが……ここまでなのか……?)

 

高橋先生達だけでも手に余る上、Bクラスの大部分は途中にいる物理の木村教諭と英語の遠藤教諭に手間取っているようで援軍は期待できない。

あまりに絶望的な状況に、さしもの和真もいつもの笑みを浮かべる余裕も無いほどに、この合宿に来て初めて戦意を無くしそうになる。

 

『もうこれ以上は無理だ……。こんな絶望的な戦況、覆せるわけがない』

『だいたい、姫路と霧島が入っていないのなら、覗く価値がないじゃないか……』

 

そんな和真達の状態が伝染したのか、残されたBクラスの二人達が弱音を吐き始める。

 

明久「……諦めちゃダメだっ!二人が入ってなくても……女子が入っているんだよ!?」

『そんなこと言ったって……』

明久「この世に……除く価値の無い女子風呂なんてない!だからっ……だから!」

 

しかし、明久の闘志だけは折れていない。

そんな明久の鼓舞を見て、秀吉と和真が驚いたような表情で訊ねる。

 

秀吉「明久。なぜここまで圧倒的に不利な状況にありながら諦めないのじゃ?お主は観察処分者じゃ。痛みのフィードバックもある。そこまでして写真を取り戻そうとして、苦しい思いをする必要はないじゃろう?」

和真「士気を下げるからできれば言いたくなかったけどよ、今更写真の一枚二枚じゃあ、お前の評価は大して変わらないんじゃねぇか……?」

 

秀吉と和真の疑問はもっともである。観察処分者のフィードバッグはちょっと痛い程度では済まない。ここまで圧倒的な、和真でさえ挫けそうな状況なら、恥ずかしい写真のことなんか諦めて余計な痛みを味わう前に投降するのが懸命だ。

 

明久「秀吉、和真……確かに最初は写真を取り戻すつもりだった。真犯人を捕まえて、覗きの疑いを晴らすつもりだった。……でも、こうして仲間が増えて、その仲間たちを失いながらも前に進んで、初めて僕は気がついたんだ」

和真(なんだろう、嫌な予感がする……そこはかとなく嫌な予感がする……)

秀吉「明久。お主、何を言って…」

 

明久「たとえ許されない行為であろうとも、自分の気持ちは偽れない……。

 

 

正直に言おう。僕は……

 

 

 

 

純粋に……!

欲望の為に!

女子風呂を覗きたいっ!!!」

 

秀吉「お主はどこまでバカなんじゃ!?」

和真(スマン明久……こんな奴に手を貸すんじゃなかったと割と真剣に後悔してしまった薄情な俺を許してくれ……)

源太(あの和真がすげぇ疲れた顔してやがる……こいつもこいつで色々苦労してるんだな……)

優子(あとで労ってあげよう……)

飛鳥(そりゃないでしょ吉井君……)

 

もうこのバカの頭の中には脅迫や真犯人のことなど存在していない!そこにあるのは、女子のいる風呂を覗したいという、純粋かつ下劣極まりない欲求のみである!

 

瑞希「明久君……!そこまでして、私じゃなくて美波ちゃんのお風呂を覗きたいんですね……!もう許しません!覗きは、いけないことなんですからねぇぇぇ!」

 

明久「試獣召喚(サモン)!

世間のルールなんて関係ない……誰にどう思われようと、僕は僕の気持ちに、正直に生きるんだぁぁぁ!」

 

突撃してくる〈姫路〉を迎え撃とうと、敵わないと知っていながら召喚獣を喚ぶ明久。

 

するとその時、

 

 

 

『よく言った、吉井明久君っ!』

 

 

聞いたことのある声が廊下に響き渡った。

 

姫路「だ、誰ですかっ!?」

 

気勢を削がれた形になり、召喚獣の動きを止めて声の主を探す姫路。声がした方向には眼鏡をかけた優等生、学年次席にしてAクラス代表代理の片割れ、久保利光が立っていた。後ろにはやる気に満ちたAクラス男子生徒の姿もある。

 

久保「待たせたね、吉井君。君の正直な気持ち、確かにこの僕が聞き届けた」

明久「久保君っ!来てくれたんだね!」

久保「到着が遅れてしまってすまない。踏ん切りがつかず、準備しながらもずっと迷っていたんだが……さっきの君の言葉を聞いて決心がついたよ」

明久「決心がついたって、それじゃあ……!」

久保「ああ。今この時より、Aクラス男子総勢二四名、吉井明久の覗きに力を貸そう!クラスの皆、聞こえているな?全員、吉井明久を援護するんだ!」

 

『『『おおおーーっ!』』』

 

秀吉「お主らは何を言っておるんじゃ!?全員正気を保ムグゥっ!?」

和真「気持ちはわかるが今は黙っててくれ!ようやくこっちに運が向いてきたんだからよ!」

 

勝ちの目が見えたことにより闘志を取り戻した和真は、余計なことを言いそうになる秀吉の口を慌てて塞ぐ。

 

明久「ありがとう久保君!君たちの勇気に心から感謝するよ!」

 

ついにAクラスが仲間になった。これで蒼介以外の文月学園第二学年男子全員が参戦したことになる。

 

久保「感謝するのは僕のほうだよ。君が言ったとおり、自分の気持ちは偽れない。

世間には許されなくても、

 

 

好きなものは好きなんだ!!!」

和真(そしてこいつは真性だった、と……今までの俺の抵抗を返してくれ)

姫路「お仕置きの邪魔をしないで下さい!」

久保「そうはいかないよ姫路さん。僕ら彼に協力すると決めたんだ。西村先生を打倒する唯一の力を、ここで失うわけにはいかない!……サモン!」

 

久保の掛け声と共に、幾何学模様から召喚獣が出現する。二刀流のデスサイズという、久保の性格に反した超攻撃的スタイルの召喚獣が、〈姫路〉と鍔競り合う。

遅れて点数が表示される。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 姫路瑞希 4422点

 VS   

 Aクラス 久保利光 4438点』

 

 

「「「な、なにィィィ!?」」」

和真(知らん内にここまで伸びてたのかよ!?)

姫路「うっ……前より力が……!?」

久保「男子三日会わざれば刮目して見よと言うだろう?

二ヶ月前の借り、ここで返させて貰う!」

 

以前よりもパワーアップした久保が姫路を押さえ込み、Aクラス生徒達が戦況を巻き返し始める。千載一遇のチャンス到来だ。

 

和真「雄二、今だ!」

雄二「わかっている!明久、ムッツリーニ!階段へ向かって走れっ!」

 

援軍に驚いている翔子達を抜いて、和真と雄二が高橋先生の前に走り出た。明久とムッツリーニもそれに続く。

 

高橋「まさか、Aクラスまで協力するとは思いませんでしたが……問題はありません。ここは誰であろうと通しませんから……サモン!」

 

高橋先生の召喚獣が姿を現すが、そんなことは雄二達にも折り込み済みだ。

 

雄二「高橋女史!悪いがここは通らせてもらうぜ!」

和真「雄二、英語だ!」

雄二「わかっている!……起動(アウェイクン)!」

 

雄二の掛け声を受け、白金の腕輪が起動する。雄二の腕輪の能力は、召喚フィールドの作成。

つまり……

 

高橋「干渉ですか……!やってくれましたね坂本君……!」

雄二「行けぇ、明久っ!鉄人を倒して、俺たちを理想郷に導いてくれ!」

和真「こいつらを倒してから俺達も加勢に行く!せめてそれまで持ちこたえろよ!」

明久「任せとけっ!」

 

異なる二種の召喚フィールドが同じ場所に展開され、双方の効果が打ち消される。今この場に召喚獣は一体もいない。そうなれば相手は生身の女。体力バカの明久達にとって脇を駆け抜けることなど造作もない。

 

『吉井たちに続けーっ!』

高橋「く……!吉井君と土屋君は逃がしましたが、あなたたちまで通しません!」

 

明久達に他の男子が続く前には、既に高橋先生が召喚獣を喚び直していた。

 

雄二「流石は高橋女史。判断が早い……!」

 

どうやら高橋女史は自分の召喚フィールドを消したようだ。そうなると雄二の召喚フィールドが残って召喚獣が再び姿を現す。白金の腕輪は少々点数を消費する上に使用中は使用者が召喚獣を召喚できないから雄二は簡単にフィールドのON・OFFができない。そして現在の科目は和真の指定した英語。

 

和真「予定通り、ここからは俺達の仕事だ!源太は翔子を、久保は姫路を、徹は佐藤を倒せ!他の奴はその他の雑兵どもを刈り取るんだ!」

 

『了解!』

 

和真の指示にしたがって、相手側の特に厄介な戦力をこちらのキーパーソンで仕留めにかかる。翔子達もプライドを刺激されたのか、真っ向から迎え撃つ。

 

高橋「中々バランスの取れた戦力割り振りをしますねすね」

木下「でも、まだまだ甘いわね」

飛鳥「フリーになった私達は、いったいどうするつもりなのかしら?」

 

昨日自分に土をつけたAクラスコンビとラスボスに真正面から向かい合う。不安そうに見ている秀吉を庇いつつも、和真はいつもの不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

 

和真「おいおい慌てなさんな。安心しろ、アンタらは……俺が一人で相手してやるからよ」




科目:英語

源太VS翔子
久保VS姫路
徹VS佐藤
和真VS優子、飛鳥、高橋先生
ムッツリーニVS愛子、大島先生
明久VS鉄人

綾倉「どの試合もかなりの好カードですね。どちらが勝ってもおかしくない」

蒼介「約一部とんでもない戦力差だがな……」




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起死回生のオーバークロック!

今回初めて一万字を越えました。

内容はバトル一色です。



祝!UAが15,000を越えました!
ここまでこれたのは皆さんのおかげです!


【大門徹VS佐藤美穂】

 

徹「どうした佐藤さん、そんな単調な攻撃では当たらないよ」

佐藤「くっ……このぉ!」

 

 

《英語》

『Aクラス 大門徹 331点

VS

Aクラス 佐藤美穂 187点』

 

 

闘いが始まった当初は両者の点数にそれほど差はなかったものの、闘いを進めていくうちに佐藤の点数がほぼ一方的に削られていき、現在では倍近くの差となっている。

その理由は単純明快で、〈佐藤〉の攻撃がなかなか当たらないのである。〈徹〉はスピードを犠牲にしているため、本来なら〈佐藤〉の攻撃をいかに受けきって反撃するかで勝敗が分かれる、という展開になるはずであった。しかし〈徹〉は緩慢な動きではあるものの的確に相手の攻撃をかわしていき、隙を見つけては身に付けたガントレットでカウンターに転じている。一方的になぶられているわけではなく〈佐藤〉も何発かは当たってはいるのだが、〈徹〉の防御力の前では微々たるダメージでしかない。

 

 

《英語》

『Aクラス 大門徹 313点

VS

Aクラス 佐藤美穂 86点』

 

 

佐藤「まさか大門君が、ここまで召喚獣の操作に精通していたなんて……」

徹「さっき久保も言っていただろう?男子三日会わざれば刮目して見よってね。もっとも、これは一日二日で身につけた技術じゃないんだけど」

 

徹の脳裏に浮かぶのは、清涼祭のときの手痛い敗北。接戦だった雄二との闘いはともかく、手も足も出なかった小暮との闘いは未だに苦い記憶として徹の中に染み付いている。執念深いことで有名な徹は来るべきリベンジに備えて、あれ以降時間を見つけてBクラスの源太を誘いつつ入念に爪を研いで来たのである。

 

佐藤「やぁぁっ!」

徹「厳しいことを言うけど、戦闘経験の乏しい君程度では練習相手にも……ならないよ!」

佐藤「そ…そんな……」

 

 

《英語》

『Aクラス 大門徹 298点

VS

Aクラス 佐藤美穂 戦死』

 

 

一か八かで渾身の攻撃を叩き込もうとした〈佐藤〉よりも早く、〈徹〉は相手の顔面に拳を叩き込む。修練の末に身に付けた新技『真クロスカウンター』によって、〈佐藤〉は討ち取られた。

 

徹「さてと、どうせ必要ないとは思うけど一応和真の加勢に行くとするか……」

 

呆然とする佐藤をその場に残し、徹は和真のもとにゆっくりとした足取りで移動する。

 

 

 

 

徹、WIN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【久保利光VS姫路瑞希】

 

姫路「申し訳ありませんが、早急に決着を着けさせてもらいます!サモン!」

久保「残念だが姫路さん、今の君には負ける気がしないよ。サモン!」

 

 

《英語》

『Aクラス 久保利光 408点

VS

 Fクラス 姫路瑞希 408点』

 

 

幾何学模様から飛び出した二人の召喚獣の点数は奇しくも互角であった。間髪入れずにすぐさま両者の腕輪が光り出し、〈姫路〉からは全てを蒸発させる熱光線が、〈久保〉からは全てを切り裂く鎌鼬が発射される。二ヶ月前の闘いと同じく、二つの力がぶつかり合い拮抗することでその場に留まり、風と熱のエネルギーはぶつかり合うごとに中心にどんどん溜まり続けていく。

そしてやはり同じように、限界に達したエネルギーは空気を入れすぎて破裂した風船のように大爆発し、二人の召喚獣を容赦なく飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久保「うぉぉおおおっ!!」

姫路「えっ!?」

 

同じ展開であったのはここまでであり、そこからの展開は二ヶ月前の闘いとは全く違っていた。前回と同じく遠くまで吹き飛ばされた〈姫路〉に対して、同じく爆発によって吹き飛ばされるはずだった〈久保〉はどういうわけか爆発の威力をものともせずデスサイズで斬りかかってきた。

わけがわからない。

目の前で起こっている現実は姫路の理解を完全に逸脱しており、それゆえ姫路の思考はほんの一瞬だが停止してしまう。たかが一瞬されど一瞬、戦闘中にその思考の停止は致命的であり、〈姫路〉は体勢を立て直す暇もなく死神の鎌に両断された。ライバル同士の闘いは予想に反してあっさりと決着が着いた。

 

 

《英語》

『Aクラス 久保利光 176点

VS

 Fクラス 姫路瑞希 戦死』

 

 

姫路「ど…どうして、あの爆発の中を平気で……?」

久保「僕の召喚獣をよく見てみたまえ」

 

姫路は促された通りに〈久保〉を注視してみると、召喚獣の周りに竜巻がバリアのようにまとわりついている。そしてもう一つ…

 

 

《英語》

『Aクラス 久保利光 142点』

 

姫路「何もしていないのに……点数がみるみる減っていく……?」

久保「これが僕の新たな力、吉井君を守ると誓った僕が身に付けた能力、『風の鎧』だ。使用中どんどん点数を消費してしまうリスクがあるけどね。

……姫路さん、一つ良いかい?」

 

戦死してしまう前に召喚獣を消しつつ、久保は眼鏡に手を当てつつ真剣な表情ね問いかける。

 

姫路「な、なんですか?」

久保「以前の君との闘い、どちらが勝ってもおかしくない激闘だった。しかし今日君は僕にあっさり負けた。それはなぜか?単に僕の成績が向上したことや、僕が新しい能力を身に付けただけではないんだよ」

姫路「どういう……ことですか?」

 

言っている意味がわからないと困惑する姫路に、久保は容赦なく現実を突きつける。

 

久保「以前君は僕に言ったね。クラスの皆が好きだと。人の為に一生懸命になれる皆がいる、Fクラスが好きだと。

だから自分は頑張れるんだと」

姫路「はっ……はい……」

久保「あのときの姫路さんからは、その言葉に嘘偽りない強い意思と確固たる信念、そして凄まじい気迫が感じられたよ。

……しかし、今の君はどうだい?」

姫路「っ!?」

 

頭をトンカチで殴られたかのように衝撃が走る。

 

久保「君は覗きが許せないという正義感で武器を取っているのではないだろう?君は自分のプライドを守るために吉井君に剣を向けた。違うかい?」

姫路「そんな……ことは……っ!」

言い返そうとは思うものの、姫路の口からは否定の言葉がどうしても出ない。明久が自分以外の裸を見たいと思っていることが姫路の最も怒る理由であることは事実だからだ。言葉を返せない姫路に、久保はなおも突き放すように言う。

 

久保「今の君には、何があっても絶対に負けない。

大切な人を痛めつけようとした今の君には、負けるわけにはいかない。

吉井君を傷つけようとする今の君が、吉井君を守ろうとする僕に勝てる筈がない!……今の君はなんら警戒する必要は無い。悪いが失礼するよ」

 

言いたいことを言い終えた久保は、今にも泣きそうな姫路をその場に捨て置いて、さっさと和真のもとに移動する。

 

 

久保(這い上がってこい姫路さん。君は今まで何のために努力してきたのかを思い出せ!

突き放すように言ってしまったが、これが僕にできる精一杯の激励だ……

成績を争うライバルとして……そして、同じ人を思う好敵手として!)

 

 

 

 

久保WIN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【五十嵐源太VS霧島翔子】

 

翔子「……五十嵐、邪魔をしないで」

源太「どうする坂本?どうやら俺様は邪魔者のようだが?俺様はあいつと闘えればそれでいいから、痴話喧嘩を先に済ませてしまえよ」

坂本「ふざけるな!全力で邪魔してくれお願いだから!そしてお前が助けてくれなかった場合に行われるのは、断じて痴話喧嘩なんて可愛いもんじゃねぇ……」

 

こちらはまだ闘い以前の小競り合いが続いていた。

源太としては翔子との決着は着けたいところであるが、馬に蹴られたくないので雄二達の小競り合いに首を突っ込むつもりはなかった。しかし死の危険を察知している雄二は源太を盾にしたまま梃子でも動かない所存である。

 

雄二「さっさと闘わねぇと科目切り替えるぞ!英語以外じゃ翔子には太刀打ちできねぇんだろ?」

源太「やれやれ、人遣いが荒いなテメェも。仕方ねぇから手伝ってやるよ。

……霧島、こういうのはどうだ?テメェが俺様に勝つか相討ちになったらこいつをテメェにくれてやる。そしたら煮るなり焼くなり好きにしろ。ただし俺様が勝ったら大人しく引き下がれ」

雄二「お、おい!?なに勝手に俺の命を賭け金にしてんだよ!?」

翔子「……わかった。絶対に負けない……!」

 

源太がどう考えてもこちら側が不利な提案をしたことに雄二は慌てふためく。それもそのはず、以前この二人が闘ったときは相討ちだったのだから。

 

源太「異論はないみてぇだな……じゃ、遠慮なくいくぜ。試獣召喚(サモン)!」

 

掛け声とともに、幾何学模様から源太の召喚獣が出現する。表示された点数は……

 

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 538点

VS

 Fクラス 霧島翔子 440点』

 

翔子「……っ!?」

雄二「う、嘘だろ!?」

 

学年首席の蒼介と同等……もしくはそれ以上の点数であった。敵である翔子は勿論、味方である雄二さえも開いた口が塞がらない。

 

源太「前にも言ったろ?俺様にとって高校レベルの英語なんざゴミ同然だって。あんときはイマイチだったが調子が良けりゃこのくらい余裕でとれる」

翔子「……それでも、負けるわけにはいかない……!アイスブロック!」

 

翔子の掛け声とともに、召喚獣の周りに氷の礫が幻想的に舞い踊る。それを満足そうに見届けると、源太は和真そっくりの不敵な笑みを浮かべた。強面な分童顔の和真より10倍怖いが触れてあげないのが情けというものだろう。

 

源太「そうこなくっちゃな。……だが、果たして俺様の新技を受けきれるかな?

 

 

 

千の刃!」

 

掛け声とともに〈源太〉の左腕から数えきれないほどの量の黒いナイフのようなものが次々と出現し、二人の召喚獣周囲に散布される。辺り一面どこを見回してもナイフで多い尽くされ、下手に動けばダメージを受けてしまうほどフィールド内に充満する。

 

翔子「……っ!」

源太「どうやら打つ手は無ぇみてぇだな。

……いくぜ、シュゥゥゥウウトッ!」

 

源太の合図と共に、ありとあらゆる方向から〈翔子〉目掛けてナイフの雨が降り注ぐ。〈翔子〉は生み出した礫を器用に操作しナイフを次々と打ち落としていくものの多勢に無勢、次第に圧倒的な物量に押されて〈翔子〉の体にナイフが刺さっていき、最終的には全身にナイフが突き刺さりまるでウニのような姿になってしまう。

当然点数など残っているはずもなく、この闘いは源太の完全勝利と言って良いだろう。

 

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 388点

VS

 Fクラス 霧島翔子 戦死』

 

 

翔子「……私の負け。でも一つ聞きたいことがある」

源太「腕輪能力のことだろ?」

雄二「翔子、何か気になることでもあるのか?」

翔子「……五十嵐の腕輪能力が以前闘ったときと異なっている」

雄二「なんだと?どういうことだ五十嵐?」

源太「こいつは『オーバークロック』ってやつでな、綾倉の先公曰く、腕輪能力の間違った使い方らしい」

雄二「間違った使い方だと?」

 

不可解な点に雄二は考え込む。“間違った”と言うからには何かしらの欠点があるはずである。

先ほどの戦闘を見るに、その能力は凄まじいものであったので、能力自体に欠点があるとは思えない。となると能力以外に何か問題が……?

そこまで考えが至った時点で、雄二は和真の第二の能力には凄まじい反動があったことを思い出す。

 

雄二「五十嵐、お前のオーバークロックとやらにはどんなデメリットがあるんだ?」

源太「本来ならクラスが違うテメェに教えるのはどうかと思うが、知られたところでどうってことないか……。

俺様のオーバークロックのデメリットは英語のみならず全教科から150点消費されることだ」

雄二「おいおい、リスクとリターンがまるで釣り合ってねぇじゃねぇかそれ……」

 

雄二の言う通り破壊力、制圧力ともに絶大だがあまりにも割に合わない能力である。

Bクラス最強クラスの源太でさえ一度使うと英語以外がFクラスレベルに下がってしまうというのだ。

普通の腕輪能力でさえ一般生徒程度なら一蹴することができるのに、わざわざこちらの能力を使う意義はほとんど無い。

 

そう、たとえば相手も腕輪能力持ちであったり、圧倒的不利な状況でもない限りは。

 

雄二「まあそれはともかく、五十嵐が勝ったんだから、大人しく引いて貰うぞ翔子」

翔子「……うん、約束だからしょうがない。

……でも雄二、一つだけ良い?」

雄二「な、なんだよ……?」

 

今度は何を企んでるのかと警戒する雄二だが、

 

 

 

翔子は目に涙を浮かべて上目遣いで訊ねる。

 

翔子「……どうしても、覗きを、したいの……?そんなに他の女の人が良いの……?

わ、私のことが、いっ、嫌に、なったのっ……?」

雄二「」

 

後半になると堪えきれなくなったのか嗚咽しながら、すがるように聞いてくる翔子を見て、

 

雄二、思考停止……!

 

雄二「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

翔子「……グスッ…………?……雄二?」

雄二「…………なあ翔子」

 

しばらくしてようやく意識が戻り、ばつが悪いのか照れ臭いのか頬を指で掻きつつ、雄二が口を開く。

 

翔子「………………何?」

雄二「俺が覗きをしないって約束したら、お前も俺達が学生でいる内には結婚云々の話は進めないって約束できるか?」 

 

そもそも雄二の当初の目的は、翔子に結婚の話を進めさせないことだ。翔子がそのことを我慢するなら、雄二には覗きに荷担する理由はなくなる。

 

翔子「…………わかった、我慢する」

雄二「…………そうか。お前がそう言うんなら、俺もバカな真似はやめよう」

翔子「……雄二……!」

雄二「……まあ確かに、お前と付き合っている身の上で覗きなんて駄目だよな-ってオイッ!?」

翔子「雄二っ!」

 

歓喜の表情で思わず雄二に抱きつく翔子。涙の跡を残しつつも、先程までとはうって変わって満面の笑みを浮かべて甘えてくる翔子に対して、雄二は顔を真っ赤にしつつも優しい笑顔で頭を撫でる。

 

そんな光景を呆れるような目で見る源太。

 

源太「やっぱ痴話喧嘩だったんじゃねぇかテメェら……。おい坂本、役目は果たしたし俺様はもう行くぜ」

雄二(そう言えばこいつがいたんだった……やべぇ死ぬほど恥ずい!)「お、おう……俺はここで脱落だ。手伝ってもらったのに悪いな」

源太「別に構いやしねぇよ。俺様も和真に一声かけてから抜けさせてもらうからな」

雄二「そ、そうか……俺が言うのもなんだが、ここまで手伝ったのに良いのかよ?」

源太「俺様の目的は霧島との決着だからな。……こんなナリしてっからよく誤解されるがよ、こう見えて倫理観はしっかりしている方なんだよ」

 

 

 

 

源太、WIN!

翔子もある意味WIN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【和真VS優子、飛鳥、高橋女史】

 

高橋「私達を一人で……ですか……。随分と甘く見られたものですね」

優子「そうね、流石にカチンと来たわ」

飛鳥「私達が勝った後どうなるか、貴方なら勿論わかるわよね?」

 

捉えようによっては舐めてると思われても仕方がない宣言に、三人とも大層お冠の様子。

当事者でもない秀吉すらビクビクする一方、和真はそれでも余裕の態度を崩さない。心臓に毛が生えてるのではないかと邪推してしまうほどの豪胆さである。

 

和真「既に勝つことを想定してる辺り、アンタらも俺に負けず劣らず傲岸不遜だな。……サモン!」

 

軽口を叩きつつキーワードを口にする和真。

見慣れた幾何学模様から、巨大な槍を携えた和真の召喚獣が姿を現す。

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 400点

VS

 Aクラス 木下優子 388点

 Aクラス 橘飛鳥 299点

 学年主任 高橋洋子 703点』

 

 

両者の点数の総計は絶望的なまでに差があるものの、和真の余裕を崩すには至らない。和真には既に勝利のビジョンが見えているのだから。

 

和真「まず優子、飛鳥。お前ら二人に謝っておくことがある」

飛鳥「いきなりどうしたのよ?」

優子「さっきの舐めた発言についてかしら?確かにカチンと来たとは言ったけど、そこまで怒ってるわけじゃ-」

 

 

 

 

 

 

和真「今回お前らのターンは無ぇってことだよ!

轟け!一斉閃光砲撃(ガトリングレーザー)!」

 

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

高橋「これは……オーバークロック!?」

優子「しまった!?和真には腕輪が!」

飛鳥「まずい!避け…」

和真「もう遅ぇ!逃げ場なんざありゃしねぇよ!」

 

〈和真〉から瞬時に展開された40門の砲身から、眩い閃光と耳をつんざく爆音とともに光速の殺人光線が放たれ、三人の召喚獣を無慈悲に飲み込んだ。

 

 

高橋「……ッ!」

優子「きゃあっ!?」

飛鳥「くっ、眩しい……!」

秀吉「(ボソボソ)ンじゃ」

 

 

辺り一面を強烈な閃光が満たし、その場の誰一人目を開けることすらできないでいた。ようやく目が光に慣れてきた彼等の目に飛び込んできた光景は、武器も装備も破壊され尽くすもどうにか立っている〈高橋〉と、武器を抱えることすらできないほど弱体化した〈和真〉の二体だけであった。残る二人の召喚獣の姿は無いが、どうやら跡形もなく完全になく消し飛ばされたらしい。

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 1点

VS

 Aクラス 木下優子 戦死

 Aクラス 橘飛鳥 戦死

 学年主任 高橋洋子 85点』

 

 

高橋「やってくれましたね……!あなたのオーバークロックがこれほど強力だとは……!」

和真「その分デメリットも半端じゃないがな」

 

敗北を覚悟した高橋先生は悔しそうな顔になる。この残り点数と召喚獣のコンディションでは〈和真〉は倒せても散り散りなった和真達の仲間が戻ってくるか、その他のA・Bクラスの生徒が一人駆けつければ倒されてしまうであろうと、頭脳明晰な高橋先生には冷静に分析できてしまった。

 

高橋「ですが私にも学年主任としての矜持があります。柊君、あなただけでも私の手で……」

和真「そんなボロボロな状態でよく言うぜ。武器も防具もなくなったってのに」

高橋「ボロボロなのはお互い様ですよ。それに、今のあなたの点数ならデコピン一発で決着が着きます」

和真「そいつは絶望的だな。……ところで高橋センセ、アンタにも謝らなきゃならねぇことがあるんだ」

高橋「私にも……?いったい何を-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「俺一人で相手をしてやるなんて、大嘘ついてごめんなさい(ヒラリ)」

 

 

ザシュッ

 

 

高橋「なっ!?」

 

 

和真が手のひらを翻すと同時に、高橋先生の召喚獣は背後から薙刀で首を斬られて絶命する。

 

高橋先生の召喚獣の背後に立っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 1点

 Fクラス 木下秀吉 89点

VS

 学年主任 高橋洋子 戦死』

 

 

優子「秀吉!?」

飛鳥「優子の弟さん!?」

高橋「木下君……!?」

秀吉「和真、お主の作戦通りじゃのう」

 

他ならぬ、今までずっと和真の背後で戦局を不安そうに見守っていた〈秀吉〉であった。

 

和真「秀吉、」

 

和真は満足そうに頷きつつ、手を上げ、

 

秀吉「和真、」

 

秀吉もやり遂げたという顔をしながら手を上げ、

 

 

「「っしゃぁあああ!」」

 

パァァァアアアアアアンッ

 

 

二人とも力を込めてハイタッチした。

その結果、完全に力負けした秀吉が吹き飛び、そのまま仰向けに倒れることになる。

 

和真「…………………………すまん」

秀吉「謝るでない!?後生じゃから、その申し訳なさそうな表情はやめてほしいのじゃぁあああ!」

 

罪悪感を感じた和真は申し訳なさそうに謝るが、一人の男としてのプライドをズッタズタのボロボロにされた秀吉は涙目で和真に懇願する。先程まで呆然としていた三人、特に実の姉である優子は同情の眼差しで秀吉を見つめる。

先程のハイタッチの威力は、いつも優子が和真としているものと大体同じくらいの強さであったそうな。

今度からはもう少し優しくしてやるかと、弟に対する接し方を改めつつも、ふと先程のことに疑問が生じる。

 

優子「ちょっと待ちなさい秀吉。あんた、いつ召喚獣を喚び出したのよ?」

和真「秀吉、(ボソボソ)」

秀吉「…!……ゴホン……一体いつから、召喚獣を喚び出してていないと錯覚していた?」

優子「しばき回すわよ」

秀吉「わかった!おとなしく白状するからその拳をおろしてほしいのじゃ姉上!」

和真「なんでお前はいつも秀吉に対してだけやたら暴力的なんだよ!?」

 

悪戯心に満ちた和真の入れ知恵でやたら完成度の高い某五番隊隊長の物真似を披露するも、お姉ちゃん特権(脅迫)発動で泣く泣く素直に白状することに。

 

秀吉「和真の召喚獣が腕輪を発動させた直後、閃光と爆音に紛れてこっそりとサモンと唱えたのじゃ」

高橋「なるほど……慣れてきたとはいえ目もまだ眩んでいましたので、召喚してからも身を隠そうと思えば隠せたでしょうね」

飛鳥「やけに自信満々だったのは和真お得意のハッタリじゃなくて、勝利までの道筋がはっきりと見えていたからなのね」

優子「それにしても、よりによって秀吉にまんまと出し抜かれるとはね……」

 

三人とも和真達の作戦に感心しつつも、圧倒的戦力差を覆されたためとても悔しそうな顔をしている。

昨日までの借りを返せたことに満足しつつ、和真は秀吉と肩を組んで優子と飛鳥に向けて言い放つ。

 

和真「目には目を、連係プレーには連係プレーを、だ。Fクラスの底力、思い知ったか!」

飛鳥「……ええ、私達の完敗ね」

優子「…………むぅ」

 

飛鳥が負けを認める一方で、優子はやや不機嫌になる。目線が二人の組んでいる肩に集中している所を見ると、どうやらこれは負けを認めたくないからではないようだ。優子の心情を理解した秀吉は、冷や汗をかきつつもすぐさま和真と肩を組むのをやめる。

 

和真「とにもかくにも俺達の勝ちだ。

というわけで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

給水ターーーイム♪」

「「「「え?」」」」

 

 

突然テンションが不自然なほどアゲアゲになった和真に対して呆気にとられる四人。お構いなしに和真は懐から水筒とコップを3つ取り出し、それぞれに中身の液体を注いでいく。

 

 

 

 

 

濁った沼のような色をした液体を。

 

「「「……ッ!?」」」

高橋先生「おや、それは」

 

優子、飛鳥、秀吉の三人はそれを見た途端に顔を強ばらせるが、高橋先生だけは嬉そうにその液体を眺める。

和真は敵対していた三人に強引にコップを握らせると、やけに恐ろしく感じる満面の笑みで非情にも言い放つ。

 

和真「お馴染みの、綾倉特製野菜汁で~す♪

三人ともさっきまでの激戦で疲れているでしょ?

疲れた体を癒すには、これが一番だぜ♪」

優子・飛鳥(疲れた体にトドメを刺すの間違いでしょこの飲み物は!?)

高橋先生「まあ、お気遣いありがとうございます。では、いただきます」

優子・飛鳥「「!?」」

 

ゴクゴクゴク…

 

何の躊躇いも無く飲み干した高橋先生を、二人は信じられないような目で見つめる。このドリンクはあの鉄人でさえも葬った悪魔の兵器である。それを水みたいに飲むことができる高橋先生は、二人には別の生き物にしか思えなかった。

 

高橋先生「フゥ、やはり栄養補給にはこれに限りますね。……おや、どうしたのですか二人とも?」

飛鳥「いや……あの……」

優子「アタシ達は……そのぅ……できれば遠慮したいかなぁって……」

高橋「いけませんよ二人とも、他人の厚意は素直に受け取っておくものです。あまりに謙遜が過ぎることは美点にはなりませんよ」 

和真「まあまあ二人とも、遠慮することは無いんだぜ♪お前らには色々と迷惑かけたから、そのお詫びと思ってくれ!」

二人((絶対に厚意じゃない!絶対こいつはお詫びの感情なんて欠片も持ち合わせていないんです先生!))

 

 

高橋先生に飲むように促され、しどろもどろになっている二人に、とても良い笑顔を浮かべた和真が後ろから肩を組んで追い込みにかかる。先ほど秀吉に焼き餅らしきものを焼いていた優子も、こんな悪意に満ちたものを望んでいたわけじゃないだろう。

いかにも追い詰められたという表情を浮かべた二人に、和真は満面の笑みのまま高橋先生や秀吉には聞こえない声量で死の宣告を言い放つ。

 

和真「昨日の屈辱を俺がさらっと水に流すとでも思っていたのか……?お前らさっさと飲まねーと、無理やりにでも押し込むぞゴルァ♪」

 

和真は意外と執念深く、受けた屈辱はやり返すまで永遠に根に持つタイプである。無理矢理押し込む云々も当然ハッタリでもなんでもなく、このままゴネ続ければ情け容赦なく実行するであろう。それを付き合いの長い二人は察知したのか、恐怖に歪んだ表情から一転して覚悟を決めた表情になる。

 

優子・飛鳥(…………………………………南無三!)

 

 

ゴクゴクゴク

 

 

二人「くわぁっ!?」

 

 

ドサッ ドサッ(二人が崩れ落ちる音)

 

 

高橋「……おや?木下さん、橘さん、突然倒れたりしてどうしたのですか?」

和真「疲れて眠ったんじゃないですか?この合宿中ずっと頑張っていたし」

高橋「そうですか……。教師として恥ずかしいですね、二人のそんな状態に気付かず手伝わせてしまったなんて……」

和真「アンタに気付かれないよう隠してたんだと思うぜ?こいつら二人は真面目で責任感が強いから、たとえ疲れてようがどうしてもアンタ達教師を手伝いたかったんだろ。覗きなんてもんに荷担した俺が言うことじゃねーが、この二人のそういうところは……親友として誇りに思っている」

高橋「……きっとこの二人も、あなたと親友でいることを誇りに思っていますよ」

 

高橋先生の優しい言葉に対して照れ臭そうに目を反らす和真を、秀吉は複雑そうに見つめる。白々し過ぎやしないかというような眼差しで。

 




綾倉「終わってみれば男子勢の圧勝でしたね。今回のMVPは高橋先生を討ち取った木下君に決まりですね。今後この作品内での彼には『高橋女史を倒した木下秀吉』という肩書きがつくでしょう。ちなみに不安そうな表情などは全て彼の演技です」

梓「その大層な肩書き、重荷に感じなきゃええけどな。しかし原作通りの成績のままここまで戦果を挙げた木下弟は数ある二次創作でもかなりのレアちゃう?」

綾倉「今回のタイトルも【起死回生の(秀吉)!オーバークロック(もあるよ)!】に変えてもよろしいかと。
まあぶっちゃけると、99%柊君の活躍で、彼はおいしいところだけかっさらっていっただけですがね。事前に彼がこの作戦を嫌がっていたのは、柊君に対して申し訳なく思ったからです」

梓「どんな闘いをしようが勝ったモン勝ちやけどな。和真の方はそこんとこようわかっとる」

綾倉「さて、雑談はこのくらいにして本編で出た『オーバークロック』の説明をしたいと思います
このシステムは私がほんの遊び心で、学園長に無断で組み込んだものであり、コンセプトは『コストパフォーマンスを度外視した超必殺技』です。どれもこれも普通の腕輪能力を遥かに凌駕する強さを備えています。しかし全てに何かしらの重いデメリットを持っていて、格下相手に使う意義はオーバーキル過ぎてまるでありません。尚、強力であればあるほど比例してデメリットも大きくなります」

梓「ふーん、面白そうな能力やな。ちなみに腕輪持ちでも使える奴とそうでない奴がいるようやけど?」

綾倉「まだ秘密ですが、習得するには共通のある条件が必要になります」

梓「ある程度勘の良い読者やったら、あっさり気付いてまうかもな」

綾倉「さて、次回の後書きは『オーバークロック』の能力の詳細について発表しますよ」

梓「本編の予告はせんのに後書きはすんのかい!」



























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卯月高原の死闘

【ミニコント】
テーマ:続・原因追求

飛鳥(星の配列は多分つっこみきれないからスルーするとして……)「流石に寝る前に読んだ本に成績が下がった要因があるとは思えないんだけど……」

優子「いったい何の本読んだのよ?」

徹「『理数系の時代は終わった』ってタイトルの本」

優子「なんでそんな本テスト前にチョイスしたの!?」

飛鳥「思いっきり貴方のアイデンティティーを揺るがしかねない……」

徹「なるほど、それもそうだね。ならあの本に30%ほど要因があると考えていいかな?」

優子「テスト前にそんな本読んだアンタが100%悪い」






明久「ムッツリーニ、打ち合わせ通り大島先生をよろしく!」

ムッツリーニ「……了解」

 

希望を託された二人は他のどの階より若干長い階段を駆け降り、理想郷への一本道へと辿りつく。

階段を振り切ったその先には雄二の予想した通り大島先生と、加えてもう一つ人影があった。

 

愛子「もしかしたら、来ないんじゃないかと思ったよムッツリーニ君」

明久「く、工藤さん……」

ムッツリーニ「………………」

 

この廊下はあまり広くないため、敵は大島先生一人だと思っていた明久にとっては完全に想定外の事態だ。流石のムッツリーニとはいえ大島先生と愛子を一人で相手にするのは無謀であることは、今までの闘いからはっきりしている。

 

しかし今のムッツリーニの目には、これまでもは比べ物にならないほどの闘志が宿っていた。

 

ムッツリーニ「……作戦に変更はない。

先に行け明久、ここは俺の戦場だ……!」

明久「でも……!」

愛子「本当は止めるべきなんだろうケド……いいよ、ムッツリーニ君に免じて通してあげる」

明久「っ!?」

ムッツリーニ「……行け、鉄人は任せた」

明久「…………わかったよムッツリーニ、僕は必ず鉄人を倒す。死ぬなよ、ムッツリーニ……!」

 

悲痛ながらも覚悟を決めた表情で、明久は止めようとする気配のない愛子と大島先生の横を通り過ぎる。

ムッツリーニは明久が鉄人を倒すと信じている。ならば明久も、ムッツリーニがこの二人を倒すのを信じるのみだ!

 

『試獣召喚(サモン)』

 

明久の後ろで召喚獣が展開された気配がする。どうやら戦闘が始まったようだ。ここまで来たからには、明久には信じるしかない。そして明久には、明久にしかできないことが残されている。

 

明久「皆、ありがとう……」

 

気がつけば明久はそんな言葉を口にしていた。

不可能だと思われていた作戦は、多くの仲間達に助けられて成功を収めようとしている。残る壁はただ一人のみ。現在時刻は二○一五時、目的を果たすには最適のタイミングだ。

 

鉄人「……やはり来たか、吉井」

 

扉の先の理想郷の前にそびえ立つ最終関門。最後にして最強の敵が目を開け、静かに構えを取る。

 

明久「勝負だ鉄人!僕は今日!アンタを超える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ムッツリーニVS大島、工藤】

 

大島「土屋。お前には失望した。まさか、教師に勝てるなんて幻想を抱くとはな」

愛子「大島先生が出るまでもないですよ。ムッツリーニ君はボクがやりますから」

大島「そうか。それなら工藤に任せる。一応俺も召喚獣を呼ぶが、後方で待機させて見学に徹するとしよう」

愛子「はい。任せちゃってください」

 

ムッツリーニと言えども、保健体育のエキスパート二人を相手に単独で勝てるはずない。ましてや、片方は初日にムッツリーニをタイマンで打ち破った大島先生なのだから。

そう思っているのか、愛子と大島先生はあからさまに余裕を見せている。

 

ムッツリーニ「……が……決めた?」

愛子「ぅん?なぁに、ムッツリーニ君?」

 

精神を統一するように閉じられた目を開きながら、ムッツリーニは宣言する。

 

 

 

ムッツリーニ「……誰が、生徒は教師に勝てないなんて決めた!」

 

それは勝利宣言!指導者とライバル、その二つを相手にして勝利して見せるという、無謀で愚かしくも勇ましい啖呵であった。

 

大島「……ほう?土屋、随分と威勢の良いことを言うじゃないか。良いだろう、相手してやる……サモン!」

愛子「あははっ。相変わらずムッツリーニ君は面白いなぁ。でも、先生の前にまずはボクに勝たないと、ね?……サモンっと」

ムッツリーニ「……サモン」

 

幾何学模様と共に、三人の召喚獣が出現する。大島先生の武器は竹刀、工藤は斧、そしてムッツリーニは小太刀の二刀流。遅れて三人の点数が表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《保健体育》

『体育教師 大島武 511点

 Aクラス 工藤愛子 403点

VS

 Fクラス 土屋康太 802点』

 

 

表示されたムッツリーニの点数は、口にするのも馬鹿らしいほど圧倒的だった。

 

愛子「………………………え?ムッツリーニ君……、その点数、なに?」

 

この合宿を通して、オンリーワン・プレイヤーはさらなる覚醒を遂げた。この点数ならあの高橋先生をも上回るであろう。

 

愛子「は、800点オーバー!?そんな点数を取れる人がいるなんて、聞いたことがないよ!」

大島「土屋、貴様いつの間にここまでの力を……!」

ムッツリーニ「……信念は、不可能を可能にする!」

 

信じられないといった反応の愛子や教え子に大差をつけられ悔しそうに歯噛みする大島先生に、ムッツリーニは堂々たる態度でそう宣言した。

 

ムッツリーニ「……時間がない。二人まとめてかかってこい!」

大島「あまり調子に乗るなよ土屋……!点数の差だけで勝敗が決まると思うな!」

愛子「…そうだよ!点数では負けてるけど、二人がかりで挑めば!」

 

二人はすぐに冷静になって、それぞれ別の方向から攻撃を仕掛ける。大島先生の操作技術はムッツリーニより格段に上で、愛子は既に腕輪能力『電撃』でスピードを強化している。ムッツリーニの武器が『加速』だけならば、もしかすれば討ち取られていたかもしれない。

 

そう、『加速』だけならば。

 

 

ムッツリーニ「……そして俺は過去を凌駕する!

『影分身』!そして『加速』!」

 

 

バババババッ

 

 

愛子「えっ、何これ!?」

大島(これは…オーバークロックだと!?)

 

〈ムッツリーニ〉から真っ黒の影武者が五体出現し、一声に小太刀を構える。本体の身に付けている腕輪が光ると、本体を含めた全ての個体が超高速で敵に斬りかかり、二人の召喚獣を容赦なく切り裂いた。

 

 

《保健体育》

『体育教師 大島武 戦死

 Aクラス 工藤愛子 戦死

VS

 Fクラス 土屋康太 452点』

 

 

愛子「そんな……!?ボク達の召喚獣が一瞬で……!

それに今の能力って、まさか!?」

大島「土屋……まさかお前が、オーバークロックを身に付けているとはな……!」

ムッツリーニ「……俺は……この教科だけは……誰にも負けたくない!」

 

思い出すのは二ヶ月前の苦い記憶。

あの日ムッツリーニは誓った……いずれ学年首席にリベンジすると。

 

 

 

 

 

ムッツリーニWIN!

 

 

 

【明久VS鉄人】

 

明久「先生!良く僕がここまで辿り着くと思いましたね! 他の先生は皆楽観していたのに!」

鉄人「俺は相手を過小評価せんからな!貴様はバカだが!

口惜しいことにその行動力は並ではない!」

明久「それはまた、有難うございますーっと!」

 

襲い掛かってくる鉄人の拳を、〈明久〉は木刀を使って上手くいなす。今の明久に以前闘ったときのような油断は微塵もなく、召喚大会で立ちはだかった和真に比肩する相手だと思って闘いに臨んでいる。

 

鉄人「だが、お前のその行動力はもっと他の事に生かすべきだ! コレでは貴様等はただの性犯罪者だ!停学が怖くないのか!」

 

鉄人の巨体からは想像もつかないような鋭い蹴りが繰り出される。 これをまともに受けられたら吹き飛ばされる。

 

鉄人「ぐぅっ……!」

明久(……?)「脅そうたってそうは行きませんよ!コレだけの人数がいれば、全生徒の特定はできない!一部の生徒だけの処分なんて、できるわけがない!」

 

〈明久〉に届く寸前、鉄人は顔を歪め蹴りの勢いが弱まり、わずかだが隙が生まれる。〈明久〉はその隙を逃さず屈んでかわし、反撃に脇腹目掛けて木刀で横に薙ぐものの、その攻撃は鉄人の太い腕ではじかれる。あの和真の攻めをことごとく受けきっただけあって、筋肉でできた鎧を着ていると言っても過言ではない。

 

鉄人「バカが……本当にそう思っているのか?」

明久「え?」

 

弾かれた勢いを利用して〈秋冬〉は回し蹴りを放つも、太股にクリーンヒットしたのによろけたのは鉄人ではなく蹴りを放った〈明久〉だった。

 

召喚獣の体重が軽いことを差し引いても、常軌を逸した光景であることは間違いない。

 

鉄人「ならば貴様等全員ぶちのめし、 ゆっくりと特定していくまでだ!……ぐっ……!?」

 

明久「……ぐぅぅっ!?」

 

体制を崩した〈明久〉に鉄人の拳が浅くヒットし、壁際まで吹き飛ばされ、それに伴って明久の体にフィードバックによる痛みが返ってきた。

 

鉄人「…くっ……まずは貴様がその一人目だ!」

大したダメージを受けていないはずなのに何故か顔をしかめつつも、鉄人がさらに追撃をかけようと〈明久〉に駆け寄る。

 

明久(知ってはいたが強すぎる!召喚獣が一体だけじゃ明らかに力不足だ!和真、よくこんなの相手に渡り合えたね……

 

どうするんだ僕?ここで諦めて逃げるのか?戻って皆に土下座でもするのか?

 

 

 

いいや、ありえない!

この程度の逆境、和真なら絶対に諦めない!)

 

石にかじりついてでも勝利をもぎ取ると言わんばかりの覚悟に満ちた目で鉄人を睨めつけ、明久は一世一代の大博打を仕掛ける。

 

明久「行くぞ……っ!二重召喚(ダブル)!」

 

明久は決死の呼び声に応じて現れた二体目の召喚獣に、闘いの指示を出す。

 

鉄人「ぐぅっ!吉井、貴様……!」

 

突然現れたもう一体の召喚獣の攻撃を何とか防ぎ、鉄人は慌てて距離をとった。

一体だけで足りないのならもう一体追加してやればいい。幸いにも明久にはその力があった。召喚大会で手に入れることのできた力が。

 

鉄人「くっ……白金の腕輪か。学園長も余計なことをしてくれる……!」

 

鉄人が苦々しそうに呟く。

召喚大会で明久達が手に入れた二つの腕輪の内、雄二が持っている腕輪が召喚フィールドを教師の立ち会い無しで作ることができるのに対し、明久の持っている腕輪は二体目の召喚獣を喚び出すことができる。

 

明久「先生、勝負はこれからです」

 

二体の召喚獣に構えを取らせ、挟み込むように移動させる。主獣は右から、 副獣は左からそれぞれ木刀を取り出した。

 

鉄人「ぬっ、くぅ……っ!?」

 

まったく逆方向から繰り出される攻撃に対処ができず、鉄人の体制が崩れる。 すかさず二体同時にローキックを放つが、鉄人の膝を曲げて丸太のような腿で受け止める。しかし鉄人はビクともしなかったにもかかわらず、何故かよりしかめっ面になる。そのことをやや不可解に思いつつも、明久はそのまま追撃の手を緩めない。召喚獣達は拳、蹴り、木刀を駆使して左右から鉄人に攻撃を加えていく。

明らかに明久が優勢と言っていいものの、徐々に明久には焦りが見え始める。

 

明久「全然ダメージを与えられない……!!」

 

鉄人は鳩尾や頭部といった最低限の箇所の防御を徹底し、その他の攻撃はは和真の蹴りをも受け止めた頑強すぎる肉体で弾き返していく。

 

鉄人「どうした吉井?焦りが顔に出ているぞ。」

 

明久の表情を見て鉄人が唇を吊り上げる。決定打が生まれないことの他にもう一つ、明久の集中力もどんどん切れかかっている。  

その理由は、主獣と副獣の二体をいっぺんに操作をするとなると、二人分の動きを一気に考えなくてはならないことだ。一つの脳で二体の召喚獣に指示を出し続けるなど、いつまでも続けられるものではない。ましてや、頭脳労働が致命的に苦手な明久にとっては尚更である。

 

明久「でも……だからと言って、簡単に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

主獣に木刀を振るわせ、副獣は右拳を突き出す。木刀を避け拳を受けた鉄人はやや苦しそうに呻きつつも、フェイントを織り混ぜて主獣に膝を放つ。主獣はワンテンポ遅れたもののなんとか両腕を交差させてガードし、その間に明久は副獣に反撃の司令を送るも、すぐさま遅れたツケが回ってくる。

 

鉄人「動きが鈍っているぞ吉井!」

明久「くぅっ!」 (右腕に鈍い衝撃……これはどっちが受けた攻撃だ?主獣か副獣か?ってまずい、攻撃の手を緩めると追撃が来る! とにかく木刀で……ダメだ、間に合わない!今度は拳が副獣に……と見せかけて主獣!?やばい!?フェイクだ!! )

 

フェイントに翻弄され集中を乱す明久の隙を突き、鉄人は主獣に容赦なく拳を叩き込む。

 

明久「ぐ、ふぅ……っ!」

 

鳩尾に鈍い痛みが走り、明久は苦しみに耐えかねて、廊下に背中から倒れ込んでしまった。

 

鉄人「……ここまでだな、吉井」

 

やや辛そうにしつつも、決着はついたと言わんばかりに余裕を見せる鉄人。 分厚い筋肉の鎧に常軌を逸した腕力は、向かい合うとどうしようもないという気持ちにさせられる。 いくら召喚獣が二体に増えたとしても操るのは明久一人だ。やっているうちにどちらに指示を出すべきか混乱していては本末転倒だ。

 

そしてそもそも、攻撃が当たったところで大して効いてないのでは話にならない。

 

鉄人「ッ…………所詮、下心の為の集中力なんてそんなものだ」

 

ゆっくりとした足取りで、若干ふらつきながらも鉄人は明久に近付いていく。

 

明久(……そうだ。鉄人の言う通り僕には集中力が足りない。だから余計なことを考えて召喚獣の行動が混ざってしまうんだ。だけど今わかったところでどうしろって言うんだよ?二体を同時に操る集中力なんてすぐには身に付かないよ……僕は和真みたいに何でもこなせるほど器用じゃないし……

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちょっと待て、おかしくないか?)

 

絶望的な戦力差に闘志が消えかけていた明久に、とある疑問が思い浮かぶ。

 

明久(……なんで鉄人はあんなに苦しそうにしているんだ?なんでさっきから余裕のなさそうな表情なんだ?確かに僕も何発か入れたけど、正直ダメージが入ったとは思えない。一昨日の和真も結構入れてたけど特に効いてなかったし、だいたいあの和真の渾身の蹴りを受けてもビクともしなかった鉄人がこの程度のダメージでもたつくわけ……

 

 

 

 

待てよ?もしその前提から間違っていたとすれば…)

 

普段まるで仕事をしない明久の脳細胞が、この絶対的ピンチにフル稼働し始める。いくつもの散らばった疑念のピースをを組み上げ、明久は奇跡的に核心に至る。

 

明久「そうかぁっ!」

 

逆転のチャンスを見つけ出した明久は、全身のばねを使って起き上がる。

 

鉄人「ほう…まだやるのか?根性だけは一人前だな?」

明久「鉄人、感謝するよ。今アンタは僕にヒントをくれた」

鉄人「ヒントだと?」

明久「今言ったじゃないか。『集中』って」

 

二体の召喚獣に対してバラバラに指示を出すから、処理が追い付かず混乱してしまうのだ。 さらに攻撃を別々の箇所に分散させるから相手の防御を貫くほどの威力は出ない。それが今明久に問題とっての問題であった。

だがその二つの問題は、たった一つのある方法で解決することができる。

 

明久「そう、集中だ。狙いを絞るんだ。今から放つ全ての攻撃をただ一点……」

 

そして明久は鉄人のある部分を指差した。その場所とは、一昨日に和真が『ライトニングタイガー』で抉った場所……

 

明久「……アンタの左腰に集中させる!」

鉄人「っ!?……貴様、気付いたのか!?」

明久「化物じみているとはいえ、どうやらアンタも人間だったようだね……その腰、和真の渾身の一撃を受けて痛めてるんだろう?」

 

そう、和真の闘いは決して無駄ではなく鉄人の腰に多大なダメージを与えていたのだ。それを知っている教師は偶然知った高橋先生のみ。鉄人は怪我を隠し、焼きごてを当てられたかのような激痛を堪ながら明久と闘っていたのだ。

 

明久「卑怯とは言わせませんよ。その傷は、和真の遺したたった一つの希望なんですから……行くぞ鉄人!」

 

ローと見せかけて腰狙いに変化するキック、足元を狙ったと見せかけて腰を突きにいく木刀、鳩尾狙いからやはり腰に軌道を修正した拳、その他数々の腰への攻撃。気がつくと、よほど痛めてるのか、鉄人は再び防御で手一杯となっていた。

 

明久「砕け散れ、鉄人!」

鉄人「くっ……!?」

 

今まで以上のスピードで、主獣を使い、腰に狙いをつける。振り上げられる木刀を必死に当てまいとして、鉄人は両手でガードを固める。

 

明久「なんて、ウソです。」

 

ゴッ!

 

鉄人の注意が主獣に引き付けられたのを見計らって、陰に隠れていた副獣が 鉄人の太い首筋をぶん殴った。

 

西村「ぐぅ……っ!よ、吉井、貴様……!」

 

ドサリ、と重い音を立てて、最強の敵はようやくゆっくりと床に倒れ伏した。フィードバックだ体中が軋み、息も絶え絶えになりながらも、明久は倒れたままピクリとも動かない鉄人を真っ直ぐに見据え、静かに言い放った。

 

 

明久「僕の…いや、僕達の………勝ちだ……っ!」

 

 

 

 

 

 




綾倉「見事吉井君は西村先生を討ち取りましたね。原作と展開が違っていますが、ちゃんとした理由があるんです」

蒼介「三巻終了後、四巻に移行する前にオリジナルストーリーを挟む予定なのだが、そのために西村先生を負傷させておく必要があったのだ」

綾倉「では予告通り、これまでに登場した『オーバークロック』の詳細を下記にまとめておきます。余談ですが大門君も『オーバークロック』を習得していますよ」

蒼介「まるで『オーバークロック』のバーゲンセールですね。ちなみに私は条件を満たしていないので習得していない」


柊和真……ガトリング・レーザー
発動条件……点数が400点以上残っているとき
消費……1点を残した全点数
デメリット……その日1日召喚獣のスペックが最低レベルまで落ちる
効果……光速の殺人光線による段幕攻撃。莫大な代償と引き換えにしているだけあって、ガード不能・回避不能・高橋先生クラスでも瀕死に追い込む破壊力と絶大な威力。

久保利光……風の鎧
発動条件……元々の点数が400点以上あれば発動することができる
消費……50
デメリット……発動中、点数が減り続ける。
効果……あらゆる攻撃を無力化する竜巻を身にまとう。しかし維持コストがあるため持久戦には不向き。デメリットは比較的軽め。

五十嵐源太……千の刃
発動条件……全教科150点以上残っているとき
消費……150
デメリット……全教科から150点マイナス
効果……フィールドを埋め尽くす大量のナイフ。一つ一つの攻撃力はたかが知れているが、有無を言わさぬ数の暴力で押し潰す。軽く1000点以上消費するだけあって凄まじい殲滅能力だが、和真の『オーバークロック』とは致命的に相性が悪い。

ムッツリーニ……影分身
発動条件……元々の点数が400点以上あれば発動することができる
消費……一体につき10点
デメリット……『加速』を発動すると一体につき50消費する
効果……分身を喚び出すが、10ダメージで消滅するうえに、『加速』を使わなければ動きすらしない。しかし取り囲んであらゆる角度からの一斉攻撃は驚異的である。























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第三巻終了

やっと三巻が終わった……!

次からはしばらくオリジナル展開になります。


「「「「「割にあわねぇーっっ!!」」」」」 

 

鉄人「ぐっ…………!」

 

百人以上の男子生徒が絞り出した絶叫で、気絶していた鉄人が目を覚ます。すぐさま状況把握のため辺りを見回すと、何故か気絶しているDクラスの清水がいた。そしてもう一人……柊和真が鉄人の近くに腰を下ろし、好奇の目で眺めていた。

 

和真「よう、目が覚めたかよ西村センセ」

鉄人「……柊か」

和真「怪我してんだろ?手ぇ貸してやるよ」

 

鉄人が目を覚ましたのを確認すると、和真は立ち上がって鉄人に手を差しのべるものの、鉄人はその手をとることを無視して(表面上は)平然と立ち上がる。

 

鉄人「高橋先生に何を聞いたのか知らんが、いらん気を回すな。お前に心配されるほど深刻なものではない」

和真「やれやれ……アンタも頑固者だな。腰痛めたんなら素直に点数を補給して召喚獣で迎え撃てばいいものを」

鉄人「言ったはずたぞ柊、我々教師はお前達生徒を真っ正面から受け止めると。一度生身で闘うと決めた以上、おいそれと変更するわけにはいかん」

和真「それが頑固だって言ってんだよ……」

 

鉄人の不器用な心がけに和真が呆れるように溜め息をついていると、男子生徒達が真っ白に脱色されて戻ってきた。生気の抜けた表情でトボトボと部屋に戻っていく様子は、リストラの憂き目にあったサラリーマンのようであった。

 

和真「西村センセ、あいつらがあんな状態になった原因について詳しく」

鉄人「……実を言うとだな、お前達が起こした度重なる覗き騒ぎが原因で、入浴をしようとする女子生徒が一人もいなくてな。そしてたまたま学園長が視察に来ていてな、この時間帯に女子生徒が誰も入らないことを知って-」

和真「あ、もういい。あのばーさんのことだ、大浴場を独り占めしようと思って入ってたんだろ。それで、ちょうど覗きを行った明久達とバッティングして、結果あのザマか」

鉄人「俺としても流石にあんまりなので、出来れば止めてやりたかったのだがな……」

 

理想郷を求めて死力を尽くした勇者達に与えられた報酬は、醜悪なババァの裸体。鬼教師で有名な鉄人でさえも思わず同情する内容だった。

 

和真(まあ、当初の目的は果たしたみてぇだな)

 

倒れている清水を一瞥しながら、和真は自分の推測が正しかったことを確認する。ここで清水の所業を鉄人にバラしても良いのだが、和真は当事者の明久達に判断を任せることにする。

 

和真「しかし、あのばーさんが覗きに参加した奴を一人一人リストアップしていくなんてまどろっこしいことするとは思えねーし、この分だと合宿に参加した男子は皆仲良く停学だな。ソウスケの奴怒るだろーなー」

鉄人「自業自得だバカタレ。覗きなんてバカな真似をした代償として、甘んじて受け入れることだな」

和真「はいはい。まあちょうどまとまった時間が欲しいと思ってたところだ。ソウスケへの対抗手段に考えてた切り札は二つとも使っちまったみてぇだし……こうなったらもう覚悟決めるしかねぇな」

鉄人「停学期間中は大量の課題が出されるだろうがお前なら問題は無いとして……覚悟?お前は停学中に何をするつもりだ?」

和真「そりゃ勉強だよ、西村センセ。実を言うと俺は今度の期末テストである目標を立ててるんだ」

鉄人「……なんだ?言ってみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「とりあえず当面の目標は……現在翔子が着いている学年次席の座を奪い取ることだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―処分通知―

 

鳳蒼介を除く文月学園第二学年全男子生徒149名

上記らの者たち全員を、1週間の停学処分とする

 

文月学園学園長 藤堂カヲル

 

 

 

ついムラッときてやった。

今は心の底から後悔している

 

~とある生徒の反省文より抜粋~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年男子達が仲良く停学処分を下されている頃、蒼介と秀介

の二人は“桐谷”の総本山に滞在していた。

 

通称『桐谷サイバーシティ』。

北海道の広大な土地をまとめ買いし、自然保護団体の抗議を完全無視して大規模な開発を行い誕生した、東京ドーム300個分に及ぶ大規模な最先端都市。

その中央に位置する最先端技術の粋を結集して生み出された桐谷の居城、『バベルタワー』。

その最上階の社長室で、文月学園のスポンサー、四大企業の重役たちによる会議が、数日にかけて行われていた。

 

綾倉「では、プロジェクトの予定日は体育祭の後に行う予定ということで。

続いての議題ですが、先日文月学園に襲撃を仕掛けてきた閏年高校の生徒約百名についてですが……」

 

文月学園の代表として会議を進行していた綾倉先生が、やや深刻そうな顔で(糸目のままだが)報告をする。

閏年高校と言えば清涼祭のときに教頭の竹原と組んで色々とやらかしてくれたものの、最終的に和真たちにぶちのめされた不良共のことである。四大企業は文月学園の生徒が暴力事件を起こしたと醜聞が出回ることを危惧し、秘密裏に回収し口封じを兼ねた人格強制プログラムを施していた。色々と問題のある対応だが命が惜しければ追求しない方が良いだろう。

 

綾倉「……全員忽然と姿を消しました」

桐谷「……どういうことだね橘社長?これは君の監督不行届ではないかね?」

 

桐谷社長は対面に座っている金髪の男に苦言を催す。

金剛石に白虎のマークの入ったゴーグルを着けて、我関せずとばかりに何やらごてごてした機械を組み立てていた男、飛鳥の父親、橘大悟(タチバナ ダイゴ)は製作を一時中断し、桐谷社長に視線を移す。

 

大悟「そんなこと言っても全員ふわっと消えてしまったんだからしょうがないだろうそれにどうでもよかったんで大して警備もつけてなかったし第一そんな過去のことどうでもいい俺が求めるのは常に革新的なアイデアに基づく新しいものだやはり手垢が付いたものよりもさらっぴんの方がいいと俺は常々-」

桐谷「わかったわかった!そこら辺でもう良い!」

 

うんざりしたと言う表情で桐谷社長は会話を強引に打ち切る。放っておけばこの自称革新主義者は留まることなく喋り続けるであろう。嫌味の一つでも言おうと魔が差したことを今更後悔する桐谷社長。

 

御門「さっきから気になってたんだがよ橘、お前今度は何作ってんの?」

大悟「よくぞ聞いてくれたな御門社長これは名付けて真なる全自動炊飯器だ米を炊くのみならず研ぐことすら自動で行ってくれる優れものだただしまだ致命的欠点があるため商品化はできないがなその致命的な欠点とは通常の炊飯器の軽く10倍の電力を消費してしまうことで-」

桐谷「こいつに話題を振るなぁあああ!」

 

再び壊れたテープレコーダーのように延々と早口で喋り続ける大悟にイライラが限界が来たのか、元凶である死んだ目をしただらしない格好の男、御門空雅を睨めつける。

この男、大事な会議だと言うのにお構いなしによれよれのスーツで参加して気だるげに喫煙しまくっており、彼の机の周りにはコンポタの空き缶が散乱している。同席している秘書の桐生舞が死ぬほど申し訳なさそうにしてようがまるで気にしたそぶりを見せない。

 

桐谷「…………御門社長、君はこの会議がいかに重要なものか理解しているのかね?」

御門「理解してるわけねーだろ、誰が好き好んでこんなとこ来たがるんだよ……。キュウリが来週の俺の残業肩代わりするっつうからわざわざ来てやっただけで-」

舞「(スパーンッ!)もうあなた黙ってなさい!すみません御門社長!この人常識とかマナーとかそういう類いのものが色々と抜け落ちてるんです!」

桐谷「……相変わらず苦労しているようだな君は」

蒼介(初めて会議に出席したが……本当にこの人達が日本を左右する企業のトップなのか……!?)

 

御門と大悟のあまりの社会不適合者ぶりに、さしもの蒼介も困惑を隠せないでいた。秀介は慣れているのか、口許に扇子を当ててニコニコしている。

 

蒼介(それにしても、閏年高校の生徒100人全員が消息不明か……あの事件、及び人格矯正プログラムについて知っているのは一部の人間だけであることを念頭に置くと……

文月学園の関係者、もしくはこの中の誰かが、

良からぬことを企んでいる……!)

 

蒼介のそんな懸念とは裏腹に、会議はぐだぐだのまま進んでお開きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐谷「ふう……」

 

長きに渡る会議で疲弊しきった桐谷社長は、デスクに座ったまま一息つく。

 

桐谷「……“ファントム”」

 

桐谷社長の呟きとともに、邪悪な笑みを浮かべた仮面を装着し、黒いロングコートを着た不気味な人物が社長室に入室する。

 

桐谷「……例の計画に抜かりは無いな」

『ご心配なく。近日中に文月学園へ侵入する手筈は整っています故』

 

ファントムと呼ばれた人物は、ボイスチェンジャーごしに不吉なことを言い放った。

 

桐谷「………………ならば良い。」

 

 

 

 

 

 

 




雑談コーナー・その3

蒼介「第三巻が無事終了したな」

和真「第二巻が終了したのが2015年の1月か……。ずいぶん時間が空いちまったな」

蒼介「読者も何人か離れていっただろうな。離れず待ち続けてくれた読者、そして催促してくれた“ラピュタ”さんには本当に感謝している」

和真「さて今回のゲストは、二巻で小暮先輩に惨敗した大門徹君でーっす♪」

徹「事実だけどいちいち人の傷口ほじくり返さないでくれるかな?」

和真「それにしても今回お前らの出番全然なかったなぁ」

徹「二巻であれだけ出番貰ったんだし、その代償と考えているよ」

蒼介「私も次話から忙しくなるので、大して気にしていないな」

和真「そういや次回からのオリジナル展開からは、俺達男子勢が停学処分喰らってる間の話だってな」

徹「見方によっては鳳のハーレムに見えるが読者の皆、その手の展開には期待するな」

蒼介「鳳を継ぐ者として、爛れた恋愛をするつもりなどない」

和真「この通りガッチガチの堅物だから」

蒼介「そろそろ時間だな。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「じゃあな~」










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オリジナル第一章・生徒会長・鳳蒼介

今回も含めた2、3話はストーリーはあまり進まない半ば番外編と思ってください。


笑いあり涙あり停学ありの合宿も無事終了し、二年一同は再び通常授業となる。姫路瑞希は校門で鉄人に挨拶を済ませた後、慣れ親しんだオンボロ教室を目指して校舎を歩いている。その途中に見知った後ろ姿が見えたので、姫路は早足で駆け寄り声をかける。

 

姫路「美波ちゃん、おはようございます」

美波「あ、瑞希。おはよ……」

 

声をかけた相手は心を許せる親友であり、ライバルでもある島田美波。いつもは男勝りと呼ばれるほど勝ち気な性格をしているのだが、今日はどこか浮かない表情をしている。

 

姫路「どうしたんですか?元気がないみたいですけど、何か悩みでも?」

美波「う、ううん!そんなことないわ!ちょっと疲れてるだけ!」

姫路「そうですか。確かに先週の強化合宿は大変でしたからね。疲れが残っちゃっても仕方がないですよね」

美波「あ、うん。確かに色々と大変だったわね」

 

我ながら苦しい誤魔化しだとは思いつつも、あっさりと信用されたようで美波は胸を撫で下ろす。まあ確かに色々あったのは事実だが、もう少し疑っても良いのではないだろうかと、美波は少し姫路の将来が心配になった。

 

姫路「最後は坂本君、柊君、久保君、五十嵐君以外の男子が皆真っ白になってましたけど、何があったんでしょうか?」

美波「柊はあいつらはこの世で最も恐ろしいものを目の当たりにした、って言ってたけど……何かしらね?」

姫路「知りたいような……知りたくないような……」

美波「様子を見に来た学園長もビックリしたでしょうね。学力強化合宿があんなことになったなんて」

姫路「学年全員での覗き騒ぎですからね……。最初は明久君たちだけだったのに気がついたら凄いことになっていましたよね」

美波「そうね……。ところで覗きと言えば、例の初日に脱衣所にカメラを設置した真犯人なんだけど」

姫路「え?真犯人?カメラって、明久君たちがやったんじゃないんですか?」

美波「ううん。それが、美春が本当の犯人だったみたい」

姫路「美春って、清水美春さんですか?」

美波「うん。最後の日に脱衣所からカメラを持って出てくるのを偶然見かけたの。それで問い詰めたら、『お姉さまの姿を残したかったんです』って盗撮を認めたわ」

姫路「ええっ!?それじゃ明久君たちは……」

美波「誤解だったみたいね。ま、最後には結局あいつらも覗き魔になったから、今更謝るのもちょっと、って感じだけどね」

姫路「あ、あはは……」

蒼介「姫路に島田、すまないがその件について詳しく聞かせてもらえるだろうか」

 

他愛ない雑談をしている二人に、ちょうど登校してきたAクラス代表の鳳蒼介が声をかけてきた。

 

姫路「あ、鳳君。おはようございます」

蒼介「おはよう。……合宿先でのことは概ね聞いている。随分と大変だったようだな」

姫路「あはは……。まあ明久君達らしいと言えばらしいですけどね」

美波「ねぇねぇ瑞希。随分親しげだけど、アンタ鳳と仲良かったっけ?」

姫路「美波ちゃん、私は鳳君の実家の料亭『赤羽』で、鳳君のお母さんに料理を教えてもらっていることは知っていますよね?」

美波「え、ええ」

 

以前はまさに殺人兵器製造マシーンであった姫路だが、和真の紹介で蒼介の母・藍華の指導と言う名のシゴキによって、目覚ましい進歩を遂げているそうな。しかしよほど過酷なシゴキなのか、美波が聞き出そうとしても姫路は詳細について何一つ語ろうとはしない。

 

蒼介「母様は料理長として多忙を極める身でな。姫路の指導のために時間を空ける努力はしているが、どうしても都合がつかないときには代わりに私が代役を勤めている」

美波「え、アンタそんなに料理上手なの?」

姫路「とってもお上手ですよ。……私のプライドが粉々に砕け散るくらいには」

美波「そ、そうなんだ……」

 

料理は女子の仕事、なんて意見は時代遅れになりつつあるものの、それでも男子相手に料理で負けると女子としては心にクるものがあるらしい。

 

蒼介「話を戻すが島田、少々興味深いことを言っていたな。Dクラスの清水が……どうとかな」

美波「う…。そ、それは……」

蒼介「案ずるな。被害者であるお前が気にしていないのなら、私も奴をどうこうするつもりはない」

美波「じゃ、じゃあどうして聞きたがるのよ?」

蒼介「カズマとは長い付き合いだ、要領の良いあいつが理由もなく覗きに参加するとは思えん。となると、覗き騒動の裏に何かがあったと考えられる。生徒会長として私はそれを正しく知っておく必要がある」

 

どうやっても逃げられそうになかったので、美波は観念して清水の所業及びそれによって起きた騒動の全容を洗いざらいぶちまけた。

 

蒼介「……なるほど、清水の盗撮行動がきっかけとなり、学年全体を巻き込んだ覗き騒動に発展したのか。正直どちらにも情状酌量の余地は無いが、学園が停学という罰を下した以上、合宿に参加していない私が口を挟むことは特に無いな。……小言の一つ二つは言わせてもらうつもりだが。

ご協力感謝する」

美波「別に良いけど、生徒会長って随分大変ね。参加してもいない合宿で起きた騒動まで詳しく知っておかないといけないなんて」

蒼介「まあ確かに大変なのは事実だが、不本意ながらそれも今日までだ」

姫路「えっ?それってどういうことですか?」

蒼介「それはだな……丁度よかった。霧島、伝えたいことがあるんだが」

翔子「……何?」

「「ひゃあ!?」」

 

いつの間にか音も立てずに接近していた翔子。武道の達人である蒼介はすぐに知覚していたが、美波と姫路は全く気付かなかったため思わず悲鳴を上げる。

 

美波「翔子!ビックリしたじゃない!」

姫路「気配を消して近くに来るのやめてください!」

翔子「……ごめん、次からは善処する」

 

と言いつつ内心では改める気など更々ない、以外と悪戯好きな一面を持つ翔子であった。それとも和真による悪影響だろうか?

 

翔子「……それで鳳、話って何?」

蒼介「私は本日をもって生徒会長を辞任するつもりなのだが、後任にはお前を推薦したい」

「「!?」」

翔子「……ごめんなさい、私は雄二と可能な限り一緒にいたいから引き受けられない」

蒼介「そうか、こちらも無理強いするつもりは無いので気にする必要はない。そうだ、姫路はどうだ?」

姫路「ちょっと待ってください!?

どうして辞任するんですか?」

蒼介「覗き騒動の責任を取るためだ」

美波「アンタ合宿に参加してないじゃない。何でアンタが責任を被る必要があるのよ?」

翔子「……鳳は何も悪くない」

姫路「そうですよ。鳳君に落ち度はありません」

 

自分達は被害者側ではあるが、自分達が起こした騒動で蒼介が生徒会長を辞めるのは少々罪悪感があるので、何とか考え直すよう蒼介を説得しようとする三人。しかし蒼介は意思を変えるつもりはない。

 

蒼介「私自体に落ち度が無くても、全体を代表して責任を取る必要がある。それが人の上に立つ者の責務というものだ。それで姫路、頼まれてくれるか?」

姫路「わ、私は体が弱いし、やらなければいけないことが色々ありますので……」

蒼介「残念だが、そういう理由なら仕方がないな。……となると、木下に頼むか……」

美波「あれ?久保は?」

 

実践主義の文月学園では、生徒会長は出来る限り成績優秀な生徒が望ましいとされるため、Aクラス次席の久保を飛ばして優子を推薦するのは少々違和感がある。

 

蒼介「久保は成績以前の問題だ」

姫路「え?どういうことですか?」

蒼介「理由はどうであれ、奴はAクラスを先導して覗きに加担した。それは私にとって許されざる裏切り行為だ。会長に推薦するつもりはない」

美波「き、厳しいわね……」

 

合宿前、蒼介は参加できない自分の代わりにAクラスをまとめあげる立場に久保を抜擢した。覗きに協力するよう男子生徒を先導した久保の行いは蒼介の信頼に対する明確な裏切り行為に他ならない。それを野放しにするほど蒼介は甘い人間ではない。そして蒼介は徹に対しても、問答無用で書記職を辞任させるつもりでいた。自分にも他人にも厳しい蒼介らしい判断である。

 

蒼介「そろそろ朝のHRの時間だな、私はここら辺で失礼する。それと……お前達が私に対して負い目を感じる必要はないぞ」

 

三人の心情を見透かしたような忠告をしつつ、蒼介は去っていった。残された三人も遅刻はしたくないのでFクラス教室へ向かって歩き出す。

 

美波「気にするな、て言われてもねぇ……」

姫路「どうしても気にしちゃいますよね……」

翔子「……多分大丈夫だと思う」

姫路「え?翔子ちゃん、どういうことですか?」

翔子「……教師達も生徒会も思っているはずだから。

会長は鳳が適任だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、学園長室にて……。

 

蒼介「ーという訳で、今回の騒動の責任を取って生徒会長を辞任しようと考えてます」

学園長「アンタはホント真面目だねぇ……。あのバカどもに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。

でも残念ながら、却下だね」

蒼介「……理由を聞いてもよろしいですか?」

学園長「それについてはあいつらから聞かせてもらうといいさね。……入ってきな」

 

学園長の呼び掛けとともに、数人の生徒が学園長室に入ってきた。橘飛鳥、佐伯梓、高城雅春、小暮葵、そして常夏コンビの、徹を除く現生徒会役員達だ。

 

飛鳥「ごめん蒼介、私が先輩達に掛け合ったの」

蒼介「……それは何のためにだ?」

佐伯「んなもん、アンタを辞めさせんために決まっとるやろがい」

高城「生徒会長だからと言って、参加してもいない合宿で起きた騒動の責任までとらされるのはおかしいと思いますよ」

小暮「珍しく高城君の言う通りですわ。それに、二年にあなた以上の適任はいませんでしょうし」

蒼介「……しかし、」

夏川「もうお前の意見は却下されたんだから、ごちゃごちゃ言うなよ」

常村「辞めることで責任を取るのではなく、今後の活動で責任を取ればいいだけの話だろうが」

 

食い下がる蒼介の意見を、常夏コンビはバッサリと切り捨てる。召喚大会以降人が変わったように真面目になった二人だからこそ、その言葉には説得力があった。

 

学園長「それで、どうするんだい鳳。会長たるもの、役員の意見は尊重してやらないとねぇ」

 

ここまで言われては蒼介と言えども引き下がるしかない。と言うより、ここで辞任を固持すれば逆に責任から逃げたことになるだろう。人生ままならないものだと、蒼介は肩をすくめる。

 

蒼介「…………わかりました。今回の騒動で下がったイメージは、生徒会長として、責任を持って改善して行こうと思います」

 

蒼介はどことなくスッキリした表情で学園長に、当初の予定とは異なるが、学園を代表するものとして責務は必ず果たすと力強く宣言した。




綾倉「鳳君の人望が伺える話でしたね」

和真「ちなみに徹はこの後本人の承諾なしに書記職を降ろされた。あいつの人望の無さが伺えるな」

綾倉「人望と言うより、覗きに加担した生徒を学園を代表する生徒会に所属させておくのは色々とまずい、と判断されたのでしょう」

和真「ちなみに久保は代表代理続投だ。まあ発言権は名誉挽回するまで与えられないだろうから、しばらくは実質優子がAクラスの副官扱いになる」

綾倉「次回は私がメインの話になります」







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文月学園最高戦力

ベールに包まれていた綾倉先生の実力が、とうとう明かされます。正直自分でもやり過ぎたかと少し思っています。


時は一旦昼休みまで戻る。

補習担当教師の西村宗一、通称鉄人は二年学年主任の高橋洋子先生と共に生徒会室に呼び出されていた。呼び出した人物は生徒会役員ではなく、三年学年主任の綾倉慶。

この時点で鉄人は既に嫌な予感しかしなかったが、上司の命令を無視するわけにもいかないので、高橋先生と共に重い足取りを引きずって生徒会室までやって来た。

 

コンコンッ

 

綾倉「どうぞ」

 

許可を得たので二人はドアを開け入室する。部屋の奥には綾倉先生がいつものニコニコ笑顔を浮かべながら、何故か碇ゲンドウポーズで会長机に座っていた。さらにもう一つ不可解なことにその他の役人の机は折り畳んで壁に立て掛けられており、部屋内に不自然なほどの自由空間が形成されている。

 

綾倉「さて、単刀直入に言いますが……どうして私があなた方を呼び出したのかわかりますか?」

鉄人「……先日の、覗き騒動の件でしょうか」

綾倉「ご理解がお早いようで何よりです。正直、貴殿方には失望させられました」

 

笑顔のまま投擲された鋭すぎる言葉のナイフに、鉄人と高橋先生は顔を強ばらせる。

 

綾倉「確かに停学処分になるまで騒ぎを大きくした彼らの行動は度しがたいものでしょう。しかし、みすみす覗きを成功させてしまった貴殿方も同罪だと私は考えています。なぜなら、その気になれば事前に止められたはずでしょう?……ですよね、高橋先生?」

高橋「……仰る通りです。主犯格の吉井君達を入浴時間前に拘束しておけば、事前に止められていました」

綾倉「そうでしょうねぇ。……それと西村先生、いくら体力に自信があるからといって、わざわざ相手の土俵で闘う必要はあったのですか?」

鉄人「……生徒指導を担当する私が召喚獣に頼れば、一部のバカな生徒を増長させてしまうと判断しました」

綾倉「なるほど、それは立派な心掛けですね。

しかしどんな志も成功してこそ、失敗した時点でそれはただのわがままです。貴殿方二人だけでなく合宿に参加した教師一同は、どうやら自らの教師としてのプライドに拘り過ぎたようですね」

 

その後も心を抉るような嫌みがネチネチと繰り出されていく。綾倉先生の底意地の悪さが透けて見えるようだったが言っていることは正論なので、鉄人と高橋先生の二人は甘んじてその批難を黙って聞いていた。

そして昼休みも残り五分という時間帯で、綾倉先生の言葉のナイフの雨がようやく終了した。

 

綾倉「さて小言はこの辺にして、そろそろ本題に入りましょう。お二方、事前に通達した通り点数補充は済ませてますよね?」

高橋「はい」

鉄人「休日中に済ませています」

綾倉「ではここであなた方にちょっと試練を課しましょう。今ここで私と総合科目で勝負して、あなた方が勝てば無罪放免、私が勝てばそれ相応の罰を受けていただきます」

二人((わざわざ点数を補充するよう通達してきたのはこのためか……))

 

どうやら綾倉先生はこの場で二人の召喚獣を虐殺し、休日を返上した二人の努力をパァにするつもりのようだ。わざわざ事前に点数を補給させられたことや、机を事前に折り畳んでスペースを空けていた時点で気づくべきだったと鉄人は後悔する。さらに鉄人は自分達を負かした後に何を要求するか、もっと具体的に言えば何を飲ませようとしているかを今までの苦い経験を頼りに全て理解してしまった。

 

綾倉「では行きますよ……試獣召喚(サモン)」

高橋「西村先生、今度こそ綾倉先生に勝利しましょう!サモン!」

鉄人「…………わかりました。サモン!」

 

二人がかりでも綾倉先生には今まで勝った試しが無いので既に結末を理解しつつも、やる気満々の高橋先生の士気を削ぐわけにはいかないので鉄人も泣く泣く勝負に応じる。お馴染みの幾何学模様から三人の召喚獣が出現する。

高橋先生の召喚獣の武器は鞭、鉄人の召喚獣の武器はボクシンググローブ、そして綾倉先生の召喚獣の武器は十手。

遅れて三人の点数が表示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子 7792点

 補習教師 西村宗一 7048点

VS

 学年主任 綾倉慶 15245点』

 

 

そこに映し出された点数は、まさに次元の違う化け物じみたものであった。

 

鉄人「…………相変わらず……文字通り桁違いの点数ですな、綾倉先生……」

高橋「私と西村先生の点数を合計しても届かないなんて……」

綾倉「おやおや、お褒めに与り恐縮ですが……感心してる暇があるんですか?これはスポーツではなく戦争ですよ?」

二人「「ッ……!?」」

 

その言葉を聞き鉄人と高橋先生が警戒を強めると同時に、〈綾倉〉がムッツリーニの『加速』に匹敵するスピードで突っ込んできた。二人もそれぞれ迎撃したものの俊敏かつ流麗な動きでことごとく避けられ、二人の召喚獣は十手で一方的に撲殺された。どうやら点数だけでなく、操作技術もレベルが違うらしい。

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子 戦死

 補習教師 西村宗一 戦死

VS

 学年主任 綾倉慶 15245点』

 

 

綾倉「これで87勝0敗……ですねお二方」

高橋「参りました……ですがいずれ、いずれ必ず一矢報いて見せます!」

綾倉「ええ、楽しみにしていますよ」

鉄人(高橋先生、表面上は平然としているが……空元気だな。無理もない、俺とて全く勝てるビジョンが浮かばない。

 

 

これが若冠14歳でハーバード大学を首席卒業した天才にして、元数学オリンピック絶対王者、綾倉慶の実力か……)

 

ちなみに余談だが、綾倉先生の物理及び数学の点数は約1800点と、単科目だけでBクラスの総合点並の成績を誇る。もはや強いとか弱いとかそういう次元ではない。

 

綾倉「さて、それでは罰として、私が最近製作した特性ドリンク、『綾倉特性ドリンクver.3青酢』の試飲をしてもらいましょうか♪」

鉄人(そんなことだろうと思った……)

高橋「まあ、最新作ですか(キラキラ)」

 

どこからともなく取り出されたコップを見た鉄人はゲンナリし、一方高橋先生は興味深そうにその液体を眺めている。『青酢』というだけあってその飲み物の色は瑞々しいブルー。黒酢ならともかく青。こんな色の飲み物は自然界にあるはずもない。

 

高橋「では、いただきましょう(ゴクゴク)」

鉄人(上司に不平不満は極力言いたくないが、これは明らかにアンフェアではないか?)

 

ご存知の通り、数多の教師にとって天敵になりつつある綾倉特性ドリンクは、何故か高橋先生にはまるで通用しない。これでは自分だけダメージを受けて終わりではないかと、鉄人が珍しく腑に落ちない思いに囚われていると……

 

 

ガタンッ!

 

 

鉄人「………………………………ゑ?」

綾倉「フフフ……」 

高橋「」ピクピク

 

突然高橋先生がその場に倒れ伏した。突然のことに呆気にとられる鉄人だが、すぐさま駆け寄って安否を確かめる。脈拍は正常に作動しているものの、高橋先生は白目を向いたままピクリとも動かない。

 

綾倉「いつまでも平然としていられると思ったら大間違いですよ高橋先生。綾倉ドリンクは日々進化を遂げていますからね」

鉄人(………………………………青酢恐るべしッ!)

 

今まで数多くの綾倉ドリンクを鎧袖一触に飲み干してきた高橋先生のまさかの惨敗に、さしもの鉄人も背筋を凍らせて戦慄する。高橋先生が飲んだ以上、自分が飲まないという選択肢は存在しない。しかし高橋先生ですらこのザマだ、もし自分がこれを飲めば間違いなく………………。

 

このときの鉄人の心境は、処刑台への階段を上る死刑囚のようだったと後に語っている。

 

鉄人(………………………………………………………………………………………………………………………………………………いい人生だったな)

 

今までの人生を振り返り、死ぬ覚悟を決めた鉄人は、目の前の飲み物を漢らしく一気に飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

その後の顛末は語るまでもないだろう。

 

 

 




綾倉先生無双回。
長いこと引っ張っただけあって、一切自重しないとんでもなさ。
せっかくなんで三人の召喚獣のスペックを公開します。
教師の召喚獣は物理干渉能力を持つため、事故の被害を抑えるべく攻撃力が制限されています。


西村宗一
・総合科目……7000点前後
・400点以上……全科目
・ステータス(F・E・D・C・B・A・S・SS・で表す)
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……S+
防御力……S+

並の教師とは一線を画す点数を保持しているものの、運搬などに召喚獣をあまり頼らないため操作技術は教師の中で1番下手。チートな身体能力を持った弊害か。

高橋洋子
・総合科目……7800点前後
・400点以上……全科目
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……SS
防御力……SS

点数、操作技術ともに隙はない。和真も一対一では勝ち目がないとわかっていたのか、最初から伏兵を用いるつもりだったようだ。


綾倉慶
・総合科目……15000点前後
・400点以上……全科目
・ステータス(F・E・D・C・B・A・S・SSで表す)
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……MAX
防御力……MAX

高橋先生の倍近くと、チートを通り越してもはやはバグの域。機動力、防御力がカンストしてしまっている。その上、その圧倒的な速度で動く召喚獣を完璧に動かせる操作技術も持ち合わせているまさに規格外の化物。腕輪だろうがオーバークロックだろうがランクアップだろうが、現時点で彼を倒す手段はない。





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幽かな仮面

我等が鉄人と三章ラストに出てきたファントムさんが色々と頑張ります。ここだけの話、ファントムは新キャラではなく既存キャラです。


停学期間四日目の放課後。

Fクラス担任の西村宗一こと鉄人は、自分のクラスの生徒が停学期間中きちんと課題をこなしているかを確かめるため、昨日から各家庭を回っていた。

まあ懸念していた通り流石Fクラス、ほぼ全ての生徒が出された課題をうっちゃらかして、ゲームだの漫画だのR-18指定雑誌だのにうつつを抜かしていやがったので、鉄拳制裁という名の指導を施しておいた。少しでも課題に取り組んでいたのは今のところ僅か三名。

まず一人目はFクラスの良心こと木下秀吉。彼(?)は演劇に熱を入れるあまり勉学が疎かになっていただけで、割と真面目な生徒であったので鉄人もある程度予想していた。まあ疎かになっているだけあって、課題の解答はお察しだったが。

 

鉄人(だいたいあいつは、なんであの言葉遣いで古典が苦手なんだ……)

 

帰り際にちょうど双子の姉の優子が帰宅してきたので、これ幸いとばかりに弟の勉学を見てあげるように頼んでおいた。何故だか秀吉が半泣きになっていたのは見間違いだということにしておこう。木下家から離れるときに聞こえた悲鳴のような声もきっと気のせいに違いない。

 

鉄人(まあ木下はある程度予想していたとして……まさか一番の頭痛の種であるあの二人が課題に向き合っていたとはな……)

 

そう。残りの二人はFクラスきっての問題児コンビ、教師公認ブラックリストの吉井明久と坂本雄二。あまりに異常な光景に、何を企んでいるのかと鉄人も追求したが、返ってきた答えは全く同じ。

もうすぐ解禁される試召戦争のためだと言う。どんな理由であれ勉学に真面目に取り組む姿勢は、教師として評価するべきだと鉄人は珍しく感心した。……まあ明久の課題は日本史分野を除いて珍解答の百貨店状態であったが。

 

鉄人(そこまで試召戦争のために成績を上げたいと思っているなら、俺もあいつらのためを思って停学明けに特別補習を追加してやるべきだな、うむ)

 

鉄人にとっては100%善意からの思い付きであったが、二人がこれを聞けば全力を振り絞って逃走すること間違いなしであろう。つくづくやることなすことが裏目に出てしまう二人であった。

 

鉄人(さて、次は……柊か………………ハァ……)

 

思わず飛び出る憂鬱な溜め息。

次に回る家は我等がアウトドア娯楽主義者、Fクラス最強の矛にしてナチュラル・ボーン・サディストこと柊和真の家。とはいえ鉄人の懸念は和真ではない。色々とアレな部分はあるものの、和真はFクラスの中ではかなりマトモな感性を持っている。それに成績優秀かつ意外と真面目な性分のため、課題はとうに終わらせているだろう。 

 

それより問題なのは……

 

そんなことを考えている内に和真の自宅に到着した。世界有数のセレブである蒼介や飛鳥ほどではないにしても、余裕で富裕層に位置する柊家なのだが、家の構造は3LDKの一軒家。一般庶民からすれば充分豪邸にあたるものの、度肝を抜く程のものではない。和真の両親は不必要な贅沢を好まないため、このような作りをしていると以前聞いたことがある。ただ、普通の家と比べて扉の全長が二メートル以上というように、家全体がやや高めに作られている。この理由に関しては事情を知らない人にも、住んでいる住人を一目見ればすぐに理解できるだろう。

いつまでも二の足を踏んでいるわけにはいかないので、鉄人は覚悟を決めてチャイムを鳴らすと、少し間を置いてからドアが開き、

 

 

 

 

猛獣のような大男が玄関から這い出てきた。

 

 

やや短めの深紅の髪。

 

軍隊として各国を渡り歩いてきたと説明されても違和感のない厳つい容姿。

 

普段から生徒達に化物だ人外だのと揶揄される鉄人でさえ驚愕するほどの、人間離れした体躯。

 

そして、188㎝の鉄人でさえも見上げるほどの巨体、

全長驚異の2mオーバー!

 

線の細い童顔で多くの女子に人気の和真とは似ても似つかぬこの男こそ、和真の父親『柊 守那(カミナ)』である。

 

カミナ「フハハハハハハハ!よう来た宗一!まずは一杯、飲もうじゃないか!」

鉄人「……折角ですが遠慮させてもらいますカミナさん。停学中のお子さんの様子を見に来ただけですし、この後も仕事が残っていますので」

カミナ「相変わらず堅い奴だなお前は!もう少し我が儘を言ったらどうだ!己の欲求にしたがってこその人生だろうが!」

鉄人「あなたはもう少し自制心を覚えてください……もういい年なんだから……」

 

そう、鉄人がこの家に来たくなかったのは、目の前で盃を自分に進めてくるこの男が原因である。

鉄人にとってカミナは母校のレスリング部のOBであり、現在趣味であるトライアスロンもこの人の薦めで参加した。

それ以外にも色々と世話になったことのある、紛れもない恩人である。

しかしこの男、秀介の同級生で高校生の息子を持つ、もう立派なおっさんであるにも関わらず、まるで自重するそぶりを見せない。行動を共にするたび何かしら騒ぎを起こし、鉄人はそのたびに尻拭いや迷惑をかけた相手への謝罪など東奔西走する羽目になる。わかりやすく言えば、和真から常識や空気を読む能力や世渡りの上手さなどのブレーキ要素を全て取り上げたような人格をしている。

幾度となく先輩と後輩の垣根を越えて指導(鉄拳制裁)してやろうかと思ったものの、この男見た目通り無駄に強い。鉄人が今まで出会った中で間違いなくぶっちぎりで最強。今まで何度も殴り合いの喧嘩に発展したものの、一度として勝てたことがない。鉄人は日頃自分を化物扱いするバカどもに上には上がいるものだと教えてやりたい気分である。

 

カミナ「倅なら部屋に篭って机に向かっているぞ、好きに見てくるがいい!今ワシが部屋に入ると喧嘩になってしまうのでな!」

鉄人「今度は何をやらかしたんですか……?」

カミナ「なに、大したことではない!遊びに来た倅の女友達に、軽い悪戯心でちょちょっと秘密を流しただけだ!」

鉄人「プライバシーの流出じゃないですかそれは……」

カミナ「それにしたって奴の仕返しは度を越しているぞ!『停学中暇だから親父に弁当でも作ってやるよ』とか珍しいことをのたまったと思ったら、いざ会社で弁当の蓋を開けてみたら中身が杏仁豆腐一色だったんだぞ!?しかも付属の食器はまさかの箸!食べづらくて仕方なかったわ!他にも…」

鉄人(あまりこういうことを思ってはいけないのだが……柊よくやった、もっとやれ)

 

自分も日頃からカミナには苦労させられっぱなしのため、和真の地味にクる嫌がらせの数々は、鉄人にとっても溜飲が下がる思いであったそうな。

 

鉄人「では、上がらせてもらいますね」

カミナ「好きにしろ!……ああそうだ宗一、お前に一つ言っておく!」

鉄人「何ですか?」

カミナ「手伝ってやれ、倅の担任ならな!」

 

わけのわからない忠告を不思議に思いつつも、鉄人は玄関をあがり和真の部屋に歩みを進める。何度か来たことがあるのでその足取りに迷いはない。

軽くノックをするものの反応はいつまでたってもない。不審に思うも埒が明かないので扉を少しだけ開け中を覗いてみると……

 

 

 

 

 

 

 

和真「………………」

 

一心不乱に机に向かってテキストに向かう和真の姿が。鉄人が部屋に入って近づいたものの、和真は気にするどころか気づくそぶりも見せない。よく見ると和真の机の周りには無造作に放られた膨大な量のテキストが散乱している。しかもそれらは出された停学期間用の課題ではなく、それどころかまだ授業ですら扱っていない範囲の物ばかり。そして現在和真が取り組んでいるテキストは、綾倉先生が教師用に製作している問題集『エキスパート・ラーニング』。この問題を苦もなく解けるような生徒は文月学園でも蒼介ただ一人だろう。和真もその例に漏れず、並外れた集中力とは裏腹に難航しているようだ。

 

和真「…………?……西村センセか」

鉄人「ようやく気づいたか、大した集中力だな」

 

シャー芯を補給しようとしたところで、和真はようやく鉄人の気配に気づいたようだ。鉄人は優れた集中力を称賛しつつも、どうしても気になっていたことを和真に訊ねる。

 

鉄人「しかし予習嫌いで400点以上を目指そうとかったお前が、どういう心境の変化があったんだ?」

和真「翔子を抜くと決めた以上、そんな枷をいつまでもはめてられねぇでしょ?それに…」

 

視線を現在取り組んでいるテキストに移しながら、和真はキッパリと答える。

 

和真「それはあくまで通過点だ。俺はソウスケと同じ境地、ランクアップを目指す」

鉄人「……それは生半可な努力では到達できないぞ」

和真「そんなことはわかっている」

 

たった一人で試召戦争のバランスを大きく狂わしかねない、絶対強者のみが持ち得る特権、『ランクアップ』。

それに至るには全教科500点以上というあまりにも高過ぎるハードルを越えなければならない。

点数無制限の文月学園のテストは、問題を解いていくにつれて難易度が上がっていく。中でも500点以降の問題は高校生レベルを完全に逸脱した超難問のオンパレード、担当教師でもないかぎりこのラインを越えるのは至難の技だ。ましてや全教科ともなると、看破できるのは三人の学年主任と補習担当の鉄人、そして“鳳”の跡継ぎとして幼少期より英才教育を受けてきた蒼介のたった5人のみである。

 

和真「だがよ、仕方ねぇんだよ。俺らがAクラス相手に勝利ってやつを手にするには、もうそれしか手は残ってねぇんだからな」

 

現在のFクラスの戦力で考えれば、姫路と翔子と和真が三人で蒼介一人を囲って腕輪能力のごり押しで、理論上は倒すことができる。

だがこれを現実にするのは不可能だと断定できる。ただでさえ絶望的なクラス間の自力の差を埋めるためにはこの三人はバラバラに行動しなければならない上、仮にこの三人を蒼介のもとに送り込めたとしても、蒼介が近衛兵を何人か配置するだけであっさりと対策されてしまう。

倒しうる武器とカウントしていた和真とムッツリーニの『オーバークロック』も先日の合宿でバレてしまった以上何かしら対策されてしまうだろう。

となると残った選択肢はただ一つ。

 

和真「Fクラスの誰かが蒼介と同じ境地にまで成績を引き上げることだけだ。こんな重労働、とても他人に押し付けるわけにはいかねぇよ」

鉄人「……お前らしい答えだな柊。なら、その後押しをしてやるのも教え子の俺の役目だな」

和真「マジでか。助かったぜ、あのクソ親父は文字通りクソの役にも立たないっすからねぇ」

鉄人「成績優秀なお前の父親なのにか?」

和真「覚えておいてください西村先生、俺の長所は全部母さんから受け継いだもので、俺の短所は全部クソ親父から受け継いだものだと」

鉄人「酷い言われようだな、カミナさんも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄人が和真の勉強を見ている頃、文月学園には一人の人間が侵入していた。

 

通称『ファントム』。

 

不気味な仮面を被っている上ボイスチェンジャーまであるため性別は不明。夏場だというのに黒いロングコートで体を覆い隠していることもあって、魑魅魍魎が跋扈する文月学園でも変質者というレッテルを貼られること間違いなしである。放課後だが自習や部活動のため生徒も何人か残っている上教師も巡回している中、こんな不振な人物が歩いていたら間違いなく大騒ぎになるはずである。

 

しかしファントムは悠然と校舎を歩いていた。途中で何人かの生徒や教師とすれ違ったが、大騒ぎどころか何のリアクションも取らない。

 

まるでそこに誰もいないかのように。

 

ファントムは校舎内を物色し、いくつかの場所に掌大の白い立方体を設置してから、そのまま誰にも邪魔されることなく文月学園を出ていった。

 

ファントム『……第一任務完了。さてと、近くに潜伏させてもらうとするか。ショータイムは明日行われる故』

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「さて、また新キャラの登場だ。まあ本編に絡むことはほとんどないと思うが、試召戦争最強の綾倉先生に対し、リアルファイト最強の人物だとでも思っていてくれ」

梓「それしにても『ファントム』の奴は不気味やなぁ……というか、急にオカルトテイストが出てきたなぁ」

蒼介「『バカテス』世界ではオカルトはある前提ですからね。黒魔術云々も本物ですし、試験召喚システム自体『オカルトと科学でできたもの』です。それを踏襲して、これからオカルト分野も積極的に本編に絡んでくるかもしれませんね」






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ショータイム

『バカテスト・世界史』
()に入る言葉を答えなさい。

・()は、凡人の一生に勝る


和真の答え
『天才の一瞬の閃き』

蒼介「流石だな、正解だ。これは悪名高きドイツの総統アドルフ・ヒトラーの残した言葉だ。人の一生を軽んじているようで、私は賛同できないがな」

木下秀吉の答え
『心を許せる仲間達とのひととき』

蒼介「もう正解で良いような気もするが残念ながら不正解だ。お前が友達を大切に思っていることは伝わった」

土屋康太
『スカートの中身を確認する瞬間』

蒼介「後で木下に土下座してこい馬鹿者」

霧島翔子の答え
『雄二との甘い蜜月』 

蒼介「霧島、お前もか」

坂本雄二
『学生の内は我慢するって言っただろお前!?』

蒼介「お前が苦労していることは伝わったが真面目に答えろ」

姫路瑞希の答え
『明久君との学園生活』

島田美波の答え
『停学明けにはアキと……』

蒼介「いい加減にしろお前達、打ち合わせでもしたかのように揃いも揃って恋バナに花を咲かせるな」


吉井明久の答え
『一等の宝くじ』

蒼介「誰が生涯年収の話をしろと言った……」





停学期間5日目、金曜日の昼休み。

学園長の藤堂カヲルは学園長室にて、昼食のざるそばをすすりながら新技術の開発のためコンピューターに向き合っていた。行儀の悪いこと山の如しだが、研究者には食事を栄養補給ゼリーのみで済ませてしまうような不摂生な輩も少なくないため、まともな料理を口にしている分いくらかましなのだろうか。

 

学園長(……このアイデアは発想は悪くないが、システムに組み込むには障害が多すぎるさね……。ここは綾倉にでも頼むか……いやいやいや!アタシは研究者、いつまでもあんな若造にデカイ顔させておくわけにはいかないね!)

 

学園長の脳裏に浮かぶのは、腹黒教師筆頭の何か裏がありそうなニコニコ顔。試験召喚システムを発見したのは自分だが、あの糸目教師の技術がなければ実用化まではあと数年ほど遅れていただろうし、奴のプレゼン力がなくては日本最大の四企業の協力は得られなかっただろう。

そんな風に文月学園の進歩に大きく貢献してきたため、こころなしか学園長は綾倉先生に舐められてるんじゃないかと思っている。この間も定期的に提出させている報告書が『全略』の一言のみだったことから、その疑惑は確信に近くなっている。

明久達にババァ呼ばわりされるとムカつくものの、自分が半世紀以上生きてきたことは事実だ。あんな30年も生きてないような青二才にデカイ顔されているのは我慢がならない。だからここらで奴の助けを借りずに革新的な技術を開発して、奴の鼻を明かしてやろうじゃないか……と、学園長は年の割に子供じみたことを企んでいた。

するとパソコンに一通のメールが。

差出人の名前は『ファントム』。

 

学園長(何さねこのアホらしい名前は……もしかして、たちの悪い悪戯かい?)

 

そのようなことを思いつつ、研究者らしく好奇心旺盛学園長は欲望に抗いきれずメールを開封する。それが騒動の引き金とは知らずに。

 

『パンドラの箱は開けられた。

文月学園は数多の厄災に沈められるであろう』

 

本文には少し……いやかなり痛々しい文章が。読むだけで全身が痒くなってくるほど痛々しい。やはりただの悪戯だったかと学園長が思ったそのとき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校中に突然召喚フィールドが展開された。

 

学園長「なっ!?…………このっ!」

 

一瞬呆気にとられた学園長だが、すぐさまパソコンから召喚システムを管理するメインサーバーにアクセスし、召喚フィールドを消そうとする。しかし、

 

error!

 

学園長「どういうことだい!?メインサーバーにアクセスできない!?」

  

原因不明の事態に学園長は混乱するが、学園中でそれ以上に大変な事件が起き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美波「どうなってるのよこれは!?」

姫路「ど、どうして先生もいないのに召喚フィールドが……?」

翔子「……学園全体を覆うように展開されている。不測の事態なのは確か」

 

Fクラスの教室にて、三人は困惑しつつも冷静に状況を把握しようとする。二年のなかでは試召戦争の経験が豊富でかつ雄二のねじ曲がった作戦で動いていたため、三人はこのような不測の事態でもそこまで慌てていなかった。逆に言えばその他のクラスでは阿鼻叫喚の可能性が高いのだが。

突然教室内に見知った幾何学模様が展開され、おそらくは召喚獣のようなものが出現した。従来の召喚獣とは違いまさしく獣のような顔つきで、色は全体的に灰色っぽく、武器を所持していなかった。

 

姫路「ひっ……な、なんですか!?」

翔子「……瑞希、下がって」

美波「なによアンタ!やるつもり!?」

 

明らかに友好的でない召喚獣モドキに萎縮してしまう姫路を庇うように、翔子と美波は前に出る。召喚獣モドキは三人に視線を向けると、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。流石の二人も少し怖くなったのか、姫路を連れて教室を脱出しようとしたとき、

 

 

ガシャァァアアアン!

 

清水「お姉様!ご無事ですか!?」

美波「美春!?」

 

Dクラスの清水が窓ガラスを突き破って参上した。ハリウッドスター顔負けの登場シーンである。

 

美春「この犬畜生!お前みたいな奴がお姉さまに危害を加えるなど一億光年早いです!」

姫路(清水さん……

光年は長さではなく距離ですよ……)

 

盛大に間違った知識を披露しつつ、清水はエセ召喚獣に勇ましく特攻する。先日盗撮をやらかした奴とは思えないほど堂々とした作戦である。エセ召喚獣は清水がある程度近づくまで制止していたが、清水の拳が届く寸前に……

 

 

 

バキィッ

 

清水「ぶげらっ!?」

 

突然清水の腹にカウンターブローを叩き込んだ。哀れ清水は教室の奥まで吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。

 

美波「美春ぅぅぅ!?」

姫路「清水さんに触れられた……ということは、」

翔子「……教師の召喚獣と同様、物理干渉能力がある」

 

新たに発覚した情報により危険度が数段アップした。召喚獣は見た目とは裏腹に常人を張るかに越える身体能力を有している。そんなもので殴られたらか弱い乙女の体などひと溜まりもない。

清水をKOした召喚獣モドキは、再び三人にゆっくりと近づいてくる。姫路は勿論美波でさえ気圧される中、打開策を思い付いた翔子は二人を庇うように前に出る。

 

翔子「……試獣召喚(サモン)!」

 

同じく幾何学模様から出現した〈翔子〉が、近づいてくる召喚獣モドキに飛びかかった。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 霧島翔子 4759点

VS 

 ?クラス ???? 952点』

 

 

どうやら展開されているフィールドは総合科目のようだ。二人の点数の差は歴然で、召喚獣モドキは〈翔子〉に呆気なく切り裂かれ消滅した。

 

美波「き、消えた……」

姫路「成る程……私達の召喚獣と同じく、点数が0になれば消失するんですね」

翔子「……感心している暇は無い。美波は清水の介抱をしてあげて。姫路は召喚獣を喚んで私と一緒に他のクラスを回る。多分この教室だけではないから」

姫路「は、はい!サモン!」

美波「わかったわ!」

 

清水と親しくかつ点数的に頼りない美波に手当てを任せ、翔子は姫路を連れて廊下に出た。

 

 

 

そこには地獄画図が広がっていた。

 

『きゃあああ!?』

『来ないでぇぇぇ!』

『痛いよぉ……』

 

Fクラス教室に現れたのと全く同じ姿をした召喚獣モドキが、暴徒と化して女子生徒を手当たり次第襲っていた。召喚獣で対抗すれば良いと思うかもしれないが、不測の事態による混乱と恐怖で誰も彼もそれどころではない。

 

布施「サモン!……っ!?どうして!?」

 

布施先生が召喚獣を喚び出そうとするものの、何故か幾何学模様すら出てこない。原理は不明だが、教師の召喚獣は喚び出せないようになっているらしい。またその光景を見て、召喚獣に頼るという発想からはさらに遠ざかってしまう。

翔子と姫路が場を収めるため召喚獣とともに戦場に突入しようとしたそのとき、突然校内放送が聞こえてきた。

 

『生徒会長の鳳だ!緊急事態につき私の指示に従って行動して欲しい!まず二、三年の諸君は召喚獣を喚び出すように!どうやら教師は不可能だが生徒ならば召喚できるようだ!』

 

蒼介の指示を聞いた二年の女子生徒は、一斉に召喚獣を喚び出す。上の階からも例の掛け声が聞こえてくるため、三年生も蒼介の指示に従ってくれているようだ。

 

『後は落ち着いて対処すれば恐るるに足らん!質、量ともにこちらが上、一対一でも問題なく倒せるはずだ!そしてフリーになった人及び教師達は急いで二階に移動して、召喚獣を持っていない一年生の警護にあたるように!』

 

蒼介の的確な指示により、その後は苦もなく鎮圧することができた。召喚獣モドキの点数は軒並みFクラスかつ動きも遅いため、次々と生徒の召喚獣に討ち取られていく。

運良く一年生の階にはまだ召喚獣モドキは出ていなかったため、手の空いた生徒達が襲ってくる前に防御網を完成させ、現れると同時に全て倒すことができた。

結局、30分も過ぎる頃には、全ての召喚獣モドキが根絶やしにされた。

軽傷を負った者が数名と、建物へのある程度の損壊はあったものの、深刻な事態にはならなかったと言える。

 

 

しかし事件はまだ終わってはいない。

 

 

なぜなら……

 

 

翔子「……召喚フィールドが、まだ消えない……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファントム『ククク……これで終わったと思ったら大間違い、ショータイムはまだまだこれからです故』

 

 




源太「思ったより本格的に襲撃してきやがったな」

和真「つーかもう軽いテロだろこれ」

徹「霧島さんの冷静な対処が際立っていたね。流石原作Aクラス代表」

源太「そして鳳も流石の指揮だな」

和真「ソウスケは奇抜な作戦は用いないものの、対応力に関しては雄二をも凌駕するぜ」

徹「しかしまだまだ序の口のようだよ?」

和真「ああ、まだ導入の導入だ。落ち着いて闘えばFクラスでもどうにかなるレベルだしな」

源太「つうことはこの後出てくんのは……」

徹「大体予想がつくね」





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管理権を取り戻せ!

ようやく綾倉先生のハッカー設定が生きてきます。


学園長の指示で、1~3年生までの全ての生徒及び全教師がグラウンドに集まっていた。軽傷を負った生徒は養護教諭達ががあくせく手当てをしている。召喚フィールドは未だ消えず、いつ再び召喚獣モドキ達が襲ってきてもおかしくないので、生徒達はおろか教師陣もどことなく不安そうな表情をしている中、綾倉先生はいつになく真剣な表情でノートパソコンに向き合っている。学園長は教師を引き連れて生徒達の前に立ち、現在学園がどうなっているか説明し始めた。

 

学園長「ついさっき学園で起きている召喚獣モドキによる襲撃事件についてだけど……情けないことに原因はまだわかっていない。メインサーバーにアクセスしてフィールドを消そうにも、かなり厳重なロックがかかっていてね……綾倉先生がハッキングでこじ開けるまでじっとしといとくれ」

 

半ば仕方がないとはいえ、少々無責任な学園長の指示に何人かの生徒が不安にかられ大騒ぎするが、鉄人の一睨みで一瞬で収束する。鉄人とて不安になる気持ちは理解できるしそんな生徒達を無理矢理黙らせることには抵抗があるのだが、ここで集団が冷静さを失えば取り返しのつかない事態になりかねないのも事実だ。

 

綾倉「(カタカタカタカタ)………………っ!………………学園長、少々困った事態になりました」

学園長「なっ……アンタが侵入できないほど厳重なセキュリティなのかい!?」

 

あまりに予想外の事態にひどく狼狽する学園長。

綾倉先生のハッキング技術は、ノートパソコン数台で国の管理するサーバーを乗っ取れるほど卓越している。それでも突破できないロックなど、もはや四大企業のメインサーバークラスである。

 

綾倉「いえ、メインサーバーへは容易く進入することができました。しかし残念ながら、召喚フィールドを消すことは今のままでは不可能です」

学園長「ど、どういうことだい?」

綾倉「単純ですが効果的な手を使われました。試験召喚システムへの干渉に対するプロテクトが6つほど、電脳内ではなく現実、具体的には校舎の中に存在しています」

 

ネット上では無敵に近い綾倉先生のハッキング技術も、流石に現実に設置されたプロテクトはパソコンを介して除去することはできない。

 

学園長「……つまり校舎内に隠されたプロテクトを除去しなければ、フィールドを消すことができないってわけかい?」

綾倉「そういうことです」

学園長「場所は特定できるかい?」

綾倉「もうやっておきました。二階の運動部予備倉庫、三階の文化部室、四階の生徒会室、地下のメインサーバー室、体育館、そして屋上です。さて、鳳君」

蒼介「はい」

 

綾倉の呼び掛けを聞き、蒼介は召喚獣(なぜか消せもしない)を連れて学園長達のもとへ移動する。

 

綾倉「あなたに指揮権を一任します。不甲斐ないことに我々教師陣は召喚獣を喚びだすことができないので、申し訳ありませんが後方支援に回ることになります」

蒼介「心得ました」

鉄人「綾倉先生!私も戦場に…」

綾倉「却下します。いくらあなたでも、複数の召喚獣相手では危険です。ましてや、腰がまだ完治していないのでしょう?」

鉄人「うぐっ……しかし!」

 

綾倉先生の言ってることは正しいと理性では理解しているものの、鉄人はどうしても引き下がるわけにはいかなかった。生徒を危険に晒して自分は安全圏でじっとしているなど、先生としての矜持が許さなかった。

 

蒼介「西村先生、ご心配なく。あなたの教え子達は、この程度の危機に屈するほど軟弱ではない」

鉄人「鳳……」

蒼介「お言葉ですが、生徒達を信じて送り出すことも教師の大切な務めですよ」

鉄人「………………わかった。健闘を祈る」

蒼介「了解。さて諸君、今から私の指揮に従って動いてもらう。まずは大まかな戦力の詳細を把握しておきたい。二、三年生は1000点以下、1000点以上2000点以下、2000点以上3000点以下、3000点以上の四つに別れてくれ」

 

蒼介の指示に従って生徒達は四つのグループに別れる。そして蒼介はできるだけ戦力が均等になるように、6つのプロテクトを解除しに行く六部隊、及び一年生の護衛部隊を作った。

 

第一部隊……生徒会室

隊長……鳳蒼介

副隊長……なし

 

第二部隊……屋上

隊長……霧島翔子

副隊長……工藤愛子

 

第三部隊……体育館

隊長……姫路瑞希

副隊長……小暮葵

 

第四部隊……メインサーバー室

隊長……高城雅春

副隊長……常村勇作

 

第五部隊……文化部室

隊長……金田一慎之介

副隊長……夏川俊平

 

第六部隊……運動部予備倉庫

隊長……木下優子

副隊長……橘飛鳥

 

護衛部隊……非戦闘員の護衛

隊長……佐伯梓

副隊長……宮阪杏里、佐藤美穂

 

夏川「随分と大それた編成だな」

常村「あと、やけに護衛部隊の人数が多いな」

 

夏川の指摘した通り、かなり本気の部隊構成である。そして常村の指摘した通り、他の六部隊が総計30人程度に対し、護衛部隊の人数は300人近くいる。

 

蒼介「私がこの襲撃事件の主犯なら、試験召喚システムのプロテクトは破られてはならないと思い、当然近くにトラップや強力な駒を設置します。各部隊の隊長達は、プロテクトの側で待ち受けている敵はさっきのような雑魚ではないと念頭に置いておくように」

 

釘を刺すように蒼介が通達すると、隊長達は気を引き締めるように神妙な顔つきで頷いた。

 

蒼介「次に護衛部隊についてですが、我々が第一に優先すべきなのはプロテクトを外すことではなく、これ以上人的被害を出さないことです」

 

この理由は、人の命は替えの利かない大切なものである……といったもっともらしい理由の他にも、文月学園の存続を揺るがす事態になりかねないからだ。『試験召喚システム暴走!生徒が大怪我を!』……なんともマスコミが喜びそうな文面だが、大バッシングは避けられないだろう。

 

蒼介「最悪校舎を見捨てて避難することになりますが……よろしいですね学園長?」

学園長「ああ……流石に人命を優先すべきさね。……しかしどっちにしろそうなったら文月学園は終わりだね」

蒼介「いえ、そっちの対策は考えています。“鳳”から圧力をかけて、ちょっとした情報操作を行います」

学園長「どうするつもりだい?」

蒼介「『文月学園を逆恨みする者からのサイバーテロ!教師達は生徒達の安全を優先してすぐさま生徒を安全な場所へ避難させる!』という風に報道させれば、バッシングは最小限に抑えられるでしょう」

学園長「……やれやれ、恐ろしいガキさね」

 

その場の生徒及び教師一同全員が戦慄する。流石は“鳳”の次期後継者と言うべきか。退くべきと思えば慣れ親しんだ校舎をあっさりと見捨てる、自らの打てる手やコネクションで可能な範囲を正確に把握している、いざとなればジャーナリズムをねじ曲げることさえ躊躇しない。

雄二とはややベクトルが違うものの、蒼介も並外れた指揮官の資質を備えている。もしかするとAクラス打倒の最大の障害はテストの点数差ではないかもしれない。

 

蒼介「そして隊長、副隊長は一度集まってくれ。連絡先を交換する。プロテクトを外せた、もしくは何か危機に陥ったときに連絡してくれ」

 

蒼介の提案により、指揮官及び副官達は連絡交換を行った(機械音痴の翔子は優子に手伝ってもらった)。

 

連絡先を交換し終わったところで、突然グラウンド内に多数の幾何学模様が出現した。召喚獣モドキ達の第二次侵攻の狼煙が上がったようだ。

 

蒼介「さて、各部隊は割り当てられたノルマを達成すべく最善を尽くせ!諸君らの働きに文月学園の未来がかかっていることを忘れるな!それでは……作戦開始!」

『おおっ!』

 

蒼介の呼び掛けとともに、召喚獣モドキが出現する前に1~6の部隊は校舎に突入し、護衛部隊は教師達と一年生を囲うようにフォーメーションを組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファントム『さて、二回目の召喚獣は先ほどのように甘くはないよ、くれぐれも気をつけると良い。そして三回目、四回目と繰り返していくうちに……フフフ。一刻も早くパンドラの箱に残された希望を見つけないと、大変なことになってしまうぞ』

 




宮阪杏里は三年生ナンバー4の実力者で、去年佐伯梓とともに召喚大会で優勝した実績と、梓とは違う能力の青銅の腕輪を持つ、という設定のキャラです。
今回の章で活躍する予定です。


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七星獣(前編)

【バカテスト・英語】
次の英文を和訳しなさい。

If you want to know the truth,I felt like slapping the cook' s face a hundred times.

五十嵐源太の答え
『正直、コックのツラ100回ほどひっぱたいてやりたかったなぁ』

蒼介「流石帰国子女、素晴らしい意訳だな」


吉井明久の答え
「もしあなたが真実を知りたいのであれば、私は料理人の顔を100回眠りたかった」 

蒼介「文章はちぐはぐだが真面目な解答で安心したぞ。
If you want to know the truthで『正直言って』というイディオムになる。受験でも頻繁に出題されるので覚えておくといい。
あとslapをsleepと間違えたのか?slapの和訳は『平手で打つ』だ。意訳するときは『ひっぱたく』や『ビンタ』でかまわない」


土屋康太の答え
『もし』

蒼介「訳せたのはIfだけか土屋……」






【第一部隊】

 

《総合科目》 

『2-D 山田美香 1315点  

3-A 小村一郎 2331点

VS 

 ?-? ???? 1356点

 ?-? ???? 1312点』

 

『きゃあっ!?爪が伸びた!?』

『さっきよりずっと強いぞ!?』 

 

校舎に突入し生徒会室へ向かう第一部隊だが、襲ってくる召喚獣モドキ達に思わぬ苦戦を強いられていた。第一に、どいつもこいつもさっき出てきた奴に比べて明らかに点数が上がっている。そして第二にさっきは丸腰だったのに対して、今回の敵は両手に爪が装備されていてさらにその爪が伸縮自在。一方的に狩れる対象が大幅に強化されたことで、部隊に動揺が走った。

 

 

 

しかし間髪入れずに蒼き英雄が戦場を駆け抜ける。

 

 

《総合科目》 

『2-A 鳳蒼介  5975点  

VS 

 ?-? ???? 戦死

 ?-? ???? 戦死

 ?-? ???? 戦死

 ?-? ???? 戦死

 ?-? ???? 戦死

 ?-? ???? 戦死』

 

 

〈蒼介〉が疾走した跡には召喚獣モドキ達の屍のみが積み上がっていた。やや混乱が収まった部隊に、蒼介はさらに激を飛ばす。

 

蒼介「臆するな!多少強化された所で所詮は操り人形、冷静に対処すればどうということはない!」

 

部隊長の叱咤激励を受け、隊員達は落ち着いて召喚モドキ達の対処にあたった。確かに伸びる爪は厄介だが、避けきれないようなスピードではない。蒼介が一掃したことで数の利もできたので、第一部隊は召喚獣モドキを捌きつつ生徒会室へ進行する。

 

蒼介(……しかし先程よりも強化されている点は見過ごせないな。どうやら、早急に解決する必要があるようだ) 

 

二回目の侵攻時に出現した敵が前回より強化されている。となれば、三回目以降の侵攻時にはさらに強くなって立ちはだかってくると考えるべきだ。こちらは点数補充すらままならない状況なので、長引けば長引くほど不利になっていく。

そのような危惧を抱きつつ、ついに生徒会室にたどり着いた。蒼介は罠を警戒して隊員達に距離をおかせつつ、迷わずドアを開いて突入する。机は全て折り畳まれて壁に立て掛けてられており、部屋の奥には電子音のする、割とサイズの大きい白い立方体がポツンと設置されていた。どうやらこれがプロテクトと見て間違いないだろう。

蒼介は部隊の半数を外の警護に回し、残りの半数を部屋に招き入れてから、プロテクトの電源を切るために立方体に歩み寄る。

 

するとお馴染みの幾何学模様が一つ床に出現し、召喚獣モドキが出現する。

 

蒼介(やはりセキリュティを仕掛けてあったか。……しかしこやつは、明らかに今までの有象無象とは別格だろうな)

 

出てきた召喚獣モドキは今までの灰色一色の出来損ないのような姿ではなく、剣に盾に鎧に兜……と、古代ローマの剣闘士のような出で立ちをしていた。その身から滲み出る生半可ではない威圧感が、全隊員にとんでもない強敵であることを予感させた。

 

「「う……うわぁああ!」」

 

あまりの重圧に耐えかねたのか二人の生徒が、蒼介が制止する間もなく召喚獣で襲いかかった。そしてその愚かな召喚獣は、無惨にも神速の一刀のもと斬り捨てられる。

 

 

《総合科目》

『3-A 小村一郎 戦死

 3-C 恩田敏夫 戦死

VS

 ?-? Gradius 8000点』

 

 

グラディウスと言う名の召喚獣は、学年主任の高橋先生をも上回る圧倒的な点数を持っていた。

 

蒼介「ッ!?……諸君らは他の部隊の救援に回れ。ここは私が引き受ける!」

『えっ……!?』

『何言ってるのよ!?あんな化け物を一人で闘うなんて無茶よ!』

『犬死にするつもりか!?』

蒼介「こいつ相手に生半可な点数では焼け石に水だ。無意味に戦力を使い潰すことは避けたい。それに……」

 

〈蒼介〉が草薙の剣を構えて特攻する。グラディウスは先ほどのように剣で斬り捨てようとするも、〈蒼介〉は真っ向からそれを受け止めた。

 

蒼介「私とて負けるつもりなど毛頭無い。……わかったらさっさと行け、これは隊長命令だ」

 

まだ心配な生徒は何人かいたものの、蒼介の鶴の一声で第一部隊は生徒会室を撤退する。

 

蒼介「……行ったようだな。

……さて、グラディウスとやら」

 

 

《総合科目》

『2-A 鳳蒼介 5975点

VS

 ?-? Gradius 8000点』

 

 

鍔迫り合いは最初は拮抗していたものの、徐々に点数の勝るグラディウスが優勢になっていく。そこで〈蒼介〉は完全に押し負ける前に相手をいなし一度距離を取ると、グラディウスは凄い勢いで斬りかかってきた。

 

蒼介「すまないな……私はこんな所で負けるわけにはいかないのだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第二部隊】

 

翔子達も召喚獣モドキ達を何とか撃退しつつ、どうにか屋上にまで到達していた。そしてそこには蒼介達の所と同じように中心に白い立方体が無造作に置かれており、やはり近づくと幾何学模様とともに召喚獣モドキが出現した。

あくまで人型であったグラディウスとは違ってその召喚獣モドキの姿は達磨のような丸い姿に背中から伸びる四本の触手、そして腹には醜悪なまでに大きな口と、まさにグロテスクここに極まれりなゲテモノようであった。

あまりに醜い姿らに生徒達は顔をしかめつつも、翔子を筆頭に点数に余裕のある召喚獣が敵を囲む。

 

 

《総合科目》

『2-F 霧島翔子 4719点

 2-A 工藤愛子 3314点

 2-E 中林宏美 1203点

 2-E 三上美子 1186点

 2-B 里井真由子 1902点

 2-A 横田奈々 2378点

 3-A 寿 湊   2765点

VS

 ?-? Gluttony 4000点』

 

 

グラトニーと言う名の召喚獣は確かに点数こそ高いがグラディウスほど圧倒的ではなく、翔子もいる以上明らかに多勢に無勢である。第二部隊は万全を期すために翔子と愛子を温存しつつ、残りの隊員で相手の点数を削る作戦で行くことに。

 

中林・三上「「やぁぁっ!」」

 

先陣を切ったのは二年Eクラス代表副官コンビ。合宿最終日雄二にワンパンでKOされた鬱憤を晴らすべく、意気揚々と突撃した。グラトニーは二本の触手で迎え撃つ。伸びた触手が二人の召喚獣と激突するかしないかというところで、

 

 

 

 

触手の先がぱっくりと分かれ、お腹にあるのと同じような、ギザギザの歯でおおわれた醜悪な口に変化した。

 

中林・三上「「……え?」」

 

呆気に取られる二人をよそに、触手は二人の召喚獣に食らいつき、そのまま空中に持ち上げた。

 

三上「わ、私たちの召喚獣が!?」

中林「離しなさいよこの化け物!」

 

二人の抗議など受け付けるはずもなく、グラトニーは二人の召喚獣を自分のもとに引き寄せて、

 

 

 

 

 

お腹にある口に放り込み、そのまま咀嚼した。

 

中林・三上「「きゃあああっ!?」」

 

あまりに凄惨な光景に二人は悲鳴を上げ、その他の第二部隊一同も思わず吐き気を催しそうになる。それでもグラトニーはお構い無しに咀嚼を続け、とうとう二人の召喚獣を食い尽くしてしまった。

 

 

《総合科目》

『2-E 中林宏美 戦死

 2-E 三上美子 戦死

VS

 ?-? Gluttony 6389点』

 

 

翔子「……敵の点数が、増えてる……!?」

 

食事を済ませたグラトニーの点数が何故か上昇している。しかもその上昇数値は取り込まれた二人の召喚獣の点数の合計値と全く同じ。どうやらグラトニーには相手の点数を吸収するという悪辣な能力まで備わっているようだ。

 

翔子「……みんな、できるだけ相手の攻撃を食らわないように気をつけて!」

 

隊長の呼び掛けにより、呆然としていた隊員達は気を引き締め直す。そんな彼らの召喚獣に、グラトニーは今度は四本全ての触手を差し向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第三部隊】

 

『2-F 姫路瑞希 4451点

 3-A 小暮葵 3712点

 2-D 玉野美紀 1301点

 2-C 小山優香 1728点

 3-F 徳島良太  892点

 3-C 九重伸介 1582点

 3-A 名波健一 2699点

VS

 ?-? Quiksilver 5000点』

 

体育館でもセキュリティとの闘いが繰り広げられ、姫路達はクイックシルバと名付けられた召喚獣モドキ相手に大苦戦を強いられていた。

クイックシルバの姿ははまるでスライムのように不定形でり、厄介なことに攻撃がまるで当たらない。〈姫路〉達は果敢に攻撃を繰り返すものの、水面に移った月を掬うことができないように、どんな攻撃も通り抜けてしまう。

そして理不尽なことに、何故かクイックシルバからの攻撃はこちら側にヒットするのであった。

 

『くそぉ……』

『こんなのいったいどうすればいいのよ!?』

 

あまりにアンフェアな条件に全体の士気は見る見る低下していく。姫路は部隊長として何かできることがないか考えるものの、打つ手がまるで見つからずしどろもどろになる。そんな姫路に副隊長である小暮が落ち着かせようと優しく語りかける。

 

小暮「姫路さん、諦めてはいけませんよ。必ずどこかに突破口が見つかるはずです」

姫路「小暮先輩……」

 

先輩の激励を受け、ある程度落ち着いた姫路は小暮とともにクイックシルバの攻略法を模索する。部隊の召喚獣の点数が次々と削られていくなか、二人は諦めずに弱点を探す。  そうして二人はようやく答えにたどり着いた。

 

姫路「小暮先輩、もしかして攻撃をするときと防御に回るときの状態は、同一では無いのでは?」

小暮「!……なるほど。相手が液体でこちらの攻撃がすり抜けるなら、相手の攻撃もすり抜けるはず。そうならないのは攻撃のときは個体に変化しているから。もしこの仮説が正しいのであれば……」

 

二人の召喚獣は、クイックシルバが〈小山〉に殴りかかる瞬間を狙って大剣と鉄扇を振るう。すると、今までとは明らかに違う手応えが入った。

 

 

『2-F 姫路瑞希 4358点

 3-A 小暮葵 3632点

VS

 ?-? Quiksilver 4589点』

 

 

姫路・小暮「「相手が攻撃する瞬間だけは、ダメージを与えることができる!」」

 

ようやくクイックシルバの点数を減らすことができた二人は、満足気に笑みを浮かべる。本当の闘いは、今この瞬間に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第四部隊】

 

『くそぉっ!次から次に鬱陶しい!』

『このままじゃきりがないわ!』

 

 

《総合科目》

『3-A 高城雅春 4284点

 3-A 常村勇作 3206点

 その他×10人ほど

VS

 ?-? Guardian 3000点

 ?-? Invader 3000点』

 

 

メインサーバー室には二体の召喚獣モドキが潜んでいた。インベーダーと言う名の蜘蛛型の召喚獣モドキはメインコンピューターに張り付いたまま動かず、ガーディアンと言う名の召喚獣モドキはそれを守るように立ちふさがっている。第四部隊の召喚獣達はガーディアンが次から次へと生み出す壁に阻まれて全く攻められないでいた。

 

常村「闘う気ゼロかよこいつら……。高城、どうする?お前の腕輪能力で何とかできないか?」

高城「難しいでしょうね……。この防御能力、私の腕輪能力とは相性が最悪と言っても良いでしょう。鳳君にヘルプ連絡をしましたので、取り敢えず増援がくるまで弱点の一つでも探しておきましょう」

常村「人頼みかよ……まあ仕方ねぇか、よしんば相手がガス欠してくれたらご喝采だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第五部隊】

 

 

《総合科目》

『3-A 金田一真之助 3202点

 3-A 夏川俊平 2486点

VS

 ?-? Wivern 3918点』

 

 

文化部室の闘いもやはり苛烈を極めた。ワイバーンの名の通り普通の召喚獣の何倍もの大きさの召喚獣モドキ相手に、第五部隊は隊長と副隊長を残して壊滅状態に追いやられていた。

 

夏川「畜生!反則だろこんなバカでかいの!」

金田一「夏川オメー泣き言を言ってる暇があんのか!?またあのブレスが来んぞオイ!」

 

金田一の言葉通りワイバーンは口から炎を吐き、教室全体を一掃する。耐火性の高い校舎であるため火事の心配はないが部員の備品は容赦なく消し炭になっていく。どういうわけか実際の炎と違って熱くないのが二人にとっての救いか。もしこの炎が熱を持っていたら皆仲良く既に焼け死んでいたことだろう。二人の召喚獣は炎を器用にかわしワイバーンの体を見事斬り裂いたものの、反撃に尻尾で殴られ吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

 

 

《総合科目》

『3-A 金田一真之助 2711点

 3-A 夏川俊平 1580点

VS

 ?-? Wivern 3544点』

 

 

夏川「金田一、このままだと先にこっちがくたばっちまうぞ!」

金田一「やむを得ねぇ……夏川、撹乱作戦に切り替えるぞ!増援が来るまでこいつをここに押しとどめるんだ!」

夏川「チッ、気に食わねぇが仕方ねぇか。こんな化け物を校舎に解き放てば、待っているのは地獄絵図だしな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第六部隊】

 

《総合科目》

『2-A 木下優子 2552点

 2-A 橘飛鳥 1819点

VS

 ?-? Ripper 3642点』

 

 

Aクラスが誇る女子最強タッグでさえも、非常識な能力を持つ召喚獣モドキに苦戦していた。リッパーは見た目は普通の召喚獣だが、体のどこからでも刃を出したり射出したりできるという非常に攻撃的な能力を用いて、第六部隊をたった一人で壊滅寸前に追いやった。

 

優子「あのどこからでも出てくる刃物が厄介ね……」

飛鳥「下手な突撃は寿命を縮めるわ……他の隊員達みたいにね」

 

リッパーから射出された五本の刃物を〈優子〉と〈飛鳥〉は絶妙なコンビネーションで全て打ち落とすも、二人の召喚獣は情報を集めるため反撃に転じず様子を伺う。少しするとリッパーが再び刃物を飛ばしてきたので、同じように捌ききる。

 

優子「同時に飛ばせる刃物は五本が限界。それに、」

飛鳥「五本とも飛ばした場合、10秒ほどのインターバルを要する……ってとこね」

 

何度も何度も攻撃的を受けている間に、二人はどうにか突破口を見いだした。やられっぱなしの二人が、ようやく反撃を開始するようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファントム『フフフ、一筋縄では希望は決して掴みとれないよ……セキュリティ用召喚獣【セブンスター】は一体一体が特別にカスタマイズされた個体、他の有象無象の自律型召喚獣とは次元が違うのだよ』




和真「いやぁ、バトル一色だったなオイ。
……俺も混ざりたかった」

徹「安定のバトルジャンキー振りなようで安心したよ。ではせっかくだから本編で猛威を奮っている【セブンスター】のスペックを公開するよ」

①Gradius
点数……8000点
解説……特殊能力は持たないものの、点数やパワー、スピード、耐久力などの基本能力は7体の中で突出している。戦闘力は文句なしにナンバーワン。

②Gluttony
点数……4000点
解説……与えたダメージ分だけ点数を増加させることができる。最大の弱点は手足が無いためその場から動けないこと。

③Quiksilver
点数……5000点
解説……固体から液体、液体から固体へ状態を変化させることができる。液体になっている間は打撃攻撃を一切受け付けないが、逆に相手に攻撃することもできない。スライムだけに体を分離させたりもできるらしい。

④Guardian
点数……3000点
解説……次から次へと身を守る壁を作り出すことができる。攻撃力は皆無だが、全力で守りに入ったこいつを突破することは極めて困難である。

⑤Invader
点数……3000
効果……召喚獣としての戦闘力は七体中ぶっちぎりの最弱。しかし実はこの固体はコンピューターウィルスと召喚獣の複合体であり、メインコンピューターにハッキングしてフィールドを展開したのも、教師のフィールド展開及び召喚を制限しているのもこいつの能力である。

⑥Wivern
点数……4500
効果……見たまんま、ドラゴンっぽいことはだいたいできる。しかしワイバーン(飛竜)のくせに何故か空は飛ばない。

⑦Ripper
点数……4500
効果……体のどこからでも刃物を出したり投擲したりできる。ついでにスピードだけはGradiusに匹敵する。


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七星獣(中編)

事前に出ていた宮阪杏里さんが初登場します。


生徒会室での激闘は終盤に差し掛かっていた。グラディウスは〈蒼介〉の腹に剣を突き立てるも、〈蒼介〉はギリギリの所で急所を外し、即座にグラディウスの腕を掴んで離さない。

 

蒼介「これで……終わりだ!」

 

逃げる暇を与えず、草薙の剣はグラディウスの急所を容赦なく貫いた。速度、タイミング、攻撃箇所全てが揃った必殺の刺突を受けたグラディウスはその場に崩れ落ち、点数がゼロになったことで跡形もなく消滅していった。

 

 

《総合科目》

『2-A 鳳蒼介 1452点

VS

 ?-? Gradius 戦死』

 

 

蒼介「……オーラも剥がされ、点数も大幅に削られたか。勝ちはしたが、払った代償は少なくなかったな」

 

激闘の末グラディウスに打ち勝った蒼介は、すぐさまプロテクトの解除にかかる。立方体を調べてみるとスイッチのような物が見つかったので電源を落とすのは容易であった。ノルマを達成した蒼介は戦闘中余裕がなくてチェックできなかった携帯を調べる。するといくつかの部隊から救援要請が入っていた。

 

蒼介「……この中で真っ先に駆けつけるべき場所は、おそらく文化部室。そしてメインサーバー室にはあの先輩を救援に向かわせるのが最適だな」

 

隊長格に優等生を抜擢した甲斐あって救援要請とセットで敵の特徴や能力もこと細かに記されていたため、蒼介は苦もなく今後の方針を決めることができた。そのまま携帯で梓にメールを送ったあと蒼介は急いで三階に向かう。途中召喚獣モドキ達が何体か襲って来たが、消耗しているとはいえ大した相手ではないので軽く捻っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【護衛部隊】

 

梓「オラオラオラオラオラァ!その程度でウチに挑もうなんざ100年早いわボケェ!」

 

グラウンドにも召喚獣モドキ達は攻めてきたのだが、そこで行われていたのは決闘でも戦争でもなく梓の一方的な蹂躙であった。

佐伯梓の腕輪能力『ヨーヨーブレード』。武装追加型の能力で、一度点数を消費すれば召喚獣をフィールドから消す、もしくはぶっ壊されるまで際限なく使用することができる。追加された武器は側面に刃のついた巨大なヨーヨー。梓の意思でラジコンのように操作することができ、回転したヨーヨーが丸ノコのように敵を斬殺する。その能力に梓の精密機械のように優れた操作技術が備わり、襲ってくる召喚獣モドキを次から次へと駆逐していった。

 

梓「これで全部か、なんや歯応えがないなぁ……やっぱりウチも鳳に我が儘言って校舎に突入させてもろた方が良かったかもなぁ……ん?」

 

張り合いの無さ過ぎる相手にがっかりしていると、総隊長である蒼介からの指示メールが届く。内容を確認し終えた梓は指名の入ったクラスメイトに声をかける。

 

梓「杏里~!ちょお来て~!」

杏里「梓……?どうしたの……?」

 

梓の呼び掛けに。呟くような声とは反比例する黒髪ウェーブの女性が駆け寄ってくる。

この女性、宮阪杏里という名の3ーAの優等生で、美少女と言って差し支えないくらいには容姿が整っているが、それを吹き飛ばすほどのインパクトがある。

とにかく何もかもがデカイ。

バストは二年で一番の巨乳である姫路と比較しても明らかに大きく、その他手も足も尻も女性としては勿論男性と比較しても明らかに大きい。もしムッツリーニがこの場にいたら視界にこの女性を入れたただけで出血死してしまいそうなほどエロい体をしている。

そして当然身長も勿論デカイ。178㎝の和真でも見上げるほどであり、おおよそ鉄人と同じくらいという女性としては規格外の背丈である。女性の中でもやや小さい部類の梓と並べば大人と子供くらいの差があり、話すだけでも梓は首が痛そうである。

 

梓「鳳からの救援要請や。メインサーバー室に向かって欲しいやと」

杏里「ん、わかった……。行ってくる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第六部隊】

 

運動部予備倉庫の闘いは佳境に入ろうとしていた。

 

 

《総合科目》

『2-A 木下優子 1552点

 2-A 橘飛鳥 1105点

VS

 ?-? Ripper 1751点』

 

優子「このままじゃまずいわね……」

飛鳥「戦い方は単純だけど、だからこそ付け入る隙が見当たらない……」

 

能力の詳細を看破した優子達は和真をも翻弄したコンビネーションで有利に立ち回ることができたものの、相手の点数が半分を切った辺りからリッパーがガチガチの接近戦に切り替えたことで形勢らは逆転、身体中から刃物を出した突撃して来るリッパーに、二人の召喚獣はどんどん点数を削られていく。

 

優子「せめてあと何人か入れば……ん?」

飛鳥「……狙いすましたかのようにベストタイミングで駆けつけてくれたわね」

 

優子の願いが天に届いたのか、元第一部隊の数名がベストなタイミングで救援にきた。

 

優子「良い所で来てくれたわね!時間が無いから何も聞かずに召喚獣を横一列に並べてくれる?」

『いきなりなんだよ-』

優子「時間が無いっていってるでしょ!アイツが襲ってくる前に早く!」

『わ、わかったよ!』

 

鬼気迫る優子のリッパーをも上回る迫力に気押され、第一部隊一同は言われた通り召喚獣を横一列に並べた。

 

飛鳥「優子、一体何を……?」

優子「食らいなさい!愛と哀しみと友情のスカイラブテンペスト!(ドギャギャギャーン)」

『えええええ!?』

 

〈優子〉はランスを振り回して横一列に並んだ召喚獣をリッパー目掛けてぶっ飛ばした。リッパーは迎撃のために全身から刃物を出し迎え撃った結果、救援に来た召喚獣はもれなく全員串刺しにされるが、刺さった召喚獣の重さでバランスを崩したのかリッパーはその場に倒れこんだ。

 

優子「今よ飛鳥!発射台の準備!」

飛鳥「え、ええ」(この娘、だんだん和真に似て容赦がなくなってきたわね……)

 

〈飛鳥〉は地面に背中を着け足の裏を天に向けつつ膝を折り畳み、〈優子〉は〈飛鳥〉の足の裏に着地し同じく膝を折り畳み足をドッキングさせる。

 

優子・飛鳥「「スカイラブハリケーン!」」

 

掛け声とともに二人の召喚獣は敵の方向に焦点を合わせ、タイミングを揃えて折り畳んでいた足を一気に伸ばす。 

膝を伸ばした反動で超加速し、〈和真〉をも上回る破壊力を備えた〈優子〉のランスが、リッパーの体を容赦なく貫通した。

そして様式美のごとく着地に失敗。大幅に点数が減るもののこればかりはどうしようもない。

 

 

《総合科目》

『2-A 木下優子 228点

 2-A 橘飛鳥 1105点

VS

 ?-? Ripper 戦死』

 

 

優子「加勢に来てくれた人達、ご協力感謝するわ」

(協力っつーかよ……)

(私達……囮に使われただけよね……)

 

第一部隊の隊員達は色々と言いたいことがあったものの、緊急事態であることと、まあ結果オーライであったため胸の内にしまっておくことにする。飛鳥は今度和真とじっくりお話しする必要があると思いつつ、当初の目的であるプロテクトを解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第五部隊】

 

《総合科目》

『3-A 金田一真之助 804点

 3-A 夏川俊平 652点

VS

 ?-? Wivern 1841点』

 

 

もはや第五部隊の命運は風前の灯火であった。ワイバーンと闘いつつ時間稼ぎに比重を置くも、サイズとパワーで徐々に追い詰められていく金田一達。このまま召喚獣が戦死すればこの怪物を解き放ってしまう。そうなればどんな恐ろしい事態になるのか、考えたくもない。

 

夏川「流石にもう限界だぜ……」

金田一「もう少しの辛抱だ夏川。さっき鳳からすぐに向かうと返信が来た」

夏川「本当か!?それならなんとかなり…ッ…!?」

 

一瞬の気の緩みが命取り。救援の知らせを受けて気の緩みが生じたのか、〈夏川〉はブレスを避けきれずに炎に飲み込まれる。満身創痍の状態でそんなものを喰らって当然生き残れるはずもなく、〈夏川〉は戦死する。

 

夏川「しまった!?」

金田一「バカ野郎!?このデカブツを一人で対処しなければならなくなったじゃねぇか!」

 

先程まで二人がかりでどうにか撹乱していたのだ。それでも徐々に追い詰められていたので、一人になってしまった今ワイバーンを抑えきれる確率は悲しいほど低い。

 

金田一「……それでもまぁ、ここで尻尾を巻いて逃げ出すわけには……いかねぇよなぁぁぁぁぁ!」

 

ますます苛烈さを増すワイバーンの猛攻をどうにか避けきる。金田一はAクラスのナンバー3、潜ってきた戦場も生半可な数ではない。しかしそれでも一人で押さえ込むのは無茶だったのか、〈金田一〉はどんどん追い込まれていく。そしてとうとう壁際まで追い込まれてしまった。この状況ではブレスだろうが尻尾だろうが爪だろうが牙だろうが避けきれない、まさに絶体絶命であった。

 

金田一(……どうやら俺にできるのはここまでみてーだな。ハッ……だったらここは、)「せっかくだ、テメーに冥土の土産をくれてやるぜぇぇぇ!」

 

覚悟を決めた金田一は死を恐れずに〈金田一〉をワイバーンに特効させた。ワイバーンがブレスを吐く前にツヴァイハンダーをワイバーンの眼に突き刺すと、ワイバーンは苦しみのたうち回る。

 

 

《総合科目》

『3-A 金田一真之助 688点

VS

 ?-? Wivern 574点』

 

どうやらワイバーンにとって眼は弱点であったようで、先ほどまでとは点数の減り方がまるで違った。激昂したワイバーンは怒りに任せて〈金田一〉を尻尾で圧殺しようとする。既に力を使い果たした〈金田一〉に避ける術は残されておらず、結末を受け入れるかのように目を閉じた。

 

金田一(ここまでか……すまん、鳳……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし致死率100%の尻尾が〈金田一〉に届く前に、ワイバーンの首は駆けつけた蒼き英雄によって斬り落とされた。

 

 

《総合科目》

『3-A 金田一真之助 688点

 2-A 鳳蒼介 1206点

VS

 ?-? Wivern 戦死』

 

 

ワイバーンの絶命を見届けると、蒼介はすぐさまプロテクトの電源を切る。

 

金田一「ふう……助かったぞ鳳」

夏川「一時はどうなることかとヒヤヒヤしたぜ……」

蒼介「いえ、お二方がある程度削ってくれていたおかげですよ」

 

文化部室のプロテクトも解除された。

残るプロテクトはあと3つ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真「仮面の男『ファントム』の、学園全体を巻き込んだショータイムとやらは激しさを増していく。迫りくる強敵【セブンスター】、次々と散っていく仲間達……
絶体絶命の状況下、翔子と姫路が奇跡を起こす!
次回、『七星獣(後編)』。絶対読んでくれよな!」

徹「クライマックスはあと少しだ」


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七星獣(後編)

【バカテスト・数学】
年利20%の金融会社に100万円の融資を受けました。1ヶ月につき1万円ずつ返済していくとすると、返済し終わるのはいつになるでしょうか?

柊和真の答え
『一生終わらない』

綾倉「正解です。引っ掛け問題なのですが、柊君には通用しませんでしたね」


島田美波の答え
『10年』

綾倉「そしてこちらは見事に引っ掛かってくれましたねぇ。120万-12×1万と式で考えたようですが、年利とはその名の通り一年ごとに上乗せされていく金利のことです。1ヶ月で1万円ずつ、1年で12万円返済しても、また新たに20万円の利息が上乗せされ、一年ごとに8万円ずつ増えていく計算になります。あなたが将来どこかからお金を借りることになったときこのような仕組みを正しく理解していなければ、知らない内にとんでもない泥沼へ落ちていくことになりかねませんよ?」


吉井明久の答え
「困ったときのドリームジャンボ」

綾倉「夢にすがるのはやめましょう」











金田一「それで、現在状況はどうなっているんだ?」

蒼介「私はプロテクトを2つ外し、ついさっき飛鳥達がプロテクトを解除したと連絡が入ってきました」

夏川「となると残りは体育館、メインサーバー室、屋上の3つか……加勢してやりてぇのはやまやまだが、俺はもう点数残ってねぇし……」

金田一「俺ももう死にかけだしな。半端な戦力じゃボス格相手には蹴散らされるだけだろうし……となると、校舎内の雑魚掃除に回るのが無難なところだな」

蒼介「それに救援の必要は無いと思いますよ?メインサーバー室には既に宮阪先輩を派遣しました」

金田一「ああ、あのチート能力なら問題ねーな。…しかし残りの二つは?」

蒼介「それこそ大丈夫でしょう、彼女達は二年の女子ツートップですから……それに、発芽する条件も整ってますしね」

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第三部隊】

 

《総合科目》

『2-F 姫路瑞希 3121点

 3-A 小暮葵 3396点

 2-D 玉野美紀 戦死

 2-C 小山優香 452点

 3-F 徳島良太 戦死

 3-C 九重伸介 703点

 3-A 名波健一 1580点

VS

 ?-? Quiksilver 3922点』

 

第三部隊は窮地に立たされていた。突破口は見つかったものの、固体から液体へ、液体から固体へ自由自在に変化するクイックシルバに攻撃を当てるのは至難の技であった。操作技術に精通している小暮がある程度削ってくれているが、逆に言えば小暮以外が戦力になっていない状況である。

 

『うわっ、またあれが来るぞ!?』

『あんなのどうしろって言うのよ!?』

 

そしてさらに厄介なことに、クイックシルバは攻撃も厄介極まりないものであった。スライム状の自らの体を切り離し固めて弾丸のように投擲くる。小暮だけは何とか回避できているものの、それ以外の面々は次々と点数を削られていく。

 

姫路「えいっ!」

 

キュポッ

 

戦況を覆すため〈姫路〉は腕輪能力である『熱線』を発動するが、クイックシルバは熱光線が届く前に膨張して目一杯広がる。結果、熱光線はクイックシルバの薄くなった腹を貫通しただけで、大したダメージは与えられなかった。そして返す刀でクイックシルバは弾幕をばらまき、第三部隊は壊滅的な被害を受けた。

 

 

《総合科目》

『2-F 姫路瑞希 2013点

 3-A 小暮葵 2674点

 2-C 小山優香 戦死

 3-C 九重伸介 戦死

 3-A 名波健一 戦死

VS

 ?-? Quiksilver 3621点』

 

とうとう生き残ったのは〈小暮〉と〈姫路〉だけになってしまった。合計点数ではまだ上回っているものの、正直焼け石に水だろう。

そんな状況を目の前にして、姫路は言いようもない無力感に襲われる。蒼介から部隊長を任されたのに小暮に比べてまるで役に立ってないではないか。

 

姫路(私の限界はこんなものなの……?久保君の言った通り、私ではもう、明久君達の力になれないの……?

 

 

 

 

 

 

そんなの嫌だ……!

 

そんなの私は認めない……!

 

Aクラスに勝つと誓ったんです……!

 

美波ちゃんと、翔子ちゃんと、柊君と、坂本君と、木下君と、土屋君と、そして……明久君と一緒に、Aクラスを倒すんです!

 

こんなところで負けるわけには行かない……!

 

こんな得体の知れないものに、私達の学園を傷つけさせはしない!

 

 

 

強くなりたい……!

明久君を……皆を守り通せる強さが欲しい!)

 

 

姫路が心の底の底から強くなりたいと願ったとき、突如〈姫路〉の腕輪が輝く。姫路は一瞬面食らうも、ある知識が召喚システムを通して頭の中に流れ込んでくる。

 

姫路瑞希の『オーバークロック』。

その能力の名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第二部隊】

 

翔子「……アイスブロック!」

 

生み出された巨大な氷塊がグラトニーに向かって投擲される。その場から動くことができないグラトニーは避けることができず直撃し、大ダメージを与えることに成功した。

 

 

『2-F 霧島翔子 2419点

 2-A 工藤愛子 842点

 

VS

 ?-? Gluttony 9821点』

 

 

しかしそれでもグラトニーを戦死させるには至らない。第二部隊は既に壊滅一歩手前、さらに増援に来た元第一部隊の召喚獣もことごとく食い散らかされ、グラトニーの点数の肥やしになってしまった。

 

愛子「こんなの……いったいどうすれば……」

翔子「ッ!?愛子!?」

 

いつも元気に満ち溢れている愛子がどうしようもない状況に思わず弱音を漏らすが、弱気になって隙が生じたのか〈愛子〉がグラトニーの触手に捕らえられてしまった。

 

愛子「あっ……」

 

そのままグラトニーの腹まで引き寄せられ、〈愛子〉は何の抵抗もできないまま捕食された。

 

『2-F 霧島翔子 2419点

 2-A 工藤愛子 戦死

 

VS

 ?-? Gluttony 10663点』

 

愛子「ボクの召喚獣が……」

 

とうとう第二部隊は翔子一人になってしまった。呆然とする愛子を余所に、奇しくも同時刻に翔子は姫路と同じような無力感に襲われることになる。

 

翔子(私の限界はこんなものなの……?私の力では、学園はおろか、友達一人守ることすらできないの……?

 

 

 

 

 

 

そんなの嫌だ……!

 

そんなの私は認めない……!

 

Aクラスに勝つと誓った……!

 

美波と、瑞希と、和真と、吉井と、木下と、土屋と、そして……雄二と一緒に、Aクラスを倒すのが目標なんだ!

 

こんなところで負けるわけには行かない……!

 

こんな醜い化け物に、私達の学園を傷つけさせはしない!

 

 

 

 

強くなりたい……!

雄二を……皆を守り通せる強さが欲しい!)

 

 

翔子が心の底の底から強くなりたいと願ったとき、〈姫路〉と同様〈翔子〉の腕輪が輝きだす。翔子は一瞬面食らうも、同様にオーバークロックの知識が召喚システムを通して頭の中に流れ込んでくる。

 

霧島翔子の『オーバークロック』。

その能力の名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路「プロミネンス!」

 

翔子「アブソリュートゼロ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【姫路瑞希】

 

キーワードを口にした瞬間、突然〈姫路〉が燃えさかる炎に包まれる。

姫路のオーバークロック能力は、あらゆるものを焼き付くす灼熱の衣。……もちろん、自らの肉体でさえ例外ではない。〈姫路〉は距離をつめ、クイックシルバに抱きついた。液体化しているため掴むことは出来なかったものの、クイックシルバの体には炎が燃え移った。その後も炎に身を焦がしながらも〈姫路〉はクイックシルバに抱きつきにかかる。そして〈姫路〉が燃え尽きる頃にはクイックシルバももう手遅れの状態になっており、打つ手のなくなったクイックシルバはしばらくもがき苦しんだのちそのまま焼け死んだ。

 

 

《総合科目》

『2-F 姫路瑞希 戦死

 3-A 小暮葵 2674点

VS

?-? Quiksilver 戦死』

 

 

設置されたプロテクトの電源を落としつつ、姫路は満足そうに呟いた。

 

姫路「私の、勝ちですっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【霧島翔子】

 

キーワードを口にした瞬間〈翔子〉を中心に氷結が広がり続け、最終的に屋上全体が氷に覆われた。グラトニーはもちろん中心の〈翔子〉まで氷漬けになって指先の一本すら動かせない。

翔子のオーバークロックの能力は、召喚フィールド全体に逃げ場の無い絶対零度の世界を展開すること。敵も味方も自分自身も、世界を埋め尽くす永久氷壁に為す術もなく閉じ込められてしまう。

 

 

『2-F 霧島翔子 419点

VS

 ?-? Gluttony 10663点』

 

一万点オーバーの点数を有していようが、身動きの取れない敵など怖くもなんともない。そのまま動けないグラトニーを無視して、悠々とプロテクトを解除した翔子は満足そうに呟いた。

 

翔子「……私の、勝ち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第四部隊】

 

常村「相変わらず全然攻撃が届かねぇな……」

高橋「この様子だと、どうやらガス欠も期待できそうにありませんね……」

 

 

《総合科目》

『3-A 高城雅春 4284点

 3-A 常村勇作 3206点

VS

 ?-? Guardian 3000点

 ?-? Invader 3000点』

 

 

他の部隊と違って第四部隊は、メインサーバー室に侵入しようとする召喚獣モドキ達との闘いで多少消耗したことを除けば完全に無傷であった、が次々と産み出される壁に阻まれてまるで攻められない歯痒い状態がずっと続いていた。

 

常村「かといってこいつらをフリーにするわけにはいかねぇしなぁ……」

高城「そうですね。Invaderの能力が未だ不明な以上、野放しにするわけにはいきません。せめて宮阪嬢が来るまでここに押し留めておかねば……」

杏里「高城君、常村君、遅くなってごめん……」

常村「おっ、来てくれたか宮阪。これでもう安心だな」

 

待ちに待った救援の到着で常村は勝利を確信する。なぜなら宮阪の腕輪能力は、この手の相手には打ってつけなのだ。

 

 

《総合科目》

『3-A 宮阪杏里 3762点

VS

 ?-? Guardian 3000点

 ?-? Invader 3000点』

 

 

杏里「支援《アシスト》……」

 

キーワードとともに、杏里の召喚獣に腕輪が出現する。本来ならば、総合科目では4000点以上とらなければ能力を使うことはできない。しかし杏里の青銅の腕輪ならばその常識が覆る。この腕輪の能力は『一教科でも400点以上とっているなら、1日に1回だけどの教科でも腕輪能力を発動できる』というものである。

そして杏里は化学で400点を上回っているので青銅の腕輪の条件を満たしている。

 

杏里「ダークマター……」

 

黒より黒く闇より深き物体が、〈杏里〉の掌からガーディアン達に向けて発射される。ガーディアンは当然のごとく壁を展開して守りに入る。何重にも重ね掛けされた防壁はこれまで幾多の攻撃を封じてきた実績がある故当然の選択であった。

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

暗黒物質はそれらの壁を平然と粉砕しながら直進し、二体の召喚獣モドキを無慈悲に飲み込んみながらフィールドに着弾した。

 

 

《総合科目》

『3-A 宮阪杏里 762点

VS

 ?-? Guardian 戦死

 ?-? Invader 戦死』

 

 

これが杏里の腕輪能力『ダークマター』。消費コストは莫大で、殲滅範囲もさほど広くない。しかし圧倒的な破壊力を持ち、直撃すればいかなる召喚獣も戦死は免れない。

 

高城「相も変わらず凄まじい破壊力ですね」

常村「まさに一撃必殺だな。まぁ何にせよ、ここの拠点はクリアしたぜ」

高城「私達は何の成果もあげてませんがね」

常村「言うな、涙が出てくる」

 

心に多少のダメージを負いつつも、高城達は最後のプロテクトを解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「………………全プロテクトの解除確認。(カタカタカタカタカタ……ターン!)召喚フィールド、停止!」

 

場所はグラウンド、全てのプロテクトが解除されたことを確認した綾倉先生はすぐさま試験召喚システムを停止させ、学園全体を覆っていた召喚フィールドを消すことに成功する。

 

学園長「やれやれ……一件落着だね。被害も最小限に抑えられたし、何とか揉み消しはできそうさね」

綾倉「しかし学園長、見過ごすわけにはいかない問題も多々あります。その最たるものが……」

学園長「……わかってるよ。試験召喚システムが外部に流出した、もしくは……襲撃者のバックに四大企業のどこかがいるってことさね」

 

現時点で襲撃者が誰なのかは不明だが、明らかに試験召喚システムに精通しているしていることは確かだ。門外不出であるはずのシステムが文月学園に牙を向いたのは何故か。考えられる原因は2つ。一つは何者かが綾倉先生の敷いたセキュリティを掻い潜って情報を掠め取ったか……スポンサー契約の条件としてシステムの一部を提供した四大企業のいずれかが黒幕であるかだ。

 

綾倉「……ん?……!?……学園長、屋上に…」

学園長「あん?……!?!?!?……どういうことさね!?召喚フィールドは停止したはず……!?」

綾倉「ええ……。それにあの幾何学模様のサイズは、明らかに異常です……」

 

 

 

 

二人が驚愕したのも無理も無い。

召喚フィールドは確かに消滅した筈なのに、どういうわけか校舎の屋上には通常の数十倍の、遠目から見てもはっきりと視認できるほどのサイズの幾何学模様が展開され、空を覆い隠していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファントム『フフフ……素晴らしい!文月学園の諸君よ、実に、実に見事な闘いであった!認めよう……お前達が織り成す物語には、この私でさえ激しく胸を打つものがあったと認めようじゃないか!

…………しかし慌てるな、大団円はもう少しだけ待つといい。諸君らにとっては歓迎すべきことでは無いかもしれんがね、私の興が乗ってしまったのだよ。まだ未完成と聞いてはいるが、是が非でもとっておきのものを試してみたくなった故』

 

 

 

 

 

 




和真「次回でいよいよクライマックスだ。ファントムの持ち出したとっておきとは……果たして?」

【オーバークロック紹介】
姫路……プロミネンス
発動条件……元々の点数が400点以上あれば発動することができる
消費……20
デメリット……久保と同じく点数が減り続ける上、消す方法が存在しない
効果……久保の能力をハイリスクハイリターンにしたもの。どうやっても炎は消せず召喚し直しても炎は残ったままの、一度発動すれば戦死一直線のある意味自爆技。

翔子……アブソリュートゼロ
発動条件……元々の点数が400点以上あれば発動することができる
消費……200
デメリット……威力はゼロ。ずっと氷漬け状態
効果……自分を含めたその場の召喚獣を全て凍らせる。自力で脱出するのは不可能に近い。また、召喚し直しても凍ったまはまで出現する。






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Adramelech

※見方によっては死を連想させる描写がありますが、実際はそんなことないので安心してください。


グラトニーを封じ込めた代償として戦う力を失った翔子は他の部隊の面々を撤退させ、一応念のためにグラトニーの見張りとして屋上で待機していた。少し時間が立つと召喚フィールドが消えていくのを見届け、ようやくこの騒動も終息したかと息をついていると……

 

翔子「……これは、いったい…………?」

 

予想だにしない事態に巻き込まれていた。

既に召喚フィールドが存在しないにもかかわらず出現した幾何学模様は、屋上に収まることなく校舎全体の空を覆い尽くした。普段冷静沈着な翔子でさえ驚愕のあまり呆然としていると幾何学模様の中心から、

 

 

ソイツは屋上に降誕した。

 

 

身長は翔子と同じくらいで、同じく翔子と同じくらいの長髪、しかし顔立ちは見ようによっては男性のようにも女性のようにもとれる中性的な容姿をしていた。

やや浮世離れした表情をしているものの、それだけならば特に異常な点は無く、召喚獣というよりは人間のように思えたかもしれない。

 

しかし間違いなく人間ではないと断定できる。

まず第一に、当たり前だが人間は幾何学模様から突然現れたりはしない。

第二に、全体的に不自然なほど白い。髪も衣服も肌も目も唇も透き通るような白さであり、一種の神々しさを醸し出してはいても、同時に人ならざる者であると嫌でも理解させられる。

そして第三に、人にあるはずのない天使のような翼が六枚も生えていることだ。敬虔な宗教家なら感激ものなのだろうが、大して信心深くもない翔子にとってこいつはもはや警戒する対象でしかない。

 

翔子「っっっ……っ……っっ……!!!」

 

いや、警戒なんて生易しいものではない。翔子の全身は動物としての本能が急激に目覚めたかのように、毛の先程の神経一本単位まで危険信号を発していた。

 

こいつはヤバい、側にいるだけでただではすまない、一刻も早くここを離れてできる限り距離を置け、と。

 

白い天使はそんな翔子に目もくれず、グラウンドに集まっている大勢の生徒達を一瞥すると、両手をかざし目も眩むような白い光の塊を生み出す。その物体が何なのかはわからないがエネルギーが収束していくのはなんとなく感じとることができ、それに飲み込まれればどうなるのかは薄々わかった。

わかってしまった。

 

翔子「っっっ……っうわぁああああああああ!!!」

 

気がつけば翔子は走り出していた。全身が、脳が、理性が、本能が警鐘を鳴らすのを無視して、白い天使に激突した。翔子の存在を認識していなかったのか天使は驚いたように顔を歪ませ、集中を乱したことが原因なのか白く輝くエネルギーの集合体は維持することができずに弾け飛び、その爆風で翔子も吹き飛ばされた。

地面に叩きつけられ、肺から酸素を全て吐き出し、身体中に激痛が走る羽目になったが、幸い翔子に怪我は無いようだ。

 

[……ふむ……見事だ少女よ、誇ると言い。貴様はこの瞬間、大勢の人間の命を救ったようだ]

 

天使は痛みをこらえ倒れ伏す翔子に語りかけた。抑揚のまるでないパソコン音声のような天使の声は、やはりこの存在が人間でないことを物語っていた。

 

[…………むぅ……やはり不完全……所詮仮初めの器では、一度攻撃を行っただけで限界を迎えるか……]

 

心底つまらなそうな呟きとともに、天使の肉体が見る見る内に崩れ落ち消滅していく。天使の台詞から考えると、どうやらこの現象は不測の事態ではなく予定調和のようだ。そのまま消滅する寸前、天使はもう一度翔子に語りかけた。

 

[せめてもの礼儀として名を名乗っておこう。

我は『アドラメレク』。自律型召喚獣の王にして史上最大のコンピューターウイルス。もし機会があればまた会おう]

 

そう言い残し、天使は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「くっ、いったい何が起こって……霧島!?大丈夫か!?」

翔子「……大丈夫、怪我はない」

 

しばらくして蒼介が屋上に駆けつけると、その場には倒れ伏したままの翔子が。慌てて助け起こすも、張りつめたような緊張の糸が切れただけで特に異常はないようだ。

蒼介は屋上でいったい何があったか聞くと、翔子に余計不可解になるような内容を聞かされた。

 

蒼介(……『アドラメレク』……自律型召喚獣というのはおそらく今回襲ってきた召喚獣モドキ達のことだろうが……コンピューターウイルスだと?それにどうして召喚フィールドも無しに……ええい、忌々しいことに情報が少なすぎて答えを出せん)

 

取り合えず『アドラメレク』については綾倉先生や学園長に報告するとして、一先ず生徒全員を一ヶ所に集め安否を確認しなければならないと蒼介は思い直す。

 

蒼介「霧島、自力で立てるか?お互い婚約者がいる立場な上、この学園には思い込みの激しい生徒が多い。肩を貸すことは誤解を招きかねんので可能であるなら避けたいのだが……」

翔子「……大丈夫、もう心配はいらない」

蒼介「どうやら杞憂だったようだな」

 

そして蒼介は全校生徒をグラウンドに集め安否確認を行った。校舎は多少被害を受けたようだが、幸い生徒達は最初の襲撃で何人かが軽傷を負った程度に被害を抑えることができた。その後教師達が緊急会議を開くことになったので、生徒達はそのまま早退することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文月学園から少し離れた河原で、仮面の男『ファントム』はノートパソコンに向き合っていた。

 

『ふむ、やはり意思を持っているお前を除く自立型召喚獣では、手動型召喚獣の臨機応変さには一歩劣るか……』

[所詮人形は人形。どれだけ性能を向上させようと底は知れている]

『……それにしても、まさか出てきてそうそう皆殺しにしようとするとは思わなかったぞ、アドラメレクよ』

[我を解き放ったのは貴様だろう?我がどのように振る舞おうと貴様にとやかく言われる筋合いはない]

『まったく、利かん坊にもほどがあるぞ。

……ときにアドラメレク、お前の攻撃を体を張って止めた女子生徒なのだが、大丈夫なのかね?』

[ああ、そう言えばそうだった。おそらくあの少女は今、高濃度のバグに汚染されている状態だ]

『……マズイのではないかねそれは?適合できれば特に問題は無いができなければ死よりも残酷な結末を迎えるのではなかったか?』

[特に問題なかろう。奴が有象無象の凡俗であれば既に手遅れであるし、そもそも適合できないのならその程度の存在だったということだ]

『私の知ったことではないが、血も涙もない奴だなお前は』

[プログラムにそんな余計な機能があるとでも?]

 

 

 

そんなファントム達の会話を影で聞き耳を立てている男が一人。ボサボサの髪にだらしなさ全快の服装の中年、今日も今日とて部下に仕事を押し付けてサボり中の“御門”代表取締役の御門空雅であった。

 

御門(…………ハァ……正直ダリィが、この仕事はサボるわけにはいかねぇよな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二日後の昼、翔子は学校に行く準備をしていた。停学中一切会えずじまいだった(本当は雄二のいない学校になど興味が無かったが、雄二の強い説得により真面目に通学していた)ため、明日からの学校生活に胸を踊らせていた。その弊害か鞄には手錠や薬品やスタンガンなど、おおよそ学校生活に必要のないものも混じっていたが、まあ翔子なりの屈折した愛情なのだろう。

 

しかし異変は突如やって来た。

 

翔子「………………っ!?!?!?」

 

急に激しい頭痛と目眩に襲われ、翔子は堪えきれずにその場に崩れ落ちる。家族に発見される頃には、翔子の意識は既に途切れていた。

 

 

 

   

 

 

 

 




和真「というわけで、オリジナル第一章はこれで幕引きだ。しかしまあ、バカテスにあるまじきシリアス一辺倒だったなオイ」

蒼介「それにしても、霧島は大丈夫なのだろうか……」

和真「まあ心配すんな。メタ的な話をするとだな、四巻の話で翔子がいたら少々不都合なんだよ」

蒼介「……なるほど。原作では勝ち目が薄いから最初Dクラスとの闘いを避ける方向で進めていたが、この作品では話が変わってくるな」

和真「雄二も原作より格段にパワーアップしてるし、俺や翔子を戦力に加えると、大分勝てそうな空気になってしまうからな。まあそんなわけで大丈夫だ読者の諸!あとはおっちゃんが全部何とかしてくれるから!」

蒼介「清々しいまでの他力本願だな……」


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四巻開始・異端審問会結成!

【バカテスト・英語】

次の言葉を正しい英語に直しなさい。
『ハートフル ラブストーリー』

五十嵐源太、姫路瑞希の答え
『heartfull love story』

蒼介「正解だ。映画や本の謳い文句によく見かける単語だが、heartの部分を間違える人がたまにいる。身近にある英語であるが、意外とわかり難いようだな。ちなみに日本語に訳すと、『愛に満ちた物語』となる。生徒会長として諸君らには是非そのような健全な青春を皆で過ごして貰いたい」


島田美波の答え
『hurt full rough story』

蒼介「hurt……ケガ
full……いっぱいの
rough……荒っぽい
story……物語
意図的に間違えたのではないかと思う程綺麗に間違えているな。そのようなハートフルストーリーを演じるのはお前だけだ」


霧島翔子の答え
『hurt full rough story』


蒼介「まさかもう一人いるとは……文月学園は無法地帯か何かか?」






和真「ふぁあああ……眠いぞ畜生……」

 

停学明けの登校日、普段ならば予鈴の二時間前には登校して蒼介達と何かしらのスポーツに励んでいるのだが、今日はとある理由でかなりギリギリの時間帯に登校している。ついでに何やら睡眠不足らしく誰かに鬱陶しく絡まれようものなら即座に殴り倒しかねないほど非常に不機嫌な状態だ。

同じクラスの美少女(?)木下秀吉はそんなバッドコンディション全快の和真に一瞬躊躇ったものの、勇気を振り絞って声をかけることにする。 

 

秀吉「……和真よ、おはようなのじゃ。久し振りの登校だというのにお主随分不機嫌じゃの?」

和真「あぁ?……なんだ、誰かと思えば高橋キラーの秀吉様じゃねぇか」

秀吉「その呼び名はやめてもらえんかのう!?分不相応極まりないのじゃ!」

和真「なんだよつれねぇな~、折角水戸黄門の印籠のごとく他クラスをびびらせて回ろうと思ってたのに」

秀吉「本人の預かり知らぬところで何大それた計画を練っておるのじゃお主は!?というか、ワシを弄りだしてから先程までの不機嫌な状態が嘘のようにイキイキしだしおったな!?」

 

ご存じの通りナチュラルサドの和真は他人を玩具にすることがとても大好きであるため、秀吉をこれでもかとからかい倒したことである程度の溜飲が下がったのであろう。そしてそんな和真に対して頬を膨らませている秀吉は、やはりどう見ても男には見えなかったそうな。

 

秀吉「まったくお主は……それはそうとなんでそんなに眠そうなのじゃ?お主確か普段は10時には寝入っておろう……まるで子どもみたいにのう(ボソッ)」    

和真「なんかイラっとしたがまあ見逃してやろう。どうもこうもねぇよ……寝る直前に蒼介から電話がかかってきてな、先日の覗き騒ぎに対してのお小言やら俺らが停学期間中に学園で起きた事件への対処に追われていることに対しての愚痴やらその他諸々を聞いているうちに気がついたら4時になってたんだよ畜生!」

秀吉「そ、それは災難じゃったなぁ……。それにしても姉上から聞いたときは度肝を抜かれたが、ワシらが停学中随分大変なことがあったみたいじゃのう」

和真「まったくだぜ……クソッ……俺も参加したかった……襲撃犯め、よりにもよって俺が停学中に攻めてきやがって」

秀吉「お主の戦闘狂ぶりも筋金入りじゃな……」

 

そんな感じで和真と秀吉が仲良く談笑しながら登校してると、アメリカの某武闘派宗教団体のような覆面が突如和真達を取り囲んだ。

覆面の額にはFの一文字、

 

『S級異端者の柊を発見!』

『よし!すぐに奴を捕らえろ!』

『了解!』

 

そして聞き覚えのある声から和真は親愛なるクラスメイト達であると確信する。

 

和真「朝から何のようだよ矢野、君島、武藤」

『知れたこと!』

『我ら異端審問会はFクラスの風紀を正す集団!』

『貴様の様な女子に不埒な真似をしそうな輩を生かしておくわけにはいかない!』

和真「ふーん……わかりやすく言えば?」

『『『お前みたいに女子にモテる奴が憎いんじゃコラァァァ!』』』

 

非常にシンプルかつ清々しいまでの逆恨みを原動力に特攻してくる三人。さて、柊和真という男は意外と暴力をあまり好まない性格であるのだが、降りかかる火の粉を薙ぎ払わないほどお人好しな性格でもない。何が言いたいかと言うと、襲いかかられればしっかり返り討ちにするのが和真のやり方だ。

 

和真「ヤマザキ春の腹パン祭ィィィィィ!!!(ドゴゴォォォォォッ)」

『『『ギャアアアアアアアアア!?!?!?』』』

 

和真は微妙に季節外れの技名(現在の季節は初夏)とともに三人の腹に的確に拳を食らわせ、哀れな三人は耐えきれずにその場に崩れ落ちた。

 

和真「安心しろ、峰打ちだ」

秀吉「腹パンに峰打ちも何も無いと思うんじゃが……」

 

そんな秀吉のツッコミは華麗にスルーしつつ、和真はその場に横たわった三人には目もくれず、秀吉を連れて登校を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「こ、これは一体何事じゃっ!?」

和真「オイオイ、いつからこの教室はサバト会場になったんだよ……」

 

Fクラスの扉を開けた途端、秀吉と和真の口から出たのは驚きと呆れの言葉だった。まあ無理もない、教室内には暗幕が引かれており、先程のような覆面を被ったクラスメイトと思わしき連中が蝋燭を持っており、床には縛り付けられた明久が蓑虫状態で転がっていたのだから。

 

明久「秀吉!和真!良かった……!ずっと来ないから、てっきり今日は休みなのかと」

和真「俺もたまには寝坊するんだよ」

秀吉「今朝は少々支度に手間取ってしまったのじゃが……明久、お主らは何をしておるのじゃ?」

 

地面に転がっている明久に事情を聞いていると、元クラスメイトの覆面どもが寄ってきた。そして和真の姿を確認した途端ひどく狼狽する。

 

『ひ、柊!?貴様どうして!?』

『同士達を差し向けたのになぜ!?』

和真「あぁ、登校中襲ってきたあいつら?今頃ボロ雑巾のように地面に転がってると思うぜ?」

『なっ……!?』

和真「俺をどうこうしたけりゃ西村センセでも味方に付けるんだな」

『そうだった……こいつが鉄人に匹敵する化け物だと言うことを忘れていた……!』

『仕方ない、吉井だけだけでも処刑するか……。

柊、忌々しいが今日のところは見逃してやろう』

和真「あ?いつからお前らは俺に上からもの言えるほど偉くなったんだ?あぁ?別に俺はお前ら一人残らずぶちのめして、この教室に死体の山を築くことになっても一向に構わないんだぜ?(バキボキ)」

『『『調子に乗ってスミマセンデシタ』』』

 

寝不足で沸点がいつもより低い暴君・和真の怒気を浴びせられすぐさま土下座に移行する異端審問会の面々。プライドもへったくれも無いように思えるがその行動は正解である。なぜなら和真は殺るときは殺る男、態度を改めていなければ容赦なくぶちのめしていただろうと断言できる。

 

秀吉(和真は敵に回すと本当に恐ろしいからのう、色んな意味で……)「ところで……本当にお主らは何をやっておるのじゃ?」

須川「柊に木下、邪魔はしてくれるなよ?今我々は異端者である吉井明久の処刑を行うところなんだ」

 

秀吉の言葉に反応したリーダー格の須川は土下座をやめて、和真達に今から行う内容を得意気に説明する。

 

秀吉「そうじゃったのか。しかし明久は何をしたのじゃ?」

和真「だいたい雄二はどうしたんだよ。お前らの基準ではあいつも処刑対象だと予想できるが」

明久「あ、雄二は昼から登校してくるって鉄人が行ってたよ。何でも霧島さんが倒れたからお見舞いに行ってから学校に来るって」

秀吉「入院じゃと!?霧島は大丈夫なのかの……?」

明久「それは僕も心配だよ……」

和真「安心しろ、大丈夫だ。昨日の夜翔子から『今日欠席するけど特に心配はいらない』ってメール来たしな」(それにしても…お見舞い……ねぇ……)

 

秀吉達を安心させつつ、登校してきたら全力で弄り倒してやろうと心に誓う和真であった。

 

須川「その通り。異端審問会、通称FFF団結成祝いとして、本来なら柊、吉井、坂本の三人を処刑するつもりだった」

和真「あ?」

須川「スミマセン……しかし色々あって最も許されざる異端者である吉井を処刑することにしたのだ。この異端者・吉井明久はよりにもよって我らが聖域である文月学園敷地内で朝っぱらから島田美波と接吻などという不埒な行為を……」

 

ガラッ

 

須川の口上中、和真達が入ってきたのとは別の扉が開かれた。そして、耳まで真っ赤になった顔を俯けて足早に自分の席に向かう女子生徒、丁度須川の話に出てきた人物・島田美波が現れた。

 

和真(まさか、俺の脳内ヘタレランキング殿堂入りだったこいつがねぇ……合宿中の夜這いといい、随分と積極的になったもんだ)

 

教室が水をうったように静まり返るなか、和真は恋に奥手だったクラスメイトの劇的な変化に感心していた。

 

 

 

 

 

 




和真「さて、読者諸君に言っておかなければならないことがある」

蒼介「唐突になんだ?」

和真「四巻と五巻は試召戦争要素が薄目だから割とサクサク進めていく。まあぶっちゃけると手を抜く」

蒼介「それは流石にぶっちゃけ過ぎやしないか?」

和真「だって仕方ねぇじゃねぇかよ~。この作品は試召戦争メインでやっていくわけだから五巻とか膨らませる要素ゼロだし、四巻も相手がDクラスじゃねぇ……」

蒼介「まあ確かにお前の言わんとしていることもわからなくはないが」

和真「もう既にオーバークロックだの綾倉センセが15000点オーバーなんて馬鹿げた点数だすだのインフレが加速してんのに、今さらDクラスとの闘いなんて地味すぎるぜ」

蒼介「そう考えるとサクサク進めた方が良いのかもしれんな。……私の出番も無さそうだし」

和真「まあ重要なシーンまでカットするつもりは無いから安心していてくれ。それと蒼介。ここだけの話、五巻は俺の分を削ってお前の出番を増やすつもりだ」

蒼介「なに!?それは本当か!?」

和真「ある理由で五巻は俺の出番ほとんどねぇらしい。だからもう一人の主人公であるお前で俺の抜けた穴をカバーするつもりらしい」

蒼介は「……っ(グッ!)……っ(グッ!)」

和真「……そんなに渾身のガッツポーズするほど出番に餓えていたのかソウスケ……」








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清水の怒り

【バカテスト・世界史】

以下の問いに答えなさい
『西暦1492年、アメリカ大陸を発見した人物の名前をフルネームで答えなさい』

姫路瑞希の答え
『クリストファー・コロンブス』

蒼介「正解だ。卵の逸話で有名な偉人だな。コロンブスという名前は有名だが、意外とファーストネームが知られていない。意地悪問題に当たるのだが、姫路には関係なかったようだな」

五十嵐源太の答え
『Christopher Columbus』

蒼介「ここぞとばかりに帰国子女アピールするんじゃない」


清水美春の答え
『コロン・ブス』

蒼介「フルネームはわからなかったか。コロンブスは一語でファミリーネームであって、コロン・ブスでフルネームというわけではないので次からは気を付けるように」


島田美波の答え
『ブス』

蒼介「お前達Fクラスは定期的に過去の偉人を冒涜するよな……」



『では須川君。この場合3molのアンモニアを得る為に必要な薬品はなんですか?』

『塩酸を吉井の目に流し込みます』

『違います。それでは朝倉君』

『塩酸を吉井の鼻に流し込みます』

『流し込む場所が違うという意味ではありません。それでは、有働君』

『濃硫酸を吉井の目と鼻に流し込みます』

『『それだっ!!』』

『それだ、ではありません。それと答えるときは吉井君の方ではなく先生の方を見るように』

 

一時間目の授業は化学。布施先生は用事があるらしく別の先生が教壇に立って授業をしているが、嫉妬に狂ったFFF団の一同は授業そっちのけで明久の処刑方法を模索していた。

 

キーンコーンカーンコーン…

 

「えー……、今日はここまでにします」

 

そんなこんなであっという間に一時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響き、教師が大きな溜息をついて教室から出て行った。須川達の殺意も先程までの数十倍に膨れ上がる。

 

『吉井のヤツ、島田と目と目で通じ合っていやがったぞ……!』

『島田は狙い目だと思ったのに、あのクソ野郎……!』

『畜生……!霧島は坂本にご執心だし……姫路、木下に続いて島田までヤツに持っていかれたら、このクラスの希望はアキちゃんしかいねえじゃねぇか……!』

和真(いやそれ明久じゃねぇか、見境ねぇなオイ……ふわぁあああ)

 

教室に殺意の視線が飛び交っているものの、そんなことがまるで気にならないほど和真は眠気に襲われている。授業中は寝ないと去年優子に約束させられているため、和真は少しでも眠気を和らげようと目を瞑り机に突っ伏す。しばらくすると、和真の耳にこのクラスの生徒ではない女子の甲高い声が響いてきた。

 

『お姉さまっ!何をしてるんですか!?そんなに豚野郎に密着して!?』

和真(この声は清水か……まあ来るとは思っていたが)

『み、美春!?ウチの邪魔をしにきたの!?』

『当然ですっ!そこの豚野郎がお姉さまに密着している姿を見て黙っていられるはずがありませんっ!』

『み、密着って、仕方ないでしょう!?代わりの卓袱台なんてないし、狭いんだからくっつかないとダメだし……』

和真(あ、駄目だこいつ。肝心なところでヘタレな部分はしっかりと残ってやがる)

 

その後も騒ぎは収まらず、それどころかFFF団も乱入してさらに大きくなっていったが、既に興味を無くした和真はお構い無しに半睡眠状態を続行した。

 

『さぁ授業を始めるぞ。今日は遠藤先生が別件で外しているので俺がビシビシ……ん?やれやれ……またか清水……授業が始まるから自分の席に戻るように』

和真「やれやれ、もう休憩タイムは終わりか……」

 

鉄人の声が聞こえるや否や姿勢を正し英語の教材と筆記用具を準備し終える和真。オンオフの切り替えが実にスムーズだ。

 

清水「きょ、今日は先週までと違って特に大事な用なんです!西村先生、今だけは美春を見逃して下さい!」

鉄人「特に大事な用事?それはどんな用だ?まさかまた先週みたいに『邪魔者のいない教室でお姉さまと一緒に授業を受けたいんです』とかじゃないだろうな」

清水「いいえっ!今日は『この教室の男子を全て殲滅する』という特に大事な……」

鉄人「今後この教室への立ち入りを禁じる」

 

ピシャン

 

情状酌量の余地無しと判断した鉄人は清水を教室の外に追い出して扉を閉めた。

 

『お、お姉さまっ!まだお話が!せめてその豚野郎から席を離して貞操を……』

 

ドンドンドンと粘り強く清水が扉を叩く音が聞こえてきたので、鉄人は扉に近づいてドスの聞いた声で語りかける。

 

鉄人「清水。最近のお前の行動は目に余るものがある。……そんなに俺の生活指導を受けたいのか?」

 

途端に扉を叩くを音が静かになった。

鉄人の生活指導は幾度も受けている明久や雄二でも未だに慣れない地獄だそうで、耐性の低いヤツならこの上ない恐怖そのものである。ちなみに和真は二人と違って無駄に要領が良いため一度も受けたことが無い。

 

『お姉さま……!卓袱台だから豚野郎の近くにいるというのなら、美春にも考えがありますからね……!』

 

覗き窓越しに明久を睨みつけながら不穏当な言葉の残すと、それ以上は抗うこともなく清水は教室を後にした。

 

鉄人「さあ全員席に着け。教科書86ページから始めるぞ。今日の内容は……」

 

あとは何事もなかったように授業が始まる。遠藤先生が所用で来れないため鉄人が代理で授業を行うとなると、流石の清水もこの教室にやって来ることはできないし、嫉妬に狂ったクラスメイト達も幾分か大人しくなる……はずだ。

 

『ひあっ!』

 

鉄人が黒板に書いた仮定法過去に関する内容を和真が黙々とノートにまとめていると、突然明久の小さい悲鳴が聞こえてきた。

 

『ひあっ!』

 

一回目は特に気にも止めなかったが連続して悲鳴が出れば流石の和真も多少は気になる。何事かと明久と美波の方に目を向けていると、何やら二人が小声で話し合っている。

 

『ひあっ』

和真(青春しているのは結構だけどよ、そろそろこいつらも限界だと思うぞ明久)

 

三度目の明久の悲鳴を聞き流し、和真は興味を無くしたのか黒板に視線を戻す。その後クラスメイト達の殺気がさらに膨れ上がっていくのを感じたが、正直他人事なので和真は無視して授業に集中する。

 

『『『もう我慢ならねぇーーっっ!!』』』

和真(こいつらにしてはよく耐えた方だな……)

『さっきから見てりゃあ、これ見よがしにイチャイチャしやがって!』

『殺す。マジ殺す。絶対に殺す。魂まで殺す』

『……お姉さまの髪に触るなんて……八つ裂きにしても尚、赦されません……!』

『出入り口を固めろ!ここで確実に殺るぞ!』

『全員カッターの投擲終了後、間髪入れずに卓袱台を叩きつけるのですっ!お姉さまに当たらないように注意するのですよっ!』

『『『了解っ!』』』

 

その後、いつの間にか司令塔ポジションに収まっていた清水による無駄に卓越した指揮の下、明久は見る見るうちに追い詰められていく。

 

清水「お姉さま!早くこちらに避難して下さい!そんな豚野郎と一緒にいると危険です!」

明久「清水さんいつの間に!?しかも皆どうして清水さんの言うことを聞いて卓袱台まで構えてるの!?クラスメイトを大事にしようよ!」

美波「美春、まだウチのことを諦めてくれないの?こんなこと続けても、お互い辛いだけなのに……」

美春「お姉さまはそこの豚野郎に騙されているだけなんです!お姉さまのことを本当に想っているのはこの美春以外……」

 

鉄人「お前ら!今は授業中だぞ!!」

 

好き放題暴れ回る生徒達に、とうとう鉄人の一喝が入り、阿鼻叫喚であったFクラスはあっという間に落ち着きを取り戻した。

 

鉄人「清水。授業はどうした?」

清水「そ、それどころではありません……お姉さまが」

鉄人「清水」

 

鉄人の、もしここが大海賊時代の世界観なら覇王色の覇気が出ているであろう威圧感に、清水も押し黙る。

 

鉄人「二度目の警告だ。おとなしく自分の教室に戻れ。それと、もう一度言うがこの教室への出入りを禁止する。わかったな?」

清水「……わかりました」

 

不承不承といった体で清水が教室から出て行く。そのとき明久を親の敵のように睨みつけることは忘れない。

 

鉄人「お前らも授業中に遊ぶんじゃない。そういったことは休み時間にやれ」

和真(いや、平然と刃物を人に向けてること注意しろよ教師ならよ……)

 

この先生もFクラスに染まってきたなと和真がしみじみ思う中、言われた通りに卓袱台を元の位置に戻しカッターをしまうクラスの連中。こうして、この場は鉄人のおかげで事なきを得た……ように思えたのだが、後にこの事がきっかけでまたも大きな騒動になるとは、流石の和真も予想外であった。

 

 

 

 

 




【ミニコント】
テーマ:しりとり

佐藤「パンダ」  

徹「脱腸」

佐藤「……う、ウサギ」

徹「ぎゃーてーぎゃーてーはーらーぎゃーてーはーらーそーぎゃーてーぼーじーそわか」

佐藤「般若心経!?もっと可愛いしりとりしようよ大門君!!」




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手違い

原作を読み返しましたが、四巻って実はたった二日間の出来事なんですね……


休み時間になり、飛び交うカッターや卓袱台をやり過ごして明久がトイレから戻ると、和真と秀吉とムッツリーニの三人が深刻な表情で何か話し合っていた。

 

明久「どうしたの三人とも?そんな深刻そうな顔しちゃって」

秀吉「丁度良いところに来おったな明久」

和真「お前が原因でまた面倒なことになりそうでな……」

 

毎度毎度いい加減にしろと言いたげな目を明久に向ける和真。やや理不尽なことは本人も自覚している。

 

明久「面倒なことって?」

ムッツリーニ「……Dクラスで試召戦争を始めようとする動きがある」

明久「……別にDクラスがBクラスに攻め込んでもあまり僕らに関係ないんじゃないの?どうせ僕らはまだ試召戦争を仕掛ける権利はないんだし」

 

明久の言う通り四月に試召戦争を申し込んで敗北したFクラスは、ペナルティーとして三ヶ月間戦争を申し込む権利を剥奪されている。一見ペナルティーが解除されるまではFクラスは試召戦争とは無縁に思えるが、思わぬ落とし穴が存在していた。

 

和真「ところがだな明久、Dクラスの狙いはうちのFクラスだ。今日は試験召喚システムのメンテナンスがあるから宣戦布告はできねぇが、明日にはしてくると見ている」

明久「えええっ!?だって、僕らはまだ試召戦争をする権利は無いはずだよね?」

和真「少し違うな。俺達は『戦争を申し込む』権利が無ぇんだ。申し込まれたら引き受けなけりゃならねぇ」

 

試召戦争のルールとして、他クラスから宣戦布告された場合、交戦を拒否することができないというものがある。このルールは三ヶ月間のペナルティー中のクラスにも適応される。

 

明久「けど、僕らはは最低設備のFクラスなんだし、攻めてくる理由が無いんじゃないの?」

和真「まあ普通はそう思うよな」

 

下位のクラスが上位のクラスに勝てば設備を入れ換えられるという大きなメリットがあるが、上位のクラスは勝っても設備が向上するわけでは無いうえに負ければ設備ランクダウンと、メリットがまるで無い。だから普通なら上位のクラスが下位のクラスに戦争を申し込むことはない。

 

和真「そこで、今朝のお前のいざこざが原因になってくるんだよ」

秀吉「明久、相手はDクラスじゃ。思い当たるフシがあるじゃろう?」

明久「……もしかして、清水さん?」

ムッツリーニ「……(コクリ)」

和真「アイツ卓袱台だからどうとか言ってたろ?大方お前と島田の席を離すために俺達の設備をミカン箱に落とすつもりなんだろうよ」

明久「け、けど、Dクラスだって全員が乗り気なわけじゃないでしょう?そんな目的でクラスの皆が関わる戦争をするとは思えないよ。Dクラスの代表だって反対するんじゃないかな」

 

Dクラスの代表は平賀源二。四月での試召戦争での貸しもあるし、強化合宿では一つの目標の為に結託した仲であり、何より和真と大分仲の良い生徒だ。Fクラスを陥れるためだけの試召戦争に首を縦に振るとは思えない。

 

普段ならの話だが。

 

和真「確かに源二はそんな不毛なこと進んでやる奴じゃねぇけどよ、今は状況が状況だ。普通の女子なら先日の集団覗きの主犯である俺たちに自分達の手で罰を与えたいと考えるだろうし、その考えは困ったことに清水の私情と利害が一致してしまう」

秀吉「お主も知ってのとおり、平賀は男子生徒じゃ。今の覗き犯扱いのような状況では発言力も皆無じゃろう。怒りに燃える女子一同と嫉妬に燃える清水を抑えられるとは思えん」

明久「そ、そんな……」

 

まあ正直言って設備がミカン箱になろうがほとんど大した問題ではない。なぜならFクラスは一割弱の『設備が劣悪だろうが成績を落とさない強者』と九割強の『設備ががどうなろうとどうせ勉強しないバカども』で構成されているからだ。

しかしながら、ここで問題になってくるのは姫路の家庭。先日も設備が原因で転校にまで発展しかけた問題が再発するかもしれない。明久が露骨に狼狽えているのはそのためだ。

 

明久「和真、攻め込まれたら勝つ自身はある?」

和真「正直苦しいな。うちのクラスは補充申請してないみてぇだから他クラスと違って授業中補充できねぇし、雄二はともかく翔子は多分間に合わねぇし、姫路も停学中の事件で点数が無いって聞いたし……万全の態勢ならどうということない相手だが点数が残っているのが島田、俺、秀吉、雄二だけとなると、よほどのことが無い限り勝ち目は無いな」

明久「え?停学中の事件って何?」

和真「そっか、情報網が整ってるムッツリーニと違ってお前は知らねぇのか」

秀吉「実はの明久……」

 

秀吉が停学中に起きた『自律型召喚獣襲撃事件』を明久にわかりやすく説明した。

 

明久「そんなことがあったなんて……

くっ!そのときに僕がいたら…」

和真「雑魚の露払いぐらいしか役に立たねぇだろ。ボスクラスは姫路ですら刺し違えなきゃ勝てねぇような相手だぞ?」

明久「それはそうだけどさぁ!?少しは期待しても良いじゃない!」

和真「うるせぇ話の腰折んな。話を戻すと、今回の試召戦争は回避するのが賢明だ。よしんば勝ったとしても、手に入るものがDクラス程度の設備じゃねぇ……。折角貸しがあるクラスをわざわざ敵に回すのは雄二も嫌がるだろうだろうしな」

明久「え?回避できるの?」

和真「お前と島田しだいだな。……つぅか、肝心の島田が見当たらねぇな」

明久「美波ならさっき姫路さんとどこかに行ったけど」

 

休み時間になるなり、姫路が真剣な表情で美波を連れて教室を出ていくのを明久は見ていた。おそらく姫路が明久と美波が付き合ってるのが事実かどうかを確かめる為だろう。

 

和真「そりゃまた何ともわかりやすい…」

秀吉「……修羅場じゃな」

ムッツリーニ「……修羅場」

明久の「え?あの二人、喧嘩でもしているの?」

 

事情を理解してないのは当事者である明久ただ一人のみであった。

 

和真「あ、そうそう明久。一つ確認しておきたいことがあるんだが」

明久「ん?なに?」

和真「お前と島田は付き合ってんのか?」

 

核心を突いた和真の一言が明久に突き刺さる。美波曰く付き合っているらしいが、正直明久にはまるで身に覚えのない話であった。

 

 

明久「僕の記憶だと、付き合ってはいない、と思う……」

和真「お前の記憶って時点であんま信憑性無ぇが……まぁ良い」

秀吉「じゃが、島田の態度は明らかに付き合っている者のそれじゃぞ?」

明久「うん。それは多分、僕の送った間違いメールが原因で……」

 

明久は強化合宿中に起こった、告白紛いメール誤送信事件、及び坂本雄二携帯粉砕事件について説明する。

 

秀吉「なるほどのう。明久も明久じゃが……雄二も素晴らしいタイミングでやらかしたものじゃな……」

明久「まったく、雄二には困ったもんだよ」

ムッツリーニ「……けど、そもそもの原因は明久の確認不足」

明久「うっ……。確かに」

 

ムッツリーニの言った通り、雄二の責任はフォローが出来なくなったというだけで、根本的な原因はやはり明久にある。

 

和真「まあ、誤解っつうなら話は早い」

明久「え?何が?」

和真「Dクラスのと試召戦争の話だ。島田の誤解を解いてお前らがいつもの姿に戻りゃ清水も多少おとなしくなるだろ?そうりゃDクラスは俺たちに不満はあっても、開戦するほどの意気込みがある核がいなくなって試召戦争の話は流れる。俺達はいつもの日常を取り戻して万事解決ってわけ」

 

雄二に翔子も不在の今、暗黙の了解で暫定代表代理を務める和真が今後の方針について説明していると、突然扉が開いて姫路が息を切らせながら駆け込んできた。

 

姫路「あ、あの、明久君っ!聞きたいことがありますっ!」

明久「え?な、なに?」

美波「そ、その……っ!あ、明久君は……美波ちゃんに告白したんですか……?」

明久「え、えっと……それなんだけど……」

和真「丁度良かった姫路。その話なんだが……島田も一緒の方がいいだろう。どこにいるかわかるか?」

姫路「美波ちゃんなら、さっきまで一緒に屋上にいましたけど……」

和真「よし。明久達、屋上言って説明してこい」

明久「え?和真は来てくれないの?」

和真「遅れて登校してくる雄二にこれまでの報告書でも書いといてやろうと思ってな。あとその後仮眠を取りたい」

 

本当ならメールで済ませたいところなのだが、あいにく雄二の携帯も修理中のため手書きになる。

 

明久「なんで和真そんなに眠そうなの?いつも寝るの早いんじゃなかったっけ?」

和真「昨日ソウスケから覗き騒ぎに関するお小言その他を数時間に渡って聞かされてな、ほとんど寝てねぇんだよ……」

 

思わずばつが悪そうに目をそらす寝不足になった遠因である明久、秀吉、ムッツリーニ。覗き騒ぎの裏の事情を知らされている姫路も思わず苦笑する。

 

明久「じゃ、じゃあ行こうか。姫路さんには往復になっちゃって申し訳ないけど」

姫路は「あ、いえ、私は全然構いませんので」

 

明久は席を立って屋上に向かう。

ふと、せっかくだから保険でもかけておこうと思った和真がムッツリーニを呼び止める。

 

和真「ムッツリーニ。屋上に清水の盗聴器があるか、確認でしといてくれ」

ムッツリーニ「………多分、ある。Fクラスにも仕掛けてあった」

和真「そりゃ良かった。まあ一応任せたぞ」

ムッツリーニ「……(コクリ)」

 

四人が教室を出るのを確認すると、和真はルーズリーフに今朝起こったことを簡潔にまとめ、雄二の机に置いてから仮眠を取り始めた。

 

和真「ったく……補充試験や襲撃されたシステムのメンテナンスに大勢の教師が駆り出されているおかげで仮眠を取る時間があって良かったぜ……」

 

 

 

 

 




和真「手抜き宣言しただけあってサクサク進むなぉオイ」

蒼介「特にいじる部分も見当たらないし、今はこんなものだろう」


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明久と美波のラブラブ大作戦(笑)

【心理テスト】 
以下の状況を想像して質問に答えてください

『あなたは大好きな彼と2人きりで旅行に行く事になりました。ところが、飛行機に乗っていざ出発、というところで忘れものに気がつきます。さて、あなたは一体何を忘れて来たでしょう」

姫路の答え
『頭痛薬や胃薬などの医薬品」

綾倉「これは『あなたが好きな人に何を求めているか』について分かる心理テストです。忘れ物は貴方に欠けている物を現し、忘れても気がつかずに出発してしまったと言う事は、一緒にいる彼がそれを補ってくれるとあなたが考えているからなのです。どうやら姫路さんは想い人に安らぎを求めているようですね」


飛鳥の答え
「弁当」

綾倉「あなたの想い人は料理上手のようですね」


優子の答え
「むしろ相手が救急セットを忘れていた」

綾倉「これは……興味深い解答ですね。想い人が無茶をしても自分が補ってあげようとしている、もしくは想い人に頼って欲しいとも解釈できますね。よほど相手のことを大切にしているのでしょう」


翔子の答え
『手錠』

綾倉「忘れ物の前に、持っていこうとする時点で間違っています」


愛子の答え
『下着をはいて行く事』

綾倉「あなたは好きな人に何を求めているのですか……?この私をしてドン引きです」



※バカとテストとスポンサー~愉快な彼らのバカバカしくも素晴らしき日常~も更新しました。


明久と美波の誤解が解けてからしばらく時間が過ぎて昼休みになる。二人の交際疑惑が誤解だと言う事実が伝わり、Dクラスは試召戦争の準備を取りやめたらしい。美波は姫路と相席になったことで清水の怒りも幾分か収まっているだろうが、どうやら清水の代わりに今度は美波がご機嫌ななめのようだ。大方明久がまたデリカシーに欠ける誤解の解き方をしたのだろうと和真は当たりをつける。

 

美波「瑞希、お昼にしない?」

明久「あ、美波」

 

昼休みのチャイムが鳴るや否や、姫路を連れて教室から出ようとする美波に明久が声をかける。

 

美波「何よアキ。ウチに何か用?」

明久「えっとさ、今朝言ってたお弁当なんだけど……」

美波「……なぁに、アキ?ウチにあそこまで恥をかかせていおいて、まさかお弁当までたかろうって言うのカシラ?」

 

毎度お馴染み明久の図々しい発言に美波は片眉をつり上げる。言葉の端々から殺気が立ち上っているのも感じられる。

 

明久「ごめんなさい。心の底からごめんなさい」

美波「まったく、アキは本当に無神経なんだから……。瑞希、今日は天気も良いしこんなバカのいない気持ちのいい場所で食べましょ」

姫路「あ、美波ちゃん、待って下さい。そ、それじゃ明久君。また後で……」

 

肩を怒らせ先に教室を出た美波を姫路が小走りで追いかけて去っていく。これはしばらく後を引きそうだなと思いつつ、和真も購買で購入しておいた昼飯を取りだし教室を出ようとすると、ついさっき登校してきた雄二が声をかける。

 

雄二「なんだ和真、今日は外で食べるのか?」

和真「いや、Aクラスだ。昨日電話で優子達とメシ食う約束しててな」

『『『死ねぇぇぇぇぇ!!!』』』

 

突如クラスメイト達が一斉にカッターを投げつけて来るが、お馴染みの勘で予測していた和真は畳で全て防ぎきり、第二波が来る前に信じられない超スピードでリーダー格の須川に接近しアッパーカットを食らわせる。

 

須川「プゲラッ!?(ガシッ)……ゑ?」

 

信じられない力で殴られた須川は宙に吹き飛ぶが、和真はすぐさま浮き上がった須川の右足を掴み、そのままバットのように構えて須川の近くにいたメンバー数名のもとに駆け寄る。

 

和真「愛と友情と殺戮のぉぉぉ……カズマホォォォムラン!(ドギャァァアアアン!!!!!)」

 

『『『ぎゃあああああ!?!?!?』』』

 

哀れ須川のボディは仲間を滅却する武器に成り下がってしまった。フルスイングされた仲間達は教室に転がって動かなくなり、須川が気絶しているにもかかわらず和真は使い心地を確かめるように素振りをしている。生き残っている他のメンバーもあまりに凄惨な光景に一歩も動けないでいた。

 

和真「よく聞けボンクラども、俺ぁまだ寝不足が抜けきってなくて不機嫌なんだよ、これ以上俺にいらん手間かけさせんなやゴルァ……この聖剣エクスガワカリバーの錆になりてぇなら、話は別だがなぁ!!!」

 

許可もなく勝手に聖剣にされた須川を振りかざして脅迫する和真に異端審問会はすぐさま全面降伏の態勢に入る。それを満足そうに見届けた和真は、聖剣(笑)をその辺に投げ捨てて悠々と教室を出ていった。

その光景を一部始終見届けた雄二は思う、どうして俺は教師達の間であんな暴君より問題児扱いされているのかと。

 

雄二(というかあいつ、普段から好き放題しているように見えて、ある程度はちゃんと自重してたんだな……そして今はそのブレーキが寝不足でうまく働いてない、と……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「そんなわけでうちのクラスは停学明け早々宣戦布告されかけたりと、相変わらず騒動に事欠かねぇよ(モグモグ)」

優子「飲み込んでから喋りなさい」

源太「……そういや徹、テメェ知らねぇ内に生徒会職降ろされてたそうじゃねぇか。抗議とかしねぇのかよ?」

徹「もともと鳳に誘われてなんとなしに引き受けたものだからね、特に不満はないよ」

愛子「徹君何気に字すごく綺麗だからね~。ところで新しい書記にはだれが着いたのカナ?」

飛鳥「3年の宮阪先輩よ。去年書記だった縁で教師が打診したら二つ返事で引き受けてくれたそうよ」

和真「ああ、あの腕相撲強い先輩か。俺も危うく負けそうになったことがある」

飛鳥「うん、それは知らなかったけど……まあ確かに見た感じ強そうよね」

徹「体も大きいしね……妬ましい(ギリィィィ…)」

優子「そうね……高望みはしないけどせめて、せめて美紀ぐらいには……」

源太「そんなに大きいなら徹や優子にでも分けてやりゃ良いのにな」

「「よろしい、その喧嘩買おうじゃないか!!!」」

 

Aクラス教室において、『アクティブ』の面々が昼食を取りつつ和気藹々としていた。抑止力である蒼介が休日不眠不休でフル稼働した代償に欠席しているせいでいつもよりヒートアップしやすいのはご愛敬。キャットファイトを繰り広げる三人を肴にしつつ、和真は飛鳥達と談笑を続ける。

 

和真「しかし覗き騒動がきっかけで各クラス内の力関係も随分変化したなオイ」

愛子「ほとんどのクラスの男子達は発言権を無くして肩身がせまそうにしてるね~。例外はほとんどが男子の和真くん達Fクラスと……」

飛鳥「蒼介のカリスマ性が幅を利かせている私達Aクラスね。蒼介は久保君達の発言権はしばらく取り上げるって言ってたけど、そもそも男子も女子も最終決定は蒼介に委ねているからあまり影響はないと思うわ」

和真「優秀過ぎんのも玉に瑕だな。……メシも食い終わったし、そろそろ教室戻るか。メンテナンス中じゃなければお前と優子に勝負吹っ掛けるつもりだったんだがな」

飛鳥「なあに?一勝一敗の状況にケリをつけたいの?」

和真「それもあるが、お前らボスクラスの自律型召喚獣ぶっ倒したらしいじゃねぇか。以前よりパワーアップしてるんじゃないかと期待してんだよ」

飛鳥「あれは私達だけで倒したわけじゃないし……そうそう和真、あなたの優子への悪影響について話があるんだけど」

和真「もう時間無いから今度じっくり聞いてやる。それじゃあな」

源太「ギャアアアア!?和真テメェ、俺様を助ける気は無いのか!?」

和真「自業自得って言葉、知ってるか?」

 

流石にほぼ同格の相手二人がかりではどうしようもなかったのか、アイアンクローと間接技の餌食になっている源太を平然と見捨てて教室を出る。そのままFクラスに戻る途中美波と姫路を見かけたので和真はかけ寄って話しかけた。

 

和真「よー、お前ら」

姫路「あ、柊君」

美波「アンタも外で食べてたの?」

和真「いや、Aクラス教室で源太が優子と徹に処刑されているのを眺めながら食べてた」

美波「うちのクラスとあんまり変わらない光景ね……」

姫路「あ、あはは……」

 

その光景の原因の一つである美波が呆れるのはお門違いだろう。だが確かに、もしかするとAクラスは蒼介がいないとFクラスと大差無いのかもしれない。

 

和真「しっかしお前も災難だったな島田」

美波「ホントよ!まったくアキったらデリカシーが無いんだから……(ブツブツ)」

和真「ようやくヘタレ脱却したと思ったのにとんだ肩透かしだったなぁ……。まああんまり興味無いけど頑張れ二人とも」

姫路「柊君、翔子ちゃんと坂本君のときはあんなにイキイキしているのに私達の恋愛事にはかなりドライですね……」

和真「ストレートに告白する勇気すら無ぇ奴に部外者が首突っ込んだところでねぇ……」

美波「うぐ…相変わらず容赦ないわねアンタ……」

和真「それにお前らとは翔子ほど仲良くねぇしな」

姫路「事実ですがそんなハッキリ言わなくても……柊君らしいと言えばらしいですけど……」

 

そんな感じで軽く談笑しつつ教室に戻ると、明久達いつも四人がやけに真剣な表情で顔を付き合わせていた。

 

和真「雄二、何かまた問題でもあったか?」

雄二「良い所で戻ってきたな、三人とも来てくれ」

 

三人に事情を話し始める雄二。なんでもBクラスがFクラス打倒のため試召戦争の準備を進めているらしい。普通は上位クラスが勝ったところでメリットが無いのだが、雄二曰く代表の根本の目的は覗きの主犯であるFクラスを打倒することで失った発言権を取り戻すことらしい。

戦力の整っていない今の状態ではBクラスには確実に負けるだろうから、雄二はBクラスに宣戦布告されるまでの時間を稼ぎつつ、引き分けに持ち込めそうなDクラスを挑発して宣戦布告させるつもりらしい。試召戦争が終結すれば点数補充期間を申請できるため、一度Fクラスに負けているBクラスはFクラスが万全な状態になれば万一を考えて手を出してくることはなくなるだろう。

 

和真(そういやさっきAクラスで源太がさりげなく試召戦争から話題を変えてたな。あいつめ、いつのまにそんな腹芸が出来るようになったんだ?)

美波「……それで、ウチにどうしろって?」

 

友人の予想外の成長に和真が感心している一方、美波は何をやらされるのか薄々理解したのか不機嫌そうに訪ねる。

 

雄二「明久と付き合っている演技をしてもらいたい。それも周りで見ているヤツがムカついて血管が切れそうになるくらいベタベタな感じでな」

美波「絶対にイヤ」

和真(まあそりゃそうだよな)

 

そんなことはお構いなしに雄二は今の美波が最も嫌がるであろう要求を告げる。おそらく今Dクラスで一番発言力がある清水を挑発しようという魂胆なのだが、当然のごとく美波は却下する。

 

秀吉「そこを曲げてなんとか協力して欲しいのじゃ。島田だけでなく姫路にも」

姫路「え?わ、私ですか?」

秀吉「うむ。明久と島田の演技だけでは現実味に欠けるからの。お主には二人の仲を妬む役を頼みたいのじゃ」

姫路「明久君と美波ちゃんの仲を妬む役、ですが……」

 

姫路としてはそんな縁起でもない役回りなど御免被りたいところであるが、脳裏に転校がちらつくのも事実なので引き受けるべきかどうか葛藤する。

 

美波「ウチは何と言われてもイヤ。こんなバカと恋人同士なんて、冗談じゃないもの」

秀吉「島田よ、冷静になって考えるのじゃ。確かに色々と思うところはあるじゃろうが、これはお主にしかできんことなのじゃぞ。それなのに静観を決め込むなぞすれば、後々必ず悔やむ時がくる。例えば……姫路が転校してしまうなんてことになった時、お主は自分を責めずにいられるかの?」

 

秀吉の言葉に美波は息を詰まらせていた。クラスの設備が今よりも悪くなれば、また前のように姫路の過保護な両親が転校なんて話を持ちかけて来る可能性は十分あり得る。

 

明久「あのさ、それなら相手が僕じゃなければいいんじゃないかな?」

姫路「え?それって、他の誰かが美波ちゃんの恋人役になるってことですよね?それはいい考えかもしれませんけど……誰がやるんですか?」

明久「誰って、例えば雄二とか」

雄二「ほほぅ。お前は俺に死ねと言うのか」

和真「『翔子の恋路を手伝い隊』隊長としても見過ごすわけにはいかねぇな」

雄二「そのロクでもない部隊まだ解散してなかったのかよ!?」

明久「それもそうだね。……それじゃ、ムッツリーニは?」

ムッツリーニ「……盗聴器の操作がある」

明久「じゃあ、やっぱりここは女子生徒撃墜数No.1の和真に……」

和真「人を色魔みたいに言うんじゃねぇよ失礼な……。第一、俺と清水は不可侵協定を結んでるから不可能だ」

美波「何よ不可侵協定って?」

和真「島田へのアプローチには口を出さないかわりに飛鳥に付きまとうのはやめろって協定」

美波「何勝手にウチを生け贄にしてんのよ!?」

 

その後しばらく美波が和真に掴みかかり続けるもも悉く避けられて数分、美波のスタミナが尽きたところで一時休戦する。

 

雄二「…………というか、代役は無理だ。事情は全て聞いているが、それだけのことを公衆の面前でやっておきながら他のヤツと付き合っているなんて誰が信じる?これはもうお前と島田しかできないことなんだよ」

姫路「あの、美波ちゃん、明久君。気が乗らないかもしれませんけど、お願いしますっ。凄く個人的な理由で申し訳ないんですけど、私やっぱり転校したくないんです。だから、協力してくださいっ」

明久「え、あ、いや。僕は勿論協力するけど……」

美波「…………うぅ……。わ、わかったわよ!とりあえず形だけでもやればいいんでしょ!けど、演技の内容次第じゃどうするかは知らないからね!」

姫路「美波ちゃん、明久君……ありがとうございますっ」

 

友情とプライドを天秤にかけて友情が勝ったようだ。そんな美波の返事を聞いて姫路は深く頭を下げた。

 

美波「ま、まぁ、確かに畳や卓袱台もこの前買ったばかりだから結構使い易いし……。瑞希の為だけじゃないんだから、そこまで気にすることも……」

秀吉「そうと決まれば、早速演技開始じゃな。三人とも、これを受け取るのじゃ」

 

秀吉が明久、美波、姫路にそれぞれ一部ずつホチキスでとめられた冊子のようなものを渡す。おそらくは演技に使う台本であろう。

 

明久「台本?もう書き終えたの?いつのまに?」

秀吉「殆どはワシが持っておった台本からの引用じゃからな」

 

それにしたってさっき作戦が決まってから姫路と美波が戻ってくるまでの5分程度でこんなものを作るとは、実姉から演劇狂いと言われているだけのことはある。

 

和真「この有能さが少しでいいから勉強に活かせればなぁ……というか停学中に優子から電話でお前の成績が低空飛行を続けてるって怒られたんだけど」

秀吉「そ、それはスマンかった……停学期間中姉上に勉強を見て貰ったんじゃが……その……」

 

珍解答のオンパレードだったことが嫌でも察せられる。常識はあるが学力は無いのが秀吉である、下手したら日本史が大幅に向上した明久にも劣るかもしれない。

 

雄二は「お前らはそいつを持って屋上で演技開始だ。ムッツリーニ、屋上にあるらしい清水の盗聴器はどうなっている?」

ムッツリーニ「……さっきは接触不良を装っただけだから、今はまた動くようにしてある」

雄二「そうか。だとしたら、演技以外の会話は一切しないようにするんだ。清水にバレたら元も子もないからな」

明久「ちょっと待ってよ。まだ台本を憶えるどころか目を通してもいないのに」

和真「お前が台本暗記し終わるのなんざ待ってたら日が暮れちまうだろうが」

明久「否定できない……」

ムッツリーニ「……屋上のカメラには死角がある。台本を読みながらの演技でいい」

 

ムッツリーニは紙を取り出すと、簡単な屋上の見取り図を書いてその上に死角となるポイントを書き加えていく。

 

姫路「そうですか。読みながらでいいのならなんとかなりそうですね、美波ちゃん」

美波「そうね。それは助かるけど、でもせめて内容を確認させてくれない?変なシーンがあるかどうか気になるもの。その……キスシーンとか……」

秀吉「安心せい。そのようなシーンは入れておらん。まぁ、たとえ入れたとしてもカメラの死角におるのじゃから、音だけで事は足りるしの。それよりも、時間がないから急ぐのじゃ」

 

四の五の言わせる前に秀吉は明久と美波と姫路の背中を押して教室から追い出した。

 

和真「んじゃ、終わったら起こしてくれ(ゴロン)」

雄二「なんだ、お前は盗聴器ごしに明久達の状況をチェックしないのか?」

和真「ハッキリ言うぞお前ら、どう転んでも明久達は失敗すると俺の勘が告げている。正直時間の無駄だ」

秀吉「縁起でも無いこと言うのうお主は……失敗すると思うのならお主はどうする気じゃ?」

和真「保険は用意してある。雄二、お前も予備プランぐらい考えてるだろう?」

雄二「……まあな」

 

保険は最低2つ用意されている、何も不安になることはない。そう考えながら和真は深い眠りに落ちていった。

 

『あのね、ウチは……アキのことが……

嫌いなのっ!』

 

意識が落ちる寸前に聞こえてきた美波の声は、和真に作戦の失敗をより強く確信させた。

 

 

 

 




【ミニコント】
テーマ:綾倉ドリンク改良

布施「あれ?今回の試作品はおいしいですね」

鉄人「口当たりも喉越しも悪くありませんな」  

綾倉「ちょっとした改良をしてみたんですが、どうですかな?」

鉄人「綾倉先生……!ようやく……ようやくわかってくれたんですね!」

布施「体の中からパワーが溢れてくるようですゴハァァァッ!?」 

鉄人「!?どうしたんですか布施せん……ングっ!?」

綾倉「そう……ちょっとした改良をしたんですよ……遅効性にね!!!」

二人((改良じゃなくて改悪だそれは!!!……ガクッ……))











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追憶

あまりにサクサク進め過ぎて余裕ができたからイベントを進めておきます

今回の話の和真君の主張は賛否両論だとは思いますが、万人受けするものではないと自覚しているからこそこういう特殊な場面でしか語ろうとしません。さらにいえば今回の内容は深層心理で本人に自覚はなく、たとえ自覚しても所詮我が儘な押し付けでしかないと理解できるため、誰にも聞かせるつもりは無いでしょう。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『柊君……別れましょう……』

 

 

ん……?……これは……夢か?   

 

 

『あなたとはもうやっていけません……』

 

 

過去に破局した女子が次から次へと流れ込んでくる。やれやれ……明久達が痴情のもつれで揉めに揉めまくっているせいか、俺の見る夢もこんなんかい。

 

 

『先輩のバカ!もう知らない!』

 

 

そういやこんな奴もいたなぁ。クラスどころか学年も違うからもう名前しか覚えてねぇや。

 

 

『この無神経男!私の前からいなくなれ!』

 

 

こいつは学校が違うから完全に忘れてた、そう言えばいたっけ……どうでもいいか。

 

 

『Get out of my face! 』

 

 

こいつにいたっては国籍すら違うじゃねぇか……。どういう経緯で付き合うことになったんだっけ?流石にちょっと気になる。

 

 

『そんな人だとは思わなかったわ!』

 

 

まったく、今となってはどれもこれも大切な思いでかなぁ……

 

 

いや違うな。

 

大切でも何でも無ぇな、消え去ったところで何の感慨も無いだろうし。

 

 

『……いい加減にしてよ!もうあなたが何考えているか全くわからないわ!』

 

 

…………………………………

 

 

『どうして私の言うことを聞いてくれないのよ!?』

 

 

しかしこうして今まで付き合ってきた奴らを見返してみるとと……改めて思うね、うん。

 

 

『アンタにとって、私はそんなに安い女に見えるのかよ!?』

 

 

恋愛とやらがみんなこのようなものだとしたら、どうして猫も杓子もこんなものを有り難がるのかねぇ……?

 

心底理解できねぇし、理解したくもない。

 

 

『アンタなんて大っ嫌い!!!』

 

 

いや、わかってんだよ。誰も彼もこんな恋愛ばかりしているとは思わねぇ。そんなことは翔子を見ていればわかる。

 

 

『もう顔も見たくないわ!』

 

 

だがよ、俺に寄ってくる女はどうしてこう……どいつもこいつもこんな奴らばっかなんだ?

 

 

『柊君……ちゃんと私を見てよ!』

 

 

こいつなんてその最たる例。

ちゃんと私を見て?そいつはこっちの台詞なんだよ。他人と関わることが多いせいか、人の観察には馴れてんだよ。

 

全部お見通しなんだよ……

 

 

 

 

 

お前らが俺の表面しか見えてねぇってことがな。

 

確かにルックスは良い方だと思うぜ?容姿は母さんに似たからな。親父に似ていたら話は別だったけど。

 

確かに運動神経は良いぜ?腹立つけど親父に似たからな。親父のどや顔が脳裏にちらついてムカつくが。

 

確かに頭は良い方だぜ?常識から外れたようなことも多々やっちまうけど、それは頭じゃなく人格の問題だし。

 

客観的に自己を分析すると、女子がが寄ってくる理由もまあ何となくわかるし別段不思議ではない。

 

 

 

 

ところでアンタらに聞きたいんだが、俺のことを宝石か何かと勘違いしてねぇか?恋愛対象じゃなく装飾品として俺を見てねぇか?実は俺が好きなんじゃなくて、俺と付き合ってるというステータスを得た自分が好きなんじゃねぇの?

 

ああ、我が儘だってわかってるよ。今朝襲ってきた須川達みてぇにモテたくてもモテない奴は大勢いる。

無条件でモテることに疑問や忌避感を持つこと自体とても贅沢なことだって理解している。 

俺の人格面はお世辞にも評価される方ではないってこともまあ自覚している。

となると、ステータスを求めて寄ってくる奴が多いのは、それはもう仕方ないことなんじゃないかとわかっちゃあいる。

最悪、そんな見方をされるこはもう仕方ないことなんじゃないかとも……薄々思っていたりはする。

 

 

 

だがよ……何でそんな連中のために、俺が好きなことを我慢しなくちゃならねぇんだ?

 

この際ハッキリ言ってやるが、俺の人生は俺の、俺のもんだ。誰に指図される謂れは無ぇしもちろん従わねぇ。誰かに管理させる気もさらさら無ぇ。お前らが俺を宝石のように認識していることは百歩譲って妥協してやるとしても、俺を宝石のように大事にしまっておこうとするなんざ許されねぇし許さねぇ。自分勝手極まりねぇ、図々しいにも程がある……そうは思わねぇのか?

 

俺の交遊関係は俺が決めるし、俺はスポーツを控えるつもりはさらさら無い。休日にじっとしてることなんざ俺には絶対我慢できねぇし我慢しねぇ。

それでもお前らが俺と一緒にいたいというなら、お前らが俺と同じ土俵まで這い上がってくるしか無ぇだろ?

お前らにとって俺は宝石なんだろ?だったら何の努力もせず、対価すら支払わず手に入れようなんざ……烏滸がましいと思わねぇのか?

 

 

 

 

思わねぇんだろうな……。

 

どいつもこいつもすぐに根を上げて、みっともなく文句を垂れ流すだけの根性なしの軟弱者だったからなぁ……!

 

そのくせ、そうなったら反吐が出るような我が儘を好き放題言った挙げ句、一方的に別れを切り出してくる。

 

見損なった?もう耐えられない?そんな人だと思わなかった?無神経にも程がある?……ははっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけてんじゃねぇよ甘ったれ共が! 

 

自分の言うことを何でも聞いてくれる人がお前達にとっての理想か?そんな相手を探し求めることが……恋愛だとでも言うのか?

 

もしそうだと言うなら、そんなもの俺は認めねぇ……!断じて認めるわけにはいかねぇんだよ!

 

そうだな……例えば、だ。結婚を恋愛の延長戦だと考えるなら、一生を添い遂げようって奴等が対等でなくてどうする?背中すら安心して預けられないような伴侶と、永遠の愛など誓えるとでも思っているのか!

……あぁ、流石にそれは言い過ぎだな、俺もそこまで頭が堅いわけじゃねぇ。訂正しよう、対等でなくても別に良い。

 

ただ、対等で“あろうとしている”ならばそれで良い。

 

力が足りなくても、頭が足りなくても、分不相応の関係であると周りにとやかく言われたとしても、好きになった相手と並び立とうとがむしゃらにもがいているならばそれで構わない。そんな相手ならば俺も安心して背中を任せられるし、たとえそいつが原因で苦しむことになっても俺は間違った相手を選んだとは思わねぇし、そいつを誰かが責めることは是が非でも俺が許さねぇ。

 

そんな相手と結ばれるために頑張ることが恋愛だと言うなら、それはとても素晴らしいものだと心から思えるね。

 

……ん?

 

誰かが俺を呼んでるな。 

 

そろそろ起きる時間かな。

 

ったく、らしくもなく押し付けがましい美意識を長々と語っちまったな……

 

こんなこと……起きている間は……誰にも聞かせられ……ない……な……

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

和真「……んむ?」

秀吉「おお、起きたか和真」

和真「……秀吉か……一応聞いておくが明久達はどうなった?」

秀吉「お主の言った通り失敗じゃった……おまけに島田はもう協力してくれないじゃろうな」

和真「そんなことだろうと思ったぜ。そもそもあのファンタジスタが恋愛絡みで作戦通りに行くと思うこと自体間違いなんだよ」

秀吉「あとはもう、お主達の言う保険とやらが頼りじゃよ……」

和真「まぁ、いざとなったら任せておけ」

 

そう言っていつもの不敵な笑みを浮かべる和真は、先ほどの夢のことなど欠片も覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 




綾倉「柊君からスポーツを取り除くことは誰にもできそうにありませんね」

蒼介「そもそもカズマは誰かに縛りつけられたりすることを心底嫌がる奴ですからね。納得できない指図は受けないし、誰かに従うのもご免被る、ましてや束縛なんて以ての外……常に自由でいることが、あいつの信条なのでしょう」

綾倉「あと、柊君は他人に求めるハードルが随分高いようですね」

蒼介「幼馴染みが私と飛鳥ですからね。昨日より今日の自分が、今日より明日の自分が秀でるようになるため私達は努力を怠らない。特に飛鳥は才能に恵まれなかろうが決して腐ることなく努力し続けてきた女性だから、和真はどうしても比べてしまい、失望せざるを得ないのです」

綾倉「おや?だったら橘さんに告白していてもおかしくはないですね」

蒼介「ところがそうはなりません。まだ明かすつもりは無いですがが、飛鳥と和真は恋愛面において、今回のテーマとは別の所で相性があまり良くありません。そして二人ともそのことを早い段階から薄々わかっています」

綾倉「……なるほど、おおよそ検討が付きました」

蒼介「そんなわけで、木下が自分のシゴキから逃げずに這い上がり対等に肩を並べるようになったことには、内心すごく喜んでいたと思いますよ?」

綾倉「橘さんと違って相性も良さそうですしね。……それにしても艶っぽさの欠片もない恋愛観ですね」

蒼介「ええ、これでは恋人と言うより相棒ですね……」


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五十嵐源太暗殺計画

【バカテスト・化学】
以下の文章の()に入る正しい単語を答えなさい。

『分子で構成された固体や液体の状態にある物質において、分子を結集させている力の事を()力という』

和真の答え
『(ファンデルワールス)力』

蒼介「正解だ。別名、分子間力とも言う。ファンデルワールス力はイオン結合の間に発生するクーロン力と間違えやすいので注意するといい」


源太の答え
『(van der Waals)力』

蒼介「今回は正解にしておいてやるが、次同じようなことしたら容赦なくバツをつけさせてもらう」

ムッツリーニの答え
『(ワンダーフォーゲル)力』

蒼介「何となく語感で憶えていたのだと言う事は伝わった。惜しむらくは、その答えが分子の間ではなく登山家の間で働く力だったと言う事だがな……」


明久の答え
『(努)力』

蒼介「……この解答は嫌いじゃない」


雄二「失敗もいいところだカス野郎」

 

美波と付き合っている演技していたはずなのに何故か恋敵役の姫路と教室に戻ってきた明久に対して、雄二が真っ先に投げかけた言葉は純度100%の罵倒だった

 

姫路「坂本君、失敗ってどういうことですか?」

雄二「どうもこうもあるか。このバカが最後に逃げ出してくれたおかげで、余計に状況が悪くなっちまった。あんなモンを見て島田と明久が付き合っていると思うヤツなんているわけがない」

 

和真が秀吉から聞いた話をまとめると、演技の途中で明久が指の関節を全て外されたらしく、そのことを詳しく説明しないまま保健室に処置の為に走り出したそうだ。タイミングの悪いことにその直前に姫路が演技で怒って屋上から走り出したところであり、結果的に美波からは明久が姫路を追いかけていったように見られてしまった。

せめて自分の指の関節が外れているとか保健室に行きたいとかそれぐらい説明してからなら美波も少しは納得してくれたかもしれないだろうが、明久は詳しい説明も無しに走り出してしまい、最終的に最悪の結果に落ち着いた。

 

和真(なんで付き合っている演技の最中に指間接全部外されるんだよ、なんて野暮なツッコミはしねぇぞ。いつものことだ)

秀吉「せめてもの救いは、島田が明久に好意があるという様子を見せられただけじゃが……恐らく清水を動かすには不十分じゃろうな」

雄二「オマケにもう一度トライしようにも、島田はあの調子な上にお前は姫路と仲良く一緒に戻ってくるときたもんだ」

 

明久が雄二に促されてが美波の状態を確かめるため視線を移すと、とうとう怒りが頂点に達したのか美波は雄二の席から離れた席で不機嫌そうな顔付きで明後日の方を向いていた。

 

姫路「ご、ごめんなさい。私と明久君が一緒に戻ってくるなんて、美波ちゃんと明久君が付き合っているのならおかしいですよね……」

秀吉「まぁ、それはクラスメイトじゃからそこまで不自然ではないのじゃが……。明久が島田を放置していった後で一緒に戻ってくるという状況がマズイのじゃ。周りにどう思われるか、ではなく島田に対してじゃがな」

雄二「とりあえず明久は島田に詫びの一つでも入れておいた方がいいな」

和真(いやいやいや、完全に逆効果だろうがよ……)

明久「そうだね。ちょっと行ってくるよ」

和真(いや行くんかい!?本当にこいつ脊髄反射だけで生きてるなオイ……)

 

明久が考えなしに死地に赴くのを見届けると、和真は雄二に呆れるような視線を向ける。

 

和真「お前バカか?今明久が何言っても火に油を注ぐだけだろうが」

雄二「そんなことはわかっている。アイツのせいで苦労しているんだ、代償くらい払って貰わないと割に合わん」

和真「外道にもほどがあるぞお前……」

雄二「お前にだけは言われたくねぇ」

 

お互いが自分を棚に上げて相手を外道呼ばわりしていると、突然美波の絞り出すような怒鳴り声が教室全体に響き渡る。

 

 

美波「……瑞希、瑞希って、アンタはいつもいつも!どうして瑞希ばっかりいつもお姫様扱いなのよ!じゃあウチはなんなの!?男だとでも思っているの!?どうしてウチにはいつもそんな態度なのよ!」

 

 

その後明久が弁解しようにも美波はもうとりつく島もなく完全に拒絶モードに入ってしまった。どうしようもないと判断した明久は、諦めたようにとぼとぼとこちらに引き返して来た。

 

明久「完全に怒らせちゃったよ……」

秀吉「そのようじゃな」

姫路「ごめんなさい。私も後で美波ちゃんに謝っておきますから……」

ムッツリーニ「……それは時間を置いてからにした方がいい」

秀吉「ムッツリーニの言う通りじゃ。今の島田には明久や姫路が下手なことを言えば逆効果になりかねんからのう」

和真「それどころか俺ですらフォロー仕切れねぇほどのキレっぷりだ。今はそっとしといてやれ」(それにしても島田……お前は何もわかっちゃいねぇよ……)

 

和真は片方の眼に姫路を写しつつ、もう片方の眼で美波を憐れむように見つめる。何か思うところがあるらしい。

 

雄二「それならその話は置いといて、だ。とにかく、このままだといつまで待ってもDクラスからの宣戦布告はないだろう。こっちから状況を動かす必要がある」

 

話題を切り替えても雄二の表情はいつになく硬い。どうやらFクラスの状況はかなり崖っぷちのようだ。

 

雄二「ムッツリーニ。Bクラスの様子はどうだった?」

ムッツリーニ「……現在七割程度の補充を完了。一部では開戦の用意を始めている」

雄二「予想よりも早いな、向こうも本気ってことか。となると……まずはDクラスに仕掛ける前に時間を稼ぐ必要があるな。ムッツリーニ、悪いが須川たちと協力してBクラスに偽情報を流してくれるか?」

ムッツリーニ「……内容は?」

雄二「Dクラスが試召戦争の準備を始めているって感じで頼む。その狙いがBクラスだということもな」

ムッツリーニ「……了解」

明久「ねえ和真、雄二は何を狙っているの?」

和真「多分ただの時間稼ぎだろ。Dクラスに狙われていると知れば、Bクラスは連戦を避けたいと考える。そうなると俺たちへの宣戦布告を躊躇うはずだからな」

 

Bクラスは連戦を避ける為にもDクラスの様子見を見るようになるだろう、場合によってはそのまま戦力をDクラスに向ける必要もあるだろうから。本当ならCクラスが狙っているという話にしたいところだが、残念ながらCクラスは四月にどこぞの蒼の英雄様たった一人に壊滅させられ、宣戦布告の権利を失っている。

 

雄二「それからある程度偽情報の流布が終わったらそっちは須川に一任してくれ。お前には更に他のこともやってもらいたいからな」

ムッツリーニ「……わかった」

 

そう静かに告げると、ムッツリーニは須川のところに向かっていった。情報操作は彼の十八番だ、任せておいてまず心配は要らないであろう。

 

雄二「さて、次は秀吉だな」

秀吉「む。なんじゃ?」

雄二「お前にはDクラスの清水を交渉のテーブルに引っ張り出してもらいたいんだが、頼めるか?」

秀吉「それは構わんが……交渉と言ってもどうするつもりじゃ?」

雄二「どうするつもりも何もこっちの目的は一つだ。清水を挑発して敵意を煽る。向こうが乗ってきたら成功、そうでなければ失敗。それだけだ」

秀吉「清水を引っ張り出しての交渉となると……その場に島田も連れて行く必要があるのじゃろう?」

雄二「ああ。その方が確実に挑発できるからな。下手に同席させると逆効果になることも充分考えられるが、その辺はまあ…和真ががうまくとりなしてくれるだろう」

和真「俺に丸投げかよ……」

 

まあこの男ほど場をとりなすことに適任な人物は他にいないだろう。何せ男嫌いで有名な清水とすら最低限とはいえ親交があるのだから。

 

秀吉「うむ。ならばそちらもなんとかしておこう。機嫌を取り戻すのは無理じゃろうが、交渉に同席してくれるように頼むくらいは可能じゃろ」

雄二「そうして貰えると助かる。今の島田のところに明久や姫路を行かせるわけにはいかないからな」

秀吉「心得た。交渉の場は空き教室、時刻は放課後直ぐで良いか?」

雄二「それでいい。そのくらいの時間までならBクラスの宣戦布告を遅らせることができるはずだからな」

秀吉「了解じゃ」

 

まずはDクラスに向かうことにした秀吉は教室を出ていった。それを見届けてから雄二は和真に向き直る。

 

雄二「そして和真。お前は綾倉から対Bクラス用の暗殺道具を調達してきてくれ」

和真「なるほど、Dクラスへの使者を始末する用のやつだな」

雄二「相変わらず話が早くて助かる」

 

ムッツリーニにの偽情報でDクラスに狙われてると知ったBクラスは、おそらくDクラスと同盟を結ぶための使者を使わせるだろう。そうなると嘘の情報がばれてしまうのでDクラスに辿り着く前に使者を消してしまえ、というのが雄二の作戦だ。

 

和真「任せろ!正直あんま気に入らねぇやり方だが負けるよりはマシだしな、とびっきり強力なヤツを貰ってくるぜ!」

 

そういえば高橋先生すら葬った新作があると鉄人から聞いている和真は、その綾倉特性ドリンクを調達すべく意気揚々と立ち上がる。

 

雄二「よし明久、俺達は新校舎三階をうろつくぞ」

明久「え、時間無いのにそんな暇あるの?」

雄二「これも布石の一つだ」

和真(……布石、か。念には念を入れ、ついでに俺の保険の下準備もしておこうかな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事兵器を調達し終えた和真達一同が、誰にも見つからないように階段の近くで隠れながらBクラスの様子を見ていると、教室からある男子生徒が一人出てくるのが見えた。

 

明久(わ。本当に出てきた……あれ?五十嵐君?)

雄二(そのようだな。とりあえず俺の読みは当たっていたか)

 

出てきた男子生徒は『アクティブ』正規メンバーにしてBクラスの副官である強面の巨漢、五十嵐源太その人である。

 

明久(相手が五十嵐君一人っていうのも予想通りなの?)

雄二(まぁな。Bクラスは点数補充に忙しくて使者に人数を割けるわけがないからな。ここはおそらくDクラスが無下に扱えない奴一人を送り込むだろうと思っていた)

明久(無下に扱えない奴って?)

和真(クラスでも重要なポジションについている奴だ。流石に代表がわざわざ赴くと舐められるからNo.2の奴を送り込むのが定石だ)

雄二(それに五十嵐は合宿先で翔子を真っ向から撃破した実績がある。現在Bクラスでもっとも発言力のある男子だろうからな)

和真(まああいつはクラスを牛耳るとかは「かったりぃ」の一言で一蹴するだろうがな。それがわかってるからこそ根本も重要な役を任せることで何とか手元に置いておこうとしてるんだろうよ)

 

お世辞にも源太は人を率いるに適した人間ではないし、本人からして願い下げであろう。しかしそれとは裏腹に能力はあるため、根本のように権力欲の強い者からすれば絶対に手放したくない人材である。

 

明久(大丈夫かなムッツリーニ?和真の仲間って時点で嫌な予感しかしないんだけど……)

和真(心配すんな、あいつの強さは精々雄二程度だ。恐れるに値しない)

雄二(お前はホント俺を的確にムカつかせてくるなコラ)

 

三人が目をやると、源太はDクラスに向かって歩き始めていた。周囲には大勢というわけではないが人影が少し見える中、源太はBクラスとDクラスの間の短い道のりを悠々と歩く。このままだとあと三十秒もしないうちにDクラスの扉を叩くことになる。

 

明久(雄二、本当に大丈夫なの?)

 

明久が問いかける間にも源太の足は進む。

残りはあと三メートル。

 

雄二(大丈夫だ。ムッツリーニを信じろ)

 

あと二メートル。

ムッツリーニはまだ動かない。

 

明久(けど、もう距離が……!)

 

そして、あと1メートルでDクラス、というところでムッツリーニのカッターが明久達の視界を横切った。

 

カッ

 

明久(……え?)

 

それは源太から少し離れた壁に刺さり、その先にはとある写真が貫かれている。明久達からは見えていないが、和真は天性の直感で何の写真なのかを理解してしまう。

 

『なんだ、アレ……?』

『先に何か貼ってあるな』

『何かの写真、か……?』

 

周りにいた人たちが壁のカッターと写真に注目し、刺さった壁の下にぞろぞろと集まりだした。そしてその最後尾に源太も来ていた。

 

『……(ススッ)』

 

音もなくその背後に迫るムッツリーニ。今は周囲の視線は全てカッターと写真に集まっている。源太を含め誰もその様子に気付かない。

 

『……(ガッ)』

『……っっっ!?!?』

 

暢気に写真を見ようと背伸びをしていた源太をムッツリーニが後ろから羽交い締めにして口を押さえる。源太は目を白黒させて突然の事態に驚いている。

そして、ムッツリーニの手に凶器が見えた。あれは紛れもなく『綾倉特性ドリンクver.3青酢』、あの難攻不落の高橋先生をも葬ったとされる殺戮兵器である。

 

『……(グッ)』

『─っ!─っ!』

 

ムッツリーニがコップを押しつけ、源太はそれを必死になって阻止しようとしていた。

 

他の生徒たちが写真に注目している背後で命を懸けた攻防が繰り広げられている。明久達が息を呑んで見守る中、その戦いはついに決着を迎えた。

 

ゴクッ

 

 

『』

『……(ググッ)』

 

たったひと口飲んだだけで失神した源太に対して、ムッツリーニは情け容赦なく更に青酢の残りを全て押し込んだ。完全にオーバーキルである。

 

ムッツリーニ(…………任務完了)

 

動かなくなった源太を抱えてムッツリーニがこちらに戻って来た。

 

雄二(流石だ、ムッツリーニ。惚れ惚れするような手際だった)

ムッツリーニ(……この程度、何の自慢にならない)

 

雄二の賞賛に対しても眉一つ動かさず、ムッツリーニは手際良く源太の死体をBクラスから見えてDクラスからは見えないような場所に押し込んだ。

 

ムッツリーニ(……これでBクラスが最初にこの死体を見つけるはず)

和真(源太よ、安らかに眠れ……)

雄二(よし。ならもうここに用はない。教室に戻るぞ)

明久(そうだね。次の手を考えないとね)

 

四人は何事も無かったかのようにFクラスへと続く渡り廊下を歩き出す。

 

 

『この写真に写ってるセーラー服の子、結構可愛いな』

『ああ。でもなんかFクラスのバカに似てる気がしないか?』

『私はそれでもいいと思うよ、可愛いし……トーコちゃんカズナちゃんに匹敵するかもっ!?』

 

 

和真(明久ドンマイ……。そしてスマン、美紀の興味がお前に向かえば俺のストレスの原因が消えるんじゃね?と一瞬本気で思っちまった。……青酢さえ残ってりゃ、この場で美紀も始末しているのになぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しかし源太君、この章に入ってろくな目にあってないな……。彼のためにフォローしておくと、彼は決して弱くはありません。リアルファイトの実力は、『アクティブ』でも和真、蒼介に次ぐNo.3です(愛子以外とは割と接戦ですが)。
それをものともしないムッツリーニの隠密術を称賛すべきでしょう。

【ミニコント】 
テーマ:演劇

秀吉「お主には演技の素質がある!というわけで演劇部体験としてこれからワシと劇を一つしてもらうのじゃ」

和真「えらく唐突だなオイ。……まあ良いけど何やるんだよ?」

秀吉「テーマは【勇者と魔王の一騎討ち】じゃ。台詞はアドリブで頼むぞい」

和真「じゃあ勇者で。……コホン……とうとう見つけたぞ魔王よ!世界のため人々のため、貴様を討つ!」

秀吉「フハハハハハハ!神にでもなったつもりか愚かな人間よ!!我の産み出す深遠なる闇は森羅万象いかなるものをも飲み込み駆逐する!!故に滅びよ……勝つのは我だ!!新世界の開闢に散る華となれ!!!」

和真「……やっぱ俺魔王やりてぇ。すげぇ楽しそう」

秀吉「我が儘じゃのう……まだ始まったばかりではないか、もう少し頑張ってほしいのう……」

















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白虎の威光

【バカテスト・国語】

次の熟語の正しい読みを答え、これを用いた例文を作りなさい

『相殺』

姫路の答え
『読み……そうさい
 例文……取引の利益で借金を相殺する』

蒼介「正解だ。差し引いて帳消しにする、という意味なので貸し借りなどに使われる言葉だ」


和真の答え
『読み……そうさつ
例文……不倶戴天の戦士二人は相殺する運命にある』

蒼介「物騒極まりないがこれも正解だ。相殺には“そうさつ”という読みもあり、その場合は“互いに殺し合う事”という意味になる」


明久の答え
『読み……そうさつ
 例文……パンチにパンチをぶつけて威力を相殺した』

蒼介「不正解だが惜しかったな。この場合の吉井の例文では互いに打ち消し合うという意味なので、読みとしては“そうさい”が正解となる」


美波の答え
『読み……あいさつ
 例文……のどかな朝。私は友達と相殺した』

蒼介「ヤンキー用語じゃないんだぞこれは……」






暗殺を終えてから様子を見ることしばらく。六時間目の途中くらいになると、Bクラスはどうやら雄二の思惑通り疑心暗鬼に陥っているらしいという情報が入ってきた。Fクラスは担当教師不在で自習時間になっているので、明久達は雄二の席に集まって作戦会議を進めていた。

 

明久「これで時間稼ぎは成功したのかな?」

雄二「そう長い時間は無理だが、明日ぐらいなら大丈夫だろ」

 

源太が目を覚ますまではFクラスの仕業だとはバレないが、その効果も今日一杯が限界だろう。明日になれば源太も復活して何があったかを根本に話すだろうし、そうなったらBクラスはDクラスに事情を聞きに行くだろう、今度は暗殺を警戒して大人数で。タイムリミットはおおよそ明日の朝まで。朝一にDクラスが宣戦布告してきたら雄二の作戦は成功だ。

 

明久「秀吉。例のDクラスとの交渉は大丈夫?」

秀吉「うむ。清水を引っ張り出すことはできた。予定通り放課後に旧校舎の二階の空き教室に待ち合わせと言う手はずになっておる」

和真「となると、あとはどうやって清水を怒らせるかだが……雄二、ここは任せたぞ」

雄二「言われるまでもない。お前と清水の間にわずかにだが存在しているパイプは割と貴重だ、みすみす手放すのは勿体ない。まあ任せろ、とっておきの作戦がある」

 

何とも頼もしい台詞である。雄二の挑発スキルは和真に勝るとも劣らないので、任せておけば多分大丈夫だろう。

 

雄二「ただし、明久は余計な口を挟むなよ。一応お前と島田がいないと挑発にならないから連れて行くが、下手なことを言われると取り返しのつかないことになるからな」

明久「了解。その辺は全部雄二に任せるよ」

和真(この分だと俺の保険は使わずじまいになりそうだな……ん?)

