真剣で猟犬に恋しなさい!! (勿忘草)
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小学生編
『白い家での出会い』


この度エアマスター要素を取り入れてマジ恋の小説を書かせていただきました。
前作から三年経った設定ですが、章を分けさせていただいております。
そのため初めは時間を遡ってオリキャラの幼年期となります。


1998年…それは七浜ベイスターズが幾許(いくばく)ものファンが待ちわびた、念願のセの覇者になった年、……。

これはある少年の物語である。

この物語はA県という本州最北端のある孤児院から始まる。

 

俺は顔を上げて天井を見る。

天井は見渡す限り、汚れが一つも無く綺麗で白い。

ピカピカ光る電気だけが天井と違う色をしてる。

俺はそんな天井を見た後に横に振り向いて壁を見る。

真っ白な天井とは違って色とりどりのクレヨンでぐちゃぐちゃに塗られている。

沢山の奴らにそうやって、いたずらをされているから、色の移り変わりが凄い事になっている。

ある所までは赤いのに、そこからいきなり青と混じって、紫になっている場所なんて当たり前だ。

カレンダーを見たら、壁と同じ様にぐちゃぐちゃに塗りつぶされているけど、顔を近づけてよく見ると十月の末だって言うのが分かる。

 

ちなみにここの名前は『白い家』。

しかしそんな名前と違って白いのは天井ぐらいのものだ。

 

そして、ここは『孤児院』って言う所で、親が居ない子供や親が捨てた子供が集まる場所らしい。

そして、俺とある女の子が一番年数で言えば古い孤児。

 

院長が言うには赤ん坊の頃に足に名前を書いていた状態でここに来たらしい。

ちなみに、その女の子もだ。

今、俺の年は六歳だからもう六年もここにいる事になっている。

 

ただ、ここに来る子供の年は色々とばらばらである。

ここにいる一番の年上は十二歳。

それだけでなく年数が経っていて十歳になった奴などもいる。

 

 

俺は天井や壁を見るのも飽きたから砂場まで歩く。

やっぱり十月も終わりになって冬が近づいているのがわかる。

試しに息を吐けば白い。

そして、外を見渡すと砂場で男の子が、二人で一人の女の子をいじめていた。

そのいじめられている女の子が俺と同じ時期に入ってきた赤ん坊から一緒の奴。

 

「やーい、泣き虫!!」

「泣き虫一子(かずこ)、泣き虫一子!!」

「ふえええぇええん……」

 

あいつ、『また』いじめられて泣いてるな……

これで何回目になるんだろうか?

正直数えるのも面倒な回数だというのは間違いないだろう。

俺は一子に対するそいつらのいじめを止める為に砂場へと向かっていった。

 

「今日は『源(みなもと)』の奴が寝てるからな!!」

「あの目つきの悪い鬼みたいな奴は天井見てたぜ!!」

「残念だけど居るよ、ここにな」

「えっ?」

 

俺はこいつらが喋っている間に砂場についていたので横に立って言う。

 

「なっ!?」

「さて……どうなるか、分かってていじめたんだよな?」

「こっ、怖くないぞ!!」

「ゴメンなんて俺たちはいわないからな、こいつが泣き虫なのが悪いんだ!!」

「そうか、じゃあ……」

 

そう言って俺は顔に拳を突き出した。

 

「いってえ!!」

 

どうやら思いっきり当たったみたいだ、しかしそんな事言ってる間に今度は拳を腹に突き出す。

 

「うっ!!」

 

顔に続いて腹にもパンチが当たった、なんだか痛がって腹を押さえている。

でも一子をいじめたらここではこうなるぐらい分かっている事だ。

 

「もうやめて、痛いから……!!」

「お前らは『一子』がそういった時やめてあげたのか?」

「ひっ……」

 

そう言ってもう一度腹を蹴る、そして苦しそうにしている間に顔に蹴りを一発。

そして逃げたもう一人は……

 

「みっ、源!!」

「寝てるのにうるせえんだよ……」

「俺達は悪くないぜ、『泣き虫一子』が悪いんだ」

「またこいつをいじめたんだな……てめぇら」

 

源……下の名前は忠勝(ただかつ)

 

目つきは俺ほどでもないが悪く、怒っているのか、それとも普通の表情なのか勘違いしそうだった。

まあ、今の状態は怒っているんだろうけど。

 

さて……今から一子をいじめた三人の内で残った奴をぼろぼろにするかな。

 

腹を蹴られていた奴も、今のやり取りの間に痛くなくなったんだろう。

今のうちに逃げようとしているので、背中に肘打ちをする。

 

「うぅ……」

 

背中に思いっきりやられたせいでこけそうになる。

まあ、それ以上に痛さで嫌な気分になるだろうけどな。

 

「オラ!!」

「あうぅ……」

 

背中の痛さでもう一度腹に蹴りを入れたら、そのまま腹を押さえてお昼のゴハンを吐き出しながら泣き出しやがった。

勝手に泣いてろと思い足を振り上げる。

 

「歯も何本か抜けちまえ……」

「えっ?」

 

キョトン顔で言ってくる。

蹴られた後に鏡で鼻血と欠けて抜けた歯を何本か見るんだな。

俺はそのまま顔に蹴りを叩き込む、そして勢い良く振りぬいて一人をぼろぼろにした。

 

そして源を見る。

どうやら源の方も相手の方をぼろぼろにしていた。

といっても俺みたいな事はしていない、せいぜい叩いて泣かせたぐらいだ。

相手は泣いているけど一子をいじめたらこうなるのは分かっていたはずだ。

 

最後に残った一人については、普通に殴るだけ殴ってヒンヒン泣かせておいた。

 

そして、俺達はあいつらをぼろぼろにした後に、院長室まで行く事になった。

大方あいつらがチクッたんだろう。

全く……自分たちが原因を作ったんだろうに。

自分たちの都合が良いように、俺たちに殴られたって事だけ伝えたんだろうな。

 

「また君達ね……」

「だからなんなんだよ、院長」

「俺たちは悪くねえ……」

「分かってるわ、また一子ちゃんがいじめられたんでしょ?」

「そうさ、あいつをいじめるから俺達は怒る、だからあいつらが悪い」

「それしかねえ……何にも無しで殴るほど俺たちは酷くないぜ」

「それでも暴力はだめ。 言葉で言えるようになるの、ねっ?」

「はーい」

「分かりました……」

 

そう言って俺たちは外に出る。

院長室の前で一子が泣きそうな顔をしていたので、近づいて大丈夫だっていってやった。

 

ちなみに源の事を俺は下の名前の忠勝から取ってタッちゃんって呼んでる。

一子はそのまま『かずこ』って読みかたどおりに呼んでいる。

そういえば名前をまだ言っていなかった。

俺の名前は『香耶』

上の名前はないから下の名前だけ。

これで読み方は『きょうや』ってなっている。

そして俺の呼び方は……

 

「ゴメンね、タッちゃんにキョウちゃん……」

「一子が謝る事じゃねえだろ……」

「そうだ、虐める奴が悪いんだ。 気にしなくて良い」

「キョーヤの言うとおりだ。 だから気にするな」

「うん……有難う」

 

一子からは『キョウちゃん』

タッちゃんからは『う』を伸ばして言う『キョーヤ』である。

 

俺とタッちゃんは、この孤児院で一子に優しい事で分かられている。

一子が泣くのがタッちゃんはうるさいと思っているらしい。

まあ、その割には結構気にしてるみたいだけどな。

俺はずっと一緒だったから一子が泣く事に関しては全然問題なかったけど。

 

むしろ他の男達が多くで一子をいじめるのが気に入らない。

タッちゃんもそこは分かってくれている。

だからむかつく男との喧嘩は俺と一緒にやってくれる。

まあ、『泣き虫一子』のような悪口があるなら、俺からすれば『弱虫タッちゃん』だけどな。

何回か話が合わなくて喧嘩した事が有るけど全部俺が勝っている。

 

何度か年上の男と一対一でやってぼろぼろにしたりしてるせいで、ここにいるみんなは俺の事を怖がっている。

ただ、さっきみたいに俺たちがいない隙を狙って一子をいじめているみたいだが。

ここでの最初のいじめは、一子が四歳ぐらいになって、タッちゃんが入ってきた次の日だった。

 

その時は俺だけで一子をいじめたやつらをボコボコにした。

しかし、何回もそれを繰り返していた時に結構な人数で来られた。

そして、丸っこく俺を挟もうとした時にタッちゃんが来て助けてくれたのだ。

 

その時は、『勘違いするな、俺が楽に寝る為だ』と言われた。

それから、なんやかんやで一子を守るために、俺達は三人揃って行動をするようになっていた。

 

.

.

 

 

しかし、その時間がいきなり崩れるなんて子供の俺には分からなかった。

タッちゃんが冬が真っ盛りになる十二月の前に男の人に引き取られていったのである。

 

男の人の格好は少しクタッとした薄い黒色のジャケットを着ていた。

顔は少し疲れたような感じだ、まだまだ若々しい感じではある。

髪の毛はなんだか黒色ではあるが少し薄めの色だった、そして結構長い。

そんな事があってから数日が過ぎて、十二月の中ごろにまた変な人が来た。

見た感じはタッちゃんを引き取っていた人より若い人。

この寒さに慣れてないのだろうか、鼻が赤くなってまるでトナカイみたいだ。

そしてその人は、俺の前に近寄って一言こういった。

 

「君、俺の『子供』にならないか?」

 

そう言って、手を俺に向けて出してくる。

一応寒い場所なのを分かっていたからか、手袋をしていた。

 

しかし、良く見ると変な格好をしている。

上は雪のように真っ白なジャケットを着ている。

そして、頭には真っ赤なニット帽を被り、その下にはこれまた真っ白なバンダナを巻いていた。

 

……この変な格好の人の名前は後で分かる事になる。

年齢を聞いた時に意外と若かったのを言われて驚かされたのはコレより後の話。




新連載となりました。
さて……前作の小説に出ていたキャラの出番はかなり待たせることになりますが確実に出します。

なにかしら指摘の点がありましたらお願いします。


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『バンダナ野郎とダンボールの城』

前回に引き続き原作キャラが出てきます。



「ここが今日から君の家だ……そういえば君の名前を聞いていないな」

 

俺を引き取った人は俺の名前を聞かずにそのまま家まで連れて来た。

まあ、名前なんて下の部分しかないから殆(ほとん)ど意味無いんだけどね。

 

どういった場所かといえば、神奈川の『川神』にとても近い一軒家。

地図を見ると、川神市には歩いて五分も無い。

流石に堀の外町は遠いほうだから歩いて二十分はかかると思う。

 

あれからA県を出発。

A県の駅から、電車に乗って川神駅へ。

そこからバスに乗ってこのアパートへ到着。

全部あわせて、三時間か四時間位かけて此処に来た。

 

引き取られる事に賛成した理由はちゃんとある。

もしかしたらタッちゃんに会える可能性があるからだ。

あの『白い家』にずっと居ても会えそうにない。

だから俺は可能性を信じてみようと思い、この人の『子供』になる事に賛成した。

 

……といっても、一子が泣きそうになっていたのを見てちょっとためらったが。

院長が一子を引きとめたおかげで何とかなった。

一子もいつか引き取られて欲しいな。

まあ、引き取られなかった時は顔を見に会いに行くけどな。

 

「俺の名前は香耶って言うんだ。宜しくな、おっ……」

 

そう言いそうになって俺は一瞬止まった。

危ない危ない、親になる人におっさんは無いって。

それに見た目若いしな……なんて呼んだら良いんだ?

 

そんな事を考えていたら笑いながら言われた。

 

「君が呼びたいように呼びなさい」

「じゃあ、おっさんって呼ぶよ、宜しくな、おっさん」

 

こうして、俺とおっさんの家族生活が始まった。

俺は靴を脱いで家に入る。

おっさんは玄関に何か写真をおいていた。

おっさんと綺麗な女の人。

……あれっ?

それはそうとおっさんって結婚しているのか。

 

おっさんはおっさんで、家に入ってすぐに食事の支度を始めた。

エプロンかけているけど、こんな見た目のくせによく似合うもんだなと思う。

ちなみに髪形はただ肩まで伸びたのを結ばずたらしているだけだ。

目つきは少し垂れていて、温厚な雰囲気を出している。

歯は若干八重歯が見えている、しかし歯並びは綺麗だ。

 

「此処に来て記念すべき初めての食事だ。 食べなさい」

 

そんな事を考えていたら数分後、ご飯の用意が出来た。

目の前に出されたのは野菜炒めと味噌汁。

悪いが俺が想像していた物とは違う。

 

「どうしたんだ、キライなものでも入っていたか? 好き嫌いはよくないぞ」

「いや、なんか肉とかそういうのを適当にやるかと思ってたから……」

 

正直な感想を言う。

だって、男の人の料理ってそんな感じだと思っていたから。

すると、おっさんは笑いながら大きな声でこう言った。

 

「それでも良いんだけど、野菜も食べないとな。 妻もうるさくて」

「そうなのか?」

「そうさ、今は買い物でもしているんだろう。 一応結婚はしているさ」

 

おっさんは俺の頭をぽんぽん触りながら言ってくる。

そうなのか。

俺は大人でも男の人は、タッちゃんを引き取った人しか知らないから分からない。

 

それから少しして、皿の中身も茶碗の中身も空っぽになった。

ちなみに味は不味くなかった。

といって美味しくも無かったけど。

さて……ご飯も食べ終わったし、折角なんだ。

探検する気持ちで、ちょっとここらへんを回ってみようかな。

 

「おっさん、遊びに行っても良いか?」

「良いぞ、事故とか怪我がないように気をつけるんだよ」

 

おっさんはなんか言っているが別に大丈夫だ。

俺はこの近くの『川神』まで行く事にした。

電車に乗るにしても遠くないので、歩いてのんびりと行く事にした。

 

「で……公園があったら良いんだけどな、どこか無いかな?」

 

初めてで、全くと言って良いほど場所が分からない。

とりあえず、最初は歩いて探す事にする。

色々な場所をぐるぐると回っていくけれど、遊べる所が上手く見当たらず、そんな時に目に入ったのは大きな橋だった。

名前は『多馬大橋』って言うらしい、きっとこれは『たまおおはし』って読むんだろうな。

『白い家』に居た時に院長が持ってた薄い漢字だらけの本をよく読んでいたから分かる。

 

とにかく俺はその橋の上でジーッとどこかに公園かなにかが無いか、じろりと目の皿のようにして見る。

少しの間探してみたが、結局公園は見当たらなかった。

しかし、向こうの方に大きな原っぱがあるのが見えた、あそこなら悠々と遊べるかもしれない。

俺はそう思って急いで原っぱに駆けて行ったのだった。

 

.

.

 

原っぱまで全力で走っていった俺は十分(じっぷん)もすれば着いていた。

横を見ても前を見ても緑一色の景色……では無かった。

なんか、ダンボールでできた大きく立派な城がある。

俺は近づいてみた、もしかして誰かこの城の中に居るのだろうか?

 

「おい、お前!!」

 

そう思って近づいていくと、目の前まで来た時、いきなり大きな声が聞こえてダンボールの城の上から人が出て来た。

って言っても俺と同じくらいの年の男。

頭にはバンダナを巻いて、手には新聞紙でも丸めたのだろう、武器を持っていた。

 

「この『風雲風間城(ふううんかざまじょう)』になんか用事か?」

 

男がそんな事を言うから俺も俺で言ってやった。

 

「城の上に立ってなんなんだ、用事ならちゃんとあるぞ、誰かいないかなって思ったんだ」

 

そう言ってやると男は目を瞑ってなんか頭を上下に振りやがった。

 

「成る程成る程、つまり俺に会いに来たって事で良いんだな?」

「いやいや、何でそうなるんだよ、そうじゃない、そうじゃない」

 

なんか、初対面で名前も知らない奴に勘違いされている。

お前を会いに来たんじゃなくてこの城を見に来ただけなのに、誰かいるか確かめに来ただけなのに。

まあ、良いか。

 

「分かると思うが『風間城』の主人はこの俺!!、名前は『風間(かざま)翔一(しょういち)』だ!!、お前の名前は?」

 

あっ、そういえばおっさんの名前聞いて無いや。

仕方ない、下の奴だけで良いか。

 

「俺の名前は『香耶』って言うんだ、別に下だけでも良いだろ?」

 

そう言うと笑いながら城の上から飛んで降りてきた。

そして綺麗に着地する、どうやらケガもないみたいだな。

 

「別にそれでも良いぜ、宜しくな!!」

 

そのまま俺に近づいてくる、こっちの手を握って勢い良く振ってくる。

コイツ、本当に凄いな。

初対面の人間に対して怖がらないでいるんだから。

 

「俺の事は『キャップ』って呼んでくれ、俺はお前の事を『キョーヤ』って呼ぶからな!! 名前を教えあったら友達だ!!」

 

そう言って城の中に入っていく。

良く見たら改めて凄いな、二人と言わず何人か人が住めるようにできているぞ、この城。

 

「どうだ、凄いだろ!!」

「凄いな、キャップ」

「ヘヘっ、この『風雲風間城二号』は俺の自信作だぜ!!」

「えっ、一号って事は城を作るのってこれが初めてじゃないのか?」

「そうだぜ、前に一号を作ったんだけど、誰か分からないおっさんが住んじまったからこれを新しく作ったんだ」

「へえ……それはまた凄いな」

 

俺はそれを聞いて素直に驚いた。

自分じゃない人が住むぐらい良いのが出来たんだな。

……おっさんって俺のおっさんじゃないよな?

そして、キャップにちょっと気になる事を聞いてみた。

 

「キャップはそういえば親は居るのか?」

「そりゃあ居るぜ、俺は元々ここで生まれたらしいが、今までオヤジと旅に出ていたんだ」

 

なるほど、俺とは違うのか。

それを聞いて俺はまた気になる事を聞いていた。

 

「えっ、じゃあ友達とかは?」

「お前が初めてだぜ、キョーヤ」

「そうなのか、こっちで生まれてずっと旅してたのか」

「そうじゃないが、旅に出た時が確か聞いたらまだ二歳とかの年だぜ、そんな友達の事なんて覚えてられねーよ」

「えっ、そんな早くから旅してたのか?」

 

そんな二歳とかなら景色なんて覚えてないだろうに。

まあ、明らかに日本じゃない景色を、ある位の年齢で見たら外国だって気づくか。

 

「あと、オヤジが言うには此処に戻ってきたのが凄い久しぶりらしいからな」

「そうなのか、旅の間に出来そうなものなのに」

「すぐに別の所に行って同じ場所に長くいないからな、今まで友達を作る時間が無かったんだ」

 

それは分かる。

俺だってもし『白い家』以外の『孤児院』をあっちこっち行かされたら、友達なんて出来なかっただろう。

 

「それに戻ってきたのは去年だしな」

「そうか、そりゃ友達できねーや」

「だからお前に会えて嬉しかったぜ、キョーヤ」

 

そう言ってキャップが笑いながらこっちを向く。

お互いがここで初めての友達。

気づけば何も言わず互いに手を握り合っていた。

 

そしてこれがのちの『風間ファミリー』結成の瞬間でもあった。




今回はキャップこと風間翔一が登場しました。
次回も原作キャラが出てきます。
なにかしら指摘の点がありましたらお願いします。


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『軍師との出会い』

今回も原作キャラが出てきます。


俺とキャップが出会ってから一週間が経った。

最初の頃は原っぱに寝転がったりして空を見ていた。

今日は偶然にもボールが落ちていたからキャッチボールをしたりしていた。

しかし、それも最初だけ。

何か面白い事は無いだろうかと俺たちは探していた。

 

キャップは何か良い案はないのだろうか?

とりあえず、キャップにダメもとで何か無いかを聞いてみた。

 

「キャップ、何か面白い事ある?」

「無い、有ったらとっくに言ってるぜ」

 

きっぱりと答えるキャップ。

俺はそれを聞いて『それもそうか』と思っていた。

そして、俺は思いついた事をキャップに聞いてみる事にした。

 

「そうか、なら探検でもするか?」

「探検?」

「そうだよ、俺たちでいろいろな川神の場所を知ろうって訳だよ」

 

そう言うとキャップはめちゃくちゃ楽しそうな顔を浮かべて起き上がった。

 

「で何処に行くんだ?」

「川神新町っていうところに行こうぜ!!」

「聞いたこと無い所だ……面白そうだな!!」

 

そう言って意気揚々と走り出す俺達。

川神新町は川神駅から二駅か、三駅程の距離を歩いたらいける場所だ。

堀の外町より少し遠い所だった。

でも、俺たちにとっては冒険で喉がカラカラになる様な興奮だった。

 

.

.

 

「おおおー!!」

 

到着したあとキャップが見渡して大きな声を出す。

誘った俺自身も驚きを隠せない。

見れば辺り全体が煙をもうもうと出している工場なのだ。

なんだか戦隊物に出てくる悪の組織の秘密のアジトみたいな感じがする。

大人の人たちもゴーグルやマスクをしている、本当にコレでカッコいいヘルメットを被ってしまったらヒーローのショーに出れそうだ。

 

「ここは凄いな、キャップ!!」

「おぉ、こんなの初めてだぜ!!」

 

見渡す限りの全ての場所や雰囲気が凄いから興奮していた。

だが……少しここの空気は慣れなかった。

俺は気づけばいつの間にか咳をしていた。

 

「ゴホゴホッ!!」

「流石に帰るか、キョーヤ?」

 

キャップも心配して声をかけてくる。

よく見たらキャップもなんだか嫌な顔をしている。

ここはせっかく言ってくれてるんだから戻ろう。

 

「そうだな、ちょっとここは辛い」

「俺は大丈夫だけどな…… あと、キョーヤ言っておくぜ」

「何だよ?」

「今回みたいに知りたい所があったら自分の足を使ったり体を使うのが一番だぜ」

 

来てすぐだけど、俺たちは歩いて原っぱまで戻っていった。

今回俺たちの冒険で新しい場所が発見された、ただあの場所を使う機会は無いだろう。

 

戻った後いつも通り俺たちは城で遊んでいた。

すると男が近寄ってきた。

見た感じは少し釣り目だが、俺のように目つきが悪いわけではない。

ただキャップの様にカッコいいと言う感じでもない。

まあ、とりあえずそいつを見た俺はキャップに言った。

 

「キャップ、誰か来ているぞ」

「そうか、一旦ここから出るぜ、キョーヤ!!」

 

そう言って俺たちは風間城から出て男が近寄ってくるのを待った。

 

「やい、お前誰だ?」

 

キャップが近づいて男に声をかける。

まるで俺の時と同じ感じだな。

キャップが言った後、その男は俺たちを見て話し始めた。

 

「お前ら誰だ?」

 

こう言ってくるか。

まあ、気になっているから俺も声をかけるか。

 

「お前、なんでこんな所に来たんだ?」

「家出してきたんだ」

「そうか、理由はなんだ?」

「さあな、俺は今言葉なき抵抗をしているんだ」

 

なんか難しい言葉知っているな、コイツ。

家出した理由がいまいちつかめないけど。

 

「おお、なんかカッコいいなそれ」

 

キャップがこいつの言葉に頭を振る。

なんか俺の時みたいな感じだな。

 

「そして近い所ですぐに捕まっても馬鹿にされる、だから此処に来たんだ」

「ん、ちょっとかっこ悪いかな?」

 

やっぱりこう見たらキャップってあんまりものを考えないなー。

とりあえずこいつは面白そうな奴ではあるな。

 

「まあ、ここは俺の所だけどな」

「違う、俺の所だ」

 

変な事を男が言い出す。

キャップが言い返すとなんか男の方が言い返す。

 

「いや、俺の所だね」

「じゃあ、なんか証拠あるのかよ?」

 

偉い生意気な事言うなぁ、コイツ。

まあ、証拠はあるんだけどな。

 

「有るぞ、これ!! 『風間城』!!」

 

そう、これが証拠だ。

 

「これを作っていた時、お前いなかったぞ」

 

キャップがこう言ったら本当にいなかったんだろう。

なんだか話題が変わっていったしな。

 

「たった二人の城か……」

「なんだよ、お前、話題を変えたと思ったら風間城の悪口か?」

 

俺がキャップの代わりに言葉を返す。

証拠とか言ってていきなり話を変えて悪口とはな、中々良い根性してやがる。

 

「だって見た感じ廊下なんか広いだろ、あんなの敵が沢山入ってきたらどうする気だ?」

「そんなの俺とキャップで倒す気だったから気にしてなかったんだよ」

「武力による押さえつけか、お前は王に向いていないな……」

 

廊下の話から変わってなんか馬鹿にされる。

正直廊下の広い狭いはどうもな……。

俺達は楽しむ為の基地としてここを使っていたわけだし。

 

「よし、そこまで言うなら今日は風間城の改造だ!!」

 

キャップはこいつの言葉を聞いて風間城へ何かしようとしていた。

 

「でもダンボールは近くに無いぞ、キャップ」

 

俺はダンボールが近くにないことを知っているからそう言う。

 

「明日から始めるんだよ、まずはアイデアだ、アイデア」

「なるほどな」

 

キャップもダンボールをすぐにどうにかできないのを知っている。

だから先にアイデアだけ出していくのか、分かりやすいな。

 

「だからキョーヤ、アイデア頼むぜ。 で……えーと、お前の名前は?」

「俺の名前は『直江(なおえ)大和(やまと)』だ、お前らは?」

「俺の名前は『風間翔一』、あだ名はキャップだ!!」

「俺は『香耶』、そのまま呼んでくれ」

 

お互いにアイデアを出し合う事になる。

自己紹介しあったが俺はアイデアはでそうに無い。

 

「まず廊下は直角にして入りにくくすれば良い」

「階段があるから戦術としてはもう一つあるけど……これはちょっと嫌だろうな」

「なんだ、キョーヤ、言ってみろ」

 

「分かった、言わせて貰うけどキャップ、敵が侵入してきたらわざと階段を壊すってのはどうだ?」

「コストがかかる、ダンボールが戦いのたびに無駄だな」

 

俺の意見に大和がだめだしをする、この案は元々それほど良いものではないというのが分かっていたので問題は無い。

 

「大和、嫌がられると思っていたけど言ったんだよ」

「いや、工夫すれば良い。 それは採用だ、キョーヤ」

 

キャップが手を叩いてその様な事を言ってくる、一体どういった形でこの意見を実用化させるのだろうか?、少し気になる所だ。

 

「キャップ、どうやって工夫する気なんだ?」

「大和、それはな……ロープを使って階段をあげて登れなくするんだ。 これなら何回も壊さなくて良いだろうからな」

 

こうしてアイデアを出し合って俺達は風間城の改造をすることにしていった。

 

「それにしてもお前良いアイデアを出すな、キョーヤ。 稼動階段のきっかけといい、画鋲式のつり天井とか敵への嫌がらせ満載だ」

 

相手に入られないアイデアを重点的に提案しておいた

 

「そっちだって侵入部分に用意周到すぎだろ、まあこれもキャップが器用だからいけるんだけどな」

「何言ってんだ、俺だけじゃここまで良い城に出来なかったぜ」

 

大和のアイデアとしては廊下の幅の縮小、ドアをつける事、頑丈な格子型の窓の設置であった。

 

全員が風間城の改造をきっかけに意気投合していた。

 

「また明日もここに来いよ、大和」

「良いのか、キョーヤ?」

「良いも何も俺達はもう友達だろうが!!」

「キャップ……有難うな、そう言ってくれて、じゃあまたな」

 

そう言って大和が帰っていく。

そういえばもう夕方だもんな、俺も帰るか。

 

「今日も楽しかったな、キョーヤ」

「まあ、そうだな」

「まさか、十日経たない間に友達が二人も出来るとは思わなかったぜ」

 

キャップが原っぱに寝転んでそんな事を言ってくる。

一応今は十二月なんだからそんな所で寝転がったりしてたら風邪引くぞ。

 

「そうだな、俺も驚きだよ」

「お前は明日も来るんだろ、キョーヤ?」

「来るさ、また遊ぼうぜ」

「おお!!、俺も帰るし逆方向ってのが残念だがじゃあな!!」

 

キャップは起き上がる。

そして手を振りながら走っていった。

全く本当に『風』のような男だな。

キャップが見えなくなるまで待ってから俺も帰る事にした。

 

今日、のちの『風間ファミリー』最強の軍師が加入した瞬間だった。




今回は原作主人公である直江大和が出てきました。
次回は香耶の上の名前をつけます。
何かご指摘の点ございましたらお願いします。


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『俺とおっさん 外国へ行く』

今回は幕間のようなもので香耶の上の名前が付く回です。


俺はあれから大和とキャップの三人で風間城の改造を頑張って二日が過ぎた。

今日はクリスマス・イブ。

普通に『白い家』でも楽しい一日だった。

それなのに、おっさんはその日の夜になっていきなりこんな事を言い出した。

 

「仕事だから空港に行くぞ、着替えるんだ」

「えっ!?」

 

俺は寝起きというのも有って大きな声を出して驚いた。

おっさんがどんな仕事しているのかは知らなかった。

でもいきなり空港って事はどこか遠くに行くって事だ。

 

「イタリアで会議なんだよ、全く…… こんな日にやる事じゃあないだろうに」

「まさかこんな時間に外国に行くのか!?」

 

俺は夜だというのに大声を出していた、先ほどとは違って意識の方もはっきりしている中での大声だったため少し響く。

 

「だから悪いけど急いでくれ、俺は妻を起こしてくるから」

「分かったから急()かさないでくれよ、おっさん」

 

おっさんと俺はそう言って着替える。

 

おっさんは持ち物を整理してパスポートOKとか言ってた。

 

……あれ?

そこで俺はおかしな事がわかった。

荷物の整理で気づいたけど、一緒に行くとしても俺のパスポートはどうしたんだろう?

 

「ホラ、君のパスポートだ、持っておきなさい」

 

そう言ってパスポートを投げ渡してくる。

 

「これってなんて読むんだ?」

 

なんかパスポートの名前欄には『澄漉』って書いていた。

流石にこれは読み方が分からない。

 

「『すみろく』って読むのさ、珍しいだろ?」

 

「まあ、そう言われたらかなり珍しいな…」

 

おっさんがいうとおりこれは珍しい名前だった。

しかしこれでようやく上の名前が分かった。

俺の上の名前は『澄漉』となったから、これから俺は『澄漉(すみろく)香耶(きょうや)』という訳だ。

 

「さて…行くか」

 

そう言って俺とおっさん達は家から出た。

 

「川神駅で電車に乗って、羽田空港でイタリアまで行く」

「ちゃんと行き方は知ってるんだな」

 

そう言って川神駅へと向かう。

 

「さて、駅に着いたな」

「今度からは地図を用意してくれ……若干遠回りしていたぞ」

 

俺はとりあえずおっさんが切符を買っているのを見ていた。

って言うか外国まで行くのに、キャップや大和には一言も言ってなかったな、俺。

 

「よし、これで東京まで行くぞ」

 

そうおっさんが言って空港行きの電車に乗る。

 

「うつらうつら……」

 

とてつもなく眠い。

幾らなんでも、夜からこれというのは余りにも面倒すぎる。

しかも東京方面に行くわけだから、コレから少しの間長く揺られているわけだし。

 

「さて、降りようか」

「んっ……俺、寝てたのか?」

「そうだ、ぐっすりと眠っていたな、空港に行くよ、それとついでにジャケット返してくれ」

 

数時間後、俺は起こされて被らされていた真っ白のジャケットを返す。

おっさんなりの気遣いのようだ。

 

「で……イタリア行きの飛行機はこれだな」

「貴方、飛行機の横に『九鬼財閥』って書いてあるわ」

「やっぱりここも九鬼財閥か、流石に愛社心で使っているわけではないけどね」

「九鬼財閥?」

 

俺は首をかしげていた、何故ならば『財閥』などという言葉を聞いたのはコレが初めてだったからだ。

 

「ああ、『世界の九鬼』とまで呼ばれる財閥…まあ、君の年でいえば会社だ」

「なるほど、そういうと分かりやすい」

 

そう言って俺は頷いた、説明がわかりやすくて助かる、この年に合った言葉で言ってくれると楽に頭に入るからな。

 

「川神の電車の広告にもよく有るけど、ここでも名前を見るとは本当に手広いと実感するね」

「へえ…そうなのか、凄いな」

「まあ、凄いな。 とりあえずこれ乗ってイタリアに行くよ」

 

そう言って、俺とおっさん達は航空券を購入してイタリア行きの飛行機へと乗る。

 

「でも機内食は日本食じゃあないんだよな……、不味くも無いが美味しくも無い」

「流石に食事まではどうしようもないのか?」

「いや、まだ九鬼の食事衛生の部門が全てにいきわたってないんだろうな」

 

おっさんが言うとおり、ご飯は不味くもないがそこまで美味しいものでもなかった。

 

そして空の旅をする事、およそ十二時間。

時間が惜しいという事でノンストップ便で行っていた。

 

 

「相変わらず変わらない空気だな、二ヶ月ぶりだ」

 

おっさんはそんな事を言うが一体何者なんだろう?

 

「気になるって顔をしているな、一応こう見えても九鬼財閥の総合貿易部門の統括だよ」

「えっ?」

「この若い年で任せられてもね……収入は増えるが妻と過ごす時間が減って仕方ない」

「おっさんっていくつなんだ?」

「二十三だけど……そんなにふけて見えるかな?」

 

そういうおっさんの顔はなんだか悲しそうだった。

 

「妻を連れてきているが、これが終われば家族サービスしないとな」

 

そう言って気合を入れなおしてある所に入っていく。

 

「ここは九鬼のイタリア支社だよ、そんなにきょろきょろしなくても良い」

「どうしていたら良い?」

「そこに妻と一緒にいたら良い、すぐに終わるさ」

 

おっさんはそのまま偉い人と会って話をしている。

イタリアだからイタリア語で話しているんだろうけど何を言っているのか分からない。

まるで宇宙人の言葉のようだ。

交渉が終わったのか笑顔でこちらへ戻ってくる。

 

「OKだったよ、これ以上ない条件で決定させた、これから後に残っている作業の事は私ではなくその品を担当する部門の担当だ」

 

それだけいっておっさんは妻……つまり俺の母さんの横に座った。

 

「お疲れ様、貴方」

「すまないな……俺の都合で連れまわして」

「良いんです、少しでも長く居れて幸せ……」

 

そんな言葉を聞いていたら俺はなんだかむず痒くなってくる。

俺はほんの少しだけ距離を取ろうとした。

すると、おっさんが腕を掴んでこんなことを言ってくる。

 

「遠慮せずにもっと近くに来なさい、君は俺と叶(かなえ)の『家族』なんだから」

 

そう言って引っ張ってくる。

 

俺はどこかで『家族』じゃないと思っていたのかもしれない。

そう考えるとなんだか恥ずかしくなる。

 

俺はただ『家族』としての実感を土産に、イタリアでのクリスマスを終えて家に帰っていくのだった。




今回は短くなりました。
次回も少し幕間に近いものです。
何かご指摘がありましたらお願いします。


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『風間城崩壊、そして決意』

今回も少し幕間のようなものです。
香耶の習う武術を今回で書きます。


イタリアへの旅行が終わった後、俺は帰ってすぐにキャップや大和と久々に会う為にあの原っぱへと向かった。

 

俺はすぐに走って会いに行く。

全力で走って言ったためあまり時間をかけずにあの原っぱについていた。

 

「おっ、キョーヤじゃねえか!! 久しぶりだな!!」

「キャップ、ちょっと用事で出かけてたんだ」

 

キャップと大和は風間城から急いで出てきた。

 

「おう、何処行ってたんだ?」

「イタリア」

「板理科?」

 

「違う違う、外国のイタリアってところだ」

「へえー、どうだったんだよ? ちくしょう、羨ましいぜ!!」

 

「でもキャップは冒険してたって……」

「その俺が冒険してた所より向こうの所ばかりなんだよなー、だから羨ましいぜ」

「成る程な」

 

キャップととめどない話をして大和とも話す。

大和はイタリアがどんな感じだったか詳しく聞いてきた。

でも俺はおっさんの試合のせいでそこまで詳しくは知らないといった。

 

「そうか、なんだか世界はどんなものか知りたかったんだ」

「あいにく、大和が考えているようなものは見れなかったよ」

 

その様に話していたら向こうから5人の集団が原っぱに来ていた。

 

俺達は俺達で話すためにほんの少しだけ風間城から離れていたのだ。

 

「おいおい、何だこれ!! 城だぜ!!」

 

見るからに五人の年上の人達は風間城を見つけてこっちにきた。

 

「良い城だな、これ」

 

風間城に近づいて見た後に風間城を褒める。

そして俺たちに向かってこう言ってきた。

 

「この城を俺たちに渡せ!!」

「そうだ、年下のくせに生意気だぞ!!」

 

年上の人達は大きな声で言ってくる。

 

しかしキャップはその大きな声に対して全然怖がっていなかった。

俺も怖がってなかったけど。

 

「いやだ、俺たちは渡さない!!」

 

キャップがそう年上よりも大きな声で言った。

俺たちも渡す気は無いから先に行ってくれたのは嬉しい。

 

「俺たちは六年生だぞ!! 馬鹿にしてんじゃねえ!!」

 

俺たちの返事が嫌だったのか。

そう言って一斉に五人がかりで俺たちを殴ってくる。

 

俺は体を丸めて顔や腹をたたかれないようにする。

それが少しの間続いた。

 

そして俺たちを充分に殴った年上の奴らは風間城へと入って行った。

 

「上の年って強いな、くそっ!!」

「ぐぐっ、いたた……」

 

大和とキャップは二人とも足とかを殴られたり、腹とかやられていて少し動けそうに無かった。

俺は殴られたりするのに慣れているから大丈夫だった。

そして俺はすぐに風間城へと向かっていた。

 

「あいつら、許さないぞ……」

 

俺はきれていた。

キャップと大和をボコボコにしたのが許せない。

5人だからって調子乗りやがって……仕返ししてやる。

そして俺は風間城へと乗り込んで行った。

 

「何だ、お前!! まだ殴られたいのか?」

「お前らには絶対この城はあげねぇ!!」

「何言ってん……いたっ!!」

 

顔に拳を突き出す。

そしてそのまま髪の毛を掴んで風間城の壁に力いっぱい押し付ける。

 

「がっ!!」

 

壁が壊れて男が落ちていく。

そんな高くは無いがこっちは必死なんだ。

 

「オラッ!!」

 

他のやつらを探し出して攻撃をする。

顔を蹴って腹を殴る。

鼻に向かって頭突きをしてやる。

 

相手も上の年だから意地になって殴ってこようとする。

でもそこはそれ。

『白い家』でこいつらと同じ年の奴との喧嘩なら腐るほどしてきた事だ。

タッちゃんより弱いこいつらに負けるわけが無い。

全員案の定ぼろぼろにする。

鼻血が出たりあざを作っている奴もいるがお構い無しだ。

その結果……風間城は壊れてしまった。

体をぶつけたりしたらやっぱりダンボールだったから壊れていく。

それに暴れすぎたのが理由だろう。

 

壊れた風間城から出てきたら大和とキャップは起き上がっていた。

 

「随分暴れたな、キョーヤ!!」

 

笑いながらキャップが言って来る。

大和は大和で傷をさすっていた。

 

「怪我したから今日はもう帰るよ、じゃあな、キャップにキョーヤ」

 

「怪我したなら仕方ないもんな、大和、 またな」

 

キャップがそう言って大和が帰る。

俺が壊れた風間城を見ながら下を向いていたら、キャップが元気な声でこう言ってきた。

 

「また作り直せば良いさ!! それか別の基地を探そうぜ!! まぁ、今日は帰るけどな!!」

「そうか、それもそうだ。 じゃあな、キャップ」

 

するとなんだか残念な気持ちがどこかへ行った気がした。

そしてキャップにそう言って俺は家に帰って行った。

 

.

.

 

「ただいまー」

 

俺は出来るだけ笑顔で家に帰ってきた。

辛い顔して帰ったらなんか分かられそうだからだ。

 

「何が有ったんだ!?、顔が腫れているじゃないか!!」

 

おっさんが俺を見て驚いた顔をしている。

そして急いで救急箱からなんか取り出していた。

おばさんも驚いて心配している。

幾ら『家族』でもいきなり『父さん』と『母さん』はハードルが高い。

 

「喧嘩したからな」

「それで…負けたのかな?」

「いーや、負けてないぜ」

 

俺は少し笑顔を浮かべながら言ってやる。

おっさんはそれを聞いて少しだけ嬉しそうな顔をした。

でももう一つ、おっさんに頼みたい事があった。

 

「つまり喧嘩には勝ったが大事なものが壊れたと?」

「うん、だから今度こんな事が無いように強くなりてぇ……」

 

俺は風間城が壊れたのもおっさんに話した。

そしてまた基地があんなことになったら困るから、俺はおっさんにあれを教えてもらおうとしていた。

 

「で、何が言いたいんだ?」

「おっさん……なんか武術を俺に教えてくれよ」

「無理だが知り合いに八極拳の師範代がいるけどそいつの道場に行くか?」

「『八極拳』って言うのか。 それを俺に教えてくれよ」

 

おっさんはそれを聞いた瞬間、今までとは違う真剣な顔に変わった。

 

「別に良いけど…その道場の鍛錬はしんどいよ?」

「それでも良い」

「おぞましい色したものがもろもろでるが本当に良いのかい?」

「強くなれるならそれでも良い!!」

「そうか……真剣(マジ)なようだね、八極拳の師範代を君に教えてあげるよ」

 

俺が睨むようにみながら大きな声で言ったのが聞いたのか、紹介するといいながらも微笑んで玄関へと歩き始めた。

 

「そうと決まればすぐに動こうか、ついて来なさい」

 

そう言って数分後、おっさんは俺をある木造の門のある道場へと案内していた。




今回も短いですがどうかご了承していただけると嬉しいです。
次回は久々にあのキャラを出そうかと思います。
何かご指摘がありましたらお願いします。


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『一子とタッちゃんとの再会』

題名で分かると思いますが一話の時から実に五話ぶりに一子とタッちゃんが出ます。
あと風貌だけですがあのキャラも出てきます。


俺はおっさんに武術を教えてくれと頼んだ日から速くも三ヶ月が過ぎた。

おっさんが言うようにおっさんの案内してくれた道場の鍛錬はしんどいとは思う。

休日なら朝の4時に起きてそれから重りをつけてのジョギング。

それ以外にも遊びに行って帰って来たら夜はきっちり鍛錬。

 

ちなみにしんどいと『思う』っていうのは俺からしたらしんどくないからだ。

 

まずは基礎体力を付けることから始めるらしい。

師範代は意外とノリノリで教えてくれている。

 

「ホラ、水でも飲みなさい」

「あっ……うん…」

 

師範代がペットボトルを投げ渡してくる。

師範代は俺のペースに合わせて一緒にジョギングしている。

 

「今日で三ヶ月弱…慣れたかしら?」

「それなりには……」

「そうか、でもこんなものまだ序の口よ、貴方に体力がついて来たらもっと激しい鍛錬に変えたりしていくのだから。さて二本目行くわよ、しっかり着いて来なさい」

 

そう言って師範代はまた動き始めた。

しかし何でハイペースで飛ばしているにもかかわらずこんなに動けるのだろうか?

そして川神駅から七浜まで行きそれを3回は繰り返したあとに家に帰る。

家に帰ってからまた腕立て伏せなどの筋力トレーニング。

 

「何で師範代は俺以上に頑張ろうとするんですか?」

 

俺は腕立て伏せをやりながら師範代に聞く。

すると師範代は苦々しい顔をして途切れ途切れにその理由を話し始めた。

 

「実は貴方が入ってくる一週間前にね…ある男の子に負けたのよ、年齢は十四か十五だったかしら」

「えっ!?」

 

その師範代を倒した人の年齢を聞いて驚いた、俺よりも八か九つ歳が離れているだけでそんなに強い人がいるだなんて。

 

「虚ろな目とボロボロに破れた服で道場の門を叩いていたの、そして用を聞けば勝負をしろの一点張り」

 

随分と不思議な格好だったんだな、しかも話を聞くとどうやら相手の都合を考えない頑固者らしい。

 

「見た目は鍛え上げられていたわ、年のわりには異様なほどにね」

「それで結果の程は?」

 

俺が戦いの結果を聞くと顔を俯かせてなんだか悲しそうな笑顔でそっと呟いた。

 

「負けたわ、僅か一撃で」

「そうだったんですか…」

 

師範代を一撃で倒せるほどの存在がいるだなんて……俺はそれを聞いて驚きを隠す事は出来なかった。

 

「だから鍛えているのよ、無様に落ちていかないためにもね」

「俺ももっと頑張らないとな……」

 

師範代の鍛える理由を知った俺は今以上に強くなろう、そう思って俺は鍛錬を再開した。

 

それから数時間後…俺は家に帰っていた。

 

とにかく俺は家に帰ってすぐににカレンダーを見てみる。

そういえばもう四月になるのか。

小学校の転入の準備をしておかないといけないんじゃないだろうか?

 

なぜならここへ来て一年、今は1999年の三月。

四月になれば俺も小学校に通う事になるのだ。

 

「一応言っておくけど入学の心配はしなくて良いよ」

「えっ?」

「ちゃんと前から用意はしているからね」

 

おっさんはそう言ってカバンが有る床を指差す。

確かに用意されているのは分かった。

 

「後で母さんに『アリガトウ』って言っておくんだぞ。 何かしてもらった時に言うのがマナーだからね」

 

そう言って俺の頭をおっさんが撫でる。

おっさん、こうして見ると人の頭撫でるの好きだな。

 

そんな風に毎日欠かさず鍛錬をやってきた。

食事が少し前とは変わって鳥のささみや肉の料理が多くなってきた。

 

そして四月。

 

俺は小学校に行く。

おっさんいわくクラス発表で自分の場所が張り出されるみたいだ。

俺は急いで駆け寄って遠くの紙を見る。

どうやら男女で左右に分けられているみたいだな。

 

『澄漉香耶』

 

……よしよし、1-Bか。

 

自分より上を見ると『風間翔一』の名前が無くて、下を見ると『直江大和』の名前も無かった。

次は女の子の方を見ながら下の男の方も見るかな。

 

『岡本一子』

 

……奇遇だろ?

流石によくある下の名前だしな。

 

そう思って男の方の下側を見る。

 

『源忠勝』

 

……ははははっ。

こりゃダメだ。

 

俺は二つの名前を見た瞬間少し笑っていた。

まさか偶然にもこの『川神』でこの名前を見るなんて思ってはいなかったから。

そんな事を考えていたら後ろから声をかけられた。

 

「もしかしてキョウちゃん……?」

 

俺に話しかけてきたのは髪の毛をくくって馬の尻尾みたいな感じにした女の子。

相も変わらず泣きそうな顔でこっちを見ていやがる。

やっぱり下の名前は偶然なんかじゃなかったみたいだ。

 

「おおよそ四ヶ月ぶりか……一子、元気だったか?」

「うん!! キョウちゃんは?」

「この四ヶ月元気でいたぞ、お互い元気で何よりだな」

 

そういいながら俺は回りをぐるぐると見る。

タッちゃんを探す為だ。

といっても一子は知らないから俺に聞いてくる。

 

「キョウちゃん、何してるの?」

「タッちゃんがどこにいるかなと思って……そこの紙に名前があるだろ」

「えっ!?」

 

一子のやつが驚く。

全く……ちゃんと見てなかったんだな。

 

.

.

 

けっきょく見渡してもタッちゃんは見付からなかった。

仕方ない……教室で見つけられるしここは諦めよう。

 

「一子……席が隣ってのは甘えて良い意味じゃないぞ」

「え~」

 

一子は俺の左隣、タッちゃんがさらにその右隣。

運が良いといえば良いのだろう。

……タッちゃん本人は寝ているけどね。

 

.

.

 

放課後になってからキャップと大和を探す。

一子をファミリーに加えても良いか聞くためだ。

 

「……で何でこうなるんだろうかね?」

 

俺は辺りを見る。

一子をいじめようとしている男子が十五から二十人。

いじめられっ子オーラでも出しているのかといわんばかりである。

 

「とりあえずいじめるつもりならこっちも許さないぞ」

 

俺は即座に構える。

全く……初めてだぞ。

こんな数を一人で相手にするのは。

 

一番偉そうな奴が命令をして一子を狙う。

 

「そうは問屋がおろさねえ!!」

 

踏み込んで『八極拳』の技を繰り出す。

たしか……『猛虎』とか言う技だったはずだ。

 

それを喰らった奴は少しよたよたとした後倒れた。

 

「オラ!!」

 

さらに別の技である『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』で二、三人をやる。

ただね……後ろに気を使わないと洒落にならない事もある。

 

「お前、コイツがどうなっても良いのか!!」

 

気づいたら一子が後ろで羽交い絞めにされていた。

 

「ぐぐぐっ……」

「こいつをやられたくなかったら動くなよ!!」

「チッ、動かないから離しやがれ……」

 

手を上に上げて無抵抗である事を見せて俺は言う。

しかしこういう危ない時に駆けつけるのは友達だった。

 

「誰だ、お前?」

「その手を離しやがれ!!」

 

その後に殴ったような音。

そして一子は振り向いたのかそいつを見て名前を言う。

 

「タッちゃん!!」

 

タッちゃんか、こんな良いタイミングで来るとは流石だな。

 

「全く、一子を連れて行くんなら俺も呼べよ……」

 

タッちゃんはちょっと怒ったように言う。

まあ、呼んでいたらこんな事にはなっていないんだからな。

 

「スマン、そしてアリガトウ」

「礼は別に要らねえ、とりあえず一子を人質に取った分は……」

「ああ、その通りだな、ふざけた真似をしてくれた分……」

『やらせてもらう!!』

 

俺とタッちゃんで向かっていく。

 

「オラ!!」

「ウウッ!!」

 

タッちゃんがヘッドバットで一人の奴を倒す。

 

「ハァ!!」

「カッ……!!」

 

俺も負けずに一人を技で倒す。

この技は確か……『鉄山靠(てつざんこう)』だったかな。

 

そして俺とタッちゃんでいじめっ子を次々倒していって残りはあと一人か……

俺とタッちゃんがジワジワと近づいていく。

 

するといじめっ子のリーダーの上の方へなんか影が出てきた。

そして不思議に思って上を見るとキャップがジャンプしてこっちへ来ていた。

 

「オラオラー、キャップのお出ましだー!!!」

「ぐえっ!!!」

 

そしてそのままいじめっ子のリーダーを後ろから蹴るキャップ。

いきなり現れて良いとこ取りしやがって……。

まぁ、一応一件落着と思ったら良いか。

 

「キョーヤ、こんな事あるんなら呼べよ」

「いきなりだから呼べなかったんだよ」

 

そう言って俺は一子をキャップの前に連れて行く。

 

「えっ、キョウちゃん?」

「キャップ、俺の頼みなんだが一子をファミリーに加えてやってくれないか?」

 

一子は驚いていたが俺は構わずにキャップに加入させてくれるか頼む。

するとキャップは笑って返事してきた。

 

「良いぜ、まずはフルネームを教えてもらう事からだな」

「ここじゃ目立つし場所移動しようぜ、キャップ」

 

大和が言って場所を変えようとする。

俺は一子を連れて行く気だが、タッちゃんにも声をかける。

タッちゃんが居てくれたら一子ももっと安心できるだろうからな。

 

「タッちゃんも入れよ、ファミリーに」

「俺はお前と一子以外の奴と群れる気はねえ……」

「そうかい、残念だ。 でも入るんだったらいつでも待ってるぜ」

「ああ、気が万が一にでも向いたらな」

 

そう言ってタッちゃんは去っていった。

 

いつか入ってくれるのを待っているぜ。

俺はそう思ってタッちゃんの背中を見送った。




今回で一応原作最初期の風間ファミリーが結成されました。
次回も原作キャラを出そうと思います。
何かご指摘がありましたらお願いします。


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『決闘』

今回は原作キャラが出てきます。


年は2001年。

俺も三年生となり一子がファミリーに入ってから早くも二年がたった。

昨年は何か夏にオリンピックとか言う、競技別に世界で一番強い人を決める大きな大会があった。

俺自身、八極拳にも磨きがかかっていき修練にも熱が入っている。

 

ただ……

 

今日は朝の内に学校の奴に絡まれた。

理由はキャップが女の子によく声をかけられているからである。

といってもキャップ自身が女の子に興味がないからどういうわけでもない。

ただ、相手はそれで納得するわけもなくキャップに勝負を挑んできた。

学校で勝負はよくないと思い、学校が終わったら原っぱに来るように言ってそこは問題なく終わった。

 

.

.

 

そして、学校が終わってから俺たちは原っぱに来て作戦会議をする。

といっても俺からすれば作戦は要らない、その理由は簡単だ。

 

「キャップ、頼みがある」

「何だよ、キョーヤ」

「あいつの相手を俺にさせてくれないか?」

 

そう、俺が出れば作戦なんて何一つ必要ない。

まだ四人しかいないけどこれでも風間ファミリー最強の男だからな、自信を持って戦えるよ。

 

「仮に戦ったとして……大丈夫なのか?」

「任せておけよ、負けないから」

 

力瘤を作って叩く。

自信があるのは普通の事だ。

 

「そこまで言うなら良いけどよ……」

「ん?」

「負けるんじゃねぇぞ!!」

「オウ!!」

 

まだ始まったわけじゃないがハイタッチ。

とりあえずここは任せてくれるようだ。

 

「キョウちゃんより体大きかったけど大丈夫なの?」

「大丈夫だ、一子。 俺は負けないよ」

 

一子の質問に笑顔で答える。

コイツに心配させたくないからな。

 

「なあ、香耶」

「ん、どうした?」

「落とし穴作ろうと思うがお前はどう思う?」

 

大和が聞いてきたが俺にとっては落とし穴なんて要らないから大和に声をかける。

 

「おい、大和」

「どうしたんだ、もっとえげつない方法でも取る気か?」

 

少し微笑んでこちらの意見を聞こうとする大和、俺からすればえげつない方法なんて要らないしこの落とし穴も邪魔だ。

 

「気持ちは嬉しいが落とし穴は要らない、面と向かってやるだけだ」

「そうか?」

「そうだ、理由としては落ちられたらこっちの一撃を当てられないからさ」

 

仮に落ちられるとこっちの攻撃が当てられない、わざわざ当てる為に待つなんて事はしたくない。

顔面を蹴る事ぐらいはできるがそれで勝っても多分後々で面倒になりそうだろうから諦めておこう。

 

「本当に俺がやらなくて大丈夫か?」

「任せろよ、キャップ。 俺はどいつが相手でも負けないからな」

 

そう言って柔軟体操を始める俺。

 

それから少し時間が経って綺麗な夕焼けの光が煌々(こうこう)と原っぱを照らしていた。

そして、丁度その時に朝の時に土手で会った奴らが来た。

よしよし、良いタイミングだな。

 

そう思って俺は笑顔になる。

分かられないように抑えておきたかったが、やはり喧嘩になると抑えられない。

歯が覗いてしまいそうな程の大きな笑みを浮かべていた。

 

後ろにもう一人居るけどそいつもまた今日の朝に会った奴だ。

そいつはそいつで喧嘩はやめたほうが良いって感じの顔してをしている。

しかし残念な事にここまで来たら仕方ないだろうな。

 

そして、そいつらが近づいてきた時に俺は言葉を発する。

一応名前を間違えたら相手に悪いからな、名前は聞いておこう。

 

「お前の名前は?」

「俺様の名前は島津(しまづ)岳人(がくと)!!」

「そうか、俺の名前は澄漉香耶だ、あのバンダナの男の代わりだけど別に良いだろう?」

 

俺はそう言って親指でキャップを指す。

 

「別に良いぜ、じゃあ本気で行くからな」

 

島津の奴が腕を振り回してそんな言葉を言ってきた。

なるほど、やる気は満々なわけか。

それにしても太い腕だな、鍛えている俺以上に太いとは……こいつも鍛えているのだろうか?

 

「そりゃあこっちの台詞だ、行くぜ」

 

俺もそう言ってお互いに構える。

島津は拳を握り大きく振りかぶっていく。

俺はいつもの八極拳の構えをして呼吸を整えていた。

 

次の瞬間夕焼けの光が原っぱを照らす。

それが闘いの合図だった。

 

俺は踏み込んで『猛虎(もうこ)』による一撃を。

島津の奴は全力まで振りかぶった一撃を。

 

お互いがお互いを倒すつもりで放っていた。

 

「フンッ!!」

「オラッ!!」

 

互いが勢いのある言葉を叫ぶと同時に攻撃が放たれる、島津の拳と俺の『猛虎』

 

が同じ軌道でぶち当たる。

 

お互いの攻撃がぶつかってお互いが少し後ろに下がらされた、島津の奴はどうや

 

ら驚いているみたいだな。

 

体の大きさ自体が違うのに同じぐらいの威力なんだから。

あいつは分かって居ないだろうけれど、こっちもかなりの鍛錬を積んでいて筋肉が

 

ついている。

普段は服が大きめで、皆にもあまり見えていないだけだ。

まして、今日が初対面の島津にそんな事が分かるわけもない。

 

でも威力が同じというのは厄介だな。

こっちとしてはもう少し深く踏み込んだり、勢いをつけないと引き分けそうだ。

 

「カァ!!」

「オラア!!!」

 

島津が真っ直ぐな蹴りを繰り出し、俺が『鉄山靠(てつざんこう)』を放つ。

 

今回も同じタイミングで攻撃がぶつかる。

しかし今回はお互いが同じ威力ではなかった、俺の攻撃が島津の蹴りを押し返し

 

て後退させる。

しかし、今の感触で感じ取ったがこいつの体かなり頑丈だな……。

あまりこういうのは好まないんだけど、一子やキャップに『勝てる』といった手前、恥

 

ずかしい所を見せるのは嫌だな。

 

踏み込んで狙うのは島津の顔。

 

「ラアア!!!」

「そんな顔に来る技なんて見え見えだぜ、俺様にそんなの通用しねぇ!!!!」

 

俺が放った顔への『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』は、島津が手を前に出して受け止めていた。

俺はそれを見て不適に笑みを浮かべて島津に言ってやった。

 

「今放った『裡門頂肘』は後ろに下がったほうが良かったぜ、島津!!」

「何!?」

 

「下がったらな、俺がこうするからだよ!!」

 

そう言って大きく踏み込んで島津に近づく。

流石に顔に一撃を叩き込む気はなかったからな。

 

「なっ、コイツ速いじゃねえか!?」

「流石にこの速度で近づかれて、腹に思いっきりやられたらお前がいくら頑丈でも無理だろう!!、『猛虎』!!」

 

島津の腹めがけて俺は一撃を放つ、そして勢いを緩めずそのまま一気に倒すつもりで攻撃する。

 

「がっ!!?」

「はぁああああああああああああ!!!!」

 

振りぬいた後に島津が飛んだ方向を見たが、どうやら思ったより威力が出なかったみたいだ。

だってそれほどの距離を吹っ飛んでないからな、地面が足に付いたのもあったのだろうかせいぜい一メートルか二メートル下がっただけだった。

腕を交差して威力を弱めたからか、意識はギリギリ留めたようだ。

しかし足をガクガクさせている所を見ると立つ事が難しいのが見て取れる。

まあ、一気に後ろに下がったらもう少し勝負は続いてたかもな。

 

「流石に立てなきゃこれ以上できないだろ?」

 

俺は近づいて島津に言う。

島津の奴が睨んでいる、しかし流石に俺もバカじゃないからお前の腕の範囲にはノコノコといかないぞ。

 

「チッ、ここで俺様が負けを言わなかったらどうするんだ?」

「当然俺はお前を蹴るかどうにかして気絶させるよ、とりあえず戦えないようにする」

 

島津の質問に即座に答える。

足を掴んでもあまり力が出ないだろうけど危険だからな。

 

「そうかよ、立てなきゃ俺様も流石に戦えねえから負けだ」

 

そう言って完全に座り込む島津。

俺もそれに向かい合うようにして座る。

 

「なかなか楽しかったぜ、島津」

「そうかよ、なんでそんなヒョロヒョロのくせに強いんだ?」

「いや、そこまでひょろくないぞ」

 

島津の疑問に対して袖を捲(まく)って腕を見せる。

島津ほどではないが結構筋肉はついているからヒョロヒョロではない。

 

「何だ、ひょろく見えるのは服のせいかよ」

「そうだな、それはそうとお前達どうせなら今度から俺達と遊ばないか?」

「俺様と一緒ならモロも入れてやれねえか?」

 

「当然良いに決まってるだろ、良いよな、キャップ」

「そうだな、キョーヤと同じぐらい強いなら大歓迎だし、モロってやつも大和と気が合

うみたいだ」

 

そう言っておれは大和の方を見てみた。

確かに島津と一緒に来ていたやつと意気投合している。

名前は後で聞いたが師岡(もろおか)卓也(たくや)

なるほど、上の二文字を取ってモロなわけね。

なんか別の意味かと思ってたわ、モロ見せとかそういうものみたいなもんかと。

 

とりあえず俺達はこれで人数は合わせて六人。

誰にも負けないほどに強い、そう思えるほどにメンバーが揃った日だった。




今回は原作から島津岳人と師岡卓也が出てきました。
次回も原作キャラを出そうかと思います。
何かしらご指摘がありましたらお願いします。


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『小雪との出会い 風間ファミリーとの離別』

今回でリュウゼツランルート崩壊の段階に入ります。


ガクト達の決闘から時は流れて一年後の2002年。

 

俺は風間ファミリーのメンバーと一緒に同級生の奴らとの喧嘩をしていた。

今回はキャップがいなかったがそれでもガクトと俺、そして大和の知略が有れば敵無しだった。

前はガクトやキャップが来る前に俺一人で中学生3人と喧嘩をした、喧嘩の結果はあっけなく勝利をもぎ取った。

ちなみにガクトにキャップの事を認めさせようとして、一度キャップとガクトが勝負をした。

結果は落とし穴などの策を用いての引き分け。

俺は観戦に徹していたけど、もし落とし穴とかがなかったらキャップは負けていただろうな。

 

「さて……終わり終わり」

「俺様に勝てるわけないだろうが!!」

 

手をパンパンと叩く俺にガッツポーズを取るガクト。

正直なところ前に来たの中学生でも少し物足りなかったからな。

どうにかして満足できる相手を探さないと。

 

「俺様たちの前には敵なんていないぜ」

「全くな……」

「……つまらない凡夫の寄せ集めなんて猿にも劣るぞ」

 

ちなみに大和はなんだか『羅生門』とか『人間失格』を読み始めてからこんな感じになった。

俺は『銀河鉄道の夜』とか『こころ』を読んでいるがここまで酷くはない。

 

だってクネっとしたポーズを取ったり、なんか言う言葉もわざわざ難しめにしたり、学校で普通に話しかけたら『俺に近寄るな、不幸になるぞ』とか一度言ってたのを聞いている。

 

「僕達やる事ないね……」

「こういう部分以外で活躍してくれているから良いさ、一子も一緒だ。 一子もそんな顔するな」

 

そう言ってモロと一子を励ます。

この二人がいるだけで和む雰囲気ができる。

そう考えれば十分活躍してくれている。

といってもこういった腕っ節以外の面での活躍だから本人たちは納得していないみたいだが。

 

「ん?」

 

そんな事を考えていたら、俺は遠くの草むらに一人の女の子を見つけた。

髪の毛は黒いが着ている服は少し汚れている。

 

「誰だ、あれ?」

 

俺は気になって草むらまで歩いていく。

 

「!?」

 

女の子は俺が近づく事に気づいたのか、なんだか逃げられた。

幾らなんでもそこまで驚くような見た目じゃないだろうに。

草むらの中に入っていくガサガサしすぎていてけどどこに居るかはバレバレだ。

俺はその女の子を見つけて笑顔を浮かべながら優しく話しかける。

 

まずは名前を聞いて無いから聞いてみる事にしよう。

 

「名前はなんていうんだ?」

「僕の名前は……小雪(こゆき)っていうの」

 

名前を聞いた印象は前の俺みたいだと思った。

下の名前だけって事は俺や一子と孤児だろうか、それとも理由があって上の名前を話したくないのだろうか?

まあ、その様な込み入った疑問は初対面で深入りしていいものではないから、ここでこの考えは切り上げよう。

 

相手が名前を言ったから俺からも言おうか。

 

「そうか、俺は澄漉香耶、小雪はなんて呼べばいい?」

「好きに呼んで良いよ、その代わり……」

「俺も好きに呼んで良いぞ、あだ名で呼ぶならあだ名で頼むってことだろ?」

「うん、そういう事!!」

 

オドオドしていたのでこちらが意図を汲み取って次の言葉を引き継いで言う、そしてそれが正解だったのか花のような笑顔をする。

 

「じゃあ俺はユキって呼ぶよ」

「じゃあ僕はキョーヤって呼ぶね」

 

あだ名が決まった。

といってもとても簡潔に終わったが。

 

「それはそうと何だ、これ?」

 

俺はユキが持っていた袋の中身を見る。

 

「これはねー、マシュマロー」

「そうか、何でユキはマシュマロを持っていたんだ?」

 

普通に思いついた疑問を聞いてみる。

するとユキは顔をうつむかせて話し始めた。

 

「僕もあの中に入りたいからマシュマロ持ってたの……」

「じゃあ俺が仲間にしてもらえないか聞いてやろうか?」

「いいの?」

 

俺はそのうつむいているユキに言葉をかける。

それに対して笑顔で顔を上げるユキ。

 

「いいの、いいの。 でもな……」

「ん?」

 

俺が一拍置くとユキは同時に首をかしげる。

まあ、難しい事言うわけじゃないんだけどな。

 

「俺がいくら聞いてもユキが自分で『仲間にして欲しい』と言わないと意味ないんだぞ」

「うん、僕頑張る!!」

 

そう言って原っぱの方へ行こうとしていたら草むらから大和が現れた。

丁度いいタイミングだな。

 

「どうしたんだ、キョーヤ、遅かったじゃないか」

「話があるんだ、大和」

「何だ?」

 

俺は声を大きくして一言、今までキャップにやっていたように仲間を加える時の調子で一言言う。

 

「コイツを仲間に入れないか!!」

「僕も仲間に入れて!!」

 

ユキが勇気を出して俺の言った言葉に続いて言う。

それに対して大和は……

 

「断る」

「えっ?」

 

ユキは首をかしげ考えている。

俺の耳がおかしくなったのだろうか、確かに今の言葉には少し変な感じがしたぞ。

 

「『定員オーバー』だ、悪いな」

 

俺はその言葉に怒りを覚え、少し語気を荒げて反論する。

 

「風間ファミリーに定員はないはずだろう、大和、一体何を言ってやがるんだ、冗談は止めろよ」

「そいつは別の小学校の奴だぞ、キョーヤ、仲間にする必要がない」

 

必要が無いとか定員オーバーだとか言ってこちらの神経を苛立たせる言葉を次々と言い放つ大和。

俺はその様な理由で断るのなんて許さないと思い声を荒げたまま一言放つ。

 

「だからどうだって言うんだ、仲間にするぐらい良いだろう!!」

「別の小学校の奴を助ける義理はないだろ、そこまでできないしな」

 

義理だとかそういうもので今まで仲間にしてきたわけじゃあないくせに何を言っているんだ。

こいつは小説を読んでおかしくなったのか、どの口がその様な事を言い出すんだ!?

 

「俺達にやって出来ないことは無い、そう言ってたじゃないか!!」

「出来ないというよりは面倒事を持ち込みたくはない。 俺からしたら『人生は死ぬまでの暇つぶし』だ。 だから暇つぶしの邪魔なんてされたいと思わない」

 

「でも……」

 

俺はその言葉に憤慨して再び言葉を言おうとする、そしたら大和は手を前に出して中断させてきた。

 

「これ以上言うつもりならお前は風間ファミリーから抜けてもらう、和を乱す奴がどれだけ危ないかお前なら分かっているだろ?」

 

俺はその言葉に衝撃を受ける。

なるほど、もはやこいつには交渉しても意味がない。

ここで冷静に考えれば『定員オーバー』だと言うのを逆手にとって、俺が抜けてユキを入れる事はできる、しかし大和が拒絶しているならユキを入れるのは良い判断ではなく、結局意味はないだろう。

こんな時キャップならOKを出してくれそうだが、いない奴に何かを願っても仕方ない……

それにここまで関わっておいて一人にするなんて俺は許せないしな、だからもう答えは決まっている。

 

「それがお前の言葉か……よく分かった」

「そうだ、答えはどうする?」

「残念だったな、俺の答えはお前ほど聡いなら知っているだろう?」

「フッ、それもそうだったな。 じゃあここで俺とお前は……」

「そうだ、俺は今日限りで……」

 

俺は大和に背中を向ける。

 

「離別(さよなら)だ」

「風間ファミリーから脱退する」

 

「一時的な感情で居心地のいい場所を捨てるなんて愚の骨頂だな、そういう奴は決まって転落を歩む事になる」

「そうか、そういうお前こそ絶対にあの言葉……肝に銘じておくんだな、『定員オーバー』とかそれ以外にも今言った言葉……決して忘れるなよ」

 

俺は最後に大和を強く睨みつけた後、ユキの手を引っ張ってこの原っぱを後にした。




原作でもイベントはありましたが香耶をからませました。
大和じゃなくてキャップだったらきっと二つ返事でOKだっただろうなと思う作者。
何かご指摘がございましたらお願いします。


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『理解の友 友が変わる時』

今回はモロの魔改造フラグです。
と言っても最終的な強さは原作の強さで言えばユキを少し超えた程度。
目安で言えば『愛』を受けた京より上。


俺が風間ファミリーを抜けて三日がすぎた。

ユキと俺はキャッチボールをしたりいろいろな所を歩いていた。

俺の知らないところでユキは大和に声をかけていたようだが、大和の返事は至って変わらない。

『定員オーバー』や挙句の果てには『しつこい』とまで言われたようだ。

ユキは随分とショックを受けた顔で戻ってきていたのを覚えている、その姿を見て俺は最初に『死人』とさえ思った。

随分と心が狭い奴だぜ……、あんな奴だとは思わなかった。

 

「ユキ、今日の遊びはどうする?」

「今日はね、えーと……」

 

ユキと遊ぶのは基本二人でも出来るものだ。

家に一度呼ぼうとしたら結構嫌がられた。

理由は服が汚いとか言うのだ。

しかし俺はそんな事気にしないように言って強引に家まで引っ張っていった。

 

父さんと母さんはユキの格好を見てすぐに風呂に入れてくれた。

最初の頃と違って恥ずかしさもなくなったから『おっさん』から『父さん』、『おばさん』から『母さん』に呼び方も変わった。

服は俺の奴でどうにかできたみたいだが、やはりさっぱりした方が良い。

 

「……キョーヤ、多分近くに誰か居るよ」

「チッ、それは厄介だな。 キャップだったら何とか言わないと…」

「誰が厄介なのさ、全く失礼だね」

「後ろにいつのまに!?、何だモロかぁ……」

 

驚いて後ろを見るとそこに居たのはモロだった。

本人からしたら失礼だろうがキャップに比べて怖くなかったので安心する。

 

「そんなに驚かなくても、で……キョーヤ、この子は誰なのさ?」

「……事情があるんだがいけるか、モロ?」

 

俺は一応そういう風に言う。

流石に事情を察せずに居られたら嫌だしな。

 

「良いけど……風間ファミリーに関係ある?」

「かなりある、というか完全にファミリー絡みだな」

「聞かされても僕は黙っておくよ、キョーヤが話したくなったら言えばいいと思うよ」

「感謝するぜ、その優しさが今は嬉しい」

 

こっちの気持ちを大事にした物言い。

こういう言葉を言ってくれるモロが今はありがたかった。

 

「そういう事が有ったんだ、でもそれって聞いてみたらかなり横暴じゃない?」

「横暴なのは俺もわかる。 ただ強引に入れても大和は古参メンバーだから決定権は大きい、基本的に全員仲良く出来てこそだから一人でも嫌がったらダメだろ、それに大和は今回強い拒絶だったから余計にダメだったんだ」

 

モロの言う『横暴』という意見はもっともだが、こちらとしては『全員が楽しくいられるように』を考えてこうしたのだ。

 

「和を乱すのがよくないからか……、仮に残れたとしてもキョーヤの事だからその子を一人ぼっちにしたくなかったんでしょ?」

「そうだな……、俺も孤児院の時は仲のいい奴が居なくて一人ぼっちだった時期があった、わかる奴はわかるだろうが一人ぼっちで居るのは辛いんだよ、だから俺はユキを見捨てられなかったんだ」

 

正直昔の事を思い出すのは嫌だが普通はそういうものだ。

一人ぼっちなんて辛いだけである。

 

「へえ、ユキって言うんだ。 いい名前だね、僕の名前は師岡卓也っていうんだ。 よろしくね」

 

そう言って手を出して握手しようとするモロ。

 

「………!!」

 

驚いてユキはモロの手を握る。

普段は女の子には顔見知りをするモロがここまで踏み切ったのは素直に凄いと思った。

 

「ありがとうな、モロ。本当は小雪って言う名前だけどな」

「なんだか同じ人見知りする子だからすんなり手を出せたよ」

 

「そういうものか?」

「そういうものだよ……話を戻すけどなんだかキョーヤらしいと思うよ、でもワン子やガクトにはなんていうのさ?」

 

「会わなければ問題ないだろ、あいつが上手いこと言うんじゃないかね」

「随分と嫌っちゃったね、『大和』から『あいつ』か」

「そんなもんだろ」

 

俺はモロが笑いながら言う言葉にそっけなく返す。

あいつが俺に嫌われる事をしたのだから仕方ないだろう。

 

「で……今誰もいないけど相談しても良い?」

「どうしたんだよ、モロ。 遠慮なく言え。 まあ、流石に無茶な事は勘弁してくれよ、俺もそういうのまでカバーできないからさ」

「いや、無茶かどうかは知らないけど……僕も役に立ちたいんだよ」

「おいおい、別の所で役に立っているって前にも言っただろ」

「それでもやっぱりキョーヤみたいに戦えるようになりたいんだよ!!」

 

真剣(マジ)な目で言ってくるモロ。

 

「そうだとしても俺と同じなのはどうなんだ?」

「出来れば被らないほうが良いんだけど……何かアイデアあるかな、キョーヤ」

「道場については父さんに相談してみるけど……あまり期待するなよ、ちなみに希望は?」

「出来れば蹴り技主体の奴が良いかな、贅沢だろうけど」

「分かった、相談しておくよ」

 

そう言って俺はユキと今日は親不孝通り……そのある場所に来ていた。

 

「ここで戦えるのか?」

「ボーズ、やめといたほうがいい。 この『青空闘技場』は刺激が強い」

「一回だけだ、どいつが相手をしてくれるんだよ?」

 

男の人の制止を振り切って入っていく。

すると目の前にあったのは確かに刺激が強かった、俺は即座にユキの目を隠す。

 

目の中に指を突っ込んでそのまま拳をふりぬいていく男の人が居た。

対戦相手の人が呻いて顔をガードするもがら空きの腹に痛烈な蹴りをいれる。

そしてその人に対して馬乗りになって一言。

 

「悪いけどこれも代行業のひとつでな……覚悟してくれや」

 

それからは拳を何発も叩き込む。

小刻みに着々と、時に大振りを交えて拳の攻撃を食らわせていく。

相手の人は意識が飛んでいるのか抵抗する気配がない。

まあ、目をつぶされた時から戦意喪失はしてそうだけど。

 

レフェリーの人が入り込んで勝負は終わった。

 

「勝者、宇佐美巨人!!」

 

って、あの人よく見たらタッちゃんを引き取った人じゃん。

あの時に比べて軽装だったり見違えるほどギラギラしてるから分からなかった。

 

「仕事が終われば即座に撤退撤退、何言われるかたまったもんじゃねえ」

 

そう言ってポケットに手を突っ込んだまま早々と『青空闘技場』から出て行った。

 

そしてなんか体が大きな奴が闘技場に入ってきた。

よし、あいつとしようか、そう思って俺はその男の前に進み出た。

 

「おいしょ、大きな人だな。 俺とやろうぜ」

 

男の人は笑っているが観客は賭けを始めた。

つまり試合が成立したというわけだ。

 

「では始め!!」

 

レフェリーが勢いのいい声で言う。

男の人はこちらが小さいからか打ち下ろしの攻撃を放ってくる。

まぁ、蹴りとかの方が下半身なんだから低い相手にも当たりそうだが。

……そんな事思ったところで結局はこうなるんだな。

 

「終わりだけどな!!」

 

大人の打ち下ろしを避けた直後に懐へ入り込み最速で一撃を叩き込む。

そのまま悶絶して試合は終了。

 

それはそうとなんだか物足りなさがついて回るのは何故なのだろうか?

一撃で倒す系統の武術なのは理解しているがどうも釈然としない……。

今回は相手の攻撃が大振りだったり体の大小で左右された部分が大きいが、それらを差し引いても結局勝てただろう。

 

いつか俺の物足りないという気持ちを理解してくれる人に会えないものだろうか。

 

俺はユキと別れて家へと帰った、そして父さんへモロの事について相談を持ちかける。

すると……

 

「一応俺の兄貴が今カポエイラの師範だったはずだけど……」

「なんか問題でも?」

「正直一度見たことのある演武でそれより強い人に心当たりが有ってね……まあ、十中八九弟子なんて取らないだろうけど」

「その人の名前は?」

「ヒューム・ヘルシングっていって俺は九鬼で重要な役にいるから見た事あるんだが、多分その人に蹴りを教えてもらうには君自身が九鬼の偉い人と知り合いにならないといけないだろうね」

 

そう言って苦笑いをする父さん。

 

「とりあえず兄貴のところを教えるから友達に教えてあげなさい、ちなみに俺はテコンドーを教えてやれるけどな」

「そうなんだ。 でなんで父さんは自分の兄弟の事や武術ができる事を今まで言わなかったの?」

 

俺がそう質問すると少し顔を下げて自分が何故今まで教えてこなかったのかをポツリポツリと言い出した。

 

「兄貴が体育会系だから少しついていけないって言うのとそこまで強くないって言うのもあってね……まあ、教える分には困らないんだけど」

 

要するにそこまでおおっぴらに強さをアピールする必要がなかったからである、まあ、普通の理由でした。

 

「まあ、とりあえず友達には今度会った時に伝えるよ」

 

俺はそう言ってソファに腰掛け、本を読み今日の一日を振り返ったのだった。




今回で魔改造のフラグを作らせていただきました。
これから先まだまだキャラの魔改造は進んでいくかと思います。
何かご指摘ございましたらお願いします。


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『ユキ 地獄からの脱出』

今回でリュウゼツランルートフラグ破壊一段階目が終了します。


モロにカポエイラの道場を教えて二ヶ月程経ったころ。

モロの体は細くはあるが筋肉がついていた。

遠目に見て分かるほどの変化だから本当に筋肉が無かったんだなと実感する。

 

何故遠目かといわれたらキャップ達に見られない為だ、キャップのことだから無駄に調べてくる場合がある。

 

 

そんなある日、ユキが来ない事に不信感を感じていた。

普段なら遊ぶ場所に、いつも三十分は早く来るユキが十分(じっぷん)もの時間の間、俺を待たせるなんて今までになかったことだ。

 

「遅い……なんか有ったのかな?」

 

俺はなんだかとても嫌な予感がする。

そう思うと居てもたってもいられず、俺はユキの家の方向へと走り出す。

事前にユキの家を一度探しておいた、だって頑なにユキの奴が教えてくれなかったからな。

こんな時にキャップの教えが役に立つなんて思わなかったぜ。

 

河原の方を通り過ぎると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「どうしたの、キョーヤ。 ユキに何か有ったの?」

「モロ……何で分かったんだ?」

 

俺が言葉を言う前に感づかれていた、モロのやつ勘でも鋭くなったか?

 

「だってキョーヤがとても急いでたからね、もしかしてユキ絡みかなーと思ったんだよ」

 

なるほど、そんなに顔に出ていたのか……ってそんな事考えている暇なんてなかったんだった!!

 

「その通りだよ、モロ。 俺は今とても急いでる、だからじゃあな!!」

「待ってよ、僕も行くさ。 皆には僕が用事で遅くなったって言っておくから気にしなくて良いよ」

「ありがとうな、モロ……」

「水臭い事を言わないでよ、ユキもキョーヤも僕にとって『友達』だから助けるのが普通でしょ」

 

俺が礼を言うとモロはきっぱりと気にすることはないと言ってきた、そしてそう言われて俺はモロと一緒にユキの家へと向かって行ったのだった。

 

.

.

