ソードアート・オンライン~LuLuの物語~ (ウンニーニョ)
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浮遊城編~アインクラッド編~
始まりの街


どうも、ウンニーニョです。

ある日突然書きたくなって書いてみましたよろしければ温かい目で見守ってください


浮遊城第1層

 

「リンク・スタート」

 

真っ暗な世界・・・あたりまえだ、目を閉じてるのだから。

僕は今、《SAO》に飛び込んで初めて目を開ける。

 

「緊張するな……せーの!」

 

バッと目をあける、そこには現実ではありえない風景。

今までは画面の向こうにあった風景。

 

「すっげ……」

 

言葉にならない感動もそこそこに頭を切り替える、いや切り替わる。

早くフィールドに出てみたいと。

 

「あー? フィールドってどっちだ?」

 

辺りを見回し、どちらに行けばフィールドへ出られるのかを考える。

すると赤いバンダナのプレイヤーと黒い髪のプレイヤーの会話が聞こえてきた。

 

「その迷いのない動きっぷり、あんたベータテスト経験者だろ?」

 

(おっこれは便乗するしかないだろ)

 

「俺、今日が始めてでさ、序盤のコツちょっとレクチャーしてくれよ」

 

「その話、僕も乗っかっていいかな?」

 

突然話し掛けられ、黒い髪のプレイヤーと赤いバンダナのプレイヤーは驚いてこちらを向いた。

 

「悪い、迷ってたら話が聞こえてきてさ、俺も今日がはじめてなんだ。頼んでもいいか?」

 

「あ、あぁ」

 

黒い髪のプレイヤーは困惑しているが赤いバンダナのプレイヤーと押し切る

 

「たのむよ! 俺はクラインよろしくな」

 

「ルルです。よろしくお願いします」

 

「俺はキリトだ」

 

黒髪のプレイヤー、キリトがため息を吐き、仕方ないかと2人の指導を受け入れると3人は自己紹介を終え、フィールドへと向かった。

 

☆★☆★

 

「ドワッ!」

 

赤いバンダナのプレイヤー、クラインが吹っ飛んでいく

 

「ぐ…股座が…」

 

「おおげさだな、痛みは感じないはずだぞ?」

 

「ハハハ……」

 

「言っただろ、大事なのは初動のモーションだ」

 

「そうだぞクライン、キリトの言うことをちゃんとやれば簡単だぞ?」

 

ルルはそう言って目の前のイノシシに向かって構えると剣先が赤く光が灯り、加速した剣がイノシシへと打ち込まれイノシシをポリゴンへとかえる

今キリトに教えて貰っているのはこのゲームで唯一の必殺技、ソードスキル。

設定された構えをとることでシステムがアシストして達人のような剣術が使えるという物だ。

 

「んなこと言ったってよう、あいつ動きやがるしよ?」

 

「ちゃんとモーションを起こして、ソードスキルを発動させれば」

 

そうキリトが言うのと同時にルルがソードスキルを発動し、また一匹ポリゴンにかわる

 

「はらね? クラインもできるさ、同じ曲刀なんだから。モーションが立ち上がったらシステムがあててくれるよ」

 

「つったってよ…こうか?」

 

クラインが構える

 

「そのままタメを作って」

 

ルルがいうとクラインの剣先に赤い光が燈る

 

「そのままシステムに身を任せるんだ」

 

キリトがいうとクラインはソードスキルを発動させイノシシに突っ込んでいく。

 

パリィィ

 

ガラスの割れるような音とともにイノシシがくだけちった。

 

「やったじゃんクライン」

 

ルルがいうと

 

「うっしゃーー」

 

クラインは盛大にガッツポーズを決めた

 

「おめでと。だけど今の敵スライム相当だけどな」

 

「えぇ」

 

クラインはキリトのことばに驚いたように

 

「マジかよ、俺はてっきり中ボスかなんかだと」

 

「なわけあるか」

 

「だったら僕は中ボスたおしまくりなわけだ」

 

「「「…ぷっハハハハハハ」」」

 

こうして3人は笑いながらキリトのチュートリアルをこなしていくのだった

 

☆★☆★

 

あれからどのくらい経っただろう? あたりは夕日につつまれていた。

 

「ふぅ、まだ狩りをつづけるか?」

 

「僕はそろそろ別行動しようかな」

 

キリトの問いにルルが答え

 

「ったりめーよ! っていいたいところだけど、腹減ったから一回落ちるわ。5時半に熱々のピザが予約済みだしな」

 

グッと親指をたててクラインがこたえる

 

「そっか、空腹なんてわすれてたよ、ご飯食べてからまたインしようかな」

 

「そーしよーぜルル。俺も食べてからほかのゲームでしりあったやつらと落ち合う約束なんだ。キリト、ルル、お前らもあいつらとフレンド登録しないか?」

 

クラインの誘いに

 

「あぁ…」

 

「悪い、序盤は教えてもらったら一人でブラブラするつもりなんだ」

 

2人の反応にクラインは

 

「まぁ無理にとは言わねえよ、また紹介する機会もあるだろうしな

 それはそうとありがとな、レクチャーしてもらって」

 

「僕もだキリト、ありがとう」

 

二人の言葉にキリトは

 

「また聞きたいことがらったら連絡してくれ」

 

「おぅ、頼りにしてるぜ」

 

三人は握手を交わし、クラインとルルはログアウトのために右手を振る。

するとメニュー画面が現れログアウトのボタンが表れる。

 

「…ん?」

 

「っあれ?ログアウトボタンがねぇ!」

 

はずだった。

 

「クラインお前もか?」

 

「よく見てみろよ」

 

「やっぱねえ、なぁルル?」

 

「あぁ」

 

「メインメニューの一番下に……」

 

「な? ねえだろ?」

 

「ああ……ない」

 

ボタンを確認したキリトもだまりこんでしまう

 

「今頃運営は半泣きだろうな」

 

「お前もな、今5時25分だ」

 

「俺様の照りマヨピザとジンジャーエールがー‼︎」

 

「ハハハハハハ」

 

クラインとキリト二人の掛け合いにルルが笑う。

ルルはこの間にGMコールしていたのだがつながらないらしい。

このあと3人はメニュー以外のログアウト方法を考えるもみつからず、クラインが変なポーズを決めログアウトできないかためしていると、3人同時にいや、全プレイヤー同時に始まりの町に転送され、集められるのだった

 

☆★☆★

 

転移されてからすぐに誰かが「上」といった。

キリト、ルル、クラインも一斉に上を見る、すると空にWARNINGの文字が広がっていき空が赤く塗りつぶされ、その中からローブの人物が姿をあらわした

 

「プレイヤー諸君私の世界へようこそ」

 

「私の世界?」

 

ローブの人物の言葉にキリトが疑問を浮かべる

 

「私の名前は茅場晶彦。いまやこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

ところどころに驚きの声が聞こえてくる。

<茅場晶彦>それはSAO製作者の名前だこのゲームのプレイヤーでしらない人はいないのではないだろうか?

そして茅場は言ったのだ。

このゲームからログアウトしたければ誰かがSAOをクリアするしかないと、それ以外の方法が試みられた場合……

 

脳を焼かれて死ぬと。

 

すでに213人のプレイヤーが現実世界で<も>死んでいるということ、そしてこの世界でHPが0になった場合も死が待っているということも。

これが茅場晶彦が作りたかった世界だとそういっているのだ

突然の事態に全員が困惑する中、茅場は話をつづける

 

「では最後に諸君のアイテムストレージにプレゼントを用意してある確認してくれたまえ」

 

プレイヤーたちは一斉に確認し始めた。

ルルも例外ではなく右手を振り、メニュー画面を開き、アイテムを確認する。

 

「手鏡?」

 

手鏡を取り出すとともにプレイヤーたちは光に包まれていく。

すると周りは今までの美男美女ばかりではなくなり、隣にいたキリトやクラインもいなくなっていた。

 

「あれ? お前誰?」

 

「お前こそ誰だよ?」

 

キリトやクラインがいた方向からそんな声がきこえてくる

 

「「てことは」」

 

「お前がキリトか?」「クラインか?」

 

そんな声にルルははっとして手鏡を覗き込む。

そこには整った顔立ちではあるが目つきが悪く、黒と金のグラデーションカラーをした、まさしく現実の()がいた。

 

「じゃあ、お前がルルか?」

 

「あ、あぁ俺がルルだ……」

 

「でもなんで?」

 

クラインがもっともな疑問をあげる。

それにキリトはナーブギアでの《スキャン》だと答えをだした。

それを聞いてクラインは体はキャリブレーションで初めに確認したと補足する

ルルもナーブギアが神経に直結できるのなら自分の記憶から自分の姿を確認、再現できるのでわないかと仮説をたてた。

そのとき茅場は最後にと、こう告げたのだった。

 

 

 「これはゲームであっても遊びではない。……諸君健闘を祈る」

 

☆★☆★

 

周りが騒然となっている中キリトはクラインとルルの手をとり路地へとやってきた。

 

「俺はこれから次の町へ向かう。お前たちも一緒に来ないか? あいつの言葉がすべて本当ならこの世界で生き残っていくためにはひたすら自分を強化しなくちゃならない。VRMMOが供給する理想数、つまり、俺たちが得られる金や経験値は限られている、始まりの町周辺はすぐに狩り尽くされるだろう。今のうちに次の村を拠点にしたほうがいい。俺は道も危険なポイントも全部知ってるからLv1でも安全にたどり着ける」

 

しかしクラインは

 

「しかしよぅ、俺はほかのゲームでダチだったやつらと徹夜で並んでこのソフトを買ったんだ。あいつら広場にいるはずなんだ、置いては行けない……わりぃ、お前にこれ以上世話になるわけにはいかないよな。だから気にしねえで次の村へ行ってくれ。

俺だって前のゲームじゃギルドの頭張ってたからなおめぇに教わったテクでなんとかしてみせらぁ!」

 

「そっか…ルルはどうする?」

 

「俺はこのゲームには一人できたし、ついて行きたいけど……」

 

ルルの視線に気づいたのかクラインは

 

「ルルよお、俺のことは気にすんな! ここで分かれても死ぬわけじゃねえんだ。仲間つれてすぐに追いついてやらぁ‼︎」

 

「あぁ、わかった。じゃあキリト頼めるか?」

 

「あぁ、じゃあ…またなクライン、なにかあったらメッセージとばしてくれ」

 

下を向いて去ろうとするキリトとルルにクラインは

 

「キリト、ルル……おいキリト、お前ホントは案外かわいい顔してやがんな結構好みだぜ! ルル、お前ホントは俺って喋んだな、あと目つき鋭いな」

 

キリトは顔お上げ

 

「お前もその野武士面のほうが10倍似合ってるよ!」

 

ルルもそれに続き

 

「目つきは気にしてんだよ、バーカ!」

 

そうして2人はクラインと別れ次の町へと向けて走り出すのだった。

 




どうでしたでしょうかまだオリジナル感はでてないですかね話が進むにつれ増えていくつもりです


                               またみてね


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盗賊の遺品

文字数多い人そんけいしますね。

では2話目どうぞ


キリトとルル、二人は走った。

ポップがイノシシから蜂型のモンスターに変わっても二人でソードスキルを一撃ずつ浴びせれば倒すことができた。

二つ目の村《ホルンカの村》につくまでひたすらスキルを叩き込んできた。

 

「で、二つ目の町に着いたわけだがこれからどうする? 拠点の宿を決めるのか?」

 

ルルがたずねるとキリトは

 

「いや、宿屋以外にも拠点にできるところは色々ある、その前に武器の強化をしよう。武器や防具の強化で大分生存率が上がる。ベータテストのときは奥の家で《森の秘薬》ってクエストが受けられたんだ。その成功報酬が《アニールブレード》って片手用直剣で強化しながら3層までは使えたはずだ。曲刀は…情報がないけどどこかにクエストがあると思う」

 

「じゃあ、まず2人で《森の秘薬》を受けよう、それから分かれて村の中で情報収集して曲刀のクエストを受注できたら、二人で両方クリアしに行こう。使わなくても売れるだろうから」

 

「そうだな、じゃあまずは《森の秘薬》を受けよう」

 

話がまとまった2人は奥の家へと足をすすめた

 

☆★☆★

 

《森の秘薬》を受注した2人は村を探し回り、はずれの薪割りのじいさんからクエスト《盗賊の遺品》を受注した

 

《盗賊の遺品》

森の奥をねぐらにしている盗賊が突然変異の熊に全滅した、ねぐらの周りにはおいしい実が取れる木があるが、突然変異の熊がいて取りにいけない。報酬は払えないが、盗賊のねぐらにあるものは好きにしていいそうだ

じいさんはこうも言っていた、盗賊の頭が使っていた曲刀はかなりの上物らしいと。

 

 

「つまり、盗賊の遺品をそのまま使えってことか。呪われないか?」

 

「はは、大丈夫だろ。森の秘薬のターゲット、花付のリトルネペントが出る森と盗賊のねぐらがある森は同じ森だし2つ一変ににこなせるな」

 

「それじゃ、ポーションも買い込んだし、行きますか」

 

 

準備を整えた2人は森へとくりだした。

 

☆★☆★

 

森についてまず2人は盗賊のねぐらをさがすことにした。

その途中で花付のリトルネペントがでるならよしでなくてもまずは突然変異の熊なるボスがいそうな盗賊のねぐらを先に片づけてしまおうと考えたのである。

森に入って数時間、残念ながらここまでにでてきたリトルネペントはすべてノーマルだった。

とは言え目的の場所にはたどり着いたようだ。

目の前にねぐらである洞穴を確認しながらルルは曲刀の2連撃ソードスキル<リーバー>で目の前のリトルネペントに止めを刺す。

 

「ふぅ、キリトあそこが盗賊のねぐらか、熊なんてみあたらなぞ?」

 

「クエストを受けた状態で近づくと表れるんだろうな。ルル、ポーションは飲んだか?」

 

「ひまほんでる……よし、行くか!」

 

「あぁ!」

 

2人がねぐらに近づくとキリト側から巨大な熊が突進してくる。

突然のことに驚きながら、ルルは前方に飛び込むような形で躱す。

キリトもバックステップでかわそうとするが、近かった分避けきれずにとばされてしまった。

 

「キリト!」

 

キリトはHPを確認するが直撃ではなかったためか1割ほどしかダメージを受けていないそれを確認するとルルに向かって叫ぶ。

 

「大丈夫だ。それよりも今は動きが止まっている攻撃するぞ!」

 

キリトが攻撃を開始し、ルルもそれにつづく。

熊は目標を見失ったかのようにキョロキョロとしている。

その隙に後ろからキリトとルルはソードスキルを使わずに3度4度攻撃をあたえる。

熊か反応し、振り向くのと同時にキリトは片手剣ソードスキル<バーチカル>を発動し一撃を入れ叫ぶ。

 

「ルル!」

 

キリトの叫びとともに今度はルルが曲刀ソードスキル<リーバー>を発動し2連撃をあたえた。

そのタイミングでキリトのノックバックが解け、攻撃をしようと振りかぶるが熊は効いてないとばかりに爪を振り下ろしてきた。

それに気づいたキリトは慌てて剣を横薙ぎに振るう

爪と剣がぶつかり軌道がそれた。

爪は間一髪ルルの左手をかすめ通り過ぎる

 

「あぶねー」

 

ルルはHPを確認するがここでおかしなことに気づいた。

HPが減少していないのだ。

しかし今はそんなことを考えてる暇はない。

キリトに目線で合図を交わし、2人で熊から距離をとる

そこでキリトが何かに気づいた。

 

「あいつのHP…」

 

キリトの声にルルも熊のHPを確認する

 

「硬すぎるだろ」

 

HPはソードスキルを当てたにもかかわらず1割も減っていないのだ

そう。この熊は突然変異により体毛が鋼のように硬くなっているのである

 

「こういう場合弱点とかさがすのがセオリーだけど……」

 

ルルはそういいながら熊を観察する、すると右の脇腹になにか突起物が確認できる

 

「さすが序盤、弱点がわかりやすい!」

 

「なにかわかったのか?」

 

ルルの言葉にキリトがたずねてくる。

 

「あぁ、あいつの脇腹みてみろよ」

 

キリトが目をやるとそこには硬い体毛を貫いて曲刀が刺さっているのである。

 

「盗賊の頭の曲刀は上物らしい、ね」

 

ルルは熊に向かって走り出す。

 

「お、おい⁉︎」

 

キリトが慌てて声をかけてくるが

 

「キリトは一撃頼む」

 

それだけ言うとルルは熊の爪に曲刀をあて、右脇に飛び込みすれ違いざまに刺さっている曲刀を掴み、一気に引き抜いた

すると熊は雄たけびを上げHPが4割も減少する

 

「今だッ」

 

ルルの合図にキリトはソードスキル<バーチカル>を傷口に叩き込み、それを追うようにしてルルもソードスキル<リーバー>を叩き込む。

そこにノックバックの解けたキリトが3,4発切り裂いた後、ルルが袈裟切りに曲刀を振るう。

最後にキリトの袈裟切りとルルの逆袈裟切りが同時に脇腹に突き刺さる

怒涛の攻撃に熊のHPは瞬く間に減少していき、ついには0になった。

そして一瞬の停止の後、熊はパリィという音とともに砕け散った。

 

「弱点さえ掴めば楽勝だったな」

 

「いきなり突っ込んで行った時はどうしようかと思ったぞ」

 

ルルの言葉にキリトが苦笑する。

 

「でも遺品ってねぐらじゃなくて熊に刺さってるんだもんな

 っと《カロールシミター》ね」

 

「装備してみろよ」

 

キリトの言葉にルルは右手を振りメニューを開く装備のために装備画面を開き

 

「ッッ」

 

「どうした?」

 

「い、いや……なんでもない。かなり攻撃力があがったよこれでリトルネペントもばっちりさ!」

 

「油断は禁物だぞ?」

 

「わかってる」

 

ただ、このときルルは別のことに驚愕していた。

自分の《ナーブギアが神経に直結できるのなら自分の記憶から自分の姿を確認、再現できる》と言う仮説がこんな形で証明されてしまうとは思っていなかったからだ。

さっき左腕のダメージが通らなかった理由がそれだ。

 

装備画面

 

右腕「シミター」

 

左腕「義手」(耐久値93%)

 

 

現実の自分と同じ義手の左腕。

キャリブレーションだけでは考えられない仕様にナーブギアの凄さを改めて実感しつつ、リトルネペントのことに頭を切り替えるのだった。

 



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森の秘薬

《盗賊の遺品》をクリアした2人は町へ足を向けつつ、リトルネペントを狩っていた。

 

「全然でないな、花つき」

 

「まぁ1%しかでないらしいからな」

 

ルルの問いにキリトが答える

 

「マジかよ⁉︎ キリトの分だけとろうぜ、俺のクエストは破棄するわ」

 

「まぁ、カロールシミターはゲットできたしいいんじゃないか? でも運よく2対同時に出ることもあるかもしれないしな」

 

「期待はしないでおくよ」

 

そんな話をしながら普通のリトルネペントを倒したキリトにレベルアップのファンファーレが鳴り響く

 

「おめでとう、キリト」

 

「あぁ、これでLv5か。ちょっと待っててくれ、ステータス割り振るから」

 

その時、背後から拍手が聞こえてきた。

ルルとキリトは反射的に武器に手をかけ拍手の聞こえてきたほうへ振り向く

 

「ご、ごめん。先に声をかけるべきだったね」

 

プレイヤーであることに安堵を覚えた二人は緊張を解く。

 

「俺たちこそ過剰反応だった、すまないな」

 

「れ、レベルアップおめでとう……ずいぶんと早いね?」

 

「ありがとう。早いって程でも……それを言うならそっちも早いな。誰かがこの森に来るのはもう少し後かと思ってた」

 

「僕も一番乗りだと思ってたよ、ここは道がわかりにくいから」

 

そのわかりにくい道をこの速さで来たのだからこの人もベータテスターなのだろう

 

「君達もやってるんだろう《森の秘薬》クエ」

 

「あれは片手剣使い必須のクエだからな。報酬の《アニールブレード》を貰っておけば3層の迷宮区まではいける」

 

キリトがそう言うと

 

「折角だから協力してやらない?」

 

プレーヤーが協力をもちかけてきた。

 

「でもこのクエストは一人用だよなパーティでやっても人数分執拗だぜ?」

 

「別にパーティは組まなくてもいいよ。先にやっていたのは君たちなんだから、最初の2個は君たちに譲る。3人狩り続ければすぐに3匹目も出てくるだろうからさ。それまでつきあってもらえれば」

 

ルルはどうする?っとキリトに問いかける

 

「あぁ…じゃぁ悪いけどそれで」

 

キリトに続いてルルも返事を返す。

 

「俺は曲刀使いだからさ、取るのは2個でいいぜ!」

 

「よかった。じゃあしばらくよろしく、僕はコペル」

 

「よろしく俺はキリト」

 

「ルルだ、よろしく」

 

☆★☆★

 

「………出ないね」

 

3人で狩りをすることでポップ数も増え、効率は上がっているはずだ。けれど花付はポップしない。

物欲センサーでもついてるんじゃないかなどとルルが考えていると、ついに目の前に花付が現れた。

 

「きた‼︎」

 

待ちかねた、とルル、キリト、コペルが飛び掛かろうとしたその時

 

キリトが足を止め

 

「まて、奥に実付きもいる」

 

不運な事に花付きの後ろに実付きもポップしたのだ。

実付きに攻撃を加えればその実が割れて仲間を呼ぶ。

普通なら割ってしまい経験値を稼ぐのも有りだが、生憎今は一度死んだら終わりのデスゲーム。

実を割ってしまえば最悪の事態になるかもしれない。からといって離れていくまで待っていれば花付きの花も実に変わってしまうのだ

 

「行こう、僕が実付きのタゲをとるから2人は花付きを即効で倒してくれ」

 

コペルはそう言うと返事もまたずに実付きへと向かっていき、ルルとキリトはすぐさま花付きへと向かう。

花付きは2人に気づいたようで2人に向けて腐食液を放つ。

 

ルルはそれをサイドステップで躱し、駆け抜けざま一撃を浴びせる。

キリトはバックステップでかわした後触手の攻撃を掻い潜り、逆袈裟切りに切り裂く。

そして後ろに回っていたルルの曲刀単発ソードスキル<フェル・クレセント>によって花付きのリトルネペントはポリゴンとなり霧散していく。

その過程で頭頂部の花が散り、中からキーアイテムである《リトルネペントの胚珠》がキリトの足元に転がってくる。

キリトはそれを拾うとルルに笑みを送り頷いた。

 

 

「悪い、待たせた」

 

 

キリトがそう叫び、2人はコペルのほうに足を向ける。

するとコペルは実付きを盾ではじき、戦闘を中断させると奇妙な視線をこちらに向けてくる。

 

諦めと悲観…いや、こちらを哀れむような目?

 

「ごめん、キリト、ルル」

 

そう言うと今まで防御に徹していたコペルはソードスキルを発動させる。

実付きにたいして尤も行ってはいけない縦切りのソードスキル<バーチカル>

 

「いや、ダメだろ、それ……」

 

キリトがそうつぶやくと同時にコペルの<バーチカル>が実をとらえ、凄まじい破裂音が響き渡り異臭が辺りを包む。

その一撃で実付きはポリゴンとなって霧散したが、事体は最悪になったとしかいえない

 

「コペル……なんで?」

 

「……ごめん」

 

コペルはルルの言葉には答えずに、謝罪の言葉を残し、茂みに飛び込んだ。

姿は見えなくてもアイコンは表示されている。

しかし、アイコンまでもが消えた。

 

隠蔽(ハインディング)…」

 

「あの野郎」

 

隠蔽(ハインディング)とは自身の姿をプレイヤーやモンスターから隠すスキルだ。

意図的に実を破裂させ、最悪の状況を作り出し自分は隠蔽で姿を隠す。

キリトとルルはコペルの「ごめん」の意味を理解していた。

M(モンスター)P(プレイヤー)(キル)

モンスターのタゲを他のプレイヤーに移しそのモンスターにプレイヤーを殺させる行為。

コペルは胚珠を首尾よく手に入れるため、ルルとキリトを犠牲にしたのだ。

しかし、コペルの思い通りには進まなかった。

 

「コペル、知らなかったんだな、お前……」

 

「キリト?」

 

「隠蔽は便利なスキルだけど万能じゃないんだ」

 

そう相手を欺きタゲをはずすスキル、しかし索敵スキルが高い相手には通用しない。

それともう一つ。

 

「'視覚以外の感覚を持っているモンスター'には効果がうすいんだ、たとえば<リトルネペント>みたいな」

 

「じゃあ……」

 

植物には基本目はない、ならば食虫植物はどうやってエサをとらえるか

答えは単純、匂いや羽音といった視覚以外の感覚をつかってエサをとらえる。

つまり、隠蔽は使い所を誤った時点で効果の無いスキルと化す。

実際リトルネペントたちはコペルの方に正確に向かって行っている。

 

「助け___」

 

「そんな暇はなさそうだ」

 

助けに行こうとするルルにキリトがこちらに向かってきているリトルネペントの群れを見ながら言う

 

「確かに、俺たちも死んじまうなこのままじゃ」

 

コペルからリトルネペントに頭を切り替える

 

「弱点を狙えば一撃で殺れる!隙ができるからソードスキルは使うな‼︎」

 

キリトが叫ぶ

 

「あいよ。絶対生き残れよキリト」

 

カロールシミターを肩にトントンと担ぎながらルルが言う。

 

「お前もな」

 

キリトがそう返すと2人はニヤリと笑い合いリトルネペントの群れに向かって突っ込んでいった。

 

 

 

あれからどれ位たっただろうか、自分のファンファーレが2回キリトのファンファーレが2回なった。

ポップは止み、残るは5体。

それを倒したらあたりは静寂につつまれた。

 

「お疲れ、ほらっ」

 

キリトが《胚珠》をほうってくる

 

「隠れずに戦ってりゃ手にいれられたかもしんねーのに。馬鹿なヤツだよ」

 

ルルがそんなことを言う中、キリトはコペルの剣を拾ってきて地面に突き刺す

 

「ほんとに死んじまったんだな」

 

ルルは《胚珠》をその前におく

 

「いいのか?」

 

「墓にはなんかそなえてやんねーとな。こんな奴でも……」

 

「…戻ろう」

 

「あぁ」

 

☆★☆★

 

さっきの騒動でポップが枯渇したのか帰り道は一匹もモンスターに遭遇することなく村までたどり着けた。

まずはキリトが報告に行き《アニールブレード》を手に入れてくる。

その間に俺は右手を振りクエスト《森の秘薬》を破棄する。

その時、クエスト《盗賊の遺品》が達成されてないことに気づいた。

キリトが戻ってきた後に報告に行く

 

「本当にあの化け物熊をた倒しちまったのかい? 呆れたやつだよおまえさんは⁉︎ お礼と言っちゃなんだが武器を研いでやるよ」

 

じいさんにカロールシミターを渡すといままでくすんでいた刃が銀色に輝いた耐久値も100まで回復した。

実はカロールシミターは熊の血で錆びているという設定で、手に入れた時点でランダムで50以下の耐久値に設定される。

リトルネペント戦で壊れなかったのが奇跡である。

そんなことを知らない2人はと言うと

 

「綺麗になったな。攻撃力とか上がったのか?」

 

「いや、耐久値が回復したくらいかな。ま、これでクエストも完了だな」

 

などと努力が無駄にならなかった事に胸を撫で下ろす訳でもなく、呑気な物である。

ともあれ、化け物熊を倒しリトルぺネントの群れを倒したハードな1日、2人は早く休みたくて足早に宿屋へ向かうのだった

 

 



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攻略会議

今回は短めですがよかったら読んでやってください


ここは一層迷宮区

 

あの日、このゲームが遊びでなくなってから1ヶ月

 

ルルはキリトと別れ、ソロでプレイするようになっていた。

ケンカをしたわけではない、今でもパーティ専用クエでめぼしい物があれば連絡を取り合ったりしている。

2人ともソロの気質だったのだろう。

 

そんなこんなで一層の迷宮区

 

トカゲ型のモンスターに右から左水平切りを一線、切り裂いたところでまた一線手首をかえして左から右へ

左右左右左右左右とモンスターに攻撃の隙を与えずに連続で切り裂いていく。

最後のトカゲ型モンスターがポリゴンになって霧散する。

 

「ふう、この戦い方が一番しっくりくるな」

 

デスゲームとなったSAO内でソードスキルをつかわず敵の懐に飛び込み、一撃をあたえてまた踏み込み連続して切り裂いていく。

こんな戦い方をするのはルルだけではないだろうか?

 

「さてと、そろそろ帰ろうか」

 

そう言ってルルは迷宮区の出口へと足を向ける。

そろそろなどと言っているが4日も迷宮区にこもりっ放しだったのだ。

早く帰って風呂にでも入ろう。そんなことを考えながら町へ向かって歩くのだった。

 

 

☆★☆★

 

 

町へ入ると一人のプレイヤーが話しかけてきた。

 

「迷宮区からのお帰りかい?」

 

いきなりそんなことを聞いてくるプレイヤーを無視し、ルルは借りている家へと帰ろうとする

 

「おいおい、ちょっと待ってくれ⁉︎ あんたが迷宮区へ行くようなプレイヤーなら耳寄りな情報がある!」

 

ルルは立ち止まり怪しむような目つきで振り返る

 

「そんな目で見ないでくれよ……俺は強いプレイヤーへの情報伝達役なんだ」

 

「で?」

 

用件は? と早く風呂に入りたいルルは不機嫌に問う。

 

「今日第一層迷宮区の最深部、ボス部屋が発見された」

 

プレイヤーの言葉にめんどくさそうに半目にしていた目を見開く。

それを見たプレイヤーは待ってましたとばかりに続ける。

 

「そう、やっと見つかったんだ! それで今日の午後からボス攻略の会議が開かれる。ボスはレイド戦だ、あんたも腕に覚えがあるなら参加してくれ」

 

そう言うとプレイヤーは町に入ってくるプレイヤーにこの話を拡散するため、町の入り口へと向かっていく。

 

ルルはもちろん会議には出るつもりだが、その前に風呂に入るべく借りている家へと足を向けた

 

☆★☆★

 

午後になってルルは会議に出るため噴水の広場へきていた。

話を聞きに集まってるのはざっと見て40人。

それぞれ意見交換しているものやパーティなのだろう固まって話している物もいる。

そこに一人の知り合いを見つけたルルはその人物に話しかける。

 

「キリト!」

 

「ルル! 久しぶりだな」

 

「あぁ、10日ぶりくらいか?」

 

話し始めたところで会議の主催と思われる人物が全員に話し始めた。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺はディアベル、職業は気持ち的に《ナイト》やってます。」

 

ディアベルの自己紹介に集まったプレイヤーたちはどっと沸く。

話を中断されてこともありルルとキリトはお互いに苦笑しながらディアベルへと向き直る

 

「今日、俺たちのパーティがボス部屋を発見した。俺たちはボスを倒し、2層へ進む。そして《始まりの町》で待っている皆にこのゲームがクリアできるってことを伝えるべきなんだ! それが、ここにいる俺たちの義務だ。そうは思わないか?」

 

ディアベルの言葉に拍手が起こる

 

「OK、それじゃさっそくだけど、これから攻略会議をはじめたいと思う。まずは6人のパーティを組んでみてくれ。フロアボスは単なるパーティじゃ対抗できない。パーティを束ねたレイドを作るんだ」

 

「パーティったって」

 

ルルは周りを見渡すが回りはみんなすでにパーティを組んでいる。

そんなとき目の前にパーティ申請の画面がでてくる。

キリトのほうを見ると苦笑しながら2人で組むか?と問いかけてくる。

こちらも苦笑しながら「そうだな」と答えようとするが、視線の先にポツンと一人で座るプレイヤーを見つけ、そのプレイヤーを指差す

 

「あぶれてるみたいだな」

 

キリトはそう答え、2人でそちらへ向かう。

 

「あんたもあぶれたのか?」

 

キリトの問いに小豆色のフードを被ったプレイヤーはツンとした口ぶりで答える

 

「あぶれてない、周りが皆お仲間同士みたいだったから遠慮しただけ」

 

「ソロプレイヤーか」

 

キリトはそんなことを言っているがルルはいや、それをあぶれたって言うんだよ! と心のなかで突っ込みを入れた。

 

「なら俺たちと組まないか? ボスは1人じゃ攻略できないって言ってただろ? 今回だけの暫定だ」

 

フードのプレイヤーは頷きキリトが申請を送る

右上を見ると上からLuLu、Kirito、Asunaの順に並んでいる。

へぇ女性プレイヤーか、などと思っているとディアベルが話し出した。

 

「よーしそろそろ組み終わったかんな?」

 

「じゃぁ「ちょう待ってんか?」

 

ディアベルの言葉をさえぎる様に誰かが待ったをかけたのだった

 

 




これで4話目の投稿ですね。気に入っていただけていたら幸いです。

もしよろしければ感想なんかもらえちゃったらやる気がでる。かもしれません

ではまた次の話で。


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キバオウ

「ちょう待ってんか‼︎」

 

ディアベルが攻略会議を進めようとすると誰かの声がそれを遮った

 

「ワイはキバオウってもんや! 会議の前に言わせてもらいたいことがある! この中に今まで死んでいった2000人に詫び入れなあかんやつらがおるはずや‼︎」

 

2000人それは茅場明彦によって「これはゲームであっても遊びではない」そう発せられた時から死んだ人の数だ。

 

「キバオウさん君が言う<やつら>とは元ベータテスターの人たちのことかな?」

 

ディアベルはキバオウに質問する。

 

「元ベータテスターどもはこのゲームが始まった時、ビギナーを残して消えおった! あいつらうまい狩場やらぼろいクエストを独り占めして、自分らだけ強なってその後も知らん振りや! こんなかにもおるはずやろ? そいつらに土下座さして溜め込んだアイテムや金をパーティメンバーとして命は預けられんし預かれん‼︎」

 

キバオウの言い分にルルは切れていた。

そんなことはMMORPGでは<当たり前>のことではないかと

 

「うっせーよ、糞虫が‼︎」

 

静寂の中あびせられた汚い言葉にその場の全員がルルの方を向いた。

隣にいるキリトでさえ、こんなルルをはじめてみたと目を点にして驚いている。

ルルは足を組み、ひざの上に肘を突きアゴを支えながら話し始める。

 

「そんなのは当たり前だろう? お前はMMORPGをプレイしたことがないのか? ベータテストの抽選なんてのはリアルラック、すなわち運だ! レアアイテムのドロップとかわらない。自分の運でゲットした情報を自分のことに使うのは当たり前だろう? それにだ、一番危なかったのはベータテスターもしくはそれについていったやつらかもしれないぜ?」

 

「なんでや?」

 

ルルの言葉にキバオウが疑問をぶつける

ルルは阿保がとため息を吐くと続ける。

 

「自分たちはベータテスターだ自分のパートナーはベータテスターだこのゲームのことはよく知っている。だから読み違える!ベータテストから上方修正した敵の強さ! モンスターのポップ数! 死んでもよかったベータテストとは違うんだ‼︎ 下手に知っている分だけ死亡率が上がったかもしれないぜ? お前はベータテスターと一緒に行動したとして聞いていた情報と違う強さのモンスターが出た時、こお言うんだろうな? お前、嘘の情報を教えて俺を殺そうとしたなって」

 

「そんなこと…」

 

「ちょっといいか?」

 

キバオウが言いよどんだ隙に体格のいいスキンヘッドのプレイヤーが口をはさんだ

 

「俺はエギルだ! キバオウさんあんたはこれをもってないのか? ガイドブックだ、道具屋で無料配布している」

 

「もろたで?それがどうしたんや?」

 

「配布していたのは元ベータテスターたちだ」

 

エギルの発言に、シンとしていた周りのプレイヤーたちから「俺ももらった」「そうだったのか」など聞こえてくる。

 

「いいか? 情報は誰でも手に入れられたんだ。なのにたくさんの人達が死んだ! それを踏まえてボスをどう攻略すべきかを話し合うべきじゃないのか?」

 

ルルとエギルに言い負かされたキバオウはふてくされたように席へもどる

 

「じゃぁ、再開してもいいかな?」

 

ディアベルの言葉に周りが頷く。

 

「では、ボスの情報だ。実は先ほど例のガイドブックの最新版が配布された。それによると名前はイルファング・ザ・コボルトロード! それとルイン・コボルト・センチネルと言う取り巻きがいるそうだ。ボスの武器は斧とバックラー。HPバーの最後の一本が赤くなると曲刀のタルワールに武器を持ちかえる。攻撃パターンも変わるそうだ。

……が、先ほどの彼の話を聞く限り上方修正されている可能性もある、そのことにも注意してボス戦に挑もう。攻略会議は以上だ。

 

あと金は自動均等割り、経験値は倒したパーティの物、アイテムはゲットした人の物とする。異存はないかな?

