沢渡さんの取り巻き+1 (うた野)
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沢渡さん 編
沢渡さん、マジ甘党っすよ!


沢渡さんが格好良すぎてつい……


『俺はスケール1の星読みの魔術師とスケール8の時読みの魔術師でペンデュラムスケールをセッティング! これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!』

 

舞網市に数多く存在するデュエル塾、その中で最大手とされるのLDS(レオ・デュエル・スクール)の資料室に設置された端末の前に座り、映像を瞬きもせずに眺める黒髪の少女が居た。

流れている映像はつい先日行われたばかりのアクションデュエルチャンピオン、ストロング石島のエキシビションマッチ。だが別に少女がストロング石島の熱狂的ファンと言うわけではない。現に少女が繰り返し見ているシーンにストロング石島はほとんど登場していない。

彼女がまるで機械のように繰り返しているのは、その対戦相手が行った、初めての召喚方法、ペンデュラム召喚のシーンだ。

しかし一部の市民が「インチキ」「それズルじゃん!」などと騒いでるように何かイカサマが行われたのではないかと見定めているわけではない。どんなカードであってもデュエルディスクが認識している以上、公式ルールに反したものではない。

ならば探すべきなのはイカサマの証拠などではなく、それに対抗する手段だ。今現在、ペンデュラム召喚の使い手はたった一人だが、これから先、ペンデュラムカードが量産されないとも限らない。むしろされるのが自然の流れだ。だからこそ少女は数少ないペンデュラム召喚の資料を漁っていた。

映像を見て、何かを手元のノートへと書き連ねていく。ノートには「セッティングされたペンデュラムカードの扱いは?」「ペンデュラム効果とは何だ? いつ発動する?」「ペンデュラム召喚は一度の召喚?」「神警、神宣でおk?」などと他人には到底読めない乱雑な字が書き込まれている。

数十回繰り返したところでこの資料だけではこれ以上の研究は不可能としたのか、少女は静かに端末の電源を落とした。

 

「熱心ね」

 

電源が落ち、ブラックアウトした画面に背後に立っていた褐色の肌を持つ少女の姿が映り、同時にその褐色少女が声を掛けた。それに驚くこともなく座っていた少女は立ち上がる。

 

「デュエリストですから。未知の召喚方法や効果に興味を示すのは当然です」

「それが出来ずにバッシングするようなデュエリストはいくらでも居るわ。残念な事にLDS(ここ)にもね」

「相手の心を折るのも戦略の一つです。あまり好まれる方法ではないですが」

「当然だわ。デュエリストなら自分のカードの力で戦うべきよ」

 

そのデュエリストらしい答えに少女は内心で(あなたの仲間のしつこいバウンスも十分心折れそう)と考えるが、言葉にはしない。自分自身、他人の事を言えるようなデュエルではなかった。

 

「それで未知のペンデュラム召喚の対策は出来たの?」

 

黒髪の少女は首を振る。

 

「情報が少なすぎます。それにいくら対策を立てても実際にデュエルをしてみなければ分かりません」

「その通りね。まだ入って日が浅い割に、しっかりと理解してるじゃない」

「あなたが融合コースのマルコ先生に教わっているように、私も恩人から教わっていますから」

「恩人、ねえ……」

 

何故かくすんだ目をして「恩人」という言葉を繰り返す褐色少女。それに初めて黒髪の少女は表情を崩した。

 

「何か?」

 

若干不機嫌そうに眉を上げ、尋ねる。

 

「あなたが入って来た時から思ってたんだけど、どうして――」

 

褐色少女が言葉を紡ぐ途中で黒髪の少女のデュエルディスクの通話機能が着信を告げた。

 

「……失礼」

 

一言断り、少女はディスクを通話モードにし、耳に当てる。

 

「もしもし」

『あ、もしもし久守(くもり)っ。今何処に居るっ?』

「山部。LDSだけど、どうしたの」

『よしっ、実は俺達今学校終わってさ、今からじゃあの人に追いつけそうにないんだよ。だから悪いんだけど、ご機嫌取りにあの人の好きなケーキ買って待っててくれねえ?』

「山部」

『うん?』

「あの人が好きなのはただのケーキじゃない。スイートミルク・アップルベリーパイ~とろけるハニー添え~。間違えたら怒られる」

『ああ! じゃあとにかく頼んだ!』

 

最後の言葉は完全に聞き流され、通話は切られた。

 

「申し訳ない。話の途中だけどこれで失礼します」

「……一応聞いておくけど、これから何処に何をしに行くのよ」

「駅前のケーキ屋へ。スイートミルク・アップルベリーパイ~とろけるハニー添え~を買いに」

「はあ? そんなのそこの売店で良いじゃない」

「LDSの売店には普通のアップルパイかケーキしか売ってませんから。一応要望は出していますが、カードではないのですぐには反映されないと思います」

「……まさかパシリじゃないでしょうね」

「いいえ、使命です。それでは失礼します、光津さん」

 

一礼し、久守と呼ばれていた少女は去り、資料室には光津と呼ばれた少女、光津真澄だけが残る。

残された真澄は資料室の窓から外を覗く。するとすぐに今去ったばかりの少女がケーキ屋へと駆け

ていくのが見えた。それを見て真澄は溜め息を吐く。

 

「本当にどうして、あいつの取り巻きなんかやってるのかしら……」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

山部からの連絡を受け、慌ててケーキ屋に走りスイートミルク・アップルベリーパイ~とろけるハニー添え~を購入しました。

まったく、LDSにも早く置いてほしいものです。そうすれば急に食べたくなった時でもあの人を待たせることなく用意できるというのに。

それに山部達も何をやっているのか。私と違いあの人と同じクラスに居るという羨ましい状況にいながら、あの人を待たせるとは。

まあ山部たちを責めても仕方ありません。今はとにかく急いでLDSに戻らねば。私があの人を待たせるわけにはいきませんから。

けど、いずれ光津さんとがデュエルで決着をつけなければいけませんね。何を言いかけたのかは知りませんが、あの人を馬鹿にしたような態度は許せません。いくらあの人と同じエリートで、しかも融合コースに所属しているからといって見逃せない。私や他のデュエリストを見下すのは勝手ですが。とにかくあのDT三人組とはいずれデュエルを……

 

 

「ん、久守、今来たところか」

 

 

「沢渡さん!!」

 

LDSの入り口前で私を呼んだのは――イッヤホゥ! 沢渡さん! 今日初の生沢渡さんだ! あんな三人組なんてどうでもいい! 沢渡さん、今日もマジ格好良すぎっすよ!

 

「沢渡さん沢渡さん、来る途中で沢渡さんの好物のスイートミルク・アップルベリー~とろけるハニー添え~を買って来たので一緒に食べましょう!」

「ほぉ、気が利くじゃないか」

「いやそんな! これぐらい当たり前の事ですよ!」

わぁい! 沢渡さんに褒められた!

「そういや知ってるか?」

 

LDSの門を潜り、通路の真ん中を歩く沢渡さんに並びながら沢渡さんとの会話に花を咲かせる。

 

「何をですか?」

「あのペンデュラム召喚、それを使ったのが俺達と同じ学校の、同じ学年の奴だって」

「そうなんですか!」

知らなかった! あの榊遊勝の息子って事は簡単に分かったけど、まさか同じ学校だったとは。流石沢渡さん、情報が速い!

「俺もテレビで見てたけど、すげーよな、ペンデュラム召喚」

 

おおっ、融合もシンクロもエクシーズも興味ないって言ってた沢渡さんが興味を! これはレアですよ!

 

「やっぱりああいう特別な召喚は沢渡さんみたいな特別なデュエリストが使えばもっとすごくなりますよ!」

「はっはっは! やっぱりぃ? だよなあ、俺もそう思ってる」

 

流石沢渡さん! 私が進言するまでもなく気付いてるぅ!

 

「だから俺、良い事を思いついてさ――そういや今日はあいつらはまだ来てないのか?」

「山部たちは遅れるそうです。それより沢渡さん、良い事って?」

「そう慌てるなよ。あいつらが来たら一緒に説明してやる」

くぅ~! 沢渡さんの焦らし上手ぅ!

「ならケーキを食べながら待ちましょう! その頃にはきっと山部たちも来るはずです!」

「ああ」

 

沢渡さんの言う良い事もすっごい気になりますが、山部たちが来るまでは沢渡さん独り占め! やったー!

もし山部たちが食べ終わっても来なかったらどうしよう、沢渡さんのカードたちを磨かせてもらおうか、それとも沢渡さんの肩を揉ませてもらおうか! あーもう今日は山部たちは来なくてもいい!

内心で狂喜しながら私たちはロビーへと到着した。空いてる席を瞬時に確保し、沢渡さんを迎える。

 

「さあ沢渡さん、どーぞ!」

「おう」

 

ソファにふんぞり返るように座る沢渡さん。それに見とれながらも私はテキパキと包装を解き、ケーキを沢渡さんに差し出す。

 

「じゃあ私は食後の紅茶を用意しますね!」

 

常に持ち歩いて、今日最初にLDSに来た時にロッカー室に預けておいたティーセットを取りに走ろうとする私を沢渡さんが止めた。

 

「待て」

「はい、待ちます!」

「茶なら後でいい。溶ける前にお前も食え」

「はい、いただきます!」

 

流石沢渡さん! 優しすぎっすよ!

 

「んぅー! やっぱり最高っ」

「沢渡さんの好物、マジ美味しすぎっすね!」

「だろ? いやーやっぱり俺ってば違いが分かる男なんだよね」

 

正直私には少し甘すぎですが、沢渡さん、マジ甘党っすね!

 

「ちょっと」

 

「あん?」

「はい?」

 

私と沢渡さんのおやつの時間を邪魔するのは一体誰ですか!

 

「誰かと思えば光津真澄か」

 

ま た お 前 か。

すっかり忘れていい気分になっていたのに、つくづく邪魔してくれる……。

 

「沢渡、あんた女の子をパシリに使って男として恥ずかしくないの?」

「はあ? 俺がいつこいつをパシリに使ったって?」

「さっきあんたの取り巻きから電話があって、その子が急いでそのケーキを買いに行ったのよ」

「何だと?」

「他の奴らならどうでもいいけど、その子があんたみたいなのに使われてるのは見てられないのよ」

「……おい、そうなのか」

 

光津さんの言葉に沢渡さんは不機嫌そうに私を見る。あ、うぅ……。

 

「確かに山部からの電話で買いに行きました。でもそれは私が勝手にやったことです。沢渡さんが気にすることなんてないですよ!」

「ふん、だとさ?」

「あんたねえ……!」

「そもそも私と沢渡さんは男と女である前にデュエリスト。男女云々というのはお門違いです、光津さん」

デュエリストは男女平等。それは常識だ。勿論私はデュエリストでなくとも沢渡さんについていきますけどね!

「くっ……あなたはそれでいいのっ? 沢渡なんかに顎で使われて、あなたならもっと上にだって行けるはずよ」

「興味ないです。それにそれは沢渡さんも同じ、もし沢渡さんがコースを変えるなら、私もそれについていくだけです」

 

それに融合やエクシーズ一つに絞るのは馬鹿らしい。私のデッキじゃ光津さんのジェムナイト程、一つに絞ってたらエクストラが厚くならないですから。

 

「それでも尚文句があるのなら、デュエリストらしく」

「デュエルで決めよう、ってことね。……いいわ、あなたのような原石が磨かれずにくすんだままなのは見てられないもの」

「私は沢渡さんの道に転がる石ころで十分です」

 

勿論沢渡さんが輝けといったらもうビカビカ光りますけどね!

 

「話はまとまったか?」

「はい。すいません沢渡さん、少し外します」

「あまり俺を待たせるなよ」

「はい。ケーキを食べながら待っててください!」

「ちょ、ちょっと! あんたはこの子のデュエル見ないの!?」

「生憎興味ないんでね」

「私のデュエルなんて、沢渡さんが見るほどのものじゃないですから」

……本当は見てもらいたいけど、そんな我が儘沢渡さんに言えないっすよ!

「今からアクションデュエル用のコートを取るのも時間が勿体ない、スタンディングで構いませんね」

「……そう、いいわ。相手にする気もなかったけど、あなたを倒したら今度は沢渡、あんたを叩きのめしてあげるわ」

 

沢渡さんの手を煩わせるまでもない。私が決める。

沢渡さんに一礼し、デュエル場へと歩を進める。

光津ますみ、総合コース以外の人とデュエルをするのは初めてだけど、戦法は聞いている。エリートである融合コースに所属するジェムナイトデッキ……融合には融合で決めてあげましょう。

 

 

 

「さあ、始めましょう、久守詠歌(くもりえいか)!」

「沢渡さんを馬鹿にした罪は重い……懺悔の用意は出来ていますか」

 

デュエル場で向かい合い、互いにデュエルディスクを構える。アクション用のコートと違い、スタンディング用の此処は複数人がそれぞれデュエル出来る。けれど私たちの気迫に押されたのか、使っていた他の塾生たちがそそくさとギャラリーに回っていく。沢渡さんほど魅せるデュエルは得意ではありませんが、宝石使いに魅せてあげましょう、路傍の石ころであっても、沢渡さんの輝きを受ければこれぐらいには輝けるという事を!

 

 

MASUMI VS EIKA

LP:4000

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

「先行は私よ! 私は手札から魔法カード、ジェムナイト・フュージョンを発動!」

 

初手からキーカードが手札にあるとは……沢渡さんほどじゃないですが、カードに選ばれてますね。

 

「私は手札のジェムナイト・ルマリンとジェムナイト・エメラルを融合!」

 

光津さんは二枚のカードを融合素材にし、手札から融合召喚を行う。……ダイガスタじゃないエメメメさんを見るとは思いませんでした。

 

「雷帯びし秘石よ、幸運を呼ぶ緑の輝きよ! 光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!」

オブシディアやラズリーでなかったのは幸運ですかね。それともあえてルマリンを使ったのか。

「融合召喚! 現れよ、勝利の探究者 ジェムナイト・パーズ!」

 

ジェムナイト・パーズ

レベル6

攻撃力 1800

 

「その様子だと融合自体は理解しているみたいね」

「昔は良く相手にしてましたから」

 

ヒーローは恐ろしい……。

 

「ふん、私をそこらの融合使いと一緒にしないことね! 私はカードを一枚セットし、ターンエンドよ!」

 

墓地のジェムナイトを除外すればジェムナイト・フュージョンを効果で回収出来る。それをしないのはプレイングミス……? いやそんなロマンチストじゃいけない。

 

「私のターン、ドローします」

「さあどうするの? 私のフィールドのジェムナイト・パーズの攻撃力は1800、決して高い数値じゃないわよ」

 

誘ってる。……それに乗るのもいいですが、今日の私は少し機嫌が悪いんです。

 

「私は手札からフィールド魔法、マドルチェ・シャトーを発動」

「フィールド魔法? 随分珍しいものを使うのね」

「アクションデュエルでない以上、フィールド魔法も立派な戦術です」

ソリッドビジョンによってフィールド魔法が再現され、周囲がお菓子の国へと変わる。

「このカードはフィールド上のマドルチェたちの攻撃力、守備力を500ポイントアップさせます。そしてこのカードが発動した時、墓地のマドルチェと名の付くモンスターをデッキに戻すことが出来ます、が私の墓地はカードが存在しないのでこの効果は無意味です」

むしろ強制効果なのでデメリットとも取れますし。

「手札からマドルチェ・エンジェリーを召喚」

 

マドルチェ・エンジェリー

レベル4

攻撃力 1000→1500

 

お菓子の国に現れたのは小さな天使。小さなスプーンを持った可愛らしい魔導人形がお菓子の国に降り立つ。

 

「可愛らしいカードを使うのね。正直意外だわ」

「いいえ、私には似合いですよ。人形なんて揶揄される私には。……可愛すぎる自覚はありますが」

 

似合わないってゆーな! 好きなカードを使って何が悪い!

