《天竜》の伝説 (PAPA)
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プロローグ

はじめましての方ははじめまして。
PAPAです。
なろうから引っ越すと決めてから約二年ぐらい。
お待たせしました。


「よお、目が覚めたかの」

 

目の前に白髪の爺がいた

 

「うわぁ!」

 

ボカッ!

 

「ぶふぅ!」

 

思わず殴ってしまった。

 

「いきなり何をするんじゃ!」

 

「いや、いきなり目の前に見知らぬ爺が現れたらなぐるでしょ」

 

「爺とは失礼な。わしは神じゃ!」

 

神?

 

「嘘つき爺」

 

「だからわしは嘘つきでも爺でもない!神と言うておるじゃろうが!」

 

え〜

 

「証拠は?」

 

「証拠?そうじゃな。おぬし、名前は言えるかの?」

 

「名前?んなの当たり前じゃん。俺の名前は——」

 

あれ?

 

えーと、何だっけ?

 

思い出せない…

 

「ほっほっほ。思い出せないか。そら、そうじゃの。おぬしは死んだのだから」

 

死んだ…?

 

「どうじゃ。これで信じたかの?」

 

「む…分かったよ。信じるよ。それより俺はどうして死んだんだ?」

 

「わしのせい」

 

は?

 

「いやーのう。天界には生者帳というものがあっての。それぞれの生物のことが書いてあるのじゃ。その内のおぬしの事が書いてあるページを誤って鼻水を拭くチリ紙として使ってもうたのじゃ」

 

「………」

 

「それでおぬしのページが狂っての。そのせいでおぬしは死んでしまったのじゃ」

 

「つまり俺の死はあんたの不注意だと…」

 

「すまんのう」

 

「ふざけんな!!」

 

神の胸ぐらを掴み、振る。

 

「待て待て!話を最後まで聞くのじゃ」

 

チッと舌打ちしながら神を離す。

 

「ふぅ。だからお詫びとしておぬしを別の世界へ転生させてやろうではないか」

 

テンプレキターーー!!

 

「転生先はもう決めておる。ワンピースの世界じゃ」

 

おお!やった!!

これなら確実にチート能力がもらえる!

じゃないとあんな死亡フラグ満載な世界生きていける訳がない。

さあて、どんな能力で無双しようかなー

 

「先に言うておくが、チートな能力はやらんぞ」

 

は?

 

なんだって?

 

じゃあなんだ。つまりあんな死亡フラグ満載の世界をただの人間のまま生きろっていうのか?

 

絶望した。

 

「俺に死ねと?」

 

「じゃが心配は無用じゃ。

あちらの世界で闘いなんかせず安全に暮らせるよう取り計らうからの」

 

はあ?

 

ワンピースの世界に闘わず安全に暮らせる場所なんてあるのか?

 

「ではゆくぞ」

 

「え゛」

 

おい、ちょっと待っ——

 

俺の立っているところに穴が開く。

 

「良き人生をのー」

 

落ちる俺。

 

うにゃああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————うん?

 

俺、どうなったんだっけ?

 

確か神に穴に落とされて、それから———

 

とにかく目を開けてみよう。

 

「おお、目を開けたぞ!サマルドリア!」

 

目の前には三十代ぐらいの男の顔。

 

「本当ですか!ゾディアック!」

 

パタパタと音が近づいてきたかと思うと、二十代ぐらいの女の顔が目の前に現れた。

 

「うーむ、可愛いのう。テラマキアは」

 

「ほら、ゾディアック。目元なんかあなたそっくりよ」

 

「ほう!そうかのう」

 

微笑ましい会話が続けられる。

 

俺の名前はテラマキアと言うらしい。

 

それと今、俺は赤ん坊らしい。

 

後、会話から察するにこの二人の男女が俺の両親なんだろう。

 

 

ここまではいい。

 

問題は彼らの容姿だ。

 

(マジかよ…)

 

その容姿は原作ではまごうことなき悪として描かれいた

 

 

 

 

 

 

天竜人だった———

 




原作の展開で出てきた設定にできるだけ対応したいので、書いた後も変えれる部分はちまちま変えていくつもりです。
ご了承ください。


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第一説:天竜人

「いやはや、時が流れるのは早いな…」

 

天竜人として産まれてからあっという間に4年の歳月が流れた。

 

そしてやっぱり天竜人は漫画と変わらず胸糞悪い奴ばかりだった。

 

2歳の時に屋敷から両親と初めて外に出たが、愕然とした。

 

普通に人や魚人に鎖をつけて、ペットみたいに連れて歩いているのだ。

 

それどころか殴る蹴るの暴行も加えて、最後には殺していた天竜人すらいた。

(漫画で見るより酷いじゃねえか…!)

 

あまりにも残酷過ぎて、吐いてしまったこともあった。

 

(いくら安全に暮らせるからと言ってもこれは耐えられないぞ!)

 

神の奴め…覚えてろよ!

 

 

 

そして今、俺は4歳だ。

一応原作知識は頂上戦争まである。しかし、

 

「今はいったい、いつなんだ?」

 

今の年代がいつなのか全く分からなかった。

 

世間はどうなってるんだ?

原作、もうはじまってるのか?

 

俺はまだマリージョアから出たことはなかった。

 

理由は簡単。

ゾディアック父様が出ることを許可してくれなかったからだ。

 

どうやら俺を下々民、つまり人間に近づかせたくなかったかららしい。

 

天竜人の価値観って本当に腐ってるよな。

 

でも父様はまだマシだった。

まあマシといっても他の天竜人と比べてだけど。

 

父様も奴隷を持ってはいるが殺したりすることはなかった。

役に立たなくなると解雇するだけ。他の天竜人なら役に立たない=殺すだからな。

 

ある意味殺人狂じゃね。天竜人。

 

だが、俺は母様を見て天竜人の価値観が変わったんだな。

 

驚くべきことに母様は一般の天竜人とは全くの逆だった。

 

奴隷は一切持たないし、

前に父様から奴隷をもらっていたが、わざと逃がしたりしていた。

 

他にも、他の天竜人が下々民と同じ空気を吸うのが嫌だからといってつけているシャボンや防護服を身につけている姿を一切見たこともなかった。

 

そのせいで他の天竜人から変わり者扱いされているのだ。

かの父様もどうやら母様に感化されてあんなふうにマシになったらしい。

 

前になぜそんなことしているのかそれとなく聞いてみたことがあった。

 

そしたら母様は話してくれた。

 

「そうね…罪滅ぼしかしら。母さんはね、小さいころに人さらいに誘拐されて人間(ヒューマン)オークションに売られそうになったのよ」

 

「もうだめかと思った時、とっても強い人間が人さらいを蹴散らして助けてくれたの」

 

「私は彼に聞いたわ「どうして助けたの。私はあなたたちが憎んでいる天竜人よ」って。そしたら彼は「誰かを助けるのにそんなのは関係ない」と言ったの」

 

「私には衝撃的だったわ。今まで人間は憎悪しか向けられたことがなかったから。ましてや助けてくれるなんて思いもしなかったわ」

 

「私は彼を屋敷に招いてお礼するために、両親に紹介したわ」

 

「事情を知った両親はいきなり銃で彼の頭を撃ち抜いたの。

 

「下々民の分際で娘に触れるとは何事だって」ね。助けてくれたことを棚にあげて」

 

「私はショックを受けたわ。助けてくれた彼が殺されたこともだけど、それよりもその彼を殺したのが自分と同じ天竜人だってことに。吐き気すら催したわ」

 

「その時に初めて分かったの。目の前で大切な人が殺される人間の気持ちが。そして誓ったの。そんな天竜人にはならないってね」

 

そんなことが…

 

「あら、少し熱がはいりすぎてしまったわね。テラマキアは少し難しかったかしら」

 

大丈夫だ、母様。

ちゃんと理解してる。

 

「そう。でもねテラマキア、これだけは覚えておいて。たとえどんな人から助けてもらったとしてもその恩を忘れないで。そして必ずその恩をかえしなさい」

 

その言葉を重く受けとめる。

 

浅はかだったよ、俺は。

今までは天竜人が悪だと認識していた。

でも母様みたいな天竜人もいる。

全てが悪ではないんだ。

海賊みたいに。

 

俺はその日に天竜人に対する認識を改めた。

 

他にも天竜人についていくつか分かったことがあった。

 

まず漫画の天竜人は語尾に「〜え」や「〜アマス」とつけたりするが、実際にやっているのは一部の天竜人だけだったりする。

 

これは意外だったな。

漫画で見ていた時、全員が語尾に「〜え」とかつけると思ってたんだが。

 

まあ現に俺の父様と母様はつけてないからな。

 

それと全ての天竜人はどでかい屋敷を持っている。

いずれの屋敷も絢爛豪華だ。

 

金の無駄遣いだろ。

 

広すぎるから今でもたまに迷ってしまうことがある。

 

あ、そうそう。

原作でシャボンディ諸島に出てきた天竜人のロズワードは家のご近所さんだ。

 

とはいうもののまだまだ若いが。当たり前にまだ子供のチャルロスとシャルリアはいない。

二十代だろうか。

 

ん、待てよ。

原作に出たとき、正確な年齢は分からないけど見た目からして恐らく四十代だったはずだ。

 

つまり今は原作より最低でも20年以上は前ということになる。

 

やったぜ!

思わぬところから情報ゲットだ!

状況を整理するためにモノローグしたのが功を奏したな!

 

「何を喜んでおるのじゃ?テラマキア」

 

「あっ父様」

 

俺は現実に引き戻される。

 

「いえ、他愛のないことですよ」

 

「ほう、そうかの」

 

あぶねー。

危うく変なこと口走りそうだったぜ。

 

「それはそうとの、テラマキア。お前に伝えたいことがあるのじゃ」

 

伝えたいこと?

 

「何ですか?」

 

「外に、出てみるかの?」

 

「本当ですか!」

 

「本当じゃ。お前もそろそろオークションに行くのも悪くないと思っての」

 

げっ人間オークションかよ…

 

まあいいや。外に出れるなら何でもいい。

 

「行きます!」

 

「うむ、では支度をせよ」

 

よーし!待ってろよ、シャボンディ諸島!



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第二説:シャボンディ諸島

やってきましたシャボンディ諸島!

 

いやー、圧巻だな。

シャボン玉にヤルキマン・マングローブ、スゲー!

 

「どうじゃ、初めての外は?」

 

「すごいです!父様!」

 

「はっはっは!それはよかった」

 

シャボンディ諸島には俺と父様、巨人族の奴隷と何人かの守護兵を連れて来ている。

母様は防護服を着ないので父様がついてくることを禁止した。

故に今ここにはいない。

そもそも母様は人間オークションに行くのは嫌がっていたしね。

 

まあ、それはいいんだが、マリージョアをでる時に着せられたこの防護服は窮屈だな。蒸し暑いし。

よくこんな服着るな、天竜人は。

 

それともう一つ。

 

「それはそうと、テラマキア。巨人の乗り心地はどうじゃ?」

 

「は、はい。いいです」

 

そう、俺は奴隷の巨人に乗っているのだ。

一応罪悪感はあるのだが、恐ろしいことにそれをあまり感じなくなっている。

やっぱり4年も天竜人をやってると少しは影響されてしまうのだろうか。

 

俺もあんな天竜人みたいに…

 

いやいや、そんなことはない!

 

頭を振ってそんな考えを払う。

 

「どうかしたかの?テラマキア」

 

「いえ、なんでもありません」

 

今は初めてシャボンディ諸島に来れたんだし、変なことを考えるのはやめよう。

 

それにしても、本当に天竜人って恐れられているんだな。

 

さっきから道行く人全てが膝をついて俯いている。

 

背徳的だが何かこう、優越感を感じてしまうな。

 

はっ!やばい。今また天竜人的な思考になってた。

油断ならないな、本当に。

 

「ん、あれはロズワードかの」

 

父様の視線の先には何か争っているロズワードと人間の女性と子供がいた。

 

「貴様、下々民の分際で!!何様え!」

 

「お許しください…!」

 

「ビエエェェン!ママぁ!」

 

「うるさいえ!死ね!」

 

ジャキンッと子供に銃を向けるロズワード。

 

おいおい、ちょっと待て!

 

「待ってください!ロズワードさん!」

 

慌てて、巨人族の奴隷から飛び降り、ロズワードと子供の間に割って入る。

 

「むっ!テラマキア、貴様下々民の味方をするつもりかえ!」

 

「あ、いやその…」

 

やべぇ…

反射的に飛び出してしまったから何も言い訳考えてねぇ。

 

「テラマキアは誰かが死ぬところを見るのは嫌っておるからの。のう、テラマキア」

 

「あっ、はい父様」

 

ナイス助け船!父様。

 

「これはゾディアック!そうであったかえ。確かに下々民の血を見せるのは教育に悪いしな」

 

ロズワードは銃を下げてくれた。

 

子供の前で奴隷使ってる奴が教育に悪いとかよく言うよ。

 

「それでどうしたかの?ロズワード」

 

父様がロズワードに声をかける。

 

「そうだ。聞いてくれえ。この人間の子供が私の通り道にボールを転がしたのえ!」

 

えー……。

 

本当にむちゃくちゃだな。

どれだけ心狭いんだよ。

 

「ロズワードさん。下々民に構う価値すらないんだから、捨て置きましょうよ」

 

俺はロズワードの気をなんとかそらそうとする。。

 

「むう、しかしこの人間は私の通り道に…」

 

「もういいじゃろ、ロズワード。テラマキアの言うことはもっともじゃ。それにもうすぐオークションも始まってしまうしの」

 

「…ゾディアックがいうなら仕方ないえ。ふんっ、人間。私につまらないことに時間を使わせるなえ!」

 

女性を一回蹴りあげてからロズワードは自分の奴隷に乗った。

 

「ほらっゾディアック。早く行くえ」

 

「分かっておる。ほら、テラマキアも」

 

「はい、父様」

 

俺も急いで巨人族の奴隷に飛び乗った。

 

ふう、よかった。

せっかくの初めての外なのに血を見るなんてごめんだしな。

 

 

 

人間オークション前──

 

とうとうきたか。

人間オークション。

出来れば遊園地とかの方がよかったけど、ここに興味が無いかと言われれば嘘になる。

 

「これはこれは、ゾディアック聖にロズワード聖、そしてテラマキア聖。ようこそお越しくださいました」

 

係員の一人が挨拶をしてくる。

 

てか、テラマキア聖って。

何回か言われたことはあるが、こそばゆいもんだな。

 

「会場内では膝つきなどの作法は無礼講願います」

 

「うむ、分かっておる」

 

じゃないと、競りにならないもんな。

 

「ありがとうございます。それではVIP席の方へご案内いたします」

 

「早くするえ」

 

「はっ」

 

俺たちは奴隷から降り、席へと案内された。

 

「今回は何か入っておるかの?」

 

「はい、それはもうすごいのがはいってますよ」

 

すごいの?

 

「人魚か?」

 

「それはお楽しみです」

 

勿体ぶるなよな。

何だろう?