……よし、明日は朝10時に出発する。では、解散‼︎」

 

ディアベルが言い終わると集まっていた人たちは次々とこの場を去っていく

 

「怒ったルルをはじめて見たよ」

 

キリトが苦笑しながら話しかけてくる。

 

「あいつの発言にはかなりムカついたからな」

 

ルルはそういいながらふて腐れたような表情を浮かべる。

 

「でもお前、俺のことをそんな風に思っていたのか? 付いてきた癖に」

 

「そんなことはないぞ! 感謝しているさ。でも、今思えば危険な賭けだったのかもしれないな」

 

ルルはそう苦笑したあと、真剣な表情で話す。

 

「実際、死んだ2000人の中にベータテスターはかなりいると思う。自分の情報を過信した……コペルみたいなやつらが……」

 

キリトはコペルの死を思い出したのかすこし暗い顔になる。

 

「その分俺は運がよかった! 生きてる。キリトに出会えたおかげだ!」

 

「褒めても何もでないぞ? 飯でも行くか」

 

「ああ」

 

ルルとキリトは笑いながら席を立った

 

☆★☆★

 

時間は夜

攻略会議で組んだパーティ達は親睦を深めている姿があちらこちらで確認できる

ルルとキリトは自分たちとパーティを組んだフードの少女《アスナ》がベンチでパンをかじっているのを見つけた。

 

「結構うまいよなそれ」

 

キリトが声をかけると少女はかじるのをやめ振り向く

 

「キリト、お前の舌はおかしいいんじゃないのか? まずいぞ?ソレ」

 

ルルの発言にアスナは同意とばかりにコクンと頷く。

 

「もちろん思ってるさ。となりいいか?」

 

アスナの隣にルルとキリトはパンを取り出しながら座る。

 

「まぁ、ちょっと工夫はするけど。これをパンに使ってみろよ」

 

キリトはルルに小瓶を差し出すとルルは小瓶をタップする、つづいてアスナのほうにも小瓶を差し出しアスナもそれをタップした。

それをパンにつけると3人同時にパンをかじる

 

「うっめぇ⁉︎ 何でもっと早く教えてくれなかったんだよ!」

 

ルルがキリトの方をみるとキリトがドヤ顔をしている。

その隣ではアスナのパンが消えていた。

 

それを見たキリトがそれがもらえるクエストを教えようか? と言うがアスナの答えはマイナスな言葉だった。

 

「私はおいしい物を食べるためにこの町に来たわけじゃない」

 

「じゃぁ何のため?」

 

「私が私でいるため。最初の宿屋で閉じこもって腐っていくくらいなら最後の最後まで自分でいたい。たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム、この世界には負けたくない、どうしても……」

 

「立派だな、でもこの世界に負けたくないのなら死ぬことは考えるな。なんとしても現実へ帰ることを考えな! そのためにこの世界で楽しいことを見つけてみるんだな」

 

アスナの言葉にルルはそんな言葉を残し去っていく、アスナは何も答えずその背中を見送り、残されたキリトはルルの言葉を頷きながら残りのパンを口へはこんだ。

 

☆★☆★

 

次の日

昨日攻略会議に出たプレイヤーたちはボスを倒すため迷宮区、ボス部屋の前にいた。

途中、アスナにスイッチのレクチャーをしたり作戦を確認したりしながらついにボス部屋の前にきたのだ。

 

「皆、俺から言えることはたった一つ、勝とうぜ」

 

ディアベルがそういって門を開けると1層迷宮区の番人、イルファング・ザ・コボルトロードが玉座で目を光らせていた

 



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イルファング・ザ・コボルトロード

イルファング・ザ・コボルトロード

 

第一層のボスにしてこの迷宮の主、赤く光る目を揺らしながらゆっくりと玉座から立ち上がるとボス部屋に明かりが燈る。

部屋の真ん中までコボルトロードがジャンプすると部屋の3角に取り巻きであるルイン・コボルト・センチネルがポップする。

ボス戦が始まったのだ、各々作戦どうりの相手にむかって行く。

 

ルルたち3人の相手は取り巻きのセンチネルだ。

アスナを入れての連携は初めてなので不安は残るが、まずはルルがいつものようにセンチネルの武器に向けて曲刀を右から左へと弾き上げる。

ステータスの差のおかげかセンチネルの武器が弾かれ、体勢を崩す。

そこにすかさず右左右左と間合いを詰めながら切り込んでいく。

しかしさすがはボスの取り巻きといったところか、迷宮区の他のモンスターよりも体勢が戻るのが早い。

センチネルの体勢が戻ろうとしたのを見計らってルルはソードスキルを使う。

ソードスキル《ファラント・フルムーン》

曲刀の4連撃である。

カロールシミターに赤い光が燈りソードスキルが発動する。

体勢を立て直したセンチネルに4連撃が決まるとまたもセンチネルは体勢を崩される。

 

「スイッチ」

 

ノックバックしたルルが叫ぶと待ってましたとばかりにキリトはセンチネルを攻撃していく。

間合いを詰めながらの袈裟切り、逆袈裟切り次々と手数を増やしていく、センチネルがまたも体勢を立て直すタイミングで

キリトのアニールブレードに青い光が燈る

片手剣3連撃ソードスキル《ヴォーバル・ストライク》

センチネルにキリトがヴォーバル・ストライクを当てるとキリトは叫ぶ。

 

「スイッチ」

 

2人の連携にあっけを取られていたアスナだが、キリトの言葉に自分の番とセンチネルに向かって飛び込む。

アスナも前の二人に習い体制の崩れたセンチネルに2,3,4と突きを浴びせていく。

アスナの速さにキリトとルルはさすがボス攻略に来るだけはある。と思いながら次の自分の番に備えていた。

センチネルが体勢を立て直そうとするがHPは残りあとわずか、アスナは細剣ソードスキル《リニアー》を発動する。

アスナの剣に白い光が燈り剣が消えた。

高速の突きがセンチネルの体を貫く。

しかし残り数ドットHPが残ってしまう。しかも、アスナはパーティ戦初心者なためスイッチの一言を忘れてしまう。

 

ノックバックをおこしたアスナにセンチネルが刃を向けアスナは自分のミスに絶望する

 

「ご苦労さん」

 

後ろからルルがそう言うとともに曲刀を横薙ぎに一閃。センチネルに叩き込んだ。

ルルの一撃を受けたセンチネルはパリィと音を立てポリゴンになって霧散していく。

キリトもアスナに「おつかれ」と声をかけ、ルルは曲刀を方にトントンと担ぎながら周りを見渡す

3人は攻略戦メンバーでもレベルが高かったのだろう、のこり2体のセンチネルはまだ戦闘中である。

 

「コボルトロードの戦闘に参加しようか? 2人ともいけるか?」

 

2人にルルがたずねると

 

「いけるも何も3人ともダメージをくらってないからな」

 

「ええ、いつでも行けるわ」

 

キリトはそんな軽口を言い、アスナも2人を仲間と認めたのか少し声がやらかくなっている。

 

☆★☆★

 

3人が戦線に加わりコボルトロードのHPものこり1本に突入した。

その時、部屋の4角でまたもやセンチネルがポップする。

それを見て3人は戦線を離脱、センチネルの討伐へ向かう。

今回は初めに一番近かったアスナが駆け抜けざまリニアーでセンチネルの体勢を崩す。

 

「スイッチ」

 

「こんどはちゃんと言えたじゃねぇか」

 

ルルが茶化しながらセンチネルに攻撃を与えていく。

キリトまで回った時センチネルのHPが0になりポリゴンになって霧散する。

センチネルを倒した3人は戦線に復帰するためコバルトロードに向かって走り出した。

その時、コバルトロードのHPがレッドゾーンに突入し、斧とバックラーを投げ捨てた、武器の交換である。

 

「情報どうりみたいやな」

 

「下がれ!俺が出る‼︎」

 

キバオウが情報と同じ行動に安堵し、ディアベルが止めをさそうと前に出る。

しかし、セオリーなら最後は皆で囲むはず、そんなことをルルやキリトが考えているとディアベルはキリトの方を見てニヤリと笑った。

それを見たルルはいやな予感がし、ディアベルの言葉を無視してコボルトロードへと走る。

ディアベルがコボルトロードに止めを刺そうとソードスキルを発動した。しかしコボルトロードはニヤリと笑うと腰の武器を引き抜く。

それは情報とは違う武器、タルワールではなく野太刀。

それに気づいたキリトは「後ろに飛べ‼︎」と叫ぶが、時すでに遅く、ディアベルは刀ソードスキル《浮舟》によって打ち上げられる。

そこにコボルトロードは刀を鞘に収め抜刀のポーズをとる。

 

刀系ソードスキル《瞬閃》

 

抜き放たれた野太刀はまっすぐディアベルに向かう。

しかしディアベルに当たる前に何者かが間にあらわれた。

ルルが追いついたのだ。

ルルはすでに曲刀ソードスキル《リーバー》を発動している。

リーバーと瞬閃はぶつかりルルは押し負け、キバオウのあたりまで吹っ飛ぶ。

(チッ!回復してたらディアベルがやられるか。)

ルルはそう思考するとキバオウに「ボケっとするな、ディアベルを回収しに行け。」と声をかけコボルトロードに向けて駆け出す。

こんどはソードスキルではなかったコボルトロードの野太刀をしっかりと受け止め弾く。

しかしコボルトロードの体勢は崩れず、野太刀はもう一度ルルに振り下ろされる。

しかし、野太刀は割り込んできたプレーヤーによって防がれる。

 

「俺たちタンクが時間を稼ぐ、回復したらあとは頼む」

 

スキンヘッドのプレイヤーエギルはそう言うと自分のパーティとともにコボルトロードを押さえにいく。

 

「ルル!」

 

その時、後ろからキリトの声が聞こえた。

 

「3人で行きましょうパーティなんだから」

 

耐久値が尽きたのだろうか?、いつの間にかフードの取れたアスナも声をかけてくる。

ポーションを飲んで回復したルルにアスナとキリトが並び立つ

 

「行くぞ‼︎」

 

キリト、ルル、アスナの連携にコボルトロードはなすすべなくHPを削られていく。

そしてキリトの剣が刺さった瞬間、ついにコボルトロードはのHPは0になり、コボルトロードは雄たけびを上げポリゴンとなって霧散していった。

静寂の後、どこからともなく歓声が上がる。

攻略メンバーたちは喜びを分かち合う。

 

「Congratulation」

 

エギルが声おかけてきてくれた。

ルルも「さっきはありがとう」と握手をする。

そのときだ。

 

「なんでやッ‼︎」

 

キバオウが叫んだ。

 

「なんでみんなあのことを追求せえへんのや、あいつはボスの武器のことを黙っとったんやぞ! そのせいでディアベルはんやあいつも死にかけたんやないかい!」

 

キバオウがキリトを指差し叫ぶ。

周りもその雰囲気に飲まれそうになる。

しかし……

 

「またか、クソ虫?」

 

ルルの声にキバオウはビクッと震える。

 

「知らなかったんだろ? ボスのステータスが上方修正されて武器がタルワールから野太刀に変更されていた。それだけのことだ」

 

「せやかて……」

 

「それにセオリーを無視したディアベルも悪い! あのシーンは全員で囲むところだ」

 

そこにディアベルが口を挟む。

 

「そのとおりだ。LAボーナスに目がくらんだ僕が悪いんだ」

 

「LAボーナス?」

 

「最後にボスに攻撃したプレイヤーに与えられるボーナスアイテムのことさ、俺は____」

 

「その情報を手に入れたあんたはそれがほしくて勝ちを急いで死にかけた…か? このゲームは死んだら終わりなんだ。こんどからは慎重にな」

 

ディアベルがベータテスターと言おうとしたところにルルは被せるように言った。

今は、ディアベルがベータテスターだとバレるのはよくないと考えたからだ。

 

「……あぁ」

 

「さて俺たちは2層に行くけどどうする?」

 

ルルはディアベルにたずねる

 

「僕たちはトールバーナに戻って待っている人たちに報告するよ。ありがとう助けてくれて! さぁ皆行こう‼︎」

 

ディアベルたちは引き上げていく、キバオウも少し納得はしていないようだったがディアベルを慕っているからなのかあれ以上なにもいわなかった。

 

「じゃぁ俺たちも行くか? キリト、アスナ」

 

その言葉を聞いてアスナが訝しげにルルを見る。

 

「なんで私の名前知ってるのよ?」

 

「…はぁ」

 

ルルがため息をつきキリトが説明する。

 

「画面の右上に自分の以外に追加のHPゲージが見えるだろうその下に何か書いてないか?」

 

「ルル、キリトこれって」

 

「そうだそこに名前が表示される、改めまして、キリトです」

 

「ルルだ」

 

「アスナです」

 

「「「ハハハハハ(ふふふふふ)」」」

 

3人は照れくさそうにひとしきり笑い

 

「さて、じゃあ行こう!」

 

2層をアクティベートしに階段を上っていくのだった。

 

 






あとがき


やっと1層がおわりました、ディアベル生存しちゃいましたね。出番がこれ以降あるかわかりませんけど笑

ちなみに今回でてきた《瞬閃》のようにストーリーの都合上、刀スキルの大幅な設定変更があります

それではまた次回おあいしましょう


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カロッサ山

今回はオリジナルをがんばってみました。楽しんでみていただけたら幸いです


では、どうぞ


浮遊城第5層(最前線第8層)

 

カロッサ山

第5層の迷宮区の東にそびえる巨大な岩山である。

そこに、一人の少女がいた。

 

「あーもぅ! いつになったら頂上につくのよ?」

 

肩と首の間くらいのショートカット、緑色の服にに鎧をまとった少女《リズベット》は一人文句をいいながらも山頂を目指し山道をあるいていた。

マージンギリギリのレベルではあったが、ここまでの戦闘でとくに危ないところも無かったため気がぬけていたのだろう。

目の前にポップした獣人型(トカゲ)のモンスターを倒した時に戦闘が終わったと思い込みメイスを担いで歩き始めてしまった。

 

カラリ

 

後で石の転がる音がした。

リズベットが振り向くとそこには先程と同型のモンスターが斧を振り上げている

 

「うそでしょ…」

 

リズベットは自分が油断したことを後悔する。

その時、モンスターが一旦停止したかと思うとポリゴンとなって霧散した。

 

「……へ?」

 

リズベットがあっけにとられていると、少し離れた山道から目つきの鋭い(ワルイ)黒と金のグラデーションカラーの髪の少年が声をかけてきた。

 

「敵が残っているのに武器をしまう奴がいるか?」

 

苦笑しながら声をかけてきた少年にたいしてリズベットはバツが悪そうに言い訳する。

 

「た、たまたま油断しただけよ、そぅ、たまたま」

 

「その油断で本当に死んじまうのがこのゲームだぞ?」

 

「そ、そうよね。ごめんなさい、それと、ありがとう」

 

素直に謝るリズベット。

さっきモンスターをポリゴンに変えたのはこの少年が放った投剣スキル《シングルシュート》だった。

この少年がいなければリズベットはこのゲームから、そして現実からも永久退場していたかもしれない。そお思うとリズベットは自然と感謝の言葉が出た。

 

「あたしの名前はリズベット《リズ》ってよんで。あなたは?」

 

「俺か? 俺はルル8層のじじいにここにレアアイテムがあるって聞いて来たんだ。あんたもそうなんだろ?」

 

2人は自己紹介をし、ルルの問いにリズが答える

 

「レアアイテムって言ってもここにあるのはレアインゴットよ? 最近では一番いい武器が作れるって言う。あんた、ちゃんと聞かずに来たんでしょ?」

 

「えっ、インゴットなのかよ? 確かに少し聞き流す感じで聞いてたけどさ、まじかよ……

じゃぁなんでリズはこんなところに来たんだよ?」

 

あんたからリズに急に変わったことにドキッとしつつリズは返事を返す。

 

「だって私は鍛冶屋だもの、一番いいインゴットで武器を作ってみたいじゃない?」

 

「へぇ、リズは鍛冶屋なのか」

 

「そうよ、リズベット武具店をどうぞよろしく」

 

「もう店まで持ってるのか? すごいじゃないか」

 

「うっ、まだ露店開いてるだけなんだけどね。ハハハハハ…

 でもいつか絶対にちゃんとした店をかまえるわよ」

 

「露店でもすごいじゃないか。決まった鍛冶屋もないし、また寄らせてもらうさ」

 

「まいどありー。それはそうとあんた、インゴット取りに行くの手伝ってくれない? 8層で聞いてきたってことはあんたもそこそこ強いんでしょ? お礼に手に入れたインゴットで武器作ってあげるから」

 

「んー。まぁ武器作ってくれるんならそれもいいか」

 

ルルはリズの言った<そこそこ強い>は気にせずにお互いに利益があるため受け入れる

 

こうして山でであった二人は協力して山を登り始めるのであった。

 

☆★☆★

 

山の山頂付近、山頂に近づくにつれて敵のポップが多くなる。

私だけでは無理だっただろう。

リズはそう思いながら目の前の光景に驚いて…いやもう慣れてしまったのか遠い眼で見ている。

あれからリズは一度も戦闘に参加していない。

ルルがひとりですべてモンスターをポリゴンへと変えてしまっているのだ。

リズはこれだけ強いプレイヤーを一人しか知らない。

自分の親友。

いや、それ以上に強いかもしれないと思わせる。

それもそのはずである。彼は攻略組のトッププレイヤー、しかもソロなのである。

 

話は少しさかのぼる。

 

「しっかしあんた強いわね、私が手を出す暇もないじゃない」

 

ルルの強さにリズが呆れたように言う。

 

「まぁ8層の迷宮区に比べたらめちゃくちゃ弱いしな、ここの敵は」

 

ルルが当然というように言う

 

「え、あんた攻略組なの? そりゃ強いはずね、でも楽できていいわ。

 あとはあんたに任せるから」

 

「攻略組ってのが何なのかわかんないけど、また気を抜きすぎて死に掛けないようにしてくれよ」

 

「わ、わかってるわよ。こ、攻略組って言うのは最前線でボス攻略をしている人たちのことよ。本人たちは知らないのかな?」

 

リズは先程のことを持ち出され顔を真っ赤にしながら言う

 

「まぁ、知らないんじゃないか? お、また敵だ! 軽くひねってくる」

 

ルルは敵との間合いをつめ、切りかかるのだった。

 

 

そんなことを思い返していると、山頂にたどり着いた。

すると、急に地面が揺れ始める。

 

「な、何なの?」

 

「ボスのお出ましって事だろ」

 

リズの疑問にルルが答える。

そして、<ドゴン>という音と共に巨大な竜が地面から這い出して来た

 

「これはやり甲斐がありそうだな」

 

「ちょっと待って!」

 

ルルは出鼻を挫かれリズをジットリとにらみ付ける。

 

「あそこ見て、竜の背中、鉱山みたいになってるでしょ? 倒しちゃダメなのよ。足を止めて上って掘り返さないと」

 

ルルは倒せない(倒してはいけない)とわかると作戦を立てる。

右手を振りメニュー画面を開きながらリズに作戦を伝える。

 

「俺がまずリズをあそこの岩陰まで連れて行く。リズが隠れたら俺は奴のタゲをとって足を削る。奴がダウンしたら尻尾からリズが登ってインゴットをとってくれ」

 

「わかった」

 

ルルの作戦にリズが頷く

殺さない為に3層までの相棒《カロールシミター+8》に変更すると同時、竜は完全に地面から這い出て咆哮をあげた。

 

「いくぞ」

 

ルルの掛け声と共に2人は竜の後ろの岩陰へと走る。

竜がまだこちらに気がついていないことを確認すると、ルルはリズに指示を出し一人タゲをとる為、竜に向かって行く。

そのスピードを殺さない様に前足を袈裟切りに切り裂く

竜は足元のルルに気づくが、竜が行動する前にルルはバックステップし逆袈裟、水平切りと足へのダメージを蓄積させていく。

そして竜は攻撃の行動をとった。

攻撃を受けている前足を持ち上げ横なぎに振るう。

 

「危ない‼︎」

 

リズは叫ぶが最近開放されたクエストとはいえ所詮は5層、リズから見て早い一撃でも攻略組のルルからすれば遅すぎる。

ルルは反対側の前足に向けて飛び込むと一回転して足を切り裂く、そしてまた竜からの攻撃がくるまで足を削っていく。

何回か繰り返すと竜は悲鳴のような咆哮をあげ、地面にへたり込んでしまう。

 

「いまだ! リズ‼︎」

 

ルルの合図にコクンと頷き、リズは尻尾を登って背中へと到達する。

そこで持っている袋にインゴットを入れるため、ナイフでインゴットをはがし取りにかかる。

少し時間はかかったが3個は確保できた、しかしリズは欲を出して4つ目に取り掛かってしまう。

 

「リズもう時間が無い」

 

リズがルルの言葉に気づいた時には竜は立ち直り起き上がろうとしている

立ち上がった竜は背中に異物感を感じるのか犬のようにブルブルと体を振り回し落とそうとする

 

「キ、キャーー‼︎」

 

もちろんリズが踏みとどまれるはすも無く振り落とされる。

そこへ俊敏値を最大に活かし、飛び上がったルルが抱えあげるようにキャッチする。いわいるお姫様抱っこである。

そのまま、ほしいものは手に入れたとばかりに竜には目もくれず脱兎のごとく山を駆け下りる。

ポップするモンスターを一撃ほふり(左手でお姫様抱っこのまま右手で攻撃している)中腹まで降りてきたところでリズを下ろす。

リズはルルに真っ赤になった顔を見られまいと背中を向け照れ隠しとばかりに

 

「あー、せっかく後一個ゲットしたのに振り落とされた時にどっかいっちゃったわ」

 

「まぁいいじゃないか、何個かはゲットできたんだろ?」

 

苦笑しながらそんなことを言うルルに自分だけ恥ずかしがっているのがバカらしくなってきたリズはルルのスネをゲシっと一蹴りし「さっさと降りるわよ」と言って先に行ってしまう。

残されたルルは「何なんだよまったく」と後を追いかけるのだった。

 

 

☆★☆★

 

 

無事に町まで帰ってきた2人はリズがよく使っている工房に来ていた。

あたりに他のプレイヤーはおらず2人だけである。

 

「早速あんたの武器作っちゃうわ曲刀でいいのよね?」

 

「いや、刀をつくれるか?」

 

「刀? そんなの作ったこと無いわよ…えーっと、あっ」

 

リズはそんな疑問を口にしながら作る武器の項目を下へとスクロールしていく。すると最後に刀が追加されていた。

刀はエクストラスキル《刀》をを会得したプレイヤーが鍛冶職を持つプレイヤーに依頼して初めて追加される。ほかのエクストラスキルもいくつかを除いてそうなっている

 

閑話休題

 

「あったわ、刀! ……これを作ればいいの?」

 

「あぁ、この前スキルスロットに現れたスキルなんだけど刀が無くてな。たのめるか?」

 

「はじめて作るからね、気合入れて作るわよ。見てなさい!」

 

リズはそお言うと炉からインゴットを取り出し、真剣に叩きはじめる。

数十回たたき終わったところでインゴットは形を変え始める。

数秒間かけてインゴット《レイヴンマラカイト》は漆黒の刀へと姿を変えていった。

リズが漆黒の刀をタップする

 

「《ダークナイト・オブ・サイレンス》…うん、私が作った武器の中で一番のできだわ」

 

それを聞いたルルは漆黒の刀《ダークナイト・オブ・サイレンス》をゆっくりと手に取る

 

「これが刀か……かなりの業物だな。それに、手に良く馴染む」

 

2人は今日の出来事を思い出し、自然と笑みが浮かんでくる

 

「リズ、もう一つ頼んでもいいか?」

 

「はぁ、いいわよ。この際だから引き受けてあげるわ」

 

リズはしかたないなと、ため息をこぼしながらも快く引き受ける

 

「これの耐久値が回復できないか試してもらいたい」

 

ルルは右手を振り画面を操作する、するとルルの左腕が消え、リズの目の前に置かれた。

リズは「ひっ」と声をあげる

 

「実は俺の左腕は義手なんだ。このゲームがデスゲームにかわったあの時、俺の左腕も現実と同じ義手に変わった。このことを話すのはリズがはじめてなんだ、オフレコで頼む。耐久値が残り44%しかないだろ? 何とかならないかな?」

 

ルルは苦笑しながら腕のことを説明する

 

「オフレコなのはわかったけど、こんなの私も始めてみるし…まぁやってみるけど」

 

そう言いながらリズは義手をタップするそこには義手(耐久値44%)とだけ表示される

 

リズは鎧なんかと同じように耐久値の回復作業をおこなってみるが変化は無い

 

「ダメみたいね、NPCショップなんかで売っては……ないのよね?」

 

リズが言いかけたところでルルが首を振って否定する

 

「わかったわよ、私も何とかできないか調べてあげる。そのかわりあんたの武器や防具のメンテナンスは全部あたしにさせなさい。もちろんお金はいただくわよ」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

こうしてルルとリズは契約を交わし、リズベット武具店の常連となるのだった。

 

 





あとがき

ということでヒロイン、リズベットとの出会い。

オリジナルって言ったのにキリトの出会いとかぶる?

…気にしないでください笑

あと刀っていつから出てきたんでしょうね、てことで前回でお察しかとは思いますが主人公の武器、刀です、はい

                  みなさんがまた見てくださることを願ってお別れです、では


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風林火山

 

 

16層の転移門がアクティべートされてから2日目

ルルは迷宮区へと続く森の中にいた

 

「シッ!」

 

ルルは《ダークナイト・オブ・サイレンス+5》を鞘に収めると、

一層で自身の身をもって受け、協力だと思い知ったソードスキル

刀ソードスキル《瞬閃》を放つ。

抜刀によって加速された剣閃は目の前の切株型のモンスターを切り裂き、ポリゴンに変える。

その後、切株型の後に居たもう一体のモンスターも風の刃が切り裂きポリゴンになって霧散した。

そこに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「ほえー、それが刀スキルってやつか? スゲーなー。それって曲刀の上位スキルなんだろ? 俺も早くつかいてーぜ」

 

「クラインか? やっと追いついてきたんだな、後ろが言ってたお仲間か?」

 

ルルは刀を納めながら振り向き、クラインを確認すると懐かしむように話しかける

 

「ギルド《風林火山》だ。やっとって事は無いだろぅよ、これでも急いだんだぜ?」

 

「ははは、悪い悪い、せっかくだし一緒に行くか?」

 

ルルがそういうと風林火山のメンバーと握手をかわし、森を抜ける為歩み始める。

一緒に進むといってもギルドとソロ、戦い方は全然違う、特にルルは戦い方が特殊な方でもある。

人数が増えてポップする数が増える

これも一種の連携なのだろうか?

ルルが一人、刀を抜きつつ前方の敵に突っ込んで行く

風林火山は円形に広がり、向かってくる敵を2人以上でポリゴンに変えていく。

ルルは風林火山にモンスターをなるだけもらさないように、敵に接近し刀で体勢を崩すと、立て直すまでにモンスターをポリゴンに変え次のモンスターに突っ込んで行く。

ルルは最後のモンスターを一瞥し目の前のモンスターをポリゴンに変えると刀を肩に担ぎ構えると刀に黄色い光が燈る

刀単発ソードスキル《辻風》ルルが一歩踏み出すと体が加速し、モンスターを袈裟切りに切り裂きながら通り過ぎる

ルルが刀を回転させながら鞘に刀納し、カチンと音がしたのと同時、モンスターがポリゴンになって霧散した。

ルルは風林火山の方を見ると最後のモンスターがポリゴンになって霧散するところだった。

 

「ルルさんの戦い方ってアレですよね、なんというかその…」

 

「無謀ってか? ハハハ、よく言われるよ。でもこれが一番しっくり来るんだ。それにレベルも違うだろうしな」

 

風林火山のメンバーがルルに話しかけルルは苦笑しながらそれに答える

 

「ルルは今いくつなんだ? その、レベルよぅ」

 

クラインの疑問にルルは聞いて驚けと答える。

 

「24だな、もうそろそろ上がるんじゃないかな」

 

「げ、俺たちよりも4も上じゃねぇか⁉︎強えーわけだ」

 

ルルの答えにクラインは驚きの声を上げ、周りのメンバーもうんうんと首を上下にふる

 

「まぁソロだからマージンは多めにとっとかないとな」

 

そんな話をしながらルルと風林火山は森を進んでいくのだった

 

 

☆★☆★

 

時刻はお昼をまわり、木々から木漏れ日がもれる

ルルと風林火山のメンバーは森の深部、と考えていい場所にいた。

 

「おい、あれ出口じゃないのか?」

 

風林火山のメンバーの一人がそういい指を刺す。

 

「じゃぁ俺たちが迷宮区一番乗りって事か?」

 

町で迷宮区までのマップは配られていないし、到達したプレイヤーが居るという情報も聞かない。

クラインが嬉々として話すがルルは注意を促す様に話し出す。

 

「まて、あそこの岩、違和感がある。それに今まで迷宮区の前には門番とも言えるモンスターが居た。たぶんあれがそうだろ」

 

「ま、まじかよ⁉︎」

 

ゴクリッとクライン達風林火山のメンバーは息を飲む。

それも当然だろう、ルルがおらず意気揚々と迷宮区へと向かったのならモンスターの不意打ちをくらい、誰かが死んでいたかもしれないのだ。

 

「俺が近づいてモンスターが動き出したらタンクのメンバーが抑えて他のメンバーが足を削る、モンスターがダウンしたら全員で総攻撃こんな感じでどうだ? クライン?」

 

クラインは感心していたルルの作戦を立てるスピードに、それにルルが居てよかったとも感じていた攻略に追いついたと言っても、自分たちはまだボス攻略に参加したことが無い。

迷宮区の門番とはいえ始めての最前線のボスなのだ、自分たちだけでは不安である、さっきルルのLvを聞いたのも大きい。

 

「あぁ、それで行こう!」

 

クラインの言葉を聞くとルルは岩ではなく、迷宮区の入り口に向かって走る

 

「お、おい‼︎」

 

叫ぶクラインをよそにルルは入り口に近づいていく。

その時、岩が持ち上がり前部分が開く。

ハサミを広げた蟹が姿を現した。

蟹はハサミをルルに向かって叩きつけた。

ルルは待ってましたと右に飛び近くの岩に着地する

ボスを一瞥するとニヤリと笑い刀を抜きながら近くにあったハサミに一撃を与える。

しかしガキッという音と共に反動で刀がはじかれルルは硬直状態に陥ってしまう。

 

「な⁉︎」

 

ルルは蟹の硬さに驚き、硬直状態になったことにしまったという顔をした

 

「タンクはすぐにルルへの攻撃を防げ! 攻撃する時は岩でない部分を狙え!」

 

クラインから支持が飛ぶ、すぐにタンクの2人が飛び出しルルに振り下ろされるハサミを武器を使いガードする

 

「すまない」

 

「足から攻撃するんじゃないんですか?」

 

ルルが謝るとタンクの一人が笑いながら話しかけてくる。

間違いない、ルルはそう言って攻撃に加わるために走り出す。

クライン達アタッカーはルルが硬直したのとは反対側、左の足、4つあるうちの4番目の足を攻撃していた。

足は中にしまわれていた為岩に覆われては居ない部分である。

 

「遅れた、すまない」

 

そう言って攻撃に参加するルルにクラインが曲刀を横薙ぎに振るいながら話しかけてくる

 

「いいってことよ。しかし足から攻撃じゃなかったのか?」

 

「さっき言われたよ」

 

ルルは苦笑しながら答える

 

「それより、試したい事があるんだ。ダウンになったら打撃系武器の2人はハサミ、斬撃系武器のみんなはハサミの付け根の岩に覆われていない部分を攻撃してみてくれないか? 部位破壊が出来るかもしれない」

 

全員がうなずきダウンするまで攻撃を加える。

しかしモンスターも受けているばかりではない蟹型だけに横移動と回転しか出来ないらしく、回転して攻撃、アタッカーに向けてハサミを振り下ろした。

そこで風林火山タンクのメンバーは動き出す。

ハサミとアタッカーの間に入り2人がかりでハサミを受け止めた。

あとはパターンであるアタッカーは足に移動し再び攻撃していく。

 

それを何回か繰り返した後モンスターがダウンする、それをみはからって全員でハサミに向けて攻撃していく

 

「付け根なら弾かれずに攻撃できるぞ」

 

風林火山の一人が叫ぶ

 

打撃系武器の2人も攻撃が通っている

 

モンスターのダウンが終わり、モンスターが動き出すその時

 

ルルは鞘に刀を納め逆手に構えるそして、ソードスキルを発動する

 

刀2連撃ソードスキル《朱連華》

 

抜刀からの逆手逆袈裟切り、勢いを殺さずにそのまま円を書きもう一撃逆袈裟切りを食らわせ、まるで朱雀が炎から舞い上がるように飛び上がる。

このソードスキルによりルルがにらんだとおりハサミが根元から切断され、部位破壊に成功した。

 

「よっしゃ、このまま行こうぜ!」

 

クラインが叫ぶと風林火山の面々が「おぉおお‼︎」と叫びを上げ士気が上がる。

 

反対のハサミも切り落とし、されるがままとなったモンスターのHPは見る見る減っていき、4段あったバーが最後の1段になった。

その時、蟹の甲羅、岩の部分がヒビ割れ、マグマのように赤く染まる。

それに加え、なくしていたハサミがまた生え、ハサミからは炎があがる。

そして蟹型のモンスターはプレイヤーめがけて岩を3つ口から発射した。

ルルはバックステップでよけ、風林火山のアタッカーはサイドステップ、タンクは防御する。

落ちた岩は小型の蟹型モンスター、取り巻きへと変化する

 

「アタッカーは散らばって取り巻きの排除、タンクとルルはでかいのを頼めるか?」

 

クラインはすばやく支持をだす。

全員がうなずき、ルルはさすがここまでギルドを率いてきただけはあるなと感心する。

全員が散り、おのおのの敵へと向かっていく。

ルルと二人は変化した蟹型モンスターに向かいながらルルが作戦を語る

 

「あの炎のハサミにどんな効果があるかわからないけど、おそらくは直撃、もしくはガードしても火傷のバッドステータスになるだろう火傷治し持ってるか?」

 

ルルの質問に二人はそれぞれ2つ、僕は4つと答える

 

「それなら基本さっきと同じだ、ガードしたら火傷してるかどうかだけ報告してくれ」

 

二人がうなずくとルルは刀を担ぎソードスキルを発動する。

ソードスキル《辻風》

ルルは加速するとモンスターの1番目の足に袈裟切りをあたえるとノックバックに陥る、しかし《辻風》は初級のソードスキル、ノックバックは少ない。

すぐにノックバックがとけ、流れで攻撃を開始する。

そのうちルルに向けてモンスターが向きを変え、炎を纏ったハサミを振り下ろすがタンクの2人によって防がれる

 

「火傷はないみたいだ」

 

タンクからの言葉にルルはうなずき攻撃に移ろうとするがモンスターはすでに逆側のハサミをルルに向けて振り下ろしている

 

「チッ」

 

ルルはそれに気づきバックステップで避けよるが、肩口からかする様に切り裂かれてしまう。

 

ルルはゴロゴロと転がり起き上がった後HPを確認する、HPは1割も減っていないがやはり火傷のバッドステータスを受けていた。

HPバーは1ドットづつ確実に減少していっている。

 

「大丈夫か? ルル」

 

クラインが取り巻きを倒し合流してくる

 

「あぁ、だけど火傷になっちまった」

 

「一旦離れて回復してこい。大丈夫、俺らで持たせられる、それどころか倒しちまうかもな」

 

クラインの軽口にルルは「悪いな」と返事をすると刀を納め一旦戦線を離脱する。

残りのアタッカーも合流しクラインの「二撃目にも気をつけろ!」の指示と共に攻撃に移っていく。

ルルが戦線を離脱し、火傷治しをあおろうとする。

その時ボスのHPがレッドゾーンに突入し、蟹型のモンスターが両方のハサミを高く上げ、その後からもう2本はさみが生える

その4本の腕をクライン達に叩きつけた。

クライン達は突然のことに対応できていない。

ルルは火傷治しを投げ捨て、間に合えとソードスキルを発動する

 

ソードスキル《瞬閃》

 

抜刀と共に抜かれた刀は空を切るがそこから生まれた風の刃が蟹型モンスターに突き刺さる

それにより蟹型モンスターのHPは0のなり、クライン達の顔の前でハサミが止まる

 

「……へ?」

 

クラインが間抜けな声を上げるのと同時、モンスターはパリィという音と共にポリゴンになって霧散する。

 

ルルの前に Congratulation Last Attack Bonus の文字が浮かび上がる

何とか間に合ったか、そう思いながら火傷治しを拾おうと顔を向けると耐久値が切れたのか砕け散ってしまう

 

「ゲッ」

 

「サンキュールル、助かったぜ。それに全員LVが上がったんだ」

 

そう言って近づいてくるクラインに

 

「悪い、火傷治しくれるか? 今持ってたやつが砕け散った」

 

苦笑いで告げるルルに「いいぜ」とクラインが火傷治し放ってくれる

ルルが受け取りあおっていると、Lvが上がってステータス割り振りをしていたクラインが叫ぶ。

 

「うぉっしゃーー」

 

その声にルルは驚き、火傷直しを吹き出しそうになるのをこらえてクラインを見る。周りの風林火山のメンバーもクラインを見ていた。

 

「見てくれよ‼︎ スキルスロットに刀スキルが出てる!」

 

クラインは画面を可視化し、ルルや風林火山のメンバーに見せて回る

ルルは微笑ましくおもいながら風林火山に提案する。

 

「これから迷宮区は流石に無理だろ、報告がてら一旦町に戻らないか?」

 

迷宮区やそれまでの道のりなど情報はプレイヤー全員で共有している情報屋に情報を渡し、拡散してもらうのだ。

このゲームではじめの刀スキル会得者のルルもその情報を顔に鼠のペイントの情報屋に売った時にはいい金になった物だ。

 

閑話休題

 

ルルの言葉に風林火山のメンバーは「そうだな」「疲れたー」などと言いながらうなづく。

 

「じゃぁお祝いに飯屋でパーティーだ迷宮区発見と俺の刀スキルの会得の祝いだ」

 

そう言いながらクラインは抜刀のジェスチャーをする。

風林火山のメンバーが「宴だー」「ギルマスの刀スキル会得祝いって」など言いながら帰っていく。

 

「ルルも一緒にどうだ?」

 

クラインが誘ってくれる。

 

「じゃぁ、マップ情報を渡したら合流するよ」

 

ルルはそういうとクラインと共に風林火山のメンバーのあとを追った。

どれだけの時間戦っていたのだろう木々からもれる光は夕日に変わっている。

町につく頃には宴にはちょうどいい時間になっているだろうな。などと考えながら、町につくまでもう一踏ん張りとルルは気を引き締めるのだった。

 




008どうでしたか?ここでクライン達は追いついたわけです

クライン刀習得の話でしたね、《瞬閃》の風の刃ですが、SAOにそんなの出していいの?と思うかたもいるかもしれませんが、独自解釈、オリジナル要素ということで多めに見てください。
あとは《辻風》ですがホロウフラグメントをプレイしていないため、どんな攻撃かわかりません
なので名前をかりまして、別物になっていますイメージはアニメ1話でクラインが使っていた業のイメージです武器はちがいますが、原作からの刀スキルは《浮舟》《辻風》だけです、こちらは刀を抜いた状態で使うソードスキルですね、あとは抜刀系にオリジナルソードスキルですね《瞬閃》《朱連華》がそうですね、まだまだ出てくる予定です。《朱連華》の表現はうまくできていますかね?
そこんとこコメントいただけると幸いです

ここまで言うと勘の言い方はわかってしまうかもしれませんが気づかないフリをしてオフレコでお願いします。


それでは009どんなはなしになるのやら、では。


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月夜の黒猫団

今回の話は長くなってしまったため二つに分けました。


では前半をどうぞ


アインクラッド11層(最前戦28層)

 

ルルはとあるクエストの素材集めのために11層の迷宮区に来ていた。

 

「結構時間かかったな」そんなことを言いながら帰る途中、ピンチに陥っているパーティを見つける。

ルルは自分の出せる最大のスピードを出し、あご位のボブカットの槍使いの少女に剣を振り下ろそうとしている骸骨型のモンスターを後から切り裂き、ポリゴンに変える

突然のことに、少女は目を見開き固まるが、ルルの「ボケッとするな!死にたいのか‼︎」と言う声に頭を切り替え槍を構える。

ルルは周りのプレイヤーにも指示を出しながら1体、また1体とポリゴンに変えていく。

20体くらいだ倒したろうか? モンスターのポップが止み、静寂がおとずれた。

 

「ありがとう、僕はケイタ。ギルド《月夜の黒猫団》のリーダーをしている。本当に助かった。是非お礼をさせてくれないか?」

 

ルルは帰り道だった事もあり、快く申し出を受けると黒猫団のメンバーと町へ向けて歩きはじめた。

 

☆★☆★

 

ここは9層のとある飯屋。

そこにルルと黒猫団のメンバーはいた。

 

「ルルさんに感謝して、乾杯!」

 

「「「「乾杯‼︎」」」」

 

黒猫団が乾杯する中、ルルも照れくさそうに頬を掻きながらグラスを上に上げる。

 

「改めて御礼を言わせてくれ、ありがとう。メンバーの紹介がまだだったよね? さっきも言ったけど僕はケイタ。それであっちの三人が右から順にテツオ、ササマル、ダッカー」

