呼んでますよ、嫉妬さん (ちゅーに菌)
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私とおっぱい星人です

どうもちゅーに菌or病魔です。

もう秋ですね。というわけでまた小説始めました。

ちなみに、カトレアちゃんのお母さんとメイドさんは一応、原作キャラです。……一応ね。

記憶喪失って想像以上に便利な設定ですね。クケケケ。



 

 

学校帰りというものは非常に甘味なモノだ。

 

少なくとも現在、本校舎の3階の用具室程の広さの部屋の窓際で下校中の生徒を眺めている少女はそう思っている。

 

少女の容姿は褐色の肌に暗い金髪。そして琥珀色の瞳を持ち、黒目と合わさることで鼈甲のような不思議な色合いの眼をしている。

 

赤縁の眼鏡が彼女のトレードマークのようなものだろう。

 

だが、少女というには彼女の容姿は大人び過ぎていた。

 

スレンダーながら凹凸のハッキリとした体型も去ることながら、身長も女性にしてはかなり高く、そして何よりも彼女の名前通りの成熟した大人の魅力から醸し出される独特の妖艶な雰囲気がそれを後押ししていた。

 

まあ、実年齢より上に見られる事が本人にとって良い話かと言われれば微妙なところだが。

 

話を戻そう。

 

学校で1日を終え、家へ帰宅する。

 

その間に次の学校までの間、家でなにをするかなどと考えている時間が彼女は好きなのである。

 

まあ、何が言いたいのかというと。

 

「帰りたいです…」

 

切実な独り言だった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

私の名は辻堂(つじどう)カトレア。

 

この駒王学園の最高学年に席を置く女学生で、風紀委員会の委員長をしている学生です。

 

ちなみに名前からはハーフかと思われることも多いですが100%外国人です。

 

私は窓から離れると、部屋の丁度中央に設置された10人掛けぐらいの長椅子の端に座りました。

 

そして机の上に3つほど積み上げられた一番上のDVDに目を向けました。

 

 

"爆乳保母さん連続奉仕7"

 

 

「…………はぁ…」

 

どう見ても18歳未満お断りのタイトルです。というかこんなものが7作も出てるのですね。

 

無論、私の私物であるわけもありません。あったら世も末です。

 

それと言うのはこの学園には有名な人物がいる事から話しましょうか。

 

例えば私は三大お姉さまの筆頭として上げられています。正直、勝手なイメージが独り歩きする要因の1つでしょうから迷惑なことこの上ありませんが。

 

まあ、一応は良いことなのでしょう。それとは対称的な悪名高い者も無論います。

 

今回関係するのはそっちです。

 

2年に変態三人組と呼ばれている者たちがいます。

 

名前から既に出落ち感満載ですが、文字通り、この学園の中で最も変態の三人組です。

 

その者らのあだ名はエロ坊主、エロメガネ、そして……おっぱい星人です。

 

このDVDらはそのおっぱい星人が今日の持ち物検査で引っ掛かった私物なのです。

 

そもそも月一の持ち物検査は事前に予告しているため、引っ掛かかる人間自体極稀なのですが…。

 

どういうわけかそのおっぱい星人は毎回、毎回引っ掛かるのです。

 

持ち物検査で引っ掛かった者は没シュート+厳重注意etcの後、放課後ぐらいに本人に返すのが今の風紀委員会のセオリーなのですが、こんなDVDを本人に返したがる人が風紀委員会に誰もいないため、必然的に私に回ってくるのです。

 

その度に返しに呼び出すこちらの身にもなって欲しいものです。別にセオリーというだけで校則上、返さず捨てても良いのですが、それで怨まれたりしても仕方ありませんし。

 

というかこの情報化のご時世でよくもまあ、こんな部屋に置くのを困りそうなモノを集められるモノですね。感心すら覚えますよ。いや、呆れですか。

そんなことを思いながらこの円盤でフリスビーでもしましょうかなどと考えているとドアを軽くノックする音が聞こえてきました。

 

私はノックの仕方からその人物がおおよそ目的の人物であると判断しました。ノック音や、する場所は人によって微妙に違うため、恐らく合っているでしょう。

 

「入ってください」

 

私が声を掛けるとドアが開き、おっぱい星人…もとい兵藤 一誠が入ってきました。

 

「し、失礼します」

 

へこへこと頭を下げながら入ってくる様は罪悪感の表れ、でしょうか? それならば是非とも持ち物検査の日に引っ掛からないで欲しいものです。

 

彼の容姿は10人男子生徒がいれば1人ぐらいいるような容姿です。上の下から中の上ぐらいと言えばわかりやすいでしょうか。

 

少なくとも残りのエロ坊主や、エロメガネのように一目ではおっぱい星人だと認識は出来ませんね。知らなければ好青年にすら見えるでしょう。

 

だが、彼の目線を見れば直ぐにそれはわかります。

 

既に私の胸に目線が行っているのです。

 

しかもチラチラとしたモノではなく、完全な凝視です。魅了・麻痺・石化でもさせる気でしょうか? 残念ですが私は全て耐性持ちです。ついでに凝視も見切っています。

 

まあ、単に見られ過ぎてもう慣れているだけなんですが。

 

これは明らかにおっぱい星人です。きっと本星は駒王上空に浮いているんですね。

 

「ここへどうぞ」

 

「は、はい!」

 

私は掌を上に向け、私の隣の席を差し、着席を促しました。

 

彼はビクッと震え、私の胸から目線を私の顔に変えるとそそくさと席に座ります。

 

「さて、兵藤さん」

 

「はい」

 

一番上のDVDを摘まみ上げました。

 

「またですか」

 

「はい…」

 

彼は目を泳がせ、部屋の窓辺りに視線を向けています。

 

「はぁ…」

 

私は溜め息をつくとDVDを机に戻し、彼に向き合いました。

 

それに従うように彼がピンと背を伸ばし、こちらを見ながら固まります。

 

「いつも言っているように高校は風俗店ではありませんし、規律を厳守するような会社でもありませんので風紀自体をそこまで気にするような場所ではありません。よってこのように検査日にモノを持ち込みでもしない限りはまず指導対象になることなんてありえないんです」

 

「……毎回思うんですが…それ風紀委員長が言って良いんですか…?」

 

「風紀委員長なんて服装と行動だけ模範になってれば良いんです。これも伊達眼鏡ですし」

 

似合うからと、母さんのお下がりだから掛けてるだけですから。

 

「マジですか!? 辻堂先輩眼鏡系女子じゃなかったんですか!?」

 

「両目7.0あります」

 

「高ッ! マサイ族の方ですか!?」

 

「日本では最高2.0までしか測定されないだけで視力高い人なんてざらにいますよ?」

 

それにマサイ族の方は完全な黒人で、私はただ褐色なだけです。マサイの方々に失礼ですよ。

 

「そうなんですか…」

 

「そろそろ真面目な話をしましょうか」

 

「は、はい!」

 

そういうと彼は硬直しました。

 

「覗き、覗き、覗き、セクハラ、覗き、覗き、セクハラ、覗き。これなんだと思います?」

 

「な、謎なぞですか?」

 

「正解は今月中に女子生徒から申告のあったあなたへの被害届です。いい加減にしないとそろそろ捕まりますよ? なんのためのエロDVDですか、現実でそういうことをしないための物なのでは?」

 

「…………はい」

 

「もっとも学園内で犯罪者を出すような真似は出来ませんから強姦でもしない限りは警察沙汰になることは無いでしょう。するなら学園外でしてくださいね?」

 

「そ、それだけはしません! 俺は純粋に先輩のような溢れんばかりのおっぱいが好きなだけなんです!!」

 

……純粋とはいったい…うごごごご。

 

「まあ、真面目な話はここまでにしましょう」

 

私はDVDを彼の前にずらしました。

 

「没収してもカラス避けにしかならないので持って帰ってください」

 

「あ、はい」

 

彼はDVDを受け取るとカバンに仕舞い込みました。

 

私は時計を見ました。流石にもう少し彼をここに止めておかなければ説教をしたという感じの時間にはなりませんね。

私は机に頬杖をつくと彼を見つめました。

 

「ここからはカウンセリングでもしますか」

 

「あ、はい」

 

当たり障りの無いことでも聞きましょうか。

 

「学園に入学した目的とかはありましたか?」

 

言ってから2年生に対する質問では無かったですねと思っていると、彼の目が輝き、握り拳を作ると高らかに宣言しました。

 

「俺、彼女が欲しいんです!」

 

「生まれ変わって出直しなさい」

 

「ヒデェ!?」

 

おっと、思わず即答してしまいました。

 

この人……それなりに長い付き合いですがそんな目的があったんですか。

 

「普通に考えて社会人でやったら裁判沙汰の事をやり続けている男性を彼氏にしたいと思う女性はいないと思いますが?」

 

覗きやセクハラなんて…ねぇ?

 

「ぐっ…」

 

彼は口ごもり、微妙に後ずさりました。

 

「後、女性に向かっておっぱいなどと叫ぶのもいただけませんね。体の一部でしか女性を見てない男性なんてゴミですよ?」

 

「うっ……」

 

彼は目に見えて狼狽しました。

 

「それから兵藤さんはリンス・トリートメントなどで髪の手入れや、お風呂上がりに肌荒れ予防の化粧水や、ニキビなどに気を使っていますか?」

 

「い、いえ…特には…」

 

彼は寧ろそんなのは女の子のやることなのではと言いたげな表情になっています。

 

それを見て私は溜め息をつきました。

 

「あのですね。例えば全く同じ女性が2人いたとします。片方がもう片方より髪が綺麗で、柔らかくハリのある肌をしており、ニキビもありません。どちらが良いですか?」

 

「え? そんなの綺麗な方に…」

 

「女性から見た男性でも同じだと思いませんか? 普通に考えて」

 

「…なん…だと……?」

 

彼は凄まじい衝撃を受けたような顔になりました。

 

普通に考えればわかることだと思うのですが…。

 

「あと、それから…」

 

「もう止めてください辻堂先輩! 俺のライフはもうゼロです!?」

 

HANASE。まあ、触れられていませんけどね。あと、20分ほど我慢しなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

無事、彼への建前上の説教を終え、帰路に着いた私は途中で今夜の夕飯の材料を買い終えるともう家の門の前にいました。

 

私の家は街の中心からやや離れた場所に建っているかなり大きめの洋館で、母と私、そして一人の住み込みメイドの3人で暮らしています。

 

私はいつも通り、門をくぐり抜け、玄関へ続く30m程の私道へ足を1歩踏み入れました。

 

「お帰りなさいませ、カトレア様」

 

その瞬間、凛とした声が隣から聞こえてきました。

 

私が横を向くと、メイド服を着たアイスブルーの髪色の髪を2本のお下げに束ねた女性が頭を下げています。

 

大きなハサミを持っているところから庭をキレイに保つため、選定でもしていたのでしょう。

 

「ただいま戻りました、ロベルタさん」

 

そう言うとロベルタと呼ばれたメイドは頭を上げました。

 

最近珍しい丸渕の眼鏡を掛けており、丁度夕陽が反射して目は私に見えていませんが、瞳の色は髪と同じアイスブルーをしています。

 

「ロベルタさんが私が帰る前に仕事を終えてないなんて珍しいですね」

 

私は嫌みでも何でもなく事実を述べました。

 

ロベルタは掃除も料理も苦手で何事も大雑把なのですが、仕事はとても速いんです。

 

よって、今の時間まで外の仕事をしているのはとても珍しい事だったりします。

 

まあ、広い家をメイド一人で掃除しているのですから大雑把に速くやってくれた方が私としても良いと思いますがね。

 

「少々お耳に入れたいことが…」

 

ロベルタは私のさらに近くによると耳打ちしました。

 

「下級堕天使3体と中級堕天使1体がこの街に入りました」

 

私はそれを聞いて目の色を変えました。

 

私の耳から離れ、元の位置に戻ったロベルタに問います。

 

「……目的は母さんですか?」

 

そう言った私は無意識の内に多少の焦りと怒りにより、蒼色の魔力が少し噴き出しています。

 

「いえ、この街の神器保有者が目的のようです」

 

「そうですか」

 

その答えに私は安堵し、噴き出していた魔力は私の中に戻りました。

 

「ですが…」

 

「なんですか?」

 

「この街の人間の神器保有者の3人中2人が既に殺されております」

 

私はその言葉に目を大きく見開きました。

 

私はこういう事態が想定出来たハズなのに今の今までその対策を怠っていた自分を呪いました。

 

領地を持つ悪魔の仕事はあくまでも領地の支配と運営。そこに住む人間や神器保有者の保護は職務に含まれませんし、する必要も普通はありません。

 

ちなみに運営とは人間とその他の種族との均衡を護る事です。

 

この領地を治める同学年のリアス・グレモリーはそんな悪魔にしては珍しく、領民を護ろうとする人間的に言えば人格者であり、悪魔的に言えば三流以下の甘ちゃんでしたので多少は信頼していましたが……やはり経験が圧倒的に足りな過ぎたようですね。

 

「彼は…」

 

私はロベルタの両肩を掴み、しがみ付くように迫りました。

 

「兵藤 一誠はどうなったのですか?」

 

「ご安心を最後の一人は彼です」

 

「そうですか……」

 

私はその言葉で全身の力が抜けたような感覚に教われ、ロベルタから離れると額に手を置きました。

 

良かった…彼の最後に見た者が私だなんて笑えない冗談ですものね。

 

でも、十中八九堕天使は彼を殺しに来るでしょう。何か対策が必須ですね…。

 

「ん?」

 

ロベルタを見るといつもの子供向けではない目付きがさらに鋭くなっているように感じられました。

 

「なんですか?」

 

「いえ…ただカトレア様ともあろうものがなぜ人間の"男"一人にそこまで肩入れするのかと」

 

なぜか男というところを強調していた気がしますがきっと気のせいでしょう。

 

「ロベルタさん」

 

私は眼鏡を直しながら呟きました。

 

「学園での私を客観的に述べなさい」

 

そう言うとロベルタはほぼ即答で口を開きました。

 

「駒王学園3年にして2年生から風紀委員会委員長を務め、生徒会長選挙では立候補もしていないにも関わらず、現生徒会長である支取蒼那に3倍の大差を付ける票数を持っていましたが本人が生徒会長になる気は無いと明言した事で…」

 

「いや…自然発生した黒歴史ではなく生活態度や交友関係などを…」

 

「学園での生活態度は極めて模範的かつ、成績は常にトップ。それらと成熟した容姿から付いた異名は"女帝"。そして異名通り…」

 

ロベルタはそこで言葉を区切りました。

 

「生徒との交友関係は全くといっていいほどありません」

 

「ええ……悔しいですが大体事実です…」

 

特に最後がですがね。

同じクラス含めたほぼ全ての女子生徒は私を出来る女性の理想像といった目標にするか、本能的に嫌うかの2通りです。

 

大概の男子生徒はほぼ確実に私と何らかの理由で対面するか会話すると、ガチガチに固まったまま要領の得ない話をした後、早足で立ち去り、私から大分離れたところでやべー、辻堂さんに話しかけられた!とか他の生徒と話して盛り上がるんです。

 

あなたたちにとって私はなんなんですかと小一時間問い詰めたいところですが、まあ、それも面倒です。私自身そこまで社交的な人間と言えるかと言えば微妙なところですしおすし。

 

つまり私にとっての異性の知り合い、或いは男友達などと言われる者は兵藤 一誠を除いて他にいないのです。それどころか女友達1人いませんがね!