 

和真の電話(授業中のためマナーモード)が振動する。確認してみると、電話をしてきた相手は翔子の父。いつ連絡先を交換したのだろう。

 

和真「(ピッ)……はい、柊です。……ハイ……わかりました。雄二、翔子の親父さんから」

 

雄二と変わってほしいと言われたため和真は携帯を渡す。雄二の携帯が故障中のため、翔子の父はこんな回りくどい方法をとったのだろう。というかこの男は逆に誰の連絡先なら把握していないだろうか。

雄二はいつもと違ってかなり畏まった口調で電話に出る。その光景はぶっちゃけ爆笑ものであったが、見る見る内に狼狽していく雄二の様子からただ事ではないとはっきりわかった。

 

雄二「!?……わかりました、すぐに向かわせて頂きます(ピッ)……皆、本当にすまん……交渉には参加できなくなった」

明久「ええ!?それは困るよ!だって作戦は全部雄二に任せムグゥ!?」

和真「気持ちはわかるが落ち着け明久。……雄二、何があった?」

雄二「…………翔子の容態が急変したらしい」

「「「なっ!?」」」

 

それはあまりにも予想外の事態である。おまけに雄二のこの狼狽ぶりから、相当ヤバい状態であることがはっきりとわかる。

 

和真「………わかった、後は俺が何とかしておく。お前は翔子の側にいてやれ」

雄二「和真……すまねぇ、ここは任せたぞ!」

 

そう言うと雄二は荷物も纏めずにに鬼気迫る表情で教室を飛び出していった。

 

明久「こうしちゃいられないよ和真!僕達も早く霧島さんのもとへ-」

和真「却下だ。お前と島田は交渉の席に参加すべきだって言ってるだろ」

明久「……っ!?…(ガッ!!)今はそんなこと言っている場合じゃないだろ!?和真は霧島さんが心配じゃ(ガッ……ドゴォッ!)うぐ!?」

 

明久ものすごい剣幕で胸ぐらを掴んで怒鳴り散らすが和真に力ずくで振り払われ、逆に胸ぐらを掴まれ壁に叩きつけられる。そして明久以上の剣幕で和真は声を荒げる。

 

和真「心配に決まってるだろうが!じゃあ何か!?俺らが何もかも放り出して駆け付けて、いったい何の役に立つっつうんだよ!あぁ!?」

 

今まで見たことのないような怒りの形相で睨み付けられ、明久のみならず秀吉もムッツリーニも指先一本すら動かせなくなるほど気圧される。

 

否、気迫ではない。

 

明久は今の和真の顔、そして血が出るほど握りしめられた拳を見てわかってしまった……明久達などよりも翔子が心配で心配で気が狂いそうであるということが。

 

和真「いいか、俺達は医者でも凄腕呪い師でもねぇんだ!出来ることなんざ精々元気に戻ってくることを信じるぐらいしかできねぇんだよ!お前の頭部はお飾りか!?少しは頭使って考えろ!俺達が感情に任せて雄二から託されたものを何もかも投げ出しちまったらどうなるか考えろ!」

明久「そ……それは……姫路さんが……」

和真「そうだ、俺達はBクラスに宣戦布告されたら設備ダウンは免れねぇ!そうなると姫路は転校してしまう!翔子の奴が無事元気に戻ってきたとき、ミカン箱だらけの光景を見て、さらにそのことを知ったら……あいつがどれだけ自分を責めるのか、お前はわかっているのか!?」

 

自分が原因でBクラスの宣戦布告が止められず、間接的に自分が招いた戦いに参加できなかった。そしてそのせいで友人を失ってしまう……後悔の念に囚われること間違いなく、下手をすれば塞ぎ込んで立ち直れなくなってしまうだろう。

 

和真「あいつの側にいてやるのは他の誰でもねぇ、雄二の、雄二だけの役目だ。だったら、今俺達の為すべきことは何だ?答えて見ろ明久」

明久「…………Dクラスとの試召戦争を乗り切ること、Fクラスの設備を守ること、霧島さんの無事を信じて、いつ帰ってきてもいいように最善を尽くすことだよ、和真!」

和真「……やりゃあ出来るじゃねぇか」

 

そう言って和真は明久の胸元から手を離す。

 

明久「……ごめん和真、ちょっと考え無しだった。和真が霧島さんのことを心配していないはず無いのにね」

和真「気にすんな、お前の短絡的な所は短所だが長所でもある。軌道修正してやるのは外部である俺達の役目だ」

ムッツリーニ「……そろそろ時間」

明久「え!?」

 

喧嘩(?)をしているうちにいつの間にか時計はもう六時間目終了時刻を示していた。

 

ムッツリーニ「……どうする?」

和真「一応、最終手段は用意してある。出来れば使いたくねぇから、まずは俺抜きで挑発してくれ」

明久「わかった。とりあえず、参加メンバーは僕ら四人と美波くらいかな」

秀吉「いや、ムッツリーニとワシは待機していた方が良いかもしれん。向こうには『先日の覗きの件について謝罪をしたい』と言ってあるからの。恐らく向こうのメンバーはクラス代表の平賀とDクラス女子代表といったところじゃろうから、こちらもそれに倣って人数を絞るべきじゃ」

 

覗きの件についてと言えば代表の平賀と、少なくとも表面上は覗きに対して怒っていた清水が出席することになる。挑発がうまくいけばその場で宣戦布告をさせることも可能だろう。

 

明久「わかった。それで、その場で謝罪そっちのけで相手を怒らせたらいいってワケだね」

秀吉「うむ。狙いはクラス代表の平賀もそうじゃが、なにより清水じゃ、今Dクラスの行動決定権は清水にあると言っても過言ではないからの」

ムッツリーニ「……男子の発言力は皆無」

 

ムッツリーニの事前調査によると男子の意見は取り合ってもらえず、女子はほとんどが清水に追従しているようだ。

 

明久「それじゃ、清水さんをうまく怒らせよう」

和真「挑発は明久に任せる。俺が中途半端にアイツを怒らせると、最終手段がとれなくなるかもしれねぇからよ」

明久「わかったよ」

 

こうして明久たちはクラスの命運を掛けた重要な交渉の場で、よりにもよって雄二抜きの状態で挑むことになった。

 

和真「……(カチカチカチ)」

 

とある相手にメールを送りつつ、和真は明久を連れて教室を出る。

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

放課後に待ち合わせの空き教室に入ると、中ではDクラス代表の平賀と清水が既にそれぞれ椅子に座って明久達を待っていた。

 

明久「待たせたね」

 

明久が大して悪びれた様子もないように口だけの謝罪を述べる。そもそも謝罪をする側が遅れるなど本来言語道断であるが、あくまでも謝罪というのは名目で明久達の目的は挑発だ。相手を怒らせなければ意味が無い。

 

が、

 

清水「お姉さまっ!お会いしたかったですっ!」

島田「美春!?ちょっと、暑苦しいからひっつかないでよっ!」

 

残念ながら目標である美春は見事に明久達を無視して美波に飛びついていた。というかむしろ美波以外眼中にない雰囲気である。

 

清水「お姉さま……。邪魔者のいない空き教室で放課後二人きりなんて、やっぱり美春のことが」

美波「ど、どこ触ってんのよ!?それとアンタ、周りの連中が見えていないの!?」

清水「ああ、お姉さまの胸は最高です……。そう。まるで波の静かな大海原を彷彿とさせるような……」

 

詩的な表現をしているが、要は『水平線のようにペッタンコ』という意味だ。明久が発言していたら間違いなく半殺しにされていたであろう。

 

清水「お姉さま……美春はお姉さまを心よりお慕いしております……」

美波「や、やめてよっ!ウチにそっちの趣味はないんだから!」

清水「美春はお姉さまのことを、一年360日、常に想い続けているのです……」

 

どうやら盆と正月は忘れているらしい。

 

和真「あー……清水、そこまでにしとけー。一応、島田は明久の……何?恋人?だから、えっと……まあそのなんだ、むやみに手を出すのはやめた方がいんじゃね?うん……」

明久(歯切れ悪ぅぅぅぅぅい!?もうちょっとやる気出してよ和真!?)

 

 

どうやら持ち前の勘が失敗を告げているのか、和真がやる気の欠片もない適当な挑発をすると、清水はようやく初めて美波以外の面子がいることに気がついたような態度で答えた。

 

清水「……柊和真、その様子だとあなたも内心では苦しい台詞だと思っているのでしょう?お姉さまとそこの豚野郎の間になんの関係のないことぐらい、お姉さまの顔を見れば一目瞭然です」

 

いかにも全て知っていると言わんばかりの口ぶりである。どうやら実際に情報収集で二人が付き合っているのは嘘だというのは知っているようだ。

 

美波「……それは……」

 

清水の言葉にリアクションを取りあぐねる美波。明久に対して怒っているので否定したい感情と、先ほどの和真の叫びを聞いていたため肯定しなければいけないという責任感がせめぎあっているようだ。

 

清水「だいたい、そこの豚野郎がお姉さまに相応しいとは思えません」

明久に「…………そりゃ、僕は勉強もできないし部活もやってないけど、でも」

清水「勉強?部活?違いますね。美春が言いたいのはそんなことじゃありません。それ以前の問題です」

 

明久の向上を遮ると、清水はまるで見下すような視線を明久に送りながら言葉を続けた。

 

清水「美春は前々から二人の関係を見てきましたが、そこの豚野郎の態度は最低です」

明久(……思い当たるフシが多すぎる)

美春「同じクラスの姫路さんに接する態度とお姉さまへの態度があまりに違いすぎます」

美波「……っ!」

清水「姫路さんには優しく気を遣い、まるでお嬢様を相手にするかのような態度。それに対してお姉さまへの態度はどうです?全く気遣いも無ければ、異性に対する最低限の優しさする見られないじゃないですか」

 

今の唇を噛みしめている美波は、普段の勝ち気な姿とかけ離れた、捨てられた子犬のような印象を抱かせる。

 

清水「はっきり言えば、そこの豚野郎はお姉さまの魅力に気付いていないどころか、何の気も遣わずに男友達に接するような態度でお姉さまに接している大馬鹿野郎です。そんな男がお姉さまに相応しいかどうかなんて、容姿や学力以前の問題です。それに……」

 

とどめを刺すように、清水は口の端を少し吊り上げて言い放った。

 

 

 

 

 

清水「それに、演技とは言え『好き』とまで言ってくれたお姉さまのことを放って姫路さんを追うなんて、普通は考えられません。もしかして、お姉さまのことを男だとでも思っているんじゃないですか?」

 

美波「ーっっ!!」

 

清水の台詞を聞くや否や、美波が教室から走り去っていった。

 

明久「美波!?」

清水「追ってどうするんです?また男友達に接するように乱暴な言葉でもかけるんですか?そうやって更にお姉さまを傷つけるんですか?」

 

清水の非難するような言葉に明久は思わず足を止め、部屋中にとてつもなく気まずい雰囲気が流れる。

 

平賀「……和真、俺ももう行ってもいいよな?こんなんじゃ謝罪どころの話じゃなさそうだからな」

和真「おう、おつかれ源二」

 

すると、無言だった平賀が気まずそうに立ち上がり教室を出て行った。この雰囲気に耐えられなかったようだ。

切りたくない切り札を切らざるを得なくなった和真は内心ため息を吐きながら友人を見送る。

 

清水「この話し合いに何の目的があったのかは知りませんが、美春はもうあなたを恋敵として認めるようなことはありません。お姉さまの魅力に気付かず、同姓として扱うだけの豚野郎に嫉妬するなんて、時間の無駄ですから。……お姉さまの魅力がわかるのは美春だけです」

和真「あーちょっと待て清水、一つ聞きたいんだが」

 

席を立とうとした清水を呼び止める和真。清水はやや面倒臭いと思いつつも一応聞くことにした。

 

清水「……なんです?」

和真「屋上に仕掛けてある盗聴器、あれお前のだよな?」

清水「だったらなんだというのですか?」

和真「……ハァ……半ば自業自得なんだが、一応先に謝っておくわ」

清水「?柊和真、いったい何を…」

和真「おーい、もう入ってきていいぞー!」

 

美波や源二が飛び出していったのとは別のドアから、一人の女子生徒が教室に入ってきた。

 

金色に輝くセミショート。

 

凛々しくも美しい容姿。

 

洗練された芸術のような肉体。

 

そして、鋼の如き意思の強さを秘めた瞳。

 

 

 

清水「あ……ああああああ飛鳥お姉さま!?」

飛鳥「清水さん、話は全て聞かせてもらったわ」

 

生徒副会長にして“橘”のご令嬢、そして蒼介の許嫁、橘飛鳥その人であった。

紆余曲折で深く関わることを禁じられた清水は、かつての想い人の来訪にパニックになるが、飛鳥は厳格な表情で清水を責め立てる。

 

飛鳥「どうやら蒼介が合宿で貴方が行った盗撮を厳罰に処さなかったのは間違いだったようね。まさか懲りもせず同じ過ちを繰り返すとは……」

清水「み……美春は盗撮なんて……」

飛鳥「言い訳は結構。当の被害者である島田さんからの確かな情報よ」

 

狼狽する清水の弁明を冷たく切り捨てる。普段優しい飛鳥であるが、どうやら相当ご立腹のようだ。

 

飛鳥「恥を知りなさい。貴女に誰かを非難する資格など無いわ」

美春「み……美春はただ……」

飛鳥「……貴方にはそれ相応の罰が必要のようね。本来なら私達Aクラスが貴方達に宣戦布告をしているところよ」

清水「!?」

 

もしAクラスに攻め込まれたらDクラスなど鎧袖一触で蹴散らされてしまう。自分が原因でAクラスが宣戦布告したということはいずれ知れ渡るだろうし、そうなればクラスでの立場などどん底に突き落とされるだろう。それを理解した清水は泣きそうな表情になる。

この女性のことはよく知っている。

普段は誰に対しても優しく接する慈愛に満ちた性格をしているが、同時に一度敵意を向けた相手には一切の容赦もない苛烈な性格を持ち合わせていることを。

 

飛鳥「……でもそれでは、清水さん以外のDクラスの人があまりに可哀想ね。それにFクラスは最終的に覗きの主犯格になったのもまた事実。となると貴方達がすべきことは一つね」

 

突然飛鳥は和真と清水の間に立ち両者をそれぞれ見据えてから、反論など受け付けないといった声色で宣言する。

 

飛鳥「DクラスとFクラスの試召戦争を要求するわ。引き受けるならばこれ以上貴方達を咎めません。でももし断るならばそのときは……私達Aクラスと試召戦争をすることになります」

 

毅然とした表情で告げられたそれは、もはや要求というより脅迫であった。意訳すればこちら側の要求を飲まなければ地獄に落とすと言っているようなものである。

とはいえ和真にとっては予定通りで、一瞬で崖っぷちに立たされた清水も引き受けないという選択肢など存在しなかった。

 

和真「俺達は構わねぇぜ、後で雄二に伝えとく」

清水「……美春達も構いません。明日宣戦布告を行うと約束しましょう」

飛鳥「よろしい。……清水さん、貴女のしたことは許されざることだけど、貴女が島田さんを心から想っていることは伝わりました。……悔い改めるのは今からでも遅くはないわ」

清水「っ!?……はい……!……ごめんなさい……!」

 

思わず泣き出しそうになる清水に先ほどまでの厳格な表情を緩ませ、微笑みかけ慈しむように清水の頭を撫でた後、飛鳥は役目を終えたと言わんばかりに教室から出ていった。

恍惚とした表情を浮かべる清水を一瞥して、和真は呆れるように溜め息を吐く。

 

和真(そういうこと平気でやっちゃうからお前は『彼氏にしたいランキング(女性編)』堂々の第一位なんだよ……)

 

もっともな言い分であるが、男性編で蒼介とトップ争いを繰り広げた和真もあまり人のこと言えない。

不意に、また和真の携帯が振動する。差出人は再び霧島父。内心翔子の安否が死ぬほど気になっていた和真は固唾を飲んで通話ボタンを押す。

 

和真「(ピッ)……はい、柊です……その声、雄二か!……おう……そっか!……良かった……ああ、こっちも無事成功したぜ……おう……じゃあな(ピッ)

……明久、翔子は無事だとよ」

明久「本当に!?良かった……」

和真「見舞いに行こうにも流石に倒れた直後だから面会はできないそうだ。となると、俺達は明日に備えてさっさと帰るぞ」

明久「うん、それなんだけど……和真はちょっと席を外してくれるかな?清水さんと一対一で話したいことがあるから」

和真「……りょーかい」

 

特に断る理由も無かったので、和真はさっさと教室を出ていった。つい先ほどまで恍惚の表情を浮かべていた清水は、再び不機嫌そうな表情に戻り、煩わしいと言わんばかりにに明久を睨めつけた。

 

美春「……なんです?美春に何か言いたいことでもあるんですか?」

 

 

 




綾倉「いやぁ、色々ありましたが最終的に橘さんが全部持っていきましたね」

蒼介「そもそもタイトルからしてネタバレ全快ですがね」

綾倉「しかし橘さんにとっては初の見せ場ですよ。今までは精々木下さんの発射台でしかか活躍していなかったですもんね」

蒼介「否定はできませんがもう少し言葉を選んであげてください」



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再戦、Dクラス!

【心理テスト】
以下の状況を想像して質問に答えて下さい

『あなたは今、独りで森の中で道に迷っています。明かりもなく暗い森の中を進むと、あなたは湖のほとりに小さな小屋を見つけました。これ幸いと中に入るあなた。すると、そこにはイスとベッドと肖像画が。さて、その肖像画に描かれている人物の特徴は? 頭に浮かんだものを3つ挙げてください』

姫路の答え
『1.楽しげな表情
 2.優しい瞳
 3.明るい雰囲気』

綾倉「これは『あなたの好きな人の特徴』についてわかる心理テストです。暗い森はあなたの不安を表し、そんな時に見つけた小屋の中にある肖像画は『あなたの心を支えてくれる伴侶』を表します。どうやら姫路さんの好きな人は、温和で明るくて楽しい人のようですね」


飛鳥の答え
『1.冷静沈着
 2.確固たる意思 
 3.妥協なき精神』

綾倉「それ、どうやって絵で表現すれば良いのですか?」


清水の答え
『1.気の強そうな目
 2.男らしい胸
 3.ポニーテール』

綾倉「最後の1つがおかしい気がします」


美波の答え
『1.折れた指
 2.捻じ曲げられた膝
 3.外された手首』

綾倉「全部おかしい気がします」


『我々Dクラスは、Fクラスに対して宣戦布告を行う!』  

 

翌日の朝、HRの終了直後にDクラスの男子生徒がやってきて高らかにそう告げていった。

 

秀吉「ふむ、何とかここまでこぎ着けることができたのう」

和真「わざわざ飛鳥に借りまで作ったんだ、そうじゃなきゃ困る。あと雄二、貸し1だからな」

雄二「わかってるよ悪かったな……だがここからが正念場だ、ここまでやってDクラスに負けたら何の意味も無い」

 

どうやら翔子の容態は完全に安定したようで、今の雄二の表情に迷いは一切無い。

そう、確かに迷いは無いのだが、朝登校してきた雄二に明久達が翔子に何があったのか詳しく追求すると詳しくはわからないと嘯いていたが、人の表情の変化に聡い和真と秀吉は一瞬雄二の表情に違和感を感じた。間違いなく何かを隠していると和真は確信していたが今は試召戦争に集中しなければならないので、空気を読まず追求しようとした秀吉を黙らせたりした。

 

明久「それで雄二、作戦は?」

雄二「考えてある。だが、その前に戦力の確認だ。今和真と島田と秀吉以外に戦えるヤツがどの程度いるのかを調べる」

 

そう言うと雄二は立ち上がって教壇に上がり、クラスメイト達に指示をだす。

 

雄二「野郎ども、よく聞け!さっき言われた通り、これより俺たちFクラスはDクラスとの試召戦争に突入する!まずは戦力の確認だ!各自、自分の持ち点を紙に書いて持ってくるように!」

 

Dクラスの宣戦布告でザワついていた教室が静まり返り、クラスの全員が紙とペンを取り出す。

先日の覗き騒動である程度使ったからといって、完全に点数を失っているわけでもない。おそらく残りの点数具合から補充するメンバーを選定を行うのだろう。

それにならって明久達も現在の点数を書いて雄二に渡す。ちなみに和真は朝一で補充試験を2つほど受けていたため万全な状態である(400点縛りの枷はまだリスクが大きいので外していない)。

全員分のメモを受け取った雄二はそれを確認しつつみんなに呼びかける。

 

雄二「最初に下位十名に点数の補充をしてもらおう。補充組は教室に残ってくれ。尚、科目は数学を受けるのが七人、世界史と化学と保健体育を受けるのが一人ずつとする。各自の配置は点数確認を終えてから発表する」

 

メモを小脇に抱えて雄二が戻ってくる。

明久は卓袱台にメモを広げて人員配置を始めた雄二と和真に脇から話しかける。

 

明久「ねぇ雄二、和真」

雄二「なんだ」

明久「どうして点数補充をあんなに細かく分けるの?僕らは早く点数補充をしなくちゃいけないんだから、まずは採点の早い数学だけに揃えるべきじゃないの?」

和真「んなことしたらDクラスに備えが無いってバレバレだろうが」

雄二「和真の言う通りだ。今回は極力時間を稼ぐのが目的だからな、戦術云々というよりも心理戦による睨み合いが必要になる」

明久「でも僕らが点数補充をしてないのは皆にバレているんだよ?そんなことしても向こうは警戒してこないんじゃない?」

雄二「そこを警戒させるのが作戦ってもんだろうが。まぁいいから見ていろ」

 

雄二が点数の書かれたメモを見ながらノートを布陣に書いていく。もう頭の中には作戦が出来上がっているのだろう。明久の配置は点数補充ではなく、開戦直後は渡り廊下の防衛戦に参加、和真は……なんと教室待機。

和真は苦言を漏らそうとするも明久の方が早く雄二に質問したため見送ることに。

 

明久「あれ?僕は点数補充じゃないの?」

雄二「お前はまだ点数が残っていたからな。まずは戦死して0点になっている奴から補充していく。それに……お前は特別な人材だしな」

明久「特別って、いやぁ、そんな……」

 

和真は雄二の発言に照れる明久を心底憐れむような目で見てから雄二にも呆れるような目を向けるも、当の雄二はどこ吹く風であった。どうやらまた明久にろくでもない役回りを押し付けるようだ。

 

雄二「今回の作戦でお前は重要な役どころになる。キツいだろうが耐えてくれ」

明久「了解、そこまで言われたら頑張るしかないね」

和真(こいつも学習しねぇなホント……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「いいかお前ら!前回勝ったからと言って相手を舐めるなよ!今回の戦いでは姫路にも翔子にも頼れねぇ!下手に欲をかくと逆に手痛い目を見るハメになるからな!」 

 

出撃前のブリーフィングとして、雄二が教壇に立って皆に説明を始める。

 

雄二「どんなに有利な状況でも決して深追いはするな!決められた場所でひたすら防衛に徹しろ!」

 

下手に深追いなんてすると一瞬でこちらは蹴散らされてしまうだろう。なにせ事前に行った点数調査では、和真と美波と秀吉を除いたFクラス全員の総合点数は10000点未満。既に補充を終えているDクラスの女子が一人当たり約1400点程度とすると、Dクラスは女子だけでも35000点程度。それに更に男子がいるのだから、戦力差は歴然だ。

 

雄二「向こうは圧倒的に有利な女子の総合科目をメインに攻めてくる!島田と秀吉を主軸にうまく立ち回れ!限界まで粘ったら状況によっては教室前まで退いてもいい!以上だ!検討を祈る!」

 

雄二の説明が終わると同時に時計の針が音をたてた。開戦時刻の午前九時丁度だ。

 

『ぃよっしゃぁああーっ!!』

 

渡り廊下や階段を確保するのが目的なので、先行部隊が開幕ダッシュで現場を目指す。向こうもこちらに何かをされる前に勝負をつけようと目論んででくるはずなので、最初はスピード勝負となる。

 

和真「……ったく、この俺に教室待機なんてつまらねぇ役回り押し付けやがって」

雄二「まあ我慢してくれ、これも作戦だ」

和真「……仕方ねぇな、今回だけだぞ」

 

試召戦争における和真の役回りは遊撃がメインとなる。部隊に所属せず単独で行動し、敵のアキレス腱を見つけては攻め込んだり、劣勢に立たされている味方達のフォローに回ったりと、流転する戦況に合わせて臨機応変に立ち回らなければならないため、戦況を常に把握するセンスを問われるポジションだ。そのため、Fクラスで唯一雄二の指示に沿って動かない……のだが、今はクラスの状況が状況なので遊撃に回す余裕などあるはずもない。そのため今回ばかりは雄二の指示に従う必要があることを和真もわかってはいるが、いくら納得できようがどんな思惑があろうと教室待機なんて内容はつまらないのだろう。

 

『どうせウチのことなんて男らしいから一晩経ったら忘れてくれるとか思っていたんでしょこのバカ!もう話しかけないでって言ったでしょ!ウチのことは放っておいてよ!』

 

教室の外から美波の怒鳴り声が聞こえてくる。どうやらあの二人の関係も拗れるとこまで拗れたようだ。

 

雄二「……和真、後でフォロー頼む」

和真「……お前、面倒なこと俺に押し付ける癖あるよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「おう、戻ったか明久」

 

明久が戦線から撤退してくると、予備戦力数名を待機させつつ雄二と和真の二人は教室でまったりしていた。明らかに戦争中とは思えない呑気さに明久は頭の中が「?」で埋め尽くされる。

 

雄二「首尾はどうだ?」

明久「一応言われた通りにしてきたけど……雄二、それより作戦をそろそろ説明してよ」

和真「確かにそろそろ俺も聞きてぇな、なんで俺が教室待機なんだよ?」

明久「そうだよ雄二。どうして和真に残ってもらったの?和真が行けばもっと楽に戦えるはずだよね?」

雄二「そうだな。敵もきっとそう考えるだろうな」

明久「む。何か含みのあるいい方だね」

雄二「向こうはきっとこう考える。『Fクラスはこれだけの戦力を渡り廊下や階段に投入してきたのに、点数が無い姫路はともかく万全な柊が何故出てこない?廊下や階段を制したいんじゃないのか?』ってな感じでな」

和真(なるほどねぇ……)

 

雄二の狙っていることに気がついた和真は、よくここまで知恵が回ると感心する。

 

明久「でも実際に守りたいんでしょ?」

雄二「だからって戦力を注ぎ込んでどうする。俺たちの目的は制圧じゃなくて時間稼ぎだ」

明久「うん。だからこそ、向こうに釣り合う戦力を」

和真「明久、拮抗状態を作るには別にこちらの力を強くするだけが手じゃねぇ。向こうの戦力を小出しにさせることも有効ってことだ」

 

和真の補足を聞いて、明久は先ほど感じた戦闘中の違和感を思い出す。

 

明久「そう言えばDクラスの人達、和真がいないことを確認すると何人か撤退して行ったっけ……つまり、姿の見えない和真を警戒させて、クラス代表の防衛に戦力を割かせているってこと?」

雄二「そういうことだ。特に和真と親交のあるDクラスの代表はこいつの厄介さを熟知しているから、きっと面白いように警戒しているだろうさ」

 

向こうの戦力が少なければこっちの戦力の消耗も少なくて済む上、和真を温存できれば廊下や階段を突破された後の防衛が有利になる。平常時ならひっかからない可能性もあるが、以前の敗戦の経験や和真という抑止力だけでなく、今のFクラスの現状も影響している。

今のFクラスが勝つつもりなら正面突破ではなく奇襲で代表を討ち取るしかない。そんな状況下で十全の状態であるはずの最強の矛が姿を見せないとなれば、平賀は十中八九和真で自分の首を討ち取りにくると考えるだろう。そうなれば向こうも主戦力となる女子生徒をある程度代表付近に置くしかない。

 

明久「それで渡り廊下の女子が戻っていったってわけか……」

雄二「だが、それだけでは不十分かもしれないからな。向こうが強引に突っ込んでくることのないように、更にダメ押しをしておいた」

明久「ダメ押し?」

和真「情報操作か?ムッツリーニに点数補充をさせてなかったから何か企んでるとは思っていたが」

 

教室の中には保健体育の大島先生がいて補充テストもやっているが、保健体育一科目だけで総合点数のほとんどを補えるムッツリーニがいないとなれば、何らかの作戦を遂行しているに違いない。

 

雄二「アイツには『FクラスがDクラスとの開戦を待ち望んでいた』という情報をリークさせた。何の準備も無ければ不自然な情報だが、Dクラスには清水がいる。盗聴器経由でそれらしく伝えるのはムッツリーニなら造作もないことだ」

明久「ああ、そういえばさっきDクラスの人たちも『怪しい情報がなんとか』って言ってたような……」

和真(昨日あれだけ飛鳥に言われたのにまだ外してなかったのか、いや、試召戦争時の情報収集のために残したと考えるべきか)

雄二「昨日の目的不明な交渉も含めて、Dクラスの清水と平賀には思い当たるフシが幾らでもあるはずだからあっさりと信じてくれるだろうな」

和真「確かにその話が伝わればDクラスは更に俺達を警戒するだろうな。『勝ち目のない勝負で開戦を望んでいたとは思えない。Fクラスは何か秘策があるんじゃないか』って」

明久「……あっ!そっか!昨日僕と雄二がDクラスの前をフラついていたアレも!」

雄二「まぁ一応そういうことだ。あの時は単純に点数補充をしてないというアピールが目的だったが、今となっては意味合いが変わってくる。向こうにしてみれば『校舎も違って用が無いはずの坂本と吉井がいたなんておかしい。アレは俺たちを開戦に踏み切らせる為の芝居だったんじゃないか』なんていう疑問になる。偶然が二つ三つと重なるとは考えないのが人間だ。その向こうに何か目的があるんじゃないか、と疑問に思うのは当然だろうさ」

和真(流石の俺も言葉も出ねぇな……こいつならソウスケの“読み”を上回れるかもしれねぇ)

 

こういった話となれば雄二は恐ろしく頭がキレる。伊達や酔狂で神童などとは呼ばれていなかったというわけだ。

 

雄二「向こうは今頃開戦を後悔し始めているだろうな。なにせハイリスクノーリターンの戦いだ。何か切っ掛けがあればすぐにでも休戦に応じるだろうよ」

明久「何かきっかけがあれば、ってことは、更にもう一押しする必要があるの?」

雄二「ああ。最後にもう一つ、手を打つ。敵の頭を討つ為にな」

明久「敵の頭っていうと平賀君?でも、そんなことができるなら休戦なんて……」

雄二「平賀は無理だ。こっちを警戒しているから、間違いなく前には出てこない。だが、今回の勝負ではDクラスの頭は平賀だけじゃない」

和真「……清水か」

雄二「ご名答。清水を落とせばDクラスの開戦派はおとなしくなる。休戦協定を結ぶ為のきっかけ作りにおあつらえ向きの状況が出来上がるだろうさ。……そんなわけで明久。お前には隣の空き教室で清水と一騎討ちをしてもらう」

明久「え?僕がやるの?」

 

予想だにしない指名を受け明久は困惑する。平常時ならいざ知らず、現在の消耗しきった状態でどうこうできるほど甘い相手では無いはずである。

 

雄二「ムッツリーニは点数補充できてない。和真は姿を見せるワケにはいかないし、いざとなったら防衛に加わってもらう必要がある。つまりお前しかいないんだよ」

和真「それに清水の敵意は多分お前に向いている。この空き教室に引っ張り出すには好都合だ」

明久「えっと……ごめんどういうこと?」

 

和真は広げられた校舎の地図の、Fクラスの隣の空き教室に配置された明久の名前を指すが、明久は予想通りいまいち理解できていなかった。

 

雄二「そうだな……。例えば、この空き教室に須川が配置されていたとしよう。もしもお前が戦っている相手だとしたら、そこに須川がいることについてどう思う?」

明久「どう思うも何も……意味のないものにしか思えないけど」

和真「まあそうだな。それじゃあ条件を一つ加えるぞ?そうだな、例えば須川とお前が姫路を巡って争っていたとすると、どう見える?」

明久「……………………須川君が僕を待っているように見えるかな。姫路さんを巡っての話に決着をつけるために」

和真「そういうことだ」

雄二「つまり、だ。この配置は他の連中には首を取る必要もない明久が意味もなく空き教室にいるだけだに見えるだろうが、清水にとってはそうじゃない。明久が決着をつける為に清水を待っているように見えるってことだ」

 

万全でない明久を前線に出したのはこのためである。敢えて最前線に加わらないことで清水に対するアピールとなるのだ。

 

雄二「そんなわけで明久、そろそろ隣の空き教室に移動してくれ。いつ防衛戦が突破されるかもわからないからな」

明久「……わかった、今すぐ移動するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「で?何企んでるんだよお前?」

雄二「何だ藪から棒に」

和真「今の明久の点数じゃあ清水を討ち取れる可能性は極小だ。俺好みのジャイアントキリングな展開ではあるが、お前がこんな分の悪い賭けに全てを賭けるとは思えねぇ」

雄二「お前はホント勘が良いな。そう、俺の本当の作戦は明久の首を手土産に清水に休戦を持ち込むことだ」

和真「相変わらず呼吸をするかの如く明久を生け贄にする奴だなお前は……」

雄二「文句は受け付けんぞ?明久の犠牲一つで戦争を乗り切れるなら他の連中も文句は無いだろうしな」

和真「はいはい。……ところで雄二、もう一つ聞きたいことがあるんだが」

雄二「今度は何だ?」

和真「昨日何があった?」

雄二「っ!?…………悪い、答えられねぇ」

 

突然の問いかけに一瞬呆気にとられる雄二であったが、和真相手に誤魔化しは効かないと判断したのか、正直に拒否することにした。

 

和真「……何かあったことは否定しねぇんだな。まあ、言いたくねぇなら無理に聞きだしゃしねぇよ」

雄二「お前は本当、勘の良い奴だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「……そろそろ時間だな。野郎共、準備は良いか!?」

「「「おうっ!」」」

雄二「ならば良し!敵(明久)は空き教室にありだ!」

和真(光秀かお前は……)

 

点数補充を終えたメンバーと和真を引き連れて、雄二はFクラス教室から出る。戦場は混線状態になっていて、このままではとても空き教室にはたどり着けない。雄二は和真にアイコンタクトで指示を出し、それを受けた和真は一歩前に出る。

 

和真「試獣召喚(サモン)!」

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

幾何学模様から出現した召喚獣の周りに、計10発の大砲が展開される。和真の腕輪能力『一斉砲撃(ガトリングカノン)』である。

 

『げぇっ!?あれは柊の大砲!』

『ま、まずい!皆避けろぉぉぉ!』

『お、おい柊テメェ俺らごと殺る気か!?』

和真「死にたくなきゃ死ぬ気で避けやがれぇぇぇ!(ダダダダダダダダダダ!!!)」

 

和真は召喚獣を呼び出すと同時にガトリングカノンを発動する。やや距離があったため両クラスの生徒達は命からがら避けられたものの、もとより当たるかどうかは二の次だ。砲撃で戦場に雄二達が通れるスペースを作ることが目的なのだから。

 

和真「今だ、さっさと行け!」

雄二「言われるまでもねぇ!」

「「「オォォォォ!」」」

 

雄二率いる明久討伐隊は、空き教室までの道のりを全力で疾走して駆け抜ける。

 

和真「お前らもここは俺に任せてさっさと別の戦場にでも行け!」

『ありがとよ畜生!』

『この恩と恨み忘れねぇからな!』

 

和真はすぐさま闘っていたFクラス生徒達を逃がして殿ポジションに着く。結果、まんまと出し抜かれてやや怒り気味の生徒達に囲まれることとなる。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊和真 3006点

VS

Dクラス 生徒×10 平均1222点』

 

 

『なんだあの点数……?』

『そういえばさっき、総合科目で腕輪能力を使った!?』

『ということは4000点オーバー!?』

 

あまりの点数差に怒りが挫けそうになる女子一同。

そう、和真が受けた補充試験は2つ。1つは合宿先で極限まで点数を消費した英語、もう1つは……かつて苦手としていた数学。英語は枷を嵌めたままなので400点ジャストであるが、数学の点数はもともとは精々Bクラス程度であった4月の頃と比べると、なんと334点まで上昇した。和真の打倒Aクラスに向けての本気度が伺い知れる。

 

『これじゃ四月のときと同じじゃないか……!』

和真「……チッ……なんだよ、せっかくの絶好のチャンスだってのにもう諦めちまうのかよ」

『え?』

 

心底軽蔑したような表情を浮かべる和真に、Dクラス一同は思わず呆気にとられる。

 

和真「どいつもこいつもまるで意味がわかりませんって面ァ並べやがってボケが……おい女子どもよぉ、あれほどぶっ倒したかった元凶の一人が、のこのこと戦場にでてきてんだぜ?」

『……!』

和真「男子もそうだ。お前らが肩身狭い思いをしている現状を作った原因の一人だぜ俺は。悔しくねぇのかよ?」

『……!』

和真「……はぁ、白けた。お情けで能力は使わねぇでやるからよ、せめて少しは食い下がれよ腰抜けども」

 

侮るように、蔑むように、見下すように、嘲笑の笑みを浮かべながら和真は戦闘体制に入る。

 

『…………ス……め……な』

和真「あん?聞こえねぇよ。言いてぇことがあるならよ、腹から振り絞って声出せやヘタレ共が!!!」

 

 

 

 

 

 

 

『『『俺(私)達を……Dクラスをなめるなぁぁぁあああああ!!!!!』』』

 

闘志を極限まで爆発させて襲い来る一同に対して〈和真〉は無造作に槍を振るうが、全員すぐさま武器でガードの体勢に入り必死に受け止める。当然腕力差で一人残らず吹き飛ばされるが、そんなことではDクラスの戦士達は闘志を消やしない。すぐさま体勢を立て直し今度は時間差で和真の召喚獣に突っ込む。

 

和真「そうだそれだよちっとはマシになったじゃねぇか!タイマンで勝てねぇなら数の利を活かせ!どんな状況下でも思考を止めるな心を燃やせ!ちっとばかり格上にぶつかった程度で臆してんじゃねぇぞ!」

 

鬼気迫る表情で向かってくる軍団にやや劣勢に立たされ、直撃はさけてはいるがチマチマと点数が削られていく。しかしそれでも和真は満足気な表情を浮かべていた。

そうだ、勝って当たり前の勝負など不粋極まりない。格上や不利な状況に立たされてこそ戦士としての真価が問われるというものであろう。

我が槍を恐れて闘志を失うなど言語道断、たとえ刺し違えてでも相手の首筋に牙を突き立ててやろうという気概も無しにこの戦場に立つことは許さない。なぜならそんな相手との闘いは、もはや闘いではなく作業でしかないのだから。

逆に言えば、例え格下だろうが相手にそういった修羅の矜持さえあれば和真の乾きは潤う。

 

“闘っている”と実感できる。

 

 

和真「殺されるかもしれねぇって思えなきゃ……ぶっ殺しがいがねぇもんなぁぁぁ!」

 

戦死すら恐れず死に物狂いで向かってくるDクラスの召喚獣達に窮地に立たされていたものの、追い詰められながら〈和真〉はさりげなく一ヶ所に集まるように動きをうまく誘導していた。

 

和真「楽しませてもらったぜ。こいつは俺からの餞別だ、これから先また闘うことがあったら……また闘ろうや」

 

並外れた腕力を駆使して〈和真〉は百烈突きを放つ。Dクラスのメンバーはなんとか避けて反撃しようとするも、一ヶ所に集まった大群など〈和真〉からすればもはや的でしかない上、圧倒的なリーチの差は相手に食い下がることすら許さない。

そして、先ほど彼らが〈和真〉の攻撃をガードできたのは本来の攻撃とは違っていたからだ。槍とは殴るものではなく突き立てるもの、真の力を発揮した巨槍はDクラス程度の守りなど鎧袖一触で貫いた。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊和真 1782点

VS

Dクラス 生徒×10 戦死』

 

 

和真「楽しかったぜ、これこそ闘いだな。……さてと、あっちもあっちでケリが着いてるだろうな」

 

 

 

 

 




雄二に何があったのかはいずれ必ず書きますので気長に待っていてください。短期間で風呂敷を広げ過ぎてもあれなので。

和真君が敵に塩を送るときは、もう当初の目的ざ確実に果たせる段階であることがほとんどです。
つまり、まあ……趣味ですね。バトルジャンキーここに極まれり。

そして明かされた『カズマホームラン』及び薙ぎ払いの弱点。本来の槍の使い方ではないので槍の破壊力や耐久性が落ちてしまうのです。ですから、今回みたいにある程度の負傷は覚悟して全力でガードすれば受けきれないレベルではないし、以前スカイラブハリケーンとぶつかり合ったときあっさり折られたりもしました。







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自覚

【バカテスト】

以下の英文の( )に単語を入れて正しい文章を作り、訳しなさい
『She ( ) a bus』

姫路の答え
『She(took)a bus
訳:彼女はバスに乗りました』

和真の答え
『She(got)a bus
訳:彼女はバスに乗りました』

蒼介「どちらも正解だ。二人には簡単過ぎたようだな」


明久の答え
『She(is)a bus』

蒼介「この英文は何と訳すのだ?一見文章として正しく見えそうだが明らかに間違いだ。日本語として訳せないような文章を書くようではまだまだだな、吉井」


土屋康太の答え
『訳:彼女はブスです』

蒼介「……そうきたか」





和真がDクラスの面々と激闘を繰り広げている間に雄二の目論見通りに進んだようだ。

雄二は点数補充を終えた生徒を引き連れ、和真の突破力で混線状態のFクラス教室待機前を抜けて空き教室に突入して、清水の目の前で明久を粛清と言う名の生け贄にしつつ休戦を持ちかけた。清水にも色々思うところがあったのか、明久を放課後まで補習室に軟禁することを条件に全て水に流し休戦を受け入れた。

現在両クラスともほぼ全ての生徒が放課後になるまでそれぞれの教室で時間を潰している中、和真はとある目的のため屋上へ向かっている。

階段を上りきり扉を開けて屋上に出ると、一人の女子生徒が落ち込んだ表情で佇み、遠くの空を眺めていた。その女子は今回の騒動の発端でもある美波。

 

和真「よお、感傷に浸ってるとこ失礼するぜ。ほい、これ差し入れの飲み物」

美波「……柊、何でよりによっておしるこなわけ?」

 

和真は美波の隣に立ち、途中自販機で購入しておいたお汁粉を差し出す。もうすぐ真夏になるのに冷たいとは言え未だにお汁粉を常備している自販機も謎であるが、それをわざわざ差し入れにチョイスする和真の底意地の悪さに美波は思わずジト目になる。

 

和真「冗談だ。はいレモンティー」

美波「最初からそれ出しなさいよ……」

 

期待通りのリアクションを得られたのか、和真は満足した表情で美波に本命の差し入れを渡す。

冗談一つのためだけにジュース一本分の小銭を浪費した和真の悪戯根性に美波は呆れたように嘆息する。

 

美波「どうしてここがわかったのよ……?」

和真「知っての通り観察は得意なんだよ。お前は感情的に任せてやったことを後悔しているとき、誰もいない場所で一人落ち込むタイプだからな」

美波「一人になりたいって理解してるのに来ちゃう辺りがアンタらしいわね……」

和真「メンタルケアは俺の役目だしな。で、何をそんなに落ち込んでんだよ?」

美波「…………アンタを見ていると、自分が救いようのないバカだって痛感させられるからよ」

 

そう言って美波は顔を伏せる。何を悩んでるのかなんとなく理解はしたが、こういうときは溜め込んでるものを吐き出させた方が良いため和真はそういう方向に持っていくことにする。

 

和真「何でそこで俺が出て来るんだよ?」

美波「アンタ、普段マイペースで身勝手に振る舞ってるのに、翔子が倒れたとき本当は飛んで行きたいのにそれを押し殺してまでアキ達を説得してたでしょ?それに今回の試召戦争でも普段と違って坂本の気に食わない指示に、嫌々でも従ってたでしょ?」

和真「話が見えねぇな、それがどうしたよ?」

美波「アンタは自分を二の次にしてまでクラスのために行動していたのに、ウチは意地になって……ワガママばっかり言って……」

 

伏せているため見えないが多分涙目になっているだろうと推測するも、当然和真は空気を読んでそのことには触れなかった。

 

美波「下手したら瑞希が転校してしまうのに……心の底ではいつもアキに大事にされている瑞希に嫉妬して……それで余計意地になって……心底自分の全てが嫌になるわ!……こんなんじゃアキが振り向いてくれるはずないって、わかってるのにね」

 

感情が高ぶり、途中で堪えきれずに泣き出してしてしまう美波。最後の方には、泣きながら自嘲めいた笑みを浮かべていた。それは満面の笑みとはほど遠い、触れれば壊れてしまいそうな痛ましい笑顔であった。

 

和真「……その様子だと、明久を嫌いになったわけじゃないみてぇだな。じゃあさっさと仲直りして来いよ」

美波「できるならしたいに決まってるでしょ!……でも、もう無理よ……アキに一方的に怒りぶつけて、自分勝手にヘソを曲げて……親友が困ってるのに何の力にもなれなくて……いくらアキでも、もうウチのこと見限ってるわよ……もう何もかも遅いのよ……」

 

そしてとうとう堪えきれず泣き崩れる美波。和真は下手にフォローをいれず、気のすむまで涙を流させた後、ようやく落ち着いた頃に本題に入る。

 

和真「……おい島田、お前に言っておかなきゃならねぇことが、二つほどある」

美波「……グスッ……何よ急に?」

和真「まず一つ目、お前はいつも明久に優しく気を遣われてる姫路が羨ましいんだろうが……姫路はむしろ、お前を羨ましいと思ってるんだぜ?」

美波「どういう……ことよ?」

和真「姫路が『オーバークロック』を発現させたことはもう知ってるよな?」

美波「知ってるけど……それがどうしたのよ?」

和真「誰かに守られてるだけの現状に甘んじてるような奴には、オーバークロックは扱えねぇんだよ」

 

腕輪能力の発展系『オーバークロック』の発現には、二つの条件が必要になる。

一つは召喚獣が戦死すること。これは故意にやっても意味は無く、死力を尽くした末に敗北しなければならない。だから未だ無敗の今の蒼介にはオーバークロックは扱えない。

 

そしてもう一つ必要になるのは……強くなりたいという、心の底の底の底の底の底からの切実な思いである。

 

和真「以前Aクラス戦で姫路が言ってたろ?Fクラスの皆が好きだから頑張れるってよ。まあおそらくその大部分は明久に向いているだろうがな。その後アイツは合宿での騒動で久保に敗北し大きな挫折を味わった。そして自立型召喚獣事件でさらに苦境に立たされたとき、明久の隣に立てるくらい……いや、明久を守れるくらい強くなりたいと心の底から思ったから、あいつはオーバークロックに目覚めたんだよ」

美波「瑞希が、そんなことを思ってたなんて……」

和真「そもそもだな、明久のお前への対応は確かにガサツに思うかもしれんが、言い換えればそれだけ姫路よりも距離が近いってことだしな」

美波「そう……だったんだ……」

和真「そしてもう一つ」

 

自分の嫉妬がてんで的外れなものであったと理解し呆然とする美波に、和真はすかさずあることを問いただす。

 

和真「お前と明久が仲良くなったのは、いったい何がきっかけなんだ?」

美波「えっ?それは……その……」

 

やや恥ずかしそうに美波は語りだした。まだ美波が日本語に不慣れで周りにも馴染めなかった頃に、わざわざ図書室で外国語を調べてまで友達になろうと言ってくれたのだと。

 

それはドイツ語ではなくフランス語だったため一時は勘違いですごい険悪になったけど、全てに気がついたときは自分の全てが救われたような気がしたと。

 

不器用で要領が悪くても明久が自分のために一生懸命になってくれたことが……とても嬉しかったのだと。

 

全てを聞き届けた和真はいつもとは違って優しい笑みを浮かべながら美波を諭すように言う。

 

和真「それをふまえて断言してやる。明久は……お前を見限ってなんかいねぇ……遅すぎるなんてことは断じてねぇんだよ」

美波「……え?」

和真「大して仲も良くない相手にそれだけのことができる奴が、どうしてそんな簡単に人を見限れる?それほどまでに優しい奴が、どうして勇気を振り絞って謝る女子を無下にできるって言うんだよ?」

美波「あ……」

 

心を縛り覆っていたものが全て溶けていくのを美波は感じた。自分はなんてバカなんだろう。どうしようもなくくだらないことをいつまでも悩んでいた。自分が好きになった相手は、バカで、不器用で、それでいて誰よりも優しい男のだというのに。

 

和真「お前が意地を張っていたことを後悔してるなら、やり直すのは遅いどころか今が丁度良いんだぜ。素直に謝りさえすりゃあ仲直りなんざ容易だろうし……そもそもあいつ、はお前が悪いすら微塵も思ってないだろうさ」

美波「……ありがとう、柊。 

うん、そうよ、そうよね……つまらないことでくよくよするのはもうおしまい。

 

……ウチはウチらしく、格好よく前を向いていかなくちゃね!」

 

そう言って笑う美波の顔は先程のような弱々しいものではなく、憑き物が落ちたようにいつもの快活さも取り戻していた。

 

和真「これにてメンタルケア終了。何だったらこのまま勢いに乗じて告白まで……は無理だろうな」

美波「……なによその露骨にバカにしたような顔は」

和真「いやだってお前ヘタレじゃん。それもただのヘタレじゃなく、ヘタレの中のヘタレ……ヘタレの王者、キングオブヘタレじゃん」

美波「ヘタレヘタレうるさいわよ!ゲシュタルト崩壊するじゃない!?……だいたい、そういうアンタはどうなのよ!?」

和真「あん?俺が何だって言うんだよ?」

美波「アンタ優子が好きなんでしょ?なのに未だ友達関係のままズルズル引きずって……アンタも人のこと言えないじゃない!」

和真「………………」

 

拗ねたように言い放って美波は和真からプイッと顔を背ける。意地悪された意趣返しに、和真がどんな反論をしてきてもしばらく無視してやろうと美波は企んでいたが、いつまで立っても和真は話しかけてこない。流石に不審に思って和真に顔を向けてみると、口を閉ざしたまま右手を顎に当てて何やら思案顔で考えているではないか。

 

美波「ど……どうしたのよ?」

和真「そういやその内女子の誰かにでも聞こうと思ってたんだが……なあ島田、

 

 

 

 

 

 

 

恋愛って何だ?」

美波「…………は?」

 

予想だにしない和真の疑問に目が点になる美波。

何ヲ言ッテルンダコイツハ?ついさっきも、まさに恋愛のもつれから生じたわだかまりの解決法を教えてくれたではないか。

 

和真「いや、優子のこと好きか嫌いかで言えば断然好きだし、大切な存在であるか聞かれても否定はしねぇしできねぇ。……だがお前らが明久に、翔子が雄二に向けている好意と同じかどうか聞かれたら……正直答えられない。とぼけてるわけでも隠してぇわけでもなく、判別できねぇからわからないと答えるしかねぇ。丁度良い島田、恋愛とはどのようなものであるか、わかりやすく俺に教えてくれ」

 

和真の真剣な表情から本気で恋愛が何なのか理解していないことがわかると、美波は思わず頭を抱えた。

普段から子どもっぽいだの思春期すら来てないだの揶揄されているのは知っていたが、まさかここまで何もわかってないとは思わなかった。

美波は同級生相手ではなく、年下に教えるように噛み砕いて説明することに決めた。そういえばおあつらえ向きの心理テストがあったのを思い出す。

 

美波「じゃあ想像してみて……優子に嫌われたり、亡くなったり、誰か別の男と仲睦まじくしていたり、逆に優子に好きって言われたりするところを。もしそれで何も思わなかったら恋愛感情ではないから」

和真「なるほど、ふむ……」

 

言われた通りにそれぞれの光景を思い浮かべる和真。

 

 

最初の二つを想像すると、心が張り裂けそうになるのを感じた。

 

 

三番目の内容を想像すると、無性に腹が立つのを感じた。

 

 

そして最後の想像では……どういうわけか、体全体が暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

そして聡明な和真はすぐに理解できた。

 

 

 

和真(…………ふむふむ、なるほどねぇ……

 

 

 

俺、優子のことを……愛してるってレベルで大好きだったのか)

 

そこに思考が至った瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

和真「~~~~~~~~っっ!?!?!?!?!?!?」

 

未だかつて無いレベルで動揺した。

 

美波「…柊!?大丈夫なのアンタ!?」

 

美波が思わず慌てふためくのも無理はない。

あの和真がとてつもなく狼狽している。いつもの死角の一切無いマイペースで飄々とした態度は見る影もなく、ただひたすら余裕をなくして狼狽している。

目の焦点が上下左右に動き回り、動悸はどんどん激しさを増し、沸騰したかのように全身が汗だくになり、さらに顔を真っ赤にして慌てふためくことしばらく……。

ようやく落ち着いたかと思えば、和真は手で顔を覆ってその場にうずくまってしまった。もう何から何まで美波にとっても和真本人にとっても未知の光景である。

 

美波「あ、あの…………柊?」

和真「ヤベェ死ぬほど恥ずい何だよこの展開蓋明けたらベタ惚れじゃねぇか俺骨の髄まであいつにメロメロじゃねぇか俺何かここ最近不注意でぶつかって転んだりとか俺らしくねぇ凡ミスが多くて不可解に思っていたがなんのことはねぇ思い返してみれば全部優子関連だったよあぁ納得しちゃったよ今だけは恨むぞ俺の洞察力何故か最近雄二がことあるごとにやたらニヤニヤしてたのも絶対これ関係だよあの野郎全部知ってやがったないや待てそんなこと今はどうでもいいそれよりもどうしよう俺今後優子の顔直視できる自信無ぇぞオイあいつの笑顔想像しただけで悶え苦しむほど耐性が無いんだぞ今の俺実際に見たら恥ずかしさでショック死するかもしれねぇぞ恐ろしいなオイかといって変に距離置くのは駄目だよなそれこそ追求されて余計追い込まれ-」

美波「ストップストップ!いったん落ち着きなさい!いくらなんでも動揺しすぎでしょ!?」

 

某橘社取締役の如く、壊れたテープレコーダーのように延々と独り言を流し続ける和真を何とかなだめる美波。自らが優子に抱いていた感情を自覚した和真は、今まで平然としていたツケを払うかのごとく羞恥がとめどなく溢れ出ていく。

しばらくしてようやく落ち着いた和真は、美波に視線を移しつつ今までの認識を改める。

 

和真「島田……さっさと告白しちまえばいいのにとか今まで心の中でこけにしててスマンな」

美波「心の中だけじゃなく普通に口に出してたような気がするけど……まあいいわ、続けて」

和真「正直恋愛ナメてた……ここまで感情を掻き乱されるものだとは思ってもみなかった……改めて思うが翔子すげぇなオイ、なんであいつあんな平然としてられるんだ?」

美波「……へぇ~……。……ふふ」

 

落ち着いたものの未だ不安定な和真を見て、ふと美波の嗜虐心に火が点いた。

そういえばこの男には色々辛酸をなめされられたのを忘れていた。缶蹴りの缶を側頭部にぶつけられたり、油性マジックで悪戯書きされたり、実は知らない間に清水への生け贄にされてたり、その他諸々……。

 

 

復讐のとき、来たれり。

 

 

美波「いや~意外ね~、アンタにも意外と可愛いとこあるじゃない♪」

和真「……何が言いてぇんだコラ?」

美波「否定できないでしょ?実は優子にメロメロだった可愛い可愛い柊和真く~ん♪」

和真「~~~~~っ!!!」

 

視線のみで殺せるのではないかと思うぐらいの形相で睨めつけるも、これでもかと赤面した状態では恐くもなんともない。事実、優位に立っていることを自覚している美波相手にはどこ吹く風。反論しようにも自らの感情に嘘を着くのは矜持に反するため、和真は何も言えずに押し黙る。

 

その後、和真がひたすら美波に手玉にとられているうちに放課後を告げるチャイムが鳴った。

のちに和真は語る、これほど動揺した日も、これほどの屈辱を受けたことも、自分の人生で最初で最後の日であったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「さて、今回の話でようやくカズマが優子への想いを自覚したわけだが……」

飛鳥「正直、和真以外にとっては今さらよね」 

徹「何だったら当事者の優子ですら薄々気づいていたぐらいだもんね」

源太「優子本人は自覚してくれるまで待つつもりだったみてぇだけどな」

蒼介「さて、恋心を自覚した和真はどういった行動を取るのか、次回を楽しみに待っていてくれ」



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第四巻終了

タグに「オリ×優子」を付け足しておきました。


美波「……いい加減機嫌直しなさいよ、ウチもからかいすぎたと思ってるから」

和真「やかましいわボケ、全然悪びれてねぇのが見え見えなんだよ。……つーかよ、余裕でいられんのも果たしていつまで持つかねぇ?これからお前には『明久と和解する』っつう最難関ミッションが待ってるんだからな」

美波「アンタ言ってたじゃない、ウチが素直になれば全部元通りだって。ついさっきあんな珍しいもの見ちゃったウチに恐れるものは何もないわ」

和真「こいつの今日一日の記憶を跡形もなく抹消してやりてぇ……そうだ、簀巻きにして清水の前に放り出してやろうかな」

美波「悪かったから!本当に悪かったと思ってるからそれだけはやめて!?」

 

和真と美波はFクラス教室に向かっていた。放課後になったのでDクラスとの試召戦争は終結したので、明久も鬼の補習から解放されて教室に戻っているだろう。

 

美波「そういやアンタこれからどうするの?また……えーと、『アクティブ』だっけ?の活動でもするの?」

和真「いや、ちょっと用事ができたから今日は休みにしておいた」

美波「ふぅん、用事ねぇ?何々、優子に告白でもしちゃうわけ?」

和真「あぁそうだが、だったらどうだっつうんだよ?」

美波「ごめんごめん、冗談に決まって…………え?」

 

ちょっとした意地悪のつもりで聞いたつもりが、まさかの即肯定に美波は目を点にしてしばらくフリーズする。しばらくして脳が情報を処理し終えると、美波は困惑した表情で和真に詰め寄る。

 

美波「いやいやいやいや待って待って!?もう告白!?決断早過ぎない!?さっきまであんなに動揺してたのにもう耐性がついたの!?」

和真「大声で捲し立てんじゃねぇよ……だいたい耐性に関してはお前が原因だっつの」

 

今さら言うまでもないが和真は割とプライドが高く、それでいて比肩する相手が蒼介しかいないほどの、度を越した負けず嫌いだ。いつまでも良いように弄られるのはとても腹が立つので、全細胞、全神経がすぐさま羞恥に対する免疫を作り出したのだ。

 

美波「いや、でも……そんなすぐに告白しちゃって良いの?」

和真「あいつのこと大好きだってわかったんだ、しない選択肢なんざ無ぇよ。俺は自分に正直に生き、言いたいことは言っちゃうし、やりたいことはやっちゃう人間なんだよ。ツンデレのお前とは違ってな」

美波「誰がツンデレよ!?…………でもアンタが羨ましいわ、ウチはなかなか勇気が出せないってのに。アンタ、振られたらどうしようとか思わないの?」

 

美波が明久への好意を自覚しているにもかかわらずまるで進展しないのは、姫路の存在やついつい照れ隠しに逃げてしまうことももちろんあるのだが、一番の理由は振られることを恐れているからだ。なのにこの男はそんなこと何でもないかのように告白を決断したのだ。思わず嫉妬してしまうほど美波にとって羨ましいことだ。そんな美波の心情とは裏腹に和真は何でもないように告げる。

 

和真「そもそも前提からして違うな、振られることを恐れてないんじゃねぇ、振られるとは微塵も思ってねぇんだよ」

美波「そ……それはちょっと自信あり過ぎない?優子に好かれてる確信でもあるの?」

和真「ある」

美波「え!?」

和真「何度も言ってるだろ?観察は得意だって。というか、さっきアホみたいに悶えまくった理由の半分くらいは自分の気持ちを自覚したのと同時に、今まで謎だったあいつが俺に向けている感情についてわかっちまったからで…………」

 

顔を赤面させ思わず目線を明後日の方向に向ける和真。どうやら完璧に克服できたわけではなさそうだ。美波はまたからかいたい衝動に駆られるものの、簀巻きにされては敵わないので断腸の思いで我慢することにした。この男はやると言ったら本当にやる男だ。

そんなこんなで気がつけば教室に着いていた。

 

美波「着いたわね。……どうしよう、今更緊張してきた」

和真「ホントお前は俺の予想通りの反応をするよな…………あん?」

 

『~~~っ!!』

 

ドアの前で美波が躊躇していると、中から明久らしき騒ぎ声が聞こえてくる。和真は人差し指を口元に当てて美波に静かにするよう指示し、バレないようにドアをそっと開ける。

 

『何を言ってるんですかっ!いつもお姉さまに悪口ばかり言って、女の子として大切に扱おうともしないで!』

『うん。それは清水さんの言う通りかもしれない』

『だったら、お姉さまの魅力の何を知っていると言うんです!』

『確かにお姫様みたいに扱っているわけじゃない。男友達に接するみたいに雑な態度になっているかもしれない。けどね……』

 

清水「この声……アキと美春?」

和真「おそらくムッツリーニが昨日の会談の最後に清水と話し合ってたのを盗聴してたんだろ」

 

教室内で明久が暴れるのを秀吉が押さえ込んでいる。どうやら明久にとってよほど聞かれたくないことなのだろうが、好奇心旺盛な二人は盗み聞きを続行する。

 

『けど、なんですか?』

『……けど、僕にとっては美波は、ありのままの自分で会話できて、一緒に遊んでいると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草が可愛い、

 

 

 

とても魅力的な女の子だよ』

 

隣にいた美波が先ほどの和真に負けず劣らず顔を真っ赤にして、脱兎のごとくすさまじいスピードで逃走するを見届けた和真は思わず肩を竦める。

 

和真(やれやれ、当初の予定とは違ったが……これでもう丸く収まっただろ)

ムッツリーニ「……和真、今島田がいなかったか?」

 

気配を察知したムッツリーニが、ややばつが悪そうな表情で教室から出てきた。

 

和真「さぁてな、聞かれて困るもんでもねぇしどうでもいいだろ」

ムッツリーニ「……それもそうだな」

 

その後、ムッツリーニとともに教室に入った和真に羞恥で自暴自棄になった明久が襲いかかるも、結果はまあ……お察しである。

 

 

 

 

 

 

明久への私刑を終えたのち、和真は校門で待たせている優子のもとに急ぐ。校門にたどり着き、優子の姿を確認すると嫌でも意識させられたものの、高いプライドと秀吉に太鼓判を押された演技力を駆使して表に出さないで声をかける。

 

和真「よう優子、待ったか?」

優子「あ、和真。……?……!……待ったわよ、わざわざメールで場所を指定しておいて、それで遅れてくるってどうなのよ……」 

 

優子は一瞬何か不可解な表情をしたのち、すぐに何かに納得した表情に変わり、そして呆れたように和真を詰る。

 

和真「あー……スマン、襲ってくる明久(バカ)を入念にいたぶってて」

優子「つまり早めに切り上げてれば遅れなかったわけね……それで和真、どうして今日アクティブの活動を行わなかったのよ?」

和真「そりゃあ試召戦争で疲れて-」

優子「つくならもう少しまともな嘘を選びなさい。アンタはテスト勉強関連でたまった鬱憤は、思いっきり体を動かして晴らすタイプでしょうに」

和真「……やれやれ。わかっちゃあいたが、今の俺じゃどうしようもねぇな」

 

平常時でも優子に隠し事をするのは至難の技なのに、表面上は取り繕っていても心の中ではがっつり動揺してる今の和真では腹の探り合いで優子にかなうはずもなかった。

 

和真「優子、お前に言いたいことがあるんだ」

優子「うん」

 

静かに傾聴する優子の目を真っ正面から見つめ、覚悟を決めて和真は想いを打ち明ける。

 

 

 

 

 

和真「あなたを心から愛しています。

もしよければ、これから先もずっと俺の側にいてください、優子」

 

優子「その言葉をずっと待っていたわ。不束者ですが、こちらこそよろしくお願いします、和真」

 

やや顔を赤らめながら手を差し出した和真に対して、優子は心の底から嬉しいと言わんばかりの満面の笑みで手を取り、告白を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手をつないで下校中、和真は先ほどどうしても納得のいかないことがあったので優子に訊ねる。

 

和真「……なあ優子、一世一代の告白をしといてなんだが……いくらなんでもあっさり受け入れ過ぎというか、もう少し慌ててくれてもいいんじゃねぇか?」

優子「薄々予想できたからよ。アンタ、隠せてたつもりか知らないけど、来たときからすごく動揺してたでしょ?」

和真「……オイマテ。ってことは何か?お前、俺がどうやって切り出そうか内心ですごく葛藤してたこととかその他色々、全部筒抜けだったと?」

優子「アタシを誰だと思ってるのよ?自他共に認める演劇バカの姉よ?ふふ、恥ずかしがりながらもアタシに想いを伝えようと頑張っていた和真、とっても可愛かったよ♪」

和真「男に可愛いとか言うんじゃねぇよ畜生!?

もう嫌、泣きそう……」

優子「(キュン)……よしよし。ごめんなさい、からかい過ぎたわ」

 

身につけた耐性を嘲笑うかのような特大の羞恥に襲われ、やや涙目になり思わず顔を覆ってしまう和真を見て、潜在的な母性が爆発したのか、優子は慈しむような笑顔を浮かべながら和真を抱き抱えて頭を優しく撫でる。あやされてるようで余計恥ずかしくなるものの、正直満更でもなかったため和真はしばらくされるがままになる。

しばらくして持ち直すと、和真はやや名残惜しそうにしつつも優子から離れ、下校を続ける。

 

和真「そ、そろそろ家の方向違うな。また明日-」

優子「待って和真。アタシからも一つ聞きたいんだけど、こうして恋人同士になったわけだけど、以前とどう変わるの?」

和真「……」

 

何気ない優子の問いに、和真はしばらく右手を顎に当てて熟考し、しばらくしてから結論が出る。

 

和真「いや、特に変化は無いな」

優子「でしょうね……そもそもアンタ今までも誰かと付き合ったからといって、生活パターンの変化まるで無かったもんね……」

 

和真は優子を愛しているのと同じくらい、スポーツもこよなく愛している。そして優子も和真の影響で文武両道に目覚めているため、今後も二人の関係はデートスポットのチョイスに登山だのストバスだのといった、過剰なほど健全な付き合いをしていくのだろうと容易に想像がつく。

 

優子としてもAクラス代表代理として不純異性交遊に現を抜かすのはどうかと思っているのでそのことに対して特に不満は無かったが、同時に一つぐらい恋人らしいことをしたいと思ったからといって、いったい誰が咎められようか。

 

そこまで考えてから優子は、告白は向こうがしてきてくれたんだし、今度はこちらが勇気を出す番だと考え、和真に気づかれないように顔を近づける。優子は和真を害するつもりは微塵もないので、お馴染みの天性の直感は今回クソの役にも立たないのが幸いし、楽々と接近に成功する。

 

優子「ねえ、和真」

和真「なんだゆう……!?!?!?」

 

 

 

気がつけば優子の唇が和真の唇に重ねられていた。

鼻腔に入り込んだシャンプーのいい匂いと柔らかく温かい唇の感触を脳が理解すると同時に、和真は弾かれたように優子から距離を取った。

 

和真「お、おおおおおおおおおお前!?いき、いきなり何してんだよっ!?」

優子「恋人同士なんだしキスくらい良いじゃない♪というか和真、アンタあれだけの数の女子と付き合ってたのにウブにもほどがあるんじゃない?」

和真「ふざけんじゃねぇよ!?そう易々と誰かに唇を許すほど俺の貞操観念は緩くねぇんだよ!」

優子「そういえばそうよね……アンタ軽薄そうでいて、実はそっち方向にはガッチガチの堅物だもんね……代表と飛鳥の影響かしら?」

 

名家出身の蒼介と飛鳥の二人は時代錯誤と言っても過言でないほど堅物といえる。具体例を上げれば婚姻を結んでいない異性とは、同じ部屋で寝ることすらタブーと考えている。たとえやましいことを考えていなくてもだ。

和真はそんな二人と幼馴染みなのだ、おそらく二人の影響を受けて貞操観念がしっかりしたのだろう。

 

そこまで考えて、優子はあることに気づく。

 

優子「あれ?ってことはさっきの……アンタのファーストキス?」

和真「……………………(コクリ)」

 

何度目になるのかわからないがまた顔を赤面させて頷く和真に、優子は何と声をかけていいのか戸惑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「えーっと…………………………ごちそうさま?」

和真「もう無理ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

羞恥心がキャパシティを天元突破したのか顔色が茹で蛸のように真っ赤に染まり、とうとう耐えきれなくなり世界を狙えるのではないかと思うほどのスピードで逃走する和真。

 

この日……柊和真は木下優子に、ありとあらゆる面で敗北を喫したと言えるだろう。

 

そう、例えば……我慢比べや演技すらも。

 

優子「…………ふうっ……危ないところだったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【島田家】

  

ガチャッ

 

「あ!お姉ちゃん、お帰りなさいですっ!」

「た、ただいま……」

「?お姉ちゃん?どうかしたですか?お顔が真っ赤ですよ?」

「葉月、どうしよう」

「???何がですか?学校で何かあったですか?」

「あのね、葉月……」

「はいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【木下家】

 

ガチャ

 

「ただいま帰ったぞい」

「~~~っっっ!!!」

「ん?姉上、なんで顔を真っ赤にしながらソファーに顔を押し付けてるのじゃ?」

「……秀吉……どうしよう……」

「???いったい何があったのじゃ?」

「あのね、秀吉」

「んむ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「お姉ちゃん……もう、どうしようもないぐらい、人を好きになっちゃったかも……」」

 

 

 

 

 




蒼介「さあ、今回で第四巻は終了だ」

飛鳥「試召戦争はほとんどカットして、潔いぐらい恋愛一色だったわね」 

徹「さて、今回は主人公である和真が見事!優子と結ばれたことを記念して、」

源太「俺様達『アクティブ』に所属しているメンバーが大集合だぜ、イェーイ!」

和真「……お前らアレだろ、わかってんだよ。記念とか何とか言ってるけどよ、それにかこつけて俺を弄り倒そうって魂胆なんだろ?」

源太「よくわかってんじゃねぇか。なあ?可愛い可愛い和真君♪」

和真「走れ稲妻!(ズガァァァァァン!)」

源太「ごっふぁあああっ!?」

飛鳥「雉も鳴かずば何とやら……」

蒼介「10mくらいは飛んだな」

徹「まあ、ここで弄るのはやめておこうか」

和真「む。えらく素直じゃねぇか?」

徹「どうせしばらく本編でも弄られ続けるだろうし」

和真「……ハァ……世界滅べ」

蒼介「お前はテロリストか」

和真「優子に手玉にとられるならまだしも、第三者につっつかれると死ぬほど腹立つんだよ!」

飛鳥「優子になら良いのね……」

蒼介「ここだけの話、カズマの裏設定の一つに『意外と甘えたがり』というものがあってだな」

和真「ちょっと待てソウスケ!?なんだよそれ、初耳だぞオイ!?」

蒼介「和真は作中でも述べられた通り父親とは隙あらば喧嘩する仲だ、甘えるという選択肢など始めから無い」

和真「当たり前だ」

蒼介「そして、母親はというと……カズマの母親は日頃父親の起こした騒動の尻拭いを嫌な顔一つしないでして回っているという非常に人間の出来た人でな、カズマはそんな母を尊敬していると同時に、これ以上負担をかけてはいけないと幼少の早い内から遠慮を覚えたようだ。結果、両親に甘えたことが今までほとんどなかったらしい」

和真「あー、うん。まあ、そうだな……」

蒼介「だから和真は深層意識で人に甘えたいと思っていた。だから普段から側にいてくれて、自分の身体を心配してくれたり、色々と甲斐甲斐しく世話をしてくれる木下に心底惚れ込んだというわけだ」

和真「冷静に分析されると余計恥ずいからやめてくんない!?幼馴染みからの心からのお願い!」

徹「本編では他人に甘ったれだの何だの言っておいて、蓋を開けたら自分が一番甘えたがっていたと……ぷっ」

和真「轟け雷鳴!(ズガァァァァァン!)」 

徹「がはぁあああっ!?」

飛鳥「後書きだからってポンポン必殺技打つのやめなさいよ……」

和真「仕方ないだろ?これは衛生上の問題だ。アイツらは臭い、生かしてはおけない」

飛鳥「どこの世紀末よ……」

蒼介「メンバーも大分減ったようだしそろそろお開きにしようか。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「じゃあな~」

飛鳥「ばいばい!」


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第五巻開始・紅白戦

【バカテスト・英語】

以下の英文を正しい日本語に訳しなさい。
『Die Musik gefallt Leuten und bereichert auch den Verstand.』

美波、飛鳥の答え
『音楽は人々を楽しませる上に、心を豊かにします。
 ※これは英語ではなくドイツ語だと思います』

雄二の答え
『出題が英語ではなくドイツ語になっている為に解答不可』

蒼介「どうやら違う問題が混入しまったようだな。日本語訳は飛鳥達の解答で正解だ。今回は教師側の手落ちなので無記入の人も含め全員正解にするとのことだったのだが……」


ムッツリーニの答え
『    ←あぶりだし』

明久の答え
『    ←バカには見えない答え』

蒼介「お前達だけは例外として無得点だそうだ」



「……雄二」

「なんだ翔子?」

「……携帯電話を見せて欲しい」

「どうした?なんでいきなりそんなことを言い出すんだ?」

「……昨日、TVで言ってたから」

「TVで?何を?」

「……浮気の痕跡は携帯電話に残っていることが多いって」

「ほほぅ」

「……だから、見せて」

「断る」

「……歯を食い縛って欲しい」

「待て!今途中経過が色々飛んだぞ!?いきなりグーか!?グーで来る気か!?」

「……見せてくれる?」

「あー……。いや、それがだな、今日はたまたま家に忘れて(ドゴォォ!!)ぎゃぁああ腹があああ!?」

「……最初からこうするべきだった」

「結局タイガーショットじゃねぇか!歯を食い縛れってのは何だったんだ!?フェイクだったのか畜生!」

「……残念ながら、ライトニングタイガーは習得できてない」

「習得出来てたら俺の腹に食らわせてたのかお前は!?鉄人さえ負傷させたあの殺人技を!なんだこいつ先日まで病み上がりだったとは思えねぇほどアグレッシブだ!?」

「……雄二。手をどけて。携帯電話が取れない」

「わ、渡さねぇぞ!やっと直って返ってきたばかりだってのに、お前なんかに奪われてたまるか!」

「……抵抗するなら、ズボンとトランクスごと持っていく」

「トラ……っ!?百歩譲ってズボンはまだしも、トランクスは関係ないだろ!?俺に下半身裸の状態で登校しろと言うのか!?」

「……男の子は裸にYシャツ一枚だけの格好が大好きってお義母さんから聞いた」

「違う!好きだからって自分がなりたいワケじゃねぇ!そこはかなり大事なところだから間違えんな!」

「……それに、私も雄二のその姿を見てみたい」

「お前は変態か!?」

「……変態じゃない。幼馴染の私には、雄二の成長を確認する義務があるというだけ」

「ええい、ベルトに手を伸ばすな!ズボンのホックを外そうとするな!わかった!渡す!携帯電話を渡すから!」

「……………そう」

「翔子。なぜそこで露骨にがっかりした顔をするんだ」

「……それじゃあ、携帯電話を見せて」

「やれやれ、あの……。頼むから壊してくれるなよ、機械音痴」

「……努力する」

「そうしてくれ」

「………………」

「しかしあのオッサン半端ねぇな、マジでもう完治してやがる……それでどうだ?何も面白いものはないだろ?わかったらおとなしく携帯を返し……だから待て!なぜ俺のズボンに手をかける!?携帯はもう渡してあるだろ!?」

「……私より、吉井の方がメールも着信も多い」

「あん?それがどうかしたのか?」

「……つまり、雄二の浮気相手は吉井ということになる」

「いや、ならないだろ」

「……だから、お仕置き」

「どうして俺の周りには性別の違いを些細なことと考える連中がこうも多いんだ……?いいか翔子、メールの内容をよく見てみろ、ただの遊びの連絡だろ?」

「……でも」

 

PiPiPiPi

 

「っと、メールか。今のは俺の携帯だよな?確認するから携帯を……いや、違うな。携帯よりも先に、スリもビックリの手際で抜き取った俺のベルトを返すんだ」

「……ダメ。返さない」

「は?何で……ってうぉぃっ!?今度は更にズボンを取る気なのか!?ここは天下の往来だと……いやいや、わかった!俺も大人だ。千歩譲ってズボンは渡してやってもいい。だからせめて、トランクスだけは……!」

「……ダメ」

「お前は正気か!?自分が何をしているのかわかっているのか!?」

「……浮気は、絶対に、許さない……!」

「畜生!さっきのメールには何が書いてあったんだ!?」

 

 

 

 

 

【Message From 吉井明久】

雄二の家に泊めてもらえないかな。今夜はちょっと……帰りたくないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学期末、そろそろ真面目な生徒達が期末テストの勉強を進め始める頃、成績優秀者で構成されている『アクティブ』は先日ようやくラクロス部へのリベンジを果たしたことで一旦ピリオドを打ち、テスト勉強のため早朝から今学期最後の活動に励んでいる。その内容は……

 

『くそ、また柊だ!?』

『誰か!誰か奴を止めろォォォ!!!』

和真「無駄無駄ァ!何人たりとも俺のドリブルは止められねぇよ!」

 

サッカー部に混じっての紅白戦である。ちなみに和真と優子は赤組に、蒼介と徹と源太は白組に所属している。得点は今のところ2-0で赤組がリードしている。というのも、白組側のパスワークが優子と和真の連携にことごとくカットされ終始白組のペースで進んでいるのだ。ちなみに和真にフリーで打たれたシュートは計4本。むしろその状況で2失点に押さえ込んでいるキーパーの蒼介を褒めるべきだろう。

 

源太「いい加減に止まりやがれ!」

和真「邪魔だぁぁぁ!」

源太「ぐぅぅ……!完全に力負けしてやがる!」

和真「……(チラッ)」

優子「!……(コクン)」

 

自チームラインまで下がって自慢のガタイを利用したタックルをしかけた源太だったが、体格で勝っているはずの和真に吹き飛ばされてしまう。そのまま和真は優子にアイコンタクトをしつつ切り込み、ペナルティーエリア外からシュート体勢に入る。

 

和真「走れ稲妻!!」

 

ズガァァァァァァアアァァァン!!!

 

ボールを蹴った音とは思えない轟音とともに、和真の放ったライトニングタイガーはゴールに吸い込まれるように飛んでいく。しかしそうはさせまいと蒼介が飛び付く。

 

蒼介「なめるなァァァァァ!」

 

バシィィィッ!!!

 

キャッチしにいくのは成功するか不確定だと判断し全身全霊でのパンチングを行いボールの側面を正確に捉え、何とかボールを弾くことに成功した。

 

蒼介「っ!?しまった!?」

和真(もう気づいたか、だがそれでも遅ぇ!お前は一か八かだろうが是が非でもキャッチに行くべきだったな、何故なら弾かれたボールの先には……優子がいる!)

優子「和真、パァスッ!」

 

事前にアイコンタクトを受けていた優子は、白組のDFがボールに向かうよりずっと早くに飛び付きノートラップで和真に返球する。驚くほど正確に出されたパスに、和真は同じくノートラップシュートでゴールを狙う。

 

和真「轟け雷鳴!!」

 

ズガァァァァァァアアァァァン!!!

 

蒼介「ハァアアアアア!!!」

 

たぐいまれなる洞察力でいち早く和真達の狙いを看破していた蒼介は第二撃目にも何なく追い付きパンチングで防ごうとする。

しかし和真のシュートした場所は既にペナルティーエリア内、エリア外でさえ2回に1回しか止められないのに、エリア内からシュートを打たれればどうなるか。

 

ズバァァァァン

 

蒼介「ぐぅ……!」

 

当然、ボールは蒼介の手を軽々と弾き飛ばしそのままゴールに突き刺さった。そこで試合終了のホイッスルが鳴る。

 

和真「優子!」

優子「和真!」

「「イェーイ!(パァーン!!)」」

 

完全勝利を果たし、意気揚々とハイタッチをする『アクティブ』きっての黄金コンビ……兼カップル。そんな二人を遠目から見る白組の凸凹コンビ。

 

源太「……なぁ、あいつら付き合うことになったんだよな?今までと何も代わってねぇじゃねえか」

徹「まあ和真が自覚してなかっただけで、あの二人が相思相愛なのは僕らの間で周知の事実だったからね。あ、でも二人きりのときはちょっとだけ変化があるよ」

源太「へぇ……面白そうだから詳しく」

徹「優子が母性愛に目覚めたのか、ひたすら和真を猫可愛がりしてるみたい。この前優子が和真の喉元を延々とくすぐっていたよ」

源太「猫可愛がりっつうかもう猫そのものじゃねぇか!?というか和真も何でされるがままなんだよ!?」

徹「もう慣れたんじゃない?散々僕達に弄り倒されたことで和真も耐性がついたとか」

源太「まじか、もうちょっと弄りたかったのに……」

徹「あ、それとくだらない口喧嘩をめっきりしなくなったね」

源太「あん?そういやそうだな。以前は呼吸をするかのように痴話喧嘩してたのによ」

徹「以前までの痴話喧嘩もほとんど和真から仕掛けてただろう?和真が控えるようになったから減ったのさ」

源太「へぇ……。でもなんで控えるようになったんだ?人を弄るのが大好きなアイツが」

徹「まあ、惚れた弱みって奴だろうね」

源太「どういうことだよ?」

徹「口喧嘩を吹っ掛けても言い負かされるとわかってるんだと思うよ。今は何とか平然と取り繕えてはいるけど、内心では優子にデレッデレだろうし」

源太「あいつツン成分0だもんな。……それにしてもあの和真が……プククッ……駄目だ笑いが止まらねぇや……ふふははは!」

徹「ククッ……やめろよ源太っ……!僕まで釣られて……はっははは!」

「「あっはっはっはっは!」」

和真「いいとこなしで惨敗したのに元気が有り余っているようで関心関心。さ、恒例の罰ゲームの時間だぜ?」

「「げっ!?」」

 

いつの間にか近くに来ていた和真は満面の笑みを浮かべて源太と徹の間に肩を組んで入ってきた。

手には不自然なほど真っ赤な液体の入ったコップが2つ。優子は同情するような目で見つめており、蒼介は既に飲み干して洗面所に向かっていった後である。

 

和真「綾倉先生特性ドリンクver.2ペナル茶(ティー)だ。死ぬほど辛いからよーっく味わって飲めよ?」

 

 

『アクティブ追加ルール』……何らかの理由でチーム分けして闘うとき、敗者は罰ゲームとして綾倉ドリンクを飲まなくてはならない。

 

 

ピッチ全体に男子二人の絶叫が響き渡ったことは言うまでもない。サッカー部キャプテン金田一はその光景を見届けて一言。

 

金田一「マジで容赦ねーな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負け犬どもを葬って気分爽快のまま教室を目指す途中、和真は自分のパートナーと瓜二つのクラスメイトを見かけたので声をかける。

 

和真「よ、秀吉」

秀吉「誰かと思えば義兄上ではないか、おはようなのじゃ(ニヤニヤ)」

和真「そのニヤケ面と減らず口を今すぐやめねぇと、俺の持ちうる人脈をフルに使って『高橋殺しの戦乙女』という通り名を広めることになるが?」

秀吉「じょ、冗談じゃ!?謝るから、謝るからどうかそれはやめて欲しいのじゃ!」

 

『高橋殺し』も『戦“乙女”』も、秀吉にとっては是非とも頂戴したくない二つ名である。

 

和真「ったく、いい加減しつけーんだよ。さっさと教室に行くぞ」

秀吉(多分将来的にそうなるのだろうから別にいいじゃろうに……)

和真「なんか思ったか?」

秀吉「何でもないのじゃ」(思ったか……ってなんじゃ!?こやつ、どれだけ勘が鋭いのじゃ!?)

 

ここ最近の様式美と化していたやり取りを一通り消化しつつ、二人は旧校舎を歩く。ようやくFクラス教室が見えてきたところで、

 

美波「ウチにはアキの本心がわからないっ!」

 

大声とともに美波が教室から飛び出していった。それを訝しみつつも可笑しな出来事はFクラスでは日常茶飯事なので、そのまま気にせず教室に入っていった。

 

 

 

 

 




蒼介「和真のあわてふためく様子をもっと見ていたかった読者の諸君には申し訳ないが、もうある程度なれてしまったようだ」
 
和真「人間は適応するもんだからな、あんだけ弄りまくられたらそりゃ慣れるわ。いちいちアイツらに腹を立ててたらキリねぇしな」

蒼介「それにしては報復とばかりに大門達を粛清したようだが?」

和真「別に怒ってあんなことやったわけじゃねぇよ。ただ、そうだな……純粋に、もがき苦しむのを眺めるのが好きなだけだ」

蒼介「清々しいほど外道なセリフを吐いたぞこいつ……」

和真「ただまぁ、もしどこかの誰かが『和真はネコ』とか言ってあのボケ(玉野美紀)に嗅ぎ付けられでもしたら、俺はそいつを地獄に叩き落とさなくちゃ気がすまねぇ……!」

蒼介「落ち着けカズマ、今のお前の形相、子どもが泣くレベルだ」





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不自然な明久

【ある日の出来事】

優子「和真~♪よしよし、ホント可愛いわね♪」ナデナデ

和真「だから可愛いとかはやめてくれ、結構気にしてるんだぞ童顔なの……」

優子「ごめんごめん。じゃあちょっと趣向を変えて……こんなのはどう?」←和真の顎を撫でる

和真「猫か俺は。ちょっとくすぐってぇよ」

優子「………………ダメ?」

和真「………………ダメじゃない」

優子「~♪」ナデナデ

和真「……………………♪」










徹(あいつらもしかして、二人きりだといつもああなのか?甘党の僕でも砂糖吐きそうだよ)




秀吉「相変わらず朝から賑やかじゃな……先程明久が走り去って行ったと思ったら、今度は島田が教室から飛び出して行くとは。何があったのじゃ?」

和真「くくっ……雄二が笑えるほどダセェ格好してることも、ぐふっ、関係あんのか?くふふっ、腸がよじれそうなんだが……っ……ヒャハハハハハハハハハハ!」

雄二「テメェ笑いすぎだ和真!おいやめろコラ、その笑い方滅茶苦茶腹立つんだよ!」

 

今の雄二は上半身が制服で下半身がハーフパンツ姿という、人類には早すぎるファッションをしていた。

単刀直入に言ってダサすぎる。

 

明久「いや、別に何もないけど」

秀吉「なんじゃ。先ほどのことと言い、ワシに秘密かの?それはちと、寂しいのう……」

明久(なんだかすごく罪悪感を感じる)

雄二「聞いてくれ秀吉に和真。実はこのバカがこんな時間から公序良俗に反するような発言をしたんだ」

秀吉「明久……。お主、朝っぱらから助平なことを言っておったのか?」

明久「ち、違うよ!僕はそんなムッツリーニみたいな真似はしないよ!」

和真(覗きの濡れ衣を晴らすために行動してたのに、最終的に覗きがメインになってたような男がそう言ってもねぇ……)

ムッツリーニ「……失礼な」

 

和真が明久を冷めた目で見ていると、後ろからムッツリーニの心外だとでも言わんばかりのムッとした呟き声が聞こえてきた。

 

明久「おはようムッツリーニ。どうしたの?随分と荷物が多いみたいだけど」

 

ムッツリーニの両手には学校の鞄の他に大きな包みやら袋やらがあった。今日は体育がないのでジャージではないだろうし、いったい何が入っているのか、明久にはまるで見当もつかない。

 

ムッツリーニ「……ただの枕カバー」

明久「枕カバー?その割には包みが大き過ぎない?」

ムッツリーニ「……そんなことはない」

明久「……………………ごめんムッツリーニ。ちょっと中身を見せてね」

ムッツリーニ「……あ」

 

荷物のせいで動きの鈍いムッツリーニから明久が包みを一つ奪い取る。すると、中から出てきたのは等身大の明久がプリントされた白い布(セーラー服着用)。

 

ムッツリーニ「……ただの抱き枕カバー」

明久「ただのじゃないっ!枕カバーと抱き枕カバーには大きな隔たりがあるということをよく覚えておくんだ!っていうかどうして僕の写真なの!?」

和真(誰のリクエストだ?本命は久保か姫路、次点で島田、大穴でどこからか嗅ぎ付けた美紀ってところかな……)

ムッツリーニ「……世の中には、マニアというものがいる」

明久「何を言っているのさ!僕の抱き枕カバーなんかを欲しがる人なんてどこにも……」

久保「(コンコン)……失礼。土屋君はいるかな?前に頼んでいた枕カバーを……」

 

突然、ノックとともにAクラス次席にして代表代理の久保利光が教室に入ってきた。

 

明久「あれ?珍しいね久保君。ムッツリーニに何か用?」

久保「……なんでもない。少々用事を思い出したのでこれで失礼するよ」

 

明久の顔を見るなり久保はややばつが悪そうな表情を浮かべてそそくさと去っていった。和真と雄二はムッツリーニに、明久の耳に入らないように事情を聞く。

 

雄二「久保とも取引していたのか?」

ムッツリーニ「(こくり)………強化合宿以来、お得意様」

和真「予想してはいたが完全に吹っ切れたか。アイツもう戻ってこれねーな……」

 

知らないうちに友人が随分道を踏み外してしまったことに和真は遠い目になる。一方明久は未だに気づいてないが、本能は察知しているのか若干体が若干震えている。

 

明久「はぁ……とにかくムッツリーニ。とりあえずその抱き枕カバーは後で没収するからね……作った分を全部回収して、写真を秀吉に換えて持ってきてよ……」

秀吉「どさくさに紛れてワシの抱き枕を作るでない」

姫路「そうですよ明久君。人の物を勝手に取って、しかも改造するなんてダメです。(ボソッ)一枚は私の分なんですし……」

和真(やっぱこいつもか……) 

秀吉「ところで先程のお主らの話は何じゃったのかの?」

明久「あ。えっと、何の話をしてたっけ?」

 

無駄にインパクトのある話が連続したせいか、明久と秀吉は最初の話題を忘れてしまったようだ。

 

雄二「俺が明久にトランクス姿での登校を強要された、という話だ」

秀吉「明久、お主……」

明久「雄二っ!わざと誤解を招くような言い方をしないように!」

和真(つーかいったいどんな権限があればクラスメイトをトランクス姿で登校させられるんだよ……)

雄二「まぁ、それは冗談だが……。要するに、明久が送ってきたメールのせいで翔子が何かを勘ぐって、それが原因で俺が酷い目に遭ったって話だ」

秀吉「メール?それは今朝の明久の様子がおかしいことと何か関係があるのかの?」

 

何気なく言った秀吉の一言に、明久に心臓を握られているような緊張感が走る。和真はそれにいち早く気づくも、大して興味が湧かなかったのでそのまま流す。直感に引っ掛からない以上、大して面白いことではないだろうから。

 

姫路「明久君の様子、ですか……?そう言われてみれば、今朝はいつもより顔色がいいですね。制服も糊まで利いてパリッとしていますし、寝癖もないですし……」

雄二「確かにおかしいな。顔色がいいのはまだわからんでもないが、制服がきちんとしているのは妙だ」

ムッツリーニ「……明久らしくない」

明久「た、たまにはそういう気分の日もあるんだよ!それよりチャイムが鳴るよ!鉄人が来る前に席につかないと!それじゃ、そういうことでっ!」

 

旗色がどんどん悪くなるのを危惧した明久は強引に話を打ちきりその場を離れるも、和真以外の残ったメンバーは猜疑心に満ちた目を明久に向けたままである。

 

「「「怪しい……」」」

和真(本人が言いたくねぇなら放っといてやりゃ良いものを……こいつら野次馬になるタイプだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『吉井。保健室に行ってきなさい』

 

真剣にノートをとっていただけの明久はこの台詞を午前中の四つの授業で七回も聞いた。四月の試召戦争以降多少真面目に授業を受けるようにはなってはいるものの、ここまで熱心に取り組んでいるのは流石に異常だ。日本史ならともかく明久がその他の教科でこれほど真剣にノートを取っていたら、この学園の教師は怪しむを通り越して体調が心配になってくるようだ。

 

美波「アキ、何かあったの?朝から様子が変みたいだけど」

明久「別になんでもないよ。ちょっと真面目に勉強に取り組んでみようと思っただけで」

美波「アキ。おでこ出しなさい。今熱を測るから」

明久「だからどうして皆似たようなリアクションを取るんだろう…………ってこれはダメだっ!」

美波「きゃっ!?」

 

大袈裟に心配する美波を呆れたように見ていた明久であったが、突如弾かれたように飛び退いて美波から距離を取った。

 

美波「こらっ!何よそのリアクションは!人が折角心配して熱を測ってあげてようとしたのに!」

明久「ご、ごめん!色々と事情があるんだ!」

美波「事情?何よそれ?」

明久「う……。えっと……。そ、それより、まずはお昼にしようよ!昼休みなんて短いんだからさ!」

 

朝と同じように無理矢理話題を逸らそうと昼食を取り出すする明久だが、昼食を取り出すという行為そのものがもう違和感でしかない。

 

美波「え!?アキ、お弁当を持っているなんて、一体どうしたの!?」

姫路「えぇっ!?明久君がお弁当を!?」

明久「姫路さんいつの間に!?……いや、そこまで驚かなくても……僕だって人間なんだがら、たまには栄養を取らないと死んじゃうし」

姫路「それはそうでしょうけど……でも、今日はいつもと違いませんか?」

美波「そうね。アキが食べるとしたら大抵は買ってきたお弁当なのに、今日は手作りみたいに見えるわね」

 

二人がじろじろと明久の弁当を見ている。確かに明久は弁当を持ってきたときでも大抵コンビニやスーパーの惣菜弁当である。本人曰く、一人前だとその方が安いらしい。

 

姫路「明久君、どうして今日は手作りのお弁当なんですか?」

美波「まさか、誰かに作ってもらったのかしら?」

明久(あ、攻撃色……)「一応、自分で作ったんだけど」

美波「嘘ね」

姫路「嘘ですね」

 

美波が攻撃体勢に入っていたので明久は正直に答えたが、当の二人はばっさりと一蹴した。

 

美波「だって、アキに料理なんてできるわけがないもの。正直に言いなさい。誰かに作ってもらったんでしょう?」

姫路「随分と上手なお弁当ですね……。明久君の周りでこんなに上手にお弁当を作れる人っていうと」

美波「坂本と土屋のどちらかね。柊はできないことはないけどやる気は無いって前言ってたし」

 

この手の話題で出てくる候補が何故か皆男子なあたり、文月学園の業の深さが伺える。ちなみに全校生徒の中で最も料理ができるのも男子(蒼介)である。

 

明久「やれやれ……。二人の想像に任せるよ」

美波「想像通りって…そんな!?アキはもうそんなに汚れちゃってるの!?」

姫路「はぅぅ……」

明久「え!?待って!美波は僕で一体何を想像したの!?あと、どうして姫路さんは一瞬で顔が真っ赤になっているの!?」

 

めんどくさくなったのか明久は適当に対応するも、勘違いはさらに加速した。汚れているのはこの二人の心の方である気がするが、きっと気のせいではないのだろう。

 

姫路「そうですね。そうなると、やっぱり明久君と坂本君は……」

翔子「……やっぱり、雄二の浮気相手は吉井だった」

 

そんな姫路の発言を翔子が聴き漏らすはずもなく、熟練の暗殺者よろしく気配を消して音も立てずに雄二へと近づいていく。

 

翔子「……雄二」

雄二「ん?翔子か?やっと制服を返す気になったか?」

翔子「……私は雄二に酷いことをしたくない」

雄二「?よくわからんが、それは良い心がけだな」

翔子「……だから、先に警告する」

雄二「何を?」

翔子「……おとなしく、私にトランクスを頂戴」

 

ダッ(雄二、猛ダッシュ)

ダッ(翔子、猛追撃)

 

明久「あはは。雄二ってばバカだなぁ」

 

ようやくテスト期間中のスケジュールを組み終えた和真は、呑気そうに笑っている明久を見かけたので、一つ悪戯心が湧いたのかいつもの不敵な笑みを浮かべて姫路達に爆弾を投げかける。

 

和真「二人とも、ただの勘だが……明久の家に年上の女性が住み着いてそうな気がするな」

美波「アキ……?」

姫路「明久君……?」

 

ダッ(明久、猛ダッシュ)

 

美波「ああっ!こら、待ちなさい!」

姫路「明久君、どういうことかきちんと説明してくださね?」

 

殺気をともなって明久を追いかけていく二人を見届けて、和真は次の授業の準備をする。実を言うと明久に姫路達をけしかけたのは悪戯心などではない。ご存じの通り意外と根に持つタイプの和真は、ここ数日優子のことで弄られまくったことへの報復の機会を伺っていたらしい。

 

和真(しかし出ていく直前の明久の表情……もしかして図星だったか?適当に言っても当たるもんだな、俺の勘)

 

 

 

 




【ミニコント】
テーマ:達成感

明久「小さな目標をいっぱい作ると達成感を得られやすいんだって」

和真「へぇ、面白いな。やってみろよ」

明久「それじゃあまず最初の目標は、『教室ののドアを開ける』だよ!」

和真(いや小さすぎねぇか!?)

ガチャ

明久「よーし!僕はドアを見事に開けてやったぞ!次は『鞄から筆記用具を取り出す』だ!」

和真「…………」

明久「どうだ~~!またもっ!またもやっ!達成してやったぞイェーイ!」

和真「お前はホント幸せな奴だな……」



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いざ吉井家へ

【バカテスト・政経】
日本国憲法第76条『裁判官の職権の独立』について、以下の()に正しい語句を記入しなさい
『全ての裁判官は、その()に従ひ()してその()を行ひ、この()及び()にのみ拘束される』


姫路の答え
『全ての裁判官は、その(良心)に従ひ(独立)してその(職権)を行ひ、この(憲法)及び(法律)にのみ拘束される』

綾倉「大変よくできました。これは日本国憲法における重要な条文の一つですね。裁判官の権限の行使に当たっては、政治的権力や裁判所の上級者からの指示に拘束されないことが憲法上保障され、それによって独立して職務を執行できると言うことです。この内容には裁判官の身分保障なども含まれていますので、豆知識として覚えておくとよいでしょう」


明久の答え
『全ての裁判官は、その(ピー)に従ひ(ピー)してその(ピー)を行ひ、この(ピー)及び(ピー)にのみ拘束される』

綾倉「おやおや、憲法第76条が大変な事になりましたねぇ……」


ムッツリーニの答え
『全ての裁判官は、その(本能)に従ひ(脱衣)してその(全裸体操)を行ひ、この(現行犯により警察の手が)及び(手錠)にのみ拘束される』

綾倉「あなたは裁判官の皆様方に助走をつけてドロップキックされても文句は言えませんね」

秀吉の答え
『全ての裁判官は、その(法律)に従ひ(一貫)してその(裁判)を行ひ、この(憲法)及び(陪審)にのみ拘束される』

綾倉「正解しようという気概は伝わりました」





明久「雄二、ちょっといい?」

 

放課後になり生徒達が皆帰り支度を始めていると、おもむろに明久が雄二に声をかける。

 

雄二「ん?どうした明久」

明久「今日なんだけどさ、雄二の家に泊めてくれない?それで、期末テストの出題範囲の勉強を教えて欲しいんだ」

 

その瞬間、教室全体が戦慄した。

 

『おい……聞いたか、今の……?』

『確かに聞いたぜ。俄かには信じがたいことだが……』

『まさか、アイツらがな……』

『ああ。まさかあの吉井と坂本が……』

『『期末テストの存在を知っているなんて……』』

 

明らかに失礼千万な態度に見えるが、クラス一同がここまで驚くほどの異常事態だということである。

 

雄二「勉強を教えて欲しいだと?」

明久「うん」

雄二「やれやれ……。お前はまだ七の段が覚えられないのか?」

明久「待って!僕は一度も九九の暗唱に不安があるなんて言った覚えはないよ!?分数の掛け算だってきちんとできるからね!?」

雄二「ああそうか。三角形の面積の求め方に躓いているところだったよな」

明久「(底辺)×(高さ)=(三角形の面積)!いい加減僕をバカ扱いするのはやめなさい!」

雄二「よしよし、よくできたぞ明久。あとは最後に二で割ることを覚えたら三角形の面積が出せるようになるからな?」

明久「………………ふぅ、やれやれ。雄二は人の揚げ足を取ることに関しては天才的だよね」

雄二「凄ぇ!?その返しは流石の俺でも予想外だ!」

姫路「あの、明久君」

翔子「……吉井」 

 

いつものように明久達が不毛な会話を繰り広げていると、姫路と翔子が鞄を抱えてやってきた。

 

姫路「あのですね、九九の覚え方にはコツがあるんですけど、」

明久「言えるからね!?いくら僕でも九九くらいはきちんと言えるからね!?」

翔子「……まず7×7=49を起点に考えて、」

明久「霧島さんも悪ノリしないで!?」

 

本気で心配そうな表情の姫路と、明らかに悪ふざけでやっていたのがわかる笑みを浮かべている翔子。後者は完全に和真の悪影響を受けているに間違いない。

 

秀吉「しかし、急にどうしたのじゃ?明久が勉強なぞ、特別な理由でもない限り考え難いのじゃが(チラッ)」

和真「まあ、不自然っちゃ不自然だな(チラッ)」

姫路「???」

 

近くにいた秀吉と和真も大小あれど違和感を覚え、特別な理由の辺りで姫路をチラ見する。

 

明久「いや、ホラ。さっき雄二が説明したじゃないか。『試験召喚システムのデータがリセットされる』とか、『期末テストの結果が悪いと夏期講習がある』って。木刀と学ランなんて装備をそろそろ卒業したいし、夏休みも満喫したいし、頑張ってみようかな~なんて」

 

文月学園の試験召喚システムは先日の自律型召喚獣襲撃事件の際、乱暴にハッキングされた弊害が出てきたのか、メインコンピューターが不調の状態が続いているようだ。しばらく学園長と綾倉先生による大々的なメンテナンス期間に入るため、試召戦争は2学期になるまで行えないそうだ。

その代わりに召喚獣の設備がリセットされるらしく、期末の結果次第で装備の向上が狙えるとのことだ。

なるほど、一見理屈は通っている。発言者が明久でなければ極々自然な動機であっただろう。

 

ムッツリーニ「………明久らしくない」

美波「そうね。アキがその程度の理由で勉強をするなんて思えないわね」

 

最終的にとうとうムッツリーニと美波もやってきて、いつものメンバーが全員集結した。

 

姫路「あの、明久君。私で良かったら……一緒にお勉強、しませんか?」

 

おずおずといった感じで姫路が手を挙げる。普段の明久なら喜んでお願いしているのだろうが、今回はどうやら事情が違うようだ。

 

明久「姫路さんの家に泊めてもらうわけにはいかないしなぁ……」

姫路「え?明久君、私の家に来たいんですか?」

明久「あ、いやそうじゃなくて」

姫路「そ、それなら、家に電話してお父さんにお酒を飲まないように言っておかないと……。その……、もし、ですけど、明久君がお父さんに大事なお話があるのなら、酔っ払っちゃってると困りますし……」

明久「え?……まさか転校の話!?だとしたら説得に行くけど!」

姫路「転向、ですか?明久君のお家って、仏教じゃないんですか?」

明久「ほぇ?何の話?」

姫路「いえ、ですから、お家の宗教の違うことでお話を……」

明久「???」

 

びっくりするほど話が噛み合ってなかった。さながら脱線に次ぐ脱線を繰り返した末に、もう元のレールに戻ることができなくなった暴走列車の如き荒唐無稽さである。

 

和真「アンジャッシュかお前らは……」

雄二「たまに姫路の思考回路って明久と同レベルになる時があるよな」

秀吉「そうじゃな。朱に交われば赤くなるといったところじゃろうか」

ムッツリーニ「……似たもの同士」

 

どこまでも相性の良い二人である。いや、脱線したまま戻れないことを考えるとむしろ悪いのだろうか。

 

雄二「それはそうと明久。朝から気になっていたんだが、どうして俺の家に泊まりたがる?自分の家に何かあったのか?」

明久「あー、えっと、実は」

雄二「嘘をつくな」

明久「急に勉強に目覚めて……って、早いよ!まだ何も言ってないのに!」

和真(明らかに誤魔化そうとしてたしな……)

雄二「まぁ次の試召戦争のこともあるし、勉強くらい教えてやらんでもないが」

明久「え?ホント?」

雄二「ただし、お前の家で、だ。その方がやり易いだろ」

 

そう言った後、雄二はよそを向いて小さな声で「我が家にはあの母親がいるからな……」と呟いた。和真や蒼介や飛鳥と同様に、雄二も何かしらの理由で頭を悩ませる親をお持ちのようだ。

 

明久「って、僕の家はダメだよ!今日はちょっと、その……都合が悪いんだ!」

雄二「都合が悪いだと?」

明久「う、うん。実は今日、家に改装工事の業者が」

雄二「嘘つけ。本当なら今日はお前の家でボクシングゲームをやる予定だったろうが。改装業者が来るはずないだろ」

和真(いや勉強しろよテスト期間なんだからよ……)

明久「じゃなくて、家の鍵を落としちゃって」

雄二「マンションなんだから管理人に言えば開けてもらえるだろう」

明久「でもなくて、家が火事になっちゃって」

雄二「火事に遭ったくせに弁当を用意してシャツにアイロンまでかけてきたのか?お前はどこまで大物なんだよ」

明久「あー、えっと、他には他には」

雄二「いい加減にしろ。お前の嘘は底が浅いんだよ」

明久「ぐぅ………あっ!そ、そうだ和真、今日の予定空いてる!?」

和真「お前もつくづく悪運の強い奴だな。予定している勉強会は明日からで、今日はバリバリ空いてるぜ」

 

期末テストに向けて和真は『アクティブ』のメンバーと勉強会の予定を組んでいるのだが、今日は都合のつかない者が多いため明日からとなっている。

 

明久「よかった……!じゃあさっそく…」

秀吉「(ガシッ)待つのじゃ明久。何をそこまで隠しておるのじゃ?」

明久「うぇっ!?いや、別に何も!」

雄二「何があるのかわからんが、このバカがそこまで隠そうとすることか……。面白そうだな」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる雄二。まあこいつは三度の飯より明久の不幸が大好きな男、秘密を暴こうとするのも別段不自然なことでもない。

 

雄二「よし。確認しに行ってみるか」

明久「ちょ、ちょっと雄二!?何言ってるのさ!?」

翔子「……雄二が行くなら私も」

美波「そうね。アキの新しい一面が見られるかもしれないし」

姫路「私も興味あります」

ムッツリーニ「……家宅捜査」

秀吉「テスト期間で部活もないし、ワシも行ってみようかの」

和真(相変わらず暇な奴ら……)

明久「ダメだよ!今日は僕の家はダメなんだ!その、凄く散らかっているから!」

姫路「あの、それならお手伝いしますけど?綺麗にしないとお勉強に集中できませんし」

明久「……(ピーン!)…でも、散らかっているのは2000冊以上のエロ本なんだ!」

ムッツリーニ「……任せておけ(グッ)」

明久「更にムッツリーニの興味を煽る結果になっちゃった!?もの凄い逆効果だ!」

雄二「よし、それじゃ意見もまとまったことだし、明久の家に行くか」

「「「おーっ」」」

明久「やめてーっ!」

和真(こいつらが暴走したときのストッパーのために優子も呼んどくか、メールメール。……あ?ただお前がついて来て欲しいだけじゃないのかって?……だったらどうだって言うんだよ?んなもん俺の勝手だろうが)カチカチ

 

全力で抵抗をする明久だったが、結局は首根っこを捕まれて連行される形になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に向かう途中、明久、和真、優子、翔子以外のメンバーはすごく楽しそうに談笑していた。よほど明久の隠し事に好奇心をくすぐられたのだろう。

ちなみに和真と優子と翔子の明久の隠し事にさほど興味の無いトリオは歩きながら期末テストに向けてお手軽にできる復習をしていた。どこまでも無駄の無い優等生達である。

 

姫路「でも、なんでしょうね?明久君がそこまで隠すものって」

美波「何かしらね。強化合宿であんな覗き騒ぎまで起こしておいて、今更いやらしい本なんて隠すとも思えないし」

秀吉「そうじゃな……急に手作りの弁当をもってきたこと、Yシャツにはアイロンがかかっておったことなども合わせて考えると……」

雄二「女でもできたか」

「「「「っ!?」」」」

 

何気なく言った雄二の一言で、約半数(美波、姫路、秀吉、ムッツリーニ)が目を見開いた。

 

美波「あ、アキッ!どういうこと!?さっき柊の言っていたことは本当だったの!?説明しなさい!」

秀吉「む、むぅ……明久に伴侶か……。友人としては祝うべきなのじゃが、なんだが釈然とせんというか、妬ましいというか……」

ムッツリーニ「……裏切り者…………っ!」

 

文月学園の多くの生徒は思い込みが激しく人の話をあまり聞かないというのが蒼介の評価であるが……なるほど、なかなか的を射ているようだ。

 

和真「なあなあ優子さんや」

優子「……何かしら和真」

和真「秀吉は誰を妬んでるんでしょうな?」

優子「アタシは何も聞いていない」

翔子「……十中八九、吉井の相手に-」

優子「やめて翔子!?お願いだから逃げ道を潰そうとしないで!」

 

こっちはこっちで愉快なことになっていた。

弟のグレーな反応から必死に目をそらしてる優子を嬉々として追い詰めるFクラスきっての悪戯好きコンビ。というか、どうやら和真は恋人に対しても容赦とかは一切しないようだ。

 

姫路「大丈夫ですよ。明久君が私達に隠れてお付き合いなんて、そんなことをするはずがありません。私は明久君を信じています」

 

あちらこちらで騒ぎが勃発するなか、何故かいつもとは違って不自然なほどに落ち着いている姫路。

 

姫路「ね、明久君?私達に隠れてそんな人がいたりなんて、シマセンヨネ……?」

 

訂正、落ち着いているのは口調だけのようだ。微笑んではいるが全身から殺意のオーラが漏れ出していて下手な怪談より遥かに怖い。

 

優子「姫路さん大丈夫なの……?なんか合宿のときより悪化しているように見えるんだけど」

和真「見えるんじゃなくて実際に悪化してるんだよ。何故ならFクラスは例えるなら底無し沼(チラッ)」

翔子「(コクン)……一度沈んだら這い上がること決して叶わず、未来永劫堕ち続ける運命を背負う救い無き無限地獄。ああ、なんたる無情……」

優子「とりあえず翔子のノリがやけに良くなったのはアンタのせいってのはわかったわ、和真」

 

いつの間にか翔子もアイコンタクト技術を習得している。それはさておき、ようやく明久の住むマンションに到着した。

 

雄二「ま、中に入れば全部わかるだろ。ほら明久。鍵を出せ」

明久「やだね」

雄二「裸Yシャツの苦しみ、味わってみるか?」

明久「え!?待って!途中のステップがたくさん飛んでない!?」

ムッツリーニ「……涙目で上目遣いだとありがたい」

明久「ムッツリーニ!ポーズの指定を出して何する気!?売るの!?抱き枕!?リバーシブルで裏面は秀吉!?」

秀吉「なぜそこでワシを巻き込むのじゃ!?」

姫路「土屋君。できれば、Yシャツのボタンの上二つは開けておいてもらえると……」

明久「姫路さんも最近おかしいからね!?わかったよ!開けるよ!開ければいいんでしょ!」

ムッツリーニ「……ボタンを?」

明久「家の鍵を!」

 

ようやく観念した明久は、何か祈りを捧げるように内心で十字を切りつつ家の鍵を開ける。

 

美波「本当に彼女がいるのかしら……」

秀吉「少々緊張するのう……」

姫路「大丈夫です。そんなこと、ありません……っ」

優子「テスト前なのに、アタシ達何やってんのかしらね……?」

和真「ごめんな優子、今度銀のエンゼル五枚あげるから怒らないで」

優子「別に怒ってないし、いらないわよ……」

翔子「……じゃあ私が金のエンゼルを」

優子「チョコボールから離れなさい!」

 

一部騒いでいる例外を除くものの、残りのメンバーは固唾を飲んで見守る。そんな中、明久は玄関のドアを開けた。

 

明久「それじゃ、あがってよ」

 

玄関を確認して何故か異様にほっとしつつ、明久は皆を招きいれてリビングへ続くドアを開け放つ。そしてその直後、全員の視界に飛び込んできた物が。

 

「「「……………」」」

 

それは、室内に干された……ブラジャーという名の女物の下着だった。

 

明久「いきなりフォローできない証拠がぁーっ!?」

 

大慌てで洗濯物を回収し、おそるおそる雄二達の方を振り返る明久。まあ当然の如く手遅れなのだが。

 

美波「……もうこれ以上ないくらいの物的証拠ね……!」

秀吉「そ、そうじゃな……」

ムッツリーニ「……殺したいほど、妬ましい………!!」

翔子「……雄二は見ちゃダメ(プスッ)」

雄二「理不尽すぎるだろぉぉぉ!?」

和真「流石翔子、判断が早い」

優子「褒めるところじゃないでしょ……」

明久「え、えっと、これは!」

 

それぞれ異なった反応をしている一同にどうにか弁解しようとするが、ここから誤魔化すことはもはや不可能だろう。そんな中、一人落ち着いたままの姫路が笑顔で明久に歩み寄ってこう言った。

 

姫路「ダメじゃないですか、明久君」

明久「え?何が?」

姫路「あのブラ、明久君にはサイズが合っていませんよ?」

「「「コイツ認めない気だ!?」」」

明久「姫路さん、これは僕のじゃなくて!」

姫路さ「あら?これは……」

 

最悪に近い誤解に対して明久が弁明しようとすると、姫路の視線はリビングの卓上に向いていた。そこにあったのは化粧用のコットンパフだった。

 

姫路「ハンペンですね」

「「「ハンペェン!?」」」

優子「流石に苦しすぎるわよ姫路さん……」

和真「さて、どこまで続くかなその意地♪」

 

なんだか楽しくなってきた和真をよそに、姫路の目線が今度は食卓の上に置かれていた弁当に向けられた。具材のラインナップからして、女性向けのヘルシー弁当。

 

姫路「……………」

明久「ひ、姫路さん……?どうしたの……?そのお弁当が何か……?」

姫路「しくしくしく……」

明久「ぅえぇっ!?どうして急に泣き出すの!?」

姫路「もう否定し切れません……」

和真「予想外のところでギブアップしやがった!?」

明久「どうして女物の下着も化粧品もセーフなのにお弁当でアウトになるの!?」

優子「いったい姫路さんの中でどんな処理が行われたのかしら……?」

 

流石にこれ以上誤魔化しは効かない上に女装癖疑惑が出てきても困るため、ようやく観念した明久は正直に本当のことを白状する。

 

明久「はぁ……。もうこうなったら仕方がないよね……。正直に言うよ。実は今、姉さんが帰ってきているんだ……」

優子(まあそんなことだろうと思った)

和真(というか真っ先に予想できることだろうが……)

美波「そ、そうよね。アキに彼女なんているわけないもんね」

ムッツリーニ「……早とちりだった」

秀吉「ホッとしたぞい」

姫路「そうですか。明久君にはお姉さんがいたんですね。良かったです……」

 

明久の告白を聞いて納得した姫路達は、それぞれがほっと胸を撫で下ろす。

 

明久「まぁ、そんなわけだからお弁当とか制服とかもきちんとしていたんだよ。わかってもらえた?」

雄二「……待て明久、お前に姉がいるのはわかった。だが、それだけでなぜ家に帰るのを嫌がる?」

姫路「あ、そういえばそうですね」

秀吉「確かにおかしいのう」

ムッツリーニ「……(こくこく)」

美波「何かまだ隠してるのかしら?」

 

雄二の台詞を聞いて皆が同じように疑問を抱きだす。どこまでも野次馬根性丸出しの連中である。

 

雄二「明久。もう全部ゲロッて楽になれよ。な?」

 

ポンポンと明久の肩を叩きながら雄二は諭すように言う。そしてようやく明久も腹を括ったようだ。

 

明久「実は……僕の姉さんは、かなり、その……珍妙な人格をしているというか……常識がないというか……。だから、一緒にいると大変で、色々と減点とかもされるし、それで家に帰りたくなくて……」

美波「あ、アキが非常識って言うなんて、どれだけ……?」

秀吉「むぅ……。恐ろしくはあるが、気になるのう……」

ムッツリーニ「……是非会ってみたい」

姫路「そうですね。会ってみたいです」

 

姫路達が明久の姉に興味を抱く中、同じく身内で苦労している和真と雄二が助け船を出す。

 

雄二「あー……、なんだ。お前ら、そういう下世話な興味は良くないぞ。誰にだって隠したい姉とか母親とか、そんなもんがいるモンだからな」

和真「雄二の言うとおりだな、流石に図々しいんだよお前ら。隠しておきたい姉とか父親なんざ別に珍しくもねぇだろ」

明久「ふ、二人とも……!ありがと…」

 

ガチャ

 

その時、玄関のドアの開く音が聞こえてきた。

 

『あら……?姉さんが買い物に行っている間に帰って来ていたのですね、アキくん』

 

 

 

 

 




【ミニコンと】
テーマ:名前

愛子「そういえば代表って飛鳥と和真君以外の人を下の名前で呼ばないよねー」

徹「ああ…そういえば…」

愛子「なんでなの代表~?」

蒼介『だってお前らも私のこと、名前で呼んでくれないじゃん』

徹「↑…と思うけどどうなの?」

愛子「可哀想だから明日から蒼介君って呼んであげようか?」

蒼介「言いたいことはそれだけかこの馬鹿者共が」



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吉井家の闇

梓「こんなタイトルやけど、吉井君のお姉さんが原作通りにやりたい放題暴走するだけやで」

蒼介「吉井家の闇(笑)ですね」


明久「うわわわわっ!か、帰ってきた!皆、早く避難を……」

姫路「明久君のお姉さんですか……?ど、ドキドキします……!」

美波「う、ウチ、きちんと挨拶できるかな……?」

明久「ダメだ!会う気満々だ!」

和真(こいつはホント笑いの神様に溺愛されてるな……)

 

皆がリビングの扉を見つめて明久の姉が姿を現すのを待つ中、明久はどうか常識的に振る舞ってくれるようひたすら天に祈りを捧げていた。

 

?「あら。お客さんですか。ようこそいらっしゃいました。狭いですが、ゆっくりとしていった下さいね」

 

どう解釈しても常識的な挨拶をしてきたのは、七分丈のパンツに半袖のカッターシャツ、その上に薄手のベストを着たショートヘアーの女性であった。言動、格好ともに特筆すべき違和感はない。和真以外の一同は拍子抜けしたように挨拶をする。

 

「「「お、お邪魔してます……」」」

和真(この人は……なるほどな……)

?「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は吉井玲といいます。皆さん、こんな出来の悪い弟と仲良くしてくれて、どうもありがとうございます」

 

深々とお辞儀をする玲。その様はどこに出しても恥ずかしくない立派な女性にしか見えない。

 

雄二「ああ、どうも。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです」

和真「同じくクラスメイトの柊和真です」

ムッツリーニ「……土屋康太、です」

玲「はじめまして。雄二くんに和真くんに康太くん」

 

それぞれの自己紹介に笑顔で返す玲。不意に雄二が小声でこの上無くほっとしている明久に話しかける。

 

雄二(おい明久。普通の姉貴じゃないか。これでおかしいと言うなんて、お前はどれだけ贅沢者なんだ。俺なんか、俺なんか……っ!)

明久(あはは……。ふ、普通でしょ?だから、もう気が済んだら帰ったほうがいいと思うよ?)

 

二人の会話をしている間も挨拶は続行され、今度は木下姉弟の番になる。

 

優子「はじめまして、アタシは木下優子です」

秀吉「弟の木下秀吉じゃ、よしなに。初対面の者にはよく間違われるのじゃが、ワシは女ではなく……」

玲「ええ。男の子ですよね?ようこそいらっしゃいました」

優子「え……!?」

秀吉「…………っっ!!」

 

その言葉を聞いて、二人は驚いたように玲の顔を見上げた。何故なら秀吉の容姿は親族ですらたまに区別がつかないほど、姉である優子とそっくりなのだ。初見で見破れる確率など天文学的数値に等しいと、秀吉でさえも諦めていたことなのだ。

 

秀吉「わ、ワシを一目で男だとわかってくれたのは、主様だけじゃ……!」

優子(お父さんとお母さんですら初見は間違えたって言ってたもの、そりゃあ嬉しいでしょうね……)

玲「勿論わかりますよ。だって……

 

うちのバカでブサイクで甲斐性なしの弟に、女の子の友達なんてできるわけがありませんから」

優子(なんて嫌な確信の仕方なの!?)

玲「ですから、優子さんやそちらの三人も男の子ですよね?」

 

一度ボロを出せばどんどんおかしな方向に話は進んでいく。玲は優子、姫路、美波、翔子にそれぞれ視線を向けつつそんなことをのたまった。

 

明久「ちょ、ちょっと姉さん!?出会い頭になんて失礼なことを言うのさ!五人ともきちんと女の子だからね!?」

秀吉「明久!ワシは男で合っておるぞ!?」

 

毎度のことにまた秀吉が女扱いに抗議しているのをよそに、明久の台詞に反応したのか、玲はそのまま明久の方をゆっくりと振り向いた。

 

玲「………女の子、ですか……?まさかアキくんは、家に女の子を連れて来るようになっていたのですか……?」

明久「あ、あの、姉さん。これには深い深~い事情があって……」

玲「……そうですか。女の子でしたか。変なことを言ってごめんなさい」

明久「実は……って。あれ?」

 

僅かに漂っていた剣呑な雰囲気が急に霧散したことに明久は疑問を浮かべる。弁明を無視して優子達に頭を下げる玲の様子が、どうやら明久からすれば不可解極まりないらしい。

 

玲「どうかしましたか、アキくん?」

明久「あ、いや……。姉さん、怒っていないのかな~、って思って」

玲「?あなたは何を言っているのです?どうして姉さんが怒る必要があるんですか?」

 

どうやら自分の取り越し苦労であったと明久が胸を撫で下ろすも、玲はその直後にとんでもない爆弾を投下した。

 

玲「ところでアキくん」

明久「ん?何?」

玲「お客様も大勢いらっしゃるようですし、アキ君が楽しみにしていたお医者さんごっこは明日でもいいですよね?」

明久「何言ってんの姉さん!?まるで僕が日常的に実の姉とお医者さんごっこを嗜んでいるかのような物言いはやめてよ!僕は姉さんとそんなことをする気はサラサラないからね!?」

姫路「あ、明久君……。お姉さんとお医者さんごっこって……」

美波「アキ……血の繋がった、実のお姉さんが相手って、法律違反なのよ……?」

和真「いや信じるなよ……」

 

普通に考えればおかしいとすぐ気がつくはずであろうが、文月学園ではそんなまっとうな前提などまるで意味をなさない。思い込んだら一直線が暗黙の了解となっている。

 

玲「それと、不純異性交遊の現行犯として減点を250ほど追加します」

明久「250!?多すぎるよ!まだ何もしていないのに!」

玲「……『まだ』?……300に変更します」

明久「ふぎゃぁああっ!姉さんのバカぁーっ!」

 

もう先ほどまでの品行方正な女性のイメージなど跡形もなくなってしまった。思わず頭を抱える明久の肩に雄二が申し訳なさそうな表情で手を乗せる。

 

雄二「……すまん、明久。さっきの言葉は訂正させてもらう」

明久「……僕、生まれて初めて雄二に癒された気がするよ……」

 

その後自己紹介を終えた一同は勉強会を始めようとしたものの、小腹がすいてくる時間帯になっておりちょうど玲が夕食の食材を買ってきたこともあって、一先ず食事を済ませてしまうことにする。夕食を作るメンバーは明久、雄二、ムッツリーニのFクラス料理上手トップスリー(明久が本当に料理ができることを知って姫路と美波は未だ納得がいっていなかったが)が行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「はい、これで詰み(パチッ)」

和真「だぁぁっ!?また負けたぞ畜生が!」

翔子「……終始優子のペースでゲームが進んで、そのまま普通に終わった」

 

明久達が料理を作っている間暇になったので、和真は所持している将棋セットで優子に勝負を挑むも、ものの見事に惨敗

したようだ。

 

優子「アンタいい加減諦めなさいよ、人には向き不向きがあるって言うじゃない」

和真「ほざきやがれ!いつも言ってるだろうが!弱点ってのは克服するために存在するんだよ!」

秀吉「……和真、どうして飛車ばかりで攻めるの?」

和真「最強の手札でガンガン攻めて何が悪い」

優子「そんなだから勝てないのよ」

和真「うぐ……」

翔子「……じゃあ次は私が相手」

優子「翔子となると……さっきまでのお遊びとは一味違うわね」

和真「お前いつか覚えてろよ……」

 

向こうでは玲が明久の入浴写真集を姫路達に公開していたものの、こっちでは優子と翔子が知略を張り巡らせた激闘を繰り広げていた。そして料理を出来上がる頃に、翔子が僅差で勝利をもぎ取った。できた料理の出来映えについては、明久の自信作であるパエリアが女性陣のプライドをバッキバキに引き潰したとだけ言っておこう。

ちなみに玲は明久を嫌っているわけではなく、(明久にとっては最悪なことに)一人の異性として愛していると食事中に発覚したのだが、驚くことに和真は一目見た瞬間にはおおよその見当がついていた。

もともと直感と観察力に優れ人の感情を敏感に察知することに長けている和真たったが、先日の一件で恋愛感情というものを正しく理解したことで、少し観察するだけでその人の心がいったい誰で占められているのかをなんとなく察知できるまでになったいた。確かにすごいがプライバシーなどお構い無しの極めて理不尽なスキルである。  

 

 

 

 

 

 

 

料理の後片付けを終えて全員がリビングに集まると、姫路がいよいよ今日の本題を切り出した。

 

姫路「そろそろお勉強を始めましょうか?」

美波「そうね。あまり帰りが遅くなっても困るし」

 

夕飯の支度が早かったので、現在時刻はまだ7時。勉強をする時間は充分にある。

 

雄二「それじゃ俺、和真、姫路、木下姉がそれぞれマンツーマンで勉強を教える役で、翔子は総指揮で良いか?」

翔子「……わかった」

雄二「木下姉、秀吉を頼む」

優子「ええ、みっちりシゴいてやるわ」

秀吉「できればお手柔らかに頼むのじゃ……」

雄二「姫路は明久な」

姫路「はいっ、任せてください!」

美波「瑞希、抜け駆けはずるいわよ!?」

和真「はいはいお前の担当は俺な。泣き叫べ、古典の何たるかを脳髄に刻み込んでやるからよ」

美波「ひぃぃっ!?スパルタする気満々でいらっしゃる!?」

雄二「そして消去法で俺がムッツリーニ担当な。どの教科を勉強するか希望はあるか?」

ムッツリーニ「……保健体育」

雄二「それ以外に決まってるだろうが」

 

流石は元神童、即座に完璧な布陣を整えた。

最も成績の良い翔子を総指揮につかせ、秀吉に余計な手心を加えないであろう優子を、二番目に成績の良い姫路を一番勉強が必要な明久にあてがう。残った二人だが、翔子見ている中で女子にマンツーマンで教えるなぞ命を投げ捨てる愚かな選択であるのは言うまでもない。よって必然的に和真が美波を、自分がムッツリーニを担当することになる。

 

明久「それじゃ、テスト前だからってわけじゃなくて、いつものように勉強を始めようか!」

 

何かを取り繕うような白々しい明久の台詞と共に勉強会がスタートする直前、玲が何かの書物を持ってリビングに入ってきた。

 

玲「皆さんでお勉強ですか。それなら良い物がありますよ?」

明久「良い物?」

玲「はい。今日部屋を片付けていて見つけました。参考書というものなんですが、役に立つかもしれません」

 

【女子高生 魅惑の大胆写真集】

 

表紙の際どさ具合からして、これはどう考えても参考書ではないだろう。ちなみにこう見えてかなりウブな和真は皆に気取られないようにさりげなく視線を外しているが、そのことを知っている優子は暖かい目で和真を見守る。

 

玲「アキくんの部屋で見つけました」

明久「僕のトップシークレットがぁーっ!?」

玲「保健体育の参考書としてどうぞ」

明久「どうぞ、じゃないっ!こんなもんが参考になるかぁっ!?……あと僕の部屋に勝手に入ったね!?あんなに入らないでって言ったのに!」

玲「いいえ。昨日、確かにアキくんは入って良いと言いました」

明久「それってもしかして着替えを取りに行く時のこと?あの時の会話はコレが目的だったのか!なんて陰湿卑劣迂遠な作戦なんだ!」

姫路「そ、それじゃあ、あくまでお勉強の参考書として……」

美波「そ、そうね。ウチもちょっと勉強しておこうかな……」

明久「姫路さんに美波!?無理に姉さんのセクハラに付き合わなくていいんだよ!?というかお願いだから見ないで!」

 

どうやらこの二人は勉強にかこつけて明久の趣味を暴く所存であるらしい。この行動力を何故正しい方向に活かせないのか甚だ疑問である。

 

玲「アキくん。ベットの下に置いてあった他の参考書も全て確認しましたが、あなたはバストサイズが大きく、かつヘアスタイルはポニーテールの女子という範囲を重点的に学習する傾向がありますね」

明久「冷静に考察を述べないで!いくら言い方を変えて取り繕ってくれてもそれが僕の趣味嗜好だってことがばれちゃうんだから!」

和真(こいつはホントわかりやすいな……)

姫路「ポニーテール、ですか……」

美波「大きなバスト、ね……」

 

姫路と美波がお互いの一部を見詰め合っている。意識しているのがバレバレであるが当の明久はやはり気づけない。

 

秀吉「お主ら、勉強は良いのか?」

明久「そ、そうだね。秀吉の言うとおりだよ!さぁ始めるよ皆!」

姫路「そ、そうですね。お勉強を始めましょうか。んしょ……っと」

美波「み、瑞希っ!どうして急に髪をまとめ始めるのよっ!?」

姫路「べ、別に深い意味はありませんよ?ただ、お勉強の邪魔になるかと思って」

美波「それならウチがやってあげるわ!お団子でいいわよねっ!」

姫路「い、いえ。ポニーテールにしたいと」

美波「ダメっ!お団子なの!」

姫路「美波ちゃん、意地悪です……」

 

胸の大きさはどうしようもないため、美波はせめてもの抵抗を試みる。その不毛なやり取りを見ながら優子は和真に小声で語りかける。

 

優子「あの二人あんなに露骨にアピールしているのになんで吉井君は気付かないのかしら?」

和真「さぁてね、まあ余程のことが無い限りあのまま平行線だと思うぜ。あの二人がさっさと直接想いを告げりゃ話は別だがよ」

翔子「……好意に気づいたらすぐに告白した和真が言うと説得力が違う」

和真「あのな翔子、そういう柔らかい部分はあんま触れないでくんない?」

優子「なによ、恥ずかしがること無いじゃない。アタシは今も一字一句覚えてるわよ」

和真「頼むから黙っててくれ……もういっそのこと直接キョロ缶あげるから」

優子「まだチョコボール引っ張るの!?」

 

まあ渾身の告白台詞を他人に暴露されるなど、どう考えても罰ゲームに等しいだろう。

 

秀吉「そう言えばムッツリーニはどうしたのじゃ?随分とおとなしいようじゃが」

明久「あ、そう言えば」

ムッツリーニ「(キョロキョロ)……明久」

明久「ん?」

ムッツリーニ「……あと1999冊は?」

明久「えぇっ!?2000冊以上のエロ本って話を本気にしてたの!?」

ムッツリーニ「……エロ本なんかに興味はない」

 

台詞とは裏腹に、ムッツリーニはしょんぼりと肩を落としていた。どうやら本気で信じていたらしい。

 

雄二「明久のエロ本は置いといて、勉強するならさっさと始めようぜ」

玲「お勉強なら、宜しければ私が見て差し上げましょうか?」

姫路「え?お姉さんがですか?」

玲「はい。日本ではなくアメリカのボストンにある学校ですが、大学の教育課程は昨年修了しました。多少はお力になれるかと」

雄二「ぼ、ボストンの大学だと……!?それってまさか、世界に名高いハーバート……」

和真(ソウスケの進学予定先だな)

玲「良くご存知ですね。その通りです」

「「「えぇぇっ!?」」」

 

勉強ができることと常識があることはイコールではないと、身を持って証明している女性である。

 

雄二「なるほど、出涸らしか……」

明久「雄二。その言葉の真意を聞かせてもらえないかな」

和真「気持ちはわかるが落ち着け明久。とりあえず、そういうことなら予定を変更して皆で教えてもらおうぜ」

ムッツリーニ「………頼もしい」

玲「わかりました。それでは、まず英語あたりから始めましょうか」

「「「よろしくお願いします」」」

 

結局この後十時前くらいまで玲の講義を聞いて、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




徹「何気に鳳の進路が公開されたね」 

源太「まあアイツの立場と学力から考えれば不自然でもねぇけどな」

徹「そう言えば綾倉先生もハーバード卒だったっけ」

源太「14歳で飛び級卒業したらしいから、離れた先輩後輩の関係にあたるな」

徹「……あれ?そういえばおっちゃんでお馴染み御門社長は吉井の姉さんと知り合いだってわかってるよね?……ってことは……」

源太「……ま、まあ、世界的大企業の社長なんだし別におかしくはないんじゃねぇの?」

徹「まるでハーバードのバーゲンセールだね」





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交代

【バカテスト・英語】

()内の英単語の正しいアクセントを答えなさい。
『Don`t mind.It`s your (imagination).He had stayed on business in New yesterday.』


姫路の答え
『It`your imagina(,)tion.』

蒼介「正解だ。お前には言うまでもないだろうが、一般的に”-tion"という単語は”tion”の前に母音にアクセントがつく」


ムッツリーニの答え
『It`s your i(,)m(,)a(,)g(,)i(,)n(,)a(,)t(,)i(,)o(,)n(,).』

蒼介「数を打てば当たるというものではない……」



吉井明久の答え
『It`s your imagination !』

蒼介「ある意味稀有な才能だなお前は……」





翌日の放課後。明久は素早く帰り支度を整えて、近くにある雄二の席に駆け寄った。

 

明久「雄二、今日も楽しく勉強会をしよう」

雄二「……明久。似合わない台詞が気持ち悪いぞ」

明久「なんとでも言ってよ。体裁を気にしてる余裕なんかないし」

雄二「また減点でも食らったのか?」

明久「うん……」

 

雄二の言う減点とは玲が明久に出した課題である。試験当日までに積み重ねた点数分振り分け試験の時よりも成績が上がらなければ、自活能力なしと判断されそのまま玲が明久の家に居座ることになっている。

 

雄二「それで、今はどのくらいの減点なんだ?」

明久「確か、合計で390点。もうかなり厳しいんだよね……」

雄二「そうなると、期末の総合目標は1190くらいだな」

明久「そうなんだよ。今までは絶好調でも1100ちょっとだから、さらに50点以上アップさせないと……」

 

あの明久が既にEクラス中堅レベルの学力を有していることに驚くかもしれないが、絶対的な得意科目である日本史を中心に全ての科目が多少(本当に多少だが)向上している明久は、Fクラスの中では既にベスト5の学力がある(まあトップ4とは天と地ほどの差があるが、それは流石に仕方ないだろう)。

 

雄二「まあ、どうとでもなるレベルだな」

明久「え?そうなの?」

雄二「暗記科目を中心に今から死ぬ気で根性入れたら、それなりに上がるはずだからな。お前の場合70点程度で伸び代が残っている世界史が狙い目だ」

 

流石はクラス代表、試召戦争の為にクラスメイトの点数はおおよそ全て把握しているようだ。

それに加えて雄二は和真の並外れた人脈によるアシストを受け、同学年の全ての生徒の学力、誰がどの教科を得意、苦手としているかまでを大まかに把握している。このことはAクラスに対してのアドバンテージになり得るかもしれない。

明久達の話をしている最中、鞄を抱えた和真が雄二の席にやってきた。

 

和真「おい明久、朗報だ」

明久「どうしたの和真?…あ、もしかしてやっぱり手伝ってくれるの?」

雄二「明久、せっかく木下姉との勉強会を邪魔してやるなよ、馬に蹴られるぞ(ニヤニヤ)」

和真「鬱陶しいニヤケ面浮かべてるとこ悪いが……俺達『アクティブ』の勉強会に遊びは一切無ぇぞ。源太に言わせれば、『テスト当日までただひたすらに延々と問題を解き続ける、夢も希望も存在しない恐怖の無限地獄』だからな」

雄二「お、おう……」

明久「想像するだけで恐ろしい……」

 

奇しくも成績優秀者のみで構成された『アクティブ』のメンバーは、テスト期間に入る頃には知識を蓄えるインプットの段階はもう終えてしまっている。テスト期間中に彼らがすることは学んだ知識教養を活かして問題をひたすら解くアウトプットの作業となる。しかも今回の期末は和真が枷を外すことに決めたため、おそらく用意されている問題の難易度及びシゴキのキツさ、ともに以前までと比べてレベルが跳ね上がっているだろう。質、量ともに明久が立ち入って良い領域ではない。

 

明久「じゃあ朗報って何?」

和真「ソウスケにお前らの勉強見てやってくれって頼んどいた。勉強教えてもらうならまさに適任だろ」

雄二「ソウスケって……鳳か」

 

和真がピンチヒッターとして選んだのは、和真の無二の親友にして好敵手、Aクラス代表にして生徒会長のの鳳蒼介。なるほど、確かに勉強会を開くとなれば講師としてこの上なく適任な人材である。

 

明久「それはありがたいんだけど……よく引き受けてくれたね?僕、鳳君とは全く面識ないのに」

和真「お前の減点云々の事情話したら、快く引き受けてくれたぞ。『動機はやや不純だが、生徒会長として向上心のある生徒には背を後押ししてやらないとな』っつって」

雄二「けっ。そりゃまた、いかにもエリート様らしい言い分だな」

 

四月の試召戦争で完全な敗北を喫したことを少し根にもっているのか、やや刺のある態度の雄二。いや、そもそも人種的に合わないだけかもしれない。

 

和真「あいつはあいつで苦労してるんだぞ?例えば俺らの起こした覗き騒動のもみ消しをスポンサー方に頭下げてお願いしに奔走したりとかな」

「「…………」」

 

雄二だけでなく、明久も申し訳なさそうな表情で目をそらす。この二人にも罪悪感らしきものはあるらしい。

 

和真「蒼介は校門で待機しているそうだからさっさと行ってやれよ、じゃあな………あ、そうそう翔子」

 

伝達事項を伝えてそのまま教室を出て行こうとする和真だが、ドアを開けながら翔子に伝えたいことがあったと思い出し、翔子の方に顔を向ける。

 

翔子「……何?」

和真「今回の期末……お前にも負けるつもりねぇから」

 

急に挑戦状を叩きつけられた翔子は一瞬目を丸くするも、すぐに楽しげに微笑む。

 

翔子「……望むところ。返り討ちにしてあげる」

和真「ハッ、それでこそ俺の親友だぜ」

 

このとき明久達の目には、二人の背後に竜と虎のイメージが映っていたとか、いないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「んじゃ、入ってくれ」

 

あの後話し合いの結果、雄二の家で勉強会を開くことになった。いつものメンバーに和真と交代で加入した蒼介を加え、一同は住宅街の一角にある雄二の家に到着した。

 

「「「お邪魔します」」」

 

玄関で靴を脱いで中に入る。雄二の家は二階建ての一軒家で明久の家より広いため、この人数でも窮屈に感じることは無いだろう。

 

蒼介「坂本、ご両親は留守なのか?」

雄二「ああ。親父は仕事で、おふくろは高校の同級生達と温泉旅行らしい。だから何も気兼ねせずゆっくりとしてくれ」明久「そうなんだ。そう言えば、前に来た時も雄二の家族は留守だったよね」

雄二「ああ。その方が都合がいいからな。色々と」

 

何故か晴れやかな表情を浮かべている雄二に蒼介は疑問を持つも、自分の父が脳裏にちらついたため詮索しないことにする。親に頭を悩ませることなど珍しくはないだろう。

そのまま雄二がドアを開けると……

 

 

『…………………!!(ぷちぷちぷちぷち)』

 

 

……パタン

 

 

居間には一心不乱にプチプチを潰している女性がいた。それを確認すると雄二は無表情でドアを閉めた。

 

明久「ゆ、雄二……?今の、山ほどあるプチプチを潰していた人って……」

翔子「……雄二のお義母さ-」

雄二「違う。あれは赤の他人だ」

美波「さ、坂本の母親なの……?なんだか、随分とすごい量を潰していたわよね……」

秀吉「う、うむ。あれほどの量。費やした時間はおそらく一時間や二時間ではきくまい」

ムッツリーニ「……凄い集中力」

姫路「坂本君のお母さんはそういうお仕事をされているのでしょうか?」

雄二「おそらく精神に疾患のある患者がなんらかの手段でこの家に侵入したに違いない。なにせ、俺のおふくろは温泉旅行に行っているはずだからな」

翔子「……雄二、お義母さんにそんな言い方しちゃダメ」

蒼介「苦し紛れな嘘をつくな、往生際が悪い」

 

雄二が戸を閉めてしまったので部屋に入れずにいると、雄二いわく赤の他人さんの声が中から聞こえてきた。

 

『あら……?もうこんな時間。さっき雄二を送り出したと思ったのに』

 

それが事実なら八時間近くあの作業を続けていたことになる。すごい集中力だと蒼介はややズレた感想を抱いた。

 

『続きはお昼を食べてからにしましょう』

雄二「(ガチャッ!)おふくろっ!何やってんだ!?」

 

とうとう耐えきれなくなった雄二が勢いよくドアを開けて部屋の中に踏み込んだ。やはり雄二の母親であっていたらしい。

 

坂本母「あら、雄二。おかえりなさい」

雄二「おかえりじゃねぇ!なんで家にいるんだ!?今日は泊まりで温泉旅行じゃなかったのかよ!?」

坂本母「それがね、お母さん日付を間違えちゃったみたいなの。7月と10月って、パッと見ると数字が似ているから困るわね」

雄二「どこが似てるんだ!?数字の形どころか文字数すら合ってないだろ!?」

坂本母「こら雄二。またそうやってお母さんを天然ボケ女子大生扱いしてっ」

雄二「サラッと図々しい台詞をぬかすな!あんたの黄金期は十年以上前に終わっているはずだ!」

坂本母「あら、雄二のお友達かしら?」

雄二「だから人の話を聞けぇ!」

 

怒濤の応酬に呆気にとられる一同。秀介といい守那といい大悟といい玲といい、文月学園の生徒の親族は奇人変人の見本誌なのだろうか。

 

坂本母「皆さんいらっしゃい。うちの雄二がいつもお世話になっています。私はこの子の母親の雪乃と言います」

 

柔らかい物腰と微笑で挨拶をする雄二の母、雪乃。その優しげな雰囲気は雄二のとの血の繋がりを疑うレベルである。

まあそれよりも、一同には気になることが一つ。

 

美波「さ、坂本の母親って………若すぎない!?」

秀吉「むぅ……。とても子を産んでおるとは思えん……」

ムッツリーニ「……美人」

姫路「まるでお姉さんみたいですね~」

 

それぞれの感想通り母親というよりは年の離れた姉と見間違うほどの若々しさであるが、自分の両親も年齢相応の容姿とは言いがたいので蒼介は特に何も言及しなかった。

 

雄二「み、皆、とりあえずおふくろは見なかったことにして、俺の部屋に来てくれ……」

明久「う、うん。それじゃ、お邪魔します」

雪乃「後でお茶を持っていきますね」

蒼介「ご厚意感謝します」

 

一通り挨拶を済ませてから雄二達は階段を上がってすぐのところにある雄二の部屋に向かう。中に入ると一人用にしては結構な広さがあり、意外なことに綺麗に整頓されていた。

 

明久「そういや、久しぶりに雄二の部屋に来たよ」

秀吉「ワシもじゃな」

ムッツリーニ「……同じく」

美波「え?アンタたちはよく来てるんじゃないの?」

明久「大抵は僕の家に集まっていたからね。雄二の家だけじゃなくて秀吉やムッツリーニの家でもあんまり遊んだことはないんだよ」

雄二「場所といい、広さといい、明久の家は都合がいいからな」

姫路「家族用のマンションに一人暮らしですもんね。贅沢です」

美波「食生活を除けばね」

蒼介「……?吉井の食生活に何か問題でもあるのか?」

雄二「ああ、そういや鳳は知らなかったな」

 

蒼介は雄二から明久の一人暮らしの現状(食費の大半をゲームや漫画につぎ込み、水と塩が主食であること)を聞くと、二つ返事で引き受けたことを早くも後悔し始める。

 

蒼介(カズマの奴、そのことを話せば断られると私に黙っていたな……吉井のためを思えば一人暮らしをやめさせるべきだろう……かといって引き受けたからには今更反故にするわけにもいかないし……クソッ、してやられた……)

雄二「それはそうと……。やっぱりこの人数で俺の部屋は狭すぎるか。参ったな……」

 

蒼介が内心で葛藤しているなか、雄二は困ったように言う。全員で8人ともなると、座って話をするだけならまだしも道具を広げて勉強をするには少々広さが足りない。

 

明久「居間じゃダメかな?」

雄二「ダメじゃないが、おふくろがいるからな。勉強にならない可能性が高い」

翔子「……雄二、お義母さんを邪魔物扱いしちゃダメ」

雄二「翔子、お前はいい加減おふくろのツッコミどころの多さに気づくべきだ。……そうだ鳳、お前の家は行けるか?絶対にこの人数でも余裕だろ」

蒼介「それは構わんが……赤羽家の人間は例え客人であろうとも、作法を弁えていない者に容赦するほど寛容では無いぞ」

雄二「…………無理だな(チラッ)」

姫路「あ、あはは……(チラッ)」

明久「ねぇ二人とも、なんで僕をチラ見したの?」

 

蒼介が現在住んでいる母親の実家の人々は伝統と格式、そして礼節を重んじる頭のお堅い集団である。そんな場所に作法の「さ」の字も知らない者が大半を占めるこの面子(特に明久)が向かえばどうなるか、雄二にはある程度想像がつく。週一で料理修行のため訪れている姫路も思わずひきつった笑みを浮かべる。

 

Prrr!Prrr!

 

どうしようか一同は迷っていると、突然部屋の中に携帯の着信音と思わしき電子音が鳴り響いた。

 

美波「あ、ウチの携帯ね。ちょっとゴメン」

 

スカートのポケットから携帯電話を取り出して耳に当てる美波。メールではなくて電話ということは何か急用である可能性がある。

 

美波「もしもし?あ Mut……お母さん。どうしたの?……うん。……うん。そう。わかった」

 

一分もしないで通話を終え、美波は携帯をポケットにしまった。

 

明久「美波、何かあったの?」

美波「うん……。今週は仕事が休みだからって母親が家にいるはずだったんだけど……ちょっと急な仕事が入って家にいられなくなったみたい」

明久「あ、そうなの?それじゃ、葉月ちゃんが家に一人ってこと?」

蒼介(葉月……おそらく妹か)

美波「そうね。だから、悪いけど今日はウチは帰るわ。勉強はまた今度ね」

雄二「待て島田。それなら、場所をお前の家に変更しないか?」

美波「え?ウチの家?」

秀吉「それは良いのう。丁度雄二の部屋は手狭だったところじゃしの」

姫路「葉月ちゃんとも会えますしね」

ムッツリーニ「……なんなら、夕飯を作る」

蒼介「料理か。差し支えなければ私が引き受けよう」

翔子「……鳳の腕が気になるから私も手伝う」

 

どうやら反対意見は無いようだ。特に提案者の雄二が会場を変えたくて仕方がないらしい。

 

明久「美波さえ良かったら、どうかな?」

美波「う……。そ、そうね……じゃ、じゃあ、ウチの家にしましょうか……ただし!絶対にウチの部屋に入っちゃダメだからね!」

 

少し考えてから美波は提案を承諾するも、明久の目を見て美波はそう釘を刺した。おそらく美波の部屋には明久だけには見られたくないようなものでもあるのだろう。

 

雄二「よしっ!そうと決まれば早速移動だ!チビッ子も一人じゃ寂しいだろうからな!」

蒼介(そこまで嫌だったか……)

 

背中を押さんばかりの勢いで雄二は全員を玄関に追いやる。

それぞれが靴を履いている間、蒼介と雄二は居間に入って雪乃に声をかける。蒼介は一同を代表して別れの挨拶のため、雄二は出掛けることを報告するためだろう。

 

雄二「おふくろ。ちょっと出掛けてくる。夕飯は昨日の残りが冷蔵庫にあるから、それを温めて食べて……」

蒼介「わざわざお邪魔しておいて申し訳ありません。それでは失礼しま……」

雪乃「あら、もう行っちゃうの?お茶を用意しているところなのに」

蒼介(どう見ても麺つゆだ……)

雄二「……その麺つゆのボトルは何に使うんだ?」

雪乃「麺つゆ?あらら……。てっきり、アイスコーヒーだとばかり……」

雄二「おふくろ……。色や匂いで気付いてくれとは言わないから、せめてラベルで気づいていくれ……」

蒼介「……お前も苦労しているな」

 

 

 

 

 

 

 




和真「……っつうわけで、しばらくは俺のいた主人公ポジションに蒼介がつくことになった。ボケ:ツッコミ=5:5の俺と違って多分10割ツッコミになると思う」

蒼介「出番はありがたいが、はやくも苦労人ポジションに落ち着きそうで先行き不安だな……」


【ミニコント】
テーマ:演劇2

秀吉「今日も演劇の練習に付き合ってもらうぞい義兄上」

和真「義兄上言うな。……で、今回のテーマは?」

秀吉「そうじゃのう……今日は『神に反逆した勇者』にしようかの」

和真「じゃあ俺は神で。……コホン……
人の子よ……お前達はこの星を汚しすぎた
その身をもって裁きの雷(ライトニングタイガー)を受けるがよい」

秀吉「へっ!神サマだかなんだか知らねーがよ、ゴチャゴチャうるせーんだよ!俺達ははテメェの操り人形なんかじゃねぇんだよ!」

優子「運命を決めるのは神でも勇者でもない……アタシの人生(ものがたり)はいつだってアタシが主役よ!」

「「第三勢力!?」」






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万能な英雄

とうとうこの小説も記念すべき100話目です(プロフィールとか番外編を除くとまだまだですが)。ここまで来れたのもひとえに読者の皆様あってのことです。どうかこれからもこの作品にお付き合いください。


【その頃の和真達】

和真「よし、採点終了。英数国合計点数ランキング結果発表~!」

「「「「いぇぇえええい!」」」」

和真「んじゃ第一位は……この俺、和真様だ!得点は1232点」

愛子「まあ、そうだよね」

和真「第二位は優子。得点は1189点」

優子「初めて英語で400点越えたけど、負けたのはやっぱり悔しいわね……」

和真「第三位は徹で、1134点だ。数学は496点で見事トップだ」

徹「まあ、この辺りだろうね」

和真「そして、残りの二人の順位は~……」

源太「……(ゴクッ)」
愛子「……(ゴクッ)」



和真「源太、912点。愛子……
946点!」

愛子「やった~!!!」

源太「チクショォォォオオオ!!!」

優子(まあ予想通りね)

徹(流石アクティブ貧乏クジ担当)

和真「英語は536点とダントツトップだが他の科目で足を引っ張られたな。……つうわけで、罰ゲームとしてさっさと飯作れや負け犬野郎」

源太「覚えてろよ和真テメェ……」

和真(計画通り)


※源太はこう見えて『アクティブ』の中では蒼介に次いで料理が得意です。





蒼介の提案で途中夕食の買い物(“鳳”系列の店から無料で譲ってもらったため厳密には買い物ではない)を済ませてから明久達は美波の家にたどり着いた。

 

美波「ただいまー。葉月、いる?」

葉月「わわっ、お姉ちゃんですかっ。お、お帰りなさいですっ」

 

玄関の扉を開けて美波が呼びかけると、廊下に面した部屋から葉月が勢い良く飛び出してきた。

 

美波「あれ?葉月、今お姉ちゃんの部屋から出てこなかった?」

葉月「あ、あぅ……。実はその……一人で寂しかったから、お姉ちゃんの部屋に行って……」

 

何やら言い難そうにしながらパーカーの大きなポケットに何かを隠す葉月。

 

美波「ぬいぐるみでも取ってこようと思ったの?それくらい、お姉ちゃんは別に怒らないのに」

葉月「そ、そうですか?お姉ちゃん、ありがとですっ」

 

よしよしと葉月の頭を撫でる美波。二人の会話が落ち着いたのを見計らって明久が葉月に挨拶をする。

 

明久「葉月ちゃん、こんにちは」

葉月「あっ!バカなお兄ちゃんっ!」

 

明久が姿を見せるなり、葉月は満面の笑みを浮かべて勢いよく腰にしがみつき、そのまま額をぐりぐりと明久の腹に当てていた。

 

明久(うんうん、流石は美波の妹だ。……おでこが的確に鳩尾に食い込んでいる)

姫路「こんにちわ、葉月ちゃん。お邪魔しますね」

葉月「わぁっ。綺麗なお姉ちゃん達まで。今日はお客さんがいっぱいですっ。……あれ?お兄ちゃんは誰ですか?」

蒼介「初めまして、私は鳳蒼介。吉井達とはクラスが違うのだが、カズマから勉強を見てやってくれと頼まれて同行している」

 

蒼介は警戒心を与えないように、膝をついて同じ目線かついつもよりやや優しげな表情で自己紹介をする。もっとも葉月はあの源太にすら恐がらずに普通に会話できるほど胆力があるので無駄な配慮なのだが。

 

葉月「強いお兄ちゃんのお友達さんですか?よろしくですっ。でも、勉強会ですか……それじゃあ、葉月は自分のお部屋でおとなしくしているです……」

 

葉月が勉強の邪魔になるまいと自分の部屋に戻ろうとするが、寂しそうな表情をしているのを察した明久が葉月を引き留める。

 

明久「待って葉月ちゃん。良かったら、僕らと一緒にお勉強しよっか?学校の問題とか、予習とかはないかな?」

葉月「えっ?葉月も一緒にお勉強していいですかっ?」

雄二「ああ。どうせ一人に教えるのも二人に教えるのも変わらないからな」

明久「雄二。それは僕が小学校五年生レベルだと言っているのかな?」

蒼介「察しの良いことや気配りができることは君の美点なのだろうが……ときには年上に甘えることも覚えておいた方が良いぞ」

 

もっともらしいことを述べているが、生まれてから現在まで年上に甘えたことなどほとんど無さそうな蒼介が言ってもまるで説得力がないのはご愛敬だ。

 

葉月「葉月、一緒にお勉強をしたいですっ」

雄二「おう。それなら勉強道具を持ってくるといい」

美波「リビングで待ってるから」

葉月「はいですっ」

 

軽い足音を立てて自室に向かう葉月。ただ一緒に勉強するだけだが、本人は随分と嬉しそうだった。それを見届けて美波は一同をリビングに案内する。蒼介は時間を確認すると現在の時刻は五時。

 

蒼介「さて、私は料理に取り掛かるとしようか。島田、キッチンを借りるぞ」

美波「あ、うん。案内するわ」

翔子「……私も手伝う」

蒼介「……気持ちは有り難いが、今回は吉井達の勉強会の方を優先してくれ。もし『赤羽流』に興味があるなら母様に口添えをしておく」

翔子「……わかった」

 

余談だが、この後蒼介の振る舞ったお手軽な懐石料理は男女問わず参加したメンバー全員を驚愕させたが、昨日のように女性陣のプライドが打ち砕かれることはなかった。なぜなら蒼介の料理の腕はその場にいた誰よりも遥か高みにあったからだ。人は圧倒的に格上と相対したとき、悔しいという感情は抱けないのである。

食事を堪能した後、勉強会は加入した蒼介によってとてつもなく質の高いものとなった。蒼介の教え方は非常にうまく、明久達は通常の数倍の能率で学習を行うことができた。特に伸びしろが目立った美波である。蒼介がドイツ語も非常に堪能であったことや、蒼介が漢字を完璧に覚えるより問題に慣れることを美波に重視させたお陰で、個人ではどうしようもなかった壁をいくつも飛び越えられたことを美波は実感したという。

そんな蒼介に雄二は頼もしさを覚えつつも、同時に危機感も覚えることになる。

久保を始めとしてAクラスの生徒達の成績が振り分け試験の頃より向上している理由がはっきりしたからだ。

こんな化け物がAクラスにいては、日を追うごとにAクラスとFクラスの実力差がどんどん広がっていってしまうというのが雄二の抱いた懸念だ。

 

ちなみに蒼介の葉月からの呼び名は「万能なお兄ちゃん」に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「……もう九時半か。そろそろ今日はこの辺りで切り上げるとするか」

秀吉「なんじゃ。あっという間じゃったな」

ムッツリーニ「……集中していた」

翔子「……もうすっかり暗くなってる」

雄二「あとはまた今度にするとして、今日は帰ろうぜ」

姫路「そうですね。美波ちゃん、今日はありがとうございました」

美波「あ、ううん。こっちこそ色々とありがと。ほら葉月、お礼を言いなさ……葉月?」

葉月「Zzzz……」

蒼介「どうやら疲れて眠っているようだな」

 

明久の膝の上で勉強をしていた葉月はいつの間にか眠ってしまったようだ。

 

美波「もう、葉月ってば……アキ、悪いけどこっちにきてもらえる?」

明久「あ、うん。そうしたいんだけど……」

 

ソファーの上に寝かせようとする明久だが、葉月が明久のシャツを握りしめて寝ているため離れない。

 

美波「こら葉月、起きなさい。アキが帰れないでしょ?」

葉月「んぅ……帰っちゃ、嫌です……」

 

美波に肩を揺すられて葉月は僅かに目を開けるが、明久のシャツを更に握りしめて離そうとしない。

 

美波「葉月。あんまり我が儘言うとお姉ちゃん怒るからね」

葉月「……お姉ちゃんには、わからないです……」

美波「え?何が?」

葉月「……お姉ちゃんは、いつも一緒にいられるからいいです……。でも、葉月はこういう時しか、バカなお兄ちゃんと一緒にいられないです……」

「「…………」」

 

寝ぼけているからこそ聞けた葉月の本音に、明久や美波は顔を見合わせる。蒼介は葉月がどれだけ明久を慕っているのか理解したので、いつも通り冷静沈着の表情のままであるが、心なしかいつもより優しげな声音で明久にある提案をする。

 

蒼介「吉井、お前はもう少し残ってやれ。我が儘は子どもの特権であり、それを聞いてやるのは大人の義務、そして矜持というものだ」

明久「うん、わかってるよ鳳君」

翔子「……それが良いと思う」

雄二「だな。今のチビッ子の台詞を聞いたら、明久は残るべきだよな」

秀吉「そうじゃな。明久よ、モテる男は辛いのう」

ムッツリーニ「……人気者」

 

皆は口々に明久をからかうが明久も別に嫌そうには見えなかった。最近は常軌を逸した姉を筆頭に攻撃的な人とばかり接していたので、どうやら気分を和ませてくれる葉月の好意は純粋に嬉しかったようだ。

 

美波「そ、それじゃあ、悪いけどもう少し葉月に付き合ってもらえる?」

明久「うん」 

姫路「あ、あのっ、それなら私も……っ!」

明久「え?姫路さんはダメだよ。女の子があまり遅い時間に出歩いちゃ危ないからね。雄二か鳳君にでも送ってもらって早く帰らないと」

姫路「でも、心配なんです。その、イロイロと……」

明久「心配なのはわかるけど」

姫路「いいえっ。明久君は私が何を心配しているのか全然わかっていませんっ」

明久「???」

 

予想通り明久は、姫路が懸念していることについて何一つわかっていなかった。蒼介は若干呆れつつもこれは自分がしゃしゃり出ていい話ではないと判断し黙っていることにする。

 

雄二「翔子は俺が送るとして、ムッツリーニが秀吉、鳳が姫路を送るってことでいいか?」

蒼介「構わんよ」

ムッツリーニ「……引き受けた」

秀吉「ワシはいまいち釈然とせんが、致し方あるまい……」

 

このとき雄二は適当に決めたように見えて、姫路に蒼介をあてがったのにちゃんとした理由がある。

 

姫路「あの、やっぱり私も……っ!」

明久「いくら言っても、ダメなものはダメだからね姫路さん。最近各地で謎の失踪事件が多いって聞くし、こういったことはきちんとしないと」

雄二「諦めろ姫路。こうなると明久は考えを曲げないぞ」

姫路「……うぅ……。そんなぁ……」

翔子「……美波、今日はありがとう」

秀吉「大勢で押しかけてすまんかったのう」

ムッツリーニ「……ありがとう」

蒼介「世話になったな、感謝する」

姫路「美波ちゃん、ありがとうございました……」

 

いまだどこか納得のできてない様子の姫路を含めて、皆がお礼の挨拶をして玄関に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介は帰路で姫路に対して頭を悩ませていた。というのも、美波の家を出てしばらく経つもののほとんど前に進んでいなかった。

 

姫路「あ、あのっ鳳君。そう言えば私、美波ちゃんのお家に忘れ物を……っ!」

蒼介「していないはずだろう。島田の家を出るときに私が確認しておいた」

姫路「あぅ……。そうじゃなくて、えっと……。じ、実は私、寄って帰るところが」

蒼介「この時間帯では流石に生徒会長として認めるわけにはいかん、明日にしろ」

姫路「はぅ……で、でも、美波ちゃんにお話しなくちゃいけないことが」

蒼介「……いい加減にしろ姫路。これではいつまで経っても帰れないではないか」

姫路「だ、だって……」

 

雄二が蒼介を姫路に当てた理由は、この通り姫路がゴネのゴネまくって美波の家に引き返るそうとするのを予想していたからだ。仮に姫路を送る役目がムッツリーニだった場合もしかしたら強引に押しきられていたかもしれないが、蒼介は学年NO.1堅物と(主に和真に)呼ばれているだけあって頑として許可しなかった。そんな風に膠着状態に入ってしまっている二人を、なぜか放心した表情の明久が視界に収める。

 

明久「あれ?二人とも何の話をしているの?」

姫路「きゃっ!?あ、明久君!?」

蒼介「吉井か、随分早く終わったようだな」

明久「うん。それで、何の話をしてたの?」

蒼介「大層なことではない。単に姫路が島田の家に戻ると先程から駄々をこねて-」

姫路「そ、それより!!明久君は美波ちゃんと二人で、どんなお話をしていたのですか?」

明久「えっ!?」

 

蒼介の暴露を強引に遮ってした姫路の質問に不自然なほど狼狽える明久。どうやら何かあったことは確かなようである。

 

姫路「もしかして……好きな人の話とか……ですか?」

明久「ぅぐっ」

 

この反応を見るにどうやら図星のようだ。

今の姫路は何故かやたらと勘が鋭い。

 

姫路「お話しして、もらえませんか……?」

明久「うぅ……ごめん、言えないんだ、姫路さん……」

姫路「そう、ですか……」

 

すがるような目をされてもどうにか耐えきって断る明久に、姫路は辛そうに俯く。

 

明久(出来ることなら話してあげたいけど、美波のオランウータンへの恋心は人類として前衛的すぎるからなぁ……)

 

どうしてそんな認識になったのかは皆目検討がつかないが、大方また明久お馴染みののファンタジスタぶりが猛威を奮ったのだろう。そんな風に明久が見当違いなことを考えていると、姫路は思いきったように顔を上げた。

 

姫路「明久君っ!」

明久「は、はいっ!?」

姫路「美波ちゃんの気持ち、私にもよくわかりますっ!」

明久「なんだって!?」

姫路「でも、私の気持ちも聞いてもらいたいんです!」

明久「そ、そんな!急にそんなことを言われても困るよっ!」

 

会話だけを見れば噛み合っているように見えるが、全く噛み合っていないことは説明するまでもないだろう。

 

姫路「困るとは思います!でも、真剣に考えて欲しいんですっ!」

明久「し、真剣に…………」

蒼介「………ハァ……姫路、水を差すようで悪いが……お前の言いたいことはおそらく吉井に正しく伝わっていない」

姫路「え?」

明久「……ええと、ニホンザルならまだ紹介できるよ……いや、違うな。チンパンジーはタレント業だから一緒になると大変かも、と言うべきか……」

姫路「……明久君……。私は必死に勇気を出したのに、どうして動物のお話を……?」

蒼介「さあな。この場にカズマがいれば話は別だったのだろうが…」

明久「………………はっ!?ごめん、二人とも。何の話をしてたっけ?」

蒼介「……他愛ない世間話だ」

 

キャパシティの限界を超えたのか、明久はここ数分の出来事を脳内から忘却したらしい。蒼介も流石に面倒になったのか適当に対応する。

 

蒼介「………………むっ……!」

 

ふと何かを察知したのか、蒼介の片眉がつり上がる。

 

明久「どうしたの鳳君?」

姫路「何か気になることでもあるんですか?」

蒼介「……いや、お前達が気にする必要は無い。それよりも吉井、姫路を送る役目を任せて良いか?姫路にとっても私よりお前の方が気心が知れているだろう」

明久「あ、うん。任せてよ。姫路さん、それで良い?」

姫路「は、はいっ!」

蒼介「一応釘を刺しておくが、夜道で公序良俗に反することはするなよ?」

明久「了解。なんとか我慢するよ」

蒼介「吉井、その返事はどうかと思うぞ……」

姫路「わ、私も我慢します」

蒼介「姫路、お前もか……。まあいい、それでは私は失礼させてもらう」

明久「あ、うん。今日は色々ありがとう鳳君」

姫路「鳳君、ありがかとうございました」

蒼介「ああ、テストのことで私の力が必要ならまた呼ぶといい。引き受けたからには最後までやり遂げよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人に別れの挨拶を済ませて歩くこと数分、蒼介は一人帰路を歩きつつ独り言を漏らす。

 

蒼介「彼等がカズマの仲間達か。なるほど、お前が肩入れしたくなるのも頷けるな。色々と騒がしい連中だったが、皆活気に満ち溢れていた。……いや、それともカズマ、お前の影響なのか?」

 

そんな感想を抱きつつ歩く蒼介の周りには、数十人ものゴロツキ達が死屍累々となって倒れ伏している。夜道に一人でいるときにこの手の輩に襲われるなど、世界的大企業の蒼介にとっては日常茶飯事のことである。身代金目当てか、敵対企業の回し者か、一々問い詰めていてはキリが無い。

 

蒼介「……これだから護身刀が手放せないんだ」

 

木刀にこびりついた下賎な血を布巾で拭いながらゴロツキ共の回収依頼を“橘”に連絡しつつ、蒼介は珍しく愚痴をこぼした。

 

 




和真「ソウスケが八面六臂に活躍したことはさておき、島田に強化フラグが立ったな」

蒼介「彼女は数学バカではなく、もともと高い学力を有しているのに日本語を不得手としているがためにハンデを背負っているだけだ。それを取り払うことができれば、具体的に言えば漢字さえ克服できれば、自ずと成績は伸びていくだろう」

和真「それにしても……良いのかよ?俺が頼んでおいて何だけどよー、二学期攻めてくることが確定している連中に塩を送って」

蒼介「多少成績が向上したところで私の首は取れんよ」

和真「自信満々なようで何よりだ。……まあ確かに、俺が倒す前に他の誰かにやられるのは癪だしな」

蒼介「私はお前にも負けるつもりはないさ」


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勉強会in霧島家1

【吉井玲先生の特別英語試験】

玲「こちらでは私、吉井玲が学校のテストとは異なる形式の問題を出していきたいと思います。正解が一つに限られる画一的なものではなく、もっと幅広い回答が可能な出題形式です。決して個人的な調査を目的にしている訳ではありませんが、質問には正直に答えてください」

問 あなたの今までの異性とのお付き合い経験について、英語で答えて下さい。

姫路の答え
『I have no associated with a male.』

玲「瑞希さんは今まで男性とお手伝いしたことがないのですね? それは大変結構なことだと思います。学生の本分は勉強ですからね。尚、異性と付き合うという意味で用いる場合の“associate”は主に否定的な意味を伴います。間違いではありませんが、“romantic overture(男女交際)”等の単語を用いると更に良いかと思います」

優子の答え
『l kissed Kazuma on his lips the other day.』

和真の答え
『(何度も書いたり消したりした跡)I was stolen a kiss by Yuko the other day .』

玲「なんと、お二人はお付き合いをしているのですか。特に和真君には少々言いづらいことを聞いてしまいましたね……。恥ずかしがりながらも正直に答えてくれてありがとうございます。……それにしても、最近の高校生は進んでいるのですね。我が家の愚弟がそのような真似をしていないか、あの子の回答がとても気になります。」


吉井明久の答え
『英作文ができませんでした。』

玲「…………………」


秀吉「ふぅ、いつ訪れても購買は混んどるのう……」

 

翌日の昼休みに秀吉は、いつもは弁当なのだが今日は両親が忙しかったため購買で昼食を買いに行き、現在Fクラスの教室に戻る途中である。そんな秀吉に後ろからとある腹黒糸目教師が声をかけてきた。

 

綾倉「おや木下君、購買帰りですか?」

秀吉「む、お主は……綾倉先生かのう?」

綾倉「清涼祭のとき以来ですね。しかし担当学年も違うのによく覚えてくれていましたね」

 

嬉しそうに微笑む綾倉先生を見て秀吉は内心顔をひきつらせる。単にここ最近和真を通して『綾倉特性ドリンク』が猛威を奮っているので、忘れたくても忘れられないというだけである。

 

秀吉(この先生、ワシでも何を考えてるかわからんから不気味じゃのう……。間違いなく和真以上のサディストじゃろうし、あんまりかかわりたくはないのじゃ……)

綾倉「そうだ、前々から木下君に話したいことがあったんですよ」

秀吉「な、なんじゃ?」

綾倉「確か君は……演劇に熱中するあまり、学業を疎かにしてしまっているようですね」

秀吉「う……うむ……面目ないがその通りじゃ……」

 

落ち込んだように俯く秀吉。どうやら密かに気にしていたことらしい。成績上位をキープしながらインターハイ上位入賞を果たした飛鳥のような例がある以上、演劇部での活動が成績不良の免罪符にはならないことは、秀吉とて自覚している。そんな秀吉に綾倉先生は優しげに語りかける。

 

綾倉「もし君の培った演技力が、テストにおいても強力な武器になり得るとしたら……どうしますか?」

秀吉「な……なんじゃと!?それは真か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路が二日連続の夜更かしを咎められ、週末までの間学校以外の外出を禁じられてしまったため、一同は週末に翔子の家で勉強会を開くことに決め、週末までの三日間は蒼介がAクラス教室で開いた特別講義に参加することにした(美波は蒼介の用意した漢字対策プリントに取り組む。そんな物を昨日の今日で用意できる辺り、どうやら蒼介はコンピュータースキルも申し分ないらしい)。その間何故か秀吉が不参加であったが、事情を聞かれたくないようだったので一同はそっとしておくことに決めた。明久のときと随分対応に差があるようだが、それはひとえに人徳の差であろう。

そんなこんなで、あっという間に土曜日がやってきた。

 

明久(ん?あの着流し姿は……)「鳳君、おはよう。鳳君も霧島さんに誘われたの?」 

 

翔子の家に向かう途中、明久はたまたま蒼介とばったり遭遇した。今日び休日に家紋の刺繍の入った着流しで外出しているような学生など極少数なためすぐに蒼介だとわかった。

 

蒼介「吉井か。ああ、既にカズマにも頼まれているが昨日私が開いた講義の後に霧島からも頼まれてな。……良い友達を持ったな」

明久「あはは、まあね」

蒼介「ところで、例の減点とやらはいったいどれほど貯まっている?」

明久「……もう490点まで膨れ上がっちゃったよ」

蒼介「ならば今回の勉強会は気合いを入れて臨む必要があるな。私もできる限り力を貸そう」

明久「ありがとう、助かるよ。……でも鳳君、自分の勉強は大丈夫なの?」

蒼介「気にするな。試験前に切羽詰まって詰め込まなくてはならないような雑な学習はしていない」

明久「そ、そうなんだ……」

 

ついさっき姉である玲から似たような指摘を受けた、現在進行形で切羽詰まって雑な学習をしている明久にとっては耳が痛くなる話である。

そんな感じで軽く談笑しながら歩いていると、非常に立派な造りの霧島家に辿り着く(上流階級出身の蒼介は何の緊張も抱かなかったが、典型的な庶民である明久は目の当たりにしただけで緊張してしまった)。呼び鈴を鳴らして待っていると、大きなドアを開けて私服姿の翔子が出迎えた。

 

翔子「……吉井、鳳。いらっしゃい」

明久「お、お邪魔します」

蒼介「今日は世話になる。それとこれは昨日カズマに持たされた文月学園式試験問題集だ」

翔子「……ありがとう。あと、もう皆だいたい揃ってる」

明久「あ、僕達が最後なんだ」

 

二人は翔子に先導されて長い廊下を歩く。途中翔子は書斎、シアタールームなど目についた部屋を懇切丁寧に逐一説明していく。

 

蒼介「……ん?なあ霧島、あの鉄格子のついている部屋は何だ?」

翔子「……雄二の部屋」

蒼介「…………」

明久「鳳君、今のことは忘れよう」

蒼介(こんなのばっかりかFクラス……)

 

途中で蒼介が珍しくやや疲れた表情になりながらも歩みは止めず、しばらく歩いたところで翔子は立ち止まってドアを開ける。するとその中ではムッツリーニと愛子が言い争っていた。

 

『ムッツリーニ君は頭でものを考え過ぎだよ!「百聞は一見に如かず」って諺を知らないのっ?』

『……充分なシュミレーションもなく実践に挑むのは愚の骨頂』

『そうやって考えてばかりだから、スグに血を噴いて倒れちゃうんだよ!』

『……何を言われても信念を曲げる気はない』

『またそんなことばかり言って……!このわからずやっ!(チラッ)』

『……卑怯な……っっ!!(ブシャァァ)』

 

愛子がシャツの襟を開いたことで、ムッツリーニは鼻血の海に沈んだ。明久と雄二のいつものやり取りに比肩しうる不毛な争いである。

 

秀吉「明久に鳳か。やっと来おったな」

明久「あ、秀吉、今日は参加してくれるんだね。ところであの二人、何があったの?」

秀吉「うむ。それが、『第二次性徴を実感した出来事は何か』とか言う議論が高じてああなったようなのじゃが……」

明久「あのさ。その原因になった議題からして既に何かがおかしいと思うんだ」

蒼介「というかそもそも、工藤はカズマ主催の勉強会(テスト当日まで泊まり込みで、ひたすら問題を解き続ける無限地獄)に参加していたはずだが?」

翔子「……途中で脱落したようで、和真からこっちに斡旋されてきた」

明久「あ、よく見たら工藤さんいつもより疲れてるように見える……どれだけ過酷だったんだろう?」

翔子「……吉井、今の愛子はそれを聞かれたらしばらく立ち直れなくなるから絶対詮索しちゃダメ」

蒼介(加減というものを知らんのかアイツは……)

 

『叩くなら砕けるまで』を信条としているナチュラルサドの和真は、決して教師になってはいけない人種の一人である。

 

姫路「明久君、鳳君、こんにちは」

明久「ん。ああ、こんにちわ姫路さ……」

蒼介は「こんにちは。……どうした吉井?」

 

いつもと違って姫路のポニーテールを見た途端に、明久は一瞬で言葉を失う。

 

明久(す、凄く可愛い……!どうしよう!?なんて言ったらこの気持ちを伝えられるんだ!?『今日の姫路さんは死ぬほど可愛くて見ているだけで頭がおかしくなりそうだ』でいいかな?……いや、それは長すぎるからもっと簡潔に分かりやすく、短くまとめて……)

姫路「明久君?」

明久「今日の姫路さんは死ぬ!」

姫路「えぇぇ!?」

蒼介「不吉な占い師かお前は」

姫路「あの、明久君……。私、何か悪い相でも出来ているんですか……?」

明久「……ごめん。気にしないで……。ちょっと不測の事態に対応しきれなかっただけなんだ……」

姫路「は、はぁ……」

 

褒めるつもりでつい死の宣告をしてしまうような奴は、いくら世界広しと言えど明久ぐらいのものであろう。

 

蒼介(さて、私も準備にとりかかるとするか。今回の勉強会の主な目的は吉井の学力向上だが、吉井には姫路をマンツーマンであてがうため木下と島田に古典を教えてくれと坂本からは頼まれていたな……ん?)

 

蒼介が考え事をしながら教える準備をしていると、翔子がぐるぐる巻きにされた雄二を引きずってやってきた。

 

翔子「……雄二を連れてきた」

 

ドサッ

 

そのまま絨毯の上にロープでぐるぐる巻きにされた雄二が転がされる。Fクラスメンバーからすれば何の目新しさもないありふれた光景だが、Aクラスの蒼介と愛子にはおそらくかなりシュールな光景に映るだろう。

 

雄二「ん?鳳か。もう来てたのか?」

蒼介「……それよりも、今のお前の状況について詳しく教えてくれないか?」

 

雄二のロープを解きながら蒼介が尋ねる。

 

雄二「別に大したことはねぇよ。いつものように気を失って、目が覚めたらここにいただけだ」

蒼介「それは充分大したことあるのではないか……?……まあお前と霧島の関係に赤の他人である私が口を出すつもりはないが、勉強道具はどうするんだ?」

翔子「……大丈夫。準備は万全」

 

掲げられているのは雄二の鞄。ついでに着替えも持ってきたりと、雄二関係のことでは翔子に抜かりは一切ない。

 

明久「さて、と。それじゃ皆揃ったみたいだし、始めようか」

秀吉「そうじゃな。それがいいじゃろ」

 

 

『それは違うよっ!世論調査では成人女性の68%以上が……』

『……違わない。世界保健機関の調査結果では成人男性の72%が賛同している』

『またそうやって屁理屈を……!』

『……屁理屈じゃなくて事実』

『くぅ……っ!こうなったら、今度のテストでムッツリーニ君を抜いてボクの方が正しいって証明してみせるからね!』

『……はっ、たかが三位の未熟者が何を』

『またそうやって憎たらしいこと言って……ムッツリーニ君なんてこうだよっ!(ピラッ)』

『……卑劣な……っ!!(プシャァァア)』

 

蒼介(あいつらはここへ何しに来たんだ……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

致命的に古典が苦手な秀吉と美波の学習には蒼介だけじゃなく雄二も参加することになった。この一週間でかなりの学力向上の兆しを見せている美波だが、古文への苦手意識は未だ払拭できていないのか、それとも別の理由なのか、明久と姫路の世界史組の方をチラチラ見ている。

 

坂本「おい島田。世界史の方ばかり見てないで集中しろ。お前の国語はムッツリーニにすら劣るんだからな。せめてFクラスの平均ぐらいは取れるようになってもらわないと二学期の試召戦争に困る」

美波「う……。わ、わかってるわよ!でも、その……世界史も、ちょっと自信なくて」

蒼介「島田、紀元前550年頃生まれた、『仏教』及び『ジャイナ教』の創始者は誰だ?」

美波「え?えーと、ゴウタマ・シッダールタ……?」

蒼介「ああ、正解だ。その様子だと世界史は大して心配する必要は無いな」 

雄二「鳳の言う通りだ、それよりもお前は致命的な弱点を克服しろ」

美波「うぅ……。ウチは別に畳と卓袱台も嫌いじゃないのに……」

秀吉「ワシも島田に同感じゃ……姫路が転校せずに済むレベルの設備さえあれば充分じゃから、もう少し手を抜いても……」

雄二「いーや、ダメだ!次こそは必ずAクラスに、こいつ(鳳)に勝つんだ!負けっ放しは趣味じゃねぇからな!」

蒼介「私達Aクラスはいつでも挑戦を受けて立つつもりだが……坂本、お前は何のために試召戦争を起こしたんだ?カズマから聞いた話では、振り分け試験でわざわざ点数を調整してまでFクラスの代表に収まったそうじゃないか」

雄二「んぐ!?そ、それはだな……」

美波「おおかた、翔子がFクラスに着いてきちゃったからじゃないの~?」

秀吉「翔子に相応しい設備を手にいれたい』……と。何ともロマンチックじゃのう♪」

美波「もう籍を入れるべきね♪」

 

厳密には翔子がついてきたのは完全にイレギュラーで、Fクラスに行くことを決めた理由は他にあるのだが、それを口に出すのは雄二のプライドが許さなかった。

 

雄二「くっ、てめぇら……!まぁいい。次の問題だ【『はべり』の已然形を用いた例文】を書いてみろ」

「「“以前”食べたケーキ“はベリ”ーデリシャスでした」」

雄二「お前らちょっとそこに正座しろ」

蒼介「このレベルでは私でも大分骨が折れるな……」

秀吉「面目ないのう……(ボソッ)やはりワシはあれを頼るしかないんじゃろうか?」

 

あまりのポンコツ振りに流石の蒼介も手を焼いている一方、ムッツリーニと愛子は相変わらず独特な問答を繰り広げていた。 

 

『ムッツリーニ君。さすがにこの問題はわからないでしょ?』

『……中一で70%。中二で87%。中三で99%』

『どうしてこんなことまで知ってるの!?』

『……一般常識』

『うぅ……。正攻法では勝てる気が気がしなくなってきたよ……』

『……工藤はまだまだ甘い、この程度ならおそらく鳳も苦もなく答えられる』

『こ、こうなったら……あのね、ムッツリーニ君。実はボク……』

『…………?』

『いつも、ノーブラなんだよね』

『……っ!?(ボタボタボタ)』

『え?それなのにどうして形が崩れないのかって?それはね……実は(ボソボソ)って感じのマッサージをいつも(ゴニョゴニョ)ってなるまで、毎晩毎晩……』

『……殺す気か…………っ!(ブシャァァ)』

『殺すだなんて人聞き悪いなぁ。別にボクは、ムッツリーニ君が出血多量でテストで実力が出せなくなるといいのに、なんてことも考えてないし』

『……この程度のハンデ、どうということはない』

『ふ~ん。そんなこと言うんだ?』

『………たかが三番目如きには負けない』

『むかっ……そこまで言うなら遠慮なく。……それで、さっきの続きだけど、(モニョモニョ)を体が熱くなるまでやったら、最後には(ホニャホニャ)を使って(ヒソヒソ)を……』

『……死んで……たまるか……っ!(ダバダバダバ)』

 

明久(ムッツリーニ、テストまで生き残れるのかな……?)

 

出血のし過ぎでムッツリーニの顔色が青色になってきているので、そろそろ心配になる明久だった。

 

 

 

 

 

 




美波に続いて秀吉にも教科フラグが立ちました。
それを回収し終えたとき、秀吉は恐ろしいまでにパワーアップするでしょう。


【吉井玲先生の特別(?)英語試験】

問 あなたが今までの異性とのお付き合いや経験について日本語でもいいから答えなさい。


明久の答え
『もうコレただの質問じゃないの!?』

玲「これはテストです。異性と抱擁を交わしたことのあるなら、抱擁と、接吻したことがあるのなら接吻と、きちんと正直に解答して下さい。アキくんには後ほど尋も……補習を行います。姉さんと今夜はぽっきりとお勉強をしましょう」


美波の答え。
『前に一度だけ、節分をしたことがあります』

玲「豆まきは異性とのお付き合いに含まなくても大丈夫です」


和真の答え
『この前の休日に優子にボウリングで接戦の末勝利した。優子はかなり悔しがっていたが、スコアは268-263だったため俺も内心冷や冷やしていたことは内緒である』

優子の答え
『この前の休日に和真とボウリング対決に僅差で負けました……。263-268まで肉薄したものの負けは負け。次は絶対に勝ちたいと思っています』

玲「先ほどの問いとは違ってこの上無く健全ですね。非常に微笑ましい光景とまったく微笑ましくないスコアが対称的ですね」



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勉強会in霧島家2

【柊家の一幕】

愛子「ねえねえ、和真ク~ン……ボクもう疲れちゃったよ……」

和真「んだよ集中力ねぇな」

愛子「いや、集中以前にもう脳が限界なんだケド……あ、そうだ和真君。せっかくの勉強会なんだし保健体育の勉強を教えてあげるよ。もちろん……実技でね♪」

和真「じゃあ頼むわ」

愛子「相変わらずつれな……ええ!?」





徹(良いのかい優子?君の彼氏勉強疲れなのかトチ狂った返答してるけど)

優子(放っておきなさい。アタシはもう何となくオチが読めてるから)






愛子「……あの~、提案しておいてなんだけど、流石に優子にも悪いし……」

和真「いつものように脳内ピンク一色なとこ悪いが、実技っつってもAEDの使い方についてだ」

愛子「あ……な、な~んだ……」





徹(なるほど、結局こんなオチかい)

優子(甘いわね徹。叩くなら砕けるまでが信条の和真がこんな甘っちょろいオチで済ませるはずないわ)

徹(え?)








和真「せっかくだから本格的に行うとするか」

愛子「え?本格的にって?」

和真「マネキンを用意して使っても電機ショックが流れたか、心肺蘇生が本当にできたのか……正直わかりづらいと思わねぇ?」

愛子「う、うん。確かにそうだね」

和真「つうわけで今からお前の心臓を止める」

愛子「……え”!?」

和真「お前、実技に自信があんだろ?それならさぞ優秀なモルモットになるだろうよ♪」

愛子「ごめんなさいふざけてましたぁぁぁ!!!」←逃走

和真「待てや実験サンプルがァァァ!!!」←追いかける




  

徹(……あー、愛子が追いかけ回されてる)

優子(愛子に追いつくか追いつかないかのスピードで追いかけてるわね……概ね予想通りだけど)

徹(まあ愛子のおかげで休憩する時間ができたから良しとしよう)

優子(そうね。いつもなら多少同情しているところだけど背に腹は代えられないものね)



※この件がきっかけで愛子はリタイヤすることになりました。なお、源太君は疲労困憊で現在ダウンしています。



気が付けば既に6時を過ぎていた。一同は翔子の案内のもと食事の用意がされている部屋に招かれる。翔子が部屋の扉を開けると、ご馳走の良い匂いが漂ってきた。

 

明久「す、凄い……っ!」

姫路「わぁ……」

秀吉「これはまた、贅沢じゃな」

 

一般家庭ではあまりお目にかかれないようなサイズのダイニングテーブルに所狭しと並べられた料理の数々。北京ダックや、フカヒレ、チンジャオロースやホイコーロ、八宝菜に麻婆豆腐といった中華料理を主体に中央の大皿に盛られており、それぞれの席にはツバメの巣らしき料理まであった。この前蒼介が振る舞った懐石料理とはまた違った荘厳さである。

 

美波「アキがこんなの食べたら、慣れない味でお腹壊しちゃいそうね」

明久「あははっ。本当だよ」

秀吉「ところで、ここで食事を摂るのはワシらだけかの?霧島の家族はおらんのか?」

翔子「……うん。私たちだけ」

 

部屋の中には勉強会に参加したメンバーのみであり、料理を作ったのは翔子の家族なのか、家政婦なのかはわからないがどちらの姿も見かけなかった。

 

雄二「翔子の家はそれぞれが自由に暮らしているからな」

翔子「……うん。だから気兼ねしないで好きに過ごしてほしい」

 

少なくとも雄二専用の監禁部屋が自然と作られている程度には自由な家庭のようだ。

 

翔子「……それじゃ、適当に座って」

 

それぞれ言われた通り手近にある席に座る。

 

「「「いただきまーすっ」」」

秀吉「うむ、絶品じゃな……」

姫路「お、美味しいです……!うぅ……また食べ過ぎちゃいます……」

明久「僕の好物のカロリーがこんなにたくさん……っ!」

ムッツリーニ「……鉄分補給」

蒼介「ふむ。食材の質、味付け、ともに悪くない」

雄二「翔子。なぜ俺に取り分けた料理だけ毒々しい紫色をしているんだ」

翔子「……おかしな薬なんて入ってない」

愛子「ボク中華料理大好きなんだよね!……あ、そうだ。吉井君、ボクが食べさせてあげる。はい、あーん」

明久「ん?あーん」

美波「アキッ!何やってんのよ!」

姫路「明久君っ!お行儀が悪いですよっ!」

蒼介「行儀が悪いのはお前たちもだ。あまり声を荒げるなみっともない」

雄二「翔子。なぜ俺のコップに注いだ飲み物だけ毒々しいピンク色をしているんだ」

翔子「……怪しい薬なんて入ってない」

秀吉「ムッツリーニ。これは何じゃ?」

ムッツリーニ「……ツバメの巣。美味しい」

 

一同は美味しく楽しく食事を済ませ、勉強の疲れを癒していく。一同が締めである杏仁豆腐を味わっているところで、翔子が雄二に話しかける。

 

翔子「……雄二」

雄二「なんだ翔子?」

翔子「……勉強の進み具合はどう?」

雄二「まったくもって順調だ。心配はいらねぇ」

翔子「……本当に?」

雄二「ああ。次のテストではお前に勝っちまうかもしれないぞ」

翔子「……そう、そこまで言うのなら」

雄二「ん?」

翔子「……勝負、する?」

 

その会話を横で聞いていた蒼介は、おそらくなにかを企んでいると確信する。なぜなら今の翔子は、和真が良からぬことを画策しているときの挑発的な目にそっくりだったからだ。

 

雄二「勝負だと?」

翔子「……うん。雄二がどの程度できるようになったのか、見てあげる」

雄二「ほほぅ……。随分と上から目線で言ってくれるじゃねぇか」

翔子「……実際に、私の方が上だから」

雄二「くっ。上等だ!勝負でもなんでもしてやろうじゃねぇか!本当の実力の違いってヤツを見せてやらぁ!」

蒼介(まさに手玉だな……)

 

気がつけば完全に乗せられている雄二。元神童が聞いて呆れると言いたいところだが、ただ単に翔子が雄二の扱いに非常に長けているだけである。

 

翔子「……わかった。それなら、この後に和真に用意してもらった振り分け試験式テスト三科目で勝負」

雄二「おうよ!今までの俺と思うなよ!」

翔子「……それで、私が勝ったら、雄二は今夜私と一緒に寝る」

雄二「……は?」

 

あまりに予想外な条件に思わず目を点にする雄二。

 

明久(馬鹿だなぁ、さてはきちんと聞いてなかったな。つまりあれでしょ。雄二がテストで負けたら霧島さんと一緒に寝るっていう話しなワケで……)

 

思考がそこに至った瞬間、明久の全身から嫉妬と憎悪がブレンドされた独特の殺気が漏れ出す。

 

明久「霧島さん。ゴメン。杏仁豆腐を食べたいからナイフを貸してもらえないかな?包丁や日本刀でもいいけど」

翔子「……今持ってくる」

雄二「待て翔子!今のコイツに刃物を渡すな!俺の命に関わる!」

翔子「……代わりに、雄二が勝ったら吉井と一緒に寝るのを許してあげる」

雄二「驚くほど俺のメリットがねぇぞ!?」

蒼介(つくづく騒動の絶えん奴らだ……)

愛子「いいな~。そういうの、面白そうだね。ボクも何かやりたいな」

 

明久が椅子を振りかぶろうとしていると、突然愛子が楽しそうに話題に割って入ってくる。この時点で蒼介は嫌な予感しかしなかった。

 

翔子「……愛子も勝負する?」

愛子「それもいいけど、折角だから……」

 

わざと一呼吸置いて明久に目線を送る愛子。

 

愛子「……そのテスト、皆で受けて、その点数で部屋振りを決めようよ」

蒼介(こいつ、わざと騒ぎを大きくしようとしているな……)

 

明久を見たまま愛子は片目を瞑って見せた。学力強化合宿以来、愛子は明久を弄ぶ楽しさを覚えたらしい。

 

明久「よしっ!望むとこ……」

姫路「だ、ダメですそんなことっ!明久君にはそういうコトは、えっと、その、まだ早いと思いますっ!」

愛子「でも、保健体育のテストの為にも吉井君がボクと実戦を経験しておくのはイイコトだと思うよ?」

姫路「ダメですっ?そんなのいけませんっ!」

愛子「保健体育のお勉強、ボクが吉井君に教えてあげたいな」

姫路「ダメッたらダメです!絶対にダメですっ!工藤さんがそんなことをしようとするのなら……私が明久君と一緒に寝ますっ!」

明久「えぇぇええっ!?姫路さん何言ってるの!?」

蒼介(姫路よ、それでは完全に工藤の思う壺だぞ……)

美波「み、瑞希!何言ってるのよ!そんなのダメに決まってるでしょ!?」

姫路「でも、美波ちゃんだって明久君のエッチな本を見たならわかるはずです!明久君だって男の子なんです!エッチなことに興味深々なんです!工藤さんと一緒に寝たら大変なんです!」

美波「確かに、アキの持っていた本の四冊目にはショートカットのコも載っていたけど……」

 

トップシークレットが流出しているのを見るに、どうやら明久のプライバシーという概念はもう既に消滅してしまったらしい。

 

姫路「ですから、明久君を守る為に、私が一緒に寝ますっ!」

美波「そ、そうねっ。アキを守る為に、ウチが一緒に寝てあげないとねっ!」

秀吉「いやいや、お主らは慌てすぎじゃ。別にこの提案に乗らなければ済むだけの話じゃと」

姫路「勝負です工藤さん!私、明久君の為に負けませんっ!」

美波「そうね!アキの為にもウチが一緒に寝るとするわ!」

愛子「あははっ。二人ともやっぱり面白いね。そうこなくっちゃ」

秀吉「済む……だけの話じゃと……思うんじゃが……」

蒼介「救いようが無いほど単純だな……」

 

秀吉の至極真っ当な提案は華麗にスルーされる。勉強ができることと頭が良いということはイコールではないという意見の良い見本である。

 

翔子「……じゃあ、問題用紙を持ってくる」

雄二「待て翔子!俺はまだ承諾してないぞ!」

翔子「……決定事項。さっき雄二は勝負するって言った。反対意見は認めない」

雄二「ぐ……っ!そ、そうだが……!…っと、すまん翔子、服にかからなかったか?」

 

雄二が目を泳がせて打開策を模索した結果テーブルの上のジュースの入ったコップが目に留まったので、翔子に見えない角度でコップを倒す。

 

翔子「……大丈夫」

雄二「いや、大丈夫じゃない。お前には見え辛いかもしれないが、服の裾のそのへんにかかったみたいだ」

翔子「……それは困るかも」

雄二「悪い。俺の不注意で……」

翔子「……あの薬は繊維を溶かすから」

雄二「待て。お前は俺の飲み物に何を入れたんだ」

蒼介「そんな危ないものを婚約者に飲まそうとするな……」

 

どうやら雄二の飲み物だけ特別製だったらしい。道理で色が明らかに違っていたわけだ。相当強い酸性なのか、今もこぼれたジュースが絨毯と反応して煙を出している。

 

翔子「……着替えてくる」

雄二「そうした方がいいだろうが……それなら、ちょっと早いが先に風呂にしないか?腹ごなしも兼ねてな」

蒼介(こいつ、まさか……)

 

着替えに行こうとする翔子を呼び止めて雄二が提案する。蒼介は雄二が何を企んでいるのかおおよそ見当がついてしまっ

たが、確証があるわけではないのでこの場は黙っておく。

 

翔子「……わかった。それなら先にお風呂にする」

雄二「んじゃ、模試試験はその後だな」

翔子「……うん」

 

翔子の同意を得て、雄二達は着替えの用意の為に男女別々の部屋に分かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「さて、行くか」

 

部屋に入って数分後、雄二が何かを決意したような表情でおもむろに立ち上がった。

 

明久「了解。覗きだね」

ムッツリーニ「……任せておけ」

秀吉「お主らはどこまでバカなのじゃ……」

 

ちなみに秀吉は一人で他の部屋を案内された後で、こっそりと男子の部屋に入ってきた。秀吉にも男としての矜持があるのだろう。

 

蒼介「ほう……。私の目と鼻の先で良い度胸だな貴様ら……」

明久「鳳君!?木刀なんてどこから取り出したの!?」

ムッツリーニ「……すごい殺気……っ!」

 

蒼介はいつもの冷静沈着な表情のまま、ぶちギレた和真に匹敵するレベルの殺気を撒き散らしながら折り畳み式の木刀を取り出す。蒼介がここまでキレているのはただの正義感だけでなく、先日雄二達の起こした騒動の尻拭いをさせられた私怨も混じっているのかもしれない。

 

雄二「鳳、早とちりするな。俺が行こうと言っているのは翔子の部屋だ」

蒼介「……坂本お前、やはり問題用紙を盗み出す気であったな?尚更見過ごすわけにはいかん」

雄二「まあ待て。お前は生徒会長だろう?生徒の不純異性交遊は止めるべきだろうが」

蒼介「いや、いくら霧島とてテスト前にそんな-」

雄二「あ い つ は す る」

蒼介「そ……そうか……」

 

こうも即座に、かつ真顔で断言されては蒼介と言えど引き下がざるをえない。Fクラスではそんなもの一般常識レベルのことであるが、やはり蒼介は真面目すぎるのかFクラスが織り成すカオス空間にいまいちついていけない。

 

明久「けど、別に僕らは盗む必要なんてないんだけど」

ムッツリーニ「(こくり)……それより、覗きが大事」

 

この二人は今回の提案を好ましく思っているため、カンニングの必要性がまるで無いのだ。今度こそ粛清しようと木刀を握り締める蒼介を手で制してから、雄二はいつものもったいぶった口調で問いかける。

 

雄二「本当にそう思うか?」

明久「何が言いたいのさ」

雄二「いいか明久、よく考えてみろ。お前の家に帰ってきている姉貴は、何を禁止していた?」

明久「えっと、①『ゲームは一日三十分』、②『不純異性交遊の全面禁止』……ってヤバイっ!!すっかり忘れてたっ!!」

 

女子と一緒に寝ることにでもなれば、明久の一人暮らし的にも生命的にも即アウトなのは明白だ。

 

明久「あ、でも、バレなければ」

雄二「協力しなければ俺がバラす」

明久「外道っ!この外道っ!」

雄二「それにムッツリーニ。お前も危険だぞ」

ムッツリーニ「……どうして?」

雄二「出血多量で死ぬ。確実に」

蒼介(先ほどから思ってはいたが、どういう身体構造をしているのだこいつは……?)

ムッツリーニ「……この俺が、死を恐れるとでも?」

蒼介「字面だけ見れば勇ましいな……」

雄二「だが、予想されるテストの順位を考えろ。上位の人間から相手を選んでいくとなると」

 

予想される順位としては中間の成績と照らし合わせると、①蒼介②翔子③愛子か雄二……という感じだ。

 

蒼介「私は一人で寝ると決めている。婚姻を済ませてもいない男女の同衾など鳳家の人間がするわけにはいかない。かといって男を選べば確実に変な噂が流れるだろうからな」

ムッツリーニ「……女子達が勝手に勘違いすること間違いなし」

明久(それにしても鳳君、和真から聞いてた通りお堅いなぁ……Fクラスではお目にかかることは無いタイプだ)

 

ちなみに蒼介本人も時代錯誤であることは自覚しているのか、鳳家の男女間に関するルールを他人に強要する気は特に無い。流石にR-18指定に発展するようなら生徒会長として止めなければならないが。

 

秀吉「鳳は誰も選ばないとして……霧島が雄二を、姫路が明久となると、工藤愛子は誰を選ぶかのう」

雄二「工藤はムッツリーニを選ぶだろうな」

ムッツリーニ「……まさか」

雄二「さっきの言い争いもある。ムッツリーニを失血死させて、保体の王者の座を奪うつもりじゃないか?」

ムッツリーニ「……っ!つくづく、卑怯な……っ!」

 

どうやらムッツリーニと愛子の間には、やや複雑なライバル関係が出来上がっているみたいだ。

 

ムッツリーニ「……あんなスパッツごときに、殺されるわけには……っ!」

 

訂正、ただスパッツで死ぬことが気に入らないだけのようだ。もっとも愛子がムッツリーニを殺ったとしても、愛子の上にはまだ蒼介がいるのでどっちみち保体のトップは取れないのだが。

 

雄二「というワケだ。協力してくれるな?」

明久「わかったよ。協力するよ」

ムッツリーニ「……やむを得ない」

蒼介「……不純異性交遊と天秤にかければ致し方ないとはいえ、見逃すのは今回限りだ」

明久「え?鳳君は参加しないの?」

蒼介「するわけないだろう。そもそも参加する意義すらない」

雄二「和真から聞いているが、お前も度を越した負けず嫌いなんだろ?俺達に遅れを取ることになるけど良いのかよ?」

蒼介「事前に答えを知っていようが、お前達では私には勝てんよ。私はまだ『明鏡止水の境地』に至れていない若輩者ではあるが、それでもお前達とは集中力が違う」

明久「明鏡……止水?」

 

聞き慣れないワードに反応したのか、明久は首を捻る。明久だけではない、雄二や秀吉、ムッツリーニも聞き覚えが無いようである。特に隠すものでも無いので蒼介は説明する。

 

蒼介「『明鏡止水の境地』とは鳳家に代々伝わる奥義で、極限の集中の果てにたどり着く特別な状態を指す。その状態に至った者は不要な思考や余計な外部情報などが全て遮断され、普段の数倍の集中力を発揮できる」

明久「な、なんだか凄そうだね……」

秀吉「普段の数倍とは大盤振る舞いじゃな」

ムッツリーニ「……奥義と呼ばれるだけのことはある」

 

感心した様子の二人とは裏腹に雄二は内心でかなり焦る。ただでさえ今でも手の付けようがないのではないのかと思うほどの化け物だというのに、さらに上の境地があることが判明したのだ。早急にAクラスを落とさなければならない理由がまた一つ増えてしまった。

 

秀吉「まあそれはそれとして、ワシも協力しよう」

明久「え?秀吉が?どうして?」

秀吉「どうしても、じゃ」

明久「???」

雄二「よし。そうと決まれば行動開始だ。翔子の口ぶりから察するに、テスト問題はアイツの部屋にある。そこに忍び込むぞ」

「「「了解」」」

蒼介(さっさと入浴を済ませてしまうか……)

 

四人が部屋を出ていくのを見届けてから、蒼介は着替えの準備をして男湯に向かった。

 

 

 

 




梓「鳳に強化フラグが立ってしまったようやな」 

和真「流石にインフレ激しすぎね?」 

綾倉「まあご心配なく。島田さんや木下君とは違って回収されるのはまだまだ先ですから」

和真「そりゃ安心」

綾倉「集中力はある日突然急に高くなったりしません。例えるなら海の底に沈んでいくように、徐々に徐々に増していくものです」

梓「なるほど、地道な努力が重要なんやね」

和真「……ん?待てよ、つまりそれって……」

綾倉「お気づきになられましたね。そう、日を追う毎に集中力を増しているということは、テストのたびに点数が上がっていくということです」

和真「やっぱりチンタラしてる暇はねぇんだな……」


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勉強会in霧島家3

【柊家の一幕】

徹「刮目して見よ……僕の一世一代の芸術、『ザッハトルテ・タワー』だぁぁぁ……!」

源太「いぇぇえええい……!」

優子「ちょうど糖分補給したいところだったから助かるわ……」

和真(皆良い感じに疲弊してんなぁ、感心感心♪……俺も流石に少し疲れたな……)

※本来なら一口食べただけで胸焼け間違いなしの徹の『過糖スイーツ』を苦もなく食せるほど疲労困憊の『アクティブ』一同。無限地獄はまだまだ続く……。




蒼介「ふぅ……」

 

入浴を済ませた蒼介は更衣室で浴衣に着替えている。持参した浴衣は着流しと同じく鳳家の家紋『鳳仙花』の刺繍が施された逸品であり、明久の生活費数十年分もの価値のおおよそ友人のお泊まり勉強会で着るようなものではない代物だったりする。 

 

秀吉「む、鳳か。その様子だと入れ違いになってもうたのう……」

蒼介「木下か。お前一人であることを察するに、どうやら目論見は失敗したようだな」

 

着替えを済ませて更衣室から出ると秀吉とばったり会う。ややがっかりした表情を見るに、よほど男同士の裸の付き合いとやらに憧れていたらしい。

余談だが、たとえ一緒に入ってほしいと秀吉に頼まれていたとしても蒼介は拒否していただろう。蒼介は明久達と違って秀吉を女扱いしている訳ではないが、問題なのは周りにどう思われるかである。生徒会長、そして“鳳”時期後継者という立場上、余計なゴシップネタを作るわけにはいかない。

 

秀吉「いや、確かにワシ以外は全滅したがテスト問題はワシが軒並み解放しておいたぞい」

蒼介「そうなると、予定していたテスト対決は中止か。……それにしても今考えてみれば、あのルールはお前にとって割に合わなさ過ぎるな」

秀吉「うむ……。女子と同衾して、何も無くばワシは今度こそ完全に女子扱いされるじゃろうし、何かあれば問題になるのじゃからのう……ワシは男じゃと言うとるのに……」

蒼介「そんなお前に一つ助言しておこう。大切なのは周りが何と言おうと確固たる意思を持つことだ。お前の芯が揺らいでしまえば、状況は決してお前が望む方向には傾かない」

秀吉「……そうか……そうじゃな!誰が何と言おうとワシは男じゃ!それは絶対に揺らいではならんのじゃ!」

蒼介「その意気だ。では私は先に失礼する」

秀吉「うむ、相談に乗ってくれてありがとうなのじゃ!」

 

晴れやかな表情になった秀吉と別れ、蒼介は男子部屋に戻る。途中で雄二が翔子に、ムッツリーニが愛子に、明久が姫路と美波にそれぞれ死地に追い込まれていたが、蒼介はそれら全てを問答無用でやめさせる。女子陣はそれぞれ文句を言っていたが威圧感たっぷりの鋭い眼光と迫力満点の一喝で無理矢理黙らせた。流石人の上に立つ者として生まれ育てられただけのことはある。無条件で人を従わせる高いカリスマ性、そして覇者としての資質はあの和真ですら足下にも及ばない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局秀吉の活躍のおかげでテストは中止になり、再び勉強の続きをすること数時間、日付が変わったところでそろそろ就寝という流れになった。

 

姫路「木下君。何かあったら大声で叫んで下さいね」

翔子「……これ、防犯ブザーとスタンガン。雄二が何かしそうになったら使って」

秀吉「むぅ……もはやワシの性別を正しく認識しているのは和真と鳳、明久の姉上だけということなのじゃろうか……?」

美波「アキ。わかってるとは思うけど、万が一にも何かあったら……」

明久「わ、わかってる!何もしないよ!」

 

本人の強い希望により、秀吉も男子部屋で寝ることになった。一応は前の強化合宿で何もなかったと言う実績を考慮して許可がおりたようだが、スタンガンや防犯ブザーを渡すあたりあまり信用されていないようだ。

 

蒼介「そもそもだな、私の目と鼻の先で不埒な真似など断じてさせんよ」

「「「まあ、そうだろうね」」」

秀吉「な、なんじゃお主ら……?全員納得したように頷いて……」

 

蒼介とさっき蚊帳の外であった秀吉以外の全員の心が一つになった。この化物の目を盗んで秀吉に良からぬことをすることなど天文学的確率に等しいことをさっきのやり取りで皆理解したようだ。

 

そんなワケで就寝時間。

 

 

~~女子部屋での会話~~

 

姫路「あれ?私の髪留め、どこにいったんでしょう?ここに置いておいたはずなのに」

美波「なくしちゃったの?」

姫路「そうかもしれません」

翔子「……探すの、手伝う」

姫路「あ、いえ。また明日の朝にお布団を片付ける時にでも探すから大丈夫です」

翔子「……わかった」

美波「そう言えば瑞希っていつもあの髪留めをしてるわよね」

翔子「……思い出の品、だとか?」

愛子「んっふっふ~。ボクの予想だと、好きな人からの贈り物って感じだケド?」

姫路「いえ。あれ自体は自分で買ってきた普通の髪留めなんです」

愛子「あらら……予想がハズレちゃった」

姫路「確かに、思い入れはありましたから」

愛子「え?なになに?面白そう」

姫路「残念ながらそれはヒミツ、です。それより、私は工藤さんのお話が気になります」

愛子「え?ボク?」

美波「そうね。ウチも気になるわ」

愛子「ふふっ。二人とも、そんなにボクのHな話が聞きたいのかな?」

美波「違うわ。そっちじゃなくて」

姫路「土屋君との関係、の方です」

愛子「ふぇっ!?」

翔子「……それは私も気になる」

愛子「な、何を言ってるのさ三人ともっ。ボクとムッツリーニ君がどうこうだなんて、そんなことあるわけないじゃないっ」

姫路「そうやって否定するところが怪しいですね」

翔子「……いつもの愛子なら笑って受け流すはず」

愛子「ち、違うってば!ボクもムッツリーニ君もそんな気は全然ないよっ」

美波「それはどうかしらね?意外と男子部屋でも、土屋が似たようなことを言ってるかもしれないわよ?」

翔子「……お泊り会の定番の会話」

姫路「そうですね。きっと向こうの部屋でもこんな会話をしているんでしょうね」

美波「ほらほら、きっと向こうで土屋も尋問されているだろうし、素直に言っちゃいなさい」

翔子「……言えば楽になる」

姫路「話しちゃいましょうよ。ね?」

愛子「だからあんな頭でっかち、ボクは全く興味がないって言ってるのに!」

 

 

~~同時刻、男子部屋~~

 

雄二「坂本雄二から始まるっ」

「「「「イェーッ!」」」」(明久と秀吉とムッツリーニと、意外にも蒼介のノリノリの合いの手)

雄二「古今東西っ」

「「「「イェーッ!」」」」(どうやら和真とつるんでいる内に自然と染み付いたようだ)

雄二「一部の生徒の間で噂になっている明久の恋人の名前っ」

明久(え?)

 

パンパン(手拍子)→雄二の番

 

雄二「【久保利光】!」

明久「ダウト!それダウト!久保君は男だから!」

蒼介(吉井、やはり気づいていないのか……。それにしても、合宿中いったい久保に何があったんだ……?)

 

パンパン(手拍子)→ムッツリーニの番

 

ムッツリーニ「……【坂本雄二】」

明久「嫌だぁっ!それはなんとなく知っていたけど改めて言われると凄く嫌だぁっ!」

雄二「俺だって嫌だボケ!」

 

パンパン(手拍子)→秀吉の番

 

秀吉「え、えっとえっと……ワシじゃ!」

明久「…………」

秀吉「あ、明久!?そこで黙り込んで頬を染められるとワシも困るのじゃが!?」

 

パンパン(手拍子)→蒼介の番

 

蒼介「……【柊和真】」

明久「鳳君、キサマもか!?というかこの人、罰ゲーム逃れるために彼女持ちの友人を売ったよ!」

蒼介(許せカズマ、こんな余興でも私は負けたくないのだ……。というかこのテーマ、明らかに私に不利過ぎないか……?)

 

パンパン(手拍子)→明久の番

 

明久「し、【島田美波】!」

「「「罰ゲーム決定っ!」」」

明久「どうして!?」

蒼介(なるほど、始めから吉井を嵌めることが目的だったのか……)

秀吉「さぁ明久。くじを引くのじゃ」

明久「うぅ……なんだか納得いかない……」

雄二「安心しろ。お前以外の全員は納得している」

 

観念したのか、明久は雄二が突き付けた袋の中に手を突っ込んで紙を一枚取り出す。

 

明久「『女子部屋に行って姫路さんの髪留めを戻してくる』……ってこれ、僕の書いた罰じゃないか」

 

どうやら明久はさっきのカンニング作戦の最中に、手違いで姫路の髪留めを持ってきてしまったらしい。

 

雄二「なんだ明久、お前は随分とヌルい罰ゲームを書いたもんだな」

明久「え?そう?でも、女子部屋に侵入だよ?」

蒼介(危険でないと断言できないあたり、あの連中の血の気の多さは相当なものだな……)

明久「ところで、皆はどんな罰ゲームを書いたの?」

雄二「俺は『翔子の部屋から婚姻届を奪取してくる』だな。当然、盗ってこれるまで何度もトライしてもらう」

秀吉「ワシは『本気女装写真集の撮影』じゃな。ワシの苦しみを皆も味わうべきじゃ」

ムッツリーニ「……『各グッズ用写真の撮影』。ポーズを決めている写真はなかなか撮れない」

蒼介「『昨日カズマに強引に持たされた綾倉先生特製ドリンクを飲み干す』だな。いまいち罰ゲームが思い付かなかったのでな」

 

蒼介の罰ゲームを聞いた四人は顔から血の気が引いていくのを感じた。そして同時に気付いた。

 

((((あのサディスト……こうなることをわかっていて、トラップを仕掛けてきやがったな……))))

 

おそらく和真は雄二達が罰ゲーム付きのゲームに興じることを予測していて、それを見計らって蒼介に殺戮アイテムを持たせたのだろう。参加すらしていないというのに油断も隙もあったものではない。

 

蒼介「それにしても坂本、なぜそんな罰ゲームを選んだのだ?霧島はお前の婚約者ではなかったのか?」

雄二「そいつは否定しねぇけどよ、俺はもっと気楽に人生を送りたいんだよ。このままだと高校卒業と同時に入籍なんて事態になりかねないからな」

蒼介「……なるほど、確かにそれは時期尚早かもしれん。私とて大学を卒業し“鳳”を継ぐまでは飛鳥と婚姻を結ぶつもりはないからな」

雄二「わかってくれてなによりだ」

 

婚約者がいる者同士で会話が弾んでいる横で、明久は殺気を滲ませながらムッツリーニにアイコンタクトを飛ばす。

 

明久(ねえムッツリーニ、僕としてはあの二人をすぐさま処刑したいんだけど)

ムッツリーニ(……やめておけ明久。確かに殺したいほど妬ましいが相手が悪過ぎる)

秀吉(以前姉上に聞いた話じゃが……得物を持った鳳の強さは、あの和真に匹敵するそうじゃ……)

明久(……マジで?)

ムッツリーニ(……確かな情報)

 

明久達の脳裏に浮かぶのは先日の事件、優子と結ばれたことで嫉妬に狂って襲いかかる異端審問会が、和真たった一人に次々と地に沈められていく凄惨な光景。

明久とムッツリーニは蒼介には今後も一切手を出さないことと、雄二の処刑も延期することをアイコンタクトで決定した。今ここで雄二に襲いかかれば同時にこの化け物じみた強さの堅物を敵に回すことになるだろうから。

 

雄二「さて、それじゃあアイツらが寝静まる前に適当にダベるか」

秀吉「そうじゃな。疲れておるじゃろうし、小一時間もしたら眠っておるじゃろ」

ムッツリーニ「……お題は?」

雄二「そうだな。まずは『今までの人生で一番恥ずかしかったこと』からいくか。そこにトランプがあることだし……ハートが出たら俺と秀吉、クラブが出たらムッツリーニと鳳、1の倍数が出たら明久って感じでどうだ?」

「「「オッケー」」」

蒼介「いや流石にそれはムグッ」

秀吉「余計なことを言うでない」

 

先ほどの古今東西では蒼介自身が明久と噂になっている生徒に詳しくなかったため流したが、今回は明らかに不公平だと誰でもわかる。そんなわけで公平性を重んじる蒼介が口を挟もうとするも、明久以外には今のままの方が都合が良いため近くにいた秀吉が即座に口を塞いだ。

 

雄二「スペードの4か。1の倍数だから明久だな」

明久「それおかしいって!その条件だと何を引いても僕になるじゃないか!」

雄二「いや、ジョーカーを引けば大丈夫だ」

明久「高っ!僕だけ確率異様に高っ!」

ムッツリーニ「……53分の52の確率」

蒼介「いい加減にしろお前達。私の目が黒いうちはこのような公平性を欠くルール、断じて見過ごすわけにはいかない」

秀吉(むぅ……。こやつ、Fクラスでは周知である暗黙のルールが一切通用しないぞい……)

ムッツリーニ(……和真がキングオブ堅物と称するだけのことはある)

雄二「仕方ねぇな……。じゃあハートが出たら俺と秀吉、クラブが出たらムッツリーニ、ダイヤが出たら鳳、スペードが出たら明久で構わねぇよな、明久?」

蒼介(ん?その条件だと……)

明久「うん、それならちゃんと公平だね」

雄二「というわけでスペードだったから明久だな」

明久「あ……しまったぁぁぁ!?」

蒼介(……これは確認を怠った吉井のミスだな)

秀吉「ほれ、諦めて話すのじゃ」

明久「ぐ……。わかったよ。えっと、アレは僕が中学一年の頃なんだけど」

「「「「ふむふむ」」」」

 

…………

………

……

 

秀吉「さて、そろそろ良い時間じゃぞ、明久」

明久「そうはいかないよ!僕は『人生で16番目に恥ずかしかった話』までさせられてるのに、皆は何も話していないなんて不公平だ!」

雄二「それはお前のヒキが弱すぎるから悪いんだろ」

ムッツリーニ「……驚異的弱さ」

蒼介「多少は同情している……」

 

最初カードを引いていたのは雄二で、あまりにもスペードしか出ないので明久はイカサマだと疑って途中から自分でカードを引き始めたが、それでもスペードしか出なかった。途中蒼介がカード事態に細工をしたのではと確認をしたが、4つのマークのカード13枚ずつと2枚のジョーカーで構成された至極普通のトランプであったため、よほど明久の引きもしくは日頃の行いが悪いのであろう。

 

雄二「ゴチャゴチャ言ってないで、いいから行くぞ明久」

明久「うぅ……わかったよ……って、雄二も行くの?」

雄二「ああ。俺は俺でやることがあるからな」

 

ムッツリーニから借りたガラス用のカッターが雄二の手にあった。どうやら件の婚姻届は余程厳重に保管されているらしい。

 

秀吉「ならば、ワシとムッツリーニと鳳は廊下から見ておるかの」

蒼介「健闘を祈る」

ムッツリーニ「……面白いハプニングを期待してる」

明久「ハプニングなんて、冗談じゃないよ」

 

雄二達はトランプを置いて立ち上がり、音を立てないように注意しながらドアを開けて部屋から出ていった。

 

蒼介(吉井はともかく……何故だか坂本の方は確実に失敗する気がする。私はカズマのような天性の直感は持ち合わせていないのだがな……)

 

この後明久は何とかミッションを達成したものの、蒼介の懸念通り雄二は途中で上に見つかり、無事処刑されたようだ。

そんなこんなで、霧島家での勉強会は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 




和真「さて、今話でソウスケの主人公代役回は一旦見納めだ。お疲れソウスケ」

蒼介「確かに少し疲れたな……主に精神面が」

和真「お前明らかにあのメンバーと波長が合ってねぇもんな。せめて飛鳥も入れば多少負担が減ったんだろうが……」

蒼介「飛鳥は間近にインターハイに向けてテスト期間中も柔道に打ち込んでいるという設定だ」

和真「飛鳥のインターハイの結果についてはこの巻のラストに語るつもりだぜ」



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試験前夜

【バカテスト・世界史】

以下の文章の()にあてはまる正しい年と人名を答えなさい。 

『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、()による()が始まる』


姫路の答え
『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、(アレクサンドロス大王)による(東方遠征)が始まる』

綾倉「正解です。ここに出てくるダレイオス三世とアレクサンドロス大王の間の戦争はイッソスの戦いとアルベラの戦いの二つがあります。両方とも正しく覚えておくと良いでしょう」

ムッツリーニの答え
『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、(光の勇者・アーク)による(ファイナルクエスト~国王最後の聖戦~)が始まる』

綾倉「”ファイナル”や”最後”という単語があるのに続編がありそうな気配がするから不思議ですねぇ」


雄二の答え
『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、(アレクサンドロス大王)による(東方遠征)が始まる』

綾倉「おや?坂本君でFクラスの解答用紙は最後ですか?まだ吉井君の珍回答を見ていないような気がするのですが、まさか正解していたのでしょうか?……私の密かな楽しみの一つでしたのに」

蒼介「生徒の珍回答に期待しないでください。あなたそれでも教師ですか?」









いよいよテスト前日の夕方、和真主催の『無限テスト地獄』もようやく大団円を迎えようとしていた。

 

和真「……よし、今回の勉強会はここまで!

流石にちょっと疲れたな……」(HP53/100)

優子「…………ちょっとどころじゃないわよ……。いったいどれだけの問題を解かされたか、数えるのも嫌になるわ……」(HP38/100)

徹「……舐める……な。この僕が、この程度……で……屈するわけが……あるものか!」(HP17/100)

源太「………コヒュー………コヒュー…………やっと………………終わっ……た………の………か…………」(HP4/100)

 

それぞれコンディションに大きな差はあるものの、多かれ少なかれ疲弊していたため休憩をとること30分。

 

和真「よし、みんな聞け!」

 

全員の脈拍が落ちついたのを見計らって、和真が締めの挨拶を切り出す。

 

和真「お前ら3人ともよく最後までやり遂げた。途中脱落者が出たことからわかるように、今回の勉強会は今までとは比べ物に無いほど過酷なものだったことだろう。ぶっちゃけ俺だけしんどい思いするのは癪だったからお前らを巻き添えにしたんだがな」

(((薄々そんなことだろうと思っていたけどさ……せめてちょっとぐらい取り繕えよ!)))

和真「だが、お前らはそれでも挫けず最後まで戦い抜いた。自身を持って良いぜ……俺達は強い!」

優子「……ええ!」

源太「……そうだな!」

徹「……当然さ!」

 

和真の嘘偽りない真っ直ぐな賞賛に、三人は皆誇らしい気持ちになる。おそらくは、和真本人も。

 

和真「努力が必ず報われるとは限らねぇ。だが、努力は決して裏切らねぇ。もし明日のテスト中結果を残せるか不安に駆られたときは、今お前らの手元にある今日までにやり遂げた膨大な問題の山を思い出せ。

俺達はもう……どんな難問だろうが怖かねぇ!」

「「「おう!」」」

和真「良い返事だ!

それでは……これにて解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃河原にて、一人の女性が思い詰めた表情で佇んでいた。その女性は明久の姉である吉井玲。

 

玲「ハァ……。どうして私は……アキ君と仲良くできないのでしょう」

 

落ち込んでいる理由は単純明快、明久と喧嘩したからである。それ自体はいつものことであるが、今回の喧嘩でできた溝はかなり深いかもしれない。

この女性は心の底から明久を愛してはいるのだが、少々……いやかなりコミュニケーションの取り方に問題がある。今回の喧嘩に至った経緯を簡潔に説明すると、明久が久し振りに会った姉のために夕飯を作ろうとしたら、玲は「今の明久には料理をしてる余裕などない、そんな暇があるなら勉強しろ」とにべもなく断った挙げ句、捉えようによっては「結果が出せなかった時『あの時夕食を作っている余裕なんてなかったのに』という言い訳の材料を作ってるのではないのか?」ともとれる発言をしたことだ。

せっかくの自分の気遣いを言い訳の判断材料みたいな言い方をされれば、いくらお人好しで有名な明久でも頭にくるだろう。

玲はそんな邪推をしたつもりは一切無く、夕食を断ったのにも本当は別の理由があるのだが……流石は明久の姉だけあってこの人も方向性は違えど不器用極まりなく、そのためにすれ違いを起こしてしまったようだ。

 

玲「……ハァ……」

?「……吉井よぉ、河原で一人落ち込むとか何似合わねーことしてんだ?」

玲「……誰ですか?すみませんが今は…っ!?」

 

突然隣から呆れたような声が聞こえてきたため、玲はやや気分を害したような表情で振り向き、そのまま固まる。

所々はねまくったボサボサの黒髪、覇気の欠片も感じない濁った目、あまり手入れされていない口元の無精髭などなど……だらしない要素をふんだんに詰め込んだ男がコンポタを飲みながら、玲の隣に腰を降ろして寛いでいた。

 

玲「……御門……先輩……?」

空雅「そーだよ。久し振りじゃねーの」

 

その男はご存知残業嫌いのおっちゃん、御門空雅。驚くべきことに、この二人はハーバード在学中の先輩・後輩の関係である。まあ空雅はこう見えてたった一代で自分の会社を世界的大企業にまで大きくし、さぼりまくりつつも会社の業績を一切落とさないやり手中のやり手なため、ハーバード大卒であることはさほど驚くようなことではない。それよりもこの外見で23歳である玲と1~3歳差しかないことの方が驚天動地ものである。この男、まだ若いのに気力というものがあまりにも無さすぎる。

 

玲「何故あなたがここに?」

空雅「そりゃこっちの台詞だっつの。人のサボりスペースで公害みてーに陰鬱なオーラ撒き散らしやがって」

玲「また舞に仕事押し付けて逃げてきたんですか?そのうちいい加減愛想尽かされますよ」

空雅「その方がお互いのためなんじゃねーの?」

玲「またそんな憎まれ口叩いて……」

空雅「それよりよ、なんでお前さんあんなシケた面してたんだ?アホみたいに天然かつ病気レベルのブラコンだったお前さんがそうなるっつーからには、やっぱ弟絡みかよ?」

玲「……流石は御門先輩、バレバレのようですね……」

空雅(いやいや、お前の人となりを知ってる奴なら誰でもわかるっつーの……)

 

玲はいったい何があったのかを語りだした。彼女はあまり他人に悩みを打ち明けるタイプではないのだが、余程思い詰めていたのか、それともお世話になった先輩が相手だからか、一切隠さずに一部始終を語り終えた。

空雅はコンポタを飲みつつ明後日の方向を向きながらも一切聞き漏らすことはなく、語り終えたのを確認すると煙草に火をつけつつ玲に向き直る。

 

空雅「……フゥ~……相変わらず不器用な奴だなお前は。不合理で、非効率で、そしてどうしようもなく損な性格をしている。簡潔に言うと勉強できるバカだお前は」

玲「……これでも落ち込んでるいるんですよ。そんな容赦なく罵倒しなくても」

空雅「なるほど。どうしようかわからなくて途方に暮れていると?本当かそれ?」

玲「……それ、は」

空雅「そうだ。どうするべきか、どうすればいいのか……お前はもうわかっているはずだ。だというのにお前は実行に移せずにただここで足踏みしているだけ……これをバカと言わずなんと言うんだよ?」

玲「っ……!」

空雅「在学中にも言わなかったか?欲しいもんがあんなら自分から取りにいけってよ。待ってるだけで何もかも手に入るほど、世の中は甘くねーんだよ」

玲「……やっぱり、あなたには敵いませんね」

空雅「ま、一応先輩だからな。後輩に道を示してやるのも(ピピピピピピピピ)……この空気の読めなさ間違いなくキュウリだな」

玲(ひどい言われようですね舞……)

空雅「ほれ、三月に卒業してから特に連絡とってなかったろ?プチ同窓会気分でも味わえや」

 

そう言って空雅は携帯を玲に投げ渡す。玲が画面を確認して見ると、かけてきた相手は空雅の予想通り玲の同期であり親友でもある女性、桐生舞。

 

玲「(ピッ)はいもし-」

『どこほっつき歩いてやがんだゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

玲が通話のボタンを押して出た瞬間に耳につんざく怒声が放たれ毎度のごとく河原全体を凄まじい爆音が暴れ回る。その辺にいた鳩は皆空に羽ばたいていき、河の魚はばしゃばしゃと音をたてて散り散りになる。ここまでテンプレ。

 

『いい加減にしろやこのダメ人間がァァアアア!残業放り出して帰ってはダメだと何べん言えばわかんだよ殺すぞコルァ!』

玲「あ……あの~」

『あぁ!?なんで女みてぇな声だしてるんですか気持ち悪い!まさか媚でも売っているつもりですかぁ!?今更遅いんですよォ!』

玲「舞、私ですよ私」

『今度は私私詐欺ですかぁ!?そういや玲の声そっくりじゃないで……すか……?』

玲「はい……その玲です。吉井玲です」

『あ…………ああああああ玲!?なんで!?なんで玲が社長の携帯から!?』

 

しばらくパニックになった舞に玲が事情を説明し、ようやく状況を理解した舞がそのまま謝罪モードに移行中に、空雅が携帯を取り上げ通話ボタンを切り、そしてトドメに電源を落とす。相変わらずどこまでも大人げのない男である。

 

空雅「じゃあな吉井、兄弟仲は良好に越したことはねーからな」

玲「言われるまでもないですよ。……あの、御門先輩」

空雅「あー?」

玲「あまり無茶はしないでください……舞も私も心配になるんですよ?」

空雅「……無茶しねーでどうにかなるほど、甘い相手じゃねーんだよ。

……俺はあのチームの生き残りとして、あいつらを取り戻さなきゃならねーんだ」

 

いつも無気力全開な彼には珍しく、張りつめたような剣呑な表情を浮かべながらその場を去る空雅を、玲は悲しい気持ちになりながらも見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「姉上、ちょっと時間よろしいかの?」

 

試験前日の夜、秀吉はやや思い詰めた表情のまま優子の部屋を訪れていた。優子は最後の仕上げを一旦中断して秀吉に向き直る。

 

優子「どうしたのよ秀吉?」

秀吉「少し……相談したいことがあるのじゃが……」

優子「……良いわよ、言ってみなさい」

 

秀吉は最近ずっと悩んでいたことを打ち明けた。

 

綾倉先生からとあるスキルを教えて貰ったこと、

 

そしてそれをなんとか修得できたこと、

 

それを使えば大幅な成績向上を期待できること、

 

そしてそのスキルが……優子に対して後ろめたいというか、申し訳なくなるような内容であることを。

 

優子「なるほどね……それでアンタはアタシに罪悪感を感じて使うのを躊躇していると」

秀吉「うむ……。これではまるで……姉上の努力の結果だけを盗んでいるようで……」

優子「………………ハァ」

 

一部を聞き終えた優子は頭を抱えつつ、これでもかと言うほど大きな溜め息をつく。それから秀吉に近づいて、右手でデコピンの構えを作って秀吉の額にもっていく。

 

優子「ていっ(バチンッ!)」

秀吉「痛っ!?地味に痛いのじゃ!?」

優子「まったくこの愚弟は……めんどくさい女みたいにそんなくだらないことでぐちぐちと悩んで……」

秀吉「そんな言い方することなかろう!?ワシは真剣に悩んでおるのじゃぞ!?」

優子「あのねぇ……。アンタが真剣に演劇に打ち込んでいるのを、実の姉であるアタシが知らないわけないでしょうが。その上でアタシが怒るんじゃないかと悩んでるって、アンタの頭の中でのアタシはどんだけ小さい人間なのよ?」

秀吉「そ、そうは言うておらん!……しかしじゃな、」

 

あのね秀吉、と一旦そこで言葉を切り、優子は秀吉の眼を真っ直ぐ見つめる。

 

優子「テストのためだろうと演劇のためだろうと、真剣にやり抜いた努力に優劣は無いのよ。アンタは胸を張ってそのスキルとやらを心置きなく使いなさい。アンタが努力してきたことは、誰よりアタシが一番知ってるから」

秀吉「あ、姉上……」

優子「いつも厳しいこと言ったり、痛い思いさせちゃってるから誤解されんのも無理ないけどね…………お姉ちゃんはいつだってアンタの味方だからね♪」

秀吉「あ…………姉上ぇぇぇえええ!!!」

優子「あぁもう……よしよし。(ナデナデ……)しばらくこうしてなさい、アンタの気のすむまで付き合ってあげるから」

 

よほど悩んでいたのか、感極まった秀吉は泣きじゃくりながら優子に抱きつく。優子は名前の通り優しい笑みを浮かべて秀吉の頭をそっと撫で始める。どういうわけか、和真と結ばれてから優子の母性やらお姉ちゃん属性やらが天元突破しているようだ。

 

優子(それにしても……どうあがいてもアタシは越えられない辺り、割と使い勝手の悪い能力ね……)ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その同時刻、霧島家では翔子が雄二とともにテスト勉強の最後の仕上げに入っていた。まあ流石にうんざりした雄二はひたすら問題を解いていく翔子を眺めているだけなのだが。

 

雄二「なあ翔子、俺が無理矢理残らされるのはいつものことだが……お前今回のテスト不自然なほどやる気満々だけど、何かあったのか?」

 

雄二の言い放った何気ない問いかけに、翔子は一旦ペンを置いて雄二に向き合う。

 

翔子「……この前、和真に言われたから」

雄二「あん?何をだよ?」

翔子「……私を追い抜くって」

 

それを聞いて雄二は多少は驚くものの、別段不思議なことではないと思い直す。奴の、自分の、Fクラスの最終目標は打倒Aクラス。そのためにはあの鳳蒼介を真っ向から倒せるようになるために、腕輪のランクアップが必要不可欠となる。そんな重要な役目を誰かに丸投げするような和真ではなく、

その過程として翔子を越えるつもりなのだろう。

 

翔子「……私も、負けたくないと思った」

雄二「………………そうか」

 

改めて雄二は思う。Fクラスは最強であると、それを証明することが代表としての責務であると。

 

雄二(鳳……首を洗って待っていやがれ。俺達は必ずお前を王座から引きずり下ろす!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「………………」

 

そして翌日の早朝、蒼介は朝食を済ませた後、日課である瞑想に励んでいた。意識が海の底に深く深く沈んでいくかのようにどんどん集中力が増し続ける。もしかすると蒼介が明鏡止水の境地に至る日はそう遠く無いのかもしれない。

 

ピピピピピピピピピピ

 

蒼介「……………………さて、時間だ」

 

セットされた時計が登校時間を知らせたため、蒼介は鞄を背負って赤羽家をあとにする。

 

蒼介(私は誰にも負けたくない。……たとえ和真、お前であろうとな!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真「とりあえず、秀吉のフラグ回収が完了したな」

蒼介「木下(姉)の感想の通り、スキルなどと大層に言ってはいるがカズマの直感のような反則じみた性能ではない」

和真「次回明らかになるが、この時点で予想できた奴は自慢して良いぞ」


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期末テスト

そろそろ「インフレ」タグを追加しましょうかね……。


いよいよテスト当日。余計な詰め込みは自分にとって蛇足と考え十分な睡眠をとっていたため、今日の和真は文句のつけようの無いベストコンディションである。Fクラス教室に入ると既に登校している生徒が何人かいたが、その中でも鬼気迫る表情で世界史の教科書をかじりつくように見入っている明久が嫌でも和真の目につく。

 

和真「よう、明久」

明久「ああ、和真。おはよう……」

和真「まだ一日目だってのに消耗しきってんなぁ……そんなんで大丈夫かよ?」

明久「大丈夫、大丈夫……。ただ、できればあまり話しかけないで。昨日必死で詰め込んだものが出ていっちゃうから」 

和真「……お前がそう言うなら良いけどよ」

 

昨日何が会ったのかは和真は知るよしもないが、持ち前の観察力と洞察力でまた姉と何かあったことを大まかに察した。

和真の予想通り、昨日のやり取りで姉に心底失望した明久は昨夜寝る間も惜しんで夜通しで暗記物を勉強した。全ては忌々しい姉を追い出すためである。

再び復習に没頭した明久のもとから少し離れ、和真は雄二の席の左上の卓袱台に鞄を置く。自由に席を決められるのはFクラスの数少ない利点だ。隣には秀吉、後ろには翔子が座っていて、さらに雄二を加えた三人はのんびりと寛いでいた。どうやらこの三人は和真と同じくコンディションを重視しているようだ。

 

和真「よう、お前ら。調子はどうだ?」

翔子「……バッチリ」

雄二「全く問題はねぇ」

秀吉「今までのワシとは一味違うぞい」

和真「自信満々なようで何よりだ」

 

それから他愛のない会話をしている内にホームルームを告げるチャイムが鳴る。それと同時に教室に鉄人が入ってきて簡単な連絡事項を告げ、特に大した話もしなかったため五分もせずにホームルームが終了した。ちなみに今日の科目は現代国語・英語(リーディング)・世界史・数学Ⅱ・化学・保健体育というラインナップで、残りの科目は明日の二日目となっている。

明久を含むFクラス生徒のほとんどが必死になって最後の詰め込みに没頭していると、ようやく試験監督の布施先生が教室に入ってきた。

 

布施「はい、勉強道具をしまって下さい。一時間目のテストを始めますよ」

 

全員言われたとおりに勉強道具をしまってテストの解答用紙が回されるのを待つ。

 

布施「毎度のことですが、注意事項です。机の上には筆記用具以外は置かないこと。また、机に何かが書かれている場合はカンニングと見なされることがありますので、自分で書いた覚えがなくても確認するようにして下さい。それと、途中退席は無得点扱いとなりますので、よほどのことが無い限りは……」

 

お決まりの常套句を聞き流しながら秀吉は回ってきたテスト用紙を受け取り、一枚を残して後ろの雄二に回す。

 

秀吉(………………)

 

試験開始まで後少し、秀吉は精神を落ち着かせるため眼を閉じて瞑想をしていた。これから自分がやろうとしている技はこれまで秀吉の培ってきた演技力の極致ともいえる御業、生半可な集中力では決して成功することのない高等テクニックである。

 

秀吉(……………………よし!)

 

己の精神の落ち着きが最高潮に達した実感した秀吉は、心の中で己の姉を思い浮かべながらとある自己暗示をし始める。

 

 

 

秀吉(……は……こ。

 

 

……しは……うこ。

 

 

わ…しは…た…うこ。

 

 

私は木下優子。

 

 

 

 

アタシは……木下優子!)

 

直後に布施先生が試験開始を言い渡し、秀吉(?)はペンを掴み問題用紙を表に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二(おいおい……どうなってんだこりゃ……?)

 

現代文の問題を解きつつも、自分の周囲で発生しているありえない状況に心の底から困惑する。カンニングを疑われては堪ったものではないので、視線はテスト用紙に向けたまま意識だけを周りに張り巡らす。まず最初に目に止まったのはすさまじいスピードで問題を解き進めている二人。確かにとんでもない芸当だが、これに関しては別にありえないという程でもない。

 

雄二(なんせ和真と翔子だからな、それぐらいやっても別段不可解でもないな。それより俺が気になっているのは……お前だ秀吉!)

 

今度は意識を目の前の席に向ける。

目の前の席に座っている秀吉は……流石に和真や翔子に比べれば僅かに劣っているはものの、それでもとんでもないスピードで問題を解き進めている。あの秀吉が自分を遥かに凌駕するほどの速さで問題を解いていることに雄二は驚愕を隠せなかった。

 

雄二(なんでお前そんなズバズバ問題解けてんだよ!?お前そんなキャラじゃなかっただろうが!どっちかっていうとそういうのはお前の姉の……!?)

 

そこまで考えて、雄二の脳裏にはある一つの仮説が思い浮かんだ。その仮説は普通に考えれば……いや、どのような考え方をしようが極めて荒唐無稽かつ失笑ものの内容である。もし雄二が目の前の光景を見ていなくて、かつ明久あたりが自分に言ってきたとすれば「漫画の読みすぎだバカ」と一蹴していることだろう。

 

しかし、だ。……もしその仮説が正しいのなら、目の前の異常現象を全て説明できてしまうのもまた事実。

 

雄二は現代文の問題を解きつつも意識を秀吉から外せないでいた。時間はもうすぐ折り返しになるというのに、秀吉のペースは一向に落ちない。いくら勉強会で必死に頑張ったからといって、昨日今日でこんな芸当ができるようになるなど明らかにおかしい。雄二の脳裏には先程自分の立てた馬鹿げた仮説がどうしてもちらついて無くならない。

 

雄二(秀吉の……あいつの演技力は、ついに……

 

 

 

思考回路までトレースできるようになったとでも言うのかよ……)

 

もしその仮説が当たっているという前提で考えれば……今の秀吉は理論上、学年首席と同等の点数を叩き出せるということになる。しかし所詮理論はあくまで理論、和真や翔子にスピード負けしている以上、何らかの制約があるのは間違いないだろう。

たとえその仮説が外れていたとしても、秀吉が次々と問題を解き進めていることは紛れもない現実である。

 

雄二(そうだ、そんなことはどうだっていい……重要なのは秀吉が、打倒Aクラスへの大きな戦力になるってことだ!)

 

そこまでて雄二がほくそ笑んだとき、布施先生が残り三十分だと告げる。すると秀吉は猛スピードで走らせていたペンを止め、

 

 

 

 

卓袱台に突っ伏して眠り出した。

 

雄二(………………ゑ?)