「テツオはメイス、ササマルは両手剣、ダッカーは槍を使っている。僕の隣に居るのがこのギルドの紅一点サチ、彼女も槍使いだ。それで…あの、大変失礼なんですけどLvっていくつくらいなんですか?」

 

「に、21くらいだよ」

 

ルルはレベル42なのだが、迷宮区を荒らしていたとバッシングされるのがいやで手ごろなレベルを言う。

 

「へぇ、僕たちとあまり変わんないのにソロだなんて、すごいですね。」

 

「ケイタ、敬語はやめてくれ。ソロって言っても1体でいるモンスターを狩ってばかりなんだ。効率は良くない」

 

「じゃぁルル、よかったらこのギルドに入ってくれないか? このギルドで前衛が出来るのがメイス使いのテツオだけなんだ。サチを前衛が出来る曲刀に転向させようと思うんだけど本人が乗り気じゃなくてさ。ルルの刀は曲刀の上位スキルだろ? 近くで見れば曲刀もいいかもって思うかもしれないしさ」

 

サチの頭をポンポンとたたきながら話すテツオにサチが顔を膨らませながら答える。

 

「だって、急に前に出て戦えだなんで怖すぎるよ……」

 

周りからは「その内慣れるって」「お前は昔から怖がりだよな」などと聞こえてくる

 

「実はこのギルドのメンバーは同じ高校のパソコン部なんだ。あぁでも大丈夫! ルルもすぐ仲良くなれるよ。絶対! なぁみんな?」

 

周りのメンバーも同意する。その暖かさと、今のレベルならみんなを守ってあげることが出来る。

そう考えたルルは返事を返す。

 

「じゃぁ、入らせてもらおうかな。よろしくたのむ」

 

その答えに「よろしく」「一緒にがんばろうな」などメンバーが声をかけてくる。

そしてケイタからの申請をルルが受理し、ルルのHPバーの名前の左側に《月夜の黒猫団》のマークが現れ、ギルドの一員となるのだった。

 

 

☆★☆★

 

 

あれから数ヶ月、最前線は30層に進んでいた。

ここは29層。

時刻は夜。

人気のレベリングポイントにルルはいた。

黒猫団に入った後もギルドが寝静まった後にレベルを上げるためソロで活動し、迷宮区を探索した。

ボス攻略戦も28層は参加できなかったものの、29層はギルドの休息日ということにして参加していた。

レベリングポイントはパーティごとに交代で使う。

ルルは自分の番が終わり、刀を鞘に納めると帰路に付くため歩き出した。

見知った顔が声をかけてくる。クライン達《風林火山》とキリトである。

キリトは風林火山が追いついて来てからというものギルドには入らないものの、クライン達と行動することが多くなった。多分、誰一人欠けることなく追いついてきてホッとしたのと、俺が一層で言った「ベータテスターについていった方が死んでいたかも」と言う言葉がキリトの心を軽くしたのだろう。

 

「おぅルル! 相変わらずソロでレベリングか……ってオメェそれギルドアイコンじゃねえか?」

 

クラインの言葉にキリトもアイコンを確認し表情を柔らかくした。

 

「ギルドに入ったんだな」

 

「まーな。俺、急ぐから行くわ」

 

レベルを偽ってギルドにいるからだろうか? ルルは少し後ろめたくなって話を切り上げ走り出す

 

「そぅか? じゃぁまたな!」

 

何の疑いも持たず、別れの挨拶をするクラインにルルは振り向かずに右手を振るのだった。

 

 

☆★☆★

 

 

「えー、今回の狩りでなんと20万コルたまりました」

 

ケイタのこの発言に黒猫団の面々は「おぉーー」「夢のギルドホームもいけるんじゃないか?」「それよりサチの装備考えたら?」などと声が上がる。

サチはその中の「サチの装備も考えたら」に反応した。

 

「ううん、今のままでいいよ……」

 

「遠慮すんな。今のままルルに前衛を任せてばかりも悪いだろう?」

 

サチがそれを渋り、ササマルが進める

 

「ごめんね」

 

「気にするな、俺は敵に飛び込んで戦うほうがあってる」

 

「わるいなルル。サチ、転向が大変なのはわかるでもな、もうちょいだ。みんなで、がんばろうぜ!」

 

ササマル の発言に対してそんなことを言うサチにルルは気にするなと言い、それにたいしてケイタはみんなでがんばろうとサチを励ます。

それに対してサチは「ぅん」と小さくかえすのだった。

 

 

その日の夜中、レベリングから帰ってきたルルにケイタからメッセージが届く。

 

[ケイタです。サチが出て行ったきり帰ってこないんだ、僕らは迷宮区に行ってみる。ルルも何かわかったら知らせてほしい]

 

そのメッセージをみるとルルは右手を振りメニューを開くと追跡スキルにてサチを探す。

するとすぐにサチは見つかった。

サチは町外れの橋の下で膝を抱えてうずくまっていた。

「サチ?」そうルルが声をかけると驚いたようにルルのほうを向き、ルルが続けた「みんな心配してるぞ?」その言葉に胸の内を話しはじめる。

 

「ねぇルル、一緒にどっか逃げよう? この町から、モンスターから、黒猫団のみんなから。……《ソードアート・オンライン》から……」

 

その言葉にルルは苦笑しながら「それは、一緒に自殺しようって事か?」と答える。

それに対してサチの言葉は「それもいいかもね」だった。

その言葉にルルは苦笑いのままだが、口元がヒクヒクと引きつっている。

 

「ごめん、嘘。……それなら、安全な街の中になんて隠れてないよね。」

 

苦笑し、下お向きながら続ける。

 

「なんでここから出られないの? なんでゲームなのに本当に死ななきゃいけないの? こんな事になんの意味があるの?」

 

答えられずにいるルルにサチは続ける。

 

「私、死ぬの怖い! 怖くて……この頃あまり眠れないの」

 

そういうサチにルルは優しく話し掛ける。

 

「君は死なないよ」

 

「なんでそんなことが言えるの?」

 

「黒猫団は十分強い。それに俺やテツオがいるし、サチは無理に前衛に出る必要も無いだろ? 君は死なない。このゲームがクリアされて、現実に帰るその日まで」

 

ルルのその言葉にサチは目を見開き、涙を一滴ながしながら頷いた。

 

その後宿に帰り、ルルがアイテムの整理をしているとサチがやっぱり眠れないからと訪ねてくきた。

ルルのベットで寝息を立てるサチを見ながらルルは今日言ったことを黒猫団のみんなと現実に戻るともう一度心に誓うのだった。

 

 

☆★☆★

 

 

その日、ケイタは貯まったコルを持ち、ギルドホームを購入するために始まりの町に出かけた。

その間にホームに置く家具などを買う金を稼ごうと迷宮区に行くことになる。

短時間で稼ぐため、いつもより上の団ジョンへ。

黒猫団のメンバーはルルの加入からの急なレベリングで調子にのっていた。

しかしルルは今朝《リズ》から届いたメッセージで頼まれた素材がその層で手に入るのと、Lv50の自分がいれば大丈夫だろうと思い、一つ上の迷宮区へ行くことに賛成した。

 

迷宮区に入ってしばらく、特に危ないと言うことも無く順調にコルが貯まっていった。

そろそろ帰ろうかと言っていたその時、ササマルが宝箱を見つける。ルルが攻略された迷宮区に宝箱があるのはおかしいと思い、呼びかけるが、多数決で3対2とあけることに決まり、宝箱を開ける事になった。

ルルはもっと強く止めておくべきだったと後悔する。

宝箱を開けた途端入り口が閉ざされ、警報が鳴り始める。

トラップだったのだ。

出口の閉ざされた部屋の中にゴブリンやゴーレムなどが次々にポップし始める

 

「罠だ! 転移結晶を使え‼︎」

 

ルルの声にそれぞれに青色のクリスタルを取り出し、行き先を唱える。

しかし、黒猫団のメンバーの体が転移光に包まれる事はなく、転移結晶は反応する気配が無い。

無情にもこのトラップは結晶無効化空間だったのである。

逃げる事が出来なくなった黒猫団のメンバーは全員必死に武器を振るうがモンスターは次々とポップしてくる

最初にササマルが剣を弾かれゴブリンたちの剣に貫かれた。

パリィという音とともにササマルの体はポリゴンとなって霧散する。

仲間の死は初めてだろう。

ダッカーは取り乱し、槍をブンブンとふりまわす。

しかしそれがいけなかった。

槍はテツオのメイスとぶつかり、2人の武器は弾け飛んでしまう。

武器をなくした2人はゴーレムの攻撃をただ受けるしかなかった。

2人の体がポリゴンになって霧散する。

その時、ルルは思い出していた。1層で救えなかったプレイヤーのことを

 

☆★☆★

 

1層、キリトと別れ、何日か過ぎたある日。

モンスターに苦戦しているプレーヤーを見つける。

ルルは曲刀ソードスキル《リーバー》を発動し、モンスターをポリゴンに変えるとプレイヤーに話しかける。

 

「危ないところだったな、自分の実力を踏み違えると死んじまうぜ?」

 

「そうだよね……僕にはまだ早すぎたみたいだ。あつかましいんだけど、前の町まで送ってくれないかな?」

 

「本当にあつかましいな。でもいいぜ、放っておいて死なれたら寝覚めが悪いしな」

 

ルルは苦笑しながら了承するとプレイヤーと2人町に向けて歩き始める。

プレイヤーの名前はシズク。

男だが、あの日までは女性プレイヤーとしてプレイしていたらしい。

しかもベータテスターだと言う。

ベータ時代の経験から次に向かおうとしたが、敵が強くなりすぎてやられそうになったそうだ。

そうは言ってもベータテスターである。

ルルのフォローもあり、2人は危なげなく町へと向かう。

目の前に町が見えてきたその時だった。

最後とばかり狼型のモンスターが10体ほどポップした。

普通に戦えば楽勝、すぐに町にたどり着けるはずだった。

 

どさりとルルの後ろから倒れる音が聞こえる。

 

ルルが後ろを振り向くと、シズクが倒れていた。

「おい、シズクなにしてんだ⁉︎」ルルが叫ぶが反応はない。

ポリゴンになっていないのだから死んだわけではないだろう。

しかし、目に光はなく、反応もない。

 

「クソッ‼︎」

 

ルルはシズクを守りながら戦うことを決め、シズクの周りに立ち、向かってくる狼型のモンスターを倒していく。

のこり4体になったとき、ルルは攻め急いでしまった。

目の前のモンスターを倒すがシズクとの間に少し距離が出来てしまう。

その隙を突いて残りのモンスターが倒れているシズクに群がる。

 

「やめろぉぉおお‼︎」

 

そう叫びながら群がるモンスターを排除しようとするが、無情にも中からパリィとガラスの割れるような音が聞こえてくる。

ルルは叫びながらモンスターをすべてポリゴンに変えた。

しかし、そこにシズクの姿はなかった。

 

「何なんだよ! 何なんだよいったい‼︎」

 

そう叫びながらルルはシズクのいた場所をなぐる。

その時、ルルの体もプツン。と糸の切れた人形のように体が崩れ落ちる。

もちろんルルの意識はなく、さっきのシズクのように目に光もなくなってしまっいる。

それから、どれくらい経っただろうか?

ルルの目に光が戻り、ムクリと起き上がる。

さっきのバトルでポップが枯渇したのだろうか? モンスターが出なかったのが幸いだった。

ルルは状況がつかめず、やり場の無い怒りを残しながらもとりあえず目の前の町へ入る。

町ではプレイヤー立ちが同じ状況に陥り不安を抱いていた。

後にこれはプレイヤー達を病院に移送させるため、回線が一旦途切れたのだろうと予想が立てられた。

しかしこの出来事はルルと言うプレイヤーの心に大きな傷を作った。

 

 

☆★☆★

 

 

もうあんなことはこりごりだ……

 

「守ると誓ったばかりなんだよ‼︎」

 

ルルは叫び刀を振りゴブリンやゴーレムをポリゴンに変えていく。

しかしその時、ルルの目の前でサチがゴブリンに後ろから切り裂かれる

 

「サチィィィィィ」

 

「ルル、○○○○○○○○○」

 

ルルは攻撃を背中に受けるが気にせず、夢中で左手を伸ばす。

しかし、その手が届く前にパリィという音とともにサチはポリゴンになって消える。

 

「うわぁぁぁぁあ‼︎」

 

ルルは叫びながら刀を振るい、モンスターを次々にポリゴンにかえる。

モンスターがいなくなり、出口が現れた時、静寂の中に立っているのはルルだけだった。

ルルは奥歯を噛み締め刀を鞘に納めると、ふらふらとした足取りで町へと向かった。

 

 

 

 




原作で、プレイヤーを運ぶ時の回線切断の話を聞いてこんなプレイヤーもいただろうな。と思いシズクの話を書きました。どうだったでしょうか?

明日も黒猫団のお話です。

この話と次の話を書きたいがためにキリト君の気持ちを軽くし、出番を奪ってしまったことをキリトファンの皆様にお詫びします。

ちゃんとキリト君の出番も作りますのでその時はルルとキリト君の絡みを楽しんでいただければと。

ではまた明日


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月夜の黒猫団2

さて、前回に引き続き黒猫団のお話ですお待ちかねの方もいてくださると信じています

                    それでは10話はじまります






「うーん、遅いわ。いつもならもう来てもいいはずなのに」

 

「一回落ち着いたら?」

 

「でもー」

 

「ルル君に会うために素材集め頼んでるんだもんねー。メッセージはとばしてみた?」

 

「そんなことないわよ! そ、そうよ! それにメッセージもかえってこないのよ」

 

「そんなに心配なら見に行けばいいんじゃない?」

 

「べ、別に心配ってわけじゃないんだけど……うん、それもそうね。アスナも付き合ってくれるんでしょ?」

 

「えー。でも今日は午前中に迷宮区も行ってきたし、いいよ。一緒に一緒にってあげる」

 

 

こうして《アスナ》と《リズベット》はルルを探しに出かけた。

 

 

☆★☆★

 

 

ここは8層のとあるカフェ。

テラスでケイタは黒猫団の帰りを待っていた。

そこにフラフラとふらつきながらルルが近づいてきた

 

「おかえり、ルル、どこに行ってたんだい? みんなは?」

 

「……すまない。……俺は……守れなかった……」

 

ケイタの問いにルルはかすれた声でこたえる。

 

「守れなかったって、どういう事だい? あ、わかったみんなで驚かそうとしてるんだろう? どこに隠れてるんだい?」

 

「……違うんだ……みんなで、ホームに置く家具を買って……ケイタを驚かせようって……だから短時間で稼ぐためにいつもより上の迷宮区に行ったんだ……そこで、トラップに引っ掛かって……すまない……守れなかった」

 

「嘘だろ……だって、じゃぁ、なんで、ルルは生きてるんだよ!」

 

「……俺は……攻略組だから。だから、みんなを守れると思ってたんだ……でも、モンスターのポップが異常で……結晶無効化空間で転移もできなくて…」

 

「嘘だろ……そんな……」

 

「ケイタ?」

 

仲間を失った事実とルルから知らされた真実にケイタはフラフラと歩き始める。

浮遊城の外延へと向かっていくケイタに嫌な予感がしてルルはケイタを追いかけた。

 

☆★☆★

 

ケイタを追いかけているルルを追跡スキルをつかって探していたリズとアスナはみつけた。

 

「あいつ、こんなところにいた」

 

「でも、なんかあったのかな?」

 

リズとアスナはそう話しながらルルたちを追いかけた。

 

☆★

 

浮遊城の外延まできたケイタは追いかけて来たルルに向かって叫んだ。

 

「攻略組のお前が、俺達に関わる資格なんてなかったんだ‼︎」

 

そう叫んで外延の手すりによじ登り浮遊城の外へと飛び降りようとしている。

それを見てルル、そして、追いかけてきたリズやアスナも止めようと駆け出す。

 

(そうだ、俺が俺の思い上がりがみんなを殺した。俺が自分のレベルを隠していなければ…でも……)

「もう俺の前で誰も死んでほしくないんだ‼︎」

 

ルルはそう叫び手すりから飛び降りたケイタに左手を伸ばす。

そして、ギリギリのところでケイタの手を掴み、ケイタは浮遊城の外で宙吊りの状態になった。

ケイタも飛び降りてから死の恐怖に駆られたのだろう。少しほっとした顔でルルの方を見上げている。

 

「ルル……」

 

しかしその時、パリィという音とともにルルの左腕がポリゴンとなり、霧散する。

ケイタは緩めた顔を絶望に染め、夕暮れ雲の中に消えていった。

 

「ケイタ…何でこんな時に…また…助けられなかった」

 

なぜ、こんな時に耐久値に限界が来たのだろう。

なぜ、俺の手はいつも届かないのだろう。

そんな事を考えながらルルは左肩を押さえうずくまった。

 

 

☆★☆★

 

 

「え? なんで?」

 

アスナは口を押さえて驚愕をあらわにする。

助かったと思ったのだ。飛び降りた時は焦った。

しかし、ルルが手を掴み、落ちずに助かったのだ。

 

なのに……次の瞬間にはルルの左腕はポリゴンに変わり、飛び降りたプレイヤーは落ちていってしまった。

アスナは考えるほどにパニックに陥る

 

「ルル、大丈夫⁉︎」

 

リズはルルに駈け寄る。

義手のことは知っていた。

だけど、こんな時に耐久値が切れるなんて想像もしていなかった。

リズは何度もルルに声をかけるが返事はない。

 

(とりあえず左手を隠さないと……)

「アスナ、ローブ持ってない?」

 

リズの呼びかけにアスナの思考が回復する。

 

「あ、ちょっと待って。持ってるから」

 

アスナは右手を振り、メニュー画面を開くとそのままアイテム画面を開きローブを取り出すとルルとリズのもとへ駆け寄る。

 

「ありがとう。ルル、ちょっと?これで左手隠しなさい。ぁあもう!隠せって言ってんでしょうが‼︎」

 

リズはそう言いながら反応のないルルに無理やりローブを着せる。

 

「…ここにいても仕方ないわね。私の借りてる家に移動しましょう。アスナ、手伝って」

 

「わかった」

 

そう言うとリズとアスナは両脇からルルを支え、リズの借りている家へと向かうのだった。

 

☆★☆★

 

 

「どう?」

 

「うん、眠ったみたい」

 

「そう。それであの左手のことなんだけど、何か知ってる?」

 

「やっぱそれよね、もう見られちゃったし……しょうがないわよね」

 

リズの言葉にアスナは頷いて姿勢を正した。

 

「ルルの左腕ね、リアルでは肩から先が義手らしいのよ」

 

「え?」とアスナが驚きの声を上げる。

 

「それでね、このゲームがデスゲームにかわったあの日。装備画面を確認したら左手が義手に変更されていたらしいの。ルルが言うには《ナーブギア》は人間の脊椎から電気信号をカット、そして読み込んでいるんだから、応用すれば人間の記憶も読み取ることができるんじゃないかって。それで私達の今の姿ができているならあの左手のことも説明できるらしいの」

 

「治すことはできないの? もちろんこっちの世界での話しだけど、部位欠損みたいに義手をはずして時間を置いてみたりとか、リズが義手を作ったりだとか」

 

「試したけど無理だったわ。部位欠損みたいに時間が経てば治るわけじゃなかったし、それに耐久値も回復できなかった。もちろん作ることも。」

 

「そう……」

 

「それに、なにもあんな時に耐久値が切れなくてもいいじゃない? あれじゃルルがかわいそすぎるよ……」

 

リズの目から涙が溢れ出す。

それを見てアスナは椅子から立ち上がりリズの横に移動すると何も言わずに抱き寄せる。

 

しばらく沈黙が続いた後、沈黙を破ったのはドアが開く音だった。




あとがき

皆さんまずは謝らなければなりません前回2つに分けたといっておきながら今回も分けてしまいました。すみません。

さて今作の主人公ルルを義手という設定で考え始めた時から暖めてきたケイタの死ですがどうだったでしょうか?


次回も21時に更新予定です。それではまた明日


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無くした左手

なんか、分けた割には微妙な気がする…短いですし、シリアス続きすぎか?





 

ここは?

 

少年は手をつないで歩いていた。

女性と少女と少年となかよく歩いていた。

ごく普通の一般家庭。

裕福ではないが幸せな家庭。

3人はいつもの公園に向かっていた。

 

公園の前、最後の信号。

少女は公園で手を振る友人を見て少年の《左手》を振りほどき飛び出してしまう。

信号は赤。

車道にはトラックが突っ込んできている。

運転手は驚き、ブレーキをかけるが車は急には止まれない。

女性は少女を追いかける。

少年は、置いて行かれるような気がして二人へと手を伸ばす。

女性は少女を助けるために少女を突き飛ばした。

少年の伸ばした手は女性には届かず、女性と共にその左手はトラックによって飛ばされる。

 

そこで少年の意識は途切れた。

 

その日、少年は《女性(母親)》と《左腕》を失った。

 

 

 

女性の声が聞こえる

 

「なんであの時妹の手をしっかり掴んでいなかったの?」

 

金髪にニット帽の剣士の声がきこえる

 

「なんであの時宝箱を開けるのを止めてくれなかったんだ!」

 

茶髪の棍使いの声が聞こえる

 

「なんで僕達に関わった? なんであの時、僕の手を離してしまったんだ?」

 

ボブカットの槍使いの少女の声が聞こえる

 

「なんであの時私達を助けてくれなかったの?」

 

 

 

 

 

 

 

「私は死なないって約束してくれたのに」

 

 

☆★☆★

 

 

はっと少年は目を覚ます。

 

「……痛ぇ」

 

《ペインアブソーバ》によって痛みがなくなったこの世界で失われた左腕に本物の痛みを感じる。

 

「はは、この世界でも幻肢痛は起こるんだな」

 

その時、少年はとなりの部屋に人の気配を感じる。

人の温もりにあたりたくて少年はドアを開けた。

 

☆★☆★

 

 

「ルル…もう大丈夫なの?」

 

部屋に入ったルルに初めに声をかけたのはアスナだった。

アスナの声に少し目を腫らしたリズが顔を上げる。

 

「ルル……」

 

「リズとアスナがここまでつれてきてくれたのか? すまなかったな」

 

アスナとリズにルルはお礼を言う。

だがやはり、いつものような元気はない。

 

「私達、最後しか見ていなくて……よかったら話してみない? 話したほうが少し楽になるかもしれないし、ね?」

 

アスナの言葉にルルは「……そうだな」と返事をしてさっきまでアスナが座っていたリズやアスナの対面の席に座る。

 

そして語り始める。

 

一層でシズクを守れなかったこと。

その過去を償う為に黒猫団に入ったこと。

黒猫団にはレベルを隠して入ったこと。

自分がレベルを隠していた、そのせいでトラップにはまったこと。

そこで自分以外が全滅したこと。

それをケイタに告げて「攻略組のお前が、俺達に関わる資格なんてなかったんだ」と言われたこと。

ケイタが飛び降り手を掴んだこと。

助けられなかったこと。

 

「そっか。一層の時にルルがキバオウさんに切れたのってシズクさんのことがあったからだったんだね」

 

アスナが話を聞いて話し、リズも話し出す。

 

「ケイタって人も酷すぎるよ。今まで一緒にやってきた仲間なのに……」

 

リズは目をこすりながら言う。

 

「いや、レベルを隠していた俺が悪かったんだ。俺が関わったりしなければ黒猫団は誰も死なずにすんだ。俺に関わったやつはみんな死んでいく。アスナもリズも、もう俺にかかわらないほうがいい……」

 

パンッと部屋に乾いた音が響いた。

ルルの言葉を聞いたリズが立ち上がりルルの頬を思い切り叩いたのだ。

 

「勝手に悲劇のヒーロー気取ってんじゃないわよ! 俺に関わらないほうがいい? ふざけないでよ!私は死なないわよ‼︎」

 

「リズ……」

 

「いいわ、もう少し広い家に引っ越す! いい? 毎日私のところに無事を報告に来なさい。そのときに武器のメンテナンスもしてあげるから」

 

「あ、あぁ…」

 

リズの剣幕にルルは了承してしまう。

 

「ぇーっと、それって一緒に住むってことよね?」

 

二人のやり取りにアスナが疑問を口にする。

その疑問にリズは顔を真っ赤にしながら答える。

 

「そうよ。で、でも部屋は別だし、変な事したら黒鉄宮にぶち込んでやるんだから」

 

こうなったリズはとまらないとアスナは苦笑いを浮かべ、ルルは少し表情が和らぐ。

こうしてリズとルルは同じ家に住む事になった。

 

 

ちなみに、ルルは攻略やクエストなどがあるため毎日家に戻るのではなく、帰れない時はメッセージで報告することにしてもらったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

ということでルルの義手の理由とリズと同居が決まる話でした。

どうだったでしょうか?わかりにくかったですかね?
今回の話は特に感想がほしい話でもあります。特に初めの部分。
よろしければお願いします。

ちなみに一緒に住むようにはなりましたが付き合ったり結婚した訳ではありません。

見てわかる?かな? リズはルルのことを好きになってますがルルはよくいる鈍感君です。
これからの2人も気になるところではありますよね


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追放者

今回の話は難産でした
しかも短い




浮遊城46層

 

パリィィ……部屋にガラスが割れたような音が木霊する。

 

 

攻略組は激戦の末、46層のボスを倒したのである。

しかし今回は死者が出てしまった。

それがある問題を起こしていた。

 

「お前、本気で戦ってなかったんじゃないのか?」

 

死んだプレイヤーの友達だったプレイヤーがルルに詰め寄る。

 

「そんなことぁねえだろうよ。一番攻撃に参加していたのはルルだしよ?」

 

「そうだ。あの時だってアタッカーのルルがタンクのかわりまでしてくれただろ?」

 

クラインとキリトが庇い、ルルに助けられたプレイヤーも「そうだ、あの時ルルがいなければ死んでいた」と同調する。

しかし友を亡くしたプレイヤーの勢いはとまらない。

 

「そいつ、初級のソードスキルしか使わなかったじゃないか。上級スキルを使ってたら誰も死ななかったかも知れない」

 

その言葉にところどころで「たしかに」「最近使ってるの見てないな」など聞こえてくる。

確かにルルは31層以降のボス戦で上級スキルを使っていない。

いや、使えないのだ。

 

今はローブで隠れているが、あの日、ルルは左手を失ってしまった。

刀ソードスキルは初級の《辻風》《浮舟》以外は抜刀系と呼ばれ初期モーションに左手で鞘を持たなければ発動しない。

ルルは使わないのではなく、使えないのだ。

このことを知っているのはこの中ではアスナだけである。

 

ルルは一番ボスにダメージを与えているし、35層、41層ではラストアタックも決めている。

プレイヤーは行き場のない怒りをルルにぶつけているだけなのだ。

ここである人物から声が上がる。

 

「少し落ち着きたまえ。とはいえ、ルル君が上級スキルを使っていないのも事実だ。ボスがダウンし、一斉に攻撃する時であってもだ。説明してもらえるかな?」

 

ボス戦の指揮を取っていた男、ヒースクリフがルルに質問する。

そこにアスナが「団長、ちょっと待ってください」と言いかけるが、ルルは「アスナ、いいんだ」とアスナに告げると語り始める。

 

「俺は31層から上級スキルを使っていない、使えなくなってしまったんだ」

 

ルルの声に周りから「どういう事だ?」などと聞こえてくる。

 

「クライン、刀の上級スキルはどうやって発動する?」

 

「そりゃ、お前、左手で鞘を持ってだな、刀を構えるんだろ?」

 

「そう、左手で鞘を持つんだ。俺は現実で義手だったんだ。そしてこの世界でも。31層で俺の左腕の耐久値は切れて……ポリゴンになって砕けちまった。だから上級スキルは使えないんだ」

 

ルルははおっていたローブを脱ぐ。

そして左の肩から先がないルルの姿が攻略組のプレイヤーにさらされる。

ほぼ全員が目を見開いて絶句している。

考えられなかったのだろう。

普段は冷静なヒースクリフまでも目を見開き絶句している。

そしてヒースクリフは残念だ、と言う顔をしながら。

 

「たしかに君は攻略組の中でもトップレイヤーだ。しかし、これからボス戦はもっと厳しい戦いになるだろう。その時、君のその姿、上級スキルが使えないことが命取りになるだろう。そんな君をボス戦に参加させることはできない」

 

ヒースクリフの言葉にルルは「そうか」と答えると攻略組のメンバーに「後は頼む」とだけ言い残し迷宮区を引き返す。

キリトやクライン、アスナが追いかけてきて何か言おうとするが言葉が出ないようだ。

 

「なに辛気臭い顔してんだよ。46層をクリアしたんだ。飯でも食いに行こうぜ?」

 

ルルの言葉にアスナが「じゃ、私が料理作るね」と言い、それを聞いたクラインが「マジですか、アスナさん」とテンションをあげる。

それを見たルルとキリトは苦笑している。

その後ささやかなホームパーティが開かれた。

その後呼ばれなかったリズベットをルルが必死でなだめたのは余談である。

 

 

 

この出来事を中途半端に聞いたプレイヤー達はルルのことをこう呼びはじめる

 

《追放者》

 

攻略組を追い出された臆病者だと。

 

 

 

 

 




あとがき

と言うことで012どうだったでしょうか?
まさかの主人公ルルの攻略組脱退です。
これからどうなってしまうんか。

それではまた次回013で。


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ビーストテイマーの少女

今回は長いです。
二つに分けようか悩みましたが、勢いでいっちゃいます。


浮遊城35層(最前線49層)

 

迷いの森。

ここで、一組のパーティが揉めていた。

 

「あんたはそのトカゲが回復してくれるんだから回復結晶は必要ないでしょ?」

 

「そう言うあなたこそ! ろくに前に出ないのに回復結晶が必要なんですか?」

 

「もちろんよ。おこちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに仲間が回復してくれるわけじゃないもの」

 

「な……」

 

青いトカゲ……もとい、小竜を頭に乗せている少女が《シリカ》

シリカと言い合っている赤い髪の女性が《ロザリア》である。

 

パーティの男達が「お、おい…」「二人とも…」などと仲裁にはいる。

しかしロザリアの言葉にシリカが切れた。

 

「わかりました! アイテムなんていりません。あんたとは絶対に組まない。あたしを欲しいってパーティは他にも山ほどあるんですからね!」

 

シリカはそう言うと右手を振りメニュー画面を開きパーティを脱退し、他の仲間が止めるのも無視して一人森の中へと消えていった。

 

☆★☆★

 

「はぁ、はぁ…」

 

シリカは後悔していた。

自分の力を過信した事を。

仲間に任せて地図を持っていなかったことを。

 

今彼女は猿人型のモンスターに囲まれ、HPを半分にまで減らしていた。

回復をしようとアイテムバッグを探る。

しかしバックの中にはポーションも回復結晶もなかった。

アイテムが無い事に木期間を覚え、シリカが気をそらした瞬間だった。

モンスターは武器を振りかぶり、シリカに向かって横薙ぎに振るう。

シリカは吹っ飛ばされ、近くの木にあたり、その下に転がる。

シリカのHPはぐんと削られ、レッドゾーンにまで減ってしまった。

さっき相棒の小竜《ピナ》が回復していてくれなかったら危なかっただろう。

 

シリカがナイフを手放していることに気づき、辺りを見回す。

その間にもモンスターは近づき、シリカをポリゴンへ変えようと武器を振り上げている。

 

だが、シリカにはあたらなかった。

 

ピナが間に割って入り、シリカを庇ったのだ。

ピナのHPがぐんぐんと減っていき、そして0になった。

 

「ピナ!」

 

シリカはモンスターのことも忘れ、ピナに近づき抱き上げた。

シリカが抱き上げた瞬間、硝子が割れるような音と共にピナはポリゴンとなって霧散してしまう。

近づくモンスターの声と足音に戦闘中であることを思い出し、振り向くがモンスターはすでに武器を振り上げていた。

もうダメだ。とシリカが目を閉じた時、一人の少年が通りかかった。

少年はその光景を見て自分の使える2つのソードスキルの内の1つ《辻風》を即座に発動する。

少年の体はシステムによって加速し、モンスターとシリカの間に割っては入ると、モンスター達を一度にポリゴンに変えた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

黒いローブを纏った少年がシリカに声をかける。

しかしそれが耳に入ら無い程に動揺しているのか、シリカはピナがいた場所に残る羽を抱きかかえ、うずくまってしまう。

 

「ピナ、私を1人にしないいでよぉ……」

 

「その羽は?」

 

「ピナです。私の…大切な」

 

シリカの言葉を聞いた少年は自分の過去と重ね、表情を暗くする。

 

「すまない。俺がもっと早く来ていれば君の友達を助けられたのに」

 

「私が悪いんです、一人で森を抜けられるなんて思い上がってたから…ありがとうございます、助けてくれて」

 

シリカの返事にますます自分と重ねてしまう。

その時少年は最近使い魔の復活アイテムが発見されたことを思い出す。

 

「その羽、アイテム名はあるか?」

 

シリカが羽をタップすると羽に《ピナの心》と言うアイテム名が浮かびあがる。

それを見てシリカは涙ぐむが、少年が「泣かないで」と声をかける。

 

「ピナの心が残っていれば、まだ可能性はある。47層に思い出の丘って言うフィールドダンジョンがある。そこで最近《使い魔蘇生用のアイテム》が発見されたんだ。俺が取りに行って来てもいいんだけど、主人が行かないとアイテムが入手できないらしい」

 

「いえ、情報だけでもありがとうございます。レベルを上げていつかは…」

 

しかし次に少年の口から出た「蘇生できるのは3日までなんだ」その言葉にシリカは一度明るくした表情をまた沈ませてしまった。

そのときシリカの目の前にトレードウィンドウが出現する。

表示されたのは《イーボンダガー》《シルバースレッドアーマー》《ムーンブレザー》《フェアリーブーツ》

どれもシリカの装備品よりも強力なものだ。

 

「この装備で5、6レベルは底上げできる。あとは俺が付いていけば何とかなるさ」

 

少年の言葉にシリカは「なんで、そこまでしてくれるんですか?」そう尋ねる。

 

「何で、か……

前に、俺も大事な仲間を失った。俺の時は助けられなかった。だけど君の相棒は助かるだろう? それだけだ」

 

悲しそうな顔で答える少年にシリカは聞いてはいけ無い事を聞いたと謝る。

それから気まずくなるのが嫌で、さっきのトレードのお金を払おうとするが断られてしまった。

 

「いいさ、俺が来た理由にも被ってるしな、それに、変な話を聞かせたしな」

 

「そうですか? あたし、シリカって言います」

 

苦笑いを浮かべる少年に右手を差し出す。

 

「ルルだ。少しの間、よろしくな」

 

そういってシリカとルルは握手をかわした。

 

☆★☆★

 

町に帰ってきたルルとシリカは大通りを歩いていた。

するとシリカに2人のプレイヤーが話しかけてきた。

ルルは別にとがめる理由もないので、今の内にリズにメッセージでもとばしておくか。と右手を振りメッセージを打ち始める。

横ではシリカが「今度パーティくもうよ」「好きなところに連れてってあげるよ」など誘われている。

メッセージを送り終わり、右手を下ろした時「お話はありがたいんですけど、しばらくはこの人とパーティを組む事にしたので」そういって右手に抱きつくシリカを見て2人のプレイヤーがルルを睨むが「ン?」とルルが2人を見ると「すみませんでしたー」と言って走り去っていった。

そうルルは目つきが悪いのである。

 

「ははは……すいません迷惑かけて」

 

「人気者なんだな」

 

「まぁ竜使いシリカっていったらこの辺じゃ有名ですし」

 

「へぇ(まぁ、今は竜使いじゃないけどな)」

 

ルルがそんなことを考えているとは知らず、シリカは自分で有名だと思っていたのに知らないルルに少し鼻を折られて、苦笑しながら「ご飯でも食べましょう、チーズケーキがおいしいとこ知ってるんです」と話題を変える。

それに対しルルはクツクツと笑いながら「それはデザートだろ」と返し、2人は飯屋へ向かうのだった。

 

☆★☆★

 

二人はご飯を食べ終え、デザートにチーズケーキを待っている所だ。

するとあるパーティが通りかかった。

 

「あぁら、シリカじゃない? あんた脱出できたんだ。よかったわねぇ」

 

「ロザリアさん……」

 

「あれぇ? あのトカゲどこ言ったの? まさかぁ」

 

「ピナは死にました。でも、必ず生き返らせます!」

 

「へぇ、じゃぁ思い出の丘に行くんだぁ。でもあんたなんかに攻略できるのぉ?」

 

ロザリアにイラッとしたルルは「できるさ。簡単なクエストだ」そう口を挟む

ロザリアはルルを値踏みするように見なが話し出した。

 

「あんたもその子にたらしこまれたくち? みたとこそんなに強そうじゃないけど…まあいいわ。せいぜいがんばってねぇ」

 

そう言うとパーティをつれて奥の席へと消えていった。

 

「何であんないじわる言うのかな…」

 

「まぁゲームだからな、性格を変えて、演じてプレイするヤツは沢山いる。中には悪人を演じる奴らもいるさ。俺達のカーソルは緑だろ?、犯罪を犯すとこれがオレンジに変わるんだ。強盗なんかならまだいい。いや、よくはないんだが、だけど殺人をする奴らもいる。このゲームは遊びじゃないのに」

 

シリカの口から漏れた疑問にルルは大体の予想を語る。その言葉にどこか怒りが混ざっているような気がしてシリカがルルに喋りかけたところでウェイターがケーキを持ってくる。

ルルは話題を変えるため「これがお勧めのケーキか?」と尋ねた。

それを聞いたシリカは「そうなんです。ここのチーズケーキは超濃厚なんですよ」など話だし、2人は会話に花を咲かせた。

 

☆★☆★

 

その夜、シリカが部屋で考え事をしていると、コンコンとノックする音が聞こえた。

返事をするとどうやらルルが明日の事を話しに来たようだ。

シリカは急いで着替え、ドアを開ける。

すると、見た感じ刀ははずしているみたいだが、ローブを纏ったルルが立っていた。

ローブ脱がないのかな?と思いながら部屋に招き入れる。

ルルは部屋に入ると机の上にあるアイテムをセットする。

《ミラージュ・スフィア》

行ったことのある場所を記憶しておけるアイテムだ。

それを使って明日のことを話しているとドアのほうから音がした。

ルルがドアを開けると去っていく人影が見える。

どいやら盗み聞きされていたようだ。

それを聞いたシリカが驚いているのも無理はない。

 

<聞き耳スキル>

このスキルは普通、隔離され、ノックするか部屋の主の許可のあるプレイヤーにしか聞こえない部屋の中の声をドアに耳を当てることで聞くことができるようになるスキルだ。

 

今のSAOの状況でこんなスキルを持って入りらヤツはろくなヤツじゃないだろう。

それをシリカに説明すると、シリカは少しおびえたような顔をする。「ルルは大丈夫だよ」と頭お撫で、さっきの続きを話し始める。

シリカはその途中で寝てしまい、ルルが外に出ると鍵が開いたままになってしまうのでルルは仕方なく椅子で寝るはめになったのだった。

 

☆★☆★

 

翌朝、シリカが起きると椅子で寝ているルルを発見し、同じ部屋で寝たと言う事実に顔を真っ赤にしながらルルに枕を投げつけると言うハプニングはあったものの、2人は無事47層、思い出の丘にいた。