言ってて悲しくなります…なんなんでしょうおっぱい星人しか友達がいない女って…。

 

「兎に角、このまま彼が死なれると私は本格的にボッチになってしまうんです」

 

「ですが…」

 

ロベルタは私が彼に引っ掛けられて18未満お断りな目に会わされるのではないかと心配なのでしょう。相手が悪名高い人間ですし。本当に優しい人ですね…ですが…。

 

「愚問ですね。ロベルタさん」

 

私は確信を得ているような笑顔で呟きました。

 

 

 

「彼は変態に見えますが中身はヘタレです。私を押し倒すような根性があるわけもありません」

 

 

 

本人がいたら胸を押さえてウボァー!とか言いながら膝から崩れ落ちそうな発言ですね。

 

「左様でございますか」

 

「まあ、とりあえずそろそろ家に入ります」

 

そう言って話を切り上げると、ロベルタはまだ庭仕事が残っているそうなので私一人で家に入っていきました。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「お帰りなさいカトレア!」

 

リビングに入ると私とよく似た20代後半ほどに見える女性が飛び付いてハグしてきました。

 

「ただいまです。母さん」

 

母さんの名前は辻堂ヒナ。

 

私を女手一つで育て上げたシングルマザーです。

 

わけのわからないまま生き倒れていたところ、昔働いていたスナックバーのママに拾われたのが母さんの最初の記憶だとか。要するに20年以上前の記憶が無いそうです。

 

異常なほど力持ちだったため、働いていた時代は率先して力仕事をしていたとかなんとか。購入した事故物件(私たちの家)のローン完済後も暫く働いていましたが、妊娠を期に仕事を止めています。ですが現在も時々遊びに行っています。

 

スナック時代に客に見せていた特技は小指1本で握力計の針を振り切れたり、頑張ると蒼い光を出せるとかなんとか。

 

ちなみに辻堂ヒナという名前は現在もスナックのママの秋葉さんから付けて貰ったそうです。

 

「うふふ、学校は楽しかったですか?」

 

「はい、それなりに」

 

「ならよかったですね」

 

母さんは太陽のような笑顔で私に笑い掛けました。

 

「それで…」

 

母さんは私が持つスーパーの袋を見た直後、母さんのお腹がくぅーっと音を立てました。

 

……母さんをどんな人かと一言で言うのなら…。

 

「今日のご飯はなんですか…?」

 

なんというか…大きな子供みたいな人です。

 

「カレーライスです。今すぐ作りますから待っていてくださいね」

 

「はーい」

 

母さんはいい返事をするとリビングのソファーで目を輝かせながら待つ体勢に入りました。

変で子供っぽい人ですがそれを差し引いても母さんは私の大好きな人です。

 

今の関係を変えたくありませんし、誰にも母さんに手出しはさせません。

 

……この世には知らない方が良いことの方が多いんですよ…。ね、母さん。

 

「んー? 何か言いましたか?」

 

「いえ、何も」

 

私は学生服の上からエプロンを着るとキッチンに入りました。

 

 

 




カトレアちゃんの母親は一体、誰レアさんなんだ!(あ、なんかデジャブ)

初投稿でピカピカの新人なので温かい目で見てください(白目)。


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堕天使から護りましょう

  ヘ且ノ <けれど、我らは夢を諦めぬ!ウアアアアアアアアアッ!
 ≡/┐

今更再び更新しようと思った作者のテンション


 

突然だけど、この駒王には三大お姉様と呼ばれる三年生の先輩がいる。

 

内二人は紅髪の美少女のリアス・グレモリー先輩と、絵に書いたような大和撫子の姫島 朱乃先輩。

 

当たり前だが、俺とは一切関わりがあるわけもない人達だ。雲の上の人という言う印象すらある。

 

だが、最後の一人…というよりも三大お姉様の筆頭の先輩は違う。

 

なんと俺の知り合いなんだ! まあ、向こうがどう思っているかは知らないが…。

名前は辻堂カトレア。

 

ハーフではなく生粋の外国人で名前の花言葉通り、まるで成熟した大人のような魅力を持っていて、褐色の肌に暗い金髪、そして赤縁眼鏡がトレードマークの美人だ。うん、先輩の場合、美少女というより美人だろう。

 

そのせいで本来の年齢よりかなり上に見られる事から彼女にとってはあまり嬉しくはないらしい(本人談)。

 

ちなみに身長177cm、B104、W62、H91、体重65~66kgをふらふら(全て本人談)と超高スペックだ…凄まじいおっぱいなんだよな…。

 

さらに風紀委員会委員長を務めており、容姿と話し方も相まって堅物に見えるけど、実際のところはかなり寛容で、モノ凄くざっくばらんな人柄をしている。後、伊達眼鏡(視力両目7.0)。

 

知り合ったのは1年ぐらい前に持ち物検査にエロDVD持ち込んで引っ掛かった事が切っ掛けだ。

 

"女帝"とか呼ばれているし、当時は実際そうだと思っていたから辻堂先輩に直接指導されると他の風紀委員に言われ、最初は肝を冷やしたけど……実際会ってみると…その…かなり変わった人だった。

 

だってお前…最初に1対1の指導を受けた時……辻堂先輩…。

 

 

 

頬杖つきながら無表情で俺のエロDVDを一人で見てたんだぜ?

 

 

 

これ以上ないぐらい唖然とするって言葉がピッタリ当てはまる状態になっちまったよ…。

 

"こういうモノを見たことが無かったので参考までに見させていただきました"だとか…。

 

折角だから感想を聞いたら…"控え目に言っても7割強は演出ですね"だそうだ。夢を返してくれ…!

 

でも、俺が知る限り最も優しい女性だ。

 

毎回持ち物検査にわざと引っ掛かって会ってるのにいつも会ってくれるし。ざっくばらん…もといとんでもなく辛辣な事はいうけど完全に正論だし。

 

それに……俺みたいな奴に普通に接してくれるしな。

 

辻堂先輩曰く、"生まれついた性癖はどうしようも無いでしょう。性格が変えられないように死んでも直せませんよ"そう言われて少し泣きそうになったよ…。

 

まあ、その後"とは言え、大概の動物すら時期限定で生殖を行いますから節度はしっかり守ってますけどね"だとか……上げて叩き落とされたけどな…。

 

俺にとって雲の上の人って感じでは全然なくて…その…好きな女性だったりする。

 

とは言っても先輩にとってはただの知り合いの一人程度だろうし、今の関係を壊すのもイヤだから俺から何かするわけでも無いんだけどな…。

 

そんな先輩が…。

 

 

「一緒に帰りませんか? 兵藤さん」

 

 

……校門の前でギャルゲのヒロインみたいな事言ってるんですけど?

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺……どこかでフラグ立てましたか?」

 

校門の前で待ち伏せて彼を見つけたので声を掛けたところそんな返事が来ました。

 

はてフラグ? 私はただ単純に知人や友人と帰るということをさりげなく実行しているだけなのですが。

 

大体、あなたに立ってるのは死亡フラグでしょうに。

 

「生憎、私はギャルゲのヒロインではないのでそういったモノの今のところ実装はいたしておりません」

 

「そ、そうですか…」

 

彼は考えていたことを見透かされた上、否定されたのか顔を赤くしていました。

 

ちなみに今日彼は覗きで女子生徒にしょっぴかれ、2時間ほど伸びていたため、今は最終下校時間近いので人は全くいません。

 

「それで一緒に帰りますか?」

 

ちなみに彼と帰る理由は単純です。日が傾いた頃から悪魔や堕天使は活発になりますから遅いの下校中は格好の時間ですからね。

 

ちなみに彼の家の周囲の空間には堕天使が近づくと私に伝わる鳴子のようなものを張り巡らしているので堕天使が入った瞬間に私に知らされ、いつでも転送出来ます。

 

「帰らせていただきます!」

 

「そうですか」

 

 

 

 

 

と、言うわけで帰ることになったのですが。

 

「………………」

 

10分ほど経ちますがこの男何も話して来まません。チラチラと横目で見ては来ますがね。

 

1対1の事務室ではあんなにハキハキと話していたと言うのに…内弁慶ですかあなたは。

 

そんなことをやっている間に彼の家の前まで到着しました。

 

まあ、こうなるだろうとは多少は思いましたけどね。

 

彼の方を見るとなぜか絶望的な顔をしています。自分のボキャブラリーと根性の無さでも嘆いているんでしょうかね。

 

まあ、まだ月曜日です。少なくとも事が終息するまでは彼と下校するでしょう。

 

「また、明日帰りましょう」

 

そう言うと彼は鳩が豆鉄砲喰らったような顔になりました。

 

「は、はい!」

 

そして勢いの良い返事をしてきたので私は踵を返し、帰ることにしました。

 

 

 

火曜日、堕天使は来ません。彼はカミカミですが私に質問を投げ掛けて来ました。私はさながら回答者(アンサラー)です。コジマは出てませんよ?

 

水曜日、今日も堕天使は来ません。彼はしどろもどろですが多少は話すようになりました。なんか彼を見てるとエビゾーくんの成長を見ているような微笑ましい気分になります。

 

そして今日は木曜日。未だ堕天使の襲撃はありません。それなりにハキハキと話すようになりました。

 

とは言っても聞いてくるのは趣味とか、休みの日は何をしているだとか当たり障りの無いことですがまあ、昔に比べれば随分成長したでしょう。

 

そんな中、彼はこんな質問をして来ました。

 

「先輩って…彼氏とかいるんですか…?」

 

妙に真剣な顔でそう聞いてきます。

 

「今はいませんね」

 

「今は…?」

 

「はい、中学生の頃2度程お付き合いをして、出掛ける程度の事はしましたが両方とも1週間持ちませんでした」

 

私は男運がゼロに等しいのかも知れませんね。

 

ああ、ちなみに友達がいないと言いましたがあれは学内だけの話で学内でなければいますからね?

 

…………ネットで知り合った女友達が1人ぐらい…。

 

「せ、先輩らしいですね…」

 

あなたに苦笑される謂れは無いのですが…まあ、良いでしょう。

 

そんなことを考えていると歩道橋の階段を上がり、丁度中央部付近に差し掛かりました。

 

「私思うんですよ。断るには断るなりの理由が必要だと。相手の事を何も知らず、タイプでは無いからや、好みでは無いからなどの表面上の理由で断るのは自分の評価基準が最低ランクな上、相手に対する最大の侮辱に当たると思うんですよね。だから私は告白を受けると、とりあえず付き合うようにしているんです」

 

「え? それって……」

 

私は眼鏡を直してから再度口を開きました。

 

「それ以前に生憎、私は今のところ異性を好きになったことがありません。だからその人物が好きかどうかなんて付き合ってからしかわからないと思うんですよね。ほら、お見合い結婚なんかは結婚してから晩年になって愛が加速するようですし」

 

「要するに告白されれば誰でも付き合うってことですか!?」

 

「そうなりますね。まあ、母が昔ホステスのような仕事をしており、小さい頃から目にしていたせいか、どうも男女の関係を損得勘定抜きに考えられないんですよね」

 

「は、はぁ…」

 

「酷い女だと思いますか? やっぱり中身も外身も自分が納得した人と結婚したいですから。中身を知るには面と向かって接するしか無いでしょう」

 

「なんと言うか…先輩らしいですね」

 

「灰色の青春ばんざー…」

 

そこまで言ったところで私は足を止め、それを不思議に思った彼もハテナを浮かべながら足を止めます。

 

空を見れば既に日は大分傾き、夕焼けの空が広がっていました。

 

「どうかしたんですか先ぱ…」

 

次の瞬間、彼の胸元目掛けて飛んできた光の槍を刺さる直前に片手で掴み取りました。

 

これぐらいなら大した問題にはならないでしょう。

 

「え…? え"…? えぇ!?」

 

目の前で止まっている光の槍を見て彼は目を白黒させていますが、今はそれどころではありませんね。

 

更に彼に向けて迫る光の槍を私は手で止めていた光の槍を振るい、叩き割りました。それにより、手元の光の槍も砕け散ります。

 

軽く上級悪魔程の魔力を撒き散らしながら彼と下校すれば向こうも諦めると踏みましたが、どうやら穏便には行かなかったようですね…。

 

超遠距離からの光の槍によるスナイプとは向こうも考えましたね、こちらから彼女を視認は出来ますが、彼を護りながらでは対処が極めて難しい。 こちらは街中で派手な魔法を行使するわけにはいけませんしね。

 

恐らくは報告にあった中級堕天使でしょう。ただの未覚醒神器保有者を襲うには過剰戦力もいいところです。

 

魔力を手に集中させて蒼い三又槍(トライデント)を造り、丁度来た三発目を粉砕するのとほぼ同時に中級堕天使に向かって投擲します。

 

が、流石に距離がありすぎるため当然のように避けられ、カウンターのように彼に向けて光の槍が投げられました。

 

いやらしい……彼さえいなければこの距離でも10秒あれば片付けられると言うのに…。恐らく、彼の周囲に他の下級堕天使や、はぐれエクソシストが控えているのでしょう。10秒でも今の彼を殺すにはお釣りが来ますね。

 

「案の定ですか」

 

「うわっ!?」

 

周囲で光力の反応が増えるのを感じ、彼を地面に倒すと"10枚の悪魔の翼"を解放し、彼を檻のように囲いました。

 

次の瞬間、色の違う三本の光の槍や、多数の光力の銃弾が翼に当たりますが、威力が低過ぎるために私の翼に傷をつけることすら出来ないようです。まあ、一撃でも彼に当たったら大惨事ですがね。

 

量産型の光力の剣を持ち、近付いてくるはぐれエクソシストを10枚のうち1枚を攻撃に転化させ、周囲を凪ぎ払う事で近付けないようにしますが、根本的な解決にはなりません。

 

「はぁ…」

 

仕方ありません…八方塞がりですね。なぶり殺しにはされないでしょうがここままでは被害が及ぶでしょう。これは最終手段だったのですが…。

 

私は尻餅を付いて私の翼の中で転がっている彼の前に立ち、飛んでくる中級堕天使の光の槍を魔力の三又槍で弾きながら彼に問い掛けました。

 

「兵藤さん」

「え? あ? は、はい!」

 

「あなたからすればこの状況は非現実的にも程があるでしょう。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですからと認めなくとも構いませんし、夢だと思い込もうとも構いません。ですが、少なくともこれは現実です。私がいなければあなたは即座に駒王学園の一般生徒から、喋らない肉塊へとジョブチェンジすることになるでしょう。ですからこの場で選択してください」

 

顔だけ半分ほど彼に向けると更に言葉を放ちました。

 

「生きたいですか? 死にたいですか?」

 

彼は唖然とした表情になりながらも声を張り上げ、予想通りの回答をしました。

 

「生きたいです!!」

 

「よろしい」

 

「うわぁぁ!?」

 

私は彼の身体を背中から抱えるとそのまま空に飛び上がります。

 

 

向こうも飛んで追い掛けながら光の槍を飛ばして来ますが、UFOキャッチャーでぬいぐるみを取るように胸の前で彼を抱えているため、必然的に私の背後を攻撃する形になり、彼に届くわけもありません。

 

翼の後ろに多数の魔方陣が現れ、そこからルナティック顔負けの弾幕が飛び出します。流石に不味いと踏んだのか、堕天使達は渋い顔をしながら飛び去って行きました。

 

さて、これでとりあえず今日は大丈夫でしょ……。

 

「せ、先輩の胸が背中に…」

 

「座席無し、安全ベルト無し、死亡保障無しのフリーフォールをご所望ですか? 明日の朝刊の見出しはこうですね。空から青年がッ!」

 

「すいません! なんでもありません!」

 

全く……話には聞いていましたが、本当に他者を巻き込むプロですね。"二天龍"と言うのは。

 

私は彼が気絶しないように庇いつつ音速の半分ほどの速度で駒王学園の"オカルト研究部"へと向かいました。

 

こうなったら貴族様に丸投げだぜ☆

 

 

 

 

 

 

 




次話は近いうちに更新しようと思います。大人は嘘つきではないのです。自覚がないだけなのです(尚、質が悪い)。


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悪魔は嘘をつきません

どうもちゅーに菌or病魔です。

お気に入り数に全く比例しない感想数を眺め、密かに涙を流す男! ちゅーに病マッ!

※だいたい元ネタもこんなノリです。




空を飛んだまま駒王学園の結界を突き破りました。結界の探知効果により、悪魔が侵入した事がここの悪魔に伝わったでしょう。

 

それは一先ず置いておき、旧校舎の屋上に降り立ち、彼を旧校舎の屋根に乗せました。私は10枚の翼を放射状に広げながら彼の斜め上の空中で見下ろすように停止します。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

さぞ混乱している事でしょうが、それでも彼は始めにそう言って来ました。本当に…後、日頃の行いさえ良ければ彼女なんて直ぐに出来るでしょうに…。

 

「まあ、それしかないと思いますが、何か聞きたいことはありますか?」

 

「先輩は一体…?」

 

彼はまずそう聞いて来ました。まあ、今更隠す必要もないでしょう。友人を殺してまで隠し通そうとも思いませんからここに来たわけですし。

 

「悪魔です」

 

「悪魔…」

 

私は1枚の翼を彼の目の前に下ろしました。彼は壊れ物でも扱うように羽先に触れるとつついたりしています。

 

「特定の宗教文化に根ざした悪しき超自然的存在や、悪を象徴する超越的存在をあらわす言葉ではなく、兵藤さんが人間なように私は悪魔という生き物で…んんっ…」

 

基本的に翼は触れれても何か感じるような場所では無いのですが、触れられた事が少ない為に彼が羽先を撫で回し始めた事で変な声を出してしまいました。

 

差し出している以上、特に何を思うわけでもありませんが、彼は負い目に感じたのか羽先に手は添えつつも手は動かさずに私から目をそらしながらポツリと呟きます。

 

「し、尻尾は性感帯みたいな……? せ、先輩…? そんな"かわいそうですけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命ですから多目に見てあげましょう"見たいな目は止めてください!? 洒落になりませんよ!」

 

この人は話しているだけで勝手に墓穴を掘っていくから面白いですなどと考えていると目的の人物の特徴的な魔力を感じ、そちらに目を向けました。

 

「始めましてと言うべきかしら?」

 

見付けるのが遅いですね。こちらは貴女が来るまで暇を潰していたと言うのに。

 

「辻堂カトレアさん」

 

今、私の隣の席に座っている女子生徒。リアス・グレモリーさんがそこにいました。

 

腰に手を当てながら緋色の瞳でこちらを見つめていますが……とりあえず指摘しておくべきでしょうか?

 

「顔引き攣ってますよ?」

 

「誰のせいよ…誰の…」

 

まあ、3年間同じクラスにいて気が付かなかったのですからそうもなりますね。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「あなた悪魔だったのね…?」

 

「ええ、この通り」

 

「…………とりあえず、あなたほどの実力の悪魔なら、悪魔としての学がないわけ無いわよね? 悪魔が人間界で暮らすのならその地域の領主に…」

 

「自分の領内に堕天使の侵入を許し、むざむざ彼以外の保有者を殺され、その彼もこうして私が動かなければ殺されていた領主様。実にしっかりとした統治を行っていますね。私には真似できそうもない」

 

「ぐ……言ってくれるじゃない」

 

「そもそも領主への申告は領主が効率的に領民を把握するための暗黙の了解ではありますが、義務ではありませんよね?」

 

「………悪魔の末裔の保護は義務のひとつなの。あなた明らかにどこかの貴族の家の末裔よね?」

 

「ところで姫島さん。2年生の修学旅行の時、深夜に寝惚けて全裸のまま部屋から飛び出し、オートロック式の鍵だったせいで部屋に戻れなくなったとある女子生徒の話を聞きたいですか?」

 

「あらあら」

 

「待ちなさい! あれは二人だけの秘密にしてって…」

 

「自分から正体をバラしていくスタイルですか。寝るとき全裸凄いですね」

 

「あ……」

 

今俺は旧校舎に部室があるオカルト研究部という部活のソファーに座らされている。

 

前を見ればここの部長であり、三大お姉様の一人であるリアス・グレモリー先輩と、副部長である姫島朱乃先輩がソファーの対面に座り。

 

隣を見れば最後の三大お姉様の一人。辻堂カトレア先輩が足を組ながら出された紅茶を飲み、意地の悪い笑みを浮かべている。

 

三大お姉様フルメンバーと俺。ここは天国でしょうか?

