IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~ (ジュンチェ)
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道外流牙篇
流牙~Ryuga~


リメイク一話です。

10話くらいまでほぼ前作からの流用ですが、ちょくちょく台詞とか設定とか変わってます。お楽しみ下さい。


では!



「はぁ!はぁ……!」

 

彼は逃げていた…。ただ、ひたすら自分を追う『狼』から………

 

「だ、誰か助けてくれぇ!」

 

ボロきれのような服に身体の随所をおびただしい出血をしながら暗い倉庫の中にあるコンテナの合間をのたうちまわるように走る…

だが、彼を追う『狼』は自分の剣を引き抜き獲物を確実に追い詰めていく………

 

「は、はっ!誰か!誰か助けてくれ!!」

 

「誰がお前なんか助けるかよ。」

 

そのうち、行き止まりに突き当たり男は逃げ場を失う。そこに、『狼』は追いつき懐から奇妙なライターを取りだし、火をつける。

 

 

ーージュボ!!

 

すると、ついたのは緑色の奇怪な火…いや、もっと奇怪なのは男の瞳。火に照らされた目には邪悪な模様が浮かび、彼が異形の存在であることを示す。

 

「くっ!…フシャアアアア!!!!!!」

 

こうなれば、仕方ない。正体を見破られた彼は常人離れした跳躍力でコンテナの上に飛び乗ると肉食の虫のように裂けた口を展開し、鋭い尾を腰から生やす。

魔獣『ホラー』…まさに、悪魔………異形の存在だが、狼…いや、騎士は恐れない。黒い衣をなびかせ自身もコンテナの上に乗るとホラーを睨みつけ、切っ先を向ける。

 

『どけ、魔戒騎士!ISさえ無ければ俺は、ここまで堕ちぶれることはなかった!俺は世界が憎い!!ISが憎い!!こんな、狂った世界…俺が壊す、いや………壊さなくちゃならねぇ!』

 

「その前に、自分がどれだけ狂っているか理解しろ。」

 

ーーギュゥウオォ!!!!

 

愚かなエゴに取り憑かれたこの男を見据え、騎士は頭上に円を描く…。すると、軌跡が光の円を形成し、そこから漆黒と金の鎧が召喚され主に纏われる。

 

ーーガルルッ!!

 

「お前の陰我、俺が断つ!」

 

頭部は緑色に光る眼を持った黄金の狼。猛る獣の鎧は魔獣を見据え、『▲』の刻印が刻まれた黄金の剣と化した自らの刃で素早く一閃……

 

 

斬!!

 

『ギャアアアアア!!!!』

 

 

直後、ホラーの上半身と下半身が永遠にお別れをし塵となる。騎士は戦いが終わると鎧を解除し、コンテナから飛び降りる。さて、これで今回の指令は片付いた…。長居する必要は無い。

 

「…どうだい、ザルバ?まだ、認める気はないか?」

 

『……29点。まだだ、坊や。』

「まだ駄目なのかよ。」

 

『少なくとも、俺様にまともに話かけて良いレベルまでは程遠い……残念だったな。』

 

帰路の一歩で指にはめられている相棒に声をかけたが、反応は今一つのもので溜め息をつく。さてさて、コイツとは随分と一緒にいたが相変わらず口が悪い。やれやれと思いつつ、出口へ向かおうとしたが……

 

 

 

ガタガタ……

 

「…?」

 

何か後ろで物音がした。

振り向けば、コンテナの1つが激しく動いているではないか…

 

「なんだ?」

 

警戒する彼だったが、その時…あることに気がつく……

 

 

《……》

 

「呼んでいる……俺を……呼んでいる…?」

 

『おい、坊や…どうした!?』

 

…声にはならないような音がした。声として成立していないが自分を手招きするような……

 

 

バアァーン!!!!

 

「!…これは!?」

 

直後、コンテナの扉が開け放たれ眩い光が漏れる…。同時に異変に気がついた女性職員たちが駆け込み驚愕した。

 

「貴様、ここで何を…!?な、ISが!?」

 

「馬鹿な、男は起動出来ないはず…!」

 

 

 

 

その後……女性しか動かせないはずの兵器・ISを動かした男『道外流牙』が世に震撼をもたらすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の邪心・陰我ある所に魔獣ホラーは現れる。人間の肉身に魂を喰らい、いつの世にも人々の影にはびこる魔物………

 

されど、遥か古から人々を護る『守りし者』と喚ばれる存在がいた。猛る獣の鎧を纏い、破邪の力でホラーを狩り封じる者たちの名は………『魔戒騎士』と呼ばれた。

 

 

 

そして、この物語は純白の翼を持つ漆黒の黄金騎士・道外流牙とその仲間たちの物語である…。

 

 

果たして、彼はどのような物語を刻むのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 『IS×GARO《牙狼》~闇を照らす者~』 】

 

 

 

 

 

 

 

……???

 

 

「ちょっと、セバスチャン!どうしたんですの!」

 

「も、申し訳ありません、セシリアお嬢様…!」

 

青空の下の道中……トラブルが起きたのか嫌な音を立てて止まった黒く輝くリムジンに執事らしき老人とそれを叱責する金髪のお嬢様。目的の場所にはまだ距離があるのに肝心な足があろうことか、人気の少ない道で辺りは野原…。可愛らしい菜の花が咲いているが今はゆっくり眺めている暇は無い。

 

「もう、イギリスの代表候補生が初日から遅刻なんて…なんたる不名誉…!」

 

少女はブロンドの髪を風になびかせながら溜め息をつく。予想外の事態とはいえ困ったものだと心の中で呆れつつ端末を取り出して連絡をとろうとすると、後ろからスクーターが通りかかってブレーキをかけた。

 

「あのー!どうしたんですかー?」

 

乗っていたのは中に赤いシャツと黒いコートを纏う青年。ゴーグル付きのヘルメットをとると逆立った茶髪の髪型が露になる。一見すると威圧的な彼にすぐに、老人は少女の前に立ち、庇う姿勢をとったが青年は気にすることなくリムジンに歩いていった。すると、機体に顔を近づけ耳を押しあてた…。

 

「あー……これは…」

 

少しだけ目を瞑ると、青年は車の前に立つ…。その顔は服装や顔つきのやりには屈託ない笑顔であった。

 

「ちょっと、弄らせてもらっても良いですか?応急処置くらいは出来ますよ。」

 

「ほ、本当ですかな!?」

 

「ああ、本格的な修理はここじゃ道具が足りないから無理だけど……少しは持つように出来るよ。」

 

「…か、かたじけのうございます。」

 

「…いいよ、そんな。さ、急ぎなんでしょ?ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから!」

 

「なるべく、早くお願いしますわ。」

 

そして、青年は作業に取りかかる…。

 

これが『セシリア・オルコット』と『道外流牙』の初めての出会いだとはどちらもまだ知る由は無い…。

 

 

 

 

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それから、約1時間後……

 

彼…流牙が現在いるのはとある青空の下。 目の前にある白い捻れた搭のような建物の名はIS学園……ISの技術を学ぶために世界中から女子が集まる特殊な学園である。

 

『…おい、小僧……乙女の園だからといってはしゃぐんじゃないぞ。昔から女は魔物って言うからな。』

 

「ホラーよりはマシだろ。それに、女の子ではしゃぐのはタケルだろ?」

 

左手の中指で煩くしている骸骨のような魔導輪『ザルバ』のお節介を軽い仲間の冗談で受け流し、学園の中へと入っていく……

 

 

 

 

 

それから、しばらくして……

 

 

「…にしても、どうも落ち着かないな白い服って……」

 

『(文句を言うんじゃない。それに元々はな牙狼の称号を持つ者の魔法衣は白だったんだぞ。少しはありがたく思え…!)』

 

それから暫くしてIS学園の教場にて白い制服に身を包む流牙の姿があった。実はこの制服は魔導衣を制服に似せたものであり、今回のIS学園に向かうに当たって上から支給されたものだ。しかし、何時もの黒でないとどうもシックリこない。あっちは校内では着れないので後で自室に送ってもらうとのことで手元には無い。

小うるさい相棒の声を流しながらう~んと机にだれる流牙。すると……

 

 

「ちょっと、よろしくて…?」

 

あれ…?どこかで見覚えがある少女が立っているではないか。ブロンドの髪……間違いない、さっきのお嬢様だ。

 

「あ、さっきの……」

 

「!……貴方でしたの!?ISを扱える男子というのは!?」

 

彼女……セシリア・オルコットは流牙を見て酷く驚いた。いささか、オーバーリアクションに見えるのは置いておこう……

 

「まぁまぁ……これはまた、なんという偶然……」

 

「そうだね。車は大丈夫?」

 

「ええ、私を送り届けたあとすぐに修理に……そういえば、貴方のお名前をお伺いしてませんでしたね。お聞かせ下さいな?」

 

「俺…?俺は道外流牙…君は?」

 

「わ、私を知らないんですの!?…ま、まあ良いですわ。私は言うまでもなくイギリスの代表候補生…セシリア・オルコットですわ!」

 

まずはと…ちゃんと自己紹介を済ませておく流牙。その様子を見て周りが少しざわめきだす……所々からイギリスの代表が早速、男子に手をつけはじめたと囁きはじめ、セシリアは横にらみをかけて黙らせる。

 

「代表候補生……て、ことは国の代表なんだよね。凄いなぁ……」

 

「…フフフ!流石に一般人でもこの偉大さが……!」

 

「……よく、わからないけど…」

 

「ガクッ……わ、わからないんですの?」

 

そのあとは天然まじりな流牙の会話に振り回されるだけのセシリア。お国自慢も流牙のおかげで今一つ、うまく進めることもままならず始業の鐘が鳴る時にすでに彼女は不完全燃焼とでもいうべきテンションに陥っていた。

 

 

ーーキンコーン、カーン…

 

 

「…それでは鐘が鳴りましたので……」

 

「うん、また楽しくお話しようよ!」

 

「………え、遠慮させて頂きますますわ。」

 

そのまま、逃げるように自分の席につくセシリアだったが流牙は察することなく相変わらず笑顔のまま…。その際、ふと離れた席の茶寄りな黒髪ポニーテールの少女がこちらを見ていたことに気がついたのだが、相手も視線を逸らしたので気にしなかった。

「それでは、皆さん席についてくださーい!ホームルームをはじめますよ~!」

 

鐘が鳴ると同時に入ってきたのは緑髪にメガネをしたおっとりした雰囲気の女性が入ってくる。確か副担任の『山田真耶』という名前だったはず……

彼女はある経緯で顔は知っている流牙だが必要性は無いので余計な反応はしない。

 

「「「「「「…」」」」」」

 

 

「…は、はじめても良いんですよね…?」

 

 

というより、クラスの全員が反応が薄くて微妙なのは如何に……

その直後、黒髪にグラマラスで凛々しい女性が入ってきた。

 

「…全員、席についているな。それでは、ホームルームを始めるぞ。」

 

「「「きゃー!千冬様!」」」

 

「落ち着け、ガキども。」

 

山田先生とは対象的に堂々とし、生徒たちからの反応も大きい。そんな出席簿を持つ彼女は『織斑千冬』…

 

「やあ、おはよう千冬さん。」

 

「先生だ、流牙!」

 

 

ーーシュバ!!

 

「おっと。」

 

こちらも、流牙とは顔見知り…というかそれよりも進んでいる関係なのだが、語るのはまたいずれ…

流牙は降り下ろされた出席簿を白刃取りし、ニコニコとしながら教壇につく彼女を見送る。

 

「さて、今回はまずクラスの代表を決めたいと思う。重要な役割だ……自薦、推薦、問わん。誰かいないか?」

 

はじまったホームルームでまず最初の話はクラスの代表を決めるとのこと。具体的に何をするかはさっぱりの流牙だが千冬とクラスの流れに任せることにしたが……

 

「はい、私は道外くんが良いと思います!」

 

「……ん?」

 

「私も!流牙くんを推薦します!!」

 

「…ちょ」

 

あれ…?何か予想しない声が次々とあがってきたぞ…。焦りを覚える流牙…ここで必要以上の業務が増えれば『本来の仕事』に支障をきたす可能性がある。咄嗟に辞退の意を示そうと口を開こうとするが、それより早く……

 

「納得がいきませんわ!」

 

…流牙の代表就任に異を唱えて立ち上がったのはセシリアであった。

 

「まず、そもそもこのイギリス代表のセシリア・オルコットを差し置いてなんたることですの!そもそも、この文化的にも後進的な島国にいることも屈辱的ですのに!こんな猿に……」

 

『(イギリスも島国だろ……おまけに不味い飯で有名だぜ…)』

 

あー……もう長い。文句の羅列に千冬はおろか、ザルバすら呆れていたが、段々…流牙の表情が曇っていく。それに気がついた隣の席の女子がその形相の恐ろしさに怯えていたが、気にも留めず彼は席を立ちセシリアを睨む。

 

「…な、なんですの!?」

 

「俺は別に代表はやる気は無いし……お前がやりたいと喚くのも構わない。だけど、お前なんかにクラスの代表を任せるわけにはいかない。」

 

「……侮辱する気ですの?」

 

「先に侮辱してきたのはそっちだ…」

 

『(お、おい!?小僧、何を考えてやがる!)』

 

ザルバが小声で止めにかかるも空気は触発状態にまで緊迫していき、山田先生はおろおろするだけでクラス全員が息を呑んで見守る……

流牙も退かぬ、セシリアも退かぬ……緊張でこの場がはりつめる中、流牙は続ける。

 

「確か、イギリスの代表…だったよなアンタ?それが平然と他の国のことを侮辱して良いと思う?」

 

「…うっ!それなら……!!」

 

「生憎、俺は男性でIS操縦はできるが国の代表じゃない……そこのとこ、理解してる?」

 

「…ッ」

 

まさに、正論だった。完膚なきまで言われたセシリアは黙るのみで、遠目ながら千冬も不遜に笑っている…。

 

「わ、わかりましたわ…。そこまで言うのでしたら、アナタに決闘を申し込ませて頂きます!白黒、ハッキリつけましょう!その代わり、負けたら二度と大きな口はさせませんくてよ!」

 

「…上等。受けて立ってやる。」

 

『(おいおい……)』

 

もう、炎上した舞台は止まらない。対立する役者はヒートアップし、燃え上がる……

 

 

そんな様子を窓越しに窺う鼻の長い青い金魚のような生物がおり、すぐに翻ってどこかへと泳ぐように去っていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから放課後まで流牙がイギリス代表に喧嘩を売ったという噂が駆け巡り、女子たちの話題はこれで持ちきりだった……。決闘は放課後…実力は言うまでもないセシリアに未知数の流牙。さながら、プロレスのチャンピオンに挑戦する期待の新人の試合といった具合だ。

 

「……全く、派手にやってくれるぜ…」

 

そんな女子たち蔓延る廊下を清掃員の服装をした金髪の青年がカートを押して、ゴミ箱のゴミを回収していく。そのカートの合間には青龍刀らしきものが挟んであったが誰も気がつきはしない…。彼は溜め息をつきながらゴミの回収を終えると次のゴミ箱がある場所へ向かう……

 

「……まあ、面白そうだからいっか♪よろしいんじゃないのぉ?」

 

……早く仕事を終わらせなくては……

 

本日、最大のイベントを見逃すわけにはいかない……

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 

 



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挑 ~Cecilia~

更新遅くなりましたー!

個人的な用事とモンハンしてました!(オイ


今回、流牙のISはオリジナルのものです。何故かって?流牙に白式は似合わないとおもう個人的な見解です。

イメージは白い真月ガロですね。


意外と修正していくのが大変ですが出来る限り早く更新していきます。


では!



「流牙くん、大丈夫でしょうか?」

 

山田先生は流牙の身を案じていた。アリーナの様子がモニタリングされている部屋で彼女は呟く。相手はイギリスの代表候補生…当然なのだが、隣にいる千冬は不遜に構えて構えている。

 

「なーに、心配はいらん。オルコット程度にやられる奴じゃないさ。なんせ、私と刀だけでわたりあって一太刀入れたのは奴ぐらいだからな。」

 

「えぇ!?じゃあ、あの話は本当だったんですか!?」

 

「あぁ…。保証する、道外流牙は勝つ!」

 

彼女が流牙の実力に太鼓判を押すのは理由があった。詳しいことは後々語られていくことになるが、まだその時ではない。真揶はその信頼ぶりに驚きながらも、再びモニターに目を移すのであった。

 

 

 

 

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「~~♪~~♪♪」

 

 

君は……誰…?

意識が朦朧とする中、赤い衣が張り巡らされた空間…その先から聞こえる歌声………。儚くて、哀しげで…………でも、何処か懐かしくて、違っているような………

 

「~♪~♪~♪」

 

誰が歌っている?

確かめようと手を伸ばし、遮る赤い衣を払いのけようと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい、小僧!何時までぼーっとしてやがる!?』

 

「!」

 

はっ!と我にかえった流牙。赤い衣の空間は消え失せ、目の前は自分の光景はISが発進するためのカタファルト。指で喧しく叫ぶ相棒の声に今までの光景は夢だったと知る。しかし、立ったまま自分は夢を見ていたのか……

 

 

 

 

 

『全く、ただでさえ目立つというのに、こんな騒ぎを起こしやがって…下手したらあのイギリスお嬢様の奴隷だぜ。』

 

「うるさいなぁ、負けないよそう簡単には……」

 

気をとりなおし、彼は常備している右手のグローブに眼を向ける。白と金で装飾されたソレは自分の運命を狂わせ、ここに導いた元凶。何故、コイツは自分を選んだのかはわからないが今はこの力を使うしかない。

 

本来なら男が扱えないはずの『IS』を……

 

 

 

 

 

『さて、イギリスの嬢ちゃんの鼻っ柱…折ってやんな!』

 

 

 

「ああ、わかってるザルバ………『白狼』!」

 

ーーーギュオオォ!!!!

 

 

 

 

 

すると、流牙の身体が光輝き白い鎧のような装甲が全身に纏われていく……

メカというには人の肉体にあったスリムさはどちらかといえば筋肉質な人体を模した鎧に近い意匠だが、背部や脚部のスラスターにメカメカしい腰にさげられた剣『月呀天翔』が機械的さをアピールする。そのボディを引き立てるような美しい金の装飾になびく純白の2枚のマントの姿はさながら『騎士』……

 

 

 

その名は…IS『白狼』。

 

 

 

空を舞う流牙の『牙』………

 

 

 

 

 

「う~ん、やっぱり、手足は鎧より大きいなぁ……。まだ、慣れないな少し…」

流牙はぼやきながらも、滑走路に足をつけ、レバーを握る。開くハッチの先は決闘の空……

 

「道外流牙、白狼…出る!」

 

直後、カタファルトを滑走し白金の騎士は空へと舞い上がっていく…。

 

 

 

 

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「あれが、流牙くんの機体……白狼…」

 

モニターを見つめる真揶。一見するとスマートではあるが、か細さを感じさせるような彼のIS。いや、ISらしくないデザインに不可思議さを抱いていた。

 

「あんなに、華奢なボディに武器も1つなのに……」

 

「信じられないか?あれで、私と対等に渡りあったとは…?」

 

真揶はあることを訊いていた。流牙の持つ『白狼』は出所が不明のISでその詳細は不明…また、流牙についても国籍・生い立ちから全ての情報が無い。本人いわく、物心ついた頃には気の向くままに旅をしていた身だという。また、入学試験の実技では自分の隣にいる千冬とまともに渡りあったというのだから明らかに普通の青年ではないはず…

 

「白狼……愛称『ブランカ』。シートン動物記の狼王ロボの妻であった白いメスの狼からきている…。山田先生、眼を離さないほうが良い。ここから先は奴の狩りだ。まさに、兎を狩る……狼のな。」

 

千冬はすでに、この勝敗の先を見越していた。決して、流牙は名前負けするようなことはない。何より、自分がその身で流牙の実力を知ったから。

兎《セシリア》は自分が狼《流牙》の餌になりにきたとしか千冬の目には映らない。

 

「…織斑先生、流牙くんはいったい……」

 

「さあな。私もよくは知らん…。少なくとも、兎が狼に勝てる道理はまずないということだ。」

 

真揶はその比喩の真意を理解するのに、暫くかかったが千冬が異常に流牙を…いや、実力を確信していると知った。

そして、イギリス代表候補生であるセシリアを『兎』と言い放った意味をこのあと見ることになる…。

 

 

 

 

 

 

 

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そして……

 

…アリーナでは……

 

「さあ、セシリア・オルコットが相手をしてあげますわよ!」

 

空を舞うセシリア……

纏うのは青いIS『ブルーティアーズ』…。翼のようなパーツが特徴的で腰などには射撃武器と思わしき腰のマウントパーツやスナイパーライフルとおぼしき白い武器からして遠距離戦特化だと見てとれる。

 

 

 

一見すると近接武装しかない流牙が不利にみえるが、流牙は焦りは見せない。一方のセシリアは相性をみて対照的に不遜に笑う。

 

「あらあら、残念ですわね。近接武装しか無いなんて……今なら、泣いて降参すれば許してあげましてよ?」

 

彼女は自分の勝利を疑っていないようだ。対する流牙は月呀天翔を立てた左腕と刀身が交差するような独特な構え方をすると、背部からバッ!!と3枚のマント型のウィングが現れる。もう、騎士甲冑といっても他言ではないのではだろうか…

 

「残念、俺はお前を斬る!」

 

勿論、人を小馬鹿にした誘いを笑みで蹴飛ばす流牙。ならば遠慮はいらないと『笑っていられるのはここまでですわよ!』と彼女が叫ぶと同時に試合の開始のブザーが鳴る!

 

 

《試合・開始!》

 

 

「踊りなさい、私のティアーズで!!」

 

放たれる青の僕(ピット)…

その名前が機体名となった最大の特徴であるブルー・ティアーズ。この遠隔操作の武装は手に持つライフル『スターライト・Mark-Ⅲ』と同じレーザーを四方八方から飛び交い放つ。これが、展開された瞬間には流牙が蜂の巣になるはずだった。

だが……

 

 

「フンッ!」

 

 

ゴオォッ!!

 

「!…速い!!」

 

しかし、流牙はマントの下にあったスラスターを吹かせるとレーザーを縫うように回避してアリーナの中を飛び回る。ツバメのように風を斬り、セシリアの標準が捉えることの出来ぬほどに……

 

「くっ!ちょこまかと、逃げ回るんじゃありませんくてよ!!」

 

 

バシュ!!バシュ!!

 

スターライトのレーザーがまるで当たらない。ティアーズも動きが読まれているのか、かすりもしない。完全に動きについていけていない……

一見すると、ただ流牙が逃げ回るだけのようだが、下手をすれば懐に入られてしまう。

ただ、あんな動きを続けていれば流牙にかかるGも半端ではないはず……近接武装しかない彼はいずれ、一気に近接戦へと持ち込もうとするのは明白。そこが勝負所だ…。

 

「…フンン!!!!」

 

ゴォ!!!!

 

 

「かかりましたわね!」

 

 

そう予想していれば、早速といわんばかりにレーザーとティアーズを掻い潜り、ブースターを燃やして弾丸のように迫る!こんな直線的に向かってくるならばとセシリアは両腰にマウントされていたバズーカタイプのティアーズを起動し、砲身を向けて……

 

 

ドドゥ!!!!

 

 

弾丸を放つ!

至近距離にあの速さ、避けられるはずが……

 

 

「ぬぅん!」

 

「なっ!?」

 

無いはずが、流牙は白狼のマントをきりもみ回転をしながら、マントを纏う要領で絞り機体の占める面積を減らすとバズーカを紙一重で回避し、勢いを殺さずセシリアに襲いかかる。

 

「くぅ!」

 

 

バシュ!!

 

苦し紛れに射つスターライトも月呀天翔の黒い刃に斬り払われ、わずか数秒の間に優劣は逆転する。遠距離が近接に相性が良いのは遠距離に位置してこそ……

 

 

対近接で距離を詰められたらセシリアのティアーズでは為す術はない。

 

 

 

「うおおっ!」

 

 

ドスッ!!!!

 

「かはァ!?」

 

白狼の右肘がセシリアの腹部に勢いよく、めり込む。速さも一定の域を超越すれば質量と比例して大きな武器となる。今の一撃はまさに、それで加速によるこの攻撃は彼女の口から息を漏らさせ身体を『く』の字に曲げる。そこから、流牙は綺麗に円を描くように頭上に舞いがあがると強烈な膝をセシリアの顎へと追撃。

 

ゴッ!!

 

 

「ぐぅ!? 」

「終わりだぁ!」

 

 

ガガン!!!!

 

さらに、だめ押しの正拳をフラフラする彼女に一発!がら空きの胸にくらったセシリアは墜落していくも、スラスターを吹かしてなんとか地面スレスレで態勢を持ち直して不時着を逃れてみせる。

 

されど、脚がもつれた兎など狼の格好の餌食。黒い刀身がキラリと光り…彼女へと牙を剥く!

 

「終わりだ、セシリア!!」

 

「くぅぅ!!」

 

 

ガシッ!

 

ただ、セシリアにもセシリアなりの意地がある。なんと、スターライトを投げ捨て、月呀天翔を右肩に受けながらも白刃取りで耐えてみせた……

やはり、伊達に1つの国の代表候補生ではない。

 

「負けて…たまるもんですか!イギリス代表候補生の…この私が!」

「…斬り、裂く!お前のエゴ!」

 

削れていくブルー・ティアーズのシールドエネルギー…。このままでは見るからにセシリアが負けるのは時間の問題だった。

 

たが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《《ERROR》》

 

「え?」

 

運命は気まぐれにも、彼女の味方をしたのであった…。

 

 

突然に下がる白狼の出力……ホログラムに次々と浮かび上がっていく『異常発生』の文字…

 

 

 

 

 

 

 

 

【道外流牙、マシントラブルのため戦闘・続行不能!よって、勝者…セシリア・オルコット!】

 

 

 

 

そして、非情にも勝利は流牙の手に渡ることはなかった…。

 

 

 

 

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「相変わらず、ツメが甘いな…道外流牙。」

 

ビジネスデスクに座り、流牙対セシリアの戦いを宙に浮かぶホログラムから見ていた壮年の男。よくわからない奇怪なアイテムでごちゃごちゃした机の上で彼は太く大きな筆をクルリと回して呟く…。

 

【…で、どうするよ?苻礼法師?】

 

「そろそろ、こちらも本格的に動く。そっちで準備の仕上げにかかれ、タケル。」

 

【りょーかい。】

 

通信をしていた相手に指示をだすと彼は重い腰をあげる…。さあ、そろそろ自分たちの出番だ。

ホログラムを閉じ、立ち上がると赤茶のマントを翻し懐に筆をしまう。

 

来るべき刻は近い……

 

 

 

 

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そのあと、よりによってのタイミングで不調を起こした白狼を引きずるように格納庫に戻った流牙は展開解除し、制服姿となるとザルバに話かける。

 

『おしかったな。ついてないな、小僧……』

 

「…」

 

『そう落ち込むな。これからの奴隷生活を楽しむと良い。自業自得だ。』

 

「…………まあ、少しは反省してるけど………。よりによってこんな時に。さっきから、見てるけど何かな?」

 

「!」

 

セシリアとの戦闘を反省しつつ、素早く物陰に隠れていた人物に意識を向ける流牙。ビクッと痙攣するような動きを隠れていた彼女はすると諦めたように、また緊張といった具合で姿を晒したのであった…。ポニーテールにリボンを結んだ彼女に流牙は見覚えがある…

 

「君は……」

 

確か、セシリアにふっかけられる前に自分を見ていた彼女だ。何者かは知らないが、とにかく自分に用があるようだ。

 

「…す、すまない。こそこそするつもりは無かったんだ。す、少し訊きたいことがあってだな……ど、道外………」

 

「流牙で良いよ。君、名前は?」

 

「箒……『篠ノ之 箒』だ。」

 

 

 

どうやら、彼女…箒は流牙に訊きたいことがあるらしい。何となく口下手であるが、雰囲気からして興味半分で流牙にちょっかいを出しにきたわけではなさそうだ。それなら、流牙も真面目に構えて彼女の話を聴いてみることにした。

 

「で、ほうき…ちゃん?だっけ?俺に訊きたいことって……?」

 

「そ、そのだ………お前、『織斑 一夏』という男を知らないか?お前と同じく、剣にかなりの腕前があった奴なのだが………」

 

(……織斑?)

 

織斑………その単語が流牙の眉をひそめさせた。この名字は千冬と同じ名字であることが引っ掛かった。だが『一夏』という名は知らない……今までの知り合いで織斑なんて名前は彼女だけだし、身内がいたとしても流牙は織斑家の事情など知る由も無い。

 

「あー、ごめん。知らない名前だ。」

 

「そ、そうか……突然、済まなかった。で、では、これで失礼する…」

 

なんだったのだろう……聴くだけ聴いて、彼女はスタスタと慌てるように去っていってしまった。流牙はただ見送っていたが箒の姿が見えなくなるのをみはらかって、1人きりになった瞬間にもう1人の人物に話しかけた…。

 

「さて、次は君の番だ…。君は何の用かな?」

 

「あら、残念。やり過ごそうと思ったのに……」

 

何処に掴まっていたのだろう……天井からスルリと降りてきた水色の髪をした女子生徒。紅い瞳に屈託なさそうな笑みをしているが忍者みたいな芸当からして明らかに一般生徒ではなさそうだ。

ここは念のためにと、懐からライターらしきアイテムを取り出して火をカチッとつける流牙…。されど、その火は翠色で『魔導火』と呼ばれるもので、向かい合う彼女の瞳を照らす…。これに少女は疑問の意を示した。

 

「あら?何かしら…?」

 

「ちょっとした、おまじないだよ。気にしないで…。」

 

疑問を持ち、変化が無いなら彼女はただの人間だ…。ただ怪しいにはかわりないので警戒は解きはせず、魔導火ライターをしまう。一方、相手の彼女は扇子を取り出して笑みを隠すように扇ぐ…

 

「はじめまして、道外流牙くん。私はIS学園生徒会長『更識楯無』よ。先程の戦いがあまりにも鮮やかだったから、つい挨拶に来たの。」

 

つい……胡散臭いものだ。彼女、楯無…生徒会長が挨拶くらいのつもりなら普通に逢えば良い。また、『更識』という名が気を緩めることを許させない。

 

「挨拶…くらいなら普通にしてくれ生徒会長。それ以外、用が無いなら俺は帰る……」

 

「あ、まって!まって!貴方には感謝してるのよ。セシリア・オルコットにお灸を据えてくれて。これで、彼女も少しは代表候補生として自覚を持ってくれると思うわ…。そこで、その腕前を見込んで……」

 

「断る。」

 

「まだ何も言って無いわよ?」

 

「生徒会に入らないかというんだろ?悪いが、興味は無い。他を当たってくれ。」

 

 

そのまま、無理矢理に楯無をあしらうとその場を後にする流牙…。楯無は『残念』と書かれた扇子を広げ、文字通り残念そうな顔をして彼を見送っていたが目は獲物を狙う眼光があった。

 

「あらあら、釣れないなぁ?だけど、お姉さんはそんなに簡単には諦めはしないわよ…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

リアクションとは裏腹に流牙は焦っていた…。廊下を追跡される気配が無いことを確認しながら懐から端末を取り出して、赤い札を張ると何処かへ連絡する。

 

【ん…?どうした、流牙?】

 

聴こえてきたのはキリッとした若い青年の声…。

 

「アグリか!まずい、いきなり更識に目をつけられた!」

 

【何!?この馬鹿が!初日から早々、派手なことをやらかすからだ!正体は?】

 

「いや、まだそれはバレてないが…何か勘づかれているようだ。自分の手元に俺を置きたがってる。」

 

【そうか……。なら、くれぐれも目立ち過ぎるな。タケルも行ってるが正直、奴では何処まで宛になるかわからん。俺もリアンの機体の整備が終わり次第、そっちに合流する。せいぜい、気をつけろよ……】

 

 

 

 

 

・流牙side…

 

『更識』……この極東の国において、様々な国のスパイやテロリストなど国益を損なう奴らに対抗するために存在する忍者のような一族。その存在は俺達の仕事からみれば昔からの厄介者といっても他言ではない。同じ影に生きる者としても、俺達とアイツらとはその影の意味合いが違う。あっちからみれば俺達は未だに未知の存在なのだ…。故に長い時代の中で時に更識の一族とは小競り合いになったことも多々ある。

そして、その更識の当主を僅か15歳で襲名したのがあの生徒会長・楯無…。最も警戒しなければならないのは事実だったのだがいきなり、初日からコンタクトを向こうからしてくるのは予想外だった…。しかも、目をつけられた!

 

こんなように頭をグルグルと回転させていた俺だが、幾つか致命的なことを忘れていた…。

ここはIS学園で生徒で俺だけが男……そして、相部屋であること。つまりだ……。

 

 

 

ーーガチャ……

 

 

無造作に自室のドアを開けたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃ!?」

 

 

 

 

 

 

ルームメイト

がバスタオル1枚だけという無防備な姿であることもあり得るってことだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「死ねェェェェ!」

 

「ちょ!?まっ…!?」

 

流牙は己の軽率さを恥じる間もなく、ブンブンと振るわれる真剣を回避に移った。箒が怒るのも無理はない、裸を見られのだから。

 

「落ち着いて、俺はこの部屋のルームメイトだって!?」

 

「黙っ……へ?」

 

その後、流牙が白刃取りをして何とか荒ぶる箒を落ち着かせると服を着るのを待って話をはじめる。

 

「…す、すまない。相部屋になるとは聴いてはいたがまさか男子とは思わず………」

 

「いや、俺も悪かったよ。考え事しててつい……それじゃ、改めて相部屋になる道外流牙です。よろしくね、箒ちゃん。」

 

「そ……その、ちゃん付けは止めてくれないか?何だか背筋が痒くなる…」

 

 

お互い、ベッドの上に乗り改めて自己紹介。和解を済ませると、自分が持ってきたボストンバッグから色々と物を引っ張りだしはじめる。

 

「やけに身軽なんだな?」

 

「あ?ああ……元々はサバイバル生活をしてたし、必要最低限くらいの物しか持ってきていないんだ。」

 

「…そうなのか。」

 

「多分、これから色々と迷惑をかけちゃうと思うけど…そこのところは色々と教えてくれれば助かるよ……………ん…?」

 

荷物の整理をしていた流牙だったが、荷物に紛れてあるものを見つける。手にとればそれは赤い封筒……通称『赤の指令書』。

 

…意味は彼に新たな任務が与えられたということ。

 

 

「ゴメン、箒ちゃん…脱衣室借りる。」

 

流牙はすぐに、部屋の脱衣室に駆け込むとドアを閉め魔導火ライターに魔導火をつける。そして、翠の火で指令書を燃やすと焼けた焔が禍々しい魔界文字で空中に指令の内容を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今宵、空を舞うカラクリの舞台の元…

 

 

…………青い涙の少女の陰我と悲劇のオブジェをゲートに魔獣ホラーが現れん…

 

 

………………穢れた涙はいずれ空を踊り血を啜る牙になるであろう…。陰我の刻は近い…日没……

 

 

 

「マジかよ。」

 

流牙は悟った…。

日没まではあともう僅かだ…

 

日が沈む時間は『奴ら』の刻……

 

 

 

 

 

気がつけば勢いよく、仰天する箒を尻目に部屋を飛び出していた。

 

 

 

 

……このままでは、セシリアが危ない。

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 




ちなみにモンハンはレギオスX(ガンナー)好でオンラインをウロウロしてます。

そんなことはどうでも良い…?ああ、そう……


・IS『白狼』
第?世代
愛称・ブランカ

流牙専用のISで彼の運命を狂わせて、IS学園に入学する要因となった機体。姿は真月ガロと酷似した白いボディ。高い高速近接戦・肉弾戦を得意とする。今作のキーアイテムのひとつ。
唯一の武装は黒い刃を持つ剣『月呀天翔』。他に武装は無いが流牙の剣術のスペックも相まって、入学試験で千冬と互角に渡り合ったとされる。
流牙はこの機体しか、起動できないが逆にどんな女性も白狼を起動することは出来ない。開発された経緯等も謎に包まれている。さらに、他にも秘密が……




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鎧~Garo~

ちょびっと、最後に旧作ではなかったシーンを入れてます。


とばさないで見てね!



セシリアは暗くなる自室にて引きこもっていた。ベッドに体育座りし、虚ろな顔で今日の戦いを振り替える……。

 

(あれだけ、偉そうなことを言って、私は………手も足も出なかった。機体の不調が起こらなければ、私は……)

 

衆人環視・明白……白狼がマシントラブルを起こさなければ自分は負けていたこと。こんなもの、本当の勝利ではない。

かつて、IS学園の試験では実践にて教官すら落としたと自負していた自分は全力で向かったにもかかわらず、道外流牙はで最大の武器であるティアーズすら軽く退けてしまった。もう、高慢さを支えていたプライドは見る影も無く無残に砕け散った。自信になるものは何も無い………

 

(……お母様、お父様…………私はどうしたら…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【力が欲しいか……?】

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

その時、自分しかいないはずの部屋で響く不気味な声…。セシリアは驚きながら視界を動かしていると、自分の机の引き出しがカタカタと音を立てて震えているではないか。

 

「…な、なんですの?」

 

おそるおそる……引き出しに手をかけて開けてみると揺れていたのは十字架のオブジェ。それが妖しく光輝いている…。

 

「…こ、これは……」

 

【ならば、よこせ!貴様の魂と肉体を…!】

 

「!?」

 

咄嗟にセシリアは飛び退いた…。まずい、明らかに生命の危機を彼女の本能は感じたからだ。直後、オブジェから黒い影が飛び出し悪魔のような形を為すと白濁した目と狂暴な牙をギラつかせてセシリアを見据える……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獣『ホラー』……

 

 

 

 

 

 

人の邪心・陰我に反応して、現世に現れると人間…もしくは物などに取り憑いて人々の魂と肉体を喰らう闇の化物だ。

 

『フシィィ……!!シャア!』

 

「ひ、ひぃぃ!?」

 

 

 

 

セシリアは恐怖のあまり、もがくようにホラーが飛びかかるのを避けながら自室を飛び出した。助けを呼ぼうとしたが、周りには何故か人の気配は無く息が詰まるような邪悪な空気で充たされていた…。まるで、自分しか元々いなかったように……

 

『シャアァァ!』

 

「…嫌!!」

 

走る……走る………ただ、ひたすらに、誰もいない廊下を……

躓いたら、最後…自分はあの魔獣の餌食になってしまうだろう。迫り来る恐怖に耐える彼女は最早、代表候補生などという肩書きやプライドも無いただの怯える女の子だった。

 

 

ーーブゥゥン!

 

すると、視界が一瞬だけ暗転した途端に彼女はアリーナにいた。先程、自分が道外流牙に大敗した場所…。ここも人の気配は全く、無い。さっきと変わらない異質な空気がはりつめている。

肌で感じた……こっちも危険だ。狼狽するように出入り口を目指すがその前に黒い衣をなびかせた人影が立ちはだかる。

 

「……やっと、見つけた。」

 

「道外…流牙!?」

 

いつもの黒い魔導衣に身につけた道外流牙……。何故、ここにいるかはわからないセシリアだったが彼は持っていた白い鞘から剣…魔戒剣を抜き、鋼色に輝く切っ先を彼女に向けて構える。

 

「あ……ああ………」

 

そうか………彼も自分の命を奪うつもりなのだ。セシリアはヘナヘナと腰をついた。もう、逃げ場なんてありはしない。後ろからはホラー……前には剣を持った男。さながら、前門に狼…後門に虎とまさにそういったところだろう。後ろから魔獣の迫る息遣いが聞こえる……どんな展開にしろ自分は喰われる兎に変わりはしない。

 

(誰か………助けて…!)

 

瞬間、セシリアは絶望の中で目を瞑った…。

 

 

 

 

 

しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

 

 

ーーズブッ

 

『ギャアアアアア!?!?』

 

 

「え…?」

 

 

狼…道外流牙の獲物は震える兎ではなく、後門に構える虎…魔獣ホラーであった。セシリアを飛び越えて魔戒剣を魔獣の左肩に突き刺すと『うおぉぉ!!』と雄叫びをあげながら突進し、彼女とホラーの距離を引き離す。

 

 

「逃げろ、セシリア…!」

 

「え…?」

 

「ここは俺が何とかする!早く!」

 

訳がわからない…もう、状況の理解が追いつかないセシリア。とにかく、彼女は流牙に任せて無我夢中で逃げる。

 

『ナサリシチサ?(魔戒騎士か…?)』

 

「悪いね。魔戒語はあんまり勉強してないんだ。」

 

『ゴゼ、ンルザラムオバロナレヂャアリ!(どけ、用があるのはお前じゃない!)』

 

「ダユエユ、ロメバロナレインルザラム。(残念、俺はお前に用がある。)」

 

 

 

 

ー斬!!

 

 

『ギャアアア!?』

 

彼女を追おうとしたホラーだが、流牙は決してそれを許さない。魔戒剣で左肩を斬り裂くと蹴りを入れてホラーを観客席へと叩き落とし、左の指に収まるザルバに刀身をあてがいゆらりと構える。

 

『グルルル……』

 

「はあっ!」

 

追撃の手は緩めない。ホラーが態勢を立て直す前にバッ!と空中に踊りでると白く刃が煌めく…!しかし、ホラーはまた自らの肉を裂かれる直前に矮小な羽を動かして空に舞い上がった。

 

「…逃げるな!」

 

無論、流牙は逃がしはしない。自分もジャンプして遠くにいかれる前に異形の足を掴むと羽を一閃し、蹴りを入れてアリーナの中央へと墜落させた。

 

「……す、すごい…。何者なんですの…道外流牙……」

 

一方、セシリアは流牙の魔獣を前にしても全く恐れず、退くことなく攻め立てる姿に驚愕していた。彼の実力はISに乗らなくても充分に高い…そして、彼には何処か自分の求めるものがあるような気がした。

 

(…道外流牙……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアアアォォァァ!?!?』

 

「さて、そろそろ封印されてくれないかな?」

 

そうこうしているうちにホラーを追い詰めた流牙…。のたうち回るホラーは至るところに切り傷をつけられ満身創痍であったが奴には秘策があった。

 

『ふはは…!!これを見るが良い。魔戒騎士!』

 

「!」

 

異形の手の内にあったのは青いイヤーカフス。これはセシリアの使っていたIS…ブルー・ティアーズの待機形態だ。まさか!?と思った時にはもう遅い……ホラーがそれを口の中に放り込むと身体がガチャガチャと明らかに鳴らないはずの金属音と共に姿を展開したブルー・ティアーズに似た黒い異形の姿となる。

 

 

ホラーの能力のひとつ…

 

……物体、人に憑依して特殊な能力を得る。

 

 

 

 

 

 

そして、名も素体ホラーからホラー『ターチェツ』へと変わる。

IS部分を操る妙に生々しい人形の部分がグチュリと音をたてて動き、赤いバイザーアイで流牙を睨む。

 

『リセン、ブァユズ!』

 

 

シュンッ!!

 

「!」

 

直後、新たな主の命令に従い流牙を一斉に襲うホラー化した黒いティアーズたち。蜂のように激しく飛び回る牙たちは獲物を引き裂こうと襲いかかるが、相手はそれなりの魔戒騎士…魔戒剣で巧みにいなし、レーザーの攻撃もバック転で華麗にかわす。

 

『アムボゴ、トルサユカユイバリサアリサ……アマ、ソメバゴルサア!?(成る程、そう簡単にはいかないか……なら、これはどうかな!?)』

 

 

ーージャキッ!

 

 

 

「!……セシリア!」

 

ならばと、狙いをセシリアへと変えるターチェツ。禍々しいスターライトの面影があるライフルで真っ直ぐに狙い、気がついた流牙はすぐさま全力で射線上へと飛び出して白狼の左腕を展開。放たれた赤黒いビームを防いでみせるが、あまりの威力にセシリアの横へと弾き飛ばされてしまう。

 

「うわああああ!!!!」

 

「…りゅ、流牙さん!?」

 

「だ、大丈夫…(くそ、やっぱりホラーの攻撃はISじゃ防ぎきれないか!)」

 

どうする…?アーマーはもうドロドロと溶けはじめているし、周りにはホラーティアーズが舞っている。おまけに近くにはセシリア…防衛しながらターチェツを撃破するのは難しいのは見るに明らかだ。

 

『死ね、魔戒騎士!』

 

 

ヒヒュン!!

 

迫り来る宙を舞う牙……もう迷っている暇は無い!流牙はシールドを投げ捨てると腕の展開を解除し、頭上に魔戒剣で円を描く……!

 

 

ーーーギュオオオ!!!!

 

 

ガチャガチャ!!

 

すると、眩い光が降り注ぎ『何か』が幾つか現れホラーティアーズを防いでいた…。黒と金に輝くそれらは魔物の牙を凪ぎ払うと流牙の身体に装着されてはじめて『鎧』としての形を為す……。

 

「え……あ…これ……は………?」

 

近くで目がくらみながらもセシリアが戸惑うのも無理は無かった。突然、明らかにISとは違う鎧を纏った流牙に目を丸くしながら、あわあわと口を動かしているが頭だけを晒した流牙はそんな彼女に人差し指を自らの唇にあてるポーズをして一言……

 

 

 

「クラスの皆には…内緒だよ?」

 

 

そこから、一気に魔戒剣を振り上げてターチェツと向き合うと白い魔戒剣は黄金に輝く鍔に『△』の刻印が刻まれた 本来の姿…『牙狼剣』へとなり……

 

 

ーーーガルルッ!!

 

…流牙の頭に黄金に輝き緑の瞳が光る狼を模した鎧が装着される。

 

 

 

 

頭や胸以外はほぼ、漆黒に包まれているが随所に施された黄金は最強の称号の証……

 

 

その名は『黄金騎士・牙狼《GARO》』……

 

 

 

旧き魔界の言葉で希望の意味を冠する最強の魔戒騎士。

 

 

『ロルゾユシチ!?ブッサクチケリカオサ!?(黄金騎士!?復活していたのか!?)』

 

「ああ。その通りさ。」

 

ターチェツは恐怖した。魔戒騎士はホラーの天敵であり、牙狼は即ちその頂点。かつて、この系譜が途絶えてから久しいと聞いていたがよりにもよって復活した牙狼が自分の目の前に現れるとは……

 

『ならば、俺様がもう一度、その系譜を断ち切ってやる!』

 

「ふん……はっ!」

 

さあ、仕切り直しだ。漆黒の黄金騎士は床を踏み砕くほどの跳躍し、向かってくるホラーティアーズたちを剣で捌きながら距離を詰めていく。そのうち、鋭く飛んできた1つを踏み台にして間合い寸前までいくが……

 

『…おおお!!』

 

 

ーーーバシュウウ!!!!

 

「!」

 

あと一歩のところでターチェツが放つライフルのレーザーが直撃。咄嗟に牙狼剣で防ぐ牙狼だが、空を飛べるわけではない彼が踏ん張れるわけもなく、地面に落とされてしまう。

 

「…ああっ!」

 

…思わずセシリアは悲鳴をあげた。禍々しい光に呑まれた様は明らかにそう簡単に生きていられるはずのものではない。ターチェツも勝ったと、慢心して笑っていたが次の瞬間には顔が恐怖で強ばる…。

 

「はあああ……」

 

レーザーが着弾している場所からメラメラと燃え上がる緑の魔導火……その中心にはレーザーを相殺している牙狼の姿。この姿は魔戒騎士が鎧を使う時にできる最強の奥義・『烈火炎装』だ。燃え盛る魔導火は牙狼剣にまで移っており、牙狼はこれを振るって斬撃として放つ!

 

 

ーージュ!!

 

ーーーードカンドカンドカン!!

 

『!?』

 

 

たった一振りだった…。ホラーティアーズもライフルも全て両断されてしまった。焼け落ちる武器たちを見ながらターチェツは自分が丸腰になったことを理解し、最早やけくそにと爪と牙を光らせ牙狼に突撃していった。

 

『くそったれぇぇぇ!』

 

 

 

勿論……

 

 

そんなものにわずらわされるほどの最強ではない。

 

 

 

 

ーーーー斬!!

 

 

すれ違い様に一撃……

魔獣の首は宙を舞い、燃え移った魔導火によって灰となると残った胴体も塵になり、元に戻った無人のブルー・ティアーズが地面へとドシャ!!と落ちた。

 

「良かった……コアが融合する前に倒せた。」

 

 

これで終わった…。鎧を解除し、光に還元すると流牙は元に戻った魔戒剣を鞘におさめる。同時に邪気も晴れていき、いつもの夜のアリーナへと景色が変わった。どうやら、ターチェツが結界でも張っていたのだろう。

 

『おい、坊や。まだ仕事は終わってないぞ?』

 

「あ?ああ……」

 

さて……仕上げは『目撃者』の後始末。基本的に影の世界に触れた時に、その記憶は消して無かったことにするのが常。まあ、化物に襲われた記憶は無いに越したことはない。そんなもの、あったところで話しても誰も信用しないし結局は1人で背負っていくしかない。こう考えれば記憶を消すということはそれなりの救済措置といえる。

仕方ないと、流牙は観客席にて腰を抜かしているセシリアの前へと降り立ち赤い札を取り出す。コイツを張れば記憶を消去できる。

 

「セシリア……」

 

何時ものことだ。今回はたまたま顔見知りだっただけ。この札1枚で明日からは自分と彼女はただのクラスメイト…。それで終わるはずだったのに……

 

「う……うう……」

 

「え?……セシリ…」

 

 

「うわああああ!!!!」

 

 

「ちょ!?」

 

緊張の糸が切れたのか……また安堵の故か凛々しかった顔が崩れたかと思うと流牙の胸の中に飛び込んできた。流石にこれは予想外の流牙であったが、少し困ったような顔をしながらも札をそっとしまって彼女が泣き止むまで抱きしめていた流牙であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ……

 

 

「流……牙……?」

 

そんな光景が水面に映る水の入った壺を眺める少女がいた…。ギチギチともう折れんばかりの勢いで魔導筆を握る彼女はロングヘアーの茶髪をなびかせているが普段の雰囲気は無い。

 

「…本当にちょっと目を離せば………この正妻であるリアン様をそっちのけでなーにしてるのかしらァ?フフフフ…」

 

黒い…。笑いが黒い…。

近くには寄りたく無いくらい怖い……

 

やがて、彼女は魔導筆をクイクイと操ると白い制服を召喚し、部屋の扉を開け放つ。目指すは悪い虫が寄ってきてしまった愛しい彼の元……

 

「本当に、流牙は私がいないと駄目なんだから…!いざ、IS学園!!」

 

 

 

 

さあ、戦も恋も波乱の予感……

 

 

物語の歯車が廻りだす………

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さあて、今日のお仕事はおしまいっと。」

 

かなり遅くなったが、生徒会の仕事を片付けて自室に戻る途中の楯無。伊達に生徒会長の職ではなく、地味にハードワークなので疲れるの何の……。おまけに、流牙にちょっかいを出しにいっていた隙に仕事が増えていたので他の面々に怒られたりしたが……

何にせよ、期待の星は見つけられた。それだけで今日の結果は上々。扇子を開き鼻歌を歌っていた彼女……

 

「……おいおい、何を言っている束?」

 

「…んん?」

 

しかし、薄暗い廊下の角からの聞き覚えのある声が彼女の歩を止めさせた。確かこの声は千冬……喋り方からして誰かと電話しているのだろうか?

何なのだろう?興味本位でこっそり、影から話を盗み聞きしてみる楯無。

 

「…お前が出来なきゃ、誰ができる?開発者であるお前以外……」

 

【だからさ、アレは私も知らないイレギュラーなんだよ、ちーちゃん。男子で扱えるようなコアも設計した覚えもないし、あの白狼自体が装備を含めて何処にもネジ1本についてすらデータが無いんだ。だから、現物をこっちにまわしてほしいの!】

 

「無茶を言うな。流牙が許すわけあるまい。」

(流牙くんの名前…?あの白狼のことかしら?だとしたら、相手は……?)

 

 

白狼については楯無も把握はしている…………流牙の愛機であること以外は全てが謎であるということをだ。ただ、設計だの云々言っている人物については気になる………

微かに聴こえる口調と声色から女性のようで、千冬と親しい仲のようだ。

 

(まさかね……)

 

ふと、ある人物が楯無の脳裏をよぎるが否定する。まさか、その人物があのような会話をするはずがない…彼女が無理といったら、流牙の白狼が存在する理屈はどうなる?全てのはじまりである彼女が知り得ないISなどあり得るはずがない。

 

「…そんなに欲しければお前自身が出向いてこい。私は協力しようがない。」

 

【まあ、そうなるよねぇ結局……】

 

「まあ、この話はここまでだ…。それより、例の件は?」

 

ここで、千冬は話題をかえた。すると、相手はう~んと唸り苦々しく告げる。

 

【ごめんね、ちーちゃん。いっくんについては私も独自に捜しているけど、何処にいるかは愚か生死すらわからないよ。ぶっちゃけ、驚くほど情報が皆無。進展も暫くは期待出来そうにないよ。】

 

「……そうか。なら、引き続き頼む。」

 

(……?)

 

 

 

結果を聴くと、千冬は最後に悲しげな顔をしながら通話を切り…懐から財布に入った写真を取り出す。楯無の位置からは誰が映っているかは見えなかったが彼女が普段は見せないくらい沈んだ顔をしているのは窺えた…。

 

「一夏………お前はいったい、何処に行ってしまった?」

 

写真に映るのは千冬自身と彼女に似た少年。屈託ない表情で恐らくは数年前のものだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この少年が流牙に少女たち…牙狼の運命を大きく変えることになるとは誰も知る由が無い。

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 



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決~Destiny~

「ここは……」

 

箒は不思議な夢を見ていた……。

地に足がつかないふわふわとした感覚が頭を充たしているが、はっきりと目の前にある物は認識出来る。

 

「……金色の…剣?」

 

まるで、十字架のように立つ黄金の剣……牙狼剣に……その背後に君臨する漆黒の黄金騎士の鎧……

 

その周りには数多の若き青年たちの亡骸とそれらを踏み越えて立つ見知った顔の姿があった。

 

【俺はついに手に入れた…牙狼の鎧を!】

 

「…流牙?」

 

道外流牙……今とは違う簡素な白い服装で顔も心なしか今より幼い……だが、その笑う表情は血で濡れている。彼が牙狼剣を台座から引き抜くと、鎧がパーツごとにバラバラになり、そのまま血塗られた流牙に纏われる…

 

ここで、箒はあることに気がついた。

 

 

【ぐっ……ぅ…】

 

亡骸の群に紛れて微かにまだ息があり、立つ者が1人。千冬に似た顔つきで…黒い髪の少年。忘れるわけがない。それは箒にとって大切な存在……

そんな彼に黒き黄金騎士は刃を向け……

 

【牙狼の鎧は……俺の物だァ!!!!】

 

 

ー斬!!!!

 

【ぐわあああ!!!!】

 

 

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

セシリア救出から翌日……

 

 

・side流牙……

 

あれから俺はセシリアの部屋にあったゲートのオブジェを処理をした。要はホラーが出てこないようにする封印作業だ。

セシリアのゲートとなったあの十字架は列車事故で亡くなった彼女の両親の遺品らしい。死者が多くでた事故現場から直接、持ち帰ったものらしくホラーが出てくるだけの陰我にまみれたものだったがセシリアにとっては大切な両親の形見だ。だからこそ、これからも大切にしてもらいたい……

 

だけど、助けた俺にはまた大きな問題があった………

 

 

 

・side 流牙 end…

 

 

 

 

 

 

「「「流牙くん、クラス代表おめでとう~!」」」

 

「…え?」

 

「流牙さん、凛々しいお姿ですわ。代表の座をお譲りしただけあります。」

 

IS学園・食堂にてパーティー騒ぎになっている理由は簡単。結果は敗北といえど流牙が事実上、セシリアに勝ってしまったも同然からだ。お陰で自分はクラス代表になってしまい、セシリアや女子生徒に囲まれてしまったわけだ。

 

『(あーぁ、どうする坊や?面倒なことになったぞ。)』

 

(大丈夫、もう考えてある。)

 

ザルバがバレないように文句を言ってくるが別に流牙とて何も考えていないわけではない。これ以上、学園の仕事が増えれば間違いなく魔戒騎士の仕事に支障をきたす。それくらいは承知…だから、対策は用意してある。

 

「さ、流牙くん笑って~!」

 

「おめでとうがりゅっち~!」

 

「さぁ、さぁ、今の気持ちを一言…!」

 

 

「あはは……」

 

それにしても、女子の集まった時のエネルギーとは凄まじいものだ。流牙もなんとか笑いながら誤魔化しているが、少し圧され気味だ…。そこへ、セシリアが流牙の隣へと座る。

 

「流牙さん、改めまして代表襲名おめでとうございます。このセシリア・オルコット…心より祝福致しますわ。そして、感謝も……私は貴方のお陰で自分の未熟さを思い知りましたわ。」

 

「いや、俺は別に…。」

 

彼女の流牙に対する意識は明らかにもう違っていた…。目指すべき目標として、何より1人の男性・異性として見る意識が芽生えつつあった。

 

(道外流牙……もしかしたら、貴方には私の求める強さがあるのかもしれません。)

 

「あ、そうだセシリア…」

 

「あ、はい…何でしょう?」

 

「大事な話があるんだけど……」

 

「大事な話ですね………ふぇ!?(い、いきなりですの!?)」

…芽生えつつはあったが、まさかの流牙からのアプローチ。セシリアも不意を突かれ焦ってすっとんきょうな声を出してしまい恥ずかしくなるが何とか冷静さを保つため気合いで呼吸を整える。

 

(ま、まさかこんなすぐに流牙さんからなんて思いませんでしたが……良いですわ、そちらがその気なら心を決めます…!)

 

「あのさ、セシリア……」

 

「はい…何なりと!覚悟は決めておりますわ!」

 

「…そうか。なら………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリアに譲ろうと思うんだ…クラス代表。」

 

 

 

 

……え?

 

 

「いや、俺さ……勢いで決闘までしちゃったけど代表はやる気無かったしさ。セシリアが覚悟があるなら任せたいと思う……」

 

 

………あれ?

 

「あの流牙s……」

 

「大丈夫、今のセシリアならきっとできると俺は信じている。だから、さ…!」

 

「え、あの……その…………」

 

……違…

 

ああ、もう良いや。仕方ない…

 

「…今の私でも本当によろしいのでしょうか?」

 

「うん、今のセシリアならきっと皆を引っ張っていけるよ。俺は信じている…だから、セシリアも自分を信じて。」

 

「…………わかりましたわ。クラス代表、責任をもってお受け致しますわ。」

 

 

やれやれ、変に期待してしまった。まあ、良い…ゆっくり時間をかけて距離を詰めていこう。そうすればきっと……

 

「あ、あとセシリア……後で話あるから時間空けててね。」

 

「あ……はい…」

 

すると、最後に流牙がセシリアに言い残した言葉……

 

彼女はまだこれから自分の人生を大きく分けるイベントが待つこなど知る由も無い。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

それから、パーティーは終わって流牙はセシリアを誰もいない中庭へ…。電灯が照らすベンチに2人で座ると彼女に真剣な眼差しを向けた流牙…。

 

「セシリア……昨日のことは覚えているよね?」

 

「はい……」

 

昨日のこと……忘れるわけがない。生まれてはじめてセシリアはホラーに遭遇した。そして、彼女は流牙のもう1つの姿を知ってしまったのだ…。 正直、まだ現実とは信じ難いが流牙の声が彼女にあの夜の記憶を浮き上がらせる…。

 

「…俺達の仕事を見た人間には2つの選択肢がある。1つは何もかも忘れること……これで君はホラー、つまりあの化け物のことを忘れて今まで通りに生活できる。」

 

最初に流牙が赤い札を見せて言った提案。簡単に忘れられるとは思わないが、彼の持つ札が記憶を改変するアイテムなのだろう。そして、彼が出すもう1つの提案……

 

「…そして、もう1つは協力者になること。俺達の陰の領域に踏み込んで手助けをしていくこと。勿論、どんなことがあろうとも誰かに話してはならない辛い道だ。正直、俺は奨めはしないけど……俺はセシリアの意志を尊重したい。今すぐじゃなくても良い…どんな答えでも責めないし、強要もしない。俺は受け入れる……」

 

「……流牙さん…」

それは非日常の陰へと足を踏むこむ選択。またあの恐ろしいホラーと相対することもあるだろうが、流牙を支えていきたいという思いもある。

 

(恐怖が無い…といえば、嘘になります。ですが…私は逃げたくない。そして、流牙さん…貴方の助けになれるなら……)

 

ならば、選ぶ選択肢は…

 

「流牙さん!このセシリア・オルコットでお役に立てるのでしたら…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめときな嬢ちゃん…?」

 

 

 

 

「「!」」

 

 

その時、少女の決意を遮る男の声。立ち上がって振り向けば清掃係の服に青龍刀を担いだ金髪の青年が歩いてきていた。声の主も彼だろう。

 

「な、何者ですの!?」

 

「…俺か?俺はコイツの同業者さ…。」

 

「同業者…まさか!?」

 

セシリアは察した…。同業者で繋がったのはあの流牙の鎧の姿。つまり、彼も陰に生きる者だ。

その反応にニタリと笑うと青年は薄汚れた服を払い、本職の黒に赤のラインが入ってチャラい雰囲気の魔導衣の姿となる。

 

「セシリア…コイツは『蛇崩タケル』……俺と同じ魔戒騎士さ。」

 

「…や、やはり……」

 

「おいおい、流牙ァ…ベラベラ喋ってんじゃねぇよ。インテリ楠神様と苻礼法師が五月蝿いぜ?」

 

外見と相違なく、チンピラ臭いが彼『蛇崩タケル』は流牙と同じ魔戒騎士である。彼の持つ青龍刀も彼の魔戒剣だ。

されど、そこまで流牙は友好的な態度ではない。

 

「うるさい…。別に俺はあの人の下に就いたつもりは無い。俺がどう動こうが俺の勝手だ。」

 

「流牙…言っただろ?お前の仲間は俺達だけだ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…… ま だ 懲 り て な い の か ?

 

 

 

 

 

「…ッ!」

 

ーーチャキ!!

 

 

 

されど最後、タケルが言った言葉にだけは本気の怒りの向けた流牙。魔戒剣を白鞘から引き抜き、鈍く光る切っ先をタケルに突きつける…

 

「なんだ?やるかぁ?魔戒騎士同士の決闘は掟に反するが…ケンカなら問題ないぜ。」

 

一方のタケルも流牙を挑発。まさに、一触即発というべき状態になったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 

 

 

力強い…年忌が入った男の一喝がそれを止めた。見ると、さっきタケルがきた方向に壮年の男性がいた。マントを纏い、逆立つ黒髪の雰囲気はさながら獅子……。手にはグイッと筆先に癖のついた魔導筆が握られている。

 

「苻礼(ぶらい)法師……」

 

「よう。久しぶりだな流牙……」

 

男……『苻礼』の登場により、流牙の敵意は真っ直ぐ彼に向けられた。タケルを突き放すと彼は魔戒剣を握りしめるが、苻礼法師は気にすることなくセシリアへと話かけた。

 

「セシリア・オルコット…タケルの言う通り、半端な覚悟ならやめておけ。俺達の世界は命の保証は無い甘く無い世界だ……。荷物になるような人間を抱えて戦うほどこちらには余裕は無い。」

 

「…そ、そんなこと……!」

 

「苻礼法師…彼女の代表候補生としての立場とブルー・ティアーズの能力は絶対に役立つ!足手まといなんかには…」

 

 

 

 

 

荷物……そうセシリアを一蹴しようとするが、流牙は彼女を必死に庇おうとする。そんな彼に苻礼法師がズシリと告げた…。

 

 

「流牙……また、『繰り返す』かもしれないんだぞ?」

 

 

「!」

 

 

瞬間、流牙が硬直したのをセシリアは見た。まるで、トラウマに触れられたような硬くなった表情だ。

 

「この学園の協力者ならすでに足りている…。余計なことをすれば余計な犠牲がでる。仲間になれるのは俺達だけだ、流牙……」

 

「…ッ」

 

確かに流牙にとって苻礼法師の言葉は理解しているようだが、明らかに震える魔戒剣が尋常ではない彼の心の内を表すようであった。

 

「ま、そういうわけだ。犠牲は出ないに越したことはない。諦めろよ、流牙。」

 

タケルもまた、彼の肩に手を置いてセシリアを諦めるように言うが……

 

「ちょっと、お待ち下さいな。」

 

我慢ならない…と男たちの話に割って入ってきたセシリア。彼女は苻礼法師の前に立つと先の流牙同様に真剣な目を向けた。

 

「当の本人である私を差し置いて、役立たず呼ばわりとはあんまりじゃないですの?中途半端な覚悟とか申しておりましたが、私とて確固とした決意を固めてお誘いにお答えしたつもりですわ!確かに未熟さがあるのは認めます……ですが、私とて知ってしまった以上は見過ごすわけにはいかないんです!」

 

「…ほう?」

苻礼法師は関心したような表情を彼女に向けた。その後、流牙も意を決して口を開いた。

 

「苻礼法師!セシリアを仲間に入れるなら俺も彼女と一緒にアンタの傘下に正式に入る!!これでどうだ…?」

 

「ううむ……」

 

苻礼法師は少しだけ考える素振りをした。すると、懐から赤い封筒を取り出して彼女に告げる。

 

「セシリア・オルコット……なら、お前の力を試す。さっきも言ったように役立たずを抱えるほどこちらに余裕は無い。役に立たないと判断したら、すぐに降りて貰う。そして、お前が死のうとこちらは一切の責任を負わない…それでも良いか?」

 

出されたのは試練……

恐らくはホラー狩りだろう。セシリアの脳裏にまたあの恐ろしい記憶がよぎるが、流牙の顔をみてそれを振り払い意志を答えた。

 

「やります。やらせて下さい!このセシリア・オルコット…逃げはしませんわ!」

 

その彼女を見据えると赤い封筒を流牙に投げ渡し、苻礼法師はニヤリと笑みを見せた…

 

「よし……良いだろう。刻は明日の夜、お前を試すぞセシリア・オルコット…覚悟をみせろ!!!!」

 

 

 

 

…徐々に加速していく物語……

 

………されど、まだ序章に過ぎない…。

 

 

 

 

To be continued……

 

 



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客~Visitor~

来週に大学の卒業試験があります故に、加筆修正がさらに遅れそうです。

あ、あと感想での質問についてですが、ヒロイン全員とか答えるの大変なので出来ればもっと絞ってもらいたいです。あと、一夏や他、物語の根幹や展開に関わるような質問…不明な点の設定の説明なら良いですが、それ以外はジュンチェ作品全てでお断りします。
結構、根幹にズバッとくる人がいるのでここで注意します。そろそろ、展開がばれそうなので怖いです。







苻礼一派からのセシリア入団テストを課せられてから翌日……

 

「ねえねえ、知ってる?2組さ、クラス代表が中国から来た転校生に替わったんだって!」

 

「聞いたよ、私たち1組に続いて専用機持ちラッシュで入ってきた娘らしいよね?本当、今回のクラス代表トーナメントは波乱の予感……」

 

「まあ、うちはセシリアに流牙くんもいるから大丈夫でしょ?」

 

 

 

 

クラスで女子たちが噂話と近づく大きなイベントにわいわいと騒いでいた。流牙とセシリアも話題にされているが、当の本人たちは……

 

「…大丈夫、セシリア?今夜だけど……」

 

「はい…。ですが、少し怖くもあります。」

 

 

 

「あらあら、特に気にしてないみたい……」

 

「…これは強者の余裕か……」

 

「まさに、他人事…」

 

完全に今宵についての打ち合わせに没頭していた。セシリアの席であるデスクの上に紙やら何やらを拡げて話をしているが、見る者が見ればまだ怯えるセシリアを流牙が気を使っていたことなどすぐに見抜けるがあいにく、今のこのクラスにそんな人間はいない。

 

「流牙く~ん、セシリア~~!今、貴方たちの話してたんだけど?」

 

「あ、そうなの……?ごめん、気がつかなかった…! 」

 

「…た、たち……!?い、いえ私は…!?」

 

「んもう、2人仲良くお勉強は良いけど……もうちょっと周り見なよ?」

 

「ははは……ごめんごめん! 」

 

セシリアは何やらあらぬ勘違いをしていたようだが、流牙の爽やかな笑顔で事なきを得た。ただ、流牙の全くこちらの胸の内を知らないリアクションに心の中で溜め息をつくセシリアであった。

 

 

一方……離れた席では箒が流牙を複雑な表情をして見つめている…。

 

(道外流牙……杞憂だと良いのだが………いや、考え過ぎか。たかが、夢だ。)

 

…脳裏から離れないあの謎の悪夢。屍の山の上に立ち、流牙が狼の鎧を纏うと自分の大切な存在である『彼』を斬り裂く光景………

でも、そんな非現実な夢を箒は信じない。彼女からすればたかが夢である。目の前にいる青年はどうみても、残忍さの欠片も無い。

 

(…夢だ、夢だ………忘れろ……)

 

…もうこんなこと考えていたって仕方ない。自分にひたすらこのおぞましい悪夢を忘却の彼方に葬ろうとするが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たのもー!」

 

 

 

 

 

 

「「「!」」」

 

 

その時、教室のドアを開け放つ音と共に響きわたる声。クラスで聞き覚えの無い……見ればリボンをつけたツインテールの小柄な少女が仁王立ちしているではないか……

 

「あれ……もしかして、鈴?」

 

「ハーイ、久しぶりね流牙!」

 

その顔をみて驚いたのは流牙。また、そのリアクションに驚いたのはセシリア……

まあ、セシリアのほうは気にも留めず少女は流牙に親しげに近づいていった。

 

「鈴、なんでここに?」

 

「ふふん、それはね…私が2組のクラス代表で、中国の代表候補生だからよ。今日はアンタたち1組に宣戦布告に来たんだから……!」

 

「あ、あああの……流牙さん?こちらの方は……?」

 

「ん?ああ、紹介するよ……凰鈴音(ファン・リンイン)。俺が昔、世話になった定食屋の娘さんだよ。それにしても、相変わらずちっちゃいなぁ~!」

 

「ちっちゃいは余計よ!」

 

(あ…あああ!?えぇええ!?!?)

