・0 プロローグ
――西暦2637年――
地球の突然変異により、地上の大部分は自然化し、それに伴い生物も進化していった。
人類も当時の科学技術を捨て、大自然と共生する道を選んだ。
しかしそんな人類に待ち受けていたのは進化しモンスター化した生物達。過去の遺物である科学技術が使えない人類にとって毎日が恐怖であった。
禁忌になった科学技術を使用しようとした、または使用した者。
重度の脳機能障害になりモンスターに喰われたか自害した者。
モンスターの殲滅をしようとして喰われた者、と数年で人類は絶滅の危機になる程の数まで減ってしまった。
そしてまた数年、人類は都市までとは言えないが村があり、そこでは大昔の人類の様に狩りをして暮らしていた。
モンスター達を狩り、肉は食し皮や骨は武器や防具に加工され使われる。
そしていつしかそれを専門に行う者達が現れ人々からこう呼ばれる様になった……
《HUNTER》
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・1 真実
――第47都市地区 “トウキョウ”――
「……なんて感じに書いてみたけどどうかな?」
そういう彼女は俺の机の上にドンとFINと書かれた紙芝居を置きながら感想を聞いてきた。
どうって言われてもこれは……
「なんか色々誤解が生まれそうにまとめたな」
「でも基本的に間違ったことは書いてないよ? まぁ村や科学技術はさすがに嘘だけど」
うん、まぁ確かに合ってはいると言えば合っているが、まるで数世紀前の遺物であるハンティングゲームみたいだ。
ここは第47都市地区で唯一存在する、教育機関の教室である。
目の前で紙芝居の様に紙を使って説明していたのはライガ―ン・ダ・ラビという同じクラスの女子生徒である。
彼女は今では旧人類と呼ばれる普通の人間とは違い、猫科動物の耳を生やしたいわゆる獣人である。
これは別に病的なものや、呪いといった宗教的なものではない。
人類の“進化”によって生まれた種族なのだ。
また獣人にも様々な種類がいる。
少なくとも、現在確認されているだけで12種はいる。
そのせいか昔からいる旧人類の割合が若干低く、クラスでも40人中10人程度しかいない。
結果的に旧人類の人たちは色々と珍しがられることもある。
なんたって俺がそうだからだ。
今はそうでもないが新学期とかになると一種のモテ期みたいに人が集まってくることもあった。
でも主に男だから全くもって嬉しくない。 むしろ嫌を通り越して死にたくなる、割とガチで。
あーちょっと脱線してしまったな。
とりあえず、この世界で獣人という存在は逆に旧人類が珍しがられるほど当たり前の存在になっている。
あ、ちなみに全然さっきの獣人の説明とは関係ないことだが、ライはバカだ。獣人達がバカなのではなく、ライガーン・ダ・ラビが救いようのない程のバカなのである。多分バカって言葉はこいつの為に生まれて来たんじゃないのかってぐらい、バカである。
「ん、なんか私のことをバカだって思ってない?」
……とまぁ、ライがバカなのはどうでもいいとして、ライがさっき言ったことをもっと詳しく誤解の無い様に言うとこうである。
約300年前、北極圏の地盤の変化により恐竜の氷漬けが大量に発見された。
そしてそれを元にクローン化し、恐竜ブームになるまで当時は注目されていた。
そしてそれから数十年が過ぎ人々の恐竜に対する注目も冷めた。そこまでは他のゲームや珍しい動物と対して変わらない。今俺達が生きている世界が当時とかけ離れたものになった理由とライの言葉にあった地球の突然変異は次のことが原因である。そう、とある科学者による恐竜と当時生息していた他の生物との混合種(ミックス)を作ってしまったのだ。
しかしそこで生まれた混合種が危害を加えない生物だったら今みたいな世界にはならなかったのかもしれない。
「おーい彩夏(さいか)? 何ぼーとしてるのよ」
気づけばライの顔が俺の目の前にあった。
「ちょっ近い!」
もうほんと目と鼻の先の距離だった。
にしてもこいつまつ毛とか長いな。前から可愛いとは思っていたがこう間近で見るとかなりの美少女じゃないのか?学園内でも一番可愛いんじゃね?
なんて客観的に見ればかなりどうでもいいことを考えていると何故かライが顔を赤らめ何やらもぞもぞとしだした。
「おいライ、トイレだったら行って来いよ」
我慢はいけないからな、と思って言った言葉だがどうやら間違いの様だった。
「ちっ違うわよ!次授業移動だから早く用意しなさいよね!!」
そう言って彼女は教室から急いで出て行った。
「あれ、俺なんかした?」
教室にまだ残っているクラスメート達は少し冷たい目線で俺を見ていた。
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2話
・2 ミッション
突然だが今から俺の自己紹介をしたいと思う。
俺はさっきも言った通り旧人類である。髪も黒の短髪で背丈や体格もそれなり、顔もそれなりと自負している。
だが、未だに大昔に流行った言葉でリア充と呼ばれるものになったことがない。
うん、理由は多分わかっている。むしろこれ以外ないと思いたい。
男なのに神翼彩夏(しんよくさいか)という女みたいな名前をしているからである、と信じたい。
親曰く、「病院の人が女の子ですって言っていたから女の子の名前しか考えてなかったのよー」という全くもって信じられない理由で付けられた名前である。
そしてライが教室を出た後クラスの奴らから“変態糞野郎”という烙印を押された。
そして現在若干病み気味な俺は課外授業ということで外に移動し、生物調査の授業を受けている。
恐竜とのクローンで生まれた今の大半の生物達は短期間で数万種類まで増加、進化し、今でもそれは終わりを見せていない。
そこでHUNTERの方々や生物調査の授業という名目で俺達みたいな生徒もほぼ毎日森林地区などの外部エリアに行き、生物の生態系を調べているのだ。
しかし、まさか今日のパートナーがまさかのライとかどういうこと?