 

「まあ、一塊肉の悪魔で領主様の意向を無視した身。討伐されても釈明はありませんが……」

 

次の瞬間、背筋にこれまで感じたことの無いような寒気を感じ、思わず飛び上がりそうになった。

 

見れば先輩の目付きは絶対零度とでも呼べるほど冷え込み、その全身から炎のようにゆらゆらと蒼い光が立ち昇っている。

 

「私と事を起こしますか?」

 

……辻堂先輩。その姿勢似合い過ぎです…どう見ても悪の女幹部です…最期に自爆とかしそうです…。

 

最上級悪魔並みの(それだけ馬鹿げた)魔力をぶつけながらよくそんなセリフを吐けるわね…」

 

「良いんですよ領主様。あなたのお兄さんに泣き付いても」

 

え? グレモリー先輩のお兄さん?

 

「ッ!? 冗談じゃないわ! これは私の問題よ!」

 

「これは失礼。まあ、私は隠れはしますが逃げはしませんよ。それより、彼の処遇を考えませんか?」

 

先輩から蒼い炎ような何かが消え、呟かれたその言葉により、グレモリー先輩と、姫島先輩の視線がこちらに向く。

 

辻堂先輩で少しは馴れていたつもりだったけどこの二人も人間離れした美人だ…。あ、辻堂先輩によれば全員悪魔だったか。

 

「堕天使の襲撃を受けているなら記憶を消してどうにかなる問題でもないでしょう? あなたのせいでこうなってしまった以上、こちらの世界に引き込むしか無いと思われますがね? あなたのせいでこうなってしまった以上」

 

「いやに強調するわね…」

 

「それに彼の神器(セイクリッド・ギア)は中々良いものですよ」

 

「覚醒もしていないのに何かわかるのかしら?」

 

「うちのメイドが中の人と知り合いらしいですから」

 

「中の人…?」

 

「少し、耳を貸してください」

 

「…………………………嘘ッ!?」

 

辻堂先輩が立ち上がり、グレモリー先輩に何か耳打ちをした途端、グレモリー先輩の表情が豹変し、俺を何か凄いものでも見るような目で見つめる。

 

辻堂先輩はソファーに戻り、紅茶をひと飲みしてからティーカップを机に置くと、ゆったりと足を組み終え、相手を下に見るような表情で一言呟いた。

 

「そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」

 

堕天使…? 神器…? 覚醒…? いや、そもそも悪魔と言うものも今のところ名前しか知らない俺ですが何と無くわかったことがひとつだけあります!

 

辻堂先輩これ俺売られてますよね…?

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「あの辻堂先輩…? 俺生きて帰れますか…?」

 

チッ……流石のおっぱい星人と言えども自分がモノ扱いされている事に気が付きましたか。そんなドナドナされたような目をして…。

 

仕方がないので話を円滑に進めるために少しだけ、情報を渡すとしますか。

 

私はグレモリーさんらに少しだけ時間を貰い、頭に指を置き、指で脳の神経を抜き取るような動作をすると、頭から蒼い糸状の物体が出現します。

 

私の指にまとわりつくそれを彼に近付けると彼は私からソファーの上で半歩分程下がりました。

 

「せ、先輩…? なんでしょうかそれは?」

 

「大丈夫、痛みは一瞬です」

 

「だ、誰か!? 助け…痛ッ!?」

 

彼の頭にするすると蒼い糸が入って行きました。記憶を消したり換算したり出来るので人間に記憶を移すぐらい朝飯前です。

 

「……………………」

 

なぜか彼の目にハイライトが無く、口の端から舌がはみ出ており、私と逆の方にもたれ掛かっていますが、問題は無いでしょう。

 

「あなたを襲ったのは?」

 

「堕天使…」

 

「あなたに宿っているものは?」

 

「神器…」

 

「私と目の前の二人は?」

 

「おっぱい…」

 

よし、ちゃんと記憶は入っているみたいですね。精神も無事なようで何よりです。

 

私が指を弾くと途端に彼の目に光が戻り、体勢を直すとキョロキョロと辺りを見回し始めました。

 

「……あれ? 俺は一体何を?」

 

「何を言っているんですか兵藤さん。今の今までこちらの世界歴史や、神器や、悪魔の構成について説明していたではありませんか。その証拠にちゃんと覚えているでしょう? 色々と」

 

「え? あー、はい。そうですね。先輩は相変わらず説明が上手ですね!」

 

「それほどでもありません。それであなたを悪魔にしようという話ですが…」

 

「はい!」

 

「まあまあ…」

 

「あなた立派な悪魔ね…」

 

それは誉め言葉として受け取って置きましょう。

 

後は少しだけ彼の背中を押しましょうか。ええ、清水の舞台の上で彼を少しだけプッシュする感じですね。

 

「兵藤さん。例えばですね。悪魔になり功績を上げればそのうちグレモリーさんのように眷属が持てるようになります」

 

「眷属を…?」

 

「女王ひとつ、戦車ふたつ、僧侶ふたつに、騎士ふたつ、最後に兵士がやっつ。合わせて最大15人の眷属を持てるわけですね」

 

「15人……ッ!?」

 

その時、彼に電撃が走ったようです。

 

「……自分の眷属って事は好きにしても良いんですよね?」

 

「それはもうペロペロでも、カリカリでも、もふもふでも好きに出来るでしょう」

 

「ペロペロ!? カリカリ!?」

 

「ねぇ、朱乃? あの二人は何の話しているのかしら?」

 

「うふふ、リアスにはまだ早いですわ」

 

「先輩俺……新しい夢を見付けましたッ!」

 

兵藤さんはゆらりと立ち上がり、その明らかな意思を宿した瞳で上を見上げると高らかに宣言しました。

 

「ハーレム王に俺はなるッ!」

 

ドンッ!等と擬音が出そうな程気持ちのいい宣言ではありました。とりあえず尾○栄一郎先生に謝りなさい。

 

「話は纏まったようね」

 

そう言いながらも指はそわそわと膝の上を彷徨っているグレモリーさん。

 

まあ、単純に考えましょう。兵藤さんの中にある神器はとても特殊で、この世に13つしかない超強力な神器だったりします。

 

ええ、純粋に数多ある神器の中でも13つしかこの世に無いわけです。つまりはそれを保有する者を眷属に持てるだけでも名誉な事。他の王から一目を置かれ、羨望の眼差しを向けられる事は間違いないでしょう。

 

故に今の状況は正に鴨が葱を……いえ、B-2 スピリット ステルス戦略爆撃機を背負ってくるようなモノです。

 

ちなみにあちらは21機も生産されているので、実質上、彼の神器の方が貴重ですね。

 

「さっきの話は本当に本当なのね?」

 

「そうですね。生憎証明できそうなものはこれしかありませんが…」

 

時期早計ですが、隠れて生活するのもそろそろ潮時でしょう。

 

……スナック時代に母さんを孕ませたまま逃げたあの男にTSUGUNAIをさせる時でしょう……その為だけに私は魔力やら槍術やらを鍛えたのですから……。

 

主に人生の墓場的な意味で。

 

「これに誓います」

 

私は生まれつき、魔力を通すと右手の甲に浮き出る複雑な紋様の家紋をグレモリーさんと姫島さんに向けました。

 

彼女らの目がさっきほどではありませんが、大きく見開かれます。

 

「…………当主が行方不明になって家は断絶したって聞いていたけれど末裔がいたのね」

 

「私に借りが出来たと思うのならば今はこの事をあなたの心に留めておいてください。まだ、その時ではありませんが、私にはこれと実力ぐらいしか取り柄が無いのです」

 

「何かわけありのようね……わかったわ。その代わりこのオカルト研究部に入部しなさい」

 

そう言ってグレモリーさんは私に手を差し出して来ました。しかし、私はそれには応じずに未だに妄想か何かに浸っているのか立ったままアレな顔をしている彼に目を移しました。いい加減、あの崖下紳士をどうにかしましょう。

 

「わかりました。が、先に彼の相手をしてあげてください。ヤる気がこちらにまで伝わって来て見るに堪えない」

 

「そうね…わかったわ」

 

こうして私は、友人を保護と言う名の地獄の釜に放り込み、母さんの家族計画の第一ステップを開始したのでした、まる。

 

私って、ほんと悪魔。

 

 

 

 




 ヘ且ノ <何物も、我らを捕らえ、止められぬのだ!
≡/┐



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いつかの契約です

 ヘ且ノ <おお素晴らしい! 夢の中でも狩人とは!
≡/┐





 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 

悪魔になってから数日が経った頃。俺はペダルを全力で漕ぎながら自転車で公道を疾走していた。

 

下積みではあるけどこれも悪魔の仕事。端末に表示される家のポストに魔方陣の書かれたチラシを入れるだけの簡単なお仕事だ。

 

最も……。

 

「ほら兵藤さん。そこ右です」

 

「はいッ!」

 

右手に端末を持ち、なぜか左手に小さめのダンベルを持ちながら自転車の後ろに乗っている辻堂先輩(約65kg)が居なければの話ですけど…。

 

確かに先輩みたいな美人と毎日一緒にいれるのは純粋に嬉しい! 持ち物検査の日にエロDVDを持ち込まなくても会えますし!

 

でも先輩は間違いなく、ただ自分を重石代わりにしてエロDVDなどを持ち込む俺に日頃の鬱憤を晴らしているんだろうな…ダンベルも1kgでも重石を増やす嫌がらせだな!

 

くっそ……悪魔になったから筋力とかも上がっているハズなのに寧ろ前より直ぐに疲れるような…。

 

「言い忘れてましたけど、このダンベルはひとつで180kgありますから」

 

180+65=245kg

 

ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、チラシ配りは強敵でしたね…」

 

「はぁ…はぁ…! 先輩の鬼! 悪魔!……あ! 悪魔か!」

 

悪魔になった最近の日課のチラシ配りを終え、学校に戻って来た兵藤さんに労いの言葉を掛けると、なぜかそんなことを言われました。失礼な、こんなに後輩思いの先輩はいませんよ。

 

とりあえず兵藤さんとオカルト研究部の部室へと戻ると、そこには誰もいませんでした。

 

が、明かりは付いたままでついさっきまで誰かがいたような痕跡があります。主に食べ掛けのショートケーキとか。イチゴは最後に食べるタイプみたいですね。彼女。

 

「あれ? 皆契約に行って…おわっ!?」

 

とりあえず、兵藤さんは邪魔なので足を弾いて床に倒しました。

 

次の瞬間、真上から金髪の男子生徒が、バスタブの中から白髪の小柄な女子生徒が、私へ向かって一直線に飛び掛かって来ました。

 

金髪の男子生徒は切れ味の良さそうな西洋剣を構え、白髪の小柄な女子生徒は特注でもしたのかその小さな手に合う一対のメリケンで殴り掛かって来ます。

 

取り合えず、距離と速さ的に先に降ってくる彼の剣先を指二本で掴み止めました。

 

「ははは…嘘ですよね…?」

 

もうどうしたらダメージが通るんだとでも言いたげな顔をしている金髪の男子生徒。

 

この隙に私へ位置的に全力のレバーブローを叩き込もうと、拳を繰り出している白髪の小柄な女子生徒には剣を止める方とは逆の手の小指一本で拳を止めて見せます。

 

「にゃ!?」

 

「さて、如何に勝てないからと言ってこの際プライドは抜きだと言わんばかりの戦法を取ってきたあなた方には少し、お灸を据えるべきですね」

 

まず、金髪の男子生徒に目線を合わせました。絶妙な表情で苦笑いしながら汗を流しています。

 

「無抵抗の女性に剣を向けるとは何事ですか」

金髪の男子生徒にそう呟き、魔力を込めて彼の剣を覆い。覆った直後に剣がバラバラに分解され、支えを失った彼は重力により、頭から私に落ちてきます。

 

そして、コークスクリューブローの要領で、回転の乗った私の拳は彼の鼻頭を正確に捉えました。

 

「男女平等ぱーんち」

 

ふわふわした掛け声とは裏腹に殴られた金髪の男子生徒は絵に描いたようなきりもみ回転で部室の窓ガラスをぶち抜き、外へと飛んで行きました。元気そうで何よりですね。

 

それを見て驚愕に目を見開きながら唖然としている白髪の小柄な女子生徒へは指先から魔力を発生させ、彼女に一時的なバインドを掛けます。私が解除するまで顔以外動かす事は難しいでしょう。

 

うーん……今日は何を書きましょうか? 猫さんは額が広いので何でも掛けちゃいます。

 

「キュポッと」

とりあえず油性マジックで額に"持たざるもの"と文字を書き、ほっぺにクラブと木板の盾の絵を描いたら完了です。

 

そして部屋にあるソファーに挟まれている机の上にある食べ掛けのショートケーキが乗っている皿を手に取り、彼女の前まで戻りました。

 

彼女は何か察したのか口をパクパクとしていますが、私による状態異常バインドが付加されているため、話すことも叶いません。

 

私は笑顔でショートケーキのイチゴを手に取り………………自分の口に放り込みました。

 

「酸っぱいですね」

 

特に美味しそうな様子も見せず、食べた適当な感想を吐きます。

 

「にゃああああああああああああああああああああ!!!!!?」

 

モグモグとイチゴを租借しながら彼女のバインドを解くと、悲痛な叫び声が上がります。

 

「なにやってるのよ…あなたたち……」

 

丁度、グレモリーさんがこの部屋に戻ってくるとそんなことを呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられた」

 

「イッセーくん。僕の鼻はまだ付いているかい? 前がよく見えないんだ」

 

「木場お前!?…………先輩! イケメンだって人間なんですよ!?」

 

「悪魔に人権はありません」

 

「くそっ! 何て酷い社会なんだ!?」

 

私はレイプ目でショートケーキの皿を持ちながらぷるぷると小刻みに震えている白髪の小柄な女子生徒……塔城小猫さんと、顔面が血だらけの金髪の男子生徒……木場裕斗さんらを横目で見ながら、ティーポットから紅茶をカップに注ぐとグレモリーさんの前へと置きました。

 

「お茶が入りましたよ」

 

「あら、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

そもそもの事の発端は兵藤さんが悪魔になってから次の日の顔合わせで、私の実力がすこぶる高く、槍なども使うと言うことがグレモリーさんの騎士である木場さんに知れたことが原因です。

 

剣で槍に挑む時点で既に前提から間違っている気もしますが、まあ、経験を積むぐらいなら良いだろうと思い適当に相手をしたところ、明らかに加減をしているにも関わらず、私に傷ひとつ与えられないことに木場さんは衝撃を受けたらしく、それ以来毎日相手になって欲しいと言ってきたのです。

 

ただし、私も条件を付けました。悪魔なら殺す気で掛かって来なさいと。

 

その結果、日に何度か木場さんが強襲を掛けてくるようになったと言うことです。最近、面倒になり始め、私のカウンターが雑になったと言うか、手加減が雑になったような気がしないでもありませんが、きっと気のせいでしょう。

 

ああ、塔城さんの方は3日目に私が彼女の取って置きのおやつを食べてしまってから木場さんに混ざって攻撃してくるようになりました。まあ、彼女は原因が原因なので物理的なダメージは一切、与えていません。私、超優しい。

 

なぜか昨日、姫島さんに真剣な顔でお姉さまと呼んでも良いでしょうか?と聞かれましたが、意味がわかりません。私はド親切な悪魔です。

 

「私の眷属で遊ばないでくれるかしら?」

 

「前向きに検討しておきます」

 

「…………そんなんだから友達が居ないのよ…」

 

「今、何か言いましたか?」

 

「い、いいえ…何も……」

 

そんな会話をしていると姫島さんがひょっこりと部室に現れ、現在のオカルト研究部のフルメンバー(一部除く)になったようです。

 

私はそう言えば風紀委員として使っている事務室の鍵を掛けたか覚えていない事に気が付き、本校舎の方に向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鍵はしっかり掛けてあった事を確認し、部室へと戻ると部屋のグレモリー家の紋章の上で兵藤さんが膝と手を突きorzになっているのが嫌でも目に入りました。

 

彼のいる場所と、彼の稚児以下の魔力量から大体の事は想像がつきますが、とりあえず近くにいた姫島さんに聞いてみると案の定、彼の魔力が足りな過ぎた為に魔方陣から直接ジャンプする事が出来なかったのでしょう。

 

仕方なく、自転車で契約者の元に行くことにしたのか彼は立ち上がりました。

 

が、次の瞬間、私の手元を見て叫び声を上げながら再び、両手量膝を突きorzになります。

 

「ぐっ!? 先輩いいいいい!」

 

何と無く微笑みながらちょっと重めのダンベルを持を持ちたくなっただけだと言うのに相変わらず面白い反応をしますね。

 

「いつも疑問だったんですけどそのダンベルは何なんで……うっ!?…………ああ…これはひどい」

 

顔の怪我は治した様子の木場さんが疑問を投げ掛けてきたので、ダンベルを投げ渡すと片手で受け取った瞬間、ダンベルに沈み込まされるように床にダイブし、とあるクソゲーの冒頭で言われる迷ゼリフを呟きました。

 

「…………これひとつ貰えませんか?」

 

「いいですよ。その大きさでなら10t程まで用意出来ますが?」

 

「10t!? と、とりあえずこれと同じものを…」

 

「そのまま、あげましょう」

 

鍛練に熱心な事は良いことですねなどと思いながら木場さんから目線を外し、まだ魔方陣の上にいる彼に目を向けます。

 

「うわっ!?」

 

仕方がないので溜め息を吐きながら彼に近付き、肩を掴むと立たせました。そして、彼を鍵に使い、私の魔力で魔方陣を抉じ開ける事で無理矢理魔方陣を機能させました。すると魔方陣は蒼く光出し、蛍火のような光が部屋中を飛び交い始めます。