 

「さらにマドルチェ・エンジェリーの効果発動。このカードをリリースし、デッキからマドルチェと名の付くモンスターを特殊召喚します。私はマドルチェ・ホーットケーキを特殊召喚」

「……馬鹿ね、確かにあの天使にはお似合いのフィールドだったけど、効果を発動した後にフィールド魔法を使っていればエンジェリーをデッキに戻すことが出来たわ」

 

……私の事を評価してくれているようだったのに、これをプレイングミスと考えるのはやっぱり私たちを見下している証拠じゃないですか。

 

「さらにホーットケーキの効果を発動、一ターンに一度、墓地のモンスターを除外し、このモンスター以外のマドルチェと名の付くモンスターをデッキから特殊召喚します。来て、マドルチェ・メッセンジェラート」

ホーットケーキの鳴き声に呼ばれ、デッキからお菓子の国の郵便屋が届け物に現れる。

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500→2000

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

攻撃力 1600→2100

 

「メッセンジェラートの効果発動、特殊召喚された時、フィールドにマドルチェと名の付く獣族モンスターが居た時、デッキからマドルチェと名の付く魔法・罠カードを手札に加える」

 

メッセンジェラートがカバンから手紙を取り出し、私に差し出す。

 

「私が手札に加えるのはマドルチェ・チケット。そして発動」

 

この効果を使うつもりはないですが、念には念を。彼女に負けるわけにはいきませんから。

 

「大した展開力ね。けどそれだけじゃまだ私のライフを0には出来ない」

「まだ終わりじゃありません。それと光津さん、いくつか言っておきます」

「えっ?」

「まず一つ、沢渡さんは「なんか」じゃありません。次に沢渡さんは私や山部たちを見下してる点もあります。けどそれを理解して、当然のことだという自負がある。……あなたのように無意識でやっているわけではありません」

 

どちらが客観的に見てマシなのか、は人それぞれでしょうが。

 

「そしてあなたのように融合が使えるというだけでは、沢渡さんのような自負は程遠い。そして最後に、この子たちは確かに私には不似合いかもしれません。だから私に似合いの子を紹介してあげます」

 

この子たちも私の大事な仲間のお人形さんですから。

 

「私は手札から速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動」

「フュージョンですって……!?」

「あなたが一体私のどのような点を評価してくれたのかは知りません。特に評価されるようなデュエルを此処でした覚えはありませんから」

 

少しばかり意地の悪い言葉と光津さんのプレイングをそのまま繰り返すような融合、私ってば性格悪すぎぃ!

 

「私は手札のシャドール・ドラゴンとシャドール・ファルコンを融合――糸に縛られし隼と竜よ、一つとなりて神の写し身となれ――融合召喚。来て、探し求める者、エルシャドール・ミドラーシュ」

「融合召喚……あなた、融合まで使えたの……!?」

 

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200

 

「ミドラーシュがフィールドに居る間、お互いのプレイヤーは特殊召喚を一ターンに一度しか行えなくなる。そしてこのモンスターは相手の効果では破壊されない」

「特殊召喚を封じるモンスター……刃や北斗なら致命的ね」

 

お仲間のシンクロ使いさんとエクシーズ使いさんですか。確かにこの効果は彼らには致命的だ、手札で行える融合とは違い、シンクロもエクシーズも場にモンスターを二体以上そろえる必要がある。けれど通常召喚と特殊召喚によって一ターンで素材となるモンスターを揃えても、特殊召喚扱いとなるシンクロ、エクシーズは召喚できない。次の自分のターンまでモンスターを守るか……相手のターンで特殊召喚を行うしかない。強力な効果だが、しかしこれでも恐らくペンデュラム召喚は止められない。彼の言葉を信じるならばあの召喚は複数のモンスターを同時に召喚している。よって召喚のカウントも一度のはずだから。

 

「融合素材として墓地に送られたシャドールたちの効果発動。シャドール・ファルコンは効果によって墓地に送られた時、裏側守備表示で特殊召喚される」

「さらにモンスターを……」

「そしてシャドール・ドラゴンは効果によって墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠を一枚破壊する。私はあなたの場の伏せカードを破壊」

「っ、私は罠カード、廃石融合(タブレット・フュージョン)を発動! 墓地のジェムナイト・ルマリンとエメラルを除外する事で融合召喚を行う! 雷を帯びし秘石よ、幸運を呼ぶ緑の輝きよ、光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん! 融合召喚! 現れよ、幻惑の輝き、ジェムナイト・ジルコニア!」

 

ジェムナイト・ジルコニア

レベル8

攻撃力2900

 

「私のターンでの融合召喚。流石に融合では私よりも上を行きますね。けれど廃石融合で召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される――バトルフェイズ、私はエルシャドール・ミドラーシュでジェムナイト・パーズを攻撃」

 

「くっ……!」

 

MASUMI LP 3600

 

ジェムナイト・パーズが破壊され、光津さんのライフが削られる。

 

「攻撃力2900のジルコニアは私のモンスターたちでは破壊できません。ターンエンドです」

「ターン終了時、ジェムナイト・ジルコニアは破壊されるわ」

 

正直今のターンで決めたかったです。沢渡さんを待たせてますし、何より手札が満足してる、じゃなくて手札が0で伏せカードがありませんし。

 

「私のターン、ドロー! ……正直、あなたが此処までやるとは思ってなかったわ。あなたの言う通り、無意識であなたを見下していた」

「別に私を見下すのは構いませんよ」

「そう、でももう二度と、あなたを見縊らないわ! 私は墓地のジェムナイト・ジルコニアを除外することで墓地のジェムナイト・フュージョンを手札に戻す!」

これで光津さんの手札は3枚、1枚がジェムナイト・フュージョン……手札に回収した以上、残りの手札は――

「私はジェムナイト・フュージョンを発動! 手札のジェムナイト・ルマリンとジェムナイト・ラズリーを融合! 現れよ、ジェムナイト・プリズムオーラ!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ

レベル7

攻撃力 2450

 

二枚目のルマリンを引いたらしい。何と言う強運。

 

「ジェムナイト・ラズリーの効果発動! このカードが墓地に送られた時、墓地から通常モンスター1体を手札に加える。私はジェムナイト・ルマリンを手札に! そしてプリズムオーラの効果を発動! ルマリンを墓地に送り、表側表示になっているカード1枚を破壊する! 私が破壊するのはフィールド魔法、マドルチェ・シャトー!」

 

プリズムオーラの効果によりマドルチェ・シャトーが破壊され、フィールドが元のデュエル場へと戻る。

 

「バトルよ! ジェムナイト・プリズムオーラでエルシャドール・ミドラーシュを攻撃!」

「……」

EIKA LP 3750

 

ミドラーシュが破壊され、特殊召喚封じが解かれる。光津さんの手札が0である以上、このターンこれ以上の追撃はない。……けれど彼女の事だ、次のターンで何かしらのキーカードを引くに違いない。

 

「ターンエンドよ!」

 

そう彼女の自信に満ちた顔が告げている。

 

「……私のターン、ドロー」

 

けれど、ミドラーシュを破壊したのは間違いだ。シンクロやエクシーズ使いなら大打撃だが、融合使いならばその二つと比べればまだ影響は少ない。マドルチェ・シャトーを破壊したことで攻撃力の戻った二体なら大丈夫と踏んだのだろうけれど。

……ドローしたカードは罠カード、マドルチェ・ハッピーフェスタ。強力なカードだけれど、手札が一枚しかない今は使えないカードだ。本当に私はここぞという時のドロー力がない。

だからドローには頼らない。

 

「私はホーットケーキの効果発動。墓地のミドラーシュを除外し、デッキから二枚目のマドルチェ・エンジェリーを特殊召喚。さらにエンジェリーをリリースし、デッキからマドルチェ・マジョレーヌを特殊召喚」

 

ミドラーシュが残っていればこれだけの展開は出来なかった。次の自分のターンの為とはいえ、やはりミスでしたね。

 

マドルチェ・マジョレーヌ

レベル4

攻撃力 1400

 

「けれどマドルチェ・シャトーが破壊されている以上、攻撃力は上がらない! どうやっても私のプリズムオーラを破壊する事は出来ないわ!」

「そうですね」

 

そもそもマドルチェ・シャトーがあろうとなかろうと、私のデッキではプリズムオーラの戦闘破壊はほぼ不可能。打点が低い、私と同じ非力なデッキですから。

だから破壊はしない。

 

「……っ! まさか!」

「融合に気を取られていましたからね。気付かないのも無理がありません。あなたは融合に誇りと愛着を持っていますから……私はレベル4のマドルチェ・メッセンジェラートとマジョレーヌでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築――人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け……エクシーズ召喚、来て、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」

「これが、あなたの本当のエース……!」

 

少し可愛すぎますけどね。

それに融合で決めると(内心で)誓っておきながら、結局この子に頼ることになってしまった。

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200

 

「ティアラミスの効果発動、一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、墓地のマドルチェと名の付くモンスターを2体までデッキに戻し、その枚数分フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す。私はマドルチェ・エンジェリーをデッキに戻し、あなたのフィールドのジェムナイト・プリズムオーラをエクストラデッキに戻す。女王の号令(クイーンズ・コール)

「プリズムオーラが!」

「バトルです。私はマドルチェ・ホーットケーキで直接攻撃」

「きゃあ!」

 

MASUMI LP 2100

 

「さらにクイーンマドルチェ・ティアラミスで直接攻撃。ドールズ・マジック……!」

「くっ、きゃあああああああ!」

 

MASUMI LP 0

 

WIN EIKA

 

「ありがとうございました。それでは」

 

勝負か着くと私は一言だけ声を掛け、すぐにその場を去ろうとする。沢渡さんが待ってるから!

 

「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

「すいません、話はまた今度。沢渡さんは集団の中で一人だと寂しがるので」

 

ケーキを食べてる間は気にしないだろうけど、食べ終わったらきっと気にする。

光津さんには申し訳ないけど、これで失礼します!

制止の声を振り切り、急いでデュエル場を飛び出してロビーに向かう。

しかしデュエル場を出た途端、誰かとぶつかってしまう。くっ、急いでるのに!

 

「あん? なに、もう終わっちゃったの? わざわざこの俺が見に来てやったっていうのに」

 

「さ、沢渡さん!」

「それで結果は? まあ聞くまでもないだろうけど」

「勝ちました!」

「あ、そ。ならさっさと行くぞ」

「はい、沢渡さん!」

 

やっぱり一人になったせいで少し機嫌が悪くなってしまった沢渡さんと一緒にデュエル場を跡にする。

 

「食べかけのケーキ、悪くなる前に食っちまえよ」

「はい、沢渡さん! 良かったら半分どうですかっ?」

「どうしてもって言うならもらってやる」

「どうしてもお願いですっ!」

「しょうがねえなあ」

「流石沢渡さん!」

 

 

 

 

「…………本当、どうしてあいつの取り巻きなんてやってるのかしら」

 

そしてデュエル場に残された光津真澄がくすんだ目で呟いた。




主人公のデッキはシャドルチェ。多分シャドール特化にした方が強い、ミドラーシュとの相性があまり良くないし。展開し終わった後ならどうにでもなりますが。

沢渡さん、次はクリフォ使ってもいいのよ?

感想にてご指摘いただきました。
最後のターン、ティアラミスの効果で墓地のマドルチェを戻した際、本来ならばマドルチェ・チケットの効果でデッキからマドルチェ・モンスターを手札に加えなければなりませんが、アニメ的演出としてカットさせていただいています。
今後もこういった演出があると思いますが、アニメ的演出とお考えください。


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沢渡さん、マジ輝きすぎっすよ!

感想が思ったよりもたくさん来て驚き。沢渡さん読者に愛されすぎぃ!


「……」

 

黒髪の少女は教室の一番端、窓際にある自分の席に座りながら、窓の外から何処か遠くを見ていた。6限目、教師の急用によって出来た自習時間によって喧騒に包まれている教室の中で少女の周囲だけは何処か別の世界であるかのような不思議な静寂があった。その静寂の空間は徐々に広がり、男子生徒の幾人かは少女の憂い気な表情に視線が吸い込まれていく。

それを気にすることもなく、少女は何処かを見つめる。少女が何を考えているのか、男子生徒たちはその難題に挑み、女子生徒たちも同性でありながら自分たちにはない神秘的な雰囲気を妬むでもなく、ただ羨むように彼女から距離を空けていた。

少女は昨年、3学期の終了間近という奇妙な時期に転校してきた。一年時のクラスメイトたちも彼女の事はほとんど知らず、今年になって彼女と同じクラスになった生徒たちも彼女の持つ物静かな雰囲気を崩す事を恐れ、今日に至るまで会話らしい会話をしたことがない者がほとんどだ。決して人当たりが悪いわけではない。言葉を送れば返り、何かに挫いた時は手を差し出してもくれる。ただそれでも彼女には何か他の生徒たちにはない壁がある、そう生徒たちは感じていた。

高嶺の花、そう表するのが一番近いだろうか。それとも枯れ木たちの中にただ一輪咲いた花だろうか、遠くから眺めるだけで摘み取る事は疎か、触れる事すら躊躇ってしまうような奇跡のような生花。

 

「久守さん」

「……はい」

 

そんな花に一人の男子生徒が近づいた。さわやかな雰囲気を持つ、優しげな少年だ。クラスにも何人か思いを寄せる生徒も居る、クラスの人気者と言える生徒だった。少女に気があるのか、それとも孤立しているように見える彼女への気遣いからか、男子生徒は少女に声を掛けた。

 

「何を見てたのかな?」

 

呼びかけに応え、少女は視線を席の前に立つ男子生徒に向けていた。同じ位置に立っても男子生徒からは窓の外には空と校庭、そこで体育の授業でサッカーを行う、あれは一組だろうか? の生徒たちしか見えなかった。少女はこの有り触れた風景から一体何を見出し、見つめていたのか。それが気になり、男子生徒は少女に尋ねた。

 

「……太陽を、作り物ではない本物の眩い輝きを見ていました」

「――」

 

問い掛けに、僅かにはにかむように口元を上げながら少女は答えた。その姿に男子生徒は思わず言葉を失い、一瞬の沈黙が流れた。

 

「――そう、なんだ……邪魔してごめんね?」

「……いえ。こちらこそ気を遣わせてしまったようですいません」

 

会話はそこで打ち切られた。申し訳なさそうに言う少女に男子生徒は自分が何かとても悪いことをしたように思えて逃げるように少女から離れ、クラスの喧騒へと戻って行った。

また少女の周囲に静寂が戻る。そして終業の鐘がなるまで少女は静かに外を見つめていた。もう、誰も声を掛ける事は出来なかった。

 

 

 

 

 

やっべ、沢渡さんマジやっべ! 一人で三人抜いてゴール決めるとかマジ半端じゃないっす! しかも転びながらのヘディングなんて狙って出来るものじゃないですよ! 怪我がなくて良かったです!

でもデュエルも出来てダーツも出来てサッカーまで上手いとか本当選ばれ過ぎですよ!

あまりにも沢渡さんに夢中になり過ぎて途中誰かが話掛けて来た気もするけど何て訊かれたのかも何と答えたのかも覚えてない! けど別に良いですよね! 沢渡さんを見つめ続けるこの至福の時間と比べたら塵芥も同然ですし! 体育は種目によっては男女別ですから、沢渡さんのサッカーをプレイする姿を見れるのは別クラスで窓際の席に居る私の特権ですね!

