いうなれば軌跡の裏道 (ゆーう1)
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一章
とあるラジオ好きな少年


かなりの独自解釈とやりたい放題です。


Reborn

 

きっと僕は呪うだろう、自らの運命を。前触れもなく、猶予もなく、関係もなく巻き込まれてしまったこの運命に。

ただ絶望することはもうないだろう。なにせ絶望に匹敵するぐらいの希望・・・・はないけど根性をもらった。

だからもう折れることはないだろう。だったら後はひたすら足掻くだけだ。

 

 

 

「いうなれば軌跡の裏道」

 

 

 

 

春。暖かな空気とともにライラの花が咲き始めて色々なことが始まる季節。何かが終わる季節とも言えるかもしれないがそれには目を瞑りたい。

だって出だしの一歩目からネガティブな思考ではなにもかもやっていける気がしないからね。

 

デカデカと盛大に飾られた「ようこそトールズ士官学院」と書かれた看板に感慨深く目を向ける。

これから始まることへの期待に胸が膨らむ・・・ことはなかった。

 

「はぁ・・・正直めんどくさいなぁ・・・。僕としては毎日ラジオを聞いて生活できればいいんだけどなぁ・・・。」

聞けばこの士官学校貴族と平民の対立が少なからずあるという。そりゃ制服から違うんだから起きてもしかたないか。

自分の平民の証である緑色の制服をみる。

白い制服を纏う貴族生徒に関わったらめんどくさそうだなぁ・・・。

 

 

 

「わわわわわ!!!!どいてどいてーーーーー!!!!!」

 

バターンッ!!

 

突然背中に衝撃が走り吹き飛ばされてしまう。

「アタタタ・・・・もう、校門前で立ち止まらないでよねぇ~~~。」

衝撃のした方を向くとそこには緑髪で童顔の少女が尻餅をつていた。

緑の制服を来ているところ平民生徒か。良かった白制服の貴族生徒じゃなくて。貴族とかだと確実にいちゃもんつけられるしな。

正直そっちこそ前向いて走れと言ってやりたいが口を紡ぐ。

なぜなら僕のセンサーが敏感に反応している!

 

 

こ い つ は ア ホ っ 子 だ !!!

 

 

希少種で実在することは夢物語だとも言われた。

だから分かる。こいつは関わったら色々危険だと・・・・。

 

 

「よっと・・・!」

アホっ子は勢いつけて立ち上がる。

イケメンなら手をかしてさわや~~~かな笑顔を浮かべるのだろうが生憎僕にはそんなことは出来ない。

だからモテない?やかましいわ!!

 

 

「あ!生徒手帳落としちゃってる!」

目を向けると地面には二つの生徒手帳が落ちていた。どうやら僕の生徒手帳も衝撃で落としてしまったらしい。

 

 

「じゃあね~~~~!!!」

アホっ子は生徒手帳を拾うとまた走り出し行ってしまった。なんとも慌ただしい子だ。

 

 

「あれ?これ僕の生徒手帳じゃないじゃん・・・。」

自然とため息が出てしまう。何故か感じずにはいられないこれからの厄介事にたいして。

生徒手帳には自分の名前ムンクではなくミントと書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

「いや~~~まさか同じクラスだったとはねえ~。ん?どしたの?ムンクくん入学したてだってのに表情が暗いぞ~~~。」

 

 

「な、なんでもないよ・・・。」

ミントは僕の曖昧な返事にキョトンと首をかしげる。

偶然とは恐ろしいものだ。偶然ぶつかった女の子と偶然同じクラスとは・・・。

女神の導きだろうか・・・。

こんなこと口が裂けても言葉に出来ないが正直女神なんて信じてないけどね。

 

 

時は放課後。

あの後、自分が指定されているクラスに向かうと何かを探しているようにウロウロしているミントがいた。

無事生徒手帳を交換して終わりのつもりだったが何故かミントに捕まってしまった。

今日は入学式と自分の所属されたクラスでホームルームだけして終わりのはずだから寮に戻ってラジオでも聞こうと思ったんだけどなぁ。

 

 

 

「それでね~~。ねえ!聞いてる!?ムンクくん!!」

 

 

「聞いてる!聞いてるよ!もうそのマカロフって人には同情するよ・・・」

 

 

「ちっちち~~~わかってないなぁムンクくんは。むしろあたしが色々だらしないマカロフ叔父さんをフォローしてあげているの!」

何故か僕にドヤ顔を決めるミント。

どうでもいいけどくっそ腹立つよそれ。

自然とため息がでる。

 

 

「ん?どしたの?ため息なんかついて?ま、いいや。それでね~~~」

 

まだ話すのかと顔ゲンナリとさせるがミントはそんなことお構いなしにマシンガントークを続ける。

 

 

まだ入学初日だっていうのになぁ・・・。

なんとも言えない出だしだ。

全く想像出来ないこれから先のことを思い浮かべ僕は深いため息をつくのだった。

 




こんな感じでいきますこれから
ムンクの性格は自堕落って感じですね。


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自由行動日の災難

リィンって爽やかイケメンだよね


トールズ士官学院

大帝が立ち上げた学院ともあってカリキュラムはそうとうハードなものだ。

なんでも「若者よ世の礎になれ」だっけ?僕は嫌です。

入学してひと月はたったが、正直所詮は学院となめくさっていた僕はあまりの厳しさに頭を悩ましている。

 

え?授業についていけているかって?そこは心配ご無用。授業は半分寝ている。人間諦めが肝心なものだ。

いずれくるであろう学力考査の結果は火を見るより明らかだが僕にはラジオがある。ラジオさえ聞いていれば人生幸せなものだ。

 

 

 

 

4/18

今日はこのトールズ士官学院でも数少ない自由行動日だ。

真面目なものは自習したり武術の鍛錬を積んだりするだろう。はたまた部活に情熱を注ぎ青春を謳歌することだろ。

僕は当然惰眠を貪り大好きなラジオを聞いて過ごす。そう!誰がなんといおうがだ!

 

 

そんなわけでラジオを聞いて一日過ごすわけだから、その前にトリスタの街に出て買い出しが必要だ。お菓子を食べながらラジオを聞く。

なんて優雅な休日の過ごし方だろうか。

 

 

 

「ムンクくん~。」

浮かれ気分な僕の耳にソプラノでやや抜けたようなイメージを持たせる声が貫く。

現在最大の悩みの種ミントだ。

なんでこいつにあうの!!?ちょっとトリスタに買い出しに来ているだけなのに!!

 

 

「み、ミントか・・・。何?もしかしてまた何かあった?」

僕の危険察知センサーが警報を鳴らしている。これは厄介事だと。

 

「よく分かったね!!もしかしてムンクくんはエスパー!?」

 

エスパーもくそもないだろ。たいていお前が話しかけてくる時は厄介事だ。

入学してからこの悪魔のせいで僕の平穏は跡形もなく消え去ってしまった。

ある時は探検だとかいいだして連行され街道にでて迷った挙句魔獣に襲われたり。

ある時は料理を極めるとか言い出してダークマターの試食に付き合わされたり。

落し物探しなど日常茶飯事だ。

 

 

「それでね!叔父さんにもらった大事な時計を落としちゃったよぅ。」

 

 

「また!?それ1週間前も言ってたよねぇ!?大事なものならなくさないでよ!?」

 

 

「うう、ムンクくん~~~。」

上目遣いで瞳を潤ませて見つめてくるミント。

うう!なんか僕この目に弱いな。いや、正直関わりたくないけどこの捨てられそうな子犬のような目をされるとどうも弱い。

 

 

「わかったよ、分かりましたよ・・・探してあげるから!」

僕は諦めたようにため息をつく。厄介事は早めに終わらせてしまおう。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

探すとか言ったもののミントの探し物は普通とはかなりかけ離れていて壮絶さを極める。

以前のことだ。大事らしい時計は校舎中を探しまくった挙句見つかった場所といえば第二寮の近くにあった鳥の巣の中である。

そんなこと、狙っても起こせないぞ。

 

正直またそんな途方もないような作業をしなければならないと感じるとやるせない。

 

 

 

「はぁ・・・。」

「ふぅ・・・。」

 

 

「「ん?」」

 

 

 

「ええと、君は?」

 

「僕はムンク。ああ、その赤い制服は噂のⅦ組か。」

 

 

「まあな。俺はリィン。リィン・シュバルツァーっていうんだ。」

緑でも白でもない赤い制服を身につけ、帝国では珍しい黒髪黒目。髪の毛はツンッと羽気味だ。

顔は中性的ともいえるが整っている好青年だ。

 

 

まさかこんなとこでⅦ組に会うとはな。いや、同じ学院にいるからおかしいことではないか。

特化クラスⅦ組。今年新設されたクラスで何でも通常のカリキュラムに加え特別実習なんてものがあるらしい。

選ばれることは決してないだろうけど選ばれなくて良かった。そんなヤバそうなクラスいったら身が持たないよ。

 

 

「ええと、自由行動日なのに校舎にいるってことは何か部活にでも入ってるの?」

 

「ははっ。生憎まだ部活には入ってないよ。少し生徒会の手伝いをしていてね。」

 

「へぇ。生徒会に入ってるのか。それはまた優秀だね。さすが噂のⅦ組だ。」

 

「うーん、そういうわけでもないんだが。少しややこしいな。なんていうかサラ教官に押し付けられたというか・・・」

 

リィンは顔を歪ませて考え込む。

 

「あぁ、リィンくんも色々苦労してるんだね・・・・。」

なんかこの優等生に親近感湧いてきたぞ。

 

「ムンクも色々あるのか・・・・。」

 

 

「「はぁ」」

 

まさかのお互いため息が重なるという。なにこれ苦労人同士にはなにかシンパシー的なものがあるの?

 

「はははっ ある意味俺らは似た者同士かもな。」

 

「嘘でしょ むしろ正反対だよ。」

 

 

「そうか?おっと早くこれを持っていかなきゃ。ムンクまたな!」

そう言うとリィンはせかせかと何処かへ行ってしまった。しかしせっかくの自由行動日に生徒会の手伝いなんて真面目な奴だなぁ。

いや、僕もひとのことあんまり言えないか。ミントに振り回されてるし・・・・

なんでこうなったのかなぁ・・・

 

 

 

バシンッ

 

 

「いたい!!?」

途方に暮れていると背中にいきなり衝撃が走る。なんだよもう・・・!

 

 

後ろに振り向くとそこには何故か仁王立ちしているミントがいた。

 

 

「ム~ン~クく~んなんでサボってるのかなぁ~~~?」

満面の笑顔だ。でも笑顔に何故か恐怖を感じるのは何故?

 

 

「なんで叩いたの!?というかサボってないよ!少し人と話してただけじゃん!」

 

 

「ほえ?そうなの?ごめんごめんなんだかムンクくんってサボってるイメージしかなくて。」

 

こいつ人に手伝わしといてなんたる言いようだろうか?いや正直否定要素はあんまりないんだけどさ。

 

 

「それでそっちは何か成果はあったの?」

 

 

「それが全然~~~というか聞いてよ~~~!」

 

かくして僕は何故かミントの叔父マカロフの生活について望みもしないのに詳しくなっていくのだった。しかもミントの主観にまみれた。

マカロフさん心から同情します。

 

 

結局その後夜になるまで探しても時計は見つからなかったが・・・が時計はミントのスカートのポケットに入ってたというオチだった。

ふざけんな!!

 




ミントが自由すぎるよね
次回は戦闘をやってみようと思います。
ムンクに幸あれ


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サボリと鬼教官

いや~~~UAが500近くまでいってて嬉しい!
意外にも読んでくれる人がいて嬉しいな!
そんなわけで今日は真面目かつ長め。


僕ムンクが在籍しているトールズ士官学院は士官学校ということもあって卒業後進路は多くが軍だ。

何が言いたいかというと、そのため武術やアーツ系の授業が多い。そしてこれらのものが特に嫌いだということだ。

座学なら寝て過ごせばいいが、実戦科目だとそうもいかない。内容もかなりハードだし何より疲れてクタクタになるから一番嫌な時間だ。

 

 

だが僕もここで引き下がるほど甘くない。

武術の授業では当然模擬戦がある。つまりだ・・・模擬戦中にわざと攻撃を喰らい気絶した振りさえしていれば授業をまるまるとさぼれるわけだ。

問題なのは攻撃をくらったら痛いことぐらいだ。我慢は一瞬!背に腹は代えられない!

 

 

 

「フフフ・・・。 僕ってなんて天才なんだろう・・・」

 

 

「ムンクくんなんかぶつぶついって気持ち悪いよ~?」

 

 

心無い言葉が聞こえた気もするがそんなのは無視だ。

模擬戦の相手と指定された相手をみる。

体格は十分。この相手なら僕は気絶しても問題ないだろう。なんて好都合。

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~やられた~~~~!!??」

 

 

よっし!うまい具合に吹き飛ばされた!後はうまく気絶したふりをすれば完璧!

 

 

「おい、ムンクの奴一瞬で吹っ飛ばされたぞ!?」

「いくらなんでも弱すぎだろ!!」

「うわ・・・気絶してるよ。」

 

 

 

いいぞ!クラスメートたちが僕の演技に騙されて声を上げる。結構いいフォローだぞ。

 

 

ふぅ・・・。後は授業が終わるまで気絶してればいい。誰も保健室に運んでくれないのは悲しいがそこは目を瞑ってあげよう。

 

トテトテと僕に近づいてくる音が聞こえる。

 

 

「あれれ~~~ムンクくん?気絶しちゃったの??情けないなぁ。」

僕の平穏をぶち壊す悪魔降臨。

だが今回はその悪魔も恐るにたらん!なぜなら僕は気絶したふりをしてるからな!流石に厄介事には巻き込まれないだろう。

というか僕は気絶してるんだから心配ぐらいしてくれてもいいんじゃないだろうか?

 

 

ん?また誰か近づいてきたぞ?なんか力強い足音だ。

 

 

 

「おい。ムンク、貴様気絶したふりをしているだろう?」

 

 

 

ひょ!!???

なんでバレたの!?僕の演技は完璧だったはず・・・。

というかこの声・・・ナイトハルト教官じゃないですか!?

 

 

やばいやばいやばい。よりにもよってナイトハルト教官にばれるとは。

武術を主に担当する教官は複数いるが中でも一番ヤバイのがナイトハルト教官だ。軍から来ているということもあり精神論丸出しの軍隊式訓練で悲鳴を上げる生徒が後をたたない。

 

 

落ち着け僕。まだバレてないはずだ。シラを切れ!!

 

 

「ほぇ~~ムンクくん気絶したふりしてるの?つんつん。」

そう言ってミントは僕のほっぺたをつついてくる。

お前は空気を読め!!

 

 

「お き て い る よ な ?」

 

 

ザンッ

 

 

「ひっ!?」

一際大きい剣が地面に思いっきり突きたてられたため思わず悲鳴を上げてしまう。怖すぎ。

 

 

沈黙

 

 

「ひ、人違いです」

自分でも馬鹿だとは思うがなんでこれを言ったんだろうか。

背中に冷や汗がぶわっと湧き出るのが分かる。

 

 

「いいからおきろ!!」

 

 

「はいいいい!!」

ナイトハルト教官の大地が揺れたかと思うほどの怒声に思わず背筋をピンと伸ばして立ち上がる。

 

 

「貴様、私の授業をサボろうとはいい度胸だ。」

あ、これやばい。教官の額に青筋出てる。

 

 

「稽古をつけてやる。かかってくるがいい。」

 

 

「えっ」

 

 

「いっておくが先程までみたく手を抜いたら軍隊式の地獄のメニューを受けさせてやろう。」

 

 

えっ 嘘だろ?どうしてこうなった・・・・。なんてこったこの授業の時間帯は寝て過ごすつもりだったのに。

嘆いていてもしょうがないか。やるだけやって地獄の特訓メニューだけは回避するしかない。

腕に籠手を装備する。一級品とまではいかないがそこそこ性能がいいものだ。なにより使い込んでいるので手に馴染んでいる。

 

 

「最低でも自分の流派の技ぐらいはだしてもらおう。」

 

 

「分かりましたよ・・・。」

そこまでバレていたかと内心舌を巻く。

今までの授業では出来るだけ自分の流派がバレないように立ち回っていた。特に禁忌の武術とかそういうわけではないが、やたらと手の内を晒すのも気が引けたからだ。

というのは建前で単純に疲れるからなんだけどね。

 

 

ふざけていられるはここまでだ。頭の中のスイッチをONに切り替える。生半可な意識で立ち向かっては全治一ヶ月の大怪我とかにもなりかねない。

構え目の前の相手を睨みつける。

 

 

「ほう、何らかの流派を収めているとは思っていたが泰斗流か。」

構えただけで流派が分かるとか流石だな、この人。

 

 

「といっても正規の手順を踏んで収めたわけじゃないですよ。」

正当な手順を踏んで会得したわけでもない。とある天才に教えてもらっただけだ。

実力で言えばおそらく初伝にも至らないだろう。

それに僕に使う安いようアレンジも加えてある。

 

 

「おもしろい。私に一撃でも入れられた地獄の特訓メニューはなしにしてやろう。」

 

 

「それってとてつもなく難易度高くないですか?」

かの有名な第四機甲師団に所属してしかもエースであるナイトハルト教官に一撃入れるって相当無理ゲーな気がするんですけど・・・・。

 

 

「ふん、それぐらい乗り越えて見せろ。」

そう言って剣を構える。

隙という隙が全くない。服越しからでも分かる鍛え抜かれ精錬された肉体が分かる。

 

 

正直、あの鍛え抜かれた体から繰り出される剣技に籠手を付けてるとは言え拳一つで立ち向かうとか嫌すぎる・・・

 

 

「やるしかないか・・・。」

 

 

「その意気やよし!」

その言葉を合図にナイトハルトが地面を壊れるぐらい強く蹴り飛ばす。

たったそれだけの行為でお互いの間には10メートルもの距離があったはずなのに数十センチまで縮まってしまう。

 

なんとか無理矢理体をひねって剣戟を躱す。

この間合いでは確実にやられてしまう。地面を強く蹴り距離を取る。

追撃に備えるがナイトハルトの追撃はない。

つまりは試されてるというわけだ。だったらやるしかない・・・。

 

 

「はああ・・・・。」

体を駆け巡る生命力とも言えるものを意識的に活性化させる。

血脈がうねり熱でもあるのか錯覚するほど体があつくほてる。

 

 

龍神攻

 

 

僕の技の起点であり、ある意味全てだ。この技があるから僕の技は全てが成り立つ。

龍神攻は生命力を一時的に爆発的に増大させ、身体能力をブーストさせるものだ。

東洋ではこれを気というらしく、体は鋼のごとく固くなり筋力も向上する。

 

 

「カッ!!」

 

龍閃

 

龍神攻の発動とともに気の塊を打ち込む。

龍閃はカマイタチのようなものだ。足に気を溜め打ち出す。僕がもつ技の中で唯一と言っていい遠距離技だ。

 

 

 

「ふんっ」

当然ナイトハルトは剣を軽く振るだけで龍閃をかき消す。

 

がそれは囮だ。

 

 

龍閃は接近するための目くらましだ。

いきなり接近してきた僕に対しナイトハルトは目を少し見開く。

今度は僕が攻撃する番だ。

 

主に腕に気を集中させる。

 

 

零剄

 

 

体を最大限にひねり勢いよく拳を前につき出す。

高濃度に拳に集中した気は爆発的な火力をもたらす。

イメージとしては高濃度の気を拳を介してゼロ距離で相手に直接打ち込む感じに近い。

 

 

ガンッと金属特有の高温が鳴り響く。

防がれた。

 

「狙いは悪くないが牽制の威力が低すぎるな。あれでは牽制にならない。」

涼しい顔して拳を剣で受け止めている。

 

 

「ぐっ」

くっそ!!タイミングはバッチリだったのに!!

 

 

それからは一方的な展開になった。ナイトハルトの剣技は凄まじく防戦一方な展開となった。

何しろまず根本的な威力が違う。

どのぐらい差があるのかわからないぐらいある。軽く見積もっても三倍はあるだろう。

 

 

「どうした?こんなものか?」

挑発してくる。

つまりは「いつでも、お前を倒せる」と挑発してきているのだ。

 

 

だったらこっちもやるしかない。

 

 

ブウウウン

アーツ発動時特有の起動音が鳴り響く。

アーツとは今や当たり前のものとなったが魔法のようなものだ。導力という神秘のエネルギーを使った戦術オーブメントという機械を使い魔法を発動する。

 

 

「ほう、アーツか。」

 

 

「ファイアボルト!」

発動させるのは低級火属性アーツだ。

直径50センチを超える火の玉が形成され、獲物へと発射される。

 

 

「ぬるい!」

剣をひと振りでアーツをかき消す。龍閃のときもそうだがほんと化物だな。普通アーツは剣なんかでかき消せるものじゃないんだが。

 

 

がここからが僕の本領だ。

 

死角を狙うようにもうひとつの火の玉が走る。

 

 

「むっ!?」

流石に驚いたようだ。しかし死角を狙ったというのに打ち落とすとかどんだけ化物。

 

「アーツの連続発動?いやそれにしては早すぎる。まさか・・・・!」

 

 

「正解ですよ。というかこれで一撃入ってたら良かったんですけどね・・・。」

 

 

「そんな甘いわけないだろう。しかしアーツの同時発動か・・・。随分器用なんだな?」

 

 

「裏技みたいなもんですよ。知り合いに少し詳しい人がいましてね!!」

 

 

「しかしせっかくのアーツも大した威力がないなら宝の持ち腐れだ。」

 

 

「それはやってみなければわかりません・・・よ!」

 

アーツを起動させる。今度も二つだ。しかし同じものではない。

発動させるのはファイアボルトとアクアブリード。

火の塊と水の塊が違う方向からナイトハルトに襲いかかる。

 

 

「ええい!そんなもの効かん!」

迎撃態勢に入る。

しかしそれが狙いだ。

そもそもナイトハルトにぶつかるように打ち出してはいない。

 

 

ナイトハルトの目の前で二つがぶつかるようにしてある。

するとどうなるか?

 

 

「くっ 視界が!!?」

 

狙いどうり二つがぶつかると白い靄のようなものが発生した。

そう狙いは火と水で発生する水蒸気で視界を奪うことだ。

 

 

「もらった!!」

そこに先程より気を込めた零剄を打ち込む。

 

勝った。そう思った。だが僕の拳に感触はなく、世界が反転した。

全身が真っ二つ引き裂かれると錯覚するぐらいの衝撃と感じたら、一瞬暗闇が訪れ気がつけば地面に横たわっていた。

何が起きたか分からない。分かるのは口に広がる土が混ざった鉄の味ぐらいだ。

 

 

「悪くはなかったな。及第点はくれてやろう。」

 

僕の意識は落ちてしまった。

 

 

 

 

――――

わりと賑わっている都市だ。

人々は露店を開き商売に興じる。はたまた心ゆくまで見物し、食を楽しみ満面の笑顔を浮かべる。

または、落ち着いた喫茶店に腰掛けコーヒーの深い味わいを楽しみつつ、お喋りに興じる。

どこにでもあるような、それでいて幸せに溢れた都市だ。

 

ただ一点。一点だけ違和感がある。

少年だ。黒髪で珍しい少年。

この都市の人々とは相反してとてもとても絶望した顔をしている。泣きはしないただただ絶望している。

そんな彼に声をかける人は誰もいない。

 

 

「ここはどこ?」

 

 

「わからない。似ているけど全然違う。」

 

 

「帰りたい。もうこんなとこ地獄だ。帰りたいよぅ・・・。」

 

 

「僕はなんでここにいるんだ・・・・。」

 

 

少年はその暗く絶望しきった瞳を見開き、悟ったようにぼそりと呟く。

 

「あぁ、ここに僕の居場所はなにもないのか・・・・。」

 

 

 

―――――

 

 

「うわぁ!!はぁはぁ・・・夢か・・・。なんで今更こんなもの見たんだ。なんて気分悪い・・・。」

 

 

「いててて、くそなんでこんな体がいたいんだ・・・・。」

体を起こすと全身に鈍い痛みが走った。

 

 

「あ!ムンクくん起きた~~~。」

 

 

「ミント・・・?あ!そうか僕はナイトハルト教官にやられたのか・・・・。」

まだぼんやりとしていたがだんだんと思考が戻ってきた。

 

 

「うなされていたみたいだけど大丈夫?」

 

 

 

「うなされていた・・・?あ、あぁ・・・!あんな目に合えばうなされもするよ・・・。」

本当は少し違うが言葉を濁す。実際ナイトハルト教官にボコボコにされたせいでもあるし。

 

 

「いや~~~、ムンクくんって結構強いんだね!ナイトハルト教官相手にあそこまでやるとは思わなかったよ!」

 

 

「というかなんでミントがいるの?」

 

 

「ほえ?だってここ保健室だよ?」

辺りを見渡すといくつものベットが置かれており少し離れた机には保健室担当のベアトリクス教官が優しげに微笑んでいた。

 

 

「おや?目が覚めましたか。ナイトハルト教官にも困ったものですが一応加減はしてくれたみたいですね。どこも怪我がなくて良かったです。」

いや、全身痛いです。

 

 

「あ、後ナイトハルト教官から伝言だよ~~~。目が覚めたらグラウンド100周しろだってさ。」

 

 

「は?」

ナニイッテルノコノコ

 

 

「だからグラウンド100周だって。仏頂面で「筋は悪くない。だが打ち込みがたらん」とか言ってたよ。」

 

 

「よ、よし!聞かなかったことにしよう・・・僕は気絶してて何も聞かなかった・・・。」

 

 

「ああ、後サボったら地獄の軍隊式メニューやらされるってさ!今日は座学は受けなくていいからやれだってさ。」

 

 

「うそでしょおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 

 

校舎に僕の悲痛な叫びが響き渡るのだった。

 




うーん。少し長すぎる気が・・・
もしかしたら二話に分けて再投稿するかも


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その名は百合の帝王 その1

後悔は特にないです。

後お気に入りしくれた人ありがとうございます!


僕はムンク。トールズ士官学院に所属しているラジオが大好きな青年だ。

いきなりだが僕は全力疾走している。

 

鍛錬?僕がそんなことするわけない。そんなことするならラジオ番組でも聞いているよ。

じゃあ、何故かって?