 

セシリアは思った。『凰鈴音』…… 流牙と異様に親しげな彼女。明らかに自分より一歩先へ行くきょりかんな雰囲気。これはまずい…時間をかけてなんて悠長なことは言ってられないかもしれない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流牙ぁ~♪」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訂正。言ってられない。

鈴音に続いて茶髪のロングヘアーにセシリアに負けず劣らずのプロポーションを持つ女子生徒が現れ、流牙にニッコリと笑いかけてきた。対する流牙も鈴音と同様のリアクションを彼女に向けた。

 

「…リアン!?お前、なんで………てか、苻礼法師は…!?」

 

「そんなことはどーでも、良いの!も~!流牙は目を離すとすぐに正妻を差し置いて危なかっしんだから。」

 

「「正妻!!?」」

 

 

 

え……しかも、爆弾発言しちゃったよこの娘。これにセシリアと鈴音は仰天したが、流牙は『あはは、違う違う…』と笑いながら正妻発言を否定して彼女を紹介しはじめる。

 

「…彼女は『リアン』。俺の仕事仲間さ。」

 

「んも~!流牙は釣れないんだから!」

 

「……だってまだ、リアンのことよく知らないし………こういうことはお互いにのことをよく知ってからだよ。」

 

リアン……甘い声にコルセットをつけたような改造を施してある制服がなんとも印象的な美少女だ。これにはセシリアと鈴音は穏やかではいられない。

 

「ちょっとなによ、アンタ!いきなり、流牙と親しそうに何なのよ!!」

 

「そうですわ!いきなり、本人に了承もなく正妻を名乗るなんて…流牙さんも迷惑この上ないですわよ!」

 

「あら?何よアンタたち?私のほうが流牙との付き合いが長いのよ~?この間までずっと一緒にいたんだから。」

 

「何よ!長さならこっちも負けてないわよ!」

 

「な、長さなんて問題じゃありませんわ!!」

 

バチバチと散る…乙女の火花。始業の鐘が鳴ろうとお構い無しで続ける彼女ら……

 

 

その夢中さがこの1組に座する鬼の担任のことを忘れさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカン!!

 

「「「あぅ!?」」」

 

「貴様ら、もう始業ベルは鳴っているぞ。」

 

「お、織斑先生……!?」

 

「ち、千冬さん…!?」

 

「……誰?」

 

出席簿の角で殴られ、振り向いた3人の後ろには呆れた顔をした千冬が立っており、鈴音には『織斑先生だ。』と追撃がヒット。鈴音は涙目を浮かべ、セシリアはひきつった表情をし、リアンは初対面の千冬に怪訝な顔をする。

 

「…鈴、リアン……お前らは2組だろ。とっとと、クラスに戻れ。セシリアもさっさと席につけ!」

 

「は、はいー!」

 

「う……後で覚えてなさいよ流牙!」

 

「く……仕方ないわね。また後でね流牙。」

 

流石に先生には勝てない。3人は渋々退散していった。

やれやれ…と溜め息をつく千冬であったが、ふとあることに気がついた。

 

「篠ノ之?どうした、顔色が悪いぞ。」

 

「あ……いえ……なんでもありません。大丈夫です…」

 

「……そうか。よし、これから朝のホームルームを始めるぞ。静かにしろ。」

 

この時、千冬は気にも留めなかった。彼女、箒は疲れがたまっているか何かぐらいしか思わなかったからだ……

 

されど、平気だと偽っても不安定になっている心………

 

 

 

 

 

「……(苻礼…だと………!?)」

 

 

…誰も知らない物語の歯車を彼女は持っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、IS学園へ向かうモノレールの中に40代くらいのスーツを着た黒髪の男がぽつりと誰もいない車両の中にいた…。黒髪の……おそらくは日本人。冴えないというほどでもないが何処にでもいる普通のサラリーマンといった風貌だ。

 

「さて………わざわざ、フランスから来ましたが…」

 

彼は『鷲頭』……。ある仕事のためにIS学園に向かっている。バックから書類と写真を取りだし、ふぅ…と溜め息をつく。

 

「今回の交渉の相手………道外流牙。我が社の最高機密と同型を所持する謎の青年。出生や国籍を含めて全ての経歴が謎………。交渉に応じない時、場合によっては…」

 

すると、彼はじゅるりと舌なめずりをした。ただ、遠くから見るばかりでは普通のサラリーマンな彼…。ただ、どこかおかしい。微妙に人間性を欠いているような振る舞いなのだ。

 

「さて、そろそろ仕事の時間ですか………少し、腹ごしらえでもするか…」

 

そして、彼は懐から名刺ケースをだして赤い名刺を取り出すとそれをペロリと舐めた。すると、名刺から光何かがスルッと口の中へと消えていった…。

 

【大変、お待たせしました。IS学園・ターミナル………】

 

 

「さて、行きますか…よっころせと………」

 

 

………学園へ忍び寄る不吉な影……

 

その正体が流牙と少女たちの運命を大きく変えることになる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

放課後………

 

 

それは生徒たちが1日の学業を終えた時間帯…

勿論、道外流牙も例外ではない。屋上で青空に目を向けて寝転がる彼はある苻礼とのやり取りを思いだしていた………。

 

 

【流牙………お前はIS学園に行け。そこにはお前の斬るべき奴等がいる。】

 

【…ホラーか?】

 

【そうだ。だが、ソイツらは陰我があるゲートから出現したわけではなく、夜になったら活動するわけでもない…。普段は人間として生活している。魔導火や魔導具で正体を見破ることが出来ないし、おまけに魔導火が効かない。】

 

【…なんだよ、それ?本当にホラーなのかよ?】

 

【ああ…。いずれ、お前が学園にいる限り出逢うはずだ。ソイツらを1人残らず斬れ…それがお前の定めだ!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…とか言ってたものの、狩ったのはまだ陰我ホラー1体にゲートを1つ封印しただけ。本当にそんな奴等いるのかよ?」

 

まだ、大して経ってはいないが苻礼法師がいっていた『奴等』なる存在は影も形もない…。あのオッサン、口から出任せを言ってるのではないか。そんな疑いを持ちつつ、ゴロゴロと転がる流牙…。

 

「…全く、何が定めだよ?本当にうるさい、臭い、鬱陶しいだよ本当…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隙やり♪」

 

 

「!」

 

 

ーーシュバッ!!

 

 

その時、流牙は勢いよく飛び退いて身構えた。それから一瞬だけ遅れて流牙のいた場所に手刀が空をきる…!

 

みれば、お馴染みの水色の髪に顔……

 

 

「また君?楯無さん……」

 

「あら?これかわすなんて流牙くん、すっご~い♪」

 

更識 楯無……流牙が現状のところ、一番に学園の中で警戒しなくてはならない人物。人がゆっくりとしているところに勘弁してもらいたいものだが、帰れと言われて帰る彼女でらないだろう。それに、目的も察しがつく……

 

「やっぱり~……お姉さんの見込みは間違いなかったわね?」

 

「…だから、俺は生徒会には入りませんって!」

 

「いやん♪そんな釣れないこと言わないの♪今日こそは良い返事を聴かせてもらうわよ?」

 

生徒会長、自ら生徒会への勧誘。セシリアの一戦以降、他意はあるかはどうであれ流牙の腕に惚れ込んだとのことでつきまとってくるのだ…。

無論、流牙は入る気など更々無い……

 

「悪いけど、構ってる暇は無いんだ。じゃあね!」

 

「…ちょ!?」

 

ならば、ここはと流牙は屋上から飛び降りて逃走。楯無は驚いて手すりから見下ろしたが、下の階の窓に消えていく制服を見た…。どうやら、窓に飛び移る離れ業で楯無を撒いたようだ。

 

「ふ~ん、思った以上にやるわね道外流牙くん?お姉さんもそろそろ、火がついてきたわよ~?」

 

さて、流牙にとってはいい加減あきらめてほしいものだが、楯無は不敵に笑う。どうやら、流牙にとっては傍迷惑な鬼ごっこはまだまだ続きそうである。

それはまた後々として、流牙は下の入った教室で生徒たちに騒がれながらも脱出し、廊下に出るとふぅ…と溜め息をついた。

 

「やれやれ、臭くはないけど…うるさいし、鬱陶しいね。」

 

本当に勘弁してもらいたいが…そのうち、また仕掛けてくるだろうと思うと憂鬱になる………相手が相手なだけに…………

 

『全く、偉いのに目をつけられたな。お前さんは随分とそんな奴ばっかりに縁があるようだな……』

 

「…どういう意味だよ、ザルバ?」

 

……そのままの意味である。

流牙は文句ありげな顔をしたが…………ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……道外流牙くんですね…?」

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

かけられた声に振り向けば…サラリーマンらしき男。スーツ姿にネクタイを締め、営業スマイルをする彼……

 

 

……鷲頭だ。

 

 

 

 

 

「…少し、お話をさせて頂けませんか?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

 

某学園内・廊下にて……

 

 

 

「織斑先生……まだ、私は信じられません。」

 

「ああ…流牙に続いて、フランスから2人目とはな。」

 

1組の担任である千冬と副担任である真耶は手元の書類を確認しながら、歩いていた…。どちらも神妙な顔つきで真耶に至っては何処となく落ち着きの無さを感じる。

 

「…この事実、世界はまた震えますよ。間違いなく………」

 

「うむ。そうだな……それが、1組のクラスに来るとなれば……面倒事が増えるぞ。」

 

「しかも、もし…どちらもフランスがとなれば………」

 

「世界は黙っていないだろう。あのISのことも含めてな……」

 

 

 

周りは能天気な生徒たちばかりだが、教師たちはこれから起こるであろう世界の動きに戦慄を覚える……果たして、その正体と流牙との関係は?

 

いずれ、物語が進むうちに明らかになる…

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

IS学園1年1組にて……

 

 

「俺を、フランスの代表候補生に…?」

 

流牙は鷲頭からのだされた話に驚いていた。彼はフランスのIS会社デュノア社のスカウトマンで流牙を自社に所属するフランスの代表候補生スカウトにきたのであったのだ。

 

「はい。我々デュノア社が全面的にバックアップします。多少、こちらの要望は従ってもらいますがその恩恵は大きいものです。是非とも、前向きに考えて頂けませんか?」

 

鷲頭はニヤリと笑う。勿論、心の中でだ。営業スマイルの裏にはこんなチャンスに乗らないわけが無いという予想をしていた。

 

「えー……でもなぁ…」

 

「待遇は優遇させていただきます!白狼にこれから配備される貴方のISについてもこちらが専属で………」

 

代表候補生といえばエリートの証……会社との専属となれば学園内や経歴においても輝かしい称号となる………断らないはずがない。しかし、鷲頭の予想は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。やっぱり、その話は断るよ。」

 

 

 

「!?」

 

…裏切られることになる。

思わぬ答に心中は動揺しながらも鷲頭は理由を問う。

 

「…な、何故!?代表候補生ならば国からの支援やそれ以外に待遇も………」

 

「…別に、俺は何処かの国の旗を背負うつもりは無いし、来たくてこの学園にいるわけじゃない。だから、代表候補生なんて肩書きは興味無いんだ…。悪いけど、他あたって……」

「ま、待って下さい!」

 

…しまった。自分としたことがミスをしてしまった。

されど、ここまで来て引き下がれない鷲頭。なんとか流牙に食い下がろうとするが………

 

「流牙さぁーん!」

 

「流牙、捜したわよ!!」

 

「ちょ、退きなさいよアンタら!?邪魔よ邪魔!あ、危な……!?」

 

丁度、セシリアにリアン…鈴音が待ち構えていた。3人はワチャワチャと押し合い、そのうちに一番小柄な鈴音が弾き出されてしまう。

 

「きゃ!?いったー…い……」

 

「鈴!大丈夫……!?」

 

「いたたた………や~ん、膝すりむいた…」

 

 

 

 

「!」

 

その拍子に転んで膝をすりむいてしまい、流牙が駆け寄る膝から血が滲むのを確認できた。すると、後ろにいた鷲頭が流れる赤い液体を見るや否やゴクッと生唾を呑む仕草をした…。

(美味そうだ……はっ!?いかんいかん!)

 

「?」

 

リアンはそれに気がつき、不思議そう…いや、直感的に危険性を感じて警戒をした。流牙は気がついていないようなので、彼の懐から魔導火ライターを抜き取ってカチッと火をつけた。

 

「流牙、借りるわよ。」

 

チュボ!!

 

 

「……?…なんでしょう?」

 

揺れる緑の魔導火の光……。照らされた鷲頭の眼には変化が無い。どうやら、ホラーではないようだ。

 

「いえ……ちょっとした手品ですよ。色んな人に試しているんです!凄いでしょ、この緑の火…!」

 

「…はぁ。そういうことでしたか………」

 

とにかく、愛想を振って適当にごまかしてその場をやり過ごすリアン。鈴音は『今のタイミングに何よそれ!?』と文句を言ったが、セシリアはあることを察した…。

 

(この人………もしかして、流牙さんと…)

リアンは流牙と同じ世界に生きる人間かもしれない。あの火は流牙が牙狼の烈火炎装に使っていたことは記憶に新しい。

 

その火を扱うことからして、可能性は高い。

 

「…流牙、鈴を保健室に…手当てしてあげて。」

 

「え、別に良いわよこれくらいなら自分の部屋で………」

 

「いや、そのままにしておくのは良くないよ。一緒に行こう。鷲頭さん、俺はこれで!」

 

「…そうですか。無理強いは出来ませんからね…気が変わったら名刺に書いてある連絡先にご一報下さい。何時までも、お待ちしてますよ。」

 

そして、リアンは流牙を随伴させて鈴音を保健室に送りこみ、流牙は鷲頭に別れを告げた。見送る鷲頭は笑顔であったが、リアンの顔は鋭い。

 

(この胸騒ぎ………当たらなきゃ良いんだけど…)

 

自分の予感が当たらないことを思いつつ、鷲頭を見る。その彼の心中は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やれやれ、食べるつもりは無かったのに………)

 

 

 

 

 

 

…ビンゴ。彼女の予感は的中していた。

 

 

 

 

 

 

 

To be continued………





ちなみに、さっきの前書きについてですが……

×一夏はどうなったの?

×一夏は敵?

×箒の夢の真実

×尊士はでてくるの?

などは完全にアウトです。
あと、要望も必ずしも全部答えられるとは限りません。

長々とすみません。各キャラの趣味くらいだったらOKです。では!






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波~Gold wave~

「大丈夫、鈴?」

 

「あ、うん………ありがとう…。」

 

保健室へとやってきた鈴音は流牙に脚の傷の手当てをしてもらっていた。脱脂綿に消毒液を含ませ、ピンセットで摘まみ傷口を消毒する流牙。一方の鈴音は懐かしそうな顔をしていた…。

 

「…昔は逆だったのにね。いっつも、アンタがケガしてきて私が手当てして…。」

 

「うん。あの頃はね…懐かしいなぁ……」

 

 

 

2人は追憶していた……。数年前、流牙が鈴音の家に居候している時は今と逆のことが日常茶飯事だった。鈴音たち家族が知る由も無いが、指令を受けた流牙が傷を負った時は鈴音が傷の手当てを担当していた…。夜な夜な仕事で家を出る流牙をよく心配してたっけ…?

 

「…」

 

「……鈴?」

 

ん?……どうしたのだろう?突然、思い詰めた顔で黙ってしまった鈴音。流牙は首を傾げた。すると……

 

「流牙……あのさ…………もう…いなくならないわよね?あの時みたいに…」

 

「え…」

 

「もう何処かに行ったりしないでしょ?…ね?これからはずっと一緒にいられるのよね…」

 

「鈴…」

 

 

「卒業したらさ、またウチに来なさいよ!アンタくらいだったら、面倒みれるし…だから………」

 

彼女が口にしたのは寂しげな…普段の勢いは感じさせないほどの声だった。対する流牙は驚きつつも、黙々と作業を続けて絆創膏を張った。

 

「…ごめん。それは約束出来ない。」

 

「…どうして!?」

 

「さ、これで大丈夫。戻ろうか。」

 

「流牙、待ちなさいよ!誤魔化さないで…!」

 

彼は約束出来ないと告げると立ち上がり、保健室を後にしようとするが鈴音が止める。その時……

 

「ふぅ……また会いましたね道外流牙くん。」

 

「…鷲頭さん?」

突然、鷲頭が保健室を訪れたのだ…。ただ、様子がおかしい。先程とは変わって無表情で喋り方も無機質な雰囲気になっている。まるで、人間さがOFFになってしまったかのように……

 

「…全く、『泥棒』のくせに……こちらの優遇な条件を蹴るとは随分と良い度胸ですよね。」

 

「わ、鷲頭さん?」

 

泥棒……?何の事だ?

流牙は戸惑っていると鷲頭は彼の胸ぐらを掴み、突き飛ばした。そのため、流牙は保健室の機材へとぶつかり鈴音が悲鳴をあげる。

 

「ちょっと、アンタ!いきなり何すんのよ!!」

 

「…部外者は黙ってて下さい。私はただ盗まれた物を返しにもらいにきただけですから……」

 

盗まれた物……鈴音にはわからないが、鷲頭は執拗に流牙を狙う。

 

「やめて下さい、鷲頭さん!」

 

「貴方が悪いんですよ。全く、私は人間の魂なんて好まないというのに……」

 

「!」

 

 

 

 

 

人間の魂を好まない……流牙はこの言葉にあることに気がついた。まさか、この男…

 

「…ホラーか!?」

 

「ホラー…?何ですかそれは…?」

 

しかし、鷲頭は疑問の表情をするのであった。いや、おかしい。魂を喰らう化け物などホラーぐらいだ。でなければ、人間の魂なんてなどという発言はしないはず…

そんなことなど気にすることなく追撃を加えようとするが………

 

 

 

ーーパンッ!!パンッ!!パンパンパンッ!!!!

 

「…うぐ!?」

 

突然、背後からの銃声…。振り向けばリボルバー式の魔戒銃を構えるリアンの姿があった。

 

「…うぅ!?貴様!」

 

「嘘…まだ動けるの…!?」

 

この時点で数発の弾丸を受けた鷲頭だが、それを物ともせず標的をリアンに変えて襲いかかる鷲頭。その隙に流牙は体勢を立て直し、魔戒剣を取り出して構える。

 

「どうやら、アンタ…少なくとも人間ではなさそうだな…!はぁッ!!!!」

 

とにかく、魔戒銃の弾丸に耐えれるようなら人間ではない。流牙は刃を煌めかせ、斬りかかると鷲頭はこれに気がつき流牙の腕を抑える。ならばと、流牙は片手で腹部にチョップからの顔面への掌の一撃で鷲頭をベッドの上に転倒させる。

 

「…うおお!!」

 

「くっ…」

 

ーーベリッ!!

 

「!」

 

このまま一気に斬り裂こうとしたが、直前でなんと顔の皮膚を引き剥がして魔戒剣を受け止めた鷲頭。直後、剥がされた皮膚はウゾゾ…と黒い触手から束ねられて禍々しい剣として形を為す。また、再生しつつある皮膚を剥いだ顔からは異形の顔が覗いていた…。

 

「はああっ!!!!」

 

 

 

 

ーーガンガン!!ギャン!

 

そこから、魔戒剣と異形の剣がぶつかり合い火花を散らす!だが、やがて鷲頭が圧されはじめ、流牙が剣を弾いて腹部に一閃………

 

 

「だあっ!!」

 

ー斬!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーキュオォォォォォォ…ン…!!!

 

 

 

「…!?…うわあああああ!!!!!?」

 

 

斬った傷口から黄金の波動が漏れ、流牙や保健室の備品が弾きとばされてしまう。おまけに、傷もすぐにふさがってしまったではないか。

 

 

 

「…な、何なんだよコレは……!?」

 

一体、何事なのか?壁に叩きつけられた流牙は混乱する。今までホラーを何体も倒してきたがこんなことは無かった。見れば、刃は淡く金色の光を帯びている……これは、いったい…

 

「う…あぁ……頭が、痛い!!」

 

「鈴!」

 

ふと、聞き覚えがあるうめき声に視線を向ければ鈴音が頭痛に苦しんでいた。まずい、早く決着をつけねばと鷲頭の剣をかわして一太刀いれるが……

 

ーー斬!!

 

ーキュオォォォォォン…!!!!

 

 

「ぐああああぁぁ!?」

 

「きゃああああああ!!!!」

 

またしても、黄金の波動が阻む。再び流牙はふっとばされ、床をゴロゴロと転がってしまい鈴音もさらに苦しみだす…。

 

「……どうやら、お前は俺を斬れないようだな?」

 

そんな2人にジリジリと迫る鷲頭。どんな理屈かは知らないが好都合…仕事を終わらせてしま……

 

「2人から離れなさい!!」

 

「!」

 

しかし、不意をついて何処からか現れたセシリアがブルー・ティアーズを起動して鷲頭を抑え2人かかった。これは好都合……リアンは魔導筆を取り出すと青空が映る魔方陣を天井に記してセシリアに叫ぶ!

 

「…セシリア!奴を上に!!」

 

「はい!」

 

「……は、離せ!!」

 

そのまま、セシリアは鷲頭と共に天井の魔方陣からはるか彼方の青空へとブースター全開。戦いの場所を人目のつく場所から移したのであった。

この内に、リアンは流牙に駆け寄り状態を確認する。

 

「流牙、大丈夫?」

 

「俺は大丈夫……鈴を頼む!」

 

まだ戦える……よくわからない黄金の波動は厄介だが、意志は折れてはいない。リアンに鈴音を託すと流牙は自らを奮い立たせると白狼を起動し、セシリアの後を追って飛び立った…。

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

IS学園上空では……

 

 

 

 

「は、離せ!!」

 

「…きゃあ!」

 

鷲頭は無理矢理、キックでセシリアを引き剥がすと下に視線を向けた。すると、下から向かってくる白狼に気がつき身構える。

 

「…来い!」

 

そして、落下しながらも鷲頭は本性である素体ホラーに似つつも羽の無い悪魔のような姿のホラー『ディアーボ』へと皮を破り変化。赤黒いボディに随所に施された黄金の模様が輝き、勢いのままに流牙と対峙……

流牙も白狼の展開を解除すると、怒りの視線を向けながら魔戒剣を突き上げ円を描く!

 

「……斬り裂いて…斬り裂いてやるッ!」

 

 

ーーガルルッ!!!!

 

やがて、召喚された鎧を纏って漆黒の黄金騎士・牙狼となる流牙。両者は落下しつつも、お互いに剣をぶつけあって激しい空中肉弾戦を展開…剣を交えながら殴る、蹴る……斬り裂く…!されど…やはり、ディアーボを斬りつけると黄金の波動で吹き飛ばされてバランスを崩してしまう。

 

『うおおおおお!!!!』

 

この隙にと、牙狼に襲いかかるディアーボ。しかし……

 

「そうわいきませんわ!」

 

 

ーーバシュバシュ!!

 

『ぐぅぅ!?』

 

ディアーボの周りにまとわりつき、レーザーを撃ちまくるティアーズ。セシリアの援護だ…。確かにISの武装では決定打は与えられないがディアーボは飛行能力に飛び道具を持たないため、制空権においては遥かにブルー・ティアーズが優位にたてるのだ。おまけに、遠距離タイプなのでディアーボに為す術は無い。

 

「流牙さん!」

 

「…セシリア!うぉぉ!!!!」

 

すかさず、セシリアは牙狼に回り込んで腕を交差させると、足場代わりとなり牙狼はブルー・ティアーズを踏み台にして立て直すとディアーボに向かい、飛びかかり組み合うと波動が出ないように柄で何度も殴りかかる…

 

ここで、セシリアはあることに気がついた…。

 

 

「まずいですわ。このままではアリーナに……」

 

そう……飛行能力が無い牙狼とディアーボはいずれ落ちる。だが、まずいことに落下地点はISを展開した生徒たちがいるアリーナだ…。このままでは、牙狼たちの姿が一般生徒に見られてしまうが為す術がセシリアには無い。

 

その頃、アリーナではタケルと苻礼法師の姿があった。

 

「おいおい、あれまずくねぇか!?こっち来るぞ!?」

 

「…」

 

タケルは落下してくる牙狼たちに慌てるが、苻礼は無言で見据えるのみ。そのうちに生徒たちが落下してくる牙狼とディアーボに気がつきはじめる。

 

「ねぇ、あれ何?」

 

「ん?どうしたの…?」

 

「…なになに?」

 

 

少女たちは呆けたような顔をして見つめていた…。見たところで、何かは理解できるわけでもないが………

 

『ふんっ!』

 

「うわあ!?」

 

 

ズドォン!!…ガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

「「「きゃ!?」」」

 

とうとう、組み合った牙狼とディアーボが不時着。寸前でディアーボが牙狼を下敷きにし、スノーボードよろしく踏みつけたまま剣を振るい、牙狼は牙狼剣で何とか防ぐ。さらに、勢いは殺せず牙狼は地面を抉りながら落下地点から反対側の壁にディアーボもろとも激突し、凄まじい土煙をあげて見えなくなる…。

 

「流牙さん…!」

 

すぐさま、駆けつけたセシリアはブルー・ティアーズに搭載されたカメラ機能で激突して煙が巻き上がる場所をズームされるが視界が悪く様子は窺えず、観客席にいたタケルも息を呑む……

 

 

 

すると……

 

 

 

 

 

 

ーーキュオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン…!!!!!!

 

「「「きゃあああ!?!?」」」

『ぬぉ!?』

 

今までに無いような黄金の波動と共にゴォッ!!と煙が晴れ、ディアーボや生徒たちが弾きとばされた。よく見ると、ディアーボの胸に今まで以上の深い傷があり、黄金の波動が漏れている…

加え、生徒たちは全員が波動により壁に叩きつけられISを解除…全員、気絶していた。

 

 

そして……

 

 

 

…牙狼が………

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉ…!!!!」

 

 

ーオオオォォォォ!!!!!

 

 

 

ベルトに牙狼剣と同じ『△』の紋章が浮かび………

 

……『金色』に輝いていた…。

 

 

「鎧が…金色に……!?」

 

「…な、何だよありゃ!?」

 

この状態にはセシリアはおろか、同じ魔戒騎士であるタケルも驚愕するが………ただ、苻礼法師は無言でその姿に何か思案をしていた…。まるで、何かしら思い当たるものがあるかのように…

 

「くっそぉぉぉ!!!!」

 

当の牙狼はわけが解らず、雄叫びをあげながら体勢を立て直せていないディアーボに向け突撃。黄金に輝き、流星のように走りながら刃を突き立て走る…走る………

 

ーーキュオォォオオオオオオン…!!!!

 

「…ぐ…おおぉぉ!!!!」

 

その間にも波動は牙狼を更に金色へと光り輝かせるが牙狼は耐える………

 

「………これでぇ、終わりだァ!」

 

ー斬!!!!

 

 

 

ーーキュオォォオオオオオオオオオオオオオオオン…!!!!!!

 

ついに、トドメの一撃………

 

ディアーボを粉砕すると同時に奴に秘められていた波動が全て炸裂し、牙狼は苦悶の叫びをあげた。

 

「うわぁ!?…あっ、ぐぅぅ!?!?あああ…!!!?」

 

「流牙!」

 

「流牙さん!」

 

即座に、タケルとセシリアが駆け寄ってはみるがどうすることも出来ず、不安定に金色に輝きつつ牙狼はもがき苦しむばかり…。とうとう、牙狼は無理矢理、鎧を引き剥がすと強制解除して流牙の姿に戻った。見たところ、目立った外傷こそは無いが波動によるダメージは本人の苦しみ具合から察することが容易である。

 

「………な、何なんだよコレは!?」

 

「何だよじゃねえよ!?こっちが訊きてえぐらいだっつーの!」

 

「それよりも、早く手当てを………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ついに現れたか……『魔導ホラー』…」

 

 

 

 

 

その時………

 

苻礼法師がボソリと呟いた…。

魔導ホラー………?なんだそれは…?この場にいる全員がその名を知らない。

 

「…魔導ホラー………だと…?」

 

「ああ。陰我を介さず、何者かの意志によって産み出されたホラー………そして、お前が倒すべき敵…。」

 

そうだ…流牙は思いだした………確かに苻礼法師は来るべき敵がこの学園に現れると言っていた。それこそが魔導ホラーなのだろう。

 

「………道外流牙…これから現れる全ての魔導ホラーを斬れ。それが、黄金騎士・牙狼の称号を得た…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前のさだめだ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・流牙side…

 

 

…何故、あの魔導ホラーは日の光の元で活動できた…?

 

………何故、鎧が黄金に輝いた………?

 

 

今の俺にはわからないことばかりだけど、これだけはわかる。この学園には何かがある…

 

 

 

……そして、確実にわかることは1つ…

 

 

 

 

 

俺の…黄金騎士・牙狼の戦いは…はじまったばかりだ………。

 

 

 

To be continued……

 

 

道外流牙篇…… 完ッ!

 

 

 

next…

 

次章『学園戦騎篇』…始動!

 



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学園戦騎篇
試~Test~ 前編


楯無「更識楯無生徒会長のぉぉ~……お悩み相談室ぅぅ!」

本音「いぇ~い☆パチパチパチ~☆」

簪(帰りたい……)

ラウラ「Zzz…」

ゴンザ「ぐふ……」←ボロボロ

楯無「さぁ、はじまりました…!更識お姉さんに相談コーナー……この誰得企画、再編以来ひさしぶりね!別にやりたいわけじゃないけど、気合いいれていくわよ!」

ゴンザ「(ただ、自分の出番を無理矢y……)」

楯無「何か言ったかしらゴンザさん?(黒笑」←IS部分展開

ゴンザ「いえいえ、滅相もございません…(汗)」

本音「それでは、最初はこの人だよ~☆」







雷牙「やぁ☆」




ゴンザ「 」

楯無「いきなり、闇照関係ない人キターッ!(>.<)」



※あとがきに続く……




 

 

 

 

Side???…

 

それは雨の日でした…。

いつものように、中華料理屋をしている父さんの姿が見当たらなくて、雨の中へと探しにいったのです…。明らかにおかしいと思いつつ、赤い傘をさしながら走る私は……見てしまった。

 

 

…降りしきる雨の中、傘も持たくず地面に膝をつくアイツと……

 

……びしょ濡れのアスファルトを真っ赤に染める父さんの亡骸を…

 

 

「鈴………ごめん。護れなかった…」

 

 

…やっ…と……思い………だ…し………た……

 

 

 

 

だから………流牙は……

 

 

 

 

 

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ディアーボ撃破をした一行だったが、アリーナに留まるわけもいかないのでタケルと苻礼法師を用務員に変装させ、流牙の自室に緊急措置として駆け込んだ一行……

 

すぐに、気絶している鈴音をベッドに寝かしつけると苻礼法師は魔導筆で術を使い、状態をチェック。そして、ふぅ…と溜め息をついた。

 

「大丈夫だ。気絶しているが、命に別状は無いようだ。」

 

「そうか…良かったぁ……」

 

彼女の無事に流牙は安堵の声を漏らした…。すると、流牙もスイッチが切れたようにボフッとベッドに座った。彼もまた疲労の色が窺える……

 

これに、苻礼法師は仕方ないと懐から札を取り出して床に貼り付けると魔導筆で印を結んで魔方陣を形成する。

 

「ここでは騒がし過ぎる。アジトに行くぞ……。流牙、凰鈴音もつれてこい。オルコットも来い!」

 

すると、苻礼法師を筆頭に次々と魔方陣に飛び込み姿を消していく…。これにセシリアは『ど、どういう理屈ですの!?』目をパチクリさせていたが鈴音を背負う流牙が隣に立ちニコリと笑う。

 

「怖くないよ。一緒に行こうか…?」

 

「あ……はい……」

 

これをとてもリアンが気に食わなさそうなそうな顔をしついたが、流牙は気がつかずセシリアと共にダイブ。

 

「もう、鈍感なんだから…!」

 

続いて、リアンも飛び込んで魔方陣は姿を消した。誰もいなくなったはずの室内だったが、そこに現れる人影………

 

「…!」

 

何かに気がついたような素振りをすると、『彼女』は懐から魔導筆を取り出して魔方陣を再起動…。そのまま流牙たちの後を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ようこそ、俺達のアジトへ………」

 

「…す、すごい………」

 

流牙に案内され、アジトへたどり着くと驚く声をあげるセシリア。目を開ければそこは、学園の中ではない西部劇風な広い室内で中央部分に大樹がそびえ、部屋の隅にはそれぞれのデスクやイスが用意されている。

苻礼法師はその中で一番、奥の得体のしれない道具やら何やらが置いてある大きいデスクに座ると、タケルはソファーにドカッと抱えていた鈴を座らせる。

「…が、学園の外に…本当につながっていたんですね………。」

 

「そうだよ。ここは苻礼法師のアジト………ま、適当に座ってよ。」

 

セシリアはまだ信じられないといった顔だったが、流牙がにこやかに笑いながら彼女を椅子に座らて落ち着かせる。すると、見計らって苻礼法師が口を開く…

 

「セシリア……まあ、色々あったが、本日のお前の入団テストは予定通り行う。だが、流牙は同行させない。」

 

「…苻礼法師!?」

 

流牙は耳を疑った。馬鹿な………いくら、彼女を試すとはいえど相手はホラーになるのは必至。タケルも騎士だが、セシリアを完全にカバーしきれるとは到底、思えない。

だが、流牙が口を開くより早く苻礼法師は鋭く言い放つ。

 

「流牙、お前は既に先刻の魔導ホラーとの戦いで消耗し過ぎている…。それに、セシリアと親しいお前は甘い判断を下しかねない…」

 

「…そんなこと!」

 

「………無いと言えるか?」

 

「……ッ!」

 

悔しいが………その通りだ。客観的な判定をするには彼とセシリアの間は親すぎるし、ディアーボのおかげで消耗も激しい流牙。されど、このあとのこともしっかりと考えていないわけではない苻礼法師であった。

 

「…案ずるな。既にお前の代わりに、アグリが行く。」

 

「…そういことだ、流牙。」

 

 

「!」

 

かけられた声に大樹を見上げれば藍色の魔法衣を纏う眼鏡をかけた青年がいた。サラリと黒髪を撫で流牙たちの前に飛び降りると、セシリアの目に彼の持つ弓が映った。

 

「あ……貴方も、魔戒騎士ですの?」

 

彼女はその風貌に首を傾げる…。彼の持つ弓には確かに持ち手をはさんで両サイドに刃がついているが、その意匠は明らかに流牙やタケルとは違う。

 

「…剣だけが騎士の全てじゃない。俺は『楠神アグリ』…最初に言っておくが、俺は流牙のように甘くは無い。役にたたなければお前を容赦なく見捨てる。死にたくなければせいぜい、自力でなんとかするんだな、セシリア・オルコット…。」

 

対し…元々、不機嫌そうだった彼『楠神アグリ』はさらに機嫌が悪そうにトゲのある言い方をすると、セシリアを見下したような表情をとる。これには彼女も快くは無い…。

 

「心配ご無用!さっさとこの試練を終えて、入団させてもらいますわ!」

 

「ふん……まぁ、どっちにしろ…足手纏いにならないでくれ。」

 

「アグリ!!」

 

 

…苻礼の一喝……!

とうとう轟いた声に、アグリは口を止めるとクイッとかけていた眼鏡をあげて背を向けて告げる。

 

「何をしている?行くぞ……」

 

すると、彼は足早に弓を担いで去っていってしまった。どうやら、一足先に任務の場所へ向かったらしい。セシリアもムスッとしながらその後を追う。

 

「セシリア、俺も……!」

 

「待てよ。」

 

流牙も無理をして続こうとしたが、タケルが青龍刀を突き出して止める。

 

「…無理すんなよ。テメェは休んでろ…。大丈夫さ、死なせやしねぇさ。安心しろ…」

 

見た目こそチャラチャラして柄が悪そうだが、実は仲間思いであるタケル。不敵に笑う彼に流牙は……

 

「…タケル………セシリアを頼む。」

 

「おうよ!任せとけ!!いくぜ、リアン!」

 

「ちょっと!?……もう…」

 

……友を信じることにした。

 

そして、タケルはリアンと共に流牙の代わりにドタドタと駆け出してアジトを後にする…。 これを見計らって苻礼法師が話かけた。その視線はソファーに寝かされている鈴音に向けられている。

 

「流牙…… 術が解けかかっている…。恐らくはあの黄金の波動のせいだろう。このままでは、いずれホラーの記憶を思いだすのも時間の問題だな。」

 

「苻礼法師……」

 

「お前は休め…………後始末は俺がしておく。」

 

 

 

 

 

 

・流牙side…

 

鈴……彼女は俺に家族同様の思いを寄せているのは知っていた…。かつて、俺は鈴の実家である中華料理屋に居候をしていて、店を経営する親父さんやおばさんも流れ者の俺を実の息子のように可愛がってくれた…。

 

それ故にだった……

 

 

 

 

…悲劇が起きてしまったのは……

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

その日は雨だったことを今でも鮮明に覚えている……。

 

 

流牙はホラーの群を殲滅する任務を請け負っていたのが…たった一匹だけホラーを取り逃がしてしまい、雨の中で水浸しになった道を走り必死に捜していたのであった…。

 

「くそ、何処にいった!?」

 

何時もなら、こんなヘマはしないはずなのに……

今回の奴は音を発するスピーカーなどの機械を媒介にして高速で移動する能力を持っていた。確かに追い詰めたが、寸前で通りかかった車のラジオに逃げこまれてしまい、見失ってしまったのだ。

 

早く、見つけなければまた人を喰らうかもしれない。急がねばならないのに……

 

 

「流牙!」

 

「!」

 

 

彼は……帰らぬ居候を心配をして、現れてしまった…。

 

 

「…お、おじさん……!?」

 

「お前、いったい何をして……」

 

 

 

そして、近くのゴミ置き場に棄てられたラジオから『奴』が現れた……。

 

 

 

 

『キシャァァァ!!!!!!』

 

 

「!……危ない!?」

 

「な……」

 

スピーカーから突然、邪気の塊が飛び出したかと思うとそれはカウボーイ風の姿をした男となり、彼に飛びかかった。流牙はすぐに、鎧を召喚して男……ホラーを斬り捨てようとしたが、それよりも先にホラーが彼の首筋を食いちぎってしまう。

 

 

「…アアアアアアア!?!?」

 

「おじさん!!!!」

 

ー斬!!

 

『ギシャァァァ!!!?』

 

牙狼となり、すぐさまホラーを斬って一瞬で戦いを終わらせると鎧を解除して駆け寄る流牙……

無事を確認しようとしたが………

 

 

気がついてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう、自分の目の前にあるのは亡骸だと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は雨だった…。

降りしきる雫は…流牙の悲しさと涙のようで………

 

 

 

 

 

 

悔しさに騎士はうちひしがれ、誰もいない夜の曇天に叫びをあげた……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あのあと、流牙は鈴に黙って旅に出て各地でさすらいながらホラーを狩るかつての日々に戻った…。

 

自分は父親を奪ってしまった……だからもう、二度とあうつもりなんて無かったのに……何の因果かそれとも、陰我かの故に鈴と再会してしまった。しかも、父親と同じようにホラーの戦いへ巻き込んでしまったのである。

 

(ごめんな……お前だけは巻き込めない。)

 

誓った……あの日から…

 

彼女は絶対にこちらの世界に引き込まないと……

 

 

願った……ずっと…

 

ホラーになんて出逢わないように……

 

 

 

(きっと、それが…幸せになるはずだから…。ごめんよ、鈴……また、お前の記憶を消すよ。)

 

苻礼法師が彼女に札を貼って魔導筆を使って術式を描く。

 

しかし……

 

 

 

 

「…」

 

「……苻礼法師?」

 

苻礼法師は何かに気がついたようにピタッと途中で手を止める。何事かと思ったが……

 

「どうやら、客が来たようだ…。流牙、鈴音をつれて少し外に出てろ。」

 

「客…?」

 

「ああ。2人だけで話がしたい。」

 

「………わかった。」

 

確かにホラーではないが、気配を感じる。いつの間にアジトに入ってきたか…まあ、苻礼法師が警戒する素振りは無いから大丈夫だろう。流牙は鈴音を抱き上げておんぶするとその場を後にする……

 

 

そして…ただ1人、いや『客』と2人きりになった苻礼法師………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来る頃だと思っていた…………箒…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、何処に隠れていたのかある少女が現れた。流牙のルームメイトである彼女……篠ノ之箒は気に入らないといった目付きで苻礼法師を睨んでいたが当の苻礼法師本人は気にする素振りも無く、自分のデスクに座って不遜に構えていた。

 

「……やはり、流牙はあんたの差し金だったか…。今更、何の用だ…?」

 

「ふん…………『実の父親』相手に『あんた』か…」

 

「黙れ!!!あんたは父親でも、なんでも無い!」

 

激昂する彼女は懐から桜色と金の装飾が入った魔導筆を取り出して、筆先を向ける。それでも、苻礼法師は動かない…。

 

「箒……魔戒法師に戻れ。お前には大事な役目がある。まずは、セシリア・オルコットを助けてやれ……」

 

「…命令するなッ!」

 

「なら、見捨てるか?」

 

「…ッ」

 

「見捨てるのか?…どうなんだ?」

 

反抗の限りを尽くすが、最終的には自分が追い込まれる始末…。強い眼が捉え喉が潰しにかかるような感覚を覚えるが無理矢理、捻り出すような声で箒はあることを問う。

 

「凰には………凰鈴音は何故、仲間に引き込まない?何故、オルコットは認めた…?」

 

「…」

 

「答えろ!」

 

 

謎………鈴音は認めないで何故、セシリアは試すような真似をするのか?わからない箒だったが、苻礼法師はふぅ…と溜め息をついて椅子に寄りかかった。

 

「なんだ………訊いていたのか…?」

 

 

 

本心かわからない少し驚いたような表情がまたさらに、彼女の苛立ちを募らせる…。

 

「まあ、それは流牙とオルコットの意志だったからだ………。だが、鈴音は違う。流牙はそれを望んでいないし、誰も望まない人間を…ましてや、肉親をホラーに殺された奴を仲間にするわけにはいかない。」

 

ついに出た苻礼法師の答え………理解はできる内容だ。されど、気に入らなかった…。

その答えは………

 

「………彼女の想いは…関係無しですか?」

 

そう………きっと、鈴音なら流牙と共に戦うと言い張るはずだ。だが………

 

「俺たちは…『守りし者』…『復讐者』を育てるつもりは無い。」

 

 

 

バッサリと…簡単に言い捨てられてしまった。箒は反論しようとしたが『…話は終わりだ。行け!』と一喝されて悔しげな顔をしながらアジトを去っていく…。

 

その背をみながら苻礼法師は一言………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ………まだまだ青いな…。」

 

 

この時…彼の眼差しは父親としての側面がある暖かさがあった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はい、これでよし!」

 

アリーナ付近にて準備作業を行っていたのはリアンとセシリア…。リアンが魔導筆で待機状態(イヤーカフス)のブルー・ティアーズに術をかけるとセシリアは不思議そうな顔をした…。

 

「こ…これで、大丈夫ですの?」

 

「ま、気休めね。これでISの攻撃も少しは効くようになるけど、撃破までは出来ないから注意してよ。あと、くれぐれも無茶はしない………認めたわけじゃけど、流牙に苦労かけたら承知しないからね!」

 

リアンのこの術のおかげでISの攻撃も少しはホラーに効くようになるらしい。恋のライバルでこそあれど、ちゃんと釘を刺すあたりに彼女の素直じゃないけど人の良さを感じる。

 

「ありがとうございます、リアンさん。」

 

セシリアもこれを理解し、礼を述べた。これだけ気遣って貰っているのだ…お荷物にならないようにしなくては…

 

「にしてもよぉ……あのインテリ楠神サマは何処に行ったんだ?」

 

一方のタケル……青龍刀タイプの魔戒剣を担ぎながらウロウロしていたが、先に行ったアグリが見つからない。今日の指令の場所はここら辺で間違いないはずなのだが…

 

 

「ん?………」

 

ふと、目線を校庭に向けた時………

 

アグリが何やら、学園の生徒らしき少女と向かい合っているのを見たのだ……。

 

(おいおい、とっくに消灯時間は過ぎてるぜ………まさか…)

 

嫌な予感がした…。すぐに、一目散に走りだしたタケルは魔戒剣を握り締めてアグリの元へ向かう。

 

 

『シャアァァァァ!!!!』

 

「…」

同時に生徒が虫のように異形の口を開いてアグリに襲いかかるが、当の彼は自らの武器である弓を使わずメガネをクイッといじって微動だにしない。

直後、ホラーの鋭い爪がアグリに向かうが………

 

ーガキンッ!!

 

「…おい!何、ボケッとしてんだよ!?」

 

間一髪……タケルが魔戒剣で防御して事なきを得た。

 

しかし……

 

 

 

『ギシャシャアァァァァ!!!!』

 

「うおっ!?」

 

ホラーは異形の本来の姿である巨大な腕となってタケルを握りしめて拘束。暴れるタケルだが、アグリはただ傍観するのみ……

そこに、リアンとセシリアが駆けつけた……。

 

「タケル!!」

 

「蛇崩さん!?」

 

…助けねば!!魔戒銃を引き抜いて構えるリアンだったが、もう遅い…

 

 

ーーギュオォォォォ!!!!!!

 

「うわあぁぁぁぁぁ!?!?」

 

タケルを掴む腕のホラーは彼ごと、空間を引き裂いて何処かへ転移してしまった。恐らく、あのホラー固有の能力…次元を飛び越える力だろう。

その転移をする直前にやっと動いたアグリは札のついた矢を放ち、ホラーが転移する空間に滑りこませた。

 

「さて……次の準備をするか…。」

 

仲間がさらわれたというのに……顔色ひとつ変えないアグリ。逆にセシリアは血相を変えて慌てて、アグリにくってかかる。

 

「ちょっと、アナタ!蛇崩さんが……早く、助けないと…!」

 

「素人は黙っていろ。あの程度のホラーにやられるぐらいなら、別にそれまでのことだ。」

 

「な………なんですって!?」

 

セシリアは耳を疑った…。

吐き捨てられた言葉はあまりに無慈悲で共に戦ってきた仲間のソレとは思えない。

 

「もし、死んだら代わりのもっと優秀な騎士を呼べば良い。素人と三流以下ばかりでは、一流の足枷に過ぎない…。」

 

まるで、使ってしまった鼻紙を捨てるように何故に口から流れ出てきた言葉。流石のセシリアも胸の奥から沸々と怒りが沸いてくる…

 

「……最低ですわ!それでも、流牙さんと同じ魔戒騎士ですの!?」

 

「勿論、違う。俺は奴のように甘くは無い……」

 

「ちょっと、ふたりとも!」

 

 

 

リアンが止めに入るが、さらに険悪になる空気……

 

 

 

 

 

 

果たして、この先のホラー討伐の行方は…?

 

 

タケルの安否と流牙と鈴音の運命は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……後編に続く。

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 










・お悩み相談室


楯無「『牙狼~魔戒之花~』から主人公の冴島雷牙さんです!因みに、ゴンザさんの本当の主!!」

ゴンザ「ら、らららら、雷牙様、何故、ここに!?」

雷牙「いやぁ、ゴンザが楽しそうにしてたからつい……」

本音「まあまあ、ゆっくりしていってね~♪」

雷牙「そうさせてもらうよ。」

ゴンザ「 」


簪「帰っても良いですか……?」

楯無「ダ~メ☆」

ラウラ「Zzz…」


楯無「で、お悩みは?」

雷牙「そうそう、おれも何か主役の作品が……」


)ポンポン


白い魔法衣の男【…】


雷牙「あ、父s……(スカンッ!!)…うっ!?」←気絶


白い魔法衣の男【すまない、また息子が迷惑をかけた。今のことは聴かなかったことにしてくれ。】


楯無「え……あ、はい…」

白い魔法衣の男【帰るぞ、ゴンザ。】

ゴンザ「は、はい………」

ラウラ(まあ、作者に討鬼伝クロスで草案はあるが…これ以上、作品を増やすのは……)


剛「オリジナル魔戒騎士の物語『狼火《ROBIN》~魔戒ノ秘宝~』もよろしくな!」

簪「剛さん、貴方も自分の作品に帰ってください。」


さて、次回であのホラーが登場です!感想まってます。
因みに、狼火は純粋なガロの二次なのです。こちらも感想、よければください。m(_ _)m



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試~Test~ 後編


闇照の二期がはじまるそうですね。
2015年は今年以上にガロが大忙しですなぁ……

あと、ゴジラの日本版の製作も決定したし…ああ、何でこんな時に就活(涙)


ちっくしょう!



 

 

 

 

「うおぁ!?つぅッ!」

 

ホラーに連れ去られたタケルは鉄パイプが幾つも通った地下道らしきエリアに出た…。いや、放り出された。

いたたた……と魔法衣を払いながら魔戒剣を担ぐと自分を連れ去った腕……もとい、ホラーを睨みつける。

 

『あははは…!!』

 

「ちっ……この俺を舐めんなよ?」

 

さあ、やられてばかりでいてたまるものか……

剣を逆手に持ちオラオラと距離を詰めていくタケル。そこから、学園の生徒に擬態したホラーを殴り、蹴って頭突き……さらに、身体にスピンをかけて斬り裂く!

流牙とは違い、荒々しく相手の反撃を許さない攻撃。彼とて伊達な魔戒騎士ではないのである。

 

『ギィィ…!?』

 

「…どうした?こんなもんかァ!」

 

 

『ギシャアアア!!!!』

 

「!(……もう1体!?)」

 

されど、攻勢のタケルの背後から襲いかかる新たなホラー……背中に組みつき動きを封じようとするが力任せに振りほどかれ、もう1体のところまで吹っ飛ばされしまう。

 

『『うぅぅ……アァ!!』』

 

「!……おい、待て!?」

 

さあ、追い詰めたと思ったタケルだったが2体とも彼を連れ去った時のように次元の裂け目を形成して逃げてしまう。こうなっては流石の魔戒騎士であろうとそう簡単には追うことが出来ない。

 

「ちっきしょう……クソが…」

 

やれやれ、大して強くもないのに面倒くさいホラーだ。こうなったら地道に足を使って捜すしかない……

悪態をつきながら彼は魔戒剣を再び担いで何処まで続くかわからないパイプの暗いトンネルを進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じく、学園の中庭では鈴音を背負う流牙の姿があった。彼はベンチに彼女を座らせると懐から札を取り出した…。

 

(鈴……俺はお前に言えない罪がある。ごめん、巻き込みたくないんだ…君だけは………)

 

恐らく、目を覚ませば先程のディアーボとの戦いを思い出す。そして、自分の正体を問い詰めて……自分も戦うと言い出すだろう。

そうなる前にと札を握りしめる流牙……そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、道外流牙…」

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

しかし、流牙を引き留める声に手が止まる。振り向けば、黒い魔導衣へと身を包んだ箒の姿があった…。

 

「箒、どうして……というより、その格好…」

 

リアンとは違った和をイメージしているようだが、魔導筆を持つ彼女の姿はまるで魔戒法師…

 

「その点はお前の察している通り…私は魔戒法師だ。ついさっき復帰したばかりだがな……。それはまあ、良い…。私が訊きたいのは彼女の気持ちを貴様は無視するのか?お前と共に立ちたいという願いを……」

 

「……訊いていたのか…」

 

そうか……苻礼法師が客といっていたのは箒のことかと理解した流牙。正体がまさか魔戒法師とは思わなかったが、鈴音のこととなると顔が険しくなる……

 

「俺は鈴を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…逃げるな、道外流牙。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

…巻き込みたくない。そう言おうとした瞬間に口を封じるように放たれた言葉に面食らってしまう。逃げる?何から自分が逃げていると……

 

「さっきと今の反応でよく解った。お前は親しい人間性を失うのをただ恐れているだけに過ぎん…。お前はただの臆病者だ。」

 

「俺は……!鈴に俺たちと関わって……」

 

「なら、何故セシリアは受け入れた?キッカケなら同じはずだ…。」

 

「箒………君に何がわかる?俺のことや、鈴のことが何が解る!?」

 

箒は彼を臆病者と言い、流牙は彼女に自分の思いの何が解るかと声を荒げて詰め寄る…。

 

 

「……全く…人の動けないうちに勝手に話を進めるんじゃないわよ。」

 

 

「!…鈴!?」

 

そんな時だった……。おもむろに身体を起こして少女…鈴音が置いてきぼりにしていく2人を責めたのは……

しまった…と思った流牙だがもう遅い。

 

「目は覚めてたけど……動けないうちに随分と好き勝手言ったりやったりしてたみたいね?ついでに、他にも色々なことを思い出したわ……アンタのことも、昔のことも……」

 

「……り、鈴?」

 

 

思いだしたこと……脳裏をよぎる罪の記憶。流牙の顔はこわばるが鈴音は彼をまっすぐ見据えて目を離さない。

 

「私が今…一番、気にくわないことはなんだと思う?それは、記憶を消したことでも…父さんを救えなかったことでもない………。アンタが全部、背負いこんでる事よ。」

 

「…」

 

「…私はそんなに弱い?隣にいてアンタ1人支えることも出来ないの?」

 

 

 

「……俺は巻き込みたくない…」

 

「なら、私の気持ちはどうでも良いってわけ!?」

 

「お前を死なせたら、親父さんにあわせる顔が無い!」

 

お互いにぶつけ合う言葉…それは互いに想いあうが故…

鈴音は流牙の全てについて受け入れたいが、巻き込めば命の危機は免れない。命を落とせば流牙は更なる十字架を背負う…

勿論、彼女にだってこのことは充分に承知している…。だけど…

 

「……流牙…父さんが死んだことは確かに悔しい。でも、私にとってはアンタも家族同然よ。アンタが笑顔で誤魔化して、傷だらけになっているのを見ない振りはもっと悔しい!父さんは死んだ…もう、いない……帰ってこない。だけど、生きてるのよ流牙は…生きて、目の前にいる!もう家族が傷つくのを黙って見送るのは嫌!」

 

「鈴…」

 

流牙は今、手の届く場所にいる肉親同然の存在なのだ。他人ではない……

 

その気持ちは本気にまさに値するものだ…。

 

「流牙……私を置いていかないで…。突き放しても、絶対についていくから!」

 

「…」

 

…少女の切なる願い。突き放すなど流牙には出来はしない。彼は苦悩する……何が正しいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ…やはり、相変わらず甘いな。道外流牙…」

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

そんな甘さをこの男……苻礼法師はつく。

 

「苻礼法師…なんで……」

 

「それは、コイツ(箒)がどうせ、セシリアの所より先にこっちにくると思ってな。」

 

「…」

 

箒はなんともバツの悪そうな顔をしたが突然に現れた父親は気にすることなく、鈴音に問いかけた。

 

「鈴音……お前には流牙と何があっても付き添っていける覚悟があるか?」

 

「勿論よ。」

 

「お前の信じて疑わなかった日常が無くなるのと同義だ……記憶を消したほうが楽に生きれる。」

 

「私は…楽に生きたいんじゃない!流牙と一緒に生きたい…!」

 

「…」

 

苻礼法師は考える…。まだ、魔の影を知らぬ少女の瞳を見ながらじっと……

流牙と箒も緊張の面持ちだったが、しばらくすると重い声で彼は口を開いた。

 

「ならば、お前もセシリアと同じく試す。影に向き合って尚、その気持ちが揺るがぬなら…考えよう。流牙、アグリたちの所へ行きコイツの目の前でホラーを狩れ!」

 

「!……苻礼法師!?」

 

流牙は耳を疑う…

セシリアと同じく鈴音も試すだと?馬鹿な、自分の過去なら苻礼法師だって知っている。だからこそ、であった……

 

「流牙……お前もいい加減、過去とその娘に向き合え。そして、決着をつけろ…!」

 

「!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

『ギャアアア!?』

 

再び、ホラーを見つけたタケルは壁のパイプが変形するまでのキックを見舞っていた。後ろからきたもう1体も魔戒剣で斬り裂き、そのまま制服の襟首を掴んで壁にめり込む片割れに投げつけて勢いよく、纏めて貫く!

 

 

ズブゥゥ!!!!

 

『『ギャアアア!?!?』』

 

「うおおおおお!!!!!!」

 

血肉がグロテスクな音を立てて貫かれ、激痛に悶えるホラー。このままいけば、タケルが勝つのは時間の問題だろう……

しかし、奴等は逃れようと姑息な手段をとる…。

 

『お願い……やめて…』

 

「!」

 

突然にこの場にはそぐわない少女の声。見れば、タケルの目の前にはIS学園の制服を着たいたいけな少女の姿……。ホラーの擬態能力だが、思わずこれには彼も勢いが………

 

「なーんつってな!オラァ!!」

 

 

ガンッ!!

 

『ぎゃあああああ!!!!』

 

止まる事なく、躊躇なく頭突き。新たに与えられるダメージにまた醜い悲鳴が響き、少女の顔が虫のようにパックリと異形の口が開いた。

 

「人間だったら、放っておかないところだが…あいにく様、俺はホラーはお断りだぜ?」

 

『…ゥゥ!!!!』

 

見た目こそチャラチャラしている彼だが、しつこいようだがこれでも苻礼法師の仲間の魔戒騎士。こんな子供騙しにやられるほど甘くはない。

 

『『フシャアアアアアア!!!!!!』』

 

「おっと、同じ手を何度も喰うかよ!」

 

最早、手段は選ばないと腕形態に変異するホラー。寸前でタケルは身を翻して避けると魔戒剣を床に打ちつけ……

 

「…さあ、今ぶった斬ってやるよ!」

…ギュイイィィン!!!!

 

自らを回転させ、火花を散らさせながら円を描き…その軌跡が赤い光を放つ。そう…彼の鎧の召喚である……

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

「…ん?」

 

 

 

鎧が出てくるどころか、軌跡は消え失せ両腕を拡げたポーズでフリーズ…

端からみたらこれは恥ずかしいが気にしていられる状況じゃない…

 

「…はぁ……嫌~な、予感………」

 

魔戒騎士は鎧を召喚できるのは基本であるが、特定の条件下では召喚が不可能になることが幾つかある。1つは特殊な結界の中か、もう1つはホラーなどの邪気が強すぎて空間が支配下に置かれている場合。

 

『グルルル……』

 

振り向けば……ブヨブヨと気味が悪い肉壁。通路を塞ぐほどのこの物体に鋭い目に口があるのを確認するとタケルは溜め息をつく…

 

「そんな気がしたんだ……うん…」

 

 

ちょっと、下がって見てみればパイプにつっかかって動けないほどの芋虫のような巨体。ホラー『パルケイラ』は目前に来た新鮮な獲物に汚ならしい涎をたらす……

 

『『フシャアアアアアア!!!!!!』』

 

すると、浮遊していたホラーがパルケイラへとくっつき、その腕となる。この時、タケルはあることを察した。

 

「成る程、デカくて動けねぇから腕だけとばしてたわけか……顔に似合わず、お利口なヤロウだぜ…」

 

『フシャアア!!!!』

 

 

ビチチ!!!!

 

「うわ!?汚ねぇッ!?」

 

言葉を理解しているからは謎だが、彼の発言が気にくわないといわんばかりに唾液を飛ばしてくるパルケイラ。危うく、かかるとこだったタケルはあわてながらも、魔戒剣を担ぎながら考える……

鎧が使えない今では腕はともかく、パルケイラ本体の撃破は骨が折れる。何処か鎧を使える場所に誘き出せればいいが、当のパルケイラがパイプに挟まって動けないのに加え動きは鈍重…おまけに、自立する腕が邪魔。まず、逃げるしても現在地の正確な場所が把握出来ていないため助けを呼ぶのも難しいが……

 

「タケルさん!」

 

「タケル、大丈夫!?」

 

 

「…お、オルコットに、リアン!?お前らなんで……」

 

そんな危機にかけつけたのはリアンにティアーズのみを部分展開したセシリア…。セシリアはパルケイラを見た瞬間、驚愕した……

 

「こ、これもホラー……なんて、大きさ…………」

 

「ボサッとしない!来るわよ!!」

 

 

『『フシャアア!!!!』』

 

リアンがすかさず、一喝したとほぼ同時に再び人間態にして腕を放つパルケイラ。タケルとリアンがこれを相手にかかり、セシリアがティアーズでビームを撃ちまくりパルケイラ本体を牽制する。

だが……

 

「…おい、リアン……ここじゃ、鎧は呼べねぇぞ。」

 

「知ってる!アグリが策はあるって言ってたわ…!この札、貼って!」

 

決定打に欠けると危惧していたタケル。そんな彼にパルケイラの腕を蹴りとばしリアンは札を投げ渡す。

 

「そうか……そういうことか…!」

 

タケルは作戦の意図を理解し、渡された札を戦いの合間を縫って各所に貼りニタリと笑う。

 

「はあああああ!!!!」

 

 

パンパンパンパン!!!!

 

『ギャアアアア!!!!!?』

 

次いで、リアンが魔戒銃でパルケイラの腕の1体を撃破してセシリアに指示を出した…。

 

「セシリア!」

 

「…わかりましたわ!」

 

受けたセシリアはティアーズのうち2基に札をつける彼方の方向へと飛ばしていく……

 

その向かう先は……

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「よし、予定どおりだ…」

 

アグリは自ら射て縫い止めた次元の裂け目からティアーズが出てくるのを確認した。今、彼が何処にいるかというと学園の搭らしき建物の頂上…

弓に弦を貼り、ビーンと弾いて調子を確かめると眼鏡を外し、弓を振り回して両サイドに2つの光る円を形成……

 

ーーーギュオオオ!!!!

 

ーーグルルルッ!!

 

そこから、鎧を召喚してその身に纏った…。

 

 

「さて……そろそろ、時間か…」

 

青みががった銀色の鎧……意匠は牙狼とは違い、射手に近く眼も赤く光るバイザーアイ……

 

これが、楠神の誇り高き魔戒騎士の血を引く者だけが使える鎧であり、弓を標準武装とする珍しい騎士。

 

 

『 天 弓 騎 士 ・牙 射《GAI》 』

 

 

……ギチチチ!!

 

牙射が弓を引き絞ると勝手に光が収束され、矢が聖なる光を帯び精製…刻を同じく、青白い満月が夜の空へと上がり牙射を照らす…

 

その時……

 

 

 

 

 

ギュオオオオオオ!!!!!!

 

 

彼の背後から閃光のように破邪の力を帯びた月光がティアーズの札に当たり、そこから次元の裂け目へ…続いて中の通路に貼られた幾つもの札を屈折し、光の道となりパルケイラへと当たる……!

 

【準備は良いですわ!】

 

「…わかった。なら、後は当たらないようにしろ。」

 

そして、セシリアからの通信を受けた牙射は矢を限界まで引き絞り狙いをつけ……

 

 

 

そして……

 

「!」

 

 

バシュ!!!!

 

渾身の力を込め、放つ!

矢は光の道を伝い、次々と屈折していきながら獲物の場所へ向かい飛んでいき…

 

 

ズドオオォォ!!!!

 

 

『ギャアアアアァァァァあああ!!!!!!』

 

パルケイラを貫き、跡形を無く消しとばしたのであった。

 

「よっしゃあ、作戦成功!又は勝利だぜ!!」

 

「やりましたわ!」

 

「…本当、今回は冷や汗だったわ。」

 

勝利……一時は不利すぎる条件に危機へと陥ったが見事に勝ち取ってみせたセシリアにタケルたち。しかし……

 

『『フシャアアァァ!!』』

 

「「「!」」」

 

本体は撃破したが、まだ腕だけは動いているではないか…!どうやら、本体を倒したら死ぬというより、切り離されている限りは生命活動も含めてほぼ独立しているのだろう。パルケイラの腕たちはこのまま分が悪いと逃走を開始する……

 

「待ちやがれ!」

 

…逃がすものか!タケルは自らの魔戒剣を投げつけて1体には当てて滅することが出来たが、残る1体には次元を跳躍されてにげられてしまった。

 

 

 

「くそ!!」

 

悪態をつくタケル……

最後の最後で爪が甘かった。悔やんでも仕方ないことだが、感情が溢れてくる……。このままでは奴はまた人を襲うだろう。

 

 

とんだ失態だったが、このあと意外な結末が待つことをこの場の者たちは知らない……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『シィィ……』

 

 

さて……逃げ切ったパルケイラ…正確にはその腕だが、負ったダメージは大きく苦しげに生徒に擬態した人間態になりながら足を引きずる。まず、今は身を隠して目立たないようにしなくては本体の再生どころではない……

 

しかし、哀れな魔獣の前に黒い魔法衣をなびかせあの男が立ちはだかる。

 

 

「…こんばんは。ホラーさん?」

 

『!』

彼……道外流牙は魔戒剣を携え、鋭い視線でパルケイラを睨む。その背には箒と戸惑う顔をした鈴音の姿があった。

 

「こ、これが、ホラー?」

 

「…黙ってみてろ。」

 

鈴音は人間態に擬態するパルケイラの姿が化物にはみえず、首を傾げていたが箒が前に立って静かにするように告げる…

 

『……クソォ!!シャアアァ!!!!』

 

「!」

 

すると、本性を露にして異形の口を開けて鈴音に襲いかかるパルケイラ。勿論、流牙が許すわけなく魔戒剣を首筋に突きつけながら後ろから彼女の目の前で羽交い締めにする……

 

「鈴、これがホラーだ…!」

 

 

ズビュ!!!!

 

『ギャアアアア!』

 

続いて、後ろから魔戒剣で貫くと地面へ蹴とばし……

「…ホラーは人間に化け……!」

 

 

斬!!

 

追撃に一閃……

 

 

「…人を喰らう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そして、ソイツらを狩り、人を護るのが…俺たち、魔戒騎士だ!」

 

 

ーーギュオオオ!!…ガルルッ!

 

 

この技の流れのまま、魔戒剣で円を描き牙狼へと変身する流牙。腕に牙狼剣の刃を滑らせ、烈火炎装を発動させると滑るように動きながら素早く一撃……

 

 

 

 

ー斬!!

