Problem child in Parallel universe【更新停止】 (無名篠(ナナシノ))
しおりを挟む

YES! ウサギが呼びました!
プロローグ


初投稿です。
よろしくお願い致します。


────カリカリカリ───

 

味気ない部屋の中で、ペンの音が響く。

 

───カリカリ、コト、ゴシゴシ───

 

ペンを置き、消しゴムで間違えた計算式を消していく。

 

───カリカリカリカリカリ───

 

そしてまたペンを持ち、計算式を解いていく。

 

この部屋の主である少年は毎日このように、ただ黙々と勉強をしていた。

 

計算が終わったのか、ペンを置いた。そして凝り固まった体をほぐした後、少し休むのかと思いきや、すぐに別の問題に取り掛かり始めた。

 

現在の時刻は午後10時。つまり夜中だ。学生であるならば、最低でも11時には眠っていなければならない。

 

それに、夜とゆうのは眠る時間いっぱいまで遊びたいものだ。

しかし、彼は遊ぶ事もせず、少しの間休むこともせず、ただ眠る時間が来るまでペンを動かし続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

 

朝。

 

6時前に彼は目覚める。ベッドから出て、軽くストレッチをする。その後洗面所に向かい、顔を洗う。そしてリビングの食卓につき、朝食を頂く。

 

食卓には父の姿も母の姿もない。父はすでに仕事に行き、母はもともと父と離婚しているためいない。

 

離婚しているとはいえ、父と母の仲はそれほど悪いというわけではない。知り合い以上、友人未満の関係が続いている。

 

彼は、何か辛いことに遭ったらよく母に連絡している。父には然程相談はしていない。理由としては、単純に父のことが苦手であるし、余程のことでもないので、音楽など気分転換をして忘れていったからである。

 

しかし、余程に辛いことに遭ったら、迷わず相談している。もちろん”母に”であって、”父に”ではない。

 

母は何かと話しやすいのでポンポン喋って相談しているが、父はいちいち何か話そうとする度に威圧感の様なものが感じられるため、話しにくいのだ。

 

分かり易くいえば、年柄年中不機嫌面だった。

 

だからそこまで親しく話すことなどないし、帰ってくるのが遅いから顔を合わせることも稀であった。

 

 

朝食を食べ終えた少年は、学校指定の制服に着替え、鞄を持ち、玄関のドアノブに手を掛け溜め息をついた。

 

 

───またつまらない一日が始まるのか………───

 

 

そう呟くと、彼はドアを開き学校へ向かった。

 

 

■□■□■□■□

 

 

───ガチャ───

 

 

扉の開く音が響いた。

 

 

「ただいま…………」

 

 

学校から帰って来た少年は、正気のない寂れた声を発した。

 

 

顔色は悪く、何やらとても疲れた様子だった。

 

 

理由はなんてことはない。ただ場の空気に取り残され浮かないように、クラスメイト達の話に合わせていただけだ。

 

 

それでも始終空気ではあったが…。

 

 

それはともかく、

 

 

部屋に戻り、バックをその辺に放り投げ、少しぶかぶかのハーフパンツと五分袖のTシャツを着てベッドに身を投げ出す。そして、深いため息をした後にしばらく目を閉じて横になった。

 

 

しばらくして、バックの中の荷物を出すために立ち上がると、音楽プレイヤーを手に取り、机まで歩く。

 

 

イヤホンを耳に付け、プレイヤーを起動した。

 

 

音楽を聴きながらバックの中身を取り出し机に置こうとすると、一枚の「封書」が置いてあることに気が付く。

 

 

父が置いたのだろうか。そう考えもしたが、いつもリビングの机に自分宛以外は放置しているからそれはあり得ない。

 

 

疑問に思いながらも、とりあえず手に持っていた教材を棚に整理した。

 

 

整理した後「封書」を拾い、表裏を隅々まで見る。

 

 

不思議なコトに、「切手」は愚か、「差し出し人」の名前すら無い。しかも「住所」すらも書かれてい無い。あるのは素晴らしい程達筆で書かれた自分の名前だけだった。

 

 

「切手」も、「差し出し人」も、両名の「住所」も書かれておらず、あるのは自分の「名前」のみ。

 

 

この「封書」の送り主はどういった『目的』で送りつけてきたのか。そもそも何故自分の名前を知っていて、誰も居ない家にも関わらずどうやって自分の部屋にこの「封書」を置いたのか。窓や部屋に入られた形跡は無い。泥棒だとしても、こんなどこにでもある何の変哲もない一般家庭の家に入り込んで、何も盗らずに「封書」なんかを置いていくのも泥棒としてはユニーク過ぎる。どこの義賊だ。

 

 

考えれば考える程、疑問は増えるばかりだった。結論を出すにはまずこの「封書」の中身を確認しなければならない、そう彼は思った。

 

 

「封書」の厚さはそこまでの量ではないのかペラペラだ。大きさもそこまで大きくない。この感覚からして中身は薄い紙であろう。まぁ手紙なのだから当たり前だが…………。

 

中身に変な物は無いととりあえず決めておき、いよいよ「封書」の封を切る。中身を見ると、予想通り一枚の紙が入っていた。

変な物ではない事に安心し、息を吐く。

とりあえず、中身は確認した。何の変哲もない紙だった。あとは手紙の内容を確認するだけであった。

封から紙を取り出し文面を見る。するとそこには、こう書かれていた。

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの”箱庭”に来られたし』

 

 

なんだこれは、そう思った。

 

 

「封書」の存在はイタズラとかドッキリとかそんなものじゃなく、魔法のように瞬間移動で送られてきた様な不可解さと不気味さがあった。しかし、この文面を見てみればどうだ。まるで中二病患者が書いた様な内容だ。

 

 

「異才」だとか「全てを捨てて」だとかこれを書いたヤツは相当手遅れなんだな。と書いた者へ呆れ、哀れみの念を込めた。

 

 

こんな内容の手紙にビクビクしていた自分がアホらしい。そう愚痴りながら手紙を破り捨てようとした瞬間、景色が一変した。

 

 

青い空に、白い雲。そんな当たり前の景色。窓から見れば当たり前の景色。しかし、自分の窓はここまで大きくない。そして何故か落下している。

そもそも自分は先程まで自らの部屋にいた筈だ。それなのにも関わらず、視界一杯に広がる空が見えることはおかしい。

なら、一体ここは何処で、そもそも何なのか?

直ぐ横を見れば地平線。崖の様なものも見える。

いい景色、その一言に限る。それほどまでの絶景なのだ。

しかし彼はこの景色を見た瞬間青ざめた。

落下に伴う圧力に苦しみながらも、首を動かしチラッと下を見下ろした。

そこに見えたのは縮尺を見違えるほど巨大な天幕。そして、上空4000mはあるであろう高さ。

 

 

 

 

 

 

 

彼の前に広がるのは─────────完全無欠の異世界だった。

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

不定期なので遅くなると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 招かれざる一般人

遅れて……と言える程遅れたのかはわかりませんが、まずは謝罪を。すいませんでした。
理由 (言い訳) としては話の構成を考えるのに難儀していました。右も左もわからないで初の試みをすると、やっぱり不安になるのは私だけでしょうか?
書き終わったものを読み返してみるといつも

「うわ………私の文章………ダメ過ぎ?」てなります。

次回二話目からはさらに遅くなる可能性もありますが、どうかこの駄文とダメ作者をよろしくお願いします。

あ………タグに『駄文』入れるの忘れてた……orz



──ボチャン!!──

 

 

上空4000mから落下した少年、そして同じ様に落下してきた三人、あと何故かいる一匹の三毛猫は、落下地点にこれまた何故か用意してあった緩衝材のような薄い水膜を通って湖に投げ出される。

 

水膜のおかげで勢いが衰え、四人は無傷で済んだが、一緒に落ちてきた三毛猫はそうもいかない。四人の内、”短髪” の少女が慌てた様子で抱きかかえ、水面に引っ張り上げる。

 

 

「………大丈夫?」

 

 

「に、にぁあ…………ッ!」

 

 

三毛猫が無事なのを確認した少女は安心したのかほっと息をした。

 

”短髪” の少女以外の他の ”二人” はさっさと陸に上がりながら、それぞれが罵詈雑言を吐き捨てていた。

 

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて! もし地面に激突なんかしたら即死よ!」

 

 

そう言って服の端を絞っているのは長髪でいかにも ”お嬢さま” な少女。

 

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出され方がまだ親切だ」

 

 

先程の ”お嬢様” な少女と同じ様に服の端を絞りながら愚痴っているのはこれまたいかにも ”不良” な少年。

 

その後に続く形で ”短髪” の少女が岸に上がり、服の端を絞る。三毛猫も少女の隣で水をはじく。

 

 

「ここ………どこだろう?」

 

 

”短髪” の少女は服を絞りながらそう言う。

 

 

「さぁな。まぁ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

 

 

少女の呟きに少年が応える。どうやら ”三人” 共知らない場所らしい。

ある程度服を絞り終えた少年は軽く髪を掻きあげ、少女二人に対して確認を取る。

 

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な ”手紙” が?」

 

 

「そうだけど、まずは ”オマエ” って呼び方を訂正して。───私は【久遠飛鳥(くおんあすか)】よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

 

「………【春日部耀(かすかべよう)】。以下同文」

 

 

「そう。よろしく春日部さん。”最後” に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な【逆廻十六夜(さかまきいざよい)】です。粗野で凶暴で快楽主義者と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

 

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

 

我関せず無関心を装う春日部耀。

 

 

 

 

そんな彼らを物陰から見ていた者がいた。

 

少女だ。しかも、扇情的なミニスカートとガーターソックスを身につけている。そしてなにより特徴的なのは、青い髪と同じ色の二対の ”ウサ耳”。先に言っておくが、断じて ”つけ耳” などではない。

 

そんな少女は、呼び出された ”三人” を見て思う。

 

 

(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねぇ………)

 

 

彼女がそう思うのも無理はない。彼女の名は【黒ウサギ】。”とある理由” で彼らを召喚した張本人ではあるのだが、先程までの彼らの態度を見て、協力するような姿は全くもって想像できない。黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐くのだった。

 

そのあと黒ウサギはふと疑問に思った。

 

 

(そういえば……あれ? オカシイですね………呼び出したのはたしか ”四人” だった筈ですが………?)

 

 

彼女は首を傾げる。もしかして召喚が失敗したのか?いや、それは無い。なぜなら ”四人” の内、”三人” はちゃんと呼び出せている。それに、手紙の内容を確認した後、有無を言わさず召喚する術式が施されているたハズだ。

ならあと ”一人” は一体どうしたのか?考えられる可能性は、手紙を読まなかった、もしくは手紙を読まずに破り捨てたか。どちらも手紙を読まなかったことを想定した考えではあるが、あり得ない話では無い。

誰が好き好んで『住所』も『宛名』も『差出人の名』も無い手紙を読むのだろうか。

”主催者” が「人類最高クラスのギフト保持者」と保証してくれた者たち。出来れば呼び寄せた全員が揃って自らのコミュニティに入ってくれたら嬉しかったのだが、この際しょうがない。一人足りなくても「人類最高クラスのギフト保持者」である事は変わらないのだから。

今は、目の前にいる者達に『事情』を悟られずにこの ”箱庭” について説明しなければ。黒ウサギはそう意気込んで登場するタイミングを図るのであった。

 

 

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねぇんだよ」

 

と、十六夜は苛立たしげに言った。

手紙で呼び出されてから結構な時間が経っているのだが、今だにその場を動かずにいた。未知の土地に興味本位で動き回るのは愚かな行為。もっともな選択だと思う。

 

 

「普通この状況だと、招待状に書かれていた ”箱庭” とかいうものの説明をするヤツが現れるもんじゃねぇのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

(全くもってその通りです)

 

 

もう少しパニックになってくれたら黒ウサギとしては飛び出しやすいのだが、なんとも場が落ち着きすぎているためタイミングを図れないでいた。

 

 

(というか、なんでそんなに落ち着いていられるんですか? 異世界ですよ? 異世界。普通もうちょっと混乱とか、歓喜とか、いろいろあるでしょう。どうしてそんなに平然として待っているんですか? こんな微妙な空気の中飛び出して行ったら完璧に滑るじゃないですか。あぁ、ネタを出して滑ってしまった芸人の気持ちがわかる気がします)

 

 

