問題児がひとり増えて異世界から来るそうですよ? (雪人形)
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第一話

「うぅ……寒い……」

 

雪の積もった道を白のトレンチコートに黒のマフラーに身を包みながらもなお寒そうに背中を丸めているしている少年「青江響」はブルブル震えながら、学校からの帰り道を歩いていた。

 

時間は既に通常のカリキュラムを終了して、放課後。寒い寒いと手を擦り合わせながら学校を出てきたのがつい先ほどの事である。帰る途中、校庭では野球部やサッカー部が声を出しながら部活に精を出していたが、帰宅部たる響には何の興味もなく、寧ろ家にある炬燵に入る事しか頭の中に残っていなかった。

 

「畜生、カイロも貼ってくれば良かった。……まさか、此処まで冷え込むとは。おのれ、冬。侮りがたし」

 

理不尽な寒さに文句を言いながら帰り道を歩くが、当然それに反応する人物は居ない。そも、他人の独り言に返す人物など余程の物好きでなければそんなことをしないだろうが。

 

「はぁ、やっと着いた。早く、炬燵の中に入りたい。ああ、こんなに炬燵のことを恋しく思ったのは生まれて初めてかもしれない」

 

そんなことを言いながら、炬燵を目指して家の中に入ろうとしたのだが、ふと玄関に備え付けてあるポストが開いたまま一通の手紙が入っているのが見えた。………シカトしようとも考えたが、もし、大事な要件であった場合に痛い目を見るのは自分なので、ため息を吐いてポストの中に入っている手紙を取り、家の中へと入っていった。

 

「おぉぅ、炬燵やべぇ……」

 

家の中に入るや否や炬燵の電気を入れる。最初は暖かくなかったが、ものの数分で暖かくなり、響は炬燵の中でゴロゴロしながら頬を緩めていた。……炬燵一つで此処まで喜べるのはもしかすると彼だけかもしれない。

 

「っと、そういえば……さっきの手紙読んどかないと」

 

コートの中に入れた手紙をゴソゴソと炬燵に入ったまま漁るとすぐに出てきた。手紙には『青江響殿』と響の名前が書かれているだけで、差出人については一切書かれていなかった。それを訝しげに思いながらも響は手紙の封を切って中身を読み始めた。

 

「あー、なになに……青江響殿?」

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能《ギフト》を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの"箱庭"に来られたし』

 

「……才能(ギフト)?箱庭?なにソレ。新手の宗教勧誘か何かかねー?」

 

呆れた風にそう言いながら響は手紙を投げ捨てた。バカバカしいにも程がある。確かに、才能とはいい難いが、自分がこの世の中で異常であることは年を幼くして理解していた。しかし、差出人も分からない手紙、しかも、怪しいことを書かれているものなんて信用する気にはならない。

 

手紙の変な内容の事は忘れることにして、何か面白い番組でもやっていないかとテレビを付けようとした瞬間、

 

気がついたら、大空に投げ出された。

 

「……………………は?」

 

何が起こったのか一瞬分からなかったが、嫌でも状況を理解させられた。と言うのも、落ちていくスピードが嫌に現実的(リアル)だったからだ。

 

「いやいやいやいやいや!ちょ、洒落になんないんだけどッ!?」

 

状況を飲み込んで、パニックになる響。まぁ、無理もない。恐らく、誰だっていきなり大空に投げ出されれば大なり小なり動揺はする……はずだ。響と共に落ちていっている人物の一人を除いて。

 

「てか、もう水め―――ガボボッ!?」

 

あっという間に水面に直撃した響と彼と同じく大空に投げ出されたと思われる人物たち。普通響たちが落ちてきた高さから彼らが落とされた湖に叩きつけられたら死んでしまうが、そこは何か特殊な仕掛けでもしていたのだろう。怪我一つなく陸に上がることができた。……服はびしょ濡れだが。

 

「ぷはぁっ!……信じられないわ!いきなり呼び出しておいて挙句には空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。下手すりゃその場でゲームオーバーだぜコレ!これなら石の中に呼び出された方が親切だ!」

 