 

「……これが、俺の生き方だ。」

 

 

「…」

 

爆散し、今度こそ完全に息の根を止められたパルケイラ…

思わず、息を呑む光景に鈴音は声も出なかった……。

 

「…これでも、俺とついてくる?」

 

カチャリと音を鳴らし、鈴音を見据える牙狼。あえて、鎧は解除しない……自分がどれだけ常識から外れているか印象づけるために……

 

「私は……」

 

目の前の異形の鎧を前に彼女は立つ…

 

そして………告げた…。

 

「…それでも、私は流牙と行く!忘れて生きるよりだったら、痛みも苦しみも一緒に受ける!だって、アンタは家族だもの!」

 

血は繋がってはいない。されど、共に時を過ごしてきて…いつしか、想う存在になっていた。『家族』としても、また別の意味合いでの親しい存在になりたいとしても……。だからこそ、退けない。

 

「…」

 

牙狼は黙った。まだ、心の中では葛藤している…。危険な目にはあわせたくない…だけど、彼女の意志を尊重したい。迷う彼に箒の後ろにいた苻礼法師が言い放つ…

 

「守ってやれ。それでこそ、『守りし者』だろ?」

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん……」

 

その様子を見つめていたのは鎧を解除したアグリ……

物珍しそうにしばらく眺めていたが、すでに飽きたのか背を向けてその場を後にする……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

IS学園付近の何処か……

 

誰もいないバーでスーツ姿の男がいた…。暗い夜なのに、サングラスをかけて威圧的な雰囲気を出す彼はある人物と連絡をとっていた……

 

 

「…主、黄金騎士を見つけました。名は道外流牙……どうなさいますか?先に亡国企業《ファントム・タスク》を……?了解しました。では、後日…フランスから遭えるのを楽しみにしています。」

 

彼は無機質に微笑すると電話を切り、ポツリと呟くとフヨフヨと浮遊してきた目玉を掴み自らの左目が入るべき穴に押し込み溜め息をつく……

 

「やれやれ……あのお方は人使いが荒い…」

 

やがて、彼は去る……

 

 

その背は流牙とあまり年齢差を感じさせないものだったが何か静かな恐ろしさがあった。

少し崩れた黒髪を直しながら彼は歩く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………着実に流牙たちに闇は手を伸ばしていた…。

 

…来るべき戦いは近い。

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 





★次回予告

ザルバ『クラス代表対抗戦、いよいよ開幕!気を引き締めろ、流牙。相手の鈴お嬢ちゃんもそうだが…どうやら、真似かねざる客の予感がするぜ…。次回・【刺客~Unknown~】!お前は誰に背中を預けられる…?』




やっと、追いついてきた……

鈴音と流牙のやりとりを加筆しました。


感想まってます。




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刺客~Unknown~

お久しぶりです。
最近、ガチで多忙と体調不良で更新出来ませんでした。

これで、やっと追いついた……


☆お悩み相談室

楯無「お、お悩み相談室……」

ラウラ「…」

シャル「…」

簪「…」


雷牙「…?どうしたの…?」

楯無「あ、あの雷牙さん…今日の相談者は……」








レオン「…」←死んだ目






翌日 早朝

 

 

 

苻礼法師のアジト……

 

 

セシリアは緊張の面持ちでデスクに座る苻礼法師と向き合っていた…。隣にいる流牙もまた同様だ……

 

「さて、セシリア・オルコット……結果を言い渡そう…」

 

 

 

それも、そのはず……前日のテストの結果を受けようとしているのだ。不合格なら、自分は記憶を消されて魔戒騎士やホラーに関することを全て忘却の彼方に葬られてしまう。ゴクリ、と息を呑む彼女だったが苻礼法師はそんなセシリアに優しく笑みを向けた…。

 

「…アグリへの援護、実に見事だった……合格だ。」

 

「!…やった!!」

 

「やったな、セシリア!」

 

合格……この2文字に手放しの喜びをするセシリアと流牙。作戦を共にしたリアンも少し遠くで笑みを向け祝福しているが……

 

「…勘違いするな。ギリギリに合格点になったまでで、誰も満点とは言っていないぞ。」

 

「「!」」

 

せっかくの気分を台無しにする声。その主たるアグリは弓をひっさげながら現れるとバーのような場所の椅子に腰かけた。この不遜な態度にセシリアは気にくわない…。昨日のあのタケルの扱いを思えば尚のこと……

 

「全く…こっちとしては、良い迷惑さ。今まで追っていた獲物をいきなり練習台にされなければもっと、早く終わらせられた……これだから、三流との仕事は困る。」

 

「ッ……ちょっと、貴方!蛇崩さんは………!」

 

「待って、セシリア…」

 

我慢できず、くってかかろうとした瞬間……リアンが間一髪でセシリアを止める。

 

「…アイツに何を言っても無駄よ。それに、昨日は『光道の月』といって、ホラーの邪気を打ち破る2ヶ月に1度のチャンスだったの。だから、アグリにしか、あのホラーは倒せなかった…。その下準備を結果はどうあれ、手順を狂わせたのはタケルなんだから…」

 

「…で、でも!」

 

納得いかない。あの平然と仲間を切り捨てるようなあの言動……思い出すだけで怒りが脳裏でくすぶる。だが、当のアグリは気にも留めず、弓の手入れをはじめ……見かねた苻礼法師は口を開く。

 

「さて、ここで俺達の新たな仲間を紹介する。出てこい……」

 

そして、現れたのはセシリアもよく見知った人物……

 

「箒さんに……凰さん!?」

 

「む…。こうして顔をあわせるのは初めてだな、セシリア。」

 

「…」

 

箒に鈴音。鈴音の顔を見た瞬間に流牙は複雑な顔をしたが、コホンと咳払いして箒が喋りだす。

 

「まあ、改めて自己紹介することはないだろう。私は魔戒法師だ。凰はお前と同じ法師見習いとして苻礼が中心として、私とリアンで修行にあたる。良いな?」

 

「…法師、リアンさんと同じ………」

 

「ま、よろしくね。負けないんだから!」

 

セシリアは驚いた。こんなにも近くに、流牙と同じ世界の側の人間がいたことに……

まあ、同年代の女子となれば壮年の男よりは気軽に接しやすい。少し安心感を覚えていたセシリアだが、傍で見ていたアグリが口をはさむ。

 

「因みに、箒は苻礼法師の娘だ。くれぐれも失礼が無いように……」

 

「…!」

 

その時、キッ!とアグリを睨む箒。続いての驚きのセシリアであったが、意外にもこれに食いついてきたのはタケルだった。

 

「へぇ~?苻礼法師の娘ねぇ?はは、似てな!まあ、似てたらこんな美人は生まれねぇか。」

 

「…ッ」

 

「あ、でもやっぱり似てるぜ。眉間にシワを寄せたかんじ……ぎゃははははは!!」

 

世に父親と似ていると言われて喜ぶ年頃の娘はいるだろうか?決して、多くはないはずだ。勿論、箒は喜ぶ人間ではなく怒りを露にしてからかった彼を睨むが『おいおい、待てよ。』と彼女を抑える。

 

「…肉親がいるなら大切にしろって事さ。俺達にゃ、身内なんて離ればなれになったり、とっくの昔にくたばってたりしている奴等ばっかりなんだからな。なぁ?流牙、リアン…?」

 

「「…」」

 

流牙とリアンは答えなかった。箒も気まずい顔になり、どうしたものかと思っている中…『ちょっくら、小便でもしてくるわぁ。』とタケルはアジトを後にした。

彼が去った後に口を開いたのはリアンだった…。

 

「箒、タケルを責めないで。アイツも肉親を失って苻礼法師に育てられて騎士になったの…。だから、肉親を大事にしてほしいという願いは人一倍強い。口は悪いけど、理解してあげて…」

 

「…」

 

肉親がいない。別にこちら側では特に珍しいことではないが……やはり、胸が締めつけられる。父親がいる……この点だけみればどれだけ自分は周りから幸せに映るだろう。だけど……

 

「……すまない。失礼する…」

 

箒には耐えられなかった。

逃げるようにアジトを去っていき、苻礼法師もその背をただ見送っていた…。

 

一方、鈴音もあることに気がつき、流牙に問う。

 

 

「…流牙、貴方ももしかして……」

 

「ああ、そうだよ。俺も両親はいない……天涯孤独さ。」

 

タケルの言い回しからしてまさかとは思ったが、流牙にも肉親はいない。普段の優しい笑みからは想像もつかないが、彼もまた過酷な運命をたどってきたのである。

 

「だから、あんなに反対したのね。」

 

「…否定はしない。だけど、俺は鈴の意志を尊重した。だから、約束して……絶対に無茶はしないって。やっと、できた『家族』だから。」

 

「わかってるわよ。本当に心配症なんだから……」

 

大事……だからこそ、相手の想いも大事にしなくては。お互いにわかりあったからこそ、今でも笑顔で向き合える。

 

まあ、勿論…こんなやり取りを放っておけない奴もいるわけで………

 

 

「りゅ・う・がぁ~♪」

 

「り、リアン!?」

 

「家族が欲しいなら、わ・た・し・がいるじゃない?それに、私と流牙との子なら最強じゃん?」

 

「お、お待ち下さい流牙さん!あ、あぁぁ新しい家族だったら、私が…!」

 

「ちょ、ちょっと…」

 

リアンがドカッと流牙に抱きつき、遅れてなるものかと飛び出してきたセシリア。鈴音を押し退けてグイグイと迫る2人だったが、流牙は戸惑うばかり……

そこで、鈴音はある提案をする。

 

「なら、今度のクラス対抗トーナメント戦…優勝した奴が一番でどう?まさに、実力勝負…これなら、フェアでしょ?」

 

クラス対抗戦……IS学園にてクラスの代表の生徒がトーナメント戦を行う学園行事だ。この3人はそれぞれクラスが違うために、トーナメントで戦うことなっても不思議ではない。

 

「良いわよ。やってやろうじゃない?」

 

「…良いですわ。受けてたちましてよ!」

 

なんだか、流牙を置いてきぼりにしてヒートアップする女子たち。そんな中、流牙はあることを思っていた。

 

 

 

(まず、まだ代表に選ばれてない時点でその話は……)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

数時間後……

 

学園の廊下にて悲報を流牙はタケルから受け取った…。

 

 

「残念なお知らせだ……リアンとチャイナ娘が代表に決まった。」

 

「…」

 

…なんてこったい。

それぞれ学園にいる時用の制服と用務員の格好だが、出来ることなら変わってほしいと思う流牙。

 

「こっちも、セシリアが代表に決まった…。何でこうなる…」

 

「まぁまぁ、そんな顔をすんなって…。この際、スッパリと決めちまったほうが今後には良いかもしれないぜ?」

 

 

確かにタケルの言うことには一理ある。今後、もめるよりは白黒つければ越したことはない。しかし、流牙からすれば彼女たちが微妙な関係になることは望まない。

 

「全く、リアンは何時ものことだけど……鈴にセシリアまで、どうしたっていうんだ。」

 

全く、変なところは鋭いくせに女心に鈍い黄金騎士。轟天に蹴られて死んじまえ!!とタケルは心の中で呆れていたが本人はう~んと悩むばかり。

 

「まず俺は一旦、部屋に戻る。あとで、アジトで……」

 

とにかく、ここで立ち話も難だからと自室のドアノブに手をかける流牙。ガチャ…とドアを開けて……………流牙は固まる。

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさ~い~♪ごはんにする~♪それとも、わ・た・s……」

 

 

ーーパタン…

 

 

 

あれ?部屋間違えたかな?

裸エプロンしている楯無が見えたような気がしたが……

改めて、ドアを開けてみると……

 

 

 

「おかえりなさ~い♪ごはんにする~♪それとも、わ・t……」

 

 

バタン!

 

 

…どうやら、自分は疲れていないようだ。タケルが唖然とする中、流牙は冷静に端末を取りだしある場所へと電話をかける。

 

「あー、もしもし?千冬さんの携帯ですか?あの~…裸にエプロンをした生徒会長が勝手に俺の部屋に……」

 

「ストオォーップ!」

 

直後、慌て飛び出して楯無。さすがに生徒会長といえど、男子の部屋にそんな姿でいるところを先生に見られればタダで済むわけはない。そんな彼女を冷めた目で見ながら流牙は問う。

 

「冗談ですよ…何してるんですか?楯無さん?」

 

「ぐぬぬ……お姉さんを弄るとは、やるわね流牙くん。いやぁ、私も人肌が恋しくて……」

 

「…他所を当たって下さい。」

 

そのまま、楯無を摘まみだし自室に戻るとカチャリと鍵をかける流牙。しかし、楯無は笑いながらカードキーを自らの谷間から取り出した。

 

「ふ、ふ~ん♪私が何故、部屋に入れたと思って?それは、生徒会長特権のマスターカードキーがあるから~♪逃げられないわよん?」

 

全く、懲りない人である。さて、自分は巻き込まれる前に退散するか…と、タケルはその場からそそくさに去ろうとするが………

 

「お待ちなさいな。ちょっと、貴方にもお話を訊きたいのだけど…?」

 

「!」

 

思わず、ビクッと反応してしまった。油断した……さっき、話しているのをドア越しで訊かれたのか!?これは宜しくない事態だ。更識の者とは極力は関わらないようにと思っていたのに……

 

「いや、何でしょう?俺はただの用務員ですが?」

 

「あら、流牙くんととても仲がよさそうに見えまして……」

 

「まぁ、ここは男性が少ないッスからね。ここだと、数少ない男友達ッスよ。」

 

何とか、やり過ごさなくては……

内心、焦りながら適当な言葉のつもりで楯無をかわそうとするタケル。だが……

 

「なら、わ・た・し・に・も…流牙くんのこと聴かせてくれない?」

 

「いやぁ、別に特にこれといった話は……」

 

 

 

 

 

 

 

「…何なら貴方のことでも良いわよ?この学園の生徒たちを口説いて、何の情報を集めているのかしら?」

 

 

(!)

 

何!?流牙ばかりだと思っていたが、自分もマークされていたのか!?

嫌な汗を垂らしながら、タケルはこの少女…生徒会長の称号を持つ彼女に戦慄を覚えた。どうやら、相手の実力を見誤っていたらしい。

 

「いけませんかねぇ?口説いた女の子のことを知りたいと思っちゃ?」

 

「…ま、プライベートのことならまだしも、学園のことについてとなればまた話は別よ?それでいて、この学園の頂点に立つ生徒会長に近づこうとしないとなれば尚、気になるわ?私じゃ…不足?」

 

「…いや。流石にそこまでの度胸は無いのさ、俺には………」

 

距離を縮めて、息がかかりそうな間合いでポーカーフェイス対決をする2人。ここで、絶対に魔戒騎士だとバレたら終わりだ。大失態も良いところであるのだが……

 

 

 

 

 

 

 

「…ほう、まさかな。本当に生徒会長が裸にエプロン姿だとは……風俗にでも勤めたらどうだ、楯無?」

 

「!」

 

そこへ、現れたのはタケルへの助け船……流牙の鬼担任・千冬であった。流石の生徒会長でも、裸エプロン姿でいれば見逃されるわけもなく…

 

「(流牙くん、騙したわね。)あら♪織斑せんせ……」

 

「事情は指導室で聴いてやる。」

 

「あらら…やっぱり、そうなりますぅ?」

 

「当たり前だ。そんな格好で生徒会長にウロウロされたらモラルの問題が疑われることくらい、お前だってわかるだろ。」

 

数秒後、逃れられるわけもなく千冬に捕縛されてしまう楯無。タケルはホッと溜め息をつき、哀れな生徒会長を見送ろうとするがその前に流牙が部屋から出てきた。

 

「ちょっと、待って楯無さん。」

 

「流牙くん?」

 

「はい、これ…忘れ物。」

 

そう言って、彼が出したのは綺麗に畳まれた楯無の制服であった。裸エプロンをする前にここまで着てきたのだろう。随分と邪見にしてたわりには、意外と優しい流牙である。

 

「あら、ありがとう。優しいのね。」

 

『感謝感激』と書かれた扇子を拡げながらお礼を言う楯無だったが、実は流牙はただ制服を返しにきたわけではない。

 

「あのね、今回のことは責める気はない。だから、あるお願いをしたいんだ…」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦……

 

文字通り、クラスの代表者がISのトーナメント戦を勝ち抜いていくという大会だ。無論、ただの学校行事ではなく各国々の重役や企業の人々が観戦に訪れて優秀な生徒を見極めスカウトしていく機会という重要な意味合いを持つ。何気に気の抜けないイベントなのだが……

 

 

「流牙は…私のモノ!」

 

「絶対に流牙さんは渡しませんくてよ!」

 

「…負けられないんだから!」

 

完全に私情を持ち込む3人娘。火花を散らす傍らで箒は頭を抱えていた…。

 

(他所でやってくれ……)

 

やるにしても、頼むから視界の入らないところで……

そんな呆れる脳裏には苻礼法師に言われた言葉がよぎっていた。

 

【おそらく、敵が仕掛けてくるのはこの対抗戦を狙ってくるはずだ…。おそらく、白狼を狙ってな……】

 

白狼…先日、襲撃した鷲頭という男に擬態していた魔導ホラーもそれを狙ってきた。確かにこのようなイベントは混乱が生じやすいので格好の機会といえるが……

 

(そもそも、敵とは何なのか?魔導ホラーとはいったい……)

 

気に入らない……わからないことだらけだ。そんな奴等から攻められるのを待つだけなんて…

 

 

歯がゆい思いが交わりつつも、やがて対抗戦の一回戦目が幕をあける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さぁて、私の相手は誰かしら?」

 

アリーナの空へと舞い上がった鈴音が纏うマゼンタのISは『甲龍』。両肩の球体に羽をつけたようなユニット『龍砲』に2振りの大型の青龍刀『双天牙月』が最大の特徴である。中国代表候補生である彼女の専用機で第3世代に位置する機体だ。

これなら、そこらの生徒なら相手にはならないとタカをくくっていたが……相手側のカタファルトから出てくる機体を見て驚く。

 

「道外流牙、白狼…出る!」

 

「!…流牙!?」

 

現れた機体はなんと、本来ならこの対抗戦にでるはずの無い流牙の愛機『白狼』。それにしても、何故……

 

「りゅ、流牙!?なんでアンタが、ここにいるのよ!」

 

「専用機持ちがいない7組代表の代わりだよ。」

「はぁ!?」

 

代わりなんてあるものか。普通なら……

一方の観客席でも慌ただしい空気になっていた。

 

「流牙さん、なんで!?」

 

「……流牙、どういうつもりだ…」

 

セシリアと箒は彼の真意を理解しかねていたが、隣でリアンはすぐに察しがついた。

 

「成る程、自分が勝てば私たちに勝者を作らせなくて済む。それで、全員フェアで片付けようってことね。全く流牙らしいわ……」

 

伊達に長い付き合いをしている彼女ではない。優しい彼のことだ、仲間内で優劣をつけるような結果を望まないはず……なら、自分が出れば争いを止められると考えたのだろう。

ただ、代わりの参加にしてもそう簡単には権限を得られない。一体どんな裏技をしたのか…

 

 

「はぁ~あ。健気ネェ~……」

 

一方、また別の席からは溜め息をつきながら楯無が白狼を見据えている。そう、流牙がこの対抗戦に出れたのも生徒会長の彼女の力があってこそ。

 

「全く、茶化しにいく予定が…交渉の材料を与えるなんて。お姉さんもまだまだね…。ま、これでご来賓の方々も満足かしら?」

 

 

 

 

場所は戻りアリーナ中央……

 

 

「何のつもりかは知らないけど、舐めないでよね。流牙!」

 

「いくよ、鈴!」

 

 

 

 

《試合開始!》

 

 

 

ギャアァァンンン!!!!!!

 

 

試合の開始のブザーと共に火花を散らして、ぶつかり合う双天牙月と月呀天翔。そこから、アリーナの縁を沿うように飛行しながら激しい近距離戦が繰り広げられる!

 

「知ってるわよ、流牙!あんたって空対空戦…苦手でしょ!!」

 

 

ーーガンッ!!!!

 

「!」

 

ーーーーギャン!ガッガガンッ!!

 

今にも折れそうな月呀天翔を振り回し、なんとか双天牙月の斬撃を弾き続ける流牙。スラスターに火を吹かせ、バランスを崩さないようにするがなんせ鈴音の攻勢を緩めない。確かに、IS戦は得意分野ではない流牙だが死線の越えてきた数ならこっちが上だ。

 

「…まだまだッ!」

 

 

ガッ!

 

「きゃ!?」

 

双天牙月を弾いた僅かな合間に右ストレートをお見舞いし、反撃にでる。その怯んだ隙に胸部を一閃し、甲龍のエネルギーと胸の装甲を削る。流石、黄金騎士の名には恥じない実力だ。

 

「あら、やるじゃないの流牙。なら、これならどう!?」

 

ギュオオォォ…バシュウ!!!!

 

「!」

 

流牙の実力にニヤリとする鈴音だった。その笑みに気をとられていた瞬間に、突然としてレッドフレームに衝撃が走る!

 

(…砲撃?いや、弾というよりは………衝撃そのものを撃ってきている?)

 

「あちゃっあ、おっしい……」

 

何をされたかはわからないが、とにかく距離をとって逃げ回る流牙。観察してみると両肩の龍砲のユニットが駆動しているようなのであれが原因のようである。

 

(さて、これはまずいなぁ……龍砲の空間圧縮砲が見抜かれちゃった?)

 

対する鈴音は焦っていた。龍砲による直撃を狙ったはずが、流牙に逃げられた彼女。近距離なら分が悪いのは承知。そんな自分が勝てる切札として用意したのが空間を圧縮して不可視の衝撃を撃ち出す龍砲…。しかし、流牙の聴覚能力やバトルスキルは高い。一発でしとめられないということはかなりのリスクを背負うのだ。

 

「…でりゃああ!!!!」

 

「はあァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、随分と接戦ですぜ…苻礼法師。」

 

「…」

その様子を物陰からタケルに苻礼法師…アグリが観戦していた。タケルは楽しそうにしていたが、苻礼法師は神妙な顔つきである。

 

「本当に敵が来るんすかねぇ?色んな国のお偉いさん方がくるから警備はいつも以上……セキュリティや防衛プログラムだって並みじゃない。わざわざ、こんな時を狙って……」

 

「こんな時だからこそ、敵はしかけてくるはずだ…。」

 

…まあ、あくまで勘だがな。と、付け加えた苻礼法師。ただ、あの魔導ホラー…鷲頭に、何よりパルケイラのことを考えれば尚……

 

(この間のホラーは肥えて…動けなくなるまで人間を喰い続けた。そんな現状が放置されていたこのIS学園を中心とした地域。それが、ここいらのおかしな所だ……)

 

物思いにふける苻礼法師であったが、目の前では戦いが更に熱くなっており流牙と鈴が互いの剣をとり、構えていた。

 

「やるわね、流牙。予想以上だわ。」

 

「鈴もすごいよ。流石、代表候補生だ!」

 

さあ、決着をつけよう。互いにスラスターを吹かせて刃を交えようとする2人……

会場の興奮は最高潮を迎え、歓声があがろうとしたその瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオォォォ!!!!!!

 

 

 

「「!」」

 

 

天から貫く光の柱と共に、アリーナへと『奴』は姿を現した…。

 

「……」

 

苻礼法師は静かに見据える。全く、嫌な予感ほどよく当たるものだ……

 

「ゲホッ、ゲホッ!何なのよもう!?」

 

「…?」

 

立ち込める土煙に咳き込みながら、皆が現れた『奴』の姿をとらえるべくアリーナの中心に目をこらす……

やがて、晴れていく景色から見えはじめた『金色』の輝きに皆は驚愕した。

 

「…これは!?」

 

 

 

『…La♪』

 

 

IS…そうだとしても、巨大すぎる。

腕のあまりにも大きな人形のような機体…『ゴーレム』がたちはだかる。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

???……

 

 

 

「さてさて、黄金騎士…その力を束さんに見せてもらうよ。」

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 






☆お悩み相談室

楯無「ええ、今日の相談室は影y……じゃなくて『GARO~炎の刻印~』の主人公のレオン・ルイスさん…です……」

雷牙「つまり、君も牙狼?」


レオン(死んだ魚の目)「もう……おれはガロじゃない。くわしくは炎の刻印本編を見てくれ。話したくない……」

楯無「(やだぁ…お姉さんの管轄外じゃない?)…で、お悩みは……」








レオン「俺のガロの鎧、返してくれよぉぉ!」





雷牙「ちょ!?」

シャル「お、落ち着いて!?」

レオン「なあ、返せよぉ!返してくれよぉぉ!」

簪「レオンさん……」










簪「いっそのこと、地獄●弟になれば良いじゃないですか?」


楯無「簪ちゃん、何を!?」


結論・炎の刻印のあのシーンで某・蜂ライダーを思い出したのは私だけだろうか…?俺のザビーゼクター(ry


結論2・アルフォンソ「関係のない人に八つ当たりするとは守りし者としての資格はない。よって、ガロの資格を剥奪する。」






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兵~Stone soldier~

お久しぶりです。

では、どうぞ。




 

『La…』

 

 

「な、何なんだコイツは!?」

 

ゴーレムの出現に驚愕する流牙たち。その最中、VIP客らの席にシャッターが降り、生徒たちも我先に逃げ出そうと次々に出入口に押し寄せる。

この様子に苻礼法師は眉をひそめた。

そこへ、箒が走ってきた。

 

「苻礼法師………!学園のシステムがハッキングされて避難経路のシャッターが降りてる!!これでは、生徒の避難が…!」

 

「…」

 

まずいことになった。生徒がいなくならなければ鎧の召喚どころか、自分たちも迂闊に動くことが出来ない。顎に手をあて考える苻礼…。この場の突破は流牙と鈴音に任せるしかないのか?

 

「…おいおい、こりゃあまずくねぇか?」

 

「タケル、迂闊に動くな。あの黒いISは流牙と鈴に任せる。お前たちはホラーが来ないか各自、警戒しろ。」

 

的確な指示でまず、アグリとタケルを苻礼は散らす…が、箒だけはこの場に残った。彼女の頭にはある嫌な考えが浮かんでいた。

 

「………こんな、こんなことを出来るのは…」

 

「箒!今、そんな話をしている場合ではない!」

 

ただ、非常事態に呑気に憶測している暇はないと一喝。すると、箒は『くっ!』と表情を浮かべながら、走り去る…。

 

(あなたはいつもそうだ!だから、『あの人』もッ………離れていったんだ!だから、皆、皆、バラバラになったんだ!!)

 

荒れる箒の胸の内………だが、苻礼法師は目もくれずゴーレムを睨む。

 

「…そこまでして、黄金騎士が欲しいか!束!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアッ!!」

 

 

バシュ!!

 

月呀でエネルギーの斬撃を飛ばすが、ゴーレムのバリアにより弾かれてしまい…今度はお見舞いにと腕から放つガトリングがこちらを襲う!!

 

「駄目だ、キリがない!!どうにかして、近づかないと…!」

 

白狼は元々が高起動近接特化タイプのIS。遠距離・中距離はあまり得意ではなく、無理矢理に近接に持ち込んで戦うのが基本スタンスだが、ゴーレムのバリアと大火力の武装に阻まれ本来の戦い方が出来ずにいた。

 

「流牙!」

 

 

バシュウウ!!!!

 

鈴音も甲龍の龍砲を放つが、これも無効。煩わしいと、ゴーレムは鈴音にもガトリングの射撃を見舞う。

 

「きゃあ!何よ、コイツ!!全然、効いてないじゃない!?少しは怯むなりしなさいよ!」

 

紙一重でなんとか弾には当たらずに済んだが、正直…彼女をカバーしながらでは本気で突っ込んでいくことが出来ない流牙。この戦い、流牙においては未だに連携の訓練を積んでいない甲龍ではいくら鈴音と息があおうと無理がある。彼女を逃がしたいのも山々だが、現状…至難の技だろう。ゴーレムが背を向ける彼女を逃がすとは思えない。

 

『La♪』

 

 

ゴオォン!!!!!!

 

「くっ!」

 

そんな考え事をしている間に飛んでくる黒い鉄の拳。月呀でなんとか防御をするが、流牙はここである違和感に気がついた。

 

(なんだ……全然、『命』を感じない!?まるで、機械のような…)

 

そう…さっきから、動きが直線的で防御と火力以外は実際のところなんとかなる程度。さらに、密着して感じるのはまるで無機質だということ。ISは女性が乗らなければ動かないが、このゴーレムには人が乗っているという感覚が伝わってこない。

 

(…まさか、無人!?)

 

 

「…はっ!」

 

ガッ!!

 

 

とにかく、一旦は刃で払い…距離をとる。ふと、よぎった『無人』という考え。だったら、目の前のゴーレムから受ける感覚に納得がいくが…疑問がひとつ。そんなISは今まで存在していないということだ…。その今までこの世に無かった物が突然、目の前にとなるとにわかに信じ難い。だが……

 

(俺は……俺の直感を信じる!)

 

「流牙、しっかりしなさい!」

 

「鈴…あの機体は多分、『無人』だ!」

 

「む、無人!?馬鹿言うんじゃないわよ!?ISの無人運用なんてまだ何処の国も……」

 

己の勘を流牙は信じた。無論、鈴音からしてみれば非常識に極まりないことだが…流牙の優れた聴覚の能力については知っているので完全には否定出来ない。

 

「俺は感じた!アイツの中には命は無い!!」

 

「そんな、そんなことって……」

 

 

『それだけじゃないぞ!アイツの装甲……魔導具と同じ物を使ってやがる!!』

 

「「何!?」」

 

加えて、ザルバからの説明……意味することはゴーレムはザルバと同様な構成物(マテリアル)で組み上げられており、つまりは……

 

 

……魔戒騎士か法師に携わる何者かが関わっているということである。

 

 

 

 

「…どーすんのよ!?それじゃ、私の武装じゃ通じないわよ!」

 

鈴音は焦るが、流牙は動じない。おそらく、『彼女ら』も事態についておおよそ把握しているはず……

 

 

なら…

 

 

 

「…」

 

地面にフワリと着地すると、月呀を地面に突き刺して白狼の左腕の展開を解除して静かに立つ。ただ、的にしてくださいと言わんばかりの…あまりにも目を疑う行動に鈴音はたまらず叫んだ!

 

「流牙!?なにしてんのよ…!!武器をとりなさい!ねえ!!」

 

「…」

 

それでも、流牙は動かない。接近してくるゴーレム……止まる的に銃口を…

 

 

「リアン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【もっちろん!】

 

 

 

 

 

 

 

バババババババン!!!!

 

 

『La…!?』

 

 

 

その時、的確かつ凄まじい銃撃がゴーレムのガトリングをはじめとした武装を撃ち抜いてボロボロのスクラップにしてみせた。何事かと、ゴーレムが視線を向けてみればフィールドの端で見慣れぬ白とブラウンのISがライフルらしき武装を構えている。その姿は袴のような意匠を微かに残すものの、スタイリッシュに絞られたデザインで腰にもハンドガンタイプの銃が引っ提げられていれ……その操り手は鈴音も知っている。

 

「リアン!?あんた、その機体!?」

 

「…そう、この機体が、私の専用機…『打鉄・戒式 百花繚乱』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 打鉄・戒式 百花繚乱 』

 

 

 

日本の量産モデルであるIS『打鉄』をリアンにあわせて取り回しのいい銃武装を中心にあわせてチューニングした彼女専用の機体。カラーリングは主たるリアンの趣味で所々に金の装飾が光る。

 

『La♪』

 

瞬間、彼女の存在を確認したゴーレムはまだ生きているブースターを動かして向かおうとするが……百花の影には……

 

「さ、任せたわよ…セシリア、アグリ!」

 

 

「ええ、バッチリのタイミングですわ!」

 

「ああ、外しようがない。」

 

 

スターライトの銃口を向けるティアーズを展開したセシリアに弓を引き、矢先を向けるアグリ。リアンが屈むとギリギリのタイミングとスレスレの距離で光輝くレーザーと矢が放たれ、ゴーレムの両肩の接続部を撃ち貫く!

 

 

ドシュゥゥ!!!!

 

『La!?!?』

 

「「「流牙(さん)!」」」

 

 

「ムゥゥッッ!!!!」

 

斬!!!!

 

待っていた、このタイミング!

流牙は左手に魔戒剣を握り、突き刺していた月呀を抜き放ち旋風がごとき刃の乱舞を繰り出すッ!!数秒後、ゴーレムは十字に斬り裂かれバラバラになると地面の上でスクラップの山と化した…。

 

そして……

 

 

「やっぱり、無人だったのか……」

 

このゴーレムの残骸には人間が座すべき場所には何か奇妙な機械しか残っていなかった。つまり、流牙の予想は当たっていたのである。

 

(す、すごい……これが、流牙たちの力………)

 

一方、上空では鈴音が流牙に対して驚いていた。自分は代表候補生のIS学園生徒…専用機持ちということは実力は学園の中でも折り紙つきということだが………その立場の目から見ても流牙やリアンは唸ってしまうほど強い。ISならば、まだ自分が上だと思っていた鈴音だが胸の内で考えを改める…。

 

(流石、セシリアを転校初日で破っただけある…。ISもウカウカはしてられない……)

 

また、セシリアも……

 

(…いつまでも、その背中を見ているだけでは……決して追いつかない。強くならなくては…いけませんわ。)

 

 

これから共に戦う者同士…隣に立つには流牙はかなり先に立っている。ISの技術ならまだ同等かもしれないが、このままでは近いうちに越されるだろう。そうなれば、本当に自分たちはお荷物でしかなくなる……。

 

強く、ならねば………

 

 

あの背中の隣に誇って立てるように…………

 

 

 

 

「流牙、終わったか!?」

 

「箒!他の生徒たちは?」

 

そこへ、流牙の元に駆けてきたのは箒。白狼の展開を解除し、ゴーレムの残骸を背に立つ流牙を見た……

 

 

 

ーーーグルルルッ…

 

 

「!?」

 

わずか、一瞬……血に濡れた牙狼の姿と重なってしまい、怯んでしまう。

 

「箒?」

 

「……え、ああ…大丈夫だ。混乱はあるが、先生たちが終息に力を尽くしている。問題はあるまい………」

 

「そうか。こっちも片付いた…。無人のIS…こんな物、誰が…」

 

ハッ!?と我に戻った彼女はゴーレムの掌にとれるほどの欠片を手にとる流牙を眺める。その胸にはセシリアと鈴音とは違う思い……

 

(道外流牙……やはり、私は………)

 

 

 

不協和音が…微かに響き始めていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さてさて、これはまた大変なことになったわね。」

 

学園内の廊下にて『面倒』と書かれた扇子を拡げている楯無は考え事をしていた。明らかにこのゴーレムの件は何らかの勢力からの攻撃とみて間違いない。詳しくは分からないが、不確定な要素がこの学園に多い今…果たして、教職員と生徒だけでどうにかできるかといえば不安な所だ。

 

(無人のIS…道外流牙……フランスからの新たな男子……。ここで、最も信用できて強いのは………)

 

彼女は端末を取り出すとアドレス帳を開き、サー…と流すとある名前のところで目を留める。

 

(そうだ、彼女なら……)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

日本国内……

 

某・ジムにて………

 

 

 

「…ふっ!ふっ!」

 

マットの上で力強く腹筋をする楯無と同じかそれ以上の女性。辛うじて少女も通るだろうか…?日本人独特の黒髪をポニーテールにして、黒いシャツに茶色いズボンとお洒落もへったくれもない簡素な出で立ちをしていた。

PiPi…

 

「?…もしもし……」

 

上体起こしをしている最中、鳴った端末をのに気がつき…起き上がり手にとると……

 

【ハァーイ!久しぶり、エンホウ。】

 

「…楯無。珍しいな……」

 

電話の相手は楯無だった。久方ぶりの友の声だったが、この声とタイミングから察する。

 

「…仕事か?」

 

【ええ、すまないわね。代表候補生の護衛任務中に……。そのミッションが終わったら、貴方たちSG1には学園に滞在して警戒に当たって貰いたいの。】

 

「今のお前たちでは乗りきれそうにないのか?」

 

【……これは漏らさないで欲しいけど、今日…学園は襲撃を受けたわ。】

 

「何?」

 

しかし、どうやら事態は思った以上に良くないようだ。端末をとりながら、彼女はトレーニングマシンにかけていたタオルを手にとって汗を拭くとスクッと立ち上がる…。

 

「被害は?そして、こちらのミッションへの支障は…?」

 

【今のところ、目立った被害は無い。護衛任務も予定通りでOK。だけど、今のIS学園には不安な要素が多すぎる…。この場において、最も信頼できて力を発揮できるのは貴方だけよ。】

 

「…フッ、買い被り過ぎだ。まあ、良い。正式な手続きがなければSG1は動かせん。それらは頼んだ。」

 

【わかってるわ。じゃ、学園で会いましょう。】

 

「ああ。」

 

一通りの話を終えると、通信を切る女性『エンホウ』。畳んでおいたジャケットに黒い帽子を被り、然るべき場所へと向かおうとするが………そこへ、長い金髪の少女…いや、中性的な顔立ちの少年が現れる。

 

「…デュノア嬢。」

 

「エンホウ!僕は『男』だってば!それに、シャルルって呼んでって言ったよね!?」

 

「あ……申し訳ない。シャルル。」

 

そんな顔立ち故に、エンホウは彼をつい女性とつい勘違いしてしまう。彼からしてみれば随分と長いこと一緒にいるのでいい加減、直してもらいたいのだが……

 

「ふ~ん………もしかして、その電話…何か僕たちに関わりのあることかな?」

 

「いや、そうではない。日程に関しては変更の予定は無い。心配するな。ただ…決定ではないが、恐らくは学園でもまた別の任ではあるが一緒になることになった。」

 

「ほんと!?じゃあ、仲良くやろう!それに、エンホウがいないとボーデヴィッヒさん止められないし!」

 

嬉しそうにキャッキャッと騒ぐ彼。余程、彼女と共にいることが喜ばしいのだろうが、エンホウは真剣な眼差しを彼に向けていた。

 

「シャルル、私の正義にかけて…これからも、貴方たちを護ります。」

 

「…ふふっ、ありがとう。」

 

 

 

 

…学園へと向かう新たな波紋を呼ぶ投石。果たして、エンホウと少年・シャルル…どのように流牙たちと関わり物語を繰り広げていくのか?

 

一難去り、また一難…奇妙な運命の行く先は……

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★ ★


次回予告……


リアン「その姿はあまりにも、驚異で……為すことは大胆不敵で美しく、彼は闇を走る。次回・【盗~Steal~】……その掌には邪悪な輝き。」





★ ☆


シャル「やったよ!次回から僕、合流!!」

ラウラ「まあ、更新が何時になるかわからんがな。」

シャル「…( ̄▽ ̄;)」



そういえば、最近…ガンダムブレイカー2を購入したのですが面白いですね。アレ。後輩の勧めで買ったのですが個人的にシナンジュやHi-νとか好きです。ぶっちゃけ、宇宙世紀はあんまり詳しくないですが……(いやはや、Zから入って断念しましたハイ。)

あとゴッドイーター2もプレイ中……やべえ、防衛班のステータス上げ(キャラエピ)がしんどい。全然、レイジバースト篇行けないし、武器に規制かかってるし……ああ、防衛班の帰還を有料ダウンロードした私はなんだったのか(ハァ…


あと、そろそろですよね闇照の劇場版!やらねぇんだろうな、私の地元で……うぅ…
加えて、就活という……



次回は何時になるかはラウラが言うようにわかりませんが、感想まってます!



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盗~Steal~ 前編


やっと、こっちも更新できた……


ISの中でフランスヒロインとドイツヒロインの彼女たちが出てくる付箋回です。
因みにこの話は怪盗キッドみてて思いつきました。


☆生徒会長のお悩み相談室

楯無「今日の方はこちら!」

ヘルマン(全裸)「俺の名前はヘルマン・ルイス…またの名を、魔戒騎士・ゾロ!(ビシッ」

簪「きゃあああああ!!!!変態ぃぃ!!!!!!」

ヘルマン「…」





 

 

怪盗『ルパン・ザ・ノワール』

 

通称・ルパンノワール

 

 

 

最近、出没しはじめた曰く付きのお宝のみを狙う怪盗。手口は鮮やかで、どんなに厳重なセキュリティをも切り抜け獲物を頂く…そして、誰も傷つけない。世紀の大泥棒ルパンの再来といっても他言ではないと世間では話題である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その姿は謎に包まれ、男とも女とも言われ…剣の達人とも百発百中の銃使いとも言われる。」

 

鈴音はバスの椅子に寄りかかりながら週刊誌を見ていた。周りには千冬の他、セシリアや箒といった姿もある。

 

「はーっ!なによ、これ!?ル●ン三世のパチもんじゃあるまいし!」

 

呆れた!と声をあげる彼女だったが、隣にいたセシリアが声をかける。

 

「鈴さん、でもそのノワールという怪盗は話題になるだけあって、世界の至るところで被害の報告を受けていますわ。そして、誰も傷つけないというスタンスと謎めいたさから熱心なファンがいるとかいないとか……」

 

「へぇ~~。泥棒がアイドル扱いなんて世も末ねぇ~…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そんな世紀の泥棒の正体がホラーだったなんてこともザラにあるんだけどね?」

 

 

 

「「えぇ!?」」

 

 

すると、リアンが途中で割り込んできてビックリ。全く心臓に悪いと思われながらリアンは続ける。

 

「まあ、まず、盗みをする怪盗だが何だろうと邪心が無い奴はまずいないだろうし…古い遺産って何かと陰我まみれの物が多いから義賊だろうと大抵はホラーなのよ。そんな奴等と渡り合ってきた探偵とかも実は魔戒騎士や法師だったりするのよ。」

 

「へぇ……でも、あんまりそれ知りたくなかったかも。」

 

「ルパンのイメージが崩れますわ。ホラーなんて……」

 

皆、ヒーローのイメージの怪盗が実はホラーなんて言われれば嫌でも崩れる。確かに金銀財宝ともなれば、これに関わる者たちの邪心も量りしれないのも頷ける。

のだが……ふと、セシリアはあることを思いつく。

 

(でも、もし……流牙さんが探偵だったら…)

 

 

 

 

 

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セシリアの妄想……

 

 

 

 

「た、助けてくださいまし~…!」

 

『ふはははは!!!!セシリア嬢は確かに頂いたぞ!』

 

中世の町並みをあからさまに怪しいシルクハットにマントに独眼のレンズをつけた異形・怪盗ホラーがこれまたどういうわけか、ドレス姿のセシリアを担いで闇夜を駆け抜けていく……

 

その時

 

 

 

「そこまでだ!」

 

俗に言うパイプを吹かすあの探偵・ホームズのコスチュームに身を包んだ流牙が立ち塞がる。そして、魔戒剣で円を描き牙狼となると牙狼剣を振り抜き、一撃で怪盗ホラーを撃破してみた。

 

「りゅ、流牙さん……必ず助けてくれると信じておりましたわ。」

 

「セシリア、もう離さない!」

 

「流牙さん!!」

 

 

 

 

 

見事、彼女を救いだした流牙……抱き合うとやがて唇を……

 

 

 

 

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「はぁぁん……駄目ですわ、流牙さんそんな…」

 

「……セシリア?お~い…」

 

「鼻血でてるわよ。」

 

突然、頬に手をあてて顔を紅くするセシリア。ポーッ!と頭からの蒸気に鼻からでる欲望の汁……明かに尋常ではない。

その様子を離れた前の席で箒と相席していた流牙が勘づいた。

 

「ねえ、なんかあっち俺の話してない?」

 

「気にするな。女子とはそういうものだ……」

 

そうなの?と首を傾げるが、箒の言葉を疑ってもどうしようもない。不完全な消化だが、今度は箒が少し間をおいて問う。

 

「流牙………その…貴様はいったい何者なのだ?」

 

「え?」

 

「…何者なのだと訊いている。この際だからハッキリ言っておくが、私はお前を信用できない。」

 

「…?」

 

驚いた…といった顔をした流牙。まあ、こんなこと突然に面とむかって言われれば誰しもそうであろう。これに流牙はう~んと考えると、眉間に皺をよせる箒に口を開いた。

 

「箒、君がどういう思いがあるかはわからないけど……これだけは言える。俺は道外流牙…それ以上でもそれ以外でも何者でもない。唯一のISを操縦を出来る男で…黄金騎士・牙狼《GARO》の称号を受け継ぐ者。これだけじゃ、不服かな?」

 

「わ、私が訊いているのはそういうことでは…いや、そうなのだがそうではないというか……」

 

的確だが意図とずれた流牙の答に今度は箒がペースを崩される。確かに知りたいことだが、違うのだ……もっと、こう…肩書きとかそんなものではなく………

 

「貴様らもうすぐ目的地に着く。準備をしろ。」

 

そうやって、もどかしくしている間に千冬の言葉にタイミングを失ってしまう。仕方ない、次の機会にと諦める箒…。

 

そして、一行はバスを降りると目の前の巨大なビルに息を呑んだ…。

 

「ここが、デュノア社の日本支社だ。お前たちにはここで警護の任務中についてもらう。」

デュノア……その響きに顔をしかめる流牙。フランスのIS企業なのは周知の事実なのだが、あの魔導ホラーだった鷲頭もこの会社の社員だった。そこらの陰我より現界したホラーならそこまで気にはしないだろうが、明らかに流牙を狙ってきたあの異質な存在がいたところになると警戒せざらえない。

 

「あ、あの…織斑先生…。警護の任務とはいったい……」

 

一方、隣にいたセシリアが任務とは何かと訊ねると……

 

「貴様らはこのデュノア日本支社の展示場にて公開される希少ダイヤ『シャドウマイン』を怪盗ルパン・ザ・ノワールから護る。それが、今回の任務の内容だ。」

 

「「の、ノワール!?」」

 

思わず、ハモってしまうリアンと鈴音。噂をすればなんとやら……しかし、警護といっても鈴音に疑問が1つ。

 

「ちょっと待って、千冬さん!流牙やリアンは良いとして、セシリアと私は代表候補生なのよ!?それが、フランスのデュノアに協力するなんて……」

そうだ、デュノア社はフランスの企業で、セシリアはイギリス…鈴音は中国の代表候補生だ。IS学園にその依頼が来たとしても、彼女たちの起用にはそれぞれの本国に手続きが必要になるはず……だが……

 

「その点は問題ない。既に各国の許可は降りている…。奴の被害は中国やイギリスでも甚大だからな。デュノアの要請にすぐ首を縦に降ったそうだ。あと、織斑先生だ鈴……!」

成る程、国の威信にかけてもう形振り構ってられないというわけか。まあ、これで取り逃がしたら責任重大であることは確かそうだ。しかし、セシリアはあることが気になっており、流牙はこれに気がつき声をかけた。

 

「セシリア、どうしたの?」

 

「…流牙さん。あの、その展示される宝石『シャドウマイン』についてなのですが、私も風の噂で聞いたことがあります。旧時空歴末期の頃、見つかった世界最大クラスのダイヤで当時の貴族たちがこぞって手にいれようとしたと…。その欲望が入り交じる中、長い月日が経ち……やがて、その魔性に取り憑かれた亡者たちの血で紅く黒く染まった呪いの宝石。だけど、いつしか忽然と歴史の影に消えた…この由縁からいつしか『シャドウマイン』と呼ばれるようになったという話ですわ。」

 

「流石、セシリア…この手の情報には詳しいね。」

 

「まあ、これでも貴族ですから。」

 

えっへん!と誇らしげにするセシリアだがリアンは気にくわなさそうに彼女に視線を向けていた。仮にも、貴族のお嬢様のセシリア…そんな話が行き交う場に何度も居合わせてきたのだろう。

 

こればかりはセシリアが上だ…。

 

「無駄口を叩いている暇は無いぞ。詳細は中のブリーフィング室にて行う。ついてこい。」

 

やがて、千冬に導かれてデュノア日本支社ビルに入る一行……それを物影から、正確には流牙を中心にして眺める者がいた。

 

「道外流牙……アイツか…」

 

小さな背だが、黒い軍服を纏い…風になびかないよう長い銀髪を片手で抑える少女。左目を眼帯で覆っているものの右目は確実に流牙を敵意の光で捉えていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その頃、アジトにて……

 

 

「全く、こんな仕事はリアンの分野だろう。」

 

ぼやきながら巨大な黒金のツボとにらめっこしているアグリ。まあ、理由としては彼は騎士…前線で戦うのが常。ましてや、アグリはこの誇りがとても高い……そのためとも言える。故、いつもは後方からサポートにまわるなんてことはまずない。これも加わって軽い苛立ちの原因になっているのかもしれない。

 

 

「そう言うな、アグリ。今回ばかりは仕方ない……。リアンが学園側にいる以上はお前くらいしか宛てにならん。」

 

一方、苻礼はデスクで何やら小道具を弄んで作業している様子であった。一見、何が何やらと見えるがアグリはこの作業の意図を知っている。

 

「まだ無理ですか?魔導ホラー探知機は?」

 

「ああ。どうしても、奴等の生きた肉体が無いと完成は難しいな。」

 

新たな敵・魔導ホラーへの対策。夜だからといって活動せず、魔導火で見分けられなけれいため従来に変わる魔導ホラー用の探知機をまずはというわけだが、肝心の完成には生きた魔導ホラーの肉体が必要とのこと。なんというジレンマであろう……

アグリも苻礼も思わず、溜め息をつかずにいられない。

 

「全く、先が暗いですね……女たらしの三流魔戒騎士に輝きを失った黄金騎士…果てはにわか魔戒法師の素人。これでは……」

 

「アグリ、そう簡単に判断するな。俺は奴等はいずれ化けると思っている…。宝石は原石ではなく、輝かせてこそ価値が決まるものだからな。」

 

「フッ……甘いですね。」

 

 

笑うアグリ。苻礼の希望的な憶測など彼にとっては滑稽なまで甘いとしか思えなかった…。実際、流牙やタケルたちはともかく、セシリアや鈴音はつい、この間から修行をはじめたばかりだ。おまけにIS操縦者としても流牙には一歩、及ばない。

アグリからしてみれば代表候補生だろうと足手まといも良いところである。

 

そんな時、ツボに反応があり満ちる水に緑色の波紋が拡がった……。

 

「どうやら、反応があったようだ……」

 

苻礼は眉をひそめる…。やがて、ツボの中から洞窟の中で響くような声が聴こえてくるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

デュノア日本支社・VIPルーム……

 

 

 

「全く、忌々しい……デュノアの奴は我々を舐めているとしか思えん。」

 

赤い絨毯が敷かれた部屋で黒いソファーに座る鷲の嘴のような鼻の高齢らしき男。スーツに整えられた金髪からして、イギリス人だろう……

対するは丸いテーブルはさんで座るズングリとして幸せそうに膨らんだ中年のスーツを着た男。黒髪からして、日本人か中国人といったところか……

 

「そうですなぁ……我々の交渉の場にあんな年端のいかぬガキを寄越すとは……やはり、その点はイギリスさんも同じでしたか。正直、キレそうになりましたよ私…」

 

「……下手なことをあまり言わないほうが良い。誰か聴いているか分からんし、中国の威信にも関わるぞ。」

 

 

 

そう……彼らはイギリスと中国から訪れた外交官である。両者共にデュノアに招かれた身であるが、何やら不服とグチグチと洩らす。

 

「はっ、貴方だって同じはずでしょう?社長の息子だが知らないが、代表候補生ということを鼻にかけたあの態度!おまけにこちらが支援を渋れば臆病者扱い……コケにされてますよ、これは…」

 

中国の外交官は苛立ちを隠せないといった具合で余程の屈辱を味わったのだろう。だが、イギリスの外交官は顎に手をあて冷静に語る。

 

「…だが、我々もノワールには散々の苦渋を舐めさせられたのも事実。あのデュノアの息子が言ったようにここで手を退けば我々は臆病者の烙印を押されても他言ではない。それに、ここで奴を捕らえられれば共同作戦を成功させたとなれば高い指示を得られる…」

 

「…だが!」

 

「悔しいが奴の言う通り…利害でいえば一致している。この機会を逃すにはあまりにも惜しい。」

 

中国の外交官はかなり渋っている素振りだったが、イギリス外交官は彼を説き伏せる。すると、苦々しいという顔をしながら舌打ち。

 

そんな様子をテーブルの裏に貼られている赤札から、筒抜けだと知らず……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

【…もうサインはしてしまった。計画を変更できない。】

 

【しかし、あのドイツもいるのだぞ!?】

 

 

「…わかってないよな。こっちに筒抜けだって……」

 

再び、アジトにて……アグリは溜め息をつく。バレないように盗聴はしているのだが、ここまで表沙汰にできない話が駄々漏れだともう呆れしか出てこない。

一方、苻礼は黙って会話に聴き入り…何かを考えている様子。

 

「苻礼法師…?」

 

「…いや、なんでもない。少し出かける…お前は引き続き、ここで待機だ。」

 

何やら思い至る所があったようでデスクから立ち上がると、彼はアジトを出ていった。やがて、1人となったアグリは苻礼法師が遠くにいったであろうと予測すると、ふぅ…とぼやく。

 

「やれやれ、名門楠神流をこんな裏方仕事に回すとは…苻礼法師も目がくもったな。」

 

笑うアグリ…だが、まだこの時……苻礼法師の真意を知る由も無く、これが後々の運命を大きく左右することになる。

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 






☆生徒会長のお悩み相談室

ヘルマン「こほん、改めて…魔戒騎士・ゾロ、ヘルマン・ルイスだ。よろしく…」

簪「 」←失神

ヘルマン「…」

楯無「簪ちゃんにはまだ刺激が強すぎたかしら?はい、ヘルマンさんは『GARO ~炎の刻印~』とこっちでは『Fate/G.B.』で魔戒サーヴァントとして活躍してます。自由気ままで趣味は女あさりとか……?」

ヘルマン「失礼な…唯一の息子がガロになっちまったから、ゾロの鎧を受け継ぐ者が必要だから仕方なく……」

楯無「で、お悩みは…?」






ヘルマン「天国行ったら、アンナ(嫁)に色々とバレて大変なんです。割と、切実に……」





楯無「自業自得、はい、お悩み相談完了。」

ヘルマン「え!?!?ちょっと、待って!また天国に戻る前になんとかしないと……!」


アンナ(炎上)「ヘ~~ルマン?まだ、O☆HA☆NA☆SHIは終わってないわよ~?」


ヘルマン「げぇぇ!?!?ヒメナさん、助けてぇ!」


このあと、おまけコーナー開設中だったアルフォンソが立ち寄りアンナに引き取って頂きました。

そして、炎の刻印の天国の話があったら実際こうなりそうで怖いww



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盗~Steel~ 中編

ごめんなさい、長くなりそうだったので更にわけました。後編はすぐ投稿できると思います。

あ、あと私のホムペ紅蓮の図書館にてコラボ企画小説をはじめたので是非みてください。

では!



「そういえば流牙…前の演習データを見せてもらったが、腕を上げたようだな?」

 

「…はい。鍛練は毎日しています。」

「そうか…なら、怠らず励め。」

 

デュノア支社のロビーに入った一行。最中、千冬は流牙を気にかけて話かけており、流牙も笑顔で答えていた。やはり、唯一の男子でISの経験も確かに劣る部分があるのは事実…担任という立場からきにかけてくれているのだろう。ここはリアンやセシリアに鈴音も気にしない。

すると、ああそうだ……と彼女は付け加えた。

 

「…そうだ、この際いっておこう。お前に紹介したい奴がいる…」

 

「俺に?」

 

「ああ、ドイツからそのうちここに来ることになっていてな。随分と堅物だから、この国に馴染むのに手間がかかると思う。だから、手伝ってはくれないか?」

 

ドイツ?これはまた……と思いつつも、この程度なら断る理由は特に無い。

 

「…わかった。任せて。」

 

流牙は快諾し、千冬もホッとして微笑して『このあと打ち合わせがある』と言って、先に歩いていってしまった。心なしか足取りが軽くなったようにみえるのは機嫌が良いからか…?

一方、機嫌がよくなくなる者たちがいることを流牙は気がいついていなかった。

 

(千冬先生の知り合い……女の子?)

 

(さあ、そうだとしたら……)

 

(これは由々しき問題……)

 

そう……これ以上、恋のライバルが増えるとしたらこれは乙女3人の望むところではない。おまけに千冬の知り合いなんぞどんな奴が飛び出すか……

 

そんなことなど察しもせず、気ままに歩く当の本人。全く気楽なものだ…

 

 

 

 

 

……

 

 

「…?」

 

 

流牙は微かだが、違和感を感じた。

(…ホラーの気配?)

 

……まさか、あの陰我の魔獣がここに?人の密集する場所に邪心・陰我があり…そこにホラーが沸くのは決して不思議なことではない。ただ、夜の獣であるホラーが昼間に気配を晒す奴など…

 

 

待てよ?確かかつて倒した鷲頭はホラーでありながら、日に耐性を持ち…デュノア社の人間だった。

 

 

(まさか……)

 

「りゅ、流牙さん!?」

 

魔導ホラーが近くに?

そう考えた彼は少女たちを置いて走りだしていた。階段を駆け上がり、スロープを渡り……

 

「…!」

 

その時だった。彼の目の前に手すりによりかかる眼帯をつけた銀髪の少女が現れたのは……

 

「…貴様……ほう…?道外流牙か…」

 

「君は?」

 

かけられた言葉に感じたのは敵意という名の棘。明らかにセシリアや鈴音とは一線越えた威圧的な存在感……

カツカツと流牙との距離を詰める彼女はいきなり手をあげる!

 

「!」

 

…咄嗟に自らの頬を殴ろうとした張り手を受け止めた流牙。何をするッ!?と抗議をする前に少女は不敵に笑い、黒い制服の裾からキラリと何かが光ると彼女の反対の自由な手に握られすぐに流牙は距離をとった。

 

「フッ……少しはやるようだな?」

 

「…貴様、ホラーか?」

 

「ホラー?なんだそれは?」

 

彼女の手にあるのは命を刈り取るサバイバルナイフ……だが、ホラーかという問いに関しては首を傾げる。ただ、鷲頭の時のような無機質な雰囲気は無い…。本当に知らないようだが、ならば何故に流牙を狙う?流牙自身は彼女に見覚えもなにもあった記憶は無いのだが……

 

「まあ良い、見させてもらおうか。世界で唯一ISを扱える男の力とやらを…!」

 

ただ、彼女が異様に敵意を向けてくるのは理由は何かしらあるはず。でなければ今、サバイバルナイフをブンブンと振るわれるわけがない。ヒラリ、ヒラリ、とかわしながら隙を窺い刃を眼前で止める。

 

「ならば何故、俺を狙う!?」

 

「確かめたいのさ……お前が教官の寵愛に足る存在かということをな。」

 

「教官?」

 

またも、聞き覚えのない『教官』という単語。全くこの状態が理解不能……どんな道理でどんな理屈でこんなことになる?

 

「…はっ!」

 

そして、ホラーでないというのならと組み合う最中…魔導火ライターを取り出して彼女の片側の瞳を照らす。されど、反応はない。緑の魔導火がチラチラするだけでやはり、普通の人間…

 

「何の真似だ?」

 

「…ッ」

 

「そして、何故、貴様はかかってこない?こっちはある程度、殺すつもりでかかってきているのはわかっているだろ?」

 

「俺は無闇に力は振るわない…!」

 

「そうか、私も舐められたものだな。」

 

だからこそ、流牙はあくまで防御に徹している。ホラーでもないただの人間に例え、殺しにかかられようと迂闊に手をだすわけにはいかないのだ。サバイバルナイフが頬をかすめ、放たれる拳もなんとかいなし……

 

「…お前は誰だ?俺はお前を知らない!」

 

疑問をぶつける。

 

「…恨みをかわれる覚えも無いし、理由が無い相手とは戦えない!」

 

そして、受け止められる刃に返る答は……

 

「言っただろ、お前を教官の寵愛に足る存在かということを知りたいと?そして、私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ!」

 

先の言葉と彼女の名……更なる激しい剣撃と体術。流牙とは違うが鍛錬された兵士の技に彼はやがて圧されていく……

それも、そうだ…いくら、魔戒騎士といえど丸腰で殺す気満々の技に耐えきるにも無理がある。

やがて、流牙の喉に向かいサバイバルナイフが牙を剥く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュッ!!

 

ーーカンッ!!!!

 

 

 

 

「「!」」

 

その時、勢いよく何者かが割り込んできて少女のナイフを蹴りあげた。直後、乱入者はハンドガンを構え黒い『SG-1』と刺繍された帽子をクイッとあげる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……任務中に私情を持ち込むとはあまり芳しくは思えないな。」

 

「貴様……エンホウ!」

 

 

 

苛立つ彼女とは裏腹の凛々しい顔。淡いブラウンの軍隊のような制服を纏う者…その名は『エンホウ』。雰囲気は眼帯の彼女と似ていたが立ち振舞いは確かな真っ直ぐさがあった。

 

「邪魔をするな、これは私の問題だ。」

 

「いいや、任務中に私情を優先する隊の指揮官など全体の士気に関わる。どうしてもというのなら、クライアントの許可をとれ。」

 

「…」

 

眼帯の少女はエンホウにどくように迫るが、彼女は退かず同時にそれぞれと同様の制服を着た隊員たちが現れ各々の長を守るために銃を向ける。この時、流牙は気がついた……眼帯の少女は隊員が女性ばかりだが、エンホウは全員に骸骨のような鉄仮面がついた男性と数名の女性がいる。この差を何処か奇妙に感じていたが、これを他所に眼帯の少女が『覚えていろ』と捨て台詞と共に隊員たちと立ち去り事態はおさまったのであった。

 

「…大丈夫か、道外流牙?」

 

「俺の名を?」

 

「ああ、お前は今や有名人だからな。ISを唯一扱える男子として……」

 

すると、エンホウは流牙を気遣い笑みを向けた。何となく無骨な感覚が千冬に似ている………まぁ、良い。

 

「自己紹介が遅れたな。私はエンホウ…私設IS混成部隊『SG-1』の隊長をしている。」

 

「よろしく。ところで、あのさ……さっきの…」

 

「ああ、ラウラ・ボーデヴィッヒか…」

 

エンホウは目を細めた…。まるで、何か思いあたる所でもあるように……

 

「奴はドイツの特殊部隊の通称・黒兎隊の隊長をしている。まあ軍人だな。私も詳しいことは知らないが……嫌な噂が絶えん部隊だ。そんな奴に絡まれるとは…何か心あたりは?」

 

「いや、別に……」

 

ラウラか……。そういえば『教官』がどうとか言っていたが、流牙には全く心当たりがない。彼女が自分の夜の仕事に関わっているとなれば話はまた別だが……

 

「それにしても、奇妙なものだ。仮にも軍人があそこまで私情を優先するとは……」

 

「…」

 

一方でエンホウもラウラの行動を不審に思っていた。自分と立場の近い人間故に身勝手な行いは叱責に値すると理解しているはずなのに……

腑におちない2人だったが、それを物陰から見つめる作業服姿の男がいた。

 

「やれやれ……そう簡単にはいきませんか…」

 

彼は流牙に気がつかれるより早く、スッと姿を消し……そこにはもう存在した痕跡すら無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

デュノア日本支社付近・繁華街エリア……

 

 

 

オフィス街と人の波に紛れるようにある場所。さらに、ひっそりとした宿の一室にて自慢の金髪をとかす全裸のタケルの姿があった。

 

「…」

 

「はぁ…はぁ……良かったわ、タケルくん。」

 

「ソイツはどーも。」

 

隣には乱れたベッドに白いシーツで自らの肌を被う色白で清楚そうな女性の姿。タケルと同様の半裸で火照った顔から……恐らくは男女の行為の後だろう。女性は満足げだが当のタケルはどことなく満足しているようには見えなかった。

 

(…そろそろ、時間か。)

 

まあ、良い。これから流牙たちと合流だ。女性がシャワーを浴びるのを見計らい、服を着て宿を後にするタケル…。これが、タケルの日常……魔戒騎士としての仕事の傍ら、つかの間の昼の休息は女遊びにふける。イケメンで女たらしの彼ならではの日々……別に苻礼は止めないし、アグリは軽蔑視線のノータッチ、流牙やその周りの女子組

は知る由もない。確実に女子たちには軽蔑とかでは済まない気がするが……

 

 

 

…それでも、自分の心の何処かが渇いている。

 

 

 

そう理性の片隅で虚しく感じていたタケルだった。

 

 

「…はー………なんか今一つなんだよな。」

 

それに、最近はパルケイラの件も含めて本職の調子も今一つ。さて、どうしたものか……

人混みに紛れながら考えていると……

 

ドンッ

 

「うわっ!?」

 

「あん?」

 

つい、意識が上の空で誰かとぶつかってしまった。目の前に金髪のロングヘアーが痛がっているのを見て状況を察するとタケルは手を伸ばす。

 

「あー、わりぃ……大丈夫か?」

 

「…ひっ!?や、やくざぁ!?」

 

「誰がヤクザだ!?」

 

別に彼はチンピラみたいな外見だが、悪人ではない。されど、金髪のガラの悪そうなチャラい男など誰しも所見は警戒する。目の前の『少女』もそうだった…。

 

「大丈夫だ、別にとって喰ったりしねえよ…」

 

「え?」

 

「んん?」

 

ふと、よくこの顔を見てみると…フランス人のように白い肌で中性的な顔立ち。中々の可愛さではないか。

 

「ほお?お前、可愛い顔してんじゃねぇか?」

 

「か、可愛い!?!?は…!?ま、まさか、やっぱり僕を……」

 

「しつけーよ。落ち着け。」

 

とにかく、一旦この情緒不安定を落ち着かせて服の埃を払ってやると丁度、空中にニュースを伝える速報ホログラムが空に映る。すると、映像のアナウンサーの女性がクールな口調で原稿を読み上げる。

 

【速報です。フランスにて新たな男性のIS適合者が発見されたと…たった今、情報が入りました。】

 

「何?」

 

流牙以外の男のIS乗り…タケルを驚かせるには充分な内容だった。周りも軽くどよめきがあれりが、ダントツのリアクションに少女は少し怯えている。そんな観衆を前に画面越しからアナウンサーが続けていく……

 

【名前は『シャルル・デュノア』……デュノア社・社長…テン・スターリン・デュノア氏のご子息で……】

 

そして、例の『男』であろう写真を出された。白い肌に金の髪で中性的な……あれ?ん?どっかで見たような……

 

「げ!?」

 

すると、少女は苦しい悲鳴をあげた。タケルは見比べる…目の前の『少女』と画像の『少年』を……

 

 

 

え?似てる……というか、全く同じような…

 

 

「あ……おまっ!?!?」

 

「ストップ!」

 

タケルがリアクションをとる前に彼女…いや、彼は口をふさいで先手をとった。

 

「騒がないで……今、騒ぎになると困るんだ。」

 

「…?…?」

 

これは自分を『シャルル・デュノア』だと認める行為とみなして良いだろう。彼は周りの視線を気にしながら、すぐにタケルの腕を引き走っていった……

 

 

 

デュノア社・日本支社へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は経ち、午前0時数分前……

 

 

デュノア社・日本支社の屋上には…

 

 

 

 

「以上が、作戦の全てだ。各位、持ち場につけ……!」

 

千冬の号令を機に散っていくIS乗りたち。流牙は白狼でセシリアと共に……リアンと鈴音がダックで行動をとっていた。一方、残る箒はエンホウと組んでその場に残っている。

 

「箒、よろしく頼む。SG-1共々な……」

 

「あ……ああ。」

 

箒は正直、彼女に苦手意識を感じた。理由としては自分が苦手とする千冬と似通う形容しがたいなにかがあるからだろう……こう、堂々とした雰囲気というかなんというか…

 

「…気負うことはない。お互いに専用機持ちではないが、為すべきことを為す。それだけだ。」

 

「…はい。」

 

エンホウもそれに気がついたのか箒に話かけたが、苦笑でしか彼女は返すことが出来なかった。生憎、箒は不器用と呼ばれる人間の部類だった。

 

その頃、流牙というと……

 

 

 

「すごい、人盛り……」

 

「…ええ、怪盗・ノワールは世界中で絶大な人気を誇っていますから。」

 

ビルから離れた眼下にて多くのまるでミュージシャンのライブのように押し寄せているノワールのファンたちに唖然としていた。皆、興奮しながらギャーギャー騒ぎ、SG-1の男性隊員たちや警察官たちがなんとか支社に近寄られないように踏ん張っている。

 

【それより、流牙……あんた、ドイツの黒兎に絡まれたらしいけど平気なの?】

 

「ああ……大丈夫さ。」

 

同時に鈴音からも通信が入り、あのラウラについても訊かれた。今、彼女ら通称・黒兎隊は自分たちと反対の位置に配置されたらしいが…

 

【気をつけなさい…黒兎隊は黒い噂が絶えないことで有名よ。この作戦の中だって、どさくさに紛れて何するかわかったもんじゃ…】

 

「考えすぎだよ。」

 

【流牙、私からも警告しておくわ。この件、苻礼法師も注意しろって言ってる。くれぐれも無茶はしないで……セシリアも頼んだわよ。】

 

「了解です、リアンさん。」

 

リアンからも心配される中、予告の刻限が迫る……

 

 

 

 

【時間まで……3…2……1………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードゴオォォォン!!!!!!

 

 

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

 

To be continued……





☆裏話

流牙「実は旧タイトルのほうだと俺はユニコーンガンダムが愛機になる案もあった。」

セシリア「アストレイにしたのはユニコーンは実体剣を持っていないのと当時、作者がかじったくらいしかユニコーンを知りませんでしたからね。」

リアン「まあ、流石にIS、GARO、ガンダムの三拍子は読む側からキツイだろ…ってことでオリジナルISにしたの。 」




でも、どうしてもユニコーン×ガロやりたいからガロ×ガンダムビルドファイターズとか考えているんだぜ?だって、デルタプラスとかバンシィとかバンシィとかバンシィとか……


レオン「呼ばれた気がして……」

楯無「読んでないわよ~。」


まあ、しばらくはじめるつもりはないです。fateガロもあるので……では、感想まってます。



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盗~Steel~ 後編


ノワール篇、今回で終了!
次回から、原作沿いになります。


楯無「私の出番、なんか少ないわねぇ…最近……」




 

 

 

ーードゴオォォォン!!!!!!

 

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

突如、粉砕されたデュノア社・日本支社の壁。すると、周りの驚きをよそにそこから白いシルクハットにタキシードの片目眼鏡をした女が現れる。

 

「レディース&ゥッジェントルマン!今宵のショーに足を運んで頂きありがとうございます!!ご期待に応え、ルパン・ザ・ノワール…只今参上致しました!」

 

そう、彼女こそ彼のアルセーヌ・ルパンの再来とれる『ルパン・ザ・ノワール』。大胆不敵で美しい大怪盗だ。彼女の出現にギャラリーたちは湧き、流牙たちは目を見開く。

 

「…そして、今回のお宝『シャドウマイン』は我が手に……」

 

「何!?」

 

おまけに、すでに護衛対象であったはずの暗黒のダイヤ…シャドウマインは彼女の手にあった。馬鹿な…と、エンホウはすぐに護衛に当たっていたはずの隊員に通信を入れる。

 

「こちら、エンホウ……!応答しろ、応答しろ!!」

 

しかし、その時にはビルの中の隊員たちは戦闘不能にされ、セキュリティレベルが高いはずの鉄の扉が開け放たれていた。

 

「では、今宵はテレポートのイリュージョンをご覧いれましょう!」

 

直後、ノワールは閃光と共に消え失せて隣のビル屋上へと現れる。そして、また姿を消して別のビルへ……さながら、テレポートだ。

 

「こ、これは!?」

 

「セシリア、落ち着け!」

 

セシリアはこのマジックにパニックになりかけていたが、流牙は違った。皆がノワールを追う中、彼だけは立ち止まり白狼のレーダーを開く。すると、あの逃げていくノワールに熱センサーの反応が無いことに気がついた。

 

「熱が無い……じゃあ、あれはフェイクの立体映像。ということは…」

 

次いで、熱源センサー…すると、ノワールとは逆方向に行く反応がひとつ。

 

「見つけた!こっちだ、セシリア!!」

 

「ちょ、流牙さん!?」

 

そのまま、白狼のブースターを翻しその場へ向かう流牙とセシリア。

 

 

その頃……

 

 

 

 

例の反対側では黒いISがひっそりと離脱しようとしていたが……

 

「…そこまでだよ!」

 

「!」

 

その前にオレンジのカラーリングをしたISが立ちはだかる。ゴテゴテとしつつも、ブースターに翼に多様な火器を積み、装着者の額にゴーグルタイプのバイザー。金の髪に凛々しい顔立ちはまさに『シャルル・デュノア』その人に愛機の『ラファール・リヴァイヴⅡ』だった。

 

「フランス代表!シャルル・デュノア…ここからは逃がさない!」

 

「…ほう?」

 

すると、謎のISは止まり操縦者であるノワールが顔を晒す。

 

「捉えられるかな?この私を………」

 

その顔は不気味に笑っていた。シャルは間髪入れず、彼女に武装のアサルトライフルをお見舞いし、必中させるが怯む様子は無い。

 

「…なら!」

今度はバズーカを取りだし、ぶっ放す………だが、これもノワールの蹴りで弾かれてしまう。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「まだまだ!」

 

ならばと、近距離格闘戦をしかけるシャル。ブースターを噴かし、ライフルを撃ちまくり…体当たり。これでも、ノワールは余裕ありといった様子だ。

 

「今度はこちらからいくぞ!」

 

一転して今度はノワールの攻撃。殴る、蹴る、腕から伸ばした鞭にで一撃。逆にシャルを追い詰めていく………

 

「お前は知らないようだな………罠にハマったのは貴様のほうだと…」

 

「何を!?」

 

「喰らうついでに教えてやる…貴様はな!」

 

振り上げられる鞭………無慈悲に向けられた言葉の刃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキン!!!!

 

「!?」

 

その真意が語られる前に彼女の腕が白いアームに止められた。見れば、流牙の白狼が抑えており…そこから、勢いよくノワールを殴りとばす!

 

 

ズガッ!!!!

 

「ぐぅぅ!!!!」

 

「…むぅん!!」

 

はじめて、ここにきてノワールは呻き声を出す。流牙は機械の白刃…月牙を構え、彼女を見据える。

これに驚いていたのはシャル……

 

「…白狼……道外流牙…」

まさか、彼がここに現れるなんて夢にも思って見なかった……

 

「大丈夫?しっかり……」

 

「援護しますわ、ここは態勢を立て直しますわ!」

 

さらに、リアンとセシリアも駆けつけてシャルは一度、この場を離れる。これで、3対1…形成は有利。そうなったかに思えた……

 

「クク……」

 

だが、ノワールは笑う。

 

 

 

 

 

 

勝利は未だ、我が手にあると……

 

 

 

「さらけ出せ。」

 

 

「「!」」

 

突如、異変が現れたのはセシリアとリアンだった。リアンは何とか堪えたようだったが、セシリアはガクンッと項垂れるとゆっくりと頭を上げ…リアンを睨む。

 

「…ッ、今…何を!?」

 

「はは……リアンさん、ふふ…」

 

「セシリア?」

 

嫌な予感がする。何か特殊な行動を起こしたノワールの意図などわからないが、不吉な目線と笑いからセシリアに確実にその影響が出ている。

 

「ははは…!!!!」

 

 

バシュ!!