今現在そんな空気ですしね。と黒ウサギは呟き、小さくため息を吐いた。

しかし、いつまでたってもこうしていてはいずれ彼らは何処かへ冒険紛いの探索に行ってしまうだろう。

 

 

(まぁ、悩んでいても仕方ないデス。これ以上不満が噴出する前にお腹を括りますか)

 

 

三者三様の罵声雑言を浴びせている様を見ると怖気づきそうになるが、ここは我慢である。そうでもしないと、ただでさえキリキリしている胃にストレスが加わることにより、マッハで穴が開きそうだからだ。

 

これは早々胃薬のお世話になりそうですねと思い、飛び出そうと足に力を込めた瞬間、ふと十六夜がため息交じりに呟く。

 

 

「───仕方がねぇな。こうなったら、そこに隠れている奴(・・・・・・・・・)にでも話を聞くか?」

 

 

突然の呟きに、黒ウサギは心臓を掴まれたような錯覚を感じた。足に込めた力は拡散し、バレないように深くしゃがんで物陰から驚愕の表情で三人を見る。

 

しかしそれは彼らも同じこと。三人の視線が黒ウサギに集まる。

 

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの猫を抱いている奴も気づいていたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「………へぇ? 面白いな、お前」

 

 

軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。三人共、理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠もった冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。

これには黒ウサギもやや怯んだ。

 

 

(大人しく出ていけば話はできそうですが、何をされるかわかったものじゃありません。ここは軽いノリで近づくしか………)

 

 

そう思っていると、十六夜が「まぁ……」と口を開いた。

 

 

「どっちみちバレバレだったけどな」

 

「『頭隠して尻隠さず』とはよく言ったものね。この場合は『身体隠して耳隠しきれず』かしら?」

 

「………うっかりさん?」

 

 

グサグサグサッ!と黒ウサギの胸に言葉の刃が突き刺さる。割と自信満々に隠れていただけあって、三人の言葉は心にくる。

 

しかしただ言われ続けられているのも話が進まないので、すでに折れかけている心に喝をいれ、フラフラになりながらも物陰から姿を晒した。

 

 

「や………やだなぁ御三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?えぇ、えぇ、古「ウサ耳…? 本物か? あれ」サギの天敵「髪の色とヘアバンドが被って見分けがつかないだけじゃ……」弱な心臓に「えぇっと…へあばんど? とかはわからないけど…引っ張ってみればわかるんじゃないかしら?」でございますヨ?って聞いて下さいよ!!」

 

 

話を聞いてもらえず思わず涙目になる黒ウサギ。だが彼らの返答は────

 

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

 

────『現実は非情である』ということを物語っていた。

 

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。

だがその眼は冷静に三人を値踏みしていた。

 

 

(肝っ玉は及第点……ですね。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。……まぁ、扱いにくいのは難点ですけども)

 

 

外見はおどけつつも、三人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせている黒ウサギ。すると突然耀が彼女の背後に素早く回り込み、黒いウサ耳を付け根部分から鷲掴むと────

 

 

「えい」

 

「フワッ!?」

 

 

───力いっぱい引っ張った。

 

何度引っ張ったり戻したり、また引っ張ったりを繰り返していくうちに耀は目を少し見開いて驚く。

 

しかしやられている方は堪ったものじゃなく、掴んでいる手を離そうとしながら涙目で抗議する。

 

 

「イタタタタッ!?ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、初対面でイタッ!? え、遠慮無用に黒ウサギの素敵耳をイタイ! ひ、引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!? あと、いい加減離して下さいッ!」

 

「好奇心の成せる業。あと、確認」

 

「自由にも程がありますヨ!?」

 

 

なんとか耀の手を引き離して彼女から距離をとる黒ウサギ。

 

助かった………。と思ったが、背後からさらなる魔の手が彼女の素敵耳に伸びる。

 

 

「へぇ? やっぱこのウサ耳って本物なのか?」

 

「…………じゃあ私も」

 

 

十六夜が右から、飛鳥は左から。

左右の耳を掴まれ力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 

 

「────あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も時間を消費してしまうとは………。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

 

ハイ……。と半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。

三人は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、『聞くだけ聞こう』といった感じに耳を傾けている。

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて当初の目的である ”この世界” の説明を始めた。

 

 

「それではいいですか、御三人様。定型文で言いますよ? ようこそ、”箱庭の世界”へ! ”我々” は御三人様に 『ギフト』を与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

「『ギフトゲーム』?」

 

「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御三人様は皆、『普通の人間』ではこざいません!その特異な『力』は様々な ”修羅神仏” から、”悪魔” から、”精霊” から、”星” から与えられた【恩恵】でございます。『ギフトゲーム』はその【恩恵】を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な『力』を持つ【ギフト保持者】がオモシロオカシク、それはもう愉快に生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 

広げた両手で大々的に箱庭をアピールする黒ウサギ。

飛鳥はそんな箱庭について深く理解する為に挙手をした。

 

 

「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う ”我々” とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある ”コミュニティ” に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの ”主催者(ホスト)” が提示した商品をGETできるというとってもシンプルな構図となっております」

 

「……… ”主催者(ホスト)” って誰?」

 

「それはもう、様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます」

 

 

彼らの前を左右に移動しながら問われた質問を返答する黒ウサギ。

 

 

「特徴として、前者は自由参加が多いですが、”主催者” が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあり得ます。しかしクリアした際の見返りは大きく、”主催者” 次第では新たな【恩恵】を手にすることも夢ではありません。

後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて ”主催者” のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね………チップには何を?」

 

「それも様々でございます。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを掛けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに万が一負けてしまった場合───当然ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

 

黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。それは ”黒” ウサギの名に恥じない黒っぷりだった。

 

挑発とともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥が問う。

 

 

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOKです! 商店街でも各商店が福引き的な小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加してみてください」

 

 

飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。

 

 

「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えていいのかしら?」

 

 

お? と驚く黒ウサギ。

 

 

「中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩は悉く処罰します───が、しかし! 『ギフトゲーム』の本質は全く逆! 一方の勝者だけが全てを手にすることができるシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね。」

 

 

そう説明された飛鳥は、呆れた表情になりながらも納得した。

 

 

「そう。なかなか野蛮なのね」

 

「ごもっとも。しかし ”主催者” は全てを自己責任でゲームを開催しております。故に、奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

 

ニヒッ!と笑った黒ウサギは一通りの説明を終えたのか、「さて!」といいながら一枚の封書を取り出した。

 

 

「皆さんの召喚をこの手紙で依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらを全て語るには少々時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここからは我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが……よろしいですか?」

 

「………待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなり、妙に真剣な表情をしていることに気づいた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

 

「………どういった質問です? ルールですか? それともゲームそのもの────」

 

 

黒ウサギがそこまで言うと、十六夜は彼女のセリフに被せて否定した。

 

 

「いいや?別にそんなのはどうでもいい(・・・・・・)。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かって【ルール】を問いただしたところで何かが変わるわけじゃねぇんだ。”世界” の【ルール】を変えようとするのはいつだって『革命家』の仕事であって、『プレイヤー』の仕事じゃねぇ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

 

十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の二人を見回し、巨大天幕によって覆われた都市に向ける。一瞬、”湖” を三人に気づかれないよう横目で見たがすぐに戻し、何もかもを見下すような視線で────訊いた。

 

 

 

 

「この世界は………面白いか(・・・・)?」

 

 

 

 

 

「─────」

 

 

他の二人も無言で返事を待つ。

彼らを呼んだ手紙には、『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と書かれてあった。ならば、それに見合うだけの催し物があるのかどうか。それこそ三人にとって一番重要な事だった。

 

 

「───YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

あざといまでの笑顔でウインクをするとそう告げた。

 

すると十六夜はいつもの軽薄な笑みを浮かべ笑った。

 

 

「ヤハハ、そうか。それじゃあせいぜい楽しみにしてるぜ」

 

 

飛鳥は未知の世界に想いを馳せ、耀は表情こそ変わらないものの、小さくソワソワと身体を揺らしている。

 

 

「楽しみね。どんなところなのかしら」

 

「………」

 

「では、まずは箱庭に向かいましょう。入り口に黒ウサギの仲間が待っているはずですから」

 

 

黒ウサギは三人を引き連れ、箱庭にて待つコミュニティの仲間の下へと進もうとした。

 

しかし、その歩みは十六夜の言葉によって止まり、彼女の顔は蒼白に変

わる。

 

 

「そういえばよ、さっきからあの湖に人間が浮か(・・・・・)んでたんだが………あれもこの箱庭の催し物の一種か?」

 

「……………ハイ?」

 

 

指を指された方を見てみれば、確かに人がうつ伏せに浮かんでいる。白い五分袖の服に少しブカブカのハーフパンツが水に合わせて揺らめき、近くには何かの機械も浮かんでいる。

 

瞬間、黒ウサギは理解した。呼び出された者たちは一人足りなかったのではない。呼び出されていたが、湖の底に沈んでいたのだ。”呼び出せたのは三人” と思い込んで説明をしている間にも、彼は溺れていたのだ。

 

そう考えている黒ウサギの顔は、髪よりも青く、蒼く変わっていき、またもや彼女は言葉にならない悲鳴をあげ、再びその絶叫は近隣に木霊することとなった。

 

 




イカがでしたか?

※誤字脱字などがありましたらご報告お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 消息の問題児

お待たせしました。「待ってねぇよ」という方はごめんなさい。
少々執筆に時間を回せないわいい内容が浮かばないわで遅れました。これも全部妖怪って奴のせいなんだ!(違

あと駄文注意ですので、読む際はご注意を………


 

 

 

───場所は箱庭二一〇五三八〇外門。箱庭の外壁と内側を繋ぐ入り口の階段前に、一人の少年が立っていた。ダボダボのローブに跳ねた緑色の髪の毛が特徴的な彼の名は『ジン=ラッセル』、黒ウサギが所属するコミュニティのリーダーだ。

何を考えてるのか頭を下げている彼の表情はどこか暗く、何かの「使命感」に囚われている様子であった。

 

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方々を連れてきましたよー!」

 

 

だが、外門前の街道から彼の名を呼ぶ黒ウサギの声に気づいたジンははっと顔を上げる。

こちらにやってくる黒ウサギとその側にいる ”女性二人” を見ると先程の暗い表情はなくなり、頬を緩めた。

 

 

「あ……お帰り、黒ウサ…………ギ……」

 

 

だが、そこまで言いかけて彼は言葉を失った。理由としては、目の前にいる黒ウサギが誰かを背負っているからだ。

ジンの様子に気づいたのか黒ウサギはハハハ……と思いっきり引きつった苦笑を浮かべた。

 

背負われている彼の黒髪は水で濡れていて垂れ下がっており、何かのロゴマークが付いている白い五分袖の服と黒のハーフパンツはだいぶ乾いてはいるが、やはり湿っているのが目立つ。

 

そして何より印象的なのは、白目全開で気を失っていること。

 

ジンは考える。

黒ウサギと一緒に来た ”女性二人” は間違いなく召喚に応じてくれた者達だ。なら彼は誰だ? 服装から見て箱庭の住人の様な軽装をしてはいるが

、「外」から黒ウサギが運んで来たのなら別の可能性も出てくる。箱庭の「外」に存在している各 ”コミュニティ” 、通称『国』の一員。

だが『国』の一員ならそれ相応のギフトを持っている筈だし箱庭に来るのなら普通は複数人の団体だ。単独は珍しい、なら…………。

 

ジンは自分の知識で考えられる可能性という可能性を探した。

 

ふと、新たな可能性が彼の中に浮上した。仮定の話だか無い訳じゃない、だが到底信じられないような可能性を。

 

 

「…………え……えっと………く、黒ウサギ? 君が背負っている男性の方ってもしかして………彼女たちと同じ……………?」

 

 

訝しく聞いてみると、黒ウサギはコクリと頷いて答えた。

 

ジンは理解した。彼も黒ウサギが呼び出した者の一人であり、自分たちのコミュニティを ”救って” くれるかもしれない「人類最高クラスのギフト保持者」であるという事を。

 

 

(でも、隣の ”女性二人” と比べると全然そうには見えないんだけどなぁ……)

 

 

それに気絶して黒ウサギに背負われているのも気になる。

ジンはこうなった経緯を彼女に尋ねるのであった。

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

───時は、数時間前に遡る。

 

十六夜の指摘で ”四人目” の存在に気がついた黒ウサギは、急いで湖から引き上げ安否を確認した。

白目全開で気を失っているが、心臓は安定しており呼吸も穏やか。飲み込んだであろう水も数回のマッサージで吐き出した。

 

ホッとした黒ウサギは十六夜に早口で捲し立てた。

 

 

「も、もう! 十六夜さん! 気付いていたら何故教えて下さらなかったのデスカッ!?」

 

 

しかし十六夜はケラケラと笑いながら、

 

 

「いや教えたぜ? 『アイコンタクト』という名の会話で」

 

 

そんな風に平然と答えた。

 

 

「そんなので分かるわけないじゃないですか!」

 

「なに言ってんだ黒ウサギ。他の二人はちゃんと気付いてたぜ」

 

「う、ううう嘘です! 絶対嘘です!そんなことある訳───」

 

「あら、気付いていたわよ?」

 

「………うん。普通は気付く」

 

「───ッ! どうして初めて会ったのにそんなに息が合うんですか!?」

 

「「「以心伝心?」」」

 

「黙らっしゃい!このお馬鹿様方!!」

 

 

どこからともなく取り出したハリセンで三人の頭を叩くと、スパァーンッ! と軽快な音が響いた。

 

 

(この問題児たちは………!)

