ドラゴンボールZ ~未来の戦士の戦いの記録~ (アズマオウ)
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プロローグ
語りだされる記録


こんにちは!アズマオウです!

未来編は好きですからね。書いちゃいました。更新すっげえ不定期になると思いますが、よろしくお願いします。


「ふう……」

 

 エイジ786年。平和が訪れて2年後。

 

 一人の青年が騒がしい町中のベンチで呟いた。ポケットから地図を探って、現在位置を確かめる。このあたりにある高校へといかねばならない。

 

「やっぱこの世界は、平和なんだな……」

 

 青年は、町を見ながら呟いた。高層ビルや住宅、駅などもたくさんある。以前は廃墟だったのに。そう思うと、何故か懐かしく思えてきた。地獄のような日々だったのにも関わらず。

 

「今は……9時50分か。そろそろいこう」

 

 青年は腕時計を見て、歩き始めた。今日、会いたいという人がいるらしい。さすがに超スピードで走るわけにはいかないので、ゆっくり歩くことにする。

 この町、オレンジシティはすごく賑わっている。アイスクリーム屋にコンビニ、スーパー、ゲームセンター、住宅がたくさんあり、人が満面の笑みを浮かべて道路を歩いている。青年はその様子をちらりと横目に映し、目的の高校へと歩き始めた。

 

 目的の高校、オレンジスターハイスクールが見えた。校舎の壁時計は10時5分前を指している。少し急ぎ足で校門を潜り、職員室の窓口へといった。

 

「あの、すいません」

 

「はい?」

 

 女性の事務員さんが、受け答えした。青年はにこやかに訪ねる。

 

「ここに今日面会希望をされた先生はいらっしゃいますか?」

 

 今日会いたいといった先生の名前はしらない。

 

「ええ、いますよ。職員室のすぐそばにある会議室でお待ちしておりますよ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 青年はペコリとお辞儀をして、スリッパを用意して校舎へと上がる。途中、私服姿の生徒が青年とすれ違う。

 

「あれ? あの人どっかで見かけなかった?」

 

「俺もなんか見覚えあるんだよな……テレビとかで」

 

(面倒だなあ……)

 

 青年は、少し下を向いて、急ぎ足で会議室へと向かう。自分で言うのもなんだが、かなり有名になってしまった。ある理由で。

 

 どうにか青年の素性をばらさずに、会議室につくことができた。重々しいドアを控えめなノックで叩く。

 

「どうぞ」

 

 柔らかく、しかししっかりとした女性の声が中から響く。まだ若いのだろう。

 

「失礼します」

 

 青年は、ドアノブを捻って開けて、中へとはいる。長い楕円状のテーブルが置かれており、そこに一人の女性が座っていた。青年は、軽く礼をして、その女性へと歩み寄る。

 

「本日はどうもお越しくださいました。急なお願いに答えてくださって」

 

 女性は歩み寄った青年に声をかけて握手をした。

 

「いえいえ、世の中平和ですから。声をかけてくれて嬉しいです」

 

「ありがとうございます。今お茶を用意しますので、ちょっと待っててください」

 

 女性は席から離れて近くにある給湯室へと向かった。青年は、ふうと一息ついて外の景色を見る。特に何も感じず、ポケットにある携帯端末を取り出した。スケジュールを見るためである。

 

「今から彼女と話して、その後は暇だな……悟飯さんの墓参りでもいこうかな」

 

 そう小声で呟いて、椅子に深く座る。

 

「お待たせしました」

 

 するとすぐに女性がお盆にお茶をのせて帰ってきた。静かに置かれた暖かいお茶の、香ばしい臭いが鼻に入り、会釈する。

 

「ではいただきます」

 

 青年はお茶を手にとってすする。とても美味しかった。お茶が当たり前のように飲めなかった時代があったことを思うと、平和になったんだなと改めて思わされる。

 

「美味しいです、このお茶」

 

「それはよかったです。あの、そろそろ本題にはいっても……」

 

 女性が控えめな口調で青年に尋ねた。青年はにこやかに了承する。

 

「いいですよ。けど、今日はどんなご用件なんですか?」

 

「それは……昔の悟飯君のことです。孫悟飯君の」

 

 その瞬間、青年は体を震わせる。久しぶりにその名前を聞いた。青年にとっては、かけがえのない人物。常に一緒にいてくれて、常に戦ってくれた。友達であり、師匠であり、目標でもあった。今でも青年は、彼のことを尊敬している。

 

「悟飯さんのことですか。俺もあまり知らないんですけど……知ってることなら教えますよ」

 

「ありがとうございます」

 

「で、あなたと悟飯さんの関係は?」

 

「……元、クラスメートでした。とはいっても、私しかクラスメートは生き残ってませんけど」

 

「……そうだったんですか」

 

「ええ。けど彼のこと全然知らなくて……だから今日、あなたを呼んだんです。悟飯さんと共に戦ったあなたなら何か知ってるだろうって」

 

「確かに戦いましたが、俺なんてあの人の足手まといでした」

 

 青年は自虐的なことを呟く。実際足手まといになってしまった。青年のせいで、悟飯は……。

 

「そんなことないです。あなたが……トランクスさんが人造人間を倒したんですよ!」

 

 つい大きな声を出してしまった女性は、はっと我に帰って謝った。

 

「すみません」

 

「いいんです。けど俺はそこまで崇められるような人じゃない。悟飯さんさえ生きていれば、もっと早く終わっていました」

 

「そうかもしれませんが……もう終わったんです。いいじゃないですか」

 

「……そういうことにしておきます。おっと、そういえばあなたの名前をまだ聞いていませんでした」

 

 青年ーートランクスは、女性にいった。女性の名前を聞かずにここまで来たのだった。

 

「申し遅れました。ビーデルと申します」

 

「ビーデルさんですか……あの世界チャンピオン、ミスターサタンの娘さんですか?」

 

「ええ。とはいっても、他界しましたけどね」

 

「存じています」

 

「恐らく、今も元気にしてますよ」

 

 しばらく沈黙が続いた。二人とも、あの時代の惨状を思い浮かべているのだ。そして、ビーデルは涙を少し垂らした。

 

「す、すいません……いつまでたっても立ち直れなくて……」

 

「いいんですよ。泣けるということは、まだその人があなたの中で生きているんだから」

 

「ですよね……分かりました。泣くのはやめにします。悟飯君のことについて聞きたいですから。学校外での、悟飯君のこと」

 

「そうですか。分かりました……」

 

「あと、お父さんのことも」

 

「その時は俺はまだ生まれてなかったので、母さんか伝えられた話になっちゃいますけど、いいですか?」

 

「構いませんよ」

 

「それではーー」

 

 

 これは、孫悟空が心臓病で死に、仲間たちが人造人間17号と18号に殺された中、たった一人残された戦士トランクスが二人を倒し、すべてを終わらせて、世界を救った英雄となってから2年後の話である。

 

 いまから英雄が語りだすのは、ドラゴンボールの本来の歴史の話ではない。トランクスが来なかった、最悪な未来の話である。




次回からは、最悪な未来の話になっていきます。原作、アニメ準拠ですので。

感想お気に入り評価お待ちしております。


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絶望と恐怖の始まり
父の死と、恐怖の始まり


どうも、アズマオウです。

原作準拠でやっていきます。けれど、そこにオリジナルもからめていきます。

視点はコロコロ変わるのでご注意ください。

では、どうぞ。悟空が死んだところから始まります。


 エイジ766年。

 

 僕――孫悟飯は、必死に走っていた。全速力で複雑な地形を飛び越え、ただ走る。頭の中はただ、パオズ山にある自分の家まで走り抜くことだけだった。

 

 谷や川を飛び越え、山道に沿って走り続け、ようやく一軒の家が見えた。福と大きくドアの上に書かれてある。そして、家の前には仲間がたくさんいた。

 

 全員が俯いている。誰もしゃべっていない。僕の友達の、つるつるの頭であるクリリンさん、全身が緑であるナメック星人で、僕の師匠のピッコロさんをはじめ、ヤムチャさん、天津飯さん、ウーロンさん、プーアルさん、ヤジロベーさん、餃子さん、ブルマさん、ベジータさん、そして、ブルマさんとベジータさんの子、トランクスが家の前にいた。

 

「あ、悟飯だ! 早く早く!」

 

 僕を見つけたウーロンさんが、叫ぶ。会釈する暇もなく駆け足でドアへと入り込んだ。すると……。

 

 そこには、亀仙人さん、牛魔王おじちゃん、母さんーーチチがいた。僕が入ってきた瞬間一斉に振り返り、驚きの表情と、悲しみの表情が入り交じった顔があった。

 

「悟飯ちゃん……」

 

 母さんが、涙ぐんだ声で僕を呼ぶ。僕は、ふらふらと母さんのいるところまで歩いた。その先には、ベッドがある。

 僕はベッドを見た。そこには――山吹色の胴着を着た男が寝ていた。顔は、白い布で覆われていてよく見えない。だが、僕はそれだけで誰が寝ているかわかってしまった。

 

――そんなはずは……まさか……だって……。

 

 頭では否定していた。嘘であってほしい。夢であってほしい。そんな思いがぐるぐると渦巻く。

 

 母さんが僕の顔を覗きこむ。そして白い布が取り外された。すると……。

 

 よく知っている顔がそこにあった。穏やかな表情でその人は寝ていた。よく締まった胸筋、常人離れした腕の筋肉、しかし、どこか暖かい、その顔を見た瞬間、僕は泣き叫んでいた。

 

「お父さああああああああぁぁぁぁん!!!!」

 

 溢れる涙が、愛する父親の頬を打つ。しかし父親は何も言わない。目も開けない。僕の中で一番強かった人ーー孫悟空は何も言わなかった。

 

――お父さんは……強いんだ。こんなことで倒れたりなんか……! ただ、寝てるだけですよね……!!

 

 僕は何度もそう語りかけた。けれど、起きない。揺すっても、頬を叩いても、ダメだった。今までどんなに強い敵でもお父さんは倒した。なんとか勝てたんだ。

 だけどこんなのってない。どうして死んでしまったのか。僕は疑問に思った。

 

「悟空さは……心臓病だ」

 

「え?」

 

 僕の心を読んだのか、察したのか、母さんが話してくれた。けど、信じられなかった。健康で、強くて、運が強いお父さんが、病気で負けるなんて……。

 

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だっ!!」

 

 僕は何度も何度もいい続けた。そうじゃないと自分を保ってられない。

 

「悟飯ちゃん……少し休んだらどうだ?」

 

 母さんが、わめき続ける僕に声をかけた。でも僕の耳には入らなかった。

 

「お父さん……お父さん……!」

 

 悔しかった。まさかこんなことになってたなんて。僕は、今の今までお父さんが病気になっていたなんて知らなかった。しかも心臓病は一日で死ぬようなものじゃない。母さんは知ってたんだ。お父さんが病気になっていたことを。

 それなのに僕はのんきに塾の講習にいってたんだ。気づくべきだったんだ。お父さんが、帰ってきても居なかったことから。母さんは、修行にいったといっていたけど、考えてみればばれる嘘だ。お父さんの気は弱かったのだから。僕はバカだ。学者なんてなれない。自分の父親の危機すら察知できないのだから。

 

「だめじゃ……今の悟飯に何をいっても無駄じゃ。外にいるクリリンたちに知らせるんじゃ」

 

「分かりました武天老師様」

 

 牛魔王おじちゃんが、ドアをそっと開けて外へとでた。今ごろピッコロさんたちに知らせているのだろう。

 

 僕はいつしか泣くことが出来なくなった。泣きすぎてしまったのだろう。いつの間のか疲れがどっと押し寄せてきて、意識を手放してしまった。

 

――お父さん……?

 

――すまねえ悟飯。母さんをよろしくな……。

 

――そんなっ……! 待ってよ、行っちゃだめだよ!

 

――わりい。オラ先いってる。達者でな。

 

 父さんは、僕を残してこの世から去っていった。

 

 

***

 

 

 悟空が消えていった事実は、仲間たちに衝撃を与えた。悟空の古くからの親友のクリリンは、泣き叫び、仲間であるヤムチャや天津飯、餃子は、悲しみを打ち消すために修行に明け暮れ、ピッコロは、しばらく落ち込んでいる悟飯の傍にいてやり、ベジータはスーパーサイヤ人になったものの戦いを辞めていた。

 

 悟飯は、ただ惰性的に生きていた。父悟空という大きな心の柱が崩れ落ちてしまい、虚ろになっていった。母の言われた通りに勉強をこなし、修業は一切しなかった。夕食も会話が続かず、すぐに寝てしまった。

 ドラゴンボールで生き返らせたかった。けれど、悟空は一度死んでいる。地球に襲来した サイヤ人、ラディッツとの戦いにて命を落としたのだ。地球のドラゴンボールは一度死 んだら二度と生き返らせることはできないのだ。

 

 悟飯は学者になろうと誓った。それが唯一父親のためになるから。父親の二度にわたる死に悲しんでいる母のために。

 

 だから、通信教育も欠かさずやっていた。どうにかブランクを取り戻した。

 

 

 

 時代は平和だった。誰もが悟空の死の悲しみをどうにか乗り越えつつあった。

 

 だが、1年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「これで、これで、孫悟空が殺せるぞっ!!」

 

 一人の男――ドクター・ゲロが狂気じみた声で叫んだ。二つのパッチが煙を吹きだして一斉に開き、男は覗き込んだ。

 

 そこには、二人の少年少女が各パッチに一人ずつ収納されていた。彼らは人ではない。人によって改造(つくら)れた人間、人造人間だ。

 

 少年と少女はパチッと目を開けてゆっくりと起き上がった。少年は、黒髪のショートカットで、幼く無邪気な印象を与える。少女は、金髪のショートカットで、顔はどこか大人な雰囲気を持つ、かなりの美人だ。だが、ゲロに言わせれば、彼らは、男が憎む孫悟空を殺害する兵器に過ぎない。

 

「よくぞ目覚めてくれた! 17号、18号!!」

 

「……」

 

「……」

 

 両者とも何も言わない。

 

「では早速孫悟空を殺してもらいたい。わしの命令にしたがえよ」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

 とても従順だ。その様子に安心して、ゲロは外に出る。

 

 だが、突然少年17号の手がひらめいた。そしてゲロの懐から何かが奪われた。

 

「なっ!?」

 

「おっとこれはこれは、制御コントローラーだな」

 

 17号が飄々とした口調でゲロに言った。

 

「き、貴様!! さっさと返せ!!」

 

「やーだね」

 

 17号は、手にコントローラーを握りしめて、破壊した。

 

「何のつもりだ17号!」

 

「さあね」

 

「くそっ! なら、とっとと孫悟空を殺さんか!!」

 

 ゲロは17号と18号に叫んだ。しかし二人はにやにやしていて真面目に聞いていない。

 

「俺たちは俺たちのペースでやる。ゆっくりやるよ」

 

「な、なんだとっ!?」

 

「縛られるのは好きじゃないんだよ」

 

 18号が恐怖を感じさせる笑みでゲロに言う。

 

「勝手な奴らめぇ……!! コントローラーさえあればっ!!」

 

「ふふっ……」

 

「だが、わしを怒らせないほうがいいぞ!! 貴様らなど、どうだってできる!!」

 

「へえ、コントローラーもないのに?」

 

「また作ればいいのだ!」

 

 ドクターゲロは叫び返す。だが、それを聞いた17号は、にやりと笑いをさらに浮かべて、歩み寄った。

 

「貴様らは失敗作だ!! 今すぐ息の根を止めて――!?」

 

 言葉は最後まで続かなかった。17語に右胸を貫かれているためだ。彼らの力をもってすればたやすいことだった。

 

「ごっ……はっ……!?」

 

 身動きの取れなくなたゲロから左手を抜き、短くジャンプした。その後、ゲロの頭部めがけて回し蹴りを繰り出した。

 

 頭は簡単にもげて、首はゴロゴロと転がっていった。ゲロ自身も人造人間のため、血などはない。

 

 首だけ残されたゲロは、17号と18号をにらんだ。

 

「この……ガラクタどもが……」

 

 17号は何も答えず、足を躊躇なく上げて、踏み下ろした。ぐしゃっと気味悪い音が響き、目玉や、脳ミソなどがぶちゅっとぐちゃぐちゃになっていた。

 

「さて、じゃあどうする?」

 

 主なき研究所で17号がつぶやく。

 

「とりあえず、どこか行こう?」

 

「そうだな。気晴らしもかねて、俺たちの実力も知りたいし」

 

 そう言って、二人は研究所から出て、空へと飛んだ。

 

「一番近いのってどこ?」

 

「近いわけじゃないけど、南の方に町があるんだ。そこ行こうぜ?」

 

「そうだね」

 

 二人は、全速力で、南へと飛んでいった。彼らの胸にあるのは、破壊衝動だけだった。

 

 

 これから、17年にわたっての地獄が始まろうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 




次回は、あの惨劇です。南の都で起こったあの惨劇です。

では、感想、お気に入り登録、評価などお待ちしております。


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仲間と師匠の死

どうもアズマオウです。

今回は、あの惨劇の話です。全員が死にますが、少しだけ原作とは違います。本当に少しだけ。

ではどうぞ!