 

辿り着いた俺たちはこの家に対して奇妙さを感じた。

こんな昼間だというのにカーテンをかけていた。

それに電気をつけていなく全面的に暗いのが余計に奇妙さへ拍車をかけていた。

 

「……!!」

 

そんな事を考えていたら部屋の中から何か声が聞こえる、怒鳴り声だな。

嫌な予感は当たっていたのか、俺は一気に警戒心を強める。

 

「何か怒鳴り声みたいなのが聞こえるんだけど……キョーヤ」

「モロ、今はそんなもんなんてどうでもいい、ドアを叩くんだ!!」

 

俺は大きな声でそういい勢い良くドアを叩く。

 

「ユキッ、おい、ユキ!!」

 

必死に声をかけていくがしかし返答は無い。

モロも驚いた顔をしている。

 

「返答が無いよ、キョーヤ!!」

「くそっ、こうなったら……」

「待って、僕もやれるだけやってみる!!」

 

モロは少し後ろへ下がり助走をつけて扉へドロップキックをする。

カポエイラの技ではないが助ける為にはそんな事言ってられない。

 

「ゴメン、そこまで上手く出来なかった……」

「いや、凹んだだけでも十分だよ、ありがてぇ!!」

 

少し悔しそうだけど凹んだから十分だ。

俺は全力で踏み込み『蹴按(しゅうあん)』を放つ。

蹴りによる一撃で稽古以外で出した覚えはない。

イメージの中の大爆発をそのまま起こすように、ドアが壊れるイメージごとその一撃を見舞った。

 

凹んだ所に少しの狂いも無く当たる、そしてメキメキと音を立てて閉められていた鍵ごとドアが壊れた。

 

「モロ、俺がユキを助けてお前に託す、時間を稼ぐからその間に連れて逃がしてくれ!!」

「分かった!!」

 

そう言ってモロが玄関先で待機をする、できるだけ速くユキを救出して渡してこの場から逃げてもらおう。

刃物を持った人間相手に戦うなんて無謀すぎるからな、俺も時間稼いで隙を見て逃げる気だ。

 

遠くで見えたユキの髪の毛の色は白くなっていた。

ショックが強かったんだな、可哀相に。

今日が最後だぞ、ユキ。

モロがお前をこの場所から逃がしてくれる、俺がお前に今してやれるのは足を止めるだけだ。

 

さて……俺が頑張らないとな。

振り向こうとした瞬間、俺は大げさではあるが攻撃を回避した。

 

「くそっ!!」

 

俺は悪態をつく、この女……包丁を何のためらいも無く振っていた。

目もなんだか変だし言うことも呂律(ろれつ)が回っていない。

酒かと思ったがそんな匂いはしていないからもっとやばい物だろう。

それはすなわち……

 

「こんな注射器だらけの床を見たら嫌でも気づくぜ、全く……よくユキに悪影響が無かったもんだ」

 

こちらが分析している間にも相手はいきり立っている、と言っても狂乱の方が正しいが。

勢いよく包丁を振り下ろしていく。

 

どうにか俺はその攻撃を避けて即座にユキへと近づいて抱える、そして再び大きく振られた一撃を避けてモロへと手渡した。

 

「ユキを頼んだぞ、モロ!!」

「うん、逃げてる間に公衆電話があったら警察を呼んでくる!!」

 

そう言ってモロがユキを抱えてこの部屋から出て行く。

 

すると女が一拍おいてから狂ったように叫ぶ、部屋に反響して耳がキンキンするような感じだ、頭が痛い。

 

「ユキを返しなさい!!」

「断る、あんたがユキをいじめた!!、あんたにユキは渡せない!!」

「じゃあ、貴方も居なくなりなさい!!、その後でユキも居なくしてやるわ!!」

 

注射器が散乱した床のせいだろうか、やたらと足の踏み場が少なく攻撃が避けづらい。

しかも踏み込んだらガラスで足が大怪我してしまう。

 

「キィ……アアアア!!」

「くっ、完全に理性が切れたか!?」

 

何回か包丁の攻撃を避けていたが避け方が大袈裟すぎたのか、バランスをくずして頬に掠ってしまった。

突いてこられたら速いし余計に避けづらいし面倒だな。

 

「アアアアア!!!!」

「チッ!!」

 

僅かに包丁を引き戻して斬りつけてくるが俺は頭を下げて後ろに下がる、もし遅かったら顔に傷が入るところだったぜ。

 

「ギシャアアア!!」

「避けていく……!?」

 

しかし次の瞬間何かを踏んでしまって足を滑らせてしまう、下をよく見るとその正体は注射器だった。

 

「しまっ……」

「シィェエエエエ!!」

 

注射器によって滑ってしまった所に振り下ろしてきた包丁が当たる。

 

「ぐあっ!!」

 

ザクリと音を立てて右頬に大きく傷が入る。

俺は痛さからか声を上げる。

今しがた斬られた傷口からはほんのり暖かい血が垂れて服を濡らしていた。

 

「グッ……いい加減にしてろ、この狂人が!!」

 

逃げるつもりだったのに何をバカな事を考えたのか、俺はやりかえしてやるという気持ちで一杯になり、懐へ一気に入り込んで踏み込んでいた。

踏み込んだら足が大怪我するというのに全て頭から飛んでしまっていた、当然踏み込んだ事でいくらか注射器を踏み潰してしまい、こまごまとしたガラスの破片が皮膚に刺さっていく。

そのせいで血が出ているがもはやこうなってしまった以上お構い無しだ。

 

まずは腹に『猛虎(もうこ)』を打ち込んでユキの母親を吹き飛ばす、しかしそれで終わらせる気は全くもって無い、ユキの苦しみと同じほどのものを味わってもらう。

 

さらに俺は『鉄山靠(てつざんこう)』でユキの母親を壁に叩きつけて、『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』で最後にもう一撃。

 

壁に大きくひびが入ったが別にどうでも良い、ユキの母親は三回喰らったのが大きかったのか包丁を手放して倒れこみ、白目をむいたまま意識を失っていた。

 

それから警察が駆け込み、ユキの母親は警察に逮捕されてパトカーに乗せられていき、俺は病院へと連れて行かれた。

きっとモロが警察を呼ぶついでに何とかしてくれたんだろう、あいつは本当に優しい奴だ、あの軍師だった奴よりはるかに思いやりがある。

自分の想像以上に足がガラスで切れてしまい、血が流れていたらしく病院に着いたら、即座に外科医の人が救急で足のガラスを取り除いてくれた。

 

病院で顔と足に包帯を巻かれた俺を見て父さんが一言。

顔の方は喋られる程に巻かれているので問題ない。

 

「全く無茶な事を……」

「ごめんなさい」

「とりあえずこの子はどうします、貴方?」

 

母さんは俺と一緒に居たユキを見て父さんに聞く。

ちなみにモロは警察を呼び、ユキが警察に保護してもらった後すぐに帰った。

ユキに『大丈夫』だと延々言って落ち着かせてくれたようだ。

何回も思うが本当に良い奴だよ、あいつは。

 

「そうだな……『一姫二太郎』とは逆になったが養子にしないか、叶」

「それはいい考えですね、フフ……」

 

母さんは父さんの提案に微笑んで答える。

確かにその提案はユキのプラスになる、俺としても万歳な提案だ。

 

「なあ、君……俺たちの『家族』にならないか?」

 

その言葉の意味を理解したユキはよほど嬉しいのか、笑顔で首を勢いよく縦に振っていた。

父さんたちと帰る際に医師が父さんたちに、ユキは虐待による後遺症があるかもしれないというので通院するよう伝えていた。

 

そして後日、父さんと母さんはユキを連れて一緒に市役所に行って養子縁組をしたそうだ。

形としては俺の妹である、あの家よりは良い環境だから傷ついた心を癒してほしいと真剣に俺は思っていた。

 

.

.

 

「まあ、とりあえず売店でも行くか……」

 

事件から一週間後、皮膚の裂傷も落ち着いたから歩いている。

小腹がすいたので、売店で何かしらお菓子を買おうとしていた。

そんな時に椅子に座った二人の男の子の方を見る。

一人はメガネをかけていて仕草の一つ一つに知性を感じさせる。

 

もう一人は少し天然がかったパーマをしていて、俺ほどではないが鍛えているのが分かる。

俺はその二人が気になったから声をかける事にした。

 

「何、そんな所に座っているんだ。 診察は別だろ」

 

幾らなんでも診察もなしに此処に来るのは無いだろう、というかそれをしたら冷やかしだ。

 

「いえ、私はただうろついているだけですよ」

「そういうわけだ、透明の靴を履いた猫さんよ」

 

天然パーマの奴のたとえが童話を混同させていたせいで、理解できなかった俺は質問をした。

 

「一体なんなんだ、その呼び方は?」

「ガラスを足に食い込ませてたからだよ、いやはや驚いたね、まあ猫って言うのはあの女の子に良い事を運んだようだから、童話の名前と少しかけてみたのさ」

「随分無茶なシンデレラかと思いましたよ」

 

そんな事を笑いながら言ってくる、こう見えても俺としてはかなり必死だったんだけどな。

 

「シンデレラにしては男だからか、随分とロマンが無いけどな」

「現実ってそういうもんだろうよ」

 

ロマンは求めていないが、女性ありきの童話において男性がその役目になれば何も良い事はない。

そして童話のような人生なんて起こりえる筈もないので、天然パーマの言い分も理解できる。

 

「その通りです、良い事ばかりではないですよ」

「そりゃあ分かってるけど童話持ち出されたらロマンを考えるのが普通だろ」

 

手を掲げるようにして言ってやる、人命救助できただけでも十分だし最後がハッピーエンドなんだから言う事無しなんだがね。

 

「とりあえず貴方と話していて面白いのですが名前を聞いてなかったですね、教えてもらえませんか?」

「別に良いぜ、俺の名前は澄漉香耶。 そっちは?」

「私の名前は葵(あおい)冬馬(とうま)、そしてとなりに居る彼は井上(いのうえ)(じゅん)です」

「なるほど、宜しくな。 トーマに準」

「ええ、これからよろしくお願いしますね。 キョーヤ」

 

これが後に親友となる葵冬馬と井上準との出会いであった。

 

それから俺はトーマや準と話していると、ユキとも俺のつながりから親しくなった。

アンバランスな組み合わせではあるがやり取りを見ていると結構楽しかった。

 

ユキとトーマ、そして準が話している間に俺はお見舞いに来てくれたモロと話す事にした。

病室の外に出て談話室で話しているのは真剣なことで空気が少しぴりぴりとする。

 

「で……話って何だよ、モロ?」

「ユキについてなんだけど……僕もこの騒動については関係者だから君の親と聞いたんだ」

「何を聞いたんだよ?」

「ユキの精神の状態さ、分かるだろ?」

 

そういうモロの顔は真剣そのもので俺もそれに対して真剣な顔をして対応した。

 

「ああ、虐待だったもんな……」

「そこから聞くと結構不安定なんだってさ、精神的には心に傷を負っているから無理も無いんだけど……」

「とにかく詳しい事についてはまた俺自身が母さんと父さんにユキの事は聞くよ、わざわざ有難うな」

「有難うなんて別にいいよ、またね」

 

そう言ってモロが談話室から出て行く、あいつの事だからちゃんとキャップにも気づかれないようにしてくれたんだろうな。

あいつのささいな心遣いが今は何よりありがたい。

 

結局ユキは俺やモロと同じ学校ではなく俺がユキの学校へ転校する事になった。

モロにはその事についてちゃんと話をしておいたが、どうなるやら。

俺はひとまず今回の事を見直して、ユキの心のケアに向き合っていこうと決めたのだった。




今回は原作キャラの葵冬馬と井上準を登場させました。
次回は原作キャラでのトップランクに濃いあの男が登場します。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『炎と瓦礫』

今回はあのキャラが登場します。


 

 

足の裂傷の傷が治ってから俺はユキと同じ学校へと転校した。

五年生での新しい学校って友達を作るのが難しそうな時期に来たものだな……。

偶然にもその学校にはトーマと準が居た。

俺が入るのに驚いていたが事情はすぐに分かったようだ。

 

「なるほど……ユキの為ですか」

「目をかけることが出来る場所だからな」

「まあ、同じ学友ってのはいいもんだ。 宜しくな、キョーヤ」

 

準とトーマは笑顔で俺の転校を受け入れてくれた。

ユキも俺が居る事で安心しているようだし精神的にはいい方向に向かっていくだろう。

このままユキの心が少しずつ治ればいいんだが……結構深い傷を負ったから道のりは遠いだろうな。

幸い人を信じることを無くしてないから父さんと母さんには懐いている、同年代で言えば俺とモロだろうな。

 

「トーマ、ユキの今の状態はどんな感じだ?」

「悪化は無く良い方向に向いていますね、長い目で見れば彼女の心は絶対に治りますよ」

「そうか、それは良かった」

 

俺は安堵して息を吐く、それを見て準が一言言ってきた。

 

「って言うか本当に会話だけ聞くと心配性な兄貴って感じがするな、キョーヤ」

「それが普通だけどな、準。 心配で仕方ないさ」

 

準の言葉に苦笑いをする俺。

だってあいつの心の傷は深刻だからな、それと行動パターンが読みにくいのも拍車をかけている。

 

.

.

.

 

 

「よしっ、皆用意しろ。 今から皆でアメリカ行くぞ」

 

授業が終わり学校から家に帰ってきたらいきなり父さんが言ってくる。

俺もユキもいきなりの事で驚いているが俺はどうにか冷静を装って一言。

 

「父さん、今回も仕事の会議か?」

 

この頃は少なくなっているとはいえ外国での仕事の会議には家族総出で行っているからそう予想する。

するとそれとは違う言葉が父さんから飛び出した。

 

「いや、今回は九鬼財閥のパーティーで呼ばれただけさ」

「何だ、そういうわけか」

 

父さんってそういえば九鬼財閥でめちゃくちゃ重要なポストだったんだよな。

それで頑張っていたら呼ばれるのも当然といえば当然か。

 

「正直私が顔を出せばいいから観光は自由にしていいぞ。 まあ……一番偉い人が豪快すぎてパーティー会場にいない可能性もあるけどな、一回それが有ったし」

 

父さんは苦笑いで一言。

それのカバーが部下である人やその人の奥さんだったら凄く問題なのでは……?

 

「その時は私と奥方でカバーさせられたよ……そこに居た一番上の統括だからな。 結果としては部下の教育が良くなされていると認められて事なきを得たが正直緊張で喉がカラカラだったよ」

 

父さんが溜め息をつく。

確かにそんな事にまたなったら精神的に参るよね。

 

「でもそんな苦い思い出やケースは今回は無いだろう、行こうか!!」

 

そう言って荷物をまとめて皆でアメリカへ向かう。

パスポートでのユキと父さんのやり取りに若干懐かしさを感じたが。

 

飛行機で成田から空の旅を13時間楽しむ。

ノンストップ便だから面倒だったが、食事は初めてイタリアに行った時よりも美味しくなっていた。

父さんは九鬼の食事衛生部門がって言ってたけど、よくよく考えたらこれって貿易系も結構ウェイト占めてるんじゃないのか?

 

「良い物を貿易してるからあの時点では貿易部分は責められないんだな、これが」

 

顔に出ていたのか父さんが言ってくる。

最高の食材は取り入れているのに料理人が不足していたという事か。

 

「これから先、物の質を下げたら言われるから気をつけるけどね」

 

ご飯を食べ終えて昼寝、読書して昼寝。

そんな感じで時間を使い、空の旅を終わらせてアメリカの空港へと到着。

華やかできらびやかな空気が漂う。

 

「ベガスが近いから雰囲気が凄いだろ、呑まれるなよ」

 

父さんが真剣な顔で言ってくる。

まあ、世界有数の娯楽の街で羽目は外さないさ、気を確かに持っている。

 

「今からホテルに行くからついてきてくれよ、特にユキ」

「分かってるわ、貴方」

「はーい」

「ユキ、父さんの言う事は聞いたほうがいいぞ」

「うん、わかったのだー」

 

その言葉を聞いて『一応』安心する。

一応というのはいきなりあっちへ行きこっちへ行きをやりかねないから、幾ら信用できそうな言葉でも警戒しておくに越したことは無いのだ。

 

俺と父さんたちは並んで歩く。

ユキに細心の注意を払いながらパーティー会場まで向かって行く。

母さんも出店を見てきょろきょろしている。

正直目移りしてしまうのが当然と思える、俺はあんまり興味が湧くものがないから真っ直ぐ歩いているが。

ただあるものを通り過ぎる時なにかしら気になる文字が見えた。

 

「ん、アレは……」

「どうした、キョーヤ?」

 

俺は横目に見えたものが気になって振り返ってみる。

振り返った俺はカンバンをでかでかと取り付けた『世界最強決定選手権』という大会が目に入る。

 

そんな大会なら今まで喧嘩していた同級生や上級生なんて目じゃないような相手が居るかもしれない。

観光はOKって言ってたし問題ないだろう。

俺は期待を胸に抱いたまま父さんたちに大会の参加を伝えた。

 

「父さん、俺はあそこでやっている大会にちょっと参加してくる」

「ああ、行って来い。 俺達はあの椅子に座って待っているよ」

 

俺はうきうきしながら受付まで行って俺は受付のお姉さんに一言声をかける。

 

「あの、この大会に参加します」

「すみませんが年齢の方は?」

「えっ、十一ですけど……」

「ではこちらでの参加になります、どうぞ」

 

俺は受付のお姉さんから参加証を受け取る。

そして父さんたちの方へ行って椅子に座り込む。

 

「残念だな……子供の部だってさ」

「そりゃあ年齢がそれにひっかかってるんだから、仕方ないだろう」

「あと二年分、年を取っていたら大人の部に出れたのにね……」

「キョーヤ、ざんねーん!!」

 

父さんは正論だし母さんは残念なのを分かってくれてるけどユキはぶれない。

 

「まあ、行ってくるよ」

「ああ、応援しているからな」

「頑張りなさい」

「キョーヤ、ファイトー!!」

 

とりあえず俺は試合へと出る。

こいつらが世界で一番強いといわれている子供達ね……つまらないもんだ。

 

「フン!!!」

 

一撃で意識を手放す奴らばかりで面白くは無い、俺はスルスルと決勝の舞台へと上がっていった。

 

「ハアッ!!」

 

「試合終了ー!! 少年の部優勝は澄漉香耶選手です!!」

 

結局決勝戦も何一つ変わらずに一撃で終わっていた。

結果としては俺は優勝したが全然心は晴れない。

世界中の少年を集めたというのにこの程度なのかよ?

これなら年をごまかして大人の部に混じってもよかっただろうな……。

俺は少し落ち込んだ状態で大人の部の決勝を観戦する事にした。

 

「優勝したけどさ……これから父さんたちはどうするの?」

「ユキと叶と一緒に観光してくるよ」

「じゃあ大人の部の決勝が終わったら、あのホテルで待っているね」

 

そう言って俺は父さんたちと別行動をすることにした。

 

「さて……どんな試合になるのかね?」

 

俺は観客席へと向かう。

すると……

 

「あっ、すみません!!」

 

人が沢山居たのもあって誰かにぶつかる。

ぶつかった人の見た目は濃い色の銀髪で額にバッテンの傷があった。

 

「むぅ、姉上の試合が近いというのに……まあ我は許そう!!」

「ありがとうございます」

 

そう言って座る……って何で俺は同じ年ぐらいの人に敬語使っているんだ?

一応年は聞いておこうか。

見た目と違って年上だったら敬語が正しいし。

 

「あの、年はいくつ?」

「我か? 我は今年の八月に十一だが?」

「そうなんだ、六月生まれの俺より年下ですね」

「何だ、年上ならば言ってくれればよいものを。 敬語などはしなくてよいぞ、我が許す、フハハハハ!!!!」

 

豪快に笑い飛ばす人。

名前は一体なんていうんだろう?

 

「名前はなんていうのか教えてほしいだけど……」

「おおっ、我とした事が名前を言わなかったとは!!、我の名前は九()・鬼()・英(ひで)・雄()!! この名前をしかと心に刻み付けるがいい!!!、してお前の名はなんだ?」

「俺の名前は澄漉香耶っていうんだ」

「ほほう、いい名だ。 我はキョーヤとお前の事を呼ぼう、故にお前を我を英雄と呼ぶことを許してやろう。 フハハハハハハ!!!!」

 

そう言って隣に座って観戦する事にした。

 

第一試合……第二試合と見ているが全然面白みがない。

大人の部でもこの程度なのか?

拍子抜けにも程があるだろう、攻撃をパーセンテージで測ったりするのも間違いだ。

最後の試合だけ見てこれもつまらなかったら俺は帰る。

これ以上拍子抜けな試合を見てもつまらんだけだ。

 

 

最終戦に上がってきた選手は一人は大きな背丈の男性。

そしてもう一人は女性であった。

 

「一回戦、最終試合……始め!!」

 

その言葉で互いが動こうとする。

正確には大きい男の人がじりじりと動いて女性の方は一歩たりとも動いていない。

……いや、よく見たら呼吸をして構えの感触を確かめている、何をする気だ?

 

「フハハハハハ、我の一撃で屠られよ!!!」

 

そう言った次の瞬間、その女性は滑るように相手の眼前へと迫っていく。

風が起こったかと思わせた一撃は対戦相手を宙に舞わせてそのまま意識を失わせていた。

俺と同じ一撃の決着では有るが俺よりはるかに流麗にその一撃を放っていた。

その事に感嘆して観客と同じ様に拍手をする。

この選手を見れたのはいいことだった、拍子抜けだった試合の中に光を見た。

暗く沼のようなドブの中に宝石を見つけた気分だ、それも一級品の眩いほどに輝く宝石を。

 

そんな事を考えていたら英雄が大きな声で叫んでいた。

 

「姉上、流石です!!」

「んっ、お姉さんだったの?」

「聞き逃していたのか、キョーヤよ、まあ、また呼ばれるであろうから次の試合を待てば良い」

「聞き逃したというよりはあまりに倒し方が鮮やかだったからつい……」

「確かに姉上の倒し方は鮮やかであったな、魅了されても仕方あるまい」

 

そこから先は一方的であった。

英雄のお姉さんが相手を一撃で次々と倒していく、自分が全力を出しているから笑顔で居られるのだろうか?

それとも別の理由が何かしらあるのだろうか?

どちらにせよまだ迷っている俺なんかとは心の強さが全然違うな、驚きだ。

 

「大人の部優勝者は九鬼揚羽選手です!!!」

 

この人のように己の完全燃焼を目指して戦うべきなんだろう。

俺は気持ちを新たに持つことにした。

 

「流石でした、姉上!!」

 

英雄が武舞台から降りてきたお姉さんを讃える。

 

「ありがとう、英雄」

 

その賞賛が嬉しかったのか、笑顔で英雄に近寄っていた。

 

「しかし我の力を持てばこの程度簡単なものよ、フハハハハハ!!!」

「そうですか、姉上は精進の限りが見えませんな!!」

「英雄よ、そこまで褒めるでない。 それはそうと、お主は何者だ?」

 

そこでようやく俺に気づくお姉さん。

まあ、英雄の賞賛に気を良くしていたら気づかないのも無理はないか。

 

「彼は澄漉と言い、我と同じ年の少年です」

「ほう、澄漉といえば先ほどの子供の部の優勝者ではないか」

 

この人はちゃんと見ていたのか。

俺は顔を見て話す、それにしても綺麗な人だな。

試合の時は気づかなかったが英雄と同じ銀髪に額にはバッテン。

体には女性特有のふくらみを持っていた。

 

「その通りです。 でも、戦ってもなんだか物足りませんでした……」

「うむ、心の病におちるでないぞ。 お主のその虚しさを拭う者はいつか現れる」

 

心配してくれているのか顔をしかめてアドバイスしてくれる。

なるほど、この状態をなくしてくれるような人が現れるなら待つか。

 

「そういうものですか? まあ……これから先も精進しようとは思いますし気長に待ちますけど」

 

「そういうものだ。 理解が良くていいな、ひとまずは己の強さが年相応を越えてしまった不運を呪うのだな」

 

「あの、それで……」

「呼び方が分からんか? 普通に揚羽さんで良いぞ。 この呼び名を許す!!」

「じゃあ、その通り」

「お主の名前は知っておる、試合の時にも聞いていたからな。 『キョウヤ』であろう?」

「その通りですけど、ちゃんと聞いていたんですね……」

「あれほどの勇猛振りを見れば覚えるものよ。 では我は『キョーヤ』と呼ばせてもらおう、フハハハハハ!!!!」

 

高らかに笑うがこの人は器が凄い。

こう傍にいるだけでも大器を感じさせる、英雄も揚羽さんよりは小さく感じるが大器の片鱗は感じている。

 

「もしいくらか年をとっても虚しさがなくならない場合は、我がお前の相手をしてやろうではないか、フハハハハハ!!!」

 

なんだかむずかゆいがこの優しさは嬉しい。

とりあえず自分でこの虚しさを取り払おう、どうしても無理な時には頼るかも知れないが。

 

「姉上、ひとまずは我たちの宿泊先に参りましょう」

「うむ、父上から連絡が来るであろうからな」

 

英雄と揚羽さんが宿泊先へと行くみたいだ、俺も大人の部の決勝が終わったのでホテルへ行かないといけない。

そう思って地図を広げて探してみると揚羽さんから一言。

 

「その地図を見せてみるが良い」

 

そう言われて地図を手渡す、じっくりと見て一言。

 

「ここなんですけど、分かりますか?」

「フム、その宿泊先は我たちと同じではないか」

「そうであるな、どうせならば一緒に来るがいい」

 

そう言われて俺は着いていくことにした。

とりあえず道に迷わずにすむのだから問題はない。

 

高いビルだ、感想を率直に言うならばまさに摩天楼。

空に届くほどの存在だ。

 

「凄い景色だな……」

 

エレベーターが登る際ガラス張りのため外の景色が丸分かりである。

そのまま上がっていく事、何階か。

今まで感じた事もない程のとてつもない高さへと辿り着く。

二人が降りるので俺も同じ階で降りてみる。

 

「キョーヤよ、こちらを見てみてはどうだ?」

 

俺がキョロキョロとしていたら英雄が窓を指差して見るように言う。

 

「キョーヤ、窓の景色もいいものだろう?」

「ああ、そうだな…ん?」

 

確かに英雄の言うとおり窓からの景色もまた素晴らしい。

だが俺はその向こうに灰色の物体が煙を上げながら近づくのが見えていた。

なんだか嫌な胸騒ぎがする。

高度を失っていないと言う時点でその危険度はとてつもないのが把握できた。

 

「アレは……まさか」

「キョーヤ、何処を見ておるのだ? 」

 

やはり思ったとおり旅客機が迫ってきている。

どうやら揚羽さんは気づいていない、こうなったら……

 

「これは!? なんと我の反応が遅れるとは……」

「くっ!!」

 

俺は素早く二人の前へと躍り出る。

というか位置的に一番速く分かったし庇えるのだからこの判断は妥当だろう。

 

「なっ、キョーヤ。 何をする気だ!!」

「いいからそこから動かないで下さいよ、英雄も揚羽さんも!!」

 

俺は手を下にして爆発の呼吸を出す。

突っ込んできた旅客機が掠りそうになっている英雄と揚羽さんの前に立って軌道をずらす為に踏み込んだ。

その一撃はかすかにではあるが旅客機を二人から遠ざける。

さらにその後俺はもう一度爆発の呼吸で爆風をそらした。

 

「全身全霊の化勁(かけい)と発勁(はっけい)でどうにか爆心地にはならなかったが大惨事だな……」

 

旅客機による衝突の衝撃は俺が英雄と揚羽さんを庇ったからないし爆風は大方そらした。

ただ別の所に旅客機は激突したし爆風はそらしたものの火は燃え広がっている。

俺たちの方へと炎が迫る。

俺たちは速く一緒の方向へ逃げていく。

順番としては炎を逸らせる俺が殿で揚羽さんが前、英雄は安全に真ん中だ。

崩れていく床のせいで階段も不安定になっている。

崩れた瓦礫がふってきているがもはや目もくれない。

 

下に降りて行って俺は非常階段を見つける。

これを二人に伝えたら全員で逃げられるはずだ。

そう思った矢先に大きな瓦礫が降ってきて床を直撃した。

 

「なっ……!?」

「キョーヤ!?」

「床が……」

 

大きな瓦礫が落下して直撃した衝撃で床が割れてしまい俺と英雄達が分かれる。

俺は非常階段が無い方、英雄と揚羽さんが非常階段のあるほうだ。

 

「おい、英雄!!」

 

俺は非常階段を指差して気づいていなかった英雄に大きな声で言う。

ただ……俺の方が段々と足場が危ないな。

まあ、旅客機が激突したんだから当たり前か。

流石にこちらに偏るって言うのは予想外だけど。

 

「非常階段だ、あそこからなら最悪飛び降りれるぞ!!」

「確かにそうだが……」

「火が生憎まだそちらには伸びていないから大丈夫だ!」

「ならばお前も一緒に!!」

「それは無理だな…俺のところの足場もかなり崩れかけていておそらくそちらには行けない」

 

かなり脆くなっていて飛び移る為の踏み切りだけでも崩れ落ちてしまいそうな感じだった。

 

「では我が……!!」

「揚羽さんもダメだ、こっちに来たら英雄が危なくなる!!」

「ぬぅ……」

 

俺の言っている状況が容易に想像できたのか揚羽さんは少し躊躇している、ここで一気に飛び移られたら本当にしゃれになってないからな。

 

「速く行って……くあっ!!」

「キョーヤ!?」

 

床が抜けてしまい掴む間もなく俺は落ちていった。

俺は落ちていく最中、英雄と揚羽さんの声が聞こえた。

 

.

.

.

 

 

「足場が崩れたようだな……」

 

姉上が眉をひそめて呟く。

炎が少しずつこちらへ向かってきているのだか、これ以上は考える余裕も無いだろう。

 

「こうなった以上は仕方あるまい。 行くぞ、英雄!!!」

 

そう言って我の背中に姉上が手を回す。

 

「はい、姉上!!」

「しっかり我に捕まっておけよ!!」

 

姉上は我を背負って非常階段から一気に飛び降りていくのであった。

.

.

 

一体何の騒ぎだろうかと思って俺は逸早くビルの方へと向かっていった。

俺の主催で行われたパーティーだがまさかこのような事態になるとはな。

 

「おいおい、ビルが見事に炎上してるぞ」

「全くですな、帝様」

 

俺、九鬼(くき)(みかど)は宿泊先のビルを見上げて言う。

確か英雄と揚羽がこのホテルへ向かっていたような……まあ、俺の息子だからどうにか出来るだろう。

しかしコレは小耳に挟んだが、ここにもし澄漉の息子も居るんじゃ洒落にならないな。

あいつなんやかんやで俺は認めているし、あいつに抜けられたら結構貿易の部門に痛手なんだよな。

そんな事を考えていたら空から影が降りて人が落ちてきた。

 

「英雄、無事に着陸であるぞ!!!」

「流石は姉上、華麗な跳躍と着陸でしたな!!……しかし」

「ああ……そうであるな」

 

俺の前に非常階段から飛び降りてきた揚羽と英雄。

俺の顔を見て一言言うが俺の対応は冷静にやってやった。

だって軽い火傷とか起こしているしな。

 

「父上!!」

 

「揚羽に英雄、お前ら煤だらけだぞ、しかも怪我をしているな。 クラウディオ!!」

「なんでしょうか、帝様?」

「ヘリの手配をしてくれ、英雄と揚羽を日本の葵紋病院まで頼む、できるか?」

「はい、容易い事でございます」

 

白銀の老紳士、クラウディオと呼ばれた男は笑みを浮かべて減りの体を悠々とこなすのだった。

 

「父上はどうするつもりで?」

「俺の勘なんだが建物に気配がしてそうだから行ってくる」

 

俺の第六感が騒いでいるからな。

きっとあの中に人が少なからず一人はいる。

そう思って俺は燃えているビルへと入っていた。

 

.

.

.

 

 

「周りが熱いし何より瓦礫がやばいな……ユキの時といい足絡みのトラブルがこの頃続いてる気がしてきた……」

 

俺は足を引きずって出口を目指す。

英雄を助ける際に落ちていった時に足を強打してしまい引きずると痛みが走る。

若干地面を這うような形ではあるが新鮮な空気の為だ。

 

「!?」

 

這っていた俺の足に崩れてきた瓦礫が落ちてきた。

落下した瓦礫の重みによって足の骨が折れてその感覚が体へと伝わっていく。

 

「ガッ……アアアアア!!!」

 

それに追い討ちをかけるように焼けるほどに熱い炎が瓦礫へと燃え移る。

 

「くそっ、瓦礫が重い……でも、ここから出ないと!!」

 

そう言って必死に這う、こんな所で諦めてられるか……。

 

「『九鬼雷神金剛拳』(くきらいじんこんごうけん)!!!、足が折れていながら這ってでもビルから出ようとする姿はなかなか良かったぞ」

 

拳の一撃で瓦礫を吹き飛ばした人は満面の笑みで俺を見ていた。

 

「ジェノサイドチェーンソー!!! 生きようとする気概……覚えておいてやるぞ、赤子」

 

続いて降ってくる瓦礫を蹴りで壊した人は金髪で背が高かった。

 

「ヒューム、後始末をよくやってくれた、こいつも葵紋病院へ運ぶぞ、ヘリの手配してくれ」

「ハッ、帝様」

 

熱さからの開放と命が助かった安心感で俺は意識を手放した。

 

.

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流石に俺も外国から帰ってきていきなり病院にいくとは思わなかった。

父さんたちは助けてくれた人にお礼を言っていた。

これは、後で知ったことだが俺を助けてくれた人は父さんの勤務先で一番偉い人だったらしい。

 

そしてその人は英雄と揚羽さんの父親だった。

父さんはお礼を言っていたが相手は笑いながら『これからも頑張ってくれ』と激励しただけだった。

 

うん……二人と一緒で豪快な人であるのは間違いない。

あと、結構フレンドに接していたけど普通に考えたら『九鬼財閥』のパーティーだったんだから『九鬼』に出会ったらちょっとは畏まるべきだったな。

 

ベッドに居て目を覚ました俺に英雄が辛そうな顔をして言葉を放つ。

 

「お前には感謝せねばなるまい……」

「何がだ?俺だって英雄の父親に助けてもらった、それでお互い様だろう」

「それでもだ、あの時キョーヤが身を挺して飛行機から我と姉上を庇わなければ、我達の命はどうなっていたか……」

 

そういうものか?

命がかかっていたら人格的に破綻でもしていない限り救助するだろうよ。

 

「トーマには詫びねばならぬな」

 

俯きながらトーマへと目線を向け喋る英雄。

 

「何がですか、英雄?」

「我は今回キョーヤを助けた父上がとても眩しく見えた……故に我は父上を超えたくなった、野球ではない夢を持ってしまった、そして今その夢へと心が一直線に向いている」

 

その夢をトーマに話すとトーマは何食わぬ顔で優しく英雄に声をかけた。

 

「なるほど…野球とは別方面の夢でしょうが、大丈夫なのですか?」

「なに、どんな道でも我ならば可能、その決めた夢を貫き進むまでよ、 ただ……すまぬな、せっかく今まで我の夢を応援をしてくれていたのに」

 

英雄が俯いて頭を下げる、しかしトーマはその様な事は気にしないといった風に英雄を見続けていた。

 

「別に構いませんよ、それで悩んでいたんですか?」

「良いのか、我が今よりつまらん男になるかも知れぬぞ?」

「全く、何を言っているんですか……」

 

トーマが言おうとしているがこれは俺も思っている事だ。

例え夢が変わってもトーマのような奴ならきっと……。

 

「どんな夢を追おうとな、英雄……」

 

俺が言ってから一拍おいてトーマが笑みを英雄に向けて一言言った。

 

「英雄が英雄である事には変わりません、私はね……」

「何が言いたいのだ、トーマ?」

 

トーマの言葉に首を傾げる英雄。

まあ、俺にはなんて続くか分かってるけどな。

めちゃくちゃ恥ずかしいしくさい言葉だから言いにくいが。

 

「英雄が好きだから傍にいるんですよ、夢の成就は応援しています。 頑張ってください」

「俺も……寝転びながらはマナーとして悪いと思っているが応援しているよ」

「ありがとうな、トーマ、そしてキョーヤよ、あの時は騒動の為言いそびれたがお前も我の親友である!!」

「ありがとうはこっちだ、英雄、これからも仲良くしようぜ、親友」

 

そう言って俺は拳を突き出す、それに英雄と拳を合わせあう。

俺は新たな友を波乱万丈の末に得たのだった。




今回は原作キャラである九鬼英雄、九鬼揚羽、九鬼帝。
そしてSからヒューム・ヘルシングとクラウディオ・ネエロです。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『夢については持ちつ持たれつ』

今回でリュウゼツランルートフラグ二本目が崩壊します。


あのテロ騒動から一ヶ月。

俺は足の火傷と、骨折を担当していた皮膚科と外科の医師から診察結果を聞く。

リハビリをしていた為、今は松葉杖を使って普通に歩けるほどには回復している。

瓦礫の衝撃で折れた骨は少し折れ方がいびつだったのもあって普通の骨折より治りが遅かった。

 

「先生、俺の容態の方はどうなんですか?」

 

俺は冷静に聞く、幾ら激昂(げっこう)して慌てたとしても治りが速くなると言う事はない。

 

「完治はしているがやはり重みで折れた分、治りが悪かったな」

「そうだったんですか」

「まあ、理由は事故だから不運というしかないがね」

 

そう言われて俺は外科の診察室を出て、皮膚科へと向かい担当の先生から聞いてみる。

 

「完治はしているね、この状態まで2週間はかかったが問題はない……ただ」

「ただ?」

「精神科へ行って診断してもらいたい、ある事について調べたほうがいい」

 

皮膚科の医師に真剣な顔をして言われる。

まあ、診察って受けられる時に受けといて損はないもんな。

 

少し気は進まないが精神科に行って、診察室を通り医師の目の前に座る。

話の内容としてはどういったものなのか気になるな。

 

「で、一体何を調べる気なんでしょうか?」

「君に今からある映像を見せる、君の精神面にあの事故がどれ程の影響を与えたか知っておかないとね」

 

俺は次の瞬間、炎が轟々(ごうごう)と燃えている映像を見る。

その瞬間足に痛みが走った、いやそれ以外にも異変が起きている。

 

「グッ!!」

「痛いかね?」

「はい、痛いどころか熱さや景色まで……」

「やはり『フラッシュバック』現象が残っているか……」

 

フラッシュバックってあのトラウマとかでなるって言われる……。

心的外傷でなるから縁はないとは思っていたけどどうやら心の深い所で残っていたみたいだ。

 

「精神的に健康である場合でも『夢』で見たり『恐怖』とかで残るからね……」

 

精神科の医師は深刻な顔で言ってくる。

こればかりは恐怖心を薄めるか、深くにしまいこんでよっぽどの事が無いと呼び覚まされないようにする。

もしくはショック療法でとてつもない惨状とかの景色であの景色に慣れさせるか。

……流石に一番最後の案はダメだな。

 

俺は少しばかり足を押さえたまま診察室を出て行った。

 

.

.

.

 

そのまま二ヶ月をリハビリの為に病院で過ごすように医師の人たちに言われる。

その間にトーマ、準、英雄、ユキたちと遊んでいた。

トーマは勉強をしているのか顔をあまり見せない、それでも俺達と遊ぶ時は年相応に楽しんでいた。

そんなある日の事……

 

「気になる事がありまして……院長室に行こうかと思っているのです」

 

トーマが言い出した事は少しばかり危ない感じがする、俺はその感じたものを信じてトーマに対して警告を発する。

 

「やめておけよ、そういう秘密を探るのは危ないぞ」

 

勘があのテロ以来とても冴えるようになったのも理由の一つだ。

危ない可能性を感じた以上は回避させるべきだろう。

 

「その通りだぞ、我が友トーマよ」

 

英雄もそういう俺の言葉に賛成する。

危ないものに触れない事や回避する事の大事さは英雄も知っているしな。

 

「大丈夫ですよ、父の部屋の本か資料を見るだけですから」

 

そう言って俺と英雄を無視して院長へと向かったトーマ。

俺はなんだかこのまま行かせていいものかと思いトーマを追いかけようとする。

 

「心配だな……ちょっと着いて行ってくる」

「うむ、我も心配だが此処に居ないユキと準を探してからそちらの方に向かわせてもらう、スマンがその間トーマを頼んだぞ、キョーヤ」

 

英雄の言葉を受けて俺はトーマを追いかける、院長室まで追いつくには結構な距離だったし、ここの構造を知っているトーマと違う為、俺がトーマに追いついたのは院長室にトーマが入る手前であった。

 

「キョーヤ、わざわざ追いかけてきたんですか?」

 

「ああ、その通りだ、トーマ、探しものならこんな所にもあったぞ」

 

「ありがとうございます、キョーヤ、しかしそれはただの医学書ですよ 、今見つけたこのファイルにどんな事が書いてあるんでしょうか?」

 

そう言ってファイルを開けてパラパラとめくるトーマ。

すると少しずつトーマの顔が青ざめる。

一体何が書かれていたのか?

気になって取り落とした拍子に俺は拾い上げて中身を見た、すると……

 

「おい、トーマ……これって」

「ええ、察しのとおりですよ……キョーヤや英雄の言うとおりやめておくべきでした」

「隠す気も無く入られたら分かる所に配置するとはな……」

 

額をかいて俺は言う、コレはトーマの好奇心をくすぐった上でこうなるように仕向けたわけだ、大人なだけ有ってこういった所ではやはり俺たちより一枚上手だな。

 

「あえて言葉を使うならば『好奇心は猫を殺す』って訳です」

「全く持ってその意見には賛成だ」

 

ファイルの中は行政への癒着、横流しによる不正取引。

医師という立場を利用した悪事が纏め上げられた書類であった。

ページを見ると隅々まで書いている、つまり数え切れないほどそういった悪事を積み重ねていたのだ。

そして、それらの証拠を見たのだから父親を尊敬していたトーマは愕然とする事だろう。

他人の俺でさえ、あの中身には少し驚いているのだから……

 

「おぉ、トーマ!!、それをもう見つけるとは、私の教えを忠実にこなしている結果がもう出たな!!」

 

トーマの父親が入ってきてトーマが悪事のファイルを見つけた事が嬉しいのだろうか。

頬が上気して興奮している。

 

「父さん……あの中身は本当なんですか? ……本当に貴方はこんな事を?」

 

トーマはそんな父親とは対照的に俯いて言葉を言う。

ショックのせいか、言葉が途切れ途切れになっていた。

 

「真実だよ、トーマ、アレは全て私がやってきた事を記しているのさ、一つたりとも虚偽はない。 嬉しい限りだ、お前なら私が今まで築き上げてきた清濁あわせた全てをたくせる……」

「私はこんな事をする為に医学を学んだんじゃない!!、クリーンな父さんのような医者になりたかった」

「なればいいさ、但し上っ面だけで装うんだ、悪事というのは……思ったよりも楽しいぞ、トーマ」

 

トーマの必死な訴えすら届いては居なかった。

あくまでトーマの道を、夢を邪魔するようならこちらも黙ってはいられない。

 

「親ならば子供の夢を優先するのが普通だろ」

「なんだね、君は。 いつの間に此処に居たのかな?」

 

トーマの父親は俺の存在に気づいてはいなかった、トーマにばかり目を向けていたわけだろう。

 

「俺はどうでもいいだろ、おっさん、トーマがこういっているのにわざわざ悪の道に引きずり込むなよ、あんただけが勝手にやっていればいい事を押し付ける必要はないだろ」

「私の息子である以上、私の後を継いでもらいたいと思うのが常だよ」

「血のしがらみって奴か? 後を継ぐのは医師の部分だけで十分だ。 悪事はさっきも言ったがあんただけでやってろ、それが理由であんたの立場が転落してもただの自業自得だからよ」

 

トーマの父親に対して俺はトーマの気持ちを考えろという。

その反論に対して悪事の部分については無駄だといって切り捨てる。

まあ、感情的になって凄い言葉遣いが悪いのは普通だろう。

 

「さっきから聞いていれば……そもそも君は無関係ではないか、何故トーマの夢に首を突っ込む?」

 

トーマの父親は俺にここまで言われて冷静でいるが、正直なんでここまで無関係の人物に言われなくてはならないのか疑問に思ったのか、質問をぶつけてくる。

俺はその質問の答えとなる一言をトーマの父親の目を見据えて言ってやる。

 

「そんなもん簡単だ、トーマが俺の『親友』だからな」

 

俺は八極拳の構えをする。

普段なら一般人には使わないのだが、もしトーマを無理やり悪の道に引きずり込むならば容赦しない。

あと、冷静に考えたら俺って結構今回熱い言葉めちゃくちゃ言ってないかな、恥ずかしい。

 

「よくぞ言った、キョーヤ!!我はその言葉に激しく賛同する!!!!」

 

英雄と準、それにユキが院長室へと入ってきた。

結構遅かったがこの際はどうでもいい。

 

「流石に若を悪の道に引きずり込むなら葵院長、父親の時からの義理とは言えど俺はあんたを許さないぜ……」

「トーマの僕達の怪我を治してくれる良いお医者になるんだよー」

 

準が指をワキワキさせて戦う気満々、ユキは腕を天に掲げているだけである。

 

「井上君の息子……君も嫌だというのか?」

「当然でしょ、俺は若に一番近いんだから悪事は止める、でもそれを前に防げるならそれが一番だと思います、友達だと思うならこれが良い事だと思っているので」

「準、ちょっとお前らしくないほど熱くなってるね」

「お前が今言ってくれたから俺も言えたんだろうな、俺がグジグジしてたらいけないのを気づかせてくれた、ありがとうよ」

「フフッ、そりゃあ良かった、やる準備しとくぞ、構えとけ」

 

俺と準が今にも飛び掛る気になっていた時にトーマの父親が不敵な笑みで言葉を発する。

 

「しかし、君達子供には何も出来はしない!!、トーマは私のものだ、君達が出る幕ではない!!」

「うるせぇ!! 息子を物扱いしやがって……子供は親の操り人形じゃないんだよ!!!」

 

トーマの父親の言葉で俺は一気に踏み込み一撃を見舞う、無理やり引きずり込もうとしただけでなく物扱いした事が俺はもはや許せなかった。

意識は刈り取らずにすんだが思いっきり吹っ飛んでいった。

そして人が吹っ飛んだのを見てユキ、準、トーマが驚く。

 

「おいおい、キョーヤよ……まぁ、良い事にしておくか、おい、この我が何の用意もなく入ってきたと思うなよ、トーマの父といえどトーマを物扱いした以上もはや容赦せん、あずみ、クラウディオ!!!」

 

しかし唯一英雄だけが動じず、院長室の外へ向かって人の名前を呼ぶ。

すると院長室に二人の人が入ってきた。

一人は見た事もないような服を着た綺麗な女性、もう一人は白髪のいかにも紳士というような男性だった。

 

「ハッ、英雄様!!!」

「お呼びでございますか、英雄様?」

 

即座に敬語で英雄の横に立ち英雄に指示を仰ぐ。

なるほど服装で分からなかったけどこの人たちは英雄の付き人か。

 

「こやつの悪事を納めたファイルを押収せよ、そして更正させる為に連れて行け、 出来るか?」

「はい、畏まりました。 英雄様!!!!」

「簡単な事でございます、では失礼させていただきます」

 

女性の人がファイルを抱えてこの部屋から出て行く。

男性の人はトーマの父親を捕まえて引きずるような形で部屋から出て行った。

 

「何故こんな事を……英雄もキョーヤも」

 

この騒動に一段落ついてからトーマが口を開き理由を聞く。

さっきも言ったんだけどな、もう一度聞かせておいてやるか。

 

「『親友』だからな、親友のピンチを俺はただ見てられなかったからだよ、トーマ」

「何故このような事をしたのかと言えばだな……トーマよ、我の夢を応援してくれると言ったであろう?」

「えぇ……言いましたがそれが何か?」

「ならば我も親友の夢を応援するのが道理ではないか、理由など聞くだけ無粋であるぞ」

 

英雄が真剣な顔で言う。

それが普通なんだよな、友達が困っていたら助ける事が当たり前なんだ。

 

「トーマよ、お前のやりたいことをするのだぞ」

「お前がなりたいと思っているお前になればいいのさ」

 

そう言って俺は院長室から出て行く。

とりあえずこの騒動の後始末は大人の方々に任せるのが吉というものだ。

 

.

.

.

 

この騒動から一週間後。

院長と悪事に関係していた副院長は急病という建前で復帰の間までは代理の医師が立つ事になった。

当然その建前の理由を用意したのは九鬼財閥で、代理の医師も九鬼の医療部門の一員だ。

ちなみに副院長が悪事に関係していた事は、普通にファイルを見たら普通に分かった。

準は普通の反応だった。

きっと院長があんな事になった時点で副院長である自分の父親も同じ様になるのは予測していたんだろう。

 

「流石だな、英雄、これが夢に向かっている事の成果なのか?」

「まあ、商業でも医療用品は含まれるし、医療部門についてもそれなりに顔は出しているので関係性はあるが……人員を使っているから今回の事はさほど商業はウェイトを占めておらんな」

 

英雄に今回の騒動について賞賛してみると少し苦い顔でこう返された。

まあ、商業とは別の方面だから浮かない顔になるのも無理はないだろうな。

 

「しかしあんな凄い人員が居たら安泰だな、人こそが財産だと改めて気づかされるよ」

「その重要な事ににその年で気づくとはな。 我も気づいておるしトーマと準も知っているであろう、しかし我やトーマ達は環境上知っていておかしくないだけだ、それでないのに気づくとは流石だな、キョーヤ」

 

純粋に感じた事を口に出すと英雄から賞賛の言葉を貰う。

まあ、企業の重要な部分に父さんが勤務しているから、俺の場合も多少環境が関係しているんだろうけどな。

 

.

.

.

 

長かった合計三ヶ月間もの診察及びリハビリも終わり葵紋病院を出る俺。

いや、これも義務教育のおかげだよな、これがもし高等学校だったらかなりの痛手だっただろうな、どれだけ単位を落としていただろう。

 

「また怪我をしたら来てくださいね、キョーヤ」

「俺も待っているぜ、またな。 といっても学校で会えるか」

 

わざわざ出口まで見送りに来たトーマと準、準の言うとおり学校で明日会えるのだから気にする事はないのにな。

 

「礼儀ですよ、キョーヤ」

 

微笑みながら言ってくるトーマ、全く……あの不正を見つけた時の顔と違って良い面見せやがって、しかも似合っている。

 

「そういうもんかよ…まあ、ありがとうな。 二人とも」

「ええ、どういたしまして」

「俺もだ、どういたしまして」

 

俺は手を振って二人と別れる。

二人は俺の姿が見えなくなるまで居た。

俺も二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

また怪我をしたらとは言わず親友なんだから暇が出来たら来てやるよ。

……英雄の家は知らないから無理だけど。

 

俺は家に帰りながらも腿を上げて骨が完全に治っているか、そして足の調子が戻ったのかどうかを確かめるのであった。




次回で小学生編を終わらせて中学生編に入ろうかと思います。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『荒療治 ドイツへの旅立ち』

今回で小学生編が終わります。


トーマたちとの騒動が終わって俺は学校へと戻ってきた。

 

「しかし久々だな、何ヶ月も来てなかったから勉強を追いつかせないと……」

「そうは言ってもお前ちゃっかりと要点抑えていくのな」

「当然だろ、教科書見て埋めていかなきゃ、置いてきぼりはしゃれならん」

「若とか俺に聞けば一発だろうに……」

「それはあまり考えていない、あいにく今までのは十分埋められるからな。 どうしてもという時ぐらいしか頼らないよ、気持ちだけ受け取っておくけどな、ありがとう」

 

何故準とこんなに話しているかといえば準と俺がとなりの席だからである。

トーマは『若と呼ぶのはやめてください』と準に言ったが、癖になっていた様で今更変えるのは無理みたいだ。

 

「しかし英雄の奴は学校来ないな……」

「英雄は家で経営学を学んでいるらしい、若と一緒で夢に一直線だからな」

「そうか、あいつも頑張っているな」

「若をさらに一直線にさせたのはお前だけどな、感謝してる」

 

「そりゃどうも……当然の事をしただけなんだけどな」

「お前が些細な事だと思っていてもそのやってもらった奴からしたら、重大な事ってのは結構あるものだぜ、思いがけないきっかけとかになることもな」

 

俺は準の言葉を頭の中で考える、そういうもんかね……。

まあ、俺にはまだ分からんし、いつかは気づくだろうな。

 

.

.

.

 

それから学校へと通い時は流れて六年生の二月。

小学校の卒業を来月に待ち構えていながら、俺はあの事故で精神に根付いたダメージの事を真剣に考えていた。

 

「燃える風景、大きな火、最悪言葉のワードでも連想する要素が沢山あったらアウトか……」

 

中学生から高校生になる間までに治さないとこのままでは英雄やトーマに迷惑をかけるだろう、そう思っての決断だ。

 

「父さん、重要な話があるんだ」

 

父さんと母さんに重要な話があると言って今はリビングに一緒に居る。

ユキは一人早々と眠ってしまった。

 

「何だ、重要な話って言うのは?」

「話と言うのは中学生の間、ドイツでの従軍を考えているんです」

「何でそんな事を考えているんだ?、理由を聞かせてくれ」

 

当然理由が気になるだろう。

俺はちゃんとした理由を目を見据えて伝え始めた。

 

「従軍で厳しい事をしたりしていたら精神的なものも薄れると思ったからです」

「そんな事をしなくても友人達が居るだろう、頼れるような友人達が」

「中学生の間、友人に甘えている気はないんです」

 

父さんの言葉に俺は毅然とした態度で返していた、持ちつ持たれるという関係であるべきだと個人的には思っている。

おんぶに抱っこでは最悪将来的に『自立』出来ずに『迷惑』を後々かけてしまうだろう、そうならないためにもそれはしたくない、『依存』しすぎても悪いしな。

『依存』のしすぎで『自立』できないのは、それは俺の考えでは『コバンザメ』であったり、言い方は悪いが『寄生虫』だろう。

『相互』に良き関係を結べるものがあってこその『友人』だし俺もあいつらには頼られたいのだ。

 

「チャレンジするってわけだ……ただ一人知らない国で」

「貴方……」

「分かった!! 三年間ドイツでの従軍経験を認める……が」

「が?」

「ちゃんと無事で帰って来る事。 これだけは絶対に譲れない条件だ」

 

 

「分かっています、絶対に帰ってきます」

「俺もチャレンジして今の地位がある……チャレンジしないとな、やっぱり」

「貴方……本当に良いんですか?」

「キョーヤが戦場に万が一出て人を殺したとしても……人殺しって言うのは日常では逸脱、戦場では正当防衛だ、叶」

 

「でも……」

「二度とあのテロのような事が無くなるのだったら、俺は一度賭けてみるのもいいだろうと思った」

「貴方は頑固だからこれ以上は言いませんが……香耶、ちゃんと帰ってきなさい。 そして優しいままでいなさい」

 

父さんと母さんとの話し合いでドイツへの従軍を決めた。

精神の問題は特効薬を使わないと治せないだろうしここから先ずっとトーマや準、ユキ、英雄、揚羽さんたちに迷惑はかけられない。

一応この事はトーマや準たちにも言っておくつもりだ。

あと、あいつにも話しておかないとな。

言わずに行くのは悪い事だと思うし、ちょっと頼み事があるからな。

 

.

.

.

 

「悪いな、モロ。 こんな所に呼び出して」

「いや、別に良いけれど」

 

翌日、俺は公園にモロを呼び出していた、少しばかり重要な話だからな、時間を置かせて貰った。

 

「俺、外国の方に中学生の間は行くんだ」

「えっ!?」

 

その言葉を聞いてモロは驚く、まあ、いきなりすぎるもんな。

 

「驚くのも無理はないけど本当の話だ、3年間外国に行く。 少し事故で起こった精神のケアの為にな」

「そうなんだ……伝えたい重要な事ってのは多分ユキの事かな?」

 

こいつはやはり分かってくれているな、まあ、基本的に重要な話でユキが絡むのはおまえ自身

が関係したからな。

 

「正解だ、あいつの面倒を俺に代わってみてほしい、自分勝手なのは分かっているが……」

「いや、自分勝手かどうかは言える立場じゃないからいいけど、僕とユキの学校は離れているんだよ」

「それも十分承知の上だ」

「だったら分かるとは思うけどそう頻繁には出来ないよ、それでも良いならやるよ」

「大丈夫だよ、トーマや準にも言っておくから、お前がめちゃくちゃ気負うことはない」

「じゃあ出来る範囲でやらせてもらうから、三年間の間ちゃんと治して来てね」

 

最後に俺を心配する一言、やっぱりお前にユキの事を話したり頼んでよかったな。

少し安心して俺は家へと戻っていった。

 

.

.

.

 

モロと話してから一週間後、俺は羽田空港に居た。

 

見送りには……

父さん、母さん、準、トーマ、ユキの4人だった。

英雄と揚羽さんは忙しい為これなかったみたいだ。

そう思っていたら一人の人間がこちらへ来る、それはモロだった、あいつ本当に良い奴だな。

トーマ達とはもう話しておいたからいい。

最後に来たのがお前って言うのはなんだか感慨深いものがあるよ。

 

「わざわざ空港まで見送りかよ、モロ。 河原でファミリーと一緒に遊んでるとおもってたけどな」

「用事があるって言って抜けてきたんだよ」

「そりゃあ、ありがたいな」

 

俺は素直に礼を言う、全員に言うはずだったがちょっとフライングしてしまった。

 

「皆、わざわざありがとう、行ってくる!!!」

 

礼を言って俺は搭乗口へ向かっていく、行き先はドイツのリューベック。

新しい土地や軍隊でどんな人が待っているのか考えながら歩いていくのだった。

 

時はキョーヤが『川神』に来て二回目のオリンピックが終わった翌年、2005年の三月。

これは一人の少年が変わろうとする物語。

澄漉香耶が新たな道を歩む為の物語の始まり。

そして子供としての始まりの章の終わりである。




次回からは中学生、もとい軍人編です。
この題名でもわかっているでしょうがヒロインがようやく出てきます。
何かご指摘の方ございましたらお願いします。


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軍事学校編
『ドイツ到着 マルギッテとの出会い』


今回から中学生編が始まりヒロインが出てきます。



飛行機に揺られて数時間後、ドイツの土地に降り立って俺は歩き始める。

地図を見る限りではリューベックまで行くには鉄道を利用するのが良いみたいだ。

鉄道へとすばやく乗り込み、揺られる事一時間ほど。

俺は城のような大きな所へと行き着く。

するとそこに居たのは軍隊の服を着た人たちだった、どうやらこの場所が目的地のようだな。

とりあえず話の為に近づいてみよう。

 

「……!!」

 

話をしようと敷地内へ入っていくとドイツ語で話しかけられる。

トーマにドイツ語の本を借りて勉強していたから多少は分かる。

どうやらイントネーションからしてなんか怒っているような感じだ。

こちらとしては用が有るから、どんな事があってもここで帰るわけには行かない。

俺は聞こえてません、もしくは分かりませんと言った感じで偉い人を探す為に敷地

 

内へとずかずか入り込んでいく。

 

「……~~」

「ドイツ語はまだ分からないが……どうやら出て行けと言ってるみたいだな」

 

怒りながら早口でまくし立てられると、もはや何を言っているのか分からない。

軍人の人が構えて追い出そうとしてくるが、こちらとしても話のために来ているんだから引き下がる気は全くない。

 

「……!!」

 

相手も遂に堪忍袋の緒が切れたのか、こちらが構えるよりも速く相手は迫る。

避けるにせよ対処が間に合わずに拳を喰らった。

 

「くそッ!!」

「……!!」

 

相手はこちらの顔面に拳をいれたのを見て再び振りかぶる。

流石にこちらもむざむざとやられるわけにはいかないので、応戦の為に構えて戦う事にした。

随分と穏やかではない解決方法だが、相手が構えて攻撃しようとしているのだから仕方あるまい。

 

「アァイ!!」

「これくらいのものか……少し期待はずれだな」

 

再び軍人は突きを繰り出してくる。

俺は軍隊の格闘術だというので警戒心を強くしていた。

しかし、初撃の時から思っていたことだが想像より遅かった、なのに何故喰らったのかというとこちらの準備する速さを考慮して放ったからだ。

 

しかし準備が出来た今、この速度の攻撃ならば十分カウンターで一撃を入れられる。

そう思った俺は相手の左パンチに合わせて顔を動かして避ける。

そして、そのまま一気に深くへと踏み込んで相手を気絶させる為に『猛虎』を放つ。

軍人は無効化させる方法を知らないから腹へと無防備に受けた。

 

「ハアッ!!!!!」

「グヘッ!!!!」

 

威力は抑えたものの『気』に対する対処法を知らないため、軍人はよたよたと後ずさりをして、そしてそのまま崩れ落ちていった。

威力はできるだけ抑えたのだが十分に気は通っていたからか痙攣する事もなく、起き上がって来る事もなかった。

さて……この状況を見て他の人はまだやる気があるのかな?

そんな事を考えていたら一人の長身の男の人が、軍人達が並んで演習をしている列の中からこちらへと向かっていた。

 

「………」

「……!!」

 

こちらに向かってくる途中、ドイツ語で話しているみたいだがまだまだ俺にはわからない。

どうやら話が終わったのか、壮年の人はこちらの目の前へ近づいて言葉を発する。

その次の瞬間俺は驚いた。

 

「随分と手荒な刺客と思えば少年か……予想外だな」

「えっ!?」

 

なんとドイツ語かと思いきや日本語を喋ってきたのだ、流石に年をとって偉い人なら他国の言葉も流暢なんだなと感心する。

 

「君は一体どういう了見なのかね?、こんな所へいきなり来て」

「俺はここに軍人になる為に来たんです、だから俺は軍人の服を着ていて偉い人にその事を伝えようとしました」

 

日本語での質問に対してこちらも日本語で答える、こちらの希望を伝えるのが重要だからな。

するとこちらの答えを聞いて相手は振り向いてきた。

 

「なるほど……そういう理由だったのか、名乗らせてもらうが私の名はフランク・フリードリヒと言う。

階級は中将であってここに居る軍人の中で、一番に階級が高く先ほど君がいっていた偉い軍人というものだな」

「そうだったんですか……もし仮に所属するとしたら、所属の方はどうでしょうか?」

 

こちらの質問に対して真剣な目つきで射抜くように言ってくる、僅かな動作でプレッシャーを与えてくるのは流石と言った所だろう。

 

「所属云々の話は後で詳しく聞こう、ただその前に君は謝るべき人間がいる」

「それは一体誰ですか?」

 

しかし俺としては別に威圧されるようなものでもなく、中将が言う謝るべき人間について質問をしていた。

 

「今さっき君が攻撃した人間だ。

例え互いに非があり、力ずくであちらが追い出そうとしたからという理由で反撃しても、軍に所属する以上は君の上官となるのだから最低限の礼儀は必要だ」

「分かりました、しかし意識が飛んでいるようで……」

「それはそれは、ドイツ軍の強固な人間が君のような年端もいかぬ少年に完全にやられるとは驚きだな、流石に痙攣ですんでると思ったのだが」

 

そう言って中将は気絶している軍人を背負って城の様な場所に入っていった。

その後に中将の部屋へと案内されて書類を渡され椅子に座るように促される。

 

「さて、改めてようこそ、ドイツ軍へ……それでは君の名前を聞かせてもらおうか」

「澄漉香耶っていいます」

 

「先ほども聞いていたが仮に希望が有ったとして……何処へ所属したいかね」

「あの、倒してしまった軍人の人の部隊って希望しても大丈夫ですか?」

 

こちらの希望を聞くと少し腰掛けていた椅子が揺れていた、そんなにもダメな所だったのだろうか?

 

「特殊部隊、それも際立って異質な『狩猟部隊』を希望する気かね?、物好きというか度胸があるというか……、まあ、希望は大丈夫だが」

「じゃあそこでお願いします」

 

その話し合いの後、中将がクローゼットを開けて軍服を渡してきた、俺はそれを受け取ると更に話してきた。

 

「君は私を呼ぶ事で悩んでいるようだが……私の事はフランク中将と呼ぶ事だ、そして今から君へ渡すのは軍人に欠かせぬ軍服だ」

 

渡された軍服は純白の軍服、結構これは戦場で目立つだろうな。

 

「まだ君の階級では真っ白な軍服だが気にしないでくれたまえ。 今伝えたらあと五分ほどで演習場に来るようだから君の所属する部隊の隊長と会って来なさい」

 

フランク中将に言われて教えられた道を進んで行き、軍人達が集まっている演習場で俺は『狩猟部隊』の隊長と会う事になった。

 

「宜しくお願いします、新兵、貴方はここで我が部隊に恥じぬよう勤める事、それが最初の命令だと知りなさい」

 

目の前に来ていたのは女性だった。

言葉はこの広い場所であるにもかかわらず良く通り俺の耳に届く。

赤い髪が肩から流れ眼帯を付けていない目は鋭く、そして一挙一動が威厳に満ち

ていた。

そんな姿を見た俺は一言言葉を発していた。

 

「綺麗な人だ……」

 

口から思わず出た言葉、そしたら目の前に居た女性が慌てた様子で足を振り上げ

て…ってえぇ!?

 

「トッ、トンファーキック!!!」

「ガッ……」

 

なんと驚く事に振り上げた勢いのまま蹴ってきたのだ。

吹き飛ぶような蹴りを受けて床へと叩きつけられる。

なんとも奇妙なものだがこれが『狩猟部隊』隊長であるマルギッテ・エーベルバッハとの出会いだった。




原作キャラでSではめでたくメインヒロインに昇格いたしましたマルギッテさんの登場です。
初登場が14話と随分遅くなりましてすいません。
何かご指摘がありましたらお願いします。

暴れているように見えるという指摘から反撃しているように描写しました。
感想で現実上ドイツ軍は現地人しか無理らしくそれなら国籍を……とおもったのですが検索すると18から申請、更に10年近くすんでないと無理らしいので断念しています。
『細かい事は気にしないで下さい』、お願いします。


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『初陣』

一対多の戦闘に挑戦しようと思いました。


 

俺がドイツに渡り従軍して長い日々が過ぎたある日の事だった。

『狩猟部隊』の人達の訓練は武装しながらの訓練の為とてもハードだ。

武装自体の重さはなかなかのもので、少なく見積もっても俺の体重の三分の一はあるだろう。

しかし今まで培ってきた努力のおかげで息が上がらず訓練は続けられている。

戦争での軍の出兵を考えれば常に気を張り詰めて動かなくてはいけない、あの綺麗な人…もとい隊長であるマルギッテ・エーベルバッハさんからは恥を欠かせないよう勤めるように言われたのだから。

 

その様な事を考えていたら信号というか何かしらのランプが光る、するとその直後にけたたましい音が鳴り響いてきた。

先輩によるとどうやら召集命令のようで俺は先輩についていき急いで演習場へと向かっていった。

 

「中将からの任務です、全員よく耳に通しておきなさい!!」

 

演習場に付くとマルギッテさんが大声で隊員に呼びかける、俺もびしっとした姿勢で並びその任務の内容を聞いていた。

 

「今回受けた任務は軍隊の殲滅、相手はフランス部隊です」

「隊長、戦力の差は?」

 

隊員の人が情報についての質問をするとマルギッテさんは凛とした表情できびきびと答えた。

 

「すでに先遣部隊が向かっている、そこで分かるのであわてる必要はない、情報収集においても抜かりはないと知りなさい」

 

そう言って隊列を調整して目的の場所へと向かっていく。

それから数時間後……到着した場所は草原である。

遠くの景色まで見通せるほどに遮蔽(しゃへい)物がない、これほど見通しがよければ銃を撃つのにも苦労はないだろう、相手は良い所を選んでいるようだ。

 

「相手はどうだったのです?、数を伝えなさい」

「敵部隊はおよそ百三十、こちらは三十七、差にして四倍弱です、隊長殿!!」

 

その原っぱでは先遣部隊の人が待っていてマルギッテさんに伝える。

それを聞いたマルギッテさんや隊員の人達は原っぱの向こう側を見る。

そしてその情報通りにフランスの兵隊が隊列を整えて進軍しているのか確認する、そのフランス軍の動きを見て原っぱの向こうから獲物がやってきたといった。

そう感じさせるような笑みを浮かべる、その口元は少し獰猛さを覗かせている、そして各々が武器の準備を進めていた。

なるほど『狩猟部隊』と言われるだけの事はある、全員が相手を狩る為の牙や爪を持っているというわけだ。

 

「なかなか多いですね、よく知らせてくれた、それでは狩らせて貰おう」

 

そう言ってマルギッテさんが相手部隊に駆け出した瞬間、隊員全員が相手部隊へと雪崩れ込んで行った、武器を持っているのは分かるが偉く勇敢な人達だ。

 

「奴らに泣き顔を浮かばせてやる!!」

「狩りの時間だ!!」

「悲鳴を上げろ!!!」

 

銃撃やナイフで躊躇(ちゅうちょ)無く相手の部隊を葬っていく先輩達、マルギッテさんはトンファーで旋風のように回り相手をなぎ倒していく。

 

「フッ!!」

「グゥ……」

「テェイ!!!」

「コッ……」

 

先輩達に負けていられないので俺は俺で行動し、二人ほどを八極拳で吹き飛ばして意識を失わせる。

って言うかフランスの軍の人達はそこまで強くないのだろうか?

武器頼りにしては目線が露骨でどこからくるか明らかに分かってしまう、硬気功で体を気で張り詰めて硬くすれば何処からともなく銃弾が飛んできて当たったとしても体を貫く事はない。

 

そして相手部隊を倒しきったという安心をしていた時、俺は嫌な予感を感じ取った、何かしら巻き上げられた砂煙で見えにくいが黒い影が向こうから接近してくる、大きさから考えると予想できるものだ、その正体を見てしまったのか少しの隊員の人達はうろたえている、ドイツ軍人はうろたえないものかと思っていたんだけどな。

 

「何だ、アレは!!」

「隊長、危険な気配がします!!」

 

地響きのような音を立てて歩兵部隊と銃撃部隊の第二波と戦車による人海戦術を相手が取ってきた。

あいにくさっきまでの第一部隊でほかの人の半分が息を切らしている、マルギッテさんは息を切らさずこの状況を観察している。

 

「アレは……戦車ですね、しかも一気に進んで殲滅する気だ」

 

俺は戦車を見て一言言う、相手が戦車に乗って形勢を変えてきたのだ、それを見たマルギッテさんは苦い顔をしてこの状況に対して一言呟く。

 

「戦車とは……戦ったとしたらトンファーをもってしても少してこずる、あいにく私は部下を守らねばいけないからな」

 

マルギッテさんが状況を判断した後、隊の全員に通る声で命令を発する。

流石に今のまま戦うには戦える兵が息切れした為少ないだろうし、設備の差が出てしまいジリ貧になるかもしれない。

それほど戦車の戦闘力は非常に看過しがたいものだからだ。

 

「これではいささか不利ですね、一時撤退し軍の拠点で武装を整えた後再び進んで打倒します、私が先頭で敵を倒すので続きなさい!!」

 

俺は俺で部隊の人たちが逃げるために時間を稼ごう。

そう思った俺はするすると後ろの方へ行き、足止めのために構えた。

後ろに行くその姿を見たマルギッテさんが驚いた顔で俺に問いかけてきた。

 

「キョーヤ、一体何をしているのです、撤退をするといったのです、速くしなさい!!」

「隊長、俺は殿(しんがり)を務めるだけです、もし俺が居なくなろうと隊に支障はないのでしょう、このわがままをどうか許していただきたい」

 

新人一人で支障が出るような部隊ではないのだからこの意見は間違いではないだろう、それに今ここで沢山の兵が戦車でやられる可能性があるのならば少しでもゼロに近づけるべきだろう。

 

「何を言っているのです、速く行きなさい!!」

 

意見に納得がいかないのか声を荒げてこちらへ誘導しようとする、しかし戦車がもう近づいてきているのを俺達は知っていた。

 

「隊長こそ皆をまとめに行って下さい、もうあちらから軍勢と戦車が来てますんでね……どちらにせよ間に合いません、どうか俺にご命令を」

「ならば命令を言いましょう、『手段は問いませんが、必ず帰還しなさい』、それが貴方に戦場で課す初めての任務と思いなさい、キョーヤ」

「了解、それでは隊長、ご武運を……」

 

俺はその一言を聞き踏み出していく。

銃やナイフといった武装はしてこなかったが重りのついた体がやけにこの空気に馴染む。

目の前にあるのは戦車が一台と歩兵部隊が三十、銃撃部隊が二十七、総数にして五十七と一台。

効率よくやるのであれば相手の銃撃部隊の武器、もしくは戦車を奪った後に相手の歩兵部隊へと突き進むのがいいだろう。

相手が百戦錬磨といえど戦車にどう戦うのか見ものというものだし、それで轢かれても弱肉強食であるなら致し方あるまい。

 

この時、俺は初めて『人』を『殺める』のだと感じた瞬間であった。




次回から少し血が出たりするかと思います。
何かご指摘ございましたらお願いします。


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『殲滅と凱旋』

今回は戦場の描画で少々残酷です。


俺は走って戦車の方へと向かう。

戦車に搭乗している人を倒せば少なくとも搭乗者が変わるまでは戦車は動かないだろう。

 

「オラァ!!!」

 

俺は戦車を駆けのぼった後に上へ陣取り戦、車のハッチを開けて侵入する。

そして入った一瞬の間に戦車の中に居た人間を一撃で倒して、一度ハッチを開けて戦車から出る。

そして戦車に人が入るまでのタイムラグを使い、昏倒させた奴を盾にして銃撃部隊へと突っ込んでいく。

銃撃を止めた奴らに対して容赦なく盾にしていた人間を蹴り飛ばす。

そして、その隙に銃を持っていた奴を倒して銃を奪う。

 

「せっかく奪ったんだしやってみるか……」

 

銃を構えて歩兵に向けて撃つ、狙う所は頭ではなく心臓部分だ。

なぜなら、脳への銃弾は必ずしも相手を葬るわけではないからである。

この事は射撃の訓練の時に教えられた事だ。

あと、補足するなら二回引き金を引く事で、相手に対する着弾点が大きく外れる事がなくなり当る可能性を向上させる事が可能だ。

 

「ギィ!!」

 

狙いは少し外れたが二回引き金を引いたことで致命傷を負わせる事が出来た。

さて……一気に攻め立てるかね!!

 

「Keim!!」

「ガッ…!!!」

「Keim!!!」

 

装填して放つまでの所作を完全に削ぎ落としていく。

掛け声は気持ちの問題だけどなんだか気に入った。

まあ……英語読みの『shoot』をドイツ語にしただけなんだけどね。

 

目の前には頭を吹き飛ばした奴が二、三転がっている。

吐き気を催してしまいそうだが相手だって今にも俺の命を刈り取ろうとしているのだからそんな気持ちに浸っている暇なんてない。

銃撃部隊の方は一通り撃ちきると壊滅していた、その為次は歩兵部隊なのだが、今度はナイフでも奪おうか。

銃は肩がこってしまいそうだから小型の奴が個人的はいいと感じた。

 

「フッ!!!!」

「ガアッ……」

 

一気に踏み込み相手が攻撃するよりも速く一撃を見舞う、そのまま吹っ飛んで気絶した兵隊からナイフを奪い取る。

慣れないサーベルとかよりはまだ使いやすそうだしな。

 

「遅いな、あんたら」

「へっ……」

 

構えて迎撃しようとしていた兵隊の後ろを取ってザクリと首元を裂く。

相手より早く動けるのは訓練の賜物だ、相手は首から綺麗に赤い噴水を吹き上げる。

銃で撃った時には見れなかった風景……とても綺麗だな、と危ない危ない。

この行動を楽しむようになったらやばいぞ。

此処に来る前に約束したんだからな、『優しいままで居なさい』って。

 

そのまま相手の首元を裂き続け血に塗れていく最中に相手の眉間に投げて突き立てるなどの行為を続ける。

さて……この戦車で相手の隊長さんへ制裁するかな。

壊滅しきったせいで誰も戦車に乗り込めなかったようで、すんなりとハッチから中に入って戦車を動かし始めた。

 

「ひいいいいい……!!」

「さて……終わりだ」

 

グチャっといった音がしたが俺からしたら生き残るための手段だからな。

こちらとしては命の危険が有ったのだからいちいち気にしてはいられない。

さて……処分の方法だが、確かこいつらが持っていた手榴弾が有ったな。

あれを戦車に投げ入れておけば十分だろ。

 

戦場に結果的に残っていたのは、撤退したドイツ軍を除けば俺ただ一人であった。

これなら寝首をかかれる心配も無いだろう。

しかし、念には念を入れて奪っておいた手榴弾を二、三個放り投げて徹底的に後始末をしておいた。

 

.

.

 

俺はたいしたケガもなく言われた事をこなして帰還してきた。

今回の功績を讃えられてそれから俺は数ヵ月の間に多くの戦場へと赴いた。

 

そこでマルギッテさんが出した『犠牲者ゼロの帰還』という命令や『殲滅』の命令をこなし、軍の先輩達も驚きを隠せない顔をしていた。

 

あとで聞いた話によると実力主義でもある『狩猟部隊』にとって、ここまで強力な新兵が加入したのが証明されたかららしい。

 

「それにしても最初に戦場で殲滅してきたり相手のど真ん中に多く居たせいか、服がもう血まみれだな、染み付いてるから洗っても取れやしない……」

 

新兵から幾度と無く戦場を駆けていたのもあって、軍服はしっかりと血の色で赤く染まっていた。

どうやら階級は上がっているようだが調べていないし興味が無いから知らない。

延々と衝撃なものを見ていたりしてきたからか当初の目的でもあったフラッシュバックの治療の方はおおむね成功しており、今では容態の方もかなり安定しているようだ。

 

さて、考えるのも一旦止めて力を入れて洗っていくかな、せめて暗い赤の色は落ちてもらわないと見た目の面で困るからな。

 

「次の任務はいささか厳しいですね……」

 

そして、部屋で力を入れて軍服を洗っている時にマルギッテさんがドアの前を通り過ぎてなにか呟いていた。

 

声で判別できるのはこの半年の間に共に多くの戦場を駆けた事。

そして『狩猟部隊』に女性の軍人が居る比率が少ない事、更にもう一つ付け加えるのであれば特徴的な声だからである。

 

服を洗い終わってもその呟いていた言葉が頭に残る。

そんな時に先輩から食事が言い渡される。

ドイツ軍の食事は当番制だ、食事は一日の活力であるから美味しいものを作らなくてはならない。

ちなみに最初の方は散々だったが先輩達の動きを盗み見て作るようになっていったから半年の間に作るのは上手になっていった。

 

俺はその作った食事を持って珍しくここへ来ていなかったマルギッテさんの所へ行く。

悩んでいたみたいだから一体どういう任務を受けたのか聞き出して相談に乗るかな。

 

隊長の部屋の前まで行きノックをする。

すぐに返答はあった、先ほど部屋の前で聞こえたような感じではない凜とした声だった。

 

「誰ですか、用件を言いなさい」

「キョーヤです。食事を持ってきました、隊長」

「分かりました、開けなさい」

「失礼します」

 

そう言って片手でドアを開ける。

ゴハンを載せた盆を荒く扱わずにちゃんとした状態で配膳してテーブルの上へと乗せる。

 

「いきなりで悪いですが何か任務で悩み事でも有ったのですか、隊長?」

 

俺が心配するような声色で椅子に座って質問する。

するとマルギッテさんは少しは驚いたのか目を見開いていた。

 

「何故その事を?」

 

大きく動揺はしてないが少し慌てている様子が見える。

流石にあの呟きで聞こえる訳が無いと思っていたんだろう。

しかし、マルギッテさんの良く通る声で人の部屋のドアに近い状態で呟けば聞こえて当たり前だと思う。

 

「聞こえたんです……部屋の前で呟いていたものですので」

 

俺はとりあえず正直にその事を話した。

 

「そうですか……どうやら隠しても無駄なようですね」

 

ため息をついてこちらの目を見て言葉を発する、そして観念したように呟いた。

 

「分かりました、話しましょう、座りなさい」

 

そう言われると俺はテーブルの椅子を引いて座った。

マルギッテさんは昼ごはんを食べながら、いつこちらが話を切り出すのかを待っているようだった。

食べ終わるまで待つ気だったからその旨をきちんと伝える。

そして、それから数分して盆の上や食器が綺麗になってから話を切り出した。

 

「次の任務が厳しいと言ってましたが一体どのような任務なんですか?」

「今回の相手はロシア部隊です、それもほとんどをつぎ込んでくる模様、それを『狩猟部隊』全員で倒すという代物です」

 

苦い顔をしているのはきっと俺に聞かれていたからだ、秘密にしておくのがいいのにまさか聞かれているなんてのは予想外なんだろう。

 

「ほとんどってどれ程です?」

「『狩猟部隊』全員の数と比較して兵隊は六倍、そして戦車などの設備も充実してますね」

 

そう言って相手の配置などを予想した用紙を渡してくる。

じっくりと目を通すと確かにそこにかかれた物はとんでもないほどの兵の数や戦車などの設備をふんだんに使用した陣形であった。

ちなみに『狩猟部隊』全員の数はおよそ五十、つまり六倍ということは三百だ。

ここまで差が広がっていると『普通ならば』単純に数の暴力が成り立ってしまう。

 

「確かにこれは一筋縄ではいきませんね」

 

俺は少し苦笑いを浮かべてマルギッテさんに用紙を返した。

 

「その通りです、今までのものとは段違いと知りなさい」

「そうですか……でも、一応策はありますよ」

 

しかしこの『狩猟部隊』は『普通の部隊』ではない。

 

「ほう、興味深い、その策を詳しく聞かせなさい」

 

頬杖をつきながら聞いていたマルギッテさんが妙案を出すのかと思って姿勢を正す。

流石のマルギッテさんも今回の任務は内心難しいと思っているんだな。

 

「単純です……俺が特攻しますよ、それで敵をあらかたやった後に第二波として隊長達が突撃すればいい、犠牲が減るでしょう?」

 

『普通ではない』という部分は戦力の差をひっくり返せるほどの技量を全員が高い水準で誇っている所だ。

そこを刺激するような作戦で更にその力を引き出すといった方法である。

 

その考えを言った瞬間、マルギッテさんの顔が険しい表情へと変わっていき重々しく口を開いた。

 

「私がそんな方法を許すとでも思っていたのか?」

「実利を求める以上は結構良い方法に聞こえますけどね、ギャンブル要素は大きいでしょうが勝てる勝負ですよ」

 

険しい顔をしようと作戦を変える気は無い、その為こちらも譲らずに賛成させるような方向へと持っていく。

 

「失敗してしまえばその時点で兵隊を一人失います、それに相手の銃撃部隊が包囲してしまえばひとたまりもない」

「それを防ぐ手立ても当然持ち合わせております、防具の武装を念入りにしておけばいいんですから」

 

普段は身につけていない防弾チョッキを武装すればど真ん中を突っ切ることはそれほど無理な事ではない。

 

「むむ……しかしこれが成功するのかどうかは分からないでしょう」

「十分確信がなければ私は隊長に進言しない、そして今このように申し出ている」

 

マルギッテさんはこちらが了承しない事に対して反論しようとする。

しかし、俺は方法を提示してなおかつ可能性が十分あるようなニュアンスを含めて言葉を繋いでいく。

今さっき言っていた銃撃部隊の攻撃は防ぐ為に必要なチョッキは支給されてるから問題ない。

普段は硬気功でいけるから使っていないだけである。

 

.

.

.

 

 

「えー……繋がりますか、隊長?」

「はい、繋がっている、問題ない」

 

アレから数時間かけて説き伏せた結果が今の状況である。

作戦そのものはお互いが譲れる場所は譲り合って、俺が無線で連絡を取り特攻を仕掛ける。

それから何分かした後に隊員たちを少数突撃させる、そしてまた何分後かに投入。

仮に無線が途切れたらその時点で突入。

とりあえずは俺が単騎で戦車や手榴弾といった爆撃と砲撃の兵器を奪っていく。

そしたら先輩達の力があれば戦況は確実に有利な方向へ向くだろうな。

 

「では今から突入、事態を良い方向に向かわせるように全力を尽くします」

「了解、それではコードネーム『カミカゼ』開始」

 

その言葉を聞いて俺は敵陣のど真ん中。

兵隊の数の差およそ六倍の死地へと入っていった。




次回もまた戦場が出てきます。
何か指摘のほどございましたらお願いします。


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『二つ名と手紙』

中学生編ももう少しで終わるかと思います。


 

単騎特攻による突入の時に俺は大きく息を吸って吼えるように声を出す。

相手はそれに気づき銃を一斉に構え臨戦態勢を整える。

俺はそれを見て一気に突撃を開始した。

 

「オォオオオオオオオ!!!!」

 

突撃をしていく最中俺は化勁を使い銃弾を逸らす。

逸らしきれないものは硬気功を練って弾き返す。

さらには飛んでくる砲弾に向かい『猛虎』を打ち込んで突き進む。

銃撃をしてくる兵を真っ先に倒す為に駆けていく、支給された手榴弾を相手の歩兵部隊へと投げ込み一網打尽を試みる。

銃撃部隊の眼前に迫って俺は構えて息を整える。

そしていつものように踏み込んで相手を狙う。

そしてそのまま相手に一撃を加える、するとその威力に耐え切れず昏倒する兵隊の銃を奪い取り乱射する。

後で来る隊員の事も考えれば今の間にむちゃくちゃな事をして相手を減らす。

相手の部隊の一割は手榴弾と連射で削っていた。

 

さらに俺は戦車の破壊を試みて一度銃を捨てて戦車の方へと駆け出す。

そして身軽な動きで砲身の上に乗り一気に踏み込んだ。

その行動で戦車の砲身にヒビが入る、更に一撃を戦車の上部へと繰り出し外装をへこませる。

これで砲弾を打てば暴発を起こしてしまい戦車一台がガラクタになる。

それを見てから俺は降りて銃撃部隊から奪っていた銃を拾い上げる。

そして空である事を知った後に銃を振り回して相手の頭や体に手痛い一撃を加える。

打撃を加えられて呻いている銃撃兵からまた銃を奪い乱射のループ。

これを幾度か繰り返していき着実に敵兵の数を削る、今のところまだ連絡は来ていない、時間的にはそこまで経っていないのだろう。

 

「まあ……やれるだけはやりますかね、暴れるのは好きだからよ!!!」

 

俺はまた空になった銃を振り回して歩兵部隊へと向かっていく。

まだまだお前らの人数削らせてもらうからな、用意は出来てるか?

覚悟しろよ、ロシア部隊!!

 

「シャアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

俺は咆哮をあげて駆け出して行った。

俺は持っていた空の銃が邪魔だったので投げ捨てて構える。

俺は八極拳でなぎ倒す事に決めた。

なぜなら、もう相手の銃撃部隊が遠い為安心して拳を振るえるからだ。

それに数が減っている、これだけの人数ならば十分に踏み込んで相手の体に遮られる事なく吹き飛ばす事ができるはずだ。

それに銃を振り回している時は忘れていたがこっちの腕が鈍れば嫌だしな。

よくよく考えれば元々精神面の治療と己の力を高める為にきたのだ、器用貧乏になりにきたわけではない。

 

.