しかもこれで授業も終わり、後はLDSに直行して沢渡さんをお待ちするだけ! いやもう最高のスケジュールですね! これで沢渡さんの荷物を持ちながら一緒に行けたら最高なんですが、これ以上の幸福を望んだら罰が当たりますもんね! ああ、そうだ! 運動した後はやっぱり甘い物ですよね! 今日はやっぱりレアチーズムースタルト~クランベリーを添えて~ですかね! どうせ山部や柿本、大伴はそんな気回らないでしょうし! 良し、そうと決まったらダッシュするしかない! こういう時此処のノースリーブの制服は走りやすくて最高です! それにスイーツに合う茶葉も用意しなくちゃいけないですし、もう最高に充実した一日になってますね!

 

 

 

 

 

LDS。最大手のデュエル塾である此処には大勢の塾生、デュエリストたちが集う。無論、少女、久守詠歌もその一人だ。総合コースに所属しながらも複数の特殊な召喚方法を操る少女。だがしかしLDS内での少女の評判は決して高いものではない。在籍してまだ日が浅く、デュエルのデータがまだ少ない事が理由の一つだ。

現に昨日行われた光津真澄とのデュエルでも彼女は詠歌が融合召喚を扱える事を知らなかった。噂としてエクシーズ使いであるという事だけは知っていたが。だが明らかになった融合召喚も公式戦でない以上、公のデータには残らない。彼女の評価は変わらない、総合コースに所属したばかりの生徒であるというだけ。公式的なデータが揃うのはまだ先になるだろう。

そして何より彼女の評価が低い位置で停滞している理由は、同じく総合コースに所属している沢渡シンゴのグループに所属しているという事だ。もっとも彼自身、その性格と態度故に実力よりも低く他人から評価されている部分はあるが。良くも悪くも沢渡シンゴというデュエリストは目立つ。その影に隠れ、目立つことがないというのが最も大きいだろう。

しかし光津真澄を初めとし、一部の塾生たちは知っている。彼女がペンデュラム召喚の対策を練り続け、これから先のデュエルに対応していこうとしているのを。彼女はそう遠くない未来、真に実力が評価される時が来るということを。

そしてそんな塾生たちは皆、口を揃えて言うのだ。

 

「何で沢渡の取り巻きなんかに……」

 

と。

 

 

 

 

 

「あっ、沢渡さん、お疲れ様です!」

「よう、久守」

 

流石沢渡さん、いいタイミングです! そろそろ来る頃だと思って蒸していた紅茶が出来上がった所ですよ!

 

「沢渡さん! 喉は渇いていませんか! 後お腹空いてたりはしませんか!?」

 

駅前のレアチーズムースタルト~クランベリーを添えて~の用意も出来てますよ!

 

「いや、来る前に食べて来たからな」

「そうですか! 6限は体育でしたもんね!」

 

くぅー! 沢渡さんの行動が読めなかった! 差し入れするなら学校終わった直後がベストでし

た! 待ってるだけじゃ駄目ですね、やっぱり!

 

「ああ、まっ、俺はデュエルも授業もクールに決めてやったがな」

「流石沢渡さん!」

 

買って来たスイーツは後で山部たちにくれてあげるとしましょう。え、紅茶? 魔法瓶に入れて持ち帰りますよ!

 

「なあ今久守が背中に隠したのって沢渡さんが好きな駅前のケーキ屋の袋じゃねえか?」

「わざわざ買いに行ったのか、久守の奴……」

「沢渡さん絶対気付いてないよな……どうする?」

 

おい余計な事言うなよそこの三人!

何やら沢渡さんの背後の山部たちが無駄に察したようなので視線で釘を刺しておく。

もし沢渡さんが気付いて、万が一無理に食べてお腹壊したりしたらどうするんですか!

 

「それで今日はどうしますか! 総合コースの講義がいくつか入ってますけど……」

 

設置されたモニターに表示されている各コースのスケジュールと講師名を指さして沢渡さんに確認する。

 

「デュエルモンスター学に儀式召喚学、ダメージ計算論……どれも興味ないね」

「だったらいつもの場所ですか?」

 

テラバイト倉庫……ではなく海側にある倉庫で良く沢渡さんは放課後を過ごしてますもんね! 私も何度もご同伴させてもらってます! 今日もそのパターンかな? ひゃっほう! また沢渡さんのダーツが見れますね!

 

「ああ。やっぱり俺ほどのデュエリストになると教えられるより自分で気付くことの方が多いっていうか、自習の方が身に入るのかな?」

「さっすが沢渡さんですね!」

 

「ならなんでこの人LDSに入ったんだ……?」

「いやでも実際テストの成績は悪くないし……その分性質が悪いとも言えるが」

「実技もやっぱすげーしな……だから余計に調子に乗っちゃうんだけど」

 

「そこ、何か言った!?」「おい、何か言ったか!?」

 

「「「ひぃ!」」」

 

相変わらず余計なお喋りをする三人組に視線で釘を刺すだけでは済まずに、つい言葉にしてしまう。そしてそれが沢渡さんとかぶった! 以心伝心ですね! ……って当たり前でしょうが! 沢渡さんを馬鹿にされて私と沢渡さん自身が黙ってるわけないでしょう!

 

「まあいい、さっさと行くぞっ」

「へへへっ、うぃっす」

「ん、ああ、でも久守はやめといた方がいいっすね」

 

「……は?」

 

踵を返した沢渡さんに私を含めて四人でついていこうとした矢先、大伴がそんな事をのたまった。それに思わず自分でも恐ろしいくらい低い声が出る。

 

「私だけやめておいた方が良いってどういうことですか」

「いやだってお前、まだ必修の科目も終わってないだろ。早いとこ終わらせといた方がいいぞ?」

 

……LDSは決して多くはないが各コースに必修とされている講義がいくつかある。それらを受けなければコースの変更どころか、同じコースでもいつまで経っても次の段階に進めないのだ。例を挙げるなら融合コースで基礎の講義とデュエルフィールドでの融合実技を修了しなければ融合魔法の亜種についての講義や手札融合の実技を受ける事が出来ない。そうして同コースでもどんどんと差がついていき、落ちこぼれとなってしまえば最悪の場合、強制的に塾を辞めさせられることもあるという……。逆に必修さえ全て終わらせてしまえばLDS内の設備を使い、自己研鑽に励めるんですが……。

そうか、さっさとそれを終わらせないと沢渡さんと過ごす時間もなくなってしまう! くそぅ、何で私はもっと早くLDSに入らなかったんですか!

 

「そうか、なら久守、しっかりと受けろ。お前ならLDSの講義でも学べることはあるはずだからな」

「……はい、沢渡さん」

 

……くっ、沢渡さんにまでそんなことを言われてしまったら、素直に頷くしかないじゃないですか……!

 

「それじゃあな」

「……はい、気を付けて、沢渡さん」

 

今度こそ颯爽と踵を返し、出口へと向かっていく沢渡さんを静かに見送る他、私に選択肢はなかった。

 

「……おい、何かすげえ目で俺たちを見てるぞ」

「呪われそうな目だな……」

「いや今にも襲い掛かってきそうな……」

 

「……山部、大伴、柿本」

「な、なんだよ?」

「……これ、あげる」

「お、おう、サンキュー……」

「受け取ったならさっさと沢渡さんを追いかける!」

 

ケーキ屋の袋を柿本に手渡し、すぐに沢渡さんを追いかけるように言うとまるでクモの子を散らすように三人は慌てて走りだした。まったくもう、沢渡さんを一人にして何かあったらどうするんですか!

………………はあ、帰りたい。いやむしろ追いかけたい……。

 

まずはデュエルスフィンクス、じゃなくてデュエルタクティクス基礎か……はぁ。

 

 

 

 

「ありがとうございました。良いデュエルでした」

 

テンションダダ下がりの中、全コース共通の基礎科目を終え、後は実技。今日のノルマは3戦、今2戦目まで終了したから残る1戦でお終い。……その後じゃ、沢渡さんも帰っちゃうだろうなあ。

対戦相手に一礼し、次の対戦相手を探しデュエル場を見渡す。相手も塾側で決めてくれればいいのに……。

さて誰かデュエルが終わった人はいないかな……。

 

「やあ、久守」

 

そんな私の背後から声が掛かる。振り向くとそこに立っていたのは……

 

「……エクシーズコースの志島さん、でしたか」

「おや、知ってたのか」

「新設されたエクシーズコースに移動してから勝率を一気に伸ばしている方が居るとだけ」

 

後、バウンスを使う人がエクシーズ程ではないですが珍しいので。それに昨日デュエルした光津さんと仲がいいエクシーズコースの志島さん(バウンス)とシンクロコースの刀堂さん(ハンデス)は名前と使うデッキ程度なら知っています。

 

「ふふ、噂は早いね。確かに僕はエクシーズ召喚をマスターしてから34連勝中でね」

「……はあ。それで35連勝目の相手に私を?」

「察しが良くて助かるよ。真澄を負かした君を倒せば、僕はもっと上に行ける。何より君もエクシーズを使うんだろう? それに融合召喚も」

「ええ、まあ」

「二つも特殊な召喚方法が使えて何故総合コースに居るのかは分からないが、エクシーズ召喚も融合召喚も、同時に扱って極められる物ではないと証明してあげよう」

 

……随分な自信ですね。連勝中で少し気が昂ぶっているのでしょうか。まあエクシーズ召喚が稀有な存在で、しかもLDSでも新設されたばかりのコースともなればそうなるのも仕方ないのかもしれませんが。……けど運がないですね。今の私は少し機嫌が悪いんです(1日ぶり2度目)。そして何より、その自信満々な態度にほんの僅かでも沢渡さんを重ねてしまった事が苛立たしい!

 

「そうですか。私もノルマの3戦まで後1戦です。私にとっても有難い申し出でした」

「……では僕とデュエルしてもらえるのかな?」

「ええ。こちらこそお願いします」

 

自身の35連勝目と私のノルマ3戦を同じように並べられたのが気に障ったのか、少し口元を引きつらせる志島さんに頭を下げる。ちなみにわざとですよ?

お互いに距離を取り、デュエルディスクを構える。またしても私たちの雰囲気のせいなのか塾生たちがぞろぞろとデュエル場を離れていく。

 

 

 

HOKUTO VS EIKA

LP:4000

 

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

 

 

「先行は僕がいただく!」

 

昨日の光津さんは初手からキーカードを引き当てた。志島さんはどうなのか。

 

「僕はセイクリッド・グレディを召喚! そしてグレディの効果によりレベル4のセイクリッド・モンスターを一体、手札から召喚できる! 僕はセイクリッド・カウストを召喚!」

 

セイクリッド・グレディ

レベル4

攻撃力 1600

 

セイクリッド・カウスト

レベル4

攻撃力 1800

 

続け様に現れた二体の星の輝きを持つモンスター。

レベル4のモンスターが二体、来るぞ! ……と言いたいところですが、カウストの効果が残っている。

「セイクリッド・カウストの効果発動! 一ターンに二度、自分フィールドのモンスターのレベルを一つ上下させることが出来る! 僕はセイクリッド・グレディとカウストのレベルをそれぞれ1上げる!」

よって二体のモンスターのレベルは共に5。

「見せてあげよう、これが本当のエクシーズ召喚というものだ! 僕はレベル5となったグレディとカウストでオーバーレイ! 星々の光よ、今、大地を震わせ降臨せよ! エクシーズ召喚! ランク5、セイクリッド・プレアデス!」

 

セイクリッド・プレアデス

ランク5

攻撃力 2500

ORU2

 

志島さんのフィールドから二体のモンスターが光となって消え、新たに牡牛座を司るエクシーズモンスターが姿を現した。オーバーレイユニットがまるで星の輝きを思わせる、白騎士。

その効果はオーバーレイユニットを一つ使う事でフィールドのカードを手札に戻す、バウンス効果。姑息な手、なんて言いはしませんが。

けれど先行でいきなりバウンス効果を持つモンスター。しかも私のティアラミスと違うのはその効果が相手ターンでも発動できるという点。そして、一枚しか戻せないという点だ。

 

「このカードの効果はオーバーレイユニットを一つ使う事で相手フィールドのカードを一枚手札に戻す。君の使うエクシーズモンスターと融合モンスターの事は聞いている。どちらも強力な効果だが、プレアデスが居る限りすぐに退場してもらうことになる」

 

先行で出された以上、私のターンで召喚したモンスターは確実に手札に戻される。いや戻されるのはエクストラデッキか。私の使うデッキには決め手となるような最上級モンスターは入ってはいない。私のフィニッシャーとなるカードは全てエクストラデッキに入っているから。

けど、やりようはある。

 

「僕はカードを一枚セットし、ターンエンド」

「私のターン、ドローします」

 

その為のカードも揃っている。沢渡さんのようにカードに選ばれてるわけではないけれど。

 

「私は手札から永続魔法、マドルチェ・チケットを発動。このカードは一ターンに一度、自分フィールド上、墓地からマドルチェと名の付くモンスターが手札、デッキに戻った際にデッキからマドルチェと名の付くモンスターを手札に加えることが出来ます」

ただしエクストラデッキに戻った場合、効果は発動できない。

「……そして手札から速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動。

 

手札のシャドール・リザードとシャドールヘッジホッグを融合」

光津さんのデュエルと同じように融合を発動させると志島さんは驚愕ではなくニヤついた笑みを浮かべた。

 

「どんなモンスターを召喚しようと、君のモンスターには退場してもらう!」

「融合召喚、エルシャドール・ミドラーシュ」

「無駄だよ! セイクリッド・プレアデスの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、君のカードを一枚手札に戻す! 消え去れ木偶人形!」

「……ミドラーシュは手札ではなくエクストラデッキに戻ります」

 

ギチギチと音を鳴らしながら首をこちらに向けたミドラーシュが「え、これで出番終わり?」とでも言いたげな空虚な瞳で私を見る。これで私が先行だったらあなたで終わらせられたんだけど……。召喚後僅か数秒で退場したミドラーシュに心の中で謝罪する。

Q ねえ今どこ? A エクストラデッキん中。

 

「私は融合素材となったシャドールたちの効果発動。効果で墓地に送られた時、リザードはデッキからシャドールを墓地へ、ヘッジホッグはシャドールを手札に加える。私はデッキのシャドール・ビーストを墓地へ、シャドール・ファルコンを手札に。さらに墓地へ送られたビーストの効果により、カードを一枚ドローします」

「くっ……」

 

二枚から四枚へと増えた私の手札を見て、僅かに志島さんが動揺する。

 

「さらに私は手札から魔法カード、二重召喚(デュアル・サモン)を発動。このターン、私は通常召喚を二回行うことが出来ます」

 

手札は残り三枚。

 

「マドルチェ・ミィルフィーヤを召喚」

 

残り二枚。

 

マドルチェ・ミィルフィーヤ

レベル3

攻撃力 500

 

「ミィルフィーヤの効果発動、このカードの召喚に成功した時、手札からマドルチェと名の付くモンスターを一体、特殊召喚できる。私は手札からマドルチェ・マーマメイドを守備表示で特殊召喚」

 

一枚。

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

守備力 2000

 

「そして二度目の通常召喚、私は手札に加えたシャドール・ファルコンを攻撃表示で召喚」

0。

 

シャドール・ファルコン

レベル2

攻撃力 600

 

手札0、フィールドに存在するのは3体の人形とマドルチェ・チケット。手札と違い、鳥に猫にメイドと随分賑やかなフィールドになっている。

 

「くっ、くくくくっ! いや大したものだ、融合召喚を無に帰されてもそこまでフィールドにモンスターを揃えたんだ。正直驚かせられたよ」

 

賑やかなのは志島さんも同じようですが。

 

「プレアデスの効果は一ターンに一度しか使えない……だが君の場のモンスターのレベルは全て違う! さらに手札も0! それじゃあ融合もエクシーズも行うことは出来ない! 二重召喚を引けても上級モンスターを引くことは出来なかったようだね。上級モンスターをアドバンス召喚出来ればまだ状況も違っていたかもしれないな!」

 

笑いながらベラベラと喋る志島さん。……これは私が悪いのでしょうか。ちゃんと手札に加える際に『この子』は公開したのですが。

 

「本当なら」

「……何?」

「本当なら使うつもりはなかったんですよ。まだしっかりとした対策が練れてるわけじゃないですし、何よりお伽の国には不似合いなカードだと思いましたから」

「君は何を言っているんだ?」

 

訝しげな表情の志島さんを無視し、私は言葉を続ける。

 

「確かにこの子たちは人形です。魔導人形と影人形……けど、決して木偶じゃない。たとえ魔導だろうと糸で操られる人形だろうと、人形にも心は宿る。人形を操る者に心は在る。ただの舞台装置(つくりもの)なんかじゃない」

 

……犠牲になったミドラーシュの怨嗟の声が聞こえそうなのは無視しておきましょう。

 

「失礼、デュエルを再開します」

「あ、ああ」

 

若干引いてる志島さん。いやこれぐらいの自分語りは皆するじゃないですか!