 悟空が死んでから1年後の、エイジ767年。この年は地獄の始まりの年として後の世にも認識されている。これから17年ものの長い年月をかけた戦いが始まるのだった。

 

 そう、この年に悪魔が現れたのだ。2人の人造人間が、はじめて人間の前に姿を現したのだ。

 

 

***

 

 俺ーーベジータは、漫然と時を過ごしていた。殺害対象でしかなかったカカロットが、あっさりと消えていなくなってしまったからだ。誰に殺されたわけでもない。病気でポックリ逝っちまったのだ。

 

 俺は、奴を殺すことしか考えていなかった。奴を殺すのは俺だと信じて疑わなかった。だから俺以外の奴が、カカロットを殺そうとした時、俺は加勢したことだってある。

 全ては自分の殺害欲のためだった。カカロットを殺せればそれでよかったのだ。

 だが、心臓病という、俺にはどうすることもできないものに奴は殺された。ウイルス性だったらしく、未知の範囲だった。ブルマが急いで特効薬を作り上げていたが、それも間に合わなかった。奴は、突然この世から永遠に消え去ったのだ。

 

 だから俺にはもう目標もない。生きる意味もない。あるとすれば、ブルマという女の間に生まれた息子、トランクスの世話だが、正直やり方がわからない。父親とはどうすればいいのか、全くわからない。

 

 また、俺の性格もいつしか丸くなっていった気がした。人を殺すことに興味もなくなっていったし、戦いたくもなかった。この地球が、平和が、好きになっているのかもしれない。

 

 だから今日も、修行せずに一人高地で昼寝している。この高地の景色が好きになって、穏やかになっていった自分を憎らしく思いながら。

 

(くそったれが……)

 

 もう考えるのはやめにしよう。考えても奴は再び俺の目の前には現れない。寝てしまおうと目を瞑った瞬間だった。

 

 どっかーーーーーーん!!

 

「!?」

 

 突然爆発音が響いた。勢いよく起き上がり、高地から下を見下ろす。すると、下にある町が、煙をあげているではないか。だが、誰の仕業だ?

 

 高層ビルが縦に真っ二つに割れている。あれは爆弾では不可能だ。しかも、連続的に爆発が轟いている。俺はすぐに気を探り、誰の仕業か確かめることにした。フリーザ? いや、奴はカカロットによって二度も倒されたんだ。生きているはずがない。まあフリーザなら、俺一人でも倒せるはずだ。恐れることはない。さっさと出てこい……。

 

 けれど、いくら探っても気は現れなかった。破壊は今も続いているのに。しかも、明らかに気攻波による攻撃だ。気が発生しているはずなのに。妙だ。何か嫌な予感がする。

 

 俺は近くにある携帯端末の電源をいれる。ブルマからもらった最新モデルだ。取り合えず、ブルマに電話を掛ける。

 

「ブルマ、南の都で何が起こっているんだ!?」

 

 ブルマが電話に出るや、すぐに質問をぶつけた。

 

「もしもしくらい言いなさい。んで、何が起こってるかって? ラジオ聴けばわかるけど、襲われているのよっ! 人形のロボットに」

 

「ロボット……? 何故そうわかる……?」

 

「クリリンが近くにいて聞いたのよ。気を感じないのに気攻波が放てるのは、人工的に作られたロボットの可能性があるって」

 

「なんだと……!?」

 

「とにかく破壊をやめさせて! あんたたちでいけばどうにかなるとおもうけど……ピッコロやヤムチャ、天津飯たちも向かってるわ。あんたもいけば大丈夫だと思う! だからいって!」

 

「分かった」

 

 以前の自分なら、勝手にしろと断っていた。だけど今は素直にいうことを聞いている。どうやら、本当に地球のせいで穏やかになってしまったらしい。あとは、平和とこの高地からの景色が好きなだけなのかもしれない。

 

 そんな気持ちを降りきろうと、フルスピードで南の都へと向かっていった。

 

 

***

 

 俺ーークリリンは、町の惨状に震えていた。5分しか時間がたっていないのに、町のほとんどが破壊されている。どうかんがえても、一般人には出来ない。ヤムチャや天津飯、ピッコロ、餃子、ヤジロベーもあまりの惨状に息を呑んでいる。死体は火傷しており、中には四肢がバラバラになっているものもある。死体は正直見慣れてはいるが、見たいものではない。

 

「すげえあり様だな……」

 

「ああ……ここまでとはな……」

 

 ヤムチャは、瓦礫に座り込んで息を吐く。

 

「一体どうなっていやがる……?」

 

 ピッコロは首を動かして、この町を破壊した奴を探した。だが、気は一切現れない。だがーー。

 

 

「あっ!!!!」

 

「どうした餃子……あっ……!!」

 

 突然餃子が、ふるふると震えながら上空を指差す。天津飯もつられてそこを見ると……二人の人間がそこにいた。俺もそれを確認する。

 

 まだ幼い少年少女だった。少年の方は、黒髪のショートカットで、無垢そうな顔をしているが、笑いが残忍だ。少女の方は、可愛い。金髪のショートカットで、かなり華奢な肉体をしている。けれど、両者とも恐怖を覚えさせる笑いを浮かべていた。そして、服には赤いリボンのマークがあった。あれは、かつて悟空に滅ぼされたレッドリボン軍のマークだ。だが、そんなことはどうでもよかった。復讐だとしても、悟空を狙いにはもうこれないのだから。

 

(あれが悪人じゃなければなあ……)

 

 俺は、一人どうでもいいことを考えていた。彼らの視線が俺と合った瞬間俺は目をそらす。殺されると思ったからだ。

 

「貴様らかっ!? この町を破壊したのは!!」

 

「そうだぜ」

 

「町を破壊するのは勝手だが……なんでか貴様らが気に食わん……ここで破壊させてもらうぞ」

 

「おお、怖い怖い」

 

 ベジータはいつもそういう理由で戦ってきた。けれど何故か今回は嘘をついているように俺は思えてきた。実際ベジータとブルマさんの間には息子がいる。ブルマさんや、息子さんを守るために戦うのかもしれない。そう思うと、俺はこんな状況なのに嬉しく思う。

 

「貴様らは手を出すなよ! ここは俺一人で片付ける」

 

「無茶いうな! 貴様一人では勝てんっ。みんなでかかるんだ」

 

 相変わらずプライドの高いベジータの発言にピッコロは噛みついた。ピッコロのいうことは正論だ。この中で戦闘能力が高いのはベジータだが、悟空が死んで以来、修行は一切していないと聞いている。だからみんなでよってたかった方が勝てる。

 

「ちっ……分かった。貴様はあの男の方を相手しろ。俺は女の方を相手する」

 

「分かった」

 

 珍しくベジータが案に賛成した。やはりベジータはプライドが薄れてきたのだろう。少し嬉しく思ってしまう俺であった。

 

「お前らっ。一斉にかかるぞ」

 

「……分かったよ」

 

 ピッコロが声を張り上げた。俺は、正直いきたくはないが、言うことにしたがった。

 

「そこのがらくた女。俺は一切容赦しないぞ」

 

「少しは楽しませてくれるんだろうね」

 

「……舐めるなよっ!!」

 

 ベジータは、気をフルチャージしてスーパーサイヤ人に変身した。髪が金色に変わり、金色のオーラがベジータを包み込んで、砂ぼこりが巻き上がる。ベジータは余裕の笑みを浮かべて、女のいる場所までゆっくりと上昇した。そして、殴りかかった。

 

「17号。邪魔しないでね」

 

「分かったよ。じゃあ俺は残りの奴を片付ける」

 

 17号と呼ばれた男の方は、俺たちの方を見て不敵に微笑んだ。

 

「迂闊に動けないぞ……」

 

 ヤムチャさんが震え声で言った。俺も同様だった。しかし、男の方は襲う気配がない。どうやらベジータの戦いを見るようだ。

 

 ベジータは、気を高めている。全力で戦うらしい。確かにすごい気だ。けれど、3年前に見せた悟空の気よりかは多少劣っている。

 

「たああああっっ!!」

 

 ベジータは、女へと殴りかかっていった。スピードもある。ここで決まるか。固唾を飲んで、俺たちはベジータを見ていた。

 

 だが、ベジータのパンチは、簡単に躱された。まだそこで攻撃の手は緩めず、高速のパンチを何発も繰り出す。しかし、女は余裕の表情で受け流し、躱していく。

 

「くそったれが!!」

 

 業を煮やしたベジータは、距離をとって、エネルギー弾を連射した。今度は全段当たった。土煙がごうごうと舞って、相手の姿はよく見えない。

 

「やったか……!?」

 

 俺は叫んだ。けれどそれは甘かった。土煙が薄れ、姿を現した女は、服がボロボロになっただけで、傷ひとつおっていない。

 

「うそ……だろ……!?」

 

 ヤムチャさんが、絶句した。あれほどの威力のエネルギー弾を全発食らっても傷ひとつつかないなんて。

 

「ば、バカな……」

 

 ベジータも震えながら女を凝視していた。女は、驚きと恐怖で満ちているベジータの顔を、面白可笑しい目でニタニタと見つめていた。もはや可愛いげのない、悪魔のように俺は見えていた。

 

「今度はアタシの番ね」

 

 小さく女が呟くと、高速でベジータへと迫った。ベジータはさっと構え、カウンターを狙おうと、拳を突き出す。

 

 が。

 

 女の拳がベジータの懐に入り込み、勢いよくめり込んだ。鈍い音が響き、ベジータの体は止まった。

 

「がっ……はあ……!」

 

 涎を垂らし、白目を剥きかけている。まさか一撃で……!?

 

 女の拳がベジータから離れる。すると、ベジータはなんの抵抗もなく地面へと落ちていった。金髪になっていた髪も黒に戻り、そのまま起きることはなかった。女はベジータの近くに寄って、起こそうとしている。

 

「あれ、こいつ死んだのかい? 弱いねえ」

 

 そういわれても起きない。気も感じられない。

 

 つまり、ベジータが死んだのだ。それもたったの一撃で。それらは俺たちに衝撃を与えた。同時にどうしようもない絶望がこの場を包み込む。

 

「くそったれがぁっ!!」

 

 突然ピッコロが、地面へと降りた女の方に殴りかかった。ベジータの次にこの中で強いが、勝てるわけがなかった。

 

「うおおっ!!」

 

「破れかぶれだ!! くそっ!!」

 

 ヤムチャさんも天津飯も二人に立ち向かう。だが。

 

 女の目の前に男が現れた。ピッコロを阻む形となったが、構わずピッコロは突っ込む。

 

「はああっっ!!」

 

 ピッコロは、まっすぐパンチを放った。が、男は難なく躱して、懐へ潜り込んだ。そして、ヘビーブローが、ピッコロの腹へと突き刺さった。

 

「ごっ……!?」

 

 ピッコロは唾を吐き、力が抜けていく。そして、腕が離れた瞬間、力なく地面へと伏した。

 

 ヤムチャさんと天津飯もあとに続く。しかし、ヤムチャさんは女に首を蹴られ、天津飯は男に脇腹を蹴られて、斃れていった。餃子は、ビームで木っ端微塵にされ、ヤジロベーは、腹をビームで貫かれて即死した。

 

 

 残されたのは、俺一人だけだった。

 

「なーんかつまんないよな」

 

「骨のある奴が多いと思ったけど、大したことないんだね」

 

「そこのハゲも弱そうだしな」

 

 二人がべちゃくちゃしゃべっていた。俺は怖かった。勝てるわけもないし、殺されるからだ。

 

「まあ、こいつも殺そうよ。めんどくさいし」

 

 女が鬱陶しそうに男にいう。男も頷いて同意した。

 

「そこのハゲさん、仲間殺されるってどういう気持ちだよ」

 

 男が聞いてくる。俺は非常に悔しかった。舐められている。絶対に負けないという自信からそういうことができる。しかも実際実力がある。これほどまでに理不尽で、悔しい思いはしたことはない。

 

「悔しいよ。みんなが殺されていく中、俺はなにもできなかったんだ」

 

「なるほどなあ……取り合えずお前を殺してやるよ。良かったな、仲間と一緒にいられるぞ?」

 

「フフフ」

 

 男が俺に近づいてくる。怖かった。チビりそうだった。謝って命を乞うことも考えた。

 

 だけど。それはしなかった。死んだ悟空に顔向けなんてできなくなるから。アイツは、どんなにピンチでも、諦めなかった。戦う意思を必ず見せていた。だから俺も、勇気を出す。

 

「お前たちは確かに強い。けどな、いつまでもお前たちがいきられると思うなよ」

 

「ん?」

 

 どうせ死ぬなら言いたいことは言ってやろうと思ったまでだ。

 

「悟飯だってまだいる。悟空の血を継いだあいつなら、まだやってくれる。俺たちの地球を……舐めるなよ……!」

 

「へえ、その言い様だと、孫悟空は死んだのか?」

 

「ああ、死んだよ。でも、まだ終わった訳じゃない! 悟飯が必ず倒してくれる!」

 

「なんかこいつめんどくさいね。もうやっちゃおう、17号」

 

「そうだな、18号」

 

「さっさとやれよ。だけど最後まで抗ってやる!!」

 

 俺は、さっと構えた。勝てるわけがないのに。だけど、諦めるつもりはもうない。戦って負けて死ねばいい。

 

 男の方が飛びかかってくる。俺はそれを危うく躱し、がら空きになった背中を蹴りつける。女も俺にかかってくる。俺は、女の強烈なパンチをどうにか受け止め、カウンターのパンチを顔面に放った。

 

「レディの顔を殴るとはね……いい気になってんじゃないよ!!」

 

「俺だって女の顔は殴りたくねえよ……でもお前だけは別だ!」

 

「調子に乗るなっ!」

 

 女は、俺の腹を蹴飛ばして廃ビルへとぶつけた。俺の体はずるずると落ちていき、地面に伏す。しかし、当たりどころが外れていたのか、どうにか生きてる。

 

「ぐっ……」

 

 俺はよろよろと立ち上がる。そして、両手を合わせて腰まで引いた。すると、両手で作られた空間にエネルギーが生まれる。それは徐々に大きくなっていった。

 

「か~め~は~め~……」

 

 破れかぶれだ。これを撃って見せる! 俺は、フルパワーで放った。亀仙流技《かめはめ波》。

 

「波ーーーーーー!!」

 俺は一気に両手を前に突きだして、エネルギーを放つ。ビーム状に延びていき、男の方へと向かっていく。

 

ーーどうだっ!?