這い上がってきた響の隣では、ヘッドホンを首にぶら下げた金髪の如何にも野蛮そうな目つきをした少年と白のブラウスと長めのスカートを穿いた『お嬢様』のような雰囲気を晒しだしている少女が口々に文句を言っていた。……その点に関しては響も全くもって同意している。

 

「……いや、フツー石の中に呼び出されたら動けないと思うけど」

 

「俺なら問題ない」

 

「そうなの………身勝手ね」

 

「はー、そりゃ凄いねー」

 

興味のなさそうに吐き捨てる少女と感心したように言う響。両極端な感想に石の中に呼び出されても大丈夫な少年。は面白い、と言わんばかりに『ヤハハ』と笑っていた。もう一人の少女に至っては、三人の会話に興味すらないのか、三毛猫を抱えたまま別方向を向いていた。

 

「なぁ、一応確認しておくがお前らにもあの変な手紙が?」

 

「ええ。それと、『お前』って呼び方訂正しなさい。私には、久遠飛鳥という名前があるの。以後気をつけて、あと、そこの猫を抱えている貴女は?」

 

「春日部耀。以下同文」

 

「そう、よろしく春日部さん」

 

飛鳥の言い分に不満があるのか、眉を少しだけ寄せながらそう言う耀。しかし、飛鳥の視線は既に耀を捉えておらず、先ほど話をしていた少年の方へ向けられていた。……仕方なくという意味合いが強そうな表情。

 

「……それで?そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

                

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪、快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用量と用法を守った上で適正な態度で接してくれよ、お嬢様」

 

「説明書を用意してくれるのだったら、考えなくもないわ十六夜君」

 

「ヤハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しろよ、お嬢様」

 

意外な反応だったからか、自称駄目人間こと逆廻十六夜は少し、キョトンとしたかと思うと、ヘラヘラと楽しそうに笑い出した。敢えて、挑発的に言ったのにソレを流されるとは思っていなかった、と言うのもあるだろうが。

 

「で……最後になったけど、そんな暑苦しそうな格好をした貴方は?」

 

「え?ああ、僕のことか。青江響だよ因みに、この格好だけど………」

 

「………」

 

「特に意味があるわけじゃないいから気にしなくていいよ」

 

ガンッ

 

如何にも意味があると思わせるような口ぶりに十六夜と飛鳥、耀はゴクリと喉を鳴らしたが、けろりとそう言う響に思わず全員気に頭を打ち付けた。響の方はというとしてやったりという表情でニコニコ……否ニヤニヤしていた。

 

「……貴方、いい性格しているわね」

 

「そう?悪い気はしないねー」

 

「ヤハハ、お前も面白い性格してんな……」

 

会話だけ聞けば和やかな一面と捉えられそうだが、実際はそんなものではなかった。ヒクヒクと頬を引きつらせながら、黒い笑みを浮かべている飛鳥に、それに対してどこといった風で平常運転の響。そして、その二人を面白そうにギラギラとした目つきてみている十六夜。何処をどう見ても仲良しこよしといった雰囲気とは程遠い。

 

「(うわぁ……なんだか問題児ばかりですねぇ……)」

 

響たちから少し離れたところの草むらに隠れていたウサ耳を生やした黒髪の少女は彼らの様子を観察して表情を引きつらせながらそう思っていた。この世界……箱庭に呼び寄せたのだが、どうにも一筋縄では協力して貰えそうにないと思うと、気が重い。

 

「まぁ、ひとまずコレは置いておくとしてだ、そろそろこの世界……箱庭だったか?それについて説明してくれる奴が現れてもおかしくないはずだよな」

 

「だね、これじゃ行動のしようがないし」

 

「そうね、このままだと少し困るわ」

 

「………この状況に落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

「(全くです……)」

 

誰ひとりとして焦っていない中そう言う耀に対してそう言う響。言っている本人も全くと言っていいほど焦っていない。ウサ耳の少女としてはもう少し焦ってくれれば、飛び出しやすいものだと思いながら響に同意している。

 

「―――仕方ねぇ、そこに隠れている奴にでも聞くか?」

 

「!?」

 

十六夜の発言に心臓を掴まれたかのようにびくりと反応する。その際に、草むらが少し揺れてしまったが他のメンバーは気がついていない様に見えたので、ホッとしたのも束の間。あら、意外と言わんばかりの表情をした飛鳥の一言によって、黒ウサギのその安堵感は塵へと変わる。と言うのも十六夜以外からは隠れきれていると思っていたのだが―――――