.

.

 

「連絡が遅いな……もう銃撃部隊は六割近く、歩兵部隊が五割五分、戦車は三台壊れているというのに」

 

俺は呟きながら兵隊を一人倒す。

結構な時間が経ったはずなのだが一向に突入してくる気配が無い。

 

「遅いとは聞き捨てなりませんね、こちらとしては突入のタイミングは見事に事前の打ち合わせどおりです」

 

こちらの声が聞こえていたのだろうか、少しつんとした言い方でマルギッテさんが入ってくる。

 

「しかしよくぞ有言実行しましたね、良くここまで減らしました」

 

俺の顔を見た後に戦場を見て微笑んでいた。

流石にこれほどまでに作戦が成功するとは思わなかったのだろう。

 

「褒めましょう、誇りなさい」

 

俺はその間にも八極拳で大暴れして兵站(へいたん)を崩して相手の部隊をかき乱していた。

その結果として相手の全部隊の四割ほどを削っている。

 

「しかし隊長、もうこれほど相手も痛手を負っているので後続の隊員も突入させてはいかがです?」

「キョーヤ、そういうと思ってもう突入させております、貴方の考えは時々先読みされていると気づきなさい」

 

そう、マルギッテさんが言った瞬間に隊員の人達が突入して大乱戦となる。

マルギッテさんは残った戦車へと向かって行く、他の人達は突入した事で動揺している歩兵部隊へと向かっていった。

俺は残りの銃撃部隊と戦車の掃討へと向かった。

 

「キョーヤ、私と共に動き戦車の破壊に協力しなさい」

 

暫くしてから俺はマルギッテさんに言われて、歩兵部隊の殲滅から少し場所を外し戦車の破壊へと行動を移した。

トンファーで砲身を破壊して外壁を崩したところに俺が一撃を叩き込み、搭乗者ごと戦車をガラクタにする。

搭乗者の意識はきっと飛んでいるだろう、それを見てまたマルギッテさんが他の戦車へと狙いを定める。

このやり取りを続けて数時間後、戦場には残っているロシア兵は誰一人としていなかった。

『狩猟部隊』の勝利でこの戦は幕を閉じたのである。

戦果と言えるならば俺が五割、マルギッテさんが三割半、他の人達が一割半といった所である。

この戦いの中でマルギッテさんは暴風のようにトンファーによる殲滅を行っていた。相手の銃撃部隊なんて慌てふためいてその隙に一網打尽されているんだもんな。

 

ちなみに余談であるがこのような言葉を述べられてロシアに香耶の事を認識されたのだった。

 

その者、殲滅による返り血で髪はさながらたてがみの様に固まり、血染めの服を纏いて覗かせる犬歯と凶暴な目は見るものを威圧させる。

そして威嚇するように大きく叫び声を上げて、固まりたてがみとなった髪を振り乱し蹂躙していくその姿はまさに獅子の如く。

 

これはロシア軍隊長の最期の言葉であり、この戦の後ロシアの通信部隊を通じて世界各国の軍隊に知れ渡る事となる。

『紅獅子』、それが戦場での澄漉香耶の通り名となった瞬間であった。

 

.

.

 

そして今回の大きな任務から無事この場所へ帰還してから数日後、俺は中将の部屋へと呼ばれていた、先日は階級昇進だったが今回は一体何だろうか?

 

「中将、どう言った用でしょうか?」

「キョーヤ、君の任務遂行成功率は素晴らしい、この『狩猟部隊』ではマルギッテに次いで異例の成功率だ」

 

部屋に入ると中将からお褒めの言葉を頂く。

まあ、最初にマルギッテさんが言った『恥』をかかさない程度にやっていたらそれに実績が伴っただけなんですがね。

 

「お褒めの言葉ありがとうございます、中将殿」

 

しかしせっかくの言葉に謙遜はせず簡潔に礼を述べる。

鼻っ柱が強すぎるのも癪(しゃく)だろうが謙遜のしすぎもあまりいいものではないからね。

 

「そこでなんだが、君に重要なポストである、少尉……つまりマルギッテの副官を勤めてほしい」

 

いきなりとんでもない任務を言い渡される。

しかし俺は動揺を隠し切って理由を聞くことにした。

 

「それは何故でしょうか?、理由を聞かせていただきたい」

「フム、それもそうだ、納得できず引き受けられても後味が悪いからね」

 

流石に中将も理由もなしに引き受けさせるのは悪いと思ったのか、ちゃんと理由を話してくれた。

 

「心遣いありがとうございます、中将殿」

「理由としては今まで少尉にはこれといった副官は居なかった。

元々彼女が有能というのに加えて誰も彼女に並ぶ強さでないというのも有ってね、それを君に引き受けてもらおうと思う、どうだろうか?」

 

後々考えてみれば確かに理由としては間違っていない。

しかし、別に女性でもよかったのではないかとも思えた。

でも、そうしていないおかげで今回俺がこの任務につけるのだからその様な些細な事はどうでも良くなった。

 

「理由を聞いて納得しました、俺なんかで良いのなら喜んで引き受けさせていただきます」

「そうか、それは良かった、後日少尉には伝えておく、時間を割いてくれてありがとう、澄漉『上級准尉』」

 

そう言われて俺は部屋から出て行く、すると先輩に呼び止められた、一体どんな用だろう?

 

「キョウヤ、君に手紙だ」

「先輩、有難う御座います、宛名は誰ですか?」

「えっと、確か……Takuya.Morookaって書かれていたぞ」

「そうですか、有難う御座います、その手紙貰いますね」

「どうも、じゃあな」

 

俺はその手紙を受け取って自分の部屋へと戻っていった。

中学生になってもはや真冬の時期が訪れるこの時に一体何が有ったのだろうか、俺は気になってすぐに手紙を開封した。

 

「さて……一体何が書いてあるのかね」

 

.

.

.

 

「キョーヤへ、半年振りだね。

この半年の間に起こった事で伝えたい事が有ります。

僕は君に言われたように時々放課後や、短縮授業の合間を縫ってユキの事を観察していました。

といっても中学校には葵君や井上君が居たのでたいした問題は無かったんだ。

 

一応凄い偶然だけど九鬼くんについては、僕がユキを見に行った時には一度もいなかった。

ある日葵君と井上君も家の都合で学校を休んだんだけど、その日からユキへのいじめが始まりだしたんだ。

 

理由の方は大和達には内緒だったから力を借りずに自分で色々歩き回って調べた。

そしたら結果は女性からの嫉妬や肌の色や髪の毛の色、そしてユキの『あの頃』を知っている人からのなじったりといったものだった。

 

最初は机とかへの落書きや上履きへ画鋲を入れるなどの些細なものだった。

ユキは笑ってごまかしたり、抵抗していたんだけど強がっているのは分かっているから相談には乗ってユキを元気付ける手助けをしていた。

 

証拠が無いからなんともできない事に歯がゆさを感じながら、僕はこの時既にもしいじめがとんでもない方向に行ったりした時は動こうと決めていたよ。

 

最終的に言葉でも行動でもへこたれないユキにいらだったのか。

ある日放課後の葵君と井上君の居ない所で、ユキに性的な行為を男子が強引にしようとしていたのを見て、いつも通り様子を見に来ていた僕は怒りでドアを蹴破って暴れまわった。

 

二十人近く居た男子は一人残らずボロ雑巾のようになって教室で横たわる事になった。

それからそういった奴や女子が作っていた『自殺をさせよう委員会』って言う存在に気づいて、もう一度僕は怒ってそのふざけた団体を止めさせてユキのいじめは終わったんだ。

 

僕はこの一件で葵君と井上君と親しくなったんだ、そしてこの騒動でユキは己の身を守る方法としてテコンドーを習い始めたんだ、どうやらテコンドーを教えている所によるとユキは才能がすごいんだって。

僕も蹴り技使いとして追い抜かれないようにしなきゃあいけないと思ったよ。

 

あの時交わした君との約束は守っているし、これから先ユキの事に関してはできるだけの努力はする。

だから君も心配せずそちらに無事で居てください。

友達への伝令と激励を込めて モロより」

 

俺は手紙を読み終わり一息ついた。

モロが律儀に約束を守って居てくれた事に安心する。

しかし虐めか……俺があっちに居たら一緒にモロと大暴れしたんだがな、こればっかりは自分の目的の為にドイツへ来たのを悔やむぜ。

といって後悔しても変わらない、それにユキへの被害はなかったからいい。

だが準とトーマの二人が家の都合って事は二人とも病院系統の事を詳しく覚えていくつもりか、こりゃあ俺もうかうかしてられないな……。

商業で活躍し始めている英雄、医者の卵として歩み始めた準とトーマ、虐めから救うほどの力を身につけたモロ、今度再会する時は俺も誇れるほど変わらないとな。

 

俺は頬を叩き気合を入れなおすのだった。




次回は少し時間を飛ばします。
何かご指摘のほどございましたらお願いします。


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『修了試験』

もう少しで中学生編も終わります
原作時間軸まであと少し。


副官に任命されてから数ヶ月が経った。

もう少しで訪れてから一年が経とうとしている。

俺はマルギッテさんの身の回りについての警護や兵法での相談役。

それ以外にも給仕などといった事をこなす身になっていた。

 

振り返ってみると初めてここに来た時から随分時間が経った。

最初は装備や重りをつけての鍛錬に驚いていたが、いまやその倍ほど総重量を増やした上で軽快に動き戦場を駆けている。

筋力も初めてここに来た時に比べて大きく増加したものものだ。

 

そんな事を考えながら俺は腕立てをする。

『狩猟部隊』の副隊長にして副官、その大役を務めるためには努力を積まなくてはならない。

もっとも今までただの一度も努力を怠った事は無いが。

 

.

.

.

 

……それから警護をこなして兵法を学び、それから更に一年が経つ。

その間にも『狩猟部隊』にも新人が入って育成はマルギッテさんや先輩の人達が教えている。

俺の教える事はは徒手空拳による攻撃の為それほど人気はない。

ただ、例外として実戦における組み手では人気はある。

 

あと、コレは私的な事だが誕生日の贈り物が届いた。

トーマと準からはペンダント。

ユキからはお菓子の詰め合わせ。

モロからは写真立て。

英雄からは真っ赤なふんどしだった。

 

写真自体入れる写真がないし……お菓子はその一週間後には空になった。

赤フンはいまだに未着用で今のところ身につけているのはペンダントだけだ。

 

そのペンダントを撫でて俺は気を入れなおす。

いつどんな事があっても、どんな時でも気を抜けば死ぬ事があるのだから。

一度だけ戦場での裏切り者に銃を向けられた事がある。

そいつを撃ち殺した時はそいつの親友から恨まれた、そいつに闇討ちされる事が有ったが……正等防衛による一撃の当たり所が悪かったせいでそいつも帰らぬ奴となった。

 

そんな事を思い返していた時マルギッテさんが近寄ってきて俺に一言言ってくる。まあ、真剣な顔からして用件は一つだろうけどな。

 

「任務が入りました、キョーヤ」

「分かりました、すぐに向かいます、隊員を集めるので場所聞かせていただけませんか?」

「ありがたい、場所はここです」

 

マルギッテさんは俺に地図を見せてその場所を指差す、なるほどこの場所か。

 

「分かりました、それでは集めてきますので隊長は先にその場所へ向かってください」

 

そう言って服をはためかせ目的へと駆けるマルギッテさん、俺は軍の舎へと入り軍人の人達を集めていった、そしてマルギッテさんが出て3分後、俺は後発隊として戦場へと向かっていた。

 

それから少しの時間が経ち、戦場に着くと俺は真っ先に斥候も送らず相手の戦力を確認する、こちらに比べて相手は3倍近い兵の数、それに戦車が4台、今まで見てきた相手の中では多くも無ければ少なくも無い、丁度真ん中ぐらいの兵力であった。

 

「お前ら、死にたくなきゃ副隊長についていけよ!!」

「オォ!!!」

 

隊員の人たちが集まり雄たけびを上げる。

幾ら隊長のマルギッテさんが怖いからってちょっと感心しないぞ、特にそこの新入りの人。

 

「キョーヤ、貴方も随分と信頼されるようになりましたね」

「まだ少し恥ずかしいですがね」

 

マルギッテさんが俺を見て褒めてくる。

まあ、戦場を駆ける際にとてつもないほどの信頼を置かれているのも仕方ない。

この若さで『上級准尉』など普通ならありえないからだ。

これはきっとマルギッテさんが俺を死地に連れて行きその中で無謀な事をして功績を挙げたからだろう。

 

「相手の兵力と分布を見て囲むようですね」

 

 

「俺と隊長が背中合わせに戦えば同時に殲滅が可能です」

 

「それはいい提案だ、それならば貴方に背中を任せましょう、兵と協力してそちら側の全ての殲滅をお願いします」

「了解、それでは掃討を開始します、少尉」

 

そう言って俺とマルギッテさんは背中合わせで敵軍へと駆けて行く。

相手は慌てふためき戦車の行く方向を妨げたりして我先に逃げようとしていた。

それを見た俺は相手の後ろから銃で心臓を狙う、引き金に指をかけ力を入れる。

銃口から吐き出された弾は相手の背を貫き、一瞬呆然とさせた後、相手の軍服が血に染まり倒れこむ。

 

痙攣をほんの僅かの間してそのまま動かなくなる。

俺はそれを見届ける事もなく相手の軍勢へと進み、八極拳で吹き飛ばす。

逃げ切れなかった奴は他の隊員たちの銃やナイフなどで赤い噴水を巻き上げて倒れていき、それから数分後経って見渡すと俺達が担当した相手の部隊の中で立ちながら戦場に残っている者は皆無であった。

まだ少しの奴らは倒れているが息があり生きている事がわかる。

しかしそれ以外の相手の部隊のやつらは物言わぬ骸と化しただろう。

 

そのまま振り向くとマルギッテさんの方に居た相手部隊の軍勢が綺麗さっぱりと一網打尽されていた、やはりこの人は凄いな。

そう思い俺は感心したまま戦場から部隊を引き上げた。

今回の任務も終了、と言っても俺はもうこれから少しの間は戦場に向かうことはないだろう。

なぜならば俺は日本に帰国するからである、学生としての学歴をちゃんとしないとな。

一応特殊訓練学校って言う名目で卒業試験を行うみたいだ。

 

中将の部屋に呼ばれた時に俺はあの背中を合わせた戦を最後に日本への帰国を伝えていた。

時期としては二月だが用意などを考えれば十分だ。

入る予定の川神学園の試験には武芸の試験があるし、なおかつ勉学を怠ることはなかったから頭脳面にも問題はないはずだ。

充分入れる可能性はあるだろう。

 

「そうか、君はもう帰国するのだな……」

「はい、今年の四月には高校生になるので一度日本に戻り勉学をしなくては」

「別に構わない、将来を豊かにする際には重要なものだからね、だが……」

「だが?」

「君には悪いがどれほど強くなったのか、そして戦闘力を見た上で帰っても大丈夫なのか、卒業試験を兼ねた試験を突発的だが行わせて貰う」

「えっ?」

「なぜなら君の出身地では『武神』が居るからね、もしあまり強くなっていないようでは少しの間だけでもここで鍛錬してもらわないと心配だ」

「あぁ、『MOMOYO』ですか……」

 

そう、何故か知らないが戦場や軍の舎ではたびたび『世界最強』の存在として『MOMOYO』と言う存在を皆が口々に呟いていた。

俺からしたら誰か知らないが、軍人が恐れるほどの戦闘力を有しているのは明らかである。

 

「それで試験の内容は?」

「君には今から少尉と戦ってもらう」

「なるほど……」

「演習場に行こうか、少尉を私は呼んで来るよ」

 

試験というよりは俺からすれば今までこの場所で学んできた集大成をぶつける機会という訳だ。

そういう意味なら最高の相手だろう、俺自身一度は相手をしてもらおうと思っていたんだから。

 

俺は先に演習場へ行き念入りに柔軟をする。

そして数分後マルギッテさんが来た、顔を見るに事情は説明されていたみたいだ。

丁度お互いを挟んで中将が真ん中になるように立つ。

 

「では……宜しくお願いします」

 

俺はそう言って装備していた重りを外す。

体が軽くはなっているがそれでもどこまで速度で勝負できるのかはわからない、マルギッテさんも眼帯に手をかける。

 

「こちらこそ宜しくお願いします」

 

そう言ってお辞儀を返すマルギッテさん、そして眼帯にかかっていた手の力が強くなる。

 

「キョーヤ、本気で来なければ悪夢が待っていると知りなさい」

 

マルギッテさんが眼帯を外してトンファーを構える、完全に本気で戦うつもりだ。

まあ、そうして貰わなければ意味がない。

そして随分と言ってくれるじゃないか、元よりそのつもりだよマルギッテさん。

そう思って俺は牙をむき出しにするように笑みを浮かべた。

 

「それでは……始め!!!」

 

中将の一言で戦いが始まった。

俺はいつもの構えから一気にマルギッテさんの懐めがけて突っ込む。

それ以外の方法としては蹴りでの一撃と武器術だ。

しかし今回におけるこの試験では武器を選ばなかった、やはり全力で戦う以上は己の鍛えてきた体の方が馴染む。

 

「フッ……やはりそうきましたか」

 

マルギッテさんが駆けてくる、こちらが踏み込むタイミングを読んだ上での行動。

そして予想通り一気に俺との距離を詰めて懐へとやってきた、俺はそれを見て苦い顔をしていた。

一撃を放つ距離を一気に詰められた事によって、踏み込みが浅くなる。

そのためこちらの攻撃はそれほど脅威にならず、凌がれて反撃を食らう可能性が必然的に高くなった。

それを見て僅かに後退するマルギッテさん、零距離の一撃もさせないってわけか。

なるほどそう簡単に主導権を渡さないって事だな、全くやりがいのある人だよ。

 

「ならば次はこうしましょうか……」

 

足をゆらゆらと左右に動かしているマルギッテさん。

こっちへ踏み込んでくる気なのだろうか?

もし、仮にそうなのだとしたらそれならその瞬間を狙うのも悪くないかもな。

俺は構えてマルギッテさんが踏み込んでくるのを待ち構える、そしてマルギッテさんが踏み込んだ瞬間を見た俺は一気に踏み込んで距離を詰めた。

しかし次に見たのはなんという事に……

 

「なっ、しまっ……!?」

「このような物につられるとはまだまだ甘い、『トンファーアッパー』!!!」

「ぐあぁ……!!」

 

地面に着いていないマルギッテさんの足だった。

つまりマルギッテさんは踏み込んだのではなく、踏み込む『振り』でこっちのタイミングを外してきたのだ。

俺はこの罠に引っかかってしまった事に後悔する、とんでもないミスを2つ犯してしまったと感じた。

一つは『待つ』という自分らしくない方法をとったという事。

そして、もう一つはまんまと踏み込む動作につられた事。

そのミスの清算は大きなものとして俺の体へと降りかかってきたのだった。

 

「よく耐えられましたね、驚きです」

「そりゃあ、どうも……」

 

顎を跳ね上げられた為言うほど大丈夫でもない。

しかし、その弱みを見せれば一気呵成に攻め立てられるだろう。

だから俺は不敵な笑みを浮かべて『効いてない』という感じを装ったのだった。

 

「クッ……」

「ハァ!!!」

「…ラア!!!」

「グゥ!?」

 

俺は足に力を込めて『蹴按』でマルギッテさんの足にお返しの一撃を叩き込む。

マルギッテさんはすかさずバックステップをしていた為浅かった。

でも、顎の一撃を喰らって何も返さないよりはましだろう。

 

「ハァ!!!」

「『トンファートルネード』!!!!」

 

今度は罠を張る隙は無いと思い踏み込んだ瞬間。

こちらを近寄らせない為にマルギッテさんはトンファーの連打を繰り出し、さらにそこへ独楽のように回転を加えて暴風となる。

うかつに大きく踏み込んだらこの暴風の餌食だったというわけか、厄介な技を使ってくる。

 

俺が踏み込まない様子を見て技を解くマルギッテさん。

そりゃあ、あれの中に入るのは危険だ。

逸らしようのない全方位攻撃に硬気功でも耐えられないであろう連打。

安易に入って顔に一撃でも受け、距離感を掴む為の目をつぶされたら確実に負けるだろう。

それを考えたから俺は暴風の中へ入らずに構えるだけにしたのだ。

 

「ガアアア!!!」

「ハアアアアアアア!!!!」

 

咆哮をあげ踏み込んだ俺をいなしてマルギッテさんは自分のペースのまま進行させる。

そしてマルギッテさんも俺のように咆哮をあげてトンファーによる怒涛の攻撃を繰り出す。

それに対してはこちらも一撃を何度も打ち込みその嵐のような攻撃を掻い潜りペースをつかませないために奮闘をする。

しかし、かなりの距離の接近を許していたのがそもそも間違いだった。

その事に気づいた時には既にトンファーによって挟み込まれた体が担ぎ上げられ宙に舞っていた、トンファーの連打は相殺していたが強引に押し込まれる形になったか。

 

俺はどうにか受身を取りその勢いのまま転がって難を逃れたが、その転がる最中に空気を切り裂く音が聞こえる。

そしてその音と共に俺の顔の横を蹴りが通り過ぎる、俺は起き上がりざまに身震いがした。

 

「あれは『トンファーキック』……」

「ええ、貴方にとっては思い出深い技でしょう?」

 

そりゃあ、初めて会った時に喰らった技だから確かに思い出深いよ。

でもあの時のように無防備には喰らわないさ、マルギッテさん。

俺は構えて一撃を放つために呼吸を整える、マルギッテさんがその間に一撃を放ってきた。

その一撃はゆうにガードが出来る速度だった、俺はそれを難無く受け止める、そしてそのままマルギッテさんはこの一撃を振り切って隙が出来る、これは思ってもいないチャンスだ。

千載一遇のチャンスが見えてきた、俺は一気に踏み込んでがら空きになった腹へと一撃を叩き込む。

 

「『猛虎』!!!」

 

しかしその瞬間、マルギッテさんがニヤリとした、まさかこれも罠だというのか!?

 

「やはり甘い、『トンファーペンデュラム』!!!」

 

横から来たのは側頭部を狙い打つ返しのトンファーの一撃。

横に向かせる事で打撃面積を減らす博打の技だがこちらの『猛虎』に合わせてカウンターで叩き込んでいた……

冷静に考えればあの速度で放つ一撃には警戒しなくてはいけなかった。

冷静だったなら罠だと気づけたはずなのに興奮して気が逸|(はや)ってしまったのか?

しかし例えそうだとしてもやはり兵法や戦いでの閃きは一枚も二枚も上手だ。

 

「クッ…」

「ガッ……」

 

ただ、お互いに手痛い一撃を喰らったのは言うまでもない。

こちらは側頭部にトンファーが直撃、マルギッテさんは腹に八極拳の一撃。

足がふらつく俺より多分ダメージはでかいだろう、ヒザが笑っている、これならチャンスは有る、流石に三回目の罠だろう。

 

「まだまだいきます、トンファー……!!」

「それは…こっちの台詞だ!!!」

 

俺はふらつく足に喝を入れ一気に懐まで踏み込む。

マルギッテさんはそんな俺にカウンターの為に十字にトンファーを構えている。

この一撃をトンファーで受け止めた後に、『トンファーキック』で俺を打ち倒すつもりだろう。

だが…そうはさせん!!!

この一撃でラストにする、防御を突き抜けるように全身全霊を叩き込む!!!!

 

「マルギッテ、キョーヤ、双方待て!!!」

 

中将が腕を上げて、今にも一撃を放とうとしていた俺と腰を落としてトンファーを構えたマルギッテさんを制止する。

 

「試験終了だ、2人とも下がりなさい」

 

そう言われて下がる俺とマルギッテさん。

お互い最後のカウンターで足元がおぼついていない。

マルギッテさんはゆっくりと歩いて離れる、俺はふらつきながらもどうにか離れる。

 

「結果としては合格という所だな、キョーヤ、まさか少尉と同じ高みに立ってしまっていたとは驚きだよ、賞賛に値する」

 

中将が微笑みながら俺に試験の結果を伝える。

褒め言葉は嬉しいんだが勝つ事が出来なかったのが悔しい。

今まで負ける事無く進んできたのに初めて勝てなかった、そう考えると無性に悔しさが込み上げてくる。

そして自分のペースを最後まで作れなかった事に憤りを感じる、なるほど……これが『屈辱』って奴か。

 

今度戦う時は絶対に負けるものか、俺は握りこぶしを作って『引き分け』という結果と『屈辱』という気持ちを頭の中で反芻(はんすう)していた。




次回は原作キャラが久々に出てきます。


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『帰国は一難』

原作キャラと前作のキャラが出てきます。


帰国まで後三日ほどとなったある日の事、俺はお土産店をうろついていた。

キョロキョロして他の所があるのか調べる。

全部同じ所で用意をするのはちょっと芸がないかと思ったのが理由だ。

 

「グッ!!」

「あっ!?」

 

そんな理由で次の土産点を探す為に購入したお土産を持ったまま歩いて居たら誰かにぶつかった。

俺は申し訳なく感じてお土産を地面に置いて顔を上げる。

 

「すいません、少し前が見えなくて」

 

俺はぶつかった事を謝罪する。

お土産があるとはいえ悪い事だからな、その人は明らかに外国人のような見た目だったから俺はドイツ語でしゃべっていた。

 

「随分と流暢なドイツ語なようだが日本語でいいよ」

 

白髪で長髪の男性は日本語を喋ってきた。

見た目は外国人なんで意外だった、この経験は二回目だ。

スーツを着ている所を見たらどうやら会社で働いている人のようだ、だからそれで他国語も流暢なのだろうか?

 

「私は日本人だよ、顔に出ているぞ、『外国人みたいな人だ』と思っているのが」

「あっ、すいません、どうしてもそう思うんです」

 

正直な気持ちを言う。

だって悪いけれど、コレで日本人だと言われて、おいそれと信じれそうに無い。

 

「まあ、無理もないがね、土産店に行こうとしていたのか?」

「そうですけど……」

 

質問に対して返事をする。

まあ、両手一杯のお土産を持っている時点で分かられそうな物だが。

 

 

「悪いが時間を割いてもらって少し話をしたいのだが構わないか?、日本人の話し相手は久々でね」

 

そう言われて俺は承諾した。

するとドイツでのカフェまで無駄なく歩いていく、この人ちゃんと道を覚えているんだなと俺は感心して一緒に入っていった。

 

「話というのはなんですか?」

「話の前に君の事を話してもらえないか?」

「ちゃんと言いますが、その前にそちらの方を言ってくださるとありがたい」

 

なんせ誘われたとはいえ得体の知れない雰囲気を纏っている相手にいきなり情報を開示する訳にはいかない。

相手もこんな言い方をされてまともな返し方はしないだろう、だって相手からすればこちらも得体が知れないのだから。

 

「私は会社を経営しているだけだ、日本には見切りをつけてね、君はどういう人かな?」

「こちらは強くなる事やリハビリの為に軍隊へ入っていた中学生ですよ」

 

予想通りの反応だな、こちらとしては情報は多く開示されていない返し方をされたからこちらもその様にして返す。

一体どういう人なのか分からないので聞いてみたが、その答え方では少しこちらも大きく開示は出来ないという事だ。

 

「ほう、ちなみに聞かせてもらうが位の方は?」

「『上級准尉』ですよ、『少尉』の一階級下ですね」

 

単刀直入に聞いてきたので俺もぼかさずに答える。

俺の位を聞いて男の人が驚いた顔をする、そりゃ背は高いものの少年にしか見えない奴がそんな見た目にそぐわない高い階級なんだからな。

 

「これは驚きだ……『上級准尉』ということは部下も沢山居るだろうな、そんな君に一つ教えておこう」

 

真剣な顔をして言ってくるのでこちらも真剣な顔で対応する。

一体どういったことを教えてくれるのだろうか?

 

「何ですか?」

「『人脈』の大切さだよ、人に慕われた事があるならそれの範囲を広げるべきだ」

 

『人脈』か……どういうものかは分からないが英雄は九鬼財閥だ。

トーマは葵紋病院、つまりどれだけいろいろな人とのパイプを作るかって事か?

 

「広げると言っても……手段としてミグシィとかのソーシャル・ネットワーキング・サービス、そして地道に携帯を使用するのが考えれますね」

 

広げるという事に戸惑いを感じるが手段として思いつく限りの方法を言う。

難しいところで言えば『株』を使って株主総会でパーセンテージを大きく占めれば会社とかは抱きこめるだろうけどな。

 

「手段は確かに君の言う方法が一番ポピュラーだろうね、君には息子にはないものがある……それは軍所属で培った『カリスマ性』だ、それを認識して上手く立ち回れば化けるだろうな」

 

カリスマ性か……人脈というのが信頼の上に作られるものならば、そりゃあこれ以上に良い武器はない。

単純に言えば『この人についていきたい』とか思わせる力だからな。

それにしても息子とは一体誰なのだろうか?

 

 

「さて…話はここまでだな、相手の得体知れなさに警戒するのは構わないが、友好的な相手にそれはご法度だぞ、飲み物代は出しておくが妻との待ち合わせがあるから失礼するよ、またいつか会えた時は君の成長を見させてもらおうかな、ちなみに私が好きなものは……『有能な人間』だ」

 

そう言って男の人は出て行った、あの人は一体何者なのか?

しかし、わざわざ飲み物代まで出してくれるとは親切な人だ。

そう思って俺はお土産店へ向かうために店を出た。

 

俺は出来るだけのお土産を買っておいて三日間過ごす。

なま物はないようにしておいた、ドイツならではの土産物というのでピンと来たものはなく、装飾品系統が多いが気にしない。

食べ物以外にとなるとやはり装飾品や服、工芸品となる。

服はサイズが分からないし、工芸品は割れ物であればかさばる、その為安直ではあるが装飾品にしたのだ。

 

そして空港へ行く日、俺は軍の舎の前で頭を下げる。

今までお世話になったこの場所に、俺に大事なものをくれた場所に、ありったけの感謝を込めて深々と頭を下げる。

 

荷物とお土産を持ち空港へ着いた後チケットを買って搭乗する。

ちなみに機体はおなじみの九鬼の奴である、だって安全性が高いからな。

 

「えっと……番号はh-02か」

 

上に荷物を乗せる前にチケットの番号を確認する、間違えていたらその人にも迷惑だからな。

 

「よしっ、合ってるな、荷物を上に積み始めるか」

 

確認して合っているのが分かったから荷物を積み始める、お土産を入れた袋と衣服を詰めたリュックとかだからすぐに終わった。

席を確認すると雑誌や新聞、そしてイヤホンといったものが有った、それなりに娯楽用品はあるんだな、俺は席を一通り見て座る事にした。

 

「あの、隣良いですか?」

 

席に座る為に俺は先に窓際の席に座っていた人に声をかける、サングラスかけて本なんて読めるわけないのに、しかも小説だから余計読めてないんじゃあないの?

 

「別にいいですよ、それにしても随分髪を伸ばした男だな、女かと思った」

 

隣の席の人が俺の顔を見て声をかけてくる、ツンツン頭でサングラスをかけている。

 

そして今気づいた事だがこの人の体に驚いた。

 

小柄でずんぐりとした体型、身長に比べて圧倒的な筋肉の重みがある。

 

その筋肉を蓄えた腕は丸太のように太いと感じた。

上半身については大胸筋がせりあがって苦しそうにしている。

足はそのはいているズボンが限界近くまで張っていて、太股をいっそうと強調している。

首は腕よりもまた一段太く多少の衝撃では揺らぎそうにもない。

 

こちらの視線に気づいたのか笑みをこぼす。

その笑みは獰猛な肉食獣のようで牙のようにとがった白い歯が見えていた。

 

「あの、どういうお仕事をなされているのですか?」

 

俺はその見た目に圧倒されて少しどもったような質問をする、一拍おいてその男の人から意外な職業が聞こえた。

 

「プロ棋士だ、または臨時での武術顧問をしていてそれに伴って時々九鬼財閥で任務を受けたりしている」

「えっ?」

 

プロ棋士って……対局とか大丈夫なのか?

 

「九鬼財閥に頼まれた任務である女性を更正させる為に保護しに行っていた、対局の日はちゃんと考えた上でな、ちなみにそいつは昨日もう日本へと送り届けておいたよ、こちらものんびり帰りたいからな」

 

こちらの考えを見透かしたように言ってくる、こちらが体の作りについて目を見張っていたのに対しては少し笑みを浮かべて胸を叩いてこう言った。

 

「コレでも昔は見た目どおり戦いに生きていたのさ、負けたけどな」

 

遠い目をしてしみじみと言ってくる。

負けたと言っておきながら清清しい顔だ、それだけ相手が強かったのだろう。

この肉体で、この威圧感で弱いなどという事はないのだろうから。

 

「人生でただ一度の黒星だった、今はその男に勝つ事を求めている」

 

そんな人が居たのか?

世界はやはり広いのだろう、それを知るともっと強くなりたいと思ってしまう。

 

「あっ、それはそうとお前の名前聞いていなかったんだが何って言うんだ?」

「澄漉香耶って言います」

「そうか、俺の名前は長枝っていうんだ、宜しくな」

 

さっきの話が気になったからもっと詳しく聞こうと身を乗り出した瞬間、長枝さんは窓の向こうを見て呟いた。

 

「おいおい、機体のあんな所から煙でてるぞ」

「えっ!?」

 

その言葉を聞いて俺は窓の向こうを見る、するとエンジン部分から煙が上がっているのが確認できた。

 

「ヤバイな、どうする?」

「どうするも何も止めないと!!」

「止めるとしても不時着するのは目に見えてるからやらないほうが懸命だな」

 

どうするか聞いておきながら無理だとか言ってくる、しかしこのまま行くと不時着は免れない、もし万が一の事が有ったら全員帰らぬ人となる可能性がある。

 

「でも不時着したら犠牲者めちゃくちゃ出ますよ……」

「そうだな、じゃあ別の方法とるけど協力してくれるか?」

 

そう言って長枝さんがおもむろにシートベルトを外して立ち上がる。

一体どうするつもりなんだろうか、めちゃくちゃ嫌な予感が背筋を駆け抜けたのは間違いない。

 

「それってどういった方法ですか?」

 

しかし、もしかしたらいい方法かもしれないから一応聞き返す。

しかし、次に聞いた言葉はやはりろくでもない提案だった。

 

「俺とお前が前と後ろに別れてありったけの発勁(はっけい)をする、それで爆発を押さえ込むってわけだ」

「あの、何故下に撃たないんですか?」

 

俺の質問に対して服を正して淡々と答えていく、まるでこの状況から救うのが当たり前のように。

 

「下に撃つぐらいならば踏み込んだ際に『気』を放てば良い、複合してもう一つ技術を使って爆風を更に逸らす」

「あの、他の乗客は?」

 

俺達は助かるが他の人のことも重要だ、俺はそう思って質問をする。

帰ってきたのはやはり救うのが当然というような自信に満ちた声だった。

 

「真ん中に集めれば何とかなるさ、ただ……」

「ただ?」

「どこら辺に不時着するか分からないから気をつけろよ」

 

そう言ってコクピットの方へと向かっていく。

俺は呆れながらもその提案に乗る事にした。

 

俺は後ろに向かう途中途中で迅速に乗客へ呼びかけ真ん中に集める。

そして、俺たちは乗客を挟んで構える。

機体が揺れだしたって事はあんまりもうあまり時間がないって事か、ヤバイな。

 

「さて……やるぞ!!」

「ハイッ!!」

 

長枝さんがコクピットから後ろの俺に届くほどの大声で俺に呼びかける。

それを聞いて返事をした瞬間二人同時に構えて腰を落とし大きく呼吸をして集中する。

そして二人とも気合の一声を発して踏み込んだ。

 

『ハァ!!!!!』

 

飛行機が陸地へ不時着する瞬間同時に発勁をした。

 

大きな爆発や爆風を伴ったがさらにそこで化勁(かけい)をする。

 

それによる成果だろうか、爆風などの大部分は逸らされてリュックこそ少し吹き飛んだけで済み、幸いにも誰一人犠牲者にならず助かったようだ。

 

「山のふもとに落ちたか」

 

長枝さんがそう言って辺りを見回す。

 

爆風は逸らしたが煙や爆発は起こった、山の入り口に近い所という事はこれを目撃した人が警察に通報などするだろう。

その際に墜落を防いだ人間として何か言われるかもしれないし事件でテレビに映るとかなったら面倒だ。

そういった注目を浴びる事やこの事故での渦中の人間になるのはゴメンだ。

 

「まあ、山中じゃなかっただけ良かった、見下ろした所によると下山は随分時間が掛かるぞ、五日から一週間は見ておいたほうが良い」

 

長枝さんが言うように見下ろしてみたが確かに下山は一日二日で終わる距離ではなさそうだ。

 

「少し歩けばバスがあって東京までは行けるみたいだけど……」

「俺……今日本円の金を持ってませんよ」

 

そう言って長枝さんを見ると長枝さんもお手上げといった風に手を掲げていた。

 

「俺もお金そんなに持ってないぜ、東京までのバス代を二人分出したらもう空っぽになる、駅にまで歩いていって電車に乗るのが一番確実だろうな」

 

東京まで行けるのだったら俺よりも年上なんだから人伝いに行けば資金繰りする方法はあるはずだ。

 

「あの、一応聞きますけど東京に知り合い居ますか?」

 

そう言うと少し真剣な顔をしてこちらに声をかけてきた。

 

「お前さ、居る事は居るけれど俺はバス停から東京の街歩いた事ないんだよ」

 

つまり迷って結局は面倒な事になるという訳だ、それならやはり下山して道案内を受けたほうが確実なのだろう。

 

「……それに東京の知り合いで一番先に思いついたんだけど、師匠に金借りるにしても対局で居なかった場合の事考えてなかった」

「えっ……」

 

ああ、そういえばプロ棋士は対局場で移動する場合があるんだった。

 

「あの『律儀』な師匠の事だからきっと貸してくれるけど俺が申し訳ない気持ちで一杯になるわ」

「よくよく考えたらそれってかなり恥ずかしいですね……」

 

師弟関係は良好なのだろう。

でも確かにめちゃくちゃ親身に関わってきたら、確かに申し訳なくなるだろうな。

 

「だろ、しかも他の知り合いは東京でも神奈川寄りに居るから今は頼れないんだよ」

 

そう言って下山にむけて屈伸運動を始める長枝さん、俺は少し気になった事が有ったので聞いてみた。

 

「他の同乗していた人達についてはどうするんですか?」

「そこまで面倒見るわけ無いだろう、元々死んでもおかしくなかった状況を打開したんだ」

 

冷たい意見だなと俺は思った、しかし次の一言で確かに面倒は見れそうに無いと思った。

 

「それに方向音痴が付き添った所で面倒だろうが」

 

それじゃあ仕方ない。

方向音痴は確かに面倒だし、帰る方向と逆に動き出すほどの筋金入りならばもってのほかだ。

 

「一応雪が降っている所を見たらここらへんは北陸地方だろうな」

「じゃあ、一応目的地を決めて歩きますか?」

「そうだな、駅を見つけないと帰れないしな、飛行機は暫くの間はこりごりだ」

 

全くもってその通りだ、俺も次に乗るのは一年後ぐらいでいい。

 

「あと…地味に重要な事だ、お前が先頭歩け」

 

確かに先ほど自分で方向音痴だと言っていたのだから俺が前を歩かないと帰られるのが二倍ぐらいに延びそうだ。

 

そう言って俺と長枝さんは駅に行く手がかりもないまま歩き始めたのだった。

ちなみにお土産は爆発によって全て壊れたりしてなくなってしまった。

爆発の後に残っていたのは携帯電話と財布、そして衣服を詰めていたリュックだけだった。




分かる人にはわかりますが原作キャラはあの人です。
前作からのキャラは名前も分かっていると思うので。
あと、更正させる女性はオリキャラです。

訂正

背中合わせでやる→前後に分かれる。
下に打たない理由を追加。
見捨てたのでないという細かい理由付け。
一日二日で民家が見付かる場所に墜落→人里から離れた所での墜落。


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高校一年生編
『黛由紀江との出会い 川神帰還』


今回は題名にもあるように原作キャラが出てきます。
今回で一応中学生編が終わります。


飛行機の不時着により放浪する事になった俺達。

とりあえず目的地としては第一に人が居る所を最優先する、そこで空港と駅の場所を聞き無事に帰る事が出来れば目的は達成されるのである。

 

「山で取ったアキグミをまだとっておいたんだ、食えよ」

「これは苦酸っぱいけど力付きますね」

「だろ、アケビもあるぞ、ちゃんと食えよ」

「ありがたいです、有難うございます」

 

……あれから二人とも木の実を食べながら人の気配のする方向へ向かう。

と言っても山か何か自然に囲まれた場所だから、実際は人の気配が『あるかも』知れない場所に向かっているのが本当のところだ。

あてずっぽうに近いためかなり時間を食う方法である、その為、今の時間は夕暮れ時である。

もしかしたら、ここ五日に続いて今日もまた野宿なんではないだろうか?

 

ふもとから歩き続けて四日目になる時ようやく人里に着いた。

と言っても俺たちの身体能力で考えればコレでも遅いほうだったのである、原因といえるのは山の構造を把握していなかった為慎重になった事だった。

 

それにしても、人里まで降りて結構な時間歩いているんだからいい加減民家の一つぐらい見えても良いんだが。

丁度そう思った時に長枝さんがはしゃいだような声を出した。

 

「あっちに何か見えるぞ!!!」

「あっちって……ああ、日本家屋みたいなのが見えますね」

「人が居るかもしれないし、行ってみようぜ」

 

草を掻き分けてその家屋へと入っていく、当然のように前を行くのは俺だ。

 

二人が掻き分けて入っていきガサガサと音がした時、ある女性がその気配を感じ取っていた。

 

「何者ですか、返事して貰えれば嬉しいのですが……」

 

警告の言葉を向こうに居る香耶と長枝に向かって発する。

しかし、その言葉はそのまま草むらの中を歩いていく二人には、何か声が聞こえるだけでどういった内容なのかは分からず伝わることは無かった。

 

「スマンな、体勢がつらいだろう」

 

そう長枝さんに言われて抜けていくと民家が見えた、そして向こうには人影が有った。

 

「低い、人かと思えば獣でしたか…はっ!!」

「うわぁあああああ!!!」

 

俺は声が聞こえたと同時に煌いた物がこちらに来たのを知って必死に転がって避ける。

なんだかさっきよりも頭の後ろが涼しくなったが何が有ったのだろうか?

 

「おいおい、お前せっかくのポニーテールがなくなっているぞ?」

「えっ!?」

 

それを聞いて前を見ると剣によって切り落とされた髪の毛と驚いた女性の顔があった。

 

「あわわ……人だったんですか」

 

女性は刀を鞘になおしている、どうやら居合いで俺の髪を切り落とす一撃を放ったらしい。

 

「どうやらさっき聞こえた声は内容こそ分からなかったが警告だったようだな、それを聞かずにきたし体勢の事もあって間違われたというわけだ」

 

「そっ、その…獣だと思いましたし私も返事が有ればこんな事は……」

 

まあ、言いたい事はわかる。

普通に酷い人間だったらこちらが出てきた瞬間を狙って、待ち伏せしているはずだし最高の奥義を叩き込んでいただろう。

でも、この人は警告もしていたしなにしろそこまで恐ろしい事態にならない程度の一撃を放っていた。

こちらにも非があることを考えればかなり情状酌量をしているのが伺える。

仮に立った人間が迷い込んでいても足が怪我をするぐらいだ。

こちらが勢いよく飛び出したせいで深く切り込まれて、哀れな事にポニーテールを失ったというわけである。

 

「あの、すみませんが名前の方は?」

 

「俺の名前は澄漉香耶です、そしてこの人が……」

「一度ここに来させてもらった事がある、名前は長枝という、よろしく」

 

俺と長枝さんが手を差し出して握手を求める、その手をじっくりと見て握ってくる、何をそんなにおどおどしているのか知らないが強く握り返す。

 

「私の名前はその……あの、黛由紀江って言います!!」

「由紀江さんか、いい名前だ」

「確かに、悪い名前ではない」

 

俺達は名前を聞いて褒める。

名前を褒めるなんてめったに無いことなんだけどな、それを聞いて顔を赤く染めて俯く。

マルギッテさんみたいにやられなかっただけよかった。

 

「……で一晩泊めて頂くか道案内を願いたい」

「どうかお願いします、道案内だけでもどうか」

 

由紀江さんが家の中へ入っていき呼んで来てくれた。

家の主人である黛大成に頭を下げて頼み込む、万が一『勝てたら』とか言われたら真剣に立ち合わせて貰うけどな。

『剣聖』の家だったとは驚きが二重だ。

 

「駅までの道のりは地図に書いて渡そう、しかし今からそこへ向かうと着くのは深夜だ、もしかしたら電車も無くなっているだろう、一日泊まっていきなさい」

 

そう言われて家に通してもらう、日本家屋にしても大きな所だ。

夕暮れ時だったからかすぐにご飯にするらしく、俺達は荷物を置いた後にあっという間に居間に案内された。

 

居間に着いた時に見たのはテーブルの上には所狭しと並べられた北陸地方の海の幸だった。

 

「遠慮なく食べてくれ、男なんだから一杯食べられるだろう?」

 

そう言って大盛りのご飯を目の前に差し出される、遠慮なく海鮮物と一緒に口へと入れる、そして一言。

 

「凄い新鮮で美味しいですね」

「本当だな、幾らでも入るよ、米との相性もいい」

 

それからと俺達はご飯を食べながら口々に美味しい、美味しいと繰り返す。

そんな俺達を見て大成さんや由紀江さんが微笑む。

 

「一杯食べてくださいね」

 

お代わりを出した俺の茶碗に由紀江さんがそう言ってご飯をよそってくれる、北陸地方の海鮮物はうまいな、お世辞とかじゃなくて本当に長枝さんが言ったとおり幾らでも入るよ。

 

「そういえばお姉ちゃんによくやられませんでしたね」

 

由紀江さんの妹である沙也佳ちゃんが声をかけてくる、まあ、その理由なんて単純なものだけどな。

 

「そりゃあ怖かったし必死だったからね」

「俺もビックリしましたよ、いきなりでしたもんね」

 

斬られて頭がトマトか下半身がさよならとかだったら、誰でも必死に避けるものかと思うんだけどな。

 

「ほう、私の娘の斬撃は名高き『鬼人』と『紅獅子』と言えど流石に驚くものかね?」

 

その言葉を言った瞬間、部屋の空気が凍る。

まさか俺の二つ名を知っているとは、それに長枝さんも微笑んで『剣聖』黛大成を睨む。

 

「流石にこのような場所で言われたくはなかったのか、すまない事をしたね」

「いえいえ、随分と情報通だと思いましてね、『剣聖』」

 

大成さんの謝罪に対して俺は素直に応じる。

まさか日本にまで広がっていたとは予想外だったからな、それに長枝さんのも大層なものだな。

 

「その呼び名を知ってるのはあいつぐらいのもんだと思ってたんだがな…それにしてもあんた、昔に比べて随分と風貌を変えたな」

「そうかな、私としてはヒゲを伸ばして印象を変えようと頑張ったつもりなのだが…」

 

なんだか長枝さんと大成さんが話していた、随分と見た目に対して苦言を呈しているようだが……。

 

「まず服は糊がきいたパリッとした奴に変えておくべきだ、ヒゲと髪の毛のせいで昔戦った時に比べて威厳が失せている、悪いがこんな奴に勝てた所で嬉しくもなんともない」

「そうか……それならばもう少しきちんとした格好をしておこう、流石にかつて敗北した相手にここまで言われては面目も有ったものではない」

 

どうやら話が終わったようだが、少しばかり痛烈な言葉を言われたといったような顔をしていた。

 

「それはそうと話は戻りますが、あの速さを戦闘態勢でない時に捌こうと思えば、必死になると思いますよ」

「確かにそちらが言うようにいきなりは驚くな」

 

少し微笑みながらこちらの言葉を聞く大成さん、真正面で気を張っていたならまだどうにか転がらなくても捌けただろうけど今回はそうじゃなかったからな。

 

「いやー、美味しかった、美味しかった」

「えぇ、本当に美味しいご飯でしたね」

 

それから話しながらご飯をご馳走になった後は俺達は食器を洗うのを手伝い、そして風呂を借りる、風呂に入るのなんて何日ぶりだろうか、肌が擦り剥けるほどに洗った。

 

「美味しいご飯に良い風呂でしたね」

「あぁ、それに服自体も良い服だな、凄いほっとする」

 

風呂から上がったら布団をひいてもらっていた、本当に気遣いが良い人達だな。

長枝さんが布団に飛び込み大きな声ではしゃぐ、あんたは一体何歳なんだよ。

 

「おい、布団ふかふかだぞ、ふかふか!!!」

「はしゃがないで下さいよ……何でそんな興奮してるんですか」

「いや、だって布団自身久々だし、寝れても固いベッドか雑魚寝ばっかだったからな、今回の任務では費用が出されなかったのが痛かった」

 

はしゃいだと思ったら冷静に理由を言って来る、この人よくそんなところで寝て腰いわさなかったな。

 

「一応帰るのは明日ですけど道大丈夫ですか?」

「地図に書いてもらったら分かるんだから問題ない」

「そうですか、とりあえずこれで明日には帰れますね」

 

そう言って俺たちは眠りに着いた、ようやく川神に帰られるのか、受験は武芸と後期受験で何とかできるだろう。

 

「ご飯、有難うございました!!」

「一宿二飯と道を教えてくれた事、感謝している!!!」

 

朝起きて手伝いをした後、俺達は由紀江さんと家の前に居た。

頭を下げて感謝の言葉を述べる、本当に由紀江さんに会えなかったらいつ川神に着けたのだろうか、そう思うとぞっとする。

 

「もう、ストラップに話しかけるんじゃないぞ」

「そうですよ、大切なことは自分の口から言うべきです」

 

朝方起きたときに馬のストラップに話しかけているのを見て、少しの間だが俺達は話をしていた、どうやら長年の寂しさのあまり作り出されたものらしい、別に友人になってほしいなら男友達でも良いなら言ってくれればよかったのにな。

 

「はい、もう松風とは話しませんよ、松風は私の中に戻りましたから!!」

「本当かな?」

「確かになんだか怪しいですよね?」

「もう、二人ともしませんってば!!」

 

疑問系で心配そうに言うとムキになって返してきた、本人が力強い言葉でしないって言ってるから信用するけどな、それでも一応心配だからちょくちょく電話でもしといておこうか。

 

「またいつか会いましょう!!」

「そうだ、またいつか会おう、俺たちは……」

 

「はい、私たちは……」

 

三人とも息を吸い込み一緒のタイミングでいう、ちなみに全員が携帯の番号は交換済みだ。

 

『友達だから!!!』

 

年齢の差はあれど友人であろうとするその心はたいしたものである、俺は素直にその点に関しては関心をした。

 

そう言って俺達は帰るために歩き始める。

駅に行って俺は川神へ行く為の新幹線の切符を買う、長枝さんも同じくそこまでの切符を買う。

正直飛行機の方が速いがあんな事が有れば乗る気はなくすよな。

 

「またな!!」

「はい、お互いお元気で!!」

 

お互い改札で別々の別れる、流石に家のある地方では迷わないだろきっと大丈夫だろ、俺はそう思って家の方向へと向かっていったのであった。

 

.

.

.

 

場面は変わり…長枝。

 

「元は九鬼から頼まれた女の保護のはずだったんだが……見つけたな」

 

そういう長枝の顔には獰猛な笑みが浮かぶ、獲物としてではなく何か目的を見つけたというような笑顔。

 

「俺の八極拳を教えられる逸材が……正直なところ九鬼の臨時武術顧問では飽いていたところだ、心が戦いに飢えて渇きが極限にまで膨れ上がっているところに恵みの雫といったものだ」

 

心の中では叫びたいほどの歓喜。

そして、自分の全てを注ぐには物足りぬ戦闘力しか持たない九鬼財閥への落胆があった。

まあ、それでも自衛手段や要人の防衛には十分たるスペックなのだが。

 

「あいつは個人的に探して俺の八極拳を教えてやる、俺の心に新しく熱い血が流れそうだな、本当に楽しみだ」

 

そう言って笑みを浮かべながら帰っていくのだった。




次回から原作時間軸一年前となります。
何かご指摘ございましたらお願いします。

訂正しました。
感想で指摘がありましたように事前にまゆっちなら警告するというので警告する一節を追加。
そして奥義をいきなり出すわけがないといわれたので普通の一撃に変更いたしました。


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『入学 人脈構成計画』

今回から高校生編が始まります。
久しぶりにモロとタッちゃんが出ます。


「さて……今日が合格発表か」

 

あれから川神に帰ってきてすぐに川神学園へ受験票を提出して受験勉強をした。

そして先日、ようやく受験が終わった。

筆記の方の手応えは十分で武芸による受験の方も全力で教師陣に見せた。

これで落ちていたら落ちていたで自分の実力不足だと納得するさ。

 

さて、それじゃあ学校へ行くか、発表の時間には十分間に合うだろうしな。

 

ちなみに今俺は一人暮らしをしている。

きっかけは帰ってきてすぐに『自分一人で生きていくのにもチャレンジしてみろ』と父さんから言われたからである。

なお、生活費は自分で稼ぐように告げられているからそうなると安い家賃のアパートとなる。

そこで必死に探した結果、学校からも程よく近い場所があった。

 

家賃もそこそこだし後は働く所だが……誰かに頼るか?

流石にトーマに言っても病院でアルバイトは無理だろうし、英雄は忙しいだろうから今日は居ないだろう。

……しかも久々に会っていきなり『バイトはないか?』なんて聞けない、どうしたものだろうか?

 

「もしかして……キョーヤかい?」

 

そんな事を考えていたらいきなり後ろから声をかけられたので振り向く、するとそこには懐かしい顔が有った、というよりお前まだそのへアースタイル続けてたんだな。

俺なんてポニーテールにしてたのに、まぁ由紀江さんにきれいばっさりと切られたけど。

 

「キョーヤ、お帰り、でいつ此処に帰ってきたんだい?」

「モロ……ただいま、時間にしては二ヵ月前だな、しかしなんでお前はまた此処に?」

 

二ヵ月前に戻ってきたといったら少し不機嫌そうな顔をして此処にいる理由を言ってきた。

 

「二ヵ月前って……会いに来てくれたらよかったのに、僕はガクトの勉強で自分の奴は後期に回したんだよ、武芸も見られずに済むしね」

 

なるほど、面倒見てたらいつの間にか自分の方は忘れていましたってオチか。

お前らしい理由だな、性格の方も相変わらずなわけだ。

 

「おいおい、師岡だけかと思ったら帰ってきてたのかよ」

 

モロと話していたら後ろからまた声をかけられる、その後ろに居たのはタッちゃんだった。

 

「タッちゃんまでなんでだ……タッちゃんもなんか有ったのか?」

「前期試験にバイトが入ったからな、それだけだ」

 

なるほど、納得だ。

あれ、もしかしたらこれってタッちゃんにバイト紹介してもらえるんじゃないだろうか?

とりあえずそれは置いておき、理由を聞いたあと俺達は三人で合格発表を見る。

と言っても後期は少数の受験だった為に少なく書かれていただけだったのですぐに見つける事が出来た。

 

「見事に三人とも合格しているな」

「当たり前だろ、武芸までお前らやったのに不合格になるわけがねえぞ」

「確かによっぽどの事がなければね……」

 

三人で喜び合うがタッちゃんの言うように武芸とかまでやって保険かけたのに落ちるのはよっぽどの事だろう。

しかし発表の朝やこういう発表の黒板を見る時は不安になるのが常だ。

 

「そういえばタッちゃん、相談があるんだけど」

「何だ?」

「俺、今年から一人暮らしを始める事になってさ」

「つまり……何が言いたいんだ?」

「それで……いきなり久しぶりに会って悪いがバイト紹介してくれないかな、頼めるのはタッちゃんぐらいなんだよ」

 

俺は手を合わせて頼む。

正直英雄やトーマより気心知れているタッちゃんに相談したほうが良い。

あんまりここ数年の間疎遠だったから、俺の事なんてもう愛想を尽かしたかと思っていたがそんな事はなかった。

 

「そういえば人手が足りない仕事が有ったな、勘違いすんじゃねえぞ、俺自身が負担を減らしたいと思っただけだ」

 

頭を掻きながらしっかりと仕事を紹介してくれる。

勘違いも何も本当は面倒見が良いって言うのは分かっているんだけどな。

 

「とりあえず、オヤジには内緒だが着いて来い、仕事手伝え」

「分かった、有難う、やはり持つものは友達だな」

「全く調子が良い事をいうぜ、それじゃあまたな、師岡」

「じゃあな、モロ」

「うん、源君とキョーヤ、またね!!」

 

そう言ってモロと俺達は別れた、さてとせっかく紹介してくれたんだから張り切っていきますか!!

 

「何かしらどこかのヤクザが銃や刀をこの親不孝通りの周辺で取引してんだってよ、それの解決をしてくれってさ、まあ、依頼者は同業だけどな」

 

地図を見せてくれて依頼の詳細を伝えてくれる、なるほどなかなかにえげつない事をやっているな。

 

「警察が丸め込まれてんのかね……とりあえず俺の予想としてはココが怪しいな、そういった奴らはこういう所に安心を求める可能性が高い」

「なるほどな……読みとしてはなかなか良いとこを突きやがる」

 

黒い服を着ている強面のおっさん達が暗がりの中で二人居たが隠れている俺たちに気づく事無くその目的地である倉庫へと入っていく。

 

「予想はドンピシャだな、荒事の準備は出来てるか?」

「当然出来ているぜ、突入はそっちに任せる」

 

そう言ってすぐにタッちゃんが入っていく、時間を置けば相手が隠すとか思ったからだろうな、いい判断だ。

 

「なんじゃ、ガキが!!!」

「寝てろ、銃口がうまく向いてないのに引き金引こうとしてんじゃねえ!!」

 

踏み入ったら凄い剣幕でヤーさんは銃の引き金を引くが弾は外れて見当違いのところへといく。

怒った状態で撃った所で動いた標的に当てるなど……冷静な状態でも無理な事ができるわけもない、

 

「こんの……クソガキがぁ!!!!」

「光りモンなんざ出してんじゃねえ!!!!」

 

そう言って俺は踏み込みの際に相手の足を踏み潰して腹に一撃を加えて倒す。

とりあえず取引が極秘だったのか二人しか居なかった為これで任務は完了は終了した。

 

「さて……証拠を貰ってと。 これで任務完了だ、とりあえず終わった以上はオヤジに報告だな、着いて来いよ」

「ああ、分かったよ」

 

タッちゃんが証拠の品や書類をそこから取った後、俺はタッちゃんに連れられて堀之外街のビルが立ち並ぶ場所へ連れられた、どうやらここがタッちゃんのバイト先のようだ。

 

「オヤジ、仕事終わったぞ」

「そうか、忠勝、ありがとよ。 でそいつは誰だ?」

 

この人タッちゃんを引き取った人じゃあないか。

小さな時に一度見たしユキと親不孝通りを歩いていた時にも見たな。

確か受験会場でも見た事有るけど教師は副業だったのか。

驚きだな、タッちゃんが俺を紹介して俺はタッちゃんにオヤジと呼ばれた人を見る。

 

「オヤジ、コイツと協力してやったんだがコイツを見てどう思う?」

「ふぅん、相手の場所の看破する頭に勘も期待以上っぽいし、なによりなかなか良い目してんじゃないの」

「オヤジ……結果としてはどうだ?、採用か不採用かで頼むぜ」

 

タッちゃんが結果を聞く、正直なんだか値踏みされているというかじっくり見られていてあまりいい気はしなかった、まあ、さっきから見てる奴が何言っても意味ないけど。

 

「まぁ…正直な事を言うとおじさんも人手有ったほうが助かるんだよね、だから常時求人中なわけだ、採用だよ、明日から頑張ってくれ」

「有難うございます!、タッちゃんも有難うな」

「おっと、だから勘違いすんじゃねぇよ、さっきも言ったが俺自身の負担が減るから嬉しいだけだ」

 

これで俺は今回の件を通じて宇佐美代行センターのアルバイトに採用された、仕事の教育はタッちゃんがやる事になったが、汚れ仕事だろうと何だろうと仕事を選ばないという俺の姿勢を見て気を良くしたのか、親身になって教えてくれた。

 

.

.

.

 

それから二ヵ月後、俺は何件もの仕事をこなし今までに稼いだ金で無線RANの機能をつけたノートパソコンとデスクトップパソコンを購入した。

『人脈』については学校の中で手伝いや面倒ごとを引き受けたりして、そこから蜘蛛の巣のように広げていった、そのお陰で今では携帯の電話帳の3分2のが埋まっている。

 

で……何でパソコンを二台も買ったかというとさらに人脈拡大の手段として『株』に手を出す為だ。

株については本で読みそれらについての知識を蓄えておいた、……最終的な目標としてはプラス収入かつその一つの会社を抱きこむ事だ。

それから少しして俺はインターネットに接続をした後、サイトへ入って買う場所を選んでいった。

それから場所を決めたがその場所というのは通信系統である。

一応儲けがほしいなら九鬼財閥の関連を買ったら確実だろう。

しかし、それはご法度でだと思う。

なんだか友人を食い物にするのは気が乗らない、バイトの紹介とかそういうは別だがな。

 

.

.

.

 

「それにしても軍資金が溶けないねぇ……」

 

ある意味頭を抱える事態が発生していた、アレから始めて数時間後一向に株価が下がる傾向を見せない。

安くなる前に売って一気に儲けを手にしておくか?

……迷う所だがとりあえず俺の勘がいやな匂いを発しているしここは自分を信じて売りに走ろう、それっ!!!

 

.

.

 

 

「……結論からして良い判断だったな」

 

俺が『売り』を始めて一時間も経たないうちに株価は少しずつ落ち始めて最終的には原価近くまで下がっていた。

つまりここからわかった事は『株』で儲けたいのならば『迅速な対応』と『危険に対する嗅覚』が必要なんだな、良く分かった。

 

「こちとら『戦』では百戦錬磨だ、例えそれが経済の世界だとしても勝ち抜いてやる!」

 

俺は気合を入れなおして再び『株』の戦場へと足を踏み入れた。

『人脈の構成』に確実に大きな一歩を踏み出していた。




今回から高校一年生編です。
原作キャラで出せるのが増えてきますので少しわくわくしております。
何かご指摘がありましたらお願いします。


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『番外編 春の戦』

少し原作時間軸と繋がる前の話として番外編を投稿してみました。
エアマスターのキャラVSオリキャラやエアマスターのキャラVSマジ恋キャラなどの対戦を合間合間に四話ほど投稿しようと思います。
番外編の為普段と文体が違います。


『春眠暁を覚えず』

 

この言葉の意味合い、それは『春の夜は眠り心地が良い為に朝が来たことも知らずに過ごしてしまう事』である。

しかしその様な言葉が通用しない男がいた。

 

その男の名は楊(やなぎ)鉄健(てっけん)

二年前、深道ランキングでボクサーとして参戦した男であった。

 

この男の風貌について述べるのならばまず頭髪は針鼠のように尖っている。

背丈は百七十を超えている。

体重は背丈に適した重みよりも絞られていた。

 

服の袖から覗く腕は身長を差し引いても長い。

丹念に鍛えられた腕だ。

雄雄しいと思わせるほどに発達した筋肉がその腕に詰まっているのがわかる。

そのような腕の先にある拳は硬く鋭い印象を受ける。

さながら銃弾のようであった。

 

足も腕同様に鍛えられている。

絞られていながらも筋肉は付いており大地をしっかりと掴んでいる。

 

「ここが川神か……」

 

先ほど述べた深道ランキングとはその名の通り『深道』という男によって作られたものである。

ランキングを作製した『深道』と言う男を簡単に表すならばこうである。

一つに風貌がおかしい。

一つに素性が怪しい。

一つに普通の神経ではない。

そのような男によって作り出されたものである。

 

そのランキングによる戦いで俺は大いに己の力を使った。

鍛えてきた拳を撃ち出し体を射抜く。

攻撃を避けてその避けざまに一撃を加える。

己が持ちえる最大の技と力で相手を屈服させる。

それはとても言葉では表す事ができない達成感があった。

 

だが俺自身の中には誰も知る事がない『獣』が居た。

 

規律などは要らない。

倫理など問わない。

 

蹴ってしまえ。

目を潰せ。

肘を突きたてろ。

無防備な脳天を殴れ。

 

その『獣』は頭の中で叫び続けてこちらが今まで押さえつけていた心を揺らす。

俺は日常を壊さない為に必死になって閉じ込めていた。

しかしその『獣』は今にも鎖を引きちぎろうとして暴れていた。

 

そしてその様な俺の努力も虚しく終わってしまう事になる。

その戦いの中に居たある男の余りにも強烈な力の前に『獣』が遂に鎖を引きちぎったのだった。

 

壊したい。

呻く顔が見たい。

思うがままに暴れてしまいたい。

 

今まで閉じ込めていたどす黒いものが溢れ出す。

止まらなかった。

いや、正しく言うのであれば止まれなかった。

 

その男との戦いは惜しくも敗れてしまった。

こちらの暴れる『獣』を知略による絞め技で屈服させたのだ。

 

それから二年もの時がすぎた。

 

俺は華やかな舞台へ立ち階級における頂点を極めた。

色々な対戦相手とも戦い経験を手にして名誉を勝ち取った。

 

「……でも、そんなものどうでも良かったんだ」

 

どれ程世間が騒ごうとも俺の心は決して晴れる事はなかった。

アレから俺は心の奥底にある檻の中へ自分の『獣』を閉じ込めた。

鎖を厳重に巻きつけて二度と出てこないようにしておいた。

 

しかしどれ程その名誉を守る為に押さえつけたとしても意味がなかった。

俺にとってはあの日の刺激的な思うがままの暴力が脳裏によぎる。

そしてその衝動に身を委ねたいという誘惑が有った。

 

そのような気持ちも有り押さえつければ逆にその飢えや渇きは急激に増していく。

さらに最近になって名誉を手に入れた後の指導者とのすれ違いがあった。

それによる離別が俺をこの川神へ連れてくる大きなきっかけになった。

 

大金など俺からすれば別に良かった。

しかしそれは許されなかった。

恩を感じていた男は名誉と営利の結びつきを強固にしようとしていたのだ。

それを見て話を聞いた時に過去のような関係へ戻れないと悟った。

俺はジムをやめその騒動に一段落付いてから『ある男』へ『深道ランキング』での借りを返すためにこの川神へ来たのだ。

 

「事前に調べておいて良かった、コレで容易に探せる」

 

そういうと自分の頬が緩む。

笑みの形へ自然と口元が吊り上っていくのが分かる。

白い歯がむき出しになるほどに獰猛な笑み。

これにあえて音が付くのならば何と付くのが正しいのだろうか?

 

笑みを浮かべたら『獣』の鎖がほんの少しだけ緩んだ気がした。

 

そして目的の男が行くであろう場所へと向かう。

その場所は商店街。

名前を金柳(きんりゅう)商店街と良いこの川神に昔からある古き良き商店街だ。

 

「ここでの飲食店が有力候補だな」

 

食事に対する情報を集めた所によるとどうやら無類の肉好きである事を知った。

つまり肉を使った料理の飲食店に入っている可能性が存在すると言う事だ。

 

「ここに入るか」

 

牛丼屋が目の前に有った。

残念な事に店の中は見えていない。

腹ごしらえと称して少し店の中を観察しよう。

 

「いらっしゃいませー」

 

そんな簡単に見付かるはずが無いだろうと思っていた己を呪った。

入った時には店員の声など全く耳になど入らなかった。

何故?

それは店の中に目的の男が居たからだ。

実に旨そうな面(つら)をして口一杯に丼(どんぶり)(めし)を頬張っていたからだ。

 

店に入った俺は悟られる事のないようにすぐさま背中向きでメニューを見る。

 

今すぐにでも殴りかかりたい逸る気持ちを抑える為に水を飲む。

口の中に冷たく心地よい感覚が伝わる。

頭の中に渦巻いていた狂ってしまいそうなほどの熱が少し冷め冷静になる。

 

がたりと音が聞こえた。

勘定だろうか?

もし仮にそうだとすればあちらが出て行ってから数秒後に追いかければ良い。

しかし店員が近寄らない所を見るとどうやら違うようだ。

 

あの男が厠の方向へ行く。

今だ。

これを逃せばもうないかもしれない。

食事を終えて油断をしているその頭に思い切りの一撃をぶち込める機会は。

 

男が厠に入る扉の寸前までを追う。

男が入り扉が閉まる。

一拍置いてこちらが扉を開ける。

 

僅かな音を立てる事も無く静かに。

けしてこちらを振り向く事がないように。

ただひたすら音を潜めて俺は扉を開けた。

 

男は無防備にもこちらに背を向けて小便をしている。

これは又と無い機会だと再度認識する。

今ならばどのような大振りな攻撃も当たるだろう。

 

俺は足を上げて頭に確実に当たるように構える。

準備は終わった。

後は声をかけてこちらに振り向かせるだけだ。

 

「おい」

 

こちらの声を聞き男がこちらを振り向く。

 

足をあちらが振り向くのと同時に振り下ろす。

そのまま頭へ踵が当たる。

良い感触だ。

頭蓋の感触。

骨の硬さに打ちつけた際の硬さの中にある充実感。

それを隅々まで感じて足を下ろす。

 

「がっ……」

 

頭蓋を揺らされたのがそれほど凄かったのか、男が緩やかに崩れ落ちていく。

()い蹲(つくば)っているのを見て後頭部を踏んでやる。

それを成し遂げた瞬間に俺の中で二年間押し留めていたものが溢れていく。

たまらないほどの快感であった。

 

ただその快感はすぐに不快感へと変わる。

這い蹲っていた男がこちらの足を掴もうと手を伸ばしていたのだ。

手癖の悪い男だと思えた。

 

「流石ですね、小西さん」

 

目的であった男。

その名前は小西(こにし)良徳(よしのり)

小西さんはこちらを見て驚きの顔を浮かべる。

そしてすぐに驚きの顔から怒りを露わにした顔へと変わる。

 

「久しぶりにしちゃあ随分な挨拶だな、鉄健……」

 

不快感は怒りの顔を見れば霧散していく。

そしてその顔を見て一層気合を入れなおす。

 

そうだ。

いくら最高の一撃といえどそう簡単に倒れるはずがない。

一撃でやられるような人じゃないと分かり切っていたはずなのに。

 

何を勝ったつもりでいたのだろうか。

まだ己の中に居る『獣』を解き放っただけだというのに。

まだまだコレからがとても大事な場面だというのに。

 

そう考えると体が熱を帯びていく。

それに伴って出てきていた『獣』の鎖が少しづつほどけていく。

閉じ込めていた檻の柵を曲げて久々の開放に胸を震わせている。

そして俺の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。

その瞬間……先ほどの疑問が解消された。

もしこのような笑みに擬音をつけるのならば『にぃ』がきっと正しいはずだろう。

 

二年前の戦いの復讐が始まった。

 

「ふっ!!」

 

小西さんが体を屈めて息を吐く。

痛烈に床へ叩きつけられたにも拘(かかわ)らずよく元気でいられるものだ。

 

「はっ!!」

 

速い。

タックルだ。

 

「やっ!!」

 

避ける。

 

「しっ!!」

 

手が伸びる。

回り込む。

 

「くっ!!」

 

その手をかいくぐり俺は拳を出す。

 

「ちっ!!」

 

小西さんが後ろへ飛びのきお互いの体が離れる。

 

動きが切れていた。

それに加えて小西さん自身が備えている重圧が肉体の質量を伴って押し寄せる。

 

剃刀や刃物のように皮膚を切り裂いてしまいそうな重圧。

それに飲まれないようにこちらも気を張って応戦する。

 

「流石に簡単には取らせねえか」

 

手を振って残念そうに言ってくる小西さん。

 

「当然ですよ」

 

こちらは構えながらも警戒している、一瞬でも集中力を切らしたら掴まれて壊されるだろう。

 

「しっ!!!」

 

拳を出して小西さんの手が伸びてくるのを見る。

掴んでくるその瞬間に低くして懐へと潜ろうとする。

 

「くっ!?」

「貰った!!!」

 

一瞬小西さんが驚いて反応が遅れる。

俺はそれを見て一気に体のばねを使って体勢を伸ばす、狙うのは顔面。

この勢いを活かして大きな一撃を加える。

 

「ぐあっ!!!」

「一度離れて様子見しておかないとな、近距離でもこの人は掴みそうだ」

 

俺は少し離れようと後ろへステップをする、しかしその行動は叶わなかった。

小西さんは顔面に拳を受けながらも服を掴んでいて、息を絶え絶えに言葉を発していたがその顔は微笑んでいた。

 

「掴んだぜ……相も変わらず厄介な奴だ」

 

そう言うと一気に後ろへと投げを繰り出していた。

 

「おらああああああ!!!」

「なっ!?」

 

小西さんの咆哮と共に俺の体が宙を舞う。

打撃は無く投げは決め技の為の過程。

そう言った気持ちを心に抱いていた。

しかしその気持ちを覆すように豪快な巴投げを繰り出していた。

 

「らあああああ!!!」

 

宙に舞う最中に俺は蹴りを繰り出す。

当たるかどうかなど計算していない。

ただこのまま無抵抗で喰らうのは嫌だからだ。

 

「ぐはっ!!」

「ぐっ……」

 

(したた)かに扉へと体を打ち付ける。

扉をとめていた蝶番が音を立てて壊れる。

その為扉は軋むような音を立てて歪んでいく。

 

こちらの体重の事を計算すればこの状況は無理もない事だ。

六十を超えた体重を持つ男の肉体が勢いをつけてぶち当たる。

それだけで扉を壊すには十分であった。

 

歪みが限界にきたのか盛大な音を立てて扉が壊れて、俺は廊下へと投げ出される形となる。

小西さんが投げる寸前にどこかに膝を叩き込んだからタダで喰らったというわけではないだろう。

 

 

「ぐう……」

「かっ……」

 

お互いが呻いて起き上がって体勢を整えようとした時……

 

がちゃりと音が聞こえる。

辺りを見ると目に入ったのは受話器である。

何たる事だろうか。

飲食店の店主が警察に通報したのであろう。

 

この大馬鹿野郎が。

 

心の中でそのように悪態をついた。

せっかくの機会だというのに。

決着を着ける事ができる最高の展開なのに。

 

しかしこうなった以上、もはやここで続けるのは無茶である。

小西さんに関節を取られない為に後ろを見せずに店内を出る。

幸い自動ドアの為スムーズに事は運んだ。

思い返すと何も頼んでいなくて良かった。

もし頼んでいたら会計などで余計面倒な事になっていただろう。

 

俺が急いで店を出ると小西さんも出てきて互いに別れて逃げていく。

 

俺は扉に叩きつけられた腰を摩る。

小西さんは鼻血を拭ってよたよたと歩く。

 

お互いが痛み分けという状態で警察から逃げ切る。

二年ぶりの戦いは決着がつかずに終わりというなんとも締まらない形で幕を閉じるのであった。




小西VS鉄健という前作から三年後の対決です。
結果としましては引き分けにしました。
理由は本遍の時にまたこの二人の対戦を書こうと思ったからです。
夏の方としましてはマジ恋キャラVSエアマスターキャラの予定です。


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『川神運動会』

今回は運動会の話で久々に原作キャラが多めに出てきます。


 

株を始めてから幾らの時間がすぎて今日は六月二十七日の金曜日。

 

今日は天気に恵まれ憎らしいほどに快晴である。

俺はそう感じてタオルと清涼飲料水を持って普段よりも速く家を出た、理由は簡単なもので今日は川神学園の体育祭である。

 

実行委員に立候補をしていたから用意の為に速く出て川神学園へと着く。

『人脈』の構成とかも有るしこういうのは苦手じゃあないからな。

それにしても照りつける暑さだな、汗がとめどなく出てくるからタオルや水分摂取をこまめにしないと競技次第では問題が起こるだろう。

 

準備も完全に終わって午前九時に開会式が始まる、開会式は生徒会長がしているが随分と汗ばんでいるじゃないですか、こりゃあ今日は体調の異変を訴える人が出るんじゃあないのか?

 

午前の競技は全員が白熱して競い合いそして上級生の対抗リレーを持って午前の部は終わった。

ただこの時点でS組の強さに驚き戦意喪失したクラスが出てきていた、俺のE組と一子のC組、キャップのA組は諦めていない。

 

特にA組とC組は一時的ではあるがS組を超えていた時が有ったくらいだ、ちなみにE組は一度も超えれてはいない、ただそこまで離されてはいないからチャンスがあるぐらいだ。

 

「えー、今日は快晴のため、熱中症の心配がある方、もしくは体調に異変を感じる方は受付への相談か救護テントまで行って下さいね」

 

そして昼休み中は基本的に注意を呼びかけたり、飲み物を支給したりしておく。

幸いな事に午前中で体調の異変を訴える人が出ても、流石に我慢してぶっ倒れる人は出なかった。

 

それから午後の部が始まり競技が幾分か終わり、午後の競技は学年対抗リレーを残すだけとなった。

 

俺は昼の間に食えなかった飯を食いながら得点のチェックをしてみる、俺のクラスはぴったりと位置をキープして、このリレーで一位にさえなれたら逆転優勝が出来る位置にまでこぎつけられていた、まあその大半は俺とモロが稼いだ得点だけどな!

 

走者三人にモロと俺がリレーのメンバーである、最初の三人が遅くなければ一位になる可能性は十分にあるんだろうけどな。

 

競技が始まりスタートの音が鳴り響く、そして自分のクラスを見た次の瞬間に俺は頭を抱える事態となったのだった。

 

「ねぇ、キョーヤ……」

「みなまで言うな、分かっている……」

 

そんな事を言ってる間にもみるみる離されていき一周が終わる頃には目も当てられなかった。

いきなり始めから半周近く離されているじゃねえか、どれだけお前ら足が遅いんだよ、それとも相手が速すぎるのか?

 

次の走者は一人目よりは速いものの結局距離は離された、このままいくとヤバイな、三人目が維持するか詰めるのが一番ましだろう。

 

「なんか寄せ集めが集まっただけのクラスに感じるな……」

「この差が広がらなければまだチャンスは有りそうだけどね」

 

三人目が距離を維持してくれた為差は広がっていないとはいえ、前の走者が作った大きな差を詰めるのはかなりの重労働だろうな。

俺はラインに立っているモロに応援の言葉を投げかけることにした、ちなみにもう他のやつらは走っている。

 

「悪いけど頼むわ、ちょっとでも詰めてきてくれ」

「任せてよ、相手は厳しいけど全力でやるからさ」

 

三人目を待って手を伸ばすモロ、バトンが渡った瞬間一気に加速していく、一周に近い差を埋めるために内側を抉り続ける、足への負担は半端なモンじゃないだろうな。

 

「ウェーイ!!」

「速いけど……負けないさ!!!」

 

モロが一番前を走るユキを見ながら必死に追い上げて差を少しづつ埋めていく、ここまで食い下がるなど思わなかったのか、驚きの表情を隠せてはおらず全員が後ろを見ていた。

 

「英雄、パース」

「一子、行って来い!!」

「キャップ、頑張って……」

「キョーヤ、そんなに詰めれなかったよ、ゴメン!!」

 

「王の疾走を目に焼き付けよ!!」

「うん、行って来るわ、タッちゃん!!」

「任せな、風の如く走り抜けてやるぜ」

「いや、十分だよ、後は任せとけ!!」

 

第四走者のトラック分が終わり、俺を除いた三人が先にバトンを受け取って走る、それから少し遅れて俺はバトンを受け取る。

さて順位は最後尾だが諦める気はないぜ、モロが渡してくれた思いを無駄にしたくないしな!!!

丁度半周差ほどだがアンカーの二周ルールのおかげでチャンスはある、さて、全力で走っていきますか!!

 

「カアアアアアア!!!!!」

 

ビキビキと音を立てて今まで溜めてきた足の力を解放する、狙うのは一番だけだ。咆哮を上げて前にいたキャップ達を追いかける、二周目までに横へ並べばいいだけだ。

 

「まだまだ速度の方は上げていくからな!!」

 

重りを外すには余裕がないだろうな。

もし、これが半周ぐらいならまだ良かったんだがとにかくがむしゃらに走って少しずつでも詰めるだけだ。

幸い一周が二百メートルだから速度が乗れば十分にチャンスがあると思っていいだろう。

 

内側に抉りこむようににカーブへと入り込み大胆に最短距離を走る。

ミスを犯してしまえば進路による反則をとられる可能性もある、しかし今その様な事に構っている暇なんてないのだ。

 

丁度二周目に差し掛かるときようやく俺はキャップの背中につくほどぴったりと後ろの位置へと着いた、いや、本当に長い道のりだったわ。

 

「二周目へ突入します、現在一位はA組です!!、そしてなんと半周差がついていたE組の選手が追いついております!!!」

 

三年生の先輩が実況で言ってくれるのは分かるがあっちが百メートル走る間に二百メートル詰めるって本当に苦労するんだな。

 

「このまま勝たせてもらうぜ!!!」

 

キャップがそう言って速度を上げる、だからと言ってそう簡単に逃げ切らせるわけにはいかないだろうが、このまま追い抜いてやる。

 

「さすがキャップね、でも負けてられないわ!!!」

「一子殿が本気であるなら我も本気だ……覚悟せよ、風間!!」

「仕方ねぇ、完全に火がついたからなぁ!!!」

 

そう最後に俺が言った瞬間、英雄と一子が行動をとる、一子はブルマをあげて股関節近くに着けていた重りと肩口に着けていた重りを袖を捲って外す、そして英雄は服を脱いで褌一丁となる。

おいおい、俺なんてそんな事してる暇すらないんだけど……そして俺を含めた3人が『必死』にトップを追い始めた。

 

「うぉ、全員速いな、だが風は誰にも……!?」

「おい、誰にもなんだって?」

「聞こえなかったな、風がどうだというのだ、風間!!」

「追いついたわよ、キャップ!!」

 

全員の加速力によって差がついていた俺以外は一気に横並びへと変わる、外側であろうとお構い無しに抉りこみカーブを越えてなおもポジションは変わらなかった。

しかし少しばかりの差ならばこの直線での伸び次第ではひっくり返せるだろう、あとは必死でそのポジションを奪うだけだ。

 

「シャアァ!!!」

「ていっ!!!」

「フンッ!!!」

「オラァ!!!」

 

全員が直線を駆け抜けてそのまま最後の力を振り絞ってゴールテープを切る、結果はどうなっただろうか、正直差を埋める為に無我夢中で走ったから分からない。

 

「一位!! A組 風間翔一!!、続いて S組 九鬼英雄!!」

 

英雄は腕を組み威風堂々と、キャップは片手を挙げて歓声に応える。

 

「静粛に!! E組 澄漉香耶!!、そして最後に…… C組 川神一子!!」

 

そして呼ばれると飛び上がって喜ぶ一子、俺は息を吸い込み咆哮をあげて歓声に応える。

 

三年生の実況が大きな声で叫ぶ、そりゃそうだろうな、なんせここから出た結果は……

 

「なっ……なんと四クラス同着一位!!、なんと言う驚愕の結果でしょうか!!」

 

さっきまでの歓声は更に大きなものとなって川神学園全体が揺れていた、どうにか1周目の時点で相手との距離を極力縮めたんだな。

俺としては最初に重り外しとくか、もしくはあと五メートル直線が有れば勝てたかもしれないけど距離を詰めるのに必死でそんな余裕がなかった。

…って言うかモロと俺が走る前にあれだけの差が有った時点でどんだけお前ら遅いんだよと言いたい、本当に面倒だったわ。

 

体育祭は結果としては四人同時一着の加点で順位は変わらずS組の優勝で終わった、流石に選抜クラスなだけあるわ、全員の能力が平均して高いもんな。

 

俺は『人脈』を集めたら来年はS組に入ろうと決意した、切磋琢磨していく中で精進していくのも一つの手だろうからな。

とりあえず閉会式で片づけをしていく、先生への印象を良くするのも一つの手だ。

……『人脈』を作るって難しいよ、俺はそう思って作業に没頭したのだった。




次回の投稿が終わったら番外編を投稿しようと思います。
何かご指摘などございましたらお願いします。


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『九鬼からの依頼 不死川との出会い』

今回も原作キャラが出ます。


川神運動会から二週間も経ったある日の事、株の儲けが増えてきたせいで通帳を見るのが面倒になってきた。

なんせ学費を一括で三年分払えるのだから見れば見るほど学生が持つ金額ではないと思える。

 

このままいけば将来的にはプライベート・バンクが必要だろう、調べた所によれば九鬼財閥がスイスに銀行を持っているから英雄に頼めば何とかなるだろうか?。

そんな事を考えて家のポストの中を見るといつも見る光熱費の請求とは違う物を見つけた。

 

「んっ……何だ、これ」

 

俺はその自分のポストの中にあった物を取り出す、すると現れたのはお洒落な装飾の手紙だった、そして宛名を見るとそこには『九鬼紋白』と描いて有った。

一体何時に俺の住所がばれたのだろうか、俺は疑問に思うがこれって英雄に関係ある人だよな?