 

 

黒ウサギには自分の未来があまり良い形には想像出来なかった。コミュニティ的には非常に素晴らしいチームワークなのだろうが、個人的には頭を抱えざるを得ない。

 

だが今は頭を抱えている場合ではない。命に別状は無いとはいえ、このまま放置というのは忍びない。

 

 

「と、とにかく! 当初の通りまずは箱庭に向かい、仲間と合流します。話はそれからです。よろしいですか? 皆さん」

 

 

異議は無いのか無言で頷く三人。

 

ハァ、と黒ウサギはため息を吐いた。ここまで来るのに長かった、本当に長かった。だがこれでいい。ここはスタートライン、これから頑張って行こう。そう彼女は意気込むのだった。

 

 

 

 

背後で怪しい動きをしている問題児達に気づかずに…………

 

 

 

 

□■□■□■□

 

 

 

 

───時は戻り、箱庭入り口前

 

 

「───という訳がありまして………」

 

 

事の経緯を説明し終えた黒ウサギ。

説明している最中にどんどん疲れた様子を見せる彼女の心情を察しながら、ジンは労いの言葉をかける。

 

 

「そうなんだ……お疲れ様。………ところで、その十六夜さんという方は? 見た所、男性は黒ウサギが背負っている人以外見当たらないけど…………」

 

「え………………」

 

 

背負ったままクルリと振り返る黒ウサギ。

 

そしてそこにいるはずの ”一人” がいないコトに気がついてカチンと固まる黒ウサギ。

 

1、2、3、と何度数えても一人足りない。あの金髪ヘッドホンの問題児サマがいない。

 

突然の出来事にフリーズすること数十秒。黒ウサギはなんとか持ち直すも、衝撃が大きいのか少しフラついている。

 

 

「───え………あれ? い………十六夜さんは? 十六夜さんは何処に……いったい何処に行ったのですか?」

 

「 十六夜君? ………あぁ、彼なら ”世界の果てを見てくるぜ!” と言って駆け出して行ったわ。あっちの方へ」

 

 

あっちの方と言って飛鳥がさした方向は先程通って来た道の向こう、つまりあの湖がある方向であった。

 

 

「な………なんで止めてくれなかったんですか!!」

 

「 ”止めてくれるなよ” と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「 ”黒ウサギには言うなよ? 絶対に言うなよ?” と言われたから」

 

「嘘です! 今度こそ嘘です! というかそれ絶対に言う流れでしょう!!」

 

 

早くも泣きたくなってきた黒ウサギ。なんで言わなかったか理由を聞いてみると二人揃って「面倒臭かった」という始末。

話しかける前は新たな人材に胸を躍らせていたというのに、蓋を開けてみればどいつもこいつも問題児ばかり。ここまでくると嫌がらせにも程がある。眠っている四人目が常識人である事を心から祈らざるを得ない。

 

そんな彼女とは裏腹に、ジンは蒼白になって叫んだ。

 

 

「た……大変です! あそこには、”世界の果て” にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が!!」

 

「……幻獣?」

 

 

聞きなれない言葉に反応する耀。

 

幻獣とは、本来現実には存在しない生物のことを指す。だがジンは当然のように言っていた。そのことから恐らくこの世界には普通に存在するのだろう。

そして、それに近しい存在も。

 

 

「は、はい。ここではギフトを持った獣を指す言葉で、特に ”世界の果て” 付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、人間ではとても太刀打ちできません!」

 

「あら、それは残念。なら彼はもうゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……………斬新?」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は肩をすくめるだけ。

チラリと黒ウサギの方を見ると怒りなのか悲しみなのかプルプルと震えていた。

いなくなった十六夜という同士を連れ戻すためには、もう黒ウサギに頼るほかない。

こんな時、何もできない自分に腹がたつ。ジンは知らず知らずの内に左手を握り締めていた。

 

 

「ハァ…………ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、この方と御二人様のご案内をお願いしてよろしいでしょうか?」

 

 

そう言ってジンの前に背負っていた四人目をゆっくりと下ろす黒ウサギ。

 

「うん、わかった。黒ウサギは…………」

 

「はい、問題児を捕まえに参ります」

 

それと事のついでにと呟きながら、怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある蒼い髪を淡く美しい緋色に染めていく。

 

 

「”箱庭の貴族” と謳われるこのウサギを馬鹿にしたしたこと、骨の髄まで後悔させてやりますよ!」

 

 

外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと

 

 

「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」

 

 

そう言い残して外門に亀裂を入れて跳躍し、”世界の果て” に向かって文字通り弾丸の如くスピードで四人の前から消え去った。

その衝撃で巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえつけていた飛鳥が呟く。

 

 

「…………箱庭のウサギは随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですからね。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限りは大丈夫だとおもうのですが…………」

 

 

そう、と空返事をする飛鳥は心配そうにソワソワしているジンに向き直ると凛とした、しかし親しげのある声色で話しかけた。

 

 

「黒ウサギも ”堪能ください” と言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え……あ、はい。コミュニティのリーダーを務めている『ジン=ラッセル』です。齢十一になったばかりの若輩ですが、よろしくお願いします。飛鳥さん、耀さん」

 

「よろしく、ジン君」

 

「…………よろしく」

 

 

ジンが礼儀正しく自己紹介をすると、飛鳥と耀もそれに倣って一礼した。

 

自己紹介も済ませ、いざ箱庭へ! とはまだならず、ジンの困惑とした視線は仰向けに気絶したままの男性へと向けられていた。

飛鳥はその視線の先に気づき、補足説明を加える。

 

 

「あぁ、彼なら私たちも名前は知らないわ」

 

 

「そうですか…………わかりました。彼については目覚めてから後々聞くとして、このままというのもアレなので僕が背負っていきますね」

 

 

だか、体格の差というのだろうか。一生懸命ジンが運ぼうとしてはいるものの、重いのか半ば引きずりながら歩いている。それでも倒れないのは大したものだろう。

 

飛鳥と耀の二人はお互いの顔を見た後、頷きあいながら背負われている彼の襟首を掴み、引っ張った。

 

突然引っ張られたことによってバランスを崩し倒れそうになったジンは困惑したのち抗議の意を唱える。

 

 

「ちょ、ちょっと! 何するんですか!?」

 

「貴方が持つと重いでしょう? 私たちが変わるわ」

 

「そんな! 貴女方でも重いでしょう? それに女性にそんな事させられません!」

 

 

この中で動ける唯一の男としての意地なのかリーダーとしての意地なのかはわからないが、頑として彼を離そうとしないジン。

だが飛鳥にもプライドというのがある。子供一人に持たせるほど薄情のつもりはない。

 

 

「大丈夫よ、こうやって持てば……ほら」

 

 

それの何処が ”持つ” になるのだろう、とジンは思った。

彼の襟首を飛鳥と耀の二人が持ち、持ち上げている。飛鳥は若干辛そうだか、耀は涼しい顔をして余裕そうだ。

成る程確かに持っているといえば持っている。しかしこれは吊り下げているという表現がふさわしいのではないのか。

持ち上げられている彼も、喉が締まって顔を青くしている様に見える。

 

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずは………そうね、軽い食事でもしながら話をきかせてくれると嬉しいわ」

 

 

飛鳥は困惑した表情をしたジンの手を取ると、胸を躍らせ、子供みたいな無邪気な笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

襟首を掴んだ彼を耀と共に引きずりながら。

 

 




誤字脱字などの(ry

ハァ……………文才が欲しい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 現状のコミュニティ

ゴタゴタにつき投稿が遅れました。不定期更新ってこんなもんだよね!
いろいろ切羽詰まった状態でしたので内容がアレかもしれませんが、お楽しみ頂けたら幸いです。

読者の皆様、大変お待たせ致しました。

では、どうぞ!


 

あの後、ジンの後に続いて石造りの通路を通り箱庭の幕下に出た飛鳥と耀。ぱっと頭上に眩しいが降り注ぐ。遠くに聳える巨大な建築物と大空覆う天幕を眺めると、三毛猫がミャーミャーと鳴いた。

 

 

「…………本当だ。外から見た時は箱庭の街並みなんて見えなかったのに」

 

 

上空から落下中に箱庭を覆う天幕は見えたが、内側は見えていなかった。だというのに太陽が姿を現している。この奇妙な状態に首を傾げる。

 

 

「えー……と、箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんです。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

 

青空を見上げていた飛鳥はピクリと片眉を上げ皮肉そうに言った。

 

 

「あら、それじゃあこの都市には吸血鬼なんかも居るのかしら?」

 

「え? いや、居ますけど」

 

「………………そう」

 

 

皮肉のつもりで聞いた問いだが、当然のように返ってきたことに複雑そうな表情をする飛鳥。まさか同じ街に住めるような種族とは思えなかった。

 

 

「─────」

 

「あら、何か言った?」

 

「……別に」

 

 

素っ気な返事を返す耀に首を傾げる飛鳥。だがそれ以上は追求せず、目の前で賑わう噴水広場に目を向ける。噴水の近くには洒落た感じのカフェテラスが幾つもあった。

取り敢えずどこかの店に入ろうと思い、妙にソワソワしながら辺りをチラチラ見ているジンに聞いてみる。

 

 

「ジンくん、オススメの店はあるかしら?」

 

「え……あ、すいません。段取りはすべて黒ウサギに任せていたので………よかったらお好きな店を選んでください」

 

「それは太っ腹なことね」

 

 

そう言ってどの店にするか選ぶ飛鳥。その傍には先程のようにソワソワしているジン。それもそのはず、彼らの周りの人々からの目線殆どがこちらを向いているからだ。視線の先には耀に引きずられている少年がいる。未だ目覚める気配はなく、むしろ深めているだけな気がするがそれをツッコム気力も無い。

なんとも居た堪れない気分になりながら待っていると、飛鳥が身近にあった ”六本傷” の旗を掲げるカフェテラスを指差した。

 

 

「あそこにしましょう。いいわよね? ジンくん」

 

「は、はい! では早速行きましょう!」

 

 

早くこの場から逃げたかったジンは飛鳥の提案に即答した。その時声が変に上ずったが誰も気にしなかった。

 

カフェテラスに座り、耀が少年をドサッと地面に下ろすと、店の奥から素早い動きで注文を取りに少女が飛び出してきた。

 

 

「いらっしゃいませー! ご注文はどうしますか?」

 

(猫耳………!?)