 

「何だ、貴方も気がついていたの?」

 

「ヤハハ、これでも隠れんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴と青江も気づいていんだろ?」

 

「……風上にたたれたら嫌でも分かる」

 

「バレバレ過ぎて、寧ろ隠れているつもりかってくらいだね。これなら、子供の方がもっと上手く隠れ切れるよ」

 

「へぇ、やっぱ面白いなお前ら」

 

「(ひぇー!?バレていますぅっ………うぅ、仕方ありません、こうなった以上お腹括るのデスヨ)」

 

全くもってバレバレだった。寧ろ、バレバレ過ぎて泣きたくなったのはウサ耳の少女だけの秘密である。それで事が解決するわけでもないので、仕方なく腹をくくる決意をしてハンズアップしながら、草むらから出る。

 

「い、嫌だなー御四人様。そんなに狼みたいに怖い顔で睨まれると黒ウサギは死んじゃいますヨ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

 

「だが断る」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「あっは♪取り付くシマもないですねっ!!」

 

上から響、十六夜、飛鳥、最後に耀の順で、しかも全員清々しいほどの笑顔でウサ耳の少女――――黒ウサギと名乗った彼女の発言を一蹴する彼らは、黒ウサギの予想通り……いや、予想以上の問題児っぷりに本気で泣きたくなってきた黒ウサギはもうどうにでもなれーという感じでバンザイした。

 

「って、ウサ耳!?初めて見たよ!」

 

「フギャッ!?」

 

ウサ耳が生えた少女を見たのが初めての響は、好奇心に負けて彼女、ウサ耳の少女の頭に生えた耳を引っ張ってみた。ただ付けられているだけだったら拍子抜けと言うのも、理由の一つだろう。他の理由としては……ただ引っ張ってみたかったとか、本当に頭から生えているのか気になったなど、そんなところだろうか。

 

「………狡い、私も」

 

「あ、私もいいかしら」

 

「ちょ、ちょっ、ま、待っ――――――」

 

「あ、じゃあ俺も」

 

止めようとするウサ耳の少女の事などいざ知らず。響に続いて好奇心に負けた耀、飛鳥そして最後に十六夜が自分もと黒ウサギに生えた耳を強く引っ張ったり、こちょこちょとくすぐってみたりと彼女の耳をいじり倒す。その被害者たる彼女は、響たちが召喚された場所一体に自分の声にならない悲鳴を上げるのだった。

 




ついに書いてしまった問題児シリーズ……他の作品のように飽きずに完結を目標にやっていきますので、よろしければ次回もよろしくおねがいしますm(__)m


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2話

「ふぅ……いやー堪能したねー。動物のウサギの耳は触ったことがあったけど、ウサ耳少女のウサ耳は触ったことがなかったからついじっくりと堪能しちゃったよ」

 

ウサ耳少女の耳をじっくりといじり倒した四人は満足げな表情をしており、中でも響はたいそうご満悦と言うようなホクホク顔で笑みを浮かべていた。ウサ耳の少女の方はというと、弄られ疲れたようで、その場に座り込んでいる。しかも、半泣きである。

 

「あ、あり得ない。あり得ないのデスヨ。まさか話を聞いてもらうためだけに黒ウサギの耳を散々弄ばれた挙句、小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこういう状況のことを言うのデス」

 

「いいから、さっさと進めろ」

 

ウサ耳の生えた少女こと、黒ウサギは、自慢のウサ耳を四人に小一時間弄られ続けると言うもはや罰ゲームにも近い状態からようやく解放された彼女は心底疲れたようにそう言うが、十六夜に一蹴される。自分たちの所為というところを棚に上げて、他のメンツも十六夜に同意のようだ。

 

「こ、こほん。それでは気を取り直して………それではいいですか?御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さぁ、言います!ようこそ、箱庭の世界へ!我々は、御四人様方にギフトを与えられた方々だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうと思い召喚いたしました!」

 

「ねぇ、一ついいかな?」

 

「はい、なんでございましょう!」

 