 

思わず目を点にして驚く雄二をよそに、秀吉は深い深い眠りに入る。その後も問題を解きつつ秀吉の方に注意を向け続けるもまるで起きる気配はなく、布施先生が試験終了を告げたころにようやく起き上がった。

雄二は布施先生がクラス中のプリントを回収して教室を出ていってから席を立ち、いったい秀吉に何があったのかを根掘り葉掘り問い詰めた。当の秀吉は昨日の時点で既に迷いを断ち切っていたため、雄二だけでなく近くにいた和真や翔子にも声をかけて洗いざらい全てを話した。

結論から言うと、雄二の仮説は驚くことにドンピシャで当たっていた。秀吉は綾倉先生のアドバイスを受け、他人の思考回路までも演じきれるよう努力を重ねた。普通の感性を持っているならばそんなことできるわけないと挑戦すらしなかっただろうが、そこは演劇に青春の大半を注ぎ込んできた自他共に認める演劇バカの秀吉、さらに演劇に集中して成績が疎かになっていることを密かに気にしていたこともあって、なんとしても習得しようと全身全霊で打ち込み、そして習得してしまったようだ。

だがこのスキル、一見するとチートだが2つほど弱点がある。一つはトレースする相手の人となりを十全に知り尽くしておかなければならない。和真と同等以上の観察力を持った秀吉ですら、現在のレパートリーは17年もの付き合いになる実姉の優子のみであることから、この条件をパスするのは相当なハードルの高さのようだ。

そしてもう一つ……このスキルは凄まじい精神力を必要とするので30分しか続かないのだ。おまけに30分トレースするたびに同じく30分の休養をとらなければ、連続して使用することができないどころか激しい頭痛に襲われて何をすることもままならなくなる。つまりこの期末テストだけでなく試召戦争中も、トレースを使う際秀吉に与えられた持ち時間は30分だけとなる。その上補充試験を受けるとき、途中で切り上げて戦線復帰という戦法も秀吉は使えなくなった。

まあそれらもメリットを考えると安い代償なのだが。文月学園の試験時間は一律1時間のため、単純計算で秀吉は優子の1/2の成績をとることができる。もっとも文月学園のテストは後半に進むにつれて難しくなり前半に比べて問題を解くスピードが落ちるという傾向があるため、厳密には優子の60%程度の学力になると予想される。

 

秀吉「……と、こんなところじゃ」 

和真「つまり、今のままじゃどうあがいてもお前は優子を越えられねぇのか……」

翔子「……でもそれは以前と大して変わってない」

秀吉「自力では逆立ちしても姉上のような点数は取れそうにないからのう……。そう考えると2つ目はほとんどノーリスクじゃな」

雄二「まあなんにせよ、木下姉の6割ほどの点数を期待できるならAクラスレベルは確実だな。これは思わぬ収穫だぜ」

秀吉「うむ。2学期からはワシも率先して闘うことになるじゃろうな」

 

心なしか誇らしそうにしている秀吉を三人が暖かい目で見守っていると、二時間目の試験監督の大島先生が全体に着席するよう呼び掛けたため、四人はそれぞれの席に着く。

そんな感じで順調にテストは進み……とうとう明久の最大の山場である世界史の時間が来た。

 

鉄人「よしお前ら。テストを始めるぞ。筆記用具以外は全部しまうように」

 

試験監督の鉄人が野太い声で全体に指示をした。

 

鉄人「一枚ずつ取って後ろに回すように。問題用紙はチャイムが鳴るまで伏せておくこと。いいな?」

 

前の席から問題用紙と解答用紙が回ってくる。明久は言われたとおりにそれぞれ一枚ずつとって、残りの紙の束を後ろの生徒に手渡した。

 

キーンコーンカーンコーン

 

鉄人「始めなさい」

 

合図と同時に明久はシャープペンを手に取り解答用紙に手をかける。まず最初に頭に詰め込んだ内容を忘れないように解答用紙にメモをしてから明久は問題を解き進める。死力を尽くした努力は裏切らず、今までとは比べ物にならない手応えを感じながら問題を解き進めていく。

ちなみに事前に雄二と姫路は明久にある戦略を伝授していた。それは解けない問題が目立ち始めたら最初に戻ってじっくりと考えることだ。

これは問題数が無制限かつ先に進むにつれて難易度が高くなる文月学園のテストならではの解き方で、解けない問題が目立ち始めたらそこから先は殆ど解けない問題ばかりだと思って見て間違いない。そうなると問題文を読む時間が無駄なので、考えたら解りそうな最初の問題の方に戻って解いていくというものだ。

しかしこの世界史に限っては、その作戦はどうやら教えるだけ無駄だったらしい。何故なら明久は制限時間いっぱいまで解けない問題が目立ち始めることが無かったからだ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

鉄人「よし。ペンを置け。解答用紙を後ろの生徒が集めてくるように」

 

クラスの皆が大きく息を吐く音が響き、鉄人に言われたとおり一番後ろに座っている人が解答用紙を回収していく。

 

『おい朝倉。往生際が悪いぞ。早く渡せよ』

『ま、待ってくれ!ここだけ直してから』

鉄人「朝倉!チャイムは鳴ったぞ!諦めてペンを置け!」

 

チャイムが鳴っている間に間違いを見つけたのか、朝倉が解答用紙を渡さずに粘って鉄人に怒鳴られていた。

 

明久(バカだなぁ。もうチャイムは鳴っちゃったんだから、間違いなんて探すだけ無駄なのに)

 

と言いつつ気がつけば明久も回収寸前の解答用紙を見直してしまっていた。特にミスらしいミスが見当たらなかったので安心したところで、

 

とある一つの箇所が目に留まってしまった。

 

『吉井。回収していくぞ』

明久「あ」

 

修正どころか、懇願する暇さえなく解答用紙が回収されていく。壇上に集められた解答用紙は鉄人の手で一つにまとめられ、専用の袋に詰められて教室から姿を消した。

 

明久「…………」

雄二「おう明久。勝負の世界史はどうだった?きちんと解けたのか?」

和真「まあ暗記科目であれだけやりゃあ…………」

 

為す術もなく去りゆく鉄人の背中を見送る明久のところへ、雄二と和真がやって来た。軽口を言い終える前に突然和真は口を紡ぐ。

 

明久「ああ、うん。ちょっと間違えちゃったけど、今までで一番良く出来たよ」

雄二「そうか、それはつまらんな。折角お前が真っ青になって今後の対策を考える姿を笑いに来たってのに」

明久「何言ってるのさ雄二。まったく洒落にならないよ」

和真(……洒落にならんミスだったようだな)

 

例のごとく並外れた観察力と洞察力で概ね全てを察した和真は、心なしか同情の眼差しを明久に向ける。

 

雄二「まあ、元々最底辺だった上にあれだけ勉強したもんな。点数が下がるわけがないよな」

明久「まったくだよ。やだなぁ。あはははっ」

雄二「ははっ。そうだよな」

 

そんな和真とは対照的に明久と雄二は二人で朗らかに笑い会っていた。もっとも、明久は内心全く笑えていなかったのだが。

 

明久(あのミス、やっちゃったなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界史 一学期期末試験

 

クラス 紀元前

学生番号 334年

氏名 アレクサンドロス大王

 

 

明久(さようなら、僕の一人暮らし……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、教師達の採点も終わりテストが一斉に返却された。Fクラスではそれぞれ結果に一喜一憂(圧倒的に憂の割合が多いのは言うまでもない)している傍ら、和真と翔子はお互いの総合成績を確認し合っていた。

 

和真「…………」

翔子「…………」

和真「……引き分け、だな」

翔子「……うん」

 

 

柊和真  5067点(2/300)

霧島翔子 5067点(2/300)

 

 

総合科目の点数は二人とも半端じゃなく高いものの、寸分の狂いも無く全くの同点。教科別に見ていくと優劣はあるのだが、最終的には0点差、学年次席に同席という形で二人が火花を散らした期末試験は終結した。

 

和真「…………楽しかったな翔子、またやろうぜ!」

翔子「…………うん。次は、私が完全勝利する」

和真「はっ、言ってろ!そもそも次席なんてセコい立ち位置はあくまで通過点だ。狙うなら当然トップしかねぇよ」

翔子「……それは私も同じこと。先に鳳を首位から引きずり落とすのは私」 

和真「そうはいかねぇよ。お前には二番目で我慢してもらうことにはるぜ、順番も順位もな」

翔子「…………ふふふ…」

和真「…………はっ、ははは…」

 

 

ガシッ!

 

「「あははははは!あーっはっはっはっはっは!!!」」

 

固く握手して笑い合う二人の間には、決して砕けない確かな絆が存在していた。

 

 

 

 

 




綾倉「おめでとう!木下君はモシャスを覚えました」

和真「すげぇとんでもない能力なのは確かなんだが、現状はただの劣化優子モードだな」

蒼介「見も蓋も無いことを言うな……」

綾倉「まあそれはおいといて、柊君も学年次席(霧島さんもですが)昇格おめでとうございます」

和真「サンキューっす。ただ作中でもいった通り、俺達の目標はこのソウスケを首席の座引きずり落とすことなんで、今回のはまだ通過点に過ぎねぇんすよ」

蒼介「フッ、挑むところだ……だが私は待ってやるつもりはないぞ。お前達がようやく5000点台に上りつめたところ申し訳ないが、私はもう次の段階に進んでしまったよ」(←6000点オーバー)

和真「ハッ、上等だ!山は高いからこそ登る価値があるんだよ!」

綾倉「いやぁ、青春ですねぇ。その調子で私の領域まで上がってきてくださいよ?」(←15000点オーバー)

「「できるかぁぁぁぁぁ!!!」」



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第五巻終了

和真「そういえばさ、ソウスケ」

蒼介「何だカズマ」

和真「“鳳”のシンボルって朱雀なんだろ?明らかに火属性のイメージなのにお前は蒼の英雄だの明鏡止水だの……アイデンティティーのことごとくが水属性っぽいじゃねぇか」

蒼介「別に構わんだろう。『ベイブレード』のドランザーだって朱雀なのに青い機体だしな」

和真「そういう問題かよ!?第一ドランザーは青色だけど火属性だろうが!」

蒼介「お前、知らないのか?初代ドランザーは『フロスティックドランザー』という機体でな、その名の通り氷属性だったんだぞ?」

和真「……え?マジで?」

蒼介「マジだ」

和真「……知らんかった」

蒼介「だいたい火属性は本来お前の担当なんだぞ、赤みがかかった髪とか戦闘時の気性の荒さとか。だというのにお前は『ライトニングタイガー』などと電気属性っぽい技に現を抜かしおって……」

和真「仕方ねーだろうが!作者がシュナイダーより日向の方が好きなんだからよ!」

蒼介「そんな理由でか……」






空雅「……おい、なんだよこの部屋は?こんなもんいつの間に用意しやがったんだ?」

 

文月学園の期末試験が終了した日の夕方、“御門”本社ではいつものように定時退社しようとした御門社長を秘書であり大学時代からの後輩でもある眼鏡の似合う茶髪の美女、キュウリこと桐生舞に捕まえてとある部屋に連行した。その部屋には窓一つ設置されていない監獄のような部屋であった。冷暖房や換気扇はあるため健康面ではさほど問題ないが、空雅にとって深刻な問題なのは入ってきたドア以外に逃走するスペースが無いということだ。こんな部屋は社長である空雅すら預かり知らぬ場所である。ジト目を向けられた桐生は怪しい笑みを浮かべながら何故かどや顔になる。

 

桐生「ふっふっふ……あなたに残業分の労働を押し付けられ続けて幾星霜……だがしかぁぁああし、このまま泣き寝入りする舞ちゃんじゃないってことですよ!」

空雅「幾星霜って、お前入社一年目だろうがよ。つーか格好つけてるとこ悪いが、要するに軽費を使い込んで俺を逃がさない部屋をこっそり増築してたってことだよな?キュウリお前、性根腐りきってんな」

桐生「桐生です!第一軽費管理も貴方が押し付けたことでしょうが!いつもみたいに揚げ足取ってうまく逃げようったってそうはいきませんよ!今日からはキチンと残業終わらせるまで帰しませんから!さあ。さあ!さぁぁあああ!!!」

空雅「あー、あー、あー、あー!!!

顔近いんだよ。うぜぇしキメぇし見苦しい」

桐生「ウゼッ……!?」

 

息をするように放たれた暴言に思わずショックを受ける桐生を放置して、空雅は懐からやけに大きなライターらしきものを取り出しながら奥の壁に近づく。

 

桐生「……はっ!?御門せ…社長!いったい何をするつもりですか!?いい加減往生際が悪-」

空雅「オラァッ!!!」

 

ライター(?)を着火しながら空雅が腕いっぱいに円の軌道を描くと、ライターから凄い熱量の火が灯され、鉄の壁を円形にくり貫いた。

 

舞「え…………えぇぇぇぇぇっ!?」

御門「『バーナーブレード』……“橘”の新発明だぜ。それじゃ、あばよっ!」

 

御門はその穴に躊躇なくダイブした。ちなみにここは15階、このままでは全身から血をぶちまけてグロテスクな死体になること間違い無しであるが、当然そこら辺も対策済みである。

 

空雅「そらぁっ(シュッ……ガキンッ!)」

 

懐から鉤縄(ボタン一つで巻き取り可能の優れもの)を取り出して、隣にあるビルの窓に引っかける。そして空雅は忍者顔負けの手際で鍵縄を巻き取りつつ隣のビルの壁を登っていった。あまりにもぶっ飛んだ逃走劇に呆然としていた桐生だったが、しばらくして我に帰る。

 

そして絶叫。

 

桐生「あん……の、ハイスペック駄目人間がァァァアアアアア!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御門「ったく、あいつもしつこいな。俺に残業させるなんざ100億世紀早いんだよ」

 

あの後も桐生は社員を総動員して執念深く追い回してきたが、空雅の無駄に高い逃走&隠密スキルの前にあえなく見失ってしまったようだ。

見事撤退に成功した空雅は悠々と商店街をぶらついている。すると、見知った姉弟が仲良く買い物をしているのが目に留まり、無視するのも何だと思い声をかけることに。

 

空雅「よう、吉井とその弟の少年。その様子だと仲直りできたみてーだな」

明久「あれ、おっちゃん?」

玲「ええ、おかげさまで。……アキ君?御門先輩と知り合いだったのですか?」

明久「姉さんこそおっちゃんと知り合いだったの?というか……え?先輩って……」

空雅「お察しの通り、大学時代の先輩後輩の関係だ」

明久「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

あまりにも予想外すぎる真実に、明久は商店街の真っ只中であることを忘れて思わず絶叫する。

 

空雅「うるせーな、周りの迷惑考えろや」

玲「そうですよアキ君、お行儀悪いですよ」

明久「あ、ごめんなさい……いやでも、仕方ないじゃないか。こんな小汚いオッサンがハーバード卒だなんて聞かされたら……」

空雅「相変わらず失礼なガキだなお前は。小汚い云々は性根の汚いお前だけには言われたくねーよ」

明久「失礼なのはそっちじゃないかな!?……あれ?姉さん確か23歳だったよね?」

玲「ええ、そうですけど……アキ君、女性に年齢を聞くものではありませんよ?」

明久「あ、ごめんなさい。……でも、そうなるとおっちゃんの年は……」

空雅「俺は25だが」

 

明久、本日二度目の絶叫。

その直後に明久を粛清する玲に別れの挨拶を済ませて空雅は二人のもとを離れる。一人商店街を猫背の体勢で歩きながら、

 

 

ーーーゾクッ

 

 

空雅は言葉ではとても表現できそうにない、得体の知れない気配を感じとる。空雅にとってそれはどこか懐かしく、それでいて心の内から嫌が応にも憎悪が涌き出てくるような気配であった。

 

空雅(とうとう動き出しやがったな……

アドラメレク……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、生徒会役員一同は生徒会室に集まっていた。集った理由は他でもない、今日は三年役員の辞任式である。

 

梓「……ほな、本日をもってウチら三年生は引退や。2学期からはアンタら二年生、そして一年生が主体となっていくことになるさかい。……さ、アンタらもそれぞれ一言で良いから述べろや」

 

梓の言葉を受けて三年一同は二年役員である蒼介と飛鳥に視線を向ける。

 

高城「佐伯嬢に騙される形で入った生徒会ですが……有意義な時間を過ごさせていただきました」

小暮「私達は今日でここを去ることになりますが、貴方達との思い出は決して忘れません」

杏里「今期、私は途中参加だけど、貴方達の力になれたなら嬉しい……」

夏川「最初はちょくちょく衝突してたけどよ、今なら思うぜ……鳳、お前は誰よりもすげぇ生徒会長だ!そして橘、お前もな」

常村「本当なら大門にも別れの挨拶をしたかったんだかな……。あいつともよく喧嘩したが、今となっちゃあそれすら懐かしいな」

 

三年生達の言葉を胸に刻んだ蒼介達は、返しの言葉を紡いでいく。

 

飛鳥「小暮先輩、宮阪先輩、梓先輩……」

蒼介「常村先輩、夏川先輩、高城先輩……」

 

「「お疲れさまでした!!」」

 

 

 

 

 

高橋「それにしても、こんな大事な日に池本先生はどこをほっつき歩いいてるのでしょうか?」

綾倉「無断欠勤するような人ではないと思ったんですけどねぇ……」

 

生徒会顧問である綾倉先生と高橋先生は、この場にいないもう一人の学年主任に半ば憤り、半ば身を案じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに同じ時間帯に、新校舎の屋上にて仮面の男『ファントム』はノートパソコンを広げていた。

 

『どうだいアドラメレク、新しい器の調子は?』

[ふむ、これまでの有象無象て比べて桁違いに良質。『玉』としては及第点をくれてやろう]

『それは重畳。……しかしそれでもまだ不安定であることには変わらん、今のままではテストプレイすらままならんぞ?』

[問題ない。我の体が不安定だというなら……我が現出する世界も不安定にしてしまえばよかろう]

『……なるほど、私をここに来させたのはそのためか』

[察しがいいな。では、少し離れていろ]

 

ファントムが離れたのを確認すると、画面の中でアドラメレクはさっきまでのパソコン音声のような声ではなく鈴を転がすような美しい声で、不可解な言葉を呟いた。

 

アドラメレク「 מרחב טופולוגי」

 

その呟きとともに以前程馬鹿げたサイズでは無いものの、通常より何倍もある幾何学模様が出現し、その中心から白の天使が現れる。

 

そして再び言葉を紡ぐ。

 

アドラメレク「העולם מעווה מדע להחליש」

 

 

世界が、歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園長「…………っ!?なんだいこれは!?せっかく調整した科学とオカルトのバランスが滅茶苦茶に……くそっ!?いったいどうなってるさね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「第五巻が無事終了したな」

和真「今回の後書きは、期末試験の結果発表と今後の試召戦争に向けてのミーティングを俺、雄二、翔子の三人で行う。そんなわけでソウスケ、お前終わるまであっち行ってろ。お前今巻出番いっぱい貰ったんだからこれくらい良いだろ」

蒼介「ハァ……仕方ないな」




蒼介、退出。





和真「さて、それじゃあ始めるぞ」

雄二「とりあえず、めぼしいキャラの点数と順位を上から順に見ていくか」

翔子「……じゃあ、まずトップの鳳から」


鳳蒼介……6388点(1/300)


雄二「……もう何も言うまい」

和真「テストを受けるたびに点数が上がっていくという反則仕様が今巻で明らかになったからな」

翔子「……早急に決着を着けないと手遅れになるかもしれない」

雄二「だが今回の結果では保健体育は言わずもがな、英語でも首位から陥落したそうだ」

翔子「……心当たりが一人」

和真「心当たりっつうか、そんなもんアイツしかいねぇだろうよ……」


柊和真……5067点(2/300)
霧島翔子……5067点(2/300)


和真「俺達もかなり強くなったはずなんだがなぁ……」

雄二「首席と次席の点差は縮まるどころかむしろ開いたな……」

翔子「……でも、以前と比べて1000点近く点数を伸ばした和真は正直かなりすごいと思う」

和真(まあ今回もっと伸ばした奴がいるんだけどな)


姫路瑞希……4563点(4/300)
久保利光……4559点(5/300)


和真「今回のライバル対決は姫路に軍配が上がったようだな」

翔子「……私と和真にも匹敵するすごい鍔迫り合いの末、紙一重で瑞希の勝ち」

雄二「まあこいつら二人は予想の範疇だ。……問題は次の三人だ和真この野郎」


木下優子……4512点(6/300)
大門徹……4028点(7/300)
工藤愛子……3569点(8/300)

雄二「…………」

翔子「…………」

和真「…………」

雄二「……言い訳を聞こうか?」

和真「……正直すまんかった」

雄二「すまんかった、で済むかバカ!なんだこの点数!?手強い敵が揃いも揃ってもっと手強くなってるじゃねぇか!特に木下姉!久保や姫路と大差無いってどういうことだ!?」

和真「そりゃあまあ……元々俺と点数を競ってたわけだし、これくらいのことはねぇ……」

翔子「……ひとえに和真の愛の力」

和真「翔子、優子の力だ」

翔子「……ひとえに優子の愛の力」

和真「くそ、言い直させても俺への精神的ダメージが全然減らねぇ……」


佐藤美穂3516点(9/300)


和真「特に言及する所は……あったわ」

翔子「……物理科目が400点オーバーしている」

雄二「くそ、Aクラスの戦力がどんどん充実していきやがる……半分は和真のせいだがな!」

和真「悪かったって言ってるだろ!?」


坂本雄二……3465点(10/300)
橘飛鳥……3002点(11/300)

和真「飛鳥はインターハイに向けての訓練で学業が多少疎かになってるな。だが猛練習の甲斐あってインターハイで優勝を勝ち取れたらしい」

翔子「……まさか、佐伯先輩に勝ったの?」

和真「あの二人はそもそも体重差ありすぎて階級が違う。あの先輩は三年間無敗で引退したそうだ」

翔子「……雄二がトップ10に食い込んだ」

雄二「まあ俺の点数はあまり重要じゃないんだが。代表が前線で戦う機会は少ないしな」

和真「雄二よぉ、単機で最前線まで斬り込んで勝負を決めた某クラス代表のこと忘れたのかよ」

雄二「あんなチート腕輪持ちと一緒にするな!」


五十嵐源太……2766点(13/300)


雄二「こいつもか……おい和真」

和真「いい加減しつけぇよ……こいつは英語以外の伸びしろがかなりあったからな。英語も伸びているのは予想外だが」

翔子「……英語は628点と鳳を抜いて学年トップ」

雄二「Bクラス版ムッツリーニだな……。しかもムッツリーニと違って露骨に点数が低い教科も無い」

和真「そういや翔子、お前も確か英語531点で3位だよな?」

翔子「……借りは、必ず返す」

雄二(この二人、妙なライバル意識があるな……)

 
木下秀吉……2703点(15/300)

雄二「はい来たよ今回最も予想外だった奴が!」

翔子「……もともとの点数を900点とすると、およそ1800点の上昇になる」

和真「今回のMVPは文句なしでこいつだな。……しかしスキルの性質上、優子の成長に比例してこいつの点数も伸びるんだよな。よし、ここは秀吉のためにも優子をさらに鍛え上げて…」

雄二「やめろバカ!?明らかにこっちが損するだろうが!」


島田美波1654点(128/300)


雄二「秀吉ほどではないが、島田もかなり成績が向上したな」

翔子「……原作でも美波本人の学力は高い。Fクラスレベルになった原因は日本語(特に漢字)が不自由だから」

和真「今巻で、蒼介がドイツ語で意思疏通できたおかげである程度の壁は越えられたみてぇだな。あと、全ての漢字を覚え差すのではなく問題慣れさせることに念頭を置いたようだ」

翔子「……そう言えば、どうして鳳がドイツ語を話せるの?」

和真「アイツは“鳳”後継者として英才教育を受けたからな。ドイツ語に限らず、先進国の言語はだいたい不自由なく話せるぜ」

雄二「あいつマジで弱点無しか!?」


土屋康太1391点(173/300)
   
和真「ムッツリーニも躍進したな」

翔子「……鳳の指導のおかげで、保健体育以外の点数もFクラス標準レベルまで上昇した」

雄二「それでも保健体育は796点と全体の半分以上と圧巻ものだな」

和真「ちなみに愛子が498点で3位、ソウスケが587点で2位と、まさにムッツリーニの独壇場だ」

翔子「……あの二人も伸びてはいるけど、いかんせん相手が悪い」


吉井明久1275点(191/300)


和真「ちなみにこれは世界史を除いた点数だ」

雄二「あのバカがここまで伸びるとはなあ、というか世界史を入れたらCクラス並じゃねぇか……」

翔子「……和真がAクラスに塩を送っていたと同時に、鳳もFクラスの成績を向上させていた」

和真「そう言うことだな。……さて、ここで一つ明久には内緒の話をしてやろう」

雄二「なんだ?藪から棒に」

和真「最終的な明久の減点は490。つまり今回の目標は1290点だ」

翔子「……世界史抜きでも結構惜しかった」

和真「そして俺達が明久の家に行ったとき、明久に課せられた点は250点(直後に50点プラスされたが)原作では150点だったのに何故100点増えていると思う?」
 
雄二「そりゃあ……女子の人数が原作と違ったからだろ?秀吉を女子とカウントすると一人につき50点で原作では計三人で150点、この作品では……ハッ!?」

和真「気づいたようだな……。そう、この作品では優子と翔子もいたからさらに100点上乗せされてたというわけだ
……つまり、俺が優子を連れて来なけりゃ明久は無事目標点に届いていたわけだ」

雄二「お前、今回あらゆる方面に迷惑かけてるな……」

和真「この件に関してお前に責められる謂れはねぇよ。お前が野次馬根性を出さず帰宅してりゃあ、翔子も明久の家に行ってなかっただろうし」

雄二「忘れたか?俺は明久の幸せが大嫌いな男だ!」

和真「威張って言うことじゃねぇだろ!
……まあ、和解してくれて本当に良かったぜ」



和真「さて、このあたりでお開きにしようや」
 
翔子「……気がつけば本編より長くなってる」

雄二「しかしどいつもこいつも伸びたもんだ。これだと『二年生は学力はすごいけど頻繁に騒動を起こす問題児の集まり』なんてレッテルを貼られそうだな」
 
和真「別に間違っちゃいねぇだろ?おいソウスケ、締めるぞ」

蒼介「やれやれ、待ちくたびれたぞ。
読者の皆、差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「アドラメレクはいったい何をしたのか?ファントムの目的とは?次の投稿を楽しみに待っていてくれ!」



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六巻開始・特別補習

【英語】

次の単語を英訳しなさい。
『スペイン語』

源太の答え
『Spanish』

蒼介「基礎英単語の一つだが、たまに頭文字のSが大文字になるのを忘れてしまう人が結構多い。そのようなケアレスミスには充分注意するように」


明久の答え
『Spaniard』

蒼介「それはスペイン人だ。……だが1学期前半からは考えられないまともな間違いだな。私も教えた甲斐があったと思える」

ムッツリーニの答え
『Spaget…』

蒼介「どう解釈してもスパゲティと書こうとしたようにしか見えん……。私の教え方が悪かったのか……?」




「……雄二」

「なんだ翔子?」

「……特別補習っていつまでだっけ?」

「確か今週いっぱいだな。まったく、折角一学期が終わったってのに毎日登校だなんて、ババァは夏休みの意味を知らないのかってんだ」

「……でも、私達Fクラスは仕方ない。試召戦争で平常授業が沢山潰れていたから」

「とはいってもだな、少なくとも俺やお前や和真や姫路はFクラスの連中に合わせたレベルの授業なんて正直受けるだけ無駄だろ?教師に目をつけられてる俺はともかく、せめてお前らはAクラス連中に混ぜて夏期講習を受けさせるとかの配慮があってもだな」

「……レベルとかは関係ない。雄二がいるから、私はFクラスに行く」

「またお前はそんなことを……」

「……雄二が学校に行かないなら私も行かない。特別補習があってもなくても」

「いや、そこは行かなきゃだめだろ……お前は俺と違って優等生で通ってるんだから」

「……雄二が結婚式に行かないなら私が連れて行く。結婚の意思があってもなくても」

「かっこいい台詞のようだがそれは立派な人権侵害だと言うことを覚えておけ!というかそんなことになったら俺は全力で抵抗するからな!」

「……抵抗なんて無駄。私、頑張るから」

「なんでそんなことで頑張れるんだよ!努力の無駄遣いをすんな!」

「……前に」

「ぁん?」

「……前に、吉井が言っていた」

「なんだ?あのバカが何を言っていたんだ?」

「……『好きな人の為なら頑張れる』って」

「違うからな!?あいつの言おうとしたこととお前のじゃあ意味合いが全然違うからな!?」

「……私も最近、心からそう思った」

「私もじゃないっ!そんなこと考えんのは世界中探してもお前だけだ!」

「……雄二とは小細工なしの腕力勝負で結婚してみせる」

「だから結婚に腕力は関係ないとぎゃあああっ!頭蓋が!頭蓋が軋む音が!」

「……結婚、してくれる?」

「しねぇよ!っていうかできねぇよ!学生の内は結婚云々の話は進めねぇって約束しただろうが!」

「……うん、わかってる。冗談」

「微塵も冗談には見えなかったぞ……」

「……でも、雄二」

「んぁ?」

「……卒業したら私と結婚してくれるってこと?」

「げほげほっ!な、何を言ってやがる!?」

「……雄二のこと、信じてるよ」

「~~~~~ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

期末試験も終わって七月も残すところあと数日となった。大抵のクラスは夏休みを満喫するなり部活動に精を出すなりしているなか、和真はFクラス一同と共に数多くの試召戦争で潰れた授業分を取り戻すべく鉄人による特別補習を受けていた。清涼祭の売り上げで購入した遮光カーテンのお蔭で直射日光対策はできているものの、冷房などという贅沢品は設置されていないため気温はどうしようもなく、さらに担当教師が鉄人ということもあってクラスのほとんどが限界に近い状態であった。

しかし和真はこのうだるような暑さをまるでものともせず、鉄人の講義を聞き流しつつ綾倉先生特製『エキスパート・ラーニング』の問題を解き進めていた(先日の期末試験を鼻で笑えるほど難しいのでスラスラとはいかないようだが)。

本来ならば講義以外の教材に集中するのはいけないことであるが、Fクラスのレベルに合わせた授業など翔子と同等の学力を有している今の和真には正直何の価値も無く、かといって和真のレベルに合わせた授業など行おうものなら姫路と翔子以外は誰もついてこれなくなるだろう。鉄人もそれを理解しているため、通常授業時は授業にするよう和真と約束した上で今は見逃している。

 

鉄人「……全員動くなっ!」

「「「っ!?」」」」

和真(……あん?)

 

集中して問題に取り組んでいる耳に突然鉄人の怒声が耳に入ってきた。和真は何事かと辺りを見回してみるとFクラスの生徒達のほとんどが中腰の状態でフリーズしていた。

 

和真(なるほど、補習に嫌気がさして逃げ出そうとしたってところだな。それにしても西村センセ、黒板の方を向きながら気配を察知したのか……野生の獣かよ)

 

そう思いたい気持ちもわからないでもないが、天性の直感なんてものが備わっている和真には人のことを言う資格が無いのではなかろうか。

 

鉄人「貴様ら……脱走とは良い度胸だな。

そんなに俺の授業は退屈か?」

 

鉄人はゆっくりと振り返り脱走を企んだ生徒達を睨みつける。これから襲い来るであろう鉄拳に生徒達が戦々恐々していると、鉄人は意外なことを言い出した。

 

鉄人の「……そうか。お前らがそこまで退屈しているとは気付かなかった。これはつまらない授業をしてしまった俺の落ち度だな。……侘びと言ってはなんだが、代わりに一つ面白い話をしてやろう。霧島、姫路、島田、木下、柊は耳を塞げ」

和真「いやいや、そりゃねぇっすよ。面白い話なら仲間外れにして欲しくはねぇな」

鉄人「……まあお前なら問題ないだろうから好きにしろ。他の四人は絶対に聞くんじゃないぞ。

……そう。あれは、十年以上前の夏」

 

明久達が不可解に思っているのをお構いなしに、鉄人は話し始めた。雄二はもうなんとなく感づいているが、ここで耳を塞げばこの鬼教室は間違いなく補習時間を増やしてくるだろうから泣く泣く聞くことにする。まあ、今さらどんな選択をしようと地獄行きには変わらないのだが。

 

鉄人「俺がブラジルの留学生とレスリングをやっていたときのことだ」

『『『ギャぁアあーっ!!』』』

和真(あーあ……俺はどうってことないが、耐性無い奴にとっちゃ生き地獄同然だな)

 

生粋のアウトドア派の和真は暑さに対して異常に強い耐性を持つため鉄人のレスリング談義程度恐るるに足りないのだが、一般人からすればもはや拷問通り越して処刑と同義である。

 

鉄人「相手は身長195㎝、体重120㎏の巨漢、ジョルジーニョ・グラシェーロ。腕の太さが女性のウエストくらいありそうな男だった。だが俺とて負けはしない。188㎝、97㎏の鍛えに鍛えた肉体でヤツと正面からぶつかり合い……」

『やめろ!やめてくれぇ!?』

『脳が、脳が痛ぇよ!!』

『ママァーッ!!』

和真(デケーっちゃデケーけどよ、俺はクソ親父を見慣れてるからなぁ……そう言えば制服の丈が短くなってきたなぁ、今度採寸し直すか)

 

多くの生徒の精神がガラガラと崩壊していく中、和真は徹が聞いたら血涙ものの内容を呑気に考えていた。

 

鉄人「……しかし、ヤツはレスリングと柔道を勘違いしていた。腕ひしぎを仕掛けてきたんだ。だがこの俺の自慢の上腕二頭筋には勝てるわけもない。汗に塗れ、血管を浮き上がらせながらも俺は腕を伸ばしきることなく抵抗し続けた。すると向こうはすかさず俺の頭上にまわり、その分厚い大胸筋で俺の顔を圧迫しつつ上四方固めを」

『ぐああああっ!い、嫌だ!目を閉じたくない!最悪のビジュアルが瞼の裏に張り付いて離れない!』

『起きねぇ……福村が起きねえよ!?おい、しっかりしろよ!』

『空気を……新鮮で涼しい空気をくれ!!』

和真(つーか、俺の身長は最終的にどこまで伸びるんだ?親父みてぇに2m越えは正直勘弁して欲しいんだが……。頑張れ母さんの遺伝子)

 

周囲は阿鼻叫喚に包まれているが、和真はもう完全に身長の方に関心がいってしまっている。

 

鉄人「……そして、制限時間いっぱいまで使った俺達の寝技の攻防は続き……ん?お前ら、もうダウンか?……そして柊、自分から催促しておいてそれはマイペースにも程があるんじゃないか?」

和真「俺、レスリングよりボクシング派なんで」

鉄人「まったく、お前という奴は……しかしこれでは補習もままならんな。仕方がない、10分間だけ休憩を入れるとしよう。脱走なんて下らないことを考えた自分を反省するように」

 

鉄人は耳を塞いでいる四人にジェスチャーで手を離すように伝えると、休憩の旨を伝えて教員用の椅子に座る。脱走を警戒しているのか、教室から出ていく気は無いらしい。ちょうど聞きたいことがあったので和真は『エキスパート・ラーニング』を手に取り、死屍累々のクラスメイト達をスルーして鉄人に近づく。

 

和真「なーなー西村センセ、ちょうど物理で教えて欲しいところがあるんだけど」

鉄人「ほう、勉強熱心だな。どれ、見せてみろ……お前な……」

 

鉄人は休憩時間にもかかわらず学ぶことをやめない和真に感心しつつも、指定された箇所に目を通した途端に呆れたように溜め息を吐く。

 

鉄人「……ラプラス変換なんて高校教師に聞きにくるか普通?」

和真「でも、教えられるでしょ?」

鉄人「できないわけではないが……まったく、優秀過ぎるのも考えものだな」

 

とはいえ教師たるもの学習意欲のある生徒には手助けしてやらねばならないと考え、鉄人はできるだけ分かりやすく解説していく。

 

鉄人「……と、このようにラプラス変換をうまく用いれば、複雑な微分方程式も容易に解くことができるわけだ」

和真「なるほど、だいたい理解できた。流石補習担当、何でも教えられるんすね」

鉄人「綾倉先生ほど精通しているわけではないがな」

和真「あの人は例外でしょうが……なんだよ物理と数学だけで3600点って……。あ、そういや西村センセ、もう一つ聞きてぇことがあったわ」

鉄人「今度はなんだ?」

和真「さっきのレスリングのことだけど、結局どっちが勝ったんだよ?」

鉄人「……やれやれ、ちゃんと全部聞いていたのか。もちろん俺が勝ったに決まっているだろう。俺はお前の父親……カミナさん以外にはそうそう負けんよ」

和真「俺としてはさっさとあの鼻っ柱を叩き折ってやりてぇんすけどね……」

鉄人「……それは俺も同意見だ」

 

明久「すいませーん、西村せんせーい」

 

和真と鉄人が他愛ない雑談を繰り広げていると、突然明久から呼びかけられた。二人は怪訝そうに目を見合わせてからとりあえず明久達のところに向かう。

 

和真「どうしたんだよ明久?」

鉄人「お前が俺を呼ぶなんて珍しいな」

明久「すいません。ちょっと先生にお願いがあったもので」

鉄人「お願いだと?おかしなことじゃないだろうな」

明久「違いますよ。ちょっと召喚許可を貰いたいだけなんです」

和真(そういや装備がリセットされたっけ。となると戦力を把握しておくっつうわけだな……あん?)

 

明久がなぜ鉄人に声をかけたのか得心が言った和真だが、隣で鉄人があからさまに『厄介なことになった』といった表情になっていることに訝しむ。

 

鉄人「あー……。いいか吉井。お前は観察処分者だ。人よりもずっと力があり、しかも物や人に触ることのできる召喚獣を持っている。そんな危険なものをみだりに喚び出すことは感心できんぞ。余計な事は考えずにだな……」

和真(あん?なんだこの歯切れの悪さは?いつもなら『くだらないこと気にかけてる暇があるなら勉強しろ』みたいに毅然として断ってるはずだろうに……)

秀吉「西村教諭。ワシらは別に悪巧みをしておるわけじゃないぞい。ただ、純粋に召喚獣の装備がどうなっておるのかが気になるだけなのじゃ」

 

見かねた秀吉が助け船に入るも、鉄人はさらに困ったような表情になる。

 

鉄人「いや、しかしだな木下。試召戦争でもないのに召喚獣を呼び出すと言うのはあまり良いことではないぞ」

 

この奥歯に物がはさまったような物言い。召喚を許可すれば不都合な点があると見て間違いない。

 

雄二「鉄人。何をそこまで隠している。俺達の召喚獣に何か不具合でもあったのか?」

鉄人「いや、何でもないぞ坂本。それより休憩も終わりだ。席について次の授業の準備をするんだ」

 

いつもなら鉄人呼ばわりされると文句を言う筈なのにこの対応。姫路や翔子や美波も鉄人がどこかおかしいことに気がついたようだ。

 

姫路「西村先生。私達の召喚獣に何かあったんですか?」

翔子「……隠さないで教えて欲しい」

美波「ウチらの召喚獣なら物に触れないから呼出してもいいですよね?」

鉄人「……さて。授業を始めるぞ」

 

Fクラスの中でも真面目なこの三人の意見も聞こうとしないとなると、流石に和真も気になったのか雄二にアイコンタクトであることを指示する。雄二はそれに頷いた後、鉄人の腕をおもむろに掴む。

 

鉄人「なんだ坂本」

雄二「どうやら何かあったのは間違いなさそうだな。こうなりゃ召喚許可をよこせなんて言わねぇ。ただし、何が起きたのか説明はしてもらうぜ……起動(アウエイクン)!」

 

呼び声に反応して白金の腕輪が起動する。雄二の白金の腕輪の機能は教師の許可なしに召喚フィールドを作成することができる。

 

明久「それじゃ、早速……試験召喚(サモン)っ!」

 

お馴染みのキーワードを口にすると、明久の足元に魔方陣のような幾何学模様が出現し、その中心から召喚獣が喚びだされる。

 

和真(……こいつはいったいどういうことだ?)

 

 

 

 

 

 




蒼介「第六巻が始まったな」

和真「四、五巻と試召戦争要素の薄い話が続いたからな、久しぶり暴れるぜ!」

蒼介「始めに言っておくが、今回の話は原作と大分違う展開になると断言できる」

和真「なにせ常夏コンビが既に改心済みだからなぁ……」


タグを色々と編集しました。


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オカルト召喚獣

【ミニコント】
テーマ:癒しを求めて

優子「流石のアタシも地獄のテスト勉強でノイローゼ気味だわ……何か癒しが欲しい……」

和真「癒されたいならアロマキャンドルがおすすめだぜ」

優子「あ、なんかよさそうね」

和真「大分疲弊してるみてぇだから沢山火をつけて……っと」←手当たり次第にアロマキャンドルを設置

優子「……え?こんなに?」←沢山のアロマキャンドルに囲まれる

和真「そして証明を落とす(カチャ)」

優子「………………」←暗闇の中沢山のアロマキャンドルの灯に囲まれる

和真「どうだ?癒されたか?」

優子「えーと……癒されるっていうか……どこかの宗教儀式みたいで全然落ち着かない……」


雄二「……点数が大幅に向上したとはいえ、明久のクセに随分贅沢な装備になったもんだな。これは甲冑か?」

美波「大きな剣まで持ってるわね。今までとは随分と違うじゃない」

姫路「それに、随分と背が高くないですか?」

翔子「……この大きさの召喚獣って……」

和真「あん?どうした翔子」

翔子「……ううん、何でもない」

 

現れた明久の召喚獣は、白銀の甲冑に身を包み一振りの大剣を携え、なおかつ明久と同じくらいの大きさであった。何やら心なしか翔子が震えているが、あまり詮索しない方が良さそうだと和真は判断する。 

 

明久「す、凄いっ!なんだかとても強そうに見えるよっ!」

雄二「いやはや、こいつは凄いな。試召戦争が本物の戦争みたいになりそうじゃないか」

秀吉「そうじゃな。これならば本物の人間とさして変わらんからの」

姫路「顔も明久君そっくりですね。今までの可愛い感じと違って、今度のはとっても凛々しいです」

明久「え?そ、そう?」

雄二「姫路も酔狂なヤツだな。こんなブサイクのどこがいいんだか(パコン)」

明久「あ痛っ」

 

雄二が呆れたような表情で明久のの召喚獣を小突くと、叩かれた頭は首から離れて畳の上に落下した。

 

「「「………」」」

和真(シュール過ぎる……)

 

絶句する明久達の前を、胴体から離れた召喚獣の首が静かに横切る。生首は何度も畳の上で回転し近くの卓袱台の脚にぶつかってから、こちらを見た状態で静止した。

 

美波・姫路「「きゃぁぁぁああーっ!?」」

明久「えぇぇっ!?な、何コレ!?僕の召喚獣がいきなりお茶の間にはお見せできない姿になっているんだけど!?」

 

身体は仁王立ちのまま頭だけが床に転がった状態になっ

ている。デフォルメされていない分余計にグロテスクな光景だ。

 

雄二「ん?ああ、すまん。そんなに強く叩いたつもりはなかったんだが、まさか外れちまうとはな……。待ってろ、今ホチキスを持ってくる」

明久「雄二、何を的外れなことを言ってるのさ!?くっつけるなら接着剤でしょ!?ホチキスだと穴が開いて痛いんだから!」

和真「的外れなのはお前もだろうが……それにこれは戦死したわけじゃないみてぇだぜ?」

明久「え?そうなの?」

 

《総合科目》

『Fクラス 吉井明久 1272点』

 

いつものように召喚から少し遅れて点数が表示される。Dクラス下位程度の点数が残っているため、どうやら本当に戦死したわけではないようだ。その証拠に明久の召喚獣は頭が外れても平然と立っている上、試しに明久が手を動かしてみると問題なく作動した。

 

明久「姫路さん。美波。目を開けても大丈夫だよ。別にこれは死体じゃないみたいだから」

 

固く目を閉じたままの女子二人に明久は声をかける。ちなみに翔子はさっきまで震えていたのに今は平然としているため、この光景とは何の関係も無いようだ。

 

姫路「はぅ……。そうじゃなくても、やっぱり怖いです……」

美波「べ、別にウチは驚いただけで、こんなもの怖いわけじゃ……」

和真(今度の島田の誕生日に『リング』のDVDセットでも送っておいてやるか)

雄二「さて鉄人、これはどういうことだ。知っているんだろ?」

 

和真がいつものように嗜虐心に火がついている中、雄二がわざとらしく目を背けている鉄人に問いかける。鉄人は諦めたように大きく溜息をつくと、訥々と説明を始めた。

 

鉄人「……俺にはよくわからんが、今喚び出される召喚獣は空想上の生き物、もしくは化物の類か何かになっているという話だ」

姫路「お化け、ですか?」

 

着脱可能な頭部と騎士鎧から推測するに、おそらく明久の召喚獣はデュラハンであろう。問題はなぜこんなものに召喚獣が変異してしまったのかだが……。

 

鉄人「お前らも知っての通り、試験召喚システムは科学技術だけで成り立っているわけではない。幾ばくかのオカルト的な要素も含まれているんだ」

姫路「???つまり、どういうことですか?」

鉄人「あー………。要するに、だな……」

雄二「調整に失敗した、と」

鉄人「……見も蓋もない言い方をするな」

和真「いや待ってくれよセンセ、メンテナンスは綾倉センセも手伝ったんだろ?ばーさんはともかく、あの人がそんな凡ミスをするとは思えねぇな」

 

雄二の歯に衣着せぬ物言いに仏頂面になる鉄人に、突然和真が異議を唱える。以前から勉強でお世話になっており色々と

趣味嗜好が合うため和真と綾倉先生はかなり親しい関係だ。当然綾倉先生の比類なきコンピューター技術も知っているため、綾倉先生が調整に失敗するなど和真からすれば違和感しかなかった。

 

鉄人「学園長と呼べ!まったく……綾倉先生曰く、期末試験後に科学とオカルトのバランスが急激に不安定になったらしい。今はメインサーバー室で再調整をおこなっているそうだ」

和真「ふーん……まあ、俺ら素人が口を出すことじゃねぇな」

雄二「それもそうだな。しかしそれにしても……」

 

とりあえずシステムの状態については一旦置いておいて、一同は再び召喚獣の話題に戻る。

 

雄二「明久の召喚獣を見る限り、どうやら調整はオカルトの部分が色濃く出たようだな。これはこれで面白いが」

明久「なるほど。オカルトと言えばお化けだもんね」

翔子「……気の小さい人なら夜道で見ただけで腰を抜かしてしまいそう」

明久「けど、どうしてデュラハンなんだろう?お化けなら日本の妖怪とかも一杯いるはずなのに」

和真「まあさっきの説明からしてお化け縛りでもなさそうだし、別にいいんじゃね?」

鉄人「学園長の話を聞く限りでは、どうも召喚者の特徴や本質を基にして呼び出されるらしい」

和真「ああ、どおりで……」

「「「なるほど……」」」

 

鉄人の説明に和真のみならず、明久以外の全員が納得したような表情になる。

 

明久「特徴や本質ですか?そうなるとデュラハンが選ばれたっていうのは、僕の騎士道精神が召喚獣に影響を与えたからってことですね」

雄二「明久。現実から目を背けるな」

明久「え?違うの?そうなると他に考えられるのは、甲冑の似合う男らしさとか、大剣を振るう力強さとか」

和真(哀れだな……)

秀吉「恐らく『頭がない=バカ』じゃろうな」

明久「言ったぁあああ!僕が必死に目を逸らしていた事実を秀吉が包み隠さず言ったぁあああ!」

 

とうとう明久は召喚システムにまでバカ扱いされるようになっていたようだ。南無。

 

秀吉「じゃが、こうしてみる限りは以前の召喚獣よりも強そうではないか。武器も金属のようじゃし、鎧もつけておる」

明久「そ、そうだよね。前よりは強そうだよね」

和真「……明久。闘っている最中にアレが取れたら、どうなると思う?」

 

水を差すようで悪いとは思いつつも、和真は地面に転がっている頭部を指差しながら現実を突きつける。

 

明久「……狙われるね、確実に」

秀吉「そうじゃな」

和真「あんな弱点が転がってたら、俺なら狙う」

雄二「和真の言う通り、明久の召喚獣は常にどちらかの手で頭を抱えて戦わなければならない。片腕しか使えないなんてハンデもいいところだな」

明久「う……確かに多少装備が強くなっても、これじゃあ以前の方がマシかも……」

 

明久達がそうやって騒いでいると、ようやく鉄人の悪夢から目が覚めたクラスメイトが三人ほどこちらにやってきた。

 

『吉井、さっきからなんか面白そうなことやってるな』

『これ召喚獣か?特徴や本質がどうとか言ってたが』

『なるほど。だから吉井の召喚獣は頭がないのか』

和真(いくら明久でもお前らだけにゃ言われたくねーだろーよ……)

明久「そう言うならそっちも喚び出してみなよ。きと僕のより酷い召喚獣が出てくるからさ」 

 

和真の推測通り心外だと言う表情で明久がそう挑発すると、三人は揃って口の端を歪めて笑みを浮かべた。

 

『おいおい吉井。そんなことを言っていいのか?』

『俺達の召喚獣が、よりによってバカ日本一のお前に負けるわけないだろ?』

『俺の本質は何と言ってジェントルマンだからな。酷い召喚獣なん出てくるわけがない。いいか、よく見てろよ……』

『『『試験召喚(サモン)っ!!』』』

 

 

……ズズズズズ ←ゾンビ登場

……ズズズズズ ←ゾンビ登場

……ズズズズズ ←ゾンビ登場

 

 

和真「ハッ、予想通りクソみてぇな本質だなオイ」

翔子「……おそらく、根性が腐っているから」

雄二「お前ら世界のジェントルマン達に土下座してこい」

姫路「こ、怖いです明久君……っ!」

美波「あ、アンタたち!その汚いものを早くしまいなさいよっ!」

 

自分の本質を汚いと言われた三人はお互いの肩を抱き合って、傷をなめ合うように泣いていた。

 

雄二「しかしまぁ、これはこれで面白いもんだな。秀吉はどんな召喚獣なんだ?」

秀吉「んむ?ワシか?そうじゃな……。ワシの特徴と言えばやはり演劇じゃからな、舞台で有名なオペラ座の怪人辺りが妥当じゃろうか。……どれ。サモン!」

 

 

……ポンッ ←猫又登場

 

 

和真「もう天丼だな、この流れ」

明久「へぇ~。猫のお化けか。可愛いね。秀吉によく似合ってるよ」

雄二「どうやら秀吉の特徴は『可愛い』ということらしいな」

秀吉「つ、ついにワシは召喚システムにまでそんな扱いを……」

美波「また木下はそうやってアキを誘惑して……」

姫路「わ、私だって負けませんっ。明久君、見ていて下さいっ。私も可愛い召喚獣を出して見せますっ」

明久「あ、うん。楽しみにしてるよ」

姫「はいっ。頑張りますっ……サモン!」

 

 

……ボンッ ←サキュバス登場

 

 

姫路「きゃぁあああーっ!?あ、明久君っ!見ないで下さいっ!」

明久「くぺっ!?」

翔子「……雄二は見ちゃダメ」

雄二「けぽっ!?」

 

召喚獣が現れた瞬間に、姫路が明久の首を、翔子が雄二の首を180度回していた。なんでそれで死なないのかは和真ですらわからない。

 

美波「す、凄い召喚獣ね………特に胸が」

姫路「と、とにかく上着を……あぅっ!……通り抜けちゃいます……っ!」

ムッツリーニ「……明久……っ!倒れている場合か……っ!」

 

いつの間にか地に伏している明久の隣にムッツリー二が来ており、鮮血で顔を染めながらも必死にカメラを構えつつ明久にも予備の一台を差し出していた。まあシャッターを切ったところでレンズが血に覆われているので無駄だろうが。

 

和真「召喚獣を消してぇなら雄二から離れろ。フィールドの有効範囲から出たら自然に消えるから」

姫路「あ……は、はいっ。そうします」

 

和真の言葉に頷くと、姫路は大急ぎで雄二(瀕死)から離れて召喚獣が消滅したのを確認すると早足で戻ってきた。

 

秀吉「災難じゃったな、姫路」

和真(本当に災難だったのはあいつら二人だがな……)

姫路「うぅ……。酷いです……あんな格好だなんて、恥ずかしすぎです……」

雄二「いてて……そうはいってもあれが姫路の本質のようだからな。仕方ないだろ」

 

首まで真っ赤にして泣きそうな顔をしている姫路に、ようやく復帰した雄二が諭すように言う。

 

姫路「わ、私の本質って……?」

明久「え、えっとね……。その、なんというか……」

秀吉「そ、そうじゃな……言いにくいことじゃが……」

雄二「胸がでかいってことだろ」

和真「もしくは脳内ピンク一色の変態ってことかな」

姫路「うわぁあああああんっ!」

 

二人の容赦ない指摘、特に和真の一片の慈悲もない言葉のナイフに姫路は号泣する。相変わらずとてつもない破壊力だ。

 

姫路「わ、私そんなエッチな子じゃありせん!それに、確かに私は全体的に見てちょっと太っていますけど、特徴になるほど大きくなんて全然ないですっ!」

明久「よすんだ姫路さん!それ以上言えば特定の誰かを傷つけることにあれ?急に視界が暗くなったような?」

美波「アキ。言いたいことがあるなら聞くわよ?」

 

言わなくても良いことを平然と言った明久の頚動脈を、美波がにこやかな笑顔を浮かべて押さえていた。

 

美波「瑞希ってば可哀相に。そんな大きな胸をしているからあんな格好の召喚獣が出てきちゃうのよ」

姫路は「うう……。美波ちゃんあんまりです……」

美波「でもその点、ウチなら何の心配もないから大丈夫よ。きっとそういうエッチなのじゃなくて、妖精とか女神とか戦乙女とか、そういった可愛いのが出てくるはずだから」

和真「良いオチ期待してるぞ島田」

美波「しなくて良いわよ!? 

まったく、見てなさい……サモン!」

 

 

ゴゴゴゴゴ…… ←ぬりかべ登場

 

 

和真「ダハハハハハハハハハハ!!!あーーっはっはっはっはっはっはっはおえっ、ゲホッ……くくくふふははは!!(バンバンバン!!!)」

 

死にたくない明久が全身全霊で我慢している横で、和真はその場に四つん這いになって畳を思いっきり殴りつけつつ、呼吸困難に陥るほど大爆笑していた。

 

美波「……ねぇ、アキ」

明久「な、なにかな美波」

美波「この召喚獣、ウチに何を言いたいのかしらね?」

明久「な、なんだろうね?」

 

満面の笑みを浮かべて明久に問いかける美波。選択を謝れば即ゲームオーバーだと嫌でもわかる。明久は言葉を濁らせながらも必死に助けを求めるも、和真はこの通り役にたちそうもないし、他の皆も気の毒そうな顔で目を逸らすだけで頼れそうもない。

 

明久「……ハッ!そ、そうだっ!きっと、美波とぬりかべは硬いってところが似て……いて……」

美波「へぇ~。ウチが硬いって、どこがかしら?」

明久「うん……。きっとね……、胸が硬いとあがぁっ!そ、そうだっ!拳だよ!美波は拳も硬かったんぎゃぁああっ!」

美波「拳もって何よ!?触った事も無いくせに!アキのバカぁーっ!」

 

拳は今まさに触っているところであろう。美波は明久への制裁を済ませると、未だに笑い転げている和真を怒りのこもった眼力で睨めつける。

 

美波「アンタもいつまで笑ってんのよ!?」

和真「……ぜぇ……はぁ……島田……」

美波「何よ!?」

和真「…………ナイスオチ♪」

 

ブチッ

 

美波「今日という今日は絶対に許さないんだからぁぁぁ!(シャシャシャシャシャ!!!)」

和真「オイ待て!?まだ呼吸整って……ゲホッ……ねぇんだぞ!?(パパパパパン!!!)」

美波「うがぁあああああ!!!」

 

和真のコンディションが最悪に近いためいつもより善戦する美波だが、それでも和真は反射神経と天性の直感を駆使して美波の攻撃を命からがら捌いていく。

 

 

美波「だいたい優子だって全然大きくないでしょうが!」

和真「ゲホッ……俺は別に優子のバストサイズに惚れたわけじゃねぇよ!?」

 

しばらくキャットファイトを続けた結果、最終的に美波のスタミナ切れで和真が判定勝ちをもぎ取った。

 

 




【ミニコント】
テーマ:続・癒しを求めて  

和真「暇だからよー、怖い話をするたびにアロマキャンドルの火を一つずつ消していく遊びでもしようぜ」

優子「それ完全に百物語よね!?」

和真「例えばこのアロマキャンドル……優子の残り寿命だとしたら、どうする?」

優子「違う!この問答から癒しは絶対生まれない!というか、なんで急にホラー路線に切り換えたのよ!?」

和真「優子の慌てふためく姿を見ると俺が癒されるからだけど、何か?」

優子「アタシを!アタシを癒して!そういう趣旨だったでしょうが!?」

和真「んだよ優子。さっきから否定ばっかしてっけどよー、だったらどういう風に癒されてぇんだよ?」

優子「…………これ、着けてくれる?」つ猫耳

和真「オイ待て。お前最近俺を愛玩動物か何かだと思ってるだろ」

※少々ゴネましたが、最終的に着けてあげました。
その後和真君は狂ったようにひたすら優子さんに可愛がられたそうな。








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世界の歪み

【ミニコント】
テーマ:勉強して!

明久「うわぁあああどうしよう!?明日の数学の小テスト、まったくパスできる気がしないよ!」

美波「まったくアキったら……しょうがないわね、教えてあげるわ」

(1分後)

明久「うわあああああ!集中力切れたぁぁぁ!」

美波「早っ!?」

明久「こういうときはアレだ!鳳君もやっているっていう瞑想だ!集中力を高めるんだ!」

美波(あ、割とマトモな対策ね)

明久「」←倒立

美波「……」

明久「ヤルキデナーイ」←ブリッジ

美波「瞑想じゃなくて迷走してるわね……」









秀吉「で…ではムッツリーニよ、お主はどんな召喚獣なのじゃ?まだ確認しておらんのじゃろ?」

 

美波と和真のキャットファイトですっかりぐだぐだになった空気が秀吉のファインプレーによってなんとか切り替えることができた。もしこのフォローがなければこのままお開きになっていたかもしれない。

 

ムッツリーニ「……試験召喚(サモン)」

 

顔色の悪いタキシードを着た少年が現れた。そのどことなく高貴な出で立ちを見るに、おそらくはヴァンパイアだろう。

 

雄二「なるほど。確かにいつも血を欲しているイメージがあるからな」

秀吉「若い女が好きという点も酷似しておるしの」

和真「よーし、じゃあ次は俺だな」

美波「ふん、どんな面白召喚獣がでるかしね」

 

ようやく呼吸が落ち着いたのか、和真と美波が雄二達のもとへ戻ってきた。自分の召喚獣を盛大に笑われた美波はしょうもない召喚獣が出ることを期待していた。

 

明久「和真の本質かぁ……いったい何が出てくるんだろうね」

雄二「さあな、ゴジラでも出てきたりしてな」

翔子「……大魔王、邪神、破壊神などなど、他にも候補はいっぱいある」

秀吉「とりあえず何が出るにしても、おそらく生半可なものではないじゃろうな」

和真「言いたい放題のところ悪いが、ご期待に添えるかはシステム次第だからな。……サモン!」

 

キーワードと共に召喚獣が現れる。喚び出された召喚獣の特徴は、インドの修行僧のような軽装に神秘的な羽衣、不動明王のような火焔光、筋骨隆々の六本の腕……そして鬼のように厳つく、しかしどことなく神々しさを感じる三つの顔。

 

明久「……予想通りすごく強そうなのが出てきたね」

雄二「こいつは……阿修羅か」

翔子「……確か、帝釈天に闘いを挑み続ける軍神」

和真「つまり俺の本質は闘争心と、ついでに強者に挑み続ける精神ってことだな」

 

簡潔に言うとバトルジャンキー気質である。困難な状況や格上の相手に躊躇なく挑んでいく和真らしい本質だ。

 

秀吉「そう言われると、まさに和真そのものじゃな」

美波「悔しいけどやたらしっくりくるわね……」

姫路「顔は怖いけど、これならなんとか平気です」

翔子「……じゃあ次は私。サモン」

 

阿修羅の隣に翔子の召喚獣が出現する。

蛇のような長い尾、魚の鱗に覆われた体、そして悪魔のような黒い翼といった特徴の召喚獣だ。さらに右手に三つに枝分かれした槍を持っている。

 

雄二「これまた強そうなのが出てきたな」

明久「下半身が蛇だから……ラミアかな?」

和真「いや、悪魔の翼もある。翔子の本質から考えると多分……レヴィアタンだろうな」

姫路「えっと……キリスト教の七つの大罪のうち、嫉妬を司る悪魔ですね」

秀吉「つまり霧島の本質はヤキモチ焼きということじゃな」

翔子「……うん。雄二の浮気は何があっても許せないから」

雄二「さっきからやたらと的確過ぎるぞ召喚システムの判断……」

 

どうでもいいが阿修羅だのレヴィアタンだの宗教神話体系がごちゃまぜ過ぎる。その方が日本らしいと言われればそれまでなのだが。

 

明久「ここまでくると雄二のも気になるよね。召喚してみてよ」

雄二「ん?そうだな……。それじゃ、このままだと俺の召喚獣は喚べないからフィールドをOFFにして鉄人に許可を貰うか。鉄人も今更文句は言わないだろ」

 

雄二がそう言うと、鉄人は「やれやれ」と呟いて、諦めたように頷いた。そろそろ補習を再会したいのだが、ここまで来て渋るのもどうかと思ったのだろう。

 

秀吉「雄二の性格は攻撃的じゃからな。和真のように戦闘向きの奴が出るやもしれんのう」

明久「確かにそうだね。おっきな金棒を持った鬼とか、ゴツいチェーンソーを持ったジェイソンとか、もしかしたら凄い鎌を持った死神なんかが出てくるかも」

和真「キングコング、君に決めた」

雄二「ブチ殺すぞ和真。……ったく、それじゃいくぞ。……サモン!」

 

雄二の喚び声に応じて現れる召喚獣。

身につけている武器は……鍛え上げられた肉体と、引き締まった肉体と、筋肉に覆われた肉体。

 

明久「また手ぶらじゃないかぁーっ!?」

和真「お前の召喚獣は何があってもステゴロしか認めないみてぇだな……」

明久「っていうか、雄二の召喚獣は今までよりも退化してない!?装備がズボンだけじゃないか!」

秀吉「しかもなんの特徴もなく雄二そのものが出てきおったな。これでは服装以外雄二と区別がつかん」

姫路「ちょ、ちょっと目のやり場に困りますね……」

翔子「……(ポッ)」

雄二「翔子、お願いだからガン見はやめてくれ」

 

窓の外に目を向けている姫路に対して、翔子は上半身裸の雄二を穴が空くように見つめていた。こんな反応を見せられては明久達も雄二に召喚獣を消すように言い出せなくなる。

せっかくなんで翔子のために雄二には気付かれないよう、和真はムッツリーニに一枚撮っておくようアイコンタクトを飛ばしておく。余計な気遣いをさせたら和真の右に出るものは世界中探してもそうそういないだろう。真っ当な気遣いもちゃんとできる分余計にタチが悪い。

 

秀吉「じゃが雄二の召喚獣は結局何の妖怪なのじゃ?これではさっぱりわからんぞ」

和真「ドッペルゲンガー……は違うか。そんなんが雄二の本質とはとても思えねぇし」

明久「二人とも何を言っているのさ。これは最近日本で確認された新種の妖怪『坂本雄二』じゃないか。醜い容姿と汚い性格で美人の幼馴染を騙すって話の」

和真「あー、納得」

雄二「明久。召喚獣を喚び出せ」

明久「ん?別にいいけど。サモンっ」

雄二「走れ稲妻!(ドゴォッ)」

明久「あがぁっ!蹴ったね雄二!?僕の召喚獣の首をサッカーボールに見立ててゴミ箱に蹴り込んだね!?なんてことをしてくれるのさ!」

雄二「そう怒るな明久。よく言うだろうが。『友達はボールだ』って」

明久「それを言うなら『ボールは友達』じゃないの!?前後の順番を入れ替えたらただの苛めの現場だよ!」

雄二「そもそも俺はお前を友達だと認めていないがな」

明久「だったら蹴るな!」

和真「……雄二、テメェいい加減にしろよ……」

 

ゴミ箱から召喚獣の頭部を回収しつつ和真は物凄い形相で雄二を睨めつけた。そのあまりの迫力に流石の雄二も臆したのか思わず後ずさる。

 

明久「か、和真!君はいつだって僕の味方-」

和真「あんなへなちょこシュートのどこが稲妻だゴルァ!中途半端にパクられると死ぬほど腹立つんだよ!……見ておくんだな、本物のライトニングタイガーをよぉ!!」

明久「ストォォォオオオッッップ!!!」

 

明久は鬼気迫る表情でダッシュし、シュート体制に入っている和真の足元から頭部を奪い返す。

 

明久「ハァ…ハァ…ハァ……何考えてんのさ和真!?和真の脚力で蹴られたら僕の命がどうなると思ってんの!?」

和真「冗談に決まってるだろ。俺が全力で蹴ったらフィードバックでお前が脳震盪起こしても不思議じゃねーしな」

鉄人「待て柊、お前はそんな危険な攻撃を教師である俺に喰らわせたのか?」

和真「直撃したのにちょっと腰を痛めた程度だったセンセがよく言うぜ……」

秀吉「んむ?雄二。お主の召喚獣の様子が変じゃぞ?」

雄二「お?本当だな。何が起きるんだ?」

 

明久の召喚獣の頭部を見てブルブル震え始めたかと思うと、雄二の召喚獣の口が大きく裂け、全身から凄い勢いで毛が生えてきた。

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

ムッツリーニ「……狼男」

翔子「……つまり雄二の本質は送り狼」

雄二「違う!」

和真「じゃあ性欲の…」

雄二「そっち方面から離れろテメェら!」

 

雄二の特徴の一つの鬣のような髪の毛が更にツンツンと逆立って、野性味が強調されていた。このことから雄二の本質は野性と言ったところだろう。

 

姫路「で、でも、満月でもないのに変身なんておかしくないですか?」

 

姫路は狼男を怖がっているのか、明久の袖を摘まみながらおずおずと尋ねる。

 

和真「明久の頭部に反応したっぽいから、多分丸けりゃ何でもいいんだろ」

明久「随分といい加減だなぁ……」

雄二「それはそうと、この召喚獣はきちんと次の試召戦争までには直るのか?こんなのでクラス間の勝負なんてやったら妖怪大戦争になっちまうだろ」

姫路「そ、それは困ります……。怖いのも困りますし、(小声)私の召喚獣は恥ずかしいですし………」

鉄人「現在綾倉先生が全力で復旧に取りかかっているが、召喚システムの調整については俺にもよくわからん。学園長なら何か知っているかもしれんがな」

 

これは教師側にとっても好ましくない事態のようで、鉄人も眉根を寄せている。

 

雄二「確かにその辺は鉄人よりもババァに聞いた方が良さそうだな。なんたって召喚システムの開発者様だからな」

明久「そうだね。学園長に聞いてみようか」

 

明久と雄二は二人で立ち上がり、学園長室を目指して悠々と歩き出す。

 

やけに早歩きで。

 

鉄人「キサマらっ! ドサクサに紛れて脱走か!」

 

明久達の企みに気づいた鉄人が、鬼の形相でFクラス教室を飛び出していった。

 

和真「じゃあ俺もちょっと出かけるか。秀吉、もし西村センセが戻ってきたらお手洗いって伝えておいてくれ」

秀吉(わざわざトイレという単語を避けるあたり、こやつの育ちの良さが伺えるのう)「それは構わんが、お主はどこに行くつもりなのじゃ?」

和真「ん?メインサーバー室」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「あーやくらせーんせー!」

綾倉「(カタカタカタ)……おや、柊君ですか。私に何か御用ですか?」

 

メインサーバー室では綾倉先生が真剣な表情をしながら、メインコンピューターのメンテナンス作業を行っていた。邪魔しちゃ悪いとは思いつつもどうしても気になったので和真はさっさと用件をすませようとする。

 

和真「当然、今起こってるシステムの不具合についてだけど」

綾倉「おや、もうバレちゃいましたか。まあたとえバレてもあの学園長は生徒のために肝試し仕様にカスタマイズしたとか何とか言って言い逃れをするでしょうがねぇ……」

和真「あの人意地っ張りで見栄っ張りだからなぁ……。となると、今頃雄二がそれに乗っかって、残りの補習期間を肝試しに当てるよう学園長に持ちかけているところだな」

綾倉「ほう、それは楽しそうな企画ですね。せっかくですから三年生の方達も誘ってみてはいかがですか?受験勉強の良い息抜きになるでしょう」

和真「勿論そのつもりだぜ。梓先輩とか二つ返事で乗ってくれるだろうしな」

 

和真と軽く談笑しながらも綾倉先生はパソコンに向き合いながら作業スピードを一切緩めない。突出した並列思考能力があって初めて成せる高等テクニックである。

 

綾倉「それで、私に聞きたいこととは……?」

和真「アンタが調整ミスしたとはどうしても思えねぇんだよ。何か隠してること、あんだろ?」

 

和真の発言を聞いて、それまで淀みなく動いていた手が急に止まる。そして綾倉先生は困ったような表情で和真に向き直る。

 

綾倉「このことは箝口令が敷かれているので学園長には内緒ですよ?……柊君の睨んだ通り、この不具合はミスではなく外的要因にあるんです」

和真「この前みたいにハッキングを仕掛けた奴がいんのか?」

綾倉「いえ、そうではなく……いえ、論より証拠ですね。柊君、最近身の回りの電子機器に不調を感じませんでしたか?」

和真「そういえばこの頃テレビも携帯もパソコンも何か処理が重くなったような……」

綾倉「このメインコンピューターも以前よりやや処理が重くなっています。そして私が独自に調査した限りでは、この町にある電子機器の全てが本調子じゃないみたいです。そしてそれらの不調が始まったのは、システムのバランスが不安定になった日と一致しています」

和真「……確か、試験召喚システムって科学とオカルトのバランスで成り立ってるんだったよな……つまりあれか?調整ミスったせいでオカルトの割合が高くなったからあんなのが出てきたんじゃなく…」

綾倉「……ええ。オカルトの力が強まっているのではなく、科学の力が弱まっているのです。それも、この町全体で……こんな芸当ができるのはアドラメレクしか考えられません」

和真「……そいつって確か俺らが停学中に襲ってきた自律型召喚獣のボス格だったよな?綾倉センセ、アンタ何か知っているのか?」

綾倉「……貴方には話してもいいでしょう。これから話すことは他言無用でお願いします」

 

 

 

 




和真君の阿修羅のモデルは乾湿像ではなくリボルテックタケヤの方です。

【ミニコント】 
テーマ:勉強して!2

明久「ねぇ美波、ババ抜きでもしない?」

美波「さっきから全然進んでないじゃない!?現実逃避早すぎるわよ!」

明久「僕の心の中の『ヒゲ公爵』が遊ぼうって誘惑するんだよ~……」

美波「爵位高いのが腹立つわね……」

『アキ君?もし赤点なんか取ろうものなら物凄いチュウをしちゃいますからね?』

和真「↑……と、俺の心の中の玲さんは言っているぞ?」

明久「赤点なんかとってたまるか!よし、やるぞぉぉぉおおおおお!!!」

美波「凄い集中力!?」




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挑戦状

【バカテスト・世界史】

次の()に正しい単語を入れなさい

ロシアの作家ドストエフスキーは著書『(①)の兄弟』や『(②)と罰』の中で、信仰心を失った近代人の虚無主義的な姿を描いた


明久の答え
『①(カラマーゾフ)の兄弟
 ②(罪)と罰』

蒼介「正解だ。この二作品と『白痴』、『悪霊』、『未成年』は、ドストエフスキー五大長編と呼ばれる名作なので、興味があればそれらを読んでみると良い」

ムッツリーニの答え
『①(マーゾ)の兄弟』
『②(ムチ)と罰』

蒼介「お前はアレか?どうしてもそっち方面に持っていかなければ死んでしまう病気でも患っているのか?」












『おーい!誰かそこの釘をとってくれー!』

『暗幕足りないぞ!体育館からひっぺがしてこい!』

『ねぇ、ここの装飾って涸れ井戸だけでいいのー?』

 

優子「凄い騒ぎね」

和真「そりゃそうさ、雄二が補習をサボる為に本気で手を回したんだからな。サボる方法を考えることにかけてはアイツの右に出る奴なんざいねぇよ」

優子「それ、絶対褒めてないでしょ……」

 

翌日、文月学園の新校舎3Fは肝試しの為の改装作業で大いに賑わっていた。夏期講習or補習に参加していたA~Fクラスの

生徒達が一丸となって肝試しの準備を進めている。

 

和真「……にしても、まさかAクラスまですんなり協力してくれるとはなー。ソウスケが夏期講習に参加してないからハメを外してぇのか?」

優子「Aクラスといってもあくまで一介の高校生ってことよ。期末試験が終わったばかりだし、本当は皆少しくらい遊びたいと思ってたんでしょうね」

和真「なるほどねぇ。だからあの人らもすんなり……」

優子「あの人ら?すんなり?」

和真「おっといけね……まぁ、のちのお楽しみってことで……よっと(ドスン)」

 

和真は運んでいた複数の棚を指定された場所に置く。総計で100㎏近くありそうであるが、和真にとってはたかが100㎏程度は朝飯前である。

 

優子「召喚獣顔負けの馬鹿力ね……」

和真「西村センセとかクソ親父とか、もっと異次元のパワーを間近で見てきたから実感はあまりねぇけどな。さて、次は……あん?何の騒ぎだ?」

 

 

『パス行くぞー。おらぁっ!』

明久「あがぁっ」

『ナイスパース。くたばれクソ野郎が……!どりゃぁぁあああっ!』

明久「ふぎゃぁっ」

『オッケー!シュートぉっ!』

明久「うぐぁっ」

 

和真達が騒音の聞こえてくる方へ視線を移すと、Fクラスのバカどもが明久の召喚獣の頭部でサッカーをしていた。

 

優子「何やってるのよあの人達は……」

和真「しゃあねぇな、オカルト召喚獣のウォーミングアップも兼ねて助けてやるとするか。行くぞ優子!」

優子「正直あんまり関わりたくないけど……かといって苛めの現場を見逃すわけにはいかないわね」

久保「その通りだ木下さん、柊君。僕たちの手で吉井君を助けだすんだ!」

「「久保(君)いつの間に!?」」

久保「そんなことはどうでもいいだろう!今は一刻を争うんだ!」

 

二人はやや腑に落ちないまま、久保に連れられるように騒ぎの中心に突入する。

 

久保「待つんだ!それ以上吉井君を苛めるなら、僕達が相手になろう!」

和真「出端を挫かれた気分なんだが……まあ良いか」

優子「そうね、切り替えて行きましょう……アンタ達!よってたかって一人をいたぶるような暴挙、アタシ達が許さないわよ!」

 

三人は異端審問会&清水と向かい合う。このメンツに清水が加わっていることから、おそらくは美波が直接的または間接的な原因だと和真は心の中で当たりをつける。

 

明久「ありがとう久保君、木下さん、和真!助かるよ!」

久保「気にしなくてもいいさ吉井君。君のことは僕が守るよ……いつまでも」

優子(今だけで良いでしょ久保君……)

和真(こいつ姫路達よりよっぽど行動的だな……)

清水「柊和真に、Aクラスの久保君と木下さん……でしたか?美春たちの邪魔をしないで下さい」

久保「そうはいかないよ清水さん、Fクラスの皆。君たちが束になってこようとも、僕らは一歩も譲らない。守るべきものが、ここにあるのだから……!」

和真「こいつのテンションには正直ついていけねぇけどよ……やるなら相手になってやるぜ、かかってこいや」

優子「そうね、Fクラスの人達もまとめてかかってきなさい。格の違いというものを教えてあげるわ」

清水「上等です!それならそこのブタ野郎と一緒に葬り去ってやります!」

久保「僕は負けない……!そう。僕が今まで勉強を頑張ってきたのは、きっとこういうときに吉井君を守る為なんだ!」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

四人の掛け声と共に召喚獣が出現する(ちなみに清水の後ろではゾンビ達がわらわらとスタンバイしている)。和真の召喚獣はご存知の通り阿修羅、久保と清水の召喚獣は全く同じ外見のみすぼらしい格好の妖怪、そして優子の召喚獣は片手に白百合を携えた青い天使。

 

秀吉「ムッツリー二。姉上や久保達の召喚獣が何かわかるかの?」

ムッツリーニ「……久保と清水の召喚獣は迷ひ神。人を迷わせる妖怪で、一説では道に迷って果てた人の魂が道連れを探しているとか」

秀吉「なるほど……。人の道に迷って、仲間に引きずり込もうとする連中と言うわけじゃな……」

ムッツリーニ「……木下優子の召喚獣は青色の外見と手に持った百合から考えて……多分ガブリエル。四大天使の一角で『慈愛の天使』などと呼ばれる一方、神の敵と定めた町を容赦なく焼き払ったという恐ろしい逸話もある」

秀吉「ワシに対しての厳しさと、和真に対しての優しさというわけじゃな……いや、和真と結ばれてからはワシにも多少は優しくなったような……(ブツブツ)」

 

未だに蹴られ続けている明久の召喚獣の頭を気にした風もなく、秀吉とムッツリーニがそんなことをのんびりと話していた。そんな呑気な二人はさておき、いよいよゾンビ軍団&迷ひ神VS迷ひ神&ガブリエル&阿修羅の戦いが始まろうとしていた。

 

清水「ええい!全員一斉にかかるのです!」

「「「おおーっ!」」」

優子「上等よ!返り討ちにしてやるわ!」

久保「来るなら来いっ!僕は絶対に負けない!」

和真「ハッ!お前らとはスケールが違ぇんだよ!」

 

阿修羅とガブリエルが露払いを務め、迷い神が生首を抱えているゾンビの群れに襲い掛かる。向こうも対抗して腐った身体で引っ掻きやかみつきを繰り出すものの、圧倒的な戦力差の前では所詮弱者の涙ぐましい抵抗でしかないと言わんばかりに、たった三体の召喚獣が約1クラス分のゾンビ達を次々と蹴散らしていく。

 

飛び散る腐肉。宙を舞う生首。弾け飛ぶ四肢。

 

「「「きゃぁああああーっっ!!」」」

 

その凄惨な光景に姫路や美波どころか、クラスにいた他の生徒達も悲鳴をあげていた。なまじ等身大になっている分余計にグロテスクな光景だ。

 

『こ、こっちに来ないで!サモン!』

『大丈夫かミホ!?畜生、俺の彼女をよくもビビらせてくれたな……!サモン!』

『彼女だと……?今コイツ彼女って言ったぞ!裏切り者だ!』

『『『殺せぇぇっ!!』』』

 

あっという間に広がる混乱の輪。今や先生を中心とした召喚フィールドは阿鼻叫喚の妖怪大戦現場となっていた。あまりにも騒がしいため、先生が召喚フィールドを消そうとしたその時。

 

『アンタら少しは真面目に作業せぇや!』

 

進行者全体に怒声が響き渡ったことで、大騒ぎはひとまず沈静化した。二年全体が声のした方に視線を向けると、エメラルドグリーンの髪をツインテールにした小柄な女子生徒が三年生の何人かを引き連れて仁王立ちしていた。

その女子生徒は佐伯梓。元柔道部主将にして元生徒会長、さらに文月新聞主催の人気ランキングで和真や蒼介を抑えて首位に立ったこともある、最も知名度のある三年生だ。

そして両サイドには明久達とは浅からぬ因縁のある常村と夏川のコンビが控えている。たまたま近くにいた明久はとりあえず二年を代表して対応することに。

 

明久「えーっと、佐伯先輩と……変た…変態先輩でしたっけ?」

夏川「おい!?今言い直そうとしたくせに俺達の顔を確認して言い直すのやめなかったか!?」

常村「お前、俺達を心の底から変態だと思っているだろ!常村と夏川だ!名前くらい覚えてろ!」

 

物凄い剣幕で食って掛かる常夏コンビ。とはいってもこの二人は明久達とぶつかる前に和真に敗北して落伍した上、そのアト綾倉先生という強烈なインパクトに遭遇したのでこの二人の印象はぶっちゃけ薄いため、明久の記憶の彼方にいても正直文句は言えないだろう。

 

明久「それで常夏先輩。どうしたんですか?」

夏川「テメェ……。個人を覚えられないからってまとめやがったな……」

常村「さすがはあの吉井明久だ。脳の容量が小さすぎるぜ」

明久(なんて失礼な!?)

梓「あの……えっとな吉井君、お願いやから責任者呼んででくれへんか?」

 

意気揚々と怒鳴りこんで入ってきたのにすっかりグダグダになってしまったので、若干恥ずかしそうにお願いする梓。その言葉を聞いて雄二と、ついでに梓と結構仲の良い和真が話を聞きに行く。

 

和真「やっほ、梓先輩」

梓「和真、もうちょいはよ出てきてくれてもええやろ……ウチ思いっきり恥かいたやん……」

和真「わりぃわりぃ」

雄二「肝試しの発案者は俺だが、いったい何の用なんだ先輩方?」

梓「……え?アンタ、和真から何も聞いてへんの?」

雄二「……おい和真、どういうことだ?」

和真「いや、実を言うと先輩らにも肝試しに参加しないかって声をかけてたんだよ。受験勉強の息抜きにもなるだろうからって」

雄二「……なんでそんな大事なことを言ってねぇんだよ?」

和真「サプライズ感って大事じゃね?」

雄二「…………ハァ……お前な……」

梓「…………アンタも苦労しとるようやね……」

 

どこまでも自由人な和真に振り回されている雄二に梓は同情しているが、彼女も彼女でガッツリ人を振り回すタイプなので人のことをとやかく言う資格はない。そう思ったのか常夏コンビは梓にジト目を向けているものの、梓はどこ吹く風とばかりにスルーした。

 

雄二「つまりアンタらは肝試しの準備を手伝いに来てくれたってわけか。わざわざ手伝いに来たのにあんなバカ騒ぎが繰り広げられてたら、まあ確かに怒りたくもなるわな」

梓「うん、手伝いに来たってのも勿論あるねんけどな……」

 

一旦そこで言葉を切り、梓は和真そっくりの不敵な笑みを浮かべながら雄二に人差し指を突きつける。

 

梓「ウチら三年はアンタら二年に……挑戦状を叩きつけに来たんや!」

明久「なっ……」

「「「なにィィィィィ!?」」」

和真(ほう……悪くねぇな)

雄二「……理由を聞いてもいいか?」

梓「それについてはこの二人に説明させるわ。ほら、出番やで常夏コンビ!」

((お前までその呼び名使うのかよ!?))

 

色々と釈然としないまま常夏コンビは前に出て、明久と雄二をそれぞれ睨みながら溜め込んだ感情をぶちまける。

 

夏川「それじゃあ言わせてもらうが坂本よぉ!お前らは迷惑極まりないんだよ!学年全体での覗き騒ぎに、挙句の果てには鳳以外の二年男子全員が停学だぞ!?この学校の評判が落ちて俺達三年生までバカだと思われたらどうしてくれるんだ!内申に響くじゃねぇか!」

「「「う……」」」

和真「あー……マジですいません……」

 

夏川の至極真っ当な苦情に二年男子全員が目を逸らす。驚くべきことにあの傍若無人極まりないな和真でさえ非を認めた。

 

常村「だいたいだな吉井に坂本……お前らがそういう騒ぎを起こしたときいったい誰が尻拭いをしているのか、知っているのか?件の覗き騒ぎはもとより試召戦争中に校舎の壁を壊したり、学園祭のときに花火で校舎を爆破したり……そういう問題が起きるたびに鳳の奴が生徒会長だからと文句の一つも言わないで方々に頭下げに回ってたんだぞ!少しは申し訳ないとか思わねぇのか、このバカコンビが!」

明久「……呼ばれたよ雄二。謝りなよ」

雄二「……お前のことだろ明久」

夏川「お前ら二人ともだバカ」

「「う……」」

和真(今度ソウスケのこと色々労ってやろ……でないと罪悪感で身が潰れそうだ)

 

ちなみに明久と雄二も和真と似たような圧迫感を感じていた。そのせいかいつもなら嬉々としてお互いに責任を押し付けている場面であるのに今回はどうにも不調である。

 

梓「まあそんなわけで、アンタらにはちとお灸を据えてやらなアカンと思っとったんや。それで、今回の和真からの提案にこれ幸いと考えてな……アンタらを真っ向から叩き潰して鼻っ柱をへし折って、ちょっとは反省させたろと考えたわけや」

和真(いや、この人だけは絶対そんな殊勝なこと考えてねぇ!絶対自分が楽しみたいからそういう大義名分掲げてクラスを先導したに違いねぇ!だって俺と同じ娯楽主義者だもんこの人!)

 

清涼祭以降すっかり仲良くなった和真は知っている。

佐伯梓は自分に近しい性格の女子であると。

 

梓「既に学園長から許可も貰ってあるし、おまけに支援もしてくれるそうや。盆休みあたりに一般公開するため作った物はそのままにしとくことを条件にやけどな」

雄二「なるほど、イメージアップの戦略か。涙ぐましいことだな」

梓(それもアンタらがどんどん評判を下げとるからやろうけど、コイツらそこん所ちゃんとわかっとるんやろうか……?)

 

たとえわかっていたとしても、蒼介にはともかく学園長に悪びれる気など明久と雄二にはひと欠片たりとも存在していないのは明白である。

 

梓「それで、ウチらの挑戦を受けるんか?」

雄二「いや、そこまで言われて受けないわけにはいかねぇだろ……」

梓「それはおおきに♪それで、驚かす側と驚かせる側をどう分けるかやけど……」

夏川「当然俺達三年生が驚かす側だ。俺たちはお前らにお灸を据えてやるって名目で挑戦状叩きつけたんだからよ」

雄二「……ああ、別にそれで構わない」

 

その後も話し合いは梓が優勢のまま進み、最終的に以下のルールに決定した。雄二が罪悪感に囚われて本調子でないことを差し引いても、梓の交渉力はかなりのものであった。

 

①二人一組での行動が必須。一人だけになった場合はチェックポイントの通過は認めない。

*一人になっても失格ではない。

②二人のうちのどちらかが悲鳴をあげてしまったら、両者ともに失格とする。

③チェックポイントはB~Dクラスの各クラスに一つずつ、Aクラスに2つの合計5箇所とする。

④チェックポイントでは各ポイントを守る代表者二名(クラス代表でもなくても可)と召喚獣で勝負する。撃破でチェックポイント通過扱いとなる。

⑤一組でもチェックポイントを全て通過できれば驚かされる側、通過者を一組も出さなければ驚かせる側の勝利となる。

⑥驚かせる側の一般生徒は召喚獣でのバトルは認めない。あくまでも驚かせるだけとする。

⑦召喚時に必要となる教師は各チェックポイントに一名ずつ配置する

⑧通過の確認用として驚かされる側はカメラを携帯する。

⑨勝負科目は公平を期すためセンター試験準拠の5教科+保健体育とする。

⑩チェックポイントでの試召戦争中は大声を出しても失格にはならない。

⑪設備への手出しを禁止する。

 

 

9番の項目を見た明久はいつものファンタジスタぶりを発揮したのか、すっかりわけがわからなくなって猛然と梓に抗議する。

 

明久「センターって……そんな関係の無いもので勝負だなんて、いくらなんでもおかしいですよ!?」

梓「え?吉井君はセンター試験受けへんの?もしかして私立一本に絞ってるんか?」

明久「私立?いや、話を脱線させないでくださいよ」

和真「あー明久、センター試験っていうのはだな……」

 

《センター試験》

大学入試センター試験の略称。独立行政法人の大学入試センターが全国一斉に実施する共通テストのこと。各大学の試験に先立ち、例年1月13日以降最初の土曜日・日曜日に行われる。

 

明久「…………」

夏川「なんだこいつ?さっきまで騒いでたのに」

常村「何故か急におとなしくなったな」

梓「……吉井君。もしかしてセンター試験のこと……知らんかったん?」

明久「い、いえ、アレです。野球のスポーツ推薦と勘違いしちゃっただけで、別に何も知らなかったわけじゃ……」

梓「……ぷっ。ふふ……あはははは!ポ、ポジションのセンターと勘違いしたわけやな!どんな素行不良な子かと思っとったけど結構おもろい子やん!」

 

雄二や和真や常夏コンビが微妙な空気になっているなか、梓には何故かかなりウケたようだ。もっとも、明久にとっては余計恥ずかしくなるリアクションなのだが。

 

『ほら見ろ。やっぱ二年はバカ揃いじゃねぇか』

『ち、違う!吉井は二年の中でも群を抜いたバカなんだ!』

『そうだ!それに吉井は来年もう一度二年生をやるだろうから縁は切れるはずだ!』

 

その周りでは二年と三年が不毛なやり取りを繰り広げていた。二年側の主張は酷いものの、今の状況では和真でさえ否定できそうになかった。

 

梓「それでどの科目にするかやけど……おもろいもん聞かせて貰った礼や、アンタら3つ選んでええで」

雄二「選んで良いっていっても六科目しかないじゃねぇか……それじゃあ、英語と社会と保健体育だ」

梓「甘いで坂本君、七科目や。ウチらの選択は……そうやな、総合科目と理科や」

雄二「っ!?なるほど、その手があったか……」

 

先程からもそうだが、あの雄二が珍しく交渉で不利に立たされていることに明久も和真も驚きが隠せない。そんな中、常夏コンビが意を決したように梓に意見する。

 

夏川「待て佐伯。理科じゃなくて国語にしてくれ」

梓「へ?ええの二人とも?アンタら理科が得意科目やったはずやろ?」

和真(そういえば、この二人の物理は確か400点オーバーだったな……)

常村「俺達は社会のチェックポイントに入るから良いんだよ。なあ吉井、社会は得意科目なんだろ?チェックポイントで待っているからな」

夏川「坂本もだ。俺達からにげんじゃねーぞ?」

 

どうやら二人はわざわざ明久達の土俵で勝負するつもりのようだ。和真の影響を強く受けている明久はもとより、雄二もここまで露骨に舐められては応じないわけにはいかなくなった。

 

雄二「……上等だ、返り討ちにしてやる」

明久「絶対、負けませんから」

夏川「いい度胸じゃねぇか、それでいい」

常村「ところで俺も聞きたいことが一つあるんだが、この悲鳴の定義はどうなっている?」

 

確かに悲鳴というだけでは曖昧すぎる。仲間内で遊ぶ分にはいいかもしれないだろうが、二年と三年の勝負となると話は別だ。きっちり定義をつけておかないと下手したら後々揉め事になりかねない。

 

雄二「ん?そこの部分か。そうだな……。そこは声の大きさで判別するか。カメラを携帯させるわけだし、そこから拾う音声が一定値を超えたら失格でどうだ?」

常村「そんなことができんのか?」

ムッツリーニ「……問題ない」

雄二「ところで佐伯センパイ、勝敗がついたらどうなるんだよ?」

 

挑戦状というからには何か要求してくると考えるのが妥当だ。しかし梓は何でもないように言い放った。

 

梓「どうもせえへんで?賭けるのはお互いのプライドのみや。……けどまあ、流石にそれだけやと味気無いなぁ。

……せや!二学期の体育祭の準備や片付けを相手の分まで引き受けるってのはどうや?」

雄二「よし乗った。それじゃ、勝負は明日ってことで。楽しみにしてるぜ先輩?」

梓「ま、覚悟しときや。……それと和真」

和真「あん?」

梓「最終チェックポイントで待っとるで?ウチのリベンジマッチ……受けてくれるやろな?」

和真「……ハッ、おもしれぇ!だいたい召喚大会の件で借りがあるのは俺もだっつの!」

 

二人は獰猛な笑みを浮かべながら睨み合う。あまりの迫力に明久達や常夏コンビは声もかけられずにいた。

 

 

 

 




11~12巻のセンター形式がフライングしました。
しかし原作とはちょっと形式を変更しています。

《センター準拠ルール・改》
※小数点は切り捨て

国語=1/2(現代文+古典)
数学=1/2(数Ⅰ~Ⅲ+数a~c) 
英語=1/2(英語+英語w)
理科=1/2(地学、生物、化学、物理の中から二科目)
社会=1/2(日本史、世界史、地理、政経、現社、倫理から二科目)
保健体育=いつも通り
総合科目=上記6科目の合計


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第一関門

【バカテスト・現社】
以下の問いに答えなさい

『国連環境開発会議について説明しなさい』

姫路の答え
『1992年にリオデジャネイロで開催された国際連合主催の会議の事。環境や開発について各国の首脳が集まって話し合うもので、地球環境サミットとも呼ばれる。この会議においてリオ宣言やアジェンダ21、森林原則声明が合意された』

蒼介「正解。地球環境に対する取り組みが各国で盛んに協議されている中で執り行われた重要な会議の一つだ。この会議は姫路の挙げた二つの名称の他に、リオ・サミットという名前でも呼ばれる。後学のためにも覚えておくと良い」


ムッツリーニの答え
『一言で説明するのは難しい』

蒼介「後で職員室に行くように。時間をかけてじっくりと聞かせてもらうと伝言を預かっている」


明久の答え
『UNCED』

蒼介「略称を聞いているわけではない」


源太の答え
『United Nations Conference on Environment and Development』

蒼介「だからといって略さずに書くな」








明久「うわぁ……。なんか、凄いことになったね……」

秀吉「そうじゃな……。ここまでやるとなれば、学園側もかなりの投資が必要じゃったじゃろうに……」

和真「スポンサーがスポンサーだからな。資金なんざ湯水の如く湧いてでてくるからこの程度造作もないだろうよ」

 

翌日、お化け屋敷と化した新校舎三階を和真達は目の当たりにした。薄暗い雰囲気といい、外観からでも伝わってくるほどに複雑そうな構造といい、遊園地のお化け屋敷顔負けの絶妙な凝り具合であった。

 

雄二「こりゃ三年側も結構本気だな。連中も講習最終日くらいはハメを外したかったてところか?」

和真「仕切ってるのが梓先輩だからな。ほら、あの人俺と似たような性格をしているから」

雄二「ああ、なるほどな……」

 

応援してくれた学園側や設営を仕切った三年生がここまでやるとは雄二も思っていなかったようだが、和真の言葉を聞いて納得したようだ。和真は遊びに対して“遊び”が無い男だ。それに似た性格であるならとても生半可なもので満足するとは思えない。

 

姫路「こ、ここまで頑張ってくれなくても良かったんですけど……」

美波「そ、そうよね。頑張りすぎよね?」

 

雰囲気満点な造りになっている装飾を見て、姫路と美波は顔に縦線を入れていた。苦手な人にとってこの完成度はもはや生き地獄同然だろう。

 

明久「雄二、僕らは旧校舎に集合だったよね?」

雄二「ああ、三年は新校舎三階、俺たちは旧校舎三階でそれぞれ準備。開始時刻になったら1組目のメンバーから順次新校舎に入って行くって寸法だ」

 

旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下は防火シャッターが下ろされていて、おどろおどろしい雰囲気は伝わってくるものの中の様子はわからない。おそらく中では梓を筆頭に三年生たちが二年生達を脅かそうと手ぐすねを引いていることだろう。

 

ムッツリーニ「……カメラの準備もできている」

 

大きな鞄を誇らしげに掲げるムッツリーニ。あの中には何台ものカメラが入っているようで、二年生達はそのカメラを持って中を進んでいくことになる。不正チェックと通過の証拠、あとは待っている連中に中の様子を見せて退屈させない為だとか他にも色々な理由がある。

 

和真(しかし解せねぇな……なんで先輩達は『カメラで事前に知っていたら脅かしにくくなる』とか言ってこなかったんだ?昨日の交渉から見るに梓先輩はそんな手緩い人じゃねぇだろうし……チッ、情報が少な過ぎるから考えても仕方ねぇな)

雄二「俺たちの準備はカメラとモニターの用意と組み合わせ作りだな」

明久「あ。そっか。組み合わせをまだ決めてなかったよね」

 

ルールでは肝試しは基本二人一組。これはその手のものを怖がらない人がいても肝試しが盛り上がるようにという意図があったらしいが状況が変わった今では、勝つために全く怖がらない人同士を組み合わせるのがセオリーだろう。

 

雄二「まあ組み合わせは各々で決めればいいだろ」

明久「え?雄二、いいの?」

雄二「別に良いだろ。俺は地獄の鉄人補習フルコースをサボりたかっただけだからな。肝試しの準備も三年生がやってくれたんだ。体育祭の準備や片付けくらい引き受けても大した問題じゃないだろ」

和真「ふざけんな。やるからには…絶対勝つ!」

雄二「俺だって負けてやるつもりはねぇから安心しろ」

秀吉「じゃが、雄二と明久はあの常夏コンビと個人的な勝負の約束をしておるではないか」

雄二「もちろんそれは忘れてない。……つーわけで明久、死ぬほど癪だが俺とお前のペアってことになる」

明久「それはこっちの台詞だよ、なんでこんなむさ苦しい奴と……アレ?でも雄二、霧島さんと組まなくていいの?」

雄二「あんだけ露骨に挑発されたんだ、ここで逃げるのは流石に俺のプライドが許さねぇ」

明久「まあ、そうだけど……よく霧島さんが許してくれたね?」

雄二「全身全霊で土下座して許しを貰った」

和真「雄二、俺のプライドがなんだって?」

雄二「頼む、何も言わないでくれ……」

 

何だか本末転倒なことをしているようだが、プライドと命を天秤にかけたのなら後者を取るのが正解だろう。実を言うと翔子は事前に和真に説得されていたため実は土下座しなくても許してくれただろうということを、雄二の面子のためにも和真は黙っておくことにする。

少し離れた場所で美波いつものように清水に迫られていた。いつもなら明久を巻き込んで逃げようとするだろうが、決闘に水を差すことを断じて認めない和真によって釘を刺されていたのでそれは不可能であった(もしそんなことをしようものなら簀巻きにして清水に献上すると事前に脅しも受けている)。最終的に美波は自律型召喚獣襲来時に体を張って守ってくれたお礼として、暗闇で何もしないことを条件にペアを組むことにした。清水としてはやや不満な条件であったが、さりげなく和真によって派遣されてきた飛鳥の説得により了承することになった。その一部始終を見届けた明久はとある疑問を抱く。

 

明久「あれ?橘さんと言えば……和真、鳳君は夏期講習に参加してなかったの?」

和真「してるわけねぇだろ。どう考えても完全に時間の無駄だし、そもそもアイツは激務に追われているだろうからな」

雄二「御曹司ってのも大変だな。……ってことは、今回鳳は不参加か」

和真「……。まあアイツ抜きでも充分勝てるだろ」

雄二(……ん?何か違和感が……)

 

一瞬間が空いたような気がして雄二は和真の方を向くが、特にこれといった異常は見当たらない。気のせいであったと意識を切り替える。

 

雄二「さて。そろそろ突入順とかも決めなきゃならんし、くっちゃべってないで集合場所に急ぐぞ」

明久「あ、うん。本部は僕らのFクラスだったよね?」

雄二「ああ。Eクラスも待機場所として用意してあるけどな。流石にFクラスだけじゃ人数が多くて入りきらない」

 

参加者は補習が義務付けられたFクラス五十名全員と夏期講習に参加していた有志百名程度、合計だいたい学年の半分程である。教室へ移動中に残りのメンバーも合流し、いつもの面子が揃う。

 

雄二「ところでムッツリー二、モニターの準備は?」

ムッツリーニ「……問題ない。Aクラスの設備のディスプレイを運び込んである」

和真「相変わらず仕事が早いな」

雄二「よし。そんじゃ、夏の風物詩を気軽に楽しもうぜ」

明久「そうだね。今回は酷い罰もないし、楽しもうか」

和真「だな。気軽に楽しんだ上で……是が非でも勝つ!」

秀吉「お主はとことん勝ち負けに拘るのう」

姫路「私はあまり、楽しみじゃないです……」

翔子「……瑞希、あまり固く考えないで」

美波「お化けもそうだけど、ウチは貞操的な意味でも色々と憂鬱になるわ……。美春が橘さんの説得に素直に従ってくれると良いけど……」

ムッツリーニ「……色々といいショットを期待してる」

 

俄に活気づき始めた校舎の中、突如降って湧いたお祭り騒ぎにそれぞれの思いを抱きながら歩く。

 

明久「ところで和真は誰とペアを組んだの?」

和真「あん?優子だけど?」

「「ホァタァァァッ!」」

和真「(ガシッガシッ)いきなり何すんだお前ら」

明久「ずるいよいつもいつも和真ばっかり!僕なんてあんなムサいゴリラとペアなのにさ!」

雄二「俺の台詞だこのクズ野郎!」

ムッツリーニ「……殺したいほど妬ましい……っ!」

和真(明久はともかくムッツリーニ、お前はちゃっかり愛子とペア組んでただろうが……)

 

そんな感じで和真は嫉妬に狂った二人の猛攻を適当にあしらいつつFクラス教室に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

《ね、ねぇ……。あの角、怪しくない……?》

《そ、そうだな……。何か出てきそうだよな……》

 

ムッツリー二がAクラスから運びだしたモニターから、尖兵として出撃していったBクラスの男女ペアの映像と音声が流れてくる。まず最初に向かうことになっているのは校舎の造りの関係上Bクラス教室のチェックポイントで、そこは古めかしい江戸時代あたりの町並みをモチーフとしているようであった。演出の為に光量が絞られていてボヤけた感じのその画はモニター越しでも結構なスリルがある。カメラが見るからに怪しい曲がり角を中心に周囲を映していく。カメラを構えた二人は入念な警戒態勢を取りながらそちらへ歩みを進めていた。

 

姫路「み、美波ちゃん……。あの陰、何かいるように見えませんか?」

美波「きき気のせいよ瑞希。何も映ってないわ」

 

まだ何のアクションも起きていないのに、姫路と美波が怖がりながら手を取り合ってモニターを遠目から見ている。

 

優子「(パチッ)まだ序盤なのにそんな調子じゃ、先が思いやられるわよ二人とも」

和真「優子も怖かったら我慢しなくて良いんだぞ?そしたら盛大に笑ってやるから(パチッ)」

優子「そこは勇気付けてよ彼氏なら(パチッ)」

和真「お前がこの程度の仕掛けで怖じ気づくなどありえねぇって信じてるからな(パチッ)」

優子「……嫌な気はしないわね。はい王手(パチッ)」

和真「ぅげっ!?しまった!?」

姫路「あの、お二人とも……」

美波「なんでアンタ達はこんなときに将棋なんかやってるのよ……?」

「「え?いや、暇だから」」

美波(あぁ……ここまで図太いなら確かにお化けなんかで怖じ気づくわけないわよね……羨ましい……)

姫路(私達は自分が行くときのために恐る恐るチェックしてるのに……この様子だとこの二人は事前情報無しでも多分平気なんでしょうね……)

 

ちなみに戦況は当然のごとく優子が圧倒的に有利である。詰まされるのはもはや時間の問題であろう。

 

《行くぞ……っ!!》

《うん……っ!》

 

画面越しに聴こえてきた音声の反応して姫路達が恐る恐るモニターに視線を移す。カメラが曲がり角の側を映し出し、予想される恐怖に二人が固唾を飲むが、カメラはその先に続くただの道を映し出していただけだった。

 

美波「な、なによ。何もいないじゃない……」

姫路「良かったです……。あそこは安心して進めるんですね……」

 

二人が胸を撫で下ろしたその瞬間。

 

《《ぎゃぁあああーっ!?!?》》

 

「「きゃぁあああーっ!?!?」」

 

カメラの向こうから大きな悲鳴が響き、それを聞いた姫路と美波も同時に悲鳴を上げる。余程怖いものが苦手なのだろう。

 

ムッツリーニ「……失格」

 

機材を指さしながらムッツリーニが呟く。カメラ①と書かれたデジタルメーターは一瞬で跳ね上がり、赤い失格ラインを遥かに超えた音声レベルを示していた。

 

翔子「……???」

 

ちなみに同じ女子でも翔子は姫路や美波が何を怖がったのか全然わからないようで、しきりにモニターと姫路達を見比べては首を傾げている。

 

優子「(パチッ)はい、また王手」

和真「………………参りました」

優子「ふふん、またアタシの勝ち♪」

 

優子にいたってはモニターにも騒いでいる姫路達にも意に介することなく、得意気な表情で和真を投了させていた。この二人はもう肝を試す必要がまるで見当たらない。

 

明久「う~ん……。先発隊が一つ目の曲がり角でいきなり失格なんて……。向こうもかなり本気だよね」

雄二「だな。流石は三年といったところか」

 

カメラは計五台用意しており時間をずらして何組かが突入することになっているが、二組目が出発する前にいきなり一組目が失格になっていた。

 

明久「これだと最初のところに何があるのかわからないね」秀吉「あれではむしろ余計身構えてしまい、恐怖が助長されるだけじゃな」

ムッツリーニ「……二組目がスタートした」

 

カメラ②と書かれたモニターを指差すムッツリーニ。そちらにはAクラスの男女ペアが進んでいく姿が映し出されている。 

 

明久「今度は向こうがどんなことをしてくるのかがはっきりと映るといいね」

秀吉「そうじゃな」

雄二「……いや、それは難しいだろうな」

明久「え?雄二、それってどういう-」

 

《《ひゃぁぁあああーっ!?!?》》

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

 

明久が雄二に質問し終わる暇もなく、またもやモニターの向こうから悲鳴が聞こえてきた。

 

ムッツリーニ「……失格」

 

今度はさっきと若干違ってまだ曲がり角が見えたばかりの地点だった。どうやら驚かすポイントをずらしてきたらしい。

 

《ち、血まみれの生首が壁から突然出てきやがった……》

《後ろにいきなり口裂け女がいるなんて……》

 

モニター越しに呟きが聞こえてくる。カメラには何も映らなかったのはおそらく死角から突然現れたからだろう。今回の召喚獣は今までと違い等身大になっているので、血濡れの生首も口裂け女もやけにリアルな造形でより恐怖感を煽ることだろう。

 

秀吉「のう雄二。さっきおぬしが言った難しいとはどういうことじゃ?」

翔子「……カメラを使っているのは私たちだけじゃないと思う」

明久「え?三年生もこの映像を見ているってこと?」

雄二「そりゃそうだろ。そうじゃなかったらカメラの使用なんて俺たちに有利すぎる。文句を言ってこなかったのは、向こうは向こうでメリットがあるからだ」

明久「そうなの?僕はてっきり自信があるからだと思ってた」

雄二「まぁそれもないわけじゃないだろうが、昨日の感じからして佐伯センパイとやらはそんな甘い相手じゃない。こちらの動きをカメラの映像で見ることができれば、標的がどの位置でどこらへんに注意を払っているのかがわかるからな。驚かす側としてもタイミングが取り易いし、死角から襲い掛かるのも簡単だ」

明久「あ、そっか」

 

位置の確認くらいなら他の方法でも可能であるが、どこに注意を払っているかはカメラを通したほうが断然わかりやすい。おそらくそういったメリットを得られるからこそ梓はああもアッサリとカメラの使用を許可したのだろう。

 

雄二「おまけにお前以外の召喚獣は物に触れないから障害物をすり抜けて急襲出来る。相手の位置と方向さえわかれば、いきなり背後に化け物を配置するなんてことも可能になるな」

秀吉「なるほどのう、ワシら自身が相手に情報を与えておるのか。それは向こうもさぞかしやりやすいじゃろうな」

ムッツリーニ「……召喚獣を使った肝試しならでは」

 

モニターには三組目の撮っている映像が映し出されているが、今度もチェックポイントに辿り着くこともなく失格になっていた。

 

明久「佐伯先輩はここまで全部計算ずくだったのかな?」

雄二「多分そうだろうな。あのセンパイ、可愛い顔してかなりのやり手だ」

翔子「……雄二、浮気?」

雄二「言葉の綾だ!?それくらいわかれ!?」

翔子「……うん、冗談(ニコッ)」

雄二「……お前、最近和真に似てきやがったな……」

 

とはいえそのお陰で思い込みの激しさが多少緩和されているのも事実なので、いまいち文句を言いにくい雄二であった。

 

雄二「とは言え、あまり切羽詰ってなくても和真の言う通り勝負は勝負。一方的にやられたままっていうのも気にくわねぇ。最初は様子見と思っていたが、これはそうも言ってられないな。あまり点数の高い連中が失格になりすぎるとチェックポイントが辛い」

明久「そうだね。向こう側もチェックポイントには成績のいい人を配置しているだろうからね」

 

三年側の召喚獣バトルをする生徒はは全部で五組十人。その人数なら間違いなく全員をAクラスメンバーで埋めてくるだろう。さっきのように点数の高い人を無駄遣いしていると、チェックポイントのバトルで全滅という可能性もありうる。

 

雄二「んじゃ、こっちも手を打つか。皆!順番変更だ!Fクラスの須川&福村ペアと、同じくFクラスの朝倉&有働ペアを先行させてくれ!」

 

雄二がその場に座ったまま声を上げると、しばらくしてカメラ④と⑤のモニターにそれぞれFクラスの見慣れた顔が映し出された。

 

《行ってくるぜ!》

《カメラは俺が持つぞ》

 

時間をずらして突入することになっているので、朝倉と有働には待機をさせてまずは須川と福村がカメラを構えて歩みを進める。度胸があるのかそれとも何も考えていないのか、二人は何の躊躇もなく件の曲がり角へと迫っていった。

 

姫路「あ。こうやって何でもないように映してもらうと、さっきよりも怖くなくて助かります」

美波「そうね。これならまだマシよね」

 

二人の言い分はもっともで、警戒している人のカメラワークよりこのように無警戒で素早く進んでいくほうが安心して見られる。脅かす側としてもタイミングを取りづらいだろうし一石二鳥だ。

 

《お、あそこだったか?何かが出るって場所》

《だな》

 

三組のペアが無惨にも散っていった曲がり角をカメラが映し出す。二人がカメラを構えたまま角を曲がり、何気なく横の壁を映し出すと、

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

 

そこには血みどろの生首が浮いていた。そしてそのままカメラは更に動いて背後を映し出す。そこにいたのは耳まで口が裂けている女の妖怪。よくよく見ると姫路達だけでなく他の場所でモニターを見ていた人達も恥も外聞もかなぐり捨てて喚き散らしてていた。

 

《おっ。この人、少し口は大きいけど美人じゃないか?》

《いやいや。こっちの方が美人だろ。首から下がないからスタイルはわからないけど、血を洗い流したら綺麗なはずだ》

 

まあ、流石は常識が通用しないことに定評のあるFクラス、当の二人は平然としているどころか妖怪の品定めを行っていた。

 

美波「な、なんでアイツらあんなに平気そうなのよ!?アキたちも!怖くないの!?あんなにリアルな作りのお化けなのよ!?」

 

美波が顔を青くしてそう叫ぶが、正直言って的外れにもほどがある。Fクラスの生徒達が今さらあの程度で心を乱されるはずが無い。

 

明久「別に命の危険があるわけじゃないからね」

雄二「グロいものはFクラスで散々見慣れているしな」

ムッツリーニ「……あの程度、殺されかけている明久に比らべれば大したことはない」

秀吉「そうじゃな。姫路や島田が明久に行う折檻や霧島が雄二に行うお仕置き、異端審問会の処刑の数々に比べれば可愛いものじゃ」

 

逆に言えば、常日頃今以上にグロテスクな光景を作り出している元凶である姫路達が喚き散らしているのはある意味滑稽でしかない。

 

優子「(パチッ)はい、角成り」

和真「………………参りました」

優子「よろしい♪さて、そろそろあっちに混ざりましょうか?」

和真「……お願いします優子様、もう一回……あともう一回だけ……!」

優子「そこまで頼まれちゃ仕方ないわね、あと一回だけよ?……あ、でも次負けたら罰ゲームとして“アレ”、着けてもらおっかな♪」

和真「んなっ!?………………チッ、上等じゃねぇか!今度こそ俺が勝ぁぁぁつ!」

優子「……今度は駒落ちでやってあげようか?」 

和真「…………いや、それやったら何か大事なものなくしそうだから平手で良い……」

 

ちなみにこっちは相変わらず将棋に没頭していた。和真も一応投了の見極めができるくらいには成長しているようだが、二人の実力にはまだまだ小さくない開きがある。それでも和真の内に秘められた闘志は退くことを許してくれないらしい。意外と損な性分である。

 

《それにしても暗いな……。何かに躓いて転びそうだ》

《ああ。それなら丁度良い。あそこにある明かりを借りていこうぜ》

 

ちなみに和真達が将棋に没頭している間もモニター先の二人はどんどんと進んでいた。装飾品として飾られている提灯が映し出され、須川と福村がそれを勝手に拝借しようとして近づいていく。

 

ーボンッ

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

 

突如二人の前に鬼のような顔が現れて、寸法のおかしな手足が生える。あれは提灯お化けで、どうやらセットの中に召喚獣を紛れ込ませたらしい。なかなか巧妙な手口である。

 

『お?これ掴めないぞ?』

『召喚獣なら掴めるだろ。試獣召喚(サモン)っ』

 

まあ当然その程度の演出でFクラスの二人が意に介するはずもなく、福村は召喚したゾンビに提灯お化けを持たせて更に進み続ける。……手足をバタバタと動かしてもがいている提灯お化けが何とも哀れである。

 

美波「な、なんか……かなりシュールな光景ね……」

姫路「そ、そうですね……TVをみているみたいです……」

翔子「……雄二。怖いから手を繋いで欲しい」

雄二「お前全然怖がってなかっただろうが」

翔子「……怖くて声が出せなかった」

雄二「嘘つけ。悲鳴をあげるタイミングを計り損ねただけだろ」

 

と言いつつも手はちゃんと繋いであげているあたり、翔子の頼みごとにも滅法弱い雄二である。

ゾンビが腐肉をまき散らしながら足元を提灯お化けで照らしつつ歩いていく。そのまま須川と福村の快進撃(?)が続くなか、カメラ⑤を携えた浅倉と有働も突入し始めた。

 

《あー、畜生。何でこの俺が須川なんかと……!》

《お前がモテないから悪いんだろ》

 

モニター④から須川と福村の会話が聞こえてくる。どうやら両名ともパートナーに不満があるらしい。まあ肝試しは本来男女ペアでやるのが王道というものだし、誰だってできれば異性と組みたいに決まっている。例外は精々意中の相手が肝試しに参加していないか、余程勝ち負けに拘っているか、久保か清水ぐらいのものであろう。

薄暗い映像からでもわかるくらい不機嫌そうな二人は、そのまま言い合いを続けている。

 

《なんだと須川……?お前だって朝から二十人くらいの女子に声をかけて全滅していただろうが》

《ち、違う!あれは別に断られたわけじゃない!向こうには向こうの事情があったんだ!俺がモテないわけじゃない!》

《俺だってそうだ!俺はモテないわけじゃない!タイミングが悪いだけなんだ!》

 

ムッツリーニ「……失格」

雄二「アイツらは何をやってるんだ……」

 

流石は常識の通用しないFクラス、アトラクションはものともしなかった二人だが頭の悪い言い合いで自滅するという誰も予想できない結末を迎えた。

 

明久「けど須川君たちのおかげで相手の仕掛けがわかったね」

雄二「だな。朝倉達もいることだし、チェックポイントまで行くのも時間の問題だろ」

 

少し時間を置いて出発した朝倉達のカメラも大分先へと進んでいた。井戸からろくろ首が現れたり、柳の木の下に一つ目小僧が突然出てきたりと、オーソドックスなものから奇抜なものまで色々な演出があった。後発の何組かは来るものがわかっても驚いて失格になったりもしていたが、概ね順調に二年生の侵攻は進んでいく。そしてついに朝倉達のカメラが開けた場所を映し出した。その場所の中心には三年生と思わしき二人と、英語の遠藤先生が待ち構えていた。

 

《おお。チェックポイントか。結構余裕だったな》

《Bクラスの教室だけあって長い迷路だったけどな》

 

次々と現れる敵の召喚獣を破竹の勢いで通過していった朝倉達の士気はかなり揚がっている。

 

〈〈〈〈サモン!〉〉〉〉

 

明久達がモニター越しに見守る中、遠藤先生の許可の下でそれぞれの召喚獣が喚び出される。

 

《英語》

『Aクラス 金田一真之介 412点

 Aクラス 近藤良文  326点

VS

 Fクラス 朝倉政弘  59点

 Fクラス 有働住吉  --』

 

〈〈ぎゃぁああああああ!?〉〉

 

哀れ二人の召喚獣は点数が全部表示されることなく鎧袖一触とばかりにあっさりとやられてしまった。

 

優子「はい、王手(パチッ)」

和真「………………………参りました……(ズゥゥゥン…)」

優子「それじゃあ……はいコレ♪この肝試しが終わるまでだからね?」

和真「………………了解」

優子「さてと、あっちもどうやらチェックポイントに着いたようだし、流石にそろそろ切り上げるわよ」

和真「……………………死ぬほど悔しいが、仕方ねぇか……で、あっちはあっちで初っ端からデカい戦力を投入してきたな」

優子「ええ、一筋縄ではいかないでしょうね……」

 

チェックポイント第一関門に立ち塞がったのは、元サッカー部主将にして三年No.3の金田一真之介。間違いなく一筋縄ではいかない強敵であろう。

 

優子「じゃあ坂本君達に合流しましょうか。あ、もし皆に弄られても絶対外しちゃダメよ?」

和真「言われんでもわかってるよ!……クソッ、なんであんな条件引き受けちまったんだ俺のバカ……」

 

今更ながら悲嘆にくれている和真の手に握られているものは、男子であるならば人生において余程のことが無い限り身に着ける機会の無いであろう、あざとさ100億%の萌えアイテム……

 

 

 

……………猫耳。

 




和真「一応釘刺しておくぞ。オカルト召喚獣の外見の強弱の差はかなり激しいけど、外見はあんまり関係無いからな」

蒼介「見かけは弱そうでも点数が高ければ強いし、逆もまた然りだ。例えば、久保の迷ひ神は木下のガブリエルにも互角以上に戦えるだろう」

和真「まあそうは言っても召喚獣の形状敵に多少の有利不利はある。明久のデュラハンみてぇにハンデを抱えている奴もいりゃあ……」

蒼介「カズマの阿修羅のように、腕が六本というアドバンテージを持つ召喚獣もある」



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最上級生の意地

原作ではあまり目立たなかったオカルト召喚獣の能力ですが、この作品ではがっつり全面に押し出すつもりです。
腕輪能力との差別化は、点数を消費しないかわりに必殺というほどの威力を有していません。


和真「(ムスッ…)随分と面白い展開になってるじゃねぇか」←猫耳着用中

雄二「いやいや、俺達にとっては今のお前の状況の方が遥かに面白いんだが(ニヤニヤ)」

明久「いったい何があったの和真?」

優子「さっきまで将棋を差していて、三連敗した罰ゲームとして着けてもらってるのよ」

和真「なあ秀吉、最近こいつ姫路に似てきたよな?」

秀吉「……否定できんのう」

 

送り込んだFクラスの生徒達が金田一達に全滅させられた頃に、和真はやや不機嫌そうな表情を浮かべながら猫耳を着用した状態で雄二達に合流した。さらに不自然なほど上機嫌な優子も一緒についてきている。

 

翔子「……とても似合ってる」

和真「翔子、褒めてるつもりか知らんが全然嬉しくねぇからな」

姫路「わぁ~……とっても可愛いです♪」

和真「話聞いてたかお前?」

美波「ホント、ありえないくらい似合ってるわね……もうずっとそれ付けてたら?」

和真「ふざけろボケが」

ムッツリーニ「……高く売れそう(パシャッ)」

和真「もし売ったら地獄を見せてやるからな」

 

メンバーからの評価は概ね良好。身長は高めで体も鍛えているものの、非常に着痩せするタイプで中性的かつもろ可愛らしい系の童顔なため、本人にとっては不本意極まりないだろうが引くほど似合っている。

 

和真「ったく、こういうのは秀吉の役回りだろーがよー……」

秀吉「待つのじゃ和真!?もしやお主もワシをそういう風に認識しておったのか!?」

和真「いや別に。ただ、俺の安寧のために犠牲になってくれないかなー……って」

秀吉「ド直球で外道じゃなお主!?」

和真「しかたねぇだろ、今は心が荒んでるんだよ……。だいたいだな優子、なんでお前最近変なマイブームに目覚めつつあるんだよ……?」

優子「いいじゃない別に。女の子は誰だって皆可愛いものが好きなのよ?」

和真「だからってそれを男に求めるなよ!?そんなもんヌイグルミとかそういうオーソドックスなヤツで良いだろうがよ!?」

 

まあ実のところ、優子がどうしてもと言うなら猫耳程度かまわないのと和真は思っているだが、雄二達が見ている中での着用というのが死ぬほど嫌なのである。

何故かと言うと、確実に弄られるから。

 

優子「ごめんごめん、そう怒らないで(ナデナデ)」

和真「……むぅ……………………♪」

優子「ふふ、よしよし……♪(なでなで)」

 

両手をブンブン振って抗議する和真だったが、優子に慣れた手つきで頭を優しく撫でられると、途端に気持ち良さそうに目を瞑っておとなしくなる。無言のまま幸せそうに甘えてくる和真を優子は慈愛に満ちた表情を浮かべ、和真が満足のいくまで撫で続ける。

この短期間で随分と優子に手懐けられ、まるでキャットフードが主食の虎であるかのように飼い慣らされた和真を目の当たりにして、人は変わるもんだなと明久達はしみじみと思ったそうな。

しばらくして周囲からやけに生暖かい眼差しを送られていることにようやく気付き、これ以上引っ張れば余計にダメージを受けるだけであると判断した和真は、やや名残惜しそうにしながらも優子に撫でるのをやめるよう促してから、何事も無かったかのように話を元に戻そうとする。

 

和真「……それで雄二、チェックポイントには誰を送り込むつもりだ?生半可な奴じゃ無駄に使い潰すだけだぞ?」

雄二「ん?もういいのか?俺達のことはお構い無く木下姉に甘えてても良いんだぞ和にゃん(ニヤニヤ)」

和真「そういえば綾倉センセの最新作が……(ゴソゴソ)」

雄二「待て!俺が悪かった!だからその劇物をしまってくれ!」

和真「次そのフザけた呼び方したら、簀巻きにして女子更衣室あたりに放り込むからな」

雄二「鬼かお前は!?クソッ、丸くなったと思ったがそういうところは全然変わってねぇじゃねぇか!」

 

嫌らしい笑みを浮かべながらしつこく弄ろうとする雄二を強行手段をちらつかせて問答無用で強引に黙らせた後、よほど不服だったのか和真は世にも恐ろしい脅迫をする。召喚獣が阿修羅なだけあって、どうやら情け容赦の無さは健在のようである。他のメンバーもあんな劇物を無理やり飲まされては堪ったものではないので即座に真面目モードに切り替わる。

 

雄二「……当然、一番信用のおける奴に行ってもらっている。英語といえばアイツしかいないだろう」

和真「なるほど、源太か。今のアイツは点数だけならソウスケより高いからな」

優子「まあ片方は源太だとして、ペアの相手は……久保君か」

 

一同はモニター①に目を移すと、久保と源太のペアがまるで臆することなくBクラス教室を突き進んでいた。

 

明久「でも五十嵐君はともかく久保君は意外だよね。すごくモテそうなのに」

和真「オイオイ明久……確かに源太はその強面で初対面の女子には必ず距離を置かれるという重すぎる業を背負ったウルトラ非モテだけどよ、その言い方はあんまりじゃねぇか?」

明久「いや、和真の方が絶対酷いよね!?」

和真「まあそれは置いといて……久保の意中の相手は既にペアが決まっていてな、おおかた他の女子に余計な期待をさせたくなかったんだろ」

明久「へぇ~、久保君って同じ歳とは思えないほど紳士なんだね。……ところで久保君の好きな人って誰なの?」

和真「……さあな」

 

明久の質問に和真のみならず、その場にいた全員が気まずそうに目を逸らす。明久はその反応が少しだけ気になったが、本能が追求することを止めてきたのでとにかく気にしないことにする。

 

明久「……でもなんで五十嵐君と?」

和真「あの二人去年同じクラスでそれなりに仲良いんだよ。俺も久保とは源太経由で仲良くなったしな」

 

相変わらず人間関係に関してはウィキペディア顔負けの詳しさである。釘を刺しておくが、源太と久保が同じクラスだった頃はまだ久保が普通の感性をしていたので、玉野みたいなどうしようもない妄想はしないように。

 

和真「お、ようやく着いたようだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金田一「よっ、お前が来るんじゃないかって薄々思っていたぜ五十嵐ィ!」

源太「そりゃ当然だろうが……です。英語は俺様の専売特許だからな…ます」

金田一「……相変わらず敬語下手だなオイ」

 

黒髪スポーツ刈りの青年と灰色の鬣の青年が軽口を叩き合う。『アクティブ』とサッカー部はこれまで何度も合同練習や試合を行っているためお互い気心のしれた仲だ。

 

金田一「まぁ、あんまり長々話すのもなんだしそろそろ始めるぞ。遠藤先生、召喚許可を」

遠藤「承認します」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

それぞれの足元に幾何学模様が現れ、中心から召喚獣が出現する。金田一の召喚獣は烏天狗、もう片方の召喚獣は河童、久保の召喚獣は迷ひ神、そして源太のはというと……黒外套を着てメスとデカいナイフを両手に持った、ぱっと見は普通の人型の召喚獣だった。

 

金田一「……なんだよその召喚獣?普通の人間じゃないか」

源太「教師に聞いたところ、切り裂きジャックだそうだです……」

金田一「いや確かにホラーっちゃホラーだけどよ!?」

 

おそらく召喚システムは源太がイギリス育ちであることを汲み取ったようだが、これでは多少サイズが大きくなっただけで普段とさほど変わらない。

 

源太「と、ともかく行くぞ!……久保、そっちの先輩はテメェに任せる!俺は金田一先輩と一騎討ちするが、もし勝っても乱入してくんじゃねぇぞ!」

久保「やれやれ、了解したよ」

 

迷ひ神が河童に向かっていく傍ら、切り裂きジャックもナイフで斬りかかる。烏天狗は手に持った禅杖で受け止めるも、パワーの差で吹き飛ばされる。しかし上手く威力を受け流したのか、ダメージを負った様子は見られない。遅れて点数が表示される。

 

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 628点

VS

 Aクラス 金田一真之介 412点』

 

 

金田一「噂にゃ聞いていたが実際見てみると圧巻だな……。デタラメな点数しやがって」

源太「泣き言を言っている暇があんのか!どんどんいくぜぇ!」

金田一(あ、とうとう敬語とれたな)

 

源太はジャックにナイフを振り回しながら突撃させるが、烏天狗は卓越した動きで巧みに攻撃をかわしていく。徹との鍛練で操作技術がかなり向上した源太だが、それでも一年以上長く試召戦争に携わってきた金田一の方が一枚も二枚も上手のようだ。

 

源太(……コレ、おかしくねぇか?)

 

ふと源太は烏天狗の動きに違和感を覚える。何故相手はわざわざ自分に合わせて地上戦に付き合っているのだろうか。

 

源太「……なあ金田一先輩、なんでそんな立派な翼がついてるのに飛翔しないんだよ?」

金田一「できるならそうしているんだがよ、残念ながら俺の点数では数㎝低空飛行するだけで精一杯だ」

 

オカルト召喚獣の固有能力にはある法則が存在する。まず400点オーバーが大前提であり、それに届かない者はそもそも特殊能力を使うことができない。

そして450、500、550…と50刻みに能力が一つずつ解放されていく仕組みである。つまり金田一が使える能力が1つだけなのに対し、源太5つもの能力を使えることになる。

 

源太「そいつは良かった。空に逃げられちゃ鬱陶しいから……なっ!」

金田一「はははっ!だが安心するのは早いぜ、確かに空は飛べないがよ……」

 

迫り来るナイフを紙一重で防御しつつ烏天狗は一定の距離を取る。ジャックはすぐさま距離を詰めに突撃するが、烏天狗は禅杖をジャックに向ける。

 

金田一「代わりにこんなことができるんだぜ!」

 

禅杖から突然竜巻が発生した。

 

源太「なっ!?」

 

慌てて防御体制を取るものの、ジャックは竜巻に巻き込まれてフィールドの端に叩きつけられる。

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 506点

VS

 Aクラス 金田一真之介 392点』

 

先程の猛攻でも少ししか削れなかったジャックに対し、烏天狗は一瞬の隙を突いた必殺の技で一気に100点以上減らしてみせた。これがスポーツなら第一ラウンドは金田一に軍配が上がるだろう。

 

金田一「休んでる暇があんのか!そらそらそらぁ!」

源太「ちぃっ!?」

 

既に種が割れたため、烏天狗はお構いなしに竜巻で攻めに転じる。ジャックは懸命にかわしていくものの、襲い来る複数の竜巻に次第に追い詰められていく。竜巻が明らかにジャックに狙いを定めてていることから推測するに、どうやら金田一が竜巻を手動で操作しているようだ。一つ一つの動きはややぎこちないが、複数の竜巻を同時に操っている以上仕方ないだろう。そしてとうとうフィールドの隅にまで追いやられてしまった。

 

金田一「もらったぁぁぁ!!!」

 

烏天狗は容赦なく竜巻を限界量まで発生させて襲いかかり、追い詰められた状態では避けられるはずもなくジャックはあえなく飲み込まれてしまった。大幅なダメージは避けられないだろうし、下手をすればこのままハメ殺されるかもしれない。

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 506点

VS

 Aクラス 金田一真之介 392点』

 

金田一「んなっ!?」

源太「……ふっ、かかったな!」

 

しかしここで金田一にとって誤算が生じる。ジャックは竜巻の直撃を受けたのにもかかわらず、平然と烏天狗へ距離を詰めてきた。よく見るとジャックの体が何故か半透明になっている。

 

源太「…ッ…ミストボディ解除!……そして喰らえ、ナイフの雨!」

金田一「何っ!?……っ!?ちいぃっ!」

 

源太の言葉の前にジャックの体が元に戻り、烏天狗に照準を合わせてから両手で黒外套を開くと、内部から沢山のナイフが出現し烏天狗に襲いかかった。

 

金田一「ぐぅ……!くそっ、捌ききれねぇ!」

 

烏天狗は禅杖を駆使して打ち落としていくものの、多勢に無勢の上すでに竜巻も出し尽くしていたために、対処しきれなかったナイフ達が金田一の点数を大幅に削り取る。

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 506点

VS

 Aクラス 金田一真之介 141点』

 

やはり元々の点数差のためか、大して直撃した訳でもないのに烏天狗はかなり消耗してしまった。

 

源太「ふぅ……割と呆気ない幕切れだったが、なかなか楽しめたぜ…すよ?」

金田一「…っ!?……ふっ……ふふふ……ははははは!!!……何だそりゃ?……随分とふざけてんなぁ……オイ?……」

源太「……?」

 

源太の発言を受けて、金田一は目を見開いた後、乾いた笑みで狂喜したと思えば、そのまま俯いてしまった。

源太はただ不可解な気持ちになるばかりであったが、発生していた竜巻が消え去った瞬間……金田一は顔を上げて源太を思いっきり睨みつつ力の限り絶叫した。

 

金田一「こん、の……クソガキがぁぁぁぁああああ!!!!!なぁにもう勝った気になってやがんだァ!?ふざけんじゃねぇぞクソがァァァァァ!」

源太「ーっっ!?!?!?(ビリビリッ…)」

 

あまりの気迫に気圧される源太。金田一はそれによって生じた隙を逃すことなく烏天狗から最大風速の竜巻が生み出され、四方八方からジャックを追い詰める。源太は再びジャックを半透明化させるものの途端に竜巻は制止し、ジャックを飲み込むことなくその場に留まる。

 

源太「っ……!?」

金田一「テメーのその無敵化……弱点があるんだろ?こうされたらテメーは……困るんだろうなぁ?」

源太「ぐぅっ……!」

 

源太は悔しそうに歯噛みする。

金田一の推測通り、一見無敵に見えるミストボディーには二つの弱点がある。一つは発動中に攻撃ができないこと。もしできるのならさっき攻撃に転じる前にわざわざ解除する必要はない。これは比較的誰でもわかる弱点だろう。

そして二つ目の弱点は……発動時間が限られていることと、そしてその時間がそう長くないということだ。

 

源太(確かにさっきミストボディは能動的に解除したのではなく、タイムオーバーで自動的に切れた……だがあの僅かなタイムラグから気づいたってのか!?)

金田一「確かに俺は佐伯や高城に比べると格落ちするのは事実だがよ……あまり年上を舐めてんじゃねぇぞゴラァァァァァ!!!」

 

ミストボディが切れたと同時に竜巻が襲いかかり、ジャックは為すすべなく直撃し体をズタズタにされた。

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 198点

VS

 Aクラス 金田一真之介 141点』

 

金田一「ちぃっ……ほんっとに堅ぇなオイ……。最大火力を直撃させたのにまだそんなに残っているのかよ?」

源太「……悪いな先輩、心のどっかで緩んでたわ」

金田一「……わかりゃ良いんだよ」

源太「ここからは出し惜しみ無しの全力でいかせてもらうぜ!」

 

源太がそう言うと同時に、ジャックはメスで自分の身体中を三回ほど切り裂いた。

 

金田一「!?なんだ!?血迷ったか……なにィ!?」

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 403点

VS

 Aクラス 金田一真之介 141点』

 

気がつけば源太の点数が400点近くまで戻っていた。

あまりに不可解な光景に困惑するも、金田一は冷静に頭脳を働かせて正解を導き出す。

 

金田一「……まさかそれも、召喚獣の能力かよ?」

源太「ご名答、流石だな」

金田一「ったく、次から次へと反則くせー能力引っ張り出して来やがって」

源太「いやいや、この能力はデメリットだらけで使い勝手悪いんだぜ?一度の戦闘で三回までしか使えねーし、戦闘後に回復した点数はきっちり元に戻るし、おまけに体を切り刻んだ分の点数はしっかりと減るしな。……まあそれはさておき、ラストバトルと行こうじゃねぇか!」

金田一「ハッ、上等だ!返り討ちにしてやるよ!」

 

ジャックの懐からは数多のナイフが、烏天狗の禅杖からは激しい竜巻が、お互いを駆逐せんと襲いかかる。

 

「「うぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」

 

ぶつかり合う二つの力。常識で考えれば400点台の烏天狗から生み出された竜巻が、600点台のジャックが生み出すナイフの雨と拮抗するはずがないのだが、金田一は烏天狗に命中する範囲を見切って竜巻を集中させることでそれを可能にした。竜巻の集中した部分以外の周りのナイフは竜巻の壁を悠々と突き抜けていくものの烏天狗にはかすりもしない。そうこうしている内にジャックのナイフも尽き果て、このぶつかり合いは互角のまま終了した。

 

源太「今だぁぁぁ!」

金田一「なにィ!?」

 

黒外套からは全てをら出し尽くしたジャックだが、すぐさま手に持った最後のナイフを振りかぶる。するとそのナイフが数十倍に巨大化した。

 

源太「これにて…終わりだぁぁぁあああああ!」

 

そのままジャックは巨大なナイフで薙ぎ払う。全てを出し尽くした烏天狗にはもう避ける力など残っておらず……その身を引き裂かれることになった。

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 103点

VS

 Aクラス 金田一真之介 戦死』

 

既に久保は大分前に勝利していたので、これにてBクラス制覇となる。

 

金田一「……負けたぜ。さっさと先に進みな」

源太「いや、倒したら一旦戻って来いって指示されてるから退かせてもらうぜ。……ます」

金田一「……はぁ、お前マジで敬語壊滅的だな」

 

戦い終わった二人には、途中のような険悪な雰囲気は欠片も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「………すごい闘いだったね」

翔子「……あの点差であそこまで善戦されたのは、正直予想外」

和真「あの人が三年No.3の金田一先輩だ。つまりあの人より強い相手が、少なくとも二人いるってことだ」

雄二「どうやら一筋縄ではいかないようだな……お前ら、絶対に勝つぞ!」

「「「おう!」」」

 

三年生の想定以上の強さを目の当たりにし、雄二達は気を引き締め直すのであった。

 

 

 

  

 




和真「いやはや、今回はバトル一色だったなぁ」

蒼介(猫耳云々についてはなかったことにするつもりか……)「ちなみに源太は4つしか能力を見せてないように思えるが、ちゃんと5つ全て使いきっている」

和真「ちなみに最後の能力は筋力強化。まあ常識的に考えてあんなデカいナイフ平然と振れんのは明らかにおかしいよな」

蒼介「ちなみに巨大化は正確にはナイフを気軽に振れる限界まで大きくするという能力だ。腕力強化が無くても特に問題はない」

和真「ところでソウスケ、ナイフの雨についてだけどよー」

蒼介「なんだ?」

和真「描写が完全に露出狂の裸コートだよな」

蒼介「その認識は酷すぎないか!?」

和真「いや、だって外套を両手で開くってもろ-」

蒼介「や め ろ !」




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BOUZUHAZARD

《解説》
ここのところ和真君が弱体化の一途を辿っているように見えますが、和真君が優子さんにやたら弱いのは強弱ではなく相性の問題です。要はジャンケンみたいなもんです。

ついでに優子さんも和真君に振り回されなくなったわけではないですしね。


源太達の活躍で見事Bクラスを突破した二年チーム。今回の勝負では補充テストを受けることができず、そしてチェックポイントの人員入れ替えも認められていないないため、攻め込む二年生側は一回の勝負では勝てなくても何度か戦って相手を消耗させたらクリアできるという形になっている。つまりこの勝負は、成績優秀な人をより多く失格させずにチェックポイントに送り込めるかどうかが重要になってくる。

 

姫路「ほっ……良かったです……。これで私たちはBクラスには行かなくていいんですよね?」

明久「うん。Bクラスはもうクリアしたからね」

 

事前に決めたルールでは一度踏破したクラスは飛ばして次のクラスからスタートしてもいいということになっている。クラスの並び順と迷路の形の関係上、次のステージはDクラス教室が舞台である。

 

姫路「私は怖いから不参加にさせてもらいたいんですけど……」

明久「う~ん……。そればっかりはババァ長のお達しがあったから難しいだろうねね」

 

授業を潰してやっている以上はこの肝試しも立派な授業になる。自由参加の夏期講習に出席していた他のクラスの生徒達ならまだしも、Fクラスは参加義務のある補習を潰してこの肝試しに参加しているので怖いからといって不参加というわけにはいかないだろう。

 

和真「つぅかお前、確か翔子とペアだろ?流石に二年の女子2トップを遊ばせておく余裕なんざねぇと思うけどな」

姫路「それは……わかっているんですけど……」

明久(この様子だと、参加を決意させることはそう簡単にはいかなそうだなぁ……)

和真「…………はぁ、仕方ねぇ……(小声)明久を守れるくらい強くなりてぇんだろ?ここ一番で勇気を示せねぇようじゃ、美波には永遠に追い付けねぇぜ?」

姫路「っ!?…………わかりましたっ!私の番が来るまでには……覚悟を決めます!」

明久「えぇっ!?もう決意したの!?」

 

和真の耳打ちを聞いた姫路は、明久の想定を遥かに上回るスピードで覚悟を決めた。確かに怖いがそれを差し置いてでも譲れないものというのがこの世には存在するのだ。

 

優子「……相変わらず人を乗せるのがうまいわね」

秀吉「和真は他人の心情を知り尽くしておるからのう。加えて恋愛感情を正しく理解したことによって、以前よりさらに磨きがかかっているようじゃ」

 

ちなみに翔子達の参加順君は姫路があまりにも怖がっていたので最後のあたりとなっている。回ってくるまでに誰かが最後のAクラスのチェックポイントをクリアしたら参加せずに済むからだ。ちなみに和真・優子のペア及び明久・雄二ペアも、最奥部にいるであろう梓や常夏コンビに名指しで勝負を挑まれたため同じく最後尾である。

 

和真「さて、源二達が出発したみてぇだな」

明久(というか和真の猫耳をもう誰も気にしなくなったね……最初からついていたんじゃないかってぐらい自然だからかな?)

 

モニター①ではDクラス代表の平賀とEクラスの副官である三上がD教室に向かっているところだ。ここから先はまた知らないセットになっているため注意が必要になる。

 

《よし!それじゃあ俺たちはDクラスに向かおうか》

《頑張ろうね、平賀君》

《怖かったらいつでも言ってね三上さん。俺が絶対に守るから》

《うん、ありがとう。頼りにしているからね》

 

『『『チ……ッ!!』』』

 

モニターから伝わってくる二人の会話に対して、教室中から心底不愉快ですと言わんばかりの舌打ちが次々に聞こえてくる。

 

和真「おーおー、あの源二が随分初々しい反応してんなー。顔真っ赤じゃねぇか」

秀吉(平賀も和真にだけは言われたくないじゃろうな)

優子「それにしてもやけに行儀悪いわね……またアンタ達のクラスメイトなの?」

和真「あん?んなわけねぇだろ」

明久「そうだよ木下さん、あんなマナーの悪い行為をするのはFクラスにはいないよ。だって…」

 

『坂本、次は俺に行かせろ。ヤツらに本物の敵は二年にいるってことを教えてやる』

『待てよ近藤。ここは【安心確実仲間殺し】の異名を持つこの俺、武藤啓太の出番だろう』

『いやいや。【逆恨み凄惨します】がキャッチコピーの、この原田信孝に任せておくべきだ』

 

明久「Fクラスの売りは行動力だからね、舌打ち程度で済ませるほど僕らは温くないよ!」

優子「誇らしげにする所じゃないでしょうに……」

和真「あとは生命力と耐久力だな。大抵のことからはピンピンして戻ってくるから俺も気兼ねなくブチのめせる」

優子「アンタもサラッと恐ろしいこと言わないの」

 

Fクラスが惜しげもなく醜態をさらしていると、代表の雄二が呆れたように肩を竦める。

 

雄二「おいおいお前ら……。とにかく落ち着けよ……

そういうことは、クラス全員でやるべきだ」

 

これぞ愛すべからざるバカの巣窟Fクラス。蔓延る悪事を見逃せど、他人の幸福(恋愛絡み)は見逃さない、救いも希望もない畜生の理が渦巻く飢餓地獄(女に餓えているという意味で)である。   

 

和真「その皆に俺は入ってねぇだろうな?……つか、源二を狙うってんなら流石に見過ごせねぇぞ明久」

明久「なんで僕を名指し!?……まぁ確かに、今は仲間同士で潰し合うのはまずいよね。折角先に進んでいるんだから、勝つためには平賀君達にも頑張ってもらわないと」

優子「ええ、やるからには勝ちを狙わないとね」

 

敵の仕掛けを見極める為に明久達は画面に視線を戻す。今度の舞台となっているDクラスはさっきまでのBクラスに比べて狭く、広さはだいたい三分の一くらいしかない。多分Bクラスよりは大掛かりな仕掛けは出来ないだろうから、一見簡単にクリアできそうだ。

 

《きゃぁあああっ!?》

《え!?どうしたの三上さん!?》

《な、なにかヌメッとしたものが首筋に……!》

 

ムッツリーニ「……失格」

和真「源二のターン、しゅーりょー」

優子「ものの数分で終わったわね……」

 

そんな下馬評を覆すかの如く、いきなりモニターから三上の悲鳴が聞こえてきた。台詞からしてなにか変な感触に驚いたようで、当然音声レベルは失格ラインを超えていた。

 

明久「ねぇ雄二。今の、何をされたか見えた?」

雄二「いや、カメラには何も写らなかったな」

 

Dクラスは何かの町並みをモチーフにしたような作りではなく、あくまでも暗くゴミゴミとしただけの装飾になっている。これだと突入している本人達も何が起きたのか判別するのは困難を極めるだろう。

 

《うきゃぁああーっ!》

《おいっ!どうした!?》

 

続いて入っていった二組目も何度か現れたお化けには怯まずにある程度進むことが出来たが平賀達と同じように途中で失格になってしまった。今回はBクラスの時と違い向こうの召喚獣がカメラにバッチリと捉えられている。つまり今回の三年生の狙いは召喚獣を陽動に用いた…

 

ムッツリーニ「……直接接触」

和真「だな」

 

おそらくは死角からコンニャクのような定番アイテムでも触れさせて驚かしているのだろう。

 

《おわぁっ!?へ、蛇!?》

《か、カエル!カエルが降ってきた!》

 

立て続けに三組目も失格になる。今度は玩具の爬虫類のようだ。グロテスクな見た目も気持ち悪い感触も、暗闇で悲鳴をあげさせるにはうってつけの素材だ。

 

雄二「くそっ、予想通りあの先輩相当のやり手だな。嫌なタイミングで切り替えてきやがった」

明久「切り替えるって、驚かし方を?」

雄二「ああ。刺激する感覚を触覚に替えて来やがった。Bクラスでは散々視覚のみを刺激されたからな。急に他の感覚に替えられたらついていけないだろ」

 

さっきまではいくら怖くても普通の召喚獣、こちらに触れることはできない。さらに道も広くこのステージに比べて明るかったので視覚だけに気をつけていれば何てことなかったが、今度はそれに接触を織り交ぜてきたというわけだ。今から新しく突入する生徒達もモニターで【目で見える物の恐怖】を植えつけられている。そうなるとカメラでは伝わらない【身体に触れる物の恐怖】には簡単には対応できないだろう。

 

和真「さすが梓先輩、人の嫌がることをさせたら右にでる者はいないぜ……」

(((お ま え が 言 う な !)))

 

雄二達だけでなくその場の全ての生徒達の心が一つになった。彼らの脳裏に浮かんだのはこれまでこの猫耳がやけに似合う男がしてきた人を人とも思わぬ所業の数々、もしくは相手の急所を抉り出す言葉のナイフの鋭さであった。意外と良識があるので頻繁には発揮されないが、いざ発揮されたときにはいつだって屍の山を築いてきた。

ちなみに和真本人は彼らの無言の抗議を気づいた上で無視していた。どうやら悔い改める気は微粒子たりとも存在していないようだ。となると、食い止められるかどうかは現在手綱を握りつつある優子の手にかかっていると言っても過言ではない。

 

雄二「……まあいい。それならこっちだって手を打ってやろうじゃねぇか。Fクラス部隊第二陣、出撃準備だ!」

『『『おうっ!』』』

 

気合の入った返事が返ってきた。第二陣の人数は四組八名。果たしてうまくいくのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おい。坂本や戻ってきたヤツの話だと、どうにもここは何かよくわからん物を当ててくるらしいぞ》

《そうなのか。それだとさっきまで見ていたBクラスよりやりにくいな》

 

 

Fクラス第二陣のうちの一組が警戒しながら会話をしている。流血沙汰に慣れていても、流石に今回の向こうの作戦は少しやり難いようだ。それでも他のクラスの生徒達よりは耐性があるのだろうが。

 

 

《そこで、俺はちょっとした対策を考えてきたんだ》

《対策?なんかいい方法があるのか?》

《おう。とっておきの方法だ。……いいか?突然触ってくるものが怖くなって悲鳴をあげるのは、それがなんだかよくわからない気持ちの悪い物だからだろう?》

《ああ。そうだな》

 

優子「へぇ……珍しくまともな作戦みたいね」

和真「か~ら~の~?」

優子「……え?」

 

 

《だから、その触れてくる物を『俺のことが好きで手を繋ぎたいけど、恥ずかしいからそこらの物を使ってしまう美少女』に脳内変換してやればいい。そうしたら、怖いどころか嬉しい感触に早変わりだ》

《な、なんだと……!?それはあまりに妙案すぎる……!武藤、俺はお前の頭脳が恐ろしいぜ……!》

《へっ。よせやい》

 

 

和真「……はい、こんなオチでしたっと」

優子「一瞬でも感心したアタシがバカだった……」

明久「あの二人、会話がモニター越しに皆に伝わってることを知らないのかな?」

雄二「わからん。なにせ、恐ろしい頭脳の持ち主たちだからな」

明久「確かに恐ろしいね」

 

こんな感じでFクラスの評判は日々転落の一途を辿っているのだろうと優子はしみじみ思ったそうな。

そのまま二人の行動を見守ること数分。偶然方向転換したカメラに、コンニャクらしき物体が横切る瞬間が写った。そのままピタッという音をたてて二人に接触する。

 

 

〈〈ふおぉぉおおお!!!たまんねええぇぇぇ!!!〉〉

 

ムッツリーニ「……失格」

雄二「和真、さっき出しかけた新作ドリンクとやらを二人分ほど分けてくれ」

和真「あいよ」

 

全てが終わった後に最低でも二体の屍ができあがることが今この瞬間に確定した。

 

姫路「こ、このクラスは見ているだけならそこまで怖くないので助かります……」

美波「そうね。これならウチも平気かな」

優子(とか言いつつ悲鳴が響く度にビクッとなってるけどね、この二人)

明久「雄二。今の二人はともかく、他の三組は順調そうだね」

雄二「そうだな。突然の接触に驚きはするものの、悲鳴をあげるほど繊細な神経をしている連中じゃないからな」

翔子「……仮に声を出したとしても、失格レベルには至らない」

秀吉「ということは、向こうもそろそろ動きを見せる頃合ということじゃな」

雄二「ああ、向こうにもこっちの様子は筒抜けだからな。また別の方法で落としにかかってくるだろうが……とりあえず様子を見るか」

和真(……むぅ……改めて観察してみると、雄二の対応力はソウスケには劣るな。あいつが指揮官なら今頃そろそろ先手を打っている頃だし)

 

お互いにカメラを通じて状況を把握できる分、臨機応変な対応が可能になる。よって向こうが順調ならこっちが、こっちが順調なら向こうが何かしら手を打つ、一種の拮抗状態に入るのはまあ当然のことかもしれない。しかし、もし蒼介ならば十分な情報が集まりさえすれば相手の戦略を読み切り先手を打つことができる。常識を越えた奇策や逆境を覆す戦術を考える能力は雄二に分があるが、真っ当な方法で勝負をすればFクラスに勝ち目はないと和真は判断した。

 

和真(となると、今度の試召戦争でAクラスに勝つためには……)

明久「そうなると、今度は何をしてくるのかな?」

雄二「さぁな。見当もつかないが……ん?」

 

和真が考え事に没頭している間も世界はどんどん進んでいく。明久の問いに答えている途中に雄二がモニター先の状況の変化を察知したようだ。 

 

明久「何か、雰囲気が変わったね」

秀吉「そうじゃな。暗くてわかりにくいが……どうも広い場所に出たように見えるのう」

 

秀吉の言うとおり、カメラ④は薄暗いながらも広い空間を映し出していた。

 

優子「一見、何も仕掛けがなさそうね」

秀吉「うむ、広めの空間だけのようじゃ。あとは……中央の上部に照明設備らしきものが見えるくらいじゃな」

 

モニター先の天井あたりにケーブルのようなものが見える。あれはおそらくスポットライトの類いだろう。

 

 

《なんか不気味だな》

《ああ。よくわからねぇけどヤバイ感じがする》

 

 

モニターの向こうの二人が固唾を呑む様子が伝わってきた。繊細な神経とは無縁のFクラスメンバーであるが、幾多の死線を潜ってきただけあって勝負の分かれ所はかなり熟知している。おそらくここは勝負の行く末を担う場面の一つになるだろう。

 

ムッツリーニ「……人の気配」

 

画面には暗闇の空間の中央に誰かが静かに佇む姿が映し出されていた。あれが向こうの仕掛けなのか、それともあれは囮で本命は後ろからの奇襲なのか。一つだけ確実に言えることは、どの可能性であろうと生半可なものではないということだ。

 

 

《突っ立っていても仕方ない。先に進むぞ》

《わかった》

 

 

二人は業を荷やしたのか再び歩を進め、カメラもそれに伴って暗闇の奥を映し出さんと移動している。

 

和真「…………(ゾクッ)っ!?…優子、危ねぇ!(バサッ)」

優子「えっ!?なに!?」

 

考え事をしていた和真が突然両目を瞑りつつ、優子の両目を手で覆った。

明久達がその動作に言及する間もなく、画面で動きが見られた。二人が空間の中央まで後三歩といったところでバン、と荒々しく照明のスイッチが入る音が響き渡る。暗闇から一転して光の溢れ出した画面の中央には、夏川がスポットライトを浴びて静かに佇んでいる。

 

 

 

全身フリルだらけの、ゴシックロリータで。

 

『『『ぎゃぁあああーっ!?!?!?!?!?』』』

 

画面の内外を問わず、そこら中から響き渡る悲鳴。教室内でダメージを受けていない生徒は直前に目を瞑った和真と、和真に目を塞がれていた優子のたった二人のみ。

 

優子「何!?何があったのよ和真!?」

和真「しばらく目ぇ閉じてろ優子!集中してないときの俺の直感にさえ引っ掛かるレベルの、とてつもなくおぞましい物がモニターに移ってるはずだから!」

優子「!……わかったわ!」

 

優子は和真の直感の精度をよく知っているため、指示に従って目を覆われた状態のままおとなしくなる。正直他人から見ればこの光景はただイチャついてるだけのようにしか見えないが、何人たりとも……あの異端審問会すらも和真達に構っている余裕はまるで無かった。精神的ダメージがあまりに深刻すぎるのだろう。

 

雄二「坊主野郎めっ!やってくれやがったな!」

明久「汚いっ!やり方も汚ければ絵面も汚いよ!」

姫路「きゃぁあああーっ!?お化け!いや、お化けじゃないけどお化けより怖いです!」

美波「うぅぅぅ……っ!夢に見る……!絶対ウチ今夜眠れないわ……!」

翔子「……気持ち悪い」

秀吉「あれはさすがにワシも耐えられん……!」

 

さしものFクラスのメンバーも想定外のグロ画像に大ダメージは避けられなかったようだ。耐性のない人は失神や嘔吐の恐れもある。というかもはや生物兵器と言っても差し支えないのかもしれない。

 

 

《なんだ?今、こっちの方から何か聞こえなかったか?》

《ああ。間違いない。そこで悲鳴が……ぎゃぁぁあああーっ!?!?!?!?!?》

 

 

さらに二組目もやられていた。悲鳴という被害が、さらなる被害を呼び寄せる無限ループと化している。

 

明久「雄二!早く手を打たないと全滅だよ!」

雄二「く……っ!だが、既に突入しているやつらはもう助けようがない……!」

明久「そんな!?彼らを見捨てるしかないって言うの!?」

 

 

《ぎゃぁああーっ!?!?!?!?!?誰か、誰か助け……》

《嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!!!頼むからここから出してくれ!!!!!》

《助けてくれ!!!!それができないならせめて殺してくれ!!!》

《☆●◆▽「♪×っ!?!?!?!?!?》

 

 

雄二「…………突入部隊……全滅……っ!」

明久「くそぉっ!皆ぁっ!」

 

注ぎ込んだ戦力は当然一人残らず壊滅。カメラ越しでさえあの破壊力だったのだから直接見た連中の精神的ショックは相当なものだろう。明久達は三年生の強さというものを嫌と言うほど実感させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真「いやはや、原作通りとはいえすごい威力だったな……」  

蒼介「お前と木下だけはちゃっかり逃れてたじゃないか」

和真「いや、俺もモニターに集中していればもっと早くに察知してそれなりの対処はできたんだろうけどよ……考え事してたせいで気づいたのはまさに直前。周りに呼び掛けていては間に合わず、助けられそうなのは精々一人……となれば、まあ優子だろ」

蒼介「正直でよろしい」

和真「それにしても今回のタイトルはいつもと比べてやけに秀逸だな」

蒼介「作者に取っても改心の出来だったようでな、本編前書き後書きも含めて今までで一番手応えを感じたそうだ」

和真「一番手応えを感じたものがタイトル名ってあたりが作者の作者たる所以だな」



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寡黙なる性識者、暁に散る

こんなタイトルですが、別に死にはしません。


和真「なあ明久、先輩らは何を仕掛けてきたんだ?」

優子「画面の内外問わずものすごい被害ね……」

    

危機が去ったことを直感で感じ取った和真は未だにややグロッキーな状態の明久達に説明を求める。

 

明久「う、うん。ちょっと、口に出すのも憚れるグロテスクなものがね……あれ?和真達は見てなかったの?」

和真「物思いに耽ってたら俺の勘が突然危機を感じ取ってな、即座に目を瞑った」

優子「アタシはさっきまで和真に目を塞いでもらっていたからどうにか回避できたわ」

雄二「汚ぇぞ!?お前らだけ助かりやがって!」

明久「……相変わらず反則じみてるね、和真の直感」

 

和真が持つ天性の直感は、限りなく完全無欠に近いと評される蒼介ですら持ち得ない才能であり、なおかつ理屈と論理で物事を考える人にとってはまさに不条理と不公平の塊である。

 

『坂本っ!仇を……アイツらの仇を討ってくれ……!』

『このまま負けたら、散っていったあいつらに申し訳がたたねぇよ……!』

 

Fクラスの皆が涙ながらに訴える。和真とてあんな結末を迎えた仲間達を憐れに思わなくもないが、怪我したわけでも死んだわけでもないのに流石に大袈裟すぎやしないだろうか。いや、ある意味大怪我なんだろうが。

 

雄二「わかっている!向こうがそうくるならこっちだって全力だ!突入準備をしている連中を全員下げろ!ムッツリー二&工藤愛子ペアを投入するぞ!」

『『『おおおーーっ!!』』』

 

その二人の名前を聞いて教室中に雄叫びが響き渡った。どうやらムッツリー二と愛子の肩にかかる期待はかなり大きいようだ。

 

『『ムッツリー二!ムッツリー二!』』

『『工藤!工藤!』』

 

鳴り止まない『ムッツリー二&工藤』コールの中、名前を呼ばれた愛子は緊張した様子もなくムッツリー二に近寄って話しかけていた。

 

愛子「だってさ。よろしくね、ムッツリーニ君」

ムッツリーニ「……(コクリ)」

雄二「頼んだぞ二人とも。なんとしてもあの坊主を突破して、Dクラスをクリアしてくれ」

 

Dクラス教室の広さを考慮するとあの殺戮平気を突破したら残りはチェックポイントだけのはず。さらにDクラスに配置されている教師は保健体育の大島先生なので、この二人にとってはまさに独壇場だろう。

 

愛子「う~ん。約束は出来ないけど、一応頑張るよ坂本君」

ムッツリーニ「……あの坊主に、真の恐怖を教えてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「皆!もうすぐあの衝撃映像がくるよ!女子は全員目を閉じるんだ!」

 

明久が周囲に注意勧告する間もムッツリー二と愛子の持つカメラが件の場所に悠々と近づいていく。

 

姫路「つ、土屋君がダメだったら、あとはこちらも対抗して明久君がフリフリの可愛い服を着ていくしかありませんね……」

美波「そ、そうね。それしか手は無いものね。仕方ないわよね」

明久「二人とも、そのおかしな提案は恐怖で気が動転しているせいだよね?本当に僕にそんな格好をさせようなんて思っていないよね?」

「「…………」」

和真「こんのバカどもは……だいたいだな、それでいったい何が解決するんだよ……?」

優子「……あっ、だったら和真が-」

和真「優子?たとえお前でもブチコロスゾ?」

優子「じょ、冗談よ……」

 

笑顔の裏に滲ませた濃密な殺気を感じ取り思わず腰が引ける優子。猫耳着用程度は許容範囲な和真だが、女装関連のネタは色々あって余程忌まわしいものであるらしく、たとえ優子だろうと口に出すことすら許さないつもりのようだ。

 

《ムッツリーニ君、あの先だっけ?さっきの面白い人が待ってるのって》

《……準備はできている》

 

戦々恐々としている教室とは対照的に目的地へ向かっている二人は落ち着いている。カメラを構えているのは愛子でムッツリー二が何か別のものを抱えていた。おそらくは夏川対策か何かだろう。

 

明久「やっぱりまた真っ暗になってるね」

雄二「突然現れるほうが効果があるんだろうからな。タイミングを見計らってスポットライトを入れるんだろ」

 

闇の中でカメラが人影を映し出す。

 

和真「(ピクッ)……そろそろだ、優子」

優子「了解」

 

二人がモニターから視線を外したのを見計らって、教室中の全生徒がそれにならう。

 

 

 

 

 

バンッ!(スポットライトのスイッチが入る音)

 

ドンッ!(ムッツリー二が大きな鏡を置く音)

 

ケポケポケポ(夏川が嘔吐する音)

 

 

《て、テメェなんてものを見せやがる!?思わず吐いちまったじゃねぇか!》

《……吐いたことは恥じゃない。それは人として当然のこと》

《くそっ、想像を絶する気持ち悪さに自分で驚いたぜ……。どうりで佐伯の奴が着付け中頑なに鏡を見せてくれねぇワケだ……》

《ムッツリーニ君、この先輩ちょっと面白いね。来世でなら知り合いになってあげてもいいかなって思っちゃうよ》

《ちょっと待てお前!?俺の現世を全否定してねぇか!?ていうか生まれ変わっても知り合いどまりかよ!》

《あ、ごめんなさい。あまり悪気はなかったんですゲロ野郎♪》

《純粋な悪意しか見られねぇよ!…って待てやコラそこのお前!ナニ人のこんな格好を撮ろうとしてやがるんだ!?》

《……海外のモノホンサイトにUPする》

《じょ、冗談じゃねぇ!覚えてろぉおおっ!!》

 

 

和真「……よしお前ら、危機は去ったから目ぇ開けろー」

 

どうやら夏川はダッシュでその場から逃げていったようだ。これでDクラス最大の脅威は消え去った。

 

明久「それにしても、工藤さんって意外と厳しいこと言うんだね。坊主先輩も泣きそうな声になってたよ」

優子「いや、普段の愛子はああいうことは言わないわよ?」

翔子「……となると、誰かの入れ知恵」

秀吉「そう言えば、工藤は突入する前に清水に何かを聞いておったな」

明久「清水って、Dクラスの清水美春さん?」

雄二「なるほど。それならあの罵倒も頷けるな」

和真「心をへし折りきれねぇんじゃ、罵倒としては三流も良いとこだがな」

優子「そんな変な美学持っちゃいけません……」

 

どうやら愛子なりの夏川対策だったようだ。鏡を見せて気持ち悪さを自覚させた後で清水直伝の罵倒で止めを刺したと言うことだ。だがしかしもし入れ知恵したのが和真であったら、より凄惨な結果になっていたこと間違いなしである。

 

 

《……先に進む》

《多分チェックポイントまであとちょっとだよね》

 

 

夏川が走っていった方向に歩き出す二人。パーティションで作られた通路を少し歩くと、その先では三年生が二人待っていた。予想通りさっきの仕掛けに場所を取りすぎたらしい。

 

 

《《《《試獣召喚(サモン)!》》》》

 

 

ムッツリーニの召喚獣はご存じのとおり吸血鬼で、愛子の召喚獣はのっぺらぼうだった。

 

明久「工藤さんの召喚獣がのっぺらぼうだけど、いったいどういう本質なんだろうね?」

秀吉「ふむ……以前ワシは演劇の題目の候補として怪談話を探しておったのじゃが、その中にのっぺらぼうの尻目と言うものがあっての」

明久「尻目?」

秀吉「うむ。そののっぺらぼうはなんでも、人に出会うと全裸になったそうじゃ」 

優子「愛子……」

和真「アイツの本質は結局そんなんか……」

 

愛子と仲の良い二人はこめかみに手を当てて呆れ果てる。まあムッツリーニの相方としてはこの上なく適任かもしれないが。

 

明久「それはそうと、こっちもだけど向こうも分かり易いお化けだよね」

雄二「そうだな。おかげで敵の行動も予測しやすそうだ」

 

一方、三年生の方はミイラ男とフランケンという、かなりメジャーなラインナップだった。本質は怪我をしやすい、本当は優しいといったところだろうか。

 

《保健体育》

「Aクラス 市原両次朗 303点

 Aクラス 名波健一 301点」

 

そして点数は両者とも300点オーバー。固有能力こそ使えないものの、受験科目でない教科でこれだけの点を叩き出せるあたり、この二人は3―Aのなかでも主力生徒なのだろう。

 

 

《ムッツリーニ君。先輩たちの召喚獣、なんだか強そうだね。召喚獣の操作だってボク達より一年も長くやってるし、結構危ないんじゃないのかな?》

《……確かに、強い》

 

 

 

《保健体育》

「Aクラス 工藤愛子 498点

 Fクラス 土屋康太 796点」

 

《……が、俺達の敵じゃない》

《だね♪》

 

 

刹那、ミイラ男とフランケンは為す術もなく地に臥した。いかに経験や操作技術で勝ろうとも、圧倒的な戦力差の前では何の意味もない。

 

和真「流石ムッツリーニ、瞬殺だったな」

優子「796点って……。愛子はともかく、土屋君の召喚獣は何をしたか全く見えなかったわ……」

和真「物凄いスピードで接近した後、手から伸ばした赤い爪で相手の召喚獣を串刺しにしてたぞ」

優子「よく視認できたわね……」

和真「動体視力にも自身あるからな。しかし俺でもムッツリーニの動きに集中するのに精一杯で愛子の方に意識を割けなかったんだが、愛子の召喚獣は何やってたんだ?」

優子「えっと……一瞬で全裸になってミイラをボコボコにしてから、また服を着ていたわよ……」

和真「是が非でもそういう方向に持っていきてぇのか試験召喚システム……」

 

実際のところは精一杯でもなんでもなく、薄々そんな予感していた和真が愛子の召喚獣を見ないようにしていただけである。隣では全く見えていなかった明久に雄二が愛子の召喚獣のことだけ説明している。その様子からどうやら雄二は愛子のはともかく、ムッツリーニの召喚獣の動きは捉えられなかったらしい。

 

翔子「……雄二。浮気の現行犯」

雄二達「な!?ち、ちが……っ!?工藤の召喚獣は見ようとしたわけじゃないから不可抗りょぎゃぁあああああっ!」

翔子「……浮気は許さない」

優子「坂本君は結局こうなるのね……」

和真「見ろよこのグロテスクな光景。こんなの見慣れてたらたかが肝試し程度怖くもなんともなくなるに決まってんだろ」

 

 

《じゃあDクラスもクリアってことで。次はどうするんだっけ?》

《……Cクラス》

《はーい、了解。……ところでムッツリーニ君。どうして鼻にティッシュを詰めているのかな?》

《……花粉症》

《へぇ~……ふ~ん……花粉症ねぇ~》

 

 

ムッツリー二の鼻血の原因に心当たりがあるようで、愛子ががさっきからニヤニヤと笑っている。ちなみに明久は愛子の召喚獣のストリップを見逃したことを心の底から後悔していた。

 

姫路「あの、明久君。なんだかいやらしいこと考えてませんか?」

明久「ううん。ちっとも」

姫路「本音は?」

明久「後でムッツリー二に今の対決をスロー再生してもらおうと思ってる」

優子(誤魔化し下手っ!?)

姫路「確かこれが土屋君の記録用のハードディスクでしたよね」

明久「あぁぁっ!返して姫路さん!それは持ってっちゃダメだよ!その、えっと……そうだ!不正監視用に使うかもしれないから!」

姫路「大丈夫です。これだけの人数が証人として見てますから」

和真(ムッツリーニが戻ってきたら血の涙を流しながらうちひしがれるだろうな……)

美波「(小声)そ、そっか。アキは小さくても興味あるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あれ?この口が二つある女の人ってなんのお化けだっけ?》

《……ふたくち女》

《じゃあ、あっちの身体が伸びてる女の人は?》

《……高女》

《そっちの毛深い男の人は?》

《……どうでもいい》

 

 

和真(わかりやすい奴……)

 

Bクラスよりは狭いものの、Dクラスの倍はある教室をスタスタと二人は歩いていく。夏川を突破した二人が普通のお化け程度で臆するはずもなく先へ先へ進んでいく。

 

明久「順調だね雄二。このままだとあの二人で全部突破できちゃうんじゃない?」

雄二「それはどうだろうな。ここのチェックポイントまではたどり着けるかもしれないが、相手も遅かれ早かれ対策ぐらいはしてくるだろう」

明久「え?どういうこと?」

雄二「三年もムッツリーニって名前は知らなくても『保健体育が異様に得意なスケベがいる』ってことくらいは知っているだろうな。そうなると、弱点もバレている可能性が高い」

和真「アイツの弱点っつっても、鼻血噴いて倒れるだけじゃ……まさか!?」

 

言葉の途中で、和真は雄二が何を懸念しているのかを察した。それと同時にとある二人の先輩が和真の脳裏を掠める。

 

雄二「気付いたみたいだな和真」

明久「二人とも、どういうこと?」

優子「アタシにもよくわからないんだけど……」

雄二「悲鳴じゃなくても標的に大きな音をたてさせるのは可能ってことだ。そうだな、例えば鼻血の噴出音とかな。……和真、三年の知り合いでそんなことが可能な先輩に心当たりは?」

和真「……ある。点数的にも申し分ねぇし、俺が梓先輩なら間違いなくあの二人をチェックポイントに置く」

優子「なるほど、あの先輩方ね……。

となると、土屋君はもうダメそうね……」

明久「あ、あはは……何を言ってるのさ。いくらなんでも鼻血の音でアウトになるなんて……」

 

四人がモニターに視線を戻すと、ムッツリーニ達はチェックポイントに到達したようだ。二人の持つカメラは薄明りの下に佇む二人の女性の姿を捉えていた。

 

 

《…………っ!(くわっ)》

《む、ムッツリーニ君?何をそんなに真剣な顔を……って、なるほどね……》

 

徐々にその人達の姿がはっきりと浮かび上がる。

片方の女性は髪を結い上げ、着物を色っぽく着崩した切れ長の目の綺麗な美人、小暮葵。

もう片方はウェーブのかかった髪の、着物の上からでも非常にグラマラスな体型であると判別できる超長身の美女、宮阪杏里。

 

『『『眼福じゃぁーっ!』』』

 

教室の中から歓喜の声が大反響する。まあ健全な男子高校性としては正しい反応であろう。あれに靡かない男子は、もう既に優子以外への異性への興味をなくしている和真や、同性愛者の久保や、コンプレックスのせいで自分より背の高い人を異性として見られない徹や、強面なため普段から女子に避けられているせいで異性に対しての幻想をとうに捨てている源太ぐらいのものであろう。

明久や雄二も、翔子や姫路達の前でなかったら間違いなく叫んでいただろうと断言できる。

 

翔子「……雄二」

雄二「み、見ていない!俺は全然見ていないぞ翔子!」

翔子「……私だって、着物を着たらあんな感じになる」

 

珍しく翔子がムッとしてふくれている。小暮は翔子と似たタイプの女性なため対意識があるのだろうか。ちなみに杏里と胸のサイズを比較しようものなら死は免れないと本能が告げていたため、雄二は杏里の方には是が非でも視線を移すまいと心に誓っていた。

 

 

《……この……程度で……この俺……が……っ!(ドボドボドボ)》

《ムッツリーニ君、鼻血が止めどなく流れているよ!?》

《……問題、ない……っ!(ドボドボドボ)》

 

 

当然のごとくムッツリーニの鼻から赤い液体が湧き出ているが、センサーを越えるような噴出音ではない。

 

明久「すごい!あのムッツリーニがここまでの色気を相手にあの程度の噴出で持ちこたえるなんて!この勝負は勝ったも同然だよ!」

優子「いや、あの程度ってレベルじゃないでしょあの量は……ある意味すごいけど……」

和真「まあアイツのことだ、輸血パックくらい用意してるだろ。それよりもだ、まだ奥の手がありそうだぜ……」

明久「え?」

 

この時点で既に和真は結末を予測していた。心の中でこれから死にゆくムッツリーニに十字を切る。

 

 

《ようこそいらっしゃいましたお二方。私、三年A組所属の小暮葵と申します》

《同じく三年A組所属の宮阪杏理……》 

《……》←輸血中

《こんにちわ、ボクは二ーAの工藤愛子です。その着物、似合ってますね》

《ありがとうございます。こう見えてもわたくし、茶道部に所属しておりますので》

《私は梓にいつの間にか着せられていた……》

《あ、そっか。茶道って着物でやるんでしたっけ。その服装はユニフォームというわけですか。宮阪先輩はともかく、小暮先輩の着方はちょっとエッチだけど》

《最初は私も葵みたいな着せ方されたけど、流石に精一杯抵抗した……》

《そっちも色々と大変ですね……。では、そろそろ始めましょうか》

《そうそう工藤さん、実はわたくし……》

《?なんですか?まだ何か》

 

 

 

 

 

《……新体操部にも所属しておりますの(バサッ)》

《……なんでこんなことに……(バサッ)》

 

二人の着物は突然脱ぎ捨てられ、その下からは、レオタードを見に纏う小暮と杏里が現れた。

 

『土屋康太、音声レベルおよびモニター画像すべてが真っ赤!失格です!』

 

雄二「畜生!やり方が汚ねぇ!はだけた着物だけでも限界ギリギリだってのに、その下に露出満点のコスチュームだと!あのムッツリーニがそんなもんを直接見て耐えられるわけがねぇだろうが!」

明久「全くだよ!なんて汚い手を使うんだ!とにかく雄二は急いで対策を練って!僕は今から姫路さんに土下座して、さっきの記録用ハードディスクを設置しなおしてもらうから!」

雄二「わかってる!抜かるなよ明久!」

明久「もちろんさ!必ず録画してみせる!」

 

そんな会話を繰り広げる二人を冷めた目で見てから距離を取り、ふと優子は気になることがあったので和真に聞くことにする。ちなみに明久と雄二は当然の如く翔子や姫路達にお仕置きを受けて撃沈することになる。ここまでテンプレである。

 

優子「和真、宮阪先輩ってあんなこと進んでやるような人だったかしら……?」

和真「面白いぐらいに目が死んでたから、多分梓先輩あたりに強引に承諾させられたんだろ。あの人押しに弱いし」

 

おおかた得意の舌先三寸でうまいこと丸め込んだのであろうと和真は予想する。しかし優子にはまだ納得しきれていなかった。

 

優子「……土屋君一人を失格させるために、いくらなんでも本気を出し過ぎじゃない?彼、保健体育を通過してしまった今ではそこまで重要な戦力というわけでも…」

和真「そりゃ違うぞ優子。この作戦による被害は、おそらくこの程度では収まらねぇ」

優子「え?どういうことよ?」

和真「俺達二年はソウスケ以外の男子全員が、覗き騒ぎを起こして停学になった前科があるんだぞ?あんな光景を見せられたらそりゃあ…」

 

 

『大変だ!土屋が危険だ!助けに行ってくる!』

『一人じゃ危険だ!俺も行く!』

『待て!俺だって土屋が心配だ!』

『俺も行くぜ!仲間を見捨てるわけにはいかないからな!』

 

 

『『『うぉおおおおぉぉっ!新体操ぉぉぉぉぉっ!!』』』

 

 

和真「……当然こうなる」

優子「もう返す言葉も無いわ……」

秀吉「突入と同時に全員失格したようじゃな……」

美波「なんでうちの学校の男どもってこうもバカだらけなのかしらね……」

姫路「どうして覗き騒ぎが起きたのかよくわかる気がします……」  

 

大勢の男子生徒が独断専行で突入し、あっという間に全滅した。お馴染みのFクラスのメンバーはともかくE~Aらの男子も含まれているあたり、二年の男子がいかに欲望に忠実なのかが伺える。

 

雄二「う……うぅ……ま、マズイな……。このまま放っておいたら男子は久保以外全滅しちまう……」

 

翔子に目潰しでもされたのか、両目を押さえながら雄二が呻く。和真と違って全生徒の人となりを把握しているわけではないので、そう判断するのも無理はない。

 

和真「そう決めつけるのは早いぞ雄二。久保以外にも大丈夫な奴に心当たりはある」

優子「……一応聞いておくけど、和真は大丈夫よね?」

和真「たりめーだ、俺にはお前しか見えてねぇ」

優子「…そ、そう…………アリガト……」

和真「……オイ、自分から聞いといてその反応やめてくんない?顔が焼けつくように熱くなるから」

雄二「イチャついてないで話を進めてくれないかお前ら、ことは一刻を争うんだぞ……」

翔子「……雄二も和真を見習って欲し-」

雄二「ともかくだ!!!あてがいくつかあるのは間違いないんだな?」

和真「ああ、特に徹はあの二人とは因縁があるからな……そろそろ出撃許可を貰いに来るだろうぜ」

 

片方は清涼祭で辛酸を舐めさせられた相手、もう片方はこの上なくコンプレックスを刺激する長身の女性。徹にとっては性欲よりも恨みと憎しみが勝る相手であること間違いなしだ。

 

雄二「なるほど、大門か……ならそれまでに俺も手を打っておくか。向こうは色香で攻めてくるなら、こっちは……」

明久「女子のペアに行ってもらうわけだね。よし、頼んだよ秀吉」

優子(秀吉は毎回こういう扱いなのね……)

秀吉「……明久よ。誤解しておるようじゃが、ワシとて異性に興味はあるのじゃからな。特にお主にはそのことを覚えておいてもらわんと、ワシも色々と困」

明久「……え……?異性に興味があることを覚えておいて欲しいだなんて、秀吉……。みんなの前でそんなこと言われても、僕はその……」

秀吉「ま、待つのじゃ明久!今のはお主への遠回しな告白ではないぞ!?なにゆえ頬を赤らめておるのじゃ!?」

((もう勝手にして……))

 

どうあがいてもそういう方向に着地してしまう秀吉に、和真と優子は憐れみを通り越して何だか面倒臭くなってきたた。

 

姫路「不公平です……どうして木下君だとあれだけで告白だと……」

美波「ウチなんて、キスまでしたのに……」

雄二「まぁ気にするな姫路、島田。秀吉は最初は男と接していた分、心の距離が近いんだ。……とにかく、今は肝試しだ。皆よく聞け!次は橘・秀吉ペアで行くぞ!」

明久「頼んだよ秀吉。無事に帰ってきてくれたら……僕は君に伝えたいことがあるんだ」

秀吉「そのセリフを聞くと、明らかにワシは無事では済まん気がするぞい……」

 

 

 




和真「なぜ飛鳥が秀吉とペアを組んでいるのというと、ペア相手に困っているところを優子に紹介されたからだ」

蒼介「真面目な飛鳥は私という婚約者がいる身で男子と組むことを良しとしなかったようだ。かといって女子と組もうとしても…」 

和真「アイツは大半の女子から恋愛的な意味で好意を向けられているからな~……俺のような観察力もないので、同性愛に目覚めていないかどうか運否天賦ロシアンルーレットになってしまう」

蒼介「そういう事情でペアをどうするか困っている姿が木下姉の目に止まった、という流れだ」




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不惑の迷ひ神

※ムッツリーニは愛子さんや小暮さん達の尽力により一命を取り止めました。


《……木下君、何か来るわよ》

《む。……これは唐笠お化けかの。しかし橘よ、どうして来るとわかったのじゃ?》

《武道を修めているとね、気配とかには自然と敏感になるのよ》

 

秀吉と飛鳥のペアは如何なる仕掛けにも臆することなく前進していく。ただでさえ精神的に強い二人な上、飛鳥が仕掛の気配を全て察知してしまうため悲鳴をあげそうな気配は微塵も無い。相手からすればたまったものではないだろう。

 

明久「これで問題なく進めるね」

雄二「だな。それにあの二人なら色仕掛けに引っかかることもないだろうし」

徹「ふむ、そろそろ着きそうだよ(モッチャモッチャ…)」

和真「……おい徹、なんだその見てるだけで胸焼けしてくるバカでかいパフェは?」

徹「ああこれかい?僕の芸術……ジャイアント・アウトスタンディング・ダイナマイトパフェ……略してGODパフェさ」

 

この暑い時期によくそんな物食べられるな……とか、そもそもそんなデケーもんどうやって持ってきたんだよ?まさか校内で作ったのか?……とか色々言いたいことはあるものの長くなりそうなので和真は放置することに決めた。ちなみに徹はついさっき順番を早めてくれるよう雄二に打診しに来た後、そのままFクラス教室で待機している。

 

雄二「すまんな大門、先にあいつらを突入させてしまって。秀吉達だけではチェックポイント通過は難しいと思うが、それでもある程度削れちまうだろうな」

徹「一向に構わないさ。むしろ戦死一歩手前まで削って欲しいものだね」

明久「あれ?和真から聞いたけど、大門君あの先輩に借りがあったんじゃないの?」

徹「確かに借りはあるけど、別に僕達だけで勝たなくてもいいじゃないか?たとえ事前にどれだけ消耗してようが……勝てるならばそれで構わない!」

(((器小っちゃ……)))

 

優子と和真と翔子の去年からの付き合い組を除くその場の全員がそう思った。おまけに根本やFクラスの生徒とは違ってしっかりとルールに則ってるあたりがかえって余計に彼のみみっちさを際立たせている。そうこうしている内に二人はチェックポイントに到達したようだ。

 

《あら?あなた方は……そうですか。女の子同士の組み合わせできましたか。それなら真っ向から勝負をするしかないようですね》

《むぅ……附に落ちん……》

《木下君、ここは抑えて》

《木下……?もしかして、あなたが木下秀吉……?》

《んむ?いかにもワシが秀吉じゃが?》

《私達の学友から話があるそうですよ。……常村君、木下君が着ましたよ》

《……ああ、わかってる》

 

 

小暮の呼び掛けとともに常夏コンビの片割れ、常村勇作が神妙な表情を浮かべつつ輪に入ってきた。和真は先日三年生達が挑戦状を叩きつけに来た日にその並外れた観察眼で常村の秀吉に対する感情を察知していたため、これから秀吉に降りかかる災難をいち早く予見する。

 

明久「なんだろう?秀吉対策かな?でも別にさっきの坊主先輩みたいに変な格好もしてないし、特に悲鳴を上げる要素なんて見あたらないけど」

和真「あー……ヤバいかもな、秀吉」

明久「え?何かわかったの?」

和真「まぁ、常村先輩に悪気は無いんだろうけど……これはなぁ……」

 

明久だけでなくその場の誰もが和真が何を言いたいのか理解できないでいると、モニター先では常村が秀吉に話しかけていた。

 

《来たか木下。待っていたぞ》

《ワシを持っていた?どういうことじゃ?》

《常村先輩、私達はこれから勝負なので……》

《大丈夫だ橘、時間は取らせねぇ。……いいか、木下秀吉》

《なんじゃ》

 

画面の中、常村が真剣な表情で秀吉に一歩近づく。そしてはっきりと、聞き間違えようのない口調で、秀吉に告げた。

 

《俺は……お前のことが好きなんだ》

 

実姉である優子以外の一同は初めて、秀吉の本気の悲鳴を耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「す、すまぬ皆……。このワシが、あれほどまでにみっともない悲鳴を……」

雄二「気に病むな秀吉。同性に……しかもあんなムサい野郎に真剣な顔で告白されたら悲鳴を上げるのも無理はない」

優子「アンタがあそこまで取り乱したのなんて何年ぶりかしらね……?」

秀吉「……『お前を想って書いたんだ』と言って自作のポエムを朗読されたのが一番苦しかったのじゃ……」

明久「確かにあれはね……『お前は俺を照らす太陽だ』なんてフレーズが聞こえた瞬間僕も意識飛んじゃったぐらいだし、直接聞かされた秀吉はさぞ怖かったろうね」

翔子「……和真は直前には気づいてたの?」

和真「直前どころかこの前からな。秀吉にとっては知らない方が幸せだと思って黙ってたんだがよ」

雄二「今回はそれが裏目に出たわけだな……」

 

もし常村の好意が嘘ならば演劇バカの秀吉が見抜けないはずないので、あの告白は本気の本気だったのだろう。秀吉と飛鳥の成績はどちらもトップ10にこそ入ってはいないものの、二年の中ではかなりのレベルである。それがまとめて潰されたのだからその被害は決して小さくない。

 

秀吉「できれば橘とパワーアップしたワシでCクラス突破を……それがならなくともせめて相手を消耗させるぐらいはしておきたかったのじゃが……すまぬ」

徹「気にする必要は無いよ。仇は僕達の手で取ってくるから。……というわけで坂本、久保と源太を送り出してくれ」

雄二「やっぱりお前はまだいかないのかよ!?」

 

格好いいことをいっておいて割と人任せな徹であった。そもそも徹はガッチガチの理系、不得意科目で万全の小暮達に勝てる確率はかなり低い。

 

美波「大門アンタねぇ……リベンジなんでしょ?そんなやり方で気が晴れるの?」

徹「ああ晴れるね!超スカッとしますけどダメですかー!?」

 

美波の呆れたような問いかけにも徹はまるでブレることはない。矮小さもここまで突き抜ければ逆に清々しい。

 

徹「……それに今回の僕の目的はリベンジマッチではないよ。流石にこんな方法では借りを返したとは言えない」

明久「え?じゃあなんで小暮先輩にこだわってるの?」

徹「丁度いい機会なのは事実だからね、僕が受けた屈辱の利子分くらいは今のうちに返しておこうと思ってさ」

(((半端じゃなくみみっちぃ……)))

 

『アクティブ』正規メンバーにしてAクラスの主戦力である徹は文句のつけようもない文武両道の優等生だが、器の小ささとみみっちさはかのFクラスをも上回る。和真以上に執念深く、さらに借りのある相手には決して敵愾心を消すことのない狭量さも兼ね備えているまさにキング・オブ・小物である。まあ見方によっては非常に面白い人物ではあるので、一年の頃クラスメイトだった三人(和真、優子、翔子)は慣れたこともあってまるで気にした素振りをみせない。

 

雄二「……まあお前が良いなら別に構わんが。おい、誰か久保達に伝達しにいってくれ」

徹「ああ、それなら僕が行くよ」

 

Eクラスの方で待機している源太達を徹が呼びにいった後、ふと雄二はある疑問が頭に浮かぶ。

 

雄二「なあ和真、久保はともかく五十嵐はアレを直視しても大丈夫なのか?」

和真「大丈夫だ。アイツはああ見えて理性で動くタイプだからな、そんな短慮な行動はしねぇよ」

雄二「……そういや合宿最終日、翔子と決着を着けた後は満足して帰っていたな」

和真「おまけにアイツ顔が怖いだろ?基本女子に怯えられたり避けられることが多いから、若干女性不振になりかけているんだよ」

明久「見た目と違って随分繊細なんだね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小暮「おや?今度は男子のペア……ですか?」

杏里「葵、この子達には多分、色仕掛けは無意味……」

久保「ええ。僕には心に決めた思い人がいますので」

源太「そう簡単に勝負を捨てられるほど俺様のプライドは安くないんでな…ます。そもそも女子に幻想抱いてるわけでもねぇし…です」

小暮(敬語が苦手なのですね……)「そうですか……。女として自信を無くしてしまいそうですが、それでは仕方ありませんね。竹中先生、召喚許可を」

竹中「承認します」

 

《《《《試獣召喚(サモン)》》》》

 

掛け声とともに召喚獣が喚び出される。小暮の召喚獣は姫路と同じサキュバス、そして杏里の召喚獣は巨大な妖怪・ダイダラボッチである。杏里の方の本質は、おそらく色々と大きいところが召喚獣に反映されたのだろう。

 

 

《国語》

『Aクラス 久保利光 446点

 Bクラス 五十嵐源太 213点

VS

 Aクラス 小暮葵 397点

 Aクラス 宮阪杏里 322点』

 

 

小暮(……現代国語も合わさると400点を切ってしまうのが口惜しいですね)

久保「五十嵐君、小暮先輩は僕が引き受ける!君は宮阪先輩相手に……なんとか持ちこたえてくれ!すぐ合流する!」

源太「先に言っておくが、この点差だとあんま保たねぇぞ!」

杏里「葵、早々に片付けて合流する……。それまで持ちこたえて……」

葵「あら、別に倒してしまっても良いのでしょう?」

 

切り裂きジャックがダイダラボッチと激突する傍ら、迷ひ神とサキュバスも互いを討たんと全力でぶつかり合う。

 

久保「はあぁっ!」

小暮「あらあら、まだ動きが固いようですわね」

 

訂正、小暮にぶつかり合うつもりは今のところ無いようだ。迷ひ神は果敢に飛びかかって行くもののサキュバスはそれを紙一重でかわしていく。久保の操作技術はお世辞にも秀でている方ではなく、ただでさえ二年の中でも平々凡々なレベルな彼だが、三年屈指の実力者である小暮との実力差は歴然であった。

 

小暮「そんな単調な攻めでは、私を捉えることはできませんよ?」

久保「…………」

 

迷ひ神はより激しいタックル仕掛けたがサキュバスは跳躍して迷ひ神の後ろをとる。反撃のチャンスとばかりにサキュバスはすかさず迷ひ神に殴りかかる。

 

久保「…今だ!」

小暮「っ!?これは…わたくしの召喚獣の動きが……遅くなった!?」

 

迷ひ神は前を向いたまま後ろに右手をかざし、掌から黒い霧の塊を発生させてサキュバスにぶち当てる。不意をつかれたサキュバスはその霧にぶつかってしまうものの、特にダメージを受けた様子は無い。

しかし明らかに先程よりも動きが緩慢になっている。まず間違いなく、迷ひ神の固有能力であろう。

 

久保「僕の召喚獣の能力、迷いの霧です。操作技術で劣ることなど重々承知していましたが……動きの鈍った状態ではそのアドバンテージも覆せます!」

小暮「くっ……不覚を取りました……!」

 

迷ひ神は好機とばかりに猛攻をしかける。サキュバスは応戦するも先ほどのような華麗な動きは見る影もなく、みるみる点数が削られていく。

 

《国語》

『Aクラス 久保利光 446点

VS

 Aクラス 小暮葵 223点 』

 

久保「……おっと、そろそろ効果が切れそうですね……迷いの霧!」

小暮(くっ…!流石にわたくし一人でこの状況はどうしようもないですね……)

 

サキュバスの動きが徐々に元に戻り始めたものの久保が手を緩めるはずもなく、再び霧に飲み込まれてしまう。小暮は単独でこの最悪の状況を打ち破るのは不可能である判断し、杏里の指示通り時間稼ぎに集中することに全力を尽くす。久保もそのことを察し、合流する前に決着を急ぐ。

 

久保「倒させてもらいます……!」

小暮「させません……!」

 

サキュバスは防戦一方になりつつもどうにか攻撃をしのいでいくものの、やはり次第に追い詰められていく。迷ひ神はやや攻めあぐねてはいるものの、その攻撃は確実に点数を削り取っていっている。

 

小暮「……!」

久保「これで、終わりです!」

小暮「ふふ…いいえ、ここからが本当の勝負です」

 

迷ひ神は満身創痍のサキュバスにトドメを誘うと突撃するものの、サキュバスにその攻撃が届く前に横からの衝撃で吹っ飛ばされる。

 

久保「なっ……!?」

杏里「葵、遅くなってごめん……」

小暮「いえいえ、グッドタイミングでしたよ」

源太「すまねぇ久保!あんまり削れなかった!」

 

迷ひ神を吹き飛ばしたのは、ダイダラボッチが投擲したジャックの死体であった。どうやら源太は倒されてしまったらしい。

 

《国語》

『Aクラス 久保利光 403点

 Bクラス 五十嵐源太 戦死

VS

 Aクラス 小暮葵 84点

 Aクラス 宮阪杏里 238点』

 

久保(少々まずいな、迷いの霧は一人にしかかけられない……ならば!)

杏里「させない……」

 

霧の効果が残っているうちにさっさとサキュバスを仕留めようとする迷ひ神に対して、そうはさせまいと言わんばかりにダイダラボッチが立ちはだかる。

 

小暮「杏里、わたくしの召喚獣にかけられた霧が収まるまで、なんとか時間を稼いでください」

杏里「了解……」

久保「くっ……リーチの差がありすぎる……!」

 

迷ひ神が迂回しようとしてもダイダラボッチの巨体からは逃げ切れない。諦めてダイダラボッチに突撃するも、長身から降り下ろされる拳に迷ひ神は翻弄される。杏里は慌てて攻めることはせずあくまで時間稼ぎに徹しているようで、久保からすれば厄介なことこの上ない。

 

小暮「……杏里、足止めありがとうございます。霧も晴れたのでわたくしも戦線に復帰しましょう」

杏里「わかった……」

久保(くっ……絶体絶命だ……!)

 

勝負の流れは完全に三年側が掌握した。ダイダラボッチから降り下ろされる拳に気をとられているとサキュバスに蹴り飛ばされ、サキュバスと応戦していると上からダイダラボッチに殴り倒される。しかもこの二人、これだけサイズの違う召喚獣達で乱戦に持ち込んでいるのに、同士討ちが一度も無いほどの抜群のコンビネーションを発揮している。もはやこれは戦争ではなく一方的な蹂躙にしか見えない。

 

《国語》

『Aクラス 久保利光 194点

VS

 Aクラス 小暮葵 84点

 Aクラス 宮阪杏里 229点』

 

小暮「ふむ、高得点なだけあって丈夫ですわね」

杏里「でも、もう抵抗は無意味……」

久保(すまない吉井君……皆……どうやら僕はここまでのようだ……)

 

迷ひ神は後退して二体から距離を取る。すかさずサキュバスとダイダラボッチはトドメを刺すため突撃してくる。

 

久保(……だけど安心してくれ。

せめて……せめて片方は、道連れにするから!)

 

迷ひ神はダイダラボッチに迷いの霧を投げつける。巨体が災いしてかわすことができず、そのままダイダラボッチの動きが鈍重になる。

 

小暮「その技は片方にしか使用できないことは読めています!杏里を封じたのはお見事ですが、このわたくしをお忘れではないでしょうか!?」

久保「忘れてなんかいませんよ……

ただ、無視させてもらいます!」

 

迷ひ神はダイダラボッチに向けて全力で突撃した。途中サキュバスから攻撃を受けるもお構いなしに突っ込んでいく。

 

杏里「……っ!まずい……」

久保「うぉおおおおお!!!」

葵「この子、勝敗を度外視して……くっ、早く仕留めなければ!」

 

迷ひ神は動きの遅くなったダイダラボッチの足元を一心不乱に殴り続ける。その愚直さは道に迷い果てた魂の成れの果てとは思えないほど迷いの無いものであった。後方からサキュバスが追撃をしかけるものの、久保はお構いなしに猛攻を続けさせた。

これが久保の真骨頂、回避も防御も度外視して相手の点数を削りきることを考える、和真とはややベクトルが違うものの超攻撃的スタイルである。

 

その削り合いは長くは続かず、あっという間に決着が着いた。

 

 

《国語》

『Aクラス 久保利光 戦死

VS

 Aクラス 小暮葵 84点

 Aクラス 宮阪杏里 55点』

 

先に倒れ伏したのは迷ひ神。我慢比べの途中に迷いの霧の効果が切れ、迷ひ神はダイダラボッチに殴り殺された。

この勝負、杏里達に軍配が上がった。

 

小暮「……惜しかったですね」

杏里「恥じることは無い……二対一の状況では充分大健闘……」

久保「……ええ。悔しいですが、試合も勝負も僕の完敗です。……ですが、」

 

そこまでで久保は一旦言葉を切り、眼鏡を手で押し上げながら和真に似た不敵な笑みを浮かべる。

 

久保「“僕たち二年”は負けてませんよ」

「「サモン!」」

 

《国語》

『Aクラス 大門徹 332点

 Aクラス 佐藤美穂 308点

VS

 Aクラス 小暮葵 84点

 Aクラス 宮阪杏里 55点』

 

小暮「なっ……!?」

杏里「しまった……!」

 

久保が言葉を言い終えると同時に、徹と佐藤が物陰から姿を表し、間髪入れずに召喚獣を喚び出す。徹の召喚獣は一寸法師、佐藤の召喚獣は妖精だ。小暮達は必死に応戦するものの久保との戦いで既に満身創痍になっているため、操作技術のアドバンテージをフルに発揮してそこそこ善戦したものの、最終的に二人とも討ち取られた。

 

《国語》

『Aクラス 大門徹 223点

 Aクラス 佐藤美穂 184点

VS

 Aクラス 小暮葵 戦死

 Aクラス 宮阪杏里 戦死』

 

佐藤「……まさか、あの状態からここまで食い下がられるとは」

徹「どうやら先に久保達を向かわせた判断は正しかったみたいだね。……しかし先輩方、勝負に熱くなるあまり趣旨を間違えてしまいましたね。これは決闘ではなく戦争ですよ?」

杏里「返す言葉もない……」

小暮「まったくです。これでは召喚大会のときのリベンジをされた形になりますね」

徹「なりませんよ?僕の望むリベンジは誰が見ても文句のつけようのない完全勝利ですから。しかし客観的に見て今の僕ではまだあなたには及ばない。だから……受けた屈辱の利子分だけでも返しておこうと思いましてね。いやぁ気分爽快、はっはっはっはっは」

(((う……器小っさ……)))

 

心の底から清々しそうに笑う徹を見て、三年生二人だけでなく久保や佐藤や源太、そしてモニター越しで観戦している生徒達の心も一つになった。

まあ、とにもかくにもこれでCクラスも制覇したことになる。残るチェックポイントはあと2つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓「ふむふむ、中々見ごたえのある闘いやったな。……それじゃあ皆、あとは高みの見物でもしといてや」

『……ねぇ梓、本当に良いの?』

『常村達はガチガチの理系だろ?あのバカコンビには勝てるだろうが、その後に確実に突破されるんじゃないか?』

常村「まぁ、それは否定しねぇよ」

夏川「俺達も社会科目じゃ、アイツらをぶっ倒すのが精一杯だ」

『だったらなおさら見物とかしてられないんじゃないか?残りの奴ら全部佐伯と高城に任せるっていうのもなあ……』

梓「ククク、まあウチらに任せとき♪一切合財一人残らずぶちのめしたるさかい」

 

これまで試召戦争が行われるたび、数多の屍山血河を築きあげてきた3-Aの最高戦力は、自信満々にそう宣言した。

 

   

 




蒼介「前回あれだけ前振りしていたのに、今回久保がメインじゃないか」

和真「まぁまぁ、終わりよければすべて良しってね」


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遠回り

蒼介「一応補足しておくが、召喚獣は異なるが指し示す佐藤と大門の本質はどちらも『小さくて可愛い』だ」

和真「徹は召喚した当初大分怒り狂ったみたいだぜ。試験召喚システムよぉ……流石に3㎝はあんまりじゃねぇか?」


徹・佐藤ペアがチェックポイントを撃破したことで、残るはAクラスのみとなった。

間違いなく次のチェックポイントには常夏コンビが、最後のチェックポイントには梓がいるだろう。対戦の約束をしているため、雄二は送り込んだ人達にCクラスを制覇したら一旦戻ってくるよう指示している。

 

雄二「……よし、いくぞ明久」

明久「了解。チェックポイントに到達するまでに悲鳴を上げて失格になったりしないでよ?」

雄二「心配ない。島田達に処刑された後のお前よりグロいもんなどそうそう無いからな」

明久「そうだね。霧島さんにお仕置きされた後の雄二より凄惨な光景なんて考えもつかないよね」

「「はっはっはっはっは…………はぁ……」」

 

お互い自分の環境の壮絶さに気が滅入りつつ、明久達はAクラスに突入した。Aクラスはその広すぎる面積のせいか(なんとDクラスの六倍もある)あまり手の込んだ装飾もされてない。おそらく広さを活かした迷路とお化けになっている召喚獣が突然現れるというシンプルな造りなのだろう。しかし二人は教室の様子にある違和感を覚えた。

 

明久「なんだか……人の気配がほとんどしないね?」

雄二「気配を消してる可能性もあるが……そんなムッツリーニみたいなことができる奴がそうそういるとも思えねぇし……どうなってるんだ?」

 

そんな風に二人が疑問に思っていると、どこからか女子の声が聞こえてきた。肝試しテイストのおどろおどろしい呻き声とかではなく、舌足らずながらもどことなく老獪さを内に秘めたような声色で。

 

『あー、あー。今入ってきた二年生の子らー。多分吉井君と坂本君やろうけど、聞こえとるかー?』

明久「この声、この口調……」

雄二「間違いなく佐伯先輩だな。いったいなんだってんだ?」

『この教室ではセンサーとか外しても構へんでー、もうお化けとかけしかける気無いし。せっかく最終ステージやってのに悲鳴上げて終わりなんて興醒めもエエとこやろ?小細工なしのガチンコで勝負しようや(ブツッ)』

 

二人が目を凝らして辺りを探がすと、少し離れた場所にカセットデッキらしきものが設置されていた。どうやらあらかじめ録音されたテープを流していたらしい。

 

明久「雄二、向こうが良いって言うんだからお言葉に甘えておこうよ」

雄二「無論そのつもりだ。……しかしあの先輩、思ってたよりずっと自信家だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路「ふぅ……助かりました……」

秀吉「しかし、なんでまたあんな提案してきたんじゃろうな?」

翔子「……どう考えてもこちらに有利過ぎる」

優子「もしかして……舐められてるとか?」

美波「そうだとしたらちょっと頭にくるわね……!」

 

Fクラス教室でも梓の行動を不可解に思っていた。これはお互いのプライドをかけた戦いではなかったのか、と。

しかし梓の人となりをよく知っている飛鳥と和真には梓の真意を理解できた。

 

和真「舐めてるのとは少し違ぇよ。ありゃ圧倒的な実力に裏打ちされた自信だ」

優子「……?どういうことよ?」

和真「雄二達が勝つにしろ負けるにしろ、常夏コンビ担当のチェックポイントは早かれ遅かれ通過できるだろ。となると残っているペア全て梓先輩と、おそらく高城先輩が受け持つわけだが……」

飛鳥「……梓先輩は、それら全てを返り討ちにするつもりよ」

「「「っ!?」」」

 

現在残っているペアは雄二・明久ペア、和真・優子ペア、姫路・翔子ペア、徹・佐藤ペア、美波・清水ペア、その他3ペアほど……二年トップ10が7名を始めとしたそうそうたる面子である。和真達の言葉が真実なら、梓はそれら全てを撃破するつもりでいるらしい。

 

美波「流石にそれはおかしいわよ……。あの先輩、自分の力を過信し過ぎじゃない?」

和真「それがそうでもねぇんだな。……清涼祭の召喚大会で実際に闘って思ったことがある。

 

あの先輩は……桁違いに強い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「ぃようセンパイ。待たせたな」

夏川「遅かったじゃねぇか坂本。目上の人間をあまり待たせるもんじゃねぇぞ」

明久「それはすみませんね。日々忙しい先輩達は時間が貴重なんですね?」

常村「当たり前だろ。これでも受験生だ」

 

梓の通達通り三年生達は何も仕掛けてこなかったので、明久達は複雑な迷路を悠々と突破してチェックポイントまでたどり着いた。明久達を出迎えた常夏コンビの二人には、清涼祭のときのような小物臭い言動は見当たらない。

 

雄二「受験……ねぇ?推薦状欲しさにこの学園を潰そうとしたことのある人達が随分真面目になったもんだな?」

常村「お前らのお友達に自分達の情けなさを気付かされてな。……後輩にあんなこと言われて奮起しないようじゃ人間として終わってるからよ」

夏川「……清涼祭と言えば、お前らにも言っておかなきゃならないことがあったな」

明久「な、なんですか……?」

 

何を仕掛けてくるのかと警戒していた明久は思わず身構える。すると、夏川と常村はややばつが悪そうな表情で頭を下げてきた。

 

常村「……清涼祭のときはすまんかったな。お前らの模擬店の邪魔しちまってよ」

夏川「ずっと謝ろうとは思ってたんだが、なかなか機会が巡ってよぉ……」

明久「…………ねぇ雄二……」

雄二「…………言いたいことはわかるぞ明久」

「「……?」」

明久「この変態コンビに殊勝な態度を取られると…」

雄二「気持ち悪いな、サブイボな吹き出るわ」

「「んだとコラァァァァァ!」」

 

やや申し訳なさそうな表情から一転、憤怒の形相に変わる常夏コンビ。まあ人がせっかく誠意を見せているのにあんな罵倒を受ければ、怒るのも無理ないだろう。

 

常村「お前ら先輩に向かって……いや仮に先輩じゃなかったとしてもその反応はあんまりだろ!?」

夏川「こちとらガラでもねぇと自覚しつつもやりきったんだぞコラァ!」

明久「いや、だってねぇ……これ、もう一種のホラーだよね?」

雄二「ああ、これまでのどんな仕掛けよりも恐怖を感じるぜ……」

「「テメェェエェェ!!!」」

 

常夏コンビの顔が真っ赤になっていくに反比例して、雄二達の顔がどんどん青ざめていく。よほど薄気味悪いことだったのだろう。

 

常村「あー、やっぱやめときゃよかった!やっぱこんなバカどもに謝る必要なんざ微塵もなかったわ!」

夏川「こんなクズとカスと不細工とゴミを足したような汚物みたいな奴らに謝ろうとした俺達がバカだった!」

「「なんだとこのヤロォォォオオオ!」」

 

今度は明久達が常夏コンビに食ってかかる番だ。どうでもいいが、もし今センサーを着けていたとしたら明久達は文句なしに失格していただろう。

以下、四人の不毛な言い争いがしばらく続いたが、最終的に立会人の田中先生の仲裁により一旦落ち着いた。

 

常村「こうなったら、召喚獣で実力の違いをわからせてやる!」

雄二「上等だ!白黒ハッキリつけてやろうじゃないか!」

夏川「先輩の恐ろしさを身を持って思い知れ」

明久「ふふん、いつまでもバカのままだと思ったら大間違いですよ!」

 

《《《《試獣召喚(サモン)!》》》》

 

それぞれの足元に幾何学模様が出現し、オカルト召喚獣が姿を現す。夏川と常村の召喚獣はそれぞれ風神と雷神。本質は荒っぽいコンビといったところであろう。明久はデュラハンの首を雄二の召喚獣に見せて狼男に覚醒させる。これで準備は全て整った。

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 322点

334クラス アレクサンドロス大王 274点

VS

 Aクラス 常村勇作 298点

 Aクラス 夏川俊平 282点』

 

「「……………………」」

明久「さぁ勝負だ!僕達の強さを見せて-」

夏川「……おうコラ。ちょっと待てそこのバカ」

明久「……何か不都合な点でも?」

常村「不都合な点しか見あたらねぇよ……」

 

夏川が頭に手を当てて呆れる。

今回のテスト方式では社会は事前に二教科を事前に選んでその平均点となる。明久は日本史と例の世界史を選択したのだが、どうやら試験召喚システムはおそらく五十音順で名前を統一したようだ。

明久が何か言い訳のために口を開く前に、夏川が怒鳴り声をあげる。

 

夏川「何だよアレクサンドロス大王って!?しかも334クラスなんて学校拡張し過ぎだろ!?明らかにこれはお前の点数じゃねぇだろうが!」

明久「ち、違いますよ!ちょっと間違えちゃっただけで、これは正真正銘僕の点数です!名前のミスなんて誰もが一度はやることじゃないですか!」

夏川「無記名ならともかく、何を間違えたら名前がアレクサンドロス大王になるんだ!?」

明久「そ、それはその、えーと……」

 

どのような弁解しようが明久が空前絶後のバカであることは、もはや覆しようの無い事実であろう。

 

雄二「……はぁ……。いい加減茶番は終わりだ、闘いを始めるぞ!」

常村「っ!?このっ……!」

 

どっちらけた空気に業を煮やした雄二が狼男を突撃させる。若干不意を突かれたものの雷神はなんとか応戦する。

 

夏川「……仕方ねぇ。それじゃこっちも始めようじゃねぇか、アレクサンドロス大王様よぉ!」

明久「ごめんなさい先輩!今までのことは謝りますからその呼び方だけは勘弁してください!」

夏川「泣くなよそれぐらいで!?……チッ、仕方ねぇな。それより吉井、さっさとその頭をその辺に置いてこい。待っててやるからよ」

明久「え?いいんですか?」

 

以前雄二と和真がいった通り、デュラハンの頭部は弱点そのものだ。放置したら狙われてダメージを受けるし、抱えて闘うと片手が使えなくなる。わざわざその弱点を潰すような真似をする理由が明久にはわからなかった。

 

夏川「あんまり先輩を見くびんなよ?後輩相手にハンデなんざいらねぇんだよ。ましてやお前みたいなバカ相手にはな」

明久「色々と言いたいことはありますけど、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

デュラハンは召喚フィールドの端まで移動し、頭部をそこに置いてからまた戻ってくる。すると吹っ飛ばされた狼男がデュラハンの側に転がり落ち、狼男と交戦していた雷神が風神の隣に立つ。

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 268点

334クラス アレクサンドロス大王 274点

VS

 Aクラス 常村勇作 284点

 Aクラス 夏川俊平 282点』

 

 

明久「雄二、結構削られたね?」

雄二「うるせぇ!くそっ、流石に三年なだけあって操作になれてやがるな……」

常村「観察処分者の吉井はともかく、点数が近けりゃ二年にそうそう遅れはとらねぇよ」

夏川「さてとそれじゃあ……連係ってもんを見せてやろうじゃねぇか!」

 

夏川の言葉を皮切りに、風神と雷神は互いに交差しながら突撃してくる。デュラハンと狼男も応戦しようと構えを取るが、風神と雷神は直前に狼男に標的を集中させる。

 

雄二「しまっ!?」

明久「このっ……!」

 

風神と雷神は高速で狼男の周りを疾走しながら攻撃を加えていく。狼男は素早くも精密な動きについていけず、デュラハンも外側から攻撃を加えるもののなかなか攻撃がヒットせず、大したダメージには至らない。

 

雄二「いい加減にしやがれっ!」

常村「おっと!」

夏川「あぶねーあぶねー」

 

狼男はある程度のダメージ覚悟で突撃するも、風神と雷神は素早く離れて距離を一旦距離を取る。

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 152点

334クラス アレクサンドロス大王 274点

VS

 Aクラス 常村勇作 263点

 Aクラス 夏川俊平 252点』

 

 

流れはかなり常夏コンビに向いている。雄二は状況を打開するため明久に指示を出す。

 

雄二「明久ぁ!白金の腕輪だ!」

明久「了解!二重召喚(ダブル)!」

 

幾何学模様とともに二体目のデュラハンが現れる。ちなみに東部は一体目の頭部の近くに召喚された。どうやら召喚システムは意外と空気が読めるらしい。

 

常村「その腕輪の能力は知ってるぜ!」

夏川「二体を召喚できようが、いくら操作に慣れてるからって同時に操るなんてできねぇだろ!?」

明久「確かにまだ複雑な動きには慣れていませんが……」

 

風神と雷神は再び交差しながら距離を詰めてくる。すると二体のデュラハンは先ほど夏川達がしたように片方の召喚獣に焦点を合わせて斬りかかる。

 

明久「……攻撃をただ一点に集中させればそう難しくはありませんよ!」

常村「なっ!?」

 

二体から攻撃を受けた雷神は吹き飛ばされ、すかさずデュラハン達は追撃を加えるため突撃する。

 

夏川「常村!?今助けに…」

雄二「いかせねぇよ!」

 

援護に向かおうとした風神に狼男が横槍を入れる。さっさとカタをつけてしまいたいところであるが、夏川は少し離れた場所で二体のデュラハンに翻弄されている雷神が気になって集中しきれず、思わぬ苦戦を強いられる。

 

夏川「信じられねぇ……なんで一人の人間が二つの身体をあんなに上手く使えるんだ!?」

雄二「……バカってのは面白いよなセンパイ。一つのことに夢中になると、それに対してとんでもない集中力を発揮しやがる。空手バカとか剣道バカなんて呼ばれてる連中もいるが、そこで言われるバカってのは『物事に集中するヤツ』っていう褒め言葉なんだよ」

夏川「……なるほどな、それがお前らの強みってやつなのかよ……」

雄二「心外だなセンパイ。俺をあんなバカとひと括りにしないで貰おうか」

明久「……それはこっちの台詞だよ」

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 122点

334クラス アレクサンドロス大王 235点

VS

 Aクラス 常村勇作 戦死

 Aクラス 夏川俊平 193』

 

 

気がつけば、風神の首筋に二体のデュラハンが大剣を突き付けていた。

 

雄二「……思ったり早かったじゃねぇか」

明久「鉄人との対決以降、コツを掴んでね」

常村「……すまん、夏川」

夏川「気にするな、多分俺でもどうしようもなかった。……ここまでだな、殺れ」

明久「……僕達の、勝ちです」

 

デュラハンが風神の首を跳ね、第四チェックポイントの戦いに幕を下ろす。

 

常村「まさかお前ら……特に吉井がここまでやるとはな」

明久「ふふん、そうでしょう?このまま最後のチェックポイントも制覇してやりますよ」

夏川「あんま調子乗んなバカ」

常村「少しは自分を省みろバカ」

雄二「センパイ達の言う通りだバカ」

明久「雄二キサマどっちの味方なんだよ!?」

 

四人「「「「…………ぷっ……くく……あっはっはっはっはっは!!!」」」」

 

腹を抱えて笑い合う四人の間には、昨日まであった溝やわだかまりなど影も形も無かった。ここまでくるのに随分遠回りしてしまったが、もう以前のように険悪なことにはならないだろう。

 

夏川「……ただまぁ、あんまり調子に乗らない方が良いのは本当だぜ」

常村「確かに俺達は負けたが、三年が負けたわけじゃないからな。俺達にはまだ佐伯と、ついでに高城がいる」

明久「う……やっぱり強いんですかあの先輩?」

雄二「つっても俺達の戦力もまだ大分残ってるし、あのセンパイともう一人だけじゃ流石にどうしようもないだろ」

明久「それもそうだよね。それじゃ先輩方、僕達は先に進むので」

 

状況を理解しておらず楽観的に進んでいく二人を、常夏コンビは同情の眼差しで見送った。

 

常村「……まあ実際に闘ってみればわかることだ」

夏川「ああ、アイツら……特に佐伯の強さは……ハッキリ言って別次元だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 




※「常夏コンビ後に改心」のタグを追加しておきます。



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三年ツートップの実力

【バカテスト・国語】

次の文章を読んで後の問いに答えなさい。

「定吉はどこに行ったんだ」
次平が尋ねると、太郎は肩を竦めて答えた。
「お菊のところだよ。十年来の恋心を得意の和歌にして伝えてくるんだとさ」
それを聞いて次平が眉を顰める。
「恋の和歌ときたか。それなら結果は知れたようなものだな」
「違いない。あいつの歌は下手の( )だからな」

問①( )に正しい語句を入れて下手の部分の慣用句を完成させ、その意味を答えなさい。
問②結果とはとのような結果なのか。次平と太郎が予想している結果を答えなさい。


姫路の答え
『問① 下手の(横好き)
 意味:下手であるにも関わらず、その物事にやたらと熱中していること
 問② 下手な和歌で失敗してしまって、定吉の想いは成熟しないという結果』

蒼介「正解だ。この文脈で他に当てはまる慣用句としては、下手の真似好きというのもある。どちらの慣用句であろうとも低い技量を示すため、次平と太郎の二人が予測する結果は失敗であることがわかるな」


吉井明久の答え
『問① 下手の(一念)
 意味:へたくそでも一生懸命頑張ること
 問② へたくそでも自分の為に一生懸命歌う定吉の姿に、お菊はきっと心を動かされるに違いないという予想』

蒼介「決して正解とは言えないが……私はこの解答、正直嫌いじゃない」


明久「もうそろそろチェックポイントかな?」

雄二「だな。流石に俺達だけで倒すのは難しいだろうから、ある程度削ってからちゃっちゃと終わらせようぜ」

明久「雄二、気軽に言うけど僕にはフィードバックがあるんだからね?」

雄二「そんなもん大した問題じゃないだろ……っと、着いたか」

 

雄二達がいつものように他愛ない軽口を叩き合っている内に、最終チェックポイントに到達した。そこには立会人の高橋先生に、三年の総指揮を行っていたらしき梓ともう一人、明久達とは面識のない男子生徒がスタンバイしていた。

その男子生徒はスラリと背が高く細面に切れ長の目という、とても整った顔立ちをした格好いい男子生徒だった。おそらくはルックスで比肩する男子は二年でも蒼介ぐらいだろう……和真や徹は方向性が違うので除外する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美形は死ね!』

『そうだ!あいつみたいなのがいると俺達のブサイクが目立つだろうが!』

『この学校に美形は俺一人で十分なんだよ!』

 

教室では復活したFクラスの面々が敵意丸出しの罵声をモニターに飛ばしていた。この光景を見て彼らが進学校の生徒だと信じる者は皆無だろう。

 

和真「お前らホントわかりやすいな……」

優子「清々しいほど徹底したクズっぷりね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐伯「よう来たなアンタら。……あ、高城は初対面やったよな?せっかくやから挨拶しとき」

高城「そうですね佐伯嬢。始めまして吉井君、坂本君。高城雅春と申します」

明久(うわ、凄い……あんなTVでしか見ないような一礼をして挨拶する人、生まれて始めて見た)

雄二「あーそれは良いんだが……その慇懃な話し方はとある腹黒教師を思い出すから、できれば普通に話してくれないか?」

明久(綾倉先生だね……)

梓(綾倉先生やな……)

高城「ご気分を害したなら謝りましょう。ですが、この喋り方は小暮嬢の指示ですので」

明久(小暮って……ああ!さっきのエロい先輩か!)

雄二「ん?どういうことだ?」

梓「高城、その辺にしとき-」

高城「小暮嬢曰く、『こういった話し方の方が賢く見える』と」

「「…………」」

佐伯「……ハァ……」

 

思わず明久達が閉口するなか、梓はやってしまったとばかりにこめかみに手を当てて溜め息をつく。

 

雄二「……高城とか言ったな?アンタ、もしかして頭が悪」

梓「そんなことないで坂本君。こう見えても高城は三年生の首席なんやで?」

「「三年生の首席!?」」

高城「はい。僭越ながら私めが第三学年の首席を務めさせて頂いております」

 

まあ確かに余裕のある立ち振舞いやシャープな顔つきからは優等生であることが伺い知れる。

 

高城「首席であれば、騙されやすいバカだということがバレない……と伺ったので」

梓「高城、頼むからウチがフォローできる範囲で喋ってくれへん?葵からしっかりサポートするよう頼まれとるけど、そんな好き勝手やられたらカバーしきれへんわ」

 

しかしどうやら中身はとても残念な人のようだ。二年首席の蒼介が弱点の見当たらない完璧超人であることも、高城の残念さ具合をより一層際立たせている。

 

梓「……これ以上身内の恥を露呈したないからもう始めようや……先輩からのお願い」

明久「あ…そ、そうですね」

雄二「悪かったな、色々と…」

梓「おおきに……っちゅうわけで高橋先生、召喚許可をお願いしますわ」

高橋「承認します」

「「「「試獣召喚(サモン)」」」」

 

四人の足元に幾何学模様が展開され、オカルト召喚獣が姿を現す。明久と雄二の召喚獣はご存じデュラハンと狼男。そして梓と高城の召喚獣は瓢箪を腰に差した巨漢の鬼と、着物を着て扇子を口に当てて妖艶に微笑む、黄金に輝く九本の尻尾が特徴的な狐の妖怪。

 

明久「二人とも見るからに強そうだね……」

雄二「酒呑童子に玉藻御前……日本三大妖怪の二体とは、ラスボスに相応しいラインナップだな」

梓「せやろー?ちなみに召喚獣に現れた本質は多分、『騙されやすい』と『嘘つき』やでー」

雄二(多分……いや間違いなくこの先輩は、高城先輩とやらを幾度となく騙してるな……)

明久(そう言えば和真も言ってたっけ、佐伯先輩が大嘘つきだって……)

 

人間に騙されて討ち取られた鬼と、素性を偽り人を惑わせいくつもの国をを混乱に陥れた傾国の妖怪。本質の相反する者同士が肩を並べているのはなんとも奇妙な光景だ。

 

高城「ええ、そうでしょうね。なにせ佐伯嬢は去年も今年も、私を騙して面倒事を押しつけ続けていますものね……グスッ……」

((やっぱり……))

梓「……スマン、悪かったから。もう騙したりせんから泣くなや、な?」

高城「……グスッ……約束ですよ?」

梓「わかったわかった」

((これも多分、嘘なんだろうな……))

 

これまでの僅かなやり取りで、明久達は高城と梓の関係をだいたい把握したようだ。遅れて四人の点数が表示されるものの、その点数は明久達にとって不可解極まりないものであった。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 吉井明久 1392点

 Fクラス 坂本雄二 3265点

VS

 Aクラス 高城雅春 4306点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

明久「ど……どういうことなんですか!?なんで佐伯先輩の点数、首席の高城先輩より……」

雄二「……まさか、高城先輩が首席だってのも嘘だったのか?」

梓「それは流石にホンマやよ。現に振り分け試験の結果は高城の方が上やったしな」

高城「お恥ずかしながらこの間の期末テストで抜かれてしまいましてね。しかし坂本君、クラス代表が必ずしもそのクラスでずっとトップでいられるとは限らないことは、貴方も重々承知しているはずですが?」

雄二「ぐっ……そうだな……」

 

脳裏に三人の化け物じみたクラスメイトを浮かべながら雄二が呻く。確かに新学期に学年首席と認定されたからといって、ずっと首席のままでいられるかは本人と周りの人間次第だろう。

 

梓「いやー、ウチはインターハイの結果が功を奏して栄応大の推薦貰えたから受験勉強なんてやる必要ないんやけどな、和真に負けっぱなしで卒業すんのもどうかと思うやん?せやからこの前の期末試験、割とマジで頑張ってみたんや」

明久「……あれ?橘さんはインターハイ期間だからテスト期間中も柔道の練習に励んでたって和真に聞きましたけど、佐伯先輩は練習してなかったんてすか?」

梓「テスト期間はテスト勉強を優先すべきやろ学生は。第一、柔道はそんな根詰めてやらんでも普通に勝てるしな」

雄二「マジかよ……」

 

ちなみに佐伯梓の高校通算成績はまさに常勝無敗、公式戦練習試合問わず、ただ一点の黒星すらなかったという。飛鳥が血反吐を吐くほど死に物狂いで鍛えてようやく勝ち取った栄光をなんでもないかのようにかっさらったこの女子を見ていると、才能というものがいかに残酷かがよくわかる。

 

高城「戯れはこの辺りにして、そろそろ始めましょう」

明久「それもそうですね。負けませんよ!」

梓「……あー、吉井君。アンタには先に謝っとくわ」

明久「ほぇ?何をですか?」

梓「アンタ、召喚獣がやられるとダメージがフィードバックするんやろ?」

 

梓の言葉に呼応するかのように、金色に輝く九本の尻尾全てが藍色に怪しく輝きだす。玉藻が生み出したその光景を視認した雄二は、筆舌に尽くしがたい悪寒が全身に走ったのをのを感じる。言葉ではうまく説明できないが、何やらヤバイ事態であることは間違いない。

 

明久「へ?……ええそうですけど……」

雄二「……まずい!?明久避け-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓「多分、凄く痛いから」

 

その瞬間デュラハンは蒼い業火に焼き尽くされ、その瞬間明久の意識は凄まじい激痛に耐えきれず途絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………っ!?」」」

 

モニターで四人の対決を見物していた和真達は皆、一瞬の出来事にまるで理解が及ばず絶句する。画面には気を失った明久が倒れ付している。始めに金縛りから解かれたのは、明久に好意を向けている二人であった。

 

姫路「明久君っ!?起きてください明久君!」

美波「いったい何が起こったのよ!?なんでアキが倒れてんの!?」

秀吉「落ち着くのじゃ二人とも!あくまでフィードバックで意識を失ってるだけじゃ!」

 

思わず取り乱す二人を秀吉がどうにか宥めている一方、モニター先では雄二の狼男が玉藻御前に突撃していた。しかし再び九本尾が怪しく光り、狼男はデュラハンと同じように蒼い炎に焼き尽くされた。高得点が幸いしてなんとか耐えきることができたが、次の瞬間その巨体からは想像できない身のこなしで接近してきた酒呑童子に殴り殺されて、二人の敗北は決定した。

 

優子「和真、これって……」

和真「……おそらく、梓先輩の召喚獣が持つ固有能力。召喚獣が九尾であることから考えるとあれは……」

翔子「……狐火」

和真「だろうな。問題なのは、九本の尻尾それぞれから発射された九つの炎が……明らかに遠隔操作されてることだ」

徹「確かに吉井達を囲むように着弾してたけど……もしそうだとしたら、佐伯先輩は九つの狐火を同時に操れるとでも言うのかい!?いくら何でもそんな芸当が……」

和真「そんな芸当ができるからこそ……あの人は常勝無敗だったんだよ」

 

佐伯梓、これまで試召戦争の成績は、数えきれないほどの勝利に対し黒星はたったの一度……召喚大会で和真達が土をつけたあのときのみ。その戦果を可能としているのは点数云々よりも明久と同等以上の精密な操作技術にある。

 

翔子「……並列思考能力が桁違いに高い」

和真「だな。明久も合宿以降ある程度身に付けている力だが、あれは次元が違い過ぎる。あんな芸当は多分……ソウスケでも無理だろうな」

 

おそらくあの九つの狐火を飛ばす技は砲撃のような使い方が正しいのであって遠隔操作機能は精々照準を補正するためにあり、間違っても射出した炎を全て手動で操るような複雑怪奇な使い方をするものではない。梓の使い方はガトリング砲で精密射撃を行っているような、極めて荒唐無稽な使用方法だである。

 

和真「…………島田、明久を回収するついでに仇を討ってこい。ここにいるメンバー以外の残りのペアもついでに連れていけ」

美波「わかったわ、任せなさい!」

 

指示する役を雄二に任されている和真は何を思ったか美波にそんなことを指示した。美波は特に疑問を抱くことなく鼻息を荒くして教室を飛び出していったが、その場のメンバーはなぜ和真がそんな指示を出したのかわからないでいた。全員を代表して優子が問いかける。

 

優子「和真、なんであんな指示を出したの?どう考えても無駄死にするだけじゃない……」

和真「今はとにかく情報が欲しい。綾倉先生からオカルト召喚獣の能力の仕組みを聞いているが、梓先輩はまだ奥の手を隠している。高城先輩に至ってはほとんど何もしてないしな」

優子「ああ、捨て石に使うってわけね……」

和真「多分残しておいてもそれ以外には役に立たねぇだろうしな。あんな狐火が使えるなら、たとえ残り点数が1でもどうとでも逆転できそうだ。だったら今ここで使い潰しても惜しくもなんともねぇだろ?」

優子「アンタねぇ……」

 

暴君ここに極まれりだが言っていることは割と理にかなっているので、優子はもう何も言わないことにした。

 

和真「さあて、お手並み拝見だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、和真の目論見は見事に失敗した。投入したペア達は何の新情報も引き出せず次々と狐火に焼かれて散っていく。そして今、美波・清水ペアが闘っているのだが……

 

 

《甘いでーお嬢ちゃん》

《あぁ!?ウチの召喚獣が!?》

《おのれ!よくもお姉さまの召喚獣を!》

《貴方に人の心配をしている余裕があるのですか?》

《きゃぁあああっ!?》

 

 

……たった今脱落したところである。幾多の試召戦争を潜り抜け、さらに期末試験で大幅にパワーアップした美波と、つい最近Fクラスを(ある意味)苦しめた清水がまるで赤子の手を捻るようにぶちのめされてしまった。残っている三ペアは当然のごとく明久をその場に放置して教室に戻ってきた雄二と、今後どのようにするか方針を話し合っている。

 

雄二「くそっ、あんな隠し玉があるとはな……!」

和真「……あの狐火、想定より遥かに厄介だな」

優子「あれじゃあ遠距離攻撃を持たない召喚獣に勝ち目は無いわね……」

佐藤「となると……少なくとも最低一人は4000点オーバーである必要があるわね」

徹「つまり、残った三ペアにはうってつけというわけか」

翔子「……雄二の仇は私が討つ」

姫路「明久君の無念は、私が晴らしますっ」

和真「おうとも、ここからは二人の弔い合戦だ」

雄二「いや、俺も明久も死んでないからな?……じゃあ次は、誰が行く?」

徹「では僕達から突入するよ。正直勝つ見込みは無いが、削れるだけ削ってきてやる」

雄二「そうか。なら任せたぞ大門、佐藤!」

和真(…………できれば梓先輩とはサシで闘りたかったが……あれほどの強さとなると、勝つためにはそんな拘り捨てなきゃならねぇよな……)

 

本当の闘いはこれからだ。

そして一同は知ることになる……あのペアの恐ろしさはこの程度では無かったということを。

 

 

 

 

 

 

 

 




梓さんがどれだけフザけた芸当をやっているかピンと来ない人のために簡単に説明します。
明久の白金の腕輪はもう一体の召喚獣を喚び出し使役する能力ですが、二体の召喚獣に同時に命令を出すのには作中の描写からもかなりの集中力を必要とすることがわかります。
今回、梓さんは九つの炎を同時に操っています。それはつまり、九体の召喚獣を同時に動かしているようなものです。
ね?キチガイ染みているでしょ?



  


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高城雅春の唯一にして致命的な弱点

・疾きこと、滝の如く
・徐かなること、凪の如く
・侵し掠めること、渦の如く
・知りがたきこと、霧の如く
・動かざること、海の如く
・動くこと、波の如し

蒼介「……以上が鳳家に伝わる心得だ」

和真「どんだけ“水”推しなんだよ……」






徹・佐藤ペアはAクラス教室内の複雑な迷路を突破し、最終チェックポイントに到達した。

 

高城「お久しぶりですね大門君」

梓「あれから一回も来なくなったもんなアンタ」

徹「役員から降りた僕が生徒会室に入り浸るのもどうかと思いますからね。……それより早く始めましょうか」

梓「せっかちやね、まあええけど……試獣召喚(サモン)!」

「「「サモン!」」」

 

《総合科目》

『Aクラス 大門徹  3919点

 Aクラス 佐藤美穂 3392点

VS

 Aクラス 高城雅春 4306点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

徹の総合点は4000点を越えているものの先ほど小暮達との闘いで多少消耗している。しかし固有能力はちゃんと使えるようで一寸法師の左手には、先ほど所持していなかった打出の小槌を握りしめられている。

 

梓「さぁ、まずは狐火で景気良くいくで」

 

玉藻の九本の尾が青白く光り、相手を焼き尽くさんと発射される。一寸法師は妖精を庇うように前に出て、打出の小槌を構える。

 

徹「小さく……なれ!」

 

一寸法師が打出の小槌を振ると、迫り来る九つの狐火がみるみるうちに小さくなっていく。四方八方から襲い来る狐火もマッチの火レベルまで縮小されれば当たってもどうということはなく、それどころか縮小された狐火は形を維持できずにアッサリと消滅してしまった。

 

梓「……ほー、やるやないか」

徹「打出の小槌が一度の使用でサイズを変更できるのは1つまでなんですけど、どうやら予想通り先輩の狐火は9つまとめて1つと扱われるようですね……佐藤さん!」

佐藤「わかってる!」

 

ようやくできた隙を逃がすまいと、佐藤は妖精を玉藻へ突撃させる。どうやら狐火は連続して撃つことができずある程度のインターバルを必要とするらしく、玉藻は向かってくる妖精に応戦しようとしなかった。

 

徹(まあどれだけ撃とうと、僕が一つ残らず残らず消してやるつもりなんだけどね)

梓「ふむふむ、なかなかええ作戦やな二人とも……せやけど、」

高城「この私をお忘れですか?」

佐藤「くっ……!?仕方ない!」

 

玉藻を射程圏に入れる前に酒呑童子が立ち塞がる。やむおえず妖精は酒呑童子に殴りかかるもまるで動じた様子もなく、酒呑童子は返す刀で妖精を殴り倒した。妖精は死に物狂いで起き上がって拳を叩き込むも、やはり酒呑童子はまるでびくともしない。よく見ると酒呑童子の全身が金色に発光している。

 

徹「まさか……酒呑童子の固有能力ですか?」

高城「ご名答。私の召喚獣の固有能力は耐久力を増大させるという、シンプルながらも強力なものです」

 

 

《総合科目》

『Aクラス 大門徹  3919点

 Aクラス 佐藤美穂 2926点

VS

 Aクラス 高城雅春 4262点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

高城の説明通り圧倒的な耐久力であることをを点数の消耗具合が裏付けている。3000点オーバーの召喚獣の攻撃を2度もまともに喰らったのにもかかわらず、削れた点数はほんの微々たるものであった。

 

徹「佐藤さん!加勢に…」

梓「行かせるわけないやろ」

徹「くそぉっ……!」

 

再び九本の尾から狐火が発射され、徹はやむおえず打出の小槌でそれらを無力化する。なんとか梓は小槌の力で封じ込めるものの、一度でもタイミングを間違えれば焼き払われてしまうことは確実なので、徹は梓の一挙一動に全神経を集中する必要がある。

結果、佐藤を援護することは不可能であり、徹は二人の一騎討ちを指を加えて見ていることしかできないでいた。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 大門徹  3919点

 Aクラス 佐藤美穂 1921点

VS

 Aクラス 高城雅春 4262点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

二人の闘いは高城が固有能力を使用していることを差し引いても、あまりに一方的な展開となっていた。頑丈さ云々以前に、妖精の繰り出す攻撃がまるで当たらない。

 

高城「佐藤嬢、まだまだ操作に粗が目立ちますね」

佐藤「……レベルが……違いすぎる……っ!」

徹「なんなんだあの操作技術の精密さは……!?吉井や佐伯先輩と同等じゃないか……!?」

高城「あなた方は何もわかっていないのですね」

 

妖精への猛攻を一旦止め、高城が髪を優雅に掻き上げながら何故か得意気に小さく笑った。

 

佐藤「ど、どういうことですか……?」

高城「《観察処分者》が出てくるまでの間、私がどれほど佐伯嬢に騙されて雑用を押しつけられていたか、教えて差し上げましょうか?」

「「…………」」

梓「♪~(・ε・ )」

 

先程までのとてつもなく緊迫した状況から一転、その場をなんとも言えない気の抜けた雰囲気が支配する。確かに可哀想ではあるが緊張感の漂う戦場でそんなこと言わなくても良いではないだろうか。

ちなみに元凶である梓は明後日の方向に目を反らしてわざとらしく口笛を吹いて誤魔化している。本質が「嘘つき」なだけあって一切悪びれた様子は見られない。

 

徹「……そういえば高城先輩は極端に騙されやすかったっけ……それなら、もしかして……佐藤さん……ボソボソ……ダメもとでやってみて」

佐藤「………………わ、わかったわ……気が進まないけど……背に腹は代えられないものね……」

 

脱力した空気の中、ふと高城への対抗策を思いついた徹は梓が別の方向を向いている内に佐藤へ作戦を耳打ちする。佐藤はそれを聞いてやや低めのテンションになりつつも一応了承する。

 

梓「ま…まあ今は戦争中や、余計なこと考えんと闘うべきやろ」

高城「やや腑に落ちませんが……確かにそうですね。では闘いを再開しましょうか」

 

玉藻の尾から三たび火球が放たれるが、当然の如く打出の小槌に無力化される。しかしそれを見た梓は呆れたような表情になる。

 

梓「アンタもわからんやっちゃなぁ……確かにその小槌使えばウチを封じれるかもしれんけど、それじゃあアンタも身動きとれへんやろ?あのお嬢ちゃんが高城に勝てん以上、一か八かで博打に出るべきとちゃうんか?」

徹「フフ、随分とナンセンスなことを言いますね。……アンタらは僕達を舐めすぎだ。試召戦争は、点数や操作技術だけで勝敗が決まるものじゃないんですよ」

梓「はぁ?………………っ!?まさか!?」

 

徹が何故こんなにも自信満々なのか理解不能であった梓だが、しばらく考えを巡らせるとふと去年試召戦争で高城に苦労させられた色々なこと、そして何故自分が高城よりも強いと断言できるのかを思い出す。

まさか徹は、高城の唯一にして致命的な弱点を狙っているのだろうか?

 

そこまで考えが及んだ梓は慌てて高城達の方に視線を映す。そこには梓が懸念した通りの展開となっていた。

 

 

 

 

佐藤「高城先輩、私は右から攻撃しますよ」

高城「おや、わざわざ教えて頂いてどうもありが-」

佐藤「やあぁっ!(ドゴォッ!)」

高城「なっ!?左じゃないですか!?」

佐藤「私から見て右という意味です」

高城「な、なるほど……騙されたわけではなく、私の早合点だったというわけですね」

佐藤「次は左から行きますよ」

高城「となると、私から見て右というわけですね。次は間違えないように-」

佐藤「えぇいっ!(ドゴォッ!)」

高城「!?!?ど、どういうことですか佐藤嬢!?」

佐藤「い、いや……紛らわしいかと思って先輩から見た方に修正したのですけど……すみません……」

高城「な…なるほど、わざわざ気遣って頂いたのに疑ってすみませんでした」

佐藤「……あ。高城先輩、靴紐がほどけて…」

高城「およ、それはありがとうござ-」

佐藤「ませんでしたごめんなさい!(ドゴォッ!)」

高城「……もう少し早く言ってください!」

佐藤「わかりました。では…高城先輩、制服にボタンがついています!」

高城「なるほど、どれどれ……あ!」

佐藤「えい!(ドゴォ!)」

高城「ありました!ありましたよ佐藤嬢!」

佐藤「それは良かったですね!(ドコバキドカッ…)」

高城「……って、制服にボタンが付いているのは当たり前ではないですか!」

佐藤「ところで高城先輩、もう一つ伝えたいことが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓「あぁもうっ!予想通りエエように手玉にとられてるやんあのボケ!」

徹「指示した僕が言うのも何ですが、いくらなんでもチョロすぎませんか……?」

梓「高城の騙されやすさを甘く見たらアカン!アイツは他人に言われたことを何の疑いもせず真に受ける鵜呑み野郎なんや!」

 

ちなみにご存じの通りこの闘いはカメラによってモニターされている。つまり高城の度を越えた騙されやすさは二・三年の全員に知れ渡ったことになる。今頃三年生サイドでは小暮辺りが頭を抱えている頃だろうと梓は内心申し訳なく思う。

 

梓「……チッ……しゃあないか、援護に向かうしかあらへんな!」

徹「……ここだ、ここで決めるんだ!オラァッ!」

梓(……やっぱそうくるやろな)

 

玉藻がボコられている酒呑童子へ加勢に向かう。狐火ではまた小槌で無力化されるのがオチだろうから、援護するにはどうしても接近しなくてはならない。つまり玉藻が二人の召喚獣との距離をつめている間一寸法師はフリーになり、徹はその一瞬の隙を逃さず一寸法師に右手の針を投擲させる。投擲先は酒呑童子だが、高城の操作技術なら避けるだけならなんら難しくないことであろう。

一見血迷ったようにしか思えない徹のこの行動を梓は予想していた。そしてこの後の展開もだいたい予測できるものの、玉藻と針との距離的に打つ手がなかったのでこのまま見送らざるを得なかった。

 

徹「高城先輩!もし先輩がその針を避けて地面に落ちたら……ええと、校舎が崩れます!どうか受け止めて下さい!」

梓(まあそんな感じのでまかせを言うやろな……そしてこんなことを聞いたらあのアホは……)

高城「なんですって!?わかりました、私に任せてください!」

梓(信じるやろな……ハァ……)

 

飛来する針を受け止めようと酒呑童子は構えを取る。それを見計らって一寸法師は打出の小槌を、玉藻の炎を封じていたときとは逆の方向に振った。

 

徹「まあ嘘ですが」

高城「…………」

 

巨大化した針に貫かれる酒呑童子。耐久力が大幅に強化されてるため戦死には至らないがダメージは決して少なくない。そして高城本人が負った精神的ダメージは酒呑童子の比ではない。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 大門徹  3919点

 Aクラス 佐藤美穂 戦死

VS

 Aクラス 高城雅春 2256点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

梓「……まあ、ウチをフリーにした代償はしっかり払ってもろたけどな」

佐藤「ごめんなさい大門君……」

徹「……気にしなくていい。概ね予想通りだ」

 

一方妖精は玉藻の蒼い業火に為す術もなく焼き尽くされていた。ある程度予想していたとはいえ、狐火は妖精と交戦していた酒呑童子には一切当たることなく妖精だけを確実に飲み込んだ。つくづく恐ろしいまでの精密さである。

 

梓「これで2対1や。高城、さっさと片付けるで…………高城?」

高城「…………世界中の全員が……私よりも騙されやすくなればいいのに……」

梓「そんなことになったら人類オシマイやから不吉なこと言うなや……ああ、こうなるとしばらく使い物になれへんな。しゃあない、ウチ一人で相手したるわ」

徹「……しめた!これなら一矢報いれるかもしれない!」

 

思わぬ収穫に徹は歓喜し、一寸法師は打出の小槌を構えて玉藻へ突撃する。……しかしその判断ははっきりいって甘過ぎる。佐伯梓はかつて召喚大会で何の能力にも頼らずに、()()和真相手にワンサイドゲームをしたほどの猛者なのだから。

 

梓「ウチが接近戦苦手やと誰か言ったか?アンタ、ちぃとばかし見通しが甘いわ」

徹「ば…バカな!?それが二つ目の能力か!?」

梓「ちゃうわ。こんなもん……ただの技術や」

 

ふざけるな、と徹は叫びたかった。

一寸法師は玉藻が繰り出す9本の尾に翻弄されている。1本1本が別の生き物のような不規則な動きで確実に一寸法師を追い詰めていく。小槌の能力は使った途端にあの狐火が飛んでくるだろうから温存しなければならず、徹は梓相手に何の小細工も介入できないガチンコ勝負を挑まざるを得なかった。強いことは承知していたつもりであったが、いざ直接戦ってみると驚愕せざるを得ない。この敵はかつて辛酸を舐めさせられた小暮が雑魚に思えるほど化け物染みている。

針を酒呑童子に投擲したときから勝つことは諦めていたが、ここまで力の差があるとは流石に夢にも思わなかった。

  

徹(…………遠い…………遠すぎる…………!)