 

それは、単純明快

 

「男が背を見せて逃げるなああああああああ!!!」

 

「君みたいな人に追われたら誰だって逃げるよおお!!!??」

何故か僕は大剣は担いだ青髪美少女、通称百合の帝王に追われています。

 

 

 

何故こうなったかというと遡ること一時間前。

 

 

 

今日も今日とて授業中は睡眠時間だ。なんか授業中寝るとやけに気持ちいいよね。

基本僕にやる気はない。

ラジオを聴くとき以外は惰眠を貪るに限る。

 

 

「ムンクくん、また寝てるの~~~?」

緑髪の少女が視界に入る。

毎回毎回この子はなんで僕のとこにくるのだろうか?正直僕はいつも教室で机にうつぶせになって寝てるから普通話しかけようとも思わないのになぁ。

まぁ、ミントは控えめにみても不思議系少女だ。考えるだけ無駄か。

 

 

「あぁミントか、昨日徹夜してラジオ聞いててね・・・。」

机の上にまるでゾンビかのようにうなだれる。瞳はでろーんと死んだ魚のように見えなくもないと評判があるらしい。

もう、腐りかけ寸前なんじゃないかとたまに錯覚する。

 

 

「あはは、今日ムンクくん全部の授業寝てたもんね!教官とかもうあきれ果ててたよ?」

 

 

「僕は真面目な学生じゃないからそれでいいんだよ・・・。」

ついでに君も厄介事を持ってこなければなお嬉しい。

 

 

「今日はムンクくんやけにだれてるねぇ。まるでゾンビみたいだよ。なんていうかダメ人間の象徴!」

さらっとそれでいてえぐい毒舌をさらっと吐いてくるね・・・。

まぁ、やっぱり否定はできないんだけどね。

最近は厄介事が特に多かったから、特に怠惰に過ごすことの幸せを噛み締められる。

記憶に新しいナイトハルト教官との模擬戦なんてことは二度としたくない。

 

「はぁ・・・やる気出ないなぁ・・・。」

はぁー、机の上ってひんやりして気持ちいいー。

 

 

「ムンクくんいつもやる気無いじゃん。」

 

 

「あれだよ・・・ラジオ聞くときは本気出す・・・。」

 

 

 

「そういえば最近なんかムンクくんに視線が集まってるよねぇ。」

 

 

「うーん、正直煩わしいなぁ・・・。本当はもっと慎ましく生きていたいんだけどなぁ。」

 

 

「あはは、ムンクくん色々やらかすからだよ。」

その半分はどう見積もっても君のせいだ。いっても意味ないだろうから言わないけどさ。

 

 

 

 

「おい、あれが噂のムンクか・・・。」

「クラスじゃいつも寝てるよね。」

「なんかゾンビっぽい。」

 

僕を見て指差す人がちらほら。

どうもナイトハルト教官との一戦で何故か注目を集めるようになってしまった。

噂というものは怖いもので誰がどう見ても惨敗だったのにナイトハルト教官に一本とった男みたいな噂が流れるようになってしまった。

しまいには噂のⅦ組の対抗馬みたいなアホな噂まで出る始末。なんなだよ・・・。

特に貴族生徒。睨んできたり調子に乗るなと脅してくる。ヤクザかよ。

 

 

「でも、実際のムンクくん知れば幻滅しそうだよね。」

 

 

「君ほんと自然に毒吐くよね・・・。」

 

 

「ほぇ?毒なんて吐けないよ???」

 

 

「いや、そういう意味じゃないんだけど・・・。」

何故だろうね。ミントと会話しているとたまに宇宙人と話しているかのような錯覚に陥る。

 

 

「ん?」

 

いきなり教室内にいる生徒達が騒ぎ出す。特に女子。

 

 

「すまない。通してくれないか?」

教室に入ってきたのは青髪の女子生徒だ。腰まで伸ばして人束に括ってある艶やかな青髪、形のいい鼻に大きな目、顔の一部一部が端正に作りこまれていて正しく絶世の美少女だ。

体も出るとこは出て、尚且つすらっとした体つきだ。非の打ち所が無い。

赤い制服を身につけているところ七組か。

 

「きゃー!!ラウラお姉さまーーー!!!」

「ああ、なんて凛々しい!!!」

「罵ってください!!」

 

やかましいほど黄色い声援が上がる。主に女子が。

男子はというと見惚れてる人もいるが、大半は女子たちの熱気に気後れしている感じだ。

 

「おい、あれが噂のラウラか・・・。」

「ああ、通称百合の帝王。」

「あいつのせいで泣いた男は数知れず・・・。」

「あぁ、手当たり次第、しかも無自覚に女子を落としているらしい。」

 

 

「なんか凄いね~おまけに百合の帝王なんて凄いあだ名もついてるし。」

ミントはどこまでも楽しげに眺める。

 

「あぁ、なんか分かる気がする。なんか凛々しいし女子受けしそうよね・・・。ミントとは対極。」

 

 

「む~。なんか馬鹿にされた気分。私だって凛々しい時はあるんだからね!」

その時を教えてくれ・・・。

 

 

「え?」

「ほえ?」

 

 

ミントと会話してるといつの間に噂のラウラが目の前にいた。

 

 

「失礼する。私はラウラ・S・アルゼイド。そなたがムンクでいいのか?」

 

 

え、なんか凄い嫌な予感がするんですけど・・・。

「えっと、ムンクくんはさっきトイレに行ったよ?」

面倒な匂いがしたんで嘘ついちゃいました。

 

「え?ムンクくんは・・・むぎゅっ。」

ミントの口を手で抑える。

頼む、余計なこと言わないで・・・。

 

 

「そうか、入れ違いになってしまったか。日を改めるとしよう。教えてくれてありがとう。感謝する。」

そういってラウラは失礼すると凛々しくいい教室を出て行った。

 

 

「なんだったの・・・?」

「さぁ・・・。」

 

 

 

 

 

 

授業が全て終わり放課後になると僕の頭には警報が鳴り続けていた。

確実に嫌なことが起こる。

はやく寮に戻ってぐーたらしよう。

思いついたら即決だ。行動が早くて損することなんてあまりない。

急いで帰りの身支度をして駆け出す。

 

 

「あ、ムンクくん、まっ・・・・。」

 

何か声が聞こえた気もするがあれは聞いちゃいけない声だ。聞かなかったことにしよう。

 

 

 

「そなた少し止まってくれないか。」

女声ではあるがやたらと凛々しい声が耳に届く。

 

 

「え。こら待たないか!なんでそこで全力疾走しだす!!ま、まてっくれ!」

 

 

 

五分後僕の必死の抵抗も虚しくラウラに捕まってしまった。何この子身体能力高すぎでしょ・・・。

 

 

「それでそなたは何故先程私に嘘をついたのかな?」

ニッコリと笑ってはいるが、ラウラの目は笑ってない。まるで猛獣を目の前にしている気分。

 

 

「あ、いや。それは・・・。あの時は少し気分が悪くて・・・。」

もちろん嘘ですけどね。

 

「そうか。それはすまないことをしたな。」

 

あ、この子こんなんで騙せちゃうんだ。

 

 

「そ、それでアルゼイドさんは僕に何のよう・・・?」

恐る恐る質問する。

 

 

「ラウラでよい。そなたの武功を噂で聞いてな。手合わせを申込みたいのだが・・・。」

 

 

「めんどくさいから嫌です。」

あ、まずい本音出た。

 

 

「め、めんどくさい!?」

ラウラは体をプルプルと震えさせる。あ、不味いこれはいれてはいけないスイッチを入れてしまった感じだ。ナイトハルト教官の時とデジャブ。

 

 

「貴様・・・。武人としての誇りはないのか・・・?」

 

黙ってしまう。正直微塵もないです・・・。

 

「よかろう。聞けばそなた授業中も大半寝ているらしいな?」

 

「な、なぜそれを!?」

 

「ミントに聞いた。」

あの野郎!余計なこと言いやがって!!

ああ、これヤバイ。凄い嫌な予感する・・・。

 

 

「そなたのその不抜けた根性私が叩き直してくれる!!」

 

 

「やっぱりいいいい!!!??」

 

 

 

回想終わり。

そして現在に戻るわけである・・・・。どうしてこうなった・・・・。

 




ラウラ恐ろしい子!

ついでにタグに百合の帝王を追加します


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その名は百合の帝王その2

だんだんⅦ組が出てきましたねぇ・・・。
なおリィンの影は薄い模様


ちょっとしたラブコメにある話だ。暴力系のヒロインに追い回される主人公みたいなものが時々あるだろう。

そして、僕は今大剣を担いだ青髪美少女に追われている。

だからこう思うわけだ。ラブコメなんて滅びろ。

 

 

「まててええええ!!!」

全力疾走しながら後ろをちらりと見てみるがもう怖い。いうなれば鬼の形相。怖い、それと怖い。

 

 

「待つわけないでしょ!!?というか学院で大剣振り回さないでよ!?」

 

 

「そなたが私と素直に戦えばよいのだ!!」

なにその原始人的思考。脳筋にも程があるよ!

 

 

「それがいやなんだよ!確実にリンチされるじゃん!!

ちょっ!?今やばかった!!かすった、かすった!?」

まじでヤバイって!これ死んじゃう!!

 

 

「いいから我が剣の餌食となれ!!」

 

 

「嫌すぎるよおおお!?誰か助けてえええ!!」

なんでこんな目に・・・。

何?女神さまは僕のこと嫌いなの?僕もあんたのこと嫌いだよ!!!

 

 

 

 

「ええと、あれラウラだよね?どういうこと、ガイウス?」

 

「分からないな。しかし、追われてる方の男中々の身のこなしだ。」

 

「そんな冷静に分析してないで、助けてあげようよ!!」

 

「うむ、風の導きだ。」

 

 

 

 

 

 

「こっちこっち!!」

 

 

「ん!?」

声がしたかと思うと襟首を掴まれ宙に引き寄せられた。

 

 

落ち着いて辺りを見渡すと自分は体育倉庫裏にいることが分かる。逃走中影から僕のことを掴んで体育倉庫に引き込んでくれたのか。

ラウラに追われてないことを考えると上手く隠れることができたということか。

「はぁはぁ、えっとた、助けてくれてありがう。」

 

「うん、大丈夫?」

 

「怪我がなくて良かった。よくラウラの剣から無事なまま逃げれたものだ。」

 

二人共赤い制服を身につけているところⅦ組なのか。

一人は小柄で赤というより朱色の髪の毛がよく目立つ。体の特徴から男だと理解できるが童顔で中性的な顔つきだ。

もうひとりは落ち着いた男というのが特徴だ。背は高く体格はいい。帝国であまり見ない褐色の肌や腕に刻んである民族模様などから帝国民ではないのかもしれない。

 

 

「ええと、き、君たちは?」

 

 

「ぼくはエリオット・クレイグ。」

 

「俺はガイウス・ウォーゼル。よろしく頼む。」

 

 

「ぼ、ぼくはムンク。大丈夫?ラウラさんはもう追ってこない?」

正直ラウラのおかげでⅦ組には恐怖しか沸かない。

 

「今のところは。なんとかアリサに抑えてもらってるから大丈夫とは思うけど。」

その曖昧な言い方には不安しか感じません。

 

 

「あぁ、ラウラも意固地だからな。安全とは言い難い。」

 

 

 

「な、なんだって!?くぅっ!なんでこんな目に!?この後ぐーたらラジオを聞いて過ごす僕の野望は!?」

 

 

「あ、あはは。な、なんか、ラウラが怒る理由も分かる気がするね、、、」

 

「あぁ、ラウラとは性格が正反対とも言えるな。」

 

 

「そんな冷静に言わないでよ!なんとかしてよ!」

 

醜い?そんなことより自分の身が大事なんだ・・・。

 

 

「そこかあああああ!!!」

聞きたくない怒声が耳に飛び込む。

 

 

「なんでえええ!!?」

もう勘弁してよぅ。

 

 

「ごめなさーい!抑えきれないわ!凄い剣幕で!!」

金髪の少女が申し訳なさそうに声を上げる。

 

 

 

「に、逃げ場が!?」

目の前に迫るラウラがもう鬼にすら見える。もう青鬼。

 

 

「もう逃げられないぞ!!」

 

 

「くぅ、もう終わりか!!?」

まずい、このままでは殺されてしまう!

こうなったら・・・・

 

 

「って、ガイウスとエリオットは!?」

 

 

「ごめーん!もう僕たちには無理だよ。」

「ああ、風の導きだ。」

 

いつの間にか離れたところへ避難しているガイウスとエリオット。そりゃないっすよ・・・。

というかなんだよ風の導きって!助けて!

 

 

 

「くらえ!地裂斬!!」

 

「ぎゃああああ!!」

地面に衝撃が走り僕の足元で爆発する。

その衝撃で宙に放り出される。

何この浮遊感一周回って気持ちいい。

 

「トドメだ!」

ラウラは跳躍し大きく大剣を振りかぶる。

まずいって!僕死んじゃうよ!!?

 

「鉄砕刃!!」

 

 

 

「ぐぇ!?」

身体中痛くて思考が回らないが地面に這い蹲る僕の姿はさぞグロテクスなものになっているだろう。

 

 

「なんで・・・僕がこんな目に・・・。」

あぁ、意識が遠のく・・・

 

「かゆ・・・うま・・・。」

「何言ってるの!!?」

 

 

意味不明な言葉を残して僕の意識はブラックアウトした。

もうやだこの学院。

 

 

 

後日談ではあるがしばらくムンクの夢には正体不明の青鬼が出てきて暴れまわっていたらしい。

 




感想・批判募集してます。
ほぼ初めての作品みたいなものなんで色々不安ですw


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図書館って何故か眠くなるよね

6話です。うえーい


六月。

トールズ士官学院に入学して早二ヶ月。僕の日常は惰眠とラジオに占められている・・・予定だったが現実は違う。

時にミントに振り回され、時に青鬼(ラウラ)に追われと想像した怠惰に過ごすという夢の学園生活は砂の城のごとく崩れ去ってしまった。

 

 

「ムンクくーん。現実逃避してる場合じゃないと思うよ?」

僕の繊細極まりない心を考えもせずミントは現実に引き戻してくる。

 

 

「うぐっ・・・。まずいなぁどうしよ・・・。そうだ取り敢えず部屋戻ってラジオ聞こう・・・!」

 

 

「だからそれは現実逃避だよ・・・。しかし、まさか赤点を三つも取るなんて。このままじゃヤバイよ?」

 

「ぐぬぬぬ、流石に再試で赤点を取るのはまずいよね・・・・。」

 

先日行われた中間試験。僕は見事に赤点を三つ取るという快挙を成し遂げた。

そうこの学院の1%にも満たない赤点三つをとったものとなってしまった。

もともとこの学院はエリートが多く集まる学院らしく赤点なんてものはほとんどでないらしい。

この学院に入ってしまったことを深く後悔する。

 

 

「ムンクくん、あたし今日部活あるから勉強手伝えないよ?」

 

 

「元々頼ってないよ・・・。」

 

 

「む~。なんか馬鹿にしてるでしょ~。全く!ムンクくんよりは確実に頭がいいのに!」

 

 

「うぐっ・・・。」

そうなのだ。普段は頭のネジが3本ぐらい抜けてそうなミントも今回の中間テストでは赤点は一つもなかった。しかも導力学に至っては学年で10位には入っている。

こんなの嘘でしょ・・・?

 

 

「というわけで部活行ってくるね!じゃあね~~~。」

そう言ってミントは元気よく駆けてった。

僕もあれぐらい能天気に過ごしたいものだ。

 

「あぁ・・・・。なんか何もしないで頭良くならないかなぁ・・・。」

しかし、言ってみたところで何かが変わるわけもなく・・・・

 

 

「はぁ・・・。めんどくさいけど図書館言って勉強するか・・・。」

 

 

 

 

 

 

図書館には自習スペースという集中して勉強できるようにと作られた空間がある。真面目に学習したい人がよく使う。

取り敢えず僕も使っては見るが勉強の意欲がわくどころか睡魔が襲ってくる。おやすみなさい。

 

 

「ZZZ―ぐぅ・・・ラジオって素敵ィ・・・むにゃ。」

 

 

「君ィ!!!ここは勉強するところであって寝るとこではない!!起きたまえ!!!」

 

 

「後五分・・・。」

んーなんか声が聞こえる。誰だ人がせっかく気持ちよく寝てるというのに。

混濁とした意識を声の主に向けようとするが思うように上手くいかない。いいや、眠いからこのまま寝よう・・・。

 

「お決まりのセリフはいいから起きたまえ!!!!」

 

怒声が耳元にいきなり響き意識が覚醒する。

 

「はっ!?あれ・・・ラジオは・・・?」

夢見心地で辺りを見渡すと意識がいきなり現実に引きずり落とされる。

さっきまでラジオを聞いている夢を見てたのに・・・。

意識を集中させると目の前には赤い制服を身につけた緑髪の青年がいた。

メガネつけていていかにも真面目という感じだ。

 

 

「ええい!寝ぼけるな!!」

 

 

「うるさいぞレーグニッツ。ここは図書館だ、静かにするのがマナーと言うものだろう。」

今度は金髪の青年が現れた。

こっちは上手く言葉には表せないが高貴さというものを感じる。

整った顔に綺麗に切りそろえられた綺麗な金の髪、そして強い意思を感じさせる瞳がそう感じさせたのかもしれない。

そして身に纏っているのは赤い制服。

またⅦ組。なに?運命なの?最近厄介事は主にⅦ組が運んできている気がしてなりません・・・。

 

 

「うぐっ。」

レーグニッツと呼ばれた男は注意され悔しそうにする。

 

 

「・・・・」

「・・・・」

 

 

何故か二人は無言で睨みあう。

喧嘩寸前という雰囲気だ。

 

 

「ええと、二人共落ち着いてください。ここは図書館何ですから喧嘩はダメですよ・・・?」

 

 

険悪な雰囲気を見かねたのかおっとりとした雰囲気をした赤い制服を身につけた女性が仲裁に入る。

腰にかかるぐらい長い髪を後ろでひと括りにして三つ編みにしている。

また・・・着用しているメガネは・・・・

うん・・・。それっぽいこと言ってごまかすのはやめよう。誰もが彼女を見たらまずその盛り上がる双丘に目が行くだろう。

メガネで三つ編みで巨乳・・・。ここまで属性が揃った人物僕は見たことないよ・・・。

一言で言えば委員長。委員長の中の委員長。

 

「む、エマくんか・・・。」

 

 

「確かにここでは周りに迷惑がかかるな。」

二人も冷静になったのか睨み合うのを止める

 

 

「ええと。私はエマ・ミルスティンと言います。貴方は?」

 

 

「僕はムンク。」

 

 

「マキアス・レーグニッツだ。」

「ユーシス・アルバレアだ。」

 

 

「それでムンクさんはここで何してたんですか?」

 

 

「いや、中間テストの再試のために勉強しようと思ってたんだけど・・・。」

 

 

「再試!?なんでそこまでひどい点を取ってるんだ!?もっと真面目にやりたまえよ!」

 

 

「勉強というが貴様ずっと寝ていたようだが。やかましい寝言がこっちにまで聞こえぞ。」

 

 

「あはは・・・。」

エマは愛想笑いを浮かべるがドン引きしているのが分かる。

というか、寝言聞かれてたのか・・・恥ずかしいな。

 

 

「あ!そうだ!これも何かの縁ですし私たちでムンクさんの勉強を手伝って上げるのはどうでしょう!」

 

 

「え?」

めんどくさそう・・・いや、一人で勉強してたら確実に再試もダメなのだろうから願ってもないことだがマキアスとユーシスの雰囲気を見ると不安しかない。

 

 

「な、なんで僕がそんなことを!!?」

 

 

「ふん、面白い。まぁ、出来ないなら尻尾巻いて帰るがいい。」

 

 

「な、なんだと!!?いいだろうやってやる!君なんかよりはよっぽどいい教え方をしてやる!」

 

「頭の固い貴様にそんなことが出来るとはおもわないがな。」

 

 

「なんだと!?」

 

何この二人・・・。ほっとくと一生喧嘩するじゃないだろうか。

 

「(なぜでしょう。おふたりのぶつかり合う姿を見ると胸が熱くなります。)」

 

なぜだろうか・・・エマを見ると凄い悪寒を感じる。

 

 

 

僕が赤点を取った科目は政治学・帝国史・軍事学だ。

再試までは三日あるので一日ずつ交代で勉強を教えてくれることになった。

マキアスが政治学、ユーシスが軍事学、エマが帝国史を担当する。

 

 

Sidoマキアス

 

「というわけで今日一日でみっちりしごいてやるから頑張ってくれよ・・・っていきなりねるなぁ!!?」

 

 

「あ、いやごめんごめん。図書館って何故か眠くなるんだよ・・・。」

不思議だよね。

 

 

「全くこれじゃ先が思いやられる・・・・ってだから寝るなーーーー!!!!」

 

だって眠いんだもの・・・追試?もうどうでもいいや・・・

 

 

「すいません・・・図書館で騒いでいると苦情が来たのですがこっちに来ていただけますか?」

ニッコリと笑みを浮かべた図書館の受付が話しかけてきた。

顔は笑っているけど目が笑ってない。

この後別室で正座させられ僕とマキアスは一時間近く説教された。

 

とまあ、ハプニングはあったもののマキアスは一日で僕の頭にこれでもないかというほど知識を詰め込んでくれた。頭がいたい・・・

 

 

 

 

Sidoユーシス

 

「だから寝ようとするな。今度寝たら剣で切ってくれよう。」

 

いや、怖いよ。

目が本気とかいてマジ。

 

「しかし俺の前でそこまでの態度にする奴も珍しいな。」

 

 

「えっと、もしかして貴族だったりする・・・?」

もしかしてまずかったりするかな・・・。

 

 

「まぁ、一応な。アルバレアの名に聞き覚えはないのか?」

 

 

「あ、四大貴族の・・・そういえばそんな名前だったような・・・。」

 

 

「ふん貴様は変わってるな。普通平民はこの名を聞けば態度が急変するというのに。」

 

 

「?いや、家名がすごくてもその人はその人でしょ・・・?」

 

 

「ふふっ貴様はやはり面白い男だ。すまない横道にそれてしまったな。再開するとしよう。」

 

 

ユーシスの教え方は要点をしっかりと捉えてる。無駄なとこを省いて要点だけ教えてくれるので理解しやすい。

政治の再試はなんとかなると思えるぐらいにまでしてくれた。

 

 

Side エマ

 

結論から言うとエマの教え方は完璧だった。要点をしっかり押さえている上に理解しやすいように内容を噛み砕いて教えてくれる。

その上、講師の特徴まで掴んでるからどういう問題が出るかどうかまで予想している。

 

しかもだ・・・

 

「寝たらだめですよ!再試を落ちたら大変ですよ・・・・!?」

 

僕が眠りに落ちようとするとオロオロしながら必死に声をかけてくる。

流石の僕も罪悪感が出て寝れなかった。

 

ただ一つ。

「はぁはぁ。なんでマキアスさんとユーシスさんを見ているとこんなに鼓動が早くなるんでしょう・・・。」

 

時折見せる興奮した表情は悪寒を感じさせた。

決して恋する乙女には見えなかった。もっと邪ななにか・・・・。上手く言葉に表せれないし・・・。というか表したくない。

これ以上触れたら危険だからやめとこう。

 

 

 

 

――――

 

後日受けた再試はそこそこな点がとれなんとか合格となった。

正直エマ達の助けがなかったら合格は無理だっただろう。心から感謝する。

 

 

「はぁ~~~疲れたぁ・・・。とっとと寮に戻ってラジオでも聞こう。」

僕の心のオアシスであるラジオを聞こう。もうしばらく勉強なんてゴメンだ。

 

 

「やぁ、君が最近噂のムンクくんかい?」

 

耳にハスキーな女性の声が届く。

声の方向に向くとそこにはボーイッシュとも言える美少女がいた。

首にかかるくらいまで切りそろえられた紫髪に切れ目の長いまつ毛。そして特徴的なのは黒いツナギだ。普通作業着として着るもののはずなのに彼女が着ればそれはあたかもファッションの一つに思えてしまう。10人中9人は似合うと言うだろう。

 

 

「ええと、なんですか・・・。」

 

 

「いやいや、特には要はなかったんだけど君が『あんまりにも虚ろな目』をしているからね。つい話かけてしまったよ。」

 

 

「もともとですよ。別に落ち込んでたとかそういうわけじゃないですよ。時々ゾンビとか言われますし・・・。」

自分でいって悲しくなってきた。

 

 

「そういう意味じゃないさ。まるでここを見てないかのような虚ろさ。」

 

 

「・・・・!!?」

心をえぐられたような感覚。

 

 

「君はどこを見ているんだい?」

 

 

「・・・・・・。」

どこを見ている・・・?それはきっと・・・・。

 

「いや、いきなりすまない。初対面でする話じゃないな。」

 

 

「失礼した。またね後輩くん。」

 

ツナギの女はそのままどこかへ行ってしまった。

 

 

 

「どこを見ているか・・・」

 

 

頭の中に『どこを見ているんだい?』という言葉が何度も再生する。

 

「じゃあ・・・どこをみればいいんだよ・・・。」

 




こ、これで一応現時点でのⅦ組全員出せた・・・

あ、引き続き批判とかここはこうした方がいいとかいう意見を募集していまーす


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なんでもない決意(前編)

投稿です。
(そういえばフィー出してなかった。こんど出します!許してください!なんでもしませんから!)


嫌なことというのは突然やってくる。

この世界では力がなければ奪われるだけで何も手元には残らないだろう。

だから、どんな力であろうと僕は欲する。どんな力であろうと求める。

 

 

―――― 

 

 

 

六月下旬。

もう放課後。今日も一日が何事もなく終わった。Ⅶ組が特別実習にいってるおかげか厄介ごとが少なくなってる気がする。やっぱあいつら疫病神だよ、特にラウラ。

そういえば最近は何故か学園の女子の一部で男同士の友情を描く小説が流行してるらしい。のんびりと思考にふけていると・・・

 

「ムンクくん!ムンクくん!」

トラブルメーカーミントの登場。

 

「さーて、寮に帰るか。」

 

 

ガシッ

 

 

「待ってよ!どうせムンクくん暇でしょ?暇だよね?暇だね!」

 

質問しているのに、自己完結させるとかどういうことだ・・・。

 

 

「い、いや、ぼくは今日はラジオを・・・・。」

 

 

「よし!暇だね!じゃあレッツゴー!!」

 

「少しは人の話聞いてよ!?というか引っ張らないで!!あああ~~~~~!!」

抵抗も虚しく無理矢理引っ張られてしまう。

この子なんて力だよ。仮にも僕男なのに。いや決して僕が貧弱というわけではない。本当だよ・・・?

 

 

 

 

 

 

―――― 

 

トールズ士官学院技術館前

色々な資材が少し乱雑に置かれている小屋の前に二人の男女が話している。

ひとりは黒いつなぎをきた少女。首まで切りそろえられた紫髪に整った顔。どこかボーイッシュさを感じさせる美少女だ。

もうひとりは珍しい白髪に赤目。頭にバンダナをつけているのが目に入る。

緑色の制服を着崩していて、どこか軽そうなイメージが感じてしまう。

 

「クロウ、そういえば先日君に似たような後輩をみたよ。」

 

「へぇー。そりゃ変わった奴もいたもんだぜ。で、ゼリカ。どんなイケメンだった?」

 

「うーん、変わっていることは否定しないがね。しいて言うならゾンビみたいな子かな。」

 

「ガクッ おいおいお前の目には俺そんな風に見えてんのかよ。」

クロウは落ち込む素振りをしてジト目で睨む。

 

「冗談だよ。容姿とかそういうのは似てないんだがね。瞳が似てたよ。去年の君のような目をしてたよ。」

ゼリカと呼ばれる少女は微笑む。確実にクロウをからかってる顔だ。

 

「おれそんなひどい目してたのか?結構明るいタイプだけどな。」

 

「ふふっ そういうことにしておいてあげよう。」

 

「この女・・・。」

 

 

 

『さぁさぁ!あっちに行ってみよう~。面白そうな香りがするよ~。』

 

『分かったから!分かったから!引きずらないで!!?』

 

 

 

「おや、噂をすればというやつだね今引きずられてたほうが言っていた子だ。」

 

「へぇ・・・。」

 

 

「っておい!あっちの方向って確か旧校舎じゃねーか?」

 

 

「ああ、念のため様子見に行ったほうがよさげだね。」

 

 

―――――

 

旧校舎はどこか変わった雰囲気を持つ場所だった。もう古く改装もほとんだされてないこともありなんとも言えない雰囲気を醸し出している。もし霊的なものがでたといわれても納得しそうだ。 

心なしか涼しく感じるので居心地は悪くない。次からここで居眠りしようかな。

 

「ほぇ~~~。噂には聞いてたけどうちの学校にこんな場所があったなんてねー。」

 

 

「ねぇ・・・ミントここって確か立ち入り禁止じゃなかったっけ・・・?」

 

 

「うん?へーきへーき。ちょっと見るだけだから。」

ミントはどこまでも気楽そうにニコニコ笑っている。

 

「とてつもなく嫌な予感しかしない・・・。」

というかむしろ確定で嫌なことが起きるだろ。ミントとといて何か起きない方が珍しい。

 

「ムンクくんは臆病だなぁ。大丈夫いざとなったらアタシが守ってあげるから!」

 

 

「激しく不安だ・・・・」

 

 

 

 

 

 

――――

「あ!なんか昇降機みたいなものがあるよ?ちょっと見てみようよ!!」

 

 

「少しは警戒するとかしようよ・・・・。」

しかしミントはそんなことお構いなしに昇降機へと近づく。

 

 

「階層を表してるのかな・・・多分三階まで行けるのかな?」

 

 

「へぇ・・・。しかし随分大きめの昇降機だね。」

 

見た感じ昇降機の大きさは軽く見積もっても10アージュ以上ある。

 

 

僕が昇降機に足を踏み入れたその瞬間―――

 

 

ガコンッ

 

静寂としている旧校舎にいきなり大きな音が鳴る。

 

 

「な、なに?」

 

―異物を検知。危険対象と判断。危険物の排除を行う。―

 

 

無機質な音声が耳に届くとともにいきなり空間の一部が歪んだ。発生した黒い歪みはどんどん大きくなっていく。

 

ガシャン ガシャン ガシャン

 

次元から耳を貫くような金属質の音が一定間隔で聞こえる。そしてその音はだんだんと大きくなっていく。

何かがくる?

音が鳴るたびに地面が揺れる。

だから直感的に分かる。これは巨大な何かだ。

得体の知れない恐怖が駆け巡り手が汗ばむのが分かる。

 

 

バリバリバリッ

何かがはじける音ともに黒い歪みからは金属特有の輝きを持つ巨大な手のようなものが二つ出てきた。

手はスライド式の扉を開けるかのように歪みを広げていく。

 

 

グオオオオオオオオオオオ!!!!

 

大地を揺るがすかのような咆哮とともに出てきたのは高さ10アージュを優に超える鉄の巨人だった。

全身は黒光りする甲冑のようなものに覆われていて関節部には妖しく光る紫色のオーブみたいなものがあった。

巨人とはいってもおそらくは甲冑の中に人はおろか生物はいないだろう。

 

 

 

「う、あ・・・」

心が頭が体が恐怖で支配される。

ミントのほうに目を向けるとこちらも同じような状況だった。

 

 

「!?」

 

いつの間にか巨人の両手には剣が握られていることに気づく。

まずい。不味い。マズイマズイマズイマズイマズイーーーー

心臓が潰れてしまうかと錯覚するぐらい締め付けられた。

 

 

巨人は勢いよく剣の刃を地面に振り落とす。

 

ドガアアアッ

 

 

 

「は、はぁはぁ、なんとか無事か・・・。」

気がつけば足が駆けていて、ミントを抱えていた。

無意識とはいえ、ミントを抱え巨人の剣に当たらないように逃げた自分を褒めてあげたい。

 

 

「む、ムンクくん!あ、あれなに!?」

ミントの肩が震えいる。あんな巨人がいきなり襲ってきたんだから当たり前だ。

 

 

ガシャン ガシャン

 

巨人はゆっくりとこちらに近づいてくる。歩くたびになる金属音がまた僕らの恐怖を一層引き上げ、絶望へと落とし込む。

 

 

「やるしかないか・・・。」

「え・・・?」

 

 

覚悟を決めて籠手を装備する。

 

「ミント、僕が時間を稼ぐから逃げて・・・。」

 

「そ、そんなことできないよ!!?」

ミントは涙目になって叫ぶ。

 

 

「いいから!!!!!」

 

「・・・!?」

あまり出すことのない僕の大声にビクッとミントの身体が震えてしまう。

 

 

 

「いいから逃げてよ・・・分かるでしょ・・・?どっちかが食い止めないと両方死ぬんだ。ミントはアーツ使いなんだからこういうのは向かない。頼むよ逃げてくれ。」

二人死ぬぐらいなら一人だけでも生き残ったほうがいい。

 

 

「早く!!!!」

まだ迷うミントを一括。こうしている間にも巨人は迫ってくる。

 

 

「う、うん!でも必ず生き残って!すぐ助けを呼ぶから!!必ずだよ!?」

 

そう言ってミントは泣きながら駆けていく。

 

 

「ふぅ、行ったか・・・・。全く世話が焼けるんだから。」

 

 

ゆっくりと近づいてくる巨人を睨む。

「ふふっ」

 

???

なんで今自分は笑ったのだろうか?あまりにも絶望的で頭がおかしくなったのか?