 

「君のモンスターを侮辱した事は謝ろう。……だが状況は変わらない! 君にはもう手札も、このターン打つ手もない!」

 

しかし気を取り直してデュエルを再開してくれる志島さんは根は良い人なんだろう。余計やりづらくなってしまいましたが。

 

「いいえ、手ならあります――私はレベル4のマドルチェ・マーマメイドにレベル2のチューナー・モンスター、シャドール・ファルコンをチューニング」

「な――何だと!?」

 

リバース・モンスターである下級シャドールを攻撃表示で出す機会はあまりないが、出す理由があるとするならそれは主にエクシーズ召喚する場合と、

 

「シンクロ召喚……レベル6、獣神ヴァルカン」

今回のようにシンクロ召喚を行う場合だ。

 

獣神ヴァルカン

レベル6

攻撃力 2000

 

「シンクロ召喚……まさか融合、エクシーズだけじゃなくシンクロまでも……! だが獣神ヴァルカンの攻撃力は2000、僕のプレアデスには届かない!」

「ヴァルカンの効果発動。このカードがシンクロ召喚に成功した時、互いのフィールドの表側表示のカードを一枚手札に戻す。私は自分フィールドのマドルチェ・ミィルフィーヤとあなたのプレアデスを選択」

 

二体の人形が光と輪に変わり、それが重なり合い新たなモンスターへと変わる。そうして現れた獣神ヴァルカンの効果はプレアデスと同じ、手札バウンス。ただし私自身のカードも戻さなければならず、戻したカードはそのターン使用することが出来ない。

ヴァルカンの咆哮によりプレアデスが志島さんのエクストラデッキに、オーバーレイユニットは墓地へ。そしてミィルフィーヤが私の手札へと戻る。プレアデスは寡黙に、それを受け入れるように光となって消えたが私のフィールドのミィルフィーヤは飛び上がり、眠たげだった目を見開きながら逃げるように光となって消えた。

……やっぱりヴァルカンは私のデッキには合わないかな、ペンデュラムカードがフィールドから離れた時除外される、なんて効果があれば対策になるけれど……やはり情報が少なすぎる。

 

「さらにミィルフィーヤが手札に戻った事により、マドルチェ・チケットの効果発動。私はデッキからマドルチェ・メッセンジェラートを手札に加えます」

 

これで次のターンの準備も整った。後出来ることはただ一つ。

 

「バトルフェイズ、私はヴァルカンで直接攻撃(ダイレクトアタック)

「くぅ……!」

 

HOKUT LP:2000

 

「ターンエンドです」

「……まさか34連勝中、一度も削られたことのない僕のライフを一気に半分まで削るとはね……僕のターン、ドロー!」

 

志島さんの手札は4枚。そこから何が出てくるか。

 

「手札から永続魔法、セイクリッドの星痕を発動! 一ターンに一度セイクリッドと名の付くエクシーズモンスターの召喚に成功した時、カードを一枚ドロー出来る!」

 

ドロー補助、エクシーズに特化したセイクリッドデッキなら確実に毎ターン1ドローを許すことになる。長引けば私が不利ですね。

 

「さらに僕はセイクリッド・シェアトを特殊召喚! このモンスターは自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚することが出来る!」

 

セイクリッド・シェアト

レベル1

攻撃力 100

 

「そしてセイクリッド・シェアトをリリースし、セイクリッド・レスカをアドバンス召喚!」

 

セイクリッド・レスカ

レベル6

攻撃力 2200

 

「セイクリッド・レスカの効果発動! このモンスターの召喚に成功した時、手札からセイクリッド・モンスターを守備表示で特殊召喚出来る! 来い、セイクリッド・アンタレス!」

 

セイクリッド・アンタレス

レベル6

守備力 900

 

「アンタレスが召喚に成功した時、墓地からセイクリッド・モンスター一体を手札に加える。僕は墓地のセイクリッド・カウストを手札に!」

 

上級モンスターが二体、セイクリッド・レスカでも私のフィールドのヴァルカンの攻撃力を超えていますが、これで終わりじゃない。

 

「僕はレベル6のセイクリッド・レスカとセイクリッド・アンタレスでオーバーレイ! 眩き光もて 降り注げ――エクシーズ召喚! 現れろ、ランク6! セイクリッド・トレミスM7(メシエセブン)!」

 

セイクリッド・トレミスM7

ランク6

攻撃力 2700

ORU2

 

志島さんの言葉の通り眩い光と共に現れたのはセイクリッドの頂点とも言える、神星龍。頭部の翼が何処か鋏を広げる蠍を思わせる蠍座を司るセイクリッド。

 

「セイクリッドの星痕によりカードを一枚ドロー、さらにトレミスの効果発動ォ! オーバーレイユニットを一つ使い、フィールド、墓地のモンスターを一枚持ち主の手札に戻す! 僕は獣神ヴァルカンを選択! 次は君が戻る番だ!」

 

プレアデスを戻した仕返しとばかりにヴァルカンがトレミスによってエクストラデッキへと戻る。バウンス合戦になっていますね。

 

「僕はセイクリッドの星痕の効果でドローした速攻魔法、サイクロンを発動! マドルチェ・チケットを破壊する! これで君のフィールドはがら空き! いけトレミス! 直接攻撃だ!」

 

私の手札はメッセンジェラートとミィルフィーヤ。防ぐ手立てはない。

 

「……」

 

EIKA LP:1300

 

「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

私のフィールドはがら空き。ライフも半分以下、34連勝と言うのは伊達ではないようです。

 

「私のターン、ドロー」

 

…………バウンス使いを相手にして改めて分かった。確かにこれは敵に回したくない。そこにさらに特殊召喚メタまで組み込む私はさらに性格が悪いのだろうけど。

 

「私はマドルチェ・ミィルフィーヤを召喚。効果によりマドルチェ・メッセンジェラートを特殊召喚。そして特殊召喚時マドルチェと名の付く獣族モンスターが存在するとき、手札にマドルチェと

名の付く魔法、罠カードを手札に加える。私はマドルチェ・シャトーを手札に加え、発動します」

 

フィールドがお菓子の国へと変化する。しかし此処に存在するのは猫と郵便屋、それに星の輝きを持つ神星龍。不似合いすぎる。ならばそれに似合う相手を紹介してあげましょう。

 

「マドルチェ・シャトーの効果によりフィールドのマドルチェたちの攻撃力、守備力が500ポイントアップ。さらにマドルチェ・シャトーが発動した時、墓地のマドルチェと名の付くモンスターをデッキへ戻す。私はマドルチェ・マーマメイドをデッキへ」

 

マドルチェ・ミィルフィーヤ

レベル3

攻撃力 500 → 1000

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

攻撃力 1600 → 2100

 

「そして私は手札から魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)を発動」

 

これで私の手札は0。けどこれで決める。

 

「融合カード……! まさかマドルチェにも融合モンスターが……!?」

「いいえ、マドルチェたちには融合モンスターはいません。私のデッキに居る融合モンスターはシャドールだけです。このカードは相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する時、手札、フィールドに加えてデッキのモンスターを素材とし融合召喚出来る――私はデッキのシャドール・ビーストとエフェクト・ヴェーラーを融合……!」

「なっ――デッキから融合だと!?」

「人形を操る巨人よ、お伽の国に誘われた堕天使よ、新たな道を見出し、宿命を砕け……! 融合召喚、来て、エルシャドール・ネフィリム」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800

 

リアルソリッドビジョンシステムを使用していないスタンディングデュエル。だけど私は感じる、この子の鼓動を、この子の心を。

光と闇が混ざり合い、そこから新たな光となってネフィリムが堕ちて来る。

 

「ん、な……」

「ネフィリムの効果発動。特殊召喚に成功した時、デッキからシャドールと名の付くカードを墓地へ送る。私はシャドール・ドラゴンを墓地へ」

 

瞳を閉じながら降り立ったネフィリムはトレミスと比べるまでもないほどに巨大だった。私はもはやこの子の足首までの高さもない。デュエル場の天井ギリギリまでの大きさを持つネフィリムだけど、本来のネフィリムはさらに巨大だ。ソリッドビジョンシステム、特にアクションデュエル用のリアルソリッドビジョンシステムはモンスターに質量を持たせるが故にモンスターたちのサイズや挙動が制限される。デュエルディスクに内蔵されている通常のソリッドビジョンシステムも制限が緩いとはいえ同様だ。本来のサイズのネフィリムを召喚すればそれこそ怪獣映画の世界になってしまうから。

 

「ネフィリムの効果で送られたシャドール・ドラゴンと融合素材として墓地に送られたシャドール・ビーストの効果発動。カードを一枚ドロー、さらにフィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する。私はあなたのフィールドの伏せカードを一枚破壊」

 

破壊されたのは聖なるバリアーミラーフォースー。説明するまでもない、強力な罠カード。残るは最初のターンに伏せられたカードだけ。

 

「私は速攻魔法サイクロンを発動、残りの伏せカードを破壊。

 

カードに選ばれてる、という程でもない。志島さんがセイクリッドの星痕でドロー出来たのと同じ

だ。たまたま、運が良かっただけ。

シャドール・ビーストの効果でドローしたサイクロンによって破壊されたのはセイクリッド・テンペスト。

セイクリッド・エクシーズモンスターが二体以上存在するとき、エンドフェイズ時に相手のライフを半減させる永続魔法だったか。恐らく最初の私のターンでプレアデスをエクストラデッキに戻していなければ次のターンには発動条件を満たして、私のライフはさらに削られていただろう。いやもしも彼が後攻だったならドローカードによっては1ターン目で条件を満たしていたかもしれない。

けれど今の志島さんには発動できないカードだ。サイクロンを引いていようが引いていまいが、結果は変わらなかった。

……やっぱり私にドロー力はない。

 

「バトル。私はネフィリムでトレミスを攻撃。ネフィリムは特殊召喚されたモンスターとの戦闘時、そのモンスターを破壊する……ストリング・バインド……!」

 

元々攻撃力はネフィリムの方が上だが、これは強制効果。効果による破壊の為、志島さんのライフは削られない。

ネフィリムの体から伸びる、髪のようにも、翼のようにも見える影糸がトレミスへと伸び、操り人形のように空中へ吊し上げ、光となって消えた。

 

「マドルチェ・メッセンジェラートで直接攻撃」

「あ、う、うわああああ!」

 

HOKUTO LP 0

 

WIN EIKA

 

 

 

 

「ありがとうございました」

「……僕の、35連勝……エクシーズ召喚をマスターしてからの連勝が……」

……昨日の光津さんよりも落ち込み方が凄いです。まあ昨日の光津さんはデュエルが終わってすぐに立ち去ったのでもしかしたらこれぐらい落ち込んでいたのかもしれませんが。

 

うーん、仕方ないですね。今日は急ぐ必要もないですし、慰めてあげるとしましょう。

 

「志島さん」

「……何だい」

「35連勝は出来ませんでしたが、代わりに今度は通算40勝を目指してみてはいかがでしょう」

「そんな情けない真似が出来るかぁ!」

 

そんな! 沢渡さんなら「甘いな、目指すなら50勝だ!」とさらに高みを目指してやる気を出すはずなのに!

 

「ならもう一度35戦して来る事です。もしくはもう一度エクシーズ召喚を一からマスターし直してみてはどうでしょう」

 

……いや拗ねてないですよ? せっかく私が気を使ったのに、とか、沢渡さんならこんな面倒臭い落ち込み方しないのに、とか思ってもないですよ?

 

「それでは私はノルマを達成しましたので、これで失礼します

 

さらに落ち込む志島さんに一礼し、私はデュエル場を去った。

 

 

 

「なんであんなデュエリストが沢渡の取り巻きなんか……」

 

 

 

昨日の光津真澄と同様、志島北斗は涙目で呟いた。

昨日の光津真澄と同じく幸運だったのはその発言を久守詠歌が聞いていなかったことだろう。もしも聞かれていれば、もっと恐ろしいことになっていたのだろうから。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「沢渡さん、小腹空いてないっすか?」

「ダーツでまた動いた後に甘いものなんてどうです?」

「ああ? 何だお前ら、急に」

「いや久守の奴が……」

「って馬鹿、もしバレたらあいつに何されるか分からねえぞ!」

 

「……寄越せ、丁度腹が空いてきた」

「うっす!」

「……後紅茶。冷たいタルトには温かい紅茶が絶妙にマッチするからな」

「へへ、買ってきます!」

 

「タルトに紅茶って、沢渡さん、何か久守に餌付けされてきてねえ……?」

「いやそれが習慣になって来てるだけだろ……」

「あいつがさっさと必修終わらせないと、俺らが毎日パシリだな……」

「さっさと行って来い!」

「「「は、はい!」」」

 




手札バウンスとは姑息な手を……(デッキバウンスしながら)

劇中の台詞から沢渡さんと新しく出来たエクシーズコースの北斗は少し前まで同じ総合コースに居て、少しは仲良かったんじゃないかなあ、と深読みしてしまう。シンクロコースと融合コースがいつできたのかは分かりませんが。
とりあえず次回はこの流れで刃くんとデュエルです。
ちなみに今回使ったヴァルカンは恐らくもう登場しません、書いてあるようにシャドルチェの中じゃ浮きますし、ペンデュラム対策としては弱いので。


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沢渡さん、出番がないっすよ!