 

「うわぁ、綺麗!」

 

シリカが感動の声を上げる。

ここはSAOでは珍しい花に囲まれたフィールドなのだ。

シリカは周りのプレイヤーがカップルばっかりなのに気づくと、顔を赤くしルルを呼ぶが、当のルルはダンジョンのほうに進んでしまっている。

ルルの「おーい、早く来ないとおいて行くぞ」と言う言葉にさらに顔を赤くし、小走りで追いかけていくシリカだった。

 

 

あれから、ルルはモンスターに何発か攻撃を与え、HPを削るとシリカに止めを刺せ、シリカの経験値を稼ぐと言った戦い方をしていた。

はじめはシリカが怖がって植物型のモンスターに足をとられ、すこしエッチィ格好になったりもしていた。

「助けてくださいぃ!」スカートお押さえながらそう言うシリカにルルはクツクツと笑いながら「そいつ弱いからのこりは一人で倒せ」などといい見守っていたのだが……

それはともかく、2人は無事に祭壇にたどり着き、《プネウマの花》を手に入れた。

ルルが「ここで蘇らせるのもあれだから帰ってからな」と言うとシリカは元気よく「ハイッ」と返事をし、2人は帰路をたどる。

 

 

もうすぐ転移門。

その前の橋を渡ろうとしたその時、ルルは元気よく前を歩いていたシリカの襟をグイッと掴んだ。

いきなりの事に咳き込みながらジト目で返すシリカに、ルルは「ここからは俺の用事だ。」と言って前に出た。

その時のルルの真剣な表情にシリカがキュンとしてしまったのは内緒である。

 

「そこに隠れてるヤツでてこいよ!」

 

ルルがそう言うと木の陰から赤い髪の女性プレイヤーが姿を現した。

そう、ロザリアである。

「なんで、ロザリアさん?」と疑問を口にするシリカに向けてポイッと転移結晶を投げると、ルルはシリカに「それを持って後ろにいな」と声をかける。

そしてルルはロザリアと話し始める。

 

「あら、剣士さんよくわかったわねぇ。でも、その様子だと守備よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでとう。じゃぁ早速花を渡してちょうだい?」

 

「な、何を言って___」

 

「そうはいかねえよ、ロザリアさん」

 

シリカが言いかけたところでルルが言葉を被せる

 

「いや、オレンジギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん、か?」

 

「でもロザリアさんはグリーン……」

 

「ロザリアはな。周りにオレンジが隠れてるぜ? グリーンのロザリアが獲物をおびき寄せるのさ。昨日の盗み聞き野郎もあんたの仲間だな?」

 

「じゃぁ今まで一緒のパーティにいたのは…」

 

シリカは想像して顔を青くする

 

「そぅよ。戦力を確認してお金がたまるのを待ってたのぉ」

 

そう言いながらロザリアは唇を舐める。

 

「でも、一番楽しみにしてたあんたがいなくなっちゃってぇ、残念だったけど……そしたら、シリカちゃんったらレアアイテムを取りに行くって言うじゃない? でも、そこまでわかっててその子に付き合うなんてあんたバカぁ? それともほんとにその子にたらし込まれちゃったの?」

 

ロザリアはルルを哀れむような目で見る。

 

「いや、どっちでもねえさ。俺もあんたをさがしてんだからな!」

 

「どぅ言うことかしら?」

 

ロザリアはルルに疑問をぶつける。

 

「あんた、《シルバー・フラグス》ってギルド覚えてるか? あんた等が潰したギルドさ。生き残ったヤツが最前線にまで来てさ、泣きながら仇討ちしてくれるヤツを探してたのさ。

あいつは俺にこういったんだ、殺してくれじゃなく牢獄にいれてくれってな。 あんたにあいつの気持ちがわかるか?」

 

ロザリアは詰まらなさそうに髪をいじりながら

 

「わかんないわよ。マジになっちゃって馬鹿じゃない? この世界で死んだって本当に死ぬ証拠なんてないしぃ、それより自分達の心配をしたほうがいいんじゃない?」

 

そういって指をパチンと鳴らすと、木の陰から《タイタンズハンド》のメンバーが8人現れる

 

「逃げましょう」そう叫ぶシリカの頭をポンポンとたたきながらルルは「ちょっとまってな」と言って前にでる。

 

「今回は俺の番だよな?」そう言って薄ら笑いを浮かべた斧使いのプレイヤーがルルに切りかかる。

 

「ルルさん」シリカは叫ぶがルルはよける様子もない。

ルルは何回か斧を食らうが

 

「きかねえよ、クソ虫がァ‼︎」ルルはそう叫び斧使いの腹に蹴りをあびせ、元いた場所まで吹っ飛ばす。

ルルは切れていた。

《死の証拠がない》死んでいったプレイヤー達をそんな言葉で片づけてしまうロザリアに切れていた。

その時、ルルのローブの耐久値が切れ、ルルの左腕があらわになる。

その左腕を見た《タイタンズハンド》の1人が目を見開いて叫ぶ。

 

「あいつ、もしかして《追放者》じゃないのか? 片腕の刀使い。間違いない。《追放者》ルルだ。」

 

シリカも聞いたことがある。元攻略組トッププレイヤーでありながら、片腕を失い、攻略組を追放されたプレイヤー。

 

それを聞いてびびるメンバーにロザリアは慌てるメンバーをなだめるように話す。

 

「どうせ、攻略組から逃げ出した奴だろう? 囲んじまえば大丈夫さ。おら、とっとと始末して」

 

それを聞いた《タイタンズハンド》のメンバーは全員でルルに攻撃するがダメージはない。

いや、シリカがよく見ていると少し減っては増え少し減っては増え。を繰り返し、減っていないようにみえるのだ。

 

「…スゴイ」シリカがつぶやいたその時、ルルは行動を起こした。

相手はオレンジプレイヤー攻撃したところでルルのカーソルの色は変わらない。

ルルは殴り、蹴り、《タイタンズハンド》をロザリアの元に送り返す。

吹っ飛んだメンバーは全員HPバーがぐんぐん減っていき、レッドに変わる。

 

「阿呆のクソ虫どもが何人束になってこようと、結果は同じなんだよ!」

 

ルルがそう言って近づいていくと、ロザリアは「ひっ!」と声を上げ、震え後ずさりながら説得しようとする。

 

「私はグリーンなんだ。傷つければあんたがオレンジに」

 

「うるせえよクソ虫。俺はギルドに属していなければ、もう攻略組でもない。オレンジになってもカルマ回復クエストを受ければ何の問題もないんだよ。

そういえばここで殺しても向こうで死ぬ証拠はないんだったか? 死んでみるか? クソ虫‼︎」

 

ルルの言葉にロザリアは腰を抜かしてしまう。

 

「まァ、依頼は牢獄にぶち込んで欲しいっていってたしなァ。これを使ってお前らが進んで黒鉄宮に行くんなら見逃してやる。」

 

そう言ってルルは回廊結晶を放り投げる。

《タイタンズハンド》のメンバーはルルの言葉に一斉に首を縦に振ると、あわてて回廊結晶を拾い上げ中に消えていった。

残ったシリカとルルの間に沈黙が続く。

 

「シリカ、わ」「あの、ルルさ」

 

二人の言葉が被ってしまった。

シリカがクスクスと笑い出す。

ルルは苦笑を浮かべながら「悪かったな。怖い思いさせて。」と話す。

それを聞いたシリカは「怒ったルルさんはとっても怖かったです。」と返し、その言葉にルルは顔が引きつり、それを見たシリカが笑い出す。

それを見て、ルルも笑い出し、2人は転移門へと向かっていく。

 

転移門につき、またご飯でも食べようとシリカが誘う。

フレンド登録をおこない、2人は別々の層に向かう。

ルルはボス戦には参加せずともこのゲームを少しでも早く攻略できるように49層迷宮区のマッピングに。

 

シリカはピナを蘇らせるために自分のホームがある8層に。

 

☆★☆★

 

 

シリカの部屋、蘇ったピナにシリカは今までのことを教えてあげる。

目つきの悪いプレイヤーのことを。

少し意地悪なプレイヤーのことを

やさしく頭をなでてくれるプレイヤーのことを

片腕の切れると怖いプレイヤーのことを

 

自分のたった一日だけのお兄ちゃんの話を

 

 

 




あとがき


あれ?シリカにフラグが立った?
それにしてもキー坊が空気に…

キー坊ファンの方々、すみません。

後この話のあと。ストックがありません。なるだけ毎日21時をがんばりますが、遅れた時はごめんなさい。


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リズベット武具店

短いですが、間に合いました。


浮遊城48層(最前線50層)

 

 

《リンダース》そこらじゅうに水車があるのどかな町。

そこで、1人の少女が少年を待っていた。

少女の名前は《リズベット》

腕を組み、同じ場所を行ったり来たり。

 

それほど少年が待ち遠しいのか?

 

そう、待ち遠しいのである。

この町を気に入ったリズは、この町に自分の店を開くことを決めたのだ。

今までのように店舗だけの店ではなく、立派な鍛冶場が付いた店を。

 

しかし問題があった。

資金の問題である。

ここは最前線近くの48層。

しかもそれなりに大きな店。

自分の持ち金は160万コル。狙っている店は400万コルもするのである。

 

そこで、リズは考え、ひらめいた。

 

一緒に住んでいる少年に出してもらおうと。

 

「まぁ、あいつも一緒に住むわけだし、武器や防具のメンテナンスを当分安くしてあげればいいわよね」

 

そんなことを呟きつつ少女は待つ。

まだか、まだかと。行ったり来たり。

 

「悪い、遅くなった」

 

「いいわよ別に」

 

「それで? 何なんだよ、大事な用事って?」

 

「引っ越すわよ!」

 

「は?」と少年は間抜けな声を上げてしまう。

それもそうだろう。主語も述語もなにもないのだから

 

「どういう事だよ? 焦らずにちゃんと言ってみろって」

 

「この町に店をだすわ。今までみたいなやつじゃなく本格的なのを」

 

少年はすごいじゃないかと関心する。自分の店を持つと豪語していたリズがついに自分の店、しかも本格的にと言うことは鍛冶場が付いている店だろう。

しかし

少年はしらない。

なぜ自分が呼び出されたのかを。

これからリズの口から出る言葉を。

 

「だけどそれにはちょっとお金がたりないのよ。ルル、あんたも住むんだし、ちょっと出してくれない?」

 

少年、ルルは鋭い目を細めてこう尋ねる。

 

「まあ、それはいいけどよ。いったいいくら足りないんだ?」

 

リズは満面の笑みで左手の指を2本右手の指を4本あげ、ルルに見せる。

 

「24万コルか、わかった」

 

「違うわよ。240万コルよ」

 

ピシッそんな音が聞こえた気がした。

 

「240万コルってちょっとじゃないだろ! 俺のほぼ全財産じゃないか‼︎」

 

「足りないんだもんしょうがないじゃない! これからのメンテ代安くするから」

 

おねがい、とリズは両手を手のひらで合わせる。

 

「……はぁ。 メンテ代の前払いだ。これからはタダな。それと今度、今までで一番の刀を作ってくれ」

 

「まぁ仕方ないわね。妥協してあげるわ」とリズはルルの言葉に満面の笑みを浮かべるとルルの手を引き歩き出す。

 

こうして48層に《リズベット武具店》は誕生した。

 




あとがき

いや、短すぎてすみません。


ではまた次回。


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メリークリスマス

浮遊城49層(最前線50層)

 

 

ルルはベンチに座ってアイテムの整理をしていた。

そこに一人のプレイヤーが近づいてくる。

顔にねずみの髭のペイントのあるフードのプレイヤー。

情報屋《鼠のアルゴ》である。

 

「おー、ルルっち、いい情報もって来タゼ」

 

「アルゴか。どんな情報だ? レアアイテムの情報なら買うぜ」

 

ルルは画面をとじて笑いながらアルゴを見る。

 

「レアアイテムカ? 今話題なのはクリスマスイベの情報ダナ」

 

「クリスマスイベ?」

 

「そうダ。クリスマスにイベントボス《背教者ニコラス》が現れテ、あるアイテムをドロップするンダ。おっと、こっからは有料ダ」

 

「いくらだよ?」

 

アルゴの「2万ダナ」の言葉にルルは頷く。

 

「《背教者ニコラス》からドロップするのはこのSAOではあり得ないアイテム、《死者蘇生アイテム》ダ」

 

その言葉にルルは目お見開き、アルゴに詰め寄る。

 

「そいつはどこにいる?どこだ‼︎」

 

殺気立つルルをアルゴは「落ち着ケ、ルルっち。」となだめるが、ルルは止まらない。

ルルは思い出していたのだ。

かつて自分か属したギルドのことを。

そこにいた少女のことを。

聞き取れなかった最後の言葉を。

 

「コレ以上はまだわかってないンダ。クリスマス・イヴに現れるってことしカ」

 

それを聞いたルルは立ち上がると歩いていく「新しい情報が入ったら最優先で頼む」と言い残して。

 

☆★☆★

 

あれから一週間、12月24日。

あの後、ルルは情報を求め駆けずり回った。

アルゴからの追加情報はどこかのモミの木の下に《背教者ニコラス》は現れると言う。

ルルは辺りをつけていた。

35層迷いの森のワンフロア。

地図を見て進むと絶対に通らない場所に一本、大きなモミの木がある。

そこではないかと。

周りでは41層にあるモミの木の林に現れるのではないか? 1層のはずれにある一本のモミの木では? と言われているがルルは違うと読んでいた。

 

「ルルっち。いい情報があったら買うヨ? なんかないカ?」

 

「ないね」ルルはそう言いながら手をひらひらと振り町を出て行った。

 

☆★☆★

 

ここは《風林火山》のギルドホーム。

 

「ルルのやつがよ、最近異常なまでにレべリングしてるのを見たんだけどやっぱあれだよな?」

 

「ああ。クリスマスイベだろう? この前それとなく聞いてみたけど無視された」

 

「あいつはギルドを全滅させちまってるからなぁ」

 

「あぁ、たぶん縋りたいんだろう。わずかな希望に……」

 

「助けてやんねえとな。」

 

クラインとキリト、《風林火山》のメンバーは頷き、ホームを後にする。

 

 

☆★☆★

 

 

[血盟騎士団は26層にあるフィールドダンジョンの山の上にあるモミの木に決まったわ。ルルに会ったらフォローするね]

 

アスナからのメッセージにリズは願うことしかできない自分を攻めながら、それでも願い、待ち続ける。

 

「この1週間連絡もしないで、帰ってきたらとっちめてやるんだから」

 

強がりながら、顔の前で組んだ掌にぎゅっと力を込めた。

 

 

☆★☆★

 

 

23時30分、迷いの森。

積もった雪をザクザクと踏みしめながらルルは歩いていた。

 

「後30分か…ん?」

 

後ろから《風林火山》とキリトが現れる。

 

「つけてきたのか?」そう言い、進もうとするルルにクラインは呼びかける。

 

「待て、ルル! 俺達も手伝うさ、イベントボスがどれだけの強さかわからない以上、メンバーは多いほうがいいだろ?」

 

クラインの呼びかけにルルは曇った目をむけ、必要無いと返事を返す。

 

「それじゃ意味ないんだよ。これは俺の罪なんだから……邪魔をするなら……」

 

そう言ってルルは刀に手をかける。

そこにもう一組《青竜連合》が現れる。

 

ククク、そうルルは笑うと「お前らもつけられてたんじゃないか」そう話すと《青竜連合》の一人が喋りだす。

 

「ニコラスは俺達が倒す。通さないなら……仕方ないよな?」

 

そういうと全員が武器を構える。

 

「くそ、ルルおまえは行け!」

 

そう言うクラインには剣が迫っている。

キリトはコレを弾き、ソードスキルを発動する

《バーチカル》

システムによって加速された剣は聖竜連合の一人の剣を弾き飛ばす。

 

「クライン余所見するな! ルル、行って来い。その代わり、生きて帰って来いよ」

 

キリトのその言葉を背にルルは次のフロアへと消えていった。

 

「さて、これで通すわけには行かなくなったんだが、お互いオレンジになるのは嫌だろう? デュエルで勝負をつけないか? 初撃決着で、どうだ?」

 

この提案に聖竜連合の隊長はコクンと頷く。

全員総当りのデュエル。1人ずつ戦い勝ち進み最後に残っていたほうが勝ち。

 

《聖竜連合》vs《風林火山》+キリトの戦いが始まった。

 

 

☆★☆★

 

 

ルルは1人モミの木の前にやってくる。時刻は23時59分

 

……00時00分

 

シャンシャンシャンと鈴の音が聞こえてくる。

空にソリに乗ったサンタ《背教者ニコラス》があらわれた。

ニコラスはそりから飛び降りるとモミの木の下に着地する。

そして《背教者ニコラス》戦がはじまる。

 

ルルは刀を抜くと雄たけびを上げ切りかかる。

しかしニコラスは右腕でガードすると左手でルルを殴り飛ばす。

ルルは木にぶつかり咳き込み、HPは2割も減少してしまう。

それでもルルは立ち向かう。

かつて自分が守れなかった人を思いだしながら。

 

サチ…あの時、キミは最後になんていったんだ?

「死なないって言ったのに」「嘘つき」「助けて」色々な言葉が浮かんでくる。

 

ニコラスの右腕をサイドステップでよけつつ、刀を振るう。

一撃入れるがHPはそれほど減っていない。

連撃を入れようとするがニコラスの左腕が横薙ぎに振るわれる。

 

「クソが!」

 

ルルはバックステップでかわすが掠ってしまい体勢を崩される。

そこに右手が振ってきた。

ルルのHPは半分を切る。

ルルは回復結晶を使いHPを回復するとまたニコラスに向かっていく。

なんとなくパターンもつかめてきた。

 

ニコラスとルルの攻防は続く。

 

ニコラスのHPがあと一本になった。

ルルは回復結晶を使いきり、ポーションも後1つである。

ここで、ニコラスが動きを変えた。持って来た袋をあさり、片手剣を取り出す。

狂った瞳がルルを移すと剣が光りだす《バーチカル・スクエア》片手剣4連撃ソードスキルである。

ルルは転がってなんとか回避する。

前に飲んだポーションによりHPは徐々に回復しているが、HPは4分の3あたり、今4連撃なんて食らえばHPはなくなるだろう。

<それもいいか?みんなのところにいけるなら。>ルルは薄ら笑いを浮かべるとノックバックの起こったニコラスに《辻風》を叩き込む。

ノックバックは初級スキルのルルのほうが解けるのが早い。

ソードスキルを使わずに2、3、4と攻撃を加えていく。

ニコラスのノックバックが解け、剣が振るわれた。

ルルはバックステップで躱し。

攻撃を続けようと前に出る。

 

しかしニコラスの反対の手が目の前に迫っていた。

 

ルルは飛ばされHPはイエローに突入する。

ルルはポーションを飲み、HPがか回復するまで避け続ける。

HPが4分の3まで回復すると反撃に出る。

ついにニコラスのHPはレッドゾーンに突入する。

そこでニコラスはまたもやソードスキルを発動する。

片手剣3連撃《ヴォーバル・ストライク》

2撃目まで避けたルルだが、避けた方向がまずかった。

ニコラスに追い詰められていたのだろうか? 最後の一撃、避けられる方向に木があり避けられないのである。

最後の一撃をもろに受け、吹っ飛ばされたルルのHPは全回だったにも関わらずレッドゾーンにまで突入してしまう。

ポーションももう切れた。

ルルはもう無理だ。黒猫団のみんなの所に行くのかと諦めて目をつぶる。

ニコラスは剣を振り上げ近づいてきている。

 

目をつぶったルルの目の前に1人の少女が浮かんでくる。

 

ピンク色の髪の少女。

笑って手を振り、自分を呼んでいる少女《リズベット》

 

「……なんだ、まだ死ねないじゃないか」

 

ルルの目が開く。

そこにはさっきまでのような暗く曇った瞳ではなく、光を宿した、いつもよりも鋭い瞳があった。

ニコラスの剣はもう振り下ろされている。

普通なら間に合わない。

しかし、ルルは諦めなかった。

バックステップやサイドステップで避けるのではない。

剣の下を潜り抜けた。刀を剣に当て、滑らすことで、ダメージを抑えた。

剣の下を潜り抜けたとき、ルルのHPは数ドット。

刀は折れてしまっていた。

 

「うぉぉぉぉお」

 

ルルは刀を放し、体術スキル《閃打》を発動する。

拳はニコラスに突き刺さるとHPを0にする。

 

パリィ

 

ガラスの割れたような音が響き渡り、ニコラスはポリゴンと化す。

そして、その中からひとつのアイテムが現れた。

 

《還魂の聖晶石》

 

 

(サチ……)

ルルは《還魂の聖晶石》をタップする。

 

《還魂の聖晶石》

[このアイテムはプレイヤーが死亡してから10秒以内に使用することで死亡したプレイヤーを生き返らせることができる。]

 

(ハハハ…10秒以内かよ。俺達が死んでから脳を焼くまでのラグが10秒。それまでに使えってか? これじゃ、みんなの死を証明しただけじゃないか……)

 

ガンッ

 

ルルは近くの木を殴りつけると来た道を引き返した。

 

 

☆★☆★

 

 

「ハァハァ…」

 

風林火山の面々は大の字になって寝転がり、キリトも肩で息をしながら立っていた。

 

「しっかし、最後に負けるなんてな。俺がいなかったら負けてたぞ?」

 

「ウルセー、こちとら連戦だったんだよ」

 

そんなことを言いながらもキリトとクラインは笑い会っている。

そこに、ルルが戻ってきた。

 

「おぅルル、蘇生アイテムは取れたのかよ?」

 

クラインのその言葉にルルはクラインに《還魂の聖晶石》を投げる。

クラインはそれをタップすると顔色を変える。

 

「おい、コレって…」

 

「俺たちは死んでから10秒で脳を焼かれて死ぬらしい。それまでならそのアイテムで生き返らせられる。それ以上…現実で死んだ人間は生き返らない」

 

ルルの言葉にその場にいる全員がなにも言えなくなる。

ルルがキリトに「回復結晶くれないか?」と結晶をもらい回復する。

じゃぁな。と手をヒラヒラと振り去っていくルルにクラインもキリトも《風林火山》のメンバーも誰も声がかけられなかった。

 

☆★☆★

 

48層

 

リンダースにある《リズベット武具店》

 

リズは机に肘を突き、祈っていた。

ルルが無事でありますようにと。

アスナからのメッセージはルルとは会わなかったと言うもの。

それだけなら問題ない《血盟騎士団》が《背教者ニコラス》と戦ったのなら。

しかし、《血盟騎士団》はニコラスとは出会わなかった。

そのことがリズを不安にさせる。

 

その時、ドアが開いた。

 

そこにはルルが立っていた。

リズはガンッと椅子を倒しながら立ち上がるとリズはルルに抱きつく。

突然のことにルルは驚くが、鼻で溜息をつくとリズの頭をなでる。

 

(やっぱり生きて帰ってきてよかった)

「悪い、刀が折れちまった。また作ってくれないか?」

 

ルルの言葉に「どんな戦い方すれば1日で耐久値が切れるのよ。」リズは泣きながらも笑顔を浮かべる

 

「今あるインゴットじゃ約束のは作れないから、それでも前のヤツよりはいいのを作ってあげるわ」

 

「あぁ、頼む」

 

二人は笑いあう

そこに、ルルへアイテムが届く。

差出人は…《サチ》からだ。

アイテムはメッセージを録音しておけるアイテムだった。

リズは「向こうに言ってるね。」というが、ルルは「一緒に聞いてくれないか。」と引き止める。

2人は並んで椅子に座り、メッセージが再生される。

 

『メリークリスマス、ルル。

 

君がコレを聞いている時、私はもう死んでいると思います。

えっと、何から言えばいいのかな?

私ね、ホントは始まりの町から出たくなかったの。

でも、そんな気持ちで戦っていたら、きっといつか死んでしまうよね?

それは誰のせいでもない、私本人の問題なんです。

ルルはあの夜から不安になった私に「サチは絶対死なない」って言ってくれたよね。

だから、もし私が死んだら、ルルは凄く自分を責めるでしょう。

だから、これを録音することにしました。

 

あとね、私、ルルがどれだけ強いか知ってるんだよ。

前にね、偶然覗いちゃったの。

ルルが本当のレベルを隠して私達と戦ってくれるのかは、一生懸命考えたんだけど、よくわかりませんでした。

でもね、私、キミがすっごく強いんだって知った時、うれしかった。すごく、安心できたの。

だから、私が死んでも、ルルはがんばって生きてね。

生きてこの世界の最後を見届けて、この世界が生まれた意味、私みたいな弱虫がここに来ちゃった意味、そして、君と私が出会った意味を見つけてください。

 

それが、私の願いです。

 

 

大分時間あまっちゃったね?じゃぁ折角クリスマスだし歌を歌うね。

 

♪~~~~~(赤鼻のトナカイ)~~~~~~♪

 

じゃあね、ルル。

君とあえて、一緒にいられて、本当によかった。

 

ありがとう。

 

さよなら。』

 

 

 

ルルの目から涙があふれ頬を伝う。

リズベットも涙を流しながら、ルルを抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………サチ

 

 

…………俺は生きるよ。

 

 

…………君と出会った意味を探すために。

 

 

…………それに守りたい物があるから。

 

 

 




あとがき

赤鼻のトナカイ終了です。

黒猫団の話もコレで終わりですね。

次はどんな話になるでしょう?
オリキャラでも考えてみようかな?


それではまた次回。


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ユニークスキル

皆さんおまたせしました。2日ぶりの投稿です。

楽しんでいただければ幸いです。
では、どうぞ。


浮遊城?????

 

黒髪に金髪のグラデーションの少年《ルル》は奇妙な場所にいた。

黄昏時、周りは夕日に包まれ、自分はというと【空に立ち、浮遊城見下ろしている】のだ。

 

☆★☆★

 

それは少し前にさかのぼる。

55層の迷宮区を探索していたルルはボス部屋らしき門を見つける。

自分の役目はコレで終わったと道を引き返そうとするが、壁がせり出してきて来た道をふさいでしまう。

しかも結晶が使えない。

転移できないのだ。

「おいおい、どうなってんだよ」ルルがそう呟くと、唯一進むことのできる道であるボス部屋の門が独りでに開いたのだ。

一人でボス戦など、死亡フラグ以外の何物でもない。

ルルはそう思考するが、いつもと様子が違う。

いつもならボス部屋の門が開いてしばらくすれば、部屋に明かりがともり、ボスが姿を現す。

しかし、今回は部屋に明かりすらともらず、ボスも現れない。

それに、入り口に透明な靄のような物がかかっているように見える。

ルルはとりあえず部屋に入り込み、ボスが現れるなどすれば部屋を出て、とりあえず救援を待つことに決める。

ボス部屋でないことを考えたのである。

そしてルルは部屋に足を踏み入れる。

すると、辺りは光に包まれ、ルルは目を開けていられなくなる。

 

ここで、話は冒頭へと戻る。

 

目を開けた時、ルルは迷宮区の外。

しかも、浮遊城の外。

夕暮れの空の上に立っていたのである。

(どうなった? 俺は死んだのか?)などと考えていると、空の向こうから2つの人影が近づいてくる。

ルルは警戒し、刀に手を添える。

 

「そんなに警戒しなくていいよ。攻撃するつもりはないから」

 

2つの人影の内一つが声をかけで来た。

女性の声である。

2つの人影はそのまま近づいてくると、ルルの対面で足を止めた。

一人は身長170センチくらいの金髪をポニーテールに結った巫女服の女性。

一人は身長130センチくらい肩くらいの赤茶けた癖ッ毛にメガネをかけた修道服の少女。

「警戒しなくてもいいのに。」少女がそんなことを呟くと、隣の女性が苦笑いを浮かべ、話し始める。

 

「はじめまして。プレイヤー《ルル》私達はカーディナル」

 

女性の言葉にルルは目を見開く。

それもそのはずだ。

カーディナルと言えばこのゲーム《ソードアート・オンライン》を制御・統制している2つのコアプログラムのことである。

 

「驚くのも無理はないわ。ゲームのコアシステムが人型の形をとってプレイヤーの前に現れるなんて前代未聞だもの」

 

そう言って女性はコロコロと笑う。

あっけにとられているルルをよそに今度は少女が話し出す。

 

「私達はゲーム開始時…これは本当の意味での開始時ですが、想定されていなかったプレイヤーを見つけました。そのプレイヤーは片腕がなく、装備品としてかりそめの腕を与えられていました。

そのプレイヤーが始まりの町にとどまる、もしくは早々にゲームオーバーをするのなら捨て置きましたが……」

 

「そのプレイヤーは最前線で戦い続けたの。腕を失ってまでもね。でも、そうなってくるとそのプレイヤーはエラーをきたしたプレイヤーでしかないの。」

 

2人の言葉にルルの思考が追いつく。

 

「だから俺を排除するってか?」

 

ルルは刀を抜き構える。

 

「ちがいますよ」

 

しかし少女は否定する。

 

「私達は考えました。どうすればこのエラーを止められるかと。あなたが腕を失ってからずっと……

そしてひとつの結論にいたりました。この世界に存在するエクストラスキルの中には選ばれた1人にしかあたえられないスキルがいくつかあります」

 

少女の言葉にルルは《ヒースクリフ》の《神聖剣》を思い浮かべる。ヒースクリフ以外使えず、ユニークスキルと言われているスキルだ。

少女は続ける。

 

「それを一つ増やし、あなた専用のスキルとして与えます。名前は《手甲魔爪》

しかし、タダで与えてしまってはただのチート。それこそエラーになります。そこで入手条件を設定しました。<50層以降、一つ以上のソードスキルをコンプリートし、魔王を倒す実力があると認められた片腕のプレイヤー>あなたはここで《手甲魔爪》を手に入れるためフラグボスと戦っていただきます」

 

「それによって貴方は魔王を倒す勇者と私達に認められて《手甲魔爪》を手に入れるの。これでエラーもなくなって万々歳でしょ?でも魔王を倒す勇者と認めさせるボスだもの。かなりの強敵よ? あなたはそれでもこのクエストを受ける?」

 

コロコロと笑いながら尋ねる女性の言葉にルルは考える。

このクエストをクリアすれば左腕を取り戻し、ボス戦に戻れると言っているのだ。

死んでいく者を少しは減らせるのではないか? なら、答えは決まっている。

 

「受けるさ。こんな特別なクエストを用意されて受けないわけがないだろう?」

 

その言葉に少女は答える

 

「じゃあ、死なないようにがんばりなさいな」

 

そう言って少女は指を刺す。少女が指を向けた先には禍々しい黒い鎧が立っていた。

鎧は左腕が特に禍々しく、爪もとがっている。

右手は丸い普通の指先だが、腰に剣をさしているところを見ると武器を使うのだろう。

サイズはルルと同じくらいである。

 

鎧は剣を抜き構えた。

片手剣である。

ルルがボスを確認していると、ボスの剣に青い光が燈った。

ソードスキルである。

ルルはいきなりのことに目を見開くが、落ち着いて対処する。

鎧が発動した《バーチカル》に刀を滑らせ受け流す。

鎧の体制が崩れたところに逆袈裟切りを打ち込む。

鎧は攻撃を受けダメージを受けながらも体を捻り、剣を振るってくる。

ルルはそれをバックステップで避けようとするがかすってしまう。

ルルはHPを確認するとかすっただけにもかかわらず、1割を持っていかれている。

たいしてボスはもろに食らったにも関わらず、4本あるHPの内1段目のHPバーを5%削るほどにとどめている。

しかし、後手に回っていてもやられる一方である。

ルルは鎧の懐に飛び込むと体を回転させ、遠心力による加速をつけると鎧の剣を弾く。

鎧の体勢が崩れたところに左、右と刀で切り裂きダメージを与えていく。

鎧は体勢を立て直すと弾かれた剣ではなく、左手の爪で攻撃してきた。

ルルはとっさに刀でガードすると、距離をとる。

幸いダメージは受けていない。

 

攻防は続き、ボスの4段あるHPは2段まで減らしていた。

ボスはソードスキルを多用し《バーチカル》《ホリゾンタル》《スラント》《バーチカル・スクエア》や《ヴォーバル・ストライク》までも使用してきてがルルは何とかしのぎ、ここまでダメージを与えてきた。

キリトが使っているのをよく見ていたからなんとかなったのだろう。

ここまで使ったポーションは4つ。残りは6つ。

結晶無効化空間だったのには驚いたが、半分減らして後6つ何とかなる。

ルルが攻撃を仕掛けようとしたその時だった。

鎧の剣が黒色の妖艶な光を纏った。

ソードスキル《双破斬》

切り上げと切り下ろしの2連撃

ルルは見たことのないソードスキルに戸惑うも、何とかかわす事に成功する。

鎧はHPが半分を下回ったことで攻撃パターンを変更し、片手剣ソードスキルではなく《手甲魔爪》ソードスキルを使用しはじめたのだ。

しかしルルは攻撃の回数を減らし、慎重に行動することで対応する。

鎧の攻撃を掻い潜り2、3発ダメージを与えたらバックステップやサイドステップで後退する。

今もまた、鎧のソードスキル《剛魔掌》をかわし懐に入り込んだ。

《剛魔掌》は左の爪でランダムに切り裂く4連撃。

慣れるまで何回か食らったが今は刀を使いうまくかわす事ができるようになっていた。

懐に入り込んだルルは3発ダメージを与えると後退する。

この攻撃により鎧のHPはレッドゾーンに突入する。

鎧はソードスキルを発動しようと黒い妖艶な光を纏った剣を構えるが、ルルのほうが一歩早かった。

ルルはここで初めてソードスキルを使う。

刀ソードスキル《浮舟》

加速された刀は鎧の剣を打ち上げる。

ノックバックの少ないスキルのためルルはそのまま攻撃に移る。

その攻撃で鎧のHPは0になりポリゴンになって霧散した。

 

ルルの目の前には Congratulation Last Attack Bonus の文字が浮かんでいる。

 

刀を鞘に納めると、後ろからぱちぱちと拍手が聞こえてくる。

巫女服の女性と修道服の少女。《カーディナル》である。

 

「これで俺は左手を取り戻したってわけだ」

 

ルルが《カーディナル》に質問する。

 

「そうよ。これで貴方は《カーディナル》に選ばれた勇者になった。スキルを確認してみなさい。《手甲魔爪》が追加されてるはずよ」

 

ルルは右手を振り、スキルを確認する。

 

「ついでにLAボーナスを確認しててみなさい。なにがドロップしてるのかしら?」

 

「…ディストーション・コートだな。」

 

ルルの答えに少女と女性が話し出す。

 

「あなた、リアルラックは低いんですね。あの鎧《歪の黒騎士》は手甲、刀、片手剣、防具からのランダムドロップします。手甲がドロップすればそのまま装備できたのに……」

 

「そうね、そうなるとあるエクストラスキルをもった鍛冶師を探さないといけないわね。鍛冶師が手甲を作るには《魔工士》のエクストラスキルを会得していないといけないのよ。

条件はなかなか厳しいいわよ? 鍛冶スキルを最大にして《マスター・スミス》になっていて、なおかつ手甲に触れたことのあるプレイヤーよ。この条件はあなたが義手を鍛冶屋に見せたことがあるかにもよるけど____」

 

「なら問題ない。もう知っている」

 

女性の言葉にルルが被せる。

 

「そうならよかったわ。あなたならこのゲームを終わらせてくれるって信じているわ。私達だってプレイヤーを殺したいわけじゃないもの」

 

「そう言うことですね。がんばってください」

 

2人の言葉にルルは背中を向けフラフラと手を振る。

しかし心の中では任せておけと、そう言っていたのである。

 

「ではあなたを元の場所へ戻します。」

 

「いきなりボスに挑んで死なないようにしてくださいよ。まずはスキルをあげてください」

 

「わかってるよ」そんな言葉を残しルルは消えていく。

消えたルルに向かって二人は声を揃えて呼びかける

 

「「がんばってください。貴方は魔王ではなく、私達がえらんだ勇者なのだから」」

 

何もない黄昏の空間に2人の言葉が響いた。

 

 

☆★☆★

 

 

目を開けるとルルは55層のボス部屋の前。

門は閉ざされ、後ろの壁は消えていた。

右手を振りスキルを確認し、白昼夢でないことを確かめるとルルは帰路をたどる。

 

自分の専属鍛冶士《リズベット》に左腕を作ってもらうために。

 

 




あとがき

と言うわけで16話どうだったでしょうか?
オリジナルユニークスキルの登場ですね。
キー坊が魔王に選ばれた勇者なのにたいしてルルはカーディナルに選ばれた勇者なわけです。

ではまた次回。


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リズの冒険

浮遊城48層(最前線55層)

 

《リズベット武具店》

 

ピンクの髪の少女《リズベット》はカウンターに頬杖をついながら考え事をしていた。

 

「どーするかなー」

 

この前、この店を買う時、同居人の少年に約束した自分の最高傑作。《ソレ》を作るためには今あるインゴットではダメだ。

最近、最前線である55層にドラゴンが作り出すレアなインゴットが取れるクエストが発見されたらしいが、自分ではレベルが足りない上に今のところ入手できたと言う情報は聞かない。

 

「あーもー」

 

リズがそう叫んだ時、カランとドアがなり一人の客が訪れる。

リズは慌てて営業モードに切り替えると「リズベット武具店へようこそ」と迎え入れる。

するとそこには黒ずくめの少年が立っていた。

 

「オーダーメイド、頼めるかな?」

 

少年のその言葉にリズベットは、お財布大丈夫かな? と失礼なことを考え、とりあえず今インゴットの相場が上がっていることを伝える。

すると少年はリズの心配を置き去りにして話し始める

 

「予算は気にしなくていいから、今作れる最高の剣を作ってほしいんだ。」

 

リズは《ソレ》を作るために私がどんだけ悩んでるか。と思いながらも相手はお客様。

 

「えっと、そういわれましても。具体的に性能の目標値とか出していただかないと。」

 

と、どれだけの物を作ればいいかを尋ねる。

少年は「あ、なるほど」と言いながら、後ろに担いでいた剣をはずす。

 

「それなら、この剣と同等以上の性能ってのはどうかな?」

 

少年の言葉にリズは「はぁ…」と言いながら受け取ると、あまりの重さに腕が持っていかれそうになる。

リズのパラメータよりも筋力要求値が高いのだろう。

この剣、この前あいつに渡した刀より重いじゃない。

などと考えながら剣を置き、タップする。

エリュシデータ

モンスタードロップの中では魔剣クラスの化け物じゃないかと考えていると。

少年は作れそうかと心配そうに聞いてくる。

なのでリズは「これならどう?」と店においてある中で一番できのいい剣を渡してみる。

すると少年は「軽いな…ちょっと試してみてもいい?」いきなりそう言って自分の剣、エリュシデータに向けて剣を振りかぶる。

リズは「そんなことしたらあんたの剣が折れちゃうわよ?」と止めるが、少年は「その時はその時さ!」と言って振り下ろしてしまう。

案の定、エリュシデータは…とはいかなかった。

振り下ろしたリズお手製の片手直剣の方が真ん中からポッキリといってしまったのである。

「うそ…」と言ってリズは少年から剣を奪い取るが、修復不可能。

剣はポリゴンとなってリズの手から消えてしまう。

リズは少年の胸ぐらを掴み「なんてことしてくれんのよ」と叫ぶが、少年は「まさか当てたほうが折れるなんて」と挑発的なことを言ってくる。

リズは「いい素材さえあればあんたの剣なんかポキポキ折れる剣を作ってやる」と言い少年は「ぜひお願いしたいね。」と言う。

もう売り言葉に買い言葉である。

それなら、とインゴットを取りに行くところから手伝ってもらうことに決まる。

少年が足手まといになると言い出すが、リズがマスターメイスであるのと、55層のクエストにはマスタースミスがいないと発生しないことから2人での出発が決まった。

 

勢いでのクエストではあるが、リズは《あいつ》の分もとれるか。と出発を決めたのであった。

 

☆★☆★

 

55層、ここが氷雪地帯だと知らなかったリズは、寒さに凍えていた。

生意気な少年《キリト》は「これでも着ておけ」とコートを出してくれるが、さっきの一悶着の後である。

このコートで《あいつ》のローブがあったことを思い出し。「私も持ってたから大丈夫よ」とコートを返し、ローブを着こむ。

歩いていくキリトの後ろを見ながらこんなヤツと二人で出かけることになるなんて妙なことになったな。

などとリズは考えながらキリトの後を追うのだった。

 

しばらく進むと水晶地帯。

リズは水晶に目を奪われる。

とくに、真ん中にある黒い水晶なんか特に目を引く物がある。

リズは走り出そうとするが、キリトに首を掴んで止められ、「ここからは俺一人でやる。リズは水晶の影に隠れていろ。」と言われる。

その時、リズは《あいつ》に初めてあったときのことを思い出していた。

あいつも岩陰に隠れろって言ってたっけ。

など考えながら、コクンとうなずくと、リズは水晶の影に隠れる。

その時、水晶の中から竜が飛び出し、キリトに向かってブレスを吐く。

リズは「危ない!」そう叫ぶが、キリトは《エリュシデータ》を構えるとその剣でブレスを弾く。

リズは「すごい、あんな細い剣で」と思いながら思い出していた。

ニヤリと笑いながら《曲刀》で竜の爪を流し、躱す《あいつ》の姿を。

そう考えている間にも竜はキリトにHPを削られていく。

HPも残りわずか、しかし、リズここで油断してしまう。

「はやく、倒しちゃいなさいよ。」そう言って、顔を出してしまった。

竜はリズに狙いを定めると羽を使いストームを起こす。

リズは逃げようとするが、風につかまり体が舞い上げられる。

助けに来たキリトも風につかまり、共に舞い上がっていた。

こんな時にもリズは思い出す。

あぁ、あの時もこんな風に空に投げ出されたっけ。

たしかあの時は《あいつ》が私を抱えて逃げ出したんだった。

お姫様抱っこなんてされたのは生まれて初めてだったな。

などと考えて顔がほころぶ。

 

「リズッ」とキリトが叫ぶ声で現実に引き戻される。

 

キリトは手を伸ばしてきている。

そう、只今トラップの穴に落ちているのだ。

絶叫びながらリズは落ちていく。

途中でキリトに抱えられ、守られていることに気づかずに。

 

 

☆★☆★

 

 

目を開けると、雪の上だった。

「生きてたな。」下からキリトの声が聞こえてくる。

リズはここで初めてキリトに助けられたことに気づいた。

「ありがとう。」リズが慌ててお礼を言うが、キリトは「礼を言うのはまだ早いぞ、どうやって抜け出した物か」などと言っている。

リズは「転移結晶を使えばいいじゃない」そう言って結晶を取り出し、「転移、リンダース」そう叫ぶが転移は行われない。

結晶無効化空間…落ち込むリズにキリトが「考えがある。」と声をかけてくる。

希望を与えられ、リズの顔が明るくなるが、次に出た「壁を橋って登る」という言葉に目を細めてしまう。

言ってる間にキリトは上りだし、そして、落ちた。

バカ? そんなことを思っていると竜が帰ってきた。

キリトとリズは見つからないように隠れようと端に移動しようと駆け出す。

しかしリズはなにかにつまずいてこけてしまった。

 

「なによこんなとき。」

 

そう言って足元を見ると水晶のような物が転がっている。

もしかして?