いや違う・・・これは自嘲の笑だ。ミントを助けた自分が笑えてしまうのだ。

昔はこんなことしなかったのにと。

ただ悪い気分ではなかった。

 

「そっか、少しは変わったのか・・・。あー、本当は何もかもどうでもよかったのになぁ。まぁ、いいか。」

僕としては毎日ラジオを聞いて惰眠を貪れればそれで良かったのになぁ。

でも・・・・、でもせめてミントぐらいは逃がしてやらないとね。

 

 

 

「行くぞ。このデクノボウ!!」

巨人に拳を向ける。不思議と死ぬ気はしなかった。

 




後半へ続きます。

UAがまさかの2000超えるとはひゃほおおおおお


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なんでもない決意(中編)

小説を書くって結構大変ですね。一応これが処女作だしいろいろ苦労しますw
書いているうちどんどん文量が増えて綺麗に収まらなくなる。

そんなわけで今日も今日もシリアス。もうシリアスは疲れたよう・・・。



絶望とはまさにこんな状況なのだろう。

目の前に立ちはだかる鉄の巨人には僕の攻撃がほとんど聞いている様子がない。

巨人にどれだけ拳を打ち込んでもカスリ傷ぐらいしかつけれない。

1万のHPは持つ敵に延々と攻撃力1の攻撃を与えている感覚で心理状態はよろしくはない。

 

 

薄暗い室内の中金属室の輝きが煌めく。

綺麗だとも思えるその一撃は少しでもまともに喰らえば致命傷。

目の前で死が近づいていることが嫌でも分かる。

 

「くっそ!反則だろこんなの!?」

そもそも戦闘では体格差というものですら優劣が決まるというのに、この差はぼやきたくもなる。

高さだけかるく十倍はある。

攻撃を交わすだけで手一杯だ・・・・。といってもこのままいってもジリ貧。いつかは攻撃をくらって地獄に送られてしまうだろう。

だったらこちらから仕掛けるしかない。何もしなければ死が待っているだけだ。

 

 

「カァァァ・・・ダァ!!!!」

巨人から距離をとり足に気をため、体をばねのようにしならせる。

そして気を一気に解放。

 

剄式移動術 龍歩

 

歩という言葉が入ってはいるがはっきり言って歩く要素は入ってない技だ。

解放された気によってもたらされる脚力は僕を一発の弾丸に変える。

 

そしてここからが本領だ。

この弾丸のような勢いの中、拳を構える。

 

 

烈・零剄

 

簡単に言えば龍歩と零剄の合わせ技。

聞こえは大したもの感じないが、弾丸のようなスピードで放つ零巠は大砲のようなものだ。

威力は折り紙つきで何倍にも跳ね上がる。

 

 

空洞の金属を殴りつけた時のような音が響き、巨人は仰向けになって倒れる。

まだだ。

連撃。

右下上左上せわしなく駆け回り一撃一撃に今出せる最大限の威力を込めた拳を打ち込む。

止めと言わんばかりに零剄をその土手っ腹にブチ込む。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

これで少しは効いただろう。この攻撃に全てを賭けたこれ以上の攻撃はもう出来ない。

肺が破裂しそうなほど苦しく肩で呼吸している。

 

 

ガシャン ガシャン

 

しかしそんな僕をあざ笑うかのように巨人は立ち上がる。

 

 

「嘘・・・でしょ・・・。これだけやっても無傷か・・・。」

あの連撃で損傷一つしてないとはどういうことか・・・。

 

 

突如巨人の胴体にある紫色のオーブが輝き始める。そして次のしゅんかん光が弾けた。

 

グオオオオオ!!!

 

 

「なにこれ絶望すぎるでしょ・・・。威圧感がぱない・・・。」

 

肌を焼くような威圧感。いやな感覚というのは往々として当たるものだ。

どう考えても巨人は身体能力向上(ブースト)をかけた。

 

 

 

「仕方ない・・・。」

再び構え拳を構え巨人に対峙する。

もう手はない。勝てる見込みもない。

だから―――

 

 

「逃げる!!!!」

 

え?情けない?だまらっしゃい!

生憎僕にプライドというものは存在しない。ラウラみたいな脳筋ならまだしも僕は逃げることに何の恥じらいもない。むしろ逃げることにおいては誰よりも自信がある。

そもそもこの巨人と戦っていたのはミントを逃がすための時間稼ぎであって、巨人を倒す必要はどこにもない。

こんなことすぐに思いつくなんて僕って天才?

 

 

グオオオオオ!!!

 

巨人は心なしか怒り狂っているようにも見えなくもない。こわい。

 

 

 

―――だからだ。

だから僕のこの時の見通しは甘いと言わざる得なかった。

巨人の使ったであろうブーストは僕が想像するより強く巨人を強化していた。

 

巨人のスピードはもともとお世辞にも早いとは言えないがブーストの恩恵で可もなく不可もなくというスピードになっていた。

そしてこれは想像以上に脅威だった。

 

 

「まじかよ・・・。」

 

 

もともと歩幅が広い巨人の速さが少しでも上がればそれだけで逃げるのは難しくなる。

すぐ追いつかれてしまう。

 

 

グオオオオオオオ!!!

 

 

巨人が力任せにその両手にもっと巨大な剣を振り下ろす。

しかしギリギリではあるがかわせないものではな――

 

 

「があ・・・・!!?」

一瞬視界が真っ白になったかと思うと僕は壁に激突していた。

 

見通しが全て甘かった。巨人の剣を避けたはいいが、強化されているということを頭にいれてなかった。

その巨人の一撃は僕に当たらないにしろ固い石でできた床を深く抉るように砕いた。

そして僕はその余波に巻き込まれ壁に激突してしまった。

 

視界が赤い。頭から血が流れているのか。

おそるおそる視線を下に向けて自分の体を見てみるともう言葉にも出来ない状況だった。

左腕に至ってはおかしな方向に曲がっていて一種の芸術品みたいになっている。

他もやばい。ところどころ制服の上から血がにじみ出ているところを見ると目をそらしたくなった。

 

 

ガシャン ガシャン

 

 

あぁ、止めを刺すために近づいてくる。

ダメだ。もう身体が動かない。いや、体の感覚がほとんどなくなっている。

危ない状態というのは辛うじてわかるがダメージが高すぎてどうすることもできない。

目の前には確実と死が迫っているというのにまともに思考が回らない。

 

 

こんなのが最後かあっけないなぁ。死ぬ直前って意外と何も考えられないんだなぁ。頭の中が真っ白だ。

 

 

「あぁ・・・帰りたかったなぁ・・・。」

自然と言葉が出た。

 

そうだ、僕は帰りたかった。

 

 

突然頭に懐かしき光景が展開される。走馬灯とやつなのだろうか。すごい初めて体験した。

今ではもう薄れて思い出しづらくなってきた思い出だ。でもいつでも恋焦がれていた思い出。

 

口うるさく小言を言い続ける母。それを苦笑いしながら諌める父。どこにでもある、そして暖かい家庭だ。

今度は小奇麗に整備された灰色の通学路。となりには馴れ馴れしく笑っている悪友がいた。

今度は何かの授業風景。黒や紺を基調とした地味な制服なようなもの着て大勢の人が授業を受けている。その中で僕は退屈そうに頬づえをついている。

退屈で、でも何よりも大切だった僕の日常。

 

ドクン

一瞬心に鈍く重い痛みが走る。

 

 

何やってんだ僕!

 

 

痛みで思考が回らなくなった僕の頭が機能を取り戻す。

 

 

「な・・に・・・諦め・・・て・・ん・・・だ・・僕・・!」

 

 

無駄だろう。無意味だろう。無様だろう。

吠えてはいるが体はピクリともしない。結局は単なる強がりだ。どうすることもできない。

 

 

そんなことなどお構いなしに巨人は歩みを進める。僕を殺すために。

 

音が鳴りやんだ。もうぼやけて正確には見えないが攻撃の射程圏内に入ったということだろう。

巨人がその豪腕をめいっぱい振り上げている。

 

 

それでも、それでも目は背けない。強く、強く睨む。こんなことは単なる強がりだって分かる。

でも、心が叫んでいるんだ。諦めるなと。

 

 

「僕は・・・僕は帰るんだ・・・!!」

 

 

無慈悲にも巨人の剣は振り下ろされ――――

 

 

 

 

 

 

 

「クククッ・・・いい覚悟だねぇ後輩くん。」

 

 

 

 

 

 

ガンッ

 

たと思った瞬間火花が綺麗にちった。何故か巨人の剣は僕に当たることなく宙を居場所なさげにさまよっていた。

 

 

 

 

「くらえ!!!ゼロ・インパクト!!!!!!!」

 

 

ゴオオオン

 

 

紫の何かが目の前を駆けたかと思うと、荘厳な鐘のような音とともに巨人が地面に叩きつけられ低くバウンドしていた。

 

 

 

「フッ・・・やぁ、またあったね。」

ニヒルな笑みを浮かべ紫髪の美少女が僕に笑いかけてくる。

彼女は図々しくも主役登場と言わんばかりに巨人の前に立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

 




クロウ&アンゼリカああああああああああああああああああああああ!!!!!!!


あ、この小説を読んでいてくれている方本当にありがとうございます!
最近UAもお気に入りも以前とは比べ物にならないぐらい増えてて興奮気味っです!
ありがとうございます!

引き続き感想及び批評募集してます


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なんでもない決意(後編)

投稿遅れました。

今回の話は作者の技量不足で少しわかりづらいかもしれません。
苦情があれば書き直すつもりです。





「おいおい!?こいつは魔皇兵じゃねーか!?」

バンダナをつけた銀髪赤目の青年は少し焦るような表情になる。

 

「知ってるのかいクロウ?随分と強そうだが。」

それに答える紫髪の美少女は言葉の割にはどこまでも優雅だ。むしろ、薄い笑みを浮かべている。

 

「あぁ、こいつは暗黒時代のゴーレムだよ。自動修復能力があるから厄介なんだよ。」

 

「へぇ、それはまた大層なご相手なものだ。だが・・・」

 

「ま、俺たちならやれるか。」

 

「あぁ!」

二人に絶望の文字は存在しない。お互いを信頼しているからこそこの二人にはどんな状況ですら打開できるのだ。

 

 

 

 

「ムンクくん!?酷い怪我だよ、大丈夫!?」

 

「ミ・・ン、ト・・・?」

 

「待って!回復するね!」

 

「はぁぁティアラ!!」

 

 

回復アーツが僕の体をやさしく包む。全身ポカポカとしたかと思うと重症と思えた傷も軽症程度まで回復した。

流石にひしゃげていた左腕は回復しなかったが。なおるかなこれ。

 

「ミント、あの人達は・・・?」

 

「アンゼリカ先輩とクロウ先輩だよ!ほぇ〜あの2人凄いねぇ。あのでっかいのと互角以上だよ!」

 

あの2人は先輩だったのか。繋ぎを着た紫髪の美少女は見覚えがあった。

しかし、2人の戦闘はミントが感嘆するように凄いものだった。

 

二丁の魔導銃を扱うクロウが的確に関節部に攻撃を被弾させ魔皇兵の動きをほとんと封じている。

 

そしてアンゼリカ。その折れてしまうと錯覚するような華奢な身体からは想像できない拳撃の威力だ。

動きを見たところ一応同門だろうか?

動きの所々に泰斗流の特徴が見える。といっても僕以上にアレンジしているみたいだが。

 

「それにしてもミントのアーツは想像以上に効果が高いな・・うっ」

体を起こして立とうとしたら身体に鋭い痛みが走る。

 

「まだだめだよ!あくまで応急処置にしかアーツを使っていないんだから!」

ミントは慌ててフラフラ立ち上がる僕に肩を貸してくる。

 

「別に戦うつもりはないよ、、、あの2人めちゃくちゃ強いし。」

 

「そうだね。」

 

 

 

 

 

「まずいな、、、」

戦闘が再開され早五分―――

クロウとアンゼリカは魔皇兵を押していた。

ただ、押してはいるが圧倒はしていない。決め手に欠けている。

 

 

「えっ 何が?先輩達全然押してるよ?」

ミントから見たらそうなのかもしれないが恐らく現状は違う。

 

「いや、違う。クロウ・・・先輩がいってたでしょ?自動修復能力があるって。」

 

「ほぇ?どういうこと?」

 

「つまりだな、中途半端なダメージを与えても回復されちゃうってことだよ。」

 

「そ、それってまずくない!?」

そう。だからまずい。

しかも現状あの2人に決め手がない。

それに、あの2人も人間だ。後少し経てば体力の限界がどうしてもくるはずだ。

 

「やるしかないかっ・・・ぐぅっ!?」

体を無理矢理動かすと激痛が走る。

だけど、そんなこと気にしている状況ではない。

 

 

「ムンクくん!?なにするつもり!?」

 

「止めないでミント・・・今誰かが動かなきゃみんな死ぬ・・・やるしかないんだっ!」

 

ミントは眉を顰め泣き出しそうな顔を見せないかのようにうつむく。

少し罪悪感が胸をチクリと刺す。

 

 

「わかったよ・・」

 

「ごめんね、ミント・・・」

 

「違うよムンクくん・・・あたしが戦う!!」

 

「なっ!?」

あまりの提案に絶句してしまう。

 

「そんなのだめっ・・・あだだだだだ!!?」

 

「ほら!少し小突いただけでこんなんじゃん!そんなんじゃなにも出来ないよっ!」

 

このアホなにも思いっきり怪我してるとこを叩かなくてもいいじゃない・・・

 

「で、でも・・・」

 

「これ以上うだうだいうとフルボッコにするよ?」

 

 

「あ、はい。スイマセンデシタ・・・・・」

ミントの目は本気だった。こわい。

血の気がサーっと引いていく。この状態の僕をフルボッコしようとするとかどういう神経してんだ!

 

 

「解析開始・・・。これより対物理障壁を無効化する。」

 

ブウウウン

導力器特有の起動音がなる。

「行くよ!ディフェクター!!」

 

 

「グオッ!?」

魔皇兵はいきなり起きた体の異変に動揺する。

こう見えてミントのアーツの腕はピカイチだ。やろうと思えば上級アーツでも発動可能だろう。

まぁ、時々うっかりしたとか言って仲間にフレンドリーファイアするんだけどね・・・

だから、ミントは学園で密かに爆弾娘とか言われて恐れられている。

 

 

「よし!弱体化成功っ!!」

ディフェクターは相手を解析し弱体化させる技で使い方さえ間違えなければかなり強力な技だ。

余談ではあるが僕はミントにこの技をかけられたことがある。今でも腹が立つ。

 

 

「先輩達!!好機です!!」

 

この好機を見逃すクロウやアンゼリカではない。

すでに駆け出していた。

 

 

「クククッ 取って置きを見せてやるよ!」

クロウの魔導銃の銃口に赤黒いエネルギーが収束していく。どんどん集まるエネルギーはとどまることを知らず、そして高密度に圧縮される。

圧縮

圧縮

圧縮

「カオストリガー!!」

 

轟音と共に銃口から高密度のエネルギーの塊が打ち出される。それはもう言ってしまえばレーザーだ。

そしてそのレーザーはどんなものすら貫けないと思わせるような魔皇兵の重厚な鎧を抉るように突き破った。

 

 

「ゼリカ!!」

 

「応!!」

 

「はあああああああああああああああああああ!!!」

今度はアンゼリカだ。

彼女はただでさえ感じる力強いオーラを更に爆発させる。

とんでもなく攻撃的なオーラが彼女を包む。あまりのオーラに肌がざわつくほどに。

 

「行くぞ!!!ドラグナアアアア!!」

そして天井にぶつかるかと思うぐらいに高く跳躍。

そして一本の矢のように急降下。

 

「ハザーーーード!!!!」

 

けたたましい轟音と共に魔皇兵は物凄い勢いで吹き飛ばされる。

その鎧にもはや意味はなくあまりにも強大すぎるその威力はもう逆に同情するレベルだ。

壁に強く激突し魔皇兵は沈黙。その鎧はもうボロボロで鎧とは言えず単なる鉄くずにしかみえない。

 

 

「はぁはぁ、俺らの敵じゃなかったな」

「フッ・・・先輩の面目躍如だね」

二人はニヤリと笑いハイタッチした。

 

 

 

 

――――――

 

 

「強がったものの、今回はマジでギリギリだったな。」

 

「あぁ、強がってはいるがもうクタクタだよ。倒れそうだ。」

クロウとアンゼリカは肩で息をしている。それほどギリギリな戦いだった。

 

「あ!!そうそう嬢ちゃん!嬢ちゃんの補助でなんとか勝てたよ!」

「あぁ、ほんとにね。あれがなかったらどうなっていたかわからな―――。」

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

「おいおい!?まだ動くのかよ!?」

 

「もうひと頑張りか・・・。」

 

二人は構えるが顔にでる疲労は隠せていない。

 

「ま、まってなんだか様子がおかしい!!」

 

いきなり感じた違和感に僕は叫ぶ。

なんだこの嫌な感じ。

 

 

嫌な予感とは往々にして当たる。

いきなり魔皇兵の腕が倍になった。

しかも胸を締め付けるような威圧感は際限なく高くなっていく。

 

 

「あいつ!?腕が四本に!?」

 

「ここまで追い詰めてパワーアップか。やれやれ詰が甘かったね。」

 

 

「もう終わりなの・・・?」

 

 

 

状況は最悪。

クロウもアンゼリカも疲労困憊。ミントはそもそも補助向きだし、僕に至ってはダメージがでかすぎてお話にもならない。

 

それでもとクロウとアンゼリカは立ち向かうが力の差は歴然でもう勝負にもなっていない。

 

死が頭をよぎる。一度希望を持ったぶんその後の絶望はでかい。

 

「・・・・。」

 

おわり?終わり?オワリ?頭の中に言葉が何度も高速で繰り返される。

恐怖なのか、絶望によるものなのか頭の中にぐちゃぐちゃになった光景が何度もフラッシュバックする。

なんだこれは・・・

 

 

『少年・・・いやムンク。辛いかもしれないが生きてなよ。いつかいいことあるさ。』

綺麗な女性だ。腰までかかるような綺麗な髪、そして輝くカーネリアのような瞳。その瞳は見る人を吸い込むかのように魅了する。

そんな彼女が向日葵のような笑顔で話しかけてくる。

 

いや、これは知っている。知っていることだ。ただ、僕がずっと目を背けていたこと。

 

『なに?戦い方を教えてくれ?』

彼女は驚き、そして困ったように顔をしかめる。

 

『ぐふっ・・・。焼きが回ったか・・・。まぁ、これはアタシのミスだ。君が・・・気にする必要はない。』

最後の映像は目をそらしたくなるほど凄惨な光景だった。歪なほど巨大な腕が一人の女性を腹から貫いている。上半身と下半身はもう皮一枚で僅かに繋がっていた。

そして・・・・

 

そして・・・その腕の伸びる先には『僕が繋がっていた』

 

 

「・・・・・。」

いつ倒れてもおかしくないような身体を叱咤して無理矢理立ち上がらせる。

あぁ・・・。

あぁ、そうだ。いつもみたいに目を背けている場面じゃない。

 

 

「ムンクくん・・・?無茶だよ!?そんな体で!?もうボロボロだよ!?」

ミントが泣きながら叫んでくる。

分かってるよ。でも、いかなきゃ前へ。

 

 

「何するつもりだ・・・?」

「君、まさか捨て身の特攻でもするつもりかい。それは・・・。」

 

何か言っているがもう気にしない。正直誰にも見せるつもりもなかったし、見せたくもなかった。

それでも今必要なんだ。

 

 

「がああああああああああ!!!!!」

吠える。体の奥底から無理矢理何かを引きずり出すように思いっきり叫ぶ。

 

 

「骸騎纏」

地獄のそこからの唸りとも思えるような騒音とともに、黒い何かが僕の右腕を徘徊する。

幾重にも重なるようにでた黒い流れは螺旋を作り渦巻く。

そして巨大で、尚且つ歪な一本の腕を形成した。

今僕は右腕だけあまりに大きい化物に見えることだろう。いや、腕についているおまけと言ったほうがいいかもしれない。

 

「おいおい!?あの腕・・・!?」

「なんて禍々しいんだ・・・・。」

「あれが・・・ムンクくん・・・?」

 

 

 

「ギィッ!!?」

 

 

「はぁはぁ、とっとと終わらせよう・・・。僕もこんなものいつまでも出しておきたくない。」

禍々しいし、汚らわしいものだと自分でも思う。こんなもの1秒だって出していたくない。

 

今度は立場が逆だ。一歩。また一歩前行く。

 

「がああああああ!!!くらええええええええええええ!!!!!!!!!

 

 

巨大な黒い腕が魔皇兵に切りかかりホンの少しの間膠着したかと思うと黒い腕はまるで紙を割くかのように魔皇兵を縦に切り裂く。

魔皇兵の残骸はやかましく地面に転がったかと思えば次の瞬間光になって爆発するかのように霧散してしまった。

 

 

「もう・・・これ以上失ってたまるか・・・。」

 




ムンクの本気すげー と感じる作者。

というわけで今回はここまで!
次回もお楽しみに!


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彼は渇いた笑みを浮かべる

すいません!!遅れましたああああ

そんなこんなで今回はまた真面目トーン


きっと僕は逃げていただけなのだろう。

前に進んでいるつもりで結局一歩も進んでいなかった。

別に目を逸らすことや逃げることを悪いこととは思わない。

でも、時にはまっすぐに目を向けないと進めない場所もあるということなのだろう。

だから、今は一歩。今は一歩だけかもしれないけど前には進めているのだと思う。

だって初めて自分自身に目を向けたのだから。

 

 

 

「んあ・・・・」

目を開けると見覚えがある白い天井が目に入った。

 

体は全身が気だるく重い。まだ、起床時特有の眠気が僕の意識をまどろませる。

体の方に目を向けると左腕はギブスでしっかり固定されており、体のそこらに包帯が巻かれていた。

 

「ここは保険室か・・・」

体を起こしあたりを見渡す。見覚えがある部屋だった。

寝起きでぼんやりとしていた頭がだんだんクリアになっていく。

そして、何があったか思い出した。

 

「あぁ、色々まずぃなぁ・・・」

まさかあの力を使うことになるとわ。

僕の平穏な学園生活はどうなるのだろうか。

いや、ぶっちゃけミントとかラウラのせいですでにそんなものほとんどないけどさ。

 

 

「あ、ムンク起きた・・・!!」

緑髪にやや幼さを感じさせる童顔の少女が保健室に入ってきた。

 

 

「え・・・あ・・・ミント・・・?」

 

「いや~もう心配したんだよ~~~三日もめを覚まさないし。」

ミントがベットの近くにある椅子に乱暴に腰掛ける。

 

え、僕三日間も寝てたの?

・・・・

やったぜ。授業サボりまくりじゃん。やっと僕の本領だな。

 

 

「「・・・・・」」

お互い沈黙してしまう。

ミントは何かを言おうと口をパクパクさせているが、その口から言葉はでない。

僕も何を言えばいいかわからない。

 

 

「み、ミントは怪我とかなかったの?」

 

「え!?あ、あ、うん。おかげさまで無傷だよ!!」

ミントは体の健康表すようにガッツポーズみたいなものをとるがその顔にいつもの元気さはない。

 

「「・・・・・・」」

 

再び沈黙。

 

 

「よーう!後輩君生きてるかーーー?」

 

沈黙をぶち壊すかように緑色の制服を身に付け、頭にバンダナを巻いた銀髪赤目のあからさま目立つ人が保健室に入ってきた。

 

「やぁ、体調はどうだい?」

続いて女性にしては短めに切りそろえられた紫髪に、紫眼、そして黒いツナギを纏った女性が保健室に入る。

この人もクロウとは別の意味で目立つ人だな。容姿はもちろんだが一つ一つの仕草に華がありついつい視線が行ってしまう。

 

 

「あ、先輩達こんにちは!!」

 

「やあ、ミントくん。君の笑顔はどこまでも魅力的だね。この後私の部屋によっていかないかい?」

 

「ほぇ?」

 

「こら、ゼリカ。いきなり後輩を口説くな。というか今回はそれが目的じゃねえだろ。」

 

「あぁ、すまない。子猫ちゃんがいると可愛がらずにはいられないのさ。」

 

「これだからこの女は・・・。」

クロウはため息をついて肩を落とす。なんかこの人も苦労しているんだね・・・。

 

 

「さて、見舞いに来たわけだが体に別状はそこまでなさそうだね。ベアトリク教官によれば左腕の方も2週間もおとなしくしていれば治るらしいからね。」

 

起き上がってそこまで思考が回っていなかったがあそこまで重症だった左腕が治ることを聞いて心が幾分か軽くなった。

 

 

再び沈黙。今度はさっきまでとはどこか空気が違う。さっきまでのは気まずさによる沈黙だった。

しかし、今は何故か威圧を感じる。

 

「それで、いきなりで悪いが本題に入らせてもらおうかな。」

 

「おい、ゼリカ。急すぎるだろ・・・。」

 

「悪いねクロウ。元々こらえ性がないんでね。待つなんてことは無理だ。」

 

アンゼリカが僕を睨みつける。その瞳はまるでカミソリかと思えるほど鋭い。

威圧感にたじろぎ喉をゴクンと鳴らす。

 

「君は何者だい?」

きた言葉はド直球だった。これでもないかというほどド直球。

アンゼリカは今回の一番大きな疑問と言える部分を正確についてきた。

 

「う・・・ぁ・・・」

言葉につまる。

 

「君は何のためにこの学園に来て、何をしようっていうんだい?」

その瞳に感情は篭っていない。ただただ冷たく、冷静で、ある意味冷酷に真実を突き止めようとしている。

 

 

「・・・・・」

 

「だんまりか。普通だったらそれでも構わないんだがね。でも流石にあの力は歪すぎる。放っておくわけにはいかない。」

 

 

「君はーー「こらっ、ゼリカ。」」

 

こてんっとクロウがアンゼリカの額を小突いた。

 

「お前は色々察しがいいから、なんでも感ずいちまうけどさ。今回、それはお前の役割じゃねーだろ?」

 

アンゼリカは目をパチクリとさせたかと思うとニヤリと笑った。

口はしを思いっきりあげて「ニヤァ」と擬音が聞こえたかと思うほど邪悪な笑みだ。

 

「そうだね。それなら私の役目を果たすとしようか。」

そう言ってアンゼリカはクロウのほうに向き指の関節をゴキンゴキンと盛大に鳴らす。

 

「いや、ぜ、ゼリカさん?なんで俺のほう向くの?」

 

「君との付き合いはもう一年になるが私は悲しいよ・・・この私に隠し事なんて。」

 

「ま、魔皇兵のこと?いや、俺もあれについは聞いたことあるだけだからな?」

 

「その割には随分落ち着いてたというか、戦いなれていたようだが?

まだなにか隠しているだろう?」

 

 

だらだらと物凄い量の汗をかくクロウ。

 

沈黙

 

「退散っ!」

 

「あはは、この私から逃げれると思わないことだ!地獄の果てまで追いかけようじゃないか!」

アンゼリカの表情はどこまでも生き生きとしていて、まるで獲物を見つけた猛獣だ。

あんなのに追われるクロウに心から同情する。同情しても金は上げないけど。

 

「行っちゃった・・・。」

 

「うん。何をしにきたんだろ・・・」

 

「なんかムンクくんとラウラちゃん見たいだね。」

脳裏に泣きながら青い鬼に追われる僕が浮かび上がる。なにこれ?泣きたくなってきた。

どうやらラウラは僕の骨髄まで恐怖を植え付けたらしい。ラウラ恐ろしい子!

 

「言わないでよ。悲しくなる・・・・。」

 

 

沈黙

 

 

お互い視線をうろうろさせてどこか気まずい雰囲気が流れる。

 

あんなことがあった後だ流石のミントも何を言えばいいのか分からないのだろう。

 

だったら・・・僕はとっとと言うべきことを言おう。

言わなければならないだろう。言いたくないと叫ぶ僕の弱気な心を無理矢理殴りつける。

嫌なことから逃げるだけるなんてのはもうだめだ。

 

「あのさ・・・ミントは僕のあの腕をどう思った?」

 

「えっ・・・いや!?」

ミントは驚き慌てふためく。いきなりこんな話題を切り出したのだから当たり前か。

 

「怖かったよね・・・。もしくは汚らわしく感じたよね。」

いつもだらけている表情に力が入り強ばるのが分かる。

 

「そんなっ・・・!?」

 

ミントが言葉を紡ごうとするが僕はわざと遮る。

 

 

「だからさ・・・。もう無理に僕に関わらなくてもいいよ。今回だって危険な目に合わせちゃったしね・・・。」

 

ザクッと胸をナイフで切り裂かれた気分だ。僕はなんでこんなにも痛さを感じているのだろうか。

体はどこも悪くないのに。

狙ったようなタイミングで風が開放された窓から勢いよく吹き込む。

季節は六月の下旬に差し込み蒸し暑い季節なはずなのに、風は僕の体温を急速に奪い去り、真冬とも錯覚させた。

 

 



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エピローグ:それでも彼女は笑う

ハイ。第一部完的なね?