全然分からん。

 

「それでは皆さま長らくお待たせ致しました!!」

 

舞台の中央に司会が現れる。

 

「まもなく───」

 

「毎月恒例一番GR(グローブ)」

 

「人間(ヒューマン)オークションを開催致したいと思います!!」

 

オークションが始まった───

 

 

 

 

うーん、思ったより退屈だな。

出てくる奴隷もイマイチパッとしないし。

原作みたいに冥王レイリーに会えるかなと思ったけど、よく考えたら今は最低でも原作の20年以上は前なんだからレイリーがいる可能性は限りなく低いんだ。

早く終わんないかな。

 

「さあ、皆さま。

次が最後にして今回の目玉です!」

 

ん、いよいよ最後か。

どうせ目玉も大したことないんだろ。

 

「海軍本部中将、〝錬金〟のガイアです!!!」

 

ほらやっぱり大したことない海軍本部中将…

 

 

 

ってええええーーー!!?

海軍本部中将!?

 

ザワザワザワ───!!

 

会場がどよめく。

 

「そう、あの名高い〝錬金〟です!彼は悪魔の実〝自然系〟ツチツチの実の能力者で、その実力も折り紙付き!残念ながら安全のために海楼石の手錠をつけておりますので能力をお見せすることはできません」

 

いやいや、海軍本部中将ってあんた。

名前は原作では聞いたことないけど、中将だから覇気も使える上に、ロギアの能力者なんだからメチャクチャ強いはずだろ!?

 

でも人間オークションに出されるってことは誰かに負けたってことだよな…

 

いったい誰に負けたんだ?

 

「さあ、まずは特別価「4億で買うえーー!!」

 

ロズワード聖が叫んだ。

 

マジか…

 

会場があまりの言い値にシーンとする。

 

これで決まりか…

 

俺がそう思ったとき、

 

「10億じゃ!!10億ベリーで買う!!」

 

父様が叫んだ。

 

おいおいマジですか?

父様。

 

「何するえ!ゾディアック!」

 

「悪いのう、ロズワード。わしは今回の目玉商品をテラマキアにプレゼントすると決めておったのじゃ」

 

え゛!

 

あれを俺の奴隷にするつもりですか父様!

 

「ほ、他に誰かいませんか!!」

 

誰からも声は上がることはない。

 

「それでは、海軍本部中将ガイアはゾディアック聖が落札ーー!!」

 

「ほれ、テラマキア。初めて外に出た祝いじゃ」

 

「う、うれしいです」

 

うーん、まあ使い道は考えたし、海軍本部中将だ。聞きたいこともある。

 

 

初めての外出でとんでもないもん、得ちまったな俺。



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第三説:〝元〟海軍本部中将

人間(ヒューマン)オークションで海軍本部中将の〝錬金〟のガイアを買って家に帰ってきた後、父様が母様に「なに、テラマキアに奴隷与えてるの!」としばかれていた。

その後、母様にその人を逃がしてあげなさいと言われて手錠と首輪の鍵を渡され母様は父様を引っ張って部屋から出ていった。故に今は2人きりにである。

ていうか母様、父様に馬乗りになってビンタしてたぞ。怖えぇ。

で、母様には逃がせと言われたけど俺はこいつに聞きたい事とかしてほしい事があるからそう簡単には逃がすことはできない。

しかし、

 

「何かしゃべれ」

 

「……」

 

「…しゃべってくれ」

 

「………」

 

「お願い、しゃべって」

 

「…………」

 

なーんにもしゃべってくれない。

 

これ以上ない気まずい雰囲気。

 

父様母様、心が折れそうです。

 

はあ。

仕方がない。

俺は母様から与えられた鍵でガイアの海楼石の手錠を外した。

 

「!───」

 

「さあ、手錠は外したから話してくれ」

 

「…君はどうしてこんなことをする?」

 

おっ!

やっと口聞いてくれた。

 

「どうしてって、話してくれないからだよ」

 

「私はロギアだぞ?首輪を外して今すぐ逃げるかもしれないんだぞ?」

 

あっ。

そうか。ロギアには爆弾首輪は通用しないんだ。

 

「でもあんたは逃げずにここにいるじゃないか」

 

「…不思議な天竜人だな、君は」

 

「…そうか?」

 

確かに他の天竜人に比べたらずいぶん違うだろうが。

 

「とにかく話を聞いてくれるか?」

 

「…分かった。聞こう。君は他の天竜人とは違うようだからね」

 

よかった。

聞いてくれるみたいだ。

 

「よし、あんたには聞きたい事としてもらいたい事、二つある。まずは聞きたい事だ」

 

「なんだい?」

 

「ゴール・D・ロジャーはどうなった?」

 

やっぱり年代を確かめるならこの事だろう。

これで22年以上前か後かが分かる。

大海賊時代かそうでないかが。

 

「? どうなったって、別にどうもしないが」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

よし、これで原作より22年以上前だってことが確定した。

大海賊時代はまだ始まっていない。

 

「何でそんなことを聞くんだ?」

 

「いや、別にたいしたことじゃない」

 

さて、次こそが本題だ。

受け入れてくれるかどうか…

 

「じゃあ次だ。あんたにしてもらいたいこと。それは…」

 

俺は一旦息を吸い込む。

 

そして言った。

 

「俺を、鍛えてくれ!!」

 

「……は?」

 

ガイアは唖然としている。

 

「今、なんて?」

 

「いや、だから俺を鍛えてくれ!」

 

確かに唐突だけど。

 

「…ダメか?」

 

「ダメというわけではないが…何故なんだ?君は天竜人だろ。なら強くなる必要なんてないはずだ」

 

「それは…」

 

やっぱりある程度は強い方がこの世界では動きやすいし、損はないと思う。

 

俺は膝をついた。

 

「頼む、お願いだ!!」

 

そして、土下座した。

 

「お、おい!顔上げるんだ!」

 

「鍛えてくれたら必ず逃がすから!」

 

「わ、分かった。分かったから!鍛えてやるから土下座はやめてくれ!」

 

「本当か!?」

 

思わず顔を上げる。

 

「あ、ああ、本当だ。君は天竜人なのにどうして奴隷なんかに頭を下げたり…」

 

「え、人にものを頼むのに頭を下げるのは当たり前だろ。ましてや鍛えてもらうんだから土下座ぐらいしないと」

 

「…君は本当に不思議だな」

 

天竜人としてはおかしいだろうな。

だが生憎俺は転生者だからな。

その辺の礼儀はちゃんとするんだ。

 

「とにかく鍛えてくれるだな?」

 

「ああ、鍛えてあげるよ。テラマキア聖」

 

「そんな堅苦しい呼び方はやめてくれ。テラでいい」

 

「えっ、でも私は君の奴隷で…」

 

「これからあんた、えっとガイアさん、は俺の師匠なんだから」

 

「……仰せのままに、テラ」

 

「よし!」

 

やったぜ!

何せ海軍本部中将だからな。

絶対強くなれるはずだ。

 

「ん、そう言えばまだ聞きたいことがあったんだ」

 

「なんだい?」

 

「ガイアさん。なんで人間オークションなんかにいたんだ?」

 

「!!……」

 

俺がそう聞くと、ガイアは黙ってしまった。

 

「話したくないんだったらいいんだ、別に…」

 

「……負けたんだ。私は」

 

俺が話を切り上げようとした時、ガイアは話しだしてくれた。

 

「負けたっていったい誰に?」

 

何しろ海軍本部中将だ。

一筋縄では倒せない相手なんだから倒した奴もそれなりに名のある奴なんだろう。

 

「わからない…」

 

分からない?

 

「どういうことだ?」

 

「…私は無名の海賊に負けたんだ」

 

おいおい、嘘だろ…!

 

「奴には私の攻撃がまったく通用しなかったんだ」

 

何かの能力者だったんだろうか?

 

「そして私は突然ものすごい衝撃を受け、気を失ったんだ…」

 

一撃でやられたのか…

海軍本部中将を一撃ってどんだけ強いんだよ!

 

「そして気づいたらいつの間にか人間オークションにいたというわけさ」

 

「そうか…」

 

「テラマキア、彼は逃がしてあげましたか?」

 

ガチャッと扉が開いて母様が部屋に入ってきた。

 

「か、母様!?」

 

「あら、まだ逃がしていないの。早く逃がしてあげなさい」

 

「あ、あの?」

 

ガイアは戸惑っている。

まあ、当たり前か。目の前で天竜人が自分に逃げてと言ってるんだからな。

 

それよりも母様には鍛えてもらうことは話しておこうかな。

 

先にばらしておいたほうが動きやすいし、母様ならきっと分かってくれるはずだ。

 

「ねえ、母様」

 

「ん、何ですか。テラマキア」

 

「私は強くなりたいんです」

 

「?」

 

「だから彼に鍛えてもらうことにしました」

 

「!! 何言ってるの!テラマキア!やめなさい!そんなの危ないじゃないの!」

 

「母様!どうか分かってください!」

 

「ダメです!」

 

「お願いします!母様!」

 

俺は頭を下げる。

 

「………」

 

沈黙。

 

「…それがあなたの意志なのね、テラマキア」

 

「…はい」

 

「そう。ならあなたの自由にしなさい」

 

「母様!ありがとうございます!!」

 

「子が本気で何かをしたいというんだもの。それを止める親がどこにいるのよ。」

 

母様はガイアの方に向き直る。

 

「ガイアさん、でしたわね。テラマキアをよろしくお願いします」

 

「は、はい…」

 

気の抜けた返事をするガイア。

 

「テラマキア。ゾディアックには私から言っておくから安心しなさい」

 

「何から何まで本当にありがとうございます、母様」

 

「じゃあやるからにはうんと強くなってね」

 

そう言って母様は部屋から出ていった。

 

「君の家族もすごく不思議だな」

 

「そういう天竜人もいるってことさ」

 

こうして俺は家族公認で〝元〟海軍本部中将に修行をつけてもらえることになった。



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第四説:修行

シャボンディ諸島からちょっと離れた小島。

 

「ほら!遅いぞ!」

 

「くっ、ガイアが早いんだよ!」

 

俺とガイアは戦っていた。

勿論俺は防護服やシャボンはつけていない。

 

「嵐脚!!」

 

神速の蹴りで斬撃を放つ。

 

「甘い!」

 

が、避けられる。

そして裏拳を叩きこまれる。

 

「鉄塊!」

 

俺は鉄塊でガードする。

 

「指銃〝黄連〟!!」

 

指銃の連打でガイアを狙うが、ガイアはするすると避けて俺の腕を掴んだ。

 

「ふんっ!」

 

地面に叩きつけられる。

 

「いってえ…!」

 

「まだまだだな」

 

ガイアは俺を見下ろしながら言った。

 

「くそっ!紙重と月歩以外は使いこなせるようになったのに」

 

鍛えてくれとガイアに頼んで二年の月日が経った。

 

驚いたことにガイアは六式の使い手でもあった。

 

すぐに教えてもらえると思ったけどその考えは甘かった。

 

最初は走り込みや腕立て1000回、腹筋1000回など体力作りばかりさせられた。

 

あれはキツかったなあ。

 

───────

 

「なあ、早く教えてくれよ。六式を」

 

「だめだ」

 

「何でだよ!?」

 

「体力のない素人の一般人じゃ覚えることさえできないからな」

 

「そんなあ…」

 

「だからまずは体力作りだ。この島の外周をぐるっと5周、それから腕立て、腹筋を1000回ずつ3セットだ」

 

え?

今なんかあほみたいな数が聞こえたぞ?

 

「ごめん、ガイアさん。もう一回言って?」

 

「島の外周を5周と腕立て、腹筋を1000回ずつを3セットだが」

 

「……あんたは俺を死なせたいのか?」

 

「がんばれ」

 

「笑ってんじゃねーよ!!」

 

ちくしょー!いつか絶対泣かせてやる!

 

俺は涙目になりながらそう誓った。

 

───────

 

ああ、今となってはいい思い出だなあ。

 

そんな感じで今では気軽に呼び合う仲である。

 

「しかし四式しか使えないとはいえ、たった二年でここまで成長するとは驚きだな」

 

「そうか?」

 

「ああ、テラ。お前も十分、超人の域にいるぞ」

 

「こちとら師匠が超人を越えた化け物だから全然実感できないけどな」

 

実際マジでガイアは化け物だと思う。

 

二年間ガイアに修行をつけてもらったけど、今まで一度たりとも能力を使わせることはできなかった。

 

ガイアが持つ悪魔の実の能力。

ツチツチの実。

以前一度だけ見せてもらったことがある。

それは本当に恐ろしいものだった。

 

だって地割れ起こせるんだぜ!!

その時その地割れで山ひとつ沈めちまったんだからな。

全然笑えねーよ。

 

「しまったな。〝大地の怒り〟(ガイア・ヴァジュラ)なんか使わずもっと軽めの技使えばよかった」

 

本人はその時そんなことを呟いていたりした。

ロギアって本当に恐ろしいな。

 

「お前ももう6歳か。6歳でこの強さの奴はなかなかいないから誇っていいぞ」

 

なかなかいないって、いるにはいるのかよ。

 

「修行場所を確保してくれたテラの親父さんには感謝しないとな」

 

そうそう。

この俺たちが修行に使っているこの小島は父様が見つけて連れてきてくれた島なのだ。

今もこの島にくる時は父様がくれた小型船で来ている。

父様も俺が修行をするのを応援してくれた。

 

「がんばるのじゃぞ。テラマキア」

 

何故か顔が腫れ上がっていたが。

尻に敷かれてるなあ、父様。

そういえば何で父様と母様は結婚したんだろ?

言ってみれば母様は天竜人では異端者だ。

そんな母様を何で父様は選んだんだろう?