 

結局一寸法師は玉藻に攻撃をかすらせることすらできずに尻尾に殴り殺された。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 大門徹  戦死

 Aクラス 佐藤美穂 戦死

VS

 Aクラス 高城雅春 2256点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤は放心した徹を引き連れて教室へ戻っていった。徹に完勝した梓だが、その表情は晴れやかではなかった。

 

梓(……ここまで高城が削られるとは思わんかった……って考えてしまうんは、大門の言った通り心のどっかで油断があったんかもしれへんな。……大門は一か八かみたいやったけど、高城の弱点をつかれることはあらかじめ危惧しとくべきやった)

 

自分の両頬を手のひらで叩いて、精神を引き締め直す梓。自分の揺るぎ無い自信は長所であるとともに、一歩間違えれば慢心に繋がることを梓は知っている。

 

梓「この後和真へのリベンジが控えてる言うのに、気ぃ緩んでたらアカンよね。……というか高城も、いい加減立ち直りぃや!」

高城「ええ……もう大丈夫です……」

梓「そうはまったく見えへんけど、まあエエわ……あの娘らは大門達とも格が違うから、気ぃ引き締めていくで」

 

チェックポイントにやってきた姫路と翔子を見据えつつ、梓は高城を鼓舞する。

 

姫路「い、いきますっ!」

翔子「……雄二達の仇は、私達が取る」

梓「なるほど、坂本君達の仇討ちか。そういうの嫌いやないよ……負けてあげる気はこれっぽっちもあらへんけどなァッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「点数、操作技術ともにトップクラスなのに微妙な活躍だったな高城先輩……」

和真「宝の持ち腐れってあの人のためにあるようなものだなオイ……まあ原作と違って姫路という原動力が無かったらあんなもんか」





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九重の蒼炎

梓さんの脅威はまだまだ続きます。


「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

お互い特に面識が無かったため、これといった無駄話をすることもなく勝負が始まった。、四つの幾何学模様からそれぞれのオカルト召喚獣が喚び出される。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 5067点

 Aクラス 姫路瑞希 4563点

VS

 Aクラス 高城雅春 2256点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

合計点数では二年サイドが圧勝しているものの、そんなアドバンテージは気を抜けば簡単に覆ることくらい翔子達は重々理解している。長引けば長引くほど経験の差でこちらが不利になると判断した二人が取る作戦は……言わずもがな先手必勝の速攻ゲーム。

 

翔子「……瑞希」

姫路「はいっ!」

 

レヴィアタンとサキュバスは二体とも空へ飛翔する。どうやらどちらの召喚獣も飛行能力を発現させているようだ。

 

梓「勢いがあんのはわかったけど……打ち落としてくださいって言うてるようなもんやろそれ」

 

玉藻は空に尾を向け、炎の弾丸を一斉に射出した。空中戦だろうが陸上戦だろうが、お構いなしに全てを焼き尽くせるのが玉藻の狐火の恐ろしさだ。しかし翔子達は今までの戦いを全て監察していたのでそんなことは当然理解している。それでも飛翔したということは、それ相応の対抗手段を有しているということに他ならない。サキュバスはおもむろにレヴィアタンに密着するほど急接近する。

 

姫路「今です翔子ちゃん、お願いします!」

翔子「……流水撃」

 

レヴィアタンのトリアイナから物凄い量の水が産み出され、自らに密着したサキュバスと自らの周りを旋回させ、水の障壁を造り出す。

どうやら魚型の悪魔らしく、レヴィアタンの二つ目の能力は水を生み出し自在に操ることのようだ。翔子の操作技術は梓と比べれば数段劣っているものの、水は液体であるためあくまで“個”として操れるいう利点を持つ。

狐火の軍勢と荒れ狂う激流はお互いを打ち消し合い、両者ともに跡形もなく消し飛んでしまった。

 

梓(ほー……なかなか厄介な使い方しよるやないか)

姫路「えいっ!」

 

間髪入れずにサキュバスはピンク色の矢を酒呑童子に向かって射出する。あまりに直線的な軌道、避けるつもりがあるならばむしろ当たる方が難しいほどの低レベルな攻撃。

 

翔子「……高城先輩、実はその矢、地面にぶつかると大爆発する」

高城「なんですって!?ということは我々をまとめて爆風で吹き飛ばすということですね!?そうはさせませんよ姫路嬢!」

梓「……はぁ……もう勝手にせぇ……」

 

が、そこは()()明久に比肩しうるほどの世紀のファンタジスタ・高城雅春。翔子の何気ない呟きを何の疑いもなく鵜呑みにしたのか、急いで酒呑童子を矢へと立ち向かわせる。梓はもうフォローするのも億劫になったので適当に放置することにした。そして酒呑童子は姫路の放ったピンクの矢をまともに喰らってしまう。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 5067点

 Aクラス 姫路瑞希 4563点

VS

 Aクラス 高城雅春 2256点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

しかし酒呑童子にダメージは一切なかった。高城が姫路達の策略を防いだ(と思い込んでいるだけなんだろうが)ことに誇らしげな顔をしているのを華麗にスルーして、梓は翔子達に問いただす。

 

梓「一応聞くけどあの矢、なんなん?」

姫路「私の固有能力『恍惚の矢』です。触れた相手の防御力を最低値まで下げることができます」

梓「最悪や……」

翔子「……そして、すかさず流水撃」

 

レヴィアタンは酒呑童子に向けて激流を浴びせかける。梓は自分に流れ弾が来ないように狐火で玉藻の周りを覆う。この隙に攻撃しても良かったのだが、いくら操作技術に優れてるとはいえ流石にこれは能力もなしに避けきれないと判断したのだろう。

高城は酒呑童子の耐久力なら大丈夫だろうと高を括って悠々と防御体制に入る。自慢の耐久力など既に存在しないにもかかわらず。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 5067点

 Aクラス 姫路瑞希 4563点

VS

 Aクラス 高城雅春 戦死

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

高城「……なっ!?どうして私の召喚獣が!?」

梓「……もうエエ。もうエエからさっさと待機場所に戻っとけ。正直言うと邪魔やから」

 

状況が未だ飲み込めずアホみたいに驚愕している高城を見る梓の目は……それはそれは冷たいものだったそうな。

 

 

 

 

 

一旦タイムをかけて高城(バカ)を退出させてから、気を取り直して梓は翔子達に向き直る。

 

梓「さて、ここからが本当の闘いや」

翔子「……たった一人でどうにかできるほど、私達は甘くない」

姫路「すみませんが、勝たせてもらいますっ!」

梓「ククク、ウチも随分舐められたもんやなぁ……お嬢ちゃんら、勝ち誇るんはちと早いで?」

翔子「……その攻撃はもう聞かない」

 

玉藻の9本らの尾が藍色に光るとともに、サキュバスはレヴィアタンに急接近し、レヴィアタンは先程のように激流の防壁を形成する。

 

梓「アンタも筋はエエけどまだまだ工夫が足らんわ。試験召喚システムの能力は使い方次第でいくらでも応用が効くんやで?例えば……こんなんとかな」

 

不適な笑みを浮かべつつ佐伯は玉藻の九本を一つに束ね、まとめ上げる。すると、藍色の光はこれまでとは比べ物にならないほどの眩い輝きを放つようになった。

 

翔子「…ッ!?マズ-」

梓「遅いわ!九重の蒼炎!」

 

束ねられた九本の尻尾から、今までとは比べ物にならないほどの速度、規模、火力の蒼炎の弾丸が発射された。一点に力を集中させた大砲の威力はそれはもう凄まじく、レヴィアタンの張った防御幕を紙切れの如くぶち破り、二体の召喚獣は回避も防御も敵わずそのまま焼き尽くされた。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 2654点

 Aクラス 姫路瑞希 1824点

VS

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

姫路「う、うう……」

梓「怯んでる隙なんかあげへんで?」

姫路「あぅっ!?ま、負けませんっ!」

 

両者ともに超高得点であり、流水激の壁がある程度蒼炎の威力を軽減してくれたこともあってどうにか耐えきることはできたものの、業火に焼かれた二体の召喚獣は飛行状態を維持できずにそのまま落下する。

玉藻はすかさず急接近し、倒しやすいと判断したサキュバスを先に排除しにかかる。姫路も負けじと応戦するものの気迫だけでどうにかなるレベルの相手ではなく、結局サキュバスは9本の尾に貫かれて絶命した。

 

姫路「そ、そんな……」

梓「だから言ったやん、勝ち誇るんは早いって♪」

翔子「……くっ……!」

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 2654点

 Aクラス 姫路瑞希 戦死

VS

 Aクラス 高城雅春 戦死

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

戦況はたった一手で覆されてしまった。

そしてさらに恐るべきことに、梓は明久達と闘った最初の闘いから……未だ1点すら削られていない。和真があれだけ警戒していたのも今なら二年の全生徒が理解できる。

 

佐伯梓は、正真正銘の化け物だ。

 

翔子「……っ、流水撃!」

梓(またそれかい。んー、九重の蒼炎で迎え撃ってもええねんけど……元々の点数差を考えると少し危険やな、それにこっちの方が確実やし)

 

レヴィアタンから全てを飲み込もうとする激流が解き放たれたのに対し、玉藻は手に持った扇子を広げて己に向かって降ってくる激流に照準を合わせる。そして激流が直撃する寸前に玉藻が扇子で仰ぐと、

 

 

 

 

全ての水がまるで時間が巻き戻されたかのように、レヴィアタンのもとへ戻っていった。

 

翔子「なっ……!?」

姫路「翔子ちゃん、危ない!?」

 

翔子は慌ててレヴィアタンに回避させる。幸い直撃は免れたものの、受けたダメージは決して小さくない。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 1892点

VS

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

翔子「……今のは……っ!?」

梓「ウチのもう一つの能力、芭蕉扇や。言い忘れとったけど、ウチに単調な遠距離攻撃は効かへんで?」

 

攻めなければ狐火に焼き尽くされる。

 

接近すれば9つの尾の餌食となる。

 

遠距離から攻撃を仕掛ければ跳ね返される。

 

なんなのだこれは?悪い冗談にしか聞こえない。これでは……翔子に打つ手など残されていないではないか。

 

姫路「翔子ちゃん……」

翔子(……ごめんなさい、雄二……

仇、取れなかった……)

 

この時点で姫路と翔子は、梓に勝つことは不可能であると悟っていた。中・遠距離戦は論外として残るは接近戦だが……これもまた論外。翔子の操作技術は二学年の中でも精々上の下、明久と同等以上の梓に勝ち目などあるわけがない。

 

翔子(……和真、優子、後は任せる。私は……少しでもこの人の点数を削る!……っ!そうだ、あの技なら……!)「流水撃!」

梓「いい加減それはもう飽き……なんやこれ?」

翔子(……さっき芭蕉扇で流水撃を弾いたとき狐火を使われていたら私は終わっていたはず。それでも使ってこなかったということは、あの二つは同時には使えない。……五十嵐、少し技を借りる)

 

レヴィアタンの周囲に水が広がっていく。そしてそれはどんどん分裂していき、最終的にはフィールドの空を数多の細長い水の塊が席巻した。

 

翔子「……アイシクル・カッター!」

 

その言葉がトリガーとなり、全ての水の塊が一斉に凍りつき無数のナイフへと変貌する。

レヴィアタンの第三の能力は凍結。普通に考えれば梓の狐火との相性は最悪のためここまで温存していたのだが、翔子はその能力と流水撃を組み合わせることで、本家と比べて規模は小さいものの源太のオーバークロックを再現することをこの土壇場で編み出した。

 

梓(……このお嬢ちゃん、芭蕉扇と狐火が同時に使えへんことを見抜いとるな。流石にこの数は芭蕉戦じゃ対処できんし、狐火でも打ち落とし切れへんやろなぁ……となるとウチのやることはお構いなしに霧島さんの召喚獣を消し飛ばすこと。ある程度のダメージはしゃあないか……けどなぁ、)

 

梓は翔子が勝負を捨てて自身の点数を削りにきていることを看破していた。いくら梓でもこの状況を無傷で乗りきるのは不可能だろう。

 

……しかし、受けるダメージを軽減するくらいなら可能である。

 

翔子「……シュート!」

梓「狐火はこんなこともできるんやで!」

 

一斉に降り注ぐナイフの雨に対し、玉藻は尾を五本だけ束ねて砲撃を放ち、残りの四本から放たれる狐火を防衛に回す。流石に全てのナイフを相殺するには至らず玉藻は初めてダメージを負うが、レヴィアタンは玉藻の放った業火に蒸発させられた。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 戦死

 Aクラス 姫路瑞希 戦死

VS

 Aクラス 高城雅春 戦死

 Aクラス 佐伯梓  4032点』

 

パートナーは仕留めた。

 

能力を全て引き出させた。

 

多少手傷は負わせた。

 

それでも……二年女子ツートップでさえも……佐伯梓の牙城を崩すことは、敵わなかった。

これで二年生チームの命運は、最後のペアに託された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「……さてと。優子、行くぞ」

優子「了解」

 

翔子のレヴィアタンが玉藻の狐火に燃やし尽くされたのを見届け、和真と優子はAクラス教室へ向かう。いつものメンバーが激励を送るべく二人に駆け寄る。

 

明久「頑張ってね、二人とも!」

秀吉「二人とも、任せたぞい」

ムッツリーニ「……敵はたった一人」

美波「ウチらの魂、アンタ達に預けたわよ」

源太「テメェらのコンビネーションならいけるぜ」

徹「だが油断は決してするなよ。見逃してくれるほど甘い相手ではない」

愛子「二人のラブラブパワーでやっつけちゃえ!」

飛鳥「点数が0になるまで。闘志を消さないでね」

久保「僕達は皆、君達を信じているよ」 

佐藤「安心して、あなた達ならきっと勝てるから」

雄二「正直あんな化け物相手にこんなこと言うのは無責任だとわかってはいるが……頼んだぞ、何が何でも勝ってくれ」

和真「いちいち言わなくてもわかってるっつーの、俺達を誰だと思ってやがる?なぁ優子」

優子「ええ、闘うからには勝ちをもぎ取ってくるわ」

 

二年全員の意地・誇り・プライドを背負いつつ、『アクティブ』黄金コンビは最後の決戦に赴く。敵の実力は破格の極みであるが、彼らの目には勝利しか見えていない。

 

和真(梓先輩……残念だがアンタはもう、詰んでるぜ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで皆さん、覚えているだろうか?

たった今不適な笑みを浮かべてAクラスに向かっている和真が……猫耳を装備した状態であるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「結局高城先輩は良いとこ無しでフェードアウトしたか……」

和真「もう完全にギャグキャラ路線に決定したなあの人……」

蒼介「一方で、佐伯先輩の活躍は凄まじいな。ここまでで二年トップクラスの生徒の大半が彼女一人に倒されているぞ」

和真「まさに一騎当千!モンストの超究極クエストみてぇな存在だ」

蒼介「しかしカズマ、どうやらお前には勝算があるようだな?」

和真「ああ、勝つのは俺達2年だ」




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第二学年の結束

【バカテスト】

次の元素記号を原子量の小さい順に並べ、その名称を書きなさい。
『Ne Ga H O Po I Na』


姫路の答え
『H:水素
 O:酸素
Ne:ネオン
Na:ナトリウム
Ga:ガリウム
I:ヨウ素
Po:ポロニウム』

蒼介「正解だ。GaやPoはなかなか出てこない元素だが、姫路には特に問題なかったようだな」


ムッツリーニの答え
『H:H
Na:な
 O:お
Ne:ね
Ga:が
I:い
Po:ポッ(*/▽\*)』

蒼介「こんな解答なのにナトリウム以外の並び順があっているのが腹立だしいな……」


梓「アハハハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\!!!

どうしたん和真その猫耳!?めっちゃ似合うとるやん!違和感無さすぎて腸がよじれそうやぁはははははは!」

和真「あのよ…できればそっとしといてくんない?せっかく慣れてきたのに羞恥が再発するんで」

優子「そうですよ先輩!何でそんなに笑うんですか!?こんなに可愛いのに!」

和真「違う!論点はそこじゃねぇ!」

梓「ほうほう、言われてみれば確かに可愛らしい系の顔立ちしとるな。ところで木下さん、アンタが一番可愛いと思っとるところは?」 

和真「オイ待てや梓先輩コラ。いい加減話進めねぇといくら先輩でもそろそろキレんぞ?」

優子「えっと…まず撫でるのをやめたときにするちょっと寂しそうな表情ですね。アタシ、あれだけでご飯三杯はいけます!」

和真「優子も答えなくていいんだよ!?しかもまずってなんだ!?いくつ答えるつもりなんだお前!?」

梓「和真~、そういうときは遠慮したらアカンでぇ?ちゃんと『優子、もっとナデナデしてぇ……!』ってお願いせな」

和真「……さてと、ちょうどいいモルモットが二匹ほど見つかったことだし『綾倉特性ドリンクver.4シンジャエール』の人体実験でも-」

「「調子に乗ってごめんなさい!」」

 

にこやかな笑みを浮かべながら和真がポーチから取り出した得体の知れないドリンクを前にして、即座に謝罪モードに移行する二人。この反応を見るに、優子だけでなくどうやら梓もこのシリーズの恐ろしさを知っているらしい。

 

和真「覚えとけ二人とも。俺は尊敬する先輩だろうが大好きな彼女だろうが、いざというときは容赦なく抹殺できる系男子だからな」

優子「胸張って言うことじゃないでしょそれ……」

梓「ウチにはともかく、木下さんにまで容赦無いんやね……」

和真「当たり前だろ。人を好きになるってのはなぁ、そんな簡単なことじゃねぇんだよ。綺麗な面ばかり好んでそれ以外を否定してるようじゃ長くは続かねぇよ。

そう、好きになったからにはクソ不味い汁飲んで悶え苦しんでいる表情もひっくるめて愛せるくらいじゃなきゃダメなんだよ。俺だって本当はこんなことはしたくねぇけどよ、ここは心を鬼にしないとウククククククク…」 

優子「堪えきれてないわよ!?アンタ絶対心から楽しんでるでしょうが!」

梓(木下さん、とんでもない奴と結ばれてもうたなぁ……。まぁこの子ら二人とも幸せそうやから別にエエんかな……?)

 

優子への恋心を自覚したからといって、どうやら和真の本質はあまり変わっていないらしい。人をおちょくっているときの、なんとまあ楽しそうな表情。

そして梓の考えは概ね正しく、この二人はこれで丁度良いのだろう。和真が優子の可愛がりを内心では嫌がっていないのと同様、優子は和真の自由気儘で傍若無人かつ悪意なく人を振り回すところも、決して嫌いではないのだから。事実振り回されてる現在でも、怒っているというよりは「仕方ないんだからこの子は」的な表情を浮かべている。

 

梓「あんまりイチャつかせたらモニター先で熱中症になる人出てきそうやからそろそろ始めよか?」

和真「……そ、そうだな……」

優子「……え、ええ……」

梓(こいつらカメラ回ってるの忘れとったな……みるみる顔赤なってるやん)「高橋先生、召喚許可お願いします」

高橋「承認します」

「「「試獣召喚(サモン)!」」」

 

それぞれの幾何学模様から三体のオカルト召喚獣が喚び出る。ガブリエルに阿修羅に玉藻御前、召喚獣の種類は直接強さに直結するわけではないが、最終決戦に相応しいそうそうたる顔ぶれである。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊和真  5067点

 Aクラス 木下優子 4512点

VS

 Aクラス 佐伯梓  4032点』

 

 

合計得点は倍以上離れてはいるものの、そんなもの気を抜けばあっという間に引っくり返されることは、今までの梓の闘いぶりが証明している。

 

梓「まずはこれや!防げるもんなら防いでみぃ!」

 

玉藻の尾が藍色に怪しく光り、九つの狐火が発射される。これまで幾多のオカルト召喚獣を葬ってきた蒼い火球はまるで生きているかのような軌道を描きながら、あっという間に阿修羅の周りを取り囲んだ。

 

和真「優子!」

優子「ええ!」

 

ガブリエルが持つ白百合が弓の弦に変形し、三発の水の矢が発射される。どうやら放たれたこの矢は誘導弾のようで、それぞれ炎を追尾して着弾しお互いがお互いを打ち消し合った。

 

佐伯「まだ狐火は6発残っとるで!」

和真「……6発?クハハハハハ!丁度いい数じゃねぇか!」

 

阿修羅は六本の腕から雷の剣を創造し、迫りくる狐火を一つ残らず切り裂いた。

 

梓(っ!?しもた!?ウチの対応力の低さ、完全に見抜かれてもうとる!)

 

和真の並外れた観察眼は梓の隠そうとしていた弱点を見抜いていた。いくら梓の突出した操作技術と並列思考能力を持ってしても、複数の炎を同時に操りながら相手の攻撃に完璧に対応することは不可能である。本体ならともかく、炎の一つ一つの回避までは流石に手が回らない。

それでも9つの炎でごり押しできるため並大抵の相手なら全く問題にはならない弱点だったのだが、阿修羅とガブリエルの連携攻撃相手では流石に荷が重かったようだ。

 

和真「……(チラ)」

優子「……(コクン)」

梓(こいつら会話無しで意思疏通を……?……って何やそれ!?)

 

突然ガブリエルが阿修羅に向かって滑空し、阿修羅は六本の内の二本の腕で腰に掴まると、なんとガブリエルは阿修羅を背負ったまま飛翔した。

 

梓(チィ、狐火で撃ち落とそうにもまだインターバルが……)

和真「撃てねぇよな?撃てねえだろ?……よっしゃ投擲ィィィイイイ!」

優子「オーケー!」

 

ガブリエルは高速で玉藻との距離を詰め、あろうことか阿修羅を玉藻に向かって投げ捨てる。一見愚行にしか見えないが、和真が不敵な笑みを浮かべたままであることから予定通りのことらしい。

 

梓「…はっ、格好の獲物や!引き裂いたる!」

 

飛んで火に入る夏の虫と言わんばかりに、玉藻の九本の尻尾が様々な角度から襲いかかる。阿修羅は六本の腕で応戦するも多勢に無勢とばかりに押されていく。しかしそれでも和真はさらに笑みを強くする。

 

和真「おっとまいったな。尻尾の数に手が足りねぇ、これじゃあ多勢に無勢ってもんだ……となるとギアを上げるしかねぇよなぁぁぁあああああ!喰らいやがれ!修羅太極!」

梓「っ!?それも固有能力かい!?」

 

阿修羅の中心に陰陽太極図が出現し、陰と陽の力が両サイドに広がっていく。阿修羅の体の片方が真っ黒に、もう片方が真っ白に染まる。

奇々怪々な現象が起きたものの阿修羅の第二の能力『修羅太極』は別に複雑怪奇な能力などではなく、ただスピードとパワーを底上げするだけのシンプルな能力である。

しかしだからこそ、この能力を発動しているときの阿修羅は……接近戦で無類の強さを発揮する。

 

和真「オラオラオラオラオラオラオラ(ドガガガガガガガガガ…)…くたばりやがれぇぇえええ!(ドゴォォォォ!!)」

梓「うぐぅっ……!押し負けてもうた……!せやけど甘いなぁ、今のアンタは絶好の的やで!」

 

圧倒的な手数の前に為す術なく吹き飛ばされながらも、玉藻は九本の尾をそれぞれ三本ずつ結び、目も眩むほどの燐光を帯びた三つの束全てを阿修羅に向かって照準を合わせる。

 

梓「三連・三重の蒼炎!」

 

束ねられたそれぞれの尾から、翔子達との闘いで使われた九重の蒼炎には劣るものの、先ほどのものとは比べ物にならないスピード、規模、破壊力の狐火が発射された。

 

和真「上等じゃねぇか!迎え撃て阿修羅!」

梓「無謀やな!蹴散らしたる!」

 

阿修羅は即座に修羅太極を解除し、再び雷霆剣六刀流形態に移行し三つの蒼炎をそれぞれ二振りの剣で十字に受け止めた。

 

「「うぉぉぉおぉぉぉぉおおおおお!」」

 

二つの力のぶつかり合いを制したのは、わずかの差で玉藻の狐火であった。威力負けしてしまった阿修羅はその身を焼かれ、そのまま遥か後方に吹き飛ばされてしまう。

 

和真「……悪いな梓先輩、今のぶつかり合いは特攻に見えて特攻じゃねぇんだよ。例え押し負けようが、俺にはカバーしてくれる相棒がいるからな。……そうだろ優子?」

優子「もちろん、言われるまでもないわね」 

梓「敵ながら大したチームワークやな……!」

 

宙に吹き飛ばされた阿修羅は、あらかじめ上空でスタンバイしていたガブリエルに再び二本の腕で掴まった。阿修羅を回収したガブリエルは返す刀で玉藻に水の矢を三発打ち込む。狐火で応戦しようにもインターバルに入っているため撃つことができない。そのため梓の取れる手段は一つ。

 

梓「……!?しもた、これは……っ!?」

 

和真達の狙いに気づくも時既に遅し。みすみす喰らうわけにもいかないため玉藻は芭蕉扇を使わざるを得なく、水の矢は全て跳ね返したものの飛行能力を持つガブリエルはそれら全てを悠々とかわし、その直後どういう意図があるのかか阿修羅を上空に放り投げた。

 

和真「狐火と芭蕉扇のインターバルが重なるこのときを待っていたぜ……これで終わりだ、浄化の極炎!」

 

阿修羅は空中で6本の腕を掌を揃えて玉藻に向け、九重の蒼炎と同等以上の規模の火炎を発射した。流石に避けられないと判断した梓は玉藻に九本の尾で急所をガードさせる。

しかし和真の最後の固有能力が判明していなかったため仕方ないことだとはいえ、その判断は悪手中の悪手と言わざるを得ない。

なぜなら……着弾した浄化の極炎が九本の尾を跡形もなく消し飛ばしたのだから。 

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊和真  1357点

 Aクラス 木下優子 4512点

VS

 Aクラス 佐伯梓  2466点』

 

 

墜落する前に再びガブリエルにキャッチされたため、阿修羅はどうにか無傷で済んだ。 

一方玉藻は直撃した割にダメージが少ないものの、最大の武器である尾を一つ残らず失ってしまった。

 

梓「……どうやらここまでやな。

ギブアップや、堪忍してや」

和真「あん?随分潔いじゃねぇか」

梓「芭蕉扇は召喚獣本体には使えん制約があってな。飛び道具も失ってもうたし、接近されてあの技…修羅太極やっけ?あれ使われたらもう打つ手無いんや……

和真「そうかい……じゃあ、俺達二年チームの勝ちってことで良いんだな」

梓「そういうことやな……ハァ、ウチ一人で全員倒すつもりでおったのに、まさかたった二人のコンビネーション相手に惨敗するとは。自分が情けないわ……」

和真「別に俺達は圧勝したわけでもねぇし……アンタが相手したのはたった二人じゃねぇんだよ」

梓「……え?どういうこと?」

 

思わぬ否定に呆気に取られる梓をよそに、和真達は梓が何を間違っていたのかを説明する。

 

優子「ええ、アタシ達二人だけで闘っていたら結果は違ったでしょうね」

和真「この勝利は、言うなれば俺達6人でもぎ取った勝利だ。徹達が高城先輩の致命的な弱点とアンタの狐火のインターバルを暴き、翔子達が高城先輩を倒し、アンタに奥の手である芭蕉扇を使わせ、そして芭蕉扇の限界を暴いた。そうでなきゃ、いくら俺達でもこんな思いきった攻めはとてもできねぇよ」

 

三年生サイドの作戦は、良くも悪くも梓に頼りすぎていた。梓は確かに圧倒的な能力を有していたが、ここまで情報が露呈しながら勝利できるほど和真達は甘くなかったということだ。梓の敗因は純粋な実力ではなく、仕方がないとはいえ情報アドバンテージを完全に失ったことと、パートナーをぞんざいに扱いすぎたことだ。

 

和真「これが俺達二年の結束だ。アンタ一人がどれだけ強かろうが、たった一人で闘っている奴になんざ負けてたまるかよ」

優子「もし高城先輩が生き残っていたら、アタシ達はもっと苦戦させられたでしょうね」

梓「……くくく、なるほどなぁ……勝ち続けたせいかウチには、なんでも自分一人でやろうとする癖がついとったのかもなぁ……」

 

個人の能力など、どれだけ高くともたかが知れている。自分一人だけ強ければいいという考えの人間は、その程度の生き方しかできやしない。自分一人だけで努力して得られるものは、たいして大きいものではない。そんなことはわかっているつもりだったのに、と梓は内心で自嘲する。

 

梓「……完敗や、後輩ども」

「「……ッッシャァア!」」

 

肝試し対抗戦は二年生チームの勝利で幕を閉じた。優子と和真はいつものように、満足したような笑みを浮かべてハイタッチした。

 

高橋「では皆さん、私は急用ががあるので失礼させて頂きます」

和真「……一応聞いておきますが、俺達の助けは?」

高橋「気持ちだけ受け取っておきましょう」

 

そう言って高橋先生は早足で教室を出ていった。和真以外の二人は何が何だかわからないといった表情である。

 

梓「どないしたんやろな高橋先生?」

優子「和真、何か知ってるの?」

和真「そうだな……教師とスポンサーのプライドを賭けた闘いってところかな」

「「???」」

和真(ソウスケ……しくじんなよ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新校舎の屋上で、仮面の男『ファントム』はノートパソコンでとある検証を行っていた。

 

『ふむ、これ以上歪みを広げることはできそうにないな。仕方がない、多少のリスクは伴うが、この状態でアドラメレクのテストプレイに移行するしかない。……さて、この学園の原石達は果たしてどれだけ抵抗できるかな?』

 

そう言ってファントムはパソコンを操作してアドラメレクを起動させようとする。あとはエンターキーを押すだけでAクラス教室内に白い天使が転送されるというところで、

 

 

 

 

 

 

突然飛来した木刀に腕を弾き飛ばされる。

 

『っ!?』

 

ファントムが木刀の飛んできた方向に視線を移すと、いつの間にか蒼介が屋上の柵に腰かけていた。

 

蒼介「ようやく尻尾を出したな下郎め」

『君は確か……』

?「三度もこの学園に侵入してくるとはいい度胸だな」

『っ、もう一人いたのかい……?』

 

反対方向から声がしたので振り向くと、これまたいつの間にか鉄人が腕を組んで屋上の柵にもたれかかっていた。

 

ガチャッ

 

『今度は誰だね……?』

?「知るかよ、いちいち名乗るのもかったりぃ」

 

さらに屋上のドアが開けられたので振り向くと……御門空雅がコンポタを片手に持ちながら、いつもの生気の無い眼で立っていた。

 

空雅「んく…んく……プハァッ……てめーの能力なんざとっくに割れてんだよ。おおかた視覚だけじゃなく聴覚、嗅覚でも感知できないステルス能力……だろ?」

鉄人「貴様には残念なお知らせだろうが……綾倉先生の進言で校舎中に赤外線センサーを取り付けておくことになってな」

蒼介「費用はかなりかかったそうだが……この状況を作るためには安い買い物だな」

『おやおや、これは……絶体絶命という奴なのかな?』

 

三人はファントムを逃がさないように取り囲む。三人が三人武道の達人のため、彼等から逃げ出すのは極めて困難であろう。しかしファントムの声には何故か余裕を滲ませていた。

 

 

 

 

 

 

 




和真・優子ペア、圧勝!……でもないか、和真君割と死にかけだし。作中で述べられた通りこれは彼ら二人ではなくチームの勝利ですね。

肝試しは終了しましたが、エピローグまでもう少しだけ続きます。

ちなみに鉄人と蒼介はあらかじめ御門社長借りておいた巻き取り式鍵縄で下から登ってきました。


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Adramelech②

今回はあらゆる意味でぶっ飛んだ内容になっています。ギャグ率0%のシリアスな話です。
「バカテスでする話じゃねぇだろ!?」と思った方。
安心してください、俺もそう思います。


時は一旦和真が綾倉先生にオカルト召喚獣発現の原因を問いただしに行った所まで遡る。

 

綾倉「まずは、そうですね……和真君は四年前に起きた『NASA壊滅事件』と『ハーバード大学コンピューターサイエンス学科生の失踪事件』を知っていますか?」

和真「たりめーだ。あの二つの事件は随分と世界を震撼させたからな」

 

かつてアメリカは宇宙開発において他国を大きく引き離してトップに君臨していたが、現在では先進国の中では最も開発が遅れている。その理由は四年前に起きた未知のコンピューターウイルスがNASAのメインサーバーにクラッキングを受けたことが原因とされている。

正体不明の未知のウイルスはどこからともなくメインサーバーに侵入し、NASAに保管されたデータというデータを食い荒らした上、システムを完全にジャックしそれまでに打ち上げられた人工衛星その他諸々を一つ残らず撃墜された。被害総額は数十兆ドルに上ると推定されており、アメリカの歴史上類を見ない大災害だと言えよう。

そして『ハーバード大学コンピューターサイエンス学科生失踪事件』とは、そのNASAに起きた事件を解明すべく立ち上がり調査を進めていた学生達が、突然謎の失踪を遂げたという不可解きわまりない事件である。この事態を重く見たアメリカ政府は、謎のコンピューターウイルスの調査を完全に打ち切り宇宙開発の白紙化を決断した。

 

綾倉「率直に言いますと、あの事件の犯人……つまり未知のコンピューターウイルスの正体はアドラメレクです」

和真「……なんでそんなこと断言できるんだよ?」

綾倉「鳳君が霧島さんから聞いたアドラメレクの外見と、四年前に御門く…御門社長から聞いたアドラメレクの外見は一致しているんです。実は私、この学校に来る前はハーバードのコンピューターサイエンス学科で教鞭を取っていて、彼はそのときの教え子なのです」

和真「……つまりあれか、あのおっちゃんは……失踪事件の生き残りってことなのか?」

綾倉「ええ……唯一のね」

 

明かされた衝撃の事実に流石の和真も思わず唖然とする。目の前にいる糸目教師は性格はともかく能力的には申し分ないので、ハーバードで教鞭を取っていたとしてもさほど不思議ではない。しかしあのやる気が底辺の男にそんな壮絶な過去があったとは思ってもみなかった。

 

和真「……失踪事件について詳しく教えてくれ」

綾倉「私は御門社長に聞いただけなのですが……調査チームはNASAのコンピューターにアクセスして、何かしらの痕跡や手がかりがないかくまなく調べていた追求していたところを、アドラメレクに逆探知され瞬く間に壊滅させられたそうです」

和真「そいつが召喚獣だと知っている身からすればなんとか受け入れられることだが……コンピューターウイルスが現実の存在に干渉するなんて端から聞きゃなんとも荒唐無稽なオカルト話だな……ところで、話を聞く限り学科生達はおっちゃんを除いて全滅したんだよな?何で世間じゃ行方不明扱いなんだよ?」

 

アメリカ政府の決断には今でも被害者遺族達が猛抗議を続けているそうだ。そうなることは誰でもある程度予想できるのだから、わざわざ行方不明と言葉を濁す必要性がまるで感じられない。そう思って和真が尋ねると、綾倉先生はやや悲痛そうな表情で信じられないことをのたまった。

 

綾倉「……飲み込まれたんですよ」

和真「……は?」 

綾倉「NASAの宇宙開発データと同様、御門社長を除いた調査チームの人間は全て、アドラメレクに取り込まれたそうです。ですから行方不明とするしかなく-」

和真「ちょっと待てなんだよそれ!?肝試しシーズンだからって俺をからかってるわけじゃねぇよな!?」

綾倉「お気持ちはよくわかります。……しかし御門社長は、冗談でそんな不謹慎なことを言う人ではありません」

 

意味がわからない。コンピューターウイルスが現実世界に干渉するだけならまだしも、あまつさえ人間をその身に取り込む?いくらなんでも荒唐無稽にも程がある。これではまるでタチの悪い怪談話のようではないか。

 

綾倉「飲み込まれた学生達の生死は一切不明です。……あの日から、私と御門社長はアドラメレクを捕縛するため、ありとあらゆる方面からひたすら情報を集め始めました。そしてその一年後、藤堂学園長が学会で発表した試験召喚システムを知り、あの人の論文を入念に調べた結果、私達は科学とオカルトからなる召喚獣とアドラメレクが同一の存在であると突き止めました」

和真「どんどん話が大きくなるなオイ。……ん?てことはアンタがこの学校で教鞭を取ってるのもおっちゃんがスポンサーについているのも……」

綾倉「ええ。アドラメレクへの対抗手段となり得る召喚獣を手に入れるためです」

 

ご存知の通り召喚獣の力はとても強く、明久程度の点数でも鉄人を打倒しうる潜在能力を秘めている。ましてや世界のバランスを崩せるほどの力を持ったアドラメレクに生身で立ち向かうなど、はっきり言って無謀極まりない。

 

和真「……待てよ?“御門”って確か“鳳”や“橘”と違って近年急激に頭角を表してきた企業だったよな?おっちゃんはどうやって完全にあそこまで規模を大きくしたんだよ?」

綾倉「私が趣味でやっていたデイトレードで稼いだ4000億の軍資金があったので、割とどうとでもなりましたよ?」

和真「アンタもう何でもありだな……」

 

ある意味アドラメレクより恐ろしいのではないかと和真は考えたが、当の綾倉は特に気にした様子もなく話を続ける。

 

綾倉「それに奴が同一の存在である召喚獣を扱っているこの学園にいずれ接触してくるだろうと睨んでましてね。案の定既に二度も干渉してきた上に、御門社長が裏で手を引いている人間がいることを突き止めてくれました」

和真「でも大丈夫なのかよ?アドラメレクに協力者がいることはわかったが、もう二度も接触してきたってのにまだ接触すらできてねぇじゃねぇか」

綾倉「実を言うと、今回再び学園に侵入してきた人間がいることはわかっていました。校舎の周りに設置された赤外線センサーが反応した形跡があるにも関わらず目撃者が一人もいないことから考えると、どうやら光学迷彩らしき物を身に纏って侵入しているようです」

和真「……だったら何で放置してるんだよ?」

綾倉「より確実に捕らえるためですよ。準備が不十分の状態で捕らえようとすれば、やぶれかぶれでアドラメレクを起動されて悲惨な結末を迎えかねません。それにわざわざ世界を歪めたからには近いうちにもう一度接触してくるでしょう。そのときのために私がアドラメレクに対抗しうる布陣を敷いておきました」

和真「やれやれ、またお得意の謀略かい」

 

清凉祭のときを思い出しながら和真は肩を竦める。この教師は裏で画策することが余程好きらしい、よもやテロリストさえも嵌めようとするとは。

 

綾倉「誤算はメンテナンスを続けないと歪みがどんどん大きくなるため、私はその作戦に参加できないということですかね……」

和真「俺も討伐手伝ってやろうか?」

綾倉「君は補習が残ってるでしょう?」

和真「あ、そうだったな……ちなみに参加するメンバーはどうなっているんだ?」

綾倉「西村先生と高橋先生と御門社長に、君の友人である鳳君の四人です」

和真「そうそうたる面子だな……まあ、奪われたもん取り戻せることを俺も願ってるぜ」

綾倉「ええ、必ず……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、どうやってこの状況を切り抜けようかね』

空雅「どうやってもこうやってもねーだろ。さっさとアドラメレクにでもすがるんだな、この下っ端野郎」

『……ほう?』

 

空雅の提案に仮面の男ファントムは意外そうにする一方、あらかじめ通達されていた蒼介と鉄人は特に反応しない。

 

『良いのかね?私を捕らえてパソコンを押収した方が手っ取り早いと思うが?』

空雅「だからてめーどうせ下っ端だろ。下手に捕まえてお前の奥にいる黒幕に警戒されても困るんだよ。それにソイツは常識が一切通じねー化け物だ、おとなしくデリートされてくれるとは思えねぇ。多少手間がかかるが素直に正攻法で倒した方が安全なのさ」

 

何しろアドラメレクは今までどれだけの物質を飲み込んだかすら不明な、極めて膨大な質量の塊なのだ。下手な対処をすれば恐ろしい結果を招きかねない。ならば召喚獣であることに注目し、試験召喚戦争を介して始末することが確実に安全だと空雅は判断した。

それにアドラメレクには返してもらわなければならないものがある。それを取り返すまでは空雅としては消えてもらうわけにはいかない。

  

『くくく、その判断は正しい。アドラメレクは召喚獣、点数が0になれば力を失うからね……だが果たしてお前達にそれができるかな?』

空雅「御託はいらねーからさっさと出せや。さもないとぶっ殺しちまうぞ仮面ヤロー」

『やれやれ、せっかちなことだ(カタカタカタ)。

……目覚めよ、アドラメレク(ターン!)』

 

ファントムは手に持ったパソコンを操作し、アドラメレクを起動する。パソコンから鈴を鳴らしたような綺麗な声音で、理解不能の言葉が聞こえてくる。

 

「ביטול דחיסה」

 

すると通常より何倍もある幾何学模様が屋上に展開され、その中心から純白の天使が降臨する。否、どういうわけか六枚の翼のうち一枚だけは何故か燃えるような紅の翼であった。

 

 

降臨したアドラメレクから、突然濃密な殺気が蒼介達に向けて放たれた。

 

「「……っ!?」」

空雅「……出やがったな……っ!」

 

それをまともに受けた三人は精神的に崩れたりこそしなかったものの、凄まじい緊張が走り全身から嫌な汗が吹き出てくる。さらに生物としての本能がここからすぐに離れろと、ひっきりなしに警鐘を鳴らしている。

 

蒼介(なんだ……これはっ……!?)

鉄人(この俺が……気圧されているだと!?)

空雅(相変わらずデタラメな殺気だな……!)

 

この天使と相対しているだけで首筋にギロチンの刃を当てられているようなとてつもない恐怖を感じる。それぞれ三人とも多かれ少なかれ武道に精通しているからこそ、その場に充満した死の気配を敏感に感じ取れてしまった。

そんなことはお構いなしにアドラメレクは三人の方に向き直り、鈴を転がしたような綺麗な声色で何やら話しかけてきた。

 

「חִידָה ואני יריב אתם, אתן ?」

「「「…………?」」」 

 

……まあ、何を言っているのか理解できなかったのだが。語学堪能な蒼介でさえ流石にこんな言語には精通していない。その様子を見たファントムは仮面の奥で呆れたように溜め息をついた。

 

『アドラメレクよ、何のための自動翻訳機能だ?その言語では誰も理解できんぞ?』

[なるほど、そう言えばそうだったな]

 

アドラメレクは先ほどまでとは違ってパソコン音声で日本語を話してきた。どうやらプログラミングされた自動翻訳機能を介さなければ意思疏通すらまはまならないらしい。

 

[では、今一度問い直そう。

……貴様らが我の相手か?]

空雅「……ああそうだよ。オッサン、フィールドを展開しろ!それに二人とも、先頭準備だ(スチャ)」

蒼介「了解!(スチャ)」

鉄人「オッサンではなく西村です!(スチャ)」

「「「試獣召喚(サモン!)」」」

 

三人は何故かサングラスを装着してから召喚獣を喚び出した。蒼介の召喚獣は朱雀、鉄人は閻魔大王、空雅はベルフェゴールだ。

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  6388点

 補習教師 西村宗一 7214点

 ?クラス 御門空雅 9342点』

 

いずれも有象無象の凡人どもとは一線を画す並外れた点数を誇る召喚獣達であるが、アドラメレクの興味はある一点に注がれていた。

 

[……貴様らは、何故我のバグが目の網膜から侵入すると知っている?]

 

アドラメレクの攻撃の余波を浴びた人間はバグに汚染される。汚染された人間がどうなるのかは鉄人と蒼介にはわからないが、ろくでもないことになるのは間違いないだろう。そしてアドラメレクの呟きから察するに、そのバグはどうやら眼球から入り込む性質のようだ。

 

空雅「なーに言ってやがる?……四年前てめーが俺に対して自慢げに語ったことだろうが、痴呆かテメー?」

[何?四年前だと?その死んだ魚のような目……貴様四年前のあのとき、高濃度のバグで汚染してやった学生か?]

空雅「御名答だ。てめーを潰すため地獄の淵から生還してきてやったんだよ、ありがたく思いなクソ野郎」

 

[………………そうか。

 

 

 

ふ…ふふふ………ははははははは!

まさかあのバグに適応するとはな!これは思わぬ収穫だ!あんなお遊びで『玉』の器が見つかるとは思っても見なかった!]

 

アドラメレクはしばらく黙った後、突然どういうわけか楽しそうに笑いだした。まるで欲しかった玩具を買って貰えた子どものような笑みを浮かべて。

 

空雅「わけわかんねーテンションの上げ方してんじゃねーよ手羽先野郎が」

[適当にあしらってやろうと思ったが気が変わった!貴様を我が完全体となるための礎にしてやろうではないか!]

空雅「まだ何言ってるかわかんねーが、俺を生け贄か何かにしてぇみたいだな。だがそうはいかねーんだよ。アイツらを返してもらうぜ」

[……なるほど、読めたぞ。貴様が我を追ってきたのは四年前我が取り込んだ奴らを奪還するためか。

 

 

なるほどなるほど……

 

 

四年も前に我に飲み込まれた人間などもう助かる見込みなどありはしないというのに……なんと健気なことよ]

空雅「ーーーーーっ!!!」

 

嗚呼、現実というものは何故いかなるときも残酷なものなのだろうか?一縷の望みにすがってもがき続けた空雅が得た答えは……かくも救いようのない結末であった。

嘲るように言い放ったアドラメレクの言葉に空雅は瞠目し、受け入れがたいかのように顔を伏せる。

 

[……どうした?旧友の死を偲んでいるのか?つくづく人間というものは理解不能で、そして滑稽な生き物だな]

空雅「………………いや、ちょっと安心したぜ。

 

 

 

 

お陰で遠慮なくてめーをぶち殺しても良いんだからなぁ……!アドラメレクゥ!」

 

顔を上げた空雅の表情は、いつも気の抜けた彼からは想像もつかない程苛烈なものだった。空雅は己の感情の高ぶりを感じるものの、何故自分がこんなに熱くなっているのかいまいち理解できないでいた。

別に失った奴らと特別仲が良かったという訳ではない。精々所属している学課が同じで、お互い名前を覚えていて、たまに昼食を共にしたぐらいの極めて浅い関係だった。

あのまま何事もなく卒業していたらそれっきりで関係が途切れていただろう、どこまで行っても知り合い以上友達未満の連中だった。

ならば自分はその程度の関係だった奴にも心を痛めることができる人間だったのだろうか?……それだけはないと確信できる。徹頭徹尾グータラ無気力やる気無しが御門空雅という男のはずだ、そんな殊勝な心を持ち合わせていたとは思えない。

 

では何故?

 

そこまで考えてから、ようやく空雅は思考を放棄した。いくら考えたところで答えは出そうにない。そもそもどんな答えだろうが目の前のクズを見逃す理由にはなり得ないのだから。

この答えの出そうにない問答の続きは、こいつを消した後でゆっくり考えればいい。

 

蒼介「貴様にはひと欠片の慈悲すら必要ないな」

鉄人「専門外の話が飛び交っていたが、貴様が倒すべき敵だということは理解した」

[ふふふ、私の殺気を受けても闘志が揺らがぬか……]

 

蒼介と鉄人が空雅の隣に並び立つ。二人は教師として生徒会長として、学校に侵入した賊を捕らえるためにこの作戦に参加したのであって、空雅からハーバードで起きた悲劇の詳細を聞いたわけではない。そのため先程の空雅達の会話の内容を十全に理解したわけではなかったが、この純白の天使が排除すべき対象であることは充分に理解できた。

 

沢山の命を奪っておいて、こんな風になんてことのないように平然としているような奴など……断じて許されて良い存在ではない!

 

三人の召喚獣はアドラメレクを取り囲んだ。いつの間にかファントムの姿は消えていたが、今はあんな小物に構っている余裕はない。

 

[ふむ……これが貴様らの闘い、試召戦争とやらか。ならば我も点数を公開しないようではフェアではないな……どれ(ブォン)]

「「「……ッ!?!?!?」」」

 

その言葉と共に、アドラメレクの頭上に点数が表示される。その恐るべき点数を目の当たりにした三人は、程度の差こそあれ絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  6388点

 補習教師 西村宗一 7214点

 ?クラス 御門空雅 9342点

VS

 ?クラス  Adramelech 50000点』

 

 

[ではいくぞ。……ん?何を呆けている?……ああ、なるほどな。なに、そう悲観せずともよい。確かに絶望的な点差ではあるが、訳あって我はこの世界ではフルパワーで闘うことができんのでな]

 

 

 

 

 




アドラメレク「私の点数は5万です。ですが、もちろんフルパワーであなた方と戦う気はありませんからご心配なく」

はい、やっちゃいました。
これぞ圧倒的なインフレ。







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第六巻終了

和真「ところでよ、なんでおっちゃんは綾倉センセのこと嫌悪してるんだ?恩師なんだろ?」

空雅「あいつが俺の許可無しに“御門”をこんなに大きくしちまったせいで、現在やりたくもねー激務に追われてんだぞ!?そりゃキレたくもなるわ!」

飛鳥(そんな理由なんだ……)

御門「だいたいオメーらもアイツの教え子ならわかるだろ!アイツは人が苦しむのを見て涼しい顔でニコニコできる真性のサディストだってよ!在学中どれだけ俺が玩具にされたか教えてやろうか!?」

蒼介「正直どっちもどっちだな……」

徹「サディストならここにもいるけどね(チラッ)」

和真「チラ見すんな」




三年生対二年生の肝試し対抗戦の終結を無事見届けた高橋先生は、アドラメレク掃討作戦に参加すべく屋上に駆け足で向かっていた。よりにもよって自分がチェックポイントの立会人になっているときに襲来してくるとは、自分の日頃の行いはそんなに悪かったのかと思わず愚痴りたくなる。

 

高橋(そもそも、池本先生はどこをほっつき歩いているのですか!?)

 

総合科目のフィールドを展開できるのは鉄人と三人の学年主任のたった4名。鉄人は作戦に参加中、綾倉先生はシステムのメンテナンスのため手が放せないので除外するとして……池本先生が謎の無断欠勤をしているため自分が引き受けるしかなかった。高橋先生が怒りたくなるのも無理はないだろう。

出勤してきたらどう吊し上げてやろうと頭の中で試行錯誤しているうちに、高橋先生は屋上までたどり着いた。

 

高橋「(ガチャッ!!)御門社長、西村先生、鳳君!ご無事で…………す……か……?」

[おや、増援かね?しかし、一足遅かったようだな]

 

屋上のドアを勢いよく開けて突入した高橋先生の視界に飛び込んできた光景は……辺り一面数多の穴だらけになった屋上と、視界に入れるだけで身の毛のよだつような気分にさせられる白い天使、肩で息をしているものの特に目立った外傷の無い三人、そしてそんな本人達とは逆にボロボロになったオカルト召喚獣達。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  842点

 補習教師 西村宗一 戦死

 ?クラス 御門空雅 1329点

VS

 ?クラス Adramelech 43935点』

 

 

蒼介「くっ……!」

鉄人「まさか……ここまでとは……!」

御門「……化け物め……っ!」

 

戦況は誰がどう見ても絶望的であった。相手の点数はまだ4万点以上残っているにもかかわらず、三人中二人が瀕死、鉄人に至っては既に戦死しているという有り様だ。

自分が加勢したところでこの状況がひっくり返るとは到底思えない。だが、だからといって諦めて良いはずがないということぐらい高橋先生は理解している。

 

高橋「もう勝った気でいるのですか!?我々文月学園をあまり舐めないでください!」

[……何を的外れなことを言っているんだ?]

 

鬼気迫る表情で召喚獣を喚び出そうとする高橋先生を、呆れたような表情のアドラメレクが制止する。

 

高橋「……的外れ?どういう……意味ですか?」

[この闘い、貴様達の勝利だということだ。……時間切れの判定勝ちであるがな]

 

突如、アドラメレクの全身に大小さまざまな亀裂が入る。突然の出来事に高橋先生のみならず蒼介達も驚愕するなか、アドラメレクは崩れた肉体にさして頓着することもなく、蒼介達に向き直りながら説明をし始めた。

 

[先ほどお前達三人には言っただろう?訳あって我はフルパワーで闘えぬと。……正確に言えば、フルパワーで闘おうにも強すぎる力の反動に器が耐えられないのだ。……この地域一帯のバランスを歪ませてある程度対処できたものの、やはり完全体にはほど遠いな]

鉄人「……器だと?どういうことだ!?」

[答える義務は無い。あくまで判定勝ちであって、貴様らは我を平伏させたわけではないだからな……とはいえ負けは負け、我が原因で起きた歪みはもとに戻してやろう]

 

いまにも崩れ落ちてしまいそうなアドラメレクから、鈴を転がすような声が聞こえてくる。目の前の天使から常時発せられている死の気配さえなければ思わずまどろんでしまうほど心地の良い声だ。

 

「העולם יציבות מדע השב」

 

ーーーキィン

 

アドラメレクの言葉を聞き届けた四人は具体的には理解できないが、不自然だったものが自然に戻ったような感じがした。

 

[……さらばだ。機会があればまた会おう]

蒼介「……待て。貴様はいったい何が目的だ?それだけの力を持っているからには、その内容が善にしろ悪にしろ、半端なものでは無いのだろう?」

 

今にも消滅しそうなアドラメレクに、何を思ったのか蒼介はそんなことを問いかける。アドラメレクはしばし考える素振りを見せた後、とんでもないことを無感情に言い放った。

 

[……………全てを飲み込むこと。

天上天下森羅万象、三千世界遍く全ての命を摘み取る……それが、それのみが我の存在理由だ]

 

そう言い終えると、とうとうアドラメレクの体は砕けちり、完全に姿を消してしまった。

なるほど、どうりで空雅の学友達の命を奪いさっても平然としていたわけだ。あの台詞を聞けば相対しただけで感じた濃密な殺気も理解できる。

 

アドラメレクは命を奪うことに抵抗が無いのではなく、この世の全ての命を奪うためだけに存在している。まるで末期のシリアルキラーの如く、アドラメレクは自分以外の命を認知すると消し去らずにはいられないということだ。

 

空雅「……ますますアイツを生かしておくわけにはいかなくなったな……フー……」

 

煙草に火を点けながら空雅は腹立だしげにいう。三人が白い目で見てこようが堂々とお構いなしに学舎に副流煙を撒き散らす御門を見て、何を言っても馬耳東風だろうと判断したのか鉄人が話を切り出す。

 

鉄人「しかし、あれほどの強さとなると……対策を立てるためにスポンサーの方々を召集して臨時会議を-」

空雅「いや待てオッサン。それは危険すぎる」

鉄人「西村です!……危険とは?」

蒼介「西村先生、あの仮面男のバックは四大企業のどこかである可能性があります。前回の襲撃事件に使われたプロテクトなどの最新技術の粋を、一個人が用意できるとはとても思えません」

 

自立型召喚獣に関してはアドラメレクの力でどうにかなるのかもしれないが、アクセスを阻害するプロテクトなど最新技術の結晶を用意するとなると話は別、技術云々以前に莫大な資金が必要になってくるのだ。

 

空雅「俺の見立てだと怪しいのは“桐谷”だ」

鉄人「……何か根拠があるのですか?」

蒼介「“桐谷”は“御門”と同じく、ごく最近に台頭してきた新鋭の企業……しかしNASAを単独で壊滅させるほどの力を持ったコンピューターウィルスを使えば、大金を得ることは難しくなさそうですね」

空雅「そうだ。そもそもあんなデカイ企業が急に出てくること自体が不自然すぎる。ウチの“御門”に関してはは綾倉がデイトレードでアホみたいに稼いだ莫大な軍資金があったからどうにかなったが……そんな特殊な業績の伸ばし方がそうそうあるとも思えねー」

 

逆に“鳳”や“橘”が黒幕である可能性は極めて低い。なぜならこの二企業は、インターネットが普及する遥か前から日本を支えてきた長寿企業だからである。

 

高橋「となると黒幕は桐谷社長……もしくは重役の誰かに絞られますね」

鉄人「ならば“橘”の社長も加えて秘密裏に-」

御門「……あのテープレコーダー野郎が秘密裏に行動できると思うか?」

「「「……無理ですね」」」

 

四人の脳裏に浮かぶのは溌剌とした笑顔のまま延々と喋り続ける飛鳥の実父。なんとも隠密行動に死ぬほど向かない人材である。

その後話し合いの結果、携帯で秘密裏に連絡を取り合うことに決めた。彼ら四人の最終目標は二つ、アドラメレクの打倒か黒幕を捕縛すること。達成できないようでは最悪、世界が滅びるかもしれない重要なミッションである。

 

高橋(この学園は……生徒達は私が守る!)

鉄人(あんな怪物などに、誰一人俺の教え子達を傷つけさせてたまるものか!)

蒼介(生徒会長でも、“鳳”時期後継者でもなく、鳳蒼介という一人の人間として……奴を生かしておくわけにはいかない!)

空雅(アドラメレク、いずれてめーを……てめーの協力者も必ず見つけ出して始末してやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ファントムは桐谷本社『バベルタワー』最上階の社長室に足を運んでいた。別に桐谷社長にテストプレイの結果を報告しに来たわけではない。

 

ただ、用済みの駒を処分しに来ただけだ。

 

桐谷「ガハッ……ファントム……!貴様ァッ!?」

『何を驚いている?充分予想できたことだろう?お前はもういらん、と我が主が判断されたのだよ』

桐谷「話が……ッ……違う……!」

『悪いが用済みの駒に割いてやる時間はあまりないのでね……アドラメレク、やれ』

「אֶרוֹזְיָה」

桐谷「ー!?ーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、桐谷社長はどうだったのだ?』

[流石に『玉』とまではいかないが……曲がりなりにも()の血縁者だけのことはあるな、思った以上に適合しおったわ]

『なるほど……つまり【セブンスター】の担い手の枠もようやく埋まったわけだ。ふふふ、決行の日は近いようだな』

[具体的な実行日を決めるのは、あの学園に潜伏している我が同志だがな]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、“桐谷”代表取締役・桐谷蓮が行方不明になったことが、さまざまなメディアを通して全世界に伝えられることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「第六巻も無事……?終了したな」

和真「言い淀んだってことは全然無事じゃないことは自覚してるんだな。何だこの展開?肝試しなんてチャチなもんじゃねぇ、終盤ガチのホラーじゃねぇか。これ読者ついて来れんのか?」

蒼介「仕方がないだろう。アドラメレクは存在そのものが死亡フラグというコンセプトで生み出されたキャラクターだからな。登場するたび原作キャラ以外のオリジナルキャラは死の危険があると思っていい」

梓「なあ、一個聞いてエエか?」

和真「おっ、本編で二年生チームの点数を一人で軽く2万点以上削った今回のゲストの梓先輩じゃん」

梓「露骨な説明口調やね。それよりも、なんで原作キャラは大丈夫なん?」

蒼介「『自分は人の考案したキャラクターを非営利目的とはいえ無断で借りている立場であり、必要悪でもないキャラを過剰に貶めたり無意味に殺したりするのはどうも気が引ける』というのが作者の考えですから」

梓「ほー、作者がアンチ・ヘイト小説あんま好きちゃうのそんな理由なんか」

和真「その点作者が考えたオリキャラはどう扱おうが誰にも後ろめたくならないからな、使い潰しても惜しくもなんともない」

梓「清々しいほど外道やな!?」

蒼介「まあ作者にもキャラへの愛着はあるので、今回のような端役中の端役でも無い限り無意味に殺したりはしないが、アドラメレクが出てきたときは誰が死んでもおかしくないという緊張感を忘れないでくれ」

梓「それにしても、アドラメレクは何でフルパワーで戦えないん?」

和真「それについてはまだ詳しく説明するつもりはねぇ。ちなみにだが、この小説がもしハッピーエンドで終わるつもりなら……アドラメレクがフルパワーで闘える日は来ねぇ」

梓「……え?なんでなん?」

蒼介「アドラメレクは遊戯王で例えると『エグゾディア』です。もし完全体になった奴と闘えば、我々がどれだけ戦力を揃えようとまず勝てません」

和真「だから今後ソウスケ達(もしかしたら俺達も参加するかもしれねぇが)は、アドラメレクが万全になる前に消去するか黒幕を見つけなければならねぇ」

梓「まあ、さすがに5万なんてどうしようもないからなぁ……」

蒼介「それと重大なお知らせがある。少しの間この作品の更新は停止して、番外編の更新を進めて行こうと思う」

和真「七巻も今巻みたいに原作とは大分違った展開になるだろうし、それ移行は完全にオリジナル路線に進むからな。もう一度考えているストーリー展開の見直しもしてぇんだ」

梓「まああっちをある程度進めたらすぐに更新し始めるから、心配せんとってな」

蒼介「それではそろそろお開きにしようか。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「じゃあな~」

梓「ほなまた!」


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七巻開始・始業式

お久し振りです。
今回は原作では省かれた始業式のシーンです。内容は新生徒会役員&一年生担当の学年主任の紹介……要するに新キャラの発表会ですね。

そこ!テコ入れとか言うんじゃありません!


笑いあり涙あり修羅場あり流血あり臨死体験ありその他諸々のハチャメチャな夏休みもようやく終わりを迎え、大多数の学生達の悲嘆の声も一切お構いなしに二学期がスタートする。現在全校生徒が始業式に参加するため体育館に集合している。ちなみに我らが和真はというと、用意されたパイプ椅子に座って学園長の無駄に長い上に大してありがたくもない話を心底気だるそうに聞いていた。

 

和真「はぁ……年をとると体感的な時間の流れが速くなるっつうけどよー、それに比例して話が長くなるのはどうにかなんねぇのか?」

姫路「柊君、ちゃんとお話しを聞かないとダメですよ」

 

隣に座っている姫路が困ったような表情で和真の愚痴を嗜める。この二人は苗字の関係上五十音順で並ぶと必然的に隣同士になるため、今回のような式典の最中に愚痴りだす和真を姫路が諌めるのはもはやFクラスの恒例行事と化している。

 

和真「んなこと言ってもダルいもんはダルいぜ……ったく、先進的な学校を謳うんならこんな式省いちまえばいいのによ」

姫路「もう、柊君ったら……あんまり我儘言ってると優子ちゃんに言いつけちゃいますよ?」

和真「ほー、そいつは困る。じゃあ俺は海水浴以降お前の体重がさらに増加したことを明久にチクるけど構わねぇよな?」

姫路「どうして知ってムグゥっ!?」

 

思わず大声を出しかけた姫路の口を予見していた和真がすぐさま手で塞ぐ。姫路が落ち着いたことを確認してから和真はその手を離す。

 

和真「式典の最中に大声出すんじゃねぇよ」

姫路「す、すみません……。でもどうして柊君がそのことを知っているんですか?誰にも言ってない筈なのに……」

和真「俺が知ってるわけねぇだろそんなどうでもいい情報。種明かしをすると、ただ単にカマかけただけだぜ」

姫路「はぅっ……!」

和真「俺が優子に弱いのは事実だがな、お前が駆け引きで俺に勝とうなんざ十年早ぇんだよ」

 

弱点が露呈しているとはいえ、和真の駆け引きの上手さは学園でも一二を争うレベルである。騙されやすい女子筆頭である姫路の生半可な戦術では返り討ちに合うのが関の山だろう。その後、体重の増加を露呈してしまった姫路はネガティブオーラを撒き散らしつつ沈み込んでしまい、流石に罪悪感を感じたのかその後和真も学園長の話は聞き流しつつもおとなしくしておくことに。

 

学園長「……っと、もうこんな時間かい?それじゃあ次は後期生徒会役員の紹介だよ。本当は一人一人に所信表明でもしてもらおうかと思っていたんだけど、時間が押してるから巻きで頼むさね」

和真(アンタの話が長いせいだろうが……)

学園長「名前を呼ばれたら前に出てきな。高橋先生、後は任せたよ」

高橋「わかりました。それでは二年生の役員から紹介していきましよう。まずは前期から続投の二人……会長の鳳蒼介君、副会長の橘飛鳥さん」

「「はい」」

 

高橋先生に名前を呼ばれた二人は、席を立ちゆっくりと歩みを進める。名家出身の二人(おまけに片や柔道インターハイチャンピオン、肩や世界的大企業の次期後継者)から滲み出る絶大なカリスマオーラに圧倒されたのか、僅かなざわめきすらシャットアウトされ体育館全体が静寂に包まれる。二人がステージに上がったのを確認してから、高橋先生は紹介を続ける。

 

高橋「続いて後期から任に着いた二人……書記の沢渡晴香(サワタリ ハルカ)さん、会計の二宮悠太(ニノミヤ ユウタ)君」

 

深緑色のセミロングをした快活そうな女子生徒と、坊主頭であるが夏川と違ってかなり真面目そうな男子生徒が席を立ちステージに向かって歩き始める。 

 

和真(あいつらが役員か。まあ二人とも文武両道だし人選としてはベストかもな、性格も文月に何故かやたら多い奇妙奇天烈系ってわけでもねぇし)

 

二宮の期末テストの順位は12位、沢渡も14位とどちらも成績優秀者である。流石に和真達のような精鋭中の精鋭には遠く及ばないものの、二人とも得意科目では飛鳥を上回る点数を叩き出している。打倒Aクラスを掲げる上で無視できない主力級と言っていい。さらに沢渡は女子ラクロス部、二宮は野球部の部長にそれぞれ任命されたほどのスポーツマンでもある。生徒を代表する立場にはまさしくうってつけであろう。

 

高橋「……では、一年生の新役人の紹介に移りたいと思います。庶務の黒木鉄平(クロキ テッペイ)君、書記の宗方千莉(ムナカタ センリ)さん、会計の志村泰山(シムラ タイザン)君……そして副会長の綾倉詩織(アヤクラ シオリ)さん」

 

呼ばれた四人が一斉に立ち上がる。和真と言えど一年生とは流石にあまり交流が深くないため、わかっている情報はこの四人が、それぞれ別クラスにもかかわらず非常に仲が良いということぐらいである。

 

和真(これじゃあまるで仲良し団体だなオイ。……まあアイツら四人とも確か学年トップクラスだったし、学園側も文句は無いだろうな。

……それにしても、なぁ……)

 

和真はステージに向かって歩きだす四人をそれぞれ観察してある感想を抱く。

 

まずは学年首席の綾倉詩織。苗字からわかると思うが三年学年主任である綾倉慶の愛娘である。かなりの美人顔ではあるものの、常にニコニコ裏のありそうな微笑みを浮かべている綾倉先生とは似ても似つかないほどクールな表情をしている。顔つきや栗色のサラサラヘアーはしっかり遺伝しているところから、もしかしたら綾倉先生のアレは後天的なものではないかと以前和真が思ったことがある。

 

続いて次席の志村泰山。知り合いの人物で例えると、ちょうど久保と高城を足して2で割ったような容姿をしている。確か文月新聞主催のランキングでモテる男子(一年生の部)でトップだったことを和真は思い出す。

 

その次に宗方千莉。この女子はまあ……美波と飛鳥を足したような人物だと思ってもらえばそれで構わない。要するに同性に死ぬほどモテる。長い緋色のロングストレートを束ねてポニーテールにしていて、美形ではあるものの非常に厳格そうな顔つきであり、秀吉と同じ演劇部に所属している。

 

そして最後の黒木鉄平だが……

 

和真(明らかにアイツだけ浮いてるよな……)

 

一言でいうと……濃い。

天に向かってそびえ立つ黒々とした剛毛、海苔のような太い眉毛、燃えたぎるような情熱を宿した瞳と、全体的に何か暑苦しい。そして性格も見た目通りの熱血漢であり、地球温暖化の元凶と一年生の間で噂されているとかいないとか。この手の輩は個人的に嫌いではない和真だが、あの四人が並ぶと他三人がクール系なのでどうしても違和感を覚えてしまうのは仕方ないだろう。

一人一人簡単な挨拶をした後、大きな拍手を受けつつそれぞれが席に戻る。

 

高橋「ありがとうございました。続いてのプログラムは、新任の教師の紹介します。突然行方不明になった池本先生の代わりに一年学年主任に勤めて頂くことになった-」

和真(さて、どうさんな奴だ。全フィールドを張れることが条件の学年主任に抜擢されるほどの人だ、生半可な人材では-)

 

 

 

 

 

高橋「-御門空雅先生です」

「「「ぶふぉっ!?」」」

 

和真だけでなく、空雅と面識のある生徒のほとんどが思わず吹き出してしまう。ステージに上がってきた空雅はいつも通りの死んだような目つきであるものの髭はきちんと剃ってあり髪もいつもと違ってしっかりセットしていて、服装も多少崩れているもののキッチリと着ていた。

 

和真(え!?おっちゃんが新任の教師!?教員免許持ってるのかよ……?いやそんなことより!アンタ大企業の社長だろうが!?)

 

内心パニックに陥ってる和真を尻目に空雅改め御門先生は高橋先生からマイクを受け取りつつ、片手で髪をかきむしりながらスピーチを始める。

 

御門「あー……ちょっと今ニコチンとコンポタが不足しててスゲーだりーから簡潔に話すぞおめーら。元“御門エンタープライズ”代表取締役の御門空雅だ。ここに来た経緯を説明するとだな、このたび俺は度重なる理不尽な激務にほとほと嫌気が差し、保有している株の名義を秘書の奴に変更し無断で会社の全てを押し付けてから教師になることになった。まあそんなわけで、適度によろしくなガキども。……はい終わりー、お疲れさんまた明日ー」

 

聖職者にあるまじき不真面目極まりないスピーチをしてから、御門先生先生はさっさと体育館から出ていった。その後烈火の如く怒り狂った学園長がすぐさま鉄人を派遣したが、逃げられてしまったらしいと後で耳にした。そんなグッダグダの雰囲気のまま始業式は閉会式を迎える。その後のホームルームでいつものメンバーを除くFクラスの大半が宿題をやっていないことが判明し鉄人の雷が落ちたことは語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




沢渡晴香
・文系
・ラクロス部部長
・総合科目2735点

二宮悠太
・理系
・野球部部長
・総合科目2851点

この二人は一年生四人と違ってさほど重要なポジションではなく、今のところ名無しよりはマシ程度の出番しか考えてません。パワーアップした秀吉よりちょっと強い生徒という認識程度で全然構いません。

御門のおっちゃんが教師として文月学園にやってきた本当の理由はアドラメレク関連なのですが、彼は遅かれ早かれ桐生さんに“御門”を(本人の意見は無視して)くれてやるつもりでした。どうも大企業の社長なんてガラじゃなかったみたいですね。

七巻の内容をほぼオリジナル展開にしたせいか、思ったほどストックがたまらなかったので更新ペースは暫く三日に一回になります。



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持ち物検査

【バカテスト・世界史】

次の文章を読み、問いに答えなさい。
『19世紀の終わり、()()()()()()は世界最初の社会保険制度を創設し、貧困者の救済を図った。また、この救済と同時に、社会主義鎮圧法を制定したために、この政策は「( )とムチの政策」と呼ばれた。』

問1・・・・・の当時のドイツの宰相の名前を書きなさい
問②( )に当てはまる単語を答えなさい

明久の答え
『問1 ビスマルク
 問2 (アメ)とムチの政策』

蒼介「正解だ。ビスマルクは政策として社会保険制度をご褒美……つまり“アメ”として民衆に与え、一方で社会主義者鎮圧法と言う“ムチ”で人々を叩いたと言うわけだ。甘やかすだけでもなく叩くだけでもない、政治のみならず様々な場面で用いられる手法だな」


美波の答え
『問1  Otto Eduard Leopold Fürst von Bismarck Schönhausen
問2 (アメ)とムチの政策』

蒼介「どや顔で解答欄を埋めていることが容易に想像できるな」


ムッツリーニの答え
『問1 エリザベス』

蒼介「ムチ→女王様→エリザベス女王……という図式か……?人の上に立つものはあらゆる人の考え・価値観を理解する義務がある、というのが私の信条なのだが……お前の解答を見てると正直挫けそうになったことが多々ある」






「翔子」

「………………」

「翔子」

「………………」

「おい翔子」

「………………あ……。ごめんなさい。何、雄二?」

「出せ」

「……えっと……多分、無理」

「無理じゃない。いいから出して、こっちに寄こすんだ」

「……でも……」

「でもじゃない。早く出せ」

「……でも……まだ、妊娠してないから……」

「待ってくれ。今会話に必要なステップが凄い勢いで飛ばされた気がする」

「……???」

「なんでそこで疑問顔ができるんだよ……。お前は俺が何を出せと言っていると思ったんだ?」

「……母乳」

「オーケー。主語述語じゃなくて、問題なのはコミュニケーション能力だと言うことがよくわかった」

「……違うの?」

「違いすぎる。一体何を考えていたらそんな答えが返ってくるんだ」

「……結婚後の、私たちの家庭について考えてた」

「そうか、結婚後の家庭か。なるほどな、それならあんな返事が返ってきてもおかしいだろやっぱり」

「……雄二と二人で、子供は何十人欲しいか話し合っているところだった」

「言っておくが議論する人数の桁が一つ多いからな」

「……雄二は三十八人がいいって言うけど、私は三十九人が良いって喧嘩をして」

「もうその辺までいったら一人程度の違いは容認しろよ」

「……仲良し夫婦でも譲れないものがある」

「あー、はいはい。さいですか」

「……それに三十八人だと三等分にできない」

「は?なんで三等分にする必要があるんだよ」

「……三人に一人は和真が名付け親になってもいいって言っててくれたから」

「ほんとアイツは隙あらばお前に余計なこと吹き込むよな……!」

「……それで、母乳じゃないなら何を出せって言ってたの?」

「その台詞だけ聞かれたら俺はかなりの変態野郎だよな……」

「……変態を雄二扱いするなんて、許せない」

「お前が原因だ!ってか俺と変態を言う順番が逆だろ!?それだと変態を擁護してるじゃねぇか!」

「……それで、何?」

「そこは気にせず流すのかよ……。まぁ、面倒だからいいが……。俺が出せって言ったのは、お前が後生大事に抱えているそのデカい袋だよ」

「……これは、別に何でもない」

「翔子。お前の為に指輪を買ってきた。手を出してくれ」

「……嬉しい」

「よっと。まったく……指輪って言われて躊躇いなく左手を出すあたりがお前らしいな……。えーっと、どれどれ中身は……ウェディング雑誌に、催眠術の本に、犬のしつけ方の本……ちょっと待てコラ」

「……返して」

「誰が返すか!俺の身の安全の為に、これは預かっておく!」

「……困る。この前久保に貸してほしいって頼まれたのに」

「……と思ったが、約束を破るのは良くないな。返してやろう」

「……本音は?」

「明久の身に面白いことが起きそうだから、多少のリスクには目を瞑ろう」

「……雄二は時々酷い」

「何を言うんだ翔子。俺はアイツの幸せを考えてやっているんだぞ」

「……じゃあ、私も雄二と築く幸せな家庭について考える」

「…………はぁ……勝手にしろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始業式の翌日。

Fクラス教室は静寂でありながらも剣呑な雰囲気に包まれていた。普段は怠惰の極みと方々から揶揄されているFクラスの生徒達のほとんどが真剣な表情で担任の西村宗一(通称:鉄人)に己が内に眠る情熱を真剣に訴えていたところである。

 

鉄人「…………お前達の熱意は確かに伝わった。

だが……

 

 

 

 

没収したエロ本の返却は認めん」

「「「ちくしょぉぉぉおおおぉぉおおお!!!」」」

 

……とまあ厳かな雰囲気で語ってみたものの、要するに抜き打ち持ち物検査で没収された成人指定本の返還を懇願していただけである。

 

明久「どうしてですか西村先生!僕達が“保健体育”という科目の学習に対する知的好奇心を高める為には、“エロ本の内容の理解”という本能に根ざした具体的な目的が必要なんです!」

鉄人「学習しなければ理解できんほど高度なエロ本を読むな。お前は何歳だ」

明久「知識を求める心に年齢は関係ないでしょう!」

鉄人「思いっきり成人指定と書いてあるだろうが」

 

『お願いします、西村先生!』

『僕には……いや僕らには、その本がどうしても必要なんです!』

『お願いです!僕達に、保健体育の勉強をさせて下さい!』

『西村先生、お願いします!』

『『『お願いします!』』』

 

鉄人「一瞬スポ根ドラマと見紛うほど爽やかにエロ本の返却を懇願するな。さて、朝のHRを終わる」

 

明久達の必死の懇願を受けても(当たり前だが)鉄人は一切聞き入れず教室を出ていこうとする。

 

明久「ええい!こうなりゃ実力行使だ!僕らの大事な参考書の為、命を懸けて戦うんだ!」

「「「おおおーっ!!」」」

 

和真、雄二、秀吉を除くFクラス男子総勢44名が、一斉に鉄人に飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「……やっぱりこうなったか」

秀吉「惨敗じゃの……」

和真「当たり前だ、この俺に勝った人だぜ?数だけが取り柄の烏合の衆でどうこうできるわけねぇだろ」

 

乱闘に参加しなかった6人の前に広がるのは鉄人によって粉砕され倒れ伏しているFクラスの戦士達44名。これだけの人数を相手にしながら誰にも怪我をさせていないあたり、鉄人はテクニックも一流であることが伺い知れる。

 

美波「アンタらってこういう時は凄い結束力を発揮するわよね……」

明久「凄い結束力って、そんなに統制が取れてた?」

美波「統制っていうか……どうしてクラスの男子全員が、一人残らずその……ああいう本を、学校に持ってきてるのよ……」

和真「男子でひと括りにするな。俺はんなもん持ってきてねぇぞ」

秀吉「ワシもじゃ」

雄二「俺が持ってくるわけないだろ?命が惜しいからな」

翔子「……そもそも雄二の秘蔵コレクションは、最近私が一つ残さず燃やし尽くした」

 

翔子の無慈悲なカミングアウトにも雄二は一見なんでもないように振る舞っているが、わずかに目尻がキラリと光っているのを観察に長けた秀吉と和真は見逃さなかった。

 

明久「雄二はともかく……和真もなの?やっぱり木下さんに気を遣って?」

和真「そもそも購入したこともねぇよ」

翔子「……和真は純粋で純情だから」 

雄二「おぼこ、とも言うがな」

秀吉「加えて姉上曰く、貞操観念が箱入り娘らしいからのう」

明久「へぇ~、箱入り和真か……」

和真「言うに事欠いて人をミミックみてぇな呼び方しやがって……」

 

とはいえ客観的に見て、キスだけでキャパシティが限界を迎える現状には正直自分でもどうかと思うので和真は特に言い返さなかった。夏休み中ほとんど毎日というレベルで優子と行動を共にしていた和真だが、優子にキスされる度に最終的に骨抜きにされていた気がする。

 

和真(流石に悔しいから早急に対策が必要だな。……でも俺を降参させた後のあの満足そうな笑顔が見れなくなるのは何か惜しい気もするし……世の中意外とままならねぇなオイ)

明久「話を戻すけど……まあ、色々と男子の事情があるんだよ」

美波「あんな本を全員で持って来る事情って一体……?」

姫路「でも、没収されたのは仕方ないと思います。その……ああいう本は、明久君たちにはまだ早いと思いますから……」

 

姫路の意見は至極真っ当であるのだが、そんな意見を聞き入れるくらいならあの手の書物を学校に持ってこうなどとは思わないであろう。

 

明久「うぅ……やっぱり納得がいかない……」

秀吉「持ち物検査なぞ久しくなかったからの。油断するのも無理からぬことじゃ」

美波「確かに凄い不意打ちだったわね。ウチも細々としたものを沢山没収されちゃったわ。DVDとか、雑誌とか、抱き枕とか」

姫路「そうですね……。私も色々と没収されちゃいました……。CDとか、小説とか、抱き枕とか」

和真(女装姿の男子生徒がプリントされた抱き枕に抱きつきながら安眠する女子高生か……想像しただけで絵面がシュール過ぎるなオイ)

翔子「……私も、ウェディング雑誌とか、催眠術の本とか、犬のしつけ方の本とか」

明久(おかしい。一般的な女子高生として相応しい持ち物が一つとしてない)

 

この三人はFクラスの中では教師からの評判は良い方であるが、やはり紛れもないFクラス生徒であるようだ。

 

和真「秀吉も何か没収されてたよな?」

秀吉「うむ……。現代物の演劇に使おうと思っておった小物の類なのじゃが、運悪くその小物が携帯ゲーム機などでの……」

和真「部活に使う物なら事前に申請しておけば良いものの、お前も変な所で抜けてるなぁ……」

秀吉「返す言葉も無いのじゃ……」

 

蒼介の護身刀を始めとした、一見学校に持ってくるべきではないが必要である理由がある物の場合、事前に然るべき場所に届け出を出しておけば没収されずに済む。どう考えても受理されないであろう明久達の参考書(笑)には無縁の制度であるが、部活に必要な物であるなら普通に受理されるはずだ。

 

ムッツリーニ「……持ち物検査についての警戒をすっかり忘れていた……」

 

元々小柄な体格であるムッツリーニだが、今は背中を丸めているせいで更に小さく見える。この男が本気で警戒していれば持ち物検査があることくらい事前に察知できていただろうが、どうやら収穫報告際(夏)の準備に気をとられるあまり失念していたようだ。

 

雄二「学年全体での一斉持ち物検査だからな……。夏休みの、俺達がいない間に打ち合わせをしていたってことか」

明久「まったく、先生達もやることが汚いなぁ……」

 

狙ってきた日が始業式というのも絶妙に巧妙な手口である。始業式なら多少警戒する生徒も少なからずいるだろうが、その次の日となると油断していても仕方の無いことだろう。

 

明久「まぁ、携帯が没収されないのが唯一の救いだよね……」

雄二「授業中に使ったり鳴らしたりしたら速没収だけどな」

 

緊急時の連絡用という名目もあってか携帯電話だけは見つかっても没収されることはない。もっとも、雄二の言う通り授業中に鳴れば没収は免れないのだが。

 

秀吉「して、明久は写真集以外は何を没収されたのじゃ?」

明久「えーっと、本にCDにゲームに、(姫路さんや美波や秀吉の水着)写真とか……」

和真「お前に対してだけやたら警戒してたもんな、西村センセ」

明久「一年のとき色々あったんだよ……」

 

そう言えば去年、明久達の担任は鉄人であったことを和真は思い出す。そして明久が没収品(及び鉄人の私物の本)を売り捌いたことが原因で観察処分認定を受けたこともついでに。

 

秀吉「それにしても写真集ではなく普通の写真まで没収とは……。教師陣も容赦がないのう」

明久「まったくだよ……。今日の朝のムッツリ商会から買ったばかりだから、まだ殆ど見てもいないのに……」

姫路「本当、残念ですよね……。私もあの抱き枕に抱き付くの、凄く楽しみにしていたんですけど……。水着の写真だって飾りたかったですし……」

美波「ウチも、今夜は凄くいい夢が見れると思ってたのに……」

 

明久と同じように(明久には内緒で)ムッツリ商会から買ったばかりの新商品を取られた二人が同意する。

 

明久「雄二はどうだった?何か没収された?」

雄二「俺はまたMP3プレーヤーだ。一昨日出た新譜を入れておいたのに、それも全部パァだ。くそっ」

 

忌々しい、と言わんばかりに雄二が吐き捨てる。ちなみに雄二がMP3プレーヤーを没収されるのは去年と合わせると二回目になる。

 

明久「ってことは、ムッツリーニはやっぱりカメラ?」

ムッツリーニ「……(コクリ)」

 

ムッツリーニは涼んだ様子で肯定する。たとえもし彼が写真部に所属していたとしても、撮っている写真が写真なので申請しても受理されないであろう。

 

ムッツリーニ「……データの入ったメモリーも没収されたから、再販も当分できない」

「「「えぇっ!?」」」

 

明久、姫路、美波の三人がムッツリーニの無情な一言を耳にし、同時に悲痛な叫び声を上げる。

 

明久「どういうことさムッツリーニ!?いつもきちんとバックアップを取っているんじゃないの!?」

姫路「そうですよ土屋君!どこかに予備データが残っていたりはしないですが!?」

美波「本当は家のパソコンを探せば出てくるのよね!?」

ムッツリーニ「……バックアップはある。でも、サルベージに時間がかかる」

「「「そ、そんな……っ!」」」

 

思わず同時に手を床に突いてしまう明久、姫路、美波。確かにムッツリーニが日頃撮り貯めてるデータの量は膨大である。その中から必要なデータをもう一度探すとなると、相当な時間と労力を必要とするだろう。つまり明久達はそのデータがサルベージされて再加工されて、注文してから納品されるまでの時間を待たなければならないということになる。

 

『おい、今の話を聞いたか……?』

『ああ……。再販が未定だとは……!姫路や島田や木下姉妹の水着写真がそれまでお預けなんて、死にも等しい苦行だぜ……!』

『それだけじゃない。霧島に工藤に、知らない美人のお姉さんまで水着で写っていたらしいぞ……!それを見られないだなんて、俺は、俺は……っ!』

 

クラスの至る所から悲鳴が聞こえてくる。

 

秀吉(またナチュラルにワシが女扱いされておるな……)

和真(写真ねぇ……卒業アルバムを貰ったその日に捨てるような俺にはいまいちピンとこねぇな)

 

本当に大切な思い出は形として残さない方が素晴らしい…という持論を持つ和真には彼らの悲嘆を心から理解することができなかった。

 

明久「さて、どうする雄二?……やる?」

雄二「そうだな、さっきは翔子にエロ本奪還目的で行動していると勘違いされる危険があったが今は違う……やるぞ明久!教師ども……特に鉄人が出払った昼休みに職員室へと忍び込み、俺達の私物を取り戻すんだ!」

明久「おうっ!」

 

没収品を取り戻す為、明久と雄二が腰を上げる。このような横暴は今後の学園生活にも見逃すわけにはいかんとばかりに。

 

ムッツリーニ「……お前達だけを、戦わせはしない」

 

寡黙なる性識者の名は伊達ではなく、その目に強い光りを取り戻しつつムッツリーニが立ち上がる。

 

『待ちな、お前ら!』

『俺達を忘れてもらっちゃ困るぜ!』

『へへっ……。俺たち、仲間だろ?』

 

明久「み、みんな……!」

 

気がつけば、先ほど叩きのめされた男子全員が立ち上がっていた。Fクラスの強みは行動力と粘り強さ、大切な物を没収されたからには、一度や二度打ちのめされた程度で泣き寝入りするようなタマでは無いのだ。

 

姫路「あ、あのっ。皆さん落ち着いて下さいっ」

明久「?姫路さん……?」

 

今すぐにでも職員室に突撃しそうな勢いだった明久達を突然姫路が制止した。全員の注意が自分に向いたのを確認してから、姫路は言い聞かせるように話し始める。

 

姫路「明久君、坂本君、それに皆さん……。やっぱりそういうのは、良くないと思うんです」

明久「そういうのって……職員室に忍び込むって話?」

姫路「……はい」

明久「でも、そうしないと没収品は返ってこないからさ。姫路さんだって没収されたものを取り返したいでしょ?」

姫路「そ、それはその、返して貰えるなら返して欲しいですけど……。でも、学校のルールを破っちゃったのは私自身ですから……」

 

そう言いながら姫路は明久の目を直視する。和真が優子に弱いのと同様に明久は姫路に弱いため、その目を見て明らかに迷いが生じていた。

 

美波「まあ、瑞希の言う通りよね。元々ウチらが校則違反でやっちゃってるのが原因なわけだし。その罰に納得がいかないからって、また問題を起こすのはちょっとね」

翔子「……郷に入りては郷に従うべき」

 

姫路の意見に美波と翔子も同意する。

 

姫路「はい。だから、そうやって職員室に忍び込むっていうのはダメだと思うんです。そういうのは、狡いような気がします」

明久「……雄二、どうしようか。そう言われてみると、忍び込むのはなんだかちょっと……」

雄二「あ~……。どうするも何も、こいつらにそこまで言われたら、流石に考えを直すしかないだろう」

 

明久と雄二だけでなく、クラスの皆も同意見のようで、全員が決まりの悪そうな表情を浮かべている。

 

姫路「明久君。坂本君、皆さん……。わかってくれたんですね?」

雄二「ああ。お前達の言いたいことはよくわかった。つまりはこういうことだろう?

 

……こそこそと忍び込んだりなんかせず、鉄人を殺って堂々と奪い取れ、と」

姫路「全然違いますからね!?」

和真「良く言ったぁっ!それでこそ男だぜ!」

姫路「柊君も煽らないでくださいっ!?」

 

 

姫路の結局もむなしく明久達は昼休みの職員室に急襲を仕掛けたものの、それを予測して召喚フィールドを展開して待ち構えていた教師達らの召喚獣によって捕縛され、補習室に連行されてしまった。ちなみに強襲に加わらなかった5人はEクラスで授業を受けることになった。

 

和真(さて、もうすぐ待ちに待った体育祭&生徒・教師交流野球大会だな。バカどもは愚劣にもラフプレーの練習に余念がないようだが、ばーさんか綾倉センセあたりが対策案を考えているだろうな…………考えていなかったら俺がぶっ潰すだけだがな)

 

大抵のことなら許容してやるほど器の大きい和真であるが、自身に降りかかる女装ネタとスポーツに悪意を持ち込むことだけは、いかなる理由があろうとも断じて許しはしないのである。

 

 

 

 

 




秀吉「そういえば、和真は何も没収されなかったのかの?」

和真「ああ、今回に限らず今まで何かを没収されたことは一度も無い。どういうわけか、持ち物検査がある日に限って何も持ってきてないんだよ俺」

美波「相変わらずズルいわねアンタの勘……」


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試験召喚野球大会

【バカテスト・野球】

次の野球用語について説明しなさい。
『タッチアップ』


雄二の答え
『フライがあがった時に走者がその打球の行方を見守ること。捕球後は進塁することができる』

和真「正解だ。ちなみにタッチアップを介して得点した場合打点はバッターにつくが、ホームスチールを介して得点した場合打点は誰にもつかねぇ。結構ややこしい所だからイチオウちゃんと覚えとけよ?」


姫路の答え
『痴漢をする』

和真「そいつはtouch upの直訳だな。和訳としては正しいが野球用語としては不正解だ」


ムッツリーニの答え
『フライが上がった時に走者が打球とチアリーダーのスコートを確認すること。捕球後は痴漢しに行くことができる』

和真「正しい知識と欲望が混ざっているぞオイ……」


        ★連絡事項★

 

     文月学園体育祭親睦競技

      生徒・教師交流野球

 

       上記の種目に対し

     本年は実施要項を変更し、

   競技に召喚獣を用いるものとする。

 

    文月学園学園長 藤堂カヲル  

 

 

翌日このような通知が出された。明久と雄二はこの貼り紙を見るや否や一目散に学園長室に乗り込んで抗議しに行った。とはいえあの学園長のことだ、明久達の抗議などにはまず間違いなく一切聞く耳を持たないだろうと和真は推測する。何故なら学園側がこのような措置をとることになった原因が、他ならぬFクラスなのだから。

 

和真「……お、戻ってきたな。どうだった明久?」

明久「うん、雄二は無事始末されたよ」

和真「待て。お前らは何しに行ったんだ」

 

相変わらずファンタジスタぶりを発揮する明久だが、流石に意味不明過ぎるので和真は根気よく説明を促すことにする。

どうやら和真の推測した通り学園長に召喚獣を用いたルールを撤回させることはやはり不可能だったらしい。何でも明久達のラフプレー対策だけでなく、野球用に組み替えるほど召喚システムを制御できたので見学に来るスポンサーの重役達に見せびらかしたいという思惑もあったようだ。つくづく妙なところで子供っぽい老人である。

しかし話はここで終わりではなく、雄二は形式の変更が不可能と判断すると代わりとして持ち物検査で没収された物を優勝賞品にさせ、さらにその後もさまざまなルール設定を学園長と取り決めたらしい。

 

和真「しかし解せねぇな。アイツはたかだかMP3ごときのためにそこまでやる気を出す奴だったか?」

明久「実は霧島さんにもバレずに隠していた特急品の写真集を持ってかれたらしくって……」

和真「なるほどねぇ……ようやく雄二が始末されたって話につながったな」

明久「あ、今回は霧島さんじゃなくて異端審問会が裁きを下したんだよ。中学に入るまで霧島さんと一緒にお風呂に入ってたっていう許されざる蛮行が明らかになって」

和真「アイツもアイツで大変だな……まあそんなことより、詳しいルールとトーナメント表的な物はあるか?」

明久「うん。詳しいことはここに全部書いているよ」

 

和真は明久から手渡された2枚のレジメに目を通す。このトーナメント形式だと順当にいけば準決勝は3-A、決勝戦は教師チームか2-Aと当たることになるだろう。

そして肝心のルールはというと……

 

 

 

~召喚野球大会規則~

●各イニングでは、必ず授業科目の中から一つを用いて勝負すること。

●各試合に於いて、同種の科目を別イニングで再び用いることは認めない。

●立会いは試合に参加していない教師が務めること。

●立会いの教師の変更は認めない(何らかの事情で立ち会いの教師が退場した場合の予備の教師を用意しておく)。

●召喚フィールド(召喚野球仕様)の有効圏外へ打球が飛んだ場合、フェアであればホームラン、その他の場合はファールとする。

●試合は5回までの攻防とし、同点である場合は7回まで延長。それでも決着がつかない場合は引き分けとする。

●事前に出場メンバー表を提出すること。ここに記載されていないものの試合への介入は一切認めない。尚、これにはベンチ入りの人員および立会いの教師も含む。

●人数構成は基本ポジション各一名とベンチ入り3名の計12名とする。

●進行に於いては体育祭本種目を優先する。協議の時間が重なりそうな場合は事前にメンバー登録の変更を行っておくこと。

●その他の基本ルールは公認野球規則に準ずる。

 

 

和真(何点か引っ掛かるルールがあるな。雄二の野郎、またなんか色々企んでるみてぇだな……つってもこれはスポーツというより試召戦争に近いし、俺もそうとやかく言う必要は無ぇか)

明久「頑張ろうね、和真!」

和真「……準決勝からは手伝ってやる。だがそれまではお前らだけで勝ち抜けろ」

明久「ええっ!?どうして!?」

 

和真が何も取られていないことは知っていたが、このアウトドア愛好家がそんなことを言い出すとは思わなかったため明久は面食らってしまう。確かに形式は試召戦争よりとは言えこれは歴としたスポーツでもある。それにそもそも、和真は試召戦争もかなり好きな部類であるため平常時なら二つ返事で了承していたどころか、ダメだって言われても強引に参加していたであろう。

だが、今回ばかりは少々タイミングが悪い。

 

和真「明久よぉ、俺がこの体育祭をどれだけ楽しみにしていたと思ってる?基本種目には可能な限り参加するつもりだし、その総てでトップを狙う。当然総合優勝も狙っているし、個人MVPも誰かに譲るつもりは無ぇ」

明久(あ、ダメだこれ……。和真の目がカブトムシを見つけた少年のように輝いている……こうなった和真は多分木下さんでもどうしようもない)

 

それに加えて和真は去年全学年総合MVPに輝き、自分のクラスも当然のごとく総合優勝に導いている。召喚野球大会なんて余興に現を抜かして連覇を逃すなど和真のプライドが許さないのだろう。

 

和真「そもそも一回戦はEクラス、二回戦は多分三年のCクラスってところだろ?その程度の相手に俺抜きで勝てねぇようじゃ、決勝で戦うソウスケ達Aクラスには絶対に勝てねぇよ」

明久「え?決勝の相手、教師チームじゃなくてAクラスなの?」

 

点数だけで考えれば教師達が断然有利のため、教師チームが上がってくるだろうという明久の予想は一見正しいように思える。……しかしそれでも和真は、二年Aクラスが最大の壁であると確信している。

 

和真「いいか明久、力があるだけで勝てるほど野球は甘くねぇ。西村センセと大島センセを除けば人生の大半をデスクワークに費やしてきたインドアの集まりなんざ大して怖かねぇよ。それに比べてAクラスはどうだ?」

明久「どうって…………あ」

 

そこまで言われて明久はようやく気づいた。Aクラスには和真率いるスポーツのエキスパート集団『アクティブ』のメンバーの大半が所属していることに。

 

和真「ソウスケ、優子、徹、飛鳥、愛子……他にもラクロス部エースの沢渡に野球部キャプテンの二宮と、成績だけでなく運動神経にも優れるメンバー達がかなり揃ってる。生半可な覚悟じゃとうてい勝ち目は無ぇよ」

 

和真の真剣な表情に明久はゴクリと唾を飲み込む。どうやら没収された物を取り戻すことは、明久が思ってたより遥かに困難であるらしい。

 

和真(おっちゃんや綾倉センセが参加するってんなら勝負はわからねぇんだが……二人ともどう考えても絶対参加しねぇしできねぇだろうからな)

 

片や多忙の極み、片や怠惰の極み。理由は真逆であるがどちらもこんな余興に参加する確率は天文学的数値に等しい。

 

和真「まあ、だからと言って負けるつもりは毛頭無いがな。試召戦争の前哨戦だと思って臨むぞ明久」

明久「!……そうだ、僕達は彼らを倒してAクラス設備を手に入れる悲願があるんだった。多少戦力差があるくらいで諦めるわけにはいかないよね!」

和真「ハッ、随分勇ましくなったじゃねぇの!それでこそ漢だぜ!」

 

確かに敵の実力は破格の極みである。だがそんなことは諦める理由にはなり得ない。無理を通して道理を蹴り飛ばし、砂粒ほどの可能性を全力で掴みとる……それがFクラス流だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、Aクラスの生徒達全員は体育祭の方針について蒼介に直訴していた。

 

蒼介「……なるほど、“名”よりも“実”を取りに行くというのがお前達の望みか」

 

蒼介の問いかけにAクラスの生徒達は真剣な顔つきで頷いた。“名”よりも“実”……すなわち体育祭総合優勝よりも没収品返却を狙いに行くということだ。Aクラスの大半が勉学に比重を置いているため一部を除き総合的には運動が得意ではない生徒が多いクラスな上、各種目で好成績を狙えそうな生徒が軒並み成績優秀者であるため、召喚野球大会に本気で勝ちに行けば総合優勝はほぼ不可能になる。なお、逆もまた然りである。

 

蒼介「……確かにこの学校の持ち物検査は些か厳しすぎると私も思っていたところだ。……よかろう、我々Aクラスは召喚野球大会を全力で勝ちに行く。ところで、オーダーに関しては私の一存で決定するがそれで構わないな?」

「「「勿論!」」」

 

もとより蒼介以上の指揮官などこの学園に存在しないとAクラスの生徒は信頼しているで、蒼介が独断でオーダーを組むことに異論を挟む者は誰一人存在しなかった。

 

蒼介(……カズマよ、試召戦争の前哨戦と行こうじゃないか。私の率いるクラスの実力、再び思い知るがいいよ)

 

 

 

 

 

 




『アクティブ』における各ポジション及び打順は以下のようになっています。

和真……4番・ショート 
蒼介……3番・ピッチャー
優子……2番・セカンド
徹……1番・キャッチャー
源太……5番・センター
飛鳥……サード
愛子……ファースト

下二人は正規メンバーでは無いので打順は決まっていません。

あと、ネタバレになりますが今巻のラスボスは二年Aクラスです。そしてラスボス戦以外はもうサクサク進めていくことになります。その代わりラスボス戦には物凄い力を入れようと思っています。『あれ?これバカテスの二次創作なの?パワプロの二次創作かと思った』というくらいに。








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二人三脚①

【バカテスト・数学】

次の等式を数学的帰納法を用いて説明しなさい。
1+3+5……+(2n-1)=n^2……①
(但し、nは自然数とする)

美波の答え
[1]n=1の場合、①式は
(左辺)=1
(右辺)=1
より成立する

[2]n=kの場合成立すると仮定する
1+3+5+……+(2k-1)=k^2……②

n=k+1の場合①の式の左辺は
1+3+5……+(2k-1)+(2k+1)
=k^2+(2k+1) (②式より)
=(k+1)^2

つまり1+3+5……+(2K-1)+(2K+1)=(K+1)^2
となり、
n=k+1のときも①式は成立する

[1][2]より、①式は全ての自然数nにおいて成立すると言えます

蒼介「正解だ。数学的帰納法とは、n=1のときに成り立ち、n=kのときに成り立つと仮定して、n=k+1のときにも成り立つと説明することで、命題が全ての自然数nにおいて成り立つと証明する手法だ。意外とn=1の場合の証明を忘れてしまうことがあるので、解答の際は十分注意するように。……それにしても島田、漢字の読み書きが上達したことでお前が数学で唯一だった証明問題も解けるようになったようだな」


ムッツリーニの答え
『①式は正しいことをここに証明します
                   土屋康太』


蒼介「証明の体裁を気取っても駄目だ。数学的帰納法を用いて、と問題文にもあるので、n=kの場合成立するという仮定のもとn=k+1の場合でも成立すると証明しろ」


明久の答え
『成立すると断定します』

蒼介「仮定しろ」


和真「っしゃあっ!!この競技も貰ったぁっ!」

 

そんなこんなで体育祭当日。今頃第2グラウンドでFクラス対Eクラスの野球の試合が終わっている頃、和真は障害物競争で堂々の一着を勝ち取っていた。

否、障害物競争だけではない。100m走にハードル競争……ここまで3つの競技全てに出場し、当然のごとくトップを総ナメにしていた。

 

『ダメだ……勝てる気がしない……』

『くそぉ……このチート野郎……』

『柊、少しは手加減しろ!大人げ無いぞ!』

和真「諦めんの早ぇなお前ら……」

 

各クラスの運動自慢達も早くも諦めモードになってしまっている。中には陸上部員もチラホラと混じっているのだが、100メートルを10秒ちょいで走るようなスプリンター相手では流石にどうしようもないだろう。

 

雄二「よう和真、予想通り猛威を奮っているな」

 

障害物競争が終了して和真が中央グラウンドの2-F待機スペースに凱旋すると、野球の試合を終えた雄二達が寛いでいた。

 

和真「お、雄二。その様子だと勝ったみてぇだな」

雄二「当たり前だ。スポーツクラスとは言え、今さらEクラスごときに苦戦してられるかってんだ」

和真「それもそうだな……ん?明久はどうしたんだ?」

雄二「ああアイツか。召喚獣が戦死したから補充試験を受けているところだ」

和真「せっかくの体育祭だってのにテストを受けているのか……同情するぜ」

 

ちなみに明久の召喚獣が戦死した原因の1/3ほどは雄二なのだが、彼が少しも悪びれていないことは最早言うまでも無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「お。戻ったか明久」

秀吉「ご苦労じゃったな、明久」

ムッツリーニ「……おかえり」

和真「まあドンマイ」

明久「あ、うん。ただいま…」

 

補充試験を終えてようやく戻ってきた明久をいつものメンバー4人が暖かく迎え入れる。明久がロープで仕切られた2-Fの待機スペースを見渡してみると、クラスの皆が妙な箱の前で騒いでいるのが目に留まる。

 

 

『頼む……!なんとか最高のパートナーを……!』

『いいから早く引けよ。後がつかえてるんだから』

『わかってるから急かすなよ!……よし。これだ……チクショォオーッ!』

『『『っつしゃぁああーッ! ざまぁ見やがれぇーッ!』』』

 

 

明久「えっと、あれは何をやってるんのかな?」

雄二「ん?あれか?あれはただのくじ引きだが」

明久「いや、それは見たらわかるよ。そうじゃなくて僕が聞きたいのは、何のクジ引きをやってるのってこと」

雄二「次の種目は二人三脚だからペアを決める為のクジをやってるんだよ」

明久「ふ~ん、そうなんだ」

 

二人三脚という競技ではパートナーといかに息を合わせられるかが重要になってくる。そんな大事な相方の決め方をくじ引きで決めるなど普通に考えれば正気の沙汰ではないが、彼らには勝敗よりも大事なことがあるのだろう。

 

秀吉「なんじゃ、随分と落ち着いておるではないか明久」

明久「だって、僕は別に誰がパートナーになっても気にならないから。どうせ男女別になっているだろうし……」

雄二「今回は男女混合だな」

明久「全然問題ない試験召喚(サモン)」

和真「落ち着け明久、そんなことに召喚獣を使うな」

雄二「そもそも教師の許可なしで召喚できるかバカ」

明久「これが落ち着いてられるかぁーっ!誰!?女子勢のパートナーには誰がなってるの!?」

秀吉「霧島のパートナーは姫路じゃ。島田はまだ決まっとらん」

和真(二人とも好きな奴と組めなくてションボリしてたな……しかしまさか、3/1225の確率を引き当てちまうとは運が良いんだか悪いんだか……)

明久「え?そうなの?」

ムッツリーニ「……全員が決まっていたら決まっていたら、あんなに騒がない」

明久「あ、それもそっか。だから皆ああやって祈りながらクジを引いてるんだね」

雄二「そういうことだ」

 

箱の前では誰もが両手を合わせて懸命に祈っていた。おそらく高校受験の合否発表のとき以上の真剣さである。

 

雄二「俺の身の安全のために、さっさと島田と秀吉のペアが決まって欲しいんだがな」

明久「え?……ああそっか、雄二のパートナーがどちらかになったら殺されるもんね」

雄二「わかってもらえて何よりだ」

秀吉「やはりワシは女子にカウントされておるんじゃのう……」

 

とはいえ、もし自分と雄二なペアになれば翔子がどう行動するかは容易に予測できるので、秀吉はそれ以上追究しないことにする。

 

雄二「こんな競技よりも、俺としては野球の方が重要なんだがな」

ムッツリーニ「……同意」

 

この二人……というより和真と秀吉以外の男子は皆、

エロ本の為に修羅と化している。クラスの勝利という名誉よりも野球大会での優勝による実利の方が何倍も重要なのだろう。というか基本種目の方はもはや和真一人だけで勝てそうな気がするため、やる気を出せという方が難しい。

 

明久「そう言えば、次の相手は決まったの?」

 

中央(第一)グラウンドではこの通り従来の体育祭が行われていて、校舎裏にある第二グラウンドではさっきまで二年生の野球大会が、体育館では三年生の野球大会が行われている。次の対戦相手はその三年生のクラスになるはずなのだろうが……

 

ムッツリーニ「………まだ試合中。延長戦」

秀吉「ふむ。うまくいけば次の試合は不戦勝になりそうじゃな」

 

時間の関係でこの野球大会は七回までに決着がつかないとドロー扱いになる。引き分けと言えば多少聞こえは言いが、トーナメント表では両者は敗退扱いとさして変わらない。

 

雄二「まぁ、一応試合があるという前提で作戦を考えておくか……。確か、次の試合は数学・物理・現国。政経・現社だったよな」

 

プログラムを取り出して確認する雄二。挙げられた科目は特に言及する所もないごく普通のラインナップだった。

 

ムッツリーニ「………保険体育がない」

明久「……ってことはムッツリーニは体育祭のクラス競技に参加?」

雄二「いや、鳳との勉強会の成果もあって期末以降は保健体育以外の教科もFクラス標準レベルまで向上しているはずだ。ムッツリーニの運動神経を考慮するとスタメン続行するべきだろう」

ムッツリーニ「……了解」

明久「じゃ、僕もそろそろクジ引いてくるよ」

 

そう言って明久はクジ箱に向かって歩き出すと、美波と姫路が早足で近づいてきた。

 

姫路「あ、あのっ。明久君っ!」

美波「ちょっと待ってアキ!

明久「なに?どうかした?」

姫路「いえ。あの、その。なんというか、ですね……」

美波「う、ウチは6番なんだけど……」

「「絶対にその番号を引かないで(下さい)っっっ!!」」

 

この言葉を額縁通りに解釈すれば、明久はこの二人にとんでもなく嫌われているようにしか見えない。

 

明久「りょ、了解……。じゃあ、行ってくる……」

 

沈んだ表情でクジ箱に向かう明久を流石に哀れに思ったのか、秀吉と和真が二人を嗜めに向かう。

 

秀吉「姫路はともかく島田よ、今の台詞は絶対に誤解されると思うのじゃが……」

美波「だ、だって……相手はあのアキなのよ……?絶対にその真逆の方向に進むに決まってるわ。坂本の番号とか、そのあたりを引いてくるのは目に見えてるもの」

秀吉「……お主も色々と苦労しておるんじゃな……」

和真「あと姫路、おそらく明久はお前が『大切な親友を明久みたいなバカには任せられない』と思っていると判断するだろうな」

姫路「はぅっ!?ち、違います!私にそんな意図は-」

和真「無いことはわかってる。ただ、明久はそう判断するだろうっつう話だ」

姫路「うぅ……そんなぁ……」

 

姫路が落ち込んでいる一方、明久は神妙な表情でクジ箱を持つ須川の前に立っていた。

 

 

『あ。6ば』

「殺れ」

『『『イエス、ハイエロファント』』』

『バカな!?もう囲まれた!?』

 

 

美波「ろ、6番ね……。そっか、アキはウチとペアなんだ……」

姫路「うぅ……。美波ちゃん、とっても嬉しそうです……」

美波「そ、そう?そんなに嬉しくなんて」

姫路「嘘ですっ。だって顔が輝いてますっ」

美波「う……」

姫路「きっと、美波ちゃんはこのチャンスに明久君の胸とかお尻とかに触るつもりです……。狡いです……」

美波「な、なに言ってるよの瑞希っ。ウチがそんなことするわけ……って、はい?触る?触るって……何を言ってるの瑞希……?」

姫路「あ……っ!ち、違いますっ!触るんじゃなくて、えっと、その……仲良くなるつもり、の間違いですっ!」

美波「瑞希……。アンタ、アキに何をするつもりだったの……?」

和真(やっぱコイツ脳内ピンク一色なんじゃねぇの?)

 

改めて試験召喚システムが姫路の召喚獣をサキュバスにした判断が正しかったことが証明されるなか、明久のクジはあっさりと覆面集団に奪われてしまっていた。

 

『さて。この6番のクジだが、オークションを』

『わかりました。美春が言い値で買い取りましょう』

『『『なんで清水がここにいるっ!?』』』

『残念ながらこれはクラス内のもので……ん?』

『どうしましたか、須川会長』

『いや、これ……6じゃなくて、9だな。9番の見間違いだ』

 

須川が手にしているクジを広げてみせると、確かに9という数字の下に上下を見分ける為のアンダーバーが引かれていた。

 

『なんだ、9番か。驚かせやがって』

『人騒がせな』

『くだらないことで体力を消費しちまったぜ』

『所詮は吉井だな。数字すらまともに読めないなんて』

 

異端審問会の連中が愚痴り合いながら去っていく。もし本当に6番であれば確実にやられていただろうことは間違いない。

 

和真「さてと、俺達も引くか」

秀吉「それもそうじゃの」

 

その後結局美波のペアは秀吉に決まった。Fクラス男子を女子と関わらせないようにしようとする世界の意思は、7993/1381800の確率という壁を難なく突破したようだ。

 

 

 

 

 

 

 




和真「Eクラス戦は全カットしてやったぜ」
Eクラス「「「この扱いはあんまりだ!?」」」

和真君抜きとはいえ、原作より遥かにパワーアップしている明久達に加えて翔子さん(ちなみに野球のルールは雄二と和真が事前にみっちり教えたので問題なし)までいるとなっては負ける方が難しいでしょう。

本編で出てきた確率が間違っていると思った方は感想を送ってきてください。センター試験レベルですら躓く作者の数学力だと、あっている方が不自然ですので。


ちなみに二人三脚の残りのペアは、

和真&明久
雄二&ムッツリーニ

に決定しました。

この小説も126話になりますが、ようやく本作品主人公と原作主人公が始めてタッグを組みましたよ(シミジミ)。







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二人三脚②

慈照寺銀閣には銀を張る予定であったが予算が足りなかったため云々かんぬん……

↑絶対嘘だ!銀ピカの建物のどこにわびさびを感じれば良いと言うのですか!?



祝!とうとうこの作品の評価バーに色がつきました!

和真「平均評価5.00で可もなく不可もなくってところか……作者の大学での成績みてぇだな」



明久「とりあえず僕のパートナーは和真ってことだね。よろしく」

和真「おーよろしく。お前ならわかってると思うが、やるからには目指すは当然トップだ」

 

グッと握手を交わす明久と和真。明久は学年でもトップクラスのスピードを誇り、和真に至っては断トツで最速だ。タイムを競う種目ではそうそう負けることは無いだろう。

 

雄二「俺はムッツリーニとペアか。まあ、適度に頑張ろうぜ」

ムッツリーニ「……よろしく」

美波「木下はウチとペアよね。よろしく頼むわ」

秀吉「そうじゃな。宜しく頼むぞい」

姫路「翔子ちゃんとペアですか……。脚を引っ張っちゃわないか心配です……」

翔子「……瑞希、あまり気負いすぎないで。重要なのは何よりチームワークと平常心」

 

あれだけ殺伐としたくじ引きが行われたにもかかわらず、蓋を開けてみれば物凄く無難な組み合わせに収まった。まともな男女ペアはできていないが、これはこれで良かったかもしれないと明久が思っていると、美波がおもむろに声をかけてきた。

 

美波「?なによアキ。パートナーが木下じゃなくて柊だったのに、ちょっと嬉しそうじゃない」

明久「え?そ、そう?」

 

別に明久は和真がパートナーだから喜んでいるのではなく、女子勢が男子の誰ともペアになることがなくてホッとしているだけ(秀吉と美波?はて、何のことかな?)なのだが、女子である美波にそのことを正直に話すのは恥ずかしいため、自分の貧乏くじ体質をいい加減そろそろ学習しても良い頃なのに明久は冗談でも言って誤魔化そうとしてしまう。

 

明久「まぁ、和真なら雄二よりはいいよね」

美波「ふ~ん。どうして?」

明久「いや、だってほら。可愛かったからさ」

「「「…………は?」」」

 

話を聞いていた全員が明久の衝撃発言に真顔で聞き返す。特に当事者の和真に至っては心なしか目が死んでいるような気がしなくもない。

 

明久「肝試しのとき和真が猫耳スタイルになってたじゃない。あれが結構可愛かったと……あ痛っ」

 

突然、明久の頭を故意に軽く叩く者が。明久が振り向いた先にはやや不機嫌そうな表情の秀吉。

 

明久「秀吉?どうしたのさ」

秀吉「むぅ……。何やらわからぬが、つい手が出てしまっての……」

明久「?そうなの?まぁ別にそんなに痛くなかったからいいけど……」

 

普段の和真ならば秀吉の行動を即おちょくりにかかっているのだが、明久の衝撃発言のせいでそれどころではなかった。

 

姫路「最近、明久君の好みの幅が広すぎで困ります……」

ムッツリーニ「……変態」

和真「あー……なあ明久よ、趣味は人それぞれだし、俺もそのことにとやかく言うつもりはねぇけどよ……俺は周知の通り彼女いる上に、そもそも同性愛者じゃねぇんだよ……だからよー、お前はその、俺の知らないどこか遠い所で幸せになってくれると助かるかなー…なんて……(ススス……)」

明久「ご、誤解だよ三人ともっ!特に和真、遠回しに拒絶しながら徐々に距離を取らないで!?僕は純粋に勝負で勝ちやすいパートナーだから嬉しいってだけで!」

和真「だったら明らかに誤解を生じる言い方すんじゃねぇよ!?見ろコレ!まだ残暑が厳しい時期なのにサブイボが吹き出たわ!」

 

明久の弁明を聞いた和真が憤慨する。とある女子性徒(DクラスT.Mさん)のせいでその手の話題にアレルギーに近い拒否反応が生じるようになっている彼からすればたまったものではないだろう。

 

美波「……へぇ~。アキ、アンタ凄い自信じゃない」

 

明久の勝ちやすい、と言う発言に思うところがあったのか美波がそんなことを言ってきた。

 

明久「まぁね。和真は知っての通りだし、僕も運動は苦手じゃないから」

美波「ふぅん、そうなんだ。………それじゃ、さ」

明久「ん?」

美波「ウチらと……一緒に勝負、してみない?」

和真「あん?勝負だと?」

美波「そ、ウチと木下と。確か一回で各クラス二組ずつ出場だったでしょ?」

 

この二人三脚は各学年ごとの勝負で、A~Fクラスからそれぞれ二組、合計で十二組横一列の競争になる。

 

和真(何企んでやがんだコイツ……?)

明久「……うん、面白そうだね。オッケー、それなら勝負しよう」

美波「それで、負けた方は罰ゲームね」

明久「へ?」

和真(………………ほう♪)

 

美波が加えてきた条件を聞いた和真は、思わずサディスティクスイッチがONになってしまう。

 

美波「なによアキ。まさかアンタ、女子のペアが相手なのに勝つ自信がないの?」

秀吉「いや島田。ワシは女子ではないのじゃが」 

 

美波の妙に挑発的な台詞を聞いて、流石の明久も少しばかりプライドが刺激される。

 

明久「そ、そんなことはないさっ!オッケー、その勝負受けた!」

和真「面白れぇ……お前らのガラス細工の自信、粉々に打ち砕いてやるよ」

秀吉(あ、もうダメじゃ……確実にワシも巻き添えにされる……)

美波「じゃあ、ウチから提案する罰ゲームなんだけど」

明久「うん、何でも言いなよ。勝ってみせるからっ」

美波「ウチが勝ったら……付き合って」

明久「へ?付き合うって……週末とか?買い物にでも行くの?」

美波「う…うん、まぁそんなところ。買い物とか、ご飯とか、映画とか、色々」

明久「そ、そんなに一杯……。一日だけで回りきれるかな……」

「「………………はぁ」」

 

額縁通りに受け取ったとしても明らかなデートの誘いにもかかわらず、まるで気付く気配の無い明久のバカさ加減に秀吉と和真はそろって嘆息する。さっきまでのくじ引きでの真剣さはなんだったんだろうか?

 

美波「……別に、一日だけっていうつもりじゃないから(小声)」

「「………………はぁ」」

 

そして、美波の言う「付き合って」はどうやら別の意味であったらしい。おおかたまた肝心な所でヘタレたのだろう。秀吉と和真はふたたび溜め息をつく。

 

明久「ん~……まぁでも、それくらいならいっか、乗ったよ。その代わり僕が勝ったら……そうだなぁ、ご飯でも奢って貰おうかな」

美波「わかったわ。約束する」

明久「これで賭けは成立だね」

美波「そうね。……ウチが勝ったら……本当に、付き合ってもらうから」

和真「じゃあ後は俺らだな。秀吉、お前は俺らに何して欲しいんだ?」

美波「え?」

 

ここで美波としては想定外の事態に陥る。どうやら美波は罰ゲームと聞いてこの男がおとなしくしているわけがないことを失念していたようだ。

 

秀吉「そ、そうじゃのう……では、今度の演劇の練習を手伝ってもらうぞい……」

美波(き、木下はいたって普通ね……)

明久(問題は……こっちだ)

和真「さてと、罰ゲームと聞きゃいつもなら綾倉ドリンクの出番なんだが……」

明久(唐突な死亡フラグ!?)

((ひいぃっ!?))

和真「あいにく今は丁度切らしていてな……」

明久(あ、そうなんだ……)

((ほっ……))

 

当面の危機が去ったことで思わず安心する二人。あの劇物の恐ろしさを知っている彼らにとっては仕方ないことではあるが、危機が去ったと判断することはマロングラッセより甘いと言わざるを得ない。あの柊和真が罰ゲームで相手に温情を与えるような性格をしているわけがないというのに。

 

和真「……よし決めた!俺からの罰ゲームはアレな。肘の押すとビリビリする所をグーで殴るから」

(((何気に超痛い罰ゲーム来ちゃったぁぁぁぁぁっ!?)))

 

通称『ファニーボーン』……肘先の上腕骨の内側部分。尺骨神経が通っていて、叩くとと腕や手がしびれるような感じがすることで有名である。

 

美波「ひ、柊!ちょっと考え直してくれない!?」

秀吉「そ、そうじゃ!そんな罰ゲームでは悲しみしか生まれんぞい!」

和真「あぁん?今更遅ぇんだよお前ら、地獄の苦しみを与えてやるから覚悟しな♪」

「「この外道ぉぉおおお!?」」

明久(和真がパートナーで良かった……色んな意味で)

 

『これより、第二学年の二人三脚を行います。二年生の生徒はスタート位置に集合して下さい』

 

 

 

 

結果は言うまでもなく和真・明久ペアが圧勝し、Fクラスの美少女二人がグラウンド上でのたうち回る嵌めになった。激痛の中で美波は、勝負を吹っ掛けるなら和真が関わっていないときを狙おうと心に誓った。

ちなみに美波にした仕打ちが原因で清水が和真に襲いかかったのだが、すべてあっさりといなされた挙げ句「今の島田は精神的にまいっている筈だからアフターケアをすればお前への好感度が云々かんぬん」とアッサリと懐柔されてしまったそうな。

 

その後、和真は1500m走・綱引き・棒倒しの三種目に出場し、それら全てでFクラスをトップに導いた。ここまで一騎当千ぶりを発揮していると来年から何かしらの規制が入る気がしなくもない。

 

 

 

 

 

 

 




和真「えいっ♪」

ゴッ!×2

美波「にぎゃぁぁぁぁああぁぁぁあああ!?(ゴロゴロゴロゴロ)」
秀吉「腕が!?腕が熱いぃぃぃいいぃぃっ!?(ゴロゴロゴロゴロ)」
和真「あーはっはっはっは、愉快愉快♪」
明久(お、鬼だ……)


絶妙に辛い罰ゲームを考え付くことに関して和真君の右に出る者はいません。

さあ、次回からようやく野球編に突入しますよ。




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野球対決!2-F対3-A(前編)

【覚えよう!野球のルール!】

和真「というわけで、学年屈指の高得点保持者にもかかわらず野球をほとんど知らないせいでクソの役にも立たない姫路に、簡単に野球のルールについて説明しようと思う」

明久「そんな言い方しなくても良いじゃないか……まあでも、和真はともかく僕が姫路さんに教えるなんていつもとは逆の立場だね」

姫路「よ、宜しくお願いします」

和真「今回は“ボーク”などの反則行為についてだ」

姫路「ボーク、ですか」

和真「ああ。これはピッチャーの投球及び送球における反則行為の一つなんだが……」

姫路「反則行為ですか。具体的にはどういうものなんですか?」

明久「例えば、プレートに足を着けた状態で一類に牽制球を投げるフリをして、実際には投げないとか」

和真「つま先を打者方向に向けたままでの牽制球とかだな」

明久「あとは、二段モーションっと言って……投球動作中に少しでも全身の動きが止まったりするのも反則になるんだよ」

姫路「ええと、つま先を打者に向けての牽制球に、二段モーション……」

和真「あー、要はピッチャーは投球時にバッターが誤解しやすい、思わせぶりな行動をしてはいけないっつうことだ」

明久「バッターが『来る!』と思っていたら牽制球だったり、『来ない』お思っていたらいきなり投げてこられたり、なんてされたら大変だからね」

姫路「なるほど……。思わせぶりな行動はボーク、ですか」

和真「そうだ。分かりやすい例を挙げると、そうだな……明久がこれにあたるな」

明久「え?何で僕?」

姫路「そうですね。明久は、ボークです」

明久「姫路さんまで!?」



3-C対3-Dの試合は結局勝負がつかなかったため、二回戦は不戦勝で勝ち上がった。そしていよいよ和真が参戦する(野球大会に出場している間は基本種目に出ることはできないが、種目に出場する予定のクラスメイト全員に「テメーらもし俺が参加していない種目であんまり不甲斐ない結果出しやがったら……フハハハハハハハ!」と、和真を知る人間にとってはとてつもない恐怖に駆られる激励という名の脅迫をしていたので多分大丈夫だろう)準決勝、対戦相手は色々と因縁のある3年Aクラスである。

 

『両チームキャプテン、握手』

 

審判に促され、Fクラスキャプテンの雄二とAクラスキャプテンの金田一が握手をする。念のため言っておくが、お互いを握りつぶさんとする殺伐としたものではなく普通の握手である。

 

金田一「ホントお前らとは何かと縁があるな。特に恨んではいねーけどよ、胆試しのリベンジマッチといかせてもらうぜ」

雄二「そいつは無理だなセンパイ。アンタ達三年と俺達二年じゃ、この大会にかける熱意が違う」

金田一「そうかい。だったら見せて貰おうじゃねーか、熱意の違いって奴をよ」

 

先攻はFクラスチーム。Aクラスチームは守備位置につき、先頭打者である秀吉がバッターボックスに、次の打者である明久がネクストバッターズサークルに入る。

 

『プレイボール!』

 

審判の宣言とともに、電光掲示板に両チームの打順と守備位置が表示される。

 

 

【チーム2-F】

①ファースト・木下秀吉

②ピッチャー・吉井明久

③センター・霧島翔子

④ショート・柊和真

⑤キャッチャー・坂本雄二

⑥セカンド・土屋康太

⑦レフト・須川亮

⑧ライト・福村幸平

⑨サード・島田美波

 

【チーム3-A】

①サード・堀田雅俊

②ファースト・小村一郎

③キャッチャー・常村勇作

④センター・金田一真之介

⑤ピッチャー・夏川俊平

⑥ライト・名波健一

⑦レフト・近藤良文

⑧ショート・兼藤飛鳥

⑨セカンド・市原両次郎

 

 

電光掲示板に表示された生徒名を見て和真は少々拍子抜けする。先日の肝試しで猛威を奮った梓はもとより、他の主戦力の大半が参加していないではないか。

 

和真(……まあ、よくよく考えてみりゃ野球に精通してそうな人少ねぇな。姫路と同じく宝の持ち腐れってわけか。……いや、やはり油断できる相手ではないな)

 

『トライッ!バッターアウッ!』

 

審判のやけに元気の良いコールが鳴り渡り、一番打者の秀吉が戻ってくる。流石は三年Aクラスと言うべきか、和真基準で考えても速度とコントロールを兼ね揃えた素晴らしい投球内容であった。 

 

秀吉「すまんのう、手も足も出せんかったのじゃ……」

雄二「気にするな秀吉。あのレベルは一打席目では早々打てる奴いないだろうしな」

和真「運動神経あんま良くねぇしな、お前」

秀吉「お主の基準で考えないでくれんかの……」

 

ちなみにこの回の科目は古典。点数的にはそこまで差が無いのだが秀吉の運動神経はFクラスの中では姫路に次いで悪いため、初見であのレベルのピッチングには対応しろというのは無茶であろう。

 

明久「よし、次は僕の番だ!試獣召喚(サモン)!」

 

二番打者の明久が召喚獣を喚び出し、バッターボックスに入る。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 吉井明久 89点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 258点

 三年Aクラス 常村勇作 266点』

 

 

常村「……士気が上がってるところ水差すようで悪いけどよ、その点数で何ができる?」

明久「ふっ……点数の差が実力の差だと思っていると痛い目に遭いますよ?」

夏川「おもしれぇじゃねぇか、それじゃ遠慮なくいくぜ吉井……オラァッ!」

明久「見切ったァァァ!」

「「なにィッ!?」」

 

カキィン!

 

有言実行とばかりに〈明久〉は〈夏川〉が投げた速球を正確に捕らえた。打球はそのまま夏川の召喚獣の頭上を越えて伸びていき……

 

 

 

金田一「よっと(パシィ)」

 

……最終的にセンターのグローブに収まった。意気揚々に啖呵を切ったものの結果はセンターフライ、これは結構心にクる。

 

夏川「…………その、なんだ」

常村「…………ドンマイ」

明久「…………穴があったら入りたい」

 

敵である常夏コンビに慰められつつ、明久は意気消沈しながらべンチに戻っていった。

 

雄二「んだよセンターフライかよ、ホント役に立たねぇなこのクズ野郎」

和真「ふっ、点数の差が実力の差だと思っていると痛い目に遭いますよ?(キリッ)……ぶはっ!ダハハハハハハ!!!」

明久「君達に人としての情は無いのか!?」

 

落ち込んだ明久が外道コンビに容赦なく追い討ちをかけられている中、翔子が召喚獣を喚び出しつつバッターボックスに入る。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 霧島翔子 462点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 258点

 三年Aクラス 常村勇作 266点』

 

 

夏川「げっ!なんつう点数だよ!?」

常村「佐伯や高城でもこんなは点数出せないな……」

 

翔子の点数を見て戦く常夏コンビ。三年首席でも取れないような点数を平然と叩き出す翔子が万年次席に甘んじているのだから、つくづく第二学年は成績だけなら文月史上(といってもまだ創立四年目のあっさい歴史ではあるが)最高レベルである。

 

常村(夏川、ここは勝負を避けよう)

夏川(だな……)

 

〈常村〉はキャッチーミットをストライクゾーンから大きく離れた場所に構え、敬遠の構えを取る。

 

和真(む……)

 

ネクストバッターズサークルで和真があることに気づく中、〈翔子〉は四球を受けて一塁にテクテクと歩いていく。点数を考えると盗塁で翻弄するのも悪くない作戦だが、多分そんなことは必要無いため和真は翔子に盗塁しないようサインを送りつつバッターに向かう。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊和真 511点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 258点

 三年Aクラス 常村勇作 266点』

 

 

常村(……こいつも敬遠)

夏川(言われなくとも……)

 

翔子よりも一回り高い点数の上、操作しているのは運動神経お化けの和真。こんな化け物に真っ向勝負などバカの所業である。〈常村〉は先ほどのようにキャッチャーミットをストライクゾーンから離れた場所に構える。〈夏川〉の投げたボールはその構えられた場所に吸い込まれるように収まる……

 

和真「甘ぇんだよ!」

 

カキィィィィイイイイイイン!

 

「「「……え?」」」

 

……ことなく〈和真〉のフルスイングによって地平の彼方まで飛ばされてしまった。

 

『ホ……ホームラン!』

 

審判は一瞬呆気に取られたものの本塁打であると判断する。明らかなクソボールを遥か彼方に飛ばしてやりきった表情で召喚獣と共にベースランニングを終えた和真は常村に一言忠告をした。

 

和真「常村先輩よぉ、敬遠は例え面倒臭くてもちゃんと立ってバットが絶対届かない位置に投げるべきだぜ」

 

そう言ってから和真はベンチに戻り、仲間達とハイタッチをかわす。

 

常村(……ったく、情けねぇな。どんだけ後輩からアドバイス貰えば気がすむんだよ俺は)

 

気を引き締め直すように両頬を掌でぶっ叩いてから、常村は夏川にも激を飛ばす。

 

常村「気を抜かずいくぞ夏川!もうアイツらには一点もやらん!」

夏川「当たり前だ!そうポコポコ打たれてたまるかってんだ!」

 

その宣言の通り、次のバッターである雄二を万全を期すために敬遠し、点数の低いムッツリーニを手堅く仕留めて一回表が終了した。

 

 

《一回表終了。現在2-0》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて3-Aの攻撃。一番の堀田は平凡なセンターフライに倒れ、二番の小村はヒット性の当たりを出したものの和真の並外れた反射神経を活かしたファインプレーによって封殺されてしまった。

 

常村「よっしゃあいくぜ!」

 

三番バッターの常村が召喚獣をバッターボックスに立たせる。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 吉井明久 89点

 二年Fクラス 坂本雄二 288点

VS

 三年Aクラス 常村勇作 266点』

 

ピッチャーとバッターの点数差は三倍近くとひどいものだが、さっき打ち取った二人も似たような差だったため雄二は勝負に出る。一球目のコースは手堅くアウトローに投げられる。球速はそれほどではないもののストライクゾーンギリギリのかなり打ちづらいストレートである。

 

常村「何だこりゃ!?止まって見えるぜ!(キィン!)」

 

しかし〈常村〉は何なくボールを捉えた。さきほどの好投から予想できることであるが、常夏コンビは姫路と違って点数だけではなく野球センスも申し分無いようだ。

強打された打球はピッチャーとセンターの間に落下し、〈常村〉は堅実にセンター前ヒットを成功させた。

 

雄二「くっ、やってくれるじゃねぇか……!」

金田一「坂本よ、お前らに悔しがっている暇なんか無いんだぜ?」

 

《古典》

『二年Fクラス 吉井明久 89点

 二年Fクラス 坂本雄二 288点

VS

 三年Aクラス 金田一真之助 417点』

 

次のバッターはNo.3の金田一。その恐るべき点数もさることながら、運動部キャプテンだっただけあって運動神経も半端ではない。

 

『ボール。フォアボール』

金田一「まあ、賢明な選択だな」

 

流石に彼相手に真っ向勝負は無謀極まりないので、雄二は渋々敬遠を選択した。これで2アウト一、二塁と失点のピンチを迎えてしまう。そして次のバッターは常夏コンビの片割れ、夏川。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 吉井明久 89点

 二年Fクラス 坂本雄二 288点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 258点』

 

 

明久(雄二、どうする?)

雄二(流石に満塁は避けたい。ここは勝負だ)

 

〈雄二〉がキャッチャーミットを構えた場所はストライクゾーンギリギリのアウトハイ。明久は並外れた操作技術を駆使して正確にその場所にボールを投げ込む。

しかし二人はさっきの常村の打席後すぐに気づくべきだった。少なくとも金田一、そして常夏コンビには……明久のピッチングが通用しないことを。

 

夏川「これで、逆転だぁぁあああ!!!」

 

キィィイイイン!

 

〈夏川〉にフルスイングされたボールは、当然のごとく召喚フィールド外に出てしまった。

 

『ホームラン!』

 

常村、金田一、夏川のAクラス主軸の三人が悠々とベースを回る中、審判によって本塁打であると告げられる。Fクラスの反応はというと……悔しそうな表情を浮かべているのは明久のみで、残りのメンバーは不自然なほど平然としていた。

 

金田一(あの表情……やせ我慢ってわけでもねーな。ここまでは予定通りってことか?……まあいいか)

 

金田一がキナ臭い気配を感じ取ったものの、あまり相手の策に一喜一憂する性分ではないためすぐに興味を無くした。その後六番バッターの名波がヒット性の当たりを飛ばすものの、再び和真の恐るべきゾーン守備に阻まれてショートフライでチェンジとなった。つくづく攻守ともに隙の無いスペックである。

 

《一回裏終了。現在2-3》

 

 




梓「野球?ルールもロクに知らんし覚えんのも面倒やからパスや」

小暮「私もあまり精通していませんし、運動神経に自信があるわけでもないので辞退させて頂きます」

杏里「腕力には自信あるけど運動神経はあまり……」

高城「常村君と夏川君に、『お前が出ても良いように騙されて利用されるだろうから参加するな』と言われまして……」

和真(うわぁ……高得点者の大半が野球向きの人材じゃないんだな、三年……)


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野球対決!2-F対3-A(中編)

【三年Aクラス主力選手データ】

金田一真之介
・学力……A+
・操作技術……A+
・野球センス……A

梓に次ぐ3-Aのメイン火力なだけあって点数、操作技術ともに申し分なし。おまけにサッカーとはいえ運動部のキャプテンを務めていただけあって、運動神経もトップクラスである。


常夏コンビ
・学力……A+
・操作技術……A
・野球センス……B+

清涼祭以降真剣に受験勉強に取り組んでいるため、現在の学力は雄二に匹敵する(どの教科も夏川より常村の方が僅かに高いのはご愛敬)。金田一と同じく明確な弱点は特に見当たらない。



 


二回の教科は化学。Fクラスの攻撃は期待値の低い下位打線からであり、おまけに常夏コンビはカッチガチの理系のため化学は得意科目なようで、あっさりと三者凡退してしまう。

続いて二回裏、七番の〈近藤〉の打球を〈美波〉が華麗にキャッチしてどうにか打ち取るも続く〈兼藤〉には一塁に進まれ、さらに九番の〈市原〉に痛烈なライナーを打たれる。あわや追加点かと思われたが、運良く()()()()()()()()だったため並外れた脚力と反射神経による化け物染みた守備範囲を誇る〈和真〉が見事にダイビングキャッチ、そしてすかさずファーストに送球してダブルプレーとなる。

 

そして三回表。この回の科目は英語、そしてバッターは一巡したため再び秀吉に回る。

 

秀吉「試獣召喚(サモン)じゃ!お主ら、さきほどのように簡単にはやられんぞい!」

 

一打席目は手も足もでず三振してしまった影響か、秀吉の気合いは十分であった。知っての通り秀吉に恋愛感情を抱いている常村であるが勝負事なので心を鬼にして真剣に臨む所存である。本気で勝ちにいくのならむしろその感情を全面に押し出して動揺を誘うべきのような気がしなくもないが。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 木下秀吉 263点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 266点

 三年Aクラス 常村勇作 271点』

 

 

点数差はほぼ互角。秀吉の気合いの入り用から考えてまともに捉えられたら本塁打も十分あり得る。そう判断した常村はセオリー通りアウトローギリギリのコースを指示する。夏川も特に異論は無く、召喚獣にその場所に投げ込ませる。

 

 

……全て秀吉の筋書き通りであるとも知らずに。

 

秀吉「…………かかったのじゃ!」 

 

〈夏川〉の投球直後、〈秀吉〉はすかさずバントの構えを取る。ゴン、と硬い音が響いた。

 

常村「な…プッシュバントだと!?」

夏川「しまった!完全に裏をかかれた!」

 

急いで三塁手の〈堀田〉が転がったボールに向かうが時既に遅く、〈秀吉〉は悠々と一塁ベースを踏んでいた。

 

常村「くそっ、完全にしてやられたぜ……」

夏川「気合いの入った振る舞いは全部演技かよ……」

和真(流石秀吉、大した千両役者ぶりじゃねぇか)

 

続く〈明久〉は手堅く送りバントを行い〈秀吉〉を二塁まで進める。これで得点圏内、しかも次からのバッターは翔子、和真、雄二の最強トリオとまさに絶対絶命だ。

 

翔子「……サモン」

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子 512点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 266点

 三年Aクラス 常村勇作 271点』

 

 

表示された点数は比較するのもアホらしくなるほど圧倒的なものであったが、常村は敬遠するべきかどうか頭を悩ませることになる。この点数差はハッキリ言ってキツ過ぎるものの、かといって敬遠したところで次のバッターは翔子に輪をかけてキツい和真である。そして和真も敬遠すれば、二人に比べれば一段格が落ちるものの充分驚異的なバッターである雄二に満塁の状態で回ってしまう。

 

金田一「……タイム!ピッチャー夏川に代わって俺こと金田一が務めます」

 

そんな風に常村が悩んでいると、突然金田一からのピッチャー交代宣言をした。常村が呆気に取られるなか、夏川が金田一に疑問をぶつける。

 

夏川「なんでこのタイミングで交代なんだよ?」

金田一「アイツら押さえんのは正直お前じゃ荷が重いだろ。英語が得意な俺が投げた方が確実だ」

夏川「いやいやいや、お前の点数だと下手したら常村が吹き飛ぶぞ!?」

金田一「逆転されるリスクに比べたら安いもんだ」

常村(えぇぇえぇぇぇえええ!?アイツ何言っちゃってんのぉぉぉおおお!?)

 

常村が内心でシャウトする中、金田一はそのまま強引に押しきってマウンドに立つ。常村の抗議の視線もどこ吹く風、さっさとコースを指定しろと無言で訴えかける。

 

常村(ったく、これだから体育会系は……とりあえずインハイに、と)

 

常村がコースを指定すると、〈金田一〉は大きく振りかぶってボールを放り投げた。

 

 

ズバァァアアァァアン!!!

 

 

常夏「「…………え?」」

翔子「……っ!速い……っ!」

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子 512点

VS

 三年Aクラス 金田一真之助 408点

 三年Aクラス 常村勇作 271点』

 

 

あまりの球速に味方であるはずの常夏コンビが呆然とする中、初見で打つことは自分には不可能であると彼女の優れた頭脳が判断してしまったのか、翔子は悔しそうに歯噛みする。いかに超人的な点数を持っていてもボールに触れられなければ意味がないと言わんばかりに、〈金田一〉はそのまま一方的に三振に打ち取った。

 

……のは良いものの、

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子 512点

VS

 三年Aクラス 金田一真之助 408点

 三年Aクラス 常村勇作 135点』

 

 

常村「やっぱこうなったよ畜生!俺の召喚獣もうボロボロじゃねぇか!」

金田一「うるせー!テメーがちゃんと捕らねーから悪いんだろうが!生きているだけありがたいと思え!」

 

二球ほど取りこぼしてしまったせいで常村の点数が半分を切っていた。まあ無理もない、400点台ともなるとストレートは尋常じゃないほどの()豪速球になる。むしろ常村はたった二球しか取りこぼしていないことを褒めるべきだろう。続くバッターはFクラス最強の和真。流石の和真も400点オーバーの超スピードボールを初見でジャストミートすることは叶わなかったが、それでも手堅く二塁打を放ち追加点を入れてスコアを同点にした。そしてその次のバッターである雄二は手も足も出ず空振り三振に倒れた。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 坂本雄二 309点

VS

 三年Aクラス 金田一真之助 408点

 三年Aクラス 常村勇作 7点』

 

 

脅威のクリーンナップを1失点で凌ぎきったものの、その代償は安くなかった。もし〈和真〉があと一球でもボールを見送っていれば、今頃〈常村〉は抹殺されていたことだろう。流石に金田一もこれはダメだと思ったのか、次の回からは例えピンチでも常夏バッテリーで行くことに同意する。ただでさえ三年にとっては得るものが何も無い余興同然の野球大会なのに、その上テストを受けさせられるなどあまりにも不憫過ぎるであろう。

 

《三回表終了。現在3-3》

 

 

 

 

 

 

そして二回裏、三年生達の攻撃であるが、二年生チームのポジションが一部変更されていた。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 木下秀吉 263点

 二年Fクラス 坂本雄二 309点

VS

 三年Aクラス 堀田雅俊 242点』

 

 

常村「どういうことだ……?なんでピッチャーが木下になってんだよ?」

夏川「確かに何でアイツがピッチャーじゃないのか疑問だったけどよ……なんでこのタイミングで交代したんだ?」

 

そう、さっきまでファーストだった秀吉がマウンドに、その代わりに明久が一塁ベースについていた。

別に違和感のあるポジションではない。トレースを使用した秀吉の点数は全教科250点前後と、ピッチャーをするのに適正な成績ではある。彼らがどうしても解せないのは、何故今まで秀吉を温存していたのかということだ。

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

一番打者の堀田、二番打者の小村と、3-A上位打線の二人が手も足も出ず凡退する。

さっきまで〈明久〉の低得点のかわすピッチングに慣れてしまっている彼らに、〈秀吉〉の速球に即座に対応することは極めて難しいであろう。途中一球取りこぼしてしまったものの、雄二の方が高い点数のためさほど深刻なダメージには至らなかったようだ。

三番打者の常村は召喚獣をバッターボックスに向かわせるが、今の自分ではひっくり返っても打てはしないというと確信していた。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 木下秀吉 263点

 二年Fクラス 坂本雄二 269点

VS

 三年Aクラス 常村勇作 7点』

 

 

何しろ点差が点差だ。どうやら野球仕様の召喚獣は点数が削られると運動能力が落ちるようで、バッターボックスに向かうまでも非常に緩慢な動きであった。

 

常村「おい坂本、一つ聞いても良いか?」

雄二「ん?何を聞きたいんだセンパイ?」

 

一球目のボールがストライクゾーンに収まるのもお構いなしに、常村は苦々しい表情で雄二に疑問をぶつける。

 

常村「なんでこの回まで木下を温存してたんだよ?まさかとは思うが……俺達を舐めていたのか?」

雄二「そいつは心外だな。アンタらのキャプテンにも言ったんだがよ……俺達とアンタらじゃあこの大会に懸ける熱意が違うんだよ」

常村「……熱意だと?どういうことだ?」

 

審判がツーストライクを告げるが、常村は気にも止めずに雄二に続きを促す。それを受けて雄二は常村の目をしっかりと見据えて言い放った。

 

雄二「決勝で当たるのが教師どもだろうと2-Aだろうと、秀吉の速球がいかにスゴくてもそれだけで抑えられるとは思えねぇ。そのためにはアイツらに守備に慣れて貰わないといけなかったんだよ」

常村「……なるほどな、優勝を見据えての行動と言うわけか」

雄二「そう、俺達が目指すのは優勝のみだ。アンタらに負けようが決勝で負けようが俺達にとっては…」

 

『ストライクバッターアウト!チェンジ!』

 

雄二「…何ら違いないんだよ。だったら、アンタらに負けるリスクを差し置いてでも決勝に備えとくのは当たり前だ」

 

リリーフ秀吉はAクラス上位打線を三者凡退に抑え、華々しくデビューを飾った。

 

常村(どうやら舐められているわけではなかったようだな。……面白ぇ、そこまで優勝が欲しいんなら……俺達に勝って

みせろ後輩ども!)  

 

《三回裏終了。現在3-3》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた四回、科目は保健体育。

先頭打者はこの科目限定で圧倒的な戦闘力を有するムッツリーニ。796点というアホみたいな点数に真っ向勝負など挑むわけがなく、常夏コンビはすかさず敬遠する。

しかしそれだけで回避できるほどムッツリーニは甘い相手ではない。積極的に盗塁を行い、次のバッターである須川が三振するまでに三塁まで到達した。

そして八番打者の福村は手堅くスクイズを決めて追加点を入れ、Fクラスは再逆転に成功した。

しかし3-Aも負けじと食い下がる。スクイズをさせる隙も与えず美波を三振に打ち取り見事四回表にピリオドを打ったかと思えば、続く四回裏で先頭打者である金田一がソロホームランを放ち、すかさず同点に追いついた。その後六番打者の名波に二塁打を打たれるものの秀吉は順調にアウトカウントを増やし、八番打者の兼藤をファースゴロに打ち取り四回を終わらせる。

得点は4-4の同点。決着は最終回に委ねられる。この回で決着がつかない場合は7回まで延長されるが、それ以降は引き分け扱いとなり両者共にトーナメントから脱落してしまう。

 

和真(ふざけんな、引き分けなんざ論外だ)

金田一(こんな所で負けるのは気に食わねー)

 

和真/金田一「勝つのは俺達二年Fクラス(三年Aクラス)だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二グラウンドで和真達が一進一退の攻防を繰り広げているのに対し、体育館での試合は一方的な試合展開となっていた。

 

 

2年Aクラス  2 1 0 1 2   6 H9 E0

教師チーム 0 0 0 0   0 H0 E2

 

 

ご覧の通り、優勝候補No.1と謳われた教師チームの圧倒的劣勢……未だ得点はおろか一塁ベースを踏むことすらできないでいた。

否……それどころかピッチャーである〈蒼介〉の投げるボールに掠らせることすらできていない。現在打席に立っている教師は補習担当を務める我らが鉄人。しかし、人外染みた身体能力と学年主任に匹敵する点数を併せ持つはずのこの教師ですら、これまで〈蒼介〉のストレートに触れることすらできないでいた。

 

鉄二「くっ……この俺が手も足も出んとはな……!」

蒼介「名残惜しくもありますが……そろそろ決着と行きましょうか」

 

 

 

 

 




和真「西村センセ、召喚獣がかかわるとロクに活躍できてねぇな……」

蒼介「作者曰く『強大なボスキャラのかませに丁度良い強さ』だそうだ」

和真「補習室送りになっても知らねえからな……」


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野球対決!2-F対3-A(後編)

【二年Fクラス選手データ】

島田美波
・成績……C
・操作技術……B
・野球センス……B

点数はCクラスレベル(数学はAクラスレベル)とFクラスではトップクラスであり、運動神経や操作技術も申し分ない。しかし相手が相手なだけあって活躍は今のところ少なめ。


ムッツリーニ
・成績……D
・操作技術……B+
・野球センス……A

従来の試召戦争と同じく科目が保健体育のときはまさに無敵。相手が敬遠してこようがお構いなしに戦況を有利な方向に持っていけるポテンシャルを秘めている。さらに重要な局面を任されることが多いせいか、操作技術も周りのクラスメイトに比べてやや高い。


姫路瑞希
・成績……S
・操作技術……B
・野球センス……F

並外れた点数を絶望的な運動神経の無さが台無しにしているためロクに活躍できていない。哀しいことに今後も出番は多分回ってこない。


木下秀吉
・成績……A
・操作技術……B
・野球センス……C+

実を言うと腕力はともかく彼の運動神経はそこそこなのだが、クラスメイト達や実姉がアレなので相対的に低く見られがち。









《日本史》

『二年Fクラス 木下秀吉 245点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 276点 

 三年Aクラス 常村勇作 288点』

 

夏川「オラァッ!!!」

秀吉「むぅ!?……これは、手強いのう……」  

 

一球目、秀吉はインハイに投げ込まれたストレートにのけ反りみすみすストライクを献上してしまう。最終回だけあって常夏コンビ改め常夏バッテリーの気迫はさっきまでとは比べ物にならない。

 

夏川「ラァッ!!!」

秀吉「ぐっ(ガキィンッ)し、しまった!?」 

 

続いて投じられた二球目は、先程のストライクすれすれのコースとは打って変わってど真ん中。完全に裏をかかれた秀吉は対応しきれずに中途半端なスイングになってしまい、あろうことか三塁手の真正面に転がしてしまう。

 

常村「よし、打ち取ったぜ!」

秀吉「やられたのじゃ……」

 

三塁手の堀田は転がってきたボールをキャッチし、すぐさまファーストに全力で送球した。

 

バチィンッ!

 

『し…しまった!?』

常村「バッ……何取りこぼしてんだよ!?」

 

しかし野球の神様は秀吉に微笑んだようで、凄いスピードで投擲されたボールは一塁手のグローブを弾いて落球した。慌てて拾うもののその間に秀吉は一塁に到達してしまう。

 

『す……すまねぇ夏川……』

夏川「……いや、今のは堀田のミスだ。真剣なのは結構だけどよ、Aクラスレベルの点数の送球なんざそうそうとれねぇってことを、この機会に覚えとけよ」

『あ、ああ……すまん』

 

ここでチームメイトを責めてもさっきの失敗は無かったことにはならないので、夏川はクールダウンを促し自身も気持ちを切り替えるが、状況は一気にピンチを迎えてしまった。なぜなら次のバッターは日本史を得意とする明久なのだから。

 

明久「試験召喚(サモン)!」

 

召喚獣を喚び出しながらバッターボックスに入る。しかしこ遅れて表示された明久の点数によって、常夏コンビのみならずその場全ての人間は度肝を抜かれることになる。

 

 

《日本史》

『二年Fクラス 吉井明久 372点

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 276点 

 三年Aクラス 常村勇作 288点』

 

 

「「「ぶほぉっ!?!?!?」」」

 

思わず吹き出してしまう生徒が何人もいた。召喚大会決勝や先日の胆試しから明久が日本史を得意としていることは周知の事実ではあるが、いくらなんでも予想外過ぎる点数であった。キング・オブ・バカの名をほしいままにする明久が、学年トップクラス……二年以外の学年ならば首席に匹敵する点数を取ったのだ、驚くなという方が無理があるだろう。

 

常村「なんだよその点数は……お前、いつの間にこんなに伸びたんだ……?」

明久「僕だってこの夏休み、ただ遊んでたわけじゃないんですよ。もうすぐ解禁される試召戦争に備えて必死に勉強したんだ……この教科だけ集中的にね!」

常村「……なんつうか、まさにバカの一つ覚えだな」

明久「誉め言葉として受け取っておきましょう」

夏川「ぐっ……クソォッ!」

 

表面上はどうにか取り繕えていたものの先程のエラーの影響は残っていたようで、夏川が投げたボールは精彩を欠いたものとなっていた。

そんな雑な投球で今の明久に通用する筈もなく…

 

 

キィイイン!

 

 

……明久の召喚獣は痛烈な長打を放ち、二塁打となる。まだ失点こそしていないものの、夏川にとってこの被弾は点数以上に致命的なものとなったことは間違いない。ピッチャーのコンデイションは基本的に水ものであり、一度調子が崩れだすとそう簡単には持ち直すことはできない。

 

結果、

 

翔子「……えいっ!(カキィイイイン!!)」

 

和真「ハァッ!(カキィィィィイイイイイイン!!!)」

 

雄二「オラァッ!(カキィイイイン!)」   

 

Fクラスのクリーンナップ三人に痛烈な本塁打を浴びてしまう。その後下位打線の三人はどうにか打ち取ることに成功したものの、既に点差は取り返しのつかないほど開いてしまっていた。

 

《五回表終了。現在9-4》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ストライク!バッターアウト!』

 

先頭打者の市原が敢えなく三振に倒れ、後続のバッターはここまで攻守ともにまるで良いところがない堀田。

 

《日本史》

『二年Fクラス 木下秀吉 245点

 二年Aクラス 坂本雄二 346点

VS

 三年Aクラス 堀田正俊 288点』

 

バッターボックスに召喚獣を向かわせながら、堀田はベンチで意気消沈している夏川のことを思い返す。

 

堀田(夏川の奴、落ち込んでたな……常村もそうだが、ちょっと前まで平気で人を見下すような奴だったのに、人は変わるもんだ)

『ストライク!』

 

ここに来て秀吉のピッチングがより精度を上げている。点数や操作技術はともかく、スポーツをあまり得意としていない堀田には少々荷が重いのかもしれない。

 

堀田(……でも、そんなアイツが今落ち込んでるのは……どう考えても俺のせいだよな……?)

『ストライク!』

 

それに加えて、かつて神童と謳われた雄二のリードが難易度をよりつり上げている。たとえ打てなかったとしても、常村や夏川、金田一達は彼を責めるようなことはしないに違いない。

 

堀田(今のアイツなら俺を責めたりはしない……でも、一方で凄く落ち込むだろうなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とかしてやりたいって思っても、バチは当たらねぇよなぁっ!)

 

カキィィィィイイイン!

 

雄二「っ!?」

秀吉「なんとっ!?」

 

それでもくじけることなく前を進む者には、野球の神様は答えてくれたようだ。秀吉の放ったアウトローの速球を一か八かでフルスイングした結果、ボールはライト方向の空の彼方に消えていった。堀田は悠々とベースを一周してから、二年生達に向かって高らかに宣言する。

 

堀田「勝ち誇るのはまだ早いぜ……俺達の闘志は、まだ死んじゃいないんだからよ!」

夏川「堀田……お前……!」

常村「堀田の言う通りだぜ。ここらで三年の凄さって奴を見せつけてやらねぇとな……そうだろテメェら」

『おぉぉおおぉぉ!』

 

堀田の本塁打で勢いに乗った3-Aチーム。その後小村は撃ち取られたものの常村、金田一、二人が立て続けにヒットを放ち、2アウト2,3塁のチャンスで夏川が打席に立つ。

 

秀吉「……いくぞい!」

夏川(こいつ、立て続けに被弾したってのに全然動揺してねぇ……敵ながら大した剛胆さだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だがな、)

 

 

カキィィィィイイイン!

 

 

秀吉「くっ……無念じゃ……」

夏川「ここで打たなきゃ、男が廃るぜ」

 

インハイ気味に投じられた速球を、夏川は一切怯むことなくジャストミートした。打球の行方など確認する必要すらないだろう。

 

雄二「……審判、タイム!ピッチャーを吉井明久に、それにキャッチャーを柊和真に交代!」

 

一点ビハインドで益々3-Aの士気が上がるなか、突然雄二がバッテリーを丸ごと交代し出した。

 

明久「秀吉、後は任せてよ!」

和真「ったく、俺はショートだってのに……」

 

二人の召喚獣、そしてバッターボックスに入った名波の召喚獣の点数が表示される。

 

 

《日本史》

『二年Fクラス 吉井明久 372点 

 二年Fクラス 柊和真  495点

VS

 三年Aクラス 名波健一 299点』

 

 

ボールの速度は召喚獣の点数に比例して速くなる仕様上、この回の明久のストレートは秀吉を遥かに凌駕するものとなる。しかしその分キャッチャーに求められる技量もはね上がるため、和真の力量が足りなければより不利な状況になることは間違いない。

 

 

 

   

 

 

 

バシィィイイイッ!!!

 

和真「あっぶねぇなぁ……危うく取りこぼすところだったじゃねぇか」

 

そんな心配を一周するかの如く、和真は明久の超豪速球を平然とキャッチしてみせた。どうやら自滅は期待できそうもないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゲームセット!9-8で2年Fクラスの勝利』

 

心配が雄二達の勝利を高らかに告げた。結局あの後明久は下位打線三人相手に奪三振ショーを繰り広げ、Fクラスを勝利に導いた。負けはしたものの、三年生達は悔しそうにしながらもどこか晴れ晴れとした表情になっていたそうだ。

 

ピピピピピ

 

雄二「ん?偵察に出していた連中からの報告か、どれどれ……んなっ!?」

 

携帯を開きメールの内容を確認した雄二は、信じられないといった表情になる。和真と明久が何事かと問いただすと、雄二は携帯を渡してきたので二人は画面を覗きこみ、そして雄二と同じく驚愕する。

メールの内容を要約すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年Aクラスが教師チーム相手に……完全試合を達成したとの知らせであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、次の回で一旦余興を挟んでから、いよいよVS二年Aクラスです。


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戦力分析

【Fクラス選手データ②】

吉井明久
・成績……C+
・操作技術……S+
・野球センス…… A

野球編におけるFクラス四強の一人。
世界史はAクラス上位レベル、日本史に至っては学年トップクラスの成績を誇る歴史のエキスパート。並外れた操作技術はもちろん野球センスも申し分ない。

 
坂本雄二
・成績……A+
・操作技術……B
・野球センス…… A

Fクラス四強の一人。
操作技術は精々Fクラス標準レベルだが、総合成績・野球センスともにトップレベル。さらに神童と謳われたほどの頭脳を駆使した策略やリードも脅威的。


霧島翔子
・成績……S
・操作技術……B
・野球センス…… B+

Fクラス四強の一人。
操作技術・野球センス共にFクラス標準レベルの域を出ないものの、それを補って余りあるほどの圧倒的な成績が強み。さらにいかなる劣性、逆境、ピンチでもメンタルを崩さない強靭な精神力も持ち合わせている。


柊和真
・成績……S
・操作技術……A+
・野球センス…… S+

Fクラス四強の一人にして野球編における二大チートキャラの片割れ。全ての能力が高水準にまとまっており、特に野球センスは郡を抜いて高い。打撃や走塁は勿論のこと、脅威的な守備範囲を誇りレフト方向への打球はだいたいアウトにできると考えてよい。



「「「「…………」」」」

 

明久、雄二、秀吉、ムッツリーニの四人は現在2-Fの待機場所にて昼食をとりつつ決勝に向けての作戦会議を行っていた。ちなみに女子三名は応援合戦に向けての打合せをしており、和真は敵情視察も兼ねて2-Aの待機場所で昼食を取るそうだ(雄二達はいつものように優子の件で弄ろうとしたが適当に流された。大分耐性がついてきたようである)。

円になって座る彼らの目の前にあるルーズリーフの束には、間違いなく2-Aが勝ち上がってくると確信していた和真が事前に用意していた選手のデータが記されている……のだが、目を通せば通すほど心が折れそうなほどの圧倒的な戦力である。

 

雄二「……このまま黙っていてもしょうがねぇから、小分けにしてピックアップしていくぞ。まずは比較的脅威度の少ないこいつらだ」

 

そう言って雄二はルーズリーフの束から二枚を抜き出して広げた。一枚目には見慣れたショートカットの少女、二枚目には先日始業式で生徒会書記職に任命されたセミロングの少女の写真が貼り付けられていて、その他各教科の点数及び本人の経歴などが記されていた。写真はムッツリーニ、詳細なデータは和真が用意したものであり、Fクラスが誇る情報収集のスペシャリスト達の共同製作である。

 

雄二「まず一人目は俺らもよく知ってる工藤だ。期末での総合成績は3569点、正規メンバーではないとはいえ和真率いる『アクティブ』に所属していることから運動神経も申し分無いだろうな」

明久「雄二、この工藤さんでも比較的脅威じゃない扱いなの……?」

ムッツリーニ「……運動能力が高いとは言え、島田や霧島に劣るレベル」

雄二「そうだ。和真からも野球経験はそんなに無いとの情報を得ている。2-Aの中じゃ比較的御しやすい相手になると考えて良い。……二人目は女子ラクロス部のキャプテン、沢渡晴香」

秀吉「……ううむ、あの女子ラクロス部か。となると、こやつも一筋縄じゃいかなそうじゃの……」

 

知名度はインターハイ優勝者が二人も所属していた柔道部には劣るものの、女子ラクロス部は全国でも有名なほどの強豪チームであり、あの『アクティブ』に土を付けたという唯一無二の武勇伝もある。そのチームのエースを任されているのが沢渡だ。決して油断できる相手ではない。

 

雄二「とはいえ野球とラクロスは全くの別物。運動神経は目を見張るものがあるが、不馴れなスポーツで十全に発揮できるほど世の中甘くないからな、脅威度はそこまでではない。ちなみに総合成績は2735点だ」

ムッツリーニ「……確か、秀吉の一つ上」

秀吉「点数では拮抗しておるが、運動神経ではどうしても遅れを取るじゃろうな……操作技術はワシに分がある分互角と言ったところかの」

 

以前までと違い秀吉はFクラスでは突出した成績を誇る主戦力の一人となっている。そんな秀吉と互角の相手が比較的驚異度の少ないポジションに収まっていることから、クラス間の戦力差が容易に伺い知れる。

 

雄二「次は……若干不確定だが、この二人だ」

 

二人の説明を一通り終えた雄二は、ルーズリーフの束からまた二枚を抜き出して広げた。今度は二人とも明久達と面識のある相手だった。

 

雄二「三人目は橘飛鳥。期末の点数は3002点だが和真曰く夏休みの間研鑽を重ねていたらしいから、実際にはさらに点数が上がっていると考えるべきだろう」

ムッツリーニ「……インターハイで優勝したことからも、運動神経はかなりのものと推定できる」

明久「おまけに和真達の幼馴染らしいから、工藤さんのように野球慣れしてないってこともないだろうね……」

秀吉「そして強化合宿で姉上との連携で和真に勝利を収めたことから、操作技術もワシらFクラス生徒と遜色ないじゃろうな」

雄二「こういう穴の無い奴が一番崩しにくいんだよな……。んで四人目、久保利光」

明久「久保君?あんまりスポーツが得意ってイメージが無いけど」

雄二「だから不確定なんだよ。こいつの注意すべきポイントはなんといっても点数だ」

明久「あ、そっか。久保君頭良いから、その分召喚獣の強さも……」

 

野球をベースにしている以上野球センスや運動神経が重要になってくるのは勿論だが、試験召喚システムの使用上点数の高さに比例して召喚獣が強くなるという大原則も、決して忘れてはならないファクターである。

 

ムッツリーニ「……期末テストの総合成績は4559点、姫路とほぼ互角」

秀吉「流石に姫路ほど極端にスポーツが苦手とは考えにくいから、野球での戦力としては姫路より数段上だと予想できるのう」

雄二「こいつを懐柔して十対八人で勝負するって作戦も考えたが……あの鳳相手にそんな小手先の策が通じるとは思えねぇ」

 

おそらくは事前に対策されているだろう。しかし、いまいち理解できなかった明久は雄二に異を唱える。

 

明久「久保君を懐柔って何言ってるのさ。鳳君云々以前に、あの久保君がそんな汚い行為に手を染めるはずがないじゃないか」

雄二「……そうか。そう思っていられるなら、お前はそのままの方が幸せなのかもしれないな……」

秀吉「真実の久保はヨゴレた好意に身が染まっておるからの……」

ムッツリーニ「……知らぬが仏」

明久「え?何?どうして久保君の話をすると皆そんな慈愛に満ちた目で僕を見るの?」

 

明久にまるでどこか遠くに行ってしまう友人を見送るような視線を思わず送ってしまった雄二達を、いったい誰が責められようか。

 

雄二「…………まあいい、続けるぞ。次の三人は強豪揃いのAクラスの中でも、特に警戒すべき連中だ」

 

残ったルーズリーフの束から雄二は一枚だけを残して抜き取りる。三人中二人は愛子と同レベルで見知った顔であり、残りの一人は直接的な交流は無いものの顔は覚えている。沢渡と同じく、新生徒会役員に着いた坊主頭の男子生徒だ。雄二はまずその生徒から説明をし始めた。

 

雄二「五人目は二宮悠太……何を隠そう、()()()()()()()()だ」

明久「それは……強敵だね……」

ムッツリーニ「……文月の野球部は柔道やラクロスみたいな全国クラスの強豪じゃないが、それでも十分脅威的」

秀吉「雄二よ、確かこやつも今のワシ以上の成績じゃったな?」

雄二「ああ、総合成績2851点……操作技術は大したことなさそうだが何せ本職だ、野球の実力はかなりのレベルだろうな。……だが残りの三人は、はっきり言ってこいつよりヤバい」

 

そう言うと雄二は銀髪の少年の写真が貼られたルーズリーフに視線を移した。

 

雄二「六人目は大門徹。『アクティブ』正規メンバーにして、和真曰く不動の一番バッター。出塁率は四球を含めると8割を越えるそうだ」

明久「8割!?5回に4回はチャンスを作られるってこと!?」

雄二「珍しく正解だ明久。何でもボールに喰らいつく執念が桁違いに強く、大抵のピッチャーは根負けして歩かされるか、プレッシャーに負けて失投して強打されるらしい」

秀吉「投手からすれば非常に厄介な相手じゃな……」

ムッツリーニ「……そして出塁した後も警戒が必要」

雄二「その通りだムッツリーニ。奴の期末成績は4028点……ガンガン盗塁を仕掛けてくる可能性大だ」

 

そしてクリーンナップに回る頃には得点圏となる、という寸法であろう。肝心のクリーンナップに選ばれるのはおそらく野球部主将の二宮、桁違いの実力を持つ蒼介……そして最後の一人はおそらく、今から雄二が説明する人物であろう。

 

雄二「七人目は大門と同じく『アクティブ』正規メンバー……和真の恋人兼飼い主兼相棒、秀吉の姉である木下優子だ」

(((飼い主て……)))

 

三人の心が一つになったものの、最近の和真の手懐けられっぷりを見てると否定しきれないので、誰一人異論を唱えることはなかった。

 

雄二「総合科目の点数は4512点と久保や姫路と遜色無い成績だ。……これだけでも充分強敵だが、あの和真とコンビを組んでるだけあって野球能力はかなり高いだろうな」

明久「おまけに操作技術も、この前の胆試しの立ち回りを見る限りFクラス標準レベルは越えているっぽいしね……」

雄二「以前和真が言っていたんだが、身体能力は精々『アクティブ』では下から二番目程度だが……テクニックやセンスは和真にも匹敵するレベルらしい」

ムッツリーニ「……しかも今回は召喚獣を媒介にしているので、運動能力も桁違い」

秀吉「やれやれ……改めて考えると、我が姉ながらとんでもない化け物っぷりじゃのう……」

 

総じて、先ほど雄二が一番崩しにくいと評した飛鳥の完全上位互換と言える。走攻守全てのアクションに全身全霊で気を配らなければ確実に痛い目見るだろう。

 

雄二「……とまあ、ここまでピックアップした奴らだけでも3-Aより遥かに厄介だが、一番警戒しなければならない奴は……当然こいつだ」

 

そう言って最後のルーズリーフを広げる雄二。添付された写真には、ツヤのある紺の髪とクールな表情が特徴的な男子生徒が写っている。

蒼の英雄、限りなく完全に近い人間の異名を持つ、数百年の歴史を持つ名家・鳳一族始まって以来の天才……

 

雄二「最後の一人はこいつ、学年首席の鳳蒼介。操作技術は四月のムッツリーニとの対戦を分析したところ、かなりのレベルだが明久や和真ほど突出しているわけじゃねぇ。こいつの怖いところは和真をも上回るテクニックと、6000点オーバーの圧倒的な学力だ」

明久「6000点……それってもう並の教師より高いってことだよね」

ムッツリーニ「……召喚獣の能力もそれの比例してとんでもないものになる」

秀吉「そのとんでもない力を、和真以上のテクニックの持ち主が扱うと思うと、気が滅入りそうじゃな……」

 

加えて蒼介には雄二と同等の指揮能力まである。生半可な策ではアッサリと対応されるだろう。総じて、和真にも匹敵する理不尽なまでに強大なスペックであると雄二は結論づけた。

 

雄二「……9人目は不確定だそうだ。点数を重視して佐藤美穂、それか運動能力に優れた男子生徒を選んでくるだろうな。こいつらの実力は、教師チーム相手に完全試合を達成したほど強大だ」

 

四人の士気はさらに落ちる。完全試合……ヒットや本塁打はもちろん、四死球やエラーやフィルダースチョイスなどすら一度も無く試合を終えるまさに完全勝利、プロ野球及びメジャーリーグでも達成された回数が総計50にも満たないほどの偉業である。

 

雄二「……だが、付け入る隙は必ずある。……そうだろ、和真?」

和真「その通り、最後に勝つのは俺達だ」

 

Aクラスの休憩所で昼食を終えて戻ってきた和真が、雄二にキャンパスノートを投げ渡す。雄二が全員に見えるようにノートを開くと、2-Aの三試合のスコアブック、及びスタメンが記されていた。そのデータを見る限り、どうやらスタメン最後の一人は佐藤で、控え二人が運動の得意な男子生徒のようだ。

 

明久「和真、これどうしたの?この短時間で用意できる書き込み量じゃなさそうだけど……」

和真「一緒に飯食ってた源太から強引に譲ってもらった。アイツ、あの外見でかなり几帳面だから記録してるに違いねぇと思って探り入れたら、案の定だったぜ」

 

人は見かけによらないという言葉を体現しているような奴である。その一方で、バイクに乗ることが趣味であるなど見かけ通りの一面もあったりするのが源太だ。

 

雄二「でかした和真!よし、これらのデータをもとに作戦を練るとするか。……お前ら、絶対に勝つぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより、一年生各クラスによる、応援合戦を行います。一年生の生徒は……』

 

グラウンドにアナウンスが響き渡る。昼休み明け一発目は意外と人気のある応援合戦だ。色とりどりの衣装に身を包み、一年生達がグラウンドの各所に集まる。

そんな後輩達を尻目に、明久達は次に来る自分たちの番の為の準備をしていた。ちなみに応援団長に抜擢された和真は、右腕に『団長』と刺繍された腕章を身に付けて所定の位置にスタンバイしている。

 

明久「学ランなんて久しぶりだなぁ。中学校以来だよ」

雄二「なんだ。明久も中学は学ランだったのか」

ムッツリーニ「……同じく」

秀吉「ワシもじゃな」

明久「へぇ~。秀吉はセーラー服だったんだね」

秀吉「明久よ。会話がつながっておらんぞ」

 

皆で衣装を手に取って話をしていると、そこにチアガールの衣装を持った美波が困ったような表情をしたままやって来た。いったいどうしたのかと明久が疑問を抱くのをよそに、美波は秀吉に真剣な目をして話しかける。

 

美波「ねぇ木下」

秀吉「嫌じゃ」

美波「う……。まだ何も言ってないのに……」

 

かなり人懐っこい部類の秀吉にしては珍しく、随分とそっけない返事である。

 

美波「そんなこと言わないで。ほら、この衣装もかなり可愛いわよ?」

秀吉「可愛いから嫌なのじゃ」

 

美波が広げてみせるチアの衣装から目を逸らすようにそっぽを向く秀吉。

 

美波「応援団は人数が余ってるじゃない。こっちは三人しかいなくて困ってるの。だから、ね?」

 

頑として拒否する秀吉たが、美波は粘り強く食い下がる。これは別に応援合戦を何としても成功させようという使命感からくるものではない。

やがて美波達の方にその原因が遠くの方から駆け寄ってきた。

 

姫路「あ。美波ちゃん。早く着替えないと時間がなくなっちゃいますよー」

 

タッ、タッ、タッと弾むように駆けてくる姫路であるが、いつもはあまり大きく動かない分より躍動感が伝わってくる……全身の至るところから上下の動きに対する躍動感が。ムッツリーニは死を覚悟して十字を切り、明久は体奥から沸き上がる赤い液体を出すまいと咄嗟に目を伏せる。

 

美波「だから嫌なのよ、あの子と踊るのは……!揺れるのよ!?跳ねるのよ!?暴れるのよ!?」

秀吉「そうは言われても、ワシは男じゃからチアガールはやらんのじゃ!」

 

秀吉と美波の言い争う後ろで、一瞬遅れてムッツリーニがいつものように鼻血を吹いて大地に倒れ伏す。

 

明久「まぁ確かに姫路さんと並んで踊ったら、色々と比較されるよね……」

美波「しかもあの子、すっごい張り切ってて一生懸命飛び回るのよ!?もう隣にいるウチへの嫌がらせにしか思えないの!翔子も瑞希ほどじゃないにしても充分立派な物をお持ちだし、これ以上はウチの精神が持たないわ!」

 

話をまとめると、どうやら秀吉をチアに加えることで精神的な被害を少しでも減らそうと考えてるらしい。

 

明久「秀吉。美波もここまで頼んでるんだし、チアガールやってあげたら?きっと秀吉なら凄く似合うと思うよ」

秀吉「嫌じゃっ」

明久「けどあんな学ランの下に無理してサラシを巻くくらいなら、おとなしくチアガールをやった方が」

秀吉「あ、あれはお主らが、巻かねば教育委員会に訴えられる、と言うから仕方なくつけておると言うのに……!」

 

海に行ったときの一般人の反応を鑑みると、その危惧はあながち大袈裟ではなかったりする。

 

姫路「あの、明久君。美波ちゃんは木下君に何をお願いしているんですか?」

 

こちらにやってきた姫路が、秀吉と美波のやり取りを見て明久に尋ねてきた。

 

『なんでそんなに嫌がるの?こんなに可愛いのに』

『可愛いからじゃ!ワシは男じゃから、可愛い物は着ないのじゃ!』

『えっとね、木下。ここだけの話しなんだけど……』

『なんじゃ』

「実はチアリーダーの衣装って……凄く男らしいのよ?」

『さてはお主、ワシを明久レベルのバカじゃと思っておるじゃろ!?ワシの理想はじゃな……あそこで腕を組んで悠然と仁王立ちしている和真みたいなのがそうじゃ!』

『でも柊だって、日頃から優子に猫可愛がりされてるじゃない』

『アレは姉上限定じゃからなんとも言えんのう……』

 

 

明久「美波が、秀吉にもチアガールをやってみないかってお願いしてるんだよ」

姫路「チアガールをですか……。どうしてでしょうね?」

明久「あはは……。きっと女子の数が少なすぎると思ったんじゃないかな?」

姫路「あ、そういうことですか」

 

ポン、と手を叩く姫路。

そして懐からあるものを取り出す。

 

姫路「あの、女子の人数が少ないと言う話でしたら……」

明久「待って姫路さん。どうしてもう一着チア衣装を取り出してジッと僕の方を見るの?」

雄二「ははっ。良かったじゃないか明久。俺も女子が少ないのを心配していたんだ。これで少しは見栄えも良くなると」

姫路「あの、坂本君……。良かったら」

雄二「待て姫路。なぜ更にもう一着取り出して俺を見る」

 

もう姫路は取り返しのつかないところまで頭の病気が進行してしまったようだ。ちなみに和真にも同様に薦めようものなら、姫路は肘パンチの一つでも喰らって悶絶していただろう。『男に女装を強要するような奴に人権は無い』、和真のポリシーの一つである。

 

明久「それはそうと姫路さん」

姫路「はい、なんですか明久君?」 

 

この話をさっさと打ち切りたいのか、明久と雄二は姫路に畏まったような態度で話しかける。

 

明久「応援の練習、すごく頑張ってるらしいね」

姫路「あ、いえ。それほどでも……」

雄二「だがな姫路、島田も心配していたが本当に無理はしなくていいんだぞ?応援合戦はあくまで余興で、体育祭の得点とは関係のない種目だからな」

 

美波が心配している内容はまた別のことなのだが、物は言い様である。

 

姫路「……んの……ませんから……(ボソッ)」

明久「え?」

姫路「…………いえ、何でもありませんっ」

 

一瞬とんでもなく張りつめたような表情をしていた姫路だが、次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていた。明久は少し気になったが、自分の見間違いだったと判断した。

 

 

 

 

 

『じゃあ木下!こうしましょう!ウチが学ランを着るから、アンタがチアを』

『それはワシにとって何の解決にもなっておらんじゃろうがっ!?』

 

遠くから未だに言い争っている美波と秀吉の声が聞こえてきた。ちなみに、最終的に秀吉はサラシに学ラン姿でボンボンを持って踊ると言う折衷案?で妥協して、大いに観客を沸かせたそうな。Fクラスの応援は事前に和真に言われた『もし腑抜けた応援しやがったら全力でケツバット』という脅し文句に心底ビビった男子一同の奮闘により、全学年全クラスの中で一番盛り上がった。

 




次回からはいよいよVS3-Aです。

激闘の果てに、戦士達は秘宝を取り戻せるのか……?



※秘宝=エロ本


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野球大会決勝①『絶対的エース』

【バカテスト・化学】

①~④の説明に当てはまる元素記号を次から選び、それぞれ正しい名称を書きなさい
『Mn O S Na I Pb Ne』

①体心立方構造で、水と激しく反応する。炎色反応では黄色を呈する
②沸点154・25℃、融点113.75℃。コレの溶液にデンプンを加えると反応を起こし藍色を呈する
③原子量54、過酸化水素の水と酸素への分解反応において、コレの酸化物が触媒として用いられる。
④希ガス族・第二周期、空気を液化、分留して作られる。


姫路の答え
『1.Na:ナトリウム 2.I:ヨウ素 3.Mn:マンガン 4.Ne:ネオン』

蒼介「正解だ。それぞれの特徴を覚えておくと化学反応の説明などにもつながるので、基礎的な特徴はしっかりと覚えておくように」


美波、優子の答え
『書きたくありません』

蒼介「……テストのボイコットとは感心せんな、少々失望させられた。わからないのであればまだしも、書きたくないなど学力以前に人としての考え方において問題があるぞ。今後はそのような態度を改めていかないと、いずれ社会に出た時に苦労を-」


ムッツリーニの答え
『1.Na:ナ 2.I:イ 3.MN:ム 4.Ne:ネ』

蒼介「…………木下、島田……すまない……」



体育祭のプログラムではただの一種目に過ぎないが、(和真以外の)Fクラス生徒達にとっては最も重要な野球大会。その決勝戦を前に、事前に選ばれたスタメン(+補欠二名)に雄二が作戦の説明をしていた。

 

雄二「…とまあ大まかな作戦はこんなところだ。細かいことは要所要所で俺が指示をだす。……最後に、決勝戦の打順とポジションはこうだ」

 

そう言って雄二は一枚の紙を広げ、和真達は自らに与えられた役割を確認する。

 

 

①ピッチャー・木下秀吉

②セカンド・吉井明久

③センター・霧島翔子

④ショート・柊和真

⑤キャッチャー・坂本雄二

⑥ファースト・島田美波

⑦サード・土屋康太

⑧レフト・須川亮

⑨ライト・姫路瑞希

ベンチ……福村、横溝

 

明久「……何か、雄二にしてはマトモというか……普通のオーダーだね」

雄二「打順やポジションは変に捻らない方で基本に忠実にした。無理して奇抜なオーダーを組めば確実に付け入られる隙が生じる」

和真「それに基本がしっかりできてるからこそ、奇策はより効果を発揮するもんだしな」

雄二「そういうことだ。さて、そろそろ時間だな……和真、とりあえず全員の士気を上げてくれ」

 

和真はFクラスの精神的支柱である。指揮能力こそからっきしであるものの和真が全体に激を飛ばす、または結果で語ることでクラスメイト全員の士気を数十倍に跳ね上がる。

 

和真「あいよ。……いいかお前ら!事前にばーさんに確認したところ引き分けになった場合でもお前らの没収品は戻ってくる。……だが、俺達にはアイツらAクラスに四月での借りがある!そして近い内に奴らの設備を奪い取るという野心がある!この闘いはその前哨戦だ!つーわけでお前ら……是が非でも勝ちに行くぞオラァッ!!!」

『『『おぉぉおぉぉぉっ!!!』』』

和真「よーし良い返事だ!それじゃ、第二グラウンドに乗り込むぞ!俺に続けぇえええっ!」

 

百戦錬磨の斬り込み隊長に率いられ、Fクラスの戦士達はグラウンドに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御門「あー……これより野球大会決勝戦をを始める。オメーらさっさと整列しろー」

 

審判を務める御門先生のいかにもやる気無さげな声も一切気にせず、両クラスの生徒達は真剣な表情で整列して向かい合う。

 

「「「お願いします」」」

 

ホームベースを境に対面してお辞儀した後、雄二と蒼介の両キャプテンが握手をする。

 

蒼介「坂本、いい試合にしよう」

雄二「……ああ、そうだな。……だがな、」

「「勝つのは俺達(私達)だ」」

 

お互い目をそらさず宣言しあう。蒼介は満足そうに笑った後、隣にいる和真にも一瞬視線を移してから守備位置につく。和真も何も言うこと無くいつもの不敵な笑みを浮かべて雄二達とともにベンチへ戻っていく。

 

蒼介(今、私達に言葉など不要……)

和真(倒すべき相手と馴れ合う気は無ぇってか)

 

電光掲示板に両チームの打順及びポジションが表示される。2-Fは事前の打ち合わせ通りであり、そして2-Aはというと……

 

 

①キャッチャー・大門徹

②サード・沢渡晴香

③セカンド・木下優子

④ピッチャー・鳳蒼介

⑤センター・二宮悠太

⑥ショート・橘飛鳥

⑦レフト・久保利光

⑧ファースト・工藤愛子

⑨ライト・佐藤美穂

ベンチ……時任、栗本

 

 

明久(……えっ、鳳君が投手なの!?下手したら一撃で大門君の点数が吹き飛ばされてしまうんじゃないかな……そうなったら僕達にとってはありがたいけど)

 

ネクストバッターズサークルで明久がAクラスが教師チームをパーフェクトで下したことをもう忘れてそんなことを考えている内に、先頭打者である秀吉が召喚獣をバッターボックスに配置する。ちなみに一回の科目は物理。投手・捕手・打者の三人の点数がそれぞれ遅れて表示される。

 

 

《物理》

『Fクラス 木下秀吉 236点

VS

 Aクラス 鳳蒼介  604点

 Aクラス 大門徹  512点』

 

 

初っ端から絶望的なまでの戦力差である。秀吉もAクラスレベルと決して低くないので余計に始末に負えない。

 

御門「あー、ダリィ……プレイボール」

 

御門先生のやる気の欠片もない試合開始の合図と共に、〈蒼介〉はマウンドで思いっきり振りかぶり、第一球目を投げ込んだ。

 

 

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

 

まるで隕石でも落下したかのようなとてつもない轟音と共に、〈蒼介〉の放ったストレートが徹の召喚獣の構えたミットに収まった。

 

「「「…………は?」」」

和真(どうやら完全試合はマグレじゃないみてぇだな……くくく、面白ぇ)

 

スポーツ狂いの和真を除くFクラス全員の目が思わず点になり、同時に思考回路もフリーズする。

無理もない……〈蒼介〉のストレートは速いとか遅いとか以前に、全く見えなかったのだから。

 

御門「あー、入ってるなこりゃ……ストライク!」

 

その証拠に審判の御門先生はビデオで確認をしてストライクかボールかを判断しているぐらいである。〈蒼介〉のストレートは、まさに大砲と呼ぶに相応しい魔球であった。

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

御門「…………ストライク!」

秀吉(ぐぅっ……全く見えん……いったいどうすればいいのじゃ……)

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

悩んだところで答えが浮かぶとは限らないのが人生である。結局三球目もストライク判定となり、〈秀吉〉はヒットはおろかバットを一度も振れずに凡退してしまう。

 

秀吉「面目無いのじゃ……」

雄二「気にしなくて良いぞ秀吉、あんなもん初見で打てるわけねぇからな。……和真お前、()()見えたか?」

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

和真「悔しいが今のところ全く見えねぇ。バッターボックスからなら軌道を捉えられる可能性があるかもしれねぇが……それじゃあダメだな」

秀吉「んむ?ダメとはどういうことじゃ?」

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

和真「あのスピードじゃあ見てから打とうとしてちゃ確実に間に合わねぇってことだよ」

雄二「だろうな。明らかに人間の反応速度の限界を越えてやがる」

和真(ったく、普段はガチガチの技巧派ピッチャーのくせによ……)

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

二番打者の明久も一度もバットを振ることなくすごすごとベンチに戻ってくる。というか完全に腰が引けてしまってるようだ。

 

雄二「おいこのバカ。お前全然打つ気無かっただろ」

明久「仕方ないじゃないか!?もしあんなのが僕の召喚獣にぶつかったらフィードバックでショック死するかもしれないんだぞ!」

雄二「安い犠牲だ」

明久「貴様ァァァァァ!」

 

雄二と明久がいつものように不毛な争いをしている中、三番打者の翔子がバッターボックスに召喚獣を配置する。

 

 

《物理》

『Fクラス 霧島翔子 458点

VS

 Aクラス 鳳蒼介  604点

 Aクラス 大門徹  471点』

 

 

流石は和真と並ぶ学年次席 、蒼介との点数差もそこまで絶望的というほどではない。しかしそんなことよりも翔子には気になる点が一つ。

 

翔子「……取りこぼしが無かったのに点数が減っている?」

徹「鳳の召喚獣は肩が強すぎてね、たとえ完璧にキャッチしても微量ではあるものの点数が削られるんだよ」

翔子「……そう。だったら……」

 

そのことを聞いた翔子には一つの作戦が思い浮かぶ。それはスイングでキャッチャーの気を散らしボールを取りこぼさせ〈徹〉の点数を大幅に削らせることで、〈蒼介〉に全力で投げることを躊躇させるという試験召喚システムならではの戦法である。

しかしそう上手くはいかない。何故なら、この作戦には絶対に成功しない二つの要因があるからだ。

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

翔子「っ……!」

御門「………………ストライク」

 

キャッチャーの視界を遮るように振った〈翔子〉のスイングも虚しく、ボールは悠々と〈徹〉のミットに収まった。

 

徹「あまり舐めてくれるなよ霧島さん。僕は『アクティブ』の正捕手、その程度の揺さぶりなど通用しないよ」

 

これが一つ目の理由。徹は『アクティブ』でも蒼介とバッテリーを組んでいる、にわか仕込みの雄二とは違って本職のキャッチャーである。ちょっとやそっとのことで集中を散らすようなことは決して無い。

そしてもう二つ目の理由は……

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

二球目のストレートもストライク判定される中、ネクストバッターズサークルにいる和真はとある疑念が確信に変わる。

 

和真(あの精密機械のような投球は本体譲りだが、以前までのソウスケの操作技術なら不可能だったハズだ……アイツめ、夏休みの間にコソ練してやがったな)

 

これが二つ目の理由。近々訪れるであろうアドラメレク及びファントムとの邂逅に備え、蒼介は夏休みの間に召喚獣の操作の向上させていた。今の蒼介の操作技術は流石に明久や梓には及ばないものの、和真に比肩するレベルにまでに至った。

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

御門「…………ストライクバッターアウト。チェンジ」

翔子「っ!……手も足も……出なかった……!」

徹「恥じる必要は無いよ。これまでの試合でもバットに当てた人は一人としていない」

 

翔子の奮闘虚しく三球三振に倒れ、Fクラスの初回の攻撃はたった9球で沈められてしまった。

 

 

《一回表終了。現在0-0》

 

 

 

 

 




原作では美波の数学(Bクラス並)の点数程度でも130㎞を悠に越えるスピードでした。では600点オーバーの蒼介君のストレートは……当然こうなります。


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野球大会決勝②『完全試合をぶっ壊せ!』

【二年Aクラス選手データ①】

佐藤美穂
・成績……A+
・操作技術……C
・野球センス……D+

操作技術は平々凡々かつルールはなんとか覚えたものの野球センスは並以下と、それほど警戒が必要な相手ではない。しかし点数は雄二以上で当たればデカいため油断は禁物。


沢渡晴香
・成績……A
・操作技術……C
・野球センス……B

全国レベルのラクロス部でエースを任されるほどの運動神経が武器。操作技術は並で成績もAクラス内ではそれほど突出しているわけではないが、文系科目は飛鳥以上の点数を取っている。

二宮悠太
・成績……A
・操作技術……C
・野球センス……A+

成績は理系が飛鳥以上の点数を取っているが総合的には秀吉より少し上程度、そして操作技術もこれていって優れているわけではない。しかし野球部員、それもキャプテンなだけあって『アクティブ』正規メンバーに匹敵する野球センスの持ち主。





〈蒼介〉の圧倒的なストレートに為す術も無く三者凡退してしまったFクラス一同。そんな彼らに第二の試練が襲いかかろうとしていた。相手があんな球を投げてくる以上大量得点は到底期待できそうもない。であれば当然Aクラスには可能な限り点を献上しないことが勝利する上で必須となるのだが……

 

 

《物理》

『Fクラス 木下秀吉 236点

 Fクラス 坂本雄二 292点

VS

 Aクラス 大門徹  411点』

 

 

徹「ちっ、鳳のストレートを捕球する以上多少の消耗は仕方ないが……まさかこの僕が物理でこんなしょっぱい点数を晒す羽目になるとはね」

雄二(消耗してなお400点オーバーかよ……しかもこいつは野球の実力も一級品ときたもんだ。出塁率8割か……勝負するだけ損だな)

 

雄二は迷い無く敬遠を選択し、〈雄二〉は立ち上がってバッターボックスからでは絶対にバットが届かない位置にミットを構える。秀吉も特に異論は無く、指示されたコースにボールを投げ込んでいく。

 

御門「フォアボール」

徹「……ま、それが賢明だろうね」

 

続いて二番バッターの〈沢渡〉は手堅く送りバントを選択し、〈徹〉を得点圏である二塁にまで進める。〈徹〉のスペックなら盗塁という選択肢もあったが、観察力に優れる秀吉相手に仕掛けるには少々リスキー過ぎると判断した。それにそもそも……中軸の破壊力を考えれば余計な小細工は不要というものだ。

 

優子「アンタと野球で闘う日が来るとはね……アタシはそう簡単に打ち取れないわよ秀吉!」

秀吉「姉上……望むところじゃ!」

 

バッターボックスに召喚獣を配置しながら優子は実の弟と向かい合う。ごく普通の野球で勝負すれば秀吉に勝ち目は無いがこれはある程度召喚獣の強さに依存する闘いなので、秀吉にも勝つ可能性はある。

 

 

《物理》

『Fクラス 木下秀吉 236点

 Fクラス 坂本雄二 292点

VS

 Aクラス 木下優子 389点』

 

 

それでも不利であることは否めないのだが。点数差はもとより、クリーンナップを任されているだけあってバッティングセンスも並外れていると考えていいだろう。

 

雄二(本来なら真っ向勝負は危険過ぎる……が、次もその次も危険なバッターなことに変わりは無い。流石に毎回敬遠するってわけにもいかないし、ここらで何とか抑えておきたいのも事実だ。さてどうするか……ん?)

 

優子への対処を試行錯誤している雄二は、和真が雄二の方に視線をに向けることなく、さりげなくハンドサインで合図を送っていることに気がつく。

 

雄二(…………なるほど、試してみる価値はあるな)

 

和真のサインから意図を読み取った雄二は真っ向勝負を選択。〈秀吉〉は〈雄二〉がミットを構えた場所に込こむため、全力でボールを振りかぶる。

 

優子(200点オーバーでも充分速いけど、直球しかないなら打てない球じゃないわ。そしてアタシの狙いは……)

 

バッターとしての優子の強みは、どのコースだろうがヒットを狙えるミート力と、左右に正確に打ち分けられるバットコントロールにある。野球は『アクティブ』の活動でも何度もやったが、和真の尋常じゃない守備力は嫌と言うほど印象に残っていた。レフト方向に打てばアウトになる可能性がかなり高い……そう判断した優子は、

 

優子(ライト方向!)

 

カキィィン!

 

ライト方向へ強烈なライナー性の打球を放った。セカンドの〈ムッツリーニ〉、ファーストの〈明久〉はその物凄い打球速度に反応できず、さらにライトを守っているのは野球センス0の〈姫路〉とまさに最悪のシチュエーションである。〈徹〉の本塁生還は確実、下手をすればランニングホームランになりかねない絶体絶命の状況だ。

 

 

 

 

 

 

和真「読み通りだぁぁあああ!(バシィィィッ!)」

 

優子「なっ!?」

 

そう……〈和真〉が持ち場をを離れてライト方向へカバーに集中していなければ、確実に失点していただろう。

 

和真「よっしゃ、このままゲッツーだ!」

徹「残念だったね、僕も保険をかけていたのさ」

和真「……ちっ、そう上手くいかねぇか」

 

そのまま二塁に送球してダブルプレーを狙おうとするも、〈徹〉は二塁から動いていないためそれは叶わなかった。どうやら和真の策をある程度読んでいたらしい。

 

優子(くっ、一打席目は完敗ね……次はこうはいかないからね、和真)

和真(まあ、優子を打ち取れただけでも良しとするか……おーおー、悔しそうな顔してやがる。余計な火ぃつけちまったかもしれねぇが、それでも勝つのは俺達だ)

 

いつも一緒にいる和真と優子が火花を散らすなか、名実ともにAクラス最強の打者がバッターボックスに入る。

 

 

《物理》

『Fクラス 木下秀吉 236点

 Fクラス 坂本雄二 292点

VS

 Aクラス 鳳蒼介  604点』

 

 

御門「フォアボール」

 

そして即座にフェードアウト。点数もさることながら和真をも凌駕するミートセンスの持ち主に真っ向勝負を仕掛けるなど、勝負を投げ捨てるような愚行そのものである。蒼介もそれを理解しているため、特に何も言うこと無く召喚獣を一塁に進める。

 

 

《物理》

『Fクラス 木下秀吉 236点

 Fクラス 坂本雄二 292点

VS

 Aクラス 二宮悠太 318点』

 

 

次のバッターは二宮。理数系というだけあってかなりの点数、おまけにその召喚獣を操るのは野球部キャプテンと強敵であることが嫌でも伺える。

 

御門「フォアボール」

 

二連続敬遠でツーアウト満塁。野球部キャプテンを相手にするよりかは飛鳥を打ち取る方が容易であると雄二は考えたのだろうが……

 

飛鳥「……はぁっ!(キィイン!)」

雄二「し、しまった!?」

 

そんな雄二の思惑など粉砕してやると言わんばかりに、〈飛鳥〉はセンター前にタイムリーヒットを放つ。雄二の判断は間違っていたわけではなく、飛鳥よりも二宮の方が危険なバッターであることは確かである。だがしかし、だからと言って飛鳥が御し易いバッターかとなれば話は別というだけだ。七番バッターである〈久保〉はどうにか三振させることができたものの、雄二達はAクラスに痛すぎる1点を献上してしまった。

 

《一回裏終了。現在0-1》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして二回表。この回の科目は英語であり、先頭バッターはFクラス最強の矛こと柊和真。

 

和真「さてと……悪いがくれてやった一点、早々に返してもらうぜ」

蒼介「それはできない相談だな」

 

親友でありライバルでもある二人が対峙するなか、召喚獣の点数が遅れて表示される。

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 458点

VS

 Aクラス 鳳蒼介 607点

 Aクラス 大門徹 332点』

 

 

点数だけで判断すれば多少負けてはいるものの絶望的という程ではない。しかし〈蒼介〉の放つ超豪速球は、和真の並外れた反射神経・動体視力を持ってしても捉えきれるものではないだろう。そういった自負が有るためか生来の負けず嫌いによるものか、蒼介は真っ向勝負を選択する。和真は一瞬〈徹〉に視線を向けてから蒼介に向き直る。

 

ズドォォオオォォォオオン!!!

 

耳をつんざく衝撃音と共に、〈蒼介〉の放ったボールは徹の召喚獣が構えたミットに収まる。

 

和真(一回表に比べるとインパクト音が小っちぇな。おそらく徹の召喚獣の点数が削れすぎて戦死しねぇように力を8~9割程度に抑えてるんだろうな。……だがなソウスケ、)

 

いつものように不適な笑みを浮かべる和真。

 

和真(今のでハッキリした。

この勝負……俺の勝ちだ!)

 

そして〈和真〉はバットを〈蒼介〉の奥、召喚フィールドの端へと向ける。ざわざわと、野球に詳しい生徒達は皆ざわめきだす。

 

明久「ほ、ホームラン予告……」

雄二「ハッタリ……じゃなさそうだな」

飛鳥「まさか……もう対応できるって言うの?」

優子「相手はあの和真、万全を期するために敬遠するのも手だけど……代表の性格上それはないでしょうね」

蒼介(……フッ、面白い。やれるものならやってみるがいい!)

 

優子の予想した通り蒼介は片眉を吊り上げただけで特に動揺もせず、あくまで真っ向勝負の姿勢を崩さないようだ。和真はまた〈徹〉を一瞥してから〈和真〉にバットを構えさせる。

〈蒼介〉は大きく振りかぶって、1球目とは違って100%のストレートをアウトローいっぱいに投げ込む。人間の反応速度では決して見てからでは間に合わないであろうその豪速球を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィイイィィィィィイイイン!!!!!

 

蒼介「……っ!?」

和真「……これでイーブンだ」

 

〈和真〉は何の躊躇いもなくジャストミートした。流石の蒼介も思わず瞠目しつつも打球を目で追うが、ボールは行方を追うことすら叶わずに遥か彼方に消えていった。

 

御門「……ホームラン」

 

1~3試合ともただ一人たりとも塁を踏ませることなく勝利を収めてきた蒼介のストレートを見事打ち砕いた和真は、悠々とベースを周りベンチに戻り仲間達と盛大にハイタッチをする。

 

明久「それにしても、よくあんな平然と打てたね?」

和真「ちょっとしたコツがあるんだよ」

秀吉「そのコツとやら、ワシらにも教えてくれんかのう?」

和真「あいよ」

 

秀吉に頼まれるまでもなく和真は教えるつもりでいた。和真一人が打てるだけではこれ以上の得点は望めそうにないからだ(次からは間違いなく敬遠されるだろう。蒼介はプライドが高いものの勝つために必要とあれば勝負を避けることも厭わない人間である)。

 

和真「いいかお前ら、いくら徹がキャッチャーとして優秀と言っても、あんな化け物ストレートを見てからミットの位置を補正するなんてできっこねぇ。つまり徹が事前に構えた所にソウスケが投げ込むというスタンスになっている。そうとわかればソウスケが投げる前にミットの位置を確認しときゃある程度コースが事前にわかるっつう寸法だ」

明久「ふーん、なるほどねぇ。で、他には?」

和真「あん?球種とコースさえわかりゃ後は感覚で打てるだろうが」

「「「………………」」」

 

そんなことできるのはお前だけだよ……とその場の全員が思ったそうな。ちなみに被弾してしまったものの蒼介の鋼の精神力は少しも揺らぐことなく、そのまま三者連続三振に打ち取りこの回を終わらせた。

 

和真(完全試合が早くもお釈迦になったっつうのに涼しい顔しやがってよ……まぁ、この程度で崩れられても面白くねぇけどな)

 

蒼介の最大の強みは召喚獣のずば抜けたスペックでも、和真に比肩する操作技術や野球センスでもなく、決して崩れることのない強靭な精神力にあるかもしれない。

 

《二回表終了。現在1-1》

 

 




小さい頃は何故か電車がすごい好きだったのに、今となっては乗るだけで疲れます……。


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野球大会決勝③『一か八かの大博打』

【Aクラス選手データ②】

久保利光
・成績……S
・操作技術……B
・野球センス……C

野球センスは並だが操作技術はFクラス標準レベルに達している。そして点数は言うまでもなく強大なため、決して油断できる相手ではない。


工藤愛子
・成績……A+
・操作技術……C+
・野球センス……B
 
正規メンバーではないとはいえ、『アクティブ』の一員らしく野球センスはなかなかのレベルである。決勝の指定科目に保健体育が無いのが救いか(逆に言えばムッツリーニも十分に力を発揮できないのだが)。


橘飛鳥
・成績……A+
・操作技術……B
・野球センス……B+

全ステータスが高水準の万能タイプ。穴らしい穴が無いので明確な対処法は存在しない。間違いなく強敵なのだがトップ3や野球部キャプテンの二宮ほど脅威ではない。



和真が同点打を決めるも蒼介は一切動揺を見せずに後続をシャットアウトして二回表があえなく終了。

現在二回裏、戦闘打者の〈愛子〉が甘く入った高めのストレートを打ってテキサスヒットで一塁に進み、続く九番バッターの〈佐藤〉が三振に倒れ、ワンアウト一塁の場面で再び〈徹〉の打席なのだが……

 

キィイイン!

 

御門「……ファール」

『またファールかよ!?もう15球目だぜ!?』

『どんだけ粘っこいんだよアイツ……』

雄二「ちぃっ……いい加減しつこいぞ大門!」

徹「何とでも言いなよ。木下の速球相手に確実にヒットを狙うには、この戦法は実に有効だからね」

 

ついにベールを脱いだ徹の持ち味は、尋常じゃない程のボールカットセンスにある。絶好球が来るまでストライクゾーンに入る球をひたすらファールにし、狙い通り相手が失投して甘い球になればそれを痛打し、相手が勝負を捨て四球を選んでもそれはそれでOKの二段構えである。

そしてとうとう……

 

秀吉「くっ……(ビシュッ)し、しまった!?」

雄二(コースは問題ねぇが球威がまるで無ぇ!やべぇ打たれる!)

徹「我慢比べで僕に勝てるとでも?(キィインッ!)」

 

ホームラン性の当たりではないものの、レフト後方に痛烈な長打が襲いかかる。流石にこの打球をキャッチするのは不可能だと和真は即座に判断し、ただちに〈和真〉はホームへの中継に入る。三塁まで進んだ〈愛子〉が〈和真〉の肩の強さを警戒してその場に踏みとどまったおかげで失点には至らなかったものの、それでもワンアウト二、三塁の大ピンチを迎えてしまった。そして続いてのバッターは一打席目で手堅く送りバントをしてきた〈沢渡〉だが、またもや手堅く犠牲フライを狙ってボールをセンターフライ打ち上げた。

 

雄二(くっ、こいつら確実に一点を狙いに来ていやがる……

 

 

 

……ん?センターフライ?……っ!……こうなったら一か八かだ!)

 

三塁にいる愛子がセンターを守る〈翔子〉がボールを捕球したのを確認すると、〈愛子〉がホームへ向かって一直線にダッシュする。敵味方問わず誰もがタッチアップ成功を確信する中、雄二は翔子に向けて叫んだ。

 

雄二「翔子!俺を殺す気で返球しろ!」

「「「なっ!?」」」

翔子「……えいっ!」

 

ギュォォォオオオオオ!!!

 

周りが呆気に取られる中、翔子は何の迷いもなく500点オーバーを誇る〈翔子〉の100%の力でバックホームした。凄まじい勢いのレーザービームが〈雄二〉めがけて放たれ……

 

 

ドゴォォォオオォォオオオオオッ!!!

 

 

《英語》

『坂本雄二  18点

 霧島翔子 531点

VS

 工藤愛子 339点』

 

 

その凄まじい送球を〈雄二〉はその全身で受け止め、ホーム間近まで接近していた〈愛子〉に即座にタッチした。

 

御門「…アウト、チェンジ」

 

常識で考えれば気が狂ったと言われても仕方がない無茶をしたことで凄まじいダメージを負ったものの、〈雄二〉どうにか間一髪で生き延びることができたようだ。

 

雄二「工藤……打ち取らせてもらったぜ」

愛子「無茶苦茶するね坂本君……耐えきれたから良かったようなものの、戦死してたら余計ピンチになってたんじゃない?」

雄二「けっ、博打くらい仕掛けないと勝たしてもらえそうに無いみたいからな」

 

 

《二回裏終了。現在1-1》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く三回裏、Fクラスの攻撃で科目は世界史。意気揚々とバッターボックスに召喚獣を配置させた八番打者の須川だったが……

 

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

御門「…………ストライクツー」

須川(こんなもん打てるわけないだろ!?)

 

 

《世界史》

『Fクラス 須川亮 79点

VS

 Aクラス 鳳蒼介 598点

 Aクラス 大門徹 355点』

 

 

点差が絶望的なことはともかく、それを差し引いても〈須川〉は〈蒼介〉のストレートにまったく対応できないでいた。まあ無理もない…コースと球種を事前に知っているだけで難なく当てられる奴など和真以外には誰一人としていないであろうし、おまけに蒼介は既にそのカラクリに気づいたらしく、徹にコースを確認させないようフェイクを入れるよう指示したため、今はもう和真でも打てないかもしれない。

 

須川(くそっ、こうなりゃ一か八かだ!手からボールが離れる前に適当に振ってやる!)

 

一見自暴自棄にしか思えないが、実はその戦法が最も当たる確率が高かったりする。そして野球の神様は実に気まぐれな性格のようで、〈須川〉の適当スイングのタイミングが偶々〈蒼介〉のストレートにジャストミートする。

 

 

 

……しかし、

 

 

バキィィイイイッ!!!

 

須川「ば…バットが折れたぁ!?」

 

どうやら点数差500点オーバーとは野球の神様すら捩じ伏せるものであったようだ。ジャストミートした筈のボールは、しかし撥ね飛ばされることなくそのまま〈須川〉のバットを粉砕し打ち上がり、〈徹〉のキャッチャーミットに収まった。

 

御門「アウト」

雄二(くそっ!やはり少なくともAクラス並の成績でないと前にすら飛ばせそうにないな……)

蒼介(おそらく坂本はこのことを事前に予測していたのだろう。でなければ姫路をスタメン起用する理由が無い)

姫路「さあ、いきますよっ!」

 

意気消沈気味にベンチに戻る須川と入れ替わるようにやけに気合いの入った姫路が召喚獣をバッターボックスに立たせる。

 

 

《世界史》

『Fクラス 姫路瑞希 421点

VS

 Aクラス 鳳蒼介 598点

 Aクラス 大門徹 302点』

 

 

雄二が野球センス皆無の姫路を決勝のメンバーに組み込んだのは何よりも点数を重視したためだ。当たっても絶対ヒットにならない奴よりも当たる確率極小でも当たればヒットを期待できる奴を選ぶのは、戦略的には何も間違ってはいない。

 

 

 

だが……

 

蒼介「……はっ!」

 

ズドォォォォオオォォォォォオオオン!!!

 

御門「…………ストライク、バッターアウト」

姫路「うぅ、そんな……」

蒼介(……そのような運頼みが、この私に通用すると思うな)

 

一球たりとも掠らせもせず〈姫路〉を捩じ伏せた蒼介は、後続の〈秀吉〉も容赦なく三球三振で仕留めた。

 

《三回表終了。現在1-1》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた三回裏。〈蒼介〉のストレートが猛威を奮っているためビッグイニングは期待できない。よってたった一失点でもすれば敗色濃厚なこの状況で相手の打順は、よりにもよってクリーンナップから。

優子、蒼介、二宮の三人の強打者を相手に無失点で乗り切ることは極めて困難だと言えるだろう。そんな絶対絶命の状況を乗り切るべく司令塔の雄二が再び大博打を打って出る。

 

雄二「ピッチャーを翔子に、キャッチャーを和真に交代!」

「「「えぇっ!?」」」

蒼介(ほう……面白い)

和真(良いねぇ、そうこなくっちゃ♪)

 

両クラスのほとんどに動揺が走るなか、指名された二人は配球の確認のためマウンドに集まる。

 

和真「んー、そうだなぁ……細かいコースは指示しねぇから、とりあえず俺の召喚獣が届きそうなところに全力で投げてこい。全部取ってやるからよ」

翔子「……わかった」

 

全教科400点オーバーの召喚獣から繰り出されるストレートは、蒼介には及ばないとはいえ人類では決して到達することのない超豪速球に変わりはない。そんな球をコース指定もせず捕球するなど困難を通り越して無謀とも言える試みであるが、翔子には何の迷いもなかった。和真が「取る」と言った以上、必ず取ってくれるだろうという無条件の信頼が根底にあった。

 

和真「さて優子、悪いが捩じ伏せさせてもらうぜ」

優子「あら、そう簡単にはいかないわよ。アタシに野球を教えたのはどこの誰だったかしらね?」

 

 

 

《世界史》

『Fクラス 柊和真  514点

 Fクラス 霧島翔子 449点

VS

 Aクラス 木下優子 409点』

 

 

点数差はそれほど開いていない。加えて優子のバットコントロールは和真に比肩するほどのレベルであるため、生半可な投球では容赦無く打ち込まれるだろう。にもかかわらず、〈翔子〉は大きく振りかぶって第一球目を()()()()に投げる。

 

 

ズドォォオォォォオオン!!

 

 

御門「…………ストライク」

優子「っ…!代表ほどじゃないとはいえ、それでもとんでもないストレートね……!」

和真「ああ、まったくだ。おかげで後逸しかけたぜ、アブネーアブネー」

優子(しっかりキャッチしといてよく言うわ……)

 

明らかに挑発目的の和真の言動に優子が心の中で毒づいたものの、余裕綽々とはいかなかったのは事実である。和真の反応があと0.1秒でも遅れていたら、もしくは〈和真〉が構えたミットがあと数㎝でもずれていたら、翔子から放たれたストレートは和真の点数をゴッソリと削っていただろう。

 

 

ズドォォオォォォオオン!!

 

御門「…………ストライク」

優子「うぅ……まったく反応できない」

和真「確かにお前のミートセンスは俺に匹敵する……だがな、バットをボールに当たらないんじゃあ大して怖かねぇんだよ」

 

そう。優子が和真と並ぶのはあくまでミートセンスのみであり、経験、球種の予測・判断、反応速度などでは遠く及ばない。並大抵のピッチャーなら特に問題なかったのだが、翔子ほどの人知を越えたスピード相手には、はっきり言って相性が悪すぎる。

 

ズドォォオォォォオオン!!

 

御門「…………ストライクバッターアウト」

優子「……この打席は完敗ね。次は絶対に打ってやるから覚悟しておきなさい!」

和真(残念だが翔子へのリベンジの機会は無ぇよ。……さて、ここが正念場だな)

 

ベンチに戻っていく優子と入れ替わるようにバッターボックスに近づいてくる蒼介を見据え、和真は気を引き締める。()()()()()で敬遠という手段を取れない以上、この強打者は打ち取る以外に退ける手段は無いのだ。

 

蒼介「……その目、やはり勝負を仕掛けてくるつもりのようだな」

和真「当然だろうが。俺達はこの回無失点に抑えるからには、敬遠なんて間違ってもしちゃいけねぇだろうがよ」

蒼介「確かにその判断は一見間違っていない……だが残念だったな。敬遠しようがしまいが、私が点を取ることに変わりはない!」

和真「ハッ、言うじゃねぇかソウスケ!上等だ、返り討ちにしてやらぁっ!」

 

頂点二人は攻守を逆転させ、今一度再び相見えようとしていた。

 




祝!とうとうUAが30000を越えました!
やた~~~!





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野球大会決勝④『起死回生の策』

【バカテスト】

次の文章を読み、・・・・・・の部分の理由として()()()()()()を選びなさい。

若くして夫婦になったジムとデラは、貧しくも互いを愛して暮らしていました。
ジムの宝物は代々伝わる金の時計、デラの宝物はその美しい髪の毛でした。
クリスマスの前日、デラは愛する夫にプレゼントを買う為、自慢の美しい髪を切ってかつら屋に売ってしまいます。
そしてそのお金で、ジムの金の時計につけるプラチナの鎖を買ったのでした。
ジムは家に帰ると、デラの姿を見て……怒りでも、驚きでも、不満でも、恐怖でもない、()()()()()をしました。
ジムがデラに用意したプレゼントは、デラが憧れていた美しいくしだったのです。

(ア)買って来たプレゼントが、デラにとって必要のないものになってしまったから
(イ)デラが自分を想っていてくれた事が嬉しいから
(ウ)美しいデラが髪を失ってみすぼらしい姿になり、がっかりしたから
(エ)デラからのプレゼントを付ける筈の時計を売ってしまっていたから


翔子の答え
『(ウ)』

蒼介「正解だ。これはクリスマスにまつわる有名な話の1つで、お互いに買って来た物は役に立たなくなってしまったけれども相手を想う気持ちが伝わってくるという話だ。諸君らには是非ともそういった家庭を築いてほしいと思っている」


愛子の答え
『(ウ) ※ ショートヘアだって可愛いですよ!』

蒼介「正解だがどこか求めている答えと違うな……。ともあれ、誤っている物の選択という問題に対しては(ウ)という解答なので、一応正解だ」


須川の答え
『(ク)リスマスはキリストの生誕を祝う日であり、男女が乳繰り合っとる事自体が間違っとるんじゃぁーっ!!』

蒼介「選択肢を勝手に増やすな馬鹿者」





一打席目は迷うことなく蒼介を敬遠したのにも関わらず、今回は打ち取る気満々の様子である。

これはキャッチャーが〈雄二〉から〈和真〉に変わったことで強気な姿勢になったからではなく(いや、完全に無関係というわけではではないが……)、Fクラスとしてはなんとか無失点に抑えたいので、蒼介を敬遠することができないのである。周知の通り召喚獣のスペックは点数に比例して強くなる。この基本ルールは野球仕様の現在でも変わらず、打撃力も、肩の強さも……そして走力も召喚獣の点数に左右される。

 

和真(ソウスケのアホみたいな点数を考えると、間違いなく三塁まで盗塁で進まれる……そうなりゃスクイズか犠牲フライで一点取られちまう)

 

盗塁を刺そうにも〈和真〉の送球を誰もまともにキャッチできそうにないのがネックになる。先程のように〈雄二〉が体を張って止める戦法は、失敗して取りこぼせばばおそらくホームまで進まれてしまうほどにリスクが大きすぎる。しかも先ほどはセンターからホームまでの距離であそこまで削られたのだ、今回はホームからセカンドまでと遥かに距離が近いためおそらくは成功する可能性は極めて低いだろう。

 

 

《世界史》

『Fクラス 柊和真  514点

 Fクラス 霧島翔子 449点

VS

 Aクラス 鳳蒼介  598点』

 

 

覚悟を決め、〈翔子〉は第一球をアウトローいっぱいに投げ放つ。〈蒼介〉ほどの打者を相手にコース吟味を怠るのは愚行中の愚行であることは確かだが、それは同時にとあるリスクを跳ね上げることになる。

 

ズドォォオォォォオオン!!

 

和真「っ!……ちぃっ!」

御門「ストライク」

蒼介「む、確かに速いな。その上コースギリギリを攻められては、打つことは困難を極める……だが、払う代償も安くはないようだな」

 

 

《世界史》

『Fクラス 柊和真  291点

 Fクラス 霧島翔子 449点

VS

 Aクラス 鳳蒼介  598点』

 

 

〈蒼介〉がバットを振ったためストライク判定になったものの、コースギリギリを狙って投げられたボールは制球を乱し、〈和真〉のミットには収まらなかった。和真が咄嗟の機転で〈和真〉を盾にしたため後逸は免れたものの、半分近くもの点数を失ってしまった。

 

蒼介「……その戦法では先にお前の召喚獣が戦死してしまうぞカズマ。お前を欠いた状態で我々に勝てるほど甘い考えをしているわけではあるまい?」

和真「……ハッ、大きなお世話だ」

 

そう啖呵を切った後、和真は翔子にハンドサインで指示を出す。指示の内容は……『作戦続行』。さしもの翔子と言えど多少の驚愕と動揺を露にするが、和真の自信に満ちた不敵な笑みを見ると迷いを捨て、今度はインハイへの際どいコースに向かって全力投球させる。

 

ズドォォオォォォオオン!!

 

御門「…………ストライク」

蒼介(今度は内側にズレたな。キャッチできたから良いものの、相変わらず恐れというものを知らん奴だ。

 

……だが、)

和真「おら、どうしたソウスケ?次当てないとお前の負けだぜ」

蒼介「……あまり私を舐めるなよ」

 

蒼介はそう言って目つきを鋭くしたと思えば、〈蒼介〉に独特の構えを取らせた。胴を大きく捻り体をピッチャーの反対側へ向ける、体のバネを最大限に活かすような構え方だ。

 

和真(あん?この独特な構え、どっかで似たようなものを見たことが…………っ!?)

 

突如強烈な既知感に襲われた和真はタイムをかけようとするが、〈翔子〉は既に投球モーションに入ってしまっているため中断することはできない。

 

 

 

蒼介(これぞ水嶺流肆の型……大渦!)

 

 

 

キィィィィィイイィィィイイイイイン!!!

 

 

〈蒼介〉のバットは〈翔子〉の放った豪速球を正確に捉え、空の彼方に消し飛ばした。結果は言うまでもなく本塁打、Fクラスは致命的な一点を献上してしまった。

水嶺流……水になぞらえた合計10の型からなる、鳳家に代々伝わる門外不出の剣術流派。第四の型・大渦は全身のバネを利用してパワーとスピードを増強させた回転斬りであり、今使用したのはその技を野球用に改良したものである。召喚獣とともにベースを回り終えた蒼介は和真を見据えながら言い放つ。

 

蒼介「……確かに速いが私のストレートには劣る。全神経を集中すれば反応しきれないこともない。そして霧島はピッチャーとして未熟過ぎる。一球目も二球目も、まるで同じスピードで投げ込んでいた。……そうとわかればタイミングを取るのは容易だ」

和真「……やってくれんじゃねぇかソウスケ。それでこそぶっ倒しがいがあるってもんよ」

蒼介(……やはり、こいつらの狙いは……)

 

 

痛すぎる失点を喫してしまったものの、和真や翔子だけでなくFクラスの誰にも絶望の色は見えなかった。その様子を見た蒼介はFクラスの狙いが何なのか、おおよその確信を得るが、何故かとくに行動しようとはしなかった。本塁打を浴びて挫けるどころか、より闘志を燃やした翔子は続く二宮、飛鳥の強打者二人を6球で仕留め三回を終了させた。

 

《三回裏終了。現在1-2》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて四回表、科目は古典。明久からの攻撃だがこれまでの攻防を鑑みるに、〈蒼介〉の究極ストレートに対抗しうるのは〈和真〉ただ一人。であれば、〈和真〉を敬遠するだけでAクラスの勝利は確実なものになるだろう。

 

 

そう。このまま召喚獣で勝負するならば、だ。

 

 

『ジジ……ジ……』

 

雄二「……よし!」

蒼介「……来たか」

 

校舎に取り付けられたスピーカーが、ノイズ混じりの音を吐き出す。雄二は弾かれたように振り返り嬉しそうな声をあげ、そして何故か蒼介も面白そうに笑みを浮かべた。一瞬遅れてアナウンスが響き渡る。

 

『……これより、中央グラウンドにて、借り物競争が始まります。出場選手の皆さんは、所定の場所に-』

 

「「「来たぁっ!!」」」

 

Fクラスの生徒達の声が重なる。蒼介以外のAクラスの生徒は意味がわからず困惑するものの、蒼介は特に何の指示も出さないでいた。

 

御門「お前らよー、何が嬉しいのか知らねーがさっさと打席に着けよ」

 

はしゃいでいる明久達の所に来て、気だるそうに準備を促す御門先生。

 

明久「わかってます。けど、ちょっと待って下さい」

御門「あー?何を待ちゃいーんだよ?」

明久「今にわかりますよ。そろそろ来ますから」

 

そういって明久が辺りを見渡すと、遠くからこちらに向かって駆けてくる人影が見える。

 

御門「アイツらは……2ーFの生徒か?あんなに急いでどうしたんだ?」

 

御門先生がこちら側に走ってくる生徒三人を見て疑問符を浮かべている中、Fクラスの生徒達は野球場にいる立会いの教師に大声で叫んだ。

 

『竹中先生!借り物競争です!すいませんが一緒に来てくださいっ!』

『えっ?でも私は、今からここで古典の立ち会いを』

『いいから来て下さい!』

『でも……』

『なんと言おうとダメですよ!今日は、野球よりも体育祭が優先されるんですから!』

 

雄二が学園長と事前に決めておいたルールの一つに、『野球大会よりも本種目が優先される』というものがある。

 

『あ、えっと……すいませんっ。そういうわけで、ちょっと行っていますっ!』

『先生、急いで!』

 

真偽を確認する暇もなく、立ち会いの竹中先生が手を引かれてグラウンドから去っていった。

 

御門「…………しゃーねーな、ベンチで待機している先生の科目で代わりを…」

『船越先生!来てください!』

『遠藤先生、お願いします!』

御門「……まあ、そう来るよな」

 

ベンチの二人にも声がかかる。頼んでいるのは当然Fクラスの生徒。これで事前に用意されていた予備の立会人もいなくなってしまった。

 

『布施先生!』

『長谷川先生』

 

その上四回以降の生徒も次々と連れ去られていく。実を言うと彼らの内半数はFクラスではないどころか借り物競争にすら出ていない、事前に和真が仕込んだ工作員達(報酬:図書券)である。ほぼ全ての教師が持っていかれた後で、ただ一人取り残された御門先生は気だるげに溜め息を吐く。

 

御門「立会人の教師がいなくなっちまったな。別に俺が代理でフィールドを張っても良いんだけどよ、ルール的に無理だよな」

 

『立会いの教師は、事前に決められた教師以外の代理を認めない』、これも雄二が事前に定めたルールの一つである。これで召喚野球大会の続行は不可能になった。

 

蒼介「しかし野球大会後に全員参加の種目も控えている。立会人の教師が戻ってくるまで待機、というわけにもいかない。……ならば方法は一つ」

雄二「ほう、やっぱり俺達の狙いに気づいていたか」

蒼介「野球大会のルールに違和感があったのでな。おまけに、違和感が生じない程度にお前達Fクラスは時間を引き延ばそうとしていたからな」

 

守備位置やバッターボックスに入るまで、投球の感覚、さりげなくタイムを取るなど、このまでFクラスは注意されない程度に時間稼ぎを行っていたのだ。全ては借り物競争で立会人の教師を排除するために。

 

雄二「そこまでわかっていて見逃したってことは……俺達の挑戦を受けるってことで良いんだよな」

蒼介「まあな。もともと私としても不本意だったのだ、試験召喚システムベースでは点数で勝る我々に有利すぎるからな」

御門「やれやれ、血気盛んなことで……」

 

和真が事前に野球部から借りていた野球道具を運んでくるのを見て、御門先生は再び溜め息を吐く。

 

御門「それじゃ、ただ今からリアル野球大会に移項するけどよ……異論のある奴は?」

 

事前に狙っていたFクラスは勿論、挑戦状を叩きつけられたAクラスの皆からも反対意見は出ず、両チームは野球道具を身につけ始めた。

 

本当の勝負はここからだ。

 

 

 

 




【Aクラス選手データ③】 

大門徹
・成績……A+
・操作技術……B+
・野球センス……A+

『アクティブ』の扇の要。蒼介の究極ストレートは彼がいるからこそ存分に力を奮える。バッティングも一流で、並外れたカット技術と執念深さで出塁率は八割を越える。バッティングの元ネタは元花巻東のカットマン。


木下優子
・成績……S
・操作技術……B+
・野球センス……A+

『アクティブ』では和真と二遊間を形成する守備の達人(投手が投手なので今のところ特に目立った活躍がないのだが)。バッティングも和真に匹敵するバットコントロールを誇り、もし投手が秀吉のままであった場合、被弾していた可能性が9割を軽く越えている。


鳳蒼介
・成績……S+
・操作技術……A+
・野球センス……S

Aクラスのキャプテンにして野球編における二大チートキャラの片割れ。和真ですら反応できないほどの超高速ストレートでFクラスを蹂躙する。本編で述べた通り操作技術が格段に向上しているが、さりげなく点数も6300点→6500点くらいにアップしている。




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野球大会決勝⑤『Unstoppable』

【ミニコント】
テーマ:引き出し

明久「引き出しの多い人間と言われたい」

和真「唐突だなオイ」

明久「なので文房具やノートなど、引き出しに入っているものを持ち歩くことにしたよ」

姫路「えっ、それ引き出しの意味が…」

和真「待て姫路。なんか面白ぇから何が出てくるか見てみようぜ」

明久「輪ゴム、クリップ」

姫路(意外と用意が良いですね……)

明久「そして勿論ソルトウォーター!」

和真「んなもん引き出しに入れんのお前だけだ」


雄二「選手交替!姫路から福村に、島田から近藤に!」

蒼介「同じく選手交替。佐藤から栗本に、久保から時任に」

 

リアル野球にシフトチェンジしたことで、両キャプテンは野球に不馴れなメンバーを控えの生徒と交代させる。

 

姫路「っ……!」

美波「?瑞希、どうしたの?」

姫路「えっ……いや、何でもありません……」

美波「そう?なら良いけど……」

翔子(…………) 

 

予定通りであったFクラスはともかくAクラスも比較的野球慣れしている生徒をベンチに温存していたことから、蒼介がFクラスの策を見抜いていたことは間違いないようだ。

 

雄二(だがこいつは和真から聞いた通り、真っ向勝負を持ちかけられると絶対に避けない。そこに付け入る隙がある筈だ)

 

来るべきAクラスとの試召戦争に向けて雄二が戦略を思案する中、先頭バッターである明久が意気揚々とバッターボックスに入る。

 

明久(よし、召喚獣じゃないならこっちのもんだ!確かに勉強では逆立ちしても勝てない……だけど僕達Fクラスは肉体派集団、実技野球なら負けないよ!)

 

自信満々にマウンドに立つ蒼介を見据える明久の内情を察したのか、ベンチで待機している和真が顔に手を当てて心底呆れたように溜め息をつく。

 

和真「あ、ダメだありゃ……。間違いなく事前に教えた情報が頭から抜け落ちてやがる」

雄二「心配しなくてもいいぞ和真。アイツにはそもそも最初から期待していない」

和真「それはそれでひでぇな……」

 

アホの明久はすっかり忘れてしまったようだが、Aクラスの主戦力は和真率いる『アクティブ』のメンバー達であること、そして蒼介は和真を差し置いて『アクティブ』のエースを務めていることから考えると、実技に移項したからといって決して容易な試合ではない。

 

蒼介(随分自信満々なようだな吉井……良いだろう。その自信、跡形もなく打ち砕いてくれる)

 

左腕を思い切りしならせながら蒼介が真横からボールを放つ。サイドスローのサウスポー……それが蒼介の投球スタイルである、。

 

明久(……えっ!?ボールが急に……)

 

バシィッ!

 

御門「ストライク」

 

より詳しく述べると、蒼介はボールがホームプレート上を外角から内角へ、もしくは内角から外角へと斜めに通過するように投げるピッチングを得意としている。それこそ俗に言われるサイドスローの最大の武器……"クロスファイヤー"。

対角線上に投げられるボールは角度がつけば付くほど凄まじい威力になる。とんでもなく鋭い角度で飛んでくる130キロのボールを打つ……それがいかに難しいことなのかは、野球の未経験者でも少し考えれば分かることだろう。幸い明久は左打者のためサウスポーである蒼介のクロスファイヤーによる影響は右打者に比べると強くないが、それでも笑えるほど打ちにくいことに変わりはない。

 

和真(クロスファイヤーだけじゃねぇ。数センチとズレない精密機械のような制球力に多種多様の変化球……ソウスケはアマチュアレベルでは無敵と言っても良いほどの超技巧派ピッチャーだ。……それにしても明久よぉ、何だその驚きようは……。事前に全部説明したっつうのにあのボケやっぱ忘れてやがったな……)

明久(そうだった、和真がさっきそんなこと言ってたじゃん……。うぅ、ベンチからの視線が痛い……)

 

バシィッ!

 

御門「ストライク」

明久(って、余計なこと考えてる内に追い込まれてるぅぅぅ!?)

和真(あーあ、もう追い込まれちまった。これじゃあもう()()()()()でシメーだな……)

 

三球目、蒼介が振りかぶってボールを投げ込む。しかし投じられたボールは何故か先ほどの二球に比べると球速が目に見えて遅かった。

 

明久(よし!これなら何とか打て……えぇっ!?)

 

 

ギュルルルルルルルル……バシィッ!

 

 

好機とみて強振した明久だったがボールはバッターボックス手前で鋭く横方向へ変化し、明久のフルスイングをまるで生き物のようにヒラリとかわし徹のミットに収まった。

 

御門「ストライク、バッターアウト」

明久(今のは……スライダー?いくらなんでも変化し過ぎじゃないか!?)

 

これこそ蒼介の切り札にして、『アクティブ』で和真にマウンドを任されている最大の理由となる魔球。その正体は何らオリジナリティや独特さの無い、極普通のスライダーである。しかしそのキレはそこいらのプロすらも軽く凌駕するレベルであり、バッターの手元で蛇のように鋭く変化する脅威の変化球。

 

通称……“サイドワインダー”。

 

和真(鳥だったり蛇だったり忙しいヤローだ)

 

そんな能天気なことを考えつつネクストバッターズサークルに向かう和真と入れ替わるように、明久は重い足取りでベンチへ戻る。

 

明久「はぁ……意気込んで向かったのに手も足も出なかったよ……」

秀吉「明久よ……お主和真から事前に教えられた鳳の情報を完全に忘れておったじゃろ……?」

明久「……な、ナンノコトカナー」

雄二「とぼけても無駄だ。なんせ追い込まれてはダメだとあれほど言ったのにもかかわらず、2ストライクになるまでバットを振らないんだからな」

 

蒼介の決め球“サイドワインダー”の人間離れした変化は、たとえ投げてくるとわかっていようが打てる可能性があるのはFクラスでは……と言うより文月学園全体でも和真ぐらいのものである。

しかしあれだけの変化をするボールは当然体への負担も決して小さくない。そのため蒼介はあの球を一打席につき一球しか投げることがなく、さらに投げるタイミングは決まってバッターを2ストライクに追い込んだときである。

だから追い込まれる前に打ちにいく……というのが事前に決められた作戦だったのだが、

 

秀吉「それなのにお主はまんまと追い込まれてしまったというわけじゃな」

明久「う……面目ない」

秀吉「……まあそこまで気に病むことは無いと思うぞい。現に、」

 

バシィッ!

 

『ストライク、バッターアウト』

 

秀吉「作戦を実行しようとした霧島もあっさり空振り三振したようしのう。あれほどのピッチャーを初見で打つのは困難を極めるじゃろうな……」

ムッツリーニ「……でも次のバッターは和真」

雄二「アイツなら必ず突破口を切り開いてくれるハズだ。そしてその後で俺が、ここまで温めておいたとっておきの作戦を実行する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィイイン!

 

御門「ファール」

和真「ちぃっ……!」

蒼介「さぁ……追い詰めたぞカズマ」

 

しかし雄二達の期待に反して状況は蒼介優勢であった。初球からガンガン打ちにいった和真だが、ヒット性の当たりには至らずにツーストライクまで追い詰められてしまった。

 

和真(一球目は高速シンカー、そんで今のはシュートか。変化球のオンパレードだなあの野郎……ご自慢のクロスファイヤーで来てくれれば良いものを……)

蒼介(クロスファイヤーなどカズマにとっては所詮こけおどし……こいつに私程度のストレートは通じないだろう。そしてカズマ相手にスローカーブを投げるのはあまりにもリスクが大きすぎる)

 

召喚獣で野球をしていたときからその片鱗を見せてはいたが、和真は速球にかなり強い。並外れて鋭い直感を用いてコースとタイミングを把握し、高い身体能力を活かしたスイングと蒼介には劣るが優れたバットコントロールでボールをジャストミートする。例えプロでもストレートで和真を打ち取ることは至難の技であろう。だからといって変化球が特別苦手というわけではない。むしろ生半可な変化球ならストレートより容易にスタンドまで運ぶことができる。その和真がここまで梃子摺っているのは、“サイドワインダー”以外の蒼介の変化球のキレも並外れたものであるからに他ならない。

 

和真(追い込まれちまった……ってことは、アレが来るよなぁ……)

蒼介(勿論ここは決め球で仕留める。たとえお前でも……私のスライダーはそうそう破れまい!)

 

和真の危惧した通り蒼介の手から放たれたボールには、和真ほどの動体視力の持ち主でなくともハッキリとわかるほどの凄まじい回転がかかっている。

 

 

ギュルルルルル-

 

 

和真(…っ!ここだぁぁあああっ!!!)

 

バッターの手元で鋭く変化するボールに対し、普段より一段と速いスイングで対抗する。ボールが完全に曲がりきる前に、高速のスイングは“サイドワインダー”をバットで捉えることに成功した。

 

 

だが、

 

 

ガキィンッ

 

 

和真(っ!?芯から外れたか……!)

 

それは会心の当たりには程遠く、サード(沢渡)真正面へのゴロ性の打球となった。

 

蒼介「沢渡!」

沢渡「了解了解♪」

 

野球経験事態は乏しいものの抜群の運動神経を誇る沢渡は難なくゴロ処理を行い、すかさずファーストに送球する。流石に送球まで完璧とはいかずボールはやや逸れたものの、一塁手の愛子のグローブに難なく収まった。

 

御門「……セーフ」

『『『はぁっ!?』』』

 

しかし御門先生のジャッジはまさかのセーフ。ゴロ性の当たりとなり愛子のグローブに収まるまでの僅かな間に和真は一塁に到達していたのた。

 

愛子「うん、やっぱりそうなるよね……」

和真「ふぅ、危ねぇ危ねぇ……」

 

まず間違いなくサードゴロで終わるハズだった打球にもかかわらずセーフになった和真に多くの人が驚愕するが、『アクティブ』のメンバーからすれば既に見慣れた光景でしかない。

たとえボテボテの当たりであろうが100mを10秒ちょいで走り抜ける程の黄金の足を持つ和真を打ち取るのは至難の技であり、もし和真をアウトにしたければ三振させるかフライ性の当たりを祈るしかないことはもはや常識と化している。

 

 

そして、黄金の足を持つが故に……

 

『盗塁だ!』

 

塁に出てからもガンガン攻め込むことを可能としている。和真のバッティングに臆し安易に敬遠しようが、危機的状況は去らずに続くのである。

 

バシィッ

 

御門「ストライク」

徹「……」

雄二(これが鳳のクロスファイヤーか、実際に見ると物凄く打ちにくいな……それにしても盗塁したってのに一切刺そうとしないんだな)

 

理由は当然、ハイリスクノーリターンだからである。軟投派の蒼介は決して強肩自慢とは言い難く、徹も体格の割にはかなり肩が強いが郡を抜いて突出しているわけではない。そんなバッテリーが日本最速クラスの脚力を持つ和真を刺せる可能性は万に一つもなく、おまけにもし暴投してしまえばそのままホームまで生還させ点数を献上してしまうかもしれない。

 

蒼介(……それに、いくらカズマが盗塁で攪乱しようが坂本が打たなければ話にならないのだからな)

雄二(和真の足なら三盗も容易だろうが、そうしたら俺は2ストライクになっちまう……点を取るためには次に来る球を何としても打たなければ……)

 

両者の思いが交錯するなか、蒼介は雄二を捩じ伏せるべく大きく振りかぶる。その瞬間和真が三塁にスタートするが蒼介は一切動揺せずボールを投じた。

 

雄二(だがたとえスライダーじゃなかったとしても、一打席目で俺がこいつの球を打てる可能性は限り無く低い……だが、)

 

蒼介の放ったボールはインローに吸い込まれるように直進する。えげつない角度で向かってくるクロスファイヤーに真っ向から勝負していれば、流石の雄二でも敗色濃厚だったであろう。しかし、

 

コンッ

 

蒼介(何っ!?この局面で送りバント!?いやこの軌道……セーフティバントか!)

雄二(当てるだけならまだ希望がある!この状況のためだけに俺達Fクラスのほとんどは、この当日までひたすらバントの練習に費やしたんだよ!)

 

レフト方向の絶妙に上手い位置に転がったボールを沢渡が捕球し、すぐさま一塁に送球する。このままでは十中八九アウトになってしまうだろうが、雄二の勝利にかける執念は沢渡や愛子の予想を大幅に上回っている。

 

雄二「くそったれぇぇえええ!(ずざぁあああ!)」

愛子「うそぉっ!?(バチィッ!)あっ、しまった!?」

 

一塁ベース間近まで迫った雄二は怪我覚悟の決死のヘッドスライディングを仕掛けた。雄二あまりの気迫に気圧されたのか、愛子はサードからのボールをこぼしてしまう。

 

蒼介(何という執念だ……。工藤、今のプレーに関してお前は悪くない……っ!?アイツらの狙いはもしや!?)「工藤、バックホームだ!」

愛子「え!?う、うん!」

 

ファーストの愛子は蒼介の突然の指示にほんの一瞬困惑するが流石Aクラス、すぐさま指示通りにホームにいる徹に向かって送球する。蒼介が念のため確認してみると、案の定和真は三塁を通過しそのままホームへと突撃しているではないか。黄金の足を持つ和真と言えど流石に無茶だったのか、和真がホームに生還する前に徹のキャッチャーミットにボールが収まった。所謂絶体絶命の状況であるが和真の人となりをよく知る徹は、彼が破れかぶれで特効したわけではないと確信できた。

 

徹(おそらく和真の狙いはクロスプレー!こいつの化け物じみたフィジカルなら強引に突破してくるだろうね……だがそうはさせないよ!)

 

予想が当たったのか急加速してくる和真に向かって、徹は直接タッチアウトしようとする。

 

蒼介「大門!それは罠だ!」

徹「え-」

和真「残念!一手遅かったな!」

 

 

 

フワリ…

 

タッチアウトを狙ってきた徹を和真は前宙で華麗に飛び越え、そのままホームへと生還する。

 

御門「ホームイン」

和真「今回は雄二の作戦が一枚上手だったようだなソウスケ。まあそれはともかく……ようやく追いついたぜ」

蒼介「……この野郎」

 

発した言葉こそ苦々しいものの、蒼介の表情には自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

徹「くそっ、完全に和真の思う壺じゃないか!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ……おのれぇえぇえぇぇえぇ!!!」

(((怖ぇよ……)))

 

そして『アクティブ』で……いや、文月学園で最も執念深い男こと徹は恨み言を呪詛のように繰り返していた。こんな状態にもかかわらず(驚くべきことに)頭の中は至って冷静であるのはある意味一種の才能かもしれない。

 

 

    

 

 

 

 




【選手データ(パワプロ風)①】

特殊能力はあくまでイメージで設定したので、シナリオにはそこまで影響しません(例:チャンス◎を持った選手が得点圏で打順が回ってきてもムキムキになったりはしない)。

F……文化部レベル
E……同好会レベル
D……野球部・地方大会レベル
C……野球部・地方大会上位レベル
B……野球部・甲子園球児レベル
A……プロ野球選手レベル
S……トッププロ選手レベル

鳳蒼介
ポジション:投手
左投げ右打ち
サイドスロー
 
球速130㎞
スタミナ……85(A)
コントロール……95(S)
スライダー⑥
Hシンカー④
スローカーブ④
シュート④

特殊能力……驚異の切れ味、精密機械、変幻自在、不屈の魂、強心臓、ディレイドアーム、ドクターK、ノビ◎、クロスファイヤー、打球反応○、牽制○、クイック○、ポーカーフェイス、球持ち○、リリース○、対強打者○、内角○、要所○、調子安定、人気者

弾道③
ミート95(S)
パワー65(C)
走力85(A)
肩力70(B)
守備85(A)
捕球80(A)

特殊能力……安打製造機、ストライク送球、魔術師、ローリング打法、司令塔、内野安打○、走塁◎、盗塁◎、流し打ち、バント職人、チャンス○、チャンスメーカー、いぶし銀、ささやき破り、ゲッツー崩し、盗塁アシスト、リベンジ、競争心、積極守備、選球眼、調子安定、人気者、チームプレイ○


『アクティブ』のエースを務める超一流の技巧派ピッチャー。針の穴を通すコントロールに内角を鋭く抉るクロスファイヤー、多彩な変化球などいくつもの武器を持つが、最大の売りは何と言っても桁違いのキレを誇るスライダー“サイドワインダー”である。プロ野球でもお目にかかれないレベルの凄まじい変化をするがその分腕にかかる負担も半端なものではなく、乱発は危険が伴う諸刃の剣である。
軟投派らしく球速は遅め(制球力と引き替えに球速を跳ね上げる方法もあるが、主義に反するため余程のことが無い限り使わない)であるが、サウスポーかつサイドスローなので実際の速度よりもかなり速く感じるので弱点というわけではない。
バッターとしても一流であり総合的な打撃能力は和真に次ぐレベルのため、投手でありながらクリーンナップの一角を担っている。




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野球大会決勝⑥『投手戦』

よくよく考えるとアンダースローで135出したり左のサイドで138出したりする某パワプロ女性選手達って、ハッキリ言ってゴリラ以外の何者でもないですよね……忠実に実写化したら三角筋すごいことになってそう……。


バシィッ!

 

御門「ストライクバッターアウト、チェンジ」

『ぐっ……』

和真(この勢いのまま追加点入れられりゃ万々歳だったが……そんな温い相手じゃねぇし、仕方ねぇか)

 

ツーアウト一塁の状況で美波と交代して打席に立った近藤だが、“サイドワインダー”を使うまでもないと言わんばかりにあっさりと捩じ伏せられてしまった。体力自慢のFクラス生徒といっても総合的な実力は本家野球部員には劣る。その野球部員を圧倒できる蒼介に歯が立たないのは当然と言えば当然であった。

 

雄二「よし、守備だ!事前に決められたポジションにつけ!」

 

この回での逆転は流石に不可能だとあらかじめ予想していた雄二は、チャンスが潰れたことにも一切動揺せず指示を出す。指事を受けたFクラスメンバーは召喚獣を媒介にしていたときとは全くことなる守備位置にそれぞれついた。

 

蒼介(ポジションを変更してきたか……まあ当然だな。センターラインにおそらく野球経験の少ないであろう霧島を配置させたままにしておく理由はない)

 

センターラインとは、特にボールに触る機会が多いポジション(捕手・二塁手・遊撃手・中堅手)で構成される守備の要となるラインであり、これらのポジションにつく選手の守備力がチーム全体の防御力を左右している。運動能力は高いとはいえ「女子の中では」という但し書きがつき、おまけに野球のルールを先日覚えたばかりで経験の乏しい翔子をセンターに据えたままにすることはハイリスクノーリターンである。さらに翔子のポジションチェンジに伴いそれぞれのポジションに適材適所に人員を割り振った結果、最終的に総入れ換えになったのだろう。

蒼介は入れ替わったポジションを確認すべく、手始めに外野にいる生徒に視線を向ける。

 

蒼介(ふむ……木下弟が右翼手、姫路と交代した福村が左翼手、坂本が中堅手か。再び坂本が捕手になってリードすると思っていたが……予想が外れたな)

 

一通り確認し終わると、続いて蒼介は内野手の四人にそれぞれ視線を向ける。

 

蒼介(霧島が一塁手、須川が二塁手、近藤が三塁手、吉井が遊撃手か……。遊撃手はカズマの正ポジションのはずだが、実際にその位置に着いたのは吉井。つまり……)

 

そこまで考えてから、蒼介はマウンドとホームにそれぞれ視線を移す。ホームではムッツリーニがプロテクターとマスクを身に付け、キャッチャーミットをはめて御門先生の前に座り込んでいる。

 

そしてマウンド上には、

 

蒼介「……やはりお前が投げるのか、カズマ」

 

和真がいつもの不敵な笑みを浮かべていた。ベンチで待機している沢渡は二宮と『アクティブ』のメンバー達に情報を求める。

 

沢渡「柊君が投げるみたいだけど……やっぱり彼、ピッチングも凄いの?」

優子「……ええ、生半可なレベルじゃ手も足も出ないわよ」

蒼介「『アクティブ』のエースは私だが周知の通り私は色々と多忙を極める身。マウンドに立てないことも多々ある」

徹「そんなとき代わりのピッチャーを務めるのが和真なわけだけど……和真が投げたときも負けたことは無いよ」

二宮「柊のピッチングは軟投派の鳳とは真逆……球威のある速球で相手を真っ向から捩じ伏せる本格派投手だ」

蒼介(厳密には少し違うがな……)

 

 

和真達が投球練習を済ませたことを確認し、久保と交代した時任がバッターボックスに入り、次の打者である愛子がネクストバッターズサークルで準備する。

 

『よし、来い!』

和真「随分威勢が良いじゃねぇか。それじゃお言葉に甘えて……いくぜオラァッ!」

 

和真がマウンド上で大きく振りかぶる。投球フォームはスリークォーター気味のオーバースロー。日本を代表する本格派投手達の多くが該当する、所謂王道と呼ぶに相応しいフォームである。

初球に選択された球は、当然のごとくストレート。勿論時任もストレートに狙いを絞っていたのだが、バットを振ることは叶わなかった。

 

 

ズバァァアアアン!!

 

 

御門「ストライク」

『っ……速っ……!』

 

なぜなら和真の投げたストレートが、予想を遥かに上回るスピードだったからである。実際に間近で見た時任は勿論のこと、ベンチで見物していたAクラスの生徒達(『アクティブ』メンバー、二宮の事前に知っている面子を除く)にも衝撃が走った。

 

久保「まさか、あれほどの速度だとはね……」

蒼介「奴の最高球速は145kmだからな」

沢渡「145!?プロ並じゃない!?」

優子「おまけに和真の速球は、実を言うと純粋なストレートじゃないわ」

沢渡「え?どういうこと?」

 

時任がバットに当てることすら出来ずに三振する傍ら、和真のピッチングに関する情報の共有を進めていく。

 

二宮「柊のストレートは、手元で僅かに曲がるんだ」

久保「……?どういうことだい?ストレートのように速い変化球っことかい?」

蒼介「いや違う。確かにそれも持ち球としてあるが、変化するとはいえあくまでストレートだ。その名を“ツーシーム・ファストボール”と言う」

 

日本で言うストレートは、アメリカでは“フォーシーム・ファストボール”と言う。ボールが1周スピンする間に縫い目 (シーム) の線が4回 通過し、マグヌス効果による揚力をより効果的に得られるため、最も速度の出る球種である。

対して和真の投げるストレート……“ツーシーム・ファストボール”は、ボールを1周する間に縫い目 の線が2回通過する向きで投じられた球である。スピンで縫い目が現れる回数を減らしマグヌス効果による揚力を減らすことで、フォーシームに比べて若干球速を落とすことを引き替えに、シュート方向に曲げたりすることができる。

 

蒼介(カズマのツーシームはその絶妙な変化から、完璧な捕球には捕手にかなりの技量を要求される。土屋が捕手を務めているのは、おそらく奴だけがその基準値を満たしているからであろうな)

 

蒼介のその読みはドンピシャである。ムッツリーニがキャッチャーの抜擢されたのは、Fクラスの生徒で和真のツーシームをキャッチできるのが反射神経も申し分なくなおかつ日頃から撮影で動体視力を鍛えているムッツリーニただ一人だったからである(それでも最初らへんは後逸祭りだったようだが)。

 

ズバァァアアアン!!