終わったなと思った。一度壊れた関係はもうほとんど戻ることはない。

今回の事件はハッキリ言って運が良かった。死んだっておかしくなかった。

だったら、もうミントを僕に関わらせるわけにはいかない。

意外だったのは僕の心がひどく痛いことだ。どうやら僕いつの間にかこの日常を気に入っていたらしい。

でも、これでいいんだ。

 

 

「・・・・。」

ミントは無言でうつむく。

 

「・・・が・・・よ」

 

「え?」

ミントの声はとても弱く消えてしまいそうなほど小さく聞き取ることが出来なかった。

 

「違うよ・・・違うよムンクくん!!そもそも今回はアタシがムンクくんを危険な目に合わせたんだよ!?」

 

「いや、でも・・・」

 

「でも、じゃないよ!なんでムンクがそんな思いつめなくちゃいけないの!?違うよ!!」

 

「でも、ミントは死ぬ可能性だってあったんだよ!?」

思わず怒鳴ってしまう。だがミントの目は一ミリたりとも僕から動いたりはしない。

 

「それはね、お互い様だよ。だからねアタシが言わなきゃいけないのはね!『ありがとう』なの。だからねムンクくんアタシを助けてくれてありがとう!」

 

 

「・・・ん・・だよ。」

 

「ほえ?」

 

「なんでだよ!!今回ミントは死ぬかもしれなかったんだよ!!?それなのになんで・・・なんでそんなこと僕に言えるの?」

言葉がつい荒くなってしまう。普段あまり表に出ない感情の渦が現れる。

 

「ムンクくんのそういうなんでも自分のせいにするのはよくないとこだね。今回ムンクくんにあたしは二度も助けてもらったんだよ?あのでっかいのから逃がしてくれて・・・その後もボロボロになっても戦ってくれて・・・・。」

ミントの目がキラリと光に反射する。それでもミントの瞳は大きく見開き僕から視線は外れない。

強い・・・強すぎる瞳だ。

 

「だから、感謝こそしても恨むことなんて絶対ない!!ありえない!!しかも怖いなんて絶対思わないよ!!だって・・・だって・・・。」

 

「ムンクくんは・・・ムンクくんじゃない。何も変わってないよぅ・・・。」

それはミントの丸裸の本音だったのだろう。

途中からどんどん涙声になりついには泣いてしまった。

 

 

何かが僕の中で壊れた気がした。

多分それはいつも自虐しかしていなかった自分だ。こんなありがとうなんて言われたことなかったから。

結局は逃げたかっただけなのかもしれない。

傷つけしまうから関わらない。これを逃げと言わずなんというか。

 

 

「それにね、無理して話さないでもいいんだよ。だってムンクくん凄い辛そうだもん。だったらいいんだよ。話さなくても。」

 

唖然とする。普段は馬鹿にしているがこの子はなんて器の大きい子なのだろうか。普通あんな力を見てこんなことが言えるだろうか?

なんてお人好しだ。

 

そんな優しさに触れてしまうのだから涙が出そうになる。それをミントに見られるのは恥ずかしいのでわざと顔をうつむかせる。

 

「ん?もしかしてムンクくん泣いてるの???いいんだよ~~~泣いても?」

声からしてミントは楽しんでいる。確実に顔をにやけさせていることだろう。

 

「な、泣いてないよ!」

なぜか悔しい僕は勢いよく顔を上げて否定する。多分泣いてはいないが涙目にはなっているので説得力なんかはないだろう。

 

「やっぱ泣いてるよ!!目元とかめっちゃ赤いもん!」

ミントは僕を楽しげに僕をからかう。

たいしたことなんて多分してない。というか泣いている人間をからかうなんてひどいことだ。

でも心が安らぐのはなぜだろうか?

 

「ミントありがとう。」

自然とそんな言葉が出た。

 

 

「!?」

 

 

「えっと、どうしたのそんな鳩が豆鉄砲くらったような顔して。」

そりゃミントはいきなり口をあんぐりとあけて目を見開いているのだから驚く。

 

 

「むむむむムンクくんが笑ったーーーーーーーー!!!???」

 

「え、いや僕もふつーに笑うでしょ!!?」

心外な・・・僕も笑うぐらいするよ

 

 

「いやいやいや!!気持ちわるく笑うことはあってもそんなに輝いた笑顔見たことないよ!!」

 

なんて子だろうか普段の僕の笑みは気持ち悪いらしく、しかも笑顔としてはカウントされないらしい。

なにそれひどくない?おれ泣いていい?あ、もう泣いてた。

 

 

「ムンクくんムンクくんもっかい笑って!いやその薄気味悪い方の笑顔じゃなくて!!カメラ持ってくるから!!」

 

目の前ではミントがギャーギャーとせわしなく騒いでいる。

そんなミントを見ていると自分がなんで「もう関わらなくていい」とか色々悩んでたのかバカらしくなってくる。

全くこの子といるといい意味で飽きない。

 

 

―君はほんとに諦めたように笑うね。見ていて不愉快だよ。―

 

ふといつしか言われたそんな言葉が頭をよぎる。

その時は顔の表情なんて気にも止めなかった。笑い方で何が変わるのかとも思っていた。

 

だけど今ではそんな笑みではないらしい。

魔皇兵の戦闘の時もそうだが僕はどうやら少しずつ変わっているらしい。

不思議と悪い気分ではないし、心が軽い。だからこれはきっといい変化だ。あの人もそんな変化を考えて僕に言葉をかけてくれていたのだろう。

 

普通に笑えるようになったらしいよ、アインさん。

 

心の中に鮮烈に映るカーネリアの君になんとなく独白してみる。

多分特に何かが起こることもなく、意味なんてないだろう。

でも、それでいいのだ。

本人の耳に届くことは

いつかは本人にいってみたいものだ。

 

「だーかーらー、その気持ち悪い方じゃないってーーーー!!!」

 

「いちいち気持ち悪いって言わないでよ!!?」

 

 

彼女はそれでもといい笑顔で僕に笑いかけてくる。勝手に僕が引いた身勝手な境界線を何もないかのように簡単に踏み越えてくる。

最初は煩わしかったけどそれはいつしか当たり前のことになっていたらしい。

いつの間にか僕は彼女の存在を受け入れている。

なら、僕もその行動に答えなければいけないのだろう。

 

えっと、でもいきなりは無理そうだ・・・だから少しずつでいいからミントのことをしっかりと見ようと思った。

ヘタレとかじゃないからね!?あれだよ、僕の心は繊細だからだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

7/16

 

前回あった旧校舎での事件の怪我はずでに全回復しており僕は普通に登校していた。

時刻はまだ8時丁度。

僕が1限目の授業に遅刻しないなんて珍しいな。何を隠そうこれまでの半分は遅刻しているからね僕。

 

「あら~ムンクくんだ。おはよー。」

学生寮を出て学院に向かっていると緑髪が目に止まる。

 

「あぁ、ミントか。あい、おはよー。」

内心ゲッと呻くがそこはなんとか喉に収める。

この学院で最大のトラブルメーカーのミントであっても流石に早朝から厄介事は起こさないだろう。

 

「でもムンクくんが朝遅刻しないで登校してるとか、雪でも振りそうだよね~。」

 

なんてひどい言いようだろうか、夏に雪なんてふらねーよ。

まぁ、全面的に同意だが。

 

 

「あれ?なんか校舎の中に凄い人だかりが出来てるよ?」

 

「ほんとだ、何かあったのかな?」

 

何かあったから人だかりが出来ているのだろう。

何?有名人でもきたのかな。例えばこの学院の理事長のオリヴァルト皇子とか。

なわけないか。

 

「行ってみようよ!!」

ミントは強引に僕の腕を掴んで引っ張り、人ごみの中突入する。

人ごみの中もみくちゃにされて人だかりの中心に到着するまでにもう僕ボロボロ。人の圧力って恐ろしいな。

 

「え?」

ミントは口をあんぐりさせて固まる。

ミントの視線の先を見てみるとそこにはデカデカと張り紙が貼ってあった。

なるほど、これに人だかりが出来ていたのか。

ここまでの人だかりだ。これは相当な内容が書いてあるのだろう。

 

「は?」

張り紙の内容を見ると僕はミントと同じように固まってしまった。

 

 

 

 

この時のことを僕は深く後悔するだろう。物事を深く考えず怠惰に生きていたことを。

自分の行動が日常にどんな影響を与えるか考えずに生きていた自分を。

時代のうねりはすぐそこまで来ていて、その余波はどこまでも襲いかかる。

運命というのがあるというなら良し悪しに関わらず唐突なのだろう。

 

人だかりに囲まれている張り紙にはこう書かれていた。

 

 

本日をもって

一年Ⅴ組 ムンク

一年Ⅴ組 ミント

以上二名を一年Ⅶ組所属とする。

 

 

to be continued

 




とりあえず僕がかんげていた一章が終わりました。
いや~~小説書くって想像以上に大変。ホントは8話ぐらいに収めるつもりがこんなにかかった・・・。

さて、今回の内容に不満を感じてしまう方本当に申し訳ありません。
感想などにも7組以外の視点が面白いという意見があり今回のムンクの7組加入は迷いましたがこれは一応最初から決まっていたので何卒ご了承くださると幸いです。

というわけで次回からは二章みたいな位置づけです。
引き続き感想、批評を募集中!!!


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二章(前半)
ムンクに平穏はないそうです


まぁ、二章的な位置づけです。
そのうち気が向いたら章分けします。


突然だが僕にやる気は基本ない。

繰り返し言うが僕にやる気は皆無だ。大事なことなので二回言いました的なね?

かといって本気を出したとしても一日中寝続けるほどだ。

そんな僕だが現在はトールズ士官学院に通っている。何かの間違いだと最近よく錯覚するが。

トールズ士官学院はドライケル帝が開いたというなんかすごそうな学院なわけでエリートばかりが集まる学院だ。

そう考えるとなんで僕はこんなとこに通っているか分からない・・・。

 

まぁ、こんな僕だから座学における授業はほとんど睡眠に費やす。

 

「こら!!ムンク授業中にねるんじゃない!!!」

 

あまりにも大きい怒声に意識が暗闇の底から引きずり出される。

何か聞こえるがそんなことで僕のそこしれぬ睡眠欲を遮れると思うな。

僕は再び睡眠する。授業中に寝るのさいこー

 

「ら、ラウラ!!?剣をしまって!!ここ教室だよ!?」

 

「止めるでないリィン!!私はこの大馬鹿者を叩き起こすのだ!!」

 

「ムンク!!頼むから起きてくれ!!?もう、ラウラを抑えきれない!!」

 

「ZZZ…ラジぉ…」

 

「ダメだ!起きる気配がない!!」

 

「いいから起きなさいよ!!」

 

肩をおもいっきり揺さぶられれば流石の僕でも起きる。

 

「んもぉ〜なんなの?気持ちよく寝て・・・へ?」

目を覚まし、顔をあげると目の前には鉄の塊が見えた。

え?なにこれ?

 

次の瞬間激痛

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

「僕が一体何を・・・したっていうんだ・・・」

いきなり大剣でぶっ飛ばされるとかどういうことだ・・・

物凄くいてぇ

 

「其方が授業中に寝るのが悪い!」

え?それだけ?

何この子、脳筋なの?馬鹿なの?

 

 

「だからって教室で・・・大剣振り回さないでよ・・・。」

その言葉を最後に意識がブラックアウトした。

もう、ほんとやだこの学院。

 

 

 

昨日のことだ。僕はいきなりトールズ士官学院特設Ⅶ組に所属された。

もともとこの学院はクラスが貴族と平民で分けられているのだが、今年からⅦ組という貴族も平民も関係なく集められたクラスができた。

そして巨大な間違いで何故か僕はⅦ組に所属をされてしまった。

 

 

「ムンクくーん?大丈夫?さっきおもしろいぐらい痙攣してたよ?」

そうこのトラブルメーカーミントと一緒にまさかのⅦ組配属。なにこれ。

女神様というのがいるというのなら呪ってやる。

 

「もうとんだ厄日だよ・・・。」

とうか僕は忘れないぞ。ミント、僕がラウラにぶっ飛ばされているとき大爆笑してただろ。

なんであんな状況で笑えるんだよこのクレイジー娘。普通なら悲鳴ものだし、気弱なエリオットとか委員長とか泣きそうだったよ。

 

「うーん、でも驚きだよねぇ。いきなりⅦ組に所属なんて。」

 

「あぁ、ほんとにね・・・・。抗議しても全然意味なかったし・・・。」

何があったかと言うと遡ること数時間前・・・。

 

「どういうことですか!!学院長!!」

 

 

2アージュは超えるであろう巨体に柔和な笑みを浮かべる老人。

なんというか老人はいたわるものと教えられてきたがこの人相手になるとむしろいたわられたい。

正直こんな巨大な人を相手にすると普段なら萎縮してしまうが、今回は流石に引くわけにはいかない。

 

「まぁまぁ、落ち着きなよムンクくん。というかなんか面白そうだしいいじゃん。」

 

「僕はごめんだよ!!」

というか明らかにⅦ組なんて忙しそうでヤバそうなのに楽しそうにしてるミントはほんとクレイジー娘だと思う。

 

「クラスがⅦ組に変わったところで学生として大きく変わるわけではない。むしろこのことを試練だと思ってほしいものじゃ。」

学院長はにっこり笑うが冗談ではない。

僕は試練とかそーゆーめんどくさそうなのは死んでもゴメンなのだ。

 

「とまぁ今回のことはワシより上の方からの指示でな。こればっかりは変えることが出来んのじゃ。」

 

「え。」

 

「というか、反対意見として提出してもいいが、下手したら意欲のない学生として退学というのもありえるのう。」

 

え、なにこの学院長。笑顔で割と怖いこと行ってくるんだけど・・・。

流石に学院をやめるわけにもいかないので泣く泣く指示に従うしかないようだ。

 

「まぁまぁムンクくん。どうせムンクくんはどの組行っても同じだって。」

落ち込む僕の肩をポンポンとミントが叩く。

いや、よくよく考えれば確かに僕はどのクラスに行こうが寝ているだけだった。

 

「というわけでサラ君。」

 

 

「はい、学院長。」

カツカツカツ軽快な音を響かせて部屋に入ってきたのは赤に紫が少し交じるような髪の女性だった。

その顔は端正に整えられており、見るものを魅了するだろう。やや大人びた顔をしているところ学生ではないな。

教師・・・?

いやそれにしては教師らしからぬ格好だ。

一張羅とも言うべきロングコートを着るはいいがその下の服は何とも開放的のものだ。

その豊満で瑞々しい胸元ははだけている上に、下着が見えるんじゃないかと思えるほど短いスカート。

とても教師とは思えない。

 

「どうも初めまして。今日からあなた達の担任になるサラ・バレスタインよ。よろしくね。」

そう言ってサラは右目を可愛らしく閉じてウインクする。

というかこの人教師なのか。

 

「ムンクくん鼻の下のびてるよー。」

ミントがジト目で睨んでくる。

いや、仕方ないでしょ・・・そもそもあんないかにも私を見てくださいなんて格好をしている方が悪い。

だから僕は悪くない。

 

「み、みてないよ!」

取り敢えず反論しないのもアレなので反論だけはしとく。

 

「ふふっ なんだか面白そうな子達ね。」

 

「というわけでサラ君よろしく頼みます。」

 

「はい。」

 

「それじゃ君たちはこのままⅦ組に参加してもらうわ。すでに知り合いがいるかもしれないけど軽い自己紹介ぐらいは考えときなさい。」

 

「はーい!!」

 

自己紹介なんか思いつかないなぁ・・・。

妙に元気なミントが今日ばかりは羨ましいよ・・・・ちくしょう。

 

 

 

 

 

「教官!遅いですよもう授業の時間は始まっているんですよ!!」

 

「あーごめんごめん。急な用がはいちゃったからさぁ。」

 

「まぁ、サラのことだし。」

 

「こら、フィー!ほんとのことでも黙ってあげなさい。」

 

「ちょっとリィン!ホントのことってどういうことよ!」

 

リィンの言葉でⅦ組に笑いが起きる。

あぁ、この人こんな扱いなんだ。

 

「どうせ、私はなまけものですよー。」

あ、いじけた。

 

「ええと、サラ教官。何かあったから遅れたんですよね・・・?」

 

「ええ、そうよ委員長ちゃん!」

この人立ち直るの早いな。

 

「今日はなんと転入生がくるわ!!」

 

 

「「「まぁ知ってましたけどね。」」」

クラス全員が同時に言葉を発する。

 

「ガクリ」

 

「ま、まぁ、あんな大きな張り紙が校舎前に貼ってあるわけですしみんな知ってますよ。」

 

 

「ま、いいわ。入ってきなさい。」

 

「やっほ~~。Ⅶ組のみんなよろしく~~~。」

ミントは元気に挨拶をするがⅦ組の面々は唖然としたような表情をしていた。

そりゃそうだろう。

 

 

だってミントの後ろから入ってきた僕は縄で捕縛されているんだから

 

 

「ええと、ムンク・・・?どうしたんだ・・・?」

黒髪で妙にツンツンした髪の青年が話しかけてきた。

あ、見覚えあるな・・・ええと

 

「あぁ、リィン久しぶり・・・。いやこれには深いわけが・・・。」

 

 

「違うでしょ。」

サラが僕の頭をパシンと叩く。

 

「いや、この子噂通りのサボり魔ね。いきなり全力疾走で逃げ出すんだもの。」

 

 

「「「あ、あははは・・・・」」」

Ⅶ組の面々は顔を引き攣らせて苦笑い。

だってしょうがないじゃない。Ⅶ組の授業なんてめんどくさそうだもの。

 

 

「とりあえず、みんなよろしく・・・。」

 

「あら?ラウラ立ち上がってどうしたの?」

腰まで伸びた髪をひと括りにしている青髪の少女がいきなり椅子から立ち上がった。

あれ?目に見えてはいけないお方がいる気がするんですけど・・・。

やばいやばいやばい

Ⅶ組といえばラウラがいたことをすっかり忘れていた!!??

 

「久しいなムンク。其方の怠けぶりは聞き及んでいる。ここのクラスに所属する以上今まで通りに過ごせるとは思わないことだ。」

 

 

「ひぎゃああああああ!!」

あまりの恐怖にホラー風に叫ぶ僕。

クラスの面々はそんな僕にまたしても苦笑いするばかりで・・・。

なに、そんな苦笑い好きなの?

 

 

とまぁ縄で縛られるなどバイオレンス極まりないこともあったが僕のⅦ組初日はこんな感じで過ぎていった。

ただ、これから先の学園生活に僕の夢の堕落生活はないのだと分かると不思議と涙が出てくるのだった。

はぁ・・・。

 




疲れた・・・・回を重ねるごとにどんどん駄文になってる気がする・・・
Ⅶ組って登場人物多いからやりずらいっす
というわけで批評感想募集でーす


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状況の変化とこれからのあれこれ

最新話です。
やっと!やっとフィーさん登場!!
(ごめんね忘れてて)


「やはりフィー。我らは合わないようだ。」

青髪の少女は冷めた瞳で銀髪の少女を睨みつける。

その目はどこか落胆していて、そして責めるような瞳だ。

 

「・・・・・・」

それに対して銀髪の少女は悲しそうに、俯くだけだった。

 

 

7/17

午前中の睡眠という名の座学の授業が終わり昼休み。

最近厄介事の波に溺れそうである僕の数少ない休息である。

特に弁当などのものは作ることはないので適当に購買でパンを買い腹に押し込む。

当然であるがお腹が満腹になると何故か眠くなるよね。

 

眠くなった僕は最近のお気に入りである学院の中庭に移動する。

中庭には三人が腰けれるぐらいの長い椅子が設置されており横になって寝るのに最適なのだ。

 

「よっこらせっと。」

少しじじ臭いと感じる言葉を発して横になる。

あ~~幸せ・・・

食べた後に寝るのって何でこんなにも気持ちいいんだろうね?

もう、このまま寝て午後の授業はサボろうかしら。

 

 

 

「んあ・・・?」

けたたましい鐘の音に気づき眠気が覚める。

どうやら寝てしまっていたらしい。今は何時ぐらいだ?

 

「・・・・。」

 

いやそんなことより気になることがある。

 

 

何故か僕は地面に落ちていた。

 

 

どういうことだろうか?

寝相が悪い?いやそれはない。なぜなら僕の寝相は相当いいからだ。寝るとほとんど反応がないらしく死んでいるみたいだと評判がある。

自分が寝ていた椅子の方に目を向けるとそこには銀髪のやや幼目の女の子がいた。

 

 

「ん。ここ私の特等席。」

僕が起きたことに気づくと半眼でここは自分の縄張りだと主張する。

 

 

「え・・・いや、もう一個椅子あるんだからそっちで寝ればいいんじゃ・・・。」

ふざけたことに僕を地面に落とした犯人はこの子らしい。

というか地面に落とされて起きなかった僕もすごいな。

 

 

「ん。ここ私の」

あくまでこの椅子を譲る気はないらしい。

 

仕方なく反対側にあるもう片方の椅子の方に移動して横になる。

 

太陽の位置を見るともう昼過ぎか・・・。

授業はサボることにしよう。僕は悪くないよ?眠気がいけないんだ。

 

フィー・クラウゼル。

それが僕の反対側の椅子で寝ている少女の名前だ。

彼女はⅦ組の一員で、誠に遺憾ながら僕もつい先日Ⅶ組に入れられてしまった。

お互い特に面識はない。

 

だがクラスメイトになった以上見えてくることも少なからずある。

Ⅶ組に加入してからだがラウラとフィーの仲がハッキリ言って険悪だった。

正直驚いた。

なぜならラウラという人物は誰かを嫌うという行為をあまりしない人物だと思っていたからだ。

人あたりがよく人望があり、時に厳しくそしてそれ以上に優しいというのがラウラの学園における姿だった。

まぁ、僕にとっては鬼にしか見えないんだけどね。

 

 

「聞かないの・・・?」

 

「あ・・・え?」

いきなり声をかけられたせいで声がどもってしまう。

仕方ないじゃない、あまり人と話さないんだからー。

 

 

「ラウラとのこと・・・。」

 

 

「あー、うん。正直聞いていいのかどうか・・・。」

人にはそれぞれ事情があるわけで、しかもⅦ組に加入して一日ぐらいしか経ってない僕が聞いていい内容ではないと思った。

 

「ん、同じクラスである以上どうせバレることだから。私は元傭兵だったの。」

 

いきなりのカミングアウトに驚く。

傭兵ってまじか。小説中だけの存在だと思ってました。

ただ、なんとなくだが納得した。

ラウラはバリバリの騎士道精神とか掲げるタイプの人間だからおそらく傭兵というものが許せないのだろう。

だからここまで険悪な状態になってるのか。

人間関係って難しいね

 

 

 

「驚かないの・・・?」

 

「え、いや。驚いてはいるんだけどいまいち実感がね・・・。」

正直いきなり傭兵とか言われても実感が沸かない。あまり関わったことないしね。

 

「ふぅん、変わってるね。」

そういってフィーはくすりと笑う。

 

「普通だったら怖がったり蔑んだりするのに。」

 

 

「うーん、でも元でしょ?それに傭兵だからって人が変わるわけでもないしなぁ・・・。」

正直ここら辺の疑問は理解できない。

結局はその人であって肩書きではないと思う。

傭兵にもいい奴はいるし嫌な奴もいる。それぐらいの差しかないと思うのだ。

 

「ほんと変わってるね・・・。」

フィーは何か変わったものを見るような目で僕の顔をマジマジと見てくる。

断っておくが僕は珍獣じゃないぞ。

 

「でも、ありがと。私のことを傭兵のことを否定しないでくれて。私のいた傭兵団は私にとって家族みたいなものだったから。」

フィーはどこか嬉しそうに微笑む。その顔はどこか寂しげであり、どこか暖かさを感じるものだった。

 

 

あの後だがフィーは遅れながら授業に参加しにいった。

僕は当然ながら僕は中庭で睡眠を続行したのだが、途中でラウラに捕縛され挙げ句の果てに椅子に縄で縛られて授業を受けさせられたという。

もう色々ツッコミどころがありそうで何言えばいいか分からないけど、僕がドMとか変な噂立たないよね?

 

 

 

「はぁ~~~、今日も散々な日だった~~~。」

チャイムが鳴り響き今日も一日の終わりを告げる。

体が無駄に疲れているのは気のせいではなく授業中寝れなかったからだ。

だって寝るとラウラが殴ってくるんだもん・・・。

ちくしょー、僕はラウラみたいにやる気は皆無なのになんで授業をまともに受けなきゃいけないんだ・・・

今教室にラウラはいない。授業が終わるとそそくさと帰ってしまった。やはりフィーと険悪になっているのが原因なのだろうか。

フィーも教室には居づらいのかすぐ出て行ってしまった。

机にうつ伏せになってる自分の体を起こし椅子から立ち上がる。

 

 

「お、ムンクもう帰るのか?」

教室を出ようとした僕にリィンが話しかけてくる。

 

「帰るよ・・・凄い疲れたし・・・。」

 

 

「いや、普通に授業受けただけだろ・・・。」

リィンは頬を人差し指でポリポリとかき困惑した表情となる。

こいつわかってないな。僕にとって授業というものがどれだけ苦痛なのかということを。

 

「いやいや、それが疲れるんだよ・・・。」

 

リィンと会話しているとⅦ組の男子一同がぞろぞろと集まってきた。

「あはは、ムンクは変わっているね。」

エリオットが僕を見て苦笑いする。

 

「あぁ、あまりみない個性的なタイプだ。」

エリオットの言葉にガイウスが頷く。

 

「ふん、ただの怠け者だろう。」

ユーシスは半眼で呆れたようにため息を吐く。そんな冷めた目で見ないでよ、心が折れる。

 

「君、ハッキリ言うな・・・。それとムンク、君ももう少し真面目に授業を受けたまえ!」

 

「うー、説教はラウラで十分だよぅ・・・。」

マキアスの説教に思わず耳を塞ぐ。最近はラウラにこってりと絞られているのだからこれ以上聞きたくない・・・。

 

「うぐっ、確かにラウラには可哀想なぐらい怒られているが・・・、いやしかし、それは君のせいだぞ!君さえ授業を真面目に受ければ・・・」

 

「まぁまぁ、ムンクもⅦ組にいきなりの所属だし色々疲れているんだろうし多めに見てあげてよ。」

エリオットが説教モードに入ったマキアスを静止させる。エリオットっていい奴だな・・・。

 

 

「とりあえず疲れたからもう先に帰るよ・・・。」

 

 

「あぁ、また明日なムンク。」

 

 

 

――――

廊下を歩いていると前にいきなり人影。

「やぁやぁ、ムンク君調子はどうですか?」

 

「えっと、トマス教官?」

うわぁ・・・この教官苦手なんだよなぁ・・・。

男にしてはやや長めに伸びた髪の毛に綺麗な弧を描く口元。そしてなにより特徴的なのが抜けているというか、間抜けに感じさせてしまうやや大きめの丸めがね。

この教官は帝国史の授業を担当していて、まぁとにかく話が長い。そして細かすぎて意味が分からない。

当たり前の話しながら、僕はこの教官の授業は5分も持たない。

だって、この人の話退屈で眠くなるんだもん。もはやこの人の授業は睡眠導入剤といえよう。

 

 

「ムンクくん少し話していきませんか?」

 

「あ、いや・・・疲れているんで・・・・。」

無難に断る。疲れてなくても断るけどね。

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずにちょっとだけですから。」

にっこりとどこかつかみどころのない笑顔を浮かべる。

 

「いやだから・・・」

 

パチンッ

 

 

「んな!?」

冗談でも比喩でもなくいきなりあたりが真っ黒になった。

真っ黒な空間にほんの少しだけ弱々しい明かりがついていてそこに僕とトマス教官が二人だけポツンといる。

 

は?いやこれはどういうことだろうか?

あまりにもいきなりすぎる展開で頭が停止してしまう。

 

 

「は・・・?え、いや・・・へ!?」

 

「アハハハ、いい反応ですねぇ!」

動揺しまくる僕とは逆にトマス教官はどこまでも落ち着いている。

そしていつもにこやかに笑っているその目は鋭く見開かれていてどこか冷たさすら感じさせてしまう。

そう考えると――

 

「これはアンタの仕業か・・・。」

 

 

「あ、バレちゃいましたぁ?」

 

 

「とまぁ、冗談はさておき。先に名乗りましょう私は七曜教会・聖杯騎士団所属守護騎士第二位。《匣使い》トマス・ライサンダー。それが私の正式な身分と渾名です。」

 

 

「聖杯騎士団・・・・!?」

 

 

「あれ?知ってました?これかなりの極秘事項なんですけどねぇ・・・。まぁ、アインとのつながりがあるのですから知っててもおかしくないですが。」

 

 

「アインさん・・・?アインさんは今どこに!?」

 

 

「それはわからないですよ~。あの人は神出鬼没ですし。貴方ですら会えないのに僕が会えるわけないじゃないですか~。」

 

「あぁ、うん。そうだよねぇ・・・。」

納得。あの人の足取りがそう簡単につかめるわけないよなぁ・・・

 

「おっと話が横道にずれましたね。今回わざわざ能力まで使って接触した理由はちょっとした忠告です。先日の旧校舎とⅦ組関連のね。」

 

「何が言いたいんですか・・・。」

トマス教官の言いように顔が強ばる。

 

「ええ、まず単刀直入に言いますとⅦ組にあなたとミント嬢を入れさせたのはこの僕です。」

 

「は・・・・?どういうことだよ!!!?僕はともかくミントはどう言う意味だよ!!」

 

 

「『僕はともかく』ですか・・・。いやいや自覚があってなによりです。そう、あなたの力は異常でありこの帝国においてイレギュラーだ。この先を考えるといささか認識不足が否めない。」

 

「話をそらすな!!ミントをどうしてⅦ組にいれた!!?そしてなんで僕の力を知ってる!!?まさか旧校舎での一件見ていたのか!?」

何もせず旧校舎の一件をただ静観していただけと言うならば大きな問題だ。ただ僕の力を見るためだけに複数の生徒を見殺しにしたということになる。

 

「まぁまぁ、そうたて続きに質問されては答えれませんよ。まず一つ旧校舎の件については本当に申し訳ありませんでした。あの時何故か私はあの旧校舎にはなかなか入れなかったことを差し引いても私の監督不届きです。」

トマス教官は謝罪の意で頭を深く下げる。

そこまでされては流石にバツが悪い。

 

 

「それとミント嬢のことですが・・・言いづらいことですがおそらく体のいい人質ということなのでしょう。」

 

 

「ふざっけんな!!!!!!!!!!!」

思わず叫ぶ。

人質だと・・・?