サブタイトル通り


「今更だが俺を真澄や北斗みたいなお行儀が良いだけの奴らと一緒にすると痛い目見るぜ――って、今更過ぎたか?」

 

YAIBA LP:4000

 

XX(ダブルエックス)-セイバー エマーズブレイド

レベル3

攻撃力 1300

 

(エックス)-セイバー ウェイン

レベル5

攻撃力 2100

 

X-セイバー ソウザ

レベル7

攻撃力 2500

 

伏せカード 1

手札 3

 

「……その忠告以前に、お互いの自己紹介も済んでいません」

 

EIKA LP:1600

 

マドルチェ・クロワンサン

レベル3

攻撃力 1500 → 2000

 

マドルチェ・マーマメイド(セット)

レベル4

守備力 2000

 

フィールド魔法 マドルチェ・シャトー

伏せカード 0

手札 1

 

「おっと、そいつは悪かったな。俺はシンクロコースの刀堂刃。お前が真澄と北斗を負かした総合コースの久守詠歌だろ?」

「……ええ、まあ」

 

……回想するほどのことでもないですが、ほんの十分程前、今日は実技だけだったので沢渡さんが来る前にさっさと終わらせてしまおうとしていたところ、彼、刀堂刃さんにデュエルを挑まれました。現在5ターン目で、私のターン、ドローフェイズです。Xセイバー使いの刀堂さんによるハンデスでそれ程モンスターを展開していないのにこの手札、墓地にはマドルチェたちが3体と永続魔法のマドルチェ・チケット、罠カードのマドルチェ・ハッピーフェスタ、それに融合魔法が3枚(神の写し身との接触2枚、影依融合1枚)が落とされています。何故こういう時に限ってシャドールたちが落とされないのか。……前回のミドラーシュの呪いでしょうか。

 

「さあ自己紹介も済んだところでお前のターンだ。そろそろ融合でもエクシーズでも、シンクロでもいい、やってみせろよ」

 

バウンスの志島さんや私もお行儀が良いとは言えませんが、大量ハンデスしておいてこんな台詞を吐くのは確かにお行儀が悪いですね。私、少し機嫌が悪いです(1日ぶり3度目)。

 

「……私のターン、ドロー」

 

ですから今日も少し、厭らしいプレイングをさせていただきます。どうやらデッキもそれを望んでいるようですし(決めつけ)。

 

「私はマドルチェ・ミィルフィーヤを召喚。効果により手札からマドルチェ・ホーットケーキを特殊召喚」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500 → 2000

 

マドルチェ・ミィルフィーヤ

レベル3

攻撃力 500 → 1000

 

「ようやく同じレベルのモンスターが並んだか。まずはエクシーズから見せてくれんのかよ」

「もう少し待ってもらえますか。出来る限り見せてあげます……ただしエクシーズでお終いです」

「あん?」

「ホーットケーキの効果発動。墓地のモンスター一体を除外し、デッキからマドルチェと名の付くモンスターを特殊召喚します。私は墓地のマドルチェ・ピョコレートを除外し、マドルチェ・バトラスクを特殊召喚」

 

もしもマドルチェ・チケットが墓地に落とされていなければメッセンジェラートでサーチ出来たんですが、此処に至ってはあまり関係ありません。それに恐らく刀堂さんの口ぶりや性格からして、場の伏せカードは召喚反応系ではないようですし。

 

マドルチェ・バトラスク

レベル4

攻撃力 1500 → 2000

 

 

「一気に3体のモンスターを並べやがったか……」

「あなたも最初のターンでしたことでしょう。次に私はセットされていたマドルチェ・マーマメイドを反転召喚。マーマメイドはリバース効果として墓地のマドルチェと名の付く魔法、罠カードを一枚手札に戻す効果を持っています――がその効果は使用しません」

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

攻撃力 800 → 1300

 

「何だと?」

「必要な事なので。……あまり時間を掛けたくもありません。沢渡さんが来る前に終わらせます」

 

昨日LDSで別れてから、今日は学校でも見れなかったし、今日の初生沢渡さんを一刻も早く見たいので。

……それにもしかしたら今日かもしれないし。一昨日、光津さんとのデュエルの後、山部たちと一緒に沢渡さんの考えついた「良い事」を聞いた。……ペンデュラムカードを持ち主、榊遊矢から奪うという計画だ。近々決行するとは言っていたから、もしかしたら昨日山部たちと詳しい打ち合わせをしたのかもしれない。

ただ一つ気になるのは、沢渡さんの行動が少し短絡的過ぎる事だ。あの人は最初からそんな強硬手段に出る人じゃない、まずは交換条件を提示して、トレードを申し込むはずだ。それが拒まれたなら、そうすることも十分考えられるのだけれど……。それが気にかかる。それにそんなことをしなくともカードに選ばれてる沢渡さんならきっと、カードの方からやがてやって来るはずなのに。

 

「……私はマドルチェ・クロワンサンの効果発動。自分フィールド上のマドルチェと名の付くカードを手札に戻し、このカードのレベルを1、攻撃力を300ポイントアップさせます。私はフィールド魔法、マドルチェ・シャトーを手札に戻します」

「チッ、戻ったのが魔法カードってことは――」

 

クロワンサンが自分の尾を追いかけるように周り始めると周囲の景色も回転を始め、景色が通常のデュエル場へと戻る。

 

マドルチェ・クロワンサン

レベル3 → 4

攻撃力 2000 → 2300

 

「手札に戻したマドルチェ・シャトーを再び発動」

 

そして一度は通常に戻ったデュエル場の景色が再びお菓子の国へと変化する。

 

「マドルチェ・シャトーは発動時、墓地のマドルチェと名の付くモンスターを全てデッキに戻す」

「はっ! 何度デッキに戻して手札に加わっても、またすぐに墓地へ送ってやるよ!」

「そうですか。なら私はデッキに戻してあげましょう。お伽の国に傭兵は不似合いです――私はレベル3のマドルチェ・ミィルフィーヤとホーットケーキでオーバーレイ」

「レベル3同士……? エースじゃねえのかよ!」

「女王さまもすぐにお呼びしますよ。ですがその前に、迎える準備が必要です。エクシーズ召喚、現れろ、ランク3――M.X(ミッシングエックス)ーセイバー インヴォ―カー」

 

お菓子の犬と梟がオーバーレイユニットとなって召喚されたのは――黒の鎧を纏い、赤きマントをたなびかせる、屈強な戦士だった。

 

M.X-セイバー インヴォ―カー

ランク3

攻撃力 1600

ORU2

 

「んなっ――Xセイバーのエクシーズモンスターだと!?」

「それ程Xセイバーと相性が良いわけでもないですけどね。それに彼はもうただのXセイバーじゃありません。Mの名を持つ、即ちマドルチェです」

「いやそういう意味じゃねえし! しかもお前、傭兵には不似合いとか今言ってただろ!?」

「さらにレベル4となったクロワンサンとマーマメイドでオーバーレイ」

「おいこら!」

 

聞こえませんね。私はデッキに合うシンクロモンスターを探すのに必死だというのにぽんぽんと見せつけるようにシンクロ召喚をする人の言葉なんて。

 

「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け――エクシーズ召喚、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」

「無視して進めやがって……ランク4、ってことはそいつがお前のエースか! ランクが上の割にはインヴォ―カーよりか弱そうな見た目じゃねえか!」

「……? 志島さんたちからこの子の事は聞いていないんですか?」

「ああ? 聞くわけねえだろ、俺はただ融合、シンクロ、それにランク4のエクシーズモンスターを使ってあいつらを負かしたって話を聞いてお前にデュエルを申し込んだ。じゃなきゃフェアじゃねえからな」

「……そうですか。すいません」

「あ?」

 

少しばかりその心、折らせていただきます。……いっそこのまま嫌な人って印象で居てくれれば私の気持ちも晴れたんですが、いきなりそんなフェアプレイ精神を持ち出されると心が痛みます。

 

「M.Xーセイバー インヴォ―カーの効果発動。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから地属性の戦士族、または獣戦士族のレベル4モンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズに破壊されます。私はデッキから戦士族のマドルチェ・シューバリエを特殊召喚」

 

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

守備力 1300 → 1800

 

「レベル4がまた二体、まさかお前!」

「レベル4のバトラスクとシューバリエでオーバーレイ。エクシーズ召喚、クイーンマドルチェ・ティアラミス」

 

そして現れる二人目の女王。その前に彼女たちを守るようにインヴォ―カーが立つ。

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス×2

ランク4

攻撃力 2200 → 2700

ORU2

 

M.X-セイバー インヴォ―カー

ランク3

攻撃力 1600

ORU1

 

「くっ、だがお前のモンスターは3体、俺の場にも3体、その攻撃力じゃモンスターを全滅させても俺のライフは削りきれねえ!」

(それに俺の伏せカードはセイバー・リフレクト。こいつはダメージを無効にし相手にそのダメージを与えられる。温存も出来るが……真澄たちを倒した奴だ、油断は出来ねえ)

「ティアラミスの効果発動。一ターンに一度オーバーレイユニットを一つ使い、墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻したカードと同じ数、フィールドのカードをデッキへ戻す。私は墓地のマドルチェ・ハッピーフェスタとマドルチェ・チケットをデッキに戻し、あなたの伏せカードとX-セイバー ソウザをデッキに戻します」

「何だと!?」

「さらにもう一体のティアラミスの効果を発動。墓地にあるマドルチェと名の付くカードは一体目のティアラミスのオーバーレイユニットとして墓地に送られたクロワンサンのみですが、今二体目の効果発動時に使用したオーバーレイユニット、シューバリエが墓地へと送られる。これにより私はクロワンサンとシューバリエを選択し、マドルチェ・シャトーの効果によりデッキではなく手札に戻します。そしてあなたのフィールドの残り二枚、X-セイバー ウェインとエマーズブレイドをデッキに戻す。女王の号令(クイーンズ・コール)

 

二人の女王が杖を掲げ、そこから発せられる光により刀堂さんのフィールドのカード全てがデッキへと戻る。こうなってしまえば後は警戒するのはゴーズくらい……その必要はないでしょうが。

 

「二体のティアラミスで直接攻撃……ドールズ・マジック」

「うっ、おわあああああ!?」

 

YAIBA LP:0

 

WIN EIKA

 

……一気に4枚のカードを戻してがら空きのフィールドに直接攻撃。普段なら気持ちの良い勝ち方ではあるんですが、フェアプレイ精神で挑んできた(と分かった)方相手だと申し訳なくなります。

 

「……ありがとうございました」

「あー……負けたぜ」

 

ソリッドビジョンが解除され、再び元のデュエル場へと景色が変わる。

竹刀を床に突き立てるようにして項垂れる刀堂さん。……やはり、少し申し訳なくなりますね。

 

「……では失礼します」

「待ちなっ!」

 

急ぎたい気持ちも勿論ありますが、それ以上に居心地の悪さを感じて踵を返そうとした私を刀堂さんが呼び止める。

 

「……何か?」

「何で今のデュエル、シンクロと融合を使わなかった。真澄の時は融合とエクシーズ、北斗の奴の時は融合とシンクロ、二つの召喚方法を使ったんだろ。……あいつらと違って、俺にはエクシーズだけで十分だってか」

「いいえ。あなたも光津さんや志島さんと同じように強い方でした。今回はやりたくても出来なかった――私が運を持っていなかっただけの事です」

「俺の力が運だけだって言うのかよ」

「運だけの方にティアラミス二体を並べなければならない状況に追い込まれたりはしませんよ。インヴォ―カーは私にとって禁じ手のようなものですし。あなたに言われた通り、私のデッキには不似合いですから」

「あっ、そうだあのXセイバー! な、なあちょっと見せてくれよ?」

「……構いませんが」

 

……断り難い! 急ぎたいんですが、刀堂さんに強く出られない自分が居る……! 光津さんと違って沢渡さんを馬鹿にしたわけでも、志島さんのように私のデッキを馬鹿にしたわけでもないから余計に……。

 

「エクシーズのXセイバー……何処となくソウザに似てるな」

「……自分モンスターを破壊する、というデメリットも共通ですしね」

「攻撃力は低いが、レベル4の戦士族、獣戦士族をデッキから特殊召喚、エンドフェイズで破壊されるって言ってもお前がしたように、素材に使っちまえばデメリットも関係なしか」

「ですがあなたのデッキならわざわざ二体のモンスターを使ってインヴォ―カーを召喚するより、モンスター効果で特殊召喚した方が良いと思いますが。それにインヴォ―カーのランクは3、Xセイバーのレベル3だとフラムナイトやダークソウルですが……あなたのデッキの場合、チューナーをオーバーレイユニットとするのは勿体ないかと」

「けど手札でも墓地でもなくデッキから直接召喚出来るってのはかなりのメリットだぜ」

「手札にXセイバーをサーチするのは容易ですし、エクシーズと違いシンクロなら墓地に送るのも難しくありません。今のデュエルの序盤でフォルトロールを使った戦法で実践してるでしょう」

 

二人でインヴォ―カーを覗き込みながら言葉を交わす。……何だかこういう風にカードを見ながらあーでもないこーでもないと議論を重ねるのは……昔を思い出します。沢渡さんも今の私もデッキは一人で組みますから。まあ私の場合、デッキの内容はサイドデッキと入れ替えるだけで此処に来た時からほとんど変えてはないですが。

 

「此処で突っ立って話してても埒が明かねえ、おい久守詠歌、少し付き合え」

「は?」

「心配すんな、飲み物ぐらいなら奢ってやるからよ」

「い、いやちょっと……」

 

刀堂さんに腕を掴まれ、強引にデュエル場から引きずられていく私。ちょ、セキュリティ! じゃなくて制服組! じ、事案が! 今まさに事案が!

 

 

 

 

 

 

「シンクロ使う癖にチューナーは二種類しか入ってねえのかよ? しかもどっちもチューナーとしてじゃなくほとんど効果モンスターとして使ってんのか」

「……ええ。ですから私のデッキではシンクロはほとんど行わないんです。融合素材として使う事が多いですね、シャドール・ファルコンなら蘇生も出来ますがエフェクト・ヴェーラーはほとんど融合の為に入れているようなものです」

「俺とのデュエルでしたみたいにあの犬っころのレベルを変化させられるとはいえ、1ターンに1上げるだけじゃ最上級のシンクロモンスターは入れられねえな。チューナーもレベル2と1だしな」

「……犬っころじゃありません、マドルチェ・クロワンサンです」

「ってか名前がダジャレなのか……いや馬鹿にしてるわけじゃねえけどよ」

 

……何故か、LDSの空き教室でカードを広げ、隣り合って座りながら議論を続ける私たち。

 

「にしてもこの二枚だけで良くシンクロ召喚を使えたな。俺だってシンクロをマスターするまで苦労したってのに」

「……まあ、昔はシンクロに傾倒してた時期もありましたから」

「昔って、融合やエクシーズと同じでシンクロも最近教えだしたばっかだぜ? しかもお前、LDSに入ってそんな長くねえんだろ?」

「学ぶ機会が昔あっただけです」

「はー、北斗ほどじゃねえが、俺もシンクロをマスターして少し天狗になってたのかね。まさか総合コースにお前みたいなのが入ってたなんてよ」

「ああ、やっぱり志島さんは天狗になってたんですね。自信過剰な方だとは思ってましたが」

「お前、それをあいつに言うなよ。あいつ打たれ弱いところがあるからよ。お前に負けたのも相当ショックだったみたいだし」

「……あなたや光津さんはどうなんですか? あなたたちも融合、シンクロコースに入ってからほぼ負けなしだと聞いてますが」

「俺も真澄も、北斗だって入ってすぐ強くなったわけじゃねえ。さんざん負かされたさ。今更一回や二回負けただけで落ち込んでられっかよ。悔しい事に変わりはねえがな」

 

そう言って刀堂さんは八重歯を見せながら笑う。それが少し眩しかった。……ま、沢渡さん程じゃないですけどね!