 

「どうせ直ぐに成長するんですからそれまではこのような形で転送すればいいと思いますが?」

 

「あ、あなたどれだけの魔力を使ったら登録していない魔方陣を…!」

 

「行きますよ。兵藤さん」

 

「は、はい!」

 

グレモリーさんが何か言っていますが気にせずに魔方陣を起動しました。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、初仕事は強敵でしたね…」

 

「また、その口調ですか先輩…」

 

何故か周囲に黄味がかった魔力の霧を撒きながらそんなことを呟く先輩。

 

基本的には真面目な人なんだがプライベートに入ると直ぐこれだよ…。

 

今は悪魔としての初仕事を終え、帰りはあの方法は難しいらしいので先輩と徒歩で帰っているところだ。

 

「しかし、ああいう依頼は困りますね」

 

先輩がそんなことをぼやいた。

 

「ああ、そうですね…」

 

確かコスプレした小猫ちゃんにお姫様だっこされたいだったか……悪魔への願いとしては酷い内容だな。

 

「個人指定が困ると言っただけですよ。内容に文句はありません」

 

「そうなんですか?」

 

「そんなものでしょうよ。現代はね。大昔なら悪魔を喚ぶなんてよっぽどの事でした。復讐とか、過ぎた恋慕とか、永遠の命とか。そんなことを頼まれても今の兵藤さんは出来ますか?」

 

「そ、それは確かに…」

 

ちなみに依頼の方は鉄歯車というゲームに出てくるフォーチュンと言うキャラのコスプレを先輩がすることで代わりに達成できた。貧乳派を豪語していたが、巨乳派向けのコスプレ衣装ももってたらしい。なんか先輩が終始ノリノリに見えたのが一番気になったけど…。

 

まあ、俺はその人とドラグ・ソボールを語っていただけだけどさ…。

 

「だからわざと呼び出しもチラシにしているのですよ。やろうと思えばもう少し厳粛というか、高級感ある方法も取れたでしょうに。インスタント感覚なら身に余る事を頼もうと言う気も起きませんからね。対価もそれ相応ですし」

 

「ああ、なるほど…」

 

相変わらず先輩は何でも知ってるなー。見た目通り、俺とは比べ物にならないぐらい頭もいいからな。ハハハ。

 

「俺、悪魔の事、誤解してましたよ。もっと怖いと言うか、恐ろしいモノだと……」

 

「それは違いますよ。兵藤さん」

 

俺がそう呟いた言葉を聞いた途端、先輩の雰囲気が一変した。いつもに比べれば遥かに重苦しいと言うか、棘があるような感覚だ。

 

「悪魔は人間を悪魔に転生させてまで、種族を存続させているのに人間を敬わず、見下すのはおかしい。まあ、よく言われている事ですね」

 

「え?」

 

「ですが、考えても見てください。悪魔にとって必要な人間とは?」

 

先輩は足は止めずにその雰囲気のまま、さっきよりも棘がある口調で言葉を吐いた。

 

「神器持ちは一体全人類の何%に当たりますか? 例え神器を持っていたとしても当たりの神器保有者と外れの神器保有者のどちらが多いと思いますか? 単体で悪魔以上の戦闘能力を持つ異常な人間が一体どれ程の数がいるのでしょうか? そんな人間をあなたは日常的に見たことがありますか?」

 

「それは…」

 

つまり先輩はこう言いたいのだろう。価値のある人間など一握りすらいないと。

 

「それでも尚、悪魔に転生した個人ではなく人類種を敬えと言うのならそれは、某女性しか対応していないパワードスーツのある世界の女尊男卑並みのごり押し理論になるでしょう。実際、悪魔と人間が本気で戦争をしたら一週間どころか三日で片が付くでしょうしね」

 

先輩はまあ、誰も得をしないのでありえませんが…と閉め、更に言葉を続けた。

 

「そもそも悪魔の中でも私やグレモリーさんのような貴族の血を引く強力な悪魔から、神器を勘定に入れてない状態の兵藤さん程度の一般貧弱悪魔までピンキリです。勿論、冥界ではどの層が圧倒的に多いのかなんて言わずともわかりますね。悪魔の貴族は強い。そんなものは当たり前です。人間の王族が美男美女が多いのと同じ理由で、悪魔の貴族は代々強力で容姿の良い悪魔同士を掛け合わせてき続けたのですから」

 

先輩はつまりと言葉を繋げると、更に言葉の棘を強めたように感じた。

 

「悪魔の種族としての存続に人間などそもそも必要無いんですよ。必要なのは貴族の存続のためです。大戦で強力な悪魔が減った結果、貴族としての体裁が保て無くなった為の緊急手段でしかありません。つまるところ悪魔が必要な人間とは、一時的な苗床の事です」

 

「な…!?」

 

あんまりな言葉に思わず、足が止まる。それを感じたのか先輩も足を止めた。

 

「レーティング・ゲームなんてその為の体のいい口実でしょう。何も知らず、考えようともしない実力があるだけの転生悪魔にはおあつらえ向きです。はぐれたら殺せば全て解決しますしね。現魔王は体制を変えようとよくやっていますが、一時代が過ぎれば直ぐに転生悪魔は用済みになるでしょう。見下す、敬う、それ以前に結局、人間は今も昔も悪魔の食い物でしか無いのですよ。所詮、人は人、悪魔はつとまりません。そして、"悪魔は悪"なのです。だから…」

 

先輩の背を見ながらただ絶句する俺に、先輩は振り向きもせずに言葉を続ける。

 

「私はあの時、あなたに選択させました。死ぬか? 生きるか?……と。そして、あなたは生きたいと言った。だから今こうしてここにいます」

 

「はい……」

 

俺はやっとそう返すと、先輩は足を止め、暫く考え込むように星空を見上げてから言葉を紡いだ。

 

「酷なようですが……あの場で死んだ方が幸せだったかも知れませんよ。この世界はそれほどに嘘まみれで、非情で、残酷です。死にたくなったらいつでも言ってください。友人としてせめて痛み無く、葬りましょう」

 

先輩はその場でゆっくりと振り返る。俺はその動作がありえないほどスローに感じる。

 

「ですから兵藤さん」

 

何故か久し振りに見たような錯覚を覚える先輩の表情は晴れやかでいて、酷く寂しそうに俺の目には映った。

 

「その身に余る夢を叶えたければ強くなりなさい。主人よりも、最上級悪魔よりも、そして……」

 

一瞬、そう一瞬だ。一瞬だけ世界全てが先輩の蒼一色に染まったと俺は認識していた。これが先輩の全ての魔力なのだろう。一人の認識する全ての感覚を染め上げる程莫大な魔力。まだ、悪魔の事をよく知らない俺でもこれがどれ程篦棒な事なのかと言うことはわかった。

 

その中で確かに先輩はハッキリと、そして心に刻み込まれるようにその言葉を吐く。

 

 

 

「私よりも……ね」

 

 

 

気付けば先輩の雰囲気はいつも通りに戻り、風景はいつもの夜中の星空に戻っていた。灯りの付いている家も極少数だ。

 

先輩は付け加えるように言葉を続ける。が、その言葉にはさっきまでの威圧感も何も無かった。

 

「それと……リアス・グレモリーさんは信用に足ります。私よりよっぽど優しく、思い遣りのあり、愛のあるお方ですよ。ええ、悪魔としては異常な程に」

 

先輩はそう言うと俺に向けていた身体を正面に戻し、足を進めようと一歩踏み出す。

 

「先輩、俺。夢がもうひとつ出来ましたよ!」

 

が、俺がそう言った事で先輩はまた足を止め、こちらを振り向いた。

 

「ほほう、何ですか?」

 

「先輩が……」

 

なんでそんなことをパッと言えたのか、俺の最大の謎だ。

 

高嶺の花。悪魔になったことでその本質的な距離はかなり延びた気がする。でも、数日過ごしてそんなことよりも人として先輩との距離が縮まったように感じたからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の"女王"になってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………はい…?」

 

多分、俺が生きていて先輩がここまで呆けた顔をしたのを見たのはこれが最初で最後だと思う。それぐらいその時の先輩は変な顔をしていた。

 

「あなた私の話を聞いていたのですか……?」

 

「俺、難しい事よくわかんないッス。成績悪いし、悪魔になっても落ちこぼれみたいだし、だから難しい事は先輩が考えて欲しいなって思って。ダメですかね」

 

「……………………」

 

先輩は半眼で暫く俺を見つめてから小さな溜め息を吐くと、口を開いた。

 

「わかりました」

 

「ホントですか!」

 

「ただし、これは悪魔(わたし)との契約ということにしておきます。対価は10年先でも100年先でも構いません。あなたの実力で私を倒してみなさい」

 

「え"…」

 

最上級悪魔がどうのとか言われていた先輩を…? 俺が…? そんで契約…?

 

「返事は?」

 

「わ、わかりました!」

 

「よろしい」

 

そう言うと先輩は年相応、容姿からすれば子供っぽく見えるような悪戯っぽい笑みを浮かべてこう呟いた。

 

「精々足掻きなさい。"人間"」

 

俺は話の流れでとんでもないことを契約したのかもしれない。でも後悔はない。だって少なくともさっきよりも先輩が寂しそうでないから今はそれでいいと思うんだ。

 

よし! 打倒先輩だ!

 

………………何百年掛かるかな…?

 

 

 

 




???『俺の女王になれとか黒白と同意だろ、いやらしい…』


カトレアさんの思考は割りと古めです。ついでに自尊心も高く、悪魔としての誇りもあり、比例して才能もあります。でもそれ以上に優しい悪魔です。悪魔としては欠点だらけですね。



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はぐれ悪魔と説明です

どうもちゅーに菌or病魔です。

  ヘ且ノ <しかし悲しいかな。あまり速くはないようだ
 ≡/┐




 

山間にある忘れられた大きな廃屋。

 

そこに入ると真っ先に鼻をつく程の血の臭いが漂ってきますが、それを無視し、薄暗い中を進むと無数の剣に壁に磔にされた巨大な何かの前に出ました。見ればそれを見上げるように佇む女性がいます。

 

「まだ、満足出来ませんか?」

 

私の声に肩を震わせた女性……ロベルタさんはゆっくりとこちらに振り返り、深々とお辞儀をすると、そのまま彼女は私の隣を通り抜け、何処かへと行ってしまいました。

 

「よくもまあ…そんな状態でまだ生かすことが出来ますね」

 

彼女が居た場所に立ち、そう呟きながらはぐれ悪魔だった肉塊を見上げます。本当に僅かに息があるようですが、最早死んでいるのとそう違いないでしょう。精々後、3時間程度だけ苦しみもがく声すら上げれずにここにいるだけです。

 

「許しは乞いませんよ。ただ、あなたは弱かった。それだけです」

 

私は溜め息を吐いてから魔力を練り上げ、三又槍を造るとそれをはぐれ悪魔の頭部だと思われるパーツに放ちました。三又槍はピクリとも動かないそれに吸い込まれるように刺さり、その直後、はぐれ悪魔の身体は燃えるように消滅しました。

 

消滅した後に身体を磔にしていた十数本の巨大な剣と、特に理由もなく刺さっていた多数の剣は床に落下し、砕け散るように霧散します。

 

全てが夢だったかのように何もかもが消えた場所にポツンと取り残されているモノがふたつ落ちています。私はそれに近付いて拾い上げると眺めました。

 

それは古ぼけた家族写真と、悪魔の駒。家族写真には両親と思わしき人に囲まれて笑っている女性が写り、悪魔の駒はたったひとつの歩兵の駒でした。

 

家族写真を私の魔力に晒し、火葬するように存在を消すと、兵士の駒を人差し指と親指で持ちます。

 

「狂っていますよ。世界も、悪魔も、何もかも…ね」

 

歩兵の駒は私が力を込めると、いとも簡単に砕け散り、悪魔と同じように消えていきました。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

ロベルタさんと、ちくビームを発射するはぐれ悪魔を討伐した少し後。

 

『キルストリーク』

 

私は部室に持ち込んだPCで、最近新しく正式サービスを開始したネットゲームをしながら、チラリと部室の窓の近くにいる兵藤さんと、グレモリーさんを見ました。

 

どうやら彼が道に迷っていた教会所属のシスターを教会に送り届けて来たようですね。流石兵藤さんと言うべきか、教会や天使の知識も入れておいたハズなのですが…。

 

『キ キルストリーク』

 

悪魔と天使は、堕天使以上に相容れないモノ。悪魔が教会に近付くなど即光の槍で穿ち殺されても文句は言えません。

 

まあ、私なら投擲された光の槍を逆に投げ返す事も可能ですが、今の彼ではそれは酷……と言うか下手すれば下級相手にも殺されるのがオチでしょうね。がめおべらー。

 

『キキ キルストリーク』

 

そのために彼が出歩くときは私も夜間は同行しているわけですが、今回は昼間だったのでここでPCゲームを勤しんでいたわけです。なぜか塔城さんが私の隣に椅子を置いてそこに座り、物珍しそうに見て来ますが、そろそろ反応してあげた方がいいでしょうか?

 

兎も角、彼は非常に危険な行為をしたわけです。シスターだって彼が悪魔だと気が付けば懐から聖水をぶっかけるとか、十字架で目を突くとか、聖書の角で頭を殴るぐらいはしてきたかもしれません。まあ、私なら何れもイラッとする程度ですが、彼には洒落にならないでしょう。

 

ただの聖書だって悪魔にすれば、強力な祝福が施された上質な武器となりえるのです。アストラの騎士は頭を下げてはいけません。

 

『キキキキキキキキ キルストリーク』

 

「カトレア、音を止めてちょうだい」

 

「先輩、音量を落としてくれませんか…?」

 

注文の多い悪魔ですね。当てるのも大変なんですから許してくださいよ。しかし、妙です。この町の教会はとっくの昔に廃れたはずなのですがね。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう、魔法と神器について詳しく知りたいと?」

 

小猫ちゃんに何故か猫じゃらしでも向けるように、ハンディクイックルワイパーを向けて何かしている先輩に俺は声を掛けた。

 

勿論、小猫ちゃんは先輩に嫌そうな目を向けている。でも、逃げないところを見ると心底嫌っていたりするわけでは無いんだと思う。

 

「まずは魔法から教えましょうか」

 

そう言うと先輩はハンディクイックルワイパーを机に置き、小猫ちゃんを持ち上げると膝に置いた。本当の猫みたいに扱ってますね…。

 

「悪魔にとっての魔法とは概ね兵藤さんが考えているようなマジカルでリリカルのようなモノと捉えて問題はありません。簡易な催眠のような小さな暗示から、魔弾やら魔砲やらを撃ったりと出来ますね」

 

先輩は右手の掌をこちらに向けると、その五本の内の四本の指先の上に親指から火の球、薬指から水の球、中指から電気の球、人差し指から風の球が現れた。

 

それぞれが赤、青、黄、緑ときらびやかに輝き、それが次第に膨張するとひとつに纏まり、四色の紙風船のような球が完成した。

 

「ほえー……スゴい…」

 

「触れてみますか? 兵藤さんを消し飛ばすぐらいの威力は軽くありますよ」

 

危なっ!?

 

「悪魔家固有の能力を行使する事と、光力を生成すること以外なら万能の力。それが魔法です。要するに悪魔はだいたいの事は魔法で出来ると言うことですね」

 

なるほど……俺も何か出来るようになるのかな?

 

「しかし、それが良い事ばかりでもありません」

 

「そうなんですか?」

 

「魔法は万能の力。そして全ての悪魔が等しく使える力でもあります。つまりは悪魔にとっての才能とは魔力の量や、質に当たるのですよ。兵藤さんは才能が無いなどというレベルではありませんからねえ。控え目に言えばゴミ。酷く言えば悪魔の恥ですね」

 

「は、恥!?」

 

「ですから強くなりなさいと言ったのですよ。悪魔の才能の有無は魔力によって決まりますが、実力は魔法だけが決めるものではありません。魔法、肉体、能力。それらから生み出された実力こそが悪魔の本質です」

 

「そ、そうだったんですか…」

 

「だから有名な言葉を借りれば、百聞は一見にしかず、百見は一考にしかず、百考は一行にしかず、百行は一果にしかずと言ったところ。いくら言葉を飾ろうと、考えようと、行動に移そうとも結果の伴わない努力など全て無意味です。やるなら必ず実を結びなさい。まあ、要は……」

 

先輩は造り出した魔球を握り潰し、膝の上で借りてきた猫のようにじっとしている小猫ちゃんをひと撫ですると更に続けた。

 

「気に入らない存在は全てブチのめし、最後に立っているのがあなたなら良いのですよ」

 

「………………先輩って思ったより脳筋だったりします?」

 

「知らないんですか兵藤さん。ロードランでは頭の良い脳筋が一番厄介なんですよ」

 

の、脳筋とはいったい……?

 

「それと魔法には適性と言うものもあります」

 

「適性ですか?」

 

「ええ、例えば私は魔力量も、質も、大概の事はなんでも出来ますが、一番得意なのは水に関する事ですね。小猫さんゴー」

 

「!」

 

先輩がそう言うと小猫ちゃんは膝の上から飛び上がり、部屋の外へと飛び出して行った。暫くすると空の洗面器と、水を張ったグラス、最後に一枚の青々とした葉っぱを持ってくると先輩の膝の上に戻って丸くなった。

 

「よしよし…」

 

「先輩と小猫ちゃんはどういう関係なんですか……? というか数日で何が…」

 

「失礼な。どこからどう見ても優しい先輩と、先輩を慕う後輩の図でしょうに」

 

俺の知ってる先輩後輩と違う…。

 

「それはそれとして早速、やりましょうか」

 

そう言うと先輩は洗面器の中心に水の張られたグラスを置き、水面に葉っぱを浮かべた……………………あれ?