手を上げて質問しようとする響に嬉々とした表情で尋ねる黒ウサギ。恐らく、先ほどの定例文とやらが上手く言えて喜んでいるのだろう。

 

「そもそも、ギフトって何?」

 

「はい!いい質問でございます。ギフトとは、皆様も気づいておられるかと思いますが、皆様がお持ちのその特異な力は修羅神仏、悪魔、精霊、そして星から与えられた恩恵なのです。そして、その恩恵を駆使して互いに競い合うゲームこそ『ギフトゲーム』と言う訳です」

 

「へー……なるほどね。うん、理解したよ。ありがとね(……となると、恐らく僕の『アレ』がギフトっていうわけか)」

「いえいえ、呼び出したのは黒ウサギたちですので、皆々様の疑問に答える義務がありますので、構いませんよ」

 

ニコニコしながらそう言う。黒ウサギに響も釣られてニコニコした笑顔になる。まぁ、響の笑顔は完全に作り笑顔だったのだが。

 

「じゃあ、次私いいかしら?」

 

質問を終えた響の後に、一歩前に出てそう言う飛鳥。ニコリと笑ってどうぞと言っている黒ウサギだが、若干試すかのような、視線でいるように響には見て取れた。

 

「さっき、『我々』と言っていたけれど、それは貴女を含めた『誰か』のことなのかしら?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者である御四人様方には箱庭で生活するにあたって数多ある『コミュニティ』に必ず属していただきます!」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます!そして、ギフトゲームの説明の追加になってしまいますが、ギフトゲームの勝者は主催者……例外を除いて殆どの場合コミュニティが主催しますが、その主催者が提示した商品をゲットできるというシンプルな構造になっております」

 

十六夜の拒否をさらりとダメ出しして、響たちに説明を続ける黒ウサギ。

 

「……その例外ってどう言う場合があるの?」

 

「そうですねー、例えば暇を持て余した修羅神仏が人を試す試練を称してギフトゲームを開催するケースもありますし、その他にも例外は何パターンかありますが、やはりゲームの開催はコミュニティ主催のものが多くを占めています」

 

「後者は結構俗物ね……チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品、土地、利権、名誉、人間………そしてギフトを賭け合う事も可能です。

 ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然ご自身の才能も失われるのであしからず。受けるも受けないも自分次第でございます」

 

脅しをかけるようにそう言う黒ウサギだが、期待したような反応は帰ってこない。その事に問題児だが、肝っ玉は悪くない。寧ろ、ゲームに怯えて逃げ出すなんてことがなさそうで安心したくらいだ。そう思いながら、問題児たちの質問に耳を傾ける。

 

「そう。ゲームはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!

 商店街でも商店が小規模なゲームを開催しているので、良ければ参加していってくださいな」

 

「……つまりギフトゲームはこの世界の法そのもの、と考えていいかしら?」

 

「八割正解、二割間違いと言ったところですね。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、

 金品等による物々交換も存在します。……が、しかし!ギフトゲームの本質は全く逆!!

 一方の勝者だけがすべてを手にするシステムです。店頭に置かれている賞品も

 店側が提示したゲームをクリアすればタダで手に入れることも可能ということですね」

 

「そう、なかなか野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし主催者は全て自己責任でゲームを開催しております。

 先程も言いましたが、受けるも受けないも自分次第……つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話なのです」

 

ふぅ、と一息をついて黒ウサギは一枚の封書を取り出すとニコニコしながら響たちに提案する。

 

「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには全ての質問に答える義務があります。……しかし、それら全てを語るには少々時間がかかるでしょう。と言うことで、ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが…よろしいでしょうか?」

 

「―――待てよ。まだ俺が質問していないだろ?」

「……どんな質問でしょうか?ルールですか?それとm…」

 

今まで清聴していた十六夜が黒ウサギに向かって真剣な顔で話しかけた。その表情に少し気圧されたかのように言葉を慎重に選びながら黒ウサギは質問を促す。

 

「そんなことはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ。

 俺が聞きたいのはただひとつ。手紙に書いてあったことだけだ」

 

 十六夜はそう言うと不敵な笑みを浮かべ、こう言った。

 

「―――――この世界は…面白いか?」

 