 

「それよりお前のデッキだ! シンクロモンスターがエクストラデッキに一枚しか入ってねえってどういう事だよ!」

「ああ、いや、もういっそのこと抜こうかとも考えてはいるんですが」

「はあ!? せっかくチューナーが入っててシンクロ召喚も覚えてるってのにか!?」

「私のデッキで最も現実的なのはレベル5、6のシンクロモンスターですが、中々良いカードと巡り合わないので」

「ならこいつはどうだ!? レベル6のXX-セイバー ヒュンレイ! お前のエクシーズモンスターと違って一気にフィールドのカード3枚破壊出来るぞ!?」

「そもそも素材がX-セイバー限定じゃないですか。私のデッキに居るのはインヴォ―カーだけで、エクシーズモンスターはシンクロ素材にはできません」

「うぐっ……いいかっ、とにかくシンクロを抜くんじゃねえっ」

「……まあまだ代わりのカードも見つかってませんから、そのつもりですが」

「なら良しっ! ……ふぅ、熱くなったら喉が乾いちまったな。よし、約束通り奢ってやるよ。何がいい?」

「ああ、でしたらこれを」

「あ? 何だよこれ」

 

テーブルの脇に置いておいたバッグから紙コップを取り出し、刀堂さんに手渡す。首を傾げながら受け取った刀堂さんのコップに、続けて取り出した水筒の中身を注ぐ。邪道な気もしますが、別に私はそこまで拘りはないので。

 

「冷たいカモミールティです」

「……また随分とお行儀の良いもん持ち歩いてんなあ」

「喜んでくれる人が居ますから。まあこれは自分用のですが」

 

刀堂さんの場合、紅茶やコーヒーより緑茶やスポーツドリンクの方が好きそうですが、今回は我慢してもらいましょう。

 

「……美味いな」

「水筒で持ち歩いているので見た目は悪いかもしれませんが、それでも市販の紙パックよりは自信があります。あれはあれで好きですが」

 

意外にも好意的な反応が返って来たので嬉しくなる。つい口数が多くなってしまいます。

 

「とはいっても大量に飲むのも体に良くはないので、まだ喉が渇くようなら別の飲み物を買ってきた方が良いですけどね。どちらかと言うとそれはあなたに落ち着いてもらうためのものですし」

「く……悪ぃ、確かに少し熱くなってたな」

「……いえ、構いませんよ。強引でしたが、私も……楽しかったですから」

「よしっ、なら今日の詫びだ。お前に合うシンクロモンスターを探しといてやるよ」

「え?」

「いくらシンクロが出来たってシンクロコースに居なきゃ分からねえことや知らねえカードもあんだろ? 闇雲にショップ回ったり片っ端から資料漁るよりは良いはずだぜ」

「いや、ですけど……」

「やっぱ素材制限がない、汎用のが良いよな。まあ俺に任せとけよ」

「いやあの……」

「とりあえずお前の通信用のコード教えろ。同じLDSでも今までだって顔合わせたことなかったしな。その方が便利だろ」

「あの、だから人の話を……いえ、分かりましたよ」

 

どんどん話を進めていく刀堂さんに諦める事を選択し、私は大人しくデュエルディスクを操作し、通話用のコードを表示させ、それを刀堂さんのディスクに送信する。

 

「おう。これが俺のな」

 

すぐに今度は刀堂さんからコードが送られ、デュエルディスクに登録される。

 

「んじゃ良さそうなのが見つかったら連絡する。お前も何かあれば連絡寄越せよ」

「はあ……分かりました」

 

曖昧に頷く私とは裏腹に刀堂さんは満足そうに頷いた。

 

「そんじゃあな。次はアクションデュエルで勝負しようぜ、久守詠歌」

 

コップに入った紅茶を一気に飲み干し、立ち上がった刀堂さんは竹刀を私に向け、そう言ってニヤリと笑った。

 

「美味かったぜ、ありがとな」

「いえ……お粗末さまでした」

 

律儀にもう一度礼を言って去る刀堂さんを見送る。……嵐のような人だ。子供らしいというか少年らしいというか、沢渡さんとも、山部たちとも違うタイプの人ですね。

 

「……私も急ぎましょう。この時間でLDSに居なければ今日ではなかったという事でしょうが……そうならいいんですが」

 

刀堂さんの勢いに負けてつい話し込んでしまいました。もしもこれで沢渡さんに何かあったらどう償ってもらいましょうか。……まあ悪いのは断り切れなかった私なんですけど。

 

 

 

 

 

結局、LDS中を探し回りましたが沢渡さんも、山部たちも見つかりませんでした。仕方ありません、山部たちに連絡を取ってみましょう。いつもの倉庫に居るのなら今から行っても遅いですけど。

と、通路でデュエルディスクを取り出した所で丁度着信が入った。相手は……柿本だ。

 

「もしもし」

『おー、久守』

「柿本、今何処にいるの。あなたじゃなくて沢渡さんの事だけど」

『言わんでも分かるっつーの。今日はもう皆帰ってるよ』

「そう。分かった」

『あーそれと明日なんだけど』

「……一昨日の話?」

「そうそう。昨日詳しく聞いて、いよいよ明日なんだってよ。お前も興味あんなら明日は講義受けないで放課後、センターコートに来いよ。今度は生で見れるぜ、例の――』

「……ペンデュラム召喚」

『おう』

「分かった。ありがとう」

『ん、じゃあな。……それと無理に見に来なくてもいいからさっさと必修の講義を終わらせてくれ。沢渡さん、お前の買ったケーキと紅茶がないと落ち着かないみたいなんだよ……』

「分かった。可及的速やかに終わらせる。むしろ今からでも講師の先生に直接言ってくる」

『いやそこまでしろとは言ってねえよ! ……はあ、とにかく伝えたからなー』

「ありがとう。それじゃ」

 

通話を終え、デュエルディスクを肩に下げたバッグへとしまう。

明日か……どうしましょう? きっかけはどうあれ、沢渡さんが決めたことなら全力でお手伝いしたいんですが……正直今回ばかりは……沢渡さんを止めたい気持ちもある。裏がありそうなのは勿論だけれど、ペンデュラムカードを持っているのは……榊‟遊”矢。響きだけなら珍しい名前ではないですが……うーん。

 

「ちょっと、何ボーっと突っ立てるのよ」

「あ……失礼しました」

 

立ち止まって考え込んでいるとどうやら通行の邪魔になってしまったようです。素直に謝って道を譲る。……ちゃんと通路の端に居たんですが。

 

「こんな時間まで一人で何をしてるの?」

 

謝りながら振り返った先に居たのは光津さんだった。腰に手を当て、呆れたように私を見ている。

 

「光津さん。いえ、沢渡さんを探していたら少し遅くなってしまいました」

「沢渡? 私も見てないけど、今日もサボりなんじゃないの?」

「サボりじゃありません。自主学習に熱心なだけです」

「……まあいいわ。それにしてもこんな時間まで探し回ってたの? もう夜よ」

「それは光津さんも同じでは?」

「私は……ちょっとデッキ構築を考えてたら遅くなっただけよ」

 

少し恥ずかしそうに頬を赤らめて光津さんが言う。どうやら夢中になって時間を忘れてしまっていたようです。まあ私も沢渡さんを探すのに夢中で時間を忘れていましたが。

 

「私も似たようなものです。シンクロコースの刀堂さんとデュエルした後、彼に捕まってデッキやシンクロの事で話し込んでしまいました」

「刃と? ああ、そういえばあなたの事を話したわね……ってあなた、まさかシンクロ召喚まで……?」

「融合とエクシーズと比べると私のデッキではオマケのようなものですが」

「オマケでシンクロを使われたらシンクロコースの立つ瀬がないじゃない」

「いえ、そういうつもりでは……デッキの相性ですし」

「分かってるわよ。っていうかそれなら私も呼びなさいよ! 刃の奴……それで、その刃は?」

「恐らくもう帰ってると思いますが」

「はあ、女の子一人置いて帰る馬鹿が何処にいるのよ……」

 

……光津さんの性格だと、「一人で帰れるわ」ぐらいは言いそうですが。ああいや、多分自分の事は除外してるんでしょうね。

 

「刀堂さんと別れたのはまだ夕方でしたから。彼に非はありません」

「どんだけ沢渡を探し回ってたのよ……というか電話しなさいよ」

「こういう時は少し、LDSの広さが恨めしくなります。それに電話して沢渡さんのお邪魔になるといけませんから」

 

また大きな溜め息を吐いてから「帰るわよ」と光津さんは歩き出した。

 

「はい。さようなら」

「あんたも一緒に帰るのよ! まだ探し回るつもりじゃないでしょうね、もうこんな時間なんだから居ないでしょっ」

「いえ、そんなつもりは……はい、分かりました」

 

頭を下げて光津さんを見送ろうとした途端、光津さんが振り返って少し大きな声で私を叱った。……優しい人です。

大人しく頷き、光津さんの横に並ぶ。LDSの外に出るともう完全に日は沈み、月明かりが差していた。

 

「久守、あなたの家は?」

「此処から南へ15分程歩いたマンションです」

「そう、なら方角は一緒ね」

 

暫く無言のまま、月明かりと街灯に照らされた道を二人で歩く。私は気になりませんが、光津さんは無言が苦な人ではないんでしょうか。

 

「そういえばあなたのそのケース、何度か持ってるのを見かけたけど何を入れてるの? デュエルディスクを入れるには大きいわよね。それにバッグならもう一つ持ってるし」

「これはティーセットのケースです。中身はカップとポッド、それに小さいケトルなど、ティータイムに必要なものは大抵入れています」

「ああ、そういえば一昨日も沢渡が飲んでたわね。あなたの私物だったの」

「ええ。沢渡さんも喜んでくれますし、ああ、それにこれで作ったものではないですが、今日は刀堂さんにもお褒めの言葉をいただきました」

「刃が? 言っちゃなんだけど、沢渡以上に似合わないわね」

「豪快に飲み干してくれました」

「簡単に想像できるわ」

 

光津さんはその光景を想像し、私は思い出して、クスリと笑った。

 

「ああ、そうだ。一応聞いておくけど」

「何でしょうか」

「刃には勝ったの?」

「ええ、まあ」

「ふーん、そう。私に北斗、それに刃にも……トップクラスのエリートが情けないわ、なんて言ったらまたあなたを怒らせちゃうのかしら」

「いえ。事実、あなたたちはLDSでもトップクラスの実力者ですから」

「それを融合、シンクロ、エクシーズまで使って三人抜きしてるあなたは何なのよ」

「一勝しただけで実力は決まりません。それに光津さんたちも召喚方法が実力の全てではないでしょう。事実、それぞれのコースの召喚方法は私より遥かに使いこなしています」

「言ってくれるじゃない」

「事実です。光津さんには融合とエクシーズを、志島さんには融合とシンクロを使わなければ勝利するのは難しかったはずです。今日の刀堂さんはエクシーズだけでしたが、今回は運が良かっただけです」

 

ハンデスでシャドールが落ちなかったとはいえ、インヴォ―カーから二体のティアラミスを一気に並べられたのは運の面が強いですし。

 

「ですからどちらが強いと決めるのは早計ですよ」

「……そういうことにしておくわ」

「はい」

「それと久守、改めて聞きたいんだけど」

「私に答えられる事であれば」

 

立ち止まり、改まって私に話しかける光津さんに私も足を止め、その瞳を見つめる。

 

 

「どうして沢渡にそんなに懐いてるの?」

 

「それを私に語らせると家に帰れなくなりますがいいでしょうか」

 

 

「私、こっちだから。またね」

「あ、ちょ……」

 

 




マドルチェ・知らないおっさんことインヴォ―カー登場。
今回はシャドルチェデッキで影の薄いシンクロのテコ入れフラグ回。漢、権現坂さんのように刃くんに(デュエルカットした分)頑張ってもらいます。

次はアニメ3、4話相当の話になります。
沢渡さんは次回輝くから………
次回、さようなら沢渡さん、デュエルスタンバイ!


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さようなら沢渡さん 前編

「お待たせしました。いつもありがとうございます」

「こちらこそ、お世話になっています」

 

通いなれた駅前のケーキ屋で店員さんから商品を受け取り、頭を下げる。

 

「あ、あのっ」

「はい?」

「これ、良かったら……」

 

手渡されたのは透明な袋に入っているのはプラスチックのカップに入ったプリン。初めて見る商品だ。新商品だろうか?

 

「これは?」

「私が作ったカスタード・プディングです」

「新商品の試食ですか。ありがとうございます」

「いえっ、まだ商品化はしてないんです。というかしてもらえるか分からないんですけど……」

「? ならどうして私に?」

「実は……私がこのお店で働き始めてからあなたが初めてのお客さんだったんです。それに次来てくれた時に美味しかったって言ってもらえて、私が作ったものじゃなくてもそれがすごく嬉しくて……だから勝手なんですけど、私が一から作ったこれを、食べてもらいたくて。これが商品化されなかったらもう作らせてもらえないかもしれないですし……」

「……私もあの時、初めてこのお店に来たんです。この街に来たばかりで、初めて寄ったお店が良いお店で通い始めたんですが……あなたも新入りさんだったんですね」

 

互いに顔を見合わせて、クスリと笑う。

 

「ありがたくいただかせてもらいます。今回は沢渡さんには我慢してもらって、特別私だけ」

「はいっ。良かったら次いらして下さった時に感想、聞かせてくださいっ。ど、どんなものでも結構ですからっ」

「はい。次にこれを買いに来た時に、必ず」

「――ありがとうございます!」

 

もう一度頭を下げ、今度こそケーキ屋を跡にする。

沢渡さんの為に通い始めた場所でしたが、休日でも気付けば足を向ける場所になっていた。

ちなみに沢渡さんのお勧めはスイートミルクアップルベリーパイ~とろけるハニー添え~やレアチーズムースタルト~クランベリーを添えて~など色々ありますが、私はシンプルなレアチーズケーキがお勧めです。

…………大変ありがたい贈り物なのですが、これは後に残しておきましょう。今は食べてもしっかりとした感想なんて言えそうもない。

結局、昨日家に帰った後も色々と考えましたが良い手は思い浮かびませんでした。沢渡さんのやることを止めるのは論外。ペンデュラム召喚に興味を示していた沢渡さんがやりたいことと言ったら、ペンデュラムカードを手に入れ、ペンデュラム召喚を自分の手で行うことだろう。

その為に必要なのはペンデュラムカード。ストロング石島戦の映像を見る限り、ペンデュラム召喚は二枚なければ行えない。ペンデュラム効果はどうなのかは分からないが……とにかく沢渡さんが必要としているのは二枚のペンデュラムカード。そしてそれを持っているのは今の時点では榊遊矢のみ。

昨日の柿本からの電話では今日、LDSのアクションコートでペンデュラム召喚が見れると言っていた。……多分、アクションコートに誘って、そこでカードを奪うつもりなんだろう。

ペンデュラム召喚を知ってから沢渡さんは少し変わった。表向きは以前と変わってないように見えるけど、以前あったような余裕がない。

私が融合やシンクロ、エクシーズを使うと知っても変わらずにあった他人への余裕がなくなった。

ペンデュラム召喚に心を奪われて、それだけに執心している。

それが悪い事だとは思わない。やっと沢渡さんが自分のデュエルを見つけたって事だから。でも、そこに誰か他の人間の意思が介在しているなら。誰かが沢渡さんを都合よく利用して自分の利益の為に沢渡さんを使っているのだとしたら。そういう立場に沢渡さんを位置づけようとしているのなら。

それは許せない。沢渡さんの行動は、デュエルは、生き方は、全て沢渡さんだけのものだ。他の誰にも利用させたりしたくない。

 

……とは言っても、何をどうすればいいのか。沢渡さんを止めるのは論外。榊遊矢をどうにかしても、先延ばしになるだけ。ペンデュラムカードさえ手に入ればいいんだけど……他に当てもない。可能性があるとすればLDSを経営している、レオ・コーポレーションならもしかしたら……でもどうにもできない。

結局私は今の流れに身を任せることしか出来ないんだろうか。

 

LDSの正面玄関で立ち止まり、建物を見上げる。多分、もうすぐ始まるはずだ。その時、私はどうすれば……

 

「あれ? 久守じゃん。どうしたんだよ、こんな所で立ち止まって」

「え……沢渡さん!」

 

玄関前で考え込む私に声を掛けたのは、沢渡さんだ!