 

「なっ!?」

 

次の瞬間、スターライトをリアンに向けて射つセシリア。間一髪でよけたリアンだが、セシリアは猛攻といわんばかりにティアーズを展開し、襲いかかってきた!

「セシリア、どうしたのアンタ!?」

 

「…貴方が、貴方がいなくなれば…私は!!」

 

明らかに正気ではない。そんな彼女にケラケラとノワールは笑う。逆に怒りを露にしたのは流牙。

 

「貴様!セシリアに何をした!?」

 

「…ふん、これが私の力だ。まあ、お前らには効かないようだが……」

 

見たところ、精神を操る能力か何かか…。確かに、まだ未熟なセシリアが術にはまってもおかしいくはない。ただ、こんな力を持つということは……

 

「…ホラーか!?」

 

「そうだよ、黄金騎士!」

 

ーーキュオオオ!!!!

 

「!」

 

すると、ノワールのISのパーツの一部がスライドして黄金の波動が漏れた。あの鷲頭と同じ、魔導ホラーの波動……これをまともに受けた流牙は白狼ともろとも、弾き飛ばされビルの中へぶちこまれてしまう。

 

「ぐ……うぅ!?流牙!」

 

一方で、リアンもリアンでセシリアのティアーズにスターライトのビームの雨のような攻撃に半ば、リンチ状態。助けようにもむしろ、こちらが助けが必要なくらいだ。

 

「さぁ、どうする?あの嬢ちゃんを見殺しにするか!?それとも、私を見逃して助けるか…?」

 

「…ちぃ!!」

 

大切な仲間か…敵か…。苦渋の決断だが、どちらかを逃せば後は大惨事だ。どうする?

 

 

…どうする?

 

 

……どうする?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁーに、こんな奴に手間取ってんだよ流牙?」

 

 

 

 

「!」

 

 

そんな時だった。

 

『彼』が現れたのは……

 

 

 

「タケル!」

 

「…なんだ、まだいたのか?」

 

青龍刀タイプの魔戒剣を担いで、グイッと立つのはタケル。彼の登場に一瞬、気をとられたノワールだったが…

 

「…はああっ!」

 

 

ガシッ!!

 

「!」

 

「…流牙、タケル!」

 

同時に、鈴音も駆けつけてセシリアをおさえつける!これで、狙いは絞られた。

 

 

「さて、派手にいくぜ…」

 

 

ーーガンッ!!…ギュオオオオ!!!!

 

ここからは、タケルの魅せ場だ。地面に魔戒剣を叩きつけ、自身を回転させながら赤い円を描くと光と共に、深紅の鎧が纏われていく……

 

 

ーーグルルッ!!!!

 

変化した刃と姿はまさに、焔……

 

 

兜は狼でありつつも、竜の意匠もある。その名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 炎刃騎士 漸《ZEN》 』

 

 

 

 

 

 

「うおおお!!!!!!」

 

「きぃ!」

 

 

ーーキュオオオォォン!!!!

 

 

現れた予定外の敵。咄嗟に黄金の波動を放つノワールだが、漸は刃を逆手に構え…跳躍して回避。更に、回転を加えてノワールを懐に飛び込み、一撃。おまけに、蹴りを加えて距離をとる。

 

「グゥゥ!?」

 

ーーォォン…

 

 

「いけえ、流牙!!!!」

 

傷口から漏れる波動…。怯むノワールに、ここから先はと漸は流牙にバトンを渡す。これに頷き、応えた流牙は白狼のブースターを吹かせながら解除し、魔戒剣で目の前に円を描く…!

 

 

ーーキュオオオ!!…ガルルッ!

 

「…はっ!!」

 

直後、円を通り抜け…漆黒の黄金騎士が唸りをあげる!

白狼でつけた加速を活かし、ノワールの機体に飛びついた牙狼。すぐさま、振り払おうとするノワールだがバランスを崩して牙狼と共にアスファルトをゴロゴロと地面に転がってしまう。

 

「ハアアアッ!!」

 

「触るな!」

 

 

ーーキュオオオ!!!!!!

 

「うわああああああ!?!?」

 

このまま、馬乗りとなった牙狼だがノワールの反撃と言わんばかりの波動攻撃に振り払われてしまった。ならばと、身体を起こそうとするが…

 

「でりゃああ!!!!」

 

斬!!!!

 

 

「ぐわあああ!?」

 

続けて、漸が飛びついて魔戒剣を突き立てる。休む間もなく、加えられたマトモな攻撃に流石にノワールも悲鳴をあげた。これはトドメを刺すまとないチャンス…

 

「決めろ、流牙!!」

 

 

「うぐ……うおおおォォ!!!!」

金色を帯びる鎧に苦悶の声をあげながら、流牙は十字の構えをとり…一気に勝負にでる!

 

「…ぐぐ!!」

 

 

斬!!

 

ーーキュオオオ!!!!!!

 

「ぬぅぅぅ…!!!!」

 

最後の意地とノワールは漸を退け、腕の装甲で牙狼剣を貫かせて止めた。無論、そこからも波動が漏れて鎧を金色に染め上げて、牙狼を苦しめる。

 

「はああ……」

 

だが、退く黄金騎士ではない。

ノワールを蹴って、宙を舞うと……

 

「…だあっ!!!!」

 

ズブブ!!!!

 

 

「ぎゃあああああえぇあああァ!?!?!?」

 

トドメの刃を押し込む、ライダーキック。これに、胸を貫かれ…ノワールは自身の愛機ごと金色の波動の爆発を起こし、絶命したのであった。

 

 

ーーキュオオオォォォォ!!!!!!

 

「…ぐあああぁあ!?」

 

ただ、問題はこれで終わらなかった。例の如く、牙狼は金色になり…明滅しながら、辺りを転げまわる。

 

「……だ、誰だ!?」

 

ーーバチ、バチッ!

 

「…か、母さん!?」

 

 

ーーバチチ!!!!

 

「違う……誰なんだ!?ああっ!?」

 

「流牙!くそ!!」

 

鷲頭の時とは比べものにならない苦しみよう……見かねた漸が、牙狼を抑えつけ…刃で腹の紋章を突く!

 

「オラァ!」

 

ガッ!!!!

 

「…がっ!?」

 

 

ーーガチャァァン!!!!

 

「大丈夫か、流牙?」

 

「ああ……何とかな。ぐ…!?」

 

鎧は解除され、元の姿に戻った流牙にタケル。流牙の消耗はかなり激しい……。タケルが支えなければ立つのもやっとといった具合である。

 

「…う……」

 

「セシリア!」

 

「しっかり!」

 

一方のセシリアも気を失い、行動不能となってリアンと鈴音に抱きとめられる。ノワールの洗脳は解けたらしい。

さてさて、残るは……

 

「あの……」

 

「「「!」」」

 

しまった。離脱したとばかり思っていたが、いた……彼、シャルが。まずい、彼は一般人だ…素早く赤札を用意しようとするリアンだが…

 

「あ、待って!黄金騎士・牙狼ですよね?」

 

「え…?」

 

流牙を名指して…突然、告げた。牙狼《GARO》、その名を知るということは……

 

 

 

 

 

「僕はシャルル・デュノア………フリーの『魔戒法師』です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「よし、わかった。そちらのカタはついたのだな。了解した。」

 

少し、離れたエリアで通信を受けた箒はふぅ…と一息をつく。ノワールは魔導ホラーだったらしいが、後始末ならリアンに任せても問題はあるまい。さて、エンホウにも報告しなくては…

 

「エンホウ、道外流牙たちから…………エンホウ?」

 

あれ?先まで一緒だったはず…なのに、気がつけば彼女の姿は無い。いったい何処へ?

 

 

……

 

 

「!…誰だ!?」

 

ふと、気配を感じて振り返る……されど、並ぶビル群に人影は無い。

 

「…気のせいか。」

 

どうも、自分も疲れているようだ。彼女はその場を後にするが……

 

 

「…」

 

 

ビルの背後から……その様子を窺う、蒼く…猛禽のような兜を持つ魔戒騎士がいた。彼はそれを確認すると、闇夜に消えていったのである……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

とある空港の近く……

 

 

 

人気の無い道路を走るリムジンが2台。乗っているのはそれぞれイギリスと中国の外交官だ。

 

「…先程、報告がありました。ノワールは始末されたそうですぞ。」

 

「ほう。これが、あの忌々しいコソドロの名を聞かずに済むか…。」

 

お互い、端末で連絡をとり今回の任について話していた。ノワール撃破は快挙だが、イギリス外交官には気になることがひとつ……

 

「それは良いが、気になるのは新たな目の上のたん瘤候補ですな。」

 

「…デュノアの跡取りですか?」

 

「ああ…」

 

この作戦…実際はあのシャルとかいうクソガキのせいで丸めこまれたようなもの。正直、ここは年長者としてとても気に入らないのだが……

 

「ああ、そうそう…あのガキについて妙だと思ってさっき、調べさせたんですが…。面白いことがわかったんですよ?」

 

「何……」

 

すると、中国の外交官がニタニタと口を開いた。

 

「あのガキ……どうやら、デュノア社長の正妻の子じゃないらしいですよ。今、裏をとってる最中ですが…これはもしかしたら、良いネタになるかもしれませんよ?」

 

「…何だと?あまり、他人の家庭の事情を交渉の材料にはしたくはないがな……」

 

出されたスキャンダルとも言える情報にイギリス外交官はあまり芳しくない反応をする。まあ、自国の利益こそ重視する身であれど悪人ではない…。ましてや、個人の家庭の事情くらいは表だって使える手札にもならないのだが……

 

 

 

 

 

 

……そんな善心も…

 

 

 

 

 

 

 

ズドオォォン!!!!ズドオォォァン!!!!!!!!

 

 

 

 

 

突如、リムジンを貫いた青白いビームによって、粉砕された。車体は木っ端微塵に爆発し、外交官たちはボロボロになって外に投げ出される。直後、目に入ってきたのは顔が影になって見えないスーツの青年と……

 

 

ISを展開解除して、降りてくるエンホウであった…。

 

 

 

【喰ってしまえ……】

 

 

「…」

 

 

彼女は朦朧とした顔で、青年に頭を抑えられながら外交官たちに顔を近づけていく……

 

 

【喰ってしまえ……】

 

 

「……あ…」

 

 

燃え盛る炎の中……浮かびあがる彼女のシルエット。やがて、それは異形に変わり…外交官たちの悲鳴が響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

 

…暗い影は、確実に流牙たちに迫りつつある。果たして…その先は……

 

 

 

 

To be continued……

 

 





さぁ、次回からやっと学園に戻ります。
お待ちかねのシャルも仲間になり、とてもメンバーも賑やかに……

さて、Fate/G.B.に自ホムペでやってるオールライダーSKL・ガロ戦記【翔】もよろしね☆
レオンと流牙も一瞬だけ、出る予定。



☆次回予告

リアン「あの人は憧れだった……でも、理解が出来ない。あの人の光が…。次回『嫉~Laura~』。嫉妬の闇が憎しみの光となる!」





★楯無会長の(ry

楯無「お悩み相談s……」

雷牙「冴島雷牙のお悩み相談所!」

楯無「乗っ取られた!?!?」

雷牙「まあまあ、冗談だから!今日はね、俺と同じ冴島ガロを連れてきたんだ!後輩の!」

シャル「では、早速……カモン!」








阿号『…やはり、人間は滅ぶべきだ。』






楯無「 」

簪「 」


雷牙「間違えた☆」

アルフォンソ「…お引き取りください。」

阿号『待て、ここに来たからには…』



光覚獣身ガロ「…お引き取りください☆」


阿号『…』←帰った


楯無(何か私じゃないのに、申し訳ないことした気分…)

雷牙「本命はこっち!」





風牙「我が名はガロ!黄金騎士だ!!」←右目に眼帯した黄金騎士




雷牙「流牙くんのお気に入りでもある、ガロ戦記【翔】でガロsideの主人公を務める『冴島風牙』!作者の降りキャラだけどね。」

風牙「正確にはホムペ作品のダークキバSKL二世の三番主人公なのだがな…」

楯無(あら、流牙くんと違った寡黙系の独眼竜イケメン…これはこれは……じゅるり。)

簪「姉さん、不潔です。」

雷牙「この眼帯が、良いよね!実は魔導具なんだけど…因みに、鎧も独眼竜!目の色は…今は銀だっけ?」

風牙「昔は緑だった。もう片方の目が無事だった頃だが……」

雷牙「冴島鋼牙の再来と言われるほど強いんだってねぇ~?まあ、その鋼牙というのは僕の父さんなんだけど!」

ラウラ(自慢か!?)

シャル(だね。)

雷牙「というか、似てるよ父さんと!」

風牙「そうなのか?(意外だな……戦い方によくイチャモンをつけられるのだが…)」

雷牙「復讐の鬼だったりとか、恋人できて丸くなったりとか……」



白い法衣の男【…】←父親



シャル「雷牙さん、後ろ後ろ……」


…このあと、父親に長い説教をくらう雷牙。



風牙「連絡だ。オストラヴァさん、待たせているが『牙狼~GYOKAI SENKI~』コラボ篇ちゃんと書いているぞ。ちゃんと、ネプテューヌを就活の合間に作者が一通り見て、しっかり把握して執筆しているから時間がかかっているが…もう少しまってくれ(キリッ」

剛「俺、火炎騎士 狼火《ロビン》もでるぜ?よろしくな!」


楯無(この人たち、何しにきたんだろう。)


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嫉~Laura~

か、感想が最近減って…てか、少ない……始めた頃はあんなに多かったのに。やはり、更新速度の停滞かもしくはキャラ崩壊した雷牙が原因なのか……。

それとも、話がつまらないのか…最近、寂しいです、はい。正直、原因と思われる相談室おまけコーナーはしばらくお休みします。Fate/G.B.も同じくです。




 

 

「ぐぅぅあぁぁぁァ!!!!!?」

 

ノワールを斬った牙狼は金色に輝きながら、悶え苦しんだ。その頭の中には明滅するイメージが浮かんでくる……

 

「……か、母さん!?いや、違う…誰だ!?」

 

駆け抜けたのは母に似た温もり……されど、よぎったのは金髪の魔戒法師の女性……

 

…聞こえてくるのは静かで神聖な歌………いったい…これ……は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第14話『嫉~Laura~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろ、道外流牙!」

 

 

スコンッ!!

 

「いって!?」

 

 

机につっぷしていた流牙は千冬の強烈な出席簿による一撃で目を覚ました。なんということだ……居眠りをしてしまうとはらしくない。

 

「この間の今日で、疲れてはいるだろうが…折角の転入生くらいしっかり、迎えてやれ。」

 

「ううん……」

 

頭をグシグシとしたながら、仁王立ちする千冬に視線を向ける流牙。まあ、起きたなら良いと彼女は『入ってこい!』と一言……

 

すると、昨日のシャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒが白いIS学園の制服を纏い、入ってきた。

 

「紹介するぞ。今日から学生生活を共にするシャルル・デュノアと…ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

「はじめまして!フランス代表候補生のシャルル・デュノアです。本日から、皆さんと同じクラスになりました!よろしくお願いします!」

 

「…ラウラ・ボーデヴィッヒだ。以上…」

 

シャルはなんとも愛らしい挨拶をしたのに対し、ラウラはボソッと一言。愛想の欠片もない……

流牙は微笑みながら、眠たい頭で見ていたが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「キャアアアアア!!!!!!!2人目の男子ぃぃ!!!!!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

「!?」

 

キィィン……と頭の中で反響するような歓声がクラス内で起こり、思わず驚いた流牙の眠気はぶっ飛んでしまった。

 

全く、女子というのは何処からこんなエネルギーがわいてくるのだろう?キャーキャーと騒ぐクラスメイトたちに苦笑いしながら、視線をシャルとラウラに……。すると、シャルは笑顔でささやかに手を振ってくれたがラウラはフンッと顔を背けてしまった。どうやら、今度は昼も夜もさらに大変な生活が待ってそうである。

 

 

 

 

 

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苻礼法師のアジト……

 

 

 

「やぁ~、まさか噂の2人目の男子が魔戒法師だとわね。これで、少しは楽になるんじゃない?」

 

鈴音はソファーに座りながら、う~んと伸びていたが…いつものデスクで苻礼法師は何かの作業をしている。黙々と何かを作っているようだが…鈴音には分からない。

 

「苻礼法師…?」

 

「…いや、そう単純にいくかはわからんぞ。未だにこちらから魔導ホラーに対して有効策は無に等しい…。そして、知らないこともだ。俺たちには攻め手が無い。」

 

…厳しい言葉。だが、真実だ。未だに魔導ホラーは謎だらけだし…ただのホラーのように見破る術もなし。戦力は集まっても防戦ばかりではいずれじり貧である。加え、次いでやってきたリアンも付け加える。

 

「…それに、忘れたの鈴?あの鷲頭だって、デュノア社の人間…そして、その勤める会社の跡取りが魔戒法師なんてまずおかしくない?」

 

「…それも………そうだけど……」

 

確かに……デュノアの人間である両者に関連性を疑うのは確か。おまけにノワールもデュノア社を標的にした。でも、一介の社員と跡とり…怪盗を魔導ホラーという一本の線で繋ぐにはまだ無理がある。

 

「鈴、思うところはあるだろうけど……警戒するに越したことは無いわ。魔導ホラー探知機もまだ完成の目処が立たないんだし……」

 

「…」

 

リアンの言う通りだった。立ち位置は怪しいこの上ない…。足許をすくわれてからでは襲いのだから。だが、苻礼の心配はまた別の所にもあった…。

 

「…今は憶測ばかりではどうしようもない。それより、セシリアはどうした?」

 

「セシリア?特に変わったことは……わかる、鈴?」

 

「…さあ?私達、クラス違うし……流牙のほうが詳しいんじゃない?」

 

 

 

「……そうか。」

 

ノワール戦以降、奴に操られて以来…嫌な胸騒ぎを覚える。何事も無ければ良いが……

 

 

 

 

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ズドオォォォォォォン!!!!!!

 

 

 

「セシリア!」

 

演習場にて巻き上がる煙に白狼を展開した流牙が舞い降りる。

 

周りの生徒たちが心配する中、煙が晴れたクレーターの中にいたのは案の定…苻礼の懸念していたセシリアであった。

 

「いったたたた……うっ、私としたことが…」

 

「大丈夫か、セシリア!?」

 

「へ、平気ですわ、流牙さん…」

今回、空中での飛行演習を流牙としていたのだが突如として、姿勢を崩して落下してしまったのである。これには周囲の生徒たちも騒然となり、同行していた千冬も駆け寄って様子を確かめる。

 

「大丈夫か、オルコット?顔色が優れないようだが……」

 

「心配しすぎですわ……ちょっと、目眩がしただけですよ。」

 

「…ふむ。なら、下がれ。コンディションが万全で無い者に空を飛ばせるわけにはいかん。」

 

「だ、大丈夫です…私は!」

 

「教師として、お前の無理を認めるわけにはいかないからな。保健室で休んでいろ。良いな?」

 

「はい……」

 

セシリアの様子は健全とはまず、判別は難しかった。ただでさえ白い肌の血の気の無さから、千冬は本人が意志がどうであろうと休ませるために保健室に押し込むことにした…。本当にらしくない光景で、流牙はおろか他の生徒たちも心配せざら得ない。

 

「セシリア、らしくないよ本当に。どうしたんだろ?」

 

「…最近、顔色も良くないし……」

 

「知らないの?流牙くんに負けてから、かなりハードな練習してるらしいよ?きっと、無理がたたったんだよ……」

 

ちらほらと聞こえる声…それは流牙の胸の隅を微かに痛める。心当たりならある…それは先日のノワール戦。操られた彼女は自らの意志に反してリアンを襲った…。あの時、鈴音が駆けつけなくては更なる大惨事になっていただろう。

 

だから、彼女は……

 

 

 

(私は……こんなところで止まっていられない。早く…1秒でも早く貴方たちの背中に……)

 

 

 

…そんな様子を遠目からラウラは自身の黒い砲台のようなISを展開して眺めていた。白狼を展開する彼と交互に……

 

 

 

 

 

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『浮かない顔をしているな、小僧?』

 

「…うるさい、ザルバ。」

 

あれから、授業をサボって屋上に寝そべる流牙。指の相棒は小うるさいがさして気にも留めない。むしろ、それよりも気にしなければならないことがある。晴れ渡る青空と正反対に彼の心を曇らせるもの……

 

「なあ、俺が……セシリアや鈴たちをこっちに引き込んだのは正しかったのか?」

 

今まで、自分が選んだ選択は良かったのか?最良なのか?学園内で情報を得るにも動くにもリアンも箒も…今ではシャルもいる。なのに、これ以上…巻き込んで傷つけさせても良いのだろうか?

 

 

 

「…どうしたの、流牙くん?」

 

「シャルル……」

 

そんな時、ふらりと現れたのはシャル。少し疲れた顔が見えるのは他の生徒たちに質問攻めを喰らったからか…まあ、新たなる男子の転入生なのだ。仕方あるまい。彼は『隣良い?』と訊ね、流牙の横に座ると共に空を眺める…。

 

「苻礼法師から大体の事情はきいたよ……。セシリアと鈴は君が仲間に引き込んだ…だよね?」

 

「…」

 

「…君はそれが本当に正しかったのか迷っている?でしょ…?」

 

「…」

 

流牙は答えなかった。別にそれくらい、いずれ知られることだし図星であることが気にくわなかったからだ。それでも、シャルは続ける……

 

「本来、魔戒法師だって幼い日々からずっと、騎士と同じように鍛練してなれるもの。いくら、苻礼法師が優れた法師でも、セシリアや鈴がリアンや箒に短時間で追いつくには無理がある。身も心もね……だから、迷っているんだよね?自分の選んだ選択に……」

 

「…」

 

ああ、図星だ。反論の欠片もでないくらい図星だ。ノワールの戦いはセシリアだけではない、流牙にも影響を与えている。迷いというものを……彼の心に植えつけたのだ。でも、それは…

 

「…優しいんだね、君は。」

 

流牙の優しさだとシャルルはわかっていた。すぐに使えないと切り捨てるわけでもなく、無理にでも戦いという道をとらせるでもなく『迷い』を持つということは相手のことを考えているということだ。

 

「…優しいだけじゃ、セシリアも鈴も傷つけるだけだ。」

 

無論、それだけでは意味すら為さぬと流牙は解る。その答えを待っていたかのようにシャルルは告げた。

 

「なら、僕たちの力で護り抜こう……君は自らの選択と2人の命と意志に『責任』を持つべきだ。『守りし者』として……」

 

「!」

 

その時、流牙はハッとした。そうだ、自分には黄金騎士としての力がある。守りし者としての力が……

なら、答は簡単じゃないか…『守り通せば良い』。剣はホラーを倒し、鎧は己と大切なものを護るためにある。何を迷うことがある?自らを鼻で笑った流牙は勢いよく起き上がり、シャルルを驚かせると何時もの真っ直ぐな瞳を取り戻した。

 

「…わっ!?ご、ごめん…偉そうなこと言って……」

 

「いいや、良いよ。おかげで目が覚めた…ありがとう、シャルル。」

 

「あ……えへへ。ありがとう。まあ、実は苻礼法師の言葉をそのまま受け売りしただけなんだけど……」

 

 

……最後の言葉だけに、顔をしかめたが気にしないことにしよう。その時だった…

 

 

「おい、流牙!!」

 

「タケル…?」

 

タケルが慌てて、走ってきたのは……

何やら、ただ事ではなそうだが………

 

 

 

「大変だ……リアンと中華女が…!ドイツ野郎にっ!」

 

「「!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あぁぁぁぁう!?」

 

宙を舞う百花繚乱を展開したリアン。アリーナの地面をバウンドして、武器のハンドガンを構えるが、相手のラウラ…IS『シュヴァルツェア・レーゲン』は不遜に立っている。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

黒い雨…シュヴァルツェア・レーゲンの意。相応しいとしか、リアンには思えないほどラウラのISは凶悪に見えた。なんせ、『攻撃が通らない』のではいくらリアンが優れた魔戒法師で身体能力を持っていてもジリ貧になるのは目に見えていた。

 

「やぁぁあァ!!!!」

 

「ふん…」

 

鈴音が背後から襲いかかっても、手をかざすだけで『止められる』。そのまま、蹴りを叩きこまれアリーナの壁に埋め込まれてしまう。

 

「ぐ……!?」

 

「鈴!」

 

「他人の心配をしている場合か…?」

 

思わず、声をあげたリアンだがこの隙をラウラはワイヤーを飛ばし、両者に巻きつけ動きを奪う。しまった!?と思った時にはもう襲い……勢いよく、力任せに引っ張られたリアンと鈴音は空中でサンドイッチされ地面にクレーターができるほどまで叩きつけられたのだ。

 

「が……ぁ……」

 

「…何なのよ…これ……」

 

「……つまらん。」

 

やれやれ、どうしたものだ…少しは期待したのだがとラウラは溜め息をつく。せっかくの専用機持ちと聴いていたのにこのザマか…。ここまで、一方ゲーになれば最早、愉快なんてものを通り越して落胆だ。もう良い、終わらせようと…彼女は鋭い装甲の爪からプラズマ手刀を展開させてズシリ、ズシリ、と歩いていく。哀れな獲物にトドメを刺すために……

 

「ゲームオーバーだ。」

 

キラリと鋭く光る眼光…まずい、彼女は本気だ。いくらISには能力の制限がかけられて『絶対防御』と呼ばれるものがあっても…ただではすまないとリアンは察した。同時に……

 

 

 

「うおおぉぉぉぉぉおお!!!!!!!!!!」

 

 

「!」

 

 

待っていた『彼』がこの場に駆けつけてくれたことに……

 

「来たか、道外流牙!」

 

「これは何の真似だッ!?ラウラ!?」

 

白狼を展開する彼は怒りを目に走らせていた…。握る月呀も心無しか、震えているような……

だが、ラウラは待っていた宿敵に誰でもわかるくらい身震いした。

 

「決まっているッ…それはお前と、戦うためだ!」

 

…『歓喜』に。

 

「お前が、何故…教官の寵愛に足る存在なのか……!何故…私はその存在になり得ないのか……!それを知りたい!!」

 

半ば、狂気さながらの感情を剥き出しにしたような言葉と共にプラズマ手刀で襲いかかるラウラ。流牙は月呀でなんとか受け止めるが、その攻勢は荒々しく凄まじい…

 

「くっ!?教官とは誰だ!?俺は…そんな奴、知らない!」

 

「知らぬだと?ああ、そうか…ここでは先生と呼ばれているのだったな…。『織斑先生』ッ…とな!!」

 

「何!?」

 

そして、戦う理由は千冬にあるらしい。まさか、ドイツの軍人たる彼女と何の関係が…と思ったが、考えている暇はない。僅かに距離をとられた途端にシュヴァルツェア・レーゲンの最大の特徴である右肩の大型レールカノンの砲口が向けられた。咄嗟に、再び間合いを詰めた流牙だったがすぐに失策だったと知る。

 

「かかったな。」

 

「!」

 

胸あたりを一文字に切り裂こうとした月呀が…何もないはずの空間で『止められた』。まるで、岩にでも剣をめり込ませて抜けなくなった感触だが、逃さぬと両手のプラズマ手刀が牙を剥く!

 

「ぐぅぅ!!!!」

 

 

バチィィィィ!!!!!!

 

反射で両腕でこれを防御し抑えた流牙。月呀が使いものにならない以上、仕方ない判断だがこれと呼応するように異変が起こる。

 

 

 

…ォオッ!!!!!!

 

 

突如、白狼とシュヴァルツェア・レーゲンのボディにフレームにそって走る金のライン…。まるで、呼びあうかのように光るそれは『ナニカ』に似ていた。

 

「あれは……」

 

目を見開くリアンの脳裏に浮かぶのは鷲頭とノワール…

そう、あれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導ホラーと同じ波動の光だ…。

 

 

 

 

 

To be continued……

 





☆次回予告

シャル「その強さは光…生きる道。次回『幻~ Brunhild~』…その目に映るのは幻、呑まれれば闇になる。」



感想お待ちしてます。


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幻~Brunhild~

今回は書きたかった話なので、すぐに投稿しました。

このタイトルの意味は後々、わかります。2つあります、はい。


では、どうぞ。


 

「「うわあぁぁ!!!!!?」」

 

 

何が起こったは両者には解らなかった。ただ、お互いの光に弾きとばされ、共に無様に地面に落ちたのだけは確か。なんとか、ブースターを噴かして体勢は立て直したが流牙には動揺が走る。今まで、学園を訪れる者という前例はたしかにあった…。だが、今の現象は目の前の彼女が『魔導ホラー』ということを示すには充分すぎたのである。

 

「な、なんだこの光は…!?」

 

幸い、彼女はまだ怯んでいるようだがどうする?生徒がいるアリーナのど真ん中で牙狼にはなれないどころか、魔戒剣を出した時点でアウト。しかし、白狼で魔導ホラーは倒すのは至難だ。リアンも鈴音も満身創痍…箒とセシリアはこの場にいない。アグリやタケルも感知したとしても、それまで持つか……

 

そんな時だった。

 

 

 

「やめんか、馬鹿者が。」

 

「!、教官!?」

 

いつの間にだろう……ラウラの前に千冬が立っていた。これに、我にかえったような顔をするラウラだったが、すぐに悔しげな顔をしながらその場を飛び去った。どうやら、ひとまずの危機は去ったようだ。

 

「道外…大丈夫か?」

 

「あぁ、なんとか…。それより……」

 

「ふん、わかっている。奴と私の関係…だろ?」

 

まず、身を案じられることより大事なことがある。察していた千冬はやがて、ラウラとの関係について話すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第15話『幻~Brunhild~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS……今は、スポーツの一環とされているがその実は『兵器』の類いだ。類いではあれど、兵器としてまだ使われておらず…スポーツとしてならすでに世界大会まで行われる程だ。そんな過去に、幾度か行われた世界大会において鬼神のような強さを発揮し、優勝の座を我が物にした女がいた。

 

『ブリュンヒルデ』と異名がいつしか、ついてまわり……

 

 

 

 

 

 

……今、彼女『織斑千冬』はIS学園にて教鞭をとっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこと、今さら言われなくても知ってるよ。」

 

保健室……セシリアに引き続いて、リアンと鈴音も運ばれてきたこの場所で千冬は流牙に語っていた。ただ、今、語ったそれは流牙だけではなく周知の事柄である。

 

「そうだろうな……だからこそ、お前たちは私に近づいた。だろ?」

 

千冬は壁に寄りかかって何の気も無しに会話していたが、セシリアと鈴音はあることが引っ掛かる…この言い回し、何か奇妙なものがある。『お前たち』とは……

 

「あの、織斑先生…その……もしかしくなくても、流牙さんとはかなり以前からお知り合いで?」

 

そう、入学初日から確かに千冬と流牙の間柄はまるで見知った者同士のようであった。というより、幾つかのやり取りは親しいと行ってもいい。すると、千冬は少し驚いたような顔をした。

 

「なんだ、お前ら知らなかったのか…?」

 

「「?」」

 

「あ、そういえば話してなかったっけ?」

 

知らない…何を?同時に流牙はあることを伝える。結構、わりと大事なことを……

 

「千冬先生はセシリアやリアンよりずっと、前から俺達の『協力者』だよ。」

 

「「え!?」」

 

協力者……そうだ、確かに生徒まで抱えていて先生に協力者がいてもおかしくはない。それに、鷲頭・ディアーボ戦もアリーナに被害がでたのにあまり話題やらにならなかったのも妙だし、セシリアや鈴音…流牙たちが消灯時間に夜の仕事をしていても、誰にも気がつかれないなんてそもそもおかしい。そう……全ては千冬が裏で手をまわしていたのである。

 

「…全く、面倒な仕事を押しつけられたものだが『借り』があるのでな。それに、苻礼法師とも昔は付き合いがあってな……その縁だ。」

 

世の中、地味に狭いものだ。いや、まずは優先すべきことがあるのだ。

 

「…まあ、その話は今は良いだろう。まず、昔話をしてやろう…ラウラ《アイツ》との関係はこれで追々、わかる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・Side千冬

 

 

私はかつて、IS世界大会の2連覇をかけて日本代表として戦っていた。その時、ある事件が起こり……決勝試合を放棄し、ドイツ軍の助力を得てその解決に向かった。事件は結局、かたつけることが出来なかったが結果はどうあれドイツ軍に恩ができた私は『教官』として1年もの間…ドイツ軍のIS部隊を鍛えることになった。

 

その中で、出逢ったのが奴……ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 

逢ったばかりの奴は脱け殻だった。文字通り、腑抜けとレッテルを貼られていたが私はアイツを『教官』として鍛えなおした……そして、自らの足で立てるようにと。

だが、結果は半分成功・半分失敗……任期を終える頃、奴は見事に立ち直ったかにみえたが私の存在に完全に酔っていた。まるで、神を崇拝する勢いでな…。なんとかしてやりたかったが、時間がたりず…私は任期満了で日本に戻ることになったのさ。

 

 

 

 

 

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「…そして、ノワールの件で再会。全くの変わらない様に驚いたよ。私はアイツの中ではずっと『教官』だったんだからな。」

 

 

…成る程、これがラウラと千冬の『教官・訓練生』という繋がり。これは理解に値するが、まだ謎が残る。

 

「千冬先生、アイツとの関係は分かった。でも、アイツが俺に拘る理由がまだ……」

 

「…」

 

一番、重要なところ…ラウラが流牙に固執するわけ。すると、千冬は少し間をおいて語りはじめた…。

 

「すまないな、道外。それは私が原因だ……お前に『弟』の影を重ねたばかりに、お前に嫉妬したのだろう。」

 

「!」

 

ハッ、鈴音はそれが誰のことか察した。この場において、それを知るのは千冬と鈴音のみ。

 

「弟?初耳だけど……」

 

「セシリア、知ってた?」

 

「…初耳ですわ。」

 

「僕も……」

 

 

「ふん、知るわけはあるまい……ずっと、行方不明なのだからな。」

 

 

あ…しまった、これはデリケートな部分的だと察した流牙たち。だが、千冬は気にすることなく窓から入る夕日に頬を哀しげに照らす……

 

「気にするな。ただ、歳も近いだろうし…一番、親しい男だということだけでお前と弟の『一夏』を重ねてしまった私が悪い。そして、このことをラウラに悟られたことが事の発端……今回の責任は私にあるといっても、他言ではない。」

 

ブリュンヒルデ……世界最強の女、織斑先生…幾つもの肩書きを背負っていても、織斑千冬は……『弱さ』を持っていた。そんなものが垣間見えた気がした流牙……

 

「自分を責めないで……千冬さん。俺は弟にはなれないけど、側にいることはできる……だから…」

 

せめて、共にいるくらいはできる…『先生・生徒』の関係であろうと。この流牙の励ましはとても暖かく千冬には感じられた……

 

「すまないな、流牙。こんな『姉』としても、『教師』としても、出来損ないで……」

 

そして、笑った…。こんな表情、セシリアたちは初めてみたと思う。これが、流牙の魅力…強さに兼ね備えられた優しさ。笑顔。

 

…いつまでも、見ていたいがリアンは心を鬼にし、現実を突きつけることにした。

 

 

「…織斑先生、大事なお話があります。」

 

 

…それが、彼女の教え子が殺しあうことになるのだとしても……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

…夜にさしかかるアリーナ。まだ、辛うじて日の光がある中…そのど真ん中にラウラの姿があった。

 

「教官……お呼びとのことでしたが?教官?」

 

近づいてくる人影に、自分を呼び出した人物だと思って振り向いたが…その黒い魔法衣に違う人物だと察した。

 

「こんばんは……ラウラ。」

 

「…貴様、何故ここにいる?」

 

因縁の相手、道外流牙。制服ではなく、夜の仕事をする時の魔法衣を纏い…傍らには白い魔戒剣を携える。

 

「聴いた……千冬さんから全部。君は俺を試していた…そうだろ?」

 

「フム、教官が話したのか……ならば、貴様はどうする?私と戦うか?」

 

「あぁ、それでも構わない。でも、これだけは聴いてほしい……千冬さんは、いや…織斑先生は君が思っているほど強くはない。君の持つ『教官』の姿を押しつけるのはやめろ…」

 

「何…?」

 

「君は親しみを込めているかもしれないが、ここでの彼女は教官じゃなくて『織斑先生』だ。ブリュンヒルデでも、世界最強の女でもなく『織斑先生』なんだよ!」

 

「黙れッ!貴様に教官の何がわかる?」

 

ラウラは怒る…。自分の心の中心を否定された彼女はレーゲンを展開し、右肩のレールカノンを流牙に向ける。対して、流牙は魔戒剣を鞘から引き抜き、構えをとった。

 

「君こそ、何がわかる!?『教官』としての姿しか知ろうとしなかった君に何が解る!?」

 

「うるさい!」

 

「…君は知るべきだ!もっと、千冬先生がどんな『人間』であるかを!彼女は『神』なんかじゃない!!」

 

「黙れぇええええ!!!!!!」

 

 

ーーズドォオオ!!!!!!

 

瞬間、放たれるレールカノン。人間が当たればひとたまりもないそれを流牙は跳躍してかわし、魔戒剣で襲いかかるプラズマ手刀を受け止めた。

 

「貴様がッ!貴様ごときがッ!!!!教官の名を馴れ馴れしく呼ぶなァ!!!!!!」

 

吐き出される怨の言葉。激情を露になったそれを流牙は攻撃的共に一身に、受け止める。すると、呼応するようにシュヴァルツァ・レーゲンのフレームが金色を帯びていく……

 

 

ーーキュオオォォォォン!!!!!!

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「ぐぅぅ!?」

 

また、先のように反発しあった磁石がごとくぶっ飛んでいく両者。お互い、なんとか着地するが…ラウラからは右目から眼帯が外れて金色の目が露出していた。

 

「許さん……許さんぞ…」

 

 

【……倒せ…】

 

 

「許さん…」

 

 

【…を倒せ…!】

 

 

「許さぁぁぁん!!!!!!」

 

 

 

【黄金騎士を…倒せ!!】

 

 

 

「!」

 

 

ゆっくりと、立ち上がったラウラ…同時に金色の光からズブズブと赤黒い光へと彼女の愛機は溶けるように変貌していき、ついにはその姿は『異形』となる…

 

「うあァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

主さえ、取り込みISとしてのシルエットを残しつつも…それは紫と白の毒々しい有機的なホラーの色。まるで、千冬がISを纏った姿に顔に仮面をつけた姿。

 

「あれは…」

 

物影から眺めていた千冬はその姿がかつて、世界大会で栄光を勝ち取った時の姿の自身に重なっているものだと一目で察した。この魔獣『魔導ホラー・ブリュンヒルデ』は…ラウラの心にある千冬の強さを歪めて形にしたものだと…

 

「むぅん!」

 

『オオ!!!!』

 

すぐに、牙狼を召喚しようとした流牙だったが即座にブリュンヒルデに手刀で魔戒剣を弾かれてしまい、丸腰になってしまう。

 

「流牙くん!」

 

まずいと、隠れていたシャルに箒がISを展開してブリュンヒルデを止めにかかるが、その周りに結界のようなものが張られ動きが止められた。明らかにラウラのISの能力が魔導ホラー化したものだ。

ブリュンヒルデは動けない彼女たちを出現させた禍々しい剣で凪ぎ払うと、切っ先を流牙に向ける。

 

「くっ!」

 

せめてもと、白狼を展開した流牙だが魔導ホラーと化したISにいくらなんでも太刀打ちはできない。月呀すら、力任せに弾かれ…一閃、二閃とシールドエネルギーを削られる。辛うじて、三撃目は白刃どりをしたが刀身は既に流牙の右肩にくい込んでた…。

 

 

【《流牙……ホラーになった者には情を捨てろ!》】

 

(わかってるよ、そんなこと…!!)

 

脳裏に浮かぶかつての苻礼の記憶に心の中で答え、剣を押し返す。が……今度はブリュンヒルデは剣を捨てて流牙の首を締め上げにかかる。流石にISの防御性能が高く、流牙の身体能力が優れていてもこれは簡単に彼の首をヘシ折ってしまうだろう。

 

 

「……ぁぁあああ!?」

 

悲鳴をあげる流牙…

 

その時だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【助け……て…】

 

 

 

 

「!」

 

 

 

確かに聞こえた…ラウラの声。

間違いない、彼女はブリュンヒルデの中で生きている。確実に……

 

「おぉぉらァ!!」

 

『!』

 

このタイミングとあわせるように突如、物陰から飛び出してブリュンヒルデに張りつく漸。どうやら、頃合いとみて援護にきたようだ。

おかげで、ブリュンヒルデは流牙から手を離し…漸を振り払おうと暴れまわる。

 

「シャルルッ!!今だっ!」

 

「うん!」

 

漸の合図で颯爽とアリーナを駆けるシャル。ブーストして向かう先には壁に刺さった流牙の剣……本来なら超重量で持ち上げることすらかなわないが、ISなら……

 

「流牙くん、受け取って!」

 

 

ーーボゴォォン!!!!

 

触れずとも、速度と持ち前の機械故のパワーで蹴飛ばすぐらいはできる。シャルからのパスに気がついた流牙はまたこれを、キックしてブリュンヒルデにぶつけると白狼を解除して空をヒュンヒュンと舞う愛剣に念じる……すると…

 

 

ーーギュオオオッ……グルルルッ!!!!!!

 

「…はっ!」

 

円の軌跡が主の手を離れながらも描かれ、そこから漆黒の鎧が召喚されて牙狼が見参。それだけではない、構えをとると同時にまだ金色の波動を浴びていないにも関わらず、漆黒の鎧は黄金に輝いたのだ…。

 

「…うおおおッ!」

 

しかし、今はこれに意を介している時ではない。牙狼剣を構えて、地面を踏み込みブリュンヒルデの胴体を斬り裂くと黄金の波動の漏れる傷口から腕を突っ込んでラウラを引きずりだす…!加えて、漸が異形の首を斬り落とし3人は一気に離脱する。

 

『……ォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』

 

コアたるラウラを失ったブリュンヒルデは形を崩し、傷口から女性の腕とおぼしき職種を次々とはやし…牙狼とラウラに伸ばす………が…

 

 

 

ーードスドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!

 

『!』

 

 

「これで、終わりだ。」

 

理性なき獣など、格好の的といわんばかりに牙射が現れ、蜂の巣…もとい、矢で針山にした。トドメといわんばかりのこれらにとうとう、ブリュンヒルデは地に伏したのであった。

 

「…やったぜぇ!完全、勝利!!」

 

「ありがとう、シャルル……おかげで助かったよ。」

 

「えへへ、大したことないよ。それより、ラウラは…?」

 

 

 

勝利の余韻を味わうのは束の間……すぐに、牙狼の腕に抱かれるラウラの安否を確認。千冬も駆け寄り、牙狼から彼女を受けとると…様子をみて告げる。

 

「…大丈夫だ、意識を失っているだけのようだ。」

 

「……よかった。」

 

本当に…完全勝利だ。魔導ホラーも討滅・ラウラも無事。目立った被害は白狼のダメージくらいだろう。

鎧を解除し、皆が笑う。牙射もまた然りでアグリは弓の弦を弾いてその場を後にしようとするが……そこに、箒の叫びが響く!

 

「楠神!まだ、生きているぞ!!」

 

 

『ウウゥ……!!!!』

 

「何!?」

 

なんと、針山となり息絶えたと思われたブリュンヒルデがムックリと動き…野獣のようにアグリに襲いかかってきたのだ!咄嗟に弓で防御するが、力任せに殴りとばされて壁に叩きつけられてしまうアグリ。

 

「…ぅ……あ!?」

 

この時……アグリは気がついた。自分の弓の弦が……切られていたことに。その顔は自身も不遜さも消えた、あっ…とした表情だった。

 

「俺の…矢が……」

 

『ォォオオ!!!!』

 

「逃げろ、アグリ!!」

 

再度、アグリに襲いかかるブリュンヒルデ。流牙が警告を発するが、彼は糸が切れたように動かない……。すかさず、箒が身を挺して盾になろうと立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬!!

 

 

 

 

「「!」」

 

 

不意の方向から箒の目の前を横切った『ナニカ』かが…ブリュンヒルデを両断した。絶命の瞬間、波動が炸裂したため目が眩んだが、明らかに何者かがブリュンヒルデにトドメを刺した。

 

 

「…な、なんだ?」

 

見上げれば……夜空に消えるような猛禽の翼を見た。嘴のように鋭い兜だが…間違いなく、魔戒騎士。持つ日本刀タイプの刃は間違いなく、魔戒剣。されど、流牙たちはこのような騎士は知らない。

 

「…」

 

騎士は一瞥するように、滞空すると…やがて、闇夜に消えた。一体、何者なのだろう?一難は去ったが…謎がまだひとつ。

 

 

……物語はさらに、混迷の中へ入っていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




☆次回予告

シャルル「その名が偽りなら、存在も偽りなのだろうか?存在が偽りならそこにいる意味は?白日に晒された真実は彼と少女の運命を変える。次回『名~Name~』。どの生き方も自分の意志。己の足で立ち上がれ!」



はい、最後の騎士はお察しの方もいるとおもいますが『幻影騎士・吼狼』です。この話のタイトルはラウラの千冬に対するブリュンヒルデとしてのイメージに、吼狼の『幻』です。さて、次回はお察しのあのイベント……はい、あれです。


では、感想お待ちしてます。


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名~Name~

 

 

ブリュンヒルデ戦後……なんとか救出されたラウラは数日は経つも、意識は戻っていなかった。未だに病室で静かに瞳を閉じている…

 

撃破されたブリュンヒルデ……もとい、ラウラのシュヴァルツァ・レーゲンの残骸とコアは学園側に回収されており、モニタリングされたデータを暗室の中……千冬と麻揶は見ていた。

 

「こんな…、まさかこんなものが……『VTシステム』なんて。」

 

「ああ。ヴァルキリー・トレースシステム……かつての私の戦闘データを忠実に再現するとは、随分と酔狂なことをしてくれる輩がいたものだな。」

 

「…それにしても、詳細は不明ですね。ボーデヴィッヒさんとの癒着の跡といい、未知の物質といい…これを止めた流牙くんから何かわかることは…?」

 

「いや、奴も止めるだけで手一杯だったらしい。何にせよ、私の可愛い教え子を実験体《モルモット》にしてくれたのだ……礼を返さなくては貰わなくてはなるまい。」

 

「…怖いです、織斑先生……」

お礼まいりする気満々の千冬に怯えながらもキーボードを操作して手順を踏む麻揶。まずは、この事実をラウラの祖国たるドイツに突きつけるべきだろう。このあとの事は麻揶に任せようと、千冬は外に出てある場所に向かう……

 

 

 

 

 

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「さて、調子はどうだ苻礼法師…?」

 

「ああ。これなら『アレ』が創れそうだ。」

 

彼女が訪れたのは、なんと苻礼法師のアジトだった。苻礼は魔導筆でフワフワとブリュンヒルデの斬り落とされた腕のユニットを操り、水の入った壺の中に放り込む。すると、ジュワッ!!と煙が上がり千冬は顔をしかめた。

 

「……これが、ソウルメタルの錬金か…?」

 

「ああ。ISの部分と剥離すれば良質なソウルメタルが獲れるだろう。それに、少しはデータが吸い出せるはずだ。」

 

「…」

 

ソウルメタル……魔戒騎士の纏う鎧や魔戒剣をはじめとしたホラーを狩る者たちにとっては縁が深い超重量の物質。一般の世界中にはまず出回らないが、理由はこの物質の由来がホラーにあるからである。無論、魔導ホラーといえど例外ではなく…むしろ、これから獲られるソウルメタルはかなり質が良い。

故、こっそりと千冬が横流ししたブリュンヒルデの腕を錬金しているのだが、最中……2人とも、暫し無言であった。

 

「…」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ボーデヴィッヒは何故、魔導ホラーになった?」

 

「…」

 

その沈黙を破ったのは千冬。彼女は静かでこそあったが強く知りたかったのだ…何故、自分の教え子が魔導ホラーになったのか?ホラーになった人間は助けられないはずなのに、どうしてラウラは助かったのか?疑問は幾つも浮かぶが苻礼は黙りを続ける……

 

「…あの翼の騎士といい、苻礼……まだ、何か多くのことを隠しているんじゃないのか?」

 

「…」

 

更に問われようと、尚も黙る……。もう、隠し事があると言わんばかりの表情であったが、やっと彼は口を開く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ自身は……恐らくは魔導ホラーになっていない。むしろ、なり損なった…。」

 

「…なり損なった?」

 

「ああ。推測だが、ボーデヴィッヒは仮にも軍人…となれば、隙は少ない。だから、奴のISを魔導ホラー化させ…あのVTシステムごと、ボーデヴィッヒを取り込もうとした。あれが、完全な魔導ホラーとなっていたら俺達が束になっても敵わなかっただろうな。」

 

推測……にしては、妙に確信を持っているような気がした。確かにラウラと彼女の愛機とは人間と機械であるに関わらず、癒着の跡があったのは事実。あれが、魔導ホラー化の影響なのは疑うまでもないが、結局は魔導ホラー化そのものの原因は不明。

 

いや、千冬は……少し心あたりがあった。

 

 

 

「苻礼法師……失礼を承知で訊く。魔導ホラーの元凶は…『もう1人の貴方の娘』か…?」

 

「…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「がりゅっち、元気してた~?セッシーもだいぶ元気になったみたいだね~?」

 

「のほほんさん!」

 

「心配かけましたわ。」

学園の廊下では流牙と回復したセシリアは茶髪にツインテール+ロングヘアーな小柄な少女と話をしていた。彼女は『布仏本音』…通称・のほほんさんで相性が通る文字通り、のほほんとした娘である。余った制服の袖をブンブンと振り回し、流牙らセシリアの周りを元気に跳ね回る姿はなんとも愛らしい。

 

「セッシー、あんまり無茶はしちゃ駄目だよ~?クラス代表の仕事に無理なトレーニングをするから、この間みたいに落っこちちゃうんだよ~?がりゅっちもセッシーがまた無茶してたら止めてね!」

 

「ちょ……」

 

「うん、わかってるよ。」

 

「なら、良かった!あ、そうだ!私、用事あるんだった……じゃあね~。」

 

やがて、本音は風のように去っていった。まさに、マイペースを絵に書いたような女の子だ。

 

「…まあ、のほほんさんの言う通り…あんまり無茶しちゃ駄目だよセシリア。」

 

「流牙さんには言われたくありませんわ!でも……気をつけます。それはそうと、そろそろクラス対抗のダックマッチでは?」

 

流牙にも注意されながらもそこから、話題をきりかえたセシリア。クラス対抗のダックマッチ…確か、代表2人をクラスから選出してトーナメント勝ち抜きだとか。それには、外国の要人もくるから流牙は間違いなく出る羽目になるだろう。問題は誰と組むかだが……

 

「対抗マッチね……まず、セシリアは休まないといけないし……。やっぱり、男子同士でシャルルと組むことになるかな。」

 

「まあ、そうなりますよね……男子ダックが話題にならないわけがありませんし…」

 

そこらは大人の事情が絡むことくらいはすでに、察している。何にしろ、セシリアが出場することはかなわないはず。仕方あるまい。

 

「そういえば、シャルルと同室になったんだよな…このことも含めて色々と相談してみるか。」

 

「では、私はこれで…」

 

「うん、またあとで。」

 

なにはともあれ、シャルと相談しなくてはならないだろう。男子同士ということで、同室になったこともあり自室前にて流牙はセシリアと別れた。開けた瞬間に、また楯無がいたのでお約束のセリフを言われる前に放り出し、ドアにカギを閉める。

 

「…ちょっと、流牙くん!?ノーリアクションは酷いんじゃない!?」

 

「他人の部屋に勝手に入るよりマシですよ。また千冬先生呼ばれたい?」

 

「あ、それはご勘弁!?」

 

全く、いい加減にしてほしい…それに、流牙の部屋にはアジトに繋がるゲートの他にも幾つか魔導具といったアイテムがある。あんまり、物色はされたくはないのは事実…下手をすればこちらの事情に勘づかれかねない。

 

「流牙くん~、どうしたの~?」

 

「シャルル…?あ、シャワーか?何でもない!」

 

どうやら、シャルルもいたようだがシャワーを浴びてて楯無に気がつかなかったようだ。特に気にすることなく、物色の痕跡がないかバッグをチェックしていると壁のゲートからタケルが現れる。

 

「ふぅ~…よう、流牙!シャワー借りるぜ?アグリの奴がアジトのシャワーから出てこねぇんだよ…」

 

「残念、ここもシャルルが使ってる。そうだ、これ渡しといて!」

 

彼のお目当てはシャワーらしいが、先に使う者がおり…ついでにと、流牙に代えのシャンプーの容器を投げ渡されてげんなりとしながらもシャワールームに向かう。

 

「お~い、シャルル!代えのシャンプー……え?」

 

「…え?」

 

 

「?」

 

ドアを開けたまでは良かったが、突然……間の抜けた声と沈黙に流牙は首をあげた。どうしたのかと思っていると、目の焦点があっていない明らかに動揺しているタケルが戻ってきた。

 

「…タケル、どうした?」

 

「……あ、あ…ありのまま起こったことを話すぜ!?ドアを開けて、シャンプーを渡そうとしたらなシャルルが『女』になってたんだ!!男なはずなのに、立派なボインがあったんだ…!何を言ってるかわからねぇと思うが、俺もわからねぇ!?とにかく、アイツが男から女になってたんだ!!!!」

 

「…は?」

 

…どうした、頭がおかしくなったか?流牙は最初はそう思った。要はシャルルに何かしら異常があるようなので、流牙もシャワールームへ……

 

「シャルルがいったいどうしたって……」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ひっ!?」

 

 

「!」

 

 

 

…あ、ありのまま起こったことを話す。タケルが何を血迷ったかと思ったら、シャルルが…シャワーを浴びていたシャルルが『彼』から『彼女』……『男』から『女』になってたんだ。

 

 

 

…このあと、無茶苦茶殴られた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

さて、道外流牙は今までの状況を整理している。まず、シャルルか女だったこと…滅茶苦茶、取り乱したシャルルに殴られて今は血の涙を流していること。隣のタケルはボコボコにされた顔がとても酷い。この点は流牙は心配するが、まずは知らなければならない…『彼女』のことを。

 

「ごめん……取りみだしちゃって…」

 

シャルルはその身を白いジャージで包んでいる。その胸には男の時には見られず、何処から飛び出してきたのかたわわな果実が実っている。ウホッ!?とタケルが鼻の下を伸ばしたのは反射だが、血の涙を拭った流牙が鋭い視線で彼を引き締めさせた。全く、ここからシリアスな話になるであろうにどうしようもない奴である。

 

「あ、あのさ……その、僕…女の子、だったんだ…。本当の名前はシャルルじゃなくて、シャルロット。ISを扱える男子っていうのは全くの嘘っぱち。」

 

「「…」」

 

「ごめん、なんか騙すようなことしてて……怒ってる…よね?」

 

「いや……それよりも、シャルル……シャルルがそんなことをしないといけなくなった理由を知りたい。」

 

「はは……そう、だよね。やっぱり……」

 

そして、シャルロットは哀しげな目をしながら語り出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

・Sideシャルロット

 

僕の実家でありスポンサー…フランスのIS企業・デュノア社。世界シェア3位という地位を持ちつつも、結局は初期のIS産業に乗り遅れた落ちこぼれ寸前の企業だったんだよ。経営は不振に陥り良くない状況……おまけに、社長は外部には洩れてないけど愛人に産ませた隠し子がいることが発覚した。それが、僕。経営不振にスキャンダルなんて企業的には大きなダメージ……だけど、社長である父さんは逆手にとって母さんを亡くして路頭に迷う僕を実子として認知して引き取ると、ISを扱える男子『シャルル・デュノア』として仕立てあげ…広告塔としての効果に、更に流牙の白狼や他の候補生のデータを盗めという任を与えた…。

 

 

 

 

 

 

 

「……それが、真実。最も、父さんは母さんや僕が魔戒法師の血筋とは知らないけどね。」

 

どう答えれば良い?なんて言葉をかければ良い?

哀しい瞳と真実にどうやって向き合えば良い…?

 

「んじゃあ……シャル…ロットは…実の父親に勝手に道具にされたってのか?」

 

「ううん。魔戒法師としても半端者でただの野良になるしかなかった私はこうすることでしか、生きられなかった……それだけ。」

 

「…」

 

タケルは唖然としていたが、流牙は黙っていた。その中でもシャルロットは続ける……

 

「でも、それも今日でおしまい!結局、白狼についてはなーんにも、解らなかったし…正体もバレちゃったし……このまま、本国に強制送還かな?このあと、口封じで殺されちゃうかも…?ははは…あははははは!」

 

そのあと、不意に目を逸らして笑い出すシャルロット。自暴自棄か絶望か…ただ狂ったように笑った。

 

 

……ただ

 

 

 

 

 

「……でだよ…?」

 

 

………ただ

 

 

 

「どうして、笑ってられんだよ!?この状況でどうして笑ってられんだよ!?」

 

彼女と逆にタケルは泣いていた…。悔しくて、悔しくて、悔しくて…目から涙が滲み出しながらシャルロットの胸ぐらを掴む。

 

「…はは。だってさ……結局、私はこのあとは普通の女の子としても…魔戒法師としても生きれないんだよ。師だった母さんは私を遺して死んで…1人じゃホラー退治もままならない。おまけに、表の世界から追われる身…これじゃぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、シャルロットはどうしたいの?」

 

 

 

 

 

 

その時、不意に今の今まで沈黙をしていた流牙が口を開いた。身の上話は大体わかった…同情の余地もある。でも、訊きたいのはそこじゃない。待ち受けるさだめでらなく、シャルロット・デュノアという個人がどのような未来を望むかである。

 

「…本国に帰りたいならそれでも良い。法師として独りで生きるのも俺達は止めない。ただ、俺は学園に残ったほうが良いと思うよ。」

 

「…え!?」

 

「馬鹿か、流牙!?こんなのそう長い間、誤魔化せるわけねぇだろ!?」

 

さてさて、予想通りのリアクションがかえってきたところで制服(に偽装した魔法衣)の懐から小さな本を取り出して開くと、シャルルとタケルに見せる流牙。

 

「ここ……読んでみて?」

 

「あぁ?IS学園の所有権を有するもの…生徒を含み、一切の国家をはじめとした勢力のいかなる干渉を受けない……て、おいこれまさか!?」

 

「そ、シャルロットがこの学園にいるうちはデュノア社だろうと、フランス国家だろうと、手を出せない。それをこの学園で定めている。」

 

そう……学園はいわば、様々な国家の人間たちが集う場所。故に、取り決めにより企業どころか国家すらそう簡単に事情に介入は不可能。男子でフリーの生徒である流牙はこれくらいの条項くらいきっちり把握していたのである。おかげで、自分もどれだけのスカウトをかわしてきたか……

 

「少なくとも、3年は無事だよ。それだけの時間があれば魔戒法師として修練を積むことだってできるし、もっと他の生き方で模索できる。諦めることないよ……俺達もこのことはだれかに話すつもりは無いし…」

 

「ぁ……」

 

「だから、諦めるにはまだ早いよ。もっと、俺たちと一緒にいよう…シャルロット。」

 

とにかく、彼女に必要なのは暖かく受け入れてくれる場所。当にこれを理解しているからこそ、流牙は笑顔で手を差しのべた。すると、今まで絶望の笑みを浮かべていたシャルロットは…歓喜の涙を流した。ああ、ここには自分の居場所があるのだと。

 

「…ごめん。ぐず……何か、涙が……」

 

「泣け泣け!蛇崩タケル様がしっかり受け止めてやるよ!」

 

思いもよらないハプニングだったが……これで、一見。泣き崩れるシャルロットを受け止めて今回は終幕になるはずだった…。でも、忘れていないだろうか?

 

 

…コンコン

 

「すまない、道外……いるか?」

 

 

「「「!」」」

 

ここは、アジトへのゲートの役割も果たしている。ましてや、かつての同居人をはじめとした誰かがまた来てもおかしくはないのだ。

 

「…ほ、箒!?すまない、今は着替えてるんだ!少し待ってくれ!!」

 

「む……ああ、そうか。早くしろ。」

 

 

(やべやべ!?隠れろ!)

 

(…う、うん!!)

来訪者は箒……アジトに用かこの部屋に忘れ物をしたのだろう。ただ、彼女に今…シャルロットの正体を知られるわけにはいかない。シャルロットはすぐに、ベッドに滑り込み布団を被ると流牙は上着を脱ぎ…赤と黒皮のアンダースーツ姿となる。一方、タケルはシャルロットの隣のベッドにダイブした。これで、迎撃体勢は急だが形にはなったのである。

 

「良いよ、入って!」

 

やがて、招きいれられた箒だったが奇妙な違和感に首を傾げた。

 

「…どうした、妙に騒がしかったが。蛇崩、デュノアもいたのか…?」

 

「おうよ!ちょっと、疲れたからよ…休もうと思ってな?なあ、シャルロッ……ルッ!?」

 

「ウンウン、夜もあるし休める時にしっかり休まないと!」

 

「…?」

 

おかしい。揃いも揃ってベッドで寝ていて…タケルに限ってはこの部屋の住人ではない。前々から図々しい奴だと考えていた(要は偏見)箒だが、これで証明されたと内心で思いつつ特に彼のほうに用はないので本題に入る。

 

「…なんだ、貴様ら?まあ良い…道外、客だ。」

 

「俺に?誰…?」

 

「見ればわかる。入って良いぞ。」

 

流牙はわざわざ『客』という言い回しが気になった。そこら辺の生徒や顔見知りにしては冷たい響きだが、招かれた人物にその意図を知ることになる。

 

「君は……!」

 

「……道外流牙…」

 

…その人物とは、ブリュンヒルデに取り込まれて意識不明になっていたはずの少女……

 

…ラウラ・ボーデヴィッヒであったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




さて……簪出せる目通したたねぇ!?!?

というか、登場までまだまだ時間かかりそう。


GOLD STORM本編もそろそろ折り返しでしょうし、早いとこ話を進めたいな…。IS GARO版GOLD STORM(劇場版風のオリジナルストーリー)もやりたいし…


これからも更新は不定期ですが、感想よろしくお願いします。

では!


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己~Laura~

 

数日後……アリーナ。日の高い中、流牙とラウラは共にISを展開して共に空を舞う。ラウラの愛機はコアは無事だったので予備パーツで組み上げている。対するはリアンと鈴音…2組のISダック。

舞台はクラス対抗ダックマッチ。観客席には各国の来賓……モニタールームからは千冬と真揶が見守る。

 

「ラウラ……大丈夫だね?」

 

「む…支障は無い。」

 

流牙はラウラの調子を確認すると、心配を心の片隅に置きながら追憶をする……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と……ダックマッチを?」

 

ふらりと自室を訪れたラウラからの願いに驚いた流牙。なんせ、この間は殺しあい紛いや本人のおそらくは意志によらぬところであろうと、殺しあいなりした仲。それが、急にしんなりとしてダッグマッチでダッグを組みたいなど驚かないなど、無理な話。まずは、真意を知らねば……

 

「理由を…訊いてもいい?」

 

「……お前は、私の命を救ってくれた。お前にいわれのないエゴを押しつけていた私を命の危険を冒してまで…。だから、上手くは言えないのだが…………ちゃんと、お前を知りたいのだ。刃を交えるのではなく、共に戦って…」

 

「…」

 

流牙は考える…。そして、ラウラの顔を見て一言。

 

「良いよ。先生に話をしにいこうか…。」

 

OKサイン。ベッドに隠れていたタケルはおいおいマジかよ…と心の中で思っていたが、流牙はラウラを連れて千冬の所に向かおうと玄関へ。今度はラウラが驚き、また流牙に問う。

 

「…い、良いのか?本当に……」

 

「敵意が無いなら、断る理由は無い。それに、仲直りもしたいし。」

 

屈託ない笑顔だったが、ラウラにはこれが胸の内に痛みを与える。自分はこんな顔をする彼を傷つける…あまつさえ、殺そうとしたのだと……

 

「あと、流牙で良いよ。よろしくね、ラウラ。」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む……道がぃ……流牙。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はあああッ!」」

 

試合開始と共に、意外にも組み合ったのは流牙とリアンであった。月呀が百華の腕に止められ、百華の銃は白狼の手により銃口を反らされる。

 

「何気に、初めてじゃない?こうやってリアンと手合わせするの?」

 

「言われてみれば、そうっね!」

 

 

ーーガッ!!

 

弾ける火花、間合いを開ける両者。リアンは美しく、カーブを描いて回転して銃口を向ける。直後、放たれた弾丸を月呀で素早く斬り払うと再び距離を詰めようとブースターを噴かす流牙!

 

「…流牙!」

 

「余所見してんじゃないわよ!」

 

「!」

 

思わず意識をとられてしまうラウラ…だが、この戦いはダッグマッチ。無論、鈴音が黙ってているわけなく強靭な音を建てる刃が襲いかかり、ラウラは咄嗟にプラズマ手刀でガードする。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ…!!!!」

 

「…はああっ!」

 

普段の軍人である調子のラウラなら、遅れはとらなかっただろう。ただ、今は迷いを抱える彼女には魔戒法師としても修行する鈴音の動きは防戦でついていくのがやっと。

密着して流れるように繰り出される一撃一撃が、ラウラのISのシールドエネルギーを削る……離れようにも、執拗な攻撃に体勢をとることすら出来ない。

 

「ラウラ!」

 

その彼女に気がついた流牙は一度、リアンから離れて唯一の武装である月呀を投げつける!これは不意を突かれた鈴音に当たり、この隙にとラウラはプラズマ手刀で腹部を一撃して鈴音からなんとか離れることが出来た。

 

「へぇ……やってくれるじゃない?」

 

「鈴、いける…?」

 

甲龍にはかなりのダメージが入ったが主たる少女はリアンの問いに不敵に笑う。ようやく面白くなってきた…といったところか……

一方の流牙とラウラといえば逆そのものだった。

 

「…ラウラ、大丈夫?」

 

「私は良い。道外……武器を取りにいけ。少しくらい時間を稼ぐ。」

 

流牙の月呀は彼方の地面に突き刺さり、つまりは流牙は丸腰でラウラに至っては不調気味。それでも、戦いから退くわけにはいかないとラウラは愛機の武装に火を噴かせ、同時に流牙は月呀を取りに一直線に飛んでいく…!

 

「させるかぁ……!」

 

無論、相手とて馬鹿ではない。鈴音がすかさず甲龍の砲で妨害にかかるが、繰り出された見えざる砲を身体をよじらせて紙一重で回避して、月呀を引き抜くと回転をかけ一気に鈴音にブースターを噴かせて迫る!

 

「はああっ!」

 

(よし、この調子なら……)

 

 

……勝てる。

ラウラは持ち直しつつある戦況に、勝機を感じた……しかし……

 

 

 

 

 

 

 

【【【【警告~CAUTION~】】】】

 

 

「「「「!」」」」

 

 

突如、モニターされた不吉な赤い警告表示が戦いの流れを止めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「山田先生、これは!?」

 

「…わかりません!?セキュリティシステムに異常が!?」

 

モニタールームにて、状況を見守っていた千冬と真揶の場所にも異常は現れていた。次々と、画面に浮き上がる制御不能と異常発生のホログラム……真揶が必死にキーボードを打って対策をとろうとするが、赤い警告表示が増えるばかり。

 

「…あ!?アリーナのシャッターが全て降りて…!?」

 

「何!?」

 

さらに、アリーナの観客席や通路…IS出撃用のハッチまで全て閉まっていき、観客はアリーナの観客や生徒はアリーナの中を見ることも、脱出することも叶わなくなった。完全に幽閉されてしまったのである。これはまずい……その時……

 

 

 

……カラン、コロン…

 

 

「…なっ!?」

 

突然、何処からか転がってきたグレネード。いくら、千冬や真揶が教師職とはいえこの謀られたタイミングで投げ入れられたコレに対処することは出来なかった…。

次の瞬間、炸裂する光と煙に教師たちは視界もろとも指揮能力を失ったののだ…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

場所は再びアリーナ……

 

 

 

「な、なんだ!?何が起きている……!?」

 

流牙たちは戦闘を止めて、異様な事態に警戒の態勢をとっていた。外部との通信はノイズが酷く無理に等しい……おまけに、出ようにもハッチが閉まっており退却も出来ない。助けも今はあまり期待できない……その時……

 

「うぅ!?」

 

「ぅあ!?」

 

 

「鈴、リアン!?どうした!?」

 

突然に鈴音とリアンの機体にプラズマが走り、その機能の殆どを停止し……無能な重すぎる鎧となった。流牙はあわてて駆け寄るが彼女たちは苦しげで動けそうにない。

 

「わからない……なにこれ、バグ!?」

 

「…何なのよ、こんな時に!?」

 

悪態をつく中、確実に迫る嫌な予感……この場で動けるのは流牙とラウラだけ。流牙は戦慄する…このタイミングで彼女たちの動作不良は偶然とは思えない。まるで、計算されていたかのように起こり続けるイレギュラー……なら、狙いは…

 

「流牙、後ろだ!?」

 

「…!」

 

 

『…ハハハハハハハ!』

 

 

その時、流牙の背後から異形が現れた。勢いよく駆け、流牙を蹴飛ばすと踏みつけてケラケラと笑う。

女のマネキンのように華奢だが、後頭部の蛇のような顔に紫と白の毒々しいボディ……ホラーにしては異質なソレ。鷲頭のディアーボに近い意匠…

 

「…魔導ホラー!?ぐっ!」

 

『ハハハハハハハ…!!』

 

太陽光の下、活動できるのは…やはり、魔導ホラー。しかし、察しても魔導ホラーは後頭部の蛇の口から長い舌を出して流牙の首に巻きつけて締め上げる!

 

「ぐ……うぉぉ!?がァ!」

 

苦しむ流牙はなんとか、この異形を振り落とそうと白狼に火を噴かせて空に舞い上がるが、魔導ホラーも離さずさらに、舌の締め上げる力を強める…!