 

 

注文を取りにきた少女には猫耳、尻尾といった猫と思えるものがあった。

黒ウサギのような者がいるなら他にも似たような者はいるだろうと思っていたが、まさか異種族と共存しているとは思わなかった。

 

 

「紅茶二つに緑茶一つ。あ、やっぱり緑茶は二つで」

 

「紅茶と緑茶を二つずつ……と。以上でよろしいですか?」

 

「あ、あと軽食にコレとコレと」

 

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」

 

 

………ん? と飛鳥とジンが不可解そうに首を傾げる。今我々が言ったのは紅茶に緑茶、ティーセットだけ。ネコマンマなんて言葉は言ってない。

 

 

「ネコマンマなんて頼んでないわよ?」

 

「いーえ、確かに頼まれましたよ。そちらの綺麗な毛並みの旦那さんが」

 

 

そう言って示す先には耀の膝に座る三毛猫の姿。ジンと飛鳥は驚いたが、彼ら以上に驚いているのは耀だった。信じれない物を見るかのような眼で猫耳の店員に問いただす。

 

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

「そりゃあ分かりますよー、私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」

 

 

自身の耳と尻尾を指差しながら可愛らしくウィンクをする猫耳店員。

突然三毛猫がせわしなく鳴き始めたかと思うと、

 

 

「やだもー! お客さんったらお上手なんだから♪」

 

 

猫耳娘は照れたように長いの鉤尻尾を揺らしながら店内に戻る。

 

その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

 

「………箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

 

ニャーと三毛猫は一鳴きすると、感慨深い様にほっこりしていた。

 

 

「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話できるの?」

 

 

珍しく動揺した声の飛鳥に、耀はコクリと頷いて返す。ジンも興味深く質問を続けた。

 

 

「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」

 

「うん。犬でも猫でも生きているなら誰とでも話は出来る」

 

「それは素敵ね………。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

 

「うん、きっと出来る………かも。ええと、鳥で話したことがあるのは雀や鷺やホトトギスぐらいだから…………あ、ペンギンがいけたからきっと大丈夫だとおも」

 

「「ペンギン!?」」

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

 

耀の声を遮るように飛鳥とジンは声を上げた。

二人とも驚いた点は同じだ。野鳥や野良犬や野良猫などならまだしも、ペンギンと会話する機会があるとは思わなかったのだろう。

 

 

「し、しかし全ての種との会話なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

「そうなんだ」

 

「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣はそれぞれが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいというのが一般的です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも、全ての種とコミュニケーションをとるのは出来ないはずですし」

 

「そう………春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

 

笑いかけられると、困ったように頭を掻く耀。対照的に飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟いた。

耀と飛鳥、気絶している少年もだが、出会って数時間。それほどまでに短い間柄だが、それでも飛鳥の表情が彼女らしくないと感じた。

 

 

「久遠さんは………」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね、春日部さん」

 

「う、うん。私も耀でいい。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私? 私の力は………そうね、まぁ酷いものよ。だって───」

 

「おんやぁ?誰かと思ったら東区画の最底辺コミュニティ ”名無しの権兵衛” のリーダー、ジン=ラッセル君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですかぁ?」

 

 

突然、品の無い上品ぶった声が飛鳥の声を遮り、ジンの名を呼ぶ。振り返ると2mを超える巨体を明らかにサイズが合っていないピチピチのタキシードで包んだ男がいた。

ジンは顔を顰めて男に返事をする。

 

 

「僕らのコミュニティは ”ノーネーム” です。”フォレス・ガロ” のガルド=ガスパー」

 

 

ガルドと呼ばれた男は鼻で笑うとギロリとジンを睨みつけた。

 

 

「どちらでも同じ意味だろう? この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである ”名” と ”旗印” を『奪われ』てよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ────そう思わないかい、”お嬢様方”」

 

 

愛想笑いを飛鳥たちに浮かべながら三人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろすガルド。しかし飛鳥と耀は、相手の失礼な態度に冷ややかな態度で返す。

 

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ ”六百六十六の獣” の傘下である」

 

「烏合の衆の」

 

「コミュニティのリーダーをして、ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧オォ!!」

 

 

ジンに横槍を入れられたガルドの顔は、怒鳴り声とともに激変した。口は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。

 

 

「口を慎めよ小僧ォ………紳士で通っている俺にも聞き逃せねぇ言葉はあるんだぜ………?」

 

「森の守護者だったころの貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二一〇五三八〇外門付近を荒らす獣にしか見えません」

 

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらんだろうがッ。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できてんのかい?」

 

「はい、ちょっとストップ」

 

 

お互いを邪険に罵り合う二人を遮るように手を上げたのは飛鳥だった。

 

 

「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえたうえで質問したいのだけど───」

 

 

飛鳥が鋭く睨む。しかし睨む相手はガルドではなくジンであった。

 

 

「ねぇ、ジン君。ガルドさんが指摘している私達のコミュニティが置かれている状況………というものを説明していただける?」

 

 

飛鳥にそう言われ、ジンは言葉に詰まった。と同時に、自分がとんでもない失態を犯したことに気づく。それは黒ウサギと口裏を合わせて隠していたことだった。

飛鳥はその動揺を逃さず畳み掛ける。

 

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私達にコミュニティとはどういうものなのかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

 

追及する声は静かに、しかしナイフのような鋭い切れ味でジンを責める。

それを見ていたガルドは獣の顔を人に戻し、含みのある笑顔と上品ぶった声音で飛鳥に肯定する。

 

 

「レディ、貴女の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の業務。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ ”フォレス・ガロ” のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧───ではなく、ジン=ラッセル率いる ”ノーネーム” を客観的に説明させていただきますが」

 

 

飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見る。ジンは俯いて黙ったままだ。

 

 

「………そうね。お願いするわ」

 

「承りました。まず、コミュニティとは読んで字のごとく複数名で作られる組織の総称です。受け取り方は種によって様々でしょう。人間はその大小で家族とも組織とも国とも言い換えますし、幻獣は ”群れ” とも言い換えられる」

 

「それぐらい分かるわ」

 

「はい、一応確認までに。そしてコミュニティの縄張りを主張する大事な物。この店にも大きな旗が掲げられているでしょう? あれがそうです」

 

 

ガルドはカフェテラスの店頭に掲げられてある ”六本傷” が描かれた旗を指さす。

 

 

「六本の傷が入ったあの旗印は、この店を経営するコミュニティの縄張りであることを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むのであれば、あの旗印はのコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際にそうやって大きくしました」

 

 

自慢げに語るガルドはタキシードの胸ポケットに刻まれた模様を指さす。

そこには虎の紋様をモチーフにした刺繍が施されていた。

耀と飛鳥が辺りを見渡すと、広場周辺の商店や建築物には同様の紋が飾られていた。

 

 

「その紋様が縄張りを示しているのなら………この近辺はほぼ貴方達のコミュニティが支配している、と考えていいのかしら?」

 

「ええ、残念なことにこの店のコミュニティは南区画に本拠を構えているため手出しできませんが………。

この二一〇五三八〇外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。残すは本拠が他区か上層にあるコミュニティと───奪うに値しない名もなきコミュニティくらいです」

 

 

クックッと嫌味を込めた笑いを浮かべるガルド。その視線はジンへと向いており、当の本人はやはり顔を背けたままローブをぐっと握りしめている。

 

 

「さて、私のコミュニティの話はここまでにしましょう。そしてここからがレディ達のコミュニティの問題。実は貴女達の所属するコミュニティは数年前まで、この東区画最大手のコミュニティでした」

 

 

ガルドの突然な内容に飛鳥が驚きの声を上げる。

 

 

「あら、それは意外ね」

 

「とはいえリーダーは別人でしたけどね。ジン君とは比べようもない優秀な男だったそうですよ。ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持っていた東区画最強のコミュニティだったそうですから」

 

 

ガルドは一転してつまらなそうな口調で語る。

 

 

「彼は東西南北に分かれたこの箱庭で、東のほかに南北の主軸コミュニティとも親交が深かったらしいのです。私はジン君のことは毛嫌いしてますが、これは本当に凄い事なんですよ。南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込むコミュニティだったというのは嫉妬を通り越して尊敬に値する凄さです。───まぁ先代は………ですがね」

 

 

全て事実なため言い返せず、ジンは歯を食いしばり耐える。

ガルドはそんな彼を気にせず話を続けた。

 

 

「人間の立ち上げたコミュニティではまさに快挙ともいえる数々の栄華を築いたコミュニティは………敵に回してはいけないモノに目を付けられた。そして彼らはギフトゲームに強制的に参加させられ、たった一夜で滅ぼされた。『ギフトゲーム』が支配するこの箱庭の世界、最悪の天災によって」

 

「「天災?」」

 

 

飛鳥と耀は同時に聞き返した。それほど巨大な組織を滅ぼしたのがただの天災というのはあまりにも不自然に思えたからだ。

 

 

「それは比喩にあらず、ですよレディ達。彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災───俗に ”魔王” と呼ばれる者達によって………ね」

 

 

軽薄に、しかし重々しく真剣みを帯びた声でガルドはそう言い放つのだった。

 

 

 




──オマケ──


その頃の黒ウサギ




黒「あぁーもう! 一体どこまで行っちゃったんですか!? 十六夜さーん! カムバァァァァクッ!!」





いまだに十六夜を探し回っていた。



───主人公、いまだ目覚めず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 堕落の虎

本ッ当にお待たせいたしました。やっとこさ完成にこぎつけたした。

四話をコツコツと仕上げていく中で、ジワジワと増えていくUA&感想&お気に入り。感無量の極みでございます。

いざ投稿しようものなら納得がいかなくなったり付け足したくなったり、書いたら書いたで終わり直前にパーになったりで散々な感じで進んでましたが、なんとか書き上げました。お楽しみいただけたら幸いです。

ではどうぞ!


 

 

「魔王?」

 

 

新たに聞き覚えのない言葉に首を傾げる二人。

 

 

「えぇ、貴女達の世界で取り上げられている ”魔王” とは少し差異がありますがね。”主催者権限(ホストマスター)” という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏、それが ”魔王” です」

 

 

またもや聞き覚えのない言葉が飛び出し首を傾げる二人。ここまでくると流石に頭がショートする、そう思い飛鳥は問い返した。

 

 

「ちょっと待って。その ”主催者権限(ホストマスター)” というのは───」

 

「もちろん、そのことについても説明させていただきます」

 

 

そしてガルドは語り始めた。

 

主催者権限(ホストマスター)” とは、ギフトゲームを自由に開催できる権限のことで、いかなる難易度のゲームも、 ”主催者権限” にかかればどんな理由であろうと参加させられる。そして先に待つものは圧倒的な力で滅ぼされるという絶望。

 

 

故に ”魔王”、故に ”天災”。

 

 

その ”魔王” のゲームに敗北したジンのコミュニティは、コミュニティに必要な全てを奪われた。全てとはそれすなわち、名と旗印。そして寝食をともにし支え合った仲間。

その全てがたった一つのゲームで消え去ったという。

 

そんな彼の説明を静かに聞いていた飛鳥と耀は、それぞれに出されたカップを片手に話を反復する。

 

 

「………なるほどね。だいたい理解したわ。つまり ”魔王” というのはこの世界で特権階級を振り回す修羅神仏のことを指し、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として滅ぼされた。そういうこと?」

 

「その通り。神仏というのは古来、生意気な人間が大好きですから。愛しすぎた挙句に使い物にならなくなるのはよくあることなんですよ」

 

 

ガルドはカフェテラスの椅子の上で大きく両手を広げ、皮肉そうに笑う。

 

 

「名も旗印も主力陣も全て失い、残ったのは膨大な居住区画の土地だけ。今や失墜した名も無きコミュニティの一つでしかありません」

 

「………」

 

「それに、名乗ることを禁じられたコミュニティに一体どんな活動ができるでしょう。商売? 主催者(ホスト)? 名も無き組織など信用されません。優秀な人材も失墜したコミュニティに加入したいと思うでしょうか?」

 

「………誰もそうは思わないでしょうね」

 

 

そう。ジンはそうやって出来もしない夢を掲げて過去に縋り付く、恥を知らず亡霊でしかない。ガルドは豪快な笑顔で彼とそのコミュニティを嘲笑う。

 

 

「もっと言えば彼はコミュニティの再建を掲げてはいるものの、その実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもらうだけ。ウサギといえばコミュニティにとって所持しているだけで大きな ”箔” のつく存在。どこのコミュニティでも破格の待遇で愛でられる筈です。なのに彼女は毎日毎日子供達の為に僅かな路銀でやりくりしている」

 

 

それが非常に残念でなりません。と付け加る。

 

 

「………事情はよくわかったわ。それで、貴方はどうして私達に丁寧に話をしてくれるのかしら?」

 

 

飛鳥のもっともな疑問に、待ってましたと言わんばかりに笑みを深めるガルド。

 

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」

 

「な………なにを!?」

 

 

ジンは焦った。藁にも縋る思いで呼び出した優秀と太鼓判を押された人材を取られたら、もうコミュニティの未来がない。再建することも仲間たちを取り戻すことも不可能になる。

自分達のコミュニティとガルドのコミュニティを比べたらあちらの方が条件は美味しい。

 

 