 

御門「ストライク、バッターアウト」

愛子「うぅ……こんなの打てっこないよ……」

ムッツリーニ「……はっ、その程度か」

愛子「むかっ、ちょっとカチンと来ちゃったな~。試合中に仕掛けると和真君が怒るだろうから今は見逃してあげるけど、後で覚悟しといてよねムッツリーニ君」

ムッツリーニ「……望む所だ」

 

愛子がいったい何を企んでいるのかはまだ不明ではあるものの、十中八九望まない方がムッツリーニの身のために違いない。

それはさておき、続くバッターは佐藤と交代した栗本。彼は成績はAクラス内では下から数えた方が早いものの、運動神経は中々のレベルの男子生徒だ。でもって中々と言うだけあって一か八かでスイングしたバットが偶然ボールに命中したりするし、

 

キィィイイイン!

 

ピッチャーライナー性になった打球がすごいスピードで飛んでいったりする。だが彼の幸運が適当に振ったスイングのタイミングが偶々ジャストヒットしたことだとすれば、彼の不幸は現在マウンドに立っているピッチャーが()()和真だったことである。

 

 

和真「オラァッ!(パシィィイイッ!!!)」

『『『バカな!?』』』

  

痛烈なピッチャー返しを何てこと無いかのように平然とキャッチした和真に、Aクラスのみならず味方であるはずのFクラスの生徒達も信じられないとばかりに驚嘆する。しかし天性の直感と並外れた反射神経、そして動体視力を併せ持つ和真からすれば本当に何てこと無かったようである。

見事Aクラスの打線を三者凡退で捩じ伏せたFクラスは、この勢いのままリードを狙うべく五回表に臨んだ。

 

 

……が、

 

 

ギュルルルルルルル…バシィィッ!

 

御門「ストライクバッターアウト、チェンジ」

蒼介「勢いを殺すようで悪いが、そう易々と点数を献上するわけにはいかないのでな」

『く、くそぉっ……!』

 

そんなFクラスの勢いを即座に殺すかのように、蒼介は“サイドワインダー”を決め球にした投球で奪三振ショーを繰り広げた。今回の先頭バッターはムッツリーニだったのだが、Fクラスの中でもかなりの猛者である彼すらまるで寄せ付けない見事なピッチングであった。

 

和真(やっぱりピッチャーとしてなら……あくまでピッチャーとしてだが、俺よりソウスケの方が一枚上手だな。……さて五回裏なんだが、先頭バッターがアイツかよ)

 

軽く溜め息をつきつつ、バッターボックスに立った出塁率8割オーバーのリトルカットマンに視線を移す。

 

徹(和真、わかっていると思うけど……僕はさっきまでの連中とは格が違うよ?君のスタミナ、削れるだけ削らせてもらう)

和真(絶対何か企んでやがるよな……まあいい。そもそも俺のやることはただ一つ、真っ向から打ち倒すだけだ。柊和真推して参る、ってなぁっ!)

 

 

 




【選手データ(パワプロ風)②】

柊和真 
ポジション:遊撃手/投手
右投げ右打ち
オーバースロー

弾道④
ミート……90(S)
パワー……90(S)
走力……100(S)
肩力……80(A)
守備……95(S)
捕球……85(A)

特殊能力……アーチスト、安打製造機、高速ベースラン、電光石火、内野安打王、精神的支柱、広角砲、一番槍、魔術師、アイコンタクト、重戦車、気迫ヘッド、挑発、対左投手◎、チャンス◎、チャンスメーカー、流し打ち、バント○、逆境○、リベンジ、追い打ち、競争心、威圧感、上り調子、打開、接戦、盗塁アシスト、ハイボールヒッター、送球◎、ささやき破り、打球ノビ◎、高速チャージ、積極打法、積極盗塁、積極守備、強振多用、人気者、選球眼


球速145㎞
スタミナ……90(S)
コントロール……60(C)
ツーシーム 
カットボール③
チェンジアップ③
???③

特殊能力……暴れ球、マインドブレイカー、勝利の星、打たれ強さ◎、対ピンチ◎、ノビ○、キレ○、闘志、根性○、重い球、リリース○、対強打者○、要所○、打球反応○、速球中心、人気者


『アクティブ』の絶対的主砲にして、内野の守備の要・ショートを守る。ピッチャーとしての和真は制球力と変化球が武器の蒼介とは真逆の速球中心の本格派。ちなみに最高球速はフォーシームの記録だが余程のことが無い限りフォーシームは投げない。基本はツーシームとカッターを使い分け、相手の意識が霧散するのを見計らってチェンジアップでタイミングを上手く外すのが彼の投球スタイルである。さらにもう一つ奥の手となる変化球が存在するのだが、その変化球だけは誰にも明かしてない言わばとっておきである。
野手としてはハッキリ言ってチートの権化のような能力である。走・攻・守の全てが突出していてつけ入る隙がまるで無い文句なしの5ツールプレーヤー。特に走塁に関しても本人の図抜けた脚力と非凡な走塁技術が合わさり世界最高レベルと言っても過言ではない。






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野球大会決勝⑦『Aクラスの猛攻』

【選手データ(パワプロ風)③】

吉井明久
左投げ左打ち(現在はショートのため右投げ)
スリークォーター

弾道②
ミート……65(C)
パワー……60(C)
走力……75(B)
肩力……65(C)
守備……65(C)
捕球……65(C)

特殊能力……気迫ヘッド、火事場の馬鹿力、アイコンタクト、ヒートアップ、意外性、バント○、体当たり、粘り打ち、盗塁アシスト、ムードメーカー、ケガしにくさ◎、チャンス△、エラー、ハードラック、積極打法、積極守備、調子極端、チームプレイ○、
 
球速125㎞
スタミナ……80(A)
コントロール……55(D)
カーブ②
チェンジアップ①

特殊能力……不屈の魂、ド根性、超尻上がり、復活、みなぎる活力、打球反応○、闘志、要所○、スロースターター、寸前×、一発、乱調、調子極端


全体的にバランスのとれた良い選手で、特に逆境に対しての強さには定評がある。欠点は笑いの神様に極端に愛されていること、ヒーローになるチャンスを取り逃がしがちなこと、そしてその(ある意味)恐るべき頭脳である。ピッチャーとしては蒼介や和真には遠く及ばないものの及第点レベル。しかし立ち上がりの悪さや詰めの甘さを鑑みるとエースは任せられそうにない。


坂本雄二
右投げ右打ち

弾道③
ミート……60(C)
パワー……75(B)
走力……70(B)
肩力……70(B)
守備……65(C)
捕球……65(C)

特殊能力……ささやき戦術、司令塔、アイコンタクト、パワーヒッター、プルヒッター、ヘッドスライディング、体当たり、ゲッツー崩し、リベンジ、ささやき破り、かく乱、挑発、ブロック○、ケガしにくさ◎、ハードラック、積極打法、調子極端


野球センス、身体能力ともに申し分のない和真に次ぐFクラスのパワーヒッター。それに加えて優れた頭脳を武器に相手チームを手玉にとる策略家でもある。難点としては、明久ほどではないがこの男も笑いの神様に気に入られていることである。


土屋康太
右投げ右打ち

弾道②
ミート……70(B)
パワー……60(C)
走力……80(A)
肩力……60(C)
守備……65(C)
捕球……75(B)

特殊能力……電光石火、斬り込み隊長、アイコンタクト、走塁○、内野安打○、流し打ち、ヘッドスライディング、いぶし銀、速攻○、打開、高速チャージ、ケガしにくさ○、調子安定、慎重打法、積極盗塁、ミート多用


忍者のごとく足で稼ぐスタイルの典型的リードオフマン。野球経験に乏しくやや荒削りとは言えそのセンスはかなりのものであり、Fクラス主力級三人の中では最も安定感のある選手である。走力以外に注目すべき点は、和真のムービングボールキャッチできる捕球能力だろう。


ギィイインッ!

 

御門「……ファール」

徹「ふふん♪」

和真(またカットしやがったアイツ……!打つならさっさと打てよまどろっこしい真似しやがって!)

 

現在2ストライク3ボール。徹が打席に立ってから数えて和真はもう15球も投げ込んでいるが、四球もしくは絶好球を粘り強く狙う徹は和真のツーシームをひたすらカットし続けている。

 

徹(君とまともに勝負したら正直分が悪いからねぇ、ここは粘らせてもらうよ)

和真(……ちっ、敵に回すとホント鬱陶しいなこいつは。……おまけにこいつ、俺のチェンジアップをしっかり警戒してやがる。ここで投げても不意をつけねぇどころか持っていかれちまうだろうな……仕方ねぇ)

 

やや悔しそうに顔を歪ませつつも、アイコンタクトで歩かせるよう指示する。ムッツリーニはその指示に頷くと、立ち上がって徹からは届かない位置にミットを構え、和真はそこに投げ込む。

 

御門(やっと終わったか……)「ボールフォア」

徹(退くべき所は退くか、賢明だね。……でも良いのかなぁ?ピンチはまだまだ続くよ?)

 

徹が一塁に進むのと入れ替わるように二番打者の沢渡が打席に立つ。沢渡は全国区であるラクロス部のエースというだけあって運動神経はかなりのものである。野球の経験こそ乏しいものの決して気を抜いて良い相手ではない。

 

まあ、とはいえ……

 

 

ズバァァアアアン!!

 

御門「ストライク、バッターアウト」

沢渡「あーあ、やっぱり無理かぁ」

和真「そう易々と打たせてたまるかってんだ」

 

流石に和真を打ち崩すには力不足である。ある程度予想していたのか大して落ち込むことなくベンチに戻っていく沢渡と入れ替わるように、三番バッターの優子がバッターボックスに立ち和真と向かい合う。

 

優子「さあ、どこからでもかかって来なさい!」

和真「ハッ、手加減を期待してるとか軟弱な考えは微塵も無いみてぇだな。安心したぜ」   

 

表面上は余裕の笑みを浮かべて茶々を入れている和真であるが、実を言うと内心ではガッツリ警戒していた。優子には和真の剛球を長打にするパワーこそ無いものの、そのミートセンスとどんな球種及びコースにも対応できる能力は決して油断できるようなものではないと、優子に野球のいろはを叩き込んだ張本人である和真は重々理解している。

 

和真(自分で鍛えておいて何だが、徹とは別ベクトルで厄介なバッターだなオイ……ただまぁ、この打席は送りバントだろうな)

 

Aクラス側が最も避けたいのは蒼介に和真のムービングボ-ルで芯を外されゴロ性の当たりになり、ダブルプレーでチェンジになることである。

何故なら優子の次のバッターである蒼介は『アクティブ』のクリーンナップの一角ではあるものの、和真や源太のようなパワーヒッターではなく堅実にヒットを狙うアベレージヒッタータイプなので、得点圏にランナーがいなければさほど驚異では無いからだ。

 

和真(何せ最終回、一点でも取りゃ勝ちなんだ。そもそも徹が塁に出て、優子が進ませ、ソウスケがタイムリーで得点する……まんま『アクティブ』の黄金パターンだしな。この戦術はわかっていてもそうそう崩せねぇ……)

 

優子のミートセンスとバットコントロールはバントでその真価を発揮する。どんなバントシフトを敷いても的確に守備の穴を突いてくる上、あまり強引な陣形を組むとすかさずバスター(バントの構えから突然普通の構えに戻しヒットを狙いに行くテクニック)に切り替えてくる。

 

和真(……ここは強引に止めに行くより、アウトカウントを増やしとくか。多分無意味だろうが万が一浮き上がることを期待して、ここだ!)

 

勝負どころは今ではないと判断した和真は、内角高めに全力のツーシームを投げ込む。和真の予想した通りすかさず優子はバントの構えを作り、

 

 

 

 

優子(…………かかった!)

 

そしてすぐさま通常の構えに戻した。

 

和真「…なっ!?バスターエンドラン!?」

優子「やぁっ!」

 

キィインッ!

 

そして優子はツーシームを打ち砕いた。完全に虚を突かれた和真だったが持ち前の驚異的な反射神経で今まさに頭上を越えようとするボールに向かって大きく飛び上がった。

 

和真「届けぇぇえええっ!」

 

 

 

バシィィッ!!!

 

優子「う…嘘でしょ!?」

 

キャッチこそできなかったもののグローブの先端がボールに触れ、センター前ヒットコースだったはずの打球は二塁付近にボテボテと落ちる。

 

徹(あれに届くのかよ!?前後左右だけじゃなく上方向の守備範囲も化け物じみているな……!)

 

セカンドの須川がすかさずボールを確保しダブルプレーを狙うべく一度二塁に視線を移すが、徹は既に二塁に到達していた。

 

須川(足速っ!?仕方ない、こうなったら木下だけでもアウトに……!)

 

若干のタイムロスがあったものの須川は一塁の翔子に向かって送球する。若干送球がそれたためベースを踏みながら捕球できそうにないが大した問題ではない。優子のスピードは女子にしてはかなりのものだが全体では中の上程度、今からでも余裕でアウトにできるだろう。そんな楽観的な考えで翔子はボールを捕球するため一塁を一端離れる。

 

が、その考えは甘い……っ!徹作の特性ケーキの次くらいには甘いと言わざるを得ない……っ!

 

優子は負けず嫌いの巣窟『アクティブ』正規メンバー、勝利への執念は常人のそれとは比べ物にならない。故に……

 

 

優子「はぁぁあああっ!!(ズザァァァアアアアア!!!)」

翔子「……っ!?(パシィッ)」

 

怪我上等のヘッドスライディング程度なら平気で実行できるのだ。翔子は先ほどの愛子のように気迫負けしてボールを落とすことこそしなかったものの、流石に気迫に押されたのかボールを捕球してからベースを踏むまでワンテンポの遅れが生じてしまった。

 

御門「…………セーフ」

 

塁審代わりに設置されたカメラで確認したところ、どうやら僅かな差で優子が先に一塁ベースに触れたようだ。

 

優子「ふぅ……危ない危ない」

翔子「……優子、無茶しすぎ」

優子「しょうがないでしょ、ああでもしなきゃ間に合わなかったんだから。……まあそれはともかく、」

 

そこまで言ってから優子はマウンドに立つ和真に視線を移し、得意気にアイコンタクトを飛ばす。

 

優子(ちょっと危なかったけど……今回はアタシの勝ち♪)

和真(チッ…完全に出し抜かれちまった……!まさかソウスケがあんな奇策を仕掛けてくるなんて…………いや、おかしくねぇかソレ……?)

 

優子から視線を外し、和真はさきほどの攻防にある違和感について熟考する。

幼馴染み故、和真は鳳蒼介がどういう人間なのか熟知している。彼は紛れもなく超一流の指揮官だが、雄二が多用するような奇策に頼ることはまず無い。基本に忠実に事を運び、相手の出方に合わせて的確に対応し、相手の行動を先読みし先手を打つのが蒼介のスタイルである。であるからして、さっきのような一か八かの作戦を指示したとは到底考えられない。

そして、先ほどの攻防には不自然な点がもう一つ。

 

和真(完全にゲッツーコースだったのにも、なぜ徹は余裕で間に合った?)

 

徹は確かに速いが精々明久と同程度、和真のような化け物染みたスピードではない。

 

和真(考えられる理由としては、アイツは優子が打つ前にスタートを切っていた。つまりソウスケがセオリー通り送りバントを指示していたとすればそれら二つの違和感が片付く。しかし、そうなると……)

 

和真は再び優子に視線を戻す。その目に驚愕と悔しさと、そして少しの尊敬の念を込めて。

 

和真(優子お前さっきのバッティング、独断で実行したってことかよ……?失敗したら完全に戦犯決定だっつうのに何て奴だ、悔しいけどすげぇなお前……)

 

そんな和真の視線に気づいたのか、優子はウィンクしつつ再びアイコンタクトで語りかける。

 

優子(どう?伊達にアンタの相棒務めてるわけじゃないのよアタシは♪)

和真(あぁもう可愛いなチクショウ……っと、流石にそんなこと考えてる余裕は無ぇよな……!)

 

考えうる最悪に近い状況で最悪の相手にみすみすバトンを渡してしまった和真は、バッターボックスに入った蒼介と対峙する。ここで打点を献上してしまえばますます流れはAクラスに傾くだろう。

 

蒼介「来るがいいカズマ。その剛球……打ち砕かせてもらう!」

和真「絶体絶命のピンチって奴か…………ハッ、面白ぇな!上等だ、真っ向から捩じ伏せてやる!」

 

この程度の逆境に萎縮するようなやわなメンタルなど和真は持ち合わせていない。あくまで強気に、大きく振りかぶって内角低めめがけて全力で投げ込んだ。対する蒼介は先ほど召喚獣に実行させたような独特の構えを取る。胴を大きく捻り体をピッチャーの反対側へ向け体のバネを最大限に活かす構え方で、和真の放つノビと球威に優れる速球に対抗するつもりなのだろう。

 

蒼介(水嶺流肆の型……大渦!)

 

体のバネ、そして遠心力によって力が上乗せされたスイングは、和真の放ったボールを正確に捉えたかのように見えた。

 

 

 

 

ガキィンッ!

 

蒼介「っ!?」

 

そう…和真の投げたボールが蒼介の手前で急激に変化したりしなければ、Aクラスの勝利で幕を下ろしていたかもしれない。しかし蒼介のスイングは()()()に変化したボールの上を叩いてしまう。

 

和真「よっ(パシッ)おらっ!(ヒュッ!)」

近藤「よしっ!(バシィッ!)とうっ!(ヒュッ)」

須川「ほっ(パシッ)」

 

ピッチャー真正面に転がったら打球を和真がすかさずキャッチし、投→三→二の送球リレーで徹と優子をアウトにした。

 

御門「チェンジ」

 

千載一遇のチャンスを逃したせいか、Aクラスのメンバー達はやや士気を落としながら守備位置につく。蒼介もマウンドに向かいながら、先ほど和真の投げたボールについて考える。

 

蒼介(さっきの球手前で落ちたことを考えると……フォークか?…いや、あのストレートと見間違うようなスピードは……スプリットか)

 

スプリット……正式名称スプリットフィンガーファスト……通称SFFは、和真の得意とするツーシームやカッターと並ぶムービングファストの一種である。“高速フォーク”とも呼ばれるこの球は変化量こそフォークに劣るものの、ストレートに匹敵するスピードで急激に落ちるという極めて厄介な球種である。

 

蒼介(まさかあのような切り札を隠し持っていたとはな。何はともあれ、一転してピンチになってしまったな。この回はどうとでも押さえられるが、次の最終回では再び奴に打順が回ってくるとなると…………………………仕方ない。不本意ではあるが、()()をやるしかないようだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 【選手データ(パワプロ風)④】

橘飛鳥 
ポジション:サード
右投げ左打ち

弾道②
ミート……55(D)
パワー……60(C)
走力……65(C)
肩力……65(C)
守備……60(C)
捕球……55(D)

特殊能力……気迫ヘッド、情熱エール、チャンス◎、逆境○、粘り打ち、対エース、リベンジ、競争心、ささやき破り、打開、接戦、窮地○、ムード○、慎重打法、慎重盗塁、調子安定、チームプレイ○、人気者

『アクティブ』のサードを守る。男子顔負けの身体能力を誇るものの経験や技術、野球センスは正規メンバーには一歩及ばない。しかし別の分野で日本一の座についているからか、非常に強靭なメンタルが大きな武器となっている。



木下優子
ポジション:セカンド
右投げ右打ち

弾道②
ミート……88(A)
パワー……50(D)
走力……60(C)
肩力……52(D)
守備……75(B)
捕球……70(B)

特殊能力……魔術師、アイコンタクト、情熱エール、気迫ヘッド、対左投手○、走塁○、盗塁○、アベレージヒッター、内野安打○、バント職人、ローボールヒッター、ゲッツー崩し、リベンジ、競争心、打開、接戦、盗塁アシスト、打球ノビ○、ささやき破り、送球◎、ムード○、慎重打法、積極守備、調子安定、チームプレイ○、人気者

『アクティブ』の二番セカンド。身体能力は女子にしては高いものの全体では高く見積もっても精々中の上程度。しかし負けん気の強さや勝利への執念は決して並ではなく、さらにテクニックに関しては蒼介や和真に次ぐ超一流のレベルである。和真との二遊間はまさに鉄壁の一言であり、「『アクティブ』と対戦する場合、レフト方向に飛んだら諦めろ」という暗黙の了解が有るとか無いとか。


大門徹
ポジション:キャッチャー
右投げ右打ち

弾道②
ミート75(B)
パワー60(C)
走力75(B)
肩力70(B)
守備70(B)
捕球90(S)

特殊能力……カットマン、ささやき戦術、切り込み隊長、高速ベースラン、対左投手○、盗塁◎、アベレージヒッター、内野安打○、ヘッドスライディング、逆境○、いぶし銀、対エース○、帳尻合わせ、本塁生還、リベンジ、競争心、追い打ち、窮地○、インコース○、かく乱、送球○、キャッチャー◎、ブロック○、慎重打法、選球眼、チームプレイ×


『アクティブ』の一番バッター。世にも珍しいキャッチャーのリードオフマン。同タイプのムッツリーニと比較すると純粋な脚力では劣るものの走塁技術や経験を加味すると総合的には上回っている。オリジナル超特殊能力「カットマン」は「粘り打ち」の上位種にあたる。総評すると、攻守ともに完全なる嫌がらせ特化である。またキャッチングの腕前は和真すら上回り、蒼介の“サイドワインダー”すらキャッチできる並外れた捕球能力を持っている。


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野球大会決勝⑧『サイドワインダー』

【選手データ(パワプロ風)⑤】

工藤愛子
ポジション:ファースト
右投げ左打ち

弾道②
ミート……55(D)
パワ……40(E)
走力……50(D)
肩力……40(E)
守備……55(D)
捕球……60(C)

特殊能力……バント○、気分屋、ムード○、調子極端、チームプレイ○、人気者

運動神経は悪くないが戦力的には中の下。正規ではないとはいえ『アクティブ』のメンバーにもかかわらず勝利への執念が希薄なこともマイナスポイント。捕球はそれなりのレベルなので致命的なミスは少ない。


島田美波
右投げ右打ち

弾道②
ミート……60(C)
パワー……50(D)
走力……55(D)
肩力……45(E)
守備……50(D)
捕球……55(D)

特殊能力……リベンジ、競争心、逆境○、意外性、上り調子、積極打法、積極守備、人気者

筋は悪くないが野球経験に乏しく高度な技術は備わっていない。しかし持ち前の男勝りな性格から来る負けん気の強さは時として大きな武器になるかもしれない。


霧島翔子
右投げ左打ち

弾道②
ミート……65(C)
パワー……50(D)
走力……50(D)
肩力……40(E)
守備……60(C)
捕球……55(D)

特殊能力……アイコンタクト、バント○、ゲッツー崩し、盗塁アシスト、競争心、リベンジ、ささやき破り、送球○、調子安定、人気者

ルール覚えたてにもかかわらず中々の巧者。流石は原作で学年首席の座についているだけのことはある。生半可な揺さぶりは通用しない強靭な精神を持ち、また意外と負けず嫌いらしい。


沢渡晴香
右投げ右打ち

弾道②
ミート……70(B)
パワー……40(E)
走力……65(C)
肩力……50(D)
守備……70(B)
捕球……65(C)

特殊能力……バント◎、走塁○、流し打ち、ローボールヒッター、気分屋、上り調子、高速チャージ、送球○、調子安定、選球眼、ムード○、チームプレイ○、人気者


ラクロス部のエースだけあって野球経験の少なさに反してかなりの守備力とミートセンスを誇る。反面フィジカルは女子の域を出ないのでパワープレーは不得手。


姫路瑞希
右投げ右打ち

弾道①
ミート……10(G)
パワー……10(G)
走力……20(F)
肩力……5(G)
守備……5(G)
捕球……5(G)

特殊能力……精神的支柱、扇風機、チャンス×、対左打者×、走塁×、盗塁×、送球×、併殺、エラー、ケガしにくさ△、人気者


………………………………本人の名誉のためにも、あえて何も言うまい。




バシィッ!

 

御門「ストライクバッターアウト、チェンジ」

翔子「……っ!」

 

迎えた6回表。蒼介は秀吉、明久、翔子の三人をクロスファイヤーとスローカーブの緩急で翻弄し、Fクラスの攻撃はまたもや三者凡退に終わった。この回蒼介は切り札である“サイドワインダー”を一球たりとも投げなかったが、最終回に備えて温存しているというのが雄二の推測である。

 

 

 

 

 

ガキィン!

 

明久「(パシィッ!)…霧島さんっ!」

翔子「(パシッ)……ナイス送球」

御門「アウト、チェンジ」

時任「くそぉっ……!」

 

折り返しの6回裏。和真は二宮、飛鳥、時任の三人を三種のムービングファストを駆使して打ち取った。雄二の策をあらかじめ予見していた蒼介はまず間違いなく和真がマウンドに上がると確信していたため、この一週間メンバーに速球打ちの練習をさせていたのだが、流石に付け焼き刃の練習では限界があったようだ。三人の内二宮だけは他二人と違って本来ならヒット確実な当たりだったのだが、運の悪いことにセンター方向への低い弾道の軌道であったため和真にまんまとキャッチされてしまった。つくづく攻守に渡って理不尽の塊のような存在である。

 

そしていよいよ七回を迎える。大会規定で八回以降はカットされるため、泣いても笑ってもこの回が最後の攻防である。FクラスとAクラス、和真と蒼介……果たして勝つのはどちらなのだろうか……?

 

《6回裏終了。現在2-2》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七回表、Fクラス最後の攻撃。

先頭バッターはFクラス最強の矛にして紅き修羅、現在二打数二安打一本塁打一打点であり、実質二点目も入れた絶対的なスコアラー……柊和真。

 

和真「さてと、前の打席はポテンヒット留まりだったからな……今度は宇宙の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!」

蒼介「…………」

 

いつものように不敵な笑みを浮かべながらバットを蒼介に向けホームラン予告をする和真に対し、蒼介は黙ったまま和真を見据えている。

蒼介のスライダー“サイドワインダー”は確かに魔球を名乗るに相応しいキレである。しかし和真を確実に押さえられるか?と問われれば首をひねらざるを得ない。予告通りかっ飛ばされる危険性も十分にあり得る……というかそもそも、ハッキリ言って当てられるだけでも致命的だ。和真の脚力を考えると、たとえボテボテのゴロでも打ち取ることは困難を極める。そしてもし出塁を許せば盗塁を繰り返されて三塁まで進まれるだろう。そうなればあとはスクイズ一つでリードを許し、Aクラスの勝利は絶望的となるだろう。この回を確実に無失点で切り抜けるには、何としても和真を三振させなければならない。

 

蒼介(そのためには……個人的な信念は度外視しなければならないようだな)

徹(!……へぇ、アレをするんだ?)

和真(あん?徹に何かのサインを出した……?)

 

事前に決めておいた合図を送られ、徹はやや意外そうにしながらもニヤリと笑って構える。

 

蒼介(この一投で、己が未来を切り開く……鳳蒼介、推して参る!

 

水嶺流肆の型……大渦・改!)

 

蒼介は大きく振りかぶり、その状態から打者に背中を見せるほど大きく身体を捻る。

 

和真(こ…この投法は……!)

 

蒼介はそのまま引き延ばした筋肉が戻ろうとする反発作用を利用してサイドスローで一気にボールを投げた。放たれたボールの速度はこれまでの蒼介のストレートとは別物であり…和真に匹敵するほどの速度であった。

 

トルネード投法……メジャー挑戦の先駆者たる伝説の大投手、野茂英雄が編み出した独特の投球フォーム。蒼介はそれを自身の投法サイドスローに組み込み、トルネードサイドスローとも言うべき投法に昇華させたようだ。

 

和真(っ!球速・球威ともに以前までのソウスケとは比べ物にならねぇ……だが俺に速球で勝負たぁ無謀だな!)

 

見馴れない投球フォームにほんの一瞬面食らったものの和真はボールにタイミングを合わせてフルスイングした。もし蒼介の投げた球種がただのストレートであれば、ボールは予告通り遥か彼方に飛ばされていたことだろう。

 

 

……そう、ただのストレートであればの話だが。

 

 

ズバァァアアアン!!

 

和真「なっ…!?」

御門「ストライク」

 

完璧に捉えたと確信したにもかかわらず予想外の空振りに流石の和真も僅かに動揺するが、すぐに持ち直して何故空振りにしたのかを分析し始める。

 

和真(コースもタイミングも完璧だったはず……それなのにバットに当たらなかったっつうことは、さっきの球は変化球か?いや、そうだとしたらいくらなんでも速すぎる。トルネードを組み込んだからと言って流石に有り得ねぇ。……となると俺のようなムービングボール?…いや、それだったらバットに全く当たらねぇのはおかしい……まてよ?さっきの球の回転……まさか……)

 

和真は先程の蒼介の球のスピンを脳内で再生し一つの仮説を立ててから、キャッチャーである徹に向き直る。

 

和真「やってくれたなお前ら……まさか“ジャイロボール”とはよ」

徹「流石だね和真、たった一球でもう見抜いたんだ?」

和真(実際に見たのは初めてだから確証は無かったんだが、カマかけたらあっさりと認めたなこいつ……)

 

“ジャイロボール”……それは極めて特殊な回転のかけられたストレートの一種である。

和真のようなムービングボーラー以外のほとんどの投手の投げるストレートにはバックスピンがかけられているが、“ジャイロボール”は全身の回旋運動から腕を自然にねじりながらボールをひねりだすことで、ボールがスパイラル回転をしながら打者に向かっていく。縦回転では何度も縫い目で受けてしまう空気抵抗が正面に縫い目の現れにくいスパイラル回転では極僅かとなり、バッターは初速と終速の差がほとんど無くなったボールが目の錯覚も加わってあたかも浮き上がるかのように感じるという仕組みだ。

 

和真「まあ確かにすごいけどよ……ソウスケ、コントロール至上主義のお前らしくないんじゃねぇか?」

 

トルネードサイドスロー……球速不足に陥りがちのサイドスローで速球を出すことのできる夢の投法、といった都合の良いものではない。

サイドスローの利点は身体の傾きがなく視線がぶれないのでコントロールが付けやすい、クロスファイヤーの際最も角度をつけられるといったことだが、トルネードを組み込んだことでこれらの強みを完全に殺してしまっているのだ。体を大きく捻るため体軸や目線がぶれやすくどうしても制球力が落ちてしまい、制球力が落ちたことで内角ギリギリを攻めるクロスファイヤーの安定感がグッと低くなってしまう。

一方でサイドスローに組み込んだことでトルネード投法の強みも生かしきれていない。トルネードの強みは何と言っても球速と球威だがサイドスローは球速を出しにくい投球フォーム、トルネードからのオーバースローに比べると明らかに旨味が少ないのだ。

と、このように一見お互いがお互いの長所を打ち消しあっているガッカリフォームにしか見えないのだが、もちろんこのフォームにしかない強みもちゃんと存在する。

まあそれはともかく、このコントロール度外視の投球フォームを制球力を重視する投手が好むとは到底考えられない。

そのことが解せない和真がそう指摘すると、蒼介は薄く笑いながら返答した。

 

蒼介「勿論私とて不本意ではある。しかしさっきまでの投げ方ではお前を抑えられそうになかったのでな。自らの信念への拘りなど、敗北してしまえば単なる我儘だろう?」

和真「ほー、そいつはもっともな言い分だな。だが残念だったなソウスケ、どっちにしろその球はもう俺には通用しねぇよ」

蒼介「だろうな。私とてジャイロボールのみでお前を抑えられるとは思っておらん。……それはそうとカズマ、私のスライダーについて少々物申したいことがあるのだが」

和真「あん?“サイドワインダー”がどうしたんだよ?」

 

突然話が明後日の方向に飛んだことに疑問を抱く和真をよそに、蒼介は話を進めていく。

 

蒼介「……“サイドワインダー”、か。はっきり言ってその呼び方は不適切だ。あれは何の工夫もオリジナリティーも無い、極普通のスライダーだ」

和真「……いや、まあそうだけどよ、そんなこと今更-」

蒼介「“サイドワインダー”と名付けるに相応しい変化球は…………今から私が投げる球が相応しい」

和真「……!」

 

会話を切り真剣な表情でセットポジションに着く蒼介に対し、和真は気を引き締め直しつつバットを構える。

 

和真(球種をあらかじめバラしただと?ブラフか?)

 

蒼介は先ほどと同じく大きく身体を捻り、反発力を利用してボールを投げる。和真の優れた動体視力は投じられたボールに“ジャイロボール”とは異なる回転がかけられていることを即座に見抜いた。

 

和真(どうやらマジで“サイドワインダー”みてぇだな。上等だ!このままかっ飛ばして…っ!?)

 

ギュルルルルルルルル……バシィッ!

 

御門「ストライク」

和真(なっ……!?()()()のサイドワインダー!?)

 

そう、凄まじい回転のかかったボールはバッターである和真の手元で……これまでとは逆の方向に鋭く曲がった。

 

和真「……今の球は、シュートか?」

蒼介「そう……右と左、両方向への鋭いキレの変化球、これら二つを合わせて初めて“サイドワインダー”と呼ぶに値するだろう」

 

これがトルネードサイド最大の利点、トルネードの遠心力を加算することにより横方向への変化球の球速、ノビを格段に向上させることができる。

通常のサイドスローで投げる従来の“サイドワインダー”はあくまでも普通のスライダーであった。しかしかの投法で放つソレはもはやスライダーの範疇には入らない代物であり、それに加えてシュートまでも以前までとは比べ物にならないほど鋭くなっている。これら二つの球は正真正銘、蒼介だけのオリジナル変化球である。

 

蒼介(さてカズマよ、二つの“サイドワインダー”をどう攻略する?)

和真(………………)

 

そして三球目に蒼介が選んだ球種はスライダー方向への“サイドワインダー”。前の打席、ヒットにされてしまったものの和真を打ち損じさせた球を凌駕する切れ味を誇るソレに和真は、

 

躊躇うことなくフルスイングした。

 

ガキィィィイイイン!!

 

蒼介「っ!?」

徹「まさか!?」

 

打球はグングン飛距離を伸ばしていくが、Aクラスにとっては幸運なことにボールは風の影響を受けて僅かに逸れた。

 

御門「ファール」

和真「ちっ、入らなかったか。以前より鋭くなっていたせいで振り遅れちまったみてぇだな」

 

振り遅れたにもかかわらず平然とホームラン性の当たりにするバッティング能力も見逃せないが、蒼介と徹にはそれ以上に気になる点が存在した。

 

徹「和真、いったいどうやって“サイドワインダー”の変化を読みきったんだ……?」

和真「あー?別に確信があったわけじゃねぇよ。その球のリスクを考えたら多分スライダー方向に曲がるなと思っただけだ」

徹「……リスクだと?何の話だ」

和真「とぼけんじゃねぇよ。あんな切れ味のシュート、明らかに肘に負担がかかるだろうが」

蒼介(……ふっ、もう見抜かれるとはな……)

 

シュートは肘を痛めやすい変化球として有名である。実際のところはほとんどが肘に余計な力をかけてしまっているせいで悪化するのだが、“サイドワインダー”レベルの変化を投げるにはどうしても多少無理をする必要がある。その為、体の出来上がっていない成長期真っ盛りの現段階ではできれば投げるのを控えるべきである。

 

 

和真「さてと、これで“サイドワインダー”も封じたぜ。さてどうするソウスケ?リスク覚悟で乱発してみるか?流石の俺でも二つの“サイドワインダー”は読み切れねぇから、どちらかに絞って打つしかねぇな~」

蒼介(乱発は愚策中の愚策……こいつは明らかに“サイドワインダー”を捉え始めている。1/2の確率に運命を委ねるのはハッキリ言ってリスキー過ぎる。、

 

 

ならば、この場で完成させるしかないようだな。

ジャイロボールの到達点……“サイクロン”を!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【選手データ(パワプロ風)⑥】

木下秀吉
右投げ左打ち

弾道②
ミート……70(B)
パワ……30(F)
走力……50(D)
肩力……30(F)
守備……60(C)
捕球……60(C)

特殊能力……アイコンタクト、ミラクルボイス、ささやき戦術、盗塁◎、粘り打ち、バント○、ゲッツー崩し、ささやき破り、盗塁アシスト、かく乱、慎重打法、ミート多用、調子安定、チームプレイ○、送球○

姉と同じくメンタルと技術に優れる選手。しかし経験と身体能力に大きく差があるため優子には数段劣る。捕手でもないのにミラクルボイスとささやき戦術を取得している。せめて男子平均並のフィジカルさえあれば優秀なキャッチャーになれただろう。



二宮悠太
ポジション:センター
左投げ左打ち

弾道②
ミート……75(B)
パワー……65(C)
走力……75(B)
肩力……75(B)
守備……75(B)
捕球……65(C)

特殊能力……一球入魂、精神的支柱、切磋琢磨、走塁○、盗塁○、アベレージヒッター、内野安打○、流し打ち、粘り打ち、バント○、チャンスメーカー、ヘッドスライディング、ゲッツー崩し、インコース○、本塁生還、盗塁アシスト、窮地○、打開、接戦○、送球○、守備職人、慎重打法、積極守備、調子安定

野球部のキャプテン。文月学園野球部の総合的なレベルは中の上程度だが、能力を見ればわかる通り全国でも十分通用するであろう実力を持っている。走攻守全てに秀でたユーティリティプレーヤーであるが、強いて言えば守備型の選手である。


五十嵐源太
ポジション:センター
右投げ右打ち

弾道③
ミート……65(C)
パワー……75(B)
走力……75(B)
肩力……80(A)
守備……75(B)
捕球……70(B)

特殊能力……気迫ヘッド、高速レーザー、火事場の馬鹿力、伝説の引っ張り屋、高球必打、チャンス○、対左投手○、パワーヒッター、体当たり、対エース○、リベンジ、競争心、威圧感、打球ノビ◎、送球◎、守備職人、ハードラック、積極打法、積極守備、強振多用、調子極端、


『アクティブ』クリーンナップの一角。小手先の技術に頼らない豪快なバッティングが持ち味。一方守備に関しては和真と同等以上の強肩に目が行きがちだが、細かい技術も一通り習得しており穴がない。『アクティブ』貧乏くじ担当は伊達ではなく、思わぬ不運に遭うことも少なくない。今回の章で出番がカットされたことも不運と言えば不運ではないだろうか。


西村宗一
右投げ右打ち

弾道④
ミート……60(C)
パワー……120(S)
走力……85(A)
肩力……90(S)
守備……65(C)
捕球……80(A)

特殊能力……アーチスト、恐怖の満塁男、重戦車、鉄の壁、鉄人、バズーカ、、メッタ打ち、伝説の引っ張り屋、ミラクルボイス、気迫ヘッド、ささやき破り、打球ノビ◎、調子安定、選球眼

総合的な身体能力は間違いなくトップだが、専門外の競技のためテクニックはそこまでではない(あくまで和真達と比較して、だが)。



※ジャイロボールの説明はmajorを参考にしました。松坂投手曰く、そんなものは現実に無いらしいですけどね……。


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野球大会決勝⑨『蒼介、覚醒』

蒼介「まだ私のバトルフェイズは終了してないZE☆」

和真「いや、俺が攻撃側だからな?」


時は数日前…Aクラスが野球大会に狙いを絞った日の翌日にまでさかのぼる。

学園長から提示されたルールから、おそらく決勝まで勝ち上がってくるであろうFクラスが取るであろう作戦…リアル野球へ切り替えようとしていることを見抜いた蒼介は、チームメンバーにバッティングセンターでの速球打ちを指示(おそらくマウンドに上るのは140㎞オーバーのツーシーム主体の和真であるため、あらかじめ慣らさしておくべきとの判断。もっとも、結果だけ見ればあまり役に立たなかったようだが)する傍ら、蒼介は『アクティブ』でバッテリーを組む徹と河原で新投法“トルネードサイドスロー”の調整をしていた。

 

蒼介「…………はぁっ!(ビシュッ!)」

 

 

ギュルルルルルルルルルルルルルルル……

 

 

徹「……っ!(ズバァァアアアン!!)……これが“ジャイロボール”か。球速そのものはおそらく和真の方が上だけど、球威とノビは間違いなく和真以上だね。まったく、浮き上がって見えるストレートなんてキャッチャー泣かせにもほどがあるよ」

蒼介「平然と捕球しているお前が言っても、説得力があまり無いな」

徹「捕りにくい球は和真のムービングで慣れているからね……まあそれはともかく、仕上がりとしては上々じゃないかい?」

蒼介「……そうだな、制球にはやや不安があるが致命的というほどではない。協力感謝する、もう上がっても構わないぞ」

徹「その様子だと君はまだ練習するつもりなんだろうね。けどホドホドにしておきなよ?そんなに根詰めてやらなくても、二つの“サイドワインダー”と“ジャイロボール”を織り混ぜたその投法に初見で太刀打ちできる奴なんて…精々和真くらいなんだからさ」

 

そう言って帰宅する徹を見届けた後、蒼介は唯一の懸念事項に思考を巡らせる。

 

蒼介(楽観的な考えの割にわかってるじゃないか大門……カズマなら一打席目で対応してきてもおかしくないということに。“ジャイロボール”に頼らず二つの“サイドワインダー”主体で攻めればヒット性の当たりを打たれることはそうそう無いだろう……だがこの変化球は体への負担が大きすぎる。シュート方向の“サイドワインダー”に至っては一試合に……多くても3球が限度と言ったところか。もしカズマが大門のようなボールカットという手段を取ってきた場合、どのみち直球で勝負せねばならない。しかし…)

 

手に持ったボールを強く握りしめる。

 

蒼介(いかに“ジャイロボール”とて一球目ならともかく二球目、三球目となれば……奴なら必ず食らいついてくるだろう)

 

蒼介の懸念通り、今のままでは和真を確実に抑える手段は無い。かといって敬遠という手段は愚策である。和真の脚力は防ぎようがないという点で考えればバッティングセンス以上に厄介であり、乱打戦ならともかく一点を争うロースコアゲームでは和真に出塁を許す=敗北になりかねない。

そして、蒼介と和真が投げ合う以上まず間違いなくロースコアゲームになるだろう(そして実際そうなった)。

何より…普段が冷静沈着でクールな性格のため誤解されがちだが、蒼介は和真同様筋金入りの負けず嫌いである。敬遠という手段はできる限り選びたくない。

 

蒼介(ならば答えは一つ……さらにもう一段階上のストレートで奴を捩じ伏せるのみ!)

 

覚悟を決めた蒼介は大きく振りかぶり身体を捻り、投球モーションに入る。

 

蒼介(トルネード投法……その原理は我が鳳家に伝わる水嶺流肆の型に酷似している。そのため私はこれをピッチングフォームに組み込むことに思い至った……だが、肆の型をそのまま組み込むことは制球を乱しすぎるため一部を改良した)

 

水嶺流肆の型・大渦……トルネード投法と同じく延ばした筋肉が戻ろうとする反発作用、回転による遠心力を利用して剣撃のパワー・スピードを格段に引き上げる技である。しかし遠心力までボールに上乗せしようとすれば流石の蒼介とて制球を著しく乱してしまい、ピッチャーとして使い物にならなくなる。そのため蒼介は大渦に枷を嵌めた状態でピッチングフォームと融合させることでトルネードサイドスローを完成させた。

そして今…蒼介はその枷を外そうとしているのだ。

 

蒼介(そしてさらにもう一つ……我ながらクレイジーな試みだとは思うが……枷を外した状態で放つジャイロボールで……クロスファイヤーを狙う!)

 

それはもはや無茶を通り越して無謀としか言い様の無い発想である。サイドスロー最大の武器“クロスファイヤー”、それに求められるのは卓越したコントロールである。普段の蒼介なら造作もないことだが、こんなコントロール度外視の投球フォーム(しかも球種は幻の“ジャイロボール”)で内角ギリギリを狙い打つなど正気の沙汰ではない。

しかし……もしそれを成し遂げたとしたら、和真を捩じ伏せられる必殺技になるだろう。

 

蒼介(“大渦”による筋肉の反発力と腕の回転の遠心力、クロスファイヤーの鋭い角度、そしてジャイロボールの威力……4つの力が一つになる時、ボールは無敵の力を秘めた“サイクロン”となる……!)

 

蒼介はそのまま引き延ばした筋肉が戻ろうとする反発作用、サイドスローにより生じる遠心力を100%ボール込めて、内角を抉るようにジャイロボールを投げた。

 

 

ドギュルルルルルルルルルルルルルルル!!!

 

 

蒼介(………………が、)

 

 

ボチャン……

 

 

投じられたボールは、18メートル先の蒼介が狙っていたポイントから大きくはずれて、そのまま川に落ちてしまった。幸い硬球は水よりも密度が小さいため沈むことなくそのまま浮かび上がってきたため、蒼介はボールを回収しながら思考を再開する。

 

蒼介(やはり暴投してしまうか。かといって力を抜けばただの棒球になるだろう。結論として、“サイクロン”を完成させるためには……

 

 

私が“明鏡止水の境地”に足を踏み入れるしかない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徹「!?…くっ……!」

 

ズバァァァアアアアアン!!!

 

御門「ボール」

 

時は戻って七回表和真の打席。ツーストライクの状態で蒼介は“サイクロン”を投げたが、これまでのピッチングからは考えられるような暴投になる。危うく取りこぼしそうになったが、徹はどうにかキャッチすることに成功する。

 

和真(今の軌道…………なるほどな、クロスファイヤーでフルパワーの“ジャイロボール”を投げようとしてんのか。中々面白ぇこと考えんじゃねぇか。……だがなソウスケ、いくらお前でもそれは無謀じゃねぇのか?)

徹(鳳の馬鹿野郎!危うく振り逃げになるところだったじゃないか……!)

 

マウンドに抗議の視線を送るも蒼介は取り合わず、再び内角ギリギリにフルパワーの“ジャイロボール”を投げ込んできた。

 

 

ズバァァァアアアアアン!!!

 

 

御門「ボール・ツー」

和真(さっきより狙いが安定したな。さて、間に合うかねぇ……?)

 

蒼介の予想外の乱調にAクラスの生徒達はやや困惑の表情を浮かべてざわめくも、皆それほど動揺していなかった。それは一重に蒼介への信頼があってこそ。今自分達にできることは、蒼介と徹を信じて守備につくことだけだと判断したからである。

一方、扇の要である徹だけは蒼介にやや呆れた表情を向けつつ溜め息をつく。

 

徹(確かにコイツは厄介極まりないバッターだけど……ムチャクチャするよなぁ、博打打ちにもほどがあるよ。いったい何考えてるんだ鳳らしくない…………こともない、けどね……)

 

そこそこ長い付き合いになるため、蒼介と和真の関係はよく知っている。

お互いがお互いを最も仲の良い友人と位置付けていながら、その一方でお互いがお互いを絶対に負けたくないライバルに定めている。無二の親友にして不倶戴天の宿敵と、傍から見れば歪でちぐはぐこの上ない関係なのだ。

 

徹(まあ確かに、どういう形であれこいつに出塁された時点で敗色濃厚なんだ。……ここは一つ、エース様を信じてみようかねぇ)

蒼介(……すまんな大門、私のエゴに付き合わせて)

 

徹が蒼介が投げようとしている場所にミットを固定させるのを見届けると、蒼介は再びトルネードの体制に入る。

 

蒼介(……負けられない。自分のプライドのためにも……そして私とともに闘うチームのためにも、負けるわけには……いかない!)

 

 

ズバァァァアアアアアン!!!

 

 

御門「……スリーボール」

和真(三球目もボール……しかしあとボール二個分ずれてたら入ってたな。さて、次はどうするソウス-)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちょん……………………ヒィィィイイイイイン………

 

 

 

 

 

 

和真(…っ!?これは…この気配は、まさか!?)

御門(へぇ……この土壇場で至ったってのか)

 

見に覚えのある感覚に和真は驚愕し、今日ずっとテンションの低い御門先生も興味深そうに眉をつり上げる。二人の視線のはマウンド上……

 

 

 

蒼介「………………」ヒィィィイイイイイン…

 

 

 

極限の集中状態に入った蒼介に注がれた。

その集中状態の名を“明鏡止水の境地“。

鳳家に受け継がれし剣術流派“水嶺流”の奥義である。

 

御門(聞いた話だと鳳のおっさんがあの境地に至ったのって20代後半だっけか。それでもかなり早いってんだから、とんでもねぇなあのガキ……)

和真(この気配からすると…流石に秀介さんに比べれば完成度はまだまだみてぇだが、厄介なことには変わりはねぇ……)

 

和真の脳裏に浮かぶのは以前蒼介の父・秀介と手合わせしたときの記憶。竹刀対丸腰という圧倒的リーチ差があったものの、身体能力で勝る秀介相手に敗れた苦い記憶。

しかしゆっくり回想する暇も無く蒼介が投球モーションに入る。先ほどまでと同様……いや、先ほどまでよりもひねりを大きくしたようにさえ思える。

 

和真(……失敗なんざ期待すんな。入れてくると考えろ。砂粒ほどの可能性さえありゃあ成功させる……“明鏡止水”ってのははそういうもんだ)

 

蒼介は徹のミット目掛けて、120%の力が込められた渾身のジャイロボールを……否、

 

 

ドギュルルルルルルルルルルルルルルル!!!

 

 

“ジャイロボール”を越えたボール……“サイクロン”を放った。和真も負けじとタイミングを合わせてフルスイングする。さきほどまでの三球でおおよそのスピードとノビはタ把握できているのでイミングは完璧

 

 

 

…だったのだが、

 

和真(…っ!?ボールが消え-)

 

 

バンッ…バシィィイイッ!!!

 

 

蒼介「…………“サイクロン”、ここにて完成」

 

ボールはバッターボックス直前で急激に落下し、ワンバウンドしてから徹のキャッチャーミットに収まった。

 

御門「……ストライク、バッターアウト」

和真「……今のは……まさか、ジャイロフォーク!?…………チッあの野郎、味な真似を……」

徹(あ…あ…あぶなぁぁあああっ!?マジで取り損ねること思った!鳳の奴めぇぇぇ……確かに信じて任せたのは僕だけどさ、限度ってものを知らんのかアイツは!?)

 

ジャイロフォーク……ナイアガラフォーク、レジスタンスフォークとも呼ばれるこの球種はその名の通りジャイロ回転しながら凄まじい変化量とキレで落ちるフォークの一種である。ジャイロボールの浮き上がる軌道を意識していたバッターが急激に落下するこの球に直面したとき、錯覚現象であたかも消えたように感じてしまう。和真がボールを見失ってしまったのも無理はない。

うけあがって見える球と急激に落下する球、この二つが揃って始めて“サイクロン”が完成した。

 

蒼介「(ヒィィィィン……フッ…)……むぅ、今の私ではまだ“明鏡止水”を維持できないようだな、雑念が出たからだろうか。渾身の球が和真のバッティングを上回ったことに……喜びを抑えられそうにない」

 

間違いなく今大会で最初で最後になるであろう……バッティングで柊和真が抑えられたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パパパパーン!蒼介君が“明鏡止水”の境地に踏み込んだ。今後の試召戦争でAクラス打倒の無理ゲー感が格段にupした。

“サイクロン”の元ネタは「キャプテン翼」の主人公、翼くんのゲーム版オリジナル必殺技です。名前から習得シーンまでほとんどパク……オマージュさせていただきました。


鳳蒼介②
ポジション:投手
左投げ右打ち
トルネードサイドスロー
 
球速140㎞
スタミナ……35(F)
コントロール……60(C)
サイクロン(ジャイロボール)
サイクロン(ジャイロフォーク)④
サイドワインダー(スライダー変化)⑦
サイドワインダー(シュート変化)⑦
高速シンカー⑤
スローカーブ⑤


特殊能力……明鏡止水、怪童、怪物球威、ハイスピンジャイロ、クロスキャノン、驚異の切れ味、変幻自在、不屈の魂、強心臓、ドクターK、ディレイドアーム、打球反応○、牽制○、ポーカーフェイス、球持ち○、リリース○、バント封じ、威圧感、荒れ球、対強打者○、内角○、要所○、クイック△、調子極端、人気者

弾道③
ミート95(S)
パワー65(C)
走力85(A)
肩力70(B)
守備85(A)
捕球80(A)

特殊能力……明鏡止水、安打製造機、ストライク送球、魔術師、ローリング打法、司令塔、読心術、内野安打○、走塁◎、盗塁◎、流し打ち、バント職人、チャンス○、チャンスメーカー、いぶし銀、ささやき破り、ゲッツー崩し、盗塁アシスト、リベンジ、競争心、積極守備、選球眼、調子安定、人気者、チームプレイ○

・オリジナル特殊能力「明鏡止水」
投手……発動中コントロールを100として扱い、球速+3、スタミナ+10
野手……発動中ミート、守備、捕球を100として扱う

サイドスローにトルネードを組み込むことで、コントロールを犠牲に球速、球威を格段にアップさせた。左右に鋭く曲がるサイドワインダーと手元で浮き上がって見えるほどのノビを持つジャイロボールは極めて強力。
しかし実は欠点もかなり多い。一つ目はサイドスロー最大の利点である制球力を完全に殺していること(明鏡止水中はこの弱点は無くなる)。二つ目は本来の投げ方に比べて消耗が格段に激しいため完投は期待できないこと。三つ目はただでさえ大きかったサイドワインダーの肉体への負担がより深刻なものになったことである。
また、和真をも捩じ伏せた蒼介の切り札“サイクロン”は明鏡止水の境地に至っていなければ間違いなく暴投してしまう上、現段階の蒼介では明鏡止水を維持できるのは精々一打席分が限度である。







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野球大会決勝⑩『決着』

Aクラス戦(野球編)、いよいよ決着です。
気がつけば10話も、三日に一話のペースですから1ヶ月も引っ張っちゃいましたね……あらかじめ考えたスコアブックに沿って野球のシナリオ書くのが予想以上に楽しくて「パワプロ小説書こうかな……」と一瞬浮気しそうになったりもしました。危ない危ない……。


最強バッターである和真を見事スイングアウトさせた蒼介は、その勢いのまま後続のバッターである雄二にトルネードサイドを奮う……ことなく元のサイドスローにフォームを戻した。

 

バシィッ

 

御門「ストライク」

雄二(くっ……そんなころころフォームを変えてんのに、なんでこいつはコントロールを乱さねぇんだ!?……というか、露骨に舐められてるなこの野郎……!)

 

先ほどまでのトルネードサイドに比べると、通常のサイドスローは制球力が格段にアップするしスタミナ消費も少ないが、球速・球威・変化球のキレなど打者を捩じ伏せるのに必要な様々な点で劣る。蒼介がこちらに戻した理由は暴投というイレギュラーを防ぐため、つまり和真以外のバッターには普通にやればどうとでも抑えられると少なからず思っているということだ。

 

雄二「Fクラスは和真だけじゃねぇぞ!(カキィンッ!)」

蒼介の(っ……狙い打ちされたか)

 

2ストライクに追い込めばほぼ100%“サイドワインダー”で三振させられる。よって二球目には“サイドワインダー”の次に信頼を置くクロスファイヤーで攻めてくる……という雄二の読みは見事に的中し、ライナー性の打球が一、二塁間方向へ飛んでいく。

 

 

が、

 

 

優子「たぁっ!(バシィッ!)」

雄二「な、なにィ!?」

 

何気に『アクティブ』でも和真、蒼介に次ぐ堅守を誇る優子にダイビングキャッチされてしまった。打撃に関して雄二に落ち度は一切無かったのだが、不運なことに打球コースが優子の守備範囲だったようだ。

 

御門「アウト」

蒼介「……先ほどのお前の叫びに私はこう答えよう。Aクラスは私だけではないぞ」

雄二「ッ……くそっ!」

 

悔しそうにベンチに戻る雄二と入れ替わるように、六番打者の近藤が打席に入る。しかし彼我の実力差は明白であり、初見せとなるスローカーブとインハイへのストレートの緩急に翻弄されあっという間に追い込まれてしまった。

 

『ぐっ……ヤベェ……』

蒼介「別に使わずとも問題なかろうが、念には念を入れて全力でゆくぞ……ハァッ!!!」

 

選択された球種は当然のことながら“サイドワインダー”(蒼介曰く「このフォームではただのスライダー」)であり、左打ちの近藤に対して直球ならば明らかにぶつかるコースへ投げ込んだ。

 

『う、うわぁっ!?(バッ!)』

 

頭では曲がるとわかってはいても、硬球が直撃するかもしれないという恐怖から、本能は近藤の意思とは関係なく体ををのけ反らせた。

 

 

ギュルルルルルルルル……バシィッ!!!

 

御門「ストライクバッターアウト、チェンジ」

蒼介「……ぶつかる覚悟も無いまま打席に入っているバッターなどに、私の球は打てん」

 

これでFクラスの攻撃回は全て終了し、点数は以前2-2。既に和真達の勝利する可能性は無くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「ハァァアアアッ!!!」

 

ズバァァアアアン!!

 

御門「ストライク、バッターアウト」

『は…速い……!』

 

Fクラスの勝利は無くなったものの、この回を0点に抑えさえすればFクラスの当初の目的(没収品の奪還)は達成されるため、Fクラスメンバーの士気は落ちるどころか、今までで最高潮に達していた。

蒼介が“クロスファイヤー”だの“サイドワインダー”などテクニックでバッターを翻弄したのに対し、和真は“ツーシーム”のパワーのみで愛子、栗本の下位打線を6球で沈めた。本来“ツーシーム”は手元で微妙にシュート方向へ変化することでバットの芯を外すストレートなのだが、和真のツーシームは140㎞を越えているため並大抵の打者ではそもそもバットに当たりすらしない。

しかし、続くバッターはどう甘めに見積もっても並大抵ではない相手であった。

 

徹「ふむ、9回裏2アウトか……ここは僕を敬遠して沢渡さんを確実に打ち取るのが無難なところかな?」

和真「寝言は寝て言え、この四球乞食が」

 

徹のこれまでの成績は1打数1安打2与四球と地味に大活躍。しかも秀吉が投手だった1打席目の四球は敬遠だったが、和真が投手だった3打席目の四球はさんざん粘られて根負けした結果である。『アクティブ』メンバーの例に漏れず筋金入りの負けず嫌いである和真がそれをよしとするわけがなく、徹を捩じ伏せて試合を終了させるつもりでいた。

 

和真「さて、最終回なわけだしもう球数に気を使う必要もねぇな……全球ド真ん中で勝負だ!」

徹「っ!?」

 

ズバァァアアアン!!

 

御門「ストライク」

徹「何がド真ん中だよ、ちょっとズレてるじゃないか」

和真「しかたねぇだろ、仕様だよ仕様」

 

和真はツーシームでしかストレートを投げないため、ど真ん中を狙ってもシュート方向に僅かに変化してしまうのは仕方ないだろう。

 

徹「……というか何のつもりだ?ど真ん中予告なんて、僕を舐めてるのか?」 

和真「こうすりゃ四球を狙うことなんざできねぇだろ。お前が打つか、俺が抑えるか……二つに一つだ」

徹「“ツーシームファスト”はシュート方向に沈むストレート、コースがわかっていればジャストミートはそう難しくないってこと、わかってるのかい?」

和真「俺が球威で圧倒すれば問題ないだろ?(ニヤリ)」

徹「……なるほどねぇ、真芯で捉えられても問題ないってか……随分と見くびってくれるじゃないか……!」

 

マウンド上で不敵な笑みを浮かべる徹を敵愾心の籠った目で睨めつける徹。『文月学園一沸点が低く挑発に乗りやすい男』という称号は伊達ではない。

 

和真「へへへ、それじゃあいざ尋常に……勝負しようかぁっ!」

 

ワインドアップから投じられたボールは、140㎞を優に越えるスピードでキャッチャーミット目掛けて突き進む。

 

徹(やや高め…貰ったァッ)「死ねぇぇぇえええええ!!!」

 

もはやスポーツマンシップの欠片もない掛け声とともに徹は全力でバットを振るう。狙いは真ん中高めより気持ち自分の内側、“ツーシーム”の軌道を完璧に読みきった見事なスイングである。

 

 

ただしボールは真下に変化した。

 

徹「なぁっ!?」

 

ガキィンッ!

 

当然ボールはバットのスイートスポットから大きく外れて当たり、ゴロ性の打球が転がった場所は無情にもピッチャー前。

 

和真「よっ(パシッ)ほいっ(ビシュッ)」

翔子「(パシッ)……ナイスピッチ」

御門「ゲームセット。この勝負、2対2の引き分けー。あー、やっと終わった……」

 

筋書きの無いドラマ……その言葉の通り、最終回の最後の攻防がアッサリが劇的になるとは限らない。あっさり終わるときもあるのが野球である。

 

徹(スプリット……確かに和真は“ツーシーム”を投げるなんて一言たりとも言ってはいないかった、いなかったけどさぁ……やっぱりアイツ詐欺師だよ……)

 

面倒臭い相手を適当にあしらうときやカマをかけて情報を引きずり出す以外はほとんど嘘をつかない和真であるが、「嘘などつかなくても人は騙せる」と言わんばかりにしょっちゅう人を騙すのも和真である。最後のコースも結果的には宣言通りど真ん中であったが、すこぶる騙されたという気分になる徹であった。

 

御門「はいおめーら全員せいれーつ。スポーツマンたるもの礼節は大事だぞー、知らんけどよ」

(((アンタ最後までやる気無いな!?)))

 

試合中はそれどころではなかったため誰も突っ込まなかったが、この男いくらなんでもやる気無さすぎである。

 

蒼介「今回は引き分けだな」

雄二「そうだな、決着は試召戦争でつけてやる」

蒼介「……まあ、勝つのは我々だかな」

雄二「はっ上等だ。まあ見ていろ、吠え面かかしてやるからよ」

 

指揮官二人が火花を散らすなか、現状のヤバさを理解している和真は冷静に対策を考えいた。

 

和真(……以前なら俺がランクアップさえすりゃどうにかなる見通しだったが、ソウスケの操作技術が格段に向上したことでかなり厳しくなったな。その上“明鏡止水”にまで至っちまったか……まだ不完全とはいえ、もし試召戦争までに使いこなせるようになったとしたら勝率は…………チッ、どう甘く見積もっても0だな。……やれやれ、非常に不本意だが背に腹は代えられねぇ……クソ親父を頼るしかねぇな)

 

 

 

 

 

 

 




次回は閉会式+その他色々で、その次で七巻終了となります。


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姫路の苦悩

今回で七巻終了のつもりだったんですが、全部詰め込むと10000字を軽くオーバーしかねないので次回に持ち越します。


『体育祭総合優勝……2ーF。個人MVPには柊和真君が選出されました。柊君、前へ』

和真「あいよ!」

 

野球大会を終えて、最終種目のクラス対抗リレーの後は閉会式が開かれる。生徒達はグラウンドに整列し、クラスを代表して和真が表彰状を受け取った。

野球大会後の全員参加の騎馬戦とクラス対抗リレーに関してだが、騎馬戦でFクラスの謎の団結力を雄二が発揮させて勝利(和真と蒼介の熾烈な一騎討ちがあったりもした。ちなみに決着は僅差で和真に軍配が上がった)、クラス対抗リレーは途中までは運動部含有率が高い2-Eが首位であったが、アンカーの和真(100m走自己ベスト10秒16)がアッサリと抜き去ってトップでゴールした。野球大会の策に組み込まれた借り物競争では無得点に終わったものの、最終的にはその程度のことは何の問題も無いと言わんばかりの圧勝だった。和真も当初の予定通り二年連続個人MVPに選ばれたものの、おそらく来年からは個人で出場可能な種目数に制限が儲けられるだろう。いかに実力主義の文月学園と言っても限度というものがある。

……さて、めでたく総合優勝を獲得したFクラスであるが、彼らのほとんどにとってはそんなもの副賞でしかない。

 

『生徒・教師交流召喚獣野球。優勝……2-A、2-F両クラス。MVPは審議の結果、鳳蒼介君が選出されました』

 

(これで俺達のお宝は返ってくるんだよな!)

(学園長のお言葉だからな!間違いねぇだろ!)

和真(ちっ、流石に途中参加でMVP二つは無理があったか……最終打席で空振り三振しちまったのも痛ぇな……)

 

クラスメイトが聖典(成人指定本)奪還に沸き立つなか、和真は悔しがりながらも冷静に敗因を分析する。途中参加とはいえ走攻投守全てに渡って活躍し、6打数5安3本塁打6打点と圧倒的な成績を叩き出したものの、3試合連続完全試合を達成し、決勝戦も2失点こそしたものの驚異の15奪三振を記録した蒼介には、直接対決で三振したことも加えると一歩及ばなかったようだ。

 

『それでは、これにて文月学園体育祭を終了します』

 

学園長の長話も終わり、これで体育祭の全プログラムは終了。他のクラスの生徒たちが帰宅の途につく中、FクラスとAクラスの生徒は担任のもとに集まった。

 

『さぁ、俺達のお宝を返して貰おうか!』

『俺のDVD!俺の写真集!俺の抱き枕!』

『俺の聖典(エロ本)!俺の宝物(エロ本)!俺の参考書(エロ本)!』

 

口々に没収品の返還を要求するクラスのバカ軍団を見回して、呆れたように溜息を吐く鉄人。

 

鉄人「……まぁ、約束は約束だ。没収品は返還しよう」

『『『よっしゃあーっ!』』』

鉄人「では、この紙に没収された品と、名前を書いて提出しろ。一両日中には返還する」

『『『はーい』』』

 

こういう時だけ返事の良いクラスの皆がこぞって鉄人の渡した紙に没収された物の名称と自分の名前を書いていく。

 

『エロ本エロ本エロ本……』

『写真集写真集写真集……』

『抱き枕抱き枕抱き枕……』

 

そこら中から欲望に塗れた呟きを垂れ流しながら、和気藹々と勝利(正確には引き分けだが)の味を噛み締めつつ用紙を提出する。鉄人は呆れ返りながらそれを束ねて袋に入れ、小脇に抱え込む。

 

鉄人「……さて、それではここに書かれた没収品は後日きちんと郵送する」

 

その言葉に教室中が一瞬にして静寂に包まれる。

 

鉄人「宛名はお前たちの保護者になる。全員、到着を楽しみにしているんだな」

 

脳の矮小さに定評のあるFクラスのため鉄人の言葉の意味を処理するのに幾ばくか時間を要したが、なんとか理解し終えた途端……

 

 

 

教室中に不満が大爆発した。

 

『『『はぁあああっ!?』』』

鉄人「良かったなお前ら。視察に来ていたスポンサーも大満足だったようで、学園長は大変機嫌良く返還を快諾してくれたぞ。それと学園長からの伝言だ。『学園としては返還してやるけど、子供として持っていい物かどうかの判断は、アンタらの保護者に一任する』とのことだ」

『『『あ、あのババァーっ!!』』』

 

この非常なる宣告に最も絶望したのは勿論のこと明久である。玲にそんな物を学校に持っていったことを……いやそもそもそんな物を所持していたことを知られるということは、地獄の片道切符を押し付けられたに他ならない。

 

鉄人「それでは、HR(ホームルーム)を終了する。各自、寄り道などせず真っ直ぐに帰るように」

『『『あっ』』』

 

明久達が詰め寄る前に、鉄人は校舎へと歩き去っていった。

 

明久「皆、やっぱりまた職員室を襲おう。僕らの生きる道は、それしかない」

雄二「いいこと言ったな明久。俺もそう考えていたところだ」

ムッツリーニ「……実は俺もだ」

 

彼らは輝かしい未来を掴む為、またしても頭を寄せ合うのだった。

 

美波「それにしても、瑞希どこ行ったのかしら……」

翔子(……和真もいない。やっぱり、瑞希は何か思いつめていたんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路「…………」

和真「よっ、こんなとこでなに黄昏てんだよ?」

姫路「あっ……柊君……」

 

旧校舎の屋上で一人落ち込んだ表情で佇み、遠くの空を眺めていた姫路に声をかける和真。

 

和真「うちのクラスの女子は何か思い詰めていたら屋上に行く決まりでもあんのか?ほい、これ差し入れの飲み物」

姫路「えっ……あ、その……ありがとうございます……」

 

和真は姫路の隣に立ち、途中自販機で購入しておいた青汁を差し出す。明らかにつっこみ所満載なチョイスにもかかわらず無下にできない姫路は本当に人間ができている。

 

和真「……ほれ、こっちが本命だ」

姫路「え…えっと…?」

和真「姫路よぉ、おかしいと思ったことにはおかしいって口に出して言わなきゃダメだぜ?」

 

期待していた反応ではなかったので、和真はガッカリした表情で美波に本命の差し入れであるレモンティーを手渡す。やはりこの男、冗談一つのためだけにジュース一本分の小銭を浪費することを厭わないようだ。

 

和真「それにしても没収品返却してもらわなくて良かったのかよ?写真だの抱き枕だのをよ」

姫路「……私には、その資格がありませんから」

和真「あん?どういうことだよ?」

 

観察力、洞察力に定評のある和真は当然のごとく姫路が何を悩んでるのかをなんとなく理解はしているが、美波のときと同様の理由で本人から吐き出させる方向に持っていく。

 

姫路「クラスが一丸となって頑張っていたのに……また前みたいに私は役に立てなくて、足ばかり引っ張って……私、自分が嫌いです……!役に立てないところも、迷惑ばかりかけちゃうところも……っ!こんなんじゃ……」

 

一度決壊すると堪えきれなくなったのか、ぼろぼろと姫路の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。以前の美波と同じく、触れれば壊れてしまいそうな痛ましい表情を浮かべながら。

 

和真(うわ…これ思ったより重症じゃねぇか……。ったく、役に立つだの立たないだのなんざ気にする必要無ぇのによ。現に今回の野球もクラスの大半が己のエゴのみで行動してたしな)

 

明久が美波と比べて自分と距離を取っているのではないかと姫路が悩んでたことは知っていたが、ここまで思い詰めていることは流石の和真でも予想外だった。放っておくのは幾らなんでもどうかと思うので和真は何とかメンタルケアの手段を模索する。

 

和真(こいつが抱え込んでいる内容からして、下手な慰めじゃかえって逆効果だよな……よし、あえて現実を突きつけてから活路を与えて立ち直らせるか)

 

お姫様のように周りから気遣われたり遠慮されたりすることが悩みの根幹の姫路には、むしろ厳しく接した方がうまくいくと和真は判断したようだ。

 

和真「……姫路、お前が悩んでいることはわかった。とりあえず俺から言えることは三つほどある」

姫路「……グスッ……三つ……ですか……?」

和真「まず一つ目だが……

 

自惚れてんじゃねぇよ、ボケ」

姫路「…………え?」

 

突き放すような和真の言葉に姫路は思わずフリーズする。確かに必要以上に気遣われることがコンプレックスだったのだが、ここまでアクセルを踏み込まれるのは流石に予想外だったようだ。

 

和真「最終的に実技勝負になったが途中までは召喚獣をベースにしていた。だから俺、翔子に次ぐ点数の自分が頑張らなければならなかったのに……ってのがお前の見解だろ?」

姫路「は…はい……」

和真「その時点で自惚れてるんだよ。あの大会召喚獣ベースとはいえどちらかと言えば野球センスの比重が大きいんだ。決勝でも次席の久保より優子や徹の方が厄介だっただろ?」

姫路「それは、そうですが……」

和真「そんな仕様なんだからよー、運動神経ゼロのお前を戦力にカウントしてるわけねぇだろ。だから今回お前は誰の期待も裏切っちゃいねぇよ。そもそも期待してねぇんだから」

姫路「で…でしたらなんで私をメンバーに加えたんですか!?」

和真「あん?そりゃあ申し訳程度のソウスケ対策だ。Fクラス標準レベルの点数じゃ600点前後のソウスケのストレートは絶対打てねぇことはある程度予想できていた。だけどお前点数は高いだろ?1億分の1くらいの確率でバットに当たりゃヒットにできるかもしれないから決勝でスタメンにしたんだよ。1/1億なんざダメでもともと、外れて怒る奴ぁ誰もいねぇだろ?」

姫路「うぅ……(ずぅぅううん……)」

 

最初から全然期待されていないという悲しい現実を突きつけられた姫路はやはり目に見えて落ち込み出す。メンタルをバッキバキに砕いてしまったがここまでは予定通りだったりする。

 

和真「そして二つ目だがよ……姫路お前、『ウサギとカメ』の童話は当然知ってるよな?」

姫路「…ふぇ?は、はい。知ってますけど……」

和真「童話っつうのは読者への教訓になっていることが多い。『舌切り雀』なら『欲張るのはやめよう』って感じにな。それで姫路、あの童話の教訓は何だと思う?」

姫路「それは……努力すれば-」

和真「はいブブー」

 

食い気味に姫路の答えに不正解を突きつける和真。

 

姫路「ま、まだ言い終わってないのに……」

和真「カメに焦点を当てている時点で不正解だ。あの話はよ、諦めずに走り切ったカメを称賛すべきではなく、格下と思って油断したウサギを非難する話なんだよ」

 

事実、明治時代に『ウサギとカメ』のタイトルが教科書に記載されたときのタイトルは『油断大敵』だったらしい。

 

和真「カメは何も凄くねぇんだ。足をすくわれるほど油断しまくったようなマヌケなウサギなんぞに、勝ったところで何の自慢にもならねぇよ」

姫路「そ…それはそうですけど……」

和真「そして俺から言わせればカメもマヌケだ」

姫路「えぇっ!?ど、どうしてですか!?」

和真「勝つか負けるかを相手が慢心するか否かに委ねるような勝負ふっかけてんじゃねぇよ。んなもん相手のミスを期待する甘ったれの施行だ。それで勝ったとしても相手が自滅しただけで、何一つ誇れねぇだろうが」

 

確かに和真の言う通り、勝てたのはそのウサギがド三流だったからのなにものでもなく、一流のウサギを相手にすれば話にならないレベルの大敗を喫していただろう。

 

和真「……ここからが本題だ。いいか、この童話で例えると、お前はカメだ」

姫路「か…!?確かに私はノロマですけど……(ずぅぅううん……)」

和真「例えだっつってんだろ……お前がスポーツ関連で誰かに挑むことはな、カメがウサギにかけっこで勝負を挑むようなもんだ。しかも一切油断なんざ期待できない一流のウサギにだ」

姫路「は…はぁ……」

和真「俺から言わせれば愚行にもほどがある。わざわざ相手の得意分野で勝負してやる必要なんざねぇだろ?カメの強みは何だと思う」

姫路「へ?……甲羅が固いこと。ですか?」

和真「そうだよ、カメの強みはその耐久力。殴り合いとかならウサギに勝てるだろ?そして姫路、運動神経ゼロのお前だが……お前には4500点オーバーの点数があんだろうが」

姫路「……っ!」

和真「今回はお前の長所を発揮できる戦場じゃなかったってことだ。お前の戦場は当然、もうすぐ解禁される試験召喚戦争だろ。だからよ姫路、」

 

そこで一端言葉を切り、和真は姫路の両肩に手を置いて姫路の眼をまっすぐ見据える。

 

和真「点数でも操作技術でも『オーバークロック』でも良い、試召戦争までに久保を必ず倒せるように腕を磨いておけ。お前が明久を守れるくらい強くなりてぇならな」

姫路「!……はいっ!わかりました!」

 

力強く返事をした姫路の表情に数刻前の弱々しさは少しもなかった。

 

和真「良い返事だ。姫路、力の無さを痛感したときはメソメソ落ち込むじゃなくてじっくり考えることだ。どうして力が足りないのか?改善するのはどうすれば良いのか?自分の強みで勝負できていたか?ってな。そうすりゃきっと根気強いお前なら道を開ける……それが三つ目だぜ、それじゃあな」

姫路「……柊君!」

 

 

カウンセリングを終えたと判断し、そう言い残し屋上から出ていこうとする和真を姫路が呼び止める。

 

和真「どうした?」

姫路「約束します……試召戦争までに、今よりずっと強くなってみせますから!」

和真「……そうかい、期待しておく」

 

満足そうに笑ってから、和真は屋上を後にした。

 

姫路(もう迷わない。今まで私は明久君に…皆に守られてきた。だから私は……皆を守れるくらい強くなってみせる!

久保君……今度は負けませんよ?)

 

 

 

 

 




【アクティブ古今東西ランキング(料理)】

①蒼介……文句なしのぶっちぎりトップ。その腕前は既にプロの域。

②源太……かつてはからっきしだったが血の滲むような特訓の末、明久レベルにまで進化した。

③飛鳥……名家出身なだけあって一通りこなせる。

④優子……かつての見栄っ張り属性の副産物。

⑤愛子……女子としては平均レベル

⑥徹……お菓子作り限定なら源太以上。

⑦和真……料理下手というわけではなく、単純に興味が無い。才能の塊のため興味を持ち出したら確実に上位に食い込んでくるだろうが。



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第七巻終了

【アクティブ古今東西ランキング(歌唱力)】

①愛子……中の人が中の人なのでプロ並。

②徹……研鑽を積めばその道で食べていけるレベル。

③蒼介……本人の容姿を加味すれば、歌うだけで異性を口説き落とせるレベル。堅物でホント良かった。

③和真……生まれつき声域が広いため幅広いジャンルをこなせる。本人がその気になれば声帯模写も多分習得できる。

⑤飛鳥……かなり上手いが本人曰く、昔は下手だったらしい。音楽でも努力の人。

~越えられない壁~

⑥源太……声域はまあまあ、声量もかなりのものだが声質はハッキリ言って微妙。下の上、と言ったところだろうか。

⑦優子……貫禄の公式設定。



お得意の舌先三寸で姫路のメンタルケアを終えた和真は校門で優子と合流して、いつものように二人で下校していた(『アクティブ』の活動は流石に自粛した)。

 

和真「…とまあ、そういう感じに姫路を立ち直らせたわけだ。まったく、デリケートな仕事は全部俺担当だぜ……」 

優子「……あの、和真?それアタシに言って良かったの?Aクラス副官という立場上、そんなこと聞いちゃったら代表に伝えなくちゃならないんだけど……」

 

この男、姫路のプライバシーにかかわる部分はしっかり伏せたにもかかわらず、久保に照準を定めさせたことはおかまいなしに洗いざらいぶちまけたのである。しかし優子が恐る恐る確認する一方で当の和真は特に気にした様子は見られない。

 

和真「どっちみち隠し通せやしねぇよ。なんせ、大規模な召喚大会が近々行われるんだからな」

優子「え、そうなの?初耳なんだけど」

和真「そりゃそうだろうな。このことを知っているのは文月のスポンサーである四大企業の重役、学園長のばーさん及び学年主任のみという、まさに超極秘情報だからな」

優子「いやちょっと待ちなさい!?そんな機密情報をなんでアンタが知ってるのよ!?」

和真「さぁてね。そうだな……俺独自の情報ルートがある、とでも言っておこうか」

優子「なによその投げ遣りな返答……まぁいいわ。それより、そんな機密情報をアタシにバラしてよかったの?」

和真「知らねぇ」

優子「相変わらず行き当たりばったりねアンタは……!」

 

ちなみにこの情報は綾倉先生から仕入れた情報だったりする。同属性なだけあって二人とも箝口令などお構い無しである。平気で危ない橋を渡りまくる和真が心配なのか、優子はお説教モードに移行する。

 

優子「アンタ頭良いんだからもう少し考えて行動しなさいよ!心配するでしょ!主にアタシが!」

和真「失礼な、俺はちゃんとじっくり考えて行動してるぜ。そう…どうすればより愉快な状況に持っていけるかをな!」

優子「ああ、ダメだこの子……思考回路が完全に無法者のそれだわ……」

和真「そういうお前だって今日ソウスケの指示無視して打ちにきてたじゃねぇか。良いのかな~?優等生様が独断でスタンドプレーに走っちゃって」

優子「あ…あれは……打ったから良いのよ!」

和真「そういうのをさぁ、結果論って言うんだぜお嬢ちゃ~ん♪」

優子「(カチン)…………はむっ」

和真「ふにゃぁっ!?……い、いきなりにゃにを…」

 

煽りスキル全開の和真の言動に流石にイラッときたのか、隙をついて和真の耳たぶを甘噛みする優子。

 

優子「この前も言ったでしょ?意地悪な子にはおしおきしちゃうって」

和真「き、汚ねぇぞ優子!?口喧嘩じゃ勝てねぇからって実力行使かよ!」

優子「何とでも言いなさい♪(ハムハムハムハムハム…)」

和真「ひゃぁあっ!?み、耳はヤメロォォォ!」

 

あれよあれよと言う間に追い詰められていく和真。その圧倒的なスペックのせいで周りから何かと誤解されがちだがこの男、弱点が無さそうに見えて実は弱点だらけである。例えば今の光景から耳が弱いことがわかるが、他にも脇・首筋・足裏などメジャーな箇所は全て人一倍敏感である。ちなみに優子は付き合ってまだ数ヵ月にもかかわらず、和真の敏感な部分を全て把握している。

 

和真「ゆ、優子やめっ…ひゃっ…わかった悪かった!俺が悪かったから!」

優子「んー?反省の色が見えない見えないなぁ。よって続行♪(ハムハムハム…)」

和真「うひゃぁああっ!?ごめっ…ごめんなさい許してぇぇえええ!」

優子「よろしい♪(ピタッ)」

和真「…え?」

 

くすぐったさに耐えきれず白旗を上げた和真に満足したのか耳元から離れる優子。解放された和真はというと何故か肩透かしを食らったような表情に。

 

優子「ん?どうしたのよ和真?(ニコニコ)」

和真「あー……なんつうか、思ったよりあっさりだったからちょっと拍子抜けと言うか……」

優子「なぁに?もしかして……もってして欲しいの?」

和真「…………………………………………(コクコク)」

 

割と長い間を取ってから無言で頷く和真。やや苦虫を噛み潰した表情ながらも頬や耳元は心無しか赤く染まっている。

話を戻すが、何故和真は見ての通り弱点が意外と多いのにほとんどの人に無敵だと錯覚させるのか?その理由は単純明快、それらの弱点を突こうにも突けないからだ。ずば抜けた身体能力に反射神経、理不尽の権化のような“天性の直感”……それら全てを駆使する和真に格下が付け入る隙など存在しない。先ほどの優子の耳責めも二人の膂力には絶対的な差があるのだから逃れようと思えば逃れられた筈であるし、本気で嫌がっていれば直感で察知できた筈である。合宿のときと違い今回は甘んじて受け入れる義理も特に無いのにそれをしなかったということは……まあ、そういうことなんだろう。

 

優子「あぁもう可愛いわねこの甘えんぼさん♪(ギュッ)よしよし察してあげなくてごめんねおーよしよし…(ナデナデナデナデ…)」

和真「だぁあああっ!?オイコラやめろっ、ムツ○ロウさんみてぇな可愛がり方すんじゃねぇよ!」

 

母性本能が天元突破した優子が和真を抱き寄せて猫可愛がりしたり甘噛みしたり和真も甘噛みで反撃し始めたりその他色々見ているだけで糖尿病になりそうなほど甘ったるい時間を過ごすこと約三十分後…

 

和真「…………」

優子「…………」

 

やたら重苦しい空気で下校を再開していた。二人とも顔色にトマトみたいにしつつ「やってしまった……」というような表情を浮かべていた。

 

和真(……バカか?……バカか俺は!?

もしドラゴンボールがこの場にそろってたらタイムスリップして三十分前の俺を全力で蹴り飛ばしてやりてぇ!)

優子(あぁぁあぁぁぁああぁぁあああああ!やっちゃったぁぁあああ!何やってんのアタシ!?今下校中よ!?幸い誰もいなかったから良かったものの危なかったぁっ!少しは時と場合を考えなさいよ!)

((というか恥ずかしくてさっきから顔向けられない……どうしよ……))

 

一時のテンションに身をまかせるとロクなことにならない。また一つ賢くなった二人はとてつもなく気まずい空気のまま歩き続けるが、早くもその空気に耐えられなくなった優子が話題を切り出す。

 

優子「……そ、そういえば和真!もうすぐ試召戦争が解禁されるけど、やっぱりアタシ達Aクラスに宣戦布告するの?」

和真「あ、ああ。最終目的は当然打倒Aクラスに変わりはねぇが、宣戦布告するのは十中八九まだ先だ。今のところ勝ちの目が無ぇからな」

優子「……アンタにしては随分弱気な発言ね。確かにAクラスとFクラスの戦力差は大きいとは思うけど…」

和真「それ以前の問題だ。そういう戦力の差は雄二に何とかさせるとしてもだ……現状では、ソウスケを討ち取る手段が無ぇ」

優子「あぁ、そういうことね……」

 

学年首席・鳳蒼介…文月学園唯一のランクアップ腕輪能力の使い手。彼を倒すには佐伯梓のように腕輪能力を使用不可能にするか、こちらも腕輪能力をランクアップさせるしか方法は無い。現状『青銅の腕輪』を手に入れる手段は無いため、和真は一学期からランクアップを目指して勉学に打ち込んでいるのだが…

 

和真「前まではランクアップさえできれば操作技術のアドバンテージを活かして押しきれたんだが、まさか夏休みの間に明久や俺に次ぐレベルで操作技術を向上させてくるたぁな。それに“明鏡止水”……高校生の内に踏み込むのは流石に予想外だったぜ」

優子「それって……アンタの最後の打席のときの状態?やっぱりアレ、凄いの?」

和真「アイツの父親の秀介さんでも20代後半になってようやく完成させられたことを考えると、ハッキリ言って早すぎる。ったく、これだから才能マンは……」

優子(アンタ人のこと言えないでしょ……)

和真「秀介さんによると一度踏み込んでから完全にものにするまで早くても一年はかかるらしいが……楽観視はできねぇよなぁ……」

 

到達スピードからして歴代でもぶっちぎりで最速なんだから、丸々一年は大丈夫であると楽観視できることではない。

 

優子「改めて考えると、まるで付け入る隙がないわね……でも、アンタのことだから対抗する手段はあるんでしょ?」

和真「まぁな。正直不本意だが、“明鏡止水”が相手となると選り好みする余裕はねぇし」

優子「……そっ。まあいつでもかかってきなさい。アタシ達は真っ向から挑戦を受け止めるから」

和真「オイオイ……そんな余裕な態度取ってっけどよ、雄二は十中八九翔子をお前にあてがうだろうぜ」

優子「……え?」

和真「え、じゃねぇよ。ソウスケには俺、久保には姫路となると、順当に考えるとお前には翔子だろうがよ。……優子、期末で大差ついたとはいえ長いこと俺の上にいたんだ、前みたいなしょうもない闘いだけはすんじゃねぇぞ」

 

四月に翔子が一瞬でケリをつけた光景を示唆しつつケラケラと笑いながら申し訳程度の叱咤激励を飛ばす和真だが、もうすこし言葉のチョイスを考えるべきだったかもしれない。

 

優子「……そうだった。あのときの借り。まだ返してなかったわね」

和真(……あ、やべ。強化フラグ回収しちまった?)

優子「そうと決まればモタモタしてられないわね!Fクラスが宣戦布告してくるまでに、さらに研鑽を積まなくちゃ!(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)」

和真(スマン雄二、つい『負けず嫌いスイッチ』押しちまった……まぁいいや、俺知ーらね♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後優子と別れて和真は自宅に着いた。和真がドアを開けて家の中に入り奥へ進むと、日本人離れした身長と体格の野獣の如き男……父親の柊守那(ヒイラギ カミナ)と遭遇する。

 

守那「おお!帰ったか和真よ!

まずは一杯、飲もうじゃないか!」

和真「未成年だっつの……ただいま」

守那「む!どうしたのだ和真!いつもなら開口一番クソ親父だの何だの罵倒していただろう!」

和真「…………あのよ、親父」

守那「む!」

 

 

 

和真「教えてくれよ……“気炎万丈の境地”に至るにはどうしたらいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって場所は文月学園生徒会室。このやや狭い教室にまた、学園長及び三人の学年主任、そして世界を代表する重役達が集っていた。  

 

“鳳財閥”のトップ・鳳秀介。

 

“橘社”のトップ・橘大吾……の嫡男・橘光輝。

 

“御門エンタープライズ”のトップ・御門空雅……から説明もなく知らない内に社長の座を押し付けられていた稀代の苦労人・桐生舞。

 

“桐谷グループ”トップ・桐谷蓮……が行方不明のため社長代理を勤めている長身の男、三年の宮阪杏里の父である宮阪桃里(ミヤサカ トウリ)。

 

秀介「いやはや、なんだか私が仲間外れみたいですねぇ。私も藍華蒼介に代役を頼むべきだったでしょうかね?」

御門「あー、そうなんじゃねーの?おめーよりずっとしっかりしてそうだしな」

秀介「おや、それは中々手厳しい意見」

光輝「あ、あはは……」

 

扇子を開いて無駄に優雅に振る舞う秀介に思わずひきつった笑みを向ける光輝。

ちなみにこの男、今回も例の如く道に迷って校舎内を右往左往していた所をたまたま光輝と遭遇して引率されたことでどうにか遅刻を免れることができたというプチエピソードがある。ちなみに御門が言ったしっかりしている云々の辺りで社長の椅子を押し付けられた桐生が涙目でキッと睨めつけたのだが、とうの御門は知らん顔で副流を撒き散らしている。

 

学園長「楽しそうなとこ悪いけどねぇ、ムダ話している暇は無いんだよアンタら」

高橋「それでは私の方から今回の会議の方針をご説明致します。今回の主なテーマは、三週間前に迫った今期最大のプロジェクト、サモン・ビースト・フェスティバル……S・B・Fの最終打ち合わせとなります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高橋「…それでは、以上で今回の会議は終了致します」

 

高橋先生がそう告げると桃里、光輝、秀介、学園長、綾倉先生はさっさと生徒会室から出ていき、高橋先生もすぐに教室を後にした。よって、その場に残ったのは御門と桐生の二人のみ。御門はコンポタを飲みながらゲッソリとやつれている桐生に近づいて声をかける。

 

御門「おーどうしたキュウリ?隈凄いけど最近ちゃんと寝てんのか?」

桐生「桐生です。お陰様でここ最近はほとんど寝てませんよ♪…………どっかの誰かさんのせいでねぇぇぇえええええ!」

 

一度不自然なほどの満面の笑みを向けた後、溜まっていた不満が爆発したのか号泣しながら御門に食ってかかる桐生。全身から怨みのこもったオーラが出てるのではないかというほどの迫力だが、やはり御門は平然としたままコンポタをすすっている。

 

桐生「ひどいじゃないですか先輩!!私に断りもなく社長の座を押し付けてさっさと退社しちゃうなんて!おかげで私は……私はぁぁあああ……!」

御門「んだよ、そんな怒ることねーだろキュウリ」

桐生「キ・リ・ュ・ウ・で・す!!!」

 

御門としては予想外のキレっぷりだが桐生がここまで怒るのは至極当然である。何故なら彼女が現在仕事に忙殺されているのは、慣れない社長業に四苦八苦しているというのもあるが、最大の理由は御門が辞めたことだったりする。サボりまくる上残業は頑なに拒否するようなダメ人間ではあるが、その一方で群を抜いて仕事ができるのも御門だったのだ。

 

御門「だいたいお前も頭が固いな、そんなに辛いなら“御門”なんて潰しちまえよ」

桐生「そういうわけにはいきませんよ……四代企業の一角が潰れたりしたら、下手をすれば世界恐慌の引き金になっちゃうじゃないですか」

御門「だったらおめーも誰かに押し付けちまえよ。だいたいだなキュウリ、煙草とコンポタと二度寝をこよなく愛するTHE庶民派の俺に大企業の社長なんざ向いてねーって何度も言っただろうが」

桐生「桐生ですってば!ホントにこの人は…………先輩、まだあの事件の犯人を追っているんですか?」

御門「……だったらどうした?」

 

呆れたような表情から一転、桐生は不安そうな表情で問いかけるも、御門は眉一つ動かさずに素っ気なく返答する。

 

桐生「……前にも言ったでしょう?あなたにもしものことがあれば、私や玲がどれだけ悲しむと思ってるんですか!」

御門「前にも言ったはずだ、俺に関わるとロクなことにならねーから放っておけってな。……これ以上おめーに話すことは無いから帰らせてもらう。じゃあな桐生社長、大変だろうけど応援してるぜ」

 

そう言い残して御門は生徒会室を後にする。桐生に呼び止められても足を止めることはとうとう無かった。

 

 

 

 

 

桐生「…………………………先輩の、バカ」

 

一人残された生徒会で、桐生は人知れず涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮阪桃里は『桐谷サイバーシティ』に帰還し、中枢である『バベルタワー』最上階の社長室からとある相手に電話をかける。学園を出てすぐにかけるつもりだったのだが監視されていることに気づいたためわざわざここまで避難してきたのだ。おそらくは“桐谷”に疑惑を向けている御門の手の者だろうが、誰であろうと部外者がこの部屋に立ち入ることはできやしない。そして盗聴器の類いもある理由で注意する必要すらない。

 

Prrrr……ピッ

 

『やっほーベル君♪連絡遅かったねぇ?』

桃里「仕方ねぇだろボス…うぜぇ奴らにつけられてたんだからよー(; ̄д ̄)」

 

桃里……いや、電話の相手曰くベルはかなり疲れたような表情で愚痴る。どうやらよほどしつこく追い回されたらしい。

 

ベル「だいたいだなボス、なんでバリバリ戦闘タイプのこの俺がこんなつまんねぇ役回りなんだよ?こういうのはダゴンの仕事じゃねぇのか?(;¬_¬) 」

『確かにあの場の全員洗脳できればそれでも良かったんだけどねぇ……ほら、彼女の能力…“玉”の人間には通用しないじゃん?』

ベル「そういやそんな制限あったな……ゴライアスは知能低いからぜってぇ無理だし……てことは、俺しばらくこのオッサンを演じなきゃなんねぇのかよ……(;一ω一||)」

『他に適役がいないんだから我慢してくれたまえ♪それに君に相応しい器も決まったしね』

ベル「なにぃっ!?本当かボス!?Σ(゜Д゜)」

 

心底怠そうな表情から一転、兎を見つけた猟犬のように目を見開いて電話に食ってかかるベル。

 

 

 

 

 

 

 

『今日の会議にいた桐生って子いたでしょ?あのどことなく幸薄そうな眼鏡の子。彼女は“玉”ではないけど、限りなく“玉”に近い資質を秘めている。ダゴンが洗脳できる人間で考えると、これ以上無いほどの適任だよ♪』

ベル「なるほど、あの女か。ククッ…幸薄そうってだけあって災難だな。よし、そうと決まったら機を見て拉致るかΨ(`▽´)Ψ」

『そうだね、あの大会の後ぐらいが理想的かな?……さて、それじゃ僕は用事があるからこの辺で♪』

ベル「用事?いったい何すんだよ?(・_・?)」

『なぁに、我々のことを嗅ぎ回っている子にちょっとしたプレゼント……という名の悪戯をね♪』

ベル「ホント良い性格してんなアンタ……(-。ー;)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生と喧嘩別れした御門は、いつものように河原で一服して寛いでいた。そんな中、突然御門の携帯に一通のメールが届く。

 

御門(あ?差出人不明………っ…これは!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Message From ???】

 

君に私が解るかな?

 

・(A=1)606,615,153

 

・C+M+Y=? 

 

p.s.君にアドラメレクは倒せないよ。

 

 

 

 




蒼介「第七巻も無事終了したな」

和真「原作準拠なのはここまで、次の章からは完全オリジナルストーリーになるぜ。まあ召喚獣の装備変更シーンとか、原作に沿った部分もちらほらあるけどな」

飛鳥「それで、どうして八巻以降は原作から外れるの?あ、今回のゲストはこの私、橘飛鳥ね」

蒼介「例えば原作だと八、九巻で対Cクラスなのだが……Fクラスの戦力が原作より大幅に上昇したことや、高城先輩が入れ知恵してくれないこともあって、話の作りようが無い」

飛鳥「戦力アップはともかく、なんで高城先輩は介入してこないの?」

和真「高城先輩が二年の試召戦争に首突っ込んで来たのは姫路を自分のものにするためだろ?そして姫路に惚れたのは今巻の野球大会がきっかけだ。ところがこの作品では姫路の出番は特に無かった。まあつまりだ、フラグが立ってねぇんだよ」

蒼介「高城先輩が介入してこない以上、11~12巻も話が作れない。そして10巻のAクラス戦だが……言わなくてもわかるな?」

飛鳥「まあこんだけ面子が変わっちゃうと、一から作った方が良いわね……」

和真「ということで次からはオリジナルストーリーだ。……またストックが無くなったので次の更新は10日後になるから、そこんところご了承願いやす」

蒼介「……ところで、最後に出てきた暗号だが、もし答えがわかった人は、この後作者の活動報告のページに『黒幕は誰だ?』という項目を追加しておくのでそこに返信してきてくれ」

和真「間違っても感想欄に送ってきちゃダメだぞ。規約に引っ掛かっちゃうからな」

飛鳥「でもこの暗号……解ける人いるの?」

蒼介「ノーヒントで完璧に解けた人は知識、発想力、計算力全てに秀でた紛れもない天才と言っていいだろうが、答えを推測するだけなら半分ほど解ければそれで十分だったりする。……さて、そろそろ時間だな。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「じゃあな~」
 





※オマケ

和真「宮阪先輩の父・桃里さん(実際は偽者だの)の特徴は娘に似てとんでもない長身ってことだ」

飛鳥「具体的には?」

和真「190後半ぐらいのイメージだ」

蒼介「ふむ……非常に高いのだが、守那さんより低いせいでイマイチパッとしないな」

和真「ぶっちゃけ今のところチョイ役だからインパクト強くてもなぁ……」

飛鳥「というかそもそも、桃里さん本人まだ出てきてないしね……」



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オリジナル第二章・試召戦争解禁

【バカテスト・英語】

次の文を読み、空欄に文脈に沿った英文を入れなさい。

He is very diligent student.
However, he submitted the answer sheet no filling in of the examinaton.
The classmates had seen it said()


姫路の答え
『Why did he do such a thing?』

蒼介「正解だ。前の文章も含めて訳すと『彼はとても勤勉な生徒です。しかしながら、彼はテストの解答用紙を無回答で提出しました。それを見たクラスメイトたちは「何故彼はそんなことをしたのだろうと」と言いました』となる」


明久の答え
『Yesh!Let's party!!』

蒼介「何故この文脈で楽しげにパーティーを開くことになるんだ」


ムッツリーニの答え
『Oh......Let's party......』

蒼介「だからと言って哀しげであれば良いわけじゃない」


源太の答え
『Merlin's beard』

蒼介「いつからお前は魔法使いになったんだ……」





「……雄二」

「ん?」

「……明後日から試召戦争が解禁されるけど、Aクラスにはいつ攻め込むの?」

「…………解禁日すぐにでもと言いたいところだが、正直現状では勝ち目が無さすぎて宣戦布告の目処は今の所まだたってねぇ。和真が体育祭の後の補充試験で手応えあったらしいから、もしランクアップしていたらようやく勝ち目が見えてくるってレベルだ」

「……でも今の鳳に勝つには多分、ランクアップだけじゃ足りない」

「だろうな。……まあ和真曰く対抗手段にアテがあるらしいからそこは心配ない。アイツは気休めとかは言わない奴だ」

「……ごめんなさい。私はちょっと伸び悩んでランクアップはまだできそうにない」

「あんまり気にする必要はないぞ。全教科500点以上なんていくらお前でもそう簡単に取れるもんじゃないからな」

「……私は頑張らなくちゃいけないから、雄二の妻として」

「そこはFクラスの一員として頑張ってくれ」

「……この子の為にも」

「愛おしげに腹に手を当てるな!子供なんているわけがないだろうが!」

「……お父さんは冷たいね、しょうゆ」

「まるで俺が子供を認めない極悪非道の男のように!?あとその名前はやめておけと言ったはずだ!」

「……じゃあ今夜は、雄二の部屋で子供の名前を一緒に考える」

「待て!会話の流れが色々とおかしいだろ!」

「……雄二は現国が苦手だから」

「違う!確かに期末は秀吉の謎の覚醒に気を取られて微妙な点数だったが何語を使っていても今の会話自体がおかしいことに変わりはねぇ!」

「……雄二は冷たい」

「いや。ここまでこのアホらしい会話に付き合っているなんて、自分では相当優しいと思うんだが……。それで、今度はなんでそんなことを言いだしたんだ?家で何か嫌な事でもあんのか?」

「……ううん、ないけど」

「じゃあなんで……」

「……この前キスしたから子供も出来るだろうし、もっと進展したいと思って」

「★の※っ△■♪ぺ◎に〒●ゃっ!?!?!?」

「……落ち着いて雄二。本当に国語が不自由になってる」

「アホか!?デコにキスしたくらいで子供が出来るなら、和真達なんかもう完全に手遅れだろうが!お前はもうちょっと常識ってモンを勉強してこい!」

「…………………はぁ………………」

「テメェ……なんだその『このバカ、何もわかってないわ』って感じの溜息は……!」

「……実際に何もわかっていない雄二に一つ大事なことを教えてあげる」

「ほほぅ。言ってみろ」

「……世の中には、“想像妊娠”という言葉がある」

「違うからな!?それ胸を張って言えるような立派な言葉じゃないからな!?愛の力で何もしてないのに子供ができたって感じの美談じゃないからな!?」

「………………」

「おいどうした。なぜ黙り込む」

「……やっぱり、同棲して既成事実を作るしか……」

「待ってくれ。話し合おう翔子」

「……子供の名前を?」

「いや違う。お前の入れるべき病院についてだ」

「……嬉しい」

「こ、コイツ……!完全に産婦人科のことだと勘違いしてやがる……!だいたい翔子、強化合宿のときに学生でいる内には結婚云々の話は進めないって約束しただろうが」

「………………………………………………。……うん、今までのはちょっとした冗談」

「嘘つけぇぇえええ!?なんだその間は!?明らかに本気だっただろうが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真(ヘロイン……モルヒネから合成される薬物で、麻酔性及び依存性はきわめて高い。多幸感をもたらす一方、倦怠感、悪心、嘔吐などの副作用がある。離脱症状は筋肉や関節に激痛が走り悪寒や下痢に見舞われるなど激しいもので、これらの症状は短期間の使用でも現われる。日本では1960年代に乱用が増加し、「麻薬及び向精神薬取締法」で禁止されている。鼻からの吸引、注射、あぶりなどで摂取する。この薬物の有名な事件は…)

 

月曜日の朝、和真は綾倉先生から譲ってもらったハイレベル教材『エキスパート・ラーニング(保健体育)』を熟読しながら登校していた。某クラス及び某ムッツリのせいで「保健体育=エロい」という定義が完全に定着しつつあるが何もそれだけが保健体育ではない。公害、飲酒・喫煙・薬物乱用といった内容も含まれているし、当然テストにも出題されている。ちなみに保健体育のエキスパート二名はそういった問題をどうしているのか以前和真が聞いたところ、愛子は普通に解いていたがムッツリーニはなんと無回答だそうだ。性知識のみの問題だけであれだけの点数を叩き出す彼は、ある意味綾倉先生以上の才能の持ち主なのかもしれない。

それはさておき、そうこうしている内に和真は文月学園に着く。校門で挨拶運動を行っていた我らがFクラス担任の鉄人が和真に気づいて話しかける。

 

鉄人「おう柊、朝から随分と勉強熱心だな」

和真「そりゃあな。もうすぐ試召戦争が解禁されるってのもあるけど、野球大会の後で受けた補充試験があんな結果だと、な」

鉄人「……なるほど、それについては俺も聞いている。確かにあの結果は非常に惜しかったな」

 

納得したように鉄人が頷く。スポーツ狂いの和真が『アクティブ』の朝の活動も返上して勉学に打ち込んでいるのはそれ相応の理由があるらしい。

 

鉄人「しかし、お前がここまで勤勉になるとは俺も予想外だ。去年までのお前は成績はともかく、とても勉強熱心とは言えない生徒だったのにな」

和真「そりゃ去年は試召戦争が無かったからな。テストってのは本来誰かと比べるもんじゃなくて、自分の学力がどの程度なのかを確認するもんだろ?」

鉄人「ああ、その通りだ」

和真「つまりテストは決して闘いや勝負じゃねぇ。……だが試召戦争となると話は別、テストは優劣を競う闘いになる。闘いだったら俺は絶対負けたくねぇ。そのためには嫌いなデスクワークにも熱心に取り組むし、クソ親父に頭下げることも厭わねぇよ」

鉄人「そこまでか……。まったくお前は、筋金入りの負けず嫌いだな」

 

まあ、こんなこと言いつつ頭は下げていないあたりちゃっかりした性格である和真だった。ちなみに父・守那は和真の頼みを快く引き受けたものの、色々と準備に一週間ほどかかるらしい。

 

和真「じゃあな西村センセ、また教室で」

鉄人「ああ。……俺もクラスの担任として、お前達の努力が報われることを祈っているぞ」

和真「そういうセリフを明久達にもいってやりゃ、もう少し関係がマシになると思うんだがねぇ……」

鉄人「バカを言うな。十中八九アイツらを調子に乗らせるだけだろう」

和真(やれやれ、どっちも不器用だこと……)

 

色々と損な性格の友人と恩師に肩を竦めつつ、和真はFクラス教室へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍しくこれといった騒ぎもなくHRも午前の授業もつつがなく終わり、Fクラスのいつものメンバーが明久の席の周りに集まっていた。どういうわけかこのメンバーが教室で集まるときは決まって明久の席の周りになる。どうやら明久は日頃の扱いの割に和真や蒼介のように人を惹き付ける才覚があるらしい。日頃の扱いはマジでアレだが。

 

雄二「んじゃ、いつものいくか。……最初はグー、じゃんけん」

「「「ほいっ」」」

 

ムッツリーニがチョキ、その他は全員グーを出していた。参加メンバーは8人なので一発で一人負けする確率は8/2187と、今日のムッツリーニはかなりツイてないようだ。

 

ムッツリーニ「……むぅ…………」

雄二「一発で決まるとは珍しいな。俺はウーロン茶で」

翔子「……私もウーロン茶」

秀吉「ワシは緑茶じゃな」

明久「僕はレモンスカッシュね」

和真「俺はレモンティーな」

美波「ウチはミルクティーで」

姫路「すいません。私はストレートティーをお願いします」

 

全員で百円玉をムッツリーニに手渡す。

 

ムッツリーニ「……行ってくる」

 

小銭を受け取ると、ムッツリーニは一人でジュースを買いに購買へと向かっていった。パシリのジャンケンは昼休みの恒例行事となっている。

 

雄二「あー腹減った」

 

包を解いて弁当を広げる雄二にならい、他の皆も昼食を卓袱台の上に広げた。ちなみに互いに気を遣うのでパシリに行っている人は待たないのがルールである。

 

明久「ねえ雄二。明後日から試召戦争が解禁されるけどAクラスにはいつ宣戦布告するの?」

雄二「今のところAクラスに攻めこむ気は無い。当面の予定は後顧の憂いを絶つためにC・Bクラスを落とすことだ」

明久「む。意外だね。解禁後即奇襲をしかけると思ってたのに」

雄二「勝ち目の無い特攻は玉砕でしかないからな」

美波「何よ坂本。いつも自信満々なアンタにしては随分と弱腰じゃない」

秀吉「そうじゃな、雄二らしくないぞい」

雄二「別に弱腰にはなってねぇ、100%不可能だと断言できるってだけだ。逆に聞くがお前ら、今の戦力でどうやって鳳を討ち取れる?」

「「「…………」」」

和真「ま、無理だろうな」

 

一同は揃って閉口し、雄二以上の負けず嫌いである和真さえも不可能だと断言する。Fクラスは蒼介の強さの片鱗を二度目の当たりにしたが、そのどちらもが度肝を抜く内容であった。

一度目は四月の試召戦争にて、点数で勝るムッツリーニを圧倒的な実力で捩じ伏せた。Cクラスにも猛威を奮ったランクアップ腕輪能力は今も脳裏に焼き付いていることだろう。

二度目はつい先日の野球大会で、和真以外のFクラス主力達を手も足も出させずに圧倒した。挙げ句の果てには“明鏡止水の境地”に至り、スポーツ方面では向かうところ敵無し状態であった和真にすら真っ向勝負の末競り勝った。

それらを踏まえるとどう甘く見積もったとしても、少なくともこちらもランクアップ能力を持った人間がいないと話にもならない。そしてFクラスでランクアップの可能性がありそうな生徒と言えば……

 

明久「そう言えば和真、霧島さん、姫路さん。野球大会の後に補充試験があったけど、どうだった?」

 

そこまで考えが至った明久が、ランクアップに至る可能性のある可能性のある三人に確認を捕る。

 

姫路「すみません、前よりちょっとしかアップしてませんでした……」

翔子「……私も、全教科500点以上となると……」

和真「俺はあと一教科だな」

「「「マジで!?」」」

 

和真の衝撃のカミングアウトに一同は目をひんむいて驚愕の表情を浮かべる。そんな彼らを面白そうに見回しつつ、和真はいつもの不敵な笑みを浮かべる。

 

和真「夏休みの間にレベルアップしたのは、何も明久だけじゃねぇってことだ」

明久「いや、いくらなんでもアップし過ぎでしょ!?……そ、それで残りの一教科って……?」

和真「何を隠そう保健体育だ。

あと24点足りなかった」

美波「いや、もう少しじゃない!?」

和真「土日を潰して全力で再復習してきたから今日の放課後にもう一度受けるつもりだ。500越える可能性は十分ある」

雄二「でかした和真!これでやっと勝ちの目が見えて来たぞ!よし、今すぐ作戦の練り直しだ!」

和真「いや待て雄二。まだいくつか-」

ムッツリーニ「……ただいま」

 

意気込む雄二に向かって和真が何かを言いかけたところで、

ジュースの缶を両手に抱えてムッツリーニが戻ってきた。

 

雄二「お。随分と時間がかかったな。購買が混んで立たのか?」

 

ムッツリーニが手渡すウーロン茶を受け取りながら雄二が尋ねる。確かに何事も迅速果断の彼にしては遅すぎると明久達も首を捻る。

 

ムッツリーニ「……途中で相談を受けていた」

明久「相談って-」

 

誰から?と明久が言い切る前に、とある人物がやってきた。肩にかからない程度で切り揃えられた髪とクールな表情。腕を組んで畳に座っている和真達を見下ろすように、Cクラス代表の小山優香がムッツリーニの隣に並んだ。

 

小山「いいわ土屋君。私から直接話すから。……こんにちは、Fクラスの皆さん」

 

 

 

 




和真「さて、今巻からはオリジナル展開で進めると言ったな。あれは嘘だ」

蒼介「カズマ、遊ぶな」

和真「まあつっても一緒なのは導入だけだから、あながち嘘ってわけでもないがな」

蒼介「実を言うとC・Bクラス戦は、所謂『自立型召喚獣騒動』解決後にする予定だったんだが……」

和真「色々と日程を調整していると今やっといた方が都合が良くてな、前倒しで捩じ込んだんだよ」

蒼介「というわけで今章は『C・Bクラス討伐編+α』だ。……まあそれはそうとカズマ、お前随分と強化されたな」

和真「まあな。つっても突然のテコ入れってわけじゃなくて、期末後もコツコツやっていたことが結果に反映されたってだけだがな」

蒼介「うむ、テスト期間前だけ真剣に取り組んでテスト終了とともに全て放り出すような雑な勉学は駄目だ。テスト終了後の復習に弱点の分析及び対策。テスト期間を終えてもやるべきことは多々ある。受験を控えている読者の諸君も決してそれらを怠ってはいけないぞ」

和真「作中でも言ったけどよ、テストってのはゲームのスコアみてぇに点数を競うもんじゃなく自分の学力を確かめるもんだ。大切なのは何点取れたかよりもどこを間違ったか、自分は何が苦手なのかを理解することだぜ」



※キャラプロフィールを更新しました。


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小山との取引

【バカテスト・世界史】

問 四大悲劇と呼ばれるシェイクスピアの戯曲を全て挙げなさい。

姫路の答え
『①ハムレット②リア王③オセロ④マクベス』

蒼介「正解だ。シェイクスピアの有名な作品には他にも『ロミオとジュリエット』や『ヴェニスの商人』などがあるが、四大悲劇と呼ばれるものはこの四つになる。知名度で『ロミオとジュリエット』を加えてしまいがちだが、間違えないで覚えておくように」


明久の答え
『①ハムレット②リア王③ロミオとジュリエット④父の結婚生活』

蒼介「お前の父親は家庭でどんな扱いを受けているんだ……?」


雄二の答え
『①秘蔵本燃やされる②鎖に繋がれる③スタンガンで昏倒④そんな扱いを受けているのに異端審問会にかけられる』

蒼介「改めて列挙すると、お前の普段扱いは本当に酷いな……」






和真(そういやいたな、こんな奴)

雄二「これはまた随分と珍しい客が来たもんだな」

明久「じゃあ、ムッツリーニが相談を受けていた相手って……」

小山「ええ、私よ。相談って言うよりは購買で丁度見かけたから質問させてもらっていただけなんだけどね」

ムッツリーニ「………Fクラスの試召戦争の予定を聞きたいらしい」

明久「僕らのクラスの予定?」

小山「メンテナンスも終わったみたいだし、明後日の朝にはついに試召戦争が解禁されるでしょう?その時にFクラスはどう動くのかを教えてもらいたいのよ」

 

試験召喚戦争は本来なら二学期開始と同時の予定だったのだが、不具合のメンテナンス(学園長はあくまでもこれを否定しているが)や装備の変更、野球仕様へのバージョンチェンジなどで延期に延期を重ね、明後日ようやく解禁されるのだ。

 

雄二「最下層クラスである俺らの動きを調べに来るなんて、随分と慎重なもんだな」  

 

からかうように雄二が言うが、ヒステリックさに定評のある小山にしては珍しく雄二の挑発混じりの台詞に乗せられることもなく、余裕たっぷりに小さく笑みを浮かび返した。そのあまりにも不自然な様子を目の当たりにした雄二と和真は内心でひっそりと警戒体勢に入る。

 

小山「それはそうでしょう?だって、Fクラスは一学期にあそこまで学年全体を引っかき回した、言わば台風の目なんだもの。警戒して然るべきだと思わない?」

和真「一方それに対してお前らCクラスはものの数分でフェードアウトしたもんな、警戒する価値まるで無し♪」

 

 

ピキィッ…!

 

 

気のせいだろうか、和真の悪意に満ちた揺さぶりを受けた小山のこめかみ辺りから軋むような嫌な音が聴こえたFクラス一同。

 

雄二「………………。それはまた光栄な評価だが……いいのか?折角二学期になって元のCクラスの設備にリセットされたっていうのに、いきなり試召戦争なんか考えて」

 

少しだけいたたまれなくなった雄二が即座に話を元に戻しつつ、値踏みするように問いかける。

試召戦争のルールの一つに、“戦争に負けてランクを落とされた設備は学期が変わるごとにリセットされる”というものがある。上位クラスが下位クラスに負けて設備を落とされた場合はそのままだが、下位クラスが負けて設備のランクが落とされた場合は学期が代わると元に戻されるのだ。

 

秀吉「そう言えばCクラスは以前の試召戦争でAクラスに負けてDクラス程度の設備に落とされておったの」

姫路「それが二学期になって元のCクラスに戻っているってことですよね」

翔子「……このルールは要するに、試召戦争を積極的にやらせようという意図。学期末に試召戦争をやれば下位クラスは殆どノーリスクで上位クラスに挑戦が出来る」

 

そもそも振り分け試験直後に試召戦争をやったところで、点数の差はほとんど変動していないので普通ならまるで勝負にならない。一学期の間に必死に勉強して、その学習の成果を学期末に試すというのが学園側の意図したコンセプトなのだろう。ところが今年はFクラスが新学期早々から試召戦争を起こしたり、システムのメンテナンスやら他のイベントやらが重なったおかげで一学期末はびっくりするほど静かであった。

 

小山「試召戦争を考えても何も、別に私は自分たちから戦争を始める、とは言ってないわよ?ただ、また中心になるであろうFクラスの動きが知りたいってだけで」

雄二「回りくどい言い方だな。要するにこっちが情報を提供しないならそっちも何も教えるつもりはないってことだろ?」

小山「まぁ、そういう言い方もできるかもね」

 

不敵な表情で小山は言う。彼女の目的は同盟の申込みというわけではなく、どちらかと言えば取引に近い。Cクラスの情報を教えてもらう代わりにFクラスの情報を教える。それでお互いが邪魔になれば対策を立て合い、そうでなければそれば無駄な潰し合いは回避できるというわけだ。

 

明久「そういうことなら、最初から雄二のところに聞きに来たらいいのに」 

小山「あら。だって坂本君が相手だと、こうやって取引になっちゃうでしょう?こっちが情報を提供しないで済むなら、それに越したことはないじゃない」

和真「うわっ、発想からしてケチくせぇな。お前が小物たる所以はそういう所だよこのド三流が」

 

 

ビキビキッ……!!

 

 

表面上は余裕の笑みを浮かべてはいるものの、心なしか小山の顔全体に怒りマークが浮かび上がる。

やはりその空気に耐えられなくなり、今度は明久が軌道修正する。

 

明久「そ…それで、どうするの雄二?」

雄二「……いいだろう。その取引、乗ってやる」

小山「……そう。それは助かるわ」

雄二「言うのは俺達が目標としているクラスだけでいいのか?」

小山「それだけじゃダメ。攻め込む時間も教えてもらわないとね。というか、目標のクラスだけならわざわざ聞く必要も無いし」

 

確かに小山の言う通り、Fクラスが打倒Aクラスを最終目標としていることなど既に周知の事実だ。それではとても取引にはならない。雄二は攻め込む時間もと言われて一瞬迷ったような顔をした。勝ち筋が見えたのはほんのついさっきのため、いかに神童と謳われた雄二でもさすがに大まかなプランはまだできていない。

 

雄二「Aクラスには、すぐには無理だがそうだな……試召戦争解禁から遅くとも一ヶ月以内には攻め込む予定だ」

小山「……ふぅん……?なるほどね……」

雄二「そっちはどうなんだ。Aクラスを目指すというなら、俺達との戦いになるが」

小山「私たちはそこまで高望みはしてないわ。ただ、Bクラスには挑んでみたいけど。そうね……解禁から一、二週間くらいで」

和真(……ククッ、なるほどなるほど)

 

小山の開示した目標は何の意外性もない順当なものであったのだが、何故か不敵な笑みを浮かべる和真。

 

明久「でも、いいの小山さん?Bクラス代表の根本君って、確か小山さんの彼氏だったと-」

小山「それ以上言ったら殺すわよ」

 

和真の相手の神経を逆撫でするエグい挑発はどうにか我慢していた小山だが、根本については完全に忘れたい過去のようだ。

 

小山「私はね、頭の良い男が好きなの。お勉強が出来る人って意味じゃなくて」

雄二「ケッ、よく言うぜ。根本なんか卑怯なだけの小物だったろうが」

小山「卑怯な手段って勝つ為には合理的で有効だと思わない?私はそういうの結構好きなんだけど。……あの男は、もう御免だけどね」

和真(そんなチンケな手段が通用するのは有象無象に対してだけだっつの。真の強者にはそんなもん容易く捩じ伏せられて終わるんだよ)

 

小山の言い分を「聞く価値無し」と内心で一蹴する和真。守那、鉄人、鳳親子……彼らは卑怯な手段などまるで歯牙にもかけないだろうから。

 

 

『俺ってさ、じゃんけんは後だし以外したことないんだぜ』

『何を言ってるんだ、それでいつも負けていただろ?お前は卑怯者なんかじゃないさ。それに引き替え俺なんて、掃除当番はいつも腹痛のフリをしていたんだぜ?』

『いやいや。俺の方が卑怯者さ』

『そんなことはない。俺の方が卑怯者さ』

『…………実は俺、同い年の従兄弟がいてさ。彼女が欲しいってそいつに相談したら、この前クラスメイトを紹介してくれたんだ』

『『この卑怯者っ!殺してやる!』』

『…………そいつ、男子校に通っているはずなのにな…………』

『…………俺のジュース、やるよ』

『…………今日の帰り、たこやき奢ってやるよ』

『……ありがとう……』

 

 

そんな和真とは対照的に、近くの席で始まる卑怯アピール。なんというか、いつものFクラスだ。

 

姫路「そうなんですか。小山さんって、頭の良い人が好きだったんですね」

小山「ええ、そうよ姫路さん」

和真「お前は頭悪いのにな」

 

 

ビキビキビキィッ……!!!

 

 

表情は既に取り繕えなくなっており、小山は全身に怒りのオーラを纏い始めた。爆発するか……!?と、和真を除くFクラス一同が顔を強張らせるが、すんでの所で小山はどうにか踏みとどまったようだ。

 

小山「………………教えてくれてどうもありがとう。それじゃ、お互い目標の相手も違うみたいだし、うまくやりましょ」

 

最後にそう結んで小山は腕を組んだまま教室から出て行った。……やけに早足かつ、肩を怒らせながら。

 

雄二「和真、ナイス挑発」

和真「それほどでも」

明久「全然ナイスじゃないよ!?なんであんなことしたのさ!?」

姫路「うぅ、とても怖かったです……」

美波「小山さん、本気で怒ってたわね……」

秀吉「うむ…いつ爆発してもおかしくなかったぞい」

和真「何言ってんだお前ら?相手を挑発して冷静さを失わせるなんざ、交渉の常套手段だろうがよ」

「「「…………はぁ……」」」

 

まったく悪びれずに言う和真に思わず溜め息をつく一同(雄二、翔子除く)。しかし和真の挑発は決して無駄ではなく、このおかげで雄二はあることを確信できた。

 

和真「ところで話は変わるけどよ、俺らの召喚獣の装備はもう変更されたのか?」

雄二「装備の変更か……。試召戦争を控えているとなると、確認しておく必要があるな」

ムッツリーニ「………システムのメンテナンスは終わったらしい」

明久「ってことは、もう召喚できるんだよね」

雄二「そうだな、ちょっと試してみるか。誰か教師は……」

 

召喚の立ち会いをしてもらうための教師を探すと、タイミングが良いのか悪いのか担任の鉄人が廊下を歩いているのが見えた。

 

明久「もっと頼みやすい先生が良かったけど、まぁ仕方がないかな……」

雄二「だな。そろそろ昼休みも終わっちまうし」

明久「じゃあ、西村先生ー」

鉄人「ん?……吉井に坂本か。何か用か?」

 

明久が声をかけると鉄人は教室に入ってきて、明久と雄二の顔を見て露骨に嫌そうに眉を顰めた。その対応は教師としてどこか間違っている気もするが、基本的に明久と雄二が二人そろって鉄人に関わるときは大概が厄介事の前触れなのでその反応も仕方ないだろう。

 

明久「えっと、すいませんが召喚許可を「ダメだ」お願いできま「不許可だ」せんか?「却下だ」試召戦争も「断る」解禁されるし、「諦めろ」新しい召喚獣を「無理を言うな」って断り過ぎじゃないですか!?一つのお願いを言い切る前に六回もダメだしされたのは初めてですよ畜生ッ!」

鉄人「貴様がこちらの話を聞かないからだろうが」

和真(アンタも大概だけどな……)

鉄人「前から言っているだろう。お前の召喚獣は簡単に召喚してはいけないものだと」

明久「それは、まぁ……」

 

召喚獣は人間よりはるかに力がある。具体的にはFクラス標準レベルの点数でも和真と互角に渡り合えるくらいには。そのうえ観察処分者の明久の召喚獣は物に触れることもできるのだから、鉄人がそうやって心配するのは無理もないことだ。

 

明久「大丈夫ですよ先生。今まで僕らが問題を起こしたことがありますか?」

鉄人「一学期の間にお前と坂本が書いた反省文は百枚を超えていたと記憶している」

秀吉「一日一枚ペースじゃな」

翔子「……おそらくギネス級」

姫路「文集を作れるくらいの枚数ですね……」

美波「アンタら、本当に学校でなにやってんのよ……」

 

ちなみに和真は学力教科合宿のときに書いた奴のみである。明久達と和真では危機察知能力や要領の良さ、世渡りの上手さが天と地ほど離れている。

 

鉄人「だいたいお前たちが俺を先生付で呼ぶと大抵ロクなことがない。また何か妙なことを企んでいるんじゃないか?」

明久「なんだ、そんなことですか。それなら……宜しく宗くん(パキュッ)」

雄二「頼むぜ宗一(ペキュッ)」

鉄人「教師をファーストネームで呼ぶな」

「「手の骨がぁああーーッ!」」

和真「アホだろお前ら……」

 

やけに気安い物言いとともに差し出した明久と雄二の右手が即座に握りつぶされた。右手を押さえてのたうち回るバカコンビを尻目に、翔子・姫路・美波の三人が鉄人の前に立つ。

 

美波「西村先生。ダメですか?ウチらは別に悪いことに使おうと思ってるわけじゃなくて、装備を確認したいだけなんです」

姫路「美波ちゃんの言うとおりです。悪戯なんてしませんから」

翔子「……私からもお願いします」

鉄人「いや、しかしだな」

「「「よろしくお願いします、西村先生」」」

鉄人「……まぁ……、装備を確認したいという気持ちも、わからんでもないが……」

 

Fクラスにあるまじき模範生徒(表面上は)三人を前に態度が軟化する鉄人。

 

雄二「頼むぜてっつん☆(パキュッ)」

明久「宜しくてっちゃん♪(ペキュッ)」

和真「コントか」

 

再び調子に乗ったバカ二人だが、今度は左手が握りつぶされていた。

 

鉄人「まったく、お前らは……。ほら、さっさとしろ」

明久「え?何がですか?」

鉄人「俺も忙しいのだから、早く召喚しろと言ってるんだ」

 

やれやれと、溜息をつきながらも鉄人は結局許可をくれた。

 

鉄人「どうせお前たちはいくら却下したところで坂本の腕輪で召喚をしてしまうからな。それなら目の届く範囲で行動させた方がマシだ」

明久「そう思うのなら、すぐに許可してくれたらいいのに」

雄二「まったくだ。骨折り損じゃねぇか」

鉄人「そう簡単に許可を出していたらお前たちはすぐに調子に乗るだろうが」 

和真「甘いな西村センセ、簡単に許可出さなかろうがオートで調子に乗るのがこいつらだぜ」

明久・雄二「「キサマどっちの味方だ!?」」

秀吉「まあよいではないか。召喚許可は貰えたのじゃし、結果オーライじゃ」

ムッツリーニ「……(コクコク)」

姫路「ちょっと楽しみですね。どんな風に変わっているんでしょうか」

翔子「……私もちょっとドキドキ」

美波「ウチは前みたいにぬりかべなんかが出てこないことを祈るわ……」

和真「いらんフラグ建てんでも良いだろうに……。んじゃ喚んでみっか。せーの…」

 

「「「試獣召喚(サモン)!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「…という段取りだ、頼んだぞ」

?「了解了解、それじゃあ、そうだな……放課後にでも交渉してくる」

?「いいか、絶対にしくじるなよ?クラスの命運がかかってるんだからな」

?「わかったわかった。ま、任せとけって」

 

 

 

 

 

 




でた!和真さんの挑発コンボだ!



Q.どうして和真君は心なしか小山さんに当たりがキツいんですか?まさか過去に何か因縁が……?

A.和真「え?短気な奴の神経を逆撫ですると愉快だろ?」←何当たり前なこといってるんだ?的な表情で首をかしげる

飛鳥「ホント、たまにド外道ね貴方……」


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新装備

【アクティブ古今東西ランキング(美術)】

①和真……手先の器用さもあるが、並外れた観察力が最大の武器。得意な題材は石膏。

②蒼介……筆遣いの繊細さは誰にも負けない。得意な題材は水墨画。

③源太……意外にも細かい作業全般に精通している。高校入試の際の内申点は副教科で稼いだ。得意な題材は切り絵。

④優子……美術に限らず基本的にカラオケ意外は一通りこなせる。得意な題材は風景画。

⑤愛子……可もなく不可もなく。得意な題材は当然のごとく裸婦画(そこ、範囲狭いとか言わない)。

⑥徹……お菓子作りの際の飾り付けも美術に含めていいのなら上位を狙えるが、含めないとこの位置。

⑦飛鳥……通称『画伯』。その実力はあの蒼介を慟哭させ、和真が顔をひきつったほど。間違っても人前には披露してはいけない禁断の技。






皆で一斉に喚び声を上げると、それぞれの足下にお馴染みの幾何学模様が現れ、その中から召喚者自身をデフォルメした姿の召喚獣が飛び出す。

 

姫路「わぁ……綺麗な鎧……なんだか凛々しくなった気がします」

美波「ランスに鎧ってことは、ウチは騎士ってことかしら。良かった……。盾代わりにまな板とかじゃなくて、本当に良かった……」

翔子「……以前と違って兜が付いた。それにこの刀……刀身に浮かび上がる露、もしかして『南総里見八犬伝』の村雨?」

明久「ほら、見てよ雄二。学ランの裏地に龍が描いてあるよ」

雄二「見ろよ明久。俺は虎だぜ」

秀吉「刀に羽織り……。新撰組、といった体じゃな。強そうじゃ」

ムッツリーニ「……上忍にレベルアップと言うところ」

和真「赤を基調とした軍服に黄金の槍……ロンギヌスの聖槍、神殺しの槍か。ハッ、悪くねぇな」

 

学力が向上したおかげか、皆それぞれ装備が随分とレベルアップしている。特に和真と翔子の武器は総合科目で5000点以上取った生徒にのみ与えられる固有武器であり、綾倉先生曰く特殊能力などは別に付いていないが耐久性が通常武器より段違いに高いとのことだ。

 

 

明久・雄二「「ってちょっと待てぇええーぃ!」」

 

 

鉄人「なんだ吉井、坂本。うるさいぞ」

明久「うるさくもなりますよ!明らかに不公平じゃないですかこんなの!」

鉄人「そうか?」

明久「そうですよ!だって、姫路さんはどう変わったか見て下さいよ!」

姫路「えっと、私は前より鎧がしっかりして、武器も長くて大きくなりましたね」

明久「美波は?」

美波「ウチは軍服が騎士鎧に、サーベルからランスに変わったわね」

明久「霧島さんは?」

翔子「……兜が付いて武器が村雨になった」

明久「秀吉は?」

秀吉「長刀使いから新撰組になったようじゃな」

明久「ムッツリーニ」

ムッツリーニ「……下忍から上忍に出世した」

明久「和真」

和真「服装が軍服に、武器が聖槍にになったな」

明久「僕と雄二」

鉄人「学ランの裏地に刺繍が入ったな」

 

明久・雄二「「お か し い だ ろ !」」

 

はからずも明久と雄二の声が揃っていた。明久もそれなりに成績は向上し雄二に至っては学年トップ10だったというのに、何故か以前としてチンピラ装備のままだったらこういう反応になるだろう。

 

雄二「……!いや待て明久。俺のはお前のと違って武器も変わっている」

明久「え?そうなの?」

雄二「ああ……メリケンサックが鉄パイプになった」

明久「些細な変化だ!」

 

観察処分者使用の召喚獣に刃物を持たせるわけにはいかないのはわかるが、それにしたってもっと無かったのだろうか?……というより、雄二がまき込まれている時点で十中八九あの学園長の陰謀だろう。

 

鉄人「さぁ、もう満足しただろ。許可はここまでだ」

 

そう言って鉄人がフィールドを消すと、同時に召喚獣達も消えていった。

 

鉄人「もうすぐ昼休みも終わる。遊んでいないで次の授業の用意をしておくことだ」

 

最後に小言を一つ言い残し、鉄人がそそくさと教室から出て行った。

 

美波「アキも坂本も、成長していないって事よね」

雄二「島田。このバカと一緒にするな失礼な」

明久「そうだよ美波。雄二の頭や美波の胸と違って、僕は成長して(ポキュッ)」

美波「何か、言ったかしら?」

明久「なんでもありません」

秀吉「確かに、明久は成長しておらんのう……」

和真「雉も鳴かずば撃たれまいに……」

雄二「そういえば和真、小山が来る前に何か言いかけてなかったか?」

 

両手に加えて肘間節までも潰されて痛みに悶える明久だが、バイオレンスな光景はFクラスの風物詩であるので雄二は特に気にも止めずそう和真に問いかける。

 

和真「あん?……いや、大したことじゃねぇ。すぐAクラスに攻め込まないってことは、どうやらお前もちゃんと理解してたみてぇだからな」

雄二「……なるほど、そういうことか」

秀吉「ちょっと待つのじゃ。お主らだけで話を進めないで欲しいぞい……」

美波「そうよ、何の話よ柊?」

翔子「……もし和真が順調にランクアップしても、まだまだ勝ち目が薄いことに変わりはないということ」

和真「ああ、そうだ」

明久「えぇっ!?どうしてさ!?」

 

ようやく復活した明久が疑問をぶつけるも、よくよく考えれば至って当たり前のことだったりする。

 

和真「お互いランクアップした状態、操作技術も決定的な差は無ぇ。……となると、何が勝敗を決めると思う?」

明久「え?そ、そりゃあ…………あ」

ムッツリーニ「………点数」

和真「そう。『点数が高いほど有利』、試験召喚戦争の常識だ。例え俺がランクアップしようと6000点は絶対越えねぇ。それに対してソウスケの点数は……“明鏡止水”に一歩でも踏み込んだからには、下手したら7000点越えててもおかしくねぇ」 

「「「な…7000!?」」」

雄二「学年主任並の点数だなクソッタレ……」

 

一同は驚愕し、雄二は忌々しそうに親指の爪を噛む。“明鏡止水”の極意はなんといっても集中力。今は常時至ることはできないだろうが、平常時でも以前までの蒼介とはおそらく別物だろう。補充試験を終えた今の蒼介の点数もそれに比例して強化されているとみて間違いない。

 

明久「……あっ!操作技術はほぼ互角と言っても、和真には型にはまらないトリッキーな戦術があるじゃないか!それで何とかできないの!?」

和真「あのな明久…型にはまった戦法だろうが突き詰めれば強力な武器になるんだぜ?アイツ…というかあの一族はその体現者だ」

美波「一族?何の話よ?」

和真「水嶺流っつってな……ソウスケの家には代々伝わる剣術流派があるんだよ。以前までならともかく、今のソウスケの操作技術なら間違いなくそれをベースにした闘い方をしてくるはずだ」

 

先日の野球大会でもその片鱗を見せていたので、おそらく和真の推測は当たっているだろう。

 

秀吉「うむむ……聞けば聞くほど勝ち目が薄くなっていく気がするのう……」

和真「まぁ、対抗策は一応ある。けどそれには少し時間を要するから、できれば一ヶ月くらい待ってくれ……って言おうとしたんだが、余計な心配だったみてぇだ」

雄二「俺だって事前準備を雑にしてアイツらに勝てるとは思ってねぇ。たかが一ヶ月で万全の体制が整うならそれに越したことはないぞ」

 

一刻も早く姫路にAクラス設備を、と考えていた明久はやや複雑な表情を二人に向ける。異議を声に出さないのは明久も蒼介の強さを理解しているからである。

 

明久(焦って設備がミカン箱に逆戻りでは完全に本末転倒、ここは我慢どきだ)

和真「いや違うな明久、ここは攻めどきだぜ」

明久「えっ、どういうこと?…ていうかナチュラルに心読んできたね和真……」

和真「お前がわかりやす過ぎんだよ。Aクラスに攻めるのは一ヶ月後だが、あのクラスには解禁直後にでも攻め込む」

雄二「そうだな。明後日の朝に開戦だ」

明久「あのクラス?それって-」

 

キーンコーンカーンコーン

 

布施「はい、科学の授業を始めますよ。皆さん席についてください」

 

明久が疑問を言いきる前に授業開始のチャイムが鳴り、布施先生が教室に入ってくる。

 

和真「まぁ、当日のお楽しみってことで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで時間が流れて放課後。和真は保健体育の試験を受け直しに、秀吉は演技部に、ムッツリーニは本人曰く取材活動に行ったため、教室に残ったメンバーは明久、雄二、翔子、美波、姫路の五人だ。

 

雄二「よしお前ら、職員室に行くぞ」

明久「何言ってるのさ雄二……姫路さん達はともかく僕や雄二が職員室に行こうものなら間違いなくロクかことにならないことくらいわかるでしょ?」

雄二「試召戦争に向けて万全の備えをするって言っただろ。俺達の操作技術を向上させておくに越したことはない」

明久「へ?確かにそうだけど、それが何で職員室に行く理由になるのさ?」

翔子「……吉井、職員室には召喚獣訓練フリースペースが設置されている」

 

召喚獣訓練フリースペース、通称フリスペ。

桐谷グループの発案で職員室に設置された常時展開型召喚フィールドだ。このフィールドで闘っても終了後点数が戻るというオプションも付いているので、操作性の鍛練にはもってこいと言える。

 

明久「あれ?でもアレの使用ってって教師の許可が必要だったんじゃなかったっけ?」

雄二「バカだな明久。こっちには学年2トップ女子がいることを忘れたのか?許可とかは翔子達に任せればそれでオーケーで、俺達はそれにこっそり便乗すればいい」

明久「なるほど、相変わらず小狡い。……でもまぁ、鳳君は和真に任せるにしてもAクラスには他にも強敵揃いだもんね、手段を選んでる余裕は無いか……」

雄二「まあ、そういうことだ。そもそも俺は世の中学力が全てでは無いことを証明するためにAクラスに挑むんだ。地道にコツコツと勉強するよりもそっちの方が性にあっている」

 

こうして一同は、一般学生が行きたがらない教室トップ3常連の職員室に向かった。話は変わるが趣旨から考えると明久が参加する意味はほとんど無い。彼の操作技術はほぼカンストしており、これ以上特訓しても伸びしろは残っていないからだ。では何故雄二は明久を誘ったのかと言うと……教師に見つかった際の囮役という、いかにも雄二らしい外道な理由である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二の目論見通り明久をスケープゴートにしてフリスペまで辿り着いたものの、既に先客が利用していた。蒼介、徹、久保……最終目標であるAクラスが誇る男子トップスリーの生徒達である。

 

蒼介「……はっ!」

徹「っ!?しまっ-」

 

ザシュウウウ!!!

 

一瞬の隙を見逃さず、蒼介の召喚獣はすごいスピードで突きを放つ。草薙の剣から繰り出された鋭い刺突は、リニューアルした装甲ごと徹の召喚獣の首を正確に貫いた。

これこそ水嶺流弐の型・車軸……相手の弱点を正確に貫く高速の突き技である。

 

久保「……ん?おや、坂本君達。奇遇だね」

雄二「いや奇遇じゃないだろ。お互い確固たる目的でここに来たんだからよ」

久保「ははっ、それもそうだね。君達も明後日に解禁される試召戦争に向けて準備をしているってことかな」

雄二「ま、そういうことだ。幸いここの召喚フィールドは俺や教師が出すやつより広い。お前らも余計な情報を明け渡したくないだろうし、お互い不干渉と行こうや」

蒼介「……いや、せっかくの偶然だ。私と少しばかり手合わせしないか?」

 

先程まで徹と激闘を繰り広げていた蒼介が、いつもの沈着冷静な表情でそんな提案をしてきた。

 

雄二「バカ言うな。そんな提案引き受けても俺達にメリットが-」

蒼介「無い、とは言わせんぞ?情報は出来るだけ隠したいのは事実だろうが、それ以上に私の戦闘データは少しでも多く欲しい筈だ。宿願であるAクラス打倒を達成するには、私との闘いは決して避けて通れないのだからな」

雄二「…………何が目的だ?」

蒼介「さて、何だろうな?」

 

雄二が露骨に値踏みするような視線を向けても、蒼介はその鉄面皮を崩さない。雄二がここまで訝しむのは、蒼介の提案がFクラスにとって有利過ぎるからだ。

蒼介の戦闘データは実戦での露出の少ない上、その数少ないデータも“明鏡止水”に踏み込んだ今の蒼介の対策としては宛にならない。来るべき決戦に備えて、蒼介の情報は少しでも多い方が良い。それに対してFクラスは学年で右に出るクラスが無いほど実戦での露出が桁違いに多い。今わざわざ探りを入れなくても既に情報は飽和状態なのだ。

 

雄二「……まあいい、お前の提案に乗ってやろうじゃねぇか。じゃあまず俺と…」

蒼介「いや、四人まとめてかかって来い」

「「「なっ……!?」」」

 

どう考えてもこちら側を見くびってるとしか思えない蒼介の提案に一同は怒りを通り越して開いた口が塞がらない。しかし、そんな彼らにも蒼介は気を止めることもなかった。

 

蒼介(これは奴への……引いてはお前達Fクラスへの警告だ。今のままでは私に勝つことなどできはしない……とな)

 

 

 

 

 

 




和真「俺は別に総てを愛してるわけじゃねぇけど、なんとなくっつうかノリで総てを破壊するぜ!」 
「「「こいつ最低だ!?」」」

和真君の召喚獣の装備のモデルは某神座作品の黄金の獣様です(軍服のカラーが黒ではなく赤なのは、彼のイメージカラーが青の蒼介君とは対照的に赤だからです)。ついでに彼、修羅道至高天の住人になっても楽しくやっていけるでしょうし。
ちなみに蒼介君の装備は変わっていません。彼の装備は一学期の時点で最高レベルでしたので。


水嶺流弐の型・車軸……高速戦闘の最中でもピンポイントに狙いを定めることができる正確無比な刺突。名前の由来は『車軸を流すような大雨』から。大粒の雨程度なら正確に貫けるという意味合い。



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前哨戦

【アクティブ古今東西ランキング(大食い)】

①徹……見かけによらず超一流のフードファイター。ソレだけ食べるにもかかわらず、縦にも横にも絶対に伸びない。 

②和真……徹ほどではないがかなりの量を平らげる。日頃の運動量から考えると太らなくて当たり前。   

③源太……体格通りかなり食べる。

④蒼介……腹八分目が基本のためこの位置。

⑤飛鳥……特に語ることなし。

⑥優子……特にかた(ry

⑦愛子……特に(ry




蒼介の提案で急遽始まった一対四のデスマッチ。おまけに科目はFクラス側が最も力を発揮できるであろう数学である。

 

姫路「お…鳳君、本当に良いんですか?」

蒼介「ああ、これでいい。……こうでなくては張り合いが無いからな」 

雄二「…………」

美波「随分と舐めてくれるじゃない……上等よ!その鼻っ柱へし折ってやるから覚悟しなさい!」

翔子「……悪いけど、手加減はできそうにない……!」

蒼介(む……)

 

不安そうに確認を取る姫路や蒼介の意図を探ろうと思考を巡らせている雄二とは対照的に、美波と翔子は早くも臨戦態勢に入っている。どうやらプライドを刺激されたようだ。そんな彼女らの怒気に、少々引っ掛かることがあったものの一切怯むことなく蒼介は切れ長の目を細めつつ言葉を返す。

 

蒼介「お前達こそあまり私を舐めるなよ、何をもう勝った気でいるんだ?……試獣召喚(サモン)」

「「「「サモン!」」」」

 

五人の掛け声とともにそれぞれの近くに幾何学模様が浮かび上がり、召喚獣が現出する。

 

 

《数学》

『Fクラス 坂本雄二 341点

 Fクラス 霧島翔子 436点

 Fクラス 姫路瑞希 434点

 Fクラス 島田美波 296点

VS

 Aクラス 鳳蒼介  667点』

 

 

雄二「クソッタレ……また上がってやがる……!」

翔子「……まさか、ここまでとは」

 

雄二達の点数はとても最下層クラスとは思えないほどの高得点ではあるのだが、蒼介の教師さえ凌駕する点数と比べるとどうしても霞んでしまう。

 

美波「怯むことはないわ!あっちは一人、数の利を活かして確実に点数を削っていくわよ!」

蒼介「ふむ、実に真っ当な作戦だ。……なら数の利を奪うとしよう。まずはお前だ、島田」

 

〈蒼介〉は草薙の剣を構え〈美波〉に向かって一直線に突撃する。

 

美波(ふふっ、かかったわね。ウチ一人に集中してる間に瑞希と翔子はアンタを囲むように……え?思ったより遅い……?)

 

四人の中では点数の低い自分に向かってくるまでは予想通りであり、自分が囮になってその隙に姫路と翔子の腕輪能力で集中砲火……という狙いだったのだが、〈蒼介〉の動きがが予想していたよりずっと遅かったため、ほんの一瞬面食らってしまう。蒼介はその隙を逃さずに、

 

 

 

 

 

召喚獣を急加速させた。

 

美波(や、やばっ!?急に速く-)

 

先程までの数倍のスピードで剣を構えて向かってくる〈蒼介〉。〈美波〉は迎撃するべくランスを思いっきり横に薙ぐ。判断が遅れたとはいえリーチでは勝っているので運が良ければカウンターになるかもしれない。

そんな淡い希望を打ち砕くかのように、〈蒼介〉はランスの間合いに入る直前で急停止する。タイミングを外された〈美波〉の迎撃は虚しく空を切るだけであった。

 

美波「しまった!?」

 

空振りによって生まれた隙を抉るように〈蒼介〉は再び急加速し、剣の間合いに入ったと同時に〈美波〉に目にも止まらない剣撃を浴びせる。

 

雄二(あれは確か、参の型・怒濤……!すまん島田、ここは持ちこたえてくれ……!)

姫路「美波ちゃん!今助けます!」

雄二「姫路!?待て-」

姫路「えぇいっ!」

 

雄二の静止も時すでに遅く、美波を助けるべく姫路は腕輪能力『熱線』を発動させる。〈美波〉を巻き込まず〈蒼介〉だけに命中させるために熱線を放つ位置には細心の注意を払ったものの、その攻撃はあまりに杜撰すぎたと言わざるを得ない。

 

蒼介「一人目……(バシッ!)」

美波「ちょ、ちょっと!?ウチの召喚獣が-」

 

 

キュボッ

 

 

《数学》

『Fクラス 島田美波 戦死

VS

 Aクラス 鳳蒼介  667点』

 

 

美波「あ……」

姫路「そ…そんな……」

 

〈蒼介〉は熱線に命中する場所に〈美波〉を突き飛ばすと、先程までの加速よりもさらに速いスピードで離脱した。結果、〈美波〉だけが熱線に飲み込まれ塵と化した。

 

蒼介「仲間が大切ならば、必殺技はよく考えて使うことだ。……そして姫路、私の召喚獣をフリーにして良いのか?」

姫路「…っ!?ど、どこですかっ!?」

 

姫路は慌てて〈蒼介〉を探すものの、何故かまったく見当たらない。右、左、前、後ろ……〈蒼介〉の姿はどこにもなかった。

 

……それもそのはず。

 

翔子「……っ!瑞希、上!」

姫路「え?…あっ!?」

 

翔子の言葉に姫路が顔を上げると、〈蒼介〉は上空から〈姫路〉目掛けて剣を降り下ろすところであった。〈蒼介〉は姫路の注意が散漫になった隙をついて学年主任クラスの点数を誇る召喚獣のずば抜けた脚力を活かして高く跳躍していたのだ。

 

姫路(で、でも空中じゃ避けられないはず!)

 

間一髪のところで〈姫路〉は〈蒼介〉に向かって熱線を放った。姫路の考え通りいかに〈蒼介〉と言えど空中での回避は不可能だったようで、熱線はそのまま〈蒼介〉に直撃し、

 

 

 

跡形もなく消えてしまった。

 

姫路「…え-」

蒼介「……二人目」

 

姫路が驚愕する暇もなく、〈蒼介〉はそのまま〈姫路〉を鎧ごと一刀両断した。生死などわざわざ確認するまでもない。

 

 

《数学》

『Fクラス 姫路瑞希 戦死

VS

 Aクラス 鳳蒼介  667点』

 

 

種明かしをすれば至極単純で、姫路の熱線が消し飛んだのは蒼介の腕輪能力『インビンシブル・オーラ』に阻まれたからである。そしてこの技は水嶺流伍の型・瀑布……助走による加速と跳躍からの重力落下によるエネルギーを剣に乗せて降り下ろす必殺の唐竹割りである。隙は大きいがその分威力は通常の降り下ろしとは桁違いに大きく、今回のように相手の不意をつく状況で用いられる。

 

蒼介「さて…次はお前だ、坂本!」

雄二「ちっ、くそったれ!」

 

休む間もなく〈蒼介〉は〈雄二〉に斬りかかる。負けじと鉄パイプで応戦するものの、〈雄二〉は〈蒼介〉の加速と減速を繰り返す独特の動きにペースを崩され次第に追い詰められていく。

 

雄二「くそっ、うざってぇ……!

そいつも水嶺流の技かよ……?」

蒼介「御名答。水嶺流基礎中の基礎、壱の型・波浪だ」

 

不規則に加速と減速を繰り返し、かと思えば突然急停止を挟み相手にリズムを作らせないチェンジオブペース……水嶺流の基礎にして原点となる歩法である。

 

雄二「くっ……やべぇ……!」

蒼介「多対一の利点をまるで発揮できていない。お前達のそれは、連携とはとても言えないな……三人目」

 

不規則な動きに翻弄され決定的な隙ができた瞬間、草薙の剣は〈雄二〉の急所を正確に刺し貫いた。

 

 

《数学》

『Fクラス 坂本雄二 戦死

VS

 Aクラス 鳳蒼介  667点』

 

 

蒼介「…さて、最後は-」

雄二「今だ翔子!」

翔子「……うん。“アブソリュートゼロ”……!」

蒼介「……ほう」

 

雄二の合図を引き金に〈翔子〉を基準点に氷結が広がり、召喚フィールド内全てが大氷壁で多い尽くされた。これぞ翔子のオーバークロック“アブソリュートゼロ”……決して逃げられない絶対零度の世界の展開である。

 

蒼介「試合前、霧島にしては不自然なほど意気込んでいたとのは、全てこのための布石か」

雄二「気づくのが遅かったな。まあこの方法はこちらも打つ手が無くなるから最終手段だったんだがな。ともかく、この勝負は引き分けってことに-」

 

 

 

 

蒼介「…否。()()()()()

 

 

ピシピシピシ……パァァアアァァァアアン!!!

 

そう言った直後に〈蒼介〉の周りの氷壁に亀裂が入り、そのまま跡形もなく砕け散った。

 

雄二「な……!」

翔子「……そんなバカなっ……!全身が凍りついた状態で、氷を砕くなんて不可能なはず……!」

蒼介「その通り、私の召喚獣が砕いたわけではない。……残念だったな、無敵(インビンシブル)の名は伊達ではないということだ」

 

自由の身となんた〈蒼介〉が〈翔子〉に向かって歩きだす。進路上の氷壁がその体……正確には〈蒼介〉の体を纏っているオーラに触れた瞬間、触れた部分から氷が砕け散っていく。

 

雄二「それも……お前の能力かよ?」

蒼介「ああ、私の能力『インビンシブル・オーラ』は耐久力300点分のオーラを貼るだけではない。このオーラを纏っている間はたった今霧島が使った能力のような、攻撃力を持たないが相手に何らかの異常を起こす系統の攻撃を一切受け付けないのだよ……これで詰みだ」

 

とうとう〈蒼介〉は〈翔子〉に一太刀入れることができる位置にまで来てしまった。オーバークロックは諸刃の剣、逃げようにも〈翔子〉にも氷がまとわりついて身動きひとつ取れやしない。もはやこれまでかと雄二と翔子は悔しそうに顔を歪ませる。

 

蒼介「さて、このまま肆の型・大渦で終わらせても良いのだが……そうだな。情報収集を度外視してまでも勝負を諦めなかったお前達に、一つ餞別をくれてやろう」

雄二「……は?お前、何言って-」

   

 

 

 

 

 

 

ぴちょん……

 

 

雄二・翔子「「…っ!?」」

蒼介「………………」ヒィィィイイイイイン…

 

雄二な疑問を言い切る前に、蒼介は極限の集中状態……“明鏡止水の境地”に入っていた。

 

翔子(……この、海の底に引きずり込まれそうな圧迫感……まさかこれ、“明鏡止水の境地”……?)

雄二(オイオイ、もうここまで自在に入れるのかよ……?)

 

先日のことを思いだし戦慄する二人をよそに、指示を送られた〈蒼介〉はオーラで〈翔子〉を覆う氷を全て取り除いた。

 

翔子「……どういうつもり?」

蒼介「さぁ、来るがいい……私の手札を一つ、開示してやろうじゃないか」ヒィィィイイイイイン…

 

そう言った直後、〈蒼介〉は草薙の剣を鞘に戻しそのまま抜刀の構えをする。

 

雄二(あの構え、居合斬りか……構わん翔子、斬りかかれ。こっちは一度負けが確定した身だ、勝ち負けより情報収集を優先するぞ)

翔子(……わかった)

 

雄二からのアイコンタクトに頷き、〈翔子〉は村雨を構え勇猛果敢に〈翔子〉の間合いに斬り込み……

 

 

 

 

 

 

 

《数学》

『Fクラス 霧島翔子 戦死

VS

 Aクラス 鳳蒼介  667点』

 

 

翔子「…………え……?」

雄二「……なっ……!?

何が起こったんだ……?」

 

次の瞬間には上半身と下半身が斬り離されていた。思わず呆然とする二人をよそに、〈蒼介〉はいつの間にか抜刀していた草薙の剣を再び鞘に戻す。

 

蒼介(これぞ水嶺流・拾の型……海角天涯。カズマ、お前を倒す切り札となる技だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「さてと……テストも無事終わったことだし、フリスペで特訓してる明久達に合流するか」

?「おい和真、少し良いか?」

和真「お前は……別に良いけど、手短にな」

 

 

 

 

 

 

 




和真「蒼介無双回。今まで散々カットされた鬱憤を晴らすがごとき八面六臂の活躍だったな」

蒼介「少し引っ掛かる言い方だがまあいい。今回1ダメージすら食らわず圧勝できたのは、彼ら四人が連携慣れしていない点が一番の勝因だ」

和真「多対一なのに気がついたらタイマンばっかだったし、姫路は美波を殺すしひっどいものだったな。……まあ、連携慣れしていないのは試召戦争の際、アイツらはあまり行動をともにしないからだな」

蒼介「坂本は代表、霧島と姫路は腕輪能力を最大限に活かすため単独での活動が多め、そして島田は貴重な現場指揮官……彼らをひとまとめにしておくほどの余裕はFクラスには無い」

和真「Aクラスだと優子と飛鳥の連携が評判だがな、あんな高得点かつ指揮もできる駒を一まとめに行動させるなんて贅沢な使い方、人材豊富なAクラスしかできねぇよ」




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宣戦布告

水嶺流壱の型・波浪……水嶺流基礎中の基礎となる歩方。不規則に加速と減速、停止を行い相手のリズムを狂わせるチェンジオブペース。必殺技(必ず殺す技)ではなく必殺技(必ず殺す“ための”技)。水嶺流が殺人剣として全盛を極めた時代には、この歩方で相手の隙を作り出し数々の敵を仕留めたという。


蒼介との模擬戦後、姫路と美波はそのままフリスペで操作の練習する一方、雄二と翔子は教師達に説教のフルコースを味わった明久を回収(このときいつもの不毛なやり取りが行われたが、ワンパターンなので割愛)し、テストを終えた和真と合流し臨時ミーティングを開くことに。

 

和真「…妙な抜刀術、か……」

翔子「……うん。なんというか、間合いに入ったときにはもう斬られてたみたいな感覚だった」

雄二「和真、お前アイツと幼馴染みで水嶺流にも詳しかったよな。何か心当たりがあるか?」

和真「…………ハッ!心当たりも何も……あのヤロー、味な真似しやがる。間違いなく俺への挑発だなそいつはよ」

 

雄二達からことのあらましを聞き終えた和真は、雄二のその質問に肩を竦めつつもどこか苦々しげな表情で肯定の意を示す。

 

明久「え?どういうことなの和真?」

和真「その技は間違いなく“海角天涯”。水嶺流の拾、つまり最後の型にあたる抜刀術であり……かつて俺がソウスケの父・秀介さんと手合わせを行った際、秀介さんの勝利の決め手になった技だ」

明久「え……えぇえぇぇぇええっ!?」

雄二「ま、マジかよ!?」

翔子「……正直予想外」

 

三者三様に驚愕を隠せないのも無理もない。最近では試召戦争の強さも大概だが、和真のリアルファイトの実力は人類の領域から完全にはみ出でているレベル……というのが第二学年の総意だ。その和真を打ち破れる技などハッキリ言って想像もつかないだろう。

 

明久「ねぇ和真、鳳君のお父さんって……もしかして鉄人みたいな人?」

和真「んなわけねぇだろ。むしろフィジカルだけで判断すりゃソウスケより華奢な人だぜ」

 

呆れるように否定する和真だが、新たな情報に三人は再び驚愕する。そしてかつて神童と謳われた雄二の頭脳はもう一つ、恐ろしい疑問を思い浮かばせてしまう。

 

雄二「和真、抜刀術でお前に勝ったっつうことは……あの技はお前より速いのか?」

和真「良いところに気がついたな雄二。喰らったのは結構前だから正確には不明だが……今の俺のスピードとも互角かそれ以上だと思うぜ」

雄二「嘘だろオイ……」

 

止めどなく浮かび上がってくる情報に雄二は開いた口が塞がらない。並外れた反射神経とスプリンター顔負けの瞬発力を持つ和真は名実ともに日本最速と言っても過言ではない。その和真と同等以上のスピードの居合など想像するだけで厄介なことこの上ない。呆然とする雄二をよそに、和真は説明を再開する。

 

和真「水嶺流は門外不出だから俺も詳しい原理は知らねぇけどよ、あの技は“明鏡止水”に至った者にしかできない芸当らしい。……なあ翔子、『海角天涯』の意味はわかるよな」

翔子「……天の果てと海の角のように、二つのものがとんでもなく離れているという意味の四字熟語」

和真「大正解♪まあ天に果てなんか無ぇし、海にも角なんざ無ぇけどよ。……それはともかくだ、かつてあの技によって何人もの戦士の上半身と下半身を熟語の通りおさらばさせたっつう、いわく付きの抜刀術だ」

明久「…………またまたぁ~。いくら僕でも流石に騙されないよ。シリアルキラーじゃあるまいしそんな物騒な…」

和真「は?何言ってんだお前?」

 

いつもの冗談かと思い笑い飛ばす明久を和真はきょとんとした表情で見る。

 

明久「…………え?ジョークじゃないの?」

和真「あのな明久……水嶺流は鳳家に代々受け継がれてきた古流剣術だぞ?」

明久「えぇと……もっとわかりやすく-」

和真「つまりだ、水嶺流は剣道みてぇなお行儀の良いスポーツなんかじゃ断じてねぇ。あの流派相手を殺すことに特化して発展した正真正銘の……殺人剣だ」

 

完全に寝耳に水の明久は勿論、薄々理解していた雄二や翔子もそれを聞いて背中辺りがゾクッとする。もっとも、恐怖を抱いた対象が殺人剣に対してなのか、もしくは木刀とはいえそんな代物を護身術としてバンバン使っているであろう蒼介に対してなのかは定かではないが。

 

和真「それはともかく……“海角天涯”を使ったってことは、アイツはもう“明鏡止水の境地”に自力で入れるっつうことか……」

雄二「対抗手段があるって言ってたが、大丈夫なのか?現状、Aクラス打倒の作戦はお前が鳳を倒す前提で組むしか無いんだが……」

和真「心配すんな雄二。俺はハナから、決戦のときまでにアイツが“明鏡止水”を完全にものにしてくる前提で考えてるからよ」

翔子「……でも、一度“明鏡止水”に踏み入れても、完全に使いこなすにはさらに年月がかかるってこの前-」

和真「そんなもん前例に基づいた建前だ。そもそもあの境地に十代で到達するって時点で前代未聞なんだ、前例なんざあてになんねぇよ」

雄二「なんでちょっと嬉しそうなんだよ……」

 

どことなく面白そうに好戦的な笑みを浮かべている和真に、雄二は思わず嘆息する。どうやら蒼介は知らず知らず和真の戦闘狂スイッチを押してしまったらしい。

 

和真「というか雄二、今はAクラスよりも明後日戦う予定のクラスのことだ。例のプランで行くつもりだから大した勝負にはならねぇとは思うがな」

雄二「……なるほど。ということはうまくいったんだな」

和真「ま、そゆこと♪それから雄二、ついさっき接触してきたぜ」

雄二「もしかしたらと思ってたが、来たのか……なるほど。確かに意外と頭が回るみたいだな」

和真「だな。といっても明後日の内容次第じゃ決裂するかもしれないから、なおさら出し惜しみはダメだ」

雄二「そうだな、余計な手間は省けるに越したことはない」

明久「???」

翔子「……」

 

お互い不敵な笑みを浮かべながらよくわからない問答を繰り広げている二人を、明久は心底不思議そうに、翔子は黙って見守るばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして明後日の早朝、Cクラス代表の小山優香は教卓の前に立ち闘志を燃やしていた。

 

小山「とうとうこの日が来たわ……見てなさい柊和真!今日までにアンタに受けた屈辱……1000倍にして返してやるわ!」

 

この大層恨みのこもった台詞からわかる通り、試召戦争が解禁される今日の朝HRにでもFクラスに宣戦布告するつもりでいた。先日の協定から得た情報によるとFクラスは標的であるAクラスへ攻め込む目処はまだ立っていない、つまり試召戦争の準備もおそらくできていないだろう。そこを自分達が奇襲のごとく宣戦布告し、戦う準備ができていないFクラスを一網打尽にする、というのが小山一人が考えた作戦である。ちなみにCクラスのほとんどが反対したのだが小山は力づくで黙らせた。権力を一人に集中させるとこのような暴走を止められないリスクを招くのだ。

 

小山「ふふふ、我ながらなんて完璧な作戦……やっぱりFクラスのバカどもなんて、ブタ小屋にミカン箱がお似合いなんだわ」

和真「楽しそうなとこわりぃけどよ、そのブタ小屋からの刺客のお出ましだぜ?」

小山「…っ!?ひ、柊和真!?なんの用よ!?」

 

先程の作戦を聞かれたのではないかと露骨に狼狽えるが、和真達の手の平で踊っていたことにまだ気づかない小山。それを嘲笑うかのような笑みを浮かべながら和真は告げる。

 

和真「用事だぁ?決まってんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達Fクラスは、Cクラスに試召戦争を申し込む」

小山「え?…………っ!?!?!?」

 

和真が何を言ったのか一瞬理解できなかったが、すぐに正気に戻りとてつもなく狼狽する小山。

 

小山「な、なんで……!?どうして!?」

和真「確かにAクラスに攻め込む予定は無ぇけどよ……お前らに攻め込む予定が無いと言った覚えは無いぜ?」

小山「そ、それは……ッ!?」

和真「あん?なんだよ小山、まるで自分がしようとしていた作戦をそっくりそのまま俺達にやられた……みたいな顔してよ」

小山「どうしてそれを!?……まさかアンタ達、盗聴でもしたの!?」

 

憎々しげな表情で睨めつけてくる小山に、呆れたように肩を竦めながら和真が種明かしする。

 

和真「バレバレ過ぎてんな小細工使うまでも無ぇよ……一昨日俺が執拗に挑発した意味をまるでわかっちゃいねぇ」

小山「挑……発……!?」

和真「短気かつ典型的直情型のお前が俺の暴言に耐えきれたのは、あのときには既に今日俺達をぶっ潰す腹積もりで、それまでに余計な小競り合いを起こして感付かれたくなかったから……だろ?」

小山「……っ!」

 

より憎々しげな表情になる小山。否定の言葉が出てこないところを見ると、どうやら図星を突かれたらしい。

 

和真「さて、そろそろホームルームだしそろそろ帰るわ。後で遊んでやるから、楽しみにしてろよ?」

 

いつもの不敵な笑みを浮かべつつCクラス教室から和真が悠然と立ち去ると、小山は溜め込んだ憎しみを教室中に爆発させた。

 

小山「あぁぁあぁぁぁああぁあああ!!!ムカつくぅぅうううぅぅ!!!上等よ、返り討ちにしてやるわ!ふん、強がっていたようだけどそっちの戦争準備は不十分だって調べはついてるのよ!容赦なくボコボコにしてやるわ!」

 

烈火の如く怒りまくり闘志を燃やす小山だが、その一方でその他のCクラス生徒達のモチベーションは音速のスピードで下がっていく。

 

(((代表……それ死亡フラグ……)))

 

 




蒼介「さて、そういうわけで次回からはCクラス戦だ」

和真「違うぞソウスケ。次回“は”Cクラス戦、だ。速攻でケリつけてやる」

蒼介「……まあ、この章におけるCクラスはボスどころか中ボスですらないからな」


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laser wing

【バカテスト・現代文】

次の文章を読み、問いに答えなさい。

生真面目な性格をしている彼のことだから思い悩んでいるに違いない。
幸子はそう考えるといてもたってもいられず、彼の部屋の扉を叩いていた。
「平助さん、入りますよ」
返事も待たずに中に入る。すると、部屋の中では赤身(せきしん)で思い悩む平助の姿があった。
「なんという格好をしているのですか」
幸子の存在に気が付くことはなく、平助は考え事をしていた。

「何と言う格好をしているのですか」と言った時の幸子の様子を答えなさい。


姫路の答え
『平助が服も着ないで考え事に没頭している姿を見て驚いている。』

蒼介「正解だ。赤身とかくと"あかみ"と読むことが多いが、"せきしん"と読む場合の意味は衣服をつけていないさま、つまり裸というものになる。よって幸子は『平助の服を着ていない姿』に驚いたということだ」


玉野の答え
『折角スカートを穿いているのにフリルが少ないことに憤っている。』

蒼介「何をどうしたらその回答に行き着くんだ……?」


吉井明久の答え
『ネクタイが曲がっていたので呆れている』

蒼介「吉井、裸にネクタイという珍妙な姿を見て気にするのはそこなのか?」




和真がCクラスに宣戦布告し、鉄人が空気を読んでHRを手短に終えたFクラス一同は、教卓に立つ雄二からの指示に耳を傾けていた。

 

雄二「さて、これからCクラスとの試験召喚戦争な訳だが……和真以外は適当に教室で寛いでくれてていい」

『え?』

『どういうことだ?』

 

いつもならそれぞれに点数を聞き出して部隊編成をしたり、お得意の奇策の下準備を指示したりするのだが、雄二の出した指示はこれから戦争が始まるとは思えないほど呑気な内容であった。

 

明久「雄二、どういうこと?」

雄二「そのままの意味だ。今回の戦いは和真が単独で片をつけるから、残りの48人は全力で俺を守れ」 

「「「…………」」」

 

どうかしているとしか思えない作戦内容に、クラスのほとんどのメンバーが思わずフリーズする。

 

雄二「……ん?どうしたお前ら?」

美波「あのねぇ坂本……確かに柊は強いけど、限度ってものがあるでしょうが。……柊もそう思うでしょ?」

和真「いや、今回のプランは俺が提案した」

「「「えぇえぇぇえええ!?」」」

 

衝撃のカミングアウトに先程のメンバーが大いにざわつくものの、和真はいつもの不敵な笑みを浮かべながら説明に入る。

 

和真「考えてもみろよ、ソウスケは一学期時点で今回戦うCクラスを単独で制圧したんだぜ?逆に言えば、それぐらいできなきゃAクラス打倒なんざ夢のまた夢だってことだ」

明久「いや理屈はそうなんだけどさ、鳳君が一人で制圧できたのは腕輪が……っ!……和真、もしかして……」 

和真「ま、そゆことだ♪」

 

珍しく察しの良い明久に一際良い笑顔を向けてから和真は話を続ける。他の生徒達も和真が何を成し遂げたのか理解したのか、やや驚愕した表情で静かに二の句を待つ。

 

和真「そして俺一人で闘う理由は他にも二つある。……明久、原子爆弾が日本に投下された理由は太平洋戦争の早期終結以外にも理由があったとされている。それは何だ?」

明久「え?…えっと……ソ連への牽制、だっけ?」

和真「正解。日本史はもう問題無さそうだな」

 

当時の情勢から考えると戦争終結後にソ連と対立することは確実であった。そこでアメリカは原爆の威力を見せつけてソ連を牽制し、有利な立場に立ちたいという思惑があり、原爆投下による「実験」が適切に行うことができる場所として白羽の矢が立ったのが日本の広島と長崎である……という説だ。

 

和真「つまりそれと同じようにこのCクラス戦を俺一人で蹂躙することで、AクラスやBクラスを牽制することが目的だ」

明久「でもさ和真、僕達以外にはまだそのことを知られてないんだからAクラス戦まで隠してたほうが良いんじゃない?」

和真「前にも言っただろ明久……()()はAクラスに挑むのに必要な最低限の条件だってよ。それはつまり、Aクラスに宣戦布告した瞬間に向こうに感づかれるっつうことだ。だったらいっそのこと強力な切り札として見せつけた方が良い」

雄二「そういうことだ。敵にできるだけ情報を隠すのは確かにセオリーだが、強力な武器は見せつければ抑止力になり嫌でもそこに注意を割かなければならなくなる」

秀吉「なるほどのう。……それで、二つ目の理由はなんなのじゃ?」

和真「二つ目は戦術とは無関係なんだがな……なあ明久、ドラクエで強い攻撃呪文を覚えたプレイヤーがすることはなんだ?」

明久「え?和真ドラクエやったことあるの?」

和真「ねぇよ。例えだ例え」

明久「うーん……僕ならその辺にいる雑魚敵で威力を確かめるかな?」

和真「大正解だ。 

そう、これから行われる試召戦争は闘いなんかじゃ断じてねぇ。そうだな……

 

単なる試し斬りだ」  

 

そう言って和真はFクラス教室から出ていった。

残されたメンバーは当たり前のようにスライム扱いされているCクラスに僅かばかりの同情を覚えたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『い…いたぞ!柊だ!』

『ひぃっ!?鬼の補習は嫌だぁぁあああ!』

『ば、バカ!闘う前から弱気になってんじゃねぇ!この人数で一斉にかかればなんとかなるはずだ!……多分』

『多分じゃ嫌だぁぁぁあああああ!!!』

黒崎「……よし!ここは任せろ!」

『トオル、何か策があるのか!?』

『流石副官、頼もしいぜ!』

黒崎「………………運に」

『『『運任せかよ!?』』』

和真(どいつもこいつも人を大魔王みてぇによ……カラミティエンドすんぞコラ)

 

特にこれといった工夫もなくCクラスに向かって悠然と歩いていた和真を、CクラスNo.2の黒崎トオル率いる迎撃部隊が取り囲んだ……のだが、既に敗色濃厚な雰囲気がその場に蔓延していた。和真はまるで魔王と対峙するかのような黒崎達の態度に心外だと言わんばかりの不満そうな表情をしているが、全滅する可能性が極めて高くよしんば勝利できたとしても確実に九割以上は道連れにされるであろう和真は、黒崎達からすれば正しく大魔王のそれであった。

 

和真(長谷川先生を連れてるってことは数学か。小山の奴、情報が古いにもほどがあるぜ)

 

小山はFクラスに宣戦布告つもりであったため当然情報収集は行ったようだが、おそらくは四月のAクラス戦で大門に敗北したことを知り、浅はかにも数学で迎撃するよう黒崎に指示したのであろう。

 

和真「それじゃあ始めるとするか。長谷川センセ、召喚許可を」

長谷川「承認します」

「「「試獣召喚(サモン)!」」」

 

それぞれの足下にお馴染みの幾何学模様が出現し、その中心から召喚獣が飛び出す。Cクラスの生徒達もそれぞれ装備が強化されているようだが、和真の黄金に輝く聖槍と比べるとどうしても見劣りしてしまう。

 

《数学》

『Fクラス 柊和真   509点

VS 

 Cクラス 黒崎トオル 189点

 Cクラス 遠山平太  176点

 Cクラス 榎田克彦  173点

 Cクラス 新沼京子  178点

 Cクラス 大野透   169点

 Cクラス 泉小太郎  180点

 Cクラス 横尾知恵  183点

 Cクラス 野々村充  178点』

 

 

『もうだめだぁ……おしまいだぁ』

『こんなのどうやって闘えって言うのよ……』

黒崎「やっぱりガセ情報掴ませれたんだなあのポンコツ代表め……」

 

今の黒崎の発言と全員がBクラス並の点数であることから、やはり小山は数学が得意な生徒を固めて和真を討ち取るつもりだったのだろう。しかし結果は御覧の有り様……和真討伐部隊の戦意は早くも喪失しかけていた。

 

黒崎「くそっ!こうなったら少しでも柊の点数を削るぞ!できるだけアイツに腕輪能力を使わせるんだ!」

『黒崎……そうだな!ここは覚悟を決めるときだ!』

『もうヤケクソよ!盛大に手こずらせてやるわ!』

 

指揮官の鶴の一声で、生徒達は神風特効的な意味合いとはいえ一応戦意を取り戻した。これはクラス間での戦争、犬死にと相手を消耗させての戦死では自クラスの勝率が天と地ほど違うであろう。

 

和真「ほー…黒崎よぉ、小山なんぞよりよっぽどリーダーに向いてるじゃねぇか。……いいぜ、お望み通り使ってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小山(見てなさいよ柊和真!ギッタギタにして泣きべそかかせてやるんだから!)

 

Cクラス代表の小山優香はやはり怒りに燃えていた。

そんな中、教室前で待機させていたはずの生徒が教室に駆け込んできた。

 

『だ、代表!』

小山「なによ!?持ち場を離れるんじゃないわよ!」

『それどころじゃないんです!』

小山「は?いったいどういう…って、こんな展開前にもあったような……」

 

既知感を感じた小山はその原因が何だったのか考えを巡らせ、四月に起きた屈辱的な戦いを思い出すと同時にCクラスのドアが勢いよく開かれ、悠然と和真が入ってきた。

 

和真「よ、約束通り遊びに来てやったぜ」

小山(た、単独でこの教室まで……まさか……いや、そんなわけない!百歩譲って鳳なら納得できるけど、Fクラスのバカが……きっと腕輪能力にものを言わせて強引に突破してきたに決まってる!ならコイツは大幅に消耗しているはず……)

 

四月にAクラスに宣戦布告し、ものの数分で蒼介に討ち取られたトラウマがフラッシュバックしそうになるものの、何とかそれを頭から振り払いつつ和真を目で殺さんばかりの形相で睨みつける。

 

小山「強がっても無駄よ!数学の点数があまり残ってないことぐらいお見通しなんだから!あんた達、こいつを仕留めるわよ!木内先生、召喚許可を!」

木内「承認します」

「「「召獣召喚(サモン)!」」」

 

和真が腕輪能力を乱発して強引に突破してきた場合に備えて、数学担当の木内先生は教室で待機してもらっていたらしい。どうも小山は個人的な感情を優先してCクラスの勝利よりも和真を倒すことに比重を置いているようだ。その時点でリーダーとして三流なのだが、そうまでした立てた作戦も全くの検討違いなのだから実に憐れである。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊和真   509点

VS 

 Cクラス 小山優香  186点

 Cクラス 寺崎孝   167点

 Cクラス 河瀬雅人  166点

 Cクラス 野口一心  168点

 Cクラス 新野すみれ 172点

 Cクラス 神戸慎   160点

 Cクラス 村田奈々  159点

 Cクラス 岡島久美  163点』

 

 

御覧の通り、和真はここまでの闘いで一点たりとも消耗などしていなかった。

 

小山「そんな……どうして……どうしてよ!?」

和真「小山よぉ、もうわかってるんだろ?この力の暴力的なまでの強さはお前が一番よく知っているハズだ……ランクアップした腕輪能力の強さは」

小山「嘘よ……Fクラスのアンタなんかが……」

和真「一つアドバイスしてやるから後学のため覚えとけ。プライドが高いのは結構だがよ、それに固執し過ぎると寿命を縮めるぜ。

……レーザー・ウイング」

 

和真がキーワードを呟くと同時に、〈和真〉の背中から強い光を帯びたプラズマ状の翼が三対噴出した。あまりに非現実的な光景にCクラスの生徒達が思わず狼狽えるが、そんなことは構い無しに翼の光はどんどん強くなる。

 

和真「……掃射ァッ!」

 

ズドドドドド

 

『『『ぎゃあぁぁああぁあっ!?』』』

 

和真の掛け声と共にそれぞれの翼が光線を放ち、Cクラス生徒達の召喚獣は成す術もなく蹂躙された。

 

 

《数学》

『Fクラス 柊和真   518点

VS 

 Cクラス 小山優香  186点

 Cクラス 寺崎孝   戦死

 Cクラス 河瀬雅人  戦死

 Cクラス 野口一心  168点

 Cクラス 新野すみれ 戦死

 Cクラス 神戸慎   戦死

 Cクラス 村田奈々  戦死

 Cクラス 岡島久美  戦死』

 

 

和真「あっ二人仕留め損ねた。こりゃあまずいな~、撃った後エネルギーが貯まるまでちょっと時間がかかるんだよな~」

小山「っ!今がチャンスよ野口!」

野口(いや、明らかに誘ってるだろアレ……)

 

好機を逃すまいと小山は〈和真〉を仕留めにかかる。誰ざどう見ても罠だとわかりそうなのだが、この頭に血が上りやすい代表が自分の意見を聞き入れるとはとても思えず、また既に結果が見えてしまっているため野口も諦めて小山に続く。

 

和真「……なぁんてな♪」

 

 

ズバァァァンッ!

 

 

小山「そ…そんな……!?」

野口(ハイハイ予想通り。

はぁ…明日からFクラス教室かぁ……)

 

不用心に近づいてきた二体の召喚獣を、六枚の翼のうち二枚を刃状に変化させて容赦なく切り裂いた。その直後、その二枚の翼は跡形もなく消滅してしまう。和真は確認のため召喚フィールドに残りの翼を軽くぶつけてみると、翼は一つ残らず全て砕け散った。

 

和真(なるほど、翼の耐久力は無いに等しいのか……ランクアップしても攻撃に特化した性能ってわけだな)

 

呆然として膝から崩れ落ちる小山や、明日からの学校生活を想像して憂鬱になる野口の傍らで、和真はそんな感想を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




水嶺流弐の型・車軸……雨粒を正確に射抜くように、相手の急をピンポイントで貫く高速の刺突技。水嶺流が殺人剣として全盛を極めた時代には、この技で数多の戦士の眼球や首や心臓を抉ったとされている。


レーザー・ウイング……和真のランクアップ腕輪能力。三対の翼から破壊力抜群のレーザーを放つ。一度撃った後ある程度インターバルが必要なのは事実であるが、不用意に近づく敵は翼を刃状に形状変化させて切り裂く。反面耐久力は紙レベルであり、ちょっと触れただけで空中分解してしまうほど脆い。また、召喚獣本体がダメージを受けると全ての翼が消滅してしまうといった弱点が存在する(召喚し直せば復活する)など、相変わらず攻撃に特化した性能である。







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根本、怒りの撤退

水嶺流参の型・怒濤……荒れ狂う波のように連続で剣撃を放つ。力任せに振り回すような単純な技のではなく、それこそ無駄の無い波のように流れる動作を必要とする。水嶺流が殺人剣として全盛を極めた時代、数多の敵に囲まれたまさに絶対絶命という状況をこの技を駆使して切り抜けたという。



Fクラスが(というより和真が)Cクラスに勝利した翌日の朝、BクラスではHR前だと言うのに代表である根本が教卓に立ち、その他の生徒は皆教卓についている。

 

根本「それじゃあHRが終わり次第すぐにでも宣戦布告しにいく。ところでお前ら、今さらこんなこと言うのもなんだけどよ……本当にこの方針に納得しているのか?後からゴチャゴチャ言ってきても聞く耳持たないからな」

源太「ホントに今更だな。もうアイツと交渉済ませてあるんだからどの道もう引き返せねぇよ」

岩下「それに、どう考えても勝てっこないって。根本君にしては珍しく良い案だと思うわ」

菊入「ええ。『卑怯、変態、 女装趣味の三拍子がそろった外道』がキャッチフレーズの根本君が考えたとは思えないほどの方法だよ」

根本「おいコラそこのクソアマ共。明らかに俺を馬鹿にしてんだろ何だその悪意に満ちたキャッチフレーズ」

菊入「だって……」

岩下「ねぇ……」

根本「意味あり気に目配せしてんじゃねぇ!」

源太「諦めろ根本。このクラスでのテメェの立ち位置はもういじられキャラで固定されちまってるんだからよ」

根本「納得いかねぇ……」

源太「あ、ちなみにそのキャッチフレーズの発案者は和真だ」

根本「また柊かよ!?人をおちょくらないと死ぬ病気にでもかかってんのかアイツはァァァ!」

 

教卓で発狂したように根本が憤慨し、教室中に生徒達の笑い声が響き渡る。この通りクラス代表としての威厳はこれっぽっちも残っていないものの、一時は村八分状態であったとは思えないほど根本はクラスメイト達に受け入れられているようだ。本人が代表としての発言権を取り戻そうと地道に努力したこともあるが、副官である源太によるサポートが最大の要因だろう。源太は強面の割に意外と面倒見が良く、根本がFクラスに敗北後戦犯扱いされても、覗き騒動の件でさらに立場が悪くなっても、自身の成績が根本を軽々と上回ってからも源太は根本を見限ることなく副官という立ち位置であり続けたのだ。今回根本が以前のように姑息な戦法を取るつもりがないのは、そういう手段を好まない源太の顔を立ててやるためだったりする。やれ卑怯だやれ小物だと周囲からの評価は散々な根本だったが、人として最低限の良識は残っていたらしい。

 

源太(まあそれはそれとして……せっかくだから霧島に喧嘩吹っ掛けてみっかな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄人「……以上でHRは終わりだ。せっかく設備も向上したんだ、今後は真面目に勉学に取り組むように」

 

Cクラス教室(現在はFクラスの教室)でHRを終えた鉄人が開けて教室から出て行くと同時に、明久と雄二が何人かの生徒に羽交い締めにされる。

 

須川「諸君、ここはどこだ?」

「「「最後の審判を下す法廷だ!」」」

須川「「異端者には?」

「「「死の鉄槌を!」」」

須川「男とは?」

「「「愛を捨て、哀に生きる者!」」」

須川「宜しい。これより……新教室第一回目異端審問会を始める!」

明久「やめて、僕は異端者なんかじゃないよ!?殺るなら雄二だけにしてよ!」

雄二「ブチ殺すぞ明久テメェ!つかお前ら、俺はこれから試召戦争の作戦決めとか忙しくてこんな茶番に付き合ってる暇なんざ無ぇんだよ!殺るなら明久だけにしろ!」

『試召戦争?もうそんなものはどうでもいい!』

『もう既に十分な設備だしな』

『そんなことよりもか弱い女性達を毒牙にかけるお前達異端者を始末することの方が重要だ』

明久・雄二「「ふざけんなぁぁあああ!?」」

 

二人の魂の叫びもどこ吹く風、FFF団のメンバーは皆試験召喚戦争へのモチベーションを完全に失っていた。一学期にDクラスやBクラスと設備を交換しなかった理由の一つがFクラスのモチベーションを維持することだったのだが、あのとき雄二が危惧した通りの展開になってしまったようだ。

そんな彼らの様子に思わず溜め息を吐く美波。

 

美波「ホント、一学期から全く成長しないわねアイツら……」

秀吉「しかし妙じゃの。何故和真には何もせんのじゃ?少し前まではしょっちゅう襲いかかっていたというのに」

和真「流石に懲りたんじゃねぇの?俺が優子と付き合ってから襲ってきた回数は軽く100を越えるけどよ、一回の例外も無くブチのめしてやったからな」

翔子「……50回を越えたあたりから全員の財布の中身を抜き取って、全額募金箱に投入するようになってた」

姫路「あの、柊君……流石にそれは……」

和真「嫌がらせと社会貢献が一度にできてスゴくお得だろ?」

美波「外道慈善者って表現がぴったりね……」

 

そんな感じでいつも通りばか騒ぎしていると突然教室のドアが開き、Bクラスの根本と源太が入ってきた。

 

源太「取り込み中のとこワリーけど、邪魔するぜ」

雄二「Bクラスが俺達に何のよう……って、聞くまでもないか」

根本「ご名答……俺達Bクラスはお前達Fクラスに試召戦争を申し込むぞ。今日の九時半からで構わないか?」

雄二「ああ、それで良いぜ。せっかく来たんだ、ついでにこの縄をほど-」

源太「じゃあ俺様達はこれで」

根本「首を洗って待っているんだな」

雄二「いやだから!縄ほどくの手伝えよ!おいコラ、そこの卑怯者とヤンキーかぶれ!無視すんなコラァァァ!」

 

そんな雄二の怒号も虚しく源太達はさっさと教室から出ていってしまった。その後、見かねた和真の手助けによってなんとか二人は事なきを得た。

 

雄二「さて、これからBクラス戦なわけだが……ぶっちゃけ昨日以上に緩い闘いになる」

明久「どういうことさ雄二?代表が根本君とはいえ、相手はAクラスに次ぐ上位クラスだよ?」

雄二「それでもランクアップした和真の相手としては力不足だ。……それ以前にもう密約は済ませてあるしな」

明久「へ?密約?」

雄二「俺についてくればわかる。……さて時間だ、いくぞ和真と翔子」

翔子「……わかった」

和真「あいよ」

明久「あ、ちょっと雄二!?」

 

昨日に輪をかけて適当に説明をした後、雄二は翔子と和真を連れて教室から出ていった。

流石に気になったクラスメイト達もそれに続くと、今までの試召戦争と比べて明らかに異質な光景が廊下に広がっていた。

 

明久「……ねぇ雄二、もう始まってるんだよね?」

雄二「ああ」

明久「だったらなんで廊下に誰もいないの?もしかして、Bクラス教室で待ち構える作戦じゃあ……」

雄二「お前にしちゃ中々の読みだが不正解だ。言ったろ?密約は済んでるって」

美波「だから何よ密約って?ちゃんとわかるように説明しなさいよ」

雄二「和真、任せた」

和真「あのな……まあいい。実を言うとだな、月曜日の放課後に源太とある取り引きをしてな」

秀吉「取り引きじゃと?」

和真「そ。Bクラスの前にCクラスを攻め落とす代わりに、BクラスはFクラスに無抵抗で負けるっつう内容のな」

「「「えぇっ!?」」」

 

事前に知らされていた雄二と翔子以外の全員が驚愕する。もしそれが本当なら、今回の試召戦争は完全に消化試合ということだ。

 

明久「な、なんでそんな取り引きを!?」

和真「源太には俺がランクアップしかけてるっつう情報を事前に流しておいた。蒼介という前例を知っている源太は俺達への勝ち目が無くなったと代表の根本に口添えをした結果、根本はBクラスにとって最善の手段を取ることにしたようだ」

美波「最善の手段?どういうことよ?」

和真「考えてもみろ、俺達が真っ先にBクラスを狙った場合とCクラスを倒した後に狙った場合……どちらがアイツらにとって都合が良い?」

ムッツリーニ「…………設備のことを考えると、明らかに後者」

 

そう。どちらも設備のランクダウンは免れないが、前者の場合がFクラス設備まで転落するのに対し、後者の場合はCクラス設備とたかだか1ランクダウンで済む。ダメージを最小限に抑えるためにはFクラスにCクラス設備を手に入れさせる必要があった。

 

和真「勿論俺達にもメリットはある。手早く試召戦争が終わるんなら、一学期みたいに長期休暇を補習授業に当てられる事態を避けられるからな」

秀吉「なるほどのぅ……しかし、根本にしては随分とクリーンな作戦じゃな」

明久「言われてみればそうだね……もしかして、それらは全部嘘で教室に入った途端奇襲してきたり」

和真「そんときゃ……俺がまとめて補習室にブチ込んでやるから安心しろ」

(((非常に頼もしい!頼もしいけどよ……頼もし過ぎて俺達の存在意義が……)))

 

完全に和真におんぶにだっこの現状に流石に大多数の生徒が肩身が狭く感じるも、和真はお構いなしにBクラス教室のドアを無造作に開けて何の躊躇いなく中に入っていき、他のメンバーもそれに続く。明久の危惧したような奇襲とかはなく、Bクラスの生徒達は皆机に座って静かに自習をしていた。

 

根本「来たな。じゃあさっさと終わらせるか」

 

同じく自習に勤しんでいたであろう根本がペンを置いて気だるげに立ち上がり手早く終わらせようとするが、おもむろに立ち上がった源太がそれを手で制する。

 

源太「まてよ代表。せっかくの試召戦争だ、ちょっとくらい余興があっても良いだろ……なあ霧島?」

 

そう言って源太は雄二の隣に並んで立っている翔子を挑発するように見据える。それを受けた翔子も、いつも通り無表情ながらも雪辱戦に闘志を燃やす。

 

翔子「……雄二、良い?」

雄二「別に構わんぞ、心置きなくリベンジしてこい。別に良いよな根本?」

根本「ちっ、さっさと終わらせろよ?」

 

両代表が許可しその他のメンバーも特に異議が無かったため、Bクラス教室で源太と翔子が向かい合う。立会人は勿論英語教師の遠藤先生。これまで翔子と源太は英語科目で二度

刃を交えているが、戦績は0勝1敗1分けと翔子が負け越している。

 

源太「意気込み十分なとこワリーけどよ、今回も俺様が勝たしてもらうぜ」

翔子「……負けない」

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 




流石に消化試合過ぎたんで、急遽翔子さんのリターンマッチ戦をねじ込みました。相変わらず行き当たりばったりのシナリオで申し訳ない……。


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リベンジマッチ

水嶺流肆の型・大渦……片足を軸にした回転による遠心力と、体の捻りから生じる反発力を振るう剣に乗せることで、パワーとスピードを大幅に上昇させる技。水嶺流が殺人剣として全盛を極めた時代、この技は鎧ごと相手を両断するために編み出さだされたという。


幾何学模様から二体の召喚獣が出現する。

翔子の召喚獣の装備は武者鎧に兜、そして寒気を呼び起こすとされる妖刀・村雨。

一方の源太の召喚獣はというと、以前は民族衣装だったのが西洋鎧に、武器はトマホークからハルバードに変化していた。

 

 

《英語》

『Aクラス 霧島翔子  546点

VS

 Aクラス 五十嵐源太 637点』

 

 

源太「へぇ、随分と実力をつけたじゃねーか」

翔子「……五十嵐は、Aクラスと闘う前にどうしても勝たなければならない相手。でないと、私はさらに上に行くことはできない」

源太「ほー、良い覚悟だ。だがよ、テメェにこいつを防ぐ手段があるのか?この……千の刃をよぉっ!」

 

〈源太〉の左腕から無数の刃物黒いナイフが次々と出現し、あっという間に召喚フィールド内を埋め尽くした。

 

翔子(……やっぱり、この技……!)

源太「さてどうする霧島ァ…何もできねーと死んじまうぞ?……シュゥゥゥウウトッ!」

 

合図と共に全方向から〈翔子〉目掛けてナイフの雨が降り注ぐ。

 

翔子「……同じ手は喰らわないっ!

アイスブロック・フォートレス!」

 

〈翔子〉は突如出現した氷の塊に閉じ籠り、その氷塊を再び氷が覆うことで耐久力を強化した。降り注ぐ無数のナイフが突き刺さったものの、ナイフの一つ一つは威力も強度も大したものではないため傷一つつけられず全て弾き飛ばされた。

 

 

《英語》

『Aクラス 霧島翔子  446点

VS

 Aクラス 五十嵐源太 487点』

 

 

源太「!…なるほど、氷の防壁ってわけか。大分能力を使いこなせるようになったみてぇだな……なら、力づくでぶち破るまでだ、巨人の爪ぇぇぇ!」

翔子「っ!解除!」

 

二重に覆っていた氷塊が溶けると同時に〈翔子〉は即座に距離を取り、次の瞬間にはその場所を備えた巨大な黒腕が通りすぎた。

 

源太「それによ……能力の精度が上がったのは、何もテメェだけじゃねぇんだぜぇ……オラァッ!」

 

雄叫びとともに黒腕が枝分かれし、無数の爪となって襲いかかる。〈翔子〉がとっさに横にとび攻撃をかわし、轟音とともに爪の大群が召喚フィールドに着弾し雲散霧消する。

 

源太「ちぃっ、分裂させるとちょっとした衝撃で消えちまうな…おっと!」

 

気取られないように上空に潜ませていた氷柱が〈源太〉に降り注ぐが、即座に産み出された黒腕に全て弾き飛ばされた。〈源太〉が返す刀で黒腕を無数の爪に変化させ強襲させる。しかし〈翔子〉も氷の礫を出現させて片っ端から打ち落とし、打ち漏らした残りの爪は村雨で両断した。

 

 

《英語》

『Aクラス 霧島翔子  246点

VS

 Aクラス 五十嵐源太 387点』

 

 

源太(……このまま腕輪能力で応戦しても点数を消耗するだけだろうな。幸い俺様もアイツも接近戦にあまり向かない能力……ここは攻め時だ!)

 

意を決して絡ませない源太とはハルバードを構えて特攻する。その判断は概ね正しい。点数、操作技術ともに源太が上回っているため、腕輪能力が介入しにくい闘いでは有利に立ち回れることは間違いない。

 

しかし源太は村雨とハルバードが激突する前に、ある見落としに気がつく。

 

源太(……296点?俺様と霧島の腕輪能力の消費点数は確かどちらも50。俺はまだアイツに攻撃を当ててねぇし、さっきの攻防で使った回数はどちらも二回のはず……なんでアイツの点数は150も消費されて-)

翔子「……かかった!」

 

両者が激突する寸前の寸前に、〈翔子〉は紙一重で特攻をかわす。勢いを殺し切れずそのままさらに一歩前に踏み込んだ〈源太〉は、何故か滑って転倒してしまう。

 

源太(なに!?…しまった、そんな手が!?)

 

何事かと源太はフィールドを注視すると〈源太〉が転倒した場所、つまり先ほど〈翔子〉が立っていた場所より後ろの場所が薄い氷で覆われていた。

 

翔子「…隙あり!」

 

村雨を()()()()に変え、〈翔子〉は転倒した源太の召喚獣に唐竹割りを繰り出した。

 

源太(くっしまった!…だが操作の方はまだ未熟だな、追撃がワンテンポ遅いぜ!)

 

ガキィン!

 

〈源太〉は間一髪で体勢を立て直し、村雨をハルバードでどうにか受け止めた。

 

源太「惜しかったな。それじゃ反撃に-」

翔子「……ここで決める!アイスブロック・サムライソード!」

 

その掛け声とともに、〈翔子〉の()()()()()()に氷でできた二振り目の刀が出現した。

 

源太「二刀流だと!?やべ、一旦退いて-」

翔子「……逃がさない」

 

何とか間合いから離脱しようとするも氷で覆われたフィールドに足を取られ、その隙に〈源太〉は氷の刀に斬り裂かれた。

 

 

《英語》

『Aクラス 霧島翔子  196点

VS

 Aクラス 五十嵐源太 101点』

 

 

致命傷には至らなかったものの、受けたダメージは決して小さくなかった。

 

 

翔子「……形勢逆転」

源太「やるじゃねーか……試験召喚システムの能力は使い方次第でいくらでも応用が効くが、まさかそんな手で来るとはな……だが俺様はまだ負けちゃいねぇ!こうなったら小細工は抜きだ!とっておきでカタをつけてやる!」

 

〈源太〉の右手からは巨大な腕が、左手からは無数の爪が出現し、それと同時に源太の点数が1点にまで減少する。

 

源太「こいつを耐えきることができればテメェの勝ち、できなければ俺様の勝ちだ!」

 

黒腕が〈翔子〉に襲いかかり、黒爪か逃げ場を潰すように左右から追撃する。

 

翔子「……私の答えはどちらもちがう。アイスブロック・ロングポール!」

 

激突寸前に〈翔子〉は真下に両手をかざし能力を発動させる。それぞれの手から長い氷柱が産み出され、反作用の法則に従って〈翔子〉は空中に投げ出された。

 

源太「んなっ!?…………ここまでか」

 

黒腕と黒爪は氷柱を容易く粉砕したものの標的には命中せず、支えを失った〈翔子〉は悠々と地面に着地し、反撃とばかりに〈源太〉に斬りかかる。全てのパワーを先ほどの攻撃につぎ込んだため余力など残されておらず、満身創痍の〈源太〉はそのまま無抵抗に斬り殺された。

 

 

《英語》

『Aクラス 霧島翔子  96点

VS

 Aクラス 五十嵐源太 戦死』

 

 

源太「……俺様の負けだ。まさかここまで強くなってるとはな」

翔子「……まだ戦績は五分。それに少しでも気を抜けば私がやられていた」

源太「それでも勝ちは勝ちだろ?勝者はふんぞり返ってりゃ良いんだよ。だがな霧島、俺様もここで終わるつもりはさらさらねぇ!次闘うときは勝たせてもらうぜ!」

翔子「……勿論、次も負けるつもりは無い」

 

二人のライバル関係がさらにヒートアップする一方、和真がレーザーウイングで根本を瞬殺してBクラス戦は終了した。情緒も何もあったものでは無いが、ランクアップした者としていない者は同じ土俵にすら立てないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の金曜日。Bクラス教室に代わったものの取り立ててクラスの日常に変化はなく(異端審問会云々は日常にカウントする)、さして何事も起こらずその日の授業は終了し放課後になり、和真は部活のある秀吉以外のいつものメンバー計6人を連れて職員室のフリースペースに来ていた(途中また明久と雄二が連行されかけたが、和真の仲介で何とか事なきを得た)。

 

明久「それで和真、ここで何をするの?ひたすら操作技術の向上?」

和真「それも悪かねぇが、より効率が良いのは実戦に慣れることだ」

雄二「じゃあ俺達同士で闘うのか?」

和真「違ぇよ、手の内バレバレの奴同士で闘ってもしょうがねぇだろ。それにお前らが俺と闘っても勝負にすらならねぇしな

雄二「ムカつくが言い返せねぇ……」

和真「そんなわけで、今回俺達の相手してくれんのは……」

 

和真がの台詞を遮るかのように職員室のドアが開き、ある七人の生徒が一直線にフリースペースフィールドに向かってきた。

 

「ったく、つくづく先輩遣いの荒い奴だぜ……」

「まあそういうなよ。溜まりたまった借りを生産するチャンスだ」 

「ここらで先輩の凄さってやつを見せとくのも、悪かねーしな」

「ふふふ、お手柔らかにお願いしますね」

「私は私の最善を尽くすだけ……」

「先日の肝試しでは不覚を取りましたが、今回はそうはいきませんよ」

「ま、そゆことや和真。今回この模擬代表戦を引き受けたのは、そりゃ可愛い後輩達を助けたろと思ったのもあるけどやな……本命はうちらのリベンジマッチっちゅー話や♪」

 

 

やってきたのは常夏コンビ、金田一、小暮、宮阪、高城、そして梓……三年Aクラスの精鋭達であった。

 




蒼介「というわけで、今回の章のボス役は三年Aクラスの先輩方だ」

和真「正直またかよ……って感じだな」

蒼介「しかしだなカズマ、先日の野球大会は試召戦争として特殊過ぎるし、肝試しはあくまで三年対二年という闘いだった。今回のように3-A対2-Fというのは初めてじゃないか」

和真「だいぶ強引だな……まあ2-A以外に俺達と勝負になるのもうこの人達しかいないし、しょうがねぇか」


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VS三年Aクラス①

召喚獣の戦闘シーンをかくとき「~の召喚獣が」をいちいち入れると文章がくどく感じるので、これからは〈〉を使って区別しようと思います。
(例) 和真→人間 〈和真〉→召喚獣

過去に投稿したヤツも時間に余裕があるときにでも修正していきますので。


姫路「あ…あなた方はっ!?」

翔子「……佐伯先輩に高城先輩」

美波「宮阪先輩に小暮先輩……」

ムッツリーニ「………金田一先輩。そして…」 

明久・雄二「「常夏コンビ!」」 

常村「とりあえずそこのバカコンビが俺達を舐めくさってることはわかった」

夏川「そういやその呼び名、コイツらが発端だったな……その後知らんうちにあっという間に学園中に広まっちまって…」

和真「すんませんね先輩方、わざわざ来てもらったってのに。……ちなみに学園中に広めた犯人は俺」

常村・夏川「「お前かよォォオオオ!?」」

雄二「まあそれはさておき……センパイ方、模擬代表戦ってのは何の話だ?」 

 

このままだと収集つかなくなりそうだったので、一切合切スルーして梓にそう問いかける雄二。

 

梓「え?坂本君また置いてきぼりなん?火曜の朝に和真がウチのクラスまで来て提案してきたんやけど」

雄二「ほう、そんなことがあったのか。……オイコラ和真、どういうことだ?」

和真「恒例のサプライズ企画」

雄二「あのなぁ!?毎度毎度代表の俺を差し置いてそんなもん勝手に申し込んでんじゃねぇよ!」

和真「別に自粛してやってもいいけどよ、そしたら今後は豆腐メンタル共のアフターケアを始めとした面倒ごとは全部拒否させてもらうから」

雄二「っ!……おのれ、卑怯な……!」

和真(いや弱いなオイ。……いやまあ確かに、こいつに女子のアフターケアなんて繊細なことできるわけねぇけどよ……)

姫路(豆腐メンタル……って……)

美波(ウチのことよね……) 

 

あっさりと引き下がってしまう雄二に思わず溜め息をつく和真。一方、思わぬところで流れ弾を食らってしまった者が約二名ほど。

 

雄二「チッ、仕方ねぇ……引き受けてやるぜその挑戦。で、具体的なルールはどうする?」

梓「今から説明するけど、今回は少し特殊やからしっかり覚えてな?ルールは主に三つや。まず一つ目、勝負方法は肝試しのときと同じセンター試験準拠。五教科と保健体育、それに総合科目の七教科や」

雄二「そうか。確かに二年と三年の闘いだと、それが一番フェアだな。……明久、念のため言っておくが野球は関係ないぞ」

明久「いや、もう間違えないからね!?」

梓「アイドルの立ち位置も関係あらへんで?」

明久「佐伯先輩まで!?二人とも僕を何だと思ってるの!?」

雄二・梓「「空前絶後のバカだが(やけど)?」」

明久「アンタら打ち合わせでもしたのか!?」

 

Fクラス恒例の明久弄りをひと通り終えて満足した雄二は梓に説明の続きを視線で促す。

 

梓「二つ目やけど、科目選択はお互いのチームが交互に選び、一度選んだ教科はもう選べん」

雄二「……なるほど。この代表戦は七対七、選べる教科もちょうど七教科。最終戦が自動的に決まるためお互い選択権は三回……これまたフェアなルールだな」

ムッツリーニ(……このルールのポイントは、多分それだけじゃない)

美波(自分の後に控えている人が得意な科目を選んじゃうと、チーム全体が不利になるわね……)

翔子(……それに最終戦の科目は残り物になるわけだから、どの教科を残したいか、あるいは残しておきたくないかを考えて選ぶ必要がある)

姫路(どちらにしよ、慎重にことを進める必要がありますね……)

明久(何かややこしいルールだな。こんがらがってきちゃったよ)

和真(明久の奴、またおいてけぼりになってやがる……また俺が説明するしかないか……)

 

和真の仕事がまた一つ追加されたことなど露知らず、梓はそのまま説明を続行する。

 

梓「三つ目は、これば和真からのリクエストやねんけど……金の腕輪の使用を禁止する」

明久「え?どうして?」

和真「たりめーだ。俺達の目的は操作技術の向上だろ?あんなもんに頼ってたら一向に上達しねぇよ。……あ、お前の白金の腕輪は使っていいぞ。むしろ絶対に使え」

明久「え?うん、わかった」 

和真(今のこいつが二体同時にどれだけの精度で操れるのか、確認しておかねぇとな)

夏川「説明は終わったようだな。それじゃこっちの先鋒は俺、科目は数学だ」

 

梓が話終わると同時に夏川が所定の位置につく。夏川の選択した科目を聞いた美波がいち早くフィールドに向かう。

 

美波「数学……どうやらここはウチの出番のようね!試獣召喚(サモン)!」

 

美波の足元に出現した幾何学模様から騎士服に身を包みランスを携えた召喚獣が飛び出し、ワンテンポ遅れて点数が表示される。

 

《数学》

『2年Fクラス 島田美波 306点』

 

夏川「ほぅ……やるじゃねぇか」

美波「Fクラスだからって甘く見ないでよね!ウチは数学だけならもうAクラス上位レベルなんだから」

夏川「ククッ、だけど甘いぜ…サモン!」

 

同じく足元に幾何学模様が出現し、中心から僧侶服を着てハンマーを持った召喚獣が飛び出す。

 

《数学》

『3年Aクラス 夏川俊平 411点』

 

美波「よ…400点オーバー!?」

夏川「あいにく、理系科目だと俺はAクラスでもトップレベルなんでなぁ……それじゃあいくぜ後輩!」

 

その言葉を合図に〈夏川〉はハンマーを構えて突撃する。〈美波〉はランスのリーチを利用して相手の間合いの外から応戦しようとするものの、あっさりと間合いを詰められてしまう。

 

美波「っ!?まずい、このままじゃ…!」

夏川(まだまだ操作がぎこちねぇ……それに槍の扱いにもまだ慣れてないようだな)

 

点数で大きく勝っているため夏川は敢えてノーガードの削り合いに持ち込んだ。お互いが相手の点数をどんどん削り取っていくものの、点数、召喚獣のスペック、操作技術全てにおいて劣っている〈美波〉がどんどんと追い詰められていく。

 

 

《数学》

「2年Fクラス 島田美波 128点

VS

 3年Aクラス 夏川俊平 304点」

 

 

美波(このままじゃ確実にウチの点数が先に尽きちゃう……こうなったら、この前瑞希と練習したあの技をやるしかない!)

 

意を決した美波は〈美波〉にその場から離脱させる。

 

夏川「逃がさねぇよ!」

 

〈夏川〉はハンマーを構えて〈美波〉を追いかける。〈美波〉はひたすら逃げるものの、召喚獣は範囲が限られているためあっという間に壁際に追い込まれてしまう。

 

夏川「いったん距離を取って体勢を建て直そうとでも思ったらしいが、どうやら裏目に出ちまったようだな。もう逃げられねぇぜ……覚悟しやがれ!」

 

〈夏川〉はハンマーを大きく振りかぶってさらに突撃する。対する〈美波〉そんな〈夏川〉に背を向け…

 

美波「今よ!喰らいなさい!」

 

壁に向かって飛び蹴りを行い、その反動を利用して〈夏川〉を迎え撃つ。これこそ先日の姫路との特訓で美波が思いついた技である。〈美波〉のこの技に対して〈夏川〉は…

 

 

 

夏川「効くかそんなもん!」

 

一歩半横に飛んであっさりと避けてから、着地した〈美波〉に体勢を立て直す隙も与えず〈夏川〉は強烈なカウンターをお見舞いした。

 

美波「えぇっ!?そんな…」

夏川「これで終わりだ!」

 

横っ腹を殴打されて転倒した〈美波〉が立ち上がる前に、〈夏川〉は距離を詰めてハンマーで容赦なく幕を引いた。

 

 

《数学》

「二年Fクラス 島田美波 戦死

VS

 三年Aクラス 夏川俊平 304点」

 

 

終わってみれば夏川の圧勝という、何の番狂わせもない至極順当な結果であった。

 

美波「ウチが数学で負けるなんて……」

夏川「発想はそこまで悪くなかったけど隙が大き過ぎる。そもそも付け焼き刃の技にやられるほど、俺達三年は甘くないぜ」

 

そう言い残し、夏川は上機嫌で三年生が待機している場所へ悠々と戻っていった。思い返せば幾度となく二年に煮え湯を飲まされ続けてきた夏川の、記念すべき初めての完全勝利である。

 

美波「ごめん、負けちゃった」

雄二「気にするな、勝負はまだ始まったばかりだ。ムッツリーニ、頼めるか?」

ムッツリーニ「………任せておけ」

 

自信満々に親指を立てて、ムッツリーニは戦場へ赴く。選ぶ教科は考える余地すらない。

 

ムッツリーニ「……二番手はこの俺、土屋康太。科目は当然保健体育……!」

小暮「あら、でしたらここはわたくしの出番のようですわね」

 

対する三年生サイドがが送り出してきた相手は、学年五位の小暮葵。

 

雄二(どういうことだ?常夏コンビのもう一人を生け贄にしてくると思ったんだが……)

梓(今ごろ坂本君あたりが首かしげとるかもな。そうやとしたら甘いでぇ、肝試しから何も成長しとらん……土屋君は何も無敵っちゅうわけやないってこと、教えたれ葵)

和真(あれ?何となくオチが見えてしまったんだが……)

「「サモン!」」

 

可け声と共に幾何学模様からそれぞれの召喚獣が出現する。ムッツリーニの召喚獣の装備は上忍装束に小太刀二刀流、小暮の召喚獣の装備は着物が袴になり鉄扇がやや頑丈そうになった。

 

 

《保健体育》

『二年Fクラス 土屋康太 786点

VS

 三年Aクラス 小暮葵  359点』

 

 

圧倒的な点数差が遅れて表示される。小暮の点数も決して低くはないのだが、いかんせん相手が悪過ぎる。この光景に(和真以外の)Fクラスメンバー全員が勝利を確信するなか、それでも梓の余裕は崩れない。

 

ムッツリーニ「………いくぞ」

小暮「待ってください土屋君、実は貴方にお伝えすることがありまして」

ムッツリーニ「………何だ?」

小暮「実は今日、わたくし…」

 

そこで一旦言葉を切り、小暮はやたら妖艶な笑みを浮かべながら両手で自らのスカートをつまみ上げる。

 

 

 

 

 

小暮「下着を穿いておりませんわ♪」

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ムッツリーニを保健室まで運び出すことになったのは言うまでもない(雄二と明久もいつものパターンで翔子達からダメージを負わされたが生命力溢れる彼らは平然と復帰した)。その後部屋中に飛び散った鼻血を掃除し、教師から厳重注意をされつつも模擬代表戦は再開された。現在三年Aクラスが二勝(ムッツリーニがリタイヤしたため小暮の不戦勝)と早々にピンチを迎えてしまった和真達の運命やいかに……?

 

 

 

 

 

 




和真「汚ぇ真似しやがってコノヤロー……」

梓「これが勝負の世界やで。というか和真、二年にもこういう手段取ってきそうな娘おったやろ?」

和真「そう言えばそうだった……今後のムッツリーニの課題になりそうだなこりゃ……」


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VS三年Aクラス②

水嶺流伍の型・瀑布……跳躍からの凄まじい唐竹割り。助走により生じるエネルギーを全て剣に籠めるまさに必殺の一撃だが、隙が大きすぎるため運用方法は専ら暗殺用である。水嶺流が殺人剣として全盛を極めた時代に、兜ごと相手を一刀両断するためにあみだされたという。

陸、漆、捌、玖の型は未公開、拾の型『海角天涯』は未だ謎が多いため水嶺流の解説は一旦ここまでです。



金田一「三番手はこの俺、科目は当然英語だ」 

 

二連勝した3-Aだが攻めの手を緩めるつもりはないようで、No.3の金田一を投入してきた。しかし選択した科目が英語と判明するや否や、雄二は送り出す生徒を即座に決定した。

 

雄二「翔子、任せたぞ」

翔子「……わかった」

金田一「ほう、アンタか。……こいつは一筋縄じゃいかなさそうだな」

 

お互い意図したわけではないが、偶然にも学年三位対決である(翔子は夏休み前までは次席だったが、和真はつい先日ランクアップしたので抜かれている)。

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

二体の召喚獣が出現する。ちなみに金田一の召喚獣は剣闘士の鎧にグラディウスだ。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子   532点

VS

 三年Aクラス 金田一真之介 429点』

 

 

金田一「おっと……こいつは予想以上だ」

翔子(……この人は肝試しで200点以上の点差を覆しかけていた。決して油断できる相手じゃない)

 

ひとまずは様子見なのか、〈翔子〉は村雨を構えたままその場から動こうとしない。

 

金田一「あん?攻撃を誘ってんのか?だったら遠慮無くいくぜ!」

 

脳筋でも単細胞でないが、どちらかと言えば小手先よりパワーを重視する金田一は、翔子が何かを狙っているとわかった上で〈金田一〉を特攻させる。

 

金田一「…おっと!」

 

ガキィンッ!

 

〈翔子〉がカウンター気味に固有武器特有の頑丈さを利用した鋭い突きを繰り出すが、〈金田一〉はあっさりとグラディウスの腹で受け止める。

 

金田一「危ねー危ねー」

翔子(……マズい…!)

金田一「それじゃ改めて、いくぜ!」

 

キキキキキキキィインッ!!!

 

そのまま距離を詰めて怒濤の連続攻撃を浴びせかける〈金田一〉。〈翔子〉も召喚獣のスペック差を活かしてなんとかガードするものの、完全に防戦一方の展開になってしまっている。

 

翔子(……このままじゃ、いずれ崩される……!早く……早くなんとかしなくちゃ……っ!)

金田一(………………ここだ!)

 

不意に、〈金田一〉の猛攻がピタリと止んだ。

 

翔子(っ!?隙ーーーいや、これは!?)

 

突然の隙に〈翔子〉は反射的に攻撃に移る。、寸前でこれが罠であることに感付くも時既に遅く、〈翔子〉は攻撃体勢に入ってしまう。

 

金田一「かかったなっ!」

 

ガードが緩む隙を見逃さず〈金田一〉はカウンターを喰らわせた。〈翔子〉はダメージを確認するため一度距離を取る。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子   456点

VS

 三年Aクラス 金田一真之介 429点』

 

 

新装備の頑丈さのおかげで幸いそこまで大した負傷ではなかったものの、これで両者の点数差は無いも同然になってしまった。こうなると経験で大きく劣る翔子が圧倒的に不利である。

 

翔子(……今の攻防ではっきりした。まともに闘えばこの勝負、おそらく勝ち目は薄い……!)

金田一「どうした?まさかとは思うが、まだ受け身の姿勢を続けるつもりじゃねーだろうな?」

翔子(……仕掛けるなら、今!)

金田一「おっ、ようやくやる気に…あ?」 

 

意を決して向かってきた〈翔子〉に応戦しようと〈金田一〉はグラディウスを構えるが、〈翔子〉のスピードがやけに遅いことに一瞬気を取られる。〈翔子〉はその一瞬の隙を逃さずに、

 

 

 

急加速して斬りつけた。

 

金田一「ぅおっ!?まずい、一旦距離を-」

翔子「……逃がさない……!」

金田一「そう甘くねーってわけか……!」

 

〈翔子〉が体勢を整えさせないよう猛攻撃を繰り出し〈金田一〉それをひたすら防いで機を伺うという、先ほどとは真逆の構図が出来上がる。

 

 

 

和真「あれは…チェンジオブベースか」

雄二「鳳と闘ったとき、奴がアレと似たような技を使って島田が瞬殺したからな。多分それを見てコピーしたんだろう」

和真「似たような技?もしかして壱の型・波浪か?あー…技の入りはまぁ、似てるっちゃ似てるな」

雄二「ん?どういうことだ?」

 

何やら含みのある和真の言い方に雄二は疑問を持つ。

 

和真「水嶺流は門外不出の流派だからあくまで俺の憶測だけどよ、多分あの技で重要なのは急加速じゃなくて急減速の方だ」

雄二「…………隙が生じやすいからか?」

和真「御名答。闇雲な減速は相手にバッサリいくチャンスをプレゼントするようなもんだからな。それでも減速をする理由は、加速と減速を織り混ぜることで相手のペースを崩すためだ」

雄二「……なるほど、確かに翔子のソレとは用途がまるで違うな」

和真「そうだ。翔子は不利な状況をひっくり返す切り札として使ったみてぇだが、壱の型・波浪は単なる基本動作でしかない。減速が無ければ効果は半減だし、完全に劣化互換だな」

雄二(流石の翔子でも、見ただけだと完成度はそんなものか。……って、暢気にそんな感想を考えてる場合じゃないな。和真の言う通り、急加速一辺倒だと二回目は警戒されて通じないだろうし……おそらくここで仕留め切れなければ、翔子は負ける……!)

 

 

 

キキキキキキキキキィインッ!!!

 

翔子(……一瞬でも…一瞬でも攻撃を緩めてはいけない…っ!おそらくこの攻撃がラストチャンス……!)

金田一(こいつを凌ぎきれば十中八九俺の勝ちだが……いかんせんスペックが違いすぎて防ぐので手一杯だなこりゃ)

 

戦況は完全に互角だが、踏んできた場数の違いか両者の精神的余裕には雲泥の差がある。そしてこの精神的余裕が、この膠着状態を脱する方法を導きだす。

 

金田一(俺の点数はまだ400点以上ある。一度地獄を潜ってもそうそう死にはしねーだろ……よし、仕掛けるか)

翔子(っ!また!?)

 

再び〈金田一〉の動きが完全に停止する。〈翔子〉は先ほどと同じようにそのまま攻撃してしまう。しかしさっきとは違ってそれまで攻めていたのは〈翔子〉なので、カウンターどころかガードや回避する余裕すらなく〈金田一〉は村雨に斬られてしまう。

 

金田一「オラァッ!」

翔子「っ!しまった……!」

 

ザシュッ!

 

しかし〈金田一〉がお構いなしに即座に反撃に転じる。〈翔子〉は何とか急所を外させたものの、形勢は完全に逆転してしまった。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子   398点

VS

 三年Aクラス 金田一真之介 259点』

 

 

金田一(半分近く削られちまったが、この程度の点差なら十分逆転できる。この勝負、完全に俺が制したぜ!)

翔子「っ……!」

 

〈金田一〉の召喚獣は勝負を決めるため怒濤の攻撃を浴びせかける。この攻撃は誘い込みのための布石だと頭でわかっていても、翔子程度の操作技術で寸止めは不可能である。

 

 

万事休すかと思われたそのとき……

 

 

 

 

 

 

バキィッ!

 

 

降り下ろした〈金田一〉のグラディウスは村雨に斬撃を止められた瞬間、無惨にもへし折れてしまった。

 

金田一「んなっ!?」

翔子「……これをずっと待っていた!」

 

すかさず〈翔子〉は反撃に転じる。〈金田一〉は何とか凌ぎきろうとするも丸腰の状態ではどうしようもなく、あえなく村雨に斬り裂かれた。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 霧島翔子   398点

VS

 三年Aクラス 金田一真之介 戦死』

 

 

金田一「……おい霧島、いったいどういうカラクリだ?和真みてーな破壊力重視なら相手の武器を破壊するケースもあるけどよ、オメーの召喚獣はどう見てもバランス型だろ?なんで俺の武器だけが一方的にへし折れたんだよ?」

翔子「……やっぱり思った通り、固有武器の性質を知らないんですね」

金田一「固有武器ぃ?何だそりゃ?」

翔子「……総合科目が5000点以上の生徒の武器は固有武器と言って、耐久性が通常武器より段違いに高いんです」

金田一「5000点以上……か。なるほどな、俺達が知らないわけだ」

 

そう、三年の彼らが知らなくても仕方ないのだ。何故なら彼らの学年に総合科目が5000点以上越えている生徒は一人もいないのだから(というか普通はいなくて当たり前で。5000点オーバーが3人も在籍している二年が異常なだけだが)。翔子はチェンジオブペースで猛攻をしかけたときから、この情報アドバンテージが活きる瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。

 

金田一「……ま、疑問は解けたところで三回戦目はおしまいだな。文句無しにオメーの勝ちだ」

翔子「……ありがとうございました」

 

点数差ほど楽勝では無かったものの、Fクラスにようやく一勝をもたらした翔子は悠々と雄二達のもとに戻る。

 

翔子「……雄二、危なかったけどなんとか勝ったよ」

雄二「ああ、お前はよくやってくれたよ。あとは俺達にまかせろ」

 

そう言いつつ雄二がフィールドに向かう。どうやら次は雄二が出るらしい。

 

雄二「四回戦の相手は俺だ。科目は国語を選ぶ」

梓(国語か……スマンけど、常村)

常村(ああ、わかってる)「なら、俺が相手になろうじゃねぇか」

 

選択科目が国語にもかかわらず、雄二の相手はガッチガチの理数系である常村。しかし雄二にとって彼が出てくることは予想通りであった。

 

雄二「やっぱりアンタが出てきたか」

常村「坂本、まるで俺が相手だとわかっていたかのような口ぶりじゃねぇか」

雄二「このくらい予想できて当たり前だろ。最終戦には佐伯センパイ、科目選択権のある五戦目には理科が得意らしい宮阪センパイが出てくるだろう。俺達に科目選択権のある六戦目か今回のどちらかに、社会だけAクラス上位並の明久が出てくることはわかりきっているだろうから、アイツには多分高城センパイを当ててくるはずだ」

常村「それで、残った方への捨て駒に俺があてがわれるだろう……ってか?残念ながら大外れだ。何故ならよ……俺はテメーに勝つからだ!サモン!」

雄二「どうかな?肝試しでは遅れを取ったが、今度はそうはいかねぇ……サモン!」

 

幾何学模様から召喚獣が出現する。常村の召喚獣の装備は狩人の服装にバトルアックスだ。

 

常村「……なんだお前の召喚獣の装備?まんまチンピラじゃねぇか」

雄二「ほっとけ」

 

そして遅れて点数が表示される。

 

 

《国語》

『二年Fクラス 坂本雄二 346点

VS

 三年Aクラス 常村勇作 268点』

 

 

常村「チッ、思ったより点数差ありやがる……」

雄二「Aクラス戦に向けてパワーアップしたのは、何も和真だけじゃないってことだ。……それじゃ、早々にカタをつけてるぜ」

常村「上等じゃねぇか!先輩の偉大さってもんをわからせてやる!」

 

第四回戦の闘いの幕が、今ここに切って落とされた。

 

 

 




雄二「ふと気になったんだがよ……」

和真「あん?何だいきなり?」

雄二「あんなにズバズバ斬られてたのに翔子の召喚獣も金田一センパイの召喚獣も全然平気そうだったな」

和真「あーそれか。一学期にどっかの誰かがスプラッタシーンを作り過ぎたことを反省したのか、ばーさんが切断したり貫通したりしないよう召喚獣の仕様を変更したそうだ」

明久「いや、他人事みたいに言ってるけどどっかの誰かって間違いなく和真だよね!?」



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VS三年Aクラス③

和真「雄二と常村先輩の闘いだぁ?ムサい野郎二人ってだけでアレなのに、その上両方とも大して強くねぇじゃねぇか。こんな華も見応えも無い試合なんざ一話かけてダラダラやる必要無ぇだろ。……ってことで、九割ほどカットしてやったぜ♪」

雄・常「「ひでぇ!?」」




雄二「もらったぁ!」

常村「っ!?しまっ-」

 

〈雄二〉は一瞬の隙をつき〈常村〉の頭を鉄パイプで殴打した。その一撃は〈常村〉の残り点数を全て削りきり、そのままその場に崩れ落ちて動かなくなった。

 

姫路「!やった…坂本君が勝ちましたっ」

翔子「……雄二なら勝ってくれるって信じてた」 

明久「霧島さんすごいね…僕は完全にもうダメだと」

雄二「んだとこのバカ。……まあ、この結果じゃそう思うのも無理ねぇか…」

 

 

《国語》

『二年Fクラス 坂本雄二 26点

VS

 三年Aクラス 常村勇作 戦死』

 

 

和真「ギリギリ過ぎんだよこのボンクラ!それでも俺達の代表かこの軟弱者が!」

雄二「うるせぇっ!勝ったんだから文句言うんじゃねぇよボケが!」

 

和真からのある意味熱烈な歓迎に憤慨する雄二。もっとも和真とてハナから勝敗は五分五分と見ていたため、このダメ出しは別に喝を入れようとかそんなんではなく、単にサディストモードに入った和真のちょっとした悪ノリである。

 

雄二「ともかく、これで二勝二敗でイーブンだ。五回戦目に出てくるのは……やっぱりあの宮阪ってセンパイか。姫路、任せたぞ」

姫路「は、はいっ!」

 

三年生サイドから学年四位である杏里が召喚フィールドに向かうのを確認した雄二は、こちら側も学年四位である姫路を向かわせる。ふと、両者が向かい合っている状態を見た明久がとある感想を抱く。

 

明久「姫路さんと宮阪先輩か……うん、デカイ」

美波「アキ?(ポキッ)」

明久「ははは。美波ってばアキとポキで韻を踏むなんてセンスがあるなぁ」

翔子「……雄二は見ちゃダメ(ブスッ)」

雄二「ぐぉおおおおお明久テメェが余計なことを言うからまた俺の目がぁあああああ!?」

和真「お前ら当たり前のようにバイオレンス繰り広げてるけどよ、ここ一応職員室だからな……」

 

ちなみに教員達は皆残業が嫌でバックレた御門先生の捜索に出ているため、幸いにも問題になることは無かった。まあこんなものFクラスでは日常の一部みたいなものなので、誰かがいたところで止めたかどうかは怪しいところだが。

 

和真「にしても宮阪先輩また背伸びたな。もう西村センセより高いんじゃねぇか?」

翔子「……バストだけじゃなく、身長も規格外」

和真「父親が父親だからな、別に不思議じゃねぇ」

明久「え?宮阪先輩の父親?」

和真「ああ、“桐谷”の社長代理やってる宮阪桃里って人でな。身長が2m近く-」

雄二「き、“桐谷”だと!?

和真、それ本当か!?」

 

ようやく復活した雄二が、桃里の素性に何故か不自然なほど食い付いた。

 

和真「?ああ、間違いねぇよ」

明久「雄二、いきなりどうしたのさ?」

雄二「…………いや、何でもない」 

和真(…………まさか、な)

翔子(……雄二…………)

 

かと思えば嘘みたいに大人しくなる雄二を一同は不思議に思うが、問い詰めても明久とは違って答えは出てきそうにないので、根掘り葉掘りは聞かないことにする。しかし、和真と翔子には何か心当たりがあるようだ。

 

和真「というか、いつの間にかもう始まってるじゃねぇか試合」

明久「あ、そう言えばそうだった……うわっ、凄いぶつかり合い!?」

雄二「どうやら宮阪センパイは姫路と同じパワータイプみたいだな。……科目は予想した通り理科か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路・杏里「「はぁぁあああっ!!」」

 

ガキィィイイイイイン!!!

 

お互いの召喚獣の武器が真っ向からぶつかり合い、火花を散らして両者ともに弾かれる。〈姫路〉の武器が身の丈の倍ほどもある大剣であるのに対し、〈杏里〉の武器はそれに匹敵するサイズのヴァジュラ(金剛杵)であった。

 

 

《理科》

『二年Fクラス 姫路瑞希 312点

VS

 三年Aクラス 宮阪杏里 308点』

 

 

杏里「アナタ、やはりとんでもなく手強い……」

姫路「それはこっちの台詞ですよ……最初はもっと点差があったのに……でも、負けませんっ!」

杏里「望むところ……」

 

馬鹿正直に突っ込んでくる〈姫路〉の攻撃を、ひたすら真っ向から迎撃し続ける〈杏里〉。

試験戦争においての彼女の役割は、梓や常夏コンビなどの常に実戦に身を置く切り込み役ではなく比較的戦闘が少ない近衛兵であるため、その弊害か操作技術は三年の中では低い部類に入る。加えて杏里の戦闘スタイルは久保や姫路と同じくパワーとタフネス任せのごり押しであるため、二人の闘いはまさに純粋なまでの力と力のぶつかり合いとなった。

 

姫路「っ!やっぱり押されてる……!私の召喚獣も攻撃型なのにどうして!?」

杏里「召喚獣のスペックだけでは勝負は決まらない……攻撃のタイミングや工夫も重要……」

 

もっとも…拮抗しているのは回避や防御の技術だけであり、攻撃のテクニックでは両者には年季による明確な差があるため、姫路は少しずつ劣勢になっていくのを感じた。

 

姫路(工夫……こうなったら先日美波ちゃんと特訓していたアレをするしか……でもアレはまだ未完成だし-)

杏里「隙だらけ……」

姫路「っ!?しま-」

 

バコォオオオン!!

 

一瞬の油断が命取り。本体が考え事に気を取られている隙を見逃さず、〈杏里〉はヴァジュラを〈姫路〉にクリーンヒットさせた。

 

 

《理科》

『二年Fクラス 姫路瑞希 136点

VS

 三年Aクラス 宮阪杏里 288点』

 

 

ここに来て点数は逆転し勝利も射程圏内に入ったのだが、〈杏里〉はどういうわけか追撃に向かわず、吹き飛ばされた〈姫路〉は体勢を立て直すのをただ待っていた。

 

姫路「……あれ?攻めてこないんですか?」

杏里「私の召喚獣はスピードを犠牲に攻撃力と耐久力を引き上げているから、連続攻撃には向かない……」

姫路「…………そうですか。だったら仕掛けるのは…………今ですね!」

 

先ほどまで躊躇していた姫路だったが、新たに加わった情報により起死回生の活路を見出だしたのか、覚悟を決めて〈姫路〉を特攻させる。

 

 

ズドドドドドドドドドド!!!

 

 

大剣を構えた状態かつ、自身の最高速度で。

 

 

杏里「助走のエネルギーで斬撃の威力を引き上げようとしている……?着眼点は悪くないけど攻めが単調すぎ……」

 

闇雲に突っ込んでくる〈姫路〉にカウンターを浴びせる準備をする〈杏里〉。しかしそれを見ても〈姫路〉は速度を少しも落とさない。そして両者の武器が射程圏に入る寸前に…

 

 

 

姫路「それは…………どうでしょうか!」

杏里「っ!?これは…」

 

 

〈姫路〉は大剣を肩にかけた構えから瞬時に地面に剣先を向けた構えに変化させ、

 

 

姫路「やぁあああっ!」

杏里「アッパー!?くっ…」

 

ガキィィイイイイイン!!

 

大剣をすくい上げるように振り抜き、咄嗟にガードに入った〈杏里〉を上空に撥ね飛ばした。

 

杏里「…危なかった……!でもなんとか防げ-」

姫路「まだ私の攻撃は終わっていませんっ!」

杏里「っ!?しまった……!」

 

放り出された〈杏里〉の後を追うように〈姫路〉は召喚獣特有の凄まじい脚力で跳び上がり、空中で容赦なく追撃を喰らわせていく。

 

杏里「まずい…空中では回避行動が取れない上に、ヴァジュラは連続攻撃に向かない武器……!」

姫路「狙い通り、このまま押し切らせてもらいます!」

 

〈杏里〉も負けじと応戦するものの手数で完全に負けており、着地したときにはかなりの点数を削られてしまっていた。

 

 

《理科》

『二年Fクラス 姫路瑞希 136点

VS

 三年Aクラス 宮阪杏里 98点』

 

 

杏里「…………敵ながら、見事……」

姫路(っ……倒し切れなかった……!)

杏里(もう私の点数も残り少ない……最後は小細工を捨てて、最大威力で決着を付ける……!)

姫路(あの覚悟を決めたような眼……宮阪先輩は、あくまで真っ向勝負を選ぶんですね……!)

 

カウンターや攻撃をいなすような高等技術は今の姫路には不可能である。そのため真っ向からぶつかるか全力で回避して機を伺うことしか選択肢に無い。どうしようか姫路が悩んでいると、ふと目の前の宮阪と二年Aクラスの最大のライバルである久保利光が重なって見えた。

 

姫路(Aクラスと試召戦争を行えば、多分……いえ、おそらくきっと私は、久保君と闘うことになるでしょう。そのときのためにもここは……引き下がるわけにはいきません!)

 

奇しくも久保と杏里は戦闘スタイルが酷似しているため、ここは何としても真正面から乗り越える必要がある。……そう思い至った姫路に迷う要素は残っていなかった。

 

杏里(あの眼……どうやら真っ向から打ち破るつもりらしい……。ここでフェイントとかを混ぜれば容易に倒せそうだけど、それはあまりにも無粋過ぎる……先輩として私は…)

姫路(もし宮阪先輩がフェイクを織り交ぜてくれば、一巻の終わりですね……それなら仕方ありません。柊君の言う通り私は駆け引きには向かない人間なんですから、私がするべきことは…)

 

 

 

((ただ真っ向からぶつかることのみ!))

 

〈姫路〉は大剣を、〈杏里〉はヴァジュラをフルパワーで相手に振るう。

 

ズガァァァァァァアアァァァン!!!

 

フィールド全体を揺るがすほどの轟音とともに、凄まじい衝撃に耐え切れず両者の武器が粉砕し、至近距離にいた二人はお互いにその破片をモロに喰ってしまい、両者共に力尽きた。

 

 

 

 

 

《理科》

『二年Fクラス 姫路瑞希 戦死

VS

 三年Aクラス 宮阪杏里 戦死』

 

 

姫路「……ありがとうございました!」

杏里「こちらこそ、あなたと闘えてよかった……」

 

 

 




蒼介「まさに力と力の激突、お互いが全力を出し切った素晴らしい試合だな」

和真「で、次回だけど……待ちに待った『バカテス』二大ファンタジスタの激突だぜ!高城先輩は今度こそ原作ラスボスの威厳を示すことができるのかァ!?」

蒼介「この作品ではロクに活躍できていないからな……」



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VS三年Aクラス④

【バカテスト・日本史】
問.次の文の(1)(2)(3)の空欄を埋めなさい。

1352年、北朝は(1)、(2)、(3)の3ヵ国に半斉令を出し、本所領年貢の半分を兵粮料所として当年1作だけ武士に給与した。


明久の答え
『(1)近江
 (2)美濃
 (3)尾張』

蒼介「正解だ。その後半斉令の対象は軍勢派遣の8ヵ国に拡張したが、武士が受給した半済分はなかなか返還されないだけでなく、幕府の許可を得ないで武士が半済と称して自由に本所領などの横領が問題になったようだ。一部を贔屓すると必ず綻びが生じるということだな」


美波の答え
『(1)おう
 (2)みの
 (3)おわり』

蒼介「……近江、美濃、尾張→おうみのおわりと、語感で覚えてしまったせいで漢字が出てこなかったことがひと目でわかるな。一応言っておくが島田、平仮名で書いても部分点は貰えないぞ」


ムッツリーニ
『(1)Oh!me
 (2)NO!
 (3)終わり』

蒼介「だからと言ってこれは無いだろう……」







姫路と杏里の闘いが同時ノックアウトで終了し、現在両者とも二勝二敗一引き分けという互角の展開である。シチュエーション的にはかなり盛り上がるもののハッキリ言って今の状況は喜ばしくない。その理由は大きく分けて二つある。一つは次の第六試合で負けた方のチームは勝ち越せなくなるため、最終戦のモチベーションが下がる恐れがあることだが、それに関しては闘う生徒が和真と梓のためおそらく杞憂に終わるだろう。問題は二つ目…残り二戦が1勝1敗という結果だった場合の規定を定めていないことだ。というか、時間的に考えてお開きになる可能性大だ。

 

雄二「というわけで明久、負けたらブチ殺すからな」

明久「いやどういうわけ!?唐突すぎてびっくりだよこっちは!」

雄二「模擬戦とはいえやるからには絶勝つ。だがな明久、お前が高城センパイに負けた時点で全部水の泡なんだよ。……っつーわけで、負けたら地獄の断頭台な」

明久「やれやれ、ホント雄二は横暴なんだから……でもまあ安心してよ、僕には必勝の策が-」

和真「念のため釘さしておくが、高城先輩を騙しまくって勝とうとするなよ?」

明久「えぇっ!?ど、どうしてさ!?」

 

自信満々な表情から一転、まるで崖の上に追い詰められたサスペンスドラマの犯人のように狼狽する明久。どうやら和真の推測通り、高城の騙されやすさにつけこむ気であったらしい。そんな明久に溜め息を吐きつつ、和真は諭すように言う。

 

和真「あのな明久……雄二の言う通りやるからには絶対勝つ。だがそれとは別にこの模擬戦の趣旨は、Aクラス戦に向けて実践を積むことだろ?んな狡い勝ち方しても意味無ぇだろうが」

明久「そ、そうは言っても和真…相手は学年首席な上に操作技術も僕や佐伯先輩クラスだそうじゃないか……」

和真「それがどうしたって言うんだよ?」

 

弱気になる明久と肩を組み、いつもの不敵な笑みを浮かべる和真。そのまま周囲には聞こえないように語りかける。

 

和真「召喚大会で俺に切った啖呵を思い出せ。目の前に立ち塞がる壁は殴り壊すんじゃなかったか?好きな人の為なら頑張れるんじゃなかったか?お前がこの半年やりたくもねぇ勉強を続けていたのは何故か……もう一度考えてみろ」

明久「…………そうだった。僕達は絶対に、Aクラスに勝つって決めたんだったね!わかったよ和真、君は小細工なしの真っ向勝負でぶっ倒してくるから!」

 

意気揚々と召喚フィールドに向かう明久を見送りつつ、雄二は和真に近づいて労いの言葉をかける。

 

雄二「お疲れさん。いつもいつも大変だな」

和真「そう思うならたまにはお前がやれよ、面倒ごと全部俺に丸投げしやがって」

雄二「まあ良いじゃねぇか。お前が一番適任なのは事実なんだからよ」

 

いまいち納得いかないのかゲンナリした表情をしている和真だが、(本人にとっては不本意なことに)雄二の指摘は概ね正しい。和真と蒼介は他の追随を許さないほど多くの才に恵まれているが、その中でも稀有な才能なのが周囲に対する影響力である。蒼介は主に能力を、和真は主にメンタルを、それぞれ格段に向上させることを得意としている。『アクティブ』のメンバー達が心身ともに強靭である理由の一つは、最も二人の影響を受けているからである。

 

『『試獣召喚(サモン)!』』

 

雄二「お、どうやら始まったみたいだぞ」

和真(……さてと、あいつはどれだけ白金の腕輪を使いこなせるようになったのかねぇ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 366点

VS

 三年Aクラス 高城雅春 392点』

 

 

明久が選んだ科目は勿論、最も得意とする社会。両者の点数がそれほど差が無い一方で、〈明久〉がお馴染みのチンピラ装備一式を身に纏っているのに対し〈高城〉の格好は着流しに〈翔子〉の村雨ほどではないが立派な刀と、装備には天と地ほどの格差がある。そして肝心の操作技術はと言うと…

 

 

高城「……噂に違わぬ操作技術ですね。実に動きがスムーズです」

明久「先輩こそ、雑用を押し付けられ続けた経験値は伊達じゃありませんね!」

 

 

…完全に拮抗していた。

〈明久〉が木刀での降り下ろしをフェイクに足払いをしかけると、〈高城〉は刀で木刀を弾きつつ足を浮かせて回避し、そのまま返す刀で相手の足を刈り取ろうとする。〈明久〉は僅かにバックステップをしてそれを回避し、即座に距離を詰めながら渾身の突きを放つ。〈高城〉は敢えてスレスレで回避しながら、カウンターとばかりに水平斬りを放つ。〈明久〉は膝を曲げて屈みこみ紙一重で刀をかわし、その状態で転倒目的の水面蹴りを放つ。〈高城〉はその足にタイミング良く蹴りを当てて相殺し、両者は反動で吹っ飛んだ。

この短時間でこれだけの攻防を繰り広げたにもかかわらず、お互いダメージらしいダメージを受けていなかった。

 

明久「このままだと埒が明かないので、ここは切り札を使わせてもらいますよ……二重召喚(ダブル)!」

 

そのキーワードとともに明久の足下に幾何学模様が出現し、2体目の召喚獣が喚び出された。

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 183点/183点

VS

 三年Aクラス 高城雅春 392点』

 

それと同時に一体目の召喚獣の点数が半分になり、もう一体の召喚獣に移される。

 

高城「ほう、それが噂に聞く白金の腕輪の能力ですか。しかし吉井君、一人で二体の召喚獣を操ることは決して容易なことではないはず。私は手堅く操作が粗雑になった方に照準を合わせますよ」

明久「さて……そううまくいくでしょうか?」

 

二体の〈明久〉は木刀を構えて特攻する。二体同時に操っている弊害か、先程までの緻密な攻めとは比較にならないほど単調な攻め方だ。

 

高城(やはり二体の使役は吉井君でも荷が重かったようですね……これも真剣勝負、悪く思わないでください)

 

副獣よりもやや早く特攻してきた主獣の斬撃にタイミングを合わせ、袈裟斬りでカウンターを仕掛ける。

 

 

 

しかし主獣は即座に木刀で受け止めつつ、同時の後ろに飛ぶことで衝撃を殺した。

 

高城(…っ!急に動きが精密に……なっ!?)

 

そしていつの間にか着地点に移動していた副獣がそのまま主獣を受け止め、〈高城〉の後ろに向かって主獣を投げ飛ばした。

 

明久「っ…!……いくぞぉぉおおお!」

 

着地にやや失敗してそのフィードバックに顔を歪めつつも、明久は二体の召喚獣で〈高城〉を挟み撃ちさせる。

 

高城「し、しまっ-」

明久「もう遅い!」

 

今度は副獣がいち早く〈高城〉に斬りかかる。先ほどの特攻と比べて遥かに隙が少なかったため〈高城〉はカウンターではなく無難にガードした。しかしその選択は挟みうちされている状況では悪手中の悪手……間髪入れず後ろからきた主獣に足払いされて敢えなく転倒する。そうなってしまえばもはや明久の思う壺。二体の召喚獣の見事な連携で〈高城〉に体勢を立て直す隙を一切与えず小攻撃で着実に点数を削り取っていく。

 

 

和真「…………流石にこりゃ予想外だな」

雄二「ああ、まさかあのバカがあそこまであの腕輪を使いこなせるようになってるとは……」

和真(…………もしかして……いや、いくらなんでもそれは無いか……)

 

明久の急激な成長に和真は一つ心当たりを見つけるが、あまりにもぶっ飛んだ推測のため頭から消し去ってしまう。

一方闘いはクライマックスに突入していた。〈高城〉は転倒れたまはまの体勢で器用に反撃はするもののやはり二体一では多勢に無勢だったのか、やがて点数は尽きてしまった。

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 68点/73点

VS

 三年Aクラス 高城雅春 戦死』

 

 

高城「……お見事です。まさか、二体の召喚獣をここまで精密に動かすとは」

明久「脳は二つに分かれてるんですよ?バカな僕でも努力すれば召喚獣を二体同時に操れるはずだと信じて、この夏イメトレを重ねたんです」

高城(いや、右脳と左脳では役割が異なっているのですが…………まさか、佐伯嬢が得意としている並列思考を身に付けたのですか!?)

 

高城の憶測はほとんど当たっていた。流石に梓ほど細かく分割することは不可能だが、バカであることを生かした集中力は、とうとう並列思考による召喚獣二体同時操作を実現させたのだ。

 

明久「さてと、後は和真が勝ってこの代表戦は終わりですね」

高城「……差し出がましいでしょうが、勝利宣言は気が早すぎますよ?佐伯嬢は私よりも遥かに強いですから」

明久「それはわかってますけど……でも和真は今までで二回勝ってるんでしょ?あれからさらにパワーアップした和真なら-」

高城「いいですか吉井君、確かに柊君は佐伯嬢に二度勝利しています。しかしながらいずれも、二対一という佐伯嬢が極めて不利な状況でした」

明久「あ、そう言われてみれば……」

 

一回目の闘いは形式こそ二対二であったものの、和真は試合前の時点でタイマンで勝つことを諦めていた。二回目の闘いは二対一で闘った上に、圧倒的な情報アドバンテージがあった。つまり和真はまだ梓に完全勝利を収めているとは言い難いのだ。

 

高城「そしてもう一つ……パワーアップしたのは何も柊君だけではないんですよ」

明久「えっ…それってどういう……」

高城「私から言えることは以上です。あとは実際に目の当たりにした方が早いでしょう」

 

少々気がかりな言葉を言い残して、高城は三年生サイドに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 




ぱぱぱぱーん!明久は二重召喚スキルを格段に向上させた!