 

「えっと、『○月△日土曜日の午前九時にこの場所でお待ちします』?」

 

この手紙を見て俺は首をかしげる、一体どんな用事なのだろう、まさか英雄に重大な事でも起こったのだろうか?

 

そして土曜日となる。

指定された場所は喫茶店、と言っても九鬼の系列だから非常に綺麗でおしゃれな所だ。

待ち合わせの一時間前に来るのはマナー違反だろうが、遅れるよりかはましだろう。

それから三十分後、白髪の老紳士が姿を現した、どうやらこちらに向かって歩いてきている所を見ると今回手紙を出した人に関係があるのだろう。

 

「この度九鬼財閥より来させていただきました、九鬼従者部隊参番のクラウディオ・ネエロと申します」

「どうも、手紙の方を読ませていただきました、澄漉香耶と申します」

 

俺は席から立ち上がり頭を下げて挨拶をする、どうやら相当上の人を用意したようだな、強さは俺より上……ただあくまで『総合力』だからもしかしたら付け入る隙があるかもしれないが。

 

「今回、紋様は少しご用事がありまして代理としてこさせていただきました、申し訳ありません」

「いえいえ、別に構いませんよ、忙しいのは承知ですから」

 

俺は頭を下げようとしたクラウディオさんを手で制して、その前に言葉を言う、だって忙しいのに無理にこられてもこちらが気を遣う羽目になりそうだしね。

 

「用というのはもしかして俺に『株』の事でお話ですか?、勉学など知識的なものなら頼れる人がいるでしょうし、武術に困るにせよ貴方が付き人になったりするか、揚羽さんならば問題はない」

 

「はい、察しが良いですね、紋様に調査を言われて一週間かかりましたがようやく知りましたよ、『ノットメルト』と言われた株での負け無しの人を」

 

「負け無しと言うより落ちないのが不思議なんですよ、ギャンブルはその時その時のリズムが有る物です、天井知らずにあがるなんてのは普通に考えれば無茶なんですよ」

 

俺はクラウディオさんの言葉にちゃんとした言葉を投げかける、上がり続けるなんておかしなものだ。

そのくせ自分が売れば下がり始める、はっきりいって不正を疑われても仕方が無いだろう。

 

「仕方ない事です、そういったものに魅入られたのでしょう、それを跳ね除ける事は己に逆らうと言う事です、度を過ぎてしまえばそれはもはや一種の呪いともいえるでしょうね」

「そうですか、話を脱線させてすみませんが今回の本題の方をお聞かせいただけますか?」

 

本題と聞いた瞬間、俺は姿勢を正してクラウディオさんの話しを聞く事にした。

 

「そうでしたね、本題の方は『株』である企業の筆頭株主になり経営権を奪取して頂きたいのです」

「筆頭株主って……まずその筆頭株主の保有量によって変わりますよね?」

 

クラウディオさんからの依頼は正直言えば驚きだ。

相手の保有量を超えればいいのだが相手が七十とかだったらかなり難しくなる、確かに今まで買っているところはこちらが上手くやっていてほとんどが筆頭株主になったが相手次第で難易度が上がるだろう。

 

「えぇ、その通りです。ちなみに相手の保有率は現在六十八パーセントですがどうでしょうか?」

「流石にこれは……骨が折れそうですね、考えさせて貰ってから決断しても良いですか?」

 

今までが六十パーセント前半が最高値だったのに対してこの依頼の難しさは少し面倒だろう。

 

「そうですか、残念です。 これは独自に調べたのですが貴方は英雄様と仲が良い方で先ほどおっしゃっていたように揚羽様もご存知ですので事情も省みずすぐに引き受けてくださると思ったのですが」

「えっ、英雄って、なんでそこに英雄が関係するんですか?」

 

そのため思案させてもらった上で決定しようとしていた時クラウディオさんから英雄の名前が出る。

一体どういうことだろうか、俺は気になって理由を聞いてみる。

 

「実は英雄様がその組織を買収する為に交渉しにいきましたが、相手側は英雄様の話を聞かずにあらゆる罵詈雑言を投げかけて門前払いしたようです」

「ほほう…英雄にそんな言葉を」

 

俺はそれを聞いた時きっと凄い顔になっていただろう。

青筋が立ちそうなほどこめかみに力が入り、奥歯をギリギリと音が立つほど噛み締め、握ったグラスは壊れそうにピキピキと音を出していた。

 

「今一度聞きますが…引き受けていただけますかな?」

「えぇ、喜んで引き受けさせていただきますよ、クラウディオさんも人が悪い、もしその言葉を先に言ってくださったなら二つ返事でしたのに」

「すみません、名前を出さなくても引き受けてもらえるかと」

「ただ一つ、問題が……」

「なんですかな?」

「時間が掛かるかもしれません、それと……相手から度を過ぎた量の株を奪い取ってもいいですか?」

「それは構いません、どうかよろしくお願いしますよ」

 

その返答を聞き、俺は気合を入れてその依頼を引き受ける、さて……どこぞの誰かは知らないが英雄を馬鹿にした分吠え面かかせてやるぜ。

家に帰ってパソコンの前へと向き起動する、俺はクラウディオさんから教えてもらった企業を見つけ、全力で叩き潰す事に決めてキーボードに手を添えたのだった。

 

.

.

.

 

 

「有難うございました、これであの企業は滞りなく買収できるでしょう」

「こちらこそ待たせてすみませんでした、本当に申し訳ない」

「フフッ、英雄様との再交渉の際、泣きついてきた相手を見た時は痛快でした」

「そりゃあ、嵌められて暴落した後に七割近くも取られれば速く買収してもらわないと会社が完全崩壊を起こしますからね」

 

あの相談から一ヶ月後、俺はクラウディオさんと夏休みに入った川神学園の茶道部の部室で話をしていた。

 

何故川神学園かと言えば、どうやら手紙で話があるらしく俺はその返信で場所を指定して、川神学園にしてもらったのだ。

別にクラスでは特別授業はないがS組の教材を宇佐美先生から受け取って家でやっている、今日はそれもあって場所に川神学園を選んだのだ。

ちなみにバイトは続けている、依頼の数を多くこなしたり危険な事優先のため結構な額は稼げている。

 

あの後どうしたかと言えば、まず相手側へは先制パンチとして、人種差別の言葉を投げかけたというスキャンダルを公開して相手へダメージを与えた。

そして世論としては、大企業の人間がそんな事をいったと言うので株価の変動が発生した。

『そんな常識のない人の会社の株なんて』と言う固い人が売り、また同じく大企業の人は飛び火する事を恐れて売りに走る。

そこで俺がそれらをハイエナのように回収する事で株の占有率を上げて相手へプレッシャーを与える。

 

今まで築き上げた『人脈』の中には一流のハッカーがいたのでその人達に儲けの少しを報酬に渡すと言う契約をした。

それだけで赤子の手をひねるようにスキャンダルの公開を大々的にやってくれたのは確実に儲けが出ると信じてくれたからだろう。

 

そこで追い討ちをかけるように相手の創業者一族の戸籍などを洗い、遠い親戚に日本人の血が入っている人を探し出し、その事実を突きつけて更に精神的に追い込む。

ただでさえ人種差別の発言をしたのにその対象が遠い親戚と言えど居れば大きな火種となるはずだ。

 

そしてその予想通り更に売りに走られ、自分たちの首を絞められ、一族の間でも少しずつ売られていき、最終的に相手に残ったのは社長とその息子が持っていたごく僅かなパーセンテージ。

 

そうなったらこちらが経営権を手に入れられる、しかしこれ以上落とされても仕方ないほど俺は経営をうまくは出来ない、今まではどうにか着眼点をしっかりと持った上で現状維持をしていたが大企業だったら無理だろう、そうなると相手が泣きつくのは『買収』の案。

 

そこで俺が九鬼財閥との相談を持ちかけて買収させる、もちろん俺とクラウディオさんの結託はばれない方向で、これによってクラウディオさんからの依頼が終わって今このようにして話し合っている。

 

「とりあえずこれで貴方からの依頼は終わった、英雄の方はどうしてます?」

「えぇ、貴方が筆頭株主ではあることを伏せておりますが順調ですよ、いつ頃売りに出す予定ですか?」

「それは一応+になってからですよ、ただ大半はそちらに売って九鬼財閥を筆頭株主としておきますがね」

「それは有り難い……それと紋様から感謝の言葉を承っております、『兄上を罵倒した仇をとってくれてありがとな』と」

「友人を罵倒されて黙ってられなかっただけですよ」

 

俺は笑顔でそう答える、感謝されるいわれはない、誰だって友人を馬鹿にされて黙ってはいられないだろうからな。

 

「それでは私の方はこれで……紋様を待たせる事になりますので」

 

そう言って出て行くクラウディオさん、俺も別に教材受け取った後に先生から茶道部の鍵借りただけだし帰るか。

チャイムが丁度鳴った、という事はS組の特別授業も終わったようだな、タイミングとしては良い感じだ、そう思って階段を下りて職員室へ鍵を返し、校門から出た俺は学校の向こう側に大きな黒い車を見つけた。

 

「んっ、アレはリムジンか?」

 

黒い車があんな所になぜあるのか疑問に思うが俺は歩いていく、前の方になんだか着物を着た綺麗な女性が居るが……確かあの人は体育祭でS組の第一走者を努めていた人だ。

 

とにかく俺は後ろに歩いていく事にする、S組の人達はプライドが高いから並んだり追い越すのはあまりいいことではない、これは俺が『人脈』の構成で気づいた事だ、うっかりして大きい存在を敵に回すのはよろしくない。

 

「にょわ!?」

 

そんな事を考えて歩いていると、着物の女性が何かおかしな声で驚いているが一体何が有ったのだろうか?

そう思った次の瞬間、俺の視界には車がちらりと見えた、エンジン音から察して相当な速度だろう、そうでなければわざわざ車が来たぐらいで驚くこともない。

 

「危ない!!!」

 

俺はすぐに駆けつけてその女性を抱きかかえるようにして走って、その場所からすばやく離脱する。

それから一瞬の間をはさんで車が通り過ぎた、あのまま見過ごしていたらとんでもない事件が発生していたな。

 

「ふう、大丈夫そうでよかった……」

「はっ、離さんか、痴れ者が!!」

「あ、ああっ、悪い」

「全くこんな抱え方を此方にしおって……恥ずかしいわ」

 

車が通り過ぎていくのを見届けていたがそういえば女性を抱えていたんだったな、しかも俗に言う『お姫様抱っこ』と言う奴だ。

相手が恥ずかしがるのも無理はないが、でもそうでもしないと助けられなかったし仕方ない、俺はそう思って静かにその人を下ろした。

 

「!!、いてて……」

 

下ろす際に屈んだ瞬間、足に痛みが走る。

どうやら抱えて逃げる際に僅かに車輪が足に掠っていたようだ、どうにかこの女性を落とさずに済んだから良いが……暴走車は怖いもんだな、本当に。

 

「おっ、おい、お前大丈夫か?」

「ああ、問題ない」

 

別に骨がイかれたわけでもないしさほど血が出るといったものでもない、もし治療したほうがいいならばトーマの所に行けばいい、だから本当に問題はないのである。

 

「そういえば名前を聞いておらんの」

「そういえばそうだが……」

「それでお前の名前はなんじゃ?、せっかく助けてくれたのじゃから名前ぐらい覚えさせよ」

「いや、そんな大した事はしてないから……」

 

決して名前を名乗るのが億劫だからこんなことを言っているのではなく、『大した事ではない』というのは本心からの言葉である。

目の前で事故が起こればいい気はしないし助けないわけにはいかない、そして助けたからと言っても別に恩を着せるつもりなど微塵もない。

 

「謙遜せずに名乗らんか、此方がお前の名前を覚えておいてやると言っておるのじゃぞ、先刻の行動の礼を返せんであろう?」

 

こちらが断っているが相手がこう押しを決めて聞こうとしているのを見たら苦笑いがもれそうになる、こういう人は頑固って言うかちゃんと名乗らないとてこでも動きそうにないしな。

 

「分かった、名乗るよ、流石に二回目を断れば失礼だしな。 香耶、澄漉香耶」

「ほう、なかなか良き名前じゃの。 此方の名前は不死川心じゃ、澄漉香耶じゃな、確かに覚えたぞ!!」

 

名乗ったら気を良くしたのか、自分の名前をこっちにも言って軽やかに黒い大きな車が止まっている方向へ歩みだす、その所作には優雅さが溢れていた。

……これが俺と不死川心との出会いだった。

 

家に帰り不死川とは一体どのような存在なのかを調べて三大名家の一つと知り驚いた。

なんせ三大名家って言えば、綾小路という平安時代から長く続いている所もあるし、そしてその名家は、政治や法の番人である警察などに対して絶大な権力を誇ると言われている。

俺が今まで出会った中で、権力が凄いのは九鬼しか心当たりなかったから驚きは隠せなかった、とは言えど別に助けたから不死川を利用しようなどは考えていない。

ただこれから先の事で何かしらの行動を、不死川に起こして貰った時は素直に礼を言おう、それは不死川が今日の俺の行動に、恩を感じた上でしてくれているお返しなのだから。




英雄単体ではなく九鬼財閥が凄いと言うので最後に九鬼とさせていただきました。
今回はSでめでたくヒロインとなった不死川心を出しました。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『番外編 夏の戦』

時間軸にしたら依頼の受諾から終了までの間です。


照りつける太陽。

燦燦(さんさん)と降り注ぐ日差しに眉を顰(ひそ)めてしまいそうになるほどの快晴。

 

この『青空闘技場』においてもその天気の影響は間違いなく出ていた。

暑さなど意に介さず無茶をするような不良たちでも、この日ばかりは布を頭に巻いて日差しを避けていた。

 

『青空闘技場』は『川神』から少し離れた『堀乃外街』の路地裏、通称『親不孝通り』の一角にたたずむ建物である。

 

そこでは戦いの結果を予想して金を賭ける賭博を行い荒稼ぎする者がいたり通りの名前に恥じないような事が平然と行われていた。

 

そこへ二人の男が訪れる。

 

一人は背が低く鉄下駄を履き髪の毛を鉢巻で束ねている。

腕は体格以上の筋肉を搭載している、足についても同様だ。

ただ、一番注目するのはその男から立ち上る気合と目の輝きである。

 

そしてもう一人の男。

 

彼は一人の男とは対照的に背が高い。

コートから覗く腕とズボンから覗く足を見るととてつもない射程を誇っているのが見て取れる。

ただ、一番注目するのは先ほどの男と同じ様に目の輝きである。

しかしこの目の輝きはもう一人の男に集中的に注がれており、そして『恋する乙女』のようであった。

 

彼らの名前は『北枝金次郎』と『長戸』。

 

彼らもまた楊鉄健と同じ様に『深道ランキング』で戦った猛者であった。

 

北枝金次郎の戦いのスタイルは『喧嘩』。

 

技も無くただ拳を当てるという一点突破の姿勢。

己の体に襲いくるダメージは気合で耐え切り不屈の精神で挑むというのが持ち味である。

 

長戸の戦いのスタイルは『長拳』

 

長い射程を活かした相手の攻撃が届かない所から手痛い一撃を放っていく。

そして大きな体から生まれる耐久力が彼の長所である。

 

その耐久力は『深道ランキング』参加者の中でも群を抜いていて、なんという事に

『爆殺シューター』坂本ジュリエッタ。

『軟派な精密機械』佐伯四郎。

『現代最強の八極拳士』ジョンス・リー。

といったそうそうたる面子の一撃でもすぐに戦線復帰を可能とするのである。

 

そして彼の最大の特徴としてはあるものが備わっている。

それは『北枝金次郎』を想うがゆえの『愛の力』。

 

彼は『北枝金次郎』を真剣に愛している。

同性愛者ではなく、ただ北枝金次郎を愛しているのだ。

『愛』ゆえに備わる力はすさまじく廃校舎の三階から飛び降りたりする事さえ厭わず、格上の相手を打倒したのだった。

 

そんな彼らが何故ここ『川神』に訪れたのか?

それは単純な理由である。

 

「ここが『武都(ぶと)』と呼ばれる『川神』か」

「そうだね、金ちゃん」

「ここならばあの日の様に熱い戦いができるだろうな」

 

そう言って北枝金次郎は首を回す。

北枝金次郎は今年で二十歳になる。

かつての『深道ランキング』からの三年間、彼はただの一度も鍛錬を欠かさずに過ごしてきた。

 

そして鍛錬の果てに行き着いた思いは『戦いたい』。

彼は己の成長を確かめると同時に再び身を焦がすような戦いを望み、強者が多く集まるこの川神に来たのであった。

 

戦える場所を聞くと『青空闘技場』という場所を全員が上げるため、そこを目指して進んでいく。

川神の無法地帯とも言われているらしい『親不孝通り』の一角にその場所は有った。

 

「ここで本当に勝負できるんだろうな?」

「そんな事言わずに入ろうよ、金ちゃん」

 

俺が半信半疑で言うと長戸は入るように促す。

まあ、入らなかったら意味が無いからな。

俺はそう思って入っていった。

 

受付に人が居たことを確かめて俺は進んで行く。

 

「試合がしたいんだが大丈夫なのか?」

 

俺は受付に簡潔に用件を伝える。

 

「お兄さんたち、エントリーしたら一番強い人たちだけれど良いの?」

 

すると受け付けの男がそんな事を言ってくる。

俺はその言葉に対し、笑みを浮かべて言葉を返した。

 

「上等だ、強い奴を求めてここまできたんだからな」

 

目的がそれだったのだから拒否する理由なんて無い。

すると男は案内係を呼び出した。

 

「待合場に言って待っててくださいね、順番になったら案内係が案内しますので」

 

そう言われて待つ事数十分。

 

「それでは順番となりましたので付いてきてください」

 

そう言われて俺達は試合場へと案内される。

 

試合場は広がっていて観客席以外は邪魔な物はない。

 

そして今来たんだろうか、向かい側に見えたのは女が三人と男が一人。

俺が長戸と二人なのに対して相手は倍の四人だった。

 

「今回は地元の強者と他所から来た強者の対決です!!」

 

実況が紹介をする。

細かな選手紹介はどうやらないみたいだ。

 

「さあ、オッズはこうなっております!!」

 

そう言って実況者が手を上へと差し出す。

 

すると賭けが成立しているのか。

大きく俺たちと相手の倍率が映し出される。

 

見てみたら随分と相手の方が少ない。

やはり地元で強さが知れ渡っているのが大きな要因だろう。

 

まあ、俺達は強い奴と戦えるならそれで十分なんだからどうでも良い。

 

「それでは試合初め!!」

 

実況がそう言って勝負が始まる。

 

お互いが思い思い散らばって戦いが始まる。

 

すると男が直進して俺を狙ってくる。

 

俺は構えて受けて立つ。

 

「オラッ!!」

 

いきなりKOする気満々の大振りの一撃が襲い掛かる。

風圧を感じさせるほどの一撃を避ける。

その一撃を避けた先には棒を持った女が居た。

 

「くっ!!」

 

男の攻撃に気を取られていると女からの攻撃が迫る。

俺は腕を交差してその攻撃を防ごうとする。

 

「私には穴が開いてるようにしか見えないね!!」

 

しかし女がそう言うと交差した拳をすり抜けて喉へと棒の一撃が刺さる。

 

「ぐはっ、喉に……」

 

息が一瞬止まる。

あまりに鋭い攻撃に喰らった後になってから認識する。

 

「随分太い首だね、壊れないのは嬉しいよ」

 

女がほくそ笑む。

そして残酷な笑みを浮かべて俺の頭に棒を振り下ろす。

 

「壊れちまいな!!」

 

息が止まっていた分防御が間に合わない。

俺は無防備に頭へモロに棒の一撃を喰らう。

 

「ガッ……」

 

痛みで一瞬呻く。

目の前で星が散ったようにチカチカする。

 

「金ちゃん!!」

 

長戸が心配して俺の方へと駆け出そうとしてくる。

 

「よそ見したらいけないよなぁ……でかいの」

「えっ?」

 

俺の事を気にかけていた長戸は後ろに迫る存在には気づいていなかった。

後ろで振りかぶっている少女が見える。

 

「チャー・シュー・メンって奴だなぁ!!」

「グギッ……」

 

俺を心配した長戸はその一瞬の隙を突かれた。

頭を何かしら武器で殴られていた。

 

「オラオラ、余所見なんてしてんじゃねえよ!!」

「がっ……ぐ」

 

それから一気に少女の猛攻が始まる。

防御が間に合わず滅多打ちにされる長戸。

武器の方はどうやらゴルフクラブのようだ。

 

俺の方も棒と拳で延々と攻撃をされていて少々苦しくなってきていた。

そして膝をつこうとしたその時、上から声が聞こえてきたのだった。

 

「お前ら二人ともそんな簡単に負けるわけ無いだろうが!!」

 

観客席から乗り出しながら大きな声を出しているのは三年ぶりに見た親友だった。

必死の形相で俺たちに声援を送っている。

その声援がこの打たれ続けた体に喝を入れてくれる。

 

腕が動く。

指先が動き拳を握れる。

足はしっかりと大地を掴んでいる、まだまだ戦える。

 

「受け取れ!!、三年ぶりに本気を出せよ、北枝金次郎!!!」

 

その大きな声と同時に俺の腕に落ちてきたのは『鉢巻』だった。

今の鉢巻とは違う俺の中に眠る安いプライドが詰まった『鉢巻』。

それを見た瞬間俺の中にあるものがマグマのように噴出してとめどない力が湧いてくるのが感じられた。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

『青空闘技場』全体が揺れるほどの大声で叫ぶ。

観客は耳を塞ぎ、俺の中にある闘気が前へと体を押していく。

 

「長戸ぉおおおおお!!!!」

 

同じく観客席から投げられたままコートが上にかかった長戸を大きな声で呼ぶ。

ゴルフクラブに滅多打ちにされていた長戸の目に活力が戻っていくのが感じられた。

 

「金ちゃん!!」

 

俺の名前を呼ぶが俺はもはや動き出す力を止めるのがままならなかった。

しかし、奴の心意気を知ってもらう為に長戸に着るように俺は促した。

 

「良いからそいつを着ろ、お前にもわかるはずだろう!!」

 

「わかるよ、血と汗と金ちゃんと過ごした日々が詰まっている事は……」

 

そう言って長戸が羽織り完全に俺たちの眠っていたものが遂にあふれ出していく。

さて、反撃させてもらおうじゃないか。

 

俺は足に力を入れて踏ん張り、そして一瞬の間が空いた次の瞬間女の方へと駆け出す。

 

「オラァ!!」

「何だって、一発で棒が!?」

 

拳の一撃で棒を圧し折る。

 

「板垣(いたがき)亜巳(あみ)選手、なんと棒が圧し折られるアクシデントだ!!」

 

実況が驚きと同時に叫ぶような声を出す。

 

ようやく名前が明らかになったが正直どうでも良い。

戦いの最中では何の意味も持たないと分かっている。

それは戦う前に済ませるべきことだからだ。

名乗っている間にやられては元も子も無い。

 

俺は武器が壊れて驚いている女へ裏拳を放つ。

 

「もう一丁!!」

「ちぃ!!」

 

「板垣竜兵選手、ナイスフォローだー!!」

 

姉を攻撃から守る為に弟である男……板垣(いたがき)竜兵(りゅうへい)が受け止める。

 

「受け止められたか……」

「亜巳姉は戦いを続けられねえ……俺が相手だ!!」

 

男が構える。

見たところ同じ様な喧嘩スタイル。

何も学んではいないのだろう。

そして、そのやり取りの間に板垣亜巳は後ろへと下がっていった。

 

「俺たちの凄さをこいつらに見せてやろうぜ……長戸ぉおおおお!!!!」

「うん、金ちゃん!!」

 

俺と長戸が構える。

俺は男の方へ。

長戸はゴルフクラブを持った少女の方へとそれぞれ向かっていく。

 

「コイツ、さっきと手応えが違いすぎるぜ!!」

「当然だ、もうそんなものでやられない」

 

少女は攻撃をするが長戸は怯まずに進んでいく。

手応えが違うのは当然。

先ほどまで腑抜けだった男に気合が入ったのだから必然的に変わっていくものである。

 

「頭をかち割ってやんぜ!!」

 

振りかぶって頭へ一気に振り下ろす。

頭に直撃してしまえば重症は免れないだろう。

 

だがその一撃を平然と大きな手で受け止める。

 

「効くかよ……」

 

そしてもう片方の腕で攻撃を仕掛けるのだった。

 

「残念だったな、引っ掛けて転ばしてやんよ!!」

 

受け止められただけで奪われていない事もあってゴルフクラブで防御をしようとする。

 

しかし少女は間合いと長戸の異様なまでの射程について理解が余りにも浅かったのであった。

 

「見誤ったな、それがお前の敗因だ」

「がっ……」

 

完璧に防御したと少女は思っただろう。

しかし長戸の腕はゴルフクラブをすり抜けて喉へと手刀が入る。

トテトテと緩やかに後ずさりをしていく少女へ長戸が追い討ちをかける。

 

「フン!!」

 

頭の上に手を乗せて押し付けるように振り下ろす。

 

「ぐっ……あっ」

 

ただその単純な一撃によって少女は戦闘不能へと追いやられた。

 

「板垣(いたがき)天使(えんじぇる)選手ダウーン!!」

 

少女の方の名前も分かったが遂に二対二となった。

 

会場の興奮もだんだんと高まっている。

 

長戸の戦いの場所から少し離れたところでは俺と男が戦っていた。

 

「くそっ、天の奴がああもあっさり……」

 

動揺した男は攻撃の腕が一瞬止まる。

何度か攻撃を出しているが全てが俺と同じで武術の欠片も無い一撃。

それはただ大振りで『当てれば倒せる』という大雑把なものである。

 

「ちょこまかと……」

 

再び風を切るような拳が振るわれる。

当たれば獣を倒せるであろう一撃に俺は少し場から笑みを浮かべていた。

 

「いい加減にしたらどうなんだ、そんなんじゃあいつまで経っても当てられないぜ」

 

俺が何度目になるかも分からない回避をした瞬間、男の意地が篭った眼光が見えた。

一体何をしてくるつもりなのだろうか?

 

「逃がさねえよ!!」

「なっ、コイツは!?」

 

なんとこちらの避ける方向に対して強引に腰を捻り、手首を返して拳の軌道を変化させる。

どうやらこの男、なかなか喧嘩師としての才能はあるようだ。

 

しかし例え才能が素晴らしくてもここは鍛錬の月日と経験がものを言う。

 

攻撃が当たるその瞬間、俺は首を捻って衝撃を逃がす。

そしてそこからカウンター気味に腹部へと鉄拳を叩き込む。

振り切ったため防御が間に合わず硬い腹筋一つで防御するしか男は出来なかった。

 

「がっ……」

 

流石に衝撃に耐え切れずそのまま男は後ろへよたよたと下がり息を吐き出して盛大に倒れる。

気絶こそしていないが指を動かすこともままならないよスだ、もはや戦闘不能と言っても問題ないだろう。

 

「なんと板垣竜兵選手までダウン、コレで残りは板垣(いたがき)辰子(たつこ)選手ひとりとなってしまったー!!」

 

実況が興奮した声で状況を伝える。

 

あと一人。

俺はそれを聞き届けて息を吐き出す。

すると同時に毛穴という毛穴から汗が吹き出る。

危険信号の証だろう。

俺は気を引き締めてコレだけの危険信号を放つ相手を見定める。

 

親友ではない、アイツなら察知すると同時に懐にいるはずだ。

 

振り向くとそこには女……板垣辰子が居た。

そしてたちのぼる『気』の大きさから実力を今まで隠していたのだと悟る。

 

「……ないぞ」

「んっ?」

 

何かを呟いて構え始める。

こちらも構えて警戒をする。

 

「許さないぞぉおおおお!!!」

「速い!?」

 

大きな声で叫んだ瞬間。

ゆったりとしていた見た目からに裏切られる。

 

体の大きさとばねを活かした速いタックルが繰り出される。

この質量、この速さ、そして繰り出してくる際の気迫。

自発的に女に出会った時に必ずある感覚が走っていた。

そしてこの目の前にいる女も例外ではない。

 

「強い女だな……俺の三年間の答えが出せそうだ!!!!」

 

真っ向からタックルを受け止める。

とてつもないパワーで一気に後ずさりさせられる。

今まで戦ってきた女の中では

空を舞う女。

根性のある女。

そしてとてつもない技術を持った女がいた。

だが、この女は今まで戦ってきたどの女よりも力に溢れていた。

 

受け止めきったのが分かるとすぐに下がり攻撃を仕掛けてくる。

俺は腕を交差して受け止める。

 

「がぁ!!!」

「ぐっ!!」

 

しかし力任せの一撃で防御が弾き飛ばされる、腕の先までジンジンと痺れている。

想像以上の一撃に俺は舌を巻く。

 

「やぁ!!!」

「ちっ!!」

 

板垣竜兵の時のように首を捻って顔面への攻撃をいなす。

しかし頬に熱さがはしり、そして何かがとろりと垂れる感覚を覚える。

まさかあの細腕から掠っているだけで皮膚が切れるような拳が放たれるとは思わなかった。

 

「この構えは…きやがる」

「ハアァァァァ……アア!!」

 

再びのタックル。

こちらが後ろに下がったのを見ると勢いをつけて最高速で突っ込むつもりのようだ。

 

それに対して腰を落として受け止める構えをする。

相手はまるで猪のように一直線に来る。

こちらのタイミングを外すなどといった小細工など一切無い。

 

「ぬおお!!」

 

こちらも全力で受け止めるが再び後ずさりしそうになる。

そこから脇元へ腕を差し込もうとするので脇を閉める。

すると次は腕を股下へと伸ばしていく。

こちらは足を閉じて必死に取らせまいとする。

 

「金ちゃんにこれ以上攻撃は通させねぇ!!!」

 

俺がタックルを受け止めて組みつかれるのを必死に粘っていると、長戸が後ろから組み付く。

そしてそのまま筋力を振り絞って女を投げる。

 

その投げた先まで俺は踏み込む。

踏み込みの勢いを利用して起き上がると同時に俺の全力の拳を叩き込んでいく。

 

そしてあのエアマスターの時のような事にならない為に俺は更に畳み掛けていく。

一撃、二撃、三撃。

俺は絶え間なく全力で叩き込んで女が動かなくなるのを確認するのだった。

 

しかしその女は勝者の呼び声が上がった後に寝息が聞こえたので振り向く。

すると立ったまま眠っていた。

 

俺はその姿を見ると苦笑いを浮かべる。

そして、この場所にもまた『強い女』が居るものだという事を痛感するのだった。

 

「長戸、アイツは……?」

「居ないぜ、金ちゃん」

 

あいつが消えたことを知った後、俺達は闘技場を出て空を見上げる。

そして俺達は川神への定住の為に不動産屋へ赴くのだった。




今回はエアマスターキャラである北枝金次郎と長戸。
マジ恋キャラである板垣兄弟との戦いを書きました。
訂正部分などがありましたら指摘のほどお願いします。


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『強者からの勧誘』

強化のための師匠回。
一応原作キャラたちも師匠をつける予定です。

現在この一年生編で予定しているのはガクト、キャップ、モロ、ユキです。


依頼を終えて数週間後。

秋口の午後、学校が休みの日。

そんな日に俺は『川神院』へと向かっていた。

 

何故来たのかと言うと『師匠』を変える為である。

小学生の頃に行っていた道場の師範ではもうこれ以上の成長が見込めないという事で

川神院を訪れたのだった。

 

ただ、その場所には先客が居た。

 

「よっ、久しぶりだな」

 

その人は三月の時に飛行機で隣の席に座っていた長枝さんだった。

 

「何でこんな所に?」

 

俺は川神院の中に入って理由を聞く。

確かに何故このような場所に来たのだろうか、とても気になる。

 

「お前を弟子にする為に会いに来たんだよ、一番大きい所に行けば道案内してくれそうだから此処に来たんだけど偶然でも会えてよかったぜ」

 

なんとも簡単な理屈だ。

じゃあ次は何故その考えに至ったのか、理由を聞いてみよう。

 

「で、なんで俺を弟子にしようと思ったんですか?」

 

こちらが首を傾げて聞くと笑顔で『こうするのが当然』だというように理由を言ってきた。

 

「そりゃ俺が強いからだよ、強い奴が弟子を取っても良いじゃあねえか」

 

俺はそれを聞いた瞬間、頭を抱える。

こりゃ随分とまた我侭な意見だな。

 

それにこの人がいくら弟子にしたいと言っても流石に川神院の師範代であるルー先生には勝てないだろう。

俺は強くなりたいという理由で此処に来たんだからルー先生より弱い人の弟子になるつもりはない。

 

「なんか不満そうな面だな、俺が弱いと思ってるだろ?」

 

また顔に出ていたのだろうか?

でも当たり前の反応だと思う、川神院の師範代ともなればそれこそ世界中を探さないと対抗できる輩はいないだろうからね。

 

「じゃあこうしようぜ、今目の前にいるコイツに勝ったらお前は俺の弟子になれ」

 

すると長枝さんはルー先生を親指で指して条件を言ってくる、いくらなんでも無謀な条件だと思うんだが……

 

「一体どうしたんだね?、少々不穏な言葉が聞こえたんだガ?」

 

来客だというのが分かったのかルー先生が近づいてきた。

まあ、どう考えても今の言葉は不適切だよね。

 

「お前に弟子入りしたいって奴がいるのさ、ルー・イー」

 

そう言って俺の方を顎でさす長枝さん。

そして俺の顔を見て理由が分かったがまだ腑に落ちないのか、長枝さんに真剣な顔を向けて質問を続けていた。

 

「そうかい、それはそうと何故君が此処に居るのかナ、『鬼人』?」

 

そう言った瞬間、ルー先生から『気』があふれ出す。

そういえば『剣聖』も長枝さんの二つ名を知っていたけど、もしかしてこちらの方では有名なのだろうか?

 

「お前を倒せばこいつが俺に弟子入りするからな、それでお前と戦うってわけだ……理由は分かったか?」

 

その大きな『気』にも一切驚かず平然と用件を伝える。

凄い胆力だけど大丈夫なんだろうか?

 

「そうカ……『ファイア・ハリケーン』!!」

 

そして用件を聞き終えると同時に戦いの合図も無く攻撃を仕掛けるルー先生。

 

無防備にその技を喰らい、気の渦に巻き込まれて空へ打ち上げられる長枝さん。

流石にあのような状態だったら喰らってしまうだろう、用心をしておくべきだったな。

 

「流石にあの技で倒せるとは思ってはいない、さあ降りてきてもらうヨ」

 

空中に打ち上げられた状態から綺麗に着地をしたとき、見えたのは頬の端を歪ませた長枝さんの笑みだった。

 

「掛け声で始める道場破りは無いわな、適切な判断だ」

 

長枝さんはそう言ってさっきの攻撃で損傷した服を破り捨てていく。

 

「君相手には手段を選んではいられないんダヨ」

 

その理由に長枝さんは合点がいったのか頷いて距離を取った。

 

「どうやらきっちりした所だと思って少々甘く見ていたようだな、『必死』にならせてもらうぜ」

 

そう言って踏み出す。

その勢いを危惧してか、ルー先生が後退する。

 

踏み込んだ瞬間、『気』の圧が舞い上がり、石畳に大きく蜘蛛の巣の形をしたようなヒビが入る。

長枝さんを中心とした大きな円が出来上がっていた。

 

「コレが俺の制空権だ、覚悟があるなら来るがいい」

 

真剣な面構えで言い放つ長枝さん。

 

「こんな大きい制空権、流石に反則ダ……」

 

ルー先生が冷や汗をかいて石畳を見ながら構えなおす。

 

俺から見てもこの大きさは異常だ。

 

ルー先生が腕か足を伸ばしたら即座に打ち落とされるほどの大きさ。

コレをどうにかするにはさっきの様に『気』を交えた攻撃しかない。

 

「逃げてもいずれは捕まえるぞ、ルー・イー」

 

そう言って長枝さんは次の攻撃でルー先生がかわせないようにする為、着実に追い詰めていく。

ただ、ルー先生も延々と後退するわけではなくちゃんと考えを持っていたのだろう。

長枝さんの足をじっくりと観察していた。

 

「今ダ、スペシウムファイアー!!」

 

ルー先生は長枝さんが次の踏み込みの為に足を上げる、一瞬の間を狙って技を繰り出す。

 

「はあっ!!」

 

声が聞こえるが大きな爆発を伴って煙が上がる、流石にアレだけの大技を喰らえばただではすまないだろう。

 

とても良い戦いだった。

コレだけ強い人ならば『勝てたら』と言う訳だ。

 

「決まったヨウだね……私の勝ちダナ」

 

しかしルー先生のその考えは外れることとなる。

煙が晴れると同時に駆け出している人影が映る。

そこには気のダメージを負った長枝さんがいた。

 

「悪いけど終わってないぜ……俺は負けられないんだ、お前で足踏みなぞするかよ!!」

 

そう言ってルー先生の懐に入り込む、奥義を初見で逸らしたのは驚きだった。

 

「ナッ!!?」

 

流石のルー先生もアレを耐え切るとは予測できなかったのだろう。

後ろに下がるが動きが間に合わずに『猛虎』が左腕に掠ってしまう。

 

「掠っただけでこの衝撃ダト……!?」

 

防御した腕ごと弾かれて驚きの表情を浮かべるルー先生。

 

「悪いがまだまだ本調子になっちゃあいないんだ、頼むぜ」

 

次の瞬間聞いた言葉に戦慄がはしる。

まだコレで全力じゃあないだなんて……。

一体この人の本気は何処までなのだろうか?

 

「仕方ない……コレはせめて使いたく無カッタがここまで強いならばやむをえないナ」

 

酒の瓶を取り出して飲むルー先生。

成る程、酔拳で対抗しようというわけか。

 

「悪いが酔拳だろうがぶち込むだけなんだよ!!」

 

ルー先生が飲み終わると同時に駆け出して踏み込む。

 

しかし次の瞬間ルー先生の酔拳が発動していた。

 

「貰っタよ、ハッ!!」

 

緩やかな動きで避けてその動きのままカウンターをくり出す。

コレは流石に喰らうだろう、絶妙のタイミングでのカウンターだ。

 

「甘いんだよ!!」

 

しかし長枝さんはその状態のルー先生の一撃を避ける。

 

「甘いのはそちらの方ではないかな?」

 

その流れる動きに更なる緩やかな動きを加えて長枝さんの予想を裏切る。

 

「チッ!!」

 

舌打ちをして転がってその攻撃を避けて距離を取っていた。

 

「この俺が自惚れていたようだ、反省しなくてはな」

 

どうやら避けきれずに頬を切ったみたいで頬を拭っている。

 

ルー先生が再び緩やかな動きで裏をかき攻撃を加えようとする。

 

「悪いが二回目だとその程度の酔拳は通用しない、あまり調子に乗るなよ」

 

しかし残念な事に二回目の攻撃はさっきに比べて平然と避けられていた。

 

「何故そうも軽々と避けられるンダ!?」

 

驚愕の顔を浮かべて叫ぶルー先生。

確かにあまりお目にかかる機会が無い酔拳を平然と対処しているというのは驚きだ。

 

「何故だと?、もっとえげつないものを昔に見たからな」

 

そういうと長枝さんは足を掴んでルー先生へ歪んだ凶暴な笑みを見せて一言こういった。

 

「さて……こっちの番だぜ、といっても終わりだけどな!!」

 

そう言うと一気に踏み込んでそれと同時にルー先生の足を引っ張る。

踏み込みの強さで砂埃が舞い上がる。

体勢を崩したルー先生に長枝さんは容赦なくアッパー気味の『猛虎』を打ち込み吹き飛ばしていった。

 

それから暫くして砂埃が晴れる。

晴れた時に見えたのはヒビが入った石畳と倒れているルー先生だった。

もはやルー先生に立ち上がる気配は無かった。

どうやら勝負はついたみたいだ。

そしてそれを見届けると振り向いて俺に向かって手を伸ばし口を開く。

 

「これで決まったな、お前は今から俺の弟子だろ?」

 

俺はその眼差しを見て手を握る。

この人へついていけば強くなれるという期待を込めて力を込めるのだった。




ルー先生が弱いわけではありませんのでそこらへんはお願いします。
本当に弱かったらまず『気』の攻撃とはいえ二発直撃なんて出来ません。

ちなみに長枝の強さの方は肉体的・精神的成長を経て前作より上がっています。

一応こいつは無敵ではありません。
少ないですがちゃんと対抗できる面子が居ます。
『純粋な強さ』で言えばマジ恋とエアマスター勢含めて十人弱です。
『メンタル』とか『相性』とかの要因を入れれば少し増えます。

次回は番外編です。
その為また暫く期間が開きますが申し訳ありません。


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『番外編 秋の戦』

遅くなりました。
番外編は後述しておりますがこの秋編で終わります。


時は流れて、秋。

夏の時期はコレでもかというほど鮮やかに緑色を見せ付けていた木々は、今やもう紅葉へと変わりこれまた鮮やかな橙色へと変わっていた。

日差しも木枯らしとなってあの熱気も鳴りを潜めていた。

 

場所は大阪。

 

人々が騒ぐ街。

その騒ぎようは眠らない街と形容されるほどである。

場所を一つ変えれば大串スグルや師岡卓也が好みそうな趣味の場所もある。

 

「こんなにも騒がしくて広い街だなんてな、風が思う存分駆ける甲斐があるぜ」

 

この男の名は風間翔一。

頭にバンダナを巻き、快活そうな顔をした青年である。

そしてこの青年の一つの特徴として『放浪癖』が有る。

その為彼は本来自分の活動地域である『川神』からこの『大阪』まで足を伸ばしていたのだった。

 

「人が沢山いて話しやすいのが良いな!!」

 

大きな通る声で風間翔一は言う。

確かに大阪は人が多い。

 

梅田。

難波。

 

この二つのどちらかだけで十分な観光はできる。

 

お土産の品を探す事。

飲食店を見つける事。

 

その二つなど赤子の手を捻るかのようにたやすい。

 

そして風間翔一は大阪に繰り出した。

 

初めは梅田。

 

地下鉄の広さは迷宮のよう。

しかし百貨店で腹を満たし、冷静になればそれほど慌てはしない。

人が集まる場所だけあって飲食店には困らない。

 

しかし娯楽ならば難波の方が分かりやすいだろう。

 

そう考えて場所を移動して難波。

 

人々が行き交い商店街は繁盛の二文字で表現できる。

チーズケーキや豚まんの店が賑わっている。

 

少々色の濃い人達がいる場所で遊び道具を見る。

ダイスやTRGのルールブック、カードゲームと種類も豊富だ。

 

夜までの間その様に色々と見て過ごす。

 

ご飯を食べ、探索をして、そして繁華街を回る。

ここまでならばただの観光で終わる。

 

しかしそうは問屋がおろさない。

運の良さが並外れているが故に彼は持ってくる。

運命的な出会いを。

……トラブルと一緒に。

 

.

.

.

 

場所は道頓堀。

かの有名なチキン屋の人の像が投げ入れられた場所である。

 

「くそっ、女使って騙すとかありえへんわ!!」

 

大きな声が聞こえたから俺はふり返る。

男の人が急いで人ごみの中をかきわけて逃げていた。

怖い人が後ろから来ている。

 

「ありゃなんなんだ、面白そうだぜ!!」

 

俺は追いかけっこに興味を持って走り出す。

 

それから数分後。

 

俺は先ほど怖いおっさんに追いかけられていたお兄さんを見つける。

その後ろ、およそ100メートルの位置から相手の方も追ってきていた。

俺はその人の手を引っ張って逃げる手伝いをする。

目の前で危ない事が有ればそれを見放す事なんてできない。

 

「お兄さん、こっちっすよ!!」

 

感じるがままに任せて色々な道を行く。

すると相手の方からの追っ手が遠ざかっていき、数分後には全く見えなくなっていた。

 

「悪いのう、兄ちゃん、助かったわ」

 

怖いおっさん達をまくとお兄さんから礼を言われる。

 

しかし次の瞬間お兄さんの顔が変わる。

一体どうしたのだろうか?

そう思って振り返ると確かにまいたはずの怖いおっさんたちが迫っていた。

 

「見つけたで、逃げられる思うたんか?」

 

おっさん達がじりじりと近づいてくる。

目もぎらぎらとさせて威圧感を出していた。

 

「お前ら……何で分かったんや!?」

 

お兄さんが一言疑問点を言う。

俺達は確かに目のつかないところを選んでいたはずだ。

それなのに的確に分かるとは一体どんな方法を使ったんだ?

 

「女もおったら『草』もおるわ、甘いで」

 

『草』と聞いてお兄さんは納得をする。

さらにそこから額を叩きしてやられたという顔をしていた。

 

「ほんまワイらをコケにしおって……まずはそのボンこっちに渡さんかい」

 

ボンって俺の事か?

手を前に出してぎろりと睨んでくる。

怖いおっさん達が集団でこっちに来ている。

俺が前に行こうとすると刃物が見える。

 

俺は構うもんかと思って踏み出そうと思った。

しかしそれは出来なかった。

 

「無茶したらアカン、ここはわいに任せとき」

 

お兄さんが俺を手で制して前へ行かないように止めていた。

 

「でも……」

「ええから下がっとき、恩は返すのが大阪もんの礼儀や」

 

そう言って俺の前に出て少しずつおっさんたちの方へ近づいていく。

 

「なんや、観念したんかい?」

「違うわ……力ずくで諦めてもらうんや」

 

お兄さんが怖いおっさん達に向かって言う。

すると青筋を立てて怖いおっさんが刃物を出してきた。

 

「そんなんで勝てると思ってるんかいな……」

 

そう言って怖いおっさんの相手をする。

手を前に出している。

左手は顔の近く。

右手はへその近くまで下げている。

手のひらは相手に向けていた。

 

戦いが始まった。

 

ナイフを振って切りつけてくるおっさんの攻撃を見切っているのか。

ナイフの腹に掌を添えて逸らす。

 

そしてナイフを避けると次は懐に潜り込み、両手を前に出して怖いおっさんの腹に触れる。

 

「双按(そうあん)!!」

 

その言葉を言った瞬間おっさんが白目をむいて崩れ落ちる。

 

「このっ、てめえ!!」

 

怖い人達が怒りで迫ってきたその瞬間。

お兄さんが跳ぶ、腰を捻る。

流れるような動きで相手を見据えて蹴りを放っていた。

 

「蹴按(しゅうあん)!!」

 

跳び回し蹴りで相手の首に一撃を加える。

そして着地をして言葉を言う。

 

「お前ら、どんなけ集めとるんか知らんけどなぁ!!」

 

沢山の怖いおっさん達を睨みつけながら震えながらも大きな声でお兄さんが叫ぶ。

 

「お前らなんぞ……」

 

再び構えて言葉を溜める。

そして駆け出すと同時にその言葉は吐き出された。

 

「あいつらに比べたら赤ちゃんなんじゃあ!!!」

 

咆哮一閃。

 

蹴りと腕の一撃が流れるように放たれる。

 

「グエッ!!」

「ぶげらっ!!」

 

相手の方は一人また一人と白目をむきながら倒れていく。

 

「お前らに30メートル蹴り飛ばされそうになる気持ちが分かるか!?、一撃で意識飛ばされる怖さが分かるか!?、とんでもない強さのハゲに狙われる気持ちが分かるか!?」

 

まるで何かに取り憑かれた様に叫びながら延々と怖い人たちを倒していく。

それから数分後、残っていたのは俺とお兄さんの二人だけであった。

戦いのはずが一方的なものだったと心の中で思う。

 

「さて……終わったし帰ろかな」

 

俺はさっきの技を思い出す。

手が触れる。

一拍置いたら相手が緩やかに崩れていく。

正直あの技を見た瞬間、心が震えた。

一撃必殺。

まるでヒーローの必殺技のようだった。

そう思った俺は騒ぎが終わった後、お兄さんに大きな声でこういっていた。

 

「俺にそれを教えてくれ!!」

 

そういうと振り向いてこちらを見て呆れ顔をしてきた。

 

「教えて欲しいって……結構むずいんやで、コレ」

 

確かにそれは分かる。

しかしそれでも俺はこの技をやってみたいと真剣に思った。

 

「仕方ないやっちゃなー、てこでもうごかへんのやったら教えなあかんわ」

 

それからお互いが見合って数分後。

俺の真剣な眼差しを見て観念したのかお兄さんが俺を案内しはじめる。

 

「さて、着いた、着いた」

 

それから数分歩いて案内された場所へ到着する。

着いた場所は一軒家で大きな庭がある。

その庭には大きなサンドバッグが設置されている。

そのサンドバックの顔に当たる部分には男の人の写真が張られていた。

 

「ワイの名前は屋敷(やしき)(しゅん)って言うんや、ちゃんとミッチリ教えたるから覚悟しいや」

 

こうして俺と屋敷さんのマンツーマン特訓が始まるのだった。

 

「あと、ちなみに金とりたいとこやけど今回はおまけで出世払いにしといたるわ」

 

そして最後に関西人らしさというか大人としてのしっかりさを見せられた。




予定していた面子は原作の時間軸に入った本遍で少しずつ明かしていきます。
冬の方の番外編もし紹介ですし本遍の方で書ける内容だと感じたのでありません。
速く本遍へ行く事で色々なキャラたちを出していこうと思います。
なお、梅田と難波がうまく説明できず申し訳ありませんでした。


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『一年の終わり』

一応今回で原作一年前が終わりです。
次回からようやく原作時間軸へと変わります。


長枝さんから勧誘されて二ヶ月ほどすぎたある日の事。

 

基礎的な鍛錬をしている最中……

 

「お前は良いな、背が高くて」

 

ポツリと長枝さんに言われた。

 

「別に背が高いから強いってわけではありませんからね」

 

俺は腕立て伏せをしながらそう返す。

だって背が高くても長枝さんとの組み手では一度も勝った事がないからだ。

 

「それでもリーチが長いってのはかなり有利だと思うけどな」

 

そう言って羨ましそうに背丈を見ていた。

 

「そんな事言っていつも届く前に攻撃するじゃないですか」

 

その視線を受けながら反論する。

この人はリーチなんて関係なく平然と一撃を加えてくる。

 

「当たり前だろ、組み手は本気でやるもんだ」

 

反論に対して力強く答えてくる。

そりゃあ、手加減されるよりかは断然良い。

しかし、何時まで経ってもコレでは強くなっているのかが分からない。

 

「組み手だけでは何も良い事なんて無い」

 

俺を見て言ってくる。

どうやら俺の考えている事が分かったようだ。

 

「基礎の鍛錬を沢山やってこそ技が活きるからな」

 

そう言って踏み込んで技を放つ。

技を当てるような的は無い為、風だけが通り過ぎる。

しかし地面は踏み込まれた事で蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。

 

つまりは全力で放ったというわけだ。

何度見ても素晴らしいと感じる。

 

「コレ位の奴を放つにはやはり基礎がないと意味が無い」

 

構えを解いて息を吐き出して一言。

吐き出す息さえも熱気を帯びている。

 

「だから鍛える必要があるんだ」

 

そう言って再び構えて技を放ち始めていた。

この数ヶ月の間に何回も見た光景だ。

しかしそれでも目に焼き付けようと目に力を込める。

 

猛虎(もうこ)

裡門頂肘(りもんちょうちゅう)

鉄山靠(てつざんこう)

 

どれも素晴らしい技だった。

 

踏み込み。

速さ。

気の込め具合。

 

どれを取っても超がつく一流のもの。

 

今までの鍛錬の積み重ねが想像できる。

 

それを幾度となり繰り返す。

時折荒々しく何発も打ち込むような動作をする。

この人が一撃で倒せない存在が居るのだろうか?

鬼気迫るほどの威圧感をイメージとはいえ出させるような人が居るのか?

 

俺は腕立て伏せをしながらもその姿を見ている。

 

「まだコレじゃあ勝てはしないな…」

 

そう呟いたのが聞こえる。

勝つ事を真剣に考えていた。

しかし川神院の師範代を倒せる実力を持っている。

一体誰に勝つつもりなのだろうか?

 

「ハァ……ハァ…」

 

俺が汗だくになり腕立て伏せをしていると振り向いて声をかけてくる。

 

「もう座っておけ、十分やっている」

 

確かに少々筋肉が震えている。

筋肉痛を訴える手前で止められているが狙っているのだろうか?

 

「筋肉痛を無視してやってもオーバーワークだ、アイシングをしとけ」

 

確かにその考えは間違っていない。

回復を促してまた日にちをおかないと強靭な筋肉はつかない。

ただ、基礎練習は血の小便が出るまでやっても問題はない。

さっきも言っていたがそういった鬼気迫る基礎の鍛錬があってこそ活きるのだから。

 

「そう言えば来年からの予定なんだけどよ……」

 

長枝さんは座り込んできて俺に話しかけてきた。

 

「ちょくちょく野試合で誰かを狩ってみないか?」

 

いきなりとんでもない事を言い出した。

確かに考えれば長枝さん以外の実戦を積んでいくのは大切だろう。

しかしそんな簡単に俺たちと戦ってくれる奴が居るだろうか?

 

「誰をわざわざ倒しに行くんですか?」

 

俺は仮に戦ってくれる人が居たとして一体誰と戦うのかを聞いてみる。

 

すると俺の質問に対して対戦相手の目星は予めつけておいたのか淀みなく告げてきた。

 

「……戸叶と深道信彦って奴だ、ちなみに試合の数は四回は予定しているぞ」

 

そういうと長枝さんは立ち上がる。

そして俺に詳細は後日伝えると言って長枝さんは帰っていったのだった。

 

俺も家に帰ろうと思い立ちあがる。

腕の筋肉の震えもひいてきた。

 

公園を通り過ぎて帰っていこうとすると目の前に帽子を被った男が現れた。

肌の色は浅黒い。

タンクトップから覗く筋肉は素晴らしいの一言。

基礎鍛錬を積んで出来た努力の賜物だと分かる。

 

「あんたは何者だ?」

 

気になったので尋ねる。

 

「俺の名前はカワハラと言う」

 

名前は名乗ってくれたのだがこちらとしてはもう一つ聞く事が有る。

 

「一体何の用だ?」

 

一体どういう理由で道を塞ぐように現れたのか。

道を聞くような雰囲気ではない。

つまり怪しいのだ。

警戒はしておかなくていけないから聞いておく。

 

「確かによく見れば分かる、お前『八極拳士』の『澄漉香耶』だな?」

「確かにその通りだが……」

 

答えてくれなかった事に苛立ちを感じるがそれ以上に恐ろしい事が起こった。

武術だけでなく名前まで当てられた。

背筋に冷たいものが通り抜ける。

この人はストーカーか何かなのだろうか?

 

「アイツから情報が流れてきたが確かなものだったようだ、コレは良い」

 

相手が笑みを浮かべる。

どうやら情報を教えた奴がいるらしい。

俺は気になって聞いてみた。

 

「アイツとは一体誰だ?」

「それは教えられん、ただ……川神に住む武術家の情報を俺『達』は教えられた」

 

教えられる事は無かった。

しかし疑問が再び頭に浮かぶ。

俺ならばまだ分かる。

ただ、今この男は俺『達』といった。

つまり複数形だ。

俺はそれについて聞いてみた。

 

「待て、俺達だと?」

「そうだ、俺以外には稲垣、入来、パオ、馬場、マキハラ、原の六人居る」

 

先ほどとは違い答えてくれた。

この人を含めて七人も居たなんて……。

しかし気配は無い、一体どこにいるのだろうか。

 

「一体そいつらは何処に居るんだ、ここには居ないみたいだが」

「まあな、そいつらはアイツの調査で知った現在無名の武術家を襲撃しにいった」

 

なるほどそういう訳か。

俺の知らないところで二人新たに武術を習った奴がいるだけだ。

俺の考えでは確かに四人心当たりがある。

 

ユキ。

モロ。

準。

英雄。

 

「おい、場合によってはただじゃ済まさんぞ」

「お前を含めてそいつらを試せといわれた、弱ければ倒しても良いともな」

 

俺は怒りを剥き出しにして声を出す。

あいつらに危害を加えるならば全員つぶしてやる。

 

「ならば逆に返り討ちにされても文句は言えないわけだ」

「当然そうなるな、だが無理だ」

「何故かな、理由を言ってもらおうか」

 

睨みつけながらできるだけ冷静に言葉を搾り出す。

しかしそれをあっさりと否定される。

随分自信があるようだけどこちらとしてはどうでも良い。

倒さなければあいつらの安否を確かめられないのだから。

 

「俺の方がお前より強い、俺は完璧なのだから……」

 

そう言って構える。

こちらも抵抗の為に構えた。

 

風が通り過ぎる。

それが戦いの合図だった。

 

「ハメド・スタイルに沈め……」

 

そう言うと腕がいきなり消えた。

すると一拍置いてこちらへと迫ってくる。

 

「くっ!!」

 

腕を交差してなんとか受け止める。

追撃を予想して距離を取った。

 

「珍しいスタイルを使うな、あんた」

 

何処から飛んでくるか分からない拳。

この対処は見えてからでは遅い。

 

対処法として考えられるのは……

 

事前から受け止める事に専念するか。

距離を取って避けてその後に一気にいくか。

発勁(はっけい)で弾くか。

 

という三個の方法がある。

 

「悪いが俺の拳は対処できん」

 

そう言って拳が消える。

ステップを交えてきた。

どうやら今からが勝負のようだ。

 

「根性が無ければ無理だ」

 

そう言って一撃。

拳を再び受け止める。

 

「もしくは折る覚悟が無いとな」

 

相手が逆の腕で肝臓を狙う。

後ろに下がって距離をとる。

 

「少なくとも俺はそんな奴らと戦ってきた」

 

再び構えなおして一言。

 

「お前はそれほどの相手と戦ってきた事があるか?」

 

相手の質問に対して考える。

 

想像すれば目に浮かぶ。

 

マルギッテさん。

長枝さん。

そして大群の兵士。

 

まず目に浮かんだのは……

 

こちらを睨みつける瞳は絶対零度。

喉笛を噛み千切らんばかりの気迫。

まさしく猟犬の異名にふさわしかった。

 

速度。

技術。

腕力。

精神力。

 

相対した時、全てにおいて能力の高さに驚嘆した。

 

トンファーによる一撃は意識を刈り取る。

蹴りの一撃は平然と戦局を覆す。

 

豊富な経験から生まれた駆け引きの対決は遠く及ばなかった。

 

たった一度の戦いでそれを感じ取った。

二年経った今でも未だに覚えている苦汁の味。

 

一瞬でも敗北を予感した己を恥じた。

次は勝つと心に決めた相手。

 

それがマルギッテ・エーベルハッハである。

 

次に目に浮かんだのは……

 

こちらを見る目は猛禽類。

発せられる体中が粟立ってくるような気迫。

途轍もない熱気が真っ直ぐにやってくる。

それを目の当たりにすると人に有らざるものかと錯覚する。

 

組み手をした上で感じた事も当然ある。

 

拳の重さ。

体を覆う筋肉の鎧。

踏み込みの速さ。

技の流麗さ。

 

そこから見受けられるのはたゆまぬ研鑽。

何度も何年も積み重ねてきた努力の形。

 

しかし一番驚いたのはそこではなかった。

 

普通は攻撃の為に何かしら策を浮かべる。

しかしあの人に策は無し。

ただ最短距離を突き抜ける。

 

こちらの攻撃など気にせずただ進む。

技術も駆使した上で真っ直ぐに進んでいく。

一回でも失敗すれば致命傷になる。

しかしそんな倒される危険性も顧みず気持ち良いほど真っ直ぐに進む。

 

ただ相手を倒す為に。

勝利の二の字の為に。

茨の道をあえて選ぶ。

 

それが長枝さんなのだ。

 

引き金を引き、刃を振り、砲弾を放つ。

血を撒き、骸を踏みつける。

 

多くの兵士による圧迫。

人の海。

数の暴威。

 

自分達が血に飢えている事を隠して。

自分たちも同類であることに目を逸らして。

敵という免罪符を手に相手に死をたたきつける。

 

恨み。

悲しみ。

怒り。

喜び。

 

感情によって固まる敵を見たときに思った事。

それは戦いで生まれた一つの民族である。

 

大群になった兵士を見て思った事。

それは戦いで生まれた一つの武器である。

 

それが素直に抱いた感想であった。

 

……そんな人間とこちらも戦ってきた。

 

確かに俺には折る覚悟は無い。

ただ殺す覚悟は有る。

 

根性は有る。

負けたくないと言う意地も有る。

 

一撃で倒す。

無理ならもう一度放つ。

 

後ろに回れば首を折る。

武器を使うなら首を狙う。

 

紅い噴水を撒き散らしてもらう。

ついでに命も散らしてもらう。

 

俺は殺意と気迫を込めて構えなおした。

 

「何だ、この気迫は……」

 

相手が僅かに下がる。

少々笑みを浮かべる。

 

先ほどまで優勢で笑みを浮かべていた男が顔を崩しているのだ。

それを考えれば楽しくて仕方が無い。

 

踏み込む。

地面にヒビが入る。

自分を中心にした場所。

制空圏が瞬く間に出来上がる。

 

「この制空圏に踏み込んだら落とす」

 

そう言ってまた踏み込む。

相手との距離を縮める。

 

「くそっ……」

 

相手が毒づいて距離をとる。

無理も無い。

何故なら腕を伸ばせば制空圏に届く。

 

「ハッ!!」

 

俺が踏み込む。

 

「かあっ!!」

 

相手が逃げる。

 

この組み合わせの行動を何度となくやっていくと……

 

そのうち相手の逃げ場は無くなった。

当然の話である。

次にこちらが動けば確実に一撃を与えられる。

 

「チクショウ!!」

 

それを感じ取ったのか。

意地になって叫びながら拳を繰り出す。

しかしそれは悪手。

危ないと思ったら、攻撃の手段が無いのならば。

 

「フッ!!」

 

そこは素直に後退するか降参したほうが良い。

俺はハッケイで拳を弾く。

相手に隙が出来る。

 

「ちっ!!」

 

相手が防御をする。

 

しかし遅い。

俺は弾いた瞬間に動いていた。

すでに足を上げている。

 

「ハアッ!!」

 

一気に深く踏み込む。

地面にヒビが入る。

 

「くそぉ!!」

 

相手が防御しようと腕を交差する。

それより速く技を繰り出す。

 

繰り出す技は猛虎。

 

腕が腹に当たる。

相手がくの字に曲がる。

俺は大きく息を吐き出す。

相手が目を反転させて意識を手放した。

 

「勝負の最後はやはりあっけないもんだな……」

 

率直な感想を呟く。

 

相手を見据えて演技かどうか確かめる。

しっかり確かめた後、構えを解く。

最後に伸びをする。

 

そして俺は公園を出て行った。

 

風に当たる中で結果を反芻する。

 

とりあえずは勝利した。

この野試合という空気に慣れていなかった事。

死角からの攻撃を得意としていた事。

 

それを加味すれば強い相手だった。

仮に慣れていたり、あのスタイルと戦っていたらすんなりといけていただろう。

 

「野試合って奴も悪くない……」

 

自然と口の端が持ち上がる。

ただただ嬉しいと感じる。

新しい発見の喜びが体を突き抜ける。

ここにはまだまだ強い相手が居る確信が生まれる。

 

但し一つ疑問が残っている。

 

「アイツとか言っていたが一体何者だ?」

 

俺はその疑問を胸に公園を抜ける。

そして家に向かって歩き出すのだった。

 

これがとんでもないお祭りの始まりとは知らずに……。




今回でワンコとか京とかだって武術家もしくは武闘家なのに襲撃されて無いじゃんと思う方々へ。

川神院という場所が有名な事。
天下五弓という称号により査定する必要が無い。

その理由から

川神百代
川神一子
椎名京

は除かれています。

原作時間軸では無いのでこの時点ではいないクリスとまゆっちも除かれています。
鍛えていない大和と冬馬も除かれています。


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原作時間軸 二年生編
『新2年生 S組転科 野試合』


今回からようやく原作時間軸です。
少しづつ番外編のキャラとの関係とかも考えていきます。
とりあえず今回は原作キャラと野試合を書いてみました。


冬も過ぎて春の桜が舞う。

俺はそんななか、校門に居た。

何故ならば今年からの入学生。

つまり新一年生を入学式のため案内しているからだ。

 

「どうも、コレが体育館の案内ですー」

 

満面の笑顔で呼びかける。

誰も彼もが初々しいものだ。

去年の自分はまだあんな感じではなかった。

 

入学初日から人脈構築に精を出す。

その翌日にはバイトに精を出す。

そしてその二ヵ月後には株の売買に精を出していた。

 

どう考えても先日まで中学生だった人間の所業ではなかったな。

 

まあ、それもこれも『あいつら』と見合える人間になりたかったからだ。

 

 

英雄。

冬馬。

モロ。

 

いまや九鬼財閥の経済面で大きく貢献している英雄。

 

その手腕は大人でさえ太刀打ちは出来ない。

俺はクラウディオさんを通して助太刀をしてきた。

それも有って九鬼財閥はここ一年で頭角が現れた事業もあった。

 

冬馬も葵紋病院で医学の勉強に勤しんでいるらしい。

 

あいつの頭脳が有れば医者になることは可能だろう。

医学生になるときに医大から引く手数多になりそうだ。

英雄の方も医療事業では協力しているらしい。

 

そしてモロ。

 

ユキをいじめから助けるほどの実力を身につけている。

更にパソコン以外に色々な方向へアンテナを伸ばしているらしい。

今の所は演劇に興味が有るようだ。

 

まあ、モロとは同じクラスだったから速くに再会をしていたが。

 

あいつらが成長しているというのに俺が変わらないままでは締まらない。

 

だから俺は努力をした。

 

株で資産を手に入れた。

師匠に出会って鍛錬をした。

知識をかき集めて博識になった。

人脈を作って人と繋がった。

 

それほどやってもまだ足りないと感じてしまう。

 

しかし、それを聞けばきっと笑うだろう。

『見合わない』といえば怒るだろう。

 

俺は今のままでも顔を合わせようと思った。

四年ぶりに沢山話をしようと思った。

だから俺は先月新二年生になる前にS組への転科届けを出した。

 

試験をした結果合格。

今日のこの新一年生達を送り届ければ職員室に呼ばれる。

そして晴れてS組になるわけだ。

 

……といい加減物思いに耽るのは止めよう。

 

新一年生たちへ真剣に応対してやらないとな。

そして顔を覚えるんだ。

ゆくゆくは俺の人脈に加えよう、そうしよう。

 

そう思って次の人に渡す為に振り向く。

すると急いでいるのか走ってくる人がいた。

 

当たる。

避けられない。

それが脳裏に浮かんだ。

 

俺は受け止める事を選ぶ。

腰を落とし相手を見る。

配布物を地面に置き準備が出来た。

 

速度が上がる。

段々と迫ってくる。

 

俺はそこで力を入れた。

 

当たる。

後ろに下がる。

衝撃を殺して被害を最小限に留めた。

 

相手の突撃が止まる。

それと同時に相手が離れた。

 

相手が顔を上げる。

その顔を見て俺は驚いた。

 

何故ならそれは懐かしい顔の人だったから。

一年前、北陸で会ったあの人だったから。

 

「由紀江さん!?」

 

俺は驚いて声を上げる。

まさかこんな所で会えるとは思っていなかったからだ。

 

「香耶さん!?」

 

すると由紀江さんも目を回して驚いている。

アレから変わっておらず思わず笑みがこぼれる。

 

「一体どうして此処に?」

 

疑問が浮かんだので聞いてみる。

地元の北陸方面でも高校はあったはずだろう。

 

「あ…新しいところで友達百人計画をしようかと」

 

理由を聞いた瞬間こけそうになる。

友達百人とはまた懐かしいフレーズだ。

 

「と、とりあえず案内の方はコレなんで気をつけてください」

 

俺はチラシを渡す。

苦笑いしながら渡してしまったのは仕方が無い。

 

.

.

.

 

俺はそれからというもの真面目に取り組んでいた。

新一年生達に配布物であるパンフレットを渡し終えたら職員室に呼ばれた。

 

「で……何で呼ばれたか分かるよな?」

 

目の前で宇佐美先生が聞いてくる。

宇佐美代行センターにはいまだにお世話になっている。

 

「はい、転科についてですよね」

 

俺は質問に答える。

その答えが正しかったのか、宇佐美先生は頷いた。

 

「本来なら授業開始日に顔見せなんだけど、今から来てくれない?」

 

ほうっておくと手を合わせながら頼み込むくらいの低姿勢。

こちらとしてはこう来られると断れない。

 

「別に良いですよ」

 

別に予定が埋まっているわけでもなかったので快諾する。

 

「いや、助かったわー、九鬼とか今日丁度居たんだよ」

 

頭をかきながら言ってくる。

確かに英雄が居るならその日にやっておいたほうがいいからな。

 

「じゃあ行くか」

 

椅子から立ち上がり職員室を出る。

 

宇佐美先生に案内されてS組へ向かう。

廊下に進む間に見知った顔がちらちらと見える。

 

「俺が先に入るから後で来てくれ」

 

宇佐美先生がそう言って扉を開ける。

そして閉めて一拍置いてから声が聞こえた。

 

「お前ら、今日はちょっと特別に転科してきた生徒の紹介するぞー」

 

その後に聞こえるのはどよめきではなかった。

見下しているかのような発言がちらちらと聞こえる。

まあ、無理も無い。

なんせ普通のクラスであるE組からS組へ転科してきたのだから。

 

「まあ、お前らのそういう反応は分かってるけどもう決まった事だから」

 

見下している発言を華麗に流す。

普段は『ヒゲ』とか呼ばれているけどこうしてみるか確かに敏腕である。

 

「おい、入ってきて良いぞ」

 

そう言われたので入って行く。

とりあえず俺が入ってやる事は一つ。

見知った顔が何処に居るかを調べる事だ。

 

「なんと、香耶ではないか!」

 

英雄の声が聞こえる。

入り口に一番近い所を選ぶとはあいつらしい。

その後ろにメイドの人がいる。

 

「おやおや、遅い到着ですね」

 

トーマの声が聞こえる。

中央から左よりの席にいる。

その横に準。

その後ろにユキ。

万全の布陣が組まれていた。

 

「あの男、葵君や九鬼とも仲良しだったのか……」

 

何処からともなく小さな声が聞こえる。

よく見ると去年の夏ごろに助けた女の人。

確か名前は……不死川心だったな。

着物を綺麗に着こなして優雅なたたずまいだった。

 

「で、お前ら質問有る?」

 

宇佐美先生が質問を促す。

すると一人の奴が手を上げてきた。

 

「何でE組レベルなのに此処にきたのかな?」

 

目が見下している。

明確すぎて鼻で笑ってしまいそうだ。

 

「普通のクラスでしたがS組に匹敵する学力があるからです」

 

純粋にコレが理由だ。

正直此処に居る相手で学力で勝てないのはトーマ、英雄ぐらいだ。

しかし相手がその事を聞いた瞬間大笑いしていた。

それに釣られて他のやつらも笑い出す。

 

クラスの大半が爆笑に包まれている。

正直耳障りだ。

こんなにも見下すものかと思うと反吐が出る。

しかし流石に苛立っていたのか、重い腰を英雄が上げた。

 

「黙れ、貴様ら!!」

 

その一言でクラスが静まる。

 

「笑うでないわ、この男がEからSに来た事は紛れもない事実!!」

 

英雄が怒りを含んだ声で言うとそれに続いてトーマを話し始める。

 

「全く……その通りですよ」

 

トーマの目がつり上がっている。

普段は冷静なトーマが怒っている証拠だ。

 

「あなた方は自分の順位しか見てませんが彼の順位を見た事が有りますか?」

 

あくまで声は冷静を保っているがかなり怒っている。

大笑いした事がそんなに癇に障ったのだろうか?

トーマの言葉に全員がばつの悪そうな顔を浮かべている。

 

「彼の順位はあなた方の多数を確実に超えています」

 

そしてトーマのこの言葉を聞いた瞬間に俯いた。

つまり大笑いしている側の立つ瀬が無いというわけだ。

 

「はいはい、成績に質問はもう止めて別の事聞こうぜ」

 

宇佐美先生が話を変える事を促す。

すると今度は準が手を上げていた。

 

「で、なんでS組に来ようと思ったんだ?」

 

確かにその疑問はあるだろう。

別にS組じゃなくても色々なところに転科は出来たはずだ。

 

「切磋琢磨できる奴らがいるこっちの方が良いから、それが理由だな」

 

無難な所で質問に答える。

 

ただ、もう一つ理由があることは有る。

しかし全員の前で言うのは少々恥ずかしい。

『お前らがいるからここが良かった』など言えるはずも無い。

 

「で、他には無いのか、無いなら終わらせるぞー」

 

宇佐美先生が打ち切ろうとする。

流石に聞く事もあまりないのか、誰も手を上げずに紹介は終わった。

 

「席はそうだな、不死川の近くが開いてるからそこで頼むわ」

 

そう言って席を指差す。

丁度準やトーマとも近い席のようだ。

 

「よろしく頼む」

 

そう言って俺は席に座る。

回りの席を見る、すると。

 

トーマが斜め前。

準が斜め後ろ。

ユキが準の隣。

そして前に不死川さん。

 

うん、結構楽な場所だな。

 

「まあ、コレで終わりだから、コイツの紹介だけだからもう帰って良いぞ」

 

そのように宇佐美先生が言った瞬間ぞろぞろと教室を出る。

 

俺もこれ以外に用は無いから出よう。

 

英雄はあっという間に会議の為出て行った。

無論メイドの人を従えていた。

 

準とユキが話をしている。

トーマがこちらに近づいてきた。

 

「キョーヤ、私たちは今から少々七浜までいくのですが一緒にどうですか?」

 

トーマからお誘いを受ける。

しかし残念な事に今日は予定されて居た野試合の日。

アレからどうやら野試合の相手が了承してくれたらしい。

それで日にちが今日になっていた。

 

あと一日ずれていればと少々俯いてしまう。

 

「スマン、今日は用事があるんだ」

 

手を前に出してダメだと示す。

それを見てトーマはさっき俯いていた事で真剣に悔しがっているのを分かってくれたのか、笑顔だった。

 

「そうですか、なら後日またいきましょう」

 

何年ぶりかに見る笑顔は変わっておらず輝いていた。

そして俺は教室から出ていき家路へ着いた。

 

.

.

.

 

家に帰って数時間後、電話がかかってくる。

どうやら相手が勝負の場所に向かっているので早く七浜に来るよう長枝さんに呼ばれた。

 

数分後七浜の公園に着く。

するともう長枝さんが相手の人達と一緒にいた。

どうやら相手の人と話しているようだ。

通る声をしているため少々距離を取っていても聞こえる。

 

「わざわざ有難うな、戸叶に信彦」

 

長枝さんは今回の対戦相手にお礼を言う。

 

「あんたが弟子を取るなんて驚きだよ、で俺はあいつと戦うのか?」

 

こっちを向いて男の人が長枝さんに問いかける。

確かに俺かそれとも別の人か聞いてないと気になるよな。

 

「いや、違うよ」

 

長枝さんの答えにサングラスを掛けた男の人が疑問符を浮かべている。

 

「じゃあ誰と戦うんだよ?」

 

恐る恐るといった感じで問いかける男の人。

その問いに対して長枝さんは満面の笑みで答えていた。

 

「決まってるだろ、俺とだよ」

 

その言葉の瞬間、男の人の顔が青ざめる。

 

「ははっ、嘘だよ、あいつで合ってるよ」

 

反応が面白かったのかすぐに嘘だとばらす。

俺は今日で二回も戦うのか、かなり辛いだろうな。

 

「ハア、良かったぜ……」

「すまんすまん、お前は後だから離れようか」

 

そう言って長枝さんとその人は座る。

 

「じゃあ始めてくれ」

 

長枝さんが言うとまず一人目の人が前に立つ。

 

格好はまず帽子を被っている。

そして空手着の上の方を着ている。

下は短パン。

腕は拳から肘の手前まで隠れるグローブ。

足にはレガースが着いた靴を履いていた。

 

「私の名前は戸叶、スナイパー空手の創始者でありスナイパー空手の全国的普及を目指している」

 

適当に聞き流しておく。

こちらとしては全く興味の無い話だからだ。

 

「つまり……私が勝つ事は強さの証明であり普及の最大の原動力である、挨拶は終わりだ」

 

長い挨拶が終わった。

正直あくびが出るような内容だと思えた。

 

「聞き流していたようだが別に構わないさ、コレは私にとって挨拶であり儀式だからね」

「そいつはどうも」

 

そう言ってこちらは息を吐き出し体勢を整える。

 

「儀式も終わった事だからな……今から講座の始まりだ」

 

その言葉を相手が言った瞬間同時に構える。

戦いの始まりだ。

 

「ハッ!!」

 

先制攻撃を狙う為に俺は踏み込む。

すると一瞬だが背筋へ悪寒が走る。

俺が足元を見るとその正体が分かった。

 

「気づいたか……」

 

相手の足が俺の踏み込む前の膝を狙っている。

 

「ちっ!!」

 

足を僅かに下げて踏み込みを浅くする。

威力は乗らないがあのままにしていたら嫌な事が起こる。

そんな予感がした。

 

「残念だったな、こちらからは追いかけない」

 

踏み込みの浅くなった一撃をバックステップで避ける。

こちらが下がったのを良しとは思わず、攻撃をしてこない。

どうやらあくまで狙うのはこちらの踏み込み。

それからの攻撃を軸にした独自の戦い方。

 

「君の踏み込む瞬間を私は狙う」

 

高らかな宣言をしながら相手を呼吸を整えている。

こちらのリズムを確かめている。

 

「ハッ!!」

 

こっちとしてはチャンスを積極的に掴みにいくしかない。

相手は攻撃をしてこないのだから。

しかしまた足を狙っていた。

 

「その足を狙撃して君のバランスを崩す」

 

こちらが引かないといけないとは思わなかった。

宣言どおりこちらの足は蹴られていただろう。

バランスを崩す保証は無いだろうが面倒な事は明らかだ。

 

「更にそこへ攻撃を叩き込み相手を打倒する、それこそが『スナイパー空手』だ!!」

 

綺麗に全ての種明かしをしてくれる。

ただこれはそれなりに厄介だ。

浅く踏み込んではいけない。

 

考えられる対処は有る。

 

相手に狙撃をさせて踏み込みの力にする事。

深く踏み込んで狙撃ポイントをずらす事。

しかしここで閃いた。

狙撃を気にする事も無く一撃を加える技はあったじゃあないか。

 

「カアッ!!」

 

俺はその閃きに任せ三度目の突撃を開始する。

 

「次こそ捉える、食らえ!!」

 

相手の意識が俺が踏み込むであろう場所へと集中する。

 

「ハアッ!!」

 

こちらが息を吐き出すと同時に相手が動く。

相手は三度目の正直といわんばかりに蹴りを繰り出す。

 

しかしここからが俺の考えが始まる。

踏み込む瞬間に体を回転させて背を向ける。

 

「なっ!?」

 

後ろ向きになった事で相手の蹴りはからぶる。

それから一拍の間が空いて俺の踏み込みが完了した。

 

「ハアアアアア!!!」

 

咆哮と共に技を繰り出す。

繰り出した技は鉄山靠。

 

相手は避けられず直撃を食らう。

そのままいくらかの距離を飛んでいき勢いが止まった時。

すでに相手の意識は遠のいていた。

 

.

.

.

 

吹っ飛んでいく戸叶を見た時試合が終わったと確信できた。

練習の組み手より踏み込みを深くしていた事。

あいつが自分なりに頭を捻って戦った事。

俺はその部分を評価して頷いた。

 

それを見届けた信彦が戦闘体勢の服装になる。

 

「随分と様変わりしてるじゃないか」

「まあな、アレから少々鍛えたりもしていたんだよ」

 

しかし目に飛び込んできたのは俺の知っている服装ではなかった。

ポケットがあまり無く手甲が見える。

どちらかといえば防御面に偏らせた形になったようだ。

 

「お前さんの事だからギミック性を強くすると思っていたよ」

 

俺は率直な意見を返す。

バッグも背負わずに戦うのは驚き以外の何者でもなかった。

 

「それも良いが結局重さがあまり変わらないんでな」

 

そう言って筒を取り出しポケットを指差す。

なるほど花火をポケットに入れておいて、手袋に火薬を仕込んでいるのか。

 

「まあ、芽が摘み取られない程度にやってあげてくれ」

 

俺はにこやかに言ってやる。

一度の負けでおしまいになるような奴ならそれまでだろう。

俺としては勝って欲しいのが本音だがそれに応えるのもあいつ次第だ。

 

「随分と過大評価してくれるんだな」

 

信彦が肩をすくめて言ってくる。

三年経ってあいつにちょっと似てきたのか。

昔は似合わなかったが少しはさまになっている。

 

「謙遜するなよ、あれから強くなったんだろ?」

 

そう言うと不敵な笑みで返してくる。

 

さて……あいつはどうやって信彦の奴と戦うのだろうか?

俺の場合は強さがかけ離れているから正攻法でも問題ないがあいつは違う。

俺は今回思いつく限り特殊なタイプを選んだ。

しかも強さもそこそこの奴をだ。

 

戸叶。

 

『スナイパー空手』と言う独自の拳法で戦う男。

足の運び方に気を配っておかないと苦戦する相手だ。

まあ、勝ち方としては申し分ないから別に良い。

コレであいつも踏み込みの重要性に気づいただろう。

 

深道信彦。

 

対戦相手に恵まれなかった深道ランキング上位ランカーだった男。

花火を使うトリッキーな戦い方は『元七位』と言う肩書きにふさわしい。

正直な話、初めに信彦と戦わせてやってもよかった。

そしてあいつには黙っているが企画している野試合の相手の中でも一番強い。

 

俺は座り込んであいつを見届ける事にした。

 

.

.

.