「そうね………確かにガルドさんの話を聞いている限りだと貴方のコミュニティに入った方が賢明な選択といえるでしょうね。崖っぷちギリギリのコミュニティと支配者だと天と地ほど差があるもの」

 

 

飛鳥の言葉を聞いてガルドは勝利を確信し、いやらしい笑みを浮かべた。

ジンはこれから言われるであろう言葉にギュッと目を瞑り、諦めと共に待つ。

 

 

 

 

「でも結構よ」

 

 

 

 

しかし予想に反して彼女の返事はNO。キッパリとガルドの勧誘を蹴った。

ジンとガルドは理解できないような惚けた表情で「はっ?」と間抜けた声を出し、飛鳥の顔を窺う。

 

 

「聞こえなかった? 「結構よ」と言ったのよ。私はジン君のコミュニティで間に合ってるわ」

 

 

彼女は再び言うと何事もなかったようにティーカップの紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。

 

 

「春日部さんは今の話をどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの。どっちのコミュニティに属するかなんてどうでもいい」

 

「あら意外。じゃあ私が友達第一号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするのよ」

 

 

飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。

耀は無言で少し考えた後、小さく笑って頷いた。

 

 

「………うん。飛鳥は私の知る女の子とはちょっと違うから大丈夫かも」

 

「そう、嬉しいわ。なら今度黒ウサギも交えて女の子同士、お茶でも飲みながら話ましょうか」

 

「………それ、ガールズトークっていうんだよ?」

 

「がーるず、とーく……?」

 

「えーと、ガールズトークっていうのはね………」

 

 

リーダー達そっちのけで話が盛り上がる二人。全く相手にされなかったガルドは顔を引きつらせ、それでも取り繕う様に大きく咳払いして二人に問う。

 

 

「………理由を教えてもらっても?」

 

「だから、間に合ってるのよ。春日部さんは聞いての通り。そうよね?」

 

「うん」

 

「そして私は裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払ってこの箱庭にきたのよ? それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力を感じるとでも思ったのかしら。だとしたら笑い物ね。貴方自身の身の丈にあった台詞を言われた方がマシよ」

 

 

ピキリとガルドに青筋が立つ。だが必死に堪え、自称紳士としての言葉を探していた。

そんなガルドを無視して飛鳥はさらに言葉を続ける。

 

 

「何よりこの久遠飛鳥がもっとも好きなことの一つは、自分の思い通りに事が運ぶと思っているヤツにキッパリと断ってあげる事よ………わかったら修行して出直して来なさい、エセ虎紳士さん?」

 

 

ピシャリと言い切る。ガルド=ガスパーの怒りは自身の沸点を超えていた。だが自称しているとはいえ紳士としての肩書きがなんとかブレーキをかけていた。

 

 

「お………お言葉ですが───」

 

「私の話はまだ終わっていないわ」

 

 

ガルドの有無を言わさずに話し出す飛鳥。彼女の内に渦巻いているある疑問をジンに問いかける。

 

 

「貴方はこの地域のコミュニティに ”両者合意” の上で勝負を挑み、勝利したと言っていたわ。けれど………ねぇ、ジン君。コミュニティそのものをチップにするゲームはそうそうあることなの?」

 

「い、いいえ。どうしようもない時なら稀に、でもかなりのレアケースです」

 

「そうよね。では ”魔王” でもない貴方がコミュニティを賭けあうような大勝負を強制的に続けることが出来たのか、そこに座っておしえてくださる(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

飛鳥がそう言うと、ガルドは椅子にヒビが入るほど勢いよく座り込む。

 

 

(なん………だ……!?)

 

 

ガルドの意に反した身体の行動。まるで強制的に動かされたかの様だった。

理解不能の状況にパニックになったガルドの思考が回転するよりも早く事は動き始めていた。

 

 

「お、お客さん! 当店で揉め事は控えてくだ───」

 

「ちょうどいいわ。猫の定員さんも第三者として聞いていてくれないかしら? きっと、面白いことが聞けるハズよ」

 

 

飛鳥が話せと呟くと、ガルドは語り始めた。

 

 

「………あ、相手コミュニティの女子供を攫っ…て脅迫し、ゲームに乗らざるッ………を得ない状況に圧迫するっ。コミュニティを、吸収した後も……」

 

「吸収した後も?」

 

「ガルド=ガスパー………?」

 

 

様子がおかしい。飛鳥の質問に答えているが、答え方が明らかに不自然だ。いうなれば、糸で操られる人形といった所か。

体が震え、テーブルにヒビが入るほど力を込めていることから必死に抵抗はしているようである。だが、結果はどれも無意味に終わっている。

 

 

「数人ずつ………ッ子供を人、質にとってある」

 

 

ピクリと飛鳥の片眉が動く。言葉や表情には出さないものの、嫌悪感が滲み出ていた。コミュニティには無関心だった耀も不快そうに目を細めている。

 

 

「………そう、それで? その子供達は何処に幽閉されているの?」

 

「もう……殺した………ッ」

 

 

その場の空気が瞬時に凍った。

誰一人として、自身の耳を疑った。

ジンも、定員も、耀も、飛鳥でさえも。

ガルドただ一人のみが命令されたまま淡々と言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「始めてガキ……共をッ…連れてきた日、泣き声が頭にき……て殺した。それ以降は自重しようと……ッ思ったが、泣き続けるのでやっぱり殺…した。だから……ッ! 連れてきたらすぐに殺すことに決め───」

 

黙れ(・・)

 

 

ガチンッ! とガルドの口が先ほど以上に勢いよく閉ざされた。

ジンは思った。ガルドの奇行は全て飛鳥が言葉を発した通りに動いている。つまり、

 

 

(飛鳥さんのギフトは他人に行動を強制させる………?)

 

 

そう当たりを付け飛鳥の方を向くが、一瞬恐怖で体が固まった。

なぜなら彼女は先ほど以上に『スゴ味』を増し、絶対零度な目でガルドを睨んでいたからだ。

 

 

「………清々しい程に外道ね。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら」

 

 

絶対零度の目のままジンに話を投げかける飛鳥。その冷ややかな視線に慌てて否定する。

 

 

「か、彼のような悪党は箱庭でもそうそういません!」

 

「なら、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるのかしら?」

 

「……厳しいです。もちろんガルドの行為は違法ですが………裁かれるまでに箱庭の外に逃げてしまえばそれまでです」

 

 

それは、ある意味『裁き』とも言えなくもない。リーダーが消えれば、烏合の衆である ”フォレス・ガロ” が瓦解するのは目にみえている。

だが、久遠飛鳥はそれで満足するほど安い人物ではなかった。

 

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

 

苛立たしげに指を鳴らす。それが合図なのだろう。ガルドを縛り付けていた力が拡散し、体に自由が戻る。

 

 

「俺に………手を出したな……」

 

 

ワナワナと体を震わせ不自然に膨張していくガルド。顔は虎に変わり、体毛も変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

彼を包んでいたスーツは耐えきれずに弾け飛んだ。

 

 

「この───小娘がアァァァァァ!」

 

 

雄叫びとともにテーブルを粉砕する。どれほどの怒りがガルドの中で渦巻いているのかがよくわかる光景だった。

 

 

「テメェ、どういうつもりかは知らねぇが………俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見に「キャァァァァァァァ!!」───ナンダァ!?」

 

 

突然響いた悲鳴の方へガルドは苛立ちを抑えようともせずに睨む。彼にしては当然だろう。上手く引き込めるかと思った新戦力が、自分のコミュニティではなくジンの方に付き、尚且つ秘密までギフトらしき力でベラベラと喋らされたのだから。

視線の先には、悲鳴の主である猫の店員が震えながらガルドを指している。いや、正確にはその下。ガルドによって破壊されたテーブルを指差していた。

そこには耀に引きずられ、今の今まで忘れ去られていた少年がテーブルの残骸の中に倒れていた。

 

再び空気が凍り、あちこちから悲鳴が上がる。

 

ガルドは訳がわからなかった。”ノーネーム” によって異世界から呼び出された者達を奪うつもりで近づいたのに、拒否られるは秘密を喋らされるは。しかも異世界の者はもう一人居て、自分の手で倒れていると言われている。

 

飛鳥と耀は忘れてたような表情をするものの、何を思いついたのか飛鳥の目が怪しく光る。耀も同じなのか笑みが黒い。

二人は目を合わせると頷きあい、行動に移した。

 

 

「あぁ、 なんてこと!? 私達の仲間が死んでしまったじゃない!!この……人でなし!外道!!悪魔!!」

 

「やっぱり彼は生き残れない運命なんだね………」

 

「それは切なすぎませんか!?」

 

 

今二人が行っているコレ。言うなれば『この状況、殺人未遂の疑いで手っ取り早く裁いてもらおう』作戦。

ガルド自身はすでに違法行為で裁かれるのは確定だが、待っている時間がもどかしい。だからこの状況を利用してさっさと裁いてもらおうという魂胆である。

当然、彼自身を知らない故に身に覚えのないガルドは狼狽える。

 

 

「ま、待て! 俺は殺ってな───」

 

「黙りなさい。 テーブルの残骸に埋もれて倒れているのがその証拠よ!」

 

「言い逃れなんて………流石は外道」

 

「あー……やはり人質を殺すような人物のやる事は残虐ですね」

 

 

それぞれがガルドを強引……というかなんというか。とにかく、言葉と状況を巧みに扱い追い詰めて行く。ジンも飛鳥達の意図に気付いたのか乗ってくる。

 

ガルドは無実を主張するものの、先程の自白により誰からも信用されていなかった。

 

このままいけば押し切れる。そう思った飛鳥はさらに言葉を紡ごうとした。だが、

 

 

 

 

「………うるさいなぁ。静かにしてくれ、耳に響くから」

 

 

 

 

気怠げな目とともに少年が、のっそりと起き上がった。

 

 

「ふんっ!!」

 

「───ぐッ!?」

 

 

とっさに飛鳥と耀が起き上がった少年に蹴りを叩き込む。飛鳥のつま先が溝内に、耀の踵が脳天に、それぞれヒットした。

強烈な蹴りを食らった少年は、白目をむいて昏倒する。

妙にやりきった表情の二人は手を叩くとガルドに向き直り、

 

 

「なんてことをしてくれたのよ!」

 

「やっぱり彼は生き残れない運命なんだね………」

 

 

彼が起き上がったことを無かった事にした。これにはガルドも少年に同情の念を禁じ得ない。野次馬達も堪らず微妙な表情。

飛鳥は誤魔化すように咳払いをすると、

 

 

「悪ふざけはここまでにして、ガルドさん。私達は誰が上であれ、屈する気はありません。それが魔王であろうともね。ジン君の最終目標はコミュニティを潰した ”打倒魔王” だもの」

 

 

”打倒魔王”。 その言葉に大きく息を呑む。怖気づきそうになる。目を逸らしたくなる。だが、それだけじゃ何も変わらない。今はこんなにも心強い『仲間』がいる。

ジンは自身を奮い立たせ、ハッキリと宣言する。

 

 

「………はい。僕達のコミュニティは ”打倒魔王” を目指しています。貴方の脅しに屈する気はありません」

 

「そういう事。つまり貴方には破滅以外の道は存在しないという事よ」

 

「く………クソッ……!」

 

 

逆に崖っぷちの状況に追い込まれたガルドは小さく悪態をつく。

それを見て機嫌を少し取り戻した飛鳥は話を切り出す。

 

 

「でも私は貴方のコミュニティが瓦解する程度では満足できないの。えぇ、できないわ。貴方の様な輩はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。私が満足するまでね。そこで皆に提案があるのだけれど」

 

 

飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。

飛鳥は悪戯っぽい笑顔でガルドを指差し、

 

 

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の ”フォレス・ガロ” 存続と ”ノーネーム” の誇りと魂を賭けて、ね」

 

 

堂々と、『ギフトゲーム』を挑んだ。

 

得るものも、失うものも、何も無い完全なる自己満足のゲーム。幕が上がるのは近い───

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、気絶させられた少年はジン君によって介抱されてました。

 

 

 

 






───オマケ───

飛鳥達がガルドに『ギフトゲーム』を挑んだ頃………


十「ところで黒ウサギ。引き込むのは勝手だが、あいつにはあのとき説明も何も聞いてなかったんだろ? そこから始めなきゃな(笑)」

黒「はい………え? え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


また同じ説明をしなきゃいけない。あぁ、今度はどんな反応をされるんだろうか。そう思うだけで黒ウサギの疲れが倍率ドンで出てきたのは言うまでもない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 東の白き最強 その①

久しぶり過ぎる更新、大変お待たせしました。
作者としてのプレッシャー、読者の目を考えていたらもう体が重くって重くって………。
えー………となんとか試行錯誤して書きました。楽しく読んでくれると嬉しいです。アレ作文?