 

 男はそれをただ凝視するだけにとどめる。しかし、当たるその寸前、男は腕を横に降って後ろへと弾いた。渾身の技が、いとも簡単に防がれたことにショックを覚えた。

 

 けれどそれでは終わらなかった。二人は指先を俺に向けて、エネルギーを溜める。逃げなくては。そう思ったが体が動かない。

 

ーーなんで、動かないんだよっ!?

 

 俺は必死に動かない体を動かそうとした。けれど足はがくがくしていて、息は切れ切れだった。

 

 数秒後、彼らの指先からビームが放たれ、俺の頭を貫いていった。

 

ーーごめん……悟空……地球、守れねえや……。

 

 天国にいるのであろう親友の姿が最期に映る。暖かい思い出が俺を包み込んでいき、やがて、果てしない暗闇に放り出されていった。

 

 

 

***

 

 

「気が……消えていってる……!」

 

 僕ーー孫悟飯は大急ぎで空を飛んでいっている。毎年ある塾の講習の最中、突然ピッコロさんやベジータさんの気が上昇したのだ。何があったんだろうかと胸騒ぎがした。修行なのかなと思ったが、すぐに気を落としたのだ。しかも0まで。ベジータさんだけでなく、ピッコロさん、ヤムチャさん、天津飯さん、餃子さん、ヤジロベーさん、そしてクリリンさんの気があまりにも早い速度で消えたのだ。修行じゃないだろう。だとすればーー。

 

「お願い……間に合ってくれ……!」

 

 この先を想像するのが怖くなった僕はさらに速度を上げた。山を越え、森を越えていくと、見えてきたのはーー焼け野原になった南の都だった。

 

 空はいつしか灰色の雲におおわれていった。僕は、廃墟と化した都に降り立ち、歩き始める。

 

 ひどい有り様だった。人の死体がごろごろ転がっている。腕をちぎられたもの、焼けどの跡が酷いもの、白目を剥いて死んでいるもの。とても見ていられず、走り抜けていった。

 

 しかし、僕はそこでこけてしまった。足になにかが引っ掛かったのだろう。僕は起き上がり、何が引っ掛かったかを確かめる。するとーー。

 

「これって……!?」

 

 僕は驚いた。何故なら、そこにはヤジロベーさんの刀が置かれていたから。しかも、ボロボロになっている。それを僕は拾い、鞘から刀を抜こうとするが、刀は鞘の中ではなく、地面に落ちていた。半分以上がへし折れた状態で。そしてその近くにはーーヤジロベーさんの死体が、あった。

 

「や、ヤジロベーさん!!」

 

 僕は急いで駆け寄る。ヤジロベーさんの傷はひどい様だ。腹のあたりが空洞になっており、血が大量に流れていた形跡が見られる。僕は急いでヤジロベーさんの腕をとって、脈を計った。

 

「……だめだ、死んでいる……」

 

 僕は、ゆっくりと立ち上がり、ヤジロベーさんから離れた。すると、僕のよく知っている人の姿が、ヤジロベーさんの近くに散在していた。

 

 首の骨が折れて有り得ない方向へと曲がっているヤムチャさん、泡を吹いて倒れている天津飯さんと餃子さん。嫌な予感が、僕を襲う。もしかして、あの人たちも死んでいるんじゃないかと。

 

 僕は、重くなっていく足を引きずるようにして前へと進む。瓦礫の山があちこちにあり、気がだるくなる。

 

 どうにか飛び越え、ふうと一息ついたその瞬間。ベジータさんとクリリンさんが斃れていた。クリリンさんは、頭に穴が開いていて、ベジータさんは、白目を剥いている。まさかベジータさんまでもがと僕は戦慄した。今この地球にいる最強の戦士はベジータさんだ。なのに、負けた。殺された。ということは、まさかーー。

 

 僕は頭を振って推測を消す。そんなことあってたまるか。もうこれ以上、僕の大切な人を失いたくない。僕は、早足で先へと進む。答えなど、知りたくもないのに。

 

 瓦礫の山をまた飛び越え、名前を呼ぶ。僕の師匠の名前を。けれど答えはない。絶望と不安が僕の心を病ませていく。でも僕はまだ抗っていた。そんなはずはないと、もう何百回も繰り返している。

 

 どのくらい進んだだろうか。僕は、疲弊した精神に鞭を打って、歩き続ける。だが、物音が聞こえた。なにかが崩れ落ちる音だ。 僕はその方向を向く。瓦礫の山からだ。そこから緑色の手が伸びている。それを見た瞬間、僕は飛び出していた。瓦礫を取り除き、その手を引っ張りあげて地表へと出してやった。その人物を見た瞬間、僕は目が潤む。

 

「ピッコロさん!!」

 

「ご……は、ん……」

 

「しっかりしてください!! 今すぐブルマさんのところに……」

 

 ピッコロの傷は一ヶ所だけだったが、腹のあたりがめり込んでいる。

 

「ふん……も、もうおれは……なお、らん」

 

「なにいってるんですか!! しんじゃだめですよ、ピッコロさん!!」

 

 僕は泣いていた。そういえば以前にもあった。サイヤ人が地球に来たときだ。僕をかばってピッコロさんが死んだ。あのときはどうにか生き返らせられたけど、もう、無理なんだ。だからどうにかしないと……。

 

「むだだといってる、だろ……。そんなことより……おれのはなしを、きけぇ……」

 

「で、でもっ……!」

 

「いいから、きけぇぇ……!!」

 

 弱々しかったが、僕はビクついた。修行してくれたときの厳しいピッコロさんのようだったから僕は黙るしかない。

 

「い、いいか……俺たちをころしたのは……人造人間だ……」

 

「人造……人間……」

 

「見ての通り……半端じゃない強さだった。いちげきでこのざま、だぜ……?」

 

「……」

 

「のこされたのは……おまえだけだ……お前なら……やつらをたおせる……いつの日か……」

 

「むりだよ……むりですよ……」

 

 僕には無理だ。ベジータさんやピッコロさんでも歯が立たなかった敵に勝つなんて。

 

「きさまは……孫の息子だろ……なら……できるはずだ……」

 

「でも……でもっ……!!」

 

「わかったか……? おまえが……世界を救え……じゃないと、未来は、ない」

 

「……っ!」

 

 僕は、涙が出てきた。目の前に倒れている人がいるのになにもできない自分、みんなが戦っているのに、のんきに塾へといっていた自分が憎くてたまらなかった。一年前のお父さんの死の経験が活かせていない。そのせいでまた僕の大切な人が、いなくなってしまった。

 

「つらいことをいっているのは……わかる。だが、おまえにしか……できないことだ……」

 

「うぐっ……うう……」

 

「……」

 

 ピッコロさんは、僕の堅く握り締められた拳をそっと握る。はっと僕は顔をあげた。優しいピッコロさんの顔が、見える。

 

「すまなかった……こんなうんめいを背負わせたのは……俺のせいでも、あるんだ」

 

「え……どういうことですか?」

 

 どういうことだろう……ピッコロさんは僕になにしたんだろう。謝るようなこと……?

 

「お前に……戦いを教えたことだ……」

 

「戦い……?」

 

 そういえば教わった。5才の時だ。サイヤ人襲来に備えてのことだった。勉強に明け暮れていた僕を無理矢理さらって、修行させられたんだ。

 でも、それとこれは……別だ。そういいたいのに……言葉がでない。

 

「全ては、俺のせいだった……すまん……」

 

「そんなこと……言わないでくださいっ」

 

 僕の声は涙で濡れていた。ピッコロさんは手を伸ばし、僕の頬に触れる。それだけでもすごい力を使うのだろう。

 

「ごはん……おれと、いっしょに……こんなひどいおれ、と、いっしょにいて……くれて……」

 

ーーだめだよ。しんじゃ。やめてくれ……。これ以上僕から……大切な人たちを奪わないで……!

 

「ありがとう……」

 

 恩師はホロリと涙を一滴だけ垂らした。僕を強くしてくれた師匠は、それだけ言い残して、白目を剥いて力なく崩れた。

 

 

 

 僕のもう一人の大切な人は、今日、涙を流して死んだ。

 

 

 

 その事実は僕を激しく打った。すべてがボロボロになった。悲しみが胸から込み上げてくる。涙も浮かんできた。でも止めようとは思わない。骸となったピッコロさんの体に僕の涙が打たれていく。

 

 もう、生きる意味もなかった。死にたかった。僕には大切な人が近くにいればいい。お父さんとお母さん、ピッコロさん、クリリンさん、他のみんながいればそれでよかった。それのなにがいけないんだ。それだけの幸せがなぜ壊されなきゃいけないんだ。だったらいっそ、僕もアイツらに殺されたかった……。

 

 アイツらに殺された……?

 

 アイツらとは……人造人間というやつだ。そいつらが、クリリンさん、ベジータさん、ピッコロさんたちを殺したのだ。

 

 不意に僕は、怒りに襲われた。気が勝手に高まっていく。僕の仲間を奪っていった人造人間、そして、それに対して何もできなかった僕自信への怒り。それらがだんだん如実に現れていっている。

 

 ごうっと、炎に似た金のオーラが僕を包む。怒りはどんどん増していっている。

 

 

ーー許さない……人造人間……お前たちは……お前たちは……。

 

 スパークが身体中に走り始め、目は青色へと変化していった。もしかして、これがスーパーサイヤ人か。その時僕は感じた。いや、まだだ。髪の色も怒りも、足りない。

 

『父さんは怒りに任せてスーパーサイヤ人になったんだ。まあ、おめえはぶちギレたことはほとんどねえと思うからな。ま、怒りをイメージすればなれると思え。まだまだ先の話だと思うけどな』

 

 亡き父の言葉が、甦る。どうしたら自分もスーパーサイヤ人になれるのか聞いたのだ。その時はなれないだろうなと言われてしまったが、本当は僕の素質がどうとか、そういう意味じゃない。なってほしくないのかもしれなかった。僕に学者になってほしかったから、新たな強さの世界にいかせたくなかったのかもしれない。

 

 つまり、スーパーサイヤ人になったら僕は、やつらと戦わなくてはいけない。偉い学者さんになる夢を捨てなくてはいけない。

 

 でも、僕には無理だった。偉い学者さんになんかなれない。人造人間がいる限り。何よりこの怒りを抑えられない。仇をとりたい……! ピッコロさんに報いたい。じゃなければ、父さんに顔向けできない。

 

 だから僕はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴等を……倒す!!」

 

 

 頬を伝う涙は、枯れた。

 

 

 

 

 

 たった一人の金色の戦士が立ち上がった瞬間だった。

 

 

 




ほんとはピッコロさん即死ですwけど、絡みほしかったので……。あと、悟飯は恐らくこの日からスーパーサイヤ人になれていないと思うんですが、そうした方がいいかなと思いました。オリジナル要素でしたw

では、感想、お気に入り、評価、等お待ちしております。


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幼いサイヤ人との邂逅

更新遅れました。悟飯とトランクスの出会いですが……ここはあまり力をいれませんでした。あえて。

理由は、出会った当時は悟飯はただの筋肉マッチョにしか見えないから。しかもベジータがいないので、一般人と感覚は同じですしね。悟飯に違和感を覚えて当然かもしれない。

ではどうぞ!


 あの惨劇のあと、僕はひとまず家に戻った。するとそこには、母さんだけじゃなく、ブルマさんたちもいた。僕以外のみんなが殺されたと聞いた瞬間、泣き崩れ、絶望へと落とされた。

 立ち向かえる戦士は、一気に消えていってしまった。たった二人の悪魔によって。たった二人の人造人間によって。

 

 僕は、今すぐにでも戦いたかった。けれど、敵うはずもない。何故なら、僕よりも上の実力を持つベジータさんだって殺されたのだ。今からいくのは無謀だと、みんなから止められた。

 

 だから僕は修行した。一度も奴等と戦わずに。

 それに母さんのために勉強もした。僕のなりたい偉い学者さんになって名誉を得るためじゃない。父さんが死んで悲しみに暮れる母さんの望みを叶えるためだ。塾にも通っていたが、わずか1ヶ月でその塾は人造人間に破壊された。

 

 スーパーサイヤ人にも、もう慣れていった。荒ぶる気持ちは消えないが、自在にコントロールはできるようになった。これなら勝てるかもしれないとは思ってはいないが。少なくとも、お父さんを越えなくてはいけない。3、4年前にお父さんが地球に来たフリーザを倒したときのように、強くならないと。

 

 

 

 そう思いながら強くなろうと努力していくと、気づいたらあの惨劇から6年の月日がたっていた。僕の体も成長し、身長も母さんを越えた。もしかしたらお父さんだって越えているはずだ。

 

 エイジ774。僕は16才になった。そろそろもう、人造人間を倒せるはずだと自覚した年であった。

 

 

***

 

 

「あら、いらっしゃい悟飯君」

 

「こんにちは、ブルマさん!」

 

 俺ーートランクスは、眠い目を擦りながら階段を降りていた。話し声が聞こえたから起きちゃったのだ。まだ8才なんだからうるさくしないでよ母さんと心のなかで愚痴りながら、リビングのドアを開けた。

 

「あら、トランクス。ごめんね、まだ6時だわね。ごめんなさい」

 

 母さんーーブルマという名前ーーが、にこやかに俺に謝る。俺はむすっとして抗議した。

 

「うるさいから起きちゃったよ」

 

「ごめんね、けどあと30分で起こすつもりだったのよ。今日学校だもの」

 

「30分って結構重要なんだよ母さん!」

 

 母さんに真剣になって怒る俺は、ふと母さんの横にいる男の人に気づいた。穏やかな表情で俺と母さんのやり取りを見ている。

 

「ねえ母さん、この人誰?」

 

「ああ、紹介してなかったわね。この人は悟飯君、孫悟飯君よ」

 

「よろしく」

 

 男の人は軽く頭を下げた。穏やかで優しそうで接しやすそうだった。服装は、紺色の薄い道着一枚だけだ。けれどそのわりには、筋肉がすごい。開かれている胸は胸襟で膨れ上がっており、腕はくっきりと筋肉が見えている。思わず俺は、目を大きく広げてみていた。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「はは、ベジータさんの息子だとは到底思えないな」

 

 悟飯さんというひとは、僕を見てそういった。

 

「ほんとね。いい子に育ってくれて嬉しいわよ」

 

「ベジータって……悟飯さんはお父さんのことを知っているんですか?」 

 

「ああ、そうか。トランクスはベジータさんの顔を見たこともないのか」

 

「死んじゃったから……」

 

「そうか。ブルマさんまだ話してなかったんですか?」

 

 悟飯さんは母さんに聞いていた。

 

「ええ。まだ話すのは早いと思ってたし……それに、ねえ……」

 

「まあ確かにわかりますけどね」

 

 二人が何を話しているのか全くわからなかった。けれどいい気持ちではなかった。

 

「何を話していたんだよ、母さん」

 

「まだトランクスには刺激が強い話ってことよ」

 

「はあ?」

 

「あっと、トランクス! もう学校の時間よ!」

 

「うわっ!! やべっ!」

 