リズは水晶を拾い上げるとタップする《クリスタライト・インゴット》

リズは目を見開いた。 

探していたインゴットがあったのである。

「大丈夫か?」と近づいてくるキリトに、「この雪の中にインゴットがあるわ。探して!」とリズは叫ぶ。

リズとキリトはドラゴンが降りてくる前にできるだけ多くのインゴットを拾い集め端に隠れる。

集まったのは5つ。白い水晶が3つと黒い水晶が2つ。黒い水晶はタップすると《ダーク・クリスタライト・インゴット》と表示されていた。

しかし、なんでこんなところにあったのかしら?

リズが考えていると隣でキリトが話し出す。

 

「竜は水晶をかじり、体内で金属を生成する。

 見つからないわけだ」

 

「でも何でこんなところに?」

 

「ここはトラップじゃなく竜の巣だった。竜が帰ってきているし、間違いないだろう。つまりそのインゴットは《竜のんこ》だ。」

 

その言葉にリズはあからさま嫌な顔をし、手に臭いが付いていないか確かめる。

しかしちゃんとしたレアインゴットなのだ。

臭うということはない。

ふぅ。と安心していると隣からキリトが話しかけてくる。

 

「それじゃ、脱出するぞ!」

 

キリトはそう言うとリズの体を担ぎ、走り出す。

壁をそのまま登ると竜の上に飛び乗り、落ちないように竜に剣をブッ刺したのである。

竜は驚き空へと舞い上がる。

穴を出たところで剣を抜き。キリトとリズは穴からの脱出に成功する。

リズは笑っていた。竜から逃げる時、私はいつも持ち運ばれる。《あいつ》に出会った時のことを思い出すと自然と笑みが浮かぶ。

あぁ、やっぱり私はあいつのことが好きなんだな。

 

リズがそんなことを考えていると「何とか脱出できたな」とキリトが話しかけてくる。

「そうね」と返しながらリズは口に出ていなかったか? と急に恥ずかしくなり、先に歩き出す。

「早く行くわよ」と手をヒラヒラと振り、顔を向けずに歩く姿が誰かに似ている。とキリトが疑問に思ったかどうかはわからない。

 

☆★☆★

 

ここは《リズベット武具店》

 

2人は帰ってきた後、早速キリトの剣を作り始める。

 

「あんた、真っ黒だし、少しは違う色を入れたほうがいいわよね」

 

リズはそういって《クリスタライト・インゴット》を取り出す。

ソレを炉に放り込むと、右手を振り、スキルを確認する。

あれ? とリズは自分の知らないスキルがセットされていることに気づく。

 

《魔工士》

 

しかしリズは、今はいいか。とそのままにし、キリトの剣を作るために製作武器の項目を出し、スクロールする。

すると一番下にまた、自分の知らない武器の名前がある。

 

《手甲魔爪》

 

何なんだろう? 首をかしげながらも片手直剣をタップし《クリスタライト・インゴット》を炉から取り出す。

 

「じゃぁ、作るわよ?」

 

リズがそう言うとキリトがうなずく。

リズは今日の出来事を思い出しながら剣を打つ。

初めはむかつくヤツだった。

キリトも優しいやつだった。

《あいつ》に行動が少し似ていた。

キリトのおかげで《あいつ》のことが好きだと再認識できた。

 

何十回か叩いた時、《クリスタライト・インゴット》は徐々に形をかえていき、青白い剣が生まれた。

 

「名前は《ダークリパルサー》私が初耳ってことは情報屋の名鑑にはまだ載ってない剣のはずよ。試してみて?」

 

キリトは《ダークリパリサー》を手に取ると振りはじめる。

 

「重いな、いい剣だ。魂がこもっている気がするよ」

 

キリトの言葉にリズは微笑み、うん。とうなずく。

そこでリズは思いついた疑問をぶつける

 

「ところでさ、なんで同じ位の武器が必要なの?」

 

リズの疑問に頬を掻くとキリトは右手を振り装備を変更する。

 

背中に《エリュシデータ》のほかにもう一本、《ダークリパルサー》が現れ、二本を同時に振るう。

それを見たリズが目を見開く。

 

「《二刀流》ってスキルなんだけど、オフレコで頼む。」

 

そう言ってキリトは装備を元に戻す。

オフレコで頼むか。

やっぱり《あいつ》に似てるな。

そんなことをリズが考えているとカランとドアが開いた。

 

「リズッ!」

 

栗色の少女が走りこんできた。《アスナ》である。

アスナはそのままリズを抱きしめる

 

「リズ、どこ行ってたのよ。店に来ても居ないし、マップ追跡もできないし、メッセージも帰ってこないし、心配したんだから」

 

「ア、アスナ? ごめん、ちょっとダンジョンにインゴットを取りに行ってて」

 

「ダンジョン? リズが1人で? いつもは《あの人》に任せてるのに?」

 

「まぁ、《あいつ》に頼めない事情があって……それに、一人じゃなくて、この人と」

 

アスナの質問にリズはそう言ってキリトを差す。

アスナは振り向くとキリトを見て目を見開いた。

 

「キ、キリト君!」

 

「おう、久しぶり? でもないか。2日ぶり?」

 

「そっか。早速来たんだ。行ってくれれば私も一緒したのに」

 

楽しそうに話す2人にリズはあっけにとられ「し、知り合いなの?」とたずねる。

するとキリトが「攻略組なんだ、2人とも」と言い、隣でアスナの目が和らぐ。

それを見てリズは思い出した。

 

ある日、リズはアスナの剣を研いでいた時の事、研ぎ終わった剣をアスナに渡し世間話を持ちかける。

 

「まーいど。今日はギルドの攻略に参加しないの?」

 

「んー、今日はオフにしてもらったの。ちょっと人と会う約束があって」

 

リズの言葉にアスナは微笑みながら答える。

「ふーん。」と言いながらアスナを見ると耳にピアスを付け、オシャレをしている。

「あー。そう言うことね」と言いながらニヤつき、アスナを肘でコノコノ、とつついているとゴーンと鐘が鳴り、「あぁ、そろそろ行かないと」そう言って、アスナは行ってしまった。

ドアが閉まった後、リズは笑顔で思った。

アスナ<も>見つけたんだね。大切な人を。

 

そう思ったことを思い出している中、話は進んでいる。

 

「強力な武器が欲しかったみたいだから、リズのお店を紹介したの。私の友達に変なことしなかったでしょうね? ダメだよ。リズにはもう《いい人》がいるんだから」

 

「す、するわけないだろ」

 

「口ごもるところが怪しい」

 

などと話が進んでいく。

いまさらながら《いい人》の部分に気づいたリズは顔を赤く染め「なによ《いい人》って」と反論し、照れ隠しに話題を変える。

 

「へ、変なこともなにも、私の店一番の剣をいきなりへし折ってくれたわよ。キリトは」

 

苦笑しながら爆弾を投下する。

 

「え、ごめん。」アスナが謝るが「アスナが謝ることないよ」そう言うと、リズはアスナに近づき、耳打ちする。

「ま、変だけど悪い人じゃないわね。応援するからさ、がんばりなよ。アスナ!」

 

「だ、だからそんなんじゃないって」

 

今度はアスナが顔を赤くし、反論してくる。

キリトは置いてけぼりを食らって目が点になっている。

そんな時また、カランとドアが開き、少年が入ってくる。

 

《あいつ》だ

 

少年が入ってきたことにキリトは驚き「ルルもこの店を利用してたのか」と少年に話しかける。

そこでアスナはニヤニヤと笑い。仕返しとばかりに口を挟む。

 

「利用もなにもルルはここに住んでるんだよ。リズの《いい人》だもんね」

 

爆弾を投下する。

リズは顔を真っ赤に染め、なにもいえなくなる。

ルルは苦笑しながら

 

「なに言ってんだよ。まぁここに住んでるのは本当だけどな」

 

と軽く流す。

アスナは「はぁ、鈍感」と溜息をつき、リズは思考停止。

キリトは驚き質問し、ルルは流し、答え、躱していった。

 

☆★☆★

 

キリトとアスナが帰った後、ルルとリズが話していた。

 

「リズ、《魔工士》ってエクストラスキル持ってないか?」

 

「それならさっき見たわよ。あれ、エクストラスキルだったんだ」

 

「そうだ。《手甲魔爪》を作るためのスキルさ」

 

「そうよ!《手甲魔爪》よ! 何なのアレ? 聞いたことのない武器だけど?」

 

「エクストラスキルだ。俺の《左手》を取り戻すための」

 

左手を取り戻すその言葉にリズは目を見開く。

 

「作ってくれるか?」そう話しかけるルルにリズは真剣な表情でうなずく。

やっぱルルには黒かな。

そう思いリズは炉に《ダーク・クリスタライト・インゴット》を2つ放り込む。

右手を振って《手甲魔爪》を選ぶと炉から《ダーク・クリスタライト・インゴット》を1つ取り出し、思いをこめて打ち始める。

 

今日再確認した自分の気持ちを込めて。

あの時聞いた《サチ》の思いを成し遂げられるようにと。

 

 

何十回か叩いた後、インゴットは形を変え漆黒の腕へと形を変える。

リズはタップし名前を確認する。

 

「《黒竜王の魔爪》だって。ぅわ、今まで見た中でパラメータもダントツね」

 

リズの言葉にルルは右手を振り《黒竜王の魔爪》を装備し左手を開いたり握ったりする。

リズはそれを見て涙を流し、ルルは「泣くなよ。」と頭をなでる。

そこでルルは気づく。

 

「そういえば、もう一個は炉に入れたまでいいのか?」

 

「あ……」

 

リズは慌ててもう一個の《ダーク・クリスタライト・インゴット》を取り出す。

しかし慌てたせいか、転がった《ダーク・クリスタライト・インゴット》はバケツに入ってしまう。

すると熱せられた金属が急激に冷やされたからだろうか? 水は蒸発し、バケツは吹き飛ぶ。

そこには《ダーク・クリスタライト・インゴット》だけが残った。

タップすると鉄くずやゴミになっていると言うこともなく。

《ダーク・クリスタライト・インゴット》がそこにあった。

しかし、冷めているにもかかわらず、黒い水晶の先の部分だけが赤く変色している。

 

リズは使っても大丈夫よね? と思いながらそれを炉に入れ、右手を振り、製作武器を刀に設定する。

リズは真剣な雰囲気になると《ダーク・クリスタライト・インゴット》を打ち始める。

何十回打っても形は変わらない、しかしリズは真剣に打ち続ける。

何百回か打っただろうか?

ようやく《ダーク・クリスタライト・インゴット》は形を変え、漆黒の刀、しかし刀の刀身に刃先に行くにつれて赤いグラデーションのかかった刀が出来上がった。

タップすると《霊刀・禍時》パラメータも異常なくらい高い。

 

「霊刀…まがときでいいのかな?」

 

「そうだろうな」そう言いながらルルは刀を持ち上げる。

 

「すごい刀だな。今までのどの刀よりもすごくしっくり来る」

 

「その刀、この前の約束の刀よ。それがあるんだから死なずに私のところまで帰ってきなさいよ」

 

リズはそう言うと、恥ずかしかったのかそっぽを向いてしまう。

 

「あぁ、必ず帰ってくるよ。リズのところに」

 

二人の間に沈黙が続く……

 

初めに耐え切れなくなったのはルルだった。

 

「あ、あのさ、リズ、前線で使う前に下層でスキルレベルを上げたいんだ。それで、そんなに強くない《手甲魔爪》を作ってくれないか?」

 

リズは小声で「意気地なし…」そう呟くと「わかったわよ」と言ってもう一本《手甲魔爪》を作るのだった。

 

 

 

 

 




あとがき

ということで、16話の裏で起きていたことでした。
なのでお泊りはありません。
原作絡むと長くなってしまいますね。自分の文才をもう少し伸ばせば平均的な文字数になるんでしょうか?

しかし、甘さの出し方に四苦八苦です。ちゃんと出せているのか?
そもそも甘さを理解しているのか?

コメントお待ちしています。


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聖竜連合

浮遊城17層(最前線57層)

 

 

迷宮区とは反対側の森のはずれ、クエストも何もない場所。

誰も来ない、隠れてスキルレベルを上げるには絶好の場所。

そんなところにルルはいた。

ローブを脱ぎ、左手に《手甲魔爪・鉄爪》を装備したルルは一人狼の群れと戦闘中である。

と言っても、ここは17層。敵はルルにダメージという大きなダメージを与えられないし、与えられたダメージもバトルヒーリングスキルによりすぐに回復してしまう。

ルルは狼に攻撃されるのも気にせず、向かってくる狼を左手で切り裂きながら歩く。

 

「ふぅ、こんなもんかな。」

 

モンスタードロップも枯渇し、モンスターは現れなくなった。

そこで突然カサッと音がする。

こんな場所に人が来るのも珍しい。

ルルはレッドプレイヤーの可能性を考慮し、左手で鞘を持ち、刀を構える。

余談だが、スロットには《刀》《手甲魔爪》の同時装備。左手が復活したことにより、抜刀系のソードスキルが使えるようになった。

 

閑話休題

 

そこに、2本の剣を持ったキリトが木々の間から現れた。

2人はお互いを見て固まる。

2人共自分が隠しているエクストラスキルを見られたせいだろう。

先に話し出したのはキリトだった。

 

「ルル、お前その左手……」

 

「エクストラスキル《手甲魔爪》。使い物になるまで黙っとくつもりだったんだけどな……

それよりお前もソレ、エクストラスキルだろ?」

 

頭を掻きながらキリトの2本の剣のことを尋ねる。

 

「あぁ、エクストラスキル《二刀流》。会得方法がわからないからな……あんまり注目されたくないし。でもルル、そのスキルがあればボス戦に復帰できるんだよな?」

 

「まぁな。でも、俺だけが目立つのも嫌だし、その時はキリトの二刀流もお披露目だからな」

 

2人は笑いながら帰路に付く。

 

☆★☆★

 

装備を元に戻した2人は転移門で別れ、ルルは50層にあるエギルの店に向かっていた。

 

「やっほー!待ってたよルル」

 

後ろから声をかけられたがルルは振り向きもせず「俺は用がない」と手をヒラヒラと振り、歩く。

 

「あーもう、こっちは用があるんだってば! この前の話、考えてくれた? 左手がなくてボス戦には出られないけどさ、うちに入ってくれればいい待遇で迎えるってボスも納得してくれたし」

 

ルルに並んで歩き出したのは身長140cmくらいの水色の髪で前髪が眉より上、おでこを見せたボブカットの少女。

名前は《セレスティア》

こう見えてもDDD《聖竜連合》の3番手、《流星》と呼ばれる槍使いで、KoB《血盟騎士団》の《閃光》のアスナと2人で攻略組の2大女神などと呼ばれている少女だ。

 

閑話休題

 

「しらねーよ。俺はソロでいいんだって何回も言ってるだろ?」

 

「そんなこと言わずにさー。話だけでもいいから聞きに来てよ」

 

こんな調子でここ最近付きまとわれている。

こんなことになったのも56層の迷宮区、敵に囲まれていたセレスティアを助けたのが始まりだった。

 

「はぁ、一回話を聞きに言ったら今後付きまとわないか?」

 

「付きまとわない付きまとわない。それじゃぁ行こ行こ!」

 

そう言ってルルはうなだれながらセレスティアと一緒に56層にあるDDDの本拠地に向かった。

 

☆★☆★

 

ここはDDDの本拠地の応接室。

入る時に門番のプレイヤーに追放者! と驚かれた物の、ここにくるまでに誰にも会わなかった。

今、ルルは1人応接室の椅子に座っている。

セレスティアは団長を呼びに行っているため待たされている形だ。

 

ガチャ。ドアが開き、団長《カッツェ》と副団長《リンド》それにセレスティアが入ってきた。3人はルルの対面に座るとカッツェは話し出す。

 

「セレスティから聞いたよ。DDDに入ってくれるかも知れないと」

 

「話を聞けばもう付きまとわないって言われたから来ただけで、入る気はないよ」

 

その言葉にリンドが机を叩いて立ち上がり、セレスティアはあちゃー、と目を覆う。

 

「ふざけるな! DDDに入るかも知れないって言うから来てみれば、なんだその言いぐさわ‼︎」

 

リンドが怒鳴る。それをカッツェはリンドを右手で制し、話し始める。

 

「どういう事かな、セレスティア?」

 

「どうしても入って欲しくて、まずは話を聞きに来てもらう所からかなぁって」

 

セレスティアは舌をペロッと出しおどけ、カッツェはそれを見てと溜息をこぼした。

 

「そう言うことらしいな。まぁ俺はレアアイテムを取るためなら他人を傷つけるDDDの方針には同意できないからな」

 

「確かにDDDはそう言うことを黙認している。しかし、このゲームをいち早く終わらせる為には一箇所に強力なアイテムを集めるべきだという考えの下だ。

個人がその意見に反対の場合、別に無理にプレイヤーを攻撃することはない。現に3席にあたるセレスティアは一度もオレンジになったことはない」

 

「そう言うのも含めて俺はしがらみが嫌いなんだ。」

 

カッツェは無理強いはしないというがルル拒絶の言葉を口にする。

 

「でもさ、見学だけならいいんじゃない? ね? みんながどんな訓練してるかとかさ?」

 

「そうだね。折角ここまで来てくれたんだ。見学していくといい」

 

セレスティアとカッツェが妥協し、その横でリンドがギリッと顔をしかめる。

ルルはソレも断ろうとするが、その前にセレスティアはルルの手を引くと応接室を出て行く。

ルルは無理に振りほどくわけにもいかず、ついていくしかなかった。

 

 

残された2人はというと_______

 

「団長、《追放者》なんか入れたところでなんになるんですか?」

 

「彼はボス戦には参加できないが、迷宮区の攻略ペースはかなりの物だ。その分レアアイテムの入手率も高いだろう」

 

「利用できると?」

 

「しかし入ってはくれないだろうな。これはセレスティアのご機嫌取りのような物だ。今、彼女にDDDを抜けてもらうわけには行かない」

 

リンドはセレスティアのことがあまり好きではない。カッツェの言葉に顔をしかめるのだった。

 

☆★☆★

 

ルルとセレスティアは訓練場にきていた。

DDDは攻略ノルマのほかにも自由にデュエルにて訓練を行っている。

ルルを見た一人のプレイヤーが話しかけてきた。

 

「何でこんなところにお前がいる!」

 

そういって怒鳴り込んできたのはあの時、ルルに怒りをぶつけるしかなかったプレイヤー。名前を《レイダー》と言う。

レイダーはルルがボス戦を追放されたことで自分の怒りが正当な物だと勘違いし、その怒りを強めていた。

そうとは知らないセレスティアは「見学だよ。DDDに入るかも知れないしさ」などと言う。ルルはソレを否定するが、レイダーは気に入らなかったらしい。

 

「《追放者》がDDDに入ろうだなんておこがましいんだよ!」

 

レイダーはそう睨みつけるがルルは入る気はまったくない。手をヒラヒラと振り「だから入らねーよ」と突き放す。

その行動にレイダーはバカにされたと思ったのだろう。

 

「デュ、デュエルだ! ボス戦から離れたお前なんかより俺のほうが強いってことを証明してやる‼︎」

 

もはや論点があさっての方向に行っている。レイダーは頭に相当血が上っているのだろう。

 

そして、なぜか今ルルはレイダーと向かい合っている。

周りにDDDのメンバーが野次馬にあつまり、断れなくなったのだ。

セレスティアは申し訳なさそうにみている。

 

「はぁ、なんでこんなことになってるんだろ……」

 

ルルは刀で肩をトントンと叩きながら空を見ている。

 

「そんなことで勝てるとでも思っているのか?」

 

レイダーはすごい形相で両手斧を構えている。

2人の中間の空にデュエルスタートの文字が浮かんだ。

デュエル形式は初撃決着モード。

先に一撃相手に入れたほうが勝ちである。(掠るなどの微妙なダメージの場合はHPが半分を下回ると勝敗が決まる)

レイダーはルルに向かってダッシュすると上段に構えた斧を振り下ろす。

両手斧ソードスキル《グランド・ディストラクト》

斧は赤い光を纏い、振り下ろされる。

斧はルルの頭に向かって振り下ろされるが、ルルは刀でトントンと肩を叩いたまま体を回転させながら流れるように横に躱すとそのままレイダーの横まで歩き、首に刀を添える。

 

「……ま、参った」

 

レイダーは絞り出すような声で言った。

信じれなかったのだろう。

レイダー自身DDDの中でもかなりの強さ。それは自他共に認める所である。

ソードスキルを発動させた時には勝利を確認し、口がにやけたくらいだ。

周りで騒いでいた野次馬達もシンと静まり返った。それだけルルの強さが圧倒的だったのだろう。

レイダーがリザインし、ルルの前にYOU WINの文字が浮かぶ。

 

「それじゃ、俺は帰るから。」

 

あっけに取られていたセレスティアに声をかけるとルルは帰路に着こうとする。

セレスティアは慌ててルルを追いかける。

2人の背中をレイダーが睨んでいたが、2人が気づくことはなかった。

 

DDD本拠地の石橋の前、セレスティアは「ごめんね。なんかへんな事になっちゃって。」とさっきのことを謝罪する。

いつものように天真爛漫なセレスティアと違うことに調子が狂ったのだろう。ルルは「まぁ、気にするな」と頭をなでる。

 

そのまま去ろうとするルルにセレスティアはもうDDDに勧誘しないと約束し、その代わりにとフレンド登録を申し込むのだった。

 

 




あとがき


はい。オリキャラ3人登場。

《聖竜連合》よりカッツェとセレスティアにレイダーでした。
カッツェは怪しいですねぇ

セレスティアは…まぁね。

クラディールと被りそうなやつがいた?…気にしないでください笑


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圏内事件

まえがき

読者の皆さんお待たせしました。

今回の話はどうルルを絡ませようか悩みました。
それでこんなにも…言い訳は見苦しいですね。

楽しんでいただければ。では、どうぞ






浮遊城60層

 

ここは最前線の迷宮区。

ルルはあいも変わらず一人。迷宮区の安全エリアで休憩中。

 

「だいぶマッピングできたか……」

 

そんなことを呟きながら食事をしようとサンドイッチを取り出していた。

その時、「ルール!」と言いながら誰かが背中を押した。

ドン、その衝撃でルルはサンドイッチを落としてしまった。

サンドイッチは落としたことにより、耐久値がなくなりポリゴンとなって霧散する。

 

「あ……何すんだ‼︎」

 

そう言ってルルが振り向くと顔の前で手を合わせるセレスティアがいた。

 

「ごめん、まさか食事中だとは思わなくて……」

 

ルルははぁ、と溜息をこぼすと「いいさ別に」と立ち上がる。

よくは無いのだが、気を遣わせることも無いかと顔には出さない。

 

「セレスティアは攻略か?」

 

「そうだよ。今日は次からボス攻略に挑むメンバーたちにレクチャーみたいなもんかな?」

 

セレスティアの言葉にルルは後ろのメンバーに目を向ける。

メンバーは2人。右手に片手直剣に左手に盾を装備した少年と短剣使いの青年。

すると片手剣の少年が話しかけてきた。

 

「はじめまして。《ガロン》と言います。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いしますって、攻略組じゃないだろこの人」

 

短剣使いの青年の言葉にセレスティアは顔をしかめ、ルルは言われなれているため特に気にしていない。

 

「ちょっ」

 

「そんなことないですよ。《フィート》さん。この前見なかったんですか? DDDの本部でデュエルしたの。レイダーさんが手も足も出せずに負けたんですよ?」

 

セレスティアが咎めようとしたところに、ガロンが興奮した面持ちで話し出す。ちなみに青年はフィートと言うらしい。

 

「でもボス攻略に参加できない人だろ?」

 

「じゃぁ、これから一緒に行動すればわかるって! たしかにボス攻略には参加できないかもしれないけどすごいひとなんだって! ね、いいですよね?」

 

ガロンの興奮した言葉にセレスティアはどうする? と目で合図し、ルルは溜息をこぼし仕方ない、と了承する。

 

それから町に帰るまでフィートは目を奪われた。なぜこの人がボス攻略に参加しないのかと疑問に思う。この人がいれば攻略速度が上がるだろう。

それほどルルは圧倒的に強かった。

今ここにいるセレスティアよりも、DDDの副団長リンドよりも、団長のカッツェよりも強いと思うくらいに。

 

攻略が終わり、話しながら迷宮区を出て行くセレスティアとルルの背中を見ながらフィートは「すごいな…」とこぼす。

するとガロンが「そうでしょ。なんで《追放者》になんかなったんだろうね?」疑問を口にする。

2人の疑問はもっともである。ルルがボス攻略に参加しなくなった理由はあの時ボス戦に参加していた者以外はほとんど知らない。

左手がないからといってもルルは攻略組の中でも上位の力を持つ。

ボス戦から外されたという事実だけが噂となり《追放者》となったのだから。

 

☆★☆★

 

59層

 

 

転移門の前、ルルのお昼をおじゃんにしたセレスティアはルルにご飯をおごることになった。

セレスティアは2人でご飯を期待していたのだが、ルルの「もう一人呼んでもいいか?」の一言により、3人でのご飯が決まった。

と言うわけで只今もう一人を待っている最中である。

 

「おー。ルルっちにセレス嬢じゃないカ。

 今日の取っておきの情報があるゾ。」

 

「いくらだよ?」

 

「今日のはタダでいいヨ。重大な用件でもあるしナ。圏内事件。今日の夕方、安全圏内でプレイヤーが死んダ。プレイヤーは剣で貫かれた状態で首を吊るされていたそうダ。死んだ時、周りにいたプレイヤーの中にYOU WINの文字が表示が表示されているプレイヤーはいなかっタ。つまり、デュエルじゃないってことダナ」

 

「それって、圏内でも殺人ができる裏技があるかもって事?」

 

「そういうことダナ。今2人のプレイヤーが調べてるみたいダ。また何かわかったら教えてやるヨ」

 

そういって鼠のアルゴは去っていった。

 

「圏内で殺人ができるなんてことになったら大変なことになるわね」

 

「本当に殺人なのか? それ」

 

セレスティアはルルの言葉に疑問を返そうとするが「お待たせー」とピンクの髪の少女が声をかけてきた。

 

「待ってないよ。リズ、今日はどこに食べにいこっか?」

 

「そうねー? たしかこの層においしい所があるって聞いたのよね。そこにいかない? いいでしょ? ルル」

 

セレスティアとリズがちゃっちゃと店を決めルルは頷き店へと向かう。

店に入ると見知った2人のプレイヤーがいた。

リズは「あら、2人さんデート?」と茶化しながら話しかけ、2人は赤くなって否定する。

その2人キリトとアスナを交えて、5人での食事となった。

話題は圏内事件。調べていた2人とはキリトとアスナだったのだ。

あらかたはアルゴに聞いていたとおりだった。

デュエルではない状態で一人のプレイヤーがポリゴンになって消えた。圏内でだ。

それを目撃したキリトとアスナは目撃者の中から死んだプレイヤー《カインズ》の知り合い《ヨルコ》と共に事件を調べていた。

カインズをポリゴンに変えた武器の名前は《ギルティソーン》製作者は《グリムロック》といい、カインズやヨルコと共に昔《黄金林檎》というギルドのメンバーだった。

 

半年前に起こった《黄金林檎》の解散事件。

 

《俊敏力を20上げる指輪》を手に入れ、ギルド内でもめた事件。

 

ギルドで使うか、売ってお金に換えるか。多数決の結果売却することになり、リーダーである《グリセルダ》が売りにいった。その先でグリセルダは殺害され指輪を奪われる。

その手引きをしたのが《黄金林檎》の誰かで、夫婦であったグリムロックの復讐ではないかと言うことになり、グリムロックを探すも見つからずに話を聞くために元《黄金林檎》のメンバーでありDDDのメンバーである《シュミット》に話を聞く。

 

しかし、シュミットは怯えていて話にならない。

 

その時、窓際にいたヨルコが背中をナイフで刺されポリゴンになって消えてしまう。その時、外にいた人影をキリトが追うが取り逃がしてしまう。

それに怯えたシュミットはほっといてくれ。とDDDに閉じこもっていたが、今はグリセルダの墓参りにいっていると。

 

「なんだ、そんなことか」

 

ルルの言葉に全員顔を向ける。

 

「そんな事って、圏内で人が殺せるかもって事なんだよ?」

 

セレスティアの言葉にルルは苦笑しながら返す。

 

「悪い、そう言うことじゃないんだ。たぶん、この事件は誰も死んでねえよ」

 

セレスティアは「え?」と声を漏らすがルルは続ける。

 

「ポリゴンが発生するのはプレイヤーが死んだ時とモンスターを倒した時。それと、アイテムの耐久値が切れたときさ。

圏内でもアイテムの耐久値は減る。俺の左手がポリゴンになったのも圏内だったしな。2人はアイテムの耐久値が切れるのを見計らって転移したんだろう」

 

ルルの言葉にアスナとリズは悲しそうな顔をする。

 

「たぶん《カインズ》とヨルコの自作自演ってとこだろうな。誰がグリセルダを殺したのか探すために。それにグリムロックが協力したってことだろう」

 

「そうなんだよ。俺達もさっきそこに行き着いたんだ。後は元《黄金林檎》のメンバーに任せておけば大丈夫だろう」

 

ルルとキリトの言葉に全員が安堵し食事を始める。

 

そこにリズが疑問を口にする。

 

「でもグリムロックとグリセルダって夫婦だったのよね?」

 

「そうだけど?」

 

「だったらおかしいわよね今の話」

 

「どうしてだ?」

 

リズの疑問にアスナとルルが反応する。

 

「結婚するとアイテムストレージが共通化されるのよ。離婚する場合は任意で決めた%にランダムで分割されるのよね。でも片方が死んだ場合はもう片方に全部のアイテムが付与されるのよ。たしか。だとしたら指輪の行方はグリムロックさんなんじゃ_____」

 

ガタッ

 

リズが言い終わる前にルルが立ち上がる。

 

「やばいぞ、それが本当なら3人が危ない!」

 

「どういう事?」とアスナが問う。

 

「もし、半年前の犯人がグリムロックだとしたらだ。この事件でカインズとヨルコが協力を依頼しにきたら半年前の自分の罪を隠そうと動くと思う。もう二度と掘り返されないようにする事は元《黄金林檎》全員の殺害だ。キリト、行くぞ!」

 

「まって、場所もわからないでしょう⁉︎ 私も行くわ。リズとセレスティアは協力を依頼して。大事にならないギルド、そうね《風林火山》にたのんでみて」

 

そう言ってルル、キリト、アスナはグリセルダの墓に向かった。

 

☆★☆★

 

グリセルダの墓の前。

 

 

「グリセルダ、俺が助かるにはもう、あんたに許してもらうしかない。すまなかった。許してくれ、グリセルダ。俺はまさかあんなことになるなんて思ってなかったんだ」

 

シュミットが手をつき、頭を下げる。

 

「本当に?」

 

シュミットの前にローブで顔を隠した人物が現れる。

 

「貴方は私に何をしたの?シュミット」

 

その言葉にシュミットはすべてを自白する。

自分が手引きしたと。しかし殺すつもりはなく、金に目がくらんでメモの通りに行動しただけ。あんなことになるなんて思ってなかったと。

 

「誰だ? 誰からの指示だ?」

 

隣から男性の声が聞こえてくる。

 

「グリムロックあんたも死んでたのか?」

 

「誰の指示だ?」

 

「わからない。メモにはグリセルダの部屋に忍び込めるようにクリスタルの出口をグリセルダの部屋にしてギルドの共通ストレージにとだけで……俺がしたのはそれだけだ。殺しの手伝いをする気はなかったんだ。信じてくれ、頼む」

 

シュミットは頭を地面につけ謝る。

 

「今の全部録音したわよ。《シュミット》」

 

2人はフードを脱ぎ顔をあらわにする。それを見てシュミットは目をむいて驚く。

そこにいたのはヨルコとカインズだったからだ。

 

「……そう…だったのか。お前達、そこまでグリセルダのことを……」

 

「あんただってグリセルダのことを憎んでたわけじゃないんだろ?」

 

「もちろんだ。信じてくれ。そりゃ、手に入れた金のおかげで《聖竜連合》の入団基準をクリアできたけど」

 

シュミットが安堵し、後ろに手をつき、脱力したところにナイフが飛んで来てシュミットが倒れる。シュミットの体は麻痺のバットステータスに犯されていた。

 

「確かにこれはでっかい獲物だ。《聖竜連合》の幹部様じゃないか」

 

ナイフが飛んできた方向から3人の人影が近づいてくる。

3人の手には笑う棺のギルドマークが見える。

《ラフィン・コフィン》

SAO最悪とされるレッドギルドのマークである。

3人が話し出す。

 

「さて、どうやって遊んだ物か?」

 

「ヘッド、アレやろーよアレ。殺しあって最後に残ったやつだけ助けてあげるやつ」

 

「んなこと言ってお前この前残った1人も殺しただろ?」

 

「あー。今行っちゃゲームにならないっスよヘッド」

 

《ラフィン・コフィン》の3人の内2人が楽しそうに話す中。シュミット達3人は恐怖にのまれ言葉も出ない。

ヘッドと呼ばれたプレイヤーが「さて、取り掛かるとするか」そう言って中華包丁のような武器をシュミットに向けて振り上げる。

ダメかと思われたその時馬の足音が聞こえ、ヘッドと呼ばれたプレイヤーは手を止め、足音のほうを見る。

すると、そこには2匹の馬が走ってきている。

馬にはルルとキリトがまたがっていた。

馬が止まると同時キリトは落ち、ルルは飛び降りた。

ルルはクツクツと笑い「大丈夫か?」 とキリトに声をかける。

 

「久しぶりじゃねぇか《プー》今度はこんなところでお遊戯かい?」

 

ルルはヘッドと呼ばれたプレイヤー、プーに向かって喋り、刀を抜く。

 

「お前にはよく邪魔されるな《追放者》」

 

「ヘッド、俺にもやらしてくれ!」

 

プーが武器をルルに向けると、骸骨のマスクのプレイヤーがプーに話しかける。

 

「戦ってていいのか? もうすぐ攻略組30人がくるぜ? 全員を相手にできるのかい?」

 

キリトが口を挟む。

プーは「チッ」と舌を鳴らすと「行くぞ」とメンバーに声をかけ、引き上げていく。

 

《ラフィン・コフィン》が見えなくなるとヨルコは腰を抜かして尻餅をつく。

 

「またあえてうれしいよ。ヨルコさん」

 

「全部終わったらすべてお話にいくつもりだったんです。と言っても信じてもらえないでしょうけど」

 

キリトがヨルコに声をかけ、ヨルコが答える。

 

「キリト、ルル、助けてくれてありがとう。けど、なんでわかったんだ? あの3人がここで襲ってくることが」

 

「わかったわけじゃねえよ。ただあり得ると思ったからな。俺の予想が当たっていればな」

 

《シュミット》の疑問にはルルが答え、続きをキリトが話し出す。

 

「ヨルコさんカインズさん、あんた達はあの武器をグリムロックに作ってもらったんだよな?」

 

キリトの問いにヨルコが答える。

グリムロックは初めはグリセルダを安らかに眠らせてあげたいと渋っていたが、2人が頼み込んで作ってもらったと。

 

「はぁ、渋っていたのはグリセルダのためじゃないぞ。圏内PKなんて派手なことをして半年前の事件を掘り返せば誰かが気づいてしまうかもしれないと考えたからさ。失われたリングはグリムロックの元にあるってことに。つまりグリセルダを殺したのはグリムロックかもしれないってことにだ。まぁ直接殺したのは今の3人だったんだろうがな。どうだい? グリムロック」

 

ルルがそう言うと木の影からグリムロックが顔を出す。後ろには剣を構えたアスナもいる。

 

「やぁ、久しぶりだね。みんな」

 

「何でなのグリムロック、なんで奥さんを殺してまで指輪をお金にする必要があったの」

 

ヨルコが叫ぶ。

グリムロックから帰ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「金? 金だって? 金のためではない! 私は!私はどうしても彼女を殺さなければならなかった。彼女がまだ、私の妻でいる間に!