 

 

「じゃあやろうか?」

 

花火の筒を持ちながら近づいてくる。

この人が二戦目の相手か。

 

格好はポケットがついたジャケット。

とはいっても武装しているのか重々しい雰囲気がある。

レザーアーマーといった感じの印象だ。

肘と膝にはレガース。

手袋は肘までガッチリとしたグローブ。

完全に固められた武装はそれだけで威圧感がある。

 

俺は構えて相手の出方を見る。

 

考えるのはあの花火での目晦まし。

警戒しておかないと痛い目にあう。

そんな予感が背筋を通り抜けた。

 

「イッツ・ア・ショータイム!!」

 

そう言って花火を爆裂させる。

目を覆う。

しかし想像以上の閃光が身を包んだ。

 

「さて、俺のステージだぜ!!」

 

相手の声が聞こえる。

しかし周りは全然見えない。

それだけ閃光が強烈だった様だ。

 

「くそっ、目が……!!」

 

閃光によって目はチカチカとしている。

必死に目を凝らすとどうにかぼんやりと相手の影が見える。

相手の振りかぶるモーションが見えていた。

 

「ハッ!!」

 

声から一拍遅れて拳が飛んでくる。

 

「グッ!!」

 

受け止めるが僅かにガードが弾かれる。

速いだけではなくて重い。

耐える事は出来るがなかなかの実力者のようだ。

 

「自力の向上と武装……三年前の俺ではない!!」

 

そういうとぼんやりと見える視界の中に拳が見える。

 

「ハアッ!!」

 

右フックが襲い掛かる。

 

「まだまだいくぞ!!」

 

その一言でラッシュのコンビネーションが始まる。

 

右ハイキック。

左ストレート。

右ローキック。

左ミドルキック。

右フック。

左アッパー。

 

「ちっ!!」

 

絶え間なく続くコンビネーションを受け続ける。

少しずつ視界が晴れていく。

 

「ハアッ!!」

 

相手は前蹴りを放つ。

 

「くそっ!!」

 

受けて距離をとる。

すると僅かに後退した隙を狙っていたのか。

晴れて視界に移ったのは飛び蹴りによって見える靴底だった。

 

「鼻血の海に沈みな!!」

 

頭が跳ね上げられる。

とてつもなく重い衝撃。

 

「ガアアアッ!!!」

 

何とか叫んで気合を奮い立たせる。

僅かな合間、必死になり踏み込む。

そしてその必死さが実ったか、腹部へ『猛虎』を叩き込む。

 

「ちっ、決めさせてくれよ!!」

 

そう言って相手は数歩下がっていく。

どうやらなんとか浅い一撃が入ったみたいだ。

しかし手応えとしては踏み込みもゆるい未熟な一撃だと感じる。

そして俺は蹴りで揺れた頭をはっきりさせる為に距離を取った。

 

頭がグラグラしている。

かなり良い蹴りだった。

意識を刈り取るには最適のキックだろう。

ただこれ以上の蹴りを俺は知っている。

そのおかげで耐えられた。

学習をしていたから耐えられた。

 

そう考えた時ピンと来た。

 

長枝さんは相手を多く用意する事でいろいろなタイプの相手に慣れさせるつもりだったのだ。

そして試合中で自分に何が足りないか、また重要な要素を教える為に相手を選んでいた。

 

俺はようやくその事に気づいたのだった。

よく考えればこんなトリッキーな相手を二人も用意しているのだ。

何の考えも無しにこんな相手と戦わせるわけが無い。

 

「さて……トドメさしにいくぜ、覚悟は出来てるか?」

 

そう言って筒を引き出す。

フィンガースナップをする為に腕を掲げる。

 

あれが閃光を放つための予備動作。

そのほんの僅かな隙を狙う。

目を閉じても一瞬眩んでしまうだろう。

その時あの飛び蹴りを喰らっては意味が無い。

 

「フンッ!!」

 

俺は引かずに攻めの道を選んだ。

俺は相手が動く前に全力で深く踏み込む。

一気に相手の懐を狙いに行く。

 

その速さは相手を戸惑わせるには十分であり、その深い踏み込みは相手にとって脅威

 

であった。

相手はその速さを危険視したのか花火を投げ捨てる。

そして迎撃の構えを取ったのであった。

 

「はあああああ!!」

「オラアアアアアアアアアアア!!!」

 

覚悟を決めたのか。

大きな声で吼える。

勢い良く足を振り上げてこちらの攻撃に合わせる。

 

こちらが深くに踏み込む。

倒すために。

最短距離を一気に狙ってやった。

 

「『裡門頂肘』!!」

「何……だと!?」

 

俺は踏み込む際に相手にぶつかるつもりで向かった。

そのせいで、相手の蹴りは途中で当たってしまい芯を外された。

芯を外された分威力に差が出来てしまった。

その威力の差は相手は俺の意識を刈り取る事も蹴り飛ばす事も出来なかった。

 

その蹴りは残酷な結果を呼ぶ。

勝利へ僅かに届かずに無情にも俺の肘だけが腹部にめり込んでいた。

そしてその一撃は相手の意識を外へと追いやったのであった。

 

.

.

.

 

あの後長枝さんが二人を揺さぶって起こす。

二人は虚ろな目をしていたがどうやら歩く事はできるようだ。

二人をどうにか誘導して帰路へつかせる。

 

それから少しして俺に近づいて隣に立つ。

そして口を開き一言言ってきた。

 

「お前、この野試合の意図に気づいたか?」

「ええ、二連戦という事を考えると効率的な戦い方および引っ張り上げる為の戦いだと感じました」

 

質問にたいして自分なりに感じた事。

自分の頭の中の答えを言う。

 

「良く気づいたな、その通りだ」

 

満面の笑みで答えてきた。

どうやら答えが合っていたのが嬉しかった様だ。

 

「足りないものや心構えに気づかせる事、そしてそれなりの強めの奴を選んで少しでも

 

強さを引き上げる為にあいつらを選んだのさ」

 

今回の相手を選んだ基準を言ってくる。

弱い相手なら成長できないという事。

そしてそれを促す為にあえて二人の相手を連れてきたという事のようだ。

 

「それで次の相手は誰なんですか?」

「おお、やる気出しちゃって」

 

俺が次の相手について聞くと長枝さんは笑顔で茶化してくる。

決して無駄ではないという事が分かった。

それならばやる気もあがるというものだ。

 

「次はケアリーって奴だな、重量級の相手だ」

 

目星をつけた相手を言った後に相手の写真を見せてくる。

力士のような大きい相手だ。

『気』を通すのが難しそうだ。

ただ速度が無いのならば勝てる可能性は上がるだろう。

 

「まあ、お前なら勝てる相手だからガンバリな」

 

考えを張り巡らせているとそう言って長枝さんが肩を叩く。

そして分かれ道でお互い家路へ着くのだった。




次回はオリキャラ出すのと原作キャラとの決闘を書こうと思います。
これからは更に積極的に原作キャラも出そうとも思っています。
何かしらの指摘する点がありましたらお願いします。


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『友の罵倒 決闘の始まり』

説明部分を加えたため前半と後半では人称が変わっています。
あと、組み込むはずだった決闘は次回に持ち越させていただきます。
申し訳ありません。


入学式から一週間も経ったある日のこと。

俺は2-Sではなく1-Cに居た。

 

理由は一年生との交流。

由紀絵さんという顔見知りが居る為にやりやすい事から一年生交流の本拠地にこのクラスを選んだ。

 

「あの、何で先輩は一年校舎に入り浸っているんですか?」

 

一人の女の子が話しかけてくる。

 

確か名前は……大和田(おおわだ)伊予(いよ)ちゃんだったかな。

 

格好は後ろで髪の毛をまとめている。

背丈は由紀江さんに比べて

可愛い子ではあるがベイス好きで勝敗によって機嫌が左右されるのが玉に瑕だ。

まあ、性格が悪いとかではないから問題ないんだけどね。

普通に誰だって自分の好きなスポーツでやな事があれば機嫌悪くなるのは普通だろうしな。

 

「何でって……そりゃ後輩とかとも仲良くしたいからだよ」

 

理由なんて単純なものだ。

人脈を作るには己から行動するのが定石。

一年校舎に入り浸っているのは去年の間に今の三年生はほぼ全員関係を作っておいたからだ。

 

「でもここ以外の他のクラスに行ってるのは見ませんよ」

「それは別の休み時間か放課後に行っているからだね、昼休みはもっぱらここさ」

 

大和田さんの指摘は軽く受け流す。

放課後の時間も利用して作っている。

別の休み時間も利用している。

もっぱらここに来る理由は本拠地にしているから。

そして……『友達百人計画』を立てている由紀江さんが心配だからだ。

腹話術はしなくなっているがいかんせん人との関わりあい方が下手なんだろう。

大和田さんと話せるようになったのも俺が訪れてきっかけが出来てからだ。

もう一つ大きなきっかけさえあれば良いんだがな。

 

「あの、キョーヤさん?」

 

俺がうんうんとしているのを見て不思議に思ったのだろう。

由紀江さんが声をかけてくる。

 

「大丈夫だよ、ちょっと考え事をしていただけさ」

 

『あんたの友達関係がぎこちなくて頭を悩ませてる』など言えるはずも無い。

俺はごまかす為に考え事と言って席に座る

その時に『頑張れよ』というのと『気にするな』の意味合いを込めて由紀江さんの肩を叩く。

 

そんな時音を立てて扉が開く。

入ってきたのは……

 

「1-Sの武蔵小杉か……」

「知っているんですか、先輩?」

 

体操服にブルマーの女の子。

体育の授業ではなかったはずだが……

いかにもきつい性格をしている奴だと言う印象を受ける。

 

「俺はもう調べて今年の一年は名前も顔も全員把握しているんだ」

 

大和田さんが言ってくるが俺は当然のように返す。

人脈を作りたければ基本的に考えて名前と顔の一致はしておくべきだ。

趣味やそいつの嗜好も当然調べ上げていくがまずはそれが最優先だからね。

 

「初めまして、澄漉先輩」

 

武蔵が俺の目の前に来て話しかけてくる。

ただその話し方には何か挨拶以外の意味合いを込めたニュアンスが有った。

 

「どうも、初めまして……何かただ事じゃあないようだね、その目を見ると」

 

礼儀の良さとは裏腹に睨みつけてくるような視線。

それを見たらただ事ではないと分かる。

感情としては怒りというのが妥当だけれど、俺はコイツに怒られるような真似はしていないはずだが?

 

「貴方は恥ずかしくないんですか?」

「何がだい?」

 

いきなり変なことを言ってくるが一体どういう事なんだ?

どういった理由でそのような言葉を問いかけているのかを知りたい。

 

「所属しているのがS組という特別なクラスなのに普通極まりないC組に出入りして誇りは無いんですか?」

 

なるほど、そういう事か。

こちらからすればそれはS組の価値観であって俺には関係が無い。

 

「逆に聞くが、誇りなんてもので人との繋がりをどうにかできるのかい?」

 

誇りでそれができるならありがたいものだ。

 

それにS組に対して言うのならトーマだって人脈を増やしてはいる。

あいつにも言うべきだろう。

ただ、コイツの場合は俺が目に付いたからだ。

それにトーマに言えば女性の人達からめちゃくちゃに言われる。

だからリスクの少ない俺の所に来たんだろう。

 

「それでも守るべき一線はあるでしょう」

「それはなんなんだ?」

 

守るべき一線なんてこちらとしては無いものだと思っている。

例外的には親友の件が有る。

それにどうしても困っている奴がいたら見捨てられない。

だから俺としては答えが見付からないのだ。

 

「劣等とまじわらないって事ですよ、先輩」

「お前……人を貶めるのはどうこういっても仕方ないが言うに事欠いて劣等だと?」

 

今の俺はきっと青筋を立てているだろう。

S組の選民思想。

またはS組に限った事ではないが差別的な思想が俺は気に食わない。

だからそういう言葉にはことさら敏感なのだ。

 

「そうです、貴方と友達でいようとする九鬼先輩や葵先輩の頭を疑いますよ」

「テメェ……」

 

聞いた瞬間ダメだと感じた。

抑えられない。

俺個人への批判ならまだ良かった。

でも英雄とトーマ達のことを言われてはもはや我慢は出来ない。

 

「端的に言うと貴方1人がS組の恥をさらしているんですよ、そんな先輩に引導を渡してあげます」

 

意地の悪い笑みを武蔵がしてくる。

そしてそのまま武蔵の奴がワッペンを叩き付ける、川神名物『決闘』か。

つまり売られた喧嘩ってわけだ。

 

「どうせやる勇気も無いんですよね、せんぱ……」

 

間髪入れずに叩き付ける。

こちらを甘く見すぎだ。

こちらが戦えない人間だとでも思っていたのか。

 

「あとでごちゃごちゃ抜かすなよ、お前は俺を怒らせたんだからな」

 

睨みつけて言ってやる。

やる勇気はあるさ。

ただ、一年生で勝てる相手なんて居るわけがない。

二年生、三年生でも『たられば』あってこそのものになってしまうだろう。

だから今まで基本的に決闘はしてこなかった。

 

「キョーヤさん!!」

「香耶先輩!!」

 

由紀江さんと大和田さんが心配そうな声を上げる。

由紀江さん……あんたの剣を回避した人間がそう簡単に負けるわけが無いだろうに。

まあ、優しい人間だから心配するのも無理はないか。

 

「ふふ……威圧しようたってこのプレミアムな私には通用しないわ」

 

少々武蔵が苦い顔をしてそんな言葉を言う。

 

威圧?

この程度で?

鼻で笑ってやりたくなるな。

俺の威圧はまだまだこんなものじゃあない。

コレは憤慨によるものであり、戦いの時に出すものとはまた違うのだから。

 

「ルールはどうするんだよ、何がご希望だ?」

「『戦闘』による決闘でいかせて貰いますよ、先輩」

 

馬鹿な奴だ。

まだ別のもので勝負したほうが勝ち目があるだろうに。

井の中の蛙だというのを思い知らせてやる。

大体身体的に考えて差が有りすぎる。

 

179cmの身長と84kgの体重という俺に対して、武蔵の奴は調べ上げた情報によると体重こそ分からなかったものの身長は161cmとなっている。

 

つまり体重差は不明だ。

と言っても10kgほどは開いているだろう。

そして身長差は実に18cm。

 

その差を埋めるものは確かに有る。

 

『鍛錬の量』

『実戦経験』

『才能』

『相性』

 

……きっと武蔵が勝てているものがあるのならば『才能』ぐらいだろう。

しかしそれだけでは勝てるわけが無い。

それこそとてつもない類の『才能』の持ち主で無ければ。

こちらが何年も積み重ねた努力や経験は超えられないだろう。

 

「OK、ルールや日程はお前が決めた上で先生方に伝えとけ」

「S組に相応しくないって事を知ってもらいますよ、先輩」

 

そう言って出口へと向かっていく。

見たところ少々手汗をかいているな。

やせ我慢をしたところで見抜けるものだ。

この程度で怖がる奴が俺に勝てるはずも無い。

 

「試合当日、無様にも這()い蹲(つくば)らせてやりますよ」

 

そういって武蔵が出て行く。

……おっと、ふたりが驚いているって事は凄い顔になっていたかもしれないな。

 

「先輩、幾らなんでも頭に血上らせすぎなんじゃ……」

「大和田さん、俺はね……自分の悪口は許せても友人の悪口は許せない口なんだよ」

 

大和田さんがちょっと恐る恐る声をかけてくる。

確かに傍目から見て間髪いれずに叩きつけ返せばそう思うだろう。

いたって普通の反応だと俺は思っている。

売られた喧嘩を買ってやっただけだ。

 

「でも一年生をしめているんですよ、それに先輩って強いんですか?」

 

その質問に対して微笑で返す。

聞かなくても戦う時に明らかになるから待っていて欲しい。

 

「キョーヤさん、それで勝算は?」

「心配無用さ、それに相手が売ってきといて断ってもまたなんか流布されそうだしね」

 

手を振って大丈夫だと示す。

それに今言ったようにああいった奴は噂を立てたりする場合がある。

それをさせないためにもあの場では即受けが良いのだ。

 

「それに断ったらここまで飛び火するかもしれない。そうなったら由紀江さんと大和田さんにも迷惑だろ?」

 

ただ親しくしていただけで由紀江さんや大和田さんを巻き込むのはこちらはゴメンだ。

だったらやはり断るというのは間違いである。

 

「それでも自分がやるなんて……」

「そんなに心配しなくても良いよ、死ぬわけじゃああるまいし」

 

心配する声を上げるが問題はない。

慢心ではなく純粋に負ける気がしない。

殺すほどの度胸があるとも思えない。

あの程度の怒りに手汗をかいているようではまだまだだ。

 

「……それなら止めませんけど、くれぐれも気をつけて」

「大丈夫、大丈夫」

 

ようやく納得してくれたのか由紀江さんも引き下がる。

俺は心配させないように軽い口調で大丈夫だと示した。

 

そう言った後、俺は軽く返して1-Cから出て行った。

 

.

.

.

 

香耶が決闘の受託をしてから数時間後。

 

夜の帳が落ちる頃、二人の人間が見合っていた。

 

一人は香耶との戦いによって敗れたカワハラであった。

 

ロードワーク中に目を引くような人間を見たからこそ再び野試合を仕掛けたのである。

 

もう一人は今まで見た存在ではない。

 

九鬼英雄でもない。

風間翔一でもない。

島津岳人でもない。

師岡卓也でもなければ澄漉香耶でもなかった。

 

その男は大きい。

背丈はガクトを越えている。

およそ2メートル弱。

そして重さもまたそれに比例しているだろう。

見た目だけではおおよそ120キログラム。

それによる見た目の表現は威圧の二文字で十分である。

 

腕は長く太い。

大木がそのまま引っ付いたような印象を受ける。

足も同様に長く太い。

大木がそのままと言ったが訂正しよう。

コレではまるで大木を人の形にしたかのようだ。

 

「デカイな……お前」

「……」

 

カワハラの問いかけに答えはしない。

全く興味が無いのか、あちらこちらに目を彷徨わせている。

 

「お前の名前は?」

「逢間雁侍」

 

カワハラの問いかけに答える。

流石に名乗る程度の礼儀はあったのか、低く重い声が響く。

その名前を聞いてカワハラは青ざめる。

その上の名前は自分にとっては聞きなれたもの。

かつてのランキング2位の男と同じだったのだ。

 

「あの男の弟か?」

 

カワハラは聞いてみる。

仮に当たっていたら言葉で釣れる。

そう考えて質問をしていた。

 

「あの男……まさか兄さんの事を知っているのか!!」

 

先ほどまでとは打って変わって感情をむき出しにする。

コレは良いぞと思ったのだろう。

次の瞬間、カワハラは構えて言葉を発していた。

 

「知っているとしても教えてやらないけどな、勝てたら別だが」

 

カワハラが不敵な笑みで言う。

それが戦いの合図だった。

 

コレが戦いといえるものかどうかは人の判断によるのだが……

 

まずカワハラが仕掛ける。

構えた拳から拳が放たれる。

 

左アッパー

右ストレート

右フック

左フック

右アッパー

左ストレート

右フック

左アッパー

 

数える事八度。

絶え間なく打ち続ける。

スタイルから予想外の場所を突き何度も拳を叩きつける。

 

カワハラの拳が雁侍の顔に、腹に、膝に、脛に、側頭部にめり込んでいた。

しかしカワハラは全く違う感覚に囚われていた。

 

めり込んだはずの顔も、腹も、膝も、脛も、側頭部も人間を叩いた感じではなかったのだ。

 

そのイメージは堅牢な城。

外部は石垣で出来た門。

その内部は更なる固さを秘めている。

 

どうあがこうともカワハラでは壊せない。

 

しかしそれでもカワハラはめげない。

何度も拳を雁侍に打ち込む。

己の拳を信じて打つしかない。

 

「……」

 

それに対して雁侍は何も言わずに進む。

カワハラの攻撃を歯牙にもかけずに進んでゆく。

ただ真っ直ぐに。

気持ち良いほどに最短距離を進んでゆく。

 

「フン!!」

 

気合と共に拳を突き出す。

 

その拳はカワハラのガードを突き破っていた。

肉体が堅牢な城ならばこの腕はまるで大砲。

体の中で衝撃が爆発する一撃。

そんな無慈悲な一撃がカワハラを壊していた。

 

カワハラが叩き込んだ数は優に五十を超えるだろう。

しかし雁侍が叩き込んだのは僅か一撃。

 

長く太い丸太のような腕がカワハラにめり込んでいた。

その一撃は単純に突き出しただけのもの。

しかしその威力たるや一撃必殺。

奇しくも兄と同じ様に相手を昏倒させていた。

 

「この『川神』に居るのなら見つけてあげるよ……兄さん」

 

そう言って雁侍は空を見上げる。

一人、また武士が川神へと降り立った。

 

.

.

.

 

所変わって親不孝通り。

ここでは一人の女性と長枝が話をしていた。

 

女性の格好は黒いズボンに黒いブラウス。

黒い上下で揃えていた。

その姿に冷たい眼差しにあいまった蒼い毛が輝く。

対照的な白いブーツと手袋が印象深い。

 

女性らしい膨らみを持ちながらあくまでスレンダーな女性であった。

 

「九鬼での生活はどうだった、更正できたか?」

 

長枝が問いかける。

あの飛行機事故の前に依頼で送り届けた女性。

その女にこの一年での経過を聞いていた。

 

「あんな辛い所に送るなんて悪魔ね、もしくは鬼よ」

「鬼でも悪魔でも結構。調査結果の上でお前をメイドとして送るように言われていたからな」

 

女性の睨むような視線を受け流す。

いや、厳密に言えば効かないのであろう。

今まで長枝が戦っていた相手はこれ以上の殺気を放ってきた。

それに慣れた人間に効かないのは普通の事。

 

それどころか笑みを浮かべながら女性に言葉をかけていた。

 

「『紅い靴の女王』と呼ばれていたお前を更正する為だ、自業自得って奴だな」

 

結論付けた言葉を言う長枝。

しかしそう言われたから、『はい、そうですか』という聞こえの良い相手ではなかった。

 

「ええ、おかげさまで三つ指立てて出迎えするほどに品行方正になったわよ」

 

できるだけねっとりとした声で嫌みったらしく聞こえるように皮肉をきかせる女性。

しかしこういった言葉はこの男には何の意味も無かった。

 

「ククッ、そりゃあ良かった」

「それで?」

 

皮肉も通用せずに平然と笑う長枝。

この男の雰囲気に呆れたのだろう。

女性はつっけんどんに用件を聞いていた。

 

「何の用で呼んだのかと聞きたいのならいってやる、お前は学生になれ」

「はっ?」

 

女性が口をあけてほうける。

無理も無いだろう、そんな大事な事ならば上から直々に言われるものである。

上の奴らが長枝に対して『お前がつれてきたからじきじきにお前から言え』と言ってきたのだ。

本来はあちらの依頼で連れてきたって言うのにと、少々いらだったが仕方なく引き受けたのだ。

 

「聞こえなかったのか、お前はこれから二年間の間他の奴らに混じって学生になるんだ」

「いや、いきなりそんな事を言われても困るわ、年齢とか、用意とか……」

 

女性の方は当然のように拒否してくる。

流石に行きたくないというのも有るだろう。

しかし残念な事にその言葉を言うのを予測していたのか。

女性の上の人達は完全に用意をしていたのだった。

 

「学生服などの用意も出来ていて、おまえの年齢が調べ上げられているというのに?」

「グググッ……」

 

長枝が意地の悪い笑みで断れる理由を無くす。

年齢が分かるのは契約の時だけではない。

九鬼財閥の力を持ってすれば例え詐称をしてもばれてしまう。

情報網も医療部門もそこらとは格が違うのだから。

諦めて学生になったほうが吉というものだ。

 

「コレは老人連中からのご達しだぜ、断ったら老人連中から言われるが良いのかな?」

 

そういうと女性の顔が歪む。

九鬼財閥の老人は基本的に恐ろしい。

 

特に『武神』川神鉄心に並ぶ実力者である『序列零番』ヒューム・ヘルシング。

 

彼に目を付けられて武力行使をされては体がいくつ有っても足りない。

 

それ以外にもきっと断れば徹底的に礼儀を叩き込むであろう『序列三番』クラウディオ・ネエロ。

口うるさく説教をしてくるであろう『序列二番』マープル。

 

「分かったわよ、やりますよ!!」

「よく言った、従者番号三十三番『エーリン・アマレット』」

 

それを察したのか、投げやりな言葉で返すアマレット。

それに対して揺れることなく返す長枝。

 

そして一日が過ぎていく。

 

一人の武士。

一人の武士娘。

 

今宵新しい強者たちが『川神』に降り立ったのであった。




今回は予定していたものを詰め込もうとしていたのですが多くなりそうでしたので分けました。
オリキャラの方はこれから先ちゃんと関わっていきます。
何か指摘ありましたらお願いします。
個人的にオリキャラの序列が高すぎるんじゃないかと思い、修正しました。


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『決闘 そして出会い』

次回も原作キャラとの出会いを久々にやろうと思います。
今回は番外編でも出てきたキャラ達です。


あの決闘の言葉から一週間。

授業が終わった放課後。

俺と武蔵はグラウンドで向かい合っていた。

 

「先輩、吠え面かかせて上げますよ」

「お前みたいにそんなこと言ってるやつが負けたら一番恥ずかしいんだ、根拠も無い事は言うなよ」

 

そういって俺はレプリカを持つ。

この学校なんでもあるな。

 

「先輩は武器使うんですか、情けない……」

 

武蔵の奴が溜息をつく。

 

「別に良いだろ、武器使うのは悪い事か?」

 

その反応に対して俺は普通に返す。

武器を使っても良いんだから別に良いだろうに。

 

「そんな事有りませんけど勝っても武器があるから勝ったって言われますよ」

 

武蔵が冷めた目で言い放つ。

そんな評価を下す事もできないような差で勝てば良い話じゃないか。

 

「禁止してないルールが悪いと思うんだが……」

 

試合前から武器の有り無しで情けないといってくる武蔵。

そこまで言うならルールで禁止すれば良いじゃないか。

それをしなかったお前の不備だろう。

それに八極拳を使えば一撃で終わる可能性がある。

あまり自分の手の内をさらしたくはない。

 

ちなみにルールはこの様になっている。

 

制限時間は無し。

それに伴い判定勝利も無し。

 

武器の制限は特に無し。

レプリカで有れば特に問題はない。

自家製である場合は穂先を丸める、刃を潰してあるといった処理を施してあり殺傷力が無ければ許可される。

ちなみに今回は学園のレプリカを用意してもらっている。

 

目潰し・喉突き・金的蹴り・噛み付き・脊椎といった急所への攻撃、もしくは危険な攻撃の禁止。

 

今回における勝敗についてはこのように定められている。

 

ダウン後にカウント5で立ち上がる事ができない場合は戦闘続行不可と審判が判断。

またKOも同様の扱いとなりこの場合は敗北。

 

一応ギブアップも許されているがその場合はTKOの扱いとなる。

明らかな戦意喪失などにおける場合も同様の扱いとなる。

そしてこの場合も当然敗北となる。

 

つまりこの戦いにおける勝ち方はこの形となる。

 

武蔵を5カウント以内に立ち上がらせない。

武蔵をKOする。

武蔵の心を折ることでギブアップ、または戦意喪失をさせる。

 

その事を頭に入れて俺を息を吐き出した。

 

「両者、前ヘ!!」

 

学園長が大きな声で言う。

 

「2-S、澄漉香耶!!」

 

腕を上げてその言葉に応える。

 

「1-S、武蔵小杉!!」

 

構えて意気揚々と叫ぶ武蔵。

活きのいい奴だ。

正直罵倒したり選民思想がなければそれほど嫌な奴ではない。

 

「キョーヤは武器を使っているガ武蔵は要らないのかイ?」

「要りません」

 

ルー先生が武蔵に確認を取る。

しかし勇ましい返事で拒否をする。

おいおい、武器は要らなくても防具はあっても良いんじゃないのか?

 

「そうか、では始め!!」

 

その勇ましい返事でOKと取ったのかルー先生が手を交差する。

戦いが始まった。

 

「さて、八極拳の槍術…六合大槍で存分にやらせてもらおうか!!」

 

八極拳の踏み込みや鍛錬を基礎とした槍術。

それが六合大槍。

3メートル近い大きな槍を使う為暴力的に思われるだろう。

 

昔は併習の為、道場ではよく一緒にやっていた。

しかし中学生になるのを機会に八極拳にだけつぎ込んでいた。

ここ一週間の間に長枝さんを相手に少々錆を落としておいた。

切り札ををさらさないための応急処置だ。

 

「ハアアッ!」

 

俺は息を吐き出し気合と共に駆ける。

一気に間合いを詰めて突きを出す。

突きは最速で最短距離での攻撃。

薙ぐよりも速いのが特徴である。

攻撃範囲の狭さこそネックではあるがそれは仕方ない。

 

狙いは正中線。

体の中心に集まる急所。

ルール上狙えない首から上以外の場所を例外として放つ。

 

「シッ!!」

 

放つものは一撃の重い突きではない。

霰のような連続の突きを放つ。

その数は十や二十と言う数では足りないほどに多い。

 

「くっ!?」

 

武蔵の奴はかろうじて避けているがこの長い射程に対応しきれていない。

こちらは少しずつ速度を上げていく。

相手が四苦八苦して避けていく様を見てやろうじゃないか。

 

「シェイヤァアア!!!」

 

吼えて再びの突きを放つ。

縦横無尽に怒涛の攻撃が放たれる。

 

狙うのは変わらず急所。

 

肩口。

鳩尾。

肺。

肋骨。

横隔膜。

膝。

脛。

大腿部。

 

生活が出来なくなる場所は極力避けた上で放っていく。

 

「くっ!!」

 

その怒涛の攻撃は腕だけでは防ぎきれなかったのだろう。

地面に転がって必死に避ける武蔵。

 

どうやらコイツに有効なのは思ったとおり質より量なようだ。

ならばもっともっとこの霰のような突きをお見舞いしてやる。

延々と反撃が出来ない状態で優勢にもっていかせて貰うぜ。

 

と、その前にちょっとやっておくか。

 

「ヒィ!?」

 

転がっている武蔵の顔を突き刺すように振り下ろす。

当てて反則負けなんて事はしない、只のこけおどしだ。

 

「おいおい、どうやら俺じゃなくてお前の方が這い蹲ってしまったな」

 

俺は地面に転がっている武蔵に向かって言葉をかける。

意地の悪い笑みを浮かべて出来るだけ嫌な奴だと思わせる。

どうやら自分がやられる立場とは思ってなかったんだね、愉快すぎるよ。

そんな奴が勝とうなんて滑稽すぎるよな、全く。

 

「くっ!!」

 

憤怒の形相で立ち上がる武蔵。

さて、どう来てくれるのかな?

 

それからもグラウンドでの決闘は続くが一方的である。

 

避けられないから遠い距離を取ろうとする武蔵。

俺はそれを必要以上に追わずに突きを繰り出す。

 

その繰り返しである。

 

もしこの戦いに格と言うものがあったなら誰の眼から見ても一目瞭然だっただろう。

 

追う者が格上である、追われる者は格下。

 

武蔵は俺から回る様に遠ざかりちまちま攻撃を仕掛ける。

しかしその攻撃は届かない。

 

「フッ!!」

 

槍を振って回してその攻撃を防ぎきる。

 

「また、そんな簡単に……」

 

扱いにブランクが有るとは言え捌くぐらいはできる。

それに一年に負けるほどやわじゃあないんだぜ。

 

「さて…と観客も揃ったしそろそろ……」

「えっ?」

 

俺がそう言うとキョトン顔をしている。

俺はその反応に対して親指で観客の方を指し示す。

そこには2-Sだけでなく懐かしい2-Fの奴らの顔があった。

 

風間翔一。

師岡卓也。

川神一子。

源忠勝。

島津岳人。

直江大和。

 

向こうには由紀江さんも居た。

 

「一気にいきますかね!!」

「なっ!?」

 

さっきよりも速度を上げる。

その瞬間、グラウンドに一陣の風が吹く。

俺は疾風のごとく接近する。

そして眼光をぎらつかせて(にら)みつける。

『もう逃がさないぜ』という意味を込めて。

 

「蜂の巣にしてやる!!!」

 

今までと比にならない速度。

そして体中を射抜くような多さの突き。

その攻撃の前に武蔵はなす術がない。

転がって避ける隙も与えなかった。

 

「きゃああああああっ!!!」

 

避けきれず多くの突きを食らって吹っ飛ぶ。

さてダウンのようだけれど戦意はどうなのかな?

 

「グググッ……」

 

どうにかして武蔵が立ち上がろうとする。

しかし足が痙攣(けいれん)していて立てそうにない。

流石に体中を突かれたのは辛かったのだろう。

息も荒くなっている。

立ち上がろうとした瞬間に膝から落ちてしまう。

目もどこか虚ろだ。

それを見て流石にルー先生が両手を交差する。

どうやらTKOの様だ。

 

「流石にあれでは立てないヨ」

「そうですか……あっけない終わり方ですね」

 

そうは言うものの自分の中では納得は出来ない。

あの場面では正直追い討ちをすべきだ。

相手があの状態から反撃してこないとも限らない。

 

当然相手のやっている拳法や武術などで対応する場面は変わる。

特に関節技を扱ったりする武術やプロレスの系統ならば油断は禁物だ。

 

しかし武蔵の場合はあの場面での追い討ちは有効だった。

 

「勝者、澄漉香耶!!」

 

その言葉が終わってから俺は観客席にむけて腕を上げる。

きっと理由を知っているであろう英雄やトーマ達に向けて高々と上げる。

 

英雄は親指を立てて『よくやった』という視線を送っていた。

トーマはとてもさわやかな笑顔で『頑張った』という視線を送っていた。

 

周りを見ると『世界最強』である川神百代も笑みを浮かべている。

 

由紀江さんは驚きの顔。

モロは笑顔でうんうんと頷いていた。

一子も同様に満面の笑みでこちらを見ている。

タッちゃんは僅かに口角を上げて微笑んでいた。

ガクトは腕組みをして不敵な笑みを浮かべている。

キャップは嬉しそうな笑顔で今にもはしゃぎそうだ。

大和は顎に手を当てて考える仕草をしていた。

 

俺は帰る身支度を静かにする。

勝てれば別にそれ以外はどうでも良い。

 

それに逃げ遅れたくはない。

噂では川神百代は好戦的だと聞いた。

不良程度でも平然と戦うのだ、槍使いというだけで絡まれるかもしれない。

 

しかし来なかった。

どうやら杞憂だったみたいだ。

もしくはキャップ達に俺について何か聞いているのかもしれない。

どちらにせよ絡まれなかったのだから喜ぶべきだろう。

そのまま俺は職員室へレプリカを返して家路へつく。

 

そして家に帰る途中で思いに耽る。

今回の戦いでは槍を使うことで本来の戦い方を秘匿した。

ただ俺が懸念するのは『誰にでも決闘のチャンスがある』という事だ。

今回においても仮にモロが相手だったり由紀江さんが相手だった場合は秘匿なんて

真似はできなかっただろう。

倒す為にも確実に八極拳を使わなくてはいけなかった。

俺はそう考えると頭を抱える。

このままいけば秘匿できる期間は多分短いだろう。

多分自分が想像しているよりも遥か早くに露見してしまう。

きっとS組の中にとてつもない相手が居るはずだ。

 

英雄。

あずみさん。

準。

ユキ。

不死川。

 

考えただけでも五人はざっと居る。

もしかしたらこれ以上の相手が息を潜めているかもしれない。

 

そう考えた瞬間背筋に怖いものが走り抜ける。

気づけばじっとりと手に汗が滲んでいる。

拭えない不安感を胸に俺は足を進めるのだった。

 

それから数分後。

 

俺はアパートの一室に居た。

去年の末頃から住まいを変えていたのだ。

株を引退した事でデスクトップパソコンがいらなくなった。

そこでこの家賃の安いアパートへと場所を移した。

名前は『月雄荘』という。

家賃は一万五千円と格安の値段。

大家さんや此処に住んでいる人たちも優しくて個性的だ。

 

「おーい、居るかー」

 

そんな声が聞こえてからインターホンが押される。

順序が逆だ。

俺はそう思ってドアを開ける。

 

「よっ、居たのか」

 

ドアの向こうに居たのは小西さんだ。

フルネームは小西(こにし)良徳(よしのり)と言う。

本業は格闘家である。

関節技のスペシャリストで有名だ。

 

格好は半袖に長ズボン。

何故かレガースを肘と膝につけている。

容姿に関して言うと、切れ長の目。

メッシュで固めた髪の毛。

感じで言えばつんつんとしてそうな印象を受ける。

背の高さや長い足。

まあ、一言で言えば世間で言う所のイケメンである。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

こちらとしては何の用かを聞く。

基本的にここの住人はマイペースだ。

次の瞬間には斜め上の言葉が飛んでくる事がよくある。

 

「牛丼屋に飯食いに行こうぜ」

 

そう言われて少々安堵の息を漏らす。

もしかしたらとんでもない事を言われるのかと思った。

確かに晩御飯の用意もしていない。

それなら行ったほうが良いだろう。

 

「良いですね、行きましょう」

 

俺はその提案に乗って身支度を始めた。

 

金柳(きんりゅう)商店街という昔から川神を代表する商店街へ向かう。

夜頃と言うこともあって人で賑わっている。

そんな中でも俺と小西さんは目立っていた。

 

180cmと179cmという背の高さもあいまっているのだろう。

ましてや小西さんはイケメンだから女性の目が集まっている。

まあ、それ以外に世間でも有名というのもあるだろうけどね。

 

そんな事を考えていると店に着いた。

店の名前は『梅屋』。

某牛丼屋と被るような名前である。

 

ドアを開けて店の中に入るとすぐに椅子に座る。

そして予め決めていたのだろうか、次々と注文を通していく。

まるで呪文のような長さであった。

その注文を一通り言い終えると小西さんがおもむろに立ち上がる。

 

「ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

そう言って小西さんが席を外す。

 

俺は息を吐き出して牛丼を待つ。

流石に『上手い・速い・安い』の某チェーン店とは違うがすぐに来るだろう。

 

「おいおい……あの兄ちゃんだろ」

 

なにやらぼそぼそと話す三人組。

見たところ不良だろう。

なんだか注文も通さずにこちらに来る。

その間に牛丼が来た。

小西さんが遅いけど先に食べておこう。

そんな事を考えた次の瞬間不良の一人が口を開く。

 

「よお、兄ちゃん金くれよ」

 

ニヤニヤとした顔でそんな事を言ってくる。

一体何を言っているのだろうか?

 

「断る、なんで渡さないといけないんだよ」

 

何が有ってこいつらに金を渡さないといけないのだ?

そんな事より目の前に来ている牛丼の方が大事だ。

 

「お前……なめてんじゃねえぞ!!」

 

気に障ったのかそう言って不良の手が丼を払いのける。

次の瞬間、牛丼が床に落ちて無惨な姿に変わっていた。

 

「おら、外出ろよ!!」

「……」

 

腕を掴んできたので無言で振り払う。

どうあっても外に出させたいんだろう。

ならば出てやろうじゃないか。

食べ物の怨みはなによりも恐ろしい。

その事をこいつらの骨髄にまで刻み込む。

心の中に染み渡らせる。

 

「金渡さないんなら力づくだぜ!!」

 

そう言って拳を繰り出してくる。

雑な攻撃だ。

このような攻撃では俺は倒せない。

 

「フッ!!」

 

避けざまに左の拳を放つ。

相手の顔に拳がめり込む。

相手が少し下がる。

拳を引かずに手を開く。

右の腕を相手の頭に伸ばしていく。

長い腕を頭を掴む。

相手の頭を固定して俺は膝蹴りを顔に放つ。

 

歯が折れる音。

鼻の骨が折れる音。

肉の感触。

飛び散る血。

 

それらが一緒くたに感じられる。

相手は意識を手放し崩れ落ちる。

 

掛かった時間は僅か十二秒。

 

相手は残り二人。

 

腰が引けている。

しかし容赦はしない。

 

牛の命。

農家の努力。

店員の心遣い。

 

それらを無駄にした奴らを簡単には許さない。

 

腰の引けている奴の一人は徹底的にいたぶる。

 

棒立ちでろくに防御の構えもない。

 

まずは脇腹を狙う。

 

勢いをつけて蹴る。

相手に爪先がめり込む。

そのまま止めずに蹴りぬく。

相手の肋骨が折れる感触があった。

 

相手は声にならない声を出す。

 

ただコレだけで終わらせはしない。

 

金的を放つ。

無防備な股間へ深々と一撃が刺さる。

相手の顔が歪む。

声は出したくても出せない。

痛みの中でも最高のもの。

それが背筋を通して全体に広がる。

相手が股間を押さえて座り込む。

 

俺はそれを見て飛び上がる。

肩甲骨めがけて落ちていく。

高い打点から肘を落とした。

 

相手の肩甲骨が砕ける感触。

それに伴い肩の筋肉が千切れる感触。

 

相手はもはや涙と鼻水で痛みを訴える事もなかった。

 

残りの一人はもはや息も絶え絶えで恐怖している。

 

流石に哀れだと思った。

だから俺は提案をする事にした。

 

「あんた、こいつらを運べば見逃してやるぜ?」

 

できる限りの笑みで言ってやる。

相手は恐怖の中引きつった顔で頷く。

最後に蹴って渡してやった。

 

「見てたぜ、お前やるじゃねえか」

 

声が聞こえたので振り向く。

いつから見ていたのだろうか?

するとそこには男が居た。

 

背丈は高い。

180を超えている。

 

格好は黒いタンクトップに半ズボン。

右の肩から腕にかけて黒い刺青が見える。

タンクトップから見える腕は太い。

筋肉もついていてなかなかの腕前なのは分かる。

足はあまり見えないが腕と同じく太い。

ただコイツから臭うのは武術家というようなものではない。

 

暴れる獣が出す独特の臭い。

全うな戦いを過ごしてきたのでは得られぬ臭い。

コイツからは危険な臭いが立ち上っていた。

 

「お前は一体何者だ?」

 

構えた状態で問いかける。

こういった奴には警戒しなくてはいけない。

突然癇癪玉がはぜるように何が有るか分かったものではない。

 

「俺か?、俺の名前は板垣竜兵」

 

不敵な笑みを浮かべて男が言う。

牙のような鋭い歯がちらりと見えた。

 

「Zzzzzz……」

「ちなみに寝てるのが俺の姉、板垣辰子だ」

 

そう言って竜兵が親指を後ろへ向ける。

するとそこには立ったまま眠っている女性が居た。

背丈は俺よりも大きい。

腕と足が比例して長い。

一際目を引くのは胸のふくらみであった。

服とあいまって存在感を余すことなく主張していた。

 

「別にこの場でやっても良いんだが……」

 

そう言うと瘴気にも似たものが立ち上る。

しかしそれは一瞬で苦笑いをしながら後ろを見た。

 

「俺が仮にも負けたらタツ姉を送れなくなるからやめとくかな」

 

そう言って牛丼屋へと歩いていく。

腕を引っ張りながら連れているのは笑いを誘っているかのようだ。

 

「てめえとはまた会いそうだな、ククク……」

 

去り際に不敵な笑みを残して竜兵は店に入っていくのだった。

 

あとで小西さんに文句を言われた。

よく考えたら会計も小西さん任せだったのだ。

俺は頭をひたすらに下げて家へ帰っていくのだった。




今回は武蔵との戦いとごろつきとの喧嘩を収録しました。
それと香耶と竜兵たちとの出会いを書かせていただきました。
次回はクリスの登場をしております。
指摘の点などございましたらお願いします。


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『軍の依頼と野試合』

クリスは名前だけにしました。
次回で道案内をさせます。
予定を崩してしまい申し訳有りません。


あの牛丼屋での喧嘩から三日が経った。

 

学校での放課後。

学校では転校生についての話題で持ちきりだった。

なんせ三人中三人がF組所属になるというのだ。

 

大和の奴が賭けの胴役をしているらしい。

大方ファミリー内で結託して情報操作をしているのだろう。

頭を巡らせればわかる仕組みだ。

 

ちなみに俺の見立てでは女性が二人で男性が一人。

当然この見立てには根拠が存在する。

行動力を生かして学生服の店に行って店主に聞いたら分かった。

それ以外にも三人という根拠は今年進級した二年生の中の合計と去年中退または留年した人数からの差し引きだ。

まあ、一番簡単な方法は新入生情報をハッキングしたら良い話なのだがそれはそれ。

 

S組の参加は出来ないため、俺はほのぼのと宇佐美先生と将棋を指していた。

 

「お前さん、方法を分かってるようだね?」

「当然ですよ」

 

聞いてくるが当然の話だ。

タネも見抜いている。

 

この情報操作によって儲けるのはクラスメイトではない。

風間ファミリーだ。

無用な金を吐き出させていく。

対処として言えるのはこういった場合は参加しないのがベスト。

 

「忠勝には教えないのか?」

「フフッ、ゲンさんはもう知ってますよ」

 

俺はゲンさんが確信を持った目で賭けたのを知っている。

アレを見れば自分で答えを知ったのは明白だ。

 

大方ほとんどの奴はバランスといった所を根拠にした考えで予想するだろう。

三人という時点で男子一人女性二人がF組にとってバランスが取れる数だ。

その時点でバランス思考の奴が多ければ損をする計算。

 

しかしそこはF組。

きっと自分の願望などを予想に組み込むだろう。

女子なら男子三人、男子なら女子三人といった風に。

 

この時点で大和はかなり有利。

 

そして大和は更にそこへ確実性を足す為にあえてキャップに逆の予想をさせているだろう。

外す予定のキャップに相乗りをさせる事で自分たちが利益を取れる。

圧倒的に賭けの強い奴。

もしくはファミリー以外でクラスの奴をサクラに使って利益を取る。

それが確実的な策。

 

まあ、俺でもそうする。

もしくは初めから何人か伏せさせて細かくした予想の勝負にしておく。

少々の利益だが確実性は増す。

 

「そうか、……王手!!」

「じゃあ、こちらで」

 

話している間に王手をかけられる。

しかし逃げ道は十分に出来ている。

ここで詰められなければこちらの逆転勝ちだ。

 

「くっ……」

「残念でしたね、今から一気にいきます」

 

そう言って怒涛の攻めをはじめる。

先生の王を制空圏まで追い詰めておよそ二十一手。

決着は一瞬でついた。

 

「相変わらず攻めてくるね、お前」

「そういった方が肌に合うんで」

 

そう言って俺は部屋から出て行く。

出ていく時に『おじさんはまだ休むかなー』とか言う言葉が聞こえたが気にしない。

 

学校から出て行く。

早く自宅へ帰ろう。

そう思った矢先気配を感じる。

学生の気配ではない。

不穏な感じの気配だ。

 

俺はその方向に向かって睨みつける。

すると俺の視線の先には軍服を着た人が立っていた。

あの軍服には見覚えがあった。

 

その人影に向かっていく。

相手の方も近づいていた為それほど時間はかからなかった。

 

「キョウヤ・スミロクだな?」

「その通りだ」

 

名前を聞かれたので答える。

すると紙を取り出して何かしら朗読を始める。

 

「オマエに伝言がアル」

 

どうやら間違えない為のカンペだったようだ。

一般兵からの伝言。

俺はその言葉に耳を傾ける。

 

重要な事なのだから隠密が得意な奴を用意したほうが良かっただろう。

おれはそんな事をふと思った。

 

「クリスお嬢様がこの学園にクル」

「はい、中将の娘さんですね」

 

クリスお嬢様は中将の娘である。

マルギッテさんからは名前が聞いたことは有る。

面識については一度もない。

 

「学園まデノ道をお前が案内ヲスルのだ、コレは中将じきじきの任務デアル」

 

信頼できる部下としての任務なのだろう。

こういった場面ではオレよりも適任が居るはずだ。

異性よりも同姓であるマルギッテさんの方が良いだろう。

 

「引き受けさせていただきます」

 

しかしそれに気づいていないわけがない。

つまりそれを踏まえたうえで俺を選んだ。

それは俺がクリスお嬢様に対して狼藉を働かないという事。

 

「ソウカ、じゃあ任せタゾ」

 

そう言って去っていく。

その姿を見届けてから俺も家に向かう。

 

少し歩いたら携帯が震える。

携帯を開ける。

するとメールが届いていた。

送り主は長枝さん。

どうやら前と同じ場所で野試合をするようだ。

 

時間は丁度今から一時間後。

俺は家に帰らずそのまま待ち合わせ場所へ行く。

 

十五分後に到着。

辺りを見回してまだ来ていないのを確認する。

 

俺は体を温めておく。

それをする事数分後。

長枝さんが一人の人を連れてきた。

 

見た目だけで100キロを超えていると分かる巨体。

大銀杏に似た髪型。

力士のような印象を受ける人だった。

 

「準備は出来てるようだな」

 

長枝さんが俺を見て言ってくる。

 

当然の話だ。

いつだって真剣に取り組む。

万全を尽くすのが筋というものだ。

 

「ケアリー、お前は大丈夫か?」

「ウォーミングアップなんていらねえよ、さっさとやろうぜ」

 

長枝さんが肩をすくめる。

そして一瞬目つきが険しくなる。

 

「思い切りやって良いぜ」

 

長枝さんがそんな事を言う。

どう考えても俺に言ってる気がする。

 

「じゃあ、始めてくれ」

 

少し落ち着きを取り戻したのか。

笑みを浮かべた状態で言葉を発した。

試合がその言葉で始まる。

 

すると早速一撃を繰り出してきた。

 

「ふん!!」

 

テレフォンパンチのような張り手。

その攻撃を難なく避ける。

 

「ふっ!!」

 

手が通り過ぎた箇所に風圧を肌に感じる。

当たっていたら危なかっただろう。

まあ、あんなものを無防備に喰らうはずがないのだが。

 

「避けやがったか」

 

そう言って地面に拳を着ける。

そして勢いよく迫ってくる。

 

繰り出してきたのは『ぶちかまし』

この呼び名は相撲用語である。

一般的に言えば体当たりだ。

力士のような体型だから相撲用語で言ってみた。

威力が凄いのは考えなくても明らか。

 

避ける事はしない。

なぜなら方向転換をしてこないとは限らない。

 

正面から受け止める。

厳密に言えば弾く。

 

息を吸い込み『気』を練る。

『内功』と『外功』で体の中と外を強化する。

深く力強く踏み込む。

 

「ハアッ!」

 

気合と共に『気』を発する。

発勁で体当たりの威力が殺される。

根を張ったように俺は動かずに相手を押し返した。

 

「なっ!!」

 

尻餅はつかずに後ろに弾かれる。

距離を見て俺は構えを取った。

 

「攻撃か、来いよ」

 

そう言って攻撃を受け止めようと腰を落とす。

それだけで耐えられるものではない。

それを教えてやる。

そしてそれを知った時あんたは負けている。

 

「ハッ!!」

 

繰り出す技は『裡門頂肘』。

十分に踏み込む。

肘が腹にめり込む。

『気』の『通り』を感じた。

 

「げぶっ!!」

 

一拍おいてから膝をつく。

そして崩れ落ちていく。

 

前回の相手に比べて楽だった。

俺は長枝さんの方へと振り向く。

 

「これは楽しくなってきたな、こうなったら鍛錬しがいが出てくる」

 

長枝さんが額を叩いて笑みを浮かべている。

もしかして俺が想像以上に力をつけているのだろうか?

 

「これからトレーニング方式を変える」

「えっ?」

 

試合が終わって長枝さんの方へ向かう。

すると長枝さんがトレーニングについて一言述べる。

それを聞いて俺は間抜けな声を出していた。

 

「加圧トレーニングによる筋力の増強、それを気の修練と平行して行う」

「いったいなんでそんな方向へ?」

 

筋肉の増強は『気』の通りを阻害しかねない。

並行して行ったとしても結構危険度はある。

 

「純粋な攻撃力と耐久力の向上、あと俺のような奴も居るんだから『気』の通りなんて考えなくて良い」

「なるほど」

 

つまりちゃんと鍛錬をしたら問題ないということか。

ちなみに次の相手が気になったから聞いてみよう。

 

「次の相手の予定は?」

「次は……『沢村』の予定だ、そしてその次が最後だな」

 

どうやら野試合の計画も終わりに近づいてきたらしい。

でもなんでこんな短いのだろうか?

 

「何で短いのか考えただろ、理由はな……」

「理由は?」

 

一瞬言葉を溜める。

そして溜息のように呟いた。

 

「次の相手のラインを超えたら化け物しか居ないからだ」

「化け物ですか……」

 

俺はその言葉を聞き取った瞬間疑問に思う。

川神院師範代を超えている長枝さんは分かる。

そんな人が言う化け物って一体どれ程のレベルなのだろうか?

 

「ルー・イーに勝てるのがオレを含めて三人は確実に居る、そして川神鉄心と同格が一人もしくは二人、できればここに一人増やしたいが少々戦いから離れているんでな」

 

どれ程のレベルかを詳細的に言ってくれた長枝さん。

その言葉を聞いた俺は息を呑む。

『確実に』という事はそれ以外にもいる可能性があるのだ。

 

「だから短いってわけだ」

「そうですか、聞いても良いですか?」

 

理由は分かった。

少し好奇心が湧いたので質問をしてみたいと思った。

 

「何をだ?」

「仮に戦いたくない相手が居たらその中で誰ですか?」

 

アレだけ強い人でも戦いたくない相手は居るはずだ。

そう思って質問してみた。

 

「『7位』」

 

即答だった。

7位という事はきっとランキング式だったのだろう。

 

「あいつとだけはもう二度としたくない……」

 

苦虫を噛み潰したような顔で長枝さんは呟いていた。

一体過去にどういったことが有ったのだろうか?

 

「お前がもっと強くなったらそのレベルとも戦わせてやるよ」

 

苦笑いをしながら言ってくる。

この苦笑いを見ると本当に尋常ではない相手と言うのが伺える。

 

「はい、お願いします」

 

しかし俺は拒まなかった。

今日の相手より数段も強くルー先生さえ凌駕する猛者。

それほど強い相手と戦ってみたい、そう思えた。

 

「はは、二つ返事とは勇ましい限りだ!!」

 

そう言って高笑いをする。

 

「まあ、明日からまた別メニューだ、頑張れよ」

 

肩を叩いてそんな事を言う。

この一言をちゃんと聞いて頑張れば成果は出る。

きっと自分が昔にやった鍛錬を俺に言っているだけだ。

時折最新の方法を取り入れて効率を良くして俺を強くしようとしてくれる。

 

その証拠に始めてからというもの『気』が充実している。

体力も筋力も敏捷性も伸びている。

強くなっているのが実感できている。

 

「はい、強くなりますよ」

 

頑張るのではなく目標を言う。

昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分。

『日進月歩』の言葉のように日々強くなる事。

それが俺の目標。

だから『頑張る』ではなく『強くなる』と言うのだ。

 

その言葉に気を良くしたのか。

今度は頭をわしわしと撫でてくる。

背丈はこちらが上なのに無理をしている。

結局家の方向で別れるまで頭を撫でられるのだった。




思った以上に切りどころが分からなくなりました。
次回はクリスとオリキャラ登場予定です。
何かご指摘等がありましたらお願いします。


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『転校生の嵐 出会わなかった理由』

今回は新キャラが三人出ます。
プロフィール等はまた今度にでも書きます。


鍛錬メニューが変わって一週間もした頃。

朝早くから俺は七浜に居た。

理由は簡単。

クリスお嬢様を無事学校まで案内する為である。

 

「はじめまして、クリスお嬢様」

 

頭を下げて挨拶をする。

軍隊であれば敬礼なのだがお嬢様はそうではない。

あくまで一般人の目上に対する態度と同じ様にする。

 

「こちらこそはじめましてだ、名前を聞かせていただきたい」

「私の名前は澄漉香耶と言います」

 

名前を問われたので答える。

するとお嬢様も自分の名前を言ってくる。

 

「そうか、自分の名前はクリスティアーネ・フリードリヒ、宜しく頼む」

 

胸を張り凜とした声。

中将の娘というだけあってすばらしいものだ。

 

「それでは川神学園へ参りましょう」

「ああ、案内はそちらに任せて良いのだな?」

 

案内の為言葉をかける。

こちらに道を任せると言ってきた。

 

「はい、お嬢様は安心して着いてきてください」

 

当然それを了承する。

勝手に動かれはぐれてしまっては意味がないからだ。

 

それから数分の間、川神学園への案内の間に話す。

 

マルギッテさんの事。

中将の事。

 

そう言った事を俺は聞く。

 

二人とも元気なようでマルギッテさんはあれからも功績をあげ続けているらしい。

 

お嬢様は日本の文化について聞いてくる。

 

ずれた認識が多かったので修正をしなくてはいけなかった。

スモウの『気』についてはただの動画での編集である事や、ボクサーの『負けたら切腹』も大げさなパフォーマンスだと説明した。

一体中将やマルギッテさんはお嬢様に何を教えているのだろうか。

 

そんな事を考えていると目の前に人がいるのが分かった。

 

格好は川神学園の制服。

しかしその背丈から察するに特注品であることが分かる。

ガクトより高い背。

まるでトーテムポールが一本立っているかのようだ。

 

そんな奴が振り返ってこちらを見る。

どこかで見たことのあるような顔だ。

 

「今、何時ですか?」

 

そんな事を聞いてくる。

今は確か朝の八時前といった所だ。

 

「八時で学校にはまだ間に合う時間帯だ」

 

伝えた時に嬉しかったのか笑みをこぼす。

その時に誰に似ているか分かった。

長枝さんに似ているのだ。

目つきや背丈は違うが分かってしまう。

 

「じゃあお先に失礼します」

 

頭を下げて走っていった。

速かった。

巨体に見合わない速さであった。

 

「あの青年、かなりやるな」

 

お嬢様がふとそんな事を言う。

確かにあの男はやる奴だ。

戦いを望む人達が欲しがる要素を十分に持っている。

 

「その通りですね」

 

頷く俺は内心思っていることがあった。

『貴方が言うな』と。

ついてきている間にもそちらの実力を探っている。

体捌きからしてもなかなかの強さを持っているのが分かった。

 

そんな事を口には出さず歩いていく。

すると影で一瞬暗くなる。

何事かと思えばまるでパルクールのように建物の上から上に飛び移る女性が居た。

格好は川神学園の制服だった。

つまりあの人が最後の新入生である。

 

「とりあえず行きましょうか、遅刻してはいけませんし」

 

俺はとりあえず川神学園へと向かって行った。

しかし重要な事に気づく。

川神学園の前にさっきの二人が居るのが見える。

 

屋上に気配を感じる。

その中でも一際強い気配があった。

この気配はおそらく『あの人』だ。

俺はお嬢様にこう言った。

 

「先に入っておきます、皆さん目立ちますので」

 

そう言って俺は裏口から入る。

ネットを越えるなんて余裕だ。

要らぬ事を噂されたくもない。

俺はそのまま屋上へと向かっていった。

 

ドアを開く。

音に気づいてこちらを振り向く。

 

赤い髪の毛。

眼帯をつけている鋭い目。

修羅場をくぐってきた威圧感。

そこには『猟犬』マルギッテ・エーベルバッハが立っていた。

 

「マルギッテさん、お久しぶりです」

「ええ、お久しぶりですね、キョーヤ」

 

頭を下げて挨拶をする。

二年ぶりに見る姿はあの日より背が高く、あの日以上の威圧感を纏っていた。

 

「この場は引いていただきたい」

 

中将はこの場にはいない。

きっとお嬢様の紹介の場にいるのだろう。

 

そしてできる事ならば俺にとってはこの場は引いて欲しい。

せっかく転校生の事で騒いでいるのだ。

その空気に水を差していただきたくはない。

 

「良いでしょう、引いてあげましょう」

 

そう言うと他の人を引き下げる。

理解が早いのは助かる。

もしくはここで強引に押し通せばお嬢様の為にはならないと判断したのだろうか?

 

「ただし、条件は私を満足させる事と知りなさい」

 

しかしそう簡単ではなかった。

条件が余りにも厳しい。

どういった基準が満足に相当するかが分からない。

こちらの全力を遥かに凌駕していれば退屈に感じるだろう。

もし同格だとしても気まぐれで左右されてしまう。

 

「それが条件ならば受けてたちましょう」

「二年間怠っていなければ可能でしょう、準備はできていますね」

 

しかし受けない理屈はない。

ここで断れば臆病者だ。

二年の間の研鑽を見せずに背中だけ見せるなどその様な選択肢は無い。

 

その思いのままに前に出る。

ただ真っ直ぐに敵意を持ってマルギッテさんを見る。

その目を感じ取ったのか、不敵な笑みで構え始めた。

 

互いの間に緊迫した空気が張り詰める。

俺も構えてその空気をものともせずに先ほど以上に射殺さんばかりの力を持って睨んでいた。

 

「来なさい!!」

「では……いきます!!」

 

その言葉を言って戦いが始まる。

二年ぶりの戦い。

あの日からお互いがどれほど力をつけたのか。

その答えが現れる瞬間が迫っていた。

 

「ハアアアアアッ!!!!」

 

俺は咆哮と共に強く踏み込む。

背中を向けてぶつかるような一撃を放つ。

 

「Hasen Jagt!!」

 

マルギッテさんは足に力を込めている。

ミキミキと音を立てているようだ。

大きく振りかぶり準備は万端だった。

 

俺が放つ技に合わせてその足が伸びてきた。

 

俺の『鉄山靠』。

マルギッテさんの『トンファーキック』。

 

その二つが交錯する。

同等の衝撃だったのか、互いに後ずさる。

 

互いがにらみ合い再び構えを取った。

しかしそんな時に声が聞こえる。

 

「止めときなさい」

 

その声の正体は『武神』川神鉄心だった。

 

「ああっ!?」

 

何言ってやがるんだ。

 

まだ僅か一度打ち合っただけじゃないか。

今から楽しくなるんじゃないか。

無粋な真似をするなと睨みつける。

 

腕は矛の様に。

爪は棘の様に。

足は槍の様に。

体中を武器に変えてしまうほどの凶暴な熱が渦巻く。

 

吐き出したいほどの熱。

攻撃の衝動。

それを俺は有ろうことか『武神』川神鉄心に向けていた。

 

「コレは……少々見過ごせんな」

 

そこには『猛虎』を片手で受けている川神鉄心がいた。

 

武神の体から立ち上る『気』が人の姿に変わる。

そこから繰り出される一撃を感じたのは喰らってからだった。

腕を交差して備えたおかげで膝を着くだけですんだ。

 

そこで俺の頭は冷めた。

 

「冷静になったら教室に戻りなさい、の?」

 

そう言われて俺は自分の教室へと向かう。

マルギッテさんも流石にこのまま続ける気は無くさがっていった。

 

俺は紹介などといった事は三人に任せる事にした。

S組の教室に入っていく。

 

俺の任務は『案内』だった。

きちんと仕事はしている。

 

「随分と暴れたようですね」

 

俺の顔を見てトーマが話しかけてくる。

咎めるというわけではなく微笑んでいた。

 

流石に賢しいというだけある。

学園長がとてつもない速度で屋上へと向かったのを知って何か有るというのがわかったらしい。

学園長が出るのは基本的に戦闘による騒動。

もしくは少々破廉恥な事がからんでいる場合だ。

そしてこんな転校生がやってくる日に屋上で破廉恥な事が起こる可能性は極めて低いだろう。

その数分後に俺が戻ってきたので確信が生まれたというわけだ。

 

「まあ、流石にあれはやりすぎたと反省している……」

 

学園長に攻撃するのは良い事ではない。

いくらマルギッテさんとの戦いで熱くなっていたとはあれはなかった。

 

感想として今回の転校生は印象に残るような風貌の面子だらけだった。

 

そんな事を考えていたら何かしらF組の方で声が聞こえる。

 

どうやら一子とお嬢様が戦うみたいだ。

学園長が特例として許可をしたので川神学園名物『決闘』が始まる。

 

「一子殿の戦いか!!、こうしてはおれん、あずみ行くぞ!!」

「ハイッ、英雄様!!」

 

英雄はあずみさんを連れてすぐさま校庭へと行く。

 

「俺も行くか」

 

俺もそれに伴いついて行く。

 

「待ってください、私たちも一緒ですよ」

 

トーマに準、そしてユキも一緒についてきた。

不死川は『F組の野蛮な試合などは見ない』と言っていた。

 

着いた時には薙刀を持っている一子がいた。

少々の違和感を感じた俺は一子に近寄る。

 

「おい、一子」

 

俺の言葉に振り向く一子。

久々に見た顔だったからか驚いている。

 

「キョウちゃん、久しぶりじゃない!!、どうしたの?」

 

そう言って近づいてくる一子。

その歩き方を見て俺は確信した。

 

「重りをつけているんじゃないのか、一子?」

「えっ、分かっちゃうの?」

 

やはり着けていたか。

違和感と言っても感じたのは怪我をして引きずるといったものではなかった。

どちらかといえば何かを装着しているような重い足取りだった。

だから今の歩き方で確信を抱けたというわけだ。

 

「外せ、『本気』って言うのは『全力』を尽くすって事だ」

 

俺は真剣な面持ちで諭す。

まあ、武蔵の時に八極拳を使わなかった俺が言う台詞ではない。

ただあれでも槍の面では『全力』を尽くしていた。

『全力』を尽くさないことは『失礼』である。

だからこそ俺は一子にそう言った。

 

すると重りを外し始めた、結構な量をつけていたみたいで動きが機敏になっていた。

 

「お前なりの強みを使えば勝てるだろうよ、頑張りな」

 

最後にアドバイスをして頭を撫でてやる。

 

「子ども扱いしないでよ、でも有難う」

 

笑顔で歩き始めていくのを見届けて俺は観客席へと戻っていった。

 

「キョーヤよ、一子殿に何をした?」

 

余計な事をしたのではないかというように英雄が言う。

好意を持っていること。

意外と心配する事からか俺に怪訝な目を向ける。

 

「アドバイスだよ、あとは激励だ」

 

コレにさえ気づけばあいつは分かる。

優しいからこそ殻をいまだに破れないのかもしれない。

俺はあいつの夢に少しでも協力してやりたい。

だからこそアドバイスを与えた。

全部ではなく『自分で気づけ』と言う気持ちを込めた断片的なものでは有る。

でもあいつが自分で気づいておけばその答えは見付かるはずだ。

 

「これより決闘を行う、前へ出て名乗りをあげるがよい!」

 

学園長の大きな声が響く。

老体でよくあれだけの声量を出せるものだ、体に差し支えはないのだろうか?

 

「2年F組 川神一子!」

「今日より2年F組! クリスティアーネ・フリードリヒ!」

 

お互いが前に出て大きな声で名乗りを上げる。

お嬢様の獲物はレイピアか。

 

「決闘の取り決めとして、まず初めに武器の使用の許可、急所攻撃及び決着後の追い討ち禁止とさせてもらうぞい」

 

最低限のルールは取り決められているようだ。

それから後に決着方法などを述べていた。

テンカウント以内に立ち上がれなかった場合も敗北となる。

それ以外は俺と武蔵の時とほとんど変わらないルールだった。

 

「それでは、始め!!」

 

その言葉で決闘が始まる。

 

お互いが牽制するかのように見合う。

始まりからすでに数秒は経っている。

一瞬の間も目を逸らしていない二人。

 

「はあああっ!!」

 

先に仕掛けたのは一子。

薙刀の射程距離を読んでいるのだろう。

レイピアの範囲外から横凪に攻撃を放つ。

 

「ハッ!!」

 

お嬢様がレイピアでその一撃を受け流す。

そして攻撃のあとの硬直する一瞬を狙って突きを放つ。

 

「フッ!!」

 

完全に振り切らなかったのだろう。

一子は腕を途中で止めて一気に逆方向へ攻撃を放つ。

 

「くっ!!」

 

レイピアの突きが弾かれる。

お嬢様が後退して攻撃を避ける。

 

「シッ!!」

 

下から上へ薙ぐ。

さらに上から斜め下に振り下ろす。

 

一子がレイピアの間合いを読んだ上で怒涛の攻撃を仕掛ける。

 

「やるな、だが負けないぞ!!」

 

受け流して懐に攻めていく。

突きを放つも一子には当たらない。

重りを外しているため距離を結う結うとれるような速度になっている。

 

その様な応酬が長く続いていく。

 

今でおおよそ五分は過ぎた頃だろうか。

 

薙刀の攻撃をお嬢様が受け流して突く。

そのレイピアの突きを一子が避ける。

 

そしてお互いに距離をとる。

 

このようなやり取りが続いていた。

 

しかしここで一気に試合が動き始めるようになる。

 

お互いが距離をとっているなかでお嬢様が前の方に僅かに進む。

もし仕掛けられれば薙刀を避けられるかどうかといった間合いだ。

一子の攻撃を誘っているのがわかる。

だがこの間合いは危険である。

伸るか反るかの大博打。

仮に仕損じればその時点で敗北が決まるほどのものを仕掛けていた。

 

お嬢様が前に進んでいった瞬間に砂が舞い上がる。

前に進んだ事を好機と思ったのだろうか一子が飛び上がっていた。

 

「ああああああ!!!」

 

上から下に振り下ろす一撃。

お嬢様の顔には決意があった。

まるで進み往く兵のように悠然と距離を詰める。

 

「信じてよかった、その瞬間を待っていたぞ!!」

 

勢いをつけた全力の突きを放つ。

流石にこのタイミングでは当たるだろう。

……まあ、あくまでアドバイスを聞いていない場合だけの話である。

アドバイスの事に一子が気づいていれば避けられる。

 

「簡単には喰らわないわ!!」

 

振り下ろした勢いを殺さずに前転する。

その動きは軽やかだった。

残念な事だが突きを完全に回避することは出来なかった。

しかし距離をとり最小限の損傷に留めていたから良い方だろう。

 

俺は見えない程度にガッツポーズをしていた。

強みである武器の特性を生かした回避方法。

実に見事だった。

隣で英雄が喜んでいるのが印象的だ。

 

「あのタイミングであの突きを避けるとは……驚嘆する」

「危なかったわ……重りを外してなければ当たってた」

 

再び距離をとる二人。

お嬢様としては今の突きは当たるはずのものだったはずだ。

それを一子が避けている。

精神的な揺らぎは有ったはずだ。

 

「やあああああああ!!!」

 

一子が薙刀を槍のように投擲する。

 

その瞬間俺は微笑む。

そうだ、その選択も正解だ。

叫んでやりたくなるほどの喜びが体を駆け抜ける。

 

アドバイスは武器だけではなくいくつもの意味が有った。

それは強みである速度を活かす事。

そして武器の戦いだけでなく自分の鍛えてきた肉体を信じる事。

 

それを心がければ少しではあるが殻を破るきっかけになるかもしれない。

上手くいけば武器一辺倒だと思っている相手の虚をつける。

結果、相手の動揺を誘える。

ましてや揺らいでいた場面でこういった行動をすれば効果は更に大きいものだ。

 

「武器を捨てるだと!?」

 

それと同時に勢いをつけて一子が走り出す。

薙刀をお嬢様が避けたと同時に一子のタックルが入った。

 

「やああっ!!」

「ぐあっ!!」

 

いくら一子が軽くても勢いのついたタックルは威力が有る。

捨て身のような形で頭からめり込ませたから余計にたちが悪い。

その一撃でお嬢様がよろめく。

 

その勢いのまま跳躍して両肩に手を乗せる。

体を捻ってそしてそのまま一子はお嬢様の首に足を絡めて投げる。

背中で受身を取るように勢い良くその技は放たれる。

 

俗に言うフランケンシュタイナーを決めていた。

脳天から落ちる危険な技だ。

しかしそこに一子の弱点が入り込む。

それは『優しさ』、戦いにおいては『不純物』ともいえるものだ。

その弱点が僅かに打点を脳天からずらした。

そのせいで威力は半減して頭を揺らす程度に留められた。

 

しかしそれでもしたたかに打ちつけたため衝撃が大きかったのだろう。

お嬢様は頭が揺れているためすぐには起き上がれずダウンカウントが取られる。

結局テンカウントまでに立ち上がるがお嬢様は続行意思を示す事ができなかった。

勝者が決まる時まで膝が笑っている状態のままだった。

 

勝負の後はお互いを讃えあっていた。

俺はそれを見届けてからS組に戻った。

 

そんな事もあって放課後。

F組から騒ぎ声が聞こえる。

どうやら風間ファミリーの中で誰が誰の案内をするか決めているようだ。

こういった時は大和とかクラス委員の甘粕さんに任せるのが良いだろう。

 

そんな事を考えていたら扉が開く。

出てきたのはキャップと背の高い男の転校生だった。

 

「久しぶりじゃねえか、キョーヤ!!」

 

俺の姿を見るやいなや満面の笑みでこちらに話しかけてくるキャップ。

俺も笑顔を返して手を振った。

 

「運動会の時は話しかけてこなかったけど何か有ったのか?」

「あの場で話すことなんて無かった」

 

こちらとしては話す雰囲気でもない。

話題というものもなく意図的に避けた。

 

それから後も意識して会わない様にして来た。

これが不思議な事に会いたくないと思うと本当に会わなくなるのだ。

それにキャップに会うという事はほとんど必然的に大和と顔を合わせる。

俺は大和と顔を合わせる気にはなれなかった。

 

「そうか、回るんだけど一緒に行くか?」

「別に構わないがあと二人は誰が案内するんだ?」

 

お嬢様と女性が居たはずだ。

俺はその事について疑問を抱く。

するとキャップが笑みを浮かべたまま答えてくれた。

 

「クリスは大和、アマレットはガクトが案内する事になった」

 

なるほどね。

人選としては間違ってはいない。

 

モロでも良かったが人とのぶつかり合いをなくせる意味では大和の方が良い。

人と一緒に居る機会が多い以上、お嬢様のような人でも問題ないと思ったのだろう。

ガクトについてもめちゃくちゃな所を勧めたりはしないだろう。

 

「あの、早く行きましょう」

 

低い声が響く。

 

「悪いな、雁侍、じゃあ行くか」

「そうだな」

 

そう言って観光ついでに案内が始まった。

キャップと巡ったところはなかなかツボをついていた。

 

仲見世通り。

中華街。

 

それから少し遠出をして七浜公園や赤レンガ倉庫。

 

雁侍はそれらに終始笑顔を浮かべていた。

案内も終わり雁侍は楽しそうに家へと帰っていった。

 

それから公園へ行く。

ベンチに腰掛けた時キャップが真剣な面持ちでこちらを見る。

雰囲気がさっきとはまるで違う。

そして重々しく口を開いた。

 

「……何で俺たちの前から姿を消したんだ?」

「それを聞くか、キャップ」

 

やはり気にはなっていたのだろう。

突然遊ばなくなって探しても全くもってもぬけの殻だったのだから。

 

「一応聞くが、大和から聞いてないのか?」

「大和は転校とか言っていたけど今考えたら違うんじゃないかって思ってな」

 

なるほどね。

自分に都合の悪いところはぼかして伝えたってわけか。

 

「また皆揃っている時でも話すよ」

「そうか、お前が抜けたあとにモモ先輩と京が来たんだ」

「へえ……」

 

俺は本当の事を話してみようと思った。

そしてキャップの言葉に対して僅かに手に力が入る。

あれから二人も増やしたか。

俺が抜けたから一人分は空きが有るだろうけどちょっと釈然としないな。

 

「そして俺はクリスとあの一年生の女の子を新しく入れたいと思ってる!!」

 

あの一年生って由紀江さんのことか。

キャップの宣言に俺は口出しはしたくない。

それに俺がする権利を普通ならば無い。

 

二人ににとっては一つの転機になるはずだと思う。

だから俺は頷いておく。

 

ただ大和が了承するかは分からない。

あいつがあの日を覚えていたら入れてはいけないはずだ。

 

それを破るようであるならばこちらとしては物申す。

あの日から解決されていない問題。

あれから追加しただけでも苛立ちが募る。

もし次了承したならばこちらとしては見逃す事は出来ない。

 

「悪いがキャップ、了承してくれる奴のあてはあるのか?」

 

一応聞いてみる。

きっと一子とモロはOKを出すだろう。

ガクトも女性だから問題はない。

七人のうち三人は大丈夫だろう、そこにキャップが入れば半分を超える。

多数決になっても勝てるはずだ。

ただいやがる奴が少しでも居たら考え直すべきだろうからな。

 

「問題ない、俺の決めた事だ、文句は言わせねえ!!」

 

この言葉に俺は苦笑いを浮かべる。

俺もこのように自分のわがままを押し通せるほど強引だったなら抜けなくてすんだのかな?

答えが返ってくるわけではないけれど少し考えてしまう。

 

「まあ、また遊ぼうぜ」

 

考え事をしていたらそんな言葉が飛んでくる。

 

「抜けたとしても友人じゃなくなるわけじゃないんだからよ」

 

その笑顔が眩しかった。

そして心の中で思った。

『リーダー』に必要なのは『器』なのだと。

英雄にせよキャップにせよそういったものが備わっている。

 

「ああ、また遊ぼうな」

 

俺はその笑顔に対して満面の笑顔を返して公園から出て行く。

俺は少し後ろめたいものを感じながら家路へついた。




今回は少々時間を使った割りに短くてすいません。
会いたくないと意識したら会わないというのは意外と現実でもあります。
何かご指摘ありましたらお願いします。


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『遠い日の怒り』

投稿ペースが落ちて亀更新となってすみません。
今回からある作者さんの所のキャラが登場します。
許可は取らせていただいております。


キャップと話したあの日から一週間が過ぎた。

六月になるよりも半月も前のある日。

2-Sではある一つの問題を抱えていた。

それは数分前に遡る。

 

.

.

.

 

「葵君、葵君!!」

 

トーマを呼ぶ声が響く。

よく通る声だ。

そんな声を発しているのは不死川心である。

一体何が有ったのだろうか?

 

「どうしたんですか、不死川さん?」

 

トーマを白い歯を見せて微笑む。

流石は学園で『エレガンテ・クアットロ』と呼ばれるだけはある。

普通の女性ならこのワンアクションだけでくらっとするだろう。

 

しかし流石は不死川。

くらっとせずに毅然な態度でトーマを見ている。

トーマがどうしたか聞くと、待ってましたといわんばかりに早口で話し始めた。

 

「なるほど、賭場で負けましたか……」

 

話の内容としては賭場で負けてそれで悔しいから解決して欲しいという事だ。

方法としては『決闘』になるだろう。

 

「不死川、負けた時にもしかして風間か直江がいたんじゃないのか?」

 

不死川は運も武力も結構なものを持っている。

普通の相手では負けないはずだ。

そこで俺はF組で倒せるであろう心当たりの人間が関与していないかを念のために聞

 

いた。

 

「風間は居なかったものの確かに直江は居たが……それがどうかしたのか?」

 

俺はその瞬間額を掌でたたく。

完全にやられたってわけだ。

イカサマに対して無警戒だったんだろう。

まだキャップならば運で負けたというので納得できる。

しかし大和が相手となればそういう事をしたのが容易に想像できる。

 

「イカサマされたかもね、ざんねーん」

 

ユキがそんな身も蓋も無い事を言う。

まぁ、正直警戒心も出さずにやっていたら食い物にされるのは確実だろうね。

 

「というかそういう時にその状況で勝負するのは間違いだろ……」

 

準が言うように大和がいたら危ない場面だ。

俺だって万が一勝負なんてあったら少しの備えはするつもりだ。

 

「黙れ、ハゲ、此方が山猿相手に逃げるなど恥じゃ!!」

 

準の言葉に反論をする不死川。

 

「その結果負けてちゃダメだよー」

「うるさいわ!!」

 

しかし次の瞬間にユキが再び実も蓋も無い事を言った。

ユキの言う事は正論ではある。

引いた方が良いのに引かずに負けたら格好がつかない。

 

「で……不死川さんは具体的にどうして欲しいんですか?」

 

「あの直江と一緒にいた島津とか言う奴も含めて一泡吹かせてやりたいのじゃ!!」

 

ガクトか……まぁ、八極拳使えばあっという間なんだけどね。

 

「いや、だから具体的にどうする気だよ?」

 

「戦闘による決闘じゃ!!」

 

準の質問に瞬時に答える。

想像していた通り、そちらの方法か。

 

「直江の策に島津の力……考えたら結構めんどくね?」

 

準が言う事は分かる。

ガクトの力だけならまだ楽に戦える。

だがそこに大和の策が加われば勝算は低くなる。

 

「準の言う事は間違っていません」

 

トーマも流石にその脅威は分かっているようだ。

こちらに顔を向けると言うことはできる限りの戦力を投入する気なのだろう。

ユキでも十分に勝てるだろうが万が一の事態を避けたいというトーマの気持ちも納得

 

できる。

 

「準、キョーヤ……この願い引き受けられますか?」

「若、残念だが用事で無理なんだ、戦うのは今日なんだろ?」

 

トーマの願いに準が断る。

まあ、流石にいきなりだから仕方は無い。

そして不死川に戦いの日程が今日かを準は聞いていた。

 

「そうじゃ、速くやっておかねばF組の奴らが増長するからの」

 

その言葉を聞いて不死川は頷く。

俺はその瞬間頭を抱えた。

それじゃあ助けてもらえる可能性も低くなるのが当たり前だ。

こちらの予定を完全に無視して喧嘩を売るのは止めてくれと心底思った。

今回は予定がないけれど仮に有ったらどうしようもない。

 

「不死川の代わりに決闘やる奴は準が無理となると俺だな」

 

俺は頬をかいてそういった。

この中で誰も手を上げなければ俺になるだろうし別に問題はない。

 

「そうだな……頼むわ」

「キョーヤ……良いんですか?」

「なーに、槍じゃなくてこっちなら十分さ」

 

そう言って握り拳を作る。

昔よりガクトが強くなっているとはいえ俺も強くなった。

血の滲む努力を繰り返してきた分、差は縮んでいないはずだ。

 

「待てよ、キョーヤ……手を上げた奴が居る」

 

「えっ、誰?」

 

「あそこで本呼んでいる奴さ」

 

「アレは確か……港って奴じゃないのか?」

 

そう、俺は面識はないが名前は知っている。

 

一年生の時からのS組でガタイも悪くない。

調べた所によると空手をやっていた過去を持っている。

実力としてはかなりのものだとだというのが肌で感じ取れた。

 

そんな港君の前に座り一言発する。

 

「急な話だけど良い訳?」

「何がだい、用事は無いよ」

 

人の良い笑顔で俺の質問に答える。

しかし目の奥には何か黒いものがあるような感じだった。

 

「そうか、別に無理はしなくて良いんだぜ」

「別に無理でもないよ、なんでそう思うんだい?」

 

「この一ヶ月見ては無かったけどこういうのに乗るタイプではないからな」

「そりゃ僕だって羽目を外す時もあるさ」

 

指をワキワキとさせて微笑む。

どうやらやる気は満々のようだ。

 

「そうか、不死川の頼みだしどうにかしてやってくれ」

「当然、君にいわれなくてもやるよ」

 

こちらの頼みに対して微笑を返す港。

しかしその目は笑ってはいない。

さながら蛇のようでこちらを上から下まで見ている。

まるでこちらの実力を見定めているような……。

そんな考えを浮かばせる目だった。

 

「お前ら何二人でいい気になっているんだよ」

 

そんな風に話していた俺たちに後ろから話しかけてくる。

確か彼はテニス部の仲村君か。

 

「何でってそりゃ俺の代わりに不死川の試合をやってくれるって言ってるんだぜ」

「港がやるくらいなら俺がやってやるよ」

 

その言葉を聞いた瞬間俺は顔を引きつらせていた。

 

「黙れ、アホ、君が島津に勝てるとか思ってるのか?」

 

出来るだけやさしい声で俺は言う。

しかし侮蔑の意味をありったけ込めてだ。

多少トーンが変になったが問題はない。

 

「なっ、テメェ!」

 

その言葉を聞いて仲村君が怒る。

怒っても全然怖くもなくこちらとしてはつまらない。

 

「俺は港君に頼んだんだ、お前じゃ島津を倒せない」

「お前、ナメてんのか!!」

 

俺の正直な言葉を聞いて仲村くんは完全にキレる。

わざわざ回るのをめんどくさがって机から乗り上げるようにして殴ってくる。

馬鹿だな。

 

そんなぬるい攻撃じゃ俺を倒せない。

ガクトなんてもってのほかだ。

 

その拳を避ける。

そしてその振り切った腕を引っ張って顔を殴る。

人中に最速で拳を叩き込む。

 

攻撃についてはあまりにも雑すぎる攻撃だ。

そして防御面なんて紙のように脆い。

回避ができないならばせめて防御をすれば良いのに。

今の一撃でもう頭が揺れているようだ。

ここはもう決めさせてもらうことにしよう。

 

机を経由して仲村君の方へ進んでいく。

机をヒザに例えて飛び上がる。

俺は無防備な中こめかみにシャイニング・ウィザードを叩き込んだ。

 

仲村はその一撃でうつ伏せに倒れこんだ。

この程度は本気ではない。

こちらとしてはウォーミングアップのようなものだ。

 

「悪いな、港君、見苦しい所を見せた」

「あっさりと倒しちゃったね、残念だよ」

 

こちらに笑顔を見せて賞賛をする港。

一瞬背筋に冷たいものが走ったがなんだったのだろうか?