 

「後はグラスに向けて魔力を練れば……」

 

次の瞬間、グラスから水が溢れ出し、洗面器はグラスから溢れた水で一杯になってしまった。

 

「私ならこのように水が溢れます」

 

先輩はどこか誇らしげにそう言うと眼鏡を直していました。よく見れば小猫ちゃんが口を押さえて笑い声を漏らしているような気がする。

 

「ははは、そうですか! ところで先輩?」

 

「はい?」

 

「後輩弄って楽しいですか?」

 

「はて? なんのことでしょうか?」

 

「そうですか。強化系凄いですね」

 

「それほどでもありません」

 

こ、この先輩は全く…!

 

「それで神器についてですね」

 

先輩は話を露骨に切り換えると、神器を出して欲しいと言ってきたので、言われたままに俺は自分の神器を出した。

 

「まあ、だいたいの事は頭に入っているでしょうから省きますが、要するに神器とは人間にしか発現しない脱着式の能力、或いは才能と言ったところですね」

 

「脱着式ですか?」

 

「ええ、例えば兵藤さんのその神器。別にやろうと思えば兵藤さんから引き剥がして私が使うことも可能ですから」

 

「え! そうなんですか?」

 

「まあ、多分あなたが死ぬのでやりませんけど」

 

「え"…」

 

取られたら死ぬ…?

 

「神器は保有している人間の重要な内蔵の一部のようなものでもあります。例えば心臓を今この場で抜き取られたら死ぬでしょう? そういうことです」

 

「な、成る程…」

 

これってそんなに生きるのに重要な物だったのか…。

 

「でも方法次第では生かしたまま抜けない事もない。例えば心臓なら人工心臓と丸々取り換えてしまうような感じですね。まあ、大掛かりになりますし、そんな面倒なことをするぐらいなら直接抉り出して神器だけ頂くか。転生悪魔にして眷属にしてしまうのが手っ取り早いでしょう。ちなみに最近の主流は後者です」

 

そう言うと先輩は俺の神器に手を置き、手の甲に当たるところを撫で回し始めた。

 

「まあ、それはもう置いておき神器の話に戻ると、兵藤さんのその"赤龍帝の籠手"は、10秒毎に力を2倍にする効果を持つ神器です」

 

「10秒に2倍?」

 

「ええ、兵藤さんの実力を1とすると、10秒で2、20秒で4、30秒で8と繰り返すと、100秒後には1024になりますね」

 

「1000倍越え!?」

 

すげぇ……この神器はそんな神器だったのか…。

 

「まあ、今のあなただと別にそれがあっても特に驚異でも何でもありませんが」

 

「えっ?」

 

「兵藤さんは私相手に何秒持ちますか? いいえ……こう聞きましょう」

 

次の瞬間、俺の首筋に何かが突きつけられ、ぞわりと頭から爪先へ抜けるように嫌な感覚が通り抜ける。

 

マラソン後のようにバクバクと鳴る心臓を落ち着かせながらそれを見ると、先輩の背中から一枚の悪魔の翼が俺の首に突き付けられていると言うことに始めて気が付いた。

 

「何秒で私は兵藤さんを殺せると思います?」

 

「あ……」

 

そう言うことか。

 

「冗談でもなんでもありません。戦闘中の10秒という時間はあまりにも長い。更に神器の効果で強くなると言うことは能力を持続させるには神器の発動を維持し続けなければいけないと言うことです。今のように少し殺しに掛かっただけで竦み上がったり、意識が飛ぶほどの激痛を与えられたりすれば神器は直ぐに初期状態に戻ってしまいますよ」

 

「なるほど…」

 

やっぱり先輩は凄い人…悪魔だ。利点から弱点までもなんでも知ってるし、平悪魔の俺でもわかるぐらい明らかに強い。きっと本当は隣にいるだけでも奇跡なんだろうな。

 

「まあ、奥の手が使えれば多少話はかわりますが」

 

「奥の手ですか?」

 

「その話はまた今度にしましょう。まだ殆ど覚醒すらしていない現状では夢のまた夢ですしね。まあ、ちなみに参考までに教えておきますが、私が10秒あればあなたとグレモリーさんを含め、グレモリー眷属を皆殺しに出来ますよ?」

 

「は、ははは……冗談キツいですよ先輩…」

 

そんな風に先輩との話を終えると、勢いよくドアが開かれ、明らかに怒ってますと言った表情の部長と、いつものようにニコニコと笑っている姫島先輩が部室に入って来る。

 

部長は辻堂先輩の前まで来ると強く机を叩いた。

 

「やっとわかったわ! はぐれ悪魔狩りの犯人はあなたね!」

 

「はて? なんの事でしょうか?」

 

それに対し、先輩はザ・棒読みと言った様子でそんな回答をする。

 

「惚けないで! いつもいつもわざわざ現場にあんな濃くて蒼い魔力の残滓を残せる悪魔なんてあなたぐらいしか居ないでしょう!?」

 

そう言うと先輩は脚を組み直してからソファーに寄りかかり、顔を上げて天井を暫く見つめてから部長に顔を向けた。その表情はなんと言うか……とてつもなく寒いボケをかました時の俺を見るような表情だった。

 

あ、これダメだ。もう勝負ついた。

 

「お言葉ですが貴族様。一般人に及ぶ被害を未然に防いでいるのだから寧ろ感謝されても良いぐらいだと思いますが? それにはぐれ悪魔には大小差はあるとは言え、賞金が掛けられています。フリーの悪魔が貴族の領内にいるはぐれ悪魔を狩ったところで潰れるのはあなたのメンツと信用ぐらいでしょう?」

 

「ぐッ……!? だからその信用が…」

 

「確かにこの部の部員ではありますが、それはあくまでもこの部員だと言う程度の話。グレモリー家の傘下に入った覚えもありませんし、あなたの下僕になった覚えもありません。あれですかあなたは? ケーキ屋のショーケースの中のケーキをただで食べさせろとごねる意味のわからない子供のような何かですか? あれ可笑しいですね。やってることは万引き犯と大差ありませんような?」

 

「う"……!?」

 

「一体誰のお陰で今の今まではぐれ悪魔による死亡者をほぼゼロにまで抑えれたんでしょう? まあ、領主様曰く、賞金首であるはぐれ悪魔の討伐はルーチンワークらしいですし、さぞ、迅速かつエレガント! 止めにグレイトォ! な仕事振りを発揮してくれるハズです。まさか、まさか、自分の領内にはぐれ悪魔が入ってきた事をイチイチ現場に居るわけでもないデスクワークが中心の大公殿から報告されなければ気付くことすら出来ないなどと言う事は有り得ないでしょうね。グレモリーさん」

 

「…う…………」

 

そこまで言うと先輩は座ったまま片手を、完全に硬直している部長のおでこに伸ばした。すると人差し指を親指に添えて輪っかを作り、人差し指を軽く弾く。

 

つまりはただのデコピンを放った。

 

遅れて部長のおでこが赤く染まり、止めと言わんばかり辻堂先輩はツンツンとおでこをつついている。

 

「ソレが嫌なら精々強くなりなさい。あらゆる意味であなたは詰めが甘過ぎます。中途半端な優しさは何時か誰かを破滅させますよ? まあ、それはそれでとても悪魔らしいとも言えますがね」

 

「…う……うぅ…………朱乃…」

 

「ああ、リアス…よしよし可哀想に…」

 

半べその部長は手を広げて抱擁の構えをした姫島先輩に吸い込まれるように崩れて行った。

 

…………辻堂先輩をそれなりに長い期間見てきたからわかりますが、姫島先輩…何故か眼が笑ってますよ……………ああ、この人も辻堂先輩と同じ人種か…。

 

いつも通りの対応でこれだもんなぁ……改めて辻堂先輩だけは怒らせないようにしようと誓った俺だった。

 

 

 




ちなみにカトレアさんに悪意はないです。リアスちゃんの事もカトレアさんは割りと好きです。リアスちゃんの為を思って言っているし、街の人間の為を思って行動しているんです。

ただし、コミュニケーション能力がある意味壊滅的なのと、ドを越えた悪戯好きなだけなんです。


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れっつ復讐です



ミコラーシュはお休み


 

 

 

兵藤さんに練を見せてから数日後。私は私用で部室に顔を出せなかったため、久し振りに夜の学校に来ました。

 

すると丁度、校舎から出て来る兵藤さん、木場さん、小猫さんとばったり会ってしま…。

 

「イッ!? 辻堂先輩!?」

 

「にゃにゃ!?」

 

「うわ!? 辻堂さん!?」

 

「………………普段からあなたたちが私をどういう目で見ているのかよくわかりました」

 

これは対応を改めなければなりませんねぇ…? 私の壊れそうなものばかり集めてしまうガラスの十代のハートはもうボロボロですよ。

 

「いや、そうではなくてですね! なんというか……その…夜中にいきなり辻堂先輩と出会うのは心臓に悪いというか……」

 

私はオバケですか全く……兵藤さんはダンベル追加ですね。

 

「まあ、いいでしょう。それは兎も角、お揃いで何処へ行こうというのですか?」

 

「それは……」

 

3人……というか主に兵藤さんから話を聞きました。

 

それによれば堕天使陣営に無理矢理所属させられているらしいこの前の話に出た シスターを、グレモリーさんの反対を押し切ってこれから救出に行くそうです。

 

…………どれだけ人望がないんですか、あの全裸エロパイパン巨乳バカデレドジ人外姫。

 

「はぁ……」

 

私は目を閉じて額に手を置くと、少しだけ夜空を見上げました。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「瓜の蔓に茄子はならぬ」

 

「え…?」

 

空を見上げたまま先輩は言い切るように一言呟いた。

 

「ウリの蔓にはウリしかならず、ナスもナスの木にしかならないという意味です。要するに主人が阿呆だと眷属まで阿呆なのかと思っただけですよ」

 

見上げていた顔を下げ、こちらを見た先輩の眼鏡越しの瞳は、何か言おうとする言葉が頭の中で掻き消えてしまう程冷えきっているように俺には見える。

 

「百歩譲ってあなた方がグレモリーさんにとって、子は三界の首枷だとしても、それを殴り倒してでも収められない彼女は悪魔の主人として失格ですよ。はぐれ悪魔を浮浪させる主と何が変わりますか」

 

「ぶ、部長は何も!? これは俺の独断で…」

 

「まあ、勿論。どちらに問題があるのかで言えば今回はあなた方ですけどね」

 

明らかに部長を貶している先輩に反論をしようとしたけど、先輩が深い溜め息混じりにそんなことを呟いた事で自然と口が閉じた。

 

「兵藤さんは元人間です。だから勘違いしているようですから言っておきますが、悪魔と堕天使の間に天秤は掛かりません。互いにとって相手は対等ではないのです。法で裁かれるのは人間と人間のみ、つまりは同じ種族同士だけですよ」

 

先輩は校門の隣に積まれた花壇に座って、また言葉を紡いだ。

 

「種族の違いは人種をユニフォームのように例えることには当てはまりません。ユニフォームどころか競技が違います。それではルールも勝負も成り立たない、ただ闇雲に衝突を起こすだけです。つまり、あなた方が堕天使陣営の貴重な神器保有者を拐えば、それは最早、悪魔が堕天使に、延いてはリアス・グレモリーの眷属が宣戦布告したも同意。あなたが悪魔である以上、あなたの身体はあなただけのモノではないのです」

 

「そんな…!?」

 

考え足らずで、思ってもいなかった事に思わず声が漏れる。木場と小猫ちゃんに目を移すと、二人はわかってはいたのか先輩から目を逸らしているみたいだ。

 

「兵藤さん。二人を攻めないで下さい。彼らには色々あったようですからね」

 

先輩の言葉に木場と小猫ちゃんは少しだけ身体を震わせた。

 

「彼らはそれなりの覚悟を持っているのでしょう。ですがあなたはどうですか? 聞き方を変えましょう。高々、一人の少女のために堕天使全てを相手にする気があなたにありますか?」

 

「俺は……」

 

先輩に言われて、アーシアとの記憶が甦る。

 

少し抜けているけど、日溜まりのように明るくて、傷ついた相手なら誰でも治してくれる優しい子。なんで誰も友達になってやらないんだ。

 

「それでも俺は……アーシアを助けたいです」

 

俺は辻堂先輩にそう言い切った。

 

それを聞いた先輩は花壇に座るのを止め、俺の目の前に立つ。

 

近くに来たことで、よりハッキリと先輩の冷たくも真っ直ぐな瞳が俺を静かに見下ろした。

 

俺もそれに答えるように先輩の瞳を見つめ返す。

 

「……………」

 

暫くすると先輩は俺よりも先に瞳を閉じて話を続けた。

 

「よろしい……後ろの二人は先に廃教会へ行きなさい。引き止めた私が言うのもは可笑しいかもしれませんが、手遅れになってからでは遅いですからね。兵藤さんはもう少しだけお話があります」

 

先輩の言葉を受け、二人は先にアーシアのいる廃協会へ向かう。

 

そして、残された俺に先輩はぽつりと呟いた。

 

「……嫉妬という言葉の意味を知っていますか?」

 

「嫉妬…?」

 

「羨望、やきもち、劣等感などが現代は主流ですが別の意味も持っています。それは何かを失うこと、または個人が激しく価値を置くものを失うことを予期することからくる懸念、怖れ、不安という思考や感情です。それから来る嫌悪感や、無力感も該当します」

 

「は、はあ……?」

 

「私は血筋的に後者の嫉妬心が人一倍……いいえ、数十倍ぐらい強いんですよ」

 

先輩は溜め息を吐くと暫く口ごもってから言葉を投げ掛けた。

 

「あなたにとってのアーシアさんは、私にとっての兵藤さんなんです」

 

「へ………………?」

 

あまりにも意外で唐突な発言に俺は変な声を上げちまった。でも先輩はそれを言葉足らずだったと受け取ったのかまた口を開く。

 

「要するにその………」

 

先輩は表情はいつもと大差無いけど、モジモジと指を弄り、地面の一点を見つめる。暫くそうしていると思い切ったような表情を浮かべ、俺と再び目を合わせた。

 

「…………友達ですから…」

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……ハッ!

 

なにこの辻堂先輩スッゲェ可愛い!!!!

 

いや、ひょっとして先輩の皮だけコピーした何かなんじゃ………いや、それでもいい!」

 

「無愛想な女で悪かったですね」

 

あ……ヤバい声に出してた…。

 

「それと……脅すようなこと言ってすいませんでした。ここ数日で調べた結果、あの堕天使達はグリゴリからの命令とは無関係で動いていることがわかりました」

 

「え!? それって…」

 

「つまり、倒そうが、踏み潰そうが、犯し捨てようが罪には問われないと言うことです」

 

よっしゃあ! それなら心置き無くアイツらからアーシアを……。

 

そこまで考えたところで俺は止まった。それと言うのも先輩がニコニコと笑っているからだ。

 

そして、器用にも一切目が笑っていない!

 

「私が最初に話したのは、もしもの話です。仮に堕天使達がグレゴリの指示の元彼らにとって崇高な目的で動いていたらと。ですがあなたはそれでもその選択を取りました。そうですね?」

 

「は、はい!」

 

俺は笑顔だけで何故か冷や汗が止まらなくなる。というか怖い。さっきよりも確実に怖い! 怖すぎる!

 

「それならばはぐれ悪魔になるのですから上級悪魔への道はまず無くなったと見ていいでしょうね」

 

「え……? それは…」

 

先輩が俺の肩にぽんと手を置いた。

 

「それはそもそも私との契約違反に当たると思うのですが…?」

 

その直後、本気で親に叱られた時のような言葉で言いようもない焦りを感じるのと同時に、肩に凄まじい鈍痛が走る。

 

言うまでもないけど先輩が俺の肩を……いだだだだだだだ!!!?

 

「いいですか兵藤さん? どれだけ大切な事であれ、どれだけつまらない事であれ、契約は絶対です。今回は結果的に多目に見て置きますが…………もし、それに本当に背くような事があればそれ相応に覚悟をしておくように」

 

「は、はいぃぃ!?」

 

こ、これが部長とは違う本物の悪魔…! あ、部長が悪魔じゃないと言うんじゃなくてなんか先輩が悪魔のイメージ通り過ぎるっていう意味で!

 

「よろしい。私を失望させないで下さいね」

 

そう言うと先輩は俺のよりも遥かに大きくて綺麗な10対の悪魔の翼を広げた。

 

「では始めましょうか。私の個人的な復讐……もといアルジェントさんとやらの奪還を」

 

先輩の直す気すら感じない失言と、メラメラと揺らめいている蒼い魔力を見て、俺は先輩が俺よりも余程周到で陰湿に堕天使を潰すつもりだったんだなと理解する。

 

幾らか優しく俺を掴んだまま空へと飛び上がる先輩を尻目に、俺はもし先輩を奥さんにしたとして、浮気がバレたらとんでもないことになりそうだなんて関係の無いことを廃教会に着くまで考えていた。

 

 

 





顔にも口にも出さないですが、いつまでも怨みは溜め込んでる約束は絶対守らせる系ヒロイン辻堂カトレアさん。本当に彼女が愛する人が何か彼女の心を大きく傷つけてしまった場合、属性にヤンデレ(酷)が追加されます。


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処理します


カトレアさんが強過ぎて全く長い話にならなかったので短いダイジェスト風味で1巻は終わりです。次は2巻に飛びます。


 

 

 

「着きましたね」

 

「うっぷ…」

 

小猫ちゃんと木場が廃教会に着くのより、俺を掴んだ先輩が到着する方が早かったようで辺りには先輩と俺しかいない。

 

そりゃあんな戦闘機も真っ青な速度で来たらそうでしょうね……それよりも俺は空中で先輩に地味にブンブン振られたせいで吐き気が……。

 

「ところで兵藤さん?」

 

「は、はい!」

 

先輩の様子が可笑しい。と言うよりも表面上はいつもと何も変わらないんだけど、有無を言わさない凄みどころか隣に立っているだけでピリピリと肌が小さく痛みを感じる程だ。そのお陰で吐き気も引っ込んだ。

 

「あなたを銃で射った神父の特徴を細かく教えてくれませんか?」

 

「あ、はい!」

 

クソ神父の事を思い出しながら先輩に特徴を話し終えると、先輩の指先に莫大な魔力が集中して、一瞬だけ小さな蒼い光が灯る。

 

余った魔力が水の球に変わり、先輩の周囲をミルククラウンのように規則的で綺麗な形で回転していた。

 

その直後、カァオ!という特徴的な謎の音と共に、構えた指先から一筋の光線のような水が噴射され、ドアに小さな穴を開けた。

 

 

 

え…? え……?