彼女は、現実世界でも私の妻だった。一切の不満のない理想的な妻だった。かわいらしく、従順で、ただ一度の夫婦喧嘩すらしたことがなかった。

だが、この世界にとらわれてから彼女は変わってしまった。共用されたデスゲームに怯え、すくんだのは私だけだった。

彼女は現実世界よりもはるかに生き生きとして充実したようすで、私は認めざるを得なかった。私が愛した彼女は消えてしまったんだと。…なら、ならいっそ合法的に殺人が可能なうちに彼女を、ユウコを永遠の思い出の中に封じ込めてしまいたいと願った私を誰が攻められるだろう?」

 

キリトはグリムロックの言葉に「そんな理由で殺したのか?」と問いかけるとグリムロックは答える。

 

「いつか君にもわかるよ。探偵君

 愛情を手に入れそれが失われようとした時にね」

 

それをアスナが否定する。

 

「いいえ。間違っているのは貴方よグリムロックさん。貴方がグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。貴方が抱いていたのは、ただの所有欲だわ!」

 

アスナの言葉にグリムロックがひざを突く

 

「キリトさん、アスナさん、ルルさん、この男の処遇は私達に任せてくれませんか?」

 

カインズの言葉に3人が頷くとカインズ、シュミットがグリムロックを両脇から支え、歩いていく。去り際にヨルコがお辞儀をしていった。

 

 

リズやセレスティア、《風林火山》に[もう大丈夫だ]とメッセージを飛ばすと、「さぁ、帰るか」そう言ってキリトとアスナは町へ引き返していく。

ルルは少しやることがあるからとここに残った。そしてグリセルダの墓の前に立つ。

 

「なぁ、あんたは覚えてるか? 《月夜の黒猫団》のルルだ。中層でよく会ったよな。カインズやヨルコなんかは忘れてたみたいだけどな。

……俺さ、決めたんだ。死んでいった人たちの思いを背負ってSAOをクリアするって。だから、あんたの思いも背負ってやるよ。

たぶん、あんたは夫のグリムロックをここから出してあげたくて頑張ったんだろう? だから、あんたの思いも背負ってここをクリアしてやるよ……じゃあな、グリセルダ」

 

そう言ってルルは一つのアイテムを取り出す。果実酒のビンだ。

 

「わるいな。林檎はもってなくてな。葡萄だけど勘弁してくれ」

 

そう言ってふたを開け、墓にかけていく。 

かけ終わると、ルルは町へと歩き出した。その時、一辻の風が吹く。ルルが振り向くとそこではグリセルダが微笑んでいる。

ルルはグリセルダに背を向けると、ヒラヒラと手を振り町へと歩き出す。

 

しかしその唇は確かに<任せろ>と動いていた。

 

 




あとがき

どうだったでしょうか?

追放されているため作戦会議をかけず、義手のことがあるから事件発生に立ち会えないと。
書きづらいですよね。笑

そして、リズの出番が少ないことにいまさら気づきました。笑

次もなるだけ早く上げれるように頑張りますのでよろしくお願いしますね。


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笑う棺討伐策戦

浮遊城62層(最前線65層)

 

ここはとある洞窟

しかしここには攻略組の中から選ばれたメンバーが100名程集まっていた。

上座には《血盟騎士団》団長ヒースクリフ、《聖竜連合》団長カッツェ、《アインクラッド解放軍》通称《軍》のリーダーディアベル、《聖霊の剣》リーダースコール

この世界においての4大ギルドのリーダーが集まっている。

《軍》に関しては25層のボス戦にて甚大な被害のあと、攻略に参加しているのはディアベルだけではあるのだが。

 

閑話休題

 

今回、作戦の指揮を取るヒースクリフが話し出す。

 

「今回、攻略組の中でも信頼のできる者たちに集まってもらったのは他でもない。先日、情報屋達の働きにより、レッドギルド《ラフィン・コフィン》のアジトが発見された。ここ最近《ラフィン・コフィン》の被害は攻略組にまでおよんでいる。そこで本日午後より、《ラフィン・コフィン》討伐を行うこととなった。

これはボス攻略戦ではない。敵はモンスターなどではなく、プレイヤーである。しかも相手はレッド、こちらを殺しにくる。

この作戦は強制ではない。プレイヤーを攻撃することにためらいのあるものは辞退してくれてかまわない。それでも、プレイヤー達に平穏をもたらすため、参加してくれる意思のあるものだけ残ってもらいたい。

10分後、作戦会議をはじめる。よく考えて答えを出してくれたまえ」

 

 

 

10分が過ぎ、辞退したのは20名あまり、残った人数は74人。

そして、《ラフィン・コフィン》討伐の作戦会議が始まった。

 

「では、会議をはじめる。

《ラフィン・コフィン》がアジトとしているのは46層の外れにある洞窟。メンバーは57名。本日22時に奇襲を仕掛け、捕縛後、回廊結晶により黒鉄宮に送る。なお、《ラフィン・コフィン》の中にもグリーンの者もいると思われ、オレンジとなった者は作戦終了の後、カルマ回復クエストを《血盟騎士団》で支援する物とする。質問のある者はいるか?」

 

言葉には出さなかったが自分の命を仲間の命を守るため、相手を殺さなくてはいけないシーンもあるだろう。

それがわかっているからこそ、全員だまって今の言葉を噛み締め、頷いた。

そこに、あるプレイヤーから声が上がる。

 

「ここに、《追放者》がいる理由を教えてくれるか? そいつは力がなかったから追放されたと聞いているが?」

 

1人のプレイヤーが疑問を口にする。それにヒースクリフが答える。

 

「ここにいる者の中には同じ疑問を持つ物も少なくはないだろう。ルル君がボス攻略に参加しなくなった理由はリアルでの事情によりこの世界でも左手をなくしてしまったルル君の身を案じてのことだ。実力に関しては攻略組トップクラスの実力を保障しよう。それゆえに私達4人の総意により、この作戦に加わってもらうこととなった。」

 

ヒースクリフの言葉にカッツェ、ディアベル、スコールが頷く。

それにより、ルルに対してのメンバーの反対は消えた。

ヒースクリフは周りを見回すと頷き、最後にと話し出す。

 

「それでは今夜21時30分にここに集合とする。なお《ラフィン・コフィン》への情報漏洩を防ぐためこのことは他言無用とする。」

 

この言葉にメンバーは解散していった。

 

☆★☆★

 

時刻は21時55分

 

再集合した《ラフィン・コフィン》討伐メンバーは46層、《ラフィン・コフィン》のアジトの前にいた。

 

そして22時

 

討伐メンバーはアジトに突入した。

しかし《ラフィン・コフィン》の姿はない。

討伐メンバーが戸惑っていると、メンバーの後方でパリィと音がした。

全員がそちらを見ると1人のプレイヤーがポリゴンとなり、そのプレイヤーを殺したであろうプレイヤーが喋りだす。

 

「ハハハハハハ! ハメられたのはお前達の方なんだよぉぉぉぉ‼︎」

 

「レイダァァァァ‼︎」

 

内通者がいたのだ。

裏切り者に対してカッツェは叫ぶが、それが始まりの合図かのように隠れていた《ラフィン・コフィン》が一斉に飛び出してくる。

そして《ラフィン・コフィン》のヘッド《プー》が叫んだ。

 

「It's Show Time‼︎」

 

今、《ラフィン・コフィン》討伐作戦は最悪の形で幕を開けた。

 

 

大混戦となる中、ルルはレイダーと対峙していた。

 

「ハハハハ、《追放者》今日こそお前を殺してやるよ‼︎」

 

そう言ってレイダーは斧を振りかぶる。

レイダーも前回で学習したのだろう。ソードスキルは使わない。

しかしルルは刀で斧をいなし、流すとレイダーを切りつける。レイダーのHPは3割ほど減少する。

 

「おとなしく捕まれ。 お前では俺に勝てねえよ」

 

ルルはさとすがレイダーは逆上するばかり。

ルルはすべての攻撃をかわしレイダーのHPを削る。

レイダーのHPはレッドに突入するが、レイダーは怯える様子もない。

 

「ほーらレッドに入ったぞ次攻撃すればお前は殺人者だ」

 

そう、討伐メンバーと《ラフィン・コフィン》の一番の違いは殺しを躊躇するかしないかだ。

ルルは降参することをさとすがやはりレイダーは聞く耳を持たない。

そこに別の《ラフィン・コフィン》のプレイヤーがルルに攻撃してくる。それを刀でいなし、HPを確認すると攻撃を加え、HPを削る。

そこにレイダーの斧が横薙ぎに振るわれる。

ルルは反射的に避け刀をレイダーに向けて振り下ろすが、直前で躊躇し、止めてしまう。

その隙はあまりにも大きかった。

レイダーはソードスキル《クリムゾン・ブラッド》を発動する。

隙ができていたルルに斧が振り下ろされる。

《クリムゾン・ブラッド》は3連撃。2撃目を食らいルルのHPはイエロー、最後の一撃を受ければHPは0になるだろう。

しかし斧はルルにあたる事はなかった。

 

「1層の時とは立場が逆になったね」

 

ルルの目の前には斧に貫かれ膝をつくディアベルがいた。

 

「これは殺し合いなんだ。戸惑えば自分や仲間が死ぬ」

 

話している間にもディアベルのHPは減っていく

 

「君はこれからの攻略に必要な人間だ。僕なんかよりも……ずっと」

 

「まってくれ、ディアベル」

 

ルルはそう言ってディアベルに手を伸ばす。

しかし、ルルの手が届く前にディアベルのHPは0になった。

 

「ルル君、後は頼んだよ」

 

ディアベルは微笑むとポリゴンとなって霧散した。

 

「ディアベル……」

 

ルルは立ち尽くす。周りでレイダーが何か暴言を言っているようだが耳には入らない。

カラン…ルルの足元に何かが転がってくる。ルルが目をやるとそこには最近見た盾が転がっていた。

ガロンの盾だ。

周りを見渡せばフィートが《ラフィン・コフィン》に囲まれてメッタ刺しにされている。

 

あの時の光景と重なる、ギルドをなくしたあの時と。

 

その時、ルルの目の前にある光景が飛び込んでくる。

水色のボブカットの少女、セレスティアが戦っている。そして、少女は後ろから切られようとしている。

 

サチ…

 

ルルにはあの時のサチと重なって見えていた。

俺が戸惑ったからディアベルは死んだ。ガロンもフィートも…セレスティアも……

そこで、ルルの中の何かが弾けた。

 

「うぉぉぉぉお‼︎」

 

ルルは迫っていたレイダーの斧を回転しながらかわすとその勢いのままレイダーを切り裂きポリゴンに変える。

その後、ソードスキル《辻風》を発動し体を加速するとセレスティアに剣を振り下ろしているプレイヤーの首をはねる。

その時のルルは体に光を纏っていた。そのせいなのだろうか? 間に合うはずのなかった距離を一瞬で詰め、起こるはずのノックバックを無視しすると次の行動に移る。

《ラフィン・コフィン》の攻撃をかわすと、相手がとっさに出した盾をチーズのように斬り裂き、一撃でポリゴンに変えていく。

次に対峙したのは《赤目のザザ》と呼ばれる《ラフィン・コフィン》の幹部。

 

「《追放者》か、沢山殺した、みたいだな、それも終わりだ、俺が、お前を殺す」

 

「ルル、助かった」

 

ザザの声もキリトの声もルルには聞こえていないかのように何も返さず戦闘を開始する。

まずはルルがザザのエストックを上に弾き、そこにキリトが攻撃を加える。

その後はキリトの攻撃など気にしていないとばかりにルルはザザの腕を切り飛ばした。

そこでザザの首元にキリトが剣を向ける。

腕と共に武器を飛ばされたザザは捕まるしかなかった。

 

「く…いつか…覚えていろよ…キリト…ルル…!」

 

ザザが怨むように話すがルルはもうそこにはいなかった。

 

《ラフィン・コフィン》もあらかた片付いた。

ルルは今、《ラフィン・コフィン》のヘッド《プー》と幹部《ジョニー・ブラック》と対峙していた。

 

「お前も大分殺してるみたいじゃないか、どうだ? 殺す感触は?」

 

「楽しーでしょ?最後に絶望した顔を見るのってさー」

 

やはり、プーの声もジョニー・ブラックの声も届かない。

ルルは《辻風》を発動するとプーに向けて加速する。

 

「ちっ聞いてねえか」

 

プーは何とか中華包丁のような剣《友切包丁(メイト・チョッパー)》で弾く。

ノックバックを狙ってジョニー・ブラックがナイフを投げるが、今のルルにノックバックは起こらない。

ナイフを弾くと邪魔だとばかりにジョニー・ブラックに肉薄すると、左右の四肢すべてを部位欠損にし、放置する。

 

そこでルルの異常さに気づいたのだろう。

 

ジョニー・ブラックは「ヘッド、こいつヤバイ。逃げてくれ」と叫ぶ。

それを見ていたプーも「Crazy。引くしかないか」と撤退に入る。

しかしそれをルルが許すはずもなく、プーに攻撃を仕掛ける。

プーも何とか防ぐが徐々にHPは削られ、左腕は切り飛ばされている。

 

その時、ジョニー・ブラックの「ヘッドを守れ。」と言う叫びに反応した《ラフィン・コフィン》のメンバーがルルに切りかかる。

 

そのすべてを躱し、刀でいなす。そして、首を撥ね、ポリゴンに変え、腕を飛ばし、無力化する。

しかしその間にプーは逃げ出していた。去り際に「……覚えていろよ」と残して。

 

そして《ラフィン・コフィン》討伐戦は終わりを迎える。

この作戦で攻略組から28名《ラフィン・コフィン》から23名という死者をだした。

 

☆★☆★

 

「さっきはありがとう。ルルがいなかったら私、死んでた」

 

セレスティアが話しかけてくる。

ルルの体からは光が消え、いつもの雰囲気にもどっていた。

ルルは苦笑いでセレスティアを見ると

 

「あぁ、だけど、沢山殺してしまったな……」

 

「それに、沢山死んだよね。味方からも…知り合いも沢山死んじゃった」

 

ルルはフラフラと歩き出す。

セレスティアは手を伸ばすが少し考えた後、あぁ、なるほど。と溜息をこぼし「行ってらっしゃい」と送り出した。

 

☆★☆★

 

48層リンダースにあるリズベット武具店。

ガチャとドアが開きルルが帰ってくる。

 

「あぁ、ルルお帰り。」

 

リズの言葉にいつもは「ただいま」と返すルルは今日はドアを入ったところで立ち止まり、俯いたまま返事を返さない。

 

「どうしたの? なんかあった?」

 

リズの心配そうな言葉にルルはぽつぽつと話し出す。

 

「今日、《ラフィン・コフィン》討伐作戦があったんだ」

 

リズはその言葉に目を見開く。

《ラフィン・コフィン》と言えばSAO最悪の殺人ギルドだ。

自分の知らない間にルルはどんな死線を潜り抜けたのだろうかと。

 

「そこで俺、人を殺したんだ。仲間が殺されて、殺さなくちゃもっと沢山の仲間が殺されて。どうしようもなくて、でも…でも……」

 

リズはそっとルルを抱きしめる。

 

「ルルは仲間の為に、《ラフィン・コフィン》の被害がでてる低層のみんなの為に罪を背負ってくれたんだよね。でも、それを1人で背負ったらルルが潰れちゃうよ。

私がそばに居るから。 ルルが潰れちゃわないように隣でささえるから」

 

「リズ……」

 

ルルもリズの背中に手を回す。

 

 

「ねぇルル……」

 

「リズ、それくらい俺に言わせてくれ」

 

 

「結婚しよう。リズ」

 

 

そしてルルとリズは見つめ合い

 

 

この日、2人は初めて唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 




あとがき

どうだったでしょうか?

ここでディアベルが出てきたわけです。そしてやっぱり「後は任せた」ですね。

そして心意…

次回をお楽しみに。


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結婚報告


まえがき

遅くなりました。長々と前書きもアレですし、21話ですどうぞ。






浮遊城65層

 

最前線の迷宮区、ここに水色の髪の少女がいた。

《ラフィン・コフィン》討伐戦から1日、少女は迷いと苛立ちを晴らすため、モンスターの群れを次々とポリゴンにかえる。

10体ほど居たモンスターも少女に貫かれ、残り3体となっていた。

少女は一番手前のモンスターを自身の槍で薙ぎ払うとソードスキルを発動する。

槍の5連撃《ダンシング・スピア》

放たれたソードスキルはモンスターを一気にポリゴンへと変える。

 

(クソッ! いくら考えてもダメだなー)

 

正直、今の攻撃は確実にオーバーキル。それだけ少女がむしゃくしゃしているという事なのだろう。

昨日、《ラフィン・コフィン》討伐戦の後に少女は少年に声をかけようとした。

しかし、そこで気づき、思ってしまったのだ。自分では少年の傷ついた心を癒せないことに、少年の心を癒して上げられる人の存在を。

自分とその人では、すごした時間も密度も少なく軽い。

 

しかし、諦めようと思っても諦めきれない。

 

考えても答えは出ず、気を晴らそうと迷宮区へと来たものの倒しても倒しても気は晴れない。

わかってはいるのだ。こんなことをしても気が晴れないことも、諦めきれないことも。

 

(やっぱり、諦めるなんてできない……そうだよ、これから人生長いんだし諦めない。)

 

少女は考えがまとまったところで時計を見ると約束の時間まで後30分ほどしかない。

 

(もういかないとな)

 

迷宮区、出口付近にポップしたモンスターをポリゴンに変えると歩き出す。

 

「もう迷わない! 攻略も恋も諦めたりしないんだから!」

 

少女は自分に言い聞かせるように叫び、笑顔で町へ向かった。

 

 

☆★☆★

 

 

61層セルムベルグ

 

ここに、アスナの家がある。

今日は昨日の《ラフィン・コフィン》討伐戦で沈んだ気分を盛り上げようとここで小規模なパーティーをすることになっている。

 

「ふぅ、これで料理はOKよね。そろそろ来るころかな? あー早くキ……みんなこないかな。」

 

その時ピンポーンとチャイムが鳴る。声はシステム的に聞こえないとは分かってはいる物の、アスナは顔を赤くしてドアへと向かった。

「はーい」と返事をしながらアスナがドアを開ける。

そこには親友であるリズベット、攻略組の仲間であるルルとキリト、それにクラインが立っていた。

「いらっしゃい」アスナがそう言うとリズベットとルルは「お邪魔しまーす」とキリトはぎこちないまでも「お、お邪魔します」と中に入る。

クラインはピンと背筋を伸ばし、直立すると「こ、このたびはお招きいただき…」とかしこまり、その間に遅れてきたセレスティアが「やほー、アスナ。お邪魔しまーす」と入っていく。

それにつづき、「お、おい待ってくれよ。ア、アスナさんお邪魔します。」とクラインも入った。

 

パーティーは盛り上がった。

全員、アスナの作った食事に舌鼓をうった。

パーティーも終盤に差し掛かったところでリズベットが話し出す。

 

「えーっと、みんなに、話しておきたいことがあるんだよね」

 

「なーに? 改まって」

 

そうアスナが相槌を打つとリズベットは話し出す。

 

「あたしね、というか、あたし達ね、結婚したのよ」

 

その爆弾発言にキリトとクラインはは目をむき、ルルは心の準備ができていなかった為ケホケホとむせる。セレスティアはプルプルと震える。

アスナが目をキラキラさせて祝いの言葉を贈る。

そこでキリトとクラインの目に気づいたルルが「ま、まぁそう言うことだな」そういったところでバン、と机を叩き、セレスティアが立ち上がった。

 

☆★☆★

 

(ルルと、リズベットが結婚? 早すぎる。今日、諦めないと決めたばかりなのに。そう、諦めない! 私は15だ! これからまだチャンスはあるはずだ。これからは、押して押して行く。なら……)

 

「わ、私だってルルのっことが好きなんだから‼︎」

 

セレスティアの発言に全員が固まる。

 

「今回は正妻はリズに譲ってあげる! つまり、私は妾になる! そんでもって、このゲームが終わって、現実に戻ってからが本当の勝負だからね。いや、今から始まったのよ。リズ! 勝負よ‼︎」

 

(セレスティアもルルのことが大好きなんだよね。)

「受けて立つわよ。 まぁ私の一歩リードだけど!」

 

そうリズが返すと不敵な笑みを浮かべてと2人は握手を交わす。

 

「じゃぁ、とりあえず私、一緒に住むから!」

 

「え⁉︎ まぁ……妾ならしかたない? いや、ここは別宅に住んでもらって……」

 

リズの戸惑いに周りは笑い、場は和む。

リズベットは思う。2人でルルを支えてあげよう(でも、負けないんだからね、セレスティア。)

 

 

2人にアスナが加わりガールズトークが始まる。

その反対側ではキリトがルルに「これからもっとがんばらないとな」と声をかけ。

ルルはついて行けずにハハハ…と苦笑し。

クラインは「ちくしょう、なんでルルばっかり。ヤケだ!酒だー‼︎」と叫びながら手前の飲み物を一気に飲み干す。

再びもりあがったパーティーはこの後も遅くまで続いたのであった。

 





あとがき

今回セレスティア回のつもりで書いたんですがどうでしょうか?

最近話が浮かんでこないんですよねぇ。

アドバイス感想お待ちしています     では。


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ラグーラビット

まえがき

いつの間にかお気に入りが50を突破している。
皆さんありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

では22話始まります




浮遊城50層(最前線74層)

 

アルゲートにあるエギルの店

ここに、キリトがエギルにとある《物》を売りに来ていた。

ある《物》とは《ラグーラビットの肉》めったとお目にかかれないS級食材である。

なぜS級食材を売りに来たかと言うと、理由は簡単キリトは料理スキル0だからである。

 

そこにルルがやってきた。

 

「キリト、それ売っちまうのか? 勿体無いだろ」

 

「でもまぁ俺が料理しても黒焦げになるだけだしなぁ」

 

キリトとルルが話しているとエギルが口を挟む

 

「誰かいないのか? 作ってくれそうなヤツは」

 

「そんな都合のいい話が____」

 

そこにカランとドアがなりお客が入ってきた。

 

「あっいたいた。キリト君、ルル君元気にしてた?」

 

お客はアスナだった。それを見たキリトはアスナの手を掴むと「シェフ確保!」と叫んだ。

何のことかわからないアスナは少し顔を赤らめながら「何よ?」と返す。

無意識だったのだろう。キリトは慌てて手を離すと話を変えるために「珍しいな、アスナ、どうしたんだ?こんなゴミ溜めに」と振った。

キリトの言葉にエギルがむっとするが話はそらせたようだ。アスナが話し出す。

 

「もうすぐ、次のボス攻略だから生きてるか確認しに来てあげたんじゃない」

 

「フレンドリストに登録してるんだから、それくらいわかるだろ?」

 

「生きてるならいいわよ。それよりなによ? シェフがどうこうって」

 

いや、ごまかせていなかった。

 

「あー、アスナ、今料理スキル熟練度どのへん?」

 

それを聞いたアスナは胸を張って自慢げに返す。

 

「先週コンプリートしたわ! すごいでしょ」

 

「なに⁉︎」と3人が驚く。

死んだら終わりのこの世界で生き残るのに全く関係の無いスキルをコンプリートする意味が見つけられ無いからだ。

 

「その腕を見込んで頼みがある。」

 

キリトは右手を振り、アイテム画面を開くと可視化し、アスナに見せる。

アスナはアイテム覧を確認し《ラグーラビットの肉》と名前を確認するとその超高級食材に目を見開く。

 

「取引だ。こいつを料理してくれたら一口食わせてやる」

 

アスナはキリトの胸倉を掴むと「は・ん・ぶ・ん」と迫る。

すごい形相で言うアスナに押されて、キリトはコクンと頷いた。

 

「やった‼︎」

 

アスナは飛び跳ねて喜ぶ。

「と言うわけだ。悪いなエギル」とキリトが言うとエギルは自分にも食べさせてくれと必死に頼むが、キリトは「感想は800字でまとめてやるよ」と返しアスナとこの後どうするか相談し始める。

その時、ルルの視界にポーンとメッセージが入る。

キリトとアスナはアスナの家で調理し、食べることが決まったようだ。

 

「キリト、アスナ、3人追加で頼む。セレスティアもゲットしたみたいだ。ラグーラビット。」

 

羨むエギルの視線を無視してアスナの家で5人での晩餐会が決定する。

後ろでエギルが嘆いているが気にしない。この世界でうまい食事は最大級の贅沢なのだから。

 

「そう言うわけなので、今日はもう大丈夫です。お疲れ様」

 

アスナが店を出たところで後ろに控えていた人物に言う。

 

「アスナ様、こんな得体の知れない物たちをご自宅へ伴われるなど」

 

その言葉にアスナははぁと溜息をつくとキリトやルルは信頼できると伝える。

クラディールと呼ばれた護衛は2人を訝しげに見て顔をしかめる

 

「私がこんな奴らに劣ると? そうか、こいつら《追放者》と《黒の剣士》‼︎ アスナ様、こいつら自分さえよけりゃいい連中ですよ。それに1人は攻略を追放されたやつじゃないですか。 こんな奴らに関わるとろくなことがないんです。」

 

クラディールの声が大きかったのだろう。周りが騒ぎ始める。

ここで騒ぐのはよくないと思ったのかアスナは口調をきつくして言う。

 

「とにかく、今日はここで帰りなさい。副団長として命じます。……二人とも、行こう」

 

「いいのか?」とキリトが質問したが、アスナは怒っているのだろう。「いいの」とキリトの首根っこを掴み引きずっていく。

ルルはそれを見てクツクツと笑いながら頭の後ろで手を組みついていく。

その姿をクラディールはギリッと奥歯に力をこめ、睨んでいた。

 

 

☆★☆★

 

夕日に彩られた高級感漂う町セルムベルク。

転移門でリズベット、セレスティアと合流し、アスナの家に向かい、5人で食卓を囲む。

ラグーラビットはシチューにし、付け合せは最近料理スキルを上げ始めたリズとレスティアが手伝った。

5人はあまりの美味しさに一心不乱に食事をし、食後の紅茶までは無言だった。

一息着いたところでキリトが話し始める。

 

「でも本当に大丈夫だったのか? クラディールだったか?」

 

「本当はいらないって言ったんだけどね」

 

「なに? この前言ってた護衛の人?」

 

アスナの答えにリズが質問する

 

「そう。昔は、団長が1人ずつ声をかけて作った小規模ギルドだったんだけどね。

でも、人数がどんどん増えて、最強ギルドなんて言われだしたころからおかしくなっちゃった……」

 

「DDDもそうだよ。小規模の時はレアアイテムのために相手を傷つけたりなんかしなかったのにさ、大きくなるにつれて他のギルドに負けないため、攻略するのはDDDでないといけないって人が増えてきてさ。

おかしいよねクリアして出られれば誰がクリアしてもいいはずなのに……」

 

アスナとセレスティアの言葉にみんなシンとなる

 

「もうこの話はおしまい。それより、キリト君とルル君はギルドに入る気はないの? 70層を越えた辺りからモンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきている気がするの」

 

アスナの言葉にみんな真剣な顔になり頷く。それを見てアスナは続ける。

 

「ソロだと想定外の事態に対処できないことがあるわ。いつでも緊急脱出できるわけじゃないのよ?」

 

「安全マージンは十分に取ってるよ。たまにルルとパーティ組んでるし。それに俺の場合、他のやつと組むと助けよりも邪魔になることの方が多いし」

 

キリトがそういったところでアスナが立ち上がりキリトに食事に私用していたナイフをむける。

そのナイフに淡い光が宿りソードスキルが発動したかのように見えた。

キリトは両手をあげ、「わかったよ、アスナは別だ。」そう言うとセレスティアが「ふーん、アスナだけなんだ」とニヤニヤしながら言う。

キリトは苦笑いしながら「セレスティアもだよ」と答えた。

「そう」とアスナはナイフを下ろす。

 

「なら久しぶりに私とパーティ組なさい」

 

アスナの言葉にキリトは「な⁉︎」と声を上げるがアスナは聞く耳を持たず「今週のラッキーカラーは黒だし」と続ける。

 

「なんだそりゃ、んなこと言ったってアスナ、ギルドはどうすんだよ?」

 

「うちはレベル上げノルマとかないし」

 

「じゃぁ、あの護衛は?」

 

「置いてくるし」

 

「最前線は危ないぞ?」

 

キリトのその言葉を引き金にアスナはナイフをヒュンとキリトの顔の前で寸止めする。ナイフにはまたもソードスキルの光が燈っていた。

 

「わ、わかった」

 

今度こそキリトが降参した。

その掛け合いを我関せずと紅茶を飲んでいたルルだがアスナの「もちろんルルも組むのよ」の一言で引きずり出される。

そこにセェレスティアも「ルルが組むなら私も行こうかなー」と言い、リズも「それじゃぁ旦那をよろしくね」などと言い出す。

こうしてキリト、アスナ、ルル、セレスティアはパーティを組むことになり、リズはそんな4人のために武器を朝までに研いだりしていた。

 

☆★☆★

 

次の日、74層の転移門の前

キリト、ルル、セレスティアはアスナを待っていた。

「こないな……」キリトはそう言ってあくびをする。

ルルがクツクツと笑いながら「そうだな、寝坊でもした野かもな」と言ったところで転移門が光った。

 

「ど、どいてー!」

 

その言葉と共にアスナが飛び出してきた。

アスナはキリトにぶつかると、2人は転げる。

転げた拍子にキリトがアスナの胸を揉み、蹴り飛ばされるというハプニングが起こったが、2人が無事? 立ち上がると転移門が光り、1人の男性が出てくる。

クラディールだ。

アスナはキリトの後ろに隠れる。

 

「アスナ様、勝手なことをされては困ります。ギルド本部まで戻りましょう。

 

「嫌よ。大体あんたなんで朝から家の前に張り込んでるのよ」

 

アスナの言葉に「な、」と3人は絶句する。

それはもうストーカーだろう。と突っ込む暇もなくクラディールは話を続ける

クラディールの話を聞くと、なんと、アスナの護衛のため、1ヶ月前からずっとセルムベルクでアスナの監視をしていたのだと言うのだ。

間違いなくストーカーだとルルが思っていると、アスナが「団長の支持じゃないわよね?」と聞く。

クラディールは誇らしげに「私の任務はアスナ様の護衛です。それにはご自宅の監視も含まれるのです」と言おうとしたところでアスナが

「含まれないわよ、バカ!」と叫んだ。

 

「聞き分けのないことをおっしゃらないでください。さぁ本部に戻りましょう」

 

そう言ってキリトの後ろに隠れていたアスナの手を掴み連れて行こうとする。

 

「悪いな、お前さんとこの副団長は今日は俺達の貸切なんだ

アスナの安全は俺が、俺達が保障するよ。何も今日ボス戦をやろうってわけじゃないんだ。本部にはあんた1人で行ってくれ。」

 

クラディールの手を止めながら言ったキリトの言葉にクラディールが切れた。

 

「ふざけるな。貴様らのような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるか。私は栄光ある《血盟騎士団》の____」

 

クラディールの言葉にキリトが被せる。

 

「あんたよりはまともに務まるよ」

 

「そこまででかい口を叩くからにはそれを証明する覚悟があるんだろうな?」

 

クラディールは右手を振るとメニュー画面を操作する。キリトの前にデュエルの申し込み画面が表示される。

キリトとアスナは相談し、アスナが団長に報告するということでOKボタンを押す。

こうしてクラディールとキリトは戦うことになった。

 

勝負は一瞬だった。

 

クラディールがソードスキルを発動したところをキリトが武器に一撃ソードスキルをピンポイントに打ち込む。

するとクラディールの両手剣は中程からポッキリと折れてしまった。

武器を折られては降参するしかない。しかしそれでも食い下がろうとし言い訳をするクラディールをアスナが副団長としての権限で護衛役を解任、ギルド本部へと送り返した。

クラディールはキリトとルルを睨みながら渋々本部へと帰っていった。

アスナは3人に嫌な思いをさせてと謝るが、そんなことを気にする3人でもない。

気を取り直して4人は迷宮区へと向かうのだった。

 

 

 

 




あとがき

終わりが近づいてきましたね。ALO書こうか書くまいか、それによってエンディングが変わる。そこが問題ですね。

ではまた次回。


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解き放たれる秘密

まえがき

はい、前回の続きです。

SAOファンの人ならもうお分かりですよね。

そうあの話です。 

                      ではどうぞ。


浮遊城74層

 

迷宮区

 

キリト、アスナ、セレスティア、ルル。

この4人は攻略組(ルルはボス戦には出ないが)の中でも最上位の4人だ。

その4人がパーティを組んだのだから最前線74層の迷宮区のモンスターであろうと敵ではなかった。

4人は快調に迷宮区を進むと一本の大通りに出た。

 

「ねぇ、みんな。アレ」

 

そう言ってアスナが指を指す。

そこには大きな門がそびえ立っていた。

迷宮区にあるアレだけ大きな門といえば決まっている。

迷宮区最深部。ボスが待ち構える部屋の門だ。

 

「これってやっぱり」

 

「ボス部屋だろうな」

 

アスナの問いにルルが答える。

 

「覗いちゃうだけ覗いちゃわない?」

 

セレスティアが興味津々に言う。

 

「そうだな。ボスは絶対に守護する部屋からは出てこないし、覗くだけなら大丈夫だろ」

 

「そうだね」

 

キリトとアスナが覗くことに了承するとルルが前に出る。

 

「じゃぁ俺に開けさせてくれ。ボス部屋を覗くのなんて久しぶりなんだ」

 

そう言ってルルはボス部屋の門を右手で押す。

 

「ちょっとまて、一応転移結晶の用意を…」

 

キリトが止めようとするが既にルルは門を押した後だ。

ギィィィ、と音を立てながらゆっくりと門は開いてい

ルルは苦笑しながら「わるい、もう押しちまった」と謝罪する。

門が開くとボ、ボ、ボ、と音を立てて手前の壁から松明に青い炎が燈っていく。

そしてすべての松明に炎が燈り部屋が明るくなった時、部屋の真ん中に顔が羊、尻尾が蛇の悪魔が片手に巨大な剣を持ち立っていた。

 

その悪魔、《ザ・グリーム・アイズ》は4人を視認するとその大きな口を開き咆哮をあげた。

 

「「「うわぁぁぁぁぁああ」」」

 

アスナ、キリト、セレスティアの3人が一目散に逃げ出す。

ルルはと言うとしっかりとボスを見据え、苦笑する

 

「待っとけよクソ虫! やっとスキルがコンプリートしたんだ。今度のボス戦、必ずお前を殺してやるよ」

 

それだけ言うと、ルルは踵を返しキリト達の後を追った。

 

☆★☆★

 

74層の安全地帯、ここまで一目散に走ってきたキリト、アスナ、セレスティアは息を切らしながら話していた。

 

「あれは苦労しそうだね」

 

「そうだな、パっと見武器は大型剣だけだけど、特殊攻撃ありだろうな」

 

「だね、あの口からブレス吐くとか、尻尾の蛇がなんかするんだろうね」

 

3人が今見たボス、《ザ・グリーム・アイズ》について話していた。

そこでキリトがあることに気づく。

 

「あれ? ルルがいないぞ」

 

「ほんとだね、どこ行ったんだろう、ルル君」

 

アスナが相槌を打った時、安全地帯に向かってコツコツと足音が聞こえてきた。

 

「おまえら、どこまで逃げてんだよ。ボス部屋からここまでだいぶあるぞ。」

 

ルルがクツクツと笑いながら歩いてきた。

 

「しょーがないでしょ、怖かったんだから」

 

そう言って顔を膨らませるセレスティアをルルがポンポンと叩いていると、ルルを1人置いてきた事に気まずさを感じたのかアスナが話題を変えるため「お昼にしない?」と提案し、昼食をとることになった。

とは言え、話題はやはり《ザ・グリーム・アイズ》戦のこと。

 

「でもあいつは攻撃力有りそうだし、固いヤツを相当連れて行かないとキツイんじゃないか?」

 

「そうね。前衛に硬い人を集めて、どんどんスイッチしていくしかないね」

 

「盾装備のヤツが10人は欲しいな」

 

ルルの質問にアスナとキリトが答える。しかしアスナはキリトの質問に疑問を持ったようだ。

 

「盾装備ねぇ」

 

「なんだよ?」

 

「キリト君、何か隠してるでしょ?」

 

「い、いきなり何を…」

 

「だって可笑しいもの。普通片手剣の最大のメリットって盾を持てる事じゃない? でも、キリト君が盾持ってるの見たことない。私の場合はレイピアのスピードが落ちるからだし、スタイル優先で持たないって人もいるけど……

リズに作らせた剣も使ってないみたいだし、怪しいなぁ」

 

そう言ってアスナが目を細めると、キリトは口ごもってしまう。

それを見てクツクツと笑っていたルルだが、アスナの料理の美味しさに夢中になっていたセレスティアが発した一言でキリトと同じ立場に立たされる。

 

「そーいえばルルもリズにメンテしてもらってる黒と赤の刀使ってるとこ見たことないんだよね」

 

ルルの顔が固まった。キリトはチャンスと見たのかそこをつく。

 

「へ、へぇぇ。そうなのか? ま、まぁルルもしてるしそう珍しいことでもないんじゃないのか」

 

それを見てアスナが溜息をつき諦めたようだ。

 

「まぁいいわ。スキルの詮索はマナー違反だものね。

セェレスティア、おかわりあるけど食べる?」

 

「食べる、食べるー」

 

セレスティアがおかわりに飛びつき話題が切り替わったところでキリトとルルは、はぁ、と溜息をつき、ルルはキリトをジト目で睨み、キリトはスマンと手を合わせる。

そこで、キリトとルルの索敵にプレイヤーの反応が引っかかる。

4人は構えるが、歩いてきたプレイヤー達を見て構えを解いた。

プレイヤー達はクラインを筆頭に《風林火山》の面々だった。

4人にクラインが気づく。

 

「おぉキリトにルルじゃねぇか。しばらくだなぁ。」

 

「久しぶりだな。」

 

「よう、クライン。まだ死んでなかったか?」

 

キリトが返事をしルルも皮肉を言う。

 