今度なれ初めでも聞いてみようかな。

 

「なにボーッとしてるんだ。続きするぞ」

 

「ん、ああ」

 

俺は立ち上がり再び構える。

 

「さあいつでも来い」

 

「うおおっ!!」

 

修行は続く。

 

─────────

 

─────

 

──

 

島から帰る途中の小型船の船内。

 

「いてて…」

 

俺は顔を腫らしていた。

顔だけじゃない。

身体中打ち身や擦り傷だらけである。

 

「あんたは手加減て言葉知らないのかよ。俺一応まだ6歳の子どもだぞ」

 

俺をそんなことにした張本人、ガイアに抗議の声を上げる。

 

「弟子だからな」

 

「…あんた絶対地獄に落ちるよ」

 

俺はにやついた顔で言うガイアにそう言い放ってやった。

 

ひどい奴だ。

だって攻撃に武装色の覇気を纏わせてくるだぜ。

痛いのなんのって。

それにこっちの攻撃は見聞色の覇気で全部見切られてカウンターをことごとく食らってしまう。

 

こっちは覇気なんてこれっぽっちも使えないのに。

 

これを大人げないと言わずなんと言う。

 

ガイア曰く、覇気を体感していたほうが覇気を会得しやすいらしいが正直言うと全然わからない。

 

というかガイアがただ単に俺を虐めたいだけな気がする。

 

「なあ、ガイア」

 

「何だ、テラ」

 

「俺には才能がないのかな?」

 

「何言ってるんだ。お前は6歳でこの強さだぞ。もう既に並みの海兵じゃ辿り着けない領域まできてるぞ」

 

「でも俺は六式すら満足に扱えないし、まだ全然覇気も使えないだぞ」

 

「………」

 

ガイアは少し黙って、それから俺の顔に手を持ってきてそして、

 

「バカかお前は」

 

「いてっ」

 

デコピンをかました。

 

「あのな、テラ。お前は焦りすぎだ。」

 

「え?」

 

「いくら才能があるといってもお前はまだ6歳だ。まだまだこれからが成長期だ」

 

「………」

 

「だから焦らずゆっくりと強くなればいい。時間はたっぷりあるんだ」

 

「ああ…」

 

そうか。

俺は無意識に焦っていたんだな。

俺が無意識に焦っていた理由。

やっぱりそれは恐らくあの事件が起こると知っているからだろう。

 

聖地マリージョア襲撃事件。

 

後にタイヨウの海賊団を結成するフィッシャー・タイガーによって引き起こされる事件。

 

あの事件で少なからず天竜人も死んでいる。

もしかしたら原作では父様と母様も死んでしまったのかもしれない。

でもそんなことはさせない。

俺が強くなって父様と母様を守るんだ。

いくら天竜人だといっても俺にとっては大事な父様と母様だからな。

 

俺は改めて強くなる決心をした。

 

「まあ、テラはいつまでたっても私を越えることはできないがな」

 

………ついでにガイアをいつか泣かすことも改めて誓った。



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第一外伝説:思い出と願い

「父様、母様行ってきまーす」

 

「これ、テラマキア!島に行くまでぐらい防護服を着けていかんか!」

 

「ふふっ、ガイアさん。今日もテラマキアをよろしくね」

 

「分かりました。ほら、行くぞテラ」

 

「分かってるって!ちぇっ、分かりましたよ父様。着ますよ防護服!」

 

「うむ、分かればいいんじゃ!」

 

ぶつぶつ言いながらテラマキアは防護服を着て、行ってしまった。

 

「ああ、しかし奴隷にあんな気軽に口をきいて…。」

 

わしは頭を抱える。

 

「他の天竜人にバレたりしたらただじゃすまんぞ…」

 

「あら、その時はあなたが守ってあげればいいじゃない。あの時、私を守ってくれたみたいに」

 

「あの時か…。簡単に言わんでおくれ。あの時もギリギリだったのじゃから」

 

「ふふっ、懐かしいわね」

 

妻が顔を緩ませる。

 

「ああ、そうじゃの」

 

わしは懐かしき大切な思い出へと意識を飛ばす。

 

───────

 

そのころの私は飽きていた。

この世の全てに。

私は早くに両親を亡くし家督を継いでいたために同世代の天竜人には羨ましがれていた。

 

周りの天竜人はやれ下々民は汚いだの自分達は至高の種族だの同じことしか言わない奴ばかりだった。

でもそれらは皆例外無く私の持っている権力や屈強な奴隷をみて羨む視線を向けてきた。

 

世界に力でなびかないものはないと信じていた。

 

そんな時である。

彼女と出会ったのは。

 

ある日私は奴隷である巨人族を連れて歩いていたとき、道端でちょっとした人だかりができていた。

 

「この異端者め!」

 

「下々民に侵された下賎!」

 

「天竜人の風上にもおけぬえ!!」

 

いったい何なんだ?

 

そう思い人だかりに近づいてみる。

 

その中心には見るも無惨な姿の天竜人の女性だった。

 

「………」

 

その女性は周りの天竜人に暴力を振られて傷だらけである。

しかし、

 

「ほう…」

 

顔は美しい女性だった。

 

「おい、何してる」

 

「!! これはゾディアック殿。」

 

天竜人の一人が媚びへつらうように頭を下げる。

 

「今、この異端者を粛清していたところなのです」

 

「異端者?」

 

「はい。この者は防護服を着ないどころかあまつさえ下々民に施しを行ったりしたのです」

 

「天竜人の面汚しだえ!」

 

「ふむ…」

 

私は女性のほうに向き直る。

 

「おい、お前助けてやろうか」

 

「……!」

 

「な、何を言うのです!ゾディアック殿!」

 

「少し黙っていろ」

 

「なっ!」

 

この天竜人の女性は素材がいい。

恩を売ってそれで脅せば、言うことを聞くだろう。

 

最近飽き飽きしていたからな。

これで遊んで暇を潰すか。

 

「さあ、どうなんだ?」

 

結果は分かっている。

今まで力でなびかないものはなかったのだから。

 

権力に屈さない奴はいないのだ。

 

心の中でそんな世の中を嘲笑った。

 

「……お断りしますわ」

 

────なに?

 

「何…だと?」

 

「私はあなたみたいな心が腐っている人には死んでも助けられたくありません」

 

信じられなかった。

 

今起こっている現実が。

 

ありえないと思った。

 

今目の前で喋っている女性が何か別の生き物に見えた。

 

今まで権力をちらつかせればどんなものも従い、手にいれることができた。

ましてや逆らう奴などこれまで一人だっていなかった。

 

しかしこの女性は逆らったのだ!

 

逆らえばこの後にどんな酷いことが待ち受けているか容易に想像できるはず。

 

にも関わらず彼女は私に逆らった。

臆面もなく。

屈することもなく。

私に従わないとはっきり言ってのけたのだ!

 

「貴様!ゾディアック殿に向かってなんて口を!」

 

天竜人の一人が女性を蹴りあげる。

 

「殺すな」

 

「え?」

 

「殺さない程度に痛めつけろ」

 

「は、はい!」

 

「そして明日またこの場所に連れてこい」

 

「分かりました!」

 

私はその場を去りながら考えた。

 

何なんだ、あいつは?

全然考えていることが分からない。

まさか飽きてしまったこの世界にそんな奴がいるとはな…

私はいつの間にか彼女に興味を持っていた。

 

 

 

翌日。

再び昨日のあの場所に向かう。

やはりそこには昨日と同じように天竜人の女性と女性に暴力を振るう天竜人がいた。

女性の姿は昨日よりも酷くなっている。

 

「おい」

 

「! これはゾディアック殿。約束通りこの異端者を連れてきましたぞ」

 

「うむ、それで」

 

女性を見る。

 

「今一度聞く。助けてやろうか?」

 

「また…!?」

 

天竜人たちがざわつく。

 

「いりません」

 

女性はキッパリと断った。

 

これだけ痛めつけられてまだ屈しないのか。

普通の天竜人では考えられない。

何を彼女がそこまでさせているんだ?

私はそれが気になってある決心をした。

 

「お前、私の屋敷に来い」

 

「なっ!」

 

「…!!」

 

皆酷く驚いている。

 

「何故です!何故こんな者をゾディアック殿の屋敷に!」

 

「勘違いするな。私はこの手で私の慈悲を二回も払い除けたこの異端者をいたぶるために屋敷に来させるだけだ。おい」

 

「ッ!きゃあ!!」

 

私は顎で巨人族の奴隷に指図し、女性を捕まえさせた。

 

「くっ、離して!」

 

「そのまま屋敷に連れていくぞ」

 

巨人族の奴隷にそう命令し私は屋敷へと向かった。

 

 

 

 

私の屋敷。

 

女性には手錠を後ろ手につけさせ椅子に座らせていた。

 

「さて、お前に聞きたいことがある」

 

「…いたぶるんじゃなかったんですか?」

 

「あれは嘘だ。本当はお前に聞きたいことがあった」

 

「聞きたいこと?」

 

「何故お前は下々民などに施しをした。異端者と呼ばれるのは目に見えていただろう」

 

「………」

 

「答えないのか」

 

「…何故」

 

「!」

 

「あなたこそ何故そんなことを聞くの?私はあなたの提案を二回も拒否したのよ?」

 

「………」

 

「あなたにとってそれは屈辱だったはず。なのに何故?」

 

「そうだな…。確かに屈辱的だった」

 

私はそこで息を整えた。

 

「だがそれ以上に嬉しかったのだよ。私の退屈な予想を裏切ってくれたからな」

 

女性は黙って聞いている。

 

「私は世界に飽きていた。今まで私の力になびかない者はなかったからな」

 

「だがお前が現れた。私の力を初めて拒絶したお前が」

 

「私が飽きた世界にまだお前みたいな奴がいるとは知らなかった」

 

「だから私は知りたいのだ。何故お前がそのようになったかを」

 

「………」

 

「さあ、お前の質問には答えたぞ。次は私の質問に答えろ」

 

「…分かったわ。確かにあなたが答えて私が答えないのは卑怯だものね」

 

そして彼女は話してくれた。

 

幼い頃ひとさらいに誘拐されたこと。

 

その時人間に助けられたこと。

 

そしてその人間は自分の親に殺されたこと。

 

それでそんな天竜人にならないことを誓ったことを。

 

「だから私は醜い奴には屈することはしないの。あなたみたいな力を振り回す醜い人には」

 

「醜い?私が?」

 

「そうよ。あなたみたいに力でしか自分を示せない人を醜いと言わず何と言うのよ」

 

力でしか自分を示せない…

 

「…クククク」

 

「?」

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

「え、ええ!?」

 

そうか。

そういうことか!

だから私は世界に飽きてしまったんだな。

 

私は力でしか世界を見ていなかったんだ。

それはそうだ。

世界を一つの概念でしか見ていなかったら飽きてもしまう。

しかし世界は一つの概念で出来ている訳ではない。

彼女に心があるように。

 

他の概念からみればある概念なんかは容易く打ち破れたりもする。

彼女が心で俺の力に抗ったように。

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

たまらなく可笑しかった。

 

なんて私はバカだったんだろう。

世界がつまらないんじゃない。

私がつまらなかったんだ。

 

「ハハハ…ハァ…ハァ…」

 

ようやく笑い終えて息を荒くする。

 

「ちょっと、大丈夫?頭狂っちゃった?」

 

「いや、狂ってなどいない。むしろ今までが狂っていたな」

 

女性を見る。

 

「お前、名は?」

 

「…サマルドリアだけど」

 

「サマルドリア、感謝する。私に新たな世界を教えてくれて」

 

「は、はあ…」

 

私はサマルドリアにした手錠の鍵を開ける。

 

「おっと、私の名はゾディアックだ。暇だったらいつでも私の屋敷に来るがいい。歓迎するぞ。お前は気に入ったからな」

 

「えっ、でも…」

 

「遠慮なんかしなくていいぞ」

 

「そういうことじゃなくて…」

 

 

急に口ごもる。

 

「私、異端者だしもう屋敷からも追い出されちゃったから…」

 

「勘当されたのか」

 

「………」

 

黙ってしまうサマルドリア。

 

まあ、当たり前か。

普通の天竜人なら自分の家からそんな異端者がでたら悪評が広がる前に縁を切ることを選ぶだろう。

ふむ、なら都合がいい。

 

「行くところがないなら家に住むか?」

 

「えっ!」

 

驚いた顔をする。

 

「いけません!異端者である私に関わったら、ましてや匿うみたいなことをするなんて。あなたも間違いなく異端者扱いされるわよ」

 

「バレなければどうってことはない。都合のいいことに私の両親は既に亡くなって家督は私が継いでいる。召し使いや奴隷には口止めすればいい」

 

「でも…」

 

「これもお前は拒絶するのか?」

 

「…私はあなたに醜いとか腐っているとか酷いことを言ったのよ」

 

「実際そうだったからな。気にしてはいない」

 

彼女は顔を俯ける。

 

「…あなた、急に変わりすぎでしょ。醜いどころかカッコよくなってるじゃないの」

 

そして上げた顔の目には涙がたまっている。

 

「ありがとう…!」

 

そして溢れだした。

 

 

 

 

そしてその日から彼女との生活が始まった。

 

彼女は不思議だった。

 

誰とでも分け隔てなく接するのだ。

それが召し使いや奴隷であっても関係無く。

だから彼女はすぐに屋敷の人気者になった。

代わりに何故か本来の屋敷の主人である私が蔑ろにされている。

前にサマルドリアが誤って皿を割ってしまった時、奴隷や召し使いたちが私たちが割りましたと庇っていた。それを振り切ってサマルドリアを罰すると彼らからジトーッとした視線を送られた。

彼女はありえないくらいに屋敷の皆から慕われていた。

そしてその中で彼女はとても幸せそうだった。

 

これは天竜人から見たら決して許してはならない

光景だろう。

だが私は彼女が羨ましく思えた。

私にはいくら権力を使ってもあの光景を手に入れることはできない。

人の心は力では手に入れられない。

私は改めて昔の力で何でも手に入れられると思っていた自分を愚かだったと思い知った。

そしていつか自分もあんな風に彼女みたいに人から慕われてみたいと願った。

 

そんな感じで私は彼女に惹かれていった。

 

 

 

 

 

私は異端者だった。

そんな私を受け入れてくれた天竜人がいた。

彼も元々は周りの腐った彼らと同じだったけど、私の言葉から何かを得たのか人が変わったように私に親切してくれた。

彼は私が異端者だということを躊躇わず受け入れてくれた。

あまりに嬉しくて家を追い出されてからは二度と泣かない誓ったのに思わず泣いてしまった。

そして今私は幸せだ。

今までのどんな時よりも。

彼、ゾディアックのおかげで。

 

突然、頭にとてつもない衝撃を受ける!!

 

な、なに…?

 

薄れゆく意識の中、見えるのは数人の男の姿だった。

 

 

 

 

 

私が道を歩いているといつかサマルドリアに暴力を振っていた天竜人の一人が声をかけてきた。

 

「いい知らせですよ。ゾディアック殿」

 

「いい知らせ?」

 

私は正直さっさとあしらって屋敷に帰り、サマルドリアに会いたいと思っていた。

 

しかし、天竜人から発せられた言葉に私のその思いは消し飛んだ。

 

「ゾディアック殿に失礼な口をきいたあの異端者が捕まり、明後日処刑されるそうですよ」

 

───なんだって?

 

「しかもその異端者をその両親が直々に処刑するらしいです」

 

頭が真っ白になる。

 

「何でも家から出た害悪は身内で処理するとか」

 

サマルドリアが死ぬ──

 

「いや、これでようやく───」

 

私は最後まで聞かず走り出した。

 

…認めない。

認めてなるものか!

彼女と過ごした日々が脳裏をよぎる。

失うわけにはいかない!

あの日々を。

私の世界を変えてくれた彼女を。

何より私は彼女が、彼女のことが────

 

私は走る。

彼女を救うために。

 

 

 

 

 

私は牢の中にいた。

殴られて少し前まで気絶していたが。

どうやら私は処刑されるらしい。

覚悟はしていた。

何しろ異端者なのだからありえないことはない。

悔いはない。

私はやりたいことをやったのだ。

それで死ねるのなら本望だ。

 

そう思っていたら急にあのゾディアックの屋敷での日々が心に浮かんできた。

 

召し使いたち。

 

奴隷の人たち。

 

…そしてゾディアック。

 

皆の顔が次々と浮かんでは消える。

 

嫌だ…

 

楽しかったあの日々。

 

怖い…!

 

もう二度と戻れないあの日々。

 

死にたくない…!!

 

死の恐怖がこみあげてくる。

 

助けて…誰か…

 

ゾディアック…!!