 

「お疲れ様です、沢渡さん!」

「おう」

「ところで……そちらの方たちは?」

 

沢渡さんの後ろについてきているのは山部たちじゃない。一人は知っている。榊遊矢。けど残りの4人は見たことがない。榊遊矢が所属する遊勝塾の人だろうか。

 

「俺は榊遊矢」

 

赤と緑の髪とゴーグルが特徴的な少年、榊遊矢。

 

「前に話したろ? ペンデュラム召喚の使い手さ」

「私は柊柚子。私たちはLDSの塾生じゃないけど、今日は沢渡くんに誘われて……」

 

榊遊矢、柊柚子の二人に続いてその後ろに居た子供たちも名乗る。フトシくんにタツヤくん、アユちゃん、子供たちも遊勝塾の生徒だそうだ。

 

「あなた、確か隣のクラスの……去年の終わり頃に転校してきた、久守さん、だったわよね?」

「はい。久守詠歌と言います」

「やっぱり。あなたもLDSの生徒だったのね」

「ええ、転校してすぐに。まだ入って2か月程ですが、沢渡さんと同じ総合コースに所属しています」

「こう見えて結構すごいんだぜ、久守の奴」

「いえそんなっ、沢渡さん程じゃないですよ!」

 

いやっほう! 沢渡さんに褒められたおかげでますます考えがまとまらないよ!

 

「……何だか学校で見かけた時とは全然様子が違うわね、彼女」

 

柊さんが何か呟いてるけど耳に入りません!

 

「丁度いい、お前も見たいだろ? ペンデュラム召喚」

「はい! 是非!」

「だってさ。なあ、いいだろ? 遊矢くん」

「え、ああ」

「よし、それじゃあ行こうか。LDSにようこそ」

 

丁寧語の沢渡さんも格好いいですね!

沢渡さんの横に並び、LDSへと足を踏み入れる。その後ろを榊さんたちが追って来る。通路を歩きながら沢渡さんがLDSについて説明していく。

……こうなったらもう、流れに身を任せるしかないですね。沢渡さんの願いが叶えばそれで良し、もしそれを利用する人間が居るなら、私が――

まあ、沢渡さんはきっと私の余計なお世話とか手回しなんかなくとも、きっと大丈夫です。うん、そうだ。私はただ、沢渡さんのサポートに徹すればいい。

 

 

 

「――召喚方法だけでもエクシーズ召喚コース、シンクロ召喚コース……おっ、融合召喚コースってのもある」

「……榊さんは、ペンデュラム以外の召喚方法にも興味があるんですか?」

 

そう考えると少し余裕が出て来た。やっぱ沢渡さんの傍に居ると悩みなんて吹っ飛びますね!

今はもう立ち止まってポスターを眺めている榊さんに話を振る余裕まであります。

 

「あ、いや、まあこういうの見ちゃうと少し気になる、かな。あはは」

「皆同じです」

「え?」

「私も含めて皆、映像でペンデュラム召喚を見て、気になっているんです。エクシーズやシンクロよりも珍しい、誰も知らなかったペンデュラム召喚を」

「あ……」

「だから今から楽しみです。もう一度見る事が出来れば、きっと対策も少しは立てられるはずですから」

「ははは、そう簡単にはやられないさ。俺だってやっとペンデュラム召喚をモノにしたんだから」

「やっと?」

「あ。い、いや何でもない!」

 

誤魔化すように笑う榊さんに首を傾げる。やっと……ってどういう意味でしょう?

 

「おーい久守、遊矢くん、センターコートはあっちだよ」

「あ、はい! 今すぐ行きます!」

 

私としたことが沢渡さんを待たせてしまった!

 

「お前にとっちゃ、今更珍しいもんでもないだろ?」

「すいません。そうだ沢渡さん、ケーキを買ってきたので後でどうですか?」

「そりゃいい。後でもらうとするか」

「えへへ、はい!」

 

「ちょっと遊矢、何デレデレして久守さんと話し込んでるのよ」

「なっ、デレデレなんてしてないだろっ」

「ふん、どうだか」

「まあまあ二人とも~」

「せっかくLDSに来たんだから喧嘩しないしない」

 

何やら榊さんたちが揉めているようですが、大丈夫でしょうか。

 

 

 

「「「うわーっ!」」」

 

通路を抜けた先、正面玄関の丁度反対側にLDS最大のアクションデュエルコート、センターコートはある。……それにしても貸切なんて、流石沢渡さん! ……と素直に感心は出来ない。いくら沢渡さんでもそう簡単に出来ることじゃないですし、やっぱり誰かがバックに居るんですね。

 

「憧れのLDSセンターコート!」

「……?」

 

タツヤくんが無邪気に喜びの声を上げる中、榊さんと柊さんが貸切のはずのセンターコートにある人影に気付いた。言うまでもなく、山部、大伴、柿本の三人だ。

 

「やあ」

 

大伴が手を上げ、榊さんたちに声を掛けた。それを訝しげに見る榊さんたちに沢渡さんが言う。

 

「あの子たちも君のファンなんだ。彼らにカードを見せてもらえないかい? ペンデュラム召喚に使うカードをさ」

「えっ? で、でも……」

「少し見せるだけだからさ、なあ?」

「う、うん……」

 

気さくな態度だけれど、その有無を言わせない言葉に榊さんが躊躇いつつも二枚のカードを取り出し、沢渡さんに差し出した。

 

「あっ」

「ほら」

 

それを引っ手繰るように受け取った沢渡さんがカードを山部たちへと見せつける。

 

「すっげえ!」

「これがペンデュラム召喚に使うカードか!」

「俺も欲しぃー!」

 

沢渡さんからカードを受け取り、大袈裟な態度でカードを眺める山部たち、大根役者にも程がある。

 

「ダメダメ、これは君たちのものじゃない。……だろ?」

「「「ちぇー」」」

 

……後はもう、なるようにしかならない。

 

「だってこれは、俺のコレクションになるんだから」

 

「えっ……!?」

「っ、ちょっと! どういう事!?」

 

「俺、レアで強いカードが好きでさ。弱いカード入れるの嫌なんだよねえ。だからこいつは貰ってやるって言ってんだよ」

「ひっひひひ!」「はははっ」「あははっ」

 

沢渡さんの発言に山部たちが笑い、私の隣に立つ柊さんは怒りの表情を浮かべる。

 

「その為に私たちを呼び出したの!?」

「だけじゃないよ? 手に入れたら、やっぱり使ってみたいじゃん? お前たちも、ペンデュラム召喚見たいだろ?」

「勿論!」「見たいぜえ!」

「――だからセンターコートまで押さえたんじゃん」

 

沢渡さんは笑いながらデュエルディスクを腕にセットした。

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

弱気ながら榊さんが抗議の声を上げる。けれどもう、そんなもので止まるはずもない。此処までやって、止めさせる気もない。

 

「そういう事です。榊さん、カードは諦めてもらえませんか」

 

「なっ……」

「久守さんまでっ!?」

 

一歩踏み出し、沢渡さんの前に歩み出た私は榊さんたちを振り返り、言う。

 

「他の召喚方法に興味があるんでしょう? ならペンデュラム召喚じゃなくてもいいじゃないですか」

「そんなっ……! 確かに興味はあるけどっ、ペンデュラム召喚は特別なんだっ! 俺の、俺がやっと見つけた……!」

 

「まあまあ、いいじゃん。皆ペンデュラム召喚を見に此処まで来たんだろっ?」

 

私の肩を叩き、榊さんに詰め寄った沢渡さんが彼のゴーグルを強引に引っ張り、手を離した。

 

「うっ!」

 

勢いよく戻って来たゴーグルが額に当たり、榊さんが後ろ向きに倒れる。

 

「遊矢兄ちゃん!」

 

子供たちが心配そうに集まる。けれどそれでも沢渡さんは止まらない。

 

「あれぇ? 俺なんかとはデュエルしたくないのかなあ?」

 

さらに言葉を続けようとした沢渡さんのディスクに、通信が入った。その後ろに居た私には聞こえた。

 

『その辺にしておけ……。君の仕事はペンデュラムカードをこちらに渡すことだ』

 

……! 居た。やっぱり居た。沢渡さんを利用している人間が。

 

「ああ、中島さん?」

 

中島。聞いたことのない名前だ。けどもう忘れない。この通信の主が、沢渡さんを利用した人間。首謀者かはともかく、関係者であることは疑いようがない。

 

「俺の目的は違うんだよねえ。最初からこのカードが欲しかったし」

『何を考えている!? 余計な事をするんじゃない!』

 

だけど笑えますね。沢渡さんを利用するつもりが、振り回されているじゃないですか。

 

「と、いうわけで」

 

通信が途切れたところで沢渡さんが指を鳴らした。私が居ない所で打ち合わせしていたのだろう、山部と柿本が柊さんを、大伴が子供たちを拘束した。どちらも危ない絵面です。

 

「きゃあ! な、なにするのっ……」

「「「遊矢兄ちゃーん!!」」」

 

「っ、やめろっ! 柚子たちを離せ!」

 

「沢渡さん」

「ん? ああ……いいぞ、好きにしろ」

 

強引に運ばれる柊さんを見て、沢渡さんに声を掛ける。……デュエルディスクをセットして。

それだけで察したのか、沢渡さんは笑って許可してくれた。

 

「心配しなくていいよ。ちょっと協力してもらうだけさ」

「何だって……?」

「そうだ、貰ってばかりじゃ悪いから――」

 

沢渡さんと榊さんから離れ、コートの隅へと連れられて行く柊さんたちを追う。

 

「山部、柿本」

「んあ?」

「彼女たちの相手は私がする。だから手を離して」

「何だよ、お前はペンデュラム召喚見なくていいのか?」

「沢渡さんが勝てば後でいくらでも見られるから」

「へっ、それもそうだ」

 

「ちょっと! 何なのよ!」

 

ニヤつきながら二人は柊さんの手を離し、大伴も子供たちを柊さんの傍に下ろした。

 

「柊さん、手荒な真似をして申し訳ありません」

「久守さん……どういうつもりなのよ、遊矢からペンデュラムカードを奪うなんて! あなたまでこんな奴らに協力なんか……!」

「へへへっ、無駄無駄。そいつは沢渡さんの言う事なら何でも聞くからな」

「そうそう。沢渡さんがやるって決めたらそいつもやる」

「どうして……っ!」

「褒められた事ではないのは分かっています。けれど事の善悪は関係ありません。沢渡さんが望むなら、私はそれを叶えてあげたい。それだけです。……それに、今となっては本当に事が成せるのか、それを確かめる良い機会だとも思っています」

「何を言ってるの……?」

「理解して貰えるとは思っていません。いくら言葉を重ねても、伝わらないでしょうから。だから、語るのならデュエルで。あなたも人質になって榊さんの枷にはなりたくないでしょう」

 

セットしたデュエルディスクを突き出し、柊さんにデュエルディスクをセットするように促す。

 

「……上等じゃない。さっさと勝って、遊矢もカードも連れ帰させてもらうわ」

 

私の言葉に苛立ちながらも柊さんはデュエルディスクを取り出し、自信満々に笑った。

 

「大伴、荷物をお願い」

「へいへい」

「乱暴に扱ったら突き落とすから」

「恐ろしい事をさらっと言うなお前……」

 

 

「アクションフィールド・オン!」

 

 

沢渡さんの声と共に、リアルソリッドビジョンシステムが稼働し、アクションフィールドの形成が始まった。

これは……確かダークタウンの幽閉塔。そして多分私たちが立っているこの位置は最も高く聳え立つ、フィールド名にある幽閉塔だろう。

 

「きゃあああ!?」「う、うわあああ!?」

 

地面から鎖が伸び、柱がせり上がり始める。

それに驚いた子供たちが悲鳴を上げ、柊さんへと抱き付く。……失敗しました。せめて子供たちだけでもフィールドの外に出しておくべきでした。

しかし今更言ってもどうしようもない。

 

「それでは」「いってみようか!」

 

塔の下に居る沢渡さんと声が重なる。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!」「これぞデュエルの最強進化形!」

「アクション……!」

 

「デュエル!」「デュエル!」「デュエル!」「デュエル……!」

 

アクションカードが散らばり、塔の頂上と遥か下、私と柊さん、沢渡さんと榊さんのデュエルが始まる。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「本当に良いのですか……?」

「ああ。続けさせろ」

 

薄暗く、無数のモニターが眩しく輝く部屋。

其処に今回の発端ともなった中島とその主であるレオ・コーポレーション社長、赤馬零児の姿あった。

 

二人はアクションフィールドが選択され、ダークタウンの幽閉塔が建造されていく様子をモニター越しに眺めていた。

そんな中、フィールド全体ではなく、モニターの端に表示されている一部をピックアップして映すカメラ映像を見て、赤馬は口を開く。

 

「彼女は?」

 

次期市長と目される沢渡氏の息子である沢渡シンゴの事は名前は知っていた。それを取り巻く連中が居るというのも頷ける話だったが、その取り巻きたちの中で彼女が異質に感じたが故の質問だった。

他の取り巻きたちのように楽しむでもなく、ただ静かに相対する遊勝塾の少女を見つめる姿が、気になった。

 

「え、ああ、二か月ほど前にLDSに入った……総合コースの久守詠歌です」

 

赤馬の質問に中島はデバイスを取り出し、すぐさま少女の名を読み上げる。

 

「久守……? 何処かで……」

 

LDSの生徒の全てを把握しているわけではないが、確かにその名前に聞き覚えがあった。それにLDSではない、別の何処かで。

 

「最新の情報ですと昨日までの三日間で融合コース、シンクロコース、エクシーズコースの実力者に3連勝していると」

「入って二か月の総合コースの者が……?」

「はい。ですが彼女は総合コースに所属していますが、融合、シンクロ、エクシーズを使っているようです。召喚反応自体は特筆すべきものはありませんが……」

「……そうか、以前沢渡先生が言っていた……」

 

中島からもたらされた情報を聞いて、赤馬はその名前を何処で聞いたのかに行き当たった。そして同時に納得する。彼女が沢渡と共に居る訳を。

 

「社長?」

「いや。分かった」

 

それ以上言葉は紡がず、また赤馬はモニターへと意識を集中させた。榊遊矢と、端に表示される久守詠歌にも僅かに意識を向けながら。

 

(大会に出場するか分からない以上、今力の一端を見極めるのも必要か……)

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

YUZU VS EIKA

LP:4000

アクションフィールド:ダークタウンの幽閉塔

 

「橋の上に建つダークタウンの幽閉塔。此処はその頂上です」

 

「生憎、幽閉されるつもりはないわ!」

「や、やっちゃえ! 柚子姉ちゃん!」

「負けないで、柚子お姉ちゃん!」

「任せておいてっ。フトシくん、タツヤくん、アユちゃんをお願い。アユちゃん、少しだけ我慢しててね?」

「う、うんっ」

 

腰に抱き付いていたアユちゃんを二人に任せ、柊さんは幽閉塔に勇ましく立つ。この幽閉塔はそれ程広くはない。派手な動きをしてしまえばあっさりと転落してしまう。……やはり子供たちを残したのは失敗でした。

 

「先行はお譲りします。子供たちだけでは心配でしょう」

「お気遣い、ありがとうっ。私のターン!」

 

皮肉と捉えられたのか、若干睨まれてしまいました。

 

「私は幻奏の音女アリアを召喚!」

 

現れたのは紫の髪を持つ、音女。詳しくは知りませんが確か幻奏モンスターは全て特殊召喚に関する効果を持っていたはず。これで終わりではないでしょう。

 