ガルド騒動からだいぶ時は過ぎ、日が暮れた頃。十六夜を連れて合流した黒ウサギは、知らされた展開に絶句し、ウサ耳と髪を逆立たせ、噴水広場には嵐のような怒号が響き渡っていた。

 

 

「ちょっと目を離した隙に他コミュニティに喧嘩を売るなんて!」

「しかもゲームの日取りは明日!?」

「準備するお金も時間も無い!」

「それなのに相手のテリトリー内で戦うって狂ってるんですか!?」

「どういうつもりがあってここまで発展したんですか!!」

 

 

この黒ウサギの問いに三人の返答は総じて「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」であった。

当然それに激おこプンプン丸状態へと変貌した黒ウサギだったが、十六夜によって止められる。

 

 

「別にいいじゃねぇか黒ウサギ。見境なくケンカを売った訳じゃないんだから許してやれよ」

 

「そうはいきません! この ”契約書類(ギアスロール)” を見てください!」

 

 

そういって ”契約書類” をバッと十六夜に突きつける。その ”賞品” の欄にはこう書かれていた。

 

 

「”参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する” ───確かに自己満足だな。ほっとけば勝手に済む話をリスクを背負ってまで短縮させるんだから」

 

 

ちなみに飛鳥達のチップは ”罪を黙認する” というもので、今回に限らずこれ以降も口を閉ざし続けるという意味がある。

 

 

「しかし時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって……肝心の子供達は………」

 

「えぇ、人質は既にこの世にはいないわ。その点を突けば必ず証拠は出るでしょうけど、あの外道を裁くのに時間なんてかけたくないの」

 

 

箱庭の法はあくまでも箱庭都市内のみ有効。無法地帯となっている外は様々な種族のコミュニティがそれぞれの法と秩序の下生活している。

逃げ込まれてしまえばそれまでだが、”契約(ギアス)” を結んでいる限り逃れることはできない。

 

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされていることも許せないの。ここで逃せば、いずれまた狙ってくるわ」

 

「それはそうですが…………」

 

 

飛鳥の思いに黒ウサギは渋る。だが、ガルドの悪行を考えれば最もなこと。諦めたようにため息を吐き、頷いた。

 

 

「仕方のない人達です。まぁ腹立たしいのは黒ウサギも同じですし、”フォレス・ガロ” 程度なら十六夜さん一人いれば楽勝でしょう」

 

「あ? 何言ってんだよ。俺はやらねぇぞ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

 

フン、と鼻を鳴らす二人。ぽかーんとする黒ウサギだったが、慌てて二人に食ってかかる。

 

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なのですからちゃんと協力しないと!」

 

「そうじゃねぇ。そういうことじゃねぇんだよ黒ウサギ」

 

 

先ほどまで軽薄の笑みしか浮かべていなかった十六夜が、真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

 

 

「いいか?これはコイツらが『売った』。そしてヤツが『買った』喧嘩だ。なのに俺が首を突っ込むのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、よく分かってるじゃない」

 

「………あぁ、もう好きにしてください…………」

 

 

もうどうにでもなれ。それが丸一日振り回されて黒ウサギが理解した彼らへの接し方だった。

 

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

 

「さて! そろそろ行きますか? 本当なら皆さんを歓迎する為に色々とセッティングしていたのですが……」

 

「いいわよ、無理しなくて。ジンくんから聞いたけど、私たちのコミュニティは崖っぷちなんでしょ? 」

 

 

「おい」

 

 

「も、申し訳ございません。皆様を騙すのは気が引けたのですが……」

 

「もういいわ、黒ウサギ。私は別に気にしてないから。春日部さんはどう?」

 

 

「お〜い、無視してんじゃねぇよ」

 

 

「私も怒ってない。ただ………お風呂とご飯と寝床さえあればいいな、とは思ってる」

 

「それなら大丈夫です! 十六夜さんがこんなにも大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから! これなら他所のコミュニティから水を買う必要も無くなります♪」

 

 

「もしも〜し。ちょ、ねぇ聞いてる?」

 

 

「それは良かった。今日みたいに理不尽に湖に投げ出されたから、お風呂には入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな手荒い召喚は二度とゴメンだ」

 

「そ………それは黒ウサギの責任外の出来事なのですヨ………」

 

 

「いや、いい加減気付けよォォォォ!」

 

 

その掛け声とともに、突如として黒ウサギの耳が誰かに引っ張られた。

声の方へ皆が振り向くと、飛鳥と耀が気絶させた少年が、引きつった表情で立っていた。

 

 

「お前ら無視してんじゃねぇーよ。何回呼びかけりゃあ気が付くんだ」

 

「「「あ、いたんだ」」」

 

「なにそのナチュナルな返し方!? 俺ココにいたよね? ずっと話しかけてたよね? お前らの目は節穴か!! 気付かないフリも大概にしろッ!!」

 

「ちょっ! 痛い、痛いです!」

 

 

叫びながら黒ウサギの耳に力を込める少年。無視され続けたせいで怒りが爆発したのか、どうやら自分が掴んでいるものも見えていないようである。

 

 

「だいたい、さっきから何の話をしてるんだ。コミュニティとか、崖っぷちとか、水樹の苗とかさぁ………お宅らアレなの? 毒電波なの? そういうお年頃なの?」

 

「あ、あの………耳」

 

「あ?」

 

「耳………痛いです」

 

 

涙目で痛みを訴える黒ウサギ。それを見た少年の表情は、驚愕で顔が動かないといった具合だ。

 

 

「…………これは?」

 

「いやだから………黒ウサギの素敵耳です。 それを引き抜きにかかってるじゃないですか………」

 

「素敵耳っつーかウサギ耳……? い、いやいやいやいや。っな訳ねェーよ。 頭に人間には無いパーツ付いてるけどそんな訳ねェーよ。うん」

 

 

突然、誰に対してか分からない言い訳を言い始めた少年。

どっぷりと冷や汗を流し出し、ウサ耳を握りしめる手どころか、体中が小刻みに震えていた。

 

 

「これってアレだろ? 都会なんかでよく見るアレだろ? 頭に付けるサムシング的な何かだろ? いやー、よく作り込まれてるなーホント。この手の感触、触り心地、全てが本物みたいだ」

 

 

触り続けるごとに顔はひくつき、目は死んでいき、滝のように冷や汗を流す。

 

 

「黒ウサギの耳は本物でございますヨ!? 現に引っ張って抜けないじゃないですか!」

 

「本物? ………そ、そんなバカな話がある訳が……」

 

 

少年は恐る恐る引いてみるが、耳は何かに引っかかったように抜けなかった。二、三回繰り返すも結果は同じ。弱々しく耳から手を離すと、

 

 

「ハ、ハハ………そんなバカな……いや、ありえねェよ……だってそんな…………」

 

 

ブツブツと狼狽え、両手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

黒ウサギは掴まれた耳をさすりながら、心配そうに少年の顔を伺う。

 

 

「あ、あの〜………大丈夫ですか?」

 

「────ッッ!? 」

 

 

黒ウサギの顔を見た瞬間、少年は思いっきり後ずさった。

 

 

(………混乱している?)

 

 

黒ウサギはそんな少年を見て思わずそう考えてしまった。

 

 

「えーと……彼は【城之内伏明(じょうのうちふせあき)】さん。貴方達と同じく召喚に応じてくれたギフト保持者です」

 

 

見かねたジンが少年、伏明を紹介する。黒ウサギは伏明の反応に疑問を持ちつつも、一から説明をしなくて済んだことにホッ胸を撫で下ろした。

 

 

「伏明さん。彼らがコミュニティ ”ノーネーム” の仲間達です。左から十六夜さん、飛鳥さん、耀さん、そして黒ウサギです」

 

「ヤハハ、これから頼むぜ」

 

「よろしくお願いするわ、城之内君」

 

「………」

 

「………よろしく、十六夜に飛鳥に耀。だが黒ウサギ、テメェはダメだ」

 

「なぜですか!?」

 

「その耳だよ耳。似合ってるけどなんかグニグニしてるし生暖かいしぃ! そこはヘアバンドにしてくれ割とマジで! 300円上げるからァァァァ!」

 

 

ジンの背後に隠れながらそんな風に少女を恐れる情けない男の図がそこにあった。

当然そんな反応をされた黒ウサギは落ち込んだ。

 

 

「あはは……それじゃあ今日はコミュニティへ戻る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。私たちは皆様のギフト鑑定に ”サウザンドアイズ” に行ってきます」

 

 

十六夜達四人は首を傾げて聞き直す。

 

 

「”サウザンドアイズ”? 店の名前か?」

 

「YES。箱庭の東西南北・下層上層全てに精通し、特殊な ”瞳” のギフトを持つ者達が集まる超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店があるので」

 

「ギフト鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力は大いに上がります。皆さんも力の出処は気になるでしょう?」

 

 

同意を求める黒ウサギに対し、思う所があるのか複雑な表情で返す三人。だが伏明は、

 

 

「そのギフトっていうの? 悪ぃがそんな素敵能力、俺は持ってねぇぞ?」

 

「そんなはずはありません。『手紙』によって呼び出されたということは、なんらかのギフトを保持しているということになります。貴方が自覚なく使っているのでは?」

 

「使ってねぇよそんなもん。そんな超能力なんざ俺がいた所じゃ ”空想の産物(もうそう)” だしよ。俺は人の腹から生まれた人だからな」

 

 

頑なにギフトを持っていないことを主張する。しかし呼び出された以上何かしらのギフトは持っていると言う黒ウサギ。真相は ”サウザンドアイズ” で証明されることとなった。

 

 

 

 

 

 

そして現在、黒ウサギ達は ”サウザンドアイズ” を目指し歩いていた。

道中の並木道には桃色の花を美しく散らしている花があり、それを見た飛鳥が不思議そうに呟く。

 

 

「桜の木………ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているハズがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばっかりだぞ? 気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「………? 今は秋だったと思うけど」

 

 

三人とも話が噛み合わないことに顔を合わせて疑問符を浮かべる。

その様子に黒ウサギは笑って説明する。

 

 

「皆さんはそれぞれ別の時間、場所、世界から召喚されているのデス。元々の時間軸は勿論、歴史や文化、生態系など所々違う箇所はあるはずですよ」

 

「へぇ………パラレルワールドってやつか?」

 

「実際は立体交差平行世界論というものですが………それを語ると一日や二日じゃ時間が足りないのでまたの機会に…………そういうわけで」

 

 

クルッと振り返り、気不味い雰囲気を醸し出しながら後列から離れている伏明に話しかけた。

 

 

「ふ、伏明さーん? そろそろ団体行動に馴染んでくれると嬉しいのですが………」

 

「いやお前待てお前。俺は特別なチート人間でもハイパーナントカ人でも無いってさっきも言ったよね? 一般ピーポーになにを求めてんだよ」

 

 

怪訝な目つきで黒ウサギを見据える伏明。黒ウサギとしては『ギフト』保持者じゃない事自体が信じられない。もし真実ならばコミュニティの戦力低下はもちろん、関係のない人間を巻き込んでしまっている。そうなれば申し訳無さを通り越して心苦しい。

 

 

「別にこういう展開を期待してはいたけどさ、例えるならばレベル1どころか戦力外NPCから始まる主人公みたいになるとは誰が予想したよ」

 

「なに言ってるんですか……」

 

 

訳の分からない例え話に呆れる黒ウサギ。その傍で飛鳥が何かを見つけたのか黒ウサギに問いかける。

 

 

「あ、ねぇクソウサギ。例の支店ってあれかしら?」

 

「え? 今クソウサギって言いました? 言いましたよね?」

 

「言ってないわよ? クソウサギ。いいからさっさと行きましょう」

 

「言ってるじゃないですか!? なんですかクソウサギって! 酷い言われようですけど!?」

 

「うっせぇぞクソビッチ。早くしねぇとその無駄な胸引きちぎるぞコラ」

 

「クソビッチ!? わ、私はクソビッチなんかじゃありません! っていうか原型が無さ過ぎるでしょう!?しかも胸!?セクハラですよ!!」

 

 