 

「サマルドリア!」

 

牢の扉が開く。

 

「迎えにきたぞ」

 

その姿は幼い頃に助けてくれた人間の彼にダブって見えた。

 

 

 

 

 

「どうして…」

 

牢にいた彼女が発した第一声。

 

「どうして…私を助けるの?私は異端者よ?」

 

私はその問いにこう答えた。

 

「お前を助けるのに、そんなのは関係無い」

 

「!!!」

 

彼女は驚いた表情をし、それから顔をクシャッとして、

 

「うわあぁぁああぁー!!」

 

大きな声を上げて泣き出し、私に抱きついてきた。

 

私は突然のことで一瞬怯んだが、彼女を抱きしめてその背中を優しく撫でた。

 

一層強くなる泣き声を私は聞いていた。

 

 

 

屋敷に戻ったら召し使いたちがサマルドリアを心配して近寄ってきた。

 

彼女は召し使いたちを落ち着かせていたが途中であることに気づいた。

 

「ねえ、奴隷の皆は?」

 

それを聞いた召し使いたちは顔を俯けた。

 

「…?」

 

「奴隷たちは…」

 

「お前と引き換えに連れていかれた」

 

「何よそれ…」

 

サマルドリアは私に食って掛かる。

 

「そんなの聞いてないわよ!!」

 

「お前を救うにはそれしかなかったんだ…」

 

「何で私一人を救うために皆が犠牲に…!」

 

「彼らも望んだことだ」

 

「でも!」

 

「…私たちはお前を助けた。それはお前にとって間違ったことなのか?」

 

「………」

 

彼女は少しの間、黙る。

 

「……そんなこと」

 

「そんなこと言えるわけないじゃない…!」

 

彼女は肩を震わせて言った。

 

私はそんな彼女を優しく抱きしめた。

 

「彼らはお前が幸せになることを願っていた」

 

「だから言うよ。私の気持ちを」

 

「え…?」

 

「サマルドリア」

 

「私はお前が好きだ」

 

「!!」

 

「だから私と一生いてほしい」

 

ありったけの思いを込めて言った。

 

「…あなたばかでしょ。全然そんな雰囲気じゃないのに」

 

顔を上げて私を見つめる。

 

「私は異端者だよ。それでもいいの?」

 

「よくなかったら助けてないさ」

 

「ふふっ、そうね」

 

彼女は軽く微笑む。

 

「私も好きよ」

 

「そうか」

 

彼女を強く抱きしめる。

 

「よかった…」

 

召し使いたちの拍手が聞こえる。

 

こうして私たちは結ばれた──

 

 

 

───────

 

 

 

「本当に懐かしいのう」

 

「あれからもう16年も経つのよね」

 

「そうじゃのう」

 

本当に長かった。

彼女に対する排斥を無くすために今まで色々な根回しをした。汚いこともした。

 

そのかいがあってか今は昔に比べるとずいぶんマシになっている。

 

「あなたには苦労をかけっぱなしね。テラマキアのことも…」

 

そう、6年前にはテラマキアのこともあった。

サマルドリアと私の子。

異端者の子どもと知れたらあの子にどんな危害が及ぶか分からない。

 

事実、人間とともに歩むという異端の思想を抱えていたドンキホーテ家は、その思想をもってマリージョアから出ていき、その結果、破滅した。

その破滅の原因が人間による私刑だというのだから救われない。

ドンキホーテ家の思想も私たちの考えも、この世界にとって異端でしかない。

天竜人はもちろん、人間たちにもそう簡単に受け入れられるわけがない。

表に出すわけにはいかない。

 

だから私はあの子のために、サマルドリアのためにしたことよりも、たくさん汚いことをした。

越えてはならない一線も越えてしまった。

世間にもバレないようにわざと極悪な天竜人の振りもしている。

そのために口癖も変えたりした。

そして今はまだバレないで済んでいる。

 

「だけどそのせいであなたがあの子に疎ましく思われるなんて…」

 

まだテラマキアにはそのことを言っていない。

だからあの子から見たらわしは悪い奴に見えているだろう。

 

「いいんじゃよ」

 

彼女の肩に手を置く。

 

「全てはあの子を守るためじゃ」

 

「親は子のためならどこまでも汚くなれるもんじゃ」

 

「その代わりお前はいつまでも綺麗であってくれ。あの子のために」

 

わしは笑う。

 

「汚れきった悪役は一人で十分じゃからの」

 

もしかしたらいつかはバレてしまうかもしれない。

それでもやっぱりその時は───

 

「何とかして助けちゃうんでしょ?」

 

わしの心を見透かしたようにサマルドリアが言う。

 

「あなたは昔からそういう人だから」

 

そうだな。

確かに助けるだろう。

何としてでも。

 

でもやはりできればそんなことにはなってほしくない。

 

願わくはあの子がこの先幸せでいられますように────

 

わしはそう思った。

 



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第五説:初めての戦闘(という独壇場)

いつものように小島で鍛練をして帰りの船の中。

 

「ううっ…」

 

いつにもましてボコボコな俺。

 

「まだまだ弱いな」

 

それを見て笑うガイア。

 

いつもと変わらない平和?な日常。

 

「なあ、ガイア。せめて覇気は無しにしてくれ。攻撃読まれちゃ勝てないぞ」

 

「ダメだ。これもお前のためだからな。お前も早く覇気を覚えたいだろう?」

 

「確かにそうだけど…」

 

「なら我慢しろ。それに実際、見聞色の覇気なんて上位者同士の戦いになるとあまり役に立たない。考えを読んでいる暇なんてないからな」

 

「本当の理由は?」

 

「私がお前をボコボコにしてスッキリしたいか……、ゲフン、ゲフン!何でもない」

 

「おいこら、ちょっと待てガイア。てめー今本音漏れただろ」

 

ボコボコにしてスッキリしたいからって聞こえたぞ。

 

「空耳だ」

 

「シラをきるな」

 

黙りこくるガイア。

 

「〝錬金〟ダイヤモンド」

 

「あっ!」

 

「〝大地の揺りかご〟(ガイア・エッグ)ダイヤモンドVer(バージョン)」

 

ガイアがダイヤモンド製の丸い壁に包まれた。

 

「ちょっ、こら!ガイア!能力使って逃げるなー!」

 

「………」

 

とっても平和な日常だった。

 

 

 

 

 

 

まあ、そんなこんなで船はシャボンディ諸島に着いた。

 

「ほら、早く防護服着ろ。テラ」

 

今の今までダイヤモンド製の丸い壁に隠れていたガイアが能力を解除して船から降りる。

 

「ガイアお前、後で覚えとけよ…」

 

「覚えておいてもいいが、お前は私に勝てないだろう?」

 

「うぐっ…」

 

こんちくしょー!

言い返せないのがまた悔しい。

 

「諦めろ、テラ」

 

……泣かす。

いつか絶対泣かす。

 

俺は防護服を着ながらいつものようにそう思った。

 

「ふむ、にしてもいつにもまして傷が多いな」

 

確かにさっきからジンジン痛みますが。

 

「特に顔の傷は不味いな。何があったか勘ぐられるかもしれない」

 

そうだ。

体の傷は防護服で隠せても顔は隠せない。

他の天竜人に何があったか聞かれて奴隷に修行をつけられている、なんてことがバレたらただじゃ済まない。

 

「仕方ない。近くで顔を隠すマスク買ってくるからここで待ってろ」

 

「え」

 

そう言ってガイアは街の方に行こうとする。

 

「ちょっと待てよ。マスクなんかしてたら余計に怪しまれないか?」

 

「下々民と同じ空気をできるだけ吸いたくないからだ、とでも誤魔化せばいいだろう」

 

「あっ、そうか!」

 

納得する俺。

しかしちょっぴり罪悪感があるなあ。

 

「とにかく買ってくるから必ずここで待っていろよ」

 

そう言い残すとガイアは行ってしまった。

 

待つしかないか。

 

俺は待っている間だけでも防護服を脱ぐことにした。

 

本当に辛いんだよ着てるのが。

蒸し暑いから汗をかいてそれが傷にしみてかなわないだよ。

本当にこんな服よく着るな。

天竜人のここだけは素直に尊敬する。

 

「ふう」

 

防護服を脱ぎ終わった俺は一息つく。

 

その時、誰かの気配を感じた。

それも多数。

 

嫌な予感がする。

 

そしてその気配の主たちが現れる。

 

「グヘヘヘへ…」

 

人相の悪い男たちだ。

全員それぞれ武器を持っている。

 

「まさかこんなところで天竜人のガキに出会えるとはよお…」

 

「………」

 

いったい何が目的なんだ、

こいつらは?

 

「ついてるなあ、おい。何で傷だらけなのかは知らねえが、しかるべきところに売ればたんまり金が貰えるぜ」

 

「!!」

 

人さらい屋か!

 

「へっへっへ…。悪く思うなよ、坊主。これも商売だからな」

 

ふざけるなよ。

誰が易々と捕まるか。

とはいうもののまずいな…。

いかんせん数が多い。

それにこっちは手負いの状態。

圧倒的に不利だ。

 

「行くぜ!俺達〝ブラックオーガ〟の獲物だ!絶対逃がすなよ!」

 

チームのリーダーっぽい奴がそう言って手下に俺の周りを囲ませる。

 

くそっ!

どうする!

 

 

 

 

 

 

 

 

いやはやマジでついてるぜ。

天竜人のガキが独りでこんな人気のないところを彷徨いてるとはな。

天竜人に対してはほとんどの奴はよくは思ってないから奴隷として売れば、確実に売れる。

政府や海軍、天竜人にはバレないようにしないとな。

 

「さあ、野郎共。ガキを捕らえろ!」

 

手下の一人が俺の言葉に反応してガキに向かって行った。

 

が、鈍い音がしてそいつは吹き飛んでいった。

 

「は?」

 

何が起こったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわー、ビックリした。

自分の強さではない。

相手の弱さにだ。

だって余りにも動きがトロイ。

トロすぎる。

それに軽く殴り飛ばしただけでヒューンっと飛んでいった。

これがガイアだったら逆に俺が飛ばされてるところだな。

 

「くっ、このガキ!」

 

手下の一人が手にした武器で斬りかかってくる。

俺は腰を低くしてそれをかわし、その腹を殴り飛ばした。

それだけで相手は空中を飛んでいく。

負けるかと思ったけど杞憂だったようだ。

六式を使うまでもない。

 

「こ、この野郎ー!!」

 

「ふざけやがって!!」

 

「舐めんじゃねえよ!!」

 

手下が一斉に襲いかかってくる。

 

「はあ…」

 

早く帰ってこないかなあ、ガイア。

 

────────

 

─────

 

──

 

「…何やってるんだ、お前?」

 

「おっ、ようやく帰ってきたか、ガイア」

 

ガイアは呆れている。

それはそうだろう。

何せ当たり一面に人が倒れてるんだ。

手下全員は倒すことはなかったかな。

やり過ぎた。

 

「な、何で天竜人がこんなに強いんだよ!?しかもこんなガキが!」

 

そして今唯一立っているのが人さらいたちのリーダーだった。

 

「そりゃ、鍛えてるからな。それよりもお前らをどうしよかな?天竜人に手を出した大罪人として海軍につきだしてもいいんだけどなー」

 

「ひいっ、お助けを!」

 

必死に平伏する。

 

うーん、少し可哀想だな。

……そうだ!

 

「…冗談だよ。あんた名前は」

 

「はえ?」

 

「名前だよ。名前!」

 

「ギドーですけど…」

 

「よし、ギドー。これあげるからもう人さらいはやめろ」

 

俺はそう言ってお小遣いの内の100万ベリーをギドーに渡す。

 

「へ?」

 

「それで俺の情報屋になれ」

 

「はあー…」

 

ガイアがため息をつく。

 

「許して…くれるのか?」

 

「んー?」

 

「俺達はあんたをさらって売ろうとしたんだぞ」

 

「別にこっちは結果的に何も被害なかったしね」

 

「…お前本当に天竜人か?」

 

「よく言われるよ。それよりやるのか?」

 

「それは…」

 

「ガイアー、海軍の駐屯所ってどこだっけ?」

 

「やります!!やらせていただきます!!」

 

「うん♪」

 

やったぜ!

思わぬところで情報源をゲットだ!人さらい屋もやめさせられて一石二鳥!

 

「報酬は定期的に渡すからな。絶対に人さらいなんかするなよ。したら海軍につきだすからな」

 

釘を刺しながら俺は防護服を着る。

 

「さあ、行こうぜ。ガイア」

 

「まったくお前は…」

 

俺はガイアからマスクをもらってつける。

 

「まあ、いいじゃないか。それよりも…」

 

「何だ?」

 

「俺ってマジで強かったんだな」

 

ガイアは再びため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「ただいま戻りました」

 

家に戻ってきた俺達。

 

「お帰りテラマキア」

 

「父様は?」

 

「どこかの人との取引の算段を立ててるらしいわってあらあら。今日も傷だらけね。リビングに行っていて。薬箱出してくるから」

 

「すみませんお母さん。お風呂いただいていいですか?」

 

「ええ、いいですわよ。ガイアさん」

 

「ありがとうございます」

 

ガイアは風呂場に向かう。

くそっ、ガイアめ。

ぬけぬけと風呂に向かいやがって。

鬱憤晴らしに俺を殴ってることバラしてやろうか。

 

「さあ、テラマキア。リビングに行きなさい。果物を用意してるから」

 

「分かりました。母様」

 

俺はリビングに向かった。

 

 

 

 

リビングには母様の言った通り、机に切られた果物が置いてあった。

 

「母様に感謝だな」

 

俺は果物を手にとる。

 

「いただきまーす」

 

がぶっ。

 

モグモグ…

 

「うっ」

 

まっっっずうううぅぅぅ!!!!

 

何なんだよこれ!?

不味すぎだろ!!

何の果物だよ!!

 

「うぷっ」

 

ダメだ吐いちゃ!

いくら何でも吐くのはまずい。

母様に怒られる。

 

「うっ…く…」

 

ごくんっ

 

何とか飲み込む。

 

「はあー…」

 

地獄を見たぜ…

 

「どう、テラマキア。おいしかった?」

 

薬箱を持ってリビングに入ってきた母様が聞いてくる。

 

「は、はい…」

 

滅茶苦茶不味かったけどね。

 

「よかった。変な模様がついた果物だったから味がわからなかったのよ」

 

変な模様?

 

…嫌な予感がする。

 

「おーい、サマルドリア。取引用にここに置いていた悪魔の実を知らぬかの?」

 

「あら、悪魔の実は知らないけどそこにあった果物なら切ってテラマキアが食べたわ」

 

「なん…じゃと…」

 

父様の顔が驚愕の色に染まる。

 

「うあ…」

 

つまり俺が食ったのは悪魔の実だということですか。

 

………マジ?

 



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第六説:悪魔の実

さて、いったん落ち着いて今の状況を整理しよう。

 

俺は悪魔の実を食べてしまった。

これはまぎれもない事実だ。

このことから二つのことが分かる。

一つめ、俺はかなづちになってしまった。

それは別にいい。

俺は泳ぎが好きなわけではないからな。

重要なのは次、二つめだ。

俺は何かの能力者になってしまったということ。

何の能力かは分からない以上、無闇に能力を発動させるのは危険だ。

ということでいつもの鍛錬をするときの小島に来ている。

ここなら多少荒っぽいことが起こっても大丈夫だ。

というかここでいつも荒っぽいことしてるしね。

今回は俺とガイア以外に母様と父様も来ている。

それはなぜか?

事の発端は昨日、俺が悪魔の実を食べた直後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

「吐け!!吐くのじゃテラマキア!!」

 

「む、無理ですよ。父様!胸ぐら掴んで揺らさないでください!」

 

そう言うと父様はやっと放してくれたが、膝をついて落ち込みはじめた。

 

「ああ、なんてことじゃ…。よりにもよって悪魔の実じゃなんて。こんなことがバレたら今度こそ…」

 

「まあまあ、ゾディアック。落ち着いて」

 

母様が父様を慰めようとする。

 

「これが落ち着いていられるか!元はといえばお前のせいじゃぞ!お前がテラマキアに悪魔の実を…!」

 

「いつまでもウジウジ言ってるんじゃありません!!」

 

母様の一喝。

マジでびっくりした…!