「死んでなかったって、ルルは相変わらず口が割りいなぁ。しかし何だよお前らが他のヤツと組んでるなんて珍しいなぁ。しかも女連れたぁ……」

 

クラインが後ろの2人、アスナとセレスティアを確認した瞬間固まる。

 

それに反応して《風林火山》の面々も固まる。

 

「ア、アスナさんにセレスティアちゃんじゃないですかぁ!お、お久しぶりです。クライン、24歳独身。これからもどうぞよろしくお願いします」

 

そう言ってクラインが握手を求めるように右手を差し出す。

《風林火山》の面々も「ファンです」「お会いできて光栄です」などはなしている」

 

苦笑いするアスナ、助けを求めるような目で見るセレスティアをルルはクツクツと笑いながら、キリトは少しおろおろしながら見たいた。

そこに、大人数のそろった足音が近づいてくる。

 

「あれは、軍の奴らか?」

 

キリトが呟く。

 

《軍》《アインクラッド解放軍》は25層のボス戦で大人数の死者を出した事により攻略よりも組織強化に重点を置き、1層を支配している巨大ギルドだ。

軍は安全地帯に足を踏み入れると先頭の人物が「休め」と叫び、休息に入る。

先頭の人物がルル達に近づいてくる。

 

「私は《アインクラッド解放軍》の《コーバッツ》中佐だ」

 

「キリト、ソロだ」

 

コーバッツの自己紹介に代表して一番前にいたキリトが名のる。

 

「君らは、もうこの先も攻略しているのか?」

 

「あぁ、ボス部屋の前までマッピングしてある」

 

「ふむ。では、そのマッピングデータを提供してもらいたい」

 

コーバッツはキリトとの会話にでたマップデータをよこせと言い出した。

 

「な、タダで提供しろだと? てめぇ、マッピングする苦労がわかってて言ってんのか?」

 

クラインがコーバッツに噛み付く。

 

「我々は、一般プレイヤーに資源や情報を平等に分配し、秩序を維持すると共に、一刻も早く、この世界からプレイヤーを開放するために戦っているのだ。ゆえに、諸君が我々に協力するのは当然の義務である。」

 

コーバッツが高らかに宣言する。

しかしこちらも黙ってはいなかった。

 

「あなたねぇ」

 

「解放するためにって、今までボス攻略に出てこなかったくせに」

 

アスナに被せてセレスティアが言い放つ。

 

「ボス攻略に参加しておられたディアベル殿が倒れられた今、変わって我々が攻略する」

 

それを聞いてルルはギリッと奥歯を噛み、顔をそむける。

それを見たキリトは早くこの話を終わらせたほうがいいと思ったのだろう。

 

「よせ、どうせ町に戻ったら公開しようと思っていたデータだ。かまわないさ」

 

「おいおい、そりゃ人が良すぎるぜキリト」

 

キリトが提供しようとするがクラインが止めるようとする。

 

「マップデータで商売する気はないよ。」

 

しかしそう言ってキリトはマップデータを渡す。

 

「ふむ。協力感謝する」

 

そう言ってコーバッツは軍の方へ戻っていく。

 

「ボスにちょっかい出す気ならやめといた方がいいぜ」

 

「それは私が判断する」

 

「さっきボスを見てきたけど、生半可な人数でどうにかなる相手じゃない。仲間も消耗してるみたいじゃないか。」

 

「私の部下達はこの程度で根を上げる軟弱者ではない。貴様ら、さっさと立て。」

 

キリトは忠告するが、コーバッツは聞く耳を持たずそう叫ぶと部下を連れてボス部屋の方へと歩いていった。

 

「大丈夫か? あの連中」

 

「いくらなんでも、ぶっつけ本番でボスには挑まないと思うけど……」

 

クラインとアスナが心配そうに話す。

その時ルルはディアベルの最後の言葉を思い出していた。

 

『ルル君、後は頼んだよ』

 

そう言って笑って消えていったディアベルの姿を。

 

「まぁ、一応様子は見に行くか」

 

そう言ったルルに全員が頷くとルル達はコーバッツ達《軍》を追った。

追いかけていく前にクラインがアスナとセレスティアを呼び止める。

キリトもルルも危なっかしいヤツだからよろしく頼む。と話し、2人がそろって「任されました」と笑顔で答えたのは別の話。

 

☆★☆★

 

ルルたちは迷宮区を進みボス部屋へと続く最後の道に来ていた。

 

「あとはボス部屋だけなんだろ? ひょっとしてもう転移結晶で帰ったんじゃね?」

 

クラインが最後のモンスターを倒しながら話す。

その時、ボス部屋の方から悲鳴が聞こえた。

ルル、キリト、セレスティア、アスナは走り出す。

クライン達《風林火山》も走り出そうとするが、タイミング悪くモンスターがポップした。

 

ルルたち4人はボス部屋へ向けて走る。

その間にも悲鳴が聞こえてくる。

「おい、大丈夫か」キリトがそう叫びながらルルたちはボス部屋の門をくぐる。

ルル達がボス部屋に着くと《軍》は門の反対側で《ザ・グリーム・アイズ》に蹂躙されていた。

 

「何してる。早く転移結晶を使え」

 

キリトが叫ぶ。しかし軍から返ってきた言葉はそれを否定した。

 

「ダメだ。結晶が使えない!」

 

このボス部屋は結晶無効化空間だったのだ。

 

「今までボスの部屋にそんなトラップなかったのに……」

 

そうアスナが言う。

 

ルルはあの時のことを思い出す。黒猫団が全滅した時のことを。

 

「我々《解放軍》に撤退の2文字はあり得ない。戦え! 戦うんだ‼︎」

 

そうコーバッツが叫ぶ。

 

「バカ野郎…」そうキリトが呟いた時、クラインが追いついてきた。

 

「どうなってるんだ?」

 

クラインが尋ねる。

 

「ここでは転移結晶が使えない。俺達が切り込めば退路を開けるかもしれないが……」

 

「何とかできないのかよぅ……」

 

『ルル君、後は頼んだよ』ルルはディアベルの最後の言葉を思い出す。

キリトとクラインが尻込みしている横からルルが走り出した。

それと同時、コーバッツが《軍》のメンバーに「突撃‼︎」と叫び《軍》が《ザ・グリーム・アイズ》に向けて突撃する。

 

キリトが叫び止めるが《軍》は《ザ・グリーム・アイズ》のブレスをもろに受けてしまう。

その後、《ザ・グリーム・アイズ》はソードスキルを《軍》に向け発動。大剣を振り上げる。

向かっている先はコーバッツだ。

 

しかし、コーバッツにあたることはなかった。

 

ルルが刀で受け止める。

しかしルルの刀《朧月》は中程から折れてしまう。

《ザ・グリーム・アイズ》はノックバックで少し固まっている。

コーバッツは腰を抜かしている。

 

「クソ虫、さっさと退け」

 

「あり得ない。私が腰を抜かすなど、《軍》が負けるなど……」

 

「チッ、動けるヤツは動けないヤツを端へ運べ」

 

ルルの指示で《軍》は端へと移動して行きキリト達がルルに合流する。

 

「無茶しすぎだ」

 

「ほんと、1人で飛び出していくなんて」

 

「ホントだよねー。私を置いて行くなんてさ」

 

「おぃ、大丈夫かよぅ」

 

キリト、アスナ、セレスティア、クラインがルルに言う。

 

「刀がやられた。でも俺が行かなきゃ死人が出てただろ?」

 

ルルが苦笑しながら答える。

 

(アレを使うしかないな。)

 

「キリト、アレを使う。お前もいけるな? 迷ってる暇はないぞ」

 

ルルの言葉にキリトが頷く。

 

「セレスティア、アスナ、クライン、10秒時間を稼いでくれ、できるか?」

 

ルルが叫ぶ。

 

「わ、わかった」

 

クラインが答え、アスナが頷く。

 

「まぁ私は妾だけど旦那のお願いはきいてあげないとねー」

 

セレスティアもそう言うと3人は《ザ・グリーム・アイズ》へ向かっていく。

 

「早く済ませるぞ」

 

ルルの言葉にキリトが頷く。

2人は右手を振りメニュー画面を呼び出し装備を変更し始める。

 

「俺がはじめに行く。キリトは俺が終わったら交代してくれ」

 

「わかった。初めから全開で行くぞ!」

 

「よし、いいぞ。」

 

ルルが叫ぶ。

 

3人が振り返るとそこには今までの右手の《エリュシデータ》以外に反対側、左手に青白い剣《ダークリパルサー》を持ったキリト。

そして黒いローブを脱ぎ去り、失ったはずの左手に漆黒の手甲《黒竜王の魔爪》を装備し、柄から刃先に行くにつれ黒から赤に変わっている刀《霊刀・禍時》を構えたルルが立っていた。

 

3人が離れたのを確認したルルは《ザ・グリーム・アイズ》に向けてソードスキルを発動する。

《手甲魔爪》20連撃ソードスキル《無限空破斬》

スイッチにより体制を崩していた《ザ・グリーム・アイズ》に向けて斬撃によって生まれた衝撃波が打ち込まれていく。

 

「キリト、今だ!」

 

技が終わるタイミングでキリトが駆け出し、《ザ・グリーム・アイズ》の懐に潜り込むと、ソードスキルを発動する。

 

 

「スターバースト……ストリーム‼︎」

 

キリトが叫ぶ。

2本の剣が光を燈し、キリトが飛び上がる。

《ザ・グリーム・アイズ》の胸に向けて《二刀流》16連撃ソードスキル《スターバースト・ストリーム》が炸裂する。

2人の攻撃により《ザ・グリーム・アイズ》のHPは見る見る減っていき、レッドゾーンに突入する。

しかしキリトはそこで16連撃を打ち終えてしまう。

《ザ・グリーム・アイズ》の口元がニヤリと笑った気がした。

 

キリトの体が地面に落ちていく。

 

しかし、その後ろからソードスキルを発動したルルが現れる。

《手甲魔爪》単発ソードスキル《剛魔掌》

ルルの左手、闘気を纏った爪が《ザ・グリーム・アイズ》の胸を抉り、心臓を貫いた。

《ザ・グリーム・アイズ》のHPが0になる。

《ザ・グリーム・アイズ》は一瞬停止したかと思うとパリィと音を立ててポリゴンに変わる。

ルルが着地した時、目の前に Congratulation Last Attack Bonus の文字が浮かんだ。

その様子をアスナ、セレスティア、クラインだけでなく《風林火山》《軍》も信じられない物を見たかのように見ていた。

 

主の居なくなった部屋に静寂が訪れる。

 

ルルにキリトが近づき刀を鞘に戻すと「最後は助かった」そう言って右手を挙げる。

ルルも「何とかなったな。」そう言って苦笑しながら右手を上げると、2人はハイタッチをする。

そこに、思考がもどったアスナ、セレスティア、クラインの3人が近づいてくる。

「もう、無茶して」「無茶しすぎだよ」そう言って、アスナはキリトを、セレスティアはルルを抱きしめた。

 

「おいおい、HPはまだまだ平気だぞ」

 

そう言いながらルルはセレスティアの頭をポンポンと叩く。

キリトはしばらくフリーズしていたが、アスナがみんなの視線に気づき、離れたことで思考が回復した。

《風林火山》や《軍》も集まってきている。

《風林火山》の1人が「《軍》から2人死者が出たみたいだ。俺達が駆けつけたときにはもう、間に合わなかったみたいだ。」そう報告してくれた。

ルルはコーバッツを睨む

 

「クソ虫、お前が2人を殺したんだ」

 

ルルの言葉にアスナが「ちょっと」と止めようとするがセレスティアがアスナの手を引っ張り、首を横に振った。

 

「《軍》は25層以降、最前線に出てきたのはディアベルだけだった。

 一般プレイヤーに資源や情報を平等に分配し、秩序を維持すると共に、一刻も早く、この世界からプレイヤーを開放する。その心意気は立派だがレベルだけ上げれば勝てるほどボス戦は甘くない。お前の思い上がりが部下の退路を絶ち、2人を殺したんだ。そのことをよく考えて、これからどうするかを考えろ。一般プレイヤーのためにならボス攻略以外にもしてやれることがあるはずだ。よく考えるんだな」

 

ルルの言葉を聞くとコーバッツはがっくりと肩を落とす。

 

「そりゃそーとなんだよおめぇらさっきのは?」

 

シンとなったことに空気を換えようとしたのかクラインが話題を振る。

 

「言わなきゃダメか?」

 

キリトがそう言うが

 

「ダメに決まってんじゃん。それに、ルルの無いはずの左手も気になるし。」

 

セレスティアがそう言ってルルをジト目で睨む。

ルルは苦笑しながら説明する。

 

「エクストラスキルだよ、《手甲魔爪》。なくした左手の変わりに義手の手甲を装備できる。専用のソードスキルもあるぞ。キリトのもエクストラスキルだ」

 

「…《二刀流》」

 

そこに居た全員が騒ぐ。

クラインが代表して質問する。

 

「出現条件は?」

 

「わかってりゃもう公開してる」

 

「俺もだ。いつの間にかあったんだ」

 

ルルはキリトに合わせてルルは嘘をつく。

言える訳がないのだ。《カーディナル》に呼び出されて浮遊城の空で鎧と戦って勝つなどと。

 

「情報屋のリストにも載ってねぇ。ってことはお前ら専用、ユニークスキルじゃねぇか。ったく、水臭せぇなお前ら。そんなスゲェ裏技黙ってるなんてよぅ」

 

「こんなスキル持ってるなんて知れたら色々あるだろうと思ってさ」

 

「まぁ、ネットゲーマーは嫉妬深いからなぁ。俺は人間ができてるから問題ないけど妬みや嫉妬はあるだろう」

 

「まぁ今度の攻略会議の時に言うつもりだったんだけどな。スキルレベルもコンプしたし、左手が戻ればボス戦に参加できる」

 

キリトの言葉にクラインが答え、ルルが補足する。

 

「そうだよ。お前、左手が戻れば参加できるじゃねぇか。こりゃ百人力だぜぇ」

 

クラインが喜び、回りがざわめく。

 

「ねールル、その左手ってリズが作ったの?」

 

セレスティアがルルに質問する。

 

「ああ、そうだけどそれがどうかしたのか?」

 

ルルの答えにセレスティアは

 

「それじゃーリズはそのスキルのこと知ってたってことじゃん!これが正妻と妾の違いかーー‼︎」

 

そう言ってセレスティアは叫ぶ。

それを聞いて全員が笑っていた。

 

話が終わると《軍》は引き上げていった。

 

その後、クライン達《風林火山》は75層のアクティベートに向かい、キリト、アスナ、セレスティア、ルルの4人だけが残った。

 

 

 

「私、しばらくギルド休む」

 

アスナの発言に3人が驚く。

 

「休んでどうするんだよ」

 

「しばらくみんなでパーティ組むって言ったのもう忘れた?」

 

「……わかった」

 

キリトが納得するとアスナは「うん」と答える。

 

「それじゃー私もしばらく休もうかなー。4人で組むんでしょ?」

 

セレスティアの言葉にルルは「ふん、勝手にしろ」と答え、4人はこのままパーティを組むことになる。

翌日、《軍》のメンバーの情報に尾ひれえひれがつき広がることとなる。

 

[《軍》の大部隊を全滅させた青い悪魔それを無傷で撃破した2人のユニークスキル持ち。左手を取り戻した《追放者》の50連撃と二刀流使い《黒の剣士》の50連撃。その2人は無双の強さを誇る。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

と言うことでユニークスキルばれの話でした。
どうだったでしょうか?

コーバッツ生存。
ディアベルの時もこんな風に書きましたがコーバッツはその後どうなるんでしょうね?

一応言っておくけどリズは正ヒロインなんだよ?たぶん笑


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迷子の少女


前書き。

私服のルルが登場します。左手が無いのでルルが行動するたび長袖がヒラヒラ揺れているのを想像しながらお読みください。


浮遊城48層(最前線75層)

 

「ルル、準備できた?」

 

「準備って、特にないだろう。」

 

本日リズベット武具店は休業。

中には淡いピンクのワンピースを着たリズベットと紫の長袖のTシャツを着たルルがいた。

 

「それもそうね。 じゃ、いきましょうか」

 

そう言って2人は店を出る。今日はキリトとアスナの新居にお呼ばれしているのだ。

 

あれから色々あった。

 

アスナがギルドを休むためにキリトが団長である《ヒースクリフ》と賭けをし、デュエルをした。

賭けの内容はキリトが勝てばアスナは休暇を貰え、ヒースクリフが勝てばキリトが《血盟騎士団》に入るというものだ。

結果、ヒースクリフが勝ち、キリトは《血盟騎士団》に所属することになった。

 

しかし

 

初任務で《クラディール》、キリトとデュエルしたアスナのストーカーに麻痺薬を盛られ、殺されかけた。

怪しんだアスナが駆けつけ事なきをえたが、ギルドが信じられないと言う事で2人は《血盟騎士団》を一時脱退。

絆を深めた2人は結婚し、今は22層に住んでいる。

そこをたずねる為、ルルとリズベットは転移門をくぐった。

 

☆★☆★

 

22層

南西エリア南岸、ここにキリトとアスナは家を買ったそうだ。

この層は森と水で覆われた自然豊かなフロアであり、さらにフィールドにモンスターが出ない平和なフロアである。

そうでなければルルもリズもワンピースやTシャツなどという装備では歩かないだろう。

 

「たしかこのあたりのはずなんだけど……あ、ここよ。ここ」

 

リズはログハウスのドアをノックする。

 

「はーい」アスナの声と足音が聞こえ、ドアが開く。

 

「いらっしゃい。リズ、ルル君」

 

「いらっしゃいました。久しぶりよねぇ、あんたらが結婚するって挨拶に来た時以来だっけ?」

 

「そうだね。1週間くらいかな? あ、中に入って。飲み物入れるから」

 

アスナに招かれリズとルルは中に入る。

 

「「おじゃましまーす」」

 

2人が入るとキリトが椅子に座っており、トットットとその後ろに小さな影が隠れた。

 

「ユイちゃん。お客さんだよ。挨拶して」

 

アスナの言葉でキリトの後ろからこそこそと少女が顔を出す。

 

「は、はじめまして。ユイ。です」

 

少女、《ユイ》はそう言うとキリトの後ろに隠れてしまう。

 

「恥ずかしかったか? よく言えたな」

 

キリトはそう言ってゆいの頭をなでる。

 

「ユイちゃんか、よろしくね。私はリズベット。リズってよんでね。こっちがルル。仲良くしてね」

 

リズがそういうとユイは頭をそっと出し、リズを見上げにっこりと笑う。

しかし、ルルを見るとサッと隠れてしまう。

やはり目つきが悪いからなのだろうか? ルルは苦笑いをしながら頭をかく。

 

「ルルの目つきは悪いけどとってもいい人なんだぞ。2人は俺たちの友達だ」

 

キリトが言うとゆいはまた顔を出す。

 

「パパとママの友達?」

 

ユイの言葉にルルとリズは固まる。

キリトと飲み物を入れていたアスナは慌てて説明しだす。

ユイはキリトとアスナが森に遊びに行った時に倒れているのを見つけたプレイヤーらしい。

何かのバグがおきておりカーソルが表示されないのと、メニュー画面が少しおかしいらしい。

名前を教えているときにうまくいえなかったため、好きに呼んでいいといったらパパ、ママになったそうだ。

たぶん両親と離れて寂しいのだろう。今は2人が親代わりとして接しているみたいだ。

そんな話をしながら5人はお茶をしている。

 

「でもいいなぁ。私たちも子供ほしいよねルル。こっちじゃそういうことしても子供ができるわけじゃないし」

 

リズが爆弾を投下する。このゲームSAOでは行く行くは医療分野での利用も考えられていたためか、メニュー画面の最深部。普通では気づかない場所に倫理コード解除設定というものがあり、それを解除することでできてしまうのだ。

アスナが《血盟騎士団》の同僚(女性)から聞き、それをリズとの女子会で話したことがある。

 

閑話休題

 

「そ、それってリズたちもしてるってことよね」

 

アスナが顔を赤らめながら聞く。

 

「<も>ってことはアスナもしてるのねぇ」

 

リズがニヤニヤしながらアスナを見る。するとアスナはボフッという音が聞こえてきてしまうかのように真っ赤になってしまった。

 

「だけどルル、おまえはどうしてるんだ。まさか2人と……」

 

「なに言ってるんだ。セレスティアは子供だろう? 「お父さんのお嫁さんになる。」って言ってるようなもんだろう。そのうち飽きるさ」

 

ルルの言葉にアスナとリズがため息を付く。 この鈍感が、と。

「まぁそうか」とキリトが言ってるあたりキリトも同類である。

 

「ま、まぁそれはそうとこれから1層にユイちゃんの家族を探しに行くつもりなの。心配しているだろうから」

 

アスナは話題を変えるためこれからのことを話す

 

「じゃぁ、あたしたちも付いていこうかな。人手が多い方がいいでしょ?」

 

こうして、ユイの家族を探すため5人は1層、始まりの町へ向かった。

 

☆★☆★

 

5人は1層に転移してきた。

 

「ここに来るのも久しぶりだな。」

 

キリトが呟く。

始まりの町、ここはこのデスゲームの開始が宣言された場所。

みんな苦い思い出のある場所。

少し空気が重くなる。

アスナはそんな空気を変えるためユイに質問する。

 

「ねえユイちゃん、見覚えのある建物とかある?」

 

キリトに肩車されながらユイは周りを見渡し、うーんと考えるが「わかんない」と首を横に振る。

ルルはキリトの背中にうなだれるユイの頭をなでながら色々見て回る事を提案する。

予断ではあるがここに来るまでにユイはルルになついている。

ユイが笑顔を見せたのを見てリズが完成の言葉を口にする。

 

「じゃぁ中央市場から行かない? あそこが一番人が集まってそうだしゆいちゃんのこと知っている人がいるかもしれないし」

 

そうして5人は中央市場へ向かった。

 

 

5人が中央市場に来るとそこは想像したものと違っていた。

始まりの町には今生き残っているプレイヤー6000人の内3割(《アインクラッド解放軍》含む)の約2000人くらいがいると予想される。

しかし、中央市場はがらんとし、活気が見られない。

その時

 

「子供たちを返して‼︎」

 

叫び声が聞こえてきた。

5人は顔を合わせうなずくと声のほうに走り出す。

 

「子供たちを返してください‼︎」

 

そこには、軍のプレイヤー5人と向かい合っている女性プレイヤーがいた。

 

「人聞きの悪いことを言わないでほしいな。ちょっと子供たちに社会常識ってもんを教えてやってるだけさ。これも軍の大事な任務でね」

 

真ん中の軍のプレイヤーが言うと隣のプレイヤーが「そうそう、市民には納税の義務があるからな」などと言うと軍のプレイヤー達は笑い始める。

 

「ギン、ケイン、ミナ、そこにいるの?」

 

女性は軍の向こうに向けて話しかけるが軍は道をふさぐように立ちはだかる。

 

「サーシャ先生、助けて!」

 

軍の向こうから声が聞こえてくる。

 

「お金なんていいから全部渡してしまいなさい」

 

「それだけじゃ、駄目なんだ」

 

女性、サーシャの言葉を軍の向こうの声が否定する。

 

「あんたらずいぶん税金を滞納してるからなぁ」

 

「装備も置いて行ってもらわないとなぁ」

 

「防具も全部何から何まで、な」

 

軍の言葉にサーシャが「そこをどきなさい」と剣を構える。

そこへ駆けつけた5人、ルル、アスナ、リズ、キリト、ユイ。

4人は軍を飛び越え軍の向こうのプレイヤーの元へと駆けつける。

そこにいた全員が4人を見て絶句している。何者なのかと。

 

「もう大丈夫よ、装備を戻して」

 

アスナの優しい声に軍の向こうにいた子供のプレイヤー達はうなずく。

 

「おい、おいおいおい! なんなんだお前らは?」

 

「我々軍の任務を妨害するのか?」

 

軍は気を取り直すと端の2人がそう叫ぶ。

 

「まぁ待て、お前ら見ない顔だけど解放軍にたてつく意味がわかってんだろうなァ‼︎」

 

そういって軍の真ん中の1人、リーダー格であろう男が剣を抜く。

それを見たアスナが出て行こうとするが、ルルが右手でアスナを制し前へと出る。

ルルは無言でメニューを開き、刀を出すと柄を持ち、刀を振って抜刀すると剣を抜いた男の剣めがけて刀を振るう。

すると男の剣は真っ二つに折れ、ポリゴンへと変わる。

余裕の顔の男は「へ?」と間抜けな顔をし、周りの4人は驚愕に顔を染める。

ルルはアスナに刀を預け、笑顔で何が起こったのかわからないとルルとさっきまで剣を持っていた手を交互に見る男に近寄り、頭を掴み、持ち上げた。

男は必死に逃れようと手足をばたつかせるが意味はなく、右手に込められた力により男の頭に装備されていたアイアンヘルムは耐久値を無くしポリゴンへと変わる。

 

「安心しろクソ虫、ここは圏内ダメージはうけないさ。ただな、圏内戦闘は恐怖を刻み込む」

 

ルルの笑顔は向けられる側からすれば悪魔の様だった。軍は後ずさりリーダー格の男をおいて逃げようとする。

しかし、逃げようと振り返った先には2人の女性プレイヤーがいた。

1人は出来事に驚愕しているサーシャ、もう1人は<レイピア(、、、、)>をもったリズだった。

 

「まだ話は終わってないんだから、こっちにきたら駄目じゃない」

 

そう言って軍にレイピアを向ける。

ルルの力を見た後だ、軍はどちらにも行けずにおろおろと震えている。

 

「クソ虫、俺にも軍の知り合いがいるんだ。コーバッツって言うんだが知ってるか? そいつに伝えろ。片腕のプレイヤーが呼んでたってな」

 

軍の5人が全力でコクコクとうなずく。

それを見てリズがレイピアを鞘に収め、開いた道を軍の5人は一目散に逃げていった。

アスナが鞘を拾い刀を納めるとルルにわたし、2人は武器をストレージに戻すと子供達のほうに向き直る。

 

「もう大丈夫だ」

 

ルルが言うと子供達は「すげーよ兄ちゃん」「あんなのはじめてみた」「かっこよかった」などといいながらよって来る。

サーシャも「ありがとうございました」とお礼を延べる。

お礼なんて言われ慣れていないルルは苦笑いで頭を描くしかなかった。

そこでユイに変化が起きた。

キリトにしがみつき訴える。

 

「わたし、ここには居なかった。ずっと1人で、暗いところにいた」

 

そこで全員にバリバリとノイズが走る。

ユイは悲鳴を上げキリトの背中から落ちそうになりアスナは落ちそうになったユイを抱きとめる。

ユイはアスナの胸の中で泣きながら「怖い、ママ。怖いよ」と怯え気絶した。

ルルとリズも駆け寄り心配する。

しかし、なにもわからなかった。

そのあとサーシャたちにお礼と、それからユイを休ませるために教会へと招かれることになった。

そこでは冒険へ出られない子供達が生活しているそうだ。

ユイのことを知っている子がいるかもしれない。

 

道中、空気を少しでも変えようとアスナが「リズ、武器変えたんだね」質問し、リズが「メイスより、レイピアのがルルと連携とりやすいかなって」とのろけたのは別の話。

 

 




あとがき


と言う事で黒の騎士様VS団長様のバトルは回想に終わりました。

次回も見てくださいね。


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地下の迷宮

浮遊城1層

 

始まりの町にある教会。

 

少し前に子供達を助けたキリト、アスナ、ルル、リズベットにユイの5人は助けた子供達と先生にお礼にと一晩泊めてもらい、朝食をご馳走になっていた。

 

「これは……すごいな」

 

「そうだね……」

 

キリトがつぶやき、アスナが頷く。

目の前では大勢の子供達が食事を取っている。中には取り合っている子たちまでいる。

 

「いつもこうなんですよ。……その、ユイちゃんの具合、大丈夫ですか?」

 

そう言ったのは先生と呼ばれているサーシャだ。

 

「ええ、昨晩休ませてもらったおかげでこの通りです」

 

ユイは何事もなかったようにパンにかぶりつき、硬いのか難しい顔をしながら口を動かしている。

ルルが「これつけてみな」っと懐かしの小瓶をユイの目の前に置く。

ユイは小瓶をタップし、パンにクリームを付けると一口かじる。「ん~~」と目を輝かせ一気に食べてしまった。

ルルはクツクツと笑いながら「これつけたときの反応もママと一緒だな」とユイをなでている。

リズもそれをつけて食べると「なにこれ、おいしい」と驚いている。

 

「今までにもこんな事が?」

 

サーシャがたずねる。

 

「分からないんです。この子、21層の森で迷子になっていて……記憶をなくしているみたいで。それで始まりの町へ」

 

アスナが答えていると顔色が少し曇ったのを感じたのかユイが笑顔でアスナにクリームの付いたパンを差し出してくる。

アスナは笑顔で受け取りユイの頭を撫でながら続ける。

 

「この子の事知っている人がいるんじゃないかと思って」

 

「何か心当たりはありませんか?」

 

アスナに続いてキリトがたずねる。

 

「残念ですけと始まりの町で暮らしていた子じゃないみたいです。ゲーム開始時にほとんどの子供達が心に傷を負いました。私、そんな子供達がほっておけなくてここで一緒に暮らし始めたんです。

毎日困っている子がいないか見て回っていますが、ユイちゃんみたいな子は見たことがありません」

 

「そうですか」

 

アスナとキリトが肩を落とす。

その時、教会のドアをノックする音が響いた。

ルルは最後の一カケを口に放り込むと目を細める。

ドアを開けると女性が立っていた。

 

「はじめまして。ユリエールです。」

 

女性はお辞儀をする。

 

「軍の方ですよね? 昨日の抗議にでも来たんですか?」

 

5人はユリエールを見る。

 

「いえいえとんでもない。よくやってくれたとお礼を言いたいくらい。今日は皆さんにお願いがあってきました。」

 

「おねがい?」

 

そして今、奥の机を囲んでいる。

 

「もともと私達は、いえ、現ギルドのトップであるシンカーは独善的な組織を作ろうとしたわけじゃないんです。ただ、情報や食料をなるだけ多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで……」

 

「だけど、軍は巨大になりすぎた」

 

ユリエールの説明をキリトが補足する。

 

「ええ。前リーダーであるディアベルがまとめている内はこんな事はありませんでした。ディアベルが亡くなって内部分裂が始まりました。

当時副リーダーであった2人、シンカーとキバオウ。会議でリーダーはシンカーが引き継ぐと決まったのですが、納得のいかなかったキバオウは勢力を強め、効率のいい狩場の独占をしたり、調子にのって徴税と言って恐喝まがいのことまでもはじめたり、でも、ゲーム攻略をないがしろにするキバオウを批判する声が大きくなって、キバオウは自分の配下のプレイヤーの中から最もハイレベルなプレイヤーを最前線へと送り出しました。しかし攻略は失敗し、キバオウは強く糾弾され、もう少しでギルドから追放できたのですが、追い詰められたキバオウはシンカーを罠にはめると言う強攻策に出ました。

……シンカーをダンジョン奥深くに置き去りにしたんです。」

 

そう言ってユリエールは悔しそうに唇を噛んだ。

 

キリト達は驚愕の声を上げる。

転移結晶など脱出方法はあるからだ。

それを聞いたユリエールは首を横に振ると話を続ける。

 

「シンカーはいい人過ぎたんです! キバオウの丸腰で話し合おうと言う言葉を信じて……3日前のことです」

 

「3日も前に、それでシンカーさんは?」とアスナが相槌をうつ。

 

「かなりハイレベルなダンジョンのようで、身動きが取れないようで……全ては副官であるあたしの責任です。ですが、とても私のレベルでは突破できませんし、キバオウが睨みを聞かせる中での軍の助力は当てにできません。そんな時、恐ろしく強い4人組が町に現れたと聞いてこうして、お願いにきたしだいです。皆さん、私と一緒にシンカーの救出に行ってくれませんか?」

 

ユリエールは深々と頭を下げる。

 

「こちらも貴女の力になって差し上げたい。しかし、貴女の話の裏づけをとらないと…」

 

アスナが二つ返事では強力できないと告げる。

その言葉にユリエールはもう一度深く頭を下げた。

 

「無理なお願いだってことは私も分かっています。だけど……だけど今シンカーがどうしているかと思うとおかしくなりそうで」

 

その時、ユイが話し出す。

 

「大丈夫だよママ。その人嘘ついてないよ」

 

「ユイちゃんそんなこと分かるの?」

 

「うん、うまくいえないけど分かる」

 

ユイの言葉に皆驚愕するが、キリトがはじめに声を上げる。

 

「疑って後悔するより信じて後悔しようぜ」

 

「ああそうだな。あんた、ユイに感謝するんだな」

 

ルルはそう言ってユイの頭を撫でる。

それを見てアスナとリズはため息をつき旦那達の言葉を肯定する。

 

「まぁ、私達にも大事な人を守りたいってのは分かるしね」

 

「微力ながら協力させてもらいます」

 

 

☆★☆★

 

 

始まりの町、黒鉄宮

 

 

「まさか始まりの町にこんなダンジョンがあるなんてね」

 

リズがそう呟く。

 

「上層の進み具合で開放されるタイプみたいです。キバオウはこのダンジョンを独占しようと計画していました」

 

「ったくあのクソ虫、はじめは独占したやつは詫びろとか言ってたクセに」

 

ルルのぼやきにキリトはから笑いをしている。

 

「それが、60層クラスの強力なモンスターが出るのでほとんど狩りはできなかったようです。……ここが入り口です。」

 

ダンジョンは順調にクリアして行った。

キリトが先行し、モンスターを狩りまくったので他のメンバーは付いていくだけだった。

キリトが戦っているため、ルルがユイの左手、リズが右手をつなぎジャンプなど遊びながら進んだ。

キリトの強さにユリエールが驚いていたがアスナが誇らしげに「戦闘狂の血が騒ぐんですよ」などと言っていた。

 

 

ダンジョン最深部

 

 

「奥にプレイヤーが1人いる」

 

キリトの言葉にユリエールは走り出す。

 

「シンカー‼︎」

 

「ユリエール」

 

シンカーも言葉を返す。

 

 

しかし、まだ続きがあった。

 

 

「来ちゃ駄目だ! その通路は……」

 

異変に気づいたルルはユイの手を離し走り出す。

同時にキリトも走り出した。

 

 

「ダメ、ユリエールさん戻って!」

 

アスナが叫ぶが遅い。

通路からユリエールに向けて大鎌が振り下ろされる。

間一髪、キリトがユリエールを抱え前へ飛び、ルルは何とか刀で滑らせ鎌をいなす。

 

「ユリエールさん、この子達と安全エリアに非難してください」

 

アスナの声にユリエールは頷く。

「ママ……」とユイが心配そうに目を向けるユイをリズが抱かえて非難した。

 

「キリト君、ルル君」

 

アスナが駆けつける。

そこのは大鎌をもった死神のようなモンスターがいた。

 

「アスナ、今すぐユイ達と転移結晶で脱出しろ。俺の識別スキルでもデータが見えない。こいつ、90層クラスだ!」

 

「俺たちが時間を稼いでやるから早くしろ!」

 

キリトとルルが叫ぶ。

 

「2人も一緒に……」

 

「後から行く。早く‼︎」

 

キリトが声を荒げる。

アスナは安全エリアを見るとにこりと笑い叫ぶ。

 

「リズ、ユイを連れてみんなで脱出して!」

 

キリトとルルは目を見開くがアスナはしてやったりと笑う。

 

「3人の方が心強いでしょ?」

 

その時モンスターの鎌が振り下ろされた。

3人は武器を重ね防ぐが衝撃で吹き飛ばされる。

アスナは前を見るとルルとキリトのHPがイエローの後半に入っている。

 

「うそ……」

 

そう呟いたとき、安全エリアから「ユイちゃん戻って」と声が聞こえてくる。

そちらを見るとユイとユイを追いかけてきたリズが目に入る。

 

「ユイちゃんダメ!」「早く逃げろ!」「リズ、お前もだ!早くユイを連れて____」

 

 

3人が声をかけた時モンスターの鎌がユイに向けて振り下ろされた。

 

 

「大丈夫だよ、パパ、ママ、リズ、ルル」

 

 

大鎌はユイに当たる事は無く、ユイの前に障壁が現れ鎌を止める。

4人は目を見開いた。

ユイの前にはある文字が浮かんでいたからだ。

 

 

 

 

Immortal Object

 

 

 

 

アスナが声を漏らす。

 

「破壊不能オブジェクト?」

 

ユイは空中に浮かぶと右手を前に出す。するとそこから炎が生まれ中から大剣が現れる。

ユイは自分の背丈よりも大きいその剣を軽々と振り上げると一撃でモンスターを屠った。

4人はユイに声をかけようとする。

するとユイは振り返り言った。

 

「パパ、ママ、リズ、ルル。全部思い出したよ」

 

4人は安全エリアでユイの話を聞く。

ユイが話し出す。

 

「キリトさん、アスナさん、リズベットさん、ルルさん」

 

言えなかったキリトとアスナの名前を正確に口にし、他人行儀なはなしかたで。

 

「SAO《ソードアート・オンライン》は一つの巨大なシステムによって管理されています。システムの名前はカーディナル。人間によるメンテナンスを必要としない存在として設計されたこのシステムは、SAOのバランスを自らの判断に基づいて制御しています。

モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス。何もかもがカーディナルの指揮下で制御されています。プレイヤーのメンタル的なケアすらも。

……メンタルカウンセリングプログラム試作1号、コードネームYuiそれが私です」

 

ユイの言葉に全員が驚愕する。

 

「…プログラム? AIだって言うの?」

 

アスナが信じられないと口を開く。

 

「プレイヤーに違和感を与えないように私には感情模倣機能が組み込まれています。

……偽物なんです。この涙も……ごめんなさい、アスナさん」

 

そう言ってユイは涙を流す。

 

「ユイちゃん」そう言ってアスナはユイに手を伸ばすがユイはそれを拒む。

 

「でも記憶が無かったのは? AIにそんなこと起きるの?」

 

アスナの質問にユイは答える

 

「2年前、正式サービスが始まった日、カーディナルはなぜか私へプレイヤーへの一切の干渉禁止を言い渡しました。私はやむなく、プレイヤーのメンタル情報のモニタリングだけを続けたんです。

……状態は最悪と言ってもいいものでした。恐怖、怒り、絶望と言った不の感情に支配された人々、時として狂気に陥る人さえいました。本来ならすぐにでもプレイヤーの元へおもむかなければならない。しかし、人に接触することは許されない。私は徐々にエラーを蓄積し、壊れていきました。

でもある日、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメーターを持つプレイヤーの集まりを見つけました。喜び、安らぎ、でもそれだけじゃない。そのプレイヤー達に少しでも近づきたくて私はフィールドをさまよいました」

 

「それで、あの森に?」

 

「はい。……皆さん、私、ずっと皆さんに会いたかった。おかしいですよね? そんなこと思えるはず無いのに…私は……ただのプログラムなのに……」

 

「ユイちゃん、貴女は本当の知性を持っているんだね」

 

アスナがユイに話しかける。

ユイは首を横に振る

 

「私には分かりません。私がどうなってしまったのか」

 