「早く朝御飯食べなさい! あ、悟飯君も食べる? ちょっとしかないけど」

 

「じゃあ、折角なんで」

 

 悟飯さんも一緒の朝食になった。

 うちの朝食は、トーストと目玉焼きとオレンジジュースしかない。ただそれだけあれば十分だけど。僕は一人前で限界だ。

 けれど悟飯さんは、トーストを20枚食べ、目玉焼きも10人前食べていた 。一体どこにあんなたくさんの食べ物を入れられる胃袋があるのか。これがちょっとなのかよと疑った。しかも食べ方はきたなかった。母さんは、いつものことよといって、食器を洗い始めていた。

 つくづく変な人が来たものだと僕は思いながら、僕は学校へといった。

 

 

***

 

 

「では、本日の授業はここまでとする」

 

 西の都から外れた中の都の学校で授業が終わった。俺は早速家に帰ろうと、ホイホイカプセルを出した。その中に一人乗り用飛行機が入っている。教室からでて、校庭から帰ろうと思ったその時だった。

 

『全校生徒に連絡します! 人造人間が近くに来ています! 今すぐ校舎に戻りなさい! 繰り返します! 人造人間が近くに来ています! 今すぐ校舎に戻りなさい!』

 

「えっ!? 人造人間が!?」

 

 俺は、放送を聞いて耳を疑った。人造人間といえば、いまこの世界を破壊し尽くしている悪魔と母さんから聞いている。絶対に近寄るなと言われているのだ。

 俺は指示にしたがって校舎へと急いで戻った。そして教室へと戻る。

 

「いいですか! 絶対に勝手な行動はしないように!」

 

 怯えて震えている女子や、強がっている男子に向かって先生が叫んだ。俺は素直にしたがった。戦うなんてできやしない。なんとか立ち去ってくれ……! そう願った。

 

 だけど現実は非情だった。3階から見える町並みが爆音と共に破壊されている。人々の悲鳴も轟音で掻き消され、恐怖を煽っていく。爆音はどんどん大きくなっていき、ついに二人の人造人間が校舎に入っていくのが見えた。

 

「先生! 人造人間が校舎に入ってったよ!!」

 

 俺は先生に叫んだ。先生はライフル銃を取りだし、襲撃に備えた。かっこよかったが、そういってられる余裕はなかった。

 隣のクラスで悲鳴が響く。そして、爆音。いくら小学生でも、この二つの情報があれば何があったか想像がつく。襲われたんだ。みんなが恐怖で震え、失禁してしまった。

 

 その直後。ドアから二つの影が現れた。

 

「ここ、ガキ多いな」

 

「そりゃそうだよ。学校だもん」

 

「あっはは、お漏らししてらぁ」

 

 男女二人組だ。俺は、ただ怖かった。何もできなかった。けれど先生は果敢に挑んで、銃を撃った。銃弾が男の額へと命中し、凄まじい音が響いた。やったかと思った。普通なら死ぬはず。

 そう、普通なら。

 

「どいつもこいつもわかんないのかな……俺たちに銃が効かないってことがさ」

 

 男がニタニタしながら銃を撃った先生に近づいてくる。そして、後退する先生の胸ぐらを左手でつかんで右手を先生の腹に突き出した。

 体をいとも簡単に貫かれた先生からは鮮血が噴き出している。男が腕を体から抜くと、先生は崩れ落ちて、倒れた。息はもうない。

 

「17号、一気にやっちゃおうよ。めんどくさいから」

 

「だな」

 

 女がそう言うと、男は指先に光を宿した。おそらくあれで俺たちを殺すつもりなのだろう。何もできない俺たちは教室の隅で震えるだけだった。それを楽しんでいるかのようににやにや笑いながら、死の一撃を放とうとしたその時だった。

 

 光弾が男と女の背中に命中した。爆発音を上げて、動きが止まる。目つきがきつくなり、さっと後ろを振り返った。

 

「誰だっ!?」

 

 男が鋭い声で叫ぶ。後ろにいる人は、先ほどの光弾でつくられた煙で見えない。

 

 やがて煙が薄れていく。すると、そこに人が現れた。紫色の道着を着ている。大きく開かれた胸からみて、かなりの力のある男だろう。現れた顔は厳しそうな表情をしており、襲来した二人の顔を睨みつけている。

 

「誰、お前?」

 

 女が突然現れた男に冷ややかに聞いた。

 

「僕は、孫悟飯だ」

 

 現れた男は厳しい声で告げた。その瞬間、俺は驚いた。今いる人は、今朝、母さんの近くにいた青年だ。

 

「孫……。孫悟空とは違うのか」

 

「お父さん……孫悟空は死んだよ。8年前にね」

 

 突然現れた悟飯さんは、静かな声で答える。

 

「おいおい、まじかよ。それじゃあ俺たちの目的がなくなるな」

 

「なるほどな、お前たちの目的はお父さんを殺すことだったのか。残念だな」

 

「まあいいけどな。どうせ俺たちふたりでやれば倒せない敵なんていないからさ」

 

 男は自信たっぷりに答える。悟飯さんは何も反応せず、一層表情を厳しくする。その瞬間俺は、本能的に恐怖を感じた。

 

――怒ってる……!

 

 表情が少し厳しくなっただけだ。なのに、体中ににじみ出ている怒りが見える。気のせいだろうか、髪の毛がゆらゆら揺れている気がした。

 

「で、どうするんだ? 俺たちの邪魔をしたからにはタダで済むと思うなよ」

 

「そう簡単にいくかな……?」

 

「自信満々だね」

 

 女が挑発するような目つきで悟飯さんを見る。けれど悟飯さんはまるで動じず、ますます怒りを増幅させていく。

 

「僕は……俺はずっと待っていた。お前たちを倒し、ピッコロさん、ベジータさん、クリりんさん、ヤムチャさん、天津飯さん、餃子さん、ヤジロベーさんの仇を討つ日を……。だからこの日まで修行してきた。貴様たちを――」

 

 ぎりっと歯が鳴った音がした。すげえ、怒っているんだなって感じた。俺は、後ずさることしかできなかった。

 

「殺すっ!!」

 

 小さく吐き出されたその言葉とともに、悟飯さんは飛び出した。男は、飛び出された拳をやり過ごし、カウンターのけりを入れる。それを悟飯さんは自身を消して躱した。

 

「き、消えた!?」

 

 クラスメイト全員が叫ぶ。男のけりが宙へと流れて体勢が不安定になった。そこを悟飯さんは、組んだ両手で殴りつけた。男は吹っ飛び、廊下の窓へと突っ込んだ。ガラスが割れ、男は地面へと落ちて死ぬはずだ。俺はやったと思い込む。

 

 だが、甘かった。ガラスを突き破りはしたが、ふわっと空中で”停止”した。悟飯さんの顔を覗くが、驚きはない。

 

「へえ、少しはやるじゃないか」

 

「ああ、修行してきたからな」

 

「そう。じゃ、ふたりでやろ、17号」

 

 17号と呼ばれた男は、こくっと頷く。そして二人で悟飯さんに飛び掛かった。

 

「お前たち! 早くここから出るんだ!!」

 

「わ、わかった!」

 

 ここは危険だと判断した悟飯さんは、俺たちに鋭く叫んだ。俺は急いで教室のドアから逃げて、学校から出た。

 

 今頃、凄まじい死闘を繰り広げているのだろう。殴り合う音、破壊される音、空気が揺れる音、地面にぶつかる音が、短時間で響き渡っている。けれど俺は振り返る間もなく、ひたすら逃げた。

 

 そしてカプセルをポケットから取り出して飛行機を出し、家のある西の都へと向かった。

 

 他の友達もうまく逃げてくれていることだろう。僕はエンジンを最大出力にして母さんのもとへと向かっていった。

 

 

 

***

 

 

(トランクスは逃げてくれたようだな……あとは――!)

 

 トランクスたちを逃がした僕は、人造人間と闘った。二人を一人で相手するのは辛い。けれど次第に慣れていった。やはり強くなっているんだ。そう思うと、気持ちが楽になり、相手の攻撃も見えてくる。

 

「うらっ!!」

 

 二人の攻撃が外れた瞬間を狙い、回し蹴りを繰り出す。仰け反った二人は、こちらを睨みつけるが、隙ができている。それを狙って僕は気功弾を放つ

 

「ぐわっ!」

 

「ちっ!」

 

 二人が若干吹き飛び、間ができる。今度は、僕の番だ。怒りをぶつけてやる!!

 

「はあっ!!」

 

 僕は怒りを開放した。気が膨れ上がり、オーラは金色になった。体から力が湧き上がってくる感じが好きだ。僕は、あふれんばかりの怒りとともに飛び出して、人造人間たちに向かっていった。

 

 短い黒髪の、17号という男の人造人間は、そんな僕を見て笑いを濃くした。僕のラッシュについてこれている。

 

「そういえば、18号に殺された奴もこんな髪の色してたな」

 

「言っておくが、俺はその人を超えたぞ」

 

「なるほどな。まあたしかにそうらしいが、まだまだだな」

 

「なにっ!?」

 

 僕は癪に触って、重いヘビーブローをした。それは深く刺さったのだが、さほど苦しんでいなかった。

 

「その程度の威力か? それで勝とうだなんて、甘いなおい!」

 

「がっ!!」

 

 17号は僕の顔面を殴りつけた。僕は吹っ飛び、ビルへと衝突する。そこはちょうど会社のオフィスだったようで、デスクやらなんやらにぶつかっていった。僕は高速で飛び立ち、奴へと殴りかかる。

 

 しかし、金髪のショートカットの女、18号が立ちふさがる。一瞬立ち止まってしまったのがいけなかった。18号は手から何発もののエネルギー弾を放出したのだった。僕は躱す暇もなく全段くらってしまった。

 

「があ……!」

 

 うめき声わげてらっ化していくが、奴らがそれを見逃すはずもなく、俺に殴り掛かってくる。17号と18号が僕を挟み撃ちにしてリンチにした。しかも全くシンクロした動きで。その後僕を打ち上げて、再び下へと突き落とした。

 

「うわああああっっ!!」

 

 ドゴオオオオオオン!! という轟音と共に僕は地面にたたきつけられた。もはや動く力すらなかった。7年間修行してきたのに……全く歯が立たない。無念だった。涙が出そうだった。

 

――ち、ちくしょう……! 手も足も、出ないなんて……。

 

 

「どうした? こんなもんか?」

 

「ち、ちくしょぉ……!」

 

「まあ、とりあえず消しておこうよ」

 

「そうだな」

 

 すっと17号の手がかざされる。終わりだと思った。こんなにも簡単にやられるなんて。悔しかった。

 

――敵とれなくて……ごめんなさい。ピッコロさん……。

 

 僕の意識は、頭に浮かんだ恩師の姿と共に、目映い光に包まれて消えていった。

 

 

 

***

 

 

「あら、気づいたのね、悟飯君」

 

 俺の母さんがベッドで寝ている悟飯さんに声を掛けた。悟飯さんはゆっくりと目を開けて、起き上がるがすぐに沈み混む。傷が痛むのだろう。

 

 すごい怪我だった。全身を包帯で巻かれ、血液がにじみ出ていて、終始呻き声をあげている。

 

「中の都で倒れていたから運び出したんだけど……大丈夫悟飯君?」

 

「がっ……く、くそぉ……!」

 

 悔しそうに涙を流していた。母さんはなにも言わなかった。こういうとき母さんは強いと思う。たまに避難とかするけど、その時だってなにも動揺とかせず、僕を守ってくれている。

 さっきの悟飯さんだってそうだ。駆けつけてくれて、僕たちを助けてくれた。殺されるかもしれないのに、戦っている。俺は、憧れを感じていた。

 

「何かあったらそこの電話機で呼びなさい。すぐ駆けつけるわ」

 

 母さんは俺の手を突然引いて言った。一人にさせたいのだろう。子供の俺でもわかった。けれど悟飯さんは、かすれ声を発した。

 

「待って……くだ、さい……。トランクスと、話がしたい、です」

 

「トランクスと?」

 

 俺は驚いた。あのときすぐ逃げたことを怒るんじゃないのか? そう思うと少し怖くなった。悟飯さんが逃げろと言ったとき、さっきの二人組・人造人間ーー母さんから聞いたーーと向き合ったときのあの怒りのオーラ。俺はそれを思い出してしまった。

 

「ええ……言いたいことが、ある」

 

「だ、そうよトランクス。行きなさい」

 

「う、えぇ……わかったよ……」

 

 乗る気じゃなかったけれどすべては晩御飯のためだ。母さんの機嫌が悪くなると、俺の晩御飯が半分になる。

 

 俺は、手を振る母さんを恨みたっぷりな目で見て、悟飯さんに向き合った。足は震えている。

 

「トランクス」

 

「は、はいっ!」

 

「んな畏まるなよ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「はは、まあいいか。トランクス、お前ーー」

 

 怒られると思った。ギュッと目を瞑り、怒声が響くのを待った。

 だが、悟飯の口から発せられた言葉は意外なものだった。

 

「お前、空飛べるか?」

 

「は?」

 

 なんと、そんなことを言ったのだ。しかも微笑んで。

 

「と、飛べるわけないでしょう。俺なんかが……」

 

 俺は、拍子抜けした声で言った。正直冗談いっているようにしか思えなかった。だが、悟飯さんは真剣な声音で返した。

 

「そんなわけないぞ。お前はベジータさんの息子だ。サイヤ人の王子の血を受け継いでいるんだ。それに地球人だって空を飛べるんだ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「ああ」

 

 俺には不思議だった。人が空を飛んでいるなんてあり得ない。でも、人造人間だって飛んでいた。それに悟飯さんだって。だからといって俺ができるわけはないけど。俺は、戦いたくなんかない。

 

「あ、あの……俺悟飯さんみたいに強くないから……」

 

「いや、僕は強くない」

 

「そんなっ! 人造人間とあんなにまともに渡り合えたじゃないですか?」

 

 俺は必死に悟飯さんに言うが、悟飯さんは自虐的な笑みを浮かべながら返す。

 

「そう見えただけだ。一歩的に押され、負けたよ」

 

「そんな……じゃあどうすれば、いいんですか?」

 

「強くなる、しかないな。そのためにはまずは舞空術からだ」

 

 この人は何をいっているのだ。逃げればいいんだ。そう、なぜ戦おうと考えるんだろう。戦わず、隠れてればいいじゃないか。

 

「隠れればいいじゃないですか」

 

 だが悟飯さんはすぐに返す。

 

「無駄だよ。奴等は全てを破壊する。7年間ずっと見てきたんだ」

 

「なら、他の人に任せれば……軍隊とか」

 

「軍隊なんかで勝てればここまで被害は少なくない。奴等は化け物なんだぞ」

 

 ことごとく論破された俺は、ただ唇を噛み締めるだけだった。

 

「ともかくそういうことだ。トランクス。お前が生きたかったら強くなれ」

 

 悟飯さんは俺の目を見ていった。俺は頷くことはできなかった。なにも返さない俺にむかってふっと笑い、いっそう穏やかな声で言った。

 

「じゃ、ブルマさんのもとへもどれ」

 

「わ、わかりました」

 

 俺はそそくさに出た。正直聞きたくない。俺のお父さんがベジータだと言う話は。まるで俺が宿命を背負っているようじゃないか。とりあえず今日は早く寝よう。そう思い、寝室へと向かった。

 

 のちに、俺にとってかけがえの無い師匠になるなんて思いもしなかったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー…………

 

 

「これが、俺と悟飯さんの出会いです。最初は俺は悟飯さんのことがそこまで好きじゃなかったんです」

 