父様も驚いてのけぞっている。

 

「食べてしまったものは仕方ないのですから、今の現状に対することを考えなさい」

 

「う、うむ。そうじゃのう。すまんかった、サマルドリア」

 

「分かればいいのです」

 

とりあえず納得する父様。

ていうか母様もっともらしいこと言ってるけど完全に自分の責任を誤魔化してるよね?

それでよく納得する父様はある意味すごい。

本当に尻に敷かれてるなあ。

 

「お風呂、お先にいただきましたーってどうしたんですか?」

 

ガイアが風呂から上がってきた。

空気読めよ。

 

「あら、ガイアさん。ちょっと聞いてくださる?」

 

「はあ…」

 

母様がガイアに事情を説明する。

 

そして全てを聞き終わったガイアは深いため息をついた。

 

「テラ。お前って奴は…」

 

「あはは…。成りゆきで食べちゃった」

 

そんな俺の能天気なことを言う俺を見てガイアはもう一度ため息をついた。

 

「なんだか最近、ため息をつきっぱなしな気がするな」

 

「なあ、ガイア。さっきから能力を使いたくて体がウズウズしてるんだけど能力使っていいかな?」

 

その証拠にさっきから体が若干熱い気がする。

 

「ダメだ抑えろ。もしその能力が危険なものだったらどうする?それに能力の扱いはかなり難しいんだ。下手に使うと周りに甚大な被害をもたらしかねないんだからな」

 

「うっ…」

 

ちぇっ、分かったよ。

確かにここは家の中だし、何より父様と母様がいる。

もし能力を使って危害が及んだら目も当てられないからな。

 

「能力の把握は明日、いつもの鍛錬の小島でするからな」

 

「あの、ガイアさん」

 

母様が躊躇いがちにガイアに話しかける。

どうしたんだ?

 

「明日の鍛錬、私が見に行ってもよろしいでしょうか?」

 

「なっ!?」

 

「何を言うのですか!?母様!」

 

驚愕する俺とガイア。

 

「テラマキアが悪魔の実を食べたのは私にも責任がありますからね」

 

勇ましい母様。

 

「ですが何が起こるか分かりませんよ?命の保証もできませんし…」

 

「覚悟の上です」

 

「しかし…」

 

「こう言ったらサマルドリアは絶対に譲らんよ、ガイア君」

 

父様が前に歩みでてくる。

 

「昔からこうじゃからな」

 

「当たり前でしょ。それに私が行くからにはあなたも来るのでしょう?」

 

「当然じゃ」

 

ガイアはしばらく黙っていたが諦めたかのように体の力を抜き、

 

「…分かりました。連れて行きましょう」

 

「ありがとうございます。ガイアさん」

 

「ですが絶対に私の指示に従ってくださいね」

 

「うむ、礼を言う。ガイア君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで父様や母様もいるのである。

 

「さあ、テラ。いつでもいいぞ!」

 

ガイアは父様と母様の前に何が起きても守れるように立っている。

 

「ああ、行くぞ!」

俺は能力を発動させた。

 

その瞬間体の形が変わり始める。

 

骨格が変わり、筋肉が隆起していくのが分かる。

 

これはあれか!

もしかしてあの動物系幻獣種のドラゴンか!

天竜人なだけに!

 

すると突然、どんどん大きくなると思っていた体変化が止まった。

 

あれ?

ドラゴンってこんな大きさなの?

 

「これはまたすごいのを引き当てたな…!」

 

「まあ…!」

 

「体長10メートルぐらいはあるかのう!」

 

皆が感嘆の息を漏らす。

 

「動物系幻獣種か…」

 

!!

 

やったぜ!

やっぱりドラゴンだったんだ!!

 

「へへっ、見たかガイア!俺はドラゴンだぞ!」

 

「はあ?」

 

ガイアが間の抜けた声をだす。

 

「何言ってんだ、テラ?自分の体をよく見ろよ」

 

え?

 

俺は慌てて自分の体を調べる。

 

手のひらには柔らかい肉球。

 

口には鋭く抜きん出て尖った二つの牙。

 

頭には丸っこい耳。

 

尻にはふさふさの尻尾。

 

そして何より全身を覆う雪の様に真っ白な毛並み。

 

「ねえ、ガイア。これってまさか…」

 

「ようやく気づいたか」

 

ガイアが呆れたように言う。

 

「お前が食ったのは動物系幻獣種ネコネコの実モデル〝白虎〟だ」

 

えええええ!!

そんなーーーー!!

 

何で虎なんだよ!

龍虎相討つのドラゴンのライバルの方じゃないか!!

普通は絶対にドラゴンだろ!!

天竜人なだけに!

空気読めよ世界!!

 

「ウガアアア!!」

 

苛ついて思わず叫んでしまう。

その時、物凄い強風が巻き起こった。

 

「うわっ!何だ!?」

 

「きゃあ!」

 

「サマルドリア!」

 

「くそっ!〝大地の揺りかご〟(ガイア・エッグ)!!」

 

ガイアが能力を発動し、父様と母様を強風から守る。

 

「こら!!テラ!これは恐らくお前の力だ!早く何とかしろ!」

 

「ええっ!何とかしろと言われても…」

 

風は依然として荒れ狂い続けている。

 

「だったら能力を解除しろ!そうするば止まるはずだ!」

 

「わ、分かった!」

 

俺は急いで能力を解除し、獣型から人型に戻る。

それと同時に荒れ狂っていた風もおさまった。

 

「ふう…」

 

ガイアは能力を解除して父様と母様を解放する。

 

「だから言っただろ。能力の制御は難しいから一歩間違えば甚大な被害をもたらしかねないって」

 

「ごめん…ガイア。それよりどうしてあの風が俺の力だって分かったんだ?」

 

「ん?それは勘だ」

 

「勘かよ!」

 

思わずツッコミをしてしまった。

 

「ふむ、にしても風を操れるのか…。これは強力だな」

 

ガイアはブツブツと独り言を言いながら考え込んでしまう。

 

「テラマキア…」

 

「母様」

 

母様が近づいてきた。

 

「母様。俺には近づかない方がいいですよ。俺はいつまた力が暴発するか分からない化け物なん───」

 

俺は最後まで言えなかった。

 

何故なら、

 

「どう…して…」

 

抱きしめられていたからだ。

 

「どうしてもこうしてもないでしょ。あなたは化け物である前に私たちの息子なのよ」

 

「そうじゃ。だから愛し続けるに決まっておろう」

 

「それだけはこれからも変わりないわ」

 

ああ…

なんて…

なんて暖かくて優しいんだろう…

 

俺はこの時心の底から思った。

 

父様と母様の子どもでよかった、と───

 



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第七説:近況報告

悪魔の実食べちゃった事件(俺はそう呼んでいる)から早い話、2年の歳月が流れた。

あー、何か色々あったなー。

まあ順を追って話していくことにしよう。

まずは皆?が気になっている悪魔の実についてだがご存じ通り俺が食ったのは動物系幻獣種ネコネコの実モデル〝白虎〟である。

ここ二年間で何とか人獣型を常時保ちつつ、能力を使うことはできるようになった。

最初は体力がもたず人獣型を保てなくて、能力を使うどころではなかったのだから、大した成長だ。

ちなみに能力は最低でも人獣型ではないと使えなかった。

そしてその能力は五行の金、つまりあらゆるものを金属のように硬質化できることだった。

厳密に言うと自身と自身に触れている物を硬質化できるのだ。

その強度は驚くべきものだった。

 

───────

 

「大地の守護(ガイア・ウォール)」

 

俺の目の前に土の壁がせりあがってきた。

 

「よし、これを硬質化して私の攻撃をガードしてみろ」

 

「ええっ!何で?」

 

「お前の能力の硬質化の強度がどれくらいか確かめるためだ」

 

「うー…」

 

ガイアの攻撃を真正面からガードしろとか無理だろ!

俺死んだな…

 

「早くしろ!じゃないと死ぬぞ!」

 

「分かってるよ!ううっ…」

 

あんたの攻撃だったら硬質化してても死ぬよ…

 

「〝五行の金〟物体硬質化」

 

俺は目の前の土の壁に触れて全力で硬質化させる。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

ガイアが能力を使う。

 

「〝錬金〟ダイヤモンド」

 

「大地の武具・槍(ガイア・ウェポンランス)ダイヤモンドVer」

 

ガイアは構える。

 

「ふんっ!」

 

そしてダイヤモンド製の槍を投げてきた。

 

ああっ、さよなら父様母様。

先に旅立つ親不孝な息子をお許しください。

 

固いもの同士がぶつかる鋭い音がした。

 

 

……

 

………あれ?

 

死んでない?

 

「すごいな…」

 

ガイアの驚愕した声が聞こえた。

 

硬質化を解いて土の壁の裏にまわる。

 

そこには砕け散ったダイヤがあった。

 

───────

 

その強度はダイヤを砕く程だった。

さすがに武装色の覇気を纏わせられると無理だったが。

しかし、ぶっちゃけ俺はあんまりこの能力を使いこなせていない。

自身の体で硬質化できるのは両腕だけだし物体硬質化だって集中してようやく一個が限界。

能力の扱いが難しいとガイアが言っていたのがよく分かる。

それと能力でもう一つ、あの時に見せたあの荒れ狂う風。

あれはあの時の一度っきりで二年間修行したが全然だせなかった。

俺的には五行の金よりそっちの風が使いたかったなあ。

 

六式は全部使えるようになったんだ。

おかげで変装してお忍びの一人での外出ができるようになった。

いやー、月歩って便利だなー。

まあ、マリージョアをでるまでは防護服を着なきゃならないんだけど。

変装するのは、そうでないと皆、膝ついたりして全然相手してくれないからだ。

まあ、それで父様に大目玉とかをよく食らうんだけどね。

母様に「昔の私にそっくりね」と言われた。

 

そうそう。

ロズワードの子どもたち、チャルロスとシャルリアもこの二年で生まれた。

チャルロスは一昨年、シャルリアは去年にだ。

前にチャルロスの誕生会に呼ばれた時に見たが原作通り鼻水垂れっぱなしだった。

誰か拭いてやれよ。

 

そして最後に一番大事なこと。

ついに今年の始めにロジャーが処刑され大海賊時代が始まったんだ。

つまり今は原作開始の22年前ということだ。

まあ大海賊時代が始まったからといって何かが変わるわけでもなく天竜人たちは数日後にある年に一度に開催される大人間オークションを前にそわそわしている。

暢気なもんだ。

かくいう俺もまた変装してお忍びでシャボンディ諸島に遊びに来ているのだが。

アイスうめー。

 

「さっさと動け!新世界を目指すルーキーたちはいつ来るか分からないのだからな!」

 

俺の目の前を海兵たちが横切っていく。

最近はやけに海軍や海賊を見かけることが多い。

 

そう言えばシャボンディ諸島って新世界の海に行くために海賊たちが一斉に集うんだっけ。

 

この時海兵の言っていた言葉が後に起こる大事件の始まりを予告していたなんて俺は知る由もなかった。



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第八説:初代超新星

俺はいつもの様に変装をし、お忍びでシャボンディ諸島にある町の一つを観光していた。

今日は修行のない休養日。

しかし、どうにもマリージョアは日々を過ごすには退屈すぎるので、こうして町に降りて娯楽に浸っている次第だ。

他の天竜人はその退屈を奴隷を弄ぶことで紛らわしているみたいだけど、やはりあの光景はどうにも残虐過ぎる。

チャルロスも他の天竜人も子どもの頃からあんな人を甚振るのが当たり前な環境にいればそりゃ性格も歪むというもんだ。

できることなら辞めさせたいが、昔、俺のような()()の考えを持った天竜人がその思想の果てに家族を巻き込んで破滅したそうだ。

そんなことを知ってしまっては迂闊には動けない。

それでもいつかは何とかしたいものだ。

この世界で天竜人として生活してわかったことだけど、意外と、というか当たり前かもしれないが奴隷に関することを除けば天竜人も普通のヒトだった。

知人におめでたいことがあれば笑顔で祝福するし、不幸があれば悲しんだり心配したりする。

物事に挑戦して成功して喜ぶこともあれば、失敗して落ち込むこともある。

夜中に男だけで集まって酒を嗜みながら馬鹿話や猥談に耽り、翌日、夜中にあんな大声で子供たちが起きたらどうするのと妻たちに説教される天竜人もいた。

というか家の父様やロズワードのことだけど。

実際、それを見た時は内心秘かに仰天したもんだ。

父様はまだしも、あのロズワードが真剣な顔して女性の尻について語っていたのだから。

その場にいた他の天竜人も大真面目な顔して頷いていた。

何だよスカートを履いた女性が座ったり屈んだりしたときに浮き彫りになる尻のラインがたまらないって。

性癖の業が深すぎるだろ。

俺の中の天竜人像が一気に俗っぽくなった瞬間でもある。

どこの世界のどんな種族でも男のエロに対する熱意は変わらないもんだ。

ちなみにその男たちの馬鹿騒ぎを起きて見ていたことは父様たちには内緒にしてある。

 

「きゃあああっ!!」

 

突然、轟音と悲鳴が街中に響いた。

 

「なに、何だ?」

 

どうやら近場にある酒場の方から聞こえてきたようだ。

 

何か事件があったのは明らかだ。

俺は野次馬根性丸出しで見に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

酒場の前。

 

酒場は遠くから見ても分かるくらい崩壊していた。

そしてその酒場の前に俺と同じく興味本意で集まった野次馬たちがいた。

 

俺は野次馬たちをかき分け、その中心を見る。

 

「うっ…!」

 

俺はそれを見た時思わず呻いてしまった。

 

「酷いな…」

 

「しかしいったいどうしたらこんな風に…」

 

野次馬たちもそれを見て呻き声を上げる。

 

崩壊した酒場の前にあったモノ。

 

それは全身の水分が抜けきっていると一目で分かる程からからのミイラ。

そして体のあらゆる部分を切り裂かれた死体だった。

 

あの死体。

俺はあんな風に殺せる奴を前世の記憶で知っている。

でも奴は本来この島にいるはずがない。

第一、今の時代じゃ奴はまだ海賊のルーキーみたいな存在のはず。

いや、待てよ。まさか。

 

「お、おい!あれ!」

 

俺が考えに耽っていると野次馬の一人が死体を指差しながら叫んだ。

死体の方を見ると、なんと死体から草花が咲き出していて、あっという間に死体を覆ってしまった。

明らかに普通ではない。

能力者の仕業だと一目でわかった。

 

「胸糞悪いモン残しやがって」

 

不意に声が聞こえた。

弾かれたように声のした方を向くと、一人の男が野次馬の中から歩みだしてきた。

 

「ちゃんと後片付けぐらいしていけよな」

 

それは青い髪の青年だった。

その言動から察するにこれは彼がやったことなのだろうか。

青年は死体が完全に草花に覆われた事を確認すると、踵を返し、彼が通ると分かってモーセのように野次馬が割れてできた道を歩いてどこかへ行ってしまった。

 

「フフフフフ……。面白ぇ奴がいるな」

 

突然、若い男の声が聞こえてきた。

 

この笑い声。

俺は後ろを振り返って声の主を探すが見つけられない。

 

「全くいい時代になったもんだ」

 

それきりその声は聞こえてこなかった。

 

「早く海軍に連絡を!」

 

「しかし物騒な時代になってしまったな」

 