 十六夜の言った言葉に響を含む全員が黒ウサギを見据え、次の言葉が紡がれるのを待った。み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能ギフトを試すことを望むのならば、己の家族,友人、財産……元の世界で持ちうる全てのものを捨ててやってきたこの箱庭(場所)だ。つまらないとなれば、拍子抜けもいいところだ。少なからず響は、いや飛鳥たちもそう思ったことだろう。

 

「―――――Yes!【ギフトゲーム】は人を超えた者達だけが参加出来る神魔の遊戯。

 箱庭の世界は外界よりも格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

一瞬、きょとんとした黒ウサギだが、質問の意味を理解すると今までの社交辞令の笑顔ではなく、心からの満面の笑みでそう答えた。

 

 

 

「………なぁ、青江。ちょっといいか?」

 

「響で構わないよ。で、どうしたのさ?そんなに良い笑みを浮かべて」

 

あらかたの質問を終えて、黒ウサギが所属するコミュニティに行くことになり、召喚された場所からその場所へ向かって歩いている最中に十六夜が前を歩いている女子3人に聞こえないくらいの声音で話しかけてきた。

 

「そうかよ、んじゃ響。世界の果てってヤツに興味ねぇか?」

 

「有るか無いかで問われれば、有るね。大空に投げ出された時に少し見えたけど、パニックでよく覚えていないし」

 

「決まりだなっ、その世界の果てって奴を拝みに行こうぜ」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに十六夜はニヤリと口を歪めた。それに少し嫌な予感がしたが、彼に触発されて世界の果てへの知的好奇心の方が勝り、彼と同じように響もまた口を歪めた。

 

「いいね、それはいいよ。是非ともご一緒させてもらおうかな」

 

「ヤハハ、そうこなくっちゃな!じゃ、行くぜ?ついて来れなかったら連れてってやるから安心しろよな。」

 

「ははは、そっちこそついてこれないなんて言わないでくれよ?」

 

十六夜のその発言にヘラヘラと笑いながらそう返す響。その事を挑発と受け取ったのか十六夜は口を上に釣り上げておもしれえと言うと飛鳥と耀の方を向いた。

 

「オイお嬢様、春日部」

 

「………何かしら、十六夜君」

 

「……何?」

 

黒ウサギの後ろを話を流しながらついて行っていた飛鳥と耀を十六夜が呼ぶ。黒ウサギはというと、ルンルン気分で前を歩いているので、彼らが話しているのに気づいていないようだ。

 

「ちょっくら響と世界の果てまで行ってくるぜ」

 

「そう、行ってらっしゃい。あ、できれば何かお土産が欲しいわ」

 

「私も。珍しいものを期待しとく……ホントなら私も行きたいけど」

 

流石に、三人も減ってしまえば嫌でも気づくはずと今回は自重してみせる耀。……普通なら、十六夜と響の二人が減った時点で気づきそうなものだが、恐らく今超絶ご機嫌な黒ウサギはきっと、自分たちのコミュニティに着くまで気がつかないだろう。

 

「ま、仕方ないよ。流石に三人だとねぇ。久遠が一人になっちゃうしさ」

 

「ん。わかってる。………だから、お土産期待しとくね二人共」

 

「ヤハハッ期待して待っときな。んじゃ、行くぜっ」

 

「あいあい。じゃ、ちょっと行ってきまーす」

 

飛鳥と耀にそう告げるとお土産をごねられる十六夜。それに対してニヤリと笑うと黒ウサギに気づかれないように跳躍してその場を離れる。響もそれに少し遅れて彼を追うような形で同じく黒ウサギにバレないように跳躍してその場から姿を消した。

 

そして、問題児4人たちの読みよりは少し早かったが、箱庭の外門、二一〇五三八〇外門で待ち合わせしていたコミュニティのメンバーに合流してから、漸く黒ウサギは逆廻十六夜、青江響がいないことに気づいたのだった。



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3話

「あ、あんの……問題児様方は…………ッ!!」

 

黒ウサギは、プルプルと拳を震えるほど握りしめてこめかみには青筋がピキピキと浮かび上がっていた。………誰がどう見ても、絶賛ご怒り中もといい、激おこぷんぷん丸である。彼女の怒りように飛鳥と耀は気まずげに目を逸らす。今ここにいない、響と十六夜の離脱に一枚噛んでいるからだ。