ギャーギャー騒ぎながらも ”サウザンドアイズ” 支店に到着した一行。だが既に割烹着姿の女性店員により店の看板が下げられようとしていた。

それに気づいた黒ウサギは急いで走り込み、

 

 

「まっ………!」

 

「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっておりません」

 

 

待ったをかけることも出来なかった。流石は超大手コミュニティと言ったところか。

 

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです! 閉店時間の五分前に締め出すなんて!」

 

「五分前? 早ェなそれ、どんだけ帰りたいんだよ。多分俺も同じことするけど」

 

「貴方はまともに働いてください!」

 

キャーキャー喚く黒ウサギ。だが店員は、店の前で礼儀も無く騒ぐ黒ウサギ達に流石にイラついたのか、冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

 

「………なるほど、”箱庭の貴族” であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますのでコミュニティの名をよろしいでしょうか?」

 

「やべぇって、アレ絶対怒ってるって。だってドス利かせちゃってるもん、青筋立っちゃってるもん」

 

「無駄に黒ウサギが騒ぐからじゃないかしら? ほら、彼女神経質だから………」

 

「いや、それを含めて計算尽くって可能性もあるぜ。怒らせて押しきろう、的な」

 

「………それはないんじゃないかな」

 

「そこ! だまらっしゃい!」

 

「よろしいでしょうか!!」

 

 

あいも変わらず漫才を続ける彼らに業を煮やしたのか大声で怒鳴る店員。彼らもふざけ過ぎたと思ったのか黙った。

疲れる、店員は純粋にそう思った。

 

 

「………ハァ。それで? 名を確認させてもらえないでしょうか? もしや ”無い” 何てことはありませんよね?」

 

「う………それは…その」

 

 

一番辛い所を突かれ言葉に詰まる黒ウサギ。だが十六夜は何の躊躇いもなく名乗りを上げた。

 

 

「俺達は ”ノーネーム” ってコミュニティなんだが」

 

「では何処の ”ノーネーム” 様でしょう。よろしければ旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「………なるほどね、”名” と ”旗印” か」

 

 

十六夜は理解した。この箱庭で ”名” と ”旗印” は必要不可欠。それを持たない、もしくは奪われた者は皆その他の意で ”ノーネーム” と呼ばれる。名前だけなら旗印を見せれば身分証明ができるが、こちらは旗印すら奪われた『身元が知れない不審者』ということになる。

ガルドが言っていた ”ノーネーム” のリスクとは、まさにこの様な状況を示していた。

 

 

「ま、まずいです……このままじゃ」

 

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉい! 久しぶりだ黒ウサギぃィィィィィィィィ!」

 

 

瞬間、黒ウサギが視界から消えた。謎のちっこい影に連れ去られて。

その影と黒ウサギは勢いに任せて吹き飛んだ後、仲良く水路に落っこちた。

十六夜達は目を丸くし、店員は痛そうに頭を抱えた。

 

 

「………この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも可」

 

「やりません」

 

「言ってる場合かよ。おーい、バニー擬き大丈夫かー?」

 

 

真剣な顔で割とどうでもいいやりとりをしている二人にツッコミを入れた伏明は、ぶっ飛んだ黒ウサギに思ってもない言葉を投げ掛けた。

一方、水路に叩き落とされた黒ウサギはひっつく白髪の少女に胸を蹂躙されていた。この少女が先程黒ウサギに突っ込んでいった者で間違いはないだろう。

 

 

「フホホホへへへへヒョヒョヒョヒョヒョ!」

 

 

奇声を上げながら胸に顔をなすり付ける様子は、何処か「風紀委員(ジャッジメント)ですの!」を彷彿とさせた。

 

 

「し、【白夜叉(しろやしゃ)】様!? どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「フヘヘへへ! いやなに、そろそろ黒ウサギが来る予感がしておっての。しかしウサギの触り心地は違うのう! ウェヘヘへ、ほれ! ここが良いかここが良いか!」

 

 

涎を垂らしにやけながらも理由をいうが、胸に顔をすり付けることは止めない白夜叉と呼ばれた少女。

 

 

「ちょっ……やめ……いい加減、にして下さい!!」

 

 

それを無理矢理引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

クルクルと弧を描き綺麗な着地をする寸前のところで十六夜に蹴り飛ばされた。

 

 

「てい」

 

「ゴバァ!」

 

 

だがその軌道上には黒ウサギの醜態を眺めている伏明が。

そのまま距離が近づいていき───

 

 

 

 

ブスリ

 

 

 

 

 

───そんな嫌な音を立てた。

 

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!」

 

「お、おんしぃ! 飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばし、あまつさえ人様にぶつけるとは何様じゃ!」

 

「十六夜様だぜ和風ロリ。ちなみにそいつがそこに居たから当たったのであって、俺は悪くない。悪いのはそこにいたそいつだ」

 

「暴君かおんし!?」

 

「ちょっ、ねぇ、これ頭穴空いてない? 大丈夫? ねぇ、これ大丈夫?」

 

 

悪びれることなく自己紹介をする十六夜に驚愕する白夜叉。その傍ではぶつかった頭をさすりながら怪我をしてないか心配する伏明。あの様な痛々しい音を立てたというのに穴は空いていなかった。血は止めどなく流れているが。

一連の急展開に呆気にとられていた飛鳥だったが、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

 

「貴女は店の人なの?」

 

「おお、そうだとも。この ”サウザンドアイズ” の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー、それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

 

どこまでも冷静な声で店員が釘を刺す。

水路から上がって戻ってきた黒ウサギは濡れた服を絞りながら複雑そうに「私も濡れることになるなんて」と呟いた。それを聞いた耀は「因果応報」と呟き返した。

その言葉にがっくりと肩を落とす黒ウサギであった。

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

あの後、白夜叉のご厚意でなんとか中に入れてもらえた一行。店は閉めたとのことなので、彼らは白夜叉の私室へと案内された。

 

 

「改めて自己紹介しようかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている ”サウザンドアイズ” 幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっておりますよ本当に」

 

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

 

「その外門ってなに?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門です。数字が若い程都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 

上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴って門には数字が与えられている。

黒ウサギが言っていた様に、外門から数えて七桁の外門、六桁の外門、五桁、四桁と若くなるほどに強大な力を持つ修羅神仏が割拠している

 

 

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

 

うん、と頷き合う三人の身も蓋もない感想にガクッと肩を落とす黒ウサギ。伏明はどうでもよさそうにため息を吐いた。

対する白夜叉は愉快そうに笑いながら二三度頷いた。

 

 

「ふむ、上手いことに例える。その例えに沿うなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。加えて言うなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は ”世界の果て” と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が住んでおるぞ────その水樹の持ち主とかな」

 

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギが持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指したのは十六夜が単独行動をとった際、辿り着いた ”トリトニスの滝” を住処にしていた蛇神の事である。例にもれず蛇神は十六夜にボコボコにされたが。

 

 

「して、いったい誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」

 

「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたものですよ」

 

 

自慢げに胸を張って言う黒ウサギに、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

 

「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそうは思いません。神格持ちなら一目で分かるはずですし」

 

「む、それもそうか………ふむ、ならば不思議よの。神格を倒すのならば同じ神格者か、もしくは互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

 

神格とは神そのものではなく、種族の最高ランクを示す。

蛇に与えれば巨躯の蛇神に。

人に与えれば現人神や神童に。

鬼に与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

更に神格を持つことにより他のギフトも強化される。箱庭のコミュニティは神格を獲得する事を第一に、上層を目指し日々精進するのだ。

 

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのは私だぞ? もう何百年も前だがな」

 

 

小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。

だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

 

 

「へぇ………じゃあお前はあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の ”階層支配者(フロアマスター)” だぞ?この東側四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない 最強の主催者(ホスト)だからな」

 

 

「そう………ふふ。では貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側では最強ということになるのかしら?」

 

「無論、そうなるの」

 

「そりゃあ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 

十六夜、飛鳥、耀の三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はその視線に対して高らかに笑った。

 

 

「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 

慌てる黒ウサギを右手で制すると、

 

 

「抜け目のない童達よの。依頼しておきながら、私にギフトゲームを挑むか。よかろう! 私も遊び相手には常に飢えておる」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ………して、おんしはどうする? こやつらは皆ウズウズしておるが」

 

 

そう言って白夜叉は今まで黙りこくっていた伏明へと視線を移す。

当の本人は庭の景色を見ているだけで彼女と視線を合わせようとしない。その態度で彼女は瞬時に察した。

 

 

「ふむ………一人だけ違うようじゃな」

 

「なんだよお前、ノリ悪りぃな」

 

「あら? まさか怖気ずいたのかしら? だらしないわね」

 

「………腰抜け」

 

 

三者三様が彼を挑発するも、怒り散らすどころか何処か達観したように何度目かのため息を吐いた。

 

 

「バカですかお前ら? 今までの会話を思い返してみろ。『白夜叉』なんて大層な名を持ち、『東側最強の ”階層支配者(フロアマスター)”』とか『神格を与えられる』とか聞くからに『強者』のセリフ。そんな奴に敵うとでも思ってんのか? 止めとけ止めとけ、力の差を見せつけられるだけだ」

 

「おんしはその止めどなく流れているその血をどうにかせい」

 

 

投げやりに、しかし的確に自分が挑まない理由を述べる伏明。彼からしてみれば、白夜叉に挑む理由も、ましてや挑む()もないのだから。

 

 

「致し方あるまい? 本人がやらないと言っておるのだからな」

 

「チッ、まぁいいさ。俺らでクリアすればいいだけの話だからな」

 

 

十六夜がそう言うと、他の二人も身構える。その姿は獰猛な獣を思わせた。

 

 

「ふふ、実に血の気が盛んな童達よの。────しかし、ゲームの前に一つ確認したいことがある」

 

「…………なんだ?」

 

 

白夜叉は着物の裾から ”サウザンドアイズ” の旗印───向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

 

 

「おんしらが望むのは ”挑戦” か────もしくは ”決闘(・・)” か?」

 

 

 

 

刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。その余りの眩しさに四人は顔を覆う。

覆っていても、脳裏にあらゆる世界の情景が目まぐるしく通り過ぎていく。

黄金麦の大草原、森林の湖畔、白い地平線が覗く丘。

どれもこれも見知らぬ地、記憶になどありはしない。そんな流転を繰り返し、四人を包み込んでいく。

光が収まり目を開けてみると、そこには白い雪原と凍る湖畔───そして、『水平』に太陽が廻る世界(・・・・・・・)だった。

 

 

「……なっ…………!?」

 

 

異常、余りに異常。その異常さに十六夜達は同時に息を呑んだ。

先程まで居た部屋の面影は微塵も無い。

奇跡の顕現。そう呼べる程に、いや、そう呼ぶべきなのかもわからない。言葉では到底表せる事など出来る御技ではなかった。

 

 

「今一度、問おうかの」

 

 

唖然とし立ち竦む四人に、白夜叉は凛ッ! とした ”魔王” の名に恥じぬ威厳で問いかける。

 

 

「私は ”白き夜の魔王” ───太陽と白夜の星霊【白夜叉】。おんしらが望むのは試練への ”挑戦か” ? それとも対等な ”決闘” か?」

 

 

今まさに彼らの眼前にいるのは、人智では測りきれない圧倒的過ぎる存在───神そのものであった。

 

 




誤字脱字、この文の繋ぎ方おかしくね? などがありましたら、ご報告をよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 東の白き最強 その②

 

 

魔王・白夜叉。

 

自分を指してそういった少女は小柄な体からは想像がつかないほどの『スゴ味』を放った。ジン達のコミュニティが倒そうとする相手であり、この世界の ”天災” と恐れられている存在、それが ”魔王”。

その魔王がいま目の前にいる。だがその圧倒的存在感を前に、四人は言葉も出なかった。

十六夜は背中に心地よい寒気を感じながら白夜叉を睨んだ。

 

 

「白夜と夜叉………なるほど、あの水平に廻る太陽やこの雪原の土地はオマエを表しているってことか」

 

「如何にも。この永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤(・・・・)の一つだ」

 

 

十六夜の反応を愉快そうに笑いながらとんでも無いことを口にした。世界一つ創造したような神業をただのゲーム盤に過ぎないのだと言うのだ。驚愕しないほうがおかしい。

 

 

「この広大な土地がただのゲーム盤ですって………!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答はどちらかな? ”挑戦” ならば手慰み程度に遊んでやろう。だが ”決闘” を望むのであれば魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