「これもあの忌まわしい海賊王が焚き付けたせいだ…!」

 

その代わり野次馬の会話が聞こえてきた。

 

「海賊たちは新世界に行くためにここシャボンディ諸島に集まるからな。しかも集まるのは過酷な生存競争を乗り越えてきた選りすぐりの海賊、つまり超新星(ルーキー)たちだから必然的に物騒になるさ」

 

「さっきの青い髪の奴だって超新星の海賊だろ」

 

「そうさ。確か懸賞金1億8000万ベリーの《神咲》のブルーって奴だ」

 

「他に船員はいなくてたった一人の海賊だって話だ」

 

「たった一人の海賊って言うならもう一人いるぜ。俺今日そいつも見たんだ」

 

「マジか!?」

 

「ああ。何か身の丈ぐらいある黒い剣を背負っててさ」

 

「私知ってるよ!そいつのこと。えーと、確か」

 

そこで会話は雑踏に紛れて聞こえなくなった。

 

うん。

ソフトクリームでも食べて落ち着こう。

いきなりの情報過多で混乱した俺はその場を離れ、ソフトクリームを買いに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

うーん、やっぱりソフトクリームはうめーな。

さてと。

落ち着いたことだし頭の中を整理しようか。

 

恐らく今この島にはルーキーたちが多数いるのだろう。

大海賊時代に入って初めてのルーキー。

いわば初代超新星(ルーキー)だ。

そして原作時代で名を馳せていた海賊たち。

彼らにもかつてルーキー時代というものは確かに存在したのだ。

そしてそのルーキー時代と言うのが今なわけだ。

 

しかし、厄介なことになったな。

 

俺が得た情報からは原作時代に名を馳せた海賊が少なくとも3人はいる。

ここまで揃っているとなると恐らく残りの奴も二人を除いてはいるだろう。

まさか原作の強豪たちが揃いも揃って現れるとは。

運命とはつくづく不思議なもんだな。

 

「いてっ」

 

「おわっ」

 

考え事をしながら歩いていたせいで人とぶつかってしまった。

その際俺が持っていたソフトクリームがその人の服にべったりとついてしまう。

 

「ああっ!すみません!ごめんな…さ……い…」

 

「いやいや、気にすんな坊主!」

 

ぶつかった人に謝罪をしようとして顔を上げた俺は。

その人物を見て頭の中が真っ白になった。

 

「こっちこそ悪かったな。ソフトクリーム台無しにして」

 

赤い髪に映える麦わら帽子。

黒い羽織を着て、快活な笑顔を浮かべる男。

 

「ん?どうしたんだ?そんな口をぽっかり開けて」

 

いずれ失われるであろう左腕はまだ健在で。

腰に差した剣は何の変哲もないようでいて圧倒的な存在感を醸し出す。

 

「ほれ、金やるからこれでまた買ってこい」

 

そう言ってその男、後に四皇の一角を担うことになる海賊、赤髪のシャンクスは俺に金を握らせた。

 

「あ…え…でも……服が……」

 

あまりのことで声がうまく出なくなる。

 

「服のことならいい。また洗えば済む話だしな!」

 

屈託のない笑顔で言うシャンクス。

もはや単なる気のいい兄ちゃんだ。

この人物が海賊であるなど、最初から知っていなければ気づかないだろう。

 

「じゃあな、坊主。俺は用事があるから行くわ」

 

シャンクスは踵を返す。

 

「さてと、みんなどこに行ったんだ…?」

 

そう呟くと去ってしまった。

途端に俺は全身の力が抜けた。

どうやら知らず知らずの内に体に力が入っていたようだ。

まさかこんなところにシャンクスがいるなんて。

でも普通にいい人だった。

服を汚しちゃったのに逆にソフトクリームを買うお金をくれるなんて。

この恩はいずれ何かの形で返さないといけない。

母様に受けた恩は必ず返せって教わったのだから。

さて、もはやこの島に後に有力な海賊になる奴が多数いるのは確定だ。

いったい誰がいるのか情報が欲しい。

 

そうだ。

こんな時こそ奴等の出番じゃないか。

2年前に俺の情報屋として雇った奴等の。

呼び出せばすぐに飛んできてくれるだろう。

この2年で随分と俺専属の情報屋として板がついてきたからな。

よし。

そうと決まれば善は急げだ。

 

おっと。

その前にシャンクスからもらったお金でソフトクリーム買い直すか。



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第九説:超新星の情報

復帰記念にもう一話。


シャボンディ諸島の無法地帯のとある場所。

 

「オーッス!久しぶりだな!テラの旦那」

 

「ああ、久しぶりギドー。人さらいなんかやってないだろうな?」

 

俺は情報屋に会っていた。

 

「何言ってるんだ!あんたからたんまり金もらってるんだからやるわけないでしょう?」

 

「へえ、金もらってなかったらやるんだな?」

 

「うっ。それは言葉のあやってもんですよ、テラの旦那」

 

俺の情報屋。

それは俺が2年前にボコボコにして親切にも───

 

「無理矢理ですよ」

 

「何か言った?」

 

「何でもありません」

 

そう、親切にも海軍に突き出さずに雇ってやったかつての人さらいチーム「ブラックオーガ」だった奴等だ。

今までも外の世界の情報収集に何度かお世話になっている。

どうにも普段、マリージョアにいると外の世界の情報が入って来づらいので不便でしょうがない。

天竜人という存在自体が外の事に興味があまりないというのが理由だから仕方ないのかもしれないが。

 

「連絡した通りの情報はもう仕入れているよな?」

 

「あったりまえですよ旦那!今やルーキーについては話題沸騰中だからすぐに情報は手に入りますよ」

 

「よし、じゃあさっそく教えてくれ」

 

「あいよ!じゃあまずはこいつから!」

 

ギドーに頼んでいたのは今、世間を騒がせている海賊たちの超新星(ルーキー)の情報。

つまり、現在この島に来ているであろう海賊たちの情報だ。

正直、今のシャボンディ諸島を出歩くのは危険にも程がある。

何せ原作の化け物と呼ぶに等しい奴らがひしめいているのだからそこらで小競り合いが起きても何らおかしくない。

しかし、せっかく原作キャラたちが集まっているのだ。

一目でいいから生で見ておきたいと思うのが転生者としての素直な本音だ。

危険とは言えども遠目に見るぐらい罰は当たるまい。

という訳で島にいる海賊の情報を把握し、彼らを見に行こうというミーハー丸出しの計画を立てたのだ。

 

「懸賞金2億6000万ベリー!《鷹の目》のミホーク!背中に背負う黒刀はあの最上大業物12工の一振りである「夜」で凄腕の剣豪!たった一人でここまできた海賊。ルーキーの中でもかなりの強者らしいぜ」

 

やっぱりいたのか、ミホーク。あの野次馬どもの会話から薄々は分かっていたけど。

まだ世界最強の剣士という訳ではないようだ。

 

「さて、次はこいつ!懸賞金2億9600万ベリー!《暴君》バーソロミュー・くまだ!奴はその二つ名の通りまさに暴君!ニキュニキュの実の能力者で残虐非道の限りを尽くす海賊さ」

 

そういえば、くまはかつては残虐非道の限りを尽くした海賊だって原作でも言われてたな。

原作でも恐るべき強さでルフィたちを圧倒していたんだ。

その上残虐だなんて手がつけられない。

遠目でも気を付けないと。

 

「それで次はっと…」

 

「懸賞金8100万ベリーのサー・クロコダイルだ。こいつはルーキーの中で一番懸賞金が低いが珍しい自然系の悪魔の実、スナスナの実の能力者だ!戦闘力も他のルーキーに引けをとらねぇ」

 

クロコダイルか。

懸賞金は低いが、スナスナの実の能力は全く侮れない。

捕まったら、それで一巻の終わりの能力だ。

弱点が水っていうありきたりなものとはいえ、本人が何の対策もしていないとは思えないし。

考えると原作でルフィが勝てたのって奇跡みたいなもんだな。

現に二回負けてるし。

 

「お次は懸賞金3億2000万ベリーのゲッコー・モリアだな。こいつも悪魔の実の能力者でカゲカゲの実を食べた影人間だそうだ。部下も懸賞金はかけられていないが有能な奴が多いらしい」

 

ふーん、ルーキー時代のモリアか…

確か新世界で四皇のカイドウに負けるまで己の力を過信してたんだっけ?

実際、過信するほど前半の海じゃ敵なしだったんだろう。

というかこの時代に海賊やってる未来の王下七武海勢揃いだな。

恐ろしい。

 

「次のこいつは超大物だな。懸賞金4億7000万ベリー!!赤髪のシャンクスだ!かつて海賊王の船員(クルー)でそのせいか懸賞金がルーキーの中でずば抜けて高い!その強さも折り紙つきだ!」

 

スゲー。

圧倒的だな、シャンクス。

後に四皇になるんだしこれぐらい懸賞金かけられるのは当たり前か。

そう言えば覇気はもう使えるのかな。

ソフトクリームのお礼も必ず返さないと。

 

「次が最後だな。懸賞金1億8000万ベリー、《神咲》のブルーだ。こいつも鷹の目と同じくたった一人でここまできた海賊だな。こいつについては余り情報が得られなかった。何せ他のルーキーとは違ってごく最近に現れた海賊だからな。悪魔の実の能力者ってことだけは分かってるが…。それでも懸賞金が高いのは民間に多大な被害を与えているからさ。ルーキーの中では一番世間に不評な海賊だな」

 

酒場で見たあの髪の青い男か。

こいつは原作では名を聞かないな。

新世界でやられてしまったのか。

俺的には一番興味があるな。

 

「以上総勢6名のルーキーがこのシャボンディ諸島に集まっているようだぜ」

 

「え、ドフラミンゴは?」

 

当然、いるであろうと思っていた名前が出なかった事に思わず声が出る。

 

「ドフラミンゴ? ああ《天夜叉》の事ですか。奴も凶悪なルーキーとして名を馳せてますが、この島に来ているという情報は今のところないですね」

 

馬鹿な。

あの笑い声は確かにドフラミンゴのものだと思ったんだが。

気のせい、いや、もしかして海軍を警戒して潜伏してるのか。

狡猾そうな奴の事だ。

大いにあり得る可能性だ。

 

「そうか。ありがとな、ギドー。助かったよ」

 

俺はギドーに報酬の金を渡した。

 

「いやいや、こちらこそこんな大金をもらえて感謝だぜ。そうだ、テラの旦那。もうひとつ言うことがあったぜ」

 

ギドーが思い出したようにそんなことを言う。

 

「何なんだ?」

 

「ああ。海軍のことさ」

 

海軍。

そりゃもう動いててもおかしくないか。

海軍本部のお膝元の島に強豪の海賊たちが集まっているんだ。

警戒しないはずもないし、あわよくば一網打尽する気なのかもしれない。

 

「海軍がどうしたんだ?」

 

「それが今日の昼頃に海軍の中将がこのシャボンディ諸島に来るらしい。ちょうど今頃到着したんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

シャボンディ諸島のとある港。

その港には海軍の軍艦が停泊していた。

その軍艦の甲板に一人の男が立っている。

その男は正義の刺繍が入った背広を羽織っていて、頭には海軍の帽子を被っていた。

 

海兵の一人がその男に近づく。

 

「サカズキ中将!全兵士の武装、完了しました!」

 

その男───サカズキはその報告を聞き、海兵を怒鳴った。

 

「遅いわ!! もっと早くせんか!!」

 

「す、すみません!!」

 

一喝され怯える海兵を一瞥しサカズキはシャボンディ諸島を見る。

 

「まずは赤髪を狙わなければのう。奴は海賊王の元船員。新世界へと進出を許せば必ず次世代の海賊としての頭角を表す。そうならん為にも今、始末せんとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島のとある無法地帯。

ヤルキマン・マングローブが聳え立っているだけで何もない場所。

 

「仲間を探していたつもりが面白れぇ奴に会っちまったな」

 

「貴様が赤髪か」

 

そこで二人の男が対峙していた。

 

「噂はかねがね聞いてるぞ。鷹の目」

 

「己の噂などに興味はない」

 

ミホークとシャンクスである。。

まるで見定めるかのようにシャンクスを睨み付けた後、ミホークは無言で背中に背負った黒刀「夜」を手に取る。

 

「手合わせ願おう。強き者よ」

 

そしてシャンクスに鈍く煌めく黒い刃を向ける。

その切っ先に何の雑じり気もない純粋な殺意を乗せて。

 

「決闘、という訳かい」

 

それを受けたシャンクスもまた腰に差した剣を抜く。

途端にその体躯から放たれる圧力が増す。

 

「仲間を探してる途中だが、売られた喧嘩を買わないのは礼儀に反するよなぁ?」

 

お互いに握った刃を相手に向ける。

 

緊迫した空気が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島のとある街中。

 

轟音と悲鳴が飛び交う。

 

「キーッシッシッシ!せっかちな奴等だな、オイ!」

 

ゴシック調の服を着た大男────モリアは大声を上げて笑う。

顔や口調こそは笑っているが、額に浮き出た青筋がかなりキレていることを示している。

 

モリアの視線の先。

その先の建物から砂嵐とこの場に不釣り合いな肉球型に穴の空いた瓦礫に混じって二人の男が飛び出してきた。

 

「ちいっ! 何だあのふざけた肉球は!」

 

一人はクロコダイル。

己の体に空いた肉球型の穴を見て、忌々しそうに顔を歪める。

すぐに埋まるとはいえ、己の体にこんなふざけた穴をそう何度も空けられれば屈辱的である。

 

「懸賞金8100万ベリーのクロコダイル。こんなものか」

 

もう一人はその穴を空けた張本人、バーソロミュー・くまだった。

まるで期待外れだったと言わんばかりに大きな溜息をついてクロコダイルを見やる。

 

「キッシッシ! くま。食事中はお行儀よくしろって親から習わなかったのか? 人の宴会をぶち壊しやがって」

 

「目障りな奴は今の内に減らしておくべきだと思ってな」

 

「ムカつく野郎だな。てめえミイラになりたいか?」

 

一触即発の雰囲気。

もはや戦闘を避けられない状況だった。

人々が逃げ惑う中、それを物陰から見物する人物が一人。

 

「フフフフ。面白れぇことになってんじゃねえか?」

 

 

 

 

 

ここ、シャボンディ諸島において始まる戦いの兆し。

これが大事件の始まりであることをまだ誰も知らない。



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第十説:巻き込まれる

無法地帯に繰り広げられる剣戟。

ミホークとシャンクスは打ち合い続ける.