なんか向こうは向こうでチラっと見て、目が合ったら顔はもちろんのこと耳まで真っ赤にして首が千切れるんじゃないのかってぐらいの勢いで顔を逸らしている。
そして気づけばまたチラッと見てきて目が合うと再びものすごい勢いで顔を逸らすというループを繰り返している。
んー俺の顔になんか付いているのか? ちょっと聞いてみるか。
「なぁライ……」
「ゴメン! また後でね!」
逃げられた。声かけただけなのに全速力で、逃げられた。
そして周りの奴らから“振られた変態糞野郎”に改編、基不名誉を通り越すぐらい降格された。
なんとかライを捕まえたが状況は悪化し、捕まえた瞬間ライは発狂してそのまま気絶してしまった。
そして今俺は臨時医務室で寝ているライの隣に座っている。
ちなみに現在臨時医務室にいるのは俺とライの二人である。
元々は女性医務医がいたのだが……
「私はちょっと用事が出来たという名目で外に出るからほどほどにねぇー」
と言って本当に出て行ったのだ。
いやほどほどってなんだよ。
いや何が言いたいかわかるけど!
「あぁもう!」
あの女医のせいで変に意識してしまう!!
なんでこんなにドキドキしてるんだ、俺は!
太陽の光のせいか彼女の金髪が眩しく輝いていた。
それはまるで神話に出てくる女神の様に彼女は輝いていた。
やべぇ……触りたい。
「ちょっとだけなら、いいよな?」
なんか犯罪臭がする発言をした気がしたが決して犯罪的なことはしないから!
ただ髪を触るだけだから!
あれ、なんか髪だけでも十分犯罪臭くね?
「……おぉ」
なんて葛藤があったが結局触ってしまった。
「んっ……」
髪を触られ、くすぐったかったのかライの口から声が漏れた。
それに驚いた俺はすぐ手を離し、起きたのかと思い変に背筋を伸ばしながらしばらく様子を見た。
結果的に起きていなく、ライはそのまま寝ていた。
それに安心した俺は椅子の背もたれに体を預け再びライの顔を見た。
教室でも思ったがこいつは友達でも俺には勿体ないぐらい可愛い。そして今にして思うと、こいつは性格も普段元気でバカだから全然気づかなかったけどいつも優しくて笑った顔がとても暖かくついこっちも笑ってしまう。
あれ? あぁそうか、俺ってこいつのことが――
あれからすぐではないがライは目を覚まし、さっきみたいに顔を赤くしたり逃げるような行動はしなくなった。
本人ももう大丈夫と言っていたので担当教員に一声掛けてから授業に参加した。
この授業は主に新種生物の発見である。
一人は新種探し、もう一人は周りに危険種や地形的に危険な所がないかと調べるペアで受ける授業である。
ちなみにペアは毎回くじ引きで決まり、今回ライと組むのは本当に偶然なのだ。
そして現在、ライが新種探しで俺が周りを警戒及び調査という風に分かれた。
開始十分もしない内にライは新種の動植物を20種近く見つけた。
「これで25種類目っと。ねぇ彩夏、今日はなんか多いけどたまたまかな?」
ライは見つけた新種植物のサンプルを採りながら聞いてきた。
「たまたまだろ。前別の奴と組んだ時は10種も見つけなかったぞ?」
まぁ一つの理由としてはこいつが獣人だからだろう。
獣人は旧人類に比べ視力や聴力等に優れている。
大概は危険種の察知や地形の記憶等で新種探しの方にはならない。
では何故ライは新種探しをしているのか、それはさっきも言ったがバカだからだ。
本人曰く、わかってはいるけど別にいいかな、会ったら会ったで討伐か捕獲したらいいやと思っているらしい。
現にそれで何回か危険種に遭遇して狩っている。
そして逆に狩られかけたこともあったらしい。
それを聞いた俺は、もし彼女と組んだ時は何が何でも新種探しの方をさせる!と結構前から決めていたのだ。
結果は明らかに大漁である。
ただ今28種の新種をって、また見つけやがった。これで29種類目か。
さてそろそろ引き上げないと。
このままだと授業終了時刻までに帰れなくなるな。
そう思いライに声を掛けようとした時、ライのすぐ下の地面が盛り上がり何かが出てきた。
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3話
・3 土龍ディエイラ
「ライっ!」
目の前が土煙でよく見えない!