この様子を見ていたラウラは右往左往していた。

 

「あ……ぁあ…道外……。何故、教官たちは応えないのだ…!?」

 

目の前に現れた異形、動けない仲間、流牙の危機……応答が無い管制塔。もうパニックに半ば陥っていたラウラ…だが、その時……リアンが声をあげる!

 

「…ラウラ!お願い、流牙を助けて!!」

 

「!」

 

流牙を助ける……今、動ける自分にしか出来ないこと。さあ、どうする…?自分はかつて、半ば本気で彼を殺しにかかった身なのだ…嫉妬と興味という傲慢な理由で。そうであるのに助けろと…?

 

 

……いや、だからこそ助けなくてはならない。

 

 

「…くっ!」

 

 

右肩のレールガンを起動し、地面をしっかりと踏みしめると固定砲台の形をとるラウラ。狙い撃ちをするなら、この態勢しかない……

眼前のモニターに映し出される標準が流牙と異形を追いかけ、射手の額には極度の集中と嫌な汗が流れる……

 

「…ぐ。がァ!!」

 

 

……駄目だ、まだだ…

 

 

 

「……く、ぬぅ!」

 

 

……焦るな、狙え…狙い続けろ…

 

 

 

「…ぁああ!!ぐぅ!」

 

 

……あと、少し…もう少し……

 

 

「離せぇ…!」

 

 

 

……今だ!

 

 

 

 

 

「流牙!!!!」

 

 

「!」

 

 

瞬間、彼女は引き金を引いた!レールガンから蒼い閃光が走り、身をよじった流牙の背にいた魔導ホラーへと直撃。その衝撃で舌が千切れ、異形は激痛による悲鳴をあげながら地面へと落下した。

 

『ギィヤァァァァ!?!?オノォレェェェェ!!!!!』

 

すると、魔導ホラーの矛先はラウラへと変える!身を裂かれた怒りと増悪にたぎらせて狂暴な蛇の後頭部を前にして一気に襲いかかる!

 

……無論、流牙が許しはしない。

 

 

「ラウラ!」

 

 

ーーグルルルッ!!!!

 

周りの目は無に等しい、この時を逃さず流牙はISを解除して牙狼の鎧を召喚。空中から勢いをつけたショルダータックルを魔導ホラーにお見舞いし、その上に跨がると牙狼剣を突き立てると……

 

 

ーーキュオオォォォォォンン!!!!!!

 

「ぐわあぁぁ!?!?」

 

やはり、謎の波動が傷口から漏れだして牙狼を弾きとばし……漆黒を金色に染める。

 

『…ぐ、ぐうううううう!!!!!!』

 

この予定外の反撃が入ったために、この隙にと魔導ホラーは飛び上がり…IS出撃用のハッチを破壊してその奥へと消えた…。

 

「逃がすか!?」

 

【待て、リアン!その魔導ホラーの舌を回収しろ!】

 

「苻礼法師?」

 

リアンはなんとか、魔導ホラーを追おうとしたが不意に苻礼法師から通信が入り、意図は解らずも愛機を脱ぎ捨てる形で脱出し…魔導筆で未だに主から離れても気色悪く動く舌を法力の光で包み、黒札を張って回収した。

 

「…あ…………」

 

一方で、狙撃を成功させたラウラは……気が抜けたのか…糸が切れた人形のように地面に伏した。これに、鎧を解除した流牙が駆け寄り安否を確認する。

 

「…ラウラ、大丈夫?」

「道外……私は…私は………」

 

 

彼女は………泣いていた…。胸に込み上げる言葉にし難い感情に押し潰されそうになっていたのである…。そんな彼女を流牙は優しく抱き締める。

 

「…大丈夫、もう大丈夫だから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その頃、学園のとある通路……

 

「やれやれ、どうやらしくじったようですね。」

 

 

フヨフヨと浮いていた目玉を右目の収まるべき穴にしまう黒づくめの青年。赤ラインが入ったグラサンのために顔の全容は把握出来ないが、その面影は『千冬に似ていた』…。

パネルを外した壁に手を突っ込んでいたが、自分たちの作戦が徒労に終わったと溜め息をついて手を離す。すると、辺りのシャッターが開いてその内の1つからあの舌を斬られた魔導ホラーが現れた。

 

『グルルルッ……キャァ!』

 

「情けない姿ですね……貴女の作戦、手の込んだ割には浅はかでしたので私は反対したのですよ。お陰でドイツからのオーダーは台無しです。」

 

『…ウルサイ!』

 

「全く、尻拭いするのは私だというのに……」

 

『…グググ!!シュゥゥ……』

 

青年は魔導ホラーに臆するどころか、目線すら向けず言葉を吐きつける。魔導ホラーも煮えたぎる怒りが身体を巡るのに、更に火がつきそうな勢いだったが全くをもってその通りなので反論すら出来ないでいた。

 

すると、また別の方向からIS学園の制服を着た者が歩いてくる…。

 

「…主!」

 

青年は『彼女』に膝を折り、忠誠のポーズをとった。彼女は忠実たる青年に次なる命令を下すと、その場をすぐに後にする…。

 

「わかりました。貴女の仰せのままに……」

 

共に、青年も魔導ホラーも闇に姿を消す……

既に、敵は流牙たちが気がつかないうちにその首筋に迫っていたのだ……。また、真実が明らかになる日も近づきつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……道外流牙、お前は私の『嫁』にするッ!」

 

「ッ!?」

 

そんなことなど、知らず後日……流牙はいきなりラウラに叩きつけられた嫁発言に戸惑っていた。いや、『嫁』って!?俺、男だよと否定しようとした流牙だが直後、ラウラがキスを迫ってきたためにすぐに手で受け止めた。

 

「ラウラ、一体どうしたの!?」

 

「決まっているだろう…?極東地域では気に入った相手を『嫁』と呼ぶのだろう?ならば、お前は私の嫁だ!異論は認めん!さあ、誓いのキスだ!!」

 

「落ち着いて!何かそれ、絶対に違うから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りゅ・う・が~、これはどういうことかしら?」

 

「詳しく、私たちに……」

 

「説明しないさいよ流牙~?」

 

 

「!」

 

更に、面倒なことにいつの間にかISを展開したリアン、セシリア、鈴音と流牙が遭遇を最も恐れていたトリオが君臨。四面楚歌……ああ、もうこれ駄目かもしれない。そう思った時……

 

 

 

 

ーー斬斬斬斬斬斬斬!!!!!!

 

 

「は~い、久し振りの楯無お姉さん登場~!!大切なお話があるから皆、その物騒なモノはしまってね!」

 

 

「「「!」」」

 

何処から沸いてきたのか、ISの武装を日本刀で細切れにし流牙の頭が丁度、股の下にくる形で現れた楯無。もうここで、珍客の到来なんて流牙にとっては悪夢以外、なにものでもないのだが……

 

「楯無さん、そこ退いてもらえます?色々と際どいんで……」

 

「いやん!流牙くんのえっち♪」

 

 

何だろう、この人……多分、魔戒騎士じゃなかったらはっ倒してると思う。時を同じくして千冬と真揶も教室に入ってきた。

 

「ガキども、席につけ。ホームルームをはじめる。淫行を重ねている奴はスルーして構わん。クラスが違う奴はすぐに命が惜しければ戻れ。」

どうやら、千冬は流牙を助ける気はさらさら無いようである。さっさと、ホームルームをはじめにかかった。

 

「ええ、まずは連絡が幾つかある。山田先生が先日のトラブルで舌を噛んだ……多少、呂律が回らんが気にするな。」

 

「な、情けない……れす。」

 

ああ、どんまい。そんなこともあるさと生徒たちは思ったが、次のこと…呂律が回らない真揶から語られたことは予想外だった。

 

「ええっと、次の連絡は…シャルルくんが、お家の事情で転校することがきまりまひた……。」

 

これには、どよめきが起こる…。なんせ、この世に2人しかいないIS操縦者の男性の片割れが居なくなったのだ。当たり前だろう。すると、真揶がまた呂律のまわらない口で付け加える……

 

「それぃと、今日から皆さんと一緒に勉強する仲間が増えますぅ…さ、どうぞぅ。」

 

新たな転入生、どうせ女子だろう。男子を失った学徒たちの心を満たせるものなどあるはすが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…こんにちは!『シャルロット・デュノア』です。改めて、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

……な ん だ と !?

 

 

「「「「「「「えぇぇ~!!!!!?」」」」」」」

 

 

「うっ!?」

 

沸き上がる驚愕の声。相変わらず、このクラスのこの一体感は何なのか流牙は思うが、それが女子だ。まあ、男子が女子になって戻ってきたなら仕方ない……真揶がなんとか説明をしようとする中、シャルロットが笑みを流牙に向け…流牙は笑顔でこれを返した。

 

ただ、流牙は忘れていた……。

 

 

 

「流牙、ちょっと話があるんだけど…?」

 

「そうですわ…!シャルロットさんが女性ってどういことですの!?」

 

「説明しなさいよ、流牙!」

 

「嫁よ、これは一体どういうことだ…!」

 

 

自分が四面楚歌であることを…。いつの間にか楯無は離れてるし、このままではいくら魔戒騎士の流牙だろうと命の危機を感じる…。

 

「落ち着けって!なにもないから!やましいことは何も無いから!?」

 

「やれやれ……」

 

この有り様に千冬は溜め息をついた。すると、見計らい、指をパチンと鳴らす……すると……

 

 

オッ!!

 

「きゃ!?」

 

 

ゴオッ!!

 

「きゃあ!?」

 

 

ブン!!

 

「ちょ!?」

 

 

ゴッ!!

 

「ぬっ!?」

 

 

突然、流牙の周りを取り囲んでいた乙女たちが何者かに取り抑えられた。見れば、謎の鉄仮面軍団が数人がかりでそれぞれ彼女たちを取り抑えていた…。流牙には彼等が見覚えがある。ならば……

 

「それくらいにしておけ。」

 

教室に入ってくる一度、見かけた黒帽子。生徒とは違うベージュの動きやすそうな制服に雰囲気。キリッとした声は間違いなく……

 

「エンホウッ!」

 

「…久し振りだな、道外流牙。」

 

SG-1隊長、エンホウ。ノワールの件ではだいぶ世話になった彼女を流牙は覚えていた…。彼女は隊員たちにリアンやセシリアたちを離させると教壇の前に自らと共に整然と整列させた…。

これと、同時に千冬が話しだす。

 

「先のトラブルでの件につき、学園の治安維持のために…存在を知っている者はいるだろうが、スペシャル・ガーディアン1…SG-1を学園内に配備することが正式に決まった。彼等はあくまで我々を護るための存在だ。余計なトラブルをくれぐれも起こすなよ?さて、エンホウ隊長…挨拶を頼む。」

 

確かに、ゴーレムの件からアクシデントなりトラブルなり続いていたIS学園。それらを踏まえれば、この配慮は別におかしくはない…。

やがて、千冬が喋り終わるとエンホウが前に出た。

 

「紹介に預かりました、SG-1隊長…エンホウだ。我々は君達の安全・生活を護るためにこのIS学園に派遣された。この部隊は男性が多いがあくまで、任務の元で動いている。息苦しい節もあると思うが、あくまで任務のためということを理解して欲しい。私からは以上だ!」

 

 

 

 

……次々と揃う物語の役者たち。

IS学園での黄金騎士・道外流牙の物語は転機をむかえようとしていた。

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 




お待たせしました!正直、ここで詰まってしまっていたジュンチェです。
GOLD STORM本編もそろそろ、終わりも近づき闇照の流牙と区別がつき辛くなってしんどくなってました。就活も共に思うように進まず、執筆する気になれない日もかなりありました。その中でも、お気に入りしてくれた読者の方、感謝です。


まあ、毎度更新する度に減るという謎現象があるんだけどな!



というわけで、いかがでしたでしょうか今回の話?相変わらず、フラグだけが増えて回収しないという……まあ、まだその時期じゃないんで。一夏尊士みたいなの誰!?箒の夢とかあのクロウさんとか何よ!?はい、これは本当に終盤で明らかになります。特に後者は……

後は未登場ヒロインは簪だけか……はやいとこ、出してあげたいけど…

というわけで……




☆次回予告

リアン「私は貴女の影じゃない……私は貴女の掌の上にいたくはない。抗わなければ消えてしまいそうで、私は怖い。次回『簪~Sister~』。だけど、私は……貴女の想いを知らない。」



……はい、感想お待ちしてます!


雷牙「次回も、お楽しみに!」




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簪~Sister~ 前編

内定獲得したどぉおおおお!!!!


久しぶりの更新、タイトルの割にはお姉ちゃんのほうが出番が多いです。



「ウオオオッッ!」

 

『シャアァァ!!』

 

IS学園……ISが整備される保管庫では幾つもの機体の並ぶ中で戦いに舞い踊る2つの影。ひとつは牙狼……もうひとつな魔導ホラーでお馴染みのディアーボ。今回は骨の意匠をもったハンマーを振り回しており、一撃の大きさから牙狼は牙狼剣で受け流して防戦ばかりと苦戦が続いていた。

ディアーボのハンマーは周りのISの装甲を凹ませたり、機器を粉砕するあたり威力はまともに喰らったら鎧をきてても危険だろう。

 

『小僧!』

 

「わかってるよ、ザルバ!」

 

かといって、黙っていれば鎧も制限時間がくる。それこそ、終わりだ…。

牙狼は立ち上がると、十字の構えをとり…手首に刃を擦らせると、左の拳に烈火炎装を発動させてディアーボを睨む。

 

「ハアッ!」

 

『!』

 

そこから、牙狼剣を投げつけると白狼の背部スラスターのみを部分展開。怯むディアーボとの距離を一気に詰めて殴りかかる!

 

 

-ドゴッ!!

 

『ぐぼっ!?』

 

 

クリーンヒット。しかし、魔導火の効果が薄い魔導ホラーでは炎の拳では決定打にならない。故にそのまま、ディアーボからハンマーを奪いとり殴りあげると、相手の獲物であるコレを握り潰して光の波動に還元。そのエネルギーを吸収して金色に輝くと、牙狼剣をキャッチして一閃……

 

 

-キュオオォォォォォン!!!!!!

 

「うがぁぁぁぁ!?!?」

ディアーボを両断すると同時に、より強い波動を受けて牙狼は着地した。度重なる魔導ホラー戦で馴れつつあった牙狼…だが、魔導ホラーの絶命時に放つ凄まじい波動は鎧をより強く金色に染め上げると共に激痛をもたらす。一体、どんな理屈なのかはサッパリだが……とにかくホラーならば斬られねばなるまい。まあ、ゴタゴタと考えるのも面倒だと鎧を解除しようと……

 

「!…誰だ!?」

 

その時、気配を感じて振り返る牙狼。見れば立ち並ぶのは破損したISや機械といったばかりで、特に目立つものはない。気のせいか……?

鎧を解除し、流牙は黒い魔法衣をなびかせてその場を後にする。

 

そんな、戦いの跡地……整備途中のISの影に……

 

 

(どどど、どうしよう……私、凄いものをみちゃった…)

 

 

楯無に似た水色髪に眼鏡をかけた少女が隠れていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『簪~Sister~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、苻礼法師のアジト……

 

 

 

 

「おいおい、最近よやたらとホラーの数が多くねぇか?」

 

ぐへぇ……と息をもらしてソファーに座るタケル。実際、先日から学園の中や付近でホラーの数が倍近くにまで出現頻度が跳ねあがり、魔戒騎士たちの負担も比例して激増していた。無理もない……

 

「たく……どうなってんすか、苻礼法師?」

 

そして、相変わらず自分のデスクで何やら作業をしている苻礼法師。だが、タケルの質問に手を止めると…ううむと首を捻り口を開く。

 

「…陰我のオブジェが何処かにあるのかもしれん。」

 

陰我のオブジェ……ホラーが魔界より現界するためのゲート。人殺しに使われた凶器だったり、長い時の中で人の邪心にまみれたアイテムなどが相当しうる存在。しかし、だ……そんなオブジェになるようなものがそんなにあるだろうか?セシリアの時のように事故の時の遺品なんてようなもの、この学園の生徒がそうそう持っているはずがない。

 

「オブジェねぇ……んなもん、ありゃ気がつくはずなんだがな。そういや、千冬先生のお墨付きの新人は……?」

 

「ああ、それなら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああぁあああああああ!?!?!?」

 

「!?」

 

 

突然、響く流牙の悲鳴。すると、奥のカーテンがかかった寝床から流牙に(なぜか全裸の)ラウラ…加えて、般若の表情のリアンが飛び出してきた。思わず、『ブフッ!?』とタケルは噴いてしまうがとにかくヤバい状況のようだ。

 

「流牙ァぁぁ!?」

 

「落ち着いて、リアン!?これは、誤解だ!」

 

「うむ、これは健全なる夫婦の営みという奴だ。」

 

「!?!?」

 

うわあ……流牙って実はそういう趣味かぁ…って納得するタケル。生憎、修羅場にさく力は無いので…くわばら、くわばらと、静かに退散した。

 

「貴方ねえ、黄金騎士としてそんなこと恥ずかしくないの!?」

 

「だから、誤解だって!?」

 

「そうだぞ、リアン!私の身体に恥ずかしいところはない…っと、流牙が言っていたぞ。」

 

「ラウラも誤解を招くこと言うな!?俺は……」

 

 

 

ああ、なんて騒がしいことか。苻礼法師は目を細める……かつて、自分もあんな時期があって活発だったはず。そんな様子を今は眺める自分を老けたな…と自嘲しつつ、彼は千冬の会話を追憶する……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァルキリー・トレースシステム?」

 

「ああ、それがボーデヴィッヒに積まれていた謎のシステムの正体だ。」

 

ラウラが仲間に加わる直前、彼女の愛機のホラー化について気になっていた苻礼法師は千冬と話こんでいた。そして、出てきたのは聞きなれないし、明らかに穏やかな響きじゃない単語。

 

「…かつての私の戦いを正確に再現するためのシステム、っと言えばいいか?正直、酷いゲテモノさ。まあ、私を心酔する奴だからこそ選ばれたんだろうが……」

 

「それはやはり……」

 

「ああ。条約違反の代物だ……。とるに足らぬ玩具と棄てておいて、今度は壊れるまでその身をしゃぶりつくそうとは。よくもまあ、ドイツの連中は私の教え子に酷いことをしてくれる…!」

 

グゥゥ…と握られる彼女の拳。やれやれ、愚行を犯した者はただでは済むまいと察しつつも苻礼は自分の管轄ではないと口は挟まない。せめて、南無阿弥陀仏と念仏を唱えてやることくらいか……

いや、まずそれよりも話しあわなければならないことがあると千冬は語る。

「それは置いておこう……実はな先の戦い、管制室で襲撃を受けた。」

 

「!まさか……」

 

「いや、『アイツ』の仕業ではないと思う。まあ、この世界で堂々と私にチョッカイをだすのは奴くらいだが少なくともあんな不意をついて目眩ましするようなアナログなやり方はしない。」

 

苻礼法師は一気に顔を険しくした。脳裏に浮かぶ顔は恐らく同じで手口としてはその性格から考えられないと千冬は話すが、眉間のシワは深まったまま…

出来ることなら、この可能性は否定はしたいが…

 

「…やはり奴は俺を恨んでいるのか?」

 

「法師、アイツとて箒と同じ貴方の娘だ。親が子を信じなくてどうする?」

 

「しかし、奴は当てつけと言わんばかりにこの世界を歪めた。明らかに俺や守りし者〈俺達〉への当てつけだろう。それでも飽きたらず…」

 

「今度は魔導ホラーを…か?よせ、所詮は憶測にすぎない。根拠なく不安をあおっても消耗するだけだと昔、貴方が言っていたはずだが?」

 

苦しげな顔をする彼に、やがて授業の時間が近いと背を向ける千冬。去り際、顔を向けず…静かに告げた。

 

「もし、貴方の恐れる最悪の結果だったら、私が決着をつける。私にも責任の一端はあるのだからな…。例え刺し違えてでも、止めてみせるさ。」

 

「…それが、お前の友情か?」

 

「さあ。中々切れない腐れ縁の延長といったところかもな……」

 

顔は見えなくてもわかる。彼女も辛い……でも、強くしなやかなに笑っていた。ラウラが魅力とした彼女の強さ…精神の強さであろう。

そんな千冬に苻礼法師はもうかける言葉は無いと、静かに目を閉じた……。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「…多妻制撲滅キック!」

 

「ごふっ!?」

 

リアンの華麗なキックが流牙の股間にクリティカルヒットし、悶絶の悲鳴がアジトに響く。男のシンボルに大ダメージをうけた彼は地面に踞り、ラウラは冷や汗を流す。

 

「嫁よ、大丈夫か!?まだ、子作りしてないうちに去勢とは……許さんぞリアン!」

 

「お黙り!こうでもしないと流牙はね……!」

 

ああ、なんと騒がしいことか。シリアスな追憶の場においても手のかかる弟子たちは若さ故の弾けるエネルギーを炸裂させている。今は細く笑みを浮かべながら彼は再び作業に戻る。

 

「う……が………助けて、苻礼法師…」

 

「それくらい、自分でなんとかしろ流牙。」

 

…因みに、流牙は誰にも助けをさしのべられなかった…のだとか……

 

すると、アジト中央に設置されていた壺がグツグツと中身の水を荒立たせ赤く発行する。途端にリアンたちはバカ騒ぎをやめて、苻礼法師は魔導筆をかざして水面からビルの内面をホログラムとして具現。チカチカと明らかに異常を伝える赤い反応に眉をひそめる。

 

「…苻礼法師?ホラーですか?」

 

リアンはまず好転する事態ではないと察し、師に問う。すると、彼は否と次げる。

 

「いや、違う。だが、どうやら招かねざる客がアジトに入ったようだ。」

 

 

 

 

 

「………侵入者だ。」

 

 

 

 

 

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「……で、私達は手分けをして捜さないと、というわけですのね。」

 

「でも、ホラーじゃないなら人間ってこと?」

 

それから、廃ビルの中…。苻礼法師のアジトはIS学園から離れたこの廃ビルの中に偽装して設置されているため、いざアジト全部の捜索となると手間も時間もがかかる。そこで、後から合流したセシリアと鈴音も加わり、一行は薄暗い柱の間を進んでいるのだ。

 

「…ええ。だけど、人間にしても、誰にしても、まともな奴な可能性は低いわ。気を抜かないでね……」

 

リアンが後に続く少女たちに警戒を促しながら、尚も進む。

進むのだが………たまらずセシリアは口を開いた。

 

「あのリアンさん、流牙さんがあれだけ距離をとって後ろにいるのは何故なのでしょう?」

 

そう……普段なら自分たちから離れないだろう流牙がうめき声をあげながら足を引きずるようについてくる。顔色も心なしか良くない…脂汗を滲ませながらラウラに付き添われている様は異様そのもの。すると、リアンは『フンッ!』と鼻を鳴らして……

 

「…自業自得よ!」

 

……と一言。

 

 

あー……なんとなく察しがついたと鈴音は苦笑いするが、セシリアは頭に疑問符を浮かべる。男の事情はやはり、男と住んでいた者が解るのである…。

一方で流牙はリアンにどう機嫌をなおしてもらうか考えながら、未だに疼く男のシンボルに耐えていた。

 

「よ、嫁よ……無理はしないほうが……」

 

「あ、ありがとうラウラ。でも、今回は俺がついていったほうが良いと思ったんだ。」

 

「?……どういうことだ、嫁よ?」

 

本来ならアジトの部屋で休んでいても良いのだか、わざわざ少女たちに着いてきたわけ。心配だから………勿論、それもそうだ。しかし、これだけではない。

もし、ホラーではなく……人間の侵入者だとしたら?そんなことをするような人物は彼の記憶にたった1人だけいる。

魔戒騎士であり、唯一の男性IS操縦者である自分をいくらあしらおうと物怖じせず絡んでくる『彼女』……

 

「…今回は俺の知り合いかもしれない。まあ、いずれこうなるかなとは思ってたけど。」

 

「知り合い…では、騎士か法師か?」

 

「いいや、多分…同業者じゃない。それで、一般人より100倍面倒な人。」

 

……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

【フフン?】

 

 

「「「!」」」

 

一行が確かに気配を感じとったのは……

 

 

「嫁よ、下がっておれ!来るぞ!!」

 

反射的にビルの合間を縫う影にラウラはナイフを投げつけた…。勢いよく空を切った刃は……

 

 

【他愛なし…】

 

紙一重で侵入者の首に当たらず、床に突き刺さる。

次にリアン、彼女は黒札を取り出すとこれを投げつけるも……

 

 

【他愛なし……】

 

こちらも、合間を華麗に縫われてかすりもしない。

次には鈴音がISを腕のみ部分展開して飛びかかるが……

 

 

【他愛なし……!】

 

「うっ!?」

 

スレ違いざまに手刀を首に入れられて、ダウン。ここまでの件ですでに誰かを確信した流牙は白狼を右手に部分展開し、月呀を持つ。

 

「はああっ!」

 

カンッッ!とラウラが構えたナイフが弾かれた音が響き、影は流牙に迫る…!同時に流牙は月呀を突きだしてみせると白い剣は『扇子』によって防がれる。

そして、確認した見慣れた顔にやれやれと溜め息をつく……

 

「やれやれ、やっぱり君か………楯無さん?」

 

「……御名答、流牙くん!」

 

 

ああ、いずれこんな日が来るんじゃないかと思っていた。彼女ならいずれはこのアジトと自分たちの正体に勘づくと思い、気をつけていたのだが……今までの努力は泡に消えたと悟る。

『正解!』と書かれた扇子を目の前でパタパタとあおぐ水色髪の屈託ない笑みの少女は見間違えるはずもない。

 

 

IS学園生徒会長……

 

更識楯無、その人なのだから………

 

 

 

 

 

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再び、場所はアジトへと戻る……。そこには、ソファーに座る楯無に向かい合う苻礼法師。そして、青ざめた面々。苻礼法師の説教もさることながら、よりにもよって一番バレてはいけない人間にこの場所を知られてしまった。目の前では自分たちの両サイドのボスが真剣な顔で睨みあっている……ある種の触発状態。こんなもの、心臓に悪いこの上なく若者たちは息をゴクリと呑む。

 

「……さて、IS学園生徒会長・更識楯無嬢。一体、ここに何用か?」

 

まず口を開いたのは苻礼法師。流石、歴戦の長……易々と動じはしない。手練れの獅子、不動の巨岩……例えそんな男が相手だろうと水のようにしなやかに相対する楯無。故に彼女は堂々と告げる。

 

「では、苻礼さん……前置きはなく申させて頂きます。ここには学園の在学の過程にある生徒が許可なく部外者と外にいる……そして、どんなカラクリか知りませんがセキュリティを介さない外との出入り口があるなんて生徒会長である私が見過ごせると思います?」

 

「…」

 

あくまで、生徒会長の業務。大方、流牙にちょっかいをだすついでに物色していたらたどりついてしまったのが事実であろうが、建前は通っている。

 

「これが明るみに出れば彼女たちの厳罰は免れませんくてよ?そして、苻礼さん…貴方もまた然り。貴方には法の裁きが下るでしょう……」

 

校則上……生徒は学園に通う3年間は自由に外を行き来はできない。また、それらに加担した…おまけに各国の代表候補生が関わっているのなら、苻礼法師とて表の世界のルールではただでは済むまい。嫌な汗が流牙やセシリアたちを伝う……。今ここで捕らえられれば魔導ホラーといった敵勢力に戦う力も無くなるし、今後は生徒たちの未来もお先真っ暗になる。代表候補生の座を追われる可能性は大きい…。放置するにはあまりに危険とリアンは後ろに隠した手で赤札を握る……が…

 

「リアンさん、あんまり下手な真似をしないほうがよくってよ?」

 

「!」

 

バレている………。笑顔の彼女だが、一介の生徒とは違い僅かでも隙が無い。最強の兵器たるISの扱いを学ぶ学園の長…そして、極東の国にて暗部の家『更識』の家督を最年少で継ぐ者は伊達ではないということ。例え、魔戒法師が相手であったとしても易々と遅れはとりはしない。

「まあ、何はともあれ私は生徒会長として………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………学園の生徒に命の危機が及ぶようでは黙っていられないわけで。」

 

 

 

…!

 

彼女はその時、静かに殺気を向けた。『怒り』…刀の切っ先のように突きつける紅い瞳からの感情。流牙ですら身震いする……侮っていたと。彼女はただの自由奔放な女の子ではないのだ。称号に見合うだけの力を持つ……更識楯無。今ここで本気を出されたら自分でも勝てるのかわからない。今まで散々、彼女にストーキングこそされてきたが、はじめて本質の一端を見た気がする…。

「…こちらも、相応の対応をとる気ですが…そこの所、ご理解いただけます?」

 

「…」

 

されど、苻礼法師は怯まない。真摯に使命を全うしようとする少女を見据え、彼は話しだす。

 

「無論だ。だが、そう簡単にコイツらを死なすつもりは無いし渡すつもりも無い……流牙もついているし、我等と同じ志を持つ者たちもいる。そして、1人でも多くの人間を守るためには彼女たちの協力が必要不可欠……。貴女も気がついているはず……学園が明らかに異様な空気に包まれていると。」

 

「…」

「だからこそ、我等の元へ来たのだろう……更識楯無。」

 

楯無は黙った。図星……彼女とて今日までの騒動、いくら流牙や千冬が巧妙に隠そうにも目につかないわけがなかった。所以、彼女は常に事の近くにいた流牙を探っていたのである。

すると、『御名答!』と扇子を拡げて口をまた開く。

 

「全くもってその通りです。まあ、私は貴方たちが元凶と踏んでましたが……どうやら、検討違いだったようで。『守りし者』…」

 

「…やはり、我等の存在を知っていたか。」

 

「ええ、これでも伊達に更識一族の跡取りじゃないんで?」

 

さらに、楯無は魔戒騎士や魔戒法師の存在をすでに知っていたという。流牙たちは目を丸くする……ならば、わざわざ彼女に気をつかいながら行動をする必要も無かったろうに。

しかし、苻礼は眉間に皺を寄せる。

 

「では、本当の用を訊ねる。我等は世俗とは関わらない…。あくまで、闇に生き闇に忍び闇を斬る。それが掟。その我等に何用だ……?」

 

「…時の権力にすがる気は毛頭に無いと。ですが、事態は深刻……私の要件は…」

 

 

 

 

……黄金騎士・牙狼〈GARO〉 道外流牙を私の手元に置かせて下さいな♪

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 




感想おまちしてます、わん!by楯無


次回もお楽しみに!





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簪~Sister~ 中編

お久しぶりであります!

簪編折り返しです。本来ならクリスマス特別編とかやりたかったけどヒロイン揃わないうちにこれは如何にと………やはり、時間がかかるなあ執筆は(汗)
ちょくちょく、冒頭を手直しとかもしてます。まだブルーフレームとか残っててビビったww




……それから、流牙は制服姿となって学園の廊下をリアンと共に歩いていた。さて、楯無にバレてしまった正体…これを盾に彼等は彼女の思惑通り動かざらえない状況であった。

 

【まーず、流牙くんには私の可愛い妹の手伝いをしてほしいの☆】

 

楯無の妹……と聞くだけで戦慄が走る。流牙とは別の組に彼女の妹である人物がいるらしいのだが、姉が姉なので嫌な予感しかしない。そんな彼女の手伝いとは一体なんなのか………

 

【可愛い可愛い妹だから、手を出したらお姉さん怒るわよ~?】

 

「誰がだすかよ。」

 

「いくら節操無しの流牙でも流石にそれは無いでしょ?」

「え……」

 

節操無し…本人は言われのない言い掛かりと思うのだが、未だにリアンの機嫌が悪いため迂闊に反論はできない。軽はずみな発言は眉間に風穴を空けられそうなまでピリピリしている。

流牙は冷や汗をかきながらも、『1ー4』と表札がある教室の前へ……さて、どんな魑魅魍魎が飛び出すのかと思っていると…

 

「あれ?」

 

それらしき人物が見当たらない。談笑する生徒たちは幾人か見当たるが、目的の人影の影も形もない……席を外しているのだろうか?取り敢えず、通りすがりの生徒に訊ねてみると……

 

「ああ、簪さんならアリーナじゃないかな。あの娘、自分で組み上げたISの試運転をするとか言ってたから。」

 

「わかった。ありがとう!」

 

アリーナ……また随分と離れた所に。まあ、放置する時間も惜しいので早速とリアンと共に向かう。善は急げだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アジトでは未だに楯無が居座っていた。苻礼法師は気にしないらしい調子でデスクで作業に戻っており、彼女はそんな彼の様子を興味津々な幼子のように覗きこんでいた…。そんな様子を落ち着かないとアグリと箒は見つめている。

 

「全く、苻礼法師はどうするつもりなんだ…。それに流牙も流牙だ。やはり、彼は黄金騎士には相応しく無かった。くそっ……」

 

「…」

 

アグリはクールな調子は何処へやら、抑えながらも荒んでいる様子で弓の弦を弄んでいる。一方の箒は不安は確かに感じつつも、静かに佇むのみ。だからといって、この場の打開策を練っているわけではないのだが……

 

(…まさか、むざむざ流牙と牙狼をくれてやるとは思えない。思えないが………)

 

流牙のことが浮かぶと嫌でも、あの悪夢がよぎる。想い人を金色の剣で切り裂き、鎧を継承した血濡れの彼の姿が………

彼は初めて会った時には知らないと言った。また、根拠の無い夢だと自分でも解っている。だが、嫌な胸騒ぎがあの漆黒の黄金騎士に対して疑問を投げかけるのだ…。不意に現れた父との関係……入学と同時に姿をみせはじめた魔導ホラー………それを斬ると輝く牙狼の鎧。唯一のISを扱える男にして、黄金騎士……

 

(……一夏、私はどうしたら良い?流牙、苻礼…お前たちはいったい何を考えているんだ?)

 

……心の中で少女の迷走は続く………

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「あ、流牙、リアン…!こっち!こっち!」

 

アリーナのカタファルトと繋がる格納エリアにはすでにシャルが先回りしており、手招きするとそのまま流牙たちと合流した。

 

「…彼女は?」

 

「いるけど…ちょっと、今は面倒なことになってる……」

 

「「?」」

 

どうやら、先にお目当ての妹君を捜しだしてはいたようだが…彼女の言葉の含みが気になる。流牙とリアンがカタファルト近くに目を向けると打鉄のフォルムが残る見慣れないISの付近に生徒が数人……それと、鉄仮面が2人。SG-1の隊員だ。どうやら、両者の嫌悪な様子と怒号からなにか言い争っているようである。

 

「…わからないのかしら?不必要だと言ってるの。」

 

「……っつ!!黙って言わせておけば!」

 

よく見ると生徒は恐らくは2年の先輩らしく、不遜に構える姿と金髪ギャル風でごちゃごちゃと着飾っている。おまけに腰巾着まで2人……両サイドに。絵に描いたようなガキ大将がそのまま高校生になったような少女。彼女が隊員を挑発してるらしく、左側の隊員がカッカと怒り…猛る猪のような彼を右側の隊員がなんとか抑えている。 IS整備を担当していたであろう他の生徒たちが、あわわとしているが……手をこまねいているばかり。

 

「……まさかとは思うけど、あの言い争ってる娘じゃないわよね?」

 

「違う違う。彼女は『ミズチ・オルテガ』…大財閥の娘でアメリカ代表候補生の補欠。通称・5組のモンスターレディ。生徒会長の妹があんな頭悪そうなわけないでしょ?」

 

さりげなく、酷い紹介をしたな彼女。リアンはあのオルテガという生徒もそうだがシャルの毒にも若干、引いた…。すると、続いて彼女が指先で示したのはISの搭乗者。水色の髪に眼鏡をした紅い眼の少女……

 

「あの娘だよ。『更識 簪』…楯無会長の妹さん。」

 

更識 簪。成る程、確かに面影はあの生徒会長に似ていると納得する…が、姉のような器量は無いのかこの場の状況に狼狽えるばかり……。どうしよう、どうしよう、と口元が動いているのが窺える。

 

 

「…ISを扱えない兵士など猿も同然。ここは猿山じゃないのよ……ましてや、猿が神聖なISに触ることが許されるとでも?」

 

「貴様ァッッ!!!!?」

 

「おい、セラ!頭を冷やせ…この馬鹿!!」

 

「簪さん、貴女も言ってやりなさい。コイツらは貴女の努力の結晶を汚そうとしたのよ?」

 

「え……あの………その………」

 

うわあ、面倒くさそうな状況である。これは酷いの一言に尽きる……

オルテガは確実に争いの火を拡げ、怒る隊員は引火したガソリンのように激昂する始末。この無意味で迷惑極まりない揉め事…

 

ああ、もう見てられない…………シャルの隣で彼はすでに踏み出していた。

 

 

「おい、やめろって。」

 

渦中の真っ只中に割って入る流牙。シャルとリアンも止め損ない、顔を真っ青にするが、もうどうすることも出来ない。

 

「おやおやおやおや?誰かと思えば今の時の人、道外流牙…」

 

「…何があったか知らないけど、皆が困ってる。」

 

「あら?男子の一年生は口の訊き方も知らないの?日本は歳上を重んじるって聴いてたけど?」

 

 

オルテガは流牙に対し、不遜な態度を崩さず…逆に馬鹿にしたような調子すら感じる。普段なら黄色い声があがることには慣れている流牙でも、嫌悪感を覚えた…。恐らく彼女は……

 

 

 

 

女尊男卑思想主義者

 

 

 

 

ISという女性しか扱えない最強の兵器が世に産声をあげたと共に、ジワジワと社会に浸透しはじめた女性を優として男性を劣とする思想。彼女は恐らくはこれに準ずる思想の持ち主だ。

 

「はっ、まず勘違いされちゃ困るわ。私はですね、ISを扱えない男は不要だと言ってるの。道外流牙、あんたもどんなインチキを使ったかは知らないけど…いずれ、この学園から摘まみ出される日は来るわよ。そこの無能鉄仮面さん方と一緒にね。」

 

「…貴様ァ!?」

 

「落ち着けって!」

 

まずい……隊員の怒りも、もう殴りかからんばかりだ。抑えている隊員も正直なところ、腹の底に何処まで溜め込んでいるか………

早急にこの場をなんとかしなくては、自分たちの話も進まない。

 

……その時だった。

 

 

 

「……羽黒副隊長、セラ隊員、これは何事だ!」

 

 

生徒は明らかに格の違う一言。黒い帽子と纏う規律正しさは流牙も見覚えがある………。SG-1隊長、エンホウその人が騒ぎを聞きつけて駆けつけたのだ。

 

「た、隊長………」

 

「エンホウ……」

 

「流牙、貴様もいたのか?状況の説明を願いたいな。」

 

彼女の登場に急に大人しくなった隊員たち。しかし、相変わらずとオルテガは口を開く。

 

「あらあら、隊長さん。丁度いいわ。そこの男たちを摘まみ出して。IS学園を護るならISを扱える者というのが筋というモノ…即刻、警備体勢の改善を訴えます!」

 

 

ああ、そんなことか……エンホウは心の中で溜め息をつく。薄々、察していたのか歩み寄ると正々堂々と愚かな淑女に向かいあう。

 

「…成る程。つまり、私の部下がなにか不祥事を起こしたわけではないのですね?」

 

「あら、わかりません?ここに男性がいること事態、不祥事だと言ってるの。わからない?」

 

「わかりませんね。どのような道理なのか……論理的に説明してもらいたい。彼等は私の厳格な審査の上でSG-1の制服を纏っている。こちらも、ISは2機しかない以上…男性隊員をまわすしかないのはご理解頂きたい。」

 

隊長というこの看板は伊達ではない。進めど退かず…全く動じない。生意気な子供など熱くなるのではなく、正しさを突きつけて抑えつけていく……

 

「なら、女性隊員だっているでしょ!?なんで、ここに男をまわすの!?女を連れてきなさいよ!」

 

「お言葉だが、貴女方は護衛対象であれど依頼主<オーナー>ではない。我々に直接、口を挟む権限は無い。文句があるなら生徒会を通して抗議しろ。」

 

「…くっ!?」

 

さて………もう噛みつくにも使えない手札をわざわざ使いにいくほどオルテガは愚かではなかった。『覚えておきなさい!』と捨て台詞を吐いて、腰巾着らとその場を逃げ去っていく…。途端に、その場で生徒たちは拍手を彼女に贈るが、当の本人はキリッとした表情のまま隊員を見据える。

 

「…あれほど言ったはずだ。軽率な行動は控えろと………」

 

「申し訳ありません。隊長…」

 

やはり、非がどちらにあれど不祥事は不祥事。きっちりと部下を叱るのは上司としての務めか………。しかし、流牙が割って入って隊員らを庇う。

 

「待ってくれ、エンホウ!悪いのはあっちだろ!?明らかに煽ってたじゃないか!」

 

「道外流牙………ここでの問題はそう簡単に片付けられるものではない。悪いが、口を挟まないでくれ。お前にも下手をすれば飛び火するかもしれん。」

 

しかし、その実は流牙をエンホウは庇っていた。IS、社会、男女差別…それらが渦巻き燻るからこそ、生徒とSG-1との問題であるうちに流牙の意を入れる間もなく消火させたのだ。まあ、流牙はそこまで理解がまわっていないが………

すると、離れていたリアンとシャルも駆け寄ってくる。

 

「助かったよ、エンホウ。本当によかった…」

「いや、こちらこそだデュノア。たまたま近くにいたものの、貴女の一報が無かったら今頃はもっと惨事だったろう。感謝する。」

 

そういえば、シャルとエンホウは旧知の仲だった。ノワールの時には既に親しくしていたのを思い起こすリアンには彼女らが久方ぶりの再開を喜ぶ友人たちに映る。中でも、エンホウの清廉された剣のように凛々しい姿は目を惹きつけた…。

 

(彼女がエンホウ………SG-1の隊長…)

 

「あ、そうだ…。会長の妹………」

 

あ、そうだ。すっかり忘れていた。流牙らの本来の目的はそっちなのである。それと、ほぼ同時であった……

 

 

 

 

「ちょっと、簪さん!?」

 

 

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

カタファルトが起動し、お目当ての少女がふわりとISを纏い浮いていたのは………

一瞥された眼鏡越しの紅い視線は流牙を一瞬、睨み、わがて羽ばたく空に向けられる。皆が驚いている中…少女は飛翔する!

 

 

(道外流牙…私はッ!)

 

 

「更識簪…出ます!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「さて………そろそろ、本当のことを話したらどうだ?」

 

「はい?」

 

再びアジトにて…。苻礼法師により切り出された言葉にすっとぼけた声を出す楯無。特になにも無いような素振りを見せるが…苻礼法師はデスクの作業の手を止め、彼女を瞳にとらえる。

 

「わざわざ、こんな強硬手段までして流牙を妹に差し向けた理由…。それは妹を護るためだろう?」

 

「!」

 

微かに、少女の眼に動揺が見えた。しかし、すぐに扇子を『お見事!』と書かれたものを拡げて告げる。

 

「気づかれましたか………その通りですわ、苻礼法師。正直、こんなに早いとは思いませんでしたが………」

 

「ああ。こちらも彼女にはそれなりに気をかけていたからな。恐らく学園の中で一番のホラーの的はあの娘だろう…」

 

 

 

 

ここで、アグリは首を傾げる。そうだとしたら、色々と違和感を感じる。これをぶつけるために彼は前に出た…。

 

「待ってくれ、法師。いくら生徒会長の妹とはいえ、それならわざわざ、こんな無茶なことを彼女がするまでもないのでは?」

 

そう………別に、アジトに単独で乗り込むほどのリスクを犯すよりかは生徒である流牙にいくらでも頼むなり出来るはず。されど、苻礼法師は解っていたのだ。

 

「アグリ、先日まで俺が何を宛にお前たちに学園内で指令を出していたと思う?」

 

「は…?」

 

「…皆、流牙と簪の位置付近だ。その近くに全てホラーが出た。つまり、敵は流牙と簪を執拗に狙っているのは間違いない。」

 

成る程、難攻不落の城を落とすならまず、周りからと楯無の妹である簪から狙い…伝って生徒会長である楯無を手玉にとり、流牙を狙うという算段をつけたのだろう。だが、楯無がいち早くこれを察知して現在に至るというわけである。

 

「IS学園の重要人物は以前からマークしていたが、どれも一筋縄ではいかないのは見ての通りだ。ならば、周りから確実に落とすのが理。敵も馬鹿ではないようだ………むしろ…」

 

「?」

 

最後が妙に歯切れが悪い苻礼法師。アグリは彼の意は解せはしなかったが、楯無が近くにいるため迂闊に口を開くのをやめた。

 

「さぁーて、何にせよ流牙くんなら可愛い簪ちゃんを守ってくれるって信じてるわ!なんたって、黄金騎士ですもの。」

 

明らかに苻礼法師のリアクションに楯無は目を瞑っていたが、踏みいることはしない。彼女が苻礼法師らを完全に信用しているかは謎だが…ただひとつ………

 

 

………黄金騎士・道外流牙はきっと、妹のナイトであると信じていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、姿勢制御………共にクリア。今のところ、問題なし。」

 

空を舞う簪は、ホログラムから啓示される愛機のデータを落ち着いて観測している。調子は上々…各部、正常に機能しており問題は無い。ブースターを噴かし、アリーナに弧を描きながら彼女は鳥のように滑空する。

流牙たちはその様子をカタファルトから顔を覗かせて見ていたのだが…そこに、トテトテと足音ある人物が現れた。

 

「がりゅっち、りあちゃん……!ここにいたんだ!!」

 

「の、のほほんさん?」

 

袖の余る制服の小柄な少女………布仏本音はいつものまったりした調子ながら、ちょっぴり息を切らしながら駆けてきたのである。すると、彼女は空にいる簪を少し哀しげに見据えて流牙に問う。

 

「…あー、もしかしてさ…がりゅっちはかんちゃんともうお話したのかな?」

 

「かんちゃん?簪の事か…。話かけようとしたら、出撃しちゃって………だから、今は戻るのを待ってる。」

 

「ふ~ん………」

 

問いの真意を解せない流牙…その隣で首を傾げていた彼に、エンホウは目を見開く。

 

「まさか、知らないのか?道外流牙?」

 

「?」

 

「彼女の専用機はお前のせいで開発凍結されたのだぞ?」

 

「え………」

 

何だって?流牙は耳を疑う。簪の専用機が自分のせいで開発凍結などと、寝耳に水な話だ。どんな理屈でそんな不意に沸いて出たようなことを言われても戸惑うより他無い。そんな彼に真実を告げたのは本音だった…。

 

 

 

「がりゅっちは悪く無いよう。かんちゃんは日本の代表候補生として専用機が用意されるはずだったんだけどね…。がりゅっちがISを動かしたのをキッカケにそっちに殆どの人をとられちゃって………それで…」

 

…彼女の機体の計画は事実上、白紙になったというわけか。流牙と白狼は確かに世界的に見れば一介の代表候補生より遥かに世界のパワーバランスを左右する存在だろう。だが、人材は限られる…となれば、価値の低いものは切り捨てられる。別に特段におかしいことではない。無いのだが………その事実は流牙の良心を抉るには充分だった。

 

「今、かんちゃんはお姉さんの生徒会長と同じように、自力でISを組み上げようとしてる。あの機体がその試作だよ………。きっと、もがいてるんだよね。かんちゃんはかんちゃんなりに…」

 

「………そうか…。知らなかった。」

 

「流牙のせいじゃないわよ。」

 

リアンがフォローするが、浮かぶ心痛な表情。彼は決して、直接関係無いと割りきるような薄情な人間ではない…むしろ、優しい本来の気質からすれば巡りに廻って何の言われもない少女を傷つけて約束された未来を奪ってしまったことは胸に刺さる痛みだった。楯無からの難題な頼みといだけではなくなった………今、流牙の中には彼女のために力になるべきという感情が芽生えつつある。

 

………そんな時であった。

 

 

【エラー~error~】

 

「え?」

 

簪の目の前のホログラムに突如として異常を伝える紅い警告画面が現れる。戸惑う主をお構い無しに次々と制御不能となる機体…ついには推進力であるブースターすら黒煙をあげて機能しなくなり、必死のキーボード操作する簪の健闘虚しく落下していく………

 

…無論、異常はすぐに流牙やエンホウも気がついた。

 

「…!?」

 

「まずい!」

 

咄嗟に反応したのはエンホウ………ラファールを展開して、一気に加速すると彼女を受け止めるべく飛び出すが…

 

(くっ………この機体の加速では………!?)

 

………間に合わない。あと少し、あと一歩………目と鼻の距離なのに手が届かない。このままでは彼女は地面に衝突して………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

「!」

 

 

…寸前、追い抜いていった疾風!白い機影が落ちてくるヒロインを受け止めると地面を穿ちながら、壁に激突していった。それが、流牙と白狼であることはすぐに分かった…。彼が身を呈した故か、少女は気絶したままその胸に愛機と共に抱かれていた。

 

「…いてて、良かった無事かな?」

 

「道外流牙!?なんて、無茶を………」

 

「これくらいどうってことないよ。俺、身体は頑丈だし………」

 

 

 

 

………予想外の形になれど、更識簪と道外流牙の出逢いはここからはじまり…

 

………やがて、姉妹の絆を垣間見ることを黄金騎士はまだ知らない…

 

 

 

 

To be continued

 




戦闘は次回の後編に。そのあとは箒&千冬&リアン編になりますかな。予定として…

感想おまちしてます。


ところで、誰かTwitterの使い方教えてくれないかね?登録したけど使い方が全然わからないぞい。



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簪~Sister~ 後編

あけまして、おめでとうございます。
意外と長くなったぜ?

実はあと1話だけ、おまけくらいですが更識姉妹編…もとい、簪編は続きます。多分、今回の話のモチーフわかる人いるかな?

ぶっちゃけ、今回の話は今までの中でわりと怖いです。


・Side簪………

 

 

私の人生は酷いものだった…。勿論、生活に苦するようなことは無かったし学ぶ場所も事欠くことなく、友達もいた。

 

………でも

 

 

更識という血統。優秀すぎる姉………私の前に立ちはだかる壁はあまりにも大きかった。それでも、努力すればきっと報われるって信じていたのに…………

 

 

………道外流牙…

 

 

 

あの男は私の積み上げてきた全てを嘲笑うように奪っていった。

 

 

何故、私ばかりがこんな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「気がついた?」

 

「!」

 

目が覚めた時、自分は保健室のベッドに担ぎこまれていたことと見慣れない男が付き添っていることに気がつく。簪はおもむろに身体を起こすと、今までの記憶を思い出す…そして、項垂れる。ああ、自分は失敗したんだと…………

 

「俺は道外流牙…………えと、よろしく…」

 

「…」

 

タイミングが悪いのは重々承知だが、とにかく自己紹介する流牙。そこらの女子なら明るく振る舞えるだろうが彼女の辿ってきた道を考えるとどうもらしくなく、ぎこちなくなってしまう。それでも、嫌な関係のままではいたくないと笑顔を向けようとするが…………

 

「…………何しにきたんですか?」

 

ギロリと眼鏡を外した紅い瞳が流牙を射抜く。親の敵を見るような視線が彼の足を後退りさせる…………

 

「わざわざ私を笑いにきたんですか?」

 

「ち、違う………俺は君のお姉さんに頼まれて…………」

 

その時、より彼女の眼は鋭くなった。逆鱗に触れられた竜のごとき、形相で流牙を突き飛ばすと荒々しく叫ぶ!

 

「出ていって!」

 

 

そのまま、枕を投げられたりした勢いで保健室から叩きだされてしまった。何とか話を聴いてもらおうと思ったが、少女は今、あまりにも強く心を閉ざしている。伸ばそうとして拒絶された手は虚しさと痛みばかり掴む………

今はどうしようも出来ない。流牙は心痛な表情を浮かべてその場をトボトボと後にする…………

 

「なんで……どうして、貴方たちは私を苦しめるの!?どうして!どうして!?」

 

去った跡もまた怒りと悔しさのやり場の無い感情にのたうちまわる声……

 

 

 

 

 

………その様子を千冬に似た黒づくめのサングラスをかけた青年が眺めていた。

 

 

 

…彼は流牙と入れ替わりに簪の病室に入ると

 

直後に少女の悲鳴が廊下をこだました…。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪!?」

 

流牙はすぐに身を翻して、保健室に駆けつけたがそこに簪も男の姿も無い。代わりに、ぐちゃぐちゃになったベッドと折り畳み式の持ち歩きテレビに…先のオルテガが腰を抜かしている。すぐに、オルテガを起こし現状を問う。

 

「何があった!?」

 

「し、知りません…。日本の政府の役員ってのがあの娘に用があると言うから案内しただけ。そ、そしたら…吸い込まれて…………ひぃぃ!」

 

彼女は話すと半ば錯乱した様で逃げるように飛び出していった。流牙は別に彼女を追おうとはせず、持ち歩きテレビを手にとると耳を傾ける。すると、微かに簪の叫ぶ残留思念が聴覚に届く…………

 

「……まずいことになったな。」

 

察する。これは間違いなくホラーの仕業であると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【簪ちゃん…あなたはこのまま無能でいてね…】

 

 

「…いやっ!?」

 

不意に耳元で囁かれたような姉の声に悲鳴をあげて飛び起きた簪。一体どうしたのか…辺りは学園の保健室ではなく、小綺麗で清潔な病室。ただ、心なしか古ぼけて不気味な雰囲気があり……彼女は血のような赤い染みがついたベッドに寝かされていたと気がつく。

 

「…なに?」

 

気味が悪い…とにかく、病室の外に出てみれば、患者はおろか看護士1人もいない無機質な廊下。夜中でもないのに明かりが不調のためか薄暗く、車椅子や注射器など医療品などが散らばっている。さながら、ホラー映画の1シーンを覗いてみた気分…いや、飛び込んでしまったようである。

 

(……病院?誰もいない…)

 

血の鉄臭さと消毒液の独特の臭いが強烈に嗅覚を刺激し、不安定な神経もあいまって吐き気が胸の底で燻りだす…。

まず、外を出よう。少なくともここよりかはマシだろう…そう思い、階段を見つけて下っていく……。

 

 

 

ーーカツカツ…カツカツ……

 

「…」

 

 

踊り場……階段……踊り場……階段……

 

無機質な足音が規則正しく脈打つように、響き渡る……

 

 

 

 

 

 

ーーカツカツ……カツカツ………

 

 

「…?」

 

階段……踊り場……階段……

 

おかしい。暫くして簪は足を止める。奇妙なことに、いくら降りても下の階層に着かない。おまけに心なしか、下に進めば進むほど建物錆びてくるような気がする。

 

(…嫌な予感がする。一旦、戻ろう……)

 

悪寒が走る。踵をかえして、今まで下ってきた階段を戻ろうと……

 

 

 

 

ーーガシャァァン!

 

「きゃ!?」

 

しかし、振り向いた途端にハンマーでも降り下ろされたように上の踊り場を繋ぐ階段が轟音をたてて崩落してしまう。まるで、後戻りなどできないというように……

流石の簪もこれには腰を抜かして涙を浮かべる。

 

「な、なに……何なのよもう!」

 

もう恐怖が彼女の心の大半を支配しつつあり、まともな思考機能すらも徐々に奪われていく。誰かが嘲笑している気がしたが、怯える少女の知る所ではない。すると、突然に足許から巨大な真っ暗な穴が出現して簪を呑み込む…

 

「!…きゃあああああああああぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァ……」

 

同時に彼女は漆黒の闇の中に……悲鳴の尾を引いて見えなくなっていった……。

 

 

 

 

 

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「…道外流牙ァ!」

 

「!」

 

直後、楯無はアジトへ戻った流牙の胸ぐらを掴みあげる。その表情は期待に対する裏切りへの憤怒に燃える彼女は今まで流牙が見たことがない一面である…。戸惑いながらも、彼はゆさぶりに身を任せた。反抗も口答えもしない。

すぐさま、アグリと箒が彼女を引き剥がしたがその罵倒は続く……

 

「私は!!貴方を信じていたのに!セシリア・オルコットと凰鈴音と同じように、簪ちゃんを助けてくれるって…!!」

 

「よせ、生徒会長!落ち着くんだ!!」

 

「どうして!どうしてよ!!」

 

箒がなんとか宥めようとしたが、妹の消失に完全に我を失っている。仕方ない…確かにそうかもしれない。いくら、学園の生徒会長といえど人間で姉なのだから。

しかし……

 

 

パチン!と彼女の頬を叩く音がした。

 

 

「…いい加減にしなよ。結局、貴女は流牙に他力本願してただけじゃないか!」

 

意外……その人物はシャルであった。いつも優しそうな顔から一変した喝に、楯無は項垂れた。すると、見かねた流牙が保健室に残されていた折り畳み式の持ち歩きテレビを取り出して告げる。

 

「…楯無さん、まだはやまるには早い。多分、簪はこの中で『生きている』。今ならまだ、助けられるかもしれない。」

 

「成る程、自らの巣の結界に獲物を引きずりこんで喰らうタイプのホラーか…。面倒だな。」

 

苻礼法師は即座に流牙の持つアイテムの邪気から大まかな内容を推定する。ならばと、箒は声をあげた。

 

「…なら、このテレビごと破壊すれば……」

 

「いいや、それは危険過ぎる。確実にホラーをこっちに現界できるけど、高確率で中の人間は結界が崩壊するショックで死ぬ。危険すぎるよ。」

 

「…しかし、もう生きているとは限らな………ぁ……」

 

しまった…。勢いあまって配慮を忘れてしまったと気がつく箒。しかし、彼女の推察も正しい。ホラーの巣の中にいる人間が生き残っている可能性低いのも事実。

 

それでも……

 

 

 

「…手を貸して下さい、苻礼法師。」

 

 

黄金騎士・道外流牙は退きはしない。苻礼法師に彼は頭を下げる……

ほんの一筋の光、1%の可能性があるというのなら彼は全身全霊、己の命すら賭ける。

「駄目かもしれなくても、簪は俺が救いにいかなくちゃ駄目なんです。それに、待ってる人もいるのに見殺しには出来ない!」

 

「…流牙くん……」

 

楯無は眼を見開いた…。無責任に罵ったというのに彼は迷いもせず、妹を救うため命を投げうつ覚悟でいるのだ。

苻礼法師は首を傾げて考える……そして、答を出す……

 

「駄目だ、行かせるわけにはいかない。」

 

直前、否ッ……とアグリが立ちはだかる。

 

「…生きてる確率は低いのは事実。むざむざ、死ににいくようなものだ」

 

「やってみなければ、わからないだろ!」

 

「冷静に考えろ。下手をすれば、牙狼の鎧を失う可能性だってありえるんだぞ!」

 

「なら、何の為の魔戒騎士だ!何の為の鎧だ!?1人でも多く守るのが俺たち守りし者だろ!!」

 

「そんなもの綺麗事だ!」

 

どちらも……正論だった。流牙は理想的な正論、アグリは現実的な正論……ぶつかりあうのはやむを得ない。理想は綺麗事と斬って捨ててしまえば己たちの存在意義に歪みを起こし、かといって現実に眼をむければリスクが大きいのも事実。

お互いにどちらも背くには難しいが……しかし…

 

「待った。ここは僕達も忘れないでほしいな。」

 

忘れてもらっては困るとシャル。彼女は魔導筆を手にクルリとまわすと、黒札を幾つか取り出した。

 

「一応、ここには騎士だけじゃなく魔戒法師もいるんだ。僕らも、手を貸すくらいは出来る。1人で無茶はさせないよ。」

 

「……でも、今はリアンがいない…」

 

魔戒法師をアテにしろ……しかし、流牙は今はリアンが講習でタイミング悪く席を外していることに思いあたるが、彼女はそれを笑いとばす。

 

「忘れた?魔戒法師は一応、僕と箒もなんだよ?ねぇ?」

 

「え……」

 

急にアイコンタクトを飛ばされて箒は戸惑うが、流牙は彼女に真剣な眼差しで向かい合う。

 

「箒、すまない。君も手を貸してくれないか?お願いだ…」

 

「あ、……ぁぁ…勿論だ。」

 

「よし、決まりだね!手ならある……苻礼法師とアグリも協力してね?」

 

 

 

こうして、作業ははじった。アジトの下階に場所を移すとテレビを置き、シャルは黒札を八枚…隅に設置。そして、自身と箒に苻礼法師をテレビを中心に三角を描きその頂点に位置するように立たせる。

 

「…ハッ!」

 

すると、円のような魔法陣が3人を基点に形成され…テレビにホラーの結界へと続く禍々しいゲートが開かれた。

流牙はゴクリと唾を呑み込むと、一歩を前に踏み出す……が、苻礼法師が一言。

 

「流牙……鎧をあの邪気が濃い空間で召喚できるとは限らない。気をつけろ。」

 

「ああ……」

 

やがて、彼は恐れることなく闇の中へと飛びこんでいく……

ただ1人の少女を救うために、遥かに底知れぬ…

 

 

 

……果てなき、闇の中へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……!」

 

 

意外なことに、10秒かちょっとしたら地面に足がついた。ぶちまけたミルクで満たされたような白い霧にアスファルトに立つ感覚……。見渡せば微かに見えるのは廃屋の並ぶ町並み…ゴーストタウンという奴か。もっと、禍々しくて息がつまりそうな空間を予想していたが、こんな寂れた場所とは流牙も拍子抜けする。

 

「簪!」

 

とにかく、彼女の名を叫んでみる…。

……反ってくるのは自分の木霊。応える者は誰も無し…やはり、彼女は付近にはいないのだろう。なら、この場所に留まることはないと空虚な町の中を歩を進めていく。

ショーケースが割れた洋服屋……泥や黄砂で汚れきった車……ひび割れたアスファルトに灯りの無い家々。これらの何処かに簪がいるかもしれない。まず、流牙は洋服屋を蹴破って入る。

 

「簪、いないのか!?」

 

木で造られ、朽ちかけたドアは流牙の脚で簡単に留め金が外れて床に砕けた。暗い部屋の中にあるのは簪そっくりなカツラをつけたマネキンが数体に最早、ボロキレになった服が棚に積み上げられている。埃臭く、思わず袖を顔に持っていきながらレジカウンターの影や、裏の事務所のドアを開けて捜してみるが……やはり、いない。

 

「…手当たり次第じゃ、埒があかないか……」

 

 

 

ガタッ

 

「!」

 

その時だ……不意にマネキンたちがひとりでに動きだして流牙を襲う!1体が組みつくと、首を締めあげにかかり…殴りとばして引きはがすと、次は2体が殴りかかってきて身を反らしてかわす。

 

「…成る程、歓迎の準備はできてるってわけね!」

 

流石、ホラーの結界の中……易々と進ませてはくれない。魔戒剣を抜くと、再び飛び掛かってきたマネキンを斬り捨てて流れるような動きで背後からきたマネキンをキック。最後のマネキンは腹部を貫き、頭突きでぶっとばす。すると、マネキンたちは血潮の霧を炸裂させて消えていった…。

 

「……ザルバ、コイツらは使い魔だ。このままだと、分が悪い。簪の場所は分からないか?」

 

『これくらい、自分でどうにかしろ坊や。』

 

「頼ろうとした俺が馬鹿だった…」

 

闇雲は敵の思うツボとこんな時に頼りたい指輪は仕事をしない。まだ一人前と認めていないという事だからだろうが、時と場合を考えてほしい……

軽く苛立ちながら、洋服屋を後にする流牙だったが……

 

 

 

ーーーウォン!!ウォン!!ウォン!!

 

 

「ぐっ!?」

 

今度はけたたましいサイレンの音がした途端に空気が赤黒く濁り、道路に何処からか走ってきたわけでもないのにパトカーが現れて、今度は警察官の格好をしたマネキンたちが行く手を阻む。

 

「クソッ!どけぇ!!」

 

 

 

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「……?」

 

その頃、簪は再び意識を取り戻すと見知らぬ部屋…今度は無機質で暗い小部屋程度の場所。確か、自分はあの穴から落ちたはずと頭を抑え、立ち上がると中央にある白い布が被せられた担架が目にいく。見てくれといわんばかりに、部屋の蛍光灯が照らし……布の盛り上がりは

 

丁度、人がひとりくらい…すっぽりと覆えるくらい……

 

「…ここってまさか……」

 

そんな刑事ドラマくらいでしか見た記憶が無い……本物なら、この白い布の下に隠されているのは……

 

恐る恐る、末端の布に手をかけてめくる……すると……

 

 

「ひっ!?」

 

生気の無い真っ白な肌で……横たわっていたのは自分とそっくりな顔。目を閉じて物言わぬが、後退りしてしまうのは見間違えようのない自分の『姉』だから……

 

ここは、霊安室……即ち、遺体を安置する場所。

 

「なんで……なんで…!?」

 

『それは貴女が望んでいたからでしょう簪ちゃん?』

 

「!」

 

 

屍たる姉は狼狽する妹に汚濁した紅い瞳を向けて、腐りかけの喉を動きして喋った。今の自分はお前が求める姿だと……

 

『憎い……憎い……憎いでしょう?この優れた姉が?殺したいほどに……』

 

「ち、違う…私は別に………殺したいなんて…」

 

簪は否と呟くが、目の前の現実は覆えらない。

 

『ここは貴女の心の中……だから、貴女の望みが具現化する。』

 

「違う!嘘!!私は絶対に……」

 

『いけないわね……くくくく、かかカカカカカカカカ……』

 

 

 

 

体現されたドス黒く否定しきりたい醜い欲望の化身はその身を不自然にカタカタと身体を動かし、腹を膨らませる。グジュグシュと死肉を生々しく掻き回す音…そして、白眼を向いた屍が跳ね上がると腹が突き破られて素体ホラーが現れる。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ…!!!!!!!!!!」

 

『シュゥゥ…!!』

 

簪は甲高い悲鳴をあげて咄嗟に霊安室を逃げ出した。ドアを開ければ灯り明滅する病院の廊下…… 戻ってきたかは定かではないが暗い密閉された空間は少女の恐怖心を煽る…。それでも、逃げなくては待つのは間違いなく『死』……もがくように延々と続く廊下を走りはじめる。

 

『シュゥゥ…!』

 

同時に、霊安室のドアが鉄槌がごとき太い大剣で叩き潰され、中から黒のレインコートを身につけた屍が歩を踏み出した。血の涙を流しながら、大剣を引きずって見据えるのは逃げ去る簪。フードを被って垣間見えた顔は確かに不気味に笑っている……

 

『殺さないと、殺されるわよ簪ちゃん……』

 

そのまま、ゆっくりと身の丈以上はある剣を地面にこすって追いかけていく。それに、気がついた簪は意識が散漫になり躓いて倒れてしまうが…右手が何かを掴む。無機質な鉄の感触に何だと見れば……

 

(け、拳銃……!?)

 

なんで、病院なんかに……しかも、都合の良い場所に落ちているなんて……

だが、今の簪に気にしている余裕は無い。腰をついたまま銃口を迫り来る屍に向けて引き金に手をかけた。

 

「…ッ」

 

でも、撃てるのか?仮にも、姉と同じ声をして同じ顔をする存在を……

 

『撃てる……?臆病な貴女に撃てるかしら、簪ちゃん?』

 

「来ないで!」

 

撃たないと…撃たないと……殺される…殺される…間違いなく殺される。震える手に瞳に浮かぶ涙……。

気がつかない、背後の影から具現化するホラーのシルエット。

 

『貴女はずぅっと、私のモノ……』

 

「…ぅぅ……あああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

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「!…簪ちゃん?」

 

ふと、顔をあげた楯無。今、妹の叫びが聞こえたような気がすると法師たちが形成する魔法陣にアグリを振り切り、駆け込むと持てる限り叫ぶ!

 

「簪ちゃん!!こっちよ!帰ってきて…!簪ちゃん!!」

 

 

 

 

 

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「お姉ちゃん?お姉ちゃん…!!!!」

 

『ギッ!?』

 

その声は確かに、簪にも届いていた。心にさした一筋の希望の光は迫るホラーのシルエットを弾き、ただ純粋に殺意でもなんでもない姉を求める叫びはこの男の耳に届く…!

 

「簪…!そこかァ…!!」

 

外の霞みがかる街でマネキン使い魔たちを払いのけるこの男、道外流牙。魔戒剣を頭上にかかげ、鎧を召喚すると一気にパトカーを踏み越えて建造物にパンチ。壁を砕いて中に突入すると、腰を抜かしていた簪と屍の間に立つ。

 

「あ、あの時の…!」

 

簪は牙狼を見た瞬間、先日…格納庫で激闘を繰り広げていた戦士と全く同じ姿であることに気がつき、驚嘆。また、牙狼は簪の無事を安堵しつつも屍に牙狼剣を向けて構えて戦闘態勢をとる!

 

『クソゥ、あと一歩のところで!!』

 

「黙れ、ホラー!」

 

屍が肉食昆虫のような口を展開し、戦いは開幕した。屍は楯無の顔を破ると、ガスマスクのような素顔に身体も流牙以上の巨体となり…ホラー『プギージュ』へと変態。牙狼に大剣で壁を抉りとりながら、襲いかかるがジャンプして頭上から牙狼が後ろにまわりこみ、牙狼剣で背後から貫く!