 

「……いい、です。いいでしょう。これは黒ウサギへの立派な挑戦状なのですよっ!とっ捕まえて、黒ウサギは……箱庭の貴族が伊達じゃないことを教えてやるのですっ!!」

 

「あ、あのー、黒ウサギ?」

 

「ふ、ふふふ……今にクビを洗って待っているのですよ御二方……この黒ウサギが今から引導を渡しに行ってやるのです!!」

 

外門のところで合流した少年――――名をジン=ラッセルと言うが、その少年が変な黒いオーラを放ちながら一人盛り上がっていることにドン引きしながらも勇気を持って話しかける。しかし悲しいかな、彼の声は黒ウサギには届いていない様子。彼の頑張りが無に帰したことを問題児ながら飛鳥と耀は同情した。

 

「………というわけで、ジン坊ちゃん。黒ウサギはこれから問題児御二方を捕まえに行ってきますので、そちらの御二方のご案内をお願いしてもいいですか?本来なら、黒ウサギが案内するべきなのですが……あの問題児様方を追わなければなりませんので」

 

「う、うん。分かった。こっちのことは気にしなくていいよ。じゃぁ、その………が、頑張って?」

 

「YES!速やかに迅速に半刻以内に連れ戻してまいりますので、それまでよろしくお願いします。……それと、御二方?」

 

ニコリと笑いながら黒ウサギは飛鳥と耀、二人の方を見る。ニコニコしてはいるものの、その目は全くもって笑っていない。その様子に二人は本能的に今の黒ウサギに逆らうべきではないと察した。

 

「御二方はそんなことないと信じていますが……向こう御二方のように消えたりしたら……わかってますよね?」

 

「も、勿論よ。……ねぇ、春日部さん」

 

「う、うん。そんなことしない……よ?」

 

「それならよろしいのです。では、ジン坊ちゃん、御二方のエスコート頼みましたよっ!!」

 

二人の答えに満足した黒ウサギはジンにそう告げると力を解放する。黒に近い青色だった長い髪は彼女の怒りを示すかのように緋色に染まっていき、そのまま二人が去っていったと思われる方向へと跳躍していく。……その距離だけなら、去っていった二人よりも高い跳躍力だ。

 

「……とりあえず、僕たちも行きましょうか?」

 

「「………ええ(うん)」」

 

この数分の会話だけでガクンと疲れたと言わんばかりにゲンナリした様子の二人はジンの提案に少し嬉しく思いながら、素直に彼についていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤハハハハハッ!!スゲェな!響っ!!本当について来てんのかよっ!」

 

「これでも結構キツいんだけど……ねっ」

 

森の中を爆走している二人の人物。言わずと知れた黒ウサギが現在血眼になって追っている響と十六夜だ。彼らが走った後は、普通の速度ではあり得ないほど土が抉れている。その様子から、彼らの走る速度が尋常じゃないことを物語っている。

 

「ホントかよ、とてもそうは見えねぇなっと!」

 

「!?ちょ、あぶなっ!?」

 

「ヤハハッ、やっぱ避けられんのか!ホントおもしれぇな響」

 

「こっちとしては、勘弁して欲しいんだけど?」

 

悪戯替わりに十六夜が蹴って飛ばしてきた木が響に向かって尋常ではないスピード………第三宇宙速度で響に迫っていく。ソレを飛んで近くに生えている木の枝に向かって飛んで、その枝に着地して蹴られた木を回避する。呆れ半分のジト目で十六夜を見るが、なんのその。そんなこと関係ないと言わんばかりに、十六夜は面白そうに笑っている。勿論、響は冗談じゃないと思っているが。

 

「で、まだ着かないわけ?その世界の果てってのに」

 

「いんや。もうすぐそこだろうな」

 

「じゃあ、早く行こうよ。僕疲れたよ……」

 

「んだよ、だらしねぇな」

 

「誰のせいだと思ってんだよ……」

 

心底残念そうに言う十六夜に口元を引きつらせながらそう言う響。ただ世界の果てに向かって走るだけならそこまで体力を使うことはなかっただろうが、途中何度も十六夜によって先ほどのように、進路妨害されたためだ。