原作主人公だと言うのに最近ロクな活躍をさせてあげられませんでしたからね。これぐらい強化してあげてもバチは当たらないでしょう。


ついでに、本作主人公二人が周囲の力をインフレさせてる元凶だと判明しました。まあ隠す気は微塵もなかったのですが。




ちなみにネタバラシすると、和真のぶっ飛んだ推測とやらはドンピシャで当たっています。
それが何かはまた後ほど。


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VS三年Aクラス⑤

【バカテスト・古典】

問 次の文章中の・・・・・の古文単語を現代語訳せよ。

笛を()()()()()()吹き澄まして、過ぎぬなり


姫路の答え
『とても見事に』

蒼介「正解だ。いとおかしは様々な意味を持つ古文単語だが、文脈から笛を吹く上手さを表していると判断できる」


美波の答え
『おもむきがある』

蒼介「確かにその訳し方がメジャーではあるが文脈に沿わないので不正解だ。どうやらまだ古典は少々苦手なようだな」


須川の答え
『ペロペロと』

蒼介「…………カズマ、何がどうなってこんな訳になったのか、わかるか?」

和真「アレじゃね?笛→リコーダーって連想しちまったんだと思うぜ」

蒼介「完全に変質者じゃないかそれは!?よく提出できたなこの答案!?」

和真「結局職員室送りになったらしいぞ」

蒼介「当たり前だ!」


ムッツリーニの答え
『艶かしく』

蒼介「こいつもこいつでどうしてこんな訳し方になるんだ……?」

和真「笛→リコーダーって連想は須川と同じだけど、こいつの場合脳内では舐めているのは女子だな。そしてこいつも職員室送りだ」

蒼介「ああもう、どいつもこいつも!」

和真(荒れてきたなぁソウスケの奴……ストレス溜まってんだろうな)


明久の答え
『ウケるー!』

蒼介「ウケねぇよクソが!!!」

和真「気持ちはわかるが落ち着けソウスケ!?本編じゃないとはいえキャラ崩れすぎてるぞ!」

蒼介「やかましいわ!貴様だって本編で木下(姉)にアイデンティティーを片っ端から崩されていってるだろうが!」

和真「テメェこの野郎おとなしくしてりゃ人が気にしてることを!?上等じゃねぇか、その喧嘩買うぞオラァァァァァッ!!!」

(本編でも読みながらしばらくお待ちください。)



和真「さて、泣いても笑っても最終戦だな梓先輩。ワクワクしてきたぜ」

梓「ちっともワクワクせんわ。二勝三敗やで?これもうウチが勝ってもあんたらに勝ち越されへんやん……」

和真「確かに引き分けなんざモヤッとするが心配ねぇよ。アンタを倒して二年の完全勝利で終わるからな」

梓「…………ほー?それはまた、ウチも随分見くびられたもんやなぁ」

 

ニコニコ笑顔を浮かべながら濃密な殺気を垂れ流す合法ロリツインテール。流石は高校柔道界で最強の名をほしいままにしただけのことはあるが、それを真正面から受けたはずの和真は普段通り不敵な笑みを浮かべたままだ。

 

和真「まぁそろそろ暗くなってきたし、べらべらと無駄話をしてないでさっさと闘ろうや……サモン!」

梓「あんた絶対ウチのこと舐め腐ってるやろ、ホンマ可愛いげのない後輩やわぁ……サモン!」

 

キーワードに反応して幾何学模様が出現し、その中心部から二体の召喚獣が現れる。ご存じの通り和真の召喚獣の装備が軍服にロンギヌスの聖槍であるのに対し、梓の召喚獣の装備は以前と同じく防刃スーツにトンファー二刀流。ただし両足には金属製のソルレット(足鎧)が装着されている。

 

和真(両足まで完全武装か、文字通り全身凶器だな。……それにしても先輩のあの点数……)

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 5663点

VS

 三年Aクラス 佐伯梓 4825点』

 

 

梓「ふふん、どうや受験生の底力は?夏期休暇を経てレベルアップしたのはあんただけやないんやでー?」

和真「…………あれ?アンタ確かもう栄応大の推薦貰ってたよな?」

梓「ええやん別に。柔道部も引退してもうたし、ウチの周りは受験勉強一色で暇やったんやもん……」

和真「あっさり肝試しの提案に乗ってきたのもそういうことか……」

 

一学期時点での翔子を上回るほどの高得点を叩き出した理由が微妙に悲しいので、思わずいたたまれない表情になる和真。本人も自覚しているのか恥ずかしそうに顔を赤らめながら俯く梓。

柔道界のアイドルとも称され全国にも多数のファンを持ち、もし学園で人気投票を行えば間違いなくトップ争いの一角である美少女の夏休みにしては、あまりにも寂しすぎる。

 

梓「う…ウチのことはもうええやろ!そんなことよりさっさと始めるで!」

和真「そ、それもそうだな。それじゃあさっそく……くたばりやがれぇぇえええ!」

 

怒号とともに〈和真〉は持ち前のスピードを活かして一瞬で槍の間合いに入り、怒濤の百烈突きを仕掛ける。

 

 

キキキキキキキキキィィィイイイイインッ!!

 

 

しかし〈梓〉はそれらの攻撃を全て、両手のトンファーを巧みに駆使してガードしていく。あらゆる角度から繰り出される〈和真〉の槍捌きは掛け値無しに強力なはずだが、〈梓〉はたった一撃すら取りこぼすことなく対応している。

 

姫路「あの柊君が、攻めあぐねてます……」

美波「で、でも佐伯先輩も防戦一方じゃない!それに柊の装備も固有武器なんでしょ?このまま攻めてればそのうち…」

明久「いや、残念ながらそれは期待できないよ美波……」

 

不安になる姫路への美波の励ましを、明久は苦虫を噛み潰した表情でバッサリと否定する。

 

美波「ど…どういうことよアキ?」

明久「佐伯先輩は和真の攻撃をまともに受けているわけじゃないんだ……ほら、よく見たらわかるよ」

 

美波達は明久に促されて二人のぶつかり合いを凝視する。すると、〈梓〉は〈和真〉の攻撃をトンファーで受け止めるのではなく、かつて和真が格上である鉄人の猛攻にしたように槍の側面にヒットさせることで捌いていることに気付く。

 

翔子「……あの捌き方だと、武器が砕けるほどダメージを蓄積させることは不可能」

雄二「そしてセンパイが防戦一方なのは、おそらく間合いのおかげだな」

姫路「え?…………あっ。あの間合いだと、佐伯先輩の攻撃はとても届きませんね」

 

〈和真〉は槍の長いリーチを活かすために、一方的に攻撃できる距離を保ち続けている。〈梓〉も距離を詰める隙を伺いつつも、無理に突っ込めば槍の餌食になるため中々攻勢に出られないでいた。

 

明久(逆に言えば、距離さえ詰められてしまうと、おそらく操作技術で勝る佐伯先輩が有利になるってことだ……和真、このままじゃマズいよ……?)

 

 

 

 

 

 

 

梓「あぁもう少しは手加減してや、ごっつ怖いわぁ」

和真(コイツ余裕で対処してるくせにヌケヌケと……!だがこの間合いを保ち続けている限り先輩に攻め手は無ぇ!ここはこちらから仕掛けず、相手が業を煮やして無理に特攻してくるのを…………あん?)

 

カウンターチャンスを虎視眈々と狙っていた和真は、二人の召喚獣の位置が最初に比べて、いつの間にかやけに壁際に移動していることに気がつく。

 

和真(……戦況は間違いなく拮抗していた、俺の召喚獣に押されて先輩の召喚獣が壁際まで追い込まれた筈が無ぇ……ってことは、さりげなくあの位置まで誘導されたのか?)

 

和真の予想は正しく、梓は自らの召喚獣を和真に気づかれないようにこっそりと召喚獣を徐々に後退させていたのだ。

 

和真(……何が狙いだ?壁際に移動したところで有利になる要素なんざ……何かヤな予感がするな。わざわざ相手の思惑に乗る気は無ぇ、ここは攻め時だ!)

梓(っ!あの表情、感づかれたか!?せやけどほんの少し遅かったなぁ!)

 

相手のペースを崩すために〈和真〉が敢えて間合いを詰めたと同時に、〈梓〉はバックステップで壁に飛び、壁を蹴った反動でトンファーを構えながら〈和真〉に飛びかかる。

 

和真(これさっき島田が大失敗した奴じゃねぇか。こんな欠陥技ちょっと後ろに下がって避けりゃ…

なっ!?)

 

〈和真〉は一歩半下がって回避しようとしたが、〈梓〉は空中でくるりと一回転しながら〈和真〉目がけて踵落としを繰り出す。トンファーで攻撃する場合に比べてリーチが伸びたため、〈和真〉は踵落としをかわすのは不可能である。

 

 

ガキィィイイイン!!

 

 

和真(よし、何とかガードが間に合っ-)

梓「安心すんのはまだ早いわ!」

 

ソルレットが聖槍に受け止められた状態から、〈梓〉は聖槍を基点に体全体を半回転させ〈和真〉の真横に転がり落ちつつ、すれ違いざまにトンファーで〈和真〉を思いっきり殴り飛ばした。

 

和真「!?…ちぃっ!」

 

しかし〈和真〉もただではやられない。ぶん殴られたことで吹き飛ばされさながらも、反撃とばかりに〈梓〉を槍で斬りつけた。しかしスペックでは〈和真〉が勝るとはいえ、体重の乗った〈梓〉の一撃と吹き飛ばされながらの〈和真〉の反撃……どちらの威力が高いかなど、わざわざ言うまでもない。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 5269点

VS

 三年Aクラス 佐伯梓 4675点』

 

 

梓「ほらほら、休んでる暇なんかあらへんでぇ!」

 

間髪いれずに〈梓〉は〈和真〉との距離を詰める。転倒した状態から速やかに体勢を立て直したものの間合いを調整するだけの余裕は和真には残されておらず、みすみす相手のの射程範囲に入ってしまった。

〈梓〉は〈和真〉目がけて左のトンファーで殴りかかる。〈和真〉は即座に聖槍でガード体勢に入るも〈梓〉は直前で攻撃を止め、そのままトンファーで槍を引っかけてロックし、その隙に右足のソルレットで蹴りつけた。〈和真〉も反撃に空いている手で〈梓〉に殴りかかるがもう片方のトンファーで難なくガードされてしまう。

そこで〈和真〉はパワーの差で聖槍にかけられたロックを強引に引き剥がすも、その際にできた隙をつかれて蹴り飛ばされる。蹴りが命中する瞬間に後ろに飛ぶことでダメージを軽減するも〈梓〉がすぐさま距離を詰めてきたため間合いをとることはには失敗する。

〈梓〉は今度は右足でミドルキックを繰り出してきたため〈和真〉は真っ向から聖槍で迎え撃つも、〈梓〉の右足は弧を描きながら〈和真〉や聖槍にかすりもせずそのまま地面に着地し、即座にその右足を軸に体を半回転させながら左のトンファーでぶん殴った。〈和真〉は吹き飛ばされながらも〈梓〉に反撃を食らわせるも、やはり自身が負ったダメージの方が大きかった。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 4793点

VS

 三年Aクラス 佐伯梓 4468点』

 

 

梓「随分操作に慣れてきたみたいやけど……まだまだ動きが素直すぎるなぁ」

和真(クソが……予想してたがやっぱこのペテン師のフェイント、厄介過ぎるぜ……!やること為すこと全部嘘っぱちじゃねぇか!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

夏川「なんつーか……相変わらずとんでもねぇな、ウチのエースは」

常村「操作技術もそうだが、何より動きがトリッキー過ぎる。どれだけフェイント織り混ぜりゃ気が済むんだよ……」

金田一「トリッキーさでは和真も負けちゃいねーんだけどな、いかんせん操作技術の差がな……」

高城「そうですね。佐伯嬢ほどの相手に無理に奇をてらった戦法で挑めば、間違いなく隙をつかれて追い詰められるでしょう」

杏里「あと、手数に差がありすぎる……。四刀流の梓の猛攻は槍一本じゃとても受けきれない……」

小暮「ではここは梓に勝ってもらい、勝負は三対三の引き分けで幕を閉じてもらいましょう。その方が穏便に終われそうですし」

 

三年生サイドが既に勝利ムードになっているのとは対照的に、二年生サイドの士気はじわじわと低下していく一方であった。

 

姫路「あの柊君が、完全に押されています……」

翔子「……フェイクをかける技術が桁違いに上手い」

美波「いくらなんでも強すぎでしょあの先輩……」

雄二「おい明久。お前あのセンパイみたいな芸当、できるか」

明久「無理だよ……。あれだけ上手く相手を罠に誘い込むには操作技術より相手の動きをかなり読まなきやならないし、そもそも僕にはフィードバックがあるから和真の反撃を度外視した闘いなんてできないよ」

雄二「だろうな。……しかし武器四つに対して槍一本じゃどうしても手数負けしてしまうな。その分リーチでは勝ってるんだが……全然間合いを取れないな」

明久(いや、間合いを取ったところで佐伯先輩が防御に徹すれば和真の攻撃は全てガードされるだけ。和真、何か対処法を見つけないと勝ち目がないよ……)

 

 




さて、受験生の山場である夏を乗り越えた三年Aクラス主力メンバーの現在の総合成績を公開しちゃいます。


①佐伯梓    4825点
②高城雅春   4456点
③金田一真之介 4021点
④宮坂杏里   3869点
⑤小暮葵    3807点
⑥常村勇作   3501点
⑦夏川駿平   3414点


和真「二年と比べると全体的に点数が抑え目だな……というより俺らの学年が高過ぎんのか?」←ほとんど無傷(HP97/100)

蒼介「『成績だけなら歴代ダントツ』の看板に偽り無しだ」←ボッロボロ(HP28/100)

飛鳥「……ねぇ、二人とも何かあったの?」

蒼介「…………まあ、なんというか……久しぶりに拳で語り合ったとだけ言っておく」

飛鳥「うん、見たわけじゃないけど絶対語り合って無いよね!?まず間違いなく和真がほぼ一方的に語ってたよね!?」

和真(素手だとだとこいつそこまで強くねぇしな……おまけにさっきのこいつ冷静さを欠いて“明鏡止水”とはほど遠かったし)



現在の二人のリアルファイトでの力関係は、

蒼介(木刀かつ“明鏡止水”時)≧和真>蒼介(木刀)>>>>>蒼介(丸腰)

です。“明鏡止水”時の蒼介の強さでは和真をも凌駕しますが、今の持続時間(約二分)では倒しきる前に解けてしまいますので、今のところリアルファイトでは和真に軍配が上がります。




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オリジナル第二章終了

【お知らせ】
次回からしばらく「バカバカバカしくも素晴らしき日常」の更新に専念します。


雄二「……ったく、こんなことはもうこれっきりにしてくれよ」

和真「んだよ雄二?今回の模擬代表戦に何か落ち度でもあったのか?」

翔子「……それぞれ課題が見つかったり著しい成長を見せたりと、とても実入りのある催しだったと思う」

雄二「お前におとなしくしておけなんて言うつもりはねぇよ、どうせ聞き入れちゃくれないだろうし。……ただな、せめて代表の俺には事前に報告しろ」

和真「それじゃサプライズにならないじゃねぇかよ」

雄二「こんなサプライズ求めてねーんだよ!」

 

三年との模擬代表戦も無事終わり、久しぶりに三人一緒に下校するFクラス地頭良いトリオ(優子は蒼介が開くAクラス全体自習に参加している)。

ちなみに、最終戦がどうなったのかというと…

 

和真「しっかしよー、やっぱあの先輩半端なく強ぇな畜生……」

翔子「……でも、終盤は大分喰らいついていた」

雄二「最終的な点数差も300ちょいだったしな、もう一度闘えば勝てるんじゃないか?」

和真「負けは負けだろうがよ。それに初期点数500以上差があるし召喚獣のスペックも勝ってるんだ、操作技術で劣ってようがひっくり返されていい勝負じゃねぇんだよ……」

 

あの後も梓は持ち前の操作技術とトリッキーな戦法で和真を翻弄し、中盤でとうとう点数差が逆転した。しかし迎えた終盤、梓の動きを学習した和真が操作精度を上げ徐々に盛り返し始めることになる。

柊和真は正真正銘、掛け値なしの天才である。闘いの中で敵の技術を糧として吸収し成長していくことなさど何ら珍しくもない。しかしながらそれでも梓との差は埋まりきらず、結果点数差はそのまま縮まることなく終結した。

したがって最終結果は三勝三敗一分けと、三年Aクラスと二年Aクラスの宿命の闘いは引き分けに終わった。

 

和真「それに梓先輩にギリ勝てるレベルじゃあ、多分今のソウスケには絶対勝てねぇ。さらにパワーアップする必要があると確信できただけでも収穫はあったぜ」

雄二「そうか……まあお前がそう言うからには当てがあるんだろう。これからも頼りにしてるぜ?」

 

あっけらかんと笑いながら言う雄二に、何故か和真は神妙な面持ちになる。

 

和真「…………なぁ雄二」

雄二「ん?どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

和真「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

翔子「っ……!」

雄二「…………」

 

和真の何気ない問いかけに二人は歩みこそ止めなかったものの、翔子はいつもの無表情はどうしたとばかりに顔を強張らせ、雄二も表面上は平然としているものの両の手は不必要なほどの力で握り拳を作っている。しがらく重苦しい空気が続いたが、やがて冷静さを取り戻したのか演技なのか、軽い笑みを浮かべてやんわりと否定する。

 

雄二「あのなぁ和真……俺は鳳みたいに度を越したストイックでもなければ、お前みたいに闘うためならどんな苦難でも平然と取り組める戦闘狂でもないんだぞ?ランクアップが可能になるまでひたすら勉強とか、かったるくてやってられねぇよ」

 

そこで一度言葉を切り、やや悟ったような…それでいて自嘲めいたような表情に変わりつつ言葉を続ける。

 

雄二「それに……俺はかつて勉強しか取り柄の無かった自分に失望し、勉強する意義を完全に失ってしまった。今さらもとの優等生には戻れねぇよ」

和真「そうか…一応言っておくがな、お前が手を抜いているんじゃないか疑ってたわけじゃねぇぞ。お前の対Aクラスにかける熱意は本物だからな」

 

和真のその言葉を聞いて翔子が肩を撫で下ろす一方で、基本的にひねくれ者の雄二はニヒルな笑みを浮かべる。

 

雄二「なんでそう断言できるんだよ?」

和真「んなもん見りゃわかるんだよ、俺の観察スキルの精度舐めんな」

雄二「なんか嘘発見器みたいだな」

和真「他にも色々、ほんのささいな感情の変化も察知できるぞ。例えばそうだな……俺がいるせいで翔子と二人きりになれないのをお前がほんの少し残念がって-」

雄二「よしわかった!お前の凄さはわかったから、少し黙ってろ!」

 

その後、二人とがそこはかとなく良い雰囲気になり始めた頃には和真は退散していたそうな。妙なところで無駄に空気を読む男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃二年Aクラスの教室では、Fクラスとの決戦に備えて今週から始めた蒼介による特別講義が行われていた。蒼介の教え方はとてもわかりやすいものの、内容はとても高校生が取り組むような難易度のものではなく、文月学園きってのエリートであるはずのAクラス生徒達も大半が頭を悩ませるほどであった。

 

蒼介「-以上により、区間 [a,b][a,b] で連続、(a,b)(a,b) で微分可能な関数 f(x)f(x) に対して、

a<c<b なる c で f(b)−f(a)/ b-a=f′(c)を満たす c が存在する。これで平均値の定理の証明をは終わりだ。……む、もうこんな時間か。キリも良いので今日はここまでとする。今日までの範囲でわからないことや引っ掛かることがあれば来週の昼休みにノートかルーズリーフに書いて渡してくれたら、次の日に解説を書いて返却する。それでもつまずく場合は直接聞きに来るといい……それじゃあ私はこれで失礼する」

 

そう言うと蒼介は教室から出ていき、生徒達は仲の良いメンバーで集まったりさっさと帰宅準備をし始める。そんな中、優子・愛子・飛鳥のなかよし三人娘が集まる。

 

愛子「あぁ~…疲れた……鳳君容赦ないね、ついていくだけで精一杯だよ」

飛鳥「ついていけるだけまだマシじゃない、私なんてまだ半分も理解できてないよ……」

優子「飛鳥は別に大丈夫でしょ、後で鳳君に手取り足取り教えてもらえるんだし」

愛子「ほほう、それは興味深い話だね~。さぁ飛鳥、後で鳳君とどんなやらしいやり取りをするかについて詳しく♪」

飛鳥「待って。勝手な推測で話を面白おかしく広げないで」

優子「ちょっとした冗談よ。アンタと鳳君に限ってそんな艶っぽい展開にはならないだろうし」

愛子「出家アベックとまで呼ばれてるくらいだからね」

飛鳥「うん、とりあえずその不名誉かつ古い通り名を誰が言い出したのか詳しく調べないとね」

 

ちなみに犯人は勿論、幼馴染みをネタにすることに定評のある我らが和真である。

 

愛子「ところで優子はどうなの?」

優子「結構苦労したけど今のところ問題無いわ。応用や複合問題を解けって言われたらまだ不安だけどね」

飛鳥「十分すごいわよ……」

愛子「やっぱり久保君や優子や徹君は頭の出来が違うねぇ~……」

久保「称賛はありがたいが、今日の内容には苦戦しているよ」

愛子「え、そうなの久保君?」

 

愛子の何気ない呟きをたまたま耳にしたのか、学年次席(実質5位だが)の久保が三人の会話に入る。女子達の会話に横から割って入っても悪感情を抱かれないのは、心身ともにイケメン(たたし、明久が絡まない場合のみ)である久保の人徳によるものだ。

 

愛子「あー、そういや久保君ってガチガチの文系だったっけ」

優子「え?でも一学期の時点で克服してたわよね?」

久保「苦手意識は取れたけど、やっぱり文系科目に比べると理解力に欠けるんだ。僕の見立てでは、今日の講義内容を苦もなく理解できた人は大門君くらいだと思うよ」

 

久保のその言葉を聞いた三人の視線は徹へとに注がれる。三人の視線を受けたAクラスが誇る理数系のエキスパート、大門徹は…

 

 

 

徹「(モッサモッサモッサ…)……うむ、我ながら会心の出来」

 

ウェディングケーキらしきものを一心不乱に貪り食っていた。この光景を見て思い浮かぶ感想は多種多様であるが、三人……いや、久保も加えた四人の感想は奇しくも一致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

((((どこから出したんだろう……?というかどうやって持ってきたのそんなバカデカいケーキ……?))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夜の10時頃、“御門エンタープライズ”最高経営責任者・桐生舞は今日の激務を終わらせてようやく帰宅していた。ハーバード大卒の才媛とはいえまだ24歳、社会人二年目の彼女にはその肩書きは重すぎるのか、完全にくたびれきっている。このやつれた表情をした女性が「美人過ぎるCEO」などとあらゆるメディアにもてはやされているなど誰が信じられようか。

 

桐生「うぅ……今日も疲れました……御門先輩のバカ、アナタに関わらなくてもロクな目に遭わないじゃないですか……」

[その上我々にも目をつけられたのだから、貴様の幸の薄さは筋金入りだな。心底同情するぞ娘よ]

桐生「…っ!?!?!?」

 

後ろから聞き慣れない電子音声を聞き咄嗟に振り向くと、そこには純白の天使・アドラメレクが立っていた。さらにその天使の足下を中心に巨大な幾何学模様が辺り一面に広がっている。

 

桐生「な…なんですかアナタは!?この模様……まさか、先輩が追っているという召喚獣!?」

[理解が早いようで何よりだ、どれ……]

 

アドラメレクは桐生を値踏みするような視線を投げかけ、ややがっかりしたような表情になる。

 

[……やはり()の言っていたとおり、“玉”にはあと一歩足りんようだな。しかし原石ではあるし当初の予定通り、貴様にはベルゼビュートの器になってもらおう]

桐生「わ、私に何をするつもりですか!?警察呼びますよ!」

[警察などが我をどうこうできるとでも?……それにもう間に合わんよ]

 

不穏な気配を感じ取った桐生は警戒体制に入るが、アドラメレクは桐生に向けて手をかざす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「אֶרוֹזְיָה」

 

 

その瞬間、桐生舞は目も眩むような白い閃光に飲み込まれた。

 

 

 

 




蒼介「第二章が無事に……無事ではないが終了したな」

和真「ああ、無事じゃねぇ……全くもって無事じゃねぇよ……」

飛鳥「あの桐生さんって人、流石に可哀想過ぎない?この小説で不幸な目にしかあってない気がするんだけど……」

和真「まぁ、おっちゃんが何とかするだろ。設定ではあの人、おっちゃんのヒロインだし」

蒼介「清々しいほどの丸投げぶりだな……」

飛鳥(というか御門先生と桐生さん、七巻終盤で結構深そうな溝ができていたけど大丈夫かしら) 

蒼介「…………まあそれはともかく、前書きで告知した通りしばらくは番外編の更新に専念する」

和真「色々と貯まっているからなぁ……原作の0.5巻の内容はもちろん俺達三人がどう出会ったかとか…」

飛鳥「優子との馴れ初めとかもね♪」

和真「今すぐ口閉じろ没個性が」

飛鳥「没個性!?」

蒼介「やれやれ…………さて、そろそろ時間だな。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「じゃあな~」







蒼介「というかカズマ、前回あんなはらはらする引きで終わったのに普通にダイジェストで負けたな」

和真「やかましいわ!
この借りは、召喚大会編で必ず返す……!」




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オリジナル第三章『S・B・F』

いよいよ召喚大会編突入です。
完結までもう少し(具体的にはあと三章)ですから、パワーバランスが色んな意味で面白おかしく凄まじいほどのインフレが巻き起こる予感……!


ベルゼビュートは数ある召喚獣の中でも極めて特別な自律型召喚獣である。何をもって特別と定義するかを説明するとかなり長くなるが、特に顕著な要素は三つに絞られる。

一つは彼が人間と比較しても遜色ないほど高い知能を有していること。使役型の召喚獣は使役する者の通りにしか動かない木偶人形に過ぎず、自律型であってもただ本能の赴くままに暴れることしか能の無い畜生止まりであることを考えると、これは極めて特異極まりないことだと言えよう。

二つ目は召喚獣フィールドを媒介にすることなく現実世界に常在できること。召喚獣とは科学とオカルトが交差することにより生じる化外の存在。故に本来は特殊なフィールドを展開しなければ現実世界には現出することすらできないはずである。しかしどういう原理かはまったくもって不明だが、彼はその前提条件を完全に覆しているのである。

そして三つ目だが……そもそも容姿、サイズともに召喚獣には全く見えない外見をしているということだ。

今のベルゼビュートは“桐谷グループ”の臨時代表に就いている男・宮阪桃里と瓜二つの外見をしている。……いや、宮阪桃里として“桐谷”を率いているのは何を隠そうこのベルゼビュートである。本人をどこかに監禁して宮阪桃里に成り済ましているのか、宮阪桃里の肉体を乗っ取っているのか……それとも宮阪桃里の正体がベルゼビュートなのかは不明だが。

それはともかく、この極めて特異な召喚獣であるベルゼビュート…通称ベルは現在、桐谷サイバーシティーの中心部『バベルタワー』の最上階にて、とある人物……アドラメレクの開発者、及び()()()()()()()()とパソコン越しに連絡を取っていた。

 

ベル「それでボス、“玉”の資質を持った奴は揃ったのかよ?((o(^-^)o))」

『勿論だよ。僕が目をつけている内の二人はまだ覚醒していないけど、僕の分析上まず間違いなく“玉”の資質だよ……それも最上級クラスのね』

ベル「おいおい大丈夫なのかよそんなんで……儀式は繊細極まりない上にやり直しは不可能なんだ、『やっぱ違いました、てへっ♪』じゃすまされねーぞ?( ̄Д ̄;;」

『愚問だねベル。この僕の分析が間違っていたことが今まであったかい?』

ベル「…………ねーけどよ(¬_¬)」

 

ディスプレイに文月学園の関係者の顔写真と、それぞれの名前が表示されている。

 

ベル「つーかよ……既に確定してる奴がいるんだし、そいつらだけでもさっさと拉致ってくりゃいいじゃねーかΨ(`△´)Ψ」

『まったく、君はホント不粋だねぇ……せっかくの祭なんだよ?僕達が横槍を入れて中止にでもなったりしたら、興が削がれると言うものさ』

ベル「うっわ出たよボスの悪い癖……()()()()()()()()()()()()()()()人が、なんでそんなこと気にするかねぇ……( ̄□ ̄;)」

 

ベルが呆れるのも無理はない。なにせ一度や二度では無いのだ、パソコンの向こうの人物が誰がどう見ても不合理極まりないとしか思えない愚行に時間と労力を費やすのは。例えば……四年前の『ハーバード大学コンピューターサイエンス学科生失踪事件』にて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。その人物がアドラメレク、ひいては自信に激しい憎悪を向ける…もしくは取り除かねばならないという使命感、義務感に駆られるであろうことを見越した上で……自分達の障害になると確信していながら、あえて見逃したのだ。

 

『まあそう言うなよベル君、今回は何も酔狂で言っているわけじゃないんだ。僕の分析に寄れば……この二人の覚醒にはこの祭は実にうってつけなのさ』

ベル「ふーん、養殖みてーなもんか……つまりアレか?その二人が覚醒したら、ついに俺達が動くってことで良いんだよな(-ω- ?)」

『然りだ。君の器候補は既にダゴン君が洗脳済み、それにゴライアスの量産も既に成功している。さらに【セブンスター】の完成もあと少しの調整を残すのみ……決戦の日は近いよベル君♪』

ベル「……クククククククククク……!

そうだそうだよそうこなくっちゃなぁっ!……ついに、ついにだ!アドラメレクは完全へと至り……そしてこの世界はぁ……くくく、ふふははは、ヒャーッハッハッハッハッハ!Ψ(`▽´)Ψ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よく集まったねクソジャリ共』

 

開口一番仮にも教職についている者とは思えない学園長・藤堂カヲルの発言に生徒達はいつものことであるものの呆れ、教師陣はげんなりしたように頭を抱える。月曜日の六時間目、全校集会のため1~3年の約900人の生徒達と全教師陣が体育館に集まっている。

 

『今回アンタらに集まってもらったのは他でもない。試験召喚戦争の祭典……【サモン・ビースト・フェスティバル】が今日から一週間後に開催されることを通達するためだよ』

 

学園長の言い放ったあまりに唐突な内容に決して小さくないざわめきが生まれる。そしてそれは我らがFクラスとて例外ではない。

 

明久「この時期に召喚大会?」

雄二「妙だな、去年はそんな行事なかったはずだ」

 

しばらく喧騒は止まなかったが、やがて鉄人が一喝して体育館に静寂を取り戻す。周りが静かになったことを確認してから学園長は再び話を続ける。

 

『ざわつくのも無理はないがこの祭典は文月学園始まって以来初めての試みだからね、前例がないのは当たり前だよ。この祭典の目的は……一々誤魔化す必要も特に無いから簡潔に言うと、まあ一種のプロパガンタさね』

 

秀吉「随分ストレートにぶっちゃけたのう……」

明久「???ババァ長も以前の僕みたいにガス代を払ってなかったのかな?」

美波「……へ?なんでこの流れで急にガス代の話になるのよ?」

ムッツリーニ「………理解不能」

雄二「……………あぁなるほど。明久、ババァが言ったのはプロパンガスじゃなくてプロパガンダだ」

翔子「……本来は、ある政治的意図のもとに主義や思想を強調する宣伝行為のこと」

姫路「今回のケースですと、そうですね……また召喚獣の宣伝じゃないでしょうか?」

 

清涼祭の召喚大会の主目的はまさに宣伝であったため、今回もそうではないかと思うことは至極当然であるが、そんな生徒達の考えを読み取ったのか学園長は「ちっちっち」と指を数回ほど振りつつ話を進める。

 

『そこそこ察しの良いガキは勘づいたつもりか知らないけど早とちりは駄目さね。この祭典はいつもアタシがしているスポンサーへの涙ぐましいご機嫌とりとはスケールが違う。召喚獣を教育に投入した我が校のカリキュラムを全国、全世界に向けてアピールすることが目的さね。大会前の準備期間として、明日から金曜までは午前授業に変更する。勿論、参加義務があるものの真剣に取り組むかどうかはアンタら次第……だけど肝に命じておくことだね。今回の祭典は文字通り全世界に公開される、努力を怠った者はそれ相応の屈辱を味わうことになるとね』

 

悪役のような笑みを浮かべて学園長が一旦言葉を切り周囲を見回すと、案の定大半の生徒達の表情は強ばっている。文月学園の試験召喚システムが注目を浴びていることはこの学園の生徒なら誰でも知っている。割と秘密主義なため肝試しのときも野球大会のときも露出はごくわずかにとどめてあったのだが、今回学園長はそれを包み隠さずさらけ出すと言うのだ。

 

『当然無理矢理参加させるからには、優秀な成績を残した者には報酬を出そうじゃないか。特に、優勝した生徒には50000円分のQUOカードにその他諸々の副賞……そして-』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「『常磐の腕輪』、か」

翔子「……どんな効果なのかはまだ不明だけど、できれば他クラスには渡したくない」

雄二「特にAクラスにはな」

 

帰宅中、雄二と翔子はサモン・ビースト・フェスティバル……通称『S・B・F』でどのように立ち回るかを話し合っていた。近い内にAクラスに闘いを挑む以上腕輪は手に入れておきたいし、せめて二年Aクラスの生徒には勝ち取らせたくない。

 

雄二「…………にしても和真め、また俺に隠し事してやがったなあの野郎……」

翔子「……でも、和真も知らなかったってことも-」

雄二「あるわけねぇだろ。ババァの話だと予選と決勝トーナメントの二部構成らしいがアイツと鳳、佐伯センパイ……あと、姉妹校からの交換留学生とやらは予選免除らしいからな。事前に通達があってもおかしくは無いし、それに何より……

 

 

 

 

 

 

 

 

今日から祭典初日まで学校を休むって時点で、明らかにこの大会を知ってたとしか思えねぇよ!」

 

雄二の言う通り、和真は今日から一週間欠席すると学校に届け出を出していたらしい。ちなみにこの時点で和真はとある元猫かぶり女子生徒の怒りを盛大に大人買いしてしまったのだが、身から出た錆と諦める他無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、肝心の和真はというと…

とあるビルの地下、核シェルターのように無機質ながらも重厚な壁に囲まれた場所に和真がいた。目の前には初号機でも格納しているかのような厳重なシャッターが鎮座しており、後ろにはここまで降りてくるために使用したエレベーターがあるものの電源を止められて降り、和真は正しくこの檻のような空間に閉じ込められた形になる。

 

和真「…………なぁ親父、なんだこの状況?テメェは俺に何をさせるつもりだ」

 

げんなりしたような和真の呟きに、天井に設置されていたスピーカーが喧しく返答する。

 

『フハハハハハ!倅よ、俺からお前に送るアドバイスはたった一つだけだ!…………死ぬなよ?』

和真「……はぁ?」

 

どういう意味だ?……と聞き返す前にシャッターが上がっていき、その先にあったものを直視した和真は石像の如く固まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「グルルルル……」」」

和真「………………マジで?」

 

ライオン。

食肉目ネコ科ヒョウ属に分類される食肉類。オスであれば体重は250キログラムを超えることもあり、ネコ科としてはトラに次いで大きな種である。暇人どもが最強議論を交わすときに度々かませにされることもあるが、それでも人間が重火器無しで挑むことは無謀以外の何ものでもない、百獣の王。

 

そんなライオンが、1,2,3,4……20体ほど。そしてどいつもこいつも瞳に移る和真を獲物として捉えているかのように、獰猛に唸り声を上げている。

あまりに非現実的な光景を前に未だ硬直したままの和真に、再びスピーカーがムカつすほど爽やかな声色で語りかけてきた。

 

『和真よ!その畜生どもを全て打ち倒すには、いくらお前とて“気炎万丈の境地”に至らねば不可能だぞ!』

和真「いや待てコラ!?俺はどうやったら至れるか教えてくれって頼んだんだぞ!?誰がこんな戦場に放り込めと頼んだ!?」

『…………健闘を祈る!(プツッ)』

 

和真の猛抗議もカレーにスルーされ、スピーカーが切れたのを合図に猛獣共が襲いかかってきた。

 

 

 

 

「「「グルァァァアアアアア!!!」」」

和真「あのクソ野郎ぉぉおおお!!死んだら絶対祟り殺してやるぅぅぅっ!」

 




そんじょそこらのDVなど鼻で笑えるほどの暴挙に出た守那さんですが、彼は頭のネジが2,30本飛んでるので常識や倫理観は期待するだけ無駄です。


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気炎万丈

【バカテスト・英語】

問 次の日本語を英訳しなさい。

彼らは夏休みとして3週間ほど有給休暇を取る。


姫路の答え
『They take a paid vacation for three weeks as summer vacation.』

蒼介「正解だ。有給休暇を取る=take a paid vacationだと覚えていれば、さほど難しい英文ではないな」


明久の答え
『They take a paid vacatin for three weeks as summer vacatin.』

蒼介「バカチンはお前だ。あと少しで正解だと言うのにくだらんスペルミスをしおってからに……」




今回は説明回というか……THE☆超展開です。




守那「流石は俺の息子だな!それでこそわざわざ1000万ほど支払って用意した甲斐があると言うものよ!」

和真「このクソ野郎、ぬけぬけと……!」 

 

部屋に入ってくるなり誇らしげに哄笑する守那をしばらく恨みがましい目で睨めつける和真であったが、そもそもこの脳が沸騰してるとしか思えないキチガイ親父にまともな倫理観など最初から期待できなかったと思い直し、諦めたように肩を落とす。それに守那の指導方法はあながち間違っていたとも言い難い。なぜなら現に和真は無事生きているし、当初の目的も達成したらしい。その証拠に…

 

和真「……まあ確かに、無茶苦茶な方法だが得るものはデカかったと認めるしかねぇか。おかげで無事“気炎万丈の境地”に至れたことだしな」

 

()()()()()()()2()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ある個体は爪牙を砕かれ、またある個体は首を引きちぎられ…どのライオンも惨い死に方をしているが、弱肉強食が野生のルールだ。和真を餌と見なして襲いかかった結果返り討ちにあったのだから、同情の余地などありはしない。

それよりも注目すべきなのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。和真は決して弱いわけではないが、以前までの彼でどうにかできるのはせいぜい一頭程度だっただろう。二頭に挟まれれば勝ち目は薄い、ましてや同時に20頭相手取るなどもはや命を投げ捨てるようなもの。常識で考えれば勝ち負けなど論外……そもそも生き残ることすらできやしないはずだ。

その至極真っ当な常識を跡形も無く粉砕し彼に勝利を与えたものこそ、人を超越せしめる“気炎万丈の境地”である。

 

和真「……にしても、一週間も休学届け出したのに1日で習得しちまったな。土日は除くとしても、あと4日どうしようか……」

守那「まあそう焦るな倅よ!……実はな、お前の“気炎万丈”はまだ未完成なのだ!」

和真「……何?」

 

本音を言えば血の繋がった実の息子をライオンの群れに投げ込むようなサイコパスからさっさと離れたかった和真だが、どうしても見過ごせない内容を提示されたからにはそうもいかない。

 

和真「どういうことだよ親父?」

守那「まずはそうだな……お前は理屈から入るよりも実戦で覚える方が性に合っていると思って後回しにしていた、気炎万丈の境地”がどのようなものであるかを説明しよう!」

和真「事実だから否定できねぇけど勝手に人を脳筋扱いしやがって……つっても大まかになら理解してるぜ?こいつは多分、強い感情と何らかの関係があるんだろ」

守那「うむ!お前の睨んだ通り、“気炎万丈”の根源は『感情のエネルギー』に由来する!」

和真「感情の……エネルギー?」

守那「今から18年前頃からだったか……怒りや悲しみといった何らかの感情を爆発させた者の身体能力が、どういうわけか桁違いに跳ね上がるようになった」

 

守那の話した内容には和真にも思い当たるフシがある。FFF団の連中が嫉妬に駆られたときや、清水が美波に対して激烈な劣情を向けているときなどがそうだ。

 

守那「だがな和真、この『感情のエネルギー』はあくまで突発的に起こる火事場の馬鹿力の一種であり、普通なら意図的に発生させることのできない代物だ!これらのケースが出始めてからも、重量上げや陸上の記録が劇的に更新されるといったことは起きていない!」

 

そもそもトップアスリート達はストイックに肉体を鍛え上げてきた経験から精神的に安定している……否、緊張やプレッシャーなどの外的要因で調子を崩さないためにもそれはもはや大前提である。そう言った意味では、『感情のエネルギー』は精神的に未熟な人間からしか発生しないものであると言えよう。

 

守那「だが、俺やお前の精神は良くも悪くも不安定だ……特に和真、お前は心の内に修羅を飼っている!お前が普段押さえつけたり折り合いをつけている闘争心、破壊願望を解き放つことで、『感情のエネルギー』を自在に生み出すことができる!それこそが、“気炎万丈の境地”なのだ!」

 

先ほどのライオンとの死闘の際も、かつて満身創痍で“閏高”に立ち向かった小学生時代も、和真は内に眠る闘争心を解放することで『感情のエネルギー』を発生させ、それによって肉体を凄まじく活性化させることで圧倒的劣性を覆してみせた。

 

和真「そこまでは俺も大体わかってた。……で、未完成ってのは?」

守那「簡潔に言えば使い方が大雑把で無駄が多い!和真よ、今のお前普段より大分疲れているだろう!」

和真「あん?……あー確かに、言われてみれば…」

 

ライオンを全滅させるまでにかかった時間は15分ほど。いつもの和真ならウォーミングアップにすらならない短時間で、現在は体力を半分ほど消耗してしまっている。はっきり言って異常なペースだ。

 

守那「“気炎万丈”の欠点その一!『感情のエネルギー』で活性化した肉体……いや、細胞は体力の消耗も激しくなる!むやみやたらと使えばあっという間にガス欠してしまうぞ!今からお前が覚えるべきことの一つは『感情のエネルギー』による部分的活性化と活性具合の調節だ!今のままでは30分程度が限界であろうが……無駄な活性を省けば消耗はかなり抑えられるというわけだ!」

和真「なるほど、そう言われると確かに毎回全身を強化するのは非効率だな。……ところでなんで細胞に言い直したんだ?」

守那「“気炎万丈”で活性化できるのは身体能力だけにあらず!使いこなせれば脳細胞だけを集中的を活性化させ、頭の回転を極限まで速めることも可能だ!……お前の通っている学校では、こちらの方が都合良かろう?」

和真「……以前至ったとき妙に頭がすっきりしてたからダメ元で身に付けてみたが、その話が本当なら想像以上に使えそうだな。……で、具体的にはどうするんだよ?」

守那「うむ、それはだな……」

 

そこで一旦言葉を切り、守那は和真からある程度距離を取る。そして…

 

 

 

 

 

守那「とにかく実戦あるのみだ!かかって来い和真、俺との闘いの中で“気炎万丈”をものにするがいいフハハハハハハ!」ゴォォォオオオオオッ!!!

 

感情を極限まで昂らせ、“気炎万丈の境地”へと至る。

『感情のエネルギー』による肉体の強化は凄まじく、普段はか弱い女子に過ぎない清水ですら身体能力のみなら和真に比肩するレベルにまで押し上げるのだ。ただでさえ素の状態で鉄人をも上回る守那ならば……どうなるかは言わずともわかるだろう。

 

和真「結局は脳筋理論かよ……でもまぁ」

 

呆れるように頭を欠いてうつむきつつも、内に秘めた闘争心を解放する。和真の場合守那とは違っていちいち感情を昂らせる必要などなく、普段理性で抑え込んでいる闘争心を解放してやるだけでこと足りる。激烈なまでの闘争心から生じた未知のエネルギーは細胞を急激に活性化させ、柊和真は紅き修羅となる。

 

和真「嫌いじゃねぇがな!」ゴォォォオオオオオッ!!!

 

一つ補足をしておこう。感情のエネルギー化は際限無く行えるわけではなく、個人差はあれど必ず限度というものがあり、許容量をオーバーした分……つまりエネルギー化できないほどの強い感情は本人の心をかき乱し理性を狂わせるというリスクを孕んでいる。明久や清水が一種の暴走状態に陥るのはそれが原因であるのだが、和真の闘争心は普段抑え込んでいるだけで心の内に常に燃えたぎっている。……それほどの修羅をこれまで御してきた和真が暴走状態に陥る可能性など、万に一つもありはしない。

 

守那「さぁ、ここからはひたすら闘争→休憩・栄養補給の繰り返しだ!和真よ、果たしてこの一週間で“気炎万丈”を使いこなすことができるか!?」ゴォォォオオオオオッ!!!

和真「できるできないじゃねぇ、やるんだよ。……テメェがヘラヘラ笑ってられるのも今のうちだぜ!」ゴォォォオオオオオッ!!!

 

両者は人間離れしたスピードで距離を詰め、鋼鉄すら容易く粉砕しかねないほどの破壊力を伴った拳を激突させた。スピードでは和真が勝っていたものの腕力の差は歴然、凄まじい轟音の直後に和真は後方へ吹き飛ばされた。

 

守那「どうした倅よ!お前の力はそんなものか!?俺もお前に合わせてあえて未完成状態に留めているというのにそのザマかフハハハハハハ!」ゴォォォオオオオオッ!!!

和真「ってぇな………上等だコラァ!」ゴォォォオオオオオッ!!!

 

柊親子の拳の語り合いはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃文月学園では、明久が未だかつてない窮地に陥っていた。

 

FFF団からの処刑?否。

 

姫路や美波からの折檻?否!

 

鉄人の補習or生徒指導?……否!!!

 

 

 

 

 

玉野「のんびりしていたら皆に先を越されちゃうから……だから私、勇気を出そうって決めたの!」

明久「えぇっ上着まで!?お願いします玉野さん!せめてズボンだけは残しておいてください!」

 

初対面の女子生徒から意味不明の追い剥ぎ(?)に遭っていることである。

彼女の名は玉野美紀、優子とは別ベクトルで和真の天敵とされている恐るべき女子生徒だ。彼女は可愛らしい男子生徒をひたすら女装させたがるというどうしようもない性癖を隠そうともしない残念系の極致のような女子だ。以前FクラスがBクラスとの戦争を回避する目的で明久の女装写真を囮に使った際に明久をロックオンしたようで、たまたま遭遇した明久を空き教室に連れ込んで着替えさそうとしているのである。分かりやすく言えば、言い逃れの余地のない変態ということだ。

 

玉野「あのね、アキちゃ-吉井君」

明久「玉野さん。多分だけど君絶対に僕のことを心の中で『アキちゃん』って読んでるよね?」

玉野「心配しないでアキちゃ-明子ちゃん!」

明久「違う!更に悪化させて欲しいって言ったワケじゃないんだ!僕の名前は明久なんだ!」

玉野「替わりのお洋服ならちゃんと用意してあるから。これを着て、思いっきり可愛くなろ?」

明久「じょ、冗談じゃないよ!誰がそんな服-って、ふぬぉぉぉー!何この力!?玉野さん本当に女子!?」

 

明久もまた『感情のエネルギー』の恐ろしさを体感しているようだ。その後明久は持久戦の末に衣服を取り返して事なきを得たものの、不運にもここでファンタジスタ振りを発揮してしまう。

 

明久「じゃ、じゃあね玉野さん!僕ちょっと雄二に呼ばれてるからまた今度!」

玉野「え……?坂本君に……?」

 

 

 

 

 

や っ て し ま っ た。

 

 

やってしまったと言わざるを得ない。

明久の言葉に偽りはない。確かに雄二は一週間後に控えた『S・B・F』に向けてのミーティングを開くためにFクラスの主要メンバーに集まるよう通達したし、その中には勿論明久も入っている。

だが……明久の言い方では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。勿論だからといって真っ当な人間ならそこから怪しい関係を邪推するようなことはまずないだろうが、あいにくここは文月学園…頭がお花畑の人間だらけの魔の巣窟。ましてや玉野は和真や徹曰く『頭に蛆が沸いているとしか思えない』と揶揄されるほどの人物。そんな彼女に対しての明久のあの台詞は悪手も悪手……、ファンブル中のファンブル、彼が開けてしまったものはパンドラの箱どころではないのだ。

 

玉野「アキちゃんと、坂本君が……あの噂、本当だったんだ……」

 

 

 

 

哀れなり ああ哀れなり 哀れなり

 

 

 




和真君、覚醒!
終盤になったこで自重を投げ捨て始めています。

“気炎万丈の境地”は原作キャラ達のギャグ補正による超人化を強引に理屈付けた設定『感情のエネルギー』を自在に操れることのできる能力です。蒼介君の“明鏡止水”とは炎と水、静と動、科学とオカルト、安定と不安定という色々な意味で完全に合わせ鏡の能力です。また、“明鏡止水”は一応人の範疇に収まるほぼノーリスクの安定した能力なのに対して、“気炎万丈”は爆発力は凄まじいが人を超越する代償に色々なリスクを孕んだ不安定な能力です。


【オリジナル設定】
感情のエネルギー……バカテス世界の人間が時にありえないレベルの芸当をすることを強引に理屈付けたもの。怒り、悲しみ、嫉妬、歓喜など、何かしらの感情が極限まで高まったとき発生するエネルギーであり、発生源となった人を桁外れに強化する。偶発的に発生する火事場の馬鹿力のようなものだが、守那は意図的に発生させることができ、和真に至っては自重を止めるだけで勝手に発生するようになった。





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鳳蒼介VS御門空雅(前編)

こんなタイトルですが、今回はほとんどバトルシーンありません。


雄二「さて、一週間後の『S・B・F』についてだが……当たり前だが腕輪がかかっている以上全力で優勝を狙いにいく。来るべきAクラス戦に余計な不安要素を増やしたくないからな。そして俺達Fクラスの方針なんだが……」

 

Bクラス教室にて、和真とムッツリーニを除いたいつものメンバー5人が雄二の言葉に耳を傾けている。Bクラスの設備を手に入れて腑抜けになった42人はともかく、打倒Aクラスはここにいる7人(勿論和真も)共通の宿願である。故に雄二の指示通りに動くことに何ら不満はなくここにいる以外の面子もいざとなったら簡単に買収できるので、『S・B・F』に向けての団結力はある意味固いのかもしれない。

 

雄二「具体的な作戦は予選の内容次第だから当日に説明する。だからお前らはこの一週間おのおので実力アップを試みてくれ」

明久「え?僕はてっきりこの前の期末みたいに勉強会でも開くのかと…」

雄二「あのときは期末試験対策って共通の目的があったが今回は違うだろ。それぞれの課題は操作技術の向上だったり苦手科目の克服だったりバラバラだ。例えばお前ならその無様極まりないオツムが課題だろ?」

姫路(いちいちそんな悪態つかなくても……)

秀吉(雄二らしいと言えば、らしいがのう……)

明久「なるほど、雄二ならまだ霧島さんと挙式を済ませてないことが課題だね。霧島さん、結婚式の準備お願いできるかな?」

雄二「ふざけんな明久テメェ!?」

翔子「……ごめん、吉井。今はまだダメ」

雄二「!?……あの翔子が、とうとう常識を弁えて……そうだよな!俺達まだ結婚できる年じゃ-」

翔子「……友人代表のスピーチは和真にやってもらうって決めてるから、今はちょっと」

雄二「そこじゃねぇだろ問題は!?」

翔子「……チッ……冗談」

雄二「お前今舌打ちしただろ-」

翔子「してない」

雄二「おい、こっち向け」

 

いつもの呟くような口調とはうって変わって喰い気味に否定する翔子……ただし顔は明後日の方向を向き、おまけにわざとらしく口笛を吹いている。確実に和真から悪影響を受けている現状に、雄二はこの場にいない悪友に内心で罵詈雑言を浴びせかける。

 

雄二「………まあいい。それから島田、外国語科目の申請は済ませておけよ」

美波「言われるまでもなく申請済みよ。今までのウチとはひと味違うわよ!」

明久「?美波、随分やる気満々だね」

美波「当たり前でしょ!なんてったって今回の大会ではドイツ語を外国語科目として選択できるんだから!」

明久「あっ、そう言えば美波って帰国子女だっけ」

 

全学年が参加するということもあって、勝負科目は公平を期すため恒例のセンター試験準拠5教科+保健体育の梓式ルール。しかも今回はよりセンター準拠に歩み寄るようで、外国語科目を 『英語』『ドイツ語』『フランス語』『中国 語』『韓国語』の五科目から選択できるらしい。今まで試召戦争では見せ場らしい見せ場の無かった美波にとってはこの上無い吉報であった。

 

雄二「だったら早めにテストを受けておけ。いくらドイツ語が堪能でも、今のままじゃ無得点扱いだからな」

美波「あ、そうだった。……じゃあウチは補充試験を受けてくるから」

 

そう言い残して美波が教室から出ていった。それを見届けてから、明久は何かを思い出したようにやけに分厚い日本史の参考書を取り出す。

 

秀吉「んむ?明久、随分と分厚い参考書じゃな」

明久「ああ、これ?夏休み前に和真に貰ったんだ。『俺にはもう必要ない』って言って」

姫路「随分ハイレベルな参考書ですね」

翔子「……吉井の日本史が向上したのも頷ける」

雄二「それは結構だがな明久、お前教科によって成績偏り過ぎだろ?少しは満遍なく勉強しろよ」

 

雄二の指摘はもっともである。350点を400点まで上げることと100点を150点まで上げること、どちらが容易であるかは確認するまでもない。また、指揮官としてはピーキー過ぎる駒は一枚(ムッツリーニ)で間に合っているというのが本音だろう。しかし明久は苦笑して事情を説明する。

 

明久「僕も和真に今後も日本史に絞るよう言われたとき似たようなことを質問したんだけど……『少人数で鶴翼なんざ組んでも逆効果だろ』って言われて……」

雄二「……言われてみればそうかもな」

翔子「……和真、相変わらず情け容赦ない」

姫路「あ、あはは…」

秀吉「んむ?いったいどういう意味じゃ明久?」

 

翔子、姫路、雄二は理解できたようだが秀吉だけは取り残された。トレースによって成績だけは向上したものの学力が上がったわけではないのだ。言いづらそうにする明久などお構い無しに雄二は秀吉に説明する。

 

雄二「秀吉、鶴翼の陣は知ってるよな」

秀吉「名前くらいなら聞いたことあるぞい」

雄二「この陣形は敵軍よりも大人数だから効果的であって、少人数だと組む利点が無いどころかむしろピンチを招くんだ。つまり………少人数(明久の容量の小さい脳)鶴翼を組む(バランス良く勉強する)のは逆効果ってことだ」

秀吉「あんまりな言い草じゃが、否定できぬのが余計に悲しいのう……」

明久「やめて!?そんな可哀想な人を見る目でこっちを見ないで!」

 

と、そんな感じでいつものごとく明久が弄られる流れになってきたところに、雄二から各クラスの動向を探るよう頼まれていたムッツリーニが教室に戻ってきた。

 

雄二「ん?どうしたムッツリーニ、何かあったのか」

ムッツリーニ「(コクン)………鳳が御門先生に挑戦状を叩きつけた」

明久「えぇっ!?おっちゃんに!?」

雄二「場所はどこだ……って聞くまでもねぇな、職員室のフリースペースか」

ムッツリーニ「………(コクン)」

雄二「こうしちゃいられねぇ、情報収集に向かうぞお前ら!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように雄二が明久をスケープゴートに……と思いきや『S・B・F』直前のため色々と多忙な教職員は明久達の相手をしている暇も無いらしく、雄二達は拍子抜けするほどあっさりフリースペースまでたどり着いた。

 

雄二「よう鳳にオッサン、偵察に来てやったぜ」

蒼介「む…お前達か。来るのではないかと思ってはいたが、随分と耳が早いな」

 

そう言いながら蒼介はムッツリーニの方に視線を寄越す。まるで「お前、まさか盗聴などはしていないよな?」とでも言いたげなジト目で。さしもの蒼介と言えどもそっち方面での技術はムッツリーニには遠く及ばないため明確な証拠は掴まれていないが、腹の探り合いでは勝ち目は0に等しいため視線をそらしつつもムッツリーニの表情は強張っている。雄二は内心焦りまくるがさらに追求しようとした蒼介を御門先生が煙草をふかしながらストップをかける。職員室は禁煙なのだがこの男がきちんと守るはずもない。

 

御門「おいおい鳳Jrよ、俺ぁお前さんが勝負してくれってしつこく頼んできたから渋々ここにいるんだぜ?闘う気が無いんなら俺もう帰るぞ。俺も暇じゃねーんだよ、さっさといつもの安息の場所で最近嵌まりつつあるオニオンコンソメスープでも飲んで一息つきたいんだよ」

蒼介「要するに暇なんじゃないですか。そもそも『S・B・F』を直前に控えた今、教師…ましてや学年主任であるあなたを遊ばせておく余裕など無いはずなんですが……あと職員室は禁煙です」

御門「俺は不平等が死ぬほど嫌いな男、人より多少仕事が早い奴が暗黙の了解で重労働を押し付けられるなんて理不尽は断じて認めねー。それを何としても避けるため仕事量を均等化させることに全力を尽くしただけの話だ。固いこと言うなよ、『ルールは破るため、煙草は吸うためにある』って格言を知らねーのか」

蒼介「つまり今日の仕事はもう終わらせたというわけですね……。ありませんよそんな格言」

 

こめかみに手を抑えつつ呆れたように嘆息する。ここまで本人の資質とやる気が反比例しているのも珍しい。ノーブレスオブリージュを地で行く蒼介とは完全に対極の人間だ。本来なら喰い下がっているところだが気分を害してバックれられては敵わないので、蒼介は()()()()()不問にすることにした。

 

蒼介「……まあいいでしょう、では始めましょうか。この戦闘の目的を考えると本末転倒になることは承知の上ですが……その首、討たせてもらいます」

御門「バカヤロー、本末転倒どころかそうでなければこの闘いが単なる茶番になっちまうんだよ。……心置きなく全力を出せよ、返り討ちにしてやっからよ」

「「試獣召喚(サモン)」」

 

キーワードを引き金に二つの幾何学模様が展開し、その中心から召喚獣が出現する。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  7068点

VS

 学年主任 御門空雅 10255点』

 

 

両者ともに凄まじい点数だが、一同の注目を最も浴びたのはそこではなかった。蒼介の召喚獣の装備が蒼の武者鎧に草薙の剣、それに対し御門先生の召喚獣の装備は白と青紫を基調としたロングコートに…

 

明久「て、手ぶら…!?」

御門「足をよく見てみな少年。なんかゴツい靴履いてるだろ、これが俺の武器だとよ」

 

御門先生の言葉に明久だけでなく全員の視線が〈御門〉の足下に集中すると、確かに物々しい雰囲気を纏った革製の靴があるではないか。

これはヴィーザルの靴…怪力を司る神ヴィーダルがフェンリルを倒す際に履いていたとされる靴である。

 

明久「く、靴が武器って……」

御門「まあ確かにツッコミ所アリアリだとは思うけどな、足技がメインな俺としてはそこそこ使い易い武器なんだぜ?」

秀吉「そう言えば清涼祭でワシらを助けてくれたとき、見事なカポエラを披露していたのう……」

雄二「…………なあおっさん、一つ聞いていいか?」

蒼介「坂本、お前達は御門先生と浅くない交流があることは承知している。だが学校内では-」

御門「別にいいじゃねーか、俺とて先生なんてガラじゃねーんだしよ。…で、何を聞きたいんだ?」

 

諌めようとする蒼介を制しつつ疑問文で質問を許可すると、雄二は〈御門〉の右手を指差す。

 

雄二「なんで教師であるアンタの召喚獣に金の腕輪が装備されてるんだ?以前聞いたんだが、物理干渉能力を持つ教師の召喚獣には腕輪を装備させない決まりなんだろ?」

御門「ああそれか。俺の召喚獣には物理干渉能力が無いし、そもそもこいつを手に入れたのは俺がまだ社長だった頃だ」

雄二「………そうか。すまんな、中断しちまって」 

蒼介「……」

翔子「……」

「「「???」」」

 

二人のやり取りに蒼介と翔子以外のメンバーは頭にクエスチョンマークを浮かべるが、雄二があれこれと暗躍するのはいつものことなので明久達も特に気を留めなかった。

 

御門「それじゃあそろそろ始めるか。あ、そこのお前さん。土屋……だっけか?」

ムッツリーニ「………?」

御門「お前さんの腕輪能力、確か『加速』だったよな?俺も同じ能力だから見ていて損は無いはずだぜ。俺の点数は一万強、腕輪能力は当然ランクアップ済みだ。見せてやるよ、スピードの極致……『ラディカル・グッドスピード』をな!」

 

 

 

瞬間、白い流星となった〈御門〉は〈蒼介〉を遥か後方へと吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




御門先生の召喚獣の服装は名前の元ネタ通りスクライドのクーガーの格好がモデルです。そして腕輪能力の名前もクーガーのアルター能力名から取りました。

おっちゃんの点数が六巻のときより上がっている理由は、来るべき決戦に備えて勉強し直したからです。


・御門空雅の成績
現代文……約800点
古典……約800点
数学……約1200点
化学……約1000点
物理……約1200点
生物……約1000点
日本史……約800点
世界史……約800点
地理……約800点
英語……約1000点
保健体育……約700点


ついでに、作中最高点数の綾倉先生の内訳はこんな感じです。

・綾倉慶の成績
現代文……約1200点
古典……約1200点
数学……約1800点
化学……約1600点
物理……約1800点
生物……約1400点
日本史……約1200点
世界史……約1200点
地理……約1200点
英語……約1400点
保健体育……約1000点


………改めて整理すると、マジキチな成績だなこれ…。
保健体育に関して、知識量のみならムッツリーニが上回りますが、純粋に解くスピードが段違いなので綾倉先生に軍配が上がります。







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鳳蒼介VS御門空雅(後編)

御門「お前に足りないもの、それは……情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ……俺もほとんど無いよなコレ」


明久「鳳君の召喚獣がもうやられた!?」

雄二「いや、そうでもない。……あっちだ!」

 

明久達が雄二の指差した方向を見ると、〈蒼介〉は景気よく後方に吹き飛ばされながらも難なく着地していた。表示されている点数も初期値から一点も変化していない。

 

蒼介「……流石に素早いですね。私の反応が一瞬でも遅れていたら喰らっていましたよ」

御門「お前さんこそ対応が早いじゃねーか」

 

今の攻防の詳細を説明すると、〈御門〉が目にも止まらぬスピードで接近しつつその勢いのまま渾身の蹴りを放ったが、〈蒼介〉は喰らう寸前に草薙の剣で的確に蹴りをガードしていた。つまり勢い負けしてぶっ飛ばされただけで、〈蒼介〉は攻撃を受けてはいなかったのだ。

 

御門「やっぱお前さんにあんな単調な攻撃じゃあ通用しねーよな、ホント面倒な奴……だったらスピードで翻弄しつつ削り取るか」

 

その言葉を皮切りに再び白い流星となった〈御門〉は前後左右あらゆる角度からの波状攻撃を仕掛ける。〈蒼介〉も負けじと応戦するが圧倒的な速度差からの苛烈な攻めに次第に押され始める。

 

姫路「あの鳳君が、こうも苦戦するなんて……」

翔子「……でも鳳の表情、少しも焦っていない」

秀吉「うむ、ワシの見る限り強がって取り繕っているわけでも無さそうじゃな」

 

演劇狂いである秀吉の推測は見事に的中……蒼介はこの状況下でもまるで動揺することなく、召喚獣を操作しつつ対策と戦術を熟考している。

鳳蒼介の資質は戦士としては勿論、指揮官としても超一級品である。指揮官が冷静さを欠けば必ず全体が破滅に向かってしまうことを骨の髄まで熟知しているため、彼はいかなる不利な状況下だろうと焦ることなく冷静に頭を働かせることを怠らない……その点においては、同じ指揮官でも意外と動揺しやすい雄二では、蒼介より劣っていると言わざるを得ない。

 

蒼介(さて、この局面をどう乗り切るべきか。……波浪と大渦、瀑布は論外。なんとか食らいつけるというレベルの速度差がある相手に速度を緩めることや隙の大きい技など自殺行為だ。波紋と狭霧は召喚獣を介した闘いでは使えない。夕凪……守りの型では精々その場しのぎ、反撃の狼煙には成り得ない。百川帰海、海角天涯はもとより車軸も“明鏡止水”との併用が必須、早々に切り札を切るのはできれば避けたい。となれば……ここで用いるべきは参の型・怒濤!)

 

“明鏡止水”に至ったことで通常時の集中力も格段に増した蒼介は刹那の瞬間に長考を済ませ、指示を受けた〈蒼介〉は目にも止まらぬ滑らかな剣撃で〈御門〉の連撃を迎え撃つ。

 

 

キキキキキキキキキキキキキィィイイインッ!!!

 

 

召喚獣の激突による衝撃音が職員室全体に木霊する。何事かと駆けつけた教職員も次元の違う激闘を目の当たりにして開いた口が塞がらず、すごすごと仕事に戻っていった。

 

明久「お、おっちゃんの召喚獣……すごい猛攻だ!」

雄二「だが、鳳も攻撃を全てガードしてやがる……!どれだけ操作技術に優れてようが、あの高速の動きに反応できなきゃあれは真似できないだろうな……」

 

雄二の言う通りこのスピードについていける蒼介にも驚嘆ものだが、点数差3000点の2体の実力が拮抗していることには三つ理由がある。一つ目は確かにスピードでは圧倒的に〈御門〉が勝るものの速過ぎて御門本人すら完全に制御できず、多面攻撃などで工夫してはいるがどうしても攻撃が単調になってしまっていること。

二つ目は蒼介が読心術と先読みの達人であること。蒼介から学びとったのか和真も多少はできるが、蒼介のそれは和真とは比べ物にならない。相手の攻撃をことごとく受け流し、隙が生じるや否や攻めに転じて確実に仕留めることこそ水嶺流の真髄。それを体現するため継承者は幼少期より常に「後の先」を取り続ける訓練を受けている。そのたゆまぬ鍛練の成果故か、蒼介は和真のような“天性の直感”などなくても、相手の動きを正確に読み切ることができるのだ。

その後も〈御門〉は絶えず連撃を繰り出すがそれら全てを〈蒼介〉に捌ききられ、かといって〈蒼介〉も反撃の糸口が掴めない。今のままでは千日手になると理解した御門は攻撃を中断し、蒼介も一度仕切り直しをはかる。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  6791点

VS

 学年主任 御門空雅 9854点』

 

 

あれだけの攻防を繰り広げたにもかかわらず、向かい合う両者ともにダメージらしいダメージは受けていなかった。

 

明久(鳳君はともかく、おっちゃんの召喚獣は速すぎてなかなか点数がチェックできないな……)

雄二「………妙だな」

明久「え?何が?」

雄二「温存してるっぽい鳳はともかく、あのおっさんはなんで能力を使わないんだ?」

秀吉「んむ?何を言っておるのじゃ雄二?さっきまでムッツリーニ並のスピードを存分に発揮していたではないか」

雄二「それこそ明らかにおかしいだろ。操作技術に差があるからムッツリーニじゃ多分再現出来ないが、理論上はムッツリーニの召喚獣でもできることしかやっていない。和真や鳳の理不尽なまでに強力な能力から考えても、同じランクアップ能力を持つ召喚獣がその程度で収まるわけないだろ」

 

片やあらゆる攻撃をシャットアウトする無敵のオーラ、片や遠距離だろうが近距離だろうが容赦なく消し飛ばす閃光の翼、それらと同格の能力が通常の腕輪能力と同じ働きしかできないはずがない。つまり…

 

翔子「……あの召喚獣は能力ではなく、素であのスピードということになる」

「「「えぇっ!?」」」

 

三人は信じられないような表情で翔子を見るが、聞こえたらしい御門がその推測を肯定する。

 

御門「冴えてるじゃねーか嬢ちゃん。召喚獣のスペックバランスは本人の希望次第で自由に弄れることは知ってるよな?からくりは単純明快、それを使って速さを限界まで重視しただけの話だ」

蒼介「3000点もの差のある私の召喚獣と力が拮抗していたのも、そのピーキーな性能が原因でしょうね」

 

そう……それが先ほどの攻防が拮抗していたもう一つの理由である。〈御門〉は極端なまでにスピードに偏重させているさいで、点数では遥かに下の〈蒼介〉と拮抗してしまうほど攻撃力が落ちているのだ。

 

御門「まあこれ以上出し惜しみしてもキリねーし、小手調べはここら辺にしとくか……そろそろ見せてやるよ、スピードの極致を。

 

 

『ラディカル・グッドスピード』」

 

そのキーワードとともに〈御門〉の全身が白い装甲で覆われ、全身から火花を散らしバチバチと弾けるような音を立てる。

 

蒼介「装甲を身に纏うことで防御能力を向上させ、そしてそこ様子だと……電撃を操る能力?」

御門「そんな大層な能力じゃねーよ。ランクアップしようがあくまで加速能力、速くなるだけの単純な能力だ」

 

瞬間、〈御門〉は〈蒼介〉から少し離れた召喚フィールドの壁に向かって疾走する。そしてあわや激突しかねない絶妙のタイミングで壁を蹴り、三角跳びの要領で〈蒼介〉に向かって蹴りを放つ。跳ね返った角度が絶妙に〈蒼介〉を狙い打つものであったことを踏まえると、完璧に計算された攻撃のようだ。

 

蒼介(む……っ!)

 

先ほど御門の攻撃を捌ききった蒼介にしてみれば容易にガードできるどころか、絶好のカウンターチャンスである単調な攻撃だった。だからこそ蒼介は警戒して回避を選択した。御門空雅ともあろう者がその程度のことを理解できないはずはなく、何らかの罠を張っていると見て間違いない……そう判断したが故の安全性を重視した回避行動であった。

 

結論を言えば、その考え方こそが御門の張った罠……腕輪能力の情報アドバンテージの無さが、御門に蒼介の読みを上回らせた。

 

攻撃を回避された〈御門〉はそのまま地面に激突……することなくさらに反射し、そのまま反対側の壁にスーパーボールのように跳ね返った。しかもそのスピードは先ほどまでより目に見えて速かった。そして反対側の壁に着地した〈御門〉は先ほどと同じように、今度は天井に向かって加速しながら跳ね返った。

 

蒼介「っ!?これは……」

 

その後も反射を繰り返す度に……より正確に言えば動き続けるごとに〈御門〉は際限無く速度を増していく。

 

 

加速…………加速………加速……加速…加速、加速加速加速加速加速・・・・・加速!

 

 

御門「これぞ俺のランクアップ能力『ラディカル・グッドスピード』。自ら動きを止めるか相手に止められねー限り、際限無く加速していくスピードの極致。そしてその能力を応用した全方向からの弾幕攻撃……名付けて『ピンボール』だ」

蒼介(今のところどうにか避けられているが、このままでは手遅れになりかねない……ここは迎え撃つべきだ。

……“明鏡止水”)ヒィィィイイイイイン…

 

蒼介は超集中状態に入り、一か八かの勝負に出る。付け入る隙は強いて言えばこの反射を利用した攻撃が能動的に行われているものではなく、御門のコントロール下にないことである。それはつまり、ここで蒼介が起死回生の手を打とうと御門には対処する術がないことと同義だ。

もはや〈御門〉の姿は肉眼では捉えられなくなりつつあるものの“明鏡止水”状態の集中力を駆使してかろうじて視認できた〈御門〉の跳ぶ方向から反射角度を瞬時に計算し、〈蒼介〉に向かってくるタイミングを完璧に予測して見せた。

 

蒼介(………ここだ!)ヒィィィイイイイイン…

 

もはや完全に視認できなくなった〈御門〉に〈蒼介〉は完全なカウンターを叩き込んだ。が…

 

蒼介「-なっ!?」

御門(悲しいかな……パワー不足だ)

 

速度とは重さ…圧倒的な加速力の〈御門〉の突撃を前には完全に力負けしてしまい、ある程度のダメージこそ与えはしたものの草薙の剣は〈蒼介〉の手から弾かれて吹き飛ばされてしまう。

 

蒼介(くっ…丸腰では勝ち目が無い……!)

御門(そうだな、拾いに行くしか道は無い。……これで詰みだ)

 

僅かに動揺したことで集中状態を維持できなくなったものの、それでも冷静さを残していた蒼介は武器の回収を優先する。その選択は最善ではあるものの悪手、その際に生じる隙は今の〈御門〉相手には致命的過ぎる。……そう理解していながらも、冷静であるが故にそうせざるを得なかった。

結果、〈蒼介〉は〈御門〉の突撃をまともに喰らってしまう。瞬時にオーラを展開したものの超加速により上乗せされた〈御門〉の攻撃力は凄まじく、ダメージはある程度軽減できたもののオーラは容易く引き剥がされてしまった。その上〈蒼介〉は空中へと弾き飛ばされ、さらに跳ね返ってきた〈御門〉の攻撃によって点数を全て失い〈蒼介〉はそのまま消滅した。

 

蒼介「…………届かなかったか…!」ヒィィィイイイイイン…

明久「あ、あの鳳君が一方的に……!」

御門「一方的に……って訳でもねーよ」

明久「え?」

 

能力を解除された〈御門〉は急減速し、そのまま召喚フィールドに着地した。よく見ると装甲を貫通して体に草薙の剣が突き刺さっており、そして表示されている点数は…

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  戦死

VS

 学年主任 御門空雅 2436点』

 

 

姫路「え……えぇっ!?御門先生の点数もかなり減っています!?」

秀吉「い…いつ反撃したんじゃ!?」

御門「刺さった剣以外にも背中に一回斬られた跡……最後の攻撃二回ともきっちり反撃されてたってわけだ……末恐ろしいガキだなホント」

 

ことの詳細はこうだ。極めて冷静であるが故に得物を手放した瞬間に御門に勝利することは不可能だと理解してしまった蒼介は、苦肉の策として戦死と引き換えに〈御門〉を道連れにすることを決意した。まずは〈蒼介〉が剣を拾うまでの刹那に再び“明鏡止水”へと至り、オーラを強引に剥がされて弾き飛ばされる瞬間にカウンターを狙った。相手の突撃に対抗すれば力負けしてしまうので、攻撃を喰らいつつ相手の突撃方向に沿って〈御門〉の背中を切り裂く。

そして投げ出されてから再び激突される前に草薙の剣を両者の召喚獣の間に放り出した。この激突で蒼介は点数を失ってしまうので直前に行ったカウンターは不可能だが、あらかじめ空中に配置しておけば向こうから勝手に突き刺さってくれる。蒼介としてはそうすることで相討ちになることを狙ったのだが……最終的に初期の点数差がそのまま勝敗を分ける形になった。

 

御門「まあどう対抗してこようが点数差でごり押しできると踏んでこの戦法にしたんだがな。操作技術を磨いたり策を練ったりするのも悪かねーけどよ、相手より点数が高いってのはそれだけで優位に立てるってことだ。ギャラリーに来たお前さんらも覚えとけ、何だかんだで成績を上げておいて損は無いってことをよ。……じゃ、用も済んだし俺はもう帰るぞ」

 

珍しく教師らしい教訓を周りに伝え、一複雑そうな表情に変化した雄二にチラリと視線を向けてから、御門空雅はクールに去る。

 

蒼介(……………………負けた。

何かミスがあったわけではない。私は私の持てる力を出し尽くせたと自負している。つまり……これが私と御門先生との実力の差か……ッ!)

 

見かけによらず超が付くほどの負けず嫌いである蒼介は内心で凄まじく悔しがりつつも、彼の当初の目的は達成できた。

 

蒼介(…だが、これで“オーバークロック”発現の条件は揃った。そして思わぬ収穫だが、一度途切れたにもかかわらず再び“明鏡止水”に入ることができた。私の集中力はさらなる深みに到達する………私はまだ、強くなれる…!和真、お前がどれだけ進化しようと……私はその先を行く!)

 

 

 

 

 

 

 




蒼介君、初黒星!
しかしそれによって、更なる成長フラグを建てました。見聞色の覇気みたいなスキルも発覚(番外編で既に片鱗はみせていましたが)したし、いったい彼はどこまでインフレするのでしょうか……?
まあ読心術といっても、実際に心を読んでいるわけではなくあくまで動きを予測しているだけなので、文月が誇る非常識軍団なら蒼介君の常識外の行動を取ることで意表を突くことができます。……意表を突いたところで勝ち目はありませんが。


ラディカル・グッドスピード……御門空雅のランクアップ能力。効果は動き続ける限り際限無く加速していくというもの。体を覆う白い装甲は能動的な衝撃の反動のみを防御することに特化しており、どれだけ加速した突撃であろうと反動を一切受けない。しかし召喚獣の防御力は一切上がらないという、特攻専門の鎧である。








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Linne Klein

【短編ストーリー】
『怠☆惰☆王~御門空雅(幼稚園時代)』

御門(4)「ねんどでじゆーこーさく、ねぇ…めんどくせーけどさぼったらせんせーうるせーだろーし……(ピーン!)……よし、あれでいくか」

~制作中~

先生「空雅君は何を作ったのかな?」

御門(4)「ほい」

先生「………空雅君?全然できてないどころか、まったくこねてないようにしか見えないんだけど?」

御門「さくひんめい、とーふ」

先生「豆腐!?明らかに手抜きじゃないか!↑の制作中はいったい何だったの!?」

御門「おきにめさねーか……じゃあごまどーふ」

先生「種類を変えればまかり通るとでも!?」


現在、試験召喚システムをカリキュラムに取り入れている学校は文月学園以外にもう一校…スウェーデンにある姉妹校、Juli Privat Gymnasiumという高校である。つい最近両校間の交流の一環として交換留学制度というものが成立し、来年の1月にその第一号がこの学園に入学する……予定だったのだが、文月学園が企画を進めていた試験召喚システム研究の分水嶺となる祭典『S・B・F』のことを知った姉妹校の校長が、その留学生をエントリーさせてくれないかと学園長に頼み込んだらしい。その留学生は今年10歳にして飛び級入学した天才であり、大方その生徒を優勝させることでそちらの高校の方が優秀であるとデカい顔をしたいのだろう…と学園長は当たりをつけていたが、貴重なモルモット-もとい協力者が増えるに越したことはないため二つ返事で了承した。そして『S・B・F』開催6日前となる今日にその生徒……リンネ・クラインは来日し、既に栄応大への進学が決まっている佐伯梓は学校案内を任されたのであった。正直乗り気では無かったが受験勉強まっただ中の同級生に押し付けるほど梓は鬼畜ではないため渋々引き受けることに。余談だが梓も高校生とは思えない童顔低身長のため、8歳年下のリンネと並んでいても不自然なほど違和感が無いのはご愛敬。

 

梓「アレが学園長室や。ウチら一般生徒は気軽に立ち寄れる場所ちゃうけど、何か困ったら迷わずここに駆け込めばエエで。普段は色々とアレなオバハンやけど留学生雑に扱ったら最悪国際問題やからな、ある程度丁寧に対応するぐらいの分別は流石にあるやろうし」

リンネ「ねェねェ、さっきからツマンナイよサエキ!もっとオモシロイのはナイの?」

梓「アンタは学舎に何を求めとんねん。あんまり我儘言わんといてぇな、こちとら受験シーズンやってのに貴重な時間を割いて案内を買って出たんやから-」

リンネ「ウソだっ!コグレからキイてるよ、スイセンニュウガクが決まっててヒマそうにしてたからオしツけられたっテ!」

梓「葵、余計なこと吹き込まんといてや……」

 

小暮の間接的な妨害に遭い、『リンネの良心に訴えかけてさっさと解放されよう大作戦』がおじゃんになったことに思わず肩を落とす梓。

 

リンネ「コグレがグチってたよ、サエキはスキあらばすぐ人をダマそうとするアクヘキがあるって。ニホンではウソつくとジゴクに落ちるって信じられてるんデショ?ダイジョウブなのサエキ?」

梓「平気平気、落とせるもんなら落としてみぃっちゅう話や。万が一落とされても閻魔騙して舞い戻ったるわ」

リンネ「ダイジョウブなのそれ?エンマってウソつきの舌ヒッコヌイちゃうって本んでヨんだんだケド…」

梓「一枚くらいくれたってもええよ。なんせこちとら二枚舌やし」

リンネ「サエキのバアイ、二マイじゃおさまらないとオモうケド……」

 

そんな感じで他愛ない雑談を交えつつ二人の学校案内ツアーが続いていくが、やはり退屈なのかリンネは梓の解説を右から左に通過させていく。そしてふと、リンネは向こうの校長から小耳に挟んだことを思い出した。

 

リンネ「ねぇサエキ、こっちのショウカンジュウは高いテンスウをとるとトクシュなノウリョクがつくんでしょ?」

梓「特殊な能力?腕輪能力のことかいな?」

リンネ「ウン!」

梓「へぇ、そっちには金の腕輪無いんかぁ」

 

補足すると、金の腕輪やその発展系である“オーバークロック”及び“ランクアップ”は綾倉先生が開発し文月学園の召喚システムに組み込んだものであるので、Juli Privat Gymnasiumに腕輪能力が無いのは当たり前である。ちなみに向こうの校長がリンネを『S・B・F』に参加させたがったもう一つの理由に、条件をフェアにするという名目でリンネの召喚獣に金の腕輪を組み込んでもらうことで、どさくさに紛れて腕輪能力に関するデータを持ち帰れないかという思惑がある。その目論見はリンネの召喚獣に腕輪が組み込まれたことで半分ほど達成しているが、Juli Privat Gymnasium製の召喚フィールドでは召喚しても腕輪能力が機能しないという落とし穴がある。これは不運でもなんでもなく、綾倉先生が気紛れにそういう仕組みになるよう設定しただけの、簡潔に言えばちょっとぬか喜びさせてやろうという単なる嫌がらせだったりする。

話を戻すが、リンネは綾倉先生の計らいで既に腕輪能力を手に入れているのだが、能力を主力とした実践経験が皆無なので、本番となる大会の前にリンネとしては能力を慣らすために練習の一つくらいはしておきたいところなのだ。……と、そこまでリンネから説明された梓はこの後の展開を予想できてしまいゲンナリとする。

 

リンネ「だからサエキ、ボクとショウブしてよ!」

梓「嫌や」

リンネ「エェッ!?どうしテ!?」

梓「いや、飛び級で首席になったらしいアンタに首席ですらないウチが敵うわけないやん。負けるとわかってる勝負を引き受けるほどウチは酔狂ちゃうで」

リンネ「エェェ~、いいじゃんチョットぐらい。サエキのケチ」

梓「関西人やもん、ケチは文化やで」

 

食い下がるリンネだが梓はまったく取り合わない。しかし、いくら梓とて8歳年下の少年の頼みを意地悪で断ったりはしない。きっと何かやむにやまれぬ事情があるのだろう。

 

梓(そんな勝負引き受けるわけないやん……。こいつは和真、鳳と並んで『S・B・F』でウチが優勝を目指すにあたって障害となる奴筆頭やろうし、“青銅の腕輪”やウチの腕輪能力はできるだけ隠しときたいからな)

 

訂正、意地悪で断っていた方が幾分か可愛らしかったと思えるほど大人気無かった。そもそも数ある優勝賞品の中で目玉となるのは“常磐の腕輪”、あと2ヶ月ちょいで文月学園に来なくなる三年生が欲しがるものではないというのに……和真と波長が合うだけあって梓も相当な負けず嫌いのようだ。

  

梓(……せやけど、欲を言えばこいつの能力は把握しときたいな。よし、ここはいつものように高城を騙し-ってアイツもう帰宅しとるやん、肝心な時に限って使えんなぁ……しゃあない、気が進まんけどこうなったら運任せや)

 

内心で高城を理不尽に罵倒しつつ梓は心を決める。

 

梓「しゃあないなぁ……フリスペ行って誰か相手してくれる奴見繕ったるわ」

リンネ「ホント!?……でも、ショクインシツにダレもいなかったラ?」

梓「………そんときゃウチが相手したる」

 

ちなみに梓はもし本当に闘うことになっても手の内を明かさないように“青銅の腕輪”を職員室のどこかに隠し、腕輪能力も使わないつもりである。この方法なら問題無くリンネの腕輪能力の情報だけを掠め取れる。ちなみに梓の気が進まないことは、みすみす黒星を増やしてしまうことただ一点のみである。

 

梓(ちょうど大会前やし、操作の練習しとる奴一人くらいおるやろ。というかおってくれ頼む。ウチの代わりにモルモットもとい人柱になってくれ、お願いやから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと梓の理不尽な祈りが天に届いたのか、職員室のフリースペースでは明久と秀吉とムッツリーニ……と、何故か徹と源太が合同で練習を行っていた。

他のFクラスメンバーはというと、まず雄二は先ほどの次元の違う闘いや御門に言われたことに何か思うところがあったのか早々に帰宅し、翔子も当然のごとく雄二に付き添って帰宅、姫路はテストを終えた美波に頼まれて教室で勉強とそれぞれだ。よって勉強よりも操作技術の向上を重視したのは短期間での成績アップが望めなさそうな明久とムッツリーニ、トレースの能力上点数を優子に依存している秀吉の三名となる(と言っても明久は他二名の指南役みたいなものだが)。そして源太と徹が後からフリースペースにやって来て、明久達とは知らない中ではないため成り行きで合同訓練みたいなことをしていたようだ。余談だが明久の数少ない特技の一つ、「やたらと年下に好かれる」が発動しリンネになつかれたりもした。

 

梓「…と、そんなわけでこの子の相手したってくれへん?ウチが相手してあげたいのは山々やねんけど、さっき世界史のテスト受け直して今採点待ちやねん」

明久「あぁ、田中先生作る問題は優しいけどテストの採点遅いですもんね……僕は別にいいですよ、ここは仮想フィールドだからフィードバックも無いですし」

リンネ(サエキってばまた口からデマカセを……あとアキヒサ、少しはウタガおうよ……)

源太「………まぁ、俺様も別に構わねぇですよ」

ムッツリーニ「………右に同じく」

秀吉「わしも構わんぞい」

徹「…………。特に実害も無さそうですし、僕も構いませんよ」

 

他三人も特に断る理由は無いためあっさり受諾。しかしかつて生徒会で梓と交流があった徹はまるで「今度は何を企んでるんだ?」と言わんばかりにしばらくジト目で警戒するが、聞いてる限り不利益を被る内容ではないと判断したのか、最終的に渋々と受諾した。

 

リンネ「タタカってくれるの?やったァ!

ところで、科目はどうする?」

明久「社会はどう?」

徹「ここは流行りの数学だろう?」

源太「外国語だよなぁ?なんてったって異文化交流なんだからよぉ」

秀吉「露骨に自分の得意な科目じゃなお主ら……」

 

その後どの科目にするかしばらく揉めたが、最終的に中立の秀吉が無難に総合科目を提案しそれに決まった。

 

明久「それじゃ、いくよリンネ君」

リンネ「にひー。テカゲンはしないよ?」

源太「ほーう?良い度胸してんじゃねぇかガキんちょ」

徹「随分と成績優秀みたいだけど、勝負はそれだけでは決まらないよ。全員まとめてぶちのめしてやる」

秀吉(この二人は相変わらず血の気が多いのう……)

 

 

「「「「試験召喚(サモン)」」」」

 

 




リンネ君の国籍は原作でもはっきりしていないのですが、原作で明久に持ち主と間違われて渡された美波の日記を返却する際に「これはスウェーデン語で書かれていない」と言ってたのでこの作品ではスウェーデン人として扱います。ちなみにリンネ君の名前のスペルですが、スウェーデンの偉人であるカール・フォン・リンネとオスカル・クラインからLinne Kleinにしました。最後にJuli Privat Gymnasiumですが、Juli=7月=文月、Privat Gymnasium=私立高校です。
いくら姉妹校だからって安直過ぎる?こんなもん適当で良いじゃないですか……どうせ今後も名前しか出てこないんだし。




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元神童と怠惰王(前編)

【短編ストーリー】
『怠☆惰☆王~御門空雅(幼稚園時代②)』

12/24

サンタ(園長)「クウガくんは何が欲しいのかな?」

御門(5)「あー?じゃあせかいのはんぶん」

サンタ「欲望デカッ!?……ごめんね、それは流石に私でも用意できないんだ」

御門「なんだよつかえねーな……じゃあエンピツとかでいいよもう」

サンタ「落差が激し過ぎるよ!?もっと良い物じゃなくて大丈夫かい?」

御門「(ハンッ)アンタごときにそんなきたいしてもしょーがねーだろ」

サンタ(5歳児に鼻で笑われた……)




6つの幾何学模様が出現し、その中心から召喚獣が現れる。

〈明久〉の装備は見た者に同情あるいは嘲笑されること間違い無しの学ラン(龍の刺繍付き)&木刀のチンピラルック、〈ムッツリーニ〉は忍装束に小太刀二刀流、〈秀吉〉は刀に羽織り、〈源太〉は西洋鎧にハルバード、〈徹〉は両腕に嵌められたガントレットと全身を覆う甲冑、そしてリンネは…

 

明久「黒いロングコートに……ボウガン?」

徹「……それっておかしくないか?召喚獣が使う武器は数あれど、公平性を欠くという理由で飛び道具は無かったはずだよ?」

リンネ「そうなノ?ボクのいたガッコウではフツウにあったけど…」

梓「学校が違えばレギュレーションもちゃうってわけやな」

秀吉「それにしても、随分と立派な弓じゃのう」

リンネ「すごいデショ?固有武器『ウィリアム・テルのクロスボウ』だダヨ!」

明久「固有武器って確か……。

リンネ君やっぱり5000点以上-」

 

明久の台詞が言い終わる直前、狙っていたかのようなタイミングで点数が表示される。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 吉井明久  1661点

VS

 二年Fクラス 土屋康太  1493点

VS

 二年Fクラス 木下秀吉  2914点 

VS 

 二年Bクラス 五十嵐源太 3208点 

VS 

 二年Aクラス 大門徹   4489点 

VS

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

明久「嘘ォッ!?!?」

ムッツリーニ「………正直予想外」

秀吉「これは驚いたのう……」

徹「ふん、予選を免除させるだけのことはあるね」

源太「まさかこれほどとはな……面白ぇ」

 

リンネの点数は驚異の6000点台。あの蒼介ですら6000点を越えたのはつい最近であることを踏まえると、10歳でこの点は優秀を通り越してもはや異常と言って良いレベルだ。しかし相対する四人の心は決して折れてはいなかった。好戦的かつ負けず嫌いの『アクティブ』メンバーの二人はもとより、Fクラスの三人も多少気圧されはしたものの闘志は失ってはいない。リンネの点数は確かに高いが彼等Fクラスの倒すべき相手……蒼介の点数はさらに高いのだから。

 

リンネ「にひー、ミンナやる気マンマンだね。……じゃあボクもトバしていくよ!“Guidad Explosiv Kula”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久達が激戦を繰り広げている一方、雄二達はスーパー“ミカド”に夕飯の買い物に来ていた。坂本家の食卓は全て雄二が行っているが、これは雄二が特別孝行息子というわけでも専業主夫を目指しているわけでもなく、母親がかつての姫路や吉井玲とは別ベクトルのビックリ料理人のため雄二が作らざるを得ないからである。……まあもっとも今日夕食を作るのは翔子なのだが。

そもそも翔子の両親が不在の日はしょっちゅう雄二の家に夕食を作りに行っていると完全に通い妻状態なのだが、このことがクラスメイトに知られようものなら確実に暴動が起きるため、雄二は元神童の頭脳をフルに活用して全力で隠蔽を行っている。

 

 

雄二「さてと、買う物はこれで全部だな」

翔子「……あ、ちょっと待って。確かめんつゆ切らしてたから」

雄二「……なんでお前は人ん家の冷蔵庫のの中身をそこまで正確に把握してるんだよ?」

翔子「……冷蔵庫の管理は妻の務め」

雄二「だから気が早いって言ってるだろ!?頼むから学校では自重してくれよ、でないと俺の命がヤベェ……!」

翔子「……うん、わかってる。だから今は自重してあげない」

雄二「~~~っ!……はぁ、勝手にしてくれ……」

 

諦めたようにガックリと肩を落とす雄二。男女の力関係はほぼ女子の方が強い(例外は蒼介ぐらい)文月学園だが、雄二達クラスとなると対抗馬はせいぜい和真達くらいしかいない。しかし和真は言うまでもなく雄二もなんだかんだで満更でもないようなので彼らはそれで良いのだろう……というか、先ほどどう見ても夫婦にしか見えないやり取りを繰り広げておいて、それにもかかわらずああだこうだと不満を述べられても信憑性もあったものじゃないだろう。

雄二達はめんつゆをカゴに入れレジで清算を済ませると、レジの店員が福引きのチケットを十枚ほどくれた。どうやらこのスーパーのオープン3周年記念として、一定額以上買い物をした人に福引券を渡しているらしい。

 

翔子「……福引きコーナーは確か店の外」

雄二「貰ったからにはせっかくだし使っておくか」

 

そんなわけで福引きコーナーに足を運ぶと軽い人だかりができていて、三葉と玄武の刺繍の入った法被を着た店員がガラガラを前で景気の良い声をあげていた。

 

『おめでとうございます!四等賞、”コンポタ5000円分”大当たりです!』

 

雄二「当たりかどうか判定が微妙な景品だな…」

 

一缶二缶なら普通に嬉しいが5000円分ともなると結構な重量になるため、それを持ち帰るとなると文字通り結構な重労働になるだろう。

 

『さてさて、一等の”コンポタ10万円分”と特賞の”コンポタ50万円分”はまだ出ていませんよ〜!』

 

雄二「いや待て、それは確実に嫌がらせだろ……」

 

コンポタ350ml一缶を150円とすると、コンポタ50万円分ともなると空き缶を除いた中身だけでもなんと1t以上に及ぶ。流石に店側もその量を持ち帰れというほど非常識ではないだろうから郵送という形になるだろうが、それを踏まえてもまったく嬉しくない特賞であることには変わりない。

 

雄二(なんでそこまでコンポタ推し……あぁ、あのおっさんが原因なんだろうな……)

 

このスーパー“ミカド”は名前からお察しの通り“御門エンタープライズ”系列のスーパーである。おそらくだが御門空雅がトップから降りたことで、彼によって過剰生産を促されていたコンポタが余りに余ったのだろう。それをどうにかしようとした苦肉の策が参加の店舗で福引きと称して顧客にばらまくこと……まあ要するに福袋みたいなものだ。

とんだ肩透かしを食らった雄二だったが、わざわざ来たのだから他にはどんな賞品があるのか確認すると…

 

 

 

 

 

 

 

五等賞・如月ハイランドペアチケット

六等賞・卯月温泉ペア宿泊券

七等賞・お食事券一万円分

 

雄二(いやなんでだよっ!?)

 

上位の賞品と下位の賞品の価値が完全に逆転していることに雄二は内心でシャウトした。

 

雄二「なんにしても、まともな賞品があってよかったぜ。狙い目は、そうだな…」

翔子「如月ハイランドペアチケット?」

雄二「バカ共に嗅ぎつけられてまたろくでもない目に遭いそうだから却下だ」

翔子「……じゃあ、温泉宿泊券?」

雄二「…………あー、そうだな。『S・B・F』や打倒Aクラスで今後ハードになっていくだろうし、ここらで英気を養っとくのも-」

 

どこまでも回りくどいキング・オブ・ツンデレをこの上なく優しげな瞳で見つめる翔子。週一で和真からツンデレ対策講義を受けている翔子相手ではどれだけ取り繕ってもバレバレである。その優しげな瞳にいたたまれなくなりつつも、雄二は気合いを入れて福引きに赴く。その結果は…

 

 

 

 

 

 

 

 

-ティッシュティッシュコンポタティッシュコンポタティッシュティッシュコンポタティッシュティッシュ

 

望み通りの物はそうそう当たらない。

それが福引きである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔子「……雄二、私は気にしてないから元気だして」

雄二「いや、別に落ち込んでねぇよ。……にしてもどうすっかなこのコンポタ」

 

雄二の手元には15000円分のコンポタ計100本(約35㎏)。大して好きでもないものをこれだけ貰ったところで処理に困る、というかそれ以前に重い。本音を言えばその辺に捨てていきたい。

 

雄二「ハァ…御門のおっさんでもこの場にいりゃ押し付けてやるのによ……」

翔子「……あそこにいる」

雄二「は?どれどれ………マジかよ」

 

翔子の指差したのは河原。雄二が目を凝らして見ると確かに見覚えのある男がだらしなく寝そべって煙草をふかしている。その周りには空き缶が散乱していることをふまえると、間違いなく先ほど蒼介を破った御門空雅その人だった。渡りに船とばかりに雄二達はコンポタのケースを持って近づいていく。

 

雄二「おっさん、こんな所で何やってるんだ」

翔子「……御門先生、さっきぶり」

御門「あん?……ああ、お前さんらか。つーかどうしたんだそのケース?ようやくお前さんらもコンポタの良さに目覚めたのか?」

雄二「アンタの公私混同の弊害だ。もとはと言えばアンタが原因なんだから、こいつの処理は頼んだぞ」

御門「唐突な押し付けだがしゃあねーな、コンポタはどれだけあろうが困らねーから別に構わんぞ。最近オニオンコンソメにもはまりつつあるが、コンポタは主食だからな」

雄二「どんな食生活だ……。まあいいか、それじゃあ頼んだ。行くぞ翔子」

御門「まあ待て少年」

 

かさばる荷物を荷物を処理し終えた雄二は翔子を連れてさっさとこの場を去ろうとするが、御門はどういうわけかそれを引き留める。

 

雄二「……何だよ?」

御門「残念なことに俺、教師なんだよ。何やら悩みごとを抱えている生徒は放置できねーだろ……話してみろよ。もしかしたら、解決の糸口が見つかるかもしれねーぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 吉井明久  戦死

VS

 二年Fクラス 土屋康太  戦死

VS

 二年Fクラス 木下秀吉  戦死

VS 

 二年Bクラス 五十嵐源太 戦死

VS 

 二年Aクラス 大門徹   戦死

VS

 交換留学生 Linne Klein  5461点』

 

 

リンネ「にひー。ボクの勝ちィ~!」

明久「つ、強いねリンネ君…」

ムッツリーニ「……恐ろしい能力」

秀吉「大したもんじゃのう」

源太「だあぁぁあああ畜生負けた!」

徹「や…やるじゃないか……」

 

召喚獣バトルロワイヤルはリンネの圧勝で幕を閉じた。やはりランクアップ能力にはランクアップ能力でしか対抗できない……と結論付けても一見問題なさそうだが、それでも梓はまだ断定するのは早すぎると判断した。何故なら…

 

梓(大会前にええもん見れたわ、吉井君らには感謝やな。……にしても、なんで大門は本気でやらんかったんやろ?ウチと一緒で警戒してるんかな?)

 

徹は習得しているはずの切り札(オーバークロック)を使わなかったからだ。ちなみに梓の推測はおおよそ当たっているが、彼が警戒しているのは梓にオーバークロック能力が露呈することだ。彼女に見られるということは、彼がリベンジに燃えるあの女子生徒に知られる危険がある。

 

徹(……佐伯先輩が見ている以上、万全を期すため今はあの力を使うわけにはいかない。……あの技は、小暮先輩を仕留めるための切り札だからね)

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「吉井達とリンネ・クラインの闘いは、まさに筆舌に尽くし難いものであった」 

和真「だから筆舌には尽くさないでおくぜ!」
 
御門(ただのマンネリ防止だろ…もしくは作者の出し惜しみ症候群か……)







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元神童と怠惰王(後編)

雄二の覚醒回です。
そして、御門のおっちゃんが衝撃の真実をカミングアウト!?


雄二「……悩み事?何の話だ?」

御門「隠すなって少年。俺と鳳のガキが闘う前と比べると今のお前さん……随分思い詰めた表情してんぞ?」

雄二「っ」

 

御門の指摘は図星だったようで、雄二は必死に取り繕っていたポーカーフェイスをわずかに崩す。

 

御門「たしかお前さん……というか、お前さんらFクラスの目標は打倒Aクラスだったよな?俺と鳳のガキの闘いを見て畏縮しちまったか、それともレベルの違いに気づいて自信を失ったか……って、どう考えてもそんな物分かりの良い奴じゃねーよな」

雄二「………何が言いたいんだよ?」

御門「お前さん、まだ学力にトラウマがあるんだろ?」

雄二・翔子「「っ!?」」

 

今度は雄二のみならず、翔子まで目を見開いて慟哭する。それもそのはず……今の御門の台詞は雄二達の過去を知らない限り決して出てくるはずがない。

 

雄二「な、んで…」

御門「あー?何驚いてんだよ?俺がこの学校で教師やってる理由なんざ、今更お前らに説明せんでもわかるだろ。となると、いくら面倒くさがりの俺でもいざってときに戦力になりそうな生徒のことぐらい調べてるっつうの」

翔子「……戦力…あなたは教師なのに、生徒を戦わせるつもりなの?」

 

揶揄するような台詞だが、それを言った翔子は御門を非難するような目をしていなかった。そう……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

御門「確実に反対されるだろうから他の教師達には秘密だし、ことが済めばまず間違いなく俺に責任が降りかかるだろーな……けどな、んなことはどうでもいいんだよ。つーか実際に相対したお前さんならわかるだろ?アレ(アドラメレク)をどうにかするためなら倫理とか道徳とかにクソの価値もねーってよ。そんなつまらねーことにかかずらってたら……最悪世界滅ぶぞ」

 

あまりにも極端なことを言う御門だが、雄二も翔子も否定することができなかった。実際にアドラメレクと向かい合った翔子は勿論、その結果翔子がどうなったかをその目で見た雄二も……「奴ならやりかねない」、そんな言葉が脳裏にこびりついて離れなかった。

 

御門「話を戻すぞ。そんな訳でお前さんらのことも当然調べたんだがよ…かつては神童とまで呼ばれてお前さんが、随分とパッとしない成績に甘んじてることに疑問に思ってよー……その原因を考えたんだ」

雄二「……」

御門「そこで目に留まったのがお前さんが積極的に取り組んでる試験召喚戦争だ。西村のオッサンに聞いたんだが、お前さんが上位クラスに挑む理由って世の中が学力が全てではないと証明するためなんだってな」

雄二「だったら、どうだって言うんだよ……?」

御門「これといって珍しくもない主張だけどよ、その大半は学力が伴ってない奴の負け惜しみでしかねー。だが一学期当初でも、お前さんは本来Aクラスに入れる程度の学力を取り戻していた。わざわざ点数調整してFクラスに入ってまで掲げたからには、よっぽど貫き通したい主張なんだろうな」

雄二「だから、アンタは結局何が言いたいんだよ?」

 

問いかけるような言葉を投げ掛けてはいるが、雄二は内心苛ついていた。もうやめろ、これ以上踏み込んでくるなと全身で警告していた。しかし御門はそのことを気にも留めず話を続ける。

 

御門「元は神童とまで呼ばれ、一時期落ちこぼれ扱いされるほど成績を落とし、ある程度学力を取り戻してからもそんな主張を掲げる。そこまで材料が揃っていればおおよそ検討がつく……神童と呼ばれていた頃のお前さんが何か大きな挫折をし、勉学に意義を見出だせなく-」

 

雄二「黙れ!!!」

 

気がつけば雄二は御門の胸ぐらを掴んでいた。御門が踏み込もうとしているのは雄二の最も忌まわしい、出来ることなら消し去ってしまいたいとさえ思っているブラックボックス……かつて明久の行動が無自覚に神童時代を思い起こさせた際、彼は明久に対して殺意を覚えたほどだ。

 

雄二「何様だテメェは!面白半分で人の過去をズケズケと土足で踏み荒らしてんじゃねぇよ!」

 

胸ぐらを掴んだまま雄二は怒鳴り散らす。気が弱い人ならば気絶してしまいそうなほどの迫力だが、この世の地獄と呼ぶに相応しい光景を今まで見てきた御門は涼しい表情のままであった。そして溜め息混じりに言葉を続ける。

 

御門「最近のガキはキレやすいってホントなんだな。だったら先に結論を言ってやるよ。

 

 

 

 

 

いつまでくだらねーことにこだわってんだよ、この腰抜けヤローが」

雄二「なんだとテメ(ボゴォッ!!)ぐふぅっ!?」

 

逆上した雄二が殴りかかる前に御門は腹に膝蹴りを入れ、雄二は後方に吹き飛ばされる。

 

翔子「……雄二っ!」

雄二「ぐ…て、テメェ…!」

御門「文句は受け付けねーぞ、先に手を出そうとしたのはお前さんなんだし、嬢ちゃんも睨むんじゃねーよ。だいたいこの程度で体罰だ何だと喚いていたら西村のオッサンに笑われるぞ」

翔子「……それは、そうだけど…」

雄二「……」

 

あたかも正論のような詭弁に二人は押し黙る。地頭の良い二人ならどうとでも論破できるような薄っぺらい主張には違いないが、鉄人の教育指導に比べればなんてことないというただ一点は誰にも覆せない。二人が黙ったのを確認しつつ、御門はさらに話を続ける。

 

御門「具体的に何があったかは知らねーけどよ、そん時のお前がどう挫折し何を思ったかぐらいわかるぜ。学力だけじゃどうにもできないことに直面して『神童の自分さえどうにもならないなら、学力なんてあっても仕方がない』……とでも思ったんだろ?」

雄二「…………」

御門「確かに学力あってもどうにもならないことなんざ腐るほどあるけどよ……今は『S・B・F』に試験召喚戦争にアドラメレクの脅威と、学力が重要になることだらけだろーがよ。お前さん自分で頭良いと思ってんならその程度のことぐらい理解しろ……というより、もう既に頭じゃわかっているんだろ?それでも勉学に本腰を入れられない理由はたはだ一つ…」

 

そこで御門は言葉を切り、濁りきった眼で雄二を見据える。ここで答えをあくまで部外者の御門が示してもきっと意固地になる。故に雄二自身が認めなければならない。翔子が心配そうに見つめる中雄二はしばらく沈黙した後、とうとう観念したように口を開く。

 

雄二「俺が……ビビってるってことだろ?過去の過ちと…弱かった自分を向き合うことに……!」

御門「ああ。そして何よりも、再び繰り返すことにビビってるんだよ。俺の見立てではそうだな……その嬢ちゃんが関係してるんじゃねーの?」

雄二「っ…!」

 

かつての雄二はその突出した頭脳が原因で有頂天になり、周りの全てを自分以下の愚者としか見ておらず、そしてその横柄な態度が原因で翔子を巻き込んでしまった。雄二はそんな自分を心底恥じて半ば自暴自棄になり、勉学を疎かにして喧嘩に明け暮れ、もう二度と翔子に被害が及ばぬようひたすら遠ざけたりした。その後和真と拳で語り合った(とは和真の弁で、実際は雄二が一方的にボコられたらしい。二人の戦力差を考えると仕方がないっちゃあ仕方がない)末に紆余曲折を経て解消されたが、トラウマが払拭された訳では無かった。雄二にとって勉学に取り組み再び神童に返り咲くことは……再び翔子を傷つけてしまうのではないかということを嫌が応にも連想してしまうのだ。

もちろん雄二とてあのときとは違う。喧嘩に明け暮れ鍛えに鍛えた今の雄二なら、和真や蒼介のような化け物が相手でない限り以前と同じ状況になっても余裕で対処できる。しかし幼い頃のトラウマとは得てして肥大化するものであり、頭ではわかっていてもどうしても最後の踏ん切りがつかないでいるのだ。

 

御門「『なんでわかった!?』みてーな反応されてもな……以前嬢ちゃんが苦しんでたときのお前さんの取り乱しようを見たら誰でもわかるぜ」

翔子「……雄二」

雄二「な、なんだその反応は!?恥ずいから止めろ!今シリアスな雰囲気だから脱線させるな!」

御門「はいはいお熱いことで。お前さんが嬢ちゃんを大事に思ってることはわかった……だったら尚更逃げるなよ、パワーアップするチャンスをやすやす手放すんじゃねー。あの時は汚染濃度がかなり高くまだ進行中だったから良かったものの、もし今度また汚染されそして濃度が低く対処が間に合わなければ……」

 

そこで一旦言葉を切り、御門は何を思ったのか目を瞑る。そして開かれた御門の両の眼には

 

 

 

 

 

 

 

どこかで見たことのある幾何学模様が淡く発光しながら張り付いていた。

 

雄二・翔子「っ…!!」

 

それを目の当たりにした二人は表情が強ばるものの、取り乱したりはしなかった。確かに異様で異質で奇妙奇天烈な光景ではあるものの、御門のこのような変化を()()()()()()()()()()()()()()

 

御門「俺のように……取り返しがつかなくなる(人の枠組みから外れてしまう)ぞ……いや違うか、この程度で済めばまだマシな方だ。最悪の場合は死より悲惨で凄惨で悍ましく、そして救われない結末を迎えることになる」

雄二「ど…どうなるって言うんだよ……?」

御門「教えねー…というよりも、あまりに残酷過ぎて口が裂けても言いたくねー……まあとにかくだ少年、その嬢ちゃんが大事なら重い腰を上げろ。大して親交があるわけでもない俺からあれこれ言われてムカついたかもしれねーが…少なくとも吉井の弟なら躊躇わねーと思うぜ」

雄二「っっ…!!」

 

さりげなく雄二のプライドを刺激しつつ、御門はコンポタのケースを抱えて河原を後にした。残された二人のうち翔子は雄二を心配そうに見つめる中、雄二は俯きながら心の中でしばらく葛藤の末一つの答えに辿り着く。

 

雄二「………等だ…!」

翔子「……雄二?」

 

ようやく顔を上げた雄二は、覚悟を決めた漢の目をしていた。

 

雄二「上等だ!やってやろうじゃねぇか!あんなダメ中年に腰抜けだの何だの好き放題言われて黙ってられるか!

……そうだ、そうだとも。どうやら知らないうちに俺は相当腑抜けいてたらしい。俺は指揮官だから他の奴の点数が上がることの方が重要だと嘯いたり、試召戦争を和真に頼り切っていたり……元神童が聞いて呆れるぜ、勝利にかける思いが雑魚にも程がある。かつての俺はそりゃどうしようもなくくだらない人間だったが……それでも誰にも負けないという自負があった、自信があった。そうとも俺は!俺の頭脳は!たとえ和真や鳳にも遅れを取らないはずなんだ!」

 

『S・B・F』で雄二が優勝すると思っている人間は(最愛のパートナーである翔子を含めて)文月学園に一人もいないだろう。近いうちに行われるAクラス戦でも鍵を握る生徒は蒼介と和真だと誰もが思っている。だろう。その事実が、今の雄二にとっては腹立たしいことこの上ない。

 

雄二「待っていろ和真、俺はこの残された期間でもう一度神童に返り咲く。お前にとって俺は眼中にも無いんだろうが、『S・B・F』で優勝するのはこの俺だ!」

 

 

 

 




・一年時、雄二が明久に殺意を抱いた理由をざっくり解説すると、

①神童時代に雄二は自分が原因で上級生との争いに翔子を巻き込んでしまい、

(1)見なかったことにする→翔子がひどい目に遭う
(2)先生に知らせる→翔子の保護者にイジメがあったと連絡が行き、翔子が転校してしまう
(3)自分が翔子を助ける→相手は上級生。ボコボコにされてしまう

という選択に迫られる。頭では(3)を選ぶべきだとわかっているのに、結局翔子から助けを求められるまで動けなかった。そのことで雄二は勉強しかできない自分に心底失望する。

②文月学園入学後、雄二が美波を苛めていると早とちりした明久は躊躇なく雄二に殴りかかる。実力差は歴然で明久が一方的にボコられていくが、明久はお構い無しに立ち向かっていく。その姿を見た雄二は①のシチュエーションと重なることに気付き、自分がみっともなく躊躇していたにもかかわらず目の前のバカは違った。明久にその気は無いものの結果的に自身を全否定された雄二は明久に敵意を抱く。

ざっとまとめるとこんな感じです。詳しい内容がしりたいのなら原作6.5巻と9.5巻を読みましょう。


和真君が雄二のトラウマを放置していた理由ですが、和真君は明久ほどお人好しではありません。姫路や美波のように目に見えて落ち込んでいた場合はメンタルケアを行いますし、明久のような努力が斜めにいくようなファンタジスタには適度に助言したりします。しかし雄二はある程度は克服していた上にファンタジスタでもないので自力で克服させようとスルーしていました。基本スパルタなんです、彼。


ちなみに小五の蒼介と雄二(神童)ではどちらの学力が上かと聞かれれば、若干雄二(神童)に軍配があがります。蒼介が最高の環境で勉強していることを考えると、一般家庭環境でそれを凌駕した雄二の資質は蒼介を凌駕していると判断しても良いでしょう。
ただしそれはあくまで学力に限った話。精神面では蒼介の圧勝、人身掌握術もこの頃の雄二は個人主義だったため蒼介の足下にも及びません。もちろん運動や芸術その他諸々は言うに及ばず。仮に蒼介君それらへの労力全てを勉学に回しているとしたら……まあそれは無意味な仮定ですね。


最後に、実は人間をやめていた御門のおっちゃんェ……詳細については次の章あたりで。


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大会直前

長らく放置してた一年生生徒会役員がついにベールを脱ぎます。

和真「ぶっちゃけどういうキャラにしようか迷っているうちに放置され-」

蒼介「や め ろ」


次の日の放課後、生徒会長・鳳蒼介は生徒会室で役員達と定例会議を開いていた。その内容は特にこれといって言及すべきことのない、いたって普通の通常業務。文月学園生徒会の業務には学園の経営への参加が含まれているが今回に限っては役員達も参加者、故に公平を期すために『S・B・F』関係にはノータッチである。

 

蒼介「-以上で今回の会議は終了だ。……それはそうと、『S・B・F』開催まであと五日となった。私は予選を免除されている身だが、諸君らの健闘を祈っている」

飛鳥「らしくないわね蒼介、気持ちは嬉しいけど駄目よ。貴方は生徒会長、相手が役員とはいえ一部の生徒に肩入れするような発言はよくないわ」

蒼介「見解の相違だな飛鳥。私はお前達に肩入れしているわけでも、お前達以外を軽んじているわけでもない。……それに、誰が勝ち上がろうとも私は負けるつもりはない」

飛鳥「……前言撤回、ものすごく貴方らしかったわ」

沢渡(相変わらず甘酸っぱさゼロの会話ね……)

二宮(こいつらホントに婚約者同士なのか?)

 

和真曰く脳みそがオリハルコンでできている堅物二人は相も変わらず色気の欠片もないトークを繰り広げる様子を、クラスメイトである会計の二宮悠太と書記の沢渡晴香は呆れたように見守る。彼らにとって二人のやり取りなど見慣れた…否、見飽きた光景なのだろう。一方、一年生役員達はそもそも彼等との接点が希薄なのでさして興味を引く光景ではない。よって興味は本命の『S・B・F』へと移るわけで…

 

鉄平「ククククク……。ついに…ついにやってきた!

日頃培った努力と!忍耐と!鍛練の成果を競う一大イベントが!うォォおおお熱血だァァあああ!!!」

 

地球温暖化の元凶こと庶務の黒木鉄平が内に抑えられていた熱意を爆発させ、室内の温度を一瞬で上昇させる。入った当初は会議中にもしばしば暴走して蒼介に制裁を喰らったりもしていたが、学習したのか暑苦しさを発揮するのは会議終了後に限定したようだ。ぶっちゃけ非情に鬱陶しいのだが精神的にはともかく物理的には迷惑をかけているわけではないので二年生サイドはぐっと我慢、一年生サイドは慣れているのかノーリアクション…そもそも三人ともいちいちツッコむタイプではない。

 

例えば…

 

千莉「あいわかった。この学園総て…否、天下中に拙者の名を刻み付ける良き機會でござる」

 

書記の宗方千莉……あの秀吉も一目置いている演劇部員である。彼女は秀吉ほどオールマイティーの役者ではなく、時代劇系の役しかできないが、恐るべきことに彼女には芝居の中と普段の区別が無い。

いついかなる場合でも、宗方千莉の心と魂は正しく武士そのもの。

……大層に言ってはみたものの分かりやすく言えば、要は一種の中二病である。ツッコむタイプじゃないことなど当たり前、むしろ彼女が四人の中でツッコミどころ満載な人間だ。

 

詩織「………」

泰山「鉄平と千莉はいつも元気だなぁ」

 

残りの二人も彼等の奇行を諌めなどしない。

まず一年の学年次席、会計の志村泰山。見るからに優男といった顔立ちで、外見に違わず穏やかでおおらかな性格である。他者の警戒心を解く声音と口調に無条件で人を安心させる柔和な微笑みをたたえており、また彼が怒った姿を見た生徒及び教師は一人もいないという。それ故泰山は他人が暴走しようと堕落しようとそれら全てを肯定し許容してしまうため、人をどんどん堕落させてしまう悪癖がある。通称『駄目人間生産マシーン』。

最後の一人、三年学年主任・綾倉慶の娘にして一年の学年首席、副会長の綾倉詩織は我関せずと言わんばかりに静観している。別に機嫌が悪いわけでもなく鉄平や千莉と仲が悪くもない。むしろ彼女にとってはこれが自然体だ。とにかく無口な少女で、話しかけられて無視するようなことは無いものの自発的に口を開くことはほとんどなく、いざ話し出しても会話量は必要最小限。二年生にも無口な生徒はムッツリーニや(雄二関係を除く)翔子などがいるものの、二人と比べてもそのコミュ障具合は抜きん出ている。

総じて一癖も二癖もある個性派揃いの連中だがどういうわけかこの四人、クラスも部活動も主義も価値観もてんでバラバラにもかかわらず仲が良いらしい。

蒼介は彼ら四人を意味深に一瞥しつつ、Aクラス教室で抗議を開く予定があるため飛鳥達を引き連れて生徒会室をあとにする。その様子を詩織は静かに見届ける。

 

詩織「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして大会開始までの五日間、多くの生徒達は栄光をその手に掴むため研鑽に研鑽を積んだ。 

刻苦勉励を徹底する者、操作技術の向上にいそしむ者、事前に不可侵協定を結ぼうとする者、有力生徒と協力関係を結ぶ者…アプローチの仕方はさまざまだが、それぞれの勝利への執念は皆生半可なものではない。それを証明する下のように登校義務の無い日曜日でさえ、ほとんどの生徒が学校に集結し振り分け試験に臨んだ。

 

雄二「さて、俺の点数は………っ……」

 

Bクラス教室にて、採点が終わった自分の成績を確認した

雄二は、思わず絶句する。

 

 

『二年Fクラス 坂本雄二

 

 国語      429点

 ①現代文    406点

 ②古典     452点 

 

 数学      535点

 ①数学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ  532点

 ②数学A・B・C  539点 

  

 理化      507点

 ①物理     521点

 ②科学     494点

 

 社会      487点  

 ①地理     460点

 ②日本史    515点

 

 外国語     466点

 ①英語W    462点

 ②英語R     471点

 

 保健体育     483点

 

 

 総合     5331点』

 

 

雄二「…………ふぅ……ま、まあ流石に1週間じゃランクアップはいくらなんでも無理があるよな」

翔子「……雄二、そう落ち込まない。十分すごい点数」

雄二「いや落ち込んでねぇよ。落ち込んでねぇけど……なあ」

 

胸の内の雄二の感想は、悔しさ二割、羞恥八割。前回とは比べ物にならない恐るべき点数ではあるももの、それでもランクアップの条件……全教科500点以上を満たすことはできなかったようだ。たった一週間でここまで成績を向上させたことを考えると、その才能は和真や蒼介を凌駕していると言えなくもないが、「俺は神童、誰よりも頭が良い」的な大言壮語をのたまった手前、流石に蒼介はともかく和真の点数は越えておきたかったというのが雄二の本音だ。

 

雄二「………まあ仕方ねぇ、この成績で勝ち抜くしかないか……ところで翔子、お前はどうだった」

翔子「……私はさほど伸びていなかった」

 

そう言いながら翔子は成績表を手渡す。

 

 

『二年Fクラス 霧島翔子

 

 国語      482点

 ①現代文    488点

 ②古典     476点 

 

 数学       458点

 ①数学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ  455点

 ②数学A・B・C  461点 

  

 理化      510点

 ①生物     514点

 ②科学     506点

 

 社会      520点  

 ①世界史    522点

 ②倫理政経   518点

 

 外国語     573点

 ①英語W    574点

 ②英語R     572点

 

 保健体育     502点

 

 

 総合      5588点』

 

 

雄二「…………」

 

目を通した雄二は思わず沈黙。

 

翔子「……ランクアップはまだまだ遠そう」

雄二「普通に俺より上じゃねぇかよ………」

翔子「……それはいつものこと」

 

何気なく悪気もない翔子の言葉を受け、雄二は膝から崩れ落ちた。雄二が翔子には勝てないのは、最早ちょっとした呪いか何かではないだろうか。

すると、意気消沈する雄二のもとにムッツリーニがやってきた。

 

ムッツリーニ「………雄二」

雄二「なんだムッツリーニ……見ての通り今メンタルがやばいから後にしてくれるか?」

ムッツリーニ「………おそらくは『S・B・F』に関係している物体が至るところに-」

雄二「詳しく」

 

悪巧みのチャンスは決して逃さない……それが坂本雄二の真骨頂である。さて、今回はどんな奇抜な策を練ることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「ふむ……」

 

ところ変わってAクラスの教室。蒼介も雄二と同じように自らの成績表に目を通していた。

 

 

『二年Aクラス 鳳蒼介

 

 国語      713点

 ①現代文    716点

 ②古典     711点 

 

 数学       707点

 ①数学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ  706点

 ②数学A・B・C  708点 

  

 理化      708点

 ①生物     710点

 ②科学     706点

 

 社会      709点  

 ①地理     705点

 ②倫理政経   714点

 

 外国語     711点

 ①英語W    710点

 ②英語R     712点

 

 保健体育     703点

 

 

 総合      7799点』

 

 

まさに圧巻の一言。とうとう蒼介の点数は学年主任の高橋先生と並んだ。圧倒的格上(御門空雅)との激闘は蒼介の“明鏡止水”をさらなる深みへと到達させた。

 

蒼介(とはいえまだ完全ではない。今の私の“明鏡止水”は、例えるならあと1ピースで完成するジグソーパズルだ。そしておそらく、その1ピースに該当するものは……カズマよ、今お前は何をしている?私との差はまた広がったぞ。“オーバークロック”も既に習得し、お前が意図的に隠していたであろうランクアップのその先に私もたどり着いた。……この一週間で、私に点数差をみすみす広げられてまでお前は何を得たのだ?…………私を失望させてくれるなよ?)

 

親友にして最大の宿敵の顔を思い浮かべながら、蒼介はほんの一瞬彼そっくりの好戦的な笑みを浮かべる。

 

優子「……和真、帰ってきたら覚悟しなさいよ。泣かす……今回という今回絶対泣かす!(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!)」

蒼介(とはいえ、私と相見えるまで無事でいればの話だがな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その和真はというと…

 

和真「……結局間に合わなかったか。くそっ、“気炎万丈”は二日前には完成したってのに…」

守那「それまでに蓄積したダメージを癒すために二日間まるまる費やしてしまうとはなフハハハハハハ!」

和真「やかましいわ!お前のせいなんだから他人事みてぇに爆笑してんじゃねぇよ!テンションに任せて好き放題ボコりやがって!」

守那「フハハすまんすまん!しかし倅よ和真、お前もこの通り同じくらいワシを痛め付けたではないか!ワシ一人に責任を押し付けるのはどうかと思うぞ?」

和真「じゃあ何か!?あのままおとなしくボコられてろってか!?んなことしたら大会にすら間に合わなくなるわ!」

守那「まあ良いではないか!療養の片手間に勉学に取り組んでいたようだが、“気炎万丈”状態では頭の回転も学習率も段違いであっただろう!お前の学力は一週間前と比べて格段にアップしているハズだ!」

和真「だからテスト受けなきゃ反映されねぇっつってんだろうがこのクソ親父!」

 

いつものようにひと通り親子口喧嘩を繰り広げてから、二人は帰宅準備にかかる。すると、思い出したように守那がこんなことを言い出した。

 

守那「和真、今回みたいに“気炎万丈”を治癒に応用する方法はできるだけするなよ?」

和真「…あん?なんでだよ?」

守那「あの方法は体の細胞分裂を過剰に促進させているのでな、使い過ぎるとどんどん寿命が縮んでいくぞ-」

和真「だ・か・ら!なんでお前はそういう大事なことを後から言うんだよ!?易々と使っちまったじゃねぇか!」

守那「一回くらいならさして影響は無いはずだ……多分な!」

和真「断言しろよそこはぁぁあああ!」

 

怒り狂う和真を見て、どういうわけか守那はどこか微笑ましそうに笑いだした。その光景を見た和真は、怒りが一周回ったのか逆に落ち着いてきた。

 

和真「……何がおかしいんだよ?」

守那「いや、この短期間で随分と変わったと思ってな。……今だからこそ言うが実を言うとな、以前までのお前には完全な“気炎万丈”を教える気は無かったのだぞ」

和真「…………危険だからか」

守那「ある程度察しがついていたようだな。その通り、気炎万丈に限界は無く、その気になれば際限無く己を強化できる……しかし肉体には限界がある。調子に乗って過剰に強化し続ければ…」

和真「…行き着く先は破滅ってわけか」

守那「その通り……そして以前までのお前なら、そのことになんら躊躇することなかっただろう。生まれながらの修羅であるお前が、肉体が衰えてからの人生に価値を見出だすはずもない。……しかし今は違う、今のお前には寿命を使い潰せない理由がある。それは…

 

 

 

 

 

あのお嬢ちゃんだろ!?だろ!!??だろぉっ!!!???」

和真「だぁぁっ!!急にウザくなるんじゃねぇよ!?さっきまでのシリアスな雰囲気ぶち壊しじゃねぇか!」

守那「否定はせんのだろう?いやぁ、あの恋愛音痴だったお前がなぁ……すっかり恋する乙女みたいに-」

和真「ぶち殺すぞテメェ!?やめろニヤニヤするんじゃねぇ!あとお前俺に隠れて優子に余計なこと吹き………………あ」

守那「む、どうした倅よ?」

和真「(ズゥゥゥウウン…)……優子怒ってるだろうなぁ……事前に伝えたら確実に怒られるから事後報告しかしてなかったし……確実にキツいお仕置きされる、うわ学校行きたくねー……」

守那「……まあ、頑張れ」

 

目に見えて落ち込む和真に、さしもの守那もそう言うしかなかったそうな。

 

 

 

守那(……しかし不思議なものだな。

惚れた女にすっかり飼い慣らされたこの息子の胸の内には………ワシとは比べようのない、途方もなく強大な修羅が潜んでいるのだからな。そして、肉体の感情エネルギー許容量もまた桁外れだ。もし和真がリスク度外視でなりふり構わず“気炎万丈”をフルパワーで扱ったとすれば……そのときのこやつは、もはや人ではなく兵器だろうな)

 

   

 




雄二が一気に優勝候補の一角に食い込みましたね。若干やり過ぎな気もしますが、神童とまで呼ばれてたくらいだしこれくらいできても良いでしょ?

そして和真君はせっかく格段にパワーアップしたもののテストに間に合わなかったため、前回までの点数で闘う羽目になりました。蒼介君との点数差はさらに広がり、ぶっちゃけ敗色濃厚です。付け入る隙があるとすれば、蒼介君が“明鏡止水”を完成させていないのに対し和真君は“気炎万丈”を完成させてることでしょうか。

次回からはいよいよ大会編ですが、3月いっぱいは予定が詰め詰めなので申し訳ありませんが投稿は四月からになりますのでご了承ください。




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キャラ紹介その5

苦労した末、ようやく免許取れました。こんなに手こずるなら色気付いてミッションで取ろうとするんじゃなかった……。



久しぶりの投稿ですが、話を進める前にここらで一旦サブキャラクター達の情報を整理しておきましょう。





※ネタバレ要素を含みますので注意してください。


・桐生 舞(キリュウ マイ)

23歳

身長160㎝

体重46kg

髪:茶色のロングストレート

得意教科:数学・物理・化学

苦手教科:特に無し

趣味:ぬいぐるみ集め

好きなもの・こと:ささやかな幸運、蒸しドーナツ、ビール、日本酒、焼酎、熱燗、ウィスキー、テキーラ、ウォッカ、その他アルコールの入った飲み物全般、御門空雅、吉井玲、綾倉慶

嫌いなもの・こと:綾倉からの無茶振り、御門のいい加減な行動、爬虫類

チャームポイント:眼鏡

通称:キュウリ、無幸の美女

口癖:桐生です!

座右の銘:Don’t wait. The time will never be just right.

備考:“御門エンタープライズ”秘書→代表取締役

 

 

ハーバード大卒の才女。綾倉慶の教え子かつ御門空雅の後輩で、明久の姉・玲とは無二の親友。大学時代では玲の天然さや空雅の横暴さや綾倉の無茶ぶりにひたすら振り回されていたらしい。

本作品随一の不幸属性&苦労性であり、登場するたびロクな目に合わない。密かに思いを寄せていた空雅の後を追って“御門”エンタープライズに入社した途端、その空雅から社長秘書という重要ポジションにつけられたかと思えば、雑用だの空雅のうっちゃらかした商談の尻拭いだのを次々に押し付けられ、かと思えばいつの間にか社長の座を押し付けられ忙殺される日々となり、最近ではなんとアドラメレクの襲撃を受ける……と、波瀾万丈な運命に翻弄されている。

意外にも大酒飲みであり毎度毎度悪酔いするまで飲み続けるので毎度毎度二日酔いになるが、何度繰り返しても懲りないらしい。

 

 

ルックス…4

知能…5

格闘…2

器用…3

社交性…4

美術…2

音楽…3

料理…4

根性…4

理性…3

人徳…5

幸運…1

カリスマ…2

性欲…3

 

 

 

・鳳 藍華(オオトリ アイカ)

39歳

身長163㎝

体重48kg

髪:藍色のセミロング

趣味:弓道、華道、書道、香道、雅楽、日本舞踊、料理指南、囲碁将棋

好きなもの・こと:風流なもの、ゆったりとした雰囲気、芯の強い人

嫌いなもの・こと:無粋な人、品性の欠如した人、礼節を弁えない人

座右の銘:桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す

通称:大和撫子、厨房の羅刹

備考:“料亭赤羽”経営者兼料理長

 

 

日本有数の名家・赤羽家(流石に鳳や橘と比べれば格が落ちるが)の長女で、秀介の嫁であり蒼介の母。絶滅危惧種と名高い大和撫子。

物腰は丁寧だが妥協を許さない厳格な性格で、他人にも厳しく自分にはさらに厳しいタイプ(夫・秀介の迷子癖に関してもかつてはどうにかさせようとしていたようだが、最終的には改善不可能と匙を投げたらしい)。

お互い忙しい立場のため秀介との交流は希薄だが夫婦仲は極めて良好。料理指南の際のみ異常にハイテンションかつ軍人並のスパルタになるが、こち亀の本田くんみたいな性質だと思ってくれていい。肝心の料理の腕は蒼介をして「自分より高みにいる」と言わしめるほど隔絶している。一人息子の蒼介のことはとても大切に思っており、彼のためなら鳳分家の人間を次々と撃破できるほど戦闘力を増す。薄々予想できるだろうが蒼介は秀介以上に藍華を慕っている。

 

 

ルックス…5

知能…4

格闘…4

器用…5

社交性…3

美術…4

音楽…4

料理…5

根性…4

理性…4

人徳…5

幸運… 4

カリスマ…5

性欲…2

 

 

 

・宮阪 杏里(ミヤサカ アンリ)

3年Aクラス

身長190㎝

体重75kg

髪:ウェーブのかかった黒髪

得意教科:化学、生物

苦手教科:特に無し

趣味:押し花、ガーデニング

好きなもの・こと:生春巻、動物全般

嫌いなもの・こと:脂っこい食べ物、体目当ての男性

コンプレックス:身長、体重、腕力

通称:巨神兵、歩く15禁

備考:元生徒会書記

 

 

“桐谷グループ”代表取締役代理・宮阪桃里の一人娘。文月学園一の身長とプロポーションを誇る女性。鉄人をも上回る巨体と反比例して声と態度はかなり小さく自己主張も弱め。和真にすら匹敵するほどの女性離れした凄まじいパワーを秘めているが、悲しいことに本人の運動神経はお世辞にも良いとは言えないため完全に宝の持ち腐れとなっている。内心では女性離れした身長や腕力を気にしているらしいが、どうしようもないので誰にも打ち明けていない。押しに弱い性格で、頼み込まれたらNOと言えないタイプの人間。動物、特に小動物が大好きではあるもののその体躯が原因で大概怯えられるという重い業を背負っている。

 

 

ルックス…4

知能…4

格闘…2

器用…3

社交性…2

美術…3

音楽…3

料理…3

根性…3

理性…4

人徳…4

幸運… 3

カリスマ…4

性欲…3

 

 

 

・綾倉 詩織(アヤクラ シオリ)

1年Cクラス

身長163㎝

体重48kg

髪:栗色のロング

得意教科:特に無し

苦手教科:特に無し

趣味:???

好きなもの・こと:???

嫌いなもの・こと:???

座右の銘:泰然自若

通称:謎多き女、氷の女王、無口系女子

備考:生徒会副会長

 

一年の学年首席。非常に無口で表情が乏しく、感情の起伏がほとんど無い。自発的に話すことはほぼ無く、いざ口を開いても必要最小限しか喋らないなど、協調性・社交性などが完全に欠落している。そのミステリアスな雰囲気から男子からは一定の指示を受けているが、女子からの評価はすこぶる悪い(女子人気のすこぶる高い泰山や千莉と懇意にしていることも原因だろうが)。三年学年主任・綾倉慶の愛娘だが二人が学校内で会話している光景を見た者はいないなどから、親子仲はあまり良くなさそうである。

 

 

ルックス…5

知能…5

格闘…?

器用…?

社交性…1

美術…?

音楽…?

料理…?

根性…?

理性…5

人徳…3

幸運…?

カリスマ…?

性欲…?

 

 

・鳳 紫苑(オオトリ シオン)/ダゴン

1年Cクラス

身長163㎝

体重48kg

髪:青紫のロング

得意教科:特に無し

苦手教科:特に無し

趣味:自己鍛練

好きなもの・こと:蒼介、藍華、秀介

嫌いなもの・こと:ラプラス一派、秀介

座右の銘:泰然自若

通称:召喚獣系女子高生(故)

備考:鳳家長女、故人、召喚獣

 

その正体は既に亡くなった蒼介の姉。ラプラスが行った降霊術で甦る。さらに人体改造の結果、自立型召喚獣ダゴンとの融合を果たす。無理矢理甦らされたことに大きな不満を抱いており、それを解除し成仏するため父・秀介の命を狙っているらしい。蒼介がそうであるように彼女も重度のブラコンだが、彼女の方はそのことを自覚している。

 

ルックス…5

知能…5

格闘…7

器用…5

社交性…3

美術…3

音楽…3

料理…4

根性…5

理性…5

人徳…4

幸運…1

カリスマ…5

性欲…1

 

 

・志村 泰山(シムラ タイザン)

1年Cクラス

身長175㎝

体重60kg

髪:黒髪

得意教科:文系科目

苦手教科:特に無し

趣味:料理、裁縫、ビリアード

好きなもの・こと:肯定、称賛

嫌いなもの・こと:否定、侮蔑

座右の銘:温柔敦厚

通称:駄目人間生産マシーン、菩薩系男子

備考:生徒会会計

 

 

一年の学年次席。警戒心を抱かせない声音と緩い雰囲気に、常に人を安心させる柔和な微笑みをたたえた穏やかでおおらかで優しい人物。無条件で他人の全てを肯定するため、意図せず人を堕落させてしまうという罪深い悪癖を持つ。一年生四人グループの中心人物(と言っても他の面子は極端にマイペースだったり協調性皆無だったりと癖の強い人間ばかりだが)。その底抜けに優しい性格とルックスから、一年生で最も異性にモテる男子にノミネートされたらしい。

 

 

ルックス…5

知能…5

格闘…3

器用…4

社交性…5

美術…4

音楽…4

料理…4

根性…4

理性…4

人徳…5

幸運…4

カリスマ…4

性欲…3

 

 

 

・宗方千莉

1年Fクラス

身長170㎝

体重60kg

髪:緋色のポニーテール

得意教科:古典、日本史

苦手教科:英語

趣味:乗馬、精神修行、愛刀の手入れ、書道

好きなもの・こと:時代劇、武士っぽいこと

嫌いなもの・こと:横文字、狼藉者

座右の銘:武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり

通称:武士系女子、中二

備考:生徒会書記

 

 

演劇部期待の新人。芝居の中と普段の区別が無く、自身を侍と思い込みながら日々を生きている生粋の中二病。しかし口だけと言うわけではなく、剣の腕は我流とは言え相当なものであり、国語や日本史の成績は詩織や泰山をも上回っている(ただし英語の成績はかつての美波の古典並。それが響いたのか総合成績は詩織や泰山は勿論、鉄平にすら負けている)。その勇ましい振る舞いや“可愛い”より“格好いい”と形容すべき外見から、泰山に匹敵するほど女子にモテる。実はかなりの耳年増らしく性への好奇心も高めと、実はムッツリなのでは?という疑惑があるとかないとか。

 

 

ルックス…4

知能…3

格闘…4

器用…2

社交性…3

美術…1

音楽…2

料理…2

根性…5

理性…4

人徳…3

幸運…3

カリスマ…4

性欲…4

 

 

 

・黒木 鉄平(クロキ テッペイ)

1年Aクラス

身長178㎝

体重73kg

髪:黒のスポーツ刈り

得意教科:化学、生物、保健体育

苦手教科:古典

趣味:筋トレ、走り込み、ボランティア

好きなもの・こと:熱い展開、カプサイシン、鍋焼うどん、スポーツドリンク

嫌いなもの・こと:諦めること、言い訳、根性の無い奴、裏切り

座右の銘:熱血

通称:地球温暖化の元凶、熱血系男子、燃える男

備考:生徒会庶務

 

 

天に向かってそびえ立つ黒々とした短い剛毛、海苔のような太い眉毛、燃えたぎるような情熱を宿した瞳と、全体的に暑苦しい男。暑苦しいのは外見だけでなく中身もであり、二言目には「熱血」の自他ともに認める熱血バカである。しかし得意科目からわかるように体調や健康管理などに関しては精神論を好まないし持ち込まないなど、意外とまともな部分はある。夏だろうが冬だろうが普段着は半袖で過ごす季節感の無い男。中学時代は野球部に所属していたようだが、文月では何故か帰宅部である。

 

 

ルックス…2

知能…3

格闘…4

器用…2

社交性…4

美術…2

音楽…2

料理…3

根性…5

理性…4

人徳…4

幸運…3

カリスマ…3

性欲…3




一年生四人組はクラスこそ別ですが同じ中学出身です。ここまで個性的な面子が仲良しになった理由などは本編で後ほど。




次回、和真君に最大級のピンチが!?


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柊和真最大の過ち

【バカテスト・英語】
次の英文を和訳しなさい。

There’s the scarlet thread of murder running together the colourless skein of life, and our duty is to unravel it, and isolate it, and expose every inch of it.


源太の答え
『人生と言う無色の糸の束には殺人という緋色の糸が混じっている。我々の役目とはその糸を解きほぐし、隅から隅まで切り分けて白日の下に晒すことだよ』

蒼介「流石だな五十嵐、洒落た意訳も込みで満点回答だ。お前には言うまでもないだろうがこの一文はシャーロック・ホームズシリーズ最初の作品『緋色の研究』のホームズの代表的な台詞だ。この台詞からタイトルの緋色とは殺人を指していると思われる」


美波の答え
『人生の無色の糸かせには殺人の緋色の糸が混じっていて、そして私達の義務は糸を解き、3センチきざみに分けてさらすことだ』

蒼介「満点とはいかないが文として成り立っているので部分点をやろう。『every inch of~』で『~を隅から隅まで』と訳すことは覚えておくことだ」


ムッツリーニの答え
『そこは』

蒼介「お前はいい加減1単語訳すだけで終わるんじゃない」


明久の答え
『僕の人生には殺される危険がゴロゴロある』

蒼介「……同情はするが点はやらん」




今回の和真君、相当ひどい目に遭います。


いよいよ大会当日の月曜日。

 

和真「お前ら元気にしてたか?一週間ぶりの和真さんですよー♪」

明久「何そのちょっとイラッとする挨拶」

雄二「一週間ぶりに学校来たかと思えば、相変わらずマイペースな奴だなお前は……」

翔子「……でも、和真らしいと言えばらしい」

 

ようやく登校してきた和真の何とも緩い挨拶に脱力する一同。激しく燃え上がる炎のように荒れ狂う心の極致……“気炎万丈”へと至ろうが、和真という人間の本質が変わるわけではないらしい。

 

雄二「それで和真、ズル休みした一週間で何か成果はあったのか?何かあんまり変わってなさそうだが」

和真「おう、バッチリだ。これでソウスケとの点差をかなり縮められるはずだぜ」 

雄二「そうか、それは何よりだ。……ところで和真、予選は午前で終わって昼食後すぐさま本選が始まる日程なんだが、お前はいつテストを受けて点差を縮めるつもりなんだ?」

和真「だよなぁ。さっきばーさんに予選中数教科でいいから受けられないかって相談に言ったけど無理だって言われたし、この大会には以前までの点数で受けるしかねぇなアッハッハ」

雄二「アッハッハじゃねぇよバカタレ!?要するに今回の大会じゃその一週間の成果とやらがまるで発揮されねぇってことじゃねぇか!」

 

猛然と喰ってかかる雄二だが和真は気にも留めず不適に笑ったままである。

 

和真「いや、そうとも限らねぇぞ。……それに雄二、お前こそしばらく会わねぇうちに見違えたじゃねぇか。あの女々しかったお前はいったいどこに行っちまったんだよ?」

雄二「ホント言いたい放題だなお前は……色々あってな、トップを目指すことに決めたんだよ。この大会に優勝するのも、その後のAクラス戦で鳳を倒すのも俺がやる。せっかくパワーアップしてきてもらって悪いんだが、これからは俺の時代だ」

明久「雄二、熱でもあるの?」

雄二「黙ってろバカ」

和真「……言うようになったな雄二。クク…クククク…アッハッハッハッハ」

 

おもむろに目を閉じて、何故か心底愉快そうに笑いだす和真。周囲が訝しむ中しばらく笑い続けた後ゆっくりと目を開き、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「良 い 度 胸 じ ゃ ね ぇ か

「「「……っ!?!?!?」」」

 

“気炎万丈”へと至り、桁外れの闘気を教室中に振り撒いた。体の弱さを考慮して和真が意図的に対象から外した姫路以外の全員は、まるで万物全てを燃やし尽くすような闘気をまともに浴びてしまう。精神的に強い者でも全身から冷や汗を吹き出し、弱い者は意識が飛びそうになるほどの凄まじい威圧だ。

 

翔子(……この圧力、以前までの和真とは別次元…!)

明久(何この殺気!?キレたときの鉄人よりヤバいかもしれない!)

雄二(俺の目は節穴か!?何があんまり変わってないだ、変わりまくってるじゃねぇか!明らかに以前までとは別人……つーかもはや別の生き物だろこれ!?何をどうすれば人間がこうなるんだよ……!)

 

周囲の状況からこのままでは話が進まないと判断した和真は、“気炎万丈”を解きつつ闘気を抑え、明久達が落ち着いたのを見計らって話を続ける。

 

和真「そこまで吠えたからにはそれ相応のものを見せろよ雄二、俺は口だけの奴は嫌いだからな。そうだな例えば…もしこの後の予選が無様な結果に終わったりしたら、俺の新技メテオタイガーの餌食になってもらうぞ」

雄二「何だその明らかに物騒な技!?遠回しに殺すって言いたいのか!?……上等だ、予選なんざ軽く突破してやる」

和真「その意気や良し。雄二以外もこの一週間遊び呆けてたわけじゃねぇだろうし、他クラスの連中も優勝目指して牙を研いできただろうなぁ。……だが俺も負けてやるつもりはねぇ。お前にも、蒼介にも、誰にもな。立ち塞がる奴は全部潰してやるから覚悟しとけ」

 

そう言い切ってから和真は時計を確認すると、時刻は現在8時5分。9時には体育館に集合するよう事前に通達されているが、まだまだ時間に余裕がある。

 

和真「さてと、開会式まで時間もあるし……せっかくだから雄二、どれくらい闘えるようになったか見せてもらおう-」

秀吉「……和真よ。水を刺すようですまんが、ちょっといいかの?」

和真「あん?なんだよ秀吉?」

秀吉「先に謝っておくのじゃ……すまん」

和真「いやだから何が…………」

 

一瞬意味がわからなかったが、何かを察した和真が突然真顔になる。

 

和真「…………チクった?」

秀吉「……(コクッ)」

和真「…………ここに来るって?」

秀吉「………(コクコクッ)」

和真「そうか…………。

 

 

 

 

 

いや何してくれてんのお前ぇぇえええ!?」

秀吉「(グワングワン!!)仕方がなかったのじゃ!連絡しなかったらワシの……ワシの命がぁぁあああ!」

和真「俺の命はどうなってもいいんですか!?」

 

胸ぐらを掴まれて激しく揺すられながらも秀吉は必死に弁明する。一方和真は今度は自身が全身から冷や汗をかいてテンパりまくる。自身の天性の直感もご丁寧に危機を伝えてくるが和真は逃げない…というか逃げられない。何故なら逃げれば余計に恐ろしいことになるとわかっているから。そうこうしている内に教室の扉が開き、

 

 

 

 

 

 

 

優子「…………(ゴゴゴゴゴゴゴ)」

 

和真顔負けの修羅と化した優子がゆっくりと入ってきた。と言っても先ほどの和真には足元にも及ばない程度の圧である。……しかし、それでも和真は震えと冷や汗が止まらなかった。相性というものはそれほど重要らしく、今和真の内心ではライオンの群れに囲まれたとき以上の恐怖感が渦巻いている。

優子は教室を見回して和真を視界に入れると、無言で距離をつめていく。逃げたいのは山々だが余計に状況を悪化させる上に、生来の負けず嫌いと意外と義理堅い面も相まってその場に硬直してしまう。

 

優子「…………和真、何か申し開きはあるかしら?

和真「………ろ」

優子「ろ?」

 

 

 

 

 

和真「ろんぐたいむのーしー優子♪」

 

 

 

ブチィッ!!!

 

 

 

こんな時でも小ボケを挟む和真の度胸には流石だと言いたいところだが、それが引き金となったのか優子の中で何かが切れたようだ。

 

優子「和真」

和真「……はい」

優子「空き教室は確保してあるからついてきなさい」

和真「や、あの優子さん?まだ時間に余裕はあるっちゃあるけどよ、大会前だってのにそんなことしてる場合じゃ-」

優子「き な さ い」

和真「………………はい」

 

有無を言わせぬ優子の迫力に押しきられる形で、和真は強制連行されてしまう。今の和真の脳内ではドナドナが流れているだろう。

 

姫路「だ、大丈夫でしょうか柊君……」

美波「愛子から聞いたけどここ数日の優子色々と凄かったらしいし、ロクな目には遭わないでしょうね」

 

残されたメンバーは多少の心配こそすれど、明らかに和真の自業自得なので同情する者は皆無であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真にとって優子は恋人であると同時に、相棒であり親友であり姉であり……そして母でもあるような存在だ。蒼介が自身と対等である唯一の人物であるのに対し、優子は和真が大恩ある母を除いて唯一自身より精神的優位に立つことを許容できる人物だ。故に和真は優子に色々(授業態度など)と口うるさく言われても、口では鬱陶しがりつつも律儀に(少なくとも表向きは)守っているのだ。そしてそれを破ったことが優子に露見した場合おとなしく折檻されることを受け入れるし、今回の暴挙で優子の怒りを買うことは覚悟の上の行動であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………しかし、流石の和真とて…

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィィイイインッ!

 

和真「い、痛ぁぁああっっ!?」

 

 

……高校生にもなって『お尻ペンペンの刑』を受けるとは思ってもみなかったに違いない。

空き教室まで連行された和真は、抵抗する暇もなくうつぶせの状態で優子の膝の上に乗せられる。あまりに屈辱的な体勢に気恥ずかしくなる和真だったが、そんな羞恥は直後に襲った鋭い痛みにかき消された。

 

優子「わるい子、わるい子っ!」

 

ペチーン! ペチーン! ペチーン!

 

和真「う、うあぁ!優子やめてぇぇ…」

優子「一週間も学校サボっちゃ、めっでしょ!」

 

スパァァアアアン!

 

和真「あ、あうぅぅぅ……!」

 

幼い子に言い聞かせるような口調とは裏腹に、振り下ろされる平手は容赦なく激痛を与え続ける。たかが女子の平手と侮るなかれ、手首のスナップと衝撃を浸透させる技法の複合により恐るべき威力を伴っているのだから。皮肉なことに、どちらとも他ならぬ和真が身に付けさせたものである。

 

パシィィイイインッ!!

 

和真「はううぅっ!?や、やめて……!もう許して優子ぉ……!」

 

同格または格上との戦闘以外で痛みを感じることが極小なため意外と打たれ弱い和真は、目尻に涙を浮かべながら懇願する。が、優子の返答は再度の尻叩きであった。

 

優子「許して……?そんな簡単に許してもらえると思ってるの?………アタシがどれだけ心配したか、アンタわかってるの!?」

 

パシイイィィイイインッ!!!

 

和真「ッッッ!?」

 

爆発した感情とともに放たれたそれは最大級の一撃ではあったが、そんな痛みなど気にならないほどの衝撃が和真を襲った。そして優子の激情はまだ収まることを知らず、動揺した和真を畳み掛ける。

 

優子「何の連絡も無しに突然いなくなって!(パァアアンッ!)何度も電話したのに出なくて!(パァアアンッ!)アンタの家に行ってもいなかった!(パァアアンッ!)何か事件に巻き込まれたんじゃないかって!(パァアアンッ!)心配で心配で気が狂いそうだった!(パァアアンッ!)アンタが自分のやりたいように生きるのは結構だけれど!(パァアアンッ!)そんなアンタも嫌いじゃないけど!(パァアアンッ!)

 

 

………アンタを心配してる人がいるってこと、少しでいいからわかってよ……!」

 

怒鳴っている内に我慢の限界が来たのか、言い終わる頃には優子の顔は涙で濡れていた。わからない筈は無い。そもそも和真ほどの聡明な人間なら、少し考えればこうなることぐらいわかって当然なのだから。

 

……和真は愚かなことに、考えないように必死で目を背けていたのだ。

“明鏡止水”の扉を開いた蒼介に勝つためには、自身も別ベクトルの境地“気炎万丈”に至ることは必須であると和真は確信していた。そのために今回の一週間は決して避けては通れないものであった。

 

長期休暇中に行う? 否。自身の都合で試召戦争の期日を遅らせるわけにはいかない。そんな我儘は自分を信じてくれるクラスメイト達の期待や、姫路のためだけに奔走した明久の努力を踏みにじることだと和真は思っている。

 

病気であると嘘をつく? 否。そんな嘘は優子がお見舞いにでも来られたらすぐにばれる。そして優子がお見舞いに来ることなど火よりも明らかだ。何より大切な人を欺くなど和真の矜持が許さない。

 

正直に洗いざらい話す? 否。どう考えても間違いなく止められるであろうし、よしんば認めさせたとしても守那との修行など余計不安にさせるだけだ(実際ライオンの群れに息子を生身で放り込むなどというクレイジー過ぎる内容であった)。

 

いくら考えても解決策は出ず、悪手だとわかっていながら現実逃避したのだ。優子が不安よりも怒りを覚えることに一縷の望みを託して。

結果はご覧の通り、和真は最愛の人を泣かせてしまうという大罪を犯してしまった。

背けていた現実をあらためて叩きつけられ、自身の我儘が優子を悲しませてしまったことへの大き過ぎる罪悪感と後悔、あとついでに尻への激痛があわさったことで……

 

 

 

 

 

 

和真「ゆ…う…こ……う、うぅぅぅ……うわぁぁぁあああああん!ごめんなさい……ごめんなさぁぁぃぃぃいいいいい!」

 

和真は号泣しながら謝罪の声を吐き出した。負けん気の塊のような和真のことだから、おそらく彼の両親ですら赤ん坊の頃以来見ることが無かったであろうレベルの大泣き。

「絶対に泣かす」という当初の目的を果たした優子は、かなり溜飲が下がったことと持ち前の母性本能から思わず抱き締めたくなる衝動に駆られたが、万全を期すために心を鬼にしてお仕置きを続行した。泣き声、叱責、お尻を叩く音の三重奏が空き教室全体を支配することしばらく、時刻が8時半になったあたりでようやくお仕置きは終了する。

 

優子「……和真、きちんと反省できた?」

和真「ヒック…グスン…ごめんなさい優子……もう二度としません……」

優子「よろしい♪」

 

やることをやり終えた優子は我慢の限界が来たのか弱りきった和真を胸元に抱き寄せ、甘やかすように優しく撫で始める。

 

優子「(ナデナデ…)よしよし、いい子いい子。頑張ったね和真。偉い偉い♪」

和真「ふにゃぁぁあああ……///。ゆ、優子…恥ずかしいから子どもあやすみたいな口調やめてくれ……///」

優子「ほとんど子供みたいなもんでしょうが。それにアタシ、この前アンタのお母さんからアンタの世話を一任されたしね」

和真「(ガバァッ!)いや何してんの母さん!?子育て放棄!?だとしたら結構ショック!」

優子「違うわよ……」

 

あまりにも寝耳に水な情報に夢心地から一転、現実に戻される和真。慌てふためく和真の頭を撫でて諫めつつ、優子は詳細を説明する。

 

優子「アンタあの人の前じゃ猫かぶってるんでしょ?『私じゃあの子の我儘も聞いてやれないし、甘やかしてもやれない。だからあなたに任せたい』って少し寂しそうに言ってたわよ。……たまには我儘の一つでも言ってあげたら?」

和真「簡単に言うがな優子……あの人はただでさえ()()親父の嫁って時点で間違いなく多大なストレスを被ってるんだ。これ以上負担をかけるわけにはいかねぇよ」

優子「アンタどんだけあの人のこと嫌いなのよ……。じゃあせめてたまにで良いから甘えてあげなさい。我儘の方は私が担当するから」

和真「何か仕分けみたいで嫌だなその表現……それに我儘だぁ?今回それで盛大に振り回されたってのに懲りねぇ奴だなお前は……」

優子「あら、勿論限度というものはあるわよ。アンタがまた今回みたいに度が過ぎることをやったら、またお仕置きしてあげるんだから。ペンペンってね♪」

和真「……あぅぅ///」

 

優しく抱き締められながらお尻を軽く叩かれ、もう何度目になるか数えるのも億劫だが和真は優子骨抜きにされた。

時間的に余裕があったため、完全に屈服しメロメロになった和真はひたすら優子に甘え続ける。

 

和真(…………今更かもしれんが、俺もう優子に逆らえないような気がする……)

 

その予感はおそらく外れない。“気炎万丈”を完全に習得し人外染みた強さとなった和真だが、どれだけ人間離れしても根っこの部分は変わらない。今までもこれからも、彼はおそらく優子の尻に敷かれっぱなしだろう。

 




蒼介「というわけでカズマ自業自得回だったわけだが、本編では語り切れなかった補足を私と飛鳥でやっていこうと思う」

飛鳥「うん、それはいいんだけど……和真は?」

蒼介「プライドを粉々にされたからしばらく出たくないそうだ」

飛鳥「意外とメンタル弱っ!?」

蒼介「奇しくも今回補足する内容は、カズマの精神的な脆弱性だ。本編でも述べた通りカズマは意外と打たれ弱いというか、物理的なダメージへの耐性がほとんどない。女子高生に耳を引っ張られたり尻を叩かれただけで泣かされるほどだ。……ここまで説明した内容に、この作品や番外編をじっくり読み込んでいる読者はある疑問が思い浮かぶはずだ。そう、西村先生に一本背負いされたときや私の木刀を全身に喰らったとき、はたまた生爪を自力で剥がしたとき、精神面は安定していたではないか?……という疑問が」

飛鳥「確かに……明らかにそっちの方が痛そうなのにどうしてかしら?」

蒼介「勿体ぶる必要は無いので率直に結論を述べると、それら全ては闘いの最中に負ったダメージだからだ」

飛鳥「えっと……それと何の関係が?」

蒼介「奴は生粋の戦闘狂だ。闘いの中の動揺は敗北につながるため、内に眠る無尽蔵の闘志や生来の負けん気の強さが無意識の内に精神面を補強しているというわけだ。だから戦闘中の奴は例え腕を切り落とされようと精神的に崩れることはない。そして戦闘面以外だが……反則的なまでの危機察知能力を持つカズマが日常生活の中でダメージを負うことはほとんど無い(まあ、奴の打たれ弱さもその危機察知の弊害なのだが)。しかし今回のようにダメージを避けられないときわその打たれ弱さは露呈してしまう。他には歯医者とか予防接種も該当するな」

飛鳥「注射と歯医者が苦手って……ますます和真のお子ちゃま度が上がっちゃうね……」


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開会式

【アクティブ古今東西ランキング(人心掌握)】

①優子……()()和真を虜にした偉業を考慮して見事トップの座に。

②蒼介……人心掌握は帝王学の基礎である。

③和真……メンタルケアの達人。それと良い意味でも悪い意味でも火に油を注ぐのが上手い。

④愛子……女子達を誘導して明久達を何度もピンチに追い込んだ実績を持つ。

⑤源太……根本を「卑怯」から「狡猾」に改善(?)させた。

⑥飛鳥……上の五人に比べて凡庸と言わざるを得ない。

⑦徹……他者に影響を与えることは無いが、反対に自身も他者から影響を受けない。どこまでもゴーイングマイウェイな男。




優子にお許しを貰った和真が教室に戻るといつものメンバー達に詳細を聞かれたが、弄るのは大好きだが弄られるのは大嫌いという割と最低なことを平然と口にできる和真が教えるはずもなく、お得意の舌先三寸でのらりくらりとはぐらかした(雄二だけはしつこく食い下がったが「翔子にとんでもないこと吹き込むぞ」と脅して無理矢理黙らせた)。時間もちょうど良い頃合いだったのでFクラス一同は体育館に向かう。和真達を含む全学年計18クラスの生徒達が整列し終えたことを確認した学園長は、大会実行委員長に抜擢された綾倉先生からマイクを受け取り開会式の挨拶を始める。

 

『よく集まったねクソジャリ共』

 

流石は「横柄が服を来て歩いている」と揶揄される学園長と言うべきか、スポンサーである四大企業のトップ達や試験召喚システムに興味がある他校の教育関係者なども出席しているというのに、一切ぶれることのない出だしである。

 

『いやいよ試験召喚戦争の祭典、【サモン・ビースト・フェスティバル】の開催さね。アンタ達がどうしようもないうすのろなのか、それとも多少は小利口なガキなのか、……今日全世界に知らしめることになるさね』

 

その後もおおよそ聖職についている者とは思えないような内容が続く。あまりの酷さに出席している各地から集った教育関係者達のこめかみに青筋が浮かび出したと言えば、どれほどアレな内容かお察しであろう。

 

『この召喚大会は学園の体裁どころか今後の試験召喚システムの有り様にもかかわる極めて重大なイベントだから、ルールと常識を守って参加することだね。前もって釘差しておくが、大会最中に学園の設備や校舎に破壊するような行為をした場合は即失格の上停学や退学といった処置をとるからね』

 

二年Fクラスの方向……具体的には明久と雄二をチラ見どころかガン見しながら学園長が釘を刺すが、当の彼らはまるで悪びれた様子のない。学園長は呆れたように溜め息をつきつつ挨拶を締めくくる。

 

『……時間の関係もあってあんまり長くは話せないから、あたしの話はここまでにするさね。続いてこの学園のスポンサー達の挨拶だよ。正直カットしても良いんだけど日頃金を落としてもらっている手前無下にもできないんだよ。文月学園が存続できるのもこの金づる達のお陰でもあるから、せめて話だけでも聞いてやるんだね』

 

学園長の横柄さは留まるところを知らない。しかし絶対強者故の余裕か、四大企業のトップ達は意に介することなく生徒達の前に並ぶ。その内の二人……“桐谷グループ”の宮阪桃里と“御門エンタープライズ”の桐生舞はさらっと無難に挨拶を済ませた。その様子に小さくない違和感を覚えた副実行委員長の御門は、“橘社”の橘大悟の前二人に比べてやたらと長い挨拶を華麗に聞き流しつつ隣の綾倉先生に話しかける。

 

御門(…………なあ綾倉)

綾倉(おや、どうしました御門君?というかダメじゃないですか。ちゃんと橘社長の話に耳を傾けないと)

御門(別に良いだろ聞かなくてもよー、もうウンザリなんだよアイツのクソ長い話は。…というかさっさと誰かが止めねーと延々しゃべるぞあのバカ)

綾倉(橘社長はお話好きですからね……それで御門君、私に何を聞きたいのですか?と言っても、おおよその見当は付きますが)

御門(…………アイツ、誰だ?)

 

そう言って指を刺した先にいたのは、先ほど挨拶を終えたばかりの女性……綾倉のかつての教え子であり御門の後輩でもある幸薄系キャリアウーマン・桐生舞であった。

 

綾倉(誰も何も……面倒になったあなたに気の毒にも承認なしで社長の座を押し付けられた桐生さんじゃないですか)

御門(事実だから否定はしねーけどよ……誰よりも何よりもオメーだけには言われたくねーよ!)

綾倉(まあまあ、もう終わった話じゃないですか)

御門(終わってんのはオメーの性格の悪さだっつの……つかそうじゃなくて、俺が言いたいのはな……)

綾倉(桐生さんにしてはやけに落ち着き過ぎている……でしょう?)

御門(わかってんなら余計な茶々入れんじゃねーよ……)

 

急に真剣な表情(と言っても相変わらず真意を読み取りにくい糸目フェイスなのだが、それなりに親交のある御門にはフザけてはいないと判断したらしい)になった綾倉先生に御門は嘆息しつつ、自信も真剣な表情になりつつ話を進める。

 

御門(俺達の知ってるキュウリは優秀だが極度のアガリ症で、在学中ゼミでの発表の際は面白いくらいテンパってたし台詞もひたすら噛み倒していた。そんな奴が初対面の生徒900人その他十数名に囲まれた状況でそつなく挨拶をこなせる筈がねぇ。いったいどうしちまったんだ、アイツ……?)

綾倉(気になるなら直接聞けば良いじゃないですか。彼女はあなたを慕っていたと記憶していますが?)

御門(てめーホント性格悪いな……俺がアイツとの関係絶ち切ったと知っててそれを言うかよ)

綾倉(心外ですねぇ、仲違いした教え子の関係を修復して差し上げようとしただけですのに)

御門(そういうとこが性格悪いっつってんだよ……)

 

二人が仲違いした理由……もっと言えば御門が桐生を突き放した理由は、桐生を危険から遠ざけるためだ。まだ断定はできないが、おそらく御門はアドラメレクに目をつけられている。肝試しの裏での激闘の際、アドラメレクは御門の素性を知ると不自然なほど歓喜を露にした。全ての生物を死に追いやるために生まれたと真面目にのたまうような奴にそんな反応されるなど不吉この上なく、御門の生存率は著しく下がったと言えよう。そしてその御門に近しい者もまた然りある。それらの事情を察しているくせにあんなことをいけしゃあしゃあと言える綾倉先生は、御門の言う通りかなり性格が悪いと言えよう。

 

 

『-つまり試験召喚システムとは慢性化が進む日本教育を根底から覆す実に新し-むぉっ!?なんだ学園長まだ話の途中だ邪魔をしないでいただきたい-』

『アンタの話長いんだよ!さっき時間無いって言ったはずさね!』

 

 

綾倉(……橘社長の長い話も終わるようですし、この話は後日にしましょう。藍華さんの怒りを買うのはおっかないでしょう?)

御門(………同感だけどよ、なんであの人が挨拶するんだよ?あの天然ボケいったいどこで油売ってやがる……)

綾倉(鳳さんのことですからおそらくは……)

御門(…………また迷子かよ)

 

綾倉先生や御門だけでなく、実の息子を含む秀介と面識のある者全員が思わず頭を抱える。“鳳財閥”トップ・鳳秀介は極めて優秀な人間であるが、同時に常識では有り得ないレベルの方向音痴である。今回のような重要な式典や会議などを彼が欠席する理由はほぼ100%がその場まで辿り着けないからであり、今回もそうであると嫌でも確信してしまったようだ。そして今回もその例に漏れず、藍華が心底申し訳そうな表情で口を開く。

 

 

『…………大変申し訳ございませんが、“鳳財閥”トップ・鳳秀介は手違いでアンティグア・バーブーダにいるらしく……妻である私、鳳藍華が代役で挨拶を行います』

 

 

その後藍華は名家『赤羽家』な名にふさわしい毅然とした振る舞いで挨拶をやりきったがちゃんと聞いていた人間はごく少数だった。何故なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(((アンティグア・バーブーダって何処だよ!?どこをどう手違えたらそうなる!?)))

 

彼らの心は秀介の有り得ないレベルの迷子っぷりに対するツッコミで一つになっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、綾倉先生は強すぎるという理由で予選を免除された和真、蒼介、梓、リンネ以外の生徒に手の平サイズのPDAを配布し(その際、和真達が予選を免除されることに徹がせっかくだからと綾倉先生に特に意味もなく因縁をつけにかかったが、和真達を特別扱いしているわけではなく、和真達を予選に参加させれば運ゲー要素を著しく上昇させてしまうから……要は予選に参加するメンバーに配慮した措置だと丁寧に説明されおとなしく引き下がった)終えると、生徒達の注意を自身に集める。

 

綾倉「それでは予選の内容、及びルールを説明していきます。と言っても内容は至極シンプル、君達には試験召喚戦争を通して……これを奪い合ってもらいます」

 

そこで一旦言葉を切り、綾倉先生はポケットからあるものを取り出す。さほど珍しい物ではなく、始めて見る人は日本中探したとしても極少数、所持している人も少なくないであろうありふれたもの。王・女王・城・僧侶・騎士・兵士で構成される世界的に有名なボードゲームのアイテム…

 

 

 

 

 

 

雄二「……チェスの駒?」

綾倉「その通り。名付けて駒争奪戦(チェスナッチ)…全学年によるバトルロワイヤルです」

 

 

 

 




御門のおっちゃんが桐生さんに抱いた些細な疑問を解決しなかったことが後々あんな事態を招くなんて、このときは誰も思っても見なかった……


と、意味もなく不吉なフラグを建てておきます。


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予選開始

【アクティブ古今東西ランキング(統率力)】

①蒼介……文句無しの一位。人の上に立つために生まれ、人の上に立つための教育を受けてきた男。

②優子……蒼介と比べると数段落ちるものの、指揮官としての資質は十二分に備えている。

③飛鳥……生まれもった資質はやはり凡庸だが、それ相応の教育は受けているのでこの順位。ちなみにAクラスの発言力は蒼介→優子・久保→飛鳥という力関係で成り立っている。

④愛子……上三名には到底及ばないものの、ある程度はこなせる。流石優等生。

④源太……こう見えて参謀タイプ。しかしその強面のせいで受け入れられるまで時間がかかるのが難点。

⑥和真……指揮官のセンスまるで無し。勢いとアドリブをこよなく愛し、突撃させるだけさせて後は野となれ山となれ。そもそもあれこれ指示を出すより自らの行動で周りを鼓舞することに長けた切り込み隊長タイプ。ただし、サドスイッチが入った状態で人を追い詰めるときだけはやたら指示が的確。

⑦徹……そもそも指揮する気が無い。
人は人、自分は自分。
どこまでもゴーイングマイウェイ。



綾倉「これ見よがしに出しといてなんですが、実際に駒を奪い合うわけじゃありませんよ」

明久(じゃあなんでわざわざ出したんだろう……?)

 

綾倉先生はチェスの駒を右ポケットにしまいつつ、左ポケットから箱型の機械を取り出す。

 

雄二「!……」

綾倉「それではルール説明をしましょうか。少々複雑ですが後でまとめたプリントを配布しますので、覚えきれなくてもまあ大丈夫ですよ」

御門(要はこのくらい覚えきれねーと結果は見えてるってことじゃねーか……ホント性格ワリーよなアンタ……)

 

御門のように言葉の裏に隠された真意をくみ取った生徒達は思わず顔をひきつらせる。常に優しい笑みを浮かべている綾倉先生であるが、決して温柔敦厚な人物ではないということだ。

 

綾倉「ルールその①……予選開始は10時半、制限時間は12時半までの2時間。ルールその②……戦いの舞台は校舎全域。校舎の外に出てしまった生徒はその時点で失格とします。その③……校舎及び校舎内の器物を破損した場合も即失格とします(チラッ)」

明久(チラ見された…)

雄二(ルール①、②はともかく、ルール③は明らかにババァの俺達への当て付けだな……)

 

学園長の判断も無理もない。明久と雄二が校舎や器物を破壊した回数など、もはや両手の指では数えきれないのだ。しかも雄二に至ってはタチの悪いことに試験召喚戦争の作戦にまで組み込んでいる始末だ。世間への露出が文月始まって以来最大となるこの『S・B・F』でそんなことを起こされては文月の評判が地に落ちるばかりか、試験召喚システムの存続すら危ぶまれかねない。

 

綾倉「そしてルールその④ですが……校舎内のあらゆる場所に設置されたこの、召喚フィールド発生装置を壊せば失格です」

雄二「……」

 

そう言いながら綾倉先生ほ手に持った箱を皆に見えるよう掲げる。

 

徹「召喚フィールド発生装置?名前からして教師のように召喚フィールドを展開する機械ですか?」

綾倉「その通り。900人近くのバトルロワイヤルともなるとどう考えても人手が足りませんからね。この装置は一定時間ごとにランダムでフィールドの教科を変更するという優れもので、学園長の無茶ぶりを受けた私が寝る間も惜しんで作成した-」

学園長「愚痴や自慢は後にしておくれ。時間に余裕があるわけじゃないんだよ」

綾倉「ケチ臭い学園長の指示に渋々従って説明を続けますね。配布したPDAには『チェスピース』というアイコンがあるでしょう?」

 

説明を聞いた生徒達がPDAを操作してみると、確かに『チェスピース』と書かれたアイコンがあった。

 

綾倉「そのPDAは試験召喚システムとリンクしており、召喚獣を倒すごとにランクに応じたチェスピースが追加されていきます。倒した召喚獣がAクラスならば6点のキングピース、Bクラスなら5点のクイーンピース、Cクラスなら4点のルークピース、Dクラスなら3点のビショップピース、Eクラスなら2点のナイトピース、Fクラスなら1点のポーンピースが追加されます。あ、一年生の場合は一学期末テストの結果が反映されています」

 

つまり1位から50位ならキングピース、251位から300位ならポーンピースのように50位刻みでランク付けされているということだ。

 

優子(なるほど、だから駒争奪戦(チェスナッチ)ね……)

綾倉「制限時間ありのバトルロワイヤル、点数付けされた駒の奪い合い……もう大まかなルールは把握できますね?ルールその⑤……終了時、チェスピースの合計点数トップ28名が予選通過です。勿論制限時間内に28名になればその時点で予選は終了しますが」

雄二「……なあ綾倉先生」

綾倉「何でしょう坂本君?」

雄二「既にピースを所持している奴の召喚獣を倒せば、そのピースは手に入るのか?」

綾倉「残念ながらNOです。例え100点分のピースを所持している生徒の召喚獣を倒しても手に入るピースは1つしかありません」

雄二「そうか……それじゃあ、戦闘以外でのピースの譲渡は可能か?」

綾倉「……中々目の付け所がよろしいですね坂本君。ルールその⑥……チェスピースの譲渡は双方の合意の上でのみ可能です。ただし金銭取引をしたり、譲渡の際に定めた取り決めを破れば失格とさせていただきます」

 

このルールは自分よりも強い相手から生き残るために非常に重要になってくるであろう。

例えば5点分のピースを集めたCクラスの生徒がAクラスの生徒に追い詰められたとする。このときそのピースを全て譲渡する代わりに見逃して欲しいと頼みこめば、そのCクラスの生徒が余程嫌われてない限り受諾して貰えるだろう。Cクラスの召喚獣を倒したところで手に入るのは4点のルークピースのみなので、それならば5点分のピースを受け取った方が明らかに得である。そして、一旦譲渡してしまえば安全は保証される。Cクラスの召喚獣を攻撃すれば協定違反として失格になってしまうので、Aクラスの生徒は引き下がらざるを得ない。

 

綾倉「そしてルールその⑦……予選中は補充試験はできません。ただし救済措置として、戦闘中を除き獲得したチェスピースを消費して点数を回復させることができます。ポーンなら50点、ナイトなら100……そしてキングなら300点と、50点刻みで回復量が違います」

姫路(なるほど……勝ち残るためには色んな意味でチェスピースが重要になってくるわけですね)

 

タイムアップを待って獲得点数で勝負する場合は勿論、制限時間内に28人まで数を減らそうとすればどうしても消耗が激しくなるので、消耗した状態を狙われないためにもチェスピースでの回復は欠かせなくなるだろう。

 

綾倉「そしてルールその⑧……一年生の召喚獣に対する金の腕輪及び“オーバークロック”及びランクアップ能力の使用を禁止します。一年生はまだ腕輪が設定されていませんから当然の処置ですね」

徹「綾倉先生、禁止とは腕輪能力で攻撃してはならないということですか?」

綾倉「それだけじゃありませんよ。腕輪能力による防御や回避も当然禁止です。もっと言えば、一年生側から腕輪能力に当たりにいった場合でも失格になります。ですので、一年生が近くにいるときは使用を控えることをおすすめしますね」

雄二(よし、あとは…)

綾倉「そして最後にルールその⑨……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二(敵前逃亡さえ許可されてくれれば……)

綾倉「今回に限り、敵前逃亡を許可します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【S・B・F予選のルール】

①制限時間は2時間(10時~12時)

②校舎及び校舎内の器物を破損した場合は即失格。

③舞台は校舎全域。校舎から出た時点で失格。

④校舎内のあらゆる場所に設置されたキューブ状の召喚フィールド発生装置を壊したら失格

⑤終了時に集めたチェスピース合計点数トップ28名が予選通過(制限時間内に28名になればその時点で予選終了)。

⑥チェスピースの譲渡は双方の合意の上可能。ただし金銭取引をすれば失格。譲渡の際に協定などを結び、それを破った場合も失格。

⑦補充試験は不可。ただしチェスピースを消費して点数を回復させることができる。

⑧二・三年生は一年生の召喚獣に対する金の腕輪関連の能力の一切の使用を禁止する。

⑨敵前逃亡の許可。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「やれやれ……予選終了までの間、俺達はこのまま体育館で軟禁状態かよ」

蒼介「むしろ高みの見物と捉えるべきだろう。予選の様子はリアルタイムでモニターに表示されるので、そうそう退屈はしないだろう」

和真「つかモニターいくらなんでも多すぎだろ……」

 

体育館の周りの壁一面に設置されたモニター計200台(それぞれバラバラの場所を映し出している)を見渡し、思わずげんなりする和真。鉄人以外の教師陣、和真達と同じ予選免除組である梓やリンネ、そして四大企業の重役達はそれぞれどのモニターで見物するか物色している。

 

和真「バカみてぇな金と労力の使い方しやがって……」

蒼介「まあそう言ってやるな。それだけこの祭典に懸ける思いは大きいということだ。……では私は二年Fクラスのモニターをチェックしよう」

和真「あん?なんで俺達のクラスなんだ?……もしかして、さっき雄二がどことなく不自然だったことに関係あんのか?」

蒼介「ああ。私の推測が正しければ坂本はとんでもない策を二つほど用意している。そしてその一つ目が実行されるのは……おそらく開始直後だ」

和真「ほー、お前がそういうんなら面白そうだし俺も見とくか。どれどれ……何やってんだこいつら……?」

 

モニターを覗き込むと、雄二は教卓に立ってクラス中を鼓舞していた。その様子から察するに、どうやらFクラスはクラス全体で徒党を組むらしい。

 

和真「こいつら進歩しねぇな……予選を勝ち抜けられるのは28人までだっつってんだろ。明らかに利用されるだけされて見捨てられるに決まってんだろ」

蒼介「………いや、坂本の狙いはおそらく別だ」

和真「は?どういうこと-」

 

 

 

ビーーーーーーーー!!!

 

 

 

綾倉「それでは10時半になりましたので、ただ今より……S・B・F予選スタートです!」

 

 

合図のブザーを聞き届けると同時に、綾倉先生が予選開始の宣言をした。

 

和真「お、始まったか。……それで話を戻すがソウスケ、雄二の狙いは別ってどういうことだよ?」

蒼介「ああいうことだ」

 

和真は蒼介の指差した方向、つまりは例のモニターに目を向けると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久・雄二・秀吉・ムッツリーニ・姫路・美波・翔子の7体の召喚獣と、計42の召喚獣の屍が映し出されていた。

 

和真「………はぁっ!?何がどうなったらそうなるんだよ!?」

蒼介「簡単なことだ。坂本は自分を含めた7人以外のクラスメイトの召喚獣42体を……狩る対象としか見ていなかったらしい」

 

 

 




雄二、初っぱなから外道極まりない作戦で現在42ポイントで首位!この思い切りの良さが蒼介には無い雄二だけの強みですね!

詳しい解説は次回で。


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撒き餌

【召喚フィールド発生装置】

綾倉先生が開発した、雄二が持つ白金の腕輪の発展型とも言える代物。一定時間毎に科目が変化する召喚フィールドを展開する。学力強化合宿の覗き騒動では干渉による召喚フィールドの消滅を利用されたが、この装置で発生させたフィールドは他フィールドと重なると結びつく性質を持つため、干渉が起こらないどころか二つのフィールド間を自由に往き来できるようになる。そして召喚フィールドには今回の大会用に、フィールド内に入った人の召喚獣を強制出現させる機能が追加されている。
学園長はこの結合機能の仕組みをと強制召喚機能についと知りたがっているが、綾倉先生は意地悪なので教えようとしない。


綾倉「お値段はお買い得価格の3億9800万!読者の皆も是非ゲットして召喚獣を喚び出そう!」

和真「高過ぎるしそもそも読者の皆召喚獣なんて持ってねぇよ!」



『坂本ォォォ!!どういうことだこれはァァァッ!』

『予選通過に協力する引き換えに一人につき聖典(エロ本)美術品(AV)を10品ずつ贈呈するという男の密約だった筈だろ!?』

『は?何ソレ?身に覚えがありませんな?』

『『『貴様ァァァッ!!!』』』

『脱落者は補習!』

『ひぃっ!?な、なんで鉄人が!?』

『綾倉先生はあえて説明してなかったようだが、ゾンビ行為の防止もかねて召喚獣が戦死した生徒はいつものように補習だ!』

『そ、そんなバカなァァァっ!?』

『……だ、第一今回は900人もいるんだぜ!?いくら化け物のアンタでも手が回りきるわけねぇし、そもそも補習室に収まりきらないだろ!』

『安心しろ。この日のために地下に極秘で建設された特別補習室は、体育館並のサイズがあり900人だろうと余裕で入る。それに補習を担当するのは綾倉先生、御門先生、学園長を除いた文月学園の全教職員だ。召喚フィールド発生装置は実のところこの大規模な補習を実現させるために開発されたからな』

『アンタらの補習にかける熱意は何なんだ!?』

『冗談じゃねぇ、皆逃げるぞ!流石の鉄人でも42人以上を無理矢理連行できるわけねぇ!』

『逃がすか!試獣召喚(サモン)!』

『しょ、召喚獣だと!?きたねぇぞ!』

『えぇい、つべこべ言うな!いい機会だ、お前達を入念に指導してやる!』

『『『嫌だあああぁぁぁぁぁ!!!』』』

 

 

 

 

 

和真(流石7000点第召喚獣……と言いてぇところだが、なんともシュールな光景だな……)

 

モニター越しに大の男42人が三頭身の召喚獣に軽々と担がれている光景を目の当たりした和真は思わず苦笑いする。同時に、“気炎万丈”状態の親父なら生身で同じ芸当ができるんじゃないかという笑えない想像をしてしまったことに軽く眩暈を覚えた。

 

和真「にしてもいい加減学習しろよなアイツらも……翔子の目を盗んで420ものエロ本だのAVだのを用意できるわけねげだろうが……」

蒼介「……まあ報酬のチョイスはともかくとして、坂本らしいルールの裏をついた作戦だったようだな」

和真「ルールの裏?………ああ、ルール⑥か」

 

予選ルールその⑥……金銭取引を介してのチェスピースの譲渡及び譲渡の際に結んだ協定の破棄を禁止する。

 

今回雄二がとった行動は()()()()のブツによる取引でクラスメイトを扇動し、()()()()()()()()()()()()()()()()協定を破棄し、腕輪能力にものを言わせて彼らを全滅させたのだ。

 

蒼介「道徳的に考えればあまり誉められるような内容ではないが、ルールの網を掻い潜った見事な作戦だ。少なくとも私では思いつかないだろう」

和真「お前ああいうキャラじゃねぇし、思いついたところで実行できねぇだろ。……おーい綾倉センセー」

綾倉「和真君?どうかしましたか?」

 

念のため確認しておこうと和真は実行委員長の綾倉先生を呼ぶ。綾倉先生は並外れた並列思考能力で全てのモニターをチェックしつつ和真達のもとにやってきた。

 

和真「さっきの雄二のアレ、反則じゃねぇよな?」

綾倉「えぇ勿論。ちょっと戯れにルールのいくつかに学園長に内緒で抜け穴を用意しておいたのですが流石坂本君、早くも作戦に組み込んだようですね」

蒼介「そのちょっとした戯れに、向こうの方で学園長が頭を抱えているのですが……」

和真「そりゃいきなりあんな、おおよそ進学校の生徒が考えたとは思えないようなえげつねぇ作戦を実行されたらそうなるわな……」

 

今頃学園長は綾倉先生を実行委員長に指名したことを後悔しているに違いない。明久達問題児への警戒は入念にしていたが、まさかイメージダウンになる火種を教師が仕込むとは考えもしなかったのだろう。

 

和真(……おっ、あの7人はちゃんと協力するみてぇだな。見たところ雄二がPDAを操作して戦利品のチェスピースを分配してるようってところか)

蒼介(開始直後にチェスピースを持つアドバンテージはかなりのものだ。それに加えて坂本の作戦が上手く嵌まれば、彼ら7人の予選突破は堅いな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「……よし、チェスピースは均等に行きわたったな。じゃあこれからの立ち回りを指示するぞ。まず翔子と姫路は単騎で行動、好きなように動いて構わない。学園でもトップクラス総合力のお前らに細かい作戦はかえって邪魔だならな。一年生に腕輪能力を使って禁止にならないよう十分注意して……狩れるだけ狩ってこい!」

姫路「わ、わかりましたっ」

翔子「……まかせて」

 

指示を受けたFクラス最高戦力の二人は召喚獣を連れて意気揚々と教室を出ていった。彼女らより明確に強い連中は皆予選を免除されているので、目についた召喚獣を片っ端から潰していくという大雑把な方針がベストだろう。

 

雄二「続いて島田と秀吉のペアは、そうだな……Aクラスレベルの相手とは戦うな」

秀吉「んむ?それはどうしてじゃ?」

美波「優子の学力をトレースした木下はもちろん、ウチの総合科目もドイツ語でパワーアップしてAクラス並の成績よ?」

雄二「だからだよ。Aクラス並の成績かつある程度操作慣れしたお前らならBクラスレベル程度なら確実に勝てる。だがAクラス相手では確実ではないし、力が拮抗しているから消耗は避けられねぇ。キングピース1つとピショップピース2つじゃ後者の方が労せず容易に手に入るってことだ」

秀吉「なるほどのう、確かにワシらでは苦戦は必死じゃろうな」

美波「……そうね。それにウチの成績は教科によってはCクラスレベルでしかないし、無理は禁物ね……」

雄二「だが翔子や姫路なら久保とか木下姉みたいな同格の化け物共以外には容易く勝てるだろう。アイツらが大雑把に動く分、お前らは堅実に動いてくれ」

秀吉・美波「了解!」

 

二人も召喚獣を引き連れて戦場に向かい、B教室に残っているのは雄二と明久、ムッツリーニの三名となった。

 

雄二「さてお前ら……これより『撒き餌作戦』を実行する。囮役の明久、殲滅役のムッツリーニ……俺達の予選通過はお前達の手にかかっているぞ!」

ムッツリーニ「………任せろ」

明久「はいはい…はぁ、こんな役ばっかり……」

 

がっくりと肩を落としながら、明久は召喚獣と共にとぼとぼと教室を出ていった。それを気にも留めず雄二は教卓の中に手を入れてカチャカチャと何かを弄くったかと思えば…

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「よし、これで準備は万端だ。

いくぜ……起動(アウェイクン)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いたぞ!吉井だ!』

『科目が数学の内に潰せ!』

明久「嫌ぁぁあああ!?お助けぇええ!」

『あっ!?くそっ、待ちやがれこのバカ!』

 

これも有名税というものだろうか。優れた操作技術や社会科目の点数の高さ、そして社会科以外の教科のショボさを熟知されている明久は、科目が社会科以外の内に始末しようと考えた生徒数名に追われていた。

 

そしてこの状況は明久の、ひいては雄二の筋書き通りである。

 

明久「うわぁああ!と、とりあえず教室の中に逃げ込もう!」

『はっ、バカめ!かえって袋の鼠だろうが!』

『所詮はFクラスだな!』

『おい、お前達はそっちのドアから入れ!絶対に逃がすんじゃないぞ!』

 

そんなことは思いもしない彼らは、明久がB教室に逃げ込んだことで勝利を確信する。あとは入念に逃げ道を塞ぎつつ袋叩きにして終わりだと信じて疑わない。

彼らは寸前まて気づかない。自分達が狩人ではなく、ただの獲物であることに。

 

『ちょこまかするな吉井!』

『いい加減観念するんだな!』

雄二「今だ!」

ムッツリーニ「………了解」

『『『……え?』』』

 

全員が教室に足を踏み入れた瞬間、ドア付近でこっそり待機していた雄二とムッツリーニが扉を閉め、密室空間を作り出した。

 

明久「ふっふっふ、まんまとひっかかったね君達」

雄二「やれムッツリーニ」

ムッツリーニ「………加速」

『え?え?』

 

完全に虚を突かれた獲物達は、圧倒的なスピードの〈ムッツリーニ〉に自分達の召喚獣が蹂躙されるさまを見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「『撒き餌作戦』……吉井という餌で自らのテリトリーに誘い込み、土屋の召喚獣で殲滅するという戦術か」

和真「雄二の腕輪で保健体育のフィールドを展開、保健体育でムッツリーニが負けるとは思えねぇし、誘き寄せることさえできれば確実にピースが手に入るな。……でも良いのかよ綾倉センセ、雄二の奴召喚フィールド発生装置のスイッチ切っちまったぜ?」

 

どうやら召喚フィールド発生装置は教卓の中に潜り込ませてあったらしく、先ほど雄二が言っていた準備とは装置のスイッチを切ることだったようだ。

 

綾倉「問題ありませんよ柊君。ルール④の内容は校舎内に設置された召喚フィールド発生装置を壊せば失格とありますが……スイッチを切ってはいけないなどとは何処にも記載されていませんからね。あの発生装置はこちら側から遠隔操作で止めない限りスイッチを切っても5分すれば再び召喚フィールドを発生させます。……ですが坂本君が召喚フィールドを展開しているため、科目指定は保健体育が優先されます」

和真「アンタ本当にやりたい放題だな……。スイッチが切れたときの対応を事前に考えてたかのような口振りからして、これもアンタが組み込んだ裏ルールなんだろ?」

綾倉「ご名答。そしてあの装置は3日前に取り付けられました」

蒼介「おそらく坂本はあの装置を事前に発見し、スイッチの有無やフィールドの結合性質、先に出したフィールドの科目に優先権が発生することを解明し……この作戦を立てたのであろう」

和真「ふーん……ソウスケ、雄二のもうひとつの策ってこれのことか?」

蒼介「ああ。私もA教室であの装置と同じ物を見つけたのでな、もし坂本が見つけていれば何らかの形で利用するだろうと予想していた」

 

二人とやけに強いハイタッチをした後、明久は再び囮役として戦場に赴く。

 

 

 

 

 

 

 




若干説明が多くなってる気がする……。
気を付けなきゃ……。


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激闘!SBF予選①

【バカテスト・英語】
次の英文を和訳しなさい。

If I were assured of the former eventuality I would,in the interests of the public,cheerfully accept the latter.


源太『貴方を確実に破滅させることが出来るならば、公共の利益の為に私は喜んで死を受け入れよう」

蒼介「正解だ。これもシャーロックホームズシリーズからの引用文で、宿敵であるモリアーティー教授の『もし君に私を破滅させるだけの知力があるのなら、私にもまた君を破滅させるだけの知力がある』というセリフに対する返答としてホームズが言い放ったセリフかこの文だ。例え刺し違えようともモリアーティーを倒してみせるという覚悟が感じられるな」


FFF団一同『吉井と坂本と柊を確実に破滅させることが出来るならば、公共の利益の為に俺は喜んで死を受け入れよう』

蒼介「くだらん妬みで迷台詞を穢すんじゃない。大体なんなんだお前達は、何故いつも頓珍漢な回答なのにこういうときに限って惜しいのだ……?」






和真「ところでソウスケ、お前は雄二みてぇに自分のクラスに指示とか出してねぇのかよ?」

蒼介「ああ、ペアで行動した方が良いと助言しただけで基本的にはノータッチだ。予選を免除された私があまり干渉するのはどうかと思ってな」

和真「ふーん…まあ問題無さそうだな。お前のクラスは優子や久保や飛鳥と指揮官の代役が務まりそうな奴が揃ってるし……にしてもツーマンセルか」

蒼介「何か気になることでもあるのか?」

 

バトルロイヤルにおいて単独で行動する場合と集団で行動する場合を比べると、裏切りなどが起きないのならば後者の方が圧倒的に有利なのはわざわざ言うまでもない。特に今回点数の補充ができるチェスピースが戦闘中には使用できないことをふまえると、敵を引き付けておける相方の存在は生存率を何倍にも引き上げるであろう。かと言って人数が多過ぎてはダメだ。周知の通り召喚獣の操作は難しく、大勢での連携ともなるとかなりの操作技量が要求される。蒼介の指示で鍛練を積んだAクラス生徒はある程度操作技術が向上しているとは言えあくまで付け焼き刃、3人以上になるとおそらく足並みを揃えることが難しくなるだろう。よって二人組が最もリスクが少ないであろうというのが蒼介の考えなのだが…

 

和真「いや、方針自体には問題ねぇと思うがよ……お前いないから参加してる2-Aの生徒49人で確実に一人余るじゃねぇか。知らんぞ揉めたり空気がギスったりしても」

蒼介「ああ、そのことなら問題ない。一人余るという時点で率先して単独行動を始める奴がいるのでな」

和真「……ああ、徹か。確かにあのマイペースの権化ならそうするだろうな」

蒼介「大門もお前にだけは言われたくはないだろうが、まあ概ねそんなところだ。……さて、どう転ぶかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に雄二達のテリトリーと化したB教室とは対照的に、Aクラスの教室は戦場と化していた。Dクラスの六倍もの広さを誇るこの教室のあちこちで、Aクラスの生徒がキングピース目当てで侵入してきた他クラスの生徒と激闘を繰り広げている。

 

 

《国語》

『二年Aクラス 工藤愛子  338点   

VS  

 二年Bクラス 菊入真由美 203点』

 

 

菊入「えいっ!」

愛子「おっと」

 

〈菊入〉が渾身の力で降り下ろしたメイスを、〈愛子〉はバトルアックスで難なく受け止める。

 

愛子「ちょっと動きが単調すぎるかな~。点数差もあるんだし、もう少し工夫しなきゃボクには勝てないよ」

岩下「ご忠告どうも!」

 

〈菊入〉とかち合っているため隙だらけの〈愛子〉めがけて、〈岩下〉はハンマーを構えて特攻した。片方が敵を引き付けている内にもう片方が隙をつくという、シンプルだがお手本のような連係プレーだ。

 

愛子(ふ~ん、流石は2-B仲良しコンビ。伊達にずっとコンビ組んでないってことか……でも残念♪)

 

ハンマーが〈愛子〉にクリーンヒットする寸前、〈岩下〉と〈菊入〉に鎖が巻きついて拘束した。

 

岩下「ぅえっ!?」

菊入「な、何これ…?」

佐藤「お二人とも、油断大敵よ」

愛子「実はボクも一人じゃないんだよね~♪」

  

 

《国語》

『二年Aクラス 工藤愛子  338点  

 二年Aクラス 佐藤美穂  323点

VS  

 二年Bクラス 菊入真由美 178点

 二年Bクラス 岩下律子  185点』

 

 

愛子の危機を救ったのはペアを組んだ佐藤の召喚獣の最新武器、二対の『鎖鎌』である。柄に連結された鎖により抜群の射程を持ち、相手の拘束にも長けた応用性の高い良武器だがやや扱いづらく、真正面からでは警戒されては捕らえにくいためその真価は今のような相手の不意をつく場合に発揮されると言えよう。

 

佐藤「愛子、任せたわよ!」

岩下「っ!?いけない、早く解かないと-」

愛子「もう遅いよ!」

 

二人の召喚獣は鎖をほどこうとするが判断が遅かったらしく、〈愛子〉の追撃をまともに喰らってしまう。

 

佐藤「はい、これでトドメ」

菊入「そ、そんな!?」

 

〈佐藤〉は鎖を巧みに操り、未だ絡まったままの二人の召喚獣を壁に叩きつけて息の根を止めた。

 

 

《国語》

『二年Aクラス 工藤愛子  338点  

 二年Aクラス 佐藤美穂  323点

VS  

 二年Bクラス 菊入真由美 戦死

 二年Bクラス 岩下律子  戦死』

 

 

『律子と真由美があんなあっさりやられた!?』

『あの二人を野放しにしておくとヤベェ!』

 

愛子達を驚異と判断した生徒達の召喚獣が一斉に彼女達に襲いかかる。

 

が…

 

 

 

 

?「5連・ソードバースト」

 

意識外より突如飛来した五つの斬撃が、それら全てを切り裂き肉塊にした。

 

『なっ俺達の召喚獣が一撃で……!?』

『まさかこれって、腕輪能力!?』

愛子「あー!もう優子、横取りはずるいよ!」

 

斬撃が飛んできた方向に愛子が不服そうな表情で振り向くと、優子と飛鳥がこちら側に歩み寄ってきていた。

 

優子「ごめん愛子、絶好のチャンスだったから試し斬りしたくて……はいピース」

愛子「まったくもう……固有武器になったからってはしゃぎすぎだよ優子」

 

PDAを操作して今手に入ったピースを半分ほど譲渡しつつ謝罪する優子。傍らに控えた召喚獣が持つ獲物は、5000点以上の召喚獣にのみ与えられる『固有武器』に属する伝説の聖剣……エクスカリバー。

 

飛鳥「ねぇ優子。そろそろ籠城しているだけじゃ相手が少なくなってくるでしょうし、そろそろ教室から出ない?」

優子「それもそうね。それじゃ愛子、決勝で待ってるから」

愛子「あ、ちょ待っ……行っちゃった」

 

強引に話を打ち切りさっさと教室から出ていった優子達に、愛子は思わず溜め息を吐いた。

 

愛子「何だかなー…最近の優子すっかりからかい甲斐がなくなっちゃったよ」

佐藤「まあ、愛子に翻弄されてるようじゃ柊君の相手は務まらないんじゃない?」

愛子「やっぱり和真君の影響か~……心なしかボクの扱いが悪いし、その内ぎゃふんと言わせてやるー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「…と言っているが?」

和真「優子にならともかく、あんなスポーツ刈りの女にいいようにされてたまるかってんだ」

蒼介「ベリーショートと言ってやれ……」

 

本人が聞いていたらまず間違いなく膨れっ面になるような言い草に、流石の蒼介も思わず苦笑する。ちなみに和真の愛子に対する扱いがぞんざいなのは決して気のせいではない。生粋の負けず嫌いであるため表には出さないが、性に奔放な愛子の言動は生娘顔負けの和真には少々刺激が強過ぎる。和真の雑な対応は下手に踏み込まれて手玉に取られないようにするための防衛手段であると同時に、内心ドギマギさせられた腹いせでもあるようだ。

 

和真「……にしても優子のアレ、明らかに固有武器だよな?いつの間に5000点オーバーになったんだ?」

蒼介「ここ一週間の木下の成長は目覚ましいものがあった。おそらくだが、ちゃらんぽらんな誰かさんへの怒りが原動力になったのだろうな」

和真「原因俺かよ…また雄二にネチネチ言われそうだな……あとソウスケ、優子の奴そんなに怒ってた?」

蒼介「『今度という今度は絶対泣かせてやる』とそれはそれは鼻息を荒くしていたな。今の内にある程度覚悟はしておいた方がいいぞ」

和真(もう遅ぇよ……)

 

先ほど優子から受けたお仕置きがフラッシュバックしたのか思わず顔を真っ赤にして俯く和真を、蒼介は興味深そうに観察してゆらりと笑った。

 

蒼介「……その様子だともう泣かされた後のようだな。ふふ、是非ともお目にかかりたかったものだ」

和真「うるせぇボケ」

 

この話は終わりだとでも言わんばかりに和真は別のモニターを物色し、蒼介もそれ以上のの詮索はせず和真に続く。

 

和真「ん~…単独で行動してる奴がどんどん落伍していってるあたり、やっぱバトルロイヤル形式だと点数や操作技術より協調性のある奴が有利みてぇだな」

蒼介「そのようだな。……まあ、何事にも例外はあるようだが(チラリ)」

 

蒼介が視線を向けた先のモニターには、圧倒的な強さで召喚獣を蹴散らしていく徹が映し出されていた。

 

和真「うっわ容赦ねぇ。まああいつの能力『リフレクトアーマー』は、今回の形式にはうってつけだしな。これで一年生とかち合って失格したら笑えるんだが」

蒼介「確かに滑稽だが大門は相当抜け目のない奴だ、そのような愚を犯すことは無いだろう」

 

そんな感じで適当に談笑しながらぶらぶら歩いている二人に、梓とリンネが歩み寄ってきた。

 

梓「なぁなぁ和真、ちょっとええか?」

和真「あん?どうした梓先輩、と……」

リンネ「ボクはリンネ・クライン!スウェーデンからきたコウカンリュウガクセイだヨ!」

和真「ほう、お前が予選免除された最後の一人か。俺は柊和真、よろしくな」

リンネ「うん、よろしくね和真!にひー」

蒼介「それで佐伯先輩、何かあったのですか」

梓「あっちの方のモニターで和真のクラスメイト二人がえらい追い詰められてるから教えたろ思てな」

和真「何……?」

 

梓の指差した方角に視線をやると、秀吉と美波の召喚獣が窮地に立たされていた。そして彼女達を追い詰めている生徒が誰かというと…

 

蒼介「黒木と宗方……!?バカな、奴らはまだ…」

 

召喚獣を手に入れて間もないため操作慣れしていないはずの一年生……黒木鉄平と宗方千莉の生徒会コンビであった。

 




【注目生徒データ①】

・工藤愛子(二年Aクラス)

〈召喚獣〉パワー型

〈武器〉バトルアックス

〈能力〉雷撃(消費50)……召喚獣に電気を纏わせる。

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……338点
国語……341点
数学……346点
理科……362点
社会……330点
保体……583点

総合科目……4017点



・佐藤美穂(二年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉鎖鎌

〈能力〉不明

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……348点
国語……319点
数学……412点
理科……403点
社会……339点
保体……316点

総合科目……3958点








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激闘!SBF予選②

バトルロイヤルと言いつつメイン戦闘は結局少人数です。私の文章力なんてこんなもんですよ……。


美波と秀吉のコンビはEクラスの教室にて、籠城していたEクラスの生徒と激闘を繰り広げていた。……いや、激闘と言えるほど拮抗した闘いではないのだが。

 

 

美波「これでトドメよ!」 

 

〈美波〉のランスと〈秀吉〉の刀は既に満身創痍である二体の召喚獣の息の根を止めた。

 

三上「あぁっ!」 

中林「そんなっ!?」

秀吉「すまんのう、お主らはここで脱落じゃ」

 

 

《理科》

『二年Fクラス 島田美波 141点

 二年Fクラス 木下秀吉 288点

VS

 二年Eクラス 中林宏美 戦死

 二年Eクラス 三上美子 戦死』

 

 

闘っていた相手はEクラス代表の中林と、Dクラスの平賀と付き合っているらしい副官の三上。名実ともにEクラスのツートップであるが、打倒Aクラスを目指している今の秀吉達の敵では無かったようだ。自分達のトップが一方的にやられる光景を目の当たりにしたEクラスの生徒達は蜘蛛の子を散らすように教室から出ていった。

 

美波「追うわよ木下!」

秀吉「うむ、労せず倒せる相手を逃がすわけにはいかんのう!」

 

乱獲対象を見逃すはずもなく、美波と秀吉は召喚獣を引き連れ廊下に飛び出した。

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

《理科》

『二年Aクラス 木下優子 455点

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点

VS

 二年Eクラス 園村俊也 戦死 

 二年Eクラス 源涼香  戦死

 二年Eクラス 花井大  戦死

 二年Eクラス 湯浅弘文 戦死』

 

 

追おうとしたEクラス生徒達は、既にAクラスきっての女傑コンビに全滅させられていた。〈飛鳥〉の装備は忍装束と両手に嵌められた鉤爪、〈優子〉の装備は騎士鎧に固有武器『エクスかリバー』である。

 

秀吉「あ、姉上……」

優子「あら秀吉、奇遇ね-」

美波「逃げるわよ!」

秀吉「わかっておる!」

優子「あ、ちょっ、こら待ちなさい!?なによその化け物か何かに遭遇したかのようなリアクションは!?」

 

秀吉達は優子の制止も聞かず一目散に逃走した。戦力差を考えると彼らの判断は何もおかしくはないが、美波はともかく実の弟にああいう反応をされると流石の優子でも少し(あくまでほんの少しだが)傷ついたらしい。

 

優子「秀吉の奴~、どうしてくれようか…」

飛鳥「今は放っておきなさいな。あの二人を相手するにはポーンピース2つじゃ割に合わないわ。……!」

優子「それはわかってるけど-っ!?」

 

こちらに近づいてくる気配を察知した二人が警戒心を強めると、前方から熱線が飛来してきた。学年でも屈指の成績を誇る彼女らの召喚獣だろうと直撃すれば致命傷ものではあるが、直前に察知して警戒体勢を取っていたため難無く避けることができた。間髪入れずに姫路とその召喚獣が優子達の元へ歩み寄ってくる。

 

 

《理科》

『二年Aクラス 木下優子 455点

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 432点』

 

 

姫路「美波ちゃん達を追わせはしませんっ!」

飛鳥(追うつもりなんてなかったんだけどなぁ……)

優子(まあどっちにしろ対峙したからには闘うしか無いか……それにしてもあの赤い剣……)

 

優子は〈姫路〉が握りしめている赤色の長剣……『レーヴァテイン』に注目する。以前までの大剣は強そうではあるものの普通の範疇に収まる武器であったが、あの赤色の長剣は明らかに一点物……5000点オーバーの証、『固有武器』であろう。他の教科は不明だが少なくとも《理科》の点数が以前より向上していることも裏付けとなっている。

 

飛鳥(まだ秀吉君達と闘ってた方がマシだったね……この子倒してもたった一点なんて、割に合わないにもほどがある)

優子(かといって簡単には逃がしてくれそうもないし、腹を決めるしかないか。……それにしても、秀吉達の逃げた先は一年生達がいる二階だけど大丈夫かしらね?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美波「ふう……どうにか逃げ切ったわね」

秀吉「橘はまだしも、腕輪能力持ちの姉上と真っ向勝負は自殺行為じゃからなぁ。それにしても……」

 

 

《数学》

『二年Fクラス 島田美波 318点

 二年Fクラス 木下秀吉 294点

VS

 一年Eクラス 薬師寺静 153点

 一年Fクラス 宮本絢音 176点』

 

 

『あ、あれ!?』

『なんで思い通りに動かないの!?』

 

優子達が階段付近で待ち構えている可能性も無くはないため秀吉達はしばらく二階に留まることにしたのだが、ただ待っているだけでは暇なので近くにいた一年生達を次々と打ち倒していく。

 

美波「やっぱり一年生達は召喚獣の操作に慣れてないわね。……ねぇ木下、せっかくだから教室に入ってみる?」

秀吉「むぅ……あまり欲を出すのは危険だとは思うがの」

美波「平気平気♪他の科目ならともかく、外国語と数学ならそうそう負けないって」

 

やや気乗りしない秀吉を強引に押し切り、文化部部室の扉に手をかける美波。しかし美波が扉を開けるタイミングとほぼ同時に、二体の召喚獣が文化部部室の壁をすり抜けて現れ、秀吉と召喚獣を取り囲んだ。召喚獣が物理干渉できないことを逆手に取って高等テクニックである。

 

秀吉「な、なんじゃ!?」

美波「木下!?」

 

美波は慌てて秀吉のもとにかけつけ、背中合わせで個々の召喚獣に向かい合う形になる。一拍遅れて教室の両側の扉から秀吉達を囲うように、黒木鉄平と宗方千莉の生徒会役員コンビが出てきた。

 

鉄平「何やら廊下で暴れまわっている熱血な輩を見に来たというのに、まさか上級生の方々だったとは……嘆かわしい!操作慣れしていない後輩を蹂躙して得意気とは、アンタらはそれでも漢かよ!?」

美波「違うわよ!?どこをどう見ればウチらが男に見えるのよ!」

秀吉「いや島田よ、ワシは男であっておるぞ……」

千莉「太閤殿下……よもやこのような場で貴殿と相見えようとは、恐悦至極に存じます」

秀吉「宗方……いつも言っておるが、確かにワシは“秀吉”じゃがその接し方は恥ずかしいのでやめてほしいのじゃ……」

 

臣下の礼をとりつつやたらと持ち上げてくる部活の後輩に、秀吉はげんなりした表情で懇願する。

宗方千莉はある意味では秀吉以上の役者魂を持つ女子生徒であり、武士系の役しか演じることができないかわりに、舞台上から日常生活至るまで常に演技し続けているという変人だ。秀吉は彼女の演劇の才能には注目しつつも、自分の名前が秀吉だからってやたらと天下人扱いされることにはかなり辟易していた。

 

千莉「……御意。それではこの場は無礼講で臨もう……いざ尋常に勝負でござる!」

鉄平「その腐った根性を叩き直してやる!熱血指導だ!」

 

〈千莉〉と〈鉄平〉が武器を構え戦闘体勢に入る。〈千莉〉の装備は武者鎧に太刀と脇差しの二刀流、〈鉄平〉の装備は軽装にセスタス(グローブ状に固く編み込まれた紐)だ。

 

 

《数学》

『二年Fクラス 島田美波 318点

 二年Fクラス 木下秀吉 294点

VS

 一年Aクラス 黒木鉄平 325点 

 一年Cクラス 宗方千莉 253点』

 

 

秀吉「やむを得ん……島田、そっちは任せたぞい!」

美波「誰の根性が腐ってるって?……上等よ、返り討ちにしてやるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃三階では…

 

姫路「やぁっ!」

優子「甘い!」

 

〈姫路〉は渾身の力でレーヴァティンを降り下ろしたが、〈優子〉はバックステップを織り混ぜつつそれを受け止める。バランス型の〈優子〉ではパワー特化の〈姫路〉と普通にぶつかれば力負けしてしまうが、後ろに下がりつつ受け止めることで衝撃をうまく殺した。

〈優子〉が受け止めているその隙に、〈飛鳥〉は〈姫路に〉急接近して鉤爪を振るう。〈姫路〉は寸前に回避行動をとったことで直撃は免れたものの、〈優子〉をフリーにしてしまったことに姫路は狼狽する。しかし姫路の予想に反して〈優子〉は追撃せず、様子を伺うようにその場に佇んでいた。

 

 

《理科》

『二年Aクラス 木下優子 438点

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 277点』

 

 

さしもの姫路と言えど二対一…それも優子と飛鳥のペア相手に単独では分が悪かったのか、次第に追い詰められていく一方であった。

 

優子「……飛鳥、ここは引くわよ」

飛鳥「ん、了解」

姫路「っ!?ま、待ってくださいっ!」

 

圧倒的優位に立っていたはずの二人が突然勝負を投げ出したことに、姫路は慌てて止めにかかる。

 

優子「瑞希、もうわかるでしょ?いくらアンタでもアタシ達二人を一度に相手したら勝ち目が無いって」

姫路「それは、そうですけど……。だ、だったらなんでお二人は……」

優子「余計なリスクは避けたいからよ。アンタが生き残ることを度外視して“オーバークロック”を使われたらアタシ達もただじゃ済まないだろうし」

 

“オーバークロック”は大きすぎる代償と引き換えに、いかなる劣勢をも覆す可能性を秘めている。それを警戒した二人は実力差を見せつけてた後に退散することにしたのだろう。

 

優子「それに、早く秀吉達を追いかけた方が良いんじゃない?取り返しがつかなくなる前に」

姫路「……え?ど、どういうことですか?」

飛鳥「予選が始まる前にクラスの全員、できるだけ二階には行かないようにって蒼介から忠告されたのよ。それってつまり、私達Aクラスの生徒でも手に余るほどの相手が一年生にいるかもしれないってこと」

優子「ほら、秀吉や美波が心配ならさっさと行きなさい。見逃してあげるから」

姫路「あ、ありがとうございますっ!」

 

礼を言いつつ二階へ向かう姫路を見送りつつ、優子は呆れたように溜め息をつく。

 

優子「アタシや久保君にも忠告されたってことは瑞希も安全とは言えないでしょうに……。友達想いと言うか甘ちゃんと言うか……」

飛鳥「まぁそこが瑞希の良いところ(ウィーン)……あ、科目が切り替わったわ」

 

 

《外国語》

『二年Aクラス 木下優子 499点

 二年Aクラス 橘飛鳥  428点』

 

 

優子「え?アンタ英語400点越えてたの?」

飛鳥「英語じゃなくてフランス語だけどね。小学生の頃はフランスにいたから、実は英語より染み付いているのよ。柔道を始めたのもそれがきっかけだし、意外と思い入れがあってね」

 

補足をすると、現在フランスの柔道競技人口は日本の4倍以上と、日本を差し置いて世界一の柔道大国になっている。またフランスでは体育の選択科目として柔道を選べるようになっているが、約90%の小学生が柔道を選択しているため、どの町にも柔道場が整備されているそうだ。

 

飛鳥「まあそれはともかく……まだ30分しか経ってないけど、既に結構な人数が脱落したようね」

優子「一年生はともかく、二・三年生は積極的に腕輪能力が使用されているからね。弱者はどんどん落伍していくわ」

飛鳥「それはつまり時間が経つにつれ必然的に-」

 

飛鳥の言葉が言い終わる前に巨大な黒い腕が二人の召喚獣に襲いかかる。〈優子〉は自身の能力『ソードバースト』を発動し、エクスカリバーより放たれた斬撃は黒腕と相殺し消滅した。

 

 

 

《外国語》

『二年Aクラス 木下優子  409点

 二年Aクラス 橘飛鳥   428点

VS

 二年Bクラス 根本恭二  303点

 二年Bクラス 五十嵐源太 627点』

 

 

優子達の視線の先には、好戦的な笑みを浮かべつつ歩み寄ってくるBクラス代表の根本と副官の源太がいた。

 

飛鳥「必然的に、厄介な相手だらけになってくるわね」

優子「ええ……上等よ、誰が相手だろうとぶっ倒してやるわ」

 

 




【注目生徒データ②】
・五十嵐源太(二年Bクラス)

〈召喚獣〉パワー型

〈武器〉ハルバード

〈能力〉巨人の爪(消費50)……鋭い爪のある巨大な腕を生み出す。無数の小さい爪に変化させたりと色々応用が効くようだ。

〈オーバークロック〉千の刃(全教科から消費150)
……フィールドを埋め尽くす大量のナイフ。一つ一つの攻撃力はたかが知れているが、有無を言わさぬ数の暴力で押し潰す。

〈成績〉
外国語……677点
国語……241点
数学……250点
社会……246点
理科……253点
保体……246点

総合科目……3580点



・根本恭二(二年Bクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉ククリ刀

〈能力〉無し

〈成績〉
外国語……303点
国語……242点
数学……196点
理科……217点
社会……251点
保体……225点

総合科目……2643点


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激闘!SBF予選③

【注目生徒データ③】
・橘飛鳥(二年Aクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉両腕に鉤爪

〈能力〉不明

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……428点
国語……315点
数学……287点
理科……302点
社会……344点
保体……301点

総合科目……3653点



・木下優子(二年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉エクスカリバー

〈能力〉ソードバースト(消費:1~100)……点数を消費して斬撃を飛ばす。消費した点数に比例して斬撃が強くなり、最大五連発まで同時発射可能。

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……499点
国語……492点
数学……497点
理科……495点
社会……496点
保体……484点

総合科目……5442点




………優子さんの成績が爆上げした原因の7割は和真君への怒り(S・B・Fで和真をコテンパンにするつもりで勉学に取り組んだため。勿論操作技術もしっかり向上している)で、残りの3割は翔子さんへのリベンジのためです。

要は10割和真君のせいです。

和真「いや、確かに翔子へのライバル心を煽ったの俺だけどよ……」






召喚獣の操作は難しい。

それは文月学園関係者全員の絶対かつ不変の共通認識である。自分の身体とは頭身が大きく異なり、身体能力も並の人間とは比べ物にならないほど高いのだから、上手く操れるようになるためには必然的にそれ相応の慣れと経験が必要であるし、己の手足のように自由自在に操れるレベルに至った生徒は今のところ明久、高城、梓のたった三人しかいない。

そして二年生の総括的な操作技術は三年生に劣るのと同様、当然一年生は二年生に劣る。それどころかつい最近召喚獣を手にした一年生と二年近くに渡って召喚獣を操作してきた二年生では、実力は天と地ほど離れていると言っても過言ではない。故に鉄平&千莉との闘いはさほど苦戦することはないだろうと秀吉達は高を括っていた。点数こそ伯仲しているが操作慣れしていない一年生に遅れを取ることはない……と。

 

 

 

美波「くっ……!」

秀吉「これは、驚いたのう……!」

宗方「笑止……拙者達を労せず討てると思うたか、このうつけ共が」

鉄平「あまりガッカリさせんなよ先輩方……こんなんじゃ全然熱くなれねェよ」

 

 

《数学》

『二年Fクラス 島田美波 224点

 二年Fクラス 木下秀吉 238点

VS

 一年Aクラス 黒木鉄平 306点 

 一年Cクラス 宗方千莉 242点』

 

 

しかし現実には二年生達が追い込まれているという、信じがたい光景が広がっていた。

 

鉄平「ほらほらどうしたァっ!幾多の試召戦争を勝ち抜いてきた2-Fの実力はこんなもんかよ!?だとしたらガッカリさせてくれるぜこの野郎!」

美波「なんですってこの Ein heißer Typ(暑苦しい奴)!」

 

〈美波〉は主の怒りに呼応するかのようにランスで〈鉄平〉の首を狙う。が、

 

鉄平「日本語喋れや!」

 

〈鉄平〉は紙一重でそれを避け、ランスを引き戻すより先に〈美波〉に急接近しボディーブローを喰らわせた。

 

美波「そんな!?」

秀吉「島田よ、熱くなるでない!それでは相手の思う壺-」

千莉「貴殿に余所見をする暇など在ろうか!」

 

秀吉が劣性の美波に気を取られた隙を逃さず、〈千莉〉は〈秀吉〉に向かって袈裟斬りを放つ。咄嗟に防御体勢に入りなんとか受け太刀して凌ぐが…

 

千莉「そちらは脇差し()……こちらが太刀(本命)でござる!」

秀吉「し、しまった!」

 

〈千莉〉が二刀流であることを失念していた〈秀吉〉は、太刀(本命)による袈裟斬りをまともに浴びてしまう。仕様が変更されたおかげで真っ二つは避けられたが…

 

鉄平「友達に対して的外れなアドバイスはやめてやれや木下先輩……アンタらが弱ェのはな、熱さが足りないからなんだよォォォ!」

 

成す術無く後方に吹き飛ばされた〈秀吉〉の背後にすかさず〈鉄平〉が回り込み、急所目掛けて渾身のボディーブローを放つ。

 

美波「させないっ!」

 

フリーになった〈美波〉が必死に伸ばしたランスの先で受け止めたおかげで、〈秀吉〉にその拳が届くことはなかった。

しかし美波のこの行動はファインプレーに見えてその実紛れもない悪手である。何故なら鉄平の意識は完全に秀吉への追撃に向いていたのだから、その利を活かすためには美波は秀吉のカバーではなく不意をついて攻撃するべきだった。彼我の差がはっきりある相手に下手な守りなど、ただ付け入る隙をプレゼントする行為でしかない。

 

鉄平「しゃらくせェェェ!」

美波「えっ-嘘でしょ!?」 

 

ブローが防がれた直後、〈鉄平〉はランスの先を両手で掴んで自分の方にに引き寄せる。パワーは拮抗しているため手元まで引っ張り込まれるようなことはなかったが、急に引っ張られたせいで〈美波〉はバランスを崩してぐらついてしまう。〈鉄平〉はすかさず懐に入り込んで…

 

鉄平「ウォォォ!熱血だァァァァァ!!!」

 

バコォォオオオン!!

 

渾身のアッパーカットを決めた。

 

美波「あぁっ!?」

秀吉(ま、マズい!?もう島田の点数が…ワシがなんとかカバーに-)

千莉「余所見をするなと言った筈でござる!」

秀吉(っ…変則的で捉えきれん……!)

 

吹き飛ばされた〈美波〉の援護に回ろうとした〈秀吉〉を、二刀流で追い詰め妨害する〈千莉〉。

使い手が未熟なら太刀筋が軽く隙も大きい二刀流だが、〈千莉〉は二振りの刀をかなりのレベルで使いこなしている。〈秀吉〉も日本刀で応戦するが、圧倒的な手数の差にあれよあれよと追い込まれ、とうとう決定的な隙をさらしてしまい太刀による刺突が直撃してしまう。

 

 

《数学》

『二年Fクラス 島田美波 98点

 二年Fクラス 木下秀吉 103点

VS

 一年Aクラス 黒木鉄平 306点 

 一年Cクラス 宗方千莉 242点』

 

 

初めは拮抗……むしろ二年生側が上回っていた筈の点数は、あっという間に大差をつけられてしまった。

 

美波(強い……けど、なんで一年生が召喚獣をここまで上手く操作できるのよ!?この時期のウチらなんてまっすぐ歩くのも手こずったのに……まあそれはさておき、こういう場合は…)

秀吉(こやつらの実力は間違いなくワシら以上じゃ。三年生レベル……いや、和真にも匹敵するじゃろう。しかしなぜじゃ…?努力やセンスだけでは説明つかんぞい……まあそれはともかく今やるべきことは…)

 

敵の追撃を警戒しつつ、お互いの召喚獣が体勢を立て直したことを確認すると…

 

秀吉・美波「「逃げるわよ(のじゃ)!」」

 

二人は召喚獣を連れて階段に向かって逃走した。

『勝てないと判断した場合は即逃走』。ごく一部の化け物どもを除いたFクラス生徒が共有する信条である。卑怯や臆病などの謗りは三流の言い分、勝てないと他でもない自分自身が思っている相手への特攻など犬死に以外の何物でもなく、少なくとも勝利に繋がらない勝負に意味などないという、ある種割り切った考えだ。

そして今回の場合この判断は正しい。百歩譲って最初の点数ならまだしもここまで点差の開いた状況の上相手は完全に格上である以上、万に一つも勝機は無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ただし相手が逃がしてくれるかどうか、逃げ切れるかどうかはまた別の話なのだが。

 

千莉「敵前逃亡は士道不覚悟……背中の羽織が泣いておるでござるよ」

鉄平「つくづく腐った根性の連中だぜ!俺の熱血指導で叩き直してやる!」

 

秀吉達が階段に駆け込むより先に、千莉達の召喚獣が行く手を阻む。ノーリスクでこの場を切り抜けるのは不可能だと諦めた秀吉は、ピースの譲渡による取引を持ちかけることにする。

 

秀吉「…………降参じゃ。ポーンピースを計5つ譲渡する代わりに見逃してくれるかのう?」

鉄平「却下だ。アンタらはここでくたばっとけ」

 

しかし交渉の余地など無いと言わんばかりの態度で鉄平に一蹴される。なんの口も挟まないところから考えて、おそらく千莉も同意見なのだろう。

 

秀吉「……よいのか?ワシらを倒したところで手に入るのほポーンピース二つのみじゃ。それではお主らのメリットは薄いじゃろう?」

鉄平「生憎と俺達の予選勝ち抜けはもう確定的なんでな、いちいち見逃す必要はないんですよ」

千莉「もう未練はあるまい?では……そろそろ往生するでごさる!」

 

その啖呵を皮切りに二人の召喚獣が武器を構えて〈秀吉〉に向かって突撃してくる。

 

美波(ダメ…どうやっても勝てそうもない……っ!)

秀吉(ここまで、じゃな……)

 

対抗する手段はおろか生き延びる術も全て失い、とうとう二人が諦めたそのとき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路「やめてくださいっ!」

 

 

《数学》

『二年Fクラス 島田美波 98点

 二年Fクラス 木下秀吉 103点

 二年Fクラス 姫路瑞希 522点

VS

 一年Aクラス 黒木鉄平 306点 

 一年Cクラス 宗方千莉 242点』

 

 

優子達との勝負を終えた姫路がようやく到着した。

 

美波「み、瑞希!?」

秀吉「なぜお主が二階に……?」

姫路「二人ともっ、助けに来ましたよ!」

千莉「ほう……新手でござるか」

鉄平「あの点数……生半可な相手じゃないようだな」

 

鉄平は秀吉達への警戒を千莉に任せつつ、姫路と対峙し睨めつける。それに対して姫路はやや気圧されながらも、毅然として鉄平と向き合い口を開く

 

姫路「美波ちゃん達から手を引いてください」

黒木「は?嫌だね。点数差があるからってあまり勝ち誇ら-」

姫路「でないと、お二人の召喚獣を“オーバークロック”で倒します!」

秀吉「なんじゃと!?」

美波「瑞希!?ダメよ!そんなことしたら…」

 

仲間である秀吉達さえ驚愕した脅迫内容に当然鉄平達も一瞬面食らうが、すぐに冷めた目で呆れたように諭す。

 

鉄平「何を言い出すかと思えば……そんなことしたらアンタ、失格になるって説明されただろうが」

姫路「………でも倒すことはできますよ?」

鉄平「何を行って……っ!?アンタまさか、失格してでも俺達の召喚獣をしとめるつもりかよ!?」

 

綾倉先生が考えた予選のルールにはいくつか裏がある。召喚フィールド発生装置を破壊すれば失格だがスイッチのオンオフには特に制限が無かったり、金銭面の取り引きは禁止だがそれ以外は許可されていたり……。

そして今回はルールその⑧『二・三年生は一年生の召喚獣に対する金の腕輪関連の能力の一切の使用を禁止する』の裏だが……確かにこのまま姫路が腕輪能力の発展技である“オーバークロック”で鉄平達を倒せば規定により姫路は失格なのだが……腕輪能力によって戦死した一年生の召喚獣に対する措置は何もかかれていない。これはつまり………腕輪能力で倒されたからといって脱落を免れるわけではないのだ。

 

姫路「さあ、どうしますか?私と一緒にリタイアか、それとも……」

鉄平「…………」

千莉「…………」

 

鉄平と千莉は探るような目付きで姫路をしばらくの間じっと見つめる。姫路の意図を理解した秀吉達は固唾を飲んでそれを見守る。そしてとうとう折れたのか、鉄平達は降参の異を示す。

 

鉄平「仕方ねェな……はっきり言って不完全燃焼だが、アンタの漢気に免じて見逃してやらァ」

千莉「うむ。仲間のために刺し違えても拙者達を倒そうとするその心意気……まさしく武士道でござる」

姫路「あ、ありがとうございますっ。いきましょう二人とも!」

秀吉「う、うむ。すまんのう姫路、助かったぞい」

美波「アンタ達覚えてなさいよ……決勝戦じゃこうはいかないからね!」

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が階段をかけ上がっていくのを見届けた鉄平達は、後ろから歩み寄ってくる二人のほうを振り向く。そこにいたのは鉄平達と同じ生徒会役員……綾倉詩織と志村泰山のツートップだ。

 

泰山「君達が敵を見逃すなんて、珍しいこともあるもんだねぇ」

鉄平「俺達以上に熱いハートの先輩に免じてな。……それよりそっちは終わったのかよ?」

 

泰山は見るものに安心を与える満面の笑みで、鉄平の疑問を肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泰山「なんとか終わったよぉ。……これでもう一年生は、早くも僕達四人だけになっちゃったねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




姫路の“オーバークロック”脅しは予選前に和真が、言葉だけで仲間を守れるようにと面白半分にこっそり仕込んでました。


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激闘!SBF予選④

【注目生徒データ④】

・木下秀吉(二年Fクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉日本刀

〈能力〉無し

〈成績〉
外国語……299点
国語……298点
数学……294点
理科……295点
社会……300点
保体……292点

総合科目……3264点


・島田美波(二年Fクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉ランス

〈能力〉不明

〈成績〉
外国語……482点
国語……89点
数学……318点
理科……154点
社会……152点
保体……129点

総合科目……2519点


仕様により優子さんが強化される度に点数が上昇していく秀吉君ですが、優子さんが異次元の点数を取らない限り腕輪能力が身に付かないのが今後結構痛手かも。


 



 

和真「なんとか生き残ったか……ったく、いちいち危なっかしい奴らだぜ」

蒼介「危なっかしい云々は島田も木下も、お前にだけは言われたくはないだろうがな」

リンネ「エ、どういうコト?」

梓「和真は文月学園危なっかしい奴筆頭てことや」

和真「言いたい放題だなオイ……」

 

苦虫を噛み潰したようになる和真だが、彼は相手が格上だと事前にわかっていようと嬉々として喧嘩吹っ掛けていくスタンスなので何も言い返せない。

 

梓「にしてもあの二人、一年にしてはええ動きしとったなぁ……()()()()()()()()()()()()や」

和真「流石にアンタほどじゃねぇけど、俺や蒼介と比べても遜色無ぇレベルだな」

リンネ「1ネン生ってコトは召喚獣をモラッてまだ2かゲツくらいダヨネ?そんなすぐジョウタツするとはオモえないなぁ……」

蒼介「ああ、彼ら二人だけでも十分異様な光景だ。だがそれ以上に……」

 

そう言いながら蒼介は左隣のモニターに視線を移す。そのモニターには教師によって地下の特別補習室に連行されようとしている一年生……およそ200人以上が映し出されていた。

 

蒼介「綾倉詩織と志村泰山……この二人の異常性はより際立っている」

 

モニターの左下に表示されている獲得ポイントランキングでは詩織と泰山がツートップの座についており、さらにモニターの右下に表示されている残り人数表では一年生の表示が『4/300』となっている。

 

リンネ「エエと、これッテつまり……」

和真「俺らが秀吉達の闘いを見物している間に、ほぼ全ての一年生を全滅させたってことだな」

梓「腕輪能力も無いのにようやるわ。いや一年相手やったらウチかてできんこともないやろうけどもやな、それってようするに……」

蒼介「ええ、さきほどあの二人の召喚獣の動きを見たところ……おそらく彼女等の操作技術はあなたや高城先輩、吉井にも匹敵するでしょう」

 

あり得ないと言わんばかりに絶句する梓とリンネ、面白そうな玩具を見つけたような笑顔を浮かべる和真、そして詩織達への警戒を大幅に強める蒼介。

 

蒼介(念のため木下達には事前に忠告してはいたがまさかこれほどとはな。あの四人、まさか……だが私の目が確かならば志村、宗方、黒木には悪意が無い。……となるとやはり怪しいのは綾倉詩織。綾倉先生の娘という立場を上手く使って試験召喚システムのデータを掠め取ったと仮定すれば、話の辻褄があってしまう。しかし綾倉詩織からも悪意は読み取れん……何なんだあの親子は、二人揃って何を考えているかわからんとは……とにかく綾倉詩織には十分注意しなければ)

 

このとき蒼介は明らかに重大な見落としをしているのだが、それに気づくことになるのはもう少し後の話。

誤解を招かないよう補足しておくが、蒼介自身に落ち度があるわけではない。ただ、彼らの敵が一枚も二枚も上手だったというだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、三階の階段付近では…

 

 

《外国語》

『二年Aクラス 木下優子  219点

 二年Aクラス 橘飛鳥   328点

VS

 二年Bクラス 根本恭二  41点

 二年Bクラス 五十嵐源太 184点』

 

 

根本「ヤバい!俺多分あと一撃で死ぬ!」

源太「飛鳥テメェ汚ぇぞ!さっさと降りてきやがれ!」

飛鳥「あら、人の能力にケチつけないでくれるかしら。それに源太……よそ見してると危ないよ?」

源太「あ?-うぉおっ!?」

 

腕輪能力『黒羽』を駆使して上空からチマチマと羽を飛ばしてくる〈飛鳥〉に気を取られている隙をついて、五連の飛ぶ斬撃が〈源太〉に襲いかかる。

 

 

《外国語》

『二年Aクラス 木下優子  169点

 二年Aクラス 橘飛鳥   328点

VS

 二年Bクラス 根本恭二  41点

 二年Bクラス 五十嵐源太 18点』

 

 

とっさに『巨人の爪』で防ぐが、直撃こそ避けたものの何発か掠ってしまい、ついでに腕輪能力発動により点数も消費され瀕死に陥ってしまった。

 

源太「チッ、ここまでか……」

優子「潔いわね。それじゃあお望み通り……と言いたいところだけど、一人ずつピース30点分くれたら見逃してあげるわよ?」

源太「はぁ!?一人30点ってことは計60点!?いくらなんでも足下見過ぎだろテメェ!」

優子「嫌なら別に良いわよ?そんなに安いプライドが大事なら一思いに葬ってあげるから。泥水啜っても生き延びる覚悟も無いヘタレに用は無いし」

源太「こ、このアマ……!」

 

この場は引いておくべきだと頭では理解しつつも、明らかに誰かさんの影響を受けたと思われる優子の煽りスキルと駆け引きにキレそうになる源太。それを見かねた根本が源太に代わって交渉を引き受ける。

 

根本「……仕方ない、要求を飲んでやるよ」

源太「なっ!?根本テメェ!」

根本「五十嵐、プライドは結果に対して持て。……この借りは決勝トーナメントで返すぞ」

源太「!………チッ、わーったよ」

 

かつて『卑怯』の二つ名で呼ばれ忌み嫌われた根本恭二はもういない。

 

根本(……ハッキリ言って、俺や五十嵐の実力じゃ優勝は無理だ。しかしこれだけの規模の大会なら決勝トーナメントに進めれば、優勝できなくても何かしらの報酬があると見て間違いない。俺は確実にそれを狙いに行く。五十嵐とある程度仲の良いこいつらなら喧嘩を売ってもピースを引き換えに見逃してくれると踏んで挑んだが何とかうまくいったな。これで勝率度外視で突っ込みかねない五十嵐に、何がなんでも決勝トーナメントに勝ち上がらなければならない理由ができた。あとはもうこの理由を引き合いに強そうな相手を避けるよう誘導して、確実にピースを稼いでいけば良い)

 

今の彼は言うなれば……『狡猾』。

 

正道や王道には程遠いことに変わりはないが、目先の勝敗に拘らず一時の感情にも流されず、自分により有利な選択を冷静に見極められる、和真を初めとした『アクティブ』(負けず嫌い集団)のメンバー達が決して持ち得ない眼力を備えるようになったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時期、四階の渡り廊下では…

 

 

『何これ!?どういうこと!?』

『召喚獣を上手く動かせねぇ!?』

小暮「ふふふ……その様子だと、わたくしの『黒死蝶』と相対するのは初めてのようですわね」

 

 

《国語》

『三年Aクラス 小暮葵  354点

VS

三年Cクラス 九重伸介  176点

三年Cクラス 島本美奈  168点

三年Cクラス 磯谷金冶郎 163点

三年Cクラス 別府アキ  169点

三年Cクラス 恩田敏夫  162点』

 

 

小暮葵の腕輪能力『黒死蝶』。点数を10消費することで、触れた召喚獣に二種類の状態異常を引き起こす黒い蝶を任意で選び産み出すことができる。状態異常は時間と共に点数を減少させる「毒」と、操作を阻害し動きを鈍らせる「麻痺」だが、どうやら今回小暮が用いたものは後者のようだ。

 

小暮「こうなってしまえば、後は狩るだけですわ」

『格下クラスだからってあまり俺達を舐めるなよ……!俺達はお前らAクラスに最後に一矢報いようとクラス単位で団結したんだ!』

 

リーダー格らしき男の言葉を皮切に数十人のCクラスらしき生徒達と召喚獣がぞろぞろとやってきて、小暮と召喚獣の周囲を取り囲んだ。

 

『どうだ、流石に腕輪持ちのAクラス様でもこの人数は捌ききれまい!』

小暮「そうですわね。わたくし一人ではこの戦局を切り抜けることは到底不可能でしょう。……ですが詰めが甘いですわ。頼りになるクラスメイトとは、何も貴殿方の特権ではございません」

『……?何が言いたい?』

 

その質問には答えず〈小暮〉はさらに10頭の黒死蝶を産み出し、その蝶を寄せ集めて上に乗ることで宙に浮かんだ。Cクラスの生徒達が〈小暮〉の行動に疑問を持ったり状態異常は本人には効果が無いことに気を取られたりした瞬間、

 

 

 

 

 

突如飛来した暗黒物質が、宙に浮かんでいる〈小暮〉以外の廊下にいた全ての召喚獣を飲み込み消し飛ばし、さらに向こう側にいた小暮達とは無関係の召喚獣も数体飲み込み、一番奥の壁に着弾した。

 

『はぁっっ!?』

『い、いったい何が起こったの!?』

杏里「あなた達の敗因は葵に気を取られすぎて、私の射線にいることに気付けなかったこと……」

 

困惑する彼らの背後の階段から、今の攻撃の首謀者である杏里がゆっくりと歩いてきた。左腕に嵌めている青銅の腕輪が起動していることから、どうやら一日一回の支援(アシスト)を使用したらしい。

 

『み、宮阪!今のはお前の仕業か!?』

杏里「御名答……。私の『ダークマター』は全腕輪能力中最高威力……喰らえば助かる見込みは無い……」

 

 

《国語》

『三年Aクラス 宮阪杏里   139点

 三年Aクラス 小暮葵    254点

       Cクラス生徒×25 戦死

       Bクラス生徒×3 戦死  

       Dクラス生徒×2 戦死』

 

 

小暮(卒業前にわたくし達Aクラスに一矢報いようとクラス単位で襲ってくるかもしれないので、そのときはうまく誘導して杏里の能力で一網打尽にする……高城君の作戦通りですわ)

 

Cクラスの目論見は全てAクラス代表・高城雅春の手の平の上であったようだ。これまで二年生相手に遅れを取り続けたせいで他クラスから舐められ気味であった高城だが、騙されやすいかどうかと頭の良し悪しは別であると証明してみせた。そして当の高城も金田一のサポート(高城が騙されそうになればそのカバーに入るという、試召戦争とは別の部分のサポート)によりバッサバッサと召喚獣を仕留めていき、彼らが四階を制圧するのは時間の問題であった。

 

高城「………おや?そういえば常村君と夏川君はどちらに?」

金田一「さっき一年の溜まり場である二階に行くってよ。何でも卒業前に一年坊主に先輩の凄さを見せつけにいくとか」

高城「やれやれ……丸くなってもそういう所は相変わらずですね。彼ららしいといえばらしいですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃の三階では、雄二達と『撒き餌作戦』の囮役としてあくせく働いていた明久が…

 

 

 

清水「このっ、さっさと死になさい豚野郎!私とお姉さまの輝かしい未来の礎となりなさい!」

明久「ひぃぃお助けぇぇえええ!」

玉野「ごめんねアキちゃん!このお詫びは後日フリフリの可愛いお洋服で返すからここは大人しくヤられて!」

明久「驚くほど僕にメリットが無いよ玉野さん!?」

 

 

 

……Dクラスの問題児コンビに、色々な意味で追い詰められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【注目生徒データ⑤】

・小暮葵(三年Aクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉鉄扇

〈能力〉黒死蝶……消費10。毒、もしくは麻痺を引き起こす蝶を創造する。

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……332点
国語……404点
数学……330点
理科……354点
社会……406点
保体……328点

総合科目……3984点


・宮阪杏里(三年Aクラス)

〈召喚獣〉パワー型

〈武器〉金剛杵

〈能力〉ダークマター……消費200。圧倒的破壊力の暗黒物質を射出する。ランクアップ腕輪能力や和真のオーバークロック『ガトリングレーザー』クラスでなければ防ぎようがないロマン砲。

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……358点
国語……339点
数学……353点
理科……412点
社会……373点
保体……335点

総合科目……3930点


連携させたら何気にヤバいペア。小暮が黒死蝶で麻痺させて相手の動きを制限し、杏里が一気に消し飛ばす。






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予選終了

【注目生徒データ⑥】

・吉井明久(二年Fクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉木刀

〈能力〉無し

〈成績〉
外国語……112点
国語……115点
数学……110点
理科……106点
社会……378点
保体……108点

総合科目……1750点


・大門徹(二年Aクラス)

〈召喚獣〉ディフェンス型

〈武器〉ガントレット(両腕)

〈能力〉リフレクト・アーマー……消費50。鎧にあらゆる攻撃の一部をソニックブームにして跳ね返す効果を付与する。ダメージは軽減されるが無敵になるわけではない。さらに和真戦で破壊されていることから鎧にもダメージの許容量は存在する。

〈オーバークロック〉不明

〈成績〉
外国語……382点
国語……305点
数学……574点
理科……497点
社会……402点
保体……362点

総合科目……4682点




清水「この豚野郎!ちょこまかと逃げてないで、正々堂々死になさい!」

明久「待って清水さん!そこはせめて正々堂々戦えじゃないの!?」

玉野「そう簡単には逃がさないよアキちゃん!」

明久「玉野さんお願いだからその呼び方はやめて!」

 

エンカウント自体は偶然あるもののどちらも明久とは浅からぬ因縁のある相手、対峙すれば刃を交えることは自明の理であった。そして戦況はというと…

 

 

《英語》

『二年Fクラス 吉井明久 74点

VS

 二年Dクラス 清水美春 162点 

 二年Dクラス 玉野美紀 166点』

 

 

意外にも大苦戦を強いられる明久。……いや、意外でもなく順当であるのかもしれない。よくよく考えてみればそれ相応の理由が揃っている。

まず一つ目に対戦科目は英語なのだが、明久の英語の初期点数は精々Eクラスレベル。召喚獣を己の手足のように扱えるほどの操作技術を持つ彼と言えど、この低スペックではそれほど大した動きは期待できない。片や清水と玉野は二人ともガチガチの文系タイプなため、どちらもBクラスレベルの初期点数を保持していた。タイマンで闘うならともかく、二人がかりなら明久相手でもそこそこ立ち回れる点数差だ。

二つ目は共にDクラスでは主力で共闘する機会も多いためか、清水と玉野のコンビネーションが予想以上に秀でていることだろう。片方が相手の注意を引き付けている内にもう片方が相手の意識外から攻め込む……連携の基礎ではあるが、単独での攻略は難しい立ち回りで明久を追い詰めている。

 

明久(まいったなぁ…白金の腕輪を使って2vs2に持ち込めば……ただでさえ少ない点数を分割したらダメだよね。ここは上手いこと逃げるしかないか)

 

意外と余裕のある明久だが、別段特別な理由があるわけではない。彼は不利な勝負なら百戦練磨……というより、大抵は基本的に不利な土俵にしか上がらせてもらえない。清水達の連携は確かに大したものだが、明久を殺し切るにはやや決定力不足と言わざるを得ない。真っ向から勝負はせず、かといって逃げに徹するわけでもなく、攻撃を避けつつさりげなく雄二達のいる狩場に誘導することはできると踏んだ明久はすぐさま行動を開始する。

 

 

 

しかし彼は失念していた。自分自身がこの学園でどれだけ悪目立ちをしてきたか、そしてそんな彼が追い詰めている状況を目撃した生徒がどのような行動を取るのかを。

 

平賀「清水さん、玉野さん、助太刀するよ!」

明久(げっ!?)

 

まず最初にDクラス代表の平賀源二が、クラスメイトの清水達を手助けするために参戦。

 

小山「いよいよ年貢の納め時のようね吉井!」

明久(げげぇっ!?!?)

 

次にCクラス代表の小山優香が、先日の試召戦争にてFクラス教室を押し付けられた恨みを晴らすべく参戦。

 

 

《英語》

『二年Fクラス 吉井明久 44点

VS 

 二年Dクラス 清水美春 151点 

 二年Dクラス 玉野美紀 155点

 二年Dクラス 平賀源二 158点

 二年Cクラス 小山優香 171点』

 

 

結果、残り点数Fクラス平均の半分という虫の息の状態で四体の召喚獣に囲まれるという、哀れなほど地獄画図のような光景が出来上がった。

 

小山「さて、覚悟は良いかしら」

清水「あなたがいる限り、私とお姉さまの薔薇色の未来は実現しないのです……!」

玉野「アキちゃん、ちょっと痛いかもしれないけど後で坂本君に慰めてもらってね!」

平賀(………混ざらなきゃ良かった。ノリに全然ついていけないが、とりあえずなんかスマン吉井)

明久「あ、あの……土下座でもなんでもするんで見逃してもらえないでしょうか?」

「「却下!!!」」

 

清水と小山がにべもなく断ったことを皮切りに、一斉に襲いかかる四体の召喚獣。

 

明久(ば、万事休す…!)