ふざけているのか?単なる学生なのに?なんであいつがそんな目に会う必要がある。

今にも殴りかかろうとしそうな腕を必死に抑えてトマス教官を睨みつける。

感情が今にも爆発しそうだ。

 

 

「いや、これに関しては私も反対したのですが・・・上は牽制にもなると・・・。それにもともとミント嬢には高い魔導の素養がありました、学院で一位二位を争うレベルの。元々ミント嬢がⅦ組に加入する話は出ていたのです。」

 

 

「くそっ・・・。上ってことはあんたじゃどうにもできないってことか・・・。」

上って言葉が出た以上おそらく現状は何も変えることができないということだろう。

トマス教官はあくまで上の支持を受けただけで何かを変える権限はないということなのだろう。

 

 

「おや、以外にも冷静なんですね。とにかく今回話し合いの場を設けたのは君に今の現状を理解してもらうためです。あなたの力はあまりにも異質で警戒されているいうことを肝に銘じておいてください。」

 

勝手に話をまとめられたがどうにも煮え切らないことだらけだ。頭では理解しても心が反発する。

 

「とりあえず今日はお開きにしましょうか。」

 

 

「ちょっと、まて!ま―――」

 

パチンッ

 

トマス教官が指をならすとすでに自分は黒い空間ではなくもとの学院の廊下に戻っていた。

いきなり明るい空間に出たということもあり光が妙に眩しく、少し目眩を感じてしまう。

 

「それではムンクくん、さよなら。授業中は寝てばっかじゃダメですよ~学生の本分は勉強なのですから。」

「うぐっ」

そういうとトマス教官は背を向け職員室の方へ行ってしまった。

 

いきなり色んなことを聞かされたいうこともありその場で立ち尽くしたまま頭の整理を行う。

要は僕の力は警戒されていて、その抑制としてミントが送られたということか。

内容を頭の中で確認するだけでもハラワタが煮えかえりそうだ。

 

あぁいいさ。あまりこういうセリフはキャラではないがあえて言わせてもおう。

 

「上等だよ、トールズ士官学院。もともと何かあるからこの学院に来たんだ。何を考えてるか分からないけど立ち向かってやるさ。」

 




さぁ、物語がどんどん動き始めてきました。今後ムンク君はどうなるのでしょうね?
ただ一つ言えることは彼に安息の場所はない。

あ、後勘違いして日にち間違えてました修正しときます


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ムンクと変態と変態と・・・

すいません、期間あきました・・・


「うーん、慣れると意外と苦痛でもないや。」

 

「いや、慣れちゃいけないと思うんだが・・・」

 

椅子に縄で括り付けられた僕を隣に座るリィンがまるで未確認生物でも発見したのではないだろうかという顔になっている。

その顔で僕を見ないで。

 

「ムンク、其方はどこまでもそうなんだ・・・」

 

僕の斜め前に座る青鬼(ラウラ)が頭を抑えてる。

この程度で僕を正せると思うなよ。

 

僕がⅦ組に加入して早3日。

もう、僕が椅子に縄で括り付けられているのは日常風景とかしてしまった。

おかしいだろ、誰かつっこめよ。

こいつら順応高すぎ。

 

ミントに至っては

「あはは、なんかムンク君拉致された人質みたい!」

この有様である。くっそ、覚えとけよ。

 

僕は授業中寝てしてしかいないと憤慨したラウラは僕を寝ないように椅子に縛り付けた。

おかげで寝ずらくてしょうがない。

 

 

 

 

「んあ?もう放課後か・・・」

眠気がかなり残った混濁した頭を左右にふり眠気を緩和させる。

椅子に縛られようが授業中寝れるのだ。

あたりを見回すと教室には橙色の日差しがさしこんでいてすでに放課後だと言うことが分かった。

縛られたところで僕の睡眠を遮れると思うなよ。

 

「って!あれ!?僕縄に縛られたままじゃん!?」

 

え、これまじ!?ぼくこれ帰れないじゃん!?

どうすんのこれ!?

 

「だれかーーー!!だれかいないのかーー!!!」

 

叫んだところで放課後に人がいない教室ということで誰も反応しない。

 

「おう・・・神は我を見捨てたか。」

 

ガララッ

 

「おっ!?」

 

神は見捨てなかった!?

 

「む、ムンクか?こんな時間に教室で何をやってるのだ?」

 

教室に入ってきたのは凛とした雰囲気を放つ青髪の美少女。

つまり、ラウラ。

 

ぎゃあああああ!!!

 

もう、むちゃくちゃ嫌な予感しかしない。

 

「というか、何をしている?じゃないよ!!お前が僕を椅子に縛り付けてたんでしょ!!?」

 

「む、そう言えばそうだったな。それはすまなかった。」

 

あれ?すんなり謝った?

もっとこう説教的なことされると思ったのに。

 

ラウラは縄をスルスルと解く。

 

「んー、やっと解放だぁ。」

 

長い間縛り付けられたせいか痺れている身体を伸ばす。

 

「ムンク、この後はどうするのだ?」

 

「へ?」

 

「だから、この後はどうするのだ?良ければ一緒に帰らないか?」

 

 

 

「何をそんなビクビクしているのだ?男ならもっと堂々としたほうがよいのではないか?」

 

 

「え、まぁ、ね。あ、あはは。」

 

それは君に怯えてるからね。

何故か僕は今ラウラと一緒に下校している。

ラウラはどこからどう見ても美少女だ。

はい、うらやましと思った奴。今すぐ変わってくれ。

美少女と一緒に帰れるのは男のロマンだと言うことは認めよう。

ただ、ラウラとなると別だ。

正直日常的に制裁とか強制とか言われて暴力を受けているから恐怖しか湧いてこない。

まじで、誰か助けて。

もう、獅子に睨まれたありこんこみたいなね?

 

「其方はもう少し真面目になるつもりはないのか?」

 

「そんなこと言われてもなぁ・・・僕にやる気を出せってことは魚に陸上生活しろって言うぐらいのものだよ?」

 

「そんなに!?」

 

ラウラは驚愕するがこれが真実なのです。

魚は陸上では生活できないのです。それと同じで僕にやる気は出ないのです。

 

「全く・・・其方は何故この学院に来たのだ?」

ラウラは呆れたように半眼で視線を投げる。

 

「うーん。無理矢理いれられたというかなぁ。うん、まぁ、そんな感じ。」

 

「そんな理由で学院に・・・其方は目標とかはないのか?」

 

「目標・・・目標か。そうだなぁ、しいていうなら帰りたいかなぁ。」

そう。帰りたい。

いつだって僕は忘れない。この胸を掻き毟るような、焼き尽くすような思いを。

 

「?帰りたいなら帰ればよいではないか。」

 

「あ、あはは、まぁ、色々とわけがあってね。凄い遠い所にあって今は帰れないんだよ。」

 

ラウラはいまいち要領の得ない僕の話に疑問符を浮かべる。

「?では卒業後は故郷に帰るのか?」

 

「うん。出来ればそのつもりだよ・・・」

出来ればの話だが。

 

「そうか、それでは卒業後はあまり会えなくなるのだな。それは少しさみしいな・・・」

 

ラウラは少し俯き、その顔は少しさみしそうなものだった。

不意に見せられた表情に虚をつかれる。

 

「む、どうしたのだ?そんな口をあんぐりと開けて。私は何かおかしいことを言ったのか?」

 

そんな僕を見てラウラは首を傾げる。

 

「くくくっ いや、なんでもない。」

自然と笑みが零れる。

なんとも真っ直ぐな子だ。

こいつらはほんとまっすぐでいつも予想外に僕の心を穿つ。

 

「むぅ・・・人を笑うのは失礼だぞ。」

ラウラは頬を膨らませて不満顔を作る。

またそれが笑みをこみ上げさせてくる。

 

「こら!ムンク笑うな!!もうよい!」

そんな僕をみて憤慨したラウラは早歩きで僕をおいて行くように歩き出す。

 

 

「ちょ、ちょっと待って・・・むがが。」

 

 

 

「ん?ムンクはどこに行った???」

ラウラは振り向くとそこには先程までいたムンクの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

「ん?ここは・・・?」

目を開けるとひたすら真っ暗だ。

おかしい・・・僕は確かラウラと一緒に帰っていたはずじゃ・・・

というかここどこ!?

暗くて何にも見えない。

 

 

「うっ 眩しい・・・」

いきなり明かりをつかられたせいで目が開けれない。

徐々に視界が回復し出すと何やら僕はまた椅子に縛り付けられていた。

え、また?

 

あたりを見渡すとここは学院の教室の一つだと言うことが分かった。

何故か僕を中心に机が円形に並べられている。

いやまじでなにこれ。

何より可笑しいのがなんか怪しげな魔術師みたいなマントを被ってるんだけど。

 

「これより第一級犯罪者の審議を行います。」

 

 

「へ?いや、え?」

 

 

「ぶん殴らせろーー!!」

 

「いや!拷問だ!!」

 

「オネイサマニチカヅクモノシアルノミ・・・」

蠢くなんか不気味な奴ら。

いや、もうイミワカンナイ。

 

「静粛に!静粛に!処刑は審議の後です!!」

 

 

いや、なにこれ。

一つ言わせてもらいたいんだけどさ、なんで処刑が前提?

 

「おや?どうしましたゴミカス?」

 

全く誰が呼ばれてるのかは分からないがひどい呼ばれようだなぁ。

ゴミカスなんて人に呼ぶ言葉じゃないよ。

「答えなさい。ゴミ屑!!」

 

パシンッ

 

「いたぁ!?って僕!!?」

思いっきりビンタされました。

どうやら僕はゴミカス呼ばわりらしい。

ひどい。

 

「僕が一体何したっていうの!?

というか君たち何!?」

 

 

 

「ふふふっ いいでしょう冥土の土産に答えてあげましょう。」

怪しげな集団は不敵な笑みを浮かべる。

というか僕冥土に行かされてしまうのか・・・

 

「誰よりも深くお慕いしております!!」

 

「「「「「お姉様!!!」」」」

 

「いつも背後より!!」

 

「「「「「お守りいたします!!」」」」」

 

「男はこの世に!!」

 

「「「「「不必要!!」」」」」

 

「この身の端から端まで全ては!!」

 

「「「「「あなた様のために!!」」」」」」

 

 

「「「「「我らトールズ支部ラウラ親衛隊!!!!」」」」」」

 

 

「ふふん。」

この怪しげな集団の真ん中にいる人物が誇ったように鼻を鳴らす。

 

あー、うん。いや、うん。

 

なにこれ。

とりあえず変態集団ということしか分からない。

 

「このウジ虫が。そろそろ自分の犯した罪を理解しましたか?」

 

「いや、全然意味わからな・・・へぶっ!?」

また、ビンタされた。

 

「全く、ほんとこの害虫は救い難いですね・・・。」

 

「ははっ モニカ嬢ここは私めに説明させてはいただけないでしょうか?」

 

「分かりました。」

というかこの二人見覚えがあるよ。一人はモニカという名前で確かラウラと同じ水泳部に入っている女子生徒。

もうひとりは確か、吹奏楽部の部長クレインだったはず・・・

 

「やぁ、ムンク君。僕が君の犯した罪を説明してあげよう。」

 

「いや罪ってなに?っていうか君も男じゃん!!」

 

「物事例外はつきものだよ。ラウラ親衛隊に男はその心の潔白性を示せば入れるのさ。」

 

いやルールガバガバじゃねーか。男は不必要じゃないのかよ。

だいたい僕の罪ってなんだよ!毎日自堕落に過ごしている僕に罪も糞もないだろ!!

うむ。よくよく考えたら僕に落ち度は全くないな。完璧無欠だな、うん。

その胸を伝えるとクレインは深くため息を吐く。

え?何か間違っていた?

 

「やれやれ君は本当に救いようがないね・・・いいかい君の罪はね!!」

 

「「「「ラウラ様の半径三十センチに近づいてること!!!」」」」

 

ポカーンと思考が停止。

 

何こいつら。とても関わりたいと思えない変態集団だよ。

街中で見かけたら誰も近寄らないだろうし、通報されることだろう。

というか誰か今すぐ通報してくれ。

 

「そもそもクラスメイトとか男いるでしょ・・・」

おかしくない?なんで僕だけこんな目に?

 

「節度ある付き合いならいいんです!!ただゴミ虫!!あなたは違います!!」

目の前のモニカは獣のように発狂する。

ある意味ホラーだよこれ。決して子供には見せられない。トラウマ確定となるだろう。

 

「あなたはその堕落しきった生活態度のせいでラウラに迷惑をかけ!なにより・・・」

 

 

「「「誰やりも多くラウラ様に関わってもらっている!!!殺したいほど妬ましい!!!!」」」

 

目の前の変態集団が殺意を言葉にし発狂しまくる。

ダメだ、こいつら誰かなんとかして・・・

 

「モニカ隊長!!こいつを殺させてください!!」

 

「もう我慢できません!!!」

 

「モニカ隊長!!!」

 

 

 

「その判決ちょっと待ったあああ!!!」

バンっと勢いよく開けられたドアの先には見慣れた顔があった。

普段はウザいと思えるぐらい明るい自信に満ちた表情は今や頼もしく見える。

 

「み、ミント!!」

 

「助けにきたよ、ムンクくん!!」

 

どうやって僕の危機を察したのかは分からないがこの状況では普段トラブルメーカーであるミントは女神に等しい。

え?普段あんなにボロクソに言ってる?ソンナジジツナイヨ。ミントハメガミ。

 

 

「おや?ミント君じゃないか?」

 

「ほえ?部長じゃないですか~こんなとこで何やってるんですか?」

そういえばクレインとミントはお互い面識があったのか。以前同じ吹奏楽部だとミントが言ってた気がする。

 

「ふふ、しいていうなら穢れ無き乙女の守り手をね。」

どう見たらラウラがそう写るんだろう?眼科いけよ。

よくて猪でしょあんなん。

 

 

「おお!流石ぶちょー!すごいですね!!」

あれ?なんかこの流れマズくね?

というかミント・・・何が凄いかも分からないのに凄いと褒めるとかどんだけスカスカな会話・・・。

君の頭のなかはスッカスカなの?

 

「ふふ、よければミント君、君も誇り高き我らの一員にならないかい?」

どこに誇りがあるのだろうか・・・。仮にあったとしても僕なら殴り捨てる。

 

「い、いいんですか!?ぜひ!ぜひ!」

 

「しかも三食おやつ昼寝付き!!!」

 

その言葉にミントに稲妻が走るようなエフェクトがかかる。

ミントの目は心なしか潤んでる。

「部長・・・アタシ一生ついていきます!!」

 

「アハハハハ!!さすがミント君だ!これから我らは同士だ!!」

 

「同士だ!!」

クレインに合わせてミントも叫ぶ。

 

「いやいやいやいや!!?君は僕を助けに来たんじゃないの!?」

 

 

「ムンクくんごめんね・・・。私たち敵どうしだから・・・。」

いきなりミントは目を伏せ悲しげな表情演出させる。

いや・・・そんなばりばりバトル小説みたいな雰囲気出されても困るんだけど・・・。しかも中身が驚くほどない。

 

 

「処刑・・・」

怪しげな集団の一人がぼそりと呟く。

 

「処刑・・・処刑・・・」

一人から始まったコールは瞬く間に広がり・・・

「処刑!!処刑!!処刑!!処刑!!」

いつの間にか始まった処刑の大合唱。その合唱にミントが加わってるのが解せぬ。

 

 

「これはもう判決を下すまでもないですね・・・。早速ですが死刑を執行します!!」

 

 

「うおおおおおお!!!!」

 

 

 

「その死刑待った!!」

また勢いよくドアが開かれた。

 

 

「き、貴様は!!第一級危険指定人物!!アンゼリカ・ログナー!!!」

 

 

「なるほどわざわざ自己紹介をする必要はないようだ。」

 

「何をしに来たんですか!!」

モニカがアンゼリカをまるで親の敵かのように睨みつける。怖い。

 

「あはは、私も嫌われたものだね。なに、挨拶さ挨拶。」

爽やかに笑っているが強烈な威圧感を放ってくる。

爽やかな笑顔の下に隠れた凄まじい威圧に一同はゴクリと喉を鳴らす。

「宣戦布告というね。」

 

その言葉を火蓋に乱闘が始まった。

アンゼリカvs変態集団。

もうなにこれ。

 

「ふふ、後輩君。何が何だか分からないって顔してるね。」

 

「あ、はい。」

十数人にもよる猛攻を軽く受け流しながらアンゼリカは僕に話しかけてくる。

いや、この人なんでこんなにも涼しげなの?

 

「前々から彼女らのことは警戒していたのさ。しかし随分と硬直状態が続いてね。」

すごいよこの人。蝶のように舞って攻撃を躱している。

 

「あまりじれったいのは好きじゃない。はっきりと言わせてもらおう!」

 

ラ ウ ラ 君 は 私 の も の だ !

 

そのあまりにもどうしようもない宣言はモニカの心の導火線をいとも簡単につけた。

「アンゼリカアアアアアログナアアアアア!!!!!」

モニカの表情はまるで鬼みたいだ。というかこの子、鬼とか悪魔に魂を渡しているのかってぐらい人間離れした表情と動きしてる。

 

 

「あ!いった!?」

誰だよ!俺を殴ったのは!?

 

「いった!?へぶっ!?だからいたいって!!」

乱闘のさなかど理不尽に暴力が雨のように飛んでくる。

 

 

「くぅっ 中々!!」

 

「とっととくたばりなさい!!!」

 

僕がボコボコにされている間に行われていた戦闘は凄まじいものだった。

モニカとアンゼリカ。

当然先輩ということもありアンゼリカに分がある。いや、それを差し引いてもアンゼリカの技量は凄まじいもので並大抵の力では相手にもならない。

が 今押しているのはモニカ。

 

「しっ しっ しっ」

凄まじい拳打の連撃。

拳が受け止められれば体をひねって蹴りを飛ばす。それも受け止められれば今度は頭突き。

止まらぬ連撃に思わず見とれてしまう。

 

 

「覚悟―――!!!」

「どわああ!!?」

 

見とれているといきなり鈍器が目の前をよぎった。

「ってミント何すんだよ!!!」

 

「私たち敵どうしだからね!!」

その設定まだ生きていたのか・・・

 

「というか、おかしいだろ!!君は僕を助けに来たんじゃないのか!?」

 

「ほぇ・・・?あれ?どうして私ここにきたんだっけ・・・?」

 

もうね・・・。あまりの馬鹿さ加減に呆れる。

 

「あ!?ムンクくん危なっーーー」

「へっ?」

 

目の前には拳が物凄い勢いで迫っていて・・・

 

 

 

後日談ではあるが、この事件の収拾はマカロフ教官がつけたらしい。

その場は丸く収まったが彼らの戦いは影では続いているという。

当然のごとく気絶した僕は保健室にいた。

ベアトリクス教官に保健室の常連扱いされていたのは地味にショックだった。

今回の事件で分かったことと言えばこの学院には変態しかいないということぐらいだ。

「はぁ・・・。」

自然とため息がでる。

気のせいと願いたいがここ最近ため息しついていない気がする。はぁ・・・・

 



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はじめての実技テスト

「へぇ~昨日そんなことあったんだ。」

 

「あ、あはは相変わらずすごい他人事って感じだね。」

エリオットは眉を潜めて苦笑い。

 

「というかムンク昨日は何をしてたんだ?」

リィンが呆れたように聞いてくる。

 

「うーん、多分そのぐらいの時間は爆睡してたはず……」

 

まさか爆睡してた間にそんなことが起きていたなんて思いもしなかった。

昨日のことだ。

なんでもリィンの妹がこの学園にきて、旧校舎にて正体不明の化け物に襲われたらしい。

幸い妹はリィンとクロウによって助けられ無傷だとか。

ここで頑張って僕が助けたら例の妹はヒロイックサーガみたいな本のヒロインみたいになってたかな?いや、考えるだけ虚しいからやめとこう……

 

「僕が寝ている間に色んなことがおきたんだなぁ…」

 

「というか貴様随分と余裕そうだが実技試験はさぞ自信があるようだな?」

 

ユーシスが皮肉を込めた言葉を放ってくるがそれよりも気になることが一つ……

「実技試験?なにそれ?」

 

 

 

 

「うぎゃああああ」

 

宙を回転しながら華麗に舞う一つの人体。

先に一つ言おう。

普通人は宙を舞わない。

 

「あら、情けないわねぇ。大げさだわぁ」

開放的な格好をロングコートに一張羅に包んだお姉さん系の女性は困ったように苦笑い。

普通人をぶっ飛ばしたらそんな反応しないでしょ、心配しろよ。

 

 

 

「あなた、もうちょっと頑張りなさいよ~これじゃ張り合いがないわぁ。」

 

「そ、そんなこと言われてもですね、サラ教官……」

張り合いって、あんたもう人間の動きやめてますって。

ライオンのごとく獰猛に大地を縦横無尽するあなたに叶う人はいません。

そんなんだから結婚できないんだ。

口が避けても言葉にはしないけど。

 

「それで?貴女達はまだやれる?」

 

「当然だ!」

「ん。愚問。」

青髪と銀髪の少女はサラ教官を強い瞳で睨み返す。

僕だったら当然目をそらす。だって怖いし。

 

 

 

 

いきなり試験とか言われてラウラとフィーという絶賛仲違いしている地獄のチームに放り込まれ、試験内容はサラ教官と戦うというとんでもないものだった。

 

―――回想

 

「今日は新人もいるから、実力試しも兼ねて全員アタシと戦ってもらうわよ!!それじゃまずラウラ、フィー、ムンク入って!!」

今回はサラ教官との戦闘だが実技試験は毎回やることが違うらしい。

聞いた話によれば戦術殻という人形を使うことが多いらしい。

というかサラ教官と戦闘って嫌すぎる・・・。学内ではその教師らしからぬ格好や行動につい目がいってしまうが、実力はあのナイトハルト教官に劣らずとも凌ぐとも噂されている。

 

その上ラウラとフィーが同じチームとまで来た。普通の状態でも嫌だが今は尚更嫌だ。なにせラウラとフィーの関係は今最悪。特に表立って喧嘩するわけでもないがこの二人から出ている攻撃的な雰囲気は胃に悪い。

しかも、いつもひどい僕に対するラウラの説教が二割増という。悪いことずくめだ。

 

「それじゃっ!とっとと始めるとしますか!ムンク!どのぐらいやれるか見せてもらうわよ!!」

サラから凄まじいプレッシャーが吹き上げる。

右手には身の丈近くあるロングブレード、左手には魔導銃。

サラの戦闘は見たことないがその武器を見ただけで恐ろしさを感じてしまう。

 

最初に動いたのはサラ、左の魔導銃でフィーを牽制しつつ、ラウラに突進。

当然ラウラはその大剣で迎え撃つが弾き飛ばされ一瞬宙に浮く。

 

「ダブルアーツ!」

精神を集中させアーツを駆動させる。

エアストライク!

 

不可視の風の塊がサラに向け走る。

サラは最小限の動きで回避するが、放ったのは一発ではない。二発目は一発目とは時間差攻撃になるよう少しだけ遅らせて発動させてある。

風弾はサラの脇腹めがけて―――

 

バン!

だがサラはなんの苦もなくロングソードで叩き落とした。

 

だが目論見は成功だ。もともと攻撃のために放ったわけではなく、ラウラの体制を立て直させるために放ったものだ。

 

「へぇ・・・使い方は上々ね。じゃあ、まず厄介なアンタから潰さなきゃね!!」

 

 

そして僕はいつの間にか宙を舞ってたわけである。

以上回想終わり。

え?想像していたより短かすぎる?

サラに潰すと宣言された次の瞬間には望まぬお空のお散歩を強要されたわけである。

まさに瞬殺。

残ったフィーとラウラは諦めず抵抗するが、二対一という状況を上手く利用することができず僕ほどとは言わないがすぐ倒されてしまった。

 

 

――――

「はーい!それじゃ、評価の時間よー」

 

「概ねみんな及第点をあげれるわ。特にマキアスとユーシスは随分丸くなったわね。」

 

「き、教官!気持ち悪いこと言わないで下さい!」

「一瞬背筋が凍ったぞ……」

 

その時エマに電流走る!

こ、これは!?

対立するマキアスとユーシス……お互いの間にはいつしか友情が、そして……きましたわああああああああ!!!!」

 

「ちょっとエマ!何言ってるのよ!?」

 

「は!?あ、アリサさんわ、わたし今言葉に出してました!?」

そりゃ、おもいっきり。

 

「何故だろうな……最近よく悪寒をかんじるんだが。」

「あぁ、不本意だが貴様もか……」

哀れな子羊達だ……

マキアスとユーシスの回りの空気だけどんよりと淀んでいる。

まるで性質の悪い幽霊に出くわしたかのような顔だ。

そして、恐らくその悪寒は正しい。

恐らくだがこの二人が委員長の頭のなかに描かれた花園を見た瞬間、この世に絶望することだろう。

 

「はいはい!まだ評価の途中だから無駄口しない!」

 

「それで評価の続きね。ラウラ、フィー、ムンクあんた達はダメダメね。落第レベル。」

あちゃー。やっぱりだめだったかー。

といっても落第レベルとか言われて動じるほど僕の心は繊細でもない。

しかし、僕の特に気にしない態度を気にさわったのか……

 

「ムンク!前々から言っているがもっとやる気を出してもらわなければ困る!」

「ぶっちゃけサボりすぎ」

ラウラとフィーは僕を責め立ててきた。

いや、その通りだけど君ら今喧嘩中じゃないの?

僕を責めるときだけ意気投合しないでよ。

 

「いいえ。問題なのはあんた達よ。」

 

二人は思い当たる節があるのだろうかばつが悪そうにうつ向く。

この二人は個人のスキルでは頭一つとびぬけているのに連携が悪すぎた。

まさか、戦闘中アークスのリンクが切れるとは相当なレベルだ。

最近仲が悪いらしいからあたりまえだろうけど。

 

「ムンクはまだましよ。あんた達前衛の援護としてはそこそこではあるけど役割を果たしていたわ。」

 

「ぐっ」

「っ!」

 

そう。こんな僕だがちゃんと仕事はしていたのだ。

主にやっていたのはダブルアーツを使っての牽制。

後衛はあまり得意という訳でもないが適材適所というやつだ。このチームは優秀なアタッカーが二人いるのでわざわざ僕が前に出る必要はない。

 

「だからってサボりすぎね。最低限のことだけすればいいということでもないわ。

前に出れる場面もいくつかあったはずよ。」

 

おもいっきしばれてた。

いや、だって怖いんですもの。

適材適所とか選らそうに言ってたが、正直に本音を言えば前線で繰り広げられる人間の限界を超えたような戦いに混じりたくなかっただけです……

 

「はぁ、聞いた通りの子ね……やっぱりナイトハルト教官のとこに送り込んだ方がいいのかしら」

 

「そ、それだけは!?」

 

電光石火の土下座を繰り出す僕。プライドなんて異次元に放り投げました。

回りの7組の面々はドン引きしているがそれどころではない。

ナイトハルト教官みたいな鬼教官のところに送り込まれたら登校拒否になる自信ある。

 

 

「冗談はそこまでにしておいて特別実習の発表するわよ。」

 

「へ?なにそれ。」

さっきから知らないことばっかりだ。これだから7組には加入したくなかったんだ。

めんどくさそうなことがたくさん。

 

「ムンクくん、このクラスに所属される時いわれたじゃない?」

 

ミントがこっそり耳打ちしてくれた。

なんだろ・・・最近ミントがしっかりした子に見えてきた。病院行ったほうがいいかな?

あー、そんなのもあったなぁ……

 

「ムンク、あなたねぇ……」

サラ教官は呆れたようにため息をはく。

怒る気力も起きないとはこのことなのだろう。

 

「ま、いいわ。とりあえず今月の実習の班分けよ。」

そういってサラ教官から一枚の紙が渡された。

内容は

A班 リィン、フィー、ラウラ、エリオット、マキアス、ムンク(実施地:帝都ヘイムダル)

 

B班エマ、ガイウス、ユーシス、アリサ、ミント(実施地:帝都ヘイムダル)

 

といったものだ。

 

ぎゃああああああああああ

らららららラウラいるじゃん!!??しかも機嫌悪くてまじでヤバそうな状態のラウラ。

もうやだ、後で遺書でも書いておこう。

 

「これって・・・」

「あら、どちらの班も実習地が同じなのですね。」

「ふむ、二つの班で手分けするということだろうか?」

「まぁ、ものすごく大きな街だしそうなるのが自然だけど・・・」

どうやら基本的に実習地は班によって違うらしい。

ちなみに参加しなくてもいいらしいが僕はナイトハルト教官の所へ送られるらしい。逃げられない……

 

 

「「「・・・・・・」」」

全員が何か思うように沈黙する。

 

明らかに今不仲なラウラとフィーを同じ班にしている。

 

「サラ教官」

 

「何かしら、リィン君?」

 

「君付けはやめてください。」

リィンは呆れたように半眼でサラを睨みつける。

 

「いえ、班の編成については何も問題ないのですが……毎回だしにされてませんか?」

 

周りの面々も頷く。

どうやらリィンはこのクラスでこんな感じの立ち位置らしい。

以前もマキアスとユーシスとの仲を取り持ったとか。人あたりもよく、困っている人を放っておけない性格からサラ教官に色々と押し付けられているらしい。

 

「~~~~♪」

それにサラ教官は白々しく口笛を吹いてごまかすだけだ。

 

「ねぇねぇ、ムンクくん、なんだか面白そうな感じになってきたねぇ!一緒の班になれなかったのは残念だけど。」

隣にいるミントどこまでもお気楽で朗らかに笑っている。この子みたいな思考できたら人生幸せなんだろうなぁ・・・

僕としては今回は君みたいなハプニング娘と別れられて少し安心です。

 

とりあえず笑顔でリィンの肩をポンと叩く。

今回の厄介事は全て任せたという意を持たせて。

後日聞いた話だとこの時の僕の笑顔は過去最高に気持ち悪かったらしい(ミント談)

 

それを察したリィンは

「えぇ……ムンクも手伝ってくれよ。同じチームなんだから……」

 

「ムリ 絶対 ダメ」

あんな機嫌の悪いラウラに関わったら少なくとも致命傷を貰う可能性がある。

それだけは避けたい。

絶対やだ。

 

「あ、あはは」

エリオットとマキアスはそんな状況を察してか苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

 

実習当日

はっきり言って雰囲気は最悪だった。

朝集合してからフィーとラウラはお互いに挨拶をするぐらいでそれ以外ほとんどまともに喋らなかった。

特に直接的な喧嘩や口論はすることはなかったが沈黙が怖い。

言うなれば冷戦状態だ。

 

列車の中ではリィンの涙ぐましい苦労が見れた。

度々訪れるなんとも言えない沈黙を打破しようと色々と話を振っていた。

何このイケメン。モテるのも納得だ。

 

ただ、リィンの苦労も悲しくあまり報われなかった。

度々フィーの言葉から傭兵関係のことが出るとラウラはフィーを睨み、また沈黙が訪れる。

そんなことの繰り返しだった。

それらのことを除けば概ね良好に列車は帝都に進行した。

 

「わわ!!見てみて!!帝都が見えるよ!!」

ミントが窓から体を乗り出して子供のようにはしゃぐ。

 

「いや、危ないから。落ちても知らないよ・・・?」

 

「ぶー、ムンクくんは雰囲気壊すんだからー。あーでも楽しみ!!帝都ってだけでもワクワクするのに夏至祭もあるんだから!!」

この子は何しにいくつもりなのだろうか。完璧遊び気分だ。

いや、いまだ隙をみてなんとかサボろうとする僕もあんまり人のことは言えないけどさ。

 

夏至祭か・・・

エリオットやマキアスが言うには帝国でもかなり大きな祭りの部類らしい。なんだかんだ僕も楽しみにしているのは内緒だ。こういうイベントの時ってラジオ番組が活発になるんだよね。

 

楽しみもたくさん出てくるがそれと同じように不安も湧いてくる。

帝都ヘイムダル、夏至祭。

この2つのキーワードが揃うだけで何かを考えさせられてしまう。何かが起こるのではないかと考えさせられてしまう。

そう思い赤に染まる帝都ヘイムダルを列車の窓ガラスから見上げる。

それはまるで巨大な化け物ように感じさせられた。

 



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初めての特別実習

投稿随分遅れて申し訳ありません。
ちょっと最近諸事情により忙しくて・・・・

そんなわけで最新話どうぞー


帝都ヘイムダルに到着し列車からおりるとまず大きさに圧巻された。

流石帝都というべきだろうか。駅ですら規模が段違いに大きい。

トリスタの駅とは比べ物にならないほどだ。

 

「―――時間通りですね。」

ソプラノの声ともに一人の女性。

軍服で包まれその肢体は女性特有の特徴を残しつつ軍人の威圧感というものがにじみ出ていた。

それでいて絶世の美女だ。安直な表現だがそうとしか言いようがない。

卵形の輪郭に氷のように輝きを放つ瞳。

サイドテールにされた髪型もよくにあっており思わず見惚れてしまう。

 

「あなたは確か・・・クレア大尉でしたよね?」

 

「確か鉄道憲兵隊か。」

反応を見るにどうやらリィン他数名は知り合いらしい。

 

この人だれ?