 俺ーートランクスは、目の前にいるビーデル先生に話した。

 

「そう……そんなことがあったんですか……」

 

「ええ。俺はその気持ちを汲み取ることが出来なかったんです。仇をとれなかった悟飯さんの無力感も……」

 

 俺は下をうつむく。

 

「いえいえ、そのときはまだ子供ですから……」

 

「まあ、そうですけどね」

 

 俺は、苦笑いで、ビーデル先生のフォローに答える。

 

「さて、今度はそっちの番ですよ。悟飯さんは、学校ではどうだったんですか?」

 

 俺は、単刀直入に聞いた。空は相変わらず青い。ビーデル先生は、その空を見上げながら、懐かしそうに口から言葉を発する。

 

「悟飯君と初めて会ったのは……こんな空模様でした」

 

 俺は、ビーデル先生の言葉に耳を傾けた。俺の知らない悟飯さんが、今語り出された。

 

 

 

 




次回から悟飯とビーデルの話になります。章も変わりますんで。では感想お気に入りなどお待ちしております。


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少女との出会いと……
よくわからない転校生


更新相当遅れました。お詫び申し上げあげます。

復活のF見ました。パワーのアンバランスとかが気になりましたが楽しかったです。面白い。
ドラゴンボール超楽しみです。


ではどうぞ。


 

「えー、それでは転校生を紹介します。孫悟飯君です」

 

 オレンジスターハイスクールのとあるクラスにて新しい仲間が入ってきた。私、ビーデルは頬杖を付きながらその転校生を見ていた。私も一応学生なのでここで勉強している。

 転校生の性別は男だ。厳しそうな風格を持っていて、筋肉もガッチリしている。顔には傷が目立ち、武闘家なのか疑ってしまうほどだった。しかし、世界最強の格闘チャンピオンが父親である私でも、あのような武闘家は見たことがない。強い武闘家ならば天下一武道会に出場しているか、父の弟子にでもなっているはずだ。

 まあ思い違いかもしれない。私はふうと息を吐いて転校生の方を見つめる。すると、隣席の友人であるイレーザがヒソヒソと私に話しかけた。

 

「ねえあの子結構かっこよくない?」

 

 あの子とは転校生を指すのであろう。私は思わず気になって容姿を見た。確かに整った顔はしている。だが、別に恋愛に興味がある訳じゃないし、父親から婚約条件として『父より強い男としか結婚は許さない』と言われているので結婚は不可能である。父親よりも強い存在は、この世には存在しないのだから。

 そんなわけで、私には彼がかっこいいか、好みであるとかどうでもよかった。

 

「うーん、まあどっちでもいいわよ。それになんか厳しそうなオーラが漂っているしね」

 

 私がそういうと、イレーザはそれに同意した。

 

「まあね。でもなんか強そうじゃん? そりゃあビーデルやお父さんのサタンには敵わないだろうけど」

「そうね……ま、ともかくどうでもいいわ」

 

 私はそういうと机に伸びるようにして、目をうっすらと閉じた。視界にぼんやりと映る青の服装はいたってシンプルなものだった。一枚のシャツにジャケットを羽織っている。下半身は長ズボンで、靴は革靴である。ただ、どうも本人は窮屈そうな表情をしている。普段こういう格好になれていないのかもしれない。まあ、だとしても私には関係ないが。

 転校生は先生に促されて教壇に立ち、口を開いた。

 

「孫悟飯です、よろしく」

 

 自己紹介はそれだけである。しかし、皆礼儀として大小様々な拍手を返した。転校生は黙ってそれを受け止め、先生から指示された席に座った。そして、その席がーーー私のとなりだった。

 

「……」

 

 複雑だ。何で転校生がこんなところに……。

 転校生は黙って荷物を机の脇において先生の方を向く。私はじっと転校生を見ていたが、先生がではと切り出したので、慌てて前を向く。

 

「では、授業を始めます。教科書P.107を開いて……」

 

 ぱらっと紙が捲られる音が一斉に響いた。私もそれに倣い授業モードへと切り替える。しかしーーー隣の転校生だけは違った。転校生は、早速寝ていた。

 

「なっ……!?」

 

 流石にこれは驚いた。転校初日に寝てしまうとは……。しかもかなり深い眠りのようで、起きる気配はない。皆あきれた顔で彼を見る。しかし、全く起きる気配を見せない。

 

「悟飯君! 起きなさい!!」

 

 先生は声をあげて転校生を起こそうとした。しかし、起きるどころか鼾が響く始末だ。これには先生も立腹した。当然だ。嘗めているとしか思えない。先生はずんずんと地鳴りのするようなほど不機嫌な足取りで転校生のもとへと向かい、揺すり始めた。すると、う、うぅんという謎の言語を話しながら起き上がった。眠気眼で辺りを見渡し、クラス全員の注目が集まっていることを知った彼はその原因を探る。そしてそれが、怒っている先生にあったということを知った。

 

「やあ孫悟飯君。転校初日に居眠りした気分はどうだ?」

「…………や、やべ」

 

 次の瞬間、ものすごい剣幕と怒声で先生は叫んだ。その結果……彼は廊下に立たされた。

 全員の笑いを背中に受けながら転校生は出ていき、バタンとドアがしまると、先生が静粛にと皆を静めた。

 私は呆れながらドアの方を見た。今頃後悔していることだろう。だが、こればかりは転校生が悪い。授業中に寝ることはともかく、転校初日に熟睡するのだ。何という胆力の持ち主なんだろう。まあどうでもいいことだけど。

 その後の授業は寝ることもなく普通に取り組んでいた。ただ、体育の授業で8メートル跳躍を疲労した時は驚いたが。

 

 学校が終わり、家に帰ると私はすぐにトレーニングルームへと向かった。家は屋敷といっても差し支えがないほどに大きく、部屋は50ほどある。中でもトレーニングルームはかなりの広さで、最大300人が入れてしまう程だ。

 今日も何十人ものの格闘家達が己の腕を磨きにここに来ていた。全員が私の父親のミスターサタンの弟子だ。

 私が部屋に入るとみんなが一礼した。私も礼をして返し、さっそくサンドバッグに向き合ってパンチを叩き込む。サンドバッグは鈍い音を立てながら大きく後方へ揺れ動き、手応えの大きさを伝える。

 やがて振り子運動にしたがって戻って来る。タイミング良く拳を突きリズムに合わせて叩き込む。強烈な打撃を二度も喰らったサンドバッグは先程よりも遠くに吹っ飛ぶ。

 

「まだまだっ!!」

 

 ごうっと音をあげて重いサンドバッグが迫る。すっと腰を落とし、右足を引く。時間の感覚が緩やかになり、サンドバッグの動きが止まっているように見える。

 

ーーー今だっ!!

 

 左足で踏み込み、右足を思い切り振る。全力で放つ蹴りがしっかりと腹に命中し、確かな歯ごたえが体中に伝わる。

 バァン!!

 その瞬間、天井に設えたサンドバッグを固定する金具が悲鳴をあげた。それに伴い、サンドバッグは慣性の法則に従って凄まじい速度でまっすぐ壁に突き刺さった。

 他の格闘家達の唖然とした視線を一度に受け止め、息を大きく吐き出す。私は得にうれしくない。何故なら、自分の父親だってできるからだ。父を超えることを目標に修行しているのだから、それくらい出来なくては話にならない。

 私はサンドバッグを倉庫にしまってトレーニングルームを出た。タオルを被り、リビングルームにあるスポーツドリンクをコップ一杯に注いで飲む。カラカラの喉が甘い液体によって優しく刺激され、快感が生まれる。思わずプハァと大きく吐き出すように叫ぶとソファにどすんと座り込む。

 目の前のテレビに目が行き、何となしにリモコンを手にとってスイッチを入れる。するとニュース番組が流れていた。

 

「……人造人間か」

 

 現在世界中を騒がせている原因の人造人間。嗜虐的に人間を殺し、町を破壊する化け物だとは聞いている。現に今、ニュースでどこかの地域が破壊されたことが報道されている。ニュースキャスターも悲壮に満ちた表情を隠せない。

 けれど、私はそこまで怖いとか、世界は終わりだとは思っていない。何故ならーーー。

 

『人造人間は本当に怖いです……』

『ええ、ですが我々にはあの人がいます。そう、世界最強の格闘チャンピオン、ミスターサタンが』

『そうですよね!! 皆さん、サタンが倒してくれるまでどうにか耐え抜きましょう』

 

 私のパパが、近いうちに人造人間と闘うことになっているからだ。噂ではすでに果たし状まで送っているとか。いや、パパの性格からして絶対に送っている。パパは好戦的なのだ。悪い癖だ。

 

「おお、ビーデル帰っていたのか」

「ただいまパパ」

 

 突然リビングに父が来た。父は私のとなりに座ってテレビに視線を移す。

 髪型はかなり大きいアフロで、胸毛はかなり生えていて、腕はかなり太い。隣に座っていても存在感はでかい。

 父はテレビ映像ににやりと笑い、缶ビールを空ける。

 

「フム、私の奴らに対する死刑宣告の場面か。なかなか決まっていたな」

 

 パパはにやりと笑って持ち込んだ缶ビールを呷る。

 パパは相当な目立ちたがり屋だ。だからマスコミにしょっちゅう出るし、大声を張り上げて何かしらを宣言したりもする。そのたびに私は恥ずかしい思いをするのだが、父の強さは十分に分かっているので目を瞑っている。女遊びにはさすがに怒るが。そのせいでママは出て行ってしまった。

 

「そろそろ奴らを倒したいのだがな……何処にいるのかさっぱり分からん」

「そうよね……この町にきっと来るからその時を待つしかないわ」

「そうだな。明日にでもテレビ局に連絡してここに来るように言うか。市民達は安全なところへ避難させればいい話だ」

 

 正直危険だと思った。

 確かに父は強い。けれど、おびき出して果たして勝てるのか。確信が持てない。

 何しろ相手は軍隊の最強兵器ですら通さないほどの強固な体を持っている。普通なら、世界チャンピオンであるとはいえただの人間である父が勝てるわけがないと考えるだろう。

 でも、それしかすがるものがないのだ。父が妙なカリスマ性を持っているということは差し引いて、人造人間に駆逐された人類の希望が父になったのだ。

 だったら娘として、人間として、父を応援すべきだ。あまり尊敬できる人じゃないけれど。

 だから私は反対しなかった。出来なかった。

 

「うん? ビーデルどこに行く?」

 

 気付けば私はテレビから離れていた。特に何の用事も無いが、適当に自室に行くと行って去った。

 私が行き着いたのはトレーニングルームだった。人数はさっきよりも増えていた。サンドバッグを蹴る音が重なって聞こえる。私もそれを用意し、再び連続攻撃を浴びせる。パンチ、キック、エルボー、突き。様々な技が炸裂する。埃がばっと散っていき少し咳込む。けれどもう慣れた臭いだ。

 けれど何処か歯ごたえが無い。サンドバッグも思ったほど飛ばない。心の靄が全身を覆っているようで上手く体が動かせない。

 

(人造人間……嫌な予感がする……)

 

 悪寒がフッと体の奥から込み上げてきた。

 良くはわからないけれど。

 大切な何かを取られてしまいそうな、そんな気分だった。

 ちょうどその時だった。

 

 パパの、決闘宣告がラジオから流れた。

 

 気づいたときにはサンドバッグを遥か遠方に蹴り飛ばしていた。壁にめり込んだサンドバッグを他人事のように見つめていた。

 

 

 

 

 

 そしてーーー遥か彼方にはすでに脅威が迫っていた。

 

「へぇ……面白そうだな。18号少し相手してやるか?」

「地球人じゃあ楽しめそうに無いけどねぇ……ま、いいか」

 

 ニッと笑う黒い二つの陰。

 面白いおもちゃを見つけたという感覚のみで、二人は殺戮を求め、地を蹴って飛んでいった。

 

 

 

 




更新早めにします。

では感想などお待ちしております。


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決闘

サタンと17号との戦いです。
名勝負になりそうですね(錯乱)。





 次の日が来た。パパが決闘を申し込んだ日が、訪れた。

 私には何の変化もない。私はいつも通り学校に通い、悪者を蹴散らす。ただそれだけだ。

 私は自分のジェット機を使って学校まで飛んでいき、校門前に降りる。そこで私の友人達と校舎へ入り、談笑を交わしながら教室の椅子に座る。

 ふと隣に目を向けると、例の転校生がいた。どうにも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。目つきは鋭く、じっと教卓の方を睨んでいる。

 

「ねえ……なんか感じ悪くない?」

 

 右隣りのイレーザが囁く。私は同意の首肯を返す。

 そう、感じが悪い。まるで尖ったナイフのようにあらゆるものを切り付けようとする意思がかいま見える。なぜそんな目ができるだろうか。

 思慮にくれている間にチャイムが鳴り、授業が始まった。生徒は黙り、ノートを取るのに一生懸命だった。しかし、ただ一人転校生は再び熟睡していた。しかも、すごく気持ち良さそうに。

 

「悟飯君! 悟飯君っ!!」

 

 見かねた先生が声を張り上げて彼を起こす。しかし、この日は起きることはなかった。その次の授業も、移動教室の時も、彼はずっと寝ていた。

 気づけば放課後のチャイムが鳴っていた。相変わらず彼は寝ていた。教室にいた私はため息をついて彼の寝顔を見る。朝と全く変わらない、心地良さそうな寝顔。彼は知らないだろう。全ての先生に見捨てられていることを。自業自得ではあるけれど、哀れではある。

 教室には数人の生徒がいて、これからクラブに向かうものや勉強するものまで様々だった。私はクラブには所属していないので、このまま帰るのだが。

 

「……起こしてやるか」

 

 私は小さく呟いた。別に不良生徒なんて放っておいて構わないけど、もし彼がこのまま起きなければ目覚めが悪い。私は彼の肩に触れ、起こそうとした。

 

「―――!?」

 

 そこで私は息を呑んだ。肩に触れ、起こそうとした手が止まる。

 彼の肩が、異常なほどに堅いのだ。肩凝りとかそういった類いではなく、締まっているのである。石のように堅く、重さがある。それでいてさわり心地は無駄な抵抗がなくすんなりするものだ。

 以前世界チャンピオンの父の肩を揉んだことがあった。その時に触った父の肩は鍛えられていて凄く堅かった。けれど今の彼はその比じゃない。まるでこの十数年間、肩だけ鍛えて来たような、というかそうとしか考えられない肩の堅さだ。ただ、一体どうしたらこんなに屈強な肩に出来るのだろうか……?

 私は気になった。彼は何者だろうか。とりあえず止めていた手を動かし、彼を揺すった。

 

「ぅ……うん……」

 

 すると、効を奏したのか転校生は呻きながら目を開けた。突っ伏していた机から頭を離し、呆けた眼で辺りを見回した。数秒間そのままだったが、転校生はようやく私に視線を向けた。

 

「あ……君は……」

「おはよう孫悟飯君。よく眠れたかしら?」

「え……?」

 

 転校生はいまいち状況を理解していないらしい。だから私は、彼のしでかしたことをストレートに教えてあげた。

 

「あなた、今日一日中寝てたのよ」

「え……そうだったんだ」

 

 転校生は自分の机を見る。一時間目の教材がそのままになっていて、ノートには涎の後がしっかりと着いていた。転校生はそういうことかと納得し、頭を掻く。

 

「弱ったな……これじゃあ留年確実だ」

「明日からはちゃんとしなさい。じゃないと、とっちめるわよ」

 

 私は自分で言ってはっとした。なぜ私はこいつにここまで世話を焼いているのだろうかと。

 別に関わらなければいい話だ。それに男になんて興味ない。でも、何でだろうか。

 

「……今日はありがとう。じゃあ俺はこれで」

「……じゃあね、明日は真面目にやってね」

 

 転校生は荷物を持って教室から出ていく。私もそれを見送り、荷物の整理を始めた。

 

「私らしくないな……」

 

 私はふと、呟いていた。素行不良に対しては厳しく突っぱねていたのに。彼なんてまさに素行不良の鏡なのに。どうしてだろうか。

 まあ、いい。きっと今日の私はどうかしてたんだ。

 私も教室を出ようと足を向けた。

 すると腕時計型携帯電話からピピッと軽快な音が鳴った。私は普段警察の代わりに悪い奴をとっちめているため、こうして警察や軍から連絡が入ることが多い。また強盗かとため息を突きながら応答ボタンを押す。いい加減私抜きでもやってほしいものだ。

 

「ああ、ビーデルさんですか」

「どうしたの?」

 

 画面に写っているのは警察だ。やはりと思い、ため息をつく。ただ、画面に写る警官の顔は笑顔だった。事件ではないのか?