 

「偶然だよ、それともそっちが羽目を外す前哨戦をやっておきたかったかい?」

「いやいや構わないさ、あと僕のことを君付けで呼ぶのやめてくれるかな、港で良いよ」

 

こちらは表情を悟られないようにして偶然を装ったような物言いをする。

呼び捨てにしても良いというのでコレからはそういう風に呼ばせてもらおう。

 

「そう言えば時間の方は、どうなってるのかな?」

 

「放課後ですよ、港君」

 

「トーマ、気配を消して近づくな」

「葵、どうもありがとうな」

 

それだけ伝えてトーマは席に戻る、お前は一体何がしたいんだ。

 

時計を見たらその意図に気づく。

あぁ、5時間目が始まる前に自分の角度から見えるように話しかけたのか。

さすがだなトーマ。

だがそういうことは素直に言え。

『女心をくすぐる方法ですよ』とかの返答はいらないから。

 

「とりあえず島津の試合は頼んだ」

「分かったから戻らないと、人間学の授業が始まるよ」

 

俺はそう言って席へと戻った。

宇佐美先生の授業は今日は税務署関係の話であった。

父さんからも抜け道はあるんだと教えてもらっていたから良く分かった。

 

副業で二十万以上か……

また株を始めたら可能性はあるな。

 

そして放課後。

グラウンドではすでに決闘の用意がされていた。

どうもこの熱狂が俺は慣れない。

そんな事を思いながら俺は俺でグラウンドの後ろの方で観戦する。

 

いやー、こうしてみたらやっぱりガクトはでかいな。

身長は俺より高いから180センチ台か190センチ台といったところ。

筋肉の搭載量を考えたら体重の方は確実に三桁に届いてるだろう。

 

鍛え上げられた筋肉が今にもうなりを上げようとしている。

 

一応ルールはこんな感じだ。

 

2分3ラウンドの判定による勝敗はなし。

時間切れは引き分けとなる。

 

オープンフィンガーグローブの着用と武器になる道具の使用の禁止。

 

目潰し、喉突き、金的蹴り、噛み付き、脊椎への攻撃の禁止。

 

ダウン後にカウント5で立ち上がれない。

もしくは戦闘続行不可と審判が判断したら敗北。

 

ギブアップもアリ。

その場合はKO負け扱いとなる。

 

また明らかに戦意を喪失している場合などはTKO扱いで敗北。

 

以上が本決闘でのルールだ。

 

さて……港三千尋の決闘が始まる。

 

空手していてさらに柔術をしている。

どれ程の腕前なのかな?

 

リーチはガクトに分がある。

しかしガクトは多分柔術使いという事まで頭が回っていないだろう。

なぜなら馬鹿だから。

細かい事だと思って考えては居ないだろう。

 

打たれ強くても関節は鍛えられないからそこをどうするかが鍵だ。

 

打撃だけでもどうにかしようとするその構えだけは良いと思うよ。

何の対処もなくやるよりかはね。

 

「両者、前へ!」

 

学園長、いつも思うんだろうけど大丈夫なのかなぁ。

こんなに力んで声上げると体に障るんじゃあないだろうか。

 

そんな事を考えた俺ははっとして頭を振る。

俺は一体何を考えているんだ。

 

集中力を切らせるような余裕はない。

ましてや初めて見る相手なのだ。

きちんと観戦して対策を練らなくてはいけない。

余計な事は考えずに目の前の決闘を観戦する事に集中だ。

 

「2-F、島津(しまづ) 岳人(がくと)!」

 

「2-S、港(みなと)()千尋(ちひろ)

 

ガクトの奴は相変わらず元気だなー。

 

対照的に港の方は自然体だ。

それともガクト位じゃあそれほど入れ込まなくても勝てるという自信の表れか?

 

「では、始めぃ!!」

 

開始早々俺は信じられない光景を目の当たりにする。

 

待っている?

あのガクトが?

先手必勝とか言ってガツガツ攻め込む気性のあいつが?

 

ファイティングポーズの構えをして顔面をガードしている。

秒殺とかそういう壮言大語をはいていても勝ちに行っている。

 

フルコン空手の攻撃を防ぐ為に大和が入れ知恵したか?

 

確かにフルコン空手は近接の間合いからの攻撃。

そしてコンビネーションはすさまじく発達している。

 

港が待っている状態からあからさまに体勢を低くした。

レスリングの構えだろうか?

迷いを誘ってその隙をつく作戦という訳か。

 

その方法はガクトには通用するだろう。

しかしそれが通用しない奴がこの学園に何人いるやら。

 

俺はそんな事をされた場合、方法は一つ。

正面突破だ。

成功するかは分からないが一気に踏み込んで一撃で仕留めに掛かる。

踏み込む動作に要する時間はその低くする間の時間で十分だからだ。

 

そんな事を考えていたらガクトが動き始めていた。

一気に踏み込んで拳を振るう。

しかしそれは今までのイメージとは違っていた。

 

振りぬくのではなくジャブによる牽制。

港との間合いを計る為に放つ攻撃。

 

港はその一撃に対して後ろに下がって回避をする。

受け止めるにも相手が相手だから無理もない。

ガクトほどのパワーがあればジャブでも大きなダメージを与える事ができる。

そう考えれば後ろに下がったほうが賢明な判断だろう。

 

その攻撃の中冷静に港はたたずんでいる。

そしてジャブの隙を突いて針の穴を通すように見事な蹴りを腹に向かって放っていた。

 

「ハッ!!」

「グッ!!」

 

そんな港の蹴りが見事にガクトの腹に入る。

しかしガクトは僅かに顔を歪ませただけで腕を振るう。

 

「……ヌンッ!!」

「チッ!!!」

 

港はそれに対して舌打ちをするが逃れることは出来なかった。

 

それによって港の蹴りを腹筋で耐えた後にガクトが顔面へ拳を直撃させる。

しかしその拳にはダメージが与えた事が分かるほど力がなかった。

その為僅かに港の顔に当たっただけでダメージを与えることは出来なかった。

 

しかし顔面に当てた事で距離感を掴んだのだろうか。

港に対して的確に連打をしていくガクト。

細かく攻撃をしていって堅実にダメージを与えている。

 

ただ港も無防備に喰らっているわけではない。

受け止めて延々と機会をうかがっている。

体を丸めて腕で両脇を固めて顔を隠している。

さながら亀のようにしてガクトの連打をやり過ごしていた。

 

流石に痺れを切らしたのか投げ技に移行するガクト。

 

港の足を取りに行く。

港は足を上げて回避をする

港が距離をとって呼吸を整える。

 

ガクトはその間に港を見る。

どう動いてくるのかを考えているのだろう。

 

再び足を取りに動くガクト。

それをじっくりと見て状況に対応しようとする港。

一瞬見えていたのはあの怖気の走る蛇のような目だった。

 

足を抱えようと動かしていた掌が拳を形作っている。

つまり抱える動きはフェイントでこのアッパーが本命。

最後に頼ったものはやはりパワーだった。

 

流石に裏をかかれたのか驚いた顔になる。

しかしそこは実力者。

一瞬で顔を戻して信じられない行動に出る。

 

港はアッパーに対して脱力をして待ちかまえる。

そしてそのままアッパーの勢いに身をゆだねる。

物干し竿にかけられる洗濯物のようになる。

そしてここから瞬きも許されない関節技が始まる。

 

足を払って極めにかかる。

ガクトが足をつけて逃れるがいつの間にかガクトの上に乗っている。

 

腕力で強引に解こうとするが港が腕を取り足で挟むようにする。

さらにその際に片方の足を腹に当てている。

そして一気に前転をする。

その勢いを活かしてポジションを整えて完成させる。

 

その結果……

 

港の腕が。

港の足が。

 

ガクトの腕に絡み付いて固めていた。

綺麗にその技が決まっていた。

 

「ギブ!!、ギブアップだ!!」

 

完璧に極まっている為に痛みが先行したのだろう。

港が聞くよりも早くガクトはギブアップと言っていた。

 

「そこまで!」

 

その声を聞いて、港はガクトの右腕への拘束を解いてやった。

 

元からガクトが無理をしなければ怪我させるつもりもなかったようだ。

 

無理に粘ったらそのままへし折るつもりだったかもしれないな。

俺ならば躊躇いもなくそうしただろう。

もしかしたら誰だってそうするかもしれない。

何故ならば勝てるから。

そうすることで勝利が手堅くなるからだ。

 

「勝者、港三千尋!!」

 

学園長が、先ほどよりも一層大きな声で宣言した。

 

俺はその結果を聞いて見回す。

そしてその中には見知った顔の人が居た。

 

「由紀江さん、見に来たんだね」

「はい、私はガクトさんの決闘を応援に……」

 

「そうか、残念だったね、でどういう関係なんだい、ガクトと?」

 

最悪の結果を考えた上で俺は質問をする。

大和の決断がどうだったのだろうか。

ユキのように拒絶をしたのだろうか。

 

「風間ファミリーの一員になりましたから、それでですよ」

「そうですか……それは良かった」

 

言葉では祝福をする。

しかし心には怒りが渦巻いていた。

憎悪が活火山のマグマのように噴出していた。

 

「ヒッ!!?」

 

雰囲気だけでも察知してしまったのか由紀江さんは驚いていた。

 

「あっ、あの……」

 

「話さないといけない事ができたな、ユキはいるか?」

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

ユキを呼ぶとすぐに来た。

多分近いところで見ていたんだろう。

 

「ユキ、俺についてきてくれ!!」

 

俺は大きな声でユキに呼びかけていた。

しかし俺の鬼気迫る雰囲気に由紀江さんが少し驚いていた。

 

「そっ、その……」

「まゆっちが驚いてるだろうが、キョーヤ」

 

キャップが現れて俺に落ち着くように促す。

俺はキャップの方へ振り向いて質問をしていた。

 

「キャップ……大和は一体どこに居る?」

「今頃寮に帰っているだろ」

 

キャップが俺の目を見ながら言っている。

鬼気迫る雰囲気に二の足を踏まないとは流石だといわざるとえない。

 

「怒りすぎだよ、ちょっとクールダウンして」

 

モロがいまだに収められていない『気』に対して指摘をする。

悪い悪い、収めようと思ったんだけど上手くいかなかったみたいだわ。

 

「でもなんなの、大和に話って?」

「それは追々話すから案内頼むよ」

 

モロの質問に対して流す。

別にこの後に話をするから待っていてもらおう。

 

「俺様が案内してやるから着いて来いよ」

「私はユッキーを案内してやろう」

 

ガクトが前に立ちモモ先輩がユキの肩に手を回す。

 

「わーい、僕にもお姉さんができたよ、おにいちゃん!!」

「良かったな、お姉ちゃん欲しいっていってたもんな、ユキは」

 

ユキが無邪気な笑顔で喜ぶ。

余りにもべったりと引っ付こうとしているのは流石にいただけない。

モモ先輩も迷惑だと思っているかもしれないというのに。

 

「うんうん、素直で可愛いなー」

 

そんなやり取りをして俺は皆と大和がいる島津寮へと向かう。

あの日の言葉を裏切った怒りが『気』となり噴出しそうになっていたのだった。




今回から『真剣でアイツに恋してる! Restart』のオリキャラである港三千尋が登場しています。
許可してくださったモーディスさんには大変感謝しています、この場で今一度感謝の意を伝えたいと思います。
彼はまたいろいろな話で登場させていく予定です。

またおかしな点などございましたら指摘のほどお願いします。


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『あの日の全て』

今回は過去編に対しての追及です。
見る人によっては不快感があるかもしれませんがそこは申し訳ございません。


俺は怒った気持ちのままガクトの案内で大和の居る場所へと向かっていた。

 

「ごめんなさい、モモ先輩」

 

しかし俺はなぜか謝っている、その理由はと言うと……

 

「えへへー」

「別に気にするな、ワン子や京も居ないから良いさ、それにしてもユッキーがこんなに甘えてくるとは知らなかった、カワユイなー」

 

あれからずっとモモ先輩の背中にべったりとユキが張り付いていた。

それはもう一昔前に会った垂れた動物の様に。

 

「それにしてもキョーヤ、ユキはすごく社交的だね」

「まぁな、それもこれもお前のおかげさ、モロ」

 

モロが話しかけてくる。

お前のおかげだというのに気づいていないのか?

 

「僕の?」

 

モロが不思議な顔をする。

ああ、この顔は本当に知らないみたいだ。

 

「お前が頑張ってくれたからあいつは他人へ心を多少開けるようになった、それに友達を作るようにトーマが言ったのも効いたんだろうな」

「そうなんだ、それはそうとどうしてモモ先輩に面倒見させたのさ?」

 

コイツは……。

俺は額を叩いて説明する事にした。

 

「お前にべったり張り付いたらガクトやモモ先輩が誤解するからだよ、お前気をつけないとあいつに好かれているんだぞ」

「えっ!?」

 

突然のカミングアウトに顔を赤くするモロ。

お前は自覚ないだろうが真剣な気持ちでユキはお前にターゲットロックオンしているんだぜ。

この様子ならトーマ以上に好かれているという事にも気づいていないのだろう。

気をつけないと猟奇的な恋をする羽目になるぜ。

 

「モロさんとキョーヤさんって仲良いんですね、ガクトさん、キャップさん」

「まぁな、あいつとモロはシンパシーを感じるところがある」

「俺様のようなタイプと違う部分で仲が良いんだよな」

「一体どういう間柄なんですか?」

「大方察しがついていると思うけどな、まゆっち」

「えっ?」

 

俺とモロが話している間にボソボソ話を向こうでしているのか、ちらちらと話の断片が聞こえる。

話をする為に後ろに下がっていたからガクトがこちらを見た時に俺達関連だというのが分かった。

 

「とりあえず寮に着いたし大和と話すんだろ、俺様もカーチャンにいわれるが入らせてもらうか」

「待ってくれ、ガクト」

「どうしたんだ?」

 

寮の扉を開いて今にも入ろうとするガクトを俺は呼び止める。

俺とした事が基本的な事を忘れていた。

 

「大和って何か生き物とか飼ってる?」

「ヤドカリ飼っているぜ、それがどうかしたのか?」

 

それを聞いた時に俺は大和の部屋で話をする予定だったのだが、場所を移すように促していた。

 

「悪いが大和の部屋じゃなくてリビング借りれないか?、実は俺って結構小動物にストレス与えるからさ」

「……そりゃあ大和切れるわな、部屋に入れたら次の日死んでましたじゃ」

「俺が麗子さんに聞いてくるから2階でワン子達呼んできてくれね?」

 

キャップやガクトとそんな事を話し合って俺は島津寮…ガクトの家の隣にある寮へと足を踏み入れた。

しかし意外にも最初に入って出会ったのは…

 

「香耶じゃねぇか、なんの用だ?」

「タッちゃん!?」

 

まさかタッちゃんが此処にいたとは。

宇佐美代行センター以外では顔をあまり合わせないから知らなかったぜ。

 

「2階に上がるんだろ、話しつけて来てやる」

 

さすがは面倒見に定評のあるタッちゃんだ。

俺の行動を先読みして2階へ上がるように話にいってくれた。

どうやら許可が必要だったようだな、危なかったぜ。

 

「ここか……」

 

俺は部屋の前でノックをする。

女性の部屋の訪問なんて任務の際の隊長の部屋以来だ。

 

「誰だ、大和か?」

「いや、違います」

 

少し前に聞いた声だ。

よく通る声だというのを考えればクリスお嬢様だろう。

 

「キャップ?」

「でもありません」

 

声が変わった。

コレははじめて聞いた声だ。

一体誰なのだろうか?

 

「タッちゃん?」

「近いけど遠い」

 

また声が変わる。

これは聞きなれた声だからすぐに分かる、一子だな。

まあ、タッちゃんなんて言うのは俺を除いて女性なら一子ぐらいのものだが。

 

そんな問答を繰り返していたらドアが開いた。

まぁ、ここにいるメンバーとは違う人が来たんだから気にはなるよね。

 

「キョウちゃん!?」

「よっ」

 

俺は敬礼をするようにして驚く一子に挨拶をした。

 

「ワン子、この人誰?」

 

紫の髪の毛の女が怪訝な顔をして聞いてくる。

指を指して聞くのは礼儀としてどうなのだろうか?

 

「そういうお前さんこそ誰だ、もしかして大和のコレか?」

 

そういって小指を立てる。

しかしこれは本心ではなく皮肉を込めている。

だってなんか俺の後に入ったって事は特別扱いしたんだろ?

 

「その通り、よく見抜いたね」

「そんな事言って…大和には断られているだろ、京」

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、石の上にも三年、頑張れば実るものさ、ククク」

 

皮肉を本当に受け取って笑う。

まあ、とりあえず話が有る事を伝えるか。

 

「で、何で来たの、キョウちゃん?」

「大和に話があるからだ、リビングに風間ファミリーは下りてきてくれ」

 

なるべく苛立ちを見せないように謝罪をする。

こちらとしてはあの言葉を破って2人も入っているのが許せないのだ。

 

あいつは俺が抜けてから入ったからまだギリギリセーフだとしても由紀江さんとクリスお嬢様は別物である。

 

「ヤドカリに危険が及ぶらしいからリビングなんだよな」

「そうだ、ストレスを感じさせやすいんでな、ストレスに弱い奴ならいちころだ」

 

リビングに全員が集まっている。

タッちゃんがいるのはご愛嬌という事で別に良いだろう。

 

「さてと本題に入ってもらおうか、キョーヤ……風間ファミリーを抜けた男」

 

大和が座った状態で俺に言葉を発する。

その言葉を聞いた瞬間由紀江さんとクリスお嬢様、そして京が驚く。

 

無理もないよな。

自分達だけが知らない真実。

風間ファミリーが足し算で生まれた『9』だったと思ったら『10-1』の引き算が含まれていたんだから。

 

「まぁ、そうだな、カッとしたのと冷静な分析が出来なかったせいで抜けた訳だよ」

 

「キョウちゃん、大和との喧嘩が理由じゃなかったの!?」

「大和との口喧嘩で抜けたと俺様も聞いていたぞ」

「舎弟に負けたわけじゃあないみたいだな、その口ぶりは」

 

一子とガクトが驚きの声を上げる。

モモ先輩が腕を組んで話を聞く気構えを見せる。

 

 

「そうだな、今だから言えるんだよ、丁度此処に被害者(ユキ)も居るんだしな……」

 

小さな声で怒りを僅かにこめて俺は呟く。

そして俺は語る事にしよう……

7年前のあの日を一言一句違わず伝えてやる。

ユキの紙芝居のように、昔話のようにしてな。

 

 

「昔の事です。

ある日少年が二人いました。

少年達は仲の良い友達です。

少年達はある仲良しグループに入っていました」

 

「おいおい、昔話みたいに語り始めたな」

「聞いてみようぜ、モモ先輩、重要そうだし」

 

いきなりモモ先輩が若干つまらなそうな顔になる、無理もないことだ。

そりゃあ入り方としては無理があったからな。

しかしそこはキャップが聴くように促す事で再び耳を傾ける。

 

「その仲良しグループは面白い仲間でいっぱいでした。

ニヒルな軍師と風の様なリーダー。

泣き虫で純真な女の子。筋肉自慢の大きな男。ブレーキ役のシャイな男の子。

そしてそれらに優しい男の子と個性豊かな仲間が居ました」

 

「一人だけ個性見つけれてないじゃん!!」

 

モロには誰が誰の事を指しているのかが分かったらしい。

仕方ないだろ、俺だって考えられなかったんだから。

 

「そんなある日の事です。

風のようなリーダーはどこかへ旅に行っていました。

ニヒルな軍師と優しい少年が話していたのです」

 

ここからユキとモロが大きく関係するパートだな。

よく考えたら昔からキャップは放浪癖があったんだな。

 

「あの上級生を倒した日だったか、そういえばあの日に抜けたんだよな」

「その理由の真実ってわけね」

 

ガクトと一子が相槌を打って頷く。

一応相槌打つのは良いけど、中断するから気をつけてくれよ、2人とも。

 

「ふと気づくと気配がありました、振り向くとその正体がわかりました。

正体はマシュマロの袋を持った黒髪の少女でした。

服は汚れ痩せ衰えて幽鬼のような見た目。

さらにはどこか遠くを見るような目線でユラユラとしていました」

「結局マシュマロはそのときからのトレードマークなんだね」

 

モロの奴は今言った女の子が誰か気づいているな。

一子とかは気づいてないようだけど。

 

「少年は少女に近寄ります。

少女は驚き後ろに下がります。

少年は追いかけるように近寄りました」

「今で言えばストーカーだな」

 

モモ先輩、心にもない誹謗中傷はやめてくれ。

結構精神的にくる。

 

「少女には友達が居ませんでした。

少年は少女がマシュマロを持っていた理由を問います。

少女自身がマシュマロ自体が好きだというのもある。

もしかしたらマシュマロを渡して仲間に入れて欲しいと頼めば大丈夫かもしれない。

だからもって来たんだと言いました」

 

さてここから大和が出てくるわけだよな……無言で頑張っているが大丈夫かな?

まぁ、せいぜい罪悪感ぐらいは感じても良いとおもうよ。

 

「それを聞いた少年は仲間に入れてあげようと思い駆け出しました。

すると軍師はさっきの草むらで待っていたのです」

「待ち伏せされてたんだね」

 

モロが相槌を打つ。

待ち伏せといえばそうなるがただ気になってそこに居ただけかも知れないけどな。

 

「少年は少女を仲間に入れて欲しいと頼みました。

しかし軍師は無情にもこう答えました……」

「なんて答えたんだよ、俺様には分からないぜ」

 

ガクトが首を傾げる。

頼めばあの頃はOKだったはずなのに何故入ってなかったのかを考えているのだろう。

 

俺としても早急に行動を映すんじゃなくて、意見を一度保留して『キャップが戻ってくるまで待ってくれ』位だったらよかったのかもしれない。

その間は俺がユキの相手をしておく事で一人ぼっちにさせず、キャップが帰ってきたら伝えればよかったんだ。

しかしあの時は冷静ではいられなかった。

友人が欲しいと言っていたから、沢山の友人を一度に作らせられる良い機会だと思って俺はユキの手を引っ張ったんだ。

 

でも無情にも拒絶の言葉を大和は発していたのだ。

 

「『定員オーバーだ』とね……

なぁ、もうこの昔話風に言うのに飽きてきたんだけど普通に話して良い?」

「最初からそうしなよ!!!」

 

モロナイスツッコミだな。

さてと、まぁ普通に語らせてもらおうか。

 

「俺はそんな決まりはないといったんだ。

風間ファミリーに定員なんて決めていなかったからな」

「そうだぜ、風間ファミリーにそんな決まりはねぇ」

 

キャップは腕を組んでその言葉に賛同する。

その言葉に続けて俺は語り始める。

 

「次に大和はこういった。

ユキは隣の小学校の奴だ。

関係ない奴を仲間に入れれば俺たちにも飛び火するって」

「かぶれていた時期だからな、かなり面倒だろうな」

 

ガクトが苦い顔をして頷く。

まあ、あの時期はめちゃくちゃ面倒だったのは覚えている。

 

「さらにここからが秀逸だ、大和覚えているか?、その次に言った言葉を」

 

なんだかんだで怒気を収めて喋っている。

モモ先輩が俺の後ろに回ったのは敏感に察知したからだろう。

 

「『俺にとって人生は死ぬまでの暇つぶし。

それまで幾ら暇つぶしでも無駄なものを持ち込みたくは無い』

とお前は言ったんだ、覚えているか?」

「グッ……」

 

少し大和が呻く、そんなに呻くような事でもないだろうに。

それともあれか?

呻いて被害者ぶろうとでもしているのか?

 

「そして俺が反論をしようとするとこう返してきたわけだ…

『和を乱すな、それ以上言うならお前が風間ファミリーから抜けないといけなくなるぞ』ってな」

「それで抜けたって訳か」

 

一通り終わったと思ったのか、タッちゃんが結論を言う。

補足とか聞き役として凄い有能だから助かる。

 

「そうだ。

普通なら俺が抜けた代わりにユキを入れれば良かった。

しかし大和が只でさえ拒絶したのでやめておいた方が良かった。

ただ言えるのは今冷静になればまだ手はあった、しかしあの頃は幼いゆえに思いつかなかった。

そして一人ぼっちの辛さを知っている俺からすれば、ここでユキを一人にする方がよっぽど悪い気がした」

「それもそうだな、なんせお前が居たのは俺や一子より早かったんだからな」

 

タッちゃんは昔の事を思い出して言う。

一子とはほとんどタッチの差だったんだろうけどな。

一人は余りにもさびしいと俺は分かっていた、そんな人間に他人を見捨てるといった選択肢はないも同然だった。

 

「その日から俺はユキと一緒に遊ぶようになった。

それまで一人で頑張っていた修行に新しく入った奴が居た。

そのおかげでユキは余計独りぼっちにはならなかった」

「修行に新しく入った奴?」

 

ガクトが首をかしげる。

そしてモロがその後の言葉を引き継いだ。

 

「僕はあの日にキョーヤが本当に抜けたのか確かめにいったんだ。

それで僕は強くなりたいって言ったんだよ、ガクト」

「モロロが……修行だと」

 

モロがきちんとした口調で全員に伝える。

モモ先輩はそれに驚いている。

 

「この時点で抜けたのに関わった俺も約束を破っていたのは否めない」

「でも真偽を確かめて話を聞いてボクは人間的に救いたいと思ったから、『風間ファミリー』の師岡卓也ではなくて個人的な気持ちで協力をしていたんだ」

 

そう言ってモロは笑みを浮かべる。

コイツにとって自分の意思で強くなって、自分の意思で他人を救ったあの騒動はきっと今も色あせずに残っているだろう。

 

「キョーヤも約束は破っていたからあまり褒めはできねえ、でも師岡……お前良い判断をしたな」

 

そんな中で一方的に大和を非難している俺が関わらない約束を破っていた事をタッちゃんが咎める。

しかしその後タッちゃんにしては珍しく良い笑顔でモロを褒めていた。

 

「それから2ヵ月後事件は起こった」

 

俺は話を続ける。

もう少しで終わるだろう。

その後に大和がどんな顔をするのだろうか、それが気になる。

 

「俺はユキを虐げているのは学校だと思っていた、しかし調べていくと学校ではなく最も嫌な結果が出てきたんだ」

「どういう事?」

 

俺の言葉に一子が不思議な顔をして尋ねる。

するとタッちゃんが口を開いた。

 

「つまり一番の悪は親だったって言うわけか……」

 

流石はタッちゃんだ。

見事に意味を理解して答えてくれる。

 

「タッちゃん、正解だ。

ユキの母親はひどくてね。

着の身着のままどころか風呂に入れず満足な食事もなかった。

しかしユキはそれでも愛してもらおうと頑張っていた」

「それでどうなったの?」

 

一子は気になっているのか机に身を乗り出して聞き入っていた。

俺はその勢いに負けることなく淡々と言葉をつなげていった。

 

「一子……ユキはその日遊ぶはずだった。

しかし来ない、俺は何かあったのかと思ってユキの家に向かった。

その途中でモロにも会って協力してくれた。

幸いな事に前に足を使っていたからユキの家は知っていた。

そういうのはキャップから学んだ」

 

「どういう教えだったんですか?」

「『教えてもらえないなら、自分の体や頭を最大限に使え』だよ、由紀江さん」

 

「それでどうなったんだ、キョーヤ」

 

腕を組んだ状態で目つきが鋭くなっていくモモ先輩に俺もまた真剣な目つきで、真剣な言葉でその言葉に返答を返す。

 

「モモ先輩……その時目の前にあったのは悪夢の形だった。

ユキが母親に首を絞められていてユキの黒い髪はショックや恐怖で白くなってしまっていたんです」

「ほう、ユッキーは元から白ではなかったのか」

 

俺の話を聞いてモモ先輩がなるほどと頷く。

 

「そうです、その事件のせいで白くなってしまったんです」

 

俺はその時を思い出して憎憎しげに呟く。

無意識に撫でていた頬の傷がちくりと痛む。

 

「そのせいで風間ファミリーから疎遠になったんだな」

「そうですね。

しかしその後大和はその俺へ言った言葉を平然と破って他者への干渉をやった」

「京を助けた事だな、しかし仕方ないだろ?」

 

ガクトが口を挟んでくる。

そして俺はその言葉を聞いたとき苛立ちが言葉になって口を付いて出ていた。

ガクトは知らなかったはずなのに。

それなのに怒りをぶつけてはいけないと思っていても語気を荒げてしまう。

 

「ユキは救わなかったくせに自分と趣味が合った奴を助けるのはどうなんだよ!!」

「コラコラ、大声は出すな」

 

怒りは止まらない。

大和の方を向いて俺は叫んでいた。

 

「俺に言っただろうが、飛び火だの暇つぶし云々って!!!」

「自分の言葉に責任を持ったらどうなんだ、お前を許せないのはもう一つあるんだ

ぞ!!!」

 

大和が言葉を発するよりも速く、暇も与えないように俺は怒りをぶつけていた。

 

「完全に怒っているな、舎弟の方が今回は悪いと思うけど、止めないとな」

 

モモ先輩が後ろに回っているのが分かる。

大方暴力を振るわないようにしているのだろう。

 

「定員オーバーなら2人抜けよ、9-7=2だろう、2人余っているじゃあないか!!!」

「くっ……」

 

迫力に言葉を詰まらせやがる大和。

演技なんじゃないだろうなと勘ぐってしまい、余計苛立ちが募る。

 

「大和……」

 

椎名が何かしら庇う為に大和へ喋るように促す。

しかし俺の言葉は止まらない。

 

「人一人の心が壊れるのは素通りしておいて卑怯だろ。

罪悪感もなく天真爛漫に笑いやがって!!!!!!」

「キョウちゃん…」

 

俺の怒りの姿を見て一子が怯えたような声を出す。

俺はその瞬間怒りは過ぎ去り、一子を怖がらせた後悔の念が押し寄せて頭が冷める。

いつの間にか熱は過ぎて一段落させるように次の言葉を発していた。

 

「それを人は差別と言うんだ。

そして俺は大和、お前が憎い。

……しかしそれでも攻撃するのは俺の一存では決められない」

「えっ?」

 

大和が素っ頓狂な声を上げる。

だって本来ならお前を恨んでいるはずの人間がお前を恨んでないんだから。

 

「だってユキはその一連の騒動でお前を恨んでいないんだからな」

「うん、べっつにー」

「ユッキーが恨んでないだと……」

 

俺の言葉に頷くユキ。

それに対してモモ先輩が驚く。

まあ、無理もないことだろう。

普通なら憎くてしょうがないはずなの、に綺麗さっぱりと憎しみがなくて恨み言の一つもないのだから。

 

「そうだよー、僕に優しくしてくれたのは父さん、母さん。

お兄ちゃん、トーマにモロ、それに準だもん」

「モロロが入るのはたしかに一連の流れを聞くと納得だな」

 

ユキは淡々と述べる。

モロが入っていることに頷いて納得するモモ先輩。

 

「それに恨んでも昔は変わらないから別に良いかなーって」

「……」

 

ユキの言葉に無言でいる大和。

何かしら言葉を言うべきではないのか?

ふつふつと怒りがわいてきた。

 

「黙秘してやり過ごすのか……」

「大和逃げて!!」

「やり過ごすのかぁああああああ!!!!」

 

椎名が大和を庇おうとする。

 

俺は吼えて立ち上がる。

血が出るほど強く拳を握り締める。

違うだろ。

恨んでなくても謝罪をしろよ。

黙秘していたら怒りが収まるとでも思っているのかよ。

 

「やめて下さい!!!!」

 

由紀江さんが俺の前に立ちはだかる。

落ち着かせなくてはいけない、この人には恩が有るのだ。

いくら怒っていてもこの人を殴ってはいけない。

 

「その拳は誰かを殴るためではないです、キョーヤさん!!!」

「分かった……座るよ」

 

俺はその言葉を素直に聞き入れて座る。

せっかく由紀江さんが大声を出したんだ。

それに恩義がある。

素直に言う事は聞くさ。

 

「まゆっちの言葉がなければ危なかったね」

 

モロが冷や汗をかいている。

ちゃっかりユキの近くに動いて守る準備をしていた、流石だな。

 

「だが舎弟……今回はひどいな」

「キョウちゃんが怒るのも無理ないわ、大和……」

 

モモ先輩と一子は大和を非難する。

普通の神経なら憤りとか驚きを感じるだろう。

 

しかし風は自由である。

こんな淀んだ雰囲気。

怒っていた事。

それをどこ吹く風のようにとらえていた。

そしてキョーヤの後ろにまで近づいていた。

 

「リーダーである俺にそこまで黙っていた2人は許さないぜ、そらっ」

 

キャップが俺の頭を叩く。

おいおい幾らなんでもみんな驚いているぞ。

 

「……そんな悩みなんて俺やワン子に相談したらよかっただろ!!!」

「キャップ……すまない」

 

キャップが怒って俺に詰め寄る。

俺はキャップへの罪悪感から素直に謝っていた。

 

「大和に勝手な事されたってのも嫌だけどな、定員オーバーなんて言って仲間に入れないなんて虐めと一緒だぜ」

 

キャップも定員オーバーには少しばかり怒りを感じているようだ。

恋は盲目で気づかない人も居たけど。

 

「何でキャップやワン子達は大和をそんなに悪く言うの!?、こいつは所詮部外者じゃないか!!」

 

京が大和を擁護する。

壊れる前に助けてもらった奴とヒビとはいえ壊れた奴。

そんな奴にユキや俺達の気持ちなんぞ分かるまい。

 

「京、大和を擁護するのは分かるが今回は私は香耶の味方だ」

 

モモ先輩が冷たい声で椎名を突き放す。

味方になってくれる面子がこぞって拒否しているというのが、今回の問題で誰が非難されるのかを表している。

 

「なんでモモ先輩まで……大和は舎弟でしょ!!」

「それとこれとは別だ、香耶が抜けた裏が分かれば如何に今回大和が自分勝手か分

かるだろ?」

 

椎名が驚いた顔を見せるがモモ先輩がきちんとした理由を話す。

正当な理由ならば良いが今回の事は切り取って考えたら差別の一面がある。

 

「抜ける方が自分勝手だ、コイツは大和を妬んでいるんだ!!!」

 

見当違いにも程がある。

大和を心酔しているからそう思えるんだ。

俺は妬んでもいない。

 

「京……」

「今回は大和とキョーヤの問題だがどうするんだ?」

 

大和が若干何かしら言葉にしようとする。

しかしモモ先輩が遮って俺たちに決着をつけるように促す。

 

「俺は……」

 

大和は動揺していてあまり言葉に出来ていない、そこで椎名が言う。

 

「些細な事をいつまで引っ張っているんだ!!!」

「些細な事だと……?」

「京、薮蛇だぞ」

 

クリスお嬢様が言うがもはや遅い。

俺の怒りは再び沸点を超えて口から言葉として出ていた。

 

「確かに大和やお前に比べたら些細な事だろうさ、でもユキにとっては初めて友達が出来るかどうかの一大決心だったんだよ!!!」

 

叫ぶような大声。

空気が震えるほどの怒りに全員が驚いている。

『気』が噴出しているがもはや押さえつける事などしていなかった。

 

「でも!!」

「でもも何もあるか!!、お前は助けてもらったからそんな風に些細だと言えるんだ、虐めを受けて髪の毛が白くなるわけでもないだろう、精神疾患を患っても居ないだろう!!!!」

 

反論も許さずに俺は言葉を繋ぐ。

 

「キョーヤさん、落ち着いてください!!」

 

由紀江さんが止めようとするが無駄だ。

こいつと大和には反省がない。

そんなやつらには容赦もしない。

 

「由紀江さん……落ち着けるわけないだろう!!

椎名…お前にユキの一体何が分かる、助けてもらって今の今まで楽にいられたお前に!!

夜に悪夢を見て腕を掻き毟る痛々しい姿を見た事があるか!!!

ゴメンなさいと呟き涙を流す姿を!!!

いきなり狂乱する様な叫び声をあげてうわ言でやめてという姿を!!!

お前は見た事があるというのか!!!!!」

 

「………」

 

椎名が黙る。

一気に怒りの言葉をまくし立てたから肩が上下する、少し熱くなりすぎたか。

 

「正直な所キョーヤの言葉に嘘はないよ、僕も最後に言った症状は見た事があるしね」

「モロロが居た時にも有ったのか?」

 

モロが証人となって話してくれる。

 

「僕とキョーヤの二人で宥めていたけど、本当に酷かったよ」

 

「それは……でも私のような事は!!」

 

椎名の奴がまだ反論しようとする。

しかしモロが普通にその言葉を遮るように伝えていた。

 

「京、自殺させる会も一応有ったよ、中学校の時にね」

「それをエアメールでモロが壊滅させたというのが報告されたぞ、証拠もある」

 

モロの言葉に対して俺は同調をする。

あのエアメールはいまだに保管している。

 

「そんな……」

 

椎名が言葉に詰まる。

そこで俺は無言の大和に言葉をかけた。

 

「で、大和、なんか言う事は無いのか?」

「俺はない……」

 

「有るだろ……嘘を付くんじゃないよ」

 

俺は意地の悪い笑みで大和に言っていた。

 

「さぞかしユキを見捨てて遊んでいた時は楽しかったんだろうなあ

さぞかしユキを見捨てて食べていたご飯は美味しかったんだろうなあ

そんな事をしておいて『ごめんなさい』の一言も言えないんだあ」

 

「くっ……」

 

顔を歪める大和。

そんな時俺の肩を叩いて『やめろ』を示してきたのはキャップだった。

 

「ちょっと今日のところはもう引き返してくれないか?、また話し合うことありゃあ言ってくれれば良いからよ」

 

空気が悪くなってきているところにキャップが俺に言う。

これ以上延々と俺が大和を一方的に攻撃すると思ったのだろう。

キャップが促している以上流石にこれ以上は攻撃しないでおこう。

それにどちらかといえば大和の為ではなく、このまま一方的に嬲れば俺が悪く見られるというのを防ぐ為にやっているのだろう。

ただ事実は伝えたし言いたい事も言わせてもらった。

 

「すまないな、キャップに皆、迷惑をかけて」

 

俺は椅子から立ち上がって皆に謝る。

 

「別にこの程度気にするな、誰だって過去にああいう事が有れば怒ったりするだろ」

 

モモ先輩がお安い御用だというように手を振る。

しかし普通の礼儀としてコレが当然なのだ。

 

「いやいや、騒がせたり驚かせたんです、『悪いことをしたら謝らないと』」

 

最後の文をわざと強調させる。

そして玄関へ行こうとするとユキが抗議を申し立てるように俺に不満を漏らす。

 

「えー、お兄ちゃん、ボク電話番号交換したいよー」

「分かった分かった、やって良いから」

 

そう言って数分後ユキは玄関まで来る。

どうやら交換したのはクリスお嬢様、一子、タッちゃん、ガクト、モモ先輩、由紀江さん、キャップの七人。

どうやら大和と椎名以外の全員だったようだ。

ちなみにモロは1年生の頃に交換してみたいだった。

 

「こんな空気になったが話したり遊ぶなら前も言ったが電話するか此処に来いよ、待ってるからな」

 

玄関のドアを開ける時にキャップがそんな言葉を言う。

俺は言葉ではなくて腕を上げてそれに応えていた。




今回は今までで一番長い話になりました。
不快感を与えてしまったらすいません。
次回は少しバトル要素を考えています。
またご意見、ご指摘がありましたらお願いします。


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『獣の棲家』

今回はバトルが含まれています。
あとキャラが新しく出てきます。


あの騒動から3日後、俺は由紀江さんの居る1-Cで談笑する。

昼休みのご飯はS組の奴に馬鹿にされたからここで食べる。

逃げたわけではなく下級生とのふれあいも大事にしておかなくてはいけない。

 

「あれ、香耶さん、ここに居たんですか?」

「由紀江さん、どうしたの?」

 

ご飯を食べていたら由紀江さんが戻ってくる。

少し驚いた顔だったようだけど何か有ったのか?

 

「2-Sで九鬼先輩が怒ってましたよ、何かあったんですか?」

 

どうやら英雄が怒っていたらしい。

まあ、理由なんてコレが主なものなんだけどな。

 

「あいつは……まぁ、この弁当を見てくれよ」

「お浸し、こんにゃくステーキ、鳥のささみとキュウリのサラダですか?」

「正解、食いますか?」

 

弁当の中身を見せる、俺だって料理はできる。

由紀江さんが献立を当てる、俺は弁当を勧めてみた。

 

「一口貰いますね、先輩」

「香耶さん、では頂きます」

 

二人とも料理を口に入れる。

って大和田さん、猫食いをやるのは良いけど一口で食ったほうが良いよ。

 

「おいしいですね、先輩!!」

「香耶さん、お料理上手なんですね……」

 

二人とも笑顔で美味しいと言ってくれる。

由紀江さんは意外な顔をしていた、無理もないだろう。

 

「でもさ……S組の食事って見た事ある?」

「聞いたくらいならありますよ、なんか豪勢なんですよね」

 

一口食べて貰った所で質問を投げかける。

大和田さんが答えてくれる、まあその認識は何一つ間違っていない。

現に不死川とかアワビとかカニを食ってる時があるからな。

 

「そうなんだよ、でこれを見たらどうだい、地味だろ?」

 

色彩はともかく豪勢というには余りにも無理がある。

 

「味は良いですよ」

「それが普通の反応なんだが味も見た目だけで決められてな」

 

味は良い。

それは味見をした俺自身が知っている。

しかしS組の奴らは見た目だけで味を判断していたのだ。

 

「それで九鬼先輩は怒ってたんですね」

「そうなんだよ、別に質素でも構わんではないかと言っていたんじゃないか?」

 

あいつの言いそうな事は予想できる。

直情型だから余計に分かりやすい。

 

「はい……予想通りです」

 

それを聞いた瞬間俺は笑みを漏らす。

ここまで予想通りとは思わなかったからだ。

 

「ご飯も食べ終わったし戻りますよ、あいつは俺やトーマの事に関しては怒るんだ」

 

そう言って席から立ち上がる。

 

「あの、香耶さんは九鬼先輩とどういう関係なんですか?」

「良くも悪くも頼れる友人……かな、あいつ自身は友達だといってくれている」

 

由紀江さんが俺と英雄の関係について聞いてくる。

友人であることは事実だ。

お互いに友人と認め合える間柄であり、いつか何かしらの形式で勝負してみたいとも思わせるほど魅力的な男である。

 

「先輩の交友関係ってどれ程ですか?」

「秘密だね」

 

大和田さんが俺の交友関係について聞いてくるが流石にそれはいえない。

まあ、大和やトーマと同じぐらいの広さって事ぐらいだな、もっとも学外では異常なレベルだが。

教えてもらった事を自分で上手く実践してきた結果だ。

 

「そうですか、てっきり教えてもらえるかと」

「ハハッ、この俺が教えられるのは勉強と家事ぐらいのものさ、流石に交友関係は教えられないな」

 

そう言って俺は1-Cから出て行って自分の教室に戻った。

 

「どこに行っていたのだ、キョーヤ!!」

 

帰ってきて早々出て行った俺を英雄が叱る。

あずみさんはあずみさんで敵意を見せてるし……隠さずに言おうか。

 

「下級生と話をして居たんだ、親睦を深めないとな」

「なんだ、そういう訳か」

 

理由を聞いた瞬間英雄は笑う。

あずみさんの敵意も無くなっていた。

 

「英雄はいたたまれなくなり消えたと思ったそうですよ」

「トーマ、余計な事をいうでない!!」

 

少し英雄が慌てる、珍しい光景だ。

少し顔を背けていたのが印象的だった。

 

「はいはい……英雄のしおらしいところが見れてよかったのですが」

「若、幾らなんでもからかいすぎだと思うぞ」

「あずみー、リラックス、リラックース」

 

トーマが微笑み、準が諫めて、ユキがあずみさんのフォローをする。

あずみさんは顔がぴくぴくしている、流石に英雄の前で怒れないから我慢しているのだろう。

 

「あぁっ、リラックスは出来るが葵の奴、英雄様を翻弄していやがると思うと怒りが込み上げてしまうぜ」

「流石の英雄も若には強く言えないからな」

 

準も苦笑いをしている。

俺には少し強く言える英雄もトーマが相手では形無しだ。

 

「トーマ、それ位にしておけ」

「キョーヤが言うなら止めておきましょう、すいませんでした、英雄」

 

微笑みながら俺がトーマにとめるように言う。

するとトーマも微笑みながらやめた。

 

「全くもって下らん奴らよ、弁当の事で他人を貶めるとはな」

「食事で格が云々言い出したらもう終わりだろうよ」

 

英雄が辛辣な言葉を言うと準も髪の毛のない頭をかいて言う。

二人とも少しいらだっているのが分かる。

 

「全くですね、準が作ってくるものもおおよそキョーヤと変わりませんし」

「つまり無駄な事しか言えないって事だよねー」

 

トーマも呆れたように言う、すると他の人達に向かってユキがとんでもない事を言う。

一瞬ピンと空気が張り詰める。

全員がこちらを振り向く、と言っても港と不死川を除いた二人だけだ。

 

「ユキ、その言い方はストレートすぎるぞ……」

「とりあえず次は人間学ですよ、皆さん☆」

 

ユキの余りにも直接的なものの言い方に俺は頭を抑える。

そしてあずみさんが時間を確かめた後にそう言って昼休みは終わった。

 

お弁当一つといえど真剣に怒ってくれる奴ら。

きっと俺は今が幸せなんだろう、そう思わずにはいられなかった。

 

授業が終わって放課後。

俺は帰宅部所属だからそのまま帰宅をする、のんびりと帰っていたら河原で不良に絡まれる。

 

「よう、兄ちゃん」

「俺達はな今腹が立ってんの」

「お金くれたらさ、見逃してあげるよ」

 

お金欲しさに絡むタイプの不良か、面倒な相手に絡まれたな。

こういうのはこっちが嫌がっても言葉で止めてくる。

最終的には暴力になるんだけど。

 

「嫌です、どいてください」

 

そう言ってど真ん中を歩いて抜けようとするが……

 

「無視して行くとか舐めてんの?」

「いや、金が無いからですよ、それにどかないなら当たるけど抜けようって」

 

因縁つけてくるので理由を言う。

こんな奴らを省みるつもりはない、強引に押しのけて通る気持ちだった。

だってこういうタイプはいくら何を言っても通じないんだもの。

 

「ふざけんなよ、金ぐらいあんだろ、今の高校生はよ」

 

いやいや……あんたらも年近いじゃあないかと心の中で思いつつ言う。

 

「有りませんって、いい加減帰らせてくださいよ」

 

そういうともう我慢できなかったのか、拳を振り上げてこっちに攻撃をする。

こっちはやる気無かったけど相手が喧嘩売ってきたんだ。

それ相応に痛い目を見てもらうかな。

 

「ハッ!!」

 

拳を避ける。

そして一気に懐へと飛び込む。

 

「なっ!?」

 

相手が驚いている。

防御のリズムが遅れる。

それは俺の格好の的だった。

 

「『猛虎』!!」

 

掌底を放つ。

相手は白目をむき倒れこんでいった。

 

「えっ……」

「なっ、なんかコイツやべぇ!!」

「逃げろぉぉぉおおおお!!!!」

 

その光景を見て不良達が逃げていく。

おいおい、そう簡単に逃がすわけが無いだろう。

 

「逃がさんよ……『蹴按』!!」

 

逃げていく一人に向かってドロップキックを放つ。

と言ってもただのドロップキックではない、浸透勁を込めて放つ蹴りなのだ。

 

「えぼぉおおおおおお!!!!」

 

体液と言えば聞こえは良いだろう。

しかし相手は涙でも涎でも汗でもないものを苦しそうに吐き出す。

 

「ヒィ!?」

「逃げても駄目と知れば、足が竦む……か」

 

蹴按で逃げた奴がやられてたのを目の前で見たんだ。

そりゃあ逃げる気も失せるわな。

 

「ここまでやったけど俺と関わらないでくれますか?」

 

「はっ、はひ!!」

「もうやりません、許してください!!」

 

こっちは出来る限り優しい笑顔と声で話しかける。

まぁ、反応は想像通りだけれど。

連れの凄惨な状況を見ているためにどこか怯えた目で俺を見ている。

 

「こいつら連れて行ったら見逃しますから、お願いできますか?」

 

怯えたまま抱えて逃げる、良い判断だ。

ここでやられた恨みで逆上しても、よく考えたら自分達の立場と体が心配になる。

場をうまく収めるには自分の非を認め相手の要求を呑んでおく。

そうしなくてごねたら洒落にならない被害が起こる場合もあるもんね。

 

「さてと…こんなんじゃあ満足できない、少しは骨のある奴……あいつが居たな」

 

そして俺は喧嘩を売られたとはいえ途中で戦意喪失された為に不完全燃焼だった。

その為満足できなかった俺はある男に電話をする。

 

2回か3回ほど携帯でコールしたらその相手は出てくる、だるそうな声だ。

 

「おい竜兵、今夜は暇か?」

 

ある男とは竜兵の事だ、あいつと戦えば少しはこの物足りなさも無くなるだろう。

 

「香耶か……久しぶりだな」

「前回言ってただろう、電話をかけたって事は……分かるよな」

 

そう俺が言った瞬間声に力が宿る、やっぱりアイツも喧嘩が好きなんだろう。

 

「俺と戦うって訳だ、どこでやる?」

 

「河原か親不孝通りで良いだろ」

「じゃあ待っているぜ」

 

俺が場所を提案するとそう言われて電話を切る。

 

そして数時間後……夜になって俺は親不孝通りで竜兵と見合っていた。

 

「待たせたか?」

「あんまり待ってねぇ……」

 

こちらをギラギラとした目で睨んでくる竜兵。

今にも殴りたくて仕方ないというような顔をしている。

俺としては別に焦らす必要もない。

だからすぐに始める事にした。

 

「そうか…始めようか…」

「良い面だ……お前は倒した後も楽しめる」

 

お互いが構える……といっても八極拳を使うなと本能が告げる。

まさかコイツには通用しないのか、それとも懐に入って接近戦が難しいのか。

ゴングは無く先に仕掛ければそれが始まりだ、まずは先に主導権を握る為に攻撃をする。

 

俺は速い拳を突き出す。

主導権を握ると言う訳ではないが、先に攻撃をしないとこちらとしてはむず痒くなってしまうのだ。

 

ガードをしたとしても、そのガードが上手くないと上からでも十分ダメージになる。

その様な一撃を俺は竜兵に向かって放っていく。

 

「なかなか速いけど見えてんぞ、オラァ!!!」

 

しかし竜兵は平然と左の拳を避ける。

そして右の拳でカウンターを放ってくる。

腕が交差していく。

俗に言うクロスカウンターである。

 

一気に決める気かよ、せっかちな奴だぜ。

 

「今のは良い反応だ…しかし、そのカウンターは甘い」

 

俺はそういってそのカウンターを避ける。

そして俺はさらにそこへカウンターを叩き込む。

 

カウンター返し。

専門用語でクリス・クロスという奴だ。

タイミングはドンピシャである、このまま打ち抜けば終わるだろう。

 

そこを竜兵は待っていたというように、叩き付けるように打ち下ろしてくる。

あまりにも滅茶苦茶すぎる、右腕が左腕を邪魔しているはずなのに。

 

そう思っている間にもお互いの拳が振りぬかれていく。

結果は驚きに包まれていた。

 

「ハッ、甘いんじゃねえのか?」

「何だと……」

 

俺と竜兵の一撃はお互いに皮一枚の差で避けていた。

あのタイミングの中、俺が壊すつもりで放った一撃を避けていたのだ。

明らかなまでに後に放ったというのに凄い反応だな。

 

どうやら体を反らして打ち下ろしのカウンターを実現させたのだろう。

そして更に付け加えるのでれば同時に回避の判断をしたんだろう。

勘か獣のような嗅覚か、どちらにせよこいつはそこらの不良に比べたらとても良い気分にさせてくれる。

 

「しかしなかなかやるじゃねえか」

「喋っている暇なんてあるのか、舌を噛むぞ」

 

竜兵が賛辞の言葉を投げかけてくるがお構いなく拳を放つ。

コッチは『しあい』は『しあい』でも『死合い』の気持ちなんだぜ、勝負事での賛辞なんてものは勝敗が決まった後で良いんだ!!

 

「チッ!!」

 

不意打ちをヘッドスリップをして避ける竜兵。

コイツ……武術の心得が無いくせに無駄に良い動きをしてやがる、技術もあるじゃあないか。

 

「オラァ!!!」

 

今度はこちらが竜兵の腕に拳を当ててわずかに攻撃の軌道を逸らして避ける。

お互いの攻撃は皮一枚を削るような戦いであった、八極拳ではないステゴロの勝負。

 

なんだ、コイツの獣のような気迫にあてられていたからこそ八極拳を使うなと。

俺の中にある凶暴さを思い出せてくれると本能は言ったんだな。

 

今までこの1年の日常生活とは違う高揚感。

戦いに関して必要なものを思い出す戦いに俺は笑みを漏らす。

 

喧嘩が始まってからの鍔迫り合いが続く。

 

普段ならクリーンヒットを望めるはずだがなにしろ相手が相手。

 

武術などの総合的な物じゃあなく、ステゴロだけで見たらこの歓楽街を占めているだけの事はある。

 

「オラァ!!!」

 

最初は大振りだった攻撃も少しずつ修正してやがる。

避けられないように腰の回転を使い、脇をしめてコンパクトに振りぬく。

 

「フッ!!!」

 

拳を叩き落として反撃をする、避けてもフェイントなどという可能性もある。

こいつの引き出しの底が分からん、正直あのカウンターを避けるのは想像できてなかったしな。

 

「……もうやめだ」

「なにっ?」

 

なにやらボソボソ呟いている、何を言ってるんだ?

 

「こりゃ喧嘩なんだ」

「ん……?」

 

息を大きく吸いこみ、そして……

 

「オオオオ!!!」

「ぐっ!?」

 

速度と力が段違いに跳ね上がる、コイツ……今まで俺の土俵に付き合っていただけか!?

 

「おいおい、この程度で驚いてんじゃねえぞ!!!!」

 

突進してくる竜兵、避けても曲がってきたりするだろう。

勘が鋭い分回避行動は無駄だろうな…

 

「ぐぅうううううう!!!」

 

俺も力をぶつけて突進を食い止める。

フェイントやカウンターというものが要らないシンプルな構図にしたわけか。

 

『強い方が勝って弱い方が負ける』

そこにルールは無い、ギブアップは自己宣告、すなわち殺す様なほど殴っている場合でも『聞こえない』と言い張れば良い。

 

突進を食い止めてそこから距離を取って再び拳を突き出す。

 

「はっ!!」

 

余裕の面で拳を避ける竜兵、でもこれはどうだ?

拳を横から縦にして顔面へ一撃。

 

さっきまでなんかボクシングみたいになっていたがこいつは喧嘩だ。

裏拳の一撃ぐらいどうって事はねぇだろ?

さらに間髪入れずに頭を下げて懐へと入った。

 

「ぐっ!!」

 

顔面へ良いのを貰って怯む竜兵、だが懐に入った俺は追撃をする。

屈んでいた頭を一気に上に上げて顎にぶち込む、ヘッドバットは効くだろ?

 

「がはっ!?」

 

よろめいて頭を下げた所へこめかみを爪先で蹴る、さらにヒザを顔面に。

完膚なきまでやってやろうじゃねえか、こんなに燃えてるのはこっちも久々だ。

 

「オラァ!!」

 

顔面へさらにヘッドバット、これで終わるわけ無いよな?

 

「クソがぁあああああああ!!」

「まだまだぁ!!!!」

 

竜兵が立ち上がって来た所に俺は爪先蹴りを脛に叩き込む。

さらに飛び上がってヒザから乗り上げて顎へヒザをぶち込む。

顎が跳ね上がっていく、でもお前を倒すにはまだ足りないだろ?

 

「おらぁあああ!!」

「効かねぇよ!!!」

 

吼えて繰り出してくる拳を避けて距離を取る。

こっちは完膚なきまでやるって決めたんだ、正直な所1ヵ月~2ヶ月の入院くらいは覚悟してもらうぜ。

 

「チッ!!」

「大振りだな!!」

 

右の拳を最小限の動きで避けて腹へとぶち込む。

さらに下がり際に脛とヒザに蹴りを叩き込んでおいた。

 

「この野郎……」

「ほうけている暇は無いってさっきも言っただろう?」

 

脳天直下に踵落としを決める。

こっちは隙を見せない、だって隙を見せたら戦場では死ぬからな。

隙や油断の果てに招くもの……それは隊長殿や部下を危険に晒すなどという軍人としてあるまじき行為である。

 

「あぁ……ぐぐっ」

 

竜兵の奴は脳震盪を起こしているのか、立ち上がろうとするが足が震えている。

まだこっちの追撃は止まないけどな!!!!

 

「ハァッ!!」

 

腹に爪先蹴り、アバラにも蹴りを叩き込むが骨が折れたという手応えは無い。

 

「……掴んだぞ」

 

「チッ、全くしぶと……い!!?」

 

足に噛み付いてそれを支えに立ち上がる。

 

全く……死に体のくせにしぶといな……。

あいつの性格上開き直っているかもしれないし、こうなったらインファイトで勝負した方が良いか?

 

「ガァッ!!!!」

 

「おおぶ……チッ!!」

 

脇腹を蹴ってきた。

僅かに掠るがその反動で竜兵がよろめく。

全く無茶しやがって、もつれた足で蹴っても効く訳無いんだよ。

 

「ハッ!!!!」

「だから効く訳無いって……」

 

拳を突き出してくるが避けてカウンターで顎を打ち抜こうとする、しかし……

 

「フェイントだ……」

 

「なっ……」

 

首筋に痛みが走る、マジかよ……よく見ると竜兵の顔が近い。

噛み付いてきていた、首筋に獣のような歯を突き立てている。

 

「……ギリギリだぜ、だがそれは愚策だ、竜兵」

 

噛み付いて離さないという事は『零距離』で受けるという事。

こっちも踏み込むのは難しいが威力はアッパーでどうにかできる。

その威力を軽減する為の腕を腰に回して離れないようにしがみついているから、竜兵はノーガードで受けなくてはならない。

 

「オラァ!!!!」

「ガッ!!」

 

まずは一撃、離れないなら離れるまでぶち込むだけだ。

 

「フン!!!」

「グゥ!!」

 

二撃目って相当深く噛み付いてやがるな、コイツは。

そのまま俺の首を食い飛ばす気かよ。

 

「ガアッ!!!!」

「ブハッ!!」

 

三撃目でようやく離れた。

首から血が溢れる、頚動脈は噛み切られてはいない。

血が一気に減ったのがあったのか一瞬クラリとしたが問題は無い。

 

「全く……深すぎだろ、噛み付くのがよ」

「が……ぐぐぐ」

 

急に離れたとかで歯が欠けたりとかは無いみたいだ。

しかし竜兵は今までの蓄積で顔の方は少し腫れているし腕や足には青痣だらけだ。

 

俺の方は首に噛み付かれたせいで肉が抉れていた、あとは皮膚が切られたダメージが残っている。

 

しかし……今の今まで本気で殴って蹴ってこれとは本当に頑丈だな。

もういい加減終わらせる、流石にこれ以上の消耗はお互いの共倒れさえも考えさせられる。

 

「行くぞ、竜兵!!」

「それはこっちの台詞だ!!」

 

お互いが体重の乗る距離でほくそ笑む。

一歩も引かない殴り合いが始まろうとしていた。

 

「いや、おしめぇだぜぇ」

「「えっ?」」

 

だがいきなり後ろから聞こえた声に俺と竜兵は素っ頓狂な声を上げる。

そして一瞬灰色のものが目に映る。

 

「リアルで後頭部にチャー・シュー・メンだぜぇ!!!」

「ぐあっ!!!?」

 

チャー・シュー・メンって事はおよそゴルフクラブか棒状のもので頭を打たれたのか?

後ろから接近してるのに気づかなかったのか?

隙を見せるとは俺もまだまだだな。

 

「天!?」

「リュウの喧嘩に口挟んだり邪魔はしねぇけどな、遅いから亜巳姉が迎えに行けって言うので中断させてもらったぜ」

 

竜兵の驚いた声が聞こえる、俺は頭を抑えている。

グワングワンするし目の前で星がチカチカしてる。

 

「くぁああああ、痛いじゃないかよ」

 

俺は頭を押さえて叩いた相手を見る、幾らなんでもこの乱入はきつい。

 

「お前、気絶しないのかよ……ってお前誰だよ?」

 

知らないくせに叩きやがったのかよ。

俺が頑丈だから良かったけど別の人なら死んでいたかもしれないぞ。

 

「たっく、せっかく良い所だったのによ」

 

苛立った声で竜兵が言う。

確かに良い調子で勝負していたからこういった水を差す行為は止めて欲しい。

 

「負けかけてたじゃねーか」

「俺はああいった血にまみれてからエンジンが掛かるんだよ!!」

 

女の子の呆れる声に反論する竜兵。

このままでは女の子に暴力を振るいかねないので止める事にした。

 

「竜兵、また今度やろうぜ、それで今日の所は良いだろ?」

「そうか、それなら良い、こんな不完全燃焼でお預けなんて辛いからな」

 

俺の提案に竜兵は納得する。

決着の着かない戦いほどつまらないものはないからな。

白黒つけなきゃあ気持ち悪いったらありゃしない。

 

「お前もどうせなら家に来るか?」

「良いのか?」

 

笑顔で女の子が言ってくる。

しかし本当に良いのだろうか?

そんな事を考えていたら肩をポンポンと叩かれる。

 

「俺が許可する、来い、『イロイロ』と話をしようじゃないか」

 

竜兵が満面の笑みで俺に言ってくる。

痣だらけで腫れてるから不気味さが際立っている。

 

「お前……その顔で笑顔はやめとけ」

「ちなみにリュウはガチホモだからな、あまり気を許すなよ」

 

ホラーに出て来れそうな笑みに対して忠告をする。

すると竜兵の妹……天と言う女の子から忠告を受ける。

 

「ガチホモは呼び方として駄目だ、ゲイの方が良いよ。それにそれでもコイツはコイツだからな、今更改めた接し方はしないよ」

「ウチの忠告聞いといた方が良いんだけどね、まぁ良いか」

 

そんな他愛も無い話を聞いて川神新町……工業地帯に向かう。

 

「おいおい、こっちだぞ、そっちは違うぜ」

 

俺が間違った方向にいかないように竜兵が呼びかける。

方向は分かっているが少し月の光を感じたから立ち止まった。

 

「満月か…」

 

空を見上げると満月が目に入る。

ふと思い浮かぶ事がある。

……狼男が満月で狼になるように今日の俺たちは特別なまでに獣になったのだろう。

血が滾った結果、『仁』を失くして一方的に嬲った俺はきっと他人から見れば竜兵以上に獣に見えただろう。

 

「こんなにも月が綺麗だと感じたのは、久々だ」

「あっ!?、何言ってんだよ、似合わないぜ!!」

 

ふと呟くと天ちゃんが笑いながらそんな事を言ってくる。

何故『ちゃん』を付けているのかといえば年下だと思ったからだ。

 

「そうだな、こんな事をいうのは似合わない」

 

俺は微笑んでおどけるようなしぐさをする。

俺がこんなことを言うのはなんだか自分でも恥ずかしい気がする。

 

「天、香耶、早く来いよ」

 

竜兵に急かされる。

待ってくれよ、今すぐいくからよ。

 

「そうか、早く来ないとどやされるぞ」

「わかってるさ、ちょっと待っててくれ」

 

天ちゃんが手招きして方向を示す。

すると数分後、俺は玄関に立っていた。

 

「お邪魔します……」

「あれ~梅屋で会った子だ~」

 

挨拶をすると間延びした声が聞こえる。

その方向を見ると辰子さんがいた。

 

「おやおや、天と竜兵が連れてくるなんてあんた何もんだい?」

 

俺の方を見て聞いてくる女性。

アダルティーというか妖艶な印象を受けるような人だった。

 

「紹介すんな、こっちが亜巳姉」

「タツ姉には前に会ってんだろ?」

 

天ちゃんが紹介をしてくれる、どうやら長女のようだ。

竜兵が聞いてくるが確かに梅屋で会っているし覚えてはいる、省略して構わない。

 

「どうやら覚えてたみたいだな、竜兵」

 

あの時はチラッとこっちを見てその後すぐに寝たからな、覚えていたのが驚きだ。

 

「とりあえず仕事が有るし、ゴハンにしようか、タツ」

 

そう言って亜巳さんが辰子さんの方を向く。

すると一瞬だけ顔が歪んだ、耳を澄ませてみると寝息が聞こえてきた。

 

「Zzz……」

「ヤバイ、寝たら飯が!!」

「起きろ、タツ姉!!」

 

そして辰子さんが寝息を立て始めた瞬間、竜兵と天ちゃんが叫ぶ。

家事担当が寝るからやばいってわけか、とりあえず何とかこの状況をするか。

 

「仕方ないな……冷蔵庫借りるぞ」

 

そう言って冷蔵庫に近づき開ける、招かれたんだから少しぐらい手伝うかね。

 

「何する気だよ!?」

 

天ちゃんが驚きの声を上げる。

いきなりそりゃキッチンに入ったらビックリするわな。

 

「料理だ、料理……中身は卵とネギとハム……ご飯はあるな」

 

「あんた料理できるのかい?」

「一応出来ますよ、材料見たらチャーハン作れるんでやって良いですか?」

 

亜巳さんが俺に料理の経験を聞いてくる。

一応毎日弁当作っている身だから経験は豊富なほうだ。

 

「タツが起きる間の時間が惜しいし頼むよ」

 

そう言われたので俺は中華鍋を出して油を引いたまま空焼きをする。

煙が出て来たので卵を入れる、そして一気に振る。

ご飯を入れる、刻みネギとハムも入れて一気に強火で炒める。

 

その間に卵スープを作っておいてと……

 

「ハイハイハイッ!!!」

 

一気に振って水分を飛ばしてパラパラになるようにしていく。

上手い飯を作ってやるのが今の俺にできることだ。

 

「乗ってんなぁ、あいつ」

「って振るの速過ぎんだろ、ウチはタツ姉がチャーハンやる時見てたけど、あいつより早くなかったぜ」

 

竜兵と天ちゃんがこっちを見ている。

そしてそれから間もなくチャーハンが出来上がる、焦げもなくパラパラだ。

スープの方も良い温度だ、さて持っていくか。

 

「出来たぞ~」

 

俺はそう言って食卓の方へもっていく。

 

「速いな、3分とかカップラーメンだろ」

「ウチ、もうおなかペコペコだぁ~」

 

竜兵は驚いていて天ちゃんがぐったりとしてご飯を待っていた。

 

「いっぱい食えば良いさ、スープも持ってくるからな」

 

そう言って俺はスープを取りに行った。

 

「辰、起きな、ご飯だよ」

 

そして運び終えると亜巳さんが辰子さんを揺する。

目を開けて一拍の間をおいてご飯のにおいを感じたのか座る。

 

「……ん~、良い匂いだぁ」

「頂きまーす」

「香耶の手料理か……食うのが勿体無い」

 

「作ったんだから食えや、コラ」

 

竜兵がふざけた事を抜かしたので怒る。

天ちゃんとか食ってんのにお前は何が『勿体無い』だ。

作った物は食えば良いんだよ、冷める前に食えよ、この野郎。

 

「ばくばく……」

 

亜巳さんの食い方は年長らしくそれなりに綺麗だ……まぁ、ワイルドな食い方と言えば聞こえは良いって感じの食い方だけどね。

 

「もぐもぐ」

 

マイペースに食べているのは辰子さん、綺麗だけど時間が掛かりそうだな。

 

「うめぇうめぇ、このチャーハンうめぇ!!」

 

天ちゃんは天ちゃんで美味しいと良いながらがっつく、喉に詰めるよ、そんな食い方していたら。

 

「喜んでもらえて何より……って竜兵、皿を空にするの速すぎだろ」

 

「…おかわりないのか?」

 

「ねぇよ!!」

 

そんな感じで料理を食い終わったあと俺は洗い物をやる。

ワイルドって言うか獣じみた食い方してるけど綺麗だな……皿。

ちなみに飯を食い終わって、竜兵は風呂に入っている。

 

天ちゃんはゲームをしていて辰子さんはそれを見ている。

 

亜巳さんは仕事だといってたから準備のようだけど、鞭を使うような仕事ってなんだよ?

 

「天ちゃん、もうそろそろ寝たらどうだ?」

「何言ってんだ、丁度良いところなんだぞ!!」

 

反論されたよ……成長する為の睡眠時間を削るのは関心できないな。

 

「あ~、私がやるよ~」

 

そんな事を思っていたら俺が洗い物をしていることに気づいたのか、立ち上がって辰子さんが手伝うという。

しかし誘ってくれといてそれは嫌だからな、毅然とした態度で示して座らせておこう。

さっきまで天ちゃんのゲームを見てて気づかなかったのか、それとも天然なのかは分からないが、なんだかマイペースな人って感じがする。

 

「辰子さん、良いから座っててください、折角なんですからこれ位しますよ」

「男なのに家事が出来るとはな……女々しいのか?」

 

竜兵の奴が風呂から上がってそんな事を言ってくる。

良いからお前は前を隠す心ぐらい持て、少し見えてるじゃないか。

 

「一人暮らししてたらそうなるものだ」

 

平然と俺は竜兵にそう返す。

家事しなけりゃ汚れ溜まるし、毎日外食なんて結局手間がかかるわ。

 

「そういうもんさ、私は今から仕事に行ってくるからあんたらはちゃんと留守番しとくんだよ」

「じゃあ、俺ももうお暇しますかね」

 

そう言って俺は立ち上がる、亜巳さんが扉を開ける。

正直もう終電も無いから歩きで家に帰ることになるだろう。

 

「今日は有難うね、あんたが居たから晩御飯には困らなかったよ」

 

そんな事を考えていたらふと亜巳さんが話しかけてくる。

年上の女性にお礼を言われると少しこそばゆくなる、こちらとしては呼んでくれた御礼のつもりだったのだから。

 

「しかしあんた一体どこに住んでいるんだい?」

「月雄荘って言ってここから歩いて30分ほどで電車一本で来れるアパートですよ」

 

だべりながら亜巳さんの職場の方へと向かう。

歩いているうちに分かったがどうやらSMクラブで働いているらしい。

 

「家賃はいくらほどだい?」

「1ルームで洗濯できるスペースがあってトイレあってキッチンあって1万5千円です」

 

それを聞いた瞬間に亜巳さんの顔が変わる。

結構充実している設備で破格の値段だもんなあ、魅力は一杯だよ。

 

「そうか、そんなに良いなら引越ししてみようかね」

「何で、そんな事を?」

 

「スモッグで咳き込んだりして天やリュウたちの体に悪いのさ、それ以外にも今のところよりは連絡手段があるから仕事に困らなくなるしね」

 

この人は姉らしく妹や弟の事を気遣っていた、思っていたよりも良い人じゃないか。

 

「じゃあ今度連絡してください、大家さんに話しておきますよ」

 

そう言って電話番号を渡す、なんだか家族の為に行動しようとするこの人を見て協力したくなった。

 

「悪いね、じゃあ今度かけさせてもらうよ」

 

亜巳さんは微笑みながら俺の電話番号を受け取り店の前まで一緒に歩いていく。

 

「ここでお別れだね、坊やも寄り道せずまっすぐ帰りなよ」

 

そう言って笑いながら手を振って別れる。

そして帰り際に満月を見て俺はこのめぐり合わせに微笑むのだった。




今回で板垣一家全員出せました。
やはり書いててバトルは楽しいですね。
また何かご指摘などありましたらお願いします。


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『仲直りへの橋渡し 友の言葉』

今回の最後にヒロインが次回出るような宣言をしています。
日常回ってやっぱり難しいです。


竜兵と喧嘩した次の日。

俺は早速月雄さんに引越ししたい人間について相談していた。

 

「で……部屋ってどれだけ空いてますか?」

「待ってろ、今名簿見るから」

 

そう言って青いファイルを取り出す、そこには『入居者名簿』と書かれていた。

 

「えっと、今居るのが麗一、サンパギータ、芹口、小西、シゲオ、戸叶、港にお前か」

 

それを聞いた瞬間驚く、まさかクラスメートが同じアパートにいたなんて思わなかった。

 

「一応いくらか部屋空いてるけど決めるんだったら早くするように言っといてやれよ」

 

笑顔で月雄さんが言ってくる。

それを聞いて俺は学校へと向かう。

 

行く途中に電話がかかる。

液晶に見た事が無い番号が映る。

俺は応答する為にボタンを押した、すると眠そうな声が聞こえてきた。

 

「坊や……朝早くから悪いね」

 

その声の主は亜巳さんだった、きっと俺が相談したのかどうかを速く知りたかったのだろう。

 

「はい、大家さんに相談したら部屋はきちんと空いているみたいですよ」

「そうか、有難うね……こんな速くに電話かけて悪かったね」

 

「そっちこそ疲れているでしょうから寝て下さい」

 

そう言うと電話を亜巳さんは切った。

あの人も昨日の深夜から仕事していたのに元気なものだ。

きっとこれも竜兵たちの事を考えての事なんだろう。

 

俺は学校へとゆっくりと歩きながら行っていた。

 

「おっ、初めてじゃないのか、朝に会うのは」

 

目の前から歩いてくるのは長枝さんだった。

すでに結構な距離をジョギングしているのか汗が滴っている。

 

「お早うございます、こんな朝早くからどうしたんですか?」

 

俺は気になって聞いてみる。

今まで夜の鍛錬に呼ばれるくらいだったのにこんな所で会うとは予想外だった。

 

「日課だよ、朝の5時からやっているんだ」

 

この人は健康面にも気を使っているのだろう。

そんな事を考えていたら少し引き締まった顔をして話しかけてきた。

 

「それはそうと最後の野試合の日程が決まった、金曜日の夜だ」

「コレが終われば……」

 

「一応野試合は終わりとなる、基礎的な体力等の底上げに力を入れていくことになる」

「なるほど、分かりました」

 

 

「足止めして悪かった、またな」

 

そう言ってまたジョギングを始める。

 

一子の時以上に重さか何か違和感を感じた。

重りをどれほどつけているんだ?

俺に指示しているが多分俺以上につけて体を苛め抜いているのだろう、それならばあの人外じみた強さも納得だ。

 

そして時間を見て急ぐ、始業時間まで残り少ないではないか。

空き部屋相談とか学校から帰ってきてからすればよかったと少しだけ後悔した。

 

あれから全力で走って学校には間に合ったがSのクラスメートには嫌な顔をされた。

そしてここ最近学校でつながりを持った男女から少し避けられている。

自分の中でそれなりに抑えているがいまだに苛立ちが残っているのだろう。

それが顔に出ているのか、皆が顔を見て避けていく。

笑顔を浮かべるが少し引きつっているのか、苦い顔で返されている。

 

「大丈夫ですか?」

 

そんな事を考えていると放課後になっていた。

トーマが俺のことを心配しているのか覗き込んでいた。

 

「何でそう思ったんだよ、俺は元気にやっているぜ」

 

俺が笑いながら言うとトーマが真剣な顔をして俺にこう言ってきた。

 

「キョーヤの雰囲気がピリピリとしていましたので気になったんです、何故そうなっているのか話してくれませんか?」

「流石にお前に隠し事はしないよ、実はな……」

 

こいつの第三者の意見を聞いておくのも悪くない、それに隠し事をするような後ろめたい間柄でもない。

そう考えて俺はあの騒動の事を話していた。

トーマは病院初めて会った時から分かっていただろう。

モロと関係が繋がった時からきっと今までのユキの問題は分かっているだろう。

 

俺の話を聞いた後のトーマは安らかに苛立ちもなく俺に語りかけてきた。

 

「確かに許せない事かもしれません、ですが……仕方ない罪でもありませんか?」

 

確かに小学生の気まぐれだといわれればそれまでの話。

ただたまたまその結果が余りにも残酷だったからこその怒りだろう。

 

「ただ言えるのはユキの事情を知らなかったのではなく知ろうとも大和君はしなかった」

 

それもまた間違いではない。

聞けば答えてくれただろう、ただ拒絶をしたから分からなかっただけ。

分かろうと思えば出来たはずだったのだ。

 

「誰しもが背負っている罪の中でも彼のものはあまりに看過できるものではなかっただけでしょう、しかし……」

 

トーマが淡々と言う言葉の中には重みがあった。

人は必ずしも『原罪』がある。

つまり生まれながらに背負っているものが有って、更にそこへ積み重なっていく。

俺だって軍人であるが故に大きな罪を背負っている。

 

「このままの関係で良いわけがないとも貴方は思っている」

 

それを言われると反応に困る。

確かにあのような騒動を起こしたが、そのまま終わって良いわけが無いと心の中では分かっている。

俺のわがままでユキの友達作りを邪魔してしまうのは良くない。

ましてやモロとの関係が険悪になったりしたらもはや目も当てられないだろう。

 

「俺を何故そこまでトーマは信じるんだ?」

 

そう俺が聞くとトーマが微笑みながら俺に囁くように、しかししっかりとした声で言ってきた。

 

「だって私や英雄が好きになった貴方はそんなに小さな人間などではないと信じていますから」

 

そう微笑むトーマの顔には確かに俺に対する信頼があった。

それを見ると俺も少し心が晴れやかになった。

 

そんな事を考えていると教室の扉が開く。

その方向へ振り向いたらモロとキャップが来ていた。

 

「行って良いですよ、気にしませんから」

「そうか、じゃあちょっと帰りついでに話してくるわ」

 

そう言って俺は立ち上がる。

トーマもカバンを持っているしどうせなら校門まで一緒にいくか。

 

「わざわざあんな事言ってくれて有難うな、トーマ」

「別にたいしたことじゃありませんよ、お礼を言われるようなことではありません」

 

トーマが笑顔で俺の方を向く。

昔、俺もトーマの夢の為に力を振るった。

夢の為に助けるというのはたいしたことではないとずっと自分の中では思っていた。

でも今にして思うと自分にとってはたいしたことではなくても他人にとっては重要な事なのだろう。

 

そんな事を考えていたらいつの間にか俺達は校門へと着いていた。

 

「話があるんだ」

「良いからついてきてくれよ」

 

校門の前でキャップとモロに誘われる。

それならばと思って俺はトーマと別れる為に声をかける。

 

「じゃあ、トーマまた明日な」

「ええ、また明日会いましょう、キョーヤ」

 

トーマに声をかけて俺は別の方向へと行った。

俺はモロとキャップは疑う必要もないと思ったのでついていく。

 

「わざわざ仲が悪いS組まで来るとか無茶するなよ」

「でもそうでもしないと話が出来ないでしょ」

 

モロとキャップに言っておく、喧嘩したり怪我したらしゃれにならない。

まあ、モロとキャップなら並み程度の奴には負けないだろうが心配だ。

 

「呼んでくれたらF組にいくぞ」

「大和と喧嘩されたらたまったもんじゃねえだろうが」

 

先日の騒動の事を考えればキャップの言う事も最もだ。

F組で暴れてクリスお嬢様、一子、タッちゃん、モロにケガを負わせた日にはしゃれにならない。

 

その様なやり取りをしているといつの間にか公園についていた。

俺は財布を見えないように取り出して自販機を目ざとく見つける。

 

「先に座っておけよ」

 

そういうとベンチに二人が座りに行く。

その間に俺は自販機で缶コーヒーを3本買う。

何故二人の前で買わなかったのかといえば自販機のものを見られた状態で買えば二人とも返してくるかもしれないだろう。

だからこそ見られないように先にベンチに座ってもらうように言ったのだ。

 

「ホラよ、何も無しで話すんのも面倒だろ?」

 

俺は缶コーヒーを二人に投げ渡す。

 

「有難う、キョーヤ」

「あんがとな!!」

 

二人とも難なく受け取る。

そしてプルトップを空けて飲むまでの動作が速い、そんなに喉が乾いていたのか?

勢いで缶コーヒーを飲んでいる時に俺に伝える用事を思い出したのか、キャップが話しかけてくる。

 

「今度の週末ぐらいにちょっとバーベキューしようと思ってよ、お前も一緒に来ないかと思ってな」

 

笑顔でそんな事を言ってくるがそれ以外の目的があるのに感づいてしまう。

俺は遠まわしには言わずそのまま思ったことを聞いていた。

 

「誘ってくれるのは良いんだが本来の目的はそれだけじゃないだろ?」

「そりゃあ、そうだ」

 

いつの間に缶コーヒーを飲み干していたのかゴミ箱に投げる。

空き缶は綺麗な放物線を描いて見事ゴミ箱へと入った。

それを見てガッツポーズをした後にそんな事を言ってくる。

昨日や今日の付き合いではないから次に言う言葉はなんとなく予感できた。

 

「大和と仲直りしろとか言うのか、キャップ」

「当たりだ」

 

やっぱりそういう事か。

大和以上に断りにくい二人だと俺も辛いものがある。

拒否するには強引に突っぱねるという方法が確かにないことはない、しかし流石に今さっきトーマに言われていたのにいきなり拒絶をするのは良い事ではない。

 

「別に俺はあいつが謝りさえすれば良いとは思う、ただ解せないのは仲直りには代理を立てずにアイツから誘うべきじゃないのか?」

 

ただ筋は通して欲しかった。

キャップやモロではなく大和本人が誘いにくるものではないだろうか。

まあ、目の前に居る二人が嫌だという意味ではないし、ここはありがたくその申し出に対して快い返事を返しておこう。

 

「まあ、誘いに来てくれた二人の顔を立てるという事でありがたく来させて貰うけどな」

「あの子も連れて来いよ、面白そうだしな」

 

不満はあるがモロやキャップが誘いに来てくれたのだ、この二人が来てくれたのに断るのは俺もあまり良い気分はしない。

それにユキにモロからの誘いを断ったなんてばれたら俺が蹴られてしまう。

流石に俺も蹴られてまで誘いを断るような人間ではない。

 

「分かってるよ、ちゃんとユキも連れてくるって」

「待ってるからな、河原にこいよ!!」

 

そう言われた後に別れて公園から去っていく。

 

暫くすると歩いているときに電話が鳴る。

 

「中将、どういった用件でしょうか?」

「ああ、マルギッテ……少尉についてなんだ」

 

それを聞いた瞬間に胸がざわめく。

一瞬携帯を落としそうになるほどに動揺してしまう。

もしかして重大な怪我でもしてしまったのだろうか?

それとも捕虜にでもなってしまったのか?