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

音のわりに余りに地味な光景に兵藤さん達はハテナを浮かべているようですね。

 

私はそのまま廃教会のドアを蹴破り、中に入りました。そして、思い描いた通りの光景になっていることにほくそ笑みます。

 

小猫さんと木場さんはまだ到着に時間が掛かるようなので先にコイツだけは潰しておきました。

 

「お前は……!?」

 

私に続いて入った兵藤が声を上げます。

 

そこには腹部から夥しい量の血を流し、膝を突きながらこちらを睨み付けるクソ神父さんが居ました。

 

「今の極細のびーむは扉、椅子、神父、壁、山、空と一直線に抜けたわけです」

 

「えげつないですね…」

 

「褒めても水ぐらいしか出ませんよ兵藤さん。ついでに私ぐらいの悪魔になると耳を済ませば、心音で生き物のだいたいの位置と体格はわかるのですよ」

 

私は兵藤さんから意識をクソ神父さんに向けます。彼は傷口を押さえながら睨んで来ますが、最早戦闘どころか会話にも激痛が伴うでしょう。まあ、そうなる場所を撃ったからなのですがね。

 

「それはそうとクソ神父さん。話に聞けばpepper君も真っ青な程、生意気で小癪な軽口を叩き続けてくれると聞いたのですが案外静かなのですね。何処か身体の調子でも悪いのですか?」

 

「テ、テメェ……!!」

 

「貴方には私はそんなに怨みがありませんから血管や臓器が集中している場所にも当てませんでした。そのまま、何か行動を起こすのなら片手間で殺します。ですが、尻尾を巻いて逃げるならどうぞご自由に、止める理由もありませんからね。ですが、仏の顔は3度までとも言いますし、釈迦に習って私も今はそうしてみましょう」

 

「このクソア……ガアッ!?」

翼の1枚を棘で出来た鞭のように変形させ、クソ神父さんの身体を軽く打つ。それにより、身体を覆う布と皮膚の表面が弾け飛びました。

 

「これで2度目です。逃げる以外の行動するなら殺すと言ったハズですよ?」

 

大して危害を加えたつもりはありませんが、地面に蹲り始めたクソ神父さんに、私は血の滴る傷口をそこそこ体重を掛けて踏みました。

 

「あ……グガッ!? がぁぁあぁ!?」

 

「喚くな、喘ぐな、睨むな。高々人間1匹風情が図に乗らないでください」

 

暫く傷口の周囲を重点的に踏んでいると蠢く力すら無くなったのか、次第に声が聞こえなくなり、痙攣し始めてしまったようです。

 

「では今度こそさようなら。ボロ雑巾のクズ神父様。お出口はあちらです」

 

私はクソ神父さんをリフティングの要領で一度蹴りあげてから身体を一回転させて、もう一度蹴りを入れます。彼は高所に設置されていたステンドクラスをぶち破りそのまま外へと飛んでいきました。

 

「アイツ死んだんじゃ……」

 

「それならそれで構いませんよ。元より相手も殺すつもりで居たのですから。それに私は悪魔です。人間の遣り方で済ませたいのなら警察でも呼んだら如何ですか?」

 

「それは…」

 

「最終的に己の力以外は何も役に立たないのですよ。これもう小さな戦争です。悪魔達(わたしたち)と堕天使達。どちらかの意志が他の意思を押し潰すまで続く」

 

とは言ったモノの戦う前に兵藤さんを脅しても仕方ありませんね。

 

「まあ、今回は私がいますから兵藤さんにとってはお試し(チュートリアル)ですね。私がいる限り、敗北はあり得ません。ですから兵藤さん。情けは無用です。我らは悪魔。この世で最も醜悪な存在ですから」

 

そこまで話したところで廃教会に小猫さんと木場さんが入って来ました。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば堕天使達は辻堂先輩が全部一人でやっつけてしまった。俺と小猫ちゃん達ははぐれエクソシストを相手にしていただけだ。

 

アーシアもまだ神器を抜かれる直前だったみたいだけど、開幕に辻堂先輩がした悪魔の翼の変形攻撃に縛り付けていた鎖が耐えれるハズも無く、簡単に救出する事が出来た。

 

アーシアは小猫ちゃんが部室に連れて行き、今は主犯格の中級堕天使のレイナーレひとりだけが廃教会の外に転がされ、それを辻堂先輩が相手をしている。

 

「…あ…あがッ……」

 

「そろそろ終わりにしましょうか」

 

既に全身が血に濡れているレイナーレを余所に、辻堂先輩の手に超圧縮された魔力で構成されたトライデントが握られた。

 

「ゆっくり3つ数えます。それまでに何処へなりと逃げなさい」

 

「た、助け…」

 

「さーん」

 

先輩が投擲するために逆手にトライデントを持ち、矛先をレイナーレに据える。

 

「し、仕方なかったの! 上からの命令で…!」

 

「にー」

 

トライデントに更なる魔力が上乗せされ、蒼い煌めきを帯び始めた。辻堂先輩から溢れる魔力の余波が周囲の草木を雨上がりのように朝露で濡らす。

 

「う、うわぁぁあぁぁぁ!!?」

 

「いち」

 

半狂乱になりながら空へ飛び出したレイナーレ。辻堂先輩は非常に遅くカウントしている。そして、30秒程経過したところで最後の言葉が紡がれた。

 

「ゼロ」

 

その瞬間、辻堂先輩の姿がブレてトライデントが俺の視界から消滅する。そして、トライデントは遥か先にいたレイナーレの堕天使の翼だけを貫く。

 

翼を失ったレイナーレは遥か高い空から真っ逆さまに地上へと墜落していった。

 

「堕天使にはお似合いの最期ですね」

 

「…………」

 

「…………」

 

処刑現場のような一部始終を見ていた俺と木場は絶句するばかりだ。いや、言葉に出無いこんなの。

 

「ああ、兵藤さん。あの堕天使をダッチワイフ代わりにでもしたかったですか? それなら勿体無い事をしてしまいましたね」

 

「そこまで堕ちて無いですよ!?」

 

「あはは……なんというか…副部長が尊敬している理由がわかったよ」

 

ひとつわかった。ゲームでも現実でも強過ぎるというか、レベルが高過ぎるキャラを使うと緊張感も何も無くなってしまうらしい。辻堂先輩は間違いなく俺の中での最強ランキングトップを独走状態だ。

 

俺は極力自分の事は自分でやるようにしようと決心した。

 

 

 



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私のニンジャです

ライザーがカトレアさんに酷いことされる話を書こうと思ったら、グレイフィアさんがカトレアさんに酷いことされる話を書いていた。何を言っているかわからねぇと思うが作者もry)
作者のハイスクールD×Dの作品では何故かグレイフィアさんがボロボロにされる傾向にあります。大好きなキャラなんですけどね、だから何故か無償にいじめたくなるんですよね(クソ作者の鏡)。


 

駒王町の光る羽虫の退治が終わったので毎日部活に顔を出していると、兵藤さんとアルジェントさんの使い魔を捕まえに行くそうなので着いてきました。

 

まあ、私には使い魔のロベルタさんがいるので関係ありませんが、極普通の使い魔の捕まえ方に興味があったので。

 

結果は……使い魔ゲットだぜ!

 

の、一言で片付く大変アレなものでした。私が言うのも何ですが、やっぱり悪魔って狂ってると思いますよ。ええ。

 

今は初心者向けのウ=ス異本に居そうな女性の服のみを溶かすスライムが、オカルト研究部一同を襲い、女性の味方の筈の謎の光が仕事放棄している為に兵藤さんが歓喜しています。狂ってやがる。

 

「なんで辻堂先輩はスライムに触れられても平気何ですか…?」

 

「私は水系の悪魔なので仲間だと思ってスライムは仕事しません。残念でしたね」

 

私のタイプは みず フェアリー です。600族で、特性は いたずらごころ です。

 

「クソッ! 何故そこで妥協するんだスラ太郎!」

 

あ…谷間に細長いスライムがスポッとハマって……んっ…。

 

「!!」

 

おいたはダメですよ全く。

 

「よくやったスラ太郎…!」

 

 

 

勿論、この後にスライムは一匹残らずグレモリーさんらに掃討され、スライム太郎の名を呼びながら地面に手と膝を着けて慟哭する兵藤さんだけが残されました。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

もう少ししたら夏休みという事でテンションの上がる今日この頃。学校終わりに何時も通り部室に行くと、先に部室に辻堂先輩がいた。

 

辻堂先輩は最近はすっかり定位置になった、壁際でコンセントの一番近くにあるソファーに腰掛けながらノートパソコンを開いている。

 

不意にPCの画面を見た俺は固まった。

 

「あの先輩……」

 

「何ですか?」

 

辻堂先輩のノートパソコンの画面には、二次元のキャラクター同士が現在進行形でいたしている様子……というかどう見ても18歳未満はお断りのエロゲーをしていた。よく見れば先輩の片耳にイヤホンが付いていて一応の音には配慮しているようだ。

 

「エ、エロゲー……」

 

「巣作りドラゴンです。エロゲーだから名作ゲームをやらない等というのは人生損してますよ」

 

ああ……だから俺のエロDVDを見ても反応が薄かったのか…。

 

「しかし、このゲームで一番いらないのはHシーンだと思います。でもシステム上ヤらない訳にもいかないですし」

 

「その割には飛ばさないで確り見るんですね…」

 

「兵藤さんは何か勘違いしているようですね。女でも綺麗な女性には多少興奮するんですよ? そうじゃないと女性がエロゲーを買う理由がないでしょう。おっほ」

 

「マジですか!?」

 

辻堂先輩のおっほなんて聞きたくなかったが、それはビッグニュースだ!

 

「まあ、それは個人差があるので一概には言えませんが、私は悪魔の家柄の特性的に男女問わず血が濃い程女性好きが多く産まれるので、その影響かもしれませんね。バイという程ではありませんが、気分が高揚します」

 

エロゲーをする先輩……スゴくアリだな!

 

今の先輩の精神状態なら多少下世話な事でも答えてくれると思い、俺は質問を投げた。

 

「それならこの前のスラ太郎の時は誰の裸が一番好みで…」

 

「アルジェントさんです」

 

清々しい程の即答だった。

 

「胸なんて下か鏡を見ればいつでも見れるので重要な事じゃないんです。私に存在しない小柄な体格と清楚さ。そして、何よりもあの悪魔に落ちて尚、輝きを放つ聖女の雰囲気が汚されているような光景が堪らない。聖職者(あの娘)は見ているだけでもいじめたくなります。いえ、私がいじめたい」

 

「………………」

 

やっぱり辻堂先輩はどうあがいても悪魔なんだなと確信した。生きろ……アーシア…。

 

その後、辻堂先輩は俺以外の部員が部室に入ってくる30秒くらい前にエロゲーを止め、普通のゲームに切り替えていた。この辺りが先輩が外面は完璧な由縁なんだろうなぁ。

 

そう考えるとプライベートを俺にさらけ出しているのは結構いい線行っているんじゃないか!と一瞬だけ思った俺を誰が咎めれようか。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

最近いつも通りになった部活への顔出しも終わり家に帰り、母さんとロベルタとご飯を食べ終え、現在は自室の扉の前で止まります。

 

と言うのも家に帰ってからずっと家の中に心音がひとつ多い事に気付いてたからです。その心音は生き物とは思えない程静かでありながらも一切同様の無い安定した音をしています。更にそれはこの先にあります。

 

そして、それが知り合いだという事もわかります。とりあえず先に小言だけは言っておきましょうか。

 

「乙女の部屋に無断で入るとは何事ですか?」

 

『乙女の部屋…? ああ、このオタクの男子学生ですら顔が引きつる趣味空間の事か?』

 

中から男性の声が返ってきます。そして、私のいかりのボルテージが少し溜まりました。ちょっと積み上げられたゲームソフトと、マンガとライトノベルの本棚で壁二枚半程が埋まっているだけではありませんか。失礼な。

 

扉を開けて中に入ると、私の部屋の中央にある卓袱台に見覚えのある者が座っています。それは黒い憲兵のような外装を身に纏った長い藤髪の男でした。卓袱台の上に金の髑髏の装飾が施された帽子が乗っており、見れば外装にも髑髏の装飾がされています。

 

彼の手には私が最近買ったマンガの新刊と、持ち込んだであろう酒が握られており、卓袱台のお茶請けには昨日買ってきたとっておきのお菓子が…。

 

「依頼主の部屋で寛いでるんじゃないですよ"忍"のクセに」

 

「君の母親に気付かれなければいいのだから役目は果たしているよ。それより、この菓子はどこで買ったんだ? 美味いな」

 

「うるさい、チー鱈ぶつけますよ」

 

いうより先に私の部屋の乾物置き場コーナーに置いてあるチー鱈を彼に投げ付けました。

 

「おっと、これはすまない」

 

彼はそれを当たり前のように掴み取ると袋を開けてそれを食べ始めます。

 

彼の名は"高坂甚内"。戦国時代から江戸時代初期にかけての大盗賊もとい忍、高坂甚内の魂を受け継ぐ者です。

 

そして、世界最大のテロ組織、禍の団(カオス・ブリゲート)の幹部でもあり、非常に腹立たしいですが、この男は禍の団の密偵の依頼を私がしている者でもあるのです。

 

ロベルタさんから貰い、今は私が保有する"村雨"という魔剣を強奪しに彼が来たのです。高坂甚内は禍の団の改造により、吸血鬼ベースの極めて強靭で不老の身体と、英雄の魂を受け継ぐ者としてかなりの力を持っています。しかし、その程度では私には全く敵わず、私も気紛れで高坂さんを殺さなかったのがそもそもの関係の始まりです。

 

何を思ったのか、再び私の前に現れた高坂はどうにかして"村雨"を譲ってくれる方法は無いかと交渉に来ました。順序が逆ですが、悪魔的には進歩したのは悪い気はしなかったのと、高坂さんが禍の団の幹部であるという事を明かしたので、まあ、無理だろうと思いながら禍の団の情報を全て私にリークした上で、私に全面協力するのならばそのうち譲っても良いと言いました。まあ、普通に無理な話ですね。

 

すると高坂さんはなんと二つ返事でそれを承諾しやがったのです。元々、禍の団に居るのは人間より強い身体を得られるからと、支配されるという事が堪らなく嫌いだからという理由で、別に裏切ろうと関係無いんだとか。

 

「それで、何か変わった事はありましたか?」

 

「旧魔王派が近々、大規模な攻撃を仕掛ける予定らしい」

 

「時期は?」

 

「まだ未定だが、どうせ三勢力の会談の時にでも仕掛ける算段だろう。総力で悪魔すら及ばない程度は理解しているため首脳だけを潰すつもりなんだろうが、オーフィスの蛇込みでも連中が三勢力の上から数えた方が早い実力者を相手にどうにか出来るとは思えないがな。いやはや滑稽だ。せめて英雄派(われわれ)に助力を願えばまだ話は変わっただろうが……まあ、叶わぬ夢だ」

 

「そうですか」

 

現在進行形で全面的に禍の団を裏切っているというのに、それを悟られず、未だ英雄派とやらの幹部の席に居続ける高坂さんは本当に有能なのでしょうね。腹立たしい事に高坂さんがいなければ私の"個人的な復讐"を遂げるのは不可能に近いですし。

 

「君の目的を達する好機だろう。今の無くせば絶好の機会はこの先無くなる」

 

「ええ、わかっています。そろそろ頃合いですね。取り入りましょう。"旧魔王派"に」

 

「ではそのように計らおう」

 

突如、私の頭に鈴の音が響きます。

 

それを認識した瞬間、私は高坂さんを放置し、兵藤さんの家への転移魔法で移動しました。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

グレイフィア・ルキフグスは困惑していた。

 

それと言うのはリアス・グレモリーを追ってとある民家に自身がここに来て、リアスの寄行を収めた十数秒後、突如としてグレイフィアの頭と顔の上半分が掴まれ、それによりその人物を直視したからだ。

 

暗い金髪に褐色の肌。日本人女性に比べれば同じ星の人間なのかと疑いたくなる高身長にも関わらず洗練されたスタイル。 そして、何よりもグレイフィアにとって見覚えのある顔立ち。

 

それによって一瞬だけ、反応が遅れたグレイフィアはその人物に次の行動を許す。

 

「カテレア・レ…」

 

言葉を待たず最強の女性悪魔グレイフィア・ルキフグスの顔面と、兵藤家のSECOM辻堂カトレアの膝が衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ…ちょっと! グレイフィア伸びちゃったじゃない!?」

 

「知りませんよそんな女性悪魔最強の女王なんて」

 

「知ってるわよね!?」

 

今、一切服をキテイナイ部長と、痛かったのか手で自分の片膝をさすっているネグリジェ姿の辻堂先輩が口論していた。

 

「やってから気付きましたので後悔も反省もしていません。私の第一は兵藤さんを守る事ですので。例えばあの堕天使達の誰かと恋人関係にあった堕天使が兵藤さんや、その家族に復讐しに来たらどうするのですか? 相手に猶予を与える事自体が自殺行為です。強いて言えば魔王クラスの実力者がこんな民家に来るのを私に教えなかったあなたが悪い。私にとって兵藤さんは大切な契約者です。故にそれを終えるまで何を差し置いてでも兵藤さんとその家族を守る義務があるのです」

 

「そ、それは…」

 

そうか、辻堂先輩は俺の事をちゃんと考えて……………ん?