 

『ぐ!?ギャアアアア!?!?』

 

「ふんっ、はァ!!」

 

そのまま、刃を反転させ頭上に向かって一閃……

斬りあげられた刃はプギージュの胸と頭を両断して穢い花を咲かせた。やがて、異形の身体は塵となり牙狼は決着を確認すると鎧を解除して簪に歩み寄った。

 

「大丈夫?」

 

「ど、道外流牙…?な、なんで……」

 

「話は後……ここを出よう。」

 

流牙は腰を抜かしている彼女を抱き上げると、彼方に見える光に走り出す…。既に、悪夢の世界は崩壊をはじめていた……

 

 

 

 

 

……まるで、少女を長い間…がんじがらめにして苦しめていた感情が消え去っていくように……

 

 

 

 

To be continued……

 

 

 




☆次回予告

リアン「知った想い……貫かれた信念……紡がれた絆。宿命の姉妹と黄金騎士はどの道を歩んでいくのか?次回【姉妹~Sarashiki~】。その選ぶ道は誰のために…?」




★ホラー紹介

・プギージュ
陰我のオブジェを媒介に獲物を引きずりこむアリジゴクのような性質を持つ結界をはる。別に決まった姿があるわけではなく、結界と共に引きずりこまれた獲物によって姿を変える。そして、分身を憑依させて現実世界で活動する。しかし、オブジェそのものは無防備なので本体ごと破壊されればひとたまりもない。
簪の場合はコンプレックスの対象である楯無を屍化させて、大剣を持つ姿で現れた。

イメージは某・静丘の▲様とプギーマン。結界世界も静丘をイメージしたもの。実は屍の腹からホラーが出てくる演出はエ◯リアンがイメージだったり……



★★

本当なら、もっとアグリとかの活躍や鎧召喚できないシーンをいれたかったのですが想像以上にテンポ悪い展開になりそうだったのでカットしました。 ううむ、無念……

さて、今年もIS GAROをよろしくお願いいたしますよ!感想、おまちしております。


あと、Twitterはじめました。


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姉妹~Sarashiki~

 

 

数日の月日が経った…。

 

 

 

ISの格納庫には簪の機体が安置され、簪をはじめとした生徒たちが整備を行っていた。リアンもその中に混じっており、簪と楽しそうにしながら機体の調整にあたっている。

そんな和やかな光景を流牙は遠目から見守り、微笑していた。

 

「やれやれ、道外……また無茶をしたようだな。」

 

「千冬さん…」

 

「織斑先生だ。」

 

すると、影から彼に話しかけてきたのは千冬。お約束のやりとりをしながら、彼女もまた生徒たちを見守っていた…。だが、流牙と違い表情は心痛なものである。

 

「……また、迷惑をかけたな。」

 

「気にしないで。それが俺たち、守りし者だから。」

 

教師であり、本来ならば生徒を護らないといけない身。しかし、結局はホラーが関わるとなれば流牙たちに丸投げという形で頼らないといけない自分が歯痒かった…。自分はセシリアたちと同じように魔戒法師として修行を積むにはあまりにも多忙すぎ、手一杯で手が回らない。せいぜい、流牙たちの正体が露見しないように裏方に撤するくらいだ。

流牙は、別に責めることはないと告げるが本来なら剣を持ち前に立つ性分の千冬からすれば、戦う彼とて護るべきものである。顔には出さないが、憤りは彼女の胸でうねりながら渦を巻く。

 

「私は無力だ。ふん、なにがブリュンヒルデだ…。生徒もろくに守れず、たった1人の弟すら手を掴むことすらできず……」

 

「千冬さん。」

 

不意に、流牙は千冬の両肩をつかんでまっすぐに、瞳を重ねる。突然の行動に千冬はドキリッとして面食らってしまうが、彼は続けた…。

 

「辛いなら、我慢しないで。頼ることは恥ずかしいことでも、いけないことでもない。俺やリアン…ううん、それだけじゃない!鈴やセシリアたちだって少しずつ強くなってる。それは、千冬さんがずっと担任として面倒を見てきてくれたからなんだ。あんたは出来ることを充分しているのは俺達が一番、よく解ってる。だから、頼っても良いんだ!」

 

「…道外。」

 

……まっすぐな目。力強さ、優しい笑みと心…

 

忘れかけていた親しい誰かの面影が見えた気がした。

 

「…フフッ、やれやれ私としたことが仮にも生徒の前で弱音を吐いてしまうとはな。未熟だな、まだまだ。」

 

千冬は笑いながら、流牙の額にコツンと人差し指を当てる。そして、かけられた腕を抜けて流牙の肩に手をポンッと置くと耳元にそっと告げた…

 

 

「道理であの小娘たちが夢中になるわけだ。」

 

 

「え?」

 

そのまま、彼女は格納庫を後にしようとしていくが足を止めて…

まるで、顔を見せたくないように振り向かず高らかに喋る。

 

「道外流牙…お前の武器は技と鎧だけではない。最大の貴様の武器は『優しさ』……そして、その『笑顔』だ。決して忘れるな。あと、私は2日ほどドイツに発つ。そろそろ、臨海学校も近いし帰ってくるまで準備をしておけ。」

 

 

見るからに照れ隠しだが流牙が悟るにはその感性は鈍すぎた。去っていく千冬の後ろ姿を意を理解せず、見送りながら流牙は言われた言葉を頭の中で反復する……

 

 

(……優しさ、笑顔…誰かにも同じようなことを言われたような気がする。)

 

 

「りゅ、流牙!」

 

思い出しきれない懐かしさにひたっていると……流牙に先まで整備にまわっていた簪が顔を真っ赤にし恥ずかしそうにしながら、振り絞るように話しかける。

 

「わ、わわ私と明日、付き合って!」

 

「明日……ああ、そういえば外出許可日だっけ?良いよ、俺でよければ……予定は昼なら暇だし。」

 

流牙は別に何の気なしに快諾…したのだが、他の面々はそうはいかない。通りすがりのセシリアと鈴音に、作業をしていたリアンが盤若の顔を浮かべていたが2人は知る由も無い。

全く、英雄色を好むというが自覚が無いというのは随分と困ったものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EP『姉妹~Sarashiki~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっと!?」

 

結界から脱出した流牙は簪を庇う形でアジトに着地した。おかげでデスクやらなんやらは滅茶苦茶になり、ゲートの携帯テレビも邪気を噴き出して大変なことになっている。すかさず、苻礼法師は魔導筆を鞭にかえてしならせると羅号を召喚し、携帯テレビを処分を命じた。

 

「羅号、そいつを処分しろ!」

 

『ガゥ!』

 

命令どおり、羅号はテレビをくわえるとバリバリと鉄が砕ける音をたてながら口の中に呑み込む。そして、役目を果たした獣は苻礼法師のマントの中へ帰って姿を消す。これでもう、心配はないだろう。

 

「簪ちゃん!簪ちゃん!!」

 

「お姉ちゃん……ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

さて、これで一件落着だ。再会に姉妹は泣きじゃくって抱き合い、箒とシャルはふぅ…と一息をついてソファーに腰を預けた。

 

「…ありがとう、流牙くん。」

 

「良いよ、これが俺達の使命だから。後のことは苻礼法師に任せるよ……俺、このあと補講があるから。」

 

楯無は最愛の妹を救ってくれた恩人に感謝を述べ、流牙はそっと簪の頭を撫でると黒い魔法衣を真っ白な制服に変えてその場を後にしようとするが……

 

「待て、流牙。」

 

それをアグリが止めた。

 

 

「……君の行動は評価できたものではない。結果的に助かったから良いものの、下手をしたら最悪の結果だってありえたんだぞ。」

 

「簪も俺も無事。最高の結果なんだから文句はないだろ?」

 

「流牙!」

 

しかし、流牙は一蹴して去る。最悪の『if』の可能性なんて耳を貸す気は毛頭に無い。1%でも最善の可能性があるのなら、それに全力を賭けるのが自分の戦いだから……

無論、納得がいかず険しい顔をしたアグリが背にいたが気にはしない。

 

「…さて、更識楯無。これで我等を信用するか?否か?」

 

さて、問題はまだある。苻礼がきりだした自分たちへの対応……

楯無は涙を拭いながら、再び生徒会長の顔に戻るとキリッとして告げる。

 

 

「…改めて、考えさせてもらいます。交渉のテーブルはありますでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

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……そして、学園の自室に戻った流牙だったが、脇腹を抑えてベッドに腰を降ろした。指におさまっていたザルバは知っていた……

 

『よくも、最高の結果だとはよく言ったものだな坊や。』

 

「このくらいの無茶、何時ものことさ。大したことない。」

 

決して、流牙が受けたダメージが軽いものではないと。本人こそ大事ではないと言ってはいるが、滲む汗とこらえる表情は嘘をつかない。まあ、仮にもホラーの巣穴ともいえる結界から人質と共に帰還しただけでも合格点だろう。

そんな彼を不意に後ろから話かける者がいた。

 

「やっぱり、無茶をしてたんだね流牙。」

 

「シャル!?いつの間に……」

 

わいてでたようにそこにいたのはシャル。彼女も制服姿でニコニコと笑っており、流牙はすっとんきょうな声を出してしまう。無論、身体に響いて激痛が彼を襲うのは当然の帰結だった。

 

「いてて…!?」

 

「あ、大丈夫?今、痛み止を打つから上脱いでくれる?」

 

「ああ……助かるよ。」

 

流牙はうながされて、制服の上着となっていた魔法衣を脱ぎそのまま上半身裸になった。細身ながらもしっかりと筋肉がつき、所々に様々な傷痕……脇腹にはまだ新しい直径5センチくらいの痣が黒々と疼いている。

 

「うん、骨は折れてないみたいだね?よかった…本当によかった……」

 

「シャル?どうしたの…?」

 

「ううん、なんでもないよ。ちょっと、チクッとするから我慢してね。」

 

彼女がゴソゴソと手荷物のバッグをあさる音が聞こえる…。流牙も大人しく待っている……

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁よ、一大事ときいたぞ!?大丈夫か!?」

 

 

 

「「!」」

 

 

その時、ラウラが部屋に慌て飛びこんできた。焦り具合から流牙の無茶を誰かからきいて駆けつけたに違いない。だが、半分裸体の流牙を見るや、否や彼女の目の色がみるみる変わっていく……

 

「そうか、嫁よ。一大事とはこういうことだったのだな。」

 

「へ?ラウラ……?」

 

「全く、私ならいつ求められても構わないとは思っていたが……お前から求めてくれるとは嬉しいぞ嫁よ!」

 

「ちょっ…」

 

 

何か重大な勘違いをされている気がする。悪寒がした流牙だが、察したシャルが素早く荷物をまとめて部屋を後にする。

 

「あ、なんかお邪魔みたいだから僕はお暇するネ~!」

 

「お、おいシャル!?」

 

シャルにすら見捨てられた。ふたりきり。ああ、もう逃げ場が無い…。

 

「では、夫婦の営みと……行こうではないか?」

 

ラウラは一瞬で服を脱いで全裸になった。眼帯で隠していない右目が妖しく、獲物を求めるように光っている…。流牙はジリジリと迫る彼女に対してベッドの上で後退りするが、僅かなスペースなどすぐ埋まる。何時ぞやのデジャヴを感じていたが、この展開は……

 

 

 

 

 

 

「流牙、無事なの!?」

 

 

 

 

またドアを開け放ってくる来訪者。うん、知ってた……

 

 

 

 

 

リアンが現れた瞬間、流牙は悟った顔をしていたという。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

そして、現在。モノレールの座席で隣にいる簪にお構い無しに溜め息をつく流牙。あのあとの惨事で、傷の治癒は大幅に遅れるわで散々であった。今でも脇腹の痛みは完全に引かず、彼を悩ませているのだが……そんな経緯を知らない簪はオロオロとしだす。

 

「…もしかして、嫌だった?」

 

「違うよ。ただね、色々あってさ。うん、本当に色々………」

 

遠目にならずにはいられない。あれから、更にリアンは不機嫌になるはロリコンのレッテルは貼られるわ、ラウラの夜這い対策と無駄に体力を消耗することが多く……おまけに、ホラーも学園の内外で通常運転なのだからたまったものではない。

 

しかし、折角の簪とのデートだ……今は気にすることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……気にせざらえない者たちもいるのだが……

 

 

「あ~ら、流牙さん楽しそうですわね。フフフ……」

 

「本当、本当、私らを差し置いてポッと出の女子の誘いについていくなんて良い度胸じゃない?」

 

遥か後ろの座席……流牙と簪の死角にあたる場所で延び上がりながら、彼等を観察していたのはセシリアと鈴音。笑顔だけど、目が笑ってない……周囲の乗客がドン引きするようなオーラを出しているが、もう1段後ろの席にはリアンの姿もある。

 

「…あら、自称・正妻さんは随分と静かですわね?」

 

「うるさい。別に知らないわよ、あんな奴……誰とでも勝手にデートすれば良いじゃない。」

 

プイッと窓際に顔を向けて、セシリアたちとは態度が違うが……

鈴音は彼女の本音が明白だった。

 

「…でも、気になるから私らについてきたんでしょ?」

 

「…」

 

沈黙。要は図星……

割りきれず、素直になれないのは彼女の気質の故だろう。別に解らないわけではない…流牙のことを。誰にでも優しくて誰であろうとホラーに襲われれば全力で助ける。真っ直ぐで、強くて、笑顔が皆を引き寄せる…。でも、乙女心に対しては今一つ……

 

セシリアや鈴音より長い仕事仲間であるが、理解と割りきれない心がせめぎあって苛立ちを生み出す。

 

(馬鹿……人の気持ちも知らないで……)

 

 

 

言葉にしなくては伝わらない気持ちもある……というが、察してほしい気持ちがあることなど露とも知らない流牙は目的地のステーションにモノレールが停車すると簪と一緒に下車。そのまま、ショッピングモール街へと歩を進めていく……

 

「あの、流牙……」

 

「ん?」

 

そんな中、簪がおもむろに…口を開く……。

 

「ちゃんと、お礼言えてなかったから…。ありがとう。助けてくれて……」

 

モジモジと、顔を赤く染める表情はなんとも愛らしい。でも、すぐに俯いて暗めの表情に変わる……

 

「私ね……どうして、自分ばっかりって思ってたんだ。お姉ちゃんは凄いし、折角の専用機の話も無くなって……だから私が皆が私を卑下している気になってたの。誰も悪くないのに、皆が頑張って結果を掴んでいるだけなのに……。」

 

「それは違う!」

 

「うん、今ならわかる。だから、きっとあの世界は自分のねじ曲がった妄想に囚われた私の心そのものだったんだって……」

 

姉との確執……気がつかないうちに凄まじく膨らんでいた負の感情。あれが、プギージュになって本当に呑まれそうになった。

 

「…でも、流牙が救ってくれた。そして、姉さんが私のために泣いてくれた……。突き放していたのは私自身だと気がつかせてくれた。」

 

…光は確かにあった。でも、自分が目を背けていただけ。大切な人はちゃんと、自分を想っていてくれている。

 

「だから、私の専用機はちゃんと完成させて…お姉ちゃんや流牙に追いつけるように頑張る。今度は純粋に超えるべき目標として……」

 

もう己の闇に迷わない。夢を屈折した怨念と決別させて、前を向いて歩いていこう。そう決めた彼女の顔は晴れやかで、憑き物がとれたような顔をしていた…。これならば、もうホラーが彼女の陰我に引き寄せられることもないだろう。

流牙は護れた少女の笑顔と未来に微笑する。

 

「じゃあ、これからはお姉さんとも仲良くしてね。」

 

「うん…。頑張ってみる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう、私のヒーロー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「う、ううん!なんでもないよ!?は、はやく行こう!」

 

 

 

さてさて、またも新たな競争者が加わった流牙の恋路。恋のレースは更に、激化していくことだろう。束の間の暖かい時間の中……流牙も少女たちも知る由もない。

 

 

 

 

……すでに、目前に敵は迫りつつあると。

 

 

 

 

 

 

 

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……その夜…

 

 

 

 

 

【牙狼の鎧は……俺のものだァ!】

 

【ぐわぁぁぁ!?】

 

 

「……一夏!?」

 

はっ……と自室で目を覚ました箒はまた流牙が自分の愛した人を斬る夢を見た。今日は他のメンバーに夜の番を任せていたため、休んでいた彼女だったが悪夢のおかげで目が冴えてしまいベッドから起き上がる。

 

 

 

 

【箒……俺、きっと牙狼<GARO>になって戻ってくる!だから、待っててくれ!】

 

【一夏……うん!ずっと、待ってる!待ってるから!】

 

 

 

 

 

「馬鹿者……いつまで、待たせるつもりだ。」

 

幼き日……『彼』は弟子を引き連れていた魔戒騎士についていった。黄金騎士となり、自分との再会を誓って……

ぎゅっと、胸元で拳を握りながら心とは裏腹の澄んだ夜空を見上げる。

 

(もし、私が道外流牙と戦うとしたら……)

 

浮かんでしまう考え…。夢が真だとしたら、戦いは理由はどうあれおそらくは避けられない。もし、そうなったらどうなるだろう?流牙の味方は多い……タケルにアグリといった魔戒騎士。リアンと苻礼の魔戒法師たちと専用機持ちに最悪の場合は千冬や楯無だって敵になる可能性がある。いくら、自分が魔戒法師だからといって勝てるのか?専用機が無い自分に……

 

 

(力が…欲しい!)

 

 

奥底から芽生えた強い衝動にして欲望。それは、彼女を忌むべきとしつつもある行動に駆り立てるには充分すぎた…。端末を取り出すと、気乗りこそはしないものの…電話帳からとある番号を選択。電話をかける……

 

「ああ、もしもし…。久しぶりだな…姉さ……ん……。む、話がはやくて助かる…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の専用機を用意してもらいたい……。」

 

 

 

 

 

 

物語の歯車は少しずつ……されど、確かに不吉な軋みをはじめていた。彼女は自分がその原因だとは微塵も思わず……

 

 

 

そして、その様子を禍々しい目玉がフヨフヨと窓越しから見ていることも気がつかない。

 

 

 

 

 

 

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「ふぅん?…面白いことになってきたな。」

 

IS学園の制服を着た生徒が、コンテナの並ぶ保管庫エリアにひとり。時間帯的にも道理的にも、この場にいるのはおかしいのだが、指摘するものは誰もいない。かわりに、例の千冬に似たスーツの青年がサングラスをかけて青年に膝まずいている。

 

「主……これはチャンスかと。あの女が、妹の晴れ舞台を用意しないわけがない。ましてや、道外流牙を放っておくわけが……」

 

「ああ、その通りだ。あの手の人間は利己的だからな……天才だろうと、天災だろうと、興味がないところはすぐに裏をかかれる。全く、生徒会長の目を盗んで『コイツ』を持ってきた甲斐があった。」

 

すると、生徒はデュノア社と書かれたコンテナのパスを入力…。扉を開くと、中に安置されていたのは紫帯びた漆黒に輝く流牙の白狼に似つつも…刺々しく重厚なIS。これを見るや青年は立ち上がり、驚嘆の声を洩らす。

 

「驚きましたね…。すでに、完成していたとは。」

 

「『ゲイヴォルグ』…我が社の最高機密にて、最強になるIS。無論、搭乗するのは人間ではないがな……。勿論、これを持ってきた意味はわかるだろ?」

 

「はっ…。必ずや、主のために道外流牙と篠ノ之箒を捕らえてみせましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

……『悪』はすでに迫っていた。

 

 

希望を刈り取る牙はすでに、来るべき刻を待ち……磨がれていた…。

 

 

 

 

 

To be continued……

 

 




☆次回予告

リアン「私たちは知る、あまりにも強大な力を……。私たちは知る、積み上げてきた全てが打ち砕かれる瞬間を。次回【絶~No hope~】……彼女は知る、希望が絶望に変わる瞬間を。」



☆☆

次回予告が不吉?なんのことかな?(すっとぼけ)


あ、次回は箒・リアン・千冬編と前にいったな?


楯無「……あれは嘘だ。」←

千冬「!?」

先に臨海学校編やります。全然、IS側のシナリオやってなかったので。そのあと、改めてやります。さあ、物語も折り返しだぁ!

感想おまちしてます。


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絶~No hope~ 前編

 

 

 

……それはまだ…道外流牙が黄金騎士を継承する前。まだ、彼は幼く牙狼の鎧が宮殿にて牙狼剣と共に安置されていた頃。

 

 

 

塔をくり貫いたような円柱状の空間に、中央の光の柱が降り立つ場所には孤独に佇む漆黒の鎧。未だ現れぬ来るべき継ぐ者を待ちわび、目の前の台座には牙狼剣が突き立てられている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その主無き剣に手を伸ばし、引き抜こうとする『少女』がいた。髪は長く、何処となく箒に似た彼女は牙狼剣を引き抜こうと精一杯の力を込める。しかし、キチキチとソウルメタルが台座と擦れてつかえる音ばかりで抜ける気配は無い。

 

そこへ、苻礼法師が現れ……少女の頬をぶち…鬼のような形相で怒鳴る。

 

 

「束!あれほど言っただろう!?女は魔戒騎士にはなれない!」

 

無慈悲で告げられた事実。それは少女の心に叩きつけられ、彼女は込み上げる慟哭と善が反転したような視線を己の父親に向けて去っていく…。

 

刹那に見た怒りの瞳と、怯えていた妹すら振り切って小さくなっていく後ろ姿は彼が最後に見た娘の………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EP『絶~No hope~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、苻礼法師!苻礼法師!?」

 

「…!」

 

揺さぶられて覚醒した意識は、ここが『あの時』から随分と経った別の場所……即ち、アジトの自分のデスクであると認識させた。見れば、タケルとアグリが血相を変えた顔でこちらを見ている。どうやら、タケルが古い記憶にうなされる自分を起こしてくれたのだろう。

 

「……すまない、眠ってしまっていたか。」

 

「おいおい、あんまり無茶しないでくださいよぉ?若くは無いんだから。」

 

「相変わらず、失礼な奴だな君は……まあ、一理ありますね。苻礼法師、あまり休まれていないようですが、このままだと身体に支障がでますよ?」

 

全く、老いぼれ扱いとは…歳はとりたくないものであると心の中で静かに自嘲する。目線をずらせば額縁の小さな写真……十数年前の微かにシワが浅い自分と幼い箒といった数人の子供たちと魔戒騎士の男や魔戒法師の女が写ったものがある。あの頃はいずれ…なんて、思っていたが。

 

「…………俺がしてきたことは正しかったのか…」

 

「「?」」

 

「なんでもない。もうじき、魔導ホラー探知機が完成する。待っていろ。」

 

無意識に声が洩れてしまったが、気をとり直して自分を老人扱いする若者たちの前に立つ。うっかり、椅子の上で一晩を過ごしてしてしまったために肩こりと随所の痛みに悩みつつもあることに気がつく。妙に静かだということに……

 

「流牙たちはどうした……?」

 

「ああ、流牙たちなら臨海学校ッスよ?だから、今晩の学園は俺達が守らねーといけねぇってこの間、話しませんでしたっけ?」

 

「…流牙がIS学園にいない。」

 

やけに静かだと思ったらそういうことか……確かに、以前に打ち合わせをしたと記憶を呼び起こす。しかし、彼は首を傾げる……IS学園は日本政府の管理する施設で、地続きではない孤島にあって専用モノレール以外は出入りは城壁もあって至難である。これは、そこらのホラーどころか魔戒騎士や魔戒法師たちにも言えるように仲介する者がいなくては侵入など無理。また、出るのも無理……

 

 

そんな場所から出る少ない機会……。IS学園という牢獄のような学舎から道外流牙が外に出る?

 

 

 

「……嫌な予感がする。」

 

「は?苻礼法師?」

 

「タケル、車を出せるか…?」

 

「いや、バイクならって……って、苻礼法師?ちょっと、どうしたんすか?」

 

突然、慌ただしくなるアジト……タケルやアグリも戸惑いを覚える中……

 

 

 

 

 

 

……デスクの写真にピキッと亀裂が走った。

 

まるで、苻礼法師が抱き寄せる2人の娘を引き裂くように…………

 

 

 

 

 

 

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「あーぅ……」

 

朝から早々、流牙の顔には真っ赤に火照る往復ビンタの痕があった。今はバスの中で、大半の女子生徒はこれからのビッグイベントにわくわくと胸を膨らませているのだが…裏腹に彼は理不尽に嘆いていた。気になった丁度、後ろの席にいたセシリアが流牙に問う。

 

「流牙さん、その頬の傷は……」

 

「リアンにやられた。」

 

「またですか。今度はどういった理由で?」

 

「朝起きたら、楯無さんが裸でベッドに忍びこんでて…そのあと、見つかって……」

 

「は、裸!?流牙さん、ボーデヴィッヒさんに続いて……!?」

 

「違うから、そういうのじゃないから。」

 

全く、彼女のいたずらにも困ったものであるくらいにしか流牙は考えていなかったが……セシリアは違う。明らかに楯無も流牙の恋レースに片足を突っ込みはじめてる…いや、乗り出していると察した。

 

(なんということでしょう。このセシリア・オルコット……次々と遅れをとるこの始末!まずいですわ……でも、しかし…今日は切り札があるッ!これで流牙さんもイチコロに……)

 

「まあ、眉間を撃ち抜かれなくて良かったよ。」

 

なんにせよ相変わらず、流牙の日常は騒がしい。リアンと鈴音はクラスが違うため、後発のバスだが同列には納得がいかないと頬杖をつくラウラに苦笑するシャル。前の席には担任の役割として千冬と真耶が……そして……

 

「…(何故、よりにもよって……)」

 

流牙の隣には嫌そうな顔をする箒が座っていた。座席の割り当ては一体、どうなってるんだと文句を言ってもバスが道路を走る今となっては今更だ。羨ましいという視線もチラホラとだが、正直なところ居心地が悪くてたまったものではない。

そんな彼女を感じたのか流牙が顔を覗きこむ。

 

「…箒?気分でも悪い?」

 

「いや、大丈夫だ。問題ない。」

 

「学園は大丈夫だよ。アグリにタケル…苻礼法師だけじゃなくて、生徒会長も味方についたんだ。今回は羽根をのばそう!」

 

「ああ……」

 

 

確かに、楯無は先の簪の件から味方につき余計な心労は減った。だが、箒の問題はそこではなく、自分自身だと流牙は知らない…。

 

……そして、このあとに羽根をのばすどころか最悪の事態がはじまりだすとも…

 

 

 

 

 

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臨海学校…

 

さんさんと降り注ぐ太陽の光の下に照り返す浜辺の砂浜。鮮やかな夏の青空に水着を着た美少女たちが次々と熱を帯びたビーチに飛び出していく……

ラウラと鈴音もまたその内で、水着に着替えた彼女たちは己の勝負水着を見せつけあっていた。

 

「へぇ?随分と冒険したじゃないラウラ?私と同じツインテールに黒ビキニなんて……」

 

鈴音はオレンジのお洒落で可憐なビキニに、活動的な彼女の雰囲気と似合っている……

 

「…む、貴様こそ、勝負の切り札のソレとみた。しかし、それで私の大人の魅力に勝てるかな?」

 

一方、ラウラは以外ときわどい黒ビキニに髪型まで変えてツインテール。こちらも、流牙を意識したものだが実はドイツにいる副官に助言をもらったのは内緒。

さて、お互いにグイグイと無い胸を突き出してさながら蟹か何かの喧嘩のようだが、そんな様を見ながらシャルが一言……

 

 

 

 

 

「あ!ああいうのって、日本のことわざで『ドングリの背比べ』って言うんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

「デュノア、お前…たまに凄まじい毒を吐くよな……」

 

同行していた箒も、流石に彼女の毒舌には顔をひきつらせた。まあ、プロポーションの良いシャルや箒からすれば確かにドングリみたいな体つきだが……

そんな彼女らはお互いにまたビキニ。箒は白、シャルはオレンジと黒。その姿は周りの男性一般観光客たちも視線が自然にそちらへ泳いでいくほど眩しさを感じる。

 

「まぁ、皆様すでに先にいらしていたのですね。」

 

「あ、セシリア!おお、君も君で中々……」

 

「あ、あんまりジロジロ見ないで下さいまし、シャルロットさん。」

 

続いてやってきたのはセシリア。やはり、歳不相応クラスのグラマラスボディに青のビキニが爆発力をスパイスする。腰の布もまたオシャレだが、やはり……顔を赤らめる姿はあざとい。向こうがドングリなら、こちらはメロンだろうか……

うむ、人間とは平等ではないのは哀しきことかな。

 

「そういえば、流牙さんとリアンさんは…?」

 

さてさて、ここで大事なのは折角の水着を見せる相手と目下の最大のライバル。未だに姿が見えないのが気になるところ……先を越されたくはないが……

 

『あれ?さっきまでいたんだけど…』とシャルも辺りを見渡すも彼の姿は無い。

 

「まさか、もうすでに…!」

 

「抜け駆けなんてしてないわよ。」

 

「はひっ!?」

 

良からぬ予感がセシリアの頭をよぎったが残念ながら本人が背後にいたので否定された。リアンはブラウンのビキニで肩からはタオルを羽織っている。やはり、朝の件があったからか眉間にシワがよっている……怖い。

 

「り、リアンさん……いらっしゃったのなら驚かさないで下さいまし。」

 

「別にそんなつもりはないんだけど……ああ、流牙ならあそこのケバフ屋台よ。簪が一緒みたいだったわね。」

 

「「「!?」」」

 

しまった……敵は更識妹にあり。鈴音、ラウラ、セシリアは戦慄した……。うっかり、新参者に先手を譲るとはなんたる失態。このままでは出遅れてしまう。

 

「流牙ぁ……良い度胸じゃない?」

 

「嫁よ、私を差し置いて……」

 

「黙ってられませんわ!いざ、参りますわ!」

 

こうして、3人組は流牙を目指して走っていく。どうして、自称・正妻のリアンがみすみす見逃すのかを考えず……

シャルはそんな様子の彼女に問う。

 

「良いの、行かせて?」

 

「あー、うん。私は良いかな…」

 

「?」

 

歯切れの悪い反応は今一つ釈然としないが、すぐに3人はリアンが撤退した理由を知ることになる。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「織斑…先生……」」」

 

 

 

「…なんだ、お前らも来たのか?」

 

 

 

屋台が並ぶ一角……流牙と一緒にいたのは簪だけではなかった。鬼の担任・泣く子も黙る織斑千冬。黒ビキニでグラマラスな彼女の隣には真揶が困った顔をしてケバフを抱えている。さらに隣では簪が『うっぷ…』と口許を抑えているではないか。

ヤバい……とてつもなく嫌な予感しかしない。

 

「ここらの屋台はうまいぞ。特にこのケバフは最高だな!」

 

油が濃そうな肉の塊を豪快にかぶりつき、うまそうにほうばるが…真揶と簪がブルッと震えたのは何故だろう。まだ泳いでいないのに悪寒がはしる……

 

「ちょうど良い、お前たちの分も用意してあるぞ。」

 

「「「え……」」」

 

すると、後方の屋台から流牙がやってくる……ケバフをはじめとした焼きそばなど、屋台に並ぶ食べ物を明らかに5人分以上はあろう量を腕にかかえて……

 

「さあ、遠慮するな食え!」

 

 

(セシリア、あれだけの量…カロリーいくらだと思う?)

 

(さ、さあ……1日のカロリー摂取基準をオーバーしているような…)

 

(いや、まず1人の量がどれくらいという問題が。)

 

少女たちにはこれらが油の塊にしか見えなかった。しかし……

 

「どうした?先生の驕りは食えんのか?」

 

「「「は、はいいぃぃぃ!?」」」

 

文句など言えるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…たく、流牙ったら。」

 

その頃、リアンは独りで海の家にて席のうちの1つに腰かけていた。木造の長く海風に晒された建物で、多くの家族連れやカップル等で賑わっている…。その中でチラホラと見知った顔があるのはIS学園の生徒だろう。この臨海学校というイベントを惜しむことなく無垢に楽しむ様はリアンには眩しく見えた…。

 

……もしかしたら、自分もあんなように友達と他愛ないことを喋り…共に勉学へ励み、恋をして家庭をいずれ築いていく。そんな普通の人間の生活があったかもしれない。

 

勿論、今の自分はそんな生活をしているがあくまで仮の姿。本当は人々に知れず、夜な夜な魔獣ホラーと戦う魔戒法師・リアン。これが、本来の自分なのだから。だから、何気ない日常を謳歌する人々に目が…時折、羨ましく思う。

 

「どうした、浮かない顔をしているな?」

 

「あ、貴女は……」

 

そこへ、ふらりと現れて彼女の隣に腰を降ろしたのは見慣れた黒帽子。すぐに、SG-1隊長のエンホウだとわかった。だが、彼女は他の隊員と一緒に学園の警護をしているはずだが……

 

「あまり1人で離れないほうが良いぞ。」

 

「……あの、学園は…」

 

「学園は残留している隊員がいる……心配ない。それに、こういう場所はトラブルが多い。離れたほうが……」

 

考えれば、生徒たちが一般人と交わる機会が多く野晒しのここならセキュリティでガチガチの学園よりSG-1が必要になるであろう。さて、折角の忠告をもらったことだしリアンは手元のドリンクを飲み干し、その場を去ろうと……

 

「おんや~~??そこの彼女はひとりでござるかぁ?」

 

げ…。彼女は恐らくは自分にかけられたであろう酒臭い声に顔をしかめた。言った途端に…とはまさにこのこと。千冬と歳がかわらないくらいの青年がとろけてだらしない顔をして近づいてきた。ニホンザルのように顔が赤い……調子に乗って飲みすがた類いの者だろう。この酔っぱらいは目についたリアンに執拗に絡んでくる。

 

「節操も仲間できたござるが……生憎、他の連中は女連れで…。いやはや、ひとりものは寂しいもので寂しいでござるぅ、ヒック。」

 

うざい。許されるなら殴りとばしてやりたいところだが、まず無視を決め込む。ソッポを向いてやったが、同時に素早く視界にまわりこんできた。

 

「ヒック。名前を教えてくんださいまし。」

 

「…ッ」

 

……しつこい。いい加減、リアンも腹がたってくる。その傍らではエンホウが辺りを観察しており、酔った若いチンピラらしき男たちが数名ほど女性客たちに絡んでいるのが窺えた。その中には学園の生徒もいる…

「貴様、あれらはお前の仲間か?」

 

「よよ?ああ、そうそう…拙者の愉快な仲間たちでござるお。なあ、野郎どもッ!」

 

「「「「うぃ~~す!」」」」

 

返ってきたリアクションの数…4。成る程、仲間は4人か。周りの客に店員たちもだいぶ迷惑しているようで、海の家からこそこそと逃げ出したり…察するや一目散に回れ右する者たちまでいる始末。営業妨害なのは見るに明らかだ。

 

「警告する……彼女と貴様とそのお友達が絡んでいるのはIS学園の生徒だ。あと、この店の営業妨害行為をやめなければ即刻…実力をもって我々が排除する。」

 

「おお、怖い!オネーサンは警察官ですかな?拙者はミニスカポリスプレイが夢でして……」

 

「うるさいわね!あんたみたいな、酔っぱらいなんて興味ないのよ!」

 

エンホウは警告したが……とうとう、リアンが限界を迎えてしまった。すると、酔っぱらいは今までとは一変して鬼の形相になると激しく怒鳴りはじめる。

 

「なんだとクソガキ!?海の男をなめんじゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

……まあ、次の瞬間には彼は宙を舞っていたが…

 

 

 

「へ?」

 

不意に背中からテーブルに叩きつけられた男はエンホウが自分を投げ飛ばしたのだと気がつくに暫くかかった。途端に、他の仲間が殴りかかってくるが、エンホウはヒラリとかわして腕を掴みあげるとそのまま頭をおさえながら捻りあげた。

 

「野郎ッ!」

 

「はっ!」

 

続いて、空き瓶を持った2人がエンホウに襲いかかったがリアンの蹴りが股間に当たり、先頭が倒れると後ろも躓いて倒れ…顔をあげたところを強烈なビンタを見舞われた。

 

「ひっ、ひい!?なんだ、コイツらサーカスからでも来たのか!?」

 

最後の1人は恐れをなして逃げ出したが……

 

「貴様か……私の生徒に手をだしたのは?」

 

「!」

 

…出口で仁王立ちする鬼・織斑千冬を前に絶望せざらえなかった。この時、あの酔っぱらいはこう言ったという……

 

「拙者、あの時にはじめて死相が見えたでござるぅ。」

 

 

 

 

 

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さてさて、そんな大乱闘が繰り広げられているとは知らず……ケバフといった屋台の食事をたらふく腹に押し込まれた3人は白眼を向いてゲップをしながら白い砂浜に伏していた。

 

「……もう駄目。暫くは油っこいものはたべられませんわ。ゲップ…」

 

「セシリア、あんたは別に栄養溜めとく袋があるからいいでしょ……ゲプ…」

 

「嫁、教官……すまぬ、私は先に逝く……ゲプ……」

 

もう吐きそうな勢いだ……でも、流牙がいる間近で醜態を晒すわけには……

そんな彼女たちを放っておき、流牙は離れたベンチで満腹感にひたりながら幸せそうに昼寝をしていた。服装は水着ではなく、黒の魔法衣……皆が海へ向かう中…彼のみが海に近づかない。そこへ、簪が心配そうな顔をして覗きこむ。

 

「流牙……あんまり海、好きじゃない?」

 

「ん?違うよ。ほら、俺は『夜』のことがあるし……」

 

彼女の不安な予想を笑って否定し、起き上がる。夜とは即ち、魔戒騎士の仕事のこと…それに備えて体力を温存しているのだろう。そして、流牙は彼女の淡い青の水着に目を向けた。

 

「似合ってるね、その水着。」

 

「え!?あ、ああ、ありがとう…。これ、流牙に選んでもらったやつだし……」

 

「可愛いよ。」

 

 

 

簪の水着は先日、流牙と街に出た際に選んでもらったもの。気恥ずかしいところもありつつも、彼女は流牙の前でこれを着ることを楽しみにしていた。褒められれば、照れ屋な少女の肌はほのかに紅く色を帯びる…。

 

「流牙の水着も見たかったな……」

 

「それはまた今度ね。」

 

さぁて……その今度は何時なんて問うのは野暮だろう。叶わないなら仕方ない……簪はルンルン気分で海の友人たちの所へ戻っていった。

流牙も再び微睡みに戻ろうかと思ったが…意外な人物が入れ替わりでやってくる。

 

「箒…」

 

「……隣、空いてるか?」

 

大胆な白ビキニからは予想もつかない箒。流牙の周りにはリアンやセシリアといいプロポーションの良い女子はいるが、お堅いイメージの彼女がそんな水着を着るとは思わず、つい見とれてしまう流牙。やはり、出るところが出て締まるところが締まる女性のボディに目がいってしまうのは男の性……彼も健全な男子ということだろう。

 

「あまりジロジロ見るな……」

 

「あ、ああ。ごめん……つい…意外で……」

 

「うるさい。」

 

なんだろう……急にぎこちなくなってしまう。あわてて、目を反らす流牙にあえて目をあわせようとしない箒。思春期の1ページのようだが、箒の持つ彼を隔てる感情は決して友好なものではない。故に、意識の摩擦を感じているのは彼女のみだろう。

暫しの沈黙の後、箒がこれを破る。

 

「苻礼法師からの連絡だ。気をつけろ……だとさ。」

 

「そうか。それだけ……?」

 

「ああ……」

 

話が続かない。箒は逃げようと思ったが、いざ逃げようにもタイミングを見つけられない。また沈黙が流れはじめた時……今度は流牙が口を開いた。

 

「意外だね……」

 

「な!?水着のことは……!?」

 

「そうじゃなくて、俺……避けられてると思ってたから。」

言われてみれば…確かにこう流牙と距離を詰めて話す機会ははじめてである。箒も彼を避けていた節もあるからなのだが……流牙も気にしていたらしい。

 

「良いよね。皆、楽しそうだ。」

 

彼の視線は海で遊ぶ少女たちに向けられていた…。シャルがボールを持ってきて、復活したセシリアたちに簪が楽しそうに遊んでいる。

 

「ああやって見てると思うんだ。セシリアや鈴……簪たちを仲間に入れたことが本当に正しかったのかなって。」

 

「流牙……」

 

彼女らと裏腹に…笑顔の裏で彼は悩んでいた。自分と出逢わなければ、彼女たちは無垢なまま学園生活を謳歌できたはず……そして、いずれは流牙たちとは別の世界で幸せな生活を営むことができたはずだと。自分のような魔戒騎士はホラーからその幸せを人知れず守っていくのが使命だと……

 

「俺は黄金騎士だ。でも、タケルやアグリが居なきゃ学園を守ることもままならない。リアンや苻礼法師が居なきゃどうしようもない時もあった。でも、アイツらは元々が魔戒法師なわけじゃない。本当なら、俺が守らないと…戦わせちゃいけない人たちなんじゃないかって思うと……」

 

「…」

 

「…本当なら、俺はセシリアたちとは合うべきじゃなかったのかもしれない。」

 

……優しいな。知れば知るほど優しさが伝わってくる。箒は流牙という存在が何故、少女たちを惹きつけるか一端の理由を解った気がする。強さがあり、優しくもある…それが彼なのだと。

それでも、自分の心の奥底が警告する……この男を信じては駄目だと。根拠なき悪夢を根拠に、彼の善を全てを否定しようとしてくる。

 

本当なら、『そんなことはない!』と言ってやりたい。でも、胸が混沌として言葉がつかえてしまう。情けない……目の前に、真っ直ぐな瞳と心があるのに自分は向き合うことができないなんて。

 

「……一夏…」

 

「え?」

 

「うぇっ!?い、いやあのその!?!?」

 

そんな無意識なうちに出てしまった言葉。誤魔化そうとしたが、彼女は残念なことに器用ではなく……相手も悪かった。

 

「そういえばさ、前も俺に訊いたよね……一夏って?もしかして、箒の大切な人?」

 

「えぇえぇ!!?それは……!」

 

「まあ、落ち着いて。出来れば、教えてくれないかな?その人のこと……」

 

完全に隠しとおせる空気ではなくなった。焦って、どぎまぎとしていた箒だが……とうとう観念して自分の過去、『一夏』なる人物について語りだすのであった。

 

 

 

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・Side箒……

 

 

織斑一夏。

 

名字からわかると思うが千冬さんの弟でありたったひとりの家族で、私の幼なじみでもある。お調子者の面もあったが姉に似て、剣の才もあった。

 

 

アイツは幼い頃、ホラーに襲われ……千冬さんを守るために魔戒騎士を志した。そして、本格的に修行をするためにとある銘ある騎士の弟子となり、今までの生活を離れるにことにしたんだが……その時、私と再会の約束をしたんだ。

 

それから、……アイツは牙狼《GARO》を受け継ぐ候補にまでなったときく。でも、それっきり…アイツ自身も師や兄弟弟子たちも消息を絶った。

 

 

番犬所からの捜索も出されたが未だに見つかっていない……

 

 

 

 

 

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「それ、織斑先生は?」

 

「知らないさ。一夏が魔戒騎士を目指したことも……!それで行方知れずになったことも!」

 

箒は頭を抑えた……様子からして長い間、苦しんできたに違いない。

 

「私は最低だ!本当なら千冬さんに教えないといけないのに……今も怖くて黙っている。なんて言ったら良いかわからない!」

 

知るが故の苦悩……流牙はそんな彼女の肩に手を置いた。

 

 

「大丈夫、きっと見つかるよ。信じよう…。」

 

「道外……」

 

彼は笑う。涙でにじみかけた瞳には眩しく……荒れる心に突き刺さるほどに……

「きっと、その一夏も箒が待ってくれてると思っているだろうし……その時は一緒に千冬さんと迎えてあげれば良いよ。そうだ、アグリやタケルに訊いてみよう!苻礼法師だって何か知ってるかもしれない……」

 

今、その優しさと笑顔は箒の心にとっては一番の凶器であった。近くにあるだけで、胸が抉られる………自分のあさましさを自覚させられるようで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「箒ちゃああああぁぁぁぁぁあん!!!!!!」

 

 

 

「「!」」

 

シリアスな空気をぶち壊す叫びと共に、目の前に空からコンテナが降ってきたのは…

箒と流牙は咄嗟に飛び退き、身構えるとこの奇妙な箱の上からよっこらせと顔を出した女性。メイド服に機械的な兎耳らしきものをした彼女は箒を見つけるなりブンブンと手を振る。

 

「箒ちゅゃああああぁぁぁぁぁあんん!!ラブ・マイッシスターー!!!!束さんだよ~!」

 

「ホラーか!?」

 

「……いや、私の『姉』だ…」

 

「!」

 

 

……突如として現れた彼女。果たして、その目的とは……

 

 

 

 

 

To be continued…

 

 




魔戒法師の修行について指摘する感想がありましたが、それらはいずれ追及していきます。

次回から、福音パート(仮)に入っていくよ!


感想おまちしてます。


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絶~No hope~ 中編

……篠ノ之束…

 

箒と同じ名字を持ち、明らかに自分を殺しにかかる勢いでコンテナと降ってきた彼女に流牙は視線を向けた。姉……とするなら面影が似てなくも無いが、堅物な妹と比べてはメイド服といい兎耳といい、重なる部分が少なく見える。

束はコンテナから飛び降りるとそのまま、愛する妹に抱きつこうとするがヒラリとかわされた。

 

「箒ちゃん、久しぶりぃ!大きくなった、主に胸とか!」

 

「ふんっ!」

 

それに、妹の蹴りであしらわれて尚も喜ぶエキセントリックな様は方向性が真逆なキャラクターだ。

 

「痛いよ、箒ちゃん!でも束さんは嬉しいよ!」

 

「黙りやがってください、変態!?」

 

「……何事だ、篠ノ之…道が……」

 

そこへ、千冬もやってきた……が歩が途中で止まった。すると、束は…今度は千冬に標的を向けて『ちーちゃぁぁん!』と飛びつこうとしてきたのである。無論と言わんばかりに鉄拳でこちらもあしわれたが……

 

「酷いよ、ちーちゃん!?これが久しぶりに再会した親友にこの仕打ち!?」

 

「黙れ。お前が来る時など面倒事しかあるまい。」

 

「やっだなぁ~……人を疫病神みたいに~……」

 

やり取りからみて、知り合いだろうか?随分と千冬も鬱陶しそうだが……

さて、こんな珍客だが…人で賑わうビーチに未確認の物体を叩き落としのだ。勿論、それなりに騒ぎになっているわけで……

 

「SG-1だ!そこのお前、膝をつき手を頭の後ろに当てろ!」

 

すぐに、エンホウが率いるSG-1がとんでくるのは必然の理。あっという間に警棒を持った鉄仮面の隊員に囲まれた束は指示どおりに膝をつき後頭部に手をつけた。

 

「貴様、何者だ?」

 

「世紀の天才・篠ノ之束さんだよ~、SG-1の隊長・エンホウさん。」

 

「ほう?冗談は休み休み言え!」

 

「嘘ではない、本物だ。」

 

そして、千冬の一言で隊員たちにどよめきが起こったあと…彼女は開放された。う~んと、背伸びすると楽しそうにくるくる回りながら呟く…。

 

「良いねぇ~……天才が顔が利いて。」

 

「天才?『天災』の間違いじゃないのか……?」

 

しかし、不意に陽気な彼女の一時に割り込む流牙。その眼は笑みとは裏腹に怒りが走っている…。束も流牙にわざとらしく、今気がついたように向き直ると深々とお辞儀をする。

 

「これはこれは、イレギュラーくん。いや、黄金騎士・道外流牙サマ?お逢いできて光栄ですよ~。」

 

「何処の口が言う?」

 

「この天才の口ですが、何か?」

 

態度は形は丁寧だ……丁寧すぎてイライラするほどに。ISの開発者と名乗る変態と世界で唯一の男子のIS操縦者……間には見えない火花が散っている。箒は驚いていた…基本、流牙は人間には初対面から敵対的な態度はまずとらない…だが、今の彼の行動はホラーを見る時のよう。許されるなら魔戒剣を引き抜きそうな勢いだ……

 

「さてさて、その天才からのお願いなんだけど……黄金騎士サマのIS、白狼だっけ?みーせて、くれないかなぁ?」

 

「…ふざけるなよ。誰がお前なんかに触らせるか。」

 

「…おい、束に道外もそれくらいにしておけ。」

 

あと少しで触発…といった所で千冬が両者を制した。すると、流牙は魔導火ライターを取り出して火をつける…。緑に照らされた彼女の瞳には何の反応も無く、とにかくホラーではなさそうだと彼は懐にライターを戻した。

とりあえず、人間ならばと千冬は束に問う。

 

「…貴様、わざわざここに来たのは何の用だ?まさか、わざわざ愛する妹と私に会いに来ただけではあるまい。」

 

「オフコース!!今日は箒ちゃんにプレゼントを持ってきたんだよ!」

 

箒以外、皆が首を傾げる。まさか、プレゼントというのはこのコンテナのことだろうか?何が入っているかわからないといった様子に束はニヤリと笑うと指を鳴らす。

同時に、コンテナは粒子に変化して…更に、中身のコーティングも粒子となり、深紅のISが折り畳まれた状態で露になる。

 

「さあ、箒ちゃん!これが君の専用機…束さんが持てる英知を注いで造り上げた傑作!第4世代IS…『紅椿<あかつばき>』だよ!」

 

シュゥゥ…と蒸気を発しながら、戦闘機のように収縮した状態から解れるように展開していき…中央に人が搭乗できるスペースが現れた。『紅椿』…確かに名に恥じぬ程の椿の花弁がごとき紅に力強さがある。

これを見るや否や、箒はキラキラと…まるで、新しい靴を買ってもらった少女のように輝き…対して、千冬は『また面倒なものを…』と顔をしかめる。

 

「これならきっと、偽りの『白』に敗けることはないね!」

 

また、チラッと束は流牙に目線をおくったが流牙は睨み返して応えた。その言葉の真意も知らず…

一方で目を丸くしたのはエンホウだ。

 

「バカな…まだ各国が第3世代の開発に着手したばかりだぞ!?それを第4世代などと…あり得るはずが!?」

 

「それが、あり得るんだなぁ~?だって、私…天才だから?あーはははは!!」

 

そう……セシリアといった世界各国の代表候補生が所持する機体がこれにあたる。ブルー・ティアーズといったISもかなりの高スペックを誇るのだが……この機体はそれらを飛び越えて存在するとの開発者の談。各国で名高い技術者たちが苦心しているというのに……この自称・天才は軽くそれらを凌駕してしまうというのか。

 

「さ、箒ちゃん……色々と作業があるからこっちに来て!」

 

「む……」

 

そして、姉に促されるまま箒は紅椿へと手をのばす。最中、心配そうに流牙のいる方向へ振り向いたが……彼が視線を合わせることは無かった。流牙が何を思っているのだろう…?専用機が獲られたという喜びに一筋の不安がよぎる…… しかし、今の彼女ではどうすることも出来なかった。

 

一方で、千冬の端末に不穏な着信が入る。気がついた者は流牙とエンホウくらいだが、顔が一気に険しくなった彼女はアイコンタクトと手振りで彼等を呼ぶのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之 束!?」

 

思わず、セシリアはすっとんきょうな声をあげた。

それから、呼び集められた代表候補生の少女やリアンと簪たち。折角の遊泳を中断されて不機嫌そうだったが先の出来事を流牙が話すと全員が度肝を抜かれた顔をする。

 

「あ、あああれですわよね!?ISを開発した第一任者の…!?」

 

「しかも、それが箒のお姉さんだったなんて……」

 

「ど、どどど、どうしよう!?サインとかもらったほうが良いのかな!?」

 

セシリア、鈴音、簪は完全に落ち着きを失って狼狽えているが……リアンのみが腰に手を当てて呆れ顔をしていた。

 

「あんたたち、もうひとつ大事なことを忘れてない?」

 

…大事なこと?

 

「箒のお姉さん…っていうことは……苻礼法師の娘ということよ。」

 

「「「!」」」

 

そうだ。即ち、IS開発者の父は魔戒法師ということになる。つまり……と鈴音は考えた。

 

「じゃあ…魔戒法師ってこと?」

 

その問いがでてきたのは自然だろう。父と妹が魔戒法師だったなら……姉が魔戒法師でもおかしくはない。答は確かに予想の半分はあっていた…

 

「正確には元・魔戒法師……彼女は追放された身よ。世界をISによって歪め…多くの陰我をばらまいた裏切り者。その大罪はヴァリアンテの魔女裁判を行ったメンドーサに次ぐと言われてるわ。」

 

ヴァリアンテの魔女裁判……詳しくは日が浅いセシリアたちに知る由もないが、犯罪者…もしくは狂気のテロリストに比例する目を魔戒騎士や魔戒法師から見られているということだろう。ISは確かに世界を変えた……善くも悪くも……良い意味合いでは様々な人類の未来を豊かにする可能性を秘め、学園の生徒たちのように新たな道が開けた者もいる。されど、女性しか扱えないという欠点から広まってしまった女尊男卑思想をはじめに……それを巡って争いや陰謀が起こっているのも事実。その全ての起点は篠之乃束なのである……あながち、流牙の『天災』という呼び方も間違いではない。ましてや、人々をホラーから守る側からしてみれば彼女はまさに裏切り者であろう。

 

「まあ私たちは箒や苻礼法師の事情は最初から知ってたけど……驚かない様子からして、シャルも薄々勘づいてた?」

 

「…そうだね。ただ、苻礼法師の娘ってことは初耳だったんだけど……」

 

「流牙、話してなかったの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのぅ……少し宜しいでしょうか?」

 

 

 

 

 

ここで、セシリアが恐縮といった具合で手をあげた。どうやら、何か気になることがあるようだ…

 

「彼女は魔戒法師であった…のですよね?ならば、魔戒騎士の鎧とISは何か関係があるのでしょうか?おかしなことを言っていたらすみません…。でも、存在がまるで反転してるように思えるのです。男性しか纏えない鎧に女性しか使えないIS……やっぱり、意図したような…」

 

盾の表と裏……昼と夜……とでも言えるような魔戒騎士の鎧とIS。鎧は男のみ魔戒騎士として装着可能な代物で、人々に知れず存在する。一方、ISは女性のみが使用可能…まあ、目の前にイレギュラーがいるが基本は無理で今や世界に影響を及ぼすモノ。偶然か…?確かに接点が無ければそうかもしれない。

 

しかし、魔戒法師が開発者だとしたら……?

 

…セシリアの疑問は最もだろう。

 

「関係無い…とは言いきれないよな。」

 

流牙は答える……否、呟いたといったほうが正しい。今、彼の視線はセシリアではなく、人気の無い崖へと場所を移していた例の姉妹へと向けられていたからだ…。

箒が紅椿に搭乗し、束がケーブルで接続したキーボードなどて調整を行っているのが見える……。間もなく、未知の第4世代のISが主を獲て巣立ちの雛鳥のように飛び立とうとしているのだ。

 

その時、ギュイィィン!とけたたましいエンジンの音がしたかと思うと深紅のバイクが少女たちの前にブレーキをかける。そして、ヘルメットから顔を見せたのはタケルと意外な人物だった…。

 

「リアン、流牙、何が起こっている?」

 

「苻礼法師!?」

バイクの後部に跨がっていたのは苻礼法師。ヘルメットをタケルに手渡すと歩いていき…崖の彼方へと目線を移す。瞳に映るのは血肉を分けた2人の娘……特に、束に対しては険しい顔を…。一体、細める目が今…何を秘めているのかは流牙たちには解らない。すると、リアンが呟いた。

 

「……そろそろね。」

 

何の頃合いかはすぐに目の前で示された…。空気を震わせて、大地を力強く蹴るように箒が駆る紅椿は舞い上がったのだ。

 

「それじゃあ、箒ちゃん!好きに動いてみなよ。」

 

箒は姉の言う通り、海面スレスレに機体を弾丸のように走らせる。これだけで、水面が裂け…白い飛沫が壁のように上がった。そのまま、機体を切り返してジャンプするように勢いよく上昇すると…あっという間に雲の高さへと到達する。

 

「凄い……これが、紅椿……。私の新しい力…」

 

凄まじい……まだ速さだけだが、空中での移動だけで振り回されそうだと実感する箒。その様子は地上で取り残されていた者たちにも伝わっていた。

 

「……なんてスピードに空中の姿勢制御。流牙さんの白狼に…いや、それ以上!」

 

セシリアは流牙と唯一、IS戦で刃を交えたからこそ白狼の性能を身を持って知っている。速さと並みの機体では無理な空中での姿勢制御をする力……地に足がつかない空では基盤かつスピードをあわせることで絶対的な能力になるのだが…武装はまだ見てはいないものの彼女の機体は主を明らかにその次元へと追いつかせている。

青空に自らを誇示するような紅の椿……それは少女たちに戦慄を走らせた。

 

「箒……」

 

ただ流牙は……哀しげともとれるような表情でそれを見上げている。本人も何を思っているのか解らない………だって、今は空を舞う彼女の気持ちが解らないのだから。何故、束は突然に現れて彼女に紅椿を与えたのか……そんな彼女は何を思っているのか………

色んな背景が無ければ、新しい力を獲た彼女を祝福しただろう。でも、今の流牙は素直に友として喜ぶのは無理であった。

 

「さ、箒ちゃん!次は武器を使ってみるんだ。ターゲットを出すから遠慮なくやってみて!」

 

続いて、束は自身の横にどんな理屈かミサイルポッドを出現させるとあろうことか盛大に花火よろしく愛する妹に向かってミサイルの波を放ったではないか!されど、箒はあわてず腰に左右でマウントされていた刀を抜き放つと刃を滑らせるように乱舞…!

次の瞬間、剣先からビームが迸り…ドドドドドドドン!!と連続した爆発をしてミサイルは粉々に。そして、周囲の雲も衝撃波で形を変えたのであった。

 

「あははははは!すごい、すごい!すごいよ箒ちゃん!!左が『空割』、右が『天月』だよ!!」

 

…天才は笑っているが、もう下では皆が唖然とする。火力は完全に白狼のみならず現行のISを凌駕しているも同然だった。

やがて、箒は紅椿の感触を感じながら…ゆっくりと地上へ降りていく…。

 

 

……その様子を崖の森林の合間から不吉なサングラスが見ているとも知らず…

 

 

「どうどう、箒ちゃん!?束さんの最高傑作は?」

 

「はい……最高です。ありがとう、姉さん…」

 

「良いってことよ!可愛い妹のためだもん。これからも、何でも言って!」

 

地上に降りた箒は紅椿の展開を解除すると、新たな愛機は右腕に帯につけられたスズのような待機形態となりおさまった。待っていましたと、姉の溺愛にさらされ苦笑いするのだが……すぐに、歩み寄ってくる一行にその笑みすら消えた。

 

「束……」

 

苻礼法師は押し潰されたような声で……娘の名を呼ぶ。しかし……

 

「いやあ、最高だったね!流石、天才・束さんとその妹の箒ちゃんだ!」

 

…おもむろに差し出されたような響きを…そよ風のように気にかけない素振りの束。箒が気まずそうな顔をするが、先にキレたのはタケルだった。

 

「おい、あんた!折角の父親との再会だろ!!無視すること……!」

 

ズンズンと制止する間もなく踏み出していく彼…

 

その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばん。」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

不意に距離を詰めた束はタケルの額に軽くデコピンを。同時に、弾かれたようにタケルはふっとんで岩場の地面に叩きつけられる。

 

「タケル!?貴様っ!」

 

何が起こったかわからない……それでも、仲間を攻撃された流牙はすぐに魔戒剣を引き抜き身構えた。だが、苻礼法師が腕を出して止める。

 

「…何を企んでいる?」

 

「別にぃ?」

 

…いつ以来かの親子の対面だが………交わされた言葉は暖かさの欠片も無い。互いの間の距離は…もう埋まらない、見えない溝そのもののようだった。

 

「やれやれ、取り込み中のようだがすまない。」

 

そこへ、緊迫した空気に石を投じるように千冬が間に入って現れる。『緊急事態だ…』と言葉を携えて……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「諸君、事態は火急である。」

 

宿泊施設の旅館の一室へと案内された流牙と少女たちへ千冬は告げた。そこに、苻礼法師とタケル…束の姿は無い。

薄暗い部屋の中にはケーブルが伸びるたくさんの計器が持ち込まれて、ホログラムがいくつも映し出されている。

 

「今回の件は口外を断じて禁ずる。情報の漏洩があった場合は禁固、もしくは監視といった相応の処分が下ることを最初に言っておく。」

 

「千冬さん、何があったの?」

 

緊迫した空気の中、流牙は問う。少女たちがISスーツに着替えている様子からみてただ事ではない…。何がまず起こったのかについてはキーボードを操作する真耶が説明する。

 

「海洋で実験中だった無人試験機のIS・『シルバリオ・ゴスペル』……通称・福音が突如として暴走状態に入りました。これはアメリカとイスラエルが極秘に共同開発していた機体なのですが……先刻、外部からの不正アクセスで暴走状態に陥ったそうなんです。」

 

無人IS……あまり心地よいひびではない。かつて、同様のゴーレムに襲われた流牙からしてみればだ。

続けて、千冬が捕捉の説明に入る。

 

「この機体は現状、北上を続けており…今から3時間以内にここの海域の近くを通過する。無論、周囲の海域は封鎖しているが、包囲網は万全ではない。よって、被害が出る前に諸君らにはこれの迎撃をお願いしたい。」

要は福音というISを近くにいるなら止めろ……ということか。すると、リアンが手を挙げた。

 

「敵ISの正確なスペック情報は…?」

 

「残念ながら、こちらにはあまり開示されていない。極秘だからな。」

 

標的の情報を知れれば作戦の練りようはあるだろうと問うたことだが、事が事でもそう易々とデータが出てくるわけもない。恐らく国家の椅子に座る者たちの駆け引きとかそういったものが関係あるのであろうが、実際に収拾に向かう者たちからしてみれば迷惑も良いところだ。

さて、どんな作戦を組み立てたものかと考えていると……

 

 

「ちーちゃん、ちーちゃん!私の頭に良い作戦がなう・ろーでぃんぐだよ!」

 

 

何処からともなく、束がにゅぅ…と沸いてきた。相変わらずはしゃぐ子供のようなテンションに煩わしそうな千冬だが、彼女は真耶からキーボードの操作を奪うと勝手にいじくはじめる……

 

「…失せろ。部外者は立ち入り禁止だ。」

 

「紅椿と白狼なら、一撃離脱の作戦を組めるしトップスピードで不意討ちを入れれば…」

 

「失せろと言っている。」

 

「…迎撃はそこまで難しくないよ!相手は無人機だしね!」

 

全く、自由奔放すぎる彼女。千冬の言葉にチラリとも耳を貸そうとしない…。そんな態度は先のタケルのこともあり少女たちの心象を悪くさせるには充分だった。

 

「じゃあ、ちーちゃん……このメンバーで紅椿と白狼以外でこれに匹敵して最大火力を出せるISを持つのはだぁれ?いないよね~? 」

 

「篠ノ之はまだあのISに慣れていない。危険だ。」

 

「ちーちゃん、お気に入りの道外流牙くんがいるじゃないか!」

 

確かに両者の言い分は正しい。白狼と紅椿並みの火力と速さを兼ね備えたISは無い。作戦にはうってつけだ。一方で、箒はつい先の時…触れたばかりだ。使い慣れない武器は…強力であればあるほど危険である。

 

「あ、あの……私は構いません……。」

 

…その時、声をあげたのは他ならぬ箒。彼女は決意を固め、胸を張ると高らかに自らの意を話す。

 

「私と紅椿ならやれます!道外の力もあれば、きっと…!」

 

張りがある声は自信を感じさせた。千冬は悩む……やる気があるのは構わないが、まだ信用には足らない。そこで、流牙に視線を向けると…

 

「俺も構わないよ。現状、それしか手立てが無さそうだし……」

 

なんと、彼も承諾。ならば、束の案に乗るのは癪だが仕方ない。

 

「……わかった。本日、正午より作戦を開始する。それまで、ブリーフィングを続行し作戦の詳細を練る。ここにいる者は全員まずは残れ。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

刻は正午……

 

 

流牙と箒はそれぞれ愛機を展開して崖の上に立っていた…。流牙はリアンやセシリアたちからメッセージを受け取っている。

 

「流牙、気をつけて!箒のことしっかり面倒を見なさいよ!」

 

「流牙さん、貴方ならきっと…!」

 

「嫁よ…いざという時は私やリアンたちがサポートにまわる。大船に乗ったつもりでいろ!」

 

有難い声援だ。戦いに赴くのはこれがはじめてではないが、暖かい気持ちになれたのははじめてかもしれない。

これに、笑みでかえすと…隣で箒が見ていたことに気がつく。

 

「リアンたちか?」

 

「ああ。嬉しいよ、待ってくれる人がいるっていうのは。」

 

「そうか………その、流牙……」

 

「…ん?」

 

「いや、何でもない。そろそろ出撃だ…いくぞ。」

 

最後に何か言いかけたような…本人が否定したなら追及しないほうが無難か。

 

やがて、2機は流星のような勢いで青空の彼方へ消えた……。

 

 

 

 

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それから、暫くして旅館の突貫管制室の真耶と千冬に福音撃墜の一報が届く……。

 

「やりました、皆さん!任務成功です!!」

 

すぐに、歓声が舞い上がるが……束のみが眉をひそめる。まるで、喉になにかつっかえたように…

 

「どうした、束?お前の作戦がうまくいったんだぞ?」

 

「…おかしい。いくらなんでも早すぎる。」

 

千冬はすぐに彼女の異変を覚る。すると、真耶のオペレートも徐々に異変が起こりはじめた…

 

「流牙くん、箒さん?応答して…応答してください!」

 

【な、なんだ……】

 

【…バカな…】

 

通信にもノイズが入り始めるが、間違いなく好転する事態は海の彼方で起きてはいない。再び真耶の席を束が奪いとり、自分の端末を繋いで操作すると映像が浮かびあがる……

 

 

……映ったのは青空…白い雲…

 

 

そこから舞い降りてくる福音と呼ばれた骸を吊るす『黒い死神』……そのシルエットに誰もが目を見張った。何故なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……黒い白狼…!?」

 

 

道外流牙の愛機と…あまりにも酷似した姿だったのだから。

 

天才は予想外の事態にいつ以来かに驚愕を覚えた…。

 

 

 

To be continued…

 




次回……事実上の尊士回。


感想おまちしてます。



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絶~No hope~ 後編

少し時計の針を巻き戻そう…

 

 

 

空を駆ける流牙と箒は海面を真下に…雲を切り裂きながら、視界の彼方へ影を捉えた。まるで、天使が翼を拡げたような純白のIS…ホログラムを出してデータを照合すれば目的の『福音』であるとわかる。

 

「見つけたぞ!私が回りこむ!お前は一撃でしとめろ!!」

 

「応ッ!」

 

箒が正面にまわりこむ形でスピードを出し、弧を描く!流牙も後方で挟み撃ちの姿勢をとろうと月呀を構える…。

タイミングはバッチリ…福音も反応を見せたが、回避は叶わない。

 

「やあッ!」

 

斬!!と一閃……紅椿の空裂が福音の翼を裂いた。福音はバランスを崩し、大きくよろけたところを流牙が狙う!

 

「今だ!道外…!!」

 

「むっ!」

 

白狼のスラスターにエネルギーが充填される。後は月呀を突き立てれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【【DANGER~熱源接近~】】

 

 

 

ズギュウウウウウン!!!!!!

 

「「!?」」

 

…その時、けたたましい警報と光の柱がごとき紫のビームが流牙と箒をかすめ…一瞬で福音の機体を蒸発させた。直撃こそは紅椿も白狼もしなかったが、衝撃波だけでゴッソリと耐久エネルギーであるシールドエネルギーをもっていかれている。

 

「なんだ!?」

 

「…ビーム攻撃?しかし、まだ封鎖空域の側では……」

 

「警戒しよう。まず、先生たちに連絡を……」

 

福音は落ちた……しかし、自分たち以外にISはおろか…人間と呼べる存在もいないはず。背中合わせで警戒態勢をとりながら、流牙は通信を繋ごうとするが……

 

「…先生!山田先生!?」

 

「どうした?」

 

「繋がらない…それに、ノイズも酷い。」

 

「なんだと!?」

 

連絡しようにも、酷い砂嵐のようなノイズがするばかりでろくに反応しない。嫌な予感がする……

 

「道外、撤退だ。福音が墜ちたなら、私たちが長居する理由も無……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そうはいかない。】

 

 

 

「「!」」

 

そのタイミングをついたように海面を突き破って、『奴』は現れた。真っ黒な腕が白狼の脚を掴み…一気に海中へと引きずりこむ!不意をつかれた流牙は抵抗しようとするが、水中での活用を想定していない白狼はズブズブと海底へと引きずりこまれていく…。そして、翼を貫いてアンカーガンを撃ち込まれ…近くの岩礁に繋ぎとめられてしまった。

 

「ガボッ…がばばッ!?!?」

【フン…】

 

それを確認すると、再び海面を穿ち空へと舞い上がる!ロケットのように垂直に大気圏まで達しそうな速さの機影を箒は紅椿の推進力にモノをいわせて追撃を開始した。

 

「待て!」

 

【…ついてこい。】

 

…それが、罠だと気がつくこともなく……

一方で海中で流牙はもがいてワイヤーを月呀で切ろうとしたがうまくいかない。力任せに引き抜こうにも、アンカーガン自体がかなり強力なのかグラグラとしても抜ける様子が無い。

 

【フンッ!】

 

その頃、急襲者は雲の高さにて蝙蝠のような翼を拡げ…紅椿を待ち受けていた。そのシルエットに箒は目を見開いた…。

 

「バカな…黒い……白狼!?」

 

こちらは重厚そうで、搭乗者が仮面をしているが…明らかに区画やパーツが共通している。そう……これが『ゲイヴォルグ』と呼ばれていることなど箒が知る由も無いが……相手が細身の黒鉄に輝く日本刀らしき武装を取り出した時、反射的に応戦の形をとった。

 

「くうっ!!」

まず、ゲイヴォルグが斬りかかったのを空裂で箒がいなし…雨月でビーム凪ぎ払いをするが間合いをとられてかわされてしまう。そこへ、間髪いれず踏み込んでいく箒。

 

「…やああっ!」

 

右…左……2振りの刃が怒涛の責めを行うが、中々当たらない。ヒラリヒラリとかわされ、時に刃で受け流され……ついに、カウンターの一太刀を受けて左脚に斬り傷がつく紅椿。新品の愛機を傷つけられた箒は黒の不届き者をキッと睨む。

 

「…貴様、よくも私の紅椿を!」

 

「フンッ…」

 

「……!?」

 

 

その時、箒は見た……

 

襲撃者が左手を開いたり閉じたりする動作をしていることに……

 

【箒!】

 

脳裏に浮かぶ幼き日の記憶…。愛した彼が、市内を持って自分に挑んでくる光景。あの少年も調子に乗っている時に同じ仕草をしていた…

 

(何を考えているんだ、私は!?戦いに集中しなくては……ならないのに!)

 

すぐに我にかえった箒は敵の機体と激しく大空に交わる飛行機雲を作りながら、斬り合いを繰り広げていく…!命と命のやりとり……気を抜けば死が待つであろう…なのに………

 

(何故だ!?何故、コイツと戦っていると…!懐かしさがこみあげてくる!?)

場違いな感情が胸を充たそうとしてきて、頭が混乱しそうになる。そんな彼女を嘲笑うように、ゲイヴォルグは剣を振るう…!

 

「ぐ…おおおおおォォ!」

 

時を同じく…海中では無理やり力任せにワイヤーを断ち切ることに成功した流牙が白狼にスラスターを噴かせ、海中から脱出。海面を突き破るや、すぐに箒のあとを追う!