ただ冷静を装う事しかできない、俺は必死に声をつくろって聞いてみた。

 

「はい、一体何が有ったのですか?」

「クリスの為にも学校に転入させようと思ってな」

 

それを聞いた瞬間安心する、何の問題もなかったのだと胸をなでおろす。

そして冷静になった瞬間笑みが漏れそうになる、相変わらずお嬢様に甘い人だ。

 

きっと世話役だけではなく、軽い気持ちで男性が近寄らないようにする為の監視役としての役割を持った上で学園へと来るのだろう。

 

確かに異性という悪い虫がつかないようにするには適任だ。

異性の俺がその役割をやってしまい、嫌な方向にかんぐられると後々厄介になるだろう。

その事を考えた場合、やはり同姓のマルギッテさんが一番良いはずだ。

 

「クリスお嬢様の時のように私が川神の案内をするという事ですか」

「その通りだ、頼めるかね?」

 

頼めるかどうかといえば当然OKだ、断るという選択肢はすでに用意してはいない。

ただ時間的な余裕があるかどうかを聞いておこう。

 

「いつのご予定ですか?」

「今度の週末だな」

 

今さっきまで話していた日に被る可能性があるのか。

一瞬だけ心が揺らぐがそこは抑えて俺は冷静に承諾の言葉を言っていた。

 

「そうですか、それでは喜んで引き受けさせていただきます」

 

万が一この頼みとキャップたちとの約束の日時が被った場合があっても難しく考える必要はない。

マルギッテさんも川原に連れて行って一緒にバーベキューを楽しめば良いんだ。

俺はそれが両方成り立つ最善だと思ってこの頼みを了承する。

 

ふと考えればあの人が川神学園に入るという事はあの人とまた毎日のように顔を合わせられるという訳だ。

 

そう考えると意識せずとも頬が緩んで笑みの形となってしまう、しかしそれとは裏腹に心臓は喜びと興奮で早鐘を打つ。

俺は鳴り止まない心の高鳴りを落ち着かせる為に掌に人と書いて飲み込む仕草をしたり、深呼吸をしたりなど緊張を抑える為の行動をしていた。

 

それを繰り返して少しの時間がたった後、俺は僅かに高鳴りが収まった胸を押さえて家へと帰っていった。




今回は日常回とさせていただきました。
マルさん参加の後はオリジナル部分や東西交流戦といったバトル部分が増えるよていです。
ご指摘等がありましたらお願いします。
部屋の数に決まりがあれば新キャラを出す時に不便なので変更。


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『案内とお祭り騒ぎ』

バトルと日常回を盛り込みました。
次回から少しずつ物語がSの部分が入ってくると思います。


金曜日の夜。

俺は長枝さんに言われたように公園の一角にいた。

重りをつけたままだがウォーミングアップも十分にしておき体をほぐす。

そして首をコキリと鳴らしていたら長枝さんが対戦相手を連れてきた。

 

「待たせたな」

 

いってちゃんと5分前に連れてくる。

律儀なのは分かる、大方ウォーミングアップの時間をお互いに与える為の配慮だろう。

 

「分かっていると思うがコイツで最後だ」

 

長枝さんはそういってその人の肩を叩く。

風貌はハット帽を被っていて黒いシャツに青いジーパン。

 

「俺の名前は『沢村』って言うんだ、宜しくな」

 

そう言って手を差し出してくる、礼儀が良い人のようだ。

そう思って握るがとんでもなかった、純粋に力比べを仕掛けてきている。

握りつぶそうとするようにありったけの力を込めている。

 

「あんまりこっちを舐めるなよ……」

 

こちらも握り返す。

当然ありったけの力を込めて。

ミシミシと音を立て始める、一体どちらの手なのだろうか?

 

「チッ!!」

 

舌打ちをして相手が掌を引っぺがすようにして俺から離れる。

 

それが戦いの合図だった。

 

蹴りを相手が放つ、上段の鋭い奴だ。

俺は頭を下げて避ける、するとフェイントだというのが分かる。

同時に下段の蹴りを相手は繰り出していた。

 

「ハッ!!」

 

踏み込んで打点をずらす。

蹴りの威力は半減して腕に僅かな痺れを残すだけだった。

 

「なっ!?」

 

予想外だったのか驚きを浮かべる。

すぐさま後退してこちらの間合いから離れていた。

 

「残念だな、もう少し間合いにいたら良いのに」

「馬鹿を言え、直撃を喰らえば終わらせられる」

 

こちらが笑みを浮かべてものを言う。

すると相手は苦笑いを返す。

確かに相手の言うとおりだ、あのままの間合いなら踏み込んで一撃を食らわせることが出来ていた。

 

「シッ!!」

 

中段の鋭い蹴り。

フェイントではなく真っ直ぐに飛んでくる。

 

しかしこちらも当たりはしない。

即座に後ろに飛んでからぶらせる。

 

相手はからぶったのも計算のうちなのか微笑んでいる。

駒のように体を回して勢いをつけた二段目の蹴りが放たれる。

 

「ハッ!!」

 

だがそれの対処も万全だ。

化勁で相手の蹴りを滑らせるように逸らしていく。

そのまま相手の蹴りは通過していき一瞬無防備な状態を晒す。

 

「くっ!?」

 

受け止めるはずだと思っていたのか、予想していた事と違い驚きを隠せない相手。

すぐさま立て直そうとするが間合いが近いのを知って転がっていく。

 

「また、遠くにいったか」

 

間合いが開き再び相手の有利な間合いへと変わる。

勝つ為になりふり構わない泥臭さ。

なかなかに気力がある骨のある相手だった。。

 

でも勝てる確信はあった。

少なくとも最初に戦った信彦さんの方が強かった。

花火での目晦ましとかの搦め手がない相手というのが大きい。

 

そう思っていたらステップの音が聞こえる。

 

「トタッ、トタッ、トタタタタタ、トタタ」

 

リズムを口ずさむ。

だんだんと速くなっていく。

その瞬間に俺は悟る。

この人は自分のリズムを相手に押し付けて自分のペースに誘導する気だ。

搦め手がないと思ったのは早計だった。

 

「ハアッ!!!」

 

鋭く蹴りを放ってくる。

防ごうとするがリズムが崩れているのがわかっている。

受けが間に合わない。

 

「チッ!!」

 

バックステップをして呼吸を整える。

この程度の手で揺らぐとはまだまだだ。

自分を貫かなければ勝てない。

ステップも見ない、声も聞かない。

 

「雰囲気が変わった……?」

「ヒュウウウウウ……」

 

俺は意識を変えて集中する。

オーケー……ここは戦場だ。

硝煙が目を覆い、爆撃音が耳に響く場所。

相手との距離を感じ取り、コレでもかと言わんばかりに睨み殺す。

ぞわりと自分の肌を撫でる風に笑みを浮かべる。

 

「アアアッ!!!」

 

咆哮を上げる。

相手の青ざめる顔を見ながら俺は踏み込む。

転がって避ける相手を徐々に追い詰める。

 

「おおおっ!?」

 

相手は追い詰められて腹を決めたのか蹴りを繰り出す。

しかしもはややけっぱちの一撃なんて当たるはずがない。

 

「蹴按!!」

 

俺の『気』が込められた蹴りが腹にめり込んでいた。

相手は白目をむいてゆっくりと崩れ落ちる。

最初の方やリズムを押し付けられてた時は凄かった。

そのあとの集中してからは尻すぼみとなっていた。

ただ強さは最初に思ったとおりで少なくともケアリーさんよりは上だった。

 

最後の戦いはこのようにして終わった。

 

「クククッ、よくやったな」

「重りを装着した状態でよく勝てましたね」

 

俺は賛辞を受ける以上にその事に驚く。

鍛えてきたとはこのような短期間に実力がつくとは思わなかった。

と言っても常時重りつきの生活や、加圧トレーニングといった結構密度の濃い鍛錬をし

 

たから少しは納得ができる。

重りのついた状態で戦うのは軍人の時からしていたが、ようやく成長した体になれてきたのだろう。

 

「それだけ強くなったんだよ、むしろ最初の信彦が強かっただけだ」

 

言われたら確かにそうだった。

初めの人が一番強かったのだ。

そう考えれば修行前にいきなりハードル高いのを良くやったなと感心する。

 

「次からはきちんと熟慮した上で対戦相手を選ぶ、それまでは基礎鍛錬だな」

「分かりました、野試合お願いしますね」

「任せておけ、お前もきちんと帰れよ」

 

そう言って長枝さんは去っていく。

俺も明日に備えて帰るのだった。

 

 

そして次の日、中将殿の電話から約束の日の事。

……早朝から俺は七浜へ向かっていた。

ちなみに到着した時の時刻は午前4時である。

 

鍛錬を速く済ませるために2時に起きていつもの朝のノルマをこなした後、そのまま着替えて向かったのであった。

 

「で……何でお前らもいるんだよ、お嬢様の護衛とはいえ多くないか?」

「……」

 

返答が無いのに腹が立つがその前に根本的なことを俺は忘れていた。

 

「あぁ、そういえば隊長と中将殿しか日本語分からないんだったな、今からドイツ語で話すよ」

 

そう、マルギッテさんと中将しか日本語を軍の中では喋れないのだ。

クリスお嬢様も喋れるがあの人は別に軍所属ではないから例外である。

俺はドイツ語で再びたずねてみる事にした。

 

「……で、なんで狩猟部隊の大半がここに居るわけ?」

 

「お久しぶりです、副隊長殿!!」

「お元気そうで何よりです、副隊長殿!!」

 

敬礼をして喜んでくれるのは嬉しい。

ただ質問の答えになっていなかったので少しだけ腹が立った。

 

「お前ら……質問に答えろよ、なんで狩猟部隊の大半がここに居るのかな?」

「それは隊長殿が教えてくれます」

 

お前ら、そこは隊長任せじゃなくて答えようよ。

 

「起こしてきましょうか?」

 

隊員がそう言うがきちんと知ってなさそうだから、一応そういった細かい事は言っておこう。

 

「あの人言っとくと時間きっちりに起きるからそれまではゆっくりさせておいたほうが良いぞ」

「ちなみに何時に起きるんですか?」

「確か午前四時半だな、速く起こしたら怒られるかもしれないぞ」

 

まあ、寝起きが悪いというのは聞いた事がないが万が一の事があるかもしれない。

俺が寝起きで機嫌が悪い時だったらもれなく一撃を見舞ってやるところだろう。

 

「という事は二分前の今に起こそうとしたら……」

「隊長の寝起きしだいで俺達……」

 

ビクビクとした顔で起こしたくないというのを伝えてくる隊員たち。

全く情けない奴らだ、そんなので戦場で戦えると思っているのか。

 

「でもこっちは重要な任務だって言われたんだからな、ちょっと強引にでも起こしてみるさ、よく見てろ…俺が起こす手本を見せてやる!!」

 

そう言って威風堂々と俺は建物の内部へと入っていった。

 

「そんな副隊長、死にますよ、絶対無理、地雷を踏むとかいう問題じゃありませんよ」

 

隊員たちが止めようと必死に言葉を言ってくる。

だがその言葉を無視して俺は隊長……マルギッテ・エーベルバッハの寝室へと赴く。

 

正直な所、其処まで恐ろしいわけではない。

 

しかし死地に赴くよりは数倍も緊張するのは間違いないのだが。

 

戦場では『猟犬』と恐れられたあの人も立派な一人の女性であり人間だ。

あの人だって食事をし、ちゃんと寝るのだ。

 

超人のようなスペックから想像もつかないが、一度だけ決まった時間より速く起こしに行った事がある。

その時に見た寝顔は綺麗と言うか……可愛いというか……とりあえず美しかった。

当然そんな事を面と向かって言った日にはトンファーキックを見舞われる事になるだろうが。

 

事実過去に一回その経験がある。

それに正直そんな事を言うのは俺自身恥ずかしいのだ。

 

さて……とノックすれば問題ないだろう。

 

「と……そんな風に思ってた時期が俺にも有りました」

「何を言ってるのですか、速く紅茶を入れなさい」

 

顔にはトンファーによる攻撃の跡が有る。

 

理由の回想開始……

 

ノックしたのに無反応だったから、こりゃあ一大事だと思って開けた。

時計でぴったりだったからおかしいなと感じたのだ。

しかしあとで調べたら設定一1分速いと言うミスをしてしまっていた。

 

それによって偶然とはいえ二回目の寝顔の拝見。

 

そして面と向かって言わなければ言える……それ故に思わず呟いてしまう。

 

「可愛いし、綺麗だ……」

 

そこで四時半より僅かな秒数ではあるが時間が過ぎているという事に気がつく。

起きる時間を過ぎているということは起きている。

起きているという事は呟きを聞かれている。

 

その結果目の前には赤面した隊長が……俺の第一声は。

 

「お早うございます……マルギッテさん」

 

言っていたのが聞こえていた。

そう考えると顔が赤くなる。

その上に腰が引けていてこのような言葉である。

なんともしまらない朝の挨拶であった。

 

理由の回想終了……

 

「どうぞ」

 

目の前に紅茶の入ったカップを差し出す。

他人に入れるのはひさしぶりだが淹れるのはあの時よりうまくなったんだぜ。

 

「この匂いはキーマン…良い選択です、味は…」

 

そういって一口飲む、さてと……俺も座って飲むかね。

 

「素晴らしい、褒めてあげましょう、誇りなさい」

 

そういって満足げな笑みを浮かべる。

喜んだ顔もまた美しい……

しかし二回目のトンファーキックは危ない為、そこは流石に黙秘する。

 

「それで隊長殿、今回は何故狩猟部隊がこれだけ集まっているんですか?」

 

なんか凄い目で見てるよ、怖いね。

命日になったりしないかな?

 

「クリスお嬢様の護衛と知りなさい、あと貴方は今日私の案内です、早く用意をするので待っておきなさい」

「はい?」

 

用意なんて出来ているのはないだろうかと思って、俺は素っ頓狂な声を上げる。

するとマルギッテさんはため息をついて俺にその理由を言ってくれた。

 

「私も四六時中同じ軍服では居ません、察しなさい」

「成る程…出て行きます」

 

着替えるという事か、納得した。

そりゃあ出て行かなければいけないなと俺は心の中で頷いた。

 

「着替えるというのがワンクッション必要とは鈍感ですね、反省しておきなさい」

 

そう言われて部屋を追われた…紅茶まだ残ってるけどね。

数分後、隊長から声が掛かった。

 

「着替えが終わりましたから入ってきなさい、そして残っている紅茶を飲みなさい」

 

そう扉を隔てて聞こえたので入る。

すると底には新しい軍服を纏ったマルギッテさんが立っていた。

 

「はい、でも…」

「どうかしたのですか?」

 

少し気になったのかこちらに顔を向けるマルギッテさん、俺はその姿に見惚れて思わずとんでもないことを口走っていた。

 

「やっぱり軍服がマルギッテさんには似合う、きれ……」

 

言い切る前にトンファーの突き。

ヤバイな、天然ジゴロって訳じゃあないんだけど…

黙っておこうと思うんだけど、感想が黙ろうとする意思とは逆に口から出るよ。

 

「からかうのもいい加減にしなさい、紅茶が冷める」

 

再び言った俺も、言われたマルギッテさんも赤面。

初めて出会った時もそういえばいきなり『綺麗だ』といってトンファーキックを見舞われたんだよね。

 

「飲み終わったんですけど、どういった案内ですか?」

「転入先である川神学園を中心に回ります、できるだけ詳しく説明しなさい」

 

道案内と言ってもクリスお嬢様や雁侍のときのような感じか。

一杯見所があるからそういうのには困らないな。

 

「分かりました、ただ時間の都合上案内できない所も有りますが良いですね?」

「構いません、行きましょう」

 

ただ時間の都合と言うのもあるので一言断っておく。

こういうことをしなかったら後々が面倒だからね

そう言われて七浜の駐屯地から川神へと向かう。

電車一本でいけるのだが時間の都合としては、まだ始発電車がないため多少歩いて

時間を潰す。

 

「何故こんな場所に来ているのですか?」

「何って言われてもここで暇を潰すわけだよ、マルギッテさん」

 

七浜の中華街へと行く、もっぱら目的は美味しい店の発掘と腹ごしらえだ。

 

「肉まんどうアルカ、綺麗なお嬢さん?」

「要りません、私が綺麗など……冗談は止めて頂きたい」

 

「さて……とここははじめて見るな」

 

屋台は早朝から開く所もあるが味を知っているため無視。

まぁ、マルギッテさんを綺麗といったのは褒めておくかな、心の中で。

 

「それで……時間的には問題ないと思うのですが、キョーヤ?」

「えぇ、もう少しで六時だから行きますか、移動するのは電車なんですけど大丈夫ですか?」

 

時間を見たら始発電車が来る時間帯になっていた。

一応乗り物酔いとかは無いだろうが念のために聞いておく。

 

「問題ない、ドイツにも電車は通っている」

「そうですか…でもはぐれないで下さいよ」

 

そういえば通っていたな、とりあえず七浜の駅はそれほどだが川神駅の構内は広い。

だからはぐれないように一言言っておく事にした。

 

「広くなければ問題ありません、気にせず案内しなさい」

 

そう言って七浜駅へと向かって電車に乗り、少し揺られて川神駅に着く。

降りたあとに川神駅の構内を見て回る。

降りたとき意外と広いので驚いたのか、少し眼を見開いていた。

まぁ、三年も補佐的な立場してたら感情の機微程度は読めるさ。

 

「少し驚きましたね、こんなに大きいとは……」

「マルギッテさん、はい」

 

そう言って手を差し出す、ダメ元で。

 

「どういう了見ですか、これは?」

「はぐれない為に手を繋ごうと……その」

 

言ってる最中に顔が赤くなっていくのを感じる。

クソ!!、なんでなんだよ。

普通は言われた側が赤くなるだろ!!!

 

「その……一人で大丈夫です、その手を引っ込めなさい」

 

赤面したマルギッテさんがトンファーを使う事も無く俺に手を引っ込めるように言った。

 

「全く服や寝顔の時はお世辞かと思いましたが……こうされては完全に女性扱いではないですか」

 

顔を真っ赤にしながら聞こえないか細い声で呟いていた。

そのままお互いが後ろや横を歩きながら案内をする。

川神でも美味しい甘味処が揃っているというので仲見世通りを見せたり、金柳商店街に行ったりもした。

 

川神の裏側だといって親不孝通りを見せにいったり。

さっきまでの赤面したマルギッテさんは居なくて今はもう凛とした態度で歩いていた。

 

「それじゃあ七浜まで歩きますか、もう案内するのは川神院とかぐらいですよ」

「そうですか、私も川神百代に遭遇するのは面倒です、帰る案内をしなさい」

 

確かにモモ先輩と今遭遇したら面倒だ。

強いというのが分かられたら絡まれる可能性がある。

 

「それでは帰りましょう、でもその前に何か食べていきませんか?

もう十二時ですし軍に所属していたら昼食のお時間ですよ、マルギッテさん」

 

俺は何処で食べる事を提案する、お昼ご飯ならば中華街で食べられるし選択肢は多い。

 

「そうですね、しかし駐屯地で食事は作れますから、そのまま帰り道へ向かいましょう」

「成る程、では向かいますか、マルギッテさん」

 

そう言って七浜への駐屯地に帰っていくことにした。

食事を作る事ができるなら代わりに俺が作れば良いしね。

 

「待ちなさい、あの橋の向こうで誰かが絡まれています」

「アレは……」

 

マルギッテさんがそう言ったので俺は橋の向こうを見る、すると特徴的なシルエットがあった。

その人は最近案内したクリスお嬢様だった。

 

「クリスお嬢様だ、急ぎます、来なさい!!!」

「はい!!」

 

マルギッテさんの言葉に応じて即座に駆ける。

しかしその向こうに有る人が居た。

その人が肩を叩くと男の人が驚く。

 

「ヒッ!!!」

「こんな可愛い子に迷惑をかけてはいかんだろう」

 

緩やかに踏み込み手加減をした一撃。

その瞬間その人が長枝さんだと気づいた。

 

「猛虎」

「ガッ!?」

 

崩れ落ちていく男の人。

あと二人が逃げていく方向には俺達が居た、つまりやつらは俺たちに向かっていたのだ。

 

「トンファーキック!!」

鉄山靠(てつざんこう)!!」

 

瞬く間に二人を撃退。

お嬢様に近づく狼藉物を完全に狩り終えた。

 

「で……何でこんな所に居るんだ、そこのフロイライン?」

「自分はただ散歩ついでに涼みに来ただけだが、ドイツ語を喋られるのか?」

「そりゃあそうさ」

 

「クリスお嬢様への狼藉者の撃退、感謝します」

「お前ら……何、逢引でもしたわけ?」

 

俺たちが到着しているとクリスお嬢様に長枝さんは話しかけていた。

そしていきなり俺達を見てとんでもない発言を始めた。

 

「長枝さん、なんだと思っていたんだい?」

「立派なデートかと……って眉間にトンファーはやめろ、お嬢さん」

 

流石のマルギッテさんもこれ以上の発言は許してはいけないと感じたのか。

とてつもない速度でトンファーの攻撃を眉間に放っていた。

しかしその攻撃は長枝さんに着弾することはなく、悠々とその眉間のトンファーを止めていた。

しかも恐怖どころか笑みを浮かべた涼しい顔でだ。

普通冷や汗の一つぐらいはかくだろうに。

 

「全く…行きます、香耶、着いてきなさい!!!」

「はっ、はい!!」

 

マルギッテさんは顔を赤くしたまま大きく歩幅を変えてスタスタと速く歩く。

そりゃあ俺だって顔は赤い、きっとマルギッテさんに負けていないだろう。

 

少しだけ長枝さんの発言に頭を抱える。

今回の奴は幾ら天然とはいえ爆弾発言も良い所だろ。

良い関係を築きたいのに嫌われたらどうするんだよ。

 

そんな事を考えた時ふと思い当たる。

 

好きかどうかと言われればやはり好きなんだろう。

三年間同じ戦場で戦い、信頼してきた人だから。

特別な異性として見てもなんら不思議ではないだろう。

ユキは長く居ても兄妹だからそんな気は起こらないが。

 

花に例えるのであれば……

薔薇より鋭い棘を持ち、向日葵よりも凜と立ち華々しい、とても素晴らしいこの人を。

 

そのように賛辞や愛を素直に言葉に出来たらどれだけ嬉しいだろう。

 

もしその言葉を話す力を神様が持っているのならその神様を殴り倒してでも欲しい。

その力が金で売っているなら買いたい。

それほどまでにそれを話す力が欲しい。

 

「あの、怒ってます?」

「貴方の師匠はいつもああなのですか、香耶?」

 

早足なのを見て俺は尋ねる。

苛立ちは感じられないが俺は少し気になっていた。

 

「いつもではないですし一応あれでも師匠らしい行動はしてますよ」

「幾らなんでもあんな事をいきなり言うとは……予想外です」

 

確かに指導力は悪くないし、普段からああいった言動をしているわけではない。

正直今回のあの発言は俺でさえも驚く予想外のものだった。

 

「天然ですし、すいません」

「貴方は悪くありません、顔を上げなさい……」

 

きっと天然で気づかずいったんだと思って自分に言い聞かす。

そうは言っているがこっちも顔が赤いのであげられない。

マルギッテさんだって強がっているがきっと俺と同じはずだ。

 

「ふぅ……、ようやく落ち着きましたが、香耶?」

「なんですか?」

「何故まだ俯いているのですか?」

「それには深い理由が……」

 

まだ顔が赤い。

恥ずかしいから上げない、それが理由だ。

深くもなんともないが浅い理由もいえないから仕方ない。

 

「そうですか、電柱にぶつかります、気をつけなさい」

「えっ、うわ!!」

 

電柱が目の前にあったので避ける。

いかんな、赤面しているのを見られないようにしたらミスをして結局は駄目になる。

 

「全く…注意力散漫です、気を引き締めなさい」

「はい……」

 

『貴方が原因なんです』など言ってはいけない。

その理由を聞かれて正直に答えてトンファーキックされる図が思い浮かぶ。

 

そんな調子で七浜へ帰る。

上の空というわけではないが、まだ少し緊張と赤面でどうも反応が鈍っている。

 

久しぶりに出会ったこと、そして朝の爆弾発言のせいかは分からない。

しかし『特別な異性』を意識するとどうしても恥ずかしさがでてくる。

 

もしかしたら真剣(マジ)でこの人に今俺は恋をしているのかもしれない。

 

今言うのではなくいつの日かもっともっとこの思いが大きくなって抑えられなくなった時に言おう。

早ければ良いというのは間違いなのかもしれない。

 

しかし先に取られると言うのもそういった二の足を踏むことが理由でもある。

俺はとりあえずこの思いを心に押し込んでおいた。

 

七浜の駐屯地へと着いた俺はマルギッテさんに料理を作る。

 

白いソーセージと卵の炒め物。

根菜の味噌汁。

納豆に白ゴマとじゃこを振りかけたもの。

 

栄養バランスも味も満足してもらう為に腕を振るった。

一応竜兵たちと全然料理が違う理由は材料の問題だぞ、ひいきじゃあないぞ。

 

「食べて下さい、マルギッテさん」

「フム、紅茶同様見た目も良い、頂きましょう」

 

顔も赤くなっていない為、初歩的なミスも無く上手に出来た。

味が良ければ良いんだけどな、上司に先に食わせたり飲ませたりするのは礼儀だ。

毒見させているわけじゃあないぞ。

 

「美味しいですね、思っていた以上の腕です、誇りなさい」

「それはどうも、良かったですよ、喜んでいただいて」

 

俺の食事に満足をするマルギッテさん。

その顔を見ると赤くはならないが喜びが込み上げてくる。

こんな些細な事で喜んでもらえるなら安いものだとも思えてくる。

 

食事をほのぼのとした空気の中微笑みながらしていた。

 

そしてその様子を見た狩猟部隊の隊員たちは声を聞くために扉の向こうに聞き耳を立てる。

 

「隊長と副隊長殿、良い雰囲気だな」

 

「あの二人、やっぱり出来てるって」

 

そして聞いた内容だけでこういった風に根も葉もない噂の様な事をからかいを含みながら言う。

しかしその声はしっかりと聞こえていて……

そのドアの向こうに居た香耶は気配も感じていたためドアを開ける。

そしてその顔は赤いが、後で隊員達は『久々に戦場での副隊長を見た』という。

隊長であるマルギッテの顔も同じく赤い。

からかった厳罰として2人で残りの狩猟部隊の隊員を痛い目に合わせる事にした。

 

「ヒィイイ、悪かったからやめてください、隊長!!!」

「こちらも反省しているのでやめて下さいよ、副隊長!!」

 

逃げながら隊員達は俺とマルギッテさんに許して貰おうと言葉をかけていた。

 

「許さん、上官をからかった罰だ!!」

「その通りです、自業自得と知りなさい!!!」

 

しかし俺達は聞く耳を持たず隊員たちを追いかけていく。

 

「「Hasen……Jagd!!」」

 

そして少ししたあと一通り隊員を狩り終えて厳罰に処した後、マルギッテさんは俺にいつごろ川神学園に転入するのか伝える。

 

「私は週明けの月曜日に川神学園へ転入する予定です、覚えなさい」

「はい、明後日の月曜日ですね、覚えました」

 

丁度今日の用事が終わってきりのいい日だ。

その日は何もないというのを覚えている。

 

「その日私に川神学園の中を案内しなさい、一応貴方に言っておきますが拒否権はありません、素直に引き受けなさい」

 

今日と同じ様な事を学園でするのか。

別に断る理由もないし言うとおり素直に引き受けておこう。

 

「はい、引き受けさせてもらいます」

「良い返事です、褒めてあげましょう」

 

そう言って笑顔を向ける。

といっても懐かしい任務の時と同じ笑顔だ。

そのはずなのにむちゃくちゃ顔が赤くなる。

 

今日一日俺は赤くなってばっかりだ。

帰ろうとするがここで別れてはいけない。

どうせなら一人でも多いほうが良いし、バーベキューに誘ってみよう。

 

「マルギッテさん、お時間これからありますか?」

「いきなりどうしたのです、珍しいですね」

 

俺が時間を聞いたことに不思議そうな顔を浮かべるマルギッテさん。

確かに軍にいたときはこういった機会がなかったから誘う事もなかったもんな。

 

「バーベキューに誘われているんですが一緒にどうですか?」

「悪くないでしょうね、快く誘いを受けましょう」

「有難うございます」

 

こちらの誘いに笑みを返すマルギッテさん。

素直に二つ返事だったのに驚くが内心でガッツポーズをする。

 

「せっかくのお誘いですし、悪い事を考えていませんというのが今の笑顔で分かってしまいました」

 

信用をしてくれていると思っても良いのだろう。

下心を食事で持ち込むほどこちらも無粋ではない。

 

「クリスお嬢様もきますので顔を見せてあげれば喜ぶかと」

「お嬢様が喜ぶのならそれが最善ですね、いきましょう」

 

そう言って俺達は一度ユキを誘うため遠回りをして川原へと向かっていく。

到着したのは夕方で時間的には余裕がある感じだった。

 

「キャップ、間に合ったか?」

「おお、待ってたぜ!!」

 

キャップが鉄板の設置をしようとしているのが見えた。

俺はすぐに片方を持って手伝い始める。

 

「皆いつ頃にくるんだ?」

「俺が借りるのに速く来てたけどモロとガクトがもう少しでこっちくるぜ」

 

「そうか、一応一人増えたけど良いだろ?」

「ああ、構わねえぜ、肉も野菜も余計に貰っているからな」

 

「有難うよ、それを聞いて安心した」

「で、どんな人だよ?」

 

キャップの視線をマルギッテさんの方に向ける。

 

「あっ、あんたは……」

 

キャップが何かを言おうとしたら元気な声が遮る。

ああ、この声は一子だ。

 

「あー、マルだわ!!」

「あいつは……これは運が良いな」

 

アイツ、相変わらず変なあだ名で呼ぶんだな。

モモ先輩はなにやらにやりと笑みを浮かべていた。

 

「マルさーん!!」

「急いだら危ないですよ、クリスさん!!」

 

クリスお嬢様がマルギッテさんに寄って行く。

由紀江さんが危なっかしいと感じたのか注意をしていた。

まあ、女性に手伝わせるのもいい気はしないしやっていこう。

 

というかマルギッテさんって皆と知り合いだったのか?

 

「キャップ、向こうにもう一つ作るんだろ?」

「おう、もう少しで終わるからやろうぜ」

 

そんな事を言っていたら男の声が聞こえる。

 

「俺様たちが設置してやるよ」

「二人で二つやるよりは四人で二つやったほうが速いでしょ」

 

ガクトとモロがついていたのか鉄板の用意を二人でし始める。

てきぱきと息の合った動きをする。

流石に邪魔をしてはいけないと思ったのか、ユキも大人しく見守っている。

 

「いや、ナイスタイミングだったぜ、二人とも」

「有難うな」

 

設置を終えて二人に礼を言うキャップと俺。

というかまだ来てないのは大和と椎名か。

 

「とりあえず設置は終わったな」

「あとは火をつけて鉄板熱くしとくか」

 

火加減があとあと面倒な事にならないように俺は先にするように提案する。

 

「おう、準備万端にしとこうぜ!!」

 

鉄板も熱くなったころにようやく最後の二人が来た。

 

「悪い、遅くなった」

「軍師、もう準備終わったぞ!!」

「働かざるもの食うべからずだぜ、大和!!」

 

大和が到着して謝るとキャップとガクトがいじる。

手伝いも何も無しだからそこは甘んじて受けないとな。

 

「おい、みんな焼き始めるけど良いかー!!」

「こっちは僕がやるから気軽に言ってねー!!」

 

俺とモロの二人が始まりの号令をかける。

すると全員も大きな声で返してきた。

 

「当然だ、パーティーの始まりだぜ!!」

「いっちまおーぜ!!」

「OK!!」

「ああ、もうすでに準備は出来ているぞ!!」

「楽しみましょう!!」

「始めて構わないぞ!!」

「準備は万端、速く始めるのが最善と知りなさい」

「お祭りの始まりだー!!」

「始めて良いぞ」

「右に同じ」

 

キャップ、ガクト、一子、モモ先輩、由紀江さん、クリスお嬢様、マルギッテさん、ユキ、

 

大和、椎名が答える。

 

それが宴の始まりの合図だった。

一気にボルテージが上がり、肉や野菜を焼いていく。

当然そんな事をしていたら行き着くのは、皆で飲めや食えやの大騒ぎ。

その中で全員と笑顔でコンタクトをとっていく。

 

ユキはモロや由紀江さんたちと笑顔で楽しんでいた。

マルギッテさんもクリスお嬢様と楽しめて喜んでいる。

 

俺も俺でほんの少しだけだが大和とのわだかまりも解けたと感じる激動の一日だった。




今回は思った以上に文字数が多くなりました。
Sの部分が入ったりすることで戦闘描写が多くなったり、絡みが多くなりそうなのでオリキャラたちにもスポットが今後当たっていくよう頑張ろうと思います。
指摘等ありましたらお願いします。


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『学内案内』

今回は日常回です。
次回も少し日常回を予定しています。


週末もあけて月曜日。

マルギッテさんからの頼みで再び俺は七浜へ来ていた。

現在の時刻は朝の六時である。

 

「とりあえず迎えにきました」

「その心がけは素晴らしい、褒めてあげましょう」

 

いつも通りの凜のした顔で褒めてくれる。

道は知っているだろうが朝の通勤および通学ラッシュは知らないはずだ。

俺は早々と七浜駅に行かせようとする。

 

「時間はまだ余裕があるというのに何故そんなに急ぐのです!!」

「人が沢山乗ってくるからですよ!!」

 

俺が急ぐのを見てマルギッテさんが驚く。

知らないから暢気でいられるのだろう、結構凄い光景だというのに。

 

「で……慌てる必要は?」

「有りませんでした、すいません……」

 

急がないといけない、そう思うがあまり早朝から来ていることをすっかり失念していたのだった。

その結果として俺はマルギッテさんに怒られてトンファーによる攻撃のあとが喉にあった。

よく無事でいられたり声が出せるものだと自分で自分に驚いている。

そして今、俺達は座席に座って川神駅へと向かっている。

 

「しかし慌てるという事は大勢の人が入るということなのでしょう、覚えておきます」

 

俺の気持ちを汲んでくれたのか、混雑しないうちにいくようにするとマルギッテさんは言ってくれた。

 

「それでお願いします、早く行かないと人に押しつぶされそうになりますからね」

 

俺はぜひそうして欲しいと思って忠告をする。

まあ、お嬢様がいる島津寮に宿泊をすれば一番身の安全が確保できるんだろうけど。

 

「分かりました、どうやら川神に着いたようですね」

「その様ですね、降りましょうか」

 

その様なやり取りをして俺は一緒に川神駅で降りる。

時間にも余裕があるからどうせなら誰か誘うか?

 

「一緒に登校するのにお嬢様を誘ったりしてみますか?」

「今この時間にお嬢様は起きていません、察しなさい」

 

いくらなんでもそれは失礼な気が……もう七時ですよ。

 

「とりあえず誘って待っておきましょうよ、それか別の人を誘いますか?」

「待ちましょう、他の誰かと言っても仮に川神院に行くのなら待つ方が良いに決ま

ってます」

 

俺が別の人を誘うか相談しようとしたら即座に拒否をする。

確かに自分から訪れてモモ先輩に会うくらいならば、遅くなっても良いからお嬢様を待った方が良いに決まっている。

 

「それでは入らせてもらいますか」

「ええ、そうしましょう」

 

そう言って島津寮に入る。

 

「ああ、香耶ちゃんじゃないか、久々だね」

「お久しぶりです、麗子さん」

 

久しぶりに見る麗子さんに驚く。

昔と全然変わっちゃいない、しいて言うなら見上げるのではなく見下ろす事になったぐらいだ。

 

「何のようだい?」

「いえ、一緒に登校しようと思って迎えにきたんですよ」

 

用事があるのかと聞かれたので普通に答える。

クリスお嬢様や由紀江さんやタッちゃんとか迎えに来たといっておく。

きっと椎名が俺と大和を近づけないだろうしキャップは何処に行ったか分からない。

 

「そうかい、そうだ紅い髪の毛した子、上の部屋に行って朝ごはんだって言ってきてくれないかい?」

 

マルギッテさんはそう言われて上に登っていく。

 

「香耶ちゃんも男の方起こしてきてくれないかね?」

「はい、わかりました」

 

そう言ってまずはタッちゃんの部屋に入る。

すると制服姿のタッちゃんがもうそこにはいた。

 

「一緒に登校するのか、別に構わねえがな」

 

そう言って部屋を出る、俺もそれに続いて次はキャップを起こす。

 

「起きろー!!」

 

卵型のアンドロイドかロボットかが大きな声でキャップを起こしている。

しかし流石はキャップだ、起きる素振りを一瞬も見せない。

 

「クソ、こうなったら第二形態で……」

 

何かしらいっているがこちらは起こす気だから割り込ませてもらおう。

 

「失礼するよ」

「誰?」

 

俺の事を聞いてくるが起こすのが優先だ。

だからあえて無視をして俺はキャップを運んでいく。

 

「起こすならば布団を引っぺがすんじゃなくてだな……」

 

俺はそう言って肩を担いだまま洗面所まで連れて行く。

蛇口を捻る前に栓をしておき水をためるようにする。

そして少し水がたまったところでキャップの顔を水につける。

 

「起きろー、起きろー」

「ガッハ!!」

 

俺がそういいながら頭を揺する。

気づいたキャップは流石に苦しかったのか、必死にもがいて脱出する。

とは言っても力いっぱい押し付けているわけではないのだが。

 

「おはよう、マイスター」

「おはよう、キャップ」

 

俺とロボが朝の挨拶をする。

キャップは少し苦しかったのか途切れ途切れに挨拶をしていた。

 

「ああ……おは……よう」

 

「速く起きないから少々荒くさせてもらったぞ」

「正直、まだいつものクッキーの起こし方の方がましだ……」

 

顔をタオルで拭きながらキャップがそんな事を言ってくる。

いつもって……お前もう高校二年生だろうが、いい加減自分で起きろよ。

 

「全員起きたみたいだね」

「あっ、大和達は自分で起きたのか」

 

リビングに行くと全員が揃っていた。

麗子さんは食事の用意をしていた。

 

「お前が風間を起こしている間に俺が起こしたんだ」

 

成る程な、良く分かった。

あんな騒ぎを起こしている最中によく手伝ってくれたと感心する。

 

「有難うな、タッちゃん」

「気にすんな、こんな事で礼を言うんじゃねえよ」

 

タッちゃんに礼を言う。

相変わらずだとは思うが僅かに微笑んでいた。

 

「我々は待つ事にしておきましょう」

「そうですね、遅刻さえしなければ良いんですから」

 

俺達は全員がご飯を食うまでじっくりと待つ事にした。

そして数分後、一番先に食べ終えたのはタッちゃんだ。

他のメンバーのように騒がしくせずに、もくもくと食べているから当然といえば当然か。

俺は食べ終わったタッちゃんに一緒に行かないかを聞いてみる。

 

「タッちゃん、一緒に行かないのか?」

「断る、あんな大所帯で目立つ気はさらさらねえよ」

 

まあ、それもそうだ。

全員で行くとなれば十二人もの多さであの橋を渡ることになる。

俺は苦笑いをしながら仕方ないと思って声をかけていた。

 

「そうか、無理強いはしないし仕方ないな」

「また気が乗ったときにでも一緒にな」

 

そう言ってタッちゃんは先に行った。

まあ、馴れ馴れしくされるのが好きでもないタッちゃんからしたら十二人は少し辛いか。

 

「残念だなー、ゲンさんも一緒に行けると思ったのによ」

 

キャップが残念そうに言う、俺だって残念だよ。

でもコレばっかりは本人の意思の尊重だからな。

 

「先行くね、キャップ」

「おい、京?」

 

椎名の奴が立ち上がってそそくさと玄関から出て行く。

最後に俺の方見てたがそんなに嫌うっていうのか?

 

「ハハッ、随分とあの騒動で嫌われたみたいだな」

 

笑いながら俺はそういう。

あれであそこまで露骨に嫌われるなんて想定外だよな。

 

「でもあの態度はないでしょう」

「全くだな、流石にアレは酷い」

 

由紀江さんが笑っている俺に対して呆れ顔で言ってくる。

クリスお嬢様も今の態度に感じるところが有ったのか少し苦い顔だ。

 

「でも、それを含めて椎名だろう、ただ度を過ぎて何年もあれなら俺は流石に引くけどな」

「まあ、厳しい事いってるが変わって欲しいのは俺としても本心だぜ!!」

 

俺が朗らかにそう言い放つとキャップも笑みを浮かべてその言葉に賛成する。

元々そいつらが自由に過ごせるのが風間ファミリーのあり方だ。

それを考えたら無理やり変わらせるのは本来のあり方としては反している。

ただその場所を蝕むほどに変わっていかない奴は看過できない。

 

「食事も終えたようですし行きましょう、グダグダしては間に合わないと知りなさい」

 

マルギッテさんが重い腰を上げて発言する。

食事が終わったのを見て全員にそう言ってくる。

遅刻はしないだろうが確かにもう時間が迫っている、一子やモモ先輩が待ってないとも限らない。

 

「それでは行きましょうか」

 

そう言って俺が立ち上がる。

それに続いてキャップも立ち上がる。

 

少しした後俺達は玄関に集まっていた。

 

「別に間に合う時間だし、胸張って元気良く行こうぜ!!」

 

その言葉に全員が笑いながら歩き始める。

マルさんはクリスお嬢様の横にしっかりついて護衛している。

その前に俺がいて完全な防壁が生まれていた。

 

変態の橋には一子とモモ先輩にガクトとモロがいて椎名もいた。

流石にこうなったらさきさき行くのは出来なかったみたいだ。

 

「おいおい、バーベキューに続いてどうしてお前がいるんだ?」

 

モモ先輩が戦いを楽しもうとしている時の笑みを浮かべ始める。

 

「モモ先輩、転入するから今日もいるんです」

「そうか、歓迎として私と戦ってみないか?」

 

転入してくると聞いて理由を取り付けて試合をしようとする。

俺は流石に転入初日から怪我を負わせてはならないと思い声をかけていた。

 

「モモ先輩、やめてもらえませんか?」

「私は戦いたいんだぞ、やだといったらどうする気だよー」

 

仕方ない人だ、こうなればこういって鎮めてもらうしか有るまい。

 

「俺が代わりにやりましょう」

 

そう言って重りを外して臨戦態勢をとる。

マルギッテさんは上官だ、上官を守るのが補佐の役目である。

 

「言ったぞ、後戻りは出来ないからな」

「上等ですよ、コレで怪我しても自業自得です」

 

笑みが歪んで戦いを楽しもうとする戦士の顔になる。

一気にプレッシャーが噴出していく。

戦いの合図はなくモモ先輩の拳が握られる、それを起点に俺は攻撃を始めた。

 

「川神流無双正拳突き!!」

「『猛虎』!!」

 

こちらが踏み込むと同時にモモ先輩が攻撃を放つ。

お互いの攻撃がぶつかり合い大きな音を立てる。

少し間を置いた後に残っていた結果は、お互いともダメージは無く立ったままというものだった。

 

「なかなかやるじゃないか」

「よく言う……」

 

こっちは最初から本気の一撃だったというのに、あちらはまだエンジンが掛かっていない軽い一撃だ。

その状態ではいくら無傷で終わったにしても素直に喜ぶことが出来ない。

 

そんな事を考えていたら遠くから多くの足音が聞こえる。

つまり予鈴が鳴る五分前といった所だ。

 

「やばい!!」

「速く行かないと怒られちまう!!」

 

俺もモモ先輩も素に戻って走り始める。

遅刻した理由が決闘とか最悪学園長から小言が飛んでくる可能性がある。

あの爺さんの一撃って認識したらいつの間にか喰らってるからいやなんだよな。

 

数分後俺もモモ先輩も間に合った状態で校門をくぐっていた。

モロや一子達も次々とくぐってくる。

何故かキャップが前に居たがあいつの事だ、強引にショートカットしたんだろう。

 

「間に合ったー」

 

そう言って一拍置いたあとに全員がもう一回走ってそれぞれの教室へと行くのだった。

皆が皆、遅刻を逃れる為に必死だったというところだ。

ちなみにマルギッテさんは一度職員室へと向かっていった。

 

「で……おじさんから一つ重大発表が有るんだよね」

 

2-Sに入って座った後のHRで宇佐美先生がそんな事を言う。

もしかして小島先生との仲が進展したのか?

それとも加齢臭が日に日に酷くなってんのか?

うん、どう考えても後者の方が有りそうだ、重大なことじゃないけど。

 

「F組に転入生が三人入ったんだけどウチにも今回きちゃったんだよね…コレが」

 

目を押さえるいつもの仕草をやっている。

『何でおじさんの所なんて選ぶんだよ』と言いたいのがひしひしと伝わってくる。

 

「まあ、ビッグイベントでおじさんは疲れたし後はその転入生に任せるわ、入っておいで」

 

そう言うと扉が開く。

入ってきたのは当然マルギッテさんだ、凛とした格好で教壇の近くまで行きチョークを取る。

そして勢いをつけて綺麗な字で名前を書いた。

 

「マルギッテ・エーベルバッハです、このたび2-Sに所属する事になったと理解しなさい」

 

そう言って挨拶をする、少し動いているというか興味が有るような目をしているあずみさんを見て俺は勘付く。

この人ってもしかして昔何かしら軍やそういった戦いに身を投じていた人か?

普通のメイドが興味本位でやる目つきや目の色ではなかったぞ。

 

「で、何かしら質問有るならしていけよー、勿体無いぞ」

 

宇佐美先生が質問するように促すと一番先に手を上げたのは準だった。

 

「あの、その服を見るからには軍人だと思うんだけど本物?」

「はい、本物です、偽ってなどいないと知りなさい」

 

準の質問に真剣に答えるマルギッテさん、その答えに準は納得したのか頷いていた。

次に手が上がったのは不死川だった。

 

「マルギッテ、おぬしはきちんと日本語はできるようじゃが方言とかそういうのに不自由はないのかの?」

「問題ありません、日本に来る際に四十七都道府県の方言は一通り勉強しておきました」

 

不死川の質問にも真剣に答える、っていうか結構日本語達者だったのにわざわざ勉強したのか。

そしてどうやら最後になりそうな質問だがあずみさんが手を上げていた。

 

「マルギッテさんは軍人のようですがどれほど強いんですか?」

 

その質問の一瞬の間、あずみさんから殺気が漏れるのを感じ取る。

この人まさか喧嘩を売っているのか?

 

「貴方がそれを聞きますか、女王蜂……」

 

マルギッテさんが微笑みながらあずみさんに向かって言葉を発する。

今聞こえたのはあずみさんの戦場での通り名だろう。

 

「もし自信があるならS組の中で強いと思える人を指名して戦ってください!!☆」

 

そう言った瞬間マルギッテさんがトンファーを取り出す、戦う気は満々のようだ。

 

「あずみの小太刀の舞いが見れれば良いがな、コレばかりはマルギッテ次第だ」

 

英雄が笑っている、その隣では準が少し気まずそうな顔をしている。

 

「現役の軍人だから……俺とか不死川とかだったら結構やばくね?」

 

そう言っていたらマルギッテさんのトンファーが動く、誰を相手にするか決まったのだろう。

ぐるりと回っていく、その動きは少しずつ速くなって戦えるであろう奴へと迫っていく。

 

準、通過。

不死川、通過。

港、通過。

英雄、通過。

 

残るは俺とあずみさんといったところだ。

 

「私が戦うのは……貴方です、キョーヤ!!」

 

あずみさんを通過せずに俺の目の前でトンファーが止まる。

そして威風堂々と大きな声でマルギッテさんが指名する。

 

「……分かりました、それでは指名を受けたことですし決闘しましょう」

 

そう言って俺とマルギッテさんは校庭へと降りていく。

立会人はどうやら学園長がやってくれるようだ。

HRが終わるまで残り五分だったのでその間だけの戦いとなる。

 

すでに眼帯を外した臨戦態勢のマルギッテさん。

俺もすでに重りは外していて全力で戦う準備は出来ている。

 

「一本勝負、はじめ!!」

 

その言葉と同時にお互いが踏み込む。

こちらは鉄山靠で体ごとぶつけていく。

あちらは大きく足を上げてそこから一気に振り切る事で勢いをつけたトンファーキ

 

ックを繰り出していた。

 

「オラッ!!」

「トンファーキック!!」

 

雄叫びを上げたままお互いの攻撃がぶつかって音を立てる。

どちらも僅かに吹き飛び間合いは少し遠くなる。

 

「トンファーハンマー!!」

「猛虎!!」

 

腕とトンファーが衝突をする。

そして距離が近くなったと同時に攻撃の構えを見せる。

あの日以上に強いプレッシャーが押し寄せる。

この戦いに込められた気合は尋常ではない。

 

だがこちらも負けていられない。

こちらもあの日から鍛錬をしてきた。

あの日の引き分けをばねに強くなった。

発されたプレッシャーを押し返すように俺は毅然と立ち続けている。

 

「トンファーマールシュトローム!!」

 

舞うように繰り出される連打。

あの日俺を巻き上げた技が時を経て再び襲い掛かってきた。

 

「シッ!!」

 

一気に体勢を低くして踏み込む。

連打の量が比較的少ないであろう低空。

その場所から一気に突き上げるように『猛虎』を放つ。

 

「甘い!!」

 

頬に当たると同時に顔を横にずらしていく。

そしてトンファーで俺の腕を挟む。

それを力任せに捻って俺を巻き上げる。

 

巻き上げられた俺は綺麗な着地を決めて距離を確認する。

 

あの時と全く同じ距離だ。

両方とも万全の一撃が出せる距離。

 

「ハアア!!!」

「トンファーキック!!!!」

 

お互いに踏み込んで決着をつける為に技を繰り出す。

俺が繰り出す技は『裡門頂肘』。

 

お互いの間合いが詰まり攻撃が炸裂する。

俺の突き出した肘がマルギッテさんの腹にめり込む。

それと同時に首筋に激痛が走る。

横薙ぎに飛ばされないように真剣に踏ん張る。

 

少し互いに後退をしてしまい距離がまたもや開く。

しかしもうすぐ決着だ、お互いが自分の持てる力を存分に活かして放った今の一撃。

それはお互いが大きなダメージを受ける結果となり結末を大いに速めるものとなった。

 

再びマルギッテさんが踏み込んで、足を振り上げる。

今度こそ決着に繋がる一撃を放とうとしている。

俺もこちらの方が強いと誇示するように向かっていこうとした瞬間だった。

 

「そこまで、時間切れにより両者引き分けじゃ!!!」

 

学園長の大きな声で時間切れを言い渡される。

俺とマルギッテさんは互いに苦い顔をして殺気をおさめた。

 

窓際では俺たちの姿を見ていたのか拍手が送られる。

賛辞に対して俺とマルギッテさんが窓に向かい軽く会釈する。

しかし心の中ではあの日と同じ様に悔しさで満ち溢れていた。

 

勝負を終えた後に教室へと戻り、午前の授業を受ける。

そしてそれが終わった後は学食を案内する為に共に行動をする。

 

「広い所ですね、良いところです」

 

食堂を一目見たマルギッテさんは微笑みながら褒める。

当然ではあるが転入生だし美人という所で男女を問わずにマルギッテさんの事を見ていた。

俺はじろりと見渡してある人間を探す。

 

「やあ、クマちゃん、今から戻るところか?」

「そうだよ、キョーヤ君、どうしたんだい?」

 

出口の近くでお目当ての人物を見つける事が出来た。

その人物の名前は熊飼満。

学園での食は彼に聞くのが一番だ。

仮に食の委員会が学校に有れば間違いなく会長になれるだろう。

 

「今日のお勧めはなんだい、昨日はこちらが教えたから頼むよ」

「ずばり今日はしいたけの肉詰めかな、身が厚いしいたけにコレでもかというほどぎっしりとひき肉が入っているんだ」

 

時々こうやって情報交換をする。

一年の時は食べ歩きをした経験もあるのでそれなりに関係は良好だ。

 

「じゃあ、俺はそれにしようかな、マルギッテさんはどれにします?」

「私はこの学食に対する情報が無いのでお勧めされたもので構いません」

 

それを聞いて俺は食券を買う。

二人分のご飯が用意された時にまずあいている席がないかを見渡す。

すると大きな声でこちらに呼びかけてくる奴がいた。

 

「こっちの席開いてるよ、キョーヤ君」

 

よく見るとその方向にいたのは雁侍だ。

おまけに手まで振っている。

誘われた事だしいってみよう。

 

「あっ、しいたけの肉詰めを頼んだんだ」

「まあな、……それでお前のそのどんぶりの量はなんだ?」

 

お盆に積まれた俺の料理を見てくる。

しかしその顔よりも目に入ったのはこいつの顔の横に積まれたどんぶりだ。

少なくても丼が五個は積まれている、しかも大盛りの奴だ。

 

「食わなきゃ痩せるからね、維持のためだよ」

 

そう言って腕をまくる、すると見えたのは太い腕だった。

前に一目見た時から気になっていたが武術とかはしているのだろうか?

 

「体がでかくてね、それでよく力仕事とかを任されるから自然にこうなった」

 

そう朗らかに言っていた。

それからお互い他愛もないことでやり取りをして、数分後には学食を食べ終わり教室へと戻っていくのだった。

 

「一目見ましたが彼は強い男ですね」

「やっぱりわかりますか、俺もそう思います」

 

食事を終えた後に席を離れて教室に戻る間に話す。

雁侍が強いと言うことをマルギッテさんは感じ取っていた。

俺もその意見には賛成できる。

 

そして学食を教えたあとは教室に戻って午後の授業。

放課後になれば再びマルギッテさんを案内する。

基本的に最初は学内の部活動などといった案内となる。

まずは文化系のクラブを見て回ることにしよう。

 

「この学園は随分と活発的ですね」

 

数分後、文化系の全てのクラブを回ったマルギッテさんがため息をついていた。

 

茶道部を見た時、着物に驚いていたのが印象的だった。

と言っても一番きつかったのは注目の視線だと思う。

何処の部活動を覗いても全員がずっとマルギッテさんを見ていたのだ。

そんな視線にさらされたので少し疲れたような目をしていた。

 

運動系の部活動を訪れても同じで好奇心の視線にさらされていた。

それに男性部員が全員マルギッテさんに良いところを見せようとはしゃいだりしていた。

また身体能力の高さからオファーなどが来たりもしていたがそれらは全て断って

いた。

 

「お疲れ様です」

 

そう言って俺はペットボトルの水を渡す。

マルギッテさんはそれを受け取り、ゆっくりと飲み始めた。

そしてペットボトルから口を離して今日についての感想を言ってきた。

 

「今日は騒がしい一日でした、しかし軍ではなかったものだ、こういう場所の中で

学ぶものは有るのかもしれません」

 

真剣な顔をして疲れなど微塵も見せず凛とした姿勢になる。

それから一拍おいて俺の方をむいて言葉を放つ。

 

「少しぐらいは私に協力させてあげましょう、感謝しなさい」

 

そう言って僅かに微笑むマルギッテさんの笑みに俺はつられて微笑むのだった。

そして思っていたことは確信へと変わる。

この人と過ごす学生生活は去年とは全く違うものになるということを、俺は何度も

何度も噛み締めていた。




次回は日常回で東西交流戦などに触れていこうと思います。
また、ご指摘等ありましたらメッセでも良いのでお気楽にお願いします。


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『交流戦の知らせ 胎動する計画』

今回も日常回です。
次回は東西交流戦をしていこうと思います。


マルギッテさんが転入してから一週間も過ぎて五月も終わる頃。

 

俺たち学園生は朝礼で知らされた『東西交流戦』について話し合っていた。

西の天神館といえば川神学園と同じほどの規模を誇っていて、武を重んじるところだ。

そこの学生が全員修学旅行で神奈川の方に来るらしく、それで川神学園に決闘を申し込んできたらしい。

それによって全学年により対抗戦が行われる事になった。

 

その作戦を立てる為に一時間目と二時間目は自習となった。

そこで一度教室でどのクラスに交渉をしに行くかを決めようとしていた。

 

「ここはF組と交渉するのが一番良いんじゃないだろうか?」

 

俺は一番受け入れなさそうな意見を口にする。

しかし意外な人物がその意見に賛成をする。

 

「そうじゃな、一番負けずに済む方法じゃ」

 

不死川の賛成意見に全員が驚く。

普段から『山猿』だとか言って選民主義を全面に出している、あの不死川が受け入れるなんて誰も予想できなかったのだろう。

 

「此方は負けるのが一番嫌なのじゃ、負けぬ為なら奴らの力も借りねばな」

 

腰に手を当て胸を張り、いつもの自分とは違うんだぞと示している。

 

「それじゃあキョーヤと不死川の二人でF組交渉行ってみるか?」

 

準がそう言おうとしたがそれは英雄によって遮られる。

 

「待たんか、クラス委員が共に行かねば交渉が進むことはない、我も行くぞ!!」

「流石でございます、英雄様あぁぁ!!!」

 

英雄が堂々と声高らかに言う、それに相槌を打つようにあずみさんが言う。

 

「じゃあボクも行こうかな、人数は多いほうが良いでしょ」

 

港が立ち上がって俺たちに同行する。

此処に残っているのはあずみさん、ユキ、マルギッテさん、準、トーマ。

いずれにせよ別のクラスの交渉は上手くまとめられるだろう。

 

「では行ってくる。他のクラスのことは頼んだぞ、トーマにあずみよ!!」

 

そう言って俺達はF組へと向かうのだった。

俺たちが入ってきた瞬間、ピリッとした空気が流れる。

険悪だからと言ってここまで敵視されるものか?

 

しかし見知った顔が俺を見つけて声をかけてきた。

 

「どうしたんですか、キョーヤちゃん?」

 

俺にちゃん付けで話しかけてくるのは、F組のクラス委員長である甘粕真与である。

同年代の男性にちゃんをつけるなんてのは珍しい気がする。

 

「今回の東西交流戦で協力する交渉人として来させてもらった」

 

俺は手短に用件を伝えると早速不死川がある人物を読んでいた。

こいつ行動が早すぎる、いつもの不死川とは一味違うぞ。

 

「川神はおるかの?」

 

不死川が一子を呼ぶ、するとすぐさま一子は向かっていった。

お互いが面と向かった状態で不死川が口を開く。

 

「今回の交流戦で此方たちを手を組まぬか?」

 

その言葉にF組のメンバーが目を丸くする。

普段の不死川からは想像もつかない言葉だ。

普段ならば罵って笑い飛ばす不死川が真剣な面持ちで交渉をしている。

その心意気を汲んだのか一子は頷いて口を開いた。

 

「当然よ、相手を驚かせてやりましょう!!」

「うむ、いい返事が聞けてよかったぞ」

 

一子が元気満々で返事をする。

それに対して不死川も笑顔で頷いた。

 

「俺様は別に構わないぜ、でも全員なんだろ?」

「そうだよ、全体としては九鬼とそっちの委員長で何とかできるんだろうけど、やっぱり直に交渉しないと無理な人もいるでしょ」

 

港とガクトが話し合っている。

あちらでも英雄が甘粕さんと話し合っていた。

俺も動き始めなければならない。

俺はこのクラスで一番活動的な奴を狙いに行く。

 

「とりあえず風間ファミリーから攻めるのが定石だからな」

 

そう言って俺はキャップの前に行く。

 

「提案があるんだが聞いてくれないか?」

「話は聞いていたから言わなくても良い

協力するってのは別に構わないぜ

バラバラで勝てるのが難しいならそういうのはバンバンやらなくちゃな」

 

キャップは話の流れを聞いていたから即座にいい笑顔で返事を返す。

それをきっかけに他の面子も協力を言い始めた。

 

「僕はOKだよ、むしろ喜んでさせてもらうさ」

「自分も一緒に戦うぞ!!」

 

モロとクリスお嬢様が協力を二つ返事で受け入れてくれる。

 

「大和、お前は協力してくれるか?」

 

俺は大和に話しかける。

大和は一拍置いてから顔を上げて椅子から立ち上がった。

 

「流石にこんな所で引きずったり邪推するほどの人間じゃないからな、協力する」

 

大和が立ち上がり協力を了承する。

 

「大和がやるならね…不本意だけど…」

 

椎名は大和が言ったから仕方ないといった感じだ。

出来ればそういう気持ちでやって欲しくはないんだが……。

というよりまだ話してもいない段階だと思うんだがそこは気にしないでおこう。

 

「ええと……S組はこのたび協力を真剣に考えているという事でよろしいですか?」

「うむ、話が分かる委員長でよかった。それでは他のF組の者たちへの通達よろしく頼むぞ!!」

 

一通り交渉が終わると英雄の声が響いた。

英雄がそう言って交渉は終わり、俺達はF組から出て行った。

収穫は大きかった、不死川が今回良い働きをしてくれたのが大きな理由だろう。

 

「なんか、不死川って触れ合い方変えたりした?」

 

そして疑問に思っていたことを俺が不死川に言う。

すると不死川はいつもの笑みを浮かべて堂々と言い放つ。

 

「おまえらが他人と仲良く出来て此方にできなければ恥じゃろ

だから少しずつ姿勢を変えて多くの友人を作ることを決意したのじゃ!!」

 

つまり俺達を見て自分から意識改革に乗り出したのね。

というかそれを仮にやっていたとしても二ヶ月でほぼ完璧ってさすがといわざるをえない。

 

「目指すは友達百人じゃ、ヒュホホホ!」

 

不死川はそう言って教室へと戻っていく。

友達百人とかどっかで聞いたフレーズだな……。

とりあえず俺は不死川に由紀江さんでも紹介しようと思った。

他人を立てたり気配りができる人だからきっと不死川のようなタイプでも問題なく接してくれるはずだ。

 

そう考えて戻った時にはすでに他のクラスとの交渉をトーマやあずみさんたちが終わらせていた。

まあ、F組ほど極端にS組を嫌悪しているわけじゃないから速く交渉の場が設けられたのだろう。

それにトーマの交渉術やあずみさんとマルギッテさんの力の事を考えれば不思議ではなかった。

 

それから放課後に本格的な作戦について話し合う為に空き教室を利用して会議をする事にした。

 

「それでは東西交流戦による会議を始める!!」

 

英雄が声高らかに言葉を放って会議が始まる。

 

「ところで相手の戦力としてはどれ程なんだ?」

 

準が気になっていることを言う。

確かに全員がつわもの揃いといった場合を考えれば気が気じゃないだろうな。

 

「ほとんどこっちの一般生徒と変わらない感じだな」

 

俺が知っていることを言う。

一般生徒と言っても武人が集まっているからこちらよりは心構えが強いだろうが。

 

「しかし西方十勇士といわれて一般生徒に比べて大きく戦闘力が異なる奴らがいる」

 

大和の言葉に全員が耳を傾ける。

相手側には腕の立つ奴が十人。

名前は聞いたことがあるがその十人を俺は全て把握していない。

戦うのだからこちらで割ける面子を考えなければならない。

一応挙げられるのは……

 

まず女性陣。

 

マルギッテさん、クリスお嬢様、一子、ユキ、不死川、椎名、エーリン。

 

次に男性陣。

 

モロ、ガクト、キャップ、タッちゃん、俺、港、雁侍、準。

 

合わせて十五人もいるのか。

拠点防衛のようにして何人か割いたりするのも悪くはないかもな。

 

ちなみにあずみさんと英雄は除外している。

大将が英雄になる以上は守る為にあずみさんが居なくてはならないからだ。

 

「ここで重要なのは誰が誰を担当するかですね」

「一応参考までにどれだけ情報がある?」

 

俺がトーマに聞く。

名前が知っている奴が一致していれば良いぐらいの考えだ。

もしかしたら全然聞いた事もないダークホースが当日現れるかもしれない。

するとトーマが頭を指で叩き思い出すしぐさをしながら次々と名前を言っていく。

 

「私が知っているのは弓矢使いの毛利、剣士の石田、槍使いの島、砲撃手の大友、オイルレスラーの長宗我部、ハンマー使いの宇喜多といった所でしょうか」

 

トーマが十人の内の六人の名前を挙げる。

なかなか名前を聞いたことのある面子がいる。

 

天下五弓の毛利。

接近戦では西でも随一を誇ると言われる長宗我部。

砲撃手の大友も火力による殲滅では有名だ。

 

と言っても普通ならば武術の世界に生きたりしていないと分からないものだが。

そう考えればやはりトーマの情報網は凄いな。

 

「それでは今から担当を考える事にするか」

 

「担当と言っても一人対一人の状況を無理に作らなくても良い

何故ならばこちらは相手よりも人数が多いんだ

ツーマンセルで確実に相手を倒すのはどうだ?」

 

「そうだな、ではその路線で今挙げられた六人の担当を決めるとしよう」

 

「あいにく射程が長い奴もいないから単独になるけど、毛利は京に任せないときついか」

 

大和が言う。

その意見に椎名が頷く、妥当な所だろう。

 

「大友は俺がいく、武器は戦力差が覆るからな

この勝負は最悪他人を巻き込むから単独にしてくれ」

 

大和に続いて俺が担当するべき相手を言う。

武器使い、しかも火力への特化型。

多少の差ならばゆうにひっくり返されてしまうだろう。

それならばできるだけ実力が高い奴が行かなくてはならない。

そして砲撃の範囲次第では他人への被害が計り知れない。

だからこそ単独での勝負を願った。

マルギッテさんと同等の実力を持つ俺がいくことに誰も反対はしなかった。

 

「大将はマルギッテに任せてみようと思うがいいか?

また、誰か一人つけて戦いを有利に働かせても良いのだぞ」

 

英雄がマルギッテさんに提案する。

確かにその考えは間違っていない。

大将ということは基本的には最大戦力だ。

それならばこちらも最大戦力もぶつけるのが常套手段だろう。

あずみさんが離れられない以上はマルギッテさんが適任となる。

 

「引き受けましょう、負けはないと知りなさい

そして一人つけるのあればお嬢様と共に戦わせていただきます」

 

笑みを浮かべてマルギッテさんが了承する。

更にクリスお嬢様とのツーマンセルといった限りなく最高峰に近いコンビの結成。

コレで一応大将首は楽に考えることができた。

 

「島はワン子で良いんじゃねえか」

 

ガクトが言う意見に耳を俺は傾ける。

槍に近い射程があるのは今のところ一子の薙刀だ。

レイピアよりは良いだろうと思う。

 

「そうだな、槍に勝つには一子の薙刀が有効だろうよ、で誰か一人つけてもらっておいてもいいんじゃないのか?」

「そう言ってくれてるのは嬉しいし、何より私も討ち取りたいわ、だからやらせて!!

うーん、つけようとしてもすぐには決められないわ」

 

タッちゃんの一言も有り一子が承諾をする。

一子は自分と一緒に戦う相手について決め損ねていた。

別に今すぐでなくても良いからそうせかす気はない。

 

コレで残りは二人の担当だ。

 

「宇喜多は……不死川さん、お願いして良いですか?」

 

ハンマーを使うということは力に富んだ相手ということだ。

その攻撃をかいくぐって力を利用するには柔道をしている不死川が適任なのだ。

トーマのお願いに対して不死川は堂々と言い放つ。

 

「うむ、葵君の言葉を聞き入れよう、奴に此方の華麗な投げ技を馳走してやろうではないか

ちなみに助っ人はいらぬ、投げる時に巻き込む可能性もあれば相手のハンマー次第では危ないからの」

 

不死川が笑みを浮かべて頷く。

堂々とした佇まいが今は頼もしい。

そして理由も至極全うな理由で一緒に戦う相手は必要ないと伝えた。

普段ならば『邪魔』だとか『山猿と一緒では此方が鈍る』といった感じなのだが、心構えを変えたからだろう。

皆もその意見に目くじらを立てることなく頷いた。

 

「長宗我部はもうガクトだろ」

 

キャップの一言に俺を含めた全員が頷いて肯定する。

港よりもパワーがあるのだからまさに適任だろう。

 

「おう、任せとけよ、俺様の力で倒してやるぜ!!

ちなみに一緒に戦ってくれる奴は考えれてない!!」

 

力瘤を見せて元気に言うガクト。

俺を含めた全員がその姿を見てこいつに任せても大丈夫だと思い頷いていた。

助っ人については相変わらず頭を使わない意見では有るが仕方ない。

一子も言っていたがおいそれと決められるものでもない。

 

一応コレで大まかでは有るが誰が誰の担当をするのか決まった。

 

「それではこれをもって作戦会議を終わる、各々きちんと励めよ!!」

 

英雄の言葉で放課後の作戦会議が終わる。

全員が各々の思いをもって全力で『東西交流戦』に望むのだった。

 

.

.

.

 

そして……香耶達とは関係ないところで計画は動き始める。

 

夜の九時に差し掛かる頃。

 

九鬼財閥の近くにあるバーに男女合わせて十人が集まっていた。

 

一人は余裕綽々と言ったようなどこか楽しさを含んだ笑みを浮かべた男だった。

格好は不思議というかなんだか変な感じの印象がある。

 

頭にはニット帽。

服はポケットが沢山ついたミリタリーコート。

頭に被ったニット帽の下にはバンダナ。

また表情を悟られにくくする為かサングラスをかけている。

 

そして他のメンバーは何をする気なのかという怪しさから来る怪訝な顔。

もしくは楽しい催しをするのだという期待を持った顔をしている。

 

この面子を呼んだ男の名前は深道。

 

そしてそれ以外の面子は

 

『鬼人』 逢間長枝

『サブミッション・ハンター』 小西良徳

『合気の戦姫』 皆口由紀

『エアマスター』 坂本摩季

『クレイジーパンチャー』 楊鉄健

『爆殺シューター』 坂本ジュリエッタ

『不死鳥の浸透勁使い』 屋敷俊

『スカイスター』 サンパギータ・カイ

『根性の怪物』 北枝金次郎

 

いずれにせよ三年前にインターネットの会員配信型のストリートファイト

『深道ランキング』において上位を占めた面子たちだ。

 

「全員よく来てくれたな」

「で、一体何の用なんだ?」

 

俺は深道に話しかける。

一人だけ呼ぶのではなくこの大所帯を用意して一体何を考えているのだろうか?

 

「念のために言っておくがあの男二人がいない状態で勝負しろと言うのなら……負けないぞ?」

 

俺は不敵な笑みを浮かべて深道に言う。

昔の俺ならばここで深道に掴みかかって殴っているところだ、

 

「昔のお前とは違うな、同棲して余裕でも出たのか?」

 

深道が冷やかすような言い方で俺に言ってくる。

結局からかわれている俺を見て由紀さんも少し笑っている。

そうだ、俺は終わってからの恋を勝ち取る為の戦いに勝利した。

その結果、実に三年間もの間同棲している。

それからは逢間を名乗らず由紀さんの皆口姓を使わせてもらっているので今は皆口長枝だ。

 

「俺達を呼んだのはこうしてわざわざ冷やかす為じゃねえだろう?」

 

金ちゃんが深道に言う。

長戸がこの場にいないだけでも驚きだ。

そしてその言葉は間違っていない、からかう為に呼んだわけではないはずだ。

 

「ああ、すまないな……ところで川神百代って知っているか?」

 

全員がその名前を聞いた瞬間目を細める。

勝てないとか戦う気がないと考えているのは一握りだけだろう。

それ以外は戦っても良いと真剣に考えているレベルだ。

 

「まあ、お前らに戦えと言っているわけではない」

 

『なんだ』といったような顔を大多数が浮かべる。

当然その中には俺も入っている。

勝てる可能性で言えば決して低くない面子がここには集まっているからな。

 

「今回俺が考えているのは川神百代に一泡吹かせるための人材発掘。

そしてその方法としては競争心の強い川神学園の学生を使ったランキング戦だ」

 

なるほど、さしずめ『川神ランキング』といった所か。

 

「そのイベントの際に特別な事があれば、お前らにも召集が掛けられるかもしれないからこうやって呼んで喚起しているんだ」

 

「で、いつ行われるんだよ、深道?」

「予定としては川神学園の学長に話をして大掛かりな形にする、それまでに要する時間はおおよそ一ヶ月といったところだな」

 

小西の質問に深道が答える。

確かに今からとなるとそうすぐにはできないだろう。

ただ、九鬼財閥が協力をすれば舞台などはすぐに用意できるだろうが。

 

「しかし面白い情報があるな」

「何が面白いんだ?」

 

エアマスターが聞いてみると深道は不敵な笑みで情報の中身をいう。

 

「かつてのランカーたちが参加するであろう学生を師匠の立場として鍛錬している」

 

一瞬空気が変わる。

仮に有能な奴や上位の奴が教えていたらそれだけで勢力図が変わるからだ。

 

「長枝が澄漉香耶、小西が港三千尋

屋敷が風間翔一、楊鉄健が井上準

サンパギータ・カイが澄漉小雪

ここにはいないが佐伯四郎が島津岳人

後はコーチとして短期間だが坂本ジュリエッタが師岡卓也といった風にな」

 

俺を含めて呼ばれた奴らが顔を見合わせる。

半数近くがまさかそういう事をしていたなんて想像できなかったのだろう。

俺としてはジュリエッタの奴が人に教えていたのが不思議で仕方がない。

 

「相変わらず何処で仕入れてくるんだか……」

 

鉄健の奴が肩をすくめる。

確かに全然誰にも明かしていないものをよくとって来れるな。

素直に感心する。

 

「今回伝えたかった事はこれだけだ、また連絡させて貰う事にする」

 

そう言って深道が店を出る。

その出ていく時に一言バーテンダーの人に何かしら呟いていた。

 

「せっかくだから何か飲みませんか、由紀さん」

 

俺はカウンターに座って手招きをする。

そして隣に座ってこんなことを言ってきた。

 

「私、何を頼めば良いか分からないわ」

 

確かにお互いこういった場でお酒を飲んだことはない。

レストランに行ったりはあるがバーなんて初めてだ。

 

「あのお兄さんがおごりだといっていた、好きに注文すればいい」

 

バーテンダーの人がそんな事を言ってくる。

深道の奴わざわざそんな事をしなくても良いのにと俺は思った。

 

「じゃあ私たち二人をイメージしたお酒をくれないかしら?」

 

その注文を受けるとバーテンダーは一目見て笑った後にカクテルを造り始める。

そして完成したものを俺たちの目の前においた。

 

「それじゃあ……」

「乾杯ね」

 

僅かに触れ合う程度にグラスを近づける。

グラスの当たる音が鳴ったら少し小さめに一口飲んでいく。

 

そして一口飲んだグラスを互いに変えて飲んでみる。

僅かな量を飲み、味わう。

味を知ったとき思わず込み上げてくるものがあった。

 

「交換しましたけど、コレって…」

「似た者同士って事かしらね」

 

そう言ってグラスを傾けて微笑みあう。

 

川神の夜は戦いの嵐が吹き荒れるであろう前に静かにただふけていくのだった。




次回からSのキャラをどんどん出していこうと思います。
何かしら指摘がありましたらお願いします。


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『東西交流戦 大火力対大爆発』

およそ一年ぶりの更新です。
これからもっと更新頻度を上げていきたいと思います。


あの作戦会議から数日後。

西日本から来た天神館の生徒たちとの対抗戦である『東西交流戦』が始まった。

期間は三日間で学年対抗による勝敗の数で決着がつく仕組みとなっている。

 

日程としては今日が三日目、今のところの結果は一勝一敗で俺達二年生同士の結果で決まる。

 

ちなみに一年生の部は武蔵小杉が、相手を甘く見た事による隙を狙われて集中攻撃を食らっての敗北。

専守防衛を狙って由紀江さんを自分の近くにおいておけば、攻め潰しで勝てる可能性は十分にあった。

あいつ自身が並の生徒より能力が高く、自信に漲っていたのがあだとなってしまう結果だった。

能力が高いというのも考え物である。

そして俺達二年生のF組とS組の確執を無くしていかねば、天神館が一筋縄ではいかない相手だというのが把握できた。

三年生の部はモモ先輩が天神館の助っ人をものともしないで一方的になぎ倒した。

あれは天神館の相手に同情をせざるを得ない、相手が悪すぎた。

 

まあ、そうは思ってもモモ先輩の活躍でタイに持ち込んでいるからこそ、一層気合を入れて最終日の戦いには挑まなければいけないのだ。

勝敗は俺達の手にかかっているのだから。

 

「お前らこういう時にこそ一致団結をするのだ、一年生達の結果を見ただろう、天神館は我らが協力せずに相手ができるほど甘い相手ではないぞ!!」

 

英雄が大将として鼓舞をし始める。

全員耳を傾けて気合を新たに今夜の戦いに向かう心の準備をする。

俺も今日は学生服ではなく全力を尽くすという意味合いで軍服を着ていた。

 

「負けて苦汁を味わうか、勝利で美酒に酔うか、どちらを望む!?

負けて学び舎を貶めるか、勝って高めるか、どちらを望む!?