こそこそとミントに耳打ちする。

 

「えっ!?知らないの!?」

 

「泣く子も黙る鉄道憲兵隊クレア=リーヴェルト。通称氷の乙女だ。」

とユーシス。

アイアンメイデンといいなんで処女ってこう神格化されるんだろ?

そしてなんでそれの男版である童貞はこうも蔑まれるのか。氷の童貞とか聞いた瞬間恥ずかしくて穴に潜りたくなる。

なんて全くどうでもいい思考の渦に埋もれていると視線が向けられていたことに気づく。

「あら、聞いていた人数より二人ほど増えているんですね。」

 

「あ、はい。最近になって二人ほど増えました。」

 

視線が僕に定まる。

まるでからだの隅までなめ回すように視線は上から下までゆっくり移動した。

正直ゾッとした。ここまであからさまに見られると不快以外なにものでもない。

なによりほんの少しではあるが殺意みたいなものを織り混ぜていることも不快な点だ。凄いね、殺意って感じられるんだね。小説の中だけかと思っていた。

考えるにこの殺意は僕を品定めするためのものだろう。

なんて無駄なことを・・・。

「ふむ、なかなかおもしろい人材ですね。期待してますよ。」

 

どこに面白さを感じたのか疑問でしょうがない。何その頭?ポンコツなの?

言っておくが僕に期待したところで粗大ゴミがでるぐらいだ。

おまけに生ゴミもつけておいてあげよう。

 

「あのあなたが今回の特別実習の課題を・・・?」

アリサが恐る恐る質問する。

え、この人そんなすごい人なの・・・?

 

「いえ、あくまで今日は場所を提供するだけです。正式な方は・・・。あ、いらっしゃいましたね。」

 

「やぁ、丁度良かったな。」

 

「そ、その声は・・・!?」

慌てふためくマキアス。

 

「マキアスの父、カール・レーグニッツだ。」

壮年のどこか柔らかさを感じる男性だ。

物腰やしゃべり方にも柔かさを感じられる。

 

「と、父さん!?」

驚くマキアス。

まじか、マキアス父降臨。

世の中って結構狭いものだな。

 

中略

 

いきなり話が飛んでしまうがしょうがない。なんで中略したかって?

あの後会議室みたいなところに案内されて色々と話を聞いたのだが僕の頭の中には全くと言っていいほど話の内容が入っていない。

いつもの如く僕の頭はスリープモード入っていたため話は全くと言っていいほど聞いていなかった。

 

なに?こんなところで寝ていたらラウラに殴殺される?

あぁ、うんその疑問は最もなことだ。しかし僕も馬鹿ではない。

 

 

そう僕の技能は常日頃進歩している。

普段教室では腕を枕の代わりにしてうつ伏せになり寝ていたがそれでは教師や鬼(ラウラ)に怒られてしまう。

悲しいかな・・・そんな人の睡眠を阻む蛮行に僕はいつも屈していた。

しかしだ!!

行動までは屈していたとしても心までは折れていなかった。

なのでその対策として僕はついに・・・・

 

座ったまま熟睡できるようになったのだ!!!!

 

といわけで僕は会議室での話を一切聞いていない。

話を覚えていなければラウラに撲殺される可能性も拭えないので取り敢えずミントに話した内容を確認する。

ミントに聞いたところ、マキアスの父親がトールズ士官学院の常任理事だったとか。

そことなく権力絡みな危険な香りがするので触れないようにしておこう。

後は拠点となる場所の地図を渡されたとか。

しかし意外というのも失礼な話だがミントってしっかりしているよね。

見た感じ頭の中はお花畑で広がっているものだと思っていたが人の話はしっかり聞いているようだった。

じゃあ、なんで普段僕の話は聞かないんだ?とかいう疑問はひとまず捨てておこう。どうせ、ろくな回答は帰ってこないだろうし・・・・。

 

微妙な虚無感に包まれているとエマいきなり近づいて耳打ちしてきた。突然のことにどきまぎしてしまったのは内緒だ。

「お願いしますね、ラウラさんのこと。」

 

「え、いやそーいうのはリィンに頼むんじゃ……」

どう考えてもこのクラスの中心はリィンだ。

 

 

 

「ふふっ ラウラに関したらムンクさんのほうが適任ですよ。」

それはストレス発散のサンドバッグになってこいという意味なのだろうか?

違うよね?僕嫌だよ?

その可能性を強く否定できないことが悲しい。

 

「ついでに新たな方向を開拓してくれると……リィン×エリオット、いやムンク×リィンですかね……いや、逆ですかね……ぐふふ夢が広がりますねぇ!!」

 

聞かなかったことにした。

涎を垂らして発情期の猫のように興奮している委員長なんて僕には見えない。

なんだろう委員長の頭が日に日にお腐れになっている気がしてならない。

ついに僕にまで範囲を伸ばしてくるとは……

 

 

「ムンク!俺たちも目的地に向かおう。」

リィンに呼ばれたことを好機と考えて委員長から急いで逃げた。

 

A班B班と別れた後は渡された地図の場所に行くべく僕らは導力トラムという導力車で移動した。

トラムで移動する中次々と移りゆく景色は帝国の首都ともあって中々に壮観なものだったがここでは割愛する。

トラムでの移動中マキアスが墓穴を掘って猟兵団の話をしてしまったためまたラウラとフィーが険悪な雰囲気になってしまった。

そんな話したところで何の実にもならないし、なにより僕自身が疲れてしまう。

 

 

 

まず最初に向かったのはエリオットの自宅だ。

拠点となる場所の近くということで顔を出してはどうか?というリィンの提案の元エリオットの実家によることとなった。

せっかく故郷に帰ってきたのだ。実習中とはいえ家に顔を出すぐらいは許されるだろう。

 

「はー、久しぶりの家だなぁ・・・少し緊張するな。」

 

「ははは、エリオットも学院でたくましくなったんだから家族を驚かしてあげよう。」

 

「あははリィンそんな冗談言わないでよ・・・。」

 

「ん、最初の頃のエリオットはもやしっ子だった。」

 

「ひ、ひどいよ!フィー!!」

 

中々に毒舌なフィー。

そして案の定ではあるがラウラはフィーが話している時は会話に参加しない。

その状況にマキアスはどうしたらいいかわからずオロオロしているけどもう僕何もしなくていいよね?

ほら、触らぬ神に祟りなしって言葉もあるぐらいだし。

 

 

「それじゃ、行くよ。」

エリオットが恐る恐るドアをノックするとオレンジ色の髪が目に入った。

出てきた女性は僕たちを見た瞬間、いや正確にはエリオットを見た瞬間その丸い瞳を大きく見開き目尻にジワリと涙が浮かべる。

そして思いっきりエリオットを抱きしめた。

 

「あ、あはは。ただいま姉さん。」

恥ずかしさを誤魔化すためかエリオットは頬を人差し指でかき苦笑いする。

 

「お帰り!エリオット!!」

 

 

___

 

「ね、姉さんそろそろ離れてよ!!」

「ええ~~~まだエリオニウムが足りないよう~~~。」

 

「変な物質勝手に作らないでよ!!」

 

感動?の再会を思う存分味わったエリオットの姉フィオナは僕たちを客室に案内してくれた。

 

エリオニウムとかなんだか凄そうな物質だな。

もしかしたムンニウムとかもあるのかもしれない。あんまりいい響きじゃないな・・・。

仮にあったとしたらこれを摂取した人間はやる気が削がれ無気力になること間違いなしだろう。

あれ?もしムンニウムが発見されたら世界中の人が無気力になって、争いも起こらなくなりそうじゃない?

そしたら晴れて世界平和だ。そうか・・・僕は凄い存在だったんだね。

 

「ムンク・・・何をボーッとしている!」

 

「いや、世界平和について・・・。」

 

「ええい!其方は何をいっているのだ!シャキっとせい!!」

ラウラに怒られた。

いや本当に世界平和について考えていたんだけどなぁ・・・。

凄いんだよ?ムンニウムって。

 

 

「うふふ、ムンクくんはエリオットの手紙通りの怠け者さんね。」

 

「あはは、それはね。手紙にもそうとしか書きようがないからね。」

エリオットめ何てことを手紙で書いてくれたんだ・・・。大方内容は間違っていないだろうけどさ。

 

エリオットは軽い冗談も言いつつ姉との談笑を楽しんでいた。本当に中のいい家族だと思う。

 

家族か・・・

 

「・・・・・」

 

「ムンク。どしたの?」

ぼーっとしているところをいきなりフィーに話しかけられたので思わずビクッてなった。

あんまり人と話さないからいきなり話しかけられたら困る。

 

「なんか凄い遠い目をしてたから。」

 

 

「いや、仲いい家族だなって。」

 

「うん、そだね。」

そう呟くフィーは微笑ましそうにしていた。そしてどこか寂しさみたいなものもがあった。

 

「あ、そうだ。姉さんここの近くに宿とかホテルみたいなものない?」

 

「えええ!!?ここに泊まらないの!!??」

その時のフィオナの表情といえばすごい物っだった。まるで世界が明日終わってしまうかのような表情をしていた。

 

「お姉さんはショックでしょうがないです・・・あれ?でも変ねえここの近くに宿なんてあったかしら?」

 

「一応渡された地図ではここら辺の近くなんですが・・・。」

リィンは困惑して地図を取り出して現在地を確かめる。

「ふむ、あの優秀な御仁がその程度のミスをするとも思えないが・・・。」

 

「ちょっと、地図を見せてくれないかしら。」

 

フィオナは渡された地図を見ると

 

「ここ、前遊撃士協会があったとこよ。」

 

 

 

 

―――

 

「ここが遊撃士協会か・・・。」

外から見ると単なる民家にしかみえないけどなぁ。

 

「正確には元・・・だ。」

 

「取り敢えず中に入ってみよう。」

入ると以外にも中は綺麗に片付いていた。

使われていないというからホコリがかなり溜まっているだろうと思っていたが管理が行き届いているらしい。

部屋を見回すと遊撃士の象徴である守る籠手のマークがあったのだからここは元遊撃士協会で間違いないのだろう。

 

「しかし、遊撃士か・・・。数年前までは結構見かけたけどな。」

 

「あぁ、一応彼らは撤退したんだ。」

首を傾げるリィンにマキアスが答えた。

なんでも数年前ここで火事が起きてそれ以降遊撃士は帝国からほとんど撤退してしまったらしい。

噂では火事は事故ではなくテロだとか。物騒な世の中だなぁ・・・。

 

 

「それじゃ取り敢えず依頼でも確認しようか。」

 

それていた話を戻して特別実習の方向に持っていくリィン。

何気なところだがこういうところでリーダーの資質って見えるよね。

こういう何気なく仕切るような人がリーダー的な立ち位置に収まるんだろうなぁ

 

「帝都郊外の手配魔獣」

「帝都地下道の手配魔獣」

「手作り帽子の落し物」

「夏至祭関連取材の手伝い」

 

 

「うげぇ・・・魔獣退治が二つもあるのか・・・。」

 

「あはは、ちょっと今回は苦労しそうだね。」

苦笑を浮かべるエリオット。

 

「うむむ、何から手をつけるべきか・・・」

腕を組み悩むマキアス。

 

「ふむ、ならば一番手のかかりそうな魔獣退治をやらぬか?一つは郊外でもあるし面倒だ。先に片してしまったほうがよいだろう。」

とラウラが提案。

 

「それもそうだな。よし!まずは魔獣退治からだ!!」

そんなわけで特別実習初めての依頼は「帝都郊外の手配魔獣」となった。

正直魔獣退治とか嫌だなぁ・・・。疲れるし痛いし。

 




今回は依頼を一つ減らした上に更に一つ付け加えています。
まぁ、この後の展開にご期待ください。

そういえばリィンハーレム決めてないや・・・・どうしよ・・・

その点ムンクは何も考えないでいいから安心だよなぁ
だってモテないし。

そんなわけでここまでお読みいただきありがとうございました!次回もよろしくお願いします!


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心の琴線

正しさとはなんだろうか?

何がいけないことで何がいいことなのか。そんなことは本当は誰も分からないはずなのに人は口を揃えて間違っていると叫ぶ。

そしてどんなに大切なものであろうと正しさというものはまかり通ってしまう。

強引に、不躾に、無神経に大切な何かを否定してしまう。

そんなことが正しさなら僕は……

 

 

 

「へぇー意外とムンクも整備なんてするんだな。」

意外そうに僕をまじまじと見るリィン。

 

何をしているかと言えばアークスのメンテナンスだ。

特別実習の最初にやる課題が魔獣退治と決まった後僕はみんなに準備のための時間を少しもらえるように頼んだ。

僕がそんなことを申し出るなんてことは通常あり得ないことなので、リィン達は目を点にしているのは当然の摂理だ。

特にラウラ。あのときのラウラの驚愕とした表情は今でも脳裏に張り付いていて思わずにやけてしまいそうになるほどだ。

 

「ムンク……そなた何か失礼なことを考えていないか?」

 

こわっ

なんでこう女性ってこうも勘が鋭いんだろうね。

ラウラに至ってはもう野生の勘。猪だよ猪。

 

冗談はさておきアークスのメンテナンスに戻る。

メンテナンスと言ってもやることは特に難しいことではない。

工具を使って少し分解し、異常がないか調べるだけだ。

ただ、この作業が重要……らしい。

 

「へぇ……ムンクも豆なんだね。あれ……?ムンクのアークス少し変わってるね?」

エリオットがアークスを見て疑問符を浮かべる。

確かに僕のアークスは少し特殊だ。

七組のみんなが持つアークスから導線が数本一回り小さいアークスに繋がっている。

ようは2つあるのだ。

 

 

 

「あぁ、これね。ちょっと知り合いにアークス関係のことにやたらと詳しい人がいてね、その人に勝手に改造されたんだ。」

 

 

「ん?小さい方のアークスにはマスタークォーツがついていないんだな。もしかして、ムンクの使うダブルアーツもこのアークスに秘密があるのか?」

とマキアスの指摘。

一回り小さいアークスの中心部にはそこに収まるはずのマスタークォーツはなく、ポッカリ窪みが出来ている。

なかなか鋭いなメガネ、さすがメガネ、メガネは伊達じゃないな。

 

「ま、まぁ、そこは企業秘密ということで。」

 

企業秘密もくそもないけど、一応苦笑いで誤魔化す。

といってもマキアスの指摘は尤もなものだしほぼ答みたいなものだから誤魔化す意味はあまりないんだけどね。

 

同時展開術式、つまりダブルアーツは簡単に言えば水道の蛇口を増やしただけである。

アークスにもう一つアークスを接続して2つ経路を作るわけだ。

もっともこの方法は欠点だらけであまり強いアーツは使えないらしい。

容量過多で暴発するとか。

マスタークォーツがついていない理由はなんでも2つマスタークォーツをつけるとお互いに干渉しあってあまりよくないらしい。

だから、アークス同士を接続して片方のアークスについているマスタークォーツをあたかも自分の方にもつけられていると錯覚させるのがこのアークスのコンセプトらしい。

 

さっきから「らしい」などの曖昧なことを言っているのは僕もたいして理解していないからだ。

点検も一応はしているが実際僕も何やっているかは正直分からない。

ただ、教えられたように異常を点検することぐらいしか出来ないんだ。

 

不本意ながら勝手に改造されたアークスだがこれは僕の戦闘において生命線の一つだ。

だから、整備はしっかりする。

 

工具を使いネジを外し内部が見えるように分解する。

中を見てみると複雑につけられた導線がいくつもアーチを描いていた。

導線の接続が外れていたり、焼き切れてしまいそうなものがあれば新しいものに取り替える。

ネジが緩んでいたら外れないようにしっかりと回す。

そんな単調な作業を繰り返しようやく作業が終了する。

 

 

「ふぅ~やっと作業が終わった……」

 

「お、終わったのか。だけどあんな真剣なムンクの表情は初めて見たよ。」

とリィン。自分でいうのも難だが普段が地を這うが如しの生活態度だから仕方ない。

 

「まぁ、流石にこれぐらいはね・・・」

何度も言うがダブルアーツは僕の生命線の一つだ。

それを疎かにするということは死と同義だ。

そんなことは絶対しない。

 

「普段からそれぐらいましだといいのだがな。」

 

少しムッと表情になるラウラ。

 

「ん、サボりすぎ。」

ラウラの言葉に同調するフィー。

何お前ら喧嘩中じゃないの?僕を責めるときだけ仲良くならないでよ。

 

「まぁまぁ、二人とも。それじゃあ魔獣退治に行こうか!」

 

 

 

戦術リンク。

アークスの特殊機能でリンクを結ぶことで結んだ相手の思考や行動がある程度分かるようになるという戦闘において絶大な効果をもたらす・・・らしい。

ただ、問題がひとつある。機能の問題か、どうなのかは分からないがこの戦術リンクは基本二人一組で繋ぐものだ。

 

古来より何故二人組を作りたがるのか?そして何故奇数の場合を考えないのか疑問でしょうがない。

二人組を作れと言って余るあの何とも言えない居心地の悪さはどうにかならないものか。

だからと言ってイケメンによる乱獲は許さん。イケメンによるハーレム形成だけは許してはいけない。そう絶対にだ。

 

っと、話がそれたね。つまり何が言いたいって?

七組は奇数なわけで二人一組とか言われると一人余る訳なんですよね・・・。

はい。余ってるのは基本僕です。

いやー、僕リンク結ぶと僕の思考がだだ漏れらしいんだよね。

「だるい」

「疲れた」

「眠い」

「帰りたい」

「ラジオ」

とかね。

それでヤル気が削がれるからリンクをあんまり結びたくないって。

 

「ムンク頼むから、もう少しやる気を出してくれ・・・思考がだだ漏れなんだが」

 

「あ、はい。」

余り物と仕方なく組まされているような心境であろうリィンの表情がひきつってる。

そんなに僕の思考は素晴らしかったのか・・・・

リンクの組み合わせは僕とリィン。エリオットとマキアス。そしてフィーとラウラ。

 

最後の組み合わせには不安しか感じれない。

ただ、フォーメーションを考えるとこの前衛職に適正ピッタリの二人は必然的にリンクを組むこととなる。

何か起こらなければいいけど・・・。

 

「ムンク!ボーッとしてないで援護しっかり!!」

まさかのエリオットにまで怒られてしまった。

エリオットが人を叱ることなんてほとんどないのに・・・。そんなボーッとしてたのかな。

 

僕のアークスのメンテナンスが終わった後、魔物退治に出かけたA班。

僕は泥棒の存在を危惧し宿で待機することを主張したのだが、その主張もむなしくラウラに強制連行されてしまった。

なんてこするんだ!まったく、僕は善意で言ったというのに。

イヤホントウダヨ?けしてサボりたかっただけじゃないです、ええ。近頃物騒ですからね。

 

現実逃避はさておき目の前で魔獣に斬りかかっているラウラとフィーに目を向ける。

巨大な大剣は獣肉を深く抉り、鋭い双剣は獣の体に無数の切り傷を刻む。

まるで猛獣のように大地を縦横無尽するラウラとフィー。

これじゃぁ、逆に魔物のほうに同情してしまう。

 

今回の魔獣というか僕にとって七組において初めての魔獣退治は「オオイシゲェロ」。

巨大なカエル型の魔獣でその巨体は軽く3アージュを超える。皮膚黒く鉄のように固い。背中には擬態のためか草木のようなものが生い茂っている。

顔らしきとこには目と思われる突起物が二つ突き出ておりギョロギョロと不気味に周囲を見回している。

 

僕らの配置は簡単に言えば2:1:3

前衛に攻撃力と機動力の高いラウラとフィー。

中衛に攻撃にも加われる上、補助にも回れるリィン。

そして後衛にマキアス、エリオット、僕。

エリオットは回復係。僕とマキアスは敵の牽制という感じだ。

 

牽制してると言っても僕はひたすらダブルアーツを放つだけだ。

めっちゃ楽。

そもそもラウラとフィーの二人で魔獣を圧倒している。

これ、僕必要ある?

 

「ムンク!気を抜くな!何があるかわからないぞ?」

ぼーっとしていたらリィンに怒られた。

いや、これは僕が悪い。

いくら圧倒してる戦闘とはいえ、これは実戦だ。

どれだけ可能性が低かろうが死の可能性が存在しているのだ。気を抜いていいわけがない。

 

 

 

 

「とはいえ、あの二人はすごいなぁ・・・二人だけ倒せそうな勢いだね・・・。」

 

 

「・・・・・。」

 

「どうしたの?リィン考え込んで?」

エリオットが心配そうにリィンを見る。

 

「あ、いや・・・なんでもないよ。」

 

 

「そこ!戦闘中なんだから私語は慎み給え!!」

 

「あぁ、すまない。気をひき・・・」

 

 

キイイイン

事態というものは突然に急変するものだ。しかも、巧妙にもこちらの気がゆるみかけた時にピンポイントで来るのだから厄介極まりない。

いきなりガラスが砕け散るような音が耳を貫いた。

 

 

「ぐっ」

「・・・っ」

 

誰も口にはしなかったが恐れていたことが起きた。

ラウラとフィーのアークスにおけるリンクが突如に切れたのだ。

不味い。

いきないリンクが切れたせいで二人は戸惑って次の行動に移れていない。

そして、そんな好機を逃してくれる甘い敵なんてものは存在しない。

口箸を大きく歪ませその豪腕は高く振りかざされていた。

 

「間に合えよっ・・・!」

 

自分が出せる最高最速でダブルアーツを起動させる。

発動させるのはなんでもいい。

アーツに込めれるエネルギーは考えなくていい。とにかく速度だ。

 

「エアストライク!!」

 

風の初級アーツを発動させたのにも理由がある。エアストライクは初級アーツの中で一番攻撃速度が速い。

大地を猛スピードで疾走する風の弾丸は吸い込まれるように魔獣の顔面へと直撃する。

 

「くそっ」

だが目論見通りとはいかなかった。

この攻撃の目的は魔獣の攻撃を少しでも逸らしてラウラたちに直撃しないようにするためのものだった。

半分成功半分失敗。アーツが顔面に直撃したことで攻撃の焦点はそらすことに成功はしたがそこまで大きくそらすことは出来なかった。

その豪腕はラウラには直撃しないにしてもフィーには十分直撃する。

 

 

「フィー!!」

リィンが叫びフィーを抱え込む。フィーは小柄なためリィンの体にスッポリと覆い隠される。

 

「ぐぅっ!!?」

魔獣の勢いよく振り下ろされた豪腕がフィーを抱えたリィンの肩を掠め取り二人を吹き飛ばす。

直撃はまぬがれたものの威力は凄まじくリィン達をボールのように地面を転がさせる。

 

 

「リィン大丈夫か!!?」

マキアスがリィンを見て不安そうに叫ぶ。

だがいまそんな余裕はない。急いで体制を立て直さなければ全滅の可能性だってある。

 

 

「マキアス援護!エリオット攻撃アーツ!!」

ダブルアーツで応戦しつつ叫ぶ。

 

「あ、ああ!」

「う、うん。」

 

マキアスはその重厚なライフルを構え、

とにかく今稼がなければいけないのは大勢を立て直すためだの時間だ。そこらへんのところを理解しているマキアスは牽制を入れつつ時間稼ぎに徹している。

 

ただそれだけでは魔獣の動きは止まりきらない。

 

「くっそあんまり使いたくなかったけど・・・!弾丸〈バレット・アーツ〉!!」

アークスが燃えるぐらい熱く発熱すると共に十を超える火球が僕の周りに生成される。

僕のアークスは随分と特殊な改造が施されている。

まず同時展開術式、そして高速発動だ。簡単には言ってあるがこの高速発動の使い勝手の良さは異常だ。やろうと思えばほぼノータイムで下級アーツなら発動できる。

バレットアーツはこの二つの機能を応用したもので、同時展開術式を連続で発動する。

それはまるで銃が連射する弾丸のようなものとなる。

 

「打打打打!!!!」

まるで火山から吹き出す火柱のような勢いで視界を埋め尽くす火球。いや、ごめん言いすぎた、そこまで凄くはない。

凄まじい勢いで魔獣を埋め尽くす勢いで着弾する火球。

一つ一つに大した威力はないが足止めに使うには最も適している。

 

 

エリオットの魔導杖の先端が眩い光を放ち、準備万端とばかりに頷く。

「いくよっ!」

 

マキアスと僕によって稼がれた時間によってエリオットのアーツが発動する

大気を揺さぶる轟音ともに発動されたのは風の中級アーツ・エアリアル

 

 

「ガアアアア!!!!」

魔獣を覆い尽くす竜巻は鋭い音ともに無数の生傷を刻んでいく。

 

まともにエリオットの攻撃を食らった魔獣は満身創痍で体中傷だらけな上に息も絶え絶えだ。

「ラウラ何やってんの!!!魔獣がひるんでる!とどめ!!」

 

「あ、ああ!」

 

彼女は地面を強く蹴り飛ばし跳躍。その華奢な体を弓の弦のようにそらし大剣を大きく振りかぶる。

「地裂残!!!」

そのまま地面に大剣を叩きつけたかと思うと魔獣に向けて一直線に地面が爆ぜる。

 

そのあまりの威力に満身創痍の魔獣が耐えられるわけもなく、遂には絶命した。

 

 

 

 

「ふーっ・・・なんか一年分は働いた気分。」

いや冗談抜きで。あんなに頑張ったの久しぶり。特に弾丸〈バレットアーツ〉を使うとは思っていなかった。あの技は使えるが、物凄い疲れるし、何より使えばしばらくアーツがほとんど使えなくなってしまう。疲れるから二度と使いたくない。

 

「あはは、ムンクお疲れ様。でも驚いたよムンクが指示を出すなんて。明日は雪だね。」

ニッコリと笑うエリオット。それは僕のやる気は超常現象とでも言いたいのだろうか。僕もそう思う。

マキアスは僕の使用したアーツが不思議なのかうんうん唸ってる。細かいこと気にしないでね。

 

「しかし、あの連続アーツは凄まじかったな・・・いぐっ」

肩を抑えたリィンが呻く。よくよく見ると肩からは血が滲んでいる。

リィンの隣でフィーが所在なく佇む。自分のせいで仲間が傷ついてどうすればいいのか分からないのだろう。

まぁ、そこらへんはイケメンたるリィン君に任せよう。この優男ならそれとなくフォローしてくれるだろう。

 

「あはは、フィーそんな顔しな・・・・。」

 

だがそんなリィンのフォローも一人の怒声にかき消されてしまう。

「フィー何故だ!!!」

ラウラの叫び声にフィーはビクッと体を震わせてしまう。

ラウラの言葉にフィーは答えない。いや、恐らく答えることができないのだろう。

責めるようなラウラの表情に蹴落とされ、どうしようもなさそうにうつむく。

リィン達も同じだ。この良いとは言えない雰囲気に蹴落とされ汗を流しゴクリと喉を鳴らす。

限界まで溜まった感情は当然ながら火山のように爆発してしまう。

 

「私は其方を受け入れようと今まで出来るだけ感情を抑えていたがもう限界だ!!やはり見過ごすことなどできぬ!!」

なんて理不尽ないい様なんだろうと思う。ただ心に溜まりに溜まった感情なんてものはこんなものなのだろう。

 

 

 