もう何十合切り結んだかわからない。

互いに相手の隙を突こうしては受け流され、流した後に反撃しようともすぐに相手は立ち直る。

それの繰り返し。

決定打が入れられず、お互いに攻めあぐねている状態だった。

とは言え、その剣戟は常人には全く見えない程の速度で交わされている。

もし誰かがそれを目撃していたら膠着状態にあるなど分からず、ただ惚けて感嘆するばかりだっただろう。

それ程までに凄まじくも美しい剣戟だった。

また打ち合っている二人は気付いていないが、その余波で周囲は凄まじい事になっていた。

一合切り結ぶ度に地面に鋭い刃の斬撃が深く刻み込まれ、二人が踏み込む度にその衝撃に耐えられず地面に亀裂が走る。

最初は平坦だった場所は今や見る影もなく凹凸だらけ。

それでも二人の剣の応酬は止まることはなかった。

 

「おわっと!?」

 

しかし、何の偶然か不意にシャンクスが体勢を崩す。

余波で生まれた地面の窪み。

それに足を取られた。

剣戟の均衡が崩れる。

 

「好機!」

 

その隙を見逃す剣士などこの世に存在しない。

瞬時にミホークは黒刀「夜」を片手で横薙ぎに振るう。

 

一閃―――。

 

未だ世界最強の剣士ではないとは言え、一人で偉大なる航路(グランドライン)の前半の海を乗り越えた剣士。

その研ぎ澄まされた刃は離れた場所に聳え立つヤルキマン・マングローブを両断した。

が、断つべき相手には躱されていた。

体勢を崩した、ように見せかけたシャンクスは放たれた必殺の一撃を地に這うかの如く身を伏せて躱していた。

そのまま飛び起きるかのように隙を見せたミホークの懐に入って覇気を纏わせた剣を振るう――――判断を瞬時に変えて、後ろへ飛び退いた。

 

「誘いを利用して誘おうとするなんて嫌な奴だな。鷹の目」

 

「あんな見え透いた誘いを掛けるからだ」

 

シャンクスの額を一筋の汗が流れ落ちる。

あのまま飛び込んでいたら、間違いなく串刺しにされていた。

両手で黒刀を振るわず、片手で振るったのは返す刀で攻撃する為だったのだ。

 

 

「全くもって一筋縄ではいかねえな」

 

「闘いとはそういうモノだろう」

 

お互いに仕切り直して得物を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギドーと別れた俺は一人、無法地帯を歩いていた。

 

うーん、やばいな。

海軍の動きが予想以上に早い。

もう中将が出てくるとは思いもしなかった。

この時代の中将っていうと後に大将になるサカズキやボルサリーノ、クザンが所属しているはずだ。

もしこの島に来ているのが彼らだった場合はシャボンディ諸島が原作並みに被害甚大になる可能性は大きい。

自然系(ロギア)の能力は周囲に与える影響が大きすぎる。

こりゃ呑気に海賊たちの見物を考えてる場合じゃないかも。

まずは命を一番に考えないと。

巻き込まれて死ぬなんて溜まったものじゃない。

でもやっぱり一目でいいから見てみたい気持ちもあるのは隠しきれない。

そんな風に悶々と考えていると上からミシミシと嫌な音が聞こえてきた。

上を見上げる。

 

「嘘だろ」

 

ヤルキマン・マングローブが落ちてこようとしていた。

 

「うおおおお!!」

 

俺は剃を使い全速力でその場を離れる。

間一髪でヤルキマン・マングローブは落ちてきた。

落ちた衝撃で吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がり、そのまま大の字で仰向けになる。

唐突に訪れた命の危機に心臓がバクバクと鼓動し続けるのを感じつつ俺は決意した。

よし、帰ろう。

命を大事に。

 

俺は立ち上がろうとした。

瞬間、天地が引っ繰り返った。

人間、本気で驚くと声すら上げるのを忘れるものである。

何かにまた吹き飛ばされた事がわかったのは、再び大の字で仰向けになった時だった。

もうやだ。

一体何でこんな目に。

 

「チクショー、こんなにしんどい戦闘は久々だ」

 

砂埃の舞う中、聞き覚えのある声がした。

この声は───。

甲高い金属音と共に砂埃が一気に散る。

その姿を認めた時、何でこんなところにいるんだと叫びたくなった。

晴れた視界に映ったのは、あのシャンクスだった。

同時にシャンクスもこちらに気づいて驚いた顔で見てきた。

 

「お前さっきの坊主!何でこんなところに!」

 

シャンクスは驚いていたが頭を振って、すぐに真剣な表情になる。

 

「おい、鷹の目! 子供がいて巻き添えになりそうだからちょっとタンマっ!?」

 

シャンクスが突然、体をひねる。

その赤髪が数本、ひらりと宙に舞う。

 

「決闘に待てなどないぞ。赤髪」

 

シャンクスの視線の先に身の丈程もある黒刀を携えた男が立っていた。

誰がどう見てもあのミホークだった。

状況的に決闘中ですねコレ。

やばいここにいたら絶対死ぬ。

 

「頭の固い奴だな、っと!」

 

鋭い金属音と共に空気が震動した。

 

「坊主! すまんが抑えるので精一杯だ。頑張って逃げてくれ! 坊主ぐらいの強さなら独りでも大丈夫だろう?」

 

気がついた時にはさっきまでそこにいたはずのシャンクスはミホークと鍔迫り合いをしていた。

嘘だろおい。

目で追えないどころの速さじゃない。

いつの間に動いたのかさえ全く認識できなかった。

それに俺が普通の子供じゃない強さを持っているのもバレてるっぽい。

たぶん見聞色の覇気だ。

でもそんなことより今は─────

 

「言われなくても逃げます!」

 

俺は全力で剃を使って逃げ出す。

あんな戦いに巻き込まれたら今の俺じゃ命がいくつあっても足りない。

今にも斬撃が飛んできて真っ二つにされそうな場所になんていられるか。

しかし、突然降ってきた大きい真っ赤な何かに出鼻を挫かれて足を止めてしまう。

ってマグマじゃねーかこれ!

弾かれたように空を見上げると、巨大な拳型のマグマが雨のように降ってきていた。

 

「ふざけんなあああ!!」

 

悪態をつきながら必死に降ってくるマグマを躱す。

次から次へと何でこんな目に合わなければならないんだ。

あ、まずい。

マグマのせいで無事な足場がもう近くにない。

見上げると目の前にマグマの拳―――が縦に裂けた。

 

「ふいー。間一髪だな」

 

シャンクスだった。

ギリギリのところでマグマを斬って助けてくれたようだ。

本当に死ぬかと思った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いやいや、元々こっちが巻き込んだんだ。礼を言われる道理なんてねえさ」

 

そう言った後、シャンクスは地面に落ちたマグマの一つを睨みつける。

 

「で、こんな子供を巻き込んで攻撃を仕掛けてくるのが正義の海軍様のやり方かい?」

 

「ぬかせ海賊が。こんな無法地帯にいて六式を使い、海賊といるガキが無害な訳がない」

 

そのマグマはある男の形になる。

海賊を必要以上に悪と憎み、完全撲滅を願う男。

悪魔の実でも希少な自然系(ロギア)のマグマグの実の能力者で後の海軍大将。

サカズキ。その男だった。

送り込まれた中将ってサカズキの事だったのか。

またよりによって海賊絶対殺すマンをよこすなんて。

島の被害が洒落にならない事になるぞ。

それにさっきから何か嫌な話の流れになってる気がするし。

 

「すまん、鷹の目。決闘どころじゃなくなりそうだ」

 

シャンクスの言葉に興醒めと言わんばかりにミホークは溜息をついた。

 

「下らん。俺は行かせてもらう」

 

「誰も逃がしはせんぞ」

 

いつの間にか周囲を海兵たちに囲まれていた。

完全武装の海兵たちによる包囲で何門もの迫撃砲が俺たちに狙いをつけている。

それに何人か明らかに他の雑兵とは違う手練れが混ざっている。

本気で俺達をここで仕留めるつもりらしい。

 

「邪魔をするなら斬り伏せるまで」

 

ミホークは黒刀を構える。

ダメだ。

この感じはなし崩し的に俺も海軍とやりあう流れだ。

何とかこの状況を切り抜けないと。

 

「えーっと、僕は関係ないので帰っても」

 

「ほざけ小僧。後でそこの海賊との関係と何処でその六式を覚えたのか吐いてもらうからのう!」

 

取り付く島もなかった。

こんなことならさっさとマリージョアに帰ればよかった。

今更天竜人だと暴露しても聞く耳すら持ってくれないだろう。

後悔先に立たず。

とにかく今は生き残ることを考えなければ。

ふとシャンクスが俺の頭にポンと手を置いた。

 

「悪いな、坊主。巻き込んじまって。ちょっと下がってな。お前は俺が責任持って守るさ」

 

不安にさせまいとしてるのかニッカリと笑顔を浮かべるシャンクス。

ダメだ。

彼の足手まといになる訳にはいかない。

未来の大将相手に俺を守りながらじゃ勝てるものも勝てなくなる。

 

「大丈夫です。あのマグマの相手は無理ですけど、アレ以外なら何とかなります」

 

俺は能力を発動させ、人獣型に変身する。

 

「こいつは驚いた。その年で能力者か」

 

「やはりただの小僧ではないか。吐いてもらう事が増えたのう」

 

俺が能力者だったことが判明して、俄かに場がざわつく。

やっぱり子供が能力者なんて相当珍しいんだな。

 

「よし。なら俺があのマグマ野郎の隙を何とかして作るから、その時になったら全力で包囲を抜けろ。できるか?」

 

シャンクスが願ってもない提案を耳打ちしてくれる。

当然乗らない選択肢はない。

 

「もちろん。死にたくないですから」

 

「よし、じゃあ行くか。あまり気負うなよ坊主!」

 

「はいっ!」

 

シャンクス、ミホークと共に並び立って海軍と対峙する。

命の危機に晒されているとは言え、この二人と一緒に戦うって考えると興奮してくる。

きっと大丈夫だ。

相手が未来の海軍大将とは言え、こっちも未来の四皇と七武海がいるんだ。

負けることはないはずだ。

 

ボコボコと音を立ててサカズキのマグマが膨れ上がっていく。

 

「誰一人逃すつもりはない。ここで終わりじゃ海賊(クズ)共!」

 



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第十一説:大乱闘

何年も前に始めた拙作が先日、日間ランキングに乗って驚きました。
ありがとうございます。
感想やメッセージは忙しく返信する事ができませんが、全て拝見させていただいております。
この場を借りてお礼を申し上げます。



時を遡ってテラマキアたちがサカズキと対峙する少し前。

 

「全くテラのやつ、どこ行ったんだ?」

 

ガイアはお忍びで勝手に出かけたテラマキアを探してシャボンディ諸島にいた。

 

「テラの御父上に連れてこいと言われたんだがな」

 

数日後に行われるはずの大人間オークション。

それが多くの天竜人の希望、またの名を命令で今日に変更にされたのでゾディアックはテラマキアも連れていこうとしたが、案の定テラマキアはいつも通り勝手に外に出かけていた。

ガイアはカンカンに怒っていたゾディアックを思い出して嘆息する。

 

「連れて帰ったらお仕置きだな」

 

その時、悲鳴が聞こえたと共に何かが彼の体を凄まじい衝撃で走り抜けた。

 

「うおっ──!?」

 

己の体を見下ろすと胴に肉球型の穴が空いていた。

自然系の能力者じゃなければ致命傷は避けられなかっただろう。

 

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)

 

素早く体を後ろに引く。

先程まで立っていた場所を砂の刃が通り過ぎ、そのまま建造物を斬り倒す。

気づくのが遅れていれば当たっていたかもしれない。

 

欠片蝙蝠(ブリック・バット)!!」

 

圧力(パッド)砲」

 

どうやらこんな市街地のど真ん中で海賊たちが小競り合いを始めたようだった。

その余波で次々と周りの人や建物が傷つき、壊れていく。

 

「ああっ!私の家があぁ!!」

 

住人らしき女性が斬り倒された家を見て、嘆きの声を上げていた。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

その向かい側では男性が気を失った恋人らしき女性を抱えてうずくまっている。

その二人に砂の刃が迫っていた。

ガイアは能力でその二人の前に鋼鉄の壁を作る。

砂の刃は壁に阻まれてあっさりと霧散した。

ガイアは戦闘音の響く方を睨み付ける。

もはや怒りの限界だった。

 

母なる大地(アース・ガイア)

 

地面から土が大きく盛り上がり、直径4メートル程の巨大な塊となる。

 

慈悲の拳(ビッグ・ブロウ)!!」

 

その塊は拳の形を模して、未だ暴れている海賊たちへと放たれた。

 

「くっ!?砂嵐(サーブルス)!!」

 

突然乱入したその巨大な土の拳に海賊の一人―――クロコダイルが反射的に巨大な砂嵐を繰り出す。

 

「なにっ!」

 

が、その土の拳は砂嵐を物ともせず突き破り、クロコダイルを容易く粉砕した。

しかし、覇気を纏わない攻撃だった以上、砂の自然系であるクロコダイルには効かない。

粉々にされて宙に舞った砂が集まり、元の形をとっていく。

 

「自然系の能力者か」

 

その一部始終を見て得心するガイア。

 

「お前は確か……」

 

「キーッシッシッシ!堕ちた中将、ガイアか! まさかこんな海軍本部に近い島にいるとはな。海軍に未練でもあるのか?」

 

モリアがガイアの姿を見て、嘲笑うように問いかける。

 

「貴様らに話す必要があるか? 海のクズどもが」

 

クロコダイルにゲッコー・モリア、それにバーソロミュー・くまの三人。

海軍に所属していた頃の癖で手配書をこまめに確認していたガイアは暴れていた海賊が最近名を上げているルーキーだと一目でわかった。

 

「民間人に被害が出る。よそで暴れろ。無様を晒したくなければな」

 

一応、言葉で軽く脅しをかける。

が、相手は海賊。

それも血気盛んな怖いモノ知らずのルーキー。

 

「もはや海軍ですらない貴様に言われる筋はない」

 

「カスが死のうと俺には関係ない」

 

「キッシッシッシ! 巻き込まれる奴が悪いんだ!」

 

満場一致の拒否だった。

ならば後は単純である。

 

「そうか。なら力づくだ」

 

ガイアはバキリと指を鳴らす。

海軍を辞めて今では奴隷にまで堕ちた身だが、未だ己の正義を捨てたつもりはない。

弱きを助け、強きを挫く。

今もその信念を胸に生きている。

そしてそれを為すべきなのはまさしく今この時である。

 

「これ以上被害を出したくないんでな。手加減なしで行かせてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさにガイアとルーキーたちが戦闘が始まろうとする時。

 

「フフフフ。まさかあの堕ちた中将がこの島にいるとはな」

 

それを影から見物する男───ドンキホーテ・ドフラミンゴが嗤っていた。

彼がこの場にいたのは単純に偶然だった。

この島に来た目的を終えて、海軍に気づかれない内に手早く島を離れようとした時にあの小競り合いが始まった。

それだけなら大して珍しくもないもので足を止めるに値しなかったが、あの堕ちた中将が出てきたことで話が変わった。

さる情報筋で中将ガイアが奴隷に、それも天竜人に買われたことは既に耳にしていた。

が、どうしたことか、あの中将は奴隷の首輪をしていないどころか海軍にいた頃のようにピンピンしている。

一瞬、情報の信頼性について疑ったが、すぐに否定した。

天竜人が関わった取引などオークションに裏を取ればすぐに分かってしまう。

デマが入る余地すらない。

ならば天竜人から逃げ出したのか。

これも可能性が薄い。

逃げ出すのは不可能ではないだろうが、仮に逃げ出した場合、次期大将とも噂されていた大物である。

必ず政府や海軍に何らかの動きがあるはずだが、目ぼしい動きもなかった。

思考が目まぐるしく流れていくが、一向に答えは出ない。

しかし、少なくともが知らない動きがあった事ははっきりしていた。

計画を進める上であれほどの大物の動きを把握できていないのは危険だ。

そう考えて結局、ここで様子を見て、自身で答えを探る方が手っ取り早く確実という結論に辿り着いた。

そうした事情と退屈しのぎも兼ねてドフラミンゴは面白そうにこれから始まる戦いを観戦しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「錬金〝ダイヤモンド〟」