 

「実は、あなたのお父さんのミスターサタンが人造人間とこれから戦うんですよ。見に行かれたらどうですか?」

「パパが? ああ、そういえば宣戦布告したって行ってたわね。暇だし、行こうかしら」

「分かりました。まだ人造人間は現れていませんのでサタンシティの噴水前までお越しください」

 

 そういうと警官は電話を切った。私は学校を出て、サタンシティの噴水前まで向かう。

 そこにはすでにたくさんの人が集まっていた。なかにはうちの学校の生徒がいた。

 

「あ、ビーデル!」

「イレーザ! 来てたの?」

 

 私の親友のイレーザもその場にいた。イレーザは嬉しそうに頷く。

 

「シャプナーも来てるわ」

「へえ。ねえ、パパは?」

「中央の噴水の近くにいるわ。会いに行ったら?」

「そうさせてもらうわ」

 

 私は人混みの中に入り込み、どうにかパパのいる場所まで向かう。すると―――。

 

「っ!?」

 

 私は目を見開いた。あの人混みの中に、孫悟飯もいたのだ。しかも、かなり険しい表情だ。みんなお祭り気分で盛り上がっているのに、一人だけ神妙な空気を纏っている。

 話しかけようか迷ったが、とても近寄れない雰囲気だ。私は見なかったことにしてパパのところに向かう。

 

「おう、ビーデルか」

「パパ、自信は?」

 

 私を見つけたパパは、ジェスチャーで私を招き入れる。噴水の近くで両手を腰に添えて自信たっぷりに胸を反らす。

 

「愚問だなビーデル。パパが勝てない相手などいない。それは知っているだろう?」

「油断はダメよ。頑張ってね」

「分かった。下がっていろビーデル」

 

 パパはそういうと息を整える。ストレッチも念入りに行い、人造人間の到来を待った。

 そして数分後―――。

「あっ、人造人間が来たぞー!!」

 

 観客の一人が大声で叫んだ。それにつられてみんなの視線がサタンから離れる。町の入り口から歩いてくる二人組。あれは、間違いない。人造人間だ。

 男女二人組で、それぞれ17号、18号というらしい。一見私たち学生と観間違えるほどに若い。けれど心は残酷だ。

 

「ついにお出ましか……」

 

 パパはニヤリと笑う。観客もそれにつられてにやっと勝ち誇る笑みを浮かべる。

 

「お前たちもここまでだ!!」

「許さねえからな、泣いて謝っても許さねえからな!!」

「死ねよガラクタどもが!!」

 

 人造人間たちに皆が暴言を吐く。パパという後ろ盾がいるからこそだ。ただ、近くにいる孫悟飯は口を固く結ぶだけだ。

 数多い暴言を受けながら人造人間はパパの目前に立つ。ずいぶんと余裕そうだ。男の方がパパに近寄り数メートルの距離しかない。

 

「よう、人造人間ども。ここに来たからには、覚悟は出来ているだろうな?」

「なんの覚悟だよ?」

 

 男の方は挑戦的な眼差しでパパを眺める。ずいぶんと端正な顔立ちだが、やっていることは悪魔だ。

 パパはそれには直接答えず、あらかじめ噴水の近くに用意してあったバッグから何かを取り出した。瓦だ。それも合計15枚。パパの足元にそれを置き、一つ一つ丁寧に積み上げていく。

 

「……?」

 

 人造人間は不思議そうに見つめるが、この場にいる人は全員が気づいていた。これからパパのやろうとしていることに。

 パパは息をゆっくりと吸う。そして、大きく吐く。気合いは十分に入った。パパはじっと瓦を見つめる。場は静寂に包まれる。

 カッとパパの目が開き―――。

 

「てやぁぁっ―――!!!!」

 

 パパは手刀を構えて、勢いよく瓦のタワーに降り下ろす。命中した瓦は包丁で食材を切るように何の抵抗もなしに割れていき、次々に瓦が崩れていく。結果は14枚。僅かに一枚残しただけだった。

 

「ふぅ……」

 

 パパは手を擦りながら視線を人造人間に向ける。そしてにやっと笑い。

 

「貴様ら、この瓦が見えるか? ……これが貴様らの数分後の姿だ」

 

 わああああああああっっ!!

 その瞬間、野次馬が沸いた。痺れたのであろう。私ですら、すごいと思ってしまった。

 人造人間の方に視線を動かす。目を大きく見開き、言葉を発せずにいた。呆れているのか、それとも怖じけついているのか。私は後者だと思う。

 パパも随分得意げに歯を見せる。調子乗りすぎかもしれないけれど、珍しく嫌な気持ちはしない。人類の敵である人造人間が、今ここで倒されるからだ。

 決め台詞を言い終えて、パパは構える。それに対し、人造人間たちはただ笑うだけだった。

 

「どうした? 恐怖でおかしくなったのか? 無理もないだろう。この世界最強の格闘家であるミスターサタンを目の前にしているのだからな」

 

 パパの挑発に対しても耳を貸さなかった。代わりに、仲間である女のほうに話しかける。

 

「おい、少し遊んでやろうぜ?」

「好きにしなよ」

 

 その会話で、一瞬場が凍る。そして、かすかな失笑が漏れた。私ですら、少し笑ってしまう。

 

「おいおい、何が遊んでやるだよ」

「お前たちは遊ばれる側だろ?」

「サタンさん早く殺してください!!」

 

 野次馬たちが騒ぎ始める。パパはそれをなだめるように両手をあげる。

 

「遊ぶだと? とうとう頭までイカレちまったのか。残念だ、同情だけはしてやろう」

 

 パパが静かに諭すように言う。人造人間はパパをじっと見つめ、ニヤッと笑う。パパも、同じく笑う。

 

「……?」

 

 パパの目が一瞬細められる。見ると、人造人間が手をクイッと動かしている。招いているのではない。

 かかってこい、という意味だ。

 

「クックック……面白い」

 

 パパはかすれた笑いをあげる。そして、ぐっと足に力を込めるのが見えた。

 

「望み通り、叩き潰してやる―――」

 

 パパが飛び掛かろうとしたその直後。

 

「よせっ!!!!」

 

 鋭い声が飛んできた。

 私も含めて、大勢の人がそちらを振り返ると。

 そこには、例の転校生がいた。私服姿で、私のパパを厳しく睨んでいた。

 まるで、全員が冷や水を浴びせられたかのように、空気は極限にまで冷え切っていき、困惑の目線が彼に照射された。現に私も大いに困惑している。

 

「おや、孫悟飯じゃないか。生きていたなんてな」

「ああ。テレビでお前たちがここに現れるって聞いたからな」

「そうか。そりゃあうれしいな。いい暇つぶしにはなりそうだ」

 

 人造人間と、孫悟飯の会話をみんなが静かに聞いていた。しかし―――。

 

「お、おい!! 私を無視するな!! こいつらとは私が闘うんだ、だから―――」

「止めておくんだな。お前じゃ勝てない」

 

 その言葉で、再び場が凍った。そして―――。

 どっと笑いが起こった。私は笑いはしなくても、言葉が出なかった。彼は何を言っているんだ。お前じゃ勝てない? 何を根拠に?

 パパはまたもや両手をあげてなだめると、静かに孫悟飯に語り掛ける。

 

「おいおい、ジョークもほどほどにしておけよ。最近はそういうのが流行っているのか?」

「冗談じゃない。あんたと人造人間じゃ、レベルが違いすぎるって話だ。瓦を割った程度じゃ勝てるわけない。悪いことは言わないから、今のうちに逃げるんだ。じゃないと、死ぬぞ」

 

 なおも孫悟飯は主張を曲げない。それがますます失笑と怒りを買うというのに。

 

「いい加減にしろ……。さてはお前、このミスターサタンを知らないド田舎ものか? だとしたら口を慎んでくれ」

「ああ、俺はあんたのことなんて知らない。ただ、お前じゃ勝てないことは分かっている」

 

 孫悟飯は言うのをやめない。いい加減みんなも腹が立ってきた。私が何か言ってやろうと、詰め寄ろうとしたその時。

 

「いいじゃないか孫悟飯。この男にやらせてやれよ。自己責任だ」

 

 男の人造人間が孫悟飯に提案した。悟飯は相変わらずきつい視線を向け続けたが、ため息をついた。

 

「……チッ、初めて貴様らと意見が合ったな。分かったよ……ただしこれだけは約束しろ。殺すなよ」

「善処するよ」

 

 そういうと孫悟飯は口を結んで黙り込んだ。

 私は大いに腹が立った。なぜ、パパをそこまで馬鹿にするだろうか。人間的には確かに立派とは言い難いが、それでも強いところは尊敬できる。なのになんでそこまで馬鹿にするんだろう。

 気づいた時には、私は彼の胸ぐらをつかんで、野次馬が作る群れから引きずり出していた。

 

「あなた、一体どういうつもり? パパに何か恨みでも?」

「恨んでいるんだったらああいうことは言わないさ」

 

 私が低く脅すように言っても、まるでひるまない。目は真剣だが、それが余計に私の怒りを加速させる。

 

「パパは世界で最強なのよ? 死ぬはずがないし、絶対勝てるわ」

「……」

 

 孫悟飯は黙った。何も言い返すことがないのか。鼻を鳴らして、踵を返そうとしたその時。

 

「あいつは甘く考えすぎているんだよ……奴らは化け物なんだ」

 

 かすれた声が、背中に突き刺さる。おまけに歯ぎしりも聞こえる。

 私は振り返る。彼の顔は、ぎょっとするほどまでに険しかった。とても声をかけたいとは思えないほどに、ゆがんだ表情。私は逃げるようにパパのもとへと向かった。

 パパはすでに構えなおしており、ニヤッと再び決めた笑いを浮かべる。

 

「まったく……さっきのクレイジーな若造のせいで遅れてしまった。しかし問題はない。今ここで、貴様を倒してやる」

「ならこいよ。こっちは退屈なんだ」

「ふっ、それがいつまで続くか……」

 

 パパはじりっと足を引く。今度こそ飛び出す。

 

「試してやろう!!」

 

 パパは思い切り地面を蹴った。ものすごい速度で人造人間へと迫る。ストレートを決めるつもりなのだろう、まっすぐにこぶしを構え、胸板に視線を合わせている。

 

「喰らえっ!! サタンミラクルジャイアントスーパーアルティメットパーンチ!!!!」

 

 ものすごく長い技名を叫びながら、渾身のストレートを放った。手ごたえある打撃音が響く。これは決まった。確信した。ダウンは確実に取れるだろう。

 

「…………っ」

 

 人造人間は目を大きく見開き、腹をわなわなと震える手で押さえる。そして、数歩後ずさった。

 

「が、あああ……ば、馬鹿な……」

 

 涎を垂らしながら、膝まつく。空気を求めるように喘ぎながら、必死に呼吸しているのがわかる。その様子を見てパパは勝ち誇るような笑みを浮かべた。

 

「こんなものか? 手ごたえがないな……まあ、このミスターサタン様の敵ではないということだ、はーっはっはっは!!」

 

 パパの勝ち誇った笑みに人造人間は何も返せず、なおもあえぐ。このままとどめを刺せば―――。

 

 

 

 

「何ふざけているんだよ17号。演技はやめな、つまんないから」

 

 え。

 瞬間的に時間が止まる。演技? つまんない?

 はったりか? どういう意味なんだ?

 パパも目を見開いていたが、鼻を鳴らす。

 

「ふん、無理な話だ。あまりのミスターサタンの必殺技が強力すぎて、起き上がることすらできない」

 

 パパはそういうけれど。

 何か嫌な予感はした。

 

『あんたと人造人間じゃレベルが違いすぎる』

 

 ふと、孫悟飯の言葉を思い出す。彼の言葉は嘘っぱちだと思っていたが。

 まさか、それは本当のことだったの―――?

 

「全く……少しは楽しもうって気にはなれないのかな? 18号」

 

 パパの一撃を食らった人造人間は―――何事もなかったかのように立ち上がっていた。傷はおろか、疲弊した様子すらない。あまりにケロッとしすぎていて気持ち悪い。

 

「さて、ゲームの続きだ」

 

 人造人間は、舌で唇をなめながらパパに言った。

 

 




次は孫悟飯との戦いですね。
でひゃ、感想などお待ちしています。


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英雄の死

サタンさん……。


「さて、ゲームの続きだ」

 

 冷酷に、しかし無邪気に告げられた人造人間の言葉は、静かに盛り上がっていた空気を刺し殺した。だが、それでもパパは何もひるまなかった。胆力があるのか、単に目立ちたがり屋なのか。どっちかは、パパにしかわからないことだろう。

 

「ゲームだと? お前がやせ我慢していることは知っているんだぞ……?」

「へぇ……じゃあ、それを証明して見せろよ。お前おパンチが本当に効いているのか」

「なんだと?」

 

 パパは目を見開く。人造人間はつかつかと歩み寄る。

 途端に―――。

 

「奴は……殺される」

 

 隣から声が聞こえた。見ると、またも例の転校生、孫悟飯だった。険しい表情だけは変わらない。そして、目は真剣だった。

 彼のいうことはでまかせだ。パパが嫌いなだけだ。本当に馬鹿なのは彼のほうだ。

 ―――本当に?