 

「え? それなら真っ先に狙われるのって先輩なんじゃ…」

 

「しゃらっぷ」

 

アッハイ。

 

「まあ、いいではありませんか。額を割る程度で済んだので。障壁だけでなく、無意識に人体強化魔法まで発動して硬化するなんて大したメイドですよ全く…」

 

辻堂先輩がそう言いながらさすっていた膝から手を離し、メイドさんの方を見たので釣られて俺と部長も見る。確かに額から血を流しているが、無事ではあるみたいだ。

 

でもどちらかと言えば先輩のその言い方には結果的にそうなったというよりも、そうなるようにしたというように俺は感じた。

 

「………ねえカトレア? あなたまだ私達に実力を隠しているわよね?」

 

部長の呟きを聞いた辻堂先輩は小さく溜め息を吐く。そして嘲笑気味な笑みを浮かべ、それを見た俺は震え上がる。部長も同様に震えていた。

 

「何を当たり前の事を…この世界は実力こそが全て。そう易々と自分の底を知らせるような者がいるものですか」

 

そう言い放った辻堂先輩の目には明らかな当たり前の事さえ出来ない、あるいは知らない者への侮蔑を含んでいる。

 

「では私はこの辺りで。そこのメイドさんが起きたら、私がオカルト研究部員だという事と、辻堂カトレアという名の少々古めの悪魔の末裔な事、カテレア等という者は一切知らない事を伝えておいてください。それでは」

 

それだけ言うと辻堂先輩の身体は霧のように霧散して消えていった。その場には俺と部長と気絶したメイドさんが残される。

 

「イッセー……あなたが女王にしようとしている悪魔はとんでもない怪物かもしれないわ」

 

部長は真剣な声でそう呟いた。部長が俺の為に言っているのはわかるけど、著しく人とは逸脱したという意味でも辻堂先輩を怪物に例えるのは何と無く嫌だった。

 

「グレイフィアは確かに無防備で蹴られたけれど、幾つもの防御障壁展開していたのは見えたわ……多分、無意識だったのでしょうけどそれでも並の最上級悪魔ですら生半可には突破できない筈。更にカトレアは私でも気付かなかった身体強化魔法まで無意識で使っていると解っていた。それをカトレアはただの膝蹴りで全て突破した上でグレイフィアを気絶させて余力があったということよ。ここまで来ると私ではカトレアの実力を測れないわ。けれど少なくとも言える事は……」

 

「えーと…」

 

スゴい事なのはわかるけど、つまりどういう事なんだ?

 

部長は言葉を選んでいるのか何度か口を閉ざし、最後には申し訳なさそうな様子で口を開いた。

 

「"最強の女性悪魔と同格"の力はあるかもしれないって事かしら…?」

 

え……?

 

「じゃあ、私はグレイフィアを連れて帰るわね。今日はごめんなさい」

 

それだけ言い残すと、部長はメイドさんを担ぎ上げて魔方陣が浮かぶとそのまま消えていった。

 

さっきまでの騒ぎが嘘のように俺の部屋は静まり返る。そんな中、大きく息を吐く。

 

「遠いなぁ…色々と」

 

俺はアーシアが部屋に入ってくるまでの間、何をするわけでもなく天井を見つめながらぼーっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

スマホをしながら廊下を歩いて部室に戻っていると、最近僧侶の駒で悪魔になったアーシア・アルジェントさんが沢山の悪魔の資料と思われる物を抱え、ふらふらした足取りで部室に向かっているのが目に入りました。

 

「そんなに持つと危ないですよ。アーシア・アルジャーノンさん」

 

「ありがとうございます! アルジェントです!」

 

アルジェントさんは元聖職者ですから私の悪魔としての本能が疼いて意地悪してしまうのです。本能的な生理現象なので仕方ありません。

 

「あのう……」

 

荷物の8割りを受け取って片手に乗せ、もう片方の手で相変わらずスマホを操作しながら部室に向かっていると、隣のアルジェントさんが声を掛けてきます。

 

「歩きならがするのは危なくは無いですか?」

 

アルジェントさんはちょっと日本にいるうちに常識を身に付けたようです。しかし、例え、悪であれ、私には引けない時があるのです。というかこのゲーム、対戦ゲーですから閉じれないのです。疾走ビショップの切れ味を味わいなさい、そろそろウルズスリーブを取らないと月が変わるのです。

 

私の言いくるめ技能は90%です。言いくるめロール!

 

「いいですか、アーシア・アルジェリアさん。歩きスマホというのは日頃から歩き作業をした事が無い人がするから特に危ないのです。私は歩きスマホが問題になる以前から、ラノベやマンガを読みながら帰宅する事が日常茶飯事の優等生でしたので、問題はありません。というか、仮に電車に突っ込んでしまってもお釈迦になるのは電車の方ですし」

 

「そ、そういう問題では無いと思うんですが……あ、アルジェントです!」

 

小学校、中学校での学校の友達はラノベとマンガでした。何せその頃の私は有り余る腕力の手加減が難しく、気を抜いて生徒に触れようものなら捻り切ってしまいそうでしたからね。極力人と接しようとしていなかったのでその頃の思い出なんて……。

 

 

『はい! 二人組作ってー!』

 

 

……………………ううっ…言いくるめロールはファンブルで私は0/1D3のSANチェックです…。

 

「か、カトレア先輩…? 大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です…優しいですね。アーシア・アルフォディアスさんは」

 

「も、もう誰なんですか!?」

 

光文明、10マナ、エンジェル・コマンドのT・ブレイカーの聖霊王ですよ。

 

もう本当に可愛いですねぇ……アルジェントさんは。彼女が一々反応してくれるので私の いたずらごころ も反応してよりいじめたくなってしまいます。

 

「……?」

 

「どうかしましたか?」

 

ふと、私が足を止めるとそれに釣られてアルジェントさんも足を止めます。

 

「……部室の方で何かが来ましたね。早く向かいましょうか」

 

「え…?」

 

私はスマホをしまうとアルジェントさんの首根っこを掴んで抱えました。まあ、兵藤さんの家に魔王クラスが来るほどの緊急事態ではないので、アルジェントさんを苛めるのに全力を注ぎましょう。

 

「舌噛まないでくださいね」

 

「きゃ…きゃぁぁー!」

 

れっつごー、アルジェントさん。

 

 

 

 

 

 

 




辻堂さんにとってのオカルト研究部の印象

リアス・グレモリー
弄り甲斐のある人

姫島朱乃
リアス弄り仲間

木場祐斗
微かに聖剣使いの匂いがするのが気に入らないイケメソ

子猫
小さくて可愛い猫又

ギャスパー・ヴラディ
ネトゲ仲間

兵藤一誠
おっぱい星人マイフレンド

アーシア・アルジェント
小さくて可愛いせいなるオモチャ←NEW!!


基本的に元であれなんであれカトレアちゃんは悪魔らしく聖職者が大っ嫌いです。よって悪戯や、行動の端々が多少過激になったりします。ちなみに正直、隠す必要も気もあんまり無いですが、カトレアの実力……というか基礎スペックは諸事情によりものすごく高いです。

え? この高坂さん? lov3で作者が愛用していましてね…。



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私と焼き鳥です

難産でした……ええ、数回全て書き直した末にこれがご覧の有り様だよ!

※カトレアちゃんは旧悪魔としてスッゴいプライド高いので一部の悪魔が大嫌いです。


 

 

 

部室で部長から話を聞こうとした瞬間、グレモリー以外の家紋で魔方陣が起動したことに驚いていると、勢い良く部室の扉が開いた。

 

入ってきたのは辻堂先輩とアーシアだ。何故か先輩の片手でアーシアは摘まみ上げられている。

 

先輩はアーシアをソファーに投げ込んでから、もう片手に持っている資料を机の上に置いた。

 

「きゅう……」

 

先輩の絶妙な力加減のお陰か、ソファーに比較的優しく着地したアーシアは目を回しているだけだが……スマン、アーシア…俺に辻堂先輩の行動を止める勇気はない…。

 

魔方陣ではなく、先輩を眺めていた俺は、入ってきて直ぐに魔方陣の紋章を見て、明らかに顔をしかめながら小さく呟かれた先輩の声を耳にした。

 

「ケッ……尻馬のフェニックス家ですか」

 

それは明らかな悪態だった。先輩の表情には明らかな侮蔑の意志が見て取れる。こんなに剥き出しで嫌そうな顔をしている先輩を俺は初めて見た。

 

そして、魔方陣から炎が吹き上がり、それが止むと、魔方陣には赤いスーツを着たホスト風の男が佇んでいる。

 

「ふう、人間界は久し振りだ」

 

俺は辻堂先輩の態度を見ていたせいか、見た瞬間からなんとなくコイツがいけ好かない野郎に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

急いで部室に戻った私の目に入ったのは、フェニックス家の三男坊だという悪魔でした。

 

何処で買えるのか、または一体どんな神経をしていたら注文しようと思うのか甚だ疑問な真っ赤なスーツを着て、グレモリーさんらと会話をしている男性です。

 

部屋の隅に先日のメイドもおり、警戒を込めてこちらを睨んで来ますが、それは目に入りませし、入れません。

 

私は部室のコンセントに一番近いソファーに座りながら事の顛末を眺めていますが……正直……。

 

くっだらねぇぇぇ……って呆れそうになりますね。

 

なんでもこの燃えるゴミ(フェニックス)は、グレモリーさんの婚約者であり、大学を出てから結婚する筈だったが、それを破って今すぐにでもしようということだそうです。走った分のカロリーを返してください。

 

犬も食わない痴話喧嘩……にしては偉く愛情に摩擦があるようなので、貴族同士の諍いか何かのようです。最終的にレーティングゲームで決めるようですね。

 

しかし……。

 

 

"先の戦争で純血悪魔が大勢なくなった"

 

"俺たち古い家系である上級悪魔"

 

"七十二柱と称された悪魔はもう半数も残っていない"

 

 

そのことをフェ()ニッ()()()()()が語りますか。虫酸が走りますよ。

 

まあ、クラスメイトの知り合いと部活の部長でしかないグレモリーさんは人生の墓場的なピンチのようですが、そんな一文も得をしないことに首を突っ込む程アホではないので、私は静観を決め込んでいます。

 

すると、フェニックスが何故か自身のハーレムパーティーとでも言うべき眷属を披露し始め、それに兵藤さんが涙を流しながら床を叩き始めました。

 

最初は口裏を合わせて呼ばれるまで待機していたとしか思えないフェニックスの眷属の揃いっぷりに失笑していた私ですが、兵藤さんの様子を見ているとなんだか更に馬鹿らしくなってきました。緊張感も何もあったものではありませんね。

 

気分を変えるために紅茶を入れ直して落ち着こうとしていると、無謀にもフェニックスに兵藤さんが挑み始めました。まあ、結果は語るべくもなく、フェニックスの眷属のひとりに倒されてしまいましたよ。

 

兵藤さんには良い薬になるでしょう。今度からもう少し本気で強くなる為に取り組んでくれると嬉しいですね。今のままだと私を倒すのなんて1000年あっても無理そうですし。

 

ただ何故でしょうかね。兵藤さんが倒された瞬間……こう……。

 

胸の奥で何かドロドロしたモノが込み上げて来るような……鈍い痛みを感じたような……。なんでしょう? これまで生きてきてこんな思いをしたことは無かったのですが…。

 

胸の奥に何かが渦巻いているのを感じながらティーカップに口を付けると、眉を潜めて唇を離しました。見れば紅茶はゴポゴポと沸騰し続けています。そして、それは溢れた私の魔力により引き起こされていました。

 

ああ、私がイライラしている時、たまにこうなってしまうんですよね………………私が兵藤さんを見て腹を立てている?

 

何故でしょうか? 呆れるなら未だしもこんな感情を覚えるなんていったい…。

 

 

「弱いな、お前」

 

 

私がいつも兵藤さんに言っているはずだというにも関わらず、フェニックスが兵藤さんへ向けたその一言を聞いた瞬間、胸の奥のモノが強まり、ティーカップの中身が更に強く沸騰しました。

 

 

「さっきお前が戦ったのは俺の兵士のミラだ。俺の下僕では一番弱いが、少なくてもお前よりも実戦経験も悪魔としての質も上だ」

 

 

ああ、そうか、そうですか。

 

私は兵藤さんにではなくて……。

 

 

「この神器が不完全であり、使い手も使いこなせない弱者ばっかりだったってことだ! お前も例外じゃない」

 

 

初めてのちゃんとした友人である彼を。

 

私の大切な人。

 

 

「こういうとき、人間界の言葉でなんて言ったけかな」

 

 

人間ではない悪魔だとわかった時にも何も変わらずいつものように私と接していた彼を。

 

少しだけ嬉しかった。

 

 

「……そうだ。宝の持ち腐れ、豚に真珠だ! フハハハ! そう、豚に真珠だ!」

 

 

面と向かって女王になって欲しいなんて私に言った彼を。

 

どうしようもないぐらいバカで、弱いけれど、それでもこの人の女王になるのは悪くないと思えた。

 

 

「お前のことだよ! リアスの兵士くん!」

 

 

傷つけ辱しめられたことに心の底から憤慨していたのですね。

 

 

 

私がその考えに至るのと、魔力の流入により限界を迎えたティーカップが破裂するのはほぼ同時でした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

俺は奥歯を噛み締めながら悔しさとあまりの無力さに言葉すら出なかった。

 

そして、常日頃から辻堂先輩に幾度となく言われていた"弱い"という言葉が何度も何度も頭の中で響いていた。

 

確かに頭に血が上っていて冷静じゃなかった。けれど俺は何もわからないうちにライザーの一番弱い兵士の眷属に手も足も出なかったんだ。

 

何が何が先輩に女王になって欲しいだ! 何がハーレムを作るだ! 先輩は最初から言っていたじゃないか……強くなれって!

 

俺は自分が思っている以上にずっと弱かったんだ……。

 

次の瞬間、俺の後ろで水音を含んだ爆発音が響いたことで部室にいる全員の視線が向いた。

 

するとそこには一番壁際のソファーに座っている辻堂先輩がいた。

 

足元に床に散らばるティーカップの破片。地面に零れ落ちて尚、何故か沸騰し続ける紅茶が異様な存在感を放っている。

 

「……すみません姫島さん。思わず割れてしまいました。弁償しますよ」

 

「いえ、お構い無く。そんなに高いものでもありませんわ」

 

「そうですか」

 

それだけいうと辻堂先輩はソファーから立ち上がり、ゆっくりと俺の方へ歩いて来る。俺はそれが堪らなく恥ずかしく、先輩に目を合わせることが出来なかった。

 

先輩は俺の目の前で止まり、じっと俺を見下ろしているのが、顔を向けなくてもわかる。先輩が不甲斐ない俺にどんな顔をしているかなんて考えたくもない。

 

「兵藤さん」

 

何故かいつもより優しげな声色だけど、俺は顔を上げることが出来なかった。

 

すると、先輩は俺の肩に手を置いて言葉を吐いた。

 

「あなたにもいるではありませんか、眷属になってくれる者のひとりぐらい」

 

「え……?」

 

その言葉に思わず顔を上げると、辻堂先輩はいつか夜に見た時のような優しげで悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「ほう、それはどういうことだ? えーと……リアス、この美女は誰だ?」

 

「……私の領地にいる悪魔の末裔よ。名前はカトレア」

 

「へえ、そうなんだ。それでカトレア。それはどういう意味だい?」

 

辻堂先輩に目を向けると同時にライザーは、先輩の身体を爪先から頭まで舐め回すような目を向けていた。それをされた瞬間、俺の中の堪忍袋がまた切れそうになったが、先輩はライザーと俺の前に出てそれを止めたように感じた。

 

「言葉通りの意味ですよ、燃えるゴミのフェニックス様」

 

「へー、兵士くんに……ん? 今なんて?」

 

珍しく笑顔を浮かべている辻堂先輩からいつものように罵倒する言葉が飛び出したが、先輩を知らないライザーはそれを聞き間違いかと思ったのか、聞き返していた。しかし、先輩はそのまま言葉を続ける。

 

「何を隠そう"旧魔王家の末裔"」

 

そこまで言うと、辻堂先輩は言葉を区切り、10枚の悪魔の翼を出した。壁に沿って部屋一杯に広がる悪魔の翼は、刃のようにも見えて、ライザーとその眷属全員を含めても遥かに強い威圧感を先輩ひとりで放っていた。

 

「な……」

 

ライザーとその眷属も全員言葉を失っている。オカルト研究部のメンバーは先輩のことはよくは知らないけど、知っているのでそこまで驚きはないみたいだ。

 

更に先輩が蒼い魔力を解放すると、床の魔方陣が輝き出してグレモリーともフェニックスとも違う家紋が浮かび上がる。

 

家紋を見た部長や姫島先輩はやれやれといった表情をしていて、逆に木場と子猫ちゃんと同様にライザーたちも驚いた様子をしていた。でも特に驚いていたのはグレイフィアさんだった。

 

辻堂先輩は一枚の翼を使って俺を立ち上がらせて先輩の隣に立たせると、恭しく挨拶をしながら言葉を吐く。

 

 

 

「私、"カトレア・レヴィアタン"は、この兵藤一誠の女王になるという契約を交わしているのですよ」

 

 

 

先輩から溢れ出た蒼い魔力は、即座に部室中を未開の海のように自然で淡いライトブルーに染め上げた。

 

レヴィアタン…? 現魔王の? いや、でも辻堂先輩は旧魔王っていっていたような…。

 

「しかし、相変わらずビックリするぐらい弱っちぃですね。兵藤さん」

 

「ぐほっ……!?」

 