その言葉を聞いてキリトが前に出る。腰を折りユイの目の高さまで視線を下げる

 

「ユイはもうシステムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の思いを言葉にできるはずだよ。ユイの望みはなんだい?」

 

そう問いかける

ユイは泣きながら手を伸ばす。

 

「私は、私は、ずっと一緒に居たいです。パパ…ママ…」

 

「ずっと一緒だよユイちゃん」

 

そう言ってアスナがユイを抱きしめその上からキリトも抱きしめる。

 

「ああ、ユイは俺たちの子供だ」

 

それを見てリズは涙をこらえギュッとルルの手を握った。

しかし、ユイは座っている黒い箱を見ると否定する。

 

「もう遅いんです。これはGMがゲームに緊急アクセスするために用意されたコンソールです。これを使ってモンスターを消去したんですが、同時に今私のプログラムがチェックされています。カーディナルの命令にそむいた私はシステムにとって異物です、すぐに消去されてしまうでしょう。」

 

「そんな」「何とかならないのかよ」キリトとアスナが叫ぶ。

 

リズも見ていられないと下を向く。

 

「パパ、ママ、ありがとう。リズにルルも……これでお別れです」

 

「いや、これから、これからじゃない! みんなで楽しく仲良く暮らそうって……」

 

そう言ってアスナはユイを再び抱きしめ、泣き出す。

 

「ユイ、行くな!」

 

キリトがユイの手をとり叫ぶ。

 

(またダメなのか、この左手は何の役にもたたないのかよ)

 

ルルは左手を握り締める

その時ルルには『大丈夫ですよ』と聞こえた気がした。

それを聞いたルルは力を緩め笑顔を浮かべる。

 

「パパとママ、ルルやリズの周りにいるとみんなが笑顔になれる。お願いです。これからも私の変わりにみんなを助けて、喜びを分けてあげてください」

 

「いやだ、いやだよ。ユイちゃんが居ないと私笑えないよ」

 

アスナ、リズは顔をグシャグシャにして泣いている

 

「ママ、リズ、笑って?」

 

ユイはニッコリと笑いながら透けていく。

 

「カーディナル、いや、茅場! そういつもお前の思い通りになると思うなよ!」

 

そう言ってキリトはGM用コンソールをいじり始める

 

「キリト君何を?」

 

「今なら、今ならまだここのGMアカウントでシステムに割り込めるかも」

 

キリトは懸命に操作する。

そこで、ユイの体が消え、そしてキリトが弾き飛ばされる。

 

「キリト君!」

 

アスナが駆け寄る。

 

「クソッ‼︎」

 

キリトは両膝を付いたまま床を殴る。

 

「大丈夫だ」

 

ルルが口を開いた。

キリトはルルを睨み近づくと胸倉をつかみ壁に押し付ける。

 

「何が大丈夫だ? ユイが、ユイが消されたんだぞ‼︎」

 

キリトが叫ぶ

 

「落ち着け」そうルルはキリトをなだめるがキリトは止まらない。

「落ち着いてなんかいられるか! ユイが、ユイが……」

 

「落ち着け!」

 

ルルが叫ぶ。

そこで声がした。

 

「もう少しましななだめ方はないのかしら?」

 

全員が入り口をみる。

そこには身長170センチくらいの金髪をポニーテールに結った巫女服の女性と身長130センチくらい、あごくらいの赤茶けた癖ッ毛にメガネをかけた修道服の少女が立っていた。

 

「誰?」

 

アスナがたずねる。

 

「私達はカーディナル。あの子も説明が足りないわねぇ。カーディナルはお互いに監視しあう2つのシステムなのに」

 

巫女服の女性はコロコロと笑いながら答える。

 

「まぁそれはいいです。始めまして、プレイヤーキリト、アスナ、リズベット。」

 

修道服の少女は無表情に挨拶をする。

 

「カーディナルだと?」

 

キリトは怒りの矛先を2人に向けそちらへ向かおうとするがルルに手を捕まれとめられる。

 

「離せ」

 

「大丈夫だって言ってるだろ。落ち着け」

 

ルルがキリトをなだめる。

そこに巫女服の女性が近づいてきた。

 

「これはあなたが持っておくべきだわ」

 

そう言って握った右手をキリトの前に差し出す。

キリトはあっけにとられ、それを受け取るそれは青い宝石だった。

 

「それはあの子、ユイのプログラムをシステムから切り離してオブジェクト化したものよ。つまりあの子の心よ」

 

巫女服の女性がそう言うとキリトは目を見開き大事そうに両手で包む。

 

「しかし、大変でした。作業中にコンソールから割り込んでくるんですから」

 

修道服の少女が悪態を付く。

 

「まぁ、それを止めてくれなかったルルに文句を言わないとね?」

 

巫女服の女性はコロコロと笑いながら言う。

そこで全員が気づく。ルルはこの2人と知り合いなのかと。

 

「ルルは知り合いなの?」

 

リズが問いかける。

 

「前にこの2人にクエストを受けさせてもらった。この左手を手に入れるクエスト」

 

「なんだよ、知ってたならちゃんと言ってくれよ。なんで俺は怒ってたんだ……」

 

「悪い。なんて説明したら言いかわかんなくてな」

 

キリトとルルは笑いあう。

巫女服の女性がアスナの前に来る。

 

「プレイヤーアスナ、ごめんなさいね。茅場晶彦を騙す為とはいえこんな形でしかあの子を助けられなかった。このアイテムはこのゲームがなくなってもプレイヤーキリトのナーブギアの中に存在し続けるわ。向こうに戻ったらあの子を本当の意味で助けてあげてちょうだい」

 

修道服の少女がリズの前に立つ。

 

「プレイヤーリズベット、あの人を頼みます。あの人は背負っているものが多すぎる。私達の選んだ勇者を支えてあげてください。このことはオフレコで頼みます。」

 

少女は口の前に人差し指を当てるとリズにしか聞こえないように話す。

リズはなんかルルに似てるな。と思いながら笑顔で「任かしておきなさい。ずっと支えてやるわよ」と返した。

2人のカーディナルは「ここで私達にあった事は内緒ですよ」と言い残し消えていった。

元気を取り戻した4人は岐路に着く。

 

現実に戻ったらまた5人で机を囲もうと誓って。

 

 

☆★☆★

 

 

 

ダンジョンを抜けた後、ルルは3人に「先行ってくれ。ちょっと野暮用がある」と1人シンカーのもとを訪れていた。

そして今はある部屋の前。

ガン、とドアを蹴破る。するとそこには踏ん反り返っているキバオウがいた。

 

「ようクソ虫、好き勝手してるみたいじゃないか?」

 

そこにユリエールに連れてこられたコーバッツが来た。

 

「来たか阿呆。お前もこっちに来い。

クソ虫、お前自分で独占はアカンとか言ってたよなぁ? お前もだ阿呆! なにが一般プレイヤーに資源や情報を平等に分配し、秩序を維持すると共に一刻も早くこの世界からプレイヤーを開放するために戦っているだ。プレイヤーを苦しめてるのはお前ら軍じゃないか!」

 

こうして2人はルルの説教を食らい、軍から追放される。

その後、始まりの町から軍の圧力が消え人々に平和が戻ったのだった。

 

 

 

 




あとがき


アインクラッド編も終わりが見えてきました。

私も気合を入れねば。

入れてもそんなにかわらない? はい。おっしゃるとおりです



それではまた026で。


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休日のクエスト

まえがき

短いですがどうぞ


浮遊城48層

 

リンダース《リズベット武具店》

 

店の2階にある生活スペースのリビング。

そこでセレスティアは朝食をとっている。そこにルルが起きてきた。

 

「……セレスティア、今日も早いな」

 

欠伸をし、頭を掻きながらルルが言う。

 

「まーね。この前休んでたから取り戻さないと。DDDはノルマ制だから」

 

口に朝食をリスのように貯めながらセレスティアが話す。

 

「あ、もういかないと!」

 

そう言ってセレスティアは出かけていった。

 

「大変よね。もうすぐ75層のボス戦だろうからノルマが上がったんだって」

 

リズがルルの前にコーヒーを置き、前の席へ座る。

 

「最後のクウォーターポイントだからな。過去のクウォーターポイントの二の舞にならないようにノルマをあげたんだろ」

 

「本格的なボス戦復帰なんだから無茶はしないでよね?」

 

ルルの言葉にリズは心配そうに話す。

 

「わかってるよ。元の世界でちゃんと会うんだろ?」

 

「当たり前じゃない。あ、でも向こうで会うにしても情報がないわよね。マナー違反だけど教えてくれる?」

 

「睦月、左部 睦月(さとり むつき)」

 

「睦月か……へへへ。睦月、私は篠崎 里香(しのざき りか)絶対探し出してよね?」

 

ルルとリズは名前を交換し、この日はリズのスキル上げに付き合うため、2人はフィールドに向かった。

 

☆★☆★

 

63層のフィールドに出たルルとリズはリズのレイピアの特訓をしていた。

ルルがモンスターのHPをそこそこ削るとリズにスイッチする。

今もリズのソードスキルがモンスターをポリゴンへと変えた。

 

「結構あたしもさまになってきたんじゃない?」

 

リズがレイピアを鞘に収めながら言う。

 

「油断は禁物だぞ? なれた時が危ないからな」

 

そう言ってルルはコツンとリズをこずく。

 

「わかってるわよ。でもレイピアに変えてからルルとの連携がしやすくなったし、順調なことには変わりないでしょ?」

 

そんな話をしながら2人が歩いていると林のほうからカサッと音がした。

ルルが刀に手を沿え、リズはレイピア、《キルシュブリューレ》を引き抜く。

薄い桃色に輝き、刀身がやや厚めに作られている細剣を林に向ける。

 

しかし、草むらのアイコンはクエストアイコンを表し、傷だらけの青年が姿を現した。

 

「助けてくれ、林を抜けた東の町を賊が…弟を……」

 

青年はそう話すとアイコンを金色に変えると事切れた。

 

「ねぇ、ルル、これってクエストよね?」

 

「あぁ、だけど情報リストに載ってないな。どうする? やるか?」

 

「当たり前じゃない! この人の願いを聞いてあげなくちゃ」

 

「だな」

 

2人はそう言って東の町を目指した。

 

☆★☆★

 

林を抜けた東の町、そこは、これまで何のクエストも無い平和な町だった。そうルルは記憶していた。

しかし、今の町はある家からは煙が上がり、ある家は崩れている。人の気配は無い。

 

「来てみたはいいものの、これからどうすればいいのかしら?」

 

リズが疑問を口にする。

 

「とりあえず瓦礫や無事な家を調べようぜ」

 

ルルがそういうと2手に別れ、町を探る。

結果、怪しいものが2つ奥の屋敷でルルが見つけた資料と地図。

あとはリズが瓦礫の下で下敷きになっているのを助けた少年だ。

少年は目を覚ますとこれまでに町で起こったことを話してくれた。

突如、賊が現れたかと思うと町を焼いた。

目的は町で実験的に作られていた鉱物。それを手引きしたのは鉱物を研究していた博士、少年の父の助手の男。

少年が言うには実験していた2つの鉱物の内1つを賊は手に入れるため実験場である山へ向かったのだそうだ。

ルルが見つけた地図がその場所なのだろう。

2人は少年と別れ、地図の場所を目指そうとするが少年がついていくと言い出し、3人で行く事になった。

 

実験場につくと悲鳴が聞こえてきた。

 

ルルとリズは反射的に走り出す。実験場の奥の施設の扉を開けると惨状が広がっていた。

賊は全員、四肢を切り離され死に絶えている。

部屋に立っているのは白衣の男が一人、しかし、目が普通ではない。白目の部分が黒く染まり瞳孔は獣のように裂けている。

 

「何よこれ……」

 

このゲームに無いはずの血が飛び散り鉄の匂いが充満した部屋。

リズが顔をしかめ、口をおさえる。

 

「なんだお前らは? そうか、お前らもこれを狙ってきたんだな。この石を!」

 

そう叫ぶ男の胸には石が埋め込まれている。その石が光りだすと、男の姿は見る見るうちに変わっていき、化け物に姿を変えた。

男はすでに人語を喋れておらず、2人を見据えると向かってきた。

 

ルルはリズを庇いながら戦った。

モンスターの強さはこの層よりも上、65層レベル。リズだと心もとない。

ソードスキルを使わず、攻撃の隙を与えず、そのまま押しきる。

モンスターはHPを0にするとポリゴンになって霧散し、胸の石が地面に転がった。

 

「つ、強かったわね……」

 

肩で息をしながらルルに話す。

 

「あぁ、この層のボスクラスより上の強さだっただろうな。だけどこのクエスト、みつけた資料では鉱石は2つなんだけどな」

 

「どっかで見落としてるのかな?」

 

その時、ドアから少年が歩いてきた。

 

「何があったの…これ…」

 

そう言うと少年は胸を押さえて苦しみ始める。

少年の胸には先ほどとは違う石が埋め込まれていた。石は鼓動するように光りだす。

その鼓動にあわせて床に転がっていた先ほどの石が光りだした。

少年は先ほどの男と同じように化け物に姿を変えると、リズとルルを飛び越え、石の元へとたどり着くと石を拾い上げ口に入れる。

すると変化が起きた。

さらに禍々しさを増し、2人に襲い掛かる。

 

「ちょっと、さっきより攻撃が重いんじゃない?」

 

リズが顔を歪めながら話す。

実際、2つの石を取り込んだモンスターは70層クラスの攻撃力を持っていた。

やはりルルはリズを守りながら戦う。

しかし2人のHPは削られ、徐々に減っていく。

 

「クソ、この連戦はきついな」

 

ただ幸いなのは回復結晶を大量に持ってきていたことだ。

ルルはタゲを取りリズを回復させ、庇いながら、確実にダメージを加えていく。

サイドステップから逆袈裟切り。そしてソードスキルを発動する

 

《剛魔掌》

 

左手の魔爪は紫の光を燈しモンスターを切り裂く

最後の一撃。それはリズによって放たれた。

細剣3連劇ソードスキル《ペネトレイト》

《キルシュブリューレ》がモンスターを貫き、モンスターは膝をつく。

モンスターは少年に姿を変え、ニッコリと笑うとポリゴンになって霧散する。

 

「これでほんとに終わったのよね?」

 

リズが床に座り込み、レイピアを支えにしながらたずねる。

 

「たぶんな。ストレージになんかアイテムないか?」

 

ルルの言葉にリズはアイテムストレージを探す

 

「あ、インゴットみたいね。擬似精霊の黒曜石」

 

「擬似精霊って、今の2体は精霊って感じじゃなかったけどな」

 

「たしかにね、だけど私も強くなったでしょ? 油断もしなかったし」

 

「だから油断は禁物だ」

 

ルルは苦笑しながらリズを小突く。

 

リズは両手で頭を押さえ「痛いな、もう」と2人はじゃれながら帰路についた。

 

☆★☆★

 

朝、セレスティアは朝食をとっていた。

そこにルルが起きてくる。

 

「……セレスティア、今日も早いな。」

 

欠伸をし、頭を掻きながらルルが言う。

 

「今日は攻略会議だから先に本部に集合なんだ」

 

口に朝食をリスのように貯めながらセレスティアが話す。

 

「あ、もういかなくちゃ!」

 

そう言ってセレスティアは出かけていった。

 

「お昼からなんでしょ? 攻略会議」

 

リズがルルの前にコーヒーを置き、前の席へ座る。

 

「ああ、気合入れていかないとな」

 

ルルはそう言いながら新聞を見る。

 

「キリトのヤツ、池の主を釣り上げて大騒ぎだったらしいぜ?」

 

新聞をリズに見えるように開く。

 

「仲良くやってんのね。あの夫婦。……攻略会議来るのかな?」

 

リズはユイとの出来事を思い出したのかすこし声のトーンが落ちる。

 

「さぁな。行ってみりゃわかるだろ」

 

ルルは新聞をたたみ、コーヒーを一口飲むとそう言いながらリズの頭をくしゃくしゃとなでた。

 

 

 




あとがき

というわけでオリジナル。

微妙ですかね?


コメント感想おまちしてます。


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ゲームの中の奇跡

まえがき

お待たせしました。

浮遊城編、残すところあと1話です


 

浮遊城75層

 

攻略会議

各層のボスを倒すため、今までに得た情報を元に話し合い作戦を練るための会議。

そのため、今までボス戦に参加していなかったルルは参加していなかった。

 

「……やっと戻ってきたか」

 

ルルは会議が行われる洞窟の前でつぶやく、中に入ると見知った顔がちらほらとあった。

その中の1人が声をかけてくる。

 

「おールル!」

 

バンダナを巻いた野武士風の男、クラインである。

 

「攻略会議は久りぶりだろぉよ。わかんないことがあったらなんでも聞いてくれよな」

 

「大丈夫だっての」

 

ルルは苦笑しながらクラインに返す。

クラインはこういう奴なのだ。抜けてるように見えながら周りにしっかりと気を配る。

そのとき、2人の人影が洞窟に入ってきた。

キリトとアスナである。

ルルはクラインとともに近寄ると、話しかける。

 

「久しぶりだな、いいのか? 新婚生活ほっぽり出して」

 

ルルの言葉にキリトが答える。

 

「ああ。今朝二人で話し合って決めたんだ。向こうでちゃんと会って、付き合おうって」

 

「そうか。じゃあ、まずは今日のボスをさくっと倒さないとな」

 

「油断して、死ぬなよ」

 

2人は拳を握るとコツンと合わせる。

入り口からヒースクリフ、カッツェにリンド、スコールが入ってきた。

セレスティアもこちらに手を振りながら入ってくる。

 

「諸君、集まってくれたことに感謝する」

 

ヒースクリフが話し出し、会議が始まった。

会議の内容をまとめると、何もわかっていない。が正解だろう。

先遣隊が門に入った瞬間門が閉じ、次に開いた時にはボスの姿もプレイヤーの姿もなかった。

もちろん74層と同様に結晶は使えない。

つまりは門の内側に入り、出てこられるのはボスを倒したプレイヤーのみ。

それでもこのゲームをクリアし、現実世界へと帰るために攻略会議に集まったプレイヤーたちはボス戦へと赴く。

 

門が開き、プレイヤー達がなだれ込む。そして、門が閉じた。

今、75層ボス戦が始まる。

 

☆★☆★

 

誰かが言った。「上」と。

 

全員が上を向くと、そこにはボス、《ザ・スカル・リーパー》が壊れた人形の様に目を左右別々にぐるりと回しプレイヤーを見ていた。

10メートルはあろう骸骨のムカデ。

ザ・スカル・リーパーは自身の鎌のような一番前の足を振り下ろす。

その一撃で1人のプレイヤーがポリゴンに変わった。

 

「い、一撃だと⁉︎」

 

誰かがつぶやく。唖然としているプレイヤー達を尻目にザ・スカル・リーパーは逆側の前足を振り下ろす。

この一撃はキリトとアスナ2人がかりでなんとか受け止める。

それを見たヒースクリフは指示を飛ばす。

こうして戦いは始まった。

 

あれからどのくらいたったのだろうか?

どれだけの犠牲者が出たのだろうか?

それでもザ・スカル・リーパーのHPを少しずつ、確実に削っていった攻略組のプレイヤー達はついにザ・スカル・リーパーをポリゴンへと変えた。

全員、疲れ果て、ある者は大の字に寝転がり肩で息をしている。

 

「……何人やられた?」

 

クラインがいつもの元気もなく言う。

 

「14人死んだ……」

 

キリトがレイド人数を確認して答える。

 

「嘘だろ」エギルがそうつぶやく。

ここにいる全員が同じ気持ちだろう。それだけ衝撃的な人数だった。

最前線の選りすぐりのメンバー32人の内14人が死んだ。

のこり25層これからもっと強くなるだろう。100層までに何人死ぬだろう。次は自分の番では? そもそもクリアできるのだろうか?

さまざまな負の思いが渦巻く。

 

しかし、ルルは違うことを考えていた。

 

(おかしい、聞いてはいたが、今回もヒースクリフのHPは半分を下回らなかった。俺のレベルは過去の無茶なレベリングもあってキリトたちより10は上のはず、その俺でもギリギリまで削ったってのに? ユニークスキルだけじゃ説明できないだろ。確かあの時も……)

 

あの時、キリトがヒースクリフとデュエルした時、リズ、セレスティアと観客席で見ていた。

 

(あの時、キリトの最後の一撃が決まったと思った。しかしヒースクリフは防いで見せた。なぜか、そこにはなかった盾で防いで。あの時あの一撃を受けていたらHPが半分を下回った。それを防ぎたかった? なぜ? 半分を下回るとまずいことがある? …………まさか!)

 

そこまで考え顔を上げるとキリトが剣を抜きヒースクリフに向かって走り出していた。

 

(あのバカ、そのタイミングじゃ気づかれる)

 

ルルは即座に行動に移す。

キリトの反対から回り込むように走る。

キリトが剣を振りぬいたとき、驚いたような顔はしていたが、ヒースクリフはしっかりと盾で防ぐ。

すぐさま逆側からルルも刀で攻撃しようと振りかぶる。

ヒースクリフはこれにも驚きながら、しかし、確実に盾で防ごうとする。

その盾をルルは左手の魔爪で受け止め、こじ開けると刀を振り下ろす。

 

「キリト君、ルル君⁉︎ なにを?」

 

アスナが叫び全員が注目する。

ルルの刀はヒースクリフには届かなかった。

その代わりにヒースクリフの前にある言葉が浮かぶ。

 

 

Immortal Object

 

 

 

「システム的不死、ってどういうことですか? 団長」

 

アスナがヒースクリフに問いかける。

しかし、答えたのはキリトだった。

 

「この男のHPゲージは、どうあってもイエローに落ちないように、システムに保護されているのさ。この世界に来てからずっと気になっていることがあった。あいつは今、どこで俺達を観察し、ゲームを調整してるんだろうってな!でも俺は、単純な心理を忘れていたよ。どんな子供でも知っていることさ。人のやっているゲームを側らから眺めていることほどつまらないものはない。そうだろ?

 

 

 

 

茅場晶彦‼︎」

 

キリトの言葉に周りがざわつきだす。

 

「なぜ気づいたのか、参考までに教えてもらえるかな?」

 

ヒースクリフの質問に、キリトではなくルルが答える。

 

「あんたはその設定をレッドゾーンにまでは行かないにするべきだった。俺のレベルは過去に無茶なレベリングをしたのもあってキリトよりも10は上なんだ。その俺がレッドまで落として何とか生き残ってるのに、イエローすら落ちないなんてどれだけの高レベルなんだって疑問が出てきた。そのとき思ったのさ。あのとき、キリトとデュエルした時、あんたはキリトの最後の一撃をありえない動きで防いだ。速すぎたんだ。あれも、受けていればイエローに入るのを、いや、Immortal Object表示がでてくるのをどんなことしても防がなければいけなかった。そうおもった。違うか?」

 

「キリト君もかな?」

 

ヒースクリフの言葉にキリトがうなずく。

 

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。キリト君の動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 

その言葉にざわついていた周りは絶句する。

周りを見回すとヒースクリフは話し出す。

 

「たしかに私は茅場晶彦だ。ついでに言えばこの城の最上階で君達を待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

全員に衝撃が走る。

そうだろう。最強の味方が最後に立ちはだかるというのだから。

 

「なかなかいいシナリオだろう? 最終的に私の前に立つのは君達のどちらかだと予想はしていた。二刀流スキルはすべてのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つものに与えられ、そのプレイヤーが勇者の役割を担うはずだった。……しかし、最大の反応速度を持ったプレイヤーは片腕がなく、勇者と呼ぶにはふさわしくなかった。

そこで、ルル君を除いたプレイヤーで最大の反応速度を持つキリト君に与えられたわけだ。軽微な差だったしね。

……しかし、ルル君は私の知らないスキルを持って帰ってきた。私は思ったのだよ。君にもやはり勇者の素質があったのだと!

それに、キリト君も私の予想を超える力を見せた。君にも勇者の素質があると私は確信している。今回の出来事も……

こうゆう予想外な出来事こそネットワークRPGの醍醐味だと思わないかい?」

 

ヒースクリフの言葉に切れた血盟騎士団のプレイヤーがヒースクリフに切りかかる。

 

「俺達の忠誠、希望を、よくも‼︎」

 

そう叫び切りかかるプレイヤーをあざ笑うかのようにヒースクリフは左手を振り、GM用のメニューを開くとそのプレイヤーをマヒ状態にする。

麻痺になったプレイヤーはヒースクリフに攻撃を与えることもできずに地に伏せる。

ヒースクリフはコマンドを操作し、次々に麻痺にしていく。

立っているのはヒースクリフの前に並び立つ二人、キリトとルル。

 

「どうするつもりだ? このまま全員殺して隠蔽するつもりか?」

 

キリトが問いかける。

 

「まさか、そんな理不尽なマネはしないさ。こうなってはいたしかたない。私は一足先に最上階にある紅玉宮にて君達を待つことにしよう。ここまで育ててきた血盟騎士団、そして、攻略組プレイヤーを途中で放り出すのは不本意だが、なに、君達の力ならたどりつけるさ。だが、その前に、キリト君、ルル君、君達には私の正体を見破った褒美を与えなくてわな。

 

……チャンスをあげよう。

 

今、この場で私と戦うためのチャンスだ。むろん、不死属性は解除しよう。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる……どうかな?」

 

「駄目よ2人とも、今は、今は引いて。」

 

アスナは2人を止める。

死んでほしくないから、この戦いは分が悪すぎるから。

 

「そーだよ。みんなで生き残る道を考えよう? リズの元へ帰るんでしょ、ルル」

 

セレスティアもルルを止める。

 

(この世界が終わる……)

 

ルルは考えていた。

 

(ここで、クリアすればもう誰も、死ななくていい。サチや黒猫団のみんな、ディアベルのように、死ななくていい。でも、ここで死んだら、キリトも……それはダメだ!)

 

ここで、今まで沈黙を続けていたルルが動いた。

ヒースクリフと向かい合い、キリトの少し後ろにいたルルは手に持った刀を振りぬいた。

 

ルルのカーソルがグリーンからオレンジに変わる。

 

キリトの右腕が宙を舞い、床へと落ちた。

回復し、満タンだったキリトのHPは4割ほども削られる。

全員が信じられないとルルを見る。

ヒースクリフもである。

ルルはとまらずキリトをアスナのほうへ蹴り飛ばす。

 

「なあクソ虫、これでキリトは戦えないだろう? 褒美は俺だけが貰う。ここで、俺と1対1で戦え」

 

その言葉で全員が理解する。キリトを庇ったのだと。

 

「おい、ルル! 俺も戦う。ヒースクリフ!」

 

キリトが叫ぶがヒースクリフはため息を吐くとメニューを操作し、キリトに麻痺を付与する。

 

「いいだろう。これは私と君との一騎打ち。君が勝てばゲームはクリアされ、負ければ私は紅玉宮へと去る」

 

ヒースクリフとルル、2人は剣を抜き向かい合う。

 

「なぁエギル、これまで中層のプレイヤーのサポートありがとうな。知ってんだぜ、お前が儲けのほとんどを中層の育成につぎ込んでたこと」

 

ルルが周りに向けて口を開いた。

 

「クライン、なんやかんやいつも気にかけてくれてたよな。感謝してる」

 

「キリト、このゲームが始まった時、俺に戦い方を教えてくれたこと感謝してる。そのお陰で俺は今ここでクソ虫を殺せる。」

 

「セレスティア、アスナ、もちろん死ぬつもりはない。

……けどもし、もし死んだら、リズの奴のそばにいてやってくれ。あいつの助けになってやってくれ。 ……頼む」

 

その言葉を最後に、ルルは周りの声をシャットアウトしヒースクリフに目を向ける。

後ろから声がするが、それを聞けば刀が鈍るから。

 

「さあ、殺してやるよ、クソ虫‼︎」

 

そう言ってルルはヒースクリフに向かって走り出す。

ルルの刀をヒースクリフは盾で受け、いなすと、自身の剣をルルに向けて突き出す。

その剣をルルは左の甲冑の腕の部分ではじき、盾をこじ開け、刀を突き出す。

顔面に向かって突き出された刀をヒースクリフは顔を捻ってよけるが頬をかすめ、HPが少し減少する。

その間もヒースクリフの剣はルルに突き出される。

今度は左手の肘の部分で下に弾いたルルだが、勢いを殺しきれず、わき腹をかすり、HPが少し減る。

 

一進一退の攻防が繰り広げられる。

 

戦い始めてどれだけの時間がたったのか、ついにその時が訪れる。

ルルの左手の耐久値がなくなり砕けた。

何とか次の攻撃は刀で防ぐが、間髪入れずに攻撃判定を持った盾が襲いかかる。

これにより、ルルの刀も吹っ飛ばされ、宙を舞う。

 

「勝負、ありだな」

 

ヒースクリフの剣がルルに向かって振り下ろされた。

 

 

☆★☆★

 

 

リズベット武具店

 

カン、カン。と金属をたたく音がする。

リズの顔には疲労が浮かんでいた。

昨日手に入れた《擬似精霊の黒曜石》かれこれ1000回以上叩いているが、変化は起きない。

しかしリズはルルを想い叩きつずける。

《擬似精霊の黒曜石》実はこのアイテム、SAOに1つしか存在しないユニークアイテムだった。

2000回をこえた時、ついに変化が生まれる。

ルルに似合いそうな黒い左手、見た目は鉄爪と変わらない。しかし今までのどんな《手甲魔爪》よりも高スペックな《手甲魔爪》《魔装テネブル》へと。

 

「やっとできたわぁ。はぁ、しんど……でもルル帰ってきたら喜ぶだろうな」

 

リズはそんなことをつぶやきながら、にへらとにやける。

そこで入り口に人が立っていることに気づく。

リズは顔を真っ赤にしながら「い、いらっしゃいませ」と接客の為立ち上がる。

その人影、暗めの茶髪を後ろで結び、前髪をピンで止めた女性は、微笑みながらリズに近づくと《テネブル》に触れる。

すると、女性と《テネブル》は光だし、そして消えた。

 

「え、ちょっと⁉︎ どうなってんの?」

 

いきなり消えた《テネブル》に、女性にリズは慌てふためき店中を探し回った。

 

 

☆★☆★

 

 

ヒースクリフの振り下ろされた剣は、ルルにあたる事はなかった。

その手前で槍と剣が交差し、攻撃を防いだからだ。

ルルは目の前の光景に目を見開く。

槍と剣を交差させルルを守ったのは、サチとディアベルだった。

 

「なんで……」

 

ルルがつぶやく。

回りも全員、信じられないという目で見ている。

 

「サチ、ディアベル、生きてたのか? 帰れたのか? 向こうに……」

 

ルルの言葉に2人は首を横に振り、ディアベルが喋りだす。

 

『これは、僕達の残りカス、残思のようなものさ。ルル君、後のことは頼んだって言っただろう? ちゃんとクリアしてくれよ』

 

サチが話し出す

 

『ねぇ、ルル。約束したよね。クリアして、この世界の最後を見届けてって約束したよね』

 

そう言って2人はルルに向けて微笑む。

 

「でも、もう武器が……」

 

『武器ならありますよ』

 

ルルの言葉をさえぎり、カツカツと女性が歩いてくる。

暗めの茶髪を後ろで結び、前髪をピンで止めた女性、グリセルダは微笑みながら手の中のものを渡す。

 

『これはさっき、リズベットさんが完成させたあなたの左腕です。受け取ってください。約束でしょう。あの人をここから出してくれるって』

 

繰りセルだの手の中の黒い腕は消え、ルルには新しい腕が現れる。

 

(サチ、ディアベル、グリセルダ。みんなの想い、そして、リズの想い)

 

ルルはグッと握り締めた左手を開くとヒースクリフを見据える。

ヒースクリフも来るか。と構えている。

ルルはヒースクリフに向けて地面をけると左手を振りかぶり、前へと突き出す。

 

(帰るんだ。そして、出会うんだ。 里香に)

 

 

ヒースクリフの盾とルルの左手がぶつかる。

一度は拮抗した2つの攻撃、しかしルルの体にいつか見た輝きが灯りそれと同時、盾は砕け、そのままルルの左手はヒースクリフを貫く。

 

ヒースクリフのHPが0になる。

 

「おめでとう。ルル君」

 

そう一言残し、ヒースクリフはポリゴンとなって消えた。

その時のヒースクリフの顔は笑っているように見えた。

そしてサチ、ディアベル、ぐりセルダの3人も微笑み、消えていった。

 

(サチ、ディアベル、グリセルダ、黒猫団のみんな、やったよ。リズ。やったよ)

 

そう思いながら、ルルは目を閉じ、勝利を噛み締めた。

 

☆★☆★

 

11月17日14時55分 ゲームはプレイヤールルによってクリアされました。

 

浮遊城全体にそう、アナウンスが響き渡った。

 

 

 

 

 




あとがき

どうでしたか? キリト君が目立たないのはいつものことです。もうしわけない。

浮遊城編のこすはエピローグ。

しばしのお待ちを。

感想、コメントお待ちしています。


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帰還

浮遊城エピローグ始まります。




11月17日14時55分 ゲームはプレイヤールルによってクリアされました。これより、生存プレイヤーの順次ログアウトが始まります。

 

 

浮遊城に、そうアナウンスが響き渡った。

75層のボス部屋。

ヒースクリフがポリゴンとなって散った後、全員の麻痺が解けた。

ルルはというと、まずキリト殴られ、アスナとセレスティアにお叱りを受け、エギルにポンと肩を叩かれた後、クラインに泣きながら祝福をされていた時、ログアウトが始まった。

アスナとキリトが消え、エギル、クラインもログアウトした。

セレスティアと「向こうで会おう」と話しているとき、ルルは光に包まれ75層から姿を消した。

 

☆★☆★

 

48層

 

リズベットは消えた《テネブル》を探していた。

そのとき、アナウンスが聞こえたものだから、慌てて頭を上げ、机にぶつけ。「イタタタ」といいながら立ち上がる。

何度も響き渡るアナウンスを聞きながら「ついにやったんだね」そう言って笑顔の頬に涙が流れたとき、光に包まれ姿を消した。

 

☆★☆★

 

ここは浮遊城の上。

夕日が広がるこの場所に2人の人影があった。

2人の人影は見つめあう形で転送され、無言のまま、そのまま見つめ合っていた。

片方の人影、少女が話し出す。

 

「おめでとう。ルル、クリアしたんだね」

 

もう片方の人影、少年、ルルが答える。

 

「ああ、もうダメかと思った。けど、いろんな人に助けられたよ。リズにも助けられた。これがなかったら死んでたよ」

 

そう言ってルルは笑いながら左手を見せる。

 

「あーーー‼︎」

 

そう言ってリズはルルの左手を指差す。

それもそのはず、リズがさっきまで必死に探していた《テネブル》がルルの左手としてついているのだ。そしてうなだれる。

 

「はぁ、そう言う事ね……」

 

「そういうことだ!」

 

そう言って2人は笑いあった。

 

「…向こうで会おうな。絶対」

 

「うん」

 

そう、2人は夕日を見つめ、ログアウトを待った。

 

 

しかし、

 

 

 

「ラブラブねぇ」

 

「そうでしね」

 

そう言って2人、小さな人影が近づいてくる。

巫女服の<少女>と修道服の少女。

 

カーディナルである。

 

「まずはクリアおめでとうかしら、勇者様?」

 

そう言って巫女服の少女がルルとリズに話しかける。

 

「ああ……カーディナルか?」

 

ルルはそう疑問を返す。

なぜなら修道服の少女はそのままだ。しかし巫女服の少女、明らかに縮んでいるからだ。

 

「そうでしよ。といってもSAOの崩壊が始まって私達もすこし損傷を受けましたが……」

 

「そうなのよねぇ。この子は言語プログラムに少し、私は見ての通り、縮んで子供の姿。まあそんなことはどうでもいいのよ」

 

「ルル。SAOはまだ終わっていません」

 

カーディナルの言葉にルルとリズは固まった。

 

「ちょっと待ってよ⁉︎ SAOはクリアされてログアウトが始まったんじゃないの?」

 

リズが質問する。

 

「SAOは攻略されました。しかし、ログアウトの瞬間何者かによってログアウト中の300人のデータが奪われました」

 

「つまり、300人は意識が戻らず、まだナーブギアに囚われたままと言う事よ」

 

「どこに囚われたかはわかってるでし。アルヴヘイム・オンラインと言うVRMMOでし」

 

「そこで、私たちの勇者様に頼むことにしたの」

 

「ルル、囚われた300人を助けてほしいでし。私たちはあなたのナーブギアのメモリに退避してサポートするでし」

 

カーディナルはそう答えた。

ルルは真剣な顔で答える。

 

「まかせておけ」

 

「もちろん私もサポートするわよ」

 

リズはそういいルルの手を握る。

 

「これはお熱いわねぇ。それと、私達はカーディナルではなくなるのだし、名前がほしいの。この姿だし、あなた達の子供と言うのはどうかしら?」

 

「なに言ってるでし。そんな急に」

 

「でもあの子、ユイはプレイヤーの子になったわけだし、私もこれから家族と言うものを経験したいわ」

 

「…それも悪くないでしね。よろしくお願いします。父様、母様」

 

「それいいわね。父様、母様」

 

そう言ってカーディナルは熱い視線を送る。

リズとルル2人は見つめあうと、笑いあい。

 

「急に子供ができちゃったね。ユイちゃんと同じくらいの年齢かな?」

 

リズが笑顔でルルに話す。

 

「そうだな。まずは名前を決めてあげないとな」

 

ルルは頭を掻きながら返す。

するとカーディナルの2人は目を輝かせて2人を見つめる。

 

「そうね。私がこっちの子を考えるから、ルルはその子を考えてあげて」

 

そう言って2人は考える。

そして決まった。

 

「あなたの名前はルリ」

 

そう言ってリズは巫女服の少女を抱き上げる。

 

「じゃあお前の名前はリムだ」

 

そういってルルは修道服の少女の頭をなでる。

そして4人は笑いあい、光に包まれる。

光が消えたとき。そこには誰もいなかった。

 

☆★☆★

 

ピッピッピッ

 

ここはとある病室。

頭を次世代ゲーム機《ナーブギア》に覆われ眠る少年が入院する病室。

少女、少年の妹は少年の顔を見ながら話しかける。

 

「ねぇお兄ちゃん、今はどんな冒険をしてるのかな? 昔はよく聞かせてくれたよね。今日はどんな敵を倒したとか、何を捕まえたとか。

……早く起きてまた教えてよ。……ねぇ、お兄ちゃん」

 

 

少女の目に涙が浮かび、溢れそうになった時、少年の目が開いた。

2年も口に何も入れていなかった為か口をパクパクさせるが声が出ない。

少女はガタッと椅子を倒しながら立ち上がると少年に話しかける。

 

「お兄ちゃん、ねえ、わかる?お兄ちゃん! そうだ、先生、看護婦さん! お父さんにも連絡しないと!」

 

そう言って少女は病室を飛びした。

 

 

 

この日、SAOに囚われた人々は現実世界へ帰還する。

未だ目覚めぬ300人をのこして。

 

 




あとがき

エピローグと少しプロローグも入ってるでしょうか?

次回よりALO編になります。

その前にしばし休息をいただきます。

次回をおたのしみに。


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