 彼は実は何も間違っていない可能性もある。

 レベルが違いすぎるのかもしれない。

 もしかしたら本当に、パパは殺されるかもしれない。

 でも、そんなこと―――。

 

「これから俺はお前の腹にパンチする。それをよけてみろ」

 

 人造人間の突然な言葉に私の意識は現実に戻ってくる。その言葉は明らかにパパをなめているとしか思えない。そして―――私をますます不安にさせた。

 

「何をバカなことを……だが、いいだろう。そのまま反撃してもいいか?」

「やってみろよ。できるものだったらな」

 

 そういって、人造人間は腰を落とし、腕を引いた。見え見えの動きだ。これなら、躱せる。そしてパパのカウンターが決まって終わる。

 そうだ、これで終わるんだ。何を恐れている。パパはチャンスをもらったんだ。これで全部が―――終わる。

 

 けれど。

 

「がっ……はぁ…………」

 

 全ては一瞬だった。目にも見えない、一瞬のことだった。驚きのあまり、私は声すら出ない。

 

「いったい……何が……」

 

 パパは、地面に突っ伏した。

 どさっ。

 この音が、この擬態音が、あたり一面に響く。ピクリとも動かないパパの姿を、私はただ見つめる。

 

(嘘……よね? パパがやられるはずが……)

 

 私は必死に否定する。人造人間に殴られたから、倒れたわけじゃないんだ。きっと、足をつって倒れて頭を打ったとか、そういうことなんだ。

 そう信じる。そう、信じたいのに……。

 どうしようもなく涙が滲んできて。

 どうしようもなく悲しくて。

 どうしようもなく、信じられなかった。

 そして。

 どうしようもないほどに、怒りが頭を貫いた。

 

「ぁ……ぁぁあああああああああッッ!!!!」

 

 視界が真っ赤に染まる。人造人間しか見えなくなる。殺意しか、感じられなくなる。でも、それでいい。今はそれでいい。今は、こいつらを殺す、いや壊せばそれでいい。

 

「やめろっ!!」

 

 誰かが制止した。でも、止める気はない。私は迷うことなく地面を蹴った。

 

「うああああああっっ!!!!」

 

 普段の私とは思えないほどの雄叫びをあげながら奴等に迫る。奴等は相変わらず、無邪気な笑みで迎え撃つ。その笑みのせいで何人の人が死んだんだ? ふざけるな……。

 

「ふざっけんなぁっ!!!!」

 

 私は全力で顔面を殴った。完全な殺意を形にかえ、遠慮のないストレートをぶつける。手応えはある。かなり堅い体だが、ダメージは通るはず。

 けれどーーー現実は非情だった。

 

「それが本気か? まああのアフロよりかは強いけど……それでも弱いな」

「う……そ……」

 

 パパより上だということに驚いたのではない。全く効き目が無いことに驚いた。余すことのない渾身のストレートだ。なのにもかかわらず、一切のダメージを受けていない。

 悔しい……何で届かないの……。

 何で……!!

 

「っ……あぅ……」

 

 突然私は首を捕まれた。片手で軽々と持ち上げられ、徐々に締め上げられる。息は簡単に通らなくなり、苦しくなっていく。喘ぐように空気を求めるも、それは無駄な足掻きでしかなかった。

 

「このっ……このぉ……!」

 

 私は抵抗しようと、ぶら下がる足を懸命に動かして腹を蹴っている。しかし当然ながらまるで怯んでない。

 

(そんな……何で……私はミスターサタンの娘よ……)

 

「くそっ……負けないわよ……負けたく、ない……!!」

 

 私はもがいて逃れようとした。でも、動かない。命はだんだん削られる。悔しい。パパの仇に殺されるだなんて……嫌だよ……。

 涙がこぼれる。視界がにじむ。意識が……消えていく。

 

「っ!!」

 

 だけれども……私の体は何故か解放された。首を絞めていた手が離れ、空気が喉を通り始める。地面に落とされた私は咳き込み、どうにか落ち着かせた。

 一体どうしたのだろう。私はちらっと人造人間をみる。すると、私の反対方向を向いていた。そこには一体何があるのだ? 私も思わず気になって見た。

 

 孫悟飯だった。孫悟飯が右手をかざして睨み付けている。

 

「……おいおい、楽しみを邪魔するなよ」

 

 人造人間は孫悟飯に文句を言う。

 

「か弱い女の子をいたぶるのは感心しないな。それにいい加減貴様らを倒したいんで我慢できなかったのさ」

 

 か弱いと言う言葉に若干苛立ちを覚えたが、今は噛みつく余裕がなかった。

 今はなんとしても、みんなをつれて逃げなくては。私は必死に弱った体に鞭打って立ち上がり、よろよろと野次馬たちへと近づいた。

 

「ビーデル!!」

「ビーデルさん!!」

 

 皆が心配そうに声をかける。

 

「皆……とりあえず……逃げて……。奴等は危険すぎる……」

 

 私がかすれ声でどうにか伝えると、皆はそそくさに逃げ始めた。私は友人のシャプナーに担がれて逃げた。

 

「そうはさせるかよ」

 

 私の鼓膜に、人造人間の冷淡な声が響いた。気がした。まさか……殺す気なの?

 私はシャプナーにそれを伝えようとした。

 

「シャプーーー」

 

 だが、その時には目映い閃光が私の視界を奪い。

 意識を遥か彼方まで消し飛ばしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 俺は言葉がでなかった。

 逃げ惑う人々が、無惨にも人造人間たちにエネルギー波で殺された。勿論、あのミスターサタンの娘も、死んだ。

 

「……そったれ……」

「ん? 綺麗になったろ? これで思う存分この町で戦えるぜ」

「くそったれぇっ!!!!」

 

 俺は、激昂しながら気を高める。遠慮なんか要らない。こいつらには全力でぶつかって、速攻で倒す。そうすれば、未来は救われるから。

 金のオーラがやがて俺を纏い始め、髪が金色へと変色する。

 

「またそれかよ……飽きないな」

 

 人造人間が呆れているが無視する。これなしでは戦えないのは事実だ。俺は腰を落とし、地を蹴った。

 

「うあーーーっ!!!!」

 

 俺は右足で回し蹴りを放つ。人造人間はそれを容易くかわす。だがそれは予想の範疇だ。回し蹴りで流れた足を再び素早く戻した。意表を突かれたようで、後頭部にヒットする。

 

「ぐっ……!」

 

 17号はこの戦闘で初めて笑顔を崩した。ようやく本気になったか。

 俺は反撃を食らう前に下がっておく。しかしそれを許すまいと17号はエネルギー波を放った。俺は右腕を素早く払って弾く。その間にも人造人間は迫っていた。

 そこからは殴り合いになった。素早く飛んでくる拳を裁き、その隙に攻撃を加える。それを人造人間は受け止める。一進一退の戦闘だ。手応えは……ある。

 

「うらぁっ!!」

 

 俺は生まれた隙を利用して思い切り蹴りを入れた。17号は大きく吹っ飛び、ボロボロのビルに突っ込んだ。

 

「これで終わらせてやる……!!」

 

 俺は息を吸うと、指二本を額に押さえる。全身の気をすべて指先に集中させていく。すると、指先にスパークが巻き起こる。

 そう、これは俺の永遠の師匠から盗んだ大技だ。決めるなら、これで決めてやる!!

 俺は、その技を大声で叫んだ。

 

「魔貫光殺砲ーー!!!!」

 

 突き出された指先は真っ直ぐビルへと向けられ、そこから光線が発射された。凄まじい速度でビルを貫き、盛大な爆発音をたてた。この技を喰らったら間違いなく死ぬ。貫通力が桁違いだからだ。ずっと昔にお父さんとピッコロさんがサイヤ人と戦ったとき、その技でサイヤ人を殺したのだから、きっとこれで終わりだ。

 煙が舞い、ビルは完全に倒壊する。さあ、生きているか……?

 俺は目を凝らして、状況を確認する。煙もそろそろ霞始めている。

 すると、そこに人影が見えた。嫌な予感がする……。一般人か? それともーーー。

 

「そ、そんな……!?」

 

 思わず声に出ていた。足もガクガク震えている。目の前の光景が信じられない。

 

「お、俺の……ピッコロさんの魔貫光殺砲が……嘘だろ……」

 

 そう、奴は魔貫光殺砲を受け止めていたのだ。証拠に、片手を俺の方に翳していた。恐らくあれで受け止めたのだろう。

 万事休す。

 俺はそう静かに悟った。こいつらには勝てない。全力での一撃もこの様だ。全身から力が抜け、戦意すら挫かれていた。目一杯修行していたのに、通用しなかった。何でだ。何でだよ。何が、足りないんだよ……!

 ーーーもう、考える意味はない。俺はここで消されるんだ。

 まるで他人事の様に俺は感じていた。遠い世界で、無力な男が独りで戦っている。その事実を観測しているだけのように感じる。だからそこで死のうが、関係がないのだ。本当は違うのに……そう思ってしまうほどに、俺は絶望していた。

 だから……奴等が放ったエネルギー弾を躱すこと無く、俺は薄ら笑いを浮かべ続けていた。




次回で章は終わりです。そのあとどうしようか考えてます。


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進む少女と哀しむ母

更新めっちゃくちゃ送れました。ドラゴンボール超も始まって未来トランクス編が始まりました。それでモチベが上がって筆を握った次第です。
ゴクウブラックの話もやりたいなぁ。超が進む前に何とかしたいですね……。
ではでははじめます。


「っ……う……」

 

 身体中が痛い。全身が焼けるように熱い。体を動かそうにも、上手く体が動いてくれない。

 

「な、何が……どうなって……」

 

 私はどうにか動く両腕で身体を起こす。そして足も動かしてなんとか直立した。

 その後、私は目を開いた。

 

「ーーーー!?」

 

 何にもなかった。私の視界が広がっていた。さっきまでは、ビルや道路や人、車がたくさんあったと言うのに、今はただの荒廃した大地と化していた。

 つまり壊されたのだ。先程の光によって。人造人間どもが放った光で。

 

「う……そ……」

 

 私は足が震えていた。何もかもが壊されたからではない。奴等の持つ力に恐怖したのだ。街全体を一瞬にして焦土と変えてしまうほどの力なんて、人間にはない。爆弾だって相当強力なものでないと無理だというのに、彼らはやってのけたのだ。

 そんな化け物に、パパや私が勝てるはずがなかったのだ。今こうして生きていることが、奇跡ともいうのかもしれない。

 私は自分の身体をみる。皮膚は擦りきれて、服がボロボロになってしまい、下着も見えてしまっている。でも羞恥心なんてなかった。心に広がる絶望と悲しみの方がずっと大きかったからだ。

 私はあの男の言葉を思い出していた。

 

『奴等は、化け物なんだ』

 

「化け物よ……こんなの……」

 

 彼の言葉は正しかった。それを理解するのにこんなにも多くの犠牲を払ってしまったのだ。あの男の言うことを聞いていれば、パパは死なずにすんだ。私も止められたのだ。

 もう今日は帰ろう。私は痛む体に鞭を打ってこの場から離れる。

 だが、その直前、音が聞こえた。何かが落ちるような音だ。

 

「……?」

 

 私は振り返る。瓦礫と死体の山ばかりで気分が悪くなるが、それでも音の発生源を探る。

 見渡していると、近くの瓦礫の山がわずかに動きがあるのがわかった。

 

(誰かいるの……?)

 

 私は近づいて確かめようとする。が、直後に足を止めてしまった。人造人間かもしれないと思ったからだ。

 

(いや、待って。動きがかなり弱々しい。人造人間なら直ぐに起き上がってもいいはずよね……)

 

 人造人間ならがばっと起き上がり、直ぐにでも生きている私を殺すだろう。だけどすぐには出てきそうにない。

 助けよう。私は止めていた足を動かして瓦礫をどけていった。

 

「…………あ、あなた……!」

 

 瓦礫の中に見慣れた人間がいた。服はボロボロで、身体中に傷があり、血がドロドロと流れている。でもそれでもわかった。彼は、孫悟飯だと。恐らく人造人間と戦ったのだろう。でも、彼は死ななかった。彼はこうして今も生きている。パパと違ってーー。

 

「っ……ぁ……」

 

「……っ、大丈夫!? しっかりして!! いま病院につれていくわ!!」

 

 いけない。この傷では放っておいたら死んでしまう。私はポケットから携帯を取り出し、救急車を呼ぼうとする。しかし、きっと町を爆破されたせいだろう、無惨にも壊れてしまっていた。

 

「そんな……どうしよう……隣町まで遠いし……」

 

 正直自分の今の状態では隣町まで背負っていける自信はない。かといって彼を見殺しにするわけにもいかない。どうしたらいいのか、わからない。

 

「くっ……ぅ……っ……!!」

 

 私の横で倒れている悟飯が突然うめきだした。慌てて彼に向き直ると、彼は無理して右腕を動かしていた。

 

「ダメよ安静にしてなくちゃ!!」

 

 私は彼の腕を掴んで止めさせる。だが、悟飯はその瞬間ものすごい悲鳴をあげて痛みを訴えた。

 

「あっ、ごめんなさい!!」

 

「はぁ、はぁ……た、たのむ……お、おれの……」

 

 悟飯はかすれ声で何かをいう。

 

「俺の?」

 

「お、おれの……はぁ、ポケットに……ゴホッ、袋が、ある。それをとってくれ……」

 

「袋……? 分かったわ」

 

 私は彼のズボンのポケットに手を入れて指示通り袋をとる。緑色の埃が被っている小さなものだ。私は封がしてある紐をほどいて中身を見る。

 

「豆……何よこれ?」

 

 中にあるのは2つの豆粒だった。私は一粒手に取ってみる。

 

「そ、それを……俺に、食わせてくれぇ……」

 

「こ、これを?」

 

 こんな豆粒食べたところで何もならないはずだ。でも、正直反論する気にもなれず素直に彼の口の中に入れる。

 力なく彼は豆を噛み砕き、ごくりと飲み込んでいく。するとーー。

 

「くっはあ……生き返った!!」

 

「えっ……?」

 

 急に悟飯はがばっと瓦礫の中から起き上がり、埃を払い始める。

 

「あと少しで死ぬところだったな。でも奴等の攻撃を受けて死ななかったのは奇跡だぜ……」

 

「えっ、えっ……?」

 

 私は困惑する。何故悟飯はこうして元気そうに身体を動かせる? さっきまで傷だらけで今にも死にそうだったのに何故……?

 ふと私は思い出した。そういえば彼は豆を食べたんだ。もしかしてこの豆が彼を治してくれたのか?

 

「よっと」

 

 私の疑問をよそに悟飯は瓦礫から抜け出し、立ち上がった。身体中の傷はいつのまにか塞がっており、血も止まっている。もしあの豆のおかげだとしたらどんな特効薬をも凌駕する効力だ。そんなものいったいどこで手にいれたのだろうか……?

 

「ふぅ……ありがとな、仙豆食わせてくれて」

 

「えっ? あ、ああどういたしまして……」

 

 自分の思考にどっぷりはまってしまい、ビックリしてしまった。しかし本当に豆で回復したようだ。

 私は彼の見る。傷口を確認するためじゃない。

 

「あなた……人造人間と戦ったの?」

 

 私は尋ねる。悟飯は表情を険しくさせながら答えた。

 

「ああ。だが、奴等に全く歯が立たなかった」

 

「……そうなんだ。まあ、そうよね……あたしのパパだって歯が立たなかったんだから」

 

「…………」

 

 そう、私のパパですら歯が立たず、殺されてしまった。最強だったはずのパパが殺されたのだ。希望なんてもうない。パパで勝てない相手なのにどうやって勝てばいいんだ……?

 ……何弱気になってんのよ。

 私は、ミスターサタンの娘よ? そんな弱腰でどうするの? もっと修行して、もっと強くなって、それで倒すんだ……!

 

「絶対に……許さない……パパの仇は、私がーー」

 

 想いを込めて拳を握りしめる。だがーー。

 

「よせっ!! 無駄に命を捨てるだけだ!!」

 

 悟飯は厳しい表情で叫んだ。とても感情的で、怒っているようにも思えた。だけど、私には受け入れられなかった。

 

「無駄に命を捨てるだけ!? 私はミスターサタンの娘よ、父親の仇をとるためなら命なんて惜しくない!!」

 

「無茶だ!! 君じゃ何年かかっても、いや、一生かかっても奴等は倒せない!!」

 

 一生かかっても、ですって?

 この発言には流石に頭に来る。私はもう理性が無くなり、怒鳴り散らす。

 

「なんであんたが決めるのよ!! 私が女だから!? それにあんただって同じことよ!! 私よりも弱いくせにごちゃごちゃ言わないでよ!!!!」

 

 ガーガーと言い続けて、息を乱す。悟飯は怯んだ様子もない。私のいうこと、わかってないの? 