 

フィードバックを覚悟して思わず目を瞑る明久だったが、いつまでたっても痛みが襲ってこない。それどころか何やら清水達が誰かと言い争いをしている。明久が気になって閉じた目を開くと…

 

 

《英語》

『二年Fクラス 吉井明久 44点

 二年Aクラス 大門徹  382点

VS 

 二年Dクラス 清水美春 戦死

 二年Dクラス 玉野美紀 戦死

 二年Dクラス 平賀源二 戦死

 二年Cクラス 小山優香 戦死』

 

 

いつのまにか割り込んでいた徹が清水達に詰め寄られている光景、そして彼の召喚獣が清水達の召喚獣を皆殺しにした光景が明久の目に飛び込んできた。

 

明久「だ、大門君!?」

徹「何度でも言ってあげるよ敗北者諸君。獲物を狩る瞬間の隙だらけだった君達を狩って何が悪い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「あ…ありがとう大門君、助けてくれて」

 

清水達が鉄人に連行されるのを見届けつつ明久は徹に礼を言うが、徹はきょとんとした表情で首を傾げる。

 

徹「なんで君が礼を言うんだい?僕は別に君を助けた訳じゃないんだよ?」

明久「いや、たとえ大門君にそのつもりは無くても結果的に助かったんだし-」

 

言葉を言い切る前に〈徹〉はガントレットを〈明久〉目掛けて降り下ろす。この一年間で培った反応のお陰でどうにか避けられたものの、明久の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされる。

 

明久「…………ゑ?」

徹「何を呆けた顔をしてるんだい?僕は君を助ける気も無ければ、このまま君を見逃す気も無いんだよ。この前源太に借りた漫画の台詞を借りるなら、『勘違いするなよ吉井、貴様を倒すのはこの俺だ』……ってところかな?」

明久「えぇええぇえぇぇぇ!?そのセリフって普通その場は見逃してくれるんじゃないの!?」

徹「僕は殺れるときには殺っておくタイプなんだよ」

 

文月学園一器の小さい徹に付け狙われまさに絶対絶命……という状況で、ようやく明久にも運が回ってきた。この土壇場でフィールドの科目が英語から社会へ……明久の最も得意とする教科に切り替わったのである。

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 378点 

VS 

 二年Aクラス 大門徹  402点』

 

 

徹「へぇ……二年を代表するバカとは思えない点数だね。だが果たして腕輪持ちの僕に勝てるか-」

明久「戦略的撤退ィィィィィ!」

徹「はあぁっ!?」

 

何倍も教科された〈明久〉と共に全力で逃走する明久。操作技術に加え〈明久〉はスピードタイプなので、点数で負けているとはいえ防御特化の〈徹〉相手ならおそらく逃げ切れるであろう。だが…

 

徹「ちょっ、待てオイ!その点数で逃げの一手は無いだろう!君にはプライドは無いのか!?」

明久「ふはははは!そんなものご飯にかけて食べてしまったよ!」

徹「君のプライドはふりかけか!?」

 

その後徹は一応追いかけてみたものの、結局明久達を取り逃がしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、一年生のテリトリーである二階では…

 

 

《保健体育》

『三年Aクラス 常村勇作 118点

 三年Aクラス 夏川俊平 106点

VS

 一年Fクラス 志村泰山 437点 

 一年Dクラス 綾倉詩織 469点』

 

 

夏川「く、くそぉ……!」

常村「俺達が……こうも一方的に……!」

 

常夏コンビが一年最強ペアに追い詰められていた。本人達のそこはかとない小物臭と微妙な戦績から誤解されがちだが、彼らは高い成績と優れた操作技術を兼ね備えた三年屈指の実力者達である。秀吉達を追い詰めた千莉と鉄平も恐るべき実力者であったが、この二人の強さは明らかに常軌を逸している。

 

詩織「………」

泰山「さてと、申し訳ありませんがそろそろ決着を付けさせてもらいますぅ」

夏川「……もう勝った気でいるのかよ一年坊主ども」

常村「できればこの手は使いたくなかったが、このまま舐められっぱなしじゃ終われないよな……」

常村・夏川「「『ガン・スミス』!」」

 

 

《保健体育》

『三年Aクラス 常村勇作 18点

 三年Aクラス 夏川俊平 6点

VS

 一年Fクラス 志村泰山 437点 

 一年Dクラス 綾倉詩織 469点』

 

その言葉をトリガーに二人の召喚獣は点数を消費し瀕死になり、それと引き換えに〈夏川〉の武器は2丁のショットガンに、〈常村〉の武器はアサルトライフルに変化した。

 

泰山「へぇ~、それが腕輪能力ですかぁ。でも先輩方、一年生の俺達にそれ撃っちゃったら失格になっちゃいますよぉ?」

常村「この際勝ち抜くのは度外視した。どっちにしろ俺達の勝機はもうゼロだろうしな」

夏川「だがせめて一矢報いさせてもらうぜ。あわよくば相討ちに持ち込んでやる」

 

そして二人の召喚獣は装填された弾丸を躊躇いなく一斉に放った。しかし弾丸が放たれる直前に〈詩織〉が固有武器『七支刀』を構えて〈泰山〉を庇うように前に立ち、

 

 

 

 

 

 

常村「は……?」

夏川「う、嘘だろ……」

 

次の瞬間には〈詩織〉が高速で放った刺突の連撃にほとんどの弾が弾き飛ばされた。

 

 

《保健体育》

『三年Aクラス 常村勇作 失格

 三年Aクラス 夏川俊平 失格

VS

 一年Fクラス 志村泰山 437点 

 一年Dクラス 綾倉詩織 418点』

 

 

ビーーー

 

『常村君、夏川君。一年生の召喚獣に対して腕輪を行使したので失格です』

 

どこからか聴こえてきた綾倉先生のアナウンスを耳にしても、二人は状況を飲み込むのに時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして体育館でも詩織の行動に驚愕した者がやく二名。和真と蒼介、大抵のことには動じることのないこの二人が信じられないものを見る目でモニターを凝視している。というのも、〈詩織〉の繰り出した刺突は……

 

和真「おいソウスケ、あの技ってお前ん家の……」

蒼介「…………ああ、間違いない。あれは紛れもなく水嶺流弐の型、そして参の型の複合技……車軸・豪雨」

 

鳳家に代々伝わる『水嶺流』の技だったのだから。

 

蒼介(『水嶺流』は鳳家の者だけが継承を許された門外不出の剣術……それを何故部外者である奴が使える!?綾倉詩織、貴様はいったい何者なんだ……?)

 

 

ピンポーン

 

『生き残っている参加者が28名となりましたので、今を持って予選を終了いたします。勝ち残った生徒諸君、予選通過おめでとうございます!』

 

決して小さくない禍根を残しつつ、『S・B・F』予選は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 




嗚呼、常夏コンビ……。せっかく改心したのにかませ街道まっしぐら……正直すまないと思っている。

 

【注目生徒データ⑦】

・常村勇作(三年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉バトルアックス

〈能力〉ガン・スミス……消費10×弾数。武器をアサルトライフルにチェンジする。

〈成績〉
外国語……302点
国語……274点
数学……405点
理科……412点
社会……277点
保体……245点

総合科目……3585点


・夏川俊平(三年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉ハンマー

〈能力〉ガン・スミス……消費10×弾数。武器を2丁拳銃にチェンジする。

〈成績〉
外国語……294点
国語……273点
数学……405点
理科……407点
社会……281点
保体……221点

総合科目……3481点



次回から本戦どすが、プロットを再チェックするので1週間ほどお待ちください。



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本戦開始

【注目生徒データ⑧】

・高城雅春(三年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉日本刀

〈能力〉不明

〈成績〉
外国語…408点
国語……414点
数学……410点
理科……422点
社会……416点
保体……385点

総合科目……4525点


・金田一真之介(三年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉グラディウス

〈能力〉不明

〈成績〉
外国語……422点
国語……383点
数学……358点
理科……366点
社会……371点
保体……318点

総合科目……4118点








時刻は昼休み。本戦出場を果たしたFクラスメンバー達は英気を養うため食堂にてランチタイムを満喫していた。……のだが、

 

 

ガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャ…

 

「「「「「「「………」」」」」」」

和真「……ん?お前ら何ぼけーっと見てんだよ?さっさと食わねぇと昼休み終わっちまうぞ」

 

食堂のメニュー全てを注文しそれら全てを凄いスピードでたいらげる(しかし食事マナーは無駄に良い)和真に明久達は開いた口が塞がらない。

 

明久「あの、和真……食べ過ぎじゃない?」

和真「あん?……お前ら、俺が食う方だって知らなかったっけ?」

雄二「いや、それは知ってるけどよ……いくらなんでも多すぎだろ。アレか?性格だけでなく胃袋もサイヤ人化したのか?」

和真「当たらずとも遠からずだな。“気炎万丈”は物凄くカロリーの消耗が激しいから、いざってときにガス欠しないよう食い溜めしてるんだよ」

「「「「「「「気炎万丈?」」」」」」」

和真「口で説明してもピンとこねぇだろうから説明はしねぇが、本戦で見せてやるよ」

 

聞きなれないワードに首を傾げる一同だが、和真が明らかに詳しく説明する気が無さそうなので、徒労を避けるため追求はしない。

 

姫路「でもそんなに食べると太っちゃいませんか?」

和真「前にも言ったがな姫路、食った分より動けば太らねぇんだぜ?」

姫路「うぅ……それは、そうですが……」

 

運動神経にコンプレックスを持つせいか何かと運動不足になりがちな姫路にとっては耳の痛い話である。……まあ姫路に和真や『アクティブ』メンバー並の運動量を要求するのは酷な話だとは思うが。

 

和真「(モグモグモグ…ゴクン)ふう……ごっそーさん」

雄二「食うの早いな……それはそうと和真、お前ら予選免除組はずっとモニターで見物してたんだろ?誰が勝ち上がったか教えろよ」

和真「あん?まずはお前ら7人だろ?2-Aからは成績上位9人、2-Bからは源太と根本。あとは3-Aから6人と一年の生徒会役員4人で計28人だ」

雄二「なるほど……概ね予想通りの面子が残ったが、一年の4人は完全にノーマークだったぜ」

翔子「……それは仕方ない。一年生が召喚獣の操作を始めたのは一学期末、この短期間じゃ普通なら戦うどころかまともに動かすのも苦労するはず」

美波「でも翔子、ウチと木下が闘った二人は召喚獣を自在に動かしていたわよ……」

秀吉「うむ……流石に明久には及ばないが、少なくとも和真に匹敵するレベルであったのは間違いなかったぞい……」

 

他の面々が一年生四人の内、実際に美波達が闘った鉄平と千莉に関心を寄せる一方で、実際にモニターで目の当たりにした和真だけは詩織と泰山……特に詩織について考える。

 

和真(あいつらの操作技術はハッキリ言って明久クラス、間違っても一朝一夕で身に付く筈のないレベルだった。何故一年生のあいつらが……それに綾倉Jr.が何故ソウスケん家の技を……チッ、怪しさ満点だがわからねぇことだらけだから何とも言えねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

……でもまぁぶっちゃけ興味ねぇし、そのうちソウスケが全部解決するだろうし、放っておくか)

 

色々と思考を巡らせたのち、和真は蒼介に全てを丸投げしつつ詩織に対する関心を無くした。一見薄情に見えるが見方を変えれば蒼介なら間違いなく可能であるという、決して揺らぐことのない信頼の証でもある。

 

和真(大体こういうまどろっこしいのは専門外なんだよ……。ソウスケ達の追っている奴等がなりふり構わず荒事を起こし始めてからが俺の出番だ)

 

………もっともらしい理屈を述べたが結局の所、本人が大雑把で喧嘩早いことが一番の理由だ。考える頭はあるものの性格がどこまでも現場向きな男だ。彼が知略を巡らせるときは、そうしなければ勝てない相手がいるとき、試召戦争絡みのような団体行動のとき、そして人を追い詰めたいときのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み終了後、予選を勝ち抜いた28人と免除された4人が体育館に集まり、前に立つ『S・B・F』実行委員長の綾倉先生が語る本戦の説明に耳を傾ける。

 

綾倉「本戦の内容は至ってシンプル。一対一の対戦を勝ち上がっていくトーナメント戦です。明確なルールは5つ。一つ目は予選と同じように一年生に対する腕輪能力の使用は即失格です。二つ目は、皆さんお手持ちのPDAの『科目』というアイコンを開いてください」

 

生徒達が指示された通り『科目』のアイコンを選択すると、国・数・英・社・理・保・総の7つのアイコンが画面に表示される。

 

綾倉「それぞれの対戦の前にそのPDAから希望する科目を選んでメインコンピューターに送信してもらい、両者の希望が合致した場合はその科目に決定、合致しなければランダムで選ばれた科目で戦ってもらいます」

明久(ただ科目決めるだけでそんな無駄にデジタルにしなくても良いような……)

 

明久の疑問は最もだがこのPDAの開発は“桐谷”が手掛けたもの。ITの会社とは得てして何でもデジタル化したがるものである。

 

綾倉「3つ目は試召戦争を行う才、『召喚獣視覚リンクシステム』を介して行ってもらいます」

金田一「『召喚獣視覚リンクシステム』?何だそりゃ?」

綾倉「先日“桐谷”が開発した最新鋭の機械です。原理を詳しく説明すると日が暮れてしまうので省きますが、要は本人と召喚獣の視界を同一化させることができるシステムです。それにより、召喚獣の操作を容易に行うことができるようになるでしょう」

和真(なるほどねぇ……ラジコンを操作するのとパワードスーツを着て歩くのでは、後者の方が圧倒的に簡単なのと同じ理屈か)

綾倉「このシステムは一年生が背負っている経験の差というハンデを軽減するため私が要請したものですが……どうやら余計なお世話だったようですねぇ」

 

そう言いながら綾倉先生は詩織達に向けて含みのある笑みを向けるが、当の彼女らは眉一つ動かさず平然としている。

 

綾倉「……まあ良いでしょう。そして四つ目、君達が闘うフィールドですが…」

 

そこで一旦言葉を切り、綾倉先生はおもむろに取り出したリモコンを操作する。すると上からやたらと大きなスクリーンが降りてきた。生徒達が脳内にクエスチョンマークを浮かべながらスクリーンに注目すると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクリーンには文月学園のグラウンド上空にやけに特徴的な形状のジェット機が数十機ほど集まっている光景が写し出されていた。

 

(((……ナニコレ?)))

 

生徒達が困惑するのもお構いなしにジェット機達はグラウンドに離陸しながらガシャンガシャンと変形し、そのままどこかの特撮アニメのように合体していき、最終的にドームのような形状になりつつグラウンドに着陸した。

 

綾倉「“桐谷グループ”が開発した移動式闘技場『フリーダム・コロッセオ』……あれが君達の闘う舞台です」

(((もう何でもありだな“桐谷グループ”!?)))

和真(金持ちの考えることってわけわかんねぇな)

 

色々とツッコミ所満載だが、それでも綾倉先生はお構いなしに説明を続ける。

 

綾倉「最後に肝心のトーナメントですが、公平を期すために今からコンピューターで無作為に決定します。一回戦から優勝候補と当たっても恨まないでくださいね?」

 

そう言いながら綾倉先生がリモコンのボタンを押すと、スクリーンに四ブロックのトーナメントが表示され、予選通過者の名前が一人ずつ追加されていく。

 

 

 

【Aブロック】

 

〈一回戦〉

①佐伯梓vs木下秀吉

 

②佐藤美穂vs霧島翔子

 

③沢渡晴香vs五十嵐源太

 

④リンネ=クラインvs宮阪杏里

 

 

〈二回戦〉

1.①の勝者vs②の勝者

 

2.③の勝者vs④の勝者

 

 

〈三回戦〉

1.の勝者vs2.の勝者

 

 

 

秀吉(むぅ……いきなり佐伯先輩が相手とはのう……)

和真(億が一勝てたとしても二回戦では多分翔子、三回戦ではスウェーデンの天才児が相手とか……御愁傷様)

 

 

 

【Bブロック】

 

〈一回戦〉

①時任正浩vs坂本雄二

 

②木下優子vs柊和真

 

③名波建一vs志村泰山

 

④小暮葵vs大門徹

 

〈二・三回戦〉 

Aブロックと同上

 

 

 

優子(っ!?……一回戦から和真が相手、か)

雄二(時任って確か、2-Aの……まあこいつより、二回戦の相手が鬼門だな……)

徹(時は満ちた……今こそ屈辱を晴らすときだ!)

和真(俺のいるブロックも中々の面子だなこりゃ。……まあ誰が相手だろうが勝つのは俺だ)

 

 

 

【Cブロック】

 

〈一回戦〉

①久保利光vs市原両次郎

 

②姫路瑞希vs二宮悠太

 

③土屋康太vs工藤愛子

 

④宗方千莉vs鳳蒼介

 

〈二・三回戦〉 

Aブロックと同上

 

 

久保(一回戦の市原先輩には、申し訳ないが問題なく勝てるだろう。そして二回戦の相手は……間違いなく姫路さんだ)

姫路(久保君とはこれまで一勝一敗……手強い相手ですが、勉強の成果を疲労するにはもってこいの相手ですね)

ムッツリーニ(工藤が相手か……奴に遅れを取ることはないだろうが、お得意の色仕掛けには注意だな)ハナジタラー

愛子(-みたいなこと考えてるんだろうなムッツリーニ君、鼻血出てるし……ボクをただのお色気要員だと思ってるなら大きな間違いだよ!)

千莉(生徒会長殿か。相手にとって不足なしでござる)

蒼介「…………」

 

 

 

【Dブロック】

 

〈一回戦〉

①島田美波vs橘飛鳥

 

②吉井明久vs根本恭二

 

③黒木鉄平vs金田一真之介

 

④高城雅春vs綾倉詩織

 

〈二・三回戦〉 

Aブロックと同上

 

〈準決勝〉

・Aブロック覇者vsBブロック覇者

 

・Cブロック覇者vsDブロック覇者

 

〈決勝〉

勝ち残った二名

 

 

 

飛鳥(一回戦の相手は美波か……)

美波(いきなり飛鳥かぁ……。数学か外国語じゃないと勝ち目0ね……)

明久(よりによって根本君か。また何かろくでもない手で来ないといいけど……)

根本(吉井が相手か……ククク、丁度良い。一学期に受けた屈辱、キッチリ返してやる!)

 

 

 

綾倉「トーナメント表のデータは皆さんのPDAに転送しておきました。全員優勝目指してベストを尽くしてください。……それでは皆さん、『フリーダム・コロッセオ』へ移動してください」

 

 

 

 

 




いよいよ始まりましたバトル漫画の定番、トーナメント戦。全試合書くとストーリーが進みにくくなるので、明らかに盛り上がりそうにない組み合わせは潔くカットしますのでご了承ください……。


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S・B・F本戦・Aブロック①

【注目生徒データ⑨】

・佐伯梓(三年Aクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉干将・莫耶

〈能力〉ヨーヨーブレード……消費50。武器を巨大なヨーヨー(側面に刃物)に変化させる。余談だが、この手のウェポンチェンジ系の能力は元の武器は消滅してしまうが、成績が5000点オーバーの場合固有武器は消えずに残る。


〈成績〉
外国語……490点
国語……488点
数学……493点
理科……457点
社会……466点
保体……427点

総合……5218点



諸事情により投稿時間を22時から18時に変更しました。



 

『フリーダム・コロッセオ』内部のステージには観客席にいる予選落ちした生徒達(要は負け犬共)で大盛況だ。

全校生徒、及び教師達、その他四代企業関係者などなど大勢の注目を浴びつつ入場してきたた本戦出場者のうち、闘う二名のみがフィールド内に入りそれ以外の生徒はフィールド外の控えスペースで闘いを観戦、もしくは情報収集にあたる。

 

綾倉「それでは……記念すべき一回戦第一試合がまもなく始まります!木下君と佐伯さん、希望する科目を選択してください!」

梓「ふふふ、お手柔らかに頼むで木下君♪」

秀吉「こっちの台詞じゃ……」

 

鋭い洞察力などなくても一発で見抜けるほど白々しい態度の梓に秀吉はげんなりする。この女台詞とは裏腹に、負けるなどとは一ミリたりとも思っていないない。

二人がPDFから科目を選択すると、ステージの上に設置されたオーロラビジョンに3種類の科目が表示された。秀吉の希望した科目は社会、梓の希望した科目は数学、そして決定した科目は保健体育であった。

 

綾倉「科目が決定したようですね。保健体育のフィールドを展開したので二人とも召喚獣を喚び出してください」

秀吉・梓「「試獣召喚(サモン)!」」

 

キーワードに反応しフィールド内に幾何学模様が展開され、その中心から二体の召喚獣が出現する。〈秀吉〉の装備が羽織に日本刀の新撰組スタイル、一方〈梓〉の装備は防刃スーツと両足のソルトレックはこの前と同様だが……肝心の武器がトンファーではなく、亀裂模様の浮かんだ剣と水波模様の浮かんだ剣の二振り……雌雄一対の双剣に変化していた。

 

秀吉「この前と武器が違うのじゃ!?」

梓「こいつは干将・莫耶、ウチの固有武器や。……トンファーやのうなってちょっと不満やけどな」

 

 

《保健体育》

『二年Fクラス 木下秀吉 292点

vs 

 三年Aクラス 佐伯梓  427点』

 

 

和真(また強くなりやがったな梓先輩……もう進学先決まってるからってそんなに暇なのか?)

 

予想通り点数差は歴然。しかも固有武器を手にしたということは、梓がとうとう5000点の壁を越えたことを意味している。

 

綾倉「最後の準備です。『召喚獣視覚リンクシステム』を起動しましたので、お二人はこのゴーグルをつけて側面のスイッチを押してください」

 

綾倉先生に近未来的な形状のゴーグルを手渡された二人は、言われた通りにそれをつけて側面のスイッチを押す。すると二人の目に映った光景は、召喚獣視点の景色と見事に一致していた。

 

秀吉(こ、これは驚いたのう……まさか召喚獣の目線で動かせるとは)

梓(ふーん…要はTPSからFPSに変わったってことやな。ふむふむ、この視点は動かしやすい反面死角も増えそうやなぁ…色々と悪巧みできそうや)

 

秀吉が試験召喚システムの目覚ましい進歩を目の当たりにして純粋に感動している一方、梓はこれを使ってどうやって騙してやろうかと早くも考えを巡らせていた。これが文月一純粋無垢な男子(?)と文月一の詐欺女の差である。

 

綾倉「準備が整いました。それでは……試合開始!」

梓「それじゃあいくで木下君」

 

両手に持った干将と莫耶の握り方を逆手に変え、〈梓〉は〈秀吉〉に向かっていく。

 

 

 

明久「大丈夫かな秀吉……」

和真「んー……相性は悪くねぇと思うぜ」

明久「え、どういうこと?」

和真「……梓先輩の一番厄介な武器はなんといっても騙しのテクニックだ。口だけでなく行動や仕草、間合いの取り方すらひたすら嘘まみれ。しかもその精度は超一流で、観察眼に自信のある俺でもすぐには見破れねぇほどだ。だが演劇バカの秀吉なら…」

 

和真の推測は的中し、〈秀吉〉は幾重ものフェイクを織り混ぜた〈梓〉の攻撃を次々と紙一重で避けていく。

 

秀吉「残念だったのう佐伯先輩、ワシはそう簡単に騙されんぞい!」

佐伯「ほー、噂に聞いてた通り通り大した観察力やな自分。……せやけど、」

 

 

 

明久「なるほど!和真以上の観察力を持っている秀吉なら、佐伯先輩の嘘も見抜けるってことか!いける、いけるよ秀吉!」

和真「………ああ、秀吉は嘘じゃ騙されねぇだろうな。だがな明久、世の中そう甘くねぇんだよ」

明久「……え?どういうことさ?」

 

いまいち理解できず、明久は和真の方を振り向いて具体的な説明を求める。和真がそれに答える前に観客席から割れんばかりの歓声が響き渡る。

 

明久「わっ!?な、何が起こった……の……?」

 

慌ててフィールドに戻された明久の視界には、〈秀吉〉が〈梓〉に斬り伏せられて横たわっている光景が映った。

 

 

《保健体育》

『二年Fクラス 木下秀吉 戦死

vs 

 三年Aクラス 佐伯梓  427点』

 

 

綾倉「勝者、佐伯さん!」

梓「ウチのフェイクを見破れるのは凄いけど、ウチと闘うにはまだまだ未熟やな」

秀吉「うむむ…手も足も出んかったぞい……」

 

綾倉先生が試合終了を告げる。勝利した梓はフィールド外に戻り、敗北した秀吉は観客席に移動にした。

 

明久「か、和真……僕が目を離している間に何が起こったの……?」

和真「いや、何がって聞かれても……梓先輩の連続攻撃に秀吉がついていけずに瞬殺されただけだが?」

明久「なんでさ!?さっき秀吉ならフェイクを見破れるって-」

和真「フェイクが通用しなくても正攻法は通用するんだよ。成績にしろ操作技術にしろ、秀吉と梓先輩じゃあ彼我の実力差がデカ過ぎる。相性は確かに悪くねぇが、秀吉の勝ち目なんざそもそも無かったんだよ」

明久「そ、それにしたってこんな一瞬で…」

和真「秀吉はまんまと騙されたんだよ」

明久「………は?あの和真、秀吉は騙されないって-」

和真「俺が言ったのは“嘘”には騙されない…だぞ。それはつまり、“事実”なら秀吉を騙せるってことだ」

明久「?????」

 

あまりに理解不能な和真の説明に、明久は頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされたが、そうなることは折り込み済みだったため和真は根気よく説明を続ける。

 

和真「明久、梓先輩の一番厄介な武器は騙しのテクニックだって試合前に言ったよな」

明久「う、うん…」

和真は「あれは何もフェイクの上手さだけを指すんじゃねぇんだ。確かにそれも厄介極まりないんだが、お前に匹敵するレベルの操作技術もまた厄介極まりないだろ?フェイクを警戒し過ぎた秀吉は無意識に正攻法への警戒が緩んでしまい、まんまと嵌められて正攻法で敗北したってわけだ。梓先輩はな、嘘なんざつかなくても真実だけで人を騙せるんだよ。いやそれどころじゃねぇ……三回闘った俺にはわかる。下手したら梓先輩にとっては、森羅万象全てが人を騙す武器になりかねない」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も本戦は続いていくのであった。

第二試合の佐藤美穂vs霧島翔子戦は…

 

綾倉「勝者、霧島さん!」

翔子「……私の勝ち」

佐藤「うー…やっぱり腕輪無しじゃ無理かぁ……」

 

ランダムで決定した教科が国語であったため、腕輪能力を使えない佐藤を翔子が『アイスブロック』で一方的に蹂躙し圧勝、学年三位の貫禄を存分に見せつけた。

 

第三試合の沢渡晴香vs五十嵐源太戦は…

 

綾倉「勝者、五十嵐君!」

沢渡「オーバーキル過ぎっしょー……」

源太「その、なんだ…ドンマイ……」

 

希望教科は食い違ったものの天が源太に味方したのか、選ばれた教科は源太の希望した英語。前二試合と同じくワンサイドゲームが繰り広げられた。自分で希望していながら源太はなんとなく申し訳ない気持ちになったそうな。

 

第四試合のリンネ=クラインvs宮阪杏里戦は…

 

綾倉「Vinnaren är Mr.Klein !」

リンネ「ヤッター!」

杏里「うん、まあ予想通り……」

 

教科は総合科目。パワードスーツを装着し召喚獣とクロスボウが一体化するランクアップ腕輪能力『“Guidad Explosiv Kula”』の前に、総合科目では腕輪能力の使えない杏里は為す術もなく敗北する。仮に青銅の腕輪の支援を使用できたとしても、ランクアップ腕輪が相手では勝ち目が薄かっただろうとは本人の弁。

 

Aブロックはそれぞれ本命の生徒が番狂わせもなく順当に勝ち抜く結果に終わった。続いてトーナメントはBブロックに移る。

 

 

 




操作技術に警戒を向ける→フェイクへの警戒が無意識に緩んでしまう→フェイクで翻弄される

フェイクに警戒を向ける→操作技術への警戒が無意識に緩んでしまう→正攻法でやられる



梓さんに勝つためには彼女の行動全てに警戒を張り巡らすか、自力で圧倒するしか方法がありません。








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S・B・F本戦・Bブロック①

【注目生徒データ⑩】

・Linne=Klein(三年Aクラス)

〈召喚獣〉ディフェンス型

〈武器〉ウィリアム・テルのクロスボウ

〈能力〉Guidad Explosive Kula(ランクアップ)
……消費無し。パワードスーツを身に纏うことで召喚獣のスペックを向上させる。さらにクロスボウがスーツと一体化する他、弾丸の性能も変化しているらしい。

〈成績〉
外国語……661点
国語……521点
数学……598点
理科……571 点
社会……524点
保体……517点

総合……6287点



Aブロックの一回戦が全て終了し、続いてBブロックに配属された生徒達の戦いとなる。第一試合は二年Aクラスの生徒・時任正浩vs我らがFクラスのリーダー・坂本雄二。

時任はあまり目立つ生徒ではないが、Aクラスに所属する「Bクラスに毛が生えた程度の40人」の中では最上位の成績であり、さらにFクラスとの決戦に備えてここ最近蒼介が実施した特別講義で一皮剥けたのか、二宮や沢渡に匹敵するまで成績を向上させている。普通に考えれば決して油断できるような生徒ではない。

 

 

 

……しかし、

 

 

《数学》

『二年Fクラス 坂本雄二 512点

vs 

 二年Aクラス 時任正浩 106点』

 

 

神童として返り咲こうとしている今の雄二と闘うには、ハッキリ言って力不足と言わざるを得ない。

 

時任「ぐ……くそ……っ!」

雄二「ふむ…中々使い勝手がいいなこの鎖」

 

〈雄二〉は固有武器『幌金縄』という特殊な鎖を操り、前後左右からのトリッキーな攻めで〈時任〉を追い詰めていく。〈時任〉も必死に食らいつくが徐々に逃げ場を無くしていき、やがては利き腕を幌金縄に絡め捕られてしまい、〈雄二〉はそのまま力任せに振り回して〈時任〉を地面に叩きつけた。

 

 

《数学》

『二年Fクラス 坂本雄二 512点

vs 

 二年Aクラス 時任正浩 戦死』

 

 

綾倉「勝者、坂本君!」

雄二(よし、作戦通り俺の腕輪能力は隠し切れたな)

和真(雄二の奴、さては次当たる俺を警戒して腕輪能力を温存しやがったな。ハッ、上等だ。どんな能力だろうと力づくで捩じ伏せてやろうじゃねぇか。

……にしてもアイツ、最初のメリケンサックといい二つ目の鉄パイプといい今回のチェーンといい……なんでこいつの武器はいちいち不良っぽいんだ?)

 

召喚獣の装備や腕輪能力は綾倉先生に一任されているが、彼の仕業かと言われれば首を捻らざるを得ない。彼はお気に入りの生徒にはとんでもない無茶ぶりをしたり、ひたすら手のひらで転がして弄んだりと、人の良さそうな笑顔とは裏腹に割とえげつない男ではあるものの、大して交流の無い生徒に意味もなく嫌がらせをするような教師ではない。確証こそ無いが、まず間違いなく学園長の差し金であろう。何とも大人げない老人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてBブロック第二試合、Fクラスの紅き修羅・柊和真vsAクラスNo.2へと成長した木下優子。この好カードに会場中がより一層エキサイトする。それもそのはず、Aブロックの四試合も先程の試合も両者の実力者がありすぎて消化試合であることは否めなかったが、この試合は5000点オーバーの優勝候補同士の激突だからである。

 

明久「……でも、大丈夫かな和真」

雄二「あ?何がだよ?」

 

テキパキと戦う準備をする(ちなみに二人が希望した教科は両者ともに総合科目)二人を眺めながら心配そうに呟いた明久に、雄二がどういうことか問いかける。

 

明久「だって最近の和真、ビックリするほど木下さんに弱いでしょ?木下さん相手にちゃんと闘えるのかなぁ……?」

雄二「……お前みたいなカス野郎に心配されるなんざ、和真も可哀想だな」

明久「心配しただけでなんで罵倒されるの!?」

 

あまりに理不尽な雄二の物言いに鼻白む明久だが、雄二はなおのこと呆れるように嘆息する。

 

雄二「あのな明久……アイツは誰だ?確かにアイツは箱入り娘かってぐらいウブで一途だし、普段のあの二人の力関係を見るとそんな心配するのも仕方ないのかもしれん。……だがな、それ以前にアイツは柊和真なんだよ。戦闘中のアイツにそんな甘っちょろい考えは、心配するだけ無駄だ」

 

 

 

和真「オラァッ!」

優子「っ!?いきなりね…!」

 

雄二の言い分を裏付けるかのように、〈和真〉は仮にも恋人の眼球(あくまで召喚獣だが)目掛けて躊躇なくロンギヌスを叩き込んだ。〈優子〉も咄嗟にエクスカリバーで受け止めたものの、圧倒的なパワー差の前に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

vs

 二年Aクラス 木下優子 4783点』

 

 

和真「……咄嗟に受け身を取ってダメージを軽減したかのか。しばらく会わねぇ内に随分とできるようになったじゃねぇか」

優子「成績だけじゃなく操作でもアンタに勝つもりで鍛練したからね。それにしても、予想通りとはいえホント容赦しないわねアンタ……」

和真「わかってんならさっさと立てよ。

体勢立て直すのをチンタラ待ってやれるほど……俺の気は長くねぇんだよっ!」

優子「くぅっ……!」

 

〈和真〉はすかさず間合いをつめて追撃を行う。〈優子〉は体勢を立て直しつつどうにか応戦するも、圧倒的なパワー差と執拗なまでの眼球攻めに防戦一方となる。

 

 

 

明久「ねぇ雄二……なんか和真の攻撃、やたら顔狙いに偏ってない?」

雄二「多分視点の変化を利用してるんだろ」

明久「へ?それってどういう-ぬわぁぁあああっ!?(ガバァッ!)」

 

雄二の言っていることがいまいち理解できない明久に、雄二は何故か目潰しを仕掛ける。すんでのところで避けた明久は猛然と雄二に抗議する。

 

明久「いきなり何するキサマ!?」

雄二「怖かったか?」

明久「いきなり目潰されかけたらそりゃあねぇ!?」

雄二「おそらく木下姉も同じ気持ちだろうな」

明久「………え?」

雄二「視覚リンクシステムは自分の視界が召喚獣から見た視界になる。木下姉の召喚獣はお前みたいに痛みがフィードバックしないから目潰しされたところでどうにもならないだろうが、人間そう簡単に割り切れるもんじゃないだろうしな」

 

人は思っている以上に視覚から得た情報に依存している。目を閉じれば恐怖感が増してロクに身動きも取れなくなるほどだ。加えて眼球には神経系が集中しているため軽く触れられただけで激痛が走る。そんなデリケートな部分を執拗に狙われたらいくら気の強い優子と言えど防戦一方にならざるを得ない。召喚獣の眼が抉りとられようご本人に実害が無いことなど何の意味もない、染み付いた感性は嫌が応にも警戒を抱かせるのだ。

 

明久「え、えげつないね和真……木下さんのこと大好きな筈なのに、なんでそこまで情け容赦なくできるの?」

雄二「以前和真が言っていたが……自分は筋金入りの戦闘狂で、親だろうが親友だろうが恋人だろうがひとたび勝負が成立してしまえば、あらゆる感情を一切無視して勝つことだけを考えられるんだとよ」

 

まさに生まれついての狂戦士(ナチュラル・ボーン・ベルセルク)

普段は強靭な理性に抑えつけられているが、和真の真価はその奥に潜む暴力的なまでの闘争本能、そしてそれこそが和真の本質にして、“気炎万丈”の中核なのだ。

 

和真「ほらほらどうした優子、反撃しなきゃ勝てねぇぞ!」

優子「うるさいわねっ!ここから怒濤の反撃が始まるから見てなさ-きゃあっ!?」

 

目に迫り来るロンギヌスに気を取られ過ぎた〈優子〉は、いつの間にか間合いをつめていた〈和真〉の蹴りをモロに喰らってしまう。パワー特化とはいえただの蹴りなのでそこまでのダメージでは無いが、体勢が崩れて致命的な隙をさらしてしまう。

 

和真「怒濤の反撃が何だって!?始められるもんなら始めてみろや!」

 

その隙を〈和真〉が見逃す筈もなく、渾身の一撃を放つべくロンギヌスを振りかぶる。

 

優子(………かかった!)

 

それこそが待ち望んでいた反撃の糸口。

〈優子〉は『ソードバースト』を発動させる。実はこの腕輪能力は消費点数の大きさに比例して威力が上がるだけでなく、放った斬撃の軌道をある程度コントロールできる隠れた特性がある。〈優子〉はその特性を巧みに駆使し、回避不能な斬激の弾幕で〈和真〉を取り囲んだ。

 

 

優子(よし、うまくいった-)

和真「-とでも思ったか!」

優子「っ!?嘘ぉっ!?」

 

 

驚異的な反応速度でロンギヌスを構え直し、〈和真〉は向かってくる斬撃を1つ残らず弾き飛ばした。通常の武器なら威力に耐えきれず破損してしまうが、桁違いの耐久力を誇る固有武器はうまく扱えば腕輪能力とも渡り合えるのだ。まあ今回の場合驚異的なのは固有武器よりも、優子のしかけた起死回生の策に即座に対応した凄まじいまでの反射神経だろう。

 

雄二(対応力が遠隔操作時とは段違いだ。視覚リンクシステムの恩恵を一番受けたのは間違いなくアイツだな……)

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

vs

 二年Aクラス 木下優子 3228点』

 

 

そして両者の点数差はさらに広がる。金の腕輪は確かに強力な武器だが、上手く扱えなければ無意味に点数を消費してしまう諸刃の剣なのだ。

 

……ランクアップ能力を除けば、だが。

 

優子「……どういうつもり?」

和真「あん?急にどうした?」

優子「どうして能力を使わないのよ?アタシと違ってアンタはランクアップしているのだから、点数消費は無いんでしょ?」

和真「まあ確かにそうだが……安心しろ、お前に対して使う気は無ぇからよ」

優子「………何それ?情けでもかけてるつもり?だとしたら不愉快なんだけど」

和真「おっと怖ぇ怖ぇ。そうだな、お前を怒らせたくはねぇから正直に言うか……」

 

両手を上げて降参のポーズを取ってから和真は一旦目を閉じ少し勿体ぶってから目を開け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やたらと挑発的な笑みを浮かべながら優子を指差しつつ、見下しきったような声色で告げる。

 

和真「テメェみてぇな雑魚キャラに能力なんざ使う必要無ぇんだよバーカ。悔しかったら力づくで使わせてみろやウケケケケケケケ!」

(((全力で怒らせにかかってるーーー!?!?!?)))

優子「…………ふーん?

 

 

 

 

ふーーーーーん???」

(((滅茶苦茶怒ってらっしゃるーーー!!!)))

 

顔全体に怒りマークを浮かべながら何故か満面の笑みを浮かべる優子は、ハッキリ言って滅茶苦茶怖い。

和真も普段なら即座に許しを請うレベルだが生憎今は戦闘中のため、和真は臆することなく不適な笑みを浮かべたままである。

 

優子(有り得ないほどムカつく挑発でうまく誤魔化したつもりでしょうけど、アンタの考えはわかっているわよ。そんなに隠したいならいっそのこと出し惜しみしたまま仕留めてあげるわ…………アタシの“オーバークロック”でね)

 




思ったより長引いたので決着は次回に持ち越します。




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S・B・F本戦・Bブロック②

主人公である和真君を差し置いて、優子さんは着々とヒーローポイントを重ねていきます。




和真の露骨過ぎる挑発に多少イラッとしつつも流石はAクラスの副官と言うべきか、和真の狙いを大まかにだか推察する。

 

優子(……挑発はともかく、能力の出し惜しみは明らかに不自然ね)

 

そもそも和真は格下相手でも手加減とかはあまり好まない。それどころか、むしろ必要以上にオーバーキルしたがる性格だ。そんな和真が自分の嗜好を無視してまでもランクアップ能力を出し惜しんでいる理由は…

 

優子(多分だけど……和真のランクアップ能力は代表のような隙の無い性能ではなく、一点特化で弱点のあるものじゃないかしら?もしそうなら決勝で代表と闘うまでは、そうそう能力を使おうとしないはず。だとすればそこに付け入る隙が-)

和真「のんびり付け入る隙探してる余裕あんのか?」

優子「っ!」 

 

能力は出し惜しみしつつもやはり慢心は一切無いようで、〈和真〉は息もつかせぬ多角的な猛攻で〈優子〉を追い詰めていく。向上したとはいえ操作技術では和真が一歩も2歩も上で、なおかつ点数もわずかにだが和真が勝る。それに加えて和真の並外れた反射神経による恐るべき対応力が、優子の勝率をよりいっそう引き下げている。

 

優子(やっぱりこのままじゃ勝ち目は無いわね…でも、()()はここで使うべきなの……?)

 

優子はまだ少し迷っていた。

確実とは言えないが勝機は、ある。勝ち筋の見える戦術は既に用意できた。しかしそのためには自身の持つ手札を全てさらけ出す必要がある。蒼介がいる以上自分が優勝できる可能性はゼロに等しいこの大会で、そこまでの大盤振る舞いをする必要があるのか?和真がランクアップを習得した以上、近い内にAクラスはFクラスと激突する運命にある。自身の切り札は今切らず、そのときまで温存しておく方が利口なのではないか?

 

優子(………………そんなわけないわよね、和真)

 

そこまで考えて優子は、その疑問を全否定し不敵に笑う。勝てるかどうかわからないからこの先の闘いまで取っておく?

 

 

笑止。

 

 

優子(今勝てないから次まで取っておく……?そんな甘ったれた考えじゃあ勝利は決して掴めない!“今”を全力で勝ちにいけないような奴に、“次”なんてもんは存在しないのよ!目の前に分厚い壁があって、それを突破しなければならないなら……迷う理由は、どこにも無い!)

 

覚悟を決めた〈優子〉はバックステップで〈和真〉との間合いを大幅に取る。血迷ったとしか思えないその行動に、流石の〈和真〉も攻撃を止め警戒する。

 

和真「……何のつもりだ優子?長物相手に間合いを開けることがどれだけ愚かしいか……わからねぇお前じゃねぇだろう」

優子「ご忠告どうも。でもおあいにく様、アタシの剣の射程はアンタよりずっと上なんだよね。

 

 

 

……『ギガント・セイバー』!」

和真「っ!?こいつは……オーバー・クロックか!」

 

眼も眩むような目映い光が〈優子〉ごとエクスカリバーを包み込む。やがて光が晴れると〈優子〉は召喚フィールドの端から端まで届くほどの巨大な、光輝く剣を握りしめていた。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

vs

 二年Aクラス 木下優子 228点』

 

 

和真「……確かに射程は半端無ぇな。だがよぉ優子、消費点数3000点はリスクでかすぎんだろ。代償に死にかかってちゃ世話ねぇぜ」

優子「アンタを倒しきれれば問題無いわ……よっ!」

和真「ぅおっ!?」

 

〈優子〉が力任せに薙いだ巨大な剣を〈和真〉はロンギヌスで受け止める。これほど巨大な剣相手では回避も受け流しも困難であると判断したのだろうが、いかにパワーに特化した召喚獣だろうと、いかに固有武器の性能が優れてようと、コストパフォーマンスを度外視した破壊力を秘めた“オーバークロック”に素の状態で立ち向かうなど無謀でしかない。完全に力負けした〈和真〉は吹き飛ばされて壁に激突し、あまりの衝撃にロンギヌスは遠くに弾き飛ばされてしまう。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  1232点

vs

 二年Aクラス 木下優子 228点』

 

 

加えて攻撃特化の弊害がここに来て露呈する。流石に以前ほど紙装甲ではないとはいえ耐久を蔑ろにしている〈和真〉は、まともに喰らった訳ではないのに瀕死一歩手前まで点数を削り取られてしまった。

 

優子「ホント固いわね固有武器……でも壊せなくったって取りこぼしちゃえば無いも同然でしょ!」

和真「ちぃっ……!」

 

拾わせる隙など当然与えない。

〈優子〉は光の剣を振り下ろす。得物を失い絶体絶命のこの状況に流石の和真も観念したのか、

 

 

 

 

 

和真「『レーザー・ウィング』!」

 

ランクアップ腕輪能力を発動させた。〈和真〉の背から生えた六枚の翼が収束し一つに束ねられ、振り降ろされた光の剣とぶつかり合う。破壊に特化した翼の威力は凄まじく、光の剣を跡形もなく消し飛ばした。しかし極限まで攻撃に特化した翼も耐えきれずに四散してしまい、痛み分けとなった。

 

優子「相討ち……!」

和真「チッ、マジでピーキー過ぎる性能だな俺の腕輪能力。……さて優子、これでお互い丸腰になったがお前の点数はもう風前の灯火……形勢逆転だな」

優子「………ええ、そうね。

 

 

 

 

 

 

そして形勢再逆転よ!」

 

おもむろに〈優子〉はエクスカリバーを納めていた鞘を掴み、剣のように握りしめた。

 

和真「鞘……だと?いくら固有武器だからって鞘なんざあくまで付属品じゃ…っ……エクスカリバーの、鞘……!」

優子「気づいたみたいね。そう、アタシの本当の固有武器は……この鞘よ」

 

補足すると、『アーサー王伝説』の聖剣エクスカリバーは二本ある。一本目のエクスカリバーは無名であったアーサー少年を「王たる人物」と示し、閃光を放つ能力が秘められた聖剣であったが、物語の序盤における一騎打ちで叩き折られてしまう。そして二本目のエクスカリバーは剣ではなく、剣を収める鞘の方に強い魔法の力が秘められていると明言されている。〈優子〉の固有武器『エクスカリバー』はどうやらの二本目のエクスカリバーに準拠しており、重要なのは剣自体ではなく鞘……すなわち固有武器特有の耐久性もこの鞘に備わっているようだ。

 

優子「槍を拾う隙は絶体与えないわ。……どう?流石のアンタでも、打つ手はないんじゃない?」

 

鞘を目の前に突きつけられた〈和真〉は、降参の意をを示すカのように両手を上げて…

 

和真「………ああ、そうだな。流石にこの状況をひっくり返すのは、いくら俺でも…

 

 

 

 

 

 

 

なんて言うと思ったか?」

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

  

十の砲身が展開し〈優子〉を取り囲んだ。かつて猛威を奮った〈和真〉の腕輪能力……『一斉砲撃(ガトリングカノン)』だ。

 

優子「……え…………?」

和真「悪いが形勢再々逆転だ。その様子だとソウスケも知らなかったようだが……ランクアップしたら元の腕輪能力が使えなくなるわけじゃねぇんだよ」

優子「……………ふぅ、アタシの負け…か」

 

砲身から発射された弾丸が、瞬く間に〈優子〉を蹴散らした。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  232点

vs

 二年Aクラス 木下優子 戦死』

 

 

綾倉「勝者、柊君!」

 

優子は死力は尽くした。

練った戦術も功を奏したと言えよう。

しかしそれでも勝てなかった。紙一重の差とはいえ、敗れたことに変わりは無い。優子が引き出した和真の手札がこの先誰かの役に立とうが、この場で敗北した優子が得たものは悔しさのみである。

 

優子「……やっぱり、悔しいなぁ」

和真「普段はともかく“戦闘”で俺に勝とうなんざ十年早ぇよ。……まぁ、想定より大分追い詰められちまったがな。ランクアップ能力はともかく、通常腕輪能力を使用可能なことはソウスケに隠しておきたかったっつうのに……」

優子「アンタこそアタシ相手に出し惜しみなんて十年早いってことよ。……頑張ってね、和真」

 

和真にしか聞こえない声量で激励してから、優子は観客席に移動する。

 

和真「………応援されて嬉しいっちゃ嬉しいけどよ、Aクラス副官サマとしちゃアウトだろ」

 

髪をガシガシと掻きながら呟いた和真のその言葉は、まず間違いなく照れ隠しであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーナメントはまだまだ続く。

次の対戦カードは三年Aクラスの名波建一vs一年の次席である志村泰山。次席とはいえ召喚獣を動かし始めたのはつい最近、二年以上の経験値を持つ三年生相手では分が悪いというのが下馬評だが…

 

 

《国語》

『一年Fクラス 志村泰山 396点

VS

 三年Aクラス 名波建一 戦死』

 

 

名波「ば…バカな……!?」

泰山「流石は三年生、思っていた以上に苦戦させられましたぁ」

綾倉「勝者、志村君!」

 

結果は真逆、泰山が名波を大差で下した。

和真と優子の激戦でヒートアップしていた会場の空気が泰山の不自然なほど圧倒的な実力に静まり返る中、蒼介は泰山の武器『蛇腹剣』に注目する。

蛇腹剣とは刀身に形態を変える機構を内蔵し、“剣”としての形態と“鞭”としての形態を使い分けられるようにした、実用性よりもロマンを追い求めた特殊な刀剣である。幾つかの節に分割された刀身の内部にワイヤーを仕込み、 ワイヤーを巻き上げれば刀身がピンと接続されて剣に、 緩めればワイヤーが伸びて鞭となる。

 

蒼介(刀剣の切れ味と鞭のしなやかさを併せ持つ……と言えば聞こえが良いが、はっきり言って玄人好み過ぎてこの上なく扱いにくい武器だ。志村が使いこなせていることも不自然だが、あんな武器が一年生の召喚獣に持たされることが不自然過ぎる。……だが何故だ?客観的に考えればあの一年生四人は明らかに怪しいが、私の視た限りあの四人からは悪意が感じられん……)

 

傍らで蒼介が思い悩む中、Bブロック第四試合が始まる。対戦カードは因縁のあるこの二人の闘いだ。

 

徹「ついに来たよ……アンタに借りを返すときがね」

小暮「ふふ、お手柔らかにお願いしますね大門君」

 

 

 

 

 




【注目選手データ⑪】

・二宮悠太(二年Aクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉コルセスカ

〈能力〉無し

〈成績〉
外国語……278点
国語……247点
数学……324点
理科……305点
社会……280点
保体……285点

総合科目……3153点



・沢渡晴香(二年Aクラス)

〈召喚獣〉パワー型

〈武器〉フランベンジェ

〈能力〉無し

〈成績〉
外国語……282点
国語……301点
数学……252点
理科……266点
社会……299点
保体……290点

総合科目……3090点


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S・B・F本戦・Bブロック③

今回、徹君が色んな意味で絶好調です。


徹「……小暮先輩、始める前に一つだけ聞いていいですか?」

小暮「あら、なんでしょうか?」

 

希望科目選択の段階で、徹は突然小暮に対して質問を投げかけた。

 

徹「アンタが400点越えてる科目はどれですか?」

小暮「……それを話せばわたくしが不利になるので、流石にお答えするわけには-」

徹「僕も越えていたらその教科を希望してあげます……と言ったらどうしますか?」

小暮「!……」

 

突然の提案に小暮は頭の中で熟考する。徹の総合科目の点数は先日のvsリンネ・クラインの際に目撃した梓から聞き及んでいるが、あの総合点数では大抵の科目で400点を上回っていると見ていいだろう。何か企んでいる可能性は十二分にあるが、徹側だけが腕輪持ちという最悪の事態を招くぐらいならこの提案に乗っておくべきではないか……?

 

小暮「………国語と社会です」

 

そう判断した小暮は自らの得意科目を露呈した。

 

徹「ふむ……国語は越えていないが社会は越えている。では約束通り、僕の希望科目は社会だ」

 

両者共に社会科目を選択したため、ステージの上に設置されたオーロラビジョンの三つの項目は全て社会科となった。

 

小暮「大門君、いったい何が狙いなのでしょうか?わたくしの知る貴方は、わざわざ相手の土俵で闘うような方では無いはず……」

徹「まあそうなんですけどね、生憎手段を選ばない方法でのリベンジは肝試しの際に果たしたんでね。今度はアンタが最も得意としているフィールドでぶちのめす。そうしてこそ……召喚大会以来僕が背追い続けて来た屈辱の十字架をアンタに背負わせられるんですよクハハハハハ!」

小暮(や、やっぱりまだそれ引き摺ってましたか……)

 

大門徹は受けた屈辱を決して忘れない。

その常軌を逸した執念深さに、小暮は呆れを通り越して感心しそうになる。

立会人の綾倉先生が社会科のフィールドを展開し、二人は『召喚獣視覚リンクシステム』専用ゴーグルをかける。

 

徹・小暮「「試獣召喚(サモン)」」

 

そして召喚獣を呼び出し準備を終える。奇しくも両者とも召喚大会の頃より強化されているだけで、以前と同じ系統の装備であった。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 小暮葵 406点

vs

 二年Aクラス 大門徹 402点』

 

 

小暮「では、参ります」

徹「どうぞご自由に。……『リフレクト・アーマー』」

 

早速腕輪を使い鎧を強化した〈徹〉に対し、〈小暮〉は小手調べとばかりに鉄扇を構えて接近戦に持ち込む。かつて大門は小暮のこの素早い動きと圧倒的な経験の差の前に為す術なく敗北した。

しかし臥薪嘗胆の思いでこの数ヵ月特訓に特訓を重ねてきた徹に同じ手は通用しない。

 

徹「アハハハハハ無駄無駄無駄ぁっ!」

小暮(やけにハイテンションですわね…っとそんなことよりあの能力、予想以上に厄介ですね……)

 

スピードでは遅れを取るため完全回避は不可能に近い。そのため〈徹〉の取った手段は最小限の動きで〈小暮〉の急所狙いの攻撃をずらすことだ。その戦法が功を奏し、〈徹〉が最小限のダーツしか負っていない一方、〈小暮〉は『リフレクト・アーマー』によって反射された衝撃破を喰らい、軽くはない手傷を負ってしまう。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 小暮葵 315点

vs

 二年Aクラス 大門徹 322 点』

 

 

腕輪発動による消費を加味すると削れた点数はトントンだが、戦局の流れは明らかに徹に傾いている。

 

小暮「どうやらわたくしも、全力で立ち向かう必要がるようですわね……『黒死蝶』」

 

その状況を打開すべく腕輪能力『黒死蝶』を発動すると、〈小暮〉の体から数頭の黒い蝶が出現し〈徹〉に襲いかかる。

 

徹「アッハッハ!そんなへなちょこな攻撃が僕に通用すると……って何ィィイイイ!?」

小暮「うふふ……どうやら威力の無い攻撃は反射できないようですね」

 

(((だ……ダセェ……)))

和真(あのバカガキ、油断し過ぎだろ……)

蒼介(無様だな……)

優子(見てて滑稽ね……)

飛鳥(大門君、いくらなんでもそれは無いでしょう……)

愛子(格好悪過ぎるよ徹君……)

源太(後で指差して笑ってやろ♪)

 

声にこそ出さなかったものの、内心で思いっきりディスりまくる観客及び『アクティブ』一同。自らの防御を過信して〈徹〉避けようともせず受け止めたため、蝶を毒鱗粉を全身に浴びてしまう。〈徹〉は自由を大幅に制限され、その上時間と共に点数が削れる呪いを浴びてしまった。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 小暮葵 215点

vs

 二年Aクラス 大門徹 244点』

 

 

小暮「……どうやら、勝負ありですね」

徹「くっ…!」

 

小暮の勝利宣言に言い返す言葉も無く、徹は俯いて悔しそうに歯噛みする。〈徹〉がこれだけ弱体化された状態では、〈小暮〉が逃げに撤すれば決して追いつけない。そうなれば毒に体をじわじわと蝕まれてジ・エンドである。

 

徹「くっ……!」

小暮「心中察しますが、これも貴方の油断が招いたこと。わたくしも先輩として、ここは心を鬼にして-」

徹「くっ……!」

雄二(……ん?なんか様子が変だな)

秀吉(………これはいったいどういうことじゃ?)

蒼介(……そういうことか。

まったく、悪趣味な奴め)

和真(アイツ、ほんと性格悪いな)

 

雄二はいつまでも俯いたままの徹に違和感を覚えた。

学園一の演技バカである秀吉はその違和感の正体を完璧に見抜いていたが、徹との親交がほとんど無いため徹がどうしてそうなのかを理解できなかった。

そしてその秀吉に匹敵する観察力を持ち、なおかつ大門徹という人物をよく知る二人は全てを理解し、そしてただただ呆れるばかりであった。

 

徹「くっ…………くっ………くっ……」

小暮「……?あの、大門君?いったいどうしたので-」

 

ようやく徹の様子がおかしいことに気づいた小暮が、心配そうに声をかけた途端に徹は顔を上げ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徹「クックッククハハハハハアーッハッハッハッハッハ!『拘束解除』ォっ!」

小暮「っ!?」

 

狂ったように笑いながら、“オーバークロック”を発動させた。直後、全身を覆っていた甲冑と両腕に嵌められたガントレットが消滅し、〈徹〉は丸腰の制服姿になる。そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《社会》

『三年Aクラス 小暮葵 戦死

vs

 二年Aクラス 大門徹 64点』

 

 

小暮「…………え?」

 

電光石火。

 

警戒させる暇もなく、〈徹〉は桁違いの速度で接近し〈小暮〉を瞬殺した。牽制用に喚び出された黒死蝶を拳圧で消し飛ばし、〈小暮〉が咄嗟にしたガードを武器ごと粉砕し、一方的に蹂躙した。何が起きたかわからず固まったままの小暮に、徹は得意気に種明かしをする。

 

徹「ククク……これが僕のオーバークロック、『拘束解除』。その能力は装備を全て失い耐久が最低レベルに下がることを引き換えに、僅かな時間だけ圧倒的なパワーとスピードを得ることだ。

さて小暮先輩、僕の油断がどうたらってさっきの台詞……もう一回言ってくださいよぉぉぉ(にたぁ…)」

(((めっちゃ悪い顔してるーーーーー!?)))

 

愉悦の極みのような笑顔を浮かべる徹に、流石の小暮も余裕を無くしたのか顔をひきつらせながら尋ねる。

 

小暮「あの、大門君?もしかして……わたくしの『黒死蝶』を避けようともしなかったのは、油断していたとかではなくて-」

徹「勿論わ・ざ・とですよぉ~!

この僕が!今日のリベンジを一日千秋の思いで待ち望んでいたこの僕が!よもや標的の腕輪の詳細くらい!調べて無いとでも思いましたかぁ!?

だとしたら随分と浅い読みですねぇィヒヒハハハハハ!この大門徹、受けた屈辱は数十倍にして返すのがポリシーでしてねぇ!

どうでしたか?僕の手のひらで踊った感想は?僕をあっさり倒せたと思った、淡い夢の感想はぁ?まさに芸術……実に、実に芸術的ですねぇ!僕が油断したと勝手に思い込んで得意気になっていたアンタは……見ていてとても愉快でしたよウヒャヒャヒャヒャ!」

 

虚仮にするだけ虚仮にして満足したのか、徹は顔を真っ赤にして涙目になる小暮を捨て置いてスキップしながら控えスペースに戻っていった。それを見届けた教師、生徒達の心は一つになる。

 

(((こ れ は ヒ ド イ)))

 

この日以降、徹は『文月学園一器が小さい男』『文月学園一執念深い男』に続き『文月学園一陰湿な男』という不名誉な称号を頂戴するのだが、ひたすら我が道を行く徹が一切気にも止めないことはわざわざ説明するまでもない。

 

蒼介(まったくアイツは……可能な限り温存しておけと言っていたオーバークロックを使ってまで、くだらないことしおってからに……。奴のオーバークロックは使いようによってはランクアップ能力にさえ届きうる。だからこそ、Fクラスには隠しておきたかったのだがな)

雄二(ちぃっ、思わぬ伏兵がいやがった……。この分じゃ、俺と翔子がランクアップしても楽勝とはいかなさそうだな……)

 

とにもかくにも、これで波乱に満ちたBブロックは終了した。続いてはCブロック……優勝候補No.1の蒼介が所属する、ある意味随一の死のブロックである。

 

 

 




全国の小暮先輩ファンの皆様、申し訳ございません……。



【オーバークロック】

ギガント・セイバー(優子)……消費200。剣ががとんでもない大きさの光輝く剣(意外と軽い)になる。発動後剣は粉砕するが本命の武器は鞘なので、オーバークロック中唯一(実質)ノーリスク能力と言える。

拘束解除(徹)……消費50。リフレクトアーマーを発動している状態でのみ発動可能。全武装を捨て去り耐久を犠牲にする変わりにパワーとスピードを大幅に上昇させる。使いようによってはランクアップ能力とも渡り合える強能力だが、その効果は一戦しか持たない上、その後1日超絶紙装甲かつ丸腰になるというハイリスク・ハイリターン。





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S・B・F本戦・Cブロック①

Cブロック一回戦はこの1話で終わります。



優勝候補が多数所属する魔のCブロックの闘いが幕を開けた……が、一試合目(久保利光vs市原両次郎)と二試合目(姫路瑞希vs二宮悠太)は久保と姫路が対戦相手を秒殺して速攻で終わらせた。まあこれは仕方ない。3-Aの市原と2-Aの二宮はどちらも成績優秀ではあるが、別段それほど抜きん出ているわけではない。腕輪を持たない彼らでは、全教科腕輪持ちの二人に勝てる道理などありはしない。

そして第三試合目のムッツリーニvs工藤愛子、何かと因縁のあるこの二人の対戦だ。科目は会場の誰もが共通する得意教科・保健体育だと確信していた。

 

 

……が、

 

 

ムッツリーニ「………卑怯な……っ!」

愛子「え~?何のコト~?」

 

 

《数学》

『二年Fクラス 土屋康太  77点

vs

 二年Aクラス 工藤愛子 346点』

 

 

…………ご覧の通り、決定した科目はまさかの数学。こうなった経緯は何のことはない、愛子は一番得意な保健体育ではなくその次に得意な理科を希望、ムッツリーニは当然保健体育を希望したため科目はランダムで数学に決定したというだけの話だ。

 

ムッツリーニ「………おのれ工藤愛子、何故こんな姑息な真似をする……!保健体育で俺に負けるのが怖いのか?」

愛子「……ボクだって『保健体育は実践』というポリシーを掲げているから、理論派の君には負けたくないと思ってるよ」

ムッツリーニ「………だったら-」

愛子「でも……今の実力で君に勝てると思えるほど、ボクは自惚れてはいないよ。悔しいけどボクと君の間の差は大き過ぎる……でもねムッツリーニ君、仮メンバーとはいえボクだって『アクティブ』の一員なんだ。闘うからには勝ちたいし、勝つためには当然最善を尽くすよ……自分でもちょっとズルいとは思うけど、ゴメンね」

 

愛子は少し寂しそうに笑ってから、《愛子》を特攻させる。ムッツリーニの点数も以前と比べれば大分進歩したものの、約五倍の点数の〈愛子〉に叶うはずもなく瞬殺される。三試合連続のワンサイドゲームに観客も飽き始めないか心配になってくるほどマンネリな展開である。

 

ムッツリーニ「………俺の負け、か」

愛子「ムッツリーニ君……怒ってる?」

ムッツリーニ「………勝つために私情を捨てたお前に難癖を付けるほど、俺は無粋ではない(プイッ)」

 

やはり悔しいのか拗ねたように目を反らすムッツリーニに、微笑ましそうな笑顔を向ける愛子。その様子を見ていた愛子の友人達はさっさっとくっつけば良いのにと、思ったとか思ってないとか。

ふと、愛子は気になっていたことをムッツリーニに聞くことにする。

 

愛子「……そう言えばムッツリーニ君、この前大島先生が『土屋の奴………まさかここまでの点数を取るとは……!』って愕然としてたけど……今回の保健体育の点数、そんな良かったの?」

ムッツリーニ「………今回初めて900点を越えた」

愛子(挑まなくて良かった……。というかムッツリーニ君数学の十倍以上って……もう少し保健体育以外の教科も頑張ろうよ……)

 

 

 

 

 

 

そしていよいよ第四試合……生徒会書記・宗方千莉vs生徒会長・鳳蒼介の闘いが始まる。千莉は先程の予選でも秀吉を圧倒した期待のルーキーではあるが、残念ながら大会の注目のほとんどは優勝候補筆頭の蒼介に集まっている。

容姿端麗、文武両道、さらに高校生とは思えない圧倒的なカリスマ性を持つ蒼介と比べれば、誰だって引き立て役のような扱いになるのは仕方がないことかもしれない。

……だが千莉はそれに何ら不満を持つことなく、ただただ不敵な笑みを浮かべていた。

 

蒼介「……随分と楽しそうじゃないか宗方」

千莉「無論。この孤立無援な中で貴殿を討ち取れば、拙者という存在は彼奴等の心に深く刻み込まれるでござろう」

蒼介「その意気や良し。その心意気に免じて、お前が得意としている社会科目を希望しよう」

 

そう言ってPDAを操作する蒼介を、千莉は目をつり上げて睨みつける。どうやら舐められてると判断したようだ。

 

千莉「……鳳殿。それは拙者に対する挑戦と見なすが、構わぬか?」

蒼介「構わんよ。下級生に対するハンデと思えば丁度良い」

 

千莉も社会科を選択していたためフィールドは社会科目に決定する。綾倉先生に手渡されたゴーグルを装着しながら、千莉はさらに目を不機嫌そうにつり上げる。

 

千莉「……あいわかった。貴殿がそこまで拙者を愚弄するならば、それ相応の報いを受けてもらうでござる。……試獣召喚(サモン)!」

 

隠しきれないほどの怒りを孕んだ呼びかけと共に幾何学模様が現れ、中心から召喚獣が喚び出される。大型ディスプレイに表示された点数を見て、会場の生徒の大半が驚愕のあまり我が目を疑う。社会科が得意だと豪語する千莉、その点数は…

 

 

 

 

 

《社会科》

『一年Cクラス 宗方千莉 701点』

 

 

『『『ハァァァァァッ!?』』』

 

まさかの700点オーバー(学年主任クラス)である。宗方千莉は公私共に武士らしく振る舞う若干痛々しい女子生徒であり、そしてその武士らしさは成績にも反映されている。古典と日本史とあと何故か地理の成績がずば抜けてよく、その一方で英語の成績が壊滅的といった、明久やムッツリーニや美波と同系統の、とてつもなくアンバランスな学力を保持している。

 

千莉「ふふふ、今さら後悔しても遅いでござるよ鳳殿。拙者を愚弄した罪、貴殿の敗北で-」

蒼介「試獣召喚」  

 

勝ち誇った表情でペラペラと喋る千莉の台詞を遮って、蒼介は召喚獣を呼び出す。そして蒼介はゆっくりと千莉を見据え、いつもの冷静沈着な顔ではっきりと告げる。

 

蒼介「宗方、先輩として一つ忠告しておく」

 

 

 

 

 

 

《社会科》

『一年Cクラス 宗方千莉 701点

vs

 二年Aクラス 鳳蒼介  714点』

 

 

千莉「ば、馬鹿な……!?」

蒼介「上には上がいることを、肝に命じておけ」

 

千莉が絶句したのも無理もない、表示された蒼介の点数は千莉のそれよりもさらに上だった。

しかし蒼介の点数が開示されても先程のようなざわつきはほとんど起こらなかった。何故なら会場にいる生徒の大半は既に理解している。……鳳蒼介の桁違いのスペックを。

 

千莉「ま、まさか拙者が社会科で遅れを取るとは……!しかし試験召喚戦争は点数だけで結果が決まるほど甘くはないでござる!」

 

〈千莉〉は太刀と脇差しを構えて〈蒼介〉に斬りかかる。しかし渾身の唐竹割りは草薙の剣にあっさりと受け止められ、力押しでは分が悪いと判断したのか二刀流の手数を活かした連続攻撃へと攻め手を変える。とても最近召喚獣を動かし始めたとは思えないような怒濤の攻めに、〈蒼介〉は防戦一方を強いられたように見える。

 

千莉「ふはははは!見たか鳳殿、これぞ二刀流の真骨頂!この怒濤の連続攻撃……さしもの貴殿でもどうすることもできまい!」

和真(やれやれ、ほんと劇場型は調子に乗り易いな。よく見ろや一年……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

そう……《千莉》の連続攻撃は確かに凄いが、《蒼介》には全て防がれているのだ。しかも不可解なことに、受け太刀した際の金属がぶつかり合う衝撃音すらまったく聴こえてこない。やがてそのことに気付いたのか、〈千莉〉は一旦間合いを取って警戒する。

 

千莉「何故だ……?何ゆえに我が剣は貴殿に届かぬ…!?いったい如何様な絡繰りが……」

蒼介「……水嶺流捌の型・夕凪。ありとあらゆる攻撃を受け流し、無効化する……水嶺流唯一の守りを主体とした型だ」

千莉「なっ!?水嶺流にそんな型が……!?」

蒼介「!……動きの鋭さは認めてやろう。操作技術もまだ一年生ということを考えれば恐るべき熟練度だ。……だが、その程度の剣では私には届かん」

千莉「っ!何をもう勝った気でいるのでござる!?貴殿とて防いでばかりでは拙者を討つことなどできぬ!」

 

プライドを刺激された千莉は語気を荒げて反論するが、それを聞いた蒼介は呆れたように溜め息をつく。

 

蒼介「二つ目の忠告だ、戦局と現状は常に把握しておけ。私の剣はもう……()()()()()()()()()()()()()()()()

千莉「は?世迷い言を…っ!?」

 

胡散臭げに召喚獣の視界を通して自らの点数を確認した千莉は、信じられないとばかりに愕然とする。

 

 

《社会科》

『一年Cクラス 宗方千莉  232点

vs

 二年Aクラス 鳳蒼介  714点』

 

 

千莉「馬鹿なっ!?いったい何時の間に!?」

蒼介「連続攻撃を受け流す合間を縫って、だ。ふむ……痛覚が繋がっていないことは、意外と不便なようだな」

千莉「お、おのれ……!」

 

悔しそうに歯噛みする千莉。斬られたことに気づけなかったなど侍の名折れと思っているのだろう。

 

蒼介(宗方よ、恥じることはない。死角を見切り、そこから斬り込む暗殺の技……漆の型・狭霧を()()()見切るなどカズマのような天性の直感でもなければ不可能だ。さて……

 

 

 

 

……終わらせよう)ヒィィィン…

詩織「!………」

和真(この独特の気配、それに草薙の剣を鞘に戻した……ソウスケの奴、勝負を決めるつもりだ)

千莉「ぐっ……うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

“明鏡止水の境地”に入った蒼介の威圧感に気圧されたのか、〈千莉〉は何かを振り払うかのように脇差しと太刀を構えて特攻する。

 

千莉(脇差しと太刀で同時に斬る!鳳殿の剣術が如何に熟達してようとも、二方向からくる剣撃を同時に受け流せはしまい!)

 

それはあまりにも甘い希望的観測、仮に同時に切り込まれようとも蒼介ならばどうとでも対処できることは言うまでもない。そして何より…

 

 

《社会科》

『一年Cクラス 宗方千莉  戦死

vs

 二年Aクラス 鳳蒼介  714点』

 

 

綾倉「勝者、鳳君!」

千莉「……くぅ……無念……」

 

超集中状態の蒼介の間合いへ不用意に入るなど愚の骨頂、《千莉》の刃は《蒼介》に届くことなく、水嶺流拾の型・海角天涯により勝負は決した。

 

蒼介「如何なる場合でも自棄にならず冷静でいろ。……三つ目の忠告だ」

 

茫然とする千莉をその場に残し控えスペースへと歩きながら、蒼介は内心で一つの結論を出す。

 

蒼介(直接対峙し剣を交えてハッキリした。

 

 

やはりあの三人……少なくとも宗方は確実にシロだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・土屋康太(二年Fクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉小太刀二刀流

〈能力〉加速……消費30。スピードが急上昇する。

〈オーバークロック〉影分身……消費10点につき1体。自立行動し『加速』を使えば分身も加速するが、耐久は低い。

〈成績〉
外国語……78点
国語……76点
数学……77点
理科……85点
社会……84点
保体……904点

総合科目……1704点


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S・B・F本戦・Dブロック①

もう梅雨の季節ですね……。
あぁ、考えただけで憂鬱……。


『S・B・F決勝トーナメント』一回戦もいよいよ大詰め。A・B・Cブロックの試合が終了し、残るはDブロックの四試合となった。Dブロック第一試合の対戦カードは島田美波vs橘飛鳥。

 

明久(イケメンで胸が可哀想な女の子同士の闘いか……)

美波(……何故かしらね、アキの全身の骨を折り畳んでやりたくなったわ)

飛鳥(す、すごい殺気ね…私も負けてられない-って、アレ?どこ見て…控えスペースの吉井君の方角……。この殺気を向けられているの、私にじゃなくて吉井君に?この子、いったい何に対して怒ってるの……?)

 

胸が貧しかったり異性より同性にモテるタイプであったりと何かと共通点が多い二人だが、飛鳥は美波と違って自らの体型に劣等感を持っていないため、美波が何に対して怒っているのかいまいち理解できなかった。

 

綾倉「それでは橘さんと島田さん、希望する科目を選択してください」

 

二人が選択した科目はどちらも外国語。よってフィールド科目は自動的に外国語に決定する。

 

飛鳥「え?美波も外国語?てっきり数学を選択するとばかり……」

美波「ふふふ……試獣召喚(サモン)!」

 

不敵に笑う美波の呼びかけに応じるように、幾何学模様から西洋騎士風の召喚獣が出現した。

 

 

《外国語》

『二年Fクラス 島田美波 482点』

 

 

飛鳥「っ!その点数……」

美波「センター試験の外国語選択には、ドイツ語があるのよ。この勝負貰ったわ!」

飛鳥「なるほど……うん、ホント似た者同士ね私達」

美波「……え?」

飛鳥「試獣召喚(サモン)

 

美波に続き飛鳥もキーワードを唱え、忍装束を身に纏った召喚獣を喚び出す。

 

 

《外国語》

『二年Fクラス 島田美波 482点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  428点』

 

 

美波「えぇっ!?」

飛鳥「貴女がドイツ語を得意としているように、私も英語よりフランス語の方が得意なのよ」

美波「うぅ……絶対勝てると思ったのに……」

 

目論見が見事に失敗してがっくりと肩を落とす美波だったが、あまり引きずってもしょうがないのですぐに気持ちを切り替える。『召喚獣視覚リンクシステム』により召喚獣と視界を結合させて準備完了。

 

綾倉「それでは……試合開始!」

美波「予定とはちょっと違ったけど……それでもウチの方が点数が高い!絶対に負けないわよ飛鳥!『ヴァルキリー・ウィング』」

飛鳥「上等!どこからでもかかってきなさい!『黒羽』!」

 

初手の行動は両者共に先手必勝の腕輪発動、〈美波〉の背からは天使のような白い翼が、〈飛鳥〉の背からは烏のような黒い翼が出現し、二体の召喚獣は飛翔する。

 

 

《外国語》

『二年Fクラス 島田美波 432点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  328点』

 

 

和真(ほー、面白ぇ偶然だなこりゃ。アイツら腕輪能力まで似通ってんのかよ)

蒼介(厳密には別能力のようだが、どちらも飛行を可能とする能力。となれば必然的に、戦闘は空中戦となる)

 

美波「うっ……距離感がうまく掴めない」

飛鳥「……あ、しまっ…飛び過ぎた!?」

 

蒼介の読み通り、二体の召喚獣は空中で激しくぶつかり合う。しかし当たり前だが二人とも空中戦など始めての経験のため、しばらくはぎこちない動きでやみくもに動き回る不格好な闘いになる。

 

飛鳥「……うん、大分慣れてきたわ」

美波「えぇっ、もう!?」

 

操作技術で勝る〈飛鳥〉がいち早く空中戦に対応し(それでも普段よりおぼつかないのは否めないが)、〈美波〉に向かって飛行能力の強みを活かした多角的な攻撃を仕掛け、〈美波〉の点数をジワジワと削っていくていく。

 

 

《外国語》

『二年Fクラス 島田美波 304点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  288点』

 

 

飛鳥(多角攻撃で妨害して美波に空中戦に対応させず、このまま主導権を握り続ける!)

美波(マズい、点差がもうほとんどなくなっちゃった……これじゃ空中での動きに慣れても操作技術の差で負ける……

いや落ち着くのよ、まだ負けたわけじゃないわ!こうなったらさっき柊に言われた通り-)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は一旦試合直前に遡る。

 

和真「あん?格上相手にどうやって闘えばいいかって?さっきの予選で黒木にボコられたこと、まだ引きずってんのか?」

美波「う、うん。まあそんなところかな……」

和真「んー、そうだなぁ……そもそも俺みたいに戦闘自体が好きでもねぇ限り、闘わないに越したことはないんだがな」

美波「……え?そうなの?」

和真「そりゃそうだろ、勝ち目が薄いからこそ格上なんだからよ。……ただまぁ、このトーナメント戦みてぇに避けられない闘いってもんはある。そのとき『相手は格上で勝てそうもない。だから諦めます』じゃ情けねぇよな。かと言って無策でただ突っ込むだけは論外、それはもう動物以下だ」

美波「じ、じゃあどうすれば良いのよ……?」

和真「んなもん自分で考えろ……と言いてぇが、考えてる時間なんざもう無ぇか。なんせ一回戦の相手はあの飛鳥だしな」

美波「……うん。運良く外国語が選ばれてくれれば大丈夫だと思うけど、それ以外の科目だと飛鳥には……たとえ数学でも多分負けると思う」

和真「ソウスケが馬鹿げた点数を乱発するせいで感覚麻痺りがちだが、飛鳥の成績は十分高水準かつバランス良くまとまってるからな。それに優子とコンビ組んで鍛練を積んでるおかげか、操作技術も三年レベルときた。夏川先輩にボロ負けしたお前程度じゃ勝ち目薄いよな」

美波(それはそうなんだろうけど、そこまではっきり断言されるとムカつくわね……)

和真「そうだな、アドバイスするなら-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美波(-勝てない部分で張り合わず、自分が勝てるポイントに上手く誘導する。……今、ウチが飛鳥に勝ってるポイントは……)

 

不意に〈美波〉は応戦することを中断し、動きをピタリと止めた。

 

飛鳥(……?あきらめた……わけないわよね、この子の性格からして。うん、一応念には念をいれて……真横から!)

 

〈飛鳥〉はそれを警戒し最短距離ではなく、迂回を織り混ぜて〈美波〉に接近しようとする。

 

 

 

 

……が、

 

 

飛鳥「っ!?」

美波「武器のリーチってわけね!」

 

直前で〈美波〉のランスに阻まれて失敗する。

どうやらまともに空中戦を行えば確実に競り負けると判断したのか、〈美波〉は空中でトンボのように制止して待ちの体勢に入った。

 

飛鳥「このっ……!」

美波「おっと!そう簡単には近づかせないわ!」

 

〈飛鳥〉も負けじと果敢に攻めるが、どの方向から攻めてもランスに弾かれ間合いを詰められない。

長物を扱う〈美波〉に対し〈飛鳥〉の武器は鉤爪。その圧倒的なリーチの差は、飛鳥と美波の実力差を埋める大きな武器へと成り得た。

 

姫路「美波ちゃんその調子です!」

明久「う、うん…そうだね姫路さん」

和真「余計な期待させてんじゃねぇよ明久。お前はホント姫路に甘いなオイ」

 

一見美波有利の戦況に姫路は綻ぶが、明久と和真の表情は芳しくない。ちなみに向こうにいる雄二や翔子も、似たような反応をしている。

 

姫路「えっと柊君……余計な期待って、どういうことですか?」

和真「十中八九、島田の負けだ」

姫路「えぇっ!?」

明久「ちょ、ちょっと和真!?確かにこのままじゃダメだと思うけど、まだ負けが決まったわけじゃ-」

和真「そう思うならお前の読みが浅いんだよ」

姫路「あ、明久君…このままじゃダメって……」

明久「あー、それは…えっと、確かに橘さんに間合いに入らせない闘い方は上手く機能してるんだけど……」

和真「問題は島田に攻める手だてが無いことだな」

 

そこまで言われて姫路はようやく理解する。試験召喚戦争の勝利条件はたった一つ、相手の点数を削り切ること。たとえどれだけ防御が上手かろうが、それだけでは勝ちには結びつかないのだ。今のままじゃお互い千日手で決着がいつまでたっても着かないであろう。

 

明久「で、でもさ和真……橘さんだって攻めあぐねてるじゃないか」

姫路「そうですよ柊君。まだ美波の負けが決まったわけじゃ…」

和真「気が短い島田が根比べで飛鳥に勝てるとは思えねぇな、あいつは俺の知る限り一番我慢強い女だぞ。それに長々と続けば痺れを切らしたギャラリーは、多分守ってばっかの島田を非難し始めるだろうよ。そうなれば意外と打たれ弱い島田がボロを出さないとは思えねぇ」

姫路「そ、そんな……」

和真「それから飛鳥の腕輪能力だが、島田の2倍の点数を消費するからには……ただ飛ぶだけの能力では無いはずだぜ」

 

和真の推測した通り、飛鳥は奥の手を隠し持っていた。背中の黒い翼から沢山の羽を〈美波〉目掛けて放つ。

 

美波「ちょ、何よそれっ!?」

飛鳥「実は私の『黒羽』は遠距離攻撃もできるのよ。威力は大したことないけどね」

美波「威力は弱いと言ってもこのまま喰らい続けたら……こうなったらランスで全部叩き落とす!」

飛鳥(うん、かかった!)

 

一か八かの賭けに飛鳥は勝利した。

実を言うと、ここで無視されれば不利になっていたのは飛鳥の方である。この遠隔攻撃は使い続ければ『黒羽』の効果が切れるというデメリットが存在する。この攻撃だけで倒そうとすれば、〈美波〉の点数を削り切る前に〈飛鳥〉が先にガス欠してしまうほどのコストパフォーマンスの悪さだ(そうでもなければハメ技が容易にできてしまうので致し方ないのだが)。

羽を飛ばしながら〈飛鳥〉は接近し、〈美波〉がランスで羽を弾き飛ばす合間を縫って掴みかかる。

 

美波「あっ、しまっ…え?爪で引っ掻くんじゃなくて、ウチの召喚獣を掴んだ?なんでそんなこと……」

和真(あのバカ、何ボケッとしてやがる……)

 

〈飛鳥〉の思いもよらぬ行動に、戦闘中にもかかわらず美波は思考を停止してしまう。

 

飛鳥「あら美波、忘れちゃったの?

 

 

 

 

 

 

私が柔道家だってことを!」

美波「っ!?」

 

言われて思い出したのか、慌てて引き剥がそうとするがもう遅い。左手で肘を掴んだ状態で斜め上に引きあげ、

 

 

和真(あーあ、よりにもよってアレかよ…こりゃ終わったな……)

 

 

前回りさばきで相手の懐に踏み込み、体を沈めつつ右手で相手の上腕を挟み込み固定し、

 

 

蒼介(飛鳥の最も得意とする技……『一本背負い』。凡夫と蔑まれても決して折れることなく、明けても暮れても柔道に打ち込み練り上げたその技の流麗さ、そして技を受けた相手が見事な弧を描き叩きつけられる光景から、とあるメディアに名付けられた別名は……)

 

 

相手を背負い上げつつそのまま左手で引いて、

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介(……上弦の月)

 

飛鳥「やぁぁあああっ!」

美波「きゃぁぁあああっ!?」

 

遥か下の地面に向かってブン投げた。回転しながら猛スピードで弧を描きつつ落下していく〈美波〉、そして視界をリンクさせていたせいで思わぬダメージを負った本体。地面に激突しても辛うじて生きてはいたが、完全に目を回してしまった美波にまともな操作などできる筈もなく、容赦なく追撃をしかけてきた〈飛鳥〉にアッサリと討ち取られてしまった。

 

 

《外国語》

『二年Fクラス 島田美波 戦死

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  288点』

 

 

美波「うぅ、頭グラグラする……」

飛鳥「ごめんごめん。でもこっちもギリギリで手心加える余裕なんて無かったから、悪く思わないでね?」

 

三半規管が狂いその場に倒れ込んだままの美波に、飛鳥は歩み寄り手を貸して助け起こす。

 

美波「うぅ……終わってみれば完敗だったわね……ま、ウチに勝ったからには簡単に負けちゃダメだからね。目指すは当然優勝よ」

飛鳥「もちろん頑張るつもりだけど……私が優勝しちゃったら、Fクラスにとって不都合になるんじゃないかしら?」

美波「あ、そうだった。じゃあ決勝まで勝ち進んで負けてね♪」

飛鳥「けっこう無茶苦茶言うわね貴女……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「結局島田の完敗か……順当な結果と言えばそれまでだが」

和真「……なあ雄二、これマズくねぇか?」

雄二「何が言いたいのかはおおよそ見当がついているが、一応聞いておく……何がだ?」

和真「このままじゃAクラスと戦っても多分勝ち目無ぇぞ。どいつもこいつも弛み過ぎだろ……Bクラスの設備ぶんどったりしたのは失敗だったんじゃねぇか?」

雄二「そうかもな。……ここは一つ、Aクラスと闘う前に何か手を打つか」

和真(……果たしてお前も、他人事で済むのかねぇ)

 

 

 




死に設定になりつつあった飛鳥さんの柔道スキルがようやく生かされました……。試召戦争に組み込みやすそうな空手とかにしとけば良かったと若干後悔しています。




ヴァルキリー・ウィング……消費50。翼が生え、召喚獣が飛行可能に。

黒羽……消費100。大体ヴァルキリー・ウィングと同じ性能だが、羽を飛ばして遠隔攻撃が可能。


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S・B・F本戦・Dブロック②

今回は大して山場も無いのでさらっと終わります。


文月女傑王決定戦の幕が降りたところで、続いて対戦カードは明久VS根本。小暮VS徹に負けず劣らず因縁深い組合せであり、フィールドに入った二人はお互いを親の仇のように睨めつける。

 

根本「待っていた……この時をずっと待っていたぞ吉井ィ……!ようやくお前に俺の受けた屈辱を利子付けて返すときが来たぜ!」

明久「確かに僕と雄二は君を女装させたり、小山さんと別れる原因作ったりしちゃったけど、元はと言えば根本君が姫路さんに酷いことしたことが発端じゃないか」

根本「……それに関しては別に恨んじゃいねぇよ。手紙の件はお前らがキレるとわかってて実行したんだ、その結果どんな手痛いしっぺ返しを受けようと自己責任だ。優香のことも時間はかかったがようやく吹っ切れたし、大門じゃあるまいし今さらそこを蒸し返すほどねちっこくねぇよ」

明久「あっ、そ、そうなんだ……じゃあ先日試召戦争で設備のランクを落とされた腹いせに-」

根本「バーカ。その件に関してはむしろ俺達から話だろうが。その件で恨まれるとすりゃ、Fクラスのボロ教室押し付けられたCクラスだろうよ」

 

こうして改めて思い返してみれば方々から恨みを大人買いしていることを実感する明久。まあそれはそれとして、明久は根本の思惑がいよいよわからなくなった。恨んでいないと言うならば何故彼はここまで全身からリベンジオーラを撒き散らしているのだろうか。

明久の顔面がクエスチョンマークで覆い尽くされたことに気づいた根本は、やれやれと肩を竦めつつ一旦構えを解く。

 

根本「そんなに警戒すんなよ吉井。俺の目的は復讐なんてドロドロしてもんじゃなく、至極全うなリベンジマッチなんだからよ」

明久「……え?ど、どういうこと?」

根本「……かつての俺は『卑怯』だと蔑まれようと、何よりも勝利を第一に所詮考えていた。勝ちさえすれば周りが相手が何をほざこうと、負け犬の遠吠えでしかないとも思っていた」

 

その考え方に怖いほど心当たりのある明久は思わず目をそらすが、それに構わず根本は話を続ける。

 

根本「……だがあの日俺は負けた。それも観察処分者で学年一のバカ野郎に出し抜かれる形でな」

明久(し、失礼な!?)

根本「あの頃はいずれAクラスにも挑むつもりだったが……卑怯な手段まで持ち出してお前程度に遅れを取るような奴が、()()鳳に勝てるわけがねぇ。卑怯なことをしてまで勝ちに拘っても、決してトップには届かないと気づいちまったら……何もかも虚しくなってな。

だから俺は『卑怯』から『狡猾』へと生き方を変えた。これからはルールには乗っ取りつつもグレーゾーンのスレスレを見極め、うまいこと甘い汁を啜って生きていくと決意したぜ!」

明久(せっかく改心したみたいな流れなんだからさ、もうちょっとこう……他に良い生き方は無かったの!?)

根本「この闘いは『卑怯・根本』への弔い合戦だ……かつての俺に引導を渡したお前に、俺は今日リベンジする!……さてと、御託はもう良いからとっとと始めようじゃねぇか!」

明久「散々長々語った君がそれを言うの!?」

綾倉「まったくですよ時間も限られてるというのに……。それでは吉井君と根本君、さっさと希望する科目を選択してください」

 

器用にもニコニコしながら白けた表情をする綾倉先生に若干呆れ気味に言われ、根本は勿論明久も気まずそうにPDFから科目を選択しステージの上に設置されたオーロラビジョンに3種類の科目が表示される。明久の希望した科目はもちろん社会、根本の希望した科目は英語、そして決定した科目は……国語であった。

 

明久「げぇっ!?社会じゃない!?」

根本「いや当たり前だろ。普通わざわざ相手の土俵で勝負しようと思うわけねぇじゃん」

明久「くっ、流石は『狡猾』の根本!ルールの裏をつく優れた戦術だと誉めて-」

根本「いやだからな、お前がそんな単純なことにも気づかない底抜けの間抜けってだけで-」

明久「優れた戦術だと誉めておこう!」

根本(ほんと、なんであの頃の俺はこんなバカに出し抜かれたんだろ……)

 

闘う相手は多分自分に気を遣って社会で闘ってくれるだろうから、もしかしたら優勝できるのでは?……と、わりと本気でそんな甘いことを考えていた明久は早くも追い詰められてしまった。目に見えて慌てまくる明久に、根本は少し悲しくなったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じでグダグダと長い茶番を繰り広げた後、ようやくお互い召喚獣を喚び出し試合が始まったのだが…

 

 

《国語》

『二年Bクラス 根本恭二 99点

VS

 二年Fクラス 吉井明久 53点/48点』

 

 

根本「こ、ここまで差があるのかよ……!?」

明久「……」

 

戦況はほぼ明久のワンサイドゲームと化していた。

誤解が生じないよう補足しておくが、根本は別に弱くはない。散々削られたが初期点数は242点とAクラス並の成績であったし、操作技術もリベンジというだけあって練習も積んで来たのか、同学年ではそこそこのレベルに達している。総評して、以前までの明久なら敗北もあり得たぐらいのレベルには達していた。……が、

 

根本(なんで二つ同時に操作してるのにそこまでスムーズに動けるんだよ!?)

 

それでも所詮はの程度でしかなく、白金の腕輪を完全にものにした今の明久に対抗できるレベルではない。

 

根本(ちぃっ、二人がかりでリンチされてるような気分だぜ……攻撃を何とか凌ぎつつ急いで打開策を-)

明久「隙あり」

根本「っ!?しまっ-」

 

〈根本〉が主獣の唐竹割りを受け止めた直後、主獣の背後から飛び出た副獣が木刀をブーメランのように投擲した。受け太刀をしている状態の〈根本〉は避けることも出来ずに直撃し、その隙に主獣はバランスを崩した〈根本〉からククリ刀をひったくり、二つの武器を用いて〈根本〉を十字に斬り裂いた。

 

 

《国語》

『二年Bクラス 根本恭二 戦死

VS

 二年Fクラス 吉井明久 53点/48点』

 

 

 

 

 

飛鳥「次の相手は吉井君か、まあ概ね予想通りね。それにしても彼、以前も操作は上手だったけど今はもう別次元ね……」

蒼介「……そうだな、流石の私も驚かされた。

まさか独学でここまで…」

飛鳥「え?どういうこと?」

蒼介「まだ確証があるわけではないが……おそらく今の吉井は-」

 

 

 

 

 

 

 

 

Dブロック第三試合。

対戦カードは黒木鉄平VS金田一真之介。

 

鉄平「うォォォおおおおお!!!」

金田一「はぁぁぁあああああ!!!」

 

両者ともにバリバリの熱血タイプ故、搦め手が入り込む余地の無い、ノーガードのぶつかり合いになるのは必然であった。真っ向からの激闘に会場のボルテージも次第にヒートアップしていく。

 

 

《数学》

『一年Aクラス 黒木鉄平   171点

VS

 三年Aクラス 金田一真之介 244点』

 

 

お互いの操作技術は僅かにだが鉄平に分があるものの、初期点数は金田一が40点近く上回っており、それに比例して召喚獣のスペックにも差が生じている。そのため拮抗した戦況は次第に金田一に傾いていく。

 

金田一(……ここだ!)

鉄平「っ、おらァッ!!!」

 

突如〈金田一〉は意図的に隙を作り、〈鉄平〉は脊髄反射の如く顔面に拳を叩き込む。〈金田一〉はその攻撃を避けようともせず、まともに受けきってから…

 

金田一「…捕まえた!」

黒木「し、しまっ-」

 

逃がさないように腕を掴み、そのままグラディウスで一刀両断して勝負を決めた。

 

 

《数学》

『一年Aクラス 黒木鉄平   戦死

VS

 三年Aクラス 金田一真之介 76点』

 

 

黒木「ぐぬぬ、俺の負けか……まんまと誘い込まれちまったっす。流石っすね金田一先輩」

金田一「ま、経験値の違いだな。お前は強かったが俺も最高学年、おいそれと一年坊主に負けるわけにゃいかねーのよ」

 

二人の戦闘、そして戦闘終了後お互いを讃え合う爽やかな光景を見届けた蒼介は、千莉に続き鉄平のこともシロと判断する。

 

蒼介(……しかし無自覚に協力させられているという可能性もある。となると注意すべきはやはり奴だな。……それに奴には鳳家を継ぐものとして、どういても問い詰めなければならないこともある)

 

彼の両の瞳には、一回戦最終試合に赴く少女……綾倉詩織が映っていた。

 

詩織「……」

 

 




やたらと根本君にスポットが当たっていたのは、どちらかと言えば死亡フラグ的な意味合いが強かったようです……。





・黒木鉄平(一年Aクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉セスタス

〈成績〉
外国語……302点
国語……277点
数学……325点
理科……470点
社会……294点
保体……451点

総合科目……3791点

・宗方千莉(一年Cクラス)

〈召喚獣〉スピード型

〈武器〉二刀流

〈成績〉
外国語……18点
国語……361点
数学……253点
理科……257点
社会……701点
保体……385点

総合科目……3565点



ここだけの話、この二人が決勝トーナメントでかませになることは割と前から決まっていました。




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S・B・F本戦・Dブロック③

・志村泰山

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉蛇腹剣

〈成績〉
外国語……448点
国語……447点
数学……455点
理科……449点
社会……453点
保体……448点

総合……4952点



・綾倉詩織

〈召喚獣〉スピードタイプ

〈武器〉七支刀

〈成績〉
外国語……485点
国語……483点
数学……480点
理科……478点
社会……476点
保体……482点

総合……5286点






綾倉「それでは記念すべき一回戦最終試合がまもなく始まります!高城君と綾倉さん、希望する科目を選択してください!」

高城「綾倉さん、お互い悔いの残らないよう全力を尽くしましょう」

詩織「…………よろしくお願いします」

 

優雅に一礼しつつ友好的に接する高城とは対照的に、詩織は無表情をほんの少しも崩すことなく一言で済ませた。最上級生に対する敬意の是非を疑われるレベルの塩対応ではあるが、言葉を発しただけでも御の字と見るべきか。

二人がPDFから選択した科目はどちらも総合科目のため、必然的に総合科目に決まる。

 

綾倉「科目が決定したようですね。総合のフィールドを展開したので二人とも召喚獣を喚び出してください」

 

高城・詩織「「試獣召喚(サモン)!」」

 

キーワードに反応しフィールド内に幾何学模様が展開され、その中心から二体の召喚獣が出現する。〈高城〉の武器がオーソドックスな日本刀なのに対し、〈詩織〉の武器は七支刀という七つに枝分かれした特殊な形状の剣である。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 高城雅春 4525点

vs 

 一年Dクラス 綾倉詩織 5276点』

 

 

高城「流石は一年の首席、見事な点数ですね」

詩織「…………」

 

高城の称賛には何も答えず会釈だけして、綾倉先生からゴーグルを受け取り装着する。女性にここまでそっけない対応されたことの無い高城はやや傷ついた表情になりながらも、ゴーグルを起動し召喚獣と視界をリンクさせる。

 

綾倉「準備が整いました。それでは……試合開始!」

詩織「……」

高城「っ、いきなりですか…」

 

試合開始の合図直後、〈詩織〉は急加速して〈高城〉との距離を詰め、水嶺流弐の型・車軸で〈高城〉の急所を狙う。

 

高城(しかし、私はそう簡単には倒せませんよ)

 

しかし高城は三年Aクラスの代表、先手必勝の奇襲など幾度となく経験してきたし、当然対処することなど造作もない。ステータスや武器の性能には差があるためまともに受けるのは得策ではないと判断したのか、〈高城〉は〈詩織〉の七支刀をガードした瞬間後ろに跳ぶことで衝撃を完全に殺しきった。

 

 

 

詩織「無駄」

 

 

 

しかしその行動は想定済みだったようで、〈詩織〉はそのまま加速を一切緩めることなく、跳躍力と激突の衝撃で大きく後退した〈高城〉との距離を再び縮める。

そして…

 

高城(なっ!?…なんて非常識な……)

 

〈詩織〉は加速したまま地面と平行に回転するように跳躍する。遠心力により発生したエネルギーを七支刀に乗せて、〈詩織〉は〈高城〉目掛けて唐竹割りを繰り出す。

 

高城(空中では避けられないし衝撃も逃がせない……。受け太刀するしか……しかし…)

 

やむを得ず日本刀で受け止めようとしたが、二つの力が上乗せされ圧倒的な破壊力を伴った七支刀は、その日本刀ごと〈高城〉を豆腐のように両断した。

 

詩織「フィニッシュ」

 

かろうじて生き延びた〈高城〉だが武器を失い丸腰の状態で〈詩織〉に勝てる筈もなく、弐の型と参の型の併用技である車軸・豪雨により息の根を止められた。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 高城雅春 戦死

vs 

 一年Dクラス 綾倉詩織 5276点』

 

 

高城「……私の負け、ですね。お見事です綾倉さん」

詩織「…………」

 

高城の称賛にも耳を貸すことなく、詩織はさっさと控えスペースに戻っていった。

首席とはいえ一年生が、三年Aクラスの代表に完封勝ち。

戦果としては十分すぎるほどの快挙だが、詩織の一年生にあるまじき圧倒的なまでの強さに会場全体が沈黙する。

 

綾倉「勝者、綾倉さん!」

御門(この空気の中よくそんなテンションで言えたな……相変わらず図太い奴……)

 

そんな中、綾倉先生はブレることなく試合終了を宣言する。対戦相手である高城や実父である自分に一切言葉を交わすことなく、さっさとステージから退場してしまった詩織のことも完全にスルーである。

まあそれはともかくとして、先程の闘いを振り替えるべく和真が蒼介に話しかける。

 

和真「なあ今の試合……お前にとって見覚えがありすぎる技がいくつかあったよな?」

蒼介「……まず試合開始直後、第一の型・波浪による急加速からの車軸の複合技……雷雨。次に助走をして存分に加速してから地面と平行に回転するよう跳び、唐竹割りで武器ごと両断する技も複合技……登竜門。とどめの豪雨も言わずもがなだ」

和真「つまり徹頭徹尾、水嶺流のオンパレードかよ……水嶺流の型は見よう見まねで習得できるほどお手軽な流派じゃねぇ。ましてやあの技のキレ、通常時のお前と同等以上のキレだ。……あの女、どうやって身に付けたんだ?」

蒼介「……さあな」

 

常に冷静沈着な蒼介の額にうっすらと皺が入る。この様子では鳳家のみに伝承される水嶺流の技……それも複合技をなぜ綾倉詩織がものにしているのか、彼を以ってしてもわからないらしい。

 

蒼介(分家の者から情報が漏れた……?否。彼らも明鏡止水を極めようとせん者、そのような愚行を犯す筈もない。ならば綾倉詩織には鳳と何らかの繋がりが……?

 

 

 

っ!)

 

ふと、蒼介の脳裏に一人の人物が思い浮かんだ。無愛想だが誰よりも優しく、そして誰よりも強い信念を内に秘め、かつて自分が最も慕っていた人物と詩織が重なった。しかし蒼介はすぐにかぶりをふって全否定する。

 

蒼介(私は何を考えている……。よもや綾倉詩織が()()()だとでも?……バカバカしい、私らしくもない荒唐無稽にもほどがある推測だ。そもそもあの人は…

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「さあ、一回戦の試合が全て終了いたしました。一回戦で消耗した分の点数はこの後でがチェスピースを投入して補充しておきます。私は別に決勝まで補充無しでも面白そうだと思ったのですが、それではトーナメントという性質上運の要素が強くなりすぎるという学園長の指示で、私は渋々このような仕様にシステムを調整する羽目になりましたした。まったく……学園長は人使い荒いんですから。この前も自分が召喚システムの調整をミスしたくせに全部私に尻拭いさせて-」

学園長「話が長いんだよ!橘のガキじゃないんだからさっさと進めな!」

綾倉「……それでは私の愚痴はこのくらいにして、続いての二回戦の対戦カードはこちらになります!」

 

綾倉先生が渋々と言った表情で(ただしニコニコ顔は崩さない。それが余計胡散臭いのだが)リモコンのボタンを押すとスクリーンに四ブロックのトーナメントが表示され、一回戦を勝ち上がった生徒の名前が表示される。

 

 

 

〈二回戦〉

【Aブロック】

 

1.佐伯梓vs霧島翔子

 

2.五十嵐源太vsリンネ=クライン

 

 

梓(霧島ちゃんが相手かー……せや、おもろいこと思いついてもうた♪)

翔子(……はっきり言って勝ち目は薄い。

でも私は……)

源太(げっ!?俺様の相手アイツかよ無理ゲーくせぇ。……飛鳥達へのリベンジは後日にするか)

リンネ(ナンてヨむんだっけあのカンジ?ゲンタはヨめるけど……ゴジュウアラシ?)

 

 

【Bブロック】

 

1.坂本雄二vs柊和真

 

2.志村泰山vs大門徹

 

雄二(和真が相手か……こりゃ負けられねぇな)

和真(さて、どこまで強くなったか見せてみろよ雄二)

徹(もうリベンジは果たしたし、死ぬほど興味ない)

泰山(大門先輩あからさまにやる気失ってるなぁ…)

 

 

【Cブロック】

 

1.久保利光vs姫路瑞希

2.工藤愛子vs鳳蒼介

 

久保(やれやれ、彼女との決着は試召戦争のときだと考えていたんだが……当たってしまったものはしょうがないか)

姫路(久保君……今度は負けませんよっ!)

愛子(……勝てる気がしない)

蒼介(工藤が相手か……しかし相手がクラスメイトであろうと、私は全力を尽くすのみだ)

 

 

 

【Dブロック】

 

1.吉井明久vs橘飛鳥

2.金田一真之介vs綾倉詩織

 

明久(橘さんが相手か。よーし!美波の仇を射つぞー!……と言いたいところだけど、柔道家が相手かぁ……投げられたら痛そうだな……)

飛鳥(吉井君が相手、か……決して油断できないわね)

金田一(よりによって高城瞬殺した奴が相手かよ……仇討ち、は厳しそうだな……)

詩織「……」

 

 

トーナメント表の対戦相手が一喜一憂する様子を一通り見届けてから、綾倉先生は第一試合で闘う梓と翔子以外の生徒を控えスペースに移動させてから、勝負開始の宣言をする。

 

綾倉「それでは、二回戦第一試合を始めます!」

 

 

 

 

 

 

 




やたらとかませ役が多い高城ですが、別に嫌いっているわけではありません。
むしろ好きでも嫌いでもない……つまり大して思い入れの無いキャラなので、ついつい雑に扱ってしまうというのが自己分析です。


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S・B・F本戦・Aブロック②

【注目生徒紹介】

・霧島翔子(二年Fクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉村雨

〈能力〉アイスブロック……消費50。様々な形状の氷塊を作り出す。応用性はピカイチだが威力はまあまあで持続時間も短い玄人向きの能力。

〈オーバークロック〉アブソリュートゼロ……消費200。召喚フィールド内を完全凍結させる。威力はゼロだがほぼ確実に敵を無力化できる。ただし自分も無力化される他、オーラを纏った蒼介の召喚獣には通用しなかったなど、意外と欠点が多い。

〈成績〉
外国語……573点
国語……482点
数学……458点
理科……510点
社会……520点
保体……502点

総合……5588点



二回戦第一試合、霧島翔子vs佐伯梓。

一見好カードに見えるこの組み合わせだが、下馬評では圧倒的に梓有利と見られている。何故なら梓には腕輪能力を無差別に封じる『青銅の腕輪』を所持しているため、彼女との闘いでは嫌が応にも操作技術と戦術、経験の差が鍵を握ることになる。翔子はそれら全てで梓に遅れを取る上に、ここ最近彼女が力を入れて鍛練を積んできたのは、他ならぬ腕輪能力『アイスブロック』の工夫と応用に関してである。その腕輪能力そのものが使えないとなれば、いくら翔子であっても勝ち目はほぼゼロであろう。

 

 

 

 

 

というのが前評判だったのだが……

 

梓「杏里ー、これちょっと預かっててー!」

杏里「えっ……梓、なんで……?」

 

梓はその青銅の腕輪を、あろうことか観客席にいる杏里に向かって(どうでもいいが小柄な体格の割になかなかの強肩と制球力である。野球大会に参加していたらFクラスはより苦戦を強いられていたかもしれない)投げ渡してしまったのだ。既に科目選択は終了し(ちなみに科目は社会)、召喚獣も喚び出され『召喚獣視覚リンクシステム』も既に起動している以上、今更観客席にまで取りに戻ることはできない。梓は圧倒的なアドバンテージを自分からみすみす放棄してしまったのである。

この愚行にしか見えない暴挙に投げ渡された杏里は勿論観客や教師達、勝ち残っている生徒達のほとんど、果ては対峙している翔子まで面食らってしまう。

 

翔子「……なんで、そんなことを?」

梓「いや別に深い理由はあらへんよ。この大会はウチら三年にとっては最後の花道みたいなもんやろ?それやのに対戦相手が全力を出せへんっちゅうのは何かつまらんやんか。それに霧島ちゃん、腕輪能力を重点的に磨いてきたんやろ?ウチは逃げも隠れもせぇへん、胸貸したるから全力でかかってきぃ!」

 

拳で自分の胸の辺りを叩きながら、漫画であれば彼女の周囲にキラキラとエフェクトと擬音が入るであろう、この上無く爽やかな満面の笑み浮かべる梓。本人の整った容姿も相まって非常に綺麗な笑顔であるが、翔子を含め梓をよく知る者達の心は…

 

 

 

(((今度は何を企んでいるんだ……?)))

 

100%の猜疑心であった。

まあ無理もない。何せ梓は「有言不実行&不言実行」をポリシーとして掲げているほどの口から生まれた口先女王。優れた容姿と高いスペック、そして取っつきやすい性格のおかげで誰からも慕われると同時に、そういうアレ過ぎる性質のさいである意味間違っても信用するべきではないと思われている女子なのだから。

 

綾倉「それでは、試合開始です!」

梓「よっしゃ、ほな始めよか」

翔子「……『アイスブロック……

ダイヤモンドダスト』!」

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 466点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 420点』

 

 

試合開始とほぼ同時に、〈翔子〉は腕輪能力を二重発動させた。大きく広げた両手の平から出現した氷塊が無数の氷の礫に分裂し、〈翔子〉の周囲を幻想的に舞う。

 

梓「ほー、えらい幻想的やなー」

翔子(……正攻法でこれられるよりはずっと良い。どんな狙いがあるにせよ、腕輪能力を使えるなら私にも勝ち目がある。佐伯先輩の狙いがわからないなら私の取るべき戦法は……先手必勝!)

 

〈翔子〉の合図と共に氷の礫が一斉に〈梓〉に襲いかかる。一学期の試験召喚戦争ではあの〈優子〉すら瞬殺した、『アイスブロック』の十八番……その二倍の密度の弾幕である。並大抵の召喚獣が相手ならこの技だけでゲームエンド近くまで持ち込めるほどの破壊力だが…

 

梓「甘いなぁ…ていていていてぇーっい!」

 

相対している〈梓〉の実力は、どう低く見積もっても並大抵には程遠い。干将と莫耶、そして両足のソルトレットを巧みに操り次々と氷の礫を撃墜していく。

 

『おおスゲェ!氷を全部打ち落としてやがる!』

『かけ声はダセェが凄い技術だ!』

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 433点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 420点』

 

 

多少は削れたものの腕輪二重発動の代償に100点も消費してしまい、両者の点数差は早くも逆転してしまった。

 

梓「ふぅ、ざっとこんなもんや。……霧島ちゃん、こんな闇雲な攻撃でウチの梓式四刀流に勝てるとと思っとったんか?」

翔子「……まさか!」

 

この程度で勝てるなど最初から思っていない。

〈翔子〉はダイヤモンドダストを隠れ蓑に〈梓〉との間合いをかなり詰めていた。さらにチェンジオブペースで急加速して村雨の間合いまで一気に詰め、〈梓〉目がけて斬りかかった。が…

 

梓「その動きは前に見たでぇっ!」

 

急激な緩急に惑わされることなく、〈梓〉は干将でパワー差をカバーするため村雨の鍔付近の刃を狙って受け止めた。

 

翔子「……『アイスブロック・サムライソード』!」

梓「甘いわっ!」

 

〈翔子〉は負けじと天井に向かって大きく広げた左手から氷の刀を創造して追撃するが、先程と同じ方法で莫耶に受け止められる。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 433点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 370点』

 

 

梓「お互い両手の塞がった膠着状態……せやけどほぼゼロ距離で受け止めたから、ウチにはまだ蹴りがあるんや。退くんなら今のうち-」

翔子「……ここだ、ここで決める!

『アイスブロック・ジャイアントハンド』!」

梓「-んなっ!?」

 

〈翔子〉は背中から二本の大きな腕を創造し、〈梓〉を決して逃がさないよう取り囲むように襲いかかる。〈翔子〉の狙いは始めからこの形に持っていくことであった。

腕輪能力を連発する際にやたらと手を強調していたのも、「氷は手からしか生み出せない」という先入観を梓に刷り込むためであった。

 

翔子(……捕らえた!いくら佐伯先輩でも、これを避けることはできないはず!)

梓「くぅっ!まさか体のどこからでも能力が発動できるなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇遇やなぁ、ウチもや♪」

翔子「え-」

梓「『ヨーヨーブレード』!」

 

キーワードと同時に〈梓〉の両肩から大きなヨーヨーが飛び出し氷の腕とぶつかり合い、両者は相殺して消滅した。

 

翔子「そんな……!?」

梓「生憎ウチのヨーヨーも体中のどこからでも出せるんや。ほなそれじゃ……ぶっ飛べやぁあああ!」

 

そして〈梓〉は反撃とばかりに、間髪入れずに〈翔子〉の腹に渾身の蹴りを叩き込み、遥か後方に蹴り飛ばした。

 

翔子(……佐伯先輩にも腕輪能力があることを失念していたのは私の落ち度……でもさっきのあのタイミング、私の攻撃を予測していなきゃ間に合わなかったはず……)

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 333点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 195点』

 

 

翔子「……まさか、読んでいたんですか……?」

梓「霧島ちゃん嘘付くの馴れてへんなぁ。あんなこれ見よがしに手をアピールしてたら、ウチらベテランからしたら『疑ってください』て口で言うてるようなもんやで?いや、そもそもやな霧島ちゃん……

 

 

 

他ならぬこのウチを騙そうなんて10年早いわ!」

(((なんで今日一のどや顔をここで!?)))

 

不必要なほどやたら誇らしげな表情の梓に会場中のほとんどが内心でツッコミを入れる一方、目論見が完全に看過された翔子は今にも挫けそうになっている戦意を思考を巡らせ活路を見つけることで奮い立たせようとしていた。

 

翔子(アイスブロックはあと三回しか……佐伯先輩ほどの相手だと最低一回はフェイクに使う必要があるから、実質二回しか使えない。その二回で佐伯先輩の点数を削りきらなきゃ負け……いやそもそも、さっきのヨーヨーは私の技術じゃ腕輪で防ぐしか-)

梓「判断が遅いわ!」

翔子「しまっ…!」

 

しかし僅かな隙が命取り。再び〈梓〉の両肩からヨーヨーが飛び出し、上下左右に動かしながら〈翔子〉に襲いかかる。村雨では応戦しようにも不規則な軌道を捉えきれない。

 

翔子「っ……『アイスブロック・フォートレス』!」

 

他に打つ手の無くなった〈翔子〉は、やむを得ず能力で自分の周囲に二重の氷の防壁を生み出した。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 233点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 95点』

 

 

それははっきり言って悪手中の悪手。

〈梓〉ほどの相手を一瞬でも視界から見失うことの恐ろしさ、そして先ほどの攻防で両者の能力は相殺するということを考慮していない愚策であった。

先ほどと同様に二つのヨーヨーは防壁と打ち消し合い消滅し、防壁が消し飛ぶと同時に〈翔子〉の視界に飛び込んできたのは…

 

 

 

 

梓「これでとどめや!」

翔子「っ……!」

 

干将・莫耶を逆手に構えて突撃してくる〈梓〉であった。一気に間合いをつめここ一番の猛攻を仕掛ける〈梓〉に〈翔子〉はどうにか応戦するも、手数と実力の差から見る見る点数が削られていき、そのまま討ち取られてしまった。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 233点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 戦死』

 

 

梓「お疲れさん、結構楽しめたで霧島ちゃん」

翔子「……ありがとうございました」

 

表面上は冷静を装っている翔子だが、上機嫌で控えスペースに帰っていく梓を拳を力強く握りしめた状態で見送っている様子を見るに、負けて平気だったとは口が裂けても言えないだろう。

 

翔子(…………負けた。

こちらの策は全て見抜かれ、ひたすら先輩に翻弄された……完全に、負けた……っ!!!)

 

未だかつてない圧倒的な挫折を経験した翔子に対して、雄二は敢えて慰めたりはせず心の中でのみ労っておく。

 

雄二(最善を尽くした、たとえ負けても悔いはない……なんて綺麗事、敗者にかけてはいけねぇ。ましてや上っ面の慰めなんてもってのほかだ。…………だから翔子、俺は手を貸さないぞ。必ずすぐに立ち上がるって信じてるからな。

……それにしても、佐伯先輩にしてはずいぶんと正攻法な闘い方だったな)

 

 

 

 

 

 

 

 

梓(-なんて思ってる奴がほとんどやろな~。

ククク、甘いなぁ……天津甘栗より甘いで皆。()()()()()()()()()()()に決まってるやん。せやけどこの仕込みが効いてくるのは、ほんの少し先の話っちゅうだけや♪)

 

控えスペースへ戻りながら、稀代のペテン師梓は内心でほくそ笑むのであった。

 




翔子さんも能力をフルに用いて善戦してくれましたが流石は主人公を真っ向から粉砕した実績を持つだけあって、梓さん一枚も二枚も上手だったようです。


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S・B・F本戦・Aブロック③

雨は嫌いです……。


傘さしてもズボンの裾とかがっつり濡れるし、関節がやたら痛くなるので……。


二回戦、Aブロック第二試合。『スウェーデンの至宝』リンネ・クラインvs『強面帰国子女』の対決。

下馬評ではリンネ・クライン圧倒的有利であるが、実際の戦況はと言うと…

 

 

 

リンネ「イガラシ、ニげてばっかじゃカてないよ?」

源太「やかましいわこのクソガキ!」

 

 

《外国語》

『二年Bクラス 五十嵐源太 524点

vs

 交換留学生 Linne Klein 639点』

 

 

……下馬評通りリンネが優勢である。

どういうわけか源太に運が回ってきているようで、対戦科目は一回戦と同じく彼の最も得意な教科・外国語。なんと初期の点数はリンネを上回っていた。

しかしそれも微々たる点差でしかなく、リンネの保有するランクアップ能力『Guidad Explosive Kula』に大苦戦を強いられ、あっという間に逆転されてしまった。

 

源太(ちぃっ!落ち着いて考えろ俺様……。アイツの能力は攻防ともに隙がねぇ。まず全身を覆っているパワードスーツが召喚獣の防御を格段に引き上げてやがる。さっきなんとか爪を当てたが大して喰らっていなかった。おそらく一発一発の威力が弱い『千の刃』は通用しねぇ。そして攻撃は-うおぉっ!?)

 

分析中だろうが悠々と待ってくれるほど現実は甘くない。パワードスーツと一体化したクロスボウから自分に向けて発射された弾丸を〈源太〉はどうにかかわせたものの、弾丸がフィールドに着弾した直後に破裂し、その爆風によって吹き飛ばされてしまう。

 

源太(通常弾と炸裂弾を使い分けて翻弄してきやがる……あー!めんどくせぇ相手だなホント!)

 

急いで体勢を立て直した〈源太〉はお返しとばかりに、すかさず『巨人の爪』を〈リンネ〉目掛けてぶっ放した。

 

リンネ「こんなのヨけ-」

源太「させねぇよ、鳥籠!」

リンネ「エッ!?」

 

巨大な腕は〈リンネ〉に届く直前に分裂し、小さな爪が四方八方から取り囲むように軌道を変化させた。源太は翔子と同じくひたすら腕輪能力の工夫を模索したらしく、鳥籠と名付けられたこの攻撃はその成果の一つなのだろう。

〈リンネ〉は周囲を覆う爪を次々と打ち落としていくが、流石に全てほ捌ききれずにいくつか被弾してしまう。

 

 

《外国語》

『二年Bクラス 五十嵐源太 474点

vs

 交換留学生 Linne Klein 599点』

 

 

リンネ「うぅ、まんまとヤラレちゃった……」

源太(けっ、よく言うぜ。今の攻撃で削った点数よりこっちが払った腕輪のコストの方がでけぇじゃねぇかよ……やっぱり反則染みた強さだなランクアップ能力……)

 

〈リンネ〉を覆うパワードスーツの防御力を考慮すると、威力の分散した小さい爪ではどれだけ当てようと先に〈源太〉の点数が尽きてしまうだろう。一発逆転を狙うならば、せめて最高威力の爪を直撃させる必要がある。

 

源太(ここはどうにかして接近戦に持ち込んで、近距離から最高威力の爪をぶち当てる。奴のボウガン……特に炸裂弾は巻き添えの危険があるから、接近戦じゃロクに使えねぇだろうしな。怖ぇのは距離を詰める途中だが……敢えて多少の被弾は覚悟して突っ込んでやる)

 

相手の不意を突くために、〈源太〉は迎撃のリスクを恐れることなく〈リンネ〉に向かって突撃する。しかし〈リンネ〉が〈源太〉の接近に気づいた直後…

 

 

 

 

〈源太〉は突然上空から飛来した炸裂弾の雨に飲み込まれた。

 

源太「な……に……?」

 

あまりに予想外な出来事に、〈源太〉は何が起こったか理解できず呆然とする。

召喚獣と視界がまだ繋がっている以上、まだ戦死したわけではない。そのことを思い出し体勢を立て直そうと思ったたが時既に遅し、いつの間にか急接近していた〈リンネ〉の零距離射撃を喰らい力尽きた。

 

 

《外国語》

『二年Bクラス 五十嵐源太 戦死

vs

 交換留学生 Linne Klein 599点』

 

 

リンネ「ヤッター!」

源太「い、いったい何が……!?」

 

 

 

 

 

和真「ったく、注意力が全然足りてねぇなあのバカ」

 

何故戦死したのかまるでわからずその場で呆然としている源太を、控えスペースの和真はどうしようもない奴を見る目で呆れたように嘆息する。すると、源太と同じく今の出来事についていけなかった愛子が呟きを聞いたのか和真に近づく。

 

愛子「ねぇねぇ和真クン」

和真「あん?なんだよ腰抜け」

愛子「なんでいきなり罵倒されたのボク!?」

和真「ムッツリーニにビビって保健体育の勝負から逃げた奴なんざ腰抜けで十分だろ?」

愛子「う……それは確かに、そうだけど……」

和真「冗談だよ。確かに個人的にあまり好きじゃねぇ戦法だったが、勝つために悩んで決断したことにケチつけるほど器小さくねぇよ。それに今のムッツリーニに保健体育で挑んでも、お前程度の成績じゃボロクソに瞬殺されるだろうしな♪」

愛子(否定はできないけど、そんなハッキリ言わなくても……)

 

配慮や気遣いが微塵も感じられない和真の物言い(タチの悪いことに、意図的にそういう言葉を選んで言っている)に、愛子はがっくりと項垂れつつも、和真らしいと諦めすぐに立ち直る。

 

和真「……それでスポーツ刈り女、結局何のようだ?」

愛子「ベ・リ・ー・シ・ョ・ー・ト!!!

……あの、えっと…なんで源太君が戦死したのか詳しく教えて欲しいなー、なんて」

和真「お前もかよ……ハァ……リンネ・クラインはそう大したことをしてねぇよ。俺の見たところ、アイツの炸裂弾は優子の『ソード・バースト』みてぇにある程度コントロールが効く。しかも操作精度は『ソード・バースト』のそれとは比べ物にならないレベルでな」

愛子「え、そうなの?よく見てるねぇ~……それで、それがどうかしたの?」

和真「あのガキがやったことはたった一つ……源太に遠距離からちまちま攻撃していた序盤に、こっそり天井に何発か撃って待機させておいただけだ。あとは源太が接近戦に持ち込んできたときに…」

愛子「上から集中砲火でドッカン…ってわけだね」

和真(あんなチープな罠、しっかり注意を張り巡らせときゃ事前に回避できた筈だ。戦死したかどうかわからねぇ内に思考停止しやがったし、あの野郎どんだけ爪が甘ぇんだよ……)

 

スパーリングパートナーである徹やライバル意識している翔子が、どちらとも奇策を練るタイプでないことが災いしたのか、源太はこれでもかと言うぐらい搦め手に弱いようだ。

 

和真(……それにしても、リンネ・クラインか……スウェーデンの至宝様の実力があの程度のわけがねぇ、まず間違いなくまだ実力を隠してやがる。……源太はモルモットにすらなれなかったわけか。俺としてはある意味笑えるからこんな結果でも全然OKだが、次リンネと当たる梓先輩は内心キレてるだろーなー)

 

早々に脱落した源太への興味を失ったのか、和真はいずれどちらかと当たることになる二人について考えを巡らしつつ、控えスペースからフィールドに向かう。

 

和真(さて、どっちが勝ち上がってくるかねぇ?俺としてはリンネ・クラインのランクアップ能力とも闘り合ってみてぇが……やっぱ梓先輩へのリベンジが先だな、うん)

雄二「おい和真、多分Aブロックの二人のこと考えてるんだろうが……お前、自分が勝ち上がる前提で思考してないか?」

 

フィールド内どは既に雄二がスタンバイしており、敵愾心の籠った目で和真を睨めつけている。どうにかして倒してやろうと画策している相手が、自分自身を眼中にも入れていないのだから当然と言えば当然である。

そんな雄二の心情を察した和真は、にやりと凶悪な笑みを浮かべながら雄二を見据える。

 

和真「あぁ、わりぃわりぃ。梓先輩達云々はお前と次に当たる奴を……喰らい尽くしてから考えりゃいいよな?」

雄二「ぬかせ。お前がFクラスのエースでいられるのもこれで最後だぜ」

 

 




【アクティブ古今東西ランキング(危機察知能力)】

①和真……危険を事前に察知することに関しては最早オカルトの域。もっとも、天性の直感無しでも相当なレベルなのだが。

②蒼介……武道の達人らしく気配を読むことに長けている。また和真以上の洞察力と優れた頭脳のおかげか読心も達人級のため、和真ほどではないが奇襲の類いがほとんど通用しない。

③橘飛鳥……武術家その2。

④工藤愛子、木下優子、大門徹……そこそこ高い

⑦五十嵐源太……清水編でムッツリーニに毒殺されたりと、『アクティブ』の中でぶっちぎりの脇の甘さ。








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S・B・F本戦・Bブロック④

先日友人Aが私と友人Bに

「あなたを含む6人が溺れそうで、また救命ボートには五人までしか乗れません。あなたはどうする?」

というありがちな心理テストをしました。
そのときの友人Bの回答が衝撃的でした。





B「そうだなぁ……不公平の無いように、自分以外全員沈めてからボートに乗るかなぁ」


それのどこに公平性があるんだ……ッ!



 

和真「は?ランクアップ能力を使うな?」

 

フィールドの科目が総合科目に決まり(バランス良く好成績を出している人ほど総合科目を好む傾向にある)、その他の準備をしている最中に、どういうわけか雄二がそんな都合の良い指図を和真にした。ただでさえ他人からの指図が嫌いな和真がそんな虫のいいことを言った雄二は、当然汚物でも見るかのような目を向けられる。

 

雄二「ああ。俺はこの闘いの結果次第で、この後控えているAクラスとの試召戦争の際にどういう作戦で行くか……もっと直接的に言えばお前に鳳を倒す大役が務まるかどうか見定めるつもりだ。そんな大事な試合にランクアップ能力なんてズルい力に頼る奴に、クラスの命運は任せられないな」

和真「……もっともらしい理屈並べちゃいるが、要は『ランクアップ能力使われたら勝ち目が無いから手加減して』ってことじゃねぇか。神童が聞いて呆れるぜ……あんまガッカリさせんなよ雄二」

 

そもそも和真は雄二に言われるまでもなく決勝で蒼介と当たる(反対ブロックからは彼が勝ち上がると確信している)ランクアップ能力を使うつもりなど無かったが、先ほど一回戦で優子に無理矢理引っ張り出されてしまった。しかも、『レーザー・ウィング』最大の弱点である脆さを露呈するという最悪の形で。まだ隠し持っているカードは残っているものの、今の和真に既に露見したランクアップ能力を控える理由は無い。

 

雄二「へぇ~、そんなに俺に負けるのが怖いのか?チート能力も無しじゃビビって戦えないのか?それじゃあ仕方ねぇなぁ……心置きなく使えばいいさ、この腰抜け野郎」(乗ってこい乗ってこい乗ってこい乗れ乗れ乗れ乗れよ乗りやがれ乗ってください頼むから……!)

 

小バカにするような笑みを浮かべつつ挑発しているが、内心では割と切羽詰まっている雄二。無理もない、ここで和真が「じゃあ遠慮無くそうするか」などと言われたらその瞬間雄二の負けが確定するのだから。しかし結論を言えばそんな心配など取り越し苦労でしかない。

 

和真「ハッ、安い挑発だな。『乗ってこなきゃどうしよう』って内心思ってるのが見え見えだぜ。

 

 

 

……上等だ、乗ってやるよ。この試合俺はランクアップ能力を使わねぇ」

 

何故なら和真は、挑発だと看破した上で相手の思惑に乗るような男だからだ。小賢しい策や工夫など圧倒的な力で正面から捩じ伏せる……それが柊和真の基本スタイルである。雄二は内心でガッツポーズしつつも、念には念を入れて挑発モードを続行する。

 

雄二「おいおい、そんな安請け合いして大丈夫か?ピンチになって『やっぱ無理。使っちゃいます』なんてダセェことするんじゃねぇか?」

和真「そんなくだらねぇ心配は、俺を追い込んでからほざきやがれ。わざわざここまで譲歩してやったんだ……あんま期待しちゃいねぇが、練習台ぐらいには役立てよ格下」

 

対する和真も全力に雄二を侮りにかかる。そしてそれは紛れもない本心……和真は雄二に負けるなど、微塵たりとも思っていない。

装着されたゴーグル越しに互いが火花を散らす光景を見届けながら、綾倉先生は召喚フィールドを展開する。

 

和真・雄二「「試獣召喚(サモン)」」

 

フィールド内に幾何学模様が展開され、その中心から二体の召喚獣が出現する。そして点数が遅れて表示されると、観客席から小さくないざわめきが起こる。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 5331点』

 

 

『ま、まじかよ……』

『柊はともかく、坂本まで5000点オーバー!?』

『どうなってんだ2-Fは……!?』

 

最低ランクであるはずのFクラスの生徒が二人も、例年の首席クラスを軽く越える成績を叩き出している光景を目の当たりすれば、そういうリアクションもやむなしと言えよう。

二人が『召喚獣視覚リンクシステム』により召喚獣と視界を結合させたことを確認してから、綾倉先生は試合開始の合図を行う。

 

綾倉「それでは……試合開始-」

和真「オラァッ!」

直後、〈和真〉は〈雄二〉に向かって急加速しつつロンギヌスを投擲した。かつて清涼祭で〈夏川〉を文字通り瞬殺した博打技……『カズマジャベリン改』である。

雄二「ぅおっ!?」

 

予想だにしなかった奇襲だが、避けることは困難であると即座に判断し幌金縄を構える。

 

雄二(一回戦の戦いからこいつはおそらく眼を狙ってくる!ここはとにかく顔面を防ぐ)

 

かつて『悪鬼羅刹』と称されたほど喧嘩慣れしているだけあって、素晴らしい反応と判断力である。

狙いもドンピシャ、予測通り顔面目掛けて飛来したロンギヌスを見事受け止めた。しかしここで雄二は完璧に受けきったことに違和感を抱く。

 

雄二(……おかしくないか?俺と和真の召喚獣にはパワー差がある。なのになんでこんなあっさり防げ-)

和真「それで防いだつもりか!」

雄二「しまっ-」

和真「甘ぇんだよ!」

 

急加速していた〈和真〉は速度を落とすことなくそのまま接近してロンギヌスの柄尻を蹴り飛ばし、間接的に〈雄二〉を吹き飛ばした。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 4967点』

 

 

雄二(和真の野郎、わざと俺が受け止められるぐらいの力で投げてやがったな!くそ、ここは一旦距離を取-)

和真「させねぇよ!」

 

まんまと奇襲を決められてしまった〈雄二〉は間合いを開けて仕切り直しを図るが、そうはさせまいと〈和真〉が即座に距離をつめて猛攻を仕掛ける。〈雄二〉もどうにか応戦するが、まるで予測できない〈和真〉のトリッキーな攻めに防戦一方となる。

 

雄二(くそっ…なんだこの変則的な攻撃は……!?格闘技を習っていた奴と喧嘩したことは何度もあるが、流石に槍術を使う奴と闘った経験は無い。無い、が……いくらなんでもこんな無茶苦茶な動きは武術じゃねぇだろ!?)

 

例えば右手でだけで掴んだ状態で横に薙ぐかと思いきや急にロンギヌスから手を放し、左手でキャッチしてから唐竹割に移行する。例えば不意にロンギヌスを地面に突き立て、それをつっかえ棒代わりにして両足で回し蹴りを放つ……と言った、セオリーをガン無視した不規則な攻めに〈雄二〉はまったく手も足もでない。

 

 

 

蒼介「槍術に限らず、いかなる武術にもその歴史の中で洗練されてきた基本の動きや理想の型がある。洗練され無駄がなくなったが、それはつまり選択肢は限られ予測も成り立つということだ」

 

そしてお互いが闘う相手の行動を予測し、読み合うからこそ駆け引きが生まれる。

 

蒼介「しかし奴の動きに決まった型など存在しない。並外れた直感と反射神経、そして天才的なセンスを最大限に活かし自由奔放に動き回る……それがカズマの基本スタイルだ」

 

和真のこのトリッキーな動きを少しでも予測して動ける者は、文月学園の中でも読心の達人である蒼介ぐらいしかいない。彼以外が対処するには、梓のような一切相手に主導権を渡さない立ち回りを強いられるであろう。奇襲をみすみす成功させてしまった代償は思った以上に大きいようだ。

 

飛鳥「……それにしても和真、武器使ったら明らかに素手より強くない?」

蒼介「?当然だろう。武装して弱体化する方が珍しいのではないか?」

飛鳥「いや、それはそうなんだけど……貴方達たまに木刀対素手で組み手してるじゃない。それに勉強合宿のときも西村先生相手に丸腰だったし。武器使った方が強いならどうして……」

蒼介「ああ、そのことか。答えは単純明快、武器を扱えば手加減が困難になるからだ」

飛鳥「……なるほど」

 

蒼介の簡潔な説明で飛鳥は納得する。

素手でコンクリートを砕ける和真のずば抜けた腕力で武器を振るえば、どれだけ手加減しようと相手を壊しかねないのだ。

 

愛子「……というか和真君、明らかに一回戦より強くない?優子と闘ったときは本気じゃなかったのかな?」

飛鳥「それは考えにくいわね。和真のモットーはオーバーキル、そうした方が良いって事情でも無い限り闘いで手を抜かないわ」

蒼介「おそらく闘っている相手の性質の違いだろうな。先程も言ったがあの変則的な動きには無駄が多い。守りを主体としたカウンタータイプの木下にはやや危険だと警戒したのだろう。一方坂本はどちらかと言えば自分から攻めていくタイプだろう。それに下手に喧嘩慣れしている分、変則的な動きへの対応に余計惑わされても不思議ではない」

飛鳥「これは勝敗が見えた……かな?」

蒼介「付け入る隙はあるにはあるが、九割方決したと見て良いだろうな。……さてどうする坂本、このままでは神童の名が廃るぞ」

 

 

 




決着は次回に続きます。


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S・B・F本戦・Bブロック⑤

蒼介「そういえば前から聞きたかったんだが、お前の『カズマ○○』みたいな雑なネーミングは何とかならんのか?」

和真「バッカお前、自分の名前の付いた技は強力だと相場は決まってるんだよ。アバンストラッシュしかり手塚ゾーンしかり」


和真「オラオラどうしたァッ!そんなもんかテメェは!」 

雄二(くそっ……まったく攻めに転じられねぇ……!)  

 

〈和真〉が次々と繰り出す苛烈かつ変則的な猛攻に防戦一方になる〈雄二〉。直撃こそどうにか避けてはいるもののジワジワと点数が削られているので このままではいずれ〈雄二〉の方が先に力尽きてしまう。

 

雄二(かと言って距離を取ろうとしても……)

和真「逃がすかぁっ!」

雄二(あっさり回り込まれてしまう……わかってるつもりだったがこいつ、反応が早すぎる……!)

 

両者の召喚獣のスピード差はもとより、少しでも下がる素振りを見せるとすかさず反応して回り込んでくるほどの反応速度に差があるため、〈雄二〉は完全に八方塞がりに陥ってしまう。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 3652点』

 

 

雄二(…………ダメだ、能力を使う余裕すらねぇ……。かと言って無理矢理使っても木下姉のときのように超反応で対応されるのは目に見えている。……ちくしょう、まったく打つ手がねぇ。ここまでなのかよ……俺とこいつの差は……!)

和真「………………チッ、つまらねぇ」

雄二「……なっ!?」

 

息もつかせぬ攻めを繰り出し続けていた〈和真〉が、突如距離を取って制止した。結果的に雄二の目論見通り戦いを仕切り直すことができたのだが、あのまま攻め続けていれば勝てたであろう和真にとって、この行動にメリットがあるとは思えない。合理主義の雄二にとって、この行動は完全に理解不能であった。

 

雄二「……みすみす勝てる戦法を捨ててまで、何がしたいんだお前は?」

和真「ゴチャゴチャうるせぇよ。俺を倒すために用意してた策とかあるんだろ?お情けで使わせてやるからさっさと出せや」

雄二「なっ……!」

 

驚愕と同時に頭が沸騰しそうになる雄二。まあ無理もない。和真の発言は、真剣勝負の場では決して許されないであろう、闘う相手への侮辱そのものであったのだから。

しかしそんな雄二の心情など知ったことかと言わんばかりにに、和真は不機嫌そうな表情で雄二を睨めつける。

 

和真「……あ?なんだよ、怒ったのか?まあそうだよな、闘ってる敵に情けをかけられたら怒るよな。……だがな雄二、俺にとっちゃお前は敵じゃなく、ただの身の程知らずの馬鹿でしか無いんだぜ?」

雄二「っ、んだとテメェ……!」

和真「いっちょまえにキレてんじゃねぇよボケ。じゃあ聞くがよ……お前こんなもんか?試合前に散々啖呵切っておいてなんだこの体たらくは?ガッカリさせてくれるぜお前にはよぉ……。もうハッキリしたんだよ、お前は指揮官としては一流でも戦士としてはド三流だ。俺に勝つなんて夢見てないで、せこせこ狡い作戦考えてるのがお似合いだぜ」

雄二「っ……!」

 

奥歯が砕けるほど歯を食いしばるが、雄二は言い返すことはできなかった。直接闘ってみて気づいてしまった……点数差こそ大分縮まったが、自分と和真の間にある差はその程度ではまるで埋まっていないことに。

 

和真「つーわけでさっさと来いよ。大して期待してねぇが、頼むから暇潰しくらいにはなってくれよ?」

 

そう言って欠伸を噛み殺す和真からは、つい先程までの皮膚を刺すような覇気が微塵も感じられない。

 

雄二(…………舐めやがって…!お望み通り目にもの見せてやる……テメェの弱点を抉り出して、試合終了前に気を抜いて負けた世界一間抜けな男にしてやるぜ!)

 

徹底した合理主義者の雄二は煮えたぎる感情を押し殺し、和真が晒した隙を遠慮なく突くことに迷いが無い。この思い切りの良い決断は和真や蒼介のようなプライドの高い者にはそうそう出来ない、一種の才能とも言えるだろう。

 

雄二(変則的な攻撃は、何もお前だけの専売特許じゃねぇんだよ……!)

 

最大限に伸ばしきった幌金縄のリーチは、ロンギヌスをも上回る。〈雄二〉はそのアドバンテージを用いて〈和真〉の射程外から、鎖の変則性を利用したトリッキーな攻撃をしかける。先ほどは和真の変則的な攻めに圧倒された雄二だが彼も武器の特性上、変則的な攻撃を得意としている。この手のタイプは攻撃を重視するあまり、得てして正攻法で闘う者よりもガードが疎かになりやすい。では先ほどの〈雄二〉の同様に〈和真〉が追い詰められるかと言えば…

 

和真「んな小細工、俺に通用するかよ」

雄二「ちぃっ、この化物め……!」

 

残念ながらそうはならない。〈和真〉は並外れた超反応で前後左右からの猛攻を全て弾き飛ばしていく。

とはいえ雄二もそんなことはわざわざ目の当たりにしなくても理解している。彼の狙いはもっと別の所にある。

攻撃し防がれ、攻撃し防がれ……何度ガードされてもお構いなしに〈雄二〉は攻撃し続けた。

 

 

和真「………あ”ぁうざってえぇ!こんな温い攻撃いつまで続けるつもりだテメェッ!」

雄二(……かかった!)

 

懲りずにひたすら攻撃を続ける〈雄二〉に業を煮やした〈和真〉は、渾身の力でロンギヌスを薙ぎ払い、幌金縄を力強く弾き飛ばした。

 

雄二が待ち望んでいたのはまさに、ロンギヌスを手元に引き戻すまでのわずかな隙。そこを的確に狙って…

 

雄二「『シューティングスター』!」

和真「っ!?」

 

腕輪能力を発動させた。

雄二の能力『シューティングスター』は奇しくも和真が一回戦で闘った優子の『ソード・バースト』と同系統の、消費した点数に比例した強さの星の弾丸を打ち出す能力である。『ソード・バースト』との違いは最大消費点数は半分の50点(総合科目では500点)までで、その分打ち出せる弾数は倍の十発までである。

そして今回〈雄二〉の支払った点数は…

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 3552点』

 

 

まさかの10点×10発と、想定されている最低威力である。腕輪能力と言えど直撃しても軽傷で済んでしまう程のショボさ。牽制用ならまだしもこの絶好のチャンスに使うには明らかに不適格。しかし雄二の判断は間違っていなかった。何故なら、

 

 

 

和真「-ぅおらぁっ!」

 

並外れた反射神経を持つ和真ならばこの状況下でも対応することができる……逆に言えば、こんな軽傷で済むショボい攻撃にもつい反応して防いでしまうのだから。

 

雄二(マジでとんでもねぇ反応速度だな和真……だがそれが命取りだ!)

和真「っ!?足に…!?」

 

流星を叩き落とすことに気を取られている〈和真〉の足元に、いつのまにか幌金縄が巻き付いていた。たとえ並外れた反射神経を持つ和真だろうと、死角からの攻撃には反応ができない。普段は天性の直感で補っているせいか、雄二の奇襲は完全に和真の虚を突くことができた。

 

雄二「せぇええのっ!」

和真「ぅおおっ!?」 

 

〈雄二〉はそのまま巻き付いた足ごと幌金縄を力強く引っ張り、〈和真〉を転倒させた。

 

雄二「これでフィニッシュだ…『アンゴルモア』!」

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 552点』

 

 

最後にとっておきの切り札、オーバークロック『アンゴルモア』を使用し超巨大隕石を〈和真〉目掛けて降り下ろす。

これが雄二が練った戦術の全て。幌金縄のチマチマとした攻撃で和真を苛つかせ大振りを引き出し、並外れた反射神経を逆に利用して威力の弱い『シューティングスター』に()()()()()。その隙に幌金縄が和真の死角から回り込んませ足に巻き付ける。そして決定的な隙を作り『アンゴルモア』の巨大隕石でとどめを差す。

ランクアップ能力は試合前の取り決めで使えない。オーバークロックならば消し飛ばせるだろうが、大幅に弱体化していまい結局負ける(よしんば勝てたとしてもその後トーナメントを勝ち上がることなどできない)。

よって和真に残された選択肢は一つ。

  

和真「『ガトリング・カノン』!」

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  4714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 552点』

 

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

 

通常の腕輪能力で迎撃するしかない。10の砲身が〈和真〉の周囲に展開する。しかし、いくら『ガトリング・カノン』がパワー系の能力でも、オーバークロックに対抗することは不可能である。

 

雄二「無駄だ!『アンゴルモア』は特殊な能力を持たないが、その分威力は絶大!いくらお前でも通常の腕輪能力では-」

和真「中々の戦略だったがまだ頭が固ぇな……能力にはこういう使い方もあるんだよ」

 

クルリ…

 

雄二「なっ……!」

 

十の砲身の内三つが〈和真〉の方へ方向転換し、発射された三発の弾丸が〈和真〉を遥か後方へと吹き飛ばす。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  1862点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 552点』

 

 

点数は半分以下まで削られたものの、隕石は〈和真〉に触れることなくその場に衝突、耳をつんざく豪音とともに消滅した。

 

雄二「…………強引通り越して滅茶苦茶過ぎるだろ……」

和真「ま、そこそこ楽しめたぜ」

 

〈和真〉はそのまま打つ手の無くなった〈雄二〉を討ち取った。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  1862点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 戦死』

 

 

雄二「……俺の完敗だ。約束通り、鳳を倒す役目はお前に任せる」

和真「一週間の付け焼き刃でそう簡単に実力差がひっくり返ったりしねぇよ。それにお前には覇気が足らなさ過ぎる。『ランクアップ能力』には勝てないからどうにかして使わせてない方法を…なんて考える奴が俺を倒せるわけねぇだろ。薄々思っちゃいたが雄二、お前もかつてのハングリー精神が無くなってんじゃねぇのか?神童復帰は結構だがよ、丸くなってちゃ世話無ぇぞ」

 

そう言い残し控えスペースへ戻っていく和真を見据えながら、雄二は一人自嘲めいた笑いを浮かべる。

 

雄二(戦士としてはド三流、か……ちくしょう)

 

 

 




翔子さんに続き雄二も大きな挫折を味わいました。神童に返り咲いたからって、トントン拍子にことを進められるほど世の中甘くないということですね。


【注目生徒データ⑨】

・坂本雄二(二年Fクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉幌金縄

〈能力〉シューティングスター……消費:1~50点。点数に比例した威力を持つ星の弾を飛ばす。

〈オーバークロック〉アンゴルモア……消費300。巨大隕石を召喚し叩きつける。リスクも無いが直線的にしか落とせないので、当てるには工夫が必要。


〈成績〉
外国語……466点
国語……429点
数学……535点
理科……507点
社会……487点
保体……483点

総合……5331点





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S・B・F本戦・Cブロック②

さぁ、伝統の一戦のお時間です。


徹「(モッサモッサ)……先輩方、何の真似です?僕のスイーツタイムを邪魔しないでくださいよ」

『何の真似……だぁ?』

『テメェ……あんなことしておいて、よく俺達の前におめおめと顔出せたな!』

『というかいい加減そのやたら大きいケーキ置きなさいよ!?ムカつくんだけど!』

徹「アンフィニマンヴァニーユです(モッサモッサ)。芸術的でしょう?(モッサモッサ)」

『知らねーよ!?この状況でまだ食うかお前!?』

 

『フリーダム・コロッセオ』観客席では徹が複数の三年生達に囲まれながらも、澄ました顔で自分と同じくらいのサイズのケーキを貪っていた。取り囲んでいるのは小暮の友人である女子達と小暮ファンクラブ(非公式)のメンバー達だ。一回戦でのあの惨劇を思い返せば、小暮を慕う彼ら彼女らが徹にどのような感情を抱いているのか想像に固くない。

では一回戦を勝ち上がったはずの徹が何故観客席にいるのかと言うと…

 

『葵にあんなことしておいて……棄権なんてどういうつもりよアンタ!?』

『勝ち逃げなんざ許されると思ってんのか!?』

徹「?許されるに決まってるじゃないですか、闘う闘わないは僕の自由でしょう。……それとも、早々に脱落した『闘えない』アンタらにはわかりませんか?」

『テメェッ!』

 

…早い話がリタイアしたのである。「勝ち目の無い闘いなんかしたくない」という理由で。

徹のオーバークロック『拘束解除』はその闘いの間中パワーとスピードが桁違いに跳ね上がるが、代償としてまる1日武器も防具も使えなくなってしまう。武器はともかく自身の持ち味である防御力を失った状態で、成績も操作技術も超一流である志村泰山に勝てる確率はゼロに等しい。そう判断して早々に棄権した徹に、納得のいかない三年生達が因縁をつけに来た……というのが今の状況である。

 

『へっ、負けるのが怖くて逃げただけじゃねーか!ダッセーなこの腰抜け野郎!』

徹「頭の悪い先輩にわかりやすく教えてあげましょうか。僕は『負けるかもしれない』ではなく、『絶対に負ける』から手を引いたんですよ。無能は無能なりに。せめて少しは考えて物を言いましょうよ、」

『このっ…先輩に対してなんだその口の聞き方は!』

 

徹の見下しきった発言に堪忍袋の緒が切れたのか、三年生の一人が彼の胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。しかし図太いことに定評のある徹は唾がかからないようにケーキを保護しながら、その三年生に対して一際冷たい眼差しを向ける。

 

徹「……汚い手で触れんなボケ。この会場には教師もいることを忘れたのか?受験前に余計なトラブル起こすことがどういうことかわからないのか?ほら、騒ぎを聞きつけた鉄人がこちらに向かっているぞ」

『ぐ…このっ……!』

 

とうとう必要最低限の敬意まで投げ捨てた徹を殺すような目で睨みながらも、流石に教師の見ている前で暴力沙汰を起こすことを躊躇う理性は残っていたのか、三年生は奥歯がへし折れるほど歯軋りしつつ胸ぐらから手を離し…

 

『このクソガキが-がぁぁぁああぁぁあああ!?!?!?』

徹「誰がガキだ殺されてぇのかテメェェェェェエエエエエエエ!!!」 

 

捨て台詞に禁句を吐いた次の瞬間、頭蓋骨が砕けるかと思うほどのアイアンクローを浴びてしまう。先ほどまでの澄ました表情は見る影もなく、目を血走らせて激昂した徹はアイアンクローを継続しつつ、怒りにまかせてその三年生に殴る蹴るの暴行を加えていく。ちなみに他の三年生達は徹の急過ぎる豹変にビビって身動きが取れないでいた。

 

鉄人「貴様ら何をやっとるかぁぁあああ!!!」

 

最終的には鉄人が場を鎮圧。中心の二人は勿論、徹に絡んでいた他の三年生達も連帯責任として補習室に連行されていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「ったく、ああいう所はまったく成長しねぇなアイツは……」

蒼介「……大門には後で説教が必要だな」

 

一部始終を見守っていた和真と蒼介は二人揃って溜め息を吐く。徹は格下と認識している相手にはそうそう自分のペースを崩さない男だが、ことコンプレックスを拗らせている低身長や童顔に触れられるとあり得ないくらいキレる。()()()()小物と馬鹿にされても「ふーん。……で?」と鼻で笑って見下すが、()()()()小物と馬鹿にされたら誰であろうと掴みかかることに躊躇の無い奴なのだ。そしてこの悪癖は和真達が彼と知り合ったときには既に手遅れになっており、現在に至るまで一向に改善する兆しすらない。

 

和真「……それはともかく徹の奴、やっぱ棄権しやがったな」

蒼介「奴は小暮先輩への雪辱のために手持ちのカードを全て使い切った。そんな状態で無理して闘うほど殊勝な奴ではない」

 

『アクティブ』のメンバーは和真が集めただけあって皆負けず嫌いであるが、より細分化するとおよそ三つのタイプに分けられる。

優子や飛鳥や源太のような、どれだけ勝ち目が薄かろうが決して諦めず食らいつくタイプ。

和真や蒼介のような、負けるかもしれない勝負がほとんどなく、それ故にそのような勝負を制することに喜びを見出だすタイプ。

そして愛子や徹のような、勝ち目の薄い闘いを冷静に見極め事前に退くタイプだ。

特に徹はそれが顕著であり、和真のような格上に挑発されでもしない限り自分の不利な土俵に易々と上ったりはしない。要するにさっき三年生達挑発されても鼻で笑っていたのは、相手を見下しきっていたからである。

 

和真「……まぁ徹のあの悪癖にゴチャゴチャ言ってもしょうがねぇか。それより徹が起こした騒ぎで一旦ストップしていたトーナメントがそろそろ進みそうだな。次の試合はっと……ハッ、まさに因縁の対決だなこのカードは」

蒼介「……そうだな、この組み合わせは色々な意味で目が離せない」

 

Cブロック一回戦第一試合……久保利光VS姫路瑞希。

二人はゆっくりとフィールド内に入場し、お互いを真っ直ぐに見据えながら黙々と試合の準備を進めていく。

 

和真「おーおー、二人とも随分と集中してるな……まあ無理もねぇか。これまでの対戦成績は一勝一敗のイーブン、今日勝った方が一歩リードするっつう大事な大事な一戦だ。……ところでソウスケ、この試合どっちが勝つと思う?」

蒼介「ふむ、そうだな……お互い成績も操作技術もほぼ同等、さらに二人ともオーバークロックは覚醒済み。となると互角と見るべきだが……強いて言うならば、6:4で姫路が有利だろうな」

和真「オイオイずいぶん冷てぇなぁ。それでもクラス代表か?ここは嘘でも『絶対に久保が勝つ』って言ってやれよ」

蒼介「嘘だと看過してくるとわかっている相手に見栄を張るつもりはない。理由は主に二つあるが、まず第一に久保は姫路のオーバークロックを見たことが無いが、姫路は夏合宿で久保のオーバークロックを直接喰らっている。この差を無視するわけにはいかない」  

和真(ふーん……確かにな。久保も姫路のオーバークロックがどんなんかぐらい調べてるだろうが、実際に見たわけじゃねぇし)

 

まさに「百聞は一見に如かず」。実際に見た者とそうでない者では、どうしても対応力に差が出てしまう。

 

蒼介「そして第二に、夏合宿での闘いで久保が姫路に勝っていることだ」

和真「……はぁ?どういうことだよ?」

蒼介「雪辱を果たそうとする者の熱意は決して無視できるものではない。追われる側と追う側では、勝利への飢えと執念がまるで違う」

和真(言いてぇことはわかるが……ほとんど負けたことねぇお前に言われてもピンとこねぇよ)

 

そう思う和真だが、盛大にブーメランであることに彼は気づかない。

 

『『試獣召喚(サモン)!』』

 

そうこうしている内に準備が終わったのか、キーワードと共にお互いの召喚獣が出現する。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 久保利光 5043点

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 5058点』

 

 

『ま、また5000点オーバー!?』

『いったいどうなってるのよ二年は!?』

『しかもまたFクラスかよ!?クラス詐欺にも程があるぜ!』

 

 

高得点のオンパレードに会場のボルテージが嫌が応にもヒートアップする。

 

和真「姫路の武器はレーヴァテインっつってたが……久保の武器は鎌のままか?」

蒼介「あれはクロノスが所持していたという『アダマスの鎌』。形状こそ以前と然程変わらないが歴とした神器-っと、二人ともいきなりしかけるつもりだな」

和真「アイツらは毎回やることが派手だなオイ」

 

フィールド上ではお互いの召喚獣が開始早々腕輪能力を発動した。両者の腕輪が光り能力が発動する。

 

 

久保「うぉぉぉおおおっ!」

姫路「やぁぁぁあああっ!」

 

 

ぶつかり合う熱線と風の刃が大爆発を引き起こし、会場全体を震わせた。

 

 

 

 

 




本格的な激突は次回をお楽しみに。


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S・B・F本戦・Cブロック③

久しぶりに6000文字越えました。
苦労したけど、この闘いには私……満足しています。


姫路・久保「「はぁぁぁあああああっ!!!」」

激突、激突、激突、激突、激突。

開幕直後に腕輪能力が真っ向からぶつかり合い、その後はひたすら近距離で斬り合うという、四月の試召戦争とほぼ同じ試合展開だ。単調な展開と言えなくも無いが、二人の闘いを冷めた目で見る観客は一人としていない。

それも当然のことだろう。生徒達学年でも指折りの優等生で有名な二人が、闘争心剥き出しでぶつかり合ってるのだから。

 

『す……すげぇ気迫だ二人とも……!』

『あんな久保君……』

『あんな姫路さん…』

『『『見たことない……!』』』

 

そして会場中の生徒達は、嫌が応にもその光景にどんどん引き込まれていく。二人の決着の瞬間まで、もはや誰一人として目を離すことができない。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 久保利光 4125点』

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 4132点』

 

 

和真「クハハッ……大した奴等だ。召喚獣と視覚共有してる今、刃物で斬りかかられたらびびっちまうのが普通だってのに……揃いも揃って闘争心グツグツじゃねぇか」

蒼介「そうだな、負けん気の強さはお前や私に匹敵、いやそれ以上かもしれん。……一方で試合展開は四月のときと一見同じようで、実の所かなり差異がある。久保は四月のときと同様、防御を度外視して相手の点数をより多く削ることだけを考えて斬りかかっているが……」

和真「姫路は久保の攻撃を剣で受け止めることに集中してやがる。さっきから何度もお互いの武器が激突するのはそれが理由だ。……かと言って姫路は別に久保の苛烈な攻撃に腰が引けてるわけじゃねぇ。その証拠に…」

 

 

 

姫路(間合いを……絶対に間合いを開けちゃダメッ!)

久保(っ…流石だ姫路さん……激突した衝撃で弾き飛ばされても、即座に剣の届く距離まで詰めてくるとは……!)

  

〈久保〉の固有武器『アダマスの鎌』は召喚獣の身の丈以上の巨大な鎌である。その巨大さ故小回りが効かず、スピーディーな闘いには不向きであり(もっとも久保は召喚獣の怪力を考えれば、この弱点は実質あって無いようなものだが)、テクニカルな技との相性も悪い。しかしそれと引き換えに圧倒的な攻撃力、そして長いリーチが強みである。つまり〈久保〉からすればこの近距離での闘いは己の持ち味を十全に活かせてるとは言えず、相手の剣の届かない距離まで間合いを開けたい所であるが、そうはさせまいと〈姫路〉はガンガン距離を詰めてくる。

 

久保(ならば自分から距離を開けるか?……論外だ。この斬り合いはイコール意地の張り合い。ここで引けば主導権をみすみす譲り渡すようなものだ。それに今の姫路さん相手にそんなあからさまな隙を見せれば、間違いなくオーバークロックで容赦なく消し飛ばされてしまうだろう。

……ならば僕も、さらに一歩踏み込むまでだ!)

姫路(っ!?久保君も距離を詰めて…!)

 

〈久保〉も同様に距離を詰めたことで間合いがほぼ零距離になり、〈姫路〉は先ほどまでのように〈久保〉の攻撃を受け止めることができなくなった。やむを得ず〈姫路〉も攻撃を選択するしかなく、久保の目論見通りザクザクとお互いの点数を削り合う展開に持ち込まれる。

 

 

和真「ふははははっ!あの眼鏡もう攻めることしか考えてねぇな!」

蒼介「お前、自分を棚に上げて……まあそれはともかく、攻めの姿勢は当然だ。木下や大門のようにAクラスはどちらかと言えば点数差の利を活かした守備的な闘い方をする生徒が多い中、久保は貴重な超攻撃型だからな」

和真「攻撃重視なのは知ってたけどここまでとはな……しかしソウスケよ、あの二人の強さは同等なんだしこのままじゃ間違いなく共倒れだよな」

蒼介「そんなことはお互い理解しているだろう。となれば膠着状態はそう長くは続かん。……そして何か仕掛けるとするならば、間違いなく姫路が先だ」

和真「あん?何でだよ?」

蒼介「姫路にはオーバークロックの情報アドバンテージがある。久保にしてみれば使わせないに越したことはない。何か仕掛けるならば、そうだな…点数が三桁を切ってからでも遅くない。その一方…」

和真「姫路にしてみればオーバークロックを使う余力は残しておきたい、つうことか」

 

 

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 久保利光 2557点』

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 2561点』

 

 

久保(ようやく半分か……流石にこの距離じゃ大振りな攻撃は隙が多過ぎて使えない。必然的に点数の減るスピードも緩やかになるね……まあそんなことは関係無いか。自分に有利な間合いじゃないのは相手も同じだ。それにどっちにしろ僕のすることは単純明快、ひたすら攻めあるのみ!)

姫路(久保君の気迫、夏合宿のときよりも一段と凄みを増している……一瞬でも気を抜けば一気に持ってかれそうです…!)

久保(どうした姫路さん……僕にとっては歓迎する状況だが、君にとってはそうじゃないだろう。このまま何も手を打たなければ、みすみす武器を一つなくすことになるよ!)

姫路(打つ手は、ある。でも失敗すれば間違いなく負ける……。正直、怖いです……でもリスクを避け続けても久保君には勝てない。

 

それに、明久君達なら絶対に迷わない……

 

そうです、私も皆と同じ……二年Fクラスの姫路瑞希ですっ!)

久保(っ!?バカなっ!?)

 

〈姫路〉の取った予想外の行動に驚愕する久保。無理もない……あれだけ距離を詰めにかかっていた〈姫路〉が、事もあろうか自ら進んでバックステップで間合いを開けたのだから。

 

久保(何のつもりか知らないが逃がさないよ姫路さん、その距離は僕の射程だ!)

 

面食らったのはほんの一瞬で、〈久保〉はすかさずアダマスの鎌で追い討ちをかけた。

 

姫路(…今だ!)

久保(っ、これは!?)

 

しかし〈姫路〉はその攻撃に一切意識を向けることなく、レーヴァテインを地面に剣先を向けて構えた状態で再び距離を詰めにかかった。当然〈久保〉の鎌をまともに喰らうが、

 

姫路「やぁぁあああっ!」

久保(アッパースイング、だと……!?)

 

吹きとばされる前に大剣をすくい上げるように振り抜き、〈久保〉にぶち当て力任せに上空に撥ね飛ばした。

 

明久(でた!姫路さんの空中コンボだ!)

 

放り出された〈久保〉の後を追うように、〈姫路〉は召喚獣特有の凄まじい脚力で〈久保〉よりも高い位置まで跳躍する。

 

姫路(よし、このまま追撃を……えっ…!?)

久保(残念だが姫路さん……どんな状況下でも僕は攻撃の手を緩めないよ!)

 

上から一方的に剣撃を浴びせようとする〈姫路〉に対し、〈久保〉は姫路からの攻撃など一切気にも止めることなく、アダマスの鎌の長いリーチを活かして〈姫路〉の背後……つまり〈姫路〉よりさらに上から斬りかかった。その光景はまるで罪人を処刑するギロチン台と酷似していた。

 

姫路「くっ……!」

久保(そうだ、この攻撃は防ぐしかないはずだ)

 

慌てて後ろを振り向き鎌を受け止める〈姫路〉。この状況で下手に斬りかっていれば、自由落下と〈久保〉が地面に向かって吹き飛ぶ力が加わった鎌に〈姫路〉の肉体は引き裂かれていただろう。

 

姫路(っ…それなら、『熱線』で!)

 

〈姫路〉の金の腕輪が光りだす。

 

久保(鎌を受け止めた状態では『風の刃』を使えないと判断したようだが……甘かったね姫路さん、『風の刃』を手からも撃てるんだよ!)

姫路(……ええ、そうだと思いました!)

久保(っ!?微塵も動揺せず撃ってきた……狙い通りだとでも言うのか……!?くっ、もう僕も撃つしかない!)

 

熱線と風の刃が空中でぶつかり合い、それによって生じた大爆発に巻き込まれた二人はフィールドの両端に投げ出される。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 久保利光 822点』

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 819点』

 

 

久保(……なるほど。あのままじゃ先に地面に着地する僕が有利になっていた。だから自分もろとも僕を吹き飛ばしてうやむやにしたのか)

姫路(……でも、その反動でお互い虫の息。……使うなら、今しかない!)

久保(おそらく切り札を切ってくるだろうね。

……面白い、受けて立とう!)

 

両者はすぐさま起き上がりお互いを見据えながら、腕輪能力を暴走させる。

 

姫路「『プロミネンス』!」

久保「『風の鎧』!」

 

〈姫路〉は全てを焼き尽くす火炎を、〈久保〉は全てを弾き飛ばす突風を自らに纏う。己の体を蝕むことを承知の上で。

 

姫路「久保くん、行きますっ!」

久保「来い、姫路さん!」

 

そして二人は武器を構え、お互いに向かって一直線に駆け出した。そのまま二つの力の塊がぶつかり合い、お互いの全てを喰らい合う……

 

 

 

 

 

 

ことはなかった。

 

久保(なっ!?姫路さんにまとわりついていた炎が刀身に集まって-)

姫路「これが私のラストアタックですっ!

やぁぁぁあああああっ!!!

 

〈姫路〉が〈久保〉の間合いに入る直前にレーヴァテインを大きく振って薙ぎ払うと、刀身に凝縮された炎が塊となって〈久保〉に襲いかかる。そのスピード、規模から久保は避けることは不可能であると悟る。

 

久保(……ここまでか。ならば…!)

 

そして〈久保〉は為す術もなくその炎に飲み込まれた。

 

姫路(……やった!勝っ-

 

 

 

っ!?)

 

突如視界の端からアダマスの鎌が弧を描きながら飛来してきた。〈姫路〉は咄嗟に飛び上がり辛うじてそれを避け、鎌はそのままフィールドに突き刺さり…

 

 

 

 

 

姫路「きゃぁあっ!?」

 

その周囲に全てを切り刻むかまいたちが吹き荒れた。すれすれで鎌を回避していた〈姫路〉に回避する余裕などある筈もなく、無抵抗のまま切り裂かれた。

 

久保(……これが僕の、ラストアタックだよ姫路さん)

 

事の真相はこうだ。

姫路の攻撃を決して避けられないと判断した久保は、その時点で自分の勝利を諦めた。だが敗北を受け入れた訳ではなく、自身の生存すら度外視して姫路を殺りにいった。

種明かしをすればなんのことはない……咄嗟に姫路と同じように風のエネルギーをアダマスの鎌に凝縮し、炎に巻き添えで飲み込まれないようブーメランの如く投げただけである。着弾の衝撃で凝縮された風のエネルギーは爆弾のように破裂し、満身創痍の〈姫路〉にトドメを刺したのだ。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 久保利光 戦死』

VS

 二年Fクラス 姫路瑞希 戦死』

 

 

その結果、両者共にノックダウンという結末で幕を降ろした。

 

『えっと……こういう場合どうなるんだ?』

『確か清涼祭のときは、先に相手を倒していた方の勝ちだったよね……?』

『じゃあ……姫路さんの勝ち?』

 

思わぬ展開に観客もざわつくなか、綾倉先生がバツの悪そうな表情(糸目なので判断しづらいが多分そんな表情)で判定を下す。

 

綾倉「えっとですね、実はチェスピースにも欠点がありましてね……戦死した召喚獣の点数は補充できないんですよ。さらに貴方達は総合科目で闘ったため、持ち点を全て失ったわけでして……一教科ぐらいなら補充試験を受けるという方法も取れたのですが、全教科を受けさせておくほど時間に余裕は無くてですね。要するに……

 

 

 

この勝負、引き分けです!」

 

 

 

…………ワァァァアアアアア!!!

 

『二人ともよく闘った!』

『カッコよかったよ久保くーん!』

『姫路さんサイコーっス!』

 

綾倉先生の予想外の引き分け宣言に観客は一瞬間が空くがすぐに活気を取り戻し、健闘した両者を讃える。そんな中久保は眼鏡を左手で押し上げながら、姫路に近づき右手を差し出す。

 

久保「ルールに助けられて引き分けに持ち込めたが……完敗だよ姫路さん、これで一勝二敗だね」

姫路「……いいえ、ルールはルールですから一勝一敗一分けです。この結果では勝ったと胸を張れそうもありません」

 

姫路はそれに応じ、久保と握手を交わす。

 

久保「……そうか。

ならば決着は、試召戦争で着けよう」

姫路「……はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「終わってみれば結局ほとんどお前の言う通りになったな」

蒼介「……いや、結果だけ見ればそうだが私は久保を見誤った。まさか奴の勝利への執念があれほどとは思わなかったな」

和真(……あー、そういうことか。久保が姫路に勝つことにあれだけ執着するのは成績云々ではなく、十中八九明久関連だろうが……こいつ恋愛面には疎いからなぁ。堅物だし)

 

言ってる内容は事実だろうが、蒼介もつい最近まで恋愛感情が心底理解できなかったような男に好き勝手ディスられたくないだろう。

 

蒼介「……しかし、三回戦で闘う相手が共倒れしてしまったか。随分と拍子抜けする形でブロックを通過してしまったな」

和真「は?オイオイオイ……お前今から二回戦で愛子と闘うんだろうが。何もう通過した気になってやがる」

蒼介「工藤を軽んじているわけではない。奴の実力は十二分に評価している。正攻法を好み思わぬ奇襲への対応が遅れがちなAクラスの生徒が大半を占める中、奴は特殊性という分野でお前達Fクラスにも対抗できる希少な戦力だからな。

 

 

 

 

 

 

……だがそれでも、私の敵ではない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《保健体育》

『二年Aクラス 工藤愛子 399点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介  707点』

 

 

愛子「うぅ…手も足も出ない……ちょっとは手加減してよ鳳君!」

蒼介「獅子博兎だ。それに工藤、保険体育はお前の得意分野だろう?そのような泣き言を言うようでは、お前は永遠に土屋に追い付けんぞ」

愛子「あはは、相変わらず手厳しい……ねっ!」

蒼介「それで不意を突いたつもりか?」

愛子「-ぅえっ!?」

 

正攻法では勝てないと判断したのか〈愛子〉は腕輪能力で電撃を纏わせたバトルアックスを〈蒼介〉に向かってぶん投げ、それをガードしたときに生じる隙を狙って打撃戦に持ち込もうとした。が、〈蒼介〉は向かってくるバトルアックスを捌の型・夕凪であっさりと受け流し、すかさず〈愛子〉に詰め寄り弐の型・車軸を顔面に直撃させて後方に吹き飛ばした。

 

 

《保険》

『二年Aクラス 工藤愛子 188点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介  707点』

 

 

愛子(だ、ダメだ……こんなの勝ち目が無いよ……)

蒼介「ふむ、心が折れたようだな。だが私は手を緩めるつもりは無い……『インビンシブル・オーラ』」

愛子「お、鬼……」

 

元々の圧倒的な実力差に加え、およそ十倍となった点数差に戦意を喪失した愛子。しかし蒼介は情け容赦無しにチート能力『インビンシブル・オーラ』を発動させる。

 

愛子(……でもそれ意味あるの?『インビンシブル・オーラ』は守備力は圧倒的だけど、火力は全く無いのに……)

蒼介(感謝するぞ姫路、久保。和真と闘う際の懸念事項は二つ……私に遠距離攻撃が無いことと、私と奴の火力に圧倒的な差があることだった。私の腕輪能力は防御に特化し過ぎて、形振り構わず距離を取って超短期決戦に持ち込まれれば押し切られる可能性があった。だが…)

愛子(っ!?オーラが草薙の剣に集まって……ってこれ、さっき久保君達がやっていた……!?)

 

〈蒼介〉の体を覆っていたオーラが、草薙の剣に集まり凝縮されていく。

 

蒼介(オーラを剣一振りに凝縮し、そしてこの状態のまま水嶺流を用いて……凝縮されたオーラを斬撃として放つ!)

 

距離を開けた状態のまま〈蒼介〉は参の型・怒濤を繰り出す。

 

すると剣に凝縮されたオーラは蒼介の目論見通り数多の斬撃となって〈愛子〉に飛来し…

 

愛子(あ、ボク死んだ)

 

召喚獣を通して視ていた愛子が死を覚悟する(愛子は観察処分者では無いので本体は当然ノーダメージなのだが)ほどの斬撃の嵐は、〈愛子〉の体をズタズタに切り裂いて絶命させた。

 

 

《保険》

『二年Aクラス 工藤愛子 戦死

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介  707点』

 

 

まさに有言実行。

蒼介は愛子を一切寄せ付けず、完全なワンサイドゲームで完勝した。

 

蒼介(綾倉詩織……お前が何故水嶺流を扱えるかなど些末なことだ。所詮は紛い物、真の継承者である私が捩じ伏せてくれる。そしてカズマ……そちらのブロックは強敵揃いだがそんなことは関係無い、私は必ず決勝でお前を待つ。そして勝つのは……私だ!)

和真(おーおー、相変わらずストイックな奴だ。長い付き合いだ、お前が何考えてんのか大体わかるぜ。敢えて口には出さねぇが……俺も必ず決勝に勝ち上がる。だが当然勝つのは……俺だ!)

 

 

 




皮肉なことに姫路さんの成長が蒼介をさらに強化してしまいましたね……彼は貪欲ですから隙あらば強化フラグが建ちますよ。
ちなみに愛子さんのように武器に付与する使い方の腕輪を除き、固有武器ではない普通の武器に腕輪能力を凝縮すれば、高密度のエネルギーに武器が耐えきれずぶっ壊れるという落とし穴があります。ダイの大冒険で例えると、オリハルコン製の武器じゃなければドラゴニックオーラに耐えきれないようなものですね。



【注目選手データ】

・姫路瑞希(二年Fクラス)

〈召喚獣〉パワータイプ

〈武器〉レーヴァテイン

〈能力〉熱線……消費50。簡潔に説明するとビーム砲。シンプルだが強力。

〈オーバークロック〉プロミネンス……消費20(持続ダメージ大)。体が炎に包まれ、触れるもの全て焼き尽くす。

〈成績〉
外国語……489点
国語……401点
数学……523点
理科……478点
社会……449点
保体……378点
  
総合科目……5058点

・久保利光(二年Aクラス)

〈召喚獣〉パワータイプ

〈武器〉アダマスの鎌

〈能力〉風の刃……消費50。かまいたちを放つ。姫路と同様!シンプルだが威力は高い。

〈オーバークロック〉風の刃……消費50(持続ダメージ小)。体周辺に風が取り巻き、あらゆる攻撃を跳ね返す(跳ね返せる限界はある)。

〈成績〉
外国語……489点
国語……518点
数学……393点
理科……442点
社会……489点
保体……386点

総合科目……5043点


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S・B・F本戦・Dブロック④

そろそろ梅雨明けですね。



よし。


Dブロック二回戦第一試合、吉井明久vs橘飛鳥。

実力云々は一先ず置いておいて、随分と対照的な者同士の対決である。 

片や学年の頂点Aクラスでも十指に入る秀才であり、生徒会副会長にして柔道インターハイチャンピオンと、まさに絵に描いたような模範生であり男女問わず慕われている飛鳥。

片や学年の底辺Fクラスでも郡を抜いたバカ(()()()多少向上した)であり、観察処分者にして除き騒動の主犯と、まさに絵に描いたような問題児であり男女問わずバイ菌のような扱いをされている明久。

極論を言えば最も人気な女子と、最も不人気な男子の対決。となれば…

 

 

『橘先輩頑張れー!』

『飛鳥ファイト!』

『吉井なんか瞬殺してしまえ!』

『吉井引っ込めー!』

『場違いなんだよお前!』

『お前みたいなバカが橘に勝てるわけないだろ!』

 

 

観客の大半が飛鳥の味方になるのは必然である。おそらくは生徒だけでなく教師達も、声には出さずとも飛鳥を応援していることだろう。

 

和真「うっわ超アウェーだなー。こりゃ明久にとって厳しい闘いになりそうだなー」

蒼介「わざとらし過ぎるぞカズマ……。飛鳥の性格を考えれば、そうならないことくらい容易に予想できるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久(ある程度は覚悟してたけど、僕ってここまで嫌われてるのかぁ……)  

 

常在戦場の如く命の危機がそこら中にある学園生活を常日頃送っている明久にとって、多少のアウェー程度の迫力に萎縮するなど万に一つもあり得ない。……が、モチベーションを保てるかどうかは別問題だ。

和真や蒼介や梓が出場している以上、自身が優勝する確率はぶっちゃけ無いも同然。それどころかオーバークロックやランクアップ能力を喰らったら、冗談抜きでフィードバックで死ぬかもしれない。さらに自分が負けたからと言ってクラスの設備が落ちるなどのリスクがあるわけでもない……など、それだけでも闘う気があまり起きない理由が揃っている上に、観客の誰もが自分の敗北を望んでいるとなれば、モチベーションを保てという方が無茶である。姫路や秀吉など明久の勝利を望んでいる者も僅かながら存在するが、流石に少数派過ぎて声援を贈っても明久には届かないだろう。

 

明久(はぁ…僕も大門君みたいに棄権すれば良かったかな……)

飛鳥(あ、吉井君が落ち込んでる……。うん、そうよね……吉井君だってこんな状況じゃ傷ついても不思議じゃないわ。……うん、ここは私が…)

明久(…え?橘さん何を…)

 

どんどん戦意が薄れていく明久に気づいた飛鳥はおもむろに観客席の方を向き、パーにした両手を口元に当て簡易メガホンを作ると…

 

 

 

飛鳥「はいみんな、一旦ストーップ!!」

 

 

会場全体に聞こえるような声量で静寂を要求した。

 

『え……?』

『何だ何だ?』

『飛鳥ちゃん、急にどうしたの?』

 

観客席の生徒達はやや戸惑いを見せつつも、飛鳥の言葉に従い次第に沈静化する。やがて全体が静まり返ると飛鳥は満足そうに頷き、そして再び口を開く。

 

飛鳥「みんな少し自重しなさい。私を応援してくれるのは嬉しいけど、この祭典はあくまで学校行事よ。一方の生徒が闘いにくくなるほどもう一方に肩入れするのは良くないし、ましてや相手を貶めるような野次なんて以ての外よ。先生方も今のは明らかに生徒を諌めるべきでしょう?しっかりしてください」

『『『す、すみませんでした……』』』

 

間違ったことを間違ったままにしておくことを嫌う飛鳥に、観客席の先輩後輩同級生挙げ句の果てには教師までもまとめて説教されたのであった。

 

和真「おーおー飛鳥の奴、予想通りみすみす自分に有利な状況をフイにしやがったぜ」

蒼介「……それでこそ飛鳥だ」

 

 

 

飛鳥「ごめんなさいね吉井君。彼等も決して悪気があるわけじゃないんだろうけど…」

明久「い、いや別にそこまで気にしてないよ。……でも良かったの?あのままだったら橘さんが有利だったのに」

飛鳥「さっき言った通りこれは学校行事だしね。……それに勝負はやっぱり、お互いがベストを尽くしてこそ意義があると私は思っているから。自分自身でも甘い考えだと思うけどね」

明久(イ……イケメンだこの人!何このさわやかさ!?さわやか過ぎて直視できないよ!そりゃバカスカ同性にモテるわけだよ!)

 

クラスメイトの美波をも凌駕しかねない男前さ、そしてトップアスリート特有の爽やかオーラに圧倒される明久であった。

 

 

 

 

 

和真「-とか思ってんだろうなぁ明久の奴」

蒼介「……無理もない。飛鳥がどれほど壮絶な人生を歩んできたかは、事情を知らない者には知る由もないことだ」

和真「もしもアイツが日本有数の名家じゃなく、ごく普通の一般家庭に生まれていたなら……どれほど順風満帆な人生だっただろうな」

蒼介「……タラレバを考えるのはあまり好まないが、確かにそうだな」

 

飛鳥は才能が無いわけではない。むしろ大半の者よりは恵まれている方であろう。……しかし彼女を取り巻く環境を考えれば、悲しいことにその資質は凡庸の烙印を押されるものであった。

 

蒼介「いったいどれぼどの挫折と苦悩があったか、私でさえ検討もつかないほどだ」

和真「いやいやいや、お前がそれ言っちゃうの?初対面の飛鳥によりにもよって柔道で完勝しちゃったソウスケ君よ」

蒼介「お前にだけはとやかく言われる筋合いは無い。そうだろう?初対面の飛鳥に柔道で片袖を掴んでそのまま場外まで力ずくで強引にぶん投げるという、非常識極まりない勝ち方をしたカズマ君よ」

 

そして彼女と最も親しい二人……そしてついでに実の兄は、恐ろしいほどまでに才能に恵まれていた。彼女が自身の凡庸さを自覚した時期は、決して遅くなかったに違いない。

 

 

 

 

 

 

閑話休題。視覚リンクシステムを起動させ、対戦科目が決定する。ちなみに今回選ばれた科目は『理科』。両者とも特別得意でも苦手でもない教科だが…

 

明久・飛鳥「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 106点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点』

 

 

多少向上したとはいえ社会以外は精々Eクラスレベルの明久と、Aクラスでも上位の成績の飛鳥では、哀れなほど圧倒的な開きがある。

しかし明久にしてもそんなことは当然折り込み済み。操作技術と経験では確実に明久に分があるので、それらで如何に点数差をカバーできるかが勝敗の分かれ目になる。

 

飛鳥(さてと……さっき蒼介が言っていたことが当たっているなら、のんびり闘っていたら多分勝てないでしょうね。ここはやっぱり-

 

綾倉「それでは……試合開始!」

 

速攻!)

 

綾倉先生が試合開始を宣言すると同時に、〈飛鳥〉はすかさず〈明久〉との距離を詰めるべく急加速した。

 

明久(やっぱり近づいてきた!柔道インターハイチャンピオンの橘さんと組み合うのはマズい、ここは木刀で牽制しつつ距離を-)

飛鳥「やぁっ!」

明久(普通に爪で攻撃!?くっ…!)

 

袖や襟を取りに来ることを警戒していた〈明久〉を嘲笑うかのような、武器によるいたって普通の攻撃。裏をかかれたことで反応が遅れたものの、〈明久〉はすぐさま自分に迫り来る爪と自身の間に木刀を滑り込ませて〈飛鳥〉の奇襲を受け止める。

 

飛鳥「やぁ…ぁああ!」

明久(ダメだ、受け止め切れない…こうなったら……)

 

しかし両者の召喚獣のパワーは一目瞭然。〈飛鳥〉は爪に力を込め木刀ごと〈明久〉を撥ね飛ばした。

 

飛鳥(……吹っ飛んだ?隙を作るためかち上げる程度の力でやったのに、あんなに豪快に吹っ飛ぶはずが……なるほど、自分から飛んだのね)

明久(一旦距離を取って仕切り直す!もし着地を失敗すれば橘さんは容赦なく追撃して来るだろうけど……問題ない、僕なら上手く着地できる筈、自分を信じるんだ…集中、集中……集中!)

 

極限まで自分を信じたおかげか、〈明久〉は空中で体勢を作り直し、タイミングを合わせて無傷で着地することに成功した。間髪入れずに〈飛鳥〉が接近して来るとほぼ同時に、〈明久〉は取って置きの切り札を使う。

 

明久「二重召喚(ダブル)!」

 

〈明久〉の体から瓜二つの召喚獣が飛び出し、二体の召喚獣は木刀を構えて迎撃体勢を作る。

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 53点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点』

 

 

飛鳥(これが吉井君の白金の腕輪の能力……大丈夫、問題ないわ。二体の召喚獣を自由自在に使いこなす吉井君の技量には舌を巻くけど……付け入る隙や弱点は、ある!)

 

それに対して〈飛鳥〉は臆することなく鉤爪を構えて突撃する。果たして『二重召喚』の弱点とは……?

 

 

 




飛鳥さんの過去も番外編で書きたいですね。


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S・B・F本戦・Dブロック⑤

今話では明久が未だかつてないほど主人公しています。


《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 53点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点』

 

 

飛鳥(白金の腕輪による二重召喚……使いこなせていなければ大して脅威じゃないけれど、信じられないことに吉井君は二体の召喚獣を自由自在に操っている。うん、おそらく梓先輩のように並列思考を身に付けていると考えて良さそうね)

 

二体の召喚獣が織り成す連携はまさに圧巻の一言。数日前の高城や先ほどの根本のように、二体同時に相対しようものなら圧倒的な強者でもなければ瞬く間に敗北してしまうであろう。

 

飛鳥「そうとなれば……うん、やっぱ一体を集中的に攻撃するのがベストかな!」

 

二体同時に相手取るのではなく一体ずつ潰していくため、〈飛鳥〉は遠隔操作している〈副獣〉ではなく明久が視覚を共有している主獣に照準を定めて特攻する。

しかしいくら二年きってのファンタジスタである明久と言えど、対戦相手が一体ずつ潰そうとしてくるなんてありきたりな展開を想定していない筈が無い。

 

明久(よし………ここだ!)

 

〈飛鳥〉の鉤爪を主獣が際どいタイミングでかわして一瞬の隙を作り、その隙を縫うように副獣が〈飛鳥〉の後ろから木刀で斬りかかる。副獣への注意を一切払っていなかった〈飛鳥〉に避けられるわけもなく、木刀は誰にも邪魔されることなく〈飛鳥〉の背中に叩き込まれた。

 

 

 

 

 

……が、

 

飛鳥「その程度の攻撃では私は倒れない!」

明久「嘘ぉっ!?」

 

〈飛鳥〉はその攻撃に一切構うことなく、強引に主獣への攻撃を続行した。先ほどバリバリの近接武器である鉤爪をギリギリで避けたせいで二体の間合いはかなり近く、スペックで大きく劣っている〈明久〉にかわせる余力など残っていなく、〈明久〉はダメージを最小限にするため木刀でガードした瞬間全力で後ろに飛ぶ。後ろに飛んだエネルギーに〈飛鳥〉のパワーが加わったことで〈明久〉はフィールドの壁に思いっきり叩きつけられ、フィードバックが明久を襲う。

 

明久(あぐぁっ!?…せ、背中が……っ!)

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 19点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  288点』

 

 

主獣は何とか一命を取りとめたものの危機的状況は終わらない……どころか、むしろ飛鳥の青写真通りに進行した。

 

明久「…しまった、副獣がっ!?」

飛鳥(気づいたようね、でも流石の吉井君でも今の状況から副獣を守り切れるかしら!)

 

………先ほども述べた通り、飛鳥は二体同時に相手取るのではなく一体ずつ潰していく方針を取った。だが飛鳥が最初に倒すつもりだったのは、実は主獣ではなく副獣だったのだ。どうにかしてダメージを与えることでその痛みをフィードバックさせ、それに気を取られている隙に無防備になった副獣を狩ることが飛鳥の狙い。視覚を共有している主獣ならば避けられる可能性がある一方、遠隔操作の副獣ならばこの状況では〈飛鳥〉の攻撃からは逃げられそうもない。

 

明久(このタイミングじゃかわすのは無理だ!かといってダメージを軽減させたとしても、主獣に続いて副獣まで瀕死になっちゃ勝ち目が無くなるし……ダメだ負け-)

 

完全に打つ手が無くなり敗北を覚悟したとき明久の脳裏をよぎったのは……

 

 

 

『私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが。だから頑張れるんです』

 

最も守りたいと思う人の、

心から共感できると思った言葉。 

そして…

 

 

 

『諦めるわけにはいかねぇんだよ…

意地があんだよ!男の子にはなぁ!』

 

最も頼りになる友人の、

泥臭くも気高い言葉であった。

 

 

明久(……諦めない。諦めない。僕は絶対諦めない!どれだけ絶望的は状況だろうと、諦められない理由がある!皆のため、そして僕の意地にかけても、

負けるわけには……いかないんだぁぁあああ!)

 

〈飛鳥〉の鉤爪はが副獣の体を引き裂く寸前の寸前、副獣は咄嗟に木刀を片手持ちに変え、空いた手で迫り来る鉤爪を嵌めた腕を掴んだ。

 

飛鳥(なっ…無駄よ!私と吉井君の召喚獣じゃスペック差なら、このまま押し切れるわ!)

明久(集中しろ……集中しろ!

集中!集中!集中集中集中!

 

 

 

集中!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー……!!!!!)

飛鳥「-う、嘘っ!?」

 

副獣は〈飛鳥〉の腕を掴んだ直後、強引に押し切るため〈飛鳥〉が前へ踏み込んだ力に沿うように片足を軸に一回転した。結果、〈飛鳥〉は自らが込められた力を受け流されるばかりか、自身の力を利用される形で〈明久〉の後方に投げ飛ばされた。

 

詩織「……!」

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 19点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  261点』

 

 

飛鳥(くっ…素人に投げ飛ばされるなんて柔道家にあるまじき失態ね……それにしても、あの一瞬であれだけの判断が-)

 

 

 

 

 

ゾクリッ…!

 

飛鳥(っ!?こ、この気配……そしてこの、海の底に引きずり込まれたかのような圧迫感は……!)

 

驚愕のあまり瞠目した飛鳥の視線は、

 

 

 

明久「………」ヒィィイイイン…

 

極限の集中状態に入った明久に注がれた。

その集中状態は、何を隠そう“明鏡止水の境地“。

鳳家の者だけに伝承される門外不出の剣術流派……“水嶺流”の奥義である。

 

 

 

和真「マジかよオイ……アイツが高城先輩と戦ったとき二体の召喚獣を自在に操るのを見て、“明鏡止水”に匹敵しかねない集中力だとは思ったが……ありゃあほとんど“明鏡止水”そのものじゃねぇか」

蒼介「私もこうしてこの目で確かめるまでまで確証が持てなかったが、まさか自力であの境地に至るとはな……」

 

控えスペースにいる二人……“明鏡止水”に二度も辛酸を舐めさせられた和真と、水嶺流正統継承者の蒼介は当然驚きを隠せない。

 

和真「……つかどういうことだよソウスケ。なんで水嶺流と一欠片も関係無い筈の明久があの境地に至ったんだ?」

蒼介「……ふむ、あくまで推測の域を出ないが、そうだな……“明鏡止水”に至るために必要不可欠なことは並外れた集中力、そして雑念を完全に排除することだ。それは言い替えれば、どれだけ一つのことに夢中になれるかが重要になってぬる。その点で言えば吉井は、その…私より優れた資質を持っているのかもしれない」

 

蒼介が珍しく言葉を濁したが、察しの良い和真は全てを汲み取って簡潔に纏める。

 

和真「な~るほど。つまりアイツは空前絶後のバカだから、ある意味“明鏡止水”の適性があると考えたわけだな」

蒼介「………否定はしない」

 

一つのことに夢中になると、とんでもない集中力を発揮する。空手バカや剣道バカと呼ばれる者もいるが、そこまで言われるバカというのは『物事に集中する奴』という誉め言葉だ……というのはバカに対する雄二の弁である。

 

蒼介(とはいえ、ただバカと言うだけで至れるほど“明鏡止水”はお手軽なものではない。当然ながら雑念や煩悩という余計な感情を消し去れなければ話にならない。私の知る限り吉井は雑念や煩悩も多い生徒だ。あの絶体絶命の状況下でそれら全てを消し去り、ただ勝つためだけに限界を越えて集中するとは……見事な勝利への執念だ。

さてどうする飛鳥?“明鏡止水”に至った者は不要な思考や余計な外部情報などが全て遮断され、普段の数倍の集中力を発揮する。体感的な強さも桁違いにはね上がる筈だ。何か手を打たなければ勝ち目は無いぞ)

 

 

 

 

 

“明鏡止水”へと至った明久を目の当たりにした〈飛鳥〉の行動は迅速であった。この状態の明久に下手に守勢に回れば流れを持っていかれるであろう。逆に、風前の灯である主獣にトドメを刺し副獣との一対一に持ち込めれば、圧倒的な点数差とスペック差でごり押しできる。

 

飛鳥(ここは勝負所……今こそ切り札を切る時ね!私の最も得意とする柔道技、一本背負い『上弦の月』……それをフェイクに用いた裏の技、双手刈『下弦の月』で主獣を仕留める!)

 

双手刈とは相手の両膝裏を両手で刈り、肩で押しながら重心を崩して後方に倒す技である。組み合いを重視し技の華麗さを求める傾向にある日本では朽木倒と並んで美しくない技の代表格であるとされるが、ポイントを稼ぎ優勢勝ちするスタイルが発展した海外では積極的に用いられている技である。飛鳥はかつて留学していたフランスでこの技を身に付け、梓の指導で一本背負いと組み合わせることで必殺の技にまで消化し、二つの『月』を使い分けることでインターハイを制した。

 

飛鳥(接近して袖に取りに行く素振りを見せて、相手の警戒を上半身に集中させ……警戒が疎かになった下半身を一気に刈り取る!)

 

袖を取りにかかる素振りを見せつつ急接近する〈飛鳥〉に対し、〈明久〉の取る行動は……棒立ちであった。

 

明久「………」ヒィィイイイン…

飛鳥(なっ……!?上半身や下半身以前に、そもそも全く警戒する素振りも-)

 

 

ドガッ!

 

飛鳥「っ!?足を前後に開いて……受け止められた!?」

 

結論を言うと〈飛鳥〉の双手刈は失敗した。〈飛鳥〉と接触する直前、〈明久〉は瞬時に足を前後に開くことで勢いを完全に殺し、さらに刈り取るために伸ばされた〈飛鳥〉の手もかわした。

 

飛鳥「まず-」

明久「遅い!」ヒィィイイイン…

 

平常時ですら見逃さないであろう大きな隙を今の明久が見逃す筈もなく、〈飛鳥〉は主獣の後ろから切り込んできた副獣に殴り飛ばされる。

 

飛鳥「クッ、すぐに仕切り直しを-そ、その技は!?」

明久「君と木下さんの得意技でいくよ……

スカイラブハリケーン!」ヒィィイイイン…

 

すぐさま立ち上がった〈飛鳥〉の視界に飛び込んできたのは、副獣の足をジャンプ台にして超加速しながら自身に向かってくる主獣の姿であった。

 

飛鳥(甘いわね……それは私達の技、弱点ぐらい当然把握してるわ)

 

〈飛鳥〉は迫り来る主獣を即座にかわす。

『スカイラブハリケーン』は真っ向から受け止めれば桁違いの破壊力を誇るため、馬鹿正直に相手にせず避けるのがベストである。

 

飛鳥(そしてもう一つの弱点……この技は勢いが大きすぎるあまり安全に着地することができない。これで主獣は間違いなく戦死-)

明久「それはどうかな」ヒィィイイイン…

飛鳥「う、嘘!?」

 

フィールドの壁に激突する寸前、主獣は木刀を壁に思いっきり叩きつけることで衝撃を押し付ける。当然木刀は柄より上がへし折れてしまうが、主獣は即座に柄を捨てて刀身をキャッチし、再び〈飛鳥〉に斬りかかる。

 

飛鳥(あんな着地法があったなんて…って感心してる場合じゃない!)

  

スカイラブのリスクを完全に打ち消した明久に驚嘆しつつも、〈飛鳥〉は迫り来る主獣に対して反撃体勢を取る。

 

 

 

結果、意識を外してしまった副獣に足払いをまともに食らわされてしまう。

 

飛鳥「しまっ-」

明久「次は姫路さんの技だ!」ヒィィイイイン…

 

主獣は前のめりに倒れてきた〈飛鳥〉の腹にアッパースイングを直撃させ、そのまま上空に撥ね飛ばした。

 

飛鳥(この技はさっき久保君との試合のときの……ってことはっ!)

 

〈飛鳥〉が反転して上空を見ると、既に副獣が木刀を構えてこちらに振り下ろそうとしていた。

 

飛鳥(もう上を取られてる!?一つ一つの行動の切り替えが速すぎて付け入る隙がまるで無い……!?)

 

鉤爪の間合いの外からくる副獣の追撃を〈飛鳥〉はどうにか防いでいくが、やはり全てを捌ききることはできずにどんどん点数が削られていく。

すると突然、副獣はおもむろに木刀を大きく振りかぶった。

 

飛鳥(そんな大振りな攻撃-)

明久「また後ろが疎かだよ橘さん」ヒィィイイイン…

飛鳥「っ-」

 

先ほど副獣に足払いされたことがフラッシュバックした〈飛鳥〉が、反射的に地面にいる主獣へ視線を移そうとした瞬間、主獣は大きく跳び上がり木刀で〈飛鳥〉を斬り裂き、副獣もそのまま〈飛鳥〉を木刀で斬り伏せた。結果…

 

明久「クロス・ディバイド!」ヒィィイイイン…

 

全力で振り抜かれた二振りの木刀は〈飛鳥〉を挟み込む形で直撃し、飛鳥の点数を削りきった。

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 19点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  戦死』

 

 

飛鳥(………完敗、ね)

綾倉「勝者、吉井君!」

明久「(ヒィィィィン……フッ…)……やった。

 

 

やった……!

 

 

僕が、勝った……!

 

 

 

うぉぉぉおおおおおぉぉおおおぉぉぉぉおおお!!!」

 

 

明久の全力でガッツポーズしながらの勝利の雄叫びが、『フリーダム・コロッセオ』全体に響き渡った。

 

詩織「……」

 

そんな明久を、綾倉詩織は沈黙のまま静かに見据えていた。

 

 




はい、というわけで明久が超絶強化されました。
蒼介君は“明鏡止水”に至ると相手を一撃で倒してしまうので、よりパワーアップした感が凄いですね。
実を言うと明久が“明鏡止水”を習得するのは、五巻で“明鏡止水”の設定出した辺りから決まっていました。伏線回収遅すぎとか言わないで……。

あくまで我流ですので本家には劣ります(蒼介君の“明鏡止水”の熟練度を95/100とすると、明久の“明鏡止水”は60/100くらい)。

明久の新技『クロス・ディバイド』ですが、技名の元ネタはロックマンエグゼのキャラ・カーネルの必殺技です。同じなのは名前だけですが。


とにもかくにも明久、点数差三倍のジャイアントキリング達成&ベスト8進出おめでとう!



申し訳ありませんが次の投稿は2週間後くらいになります。理由はシンプルに、大学の試験が近いからです……。



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ベスト8の7人

今回はかなり短めです。


いよいよ二回戦も大詰め、最後の試合の対戦カードは金田一真之介vs綾倉詩織。一回戦で3-A代表の高城が詩織に惨敗したため下馬評では圧倒的に詩織有利だが、つい先程明久が自身の三倍近い点数の飛鳥を下したこともあってか、もう一度ジャイアントキリングを期待する観客も少なくなかった。

 

 

……が、そのような淡い期待は氷の女王こと綾倉詩織に容赦無く打ち砕かれる。

 

 

《保険体育》

『三年Aクラス 金田一真之介 145点

vs

 一年Dクラス 綾倉詩織   466点』

 

 

金田一(レベルが違い過ぎる……!この手のつけられなさ……信じられんが、佐伯と同等かそれ以上-)

詩織「隙だらけだよ」

金田一「ぅおっ!?」

 

一瞬の隙が命取り。

〈詩織〉は七支刀をコークスクリューの要領で軸回転させながら、弐の型・車軸で〈金田一〉の心臓を狙う。〈金田一〉は咄嗟にグラディウスで受け止めるが、軸回転が加わったことで貫通力が数倍に跳ね上がった七支刀はいとも容易くグラディウスを粉砕し、それでも勢は衰えることなく刃先が〈金田一〉の肉体を貫いた。

これぞ水嶺流弐の型・車軸と肆の型・大渦の複合技……螺旋である。

 

綾倉「勝者、綾倉さん!」

 

 

《保険体育》

『三年Aクラス 金田一真之介 戦死

vs

 一年Dクラス 綾倉詩織   466点』

 

 

金田一「……敗色濃厚なのはわかってたが、ここまで手も足も出ねーとはな。完敗だぜ嬢ちゃん」

詩織「………(クルッ、スタスタスタ…)」

 

 

金田一の掛け値なしの賞賛には気にも留めず、詩織は踵を返して控えスペースへと歩みを進める。

 

金田一「……とことん無愛想な奴だな、まったく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「二回戦の試合が全て終了いたしました。消耗した分の点数はチェスピースを投入して補充しておきます。

さてそれでは、数々の死闘を制し三回戦まで勝ち上がった生徒達を紹介していきましよう!

 

まずはAブロックで勝ち残ったのはどちらも三年Aクラスの生徒です。一人目は佐伯梓さん。二振りの剣と両足の足甲を自由自在に使いこなす技量もさることながら、彼女の強みはやはり全てを欺き意表を突くフェイクのセンスでしょう。文月学園きってのトリックスターは三回戦で何を見せてくれるのか?

 

二人目はリンネ・クライン君。スウェーデンの姉妹校『Juli Privat Gymnasium』から交換留学生としてやってきた彼は、若干10歳にして『スウェーデンの至宝』とまで謳われた天才少年です。ここまで絶対強者の証・ランクアップ能力で対戦相手を捩じ伏せてきた彼ですが、青銅の腕輪を持つ佐伯さんに果たしてどう立ち向かうのか?

 

続いてBブロックの二人の紹介です。一人目は二年Fクラス・柊和真君。常識を超越した予測不能の槍捌き、鬼神の如き圧倒的な攻撃力、そしていかなる奇策も能力も真っ向から捩じ伏せる対応力を備えたバーサーカーです。果たして彼の進撃を食い止めらる生徒はいるのか?

 

二人目は一年Fクラス・志村泰山君。普段は柔和で温厚な彼ですが、ひとたび戦場に上がればその強さは圧巻の一言。普段通りの微笑みを浮かべながら、苛烈なまでの剣激で相手を追い込んでいきます。期待のルーキーと学園最強の矛の激突、果たしてどのような結末を迎えるのか?

 

Cブロックは既に通過者が決定しました。優勝候補No.1、二年Aクラス・鳳蒼介君。他の追随を許さない圧倒的な成績と並外れた剣の腕を持ち、ここまでノーダメージで勝ち上がった無敵の英雄です。いち早く準決勝へと駒を進めた鳳君、彼のさらなる活躍は準決勝までお待ち頂きます。

 

最後にDブロックの紹介です。一人目は二年Fクラス・吉井明久君。問題児の証『観察処分者』の肩書きを持ち学年園のバカとまで称される彼ですが、数ヵ月前の清涼祭召喚獣トーナメントでは相棒の坂本君と共に数々の強豪を退け優勝した実績を持ちます。意外性No.1のミラクルボーイは再び栄冠を手にすることができるのか?

 

そしてラストは一年Dクラス・綾倉詩織さん。予選では堂々の一位通過。一年生トップの成績や吉井君や佐伯さんと同等の召喚獣の操作技術に加え、鳳君に勝るとも劣らない剣の腕を持つ女傑です。果たして彼女の表情を歪ませられる猛者は現れるのか?

 

以上7人が勝ち上がった生徒達です。それではいよいよ三回戦へと参りましょう。対戦カードはこちらになります!」

 

 

綾倉先生がリモコンのボタンを押すと、スクリーンに三回戦の対戦カードが表示される。

 

 

〈三回戦〉

 

【Aブロック】

 

佐伯梓vsリンネ=クライン

 

梓(さて、ここからが正念場やな。こいつと当たるまでにもうちょい情報欲しいってのが本音やけど……そう贅沢も言ってられんわな)

リンネ(サエキがアイテかぁ……マチガいなくセーセードードーのタタカいにはならないよネ……)

 

 

【Bブロック】

 

柊和真vs志村泰山

 

和真(まあまあの相手だな。

……だがそれでも、勝つのは俺だ)

志村(うーん…おっかないねぇ)

 

 

【Cブロック】

 

鳳蒼介→勝ち抜け

 

 

蒼介(情報は漏らさないに越したことはないが……闘う相手がいないのもそれはそれでつまらんな……)

 

 

【Dブロック】

 

吉井明久vs綾倉詩織

 

 

明久(神様お願いします、せめて……せめてフィールドが社会科になりますように……!)

詩織「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「こうしてあらためて並べてみると、明久の場違い感半端ねぇな」

秀吉「じゃな。他の連中は4000点を軽く越える化け物揃いのなか、明久は精々Bクラスじゃからのう……」

美波「そうね。それにアキの強みの操作技術も、この面子の中じゃ抜きん出ているわけじゃないし……ハッキリ言って厳しいわね」

ムッツリーニ「………しかも対戦相手の綾倉詩織は、下手したら和真や鳳に並ぶほどのレベル」

姫路「で、でも明久君ならきっと何とか……!」

翔子「……瑞希の言い分もあながち絵空事じゃない。おそろく吉井はさっきの試合で“明鏡止水”を体得した筈、一矢報いる可能性は十分にある」

 

脱落したFクラスメンバーは、観客席で勝ち残った二人……ではなく、明久についてのみ議論をかわす。別に和真が蔑ろにされているわけではなく、むしろ逆……和真なら間違いなく勝ち上がると信じているから議論する気すら起こらないだけである。

 

雄二(……つーかやっぱり納得できねぇな。和真はともかく、なんで俺達が脱落したのによりにもよってアイツが勝ち上がってるんだよ。あー胸糞悪い……!)

 

 

心の底の底の底の底の底のそのまた底から明久を下に見ている雄二は、過程はどうあれ明久に戦績で劣ってしまったことに全身を屈辱で震わせるのであった。

 

雄二(今に見ていろよ和真……この俺を下に見たことを、いずれ後悔させてやる。俺は絶対に越えてやる……お前も、鳳もだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、次回は梓さんvsリンネ君。
この対戦カードの試合展開は一番悩みました。
主にどちらを勝たせるかについて。


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S・B・F本戦・Aブロック④

リンネ君の口調すごく書きづらい……。


梓「リンネ、三年生で勝ち残ってるのはウチとアンタだけやな。勝った方が準決勝に進むわけやけど……悔いの無いよう、真っ向勝負といこうやないか♪」

リンネ「ウサンくさいにもホドがあるよサエキ……」 

 

不気味なほど爽やかな笑顔で歯の浮くような台詞を言う梓だが、リンネには……と言うより彼女とあまり交流の無い一年生以外の全生徒には、「マラソン一緒に走ろう」以上に信用できない台詞に感じた。それを裏付けるかのように梓の利き腕には青銅の腕輪がはめられている。おまけに…

 

リンネ「ねえサエキ、そのウデワ……」

梓「ん?……ああ、さっき杏里に預けたコレがここにある理由?そら観客席まで行って回収したからに決まってるやん」

リンネ「いや、そうじゃなくて……『タイセンアイテがゼンリョクをダせないのはつまらない』とか言ってたよネ……?」

梓「は?何言うとんねん?真剣勝負の世界にそんな甘っちょろいこと持ち込むのはただの驕りやで?獅子博兎、ウチは全力を尽くしてアンタを倒すでリンネ」

リンネ(『シタのネもカワかぬうちに』ってこういうことなんだネ……)

 

少し前に自分が言ったことを完全に無かったことにしている始末である。彼女の言葉は安易に鵜呑みにしてはいけないのだ。もっとも、裏をかいてくることを警戒している相手には、平然と正攻法するパターンもある。梓の言葉を全く信用しなければいい……といった浅い考えでは確実に痛い目を見る。何故なら「絶対に信用しない」とは、「絶対に裏を欠いてくる」と信じているのと同義であるからだ。

 

選択された科目(当然総合科目)のフィールドが展開され、召喚獣視覚リンクシステム』を起動させる。

 

梓・リンネ「「試獣召喚(サモン)!」」

 

準備が整ったので召喚獣を喚び出す。〈梓〉の武器は干将・莫耶、〈リンネ〉の武器はウィリアムのクロスボウ……どちらも使い手が二人といない特別な武器である。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 5218点

vs

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

『ろ、6000点オーバーだとぉ!?』

『佐伯も凄いがあの留学生パネェ……』

『まだ十歳なのに……』

    

リンネのとんでもない点数が会場の生徒達に小さくない動揺を与えるが、肝心の相対している梓はだからどうしたと言わんばかりに余裕の笑みを浮かべている。

 

梓「それでは、試合開始です!」

梓「よっしゃ、ほな始め-」

リンネ「オリャァアア(タダダダダ!)」

梓「っ、いきなり飛ばすなぁ…… (キキキキィンッ!)!」

 

〈リンネ〉は試合開始早々クロスボウを〈梓〉に向けて矢を連射する。〈梓〉も負けじと逆手持ちした干将と莫耶…そして足甲を自在に操り弾丸を打ち落としていく。さしもの固有武器と言えど矢の耐久力は並のようだ。

しかし〈リンネ〉は〈梓〉の周囲を円を描くような起動で回りながら追撃の矢を放っていく。〈梓〉は防戦一方になりながら、得意の並列思考を用いて状況を打開する策を練りながら〈リンネ〉の観察を行う。

 

梓(……さしものウチもこの猛攻全部は凌ぎきれん。このままずっと攻撃を続けられたら押しきられるやろな……。となるとウチのやることは一つ、接近戦に持ち込むしかあらへん。近づけさえすればウチの攻撃も届くし、なんやったら撃つ隙すら与えん。せやけどボウガン相手に不用意に突っ込めば狙い打ちされて蜂の巣やな。さてどないしよっかな~)

リンネ(のほほんとしてるのにガードがカタすぎる……このままじゃ……)

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 5041点

vs

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

遠距離からの一方的な射撃が〈梓〉はほんの少しずつ削っていくのに対し、〈リンネ〉はノーダメージ以前に攻撃をさせてすらいない。そんな誰がどうみても優勢の状況にもかかわらず、リンネは何故かか焦っている。その様子を目ざとく見つけた梓は、攻める気をなくし持久戦に持ち込む。

 

梓(……ん?なんや、何でか知らんけどウチをさっさと倒したがってるみたいやなぁ……そうとわかれば持久戦の時間や♪)

リンネ(明らかに引きノばしてる……ほんといいセイカクしてるよサエキは……!)

 

〈リンネ〉はさらに弾数を増やして果敢に攻めるが〈梓〉の守りも一切ひけを取らないため、しばらくお互い決め手がない膠着状態に陥ってしまう。

が、それは容易く破られる。

 

ガキンッ、カチカチ…

 

梓(ん?なんや、弾切れか?)

リンネ「くっ……リロード!」

 

弾切れを確認した〈リンネ〉はクロスボウの弦を外し、そして再びつけ直した。その光景を見届けた梓は先程の源太との試合の内容を思い返し、一つの答えを導き出した。

 

梓(なるほどなぁ……レギュレーションが違うからって、いくらなんでも遠距離武器は強すぎるとは思っとったけど……弾切れすると決定的な隙をさらすっちゅう弱点があったんか。前の試合でやたら通常弾と炸裂弾を切り替えとったけど、多分弾の種類変えたら弾数がリセットされる恩恵があんねんな。せやけどランクアップ能力使わな炸裂弾は使えんようやし、とりあえずここからの試合展開は見えたな……)

リンネ(サエキはまずマチガいなく、リロードのスキをネラッてトツゲキしてくる。ボクがするべきはリロードするマエにサエキをタオすか、リロードのとき向かってくるサエキにカウンターをキめることだネ。……タブン、このカケヒキにカった方がシアイをセイする……!)

 

拮抗した戦況で一度流れが傾けば、それをひっくり返すのは至難の技である。もしも相手が自滅してくれれば話は別だが、二人ともそんな凡ミスを犯すような半端者ではない。間違いなく次の攻防が勝敗を左右することをわかっているからこそ、二人とも迂闊には動けないでいた。しかし先に動くのは間違いなく、リロードまで耐えきろうとする〈梓〉ではなく、早々にけりをつけようとする〈リンネ〉だろう。

 

リンネ「いくよ、サエキ!」

梓「望むところや!」

 

覚悟を決めた〈リンネ〉はクロスボウを〈梓〉に…ではなく何故か天井に向けて数十発の矢を放った。〈梓〉や観客が怪訝に思う暇もなく、〈リンネ〉はクロスボウを〈梓〉に構え直して射撃を再開した。

 

梓「何がしたいんかわからんけど……そんな単調な攻撃がウチに通用するかい!」

 

キキキキキキィンッ!

 

〈梓〉は双剣と足甲を駆使して向かってくる矢を次々と打ち落としていく。しかし〈リンネ〉の狙いは別にあった。上空から先程〈リンネ〉が天井に放った筈の矢が急降下しながら〈梓〉に襲いかかる。

固有武器『ウィリアムのクロスボウ』は文月学園の武器と比べて特殊きわまりない武器である。一つ目は召喚獣の点数に比例するのは矢の攻撃力ではなく弾数であること…そしてもう一つは、文月学園製の固有武器のような強大な耐久性こそ持たないが、腕輪能力を使わずとも矢の弾道を設定できることである。

 

梓「なんてな、アンタの上からの攻撃やろ!」

 

どうやら梓はリンネの策を読んでいたらしい。干将で前方からの矢を捌きつつ、莫耶で上空からの攻撃に備える。

 

梓「アンタが無意味に天井に射撃なんてるわけないやろ!そんな雑なフェイクでウチを騙そうなんて-」

リンネ「わかってるよ、バレてることぐらい」

梓「-っ!?」

 

突如、上空から飛来する矢が〈梓〉と激突する直前に四方八方へと広がり、莫耶の迎撃が空振った直後に再び〈梓〉に向かって飛来した。

 

梓「ぅらぁあああっ!!!」

 

干将は全方からの矢を迎撃するので手一杯、莫耶を引き戻していては間に合わない。そのため〈梓〉は利き脚の足甲

を駆使した足捌きで迎撃した。しかし360度から迫りくる矢を全てに対応するには圧倒的に手数が足りず、ほとんどの矢が〈梓〉に直撃した。

 

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 4038点

vs

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

点差が一気に開くが梓にとってもう一つ痛いダメージがある。足甲はあくまで補助武器、その耐久力は固有武器はおろか一般的な召喚獣の武器にする劣る。こんな無茶苦茶な迎撃をすれば…

 

 

ピシピシピシッ…パキィンッ!!

 

 

当然耐えきれずに砕け散る。

 

梓「裏をかかれたのなんて何年ぶりやろ………やってくれるやないかこのガキ」

リンネ「にひー、ダテにスウェーデンのシホーとヨばれてるわけじゃないよ!」

 

 

 

 




この試合の勝敗の分かれ目は至ってシンプルです。ズバリ、近づくことができれば梓さんの勝ち、できなければリンネ君の勝ちです。 
何しろ遠距離特化と近距離特化の対決において、間合いの重要性が段違いですから。


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S・B・F本戦・Aブロック⑤

梓さんVSリンネ君の試合、決着です!
これで残すところあと5試合か……思ったより多いな……。


和真「なあソウスケ、いくらお前でも流石にこいつは予想外たったんじゃねぇか?」

蒼介「……ああ。まさか佐伯先輩がこうも一方的に追い詰められるとは、流石は『スウェーデンの至宝』と言うべきか」

 

リンネの策が梓の読みを上回ったあの攻防以降、試合展開は〈リンネ〉の怒濤の攻撃に〈梓〉は防戦一方となっていた。

 

リンネ「やぁっ!」

 

二回戦の闘いを経て習得したのか、〈リンネ〉は源太が使用した鳥籠の要領で四方八方から〈梓〉を取り囲むように矢を散らばらせる。

 

梓(…っ…アカン、防ぎきれん……!)

 

〈梓〉は干将と莫耶を巧みに操り矢を迎撃していくが物量の差で次第に追い詰められ、やがて防ぎきれなくなると弾幕の薄いルートを見抜き鳥籠からの脱出を図る。

 

リンネ「かかったねアズサ!」

梓「っ!?やられた……しゃあない受け止めたらぁ!」

 

しかしその行動はリンネの手のひらの上。

リンネはあらかじめ弾幕がやや薄い箇所を意図的に作りつつ鳥籠を構築しており、〈梓〉が脱出する素振りを見せた瞬間そのルートに追い討ちの矢を射る。避けることは勿論全部打ち落とすことも不可能なタイミングだったので、〈梓〉は干将と莫耶を自分の前で交差させて防御の体勢に入る。後ろへ下がって威力を殺そうとすれば鳥籠の餌食になってしまうので、多少のダメージは軽減できたもののまともに被弾してしまった。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 2342点

vs

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

 

和真「オイオイ梓さんよだらしねぇな、完全に動きをコントロールされてるじゃねぇか。……いや、これは相手の方を誉めてやるべきかねぇ。あのガキのゲームメイク、お前顔負けだなソウスケ」

蒼介「そうだな。そして気になる点がもう一つ……明らかに最初の頃より攻めが苛烈だ。試合中にボウガンの使い方が上手くなっている」

和真「ん、そういやそうだな。手を抜いてたって感じでもなかったし……まさか、まだ発展途上ってことかよ?」

蒼介「あり得ない話ではない。6000点オーバーという突出した点数ならば適当にやっても大半の相手には勝ててしまう。そのせいか今までリンネ・クラインは闘いの際に工夫や戦術とは無縁だったのだろう。だが佐伯先輩という生半可な闘い方では倒せない強敵と闘う中で、奴に秘められたセンスが急激に開花しつつあるのかもしれない」

和真(マジかよ…だとしたらいくら梓先輩でも……いやいやふざけんな、勝ち逃げなんざ認めねぇぞ梓先輩!相手が『スウェーデンの至宝』だろうが距離を詰めりゃ勝てるんだ、根性で凌ぎきりやがれ!)

蒼介(……さらにもう一つ、おそらくリンネ・クラインは既に勝利への布石を打っている)

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 997点

vs

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

梓(皮肉なもんやな……今まで散々対戦相手を翻弄してきたけど……まさかウチが翻弄される側になるなんてな……

 

……せやけど!)

リンネ(っ…サエキのウゴきが、どんどんスルドくなってきてル……!)

 

〈梓〉の残り点数は4桁を切り、一方〈リンネ〉はまだ1点たりとも削られていない。誰がどう見ても絶望的な状況だが、それでもリンネは警戒を緩めることができない。ほんの些細なミスで近づかれようものなら一気に勝負をひっくり返されかねないことは勿論だが、〈梓〉が徐々に鳥籠を攻略しつつあるのだ。

 

梓(ウチには和真のようなキチガイ染みた反射神経はあらへんから、矢の動きを見てからじゃ間に合わん……だったら矢の軌道を全て予測しるんや!一つたりとも見逃さへんぞ!)

リンネ(このままだとトリカゴはおろか、ボクのコウゲキのパターンをスベてハアクされちゃうかも……それならここでショウブにデる!)

 

すみやかに決着を着けなければ危険であると判断し、〈リンネ〉は鳥籠で勝負をしかける。ウィリアムのクロスボウから放たれた矢が即座に散らばり、四方八方から〈梓〉に向かって飛来する。

 

梓「あくまで鳥籠で勝負する気か……上等や、叩き潰したる!」

 

並列思考をフルに使い、全ての矢の動きを把握して迎撃体勢に入る〈梓〉。このまま鳥籠に移行すれば全ての矢を叩き落とせるだろう。そう確信できるほど梓の対応は完璧であった。

 

 

 

リンネ(……ここでキめる!)

梓「っ!?この軌道は……鳥籠やない!?」

 

しかし四方八方から飛来する矢は弾幕を形成することなく再び集束し、真正面から〈梓〉に襲い掛かる。

 

蒼介(やはり全方位からの弾幕攻撃を繰り返していたのは、この一点集中攻撃のための布石か……)

和真(俺ならともかく、事前に予測してなきゃここから回避は無理だな。かといって受け止めようにも梓先輩の残り点数じゃ持ちこたえられねぇ……ここまでか?)

梓「ぐ……アカン、万事休すや……

 

 

 

 

 

 

なんて言うと思ったか!?

佐伯梓を舐めんなや!」

リンネ「っ、ヨまれてた!?」

 

〈梓〉はすかさず干将と莫耶を逆手持ちから通常の持ち方にチェンジし、

 

梓「そう簡単に騙されてたまるかい!

そこはウチの縄張りや!」

 

高速で円の軌道を描くように振り回した。円の動きは矢の威力を受け流し、その結果全ての矢を最小限のダメージで受け止めた。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 496点

vs

 交換留学生 Linne Klein  6287点』

 

 

点数差はとうとう十倍以上にまで広がったが、ここに来てようやく梓にチャンスが巡ってくる。

 

リンネ「……リロード!」

梓「っ!」

 

矢を装填すべく〈リンネ〉はクロスボウの弦に手をかける。その瞬間…

 

梓「隙ありや!」

 

好機と見るや〈梓〉はすかさず全速力で奪取し跳躍、〈リンネ〉に向かって飛びかかった。おそらく距離を詰める機会は最初で最後、リロードを許してしまえばもう〈梓〉に耐えきる余力は残されていない。

 

 

 

……そして死にもの狂いで向かってくるとわかっている相手に、策士リンネが罠を仕掛けない筈がない。

 

リンネ「ジ・エンドだよサエキ!」

 

弦を外すことなく、〈リンネ〉は空中にいる〈梓〉にクロスボウを向ける。この行動が指し示す真実はただ一つ。

 

蒼介(弾切れはブラフ……奴の狙いは佐伯先輩が突撃するタイミングを見計らってのカウンター射撃)

和真(さっきフェイクを看破されたばかりだってのに、心臓に毛でも生えてんじゃねぇかあのガキ……だが、)

 

〈リンネ〉はそのまま〈梓〉にもう一度鳥籠を仕掛けようと弾道を設定する。空中で全方位射撃など受ければ対処することなど不可能。しかし〈リンネ〉な矢を発射しようとしたその時…

 

 

 

 

 

突如真正面から飛来した莫耶が〈リンネ〉のクロスボウを弾き飛ばした。

 

リンネ「エッ!?…し、しまった!?」

梓「もう一度言うで……そこはウチの縄張りや!」

和真(この騙し合い……梓先輩の勝ちだ)

 

例えば〈梓〉が跳躍後の投擲であれば〈リンネ〉はどうとでも対処することができただろう。だからこそ〈梓〉は跳躍の直前に莫耶を下手投げで投擲していた。〈リンネ〉は空へ跳んだ〈梓〉に気を取られ上方向に視線を移したために、地を這う弾道の莫耶を見落としてしまったのだ。

 

リンネ「ま、マズい……!」

 

〈リンネ〉は慌ててクロスボウを拾おうとするも、

 

梓「させるかい!」

 

上空から〈梓〉は干将をブーメランのように投擲した。干将は弧を描きながら〈リンネ〉の脳天に命中し、バランスを崩したリンネはその場に仰向けで倒れ込んだ。

 

梓「そしてこれでしまいや……

いくでぇ~!バク宙踵落とし!」

 

〈梓〉は空中で一回転し、足甲が砕けていない方の足で〈リンネ〉に踵落としを決めた。ダッシュ力と重力と遠心力が加算された〈梓〉の蹴りの威力たるや、その反動だけで砕け散った足甲が物語っている。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 496点

vs

 交換留学生 Linne Klein  4667点』

 

 

以前として得点差は4000点以上。しかしリンネにとって致命的なことは、梓に接近を許してしまったことだ。

 

リンネ「くっ…ハヤくブキを……!」

 

反撃すべく〈リンネ〉がクロスボウを拾おうとしても、

 

梓「散々苦労させられたからなぁ……もうアンタにそれは使わせたらん!」

 

〈梓〉がいち早く回収し終えた干将を駆使してそれを妨害しつつ、クロスボウを蹴り飛ばして遠ざける。

 

リンネ(だ…ダメだ……マルゴシでキンキョリセンにモちコまれたら、もうどうしようも……!)

 

 

 

 

 

蒼介「終わったな……」

和真「そだな。遠距離主体の奴が、よりによって梓先輩にあそこまで寄られちゃあな……リンネの最大の敗因は、梓先輩に化かし合いで挑んだことだ」

 

和真達の言う通り、そこからは一方的な展開となった。途中、武器を取り戻すことが不可能だと判断したリンネは格闘戦を持ちかけるが、佐伯梓に慣れない戦法で挑むなど無謀でしかない。数々のフェイントを織り混ぜた予測不能の攻めに翻弄され、見る見る内に両者の点数差が縮まっていく。しかしリンネにはもう逆転の手立てなど残されておらず…

 

 

 

そして……

 

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 496点

vs

 交換留学生 Linne Klein  戦死』

 

 

綾倉「勝者、佐伯さん!」

 

その後も一撃すらいれることなく点数を削りきられた。

 

リンネ「うぅ…マけちゃった……」

梓「落ち込む必要あらへんよ、アンタは十分強かったで。……ウチはもっと強いけどな♪」

リンネ「ジマンしたいだけだよねソレ……」

梓(せやけどこいつの進化は凄まじかった……まだまだ発展途上ってわけかい末恐ろしいわぁ……

 

 

 

危うく奥の手切りそうになってもうたわ。超一流には一回きりしか通用せんやろから、できれば決勝まで取っときたいってのにかなわんわぁ……まあ、次当たる奴を考えれば決勝まで温存は厳しいかもな……)

 

心の中で嘆息しつつ見据える相手は、ちょうどフィールドに上がる途中の和真であった。

 

和真(さて、準決勝で梓先輩をぶっ倒してこの間の雪辱を晴らすためにも……とっとと一年坊主を蹴散らすとするか)

泰山(ふふふ……柊先輩、既に意識が佐伯先輩に向いているようですが、油断は禁物ですねぇ)

 




寸前の寸前までどちらを勝たすか悩みましたが、最大の決め手はリンネ君の口調の常軌を逸した面倒臭さですね……。


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S・B・F本戦・Bブロック⑥

今回ストーリーが大きく進みます。


前回、和真君がフラグにしか聞こえないような終わり方でしたが……。


Bブロックの覇者を決める闘い…ご存じFクラスのエースと予選二位通過した期待のルーキーの対決は、意外なことにかなり一方的な展開で幕を閉じた。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 2942点

VS

 一年Fクラス 志村泰山 戦死』

 

 

泰山「あらら、最善は尽くしましたが届きませんでしたか……素でに意識が佐伯先輩に向いているようなので足を掬えるかと思いましたが、やはりお強いですねぇ……」

和真「そいつは悪かったな、試合が始まると対戦相手だけに集中できるもんでよ。ま、リベンジはいつでも受け付けてるぜ。つっても5000点越えてねぇと俺に勝つのは厳しいだろうがな」

泰山「割とハードなことを簡単に言いますねぇ……でもま前向きに検討しておきますぅ」

和真「……なんか、ゆっるゆるだなお前。戦闘中の結構果敢に攻めてきてたお前はどこいっちまったんだ?」

泰山「まぁそれが僕の性分ですからぁ」

 

実を言うとこの二人の間にそこまで明確な差は無い。初期の点数差は精々1000点前後、また操作技術はむしろ僅かに泰山が勝っている。ではなぜここまで一方的な展開になったのかと言うと、ズバリ武器の差である。和真と同様泰山も蛇腹剣という特殊きわまりないな武器を使うだけあって、変則的な攻めが持ち味である。しかし彼の蛇腹剣は特殊な武器であるものの、固有武器ではないため耐久力は並…むしろ変形する性質上一本芯が通っていないので、全ての武器のなかで最も破損しやすい。具体的に言えばガチガチのパワータイプである〈和真〉には素手で千切られかねないほど。一回でも掴まれたりすればその時点でゲームオーバー、となれば必然的に慎重に攻めざるを得ない。

そして泰山は和真の苛烈な攻めをガードすることができない。原因はやはり耐久力の差で、ロンギヌスを蛇腹剣で受け太刀でもしようものなら召喚獣ごと両断されるからだ。

果敢に攻められず、相手の攻撃はガードできない……そんなハンディキャップを背負って立ち向かえるほど和真は甘い相手ではない。そんなわけで、多少の反撃などお構い無しに攻撃してくる〈和真〉にどうすることもできず点数を削りきられたのであった。

 

和真「……ところで一つ聞きてぇんだがよ、お前…というよりお前ら一年生四人は、なんでそんな召喚獣の扱い上手いんだよ?まだ召喚獣手に入れて間も無い筈だろうが」

 

試験召喚戦争の経験が圧倒的に不足している筈にもかかわらず、鉄平と千莉は三年生にもひけをとらないレベル、泰山と詩織に至っては明久や梓と同等という意味不明さに興味を持った和真の質問に、泰山は特に隠す素振りも見せずに答えようとして…

 

 

泰山「えぇ?それはぁ……

 

 

 

…………あれぇ?確かに、なんででしょうねぇ?」

 

突然、腑に落ちないと言わんばかりに首を捻った。

 

和真「……はぁ?しらばっくれてる…って感じでもねぇな。マジでわからねぇのか?」

泰山「そうなります、ねぇ。……言われてみれば、確かに僕達がここまで召喚獣を自在に扱えるのは明らかに不自然-っ!?」

和真「あん?どうした急に頭抱えて…ってオイ大丈夫か志村!?」

泰山「ぐぁ…!あ、頭が……!」

綾倉「ど、どうかしましたか志村君!?」

 

突如頭を抱えてその場にうずくまる志村。彼の苦痛に満ちた表情に流石の和真も驚愕を隠せない。やがて綾倉先生も慌ててかけ寄り肩を貸すが、志村はすぐに何事もなかったかのように顔を上げ、心なしか瞳のハイライトを消しながら笑みを浮かべた。

 

志村「……。大丈夫ですよ、少し目眩がしただけですぅ。では僕は観客席に移動しますねぇ」

和真「いや、少し目眩がしただけってお前……」

綾倉「そうです、明らかにただごとじゃなかったですよ?手配は私がしておきますので、すぐに保健室に向かいなさい」

志村「ふむ、そうですかぁ……それではお言葉に甘えますねぇ」

 

御門先生の指示で大島先生に付き添われながら会場から立ち去る泰山を見送りつつも、和真は先程の出来事に困惑を隠せない。

 

和真(……どうなってんだ?不自然じゃない所しか見当たらねぇが特に気になるのは……あれだけ苦悶の表情を浮かべてたっつうのに、立ち直った後の志村はまるでそんなこと無かったかのように平然としていた。痩せ我慢してたわけでもなく、まるで()()()()()()()()()()()()()()()……どうして召喚獣を上手く動かせるのか自分ですらわかってなかったことと言い、間違いなくアイツには何かとんでもない秘密が隠されているな……。

 

 

……考えてもわからねぇし放っとくか。ソウスケが何とかするだろ多分)

 

しかしすぐに興味を無くし、最終的にはやはり蒼介に丸投げした。頭脳労働は苦手ではないが趣味じゃねぇ、が本人の弁である。

 

和真(んなことより今はトーナメントに集中しなきゃな。何しろ次の俺の相手はあのペテン師女なんだからよ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル(なーにやってんだかダゴンの奴……ε-(ーдー)ハァ)

 

観客席の一角、スポンサーである四大企業のために用意された貴賓席にて、宮阪桃里……に扮したベルゼビュートは心の中で嘆息する。

 

ベル(どうにか洗脳し直せたみてーだが、かなりギリギリだったぞ今。危うく全部バレちまうところだぜまったくよぉ……┐(´ー`)┌)

 

既に準備は整え終えているためバレたところでどうとでもなるが、あの酔狂なボスは自分でネタばらしをしたがるだろうことを、ベルは嫌と言うほど理解していた。

もしそれをおじゃんにしてしまったとしたら、あの人格破綻者にダゴンがどんな目にあわされるのか、想像したくもない。最悪ダゴンがどうなろうと他人事で済むが、一部始終を見ていた自分が巻き込まれないという保証は全く無い、というか面白がって連帯責任にしてきてもなんら不思議ではない。そのことを危惧してベル内心でダゴンを詰っていたが、ふと考えを改める。

 

ベル(………ちょっと待てよ?ダゴンがかけた洗脳が解けかかった、だと?……こいつはもしかすると、もしかするかもな。このこと一応ラプラス……にはしばらく手が離せそうにないから後で良いとして、とりあえずダゴンには伝えとこうか。うん、そうだな……

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()( ̄Λ ̄)ゞ )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泰山「いやぁ、余計な手間増やしちゃってすみませんねぇ御門先生」

御門「気にすんな。いくら仕事嫌いの俺でも今は一応教師だからな、体調悪い生徒放っておくほど外道じゃねーよ」

泰山「うーん…今は特に異常無いんですけどねぇ」

御門「そういう油断が一番危なかったりするんだよ、いいから安静にしてろ。だいたい綾倉の野郎が人の心配するなんて天変地異ものだぞ」

泰山「綾倉先生をなんだと思ってるんですか……」

御門「そうは言うがなオメー、学生時代主に俺やキュウリがどんだけ振り回されたことか……」

 

保健室へ向かう道すがら、御門は泰山と話を弾ませながらも心の中である葛藤をしていた。その内容はズバリ、泰山の洗脳を解くことである。

 

御門(こいつはまず間違いなく何らかの方法で誰かに洗脳された。そしてこれはただの憶測だが、おそらくキュウリも同じ奴から同じ方法で洗脳されていると見た。こんな芸当ができる奴は、まず間違いなくアドラメレクの手の者だ。もし俺の能力でこいつの洗脳を解けたとすればキュウリを元に戻せることは勿論、一連の事件の黒幕も暴けるかもしれねー……だが、チャンスはおそらく一度きりだ)

 

洗脳を行った人物が近くにいる以上この場を監視されていたとしてもおかしくはない。もし失敗すれば口封じとして自分は勿論、泰山が始末されてもおかしくはない。御門は今さら死を怖れるようなことはないし、必要とあらば文月の学生を戦力にカウントすることに躊躇いが無い程度には甘さは捨てているが、流石に他人の死を必要な犠牲と割り切れるほど非情に徹しきることはできてない。 

葛藤の内容とかつて原因不明の症状に侵された翔子の命を救ったことから、どうやら御門は洗脳を解除する手段を持っているようだ。しかしだからと言って、洗脳を確実に解除できる保証はどこにもない。そんな不確定な試みで生徒を危険に晒してようものか……御門の葛藤の原因はそれである。

 

御門(………チッ。せっかく見つけた手がかりだが、こいつがただ操られてるだけの一般人の可能性がある以上、危険を犯して踏み込むわけにはいかねーよな。……こうなったらこのままこいつを張り込んで、接触してくるであろうこいつを洗脳した犯人を-)

泰山「おや?あれは……」

御門「あん?……ありゃケータイ、か?」

 

前方の廊下の端に、折り畳み式の白い携帯電話らしきものが無造作に落ちていた。

 

御門「やれやれ、ケータイ落とすなんて現代っ子失格じゃねーのか?」

泰山「まぁそう言わずに……見つけた僕達で持ち主に届けてあげましょう(タッタッタッ……)」

御門「あ、オイ……もしもーし、お前病人(仮)だってことわかってんのかー?」

 

小走りで携帯電話らしき物体に近づいていく泰山に、御門はしょうがないと言わんばかりに嘆息する。

 

御門「行動は立派だが病人なんだから不用意に走るんじゃねーよ」

泰山「(タッタッタ…)あ、そう言えばそうでしたね-」

 

 

 

ピカッ!!!

 

 

 

突如、携帯電話らしき物体から閃光が走る。

 

御門「ぅおっ!?」

 

あまりの眩しさに御門は思わず目を閉じる。やがて光が収まったのを感じとり、御門がうっすらと目を見開くと…

 

 

 

御門「……っ……志村が……消えた……!?」

 

 

志村泰山がいなくなっていた。まるで神隠しにでもあったかのように、音も立てずに忽然と。

 

 

 

 

 




新ジャンル:実はフラグでも何でも無かった。
理由は本文で述べた通り、最早5000点未満ではどうしようもないほど和真君が強くなってしまったせいです。
誤解しないでください、志村君は原作明久並の操作技術と原作翔子さん並の点数を併せ持った強者です。
逆に言えば、その程度では最強クラスには歯が立たないほどインフレが進んでいるということですが。
まあろくな戦闘ジーンも無くこのまはまフェードアウトさせるつもりはないので、彼の活躍は次の章辺りまでお待ちください。


しかし怪談みたいな引きで終わりましたね……夏だから良いか……。

というわけで、アドラメレク一派の一人・ダゴンが文月学園の生徒に紛れ込んでいるようです。いったい誰なんだ……?

あと、アドラメレク一派のボスの通称名がやっと決まりました。中々ピンとくるのがなくて苦しいとは思いつつ“ボス”で通す日々もこれでおさらばだぜ!
元ネタは勿論ポケモン……ではなく『ラプラスの悪魔』からです。


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S・B・F本戦・Dブロック⑥

次回からようやく準決勝です。
しっかしなかなか終わらないなぁ『S・B・F編』……。
読者もそろそろ飽きてるんじゃないかと戦々恐々しています……。


御門「………。特注のスタングレネード、ってわけでもねーな。どう見てもただの携帯だ」

 

志村泰山が謎の失踪を遂げた後、御門はその場に残された唯一の手がかりらしき携帯電話を入念に調べていたが、これといって変わった部分は見当たらない。

 

御門(遠隔操作で閃光が走るよう細工した?んな大がかりな機能取りつけたらここまでコンパクトに収まらねーよな……って、んなこと今はどうでもいい。重要なのは志村が消失しちまったってことだ。こんなオカルティックな現象は間違いなくアドラメレク関連だろうし、汚染されてスキルに目覚めた人間かそれとも召喚獣かはわからねーが、対応が遅れれば志村が危険なことは間違いねー……今はプライバシーだの何だのを気にしてる暇はねーか)

 

御門は意を決して携帯電話を起動させるが、お約束とばかりにロックがかかっていた。しかもどういう改造したのかロックを解除する方法が…

 

御門(RSA暗号!?しかも何千桁あるんだこれ!?……だが俺なら解けないこともねーな、綾倉みてーに暗算するのは無理だが…)

 

ポケットからボールペンとメモ帳を取りだし、凄まじいスピードで暗号を黙々と解き進めていく御門。数千桁に及ぶ難解な暗号をたった15分で9割方解き終わり、御門はふと以前自分の元に届いたメールを思い返す。

 

御門(そういや以前来たメールも数字の羅列だったな。どういうわけか一向に解けねーが……。こうして苦もなく暗号を解き進められるし、俺の頭のキレが悪くなったってわけでもねーのに。ただの悪戯だったか、それともこの暗号を鼻で笑えるほど難解な暗号なのか……お、解けた解けた)

 

一旦考察を打ち切り、御門は導きだした解答をギャル顔負けの入力スピードで携帯画面に打ち込んでいく。

 

御門「……よし、入力完り-ぅおわっ!?」

 

ロックを解除したその瞬間携帯画面に六芒星が浮かび上がり、御門はホラー映画よろしく画面に吸い込まれてしまい、

 

 

 

カランッ…

 

 

その場には携帯だけが残った。

 

 

 

 

 

スゥー…

 

ファントム『この短時間であの暗号をで解いてしまうとは……想像以上に大した男だ、御門空雅』

 

………否。実はこの場にもう一人、仮面の男『ファントム』が姿を消して潜んでいた。種明かしをするが、携帯をこの場に設置したのも、スタングレネードを使い御門の目を眩ませたのも、志村を消したこと以外は全て姿を消した彼の仕業だったのだ。

 

ファントム『まったく……今なら労せずこいつをアドラメレクの生け贄にできるというのに、ラプラスの酔狂にも困ったものよ……』

 

ボスの自由気ままな思いつきに、『ファントム』は大きく溜め息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方『フリーダム・コロッセオ』では、最後の準決勝進出者を決める闘いが行われようとしていた。

 

明久(周りからバカだのクズだの散々言われてきた僕が、ベスト8か……いや、もう終わったみたいな雰囲気になるのはやめよう…… 

 

……とは言っても、ねぇ……?)

 

希望科目を選択しつつ明久は対戦相手である詩織に目をやると、途端に戦意が薄れていくのを自覚した。

 

明久(対戦相手は綾倉さん。あの綾倉先生一人の娘らしいけど……勝てそうにないなぁ……。点数は天と地ほど差があるし、操作技術も今までの試合を観る限り一年生なのに僕と互角以上だろうし……下手したらフィードバックで死ぬんじゃないかな僕?

はぁ……こんなことなら僕も大門君みたいに-)

詩織「なあ、吉井先輩」

明久「ほぇっ!?……え、僕?」

詩織「アンタ以外に誰がいるのさ?」

明久「いや、それはそうなんだけど……な、何かな?」

 

氷の女王と評されるほど無口&無愛想で有名な詩織が、よもや自分に話しかけてくることなど思っても見なかった明久は、しどろもどろになりながらも用件を聞く。

 

詩織「アンタ今……大門先輩みたいに棄権しとけば良かった、とか考えてたんじゃないか?」

明久「ぅえぇっ!?……い、嫌だなぁ。そ、そんなわけけないじゃなないか」

詩織「いやどんだけ隠し事下手なのさ……まったく、“明鏡止水”に至った男がそんなことでどうするんだい?」

明久「そんなこと僕に言われても……」

 

これまでのマシーン振りが嘘だったかのような詩織の饒舌かつ遠慮の無い物言いに、すっかり頭が混乱した明久はひたすら押されっぱなしになる。

 

綾倉「珍しいこともあるんですね綾倉さん、貴方が他人とまともに会話するなんて」

詩織「そんなこと私の勝手だろう。少なくともアンタにとやかく言われる筋合いは無いね」

綾倉「おや、それは失礼」

詩織「……」

明久(うっ…物凄い険悪な雰囲気……綾倉先生は何故か苗字呼び出し、やっぱりこの二人仲悪いのかな……)

 

とても親子とは思えないほど殺伐とした雰囲気に、明久は先程までとは別の意味で帰りたくなる。

 

詩織「ったく、話を戻すよ。……まあ確かに、操作技術が互角かつここまで点数差が開き過ぎてると勝負以前の問題かもね……しょうがない、アンタの土俵で闘ってやるからやる気出しなよ」

明久「へ?それってどういう-」

詩織「ああいうことだよ」

 

そう言って詩織は大型スクリーンを指刺す。

つられて明久が目を向けると、スクリーンには両者共に社会科を選択したことが表示されていた。

 

詩織「……年下にここまで舐められて、よもやまだ棄権したいなんて言わないだろうね?」

明久「も、勿論……」

 

とても年下とは思えない詩織の謎の迫力に、明久は思わず気圧されてしまう。

 

綾倉「リンクシステム起動完了。それではお二方、ゴーグルを装着し召喚獣を喚び出してください」

詩織「試獣召喚(サモン)

明久「さ、試獣召喚!」

 

キーワードと共に二つの幾何学模様が展開され、その中心からそれぞれの召喚獣が出現した。

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 378点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 476点』

 

 

両者の点数差は100点弱。決して小さくはない点差だが、先ほど三倍近い点数差をひっくり返した明久を絶望させるほどではない。

 

綾倉「それでは、試合開始!」

明久「よし、二重召喚(ダブル)!」

 

使用できる側が圧倒的優位になる金の腕輪と違い必ずしもプラスに働く性能ではないので、一年生相手でも白金の腕輪の使用は認められているので、明久は開始早々白金の腕輪を発動させ、召喚獣を主獣と副獣に分裂させる。

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 189点/189点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 476点』

 

 

明久「よし、準備完了!それじゃいくよ-」

詩織「まあ待てそう慌てなさんな。

……“明鏡止水”で来なよ、入るまで待つからさ」

明久「え?そ、そう……?」

 

宣言通り、〈詩織〉は七支刀を構えるだけでその場から微動だにしない。和真や雄二辺りなら怒り狂うこと間違いなしの舐めプだが、プライドなど宇宙の彼方に投げ捨てたFクラスステレオタイプの明久はお言葉に甘えて集中し始める。

 

明久(集中しろ……集中しろ!

集中!集中集中集中……

 

 

 

……集中!)

 

 

 

 

 

ぴちょん……

 

明久「……待たせたね」ヒィィイイイン…

詩織「まったくだよ。至るのに1分以上かかってるようじゃ、まだまだ戦力としてはカウントできないね。

……そして残念だけど、私に“明鏡止水”は効かないよ」

 

大海のような威圧感にも一切動じることなく、詩織本体は右手を上に左手を下に大きく広げる。

 

明久「?何を-」

詩織「水嶺流陸の型・改……飛沫」

 

 

 

 

バチィィィイイイイインッッッ!!!

 

 

明久「っ!?(ビリビリビリッ!!)」

 

凄まじいまでの轟音がコロッセオ全体に響き渡った。詩織のしたことは至ってシンプル、相撲で言う『猫騙し』である。両手のインパクトの瞬間に水嶺流陸の型・波紋の要領で、発生する衝撃を極限まで増幅させたのだ。

 

詩織「痛ッ……!!」

 

代償として詩織の両腕には金属バットで殴られたような鋭い痛みが走るが、行うだけの価値はあったようだ。

 

明久「い、いきなり何するのさ!?」

詩織「フフフ……“明鏡止水”、解けてしまったようだね」

明久「っ……!?」

 

鏡のように止まった水面も、波紋を立てればたちまち破れてしまう。観客席にいる生徒達ですらざわめくほどの衝撃音だ、最も間近にいた明久の動揺は計り知れない。

動揺=雑念……乱れた心では、“明鏡止水”を維持することができないのだ。

 

明久「くっ……ならもう一度-」

綾倉「遅いよ、豪雷雨!」

 

 

ズギャギャギャギャギャギャァァアンッッ!!

 

明久「ウグッ…ぐぁぁぁあああああっっ!?」

 

第壱の型・波浪による急加速を組み込んだ高速刺突・雷雨。参の型・怒濤による流麗な動きを応用した広範囲連続刺突・豪雨。

それら二つの複合技をさらに融合させた〈詩織〉の切り札、広範囲瞬間連続刺突・豪雷雨により、明久の主獣と副獣ほまとめて葬り去られた。

 

 

《社会》

『二年Fクラス 吉井明久 戦死

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 476点』

 

 

詩織「悪いね吉井先輩……私もにわか仕込みの“明鏡止水”に負けるわけにはいかないんだよ」

 

フィードバックによるあまりの激痛にその場に踞る明久に背を向け、詩織は控えスペースへと歩みを進める。

 

 

 




明久……前回はあんなに主人公してたのに……(泣)。

召喚獣視点かつ操作技術が同じだと、割とリアルファイトの強さが勝敗に直結しちゃいます。
そっち方向には明久も中々のレベルですが、天下無双の殺人剣術を蒼介と互角以上に使いこなしている詩織さんには及びませんでした。


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準決勝開始!

本日からトーナメントと平行して通称『おっちゃんの奇妙な冒険』をちょいちょい挟んでいきます。


辺り一面ひたすら真っ白の無機質な壁に囲まれた部屋で、気を失っていた御門空雅は目を覚ました。

 

御門「………っ……いったい、何があったんだ……!?」

 

意識を取り戻した御門はすぐさま状況を把握しようと思考を巡らせるも、あまりにも不可解すぎて何一つ理解できない。御門が先ほどまでいた場所は文月学園の校舎であり、間違ってもこんな長時間滞在しようものなら頭がおかしくなってしまいそうな空間ではない筈だ。

 

何故この場所には窓もドアも無い?出入口が無いなら自分はどうやってこの場所に入った?そもそもここは何処だ?何故自分は気を失っていた?