選べ、お前達!!」

 

その一言で炎を宿す奴がちらほらと見受けられる、共通として『負けたくない』という思いがあるからだろう。

俺自身は自分の標的をすでに思い描き、指を鳴らして待ち望んでいる。助っ人や兵になる奴を拒絶した分、人員を割けるので他の十勇士との戦いを有利に進めることはできるだろう。

 

「負けるのは一番嫌じゃな、共に戦う為に頭を下げた意味がなくなるし、屈辱の極みじゃ」

 

不死川もやる気十分に言う、その横にいた一子も気合に満ちていた。

不死川が宇喜多を担当、一子が島を担当、一人で十勇士を倒す計算だ。

これ位やる気がないと実力者の相手は厳しいだろう、二人の勝利を心から願う。

万が一の時に備えてトーマや英雄達が、助けになるような陽動部隊ぐらいは秘密裏に待機させているだろう。

 

「それでは当初の通り担当するべき相手は間違えずに、確実に大将首を取りましょう、異常な事が起こった場合は皆さん連絡を下さい」

 

トーマが携帯を取り出してジェスチャーをする、戦いの最中にできはしないだろうが一応心がけはしておかないとな。

奇襲や奇策を相手が持ち出したら一人で対処できない可能性が高いだろう。

 

「相手も相当やる気だしてんな、結構向こうな筈なのにちりちりする感覚が漂っていやがる」

 

もう今頃、相手の大将や西方十勇士も自分たちの実力を存分に発揮できる場所を見定めて、戦いが始まるのを待っているだろう。

あと少ししたら花火が上がって開戦だ。

 

「キョーヤ、西方十勇士との戦いがんばってね」

 

モロがそんな事を言ってくる、お前は自陣で攻め込んでくる奴を倒す為に残るんだもんな。

お前ぐらいの実力なら攻め込んで、十勇士と戦ってもそんなに問題なかっただろうに。

 

「とにかく他の奴らのサポートを頼むわ、戦えない奴らもいるだろうからな、あともしもの事があったら連絡しろ」

 

そう言って俺はモロの頭に手を置く、俺にできない事を任せるという信頼を込めている。

もしもの事というのはもしかしたら相手が躍起になって、十勇士をこちらの本陣へ多く投入してくる可能性がある。

そうなった時、モロとあずみさんだけでは上手く捌ききれるか不安だからな。

 

「任せておいて、その代わりキョーヤは自分の十勇士を取りこぼしたりはしないでよ」

 

手を払いのけてモロが言ってくる。

責任重大だが言っている事は一理ある、相手は大友焔。

大筒を使う遠距離攻撃を得意としており、またその火力は十勇士でもトップクラスだ。

武器の優位性などを考慮すれば苦戦は間違いない。

もし隠し玉があったならば負けも視野に入れないといけない相手だろう。

 

「まあ、負けるつもりなんてさらさらないからな、任せておけ」

 

こっちも一撃を入れれば勝敗が決するのだ。

一撃の重さという点ならばこちらも決して負けてはいない、負けているというのならば距離と範囲。

重要な事ではあるがそれを気にして戦いはしない、今あるもので全力を尽くすしかないのだから。

 

「そろそろ始まるぜ、二人とも!!」

 

わくわくしている気持ちを抑えられないのか笑顔を浮かべてキャップが言ってくる。

キャップとタッちゃんは兵隊を倒す為に動くんだったな、ガクトとエーリンは侵入を防ぐ砦。

あとの面子はコンビを組んでの戦闘か遊撃だろう。

体をほぐして上を見上げる、すると何かが空に舞い上がった。

その一瞬あとに其れははじけて、きれいに空を照らす光の芸術となる。

そして、その瞬間全員が駆け出していき、東西交流戦が始まった。

 

「とりあえず、大友焔にとって一番やりやすい場所に向かうのが重要だな」

 

相手がどの場所を陣取るのかを考えればおのずと相手のいる場所はわかる。

弓使いならば遠い所、レスラーならば足場がきっちりしている所などだ。

武器使いとして範囲の大きいものを持っているならば開けた場所。

砲弾によって自分の仲間を巻き込まないように、隠れる所が多いならばなお良しだろう。

 

「キョウちゃん、大丈夫なの?」

 

一子がいつの間にか後ろについてきていた、わざわざ聞かなくても大丈夫だっての。

お前に対して大丈夫って言って嘘をついた事なんて一度もないからな。

今回だって問題ないさ。

 

「人の心配するな、お前にそっくりそのまま言葉を返すぜ」

 

笑顔で返したその瞬間、大きな音が一つ鳴り響く。

振り向いた瞬間迫ってきたのは火薬による発火を伴った砲弾だった。

 

「きゃあっ!?」

 

一子が驚いてしまって体が動かない、まったくしゃべっている場合じゃなかったな、

後ろには部隊の兵がいくらかいる、あいつらに一子は任せよう、その前にはまず盾になって確実に一子を傷つけさせないことだ。

 

「おらあっ!!」

 

一子を投げてその勢いのまま転がってその一撃をやり過ごす。

威力が凄まじいのが一目でわかる、煙が向こう側でもうもうと立ち込めているではないか。

誰も流れ弾でダメージを追っていなければいいのだが……そう思って立ち上がって相手の方向を見る。

するとそこには鼻に絆創膏を張っており、大筒を担ぎ、いかにも気風が良い印象を与える女が立っていた。

 

「ほう、女を庇いながらも上手くこの大友の『国崩し』を避けるか」

 

笑って大友は再び大筒を構える。

一子は不意打ち同然の一撃を放たれたのが気に食わなかったのか、今にも噛み付きそうな感じで大友を睨んでいた。

 

「不意打ちしてきたらあんなの食らって当然じゃない、普通にやったら避けれたわよ!!」

 

相手に飛び掛っていこうとする一子を掴んでこっちに引き寄せる。

一子は俺に驚いた視線を向けて俺に怒りの言葉を投げかけて来た。

 

「キョウちゃん、どうして止めたのよ!!」

 

どうしても何も大友とは俺が戦うんだよ、忘れやがって。

それに今とめなかったら猪突猛進なお前の事だから、真正面に突っ込んでやられた可能性がある。

全く頭に血が上ったからって、相手の武器とかまで忘れるのは良くないぜ。

 

「こっちの事は良いから、お前は自分が相手する十勇士の所へ行って来い

お前の分も一緒に込めといてやるから安心しておけ」

 

こっちの事は俺に任せろ。

お前に流れ弾なんて行かせはしないさ、安心してくれ。

他についてきていた奴らもジェスチャーで一子や他の奴らの援軍に向かわせる。

そして俺は大友の方へ振り向いて相手を見て構えた。

 

「ほう、誰の手も借りずにこの大友と戦うのか?」

 

大筒を構えて大きなよく通る声でこちらに言ってくる。

二人がかりないし、大勢で向かってくると思ってたのならそれは飛んだ勘違いだぜ。

 

「最初から一対一で戦うって決めていたんでな」

 

大筒の発射口を見て注意をしながら気を高め集中する。

始まりの合図自体がないから、常に相手の動きを見ておかないと痛い目にあうだろう。

 

「東の奴にしてはなかなか度胸があるな、この大友家秘伝『国崩し』の大火力を思い知るがいい!!」

 

完全にこちらに照準を向けて体勢を整える、こっちも構えているのだから攻撃をしていかないといけないな。

大友の体に当てられる間合いではないが接近しなければいけない。

大きく深呼吸をして足をわずかに上げた。

 

「ならば、そっちは八極拳の八極の意味…『大爆発』をその身に受けて思い知れ!!」

 

踏み込むと同時に相手の大筒から砲弾が発射される、俺の腕と大友の放った砲弾が交差して、それより僅かに遅れて爆音が夜の空に響き渡る。

まるでそれは開戦を知らせる銅鑼の様にも思えた。

 

「僅かに距離を詰められたか、まさか逸らす技を持っていたとは」

 

逸らしたとはいえ掠れてしまったのか軍服の肩の部分が破れており、僅かに痛みが走る。

そんな中、大友はこっちが近づいているのを感じてつぶやく。

近づくまでにもし一度でもこの受けを損なってしまえば、一気に大友に勝利の天秤が傾いて危うくなる。

 

「まだお前の距離だろう、この間合いは俺の得意なもんじゃねえからな」

 

この距離で逸らしたり弾いて砲弾を無効化したら、相手の警戒心を刺激してしまう。

躍起にならず冷静に距離をとられたら勝てる可能性は格段に減る。

それに受け損ないを考えた様に、まだこの技は完全なものにしていない。だから、一歩間違えればゼロ距離で砲弾を無防備に受けかねない。

 

本来ならばここぞという場面でないと使わないほうがいいだろう。

しかし今回は相手が相手。

同じ『一撃必殺』ならばその危険度を考慮して、引出しを全て開けるぐらいはしてもいいはずだ。

 

「俺がやるべき事は一刻でも早く俺の制空権にお前を入れるまで!!」

 

踏み込みながら体の前に手を出して、再び逸らす構えを取る。

一拍遅れながら大友も『国崩し』の一撃を放つ。

再び大友の一撃が逸れてしまい、どこかに衝突して煙が上がる。

さっきの肩と同じように腕に痛みが走る、服も僅かに破けているのが見て取れた。

 

そして煙幕が晴れていく。

きっと次の一撃で制空権に大友のつま先が入るだろう。

そうなれば硬気功や技術で砲弾を無効化して距離を詰めて勝負に出る。

 

しかし次の瞬間驚きの光景が広がる。

 

背中側に居たはずの大友は俺の目の前に現れていた。

 

「なっ、どうやって俺の後ろに移動した!?」

 

俺は驚きを隠せず大きな声を出す。

さっきの一撃を放つまでは確実に逆の方向に居た筈だ。

一体どの様なからくりだったのだろうか。

 

単純に速さだとしたらあの大筒を抱えたまま、煙幕の中でずっと気配と足音を消して接近した事になる。

冷静に考えたら、まず考えられない。

そして瞬間移動なんて芸当ができるなら、はじめから使ってもデメリットはなかったはずだ。

 

俺がそうやって頭で考えを巡らせていると、大友がすんなりと種明かしをしてきた。

それは想像した以上に単純で、なおかつ大友に尊敬の念を抱くものだった。

 

「簡単な事だ、『国崩し』を放った後にもう一つの大筒から、お前に背を向けた状態で地面に向かって『国崩し』を放ったのだ」

 

つまりその時の『国崩し』の勢いを活かして、俺の後ろに回ったというわけか。

 

「初めての試みでこそあったが上手くいったものよ」

 

失敗していたらその時点でこっちの間合いに入っていただろう。

危険を冒してよくこれだけの成果を上げたもんだ、恐れ入る。

 

「お前も不運だな、一歩踏み込んだがゆえにこのような状況を生むとは、もし踏み込んでいなければお前に自ら近づいて間合いに入っていたのに」

 

種明かしをされて感心すると同時に己の愚直さに腹が立つ。

相手は人形ではなく思考して動く人間だ。

ましてや戦場の二束三文の男どもではなく、己と同じ年齢ではおそらく最強の遠距離火力の持ち主だ。

 

「くっ!!」

 

まんまと相手に機会を与えた事に後悔をして毒づく。

そしてこの間合いに入った大友に対して回避のために後ろに飛ぶが、大友の照準はそれよりも早く俺を捕らえて、今にも砲弾を放とうとしていた。

 

「遅い、『国崩し』!!」

 

その言葉と同時に砲弾が射出されて俺の腹に無防備に着弾して炸裂する。その威力は大火力の言葉を冠するにふさわしく俺は吹き飛んでいく。

そして地面に激突したあともいくらか跳ねて、仰向けの体勢で大の字になって空を見上げる形になっていた。

 

「がっ、はっ……」

 

息を吐き出してよろよろと息も絶え絶えの状態で起き上がる。

腹の部分が盛大に破けてしまい火傷のあとが残っていた。

意識もかなり朦朧としている、まだ気絶しなかった分だけ良かった。

きっと後ろに下がった事と服が雀の涙程度とはいえ軽減した事がきいたのだろう。

 

今の一撃で相手との距離は開いたもののこっちが使ってきたルートだ。

あちらの方向ならまだ仕掛けがあるとしても、それほど多くはないだろう。

 

「あれを耐えるとは、相当頑丈な鍛え方をしているようだな、驚いたぞ」

 

俺を見て大友がつぶやく。

今まで一撃で相手を倒してきた自負があったのだろう、それならば確かにいくらぼろぼろとはいえ意識を僅かに保っている相手は驚くものだ。

 

俺はその言葉をあいまいに聞いたまま、呼吸を整える。

しかしそれをやったところで体は限界が近いのが感じ取れる、体の節々が痛むほど強烈に叩きつけられたし、大きな火傷を負っているからだ。

体中にはしる痛みで朦朧としていた意識を苦しいながらも覚醒させていく。

 

「あれを耐えられたのは奇跡みたいなものだ、現にすんでの所で立っているだけに過ぎない」

 

そう言って俺は軍服を破っていく、逸らした事により肩と背中が、そして今さっきの一撃で腹の部分が破れている。

受けて感じたがこの様に薄い服なんてあの一撃の前では着ていてもさほど意味が無い。

せいぜい裸に比べて僅かにでも威力と火傷の軽減ができればいいほうだ、大友の一撃の火力の前には強固な盾か鎧でもない限りたいした効果を見せない。

夜空に今までの戦ってきた証が散っていく、俺は上半身をあらわにして深呼吸をした後、もう一度構えて大友に向かって顔を上げる。

 

気合を新たに入れて、体に鞭を打ちながらもう一度大友に向かって踏み込んでいくのだった。




次回で決着と別場所の戦いにします。
指摘等いただければ幸いです。


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『暗転の中の決着』

今回は短くはなりましたが速めに次の話を投稿したいと思います。


「くっ!?」

 

流石に大友も対応に困っているだろう、今まで戦ってきた相手とは違って自分の一撃をギリギリとはいえ耐えた男。

さっきのような奇襲は頭を使ってうまく立ち回ったところで、用心されているため通用しない。

つまり今度は奇襲なしで一撃を叩き込まねばならないのだ。

 

「撃たないなら詰めていくぞ……」

 

そう言って左右に体を揺らしながら少しずつ確実に詰めていく。

時折相手に射出した後の隙を伺って踏み込んでいけば良い。

流石に照準が合わなければいくら相手が名手でも逸れてしまう。

ましてや相手が補給部隊をおいていたならば、そいつらを危険に晒してしまう。

 

「そんななよなよした動きに変えおって……なめるな、『国崩し』!!」

 

近づいてくる俺に対して相手も応戦を始める。

狙いを俺自身にではなく、俺の踏み込む箇所へ照準を合わせて放つ。

そうする事で踏み込みや動きが一瞬遅れて、その間に照準を合わせられるようになるというわけだ。

 

「流石に簡単にはやらせてくれそうにないな」

 

しかし左右だけではなく前後にも揺さぶりをかけていけば良い。

相手が集中できないように動き回れば、命中率も下がって距離を詰める事はやりやすくなるはずだ。

 

「少なくとも腹に喰らった時に比べれば距離は詰めているはずだ、いずれ捕まえる」

 

俺は煙が晴れていない中でつぶやく。

足場に撃ち込んでいるから煙幕はあるのだが、高い所に昇るまではしばらく時間差がある。

それを踏まえた上で大友の場所を特定する方法はあった。

 

「その昇っていく隙に飛び上がればもしかすればあいつの位置がつかめるかもしれない」

 

もう一度踏み込んで攻撃を誘い出す。

思いついた事はすぐに行動に移して、この状況を打破するために力を注ぐ。

大友の放った砲弾は低く屈んだ俺には当たらず、一瞬次の弾の装填までのタイムラグが起こる。

その瞬間を見越して俺は飛び上がる。

この動作で大友の姿を捉えてそのまま決着までもっていくつもりだ。

 

しかし次の瞬間、煙を裂いたように聞こえたのは大きな通るあの声であった。

 

「そう来ると思っていたぞ、『対空国崩し』!!」

 

飛び上がった俺の目に入ったのは、大筒を自信満々に構えた大友の姿だった。

相手もこちらがこのように行動するのを予想していたのだろう、砲弾が迫ってきていた。

 

「空中に踏み込む場所がなくとも技は出せる、『蹴按』!!」

 

空間に向かって俺は気を込めた蹴りを繰り出す、強引な一撃で何とか体勢を崩して頭にかすらせるほどに留める。

頭がグワングワンと揺れる中、無様な形とはいえ着地をする。

そのまま転がって追撃の一撃を、大友の視界の外に紛れる事でやり過ごした。

 

「何っ、まさかあんな手があったとは!?」

 

相手もまさかあんな形で攻撃が不発に終わるとは思っていなかったのだろう。

驚きながら再び大筒を構えるが装填までのタイムラグで、今の俺には大友の場所を割り出すのは十分だ。

 

「ようやく一撃だぜ!!」

 

俺は位置を的確に特定したままようやく一撃を放つ。

技は肘を突き出す『裡門(りもん)頂肘(ちょうちゅう)』。

手応えを感じるが人の体ではない感触が肘には有った、煙が晴れた時その防いだものの正体が分かった。

 

「ぬぅっ!?」

 

腹に直撃するであろう一撃をすんでのところで大筒で防御をしていた。

俺の肘が大筒に深くめり込む、至近距離で制空圏に捕らわれている以上、一つの動作の取りこぼしが厳しい状況で良くできたものだ。

 

「だが、もう大筒はさっきのようには動かないだろう?」

 

しかし肘がめり込んだという事はわずかとはいえ大筒が損傷したという事。

それは大友の攻撃面に大いに影響を与えてしまう。

大筒を今のまま使っていたら暴発してしまう危険性がある。

つまり俺を倒す前に運が悪ければ大筒が完全に崩壊してしまい、距離次第では自爆する可能性まで浮上するのだ。

 

「それで諦める西国武士とでも思ったか?」

 

俺の言葉をどこ吹く風というように大筒を構える、最後まで自分の姿勢を貫くつもりか。

それならば俺も今度は大筒とは言わず、至近距離で最大の一撃をその身に打ち込みこの勝負を終わらせる。

 

「喰らえ、『国崩し』!!」

 

距離がもはやないも同然、制空圏の中で厳しい状況なのに大友は一撃を繰り出す。

俺の間合いである以上、今の大友がこの状況を打破するにはもう一度俺に一撃を撃ち込んで倒す事。

俺は匍匐前進のように体勢を低くしてその一撃を避けて接近する。

正直一瞬たりとも気が抜けないから、多少変な格好になっても仕方は無いと思っている、

 

「ふぅ!!」

 

すぐさま起き上がりその隙を突いて再び距離をつめる。

流石にほとんどゼロ距離ともなれば自分にも被害が出る以上、そう簡単に大友も一撃を繰り出しはしない。

しかし大友もそう簡単に一撃を喰らわないように距離を取っていき、追い詰められないにしていく。

これでは行き止まりに行くまでは避けて鬼ごっこの繰り返しである。

 

「いつまでも避けられると思っているのではないだろうな、それを打倒する手段は見つけたぞ、『国崩し』!!」

 

放ってくるのを見計らって俺は僅かに動き回避動作に入る。

しかし次の瞬間、俺は目を疑う。

ほんの僅か射出するまでの時間を縫うように大友は射出口を動かして、俺が避けていく方向に向けたのだ。

 

「くそっ!!」

 

俺はそれを見て必死に避けた方向から、さらに遠ざかるように飛んで避ける。

するとその近くを砲弾が音を立てて通り過ぎていった。

避けた際の動きが大きかったから、脇腹に掠る程度で済んでいた。

もし最小限の動きだったならば、今の一撃で勝負は決まっていた。

まさかああやってこっちの回避を牽制してくるとは、厄介な一手を持っているものだ。

 

「これでお前もうかつには動けない、かといって動かねば大友の一撃を喰らう、困ったものよな」

 

大筒を構えてさっきのように距離をつめる事を許さないというように大友が言う。

大袈裟に避けてもしものことがあれば、間違いなくその時点で大友の一撃を喰らってしまう。

かといって動かなければその間に照準を合わせる機会を与える。

 

「いやなタイミングで相手を勢いづかせる事なんて起こるなよ」

 

さっきよりもゆっくりとじりじりと詰める。

大友に悟られないように細心の注意を払っていく、大きく動いてしまえばその分照準をずらされてさっきよりも的確に狙われるだろう。

 

「まだまだいくぞ、国……!?」

 

大友が回避され続けてもまだ負けじと一撃を放つために構える。

損傷してから三度目の射出、こちらとしては大筒ではなく体に一撃を叩き込んで終わらせる。

そう思いお互いが構えて睨みあった次の瞬間、いきなり大筒は暴れだすように勝手に動いた。

これが意味することはあまりにも明白だった。

 

「まさか……」

「くっ、こんな時に!!」

 

ついに恐れていたその瞬間はやってきた。

大友が一撃を放とうとしたその時、大筒が暴発してしまったのだ。

俺は大筒が動いた瞬間にすぐ離脱をしており、最小限に食い止めるように努める。

爆風の余波で多少飛ばされはしたが、後ろに飛んだり回避行動を取っていた分、それほど深刻ではないだろう。

どちらかといえば暴発する瞬間まで、大筒を抱えていた大友の方がダメージは大きいだろう。

 

「制空圏からも外れた、だがこうなれば大友には死活問題だ」

 

武器まで遠ざかっているし、もうあの大筒では撃てるかさえもわからない。

仮に大筒にたどり着けないのならばあの細腕か華奢な足で俺と真正面から肉弾戦を挑まなくてはならない。

 

「この好機、今ここで終わらせる!!」

 

踏み込んで一気に詰め寄っても何もしない。

まるでこっちの攻撃を待ち受けているようだった。

何故なのか、それを知ったのは吹き飛ばされるであろう予定の場所を凝視してようやく分かるものだった。

大友はあえて痛い一撃を受けて吹き飛ばされる事で自分の武器まで俺に運んでもらうために無抵抗だったのだ。

 

「ふっ、流石は大友と同じように火力を自慢するだけの事はある、おかげで悠々と大筒までたどり着いたぞ」

 

ある意味信頼のようなものだろう、俺があの場で威力を弱めていたぶる様に戦えばいいようにされているはずだ。

それなのに全力で自分の肉体に一撃を放ってくると踏んでいたというわけだ。

俺は追撃の為に足の力を振り絞り接近していく、距離を詰めきれば喰らって吹き飛ばされて負ける前に一撃を叩き込む事ができる。

 

「まだ諦めん、喰らわせてやるぞ、『国崩し』!!」

 

そういって気骨をもう一度振り絞って正真正銘最後の全力の一撃が放たれる。

俺もそれに応える為に息を大きく吸って一番の踏み込みをして、自分の一番の技である『鉄山靠』でその一撃に相対する事を心に決めた。

 

気骨が乗り移ったかの様に感じる勢いのある砲弾を、俺は背中ではなく脇腹で受け止めて肩を大友の体にめり込ませるように体当たりをする。

 

普通ならば避ければ確実に勝てるのだろうが、それをしてならないと心が叫んでいた。

戦いにシビアな奴らからは笑われるだろう。

しかし、俺はそうする事がこの戦いに決着をつける手段にふさわしいと感じていた。

 

お互いの一撃が衝突した時、大きな音が響く。

煙が上がり、それから一瞬の間が空いていた。

 

「……」

 

その間が無くなった瞬間、俺は暗闇の中に倒れこんでいた。

声もろくに出せない。

アバラが折れているのだろう、ズキズキと刺すような痛みを感じる。

速いテンポで少しずつ視界が狭くなっていき暗くなっていく、それにつれて段々と意識が途切れていくのが感じられる。

 

少しだけ離れた場所では大きな音を立てた後に倒れこむような音が聞こえた。

大友も全てを出しつくした事と一撃を喰らって限界を超えたのだろう、そうなれば倒れこむのも無理が無い。

 

ただあの最後に構えた時、大友にはまだ勝利を信じる光が目の中で輝いていた。

きっとまだ何かしら隠し持っていた上で使わなかったという事。

もし仮にその技を使っていたならば形勢は逆転していただろう、地面に倒れていたのは俺だけになっていたはずだ。

 

相手が奥の手を見せなかったが故の引き分け。

次はそれを引き出した上で差をつけて勝利する、難しいだろうがやらなければならない。

それが俺が意識が途切れるまでに考えていたことだった。




今回引き分けという形ですが正直敗北に近い引き分けだと筆者は思っております。
指摘等ありましたらお願いいたします。


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『忍と演劇家』

原作の勝負に多少手を加えた感じの話です
京と不死川は原作の戦いそのままだったので割愛いたしました。


これはキョーヤと大友の戦いが終わって少し後のことである。

 

僕は今本陣に居た、取りこぼしはないだろうが特攻してくる相手を捌くために残っている、ガクトとエーリンさんが多くの相手の侵入を拒んでいる。

 

上の立体的な攻めで何度か陣地に入ってはいるが基本は僕と忍足さんで止めている、雁侍君はしばらくここで戦っていたが結構前に相手の陣地へ攻め入ってしまった。

それ以外には大和と葵君にユキの三人の一まとまり、井上君と港君の二人の一まとまりで攻めている、自陣の中で西方十勇士を待っているのは不死川さんだけだ。

 

「ずいぶんと良い戦いをするではないか、モロコシよ!!」

 

僕の戦いを見ながら九鬼君がそんなことを言ってくる、自分自身も迫ってくる相手を蹴り技と時折奇妙な動きを交えた拳法を使って多くの相手を退けていた。

 

「僕の名前は師岡で決してそんな植物みたいな名前じゃないよ!?」

 

僕は自分の名前が間違えられた事に突っ込みを入れる、その瞬間いきなり九鬼君の近くで殺気が感じ取れたから九鬼君の近くにいた忍足さんに声をかけた。

 

「忍足さん、そこに!!」

 

そう言った瞬間相手の姿が見える、黒尽くめで男性のようだ。

小刀を構えてこっちの大将である九鬼君を狙っているのが分かる、九鬼君も気づいているのだろうけど動じる様子が無い。

 

「言われなくても分かってる!!」

 

忍足さんが僕の言葉に反応するよりも早くその降り立ってくる相手へ小刀で攻撃を繰り出す、まさかここまで気づかれずに来るとは予想外だったな。

 

「ほう、忍でないものが忍に気づくとはな」

 

黒尽くめの男が忍足さんの攻撃を避けて着地する、どうやら取りこぼしとかではなく上空から誰の目にも留まらずにこの場所まで来たようだ。

そのような行いができる所から西方十勇士の一人と考えてもいいだろう。

 

「鉢屋さん、英雄様を不意打ちしようなんてあまりにも無謀ですよ」

 

忍足さんが睨みつけて相手の名前を呼ぶ、九鬼君の目の前だから素は出していないけど空気が張り詰めていくのが分かった。

名前を聞くと予想通り西方十勇士のようだが、これは僕と忍足さんの二人で戦うのかな。

 

「無謀でないと思ったからやったまで、それに睨みつられても今の行為を(そし)られる(いわ)れはない

うぬも風魔であるならばわかるだろう、忍は闇に潜み任務を遂行するものだ」

 

そういうと一瞬目の前から消える、保護色にもなっているから闇の中での奇襲は厄介だ。

どこから出てくるのかを冷静に考えてみる、いくら隠そうとしても忍足さんにはばれてしまうのだ、そうなれば九鬼君を狙う真似はしない。

という事は必然的に二択となる。

僕か別の十勇士を担当した不死川さんだ、そしてさらに絞り込んでみたら可能性としては……

 

「僕か!」

 

いきなり気配を感じ取ったのだから危険視されるだろう、相手の殺気が後ろから感じられたから避ける動きをする。

 

落下にあわせてステップから側転する『アウー』で避ける、相手が降り立った時に頚動脈を切る動作をしていたからいい回避だろう。

 

「避けられたか、しかしこれならばどうだ?」

 

そう言ってゆらりと動こうとする鉢屋。

僕は攻撃よりも前に動き、『メイア・ルーア・ジ・フレンチ』で顔を狙う。

『メイア・ルーア・ジ・フレンチ』は半月蹴りのような形でつま先ではなく側面を相手に当てに行く蹴り技だ。

 

相手は避けてそのまま攻撃に転じようとするけれど、こちらは相手から目線を切ってはいない、避ける方向を完全に見切って僕は飛ぶタイプの蹴りに切り替える事で相手の攻撃に転じる隙を狙い顔面を狙う。

 

相手もまさか動きに対して見事についてこられるのは予想外だったようで後ろに下がって威力を軽減したものの鼻血を出していた。

 

.

.

 

あたいは英雄様から離れた事でいつものメイドの状態から戦う忍として素の状態になる。

師岡が英雄様への奇襲を感じ取ってくれやがったおかげで難は逃れた、その後も鉢屋の一撃を避けるわ、顔面に蹴りいれるわで八面六臂の活躍だ。

 

「くっ、あの男を甘く見ていたか」

 

鉢屋の野郎が師岡の方向を向いてやがる、おいおい忍ともあろう者が同系統の気配から目を逸らしてんじゃねえよ、まだまだ甘いガキだな。

 

「そうだなあ、挙句の果てにはあたいに懐まで入られてるんだ、降伏した方がいいぜ」

 

そう言って小刀を構えて鉢屋を見据える、相手の出てき方次第でたちまわらねえと同じ忍同士、一瞬でも判断の失敗を犯した方が負けちまう。

 

「そっちこそ拙者に降伏すべきだがな!!」

 

煙玉で逃げようとする、そんな初歩でこっちを欺けるわけが無いだろう。

そっちがどんな手を使ってもこっちのほうが上手なんだ、瞬時に気配を感じ取って見つけてやるよ。

 

そしてあたいは一気に速度を上げて鉢屋との色気も何もありはしない追いかけっこを始めていた。

逃げる鉢屋の手の内はどれもこれも考えた範疇のものでしかなかった、分身の実体なんざ経験の差で見抜く事はできるし、クナイや棒手裏剣を投げて目線を切ったところで追える。

其れに慌てた奴が放ったもんなんて悠々と避けれるもんだ。

 

「高い所まで良く逃げたとほめてやるぜ、でももう逃げられはしないだろ?」

 

一方的にやる事なす事の芽を摘んでじわりじわりと鉢屋を追い詰めた。

もうこの距離では打つ手は残ってはいないだろう。

煙玉を叩きつける前に捕まえられるし、分身を使ったとしても実態をすぐに見つけて無効化できる。

 

「拙者が逃げていたのはこの技のためだ!!!」

 

そう言って鉢屋が組み付いて技を仕掛けてくる、この技には見覚えが当然あるものだった。

ちっ、『飯綱(いづな)』か。

確かにこいつは高いところで放つ技だから、こういった場所に誘い込まなくてはいけない。

ちょっと相手が必死だったのと英雄様にいい所見せようとしたから油断しちまったか。

 

「これを外す手はない、お前の主の目の前で無様に散りゆくが良い」

 

そう言って落下を始める鉢屋。

まったく、腕や足だけが抜ける術だと思ってるのもまだまだガキの考えだな。

あたいは普段から万が一の事を考えて奥歯に爆薬を仕込んでいる。

そいつをうまく使えば失敗の無い回避法に化ける事になる。

 

「甘いな、『飯綱』を外すのには手や足の力じゃなくても良いんだぜ」

 

そう言い放って歯に力を入れようとした瞬間、誰かが駆けてくる音がした。

英雄様は他の面子が守ってやがるはずだが、いったい誰なんだよ?

 

「そっちは相手の人数を忘れてるんじゃないかなぁ!!」

 

声で正体がわかる、師岡がわざわざこっちに向かっていた。

そして師岡が高く跳躍して技のせいで無防備に落下していた鉢屋の背中を思いっきり蹴り上げやがった。

まったくこっちが折角爆破で逃れようとしたのによ、おせっかい焼きは大概にしやがれっての。

 

「まあ、英雄様以外の男にあたいの水着晒さずにしてくれた分OKにしといてやるか」

 

そう言って着地をして鉢屋を睨んで一拍置いた後、決着のために仕掛けに行く。

やる技はさっきあいつが仕掛けてきた『飯綱』だ、先輩忍者として本当にどんな手を使おうが外せない形や、気構えをみせてやるよ。

 

「水を差してまだ追撃するか!!」

 

鉢屋が後ろに飛んで師岡の蹴りをよける、あいつの速度が意外と有った事に驚くぜ。

避けても避けても矢継ぎ早に相手の方を見て蹴りを出している、一瞬たりとも目を離さない蹴りを主体とした武術は多分カポエイラだな。

 

「しかもなかなかに鍛えている、足の筋肉こそ見えにくいようにちょっと大き目のズボンを履いてるがみっちり鍛えこんだものが覗いてやがる」

 

まさか一番ひょろこい奴が本当は集団の中でも上から数えたほうが強いとは思わなかったぜ。

ユキの奴を助けるために大勢の奴を蹴ったりしてボコボコにしたのも英雄さま伝いで聞いたから実力は知らずじまいだったしな。

 

「『飛べ』」

 

鉢屋の回避が鈍るほどに距離がなくなったのを見て師岡が仕掛けた、今の呟きは一体なんだったのかはわからないが。

一気に踏み込んで間合いを急激に詰める、そして上に突き上げるようにして放たれた足が唸りをあげたのが一目でわかった。

ただほんの一瞬思い浮かんだのは、今の師岡が放つレベルの一撃ではないという事だった、師岡自身のフレームと筋肉の量を傍目で計算してもそれを超えている一撃だというのが見て取れた。

 

鉢屋の交差した腕の防御を簡単に突き破って腹に爪先がめり込んで徐々に足全体が刺さるように体へ吸い込まれていく。

そして一気にその威力を爆発させるようにめり込んだ足を振り切っていった。

 

「おいおい、本当に良い箇所に蹴り飛ばしてくれたな」

 

そう言うとあたいは壁際まで高く蹴り上げられた鉢屋を壁伝いに追っていく。

そして降下を僅かに始めた鉢屋をあたいがそれに応じて飛ぶ事で捕まえにいく、何とか腕をとったあたいはそのまま一気に『飯綱』の体勢に固めながらこの勝負に決着をつけるために勢いをつけて降下を始めた。

 

「どうする気だ?って聞くが只でさえ外せない技、おまけに意識が飛びかけてたらもう完全に白旗あげるしかないよな」

 

あたいがそう言っても鉢屋の奴は何の抵抗も反応も示さなかった。

単純に師岡の蹴りの威力が凄すぎて意識が薄れてしまい、反応が鈍った事もあって外す事ができなくなったのだろう。

 

本当に今回の戦いはあいつがあたいのサポートをやりすぎじゃないかと思うぐらいしていた。

あたい一人だったら爆破とかで逃れないといけなかったけどそういうのをしなくて済んだし、こういったサポートを悪くないタイミングでする当たりなかなかの実力者だ。

今回の事を考えたらただのもやし野郎から認識を改めておかないとな。

 

「これで終いだぜ、『飯綱』!!」

 

地面にお互いが叩きつけられるようにして着地をする、あたいは鉢屋の体をクッションにして衝撃を押し付けて綺麗な着地をする。

それから一拍置いて息を吐き出すと、鉢屋の意識が無くなっている事を確認してからあたいは体勢を整える。

 

ちょっと英雄様の方向に眼を向けると英雄様の姿が見えるより早く地面に手を付いて苦笑いをしている師岡が目についた。

すこしばかり笑ってしまいそうになったのをあたいはこらえていた。

 

「自分のフレームに見合っていないとんでもない蹴り出すからそんな事になるんだよ、見た所あれは身長が190近い奴が放つような蹴りなんだろ?」

 

頬をかいてあたいはあきれた顔で師岡を見る。

師岡はあたいの質問や言葉に頷いて足に力をこめている、無茶をする奴だぜ。

今の師岡の体にはあまりにも酷な一撃だろう、現に小鹿みたいに片足をプルプルさせながら立とうとしていやがった。

 

「ほら、手を掴んでいいから立ってくれ」

 

功労者にはせめてこれくらいはしてもいいだろう、しかし意外にも握力が強い事にあたいは驚かされる。

こんなにヒョロヒョロで普段はおどおどしているくせに、英雄様から聞いたとはいえ本当にユキを守るためにたゆまぬ努力をしてきたんだな。

 

「あずみ、今トーマから途中経過について連絡があった

キョーヤは大友と交戦して引き分けた、長宗我部はユキがトーマの知恵を借りて勝利

椎名が毛利に勝利、そして今交戦していた二人と不死川が勝利だ

お前らと違って不死川はあっという間に倒したから気づけなかっただろう、本当に速かったぞ」

 

英雄様がこちらに戦局を伝えてくださる、すでに戦果をあげたのはあたいを含めて六人。

おおよそキョーヤの奴が一番でその後にユキや椎名といった感じだろう、師岡の奴も安心した顔をしている。

まあ、戦闘力がない奴二人抱えている状況だから気が気じゃなかったんだろう

 

「あと今の状況は雁侍が先に行ったマルギッテとクリスに合流する道を渡っているらしい、ただ予測の地点ではない場所に相手の影があるみたいだ、万が一を考えて気をつけないとな

そして、井上と港の二人はこのまま進めばもう少しで相手の陣営とぶつかるらしい」

 

なるほど、今の所はかなり川神学園側が有利だという事か。

戦局をひっくり返せるとしたら相手側の対象と残った十勇士がこっちの担当側と相性が良くて進撃できる奴でないといけない。

 

「こりゃあ、流石に相手も辛い展開だな」

 

他の奴らが戦っていると思える方向に顔を向けて英雄様に聞こえない程度の声で呟く、それから一瞬の間を空けて英雄様に満面の笑みを向けるのだった。




モロの実力を少しでも見せられる話になったらいいなと思います。
また、ご指摘などがありましたらお願いします。


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『ハゲ憤怒する、港悠々とする』

最近3000文字近くを推移してます。
紋様出るときは7000文字は確保しようと思います


目的を定めてはいるが相手さんが自分の陣地近くにいてわからないから、ほとんど歩く時間ばかりだ。

隣に港の奴がいて後ろにはF組とS組の混成部隊が少々と少し心もとない陣営である。

 

西方十勇士に対しての戦力で二人つぎ込んでいるのは俺とマルギッテの所ぐらいだ、本陣は英雄を含めて四人といったところだろう。

 

「兵隊も少ないし実力ある奴をもう一人は回してくれても良いと思いませんか、港さん()の三千尋君?」

 

髪の毛の無い頭を掻きながら俺は港に言う、F組の源がこの場にいてくれたら十分な戦力にもなっていただろう、もしくはもう少し部隊の人数を増やしてくれたら助かるのに。

 

「それについては同意するよ、ちょっとこれで大群相手とか勘弁して欲しいよね」

 

おいおい、そういう事言うと本当になっちまうぜ。

なんたって相手の陣地の中に俺たちは入り込んでいるんだ、待ち伏せされてたりしたら大群で押しつぶされてしまってもおかしくは無い。

 

「で……今言った事が本当になってしまったようだが、どう思う?」

 

音がしたと思ったら大群がいきなり目の前に現れやがった。

隠れていたのだるが、こうも見事に言ってた事が実現したら本当にいやになってくるぜ。

 

「見事なまでに大群だね……ってなんか煙出て阿修羅みたいになってるぞ、井上!!」

 

港が俺の顔を見て驚いている、お前には見えないのか?

目を凝らして相手を見たらあの大群の中に輝いているかわいい女の子がいるんだぜ、あんな子をかりだしているんだ。

そりゃあ許す事はできないよな、あいつら全員痛い思いして貰うつもりだ。

 

「かわいい女の子を戦場にかりだす腐った男どもに制裁を!!、『昇竜拳』!!!」

 

俺は力をこめて手のひらを握りこみ、敵のど真ん中へ突き進んでいく。

次の瞬間、俺は大群の中のど真ん中で勢いよく全力で拳を振りぬいていた。

 

.

.

 

「なんだよ、その馬鹿みたいな威力は」

 

大勢の人が拳の一撃で空に舞っている、あいつどれだけパワーアップしてるんだ。

苦笑いと驚愕を一緒にした顔で空を見上げていた。

すると一瞬遠くに後ろから井上を狙う影が見えた、僕は走って相手にばれないように接近していく。

 

「おいおい、いくらなんでも僕を無視して攻撃なんてさせないって」

 

一人の相手に夢中になっている井上に攻撃しようとする、瓜二つのもう一人の相手の腕を掴んでいた。

どうやら間に合ったみたいだがこの肌触り、どうやらこっちの方が女の子みたいだな。

という事はあっちは井上は気づいていないが男の子ってわけか、気の毒に。

 

「なるほど、後ろにもう一人が待機して爪の一撃を与える、ふざけた策よりはよっぽど有用だね」

 

単純ではあるがこういったものが意外とはまりやすい、ましてや小柄で速度もかなりある。

もし後ろからじゃなくて上からだったら井上への攻撃は防げなかっただろう、もれなく赤色の髪が生えていたかもな。

 

「流石にあいつの目の前で痛めつけると不死川に告げ口される可能性もあるからそこまではやらない

あくまで、残念ではあるが無力化に重きを置いて戦わせて貰う」

 

そう言うと相手が爪の一撃を振るってくる、直線状に放たれたものを避けて服を掴みにいく。

フックかストレートが基本的な攻撃方法になる、蹴りとかも混ぜれるだろうがこの体格から考えて僕に効かせるのはほとんど難しいだろうな。

 

「はあっ!!!」

 

服を掴めなかったので蹴りに切り替えていく、掠る所まではいいんだが相手がすばしっこくて面倒だな。

受け止めるかどうかという探りを含めた蹴りだった、しかし期待通りの効果は無く相手が自分の視界から消えていた。

 

「それは当たらないぞ、食らえ!!」

 

こっちの蹴りを先ほどよりも素早い動きで避けながら攻撃を確実に当てられる場所へと潜り込んでくる、爪の一撃も厄介だがこの速度のせいで攻撃が当たらないのがいやだな。

 

「そうはいかないってば!!」

 

なりふり構わず前方へ行く、懐に相手の姿が見えないが目線を下に下げてもいないのだから低く屈んでいるわけでもない。

ならば飛び込むように体勢を低くして進む、そうすれば相手が前方で低い攻撃をしていない限り、手痛い一撃を食らう事はない。

 

「私が後ろを取れるのは私が十勇士最速だからだ、決してそっちの動きが遅いわけではない」

 

避けた時に後ろから声が聞こえてこっちの攻撃が当たらなかった理由を明かしてくる。

小柄な体格により不足しがちな攻撃力を武器で補うだけではなく、一つの武器を高めていたんだな。

 

「でも速度一辺倒では僕は倒せない」

 

向き合う形となっているが爪の一撃と速度以外ならこちらに分がある。

あの一撃を腹筋で受け止めて痛みを堪えながら捕まえるか、蹴りで腕ごと蹴り上げてうまく隙を作らせるか。

それとも相手と同じように速さで翻弄しながら隙を伺うか、どちらにせようまくいけば相手のペースを崩してこちらに流れを引き寄せられる。

 

「言ってろ!!」

 

そういってフックを繰り出すが避ける、射程距離がストレートよりも短い分一歩下がれば余裕を持って行動できる。

それをいくらか途切れさせずに続けて放ってくる、速射砲とは言えないがそこそこの速度はある。

それと距離を取って余裕を持っていても相手の踏み込む幅次第では食らってしまいそうだ。

しかしこっちの狙いはストレートだ、それを待っていればいい。

 

「くっ、ひょいひょいと避けるなあ!!」

 

相手が苛立ちからかそれとも悔しさからか、少し涙目になったまま最初に見たときよりも速いストレートをみぞおちめがけて放ってきた。

だけどそんなみえみえな方向だったら僕には通用しない、半身になるように回ってその振り切った腕を体に掠らせることなく捕まえて力を込めていた。

 

「なっ!?」

 

速さに自信があったからなのか掴んでいることに驚いていた、直線状の攻撃ならば流石に速くても掴むことはできる。

鞭とかそういったものだったら速さも段違いだし、動きも不規則だからお手上げするしかないけどね。

 

「驚いて一瞬でも無防備になったらそれが命取りになる!!」

 

そう言って一気に相手の体勢を崩しにかかる、腕を引っ張りそのまま肩からぶつかって浮き上がらせる。

その勢いで相手の後ろに回り、相手が着地する寸前に足を払い、前のめりに倒れていくのを見計らって肩口に足を潜り込ませた。

 

「ぐっ!!」

 

相手が倒れたのを確認して僕は背中にのしかかり亀の体勢にする、勢いよく反り返らせてその体勢の時に相手の腕の下に開いたスペースへ入れていた足を動かして、膝を立てる。

これはプロレスの『キャメルクラッチ』という技だ。

 

「ぬぬぬっ……」

 

反り返った方向とは逆に体を動かそうとしているが、無茶なことしてるな。

力はこっちが上なんだからある程度、ダメージを負わないように耐えてから外せばいいのに。

こっちだってプロレス技なんて普段やらないから外さずに延々と力込められるほど長続きしないからね。

 

「そら!!」

 

開放をした次の瞬間再び組み付いてもう一度同じ体勢を作る、こうする事で相手のスタミナを完全に奪い戦意を喪失させる。

これならば痛めつけているわけではないから井上に告げ口される事もない。

 

「んっ……、はあっ……」

 

息が荒くなって必死に力を入れているから頬も紅潮している、体をくねらせて何とか脱出を図るがこっちも相手の動きに合わせて離さない様にしている。

 

「で、これからそっちの体力と戦意が無くなるまでこれを延々と繰りかえさせて貰うよ」

 

相手の体を反り返らせた時に僕は耳元で言ってやる、

 

「んんんっ……」

 

懲りずに力を入れて抵抗する、こっちも井上に見られる危険性があるから、必要以上にそっちの尊厳を踏みにじったりしないのに。

 

「それじゃあ抜け出せないよ、強引にやるくらいならまず腕のロックを外してその武器を使うべきだ」

 

抜け出すので必死になっていて自分の武器まで忘れていた、まだまだ精進が足りないな。

どんな手を使ってでもやるって気持ちがあるなら、嘘や奇策、武器だってきちんと把握しておかないと勝つ事ができなくなってしまうよ。

 

「それくらいにしとけ、不死川にお前がセクハラ働いてたって言うぞ」

 

あの男の方の相手が終わったのか井上がこっちに来てそんな事を言ってくる、流石に不死川への告げ口は嫌だね。

そう思ってゆっくりと技を解く、そしてそのまま距離をとって体勢を整える。

相手の体力は奪われて息も荒い、それにこっちは二人とも怪我やダメージはほとんど無い。

これならこちらが救援か回収に向かう体力の余裕ぐらいはあるな。

 

「とりあえず僕は自陣の方向まで行って負傷者の回収に走るよ」

 

とはいっても必要以上に実力は見せない。

 

幸い、井上が男のほうに気を向けていたから良かったけどあの攻防を見られて、吹き込まれていたら何かしらのタイミングで実力を見せて好感度を上げるといった方法が使えなくなっていただろう。

そう考えればわざわざ救援に行って実力を見せるなんて真似は御免だね。

 

「そうか、俺はマルギッテや川神の救援に向かうわ」

 

そう言って井上が歩き始めてお互いが二手に分かれる。

ただ、次の瞬間井上が向かう方向から大きな音が聞こえた気がした。




ワン子や義経は原作どおりに動くというのもあって、次回で交流戦編終わる予定です。
指摘などがございましたらメッセージなどでお願いいたします。


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『秘密兵器と巨人の戦い』

1ヶ月ぶりの投稿です。
次回はようやくあのキャラを出せると思います。


二人の尼子との戦いが終わり、井上がマルギッテ達の方向へ駆けている頃、一番の激戦がそこでは行われていた。

 

「この程度か、マルギッテ!!!」

 

その叫びとともに男は再び技を繰り出す、技のキレや速度、動き全てをとってみても私が今まで戦ってきた男よりも強い。

ましてや年下ともなれば初めての体験だ、キョーヤもかなりのものだったがそのレベルを凌駕している。

 

お嬢様を傷つけさせないように後ろへと下がらせている、始めたときはお嬢様と私のコンビネーションを駆使したがそれでもこの男が技を繰り出していくにつれて少しずつ均衡は崩れていき、いまや二人がかりでも押されている状態である。

 

「せめてキョーヤが居たならば隙を作ってもらい、そのまま大技を繰り出せるのだが……」

 

お嬢様を守りながら戦うというのであれば、この状況は変わらない。

一番信頼できる副官か、耐久力に自信がある猛者が協力してくれないと覆せずにこのままやられていく一方だろう。

 

「『ライトハンドスラッシュ』!!」

 

雷を帯びた右の手刀で鋭い一撃を繰り出してくる。

後ろに避けたが掠っていたのか、一撃は袖を僅かに切り裂いていた。

仮にあれが直撃していたらあの鋭さから考えても出血が多くなってしまい、戦いを続行するのも難しくなっていただろう。

 

「トンファーキック!!」

 

私はこの劣勢な状況を打開するために勢いをつけて一番の技を放ちにいく、速度と威力の両立がされている技ならば相手へ通るだろう。

しかし次の瞬間相手はきわめて冷静な眼差しで手を前に出して言葉を放っていた。

 

「格上の相手に隙もないのにそのような一撃が通用すると思ったか、焦りすぎたな」

 

そう言うとトンファーキックを平然といなして距離をとられていた、滑らかな動きのために反応がわずかに遅れる。

当然そのような状況を見逃す相手ではない、その僅かな隙はもはや修正できるようなものではなかった。

 

「これで終わりだ『ガトリング・クロウ』!!」

 

技の後に生まれてしまう僅かな硬直の瞬間を狙った攻撃、千手観音を思わせる連打を避ける手立てはない。

私の戦いはここで終わるのだろうか?

それならばせめてお嬢様だけでも逃がさなければいけない、そう思って耐えるために歯を食いしばる。

 

だが次の瞬間視界に入ってきたのは影に包まれた大木であった。

凄まじい打撃音がその大木に叩き込まれる、一瞬の間を空けてのそりとその大木は動いていく。

その光景を見てようやく間に入ったのが人間である事を感知させる。

 

「ふう、やっと追いついた」

 

私と相手の間に入り込んで全ての攻撃を受けた逢間雁侍の姿がそこにはあった。

頑丈な肉体が阻んだのだろう、けろりとしている。

いきなりの出現で尚且つ攻撃を防ぎきった存在に興味を抱いたのか、男は構えて口を開いていた。

 

「貴様、何者だ?」

 

目の前に立ちはだかる相手に、警戒心を持った男が質問をする。

その問いに対して逢間雁侍は腕を組み堂々とその目的を言い放っていた。

 

.

.

 

「マルギッテさんとクリスさんを助けに来た助っ人だ!!」

 

俺は素性や武術経験について聞いてみたかったはずなのに、あまりにも堂々とここに来た目的と『助っ人』という存在を言われて一瞬頭が硬直する。

ある意味何者であるかを知る事はできたのだが聞いてみたかった事ではない。

 

「異様なまでの頑丈さが気になったゆえの質問だったんだがな

仕方あるまい、こうなった以上お前も同様に相手をしよう」

 

拳を合わせていけば経験者かどうかはわかる、素性は鉢屋にでも言えば解決するだろう。

構えた拳から『ガトリング・クロウ』を放って攻撃していく、逃げ場を塞ぐように避ければマルギッテに当たる事も考えた一撃だ。

 

「があっ!!」

 

男は腕全体ををいないいないばあをするようにして顔を守りながら前進してきた。

回避ではなく受ける事を選択したのはマルギッテを慮った結果だろう、ただそのような考えを抱く以上の驚きがそこにはあった。

 

「まるで移動している戦車か城砦を相手にしているようだな」

 

あまりにも堅すぎる、いくらか手ごたえこそあるがそれ以上の数の攻撃が弾かれて大きく相手にダメージを与えられない。

この男の武術こそまだ見えないがもしかすれば壁越えクラスの相手だ。

よもや自分と同格の相手に出会えるとは思わなかった、このような出会いに心から感謝する。

 

「ふっ!!」

 

脇を閉めて腰の回転を伝えた素晴らしい拳だ、だがそう簡単には喰らわない。

軌道があまりにも素直すぎて避ける事にかんしては気をつけるような代物でもない。

 

「『ライトハンドスラッシュ!!』」

 

避けてすぐに攻撃へと転じて雷を纏った手刀での一撃を繰り出す、手数から攻撃の重さを重要視する方向性に変える。

手数でせめてもまず攻撃が通らないというのはかなりこの戦いにおいては問題だ。

一撃KOも望めそうには無いので長期戦を意識していくのもいいだろう。

 

「ぬんっ!!」

 

空いていた手で叩き落そうとするのが見える、振り切った腕が邪魔にならないようにずらしているのが見えたがそれでもなお、こっちの一撃

 

の勢いは弱まる事はない。

 

「はあっ!!!」

 

脇腹を切り裂くように腕が通過していく、わずかに指先に血が付いているのが確認できる。

だがそれ以上に恐ろしさを感じたのは喰らいながらも体を捻っていることだった。

腕を大きく振り回して攻撃をしてきた、ただひたすらに当ててしまえばいいというような大雑把な攻撃にいささか呆れて回避行動をとる。

 

「はっ!!」

 

力任せな一撃は大気を切り裂いて眼前に迫ってくる、しかしこの程度の圧力ならばまだ恐れることはない。

頭を屈めれば平然とその一撃を回避する事はできるし、後ろへ飛んでも容易いものだ。

冷静に呼吸を整えて腕の軌道を目で追って対応していく、相手の攻撃を避けて次にどのように相手に動揺を与えるか、傷を与えるかという事を考える。

 

「らあっ!」

 

しかし、勢いのある攻撃を避けた事で安堵してしまったのか、さらに大きく踏み込んで強引に振り回して来る攻撃への対処はさっきよりも速さが上がっていたためわずかに遅れてしまい、軌道を読んだ上で最小限にとどめるよう後ろに飛んだものの僅かに掠っていた。

 

「僅か一撃でこちらに有った流れを大きく引き寄せるか……」

 

後ろに下がっていながらも威力を完全に受け流せなかったのだろう、掠っていた腕がぶるぶると痺れたように震えている。

もし、あの威力が体に当たって振りぬかれたらどれほどのダメージを与えられるのだろうか。

ぞくりと背筋に冷たいものが通り抜ける。

 

「だがまだまだ俺には技がある」

 

しかし同様をしてはいけない。

まだ見せた技は三つほどで全てではないのだ、奴の弱点が露見すればその箇所のみを狙うといった方法もある。

まずは蹴り技で機動力を削っていく、この頑丈な奴が相手なら真綿で首を絞めるようにじわりじわりと戦っていくのが得策だ。

 

「『デスサイズシュート!!』」

 

相手に対して足を切り落とす錯覚をさせるほどの鋭い下段蹴りを放つ、当然単発で終わらせるつもりはない。

すぐさま足の筋肉を再稼動させて追撃の体勢をとる。

 

「くっ!?」

 

速度についてこれなかったのか足でそのまま受けて視線を下に向ける。

いくらなんでもそれは失敗だ、次に来る箇所を常に考えて動く。

 

「もう一発だ!!」

 

頭を切り裂くように二撃目の鋭い蹴りを放つ。

当たる寸前に腕で防いだようだがどうやら腕がそびれているようだ、顔をしかめている。

 

「がっ!!」

 

今の一撃のやり取りでこいつの動きに違和感を感じていた。

下段の蹴りは脛で受けるのが常套、そしてこのように下方向に来た場合は上に気をつける。

そのようなイロハも知らないとはこいつ、もしや……

 

「無垢なまでに何の武にも染まってない強者か、厄介なものだ」

 

素人は素人でもこの体躯と頑丈さはすでにその範疇をはるかに凌駕している。

この男が武に染まり更なる力を身に付けたならば俺を超えるだろう、素晴らしいと純粋に思えた。

 

「だが、まだ俺を超えてはいない」

 

だが今の俺には届いてはいない。

それならば負けるわけにはいかない、それがプライドというものだ。

全ての技と力を駆使してお前を倒そう、強きものよ。

 

「『サイクロンスマッシュ』!!」

 

高く飛び上がって体ごと大きく回転をすることで一撃の威力を底上げさせる。

さらに勢いをつけて相手へダイブをする技だ、体重の何倍もの衝撃を相手に与える。

 

「ハッ!!」

 

両腕を交差して受け止めようとする、本能的なものがよぎったのだろうか、棒立ちで今まで受け止めていたというのに。

ただ、いまさらその一つの動作で攻撃を完全に防げるわけもない。

 

「無駄だ!!」

 

俺の言葉通り、男は衝撃を完璧に受け止められずに衝撃で片膝をついて僅かに吹き飛ばされる。

高々自分の半分ほどの大きさの男が放てる威力など、こんなものだとでも予測していたのだろう、つくづく素人だな。

 

「やあっ!!!!」

 

しかしあの威力を受けても気骨は影響がなかったのか、大きな声とともに勢い良く風を切り裂き見るからに重い蹴りを出してくる。

避けても掠ればそのまま持っていかれそうだ、受け止めるのも得策ではないだろう。

そうなれば答えは逸らすのが一番だ。

 

「はっ!!」

 

集中していき防御を貫く蹴りをいなして懐に潜り、気合を込めて喉に突きを放つ。

声帯や気管支を痛めつけて呼吸器へダメージを与える一撃だ。

 

「ふんっ!!」

 

奴はその一撃に対して素早い反応を見せてきた、頭を下げてこっちの指を砕くように頭突きを繰り出してくる。

まるで事前にその箇所へ入ってくるのを計算したかのような動きだ、これは想像以上にまずい。

このまま衝突してしまえば指が折れてこちらの攻撃力が落ちてしまい、この男に有利な状況へ天秤が傾く。

 

しかし奴の頭と俺の突きが衝突する寸前、目をくらませるような閃光が空高くに炸裂した。

 

「むっ……」

 

十勇士達が大将首を取っているという情報も来ないのに花火が上がった、こちらの大将である石田が負けたのだろう。

こちらに有用な情報が流れず、敵にここまで攻められていてはそう考えるのが普通だ。

 

構えを解いてこの戦いを自分からやめる姿勢を見せる、これがこういうイベントでなければこのまま続けていたのだが今回はそうもいかない。

全くもって残念というほかないな。

 

「この戦いの結果は次に預ける事にする、今度は決着が付くまでやるぞ……」

 

そう決意を示すように男に向かって言った後、俺は髪を束ねてマスクを装着しながら自陣へと戻っていくのだった。




思ったより淡々とさせてしまいました。
何か誤字や脱字等の指摘などありましたらお願いいたします。


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『カリスマ少女・最強と完璧な執事・なだれ込む偉人』

今回からSの登場人物と原作以外の偉人のキャラが入ってきます。
紋様がようやく出せた。
タイトルには入っていませんが午前の部分が前編で
昼休みや放課後にかけての部分が後編となります


東西交流戦から一夜明けて全員が校庭に集まっている。

最後の決着が付くまで気絶をしていた俺は後で聞くと港がわざわざ担いで自陣に戻してくれたらしい。

あの男のことだから腕か足の一本ぐらいもっていっているのではないかと疑ったがどうやらそんな事はしていないようで、今朝起きても何も体に異常はなかった。

そして今日の校庭に集まっているのも気絶している間に起こっていたことに関係があるらしい、テレビも新聞紙も大きく九鬼の『武士道プラン』というものを取り上げていた。

 

『武士道プラン』とは過去の偉人のクローンを作るといった漠然としたものでしかない、だがおおよそ切磋琢磨し合える環境を作るため『先人に学ぶ』と言う言葉の究極系を用意しているのだ。

 

「で、どんな奴が来るかわかるか?」

 

俺は並んだ状態で太陽を照り返しているせいで眩しく映る準の頭から目を背けて聞いていた。

女が多いのか、男が多いのかなどは気になる。

そしてS組に何人入るかだ、その分落ちてしまう奴も出てくるからな。

 

「俺達も源義経が来ることしか知らないんだよ、そしてさりげなくサングラスをポケットから出そうとするな、傷つくぞ」

 

目を見て話すにはそれをしないとお前の頭が眩しすぎるんだよ、身長が1センチしか変わらないから光が目に入って来るんだよ。

 

「分かった、分かった」

 

そう言って俺はサングラスをなおして予想をする。

源義経というからにはその護衛として名をはせた武蔵坊弁慶もいるかもしれない。

またそう言った偉人のクローンについては何も東洋やアジア圏に限定されてはいないだろう。

 

「ヨーロッパの偉人とか来ても別段おかしくはないな」

 

頬をかいてそう言う。

武術に優れた偉人や頭脳に優れた偉人といるがどれくらいの割合になるのか気になるな。

全員が武闘派ということはないだろうが一人だけ頭脳面に優れた人だったらその人の負担は激しいだろうな。

 

そんなことを言っていると学園長が今回の編入の人数について説明を始める。

1-Sには関係者として男女2名、2-Sへ3名の男女、3-Fと3-Sは共に男女2名、モモ先輩はカワイ子ちゃんならいいとか言っていたがこればかりはどうしようもない。

それにしてもS組が一気に入れ替わるな、俺は落ちる気はないがそこそこの奴らは偉人相手ならやられるだろう、3年生についても同じ意見だ。

 

紹介する人物を聞くと一層声が張りあがる、どうやら関係者よりも先に英雄達の紹介に入るようだ。

3年生の方がすでに二人いるようだが学年ごとに揃ってからするという事になった。

 

「源義経だ、よろしく頼む」

 

壇上に上がってきたのは長い髪を束ねた、いかにも優等生な女の子だな。

偉人のクローンで『義経らしさ』という部分に強くとらわれてしまいそうなイメージだ。

あと清廉潔白な感じもする、正々堂々とかそう言うもので相手に物を教えることについては出し惜しみはしないだろう。

 

そして次に武蔵坊弁慶。

 

源義経が男性だというのは知っていたがクローンは性別が変わることもあるのだろう。

なんでも普通はそういった行動はやらないし倫理的に厳しく見られている、研究者でも予想できないことが起こっても不思議ではない。

 

「武蔵坊弁慶です…よろしく」

 

むさい男ではないだろうかと思っていた武蔵坊弁慶も源義経と同じ女性だった。

その姿を見て色めきだっている奴がいる、主にガクトと福本だが。

確かに魅力的ではあるがきっとあの細腕には史実どおりのパワーが宿っている、あまりいやらしいような行動はしないほうがいいとガクトには言っておこう。

だらけた雰囲気をだしながら川神水を常飲することを認められているのか挨拶をしながらぐいぐいと飲む。

しかしその後の話で全員の目の色が変わる、なぜなら『試験結果で3位を下回れば退学』という条件のもと川神水を飲んでいるのだ。

つまり『3位以内に確実に入る』と言っているようなものだ、プライドが高いS組の奴らはメラメラと闘志を燃やしている。

 

「次は那須与一…おらんのかな?、那須与一!!」

 

学園長が三人目の名前を呼ぶが返答がない、まさかこのような大事な日に遅刻か?

いや、屋上近くに何か気配を感じ取れるところを見ればどうやらサボりのようだ。

これ、ばれたら後でとっちめられたりするんじゃないの?

 

「与一は義経たち武士道プランの先輩が連れてくるからしばらく待って欲しい!!」

 

ざわざわとし始めた全校生徒を源義経が大きな声で鎮める、本当に厄介な仲間を持っているようだな。

後で紹介される人達は2年生がもういないから3年生に編入するメンバーか1年生に編入する関係者の2人である、後で来るという予定ならば別に今から関係者の紹介をしても何も問題がない。

 

そう言っていると音楽が流れ始める、世界的に有名な交響楽団の演奏だ。

その音楽に合わせて多くの人が入ってくる。

黒服を着た男の人たちが向かい合わせとなり人の橋を作る。

その上を悠々と特徴的な笑い方で歩いてくる、頭にあるバッテンの形の傷を持った女の子。

俺はあの女の子が英雄と揚羽さんの妹だというのを即座に感じ取っていた。

 

「喋る前からカリスマ性が漂っているな、少し身震いしたぜ」

 

英雄や揚羽さんよりももしかしたら人を引っ張っていける逸材かもしれない。

すると大きな声で自己紹介を始める、心に響かせる言葉を投げかけている。

これは『この人についていきたい』と思わせる力に満ち溢れているな、すばらしい。

 

しかし次の瞬間に今の僅かな身震いをはるかに超える武者震い、体中に突き刺さるような強者の力を肌に感じ取る。

金髪の髪の毛と威圧的な眼差し、九鬼に関係がある人間でこれだけの力を感じさせる相手なんてただ一人だろう。

 

「あれが九鬼従者部隊最強の執事と言われるヒューム・ヘルシング卿か…」

 

失礼な話だが強さは学園長の川神鉄心以上ではないだろうか、学園長は現役から退いているがあちらはまだまだバリバリの現役だ。

すると今目の前にあった気配が消えた。

 

「俺の名前を呼んだか、赤子?」

 

声が聞こえたので振り向いた俺は音もなくいきなり後ろに現れたことに驚いて顔を見る。

近くで見るとさらに強さが肌で感じ取れるな、これは苦笑いするしかない。

だがそんな事をされるとこちらも少々目上の者に失礼を働きたくなるというもの、俺は踏み込んで肘を腹めがけて突き出していた。

 

「ふん、攻撃の仕掛けが甘いな」

 

足を上げて膝を突き出して平然と受け止める、その後ににやりとしてそのまま足を下ろして話しはじめた。

まるでこちらの攻撃など歯牙にもかけていないといわんばかりに。

正直あのまま膝から先の部分を使い顎か顔を蹴りぬけばあの時点で勝負は付いている。

 

「一撃の重みは壁を越えているな、未熟ながらも大物を喰う可能性が秘められている、と入ってもこの俺を倒すには到底届かんがな」

 

そう言って一瞬で壇上に戻って自己紹介の続きをする。

次に気配が消えたときにはモモ先輩の後ろに回っていた、ああやって強さを確かめているのかもしれない。

そんな事を考えていたら次は見覚えのある白髪の執事が壇上に上っていた。

 

従者部隊の序列三番、クラウディオ・ネエロだ。

従者部隊が護衛のために今までよりも出入りが頻繁になるかもしれないと言う事を伝えていた。

好みのタイプはふくよかな女性と言う従者部隊の業務にあまり関係のないことも言っていたのがイメージと違っていて鮮明だった。

 

そんな事を考えていたら校舎から人を抱えて降りてくる影が有った、どうやら武士道プランの3年生の一人とさっきまで現れなかった那須与一のようだ。

 

一人は癖毛がピンピンと立った青毛の男性、背丈は180を越えているぐらいだろう。

夏服の半袖から覗く腕はしっかりと筋肉を蓄えている、めちゃくちゃ太いわけではないがあの腕で殴られれば十分痛いだろう。

それに校舎を飛び降りるのではなく走って降りてきた所から考えて腕力は未確認だが脚力は壁越えを果たしている可能性が十分にある。

 

「おらっ、与一、オメエも自己紹介しやがれ!!」

 

そう言って青毛の男性がいかにも面倒くさそうな顔を浮かべた男を壇上に置いていく。

 

「那須与一だ……以上」

 

面倒くさそうな男は名前だけ名乗って降りていった。

どうやらこれは義経たちも手を焼きそうな奴だ、そしてあと昔の大和のような感じが雰囲気と所作から漂っている。

 

「よし、これから3年生の紹介に移るぞい!!」

 

学園長が進行を止めずに最上級生の編入組に声をかけた。

 

まず一人は葉桜清楚という誰のクローンかわからない先輩、名前どおりすべて行動や言葉遣いまで清楚だがあの簪はもしや虞美人草か?

もしかしたら正体に関する重大なヒントになるやもしれんな。

 

「山本勘助だ、3-Fに入るがよろしく頼みます」

 

壇上に上がったのは一人の男性で名前を名乗る。

色黒で鼻や頬に傷を作っていて白髪、史実のような容貌醜くとはならず形のいい顔が覗かれる。

『山勘』の語源にもなったといわれる名だたる本物の軍師。

ただ、確か戦闘についても強かったはずだ、武田軍の足軽大将を務めていた記録があるんだからな。

 

「クー・フーリンだ、一応武士道プランのリーダーをしているがよろしく頼む」

 

槍使いとしての憧れが今目の前にいる。

八極拳士としての憧れは当然始祖である李書文だ。

 

突き刺せば30の鏃が体の中で破裂をするとか稲妻の速さなど武器に対する逸話は枚挙に暇が無い。

 

さらには英雄として手本のような生き方をしている。

 

正直流石の九鬼財閥もあのような武器を掘り当てたりはできないはずだ、大方気でそういった逸話をある程度はカバーさせるつもりだろう。

頭が良い勘助さんを差し置いてリーダーなのはなぜなのかはわからないが後で聞いてみよう。

 

ひとまずあと一人が居ていないけど終わりかと思ったその時に。

 

「良かった良かった、終わる前には間に合ったか!!」

 

そう言って平然と正門から入ってきた女性が居た。

髪の毛は黒く肩まで伸びていてプロボーションはモデル顔負けのような美女だった。

ただ遅刻をしたにもかかわらず歩いている、どういう偉人のクローンなのか。

流石にヒュームさんとクラウディオさんも苦い顔をしている、

 

「いいから速く紹介しろ、まったくリーダーよりも自由奔放な女だ……」

「戻ってから説教ですね」

 

二人が溜息をついて壇上に上らせようとする、すたすたとそのままヒュームさんやクラウディオさんを素通りして向かっていく。

通り過ぎて壇上へと登るときに遅刻について原因を言っていた。

 

「爺さんが揃いも揃ってそんな事言うなよ、起きようとしたら目覚ましが壊れてたのさ」

 

どこからともなく鉄扇を取り出してからからと笑いながら壇上へと上り始めた。

 

「大方お前の事だから一回起きて叩いて壊したんだろうが、早くしろよ」

 

リーダーであるクー・フーリンがそういうと笑いながら服の上の部分を羽織ろうとしてはためかせる、その時に見えたのは白と水色の彩色、そして達筆な黒い文字で『誠』の字が入っていた。

 

「武士道プランで3-Fに編入する『芹沢鴨』だ、よろしく頼むぞ」

 

そう言って芹沢さんが降りていく。

これで朝からの武士道プランの紹介が終わった。

そして午後からのドタバタの規模をまだこの時の俺は甘く見ていたのだった。




ほかの偉人を考えた結果、このような形になりました。

山勘の語源となった諸説がある男や新撰組初代局長筆頭。
槍使いとしては本田忠勝がいましたがそこは西洋で一番好きな逸話のある英雄を選びました。

何かご指摘などございましたらメッセージ等でお願いいたします。


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『放課後と英雄の実力』

久々の投稿となりました。
次回からはランキング戦を入れていこうと思います。
ちなみに義経や与一のような英雄たちはランキングには入らないことを事前に言っておきます。


朝の集会から教室は騒ぎだっていた。

S組は下位3名が義経たちに代わりS落ちをした、3年生と1年生も同じだろう。

 

自己紹介の際は那須与一もいたが、相変わらずの厨二病とかいうものを発揮して避けていった。

その際にその態度が悪かったのか弁慶に追いかけられて、なんとか逃げたところをユキに足止めされてプールへ投げられていた。

 

それ以外にはマルギッテさんと弁慶の勝負、とは言っても一撃で踏みとどまれるかどうかといった形の比べあいのようなものだ。

トンファーで防御を完全に固めたマルギッテさんを錫杖の一撃を吹き飛ばしたのを見るとやはり力においてはかなりのものを持っているのがわかった。

 

「おい、義経」

 

俺は義経に声をかけた、やる気を出していない弁慶を見て思ったのが3年生に入った4人の英雄はあれ以上に強い面子なのだろうか?

 

「どうしたんだ、澄漉君?」

「気になったがクーさんや芹沢さんってお前たちよりも強かったりするのか?」

 

振り向いた義経に率直に聞いてみると義経はこくりと真剣な顔でうなづいていた、そして説明するように口を開いた。

 

「クー先輩は一番速い、芹沢先輩は見た目をはるかに超えた怪力で切り裂いてくる

頭の良さならは山本先輩が一番だ、葉桜先輩はよく分からないがピンチの時にとんでもない腕力を出していたな」

 

やはりリーダーとして真っ先に上がったのがクー・フーリンか、一番速いというのは与一を抱えてあの速度で駆け下りてきたときに感づいていたが当たっていたか。

 

芹沢鴨については諸説あるが大阪で起こった相撲取りとの乱闘の際に力士を一撃で背骨ごと真っ二つに割いたといわれている、怪力については納得だ。

 

山本勘助の頭脳なんて今現代でもある『山勘』からも分かっている、しかもあの人自体が武田軍の足軽隊長だから戦闘もできる軍師なのだ。

 

葉桜先輩はあの虞美人草から考えたが怪力など戦闘面の事から確信に近い予感を抱いた、確かにそれならばしばらくの間は正体をかくして置いたほうがいいだろう。

 

「半分以上が壁を越えたレベルかよ、すごすぎるぜ…」

 

頭を掻いて溜息をつく。

それほどの奴らがぞろぞろと今日一日で多く入ってきたのだ、衝撃がある。

俺は義経に礼を言って席に着いた。

義経は謙遜していたが正直に教えてもらっただけでも十分いいことだと俺は思う、きっと英雄像として当たり前を貫こうとしすぎだな、不器用な奴だ。

 

.

.

 

そんな事もあって放課後になってからは3年生の英雄と1年生のおもだった生徒や風間ファミリーが2-Sに来ていた。

午前中のような質問もあれば、もうわいわいと話し合うような空間もあった。

英雄たちの順応性の高さとそれに対応できる川神学園のメンバーはやはりすごいと感心する。

 

そんな中、クーさんの方には武蔵小杉が歩いていた。

 

「あの、クー先輩」

 

武蔵小杉がクーさんに話しかけていく、何か企んでいるような眼差しをしているのが印象的だ。

 

「おっ、どうしたんだ?」

 

そんな事を気にも留めず爽やかに笑顔で応対をしているクーさん、いったい武蔵小杉は何を言うつもりなのだろうか?

 

「実践でどれほど英雄の力が凄いのか知りたいんで見せていただいてもよろしいですか?」

「実戦での英雄の力を知りたいだぁ?」

 

武蔵小杉がクーさんにそんな事を言う。

頭をぼりぼりとかきながらクーさんが困ったような顔をして言葉を発する。

 

「見たいって言ってもこっちは槍使いだぜ、槍使える奴を用意してくれなきゃ見せられねえよ」

 

確かにそれは間違ってはいない。

槍使いが力を見せるならば同じように槍使いが必要になってくる、畑違いの相手をしても凄さがあまり伝わってこないだろうからな。

 

「それならそこの澄漉先輩がいますから大丈夫です、だから見せてくださいよ」

 

武蔵小杉がそういって俺を指差す。

なるほど、企んでいたような眼差しの正体はこれか。

前回負けたからこういう形で俺の悔しがる姿が見たいってわけね。

こちらとしては憧れと戦えるまたとない機会だ、断る理由が微塵もない。

クーさんがOKといってくれたら今すぐにでも六合大槍を借りてくる。

 

「よしっ、それなら大丈夫だな、グラウンドに行こうぜ」

 

そういうと俺を後ろにつけてすたすたとグラウンドへ向かっていく。

教室にいた生徒も一緒になって出てきていた人が雪崩のようだった、道中に職員室で槍を借りておく。

 

「クラウの爺さん、槍を頼む」

 

グラウンドに下りるとクーさんがクラウディオさんに武器の用意を頼む。

槍などの武器を管理しているのはクラウディオさんたち従者部隊なのだろう。

その言葉を聞くとクラウディオさんがすばやい手つきで大きなジュラルミンケースを開けて武器を取り出す。

 

「はい、お受け取りください、クー・フーリン、ちなみに今回は相手と同じように殺傷力がない形のものです」

 

そしてそのままクラウディオさんがクーさんに槍を渡す、眩いほどの真紅色だ。

大きさも俺の使うものとさほど差はない、振り回している際に風を切る音が幾度となく耳に届く。

 

「同じ条件じゃねえと気がすまないからな、お前さんが使うのは六合大槍だな、中国の奴じゃねえか」

 

知識として知っているのだろうか、俺の持つ槍を見て微笑みながら言ってくる。

そして構えた瞬間、危険信号が頭の中で鳴り響く。

気を抜いた一撃を出した瞬間、おしまいだというような漠然なものだがそれはきっと正解なのだろう。

 

「始メ!!」

 

ルー先生の言葉と同時に俺は一気に眼前まで駆ける。

相手の攻撃を待つのではなく自分から動いて相手に攻撃を出させる。

待っていて下手を打てばそのままずるずるとペースを持っていかれて負けてしまうだろうからな。

 

「ハッ!!」

 

一瞬の間に上下に突きを出していく、その後に追撃できるように素早く突きを出せるように体勢を整えていく。

上下の突きに対してどのように対応をするのか、それを知って攻撃のプランを考えていかないといけない。

 

「ふんっ、甘いぜ!!」

 

しかし次の瞬間、クーさんの腕の動きの速さに驚嘆する、こちらの攻撃を完全に防ぎながら眉間と喉と腹。

実に三箇所に突きを当てていた、見えていても対処が難しいタイミングだったので後ろに飛んで威力を軽減したがそれでもジンジンと痛む。

 

「シッ!!」

 

痛みを殺して突きをさっきよりも多く速く出していく。

それをわずか一瞬槍を回すだけで防ぎきり、頭に一撃を加えられる。

 

「多く出せばいいってものじゃあねえぜ!!」

 

笑い飛ばしながら言ってくる顔に向かって突きを繰り出す、フェイントのようなものを交えずにまっすぐ目標に向かって攻撃を放つ。

 

「隙だらけとでも思ったのか、そんなわけないだろ」

 

最小限の動きで顔を動かして避ける、その合間に腕を槍で叩いてダメージを与えてきていた。

こっちがやる事を軽々と超えていく、姑息な手も速度でも通用しないのはとてつもない高さを見せ付けられたような気がする。

 

.

.

 

「オラオラ、本気でやってんのか」

 

何度目のやり取りになるだろうか。

 

あれからさらに速度を上げたりなどしてこっちが繰り出す上下左右さまざまなパターンや、無数の突きを平然と受け流している。

すでに体の回りには打たれた跡が無数にある、こっちもかなりエンジンがかかっているのにこうも易々とやられるあたりは流石に英雄だ。

ましてやケルト神話の始まりにも等しい存在、子ども扱いされても不思議ではない。

 

「はあっ!!」

 

腕の筋肉と足の筋肉を総動員させてさらに速度と威力を引き上げると、青い髪の毛が逆立ってびりびりする威圧感を放っている、こっちの全力を感じ取ってあっちも力を出したのだろう。

 

「そうだ、もっと来い!!」

 

 

今までのように受けに回っていなしていくのではなく、そのまま一気に攻撃に転じる。

一つの動作で攻防一体となると速い動き。

何とかぎりぎりの所でかわしてはいるが殺傷力がないにもかかわらず風圧が皮膚を裂いてきていた。

幸い頚動脈の部分にはないものの頬や腕あたりにはすでにいくつもの裂傷があった。

 

「らああっ!!」

 

しかしこちらも諦めはしない。

食いついていくように掠る程度ではあるが相手の体に当てていく。

本来ならば八極拳を完全に習得してからでないと目覚しい発展が見られないはずなのに、今この瞬間だけでも速度が普段よりも出ているのがわかる。

本当に強いものと戦うという事は自分の中に眠っているものを一時的にとはいえ引き出していくのだろう。

 

「ほう……」

 

ついに相手に直撃した、後ろに飛んでいたが一瞬だけ足がもつれているのがわかった。

クーさんは表情を変えて笑みの形を作る、一気に今以上の威圧感が吹き出てきた。

まだまだ力をかくしていたのも驚きだが勝負所と読んだのだろうか、決めに来ているのが感じ取れる。

 

「やるじゃねえか、全力には全力に応えてやるのが筋ってもんだ!!」

 

そういってクーさんは槍を持って飛び上がる、その勢いのまま槍を足で挟んで気を宿していく。

今から放たれるものは銃弾や砲弾なんてものではない、それ以上の威力を誇る一撃だ。

つい昨日、砲撃のスペシャリストである大友とやりあったというのにそれ以上の恐ろしさとは。

世界は広く、英雄とは偉大なものだと再認識する。

 

「俺の技、伝承の再現だ、受けてみやがれ!!」

 

風を切る音と気を宿した大きな一撃が一直線に向かってくる、これにどう対応するか?

その答えは頭で考えるよりも速く構えとして現れていた。

 

 

「らあああああっ!!!」

 

 

 

俺も助走をつけて全身の筋力を総動員させながら槍を投げることで応戦する。

クーさんのように気を宿していないため威力に差が顕著に出ているが、あの攻撃を無防備で受けてしまえばたとえ力試しの場といえども危険だと肌で感じ取っている。

 

衝突して一瞬目の前から両方の槍が消えていた。

しかし相手の攻撃に当たっていた事は肩の疼きが克明に教えてくれていた。

 

肩の肉を大きく抉られて血が噴出している、熱さと痛みが体を駆け巡るのがわかる。

俺の槍が当たってわずかに逸れていたが伝承に沿って心臓をめがけて投げ込んできていた。

もし槍を投げる悪あがきがなければ心臓へ一直線に当たっていた。

さらにこれが穂先が尖っていたものならば貫かれてしまい、力試しのはずなのに絶命していただろう。

 

俺の槍は完全に押し負けておりポッキリと折れた無惨な状態で地面に転がっていた。

弁償は確実だろう、少し血が出て思考がまとまらない中そんな事が頭に思い浮かんだ。

 

肩の傷と出血の度合いを見てルー先生がドクターストップをかける、決着は最後の一撃のぶつかり合いで決まった。

 

「ふうっ、勝ったか」

 

そう言って息を吐いてこちらに歩いて向かってくる。

手を差し出して来た、握手のつもりだろうか?

 

「そこそこやるじゃねえか、楽しかったぜ」

 

そういって手を掴み振ってそのまま校舎へと歩いていく。

俺は力が抜けて膝を着いていた。

本人が去っていく途中でさっきの戦いの興奮が今になって実感が沸いたのか、割れるような拍手が巻き起こっていた。




リアルの忙しさがあって継ぎ足し継ぎ足しの書き方もあって少し変なところもあると思います。
指摘、おねがいいたします。


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『川神ランキングとパーティー』

久々の投稿ですが、少し短めの話になりました。
あとがきでも書いていますが次回からは戦いが若干多くなるかと思います、


義経やクーさんたち武士道プランのメンバーが入ってきた次の日に、またもや臨時集会が行われた。

いったい何事かと思って全校生徒がグラウンドではなく、体育館に集まっている。

ゆっくりと学園長が壇上へと登って息を吸い込み、大きな声で話を始めた。

 

「みんな、よく集まってくれたの、今日は学内行事としてじゃが重大な発表がある」

 

そういうと学内行事と知ってかにわかに騒ぎたつメンバーがちらほら、臨時で集まったのだからサプライズでいいことのように思っているかもしれないが、多分それは早計というものだろう。

なぜなら、普段ならば学生の列に入っていなければいけないヒューム・ヘルシングが学園長の隣にいるからだ。

 

「今回の行事は長期となっておる、おおよそ一年ほどじゃ」

 

長期の行事ということで少しだけ感づいたやつもいるだろう、一年もの間何をやるというのか?

その不安が燃えるような闘志に変わる言葉を、次の瞬間、学園長は言っていた。

 

「本日より全校生徒から有志における『川神ランキング戦』を行う!」

 

その言葉を言った瞬間、大きな声が上がる。

無理もないだろう、今まで川神名物の『決闘』をしたくてワッペンを叩きつけても実力派の人間は避けられていたこともある。

有志になるということは今後からは学園が決めたルール内とはいえ存分に力をふるう事ができる、一年生は三年生にも容赦なく戦いを挑めるのだ。

 

「ただ、この行事に関しては参加権の無い生徒がおる!!」

 

その言葉を聞いた瞬間に顔が強張る人がいる、まさか自分が?と思っているのだろう。

せっかくの戦うチャンスを不意にされてしまうかもしれないというのは確かに緊張してしまう。

そして一拍おいて学園長はその参加権がない生徒を発表し始めた。

 

「まずは、3-Fから川神百代!!」

 

そういった瞬間、気が噴出している場所があった。

おおよそあの場所にモモ先輩がいるのだろう、全く分かりやすい。

あの反応から察するに自分がなぜ除外されているのかわかっていないんだろうな。

 

「そして1-Sからヒューム・ヘルシング!!」

 

その発表にヒューム卿は頷く。

自分が出ればこのランキング戦を蹂躙してしまうというのがわかっているからなのだろう。

こういうところはやはりモモ先輩と違っていて大人である。

 

「3-Fからクー・フーリン、芹沢鴨

3-Sから葉桜清楚、山本勘助

2-Sから源義経、武蔵坊弁慶、那須与一

今述べた合計9名の生徒が今回の行事への参加権がないものとする」

 

「ただ、生徒のセコンドについたりすることは禁止されてはおらんので、今呼ばれたものがアドバイスを与えるために気に入った生徒の味方をするのは構わないものとする」

 

武士道プランの面々と明らかに実力に差がある二名の除外。

 

ただ、自分としては確実に優勝確定に近い存在を知っている、それは由紀江さんだ。

一度不法侵入扱いで髪の毛がバッサリといってしまったことがあった、あの時でも刀の速度はすさまじいものがあった。

あれからさらに実力をつけている場合、残念ながらマルギッテさんでもかなわないだろう。

有志だからよほどのことがない限りは参加しないだろうが、注意は必要だ。

 

「参加の受け付けは今日から始まり、順位発表は一週間後に行う

ちなみに途中参加も可能じゃが、その場合の順位は初めの発表の際に参加した生徒たちに比べて、著しく下がることは気を付けておいてほしい」

 

その一言で緊急の全校集会が終わる。

受け付けは各自のクラス担任の先生か運営委員である小島先生やルー先生である。

その人たちに参加のことを伝えればランキングに参加可能というわけだ。

当然、俺は参加する予定だ。

自分がどれだけ強くなったのかを知ってみたいし、何よりいろいろな相手と戦って経験値にすることができる。

 

「準は参加しないのか?」

 

俺は準に声をかける。

トーマと一緒にいる機会があるとはいえ、こいつ自身も一年前から何かしらの武術をやっている。

筋肉の付き具合が普通に鍛えている奴とは少し違うし、体も絞られている印象がある。

 

「参加してもいいけど今すぐはやらないぜ、いきなり実力差がある相手にあたってしまう可能性もあるからな」

 

それは悪い意味に考えてるという事か?

三年生にも隠された実力者がいるだろうし、レスリングや柔道をやっている人でインターハイで結果を出している人もいた。

しかしそれでも準ならば惨敗することはないだろう。

 

「まあ、慎重になってもいいけど遅すぎたら上位に食い込むのも難しいぞ」

 

インターハイ経験者だけが要注意人物ではない。

参加するかは不明だが2-Sであればマルギッテさん、あずみさん、ユキ、不死川。

2-Fであれば一子、クリスお嬢様、椎名、エーリン・アマレット。

と女性だけでベスト10の半数を超えてしまう可能性が優にある。

しかもここに上級生や下級生が入り組めばすべてが女性で埋められるかもしれない。

ましてや由紀江さんが来たら絶対王者として君臨する場合が大いにある。

 

男性は2-Sは自分を除けば英雄と港の2人。

2-Fではガクト、モロ、キャップ、雁侍の4人。

 

どう考えても女性が多いが仕方ないな。

 

「そこら辺は調整するよ、気にすんな」

 

準はそう言って笑いながら手を振ってどこかへ行く。

とりあえずお前は明日の川神ラジオでモモ先輩に折檻されないように頑張れ。

むしろ、そのダメージを受けないように機嫌を調整した方がいいぞ。

 

そんな話をして授業に戻る。

誰が参加するのか予想を立てながら過ごして放課後になるのを待った。

昼休みの時点で宇佐美先生に参加表明の用紙を提出。

今日はそのまま放課後まで次の集会までを心待ちにして勉強に励んでいた。

 

放課後になって俺は仲見世通りへ向かっていた、最近『葛餅パフェ』なるものを出しているらしい。

どちらか一つでもおいしそうなものだが、二つ合わさるとさらにおいしさが増すのかどうかという期待がある。

それを確認するために行っているわけだ。

 

するとそこには既に先客がいた。

その人は九鬼紋白。

ヒューム・ヘルシングと居るところを見ると息抜きだろう、和の服装と小さな可愛さも相まって絵になる。

 

「お前もここに来たか」

 

いつの間にか目の前にヒューム卿が接近していた。

先ほどまで紋様の後ろにいたというのに、そこにあった気配を置き去りにしたまま、超速度で目の前に現れたのだろう。

 

「なんだ、お前もいたのか」

 

そんなヒューム卿から目をそらすと大和がいた。

まあ、いた所でどうでもいいのだが。

 

「そうだ、ここで会ったのも縁というもの、澄漉と直江に頼みがある」

 

紋様がこちらを見ながら言ってくる。

いったいどのような頼みなのだろうか?

 

「今週末に義経たちの歓迎と誕生日を兼ねた祝いをするのだが手伝ってもらえぬか?」

 

なるほど、確かに歓迎パーティという催しをしてやるのはいいことだ。

あの生真面目な奴や秘匿性があるやつら二人が打ち解けるにはそれが速いだろう。

ただ一つ、悩むところは多目的ホールや広い場所の確保が必要だという事。

 

「まとめられる人としては兄上がいるのだが…兄上は多忙な身だから我のわがままで手間をとらせて迷惑をかけるわけにもいかんのだ」

 

そんなことを聞いたら、英雄の性格上少しショックを受けるだろうな。

あの編入の時、英雄は普段見せない兄としての顔があった。

あの場面を見る限りでは兄弟仲はいいだろうし、あいつ自身の行動力や他人を率いる力をもってすれば、すぐに学校の中を取り仕切ってセッティングできるだろう。

紋様のこの遠慮がちな性格のため、このように英雄たちには頼らないのだろうが、英雄は内心頼ってもいいのにと思っていることだろう。

 

紋様の話を聞く限りではどうやら今週末に行うらしい。

準備を早くして、担当の先生にいい話を持ち込むなどして許可を貰う。

そういう手配をすぐにするのは不可能ではないがかなりスケジュールとしてはぎりぎりだ。

俺は顎に手を当てて時間の計算をしていた。

 

「やはり迷惑か?」

 

そう言って首をかしげる紋様。

この小動物なようなまなざしと純粋さ。

こういうタイプの人間にはてんで弱い。

気づけば携帯電話をポケットで探りながら、引き受けることを返事していた。

 

「協力なら喜んでしますよ、それに英雄は協力を大事な妹から頼まれて断るような奴じゃない

頼れる時は頼っていいんですよ、協力したいのに遠慮なんてされたら寂しいですからね」

 

俺はそう言って電話を取り出す。

すぐに武士道プランの歓迎会兼義経たちの誕生日会を始められるように、手配を始める。

S組はトーマやマルギッテさんを中心に指揮をとってもらう。

 

本来ならばこういうまとめ役は英雄に頼るのが一番いい。

しかしあいつだったら、なぜいきなりこんなことを始めたのかを考える。

そして、紋様という答えにたどり着くまで数分もかからないだろう。

そう考えれば、相も変わらず恐ろしい洞察力を誇る男だ。

 

その後には2-Fのクマちゃんに連絡をとって食材の確保。

料理ができる人間に連絡を取るとなれば、次はおのずと決まってくる。

由紀江さんに連絡を取って歓迎