 悟飯は睨むように目を細めてこう言い放った。

 

「君は人造人間と戦った時、奴等にダメージを与えられたのか?」

 

「ッ――!?」

 

 私は図星を突かれて何も言えなくなってしまった。怒りに任せて拳を奮ったのだが、全く通じなかった。怯みもしないし、笑いさえする、そんな奴等だった。

 

「無理だっただろう? 君には、いくら頑張っても無理だ。次元そのものが違うんだ」

 

「……そういうあなたはどうなのよ? こうしてボロボロにやられているじゃない!!」

 

 私はキッとにらみ、言い返す。だが彼は目をそらさずすかさず反論する。

 

「そうだな、俺もまだまだ修行不足だ。だが、奴等を倒せるのは今のところ俺しかいないと思っている。俺がもっと強くなって、奴等を潰すんだ」

 

「あなたは奴等と戦える次元に到達しているとでもいうの?」

 

「ああ。というよりいま生きている人間のなかでは、一番近い存在だ。だが、それですら遠い」

 

 私はイライラしてきた。私が格下のような言い方は本当に腹が立つ。私は世界でナンバーツーだ。なのにどうして格闘界で名前も知られてないような奴にこうも言われなきゃいけないのか?

 

「なら、貴方の実力を証明して見せてよ。私と戦って」

 

 そうだ、何にも知らないこの男に私の強さを教えてあげればいい。自分がいかに愚かなことを言っていたか、後悔させてやる。

 だが悟飯は鼻でふんと笑ってこういった。

 

「やめておけ。もう結果は見えている」

 

「貴方の勝ちっていう結果? でもそれは……」

 

 私は疲れた足に無理矢理力を込め、地面を蹴った。

 

「やってみないと、わからないんじゃない!?」

 

 前進する身体の勢いを利用して右拳を突きだし、悟飯の顔面めがけてストレートパンチを繰り出す。だが、彼は妙な行動をとった。

 

(動かない……? まさか棒立ちになって私の攻撃の強さを確かめようっていう魂胆? それならーー望み通り全力で殴ってやるわ!!)

 

 限界まで引かれた右腕が勢いよく突き出され、拳が唸る。悟飯の顔面までもう数ミリもなく、彼の鼻っ柱をへし折るような感じで気を抜かず、彼の顔面を直撃するーー。

 だが、突然彼の姿が目の前から消えた。

 

「えっ……!?」

 

 私は振った拳を元に戻しキョロキョロと辺りを見渡す。しかし、悟飯の姿は全く見当たらなかった。さっきまで確かにそこにいたはずなのに。

 

「ど、どこなの!?」

 

「後ろだ!!」

 

 私の背中がブルッと震え、はっと後ろを振り返る。するとそこには悟飯が立っていた。

 

「い、いつの間に……?」

 

「今度はこっちからいくぞ」

 

 悟飯はそう静かに宣言すると、彼の体がふっと消えていった。

 

「消えたっ!?」

 

 どこにいったのだ? 彼は今どこに……?

 私が虚を抜かれていたその間にーー悟飯は私の目の前に移動していた。

 

「ーー!?」

 

 私は驚いて体を仰け反る。だが、その隙すら悟飯は許さなかった。

 

「せいっ!!」

 

 殴られる。そう確信した私は腕を交差して体を守る。

 だがーー痛みが走ったのは腹ではなかった。

 

「いたっ……!!」

 

 私は痛む場所を押さえる。そこは、額だった。彼の手元を見ると中指が前に突き出ていた。それで私は察した。彼は私の額にデコピンをしたのだ。

 だが、ただのデコピンじゃない。有り得ない速度で接近し、私の反応よりも早くデコピンを決めて見せた。もしこれが実践なら、きっと私は反応する間もなく全力の拳で骨が砕けていることだろう。ほとんどの人間のパンチを見切れないことはないと思っていた私が唯一無理だと思ったのだ、彼の強さは半端じゃない。

 

「……これで分かっただろう。君ではいつまでたっても、奴らを倒せない。これはもう、超えられない壁なんだ。そしてそれを超えたところで、奴らに届く可能性は限りなく低い。俺を超えない以上、話にすらならないんだ」

 

 悟飯は見下すように顎を引く。

 もうお前は何をやっても無駄だ。俺以外に戦える奴はいない。

 そう、彼の眼が言っていた。

 

「……そんなの、分からない」

 

「分からないだと?」

 

 悟飯がいぶかしげに目を細める。私はぐいっと彼に迫る。

 

「ええ、やってみなきゃわからない。貴方がどんなにすごくても、努力すればあなたを越えられることだって、あるわ!!」

 

 たしかに、彼の見せた《力》は私たちでは考えられないものだ。普通目の前で人は消えはしないし、突然現れたりはしない。それを習得できるなんて、考えたこともない。

 でも、人は努力すればなんだってできるとも思っている。きっと彼だって血のにじむ努力を重ねてこうなったんだ。だったら――天才格闘家の血を引く私に、できないなんて、ありえない。

 私は彼の目をまっすぐ見る。彼も逸らさず私を見つめる。情緒の欠片もなく、だ。

 

「……わかった。なら好きにしろ。でも、これだけは約束してくれ。――死ぬな」

 

 悟飯はそれだけ言って後ろを振り向いて去る。私も、これ以上彼と話をしたくなかったので何も言わず同じく背を向けてその場を歩み去った。

 ふと振り返って見ると、彼はいつの間にか宙に浮いていた。そして白いオーラを体に纏い、土煙を巻き上げながらジェット機をも上回るような速度で空の彼方へと消えていってしまった。

 

「……うそ」

 

 空も飛べるような相手をどう超えろというのか。人造人間は彼をすら余裕で超えるのだ、ますますお先真っ暗だ。

 

「いや、やるんだ。けがを治したら早速特訓しなきゃ!!」

 

 私は痛みをこらえながら隣町までの道を踏みしめようとした。だがーー

 

「あ、れ……?」

 

 足がうまく地面につかず、グラッと体が揺れていきそのまま地面に倒れ込んでしまう。立ち上がろうと両手をつくが、力が入らない。

 

(……なんだか眠くなって……)

 

 瞼が重く感じ、視界が閉ざされていく。意識も朦朧としはじめ、力が抜けていき……そのまますべてを手放した。

 

 

 

***

 

 

「残念なお知らせです。世界の英雄、ミスターサタンが人造人間に敗れ、この世を去ってしまいました。。もはや希望はついえました。私たちはもうおしまいなんでしょうか……」

 

 ラジオから聞こえるニュース番組のアナウンサーが悲壮極まる声でミスターサタンの死を告げている。きっと全世界の人間は絶望に打ちひしがれ、人造人間から逃げ回ることを決めているだろう。

 だが、カプセルコーポレーションの地下室で黙々とパソコンとにらみ合っているブルマは、諦めていなかった。そもそもミスターサタンの実力では人造人間に勝てないことを分かっていたというのもそうだが、ブルマにはある考えがあった。

 

(奴らは機械。ということは弱点がどこかにあるはず……)

 

 たしかに人造人間は強い。悟空を除けば最強だったベジータをあっさり葬ったほどなのだ。悟飯が必死になって人造人間と戦っているが、ブルマは内心諦めていた。悟飯は確かに強くなっているが、それでもベジータや、父親の悟空を超えたとは思えない。それに奴らは永久式エネルギーを内蔵しているので、スタミナが無尽蔵である。そのため長期戦になったら明らかに不利になる。

 だからブルマは若いころから培われている頭脳を駆使して科学的に攻めていた。

 

(でも、正直環境が悪すぎるわ……)

 

 人造人間によって破壊されたこの世の中において、研究物資が手に入りにくい。そのため研究が進まないのである。人造人間の設計図の一部を解析できたのも、つい最近なのだ。

 

(でもこのままじゃ、どんどん人が死んでいく。早くしないと……!)

 

 焦りに駆られたブルマはキーボードに指をかけて文字を打とうとする。しかし、近くにおいてあるモニターが突然点いた。

 

「母さん、今いい?」

 

「あらトランクス! 帰ってたの?」

 

 息子の顔を見てブルマはほっとする。でも緊迫した様子だ。

 

「うん、ただいま。それでさ、帰る途中で女の子が倒れていたんだけど……」

 

「なんですって!? 連れてきたの?」

 

「うん、医務室に連れて行ったんだ。ボク怪我の事よくわからないから……」

 

「待ってて、すぐ行くわ!」

 

 ブルマは席を立って医務室へと向かった。

 早歩きで医務室にたどり着くと、ベッドの側に息子のトランクスがいた。

 

「トランクス!!」

 

「あっ、母さん! こっち来て!」

 

 トランクスがブルマに駆け寄って手を引き、ベッドまで連れていかれる。するとトランクスの言う通り、ベッドで一人の女の子が横になっていた。ボロボロの服を纏い、あちこちに傷が目立つ。

 

「……凄い怪我ね。トランクス、机の上にある救急箱とって」

 

「わ、わかった!」

 

 トランクスが救急箱を取ってくるとブルマは手際よくガーゼで彼女の止血を行う。

 

「この子はたぶん高校生ね……可哀想に」

 

 ブルマは近くに置いてあるタオルを手にとって彼女の血やら土やらを拭いていく。

 これだけの傷を負う理由はただ一つ、人造人間に襲われたとしか考えられない。

 

「人造人間……なんて酷いことを……」

 

 ブルマは拳を握りしめ、怒りに震える。こんな時代になったのもすべて奴等のせいだ。許せるはずがない。

 一刻も早く奴等の弱点を突き止めて、破壊しなければならない。決意を一層固めブルマは席をたつ。

 

「トランクス、この子の看病お願いできる? 母さんちょっとやることがあるから」

 

「あっ……えーっと……その……」

 

 トランクスは目を逸らして両人差し指をツンツンとつついている。ブルマは訝しげにトランクスを見つめた。

 

「何? 何かあるの?」

 

「その、俺も修行しようかなーって」

 

「……ハァ」

 

 ブルマはため息をつく。最近トランクスは悟飯の影響で修行したがるからだ。悟飯が直向きに人造人間に立ち向かう姿を見て憧れてしまったのだろうが、母親からしたら命を落とすかもしれないことに突っ込んでほしくないのが本望だ。例え人造人間を倒せるもうひとつの可能性だとしても。

 

「じゃあせめて私が帰ってきたからにしてちょうだい。この子を一人にするのは流石にだめだからね」

 

「はーい」

 

 トランクスの返事が聞こえるとブルマは医務室を出た。修行なんてさせたくないが本人が望んでいる以上止められない。自分の若い頃にそっくりだからだ。どんなに無茶だとしても諦めず突っ走ってしまう。そんな自分の遺伝子を濃く受け継いでいるのだろう。

 ブルマが研究室の前のドアに立つとドアの目の前のモニターが反応した。パスコードを入力しようと手を伸ばすが、突如ポケットにある通信機がブルブルと震える。ブルマは手にとって応対する。

 

「はい、もしもし」

 

「ブルマ様、お客様が来ております」

 

「お客? 誰かしら?」

 

「チチと名乗っております」

 

「チチさん!? 懐かしい名前ね。通してちょうだい」

 

「畏まりました」

 

 懐かしい名前に思わず大声をあげてしまったが、ブルマはすごく嬉しい気持ちになった。ここのところ友人が誰一人として遊びに来れなかったからだ。人造人間から逃げるために。

 ブルマは玄関まで向かい、ドアを開ける。

 

「こんにちはチチさん!」

 

 ブルマの声を聞いて一人の女性が駆け出した。中華風の服を纏い、お団子を作った髪形をしている。間違いない、彼女は今は亡き孫悟空の妻、チチだ。

 

「あ、ブルマさん……久しぶりだべ」

 

 訛ったしゃべり方は変わっておらず懐かしさを感じる。でも、声に覇気がなく表情も窶れている。それに少し悲しみも覚えてしまう。

 

「とりあえず中に入って。お茶を出すわ」

 

「ありがとだべ」

 

 チチを客間に通し、お茶を淹れた。チチは会釈をして少しだけ啜るように飲む。

 

「それで……最近はどうなの?」

 

 ブルマは穏やかな口調で切り出す。チチは微笑しながら答えた。

 

「どうもこうもねえだ。毎日パオズ山に籠っておっ父と暮らしてるだけだ」

 

「そうよね……外に出られないもんね……」

 

「んだ……みんな、いなくなっちまうしな……」

 

 チチの言葉で空気が重くなる。すでに沢山の仲間がこの世を去っていて、今も人造人間に怯え続けている。

 どう言葉を続けていいかわからずしばらく沈黙が続く。チチはずっとうつむいていた。ブルマはそれを見てとても悼まれない気持ちになる。最愛の夫を失い、息子は人造人間と戦うために離れていく。今チチは独りなのだ。心に深い傷を負っていても無理はない。

 

「なぁ、ブルマさん」

 

「何かしら?」

 

「悟飯ちゃんは元気か……?」

 

「元気よ。人造人間と戦うために今頑張ってるけど」

 

「……学校にはちゃんと、行けてるだか?」

 

「ええ。チチさんのいう通り、学校には行っているわ」

 

「そっか……それはよかっただ」

 

 このご時世に学校のことを案じるとは、まだ教育ママらしい部分が残っているようだ。ブルマなんてトランクスの学業のことを考えてやる暇もない。というか暇な時間に自分が教えてしまっている。

 でもチチの顔色は曇っている。悟飯はもう戦うために親元を離れていってしまったのだから。今の悟飯はチチの住んでいるパオズ山ではなくブルマの家のカプセルコーポレーションを拠点としている。その事実が余計声をかけづらくさせてしまう。息子を奪っているのと同じような感じだからだ。

 再び沈黙が場を支配して時間が流れていく。その流れを打ち破るすべを考えていると、ポーンと音が響く。客間の前に設置したインターホンだろう。

 

「誰かしら?」

 

 ブルマは手に通信機を握り、応対する。するとーー

 

「あっ、ブルマさん。今お客さん来ているんですか?」

 

 悟飯だった。悟飯の声が聞こえたのだった。ブルマは一瞬肩を跳ねさせ、チラリとチチを見る。

 

(ダメね……気づいてる)

 

 チチの表情は明らかに驚きに満ちていた。悟飯の声を聞いたのだ。まるで長い間探し求めていたものが突然目の前に現れたときのような反応だ。

 ブルマは一瞬迷った。この二人を会わせるべきか否か。

 でも、このチチさんの顔を見たら会わせないなんてできない。だからブルマはちょっと待っててと悟飯に小さくいってスイッチを切った。

 

「悟飯ちゃんが……悟飯ちゃんがいるんだか……?」

 

「そうよチチさん。悟飯君を通しましょうか?」

 

「お、お願ぇだ!! 会わせてくれねぇか!?」

 

「いいわよ。じゃあ私は席を外すからね。親子水入らずでね」

 

 ブルマは多少の不安を抱きながら部屋を出る。勝手に出ていった息子と母親、どうなるのか本当に怖い。

 

「あ、ブルマさん。どうしたんですか?」

 

 悟飯はボロボロの服装でドアの前にいた。きっと人造人間と戦ってきたのだろうが、傷がないので恐らく仙図を食べたにちがいない。

 

「お客さんが悟飯君に会いたいそうよ」

 

「え、俺にですか? 誰なんです?」

 

「それは、会ってからのお楽しみよ」

 

 ブルマはそれだけいってその場を去った。そして、そのとなりのモニター室へと行ったのだった。

 

(大丈夫かしら、あの二人……)

 

 ブルマは心配しながらもテキパキ操作をしてモニターのスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チチと悟飯、ビーデルと悟飯。二人の関係をかければと思います。チチのところなんかは特に書きたい。


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