 

ガイアは能力を発動させる。

 

大地の武具祭(ガイア・ウェポンカーニバル)

 

ガイアの体から様々な種類の無数のダイヤモンド製の武器が射出され、クロコダイルたちを狙う。

もちろんガイアはそれらに武装色の覇気を纏わせている。

そんなことは露ほども知らないルーキーたち。

モリアとくまはあっさり躱すが、クロコダイルだけはいつものように自然系の能力を信頼し、躱すことを怠った。

それは当然過信であり、ガイアの放った覇気を纏った武具たちは何の抵抗もなく当たり前にクロコダイルの体を貫いた。

 

「がはっ…! なんだとっ!!!??」

 

驚愕。

全身に走る激痛すら押しのけてクロコダイルは頭はそれに支配された。

弱点である水をかけられて攻撃が当たったことはあるにしても、通常の状態で攻撃を受けたことはなかった。

自然系に物理攻撃は通用しない。

実際に今までこの言葉の通り、前半の海で己の体に触れることが出来たのは誰一人いなかった。

そしてこれからもそのはずだった。

にも関わらず目の前の敵は容易くその己が信じていた現実を打ち砕いてくれた。

 

「面白れぇ……!」

 

クロコダイルは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「こりゃ驚いた。自然系に物理攻撃を通すなんざ、どんな手品使ったんだ?」

 

モリアも驚愕の表情を見せ、くまは眉間に皺を寄せる。

 

「覇気も知らないようじゃ程度が知れるな」

 

ガイアは無慈悲にもクロコダイルに追撃を図る。

 

「行け、影法師(ドッペルマン)!」

 

しかし、モリアがガイアの背後を狙って己の影を突進させる。

当然見聞色の覇気も修めているガイアには通用するはずもなくあっさり躱される。

 

「キッシッシッシ! 何に知ろうが知るまいが勝ちゃあいいのさ」

 

「勝てればな」

 

影はなおもしつこくガイアを追撃する。

もちろんガイアはそれらの攻撃を全て掠る事すらなく躱していく。

見聞色の覇気を使っている以上、格下の攻撃に当たる事はまずない。

 

「ちいっ!すばしっこいやつめ!」

 

そんな事を知る由もないモリアは攻撃が当たらない事に歯嚙みする。

唐突にモリアが膝をつき、吐血する。

モリアの背後にあった家に肉球型の穴が空いていた。

 

「ごふっ……。てめえ、くま……!」

 

「注意散漫だな」

 

くまの「圧力(パッド)砲」の不意打ち。

ガイアへの攻撃に集中していたモリアに避ける術はなかった。

 

「俺達は別にあの男を倒すために協力している訳ではない」

 

それは至極真っ当な事だった。

彼らはガイアが来るまでの間も戦っていた上にそもそも人一倍我の強い海賊。

元海軍という共通の敵相手とはいえ協力という言葉が出てくるはずもない。

少なくともくまはそうだった。

 

「バトルロイヤルという訳か?」

 

「的を射ている」

 

その瞬間、くまの姿が消える。

いつの間にかガイアの後方に移動し、しこを踏み始めていた。

それが目で追えない動きだったことにガイアは少しだけ驚く。

見聞色の覇気で背後を取られた事はわかったが、まさか覇気も知らないルーキーが自分の目を超えるとは思ってもみなかった。

 

「速いな。剃のような移動法という訳でもないし、悪魔の実か?」

 

「答える義理はない」

 

くまがしこを踏み終え、両手を前に突き出して構える。

突き出された両手にあった本来、人の手にない肉球を見てガイアは目を細めた。

 

「肉球?」

 

「つっぱり圧力(パッド)砲!!」

 

くまは怒涛の勢いで何もない空をはたく。

はたかれた大気が衝撃波となってガイアを襲う。

 

「なるほど、大気をはたいて砲弾の様に使うか」

 

ガイアはそれらを何でもない様に紙一重で躱し、くまとの距離を瞬時に詰める。

予想外の速さに対応が遅れたくまは急いで両手を前に持っていき、肉球による反撃を試みようとした。

 

「遅い」

 

が、それよりも先にガイアが武装色の覇気を纏わせた拳でくまを鳩尾を抉る。

くまの巨体が一瞬、空に浮く。

呻き声を上げると共にくまは膝をついた。

 

「お返しだ」

 

ようやく立ち直ったクロコダイルがその攻撃の隙を狙ってガイアの背後に迫る。

 

三日月形砂丘(バルハン)!!」

 

角刀影(つのとかげ)!!」

 

しかし、三日月形の砂の刃で斬りかかろうとしたクロコダイルは影の槍に貫かれて出鼻を挫かれる。

 

「くそっ!邪魔しやがって!」

 

「そいつは俺の獲物だ!やらせるか!」

 

言い争いを始めるモリアとクロコダイルにガイアは嘆息した。

先程の戦いで三人の大体の力を掴んだガイアはさっさと終わらせようと挑発を試みる。

 

「どうでもいいから全員でかかってこい。五秒で終わらせてやるから……?」

 

挑発の最後が疑問形になったのは見聞色の覇気がある声を捉えたからだった。

苛立ちと怒りの声。

それもそれなりの実力者のだ。

そして声の主が動き始める。

 

「ごちゃごちゃうるせえええええええええーーーーーー!!!!!」

 

突然、何者かの怒声が響き渡る。

同時に巨大な長いものが戦闘で半壊した酒場から屋根を突き破り、存在を誇示するかの様に垂直に聳え立つ。

 

「なんだありゃ?」

 

「鱗の生えた尻尾?」

 

その巨大な長い鱗の尻尾らしきものはゆらゆらと揺れた後、ガイア達を目がけて振り下ろされた。

圧倒的な質量を持ったそれが全てを叩き潰さんとばかりに迫る。

 

「ちぃッ!」

 

「ふざけやがって!」

 

「くっ」

 

海賊たちが尾から逃れようと回避行動を取る中、ガイアは迫る尾を見据える。

 

「これ以上、町に被害を与えてたまるか。土神の巨手(キングゴーレム・ハンド)!」

 

瞬時にガイアの右手が膨れ上がり、巨大な土塊の手と化す。

その手が振り下ろされた巨大な尾を受け止める。

轟音。

衝撃が大気を震わせる。

ガイアの足元を中心に地面に亀裂が走り、砕ける。

被害はそれだけで治まった。

受け止められた尾がシュルシュルと小さくなって、もはや見る影も無くなった酒場の跡地に戻っていく。

それを見届けたガイアも警戒を解かずに手を戻す。

 

「たくっ。おちおち酒も飲めやしない」

 

その跡地から青い髪の青年が現れた。

けだるそうに酒瓶を片手に文句を垂らす。

 

「手配書で見た顔だな。《神咲》のブルーだったか」

 

ガイアにブルーと呼ばれた青年は持っていた酒瓶の中身を一気に呷って、それを投げ捨てた。

酒で汚れた口を手で乱暴に拭うと、ガイア達を見据える。

 

「俺の事なんざどうでもいいんだよ。人が機嫌良く酒飲んでる横でドンパチやりやがって。死にてぇのか」

 

「それならここで暴れ始めた奴等に文句を言え」

 

「ああん? どいつ等だ」

 

ガイアが顎で示した先を怒りを滾らせた目で追う。

そこにいたのは三人の極悪海賊達。

 

「知るかバカ」

 

「そこにいる奴が悪い」

 

「死ね」

 

つい先程、圧し潰されかけた直後。

当然、反省も謝罪もあるはずなく、その口から出るのは罵倒のみである。

それを聞いたブルーの反応。

 

「わかった、全員殺す」

 

案の定だった。

再び一触即発の雰囲気が場を満たす。

海賊達の下らないやり取りに呆れたガイアは、さっさと終わらせようと動き始めた。

 

「こんな所で何を暴れておるのじゃ」

 

「なっ……!」

 

が、聞き慣れた声に驚き、足が止まる。

他のルーキーたちは現れたその姿を見て、驚愕と屈辱に顔を歪ませながら、慌てて膝をついて顔を下げる。

 

「それでテラマキアは見つかったのか、ガイア」

 

唐突に戦場に現れたのは天竜人。

四つん這いではなく、しっかり大地に足を踏みしめて立っている巨人の奴隷の、その肩に乗ったゾディアックだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフ! 天竜人の奴らまで絡んできたか」

 

ドフラミンゴは未だ事態の行く末を遠方から見物していた。

先程まではバレない程度に近くの物陰から様子を窺っていたが、ブルーの尾に巻き込まれそうになり、一旦距離を取ったのである。

 

「しかし、読めねえな。あの中将いったいどういう立場だ?」

 

ドフラミンゴの目に映るのは最初は膝まづいていたとは言え、今は天竜人相手に真正面に立って対応するガイアの姿。

そしてそのガイアを銃で撃つ事はおろか、咎める事さえせずに普通に天竜人は会話している。

距離が離れているせいで会話の内容は分からないが、見る限り険悪な様子ではない。

通常の天竜人なら考えられない極めて異常な状況だった。

下等種に対して何の措置もしない天竜人。

ドフラミンゴの脳裏に最低最悪の記憶がちらつく。

 

「……イライラさせやがって」

 

地獄の底から響くような声。

もしも聞いていた者がいたなら、関係ないにも関わらず、今すぐ土下座して許しを請うていただろう。

それ程までにその言葉には狂おしい程の怨嗟と憤怒が込められていた。

その顔が醜悪な笑みで歪む。

 

「仕方ねえ奴だ。その気がねえなら俺がその気にさせてやろう」

 

ドフラミンゴは右手をゆっくりと動かす。

まるで操り糸を手繰る様な手つきで。

 

「フフフフフ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、そうかしこまらんで良い」

 

巨人に肩から地面に降ろしてもらったゾディアックは自分の姿を認めて、慌てて膝をつこうとするガイアを止める。

 

「ですが……」

 

ガイアはこの状況が政府、ひいては他の天竜人に知られる事を危惧していた。

テラマキアの両親であるゾディアックとサマルドリアが通常の天竜人と違い、人間その他種族達に対する情を持っている事はこの奴隷生活を通して既知の事実だった。

そしてそれを周囲に隠している事も。

 

「心配せんでも良い。仮に見られてもどうにでも出来る様に、その辺りの根回しは済んでおる」

 

しかし、ガイアは心配は杞憂であった。

ゾディアックはこれまで長い間、その異端な思想を持ちながら家族を守る為にあらゆる手段を用いて、周囲を欺き続けてきた百戦錬磨の人物である。

今更この程度の状況を見られた所で、それを握りつぶす事は造作もなかった。

 

「しかし、海賊共が」

 

「放って置け。ごろつき共の目撃証言など誰も相手にせんわ」

 

ガイアは周囲に膝まづく海賊達の目を気にするが、そんな躊躇いをゾディアックは一蹴する。

 

「……では、お言葉に甘えて」

 

「うむ、それでよい。お主を粗末に扱ったらサマルドリアにどやされてしまうわ」

 

恐る恐る立ち上がるガイアを見て、満足げにゾディアックは頷く。

海賊達は一連の会話の流れを聞いて、心の中で困惑していた。

海軍から離反した元中将が何をどうしたら天竜人に親しげにされるのか。

まるで先が読めない状況にこの場を離れたい欲求が湧くが、天竜人の手前、下手に動く事も出来ない。

今、彼らに出来るのは固唾を吞んで事の成り行きを見守る事だけだった。

 

「それで、どうしてこんなところに?」

 

ガイアはまず当然の疑問を投げかける。

ここは先程まで戦場だった場所。

いくら天竜人とは言え、好き好んで来るはずはない。

 

「いや、儂もテラを探しておった最中で、その時にこの町から巨大な土の手が見えての。お主がおると分かって何があったのかと来てみた次第じゃ」

 

ゾディアックは顎を擦りながら荒れ果てた町を見渡した後に膝まづいている海賊達に目をやる。

 

「ま、お主が訳もなく暴れるはずがないからのう。大方そこの海賊どもを懲らしめていたという所か」

 

「仰った通りです。申し訳御座いません。すぐに済ませてテラを探しに行きますので」

 

「これ、そんな面倒な事はせんでよい。儂の方から海軍に連絡を入れておく故、お主はテラを」

 

そこまで言って、ゾディアックの言葉が止まった。

その顔面が歪んでいる。

 

何故?

拳がその頬に突き刺さっているからだ。

 

誰が?

その拳の主は海賊ブルー。

 

つまりは、殴ったのだ。

海賊が天竜人を。

 

ガイアが目の前に現実を理解した時にはゾディアックは殴り飛ばされていた。

地面を弾んで勢いよく転がっていく。

 

「ご主人様!」

 

巨人の奴隷が野太い悲痛な声をあげてゾディアックに駆け寄っていく。

ガイアは弾かれた様にブルーの首を鷲掴み、そのまま仰向けに地面に打ち据えた。

 

「全員動くな」

 

混乱に乗じてこの場を離れようとした海賊達はガイアの放った言葉の圧にその動きを止められた。

ガイアは打ち据えた目の前の男を睨みつける。

完全に油断していた。

普段のガイアであればあの程度の不意打ちなど問題なく対処できた。

しかし、あの時は天竜人の前で、ましてやその天竜人を害するはずがないと思い込んでしまっていた。

天竜人と敵対するという事は世界政府を相手にするという事で、実際に海軍大将を相手にする事になる。

海賊であるなら何としても避けたい事態のはずだ。

それらのリスクがありながらこの男はゾディアックを殴った。

この自分の前で、だ。

どんな理由があってそんな自殺行為を図ったのか、皆目見当がつかなかった。

 

「どういうつもりだ貴様」

 

自分でも驚く程、重く低い声が出る。

自分の不甲斐なさと目の前の男に対する憤怒が嫌でも漏れ出てしまう。

 

「どういう事だ……。俺は何で」

 

しかし、その問いかけられた男であるブルーの顔は恐怖でもなく、怒りでもなく、ましてや悲しみでもなく。

ただひたすらに困惑に染まっていた。

その予想外の反応にガイアは面食らう。

 

「何を戯けた事を! 貴様がやった事だろう!」

 

「違う! 俺の意思じゃない。体が勝手に……!」

 

強く問い詰めても否定するブルーの様子に、ガイアの内で疑念が湧き始める。

確かにあの状況であんな行動を起こすのはあまりにも腑に落ちない。

この様子を見る限り、天竜人を害する動機があったとは考えにくい。

それによく考えれば、あの時、あの攻撃をする際、この男の()が聞こえなかった。

覇気も知らない若造が()を隠蔽するなんて高度な技術を使えるはずがない。

ならば―――。

 

「儂は少々海賊というモノを侮っていたらしい」

 

「ゾディアック聖! 立ち上がっても大丈夫なので?」

 

顔を大きく腫らし、体中に擦り傷を作ったゾディアックが巨人の奴隷に付き添われながら戻ってきた。

ガイアの心配を手で制して、ブルーを睨みつける。

 

「この儂に手を出したのだ。その蛮勇と愚かさに相応の報いをくれてやろう」

 

その表情は全身を苛む苦痛に染まりながらも憤怒の感情が滲み出ている。

 

「喜べ海賊(クズ)ども。大将が来てくれるぞ」

 

そしてその感情を吐き出すかの様に海賊達に死刑宣告を言い渡した。



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