 

考えれば考えるほど疑問は次々と生まれてくる。今いる位地を確かめるためGPSを取り出すが、何故かまったく電源がつかない。どれだけ気を失っていたか確認するため携帯を取り出すが、やはりまったく電源がつかない。

 

御門「………まーあれこれ考えんのはこの際後回しにするか。今は、そうだな……

ここから出ねーことにはな!」

 

面倒になった御門は懐から『バーナーブレード』を取りだ出し、円の軌道を描きながら壁に向かって放射した。しかし…

 

御門「……っ!?溶けねーどころか、傷ひとつつかねーだと……!?」

 

余談だが、最先端技術を駆使して開発された橘社製『バーナーブレード』が放出する炎はなんと2000℃を越え、たとえチタン合金だろうと一瞬で融解させる。

 

御門「この壁タングステンか何かか?にしてはやけに真っ白だし……第一タングステンだろうが何だろうが、2000℃の炎で跡すら残らねーのはおかしいだろ……こうなったら色々試してみるしかねーか……」

 

ハンマーで叩く、手持ちの薬品から王水を調合してぶちまける、チェーンソーで切りかかる、バズーカで吹き飛ばす……などなど、どうやって持ち歩いていたかを問いたくなるほど豊富なバリェーションで試してみたものの、それでも壁には傷ひとつついていなかった。この壁が既存の科学の範疇に存在しない、全く未知の物質であることは最早疑いようがない。

 

御門「あと試してねーのは召喚獣ぐらいか……

 

ביטול דחיסה (領域展開)

 

御門が大半の人には理解できないであろう(御門本人も理解しているわけではなく、自然と頭の中にワードが思い浮かぶらしいらしい)言語を呟くと同時に、彼を中心に召喚フィールドが展開される。

アドラメレクのバグに汚染された人間の内、彼のようにバグを完全に掌握することに成功した者は、超常的な力がいくつか発現する。これはその力の内のひとつ、場所がどこであろうと無条件で召喚獣フィールドを展開できる『領域展開』だ。

 

御門「……とりあえず、試獣召喚(サモン)

 

一瞬考えるそぶりを見せてから、御門は自らの召喚獣を喚び出した。するとその瞬間…

 

 

ピピピ…ピー!フッ…

 

 

前方の壁が何かを探知した合図らしき音とともにまるで煙のように消滅し、その向こう側にはとても長い廊下が広がっていた。

 

御門「……。明らかに誘ってやがるよな。まず間違いなく罠だろうが、他に打開策があるわけでもねーし……面倒だが行くっきゃねーな」

 

渋々覚悟を決めた御門は、召喚獣を引き連れ廊下へと躍り出た。その瞬間、御門の張ったフィールド内にいくつもの幾何学模様が浮かび上がり、数多の自立型召喚獣が次々と出現した。

 

御門「やっぱやすやすと通してはくれねーよな……

まあいい、片っ端からぶちのめす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「三回戦の試合が全て終了いたしました。消耗した分の点数はこの後で私がチェスピースを投入して補充しておきます。

さあ、続いてはいよいよ準決勝です!試合も残すところあとたったの三試合!果たして栄冠は誰の手に?」

 

そこで綾倉先生は一旦言葉を切り、おもむろに会場を見回した。観客全体のボルテージが最高潮に達していることを確認し、満足気に頷いてから準決勝開始を宣言する。

 

綾倉「まずは準決勝第一試合。Aブロックを勝ち上がったのは文月学園きってのトリックスター……三年Aクラス佐伯梓さんです!」

梓「やぁどーもどーも♪応援おおきに♪」 

 

紹介が終わると同時に梓がフィールドに入場し、歓声を上げる観客に愛想よく手を振りながら持ち場についた。ステージの上に設置されたオーロラビジョンにはこれまでの梓の試合がプレイバックされ、綾倉先生はそれらを振り替える。

 

綾倉「一回戦では演劇部のホープである木下君に圧倒的な実力差を見せつけ完勝、二回戦でも二年最優秀女子生徒と名高い霧島さんに危なげなく勝利を収め、そして三回戦での予選免除者同士の対決では『スウェーデンの至宝』ことリンネ・クライン君の卓越した戦術と急激な進化に追い詰められながらも、高度な読み合いに打ち勝ち勝利をもぎ取りました!果たして今回はどのようなサプライズを見せてくれるのか!?」

梓「嫌やわ~先生。今回はそんな期待されても何も出ぇへんよ。嘘やけど」

綾倉「さっそく佐伯節が炸裂しましたね。そんな佐伯さんと雌雄を決するBブロックの覇者はナチュラル・ボーン・バーサーカー……二年Fクラス柊和真君!」

和真「おーおー、いい感じに盛り上がってんなぁオイ」

 

梓と同じく和真も大歓声に萎縮した気配がまるで無く、不適な笑みを浮かべながらフィールドに入場した。やはりオーロラビジョンにこれまでの闘いがプレイバックされ、綾倉先生が一試合ずつ振り替える。

 

綾倉「一回戦は木下さんとの恋人対決。普段は木下さんに頭の上がらない柊君ですが-」

和真「なぁ、そのくだりいる?一々言わなくても良いよなオイ。無駄に話を広げないでパパッと終わらせろよ」

綾倉「おや、これは失礼。……木下さんの裏をかいた戦術に対し、柊君は裏の裏をかいて愛しの木下さんに勝利しました。続いて元神童こと雄二君相手に、ランクアップ腕輪を使わないという舐めプで勝利」

和真「舐めプとか言うなよ。あと余計な修飾語あったろさっき。ドサクサに紛れたつもりか知らねぇがバレバレだからな?」

綾倉「続いて志村君との試合ですが……えーと、なんやかんやあって勝ちました」

和真「何めんどくさくなって雑に終わらせてんの?え、気に食わなかった?邪魔されて拗ねてんの?拗ねたいのはこっちだよ馬鹿野郎。アンタに限らず皆なんで優子のことになると嬉々として俺のこと弄ってくんの?

………あとさっきから笑ってんじゃねぇよ観客共!滑稽か!?俺が優子に頭上がんないのそんなに滑稽かゴルァッ!ここぞとばかりにニヤニヤしやがってこの野郎!」

 

いつの間にか完全に弄られパターンが確立していたことに憤慨する和真。まあ観客達が嬉々として和真を弄りにかかるのも、日頃和真に振り回されたりしている意趣返しのようなもの。言っててしまえば身から出た錆である。人生のツケというものは、得てしてこのように不本意なタイミングで返ってくるものだ。

 

梓「まぁまぁそう照れんでもええやん♪それにしても、相変わらずラブラブなようで結構なことやなぁ♪」

和真「まだ引っ張るか!?どんだけ食い下がるんだよ猟犬かよ!?さっさと始めるぞ試合!」

梓「そう熱くならん方がええんちゃう?騙されやすぅなるで」

和真「………先にいっておくが梓先輩、先日のときのようにはいかねぇ……覚悟しろ!」

 

試合開始直前となったせいか、和真は目の前の梓を倒すことだけに集中する。その構えからは先ほどまで慣れない弄られポジションにげんなりしていた面影はまるで見当たらない。

 

梓「おー怖…さっきまでの乱れっぷりが嘘みたいに集中しとるな。せやけどなぁ和真…」

 

ゴーグルをセットしリンクシステムを起動させ、綾倉先生が総合科目を展開する。

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

キーワード共に召喚獣が出現する。片や神殺しの聖槍を、片や一対の宝剣を構え対峙する二体の召喚獣。

 

梓「そういう調子づいた台詞はな、ウチを倒してから言えや」

和真「当然、倒してからも言うつもりだぜ」

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 5218点

vs

 二年Fクラス 柊和真 5714点』

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「うぅ、まだズキズキする……それはそうと雄二、どっちが勝つかな?」

雄二「和真に勝ってもらわなきゃ困るんだよ。でなけりゃ、鳳に勝つなんざ夢のまた夢物語だ」

翔子「……鳳は以前フリースペースで私達四人を圧倒したときよりも、格段に強くなっている。そしておそらくまだ、実力の底を見せていない」

ムッツリーニ「……もし鳳が優勝すれば、商品の『常磐の腕輪』でさらに強化されてしまう。それだけは絶対阻止しなければ……!」

美波「でも大丈夫なの?この間は負けてたけど……」

秀吉「心配なかろう。和真なら何か手を用意しておる筈じゃ」

姫路「ええ、柊ならきっと大丈夫ですっ!」

 

 




領域展開……アドラメレクのバグをある程度を使いこなせば習得できる基本のスキル。自分を中心に召喚フィールドを展開させることができる(科目は選択可)。自分を中心に展開するので、従来の召喚フィールドとは違い本人が移動すればフィールドもそれに連動して移動する。


ちょっとバイトで忙しくなるので次の更新は盆休み前の12日になります。





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準決勝①『修羅の猛威』

このあたりから(主に和真や蒼介や御門あたりの)インフレがすごいことになっていくのでご注意を。


御門「寝てろ雑魚共!」

 

 

《物理》

『学年主任 御門空雅  1203点

vs

 ??? ????×20 戦死』

 

 

ランクアップ能力『ラディカル・グッドスピード』による無限加速能力をフルに使い、〈御門〉はフィールド内に次々と這い出てくる自律型召喚獣を片っ端から葬り去りながら前進する。既に〈御門〉の速さは人間の肉眼で捉えきれないほどになっており、出現すると同時にフェードアウトしていく自立型召喚獣達が不憫になってくるほどの蹂躙劇である。

 

御門(流石にそろそろ軌道計算が追いつかねーし、一旦止めるか……おっ)

 

〈御門〉の加速を一旦止めつつ次に現れるであろう自律型召喚獣に警戒する。しかし先ほどまで間髪入れずにフィールド内に現れていた幾何学模様が、どういうわけか一切現れなくなった。

 

御門(ようやく焼け石に水だって気づいたか。つかどっかから監視してやがんのか?悪趣味極まりねーぜ……

それとも……)「נעלם(領域消滅)

 

走りながら御門が難解な言語を呟くと、先程まで自分を中心に展開していた召喚フィールドが召喚獣ごと消滅した。

 

御門(……消しても何も起きねーな。さっきは消した途端俺を閉じ込めるように前と後ろに壁が隆起したってのに。今いる区間には自律型召喚獣を仕込んでいないっつーことか。ってことはゴールも近……っと、言ったそばから大広間らしき場所が見えてきたな)

 

罠がある可能性は決して低くはないが、引き返したところで手がかりが見つかるわけでもない。御門は躊躇うこと無く大広間らしき場所に躍り出た。

 

 

 

そして御門はそこで、とんでもないものと遭遇する。

 

御門「なん、だ……?こいつは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方『フリーダム・コロッセオ』では、トリックスターと修羅が凄まじい攻防を繰り広げていた。 

 

梓「ホンマ腹立つなぁアンタ……そのレベルに達するまでに、ウチがどれほど苦労したと思ってんねん!?」

和真「そいつはすまなかったよ。生憎アンタとは出来が違うもんでなぁっ!」

梓「ぬかせボケェッ!」

 

〈梓〉が逆手持ちにした干将で斬りかかり、〈和真〉はそれをロンギヌスで受け止める。

だがその攻撃は囮……〈梓〉はすかさず莫耶を順手に持ち替えロンギヌスを挟み込み、ロンギヌスを基点に体を半回転させ足甲で〈和真〉の側頭部を狙う。

しかも〈梓〉はご丁寧にロンギヌスを持っていない方の手が届かない角度から蹴りを放っている。空いている手ではガードできず、避ける為には得物を捨てなければならないという極めて危機的状況。

 

和真「遅ぇよ!」

梓「う、嘘やろ!?」

 

しかし〈和真〉は超人的な反射神経を発揮し、即座にロンギヌスを握る手を持ち替え〈梓〉の蹴りを掴んだ。

 

梓(完全に意表ついた筈やのに振りきれへんとか、こいつの反射神経チート過ぎやろ……)

 

梓と闘う上でフェイクを警戒する相手など珍しくもない。その程度の相手なら梓は正攻法主体で攻めて翻弄できる。しかし厄介なことに和真は梓のフェイクなどほんの一欠片たりとも注意を払っていない。何故なら和真は仕掛けられてから反応しても防ぎきれるほどの天賦の反射神経を備えているからだ。

 

梓(リンクシステムで視覚が繋がったせいで厄介さが格段に上がってるやないか…恨むで綾倉先生-)

和真「オラァァアアアッ!」

梓(-ってそんな場合やないやろウチのアホォ!?)

 

〈和真〉はそのまま大きく〈梓〉を真上にぶん投げ、すぐさまフリーになったロンギヌスで刺突を狙う。

 

梓「せやけどまだまだ詰めが甘いなぁっ!バク宙踵落としを喰らえや!」

 

空中では回避は流石の梓とて困難だが、反撃となれば梓ほどの熟練度の持ち主には決して難しくはない。〈梓〉は空中で一回転し、迫りくるロンギヌスめがけて踵落としで迎え撃った。前の試合で〈リンネ〉に放ったものと比べればダッシュ力を上乗せが出来ない分威力は落ちるものの、重力と回転による遠心力で十二分に威力に上乗せされたその蹴りだ。

 

和真「……ハッ、恐るるに足らねぇよそんな攻撃!」

 

しかし〈和真〉は構うこと無く攻撃を続行した。そんじょそこらの召喚獣ならともかく、攻撃特化の〈和真〉なら真っ向からぶち破れる筈……というのが和真の読みで、実際それは正しい。

そして、梓も同じ予想をしていた。

 

梓(せやから詰めが甘い言うたやろ。

誰がアンタと力比べなんか挑むかいな)

 

梓の狙いは激突の瞬間ロンギヌスを基点に体全体を半回転させ、〈和真〉の真横に転がり落ちることで刺突をかわすこと。そして悠々と着地してから隙の出来た〈和真〉に奇襲をかけることだ

 

ガキィインッ!

 

梓(ほなバイバイ-)

和真「-逃がすと思ってんのか!」

梓「っ!?マジか!?」

和真(終わりだ!)

 

それでも和真を振り切ることは叶わない。〈梓〉が力比べを挑む気が無いと判断するや否や〈和真〉は超反射ですかさず槍を引き戻し、再び〈梓〉に照準を定めて刺突を繰り出した。

 

梓(あかん……こいつの反応速度をまだ低く見積もってた!以前までのこいつとはもう比較にもならん!……流石にここからはガードも回避も100パー不可能、万事休すや…

 

 

 

 

なんてな、今までの見とったらアンタが反応してくるなんて十分予想できる範囲や。せやから詰めが甘い言うてんねん……ウチの得物がいつのまにか一振りだけになっとることに全然気づいてへんやん)

 

三回戦での雄二の戦術から得たヒントを駆使した二段フェイント攻撃。和真の並外れた反射神経を逆手に取り安いフェイクに反応させ、真に本命の攻撃は和真の死角を通るよういつの間にか投擲された干将である。いくら和真の反応速度が迅速でも見えてない攻撃には反応できない。そして干将の不意打ちで生じた隙をついて莫耶で斬りかかること……それが梓の真の狙いだ。

 

 

 

 

 

 

 

だが、梓はある致命的な見落としをしていた。

それは…

 

 

和真「残念だったな」

梓「え-」

 

 

和真に同じ戦法は通用しないということだ。

 

 

和真「オラァッ!」

梓「っ!?空いてる手でウチの武器を弾いて-」

和真「そして喰らえ!」

梓(そのままウチに攻撃-くそっ、間に合えや!)

 

間に合わないと悟るや否や、〈梓〉はすかさず莫耶で受け止める。そんなことをしたところでロンギヌスによる刺突を受けきれる筈も無いのだが、気休め程度にはダメージを軽減させることに成功する。そして勢い良く吹き飛ばされた〈梓〉はゴロゴロと地面を転がりながら、タイミング良く側転の応用で起き上がり体勢を立て直した。そのまま追撃にいくつもりだった〈和真〉も思わず立ち止まる。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 3871点

vs

 二年Fクラス 柊和真 5042点』

 

 

和真「ほー、そんな起き上がり方もできんのかよ。やるじゃねーか先輩」

梓「澄ました顔で言いよって腹立つわぁ……というかなんでウチの投擲に気づいとんねん、完全に死角を突いた筈やのに……」

和真「そんだけアンタを信じてたってことだぜ」

梓「………はぁ?」

 

何言ってんだコイツ?と言わんばかりに怪訝な表情をする梓に、和真は若干イラッとしながらも説明を始める。

 

和真「俺の超反応への対抗手段はいくつかあるが、最も実用的なのは死角からの攻撃。だがな……裏を返せば自分の死角のさえ把握していれば攻撃が予測できるってことだ。あとはアンタが攻撃する絶好のタイミングを見計らって手で防げば、多少のダメージは負うが致命傷にはほど遠い。

改めて言ってやるが信じてたぜ……アンタなら最も俺の隙をつくのに絶好なタイミングで、確実に命中するよう計算して死角をついてくるってな」

梓(……操作技術や反射神経云々だけやない、もしそれだけやったらまだ崩せんこともない。……せやけど、こいつの戦闘センスはウチのそれとは比較になれへん……こいつが天性のバトルセンス持っとることは薄々気付いとったけど、完全に開花するとこうも変わるんか……。おまけにウチのフェイクを仕掛けるタイミングも掴まれつつあるようやし……

 

 

 

 

 

……詰みやな。しゃあない、どうも優勝は諦めるしかなさそうやな。……せやけど和真、この勝負だけは勝たしてもらうで。

決勝までとっとくつもりやった仕込み

……ここで解禁したる!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、文月学園上空に朱雀と剣のエンブレムが刻まれた超音速ステルス機が現れ、その機体から二人の男が飛び出し、校門前にパラシュートで着陸した。

一人は“鳳財閥”のトップにして、道をアクロバティックに迷いアンティクア・バーブーダまで行っていた蒼介の実父・鳳秀介である。そしてもう一人は…

 

秀介「ふぅ……何とか間に合ったようだね」

守那「フハハハハハ!迷子のお迎えに亜音速ステルス機をこさせるような奴は、世界広しと言えどもお前だけだろうよ!」

 

和真の実父にして人類最強の男・柊守那である。

 

 

 

 

 

 




藍華「間に合ってるわけないでしょうが!!!」


実家に帰省するので次の更新は18日です。


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Goliath①

佐伯VS和真戦の展開が少し行き詰まったので、今回は全て『おっちゃんの奇妙な冒険』です。
重要な情報が湯水のごとく出てきます。


御門「なん、だ……?こいつは……」

 

大広間に出た御門が目に飛び込んできたのは、全長5mを越えようかと言うほどの巨人であった。ざっと観察しただけでも体のあちらこちらに殺傷力の高そうな武装が確認できる上、生半可な重火器ではおそらく傷一つつけられないであろうとてつもなく頑丈そうな装甲を身に纏っている……と、明らかに平和的な用途では使われないであろう外見である。

その重厚な巨体から感じ取れる威圧感と謎の圧迫感にしばらく呆気にとられる御門だったが、ふと大広間の四隅には召喚フィールド発生装置が設置されていること、それにより全体に召喚フィールドらしきものが展開されていること、そして大広間の先にまた廊下が広がっていることに気付いた。先ほどまで行く手を阻むように次々と自律型召喚獣が行く手を阻んだことから、この建物の持ち主はこの先へ進まれることを忌避していると推測できる。にもかかわらず先ほどまでうざったいほど沸いて出てきていた自律型召喚獣がピタリと出現しなくなったこと、そして謎の巨人は行く手を阻むかのように鎮座していることから、巨人の正体を導きだすことはそう難しい話ではない。

 

御門「まさかこいつ……召喚獣、なのか……?」 

 

パチパチパチ…

 

『御名答♪いやはや、流石だね御門空雅君』

御門「っ!?」

 

拍手と声のした方向に御門が振り向くと、邪悪な笑みを浮かべた仮面を装着し、黒いロングコートを着た『ファントム』がいつの間にかそこにいた。

 

御門「……。……んだよ、誰かと思えば下っ端ヤローか。今更てめーなんざに用はねーよ、失せな」

『つれないねぇ……せっかくこの召喚獣を解説しに来てやったのに、もう少し歓迎してくれてもいいじゃないか』

御門「ほざきやがれ。てめーが解説しようがしまいが、こいつこ未来はは既にスクラップ決定なんだよ。……ただまあ、情報をベラベラ漏洩してくれるに越したことはねーし、さっさと洗いざらいぶちまけてから消えな」

『ふふふ、これはまたなんとも横暴な勇者様だね。……まあ良いけどね。せっかくここまで来たんだ、お土産に語ってしんぜよう♪』

 

薄気味悪い笑い声とともに胡散臭さ全快の口調で、『ファントム』は鉄巨人に近づき手で触れながら語り始めた。

 

『こいつの名は殲滅兵器ゴライアス。

自律型召喚獣の、一つの完成形だ』

御門「完成形、だと……?」

『そうだよ。少し前に僕が文月学園に送り込んだ七体の自立型召喚獣達が、生徒達にことごとく敗北したことがあったよね?アドラメレクやベル君やダゴン君は別格だけど、基本的に自律型召喚獣の知能はとても低い。だから使役型召喚獣の緻密な動きにどうしても遅れを取ってしまうと僕達は結論づけた。ならばどうやってその差を埋めようか?……その答えがこいつさ』

 

そこで一旦言葉を切り、『ファントム』は御門に向かって邪悪な笑顔を向ける(といっても仮面だが……)。

 

『いっそのこと機動力と精密性を犠牲に、最高峰の火力と耐久力を与えてみればどうなるか?……その理論から生まれた自律型召喚獣が、このゴライアスだよ』

御門「そいつはまた、随分とぶっ飛んだ発想だな。……しかしそんなことベラベラ話して良かったのか?てめーらと敵対してる俺がそんなもんと鉢合わせたら、ぶっ壊さないって選択はしねーだろ普通はよ」

『だからお土産だって言った筈だよ。もっとも、全ては君次第なんだけどね。ゴライアスの情報を仲間への手土産にするか……

 

 

 

冥土の土産にするのかはさ♪』

御門「っ!?」

 

突如『ファントム』から放たれたあまりに異質な気配に、御門は身震いし警戒を最大限まで高める。凄まじい緊張から全身から嫌な汗が吹き出てくるのもお構いなしに、御門は頭を巡らせ熟考する。

 

御門(この気配は…殺気……?いや違う!以前アドラメレクに叩きつけられたようなものとは完全に別物だ……!)

 

得てして常識を超越した者は、それぞれ独特の気配を放つものである。

“気炎万丈”の体得者である柊親子は、万物全てを焼き尽くすような威圧感を。

“明鏡止水”の体得者である鳳親子は、海底に引きずり込むが如き圧迫感を。

そして召喚獣の王アドラメレクは、首筋に刃物を押し当てるような、混じり気の無い純粋な死の恐怖を。

 

だが、たった今『ファントム』が放った気配は、それらのどれとも異なるものであった。

 

御門(この言いも知れぬ忌避感……こいつ、やはり……)

『さて、それじゃあ……はい』

御門「あ?なんだこのゴーグ……こいつは……!?」

 

おもむろに『ファントム』から手渡されたものは、“桐谷”が極秘に開発した筈の『召喚獣視覚リンクシステム』専用ゴーグルであった。

 

御門「……こいつをテメーが持ってるっつーことは、テメーらはやはり“桐谷”の関係者か」

『んー…それはどうかなー?君、アドラメレクがコンピューターウイルスでもあるってこと忘れてない?バレずにアイデアを掠め取る方法なんて、それこそ無限にあるとは思わないかい?』

御門「……それで?突然こんなもの俺に渡して、いったい何のつもりだ?」

『君には今からゴライアスと闘ってもらうつもりなんだけど……困ったことにゴライアス本体も武器も物理干渉するんだ。壁や床やある理由で大丈夫だし、僕には絶対当たらないようプログラムしてるけど、君はまず間違いなく巻き添えで死んじゃうだろうからね。せっかくの実験材料候補を犬死にされるのもなんだし、死なないようそれつけて君はこの大広間から出ていなよ』

御門「……お気遣いどーも。

 

 

 

……だが余計なお世話だボケ」

 

バキィッ!

 

凶悪な笑みを浮かべながら、御門はゴーグルを力任せに握り潰した。

 

『……それは新手の自殺志願かな?』

御門「ほざけ。わざわざてめーにこんな施しを受けなくてもな……」

 

砕けたゴーグルを無造作に投げ捨てる御門の両の眼に、幾何学模様が発光しながら浮かび上がる。

 

『へぇ……♪』

御門「俺にはこの力があるんだよ……頼みもしねーのに、てめーらが押し付けてくれたこのクソ能力がな!בהמה(獣化)

 

そのキーワードを呟いた直後、御門の全身に古代文字のようなものが浮かび上がり、さらに服装がくたびれたスーツから白と青紫を基調としたロングコートに、くたびれた革靴からフェンリルを滅ぼしたとされるヴィーザルの靴に変わり、利き腕の手首には金色に光る腕輪が出現した。

アドラメレクのバグに汚染された人間のうち、彼のようにバグを完全に掌握することに成功した者は、いくつか超常的な力が発現する。これはその力の内のひとつ、召喚獣と一体化する『獣化(ビーストアウト)』だ。

 

『少しばかり驚かされたよ御門君。まさかそいつを躊躇なく使えるとはねぇ……それとも、もしかしてその力のリスクを知らないのかい?』

御門「あー?リスクだ?」

『自身の肉体を召喚獣と同化させる獣化は、アドラメレクのバグの汚染を急激に早めてしまうんだよ。その様子だと知らなかっ-』

御門「なんだそんなことかよ。とっくに気づいてるに決まってんだろーが」

『……ほう?なら何故だい?アドラメレクのバグに汚染され尽くした者の末路が何か……君はその目で見てきたばずだろうに』 

 

『ファントム』のもっともな疑問に御門はため息をつき、おもむろにタバコを口にくわえ火をつける。

 

御門「フー……んなもん決まってるだろ、てめーを逃がさねーためだよ。俺が安全圏に避難して、てめーがこの場にとどまる保証はどこにもねーだろうが。たとえ凄惨な末路に近づこうとも……生かしておくわけにはいかねーんだよてめーは」

『おやおや、それはおかしな話だね。今更僕に用は無いんじゃなかったかい?』

御門「……てめーがホントにあの下っ端ヤローなら、用は無かったんだがな」

『……ふふふ、きづいたんだ?まあ当然のことか……そうでなくてはとても僕の敵にはなりえないからね。よろしい、ならば生き延びてみなよ……ゴライアス、起動!』

 

ウォォォオオオオオン…

 

『ファントム』の呼び掛けに呼応するように、鎮座していたゴライアスが緩慢な動きで立ち上がり、御門と対峙する。

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 10255点

VS

 ???  Goliath  20000点』

 

 

御門「……けっ、くだらねー。こんな不良品、スクラップにしてクーリングオフしてやるよ!」

 

 

 

 




ゴライアスの設定の元ネタはカスタムロボV2のジェイムスンです(ゴライアスだけに)。

獣化……アドラメレクのバグをかなり使いこなせるようになると習得できるスキル。召喚獣と一体化し、人知を越えた戦闘力とそれを御するだけの超感覚を手に入れる。反面、この力を使えば使うほどバグによる汚染が進行するという諸刃の剣でもある。さらに強制的に明久と同じフィードバック仕様になるという欠点がある。


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準決勝②『見えない刃の檻』

若干スランプ気味です……書く内容は決まっているのに何故か筆が進みません……。


和真「オラオラどうした?そんなもんかよ梓先輩よぉっ!」

梓「調子に乗っ取んなぁこんのガキャあ……!」

 

干将を失い手数を減らした〈梓〉に、好機とばかりに攻めて攻めて攻めまくる〈和真〉。以前フリースペースで闘ったときは梓に槍の猛攻を容易くいなされていた和真だったが、二人の対照的な表情から今回は明らかに和真が梓を追い詰めているのが見てとれる。

以前のように〈梓〉が向かってくる槍の側面を強打して捌こうとしても…

 

和真「しゃらくせぇっ!」

梓「嘘やろ!?」

 

〈和真〉は超反射を駆使して即座に手首を返し干将を真っ向から迎撃する。このように純粋な力比べに持ち込まれれば、地力で劣る〈梓〉は拮抗することなく吹き飛ばされる。激突の瞬間に大きく後ろに飛んでいたためダメージは最小限に留めたものの、大きく隙を晒した〈梓〉に追撃の刺突が迫る。再び〈梓〉は攻撃を受け流そうとするが〈和真〉もすかさず…と、このように徐々にだが〈梓〉は追い込まれている。操作技術はほぼ互角、召喚獣同士の戦闘経験の差は和真のずば抜けたバトルセンスにより無いも同然、というか視界のリンクという新システムでやっているのでむしろ和真に分がある。そして点数は元より召喚獣のスペック差……早さも速さも遅れを取っているようでは、この状況も致し方ない。二人の力関係はここにきて完全に逆転したと言えよう。

 

 

しかし梓は言わずと知れた文月一のトリックスター、劣勢へと追い込まれていく戦況をただ指をくわえて耐えていただけの筈が無い。彼女はさも追い詰められたかのような表情を取り繕いつつ、千載一遇のチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。

 

 

そして…

 

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 2501点

vs

 二年Fクラス 柊和真 4659点』

 

 

梓(!…ここやな、勝負どころは!)

和真(梓先輩の顔つきが変わった!?何か仕掛けてくるか……!)

梓(さぁ、追ってこいや!)

 

〈梓〉は〈和真〉に背を向け全速力で逃走する。槍使いに対する逃走の手段としては下の下だが、和真はこれまでの梓との闘いの経験から間違いなく罠であると確信する。

 

和真(……ハッハァッ!攻めあるのみぃっ!)

 

……しかし以前ならまだしも“気炎万丈”へと至った今の和真に慎重さなどありはしない。とる戦略は当然の如く正面突破、〈和真〉は罠とわかっていながらもお構いなしに槍を構えながら〈梓〉へ向かって進撃する。

 

 

 

そして〈梓〉が槍の射程内に収まる寸前…

 

 

 

四方向から〈和真〉めがけてヨーヨーブレードが襲いかかる。

 

和真「-んなっ!?」

 

流石の和真も完全に予想外の攻撃に虚を突かれ、4つのヨーヨーブレードは〈和真〉に逃げる暇も避ける余力もそのまま与えず着弾する。

 

『……え?』

『な、何が起こったんだ!?』

『今のは……佐伯先輩の腕輪能力……?』

『いやおかしいだろ!?佐伯の青銅の腕輪の能力封じは、確か自分にも…』

 

 

梓「ふっふっふ、青銅の腕輪つけてんのになんでウチだけが能力使えるのか知りたいやろ?それはなぁ……こういうことや!」

 

パキッ

 

ざわつく観客に種明かしをするように、梓は右腕に嵌められた青銅の腕輪を引きちぎるように取り外した。

……否、引きちぎったにしてはやけにアッサリと腕輪が割れた。梓が和真並の怪力の持ち主だと仮定しても、腕輪が割れたのにほぼ無音だったことは流石に不自然過ぎる。そもそもあの腕輪はそんな簡単に壊れるような物ではない。しかし…

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()話は別である。

 

梓(すまんな和真、性懲りもなくまた二つほど騙さしてもろたわ。……まず一つ目はウチやアンタの腕輪能力はハナから封じられてなかったことや。実を言うとリンネのときに既に、な)

 

梓は二回戦で青銅の腕輪を杏里に投げ渡した。あの行動はいつもの突発的な行動に見えて、事前に打合せもした綿密な布石だったのだ(杏里の困惑した態度も全て梓に指示されてした演技である)。そして杏里は預かっている間に青銅の腕輪を、少し力を込めるだけで割れるぐらいまで破壊する。金属製の腕輪だろうが、和真に比肩するほどの怪力の持ち主である杏里にとってはそう難しいことではない。 

もちろん精密機械にそんなことすれば故障して当然である。しかしリンネも和真も青銅の腕輪の効果を知っているが故に、梓が青銅の腕輪をつけている以上、隙ができるリスクを孕んでまで能力を使ってみるような無駄なことはしなかった。……その合理的な判断がかえって裏目に出てしまったわけだが。

いつでも能力を使えると知っていたのは梓のと杏里だけ。つまり彼女は腕輪能力のぶつかり合いで確実に先手を打てるという、大きなアドバンテージを隠し持っていたのだ。

 

梓(そして二つ目は……ウチのヨーヨーはどこからでも出せることや)

 

さらに梓は一回戦で、体中のどこからでもヨーヨーを出せると高らかに謳い上げたがそれも少し嘘。正確に言えば『ヨーヨー・ブレード』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()(遠隔操作はできないため、体以外から出した場合は一度きりの使い捨てになってしまうが)。

 

梓(さしもの和真も完全に不意を突かれたやろ。……さて、この奇襲で削り切れてたら楽やったんやけど……人生そう上手くいかんなぁ……)

 

瞬間、〈和真〉を覆い尽くしていたヨーヨーが音もなく全て砕け散り、ボロボロになった〈和真〉が姿を表す。相当なダメージを負ったようだが、戦死に至るほどではないようだ。背には三対の光が生えているが、既に空中分解を始めている。

 

梓「咄嗟に腕輪能力を発動させて相殺したんか……いくらアンタでも絶対間に合わん思たんやけ-っ!?」

和真「以前までの俺ならやられてたかもな。だけどごめんな……

 

 

 

今の俺に、そんなチンケな小細工なんざ通用しねぇんだよ」ゴォォォオオオオオッ!!!

梓(……何や……この威圧感は……!?)

蒼介(……なるほど、()()がこの一週間でお前が得たものか)

 

まだ全開ではない今の状態でさえ、“気炎万丈”状態の和真から漏れ出ている闘気の絶対値は、“明鏡止水”状態の蒼介のソレにもひけをとらないものであった。

 

梓「……これは流石に万事休す、やな……」

和真「(フッ…)………おい待て先輩。アンタ、まだ何か仕込んでるだろ」

 

燃え盛る炎のような威圧を消しつつ、和真はお互いの召喚獣の点数を一瞥しながら問いかける。

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 1点

vs

 二年Fクラス 柊和真 2042点』

 

 

梓「……いくらなんでもビビり過ぎとちゃうか?もうウチやは風前の灯火やで」

和真「とぼけてんじゃねぇよ。アンタの能力『ヨーヨーブレード』の消費点数は一つにつき50点、総合科目なら500点だろうが。なんで四つしか使ってねぇのに2500点も減ってるんだよ?」

梓「………チッ、ひっかからんかったか。そうや、これがウチの切り札……」

 

そこで一旦言葉を切り、〈梓〉は右足の足甲(和真の攻撃により壊れかけ)をはずして投げつける。〈和真〉は迎撃体勢に入るが、足甲は〈和真〉に当たる直前に突然真っ二つに切り裂かれた。

 

梓「オーバークロック『ステルスカッタープリズン』や。これ使うと点数が一点になってしまうけど、その分リターンは絶大や。……たった今、アンタの周りには全てを切り裂く透明の刃が檻のように囲っとる。下手に動くと細切れになるで」

和真「………」

 

自身の最後の切り札を不自然過ぎるほど詳細に説明する梓。よっぽど鈍い人以外なら察せられると思うが、これも梓の嘘である。

 

梓(…………なんてな。ウチのオーバークロックは『アサシンブレード』。全てを切り裂く透明の刃を、50/500点につき一つ設置する能力や。9割方ハッタリやとわかっとっても迂闊には動けんやろうし……既にランクアップ能力を使いきった今、闇雲に腕輪能力は使えんやろ)

 

しかしフィールド内に見えない何かが存在していることは紛れもない事実。直接闘うにしろ腕輪で攻めるにしろ、普通は慎重にならざるを得なくなるだろう。

 

 

梓(さて、今のウチに干将を回収して-)

和真「勝敗の分かれ目は情報力の差、か」

梓「……は?」

 

 

そして和真は周知の通り、精神も資質もおおよそ普通からはかけ離れている。

 

和真「まず一つ目、ランクアップ能力は点数を支払えば復活させられること」

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 1点

vs

 二年Fクラス 柊和真 42点』

 

 

満身創痍になることを引き換えに、〈和真〉の背から再び三対の閃光の翼が大きく広がる。

 

梓「なっ…!?まずい…とりあえず今は回避に専念-」

 

 

 

 

 

和真「そして二つ目、俺のレーザーはこんな芸当もできるってことだ……レーザーバースト!」

 

瞬間、6枚の翼それぞれから閃光が弾け、召喚フィールド全体を覆い尽くした。通常時を一点集中の収束型レーザーとするなら、この攻撃は言わば全体攻撃の拡散型レーザー。逃げ場が一切存在しない、絶対命中の必殺技である。拡散する以上威力は著しく低下するという欠点はあるが……

 

 

《総合科目》

『三年Aクラス 佐伯梓 戦死

vs

 二年Fクラス 柊和真 42点』

 

 

梓「……あーあ、完敗や。何重にも罠を張り巡らせたのに、全部強引に突破されたらどうしようもないわな」

和真「そりゃ残念だったな梓先輩。騙し合いならアンタに勝てるわけねぇけどよ……どうやら隠し事は俺の方が上手のようだぜ」

 

既に満身創痍の〈梓〉を仕留めることに支障は無い。

あらゆる戦略、あらゆる工夫、あらゆる技術……それら全てを嘲笑うかのように、和真は真正面から全てを蹂躙した。

かくして、準決勝第一試合は和真のリベンジ成功により幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

梓(……さてと、ノビノビとした学生生活はこれで終いやな。そろそろウチも忙しくなりそうや)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 3321点

VS

 ???  Goliath  19256点』

 

 

『おやおや、随分と削られたねぇ……それで、スクラップはいつ出来るのかな?』

御門「……ッ!……ハァ…ハァ……っ!」

 

 

 

 




次回はまたおっちゃん編になります。


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Goliath②

巨大ロボは未来永劫男のロマン。
あ、前回ではおっちゃんが追い詰められている状況で終わりましたが、最初からちゃんと描写するのでご安心を。


御門「ラディカル・グッドスピード!」

 

先に仕掛けたのは御門。白い装甲をその身に纏い、ランクアップ能力で際限無く加速しながらゴライアス目掛けて突撃する。戦術は先手必勝、この鉄巨人がどれほど凶悪な性能だろうと本領を発揮させる前に主導権を握ろうとしているようだ。

 

『んー……勇ましいけど流石に少し軽率じゃないかな?そんな不用意に近づくと火傷するよ?』

御門「チィッ…!」

 

接近する御門に反応しゴライアスは立ち上がる。そして両手を御門に向け、その指先一つ一つから凄まじい威力を伴ったレーザーを次々と放つ。御門は一旦ゴライアスへの接近を止め回避に専念するが、レーザーによる段幕攻撃は御門を次第に追い詰めていく。そして…

 

御門「ぁぎっ!?」

 

とうとう一発のレーザーが御門の左脛を掠める。明久のそれとは比べようもない100%フィードバックによる信じがたいほどの激痛に御門は苦悶に満ちた表情になりながらも、無限加速を活かしてレーザーの包囲網からなんとか抜け出した。が…

 

『残念、ゴライアスに死角は無いんだよ♪近づく敵に放つデストロイレーザーに対し、遠ざかる敵には……』

 

突如ゴライアスの両肩の装甲が開き、そこに仕込まれていたミサイルが距離を取った御門に向かって次々と飛来する。

 

『ハザードミサイルが牙を剥くのさ♪』

御門「っ……殲滅兵器の名は伊達じゃないってか!だがそうなんどもそんなトロい攻撃に当たってたまるかボケ!」

『ふふふ……』

 

数多のミサイルには追尾機能があるらしく御門に狙いを定めて降り注ぐが、御門の超スピードには追い縋ることができず地面に着弾し爆発。その結果いくつもの爆心が広がり御門を飲み込もうとするが…

 

御門「当たらねーつってんだろうが!」

 

超加速を跳躍力に変換し御門は飛翔する。悠々と爆心の射程から逃れ、そしてそのままゴライアスに接近し回し蹴りを放った。

 

御門「っ……!?」

『お見事……と言いたいけど残念♪その程度の攻撃ではナイトメアベールに通用しないよ』

 

存分な加速を伴った筈の御門の蹴りは、突然ゴライアスの体全体を展開したオーラに威力の大半を削られた。当然御門は空中で無防備を晒してしまう。

 

御門「しまっ-」

『さて、耐えきれるかな?』

 

ゴライアスの胸部の装甲が開き、コアらしき物体が露出する。そしてそのコアに膨大なエネルギーが収束し…

 

 

 

ドォォォオオオオオッッッ!!!

 

 

 

先ほどのそれとは比べ物にならない極大のレーザーが放たれ、無防備な御門を容赦なく飲み込んだ。

 

御門「ぐぁぁあああっ!?(ドゴォンッ)カハッ……!!」

『ワオ、飛んだ飛んだ♪』

 

遥か後方に吹き飛ばされ大広間の壁に背中から激突する。もし御門が身体を召喚獣化していなければ跡形もなく蒸発していたであろう莫大な熱量を浴びたダメージは当然ながら甚大で、御門はそのまま力なく崩れ落ち地面に倒れ込んだ。

 

『効いただろう?僕がこいつに組み込んだ五つのプログラムの中でも、カタストロフィーは言わば切り札とも言うべきウエポン。その熱量は驚異の3億ジュール、掛け値無しの殺戮兵器さ。召喚獣と一体化して肉体強度が大幅に底上げされている上に、その状態では点数が0にならない限りどうやっても死なないから五体満足でいられるだろうけど、こうもまともに浴びてしまっては意識を保つことすら……おや?』

御門「ゲハッ……ハァ……ハァ……へっ、ちっとも効かねーよ……なんなら煙草の火に丁度良いくらいだ……笑わせるぜ、なーにが殺戮兵器だ……こんなオッサン一人殺しきれねー兵器なんざ、不良品も良いとこだぜ……!」

 

全身を覆っていた装甲はボロボロになり、口に加えた煙草は熱で消し飛び、生まれたての小鹿のように足を震わせながらも、御門はすぐさま立ち上がり強い意思を秘めた目でゴライアスと『ファントム』を睨みつける。誰が見てもわかるほどの明らかな強がりだが、御門の闘志が欠片も萎えちゃいないことに『ファントム』は満足そうに笑う。

 

『ふふふふふ、この程度では折れないか……。いいね、それでこそ僕の敵に相応しい。だけど……おやおや、』

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 3321点

VS

 ???  Goliath  19256点』

 

 

『随分と削られたねぇ……それで、スクラップはいつ出来るのかな?』

御門「……ッ!……ハァ…ハァ……っ!」

 

挫けぬ心があろうとも、それだけでは状況は好転しない。ゴライアスは胸部の装甲を閉じ、再び両肩からミサイルを発射する。

 

御門「!……うぉぉおおおっ!」

 

再び際限無く加速しミサイルをかわしていく御門。ただし不用意に空中に逃げれば再びカタストロフィーの餌食になりかねないため、御門はミサイルの追尾性能や爆心の範囲などを瞬時に計算し、安全地帯ができるようにミサイルの着弾を誘導するようにかわしていく。

 

『ほほう、ハザードミサイルの追尾性能を逆手に取ったか……ではゴライアスの点数をどうやって削りきるつもりだい?先に教えておくけど、ゴライアスを覆うナイトメアベールは生半可な威力じゃ消し去れないよ』

御門「……なら、消し去るのはやめだ」

 

御門はさらに加速しながらゴライアスに接近する。当然ゴライアスの指先からデストロイレーザーが御門に向かって放たれるが先ほどのように不意をついたのならともかく、レーザーだろうと来るとバレている攻撃では今の御門は捉えきれない。御門はレーザー弾幕を掻い潜ってゴライアスに肉薄し…

 

御門「おらぁっ!」

 

足に蹴りを入れてすぐさま離脱し、再び近づき蹴りを入れて離脱し……それを延々と繰り返すヒットアンドアウェイ戦法に持ち込んだ。

 

『何をするかと思えば……そんな軽い蹴りじゃあナイトメアベールは-』

御門「破れるかどうかと本体が無傷かどうかは、また別の問題だろーが」

『! へぇ……』

御門「そのオーラ、攻撃を完全に遮断することはできねーんだろ?」

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 3321点

VS

 ???  Goliath  18956点』

 

 

御門の仮説を裏付けるかのように、ほんの僅かにだがゴライアスの点数は削られていた。

 

『少々驚かされたねぇ……どうやって見抜いたのさ?ヒントらしいヒントは無かったと思うけど』

御門「別に根拠なんざねーよ。さっきの回し蹴り、大半の威力を殺されたがそれでも効いたには効いた。俺の教え子が使ってたバリア系能力は威力を殺しきれなかったら消えたってのに、そのなんちゃらベールは以前として展開されてやがったのにそのデカブツにダメージが入ったっつーことは……そのベールは一定量の威力を削るんじゃなく、ダメージの何割かをカットする効果なんじゃねーかって思っただけだ」

『なるほど、大胆な仮説だね。でも一つ聞いていいかい?確かにナイトメアベールは君の仮説通りダメージを1/3にするという性能だけど……もし違ってたらまた無防備を晒す羽目になってたよねぇ?そのときはどうするつもりだったんだい?』

御門「……んなこと知ったこっちゃねーよ。思いついたら即実行、もし違ってたらそんとき考えりゃいいだろうが」

『……くくく、清々しいほど行き当たりばったりだねぇ』

御門「呑気なもんだな、何か手を打たねーと自慢の兵器がスクラップになっちまうってのに」

 

こうして会話している間も、御門はヒットアンドアウェイを繰り返し確実にゴライアスを削っていく。

 

『手を打つも何もゴライアスは自律型召喚獣、僕が操作しているわけじゃないんだよ?』

御門「そうかい、だったらそこで指を加えて-

 

 

 

 

 

 

-ガハ…ッ!?」

『それに……そんな単純な戦術でゴライアスを攻略しようなんて、浅はかとしか言いようがないねぇ♪』

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 519-点

VS

 ???  Goliath  18456点』

 

 

突如として御門の全身に激痛が走り、それに連動するように御門の点数が削られていく。激痛に苛まれながらも御門は自身に起きた原因を探る。

ふと、爆心地帯周辺に透明の粉が舞っていること、そして高速で動き回っていたからか自身にその粉がまとわりついていることに気がつく。これだけ情報が揃えば聡明な御門は嫌が応にもこの物質の招待に気づいてしまう。

 

御門「…………毒、か…!?」

『ご名答♪ハザードミサイルには実に愉快な落とし穴があってねぇ……爆発と同時に撒き散らすのさ♪それも注意深く凝視しなければ視認できないような毒性の粉をね。召喚獣にしか効かない上に、少量ならばなんの効果も無い微毒だけど、経皮感染だから君のようにむやみに動き回っていれば十二分に効果を発揮する。……さて御門君、今の君の点数でゴライアス相手に耐久戦を仕掛ける余力があるのかなぁ?』

 

 

 




ゴライアス
・総合科目……20000点
・能力(ゴライアス・プログラム)……デストロイレーザー、ハザードミサイル、カラミティナックル、ナイトメアベール、カタストロフィー
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……MAX(最大)
機動力……min(最小)
防御力……MAX(最大)

機動力を犠牲に圧倒的な火力と耐久力を突き詰めた超重量級召喚獣。最後の能力カラミティナックルは所謂ロケットパンチだが、超スピードで動く御門相手に使用されることは多分無い。


ちなみに比較として、雷が約1.5億ジュールです。
雷の二倍の熱量のビームを撃てるゴライアスがすごいのか、それに絶えたおっちゃんがすごいのか……。

あ、「点数が0にならない=死なない」であって「点数が0になる=即死」ではありません。




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Goliath③

やっとVSゴライアスが終わった……
次回からはようやく準決勝です。

※御門空雅のプロフィールを更新しました。


『ほらほら、頑張って逃げないと死んじゃうよ?』

御門「ほんっとうにメンドーな……玩具だな……!」

 

間髪いれずに襲い来るミサイルの雨を、御門は再び安全圏が生じるように、ミサイルの着弾を誘導しながらかわしていく。御門の並外れた頭脳があって初めて成立する超高等テクニックだが、それでも状況を好転させるには至らない。

 

『よく全てかわしたね……と言いたいところだけど、しばらく動けないでしょ?なんせ君の周りは再び毒で満たされちゃったからね♪』

 

ゴライアスの放つハザードミサイルは爆発と同時に毒性の粉を撒き散らす。放っておけば一定時間たてば消えるが、召喚獣に付着した粉はその召喚獣が消えるかゴライアスを倒すまで持続し、しかも付着した量に比例して召喚獣の体を蝕んでいく。

 

『そして身動きのとれない敵を放置するほど、ゴライアスは甘くないよ♪』

御門「っ…!」

 

ゴライアスは両手の指先をその場に留まったままの御門に向け、躊躇無くデストロイレーザーを発射した。

なおもその場に留まればレーザーに撃ち抜かれ、レーザーをかわせば毒の侵攻を早めてしまう。そんな追い詰められた状況で御門が選んだ答えは…

 

御門「喰らって……たまるかぁぁあああっ!」

『へぇ……♪』

 

…そのどちらでも無かった。御門は『ラディカル・グッドスピード』を前回にして天井まで大きく飛び上がることで、毒を浴びることなくレーザーを回避した。

 

御門「うぉぉぉおおおおおっ!」

 

そして天井を足場に三角飛びを行い、デストロイミサイルの爆心地から離れて着地した。

 

『ふむ、中々やるね……でもゴライアスは再び君の周囲を爆心で埋め尽くすよ♪』

 

その言葉を裏付けるかのように、ゴライアスは両肩からミサイルを発射していく。

 

『まぁ同じことを繰り返せばまた無傷で逃れられるだろうけど……そんなこと繰り返している内に、君の点数が無くなっちゃうよ?』

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 187-点

VS

 ???  Goliath  18456点』

 

 

そう、御門は一度浴びてしまっている。このまま膠着状態に陥れば最終的に敗北するのは点数が削られていく御門だ。

 

『意地なのかかそれともプライドなのか、無理矢理平静を装っているようだけど……フィードバックで全身が焼けつくように痛むだろう?神経毒のような性質になるように設計したからね。もし君にもう打つ手が無いのなら、足掻けば足掻くだけ苦しむだけだね。あぁ、なんて可哀想で……』

 

文面だけを読み取ればあたかも御門を気遣うような口ぶりだが、元凶であるこいつにそんな優しさなどある筈が無い。かといって彼の声色から読み取れる感情は、呆れや侮蔑といったものでもなかった。

  

 

 

 

 

 

 

『……実に喜劇的じゃないか♪

人が死の淵でもがきながら、それでもどうすることもできず絶望して死に行く様は、このくだらない世界の数少ない娯楽だよ♪』

 

そこにあるのは狂気的なまでの悪意ただ一つ。

御門が苦しみを押し殺しながら衰弱していく様子を、コメディか何かを見ているかのように楽しんでいる。

 

『正直やや期待外れだったけど……これはこれで愉快だね♪のまま君は毒に蝕まれ、自分の無力さを後悔し、君の人生を狂わせた僕らを憎悪しながら死んでいく……そのザマを間近で見物することこそ、まさにお金で買えない価値のあるものだと思わないかい?』

御門「……っ……!」

 

外道と言う言葉すら生易しいファントムのドス黒い本性に、しかし御門は何も答えなかった。……と言うより、既にそんな余力は無くなりつつあるのだろう。無理もない、フィードバックで全身の神経が焼けるように痛むのを堪えながら、ゴライアスの攻撃を凌ぎ続けているのだから。このままではファントムの思惑通りの結末を迎えるだろう。

 

御門(ああ痛ぇ……クソッ、いよいよ意識も朦朧としてきやがった……

 

俺の人生、こんなところで打ち切りか……

 

安月給でもいいから休みが多くて残業しなくていい職場で働いて、ブスでもいいから口喧しくねー女を嫁さんにして、周りには迷惑かけることなくドラマチックな出来事にも出くわさずつまらねー人生を送り、還暦前頃にニコチン過剰接種が原因の肺癌とかでポックリとくたばる……ってのが、ガキの頃俺の描いた理想だったっけ……

それがまさか、残業だらけで一日たりとも休みの無い会社で働いて、美人っちゃ美人だけど何かとキーキー喧しいお節介バカ娘になつかれて、挙げ句の果てに世界の命運を左右する事件と関わってアラサー前にくたばる羽目になるとはな……ほんとままならねーもんだな、人生ってやつはよー……俺だけならまだしも、何故か俺と関わった連中も次から次へと不幸になっていくし……親父にお袋、同じ学科の奴ら……それに、キュウリもだな。はー…だから俺に関わるとロクなことないって散々言ったのに、ようやく断ち切れたと思ったら知らん内に洗脳されてたしなー……もし神がいるなら俺どんだけ嫌われてんだよ……?

 

 

 

はぁ、まった…く……やに……なる……ぜ…………)

 

いよいよ消えゆく意識の中で御門はほんの一瞬、自嘲するかのような笑みを浮かべ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリィィィイイイイイッ!!!!!

 

「~~~~~ッッッ舐めてんじゃねーぞクソ野郎がぁぁぁああああっっっ!!!」

 

手の生爪を強引に剥がし、朦朧としていた意識を無理矢理覚醒させた。

 

御門(……ふざけんなクソ野郎。

死んでたまるか。

終わってたまるか。

こんな結末絶対認めてたまるかよ。

たとえ俺の命に代えても、お前らだけは地獄に落とすって決めてんだよ。

それにアイツを……キュウリを……親しい奴を不幸にしてばかりの疫病神の俺なんかを慕っちまってるあのバカ女だけは、意地でも取り返さなきゃなんねーんだよ!)

 

滅ぼすべき存在と守るべき存在がこの世にいる以上、何があろうと彼の灯火は決して消えない。失ってきた多くの大切な人達が彼の背を押したかのように、御門空雅の闘志が再び燃え上がる。

 

『ふふふ、この状況で闘志を吹き返したのは実にお見事♪……だが気合いや根性では戦況はひっくり返らないよ?』

御門「安心しな、そんな俺と対極なもんにすがったりしねーよ……たった今、勝利の方程式が完成したからよ!」

 

御門は『ラディカル・グッドスピード』で加速しながらゴライアスに接近する。当然ゴライアスはデストロイレーザーで迎撃するが、御門はいとも容易くかわしながらゴライアスに肉薄し、そのままゴライアスに向かって跳躍する。

 

『血迷ったのかい?不用意に跳べばカタストロフィーの餌食になるよ』

御門「だったら試してみな!」

 

御門は再び回し蹴りを放つが、案の定カラミティベールに威力の大半を削られた、御門は空中で無防備を晒してしまう。

 

『やはり前と同じじゃないか、つまらない。最後の最後でガッカリさせてくれるね……そんなに死にたいなら跡形もなく消し飛ぶがいいさ』

 

ファントムの呆れ声に呼応するかのようにゴライアスの胸部の装甲が開きコアが露出する。そして膨大なエネルギーが収束し…

 

 

ドォォォオオオオオッッッ!!!

 

 

全てを灰塵に帰す極大レーザーが放たれ、無防備な御門に迫り来る。が…

 

御門「かかったなボケが!(ヒュンヒュンヒュン…ガキンッ!)」

 

レーザーが直撃する直前、御門は前もって取り出していた鉤縄をゴライアスの足に引っかけ、ターザンの要領でレーザーを回避した。ゴライアスがどのタイミングでカタストロフィーを撃ってくるか理解していなければ不可能な芸当だ。

 

『……へぇ。よくゴライアスが自発的に行動を行わないないってわかったね』

御門「生憎、こう見えて頭脳派なんだよ」

 

そう、ゴライアスは今まで敵と定めた御門の行動に合わせて動いていただけに過ぎない。近づいてきたり動きが止まればデストロイレーザー、遠ざかればハザードミサイル、攻撃されればナイトメアベール、それによって隙ができればカタストロフィーといった具合に、敵の各動作に反応するだけの非常に単純なメカニズムで動いていたのだ。

 

御門「さらに……ここだ!『ソウルキャノン』!」

 

御門の利き脚にバチバチと火花を散らしながら高密度のエネルギーが集まり、御門はそれをゴライアスの胸元のコアに向かって蹴り放った。

ランクアップ能力『ラディカル・グッドスピード』にはフィールド内を移動するごとに、ほんの少しずつエネルギーを蓄積する隠れた特性がある。『ソウルキャノン』とは溜まったエネルギーを足に集中して放つ一日一度きりの奥の手である。

機動力を犠牲にしたゴライアスにそれを避ける術はなく、またコアはナイトメアベールの恩恵を受けないらしく、エネルギー弾は直撃しコアは跡形も無く砕け散った。

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 110-点

VS

 ???  Goliath  13456点』

 

 

コアを狙った御門の判断は間違っていなかったようだ。これまでとは比較にならない大ダメージは勿論のこと、ゴライアスを覆っていた厄介なベールが影も形も無く消え去った。

 

『ふむ……ゴライアスのコアは脆いかわりにある程度のダメージは自己修復できるけど、ここまでの損傷を受けちゃそれも無理そうだし……これは終わったかな?』

御門「ああ、これでシメーだ」

 

放たれるレーザーを回避しながら、御門はゴライアスの周りを加速しながら駆け抜ける。

 

御門「……『六根・六入』色・声・香・味・触・法」

 

さらに加速ながら駆け抜ける。迎撃のレーザーなど当然かすりもしない。

 

御門「……『三不同』好・平・悪」

 

さらに加速する。あまりの速さにゴライアスは対象を見失い、迎撃体勢に入れない。

 

御門「『太極』浄と染!

 

『三世』過去・現在・未来

 

計108煩悩!」

 

 

そして御門の姿が完全に消えたかと思えば、次の瞬間にはゴライアスの真正面に現れ…

 

 

 

御門「108(ワンオーエイト)マシンガン!!!」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォオオオンッッッ!!!!!

 

 

百八発もの蹴りを浴びせゴライアスを吹き飛ばし、そのまま大広間の壁に叩きつけた。超加速による補正が加わった御門の蹴りの威力は凄まじく、ベールを失った装甲は無惨にも砕け散り…

 

 

 

《総合科目》

『学年主任 御門空雅 614点

VS

 ???  Goliath  戦死』

 

 

点数を削り勝負を決めた。ゴライアスはその場に力無く倒れ、そして瞬く間に消滅してしまった。

 

『あーあ……せっかく苦労して作ったのに、よりにもよってテストプレイで壊れてしまったか。景気よくぶっ壊してくれちゃってまぁ……』

御門「そりゃ残念だったな。覚えとくんだな……人生ってのはままならねーもんなんだよ」

 

 

 

 

 




技名の元ネタは『コロッケ!』のリゾットの技から取りました。煩悩は108から連想して結びつけただけですが。


ソウルキャノン……加速するために少しずつ溜まるエネルギーを足に集中して放つ技。一度使うとその日はエネルギーが収縮しなくなるため一度きりの切り札である。

108マシンガン……コントロールできる最大限まで加速してから相手に肉薄し、超高速の蹴りを浴びせる。口上は筆者のちょっとした悪ノリなため今回限り。


ゴライアス・コア……中心部分に取り付けられたエネルギーの供給源。5000点もの体力を持ちさらに事故修復機能までついているが、デリケートなパーツのため耐久力は脆弱の一言。ゴライアスに武装には物凄いエネルギーを必要とするが、このコアを通じてアドラメレクから無尽蔵にエネルギーを補給できるため、このコアが生きている限りエネルギー切れになることはない。反面このコアを破壊されればエネルギーは有限になる上に、ナイトメアオーラとカタストロフィーが使えなくなる。







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ラプラスの悪魔

今回、御門のおっちゃんだけが衝撃の事実を知ります。


ガチャッ  

 

『……何の真似だい?』

 

ゴライアスを撃破した御門はすぐさま獣化を解除、普段のだらけようからは想像もできない俊敏さで『ファントム』に接近し、懐から拳銃を取りだし『ファントム』の額につきつけた。

 

御門「わざわざ言わなくてもわかるだろ?てめーを仕留めるチャンスを俺が見逃す筈がねーことぐらいは」

『へぇ?それは随分おかしな話だね。下っ端に用は無いんじゃなかったのかい?』

御門「あくまで惚けるつもりなら俺の口から言ってやるよ。仮面や服装こそ揃えちゃいるが、てめーはあの下っ端ヤローなんかじゃねー。そうだろ?

 

 

 

……ラプラス」

 

ラプラス。

財界に関わりがある者なら一度は耳にしたことがある、日本経済の影の管理者の通り名。

一企業に過ぎなかった“桐谷”が僅か数年でかの“鳳”を凌駕するほどの大企業へと成長したことも、“桐谷”がラプラスの助力を得ていたのではないかと噂されている。

 

『……ふふふ、半分正解かな?』

御門(半分だと……?それに銃口向けられてんのに、こいつのこの落ち着きようはなんだ……?)

 

意味深な台詞はもとより、銃をつきつけられた状態だというのに顔色も声色も平然としている(仮面を被っている上にボイスチェンジャー越しの声であるためあくまで推測だが)『ラプラス?』に御門は訝しむ。

 

『でもここで僕を殺しても良いのかい?君には僕に聞きたいことが山ほどある筈だろう?例えばダゴン君が桐生舞にかけた洗脳を-』

 

 

ダダダダダァアンッ!!!

 

 

『桐生舞』『洗脳』というワードを耳にした瞬間、御門は躊躇なく拳銃の引き金を五回ほど引いた。大広間に銃声が鳴り響き、拳銃から放たれた弾丸は『ラプラス?』の両手両足、そして仮面の額部分に直撃する。

 

御門「心配せずともまだ殺しゃしねーよ。ここから脱出したら洗いざらいぶちまけさせてやるから、今はおとなしく眠って-」

『……ふむふむなるほど、麻酔弾か』

御門「っ!?」

 

『ラプラス?』に命中した五つの弾丸は、まるで見えない何かに阻まれたかのように真下に自然落下した。

『ラプラス?』は何事もなかったかのように足下に転がった弾丸を拾い上げ、驚愕する御門に構うことなくそれを観察する。

 

『極限まで殺傷力を抑えたゴム弾に、象だろうと昏倒するほどの強力な麻酔が仕込まれているね。さっきの挑発染みた発言に激昂して発砲したわけじゃないようだけど、怒っていないわけではないようだねぇ。こんな弾、生きてさえいれば相手の肉体へ後遺症が残ろうが構わないと考えてなきゃ撃ち込めないからねぇ……怖い怖い』

御門(無傷、だと……!?ありえねぇ!たとえゴム弾だろうがこの距離じゃ骨に皹入ってもおかしくねーし……ましてや無傷どころかあのふざけた仮面にすら傷一つつかねーなんて……!?)

『……ん?あぁ、驚かせてごめんね。種明かしをすると、どんな武器を用意しようが無駄だよ。物質世界の住人である君と武器では、デジタル世界を生きる僕には傷一つつけられないんだよ』

 

映像に写る炎に触れても決して焼け焦げたりはしないように、映像の炎に水をかけても決して消えないように、二つの世界はお互いの世界に干渉することができない。

 

御門「……お前が、デジタルだと?」

『ふふふ、僕だけじゃないさ。君と君の召喚獣……そしてさっきのゴライアスを除いた全てがデジタルさ。何も不思議なことじゃないよ。だってここは言うなれば……

 

 

 

 

携帯画面の中なんだから』

御門「っ!……そういうことかよ……!」

 

御門はずっと疑問を抱いていた。つい先ほどまで携帯電話を調べていた自分がどうしてこんな場所にいたのか?そしてこの場所はいったいどこなのか?

ここが携帯画面の中の世界、そして御門が携帯の画面に吸い込まれてここへ来たというならその疑問は解ける。

荒唐無稽極まりない仮説だが、アドラメレクが二つの世界を行き来できることを知っており、四年前アドラメレクが取り込んだ同級生達と共にパソコン画面へと消えていく光景を目の当たりにした御門にとってはそれほど驚愕する事実ではない。

 

『自己紹介をしようか。

僕の名はアバター……君が目の色を変えて追っているアドラメレクの制作者・ラプラスの、大脳新皮質の欠片をもとに作成された人工知能さ。……いや、住む世界の違うクローンと言った方が正しいかな?』

御門「クローンだと……?」

『そうだよ♪ま、完成度は決して高くないけどね。最新技術を駆使しても、オリジナルの底無しの悪意と狂気は大分薄れてしまってるらしいからさ』

御門(っ!?!?……薄まってるだと……!?それでか!?) 

 

驚愕するのも無理はない。今思い返してみれば、ゴライアスと闘う前にアバターが自身に叩きつけた謎の威圧感は、高密度の悪意と狂気の塊だった筈なのだ。だとすればオリジナルのラプラスにはいったいどれほどの狂気と悪意が宿っているのだろうか。

 

『アビリティこそ複製できたけど、それもオリジナルと比べれば小規模だし……遺憾ながら劣化コピーの謗りは免れないかな?』

御門「アビリティ……俺をこんなところに引きずり込んだ力か?」

『ご名答。アドラメレクのバグを完全にコントロールできるのは“玉”の資質を持つもの……そうだな、簡単に言えばとても強靭な脳と魂を持つ者のみ。そして汚染を100%コントロールした者は人智を超越した力・アビリティを宿す。君にアドラメレクの汚染を含めたあらゆる身体異常を消し去る力“ワクチン”が宿ったように、オリジナルにもまたアビリティが宿っているのさ』

御門「!……」

 

アバターの台詞の一部に違和感を覚えたが、それ以上に腑に落ちない点が一つ。

 

御門(こっちとしちゃ願ったり叶ったりだが、なんでこいつはこうも簡単に-)

『ベラベラと情報を漏らすのかって?』

御門「っ……!?」

 

アバターは仮面に手をかけながら、御門の心情を見透かしたかのように訪ねる。

 

『理由は主に二つかな。一つはゴライアスを打ち倒した君への敬意を評して。そしてもう一つは……』

 

 

 

一旦そこで言葉を切り、アバターは無造作に仮面を剥がしてその辺に投げ捨てた。

 

 

 

露見したアバターの素顔を見た御門の表情が、

 

 

 

御門「………………………………え?」

 

 

 

思わず惚けた声が漏れてしまうほど、御門の脳内は未だかつて無いほどの驚愕と混乱に染まる。疑いようもない天才である優れた思考回路が完全に停止した御門を満足そうに眺めながら、アバターはボイスチェンジャー越しではない、

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アバター「もう隠す必要も無いからさ。A.D計画の始動はもうすぐだからね。……元の世界に帰りオリジナルを止めたければ先に進むといいよ、ゴールに到達すれば出してあげるからさ。この先は複雑な迷路になっているけど、順調に進めばそうだな……1週間もかからないんじゃないかなぁ♪」

 

そしてアバターは煙のように姿を消し、大広間には御門一人が残された。

 

御門「……ハハッ…………ははは……………………

 

ははははははははははははははははは……

 

何から何まで全部……テメーの手のひらの上だったってことかよ俺は……

 

 

 

ふざけやがって…………

 

 

 

 

 

ふざけやがってぇぇえええぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇえええええっっっ!!!

 

 

御門の悲痛な絶叫に応える者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「さあ皆様、準決勝第二試合が始まります!既に決勝へと駒を進めた和真君と闘うのは果たしてどちらか?

まず、Cブロックを勝ち上がったのは文月学園が誇る完全無欠の生徒会長……二年Aクラス鳳蒼介君!」

 

紹介が終わると同時に蒼介が観客達の大歓声をその身に受けながら、堂々たる足取りでフィールド内に入場した。ステージの上に設置されたオーロラビジョンにはこれまでの蒼介の試合がプレイバックされ、綾倉先生はそれらを振り替える。

 

綾倉「三回戦が不戦勝になったとはいえ、鳳君はここまで一度もダメージを負うことなく勝ち上がってきました。これ以上詳しく語れないほどの圧勝劇で勝利を収めてきた蒼の英雄は優勝候補No.1の下馬評通り、このまま頂点の座を掴みとるのか?!」

蒼介「……」

和真(…………ん?)

綾倉「続いてDブロックの覇者は今大会きってのダークホース……一年Dクラス綾倉詩織さん!」

詩織「ったく、仰々しいったらないね……」

 

極限までエキサイトした観客達に呆れつつ、詩織も蒼介同様堂々たる足取りでフィールドに入場した。やはりオーロラビジョンにこれまでの闘いがプレイバックされ、綾倉先生が一試合ずつ振り替える。

 

綾倉「三年のトップ高城君や三位の金田一君、意外性No.1の吉井君といったそうそうたる面子を、鳳君にも引けを取らない圧倒的なワンサイドゲームで勝利を収めて来ました。一年生は不利という教師陣の見解をはねのけ、一年のトップは栄光を手にすることができるのか!?」

 

対峙した両者は無言でお互いを見据える。

その様子を遠目から見ていた和真はその光景……というより蒼介に何故か違和感を覚えた。

 

和真(……気のせいか?なんつぅか、いつものソウスケらしくねぇような……)

 

 

 

 

 




ワクチン……アドラメレクのバグを完全に使いこなした御門に宿った超常的な力。いかなる身体異常もすぐさま消し去ることができる。かつて翔子をアドラメレクの汚染から救ったのもこの力である。
ホイミではなく光のはどう。例えばなかなか風邪が人にこの力を使えば風邪自体は治るが、それまでに消耗した体力は戻ってこない。
また、アドラメレクのバグは現在進行形で汚染中なら跡形もなく消し去れるが、適合してしまえばバグは異常とは認められず消すことができなくなってしまう。






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準決勝③『水嶺流VS水嶺流』

台風による停電の影響で投稿が遅れてしまい申し訳ありません。……でもこれ私のせいじゃないですよね?充電ができない状況で二次創作小説の投稿なんてやってる暇なんてないし……24時間体制で復旧に取り組んでいた関○電力の方々にあれこれ文句つけるなんてアレ過ぎるし……かといって台風のせいにしても、自然災害に責任転嫁ってそれはそれでどうなの?って思わなくも-

和真「長いわ!」




準決勝第二試合、鳳蒼介VS綾倉詩織。この闘いに勝った方がいち早く決勝へ勝ち上がった和真の対戦相手となる。

既にフィールド内に入場している二人は、お互いを見据えながら黙々と準備をしていく。

 

優子「代表の試合が始まるわね……ねぇ飛鳥」

飛鳥「ん?何?」

優子「代表が扱ってる剣術って、確か門外不出じゃ無かったかしら?」

飛鳥「……うん、間違いなく門外不出なはずよ。水嶺流剣術はその比類なき殺傷力を危険視した蒼介の祖先が、鳳家の者以外の者には決して伝授してはならないって掟を定めたそうよ。鳳家は完全な一枚岩とは言えない部分も多々あれど、この掟は破ろうとする者はいないって以前蒼介が言っていたわ」 

優子「ふぅん……じゃあ、なんで綾倉さんは代表と同じような技を扱ってるの?」   

 

剣術をかじっているわけではないが、秀吉の姉だけあってかなりの洞察力を持つ優子は、綾倉詩織が蒼介とおなじく水嶺流を扱っていることを遠目からでも見抜いていた。

 

飛鳥「えっと……それはわたしにもわか-」   

?「へぇ……その話、少し興味があるねぇ。ここは一つ、根掘り葉掘り聞かせてもらおうかな」

飛鳥「……誰ですか?流石に礼儀知らずじゃ…な…い…」

 

盗み聞きされていた上に急に話に割ってこられたことに、飛鳥は若干不機嫌になりながら声のした方に振り向き、艶やかな黒髪が特徴的な男性を視界に入れた途端急に固まった。

それもその筈、声の主は蒼介の父親にして世界的大財閥“鳳”のトップ……鳳秀介だったからだ。

 

優子「……?どうしたの飛鳥?」

飛鳥「………鳳会長、何故ここに……?」

優子「鳳会長…ってこ、この人が代表の……!?」

秀介「相変わらず他人行儀だねぇ飛鳥君。君は蒼介の婚約者なんだからさ、気軽に“お義父さん”と呼んでくれても構わないんだよ?」

飛鳥「できるわけがないでしょう……!貴方はもう少しご自分の立場を……いや今はそれよりも、何故貴方がここにいるのですか?貴方は確かアンティクア・バーブーダにいた筈では?」

秀介「迷子になったという旨のメールを藍華さんに送った後、すぐに友人が最新製超音速ステルス機に乗って迎えに来てくれてね、ついさっき帰ってこれたんだよ。……丁度トーナメントも大詰めだし、良かった良かっ-」

飛鳥「良かった良かったじゃありませんよ!?貴方のせいでこの大会の運営側がどれだけ苦労したと-」

秀介「それで蒼介の対戦相手の子、よりにもよって水嶺流を扱うんだってねぇ?」

飛鳥「……(ピキピキピキィッ…!)」

優子(あ、飛鳥がここまで冷静さを失うの初めて見たかも……)

 

秀介のいっそ清々しいまでの自由奔放勝手気儘な振る舞いにこめかみをひくつかせる飛鳥。自身の判断が数えきれない人の人生を左右するほどの大企業の社長ともなると、これぐらいふてぶてしくないと務まらないのだろうか。

 

飛鳥(落ち着け、落ち着くのよ私……世界的大企業のトップ相手にこれ以上の糾弾は、橘大悟の娘とはいえ一学生の私に許されることではない。それにその役目は藍華さんが請け負ってくれるでしょうし、この人がまたふらふらと何処かに行かないよう見張っておくことは当然として、今私のするべきことは……)

 

強靭な理性で煮えたぎる怒りを沈め、飛鳥は今自分ができること導き出す。この柔和な笑みを浮かべたちゃらんぽらんの方向音痴は筋金入り、少し目を離した隙に海外にいるなんて可能性もゼロでは無いことが今日判明した。であれば当然この男をすぐさま藍華のいる貴賓席まで引っ張っていくのがベストである……が、あちらの出した質問に答えもしないで連行させてくれるほど、この男は物分かりの良い人間ではないだろう。かといって蒼介以上の達人である彼を力づくで無理矢理連行できるはずもない。……というわけで、飛鳥はしばらく秀介に問いに答えてあげることにした。

 

飛鳥「……はい、それも蒼介に匹敵するレベルで」

秀介「ほう……んー…………なるほどねぇ……」

 

飛鳥の言葉を聞いた秀介は視線をフィールドにいる詩織に写し、しばらくじっと見据えたかと思えば、様々な感情が入り交じったような表情で何か得心がいったように頷く。

 

飛鳥「……あの、綾倉さんについて何か心当たりが?」

秀介「んー、そうだねぇ……蒼介にしてみれば、二度と取り戻せない筈のものが戻ってきたって気分だろうねぇ」

飛鳥「……え?それはどういう-」

秀介「ははは、気にしないでくれたまえ」

飛鳥「は、はぁ……」

秀介「……お、始まるようだね。貴賓席に行って藍華さんに怒られる前に、蒼介の晴れ舞台を見届けようか」

飛鳥・優子((怒られるって自覚はあったんだ……))

 

飛鳥のみならず初対面の優子にまでジト目を向けられるが、やはり秀介は一切気にもとめず観戦に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「試獣召喚(サモン)」」

 

二人の唱えたキーワードに反応し二つの幾何学模様が現れ、その中心から召喚獣が喚び出される。両者共に学年首席かつ全教科バランスの良い成績、であれば選択した科目は必然的に総合科目である。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  7799点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

蒼介「………ではゆくぞ、綾倉」

詩織「……おや?何も聞いて来ないのかい?私がどうしてこの剣術を扱えるのか、アンタは知りたがるだろうと思っていたんだけどね」

蒼介「そうだな……強いて言えばそれよりも、どういう心境の変化があったのかを聞きたいな。生徒会活動中も必要最低限しか口を開かなかったお前が、随分と饒舌じゃないか」

詩織「気になるのはそっちなのかい!?」

蒼介「……確かにお前に聞きたいことは他に色々ある。しかしだ、私が今為すべきことはただ一つ……真の水嶺流継承者として、紛い物の剣を打ち砕くことだ」

詩織「……フフッ、紛い物とは言ってくれるじゃあないか。だったら私に見せてみな、真の水嶺流ってやつをさっ!」

蒼介「っ……いいだろう、かかって来るがいい」

綾倉「両者準備はよろしいようですね……それでは、試合開始!」

 

二人の召喚獣は綾倉先生が合図を告げると同時に、お互い刺突の構えで相手に向かって急加速する。繰り出す技は両者共に複合技・雷雨。開始早々全く同じ技のぶつかり合いだ。

 

ガキィインッ!

 

立ち合いは全くの互角。両者はぶつかり合った反動で僅かに後ろに仰け反るが、両者はすぐさま体勢を立て直し剣を構える。

 

蒼介(これまでの闘いから考えて、奴の最も得意とする型は弐の型・車軸。であれば次に奴の繰り出す技は間違いなく複合技・豪雨だ。……面白い、受けて立とうではないか)

詩織「!……へぇ、あくまで同じ土俵で勝負ってわけかい!その心意気は立派だけどね…」

 

両者共に再び刺突の構えに入り、相手に向かって無数ので突きを浴びせかける。

 

キキキキキキキキキキィインッ!

 

両者が放った突きが次々とぶつかり合い、相殺されていく。先ほどの“雷雨”のぶつかり合いが完全に互角であったことから、このぶつかり合いも同じ結果だろう……と、ほぼ全ての観客は確信していた。

 

 

 

しかし、

 

和真(オイオイ、笑えねぇなこりゃ……)

秀介(ふむ、やはり……)

 

 

極一部の観客と当事者である二人のみが、全く違った結果を確信する。そして現実はその通りになってしまう。すなわち…

 

 

蒼介「…っ……」

詩織「今のアンタじゃ、私には勝てないよ」

 

 

ザシュッ!

 

 

蒼介が押し負けてしまうという、信じがたい結果だ。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  7491点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

『『『何ィィィイイイイイッ!?』』』

 

優子「う、嘘でしょ……!?」

飛鳥「まさか、そんな……!?」

愛子「し、信じられない……!」

久保「鳳君が、真っ向から競り負けただと!?」

佐藤「あ、有り得ない!」

 

ダメージ自体は軽傷だったが、第二学年全員……特に二年Aクラスに与えた衝撃は凄まじいものであった。

彼らが動揺してしまうのを誰が責められようか。裏をかかれたり隙を突かれたならまだしも(それはそれですごいことであるが)、あの蒼介が、一年生相手に、まったく同じ攻撃で、真っ向から押し負けたのだから。

 

詩織「随分と心がざわついてるようだけど会長さん、その程度の剣が真の水霊流かい?あまり私をガッカリさせんなよ」

蒼介「っ……」

 

 

 

 

 

 

和真「…………イラつくぜ」

 

観客達の大半が驚愕と困惑する中、和真は何故か苛立ちを隠せないでいた。

 

 

 

 

 

 




さて、ようやく蒼介君が苦戦しそうな相手と当たりましたね。いや、下手したら苦戦どころか……


……とにもかくにも次回をお楽しみに。


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準決勝④『ふざけるな』

今回珍しく蒼介君が絶不調です。 



優子「………この目で実際に見ても信じ難い……いや、信じたくないわね……代表が圧倒されるなんてことは」

飛鳥「うん、気持ちはわかるよ優子……蒼介だって無敵じゃない。鳳会長にはまだ勝てないって以前言っていたし、この前御門先生に負けたことも聞いている。

……でも、だからって一年生が蒼介を追い詰めるなんて思いもしなかった」

   

一見冷静なようにしか見えないが、実は今の二人の内心は困惑と混乱で埋め尽くされていた。この二人だけじゃない、少なくとも二年Aクラスの全生徒は似たような心境であろう。それほどまでに蒼介はクラスメイトから信頼されているということだが、それ故にたった今蒼介が後輩に追い詰められている光景は、驚天動地という言葉すら生温いものだろう。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  6517点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

詩織「ほらほらどうした先輩!アンタの実力はそんなものか!?」

蒼介「っ……!」

 

僅差、ほんの僅かな差である。だがしかしその差は絶対的で、〈詩織〉の剣は〈蒼介〉の体力を徐々に、そして確実

に削ぎ落としていく。

〈詩織〉が繰り出す水嶺流の剣撃に〈蒼介〉も負けじとまったく同じ剣撃で対抗するも、やはりほんの僅かな差で〈詩織〉の剣が一歩先を行く。このまま勝負が続けば勝敗は火を見るより明らかだ。

 

飛鳥「まさか蒼介が剣術で遅れを取るなんて……」

秀介「んー……彼も人の子だったんだねぇ」

飛鳥「……?どういうことですか?

あと貴方の子です鳳会長」

 

頭の中のぐちゃぐちゃした感情を抑え、飛鳥は何故か面白そうに見物している秀介に尋ねる。

 

秀介「私の見たところ、蒼介と綾倉さんの剣の腕にさしたる差は無い。極僅かに綾倉さんが上かなってところかな?」

飛鳥「それは見れば-」

秀介「いや、君はわかってないね。……召喚獣のスペック差を忘れてやしないかい?」

飛鳥「え……あっ!」

 

そう、試験召喚獣の身体スペックは使役する生徒が取った成績に比例する。パワー、スピード、耐久のどれかに特化するのかバランスを重視するのかは生徒次第だが、Aクラスの平均点並の点差が開いた二人の召喚獣のスペック差は、それはそれはかなりのものであろう。

 

秀介「それにね飛鳥君、召喚獣のスペックを抜きに考えても二人の実力はかなり伯仲しているんだ。今の戦況は綾倉さんが蒼介の実力をギリギリ上回っているように見えるけど、その実綾倉さんが未だ無傷のワンサイドゲームだ。実力が伯仲した二人だとこうはならない筈よ」

飛鳥「それは、そうですが……」

秀介「そうだね、そうは言っても現に綾倉さんは蒼介を圧倒しているからねぇ……

だけど答えは単純解明、蒼介が本来の実力を出し切れていないだけさ」

飛鳥「え……い、いったいどうしてですか……!?あの蒼介に限って緊張とかプレッシャー云々では無いでしょうし……」

秀介「()()()()があってね……綾倉さんは蒼介や私にとって、この上なく動揺を誘う人なんだよ」

飛鳥「綾倉さんが……?」

秀介「まだ断定はできないけど、もし綾倉さんが私の推測した通りの人物ならば……

 

 

 

 

 

彼女が今この世界に存在していること自体、本来あってはならないことなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  5642点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

詩織「……さて会長、そろそろ何か手を打たないと点数が逆転してしまうがどうする?よもやみっともなく足掻くくらいなら潔く……なんてしょうもないこと考えてやしないだろうね」

蒼介「安心しろ、戦死する瞬間まで剣を下ろすつもりは無い。……小賢しい策や小細工に頼るつもりも毛頭無いがな!」

詩織「っ!」

 

〈蒼介〉は壱の型・波浪による急激な緩急で〈詩織〉に肉薄してからの肆の型・大渦。左足を軸にした回転による遠心力と体の捻りから生じる反発力を剣に乗せた回転斬りが〈綾倉〉の喉元に迫る。

 

 

が…

 

 

詩織(やはりまだ剣に迷いがあるせいか、前以て想定していたレベルにはほど遠い。……まったく、察しが良すぎるってのも考えものだね……()())

 

草薙の剣が命中する寸前、〈詩織〉も左足を軸に回転し紙一重でそれをかわした。

 

蒼介(避けられたか-っ、まずい!?)

詩織(目には目を……“大渦”には“大渦”だよ!)

 

〈蒼介〉は左足を軸に逆回転して迎え撃つが、強引に方向転換した“大渦”が遠心力と反発力が100%加算された“大渦”に敵う筈も無く、〈蒼介〉は弾きばされダメージこそ喰らわなかったもののバランスを崩してよろけてしまう。

 

詩織「もらったよ!」

蒼介(くっ…南無三!)

 

そのような致命的な隙を詩織ほどの達人が見逃すわけがない。“波浪”の急激な緩急、高速剣撃“怒濤”、そして標的を確実に捉える“車軸”による刺突……それら三つの会わせ技、高速刺突連撃“豪雷雨“が〈蒼介〉目掛けて襲いかかる。どうにかすぐさま体勢を立て直して半分ほどは防げたが、もう半分ほどはまともに直撃し〈蒼介〉の点数を大きく削った。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3882点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

詩織「……結構防がれちまったか。想定を下回るとはいえ、流石にそう簡単には決めさせてくれないね」

蒼介「……くそっ!」

 

2500以上も離れていた点差はひっくり返され、戦況は圧倒的に詩織に傾いている。蒼介は悔しそうに歯噛みするが、それは詩織の余裕そうな態度への憤りでも、一年生相手に不覚を取っている自身への怒りでもない。

有り得ないと断じた筈の仮説が、こうして剣を交えるごとに脳に刻まれるかのように、徐々に鮮明になっていくことへの苛立ちである。苛立ちにより蒼介はさらに集中を欠き、それに比例してより剣が鈍るという悪循環に陥ってしまっている。

 

蒼介(どれだけありえない、あってはならないと遠ざけ頭からしめ出そうとても……こうして剣を交えるたびに、綾倉詩織とかつての()()()が重なってしまう……!このままでは不味い…とにかく、今はどうにか綾倉の攻撃を凌いで-)

 

 

 

 

 

 

和真「ふざけるなぁぁぁあああああぁぁああああぁあああああぁぁああああぁあ!!!!!」

 

 

コロッセオ全体に爆音が駆け抜ける。

 

 

『ひぃっ!?(ビリビリィッ!!)』

蒼介・詩織「「っ!?(ビリビリィッ!!)」」

秀介(っ!これは、守那の……!)

 

控えスペースにいた和真が椅子に座ったまま発した声は、とてもただの大声とは思えないほどの圧倒的空間制圧力を秘めていた。声量は勿論のこと、正体不明の威圧感を伴った声の爆弾は直接向けられた蒼介や近くにいた詩織のみならず、会場中のほぼ全ての人間をその場に縛りつけ硬直させた。やがて会場中の視線が自分に向けられるが、それがどうしたと言わんばかりに和真は蒼介だけを睨みつけながら、立ち上がって再び口を開く。

 

和真「ソウスケェ!テメェさっきから何ウジウジしてやがんだ、見苦しいったらありゃしねぇぜ!……テメェとその小娘の間にどんな因縁があるのかは知らねぇ。興味も無ぇし大体んなことどうだっていいんだよ。今テメェのすることはなんだ!?四の五の考えずその小娘をぶちのめすことじゃねぇのかよ!?黙って見てりゃごちゃごちゃ別のことに気ぃ取られて情けねぇ闘いしやがって!勝つ気が無ぇならやめちまえこの腑抜けが!……以上!」

 

言いたいことを言って気が済んだのか、和真は満足そうに椅子に座り直した。そして急いで駆けつけた鉄人がその頭目がけて拳骨を振り下ろす……が、天性の直感で察知したのか見もせずにあっさりかわされる。

 

和真「うおっ、危ね」

鉄人「いきなり何しとるんだお前は!今は試合中だぞこの馬鹿者!」

和真「あー…そりゃすんませんね。ただなぁ、最大の好敵手と認めた奴が目の前で醜態さらしてると……なぁ?」

鉄人「なぁ?じゃない!」

 

ここぞとばかりに畳みかける鉄人の説教をのらりくらりとかわしていく和真から視線を外し、詩織は苦笑混じりに剣を構え直す。

 

詩織「……いい友達を持ったね。おそらくあの先輩なりの、会長への激励なんだろうよ」

蒼介「………ああ、そうだな。

まったく、私もまだまだ未熟だな」

 

自嘲めいた笑みとともにそう告げる蒼介の内心では、さっきまでかきみだしていた迷いが綺麗さっぱりと消し飛んでいた。

 

蒼介「お前に関して確かめたいことや問い詰めるべきことは多々あるが、カズマの言う通り今は栓無きことだ。大局を見失っていたと言わざるを得んな。私は是が非でも勝ち抜かなければならないというのに。ここまで不甲斐ない闘いをしてすまなかったな綾倉……ここからは気を引き締めて行くぞ!」

詩織「……本当に迷いがなくなったか試してやろう。さぁ、こいつをどう受け切るんだい!」

 

〈詩織〉は再び“豪雷雨”で〈蒼介〉に襲いかかる。この複合技を多用しているところを見るに、どうやらこの技は詩織が最も信頼している技のようだ。

 

 

しかし…

 

 

詩織「…なっ!?全部外れ…いや、外された!?」

 

〈詩織〉の放った〈蒼介〉が捌の型・夕凪を駆使して全ての剣撃を受け流した。そして〈蒼介〉がおもむろに利き腕を上げそのまま振り降ろそうとしてきたので、〈詩織〉はすぐさまバックステップで一旦距離を取る。

 

が、〈詩織〉の身体はいつのまにか切り裂かれていた。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3882点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 4998点』

 

 

詩織「なっ!?い、いつの間に……??」

蒼介「わざわざ種明かしをするつもりはないが、お前に一つ言っておく。確かにお前が振るう壱から陸の型は私以上のキレであると認めよう……だがお前は漆以降の型を、習得はおろか伝授すらされていないようだな。水嶺流は壱から拾の型全て揃うことで初めて、全ての局面に対応できる無敵の流派と成り得る。それをこれから教えてやろう」

 

 

 




和真君は蒼介君が醜態をさらすと、すぐさま有り得ないほどボロクソに貶します。蒼介君は和真君が対等の実力者と認めていますので、そんな彼がグダグダしていたら……そりゃキレますね、はい。


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準決勝⑤『蜃気楼』

今回で終わらせる予定だったのに……
次回!次回で必ず決着を着けます!


鉄人「まったく、唐突にバカなことをしおって……お前も段々Fクラスに毒されてきたんじゃないか?」

和真「ハハッ、言われてみりゃあそうかもなぁ」

鉄人「もしくは守那さんに似てきた-」

和真「おい待てや筋肉ダルマ。言って良いことと悪いことの区別もつかねぇのかコラ」

鉄人「ダメな方にカテゴライズしているのか今の台詞を!?」

 

守那に似てきたと言い切る前に、有り得ないほど怒りを露にする和真。(実の息子をライオンの群れと一緒に閉じ込めるような人とは言え)仮にも父親に対してのあんまりなセメント対応に鼻白む鉄人だが、その様子を見た和真は呆れるようにやれやれと肩を竦める。

 

和真「ほんっとダメだなアンタは……そんなんだから学生時代同級生の女子に『西村君って真面目で誠実な人だけど、典型的いい人止まりだよね。結婚とか絶対できなさそう(笑)』とか言われるんだよ」

鉄人「ちょっと待て!?どうしてお前がそのことを知っている!?」

和真「あのクソ親父の辞書に『機密事項』や『他言無用』なんて文字は無ぇ」

鉄人「…………やっぱりあの人の仕業か」

和真「な?アイツに似てきたなんて、これ以上無いってくらいの侮辱だろ?」

鉄人「そうだな、俺が間違っていた。スマンな柊……まあそれはそれとして、誰が筋肉ダルマだ」

和真「いてて、暴力反対」

 

軽めにヘッドロックをかける鉄人に、腕を差し込んで決まらないよう抵抗する和真。ほのぼのしてるんだかそうでないんだか微妙なやりとりが繰り広げられている中……

 

 

ブゥゥゥ…!

 

 

鉄人(これは……緊急メール……!)

 

突如鉄人のポケットから携帯電話のバイブが鳴った。余談だが鉄人は携帯電話を二つ持ち歩いている。一つは鉄人が元々持っている機種。生真面目な鉄人は勤務中は常にサイレントマナーモードにしているので、バイブ音を鳴らしたのはこちらの携帯電話ではない。そしてもう一つ、バイブ音を鳴らした方の携帯電話は少し前に綾倉先生から持たされた機種。『アドラメレク打倒』の志を共有した者が所持しており、この携帯にかかってくる電話及びメールはまず間違いなく緊急の内容である。

 

鉄人「(パカッ)………。急用ができたので俺はここを離れるが、もうバカな真似はするんじゃないぞ」

和真「りょーかいりょーかい」

 

メールの内容を読み終え真剣な顔つきで控えスペース、ひいてはコロッセオから出ていく鉄人を、和真は黙って見送った。

 

和真「………気になるっちゃ気になるが、いち学生の俺がしゃしゃりでるのもなんだし今は放っておくか。それより試合の方は……おっ、どうにか五分にまで持ち直せたみてぇだなソウスケの奴」

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 3852点』

 

 

さっきまでの点数を考えると、蒼介が五分に持ち直したという和真の感想は正しいように思える。が、実際は真逆であり、和真が見ていなかった間の試合の運びは漆の型・狭霧と捌の型・夕凪を組み合わせたカウンター戦術に詩織が翻弄されまくり、そして今ようやく対応し始めたという状況である。

 

詩織「……随分と点数減らされちまったけど、どうにかアンタの暗殺術に慣れてきたよ」

蒼介「ほう……確かに漆の型・狭霧は本来暗殺専用の技だが、よくぞ見抜いたものだ」

詩織「私もアンタと同じで観察は得意なんだよ。……おそらく漆の型・狭霧とはミスディレクションと死角からの攻撃の組み合わせだろう。視線を誘導された上に死角から斬られたんじゃあ、いつ攻撃されたかわからなくなって当たり前だ。ましてや攻撃を受け流されるとほぼ同時に斬られてたんならなおさら……ね」

蒼介「……重ね重ね、よくぞ見抜いたものだ。そこまでわかっているなら、このカウンター戦術の弱点も理解しているのだろうな」

詩織「当たり前だよ。“狭霧”は暗殺として使わない場合、こちらの攻撃への反撃でこそ真価を発揮する技。“夕凪”に至ってはこちらが攻撃しなければ使いようがない。つまり……その戦法は私から攻撃しないと機能しないんだろ?」

蒼介「…………ご名答」

 

そう、二人がこうして呑気にクイズの答え合わせみたいなことをしている理由は、〈詩織〉が攻めようとしないために膠着状態に陥ったからである。こうなったからには我慢比べ、どちらか先に動いた方が不利になる持久戦の幕開け……と思われたが、蒼介はすぐさま切り札をきる。

 

蒼介「ふむ……根比べは苦手ではないが、あまり観客を待たす訳にはいかないな……」

 

 

 

 

 

ぴちょん……………………ヒィィィイイイイイン………

 

 

 

 

蒼介「故にここからは全力で臨もう」ヒィィィイイイイイン…

 

大海の如き圧迫感を放ちながら超集中状態に入った蒼介をを前にして、しかし詩織の闘志はひと欠片も揺らがなかった。何故なら…

 

詩織「さっきの試合を見てなかったのかい!?私に“明鏡止水”は通用しないよ!」

 

明久の“明鏡止水”を打ち破ったときのように、詩織は右手を上に左手を下に大きく広げた。

 

蒼介「無駄だ」ヒィィィイイイイイン…

詩織「っ!?何を……!」

 

それに対して蒼介は両手を横いっぱいに大きく広げる。詩織は怪訝に思いつつもそのまま猫騙しを断行し、蒼介もそれに合わせるように猫騙しをする。

 

 

バチィィィイイイイインッッッ……

 

 

両者の放った音の爆弾が空中で激突し跡形もなく消失する。そして蒼介は依然として“明鏡止水”の境地にのままであった。

 

詩織「なっ……!?何故解けない!?」

 

両腕に走る激痛を堪えつつ困惑する詩織に、蒼介は涼しげな表情で答え合わせを行う。

 

蒼介「飛沫、か……おそらくは“明鏡止水”を破るためお前が独自に開発した技なのだろう。この技の肝は音による振動で相手の三半規管を狂わせ“明鏡止水”に亀裂をいれることで、実は音の大きさ事態にはあまり意味が無いのだろう。ならば対策は簡単だ。同じ大きさの音で相殺して衝撃をこちらに届かせなければいい」ヒィィィイイイイイン…

詩織(なっ……たった一度見せただけでそこまで見抜いたのか!?それに同じ大きさの音で相殺するだって……!?そんな神業を、さもできて当然みたいに説明するんじゃないよ!……これが“明鏡止水の境地”、1/100の可能性すら容易く掴み取るとされる水嶺流の奥義……!)

蒼介「ではそろそろ……

決着を着けよう!」ヒィィィイイイイイン…

詩織「っ!」

 

〈蒼介〉は草薙の剣を構え急加速し、ジグザグに蛇行しながら〈詩織〉に接近する。しかし同じ流派を扱う詩織には、蒼介がどう攻めてくるか予想できた。

 

詩織(おそらく一度急減速を入れ、間合いに入る直前で急加速。水嶺流の基礎中の基礎、最低速から最高速へ移り変わる緩急……壱の型・波浪による真正面からの奇襲。どういうつもりだい蒼介……私にそんな単調な攻めが通用するとでも……?)

 

小さくない憤りを覚えつつも、〈詩織〉は手堅くカウンターの準備に入る。どう攻めてくるのかわかっているならば、どれだけ緩急差があろうともカウンターを決めるのは、詩織にとってはそう難しくもない。

 

 

……想定した通りに相手が動くならば、だが。

 

詩織(………おかしい……そろそろ減速しないと急加速を挟むタイミングが……まさか私の裏をかいてそのまま突撃してくる-

 

 

は……?)

 

詩織が呆気に取られ頭が真っ白になったのも仕方がない……突如として〈蒼介〉が煙のように消えてしまったのだから。

 

 

 

鉄平「詩織、後ろだ!!!」

 

 

 

詩織「-っ!?(バッ!!)」

蒼介「遅い!」ヒィィィイイイイイン…

 

観客席からの鉄平の声に反応して〈詩織〉は後ろを振り向くが時すでに遅く、振り向いた瞬間〈蒼介〉の振り下ろした草薙の剣が〈詩織〉を斜めに切り裂いた。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 2618点』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「い、いったい何が起きたの!?」

飛鳥「蒼介の召喚獣があっさり綾倉さんの召喚獣の後ろへ回り込んだようにしか見えなかったけど、綾倉さんがそう簡単にバックを取られるとは思えないし……」

秀介「まあ遠目から見たらそう見えるよね。だけど召喚獣の視界とリンクしている綾倉さんには、煙のように消えたようにしか見えなかっただろうね」

 

実を言うと、最初に急加速したものの〈蒼介〉はずっと最高速度の半分程度のスピードで動いていた。

“明鏡止水”状態での“波浪”は直線的な加減速だけでなく、曲線を描くような緩急をつけられる。

つまり〈蒼介〉は間合いに入った瞬間最高速度まで加速し、さらに円の軌道を描くように〈詩織〉の死角を縫うように抜き去った。ご丁寧に視線誘導まで織り混ぜて相手の注意を反らした上で。

 

秀介「あれこそ第壱の型・波浪と漆の型・狭霧の複合技……蜃気楼。これは勝負あったかな?」

飛鳥「でも後ろに回り込まれるとわかっていれば、なんとか対策も立てられるんじゃないでしょうか?」

優子「カウンター狙いに絞れば、アタシ達でもなんとか……」

秀介「うーん……まぁ見ていればわかるよ。“蜃気楼”はそんな単純な対策が通用するほど、安い技ではないってことをね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足:「蒼介は“飛沫”の副作用による激痛で“明鏡止水”が解けたりしないの?」と思うかもしれませんが、蒼介君の“飛沫”は力ではなく技で爆音を出してるのでそもそもノーダメージです。 

詩織→両の手でお互いに衝撃を送り合って爆音を発生させる。

蒼介→両の手のひらで空気を包み込み、それを破裂させるようにして衝撃を拡散させ爆音を発生させている。






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準決勝決着

今回はそこそこ長いです。

ついに詩織さんの謎が解き明かされる……!



蒼介「ハァッ!」ヒィィィイイイイイン…

詩織「む……!」

 

右斜め前から斬り込んでくる〈蒼介〉に対し、〈詩織〉は七支刀を構え迎撃体勢を取る。が…

 

蒼介「どこを見ている!」ヒィィィイイイイイン…

詩織「っ……!?」

 

次の瞬間〈詩織〉は()()()()()から斬られていた。咄嗟に体を捻って急所を避けたため軽傷で済んだものの、当然ながら〈蒼介〉は容赦なく追撃してくる。

 

詩織(真正面から向かってきてるってのに、気がつけば見失って全く別の方向から斬られちまう……かといって私が正面からの突撃を無視すれば向こうはお構いなしにそのまま斬り込んで来るだろうね……!となると相手がどこから攻撃してくるか予想して、消えた瞬間に方向転換して迎撃するしかない…………んだけど…)

 

視界から〈蒼介〉が消えた瞬間に〈詩織〉は後ろを振り向き迎撃体勢を取る。が、草薙の剣は左方向から〈詩織〉を切り裂いた。

 

蒼介「ふむ、狙いは悪くないが……私の思考を容易く読めると思うな」ヒィィィイイイイイン…

詩織「そんなこと言われんでもわかってるよ!」

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 1367点』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「す、すごい……!」

飛鳥「あの綾倉さんが、こうも一方的に……!」

秀介「これぞ“蜃気楼”の真骨頂……目に移る攻撃全てが虚像かつ、“波浪”の緩急と“狭霧”の視線誘導を組み合わせることで、360度あらゆる方向へ即座に回り込み奇襲をかける。これを打ち破るには、えっとそうだねぇ……」

 

秀介は少し考える素振りを見せたものの、詩織にとって現実的な案が思い浮かばなかったのか、すぐに苦笑しつつ肩を竦めた。

 

秀介「和真君のように並外れた反射神経や、常識では説明できない優れた直感があるなら強引に突破できそうけど、そうでない場合は蒼介がどの方向から攻撃してくるか読み切ればどうにかなる。ただ、あまり現実的な手段とは言えないねぇ……」

飛鳥「ええ、そうですね……蒼介は読心の達人、相手の推測を逆手に取ることぐらい、容易くやってのけるでしょうね」

優子「おまけに今の代表は超集中状態。読心の精度も平常時の比じゃないでしょうね」

 

あの和真をして「勝ち目が無い」と言わしめた程、蒼介は腹の探り合いに長けている。彼に読み合いでまともに対抗できるのは今のところ肉親である秀介と藍華、稀代のペテン師である梓ぐらいではないだろうか。

ましてや今の蒼介は“明鏡止水”の境地にいるため、感知能力が桁違いにはね上がっている。こうなるともはや梓でも太刀打ちできないだろう。

 

飛鳥(……うん、ほんの少しハラハラさせられたけど、この分だとこのまま危なげなく蒼介の勝ち-)

秀介「………ほほぅ。飛鳥君に木下君、どうやら勝負はまだこれからのようだ」

飛鳥「え……」

優子「避けた……?」

 

興味深そうに笑みを浮かべる秀介に促され再びフィールドに視線を移すと、〈蒼介〉の放った斬撃を〈詩織〉が紙一重でかわしていた。

 

 

 

 

蒼介「……よくぞかわした。では、これならどうだ?」ヒィィィイイイイイン…

 

斬撃を避けられても何ら動じることもなく、〈蒼介〉はすかさず〈詩織〉の真後ろに回り込み、薙ぎ払うように剣を振る。

 

詩織「……………ハッ!」

 

〈詩織〉が振り返ったときにはもう既に自身の喉元を切り裂く寸前であったが、〈詩織〉は瞬間的に全身の力を抜きつつ、自身に迫る刃の軌道に沿って体を折り曲げてギリギリのところで回避する。

その後も何度か別の角度から切りかかるが、全て紙一重でかわされる。一見もう少しで捉えられそうだが、このまま単調に攻め続けても決して捉えられないと蒼介は推測する。そして〈詩織〉の神回避のからくりも、おおよその見当がついた。

 

蒼介「……私の太刀筋を見切ることに専念した、脱力による最小限の回避か」ヒィィィイイイイイン…

詩織「!……この短時間でそこまで見抜かれちまうとはね。ああそうさ、私じゃアンタの攻撃を先読みするなんてできそうも無いからね。苦肉の策として、ギリギリまで見極めに徹して最小限の動きでかわす。私だけの水嶺流の型……名付けて濃霧。そう簡単に破られはしないよ」

蒼介「なるほど、実に見事な戦型だ。……しかしまるで攻める気の無い戦法で、どうやって私に勝つつもりだ?」ヒィィィイイイイイン…

 

そう、詩織の“濃霧”は防御の型。

しかも相手の攻撃を見切ることに全霊をかけているため、同じ防御の型でも“夕凪”と違って反撃に転じることができない。それではせいぜい時間稼ぎにしかならないだろう。だが苦肉の策だと述べていることから、詩織もそのことはわかっている。

 

詩織「そうだね……それについては、()()()()()()()()()()()()()()()()考えるよ」

蒼介「……なるほどな」ヒィィィイイイイイン…

 

そして詩織の狙いはまさにその時間稼ぎであった。

蒼介の“明鏡止水”は明久のそれとは比べ物にならない練度であるが、それでもまだ父・秀介のように完全ではないため、超集中状態でいられる時間はそう長くない。“明鏡止水”さえ解けてしまえば“蜃気楼”の精度は大幅に下がり、詩織でも反撃するチャンスが巡ってくるかもしれない。

 

詩織「……このアンタに限らず、この会場にいるほとんどの奴が勝負はついたと確信していたんだろうけど…………甘いんだよ!そう簡単にこの私を、討ち取れると思うなよ!」

蒼介「……!」ヒィィィイイイイイン…

 

気迫に満ちた詩織の啖呵に、会場のほとんどの人間が気圧される。威圧感の絶対値自体は和真や蒼介に劣るものの、彼女は紛れもなく人の上に立つ資質を持っていると誰もが確信するほど、非常に堂々たる振る舞いであった。

 

蒼介(私の“明鏡止水”の持続限界はおおよそ20分……。理論上あと十分以上は持つ計算だが……いつ切れてもおかしくないと想定するべきだな)ヒィィィイイイイイン…

 

その理由は、詩織があまりにも似すぎているから。容姿こそ全くの別人だが、その振る舞いや剣捌きが嫌が応にも蒼介にある人物を思い起こさせた。それは“明鏡止水”に亀裂を生じさせる雑念になりかねないとわかっていても、思わず連想してしまうほど似通っていた。

 

蒼介「どうやら時間をかけるのは得策ではないな……次の攻撃でケリを付けさせてもらおう」ヒィィィイイイイイン…

 

〈蒼介〉は〈詩織〉から少し距離を取り、草薙の剣を鞘に戻した。どうやら蒼介は水嶺流拾の型・海角天涯で勝負を決めようとしているようだ。

 

詩織(千莉との試合で使ったことが仇になったね……その技は既に見切っている!)

 

が、詩織にはこの技の正体におおよその見当がついていた。

 

詩織(その技は後の先の究極とも言えるカウンター抜刀術……“明鏡止水”で極限まで研ぎ澄まされた観察力で相手の動きを読み切り、相手が自分の間合いに入った瞬間刃が敵を切り裂くよう抜刀のタイミングを意図的に早めた技だろう?ご丁寧に相手を狙ってね。つまりアンタがその剣を抜かれたら、こちらに防ぐ術はほとんど無いことを意味する。……だったら抜かせなきゃいい。その技がカウンター抜刀術である以上間合いに入らなきゃどうすることもできないんだろう?当初の予定通り-)

蒼介「時間稼ぎを続行する……か?」ヒィィィイイイイイン…

詩織(っ!?私の考えが、読まれて……!?)

蒼介「だが残念だったな……

 

 

 

 

そこは既に私の間合いだ」ヒィィィイイイイイン…

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 戦死』

 

 

詩織「なっ…………!?」

 

彼女が言葉を失うのも仕方がない。

気がつけば〈蒼介〉が〈詩織〉に肉薄し、草薙の剣が〈詩織〉を切り裂いていたのだから。何が起きたのかは詩織の観察眼でも見抜けない。ただ一つわかっていることは、この試合は蒼介が勝ったということだけだ。

 

綾倉「勝者、鳳君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀介「ふむ、予想通り蒼介の勝ちか。

さーてと、それじゃあ…」

飛鳥「貴賓席に向かいましょう」

秀介「ははは、着いた当初はそのつもりだったんだけど、そうも言ってられなくなってね……ここは予定を変更して-」

藍華「私とのお話し合いはここでしましょうか、秀介さん?」ゴゴゴゴゴ

秀介「おっと、これは流石にどうしようもないね」

飛鳥「あ…藍華、さん……」

木下(和真は今朝のアタシがこう見えてたのかな?そりゃビビるわね……)

藍華「木下さんと飛鳥さん、ここまでの監視ありがとうございました。後は私が引き継ぎます」

秀介「おいおい飛鳥君。私には鳳会長などとよそよそしいのに、藍華さんは名前呼びかい?随分と不公平-」

藍華「黙 り な さ い」ゴゴゴゴゴ…

秀介「おお怖い怖い」

 

厨房でもないのに具現化しかねないほどの怒気を伴って、鳳藍華がいつの間にか秀介の後ろに回り込んでいた。あまりの怒気にそこら一体の観客がいつの間にか避難しているが、向けられている当の秀介は困ったように苦笑するのみであった。気弱な人ならショック死しかねないほどの怒気を平然と受け止められるのは、流石は世界有数の大企業の頂点に立つ者と言うべきか、それとも彼が底抜けに図太いからと言うべきか。

 

藍華「………式典も大詰めなので説教は後回しに致しますが、今はとにかく貴賓席までついてきてもらいます。表彰式まで欠席したとなれば“鳳”の今後に響きかねませんから」

秀介(うーむ……ここは流石におとなしく従っておこうかな、一応保険はかけておいたしね。後は彼らが上手くやってくれると信じて…)「了解したよ藍華さん。それでは当初の予定通り、貴賓席へ向かうとしようか(スタスタスタ…)」

 

抵抗は無意味と判断したのか、秀介はおとなしく貴賓席に向かって歩きだした。が…

 

藍華「秀介さんそちらは逆方向です。……まさかとは思いますが、この期に及んでまだ逃げようと-」

秀介「おっとすまない、こっちか(スタスタスタ…)」

藍華「…………やはり素ですか……。あと逆方向と申したのに何故右に行くのですか……」

秀介「ふむ、それもそうだね藍華さん。逆方向、と……(スタスタスタ…)」

藍華「いや、そのままUターンすれば左に行くでしょうが!?私が連れ添うので動き回らないでおとなしくしていなさい!」

飛鳥(う、噂には聞いてたけどここまでなの……!?)

優子(そりゃ迷子になるわよ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩織「………負けたよ、完敗だ。大したもんだねぇ、真の水嶺流とやらは」

蒼介「いや、勝ちはしたがあのまま長引けばこちらも危なかっただろう。それに途中のカズマのアレが無ければ、私はあのまま負けていたかもしれん。………礼を言う、お前との闘いを通して、私がまだ未熟であることを再確認することができた。それと……紛い物呼ばわりしてすまなかったな」

詩織「ははっ、気にする必要は無いよ。……もし私がアンタの立場でも、門外不出の剣術流派をどこの馬の骨とも知らない奴が扱っていたら、きっといい気はしないだろうからね」

 

蒼介の謝罪を笑って受け流し、詩織は踵を帰して歩き始める。色々と詩織に問い質すことがある蒼介が呼び止めようとするも、詩織が振り向くことなく手でそれを制した。

 

詩織「そう焦る必要は無いさ、近い内にすべてがわかる。アンタにはこれから好敵手との決戦があるんだろ?今はそれに集中しな……()()()()()

蒼介「ーーーーーっ!!!」

 

最後の一言がきっかけで蒼介は確信した。自分の胸騒ぎが、気のせいなどではなかったことに。

驚愕のあまりそのまま詩織を見送ってしまうが、しばらくして冷静さを取り戻した蒼介は、彼女の父親()()()()()()()()()()()綾倉先生に質問する。

 

蒼介「綾倉先生……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

綾倉「え?そりゃあ我が子のことですから勿論覚えて………………あれ?」

 

尋ねられた綾倉先生は何故そんなことを聞くのか疑問に思いつつも質問に答えようとして、不思議そうに首を捻る。

 

 

 

 

 

 

綾倉「おかしいですねぇ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

蒼介「………そうですか」

綾倉「むぅ……私も年ですかね……。すみません鳳君、すぐに思い出しますので少々-」

蒼介「いや、もう解決しました。ご協力感謝します」

綾倉「……?そうですか。あ、決勝戦は15分後に行いますので、準備が整うので控えスペースで待機しておいてください」

蒼介「………わかりました」

 

控えスペースへと歩きながら、蒼介は頭の中で集まった情報を整理する。

 

蒼介(あの綾倉先生に限って……いや、たとえどれだけ物忘れが多い人だろうと、実の娘の幼少期の記憶を全て忘却するなどありえん。考えられるとすれば、最初からそんな記憶など存在しなかった……もっと言えば、綾倉先生に「自分には綾倉詩織という娘がいる」という認識を植えつけ、そして二年間何食わぬ顔で綾倉先生の娘を演じていたと推測するのが妥当か……。それにあの性格、水嶺流の使い手である点、そしてさっきの台詞を考えると……間違いなくあの人だ。……私の知る限りあの人はいかなる理由があろうと、そんなことをするような下種ではない。裏で糸を引く存在が必ずいる。そしておそらくそいつは…………今すぐにあの人を追いかけたいという気持ちが無いと言えば嘘になる。だが……)

 

そこで一旦思考を切り、観客席のある一点に視線を移す蒼介。視線の先では秀介が藍華に手を引かれて貴賓席へ向かって移動していた。

 

蒼介(父様なら当然気づいたであろうし、何らかの手を打っている筈だ。となればあくまでいち学生に過ぎない私のしゃしゃり出るべきではない。そもそもこの式典の締めくくりと言うべき決勝戦を、“鳳”のトップの実子である私が投げ出すわけにはいかない。そして何より…)

 

控えスペースに着いた蒼介は、寛ぎつつも好戦的な笑みを浮かべている和真を見据える。

 

蒼介(こいつからは……逃げるわけにはいかない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フリーダム・コロッセオ』から抜け出し、校舎を歩く詩織を宮阪桃里……否、ベルゼビュートが呼び止める。

 

ベル「よう、久しぶりじゃねーか(^-^)/」

詩織「……何の用だい?今のアンタは『宮阪桃里』なんだから、おとなしく貴賓席で待ってなよ」

ベル「相変わらずつれねーなー…半年ぶりに出てこれたんだし、少しは愛想よくしろよー(●`ε´●)」

詩織「そんな義理は無いね。……アンタわかってんのかい?アンタ達に協力すること自体、私にとっては業腹なんだよ」

ベル「ったく、ほんっと相変わらず頑固な奴だなお前はー。綾倉詩織……いや、

 

 

 

 

 

鳳紫苑(オオトリ シオン)って呼ぶべきか?(-ω- ?)」

紫苑「……どっちも不正解だよ。綾倉詩織は架空の存在だし、私にはもうあの子の……蒼介の姉を名乗る資格は無い。私はアンタの同類で、ただの死に損ないの化け物さ」

 

詩織……いや紫苑は寂しげな表情で、しかしはっきりとそう言い切った。

 

ベル「……ふぅん?まぁ俺としちゃどうでも良いけどよ……それよりもダゴン、志村泰山の洗脳が解けかかってたが、アレお前がポカしたわけじゃねぇよな?(-ω- ?)」

紫苑「丁度私の人格が入れ替わっている途中のときだから万が一はあるけど、おそらくあれは泰山が自力て解きかけてたんだろうね」

ベル「やっぱそうか!だったらアイツにも“玉”の資質の片鱗が-」

紫苑「シッ……お喋りはここまでだね」

ベル「は?( ・◇・)?」

紫苑「盗み聞きとは行儀が悪いね。私らに用があるならさっさと出てきたらどうだい」

 

紫苑が曲がり角の先を睨みつつそう告げられ、出てきたのは?

 

 

 

 

 

 

 

 

守那「フハハ、もう見つかってしまったか。アイツの娘だけあって気配に敏感だな」

高橋「こうなれば直接拘束して聞き出すしか無さそうですね」

鉄人「覚悟しろアドラメレク一派、貴様らに教育的指導を施してやろう!」

 

 

 




今明かされる衝撃の真実ゥ!
詩織=ダゴンだと予想できた人は結構いそうですが、詩織=ダゴン=蒼介の姉だと予想できた人はいますかね?

まあ詳しくは和真VS蒼介が終了してからで。
あ、この対決はじっくり書きたいので週一くらいのペースで投稿になると思うのでご了承ください。次の投稿は台風24号さんのご機嫌次第でもっと延びるかもしれませんが……。


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決勝戦・柊和真VS鳳蒼介

【おまけ】

御門空雅が持ち歩いている物一覧。

・財布
・GPS
・携帯電話×2
・カロリーメイト(3日分)
・各種サプリメント
・コンポタの缶(1ダース)
・オニオンコンソメの缶(1ダース)
・煙草(2カートン)
・ジッポライター
・USNCコンバットテント
・巻き取り機能付き鈎縄
・サバイバルナイフ
・バーナーブレード
・ガソリン入りペットボトル
・ハンマー
・様々な薬品(危険物取り扱い資格が必要なものもいくつか所持。資格は取得済み)
・ドクウツギ
・テトロドキシン
・チェーンソー
・PPS M9A1バズーカ
・スタングレネード×5
・手榴弾×5
・カーボンナノチューブワイヤー(300m)
・催眠ガススプレー
・ガスマスク
・拳銃(麻酔弾)
・自白薬
・睡眠薬
・盗聴器
・発信器
・金属探知器
その他色々…

源太「国家工作員か」

御門「教師だよ今は」

和真「いや、アンタこれ……職質されたら一発で捕まるだろ……」

御門「公僕なんぞに捕まるほどやわな鍛え方はしてねーよ」

和真「そういう問題か!?……あと、なんで危険物取り扱い資格はきっちり用意してるんだよ?」

御門「在学中にな、綾倉の奴が『1ヶ月以内に何らかの資格を取れなきゃ特製野菜汁飲み放題の刑』とか言い出しやがってな、そんときに取ったんだよ……」

蒼介「綾倉先生……それにしても、これだけの量をいったいどうやって持ち歩いてるのですか……?」

御門「あー?んなもん手品だ手品」

徹「見事な収納性だと感心するがどこもおかしくはないね」

和真「いやだから無理あるだろ!?お前ら二人とも手品って言っときゃまかり通るとでも思ってんの!?」





綾倉「……さて会場の皆様方、いよいよ残すところあと一試合となりました。この試合で第一回【サモン・ビースト・フェスティバル】……通称『S・B・F』の優勝者が決まります!

決勝に勝ち進んだ生徒はいずれも第二学園の生徒です。ここまでご覧になった皆様方には、もはや彼らの説明など必要ないでしょう……それではこれより決勝戦、柊和真君VS鳳蒼介君の闘いです!それでは両選手はステージに入場してください!」

 

ワァァァアアアアア!!!

 

控えスペースから二人が入場すると同時に、まるで爆撃でもされたかのような割れんばかりの歓声がコロッセオ全体に響き渡った。並大抵の人間なら萎縮して動けなくなるのではないかという程の大音量を背に浴びつつも、紅き修羅と蒼の英雄は眉ひとつ動かさずにフィールドに向かって歩を進める。そのことを称賛するか異常に思うかは判断が分かれるだろうが、彼らが頂点を争うに値するということに異を唱える者はいないであろう、非常に堂々たる佇まいであった。

フィールドに到着すると、それまでひたすら無言だった和真が口を開く。

 

和真「おいソウスケ、綾倉の嬢ちゃんを追わなくて良かったのか?なんか知らんけど、あの女と何か因縁でもあったんだろ?」

蒼介「その件は先程会場に到着した父様に任せてある。……私がお前との勝負から逃げる訳が無いだろう」

和真「ふーん……何でも良いけどよ、さっきの準決勝みてぇに腑抜けやがったらわかってんだろうな?」

蒼介「肝に銘じておこう」

 

言動こそ刺々しいが、和真の声色から負の感情は感じられない。というより和真の心の内は既に闘争心で満たされており、そのような余計な産物が入り込める余地などハナからありはしない。 

 

綾倉「それではお二方、科目の選択を-」

和真「その必要はねぇよ先生」

蒼介「同感です。我々の闘うフィールドは、総合科目以外有り得ません」

綾倉「……でしょうね」

 

両者ともに各教科のバランスが良く、得意不得意の差が無い。故に最も自身の力を発揮できるのは、二人ともに総合科目である。そのため綾倉先生は特に驚きもせず、総合科目のフィールドを展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「いよいよ決勝戦か……ねえ雄二、どっちが勝つのかな?」

雄二「明久、和真に勝ってもらわなきゃ困るってさっきも言っただろ。……と言いたいところだが、正直言ってどちらが勝つか検討もつかねぇ」

美波「珍しいわね、アンタがそんなこと言うなんて」

 

頭脳とプライドと高さは文月でも指折りである雄二が、こうもはっきりとお手上げ宣言をするのは初めてかもしれない。Fクラスのメンバー達はもとより、幼馴染みである翔子ですらやや驚いた表情で雄二に視線を向けている。

そんな周りの心情を汲み取ったのか、雄二は肩を竦めつつ説明する。

 

雄二「……仕方ないだろ、アイツらがいろんな意味で未知数過ぎるんだからよ」

秀吉「んむ?雄二、どういうことじゃ?」

雄二「まず和真だが、昼食時に和真がちらつかせた“気炎万丈の境地”とやらがどういうものか、そしてそれが試験召喚戦争でどう役に立つかはわかんねぇ。かといって鳳も……」

ムッツリーニ「………“明鏡止水”に入った状態の鳳を、追い詰めた人がまだいない」

翔子「……だから、彼はまだ強さの底が見せていない」

雄二「そういうことだ。……ま、たとえそれらがわかっていたとしても、あの二人の勝敗を予想することは困難だろうがな」

姫路「え?どうしてですか?」

雄二「意図的かそうでないかに関係無く、あいつら二人とも周囲への影響力が半端じゃねぇ。そんな奴らが直接ぶつかるんだぞ?……試合中に急成長しようが突然覚醒しようが不思議じゃないだろ」

明久「いやいや雄二……いくらあの二人でも一試合でそんな-」

雄二「鳳が“明鏡止水の境地”とやらに至ったのも、多分前回野球大会でアイツらがぶつかったせいだろうからな」

 

実例を言われて明久及びFクラスメンバーは押し黙る。参考までに“明鏡止水”到達者の平均年齢は40前後、歴代鳳家当主の中でもトップクラスの資質を持つと言われる秀介でさえアラサー1歩手前でようやく至ったのだ。明久のような頭を空っぽにする天才、というか頭が空っぽな人間でもない蒼介がここまで早く“明鏡止水”に足を踏み入れられたのは、決して才能だけは片付けられないというのが雄二の見解だ。

 

雄二(……アイツらは完全に『混ぜるな危険』だ。本音を言えば、できればこんな前座みてぇな大会で和真を鳳にぶつけたくはなかった。はっきり言ってリスクが大きすぎるからな。……かといって和真にわざと負けろなんて言っても聞くわけないし、下手したら俺が半殺しにされかねん。それに副賞の腕輪をAクラス、それもよりによって鳳に持ってかれんのもリスキーではある……チッ、ここまで来たら腹くくるしかねぇ!絶対負けんじゃねぇぞ和真!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fクラスの主力メンバー達が揃って和真の勝利を信じて見守る一方、さっきまでバラバラに散らばって観戦していた意外と団結力の乏しい(特に徹)Aクラスの主力メンバー達も、いつの間にか示し合わせていたかのように一ヶ所に集っていた(ただし徹は除く)。

 

沢渡「さーて、柊君と代表はどっちの方が強いのかな~?実を言うと前々から気になってたんだよね~」

二宮「おい沢渡、そんなフワーっとした発言はおそらく控えるべきだろう。それにお前もAクラスなら、ここは鳳の勝利を信じるべきじゃないのか?……多分」

沢渡「フワーっとしてんのは二宮君でしょうが……。いい加減その歯切れの悪い言い回しやめなって言ってるでしょ、真面目なのかいい加減なのか判断に困るじゃないの」

二宮「む、それもそうかもしれないな……前向きに検討しておこう」

沢渡「ダメだコリャ……」

優子「はいはい二人とも、くだらない言い争いはその辺にしておきなさい」

 

優子の仲裁を受けた二人は、特に文句を言うこともなく引き下がった。この二人の口喧嘩(弱)は結構な頻度で行われるが、一度たりとも険悪な雰囲気になったことがない。軽薄な性格かと思いきや、実は思慮深く意外と場の空気を読める沢渡晴香と、真面目過ぎる故にあらゆる可能性を考えてしまい、どんな物事も決して断定することができない二宮悠太。何かとセットで扱われることも多いこの二人の相性は意外にも結構良く、その証拠に二人のコンビネーションはAクラスでも飛鳥と優子に次ぐレベルであり、予選でもその高い連携力を活かしてピースをかき集めたらしい(本戦は個人戦、かつ両者とも格上が相手だったのでそれはもう見事に散ったが)。

 

久保「まあ、確かに沢渡さんの言う通り気になるね」

佐藤「常識で考えれば強さが成績に比例する召喚獣の闘いで、鳳君に勝てる生徒がいるとは思えないけど……」

飛鳥「うん、そうね。……対戦相手がいろんな意味で常識とは無縁の和真で無ければね」

愛子「優子としては複雑なんじゃないかな~?クラスの代表である鳳君と大好きな和真君、どっちを応援するか迷ってたりして-」

優子「代表に決まってるでしょうが。優勝商品の腕輪は勿論のこと、近い内にFクラスはアタシ達に宣戦布告してくるでしょうし、ここでFクラス最強の和真を下して向こうの士気を削いでおきたいわね」

愛子「あ、うん…結構シビアなんだね……」

優子「クラスの命運がかかってるからね、勝負ごとには非情に徹するわよ。……それに私の大好きな和真は一回負けたくらいで挫けるほど軟弱じゃないわ」

愛子(そして堂々と惚気られた……)

 

少し前までちょっとからかっただけで慌てふためいていたのに……と、愛子は少し寂しくなったそうな。

ちなみに徹は先程騒ぎを起こした罰として補習室に軟禁されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「……二人とも、準備が整ったようですね。それでは召喚獣を喚び出してください」

和真・蒼介「「試獣召喚(サモン)!」」

 

ゴーグルを装着し視覚リンクを起動させた二人は、綾倉先生の指示に従って召喚獣を喚び出す。展開された幾何学模様から、片やロンギヌスの聖槍を、片や草薙の剣を携えた召喚獣が現れた。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 5714点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 7799点』

 

 

蒼介(点数差2000点ビハインド……)

和真(重てぇハンデだなオイ……)

 

誰がどう考えも蒼介が圧倒的に有利な初期点数だが、あの和真が相手では常勝を断言できる程ではない。そしてそのことは蒼介が誰よりも理解していることである。

両者は得物を構え試合開始の合図を待ったが…

 

綾倉「二人とも、申し訳ありませんがフィールドの端まで寄ってもらえますか?」

和真・蒼介「「?」」

 

綾倉先生は突然そんなことを言い出した。二人は脳内にクエスチョンマークを浮かべつつ、指示されたとおりにフィールドの端に移動する。既に視覚は召喚獣の視点なため、もしハードラックに溺愛されている明久だったりしたらフィールドの外に転げ落ちる……なんてコントみたいな光景になったかもしれないが、二人は何の支障もなくフィールドの端ギリギリで制止した。

 

綾倉「よし、これで準備完了です。それでは……ラストバトルモード、起動!」

和真・蒼介「!?」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

突如、バトルフィールドは円柱形にくり貫かれ綾倉先生と召喚獣達ごとせり上がっていき、5mほど上昇したところで制止。そしてガシャコンガシャコン…と、やたらとメカメカしい音をたてながら元の5倍ほどの広さの円状に変形、そして召喚フィールドはそれに合わせるかのように拡大した。

 

綾倉「最終決戦の舞台が従来のフィールドではつまらないでしょう。これぞ決勝戦のためだけに“桐谷グループ”が開発した特殊召喚フィールドシステム……その名も『スカイ・フィールド』です!」

(((ま た “桐 谷” か)))

 

毎度毎度、“桐谷”は派手なギミックを披露しなきゃ気が済まないのか。それでいてグループを取り仕切っていた桐谷蓮もその代理に抜擢された宮阪桃里も見るからにユーモアセンスが欠如した人物なのだから世の中わからないものである(まあ今“桐谷”を取り仕切っているのは桃里ではなくベルゼビュートなのだが)。

 

和真「ハッ、重ね重ね派手好きなこった。……個人的には嫌いじゃねぇがな」

蒼介「そうだな、賑やか過ぎるくらいが丁度良いだろう。……思えば振り分け直後にお前に宣戦布告されてから、こうしてお前と雌雄を決するまで、随分と待たされたものだ」

和真「そいつは悪かったな、待たせた分はしっかり楽しませてやるよ……対価は黒星で支払ってもらうがなぁ!」

蒼介「それはできない相談だ。私のプライドにかけてお前には……お前にだけは、負けるわけにはいかない!」

綾倉「両選手共やる気十分なようです!それでは……試合開始!」

 

決戦の火蓋が今、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園長「あの金ヅル共いったいどういうつもりさね!?」

 

コロッセオ全体がエキサイトする中、学園長は全く違う理由でエキサイトしていた。怒りのあまり大事なスポンサーを金ヅル扱いする始末である……いや、これが本音だろうか。

そろそろトーナメントが終了するので表彰式の段取りをスポンサーに伝えるべく貴賓席まで足を運んだのだが、鳳藍華・桐生舞・橘大悟・宮阪桃里の四人が姿を消していた。つまり四代企業の代表者が揃って雲隠れ、このままでは締め括りである表彰式がグッダグダになること請け合いである。

 

学園長「“橘”のバカはいつものことだけど、まさか残りの三人までボイコットとは……」

藍華「他の二人はともかく、私は少し席を外していただけですよ学園長」

学園長「っ、戻ってきたかい!いったいどこにいって………………」

 

学園長声のした方を振り向くと、藍華が秀介を引き連れてこちらに歩いてきていた。これだけ盛大に遅刻したにもかかわらず、秀介の表情からは罪悪感だの後ろめたさはまるで読み取れない。いつものように無駄にカリスマオーラを振り撒きながらムカつく程余裕のある微笑を浮かべている。

 

秀介「やぁ学園長、御壮健で何よりです」

学園長「よくおめおめと顔を出せたものだねこのバカタレが!……聞くだけ無駄だとは思たうが、この度を越した重役出勤に何か申し開きはあるかい?」

秀介「いやぁ……少々人生という道に迷ってしまって」

学園長「ほぅ、そうかい。……で、実際はどうさね?」

藍華「いつも通り迷子です」

学園長「またかい!いい加減秘書の一人でもつけろと何度も言ってるだろう!」

秀介「いや秘書ならいるんだが、最近は蒼介の身辺警護に割り振っていましてねぇ。それに彼を差し置いて秘書を雇うのは不誠実ですし」

学園長「ことあるごとに遅刻するのは不誠実じゃないのかい!?そもそもアンタは-」

 

持ち前の面の皮の厚さで学園長の説教を話し半分に聞き流しながら、秀介は重役が三人同時に姿を消したことに思考を巡らせる。

 

秀介(彼らが行動し始めたということは、アドラメレク一派が表立って行動するのも時間の問題だろうね………至急『鳳翼の七雄』を召集しよう)

 

『鳳翼の七雄』……鳳家当主直属の七人。

彼らに命を下せるのは鳳家でも“鳳財閥”でもなく、鳳家当主ただ一人。当主が入れ替わるたびに選別され、仕えた人物が当主の座を降りると同時に解体される。

その存在を知るものは極少数、構成員全てを網羅する者は当主ただ一人。

 

秀介(やれやれ……本来彼らは表立って活動すべきではないんだがね。『鳳翼の七雄』は…………鳳の闇そのものと言っても過言ではないからね)

 

 

 




さて、本格的な対決は次回からです。
フィールドのテコ入れをした理由はあの二人が闘う舞台にしては狭すぎると思ったからです。
二宮、沢渡のキャラを今さら肉付けしたのは、せっかくのオリキャラなのにモブ同然の扱いではあんまりじゃないかさと思い直したからです。

え?時任君?もう二度と出ないかもしれませんね。



『鳳翼の七雄』。
「また新キャラかよ、しかも七人も……」と思う人がいるかもしれませんが……安心してください、5/7が既存キャラないし既存キャラの身内です。




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決勝戦①『小手調べ』

【アクティブメンバーの好きな食べ物(男子)】

・和真……カツカレー、焼きそば、焼き肉

蒼介「わんぱく坊主かお前は」
和真「ほっとけ」


・蒼介……だし巻き卵、鱧のお吸い物、鮟鱇鍋

和真「後ろの二つはともかく、最初のは意外と庶民派だな」
蒼介「しかし好きだからこそ拘りが強いぞ?半端なだし巻きは断じて認めん」
和真「めんどくせっ!?」


・源太……生春巻、ロールキャベツ、オニオングラタン

和真「OLかアイツは!?に、似合わねぇ……」
蒼介「人を見た目で判断してはならないが……いくらなんでもこれは……」
和真「しかもアイツ最近料理にはまってるらしいから、これ全部自分で作ったりしてるんだよな……あの強面でこんなもんせこせこ作ってる光景思い浮かべたら腸が捩れそうになるわ」



・徹……甘いものなら何でも

和真・蒼介「「知ってた」」








蒼介「……ハァッ!」

 

先に仕掛けたのはまさかの〈蒼介〉。試合開始の合図の直後、水嶺流壱の型“波浪”による急加速で弐の型・車軸を放つ複合技“雷雨”を放った。

どちらかと言わなくとも後手必殺に比重を置いている蒼介だが、それを考慮しても和真を相手に受け身になることは危険過ぎると判断したようだ。

並大抵の者ならば認識したときには既に吹っ飛ばされているであろう、急激な緩急から繰り出される高速かつ正確無比の刺突を…

 

和真「オラァッ」

 

ガキィィィインッ!

 

しかし〈和真〉はいとも容易く防いだ。超攻撃特化のスペックである〈和真〉と言えど、流石に助走により何倍も貫通力を高めた〈蒼介〉の突きを制止した状態で受け止めるのは不可能な筈である。ならば〈和真〉はどうやって“雷雨”を防いだのか?……種明かしをすれば単純明快、〈和真〉は攻撃を受け止めたのではなく、勉強合宿で鉄人と闘ったときと同じように草薙の剣の側面を強打し弾き飛ばしたのだ。いかに強力な刺突だろうと、刺突の特性上真横からどつかれればどうしようもない。

……とはいっても言うは易く行うは難し。猛スピードで自身に迫る剣の側面を正確に捌くのは当然ながら超高等技術。使いこなすには和真のように並外れた反射神経と戦闘センスが必要不可欠になる。

 

和真「喰らえ!」

 

そして返す刀(獲物は槍だが)で〈和真〉はロンギヌスを〈蒼介〉目掛けて斜めに振り下ろす。敵の攻撃を防いでから即座にカウンターと、〈和真〉は奇しくも蒼介の得意パターンで攻める。

 

蒼介「断る!」

 

しかし〈蒼介〉は捌の型“夕凪”で迫り来るロンギヌスの軌道をずらし攻撃を受け流した。攻撃に特化した〈和真〉の渾身の一撃はもはや腕輪能力に匹敵する程の破壊力だが“夕凪”は技の性質上、力の強弱に関係なく受け流すことが可能であるため、どれだけ強力だろうと単発の攻撃ではほとんど無意味と言っていい。

 

蒼介(……ここだ!)

 

さらに〈蒼介〉もすかさず〈和真〉同様返す刀で斬りかかる。それも漆の型“狭霧”による視線誘導を織り混ぜた死角からの攻撃である。いかに並外れた反射神経を持つ和真でも、見えもしない攻撃に反応することはできない。

 

和真「させるかぁっ!」

蒼介「なっ……!?」

 

しかし和真はこれまでの自身の試合や蒼介の水嶺流剣術を客観的に分析し、〈蒼介〉が反射の攻略に“狭霧”を用いてくるであろうことを読んでいた。よって〈和真〉は〈蒼介〉にとって必殺とも言えるタイミングの少し前に空中に跳び上がった。本来なら達人同士の闘いで無闇にジャンプするなど愚策中の愚策、どうぞ狙い打ちしてくださいと言っているも同然の自殺行為であるが、驚くべきことに〈和真〉は跳んだ直後に〈蒼介〉の草薙の剣を踏み台にし、そのまま大きく後方へ向かってもう一度跳び大きく距離を取った。

 

蒼介「私の剣を踏み台に使うとは……お前は相変わらず常識外れな闘い方だな」

和真「そういうお前は真面目過ぎるんだよ。ターミネーターみてぇに寸分違わない動きしやがって」

蒼介「ならばターミネーターらしく、お前を抹殺するとしよう!」

和真「ハッ、上等だ!スクラップにして溶鉱炉に直接叩き込んでやらぁ!」

 

両者は得物を構えてトップスピードで距離を詰め、目にも止まらぬ高速剣舞を繰り広げる。その凄まじさたるや、会場のほとんどの人が目で追いきれないほどであった。

 

キキキキキキキキキィインッ!!!

 

〈蒼介〉が繰り出す参の型“怒濤”による無駄の無い流麗な高速剣撃を、〈和真〉は超反射を駆使して真っ向から迎撃する。お互い一進一退の攻防……しかし戦況は徐々に〈和真〉に傾いていく。

 

和真「オラオラオラオラ、オラァッ!」

蒼介「くっ…やはり単純な力比べは分が悪いか……!」

 

その理由は単純明快、二人の召喚獣のパワーの差であった。総合的なスペックならともかく、良くも悪くもバランス重視の〈蒼介〉では超攻撃特化の〈和真〉相手に、真っ向からのパワー勝負では流石に旗色が悪い。故にぶつかり合いの一撃一撃ごとに〈蒼介〉は押されていく。

 

蒼介「このままでは-」

和真「もらったぁっ!」

蒼介「っ!」

 

攻撃を迎撃する形であった〈和真〉が、〈蒼介〉の連撃を先読みし自らが先んじてロンギヌスを振るう。結果、草薙の剣を握った腕を大きく弾き飛ばされ大きく隙を晒してしまう。そんなあからさまな攻めのチャンスを〈和真〉が見逃すはずもなく、〈蒼介〉目掛けて刺突を放った。

 

 

 

 

 

 

が、それは罠。

 

蒼介「カズマよ、まだわからないのか?……そのような単調な攻撃、私には通用しない!」

 

すぐさま草薙の剣を引き戻し、“夕凪”で受け流す準備に入る〈蒼介〉。力負けして弾き飛ばされたにしては早すぎる立ち直り……否、〈蒼介〉は激突の瞬間自分から腕を大きく後ろに引き、意図的に隙を作ったのだ。そうして誘い込んだ〈和真〉の大技を受け流し、大きく隙ができた〈和真〉に今度こそ“狭霧”でのカウンターを喰らわせるのが蒼介の狙いのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

和真「ハッ、しゃらくせぇ!」

蒼介「ば…馬鹿な!?」

 

ガキィィンッ!

 

しかし〈和真〉はその技を力技で強引に突破した。それは和真にしかできない“夕凪”の攻略法……〈和真〉は〈蒼介〉が刺突を受け流そうと草薙の剣をロンギヌスに添えたまさにその瞬間、超反射でロンギヌスを握る手首を強引に返した。そんな強引な動きをされてしまえば、精密な剣捌きとシビアなタイミングを要求される“夕凪”をうまく扱えるはずもなく、“蒼介”は力を受け流しきれず弾き飛ばされてしまう。

 

和真「今度こそもらったぁっ!」

蒼介「……!」

 

〈和真〉はすかさず距離を詰め二度目の刺突を行う。弾き飛ばされた直後を狙われては流石の〈蒼介〉でも避ける術がなく、ロンギヌスが直撃した〈蒼介〉は大きく後ろに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

和真「なっ!?」

蒼介「………」

 

しかし、この攻防の勝者は蒼介であろう。

何故なら……。

   

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 5026点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 7342点』

 

 

『え……?』

『な、なんで柊君の方が大きなダメージを受けているの!?』

 

両者の点数差は縮まるどころか、さらに広がってしまっていたのだから。

 

蒼介(ある程度予想はしていたことだ……お前が“夕凪”を破ってくるだろうことはな)

和真(やられたぜ……まさかここまで想定していたとはな。わかっちゃいたが、読み合いじゃ分が悪すぎるなオイ)

 

観客が混乱する中、和真は攻撃の手応えと自らの召喚獣についた小さい切り傷から、ここまでの攻防が蒼介の手の平であったことに気づいて顔をしかめる。

 

和真「……それにしても、潔癖症のお前にしちゃ随分と泥臭い戦法を取るじゃねぇかソウスケ」

蒼介「もとよりお前相手に無傷で勝利できるなどと自惚れてはおらん。……勝つために必要ならば、スマートさなど躊躇いなく投げ捨てるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「くそっ、化け物め……!」

美波「ね、ねぇ坂本……なんで攻撃を喰らってない柊がダメージを受けてるの?それも鳳より大きな……」

翔子「……和真がダメージを受けたのは、多分鳳の召喚獣が攻撃を受け流しきれず弾き飛ばされたとき」

雄二「ああ、おそらくその辺りだろう。普通離れ際の攻撃なんざ大したダメージにはならないが……」

ムッツリーニ「………和真の召喚獣はパワーとスピードを重視するあまり耐久力が著しく弱い」

秀吉「バランス型とはいえ超Aクラス級の鳳の召喚獣相手では、例えかすり傷すら命取りになるというわけかのう」

姫路「で、でも攻撃に特化した柊君の攻撃が直撃したのに、どうして鳳君の召喚獣はあまり点数が減っていないのですか?」

明久「それはきっと、ぎりぎりで直撃を避けられたからじゃないかな。初めから避けるつもりがなく全力で直撃だけを避けようとすれば、鳳君には可能だと思うよ。それに加えて最後の攻撃で大きく吹き飛ばされたように見えたけど、あれは命中した瞬間に鳳君が自分から後ろに跳んでダメージを軽減したんだ」ヒィィイイイン…

秀吉「………何故明久はこのタイミング“明鏡止水”に入っておるのじゃ?」

雄二「俺が指示しておいた。話を円滑に進めたいのと、この状態なら何か見抜けるんじゃないかと思ってな。目論みが見事に当たったようで何よりだ。……話をもとに戻すが初めから避けることを度外視していたってことは……鳳は自らが仕掛けた罠を和真が突破してくることを、ある程度読んでいたようだな」

 

和真が“夕凪”を攻略できなければそれはそれで良し、たとえ打ち破ってきても痛み分けに持ち込む……それが蒼介の戦術の全容だ。初期点数は蒼介が上、相討ちでも和真が喰らうダメージの方が大きいとなれば、先に点数が尽きるのはどうあがいても和真だ。かといって強引に攻め急げば付け入る隙を与えるだけであり、それを見逃すほど鳳蒼介は甘くはない。

 

雄二「……ま、簡単に言うとこのままだと確実にジリ貧だ、和真が鳳に勝つ可能性はゼロに近いな」

明久「そんな!?(フッ…)なんとかならないの雄二!?」

雄二「動揺すると簡単に解けちまうのなお前のソレ……まあ落ち着け明久、このままだとの話だ。お前のおめでたい頭はすっかり忘れているようだが、アイツらはまだ持っている武器をほとんど使っちゃいない」

 

ここまでの攻防の時点で彼らと渡り合える者は学園でも極少数だろう。しかし彼らはまだ得物でぶつかり合うだけの原始的な闘いしかしていない。腕輪能力、オーバークロック、ランクアップ能力、“明鏡止水”に“気炎万丈”……鬼札と呼べるものは未だに全て温存した状態である。

つまりここまでの闘いは、彼らにとっては言うなればただの……

 

和真「……さて、ウォーミングアップと観客へのパフォーマンスはこれくらいでいいとして……そろそろ本気で攻めるぞ」

蒼介「ああ……望むところだ」

 

 




【アクティブメンバーの好きな食べ物(女子)】

・飛鳥……紅茶に合うもの、ラタトゥイユ、鴨肉のコンフィ

和真「キャラクターは意外と泥臭いのに無駄にお洒落だな……つーかお前ら婚約者同士なのに、好きな料理系統真逆にも程があるだろ。将来食卓の主導権の握り合いで争いが勃発したりしてな」
蒼介「交代ですればいいだろうに……あと、私は別に洋食が嫌いというわけではない」
 

・優子……グラタン、パスタ、シーザーサラダ

和真「…………普通だな……普通過ぎてつまんねぇぐらい普通だ」
蒼介「好物に面白さを求めるな」

 




愛子……■■■■(自主規制)

和真「ちょっとアイツ〆てくる」
蒼介「待てカズマ、私も行く」
和真「この小説全年齢対象だってわかってんのかあのボケ……」


※この後愛子ちゃんがどうなったのかは、読者の皆様のご想像にお任せします。




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決勝戦②『BLAZE MIND』

【一年生四人組の好きな食べ物】

黒木鉄平……担々麺、麻婆豆腐、キムチ鍋

和真「辛いもんばっか……」

蒼介「好物まで暑苦しいな」


宗方千莉……玄米、味噌汁、蕎麦

蒼介「ふむ、武士を自称するだけのことはあるな」

和真「何もそこまで徹底せんでも……」


志村泰山……鴨肉のロースト、ペスト・ジェノヴェーゼ、カッペリーニ

和真「こいつはこいつで小洒落たもんばっかだな!?何だよジェノヴェーゼって!?いちいちググらなきゃ読者わかんねぇだろ!」

蒼介「おおよそ15~16歳の好物には抜擢されないであろうラインナップだ」

和真(いや、志村も鮟鱇鍋が好物の奴にだけは言われたくねぇと思うけどな……)


綾倉詩織(鳳紫苑)……だし巻き卵、大根の千枚浸、初鰹のたたき

和真「こいつもだし巻き卵かよ……お前ん家のだし巻き卵そんなうめぇの?」

蒼介「まぁ、そうだな。……思い返せば、私がだし巻き卵を好きになったきっかけは、幼少期に姉様の作ってくれた-」

和真「はいストップストップ!そういう重要なエピソードをこんな前書きで浪費するんじゃねぇ!」




和真「さてと、この一週間で俺が身に付けた新しい力……その身を持って体感させてやる」

蒼介「ほう、それは面白い。見せてみろ……木下の怒りを買ってまで身に付けた力-」

和真「お前もか!?お前までそこ掘り下げるのか!?やめろよもう勘弁しろよ頼むから!俺のメンタル意外とデリケートなんだよ最近気づいたけど!」

蒼介「す、すまん……」

 

和真の割とガチめな抗議に流石の蒼介も思わず気圧される。弱肉強食を地で行くような和真にとって惚れた弱みとはいえ女の子一人に頭が上がらないことは、自尊心をバッキバキに砕かれてロードローラーで押し潰されるようなものなんだとか。

 

和真「ったく、それじゃあ改めて披露してやる。感情を鎮めるお前の“明鏡止水の境地”とは真逆……

 

 

 

言わば感情の爆発、“気炎万丈の境地”をなぁっ!」ゴォォォオオオオオッ!!!

蒼介「っ……!」

 

まるで万物全てを焼き尽くすかのような威圧感を浴び、蒼介は僅かに気圧されるが持ち前の精神力ですぐさま持ち直した。

 

蒼介(これは……生まれ持った破壊衝動を抑止していた理性を……外したのか!?)

 

卓越した洞察力と読心術を持つ蒼介には、和真がしたことを即座に看過した。己の内に眠る修羅の解放……すなわち、幾重にも厳重に抑えつけていた理性を捨て、生まれつき和真に備わっている破壊と闘争を求める本能を解き放ったのだ。

原理は不明だが、爆発的に高まった感情は未知のエネルギーへと昇華される。柊守那が編み出した“気炎万丈の境地”はこの現象に基づく。瞬間的に闘争心を極限まで高め生み出した膨大なエネルギーで自らを活性化させ、人知を越えた力を振るうことを可能にする……言わば火事場の馬鹿力を意図的に引き出す技だ。

当然エネルギー化するほどに自らの感情を意識して高めることは、生半可な覚悟では到底成し遂げられることではない。現に“気炎万丈”を編み出した守那ですら完全に習得するまでに長い年月を必要とし、現在でも“気炎万丈”に至るには相当の……それこそ“明鏡止水”と同等の集中力を擁する。

しかし心の内に修羅が潜む和真は理性による枷を外すだけで、蛇口を捻るくらいの軽い感覚で闘争心を高めることができる。守那とは違い一度引き出し方がわかれば二度目からは容易くこの境地に至れるようになり、そして数日で完全習得することができたのだ。

 

和真「安心しな、本能に任せて暴れ狂う……なんて間抜けな真似はしねぇよ。俺の闘争心は全て今対峙している敵……つまりお前に向くからな。さてと、お前も早く“明鏡止水”に至りな。今の俺を相手に出し惜しみしてる余裕があると思うなよ」ゴォォォオオオオオッ!!!

蒼介(……この感じには覚えがある。忘れもしない、私がカズマと初めてぶつかり合ったあの日……カズマはこの状態で閏年高校の不良達を殲滅した。あのときカズマは溢れ出る力に振り回され、本能のまま暴れていたが……今は使いこなしたせいか、この状態でいるにもかかわらず冷静さを保ったまま……ふむ、どうやらカズマの言う通り心してかからねば……

 

 

 

 

勝機は無さそうだな!)ヒィィィイイイイイン…

和真「ハッ、そうこなくっちゃな」ゴォォォオオオオオッ!!!

 

そして蒼介も“明鏡止水”へと至る。海底に引きずり込むが如き圧迫感をまともに浴び、しかし一切動じることなく凶悪な笑みを浮かべる和真。

 

 

相対する明鏡止水と気炎万丈。

片や果てしなく静かで波紋のひとつもない、水面のような澄み切った心。

片やどこまでも激しく燃え上がり、全てを蹂躙する炎のような荒ぶる心。

両者に宿った力は性質こそ対極だが、力の絶対値は完全に互角である。故にほとんどの観客がこれから繰り広げられる戦闘は拮抗することを確信させた。拮抗……点数で劣る和真にとっては、それは敗北を意味することと同義である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、和真は焦燥に駆られるどころかより凶悪な笑みを浮かべて蒼介を見据える。

 

和真「…と、言いてぇところだが」ゴォォォオオオオオッ!!!

蒼介「……?なんだ?」ヒィィィイイイイイン…

 

蒼介の“明鏡止水”が未だ未完成なのに対し、先程も述べた通り和真は“気炎万丈”を完全習得している。それはつまり…

 

和真「悪ぃなソウスケ……

 

 

 

 

 

 

 

 

これが俺の全力だ!

 

ゴォォォオオオオオ!!!

 

蒼介(っ……!?な、なんだこの熱は……!?それにこの、今までとは別次元の殺気……!まずい、このままでは“明鏡止水”が解けてしまう……

 

我が心水面の如く……!)ヒィィ……ィィイイイン…

 

先程までとは比べ物にならない、皮膚に焼きごてを押し付けられるかのような激烈な『何か』が和真から放たれる。その正体は和真の中に潜む修羅の殺気と、和真の体から漏れ出た感情のエネルギーの複合物。

近距離でまともに浴びた蒼介は“明鏡止水”が解けかけながら、それでもどうにか心を鎮め平静を保った。しかし“気炎万丈”の余波は向かい合う蒼介だけでなく、やがてコロッセオ全体に飛び火した。

 

 

『熱っ!?なんで金属製の手すりが急に……』

『痛っ!唇が切れた……!』

『なんか喉乾いたな、飲み物買ってこよ……』

 

 

……フィールドから結構な距離があるため比較的地味な被害で済んだようだが、もし彼らが蒼介の位置にいたらただではすまなかっただろう。

 

和真「……さて、そろそろ再開しようじゃねぇか……俺達の闘いの続きをよぉ!

蒼介「………その前にカズマ、一つだけ聞いても良いか」ヒィィィイイイイイン…

和真「あ”ぁ?んだよ?この状態の俺は理性飛んでて気が短ぇんだ、くだらねぇことほざいたらその小綺麗なツラ引き剥がすぞコラ

蒼介「確かに平常時より随分と口が悪いな……では聞かせてもらうが、その“気炎万丈”とやらは、おそらくお前自身の身体能力を底上げするものだろう。それでは召喚獣を介して闘う試召戦争においては、あまり役に立たないのではないか?」ヒィィィイイイイイン…

和真「…………ハッ、何を言い出すかと思えば……くく、ククククククク…

 

 

 

 

 

発想が脆弱なんだよ雑魚がァァァッ!

蒼介「なっ、速い!?」ヒィィィイイイイイン…

 

急に和真のテンションがハイになると同時に、〈和真〉がロンギヌスを振りかぶりつつ〈蒼介〉に向かって突進する。一見するとただ考え無しに突っ込んでいっているようにしか見えないが、驚くべきことに〈和真〉の動きは先程までの攻防とは比べ物にならないスピードであった。

一瞬虚をつかれるも〈蒼介〉はすぐさま“夕凪”で受け流す体勢に入る。“明鏡止水”状態であるため立ち直りも型に入る早さも、そして技の切れや別の型へ移行する早さも通常時とは比べ物にならない。何故〈和真〉が急激に素早くなったのかは不明だが、どちらにせよこのままでは容易く受け流され、そして死角からのカウンターの餌食にされるだろう。先ほどのような“夕凪”破りをしてこようが、どうにか痛み分けに持ち込むことができる。そうなればどのみち点数で勝っている蒼介がより有利になるだろう。

 

 

しかし今の和真は悠然とその先を行った。

〈蒼介〉が攻撃を受け流す寸前、突如〈和真〉が姿を消したのだ。

 

蒼介「っ…消え-」ヒィィィイイイイイン…

和真「どこ見てやがる!

蒼介「これは……!?」

 

攻撃を受け流せずそれどころか隙を生じさせた〈蒼介〉を、〈和真〉は右斜め後ろからロンギヌスで殴りかかる。隙…とは言っても“明鏡止水”状態の蒼介にとっては問題なく対応できるレベルであるので、〈蒼介〉はすかさず片足を軸に半回転しながら向き直りつつ“大渦”で迎撃した。が…

 

和真「オラァァアアアァァアッ!

蒼介(なっ、パワーも格段に上昇している!?)ヒィィィイイイイイン…

 

そんなもの関係ないと言わんばかりに、〈和真〉は力づくで遠心力が加算された草薙の剣を弾き飛ばし、〈蒼介〉の腹にロンギヌスをぶち当てた。

〈蒼介〉ゴルフボールのように吹っ飛ばされるが、飛ばされながらも草薙の剣で地面をブレーキ代わりに強打し、衝撃を殺しつつ一回転してから着地した。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 5026点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 6341点』

 

 

しかし受けた被害は甚大なものであった。“大渦”の迎撃で大幅に威力を削いだにもかかわらずこのダメージ。今の攻撃は〈和真〉が攻撃特化の召喚獣というだけでは説明のできない程の威力だった。

 

蒼介(…………なるほど、そういうことか。俄には信じ難いが、そうでなければ辻褄が合わん)ヒィィィイイイイイン…

和真「見たか、これが俺の全力……“気炎万丈の極致”だ

蒼介「極致……まさしく“気炎万丈”の到達点というわけか。おおよその仕組みは理解できたが、まさかここまで非常識なものだとはな……それに、どうしてお前が“蜃気楼”を使える?」ヒィィィイイイイイン…

和真「さっきの準決勝見ててなんか面白そうな技だからパクった。つっても見よう見まねで似せただけで、技の原理は全く違うだろうがな。そうだな……“陽炎”とでも名付けようかね。まあ安心しな、いつでも使えるような技じゃねぇからよ

蒼介「……やはりお前を打ち倒すには一筋縄ではいかないか……面白い……“気炎万丈の極致”、この目で見極めてやろう!」ヒィィィイイイイイン…

和真「ほう真っ向勝負ってわけか……上等じゃねぇか

 

 

 

二体の召喚獣が武器を構えて睨み合った次の瞬間、ロンギヌスと草薙の剣が激しくぶつかり合う衝撃音が、拡張されたフィールドのあちこちから轟いた。

 

 

 

 

 

 

 




ほんとは不完全な“明鏡止水”と“気炎万丈”のぶつかり合いの後で完全バージョンに移行という形だったのですが、長くなりそうなのでバッサリカットしました。

いや、しかしまさか不完全版の“気炎万丈の境地”が一度も活躍することなく完全版の“気炎万丈の極致”に移行するとは。

押し寄せるインフレの波は決して止まらない……。





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決勝戦③『CLEAR MIND』

この章もようやくあと2、3話で終わります。
長かった…ホント長かった……。

【大人達の好きな食べ物】

御門空雅……コンポタ

和真「好物っつうかよ、それ以外食べてんのみたことねぇな」

蒼介「足りない栄養素は全てサプリメントで補っているらしい。食事を栄養補給作業としか思っていないようだ」

和真「ホントこの人生きてて楽しくねぇんだな……」


鳳藍華……だし巻き卵、黒鯛の刺身、栄螺の天麩羅

和真「この人もだし巻きか……」

蒼介「赤羽流を修める者が最初に習う料理だから、皆大なり小なり愛着があるのだろう」


鳳秀介……レチョン、ロモ・サルタード、エマ・ダツィ


和真「何料理だよそれ!?嫁と子二人が和食で統一してんのに空気読まねぇなオイ!」

蒼介「迷子中の食べ歩きで気に入った品々らしい」

和真「散々周り振り回しておいてそんなことやってたのあの人!?」




柊守那、桐生舞……グラッパ、テキーラ、マッコリ、大関、コニャック、泡盛、雪中梅、テネシー、スコッチ、黄桜、バーボン、いいちこ、久保田、杏露酒、キルシュワッサー、十四代、老酒、ふぐヒレ、ラム、ジン、月桂冠、霧島、ウォッカ、八海山、モルト、etc…


和真「テメーらは酒しか頭に無ぇのか!?」

蒼介「こうまで露骨だといっそ清々しいな」






激突、激突、激突、激突、激突……。

 

地上で静かに向かい合う和真と蒼介とは対照的に、上空にいる彼らの召喚獣達は通常の数倍もの広々としたフィールド内を高速で縦横無尽に駆け巡りながら、お互いの全てを滅ぼし尽くさんと武器を振るう。神器のぶつかり合いによる衝撃は極めて凄まじく、落雷にも似た轟音は『スカイ・フィールド』内だけでは到底収まり切ることなく、やがては『フリーダムコロッセオ』全体に暴れ狂いながら降り注ぐ。並大抵の召喚獣なら余波のみで消し飛ばされてもおかしくないほどの、この世の地獄とも言うべき光景がフィールド内で形成されていた。

 

和真「ハッ、くだらねぇ。単純な力比べで……この俺に勝てるとでも思ってんのかぁ!

蒼介(っ……やはり明らかに力が上昇している……!いや力だけでなく、速さまでもがさっきまでとは比べ物にならん!)ヒィィィイイイイイン…

 

そして戦況は次第に和真へと傾き始める。いかに蒼介のテクニックとゲームメイクが優れていようが、真っ向勝負ではパワーとスピードで勝る〈和真〉に分があるため、激突の度に余裕が削られていく。

 

蒼介(……ならばここは真っ向勝負ではなく、水嶺流の剣本来の闘い方で勝負を仕掛ける!)ヒィィィイイイイイン…

 

力や速さでは勝ち目がないと判断するや否や、〈蒼介〉は自らの土俵である剣術主体で〈和真〉に挑む。水嶺流の剣は力でねじ伏せるような直線的な闘いではなく、一方的に相手を殺すことに特化した剣術だ。多少身体能力に差があろうがひっくり返すポテンシャルを十分に秘めている。加えて今の蒼介は超集中状態のため水嶺流の技のキレは格段に強化されており、常識で考えれば持ち味である変則性を捨てて、がむしゃらに暴れまわるだけの今の〈和真〉では太刀打ちできるものではない。

 

しかし…

 

和真「うぜぇんだよ!

蒼介「なっ…!?」ヒィイイイン…

 

今の和真はその常識を超越する。

“波浪”による急激な緩急に平然と対応し、必中の刺突である“車軸”を軽々と受け止め、高速の剣撃“怒濤”をそれ以上の連撃で押し返し、助走により威力が倍増した唐竹割り“瀑布”を素手で掴んで投げ飛ばし、遠心力等を上乗せした水平斬り“大渦”を真っ向から撥ね飛ばし、死角からの暗殺剣“狭霧”を放つ前に封じ、あらゆる攻撃を受け流す“夕凪”でも対応できないほどの神速の一撃を浴びせかけた。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 4812点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 4829点』

 

 

点数差はほぼ互角、しかし戦況は完全に和真に傾いていた。生半可な敵ならば十数回は葬っているであろう〈蒼介〉の凶悪極まり無い技の応酬を、〈和真〉は全て力技で強引で突破してのけた。

 

蒼介(………ならば、姉様の十八番で……!)ヒィイイン…

 

それでも戦意を失うことなく、〈蒼介〉は紫苑の得意とする複合技・豪雷雨(急激な緩急から繰り出される高速刺突連撃)を〈和真〉に放つ。

 

和真「無駄だっつってるだろうが!

 

しかし〈和真〉は高速刺突の初手を優れた眼力見抜き、それに合わせて渾身の一撃で迎撃する。結果、助走を込みした筈の〈蒼介〉が力負けし後ろにのけ反り、〈和真〉は追撃を行うべく〈蒼介〉に襲いかかる。

 

蒼介「……かかったな!」ヒィイイン…

和真「あぁ…?

 

突如〈和真〉の視界から〈蒼介〉が消えた。準決勝で紫苑を翻弄した“波浪”と“狭霧“の複合技“蜃気楼”だ。実をいうと“豪雷雨”が通用しないことなど織り込み済みであり、蒼介の狙いは最初から確実に決めることだった。

攻撃対象を失い隙だらけの〈和真〉目掛けて、〈蒼介〉は真後ろから草薙の剣を振り下ろした。

 

和真「-オラァッ!

 

ガキィィイイインッ!

 

しかし〈和真〉は完全に死角をついた筈のその攻撃をも受け止める。そしもの蒼介にもこの事実は受け入れ難いものであった。

 

蒼介「まさかこれほどとは……お前の天性の直感は、痛みを伴う攻撃でなければ察知できない筈だが……ブラフだったのか?」ヒィイン…

和真「あぁん?……あいにくこの状態では攻撃の察知はできねぇよ。絶対的強者に恐れる攻撃なんざあってはならねぇからな。……まあその代わりに敵の弱点と、倒すべき敵の位置は常に把握できるんだよ

蒼介「なるほど…… 

重ね重ね、厄介なものだな……」ヒィイン…

 

その後も〈蒼介〉は間髪入れずに“蜃気楼”を織り混ぜつつ攻撃していくが、その悉くが無情にも防がれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀介「爆発的な感情の昂りによって、およそ科学では説明できない未知の力『感情のエネルギー』を発生させ、それを用いて自らを活性化させ能力を大幅に強化する……“気炎万丈”を強引にでも理知的に説明するならそんなところだけど、アレは完全にオカルトに属するものだからねぇ……とことん常識がまるで通用しない力だよ」

藍華「オカルト……ですか?」

 

秀介の述べたことがいまいちピンとこないのか、首を傾げながら聞き返す藍華。

 

秀介「そ。能力を大幅に強化すると言っても、それは身体能力だけで収まりきるものではないのさ。反射神経や五感、頭の回転や細胞分裂の速度など様々だ。例えば……ねぇ藍華さん、和真君の召喚獣、最初の頃より強くなってると思わない?」

藍華「え…えぇ。彼の性格上手を抜いていたとも思えませんし、いったいどうしてなのでしょう……?」

秀介「今、和真君と彼の召喚獣は視覚がつながっているよね?そのつながりから召喚獣は彼の一部であると解釈することで、感情のエネルギーで召喚獣のスペックを引き上げている……ってところだろうね」

藍華「なっ……そんな無茶苦茶なことが-」

秀介「そんな無茶苦茶がまかり通ってしまうから、アレはオカルトなんだよ。…あっ、これは不味いねぇ……」

藍華「蒼介……」

 

〈蒼介〉の“蜃気楼”からの不意を突く攻撃を〈和真〉が防ぎ続けるという展開がしばらく続いていたが、〈和真〉が“陽炎”を使い逆に〈蒼介〉の不意を突いたことで拮抗状態が崩れてしまった。

 

秀介(………和真君のあれは“蜃気楼”とは似ているようで全くの別物。実際に目の当たりにしないと断定はできないけど、私の分析ではあの技はおそらく感情のエネルギーで動体視力格段に強化し相手の瞬きのタイミングを見切り、相手が瞬きをした瞬間に感情のエネルギーで脚力を限界まで強化し、超人的なスピードで相手の視界から姿を消すという力技だろうね。その性質上使えるタイミングは限られてくるけど、さっきみたいに拮抗状態が続けば使える場面ほいずれ巡ってくる。蒼介もおそらく気づいているだろうから、もう無闇に“蜃気楼”は使えないね。それに…)

 

一旦思考を切り、秀介は()()()()()()()()()()()()()()蒼介に視線を移す。

 

秀介(ここまで手も足もでないと、蒼介と言えど少なからず動揺するだろうね。動揺イコール雑念、それは“明鏡止水”に亀裂を入れる。遅かれ早かれ“明鏡止水”は確実に解けるだろう。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。和真君に勝ちたいならお前も“明鏡止水の極致”に至ることが必要不可欠だよ、蒼介)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 4752点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 4007点』

 

 

とうとう点数差が逆転しまった。

勝負の流れは以前として和真に傾いており、この状況を打破するには、真っ向から和真にまともなダメージを与えることが必要不可欠だ。

 

蒼介(…………そのためには、こちらも相応のリスクを追わねばなるまい……!)ヒィン…

和真「あん?

 

覚悟を決め、〈蒼介〉は草薙の剣を鞘に納め抜刀の構えをとる。これまで数々の強者を一刀のもとに斬り伏せてきた正体不明の抜刀術……拾の型“海角天涯”を使うつもりだ。

 

和真「それ、使ったとしてちゃんと成功するんだろうな?………“明鏡止水”が解けかかった状態でよ

蒼介「………気づいていたか」ヒィン…

和真「そりゃ気づくだろうがよ、お前から感じる圧迫感が薄れてきてんだからな

蒼介「そうか……ならば隠していてと仕方がないな。そうだ、私とて人間だ。自らが練り上げた技巧や戦術がこうも通用しなければ、雑念の一つや二つ出てきて当たり前だ。だがその心配は杞憂だ……

 

 

 

 

この一撃に全てを懸ける……その覚悟があれば、再び“明鏡止水”に至ることができる」ヒィィィイイイイイン…

和真(ほぉ……ここ一番で大した集中力だ。……だがその覚悟は諸刃の剣じゃねぇのか?)

 

この一撃に全てを懸ける……その覚悟はまさに背水の陣。つまり裏を返せばもしそれを防がれたら、蒼介は“明鏡止水”が解けてしまうだろう。そうなれば和真に勝てる見込みは完全にゼロになるだろう。ランクアップ能力という隠し玉があれど、それは和真も同じことである。

 

 

この攻防は間違いなく、勝敗に大きく関わるものとなるだろう。

 

 

蒼介「…………」ヒィィィイイイイイン…

和真「…………

 

完全な静寂が訪れる。二人の召喚獣はもとより、審判の綾倉先生や観客達も無言で勝負を見届ける。

並の人間が間に入れば、二人の放つプレッシャーに挟まれノイローゼになってしまいかねないほどの緊張感が漂うなか、とうとう〈蒼介〉が刀身を引き抜こうとし-

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィイイイイインッッッ!!!

 

次の瞬間……草薙の剣とロンギヌスがぶつかり合う衝撃音が、静寂に包まれたコロッセオに響き渡った。

 

蒼介「ッッッ…!(フッ…)」

和真(残念だったな……その技のタネは準決勝で既に見切っていたんだよ!縮地を組み合わせた抜刀術……それがその技の正体だ)

 

縮地とは遠い距離を縮めて移動する武術である。

傍目からはあたかも瞬間移動したように見える性質を持つこの技を抜刀術に組み込むことで、抜刀してから斬りかかるまでを他者に悟らせない必殺の居合いへと昇華させたもの……それが“海角天涯”の正体である。

天性の直感を持ってしても攻撃を見切れない脅威の技であるが、それを前もって看過していれば常に敵の位置を把握できる“気炎万丈”状態の和真にとって防げない技ではない。視界に映らないだけで自身に接近してくるので、近づいてきたと感じた瞬間にロンギヌスで薙ぎ払えば受け止め捉えることができる。

 

和真「これで……終わりだ!

 

そして〈和真〉はすかさず追撃を行う。

“明鏡止水”が解けた状態で〈和真〉の射程に入ってしまった〈蒼介〉には、常識で考えれば対抗手段など残されてはいないだろう。事実、最終奥義を破られた反動で蒼介は“明鏡止水”が解けてしまい、敗北を悟らざるを得なくなっていた。

 

蒼介(……まさか“海角天涯”すら破られるとはな。私に手はもう残されていない……認めたくはないが、敗北を受け入れるしか……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ……。

 

やはり私は…………負けたくない……! 

 

私を信じているAクラスの皆のためにも……そしてそれ以上に、私自身の誇りにかけて!

 

この闘い、どうしても勝ちたい!

 

 

 

敗北の運命に抗え……!

 

絶望の中でこそ勝機を見出だせ…!

 

細胞一片たりとも集中を切らすな!

 

今ここに、勝利のビジョンを手繰り寄せる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー!!!)

 

 

しかし彼もまたこの瞬間、常識を覆した。

 

 

蒼介「水嶺流玖の型……百川帰海・絶海!

 

ドガガガガガガガガッ!!!

 

和真「なっ……!?

 

参の型“怒濤”とは比べ物にならない無数の剣激の嵐が一点に集中しロンギヌスを迎撃する。絶対命中の性質を持つ本来の“百川帰海”とは違う、一点集中を極めた超連続攻撃に流石の〈和真〉も押し負け遠くへ弾き出された。

 

和真「この俺が力負けするとは……ソウスケの奴、まさか……っ!

 

“明鏡止水”に至った者が放つ威圧感が、いまだかつて無いほど急激に強まるのを感じ取った和真は、おそらくその出所である蒼介に向き直る。

 

蒼介「カズマ、随分待たせてすまないな……これで条件は互角だ!

和真「…………くはは、そうこなくっちゃな

 

“明鏡止水の極致”に至った蒼介を目の当たりにして、和真の戦意は薄れるどころか核爆発したかのようにはね上がった。

 

和真「やっぱそうこなくっちゃなぁっ!!ソウスケェェェエエエエッッッ!!!

 

 

 




蒼介君が土壇場で“明鏡止水”を完成させられたのは、主人公補正も理由の一つどすがそれだけではなく、あの状況だからこそ完成させられたのです。詳しい解説は次回秀介さんあたりがしてくれるでしょう。


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決勝戦④『切り札』

10月中に終わらす予定だったのに……二人の闘い書くのが思ったより楽し過ぎて、結局大幅に延びてしまいました。


和真・蒼介「「ハァァアアアァァァァアアアアアッッッ!!!」」

 

キキキキキキキキキキィィイイインッッッ!!!

 

再び〈和真〉と〈蒼介〉は高速でフィールド全体を縦横無尽に駆け巡りながら、全力でお互いを叩き潰さんと得物をぶつけ合う。

しかし決して先ほどの焼き回しなどではなく、蒼介が“明鏡止水”を極めたことで先程のようにぶつけ合う度に〈和真〉が有利になるようなことは無かった。

 

和真「オラァァアアア!!

 

並大抵の召喚獣なら掠めただけで致命傷になりかねない〈和真〉の渾身の薙ぎ払いに対し、〈蒼介〉は自身と迫り来るロンギヌスの間に草薙の剣を差し込む。常識で考えればそのような雑な防御では、到底〈和真〉の薙ぎ払いを防ぐことなどできないが、

 

蒼介「お前の力……利用させてもらう!

和真「あぁん!?

 

激突する寸前の寸前に〈蒼介〉は左足を軸に自身を回転させる。そしてロンギヌスと草薙の剣が激突し、〈蒼介〉はその衝撃を利用して回転の勢いをさらに強める。そして〈蒼介〉はその勢いに乗ったまま回転斬りに移行し、隙のできた〈和真〉へのカウンターを行う。相手の力が強ければ強いほど鋭い返し技へと昇華される。これぞ“大渦”と“夕凪”の複合カウンター技……“離岸流”である。

理論上、人間の反応速度では決して間に合わない絶妙なタイミングであった。

 

和真「うぉぉおおおりゃああぁぁあああっ!!!

蒼介「む……!

 

が、今の和真は人間の限界など容易く凌駕する。元々並外れた反射神経を持つ和真であるが、“気炎万丈”で引き上げられた和真のソレは、もはや人類には不可能な領域にまで至っている。刹那の早さで〈和真〉はロンギヌスを引き戻し、そのまま迫り来る草薙の剣への迎撃を行う。その結果お互いの力は完全に拮抗し、両者共に反動で後方に弾き飛ばされた。

 

和真(俺の力を利用してパワー差を埋めるとは……やるじゃねぇかソウスケ。

……だがこの闘い-)

蒼介(あそこから迎撃体勢を整えるとは……見事だカズマよ。

……しかしこの闘い-)

 

 

 

 

 

和真「勝つのは俺だ!

蒼介「勝つのは私だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀介「あの闘いぶり……どうやら蒼介は“明鏡止水”を極めたようだね」

藍華「でも秀介さん……先程まで“明鏡止水”は切れかけていたんですよね?」

秀介「そうだね藍華さん」

藍華「それに蒼介の“海角天涯”が破られた瞬間、もしかして“明鏡止水”は完全に解けてしまったたのでは?」

秀介「うん、そうだねぇ」

藍華「だったら、尚更なんで-」

秀介「()()()()()だよ、藍華さん」

藍華「え……?」

 

秀介の発言でますます意味がわからなくなる藍華。“明鏡止水”が解けてしまった蒼介が“明鏡止水”を完成させられたことだけでも不思議なのに、秀介が言うには“明鏡止水”が解けたからこそ“明鏡止水”を完成させられたとのことだ。

 

秀介「蒼介は既に“明鏡止水”を9割方完成させていた。そしてそんな蒼介に最後に必要なものは、その()()完成した“明鏡止水”にすら亀裂を生じさせるほどの脅威なんだ。不完全な“明鏡止水”では太刀打ちできないほどの脅威を目の当たりにして、それでも諦めずに全身全霊をかけてその脅威を突破する可能性を、ひたすら冷静に模索することに集中できた者が“明鏡止水の極致”へと到達するんだ。

……話は変わるけど歴代鳳家当主は皆“明鏡止水の境地”に至っているけど、“明鏡止水の極致”にまで到達した者は極少数だってことは以前話したよね?」

藍華「えぇ、存じ上げております」

秀介「ジレンマなことに、“明鏡止水”に至った者は脅威だと思えることには、どれだけ望んでようとそうそう巡り会えないんだよ。……蒼介はとても幸運だねぇ、こんな身近にこれ程の脅威がいたのだから」

藍華「……しかし秀介さん、まだ一つ腑に落ちない点がございます。既に9割方完成していた“明鏡止水”と完全な“明鏡止水”、それほどまでに違いがあるのでしょうか?」

秀介「ああ、あるよ。その二つには天と地ほどの差がある。例えるなら穴の空いた容器と空いていない容器さ」

 

試しに水を注いでみれば一目瞭然、どんなに小さくても穴が空いていては注いだ水はあっという間に無くなってしまう。完成する前蒼介が“明鏡止水”を維持できる時間はたった20分だったが、今の蒼介は軽く半日は持続させられるだろう。そして時間配分を気にする必要が無くなったことで、気兼ねなく100%の力を振るうことができる。

 

藍華「それにしても…フフッ……蒼介も和真さんも、随分楽しそうですね」

秀介「そうだねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「オラオラどうしたどうしたぁっ!だんだん動きが鈍くなって来たんじゃねぇか!?

蒼介「ぬかせ!お前こそその減らず口、いつまで叩いていられるのだろうな!

 

二人のぶつかり合いはより苛烈なものになっていった。圧倒的なパワーとスピードの〈和真〉に、〈蒼介〉は卓越したテクニックと頭脳を以て対抗する。

読心の達人である蒼介であろうと、内に潜む修羅を解き放った和真の心は読めない。故に蒼介は心を読むのではなく行動や攻撃を誘導することで、見事〈和真〉の攻撃を予測した。……が、和真の反応速度は“気炎万丈”により人智を越えたレベルになっており、どれだけ隙を突こうとも後出しじゃんけんのごとく即座に〈蒼介〉の攻撃に対応する。

一方〈和真〉も攻撃を誘導されているので攻め切れない。ならば先ほど身に付けた技“陽炎”で奇襲を試みるも、蒼介は和真のまばたきのタイミングを予測し、それに自身のまばたきのタイミングを合わせることで、“陽炎”を使う隙を一切与えなかった。

 

このように一進一退の攻防が続くが、

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 4462点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 3666点』

 

 

点数差は徐々に、徐々にだが広がっていく。

 

和真「ほらほらどうしたぁ!?拮抗して満足してるようじゃ逆転なんざできねぇぞ!

蒼介「……………

 

蒼介がここからひっくり返すには“明鏡止水”が“気炎万丈”を上回らければならないというのに、どちらかと言えば押されているという絶体絶命の状況。

しかしこれは“明鏡止水”が“気炎万丈”より劣っているわけではなく、両者の性質を考えれば至極当然のことである。“明鏡止水”が人間の可能性を突き詰める力であるのに対し、“気炎万丈”は人間の限界を越える力。ぶつかり合えば瞬間的火力で上回るのは断然後者だ。 

そして当然、“明鏡止水”が“気炎万丈”に勝る点も存在している。それを理解しているからこそ、蒼介は至って冷静なままだ。

 

蒼介「…………なぁカズマ

和真「あぁ?

蒼介「随分と疲れているようだな

和真「っ!?

 

やや肌寒くなってくる時期、しかも本人はずっと一切微動だにしていない筈。それにもかかわらず今の和真は長時間バスケでもしてきたかのように汗だくになっていた。

 

蒼介「《それに呼吸も少し乱れている。……お前にしては珍しくな

和真「………………チッ、もうバレちまったか……“気炎万丈”が長期戦に不向きだってことをよ

 

そう……人間の限界を越えた力を扱う“気炎万丈”はその分消耗も激しく、“明鏡止水”と違い長時間維持できないのだ。

故に蒼介の最善手は時間稼ぎに徹することになる。直接のぶつかり合いで勝てなくても、時間が経てば自ずと勝利の道が開けるのだから。

 

蒼介「さぁ、持久戦の始まりだ。私が倒される方が先か、お前が“気炎万丈”を維持できなくなる方が先か……根比べと行こうじゃないか

和真「………………ははは…

フハハハハハ……

 

アーッハッハッハッハッハ!!

 

突然和真が笑い出す。

無邪気で。凶悪で。

それでいて心の底から楽しそうに。

そして和真はひとしきり笑ってから、

 

 

 

和真「『レーザー・ウイング』!

 

切り札の引き金を引いた。〈和真〉の背中から強い光を帯びた、プラズマ状の六枚翼が噴出する。

  

蒼介「っ……『インビンシブル・オーラ』!

 

すかさず蒼介もランクアップ能力を起動させ、あらゆる攻撃を無効化するオーラが〈蒼介〉の全身を覆う。

 

和真「ククク、笑わせてくれるぜ……根比べだぁ?んなもん比べるまでもなくテメェの勝ちだよ。俺ぁ気が短ぇんだよ、この状態だと特になぁ。

持久戦だぁ?誰がそんなもんに付き合ってやるかよ。ここは切り札をベットしてでも、超短気決戦でケリをつけさせてもらうぜ」

蒼介「まったく……私の提案を問答無用で袖にする奴なぞお前くらいだぞ

 

 




次回、とうとう決着です。


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決勝戦⑤『決着』

【注目生徒紹介(終)】

・柊和真(二年Fクラス)

〈召喚獣〉超攻撃型

〈武器〉ロンギヌスの聖槍

〈能力〉一斉砲撃……消費100~(100刻み)。10点につき大砲を一つ展開する。攻撃特化の和真らしくややオーバーキル気味の能力だが、下二つに比べれば比較的まだおとなしい方。

〈オーバークロック〉一斉閃光砲撃……消費400(400ジャストでも1残る)。10点につきレーザー砲を一つ展開する。ランクアップ能力にも届きうる絶大な破壊力を有するが、使用後召喚獣が凄まじく弱体化するという重いデメリットがある。

〈ランクアップ能力〉レーザー・ウィング……チャージすれば無限にレーザーを放てる上に翼自体も使い捨ての攻撃に使える。攻撃特化の極致である一方その殲滅力の代償に翼の耐久力は紙に等しく、また本体が1ダメージでも受ければ全ての翼が連鎖的に空中分解するというデメリットがある。

〈成績〉総合……5714点



・鳳蒼介(二年Aクラス)

〈召喚獣〉万能型

〈武器〉草薙の剣

〈能力〉?

〈オーバークロック〉?

〈ランクアップ能力〉インビンシブル・オーラ……オーラを纏っている限りいかなる攻撃も受け付けなくなる。オーラ自体の耐久値は無限であり、召喚獣本体に300点分のダメージを与えなければ武器にして纏わせようが斬撃として放とうが無尽蔵である。弱点らしい弱点は無いがどちらかと言えば守り重視の能力のため、火力・射程・攻撃範囲は和真の『レーザー・ウィング』に劣る。

〈成績〉総合……7799点






和真「掃射ァ!

 

そのキーワードが引き金となり、〈和真〉の背より噴出する六枚の翼が光線を放つ。使用者に似たのか和真のランクアップ能力はただひたすらに攻撃に特化しているようめ、放った光線の威力は一つ一つが姫路の『熱線』を大きく上回っている。

迫りくる殺人光線に〈蒼介〉は迷いなくオーラの一部を草薙の剣に収束させ…

 

蒼介「ハァァァッ!

 

ズドドドドドォォォン!!! 

 

“車軸”と“怒濤”の合わせ技“豪雨”で六連撃を放ち迎え撃った。真っ向勝負ではパワー負けすると蒼介は判断したようで、弾き返そうとはせず光線の側面を正確に突き攻撃方向を反らした。そのため光線は〈蒼介〉に命中することなくフィールドに着弾する。

 

和真「次はこいつだ!

 

しかし和真とてあのような単調な攻撃が蒼介に通用しないことなど理解している。殺人光線を囮にしている内に〈和真〉はすかさず距離を詰め、翼を一枚ロンギヌスに纏わせながら斬りかかる。

 

蒼介(……仕掛けるか)

 

草薙の剣を眼前に固定し受け身の構えを取り、“離岸流”によるカウンターを狙う。“離岸流”は相手の力が強ければ強いほど精度が上がるため、攻撃特化の和真に対して非常に有効な手に思える。

が、結果的にそれは紛れもなく悪手であった。草薙の剣とロンギヌスが接触したその瞬間…

 

ドォォォオオオオオン!!!

 

ロンギヌスに巻きついた翼が砕け散り爆発四散し、もろに爆風を受けた〈蒼介〉は遥か後方に吹き飛ばされた。

 

蒼介「何……!?

和真「気ぃつけるんだな……この翼は脆過ぎて、軽く触れただけで破裂するからよぉ!

 

和真の腕輪能力『レーザー・ウィング』の耐久面は極めて脆弱であり、召喚獣本体がダメージを負えば連鎖的に自壊する他、Fクラスレベルの召喚獣のデコピン程度の軽い衝撃でも原型を留められず砕け散る。しかしその一方で破壊力は凶悪極まりなく、その威力は崩壊した際の余波だけで〈蒼介〉は吹き飛ばしてしまうほどである。

 

蒼介「くっ……っ!?

 

爆風によるダメージは身に纏った『インビンシブル・オーラ』が肩代わりしたため外傷は無く、さらに“明鏡止水”状態なため〈蒼介〉は吹き飛ばされつつも問題なく着地する。しかし…

 

和真「オラオラ、こいつは避けなきゃ死んじまうぞ!

 

〈和真〉は二枚の翼を刃状に変形させながら距離を詰め、着地の瞬間を狙って刃となった翼を拡大させ左右から斬りかかった。翼の不定形な性質を使いこなした見事な応用技だが、〈蒼介〉は再びオーラの一部を草薙の剣に収束させ、

 

蒼介「ハァァアアアッ!

 

右足を軸に肆の型・大渦を繰り出し、収束したオーラを回転斬りと共に放った。その結果〈蒼介〉を中心に拡がった円状のオーラとレーザーブレードがぶつかり合い、双方共に跡形もなく消し飛んだ。今回は至近距離で爆風を浴びなかったので〈蒼介〉はその場で持ち堪える。

 

しかし、和真のとってはそれすらも囮だった。

 

和真「残念だが本命は……こいつだぁぁあああっ!!!

 

〈和真〉は残る三枚の翼をロンギヌスに纏わせ、回転斬りをして隙のできた〈蒼介〉に刺突を放った。オーラの耐久値は既に半分以下の上、破壊力は単純計算で先ほどの三倍。

 

蒼介「……南無三!

 

多少のダメージ覚悟でなんとか直撃を避けるため、〈蒼介〉は向かってくる槍の側面を強打しこちらから起爆させ、同時に後方へ大きく跳ぶ。

 

ドォォォオオオオオン!!!

 

先程とは比べ物にならない大爆発が発生し、飲み込まれ〈蒼介〉はオーラを跡形もなく剥がされ決して小さくないダメージを負う。

 

和真「………重ね重ね、お前らしくねぇ荒っぽくて泥臭い戦法だなソウスケ

蒼介「言ったはずだ……勝つために必要ならば、スマートさなど投げ捨てるとな!

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 2321点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 2259点』

 

 

しかし〈和真〉はそれ以上のダメージを受けていた。原因は〈和真〉の肩に突き刺さった刃状のオーラ。

種明かしをすれば、〈蒼介〉は草薙の剣でロンギヌスを迎撃する傍ら、もう片方の手にオーラを刃状に収束させ、大爆発の瞬間に〈和真〉に突き刺していたのだ。

和真の言う通り蒼介には似つかわしくない無鉄砲な手段だったが、結果として蒼介は危機的状況を切り抜けられた。

両者の残り点数はここにきて再び拮抗し、そして両者ともにランクアップ能力を消失した。能力は2000点消費すれば使えるものの、それをすれば点数は風前の灯火になってしまう。普通ならば程度の差こそあれ発動を躊躇うこの状況で、

 

 

和真「『レーザー・ウィング』!

蒼介「『インビンシブル・オーラ!』

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 321点

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 259点』

 

 

しかし二人とも僅かな躊躇すら無く背水の陣を選び、ランクアップ腕輪を全く同時に再起動していた。もしどちらかが少しでも躊躇していたら、発動の遅れた方が先に発動した相手に容赦なく消し飛ばされていただろう。

 

和真・蒼介「「うぉぉおおおぉぉおおおお!!!」」

 

二体の召喚獣は超高速でフィールドを旋回し、腕輪能力のエネルギーを纏わせた武器で飛ぶ斬撃を撃ちまくる。

 

 

和真(闘り合う前からわかっちゃいたが、やっぱ簡単には勝たしてくれねぇな……ったく、澄ました面してどんだけ負けず嫌いなんだよこいつは……)

蒼介(闘う前からわかってはいたが、つくづくお前の相手は骨が折れるな……まったく、お前には昔から手を焼かされてばかりだよ)

 

 

従来の試験召喚戦争が児戯に見えるほどに、両者の激突はどんどん激しさを増していく。斬撃のぶつかり合いは轟音を響かせ、大気が断末魔の絶叫をあげる。それにもかかわらず崖っぷちの両者はまるでダメージを負っていない。ここへ来て二人の力は完全に拮抗していた。

 

 

和真(……思えばお前とは霜月小からの長い付き合いになるよな。仲良くなった理由は喧嘩してお互いズタボロになって……ハッ、小綺麗な思い出たぁ口が避けても言えねぇな)

蒼介(だがあの諍いが無ければ私達は決してわかり合えなかっただろう。そしてもしお前がいなければ……今の私は無かっただろう)

 

 

しかしこの拮抗状態はそう長くは続くまい。

〈蒼介〉の『インビンシブル・オーラ』は自身が300点分のダメージを受けない限り、武器に纏わせようが斬撃にして放とうが無尽蔵に復活する。

それに対して〈和真〉の『レーザー・ウィング』のレーザーは理論上無限に撃てるが、一度撃てばエネルギーをチャージする必要がある。〈和真〉はそのレーザーを全て武器に纏わせて斬撃を放っているので、このハイペースでは先に息切れを起こすのは間違いなく〈和真〉の方だ。

 

 

和真(お前という対等の存在がいたからこそ、俺は破壊衝動の呪縛から解き放たれた。んなもんに振り回されてるような半端な奴じゃあ、到底お前には勝てねぇからな。そして感謝するぜソウスケ……お前を越えてぇと心から思えたから、俺は“気炎万丈”を極められた!)

蒼介(お前という対等の存在がいたからこそ、私は姉様の影を追わなくなった。死者を目標にしているようでは、到底お前には勝てないだろうからな。そして感謝するぞカズマ……お前が私にとって脅威足り得たから、私は“明鏡止水”を極められた!)

 

 

案の定、ロンギヌスに纏わせたエネルギーが尽きてしまった。しかし和真がエネルギーの補充が終わるまで時間稼ぎ……なんてチマチマした戦術をとるはずもなく、六枚の翼を全てロンギヌスに纏わせた。もう再展開が不可能な翼を使いきったところを見るに、どうやら和真は次の一撃で勝負を決めるらしい。

 

 

和真(………だが、いやだからこそ-)

蒼介(負けるわけにはいかない……!)

 

 

それに対抗するように、〈蒼介〉もオーラの全てを草薙の剣を収束させる。300点分のダメージを受けない限り無尽蔵に扱えると言っても、オーラ量の絶対値自体は変わらないため一点に集中させたことで、〈蒼介〉の身を守るオーラは綺麗さっぱり無くなった。この崖っぷちの状況下では悪手に思えるが、蒼介は知っていた……敗北を恐れるようでは、和真には決して勝てないだろうことを。

 

 

和真「勝つのは俺だ!お前をぶっ倒し倒し、そして俺達Fクラスは革命を起こすのさ!

 

蒼介「いいや、勝つのは私だ!お前を倒すことで、私達Aクラスの王座は不動のものになる!

 

和真「いくぞソウスケェ!

蒼介「来るがいいカズマ!!!

 

両者はお互いの得物を構えて突撃する。満身創痍の二人に小手先の策など自殺行為でしかなく、最後に残った手段は全てを賭けた乾坤一擲の正面衝突だ。しかしだからと言って二人ともただ闇雲に突っ込んでいるわけではない。

 

和真「オラァァァアアアアアッ!!!

 

先に仕掛けたのは当然、先手必勝を好む和真。超スピードで突撃しながらロンギヌスに纏わせた翼をエネルギーに変化させ、聖槍の斬撃と共に〈蒼介〉に向けて放った。受け止めれば確実に爆死、回避は困難、よしんば避けられたとしても今度は突撃してくるロンギヌスそのものの餌食になるという三段構えの戦術だが、後手必殺に重きを置く蒼介は冷静に問題なく対応する。彼には既に翼を攻略する方法を編み出していた。

 

蒼介(生半可な迎撃では爆発を喰らってしまう……ならばここで用いるのは水嶺流の中でも一点突破力最強の技、百川帰海・絶海。覚悟しろカズマ……無数の斬撃をただ一点に集中するこの技でお前に押し勝ち、爆風ごとお前に叩き返してくれる!)

和真(………明久、技借りるぞ)

蒼介(っ、さらに加速し-これは……!?)

 

感情のエネルギーを限界まで脚力の強化につぎ込み、凄まじいスピードで放った斬撃が〈蒼介〉に届く直前に追いついた。

 

和真(最初に放った斬撃を中心にぶつかり合うい、ここで押し負けた方が爆死する!……ハッ、この俺に真っ向からぶつかったことを後悔させてやらぁ!)

 

そして〈和真〉は斬撃と垂直になるようにロンギヌスを振り下ろし十字を描き威力を倍増させる。明久が飛鳥との闘いを制す決め手となった技『クロス・ディバイド』に、副獣を和真なりのアレンジを加えたものである。

 

蒼介(なんとも私達らしい決着の決め方だな……よかろう、望むところだ!私は真っ向からお前を打ち倒す!)

 

そして〈蒼介〉も負けじと“百川帰海・絶海”を放った。“怒濤”を凌駕するほどの超高速剣撃……それをただ一点に集中して放つことで、火力と突破力を何倍にも高める絶技。その破壊力は拾の型・海角天涯さえ上回る、水嶺流最強の技だ。

 

 

和真・蒼介「「うぉぉぉおおおぉおおぉぉおおおおっっっ!!!」」

 

 

 

 

 

しかし、どちらの望む結末も訪れることはなかった。

彼等は正真正銘対等だった。

故に両者の激突は完全に拮抗してしまい…

 

 

 

 

 

 

ドォォォオオオオオォォオオオオオオオォォォォオオオオオオオォォオオオオオオォオオオン!!!

    

和真「んなっ!?

蒼介「ぐっ……!?

 

 

彼等の召喚獣……どころか広大な『スカイ・フィールド』全体を覆い尽くすほどの大爆発を引き起こした。拮抗した二つの膨大なエネルギーが激突した衝撃でその場に留まりきれず瞬時に膨張し、フィールド内の全てを飲み込み蹂躙したようだ。これは一学期の試召戦争で久保と姫路の闘いで、腕輪能力のぶつかり合いによって生じた現象と同様のものだろう。

既に満身創痍だった彼らがそんな超オーバーキルな衝撃に飲み込まれて無事でいられる筈もなく……

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真 戦死

VS

 二年Aクラス 鳳蒼介 戦死』

     

 

和真「…………」

蒼介「…………」

 

両者共倒れという幕切れとなった。反動で素に戻ってしまうのも仕方ない結末だが、この場合どちらの勝ちになるのだろうか?

二人はゴーグルを外し審判である綾倉先生に判断を仰ぐと、清涼祭のときのようにどちらが先に戦死したかコンピューターを使って確認するとのこと。

しかし先述した通り二人のぶつかり合いは完全に拮抗していたため、コンマ一秒違わず同時に爆発で戦死したとコンピューターが結論付けた。最後に喰らったダメージは召喚獣の防御力の関係上〈和真〉の方が大きいだろうが、試験召喚戦争の決着は相手の点数を0にすることで、どれだけオーバーキルしたかは関係がない。故にそんな決め方では和真は勿論、蒼介さえも納得しないであろう。

よって綾倉先生はやむを得ず…

 

 

 

 

 

 

 

 

綾倉「この勝負……引き分け!第一回『サモン・ビースト・フェスティバル』の優勝者は、柊君と鳳君の同時優勝で幕を降ろしました!」

 

 

 

 




割と本気で決着の付け方に悩みましたが、こういう形で落ち着けました。そこ、先送りとか言わない。

ちなみに和真君の最後に放った技のモデルはアバンストラッシュXです。

次回でやっとこの章が終了致します。


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オリジナル第三章終了

オリキャラの一人に超ド級の死亡フラグが建ちます。


あの結末は二人にとっては不完全燃焼かもしれないが、何はともあれ決勝戦は引き分けという結果で幕を閉じることとなった。

そして閉会式もそのまま恙無く進む……ことはなかった。優勝トロフィーに関しては二人とも受け取ることを頑として辞退し、結局学園長室にでも飾っておくことになった(「わざわざ意匠をこらして作ったのに……」と綾倉先生がぼやいていたが、和真も蒼介も勝利に対してどこまでも潔癖なのでこればかりはしかたがない)。優勝者への副賞に関しては和真も蒼介もボンボンかつ物欲が稀薄なため二人で適当に分配した。

と、ここまでは割と円滑に進んだものの、流石に目玉である『常磐の腕輪』は適当に決める訳にはいかず揉めに揉めた。と言っても彼等は所有権の奪い合っているのではなく、むしろその逆-

 

 

和真「だから四の五の言わず貰えるもんは貰っとけって言ってるだろうが」

蒼介「そう思っているならお前が持っていけばよいだろう」

和真「いやいやお前な……ここで俺がホイホイ受け取ったりしたら、なんかお前のお情けで譲ってもらったみてぇな感じになるだろうが。んなもん願い下げだぜ」

蒼介「勿論私も御免被る」

和真「いいからゴチャゴチャ言わずはよ持ってけや。初期点数ならお前のが高かったんだし、ここは学力重視で-」

蒼介「そんなもの私が持っていく理由にはならん。……むしろ初期点数で勝っているのにもかかわらず、引き分けに持ち込まれた私が辞退すべきだろう」

和真「文月学園は実力主義だぜ?高い点数を取った奴がこういう場面で不利になるのはおかしいだろ」

蒼介「Fクラスは『学力が全てではない』という信念の下、学力で定められたヒエラルキーをひっくり返そうと行動してきた筈だ。エースであるお前がこういうときだけその謳い文句を持ち出すのは、いささか卑怯ではないか?」

 

 

あーだこーだあーだこーだ…

 

 

 

(((ガキかお前らはぁぁあああ!?)))

 

もっともらしい理屈を並べてあの手この手で腕輪を押し付け合う二人に、文月学園の生徒達の心は一つになった。しばしば感性がお子ちゃまと揶揄されている和真はともかく、完璧超人で通っている蒼介が負けじと張り合っているその光景は驚きを通り越してカルチャーショックであるだろう。

 

雄二「何くだらねぇ意地張ってんだお前は!?その腕輪をAクラスに持ってかれちゃならねぇって散々言っただろうが!」

和真「うるせぇんだよ腐れゴリラ!負け犬のテメェがしゃしゃり出てくんじゃねぇ!」

優子「和真はともかく、いったいどうしたのよ代表?いつも冷静沈着な代表らしくないわよ」

蒼介「すまないな木下。今後のことを考えればここは相手の顔を立てて、腕輪を受け取ることが合理的な判断であることは重々承知している。……だが許せ、私とて通したい意地がある」

 

このようにクラスメイトが口を挟んでも、まるでとりつく島もない。そんな二人に飛鳥は大きく溜め息をつきつつも、その光景を懐かしむように苦笑する。

 

飛鳥(二人のこんな意地の張り合いも随分久しぶりね……。高校生になったか見かけなかったからもう無くなったのかと思ってたけど……うん、全然そんなこと無かったわ。そう言えば蒼介も和真も、ここまで意地を張り合うのはお互いに対してだけね……)

 

蒼介は勿論和真も意地を張るメリットなどどこにもないことは理解している。もし向かい合っている相手が違ったのならば、よしんば揉めたとしてもどちらが腕輪を受け取るかという名目で争うだろう。

彼らがこのような意地の張り合いをする理由は、お互いが「こいつに勝ちたい」と思いつつ、その一方で異常なまでに勝ち方に拘っているからだ。対等と見なしている相手であるが故、求める勝ち方は完全勝利のみ。このような空しくしょっぱい勝利は相手にくれてやる……とお互いが思っているからこそこの不毛な争いは起きるのだ。以前の野球大会のように彼らだけの問題ではない場合は話は違っていたのだろうが、今回は突き詰めれば彼ら二人だけの問題なのでお互い一歩も譲らない。

しばらく平行線を辿ったのち、綾倉先生が折衷案を提案する。

 

綾倉「……それでは、分割して渡しましょうか」

和真「は?分割?」

蒼介「綾倉先生、どういうことですか?」

綾倉「こういうことです」

 

首を傾げる二人に綾倉先生は濃い緑色の腕輪を一つずつ手渡した。おそらくこれが優勝商品である『常磐の腕輪』なのだろうが…

 

和真「なんで二つあるんだよ?返答によってはここまでの押し付け合いが完全に時間の無駄になっちまうんだが」

綾倉「なんでも何も、『常磐の腕輪』は二つ揃って初めて効力を発揮できるものですから。以前あなた達はボンクラ(学園長)に頼まれて、合体召喚獣のテストに協力しましたよね?」

学園長「おいちょっと待ちな綾倉コラ、今ルビの振り方に物凄い悪意を感じたよ」

 

馬鹿にされていることを感じ取った学園長が噛みついてくるが、綾倉先生はこれをスルーして話を続ける。

 

綾倉「それを実用化したものがこの『常磐の腕輪』です。あっ、君達が協力したときのような子供がどうたらといった、公序良俗に反するようなシステムではないのでご安心を。私は能無しババア(学園長)のような愚はおかしませんとも」   

学園長「いい度胸だねこの腹黒糸目。そんなに減給&停職のコンボを喰らいのかい?」

 

馬鹿にされてると確信した学園長はこめかみにビキビキと青筋を走らせながらそう脅すが、綾倉先生にはやはり無視された。このとき学園長は本当に自分が文月学園のトップなのか自信をなくしそうだったとか。

 

和真「そりゃよかった。あのトチ狂った仕様のままだったら、多分どっかの美紀(バカ)がウザくなるからな」

蒼介「それで綾倉先生、具体的にはどのような仕様を変更したのですか?試しに使ってみようにも、生憎私も和真も既に戦死しているので」

綾倉「そうですね……防具は一新され得物は両者の武器を引き継ぎ、点数は二人の合計値でスペックはそれを参照に再設定されます。そして両方の腕輪能力、オーバークロック、ランクアップ能力を使えるようになりますね。

注意すべき点は操作権は両者にあるので、どちらが動かすか事前に決めておかないと使い物にならないことです」

和真「なるほど、二人から同時に違った命令を出されでもしたら、それを受けた召喚獣がどんな滑稽な行動をとるか大体予想できるな」

蒼介「ふむ……それ相応のリスクもあるが戦略の幅が広がりますね。……分けて持つのなら実践投入されるはしばし後になるでしょうが」

綾倉「そうなりますね……少し残念です」

和真「安心しな綾倉先生、近い内にこいつは揃うことになるからよ」

 

そう言ってから和真は蒼介に腕輪を突きつける。突きつけられた蒼介はやはりいつもの澄まし顔だが、心なしか楽しそうだなと観客席の飛鳥は感じた。

 

和真「俺達Fクラスは近々お前らAクラスに試験召喚戦争を申し込む。その戦争に負けた方がこの腕輪を差し出すってのはどうだ?」

蒼介「……望むところだ。私達の決着は、そのときまでしばし預けておくことにしよう」

 

 

 

そしてようやく表彰式が終了。そのまま閉会式へ移行し、過去際大規模の召喚戦争の祭典『S・B・F』は幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

ヴー…ヴー…ヴー…

 

秀介「(ピッ…)もしもし守那、どうだった?」

『スマン秀介。宮阪桃里は回収できたが、そいつにとりついてた奴ともう一人の嬢ちゃんには逃げられちまった。おまけに二人はしばらく療養が必要なほど負傷しちまって、戦線復帰はしばらくできそうもないな』

秀介「そう、か……。高橋教諭や西村君に加えてお前まで派遣して、それでも取り逃がすとは……どうやら我らの敵は想定した以上に強大らしい。やはりすぐに『鳳翼の七雄』を召集する必要があるようだねぇ」

『そうみたいだな……。あの問題児共が集結するときは、他の四大企業との全面戦争するときだと思っとったが……いや、少なくとも“桐谷”がほぼクロであることを踏まえると間違っておらんのか』

秀介(問題児筆頭の君がそれを言うのかい……まぁ私も人のこと言えないから口には出はさないけど)

『それから秀介…………お前の実の娘が敵陣営にいることが確定した。その理由はお前の予想していた通り、あの嬢ちゃんに化けてやがった』

秀介「……………………………………そうか」

『…………秀介よ、お前なら俺に言われるまでもなくわかっているだろうが……

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

ブツ…ツー、ツー、ツー…

 

秀介(………………わかっているさ。

 

 

 

 

 

 

私が鳳家当主、鳳財閥会長、そしてて私の人生そのものに……ピリオドを打つときが来たようだ)

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「オリジナル第三章が………ようやく終了したな」

和真「長過ぎんだよ!始まったの二月だぞ!?読者の何人かは愛想つかしたんじゃねぇか?」

蒼介「だろうな。しかしその一方で読み続けてくれている者や、新しく読み始めてくれた者がいることもまた事実。もとより、二次小説などそのようなものだろう」

和真「……それもそうだな。この小説は閲覧者が0にならねぇ限り、決して止まることはねぇ!」

蒼介「まあ次回からはまた番外編に移るのだがな。……第四章『ラプラスの悪魔編』はアドラメレク一派との最終決戦だ。無計画にばら蒔いた伏線を取りこぼさないためにも念入りにプロットを組まねばなるまい」

和真「身も蓋もない言い方をすれば、脚本が完成するまでの時間稼ぎに入るわけだな」

蒼介「もう少しオブラートに包まんか…………まあいい、そろそろ時間だ。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」

和真「じゃあな~」




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幕間『ダゴンとベルゼビュート』

新年明けましておめでとうございます。
……はい、皆さんがおっしゃりたいことは重々承知しております。耳をすませば「もう節分も過ぎてもうたわアホ!」という鋭いツッコミが聞こえてきます……。
ここまで投稿が遅れた理由はですね……正月ボケを引き摺り過ぎて執筆意欲がまるでわかなかったからですハイ……。




それでは気を取り直して……いよいよアドラメレク一派との最終決戦スタートしますが、その前にSBF準決勝終了後にダゴンこと鳳紫苑さんとベルゼビュートの自立型召喚獣コンビに、守那さんチームが接触した後どうなったのか見ていきましょう。


新校舎四階にて守那達はアドラメレクの手の者と思われる二人、綾倉詩織と宮阪桃里……もといダゴン(鳳紫苑)とベルゼビュートと対峙していた。

 

ベル「なんだ君達は?アドラメレク一派?いきなりわけのわからないことを……

 

 

 

…………なーんて誤魔化しは効きそうもねーよな、流石に┐(¬_¬)┌」

紫苑「だろうね。我が子や教え子の晴れ舞台をすっぽかしてまで追ってきたんだ、何かしらの確証があって然るべきだろうさ」

ベル「は?おいこらダゴン、尾行されてんのわかってんなら-どぅわっ!?Σ(゚ロ゚;)」

 

ベルが紫苑に苦言を呈する間もなく、鉄人の拳がベルの顔面に迫る。完全に虚をつかれたベルだが、驚くべきことにその豪腕を片腕で受け止めた。

 

ベル「教師のくせに随分と乱暴だなお前。億が一で俺達がただの妄想癖の中二病とかだったらどーするつもりだったよ?(¬_¬)」

鉄人「教育的指導と言っただろう?問題児にはまずは拳から、が俺の教育理念だからな」

ベル(マジかよ……普通の学校だったら懲戒免職ものじゃねそれ?(;^o^))

鉄人「それにお前のその口ぶりからすると、アドラメレクの手の者であることは間違いないようだ。鳳会長や御門先生から知らされた貴様らの悪行……悪いがに手頃を加えてやるほど、俺は寛容な人間ではない!」

 

再度鉄人は力の限り拳を振るうが、ベルゼビュートは鬱陶しそうにしつつもその猛激を平然と腕でガードする。補足すると、鉄人の腕力は素の和真(素手でコンクリートを粉砕できるレベル)よりも上であり、彼の全力をこのように真っ向から受け止めたりすれば、普通骨の一本や二本は軽くへし折れる筈である。

 

鉄人(っ…!この頑強さ……やはりこいつも人間ではないのか……!?)

ベル「あーもうメンドクセーな……いっそのこと始末してやろうか……(#゚Д゚)y」

紫苑「ダメに決まってるだろう。ここは退くよ」

ベル「……チェッ、しゃーねーな。それじゃあ、あばよっ!ヾ( ´ー`)ノ」

鉄人「っ…!逃がさん!」

 

物凄いスピードで一目散に撤退する紫苑達に、三人は追いかけようと走り出すが…

 

紫苑「すまないね、アンタ達の相手はこいつらにしてもらうとするよ(パチンッ)」

高橋「これは……召喚フィールド!?」

鉄人「それも、この階全体に展開されている!?」

 

前を走る紫苑の意味深なスナップが合図となり、四階全体に召喚フィールドが敷かれた。

 

守那(さっき秀介から聞いた話だと、あの嬢ちゃんかなり長いことこの学校に潜伏していたみてぇだし、仕掛けの一つや二つお茶の子さいさいってわけだ。それにこんなもんが展開されれば……ハッ、やはり出てくるだろうよ)

鉄人「こいつらは……!?」

高橋「自律型召喚獣……!」

 

守那達の前後左右に幾何学模様な現れ、彼等を取り囲むかのように四体の自律型召喚獣が出現する-

 

守那「どりゃぁぁあああああっ!!!

鉄人「ぅぉおっ!?」

高橋「ひゃぁあっ!?」

 

寸前に守那は鉄人と高橋先生を掴み、包囲網から遠く離れた場所へぶん投げた。守那の大雑把な行動に慣れている鉄人は空中で高橋先生を抱え、怪我をさせないよう着地した。そして色んな理由で混乱している高橋先生を降ろしつつ、とんでもない暴挙に出た守那に苦言を呈する。

 

鉄人「いきなり何するんですか守那さん!?あなたの滅茶苦茶な行動には馴れていますが、高橋先生まで巻き添えにするのはやめていただきたい!危ないでしょうが!」

守那「さっさと奴等を追え宗一!こいつらを片付け次第ワシも合流する!」

鉄人「えぇい、相変わらずアンタは人の話を聞かないな!それに、いくらアンタでも生身で4人もの自律型召喚獣の相手は無茶だ!」

高橋「そ、そうですよ柊さん!あなたは召喚獣を所持していないのでしょう!?ここは私達が-」

 

 

 

守那「ごちゃごちゃうるせぇんだよボケが!さっさと消えねぇとテメェらごと消し飛ばすぞ!

「「っ!?」」

 

ビリビリビリィィッッッ!!!

 

守那の指示を無視して加勢しようとした二人に、全身に皮膚を剥がされたかのような衝撃が走り抜けた。それは奇しくも現在コロッセオで息子の和真が披露しているであろう、“気炎万丈の極致”へと至った者が発露する、感情のエネルギーと殺気の混合物であった。

 

守那「若造が一丁前にくだらん心配している場合か。大局を見失うなよ宗一、ワシらの勝利はこいつらを片付けることではない

鉄人「…………わかりました。高橋先生、ここは守那さんに任せて先を急ぎましょう」

高橋「西村先生!?」

 

異論を唱えさせることなく、鉄人は高橋先生を連れ紫苑達を追っていった。それと同時に、自立型召喚獣達が守那を取り囲んだ。

 

 

《総合科目》

『??? Gradius  8000点

 ??? Quiksilver 5000点

 ??? Ripper   4500点

 ??? Wivern   4500点』

 

 

守那「ほう……かつてここで起きた自律型召喚獣襲撃事件の七体の主犯格のうちの四体か。なかなか豪勢なラインナップじゃないか!

 

愉快そうに笑いつつ守那は懐から金属製の真っ赤なリストバンドを取りだし、自身の両手両足首に取り付けた。

 

守那「フハッ……フハハハハハ!面白い、ちょうどワシも張り合いの無い闘いばかりで飽き飽きしていたところよ!せっかくだから新兵器の実験台になってもらうとするか……武装(アームズ)

 

そのキーワードが引き金となり、守那の両手に赤色のガントレットが、両足には同じく赤色のソルレットが装着された。

 

守那「さて、科学とオカルトより生まれし化け物共よ……はたして貴様らはワシの()足り得るのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高橋「西村先生!どうして柊さん一人をあの場に置き去りにしたのですか!?」

 

手を引かれ階段を上りながら高橋先生は抗議するも、鉄人は一切足を止めることへない。

 

鉄人「守那さんなら俺達二人を抱えてあの場から離脱することもできた筈。そうしなかったのはおそらく、あの召喚獣達を野放しにすれば校舎に被害が出かねないからです」

高橋「だったら三人で片付けてから……」

鉄人「奴等に逃亡を許せば、たとえあの召喚獣達を倒せても俺達の負けです」

高橋「それはそうですが……でも!生身の柊さんでは召喚獣の相手は-」

鉄人「心配ありません。

あの人は……柊守那は紛れもなく人類最強です」

 

 

ドゴォォォオオオオオンッ!!!

 

 

鉄人の言葉を裏付けるかのように、四階からとてつもなく大きな爆発音が鳴り響いた。

 

鉄人「……まぁ、どっちにしても校舎はただでは済まさそうですが……」

高橋「あの、西村先生……今の爆発音らしき音は柊さんの起こしたものなんですか……?」

鉄人「守那さんは決して常識の尺度では図れない人です。俺の知る限りでは少なくとも、アクセル全壊で突っ込んでくるトラックを片手で受け止めるくらいは朝飯前でした」

高橋「……柊さんは人間、ですよね……?」

鉄人「…………」

 

高橋先生のもっともな疑問に、鉄人は答えることはできなかった。まあそれも仕方ない……ただでさえ文月学園の生徒一同から人外認定されている鉄人を素でボコれるほど強い守那に、“気炎万丈”による爆発的な身体強化なんてものが加われば、それはもはや生き物と言うより兵器に近いだろう……下手すれば憲法9条に抵触しかねないレベルの。

そうこうしている内に階段を上りきり、そして彼等は扉を開け屋上へと出た。

 

鉄人「さあ、追い詰めたぞ貴様ら!」

ベル「げっ、来やがったよしつけーな……('A`)」

紫苑「……仕方ないね。ベル、相手してやりな」

ベル「オメーは闘わねーのかよ?(・・?) 」

紫苑「アンタと違って私は争いが好きな訳じゃないんだよ。……どうしてもと言うなら加勢してやるけど?」

ベル「アホ抜かせ。乗り気でない奴なんかにせっかくの獲物分けてやるもんかよ。

……בהמה(獣化)

 

鉄人「っ……試獣召喚(サモン)!」

高橋「試獣召喚(サモン)!」

 

ベルゼビュートから殺気が放たれた瞬間、鉄人はフィールドを展開し二人は召喚獣を喚び出す。……物理干渉できる教師用ではなく、神器と腕輪を装備した生徒用の召喚獣を。

 

紫苑(西村先生の武器はミョルニル、高橋先生の武器はデュランダルといったところかねぇ。二人ともランクアップしてるだろうし、戦闘の準備は万全のつもりだろう。……だけど足りない。()()()ランクアップ召喚獣二人では、ベルゼビュートは討ち取れない)

 

一方のベルゼビュートは全身が黒く染まり、背中からは悪魔のような翼が生え、大鎌を握りしめた腕が合計六本もあるなど、完全に人間離れした化け物へと変化していた。

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子  8214点

 補習担当 西村宗一  7489点

VS

 ???  Belzébuth 18000点』  

 

 

 

 

ベル「格の違いを教えてやるからよ……精々足掻いて俺を楽しませろや!

 

翼をはためかせ、蠅の王が飛翔する。




次回、人類最強と呼ばれる男がその真価を発揮します。



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幕間『人類最強』

守那さんの守那さんの守那さんによる一人舞台です。


七星獣(セブン・スター)』……ラプラスのクローンであるアバターが独自に開発した七体の自律型召喚獣である。以前この学園で起きた自律型召喚獣事件の際に投入された七体は、実のところあくまで暫定(プロトタイプ)でしかない。しかしその七体ですら(相性が良過ぎた宮阪を除けば)単独で撃破できたのは蒼介のみと、恐るべき戦闘能力を秘めている。当然ながら並の召喚獣ではまるで歯が立たず、ましてや人間では勝ち負け以前に勝負という形すら成立しない。

 

 

 

 

 

 

 

何が言いたいのかというと、この理屈に則るならば………………柊守那はもはや人ではない。

 

守那「ウォォラァァアアアッ!

 

ドゴォォォォォオオオオオオオンッ!!!

 

人知を越えた速度で放たれた守那の拳はワイバーンの懐に突き刺さり、ワイバーンは遥か後方に吹き飛ばされ校舎の壁に激突し崩れ落ちる。守那は手を休めることなく追撃のため接近しようとしたが、ワイバーンはすかさず起き上がり向かってくる守那に火を吹いた。熱こそ持たないものの物理干渉するワイバーンの炎は、校舎の壁程度ならば容易く消し飛ばせるほどの威力を持つ。

しかし守那はこの殺意全開な炎を…

 

守那「温いわぁっ!

 

バシュウゥゥッ!

 

真っ向から拳で消し飛ばした。本能ではなく予めプログラムされた回路に従って活動するワイバーンは、あまりに非現実的な状況を目の当たりにして思考停止する。その隙に守那は十全に距離を詰め…

 

守那「くたばれぇぇえええぇええっ!

 

ドゴゴゴゴゴゴゴォォォオオオオオンッッッ!!!

 

片方の手でワイバーンの首を掴みつつ、もう片方の手で怒濤のラッシュを浴びせる。守那の拳がワイバーンに突き刺さるたびに、アサルトライフルすら弾き返す強度を持つワイバーンの皮膚が見る見る内にひしゃげていき、あっという間に点数を全て削り取ってしまった。

 

《総合科目》

『??? Wivern 戦死』

 

 

守那「…っ!

 

ワイバーンを仕留めた守那は、間髪入れずに斬り込んできたグラディウスの剣を拳で弾き返す。かつて蒼介を戦死一歩手前まで追い込んだ実績は伊達ではなく、その後も高速で移動しつつ反撃する隙を与えることなく多角的な剣撃で守那を追い込む。

 

守那(フハハハ、やはりこやつが抜きん出て強いようだな……さて、そろそろ強引にでも反撃を……っ!?正気かこやつら!?)

 

クイックシルバが銀の雨を、リッパーが無数のナイフを放つ。まさに剣林弾雨と呼ぶべきそれらは守那と激突しているグラディウスごと、守那を消し飛ばすべく襲いかかる。

アドラメレクやベルゼビュートのような特別製はともかく、通常の自律型召喚獣はまともな知性を持たず、自らの闘争本能にのみ従って行動する。そんな彼らに仲間意識なんて上等な価値観は存在せず、敵を倒すチャンスであるなら味方を巻き込むことなど躊躇しないのだ。

グラディウスは盾を構え防御するも流石に多少の手傷を追ってしまう。悠々とかわした守那は、その光景を目の当たりにして小さくない苛つきを感じた。

 

守那「 …………気に入らんな。戦友を平気で巻き込む戦い方、手柄を横からかっさらおうという腐った根性。そして何よりも気に入らんのは……

ワシの闘いの横槍をしたことだ!お望み通り惨たらしく引き裂いてやろうじゃないか!

 

常軌を逸した震脚により生じた爆発のような衝撃音が階全体に響くと同時に、守那は十メートル以上離れていた筈のリッパーに肉薄し鉄拳を喰らわせる。遥か後方へ吹き飛ばされながらもリッパーは自身の体中からナイフの雨を発射するが、御門は回避はおろか防御もせず一直線にリッパーへ急接近し両手で捕縛する。

 

守那「ウォォォオオオオオッッッ!!!

 

雄叫びと共に筋肉が膨れ上がり、体に刺さったナイフが全てへし折れ弾け飛ぶ。げに恐ろしきは“気炎万丈”状態の守那の生命力か、ナイフが刺さっていた筈の体には既に傷の一つすら痕跡が残っていない。

守那はそのまま力に任せてリッパーを左右に引っ張る。リッパーも体からノコギリサイズの刃を出して守那の腕を斬り落とそうとするが、頑強なガントレットに阻まれ逆に刃の方がへし折れる。

 

守那「ゥォォオオオォォォォオオオオオオラァッッッ!!!

 

ブチブチブチブチィィィッッッ!!!

 

守那はそのままリッパーを力任せに引きちぎった。文月学園の召喚獣は点数が0にならない限り一切欠損しないよう綾倉先生にプログラミングされているが、どうやら自律型召喚獣はそうではなかったようだ。

 

 

《総合科目》

『??? Ripper 戦死』

 

 

宣言通りリッパーを八つ裂きにした守那にグラディウスは背後から斬りかかるが、和真と同じく“気炎万丈”状態の守那は視界に頼らずとも敵と定めた相手の位置を把握できるため、すぐさま反応してガントレットで剣を受け止める。

 

守那「慌てるな、貴様は後回しだ!

 

そしてその剣を掴んでグラディウスごと遠くへぶん投げる。グラディウスは空中で立て直し綺麗に着地したためダメージは負わなかったが、その隙に守那はクイックシルバへと接近する。

 

守那「次は貴様だスライム野郎!

 

クイックシルバは先ほどのように自らの体を次々と切り離し固めて弾丸のように投擲するが、やはり意にも介さず前進する。

 

守那「こんなチャチな攻撃避けるのは容易いが……当たったところでどうということはないなぁ!

 

そしてそのままクイックシルバの体に拳を突き刺す。当然クイックシルバは液体のため守那の拳は貫通し大したダメージにはならない。しかし守那はそんなことなど折り込み済み。七星獣の性能は綾倉先生を介して守那達にも伝えられているのだから。故にクイックシルバがどのような方法で打倒されたのかも伝わっている。

 

守那「焼け死ね雑魚が!

 

装着されたガントレットが急激に発火し、クイックシルバに燃え移る。逃れようともがくも守那から逃げ切れる筈もなく、クイックシルバは点数がゼロになるまで炙られ続けた。

 

 

《総合科目》

『??? Quiksilver 戦死』

 

 

これで残りは一体。しかしクイックシルバを倒すことに執心して隙だらけな守那を、フリーになったグラディウスが指をくわえて見ているわけもない。守那は再び背後から近づく『敵』を感知していたものの、クイックシルバを倒すことを優先し放置した。その結果、グラディウスの剣が守那の背中に突き刺さる。

 

守那「うぐっ……!

 

咄嗟に致命傷こそ避けたものの、終始余裕だった守那の表情が初めて苦痛に歪む。振り返り反撃に転じようとするもグラディウスは剣を引き抜きつつ守那から離れ、十分に距離を取ってから剣を構え直し守那に対峙する。守那は刺された箇所の治癒力を促進し傷を癒着させつつ、和真にもしっかり遺伝した凶悪な笑みをグラディウスに向ける。

 

守那「待たせて悪かったな……これで心置きなく貴様をブチのめせるってもんよ!

 

両者は同時に相手に向かって接近し、お互いを滅ぼさんと激烈なまでの攻撃を繰り出していくが、戦局は徐々に守那に傾いていく。

 

守那「ハッハァ!どうしたどうしたぁ!?

 

グラディウスは鋭い斬撃を以て守那の肉体を切り裂いていくが、先ほどの無防備な状態ならともかく頑強さを最大限に底上げした守那の致命傷には至らない。一方守那の拳は何発か盾に阻まれながらも、着実にグラディウスの点数を削り取っていく。それに加え切り裂いた側から生物としておかしいレベルの速度で傷が塞がっていくのだからいよいよ手に終えない。

 

 

《総合科目》

『??? Gradius  5214点』

 

 

と、このように戦局を優勢に進めながらも、実際のところはギリギリの綱渡りだったりする。“鳳”技術開発長が試験召喚システムを研究、応用して開発した『召喚機(サモン・デバイス)』にも、試験召喚システム故の制約からは逃れられることはできない。守那はグラディウスを追い込みながらガントレットに表示された数字を目で確認し、顔をしかめる。

 

 

《総合科目》

『??? 柊守那 521点』

 

 

守那(チィ、もう半分以下か……宗一を信用してないわけではないが、この後に備えて早く仕留めにゃならんな………幾ばくか名残惜しいが、やむを得ん!)

 

意を決した守那は攻撃を一旦中断し、待ちの姿勢に入る。プログラムされたパターンで行動するグラディウスはその不自然な動作を警戒することなく、守那の体を斜め方向から斬りかかる。剣が左肩を抉り想像を絶する激痛が守那に襲いかかったその瞬間-

 

ガシィッッッ!!!

 

守那の左手が剣を掴みその場所で固定する。グラディウスはどうにか剣を引き抜こうとするも、守那の掴む力が強過ぎてまるでびくともしない。

 

守那「ッッッ!!!……フハハ、もう足掻いてもむだだ……歯ぁ食いしばりな……!

 

常人なら失神しかねない激痛に苛まれながらも、守那は笑みを浮かべながら右拳を構え、全てのエネルギーを一点に集約させる。もし仮にグラディウスに心があれば得物を捨ててでも逃れようとしただろう。だがグラディウスの戦闘パターンに剣を使わない闘い方はプロミングされていない。剣を守那から引き剥がせない以上、グラディウスはその塲から身動き一つとれないのだ。

 

守那「覚悟はいいか?それでは喰らうがい、ワシの最終奥義……

 

 

 

 

メテオブロォォォッッッ!!!

 

ドギャァァァァァアアアァァアアアアアアアァァァァアアアアアアアアンッッッ!!!!!

 

名前の由来は隕石のごとき破壊力という意味なのか、それとも喰らった相手が隕石のように遥か彼方まで吹き飛ばされるからなのか……結果としてグラディウスは守那の究極の右ストレートにより跳ね飛ばされ、校舎の壁に叩きつけられるもその部分を跡形もなく消し飛ばし、そのまま召喚フィールドの壁に激突し肉塊となった。

 

 

《総合科目》

『??? Gradius  戦死』

 

 

守那「…………痛……っ!流石に多少は梃子るせてくれたな………………………………………………………………………………よし、解除(キャストオフ)

 

肩口の傷が癒やしてから、守那は召喚機と“気炎万丈”を解除しつつ、壁にできた大穴や守那の脚力のせいで穴だらけになった床を一瞥して嘆息する。

 

守那「多少は気を付けていたが、結局あちこち派手にぶっ壊れちまったな……まあいいか、必要経費だ。それよりも早く救援に向かわねばな」

 

 

 




召喚機についての詳しい説明は次回の前書きでやりますが、ざっくり言うと試験召喚獣を人間が扱う武器に改造したものです。

今回召喚機を用いて特別に開発された自律型召喚獣四体をフルボッコにしましたが、素の守那さんがどれくらい強いかと言うと……

西村先生の強さを10とした場合、

明久……3.5
ムッツリーニ……4
雄二……4.5
空雅……6
蒼介……6.5
空雅(武装)……8
蒼介(木刀)……8.5
和真……9
召喚獣(原作明久の召喚獣)……9
蒼介(明鏡止水)……11
秀介(明鏡止水)……11.5
守那……12
和真(気炎万丈)……15
守那(気炎万丈)……18

これぐらいです。
1違えば明確な実力差があり、2違えばほぼ100%勝ち目無しです。



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幕間『シェイプシフター』

【召喚機】 
“鳳財閥”の技術開発長が試験召喚システムを研究し開発した、召喚獣と同様テストの点数により威力が上下する兵器。喚び出すキーワードは武装(アームズ)、消すキーワードは解除(キャストオフ)。既存の兵器とは比較にならない破壊力を秘めているが、

・あくまでも召喚獣の亜種のため、召喚フィールド内でしか使えない。
・テストの点に左右されるため威力が安定しない。
・一つ開発するのに数億の費用が必要
・どれだけ強力な武装でも扱う者は生身のため、遠距離から爆撃されたりしたら割とあっさり死ぬ(守那は例外)。

などの理由から既存の兵器にとって代わられることは確実に無い欠陥武器。というかある程度召喚獣の操作に慣れているなら、自律型との闘いには絶対にそっちを使った方がいいというガッカリ性能である。


 
(お知らせ)
創作意欲の低下を改善すべく、リハビリがてら『カクヨム』というサイトで投稿を始めました。詳しくは活動報告に記載しています。



守那が七星獣達を蹂躙している頃…

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子  4055点

 補習担当 西村宗一  3821点

VS

 ???  Belzébuth 17308点』  

 

 

ベル「おいおいおい……こんなもんかよ?随分とがっかりさせてくれるな

鉄人「ぐっ……おのれ…!」

高橋「ここまで……差があるとは……!」

 

屋上での闘いは一方的に追い込まれてしまっていた。今日のような決戦に備えて生徒用の召喚獣を用意し、並の召喚獣なら雑草感覚で粉砕できるランクアップ腕輪能力を駆使して立ち向かっているというのに、あれよあれよと開いていく点数差。誤解無きよう釘を刺しておくが、ベルゼビュートはここまで能力らしい能力を使用していない。点差が開いた原因は特殊な能力の差などではなく、ただただ圧倒的な自力の差である。

 

鉄人「くっ……『プラズマオーラ』!」

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子  4055点

 補習担当 西村宗一  1821点

VS

 ???  Belzébuth 17308点』 

 

 

鉄人は2000点を消費しランクアップ能力を再起動させると、エメラルドグリーンのオーラがバチバチと音を立てながら〈鉄人〉の身体を覆う。

 

鉄人「ハァッ!」

 

そしてオーラを収束しベルゼビュートに向かって放つ。

彼の召喚獣に備わった能力は蒼介と同じオーラ系。しかし防御寄りの『インビンシブル・オーラ』と違い、『プラズマオーラ』は敵の攻撃から召喚獣を守ってくれたりはしない。かといって『レーザー・ウィング』のような圧倒的な大火力を秘めているわけでもない。この能力最大の強みはプラズマオーラでダメージを与えた召喚獣を、ほんの一時的にだが行動を停止させられることだ。相手の動きを封じたところに隙の大きい分破壊力抜群の大槌を叩き込む、オーソドックス故に穴の少ない堅実な戦術パターンが〈鉄人〉の強みなのだが…

 

ベル「ちゃんと当てなきゃ意味無い無い!

鉄人「っ……速すぎる……!」

 

ベルゼビュートは翼をはためかせ大空に飛翔し、〈鉄人〉の放ったレーザーを悠々と回避する。プラズマオーラを命中させられらたのは初見の一回こっきりで、その後はベルゼビュートの高速飛行でことごとくかわされている。

 

ベル「オイオイ悔しがってる場合かー?そんな風にのんびりしてちゃ、また射程圏内に入っちまうぜ?

鉄人「っ!?しま-」

ベル「遅いんだよ!

 

目にも止まらぬスピードであっという間に背後に回り込み、〈鉄人〉に向かって大鎌を振り下ろすベルゼビュート。残りたった1800点で直撃しようものなら即死を免れないであろうこの攻撃は、突如出現した半透明な円形の障壁に阻まれる。

高橋「間一髪……!」

 

これぞ高橋先生の防御特化ランクアップ能力……『アイギス』。火力は皆無だがその防御能力は蒼介の『インビンシブル・オーラ』を凌駕し、和真の最大火力ですら真っ向からぶち破るのは不可能な鉄壁の守り。

 

ベル「ナイスアシスト。……と言いてーところだが1/6を止めていい気になられても、なぁっ!

高橋「っ……『アイギス』!」

 

すかさず両斜め方向から大鎌を振り下ろすも、〈高橋〉は障壁をそれぞれの方向に展開して受け止める。

 

ベル(ふーん、出せる障壁は一つじゃねーのか……たがこの手の能力には一度に出せる数に限りがある筈だ)

 

続いて右サイドから大鎌で薙ぐも、やはり障壁を展開されて止められてしまう。しかし高橋先生の表情には微塵も余裕が見られない。

 

ベル(そしてアイツの切羽詰まった面からして……俺の六連撃を完封することは無理。となると…)

高橋(っ!これは……!)

 

畳み掛けるように左サイドからも攻めるもやはり障壁に止められる。しかし高橋先生はその攻撃にほとんど力がこもっていないことに気づく。

 

ベル「こいつでラストだ!防げるもんなら防いでみやがれ!

 

ベルゼビュートの狙いはただ一つ。回数制限を五回と予測し五回目を捨て、最後の一振りに全力を振り絞ること。その読みはズバリ的中、高橋先生は六枚目の障壁を展開することはできず、下方向から〈鉄人〉に向かって迫る大鎌には対処できない。

 

 

 

 

 

 

ベル(…………いや違うっ!?この女追い詰められたような面して、俺を罠に嵌めやがった!)

高橋(これで私の役目は終わり……あとは頼みましたよ西村先生!)

鉄人「うぉぉぉおおおおおっ!」

 

しかしながら、高橋先生の真の狙いは時間稼ぎであった。ベルゼビュートが『アイギス』に阻まれている内に〈鉄人〉は迎撃体勢に入り、プラズマオーラを纏わせたミョルニルを大鎌に向かってフルスイングする。激突すれば大鎌を伝ってベルゼビュートに誘電し、ベルゼビュートをショートさせるであろう決死の一撃だ。

 

ベル「っ……!

 

そのことを瞬時に察知したベルゼビュートは咄嗟に後方に跳び避けるが、それを読んでいた〈鉄人〉はミョルニルを構え直しながら前進する。

 

鉄人(瞬時に俺の狙いを見抜き、ギリギリのタイミングでかわしたことは称賛に値する。だがそこまで強引な回避は、決定的な隙を晒す……体勢の崩れたその状態で、俺の追撃は避けられまい!)

 

そして射程圏まで距離を詰め、ベルゼビュートを打ち倒すべくミョルニルを大きく振りかぶり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子  4055点

 補習担当 西村宗一  戦死

VS

 ???  Belzébuth 17308点』 

 

 

鉄人「ガハァッッ!?……な…に……?」

高橋「に、西村先生!?」

ベルゼビュート「惜しかったな……だが残念、ゲームオーバーだ

 

〈鉄人〉は戦死し、本人も吐血しその場に倒れる。

逆転の強打を喰らわせようと〈鉄人〉がミョルニルを振りかぶったその直後、ベルゼビュートの翼が無数の槍に変形し、ミョルニルを振り下ろす間も無く〈鉄人〉の体を貫いた。

 

ベル「お前もなぁっ!

高橋「っ!?」

 

無数の槍はそのまま〈高橋〉に向かって一斉に伸びて、上下左右前後を取り囲んだ。〈高橋〉は『アイギス』を展開して身を守るも、たった五つの盾で百の槍を防ぎきれる筈もなく、圧倒的な物量差の前に敢えなく〈高橋〉も潰されやはり本人も吐血しその場に倒れ伏した。

 

 

《総合科目》

『学年主任 高橋洋子  戦死

 補習担当 西村宗一  戦死

VS

 ???  Belzébuth 17308点』 

 

 

槍となった翼を元の状態に再変形させつつ、倒れ伏したままの鉄人に歩み寄る。

 

ベルゼビュート「特別サービスだ、説明くらいはしてやるよ。固有能力『シェイプシフター』により、俺は肉体を自由自在に変質させることができる。さっきみたいに翼を武器にしたり、

 

元通りの翼になった直後にベルゼビュートの背中から二本の腕が生え、

 

ベルゼビュート「腕を生やしたり、

 

掌部分を膨脹させ大鎌へと変形させて切り離し、てのひらを再構成し大鎌を握り締める。

 

ベルゼビュート「その気になれば武器も無限に創造できたりと、便利な力だろ?…………あ?

鉄人「……ぐっ……カハッ……!」

 

死力を振り絞って立ち上がろうとするも、内蔵に大きなダメージを受けたらしく鉄人は身動き一つ取れないでいる。そんな様子を一瞥し、ベルゼビュートはくつくつと笑みを漏らす。

 

ベル「あ、そっかそっかー。言ってなかったよなワリーワリー。俺の展開した召喚フィールドはちょっとした特別製でね、召喚獣が戦死した直後にフィードバックがまとめて襲いかかるのさ。……さてと、どうやら動けねーようだし……お前らもうここで死んどくか?

ダゴン「…………その辺にしときな、ベル」

 

とどめを刺そうと鉄人に歩み寄るベルゼビュートを、それまで静観していた紫苑が止めに入る。最後のお楽しみを邪魔されたベルゼビュートは不満そうに紫苑を睨む。

 

ベル「んだよダゴン?今一番良いところだろうが。それとも何だ?長いことなまっちょろい学生生活を送ってる内に、こいつらに情でも移ったか?

紫苑「こいつらは生かしとけってのがラプラスの指示だよ。大方いつもの遊び癖だろうがね」

ベル「……またかよ、ったく。…………ハァー……わかったわかった、わかりましたよっと ̄Д ̄ =3 」

フィールドを解除しつつがっくりと肩を落とすベルゼビュートに、紫苑は彼にとっての吉報を伝える。

 

紫苑「まあそう気を落としさんな。ファントムの奴は無事アンタの器となる女を本拠地に連れ帰ったそうだ-」

ベル「なぬ!?本当か!?……やーれやれ、時間稼ぎなんて趣味じゃねぇことした甲斐があったぜ( ≧∀≦)ノ」

鉄人(時間、稼ぎ……だと……?

くそっ、やられた……!?こいつらの狙いはもっと別の何かだったのか……!)

 

自分達がしくじったことを痛感させられた鉄人をよそに、ダゴンは携帯を操作してアバターとコンタクトを取る。

そんな中、ベルゼビュートは向き直り、不自然なまでにご機嫌そうな表情を鉄人に向ける。

 

ベル「テメーら命拾いしたな。そして今の俺は最高に気分が良い。敢闘賞ってわけじゃねーけど、もう必要の無いこの肉体は返してやるよ( ゚∀゚)」

 

彼の言葉が言い終わると同時に、二体の召喚獣は白い光に包まれ、その場には倒れ伏す鉄人と高橋先生、そして宮阪桃里だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ!

 

 

守那「…………チッ、遅かったか。やはり校舎の被害を度外視してでも瞬殺してかけつけるべきだったか?……まあ、こうして宮阪桃里だけは取り返せただけ良しとするか。

それにしても、ワシらが接触する前の奴等の会話。あ………………あの嬢ちゃんが、鳳紫音か」

 

 

 




次回からついにラプラスの悪魔編です。




【レッドガントレット&レッドソルレット】
召喚機試作品第1号。柊守那専用の召喚機(手甲&足甲型)。両手両足の運動能力を爆発的に上昇させる。また発火能力も備えている。その力は完全に人智を越えたものであり、さらに本編の守那は校舎の損傷を抑えるようある程度手加減をしていたため、まだ力の底は見せていない。
破壊力が絶大ゆえに反動や負担もまた絶大で、10mの建物から飛び降りて無傷で着地できるくらい頑丈でなければ使いこなせないという超欠陥品。

試験召喚システムを介したものなので当然テストを受ける必要があり、獲得した点数が高いほど長時間召喚していられる(召喚中は常に点数が減り続ける。発火能力を使えば大幅に減る)。ちなみに守那の総合点は1200点前後(英語と国語だけAクラス並で他はFクラス並)とお世辞にも高くない。


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オリジナル第四章『ラプラスの悪魔』

今回少し短めです。


『アバター』によるデジタル世界を経由した空間転移により、ベルゼビュート達は彼らの本拠地である『桐谷サイバーシティ』の中枢、『バベルタワー』へと舞い戻った。   

 

紫苑「……………」

 

その最上階の社長室であった部屋にて、()()()()()()()()()()と切れ長の目つきが特徴的な少女……鳳紫苑は、幼き頃からの習慣である瞑想に励んでいた。満足のいくまで瞑想を行ってから目を開けた彼女の目の前には、眼鏡をかけスーツを着た茶髪の女性が呆れた表情で肩を竦めていた。彼女は御門空雅の後輩にして“御門エンタープライズ”の現トップである桐生舞…………だった者だ。

 

ベル「毎日毎日きっちり同じ時間に、これまたきっちり同じ長さの瞑想、か……相変わらず病的に几帳面な奴だなお前は┐( ̄ヘ ̄)┌」

紫苑「別に意図して揃えているわけじゃない。身に付いた習慣ってのは大概そんなもんさ。……随分と可愛らしい外見になったじゃないかベルゼビュート」

 

そう……今の彼女の肉体ははベルゼビュートの支配下に置かれていて、本来の彼女の意識は深い眠りに陥っている。

ベルゼビュートは人に憑依することで、召喚フィールドを介さずにこの世への現出を可能とする自律型召喚獣だ。憑依する相手は誰でも良いわけではなく、適正の低い者に憑依すれば戦闘能力を著しく低下させてしまう。そして桐生舞のベルゼビュートとの適正は最高レベル。すなわち今のベルゼビュートは宮阪桃里に憑依していたときよりずっと強い。確かに外見こそアレだが、それを考慮にいれてもべルゼビュートは宿主を鞍替えしたことに悔いは無い。

 

ベル「うっせ。……オメーの方こそなんで素顔になってんだよ?俺のイミテーションフェイスはそんなにお気に召さなかったか?(-ω- ?)」

 

そう……今の紫苑の顔は綾倉慶の娘・詩織を偽って学園に潜入していたときのものではなく、鳳家の長女として生を受けた紫苑本来の素顔になっている。

変装のタネはシンプルにして完璧。ベルゼビュートの固有能力、身体を自在に変化させる『シェイプシフター』を応用し、綾倉慶の面影がある少女のマスクを作成。あとはそれを切り離して紫苑に被せれば完成、何故か接合部位すら残らないため、決して見破れない変装となる。意外と職人気質なのか綾倉詩織の顔の出来を気に入っていたようで、それをあっさり脱ぎ捨てたことにベルゼビュートは少し不服そうだ。

 

紫苑「そう目くじらを立てること無いだろ。柊守那と蒼介……多分父にも私の正体はバレてるだろうし、もう変装しても無意味じゃないか」

ベルゼビュート「それは、そうだけどよ……(-_-;)」

紫苑「鳳とは縁を切ったとは言え、母様に似た容姿は気に入ってるんだ。悪いがここは引き下がってもらうよ」

ベル「……わぁーってるよ。確かにせっかく苦労して作ったから非常に惜しいが、どっちにしろもう外しちまったから手遅れだしなぁ……( ´△`)」

紫苑「そういうわけだファントム、アンタもその人をおちょくったような仮面はもういらないんじゃないか?」

 

おもむろに紫苑が明後日の方を向きそう語りかけると、突然その場所に不気味な仮面を被った性別不明の不審者・ファントムが姿を現した。ボイスチェンジャー越しに何やら困惑したような声色でファントムは紫苑に尋ねる。

 

『………いやはや、どうしてわかったのかね?私のアビリティ“ブラインド”は視覚のみならず聴覚、嗅覚の感知をもすり抜けると言うのに』

紫苑「………何、ちょいとカマをかけてみただけさ。学園から桐生舞をここに連れ込んだのはアンタなんだ。悪趣味なアンタのことだから、どこかに潜んでいると考えても不思議じゃあるまいよ」

『ふふふ……まあ、そういうことにしておこうか』

ベル(こいつらホント仲悪いよ……毎度毎度飽きねーのかね┐( ̄ヘ ̄)┌)

 

あんな特殊性の強い能力にもかかわらず思考回路が脳筋寄りのベルゼビュートでは、二人の水面下の争いについていくことができずやれやれと肩を竦めるばかりであった。しかし実のところ彼もあまり人のことを言える立場では無かったりする。

 

?「クックック……相も変わらず間抜け面をさらしておるようじゃのう、ベルゼビュート」

ベル「……バビロン(#´口`)σ」

 

社長室に入ってきた白髪の女性を視界に入れた途端、ベルゼビュートは嫌悪感丸出しの表情に変化した。

 

ベル「この引きこもりが……いったい何しに出てきやがった?(#´口`)σ」

バビロン「聞き捨てならんな。妾のような高貴な存在は、真に重要な局面以外でそうそう腰を上げたりはせんだけじゃ。お前のように地べたを這い回る虫けらには理解できんじゃろうがな」

ベル「高貴な存在だぁ?幹部のくせに他力本願しか能の無い、単体なら俺やダゴンやファントムら【セブンスター】はおろか、旧式七星獣にすら劣る雑魚が図に乗ってんじゃねーよ(*´・∀・)」

バビロン「……ゴライアス共の餌食になりたくなければ、あまりなめた口を叩くでないぞ」

ベル「雑魚専の玩具貰って調子づいてんのか?あんなもん俺からすればただの木偶だってのに哀れな奴(*´・∀・)」

バビロン「黙れ糞蝿」

ベル「死ね阿婆擦れ (`Δ´)」

バビロン「…………」

ベル「…………(#^ω^)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アバター「清々しいまでにチームワーク皆無だね……オリジナルももう少し扱いやすい駒を揃えて欲しいもんだよ」

 

社長室に備え付けられているパソコン内から一部始終を見ていたアバターは、今この場にコピー元であるラプラスに向かってそう愚痴る。

 

ラプラス「せっかくゴライアスも量産化に成功し、オーブも完成して闘いの準備が整ったってのに、先が思いやられるなぁ……まあ彼らが足並揃えて闘うなんて、初めから期待してないけどね♪」

 

そう言ってアバターがおもむろに手をかざすと、どこからともなく男女計四名が突如現れた。

志村泰山、黒木鉄平、宗方千莉……そして、元桐谷グループCEO・桐谷蓮。四人ともダゴンの洗脳を受けた影響か目の焦点が合っておらず、ただただ虚空を見つめたまま沈黙している。

 

ラプラス「多分彼らはこちらの指示とかにはあまり従わず各々好き勝手に動くだろうから、君達セブンスターの活躍には期待しているよ♪」

 

 

 

 

 

 

御門空雅がアバターの支配下から逃れるまで……それはつまり彼がラプラスの正体を暴き開戦の狼煙を上げるまで、あと、三日。

 

 

 

 

 




バトル漫画恒例、敵サイドの幹部大集合回です(半分ほど集まってないのはご愛敬)。
敵の戦力を整理すると  

【ボス】ラプラス(?)、アドラメレク

【参謀】アバター
 
【三幹部】 
・ベルゼビュート(桐生舞)
・ダゴン(鳳紫苑)
・バビロン(?)

【セブンスター】
・ファントム(?)
・桐谷蓮
・志村泰山
・黒木鉄平
・宗方千莉
・???
・???

その他ゴライアス及び自律型召喚獣達
  

……これ全部片付けるの大変だなぁ。
和真君達も、私も。




新キャラのバビロンは召喚獣でありながら、(ベルやダゴン、アドラメレクのような同格かそれ以上を除く)自律型召喚獣を操作する能力を持っていますが、素の強さは並のAクラス生徒の召喚獣程度です。意外とプライドの高いベルゼビュートが彼女と同格扱いを許容できる筈もなく、バビロンも同格でありながら隔絶した強さを持つベルゼビュートへの劣等感が強いため、二人の仲は尋常じゃなく悪いです。


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