 

飛鳥と耀、そして十六夜は即答できずに返事を躊躇った。

もし ”決闘” を受け彼女を倒すことができた場合、『東側最強』の称号を手に入れられる。しかし相手は魔王。簡単には勝たせてはくれないだろうし、逆に簡単に殺されるかもしれない。

それに彼女はゲーム盤を出現させただけで、主なギフトは見せていないため力は未知数。だが勝ち目がないのは一目瞭然だった。

それでも自分たちで吹っかけて、強すぎたからやっぱり辞めますというには彼ら自身のプライドが邪魔をした。

 

暫しの静寂の後────諦めたように笑った十六夜が挙上し、

 

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは ”決闘” ではなく ”挑戦” を受ける、という解釈でいいのかの?」

 

「あぁ。これだけのゲーム盤をいとも簡単に用意出来るんだ。アンタには資格がある。────いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 

苦笑を浮かべ投げやりに答える十六夜。それを白夜叉は笑い飛ばした。”試されてやる” とは可愛らしい意地の張り方があったものだと。それもプライドの高い十六夜ならではなのだろう。

 

 

「くくく………して、他の童達も同じか?」

 

「………えぇ。私も試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「禿同」

 

 

悔しそうに顔を歪ませる二人と、肩をすくめながら答える伏明。それを見て満足そうに笑う白夜叉。

五人のやり取りをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください! ”階層支配者” に喧嘩売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う ”階層支配者” なんて冗談にしても寒過ぎます!」

 

「ここが極寒だからだろ? そんな薄着してるから………」

 

「気温の話じゃないですよ!? それに白夜叉様が魔王だったのはもう何千年と前の話じゃないですか!!」

 

「なに? じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

 

カラカラと笑う白夜叉にがっくりと肩を落とす黒ウサギと三人。それと「あ、この人超面倒くさそう」と印象付けた伏明であった。

 

 

 

 

□■□■

 

 

 

 

あの後、グリフォンの登場により四人の受ける試練が決まり、白夜叉は ”主催者権限(ホストマスター)” にのみ許された輝く羊皮紙に指を奔らせて記述した。

 

 

『ギフトゲーム名 ”鷲獅子の手綱”

 

・ プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

 

 

・クリア条件 グリフォンの背中に跨り、湖畔を舞う。

 

・クリア方法 ”力” ”知恵” ”勇気” のどれかでグリフォンに認められること。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

”サウザンドアイズ” 印』

 

 

一瞬、伏明の名が記されていない事に疑問を思ったが、本人が「やらない」と公言していたことを思い出し、そこにはたいして触れることはなかった。

まず勢いよく手を挙げたのは耀。様々な動物と人語を解し、『友達』になる彼女にとってグリフォンというのは『夢』同然の存在であった。現に今、目を猛烈に輝かせて見つめている。その様子に苦笑いを漏らす三人。

 

 

「OK。先手は譲ってやるが失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「俺は見てるだけだけど………まぁガンバ」

 

「うん、頑張る」

 

 

三者三様の応援に静かに意気込んだ耀は、ゆっくりとグリフォンに近づいていく。一歩一歩近づくにつれてグリフォンの大きさとその偉大さに息を呑む。しかし、そこに『恐怖』は無かった。

翼を大きく広げ、巨大な瞳をギラつかせて威嚇を続けているグリフォンをこれ以上刺激を与えないように、耀は慎重に話しかけた。

 

 

「えっと………初めまして、春日部耀です」

 

『ッ!?』

 

 

耀の言葉にグリフォンはピクッと反応を示すと、瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かんだ。

その様子を見て白夜叉は感心したように扇を広げ、目を細める。

 

 

「ほう、あの娘、グリフォンと言葉を交わすか………面白い」

 

「グリフォンとの会話ってそんなに珍しいなのか? アレを見る限り誰でも出来そうに見えるんだけど」

 

「確かに、アレだけを見ればの。だがおんしはどうだ? 彼奴が何を話してるか分かるまい?」

 

 

白夜叉にそう言われ、頭を掻く伏明。確かに彼にはグリフォンが何を話しているのかわからない。甲高い声で鳴いているようにしか聞こえないからだ。それでも耀は嬉しそうに会話している。

 

内容はだいぶ物騒だが。

 

 

「幻獣種との対話は同一種かそれ相応のギフトがなければなし得ない。黒ウサギでも全ての種と対話は難しい。あの娘のギフトは恐らくそれを凌駕する程のものであろう」

 

「………ギフトっていろんな種類があるんだな」

 

「ギフトは『才能』とも呼べるものだからの。形が決まった『力』があれば、あやふやな『原石』もある。例えば『魔法』。それでおんしは一体何を想像する?」

 

 

白夜叉の問いに伏明は頭を軽く捻らせる。普通なら不可能な事象を想像することだろう。彼も例に洩れず、ありきたりなイメージを思い浮かべた。

 

 

「………空を飛んだり炎を操ったり?」

 

「それもここでは ”ギフト” として存在する。炎に関するギフト、風や浮力に関するギフトなどな」

 

 

そう言って白夜叉が指差す先には、フワフワと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀がいた。風を纏って浮いているその姿は、白夜叉を除いたその場にいる全員を驚かせた。

伏明は頭を抱え、困ったようにしわを寄せると一言。

 

 

「………なんかもう、頭痛くなってきた」

 

「この程度で参るとはだらしがないな。そんなことではこの先身がもたんぞ?」

 

 

挑発的な目で伏明を流し見した後、”試練” をクリアした耀と彼女のギフトを考察している十六夜達の下へと歩いていった。

 

 

そして───

 

 

 

「だらしなくて悪かったな。俺はお前らみたいな逸脱した力なんか知らないし見た事も無い。ごくごく普通の人間なんだよ……」

 

 

一人になった伏明は、どこか楽しそうな雰囲気の彼らを見るや否や、陰鬱な気持ちでそう小さく呟くのだった。

 

 

 

 

□■□■□

 

 

 

 

白夜叉も交えた耀のギフト考察はあっという間だった。父から貰った木彫りによる後天的なギフトだったり、その木彫りは両親が作り出した独自の系統樹だったり、それがギフトとして確立されたスゴイ品だったり。

系統樹の複雑な幾何学模様に刺激されたのか興奮気味に買い取りを申し出る白夜叉だったが、即答で拒否されていた。

その時の白夜叉の顔はお気に入りの玩具を取り上げられた子供のようであった。

 

しかし、詳しい力については ”異種族と会話できる”、”友になった種から特有のギフトを貰える” ということだけしか分からずじまいだった。これ以上は上層に住むの鑑定士でなければ不可能らしい。

その言葉に驚愕したのは黒ウサギだった。

 

 

「え? 白夜叉様でも鑑定出来ないのですか? 今日は鑑定をお願いしたかったのですが」

 

「ゲッ………よりにもよって鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

 

困ったように白髪をかき上げ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を一人一人ジッと見つめる。

 

 

「ふむ………なるほど………うむ………む?」

 

 

ただ一人、伏明に対してだけは眉をひそめた。

 

 

「これは、信じられん………だとしたら何の為に………一体誰が………?」

 

「あの………白夜叉様?」

 

 

顔を俯かせてブツブツと何かを考える白夜叉。不安に思った黒ウサギが声をかけるも反応を示さない。

 

 

「………おんしは一体なんだ?」

 

 

ふと、白夜叉が静かに訊ねた。

 

 

「なんですかその質問………なんの力もないただの人間ですよ、白夜叉サマ」

 

「『ただの』人間か………うむ」

 

 

白夜叉はもう一度見定めるように伏明を見た後、グリフォンのゲームにも使用した羊皮紙を取り出しゲーム内容を記述していく。

 

 

『ギフトゲーム名 ”運試し”

 

・ プレイヤー一覧

城之内 伏明

 

 

・クリア条件 テーブルに並べられたカードの中から『絵札』選ぶ。

 

・クリア方法 選べるカードは四枚のみ。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

”サウザンドアイズ” 印』

 

 

「は?」

 

 

手渡された契約書類に目を通し、伏明は素っ頓狂な声を出す。それもそうだろう。やらないといって納得していたのにも関わらず、急に自分がプレイヤーとしてゲームを組まれたのだから。

 

 

「では、早速始めるとしよう。黒ウサギ、舞台のセットを頼む」

 

「え? あ、はい。それは構いませんが………」

 

「ちょっと待て、黒ウサギ」

 

 

急すぎる展開に、十六夜が異を唱えた。これには飛鳥と耀の二人も同感のようで、ジッと疑問の目で白夜叉を見る。

 

 

「なぁ白夜叉、伏明自身やらないとハッキリ言った。お前はそれを承諾した。にも関わらず契約書類のプレイヤーにはそいつの名がある。これはどういうことだ?」

 

「………なに、試練は受けないと言うたがおんしら三人だけゲームをしては何かと不公平だと思ってな。それだけだ」

 

「ハッ、それはまた親切なホストマスター様だな」

 

 

十六夜が探るような目で見るも白夜叉は無表情を崩さないため、真意はわからない。

邪険な雰囲気が再び流れ始め、黒ウサギがオロオロしだした時、

 

 

「………ルールは単純に ”運” で絵札をめくるか。うん、白夜叉サマ。やらせてもらいますこのゲーム」

 

 

話の中心にいた人物が呑気な声をあげた。

 

 

「良いのか?」

 

「え、何が? だってせっかく白夜叉サマが用意してくれたもの、やらなきゃ損でしょ。事実やってみたかったし」

 

 

やってみたかった、そう告げた伏明の目は好奇心に満ちていた。

危うい──聞けばガルドとの一件の時に飛鳥達は彼をもう一度気絶させたとかなんとか。

黒ウサギは伏明の危うさを実感すると同時に、余計な事をしてくれたと感じていた。

 

 

「ふ、伏明さん! そう簡単に受諾しては────」

 

「大丈夫大丈夫。これ見る限り四回カードめくるだけだからヘーキだって」

 

 

(ダメだ………ギフトゲームの本質を理解していない……このままじゃ……!)

 

 

ギフトゲームは受けてしまえば辞退することは可能だが、それは実質ゲームの敗北を意味する。このような遊び程度のゲームならば問題ないが、本当に全てを賭けたゲームならば───

 

 

(やはり彼は……)

 

 

 

ムニュン

 

 

 

「へっ?」

 

 

とここで、なんとも気の抜けた音が聞こえた。黒ウサギ本人としては聞き覚えがあるというか、身に覚えがあるというか、直にされているというか。

少し頭を下げてみれば見慣れた小さい手が黒ウサギ自慢の胸を後ろから鷲掴んでいた。

 

 

「ムホホイホホホ! なーに湿気った顔をしておるのだ黒ウサギ! 隙だらけだからつい揉んでしまったぞ!」

 

「ふぇ!? 白夜叉様!? ちょ、やめて下さい〜!」

 

「よいではないか〜よいではないか〜」

 

 

『つい』でセクハラに走るあたり、本当に東側最強のホストマスターなのか疑いたくなるが、ポンッと世界を顕現したり、身の毛がよだつ程の存在感があったりと、それが事実なのは間違いない。

でもやっぱりそう見えないのはセクハラ行為を躊躇いなくするからだろう。

 

 

「ふぅ、黒ウサギ成分も取れたことだし、早速始めるとしようかの。ホレ黒ウサギ、いつまでへこたれておるのだ」

 

「誰のせいですか! 誰の!!」

 

 

ウガーッ! と吠えつつも黒ウサギはボードゲーム用のテーブルを出現させ、いそいそと準備を始めた。

その側で今か今かと待っている伏明、飛鳥、耀。

 

 

「で、結局伏明一人でやるのか?」

 

「なんだ小僧。不服か?」

 

「いや? ただ『運試し』なんてシンプルなゲームであいつはどうやって観客を沸かせるのか、それだけが気がかりでな。盛り上がりに欠けるほどつまらないものはない。だろ?」

 

 

そう言った十六夜の表情は好奇心旺盛な子供のようであり、冷静に見極めようとする策士のようだった。

 

 

 

「それでは! これよりギフトゲーム『運試し』を開始します! 進行はこの黒ウサギがお務めさせていただきます♪」

 

 

そして黒ウサギの宣言で、『運試し』のゲームは幕を開けた。




お久しぶりです、私です。
こんな感じでグダグダ更新が続きますので、改めて「これでもいい」というかたは是非是非お待ちください。

よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。