俺は何度か彼女を呼んだが、彼女からの返答はなかった。
土煙が少し晴れ、ついさっきまでライがいた場所には直径が5mぐらいはする大穴が開いていた。
「なんだよ、これ」
いや待てよ、地面から突如大穴、はっ!
すると上空から耳が引きちぎられるのではないのかというぐらいの金切り声が聞こえた。
この声に地中の生物で更に空を飛ぶ奴は!
空を見ると俺が予想したモンスターがその姿を現していた。
地面から現れたのは危険種、土龍ディエイラだった。
俺は手持ちの短刀を構え相手の出方をうかがった。
しかしライの奴どこに行ったんだ?まさかディエイラにやられたのか!?
「なんて思ってないわよねぇぇぇえ!?」
「……え?えぇぇぇぇぇえ!?」
行方がわからなくなっていたライはなんとディエイラに跨り、一方的な攻撃を繰り返していた。
んーなんていうか、どっちが化物(モンスター)か分かんねえな。
一方ディエイラも抵抗しているがギリギリライに当たらず、逆に自分自身にダメージを与える結果になっていた。
やがて蓄積されたダメージと飛行による疲労かディエイラは徐々に高度を落とし、ついに地面に落ちた。
「よっと」
地面に落ちたディエイラから降りたライはくるっと俺の方へ向き大きくピースをした。
「お前っ怪我とかはないのか!?」
俺は3割の心配と7割の怒りを右手に集中させ、後頭部を殴った。
「いたっ。今!今怪我した!!」
ライは後頭部を押さえ涙目で俺を睨んできた。
しかしその姿はとても可愛すぎて正直全然怖くなかった。
「すまねぇって。ほら、これで許してくれよ」
俺はそう言って殴った所を撫でた。
するとライは徐々に顔が緩んでいった。
「……なんかうまい具合にやられてる気がするなぁ。まぁいいか」
ボソッとライは言っていたが顔を見ると満更でもなさそうだった。
そろそろ若干空気になっていたディエイラを捕獲か討伐するか。
そう思いふとライの後ろを見ると、すぐ傍でかぎ爪を大きく振りかざしているディエイラがいた。
無意識だった。
俺は振り落されるかぎ爪が彼女に当たらないように抱きしめた。
そして刹那、背中から自分の中に何かが体をえぐられる感覚と音が少し長く聞こえ、そのまま倒れた。
一瞬のことで何のことかわからなかったライは徐々に今の状況を理解していき、すべてわかった時にはまるでこの世の終わりみたく、体を震わせながら俺に近づいてきた。
「……さいか?彩夏!!」
「なんで、なんで私をかばって傷ついてるのよ!!」
ライは涙を浮かべながら俺を呼び続けた。
あー泣かせちまったか。
早く泣きやめさせないと……
徐々に意識が朦朧としていく中、彼女の声だけが聞こえた。
しかしその声はひどく悲しく、そしてとても嫌な予感をさせた。
「ごめんね、彩夏。罪滅ぼしって訳じゃないけど、殺してくる」
そう言った彼女の声はいつもとは違いとても冷たかった。
俺はこの時の彼女を知っている。
理性を失った、獣化した彼女はディエイラをまるで獲物の様に睨み付けていた。
駄目だ、獣化だけは早く解かないと。
理性を失い本能で動く獣化は好む奴もいるが、俺は嫌だ。
そしてあいつにとっても嫌なはずだ。
だから止める。
だから体よ、動いてくれ!
「……?」
俺はいつも持ち歩いていた小型のガス缶を噴射させ、辺り一面に恋有色のガスで覆った。
ライは突然視界がガスで覆われ、また左足が微弱だが何かに掴まれたのに気付いた。
「……ライ、落ち着、けバカ。ていうか……助けろよな」
一応笑いながら言ったつもりだが、我ながらひどく小さい声だ。
しかもたったこれだけのことを言うだけでもう残り少ない体力や気力を失うんだな。
しかしライはこの小さな声が聞こえたのか徐々に獣化が解けていった。
「……彩夏、私またなってしまったんだね。 ごめんなさい」
理性を取り戻したライは手持ちのカバンから新種植物から一つのサンプルをすべて取り出し、俺の背中に貼った。
「これはさっき私も使ったけど強力な治癒成分を含んだ植物なの。ほら、もう傷口も塞がってきたよ」
ライは目尻に涙を溜めていたが少し笑ってもいた。
「でもいいのか?貴重な新種を一つ使って。 しかもこんな強力な治癒成分を含んだ植物はそうはなかったぞ?」
新種の植物のおかげか既に会話はもちろん、上体を起こすことも出来る程回復していた。
「いいのよ、さっきも言ったけど私も最初ディエイラに襲われた時に出来た傷をこの植物で治したんだからいいの」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「よしそろそろこのガスの効力も切れる頃か。ライ、俺はもう大丈夫だ。 だから一緒にあいつを討伐するぞ」
俺はもう攻撃を喰らう前と変わらないぐらい回復し、自分で撒いた有色ガスの先にいるディエイラを見つめながら言った。
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