 

「ヤハハ、んな怒んなって。……っと、こりゃスゲェな……」

 

「……流石は、箱庭ってことかな?」

 

森を抜けた先の景色に二人は、絶句していた。勿論この二人は現在目の前で見ているような絶景を元の世界で見たことがない。その事に息を飲みながら歓喜に震えていた。未知の体験への興奮。それが今この二人を震わせる要因だった。

 

『ほぉ……この、世界の果てまで人間が来るのはいつ以来か……』

 

「わぉ、水の中からでっかい蛇が出てきたよ」

 

「いい、いいぜオイ。最っ高のサプライズじゃねーか!」

 

突然水辺の水が盛り上がったかと思うと、底から大きな白の喋る大蛇が現れた。その事に、響は驚いたように笑いながらそう言い、十六夜に至っては歓喜すらしていた。

 

『小僧ら、此処に来たということは我の試練へ挑戦しに来たと受け取って良いのだな?ならば、選ぶが良い』

 

「え?いや、僕受けるつもりないけど」

 

「はっ、おもしれぇ。だったら、まず俺を試せるのか試してやるよッ」

 

『図に乗るなよ、小僧が!!』

 

「えー、僕のことスルーですか………」

 

スルーされたことに若干のショックを受けている響なんて見えていないかのように、十六夜の発言を挑発と受け取った白い大蛇―――蛇神は体を凪ぎ、水辺の水で津波を起こす。普通の人間であれば、避けることは叶わず、その水圧に体はひしゃげてしまうことだろう。しかし、十六夜は不敵に口元を上に吊り上げて笑うと津波に向かい走り出したかと思うと、その勢いを利用して津波を殴りつける。

 

『な、何!?』

 

「うわー、津波殴りつけるだけで相殺するとか、規格外すぎるんだけど……」

 

響が言ったとおり、十六夜に殴りつけられた津波は勢いを失い、そのままただの水に戻り、その場に落ちる。蛇神の方はというと、驚きが隠せないでいる。

 

「おいおい、まさかこの程度なんて言わないだろうな蛇神サマよ。今度は、こっちから行くから精々俺を楽しませてくれよッ!!」

 

『ぬ!?ゴハァッ!?』

 

目の前に現れた十六夜に寄って身体の中央あたりを彼の右足によって蹴り飛ばされる。最初は耐えたものの、耐え切れず蛇神は滝へと叩きつけられる。すぐに出てくるかと思い、待っていたが、一向に出てくる気配がない。恐らく気を失っているのだろう。

 

「………はぁ、んだよ。本当にこれでオシマイかよ……蛇神ってのも大したことねぇな」

 

「いやー、楽に勝つだろうとは思ったけど、まさか一撃であそこまで吹き飛ばすなんてね。予想外だよ」

 

「俺としちゃ、もうちょい粘って欲しかったけどな。……ま、退屈はしそうにねぇな『箱庭』は」

 

楽しそうに笑う十六夜に釣られて響も笑う。そこに少しボロボロになりながら追いついた人物――――黒ウサギがこめかみをヒクヒクさせながら響たちの前に現れた。

 

「よ、ようやく見つけたのですよ。この問題児様方……」

 

「ん?ああ、黒ウサギか。てか、どうしたんだその髪の色」

 

「いや、髪の色云々より先に言うことがあると思うけど?」

 

響の至極真っ当な意見に黒ウサギは『全くです』と大いに同意する。まぁ、そんな至極真っ当な意見を言う本人も黒ウサギがここまでくることになる一端を担いでいるわけだが。

 

「しかし、いい脚してんな。こうも早く追いつかれるとは思っていなかった」

 

「ふふん、当然にございます。黒ウサギは『箱庭の貴族』と謳われる優秀な貴種なのです。その黒ウサギが―――」

 

と言いかけて、言い止めてはっ、となる。確かに黒ウサギ―――箱庭の貴族は優秀な貴種。箱庭でもその力は決して低くなく自身も修羅神仏たちには及ばないにしても、それなりに強いと自負している。それなのに、それなのに…

 

「(黒ウサギが半刻以上追いかけても御二方に追いつけなかった……?いえ、そんな……まさか)」

 

「?黒ウサギ、どうかしたのかい?」

 