訳がわからずハテナを浮かべていた俺は、辻堂先輩のいつもの毒舌にトドメを刺された。

 

「これに懲りたらもう少し頑張りなさい。そんなことでは夢のまた夢ですよ?」

 

「はい……」

 

「ククク……フハハハ!」

 

ライザーが俺の時よりも大きな声で笑い出した。

 

ひとしきり笑い終えると、ライザーは呆れにも近い見下したような視線を俺と辻堂先輩に向ける。

 

「かつては四大魔王として君臨していたレヴィアタン家の末裔が、ただの兵士! それも転生悪魔と契約? これが笑えなくて何が笑える!」

 

「……………」

 

そのことに辻堂先輩は答えようとせずにライザーに向き合っている。 更にライザーは更に続ける。

 

「なあ、悪いことは言わない。俺の女になれよ。今よりよっぽどいい暮らしが出来るぜ?」

 

「お前…!」

 

ライザーの視線が辻堂先輩の身体に注がれていることに気が付いた瞬間、さっきの数倍の怒りが込み上げ、拳を振り上げようとした。

 

けれど先輩が翼の1枚で俺を抑えたせいで、それ以上のことは何も出来なかった。先輩の翼は俺の力じゃビクとも動かない。

 

この時ばかりは先輩に抗議しようと先輩の顔を見たが、その瞬間、俺の頭は急激に冷えた。

 

だってさ辻堂先輩……。

 

これ以上ないぐらいの呆れ顔と、哀れなものを見るような視線をライザーに向けていたんだぜ? 何も言えなくなるって。

 

先輩は目を瞑ってから大きな溜め息を吐く。その動作はなんてことはない動きだけど、ひどく妖艶に見えた。

 

そして、先輩は目を見開くと呆れた様子を隠そうともせずにライザーへ話を始めた。

 

「チンケで、気が小さく、服のセンスが皆無で、女性の面前で下品、眷属にまでセンスがない。そのような男の元に私が行けと?」

 

「な……に……?」

 

辻堂先輩に言い切られたライザーの動きが止まる。その様子を気に止めることなく先輩は更に言葉を続けた。

 

「鳥頭ですかあなたは? ナルシストも程々にしてください。私はあなたのような燃えるゴミに魅力など一切感じません。それどころか、その気色の悪い顔を見ているだけでお昼に食べた物が込み上げてきてしまいそうですよ」

 

辻堂先輩は吐きそうな様子をオーバーリアクションでしながら、そんなことを言い切る。

 

「グレモリーさんが嫌がるのも納得というものです。私自身抱かれるならまだ兵藤さんの方がいいと思いますもの。後、少し鏡を見た方がいいですよ。それあげます」

 

そう言って辻堂先輩は、どこからか手鏡を取り出してライザーの足下に投げ付けた。ライザー眷属の場の空気は完全に凍り付き、ライザーの顔色を見ながらオドオドしている様子だ。

 

やべぇ…先輩スゴすぎる……どうしてそんなに他人を煽れるんだ。

 

ん? 今、何気に先輩にスゴいこと言われたような…。

 

「言ってくれるじゃないか……! まさか、レヴィアタンの末裔ともあろうものがここまで落ちていたとはな! 戦争を生き抜いた同志が、見つかったと思ったらこんな…」

 

「止めてください、フェニックス家とレヴィアタン家が同列だなんて虫酸が走ります」

 

辻堂先輩はライザーの言葉を遮り、言葉を返した。先輩の今の表情はさっきとは比べ物にならない程に侮蔑と嫌悪を含んでいるように感じる。

 

「何が不死身のフェニックスですか、下らない。悪魔を相手にした場合、不死身のフェニックスの間違いでしょう? 天使や堕天使には無力にも関わらず不死身と名乗るとは笑える冗談ですね。戦争では、最前線で戦う悪魔の後ろに隠れて回復アイテム屋を営んでいただけのクセに。戦争時代のフェニックスは正にチキン! 最前線で戦い続けたレヴィアタンから見れば姑息な臆病者でしかありません。焼き鳥と兵藤さんは言いましたね。いい得て妙です、フェニックスの涙と一緒に焼き鳥でも売ったら如何ですか?」

 

「言わせておけば…」

 

「不死身とは不死殺しの武具以外で殺すことの出来ない絶対性を持った存在のこと。"初代レヴィアタン"がそうであったようにです」

 

「ぐっ………」

 

それを言われたライザーは押し黙る。俺は理由がわからなかったが、部長たちを見ると特に疑問を抱いた表情はしていないように見えた。後でレヴィアタンについて詳しく調べよう……。

 

「フェニックスのような不完全な不死が、戦争が終わった後でレーティングゲームという貴族のお遊びで成り上がり、あまつさえ私の目の前に立っている。それも不死身のフェニックスとして。コレが私にとってどれだけ不快かわかりますか?」

 

「黙れッ! 没落悪魔が! 貴様にフェニックスの何がわかる!」

 

「知りたくもありませんよそんなの。それに没落した、断絶した、そういう話ではありません。これは悪魔としてのプライドの問題です。あなたの家は戦争によって満身創痍で残った七十二柱の家を食い物にしているだけのハゲタカでしょう? 何を囀ずるというのですか。私は大戦を生き抜いた悪魔レヴィアタンの末裔として、フェニックスそのものを嫌悪しているだけですよ」

 

辻堂先輩の瞳は冷たく、汚物でも眺めるような表情をしていた。それだけで、今までの言葉が心の底から先輩が思っていた言葉だということがわかる。

 

「ああ! 確かに初代レヴィアタンは不死身の怪物だった! だが、それは"子孫には遺伝はしなかった"! それだろう!? 貴様には関係の無いことだ!」

 

「太古の昔、海獣は如何なる陸上生物よりも最強の恐竜でした。飛ぶ鳥なんて比べるべくもありません。その子孫の私があなたごときの相手になるとでも? 比べられることすら烏滸がましいと言っているんですよ」

 

「魚女の旧悪魔め……いつまでも支配者気取りか…? 時代は変わったんだ」

 

「おや? 古きを重んじるのは貴族の義務なんでしょう? 大人になるのではないのですか焼き鳥野郎様?」

 

「クハハハ……」

 

「ウフフフ……」

 

「燃やし尽くしてやろう」

 

「水でもかぶって反省しなさい」

 

どうやら俺によくわからない悪魔の貴族同士のいがみ合いは終了したらしい。

 

ライザーの方は背景を陽炎で揺らめかせ、辻堂先輩の方は部室の湿気が急上昇してあちこちに水滴が付き始めているが、一先ずこれ以上どうにかなることはないだろう。

 

「よし、レーティングゲームには必ずそのレヴィアタンも参加させろ。元々人数も少ないしただ叩き潰すのも大人気ないと思っていたところだ。ハンデには丁度いいだろう」

 

「待ちなさい! ハンデなんて私はッ……!」

 

「黙りなさいグレモリーさん、話の途中ですよ」

 

「そうだぞリアス、これは悪魔同士のプライドの問題だ」

 

「え……? あれ…? 私の婚約……」

 

勢いよく立ち上がって二人の会話に口を挟もうとした部長は、言葉を尻すぼみにしながら小さくソファーに座り直した。

 

それからライザーと辻堂先輩は二言三言会話をした後、ライザーは再び魔方陣を起動し、眷属と共にその場から跡形もなく消えた。

 

「さて……」

 

ライザーが去った直後で、部室の全員が沈黙していると、最初に行動したのは辻堂先輩だった。悪魔の翼を引っ込めると、何故かテキパキと荷物をまとめて帰る準備をしている。

 

「あ、グレモリーさん。私一週間ぐらい姿を隠しますので。ああ、フェニックスはちゃんとぶち殺しに行きますから安心してください。では去らば」

 

荷物を背負うと、辻堂先輩は早口でそう呟き、逃げるように部室を出て行こうとした。

 

「待ちなさい」

 

しかし、辻堂先輩は腕を掴まれて止められる。

 

先輩がブリキ人形のようにぎこちなく首を向けると、メイド服を着た女性悪魔……グレイフィアさんがいい笑顔でいた。

 

先輩を無理矢理でも止めるためか魔力を振り撒いており、俺でも一目でグレイフィアさんがスゴい実力者なんだとわかった。

 

グレイフィアさんが掴んでいない方の手で前髪を持ち上げると、絆創膏が貼られてはいるけど先輩に昨日やられた跡がありありと見える。

 

「色々と、全て話してくれますね?」

 

「オウフ」

 

辻堂先輩は観念したらしく、膝を落として停止した。

 

とりあえずオカルト研究部は一週間後のライザーとのレーティングゲームに全員出ることが決まったんだな……先輩いれば全部片付く気もするけど、部長の為にも先輩の為にも頑張らないとな。

 

 




この世界線のレヴィアタンと、フェニックスについては次回補足する予定です。

あ、ちなみにカトレアさん。(自分の気持ちに)鈍感系ヒロインです。


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フェニックスとはこうです

 

「早速、打倒ライザーに取り掛かりましょう」

 

今、強化合宿先の部長の別荘の一階リビングで何処からか辻堂先輩が持ち込んだホワイトボードの周りにオカルト研究部全員が集められていた。

 

勿論、ホワイトボードの前に立つ司会進行は辻堂先輩だ。さっきまで真っ先にコンセント穴の位置と、ネット環境を確認していた人とは思えない威風堂々たる様子だ。

 

「対戦までに時間があるのでまず必要なのは相手を正しく評価し、目標を設定する事です。今回はフェニックスについての確認をしましょう」

 

辻堂先輩がバシバシと叩いたホワイトボードには"レイザー・フェリックス攻略うぃき"と大きく書かれていて、右上隅に無駄に美味しそうな焼き鳥の絵が書いてあった。

 

なんかもう何処から突っ込んでいいかわからないけど、明らかにわざとやっているし、オカルト研究部最強は誰だと言われれば多分満場一致で辻堂先輩と答えるから誰も突っ込まないでいるんだろうなあ。

 

「まず、最初の特徴は何と言ってもこれ」

 

 

・不死身

 

 

最初に辻堂先輩はそんな項目を書いた。

 

「とは言ってもフェニックスの不死はハッキリと申しますと、戦争時代を生き抜くには些か不完全過ぎました。何せフェニックスの不死は使い続けるとどんどん効果が落ちていく上、精神へのダメージは治りが遅いという微妙なモノなんですよ。初代レヴィアタンや本物の神話の魔獣クラスの不死身からは程遠い。それに最上級悪魔や魔王クラスの攻撃で一撃で葬られる以外にも致命的な弱点がひとつあったんですよ」

 

辻堂先輩は不死の項目の下に、マジックで大きく"光"という漢字を書き出した。

 

「それは悪魔の共通弱点である光力です。 光力は悪魔の肉体にダメージを与え、毒と同じにように精神にもダメージがあります。そう、肉体と精神に同時にです」

 

……ああ、戦争の相手って…。

 

「つまり天使及び堕天使に対してはフェニックスの不死は大して役に立たなかったのです。一撃でも上級天使や上級堕天使から光の槍を貰えば激しく再生能力が鈍りますからね。戦争ではそんな調子でしたが、フェニックスの涙が作れてしまったので、戦争中は後衛でぬくぬくとしていたのは当然と言えるでしょう」

 

へー、ならフェニックスって大したこと無いんじゃ、と思い始めていると辻堂先輩は、俺のその思考を否定するように指を振った。

 

「戦闘相手が天使や堕天使だったから無力だったのですよ。もし、それが悪魔相手だったなら?」

 

「え、じゃあレーティングゲームでフェニックス家が強いのは…」

 

そこまで言われたら俺でも理解できた。つまりフェニックスは…。

 

「勿論、敵に基本的に光を使ってくる者が皆無だからですよ。いても精々堕天使上がりの悪魔がたまーにいるぐらいですからね。皮肉なものでしょうや。戦争時代では回復アイテム屋だったクセに相手が悪魔同士になった途端に水を得た魚のように名を上げる。その上、回復アイテム屋の方も未だにやっている。本当に生きてて恥ずかしくないのでしょうかねフェニックスという生き物は」

 

先日、ライザーが帰った後に辻堂先輩がグレイフィアさんに連れていかれてから戻ってくるまで暫く時間があったので、レヴィアタンについて俺なりに調べた。

 

そして、わかったことはレヴィアタン家というよりも初代レヴィアタンについてだった。

 

如何なる悪魔よりも、かつて番の雄を奪った神を憎み、その感情から悪魔になった初代レヴィアタン。初代レヴィアタンは、現魔王に比べれば魔力はそこまで高くは無かったが、それを補い余る特性を持っていた。それは不死身の身体と、世界最悪の海獣としての巨体だった。故に自ら創造しておいて、聖書の神でさえ手をつけられない怪物だったらしい。

 

でも、初代レヴィアタンの不死身はその人だけの能力で、それ以降のレヴィアタンには遺伝しなかった。だから初代レヴィアタンが戦争中に不死殺しの武器で殺された後、レヴィアタン家は水を司る家になったそうだ。

 

ってことは辻堂先輩は、初代レヴィアタンと微妙に似たような特性を持っているフェニックスに対して同族嫌悪しているだけなんじゃないかと思ったけど勿論、口には出さない。

 

後、初代レヴィアタンは勿論、女性だったけど大層な女好きでそれはレヴィアタン家にも遺伝しているのだとか………………辻堂先輩が色々と大きいかったりエロゲ好きなのも、初代レヴィアタンが大きかったり女好きだったりしたからなのか。

 

「………ねえ、カトレア? あなたひょっとして私怨で今回のレーティングゲームに参加し__」

 

「さて、次のフェニックスの能力の説明に移りましょうか」

 

最終的に辻堂先輩を生み出した初代レヴィアタンの故おっぱいに感謝の意を心の中で示していると、先輩は部長の呟きを無視しながらホワイトボードに新たな項目を書き足した。

 

 

・あっちっち

 

 

平仮名でそんな文字を書いた辻堂先輩。

 

「フェニックスは炎と風を司る家ですが、その炎の翼は常時数千度の熱を帯びています。レーティングゲームでは不死身の特性に隠れがちですが、どちらかといえばこちらの能力が主体です。超熱いので戦い方と小まめな水分補給には気を付けるべきですね」

 

相変わらず、辻堂先輩は真顔で色々言うからネタなんだか真面目なんだかわかりづらいなあ……。

 

「ああ、ちなみに私のレヴィアタン家は水を司ります。だからこんなこともできますよ」

 

辻堂先輩は何処からともなく扇子を取り出すと、それを開いた。

 

「花鳥風月~」

 

ものすごい明るめな裏声でその言葉を発した直後、噴水の一部を切り取ったかのように水が扇子の先から上に発射されて綺麗な虹を描いた。水も魔力で作られたからなのか床に落ちる前に全ての水は跡形もなく消えている。

 

俺でもわかる無駄に洗礼された無駄のない無駄な技術に部長も顔をひきつらせていた。

 

訂正だな。今辻堂先輩は確実にネタに走っている。それもフルスロットルだ。

 

先輩は何事も無かったかのように水芸を止めると、ホワイトボードに新たな文字を書き出した。

 

 

・フェニックスの涙

 

 

「簡単に言えばエリクサーです。巷でエリクサー症候群とか言われているアレです。流石にレーティングゲームでは制限を掛けられて2回しか使えませんが、逆に言えばフェニックスは確実に2回使ってくるということです。どうせ女王の駒辺りには持たせているでしょうから女王を相手をするのなら一撃で殺し切るべきですね」

 

ここまで脱線していた辻堂先輩は、突然為になることを言い始めた。

 

「まあ、要は……」

 

嫌な予感を感じながらも瞳を閉じて次の言葉を言う間を開けた辻堂先輩にオカルト研究部は息を呑む。これだけの動作で様になるんだから美人は特だな。

 

「レベルを上げて物理で殴ればいいのです」

 

ホント変な人だよな辻堂先輩…。中身と外身のギャップがスゴいというか、アンバランスというか、中身は可愛い人というか……いや、そこが先輩のいいところだけど。

 

「というか女王に戦闘中二回も復活されたらそれしかありませんし、フェニックスは悪魔なら正攻法で行くしかないのですからそれ以外無いでしょう。一週間であなた方が何れ程強くなれるかに全てが掛かっているのですよ。今回は私がいますが、本来のレーティングゲームには参加出来ませんから今後のためにも強くなっておいて損はないでしょう」

 

その言葉に俺は気持ちを引き締めた。強くならなきゃならない。それは絶対だ。俺はそのためにこの合宿にいるのだから。

 

ただ、辻堂先輩は一切ライザーに負ける気がないどころか、既に勝って終わったかのような様子でいるのが、とても羨ましいな。先輩もフェニックスに正攻法で挑む気みたいなのにどうしたらあんなに余裕でいられるんだろう。

 

いや、違うか。先輩は俺よりもずっとずっと強いから余裕でいるんだろうな。

 

「まあ、光の槍でも使える者がいれば話は変わりますがね。無い物ねだりというものです」

 

最後に辻堂先輩はそう言うと、何故か姫島先輩を一瞥してから、ペンにキャップをしてホワイトボードに戻した。

 

その時、姫島先輩が妙に驚いていたような気がしたけど、直ぐに元の表情に戻ったから気のせいだったかな。

 

「さあ、皆さん外に出ましょう。身体を動かさないことには始まりません。今日から忙しくなりますよ」

 

そう呟いた辻堂先輩は何か楽しいのか良い笑顔をしていた。

 

この時の俺はまだ理解していなかった。

 

いつか辻堂先輩が冗談混じりで言っていたグレモリー眷属を全員殺すのに10秒も掛からないという言葉は、比喩でも何でもなかったことを。

 

 

 




カトレアは全力でフェニックスのことを扱き下ろしていますが、カトレアの旧悪魔的な主観マシマシな解釈なのであてにしないで下さい。

(ボソッ)なんか更新を早いですね(感覚麻痺)


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