 

「箒!」

 

 

刹那……襲撃者と箒の合間に割って入った流牙。弾丸のように滑りこんだ彼の月呀は黒の装甲を捉えることはなく…かわりに、狼を模したような仮面を砕いた。そこから、垣間見えた顔は…

「え……」

箒の動きを……一瞬だけ、完全に思考もろとも止めた。

そこへ向けられる黒光りする銃口。灯る紫色の光……。センサーが告げる警報も今の彼女の耳には届かない。

 

「箒ッ!!」

 

咄嗟に、身を翻して彼女を庇う流牙。直後、先の福音を撃ち墜としたと同様のビームが炸裂し…白狼と紅椿は抱き合う形で海へとまっ逆さまに落ちていった……。

 

「充分だな。」

 

ゲイヴォルグ…正確にはその操縦者は砕けかけた仮面の下でほくそ笑んだ。破損した顔を左手で抑えながら…落ちた獲物たちに手を伸ばそうと高度を下げ……

 

「むっ!?」

 

「させるか!!」

 

ようとした瞬間、行く手を遮ったビームに飛び退いた。見れば、彼方より紫の蝶のようなISが見えた…。

 

「邪魔が入ったか。」

 

「待て!」

 

ゲイヴォルグはこれを機に撤退。それを新なISが追撃していく……

 

その頃、海中から浮上した紅椿が解除された箒。ぶはっ!?と肺に息を流しこみながら、彼女は辺りを見渡す…

 

「流牙…!?流牙…!?」

 

すると、海面を浮遊する彼を見つけた。すぐに、泳いでいき流されないように掴まえると…彼女は視界の先に島を見つけた。

とにかく、今は陸に上がらなくては……

 

「頼む、最新機だというなら……もってくれよ紅椿!」

 

 

 

 

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「嫌な予感が的中したそうだ……洋上で未確認のISに襲われたらしい。」

 

旅館の駐車場に待機していた苻礼法師は端末から入った凶報をバイクにもたれていたタケルに伝えた。すると、タケルは血相を変えて立ち上がる。

 

「じゃあ、流牙と箒は!?」

 

「……連絡もつかん。しかし、時期に捜索隊も出るだろう。タケル、お前はアグリに連絡しろ。俺は楯無に手を打ってもらう。我等も独自に捜すぞ!」

 

「ああ……仕方ないな。いや、学園の守りはどうすんだよ!?」

 

「予め、学園には羅号が放ってある。抜かりは無い。」

 

雲行きが怪しくなってきたのが肌でわかる……いつ以来かの不安を抱きながら苻礼法師は海の彼方を見据える……

 

その手に歯がゆさを握りしめながら…

 

 

 

 

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何処かの洞窟……響く神聖な歌………

 

 

ふと、甦る母の記憶…。

 

 

 

そして、歌姫は2人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流牙ァ!」

 

「!」

 

箒の叫びにより、意識を取り戻した流牙。自身が砂浜に打ち上げられていることを悟った流牙は心配そうな顔をした彼女に痛む頭を押えながら訊く。

 

「箒……どうなったの、さっきのあと…」

 

「お前が私を庇ったあと、あの黒いISは行ってしまった。あのISは何なんだ!?」

 

「わからない。でも…白狼に似てた。」

 

わからないことだらけ…仕方ないだろう。解明するためのキーもピースも無い。なら、今わかることを訊こうと流牙は箒に口を開いた。

 

「箒は…なんともない。」

 

「え、あぁ…私は平気だ。すまない、不甲斐ないばかりに……」

 

「良いよ。それにしても、まだ通信は回復しないのか……」

 

箒が無事なのはせめてもの救い。されど、連絡手段が未だにダウンしており…白狼も紅椿も反応せず。

辺りは海と後ろには雑木林といった具合からしてここは無人島か……

 

「さっき、見てきたが奥に無人だったが施設があった。何か使えるものがあるかもしれない……行ってみるか?」

 

「そうだね……ここでじっとしていても仕方ないし。」

 

流牙は立ち上がると、魔法衣から水気をはらい…箒と共に雑木林の中に進んでいく。

いずれ、その先で運命の戦いが待つとも知らず……

 

 

 

 

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それから、すぐにバックアップで控えていた代表候補生たちは流牙と箒の捜索へと駆り出された。ISを展開した彼女たちは、美しく染まる海面の夕陽にも目もくれず……渡り鳥のように戦いがあった地へと飛んでいく。

その先陣をきって、とばしていたのはリアンだった…。

 

「リアンさん、飛ばしすぎですわ!?あまり離れるなと織斑先生も言ってたではないですか!」

 

セシリアが叫ぶも彼女はぐんぐんと前へ進んでいく…。その様子を鈴音は心痛な表情で見つめていた…。

 

「しょうがないわよ。付き合いが実際に長いのはリアンだし…なんせ、まだ仲直りもしてないんだから。そりゃあ、必死になるわ。」

 

リアンと流牙はひと悶着あってから、まだ関係の改善は出来てはいない。確かに喧嘩はしたが、彼が彼女にとって大切な人であることには変わりないのだ…。それが、いざこざがあってそのまま別れるなど耐えられない。せめて、文句を言い尽くして…自分の想いをきちんと理解させるために……なんとしても生きて帰ってきてもらわなくては…

「そろそろ、例の空域だが……」

 

ラウラが呟く。間もなく流牙たちが消息を絶った場所……

恐らく、ここで何かあったと思い…辺りを散開して探索する。

 

 

 

 

……その様子を猛禽のように遥か上空から見つめる黒い影。

 

「……では、手筈通りに。」

 

簡単に告げると一気にそれこそ猛禽の狩りの速さで滑るように落ちていく。直後、警告に気がついた少女たちだったが…

 

すでに、一行から離れすぎていたリアンが叩き墜とされた後だった。

 

 

 

 

 

 

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「…デュノア社?」

 

流牙と箒が林の奥へと進んだ先は採掘場跡とおぼしきさびれた施設。かろうじて、壁に企業ロゴを確認すると事務所らしき施設にとりあえず入ったみる…。中の計器は何のものかはわからないが埃を被り、ピクリともしない。他、パソコンや電話といった類いのものも見当たらない。時に、人気も無くネズミなどがチョロチョロしているあたりからだいぶ昔に破棄されたのだろう。

 

「駄目だな…ライフラインも皆、死んでいる。何か燃料の採掘場だったみたいだが…役立ちそうなものは何一つ無いな。」

箒は電気などを使おうとしたが、照明などはスイッチを押しても反応しない。人がいないのならメンテナンスする者もいない…当然だ。まだ幾つか施設はあるが、恐らくは同じだろう。

白狼も紅椿も未だに回復せず、起動も出来ない2人は意気消沈しながら外へ出ると……流牙は恐らくは採掘用と思われるトロッコを見つけた。レールの先には洞窟がある……この先を掘削して出てきた土砂を運んでいたのか?

 

「……なんだ?」

 

…しかし、奇妙なものを感じる。まるで、暗闇の中になにかあるような……

 

「道外?」

 

「…いや、何でもない。」

 

気にしすぎか……箒に促され、その場を後にした。やがて、辺りは薄暗くなりはじめる。ならばと、剥き出しの鉄骨の上をよじ登り…流牙は自分たちを捜しにくる者はいないかと水平線の彼方まで目を光らせた。まあ、そんな都合よくいるわけもなかったが……

 

「…まだ助けもくる様子も無いな。」

 

「そうか……」

 

「なんだ、名前で呼んでくれないの?」

 

「えっ!?」

 

不意に流牙は下で待っていた箒に訊いた。あまりにも突然だったので、彼女は変な声を出してしまった…。彼はこの場で何を考えたのだろう…心臓が変な脈の打ち方をしてしまう。

 

「だって、さっきは『流牙』って呼んでくれたじゃん。」

 

「いや、それは…その……つい、勢いで…」

 

「良いよ。なんか道外だと距離を置かれているような気がしたし……」

 

そう言われてみれば……振り返ってみると、今までは周りが流牙呼びだったのに自分のみが道外呼びだった箒。でも、月日が経ち…時折、無意識のうちに名前で呼んでいたような気がする。そして、先の気を失っていた彼を前にした時は『流牙』と必死に叫んでいた…。何故だろう?

 

…もしかして、知らないうちに自分は彼に心を許しはじめているのか?

 

そんな考えがよぎったが、共にあることが頭に浮かぶ。

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「お前は気がついていたのか?私が…『あの人』の妹だってことを。」

 

あの人…即ち、束のこと。大罪人として魔戒騎士や魔戒法師から睨まれる裏切り者の妹…。普段は優しい流牙ですら、敵意を初見から見せた相手の妹で自分はある。彼は父である苻礼法師とも付き合いが以前よりあったとするなら……知っていてもおかしくはない。すると……

 

「知ってたよ。俺も苻礼法師との付き合いはそこそこ長いからね。」

「!」

 

彼は知っていると答えた。ならば、何故…自分には普通の態度で接していた? 最大の疑問…自分とて白い目でみられたっておかしくはないのに…

 

「…でも、箒は箒でしょ?学園の生徒でちょっとぶっきらぼうだけど優しい。そして、自分の道を生きる魔戒法師だ。」

 

それを下らないと彼は笑う。道外流牙はあくまで、箒個人しか見ていない…。姉がどうだ?父が誰だ?さして、どうでもよいこと。箒という少女がどうあろうとするかで…彼はまっすぐ向かいあっていた。そのまっすぐさは……あまりに愚直なまでの心は………

 

「私は……そんなに大層な人間ではない…」

 

少女の心に重みをかける。ある種の罪悪感に近いような…嬉しいが望まない評価を受けた気持ち。本当の自分は迷っている…何が正しいか何が間違っているのか…どんな道を歩んでいくか迷っている。

 

だから、今更になって一度は捨てた魔戒法師の道に戻ってきた……

 

だから、姉に紅椿なんてものをねだった……

 

 

違う…何も見えていない。目隠しされて歩くようにな感覚で、今を生きている。本当に自分を生きるというのは流牙のことを言うのだ…だからこそ、その生き方に魅せられた者たちが続いていくのである。

 

「道外流牙……私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…失礼。」

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

まるで、そよ風のように…肌を撫でられてから存在を気づくように……その時、『彼』は現れた。あまりにも場違いなスーツにサングラスと黒光りする革靴…片手には事切れた『手土産』。

 

「…この女は返す。」

 

頭を鷲掴みにされていたのは気を失っていたリアン。その彼女をはさながら、サッカーボールのように蹴って箒の前にパスをする男。流牙は血相を変えてすぐに鉄骨から降りてくると彼女を抱き上げた…。

 

「リアン!?」

 

酷いものだった…。顔や素肌をさらしている場所でおびただしい数のアザに擦り傷。鼻血がスゥ…と頬を伝う様が痛々しい。そんな彼女と流牙を嘲笑うように男は告げる。

 

「その女…気を失うまで、お前の名を呼んでいた。」

 

「!」

 

流牙は彼女の右手をとっておさまる指輪に耳をあてた…。

頭に流れてくるのはゲイヴォルグに殴られたり蹴られたりと、なぶられなているリアン。百華の展開が解かれても尚、男に気絶するまで首をしめあげられたりと蹂躙される様…

 

【流牙!】

 

それでも、大切な人が助けにきてくれると信じていた少女を嘲笑う者。

 

「…ゥ…ウアアア!!!!」

 

流牙は我を忘れた。いつ以来かの本気の怒りで魔戒剣で斬りかかった。

だが、男は手を掴んで止めると目にも留まらぬ速さで流牙の顔面と腹部に手を打ち込み…体勢を崩した流牙の首を掴みあげ蹴りとばしてみせる。

 

「…ぐ、うァァ!!」

 

負けじと流牙を剣を突き出すが吸い込まれるように掌にガードされ、がら空きの足許をはらわれる。そのまま男は流牙の腹を踏みつけ不敵に微笑んだ…。

 

「流牙!」

 

勿論、箒も見ているだけではない。魔導筆を取り出すと、法力をためて近接を挑むがヒラリヒラリとかわされて顔面を掴まれると力任せに事務所の窓ガラスへと放り込まれた。

 

「うわあぁぁぁ!?」

 

「箒!?」

 

ガラスが砕ける男と彼女の悲鳴……咄嗟に立ち上がると魔戒剣で再び挑む流牙。すると、男は高く跳躍して流牙もそれを追う…!

 

「はあっ!」

 

「ぐ!?」

 

しかし、待っていたのは空中での踵おとし。ちょうど耳許に足を喰らった流牙は聴覚が麻痺し…立ち直るのが遅くなったところをまた蹴りとばされてしまい、地面をゴロゴロと転がる。

 

「弱い。」

 

一言。あっさりと片付けると革手袋をつけた手を開いたり閉じたりしてコキコキと鳴らす男…。確実に舐めてかかっている。

そこへ、魔戒剣を投げつけられたが顔をかるくずらして鍔を掴まれてキャッチされてしまう。

 

「…黄金騎士も地に堕ちたものだな。」

 

彼はそのまま魔戒剣を使うことなく…まるで、ゴミのように投げ捨てる。続いて、流牙が素手で挑むもヒョイッとかわすとその右腕を捻りあげた。ボキッと関節が悲鳴を響かせ…苦痛に顔を歪める騎士に容赦なく背中にチョップの一撃。全くをもって男は反撃を許さない。

 

「流牙!」

 

一方で、箒も復帰すると窓から飛び出して男と相対する。ただ、目の前の光景には目を疑った……あの流牙が全く手も足もでない光景に……

 

「ホラーか!?」

 

「お前たちの敵だ。」

 

敵……シンプルな表現。でも、明らかに今までのホラーとかの比ではない。根本的に違う…獣ではなく、戦士とした佇まいがある。異質で、不気味なこの男の雰囲気に箒は息を呑む…。紅椿が動かない今の状態で勝てるのか?この男に…?

 

「む?」

 

その時、男がバックステップを踏むと彼のいた場所に矢が刺さった。

 

「流牙!」

 

上に視線をむければ、そこには白いISを展開した簪にそれに乗ってきたであろうタケルとアグリ。騎士たちは飛び降りると、タケルは斬りかかりアグリは矢を放つ!

 

「ふんっ!」

 

「ぐわぉ!?」

 

しかし、矢は受け止められるとタケルの魔戒剣の防御に使われ、正拳突きでタケルはふっとばされた。そして、残った矢は簪をかすめるように投げつけられ虚空に消えた…。

 

「ちぃぃっ!」

 

思わず舌打ちするアグリは男を中心に円を描くように矢を速射。絶え間など無いように放つも、身を反らしてかわされるとそのまま滑るように間合いを入るのを許してしまう。

 

「はああっ…」

 

「なにっ!?」

 

直後、男は凪ぎ払いの弓を跳躍してよけるとアグリに蹴りを入れて宙返り。華麗に着地すると、後ろから飛びかかってきたセシリアを一瞥。

 

「…やああっ!」

 

「鈍い。」

 

「!?」

 

彼女の腕をおさえると、続いて一撃をいれようとする流牙の剣を逆の手で防ぐ。これで、両手はふさがった……

 

「どおりゃああ!」

 

この機を逃すかとタケル。魔戒剣を逆手に持った回転斬りで正面から一気に攻めたてる!しかし…男は両サイドを振りほどき……

 

「むんっ!」

 

「がっ!?」

 

蹴りあげ…俗にいうサマーソルトでタケルの顎をぶち抜き勢いを殺す。なんという荒業か……コンマでもタイミングが遅ければ脚を斬りおとされていたろうに。

 

「「はああっ!」」

 

そこへ、しかけるのは鈴音とラウラ。まず鈴が体勢を崩そうとスライディングをかけたが、軽く右足で受け止められて返り討ち。続けて、ラウラも持ち前の軍人として習得した格闘術を繰り出すが同等の動きで防がれてしまう。

 

(コイツ!?中々の手練れ!)

 

拳、拳、キック。まるで一寸先の未来が見えているように男の防御は完璧。そして、ラウラの微かな隙をつき連撃を叩きこむと彼女を流牙たちの前に転がすのであった。

このまま追い討ちをかけようとする男……

 

「させるか!」

 

それを、後ろにいたシャルが魔導筆より出した法力の鞭で縛りあげる。一介のホラーなら簡単に捕縛できる術だ。

 

「ふん!!」

あくまで、一介のホラーならの話だが。男は術を簡単に引きちぎると、シャルを息をつかせぬうちに間合いを詰めて首を締め上げると廃墟の白い壁に叩きつけた。

 

「弱い…弱すぎる。」

 

「離せ!!」

 

思わず、相手の手応えの無さに落胆の声。蹴られて、間合いをとらさせるとスーツにつく埃をはらい不遜に一行を見据える。

 

されど……彼が意識したのかは謎だが、ちょうど囲うような配置になっていた面々。目をあわせて、頷きあう魔戒騎士と少女たち…相手の正体がなんであれもう力の出し惜しみなどしてられない。

 

「「「うおおっ!」」」

 

「「「「やああっ!」」」」

 

 

炸裂する光。鎧を纏う魔戒騎士……ISを展開する少女。相手にするのは素手の男ただ1人……。箒は未だに紅椿が起動せず、簪は戦力外のためにこの場にいないが戦力差は圧倒的なはず。ここには、黄金騎士と各国の代表候補生たちがいるのだから………負ける道理が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、この程度か?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

 

…ないなんて甘い考えはすぐに消し飛んだ。

 

 

『…だァ!!』

 

男は合掌すると、身体から噴出する邪気と共に異形…即ち、魔導ホラーへと姿を変えた。ただ今までのものとは違う……魔戒騎士のような獣の顔をしつつも生物的で蝙蝠のよう。そして、純白と金色の生々しい肉体……

『どうっ!』

 

まず、魔導ホラーは一斉に襲ってきた者の中で先陣をきっていた牙狼をいなすと、プラズマ手刀で突っ込んできたラウラを掴み振り回すと鈴音に漸、牙射をなぎはらう。そこに、シャルがマシンガンを狙おうとするとラウラを投げつけて動きを止めてみせる。

 

「ティアーズ!」

 

ここで、攻撃を緩めてはいけない!セシリアはすかさず、ティアーズたちを飛ばしてビームを発射する……だが、魔導ホラーが手をかざすと空を舞う射手たちは動きを止めてしまう。

 

「な、なんで!?ティアーズ!?」

 

射手の主は慌てる……その一瞬が命取り。牙射が放った矢が蹴って弾かれると真っ直ぐ、青の射手の右足をぶち抜き破壊した。

 

「きゃあああああ!」

 

「セシリア!?」

 

『余所見か、道外流牙?』

 

思わず、叫んでしまう牙狼。無論、彼も然りで油断大敵…魔導ホラーが間合いに飛び込み激しい近接戦となる。牙狼剣を抑えられ、漆黒の鎧に叩き込まれる膝ッ!膝ッ!締めにしなかやな腕が顎を砕く!!

 

「…ぐっ…ああ!?」

 

金色の兜からブシュゥ!!と血が迸った。あまりの威力に地面に転がった所をさらに追撃をしかけるため踏み込む魔導ホラー…

「むっ…」

 

「嫁はやらせん!」

 

しかし、不意を突こうと飛んできたレールガンを身体をよじってかわしてしまったために叶わない。振り向けば、ラウラとシャル…牙射の支援攻撃の嵐。矢、弾丸、ワイヤーを鉄骨のタワーを駆け上がっていき逃れる異形の僅かばかりに出来た隙にと牙狼をかっさらうように回収する鈴音。勿論、魔導ホラーだって黙って見ているわけではない。タワーに蹴りを撃ち込むと、牙射たちに倒し…回避した彼等を分散させるとゲイヴォルグを展開して後を追う!

 

「流牙、来たわよ!」

 

「いくぞ、鈴!!」

 

闇夜に舞い上がる牙狼を背に乗せた甲龍。 月をバックに弧を描くと燕の如く、ゲイヴォルグと相対する!

 

「「うおおっっ!」」

 

息はピッタリだった。だが、ゲイヴォルグは不敵に笑うとなんとスレ違いざまに甲龍から牙狼を叩き落とし、魔導ホラーに戻ると自分も牙狼に追いついて落下しながら尚、拳を叩きこみ続ける。鈴音も、牙狼を落としてバランスを崩した拍子に廃墟へと突入してしまい助けることは不可能だった。

 

『…どゥ!』

 

「ぐああっ!?」

 

再び決まる強烈なキック。この衝撃をバネに受け身をとる魔導ホラーと地べたに這いつくばる牙狼。漸、牙射も庇おうと前に立つが降り下ろす弓も剣も受け止められ…腹に流れるように拳と蹴りで押し返された。

一方、この離れたところでは必死に箒が紅椿を起動させようとしていたが…ピクリともしない愛機に虚しい叫びが響く…

 

 

「何故だ!?何故、動かない、紅椿!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…」

 

何処かの薄暗い密室……束はホログラムに映し出されている魔戒騎士たちの苦戦される様を眺めていた。ここには、千冬も苻礼法師もいない……

 

ただ青白い光に無機質に照らされる彼女の顔は何を思っているかはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おおわぁああ…!?!?」

 

「タケル!」

 

深紅の鎧が砂利を巻き上げて、殴りとばされた勢いを殺しながら立ち上がる。漸の前に牙狼…続いて、牙射が立ち……鈴音とラウラ、シャルが頭上に滞空する。

 

「くそ、強すぎる!?なんなんだアイツは…!」

 

「気持ちで負けたら終わりだ、アグリ!」

 

「だけどよぉ、流牙!?」

 

三騎士はもう足並みがぐらつきつつある。ISも探索でさいたエネルギーのおかけでバッテリー切れも近い。残弾もふまえると早く勝負をつけたいところ……

 

そんな彼等を嘲笑いながら、魔導ホラーは己の肋骨を両手で引き抜いてそれぞれを剣と槍に変化させる。

 

『なってないな。戦い方も振る舞いも…三騎士揃って三流とは。俺が教えてやるよ…………魔戒騎士らしさって奴を!』

 

「黙れ、ホラーァァ!!!!!」

 

 

 

突きつけられた剣の切っ先と言葉に牙狼の怒りは頂点に達する。冷静さをうしなった剣筋など赤子の首をくびるようなモノ……槍で受け止められ、剣で胸を突かれて再び元の位置へ。シャルがすぐに銃撃をはじめるが、槍で弾かれて逆に弾丸の嵐が自分たちを襲う始末…。なんとかラウラが身を挺して盾になるも彼女の機体もエネルギーの限界が近づいていた。

 

「うおおっ!」

 

その背を飛び越えて、牙射が弦を引き絞るが矢尻が狙いをつけるより先に剣を捨てた手に間合いを詰められ首根っこを掴まれる。漸も助けようとしたが、牙射を蹴って返されて廃墟にラウラを巻き込んで3人は闇に消えた…。

 

「「「うわああああ!?!?」」」

 

『ふん…』

 

…情けない悲鳴に僅かに慢心した魔導ホラー。しかし……

 

「うおおっ!」

 

『!』

 

牙狼が残る力を全て持って立ち向かってくるのに気がつく。再び、両手に槍と剣を持ち…迎えうとうと……

 

「流牙さん!」

 

『!?』

 

そこを、かすめるビーム。魔導ホラーの視界の端にいたのは確かに動けずも、瓦礫に寄りかかりながら狙撃で援護したセシリアだった。確かにうまれた刹那の隙…されど、牙狼剣は逸れてしまう。直後、煩いと感じた魔導ホラーが槍を投擲して直撃を受けたセシリアは瓦礫の山に打ちつけられてISを解除した。

 

「流牙!」

 

ここで、シャルはまた魔導ホラーを撹乱しようとして接近したが、これがいけなかった。

 

『邪魔だ!』

 

「なっ!?」

 

なんと、強引にリヴァイヴに彼は飛び乗ったのだ。シャルは勿論、暴れるが無慈悲にパーツを引きちぎられて操縦が効かなくなると廃ビルに突貫。そのまま、戦闘不能となった……

 

「シャル!?」

 

「流牙、もう一回あれやるわよ!」

 

嘆いている暇は無い。再び、鈴音の甲龍に飛び乗る牙狼は牙狼剣を煌めかせ…廃ビルから飛び出してきた魔導ホラーと睨みあう…

 

 

 

そして、互いの間合いに入ったその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『むぅん!!』

 

ボゴッ!!と回し蹴りのクリティカルが入ったのは牙狼の兜。勝った!魔導ホラーは必殺が決まったと直感したが……

 

 

「うぅうう…だァ!!」

 

『!?』

 

 

斬!!…牙狼剣は振り抜かれた…。

 

両者は地面に着地すると、牙狼は片膝をつき…魔導ホラーは胸を押さえる。

 

『ぐ……ぬぅぅ!?』

 

 

ーーキュオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!

 

「ぐわぁ!?ぐっ!」

 

確かに一太刀…魔導ホラーの胸に反撃の跡があった。そこから、また金色の波動が漏れて金色に染まる牙狼……

すでに、限界へと達していた彼は更に波動の激痛に耐えることができず鎧を解除してしまった。

 

『…終わりだ、道外流牙。』

 

迫る魔導ホラー……もう味方はいない。万事休す……

 

 

 

否ッ!

 

「せめて、これだけでも届け!」

 

『!』

 

最後のひとり…箒は魔導筆を法力で弓を象ると渾身の力で矢を創造して魔導ホラーを狙う。今、動揺した瞬間はこのあとは来ないであろうチャンス……箒は躊躇いなく放った……。

 

 

その先に、触れてはならない『真実』があるとは思うこと無く……

 

 

『…ぐ!?』

 

空を裂いた矢は魔導ホラーの顔をかすめていき、奴を人間の姿に戻す。

その拍子にサングラスが地面に落ちる……

 

 

 

「え……?」

 

その時、箒は自分の目を疑った。最初は全く気がつかなかった…

でも、顔の輪郭が浮き彫りになってきたのと同時に……

 

 

『……がっ…』

 

この魔導ホラーは『ある少年』に似ていることに…脳裏の最愛の彼にあまりにも重なっていることに……

 

嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 

 

……そんなの嘘に決まっている。

 

『いってぇなぁ……』

 

 

……だって、流牙は…信じろと言ったじゃないか?でも、こんな再会が…愛した人との再会が…

 

 

こんな……

 

 

こんな……

 

 

 

 

 

 

 

「……一夏…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…痛いじゃねぇか、箒?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…残酷なんて間違っている。

 

 

 

To be continued…

 





☆次回予告

リアン「悲しめば良いか、嘆けば良いかはわからない。再び少女たちに迫る決断の刻。その時、彼女は本当のはじまりを知る…。次回【華~Wild Flowers~】…まだ、私たちは折れてはいない!」





感想おまちしてます。


☆仮称・一夏(魔導ホラー態)
尊士のような魔戒騎士の鎧に近い風貌をしているが、こちらは白く、槍と剣を使う。三騎士、ヒロインたちがまとまってもこれを凌駕する実力を持つ。IS・ゲイヴォルグは何者かに与えられた彼の愛機でビームマグナムは福音の装甲すら焼き尽くす。また、機体の殺人的スペックは人間での運用を視野に入れていない。
何らかの理由で牙狼へと至るための修行の最中、魔導ホラー化したようだが…?



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最終章・金色になれ篇
華~Wild flowers~ 前編


お知らせがあります。くわしくは後書きへ…




「あ……ああ…」

 

箒は未だに目の前の事象が受け止められていない…。いや、解してしまったその時に自分の胸の奥底で大事な柱が壊れてしまうような気がして理解するという行為そのものが行われていないのだろう。

されど、現実は不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄ってくる…。

 

「箒…久しぶりだな。随分と見ないうちに綺麗になったなぁ?そういえば、剣道の大会で1位になったんだっけ?おめでとう……」

 

「黙れ!お前は、一夏じゃない!一夏じゃない!?」

 

「あん?この顔を見てまだ信じられねぇってか?千冬姉とそっくりだろ。」

 

違う!例え、同じ顔と声をしていようとアイツはホラーになったりなんかしない。箒は否定する…

そんな彼女を嘲笑すると、彼はああ…と思いだした顔をして口を開いた。

 

「…なあ、箒?覚えているか…最後の約束?」

 

「…!」

 

やめろ……それを知っているのは自分と流牙だけだ。約束とすれば思いあたるのひとつしかありえない。

 

「俺と別れる時に言ったよな……」

 

「……やめろ…やめてくれぇ…」

 

それ以外としたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『黄金騎士になる』ってよぉ。」

 

 

 

 

 

…交わした本人、織斑一夏しかありえない。

 

 

「う…ああ…うわあああぁあああああああああああぁぁあああああああああああああああああああぁぁああああ!?!?!?!?嘘だぁああああぁああああぁああああ!!!!」

 

 

途端、箒は全ての正常な思考力を奪われ発狂しながら頭をかきむしった。決壊したダムが如く表現できない激流のような感情が身をかき回し、のたうちまわり拒絶する力を最大に振り絞ろうとするも何も変わらない。涙を目から吐き散らし、悲痛な叫びで吠えても何も変わらない…

そんな彼女を見据えて『一夏』はニヤリと笑うと再び魔導ホラー態となり一気に迫り来るッ!

 

「箒!」

 

咄嗟に流牙は前に出て箒を庇う…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ギャンッ!!!

 

『むっ!?』

 

 

その時、藍色の影が素早く遮り一夏は飛び退いて距離をとる。何者だ!?無粋な邪魔者はボロボロな一行の盾になるように猛禽のような翼を拡げ、鋭い嘴のような兜で魔を見据えていた。

 

「あ、アイツは…!?」

 

踞っていたタケルは気がついた……ラウラのブリュンヒルデ戦の時に突如として現れたあの騎士であると…

 

 

 

 

『幻影騎士 吼狼~Crow~』

 

 

 

 

 

 

幻が如く現れ、幻のように去り行く騎士。日本刀タイプの魔戒剣を突きつけ、一夏と対峙すると…一夏はジリジリと歩を退けていき……舌打ちするとこちらも翼を拡げて夜空へと逃げ去っていく。そのあとを、ゲイヴォルグを撃退したISが再び飛来して追撃へ向かう。

 

「……はぁ…はぁ…」

 

一旦は去った脅威。流牙は糸が切れたように崩れ落ちると、仰向けになり辺りを見渡した…。

 

……ボロボロになった仲間たち

 

……手も足も出なかった自分

 

……あまりの悲劇に我を失って狂い泣く箒

 

 

 

 

獲られたものなど何も無い。深く抉られた完全敗北という傷に……流牙は誰もいない暗い虚空へと悔しさに吼えた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EP【華~Wild flowers~】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから、旅館に帰還した流牙たちは福音撃墜の喝采を受けたが……誰一人として笑顔の者はいなかった。千冬が気を効かせ、すぐに流牙は寝床へ向かわせられたが全身の痛みと昂る感情でとても眠れそうに無かった…。

 

(また……守れなかった。今度こそ、守り抜くと誓ったのに……)

 

何より、流牙に重くのし掛かっていたのはリアンのこと。幸い、命に別状は無いが千冬がつきっきりで今晩は看病を行うらしい…。

ならば良いと片付けられる流牙ではなかった。かつて、鈴音の父親を助けられなかったからこそ過ちを繰り返さないつもりで戦ってきたのに…自分はリアンを助けられなかった。あと少し、奴の加減が違っていたら命を落としていたかもしれない……

 

「クソッ!」

 

無意識のうち、流牙は壁を殴っていた……。

 

 

 

 

 

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明朝……

 

 

起床した箒の顔は悪い意味で凄まじいものであった。血色は悪く、目の下には隈…果ては髪もやつれ気味と酷い有り様。恐らく、昨日のショックからずっと眠りが救ってくれるまで泣きはらしていたのだろう……その様相ときたら、ねだって貰った専用機のことで嫌味な1つでもと思っていた同級生が思わず退くほどだ。

 

「いちか………」

 

おまけに、口を開けば呪文のように一夏とうわ言を連綿と続けている彼女に同級生はおろか、ある程度親しくしていた者すら近づこうとしなかった…。すると、廊下を歩いている最中…ある部屋の目の前で、とある人物を見つける。

 

「……道外?」

 

それは、まさに道外流牙その人。彼は部屋に入ろうと手を伸ばしては見るも……すぐにその場を逃げるように去っていってしまった。何だろう…?箒がそこへ行くとすぐにわかった。

 

「リアンの…部屋?」

 

そうだ、彼女は昨日からつきっきりの看病が必要な状態なのである。即ちら寝たきり…。よって、お見舞いには来たものの罪悪感から逃げてしまったというわけか。

 

「あ……箒…」

 

その時、ちょうどいれかわりで鈴音と出くわした。彼女もつらそうだが、箒に比べたら随分とマシ… いいや、箒が酷すぎるだけか……彼女は苦笑いをしながら溜め息をついた。

 

「あのさ……私とセシリア…それにラウラと簪…クビ宣告を受けちゃってね。苻礼法師に……」

 

「!」

 

不意な言葉。自分のことでパンパンだった頭の中に投石されたほどの衝撃な事をさらりと彼女は言った…。壁に寄りかかると遠い目をしながら鈴音は続ける……

「正確には今一度、考える暇を与えるってことなんだけど。まあ、あれだけ惨敗すれば仕方ないか……。甘かったわ、何もかも。私にはISがあって、法師の見習いとしてまだまだでも、流牙がいれば誰だろうと負けることないって今までずっと思ってきた。だけど、違った…『アイツ』はそんな根拠の無い自信を粉々にうち砕いていった。」

 

アイツ……即ち、一夏なのは間違いない。実際、全く連携も何もかも役にたたず弄ばれるだけだったのだから。

鈴音はこの時、自分がどれだけ愚かか理解した。未熟な自分を結局は流牙にすがる形で去勢を張っていたに過ぎないと。流牙が敵わない相手の時、どうしようも出来なかった自分は役立たずであると…。だから、苻礼法師は今一度…まだ普通の世界に帰れる機会を与えたのである。

 

「ハッ…意地でも流牙についていくって言いたいんだけどさ。言えないんだ……。怖いんだ。また、アイツと戦うとしたら今度こそ…って思うと怖いの。嫌なのに、身体が震えるの…逃げたいって。」

 

箒はこんなに怯える彼女を見るのははじめてだった。底知れぬ恐怖がいつもの彼女の快活さと元気を縛っている…。非情なまで絶望的な現実が恋する少女の心をヘシ折ろうとしていた。

 

「……私たちのしてきたことは、アンタたちの足を引っ張るだけだったのかな?」

 

「そ、そんなことは…!」

 

 

 

 

「どーしたの、2人して?」

 

 

「「!」」

 

その時、ふらりと現れたのはシャル。箒らとは違い、笑顔の彼女の傍らにはセシリアやラウラ…簪の姿もある。こちらは鈴音に負けず劣らずの暗い顔だが……

 

「リアンのお見舞いに来たんでしょ?なら、こんな所に突っ立ってないで……」

 

彼女は来るなり、何の躊躇いも無く部屋を開けた。心の準備をなにもしてなかった少女たちは慌てるももう遅い……。

 

「あはははははは!そうよね、その時の流牙ときたら…!」

 

え?少女たちは戸惑った。昨日、あれだけボロボロにされたはずなのに何故……

 

「ん?あ、皆きてくれたの?」

 

…リアンは起き上がってピンピンしているのだ?

 

「む、来たか。そろそろだとは思っていたが…」

 

「織斑先生!?これはいったい……リアンさんの身体は大丈夫なのですか!?」

 

セシリアは驚愕せざらえなかった。昨日は意識すら朦朧としていたのに、平然と千冬と談笑している彼女はどんな身体をしているのか理解し難い。すると、リアンは腰に手をあて不遜に笑う。

 

「これでも、アナタたちより長く魔戒法師やってるのよ?これくらいじゃ、へばってられないっての!」

 

随分とタフ…やはり、経験の差というものはこうもあると凄まじい。まあ、一安心といったところだが…逆にリアンは彼女らを心配していた。

 

「それより、そっちは大丈夫なの?随分と手酷くやられたようだけど…?」

 

…これに関しては少女たちは黙ってしまうしかなかった。リアンもこれは失言だったと察し、千冬に話題を投げかけた…。

 

「そうだ!千冬先生、あの話…皆にもしてあげましょ。」

「む…さっきのを最初からか?そうか…気晴らしには良いかもな。」

 

話?少女たちは首を傾げる。リアンと千冬…あくまで協力者同士の関係で特に深い関係など無さそうだ。しかし……

 

「大して面白いものでもないが、私と道外たちがはじめて出逢った時の話だ。」

 

関係の長さではいえば、担任と生徒の期間より遥かに長いのである……。

 

 

 

 

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それは……少女たちがIS学園に入学する前…正確には道外流牙がISに触れる前と言ったほうが正しい。当時、千冬はISの世界大会2連覇を成し遂げ一躍、時の人となっていた。さぞ、華やかな生活がと思われていただろうが実際はかなり違う。

 

「うえぇ~……ひっく。」

 

毎日、夜になると酒に溺れてウロウロと人混みをさ迷い歩き…酔いが回りきってべろんべろんになると近くの食堂に転がりこむのが日課になっていた。まあ、こんなことが出来るのは顔馴染みの場所であるからこそ……

 

「ただいまぁ…!」

 

「ただいまじゃねぇよ!?ここ、あんたの家じゃねぇし!?」

 

ガラガラと戸を開けるなり土砂のようになだれ込めば赤毛の長髪にバンダナの少年がやってくる。『五反田 弾』。この食堂を実家とする少年で、千冬とは顔馴染みの仲…詳しいことはまず置いておこう。まず、弾はこの迷惑な客を手慣れた様子で椅子に座らせると奥の台所へと走っていく。

 

「酒もってこぉ~い、一夏~!」

 

「ふざけんな、酔っぱらい!あと毎度言ってるが俺は一夏じゃない!!」

 

こんなやりとりいつものこと……暫くすると、眠気に誘われてテーブルによりかかる千冬。ぼーっ…とする頭の中、ふとした瞬間に見知らぬ人影が目の前に水が入ったペットボトルを置いた。

 

「あんた、飲み過ぎだよ?まだ口開けてないから、これ飲みな。」

 

「…?」

 

誰だろう?見覚えは無いが……雰囲気は誰かに似ている気がする。優しい空気…た………し……か……

 

「い……ち…?ぐぅぅ……」

 

すると、とうとう睡魔に呑まれてしまう彼女。全く、呆れたと人影の指輪は呟いた。

 

『やれやれ、寝ちまったようだな?』

 

「ザルバ、本当にこの人なのか…?」

彼は…まだ、白狼に出逢う前の流牙。つまり、セシリアや箒のことも知らない頃。千冬とも初対面でその感想は……

 

(酒臭い……本当にブリュンヒルデと呼ばれた人なのか?)

 

流牙はきっと、魔戒騎士とも負けず劣らずの凄まじい屈強かつ誇り高い女性だと予想していたのだが…。実際はただの飲んだくれ…だらしないこの上なく、他人の家で好き放題して寝る始末。拍子抜けも良いところだ。

そこへ、お冷やを持った弾がやってきた。

 

「お?流牙か……悪いな、取り込んでてな。ほい、指令書。」

 

彼は流牙に赤い封筒を手渡すと、流牙はそれを魔導火ライターで燃やす…。すると、魔戒の文字が空中に並んで文章を形成する。

 

「番犬所からだな…。陰我が収束されし者、織斑千冬を守れ、だと。襲いくるホラーがあれば全て討滅せよ。珍しいよなぁ……あの胡散臭い三姉妹神官が個人を守れとはねぇ。」

 

「この人を利用してより1体でもホラーを狩れ…ってことだろ。」

 

「だろうな。まあ、仕方ないさ…今はこんなでも時の人だ。」

 

何の気なしに会話をしているが弾も『協力者』である。経緯はセシリア等とはまるで違うのだが…彼は主に組織からの指令の仲介を担っているのだ。

 

「この人、どうする?」

 

「あー、そうだなぁ。ここは置いておけないし、家に帰さないといけないんだが……」

 

「わかった。手伝う。」

 

「話が早くて助かる。」

 

とりあえず、弾からの依頼を受け…千冬をおんぶして自宅におくることにした流牙。夜道に出た彼等は弾が先導し、流牙が後に続く……。夜はホラーの時間…細心の注意をはらいながら進む中、重みを感じる背中に握りしめられる感覚……

 

「いちか………ぐずっ」

 

「…」

 

泣いていた。背中で揺られている世界最強と謳われた女が泣いていた…。

誰かの名前をしきりに呟いているようだが真意は解らない。そうしているうちに、彼女の自宅の前に着いた…。

 

「少し待っててくれ、鍵を開けるから。」

 

すると、弾は千冬のスーツのポケットから鍵を手慣れた様子で抜き取り、施錠を解除。そのまま、お構い無しに上がると『うっ…』と口許を覆った。

 

「うわっ…。相変わらず、ヒデェ臭いだぜ。」

 

弾は愚か、流牙すら中を見て言葉を失う。入る前は小綺麗な家と印象を受けたが、中に入れば玄関から既に空き缶などが散らばったゴミ屋敷という有り様だったのだから。ハエやゴキブリがいないのが、せめてもの救いでもあるが…年頃の女性で時の人が住む場所には到底思えなかった。

 

「そこのソファーにでも、置いとけ。それで、充分だから。」

 

さて、やるべき事は終わったと帰路に向かおうとする弾。流牙も後ろ髪が引かれるようなものがあるが…仕方無しと千冬をソファーに寝かせた時にふと、ある物が目がつき手にとった。

 

「弟を……さがしています?」

 

それは、彼女に似ている少年の顔が印刷されたチラシ……。流牙はこれに耳を当ててみると…

 

【弟をさがしてます!何でも良いんです!!お願いします!お願いします!】

 

流れてきた思念は千冬が必死にチラシを配り、少しでも情報を得ようとして……結局、収穫無しに戻る日々だった。涙を呑み、孤独に耐え…時に警察にもすがるも、門前払いを喰らい…悔しさに歯噛みし…やがて、酒に溺れていく姿は見るに耐えないものである。

 

「ああ、それか。弟だ……随分と前に行方不明になっちまったんだ。」

 

みかねたて説明する弾。成る程、恐らくはこれが原因で彼女はすさんでいったのだろう。不安に取り憑かれ…徐々に精神の安定さを失っていき、ついには堕ちぶれてしまった。哀れと無情に斬り捨てるには彼女は悲しすぎた……

 

「見つかってないのか?」

 

「見つかってたら、こんなに荒れるかよ。」

 

「…」

 

「よせよ、流牙。同情しても、本人が辛いだけだ。」

 

でも、このまま放置して良いのか?また、酒を千鳥足になって酔って潰れるまで煽り、たった独りの我が家に戻る生活。こんなことを繰り返していたら、いずれトラブルに巻き込まれるか身体を壊すに決まっている。

同情は重荷になると言われてもやはり……

 

「…放っておけない。」

 

流牙は魔法衣を彼女にかけると、千冬はすやすやと寝息をたてはじめた。無論、隣で見ていた弾は黙っていない…

 

「おい、流牙…。たく、俺は知らないからな!後始末なり何なりは自分でしろよ!!」

 

「ああ。わかってる…。」

 

 

 

こうして、流牙と千冬の出逢いは始まった…。しかし、彼女が流牙の正体を知るのはもう少し先の話である。

 

 

 

To be continued…

 

 




挿絵つけてみたんですがね。ええ、アナログは厳しゅうございます。箒とガロが描くのに同じくらいかかったのは内緒。
さて、それも1つなんですが私、機種変することになりまして現行の端末から移行する際にこちらのアカウントも引き継ぐつもりですが、万一に失敗した場合は現存する作品は新規アカウントで引き継ぐ所存です。

さてと……プリヤ翔もヨロシクネ!

それにしても、最近は仲良くさせて頂いている作者様のガロ作品が更新されなくて寂しくもあります。

感想お待ちしてます!あと、挿絵とか要望がありましたら気が向いたら描くかもです。




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華~Wild flowers~ 中編

勘弁してけろ、仕事が忙しいんじゃあ(汗)

もう2ヶ月なるのかうっは…ww GSどころか紅蓮の月まで終わる始末!紅蓮の月はサエシマシリーズのオマージュが多かったですね。ああ、確かに名前も……

雷牙→雷

鋼牙→コウ→吼

→雷吼


うん、今さ気がついた。花から飛び出す心滅からその流れと最終形態あたりからなんとなく察してたけど…

あれ?これあとがきに書く話じゃね?


 

「…っ」

 

窓から差し込んだ朝日…ああ、また日が変わってしまったのかと重く痛い頭で理解する千冬。誰もいない部屋…自分しかいない空間…酔いがさめるといつも孤独感が襲ってくる。何時からか…弟がいないことが日常になってからはこの目覚めのこの時間が彼女は毎日くる1日で最も嫌いな時間だった…。

 

しかし、今日は違った…。

 

 

「…?」

 

まず、彼女は毛布代わりにかけられている黒い衣に気がつき…幾分かゴミだらけの部屋が片付けられていることに驚いて身体を起こす。そして、窓を見れば庭にて剣を素振りする人影……まさか……

 

「一夏!帰って……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ………目、覚めた?」

 

 

 

 

 

そこにいたのは見知らぬ青年であった…。

歳の頃合いは弟が今、生きていれば同じくらいであろう青年………いや、待てなんで見知らぬ人間が自宅に上がり込んでいる!?

 

「…大丈夫?昨日のこと覚えてる?」

 

「昨日…?」

 

昨日…確か、あれだ。泥酔してからろくに記憶が無い………確か、誰かにおくられたような記憶なあるのだが…

「あんまりにも、あんたが酷かったから放っておけなかったんだよ。お酒も大概にしないと………」

 

「余計な御世話だ。」

 

「……あっそ。なら、コートかえして。いつまでも居たら邪魔だろ?」

 

ここで千冬は自分にかけられていたのが青年のコートだと気がつき、これを手渡した。すると、彼は腕を袖に通し…笑みを向けると剣をしまい、その場を後にしようと背を向けた。

 

行ってしまう………そう思った瞬間、千冬は反射的に彼を呼びとめていた。

 

「お、おい……!?」

 

「?……なに?」

 

「その……名前はなんだ?お前の……」

 

何故だろう…こんな無理にでも引き留めたくなるほどの切ない気持ち。行ってほしくない…そう思ってしまう。理由は千冬本人にもわからない勢いだったが、青年は笑顔で応えた。

 

「俺は道外流牙……近くの五反田食堂でしばらく世話になってるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それをきっかけに道外は私の家に上がりこむようになった…………おっと、教師に淫行の話を期待するなよ?残念ながらその類いの話は無いからな。」

 

…いや、貴女まで競争相手だったら恋レースが厳し過ぎだろというのが少女たちの本音。内心、ほっ…と安心しつつも続きに耳を傾ける。

 

「……そして、アイツがISを動かす頃だったか…。私がアイツの正体に気がついたのは…」

 

そして、語り部はもう遠くの日々になってしまった記憶へと想いを馳せながら………ゆっくりと……また口を開いた。

 

 

 

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流牙が千冬の家に通うようになって暫く…彼女の生活は変化をはじめていた。今までは不規則で荒んだ生活を正さんと、酒を飲む量を減らし……いつ以来かぶりにキッチンに立ち料理をしようとするも、元よりズボラで大雑把な性格が災いして散らかるばかりで断念。これは流牙も失笑…千冬も恥ずかしそうにし、結局は殆どの食事は五反田食堂の世話になることに……

加えて、部屋も片付けて綺麗にし…身の回りは驚くほど環境が変わった。

 

「「いただきます!」」

 

変わったのは周りだけではなく、彼女自身もまた然りと…流牙と共に五反田食堂にて朝食のどんぶりを平らげる様はまるで別人のようだと弾の談。まるで、魂が入れ換えられたようにイキイキとしていた…。

「いやぁ、随分と見違えたもんだ。これなら、本人の心のほうは心配無し…か。」

 

カウンターにて、弾はやれやれと溜め息を尽きながらふと視線をずらせば電源が入ったままのテレビ…。パリッとスーツのニュースキャスターがISに関しての報道がされており、各国の開発を更に進めるという内容であった。これは、また別の意味で溜め息をつかざらえない…

 

「はぁ…。ま、面倒は未だにおさまる気配は無しと。」

 

多分、世界は大きく変わる中のうねりにあるのであろう。強く柔軟な者、運の良い者は生き延び……適応できない、運が悪い者から世界の明るみから転げ落ちて消えていく。急激なれば尚のこと……女性しか扱えない最強の兵器などまさに世を嵐にさせる荒波。弾の考えの及ぶところではないが、多くの人間たちが呑まれていく…そして、そこにはどんな立場であろうと邪心・陰我が生まれる。波に乗って成り上がり肥えようとする欲望……波に呑まれた者たちの憎しみ・妬み。人の業…そこへ、影たるホラーは現れる。人間の邪心がある限り、絶えることはなく…陰我が膨らむほど多く強くなる。即ち、守りし者の仕事はかなり増えていくというわけだ。

 

 

【国連からの発表より、IS学園は……】

 

今、ニュースで記事を淡々と読み進める女のキャスターも恐らく、光り輝く未来の裏側など知るまい。ある種の知らぬが幸せというものだとこれまた溜め息をつきカウンターでふん反りかえる。これ以上、気にしたって自分はどうしようもできないのだから……

 

「ごちそうさま!おいしかったよ!」

 

「おうよ。んじゃ、これ今日の分の指令書な。」

 

とりあえず、面倒事は満腹になった笑顔の騎士に任せようと弾は赤い封筒を渡すのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……学校?」

 

食堂を出たところで千冬から出された思いがけない単語に首を傾げる流牙。別に学校が何なのか知らないわけではないが…不意にだされた提案に面食らってしまう。一体、彼女は何を考えているのだ…?

 

「…その、お前は学歴が一切無いと言っていたからな。どうだ?お前なら人当たりも良いし、呑み込みも早い。うまくやっていけないこともないだろう?」

 

「でも…」

 

「学費なら心配するな。金ならISの開発協力やらでありあまってるし、コネもある。」

 

「だからって……」

「大丈夫だ!私に任せておけ!!大船に乗ったつもりで……」

「千冬さん!」

 

確かに流牙と千冬は親しくなった……されど、これは心遣いというには一方的で強引すぎる。思わず、流牙も声をあげてしまい…彼女は歩を止めた。すると、彼の肩に手をかけて…まっすぐな瞳を見つめる……。

 

「頼む……『他人』だなんて言わないでくれ。確かに血の繋がりも何もない…でも、私はお前にまで離れて欲しくない。今度こそ、側にいてもらいたいんだ。」

 

「…」

 

 

解ってしまった……。

この時、流牙は儚く訴える彼女の胸になにがあるのか……

 

 

 

…………『弟』…

 

 

 

 

 

最も失いたくない存在でありながら、取りこぼしてしまった存在。彼女の心を大きく占めるそれを自分で替えようとしているのだ。その影を重ねているのだ。

 

……依存をしているのだ。

 

 

「…わかってる。お前は一夏じゃない…弟じゃない。だけど、私はお前のことを家族のようにっ!」

 

ああ、このままでは駄目だ。どんどん織斑千冬は脆く、壊れていく……彼女は今、立ち直りはじめたのではなく幻の杖によりかかっているにすぎないのだ。

その時………流牙は今までに無い眼をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺とあんたは他人だ。」

 

 

 

 

 

手を振り払い…

 

……すがる心を突き放した。

 

 

最初、千冬は目を丸くした。まるで、遊んでいた玩具を取り上げられた幼子のように…。そして、徐々に意識に浸透していく現実を拒もうとする。そんなわけない、ありえるわけない、優しい彼がこんなことを……自分の想いを拒絶するわけが……

嘘だ、嘘に決まっている。何かの悪い冗談に……

 

「俺はちゃんと、仕事もしているし今までひとりで生きてこれた。別に養ってもらう理由も無いし、必要もない。今までは可哀想だから付き合ってあげてたけど…むしろ、それが駄目だったみたいだね。」

 

「ち、違っ…!?」

 

「違わないさ。今のではっきり分かった。俺は家族じゃなくて、弟の代わりだろ?」

 

「!」

 

「そんな人のところに俺はいたくない。じゃあね……元気でね。」

 

現実は非情…常に自分に都合よくあるなどありえるはずもない。流牙は腕をはらい、背を向ける。それでも、っと千冬は衣裾を掴み引き留める。

 

「待て!なら、仕事とはなんだ!?お前のような若者が一体なにを……。あの夜に抜け出していることと関係あるのか!?」

 

「あんたには関係ない。」

 

最後の言葉すら…冷たくあしらわれた。やがて、彼の後ろ姿は曲がり角にさしかかるとつむじ風のように消え…あわてて追いかけた千冬のみが取り残される。

こうして、千冬は理解した。また失ってしまった……今度は他ならない自分の手が空を握ってしまったと。また埋まりかけた心の穴に突き崩されるような傷みを覚え…そのまま、彼女は涙を流して地に伏すのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し過ぎ…とある小さな町工場。ここは昔から大企業の下請けを受け持つ部品の製作を取り組んできていたのだが……今、状況はいつもの活気ある雰囲気とは違い、異様なものであった。

薄汚れたツナギを着た中年の男がまだ歳若い高級そうなスーツを着た男にすがりつこうとするも、振り払われてアスファルトに転がっている。

 

「待ってくれ!社長、あんたたちの契約を切られたらワシたちは…!!」

 

「知るかよ。こっちだっていらないものにはらう金は無い。オタクらじゃ、ISの部品を造れないだろ?今はもう、古いただの鉄屑いじりの技術じゃ生き残れないんだよ、この先はな!」

 

「そう言われたってよう……!?」

 

古い者……中年の男がこれ。目立たずも今まで時代を支えてきたのだが、自らを時にあった形に成れず激動する世界の波に呑み込まれていく存在。

新しい者……社長と呼ばれた若い男がこれにあたるだろう。新しい技術を、世界が求める最先端を……。時代という荒波に乗って前へ進もうとする存在。そのためなら、無慈悲に不要とあれば何者であろうと切り捨てることはいとはない。

 

「とにかく、契約は打ち切りだ!話すことはない。」

 

「ま、待ってくれよ…!!!」

 

話は実に乱暴に幕を下ろされる。社長は男を突き放すと、控えていた黒い高級車の後部座席に座り…運転手に車を出すよう指示。悲痛に叫ぶ男を無視し、車は街角の彼方へ消えていく…。

 

「ふぅ……やれやれ、ごめんね。変なところ見せちゃって。」

 

ゆったりとした車内…社長は溜め息をつきながら、隣に座っていた少女に先とは真逆の笑みを向ける。少女とは…白い小綺麗な服をしているが彼女は当時のリアンであった。

 

「ううん、別に良いの。でも、さっきの人……」

 

「気にするな。親父のあたりからの契約だが、あんなの老害だ。役にたたずを養えるほどこの時代は楽じゃない。今はISだよIS!」

 

「…」

 

振り返ってみれば…まだ突き放された男とまだ若さがある青年が彼を助け起こそうとしているのが見えるが……濡れたボロ雑巾の泣き崩れる様は虚しく、見ている側からしても良心に近いモノが痛む。自分は助けられない人間を…目の前にしつつも通りすぎていくのだから。言い方をもっと悪くすれば見捨てる…であろう。

一方の若い自分の隣に座する若大将はそんな彼等を吐き捨てたガム…燃え尽きた煙草の吸い殻のように気にも留めない。自分が残忍とも残酷とも自覚は無く…顔にできたニキビを潰すのが何が悪いくらいにしか思っていない。

 

そんな両者に挟まれている自分は何なのか…?

 

 

リアンは男が気を引くために押しつけてくるダイヤを受け取りながら、自らの内側で考える…。ふと、そんな時…外に見覚えのある黒い装束を見た。

 

「あ!ごめん、ここで降ろして!!」

 

「り、リアンちゃん…!?」

 

彼女は無理に車を止めさせると、ドアを開けて飛び出していく。あの背丈と身なり…間違いない。

 

 

…道外流牙だ。

 

 

 

 

 

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「…」

 

ふらりと…ただ、何の気なしに足が向いたのは寂れて埃まみれの建物だった。もう誰もいない…厨房で腕を振るった主も、少し狭い食堂にぎゅうぎゅうとしてざわめく客も…

でも、道外流牙には残っている……ある少女とその家族との記憶。椅子を引いて腰掛け………耳をすませば、かつて活気があった頃の風景や声が残留思念として流牙の瞼の裏に浮かぶ。

 

「……鈴…」

 

でも、全ては自分が壊してしまった。自分と出逢わなければ、少女とその家族は未だに幸せに暮らしていただろう…。あの雨の日……自分は迂闊なミスで彼女の父を助けられず、主を失った店は閉ざされて誰もここにはいなくなった。

 

……自分のせいだ。

 

 

「…母さん……」

 

思えば、実の母とも死に別れていた。直接ではない……苻礼法師から『お前の母は死んだ』と…ただ、口から言われたのみで。嘘だと否定して、その時は実家にとんで帰っていったが…そこには亡骸すら無かった。

『約束』したのに……

 

 

……自分のせいだ。

 

 

 

 

「流~牙~くん?」

 

「!……君は…」

 

 

不意にかけられた声に振り向くと……そこに無垢な妖精のように微笑むリアン。いつの間に!?驚いてすっとんきょうな声をだす流牙だが、目の前に差し出すハンカチと彼女は告げる…

 

「涙……拭いたら?」

 

「……え?」

 

いつからだろう………ハッとした時に頬に伝う雫。感傷に浸る内に無意識で涙腺が緩んでしまったのか……

少し恥ずかしくなりながらも、流牙はハンカチを受けとると哀しみの雫を拭った。

「思い出してたの…?昔のこと?」

 

「関係ないだろ。」

 

ハンカチを返すと流牙はリアンに背を向ける。出来れば触れられたくないところだ……いくら同業といっても、そして…魔戒騎士であっても踏み込まれたくない心の深みはあるのだ。ましてや、それが暗い影であればあるほど……

 

「知ってるわよ。これでも、あなたと同じ苻礼法師の弟子で同業者なんだから…過去くらいざっと調べるって。」

 

「…」

 

「不快に思ったなら謝るけど……別に、今のあなたなら胸を張れるんじゃない?失われた牙狼の継承者となり、日々ホラーと戦って人々を護る守りし者。過去は拭いされなくても、あなたは多くの命を救っていく。現在(いま)も……そして、未来(これから)も………。」

流牙はふと、疑問に思った…。ただ自分を慰めているだけにしては何かが違う。違和感がある。

答えはすぐに解った。

 

「私のような名ばかりの守りし者とは違う。昼は男たちから魔導具造りの宝石を巻き上げ、夜は魔戒騎士についてまわるだけ。卑しいでしょ………別に人の命なんて護れちゃいないんだから。」

 

ああ、そうか。彼女は自分を自嘲している………

だから、声色に微かに諦めと羨望が重なるのか………

 

しかし

 

 

「そんなことないよ。」

 

否と………彼は言う。

 

「リアンは俺に出来ない術を沢山使えるし、魔導具だって直接じゃないだろうけど、多くの騎士や法師を救ってきたはずだ。守りし者に騎士も法師も…鎧の系譜も関係ない。力をそれぞれあわせて命を護る…それはリアンも同じ。だから、全然…卑しくなんかないよ。」

 

「流牙………」

 

こんなこと、言われたのは初めてだった。魔導具造りのために金品を巻き上げる自分を低俗と言われた時は幾度とあったのに………この黄金騎士は自らと自分は一緒なのだと暖かい笑顔で語る。

「ありがとう。優しいのね……」

 

「別に。あ、でも宝石とかは返してこいよ?」

 

「いーやーよ!貰ったモノは返さないわよぉ!」

 

不思議だった………まるで、心を優しく抱き留められたような温もりを…リアンはこの青年から感じた。

 

 

 

 

 

To be continued…

 




このリアンは原作と違って自分の卑しい部分を認めている反面でちょっぴり卑屈なんですよね。もう原作とは別キャラ路線突っ走り過ぎだね。

それにしても、千冬姉さん動かし辛い。何気に仕事の合間に書くにしては話が暗い!いや、牙狼ってほんわかする話があってもギャグに振りきれた話なんてほとんどないからですねぇ…(笑)


では、久し振りの更新で申し訳ありません。これからも低速ながら進めていくのでよろしくお願いいたします。


感想おまちしております!!わりと、切実に…




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華~Wild flowers~ 後編

ええ、お待たせしました…

まだ生きていたジュンチェです。詳しいことは活動報告にて…



……

 

 

 

知らなかった。突き放されることがこんなに痛いなんて………

 

知る由も無かった。また自分から大切な人が離れていくなんて………

 

 

「流牙…」

 

夜になり、未だに明かりが無いリビングで涙を流す千冬。いつの間にか忘れかけていた独りの感覚…自分以外、この家という密閉した箱の中で生活の音をたてる者がいないということ。ああ、これがこんなにも辛く胸が締めつけられるようだとは………忘れてしまいたかった。

でも、自分から流牙を突き放してしまった。彼が何を思っているか知らず………何を考えているか今も解らず………………

 

 

「…私は………どうしたら………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのォ~~、ちょっといいですかぁ?」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

その時だった。居間の闇…更に暗く深いところから、水面から静かに顔をだすように青年が現れたのは。千冬は彼を知らない…ツナギに帽子と工場の作業員なのだろうが、こんな知り合いがいた記憶は無い。咄嗟に声をあげようとしたが、青年は手をだして制止する。

 

「待ってくださいよぉ~。オリムラさん、あんたにはあってもらわないといけない人がいるんすよ?わかるでしょ?」

 

「なに…?」

 

会わねばならぬ人間?反射的に流牙の顔が千冬の脳裏をよぎる。

 

「りゅ、流牙か!?流牙のことを言っているのか!?」

「それはすぐに分かりますよ。」

 

すると、青年は彼女の眼前に手をがさし………そのまま、昏倒させてしまった。明らかに人間の技ではない…。

 

「………オマエハ、ユルサナイ…」

 

そんな彼の瞳は異形の色に輝いていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

 

それから、暫くして織斑家へと訪れた流牙とリアン…。しかし、あることに気がつくリアンはすぐに足早に門へと駆け寄った。

 

「……ホラー避けの結界が、壊されてる!?」

 

「!」

 

すぐに、流牙は家の中に飛び込むとドタドタとありとあらゆる部屋…物置まで探しまわるも、千冬の姿は無かった。

まさか………嫌な予感がして、翻して門まで戻るとリアンを押し退けてアスファルトの地面に耳を当てる。すると、巨大な円盤タイプの電動ノコギリのようなアームが結界を強引に突き破っていく様子が浮かんだ。

 

「やられた、ホラーだ。」

 

「そんな…タイミングが悪いわ。そろそろ張り直そうと思ってた矢先に………」

 

リアンは手に黒札を持っていた。本来、これはホラーを寄せつけないために織斑家の随所に貼られて結界を形成するものだが、時間が経ち効力が薄まってしまったのである。そこへ、ホラーが強引に突破して千冬を連れ去ってしまったのである。

 

「どうするの、流牙?」

 

「あの人には万一の時にって魔導具を持たせてる。弾に頼めば捜せるはずだ!」

 

「じゃあ、急がないと…!」

 

2人は闇夜の更に暗い場所へと目掛け、駆け出していた…。恐らく、残されている時間は少ない。

 

 

 

 

☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

「………っ?」

 

 

目が覚めると…感覚が戻りつつあった肌に肌寒さが身体中に走り身震いする。千冬は朦朧とする意識の中………頭を抱えて起き上がると、無機質で固い床に違和感を感じる。確か、自分は自宅にいたはず。なのだが………周りは広くて暗い…倉庫だろうか?それにしても、何故に自分はこんな所に?

すると、闇の中に倒れこむもう1人の人影に気がつく。

 

「お、おい!?大丈夫か…!?」

 

「あ………んん…?っ、ここ何処だよ?」

 

若い男…高級ブランドのスーツの彼はリアンと一緒にいたあの若社長だ。彼も事情がわからないらしく、起き上がるや機嫌悪そうに声を洩らす…

その時、みかねたようにボゥ…と暗がりからあのツナギの青年が現れた。

 

「やっと、目が覚めたか屑ども。」

 

「ああ?なんだ、テメェ?」

 

「あんたが見捨てた工場の従業員だよ若社長。」

 

「それが何の用だよ!?こんなことしてタダで済むとは……!?」

 

次の瞬間、キラリと刃のような円盤が輝いて見えたかと思うと、若社長の右足が足首ごと離れて宙を舞っていた…。刹那…何が起こったか理解できなかった彼だがバランスを崩し転倒したショックで自分に何が起きたかを認識し、同時に襲いくる激痛に悲鳴をあげる!

 

「ぎゃああああああぁぁぁああああああああぁァァァァァァァァァァァァ!!!!?!?いいだイイイイイイイイイイイイ!?!?!?痛いぃぃイイイイ!?!?」

 

「…っ!?」

 

千冬はいきりなり繰り広げられたグロテスクな惨劇に言葉を失った。普通、人間の肉体を腕や首を斬りおとすなど巧みの技で鍛えられた銘刀や現代の刃物であっても難しいはずが…ツナギの青年の背後から回転ノコのようなアームが現れ…否、いきなり生えてきて若社長の足を切断したのだ。普通の人間が出来る真似じゃない。

 

「若社長……実はですね、貴方の帰ったあとですが…うちの親方は自殺したんすよ?優しい人だったのに…工場にあった薬品飲んで。そして、俺に言い残したんですよ…無念を晴らしてくれって。」

 

そして、青年の正体は若社長に突き放された工場長の部下『だったモノ』。最も敬愛していた存在をある意味、殺されて…今まで積み上がってきた工場長への信頼感や希望の感情が反転して怨み・憎しみ…陰我となりホラーへと堕ちてしまったのである。それが、工場内の危険薬物で自殺した最も尊敬する人の遺体が魔界へ通じるゲートになってしまったというのはなんたる皮肉か………

無論、そんなことを今の千冬が知る由も無い。

 

「若社長………何か謝罪とか懺悔の言葉はありますぅ?」

 

「いぃだいいいいいいイイイイいい!?!?デメエエ、コンナコトシテ、タダで済ませねゾォ!?絶対ニィ、ブッ殺してヤルゥ!!!!!!!」

 

「……」

 

青年は若社長に問う………が、激痛と遥か格下扱いしてた末端に蹂躙される屈辱といった激情にすでに全うな思考が困難を極めていた。罵り、罵詈雑言を吐きつけ…切れた足首を抑えて悶えながらも尚も罵る。羽をもがれた蜻蛉…脚の折れた駿馬のように哀れな様を魔の瞳が無言で見据え………

 

 

 

 

 

 

 

ーーガッ!!!!

 

 

「ぐえっ…」

 

 

容易く、鈍足の虫をひねり潰すように…魔の回転刃が若き男を血が吹き出る肉塊にして喰らう。口などそこに無いはずなのに、ゴキッ…バキバキと肉を裂き、骨を削り、血を啜る。

千冬は思わず、後退りしていた。こんなこと、ありえない…ありえてはいけないはずの現象が目の前で起きている。パニックになりかける頭で嘘だと否定しても悪夢は終わらず、若社長だったナマモノはあっという間に喰い尽くされて床に大量の血痕のみが残った。

 

『フゥ……まあ、ソンナモンダよな…テメェのヨウナ人間なんざ…』

 

心無しか青年の口調すらも人間味が無くなってきたような気がする。そして、彼の目標は…ギロリと千冬に移る。

 

『オリムラァァ!!!!テメェはイッッチバン、罪ヲ償ワネエトいけねぇんだ。』

 

「わ、私は…お前など知らない!!!私は何もかも知らないぃ!!!!」

 

千冬は恐怖した。自分は明らかに部外者であるのは間違いない……目の前の青年だったバケモノと周囲の人物については面識すら無いのだ。でも、血走るはくだくした眼は憎悪の視線を走らせ…口は怨念の吐息を洩らす。このままではあの若社長と同じくいずれ自分も肉塊にされてしまうだろう。

…しかし、逃げ場などない。哀れな女に魔は己の理屈を語る。

 

『お前がよぉ…!世界大会にでなければよぉ…!!ISになんて触らなければ…!!!!俺達は今まで、普通通りニィッッ生活デキタンダ!!!!!!ゾレヲヲッッ、ゾレヲヲゥ!!!!』

怨念……怨怨怨怨怨怨怨……

 

怨み、憎しみが空気を震わす禍々しい波となり千冬に被さっていく…。命を喰らい、肉を切り裂く回転刃が振り上げられ……

 

 

「あぶねぇ!!」

 

その時、不意に割り込んだ影が千冬を突き飛ばす。聞き慣れた声……顔をあげればそこには……

 

「お前は!?」

 

「…たく、俺の領分じゃないでしょココは!!」

 

鎖のついた黒い魔法衣を着ているが、間違いない。見慣れたバンダナは五反田食堂の店番にて跡取り息子の弾。右手に茜色に輝く細身な魔戒剣を握りしめ、ホラーと対峙すると千冬を庇うように剣を構える。

 

「な、何故お前が!?」

 

「決まったことだろ!不甲斐ない仕事仲間の尻拭いだよ、クソッタレ!!!」

 

飛んでくる回転刃を普段のぐーたらしている姿から彷彿できないほど素早く鮮やかに魔戒剣でいなし、弾きかえした1つをホラーに打ち返して怯ませると千冬の腕を引いて建物の外へ…

廃工場を抜けると、逃げ切るまでもう少し…というところだったのだが……

 

『ニガスカァァ!!!!』

 

「うわっとッ!?しつこい奴だぜ。」

 

逃さんと先回りし立ち塞がるホラー…。全くうんざりすると弾は溜め息をつくが察してくれる相手でもない。『こっちだ!』と手を引き…尚も逃走を続ける。まだまだ回転刃が幾つもとんでくるも弾は足を止めない。止まればもう、守りきれないのは解っているから…

 

「さあって、どうしたもんかね?」

 

「弾!?一体、なにがどうなって…ッ!?」

 

「説明はあと!!取り敢えず、流牙たちがはやく来てくれりゃあ……」

 

 

 

 

 

ーーズキンッ

 

「うっ!?(くそっ…!!)」

 

なのに、堪え性も無く激痛という悲鳴をあげる左足。しまったッ!?と思った時には千冬も巻き込んで脚がもつれ…闇に舞う幾つもの回転刃が牙を剥きせせら笑う…。

 

『オワリダァァ!!!!』

 

(やべぇ……)

 

畜生。弾は思う……よりによって仲間の尻拭いで死ぬなんて。おまけに、守るべきものすら守りきれず……

 

こんなもの、無駄な徒労に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流牙!!!」

「応ッッ!!!!」

 

 

…否ッ!!!!