「い、いえ!ともかく響さんと十六夜さんが無事でよかったのですヨ。水神のゲームに挑んだと聞いて、肝を冷やしたのですよ」

 

「水神?――――ああ、十六夜がぶっ飛ばしたアレ?」

 

ピッ、と擬音が付きそうな動作で滝が流れている方向を指差している。は?と最初何を言っているのか理解できなかったが、嫌にでも理解することになる。何故なら………

 

『まだだ、まだ終わっとらんぞ……小僧ぉっ!!』

 

「なんだ、ようやく意識が戻ったのかよ」

 

「じゃ、蛇神!?って、どうやったらここまで怒らせることができるんですか御二方!?」

 

「いや、僕何もしてないんだけど」

 

ナチュラルに自分の所為にもされたことに納得できないという表情で黒ウサギの方を見る。その表情にう、と言葉を詰まらせる彼女に助け舟?を出すような形で主犯である十六夜が説明をする。

 

「なんか、偉そうに『試練』を選べだの上から目線で素敵なことを言ってくれるからよ、”俺を試せるか、試してやったんだよ”…まぁ、結果は少々期待はずれだったが」

 

『貴様ァ…………つけあがるなよ、人間風情がァ!!』

 

十六夜の発言に今度こそ完全にブチギレた蛇神が甲高い咆哮を上げる。すると、巻き上がる風が水柱立ち上げる。あの水流に巻き込まれれば、ただの人間であれば、一辺の慈悲なくちぎれ飛ぶことは明白。それを理解した黒ウサギは悲鳴に近い声で十六夜に向かって叫ぶ。

 

「下がってください!十六夜さんっ!!」

 

「―――大丈夫だよ、黒ウサギ」

 

「へ?ど、どういうことですか?」

 

「見てればわかるよ……ほら、十六夜が動くよ」

 

楽しそうに笑っている響に対して黒ウサギは、訝しげに思う。明らかに十六夜の方がピンチなのに心配する素振りすら見せない。響と同じく、十六夜も圧倒的不利に見える状況に対して笑っている。そして、獰猛に笑みを深めたと思った瞬間。

 

「……ハッ、しゃらくせぇっ!!」

        ・・・・・・・・

迫った水流の嵐を拳一つでなぎ払う。その異常な光景に蛇神と黒ウサギの驚いた声は奇しくも重なりその場に響き渡る。似たような光景を見た響は『やっぱりね』というような表情で苦笑いをしていた。

 

『「はぁ!?」』

 

「まぁ……中々だったぜ、お前」

 

その言葉を最後に大地を踏み砕くような爆音を響かせ、それが、十六夜の放った蹴りが蛇神の胴体を打ち付け、蛇神の体躯は宙を舞い、そのまま重力に逆らうことなく叩きつけられたことを教えた。その衝撃で川は氾濫し、水で森が浸水する。またびしょ濡れになり、バツが悪そうにしている。勿論、濡れたのな十六夜だけでなく、響と黒ウサギも同様だが。

 

「……くそ、今日はよく濡れる日だなオイ。クリーニング代位は出るんだろうな黒ウサギ」

 

「プッ…」

 

「………(ぽかーん)」

 

冗談めかして言う十六夜の言葉に響はプッと吹き出し、黒ウサギに至ってはあっけに取られて十六夜の冗談が耳に入っていなかった。そして、黒ウサギの脳裏には、ある一言が記憶の奥底から浮き上がってきた。

 

『黒ウサギ、彼らは間違いなく、人類最高クラスのギフト保持者よ♪』

 

それは、彼らを呼ぶためのギフトを賭けたあるゲームの『主催者』からの言葉。

 

ただのリップサービスだとしか思っていなかったあの言葉………もしかしたら、本当にもしかするかもと黒ウサギは一筋の希望を抱いて、響とハイタッチを交わしている十六夜を見るのだった。

 




ふぃー、第三話目投稿完了しました。いやはや、中々小説を書くのは難しいですね。………思った様に話が進められなくて四苦八苦しております(o´Д`)=з

就職活動もやらないといけないので、更新が遅れることもありますが、次回もお付き合い頂ければと思います。では、また次回にお会いしましょう。|・x・)ノシ


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