「それだけの力があり何故そなたは猟兵なんかに・・・・!!!」

 

 

 

突然、風船が破裂したような音が甲高く鳴り響く。突然のことにリィン達はビクッと肩を震わせていた。

 

手のひらにじんわりと不快な麻痺が広がる。

きっと僕はこの時のことをひどく後悔するだろう。

普段低堕落に惰眠を貪るかラジオ番組を聞くようなことぐらいしかしない自分がこんなことをするなんて自分でも驚きだ。

それでも抑えきれなかった。譲れないことだった。

時間が戻りしてしまったことがなくなるなんて都合のいいことはどれだけ願おうが決してできないだろうし、仮に出来たとしても僕はもう一度同じことをする。

だからやや赤く染まった僕の掌や、ましてや鮮やかな赤を彩るラウラの右頬にも今はなんの後悔もない。

 




お久しぶりです。
今回から話は少し変わっていきます。今までは割と本編をかなりなぞっていたのですがこれからはそれなりに話が変わっていきます。



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ムンクの怒り

お久しぶりでーす


ぷつん

そんな感じのまぬけな音とともに何かが切れた気がした。

恐らく切れたのはいつもいつも奥底に沈めていた心の琴線だろう。

 

きっと僕はこの時なにも考えずに行動に移してしまったことを深く後悔するだろう。

だが、後悔したところで振り抜いた掌がなかったことになるわけでもない。

 

「あのムンクが・・・・」

 

「ラウラをひっぱたいた・・・!?」

リィン達は普通に考えたらありえない僕の行動にあんぐり大きく口を開いている。

正直僕だってこんなことするなんて驚きだよ・・・。

だけど、ラウラの言ったことは気に食わなかった。

 

「ラウラ、ふざけないでよ……」

 

「なっ、何をする!?」

 

「それはこっちのセリフだよ。君は今最低のことを言ったんだ。少なくとも僕にとっては最低最悪だ、家族を否定するなんて。」

特別フィーを気にかけているというわけでもない。正直ここで今なれないような言葉を吐いているのも彼女のためではなく「ラウラの発言」そのものが気に食わないという理由でしかない。

フィーにとって傭兵団は家族だ。フィー自信そういっているし、彼女の言葉の端々からどれだけ大切な存在なのか感じとれた。

そしてそれが分からないようなラウラではない。

だからこそ気に食わない。

 

「なっ 少なくとも私は間違ったことは言ってない!!傭兵は決してよいものではないだろう!間違っているではないか!!」

 

あぁ、そうだ。ラウラはいつだって正しい。

 

 

「だから?」

だが正しいだけだ。

 

ラウラはあまりのそっけない返答に呆然として僕の顔を見つめる。まるで頭のネジがとんでるのではないかと疑問するように。

 

「間違ってることのなにがいけない?そもそも間違いって何だ?」

そうだ。間違っていけないならこの世はいけない人だらけだ。

間違っていても大切なものはある。

間違っていても欲しいものがある。

 

「そ、それは・・・」

 

「仮にいけないことだとしてもさ、君は人に善悪を説くだけで何かしたのか?ちゃんと手をさしのべたのか?否定するだけして何もしないっていうのか?それしか生きる道がない人だっているのに。」

世の中の犯罪者や人に言えないようなことをしている人全てを肯定するわけじゃない。

でも、この世にそれがいけないと分かっていても止められない。それにどうしようもなくしがみつくことしか出来ない人だっているんだ。

生きるために。

 

「善悪を説くなんて簡単だよ。君はちゃんと道を指し示していたの?ただ、ただ自分勝手な正義感に従った言葉なんて――」

 

正義なんてものは一歩間違えれば単なる暴力だ。

控え目に見ても恵まれている人間は分かっていない。

どうしようないぐらいの虚無感を、絶望を。

理解したような雰囲気を出すだけでその実何一つ分かっていない。

 

だからただ正しさを叫ぶ奴なんて――――

 

「無責任で最低だ。」

ただただ正しいだけの言葉なんて性質が悪すぎる。

正しさで全てがまかり通るならとっくに世界平和が訪れている。

なにも考えず正しさのみの思考なんて子供の癇癪にも等しい。

 

「私はそんなつもりじゃ・・・私は・・・私は!!」

 

「ら、ラウラ!!?」

ラウラは耐えきれなくなったのか、はたまた僕のことなんて見たくなくなったのかそのポニーテールに結ばれた後ろ髪がたなびくほど思いっきり走ってどこかへ行ってしまった。

 

「はぁ・・・」

一息ため息を吐く。この学園に来て以来もはや癖のようにため息だが、今口から出ている息はいつものため息とは段違いに重く感じた。

 

 

 

 

 

 

「ムンク今私は一人になりたいのだ。追ってこないでくれ。」

 

青髪の少女は歩みを止め後ろに振り向く。その一つ一つの動作に華を感じて一瞬見とれてしまうが、その丹精な顔が鬼のように歪んでいるのを見てしまうともはや恐怖しかない。

その獣の眼光とも言えるものに睨まれ、思わず足がすくんでしまう。

同年代の女子に蹴落とされてしまう自分がなんとも情けなく感じ、またため息を吐く。

だが、今回は例外だからいいのだ。まるで禁煙を破るダメ親父の言い分だが、ラウラが相手なら仕方ない。

だって、怖いんですもの。

 

 

 

「いや、そんなこといわれてもなぁ……リィン達に連れ戻してこいとか言われたし……」

 

 

 

今の状態を簡単に言えばやや早足で都市を闊歩するラウラに不審者(要は僕)が妖しく、ノロノロとストーカーしているようなものだ。

僕と彼女の距離は大きく離れていてとてもではないが同級生とは思えない。

 

 

あれ?これまずくない?傍から見たら完璧ストーカーだよね・・・。人生詰むことにならない?

 

忘れがちではあるがラウラは貴族の息女。そんな相手にストーカー行為じみたことをしているのだから運が悪ければ首が消し飛ぶ・・・なんてことはないよね?

ないと信じたい。

なんでこんなストーカーまがいのことをしていると言えば遡ること少し前

 

―――

ラウラが街に向かって走っていった後のことだ。

 

「ムンク、いいすぎだ・・・」

 

「悪かったよリィン・・・僕も言い過ぎた。あーなれないことなんてするもんじゃないね。」

そう言って肩をすくめる。本当になれないことをしたものだ。

今になって恥ずかしさがこみ上げてくるが時すでに遅し。

やばい、これ黒歴史確定だ・・・。

 

「というわけで、ラウラの後を追って連れ戻して来てくれ。」

リィンの言葉にマキアスとエリオットもうんうんと頷いていた。

どうやら、完璧に僕が悪者らしい

フィーは悼まれない雰囲気なのかただただ地面を見つめているだけだ。

 

 

「まぁ、男の甲斐性のみせどころだなムンク。」

そういってスーパーイケメンなスマイルを放つリィン。このクソイケメンは一体全体僕のどこをみたら甲斐性というものがあると思うのだろうか?下手したら概念までない可能性すらありえる。

太陽の輝きと言わんばかりのリィンの笑顔に思わず瞼を閉じてしまいそうになる。

やばい、あまりにも眩しくて浄化されそう。

 

何これ?僕が全面的に悪い雰囲気?

お互い悪いということで喧嘩両成敗的な感じに落ち着かないかな?

無理か・・・

なんだろ、なんで僕の扱いってこう悪いんだろ。

そんな僕にはラウラに殺されに行く・・・間違えたラウラを連れ戻してくるという選択肢しかなかった。

―――

回想終了

くそぅ・・・あんなイケメンスマイルでいわれても甲斐性なんて見せれるのはリィンだけだよ。

しかも、体を張って助けたせいかフィーのリィンを見る目に僅かではあるが色が出始めている。

知ってるんだぞ?アリサとよくいい雰囲気醸し出してること!

その上言えばフィーともか。

あれか?ハーレムかハーレム?

僕にあんな甲斐性だせるわけないだろ!

仮に付き合いたい男ランキングなんかやったら僕の順位はリィンと真逆になること間違いなし。

ちなみにモテ男の頂点はもちろんリィンだ。

しかし本当にこの世は不平等だ。イケメンが全てを与えられ、その他はその残飯しか与えられないようなものだ。

もう滅んじゃえよこんな世界。

 

 

ドロドロに濁った思考の沼に意識を沈めていると、一際大きい叫び声が僕の意識を泥沼から引きずり出した。

「泥棒だーーー!!」

 

 

「どうしたのだ?」

 

「あぁ!聞いてくれよ!ワルガキが店の品物奪っていきやがったんだ!!くっそ!!」

店主らしき人は顔を真っ赤にして地団駄を踏でいる。

 

 

「そういうことなら私たちに任せてほしい。捕まえてこよう。」

 

 

え?この子何してくれてんの?私たちってもしかして僕も含まれている?

正直泥棒を捕まえるとかめんどくさいことしたくないんだけど・・・

「え・・・ちょ、めんどく・・・。」

思わず本音を出しそうになるがラウラに睨まれ口を閉じる。

 

 

「へ?あんたたちがか?」

 

「ふむ、何か問題があるか?今は夏至祭だ。憲兵もまともに取り合ってくれないだろう。」

夏至祭中ということもあり憲兵達は警備に身をやつしている。

最近では帝国開放戦線なんてテロ組織みたいな連中も出ているのだから当然といえば当然だが。

そんな中たかがコソ泥一人にかまけている暇はないということだ。

 

「ふむぅ・・・なら任したよ!必ず捕まえてくれ!これじゃあ商売上がったりだよ!!」

 

疑心の目で商人は見てくる。学生ということであまり信用してないのだろう。

それでも、商品が返ってくれば儲けものだと考えているのだろう。

 

「ではムンク行くぞ!!」

ラウラの瞳は正義感に輝いており、何を言っても無駄ということが分かった。

仕方ないとため息を吐き、帝都は広いので二手に分かれて捜索することを提案する。

え・・・いや、サボろうなんて思ってないですよ?あくまで、あくま~で効率化を図るためですよ?

ええ、僕は嘘なんてつきませんから。ラウラの目の届かないところでサボりたいだなんて女神に誓っても思いませんよ。

 

「いや、それだとそなたはサボるだろう?一緒に行くぞ!」

見透かされていた。

せっかくの僕の男気溢れる提案は無碍にされてしまった。なんでバレた・・・

ちょっ・・・ついてくから!ついてくから襟を引っ張らないで!!

ラウラは僕が逃げないようにと女子とはとても思えない万力で襟首をつかみ進み始めた。

そうして僕はラウラに引きずられ窒息しそうになりながら泥棒を探しに行くのだった。

 

 

 

あれ?なんでいつの間にか僕泥棒探しなんてするはめになってるの?

 

 




こんな感じで


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生きるために仕方のないこと

ややオリジナル路線



ふと思う・・・最近僕ラジオ聞いてなくない?

いや、何が不味いってこれ僕の数少ないアイデンティティーだよ?別に自己形成のためとかキャラづけのためにラジオを聞いているわけではないがこれはまずい。非常にまずい。

だって僕だよ?休日には惰眠を貪り好きな時間に起きてはねっころがりながらご飯を食べラジオを聞く。

あ、平日もこんな感じだった。

 

とにかくそんな僕がラジオを聞いてないなんて言うことはあり得ない。

だから今すぐラジオを聞かなければ!!

 

え?うだうだうるさい?

あ、はい。

現実逃避やめまーす。

 

 

結果だけ言ってしまえば特に苦労することもなく泥棒には簡単に追いついた。

その泥棒は年端もいかない少年だったからだ。

 

 

少年がいたところは綺麗とはとてもではないが言えないようなとても衛生上悪いところだった。

ボロボロに擦り切れた毛布やガラクタとしか見えない物置などからここで生活しているということが察せた。

要は孤児ということなのだろう。

そこには一人男の子がいた。

衣服はボロボロのつぎはぎだらけて泥にまみれている。

鼻を突くような匂いからしても風呂なんて入っていないのが分かった。

路地の隅っこで震えながら睨み付けてくるその目はまるで餓えた狼のように感じた。

 

「何故盗みなんてことした!」

案の定というか、ラウラは男の子に激昂した。

小さな子供であろうと盗みという行為が許せないのだろう。

 

「お腹が減ったから・・・食べ物がなかったから!」

それに対し子供の言い分は単純なものだった。

シンプルだ。笑えるぐらい単純で盗みという行為をしなければ生きるのすら危ういということだ。

整備された帝都でも貧富の差はやはりあるようだ。

 

 

「だからって!」

しかし、あくまでもラウラはその姿勢を崩さない。

だからといって盗みという犯罪をしていいわけがないと激昂する。

正しい・・・どこまでも正しいがそれだけだ。やはりそれだけでしかない。

 

「ラウラ、ストップ。」

状況を見かねてラウラを止めに入る。

「何をする!!ムン・・・」

 

「怯えてるよ。」

 

男の子は已然と睨んでいるがその後ろには小さな女の子が小動物のように震えていた。

そんな姿に毒抜かれたのか、ラウラは何も言えなくなる。

 

「ちょっと聞いていいかな?」

 

「なんだよ・・・あんまり近くに寄るなよ。腐った臭いがする。」

それは僕をゾンビとでも言いたいのだろうか。子供にすらこんな扱いである僕って何なんだろうか・・・泣きたくなってきた。

子供は僕を不審そうな目つきで睨む。

 

 

「君たち親とかはいないの?」

 

「そんなのいねぇよ・・・物心ついた時にはもう俺と妹の二人っきりだ。だからあぁでもしないと生きれないんだ!!」

 

「なるほどな・・・ラウラもう帰ろうよ。」

つまりそういうことだ。生きるために必死で仕方なくやっているということだ。決して褒められたものではないが、僕にこの子たちの行動を止めようとまでする気は湧いてこない。

それはある意味この子たちに死ねと言うことに変わりないのだから。

 

「いやしかし・・・」

 

「君たち悪かったね、脅かしちゃってこれは少ないけどお詫びね。」

 

そういって僕は財布の中からいくらか紙幣を取り出し子供の右手に握らせる。

情けないことだが正直たいしたお金はではない。

別に大したことではない自己満足の偽善だ。

これでこの子達が救われるわけでもない。

 

「ほら、ラウラ行くよ。」

 

「ちょっ・・・ま、まて・・・」

お金を渡し、ラウラを強引に引っ張りこの場を後にする。

ラウラは釈然としない雰囲気を醸し出しているがそんなことは知ったことではない。

 

当然僕だってあまりいい気分ではない。だが無力な僕に出来ることなんてほとんどない。

そんな思考を消すために歩く速さを強める。

身寄りのない人間なんてものは沢山いる。一人一人救うなんて不可能だ。そんな金はない。場所もない。

それがどうしようもない現実。

出来ることは何も出来ない悔しさに歯噛みすることぐらいだ。

 

 

 

――――

子供たちの前から離れ、少し歩いたところでラウラがジト目で僕を見てくる。

「ムンクどういうつもりだ・・・?盗まれた人には何て言えばいい。」

 

「あ」

 

そういえばそこまで考えていなかった。

どうするかなぁ・・・

盗まれた方からしたら、盗まれ損なわけで子供の事情なんて関係ないよなぁ。

 

「あぁ、取り敢えず謝る?」

 

「はぁ・・・」

 

ラウラは呆れてため息を吐くが仕方のないことだ。

あんな子供をしょっぴいて連れて行くなんて流石の僕もなけなしの良心が痛む。

 

「それにしても意外だな。」

 

「へ?何が?」

 

「いやそなたが他人にそんな気をかけるなんて珍しいではないか。いつも無関心そうしているからな。まさか金銭を渡すなんて今日は雪でも降るのか?」

やや皮肉がかかっている言葉だがその通りなのだからぐぅの音も出ない。ぐぅ。

 

「いやぁ、気まぐれだよ・・・それに・・・いやなんでもない」

声に出してしまいそうになった言葉を無理矢理飲み込む。

 

「それになんだ?そんな言い方では気になるじゃないか?」

 

「まぁ、なんだ・・・なんとなくだけど僕はあの子の気持ちがわかるんだよ。だからあんななれない行動に出たんだろうなって思っただけだよ・・・」

 

「ほう・・・解るとは随分な言いようではないか。まさかそなたも孤児だったなんていうのか?」

 

冗談交じりにラウラは喋るが、それが核心を突いているのだから笑えない。

 

「そうだよ・・・僕もあの子達と似たようなものだったんだよ・・・」

 

「へ?」

ラウラが間抜けな声を漏らす。

これは仕方ないことだろう。なにせ冗談交じりに言った言葉が肯定されてしまったのだから。

 

 

「僕も元孤児みたいなものだったんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

―――――

僕が元孤児みたいだと唐突なカミングアウトしてからラウラが妙によそよそしくなってしまった。

何この空気・・・やめて欲しいんですけど・・・

仕方がないことと言えば仕方がないのだが、チラチラとこちらの様子を伺っているのがむずがゆい。その上振り向いてラウラの方に目を向けると途端彼女は目をそらす。どうしたらいいだか・・・

取り敢えず落ち着かせるという意味合いも含めて近くにあったベンチに腰掛ける。ラウラも続いてベンチ座るがやはりそわそわしている。

まぁ、休めるからいいよね。歩くのって疲れるんだよね。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

ラウラが口をもごもごさせて言葉を出そうとするが、やはり言葉には出さない。

そして僕も自分から話題をふるような人間ではないので必然とラウラとの間に沈黙が訪れる。

 

 

沈黙自体はいいが、むしろ大歓迎なんだが今のこの状況はあまり好きにはなれなかった。

ラウラが気まずそうにこちらの様子を伺っているのだからどう反応していいのか困る。

しかし、ラウラはサバサバしたような性格だからこういうことを気にしない人間と思っていたんだけど・・・

まぁ、僕の普段が色々とアレだから意外すぎてどう反応したいいのか分からないということだろう。

流石にこの状況は好きになれないので不本意ながら話題をふることにする。

 

「ラウラあの子達どう思った?」

 

「え!?あ、あぁ、どう思ったと言われても。どんな理由があろうと盗みはいけないことだろう。」

いきなり話題を振られて驚くが、当然と言わんばかりに自分の意見を述べる。

 

「はぁ・・・ほんと優等生みたいな回答だなぁ。」

 

「じゃあ、何が正解なのだ?」

僕の言いように頭にきたのかラウラはむっとした表情を作り不快をあらわにする。

だが構わず言葉を続ける。

 

「ラウラが言ってることってさ、あの子供たちに死ねって言っているようなものなんだよ?」

 

「私は!!!そん・・」

ラウラの言葉に無理矢理言葉を被せて遮る。

だって、話進まなそうだし。

 

「どういうつもりだろうが結果的にそうなるんだよ・・・正しいだけじゃ腹は膨れない。」

そんなことで腹が膨れるなら今頃世界平和が成り立っているに違いない。

 

 

「それでも、盗んでいい理由には」

あくまでも彼女は正論を述べる。

そうだ。確かにその行為自体を許して言い訳ではない。

だが―――

 

「はぁ。もちろんあの子達を肯定なんてするつもりはないよ。でもどうすればいいのさ?」

 

「それでも、それ以外に方法が!!」

 

「ないよ。あるっていうの?子供が働けることなんてほとんどないよ?誰が雇うの?」

当たり前の話だが子供が出来る事なんてものはたかが知れている。ましや子供が金を稼ぐなんてことは無理だ。

 

 

「それは・・・」

 

「よくてそこら辺の変態に身売りくらいだよ・・・」

 

「ムンク!!」

僕の言葉が指す意味が理解できたのかラウラは激高する。

 

「そう怒んないでよ・・・でも分かったでしょ・・・正しさなんてものがどれだけ身勝手なのか。」

その言葉に返答はない

だって正しいだけでは腹はふれないのだから。生きていけないのだから。

思い当たる節がいくつかあるのだろう。

 

「では、では!どうすればよいのだ!!」

 

「フィーへのわだまかりと似たようなかんじだよ。いい機会だし、自分で考えてみな?どうせ僕の答えを聞いたとこで納得なんて出来ないだろうし。」

所詮他人の考えは他人の考えだ。

どれだけ取り繕うが受け入れることはほとんど出来ない。

結局は自分で答えを見つけ出さなければいけないし、受け入れられないのだ。

仮に無理矢理受け入れたとしてもいつかそれは偽物だと絶望するだけだ。

 

そして答えを出せたならフィーとの問題も解決するかもしれない。

 

「それじゃ、みんなのところに戻ろっか。」

 




ムンクの七組の認識
 
リィン   クソイケメン
アリサ   伝説のツンデレ
マキアス  哀れな子羊(メガネ枠)
ユーシス  哀れな子羊(貴族枠)
エマ    捕食者(腐)
ガイウス  なんか風
エリオット 良心
フィー   幼女
ラウラ   猪女
ミント   爆弾娘

サラ    なんだかんだ売れ残りそう



サラ「ムンク~ちょっとこっちに来なさい~。」

しばらく教室には見るも絶えないグロテスクな肉塊があったそうな。


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答えの見つけ方

はっじまっるよ~~~~~


僕がベンチから立ち上がりリィン達の所へ戻ろうとするとラウラは慌てて立ち上がり僕を引き止めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれムンク!?戻るってこのまま戻るつもりか!?」

ラウラは僕の行動が信じられないといわんばかりに引きとめてきた。

 

あぁ、分かるよ。こいつはそういう奴だよな・・・でも僕は違う。

 

「そうだけど何か問題でもあるの?」

ラウラが何を言いたいのかは分かる、だが、あえてとぼけたような言葉を吐く。

だって、これ以上できることなんてないのだから。

 

「ムンク!!あの子達をそのまま放っておくつもりか!!?」

やっぱりそうか・・・こいつはそう言う奴だよね。返ってきたのは予想と寸分違わぬものだった。

ラウラは正しいだけではなく困っている人を見捨てることもできないお人好しだ。

それも度を越したレベルのお人好し。

だが、僕はここまでのお人好しなんかじゃないし、赤の他人に構うほど出来た人間じゃあない。

だから、次言うことも決まっている。

 

「あぁ。」

 

バチン

 

 

僕の無慈悲とも言える発言に切れたのか、きつい一振りが僕の頬に叩きつけられた。

ラウラのその大きな瞳はキッと僕を睨みつけている。

「ふざけるな!!そなたは最低だ!!何故そんな非常なこと言える!!」

 

「じゃあ、どうしろっていうの?あの子達だけ救うっていうの?あんま表では見かけないけどどこの街にもそうだけどあんな感じの子供ってたくさんいるんだよ?」

一人いれば何にもいる。当たり前の話だ。

 

当然だが、一人を救えば他の子供は救わないのか?という不平等が生じる。

先程と同じような境遇の子供がどれだけいるだろうか?

一人一人救うなんてことは学生でしかない僕には少なくとも出来ない。

「うっ ・・・ それは・・・」

 

「そういう人達を一人一人救うにしたってお金は?場所は?面倒はだれが見るの?」

少なくともぼくには無理だ。それにそこまでしてやる義理もない。

「それでも!それでも私は!!」

 

 

ラウラとの口論が更にヒートアップしようとするその時、間に誰かがヌッと入ってきた。

「まぁまぁ、落ち着きーや。喧嘩はよくないで?カップルさん。」

 

 

「だだだだ、誰がカップルだ!!!」

ラウラを顔を真っ赤にさせて必死に否定する。

意外とこの子不意打ちに弱いのかね。こんな戯言普段通りサラッと流せばいいのに。

ていうか、そういう反応やめてよねー。そんな態度すると9割方面白がって更にからかわれるんだし。

 

あまりこの会話に交じりたくもないが、何らかの否定をしておかなければ、カップルを肯定している気がしてむずがゆい。

ほら、沈黙は肯定とかいっちゃうじゃないですかー

 

「そうだよ、誰がこんな猪・・・ごめんなさいラウラ様、言葉の綾でございます。」

強烈な殺意を持って睨まれた。

いや、ほんと謝るから大剣に手をかけるのやめて。いや、ほんと辞めてくださいごめんなさい。

 

「しっかし、ネクラなあんさんやるなぁ!こんなごっつい美少女落とすなんて!ぜひご教授願いたいとこやな!」

 

だめだ。この人の頭の中ではカップル設定だ。

ていうか根暗ってなに?僕の事?いや、根暗なんですけどね。

 

「いや、だからラウラとはそういう関係じゃ・・・単なるクラスメートですけど」

ラウラと恋人になるなんて毎日がバイオレンスになるだろう。そんなのとてもじゃないが身がもたないしごめんだ。

それに控えめにみてもラウラは美少女だ。対する僕は単なるネクラだ。釣り合いはとれない。

 

「なるほどなぁ・・・うんうん!照れ隠しみたいなもんか!いいねぇ!甘酸っぱい青春みたいな感じで!」

納得したと思いきや明後日の方向の結論をぶちかましてきたよ・・・

あ、この人話を聞かないタイプの人だ。

 

 

「この人話聞いてないよね・・・?」

「あぁ、聞く耳を持ってないようだ・・・」

なんでこう、僕の回りには人の話を聞かない人ばっかりなんだろう?

 

「あぁ、そういや自己紹介がまだやったな!ワイは巡回神父やっとるゲビン・グラハムっていうねん!ほな、よろしゅう!!」

 

 

 

――――

いきなり絡まれたケビンに無理矢理連行され喫茶店でくつろいでいる。

「まさか、ケビン殿が神父とは恐れ入った。」

 

「あれだよね、そこら辺のゴロツキかナンパ男みたいだもんね。」

 

「あんさん達結構酷いこと言いよるな・・・。」

僕たちのいいようにケビンは項垂れる。

実際仕方ないと言えば仕方ない、だって全然聖職者には見えないし。

普通聖職者と言われれば法衣を身にまとい厳格な雰囲気を醸し出しているとイメージする。

しかし、ケビンは法衣こそ纏っているものの真逆の印象だった。

まず、その緑髪をかきあげツンツンにした髪型。そして厳格というよりは軽薄と感じてしまう雰囲気なのだから仕方ない。

 

「それでカップルさん達はなんで喧嘩してたん?」

 

だからカップルじゃない。もうわざとやっているでしょ。

何度も思うけど僕の周り人は話をいいかげん聞け。

 

 

「だから私たちは恋仲ではないと何度言えば分かる!!だいたいこんな腑抜けたやつ願い下げだ。」

 

 

「そりゃ僕もだよ。何も考えずに暴れまわる猪なんて・・・ごめんなさい。謝るからその拳を抑えて下さい。」

ラウラが鬼のように睨むのでひたすら平謝り。

いや、お前だって願い下げとかいってるじゃない?僕だけ怒られるとか酷くない?

 

 

「なはは!!根暗なアンさん完全に尻に敷かれとるなぁ!」

笑い事ではない。尻に敷かれているどころかもはやサンドバックだ。

 

 

「何ラウラ、やたらと機嫌悪いね。生理か何か?」

 

パァン!!(ラウラが僕にアッパーをぶちかます。)

 

ドスン!(仰向けに地面に倒れた僕にそのままマウント)

 

ゴッ!ゴッ!ゴッ!(そのまま僕の顔面に拳を振り下ろす。)

 

 

「こひゅー・・・こひゅー・・・」

あぁ、綺麗な川が見える・・・

あははは、川の向こう側にはこの世のものとは思えないような綺麗なお花畑が見えるよ・・・あはは、アハハハハ

 

 

「お、落ち着きいや!?あんさんもう虫の息やで!?風前の灯やで!?」

 

こんな日常で死を感じるとか僕の日常はバイオレンスにも程があるでしょ・・・・

 

 

 

――――

 

「なるほどなぁ・・・。それで二人が揉めていたわけやな。」

ケビンに事の顛末について説明した。

 

 

「難しい話やなぁ。悲しい話ではあるが今の世の中では孤児ってのはどこにでもおるしなぁ・・・。もちろん教会としても全ての子供を救いたいとは思いはするが所詮理想論でしかないしなぁ・・・。」

やはりこの手の話は教会側とはいえ難しい問題なのかケビンは眉をひそめる。

 

 

「しかし!あんなかよわい子供たちを捨て置くことなど出来ない!!そなたは心を傷めないのか!?」

やはりラウラはどうにか出来ないかと叫ぶ。

 

 

「あぁ、ワイも出来ればそうしたい。せやけどなさっき根暗の兄さんが言った通りそういう子供はごまんとおるねん。そして子供一人を養うのにどれくらいお金がかかるか姉さん知っとるんか?それに土地だって必要だし面倒を見る人だって必要になるんやで?」

 

 

「それは・・・」

正論を言われてしまいラウラは言葉につまる。

あれ?僕も似たようなこと言わなかったっけ?まぁ、教会関係者が言うとなんか重みが違うよね。仕方なし。

 

 

「姉さんが言ってることも分かる。せやけどな子供一人の命を預かることを軽く見過ぎやで。それにな姉さんの性格上一人救ったらまた他も救わなければ気が済まないやろ。そんなことしてたらキリがないで?」

 

 

「・・・・・」

ラウラは何も言えない。

そして僕は言わずもなが。

 

 

「おっとすまんな。結構きつく言ってしまうたな。一つ言っておくで?理想を求めるのも大事やが理想に届かずとも今自分ができる最大限のことをすることのほうが時には大事やで。さて、そろそろワイも行かなきゃならんとこがあるから行くわ。後数日は滞在するつもりやから何かあったら相談には乗るで?」

そういってケビンは立ち上がり喫茶店から去っていった。

 

 

――――

 

ケビンが去ってからも僕とラウラは喫茶店に居座っていた。

お互い会話をすることはなくだんまりがかれこれ一時間は続いている。僕があんまり会話しないというのは割と普通のことだがラウラが一言も話さないのは結構珍しい。

ラウラなりにケビンに言われたことを考えているのかもしれない。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

沈黙が続く。

あー喋らなくていいから楽でいいや。このまま、ぐーたら過ごしたいなぁ・・・

とか思っていたらラウラが沈黙を破り僕に質問を投げかけてきた。

 

 

「今自分ができる最大限のことをする・・・か。ムンク私に今出来ることはなんだと思う?」

 

 

「僕にそんなこと聞くなんて随分と珍しいね。」

本当に珍しいと思う。だって彼女はいつも凛としていてその歩みには迷いがなかった。

 

 

「茶化すでない。フィーとのことだってそうだ、私が求めているものが理想だということも分かってはいるのだ・・・だけど妥協はしたくないのだ・・・心がモヤモヤして納得できないんだ。」

 

迷っているラウラをあまり見たことがないだから驚いたというよりは新鮮だった。

更に言えば親近感のようなものまで湧いてきた。

僕はいつだって迷っている。だから、いつも迷いのないラウラが迷っているとなんていうか「あぁ、こいつも悩むんだ・・・」と思ってしまう。

 

だから、答えてあげよう。

僕のとても答えとはいえない方法を。

 

「だったら思いっきり悩めばいいさ。悩んで悩んで悩み抜いてそれで出たのが多分答えだ。」

これでも迷いに関しては僕の方が大先輩だ。なにせ僕はいつだって悩んでいる。

そして先輩なら後輩にアドバイスしてやるのが義務というものだ。

 

 

 

「その答えが間違っていたら?正しい答えではなく全く見当違いのものだったら?私は大きな過ちを起こすのではないかと怖いよ・・・。」

本当に驚いた。

ラウラという人間は弱音を吐くような人間ではないと思っていたからだ。

いつも凛としていて、気高く奢らずその姿はおとぎ話に出てくる戦乙女ヴァルキュリアのように思えた。

そんな彼女が顔を苦しげに歪ませて弱々しく僕を見てくるのだ。まるですがるように。

 

 

「間違えればいいじゃない。」

 

 

「は?」

 

 

「だから、間違えればいいじゃない。悩んで間違って、また悩んでその度に答えを出せばいいじゃない。そうやって自分の納得する答えを泥臭く探せばいい。」

まぁ、間違えずピタリと正解を当てれるのが一番なのだが、僕は要領が良くないのでそんなことは出来ないしこの方法しか知らない。

だいたい間違ってはいけないって考えが馬鹿らしいね。僕なんて間違い過ぎてもはや数えるのすら億劫だし。

 

 

「間違ってもいいのか・・・・?」

 

 

「はぁ・・・やっぱり頭が固いなぁ。間違えない人間なんていないし、間違っちゃいけない決まりなんてのもない。納得がいくまで間違え続ければいい。」

本当にラウラは頑固だと思う。

 

 

「クククク アハハハハハハハハハ!!!!!そうかそうだな。何度でも問い続ければいつか答えは出るか・・・その通りだ、全くその通りだ!至ってシンプルだ。そうかこんなにも簡単なことだったのだな。」

ラウラはついさっきまでは真剣な顔をして眉を顰めていたのに、今度は大きく口をあけて笑い始めた。

 

 

「いや、あくまで僕に1意見だからあんまり真に受けられると・・・。」

僕の話なんて聞き流して欲しい。いやほら自分がアドバイスして失敗されるとか嫌じゃない?