 

弾がしてきたことは無駄ではなかった!弾丸がパァン!!パァン!!!と何発も放たれ、回転刃を粉砕するとこれを突き抜けて宙を舞うは漆黒の黄金騎士ッ・牙狼!!!!そして、牙狼剣が乱入者に気をとられているホラーへ向けて吸い込まれるように突き刺さり禍々しい肉と骨を腹から両断する!

 

 

ーー斬!!!

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!!!!?!?な、何故ダ…何故!??』

 

直後、裂かれた異形の肉塊はおぞましい断末魔と共に爆発し消滅。これを確認すると、牙狼は鎧を解き…素顔を弾と千冬に向け素顔を晒す…。

 

「……流…牙?」

 

「…」

 

千冬は戸惑い、頭が破裂しそうだった。余りにも非現実な命の危機を救ったのは自分を見放したと思った弟と等しき彼…。一瞬だったが確かに謎の黒金の鎧を纏うのが見えたしもう理解という行為を脳がやめてパニックになりそうだ。

それでも、何故に流牙は戻ってきたのか…?それを問おうとするや彼は背を向けて立ち去ろうと……

 

「逃げちゃ駄目、流牙!!」

 

…した所を引き留めるリアン。直接、彼女の手が掴んだわけではない…でも、その言葉は何よりも強く流牙を押さえる。

 

逃げるな、と……

 

 

「ここで逃げたら、本当に戻れなくなるわ!!自分の想いに目を背けないで……!」

 

立ち止まった足は…何処へ行くべきか先を迷う。このまま前へ行けば、今まで通りの『独り』の道……何も変わらない。でも、本当にそれで良いのだろうか…?

恐らく、千冬も元に戻ってしまうだろう。荒んでいたあの流牙に出逢う前のように……

 

なら?自分はどうしたい……?

 

 

 

…道外流牙が求める姿とはなんだ?

 

 

「…」

 

おのずと、行くべき場所は解った……いや、解っていた。目を背けるのをやめただけ。

身を翻して、千冬の前に流牙は立つと…彼女に真っ直ぐと向き合った。

 

「千冬さん、俺は奴ら…ホラーからあんたを守るために近づいた。でも、俺を大切に想ってくれたことは嬉しいし、今でもあんたが大切なことには変わりないよ。だから、近くにいれなくても必ず守る…それが、俺の意思。だから、教えて……あんたの想いを。」

 

向き合ったのは身体だけではない…真っ直ぐな純粋過ぎる瞳に偽り無き心。家族ができたと流牙もまた思っていたということ……

そして、千冬は知る。そんな彼の想いを『弟の代用』として身勝手で彼の人格を踏みにじってしまったのだと。道外流牙という存在ではなく、その先にある弟の幻影を見ていたのである…。

…今にして思えば、代用品にされて喜ぶような彼ではない。解っていたはずなのに目をあえて向けようとしなかった。だから、流牙は離れていったのだ…

 

「私は……」

 

どうしたら良い?答えをだせずにいると、やれやれと溜息をついたのは弾…

 

「…そこにいるは、『道外流牙』だ。『織斑一夏(あんたの弟)』じゃない。だが、ソイツを家族にするか…永遠に他人にするかはあんた次第だ。取り敢えず、いい加減に自分の足で立ちな…誰かに寄りかかろうとする限りはあんたは絶対に変われないぜ。」

 

変わる…己が足で立つ。織斑千冬は弟を失った心の傷から酒に逃げ…いつしか忘れていた前を向く心。立ち直ったように見えても、流牙という代わりに寄りかかっていたにすぎない。

もう、そんな甘ったれている時期は終わったのだ…これ以上、失わないためには本当の意味で立ち直らなくてはならないのだ。

 

「……私は…」

 

脳裏で過る弟の顔。重なる流牙の面影………

しかし、徐々にこの2つは離れていき別々の像となる…。ああ、今更になって頭が受け入れた………

 

 

いくら、弟に向けようとした愛を流牙に注ごうとしても…贖罪にはならないのだと。

 

「…流牙、私は……」

 

でも、もう失わないたくはない。

 

「……お前と離れたくは無い!」

 

いとおしいのは何故か、それは…

 

「代わりじゃない…ひとりの家族として、お前を手放したくはない…流牙!!」

 

 

…かけがえのない唯一の存在だから。

 

すると、流牙は千冬を抱きしめ…一筋の涙を流す…。そして、心の奥底からの新しい家族のはじまりを告げる……

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「……素敵なお話ですね。」

 

シャルは素直に想いを口にした…。対する千冬は苦笑し、鼻を鳴らす。

 

「まあ、大半が私の黒歴史の話だがな………だが、まあ不思議な奴だな、あの男は…。奴は人を変える力がある。迷いを断ち切り、誰もを惹きつける何かが…」

 

もし、流牙と出逢わなかったら、自分はIS学園で教鞭をとる事もなかったであろう。今でも、嘆き悲しみながら酒に溺れる毎日がありえたかもしれないと思うとぞっとする。

振り返れば、少女たちがこうして集うのもはじまりは道外流牙であった。セシリアと鈴音が魔戒法師見習いになり、更識姉妹が協力者となった。そして、箒が迷いながらも守りし者として再び歩き出すキッカケになったのもまた………

確かに、彼には人の心を変える力があるのかもしれない。

 

「それから、私は誓ったんだ。私が変えてしまった世界をこれから歩む者たちのために、この命を捧げていくとな。」

 

千冬の瞳にはかつての弱さと迷いの濁りは無い。何処かは箒には分らない…されど、自らが歩むべき道は見えている…

しかし、自分はどうだ?かつて、姉が守りし者から離れたのを境に法師としての力を捨て、全てに目を背けてきた。そして、意志も固まらぬままに状況に流されて復帰したものの、今回の件で『一夏』という唯一の支えを失った絶望…暗い海にただ1人で放り出されたように不安と認めたくないと否定する激情に破裂しそうな今。どうすればいいのかなんて検討もつかない。

そんな彼女を察したのか…ある提案をする千冬。

 

「箒、とりあえず…流牙と話をしてみたらどうだ?」

 

「え…?」

 

「アイツも今回の件はこたえている。独りにするより幾分かは気が楽になるはずだ。私は山田先生が来るまでここを離れられん。頼む。」

 

話。流牙のため…とも言っているが間違いなく大半は箒への気遣いが占められているくらい解る。でも、何を話せば良い?思いつかない…が、千冬の静かな視線を前にして、気がつけば自分は頷いて部屋を出ていた…。

 

 

 

(私は……何をすべきなのか…?道外、お前はその答えをもっているのか?)

 

 

 

 

To be continued...

 

 

 

 

 

 





☆次回予告

箒「過去、願い…それはアイツも背負っていた。次回『誓~Promise~』……しかし、その先にあるのは……希望とは限らない。」



……

感想おまちしてます。


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誓~Promise~

 

 

 

……今でも、思う。

 

これは悪い夢だったんじゃないかと……

 

また寝て起きれば学園の自室で目覚め、昼は学園生活を謳歌して……夜は魔戒法師として戦う。そんな傍らで姿を消してしまった『アイツ』のことを考えながら1日が終わっていく……

 

……はずなのに

 

 

 

現実はあまりに非情。『アイツ』は死より最悪な再会……ホラーになって現れた。そして、私達に残した傷痕は…まるで、揺れる心を嘲笑うように疼く……

 

 

 

……私は、どうしたら…

 

 

 

 

 

 

 

 

EP『誓~Promise~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザ……と押し寄せては引いていく波。まだ登りはじめの太陽の下の浜辺を歩く箒…。確か、この先に流牙が居たはずだ。

千冬の言葉のまま、捜しに来たが未だにどうすれば良いか解らない。何を問えば良い…?何を見つければ良い…?

 

「……私は、どうしたら良い?」

 

そんな時であった……

 

「……箒?」

 

「あ……」

 

…いた。少し盛り上がった雑草雑じりの砂丘の上で道外流牙は自分を見ている。心の準備もまだ……頭の中も整理出来ていない。どうする…?

 

「ど、道外……」

 

「丁度よかった。これくらいの石……集めてくれない?」

 

「え……?」

 

不意な頼みだった。あまりの唐突さに面食らった箒…。彼は片手に自らの拳くらいの石ころを持っており、見れば砂丘の一番高い場所に積み上げている最中…一体、何をしているのかは見当もつかない。

取り敢えず、成り行きで手伝うことになり…暫くして出来たのは膝くらいに盛り上がった小山。これに、流木の枝で作られた十字架を刺して、布をはじめとした装飾でドリームキャストのように仕上げる。この時になってはじめて気がついた。

 

「流牙……これは…………」

 

 

 

…墓……なのか…?

 

 

大理石を切り出した立派なものでもないし、そこへ眠る者の名も刻まれていない簡素なものだが間違いないと風に吹かれる流牙の横顔が静かに語っていた……。ここは、大事な人に祈りを捧げる場所なのだと…

すると、少し寂しさを帯びた笑顔で彼は答える。

 

「…母さんの墓なんだ。別にここに母さんがいるわけじゃないけどね。」

 

「…」

 

母の墓……それだけで解ることがある。タケルがかつて身内が存命する者は幸せだと言っていた。守りし者の力と技術は血を巡り、親から子へ託されていくもので即ち、親も騎士や法師であることが常。そして、戦いの中でホラーによって命を奪われることも決して珍しいことではないと…

最初、何故にこんなことにあえて口にするのかと思ったが……

 

つまり、流牙に母はいない。

 

あの時、タケルは流牙を気遣っていたのだろう。

 

「旅をしていた時は行く先々で作ってたんだ。IS学園はさすがに無理だったから、ここに作れて良かった。ここなら海が綺麗だし…」

 

「…」

 

流牙は笑っていた…。自分も心身共に辛いはずなのに……

それなのに、自分は……

 

「……流牙………お前は一夏を斬るのか?」

 

どうしてこうも弱いのだろう。未だに心が荒んで波をたてている……未だに、非情な今を受け入れまいともがいている……

変わらないと解っているのに、割りきれない胸の中。そんな惑いに向かって流牙は鋭く言い放つ…

 

「斬る。」

 

例え、仲間の想い人であろうと容赦はしないと。

 

「…迷いは無いのか?」

 

「無い。」

 

「………私がお前を許さない、と言ってもか?」

 

「ああ。」

 

道外流牙は決してぶれない。魔戒騎士として、未熟でありながらもあるべき道を突き進む…………例え、強大な敵を前にしても…胸の奥の眼が曇ることはない。そんな様子に箒は…自分自身に溜息をつく。

 

「私はお前のようにはなれない。苻礼法師<父>とは解りあえず、束<姉>は裏切り者となり…当の私も守りし者の道を一度は逃げ出した。挙げ句の果てには想い人すらホラーになる始末。なあ、道外…私はどうしたら良い?」

 

弱さと情けなさに…沈み、溺れてしまいそうだった。もう心の拠り所無き今、自分の歩む一寸先すら見えぬほど闇………されど、彼は向き合い笑う。

 

「その答はきっと箒の『ココ』にある。」

 

そして、親指で指したのは己の胸……即ち、…心。

 

「考えても変わらないなら、自分の想いに身を任せてみれば良い。きっと、もがいてみれば掴めるものもあるさ。」

 

「……でも、私は…………お前とは違うんだ。誰もがお前のように強いわけではない。」

 

足掻いても、手を振りかざしてみても…何も掴めないかもしれない。踏み出す勇気も勢いも無いと箒。すると、流牙は少し考えたような素振りのあと……ゆっくりと口を開く。

 

「そういえば、話して無かったよね?俺の過去の話……」

 

え?と箒は唐突な話に戸惑った。いきなりどうしたと思う彼女を見据え彼は語る……

 

「俺がどうして苻礼法師たちと知り合ったのか…どうやって俺は牙狼になったのか………箒にもちゃんと知って貰いたいんだ。俺がどんな人間なのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

・Side 流牙

 

もうそれは…何年間も昔の話。俺が母さんと牙狼になる約束をしてから俺は苻礼法師と出逢い、修行をつけてもらっていた。

 

【流牙……貴方は鎧を受け継ぎなさい。私は牙狼にもう一度黄金の耀きを取り戻してみせるから。】

 

その約束だけを胸に、俺は人里から離れた孤島で鍛練を積んでいた……『仲間』たちと共に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・Side 三人称

 

「…っ」

 

どれくらい前だったろう…まだ黒の魔法衣は無く、白の衣に身に纏うのは今より僅かに幼き日の流牙。荒波打ちつける崖の上に立ち……遥か彼方へ想いを馳せる……

 

(母さん……)

 

「おい、流牙!ま~~た、ホームシックか?はははは!!」

 

「…」

 

が……やっぱり、こんな時に邪魔をしにくるいつものふたり。全く空気を読んで欲しいと振り向けば……

 

「タケル、弾…!」

 

こちらも幼い日のタケルと弾…流牙と同じ服装で片手には何やらボロボロなった雑誌らしきものがある。まあ、何かは大体想像はつく……

 

「無人島生活も悪くねぇだろ…なんたってこんな『お宝』が手に入る事だってあるんだからな?」

 

「何がお宝だよ、ただのエロ本じゃないか。苻礼法師に見つかったらどうすんだよ?」

 

彼が手にしているのはボロボロのポルノ雑誌だ。恐らくは風なり海なりから飛ばされたり流されたりしてきたのだろう。全く、魔戒騎士の見習いだというのにこの2名はいささか煩悩が強すぎると流牙は溜息をついた……が、そんな彼に弾は問う。

 

「貴様、それでも男か?テメェの股間には金タマぶらさがってねぇーのかよ?」

 

「お前なぁ……」

 

何かもう呆れて声も出ない。もう良い…傍らに刺していたソウルメタルの剣を引き抜いて黙々と素振りをすることにした。つれない奴とか言われても構うもんか…自分には修行を積み1日でも早く黄金騎士にならなくてはならない。それに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何をしている貴様ら?」

 

 

 

 

 

「「げぇっ!?苻礼法師!!?」」

 

 

そろそろ来る頃だと思っていた。ぬぅ…と煩悩に満ちていた少年たちの合間に顔を出した自分らの師…魔戒法師・苻礼。完全に予想外だった少年たちは拍子でお宝を落としてしまい、これを苻礼は厳めしい顔のまま拾いあげると隣で待機していた羅号にポイッと投げ渡し……

 

「羅号、それを始末しろ!」

 

一言かけられば、獣の口は『ガゥッ!』と一声したあとにバリバリと紙片を噛み砕き腹の中へとおさめてしまった。お宝の主の悲鳴が響くが元々が見えていた結末なので流牙は笑いも何もしないし…苻礼法師ももっと大事な用があるので気にも留めない。その背後には流牙たちと歳は変わらないがまた苻礼法師並みの仏頂面の少年がひとり。

「ゼオン、良いな?」

 

「はっ!」

 

……彼…『柊谷ゼオン』もまた騎士見習いの服。小降りの剣を取り出すと流牙に突きつけ高らかに叫ぶ!

 

「道外流牙!!此度、我等『黒の団』において筆頭候補を決めることにあいなった!いざ、尋常に勝負をしろ!」

筆頭候補。即ち、誰が黄金の鎧を継承する可能性が高いか見極めるということだろう…確か、他に自分たち以外にも修行を積んでいる『紫の団』『白の団』とかいたような……

 

「相変わらず、硬い……というか、今日は何時にも増して硬いなゼオン。」

 

まあ、良い。

空を舞っていた刃が止まる。流牙は見据えた……どうやら、彼とまともに戦わないといけないらしい。数秒後…互いに身構え、鋭く猛禽のような視線が交錯すると開始の合図も無く激しい剣の打ち合いがはじまる…

 

 

「はああっ…!!」

 

「うぉォォォォォ!!!!!!!!」

 

 

……全ては金色を受け継ぐために。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「法師は俺が産まれる前から母さんとの付き合いがあって、だから俺を託したって言ってた。」

 

……そうなのか。肉親から付き合いがあるとなれば不思議な縁があるものだ…。まさか、このような形で流牙と自分が繋がっていたとは………

 

「なら、お前は鍛練の果てに黄金騎士になれた……ということだろう。別に騎士なら普通のこと、牙狼だからといってわざわざ語るようなことでも……」

 

「…」

 

「………流牙?」

 

急に黙った流牙。何か不味いことでも言っただろうか…?箒はすぐに振り返ってみるも思い当たるようなことは無い。そんな彼女から目を反らし……打って変わって重苦しくなる語り。

 

「でも、あの日が来た……俺が牙狼を受け継いだ日…大事な『友』を失った日……」

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

牙狼の神殿……

 

 

真っ白な空間…そこには未だに主を待つ漆黒の牙狼が鎮座していた。台座に突き立てられた牙狼剣を挟んで相対する4人の少年たち……

「やっぱり、うちの筆頭は流牙か…!ま、妥当だな。」

 

「ありがと、タケル。」

 

嬉しそうに流牙へ抱きつくタケル……本当、スケベなところはあれどこう感情が豊かで情がある彼を流牙は悪く思わなかった。

 

「ゼオン、お前も悪くは無ぇさ。系譜が途絶えた高位の鎧は何も牙狼に限ったわけじゃねえし……お前なら大丈夫だよ!」

 

「ああ。」

 

一方で、流牙に敗退したゼオンは…何処となく気の抜けた返事で、弾が陽気に励ましていた。すると、改まって流牙に向き直るゼオンはスッと真っ直ぐな視線を向けながら口を開く…。

 

「流牙、俺たちは皆が法師の家系や騎士の家系の次男坊といった本来なら鎧を継承することは叶わない者たちの集まりだった。それが、ここまで来れた…俺は嬉しい。だから、お前には牙狼になってくれ……そして、何時かこの黒の団の皆が一人前の騎士になった時に杯を酌み交わしたい。」

 

「何だよ…急に?ああ、でもそうだな。絶対に牙狼になってみせるよ…約束だ。」

「…ああ、約束だ、違えるなよ?」

 

拳を打ちつけあって誓いの証。もうこの場で黄金の鎧に届くのは流牙のみになってしまったのである………だからこそ、彼は夢を託した。託されたそれを果たすことは誓いとなり、それは流牙の胸に炎として灯る………

 

この時は…きっと、いつか………この場にいる皆が魔戒騎士になれると信じていた。

 

 

 

 

 

 

「………流牙。」

 

 

 

そこへ、フラっと現れたのは苻礼法師だった。いつの間に…

 

「…法師?」

 

「貴様らに伝令を伝える。この島にホラーが入りこんだ…俺と共に討伐任務に同行しろ。」

 

突然、一同がざわめき出した。まさか…この島にホラーいるだと…?まだ彼等は鍛練の身で実践など経ていない……そもそも、陰我のオブジェが無いこの場所でどうして…………

 

『おい、苻礼…!そこの小僧がホラーだ…!』

 

「!」

 

その時、苻礼の手にあったザルバが声を上げた!すると、少年の1人が宙を舞い…一行から距離をとり異形の眼が光を放つ…………

 

『ちっ、魔導具か…忌々しい!』

 

それは…………たった今、誓いを交わしたはずの…ゼオン以外何者でもなかった。

 

「ゼオン、なんで…………」

 

「流牙、ボサッとすんな!」

 

苻礼の一喝が響くも流牙たちはあまりのことに頭が理解しようとしない。そうこうしているうちに、ゼオンは素体ホラーを鎧っぽくした異形『アイアンヘルム』へと変貌。鎖鎌のような尾でタケルを蹴散らすと、流牙へと迫るッ!!

 

「ゼオン!」

 

『俺は…鎧を継げなかった!俺は長男なのに…っ!技も、優れていたのに…っ!俺は…俺は…!!ああぁぁアアアアアアア!!!!!!!』

 

戦い…というよりむしろ八つ当たりであった。鋭い爪が乱暴に、駄々っ子の腕のように振るわれて間に合わせの剣で防ぐばかりの流牙。流し損なった一撃一撃が皮膚を破いていき、紅の飛沫が宙を舞う…このままでは決定的な傷を受けるのは時間の問題だった…。

 

「流牙、はやくソイツを斬れ!もうそれはお前の友ではない!!」

 

「…斬れませんッ!!!俺には…!!!!!」

 

それでも、流牙は斬れなかった…もしかしたら、まだゼオンの意識が残っているかもしれない。そんな淡い期待があった…自分たちが過ごした時間は長いから、絆があるから…と……

 

『死ネ!!!!!!死ねぇ!!!!!!!』

 

「思い出せ、ゼオン!この島で過ごした日を忘れたのか…!?」

 

無論、現実は非情である。血走る魔眼は獲物の首筋を食いちぎるべく狙いを定めた……言葉など届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーザクッ

 

『!?』

 

 

…しかし、不意をつき投降された刃は背中の節に刺さった。

振り向くと、弾が己の愛剣をとばしてアイアンヘルムの注意を惹いていたのである。

 

「やい、この頭でっかち!!ホラーなんかになりやがって…テメェなんざ素手で充分だ!かかってきな!!」

 

『シュゥゥゥ……』

 

「!?…よせ、弾ッ!!?」

 

無茶。まさに、無茶……だが、あえて少年は賭けた。多分、苻礼法師がなんとかしてくれるだろ…と、安易な楽観視で……

流牙を蹴とばし、一気に反転して襲いかかってくるアイアンヘルムの爪をまずバック転でかわし…振り降ろされる腕を掴んで止める。……よし、時間は稼げる…

 

…………なんて、甘さは…

 

 

 

 

 

 

ーー斬!!

 

 

「……え?」

 

足許を鋭い尾で斬りはらわれてはじめて気がついた。

急に足に力が入らなくなった……いや、足が無くなったようだった。支えを無くした身体はグラリとバランスを崩して倒れ、敵の前に無様を晒す弾。

同時にボトッと流牙の前に落ちた『ナニカ』……それは……

 

 

「あ……ああ……」

 

 

……弾の斬りとばされた『右足』。

 

「ああ……ああああ…」

その時、

 

 

 

「ああああぁああアアアアアアアッ!!!!!!!!!」

 

 

流牙は自分の中で炸裂した血の激流に吼えた。訳もわからず、牙狼剣を血まみれの手で台座から抜き放ち…鎧を纏うとアイアンヘルムの甲皮に刃を叩き込み、めり込んだらそのまま強引に押し込んで胴体を引き裂いた。すると、アイアンヘルムの断末魔が響き惨劇の幕は引かれたのだ。

 

「弾…!弾!!」

 

すぐさま、牙狼は弾の元へ駆け寄る。彼は気絶しており、丸太のような傷口からは血が止まらない……

そこに、苻礼法師が歩み寄ると鎧を解除しその胸ぐらに掴みかかった。

 

「法師!何故、助けてくれなかったんです!?貴方が助けていれば、弾は…!」

 

「俺は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あえて助けてなかった。お前はゼオンを斬るのを躊躇った。だが、無用な情は死を招く…守れなければまたそれも然り。流牙、お前は守れなかった、それだけのことだ!!」

 

 

 

 

…その後、弾は一命をとりとめ足もなんとか縫合された。だが、騎士になるのは絶望的とされ…結果、苻礼法師の指導する『黒の団』での騎士になれたのはタケルと…黄金騎士・牙狼、道外流牙のみであった。

 

 

また、苻礼法師も『鬼の苻礼』の恐れられるようになる……それは、厳しい鍛練ともう1つの逸話があるからだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★

 

 

「…」

 

…箒は一足はやくアジトに戻っていた。あれから、流牙は『決して、俺は強かったわけじゃない』と締めくくり何処へ去っていった…。箒自身も父の知らなかった過去をどうして良いか解らず無意識に彼のデスクに寄りかかっていた…。

結局、何も得られずに終わってしまった。

 

「……私は…」

 

されど、きっかけとは本当にふとした時に訪れるらしい。ふと、箒はひび割れた写真に気がつき、手をとる。まだ幼き自分と姉…若き父と見習いの騎士の少年たち。いつか、実家の神社で撮影したものだったはず…

 

「…驚いた。まだ、持っていたのか………懐かしい…」

 

そう、あの頃は一夏や見習い騎士たちと遊んだり手合わせしたり………

 

 

 

 

 

 

 

 

……?

 

 

 

「待て、確か…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……一夏の武器は『刀』だったはずだ…

 

 

 

 

To be continued…






☆次回予告

セシリア「届かない、追いつかない……焦燥にまた足がとられてしまう。その負の連鎖を悪魔が笑う!次回『技~Arts~』……でもまだ、私たちは…!」





☆★



お 待 た せ


箒編終了。まさに、物語のターニングポイントというべき場所ですねはい。気をつけて下さいね…真実に近づき過ぎると最近のバイクの人みたいにクリスマスでも容赦なしに消されてしまうかも?

次回はアグリ・セシリア編(予定)。FVAばかりで申し訳ないっすけど更新していきますんで!


では、感想お待ちしてます。


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技~Arts~ 前編

「…くっ!?」

 

ブルーティアーズの脚部ブースターを反転してふかし、ライフル…スターライトを乱射する。しかし、『影』に当たらずティアーズも放つビームの柱は右へ左へと縫うように避けられていく…

そして、抜き放たれる銃口に光が灯り……

 

 

 

 

ーードォォ!!!

 

「きゃあっ……!?」

 

 

撃ち抜かれた……的確にブースターと駆動系を…

セシリアはフラフラしながらアリーナの隅へ不時着し、反対側へは新たなISを纏うリアンが着地する。腰から天使の翼が羽ばたいているような飛行ユニットに騎士のような装甲。大破した百花繚乱から代わった新たな力…

 

「これが……アトラス!!」

 

アトラス…灰色の機体が光を帯びる様は神々しくも…また雄々しくも見えた。力強く天使のようで鷹のような……そんな迫力がある。だがそんな右手にはハンドガンが重々しく存在感を放つ。

それに駆け寄る簪。

 

「凄い…これが苻礼法師が独自に設計したISアトラス…。姿勢制御・推進力を直結した翼ユニットに全てを任せ、文字通り鎧のように『着こなす』ことを実現したIS……流石、IS産みの親の父ですね。」

 

「さながら、お爺ちゃんってところかしら?」

 

【聞こえてるぞリアン。】

 

「あ……ヤバ…」

 

響くマイク音声と地獄耳に震えあがるリアン。と、同時に紅椿を展開した箒が舞い降りる。

 

「リアン、少々手合わせを願いたい。紅椿をもう少し馴染ませたいんだ。」

 

「…別に、構わないけど?」

 

そして、ふたりは舞い上がる……紅と白の星。娘と父、それぞれの傑作が……その様子を観客席から苻礼法師と千冬が意味深い視線で見つめていた。親友と父…それぞれの想いで…

 

「千冬先生…アリーナを貸してくれて感謝する。まさか、候補生の集中演習でよく通ったな。」

 

「嘘ではあるまい。何にせよあの娘らも…そして、流牙たちも……強くならなくてはな。敵は強い…今まで以上に。」

 

「ああ。だから、もっと強くならねば…」

 

見据える視線の先は箒とリアンが飛翔し、己の技をぶつけあい…舞い…飛翔する。苻礼法師は目を細くする…その瞳は何を見ているのだろう?千冬にははかり知れなかった。

 

「箒は……乗りこえたようだな。」

 

「…は?」

 

「親よりも、子は良き師により成長するようだ。」

 

「ならそれは貴方だろう苻礼法師。私は何もしていない……私は流牙に肝心なところを押しつけただけだ。私を救ってくれたように箒も救ってくれると信じて。その流牙を育てたのは苻礼法師、貴方だ。」

 

…確かにリアンと戦う箒の戦い方に迷いなど無い。的確に銃撃を刀ではらいながらアトラスへ迫り一撃を狙う様はセシリアや他の候補生とは違う勢いを感じる。臨海学校で受けたショックなど微塵にも感じさせないがそれは自分のためではないと苻礼法師だが、千冬もまたこれを否定する。その言葉からISと魔戒法師と違いはあれど彼女も彼を尊敬しているのだと感じられた…。

 

「フッ……なら、この老いぼれもまだ生きてた甲斐があるというものだな。」

 

 

 

 

……そうだ。そうでなくては……あと残るこの命は…流牙(つづくもの)たちのために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

「……うわぁぁ!?!?」

 

IS学園のとある廊下……時を同じくして、流牙は魔導ホラーと遭遇し、斬りあいになっていた。しかし、相変わらずの金の波動に苦しめられ苦境に立たされている状態であり、流牙の消耗は激しかった。

 

『…ォオオ!!』

 

 

ーードドドドスッ!!

 

『!』

 

その時、異形を撃ち抜く幾本の矢…。魔導ホラーが倒れ、彼の背には不遜に笑い弓を構えるアグリの姿があった。

 

「アグリ!弓は直ったのか!?」

 

「お前が気にすることじゃない。まあ、射つ分は問題無い応急措置だ。」

 

こちらも相変わらず、人を見下した態度で弦を弄る。もういちいちカッカする流牙ではないが……

そこへ、楯無も扇子を開きやってくる。

 

「流石、魔戒騎士名門の楠神流って所かしら?本当にこの速打ちに正確さ…見事なものだわ。」

 

「…」

 

「楯無さんもありがとう。人祓い助かったよ。」

 

素直に感謝する流牙に対し、褒め言葉だろう無視するアグリ。『可愛いげない』と扇子の文字を拡げる彼女だったが話相手を流牙に口を開くことにした。

 

「それにしても、シャルちゃんの魔導ホラー予測はまたもドンピシャね。魔導ホラー探知機を完成したし…これなら学園の魔導ホラー撲滅も近いんじゃないかしら?」

 

「……今週で5体は斬った。まさか、こんなに学園に入り込んでたなんてね。」

 

「はぁ…残念ながら学園のセキュリティじゃホラーは見抜けないし仕方ないわ。でも、はやい所、ホラーを根絶やしにしてもらわないと……そろそろ学園祭もあるしねぇ…」

 

今、生徒会長として楯無の懸念はこのホラーが徘徊する学園内にてもう時期、学園祭が行われることである。本来、日本本土から海を隔てて隔離されてるIS学園だが学園祭という特別イベントに限っては一般に開放されるのである。つまり…

 

「敵が仕掛けてくるとしたら、間違いなく学園祭か。」

 

「……それまでに、私達で出来るだけ手を打たないと…」

 

 

魔導ホラー……そして、一夏。奴等と一般人がいる中で戦いとなったら、まさに最悪の事態だ。

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

……??????

 

 

何処かの生徒の部屋と思われるそこ…。壁には流牙たちの写真が貼られ………主の生徒は椅子にもたれかかり、不気味に笑っていた。その背後には執事のように一夏が控えている。

 

「主……箒は立ち直ってしまったようです。」

 

「ああ、わかってるよ。まあ、そうそう事はうまくいかない時もあるよね。」

 

彼女はシュッとダーツの矢を放つ。その針は貼り付けられたある人物の写真へ……

 

「なら、次は……」

 

 

 

 

 

 

……コイツだ。と刺されたのはセシリアであった。

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

……物心つく時には自分はトップに立つべきと言われてきたし、自分もそうであるべきだと思ってた。

 

 

 

ジュニアスクールでも役員を努め、学業でも常に頭から片手で数えられるだけの順位にいたしISの操縦だって教官を退けて鳴り物入りで学園の戸を叩いた。そして、いずれはオルコット財団の総帥の椅子が用意されていて……

 

 

「セシリア…!」

 

「…ひゃい!?」

 

おっと、物思いに耽っていたら不意な声にすっとんきょうな声を出してしまった…。慌てた顔をラウラに覗かれ、急いで平静を装うセシリア。教室にいた生徒たちの視線が痛いが仕方ない。今はペーパーテストのおさらいをしてそれぞれ女子グループが固まり、彼女の周りはクラスの違うリアンと鈴音を除きいつもの女子メンバーが集まっていた。

 

「ふむ……一番はシャルロットか。中々だな。」

 

「いやぁ、それほどでも…。ラウラだって僕の次に良いじゃん?」

 

「教官の手前だ…無様は見せられんが……やはり、少々座学は苦手だな。私の次は……セシリアで、相変わらずのビリは…」

 

その時、顔をしかめたのは流牙。彼のペーパーテストの用紙は見るも無惨な赤のペケだらけ…辛うじて◯と拮抗しているかどうか。いくら、黄金騎士かつ惚れた相手といえどラウラも溜息をつかざらえなかった。

 

「嫁よ…いくらなんでもそれはあんまりではないか?」

 

「千冬さんも魔導ホラー狩りが多い時に、抜き打ちテストなんて酷いなぁ。」

 

「条件は僕達もほぼ同じ、日々の努力だね流牙。」

 

「う~ん…」

 

げんなりする流牙にシャルロットが正論の一言で一蹴。魔戒騎士なれど、学生というからには夜の仕事も言い訳にしかならないのである。といっても、最近の魔導ホラー狩りはかなり数が多いのも事実だが……

そんな他愛ない日常風景は……いつも、突然に終わりを告げる。

 

「……苻礼法師からの通信?…! 流牙、新しい魔導ホラーの反応だよ!」

 

「「「!!」」」

 

シャルロットの言葉に一気に空気が夜のものへと変わる。

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

IS格納庫

 

 

ゲームをはじめる寸前のチェスのように行儀よくズラリと並ぶ機体の列。どういうわけか知らないがここはよく魔導ホラーが現れる場所……

アグリも合流し、捜索に向かう流牙たちだったが未だに異形の影は無い。

 

「嫁よ、魔導ホラーはこの間、斬ったばかりでは…?」

 

「ああ。おかしいな…」

 

 

(私は……私は……)

 

 

首を傾げる流牙たち……その後ろではセシリアがとぼとぼと上の空で歩いている。それに気がついたアグリは…

 

「オルコット、集中出来ないなら帰れ…邪魔になる。」

 

「!」

 

冷たく言い放つ。すぐに流牙が怒るが目の前であるのにそれすら頭に入ってこない……

 

(私が……邪魔……)

 

魔戒法師としても未熟…

ISは新たな力を得たリアンに負けた……

座学でさえ、シャルロットやラウラに遅れをとってしまった…

 

 

一体、自分は何をしているのだろう?

 

 

自分は何の役に立っているのか…?自分の個人としての存在価値は何なのか……?

 

 

 

 

 

「相変わらずだな、道外流牙…」

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

その時、ISの影から現れる人影。黒いサングラスにスーツ…見間違えようの無い佇まい…

 

「一夏!」

 

…宿敵との再会に流牙は魔戒剣を構えた。

 

 

 

 

To be continued…

 

 

 





お ま た せ

久方ぶりの更新になります。今はアグリ、セシリア編になっておりこれ終わったら学園祭編ですね。ガロ艦これ共によろしくお願いいたします。


感想おまちしてます。

★☆

ゼロ ドラゴンブラッド面白いっすね!やはり、零がカッコいい。そして、悲しい……銀のお約束といえど。いつか、彼も本編で幸せになってもらいたいものです。


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技~Arts~ 後編

「…はぁぁ!」

 

「んッ!!」

 

真っ先に一夏へ斬りかかった流牙だったが、刃を受け止められカウンターのキックを受け待機中のISに叩きつけられた。ラウラやシャルも鋭く両サイドから迫るが軽くいなされてしまう。

 

「何をしている!」

 

すかさず、アグリが矢を放つ……

 

「こんなものか、楠神流?」

 

「!」

 

その放った矢はキャッチボールのように敵の掌におさまった。『なっ!?』と驚くアグリに一夏は矢を投げ返すと怯む彼に無慈悲に連打を叩き込む!そして、彼を倒すと弓ごと革靴の足で踏みつける。

 

そこを助けようと魔導筆を構えたセシリア……

 

 

「よせ。」

 

だったが…槍を突き出し制止をかける一夏。そして、どの刃より彼女の心を一番抉る言葉を刺す。

 

 

「お前が一番弱いぞ、セシリア・オルコット…」

 

 

「!」

 

 

 

「うおおおおおおおォ!!!!!!」

 

 

直後、流牙が剣で凪ぎはらい…アグリの上から退避した一夏。そして、最後に斬られた右肩を押さえながら一言…

 

「もっと強くなれ…道外流牙。我が主のために…」

 

意味ありげに言葉を吐き霞のように靄となって消え去る。『待て!』と追った流牙だったがそこにはもう影も形も無かった…

 

「くそ……大丈夫、アグリもセシリアも…?」

 

もう追跡しようが無いならとアグリとセシリアに駆け寄るが……

 

(楠神の矢が……届かなかった……)

 

(私が……一番、弱い……?)

 

ふたりの心は…そこには無かった。

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

苻礼法師のアジト……

 

 

「ゆゆしき事態ね……最強の魔導ホラーの侵入を許すなんて。」

 

楯無は頭を抱えていた…。やはり、学園のセキュリティを抜けてホラーが集結していることが明らかだからだ。先の戦いに一夏が現れたことがそれを証明している…このままでは学園が魔導ホラーたちの巣窟になる日もそう遠く無いだろう。

 

「苻礼法師、何か策は……?」

 

「現状、今で手一杯だ。番犬所もこれ以上、細工にも限界があるに加えて、番犬所も人員をまわせないと言っている。」

 

「まさに、八方ふさがり…。最悪のシナリオに向かってるわけか。」

 

楯無が一番恐れる事態…学園祭は日に日に近づいてきている。されど、状況は悪化するばかり…頭を悩ませざらえない。ましてや、生徒会長の身となればだ…

 

「…だが、我等も遅れをとってばかりではない。」

 

そう言って苻礼法師が出したのは不気味な赤ん坊のガラガラのような魔導具。楯無は気がついた…

 

「魔導ホラー探知機…。」

 

「そう、我等が敵から奪いとった切り札だ。」

 

…これはまだ鈴音が転入をしたばかりの頃現れた魔導ホラーの舌から造ったモノ。魔導ホラー探知機……魔導火ライターなど魔導具で正体を晒せない魔導ホラーの存在を暴く唯一のアイテム。今まで遭遇か罠を張る必要があったこれまでを覆す逆転のカギ…

 

「諦めるにはまだ早い……と、思うのだが…セシリア、アグリ?」

 

「…!」

 

あらいつの間に…並んで立つセシリアとアグリ。はてさて、何を諦めるというのだろう?

 

「俺は……ただ、元老院に魔導ホラーについてもっと…調べれば……」

 

「わ、私は……」

 

 

「…」

 

…苻礼法師はただ黙っている。いや、なにもかもを見通しているような眼差しだった。対する2人は言い訳を親にする子供のよう…

彼は、それぞれに言い渡す。

 

「貫き通すものは何か考えろ。見つけるその時まであがき続けると良い。」

 

そして、デスクに座りまた魔導具の製作に取りかかる。その一部始終を見て楯無は想う……

 

 

(…どうやら、問題はこっちにもか……)

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

「貫き通すもの……か…」

 

月光が注ぐビルの屋上…アグリは物思いにふけっていた。苻礼法師の言う貫き通すものとは何なのだろう…ずっとその答を考えていた。 自分にあるのは弓矢…そして、楠神流のみ……貫くものなど他に無い。苻礼法師は何を求めているのだろう?

 

「アグリ……こんなとこにいたのか。」

 

悩むそんな時、ふらりと現れた流牙。彼を見た途端、普段なら思いもしないことを思いつき…気がつけば口にしていた。

 

「流牙、俺と手合わせをしてくれ。」

 

「…どうしたんだ、急に。」

 

「良いから、頼む。」

 

もしかしたら、他人の目からなら何かわかるかもしれない。それが、未熟な騎士とはまあ癪だがこの際仕方ない。アグリは弓をつがえ…流牙はおもむろに剣を構える。

この時、初めてアグリは気がつく…

 

(驚いた…隙が無い。)

 

未熟未熟と侮っていたが、矢を撃ち込めない…当たるビジョンが浮かばないのだ。何処に射ようとも弾かれる…そんな確信があった。

 

(…なら!)

 

アグリは顔面スレスレに矢を放ち、流牙は最小限の動きでかわす……そのがら空きの懐に一矢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーガキンッ!!

 

 

「何!?」

 

しかし、矢は軽く捻った剣の柄で弾かれた。次に矢をつがえようとした時にはもう遅い。

 

「チェックメイト。」

 

 

……刃が首もとに当てられ勝負はついていた。

 

負けだった…ほぼストレートの…

 

アグリは弓矢をおろし、流牙も剣を鞘におさめる。『これで良い?』と、立ち去ろうとした流牙だったが……

 

「待て、流牙!俺は何故、負けた!?何故、お前に届かなかった!?」

 

訊かねばならない。自分が敗北したわけを…自分が理解しえない何かを……

すると、流牙は向き直り口を開く。

 

「楠神流の特徴は精密な射的と早撃ちにある…まさに、そのものと言っても良い矢だった。でも、……

 

 

 

……結局、それ以上のものを感じられなかった。」

 

 

「!」

 

「アグリの矢は…楠神流の教科書の中で止まってる。だから、正確な動きは逆に見切られるし読まれる。」

 

絶句……いや、ある種の悶絶をせざらえなかった。まるで、崖から突き落とされたような絶望感と大事なものを中から崩された虚無感がアグリを襲う。そして、プライドと呼んでいた傲慢さがズタズタに引き裂かれていく……

 

「…俺が言えるのはそれくらい。戻ろう……」

 

 

 

「流牙!!」

 

その時、タケルが慌てた様子でやってくる。

 

「…何だかシャルの奴が大変なもん見つけたらしいぞ!」

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

場所は戻り、アジト……

 

 

千冬まで含めて全員がデスクの周りを囲んでいた。デスクの上にはトランクボックスが鈍く輝いているが何なのかはまだ謎だ。ここは見つけた本人…シャルに話を訊こう。

 

「これ、さっき倒した学園内のホラーが持ってたんだ。何なのかはわからないけど……」

 

「……開けるわよ?」

 

リアンの合図で開けられるトランクボックス。そこに入っていたのは薄明るく光を放つ液体がつまった小瓶の羅列だった。鈴音といった解らない者たちは『綺麗…』などと口にしていたが、箒や苻礼法師たちは一気に青ざめ流牙は小瓶のひとつを手にとり耳に当てた…。

 

【…お母さん!ありがとう!!ありがとう!!】

 

「…」

 

…声が聞こえた瞬間、予感が確信に変わった。この小瓶の中身は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間の……魂だ。」

 

 

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

…魂?そんな馬鹿な……それに、真っ先に反論したのは鈴音だった。

 

「待ちなさいよ、何だってホラーが人間の魂なんか持ち歩いて…………まさか…」

 

だが、自分で言い出して気がついてしまった。ホラーは人を喰らう存在であり、それが魂を持ち歩くとしたら理由は勿論、食べるためだろう。持ち歩く食べるもの…則ち、

 

「……『保存食』だな、ホラーの…」

 

苻礼法師が答を告げる。

そして、流牙は次々と小瓶に耳を当てていく……

 

「……受験に受かった…春には子供が産まれる……恋人がプロポーズを受けてくれた……」

 

ひとつひとつ…生きていた。希望を持って明日が来ると信じていた。その思念が流牙たちの胸に突き刺さる……もうこの魂たちの肉体は生きてなどいない…願った未来も希望も来ないのだから。

そして、リアンがサッと魔導筆を振るうとトランクボックスから魂たちが飛び出してそれぞれの人間であった頃の形を宙に象る。

 

「……おい、嘘だろ。これ、全員がホラーの保存食にされたって言うのかよ!?」

 

タケルが目を見張るのも無理はなかった。最低でも30人は超える人間の魂が老若男女問わずしてそこにあったのだ。皆、まだ死んだとも自覚もなく生前の様子で動いており想い想いの言葉を語る。

それを見るや、流牙たち魔戒騎士は拳を握りしめ…少女たちは涙を流していた。こんなもの…こんなものいくらホラーといえど残酷すぎる。

 

「一夏…これが魔導ホラー(おまえたち)のやることかッ!!!」

 

悔しさのあまり流牙は吼えた。すると、アグリがその肩を掴む。

 

「流牙、次で決着をつけよう。」

 

彼の眼は…すでに腑抜けではなかった。強い意思宿す光に流牙はただ頷いて応えた。

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

夜……すでに、消灯時間を過ぎた体育館。ステージにて流牙たち一行を待ち構えているのは…

 

「待っていたぞ、道外流牙。」

 

複数体のホラーを引き連れた一夏。連れのホラーたちは『シュゥゥ……』と叫び、普段のホラーより苛立っているように見えた。それらを制しながら一夏は話す。

 

「お前たちがコイツらの食事を盗っちまったから、苛ついてるぜ。代わりにお前の取り巻きをエサにしてやろう。」

 

「貴様!」

 

「待て、流牙。コイツは俺がくいとめる。先に周りのザコを片付けろ。」

 

すぐさま、斬ってかかろうとした流牙だったがアグリの判断により彼がステージの上へ。同時にホラーたちも一夏の指示で流牙や少女たちへ向かう!

そして、はじまる乱闘。流牙やタケルは剣でさばき、少女たちは魔導筆で応戦する。一方、アグリは一夏に矢を放つも槍で弾かれ間合いを詰められていた。

 

「言ったはずだ…お前の矢は届かない!」

 

「くっ!!」

 

弓を振り回して振りはらうも、これでは埒があかない。ならばと、突撃してくるタイミングを見計らい…

 

「はっ!!」

 

「!」

 

弓を分離させ、双剣形態へと変化させ不意をつき斬りつける!これは、かつて弓を折られたのを利用したものだ。だが、怒りに触れたのか攻勢が一気に激しくなる一夏…これにアグリは防戦を強いられていく。

その時、気がついたセシリアが魔導筆を構えて一夏を狙うがあまりにも遠すぎるのと荒々しい勢いに狙いが定まらない。

 

(せめて、銃があれば……!)

 

「セシリア…!」

 

その時、シャルが腰のホルダーからリボルバー式魔戒銃を引き抜き彼女に投げ渡す…!

 

「頼んだよ!!」

 

頼んだと言われても、セシリアは魔戒銃を扱ったことはない。いきなり手渡されても…

ふと、苻礼法師の言葉を思い出す…『貫きとおすものを考えろ』と……

 

(私の貫きとおすもの……)

 

自分はリアンや箒のように法術が長けているわけじゃない。シャルのように様々な時に機転がきくわけじゃないし、流牙たちのように魔戒剣を扱えるわけじゃない。……そんな自分が出来ることは…

 

 

……狙い撃つ、それのみ。

 

 

(やってみせます!)

 

撃鉄をお越し、トリガーに指をかけるセシリア。狙うは敵の頭部…いや、もっと絞る……眉間だ。

「いっけぇぇ!!」

 

ーーバァァン!!

 

 

「!」

 

放たれた弾丸は勢いよく空を裂き、見事に一夏のサングラスを粉砕。同時に、アグリは矢をいくつも一夏に叩き込む!

 

「ぐあああ……!?」

 

「「流牙(さん)ッ!!」」

 

「むんっ!!」

 

トドメは流牙。牙狼を召喚しホラーを蹴散らすと跳躍しステージへ…そのまま一夏の胸を一閃ッ!!直後、金色の波動が洩れ牙狼を金色に染め上げる…!

 

「あぁぁ…!がっ!?」

 

【一夏、もう充分だ…退け。】

 

「主……わかりました。」

 

大ダメージを負った彼は傷口をおさえ、主たる者の声に従い闇に紛れるように逃走した。『待て!』と追おうとした牙狼だったがまともくる激痛に鎧を解除して足をついてしまった。

それでも、今回は……紛れもなく流牙たちの勝ちだった。

箒やシャルたちも残ったホラーを倒し、流牙たちと合流する。

 

「やったな……やっと俺達の勝ちだ。」

 

アグリの言葉に全員が頷く。今回、はじめて大敗を期した相手から勝利をもぎとれたのだ。各々が笑顔を取り戻していく中、あっ…とセシリアは気がつきシャルに魔戒銃を渡す。

 

「シャルロットさん、これをお返ししますわ。」

 

「ん?ああ、良いよ…僕がセシリアにって作ったやつだし。」

 

「え……私にですか?」

 

「うん、苻礼法師と相談してね。セシリアや鈴たちは僕らのような魔戒法師の技術全部を短期間に身につけるのはさすがに無理だから、ならあえて射撃(長所)を活かそうって…だから、遠慮はいらないよ。」

 

…自分の武器。成る程、苻礼法師はしっかり考えてくれていたのか。嬉しさとちょっぴり申し訳なさが混じった感情が胸を充たす。

 

「ありがとう、シャルロットさん…大切にしますわ。」

 

とにかく、今は贈ってくれた友に礼を言うべきだろう。

すると、流牙が急にセシリアの頭を撫ではじめる。

 

「ありがとうは俺だよ、セシリア。おかげで助かったよ……な、アグリ?」

 

「フンッ…」

「りゅ、りゅりゅ流牙さん!?」

 

どきまぎする彼女だったが、気がつかない流牙。無論、こんな行為は恋のライバルたちを刺激刷ることになるのだが……

 

「流牙!!」

 

「嫁よ、私も撫でろ。これは命令だ!」

 

「ちょっとあんたら何、抜け駆けしてんのよ!?」

 

言わんことではない。リアン、ラウラ、鈴音にあっという間に囲まれてしまう……その様子をシャルは苦笑し見据えていた。

その傍らでセシリアはある決意を胸にする。

 

 

(私は…私の出来ることをしよう。それがきっと、私の大切な人達の助けになるはずだから……)

 

 

 

 

 

 

To be continued……





★次回予告

リアン「ついに開く学園祭……華やかな舞台に隠れ、闇が全てを巻き込み牙を剥く!!次回『戦~Wars~』…そして、守るべき者に希望は打ち砕かれる!」

★☆

次回からとうとう学園祭です。特別ゲストで牙狼でお馴染みのあのキャラクターが…?

感想お待ちしてます。


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戦~War~ 前編

更 新 が 4 月 以 来 で す っ て 、 や だ ~ ~


お待たせしましたヤミテラIS!!闇を照らす者でいえば神殿の戦いあたり…つまりそろそろ眼潰s(ギャアア

感想お待ちしてます。


…夜。IS学園から離れた浜辺。

 

 

そこでキャンプファイアのように流木を組む流牙たちの姿があった。少女たちは黒札を流木に張り付け、苻礼法師が人々の魂が入ったアタッシュケースを置く。それを合図に騎士たちは鎧を召喚し、烈火炎装を発動させる。

 

「はじめるぞ。」

 

牙狼にあわせて、切っ先を地面に落とす漸と牙射。すると、魔導火が蛇のように組んだ流木へ向かい炎で呑み込む。文字通り魔導火のキャンプファイアとなったそれからやがて、光となった人々の魂がふわりふわりと…天へと召されていく……

 

「弔いの炎だよ…これが。」

 

牙狼の言葉に少女たちは息を呑む。これが、本来なら幸せな人生を謳歌するはずだった人々であり、自分たちが救えなかった人々であると。美しい情景だが…辛さが胸にのしかかる……

すると、苻礼法師とリアンや魔戒騎士たちは少女たちに向きなおる。

 

「我等は人を救う…だがその手は万能ではない。これが、現実だ…。そして、敵も次からは本気で来るだろう…もっと熾烈な戦いがこの先待つ。それでも、尚…我等と共に来るか?」

 

改めて確認。少女たちの覚悟を……この先に来るであろう戦いに立ち向かう心はあるのかと。下手をしたらホラーの餌食になるかもしれない…何よりも惨たらしい死が待つかもしれない。それでも、歩みを共にするかと……

 

しかし、それは今更だった。

 

「苻礼法師……今更、ここで退く者はいませんよ。」

 

箒の言葉に皆、頷いた。恐怖が無い…と言えば嘘になる。でも、ここに来て投げ出すほど誰も無責任でも臆病でもなかった。

 

「ならば、良い。明日は学園祭だ。敵は間違いなく仕掛けてくるだろう…油断はするな。そして、必ず皆生きて戻れ。これが俺からの指令だ。」

 

 

……決意の夜。誓いを胸にする少女たち…

 

しかし、待ち受ける試練が遥かに予想を上回ることを誰もまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

『戦~War~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ…バンッ!!とIS学園に上がる烽。中庭のルートにはズラリと出店が並び、生徒と一般人も入り乱れワイワイと騒いでいる。そう…今日は多くの生徒たちが待ちに待った学園祭。今日に限っては一般人にも学園が開放され、物見遊山気分で多くの人々が押し寄せる。

そんな学園の中で一番の長蛇を作っているのは1組の教室の出し物……執事喫茶であった。勿論、人気の理由は…

 

「うぅ……なんで俺がこんな格好…」

 

唯一の男子生徒である流牙の執事のおもてなしが受けられるからである。本人は渋々、執事服を着せられ今でも渋っているがメイド服の箒に背中を叩かれる。

 

「いい加減、腹をくくれ流牙!お客に失礼だろ。」

 

「くっ……いらっしゃいませ、お嬢様!」

 

仕方ない…もうやけくそと接客をはじめる。すると、チャイナドレス姿の鈴音がやってくる。

 

「ハァイ、流牙。あら、似合ってるじゃないその執事服?」

 

「…そ、そうかな?そういう鈴は中華喫茶だっけ?そのドレス似合ってるよ。」

 

「なっ!?……あ、当たり前よ!も、もぅ…とにかく、店に案内しなさいよ執事!!」

 

そして、鈴音を店内に案内することに…。そして、席に座ると彼女はメニューを開き…ある品に目を留めた。

 

「この『執事にご褒美セット』ってなに?」

 

「…げ」

 

明らかに不振なリアクションをとった流牙に彼女は眉をひそめる。う~んと、顔を覗きこむと顔を反らし…ますます怪しい。ならばと、彼女はメニューの『執事にご褒美セット』を指差し……

 

「これひとつ、注文するわ!!」

 

注文。途端に流牙は『あぁ…』と目に手を当て、同じメイドをしていたセシリアとラウラから鋭く殺気がとんでくる…何事だろうか。すると、彼はおもむろに皿に盛られたクッキーを持ってきた。

 

「…えと、これは?」

 

「執事にご褒美セット……」

 

「いや、これだけじゃわからないんだけど?」

 

「その…クッキーを執事に食べさせることが…できる……」

 

「えっ!?」

 

思わず顔を赤らめる鈴音。つまり、流牙にこのクッキーを食べさせることが出来るのだ。そりゃあ、殺気だって飛んでくる…。『嫌なら別に良いよ。』とすすめる流牙だったが、彼女は意を決す!

 

「良いわ、食べさせてあげる!」

 

クッキーの1枚をつまみ、流牙の口に運んでいく…。やれやれと流牙も口をあ~んと、開ける。同時に彼の息が鈴音の手に…

 

(あっああぁ!!りゅ、りゅ流牙の息が!!息が当たってりゅぅぅ!!?!?)

 

もう心の中は猛った牛のように大興奮。あとちょっとでクッキーが口に含まれる…その時!

 

 

 

「流牙ァ!!」

 

 

「リアン!?あ、痛ててててててて!?!?」

 

 

おしい!あとちょっとのところでチャイナ服のリアンが現れ流牙の耳をつねり上げた。

 

「本当、油断も隙も無いんだから!私も執事にご褒美セットひとつ!!」

 

「な、何よ、リアン!?まだ私のご奉仕終わってないんだけど!?」

 

「はあ?」

 

「あぁん!?」

 

また相変わらずの流牙の取り合い。とうとうメンチきり対決まではじめてしまったふたり。その間にこっそりと逃げようとする流牙だったが肩をしっかり両者に掴まれてしまい逃げるに逃げられない…

 

こうなったら……助けを呼ぶしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴンザさぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

「はは、流牙様…お呼びでしょうか?」

 

「「?」」

 

やってきたのは丸眼鏡の老執事。何事かとリアンと鈴音が見ていると彼は自己紹介をはじめる。

 

「ええ、私…執事の『倉橋ゴンザ』と申しますお嬢様。ここはひとつ、他のお客様の目もありますし…どうかお互いに譲って穏便に済ませましょう。ね?」

 

「「…っ」」

 

ついでに、とがめられ…周りの目もこちらに注目していたこともあり腹に煮えたぎる感情を押し込めながらも両者は席についた。その隙にそろりと流牙は気がつかれないように抜け出した…

 

「ん?ちょっと、流牙は…?」

 

「はっ!?いつの間に……アイツぅ!!」

 

すぐに目的の執事の不在に気がついたがもう遅い。そんな地団駄を踏むお嬢様をゴンザはにこやかに見つめていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

その頃、楯無は人気のない薄暗いロッカールームの中をうろついていた…。今、生徒が各々の出し物に追われている中でここに来る者などいない。

 

(苻礼法師はひとりで行動するな…って言ってたけど、そうもいかないのよね。)

 

生徒会長として、このまま敵の襲撃をただ見逃すわけにはいかなかった。無論、ただ闇雲に動いているわけではない…。今まで学園内のホラーの出現と被害について独自に調べていた彼女…その結果、あれだけホラーが出現しても生徒や役員には全くといっていいほど被害が無かったのである。つまり、敵はIS学園に被害が出て対策されれば動きにくくなる存在…

 

おそらく……役員か生徒の誰かだ。

 

 

(…?あのロッカーだけ開いてる…?)

 

ふと、気がついたギィギィと音を鳴らすロッカー。生徒の誰かが施錠し忘れたのだろうか…?

何気なく覗いてみると……

 

「これは!?」

 

そこにあったのは生徒の着替えではなく、赤いランプが点灯する機械……一目でわかった。これは『爆弾』だ!発火装置を導火線で繋いだシンプルなものだが、火薬とおぼしき固形物の量からしてこのロッカールームぐらい簡単に吹き飛ぶだろう。ならば、生徒会長としてすべきことをしなくては…

 

「ここで何をしている?」

 

「!」

 

突如、チャキッ…と鉄が軋む音と背後からかけられた声。しかし、この声は聞き覚えがある……冷や汗を流しながら振り向くと見知った顔。

 

「エンホウ!なんだ、びっくりした……」

 

「…」

 

SGー1隊長・エンホウ…彼女が銃を突きつけていた。なんだ、と安堵している暇は無い…この状況を彼女に伝えてSGー1にも協力して被害を防がねば。

だが、エンホウは銃を下ろさずこちらを睨んでいる。

 

「丁度良かったわ…ここに爆発物が…………エンホウ?どうしたの?」

 

違和感。楯無は数歩下がり彼女の顔を見つめる……。まるで、阿修羅のように眉間にシワを寄せて、射殺さんばかりの眼。自分が何かした?いいや、そんなもの思い当たる節なんて全く無い。されど、ただごとではない気迫に後退りしてしまう。

……そう言えば苻礼法師が言っていた。探知機以外でホラーの見分け方について

 

 

 

ーーーホラーに憑依された人間は突然、ガラリと性格が変わることがある。必ずしも皆がそうというわけではないが、魔導ホラーの場合はそのケースが多い。

 

 

 

 

 

 

「まさか!?」

 

最悪の予想をしてしまったのと同時に、取り出した赤ん坊のガラガラ玩具のような魔導ホラー探知機を使っていた。すると、音色に反応してエンホウの顔に禍々しい紋様と皮の下に潜む異形の面影が浮かび上がった…。

…当たってしまった。そして、自分は今最悪の状況にいることを悟る。

 

「……なんで!?エンホウ!!」

 

「私は選ばれた。それだけだ…」

 

「っ!」

 

嘆く暇などない。楯無は自分に向けられた銃を蹴りあげ、主から引き剥がすと回れ右で一目散に走って対比。いくら最強の生徒会長なれど魔戒法師ですらない自分が魔導ホラーの相手など無理がある。ここは流牙たちに合流するのが先決…はてさて、魔の異形にそんなことが可能かは彼女にも解らないが。

 

(まずは、苻礼法師たちに連絡を…!)

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

「エンホウめ、ミスったか……ちょっと前倒し、やるよ一夏?」

 

「はい、我が主。」

 

そして、パソコンのキーボードが叩かれプログラムが起動する。それは本当の祭りの引き金……

 

 

 

 

 

「さあ、存分に楽しむと良い…道外流牙。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードオォォォォ!!!!ドオォォォォン!!!!!

 

 

 

「!」

 

ついに上がった本当の狼煙。

 

次々と学園のあちこちから爆発音と真紅の炎が轟く……

 

 

 

騎士と少女たちは身構え…

 

 

 

 

 

 

「ついに、この時がきたか。」

 

 

メイド服から魔導衣に着替えた箒がメイド喫茶からいちはやく飛び出していった…。その胸に『覚悟』を携えて……

 

 

 

 

To be continued.

 

 

 

 

 

 

 

 




牙狼、またアニメやるって。(歓喜)

中の人は元々キンピカ(AUO)。敵やって、ボスやって、キンピカ(主役)……。あれ、つまりこの流れだと敵の中の人は……

ヒロインはくぎゅうですって。あとノッブもいるから……あれ?なにこのFGO?つまりぐだぐだ本能j(是非もナイヨネ‼


そして、流牙シリーズも来年夏映画で集大成とか。鋼牙シリーズが終わったあとの2代目にあたる主人公の彼が終わるって考えると感慨深いですよね。しかも、三騎士揃うとかテンションあがりますわ!
しかし、集大成ということはやはり魔竜にあたるシリーズ完結ということなのかなぁ…流牙は一番お気に入りの黄金騎士だからまだまだシリーズやってもらいたいんだけどなぁ。う~~ん……




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戦~War~ 中編

神の牙…みれなかったよおおおおおおお!!!!!!

お久しぶりの更新。



………まず、だ。

 

自分はかなりまずい。楯無は爆発によって崩れた瓦礫だらけの空間にエンホウと共に閉じこめられた状況をなんとか打開しようとしていたが、エンホウによるナイフの連撃が行動の自由を許さない。幸い、部分展開した腕のISの装甲で攻撃が防げるのだが逃げ道は瓦礫で塞がれ窓はこのエリアには無いので脱出は不可能。ISを使うという手もあるが、それならエンホウをどうにかしなくてはならない。

 

「…どうした!それでも、最強の生徒会長か!?」

 

「くっ!」

 

せめて、この場に流牙か誰かいればまた状況は違っただろうが自分には魔導ホラーはおろかただのホラーになんて敵う術は無い。全く、学園最強の肩書きが泣ける。

 

(どうにか、しなくちゃ!!通信は………駄目か!!)

 

ならば、外部に助けをと思ったが既に手を打たれていたのかISのスピーカーからはノイズが響く。八方塞がりだ。持ちこたえるにしても流牙たちが気がつくまで耐えられるかどうか………

 

「お前は極力生きて捕らえるように言われている。おとなしくしろ。」

 

「エンホウ!」

 

苦し紛れに残っているかわからない良心に訴えてみる。正義を愛する人であった彼女なら、共に時を過ごした彼女なら………

 

「ふんっ!」

 

「!」

 

しかし、淡い期待は振るわれたナイフに無惨に切り裂かれて散った。平然と命を刈る刃は旧き仲だろうと牙を剥く…!装甲に火花が走り、異形の力が体を跳ねとばす!なんとか踏みとどまるも束の間の隙にエンホウの手が伸びて首を掴む。

 

「………がッ!?」

 

「フッ…他愛ない。」

 

致命的だった。いや、チェックメイト………いくら、ISのパワーで抗おうとも魔導ホラーのパワーには及ばない。 投げとばされ、ドンッ!!と壁に叩きつけられると肺から息が洩れた。

 

「かはっ………うっ…。エンホウ、何故…あなたがホラーに…?あなたには邪心なんて…」

 

ISのエネルギーもギリギリと警報が鳴り、衝撃で頭がくらくらする。絞りますだすような声しか出ないが尚も訴え続ける…が、無機質な眼差しでナイフを握りなおしゆっくりと間合いを詰めてくるエンホウ。

 

 

……その時だった

 

 

 

 

 

 

 

ドォォン!!!

 

 

 

「「!」」

 

 

突如、天井を貫いて降り立つ藍色の鎧。青み帯びた光を放つ猛禽のような兜は嘴のような上顎部分を起き上がらせると狼の顔を露にし、白い瞳を輝かせる。『幻影騎士 吼狼』……かつて、ラウラの件で姿を見せた謎の魔戒騎士。楯無を庇うように立つと、エンホウを蹴飛ばし叫ぶ!

 

「ここは俺に任せろ! 早く行け!!」

 

考える余裕も選ぶ時間もなかった。楯無は吼狼に促されるまま、彼の侵入してきた穴から脱出…『待て!』と追おうとしたエンホウだったがその前に吼狼が立ちはだかり、鎧を解除した。その顔を見るや、エンホウは目を見開く…!

 

 

「貴様は…!?」

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

苻礼法師のアジト…

 

 

 

「ついに始まってしまったか…!」

 

焦る苻礼法師。いくら予見していたとはいえ、最悪のタイミングで事を起こされた……昼かつ、生徒たち以外に一般人がいる学園で影ながら行動するなど無理な話。壺に映る映像を見る限り爆発で皆が混乱状態だし、楯無とは連絡がつかない…このままではまずい。ここでじっとはしていられない。

 

そこへ、学園の制服を着た人物が現れる。

 

「!…来たか!!俺も学園へ向かう。流牙たちを援護する……」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズブッ

 

 

 

 

「!?」

 

 

貫かれる痛み。マントを羽織り、すれ違った直後に白刃が苻礼法師に牙を剥いた…。不意の激痛とショックで歯を食い縛りながら壁によりかかると魔戒剣を構えるその人物を睨みつける。

 

「貴様…。」

 

「悪いけど、引っ込んでてもらえます?苻礼法師?」

彼に凶刃を振るった相手。見覚えがある金髪に白い肌……中性的な顔立ちの彼女は………

 

 

 

 

 

……シャルロット・デュノアだった。

 

 

 

 

「やはり、全てお前の仕業だったのか……デュノア!!」

 

「やっぱり、勘づいてました?まあ、今更ですけどね………あなたが育てた篠ノ之束と箒…道外流牙は僕が貰いますよ。」

 

「させるか!羅号!!」

 

このままやられてなるものか。苻礼法師はマントから羅号を放ち、シャルに向かわせると傷に苦しみながらアジトを後にする………

 

このままでは、自分の育てた子たちが危ない。

 

 

 

 

 

 

 

★☆ ★☆ ★☆

 

 

 

 

 

 

「…篠ノ之!!」

 

「織斑先生!」

 

パニックの人々でごった返す校庭で千冬と箒は合流していた。どうやら、流牙や他の面々はまだ別の場所から向かっている最中なのだろう。

 

「これは、まさか…敵の仕業か?」

 

「恐らく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りだな、箒…姉さん?」

 

 

 

 

「「!」」

 

そこへ、現れるサングラスをかけた黒づくめの青年。やはり、現れたか…と箒は息を呑み、千冬は目を細める。恐らく、事が起きれば真っ先に自分の所へ来る…自分が決着をつけないといけない相手。千冬の弟にて流牙すら退けた最強の魔導ホラー………一夏。

一方、一夏はリアクションの薄い千冬に驚いていた。

 

「あんまり驚かないんだね、姉さん?」

 

「既に流牙から聴いていたからな。まさか、本当にホラーになっているとはな………一夏!」

ま、別にそんなことだろうと思っていた…『あっそ』と笑いとばすと指を折って三叉の双剣に変形させるいち一夏。千冬は受けてたとうとするが、箒が制止する。

 

「千冬さん、ここは私が請け負います。流牙をはやく呼んで下さい。」

 

「いや、弟の不始末は姉の責任だ。私が………」

 

「千冬さん!………私は一夏のことを貴女に黙っていました。全て私の責任です。それに貴女ではホラーに渡りあう力は無い。お願いです………流牙たちを…!!」

 

「…篠ノ之………」

 

揺るがない決意…自分も流牙から弟がホラーになったことを聞いた時はかなり動揺したし、今…この瞬間に至るまで信じたくはなかった。しかし、彼女は痛みを乗り越え、自らの代わりに…そして、己の宿命に怯まず向き合っている。ならば、

 

「…死ぬなよ?直ぐに戻ってくる…!」

 

信じるのみ。背を向け、振り向かずに流牙たちを捜しに向かう。

そして、残る嗤う者と勇む者。一夏は箒を不気味に微笑むと手を拡げ語る……

 

「まさに、運命とはこのことだな。愛しあう二人が長い月日の果てに感動の再会…。箒……やはり、お前は俺の『月』だ。お前のさだめは俺と添い遂げるためにある。」

 

演劇で主役がヒロインをキザに口説くような言い回しだ。ただ、抑揚に含む興奮は本物だろう。

一方、箒は魔導筆を握りしめ間合いをとったまま…そのまま動かずにいると一夏が彼女へと手を伸ばす。

 

「さあ、来い箒。俺と共にくれば世界は思うままになる。ISも、国も、魔戒騎士も! 俺が王となり、お前が女王だ!!全てを偉大なる闇が支配する世界にッ!俺たちは……!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、良いやめろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

…されど、魔の手はとられることはない。

簡単に…あまりにもあっさりと……気取る者の勧誘は拒絶された。代わりに、憂いを帯びた哀しげな視線がかえされる。

 

「もう私の知っている一夏は死んだんだろう?その顔で何を語ったところで、耳障りだ。私には何も響かない。」

 

「なにぃィ??」

 

その時、一夏の顔が激しく歪む。ああ、まだ理解していないのか…自分がまだ姫を迎えにきた王子様などではない、醜悪な化け物だと。いくら取り繕ったところで滲みでる本質は誤魔化せないのだと……

 

そして、自分は責任を果たすためにここに来たのだと…

 

 

「全ては私が発端であり、背負うべき罪だ。刺し違えてても貴様を倒す。」

 

「何をおかしなことを言っている…?俺はお前の求めた『最強の魔戒騎士』だぞ。」

 

あの日、彼は最強の魔戒騎士になると約束を交わした。結果として彼は強くなった…光を捨て、闇を選ぶことで。私も一度は挫けたし、下手をしたら自分も闇に堕ちたかもしれないと箒自身も思う。だけど、今は違う。

 

「いいや、違う……私の知る『最強の魔戒騎士』とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……黄金騎士・牙狼<GARO>ッ!!! 道外流牙、ただひとり!!!!」

 

 

 

 

本当の強さはもうとっくに教えてもらったのだから。

 

 

 

すると、一夏は顔から笑みを消し去り…崩れんばかりにしかめると魔戒剣を抜く。

 

 

 

「どうやら、あの黄金騎士に毒され過ぎたらしいな?お仕置きが必要だな…」

 

 

「紅椿!!」

 

 

…切って落とされる戦いの火蓋。かつてのあの約束の記憶はすでに陰我の炎で焼け落ちていた…

 

 

 

 

 

 

 

< G A R O >

 

 

 

 

 



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