 

 

「いいや真に受けるさ、だって間違え続けているそなたが言うんだからな。ここまで説得力のある言葉を私は聞いたことがない。」

なにそのひどい言いよう。自分では自覚してても人に言われるとなんかショック。

結局否定は出来ないけどさ。

 

 

「だから私を見ていてくれ。答えを出して見せるから。」

彼女は右手を自分の胸に添えて僕に視線を投げる。

その真っすぐに向けられた真剣な瞳に思わずどきりとしてしまう。

普段の行動とかが酷くて(僕に対して)忘れがちだけどラウラは本当に美少女なんだなと思ってしまった。

な、なにか悔しい!

 

 

なにはともあれ答えは出ていないものの彼女は吹っ切れた。ならば、答えなどすぐに見つけてしまうことだろう。

 




ちょいと一言。
なんでわざわざこんな話しを入れてややこしくすんなよ!!!って感じる人たち用に弁解的なのを一つ。

作者自体が本編をみてラウラに不満みたいなものを感じました。
作者的にはラウラを叱る人的なのがほしかったために今回の話をいれたというわけです。
ちょうどムンク君は家族に何らかの思い的なのがある(暫定)らしいのでムンク君に叱らせてみました。

以上!!!


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ラウラとフィーの答え

おひさです。本編と大差ないから退屈かもしれません。


「後悔することだけは絶対にあり得ないと思うんだ。」

そういって小柄で可愛らしいとも言えるエリオットが笑顔で断言した。

その言葉には寸分の迷いすらなかった。

 

 

ケビンと別れた後、僕とラウラはリィン達と合流した。

素手に空は茜色になっており、リィン達はエリオットの家にいた。

 

エリオットの部屋に入るとたくさんの楽器がずらりと並べられていて一瞬目を疑った。

エリオットは趣味程度と自重していうがとてもそうは思えなかった。

 

エリオットは部屋で自分について語りだした。

音楽学校を目指したかったこと。

それを父に反対されて仕方なくトールズ士官学院に来たこと。

当時は父を恨んだりもしたと言った。

 

だけど

「ここに来たことは後悔してない。」

そんなことを笑って言うんだ。

むしろ来れて良かったと。みんなと出会えて良かったと。

僕にはそんなエリオットが眩しくてたまらなかった。

 

 

ーーー僕はあんなことを迷いもなく言えるだろうか?

 

 

頭にこびりつくように浮かんだ疑問を必死に消した。必死に消した。見なかったことにするように。

だって、だって僕にそんなこと言えるはずもないのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

夜も遅くなり僕たちはエリオットの家を後にし、宿である元遊撃手商会に戻ることにした。

エリオットは久しぶりの実家ということで実家で一晩過ごすらしい。

ていうか、姉が離してくれなかった。微笑ましいですね。

 

「あれ、戻らないの?早く寝ようよ。もうダルい。」

早く寝たい

即刻寝たい

ノータイムで寝たい。

誰かを気遣うとかどうでもいいから寝たい。

 

 

「君ね・・・」

 

「ムンク、少しは空気を読んであげろよ・・・」

 

マキアスとリィンが呆れたように僕に視線を投げる。

いや、だってラウラとフィーが真剣な顔して立ち止まって宿に入ろうとしないし。

これ、絶対なにかしようとしてるじゃん?

僕としては早く帰って寝たいんだもの。

 

 

案の定というか当たり前かのようにラウラが言葉を発した。

「フィー。私と勝負してくれ。」

 

「・・・いいよ。」

 

 

ほらー、やっぱりなにかやるつもりだったよこの二人。

もう夜も遅いし止めたいところだがそれは出来そうもない。

仮にそんなことしたところで無駄だろう。

それだけ彼女らの瞳は真っ直ぐだった。

二人の瞳は真っ直ぐでここ最近の二人とは思えないほど。

エリオットと同じで揺るぎそうもないぐらい真っ直ぐだった。

 

 

この二人は一戦交えるつもりだ。

場所は住宅街から離れたところにあるマーテル公園。

ここならば夜であれば人もほとんどいないということで選ばれた。

 

ーーーー

 

「フィー、私がソナタのことを好きだからだ。」

うわー

ラウラとフィーを中心に百合の花が咲き誇ってるわー

男とか去勢されそう。

 

リィンとマキアスとか純粋な目で見てるからなんか申し訳なくなってきた・・・

 

公園に対峙するフィーとラウラ。

ラウラはフィーに語りかける。

フィーに納得していなかったこと。

猟兵という存在を頑なに認められなかったこと。

フィーも同じでラウラは日陰者ともいえる元猟兵である自分を受け入れることは出来ないと思っていることを吐露する。

 

フィーを理解したい、認めたいと思うラウラはフィーの過去が知りたいと言った。

その上でフィーのことをどう思っているかラウラは告げた。

 

 

「教えてもいいよ。でも、報酬は自分の手で掴み取るのが猟兵の流儀。それでいい?」

フィーはラウラの言葉にそう応えた。

 

 

 

人間関係は複雑だ。拗れて直そうとすればさらに拗れる。

素直になれないなら余計にだ。

だから、ラウラは裸の自分の心をそのままぶつけることにした。

ややこしい価値観や騎士道。そんなものを全て投げ捨てた真っ直ぐな気持ちをぶつけることにしたのだ。

 

 

 

「フィー私は正しに捕らわれすぎていた。気づいたんだ……なにも考えず正義なんて言葉に陶酔してたことに。」

 

「だから、思いっきり私と戦ってほしい。そうでもしなければ納得出来ないんだ。だから手を抜かないで本気のぶつかり合いをしよう。」

だからこそこの二人は戦う。

理屈ではない。

頭で理解していても納得できないことがある。

言葉だけでは本当の意味で心には響かない。

言葉だけでは表せないことだってある。

そんなときはなにも隠さず思いっきりぶつかるしかないのだろう。

 

「めんどい生き方してるなぁ・・・」

ぼやく。

だって僕にはそんな生き方とてもじゃないが無理だ。

 

 

「ふふっ ムンクお前のお陰でもあるんだ。だから私は誠心誠意全力で答えを見つけ出したいんだ!!」

 

 

「エリオットの真摯さに自分は何をしてるんだと恥ずかしくなった。

ムンクの問いには答えられなかったから。だから私なりの答えを見つけ出したい!」

 

「だからいくぞ!フィー!」

 

「分かった、ラウラ。私も全力ですべてをさらけ出すよ。」

 

ーーーーー

 

 

戦いの火蓋が切っておとされた。

最初に仕掛けたのはフィーだ。

フィーの凄まじい高速連撃。一撃が飛んできたと思うとすぐに次の一撃が飛んでる来る。

何よりも厄介なのがその動きが捕らえられそうにフラッシュグレネードなどの搦め手を使ってくることだ。

 

だがラウラも決して負けてはいない。ラウラには協力無比な一撃がある。どれだけ追い詰められようが逆転を許してしまうような。

実際フィーが手数で押しきろうとすると、ラウラは大剣を叩きつけて逆にフィーを追い詰める。

 

 

「やるね、ラウラ。」

 

「フィーこそっ!!」

戦いは更に激化する。

 

お互いの実力は拮抗している。

このままではお互いに拉致があかないと感じているはずだ。

 

 

ピリッと空気の振動が頬をよぎった。

次だ、お互いに次の一撃で全て決めるつもりだ。

 

「父に教わった奥義を見せよう!」

 

「私も団長に教わった取って置きの戦技を見せる。」

ーーーーーー

 

 

「そこまで!!」

リィンの掛け声とともに戦いは終わった。

お互いに限界まで戦い、息も絶え絶えになり仰向けに地面に倒れる。

 

 

「す、すごいな。これはどっちが勝ったんだ!?」

マキアスにはどちらが勝ったのかわからないようだ。

僕も分からない。

それだけお互いの実力は拮抗しているように見えた。

 

 

 

「私の負け。猟兵の得意分野である夜間戦闘で互角だったから」

 

「むぅ・・・」

ラウラは納得していないようだが、フィー言い分には一理あった。

言い分通りフィーの戦闘スタイルで

ある奇襲は視野が狭まる夜間にこそ生きるもの。

これが昼間であったならラウラは押しきっていたかもしれない。

フィーとしてはプライドが許さないからこそこの結果(こたえ)なのだろう。

 

「真面目だなぁ、僕なら絶体譲らないや。」

思わず呟いてしまった。

しまったと思いはしたが時すでに遅し。

呆れたような視線が僕を攻めるように集まる。

いや、ほら僕プライドとかそういうのは犬に食わせた系男子ですし?

 

 

こほん・・・話が横道にそれた。

 

 

そうしてフィーはポツリポツリと過去を語り始めた。

自分がいつの間にか戦場で捨てられていた孤児だったこと。

そんな時に猟兵団に拾われたこと。

そしてその猟兵団が何よりも大切な家族になったこと。

自分が戦場で戦うこととなった経緯。

猟兵団の団長が戦死して団がバラバラになって途方にくれた。

そんな時にサラに拾われてトールズ仕官学院にくることになったらしい。

 

 

語るフィーの表情はとても柔らかくて猟兵団がどれくらい大切な存在だったのか感じとれた。

 

 

「そうか。」

ラウラが短いけど、確かな言葉を一言。

その言葉は端的なものではあったが様々な感情が込められていた。

ラウラはようやくフィーを認め、受け入れることが出来たのだ。

そしてそれはフィーも同じだ。

 

 

 

 

ともかく決着はついた。

お互いの表情はとても晴れ晴れとしておりもうわだまかりなどないことだろう。

お互いが朗らかに笑みを浮かべている。

まぁ、これでここ数日のギスギスとした空気がなくなるだろう。

少なくとも安眠は出来そうだ。

あー、やっと寝れる。だいたい夜遅くになんでこんなことしなきゃいけないんだよー。

どうせ明日も早いんでしょ?

明日はお休みとかにならないかな?

なりませんよね。滅べ明日。

 

 

ともかく寝れるそんな幸せに浸っていたその時ーーー

「これならもう戦術リンクもきれることも無さそうだな。」

 

「あぁ、むしろより強固になっているだろうな。頼もしい限りだ。」

リィンとマキアスの会話が耳に飛び込んできた。

いや、変哲もないありふれた会話なのだが・・・

どうも嫌な予感しかしない。

うへぇ、僕の危機感知センサーがビンビン反応してるよぅ。

 

 

「ところでフィー。試してみたくないか?」

ラウラが何か意味ありげな笑みをフィーに投げ掛ける。

 

「うん、そうだね。ちょうどおあつらえ向き…………もあるしね?」

 

 

「散会!!!」

 

ガシッ

 

逃げようとした僕の両肩に手が乗せられる。ていうか捕まれてメキメキ悲鳴をあげてる。

 

「ムンクは日中サボっていたのだから体力は有り余っているだろう?」

表情こそ笑っていても目が笑ってないラウラさん。こわいっす。ちびる。

 

「サンドバックが逃げちゃダメ・・・」

 

サンドバッグ!?今サンドバッグっていった?

 

いや、待て。今日はリィンとマキアスがいた。彼ら常識人なら止めてくれるはず……っていない!?

 

 

え?なんでラウラとフィーはこっちに武器を構えてるの?

え?リンクを試したい?

やだよ!?僕やだからね!?嫌だって!!!

 

え!ちょっ!

 

ぎゃあああああああああ!?

 



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エピローグ:たとえ間違っていたとしても

二章前半の最後


身体中がいたい・・・

ベットに体を預けても痛みで眠れる気配がない。

隣のベットで気持ちよさげに寝ている僕を置いて逃げたリィンとマキアスを見ると怒りが沸々と込み上げてくる。

そう僕を置いて逃げた奴等を見ていると怒りがフルマックス。

アリサ達が幻滅するようなリィンの写真でもとってばらまいてやろうかな。

いや、やめておこう。もれなくリィンハーレムに殺される。僕が。

 

ていうかふざけんなよ。なんで僕がラウラたちにボコボコにされなきゃいけないんだ。

ラウラとフィーの戦術リンクを試したいとかいう頭がおかしい行為のせいで体がズタボロです。

あの子達本格的に僕のことサンドバックだと思い始めてるだろ。

 

 

 

横になっていても寝れる気配がない。

仕方なく体を起き上がらせるとまた緩やかな痛みが体を襲う。

後頭部を無造作にかきむしる。

 

「はぁ・・・痛くて寝れる気がしないし気晴らしに散歩でもするか。」

 

ーーー

 

「今日は色々あったなぁ。」

公園のベンチに腰を落とすと一言。

場所はマーテル公園。そうラウラ達が決闘して場所だ。

ブラブラと歩いていると自然とここにたどり着いてしまった。

ラウラたちにボコボコにされたというトラウマを思い出してしまうのが悲しいなぁ。

わざわざそんなところに行くってもしかして僕ってマゾヒスト?

まぁ、ここぐらいしか場所を覚えていなかったっていうのもあるけど。

 

夜の公園は当たり前だが静寂に包まれていた。

こう静かだと色々頭に浮かぶ。

 

ミント、ラウラ、フィー、エリオット、委員長、メガネ、クソイケメン、ツンデレ、金髪貴族、風さん、行き遅れさん、ケビン、孤児の兄弟……

 

本当に色んなことがあった。

色んなことがあったが文字通りあっただけだ。

僕は結局何もしていない。

僕は何もしなかった。

 

『このままでいいのか?』

『それは逃げているだけじゃないか?』

『臆病者』

 

そんな言葉が心に浮かび上がってきてしまった。

 

「いいに決まってる。僕にはこれしかない。」

「だってこれしか選びようがないでしょ?これが一番の最善手だよ。だったら僕はずっとこのままだ。」

「はぁ、分かってるよ。これが単なる強がりだって。だけど決めたことなんだよ。」

 

自問自答な独り言。

いつだって僕は自分に問いかけている。

そして、結局のところその問いには一切答えない。答えられない。

そんなことの繰り返しだ。

 

 

「なにを一人でぶつぶつ言っているのだ?」

 

「!?……!!???」

えっ 嘘。なんでラウラがいるの?

もしかして今の独り言聞かれていた?

何それ。すっごい恥ずかしいんだけど。

あー死にたくなってきた。

 

 

ーーー

 

とりあえず僕の独り言に問われても無言を決め込む。

夜中のテンションで喋った言葉なんて恥ずかしくて死ねる。

ていうか穴があったら入りたい。そこで1ヶ月は寝てたい。

 

ていうかなんでわざわざラウラは僕の隣に座ってるんですかね。

よく分からない独り言を聞いた後とか気まずいとか思わないの?

気まずいと思って別の場所に行ってくれるととても助かるんですけど・・・

 

隣に座ったラウラは別段なにもすることはなく、顔をあげて空を眺めているだけだ。

僕も基本的に人に話しかけるとかはしないので必然と沈黙が訪れる。

 

 

しばらく沈黙が続いたがラウラが止めた。

 

 

「私はなにも知らないな・・・いつからだろうな、世界の全部を知ったつもりなっていたのは。」

ラウラはそんなことありえないのにな 、と自嘲気味に笑う。

 

 

いきなりそんなこと言われても困るんだけどなぁ。

『うん、そうだね』って返せばいい?はい、ダメですよね。

ラウラは僕を上目使いで見上げてくる。

その瞳には怯えと何かを待ち望むような矛盾したようなものが垣間見れた。

 

 

「別にいいんじゃないかな。」

多分だが、ラウラは僕に叱られることを望んでるんだ。

罪悪感を軽減することを望み誰かに糾弾されることを期待している。

 

「人間知らないことの方が多いものだしさ。全部知ろうなんてそれこそ神様みたいなものだよ。」

 

「あぁ、ほんとに私は大馬鹿者だ。」

 

ただ、僕が誰かを責めるなんてお門違いだ。

そんなこと言ったら僕は丸一年は誰かに説教されてしまうだろう。

だから、全く正反対のことをしてやろう。

もともと僕が誰かを説教して正すなんてことは性にあわない。

 

 

「いいんだよそれで、馬鹿でいいじゃん。馬鹿なら知らないことを一個づつ知っていけばいい。一番駄目なのは多分知ろうともしないことだよ。今回だってフィーのことを知れたでしょ?」

 

 

ラウラ目を見開きあんぐりと大きく口をあけて見たことようなアホ面をつくる。

「え、いやなにその反応・・・なんか恥ずかしくなってくるんだけど・・・」

 

「いや、すまない。ムンクがこんなにもまともなことをいうとは・・・」

 

「えっ そんな認識?僕今回は割りとまともなことを言ったよね!?」

 

「クククッ・・・あははは!!!」

ラウラは大声を上げて盛大に笑う。まるで憑き物が落ちたかのように。

 

「そこで笑わないでよ!?」

このタイミングで笑われると僕は凄く恥ずかしい。

だって、こんなくさいセリフ言った後なのだから。

顔に熱がこもるのが分かる。

 

「くくくっ・・・いや、すまんそなたを笑っているわけじゃないのだ・・・それにしてもあまりにもなププッ」

 

なんて説得力のない言葉だ。何これ穴があったら入りたい。ついでに穴のなかで1年は惰眠を貪りたい。

 

「いや本当にそなたを笑っているわけじゃないのだ。あまりにも自分が滑稽でな・・・そうだ簡単なことだったんだ、知ればよかったんだ。」

 

「だね。答えはいつだって単純だよ。ただ、それ以外ことが複雑にしてくる。全く困ったもんだよ。」

 

世界は案外と言うか普通に意地悪なのだ。

神様とかは信じていないけどもしいるなら録な性格してないだろうね。

 

 

「そういえばムンク。まだソナタの問いに答えていなかったな。」

 

「あぁ・・・」

そういえば昼間になんかいったなぁ。

孤児の兄妹をみて何かいった気がするなぁ。

 

 

「ムンク。私は答えを出したよ。私は決めた、例え綺麗事だろうとそうしたいと思ったんだ。」

具体的なことは一切言っていない。

それでも、言いたいことはわかった。

この眩しいぐらい強くてで真っ直ぐで優しい少女はそういう答えを出すだろうとすぐ予想がつく。

 

「お人好しだなぁ。とても僕には出来ないよ。」

本当にこいつは凄いやつだよ。

どうしようもないことにでも立ち向かえる奴なんてそうそういないからね。

ーーーーー

 

 

「それにしても案外ムンクもお人好しだと思うがな。私にも気にかけて色々言ってくれたではないか。」

 

さっきの意趣返しなのか分からないが何故かしたり顔のラウラ。

 

「よしてよ。僕はいつだって自分のことしか考えてないよ。それに今回だって気に入らなかったから言いたいことを言っただけだよ。」

 

「ふふっ そういうことにしておいてやろう。」

なんだその顔は。

その「分かってる分かってる」みたいな雰囲気だすのやめて欲しい。

反論しても意味が無さそうなので諦めてそっぽを向くことにした。

 

ラウラとの会話が止まり再び沈黙が訪れると夜の暗闇が気になった。

真っ暗な夜だ。

 

まだ真っ暗だが時期に夜が更ける。

また、新しい一日が始まるだろう。代わり映えのない一日が。

ただ、ほんの少し誰も気がつかないような変化があったりすることもある。

 

例えばあの場所にいたはずの兄妹がいなくなっているとかね。




これにて二章前半終わりです。
次から二章後半です。少しづつムンクの過去に触れていきたいなと思います。

一応補足ですが、今回自問自答するシーンがあるのですがムンクは二重人格だったり精霊とか妖精がとりついてるわけではありません。


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二章(後半)
サラは意外と見ている


「あら、まだ起きてたの?」

 

 

 

ラウラと夜中の公園で話をしたあと時間をずらして元遊撃士商会の宿に戻った。

ほら、時間をずらさないと夜とラウラと一緒に帰ってくるとか状況を見られる可能性あるじゃない?

見られたらあらぬ誤解を受けるし。

そうなるとただではすまない。僕が。

確実にラウラにフルボッコにされる。僕は悪くないのに理不尽だろ、おい。

 

話がずれた。戻るとサラとリィンが部屋の通り道で話をしていた。

それがなんとも言えぬ雰囲気でこっそりと隠れていなくなるのを待つことにした。

しかし、サラに気づかれてしまった。

 

「え、えぇ。午前中寝すぎて……」

 

「午前中は実習課題受けてたでしょ!?あなたサボってたの!?」

 

「いえ、最近歩いたまま寝れるようになりまして。」

最近習得した奥義である。

 

「ある意味すごい!?なんて才能の無駄遣い……」

いいえ才能ではなく努力です。

 

 

「それで?あんまり盗み聞きは感心しないわよ?」

 

言葉につまる。

野生の勘レベルだよ、普通にばれてた。

でも、聞こうと思って聞いたわけじゃないから無実だよね?

サラが元遊撃手とか聞いたけど大して興味もないし。

 

 

「い、いやぁ、悪かったですよ。まぁ、聞いたことは別に喋ったりしませんよ。」

ていうか喋ったらろくな目に合わなそう。

 

 

「ま、別にそこまで大した内容じゃないからいいんだけどね。」

 

沈黙。あれだ、僕が喋らないから沈黙が訪れる。

ここにモテる男との差がある、しね。

 

「あなた、少し私に付き合いなさい。どうせ眠気も覚めてるんでしょ?」

 

「いや、眠いです。今から三十時間は寝ないと……」

ムンク式睡眠術。

その効果は絶大で30時間は連続で寝続けられる。

ぜひ、七組には習得してほしい。これで授業とかボイコットしよう。

 

「丸一日以上!?まぁ、いいわ。いいからついてきなさい。」

 

「えっ」

 

「い い わ ね ?」

底冷えするような眼光。まるで獰猛な獅子だ。思わずからだが震える。

哀れな被捕食者でしかない僕は素直に頷くしかないのだ。

 

 

ーーーー

 

「あなたとは一度腹を割って話したいと思ってたのよね。あの時期にいきなりの7組の加入、確実になんかあるでしょ」

サラは一気に酒を喉に流し込みグラスを空にする。

この人酒癖悪そーだから、少し不安になるな。

介抱とか嫌だよ?絶対嫌だからね。

 

「あ、あはは、色々買いかぶりすぎですよ。ていうか僕にそんなのあると思います?」

 

「まぁ、普段のあなたを見てる限りあり得ないと思うんだけどねぇ・・・」

 

先日の旧校舎での戦闘を思いだし内心冷や汗をかく。

アレを見たのはクロウ、アンゼリカ、ミントの三人だけだ。

ばれていないとは思うけど・・・

 

 

 

 

「あなたはなんでそこまで人と関わろうとしないの?」

 

「いや、単にやる気がないだけで……」

 

 

「いいえ、違うわ。いえ、それも理由の一つではあるでしょうけど根本的に違うわ。」

 

言葉につまる。

軽い気持ちで話をしていたはずなのにいきなり核心を的確についてくる。

心の底を見透かされた気になり恐怖が滲み出る。

 

嫌だ。僕を見るな。見ないでくれ。

 

「いや、本気でやる気がないだけですよ・・・だいたい僕がやる気だしたら数少ないアイデンティティーが崩壊しちゃうじゃないですか・・・」

 

「そんな自己形成捨ててしまいなさい・・・」

サラは眉を潜めて頭を押さえる。

 

「まぁ、無理矢理とは言わないわ。それでも目を逸らさないで見据えて欲しいものね。」

そういってサラは僕に優しげな視線を投げる。

恐らくはこの教官は気づいている。

 

僕が何一つ見ようともしていないことを。

ミントのことだってそうだ。

一時期見ようと心が揺れたかもしれないがやっぱり見ることは出来ない。

どうあがいても僕が僕である以上出来ない。

いや、結局しようとすらしていない。

だって・・・

 

 

 

「あはは、善処します・・・」

頭のなかに腐った林檎のように熟成した思考を廃棄処分した。

それを誤魔化すように苦笑して、相づちをうつ。

 

表面上で、言葉でいくら取り繕ったところで僕は彼らをまっすぐ見ることは出来ないだろう。

それは僕にとっての諦めだ。そして諦めてしまったら僕は終わる。

 

僕を真っ直ぐと見つめてきた少女を思い出す。

僕は彼女に見られる資格があるだろうか?

ない。断言できる。

 

また、ゴミの掃き溜めのような思考が浮かび上がってくる。それをまた棄てる。

それでいいのか?という漠然とした疑問が何度も脳内で反芻される。

だが僕はその疑問に解を出すことは出来ない。

出そうともしない。

いくら考えようが納得のいく解はでない。

情けなく無責任に放置するしか出来なかった。

 

ーーーー

 

夜がさらに更ける。

サラは酒を湯水のように喉に流し込んでいる姿が非常に不安心を煽る。

この人出来上がってないよね?

 

「はぁ~やっぱりいいわぁ~五臓六腑に染み渡るわねぇ」

 

「教官飲みすぎですよ・・・嫌ですよ?介抱とかするの?」

いや、本当にやめて。まじで面倒くさいから。

 

 

「はぁ~せっかくいい気分なのにぃ。ムンク貴方モテないでしょ?」

ほっといてよ。

ていうか、ムードが読めないとかいいたいの?今ムードとかそういうのなかったじゃん。

だから、モテないとか認めたくない。まぁ、モテないんですけどね。

 

「そういえばもうひとつ聞きたいことがあったのよねぇ。」

 

「なんですか・・・?」

分かりやすいようにわざとうんざりとした表情をする。

 

 

「あなた、アイン・セルナートって知ってる?」

 

「はぁ・・・回りくどいですよ。全くどこから調べたんですか・・・」

 

 

「まぁね~これで色々コネとかあるからねぇ~」

 

 

「どうせトヴァルさんでしょ。」

ていうかあの人ぐらいしか思い付かない。

案の定サラは「ばれた?」とか言って下をペロリと出した。

なにそれ。可愛い子ぶられてもなぁ、この人いい年だろうに。

 

「ムンク?」

間違えた。この人はいつでも魅力的だよね、生徒じゃなきゃ告白してたね。

ザンネンダナー

 

「しかし、驚いたわーあのアイン・セルナートに 隠し子 がいたなんて!」

 

ズコーッ!!!

「チッガーウッ!!!!」

ちょっと何言ってんの!?なんでそんなことになってんの!?

 

「あれ、違ったの?」

 

「違いますよ。あの人にはかなりの恩があるのは確かですけどね。」

 

「それで、何の用なんですか?わざわざ人も少ない夜中に呼ぶんだから何かあるんでしょう?」

 

「そうね」

サラが一言呟くと雰囲気が変わった気がした。

先程までの弛い雰囲気が嘘かのようになってしまった。怖いぐらい静かで肌がひりつくようだ。

 

「聖女の落日って知ってるかしら?」

 

「せい・・・じょ・・・?いや、知らないですけど。」

嫌だ。

何か嫌な予感がする。

 

「三年前のことよ。」

 

 

「知らないのね、本当に知らないみたいなのね。」

 

「アイン・セルナートは三年前に死亡してるのよ。」

 

 

 

ーーーー

 

その夜のことはもう覚えてない。

気がつけば宿のベッドに倒れこんでいた。

ただ耳にこびりつく言葉があった

 

「ホントウニナニモオボエテイナイノネ」

 

 

 

 




少しずつムンクの過去に触れていきますよー


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