「フィールドに幻奏の音女が居る時、手札から幻奏の音女ソナタを特殊召喚出来る! 来て、ソナタ!」

 

続いて現れる緑の髪を持つ音女、ソナタ。二人の音女は静かに幽閉塔へアユちゃんたちを囲むように降り立った。

 

幻奏の音女アリア

レベル4

攻撃力 1600 → 2100

 

幻奏の音女ソナタ

レベル3

攻撃力 1200 → 1700

 

「特殊召喚されたソナタがフィールドに居る限り、私のフィールドの天使族モンスターの攻撃力、守備力は500ポイントアップするわ!」

 

自分フィールド限定のパワーアップ……アクションデュエルではフィールド魔法は基本的に使えないのでマドルチェ・シャトーは既に抜いてある……ですがシャトーがない今、私のデッキのマドルチェではパワーアップした幻奏の音女の戦闘破壊は困難です……。

 

「私はこれでターンエンド!」

「私のターン、ドローします」

 

……正直、あまり状況は良くない。これが通常のデュエルならば関係ないが、今はアクションデュエル。リアルソリッドビジョンシステムによってモンスターもフィールドも質量を持っている。安全装置があるとはいえ、この高さからもし落ちようものなら子供たちの一生のトラウマとなるだろう。幻奏の音女たちでは子供たちを抱えながらこの高さから無事に降りられるか怪しい。よって間違いなくフィールドを破壊するであろう巨大なネフィリム、彼女は使えない。

 

強力なバウンス効果を持つティアラミス、彼女なら無闇にフィールドを破壊することはないだろうが、バウンス出来るのは一ターンに二枚まで。今の手札ではこのターンに召喚することは出来ない。けれど、次の柊さんのターンにはフィールドのカードは恐らくもっと増える。もしもアドバンス召喚でモンスターカードが二枚まで減り、ティアラミスの効果でバウンス出来たとしてもマドルチェ・シャトーがない今、彼女の攻撃力は2200。頼もしいとは言えない数値だ。次のターンまで無事でいられる可能性は低い。それにもしティアラミスで決着がついたとしても沢渡さんたちのデュエルが続いていればアクションフィールドは解除されない。もしも直接攻撃の衝撃で吹き飛んだりすれば、ティアラミスでは助けられない。

 

それにこの不安定な高台で戦う以上、出来るならば戦闘は1ターンで終わらせたい。もしも何度もモンスターの攻撃を受けて吹き飛んだり、崩れたりすれば……想像したくない。

 

そう考えると私が使える子たちは限られてくる。……刀堂さんの勧め通り、ヒュンレイにしておけば良かったかもしれない。傭兵さんならこれぐらいの高台、ちょちょいと降りてくれたかもしれないのに……獣神ヴァルカンじゃ、少し不安だ。

……考えていても仕方ない。答えは出ている。彼女たちがフィニッシャーに使えないなら他の子たちに協力してもらいましょう。

 

「私はモンスターをセット、そしてカードを二枚セット。ターンエンドです」

「私のターン! ドロー!」

 

「あの姉ちゃん、カードを伏せただけで弱気だっ。柚子姉ちゃん、やっちゃえー!」

 

「ええ! 私は幻奏の音女アリアをリリースしてアドバンス召喚! 来て、レベル5の幻奏の音女エレジー!」

 

アリアと入れ替わりで舞台に上がった音女、エレジー。

ソナタよりも薄い緑の髪を揺らしながら、同じように静かに子供たちの傍に降り立った。

 

幻奏の音女エレジー

レベル5

攻撃力 2000 → 2500

 

「エレジーがフィールドに存在する間、特殊召喚された幻奏の音女たちは効果では破壊されない! これでどんなカードを伏せていても関係ないわ!」

 

破壊耐性まで……本当、使わないと決めた時ほど、いつも頼りたくなってしまう。光津さんとのデュエルでもそうだった。……でも、今回は頼れない。こんな状況になっておいて今更だけれど、怪我だけはさせない。デュエルにも……負けない。

 

「エレジーでセットされたモンスターを攻――きゃあ!?」

 

柊さんが攻撃宣言する直前、衝撃が幽閉塔を襲った。振り向いて下を見ると、巨大なビリヤードの球が幽閉塔の真下を通り抜けている。その振動のせいのようだ。恐らくアクショントラップを榊さんが取ってしまったんだろう。

 

「ちょっと遊矢、しっかりしなさいよ!」

『うぅ、わ、悪い……っ』

 

柊さんがデュエルディスクを通じて榊さんを叱咤する。滑り落ちそうになった子供たちはソナタとエレジーが支えているようだ。

 

『よう久守、無事か?』

「沢渡さん! はい、大丈夫です!」

『この調子じゃ、まだまだトラップに引っかかってくれそうだ。用心しとけよ』

「はいっ!」

 

楽しそうに笑いながら沢渡さんが忠告してくれる。流石、沢渡さん、デュエル中でも気配り上手!

 

「ったく……改めて攻撃よ、エレジー!」

 

気を取り直し、柊さんが改めて攻撃を宣言する。

 

「私は罠カード、ハーフorストップを発動。このカードが発動した時、相手プレイヤーは自分フィールドのモンスターの攻撃力を半分にしてバトルフェイズを続けるか、バトルフェイズを終了するか選択できます」

「くっ……私はバトルフェイズを終了するわ」

 

もしも攻撃力が半分になればエレジーの攻撃力は1150。攻撃を仕掛けるには心もとない数値だ。通常なら選択としては正しいだろう。まあ私のセットしたモンスターの守備力はそれよりも低いので、今回はミスですが。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエン――」

「エンドフェイズ時、永続罠、影依の原核(シャドールーツ)を発動。このカードは発動後、永続罠であると同時にモンスターカードとして特殊召喚されます。私は守備表示で影依の原核を特殊召喚」

 

影依の原核

レベル9

守備力 1450

 

「な、なにあれ……怖い……」

「痺れるぐらい気味が悪いぜ……」

「しかもバトルフェイズは終了してるから破壊することも出来ない……」

 

現れた影依の原核は卵のようにも見える、不思議な球体。けれど其処からは靄のように何かが立ち上り、まるで生物であるかのように姿を蛇や獣のような姿に変化している。

 

「……ターンエンドよ」

「私のターン、っ……!」

 

ドローの為にデッキに手を触れた瞬間、また衝撃が幽閉塔を襲う。背後を見れば今度はビリヤードの球が跳ねあがり、幽閉塔の高さにまで上がって来ようとしていた。この高さから再び落下すれば……ほぼ間違いなく幽閉塔のある橋は崩れるだろう。そうなれば私たちの居る幽閉塔自体が壊れるのも時間の問題。急いだ方が良さそうだ。じゃないと他人の心配を(勝手に)している私が落ちる羽目になる。

 

「ドロー。私はモンスターを反転召喚。おいで、シャドール・ヘッジホッグ」

 

シャドール・ヘッジホッグ

レベル3

攻撃力 800

 

反転召喚されたヘッジホッグが私の前で体の針を強調し、威嚇する。

 

「あ、あっちのは少し可愛い、かも」

「でも二体並ぶと何だか不気味だぜ……?」

 

……音女たちが周囲に居るからか、思いの外子供たちも余裕があるようだ。心配し過ぎだったかもしれない。

 

「ヘッジホッグのリバース効果発動。シャドールと名の付く魔法、罠カードを手札に加えます。私が手札に加えるのは影依融合(シャドール・フュージョン)

「融合……!?」

 

「融合……?」「って何だ?」

「融合召喚……! モンスターとモンスターを合体させて、より強力なモンスターをエクストラデッキから呼び出すつもりなんだ……!」

 

フトシくんとアユちゃんの反応を見るに、やはりまだまだアドバンス召喚以外の召喚方法は子供たちにまでは知られていないようだ。タツヤくんが知ってるってことはそこまでマイナーというわけでもないんだろうけれど。

 

「私は手札に加えた影依融合を発動。フィールドのヘッジホッグと手札のシャドール・ビーストを融合――糸に縛られし鼠と獣よ、一つとなりて神の写し身となれ――融合召喚。来て、探し求める者、エルシャドール・ミドラーシュ……!」

 

暗い影が混ざり合い、やがて光が堕ちる。暗い光の渦から姿を現したのはソナタともエレジーとも違う、また緑色の髪。ガスタの色を持つ者、ミドラーシュ。

ゆっくりと光の渦の中から這いずるように現れるミドラーシュ。……あの、演出なのかもしれませんが早く全身出してくれませんか。急がないとさっきのビリヤードの球が……

 

「きゃあああ!」

 

ミドラーシュの全身が光から抜け出るよりも早く、先ほど跳ね上がったビリヤードの球が地面へ落ち、今までで一番の衝撃が幽閉塔を襲った。

 

「っ……」

 

その衝撃に塔から振り落とされそうになり、体勢を整えようとするが掴まれそうな場所は見当たらない。……主にミドラーシュが出てこようとしている光の渦のせいで。

 

「久守さん!?」

 

エレジーに支えられ、体勢を整えた柊さんが今にも落ちそうになっている私を見て悲鳴を上げる。

 

「エレジー、久守さんを!」

「そ、そんなことしたら柚子お姉ちゃんが落ちちゃうよ!」

「でも、だからって!」

 

今にもエレジーや子供たちを振り切って飛び出しそうな柊さんを見て、まるで仕方ないと言わんばかりにミドラーシュが手に持つ杖を私に差し伸べた。だからもっと早くしてください。

杖を掴むとミドラーシュは私を引っ張り上げ、漸く全身を光の渦から出すと自身が駆るドラゴンへと私を乗せる。これで落ちる心配はなくなった。

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200

 

それを見てほっとした表情の柊さんに罪悪感が募る。悪趣味な演出になってしまいました。

 

「召喚されたミドラーシュは相手のカードの効果では破壊されません。……私は融合素材として墓地に送られたビーストの効果発動。デッキから一枚ドロー」

 

ドローしたのは……悪くない、運が向いて来たらしい。前回のと今のでミドラーシュの呪いが解けたんでしょうか。

 

「私は手札から速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動」

「まさか、また……!?」

「手札の二枚目のシャドール・ヘッジホッグとフィールドの影依の原核を融合、影依の原核はシャドール融合モンスターの素材となる事が出来る――糸に縛られし鼠よ、母なる核と一つとなりて神の写し身となれ――融合召喚」

 

私の背後でミドラーシュが手を前に掲げる。先ほどとは違う眩しい光が私たちの頭上で渦巻き始める。普通のソリッドビジョンと違い、やはりアクションデュエルで使われるリアルソリッドビジョンは凄い。同じ融合魔法でもそれぞれの特色が出ている、などと場違いな感想を思い浮かべながら私もまた手を掲げる。

 

「来て、忍び寄る者、エルシャドール・ウェンディゴ……!」

 

ミドラーシュの時とは違い、光の中から彼女たちは飛び出すように姿を現した。

 

「イルカ、なの……?」

 

その姿を見て、アユちゃんが呟く。

その言葉の通り、現れたのは所々が機械化されてはいるが、それは間違いなくイルカだった。

そしてイルカに続くように現れたのはその主である、少女。

金と紫の髪を持ち、手には形こそ違うがミドラーシュと同じく禍々しさを感じさせる杖を持った少女人形。

 

エルシャドール・ウェンディゴ

レベル6

守備力 2800

 

「これが融合召喚……僕、初めて見た……」

「すっげえ……」

 

幽閉塔から子供たちが見上げる中、ウェンディゴはイルカの背を軽く蹴り、私とミドラーシュが乗るドラゴンへと飛び移った。……いやイルカに乗ってあげなよ。

こうしてドラゴンの背にミドラーシュ、私、ウェンディゴという背の順で座る形になり、色々と物申したい気持ちに駆られながらも私はデュエルを進める。

 

「融合素材として墓地に送られた原核の効果発動。このカード以外の墓地のシャドールと名の付く魔法、罠カードを手札に戻す。私は神の写し身との接触を手札に戻します」

 

 

恐らく柊さんはエクストラデッキを使用した召喚は出来ない。つまり影依融合によるデッキ融合は行えない。なら速攻魔法である神の写し身との接触の方が役立つだろう。

 

「まさかもう一度するつもり!?」

「いいえ。どちらの融合カードも一ターンに一度しか使用できませんし、ミドラーシュの効果により、ミドラーシュがフィールドに存在する限り互いのプレイヤーは一ターンに一度しか特殊召喚を行えません」

 

「よ、よかったぁ……それじゃあこのターンはこれ以上モンスターが増えないんだねっ」

「いや、まだ通常召喚をあのお姉さんはしてない……それに特殊召喚が一ターンに一度まで、ってことは柚子お姉ちゃんの幻奏の音女たちも一ターンに二体までしか……」

「で、でもあのドラゴンを倒せばいいんだろっ? だったら次のターン、攻撃力で勝ってるエレジーで攻撃すれば……!」

 

あのドラゴン呼ばわりされたからかミドラーシュが杖を振って自己主張する。どうやらフトシくんにはドラゴンが本体に見えるようだ。……まあ気持ちは分からないでもない。

 

「私はモンスターをセット。さらにカードを一枚セットしてターンエンド」

 

ミドラーシュのせいで揺れるドラゴンの背中で私はビーストの効果でドローしたカードをセットし、エンド宣言。まだ足りない。

 

「えっ、攻撃しないのかよ?」

「何か企んでるのかも……」

 

子供たちは色々と予想を立てているようですが、柊さんはどう出るのか。

 

「私のターンっ! って……あれは!」

 

ドローしようとデッキに掛けた手を離し、柊さんが何かを指さした。振り返ってもミドラーシュの顔しか見えない。……ちょっとズレてもらえません?

渋々といった様子でミドラーシュが体をズラすと、柊さんが指さしていたものが視界に入り込む。

 

「遊矢兄ちゃんの時読みの魔術師と……」

「星読みの魔術師だ!」

「でも今使ってるのは……」

 

「どうやら沢渡さんの方は準備が整ったみたいですね」

「そんな……」

 

 

 

「――ペンデュラム召喚!」

 

 

 

アクションフィールドに、沢渡さんの高らかな宣言が響き渡った。

 




初アクションデュエル回。(アクションカードを使うとは言ってない)
今回はアニメ3話を見ながらじゃないと状況が分かり難いと思います……。
アニメでは幽閉されるお姫様役だった柚子さんとのデュエルです。

アクションデュエルは描写が難しいですが、モンスターたちは書いていて楽しいです。
OCGプレイヤーでない読者の方は登場したモンスターの画像を探していただければより分かりやすくなるかと……。

次回こそ沢渡さんとお別れか…(棒読み)


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さようなら沢渡さん 後編

『俺はスケール1の星読みの魔術師と』

「っ、俺は、スケール1の星読みの魔術師と――」

『スケール8の時読みの魔術師で』

「スケール8の時読みの魔術師で――」

『「ペンデュラムスケールをセッティング! ――――ペンデュラム召喚!」』

 

二体のモンスターによって作られたゲートから、モンスターたちが同時に召喚された。

 

「うぉお! すげぇ! マジすげぇ! ペンデュラム召喚、最高だぜぇ!!」

 

それを見て、沢渡は興奮した様子で笑い声を上げる。

ペンデュラム召喚を行った二人目のデュエリストが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ペンデュラム召喚……うそ、本当に遊矢以外の人が……」

「本当に特別な力も、カードも、世界には存在しない。選ばれた者だけが使える力なんて、存在しません。当然の結果です」

 

一発で成功させるなんて、流石沢渡さんですね! しかも三体もまとめて召喚なんて、マジ凄すぎっすよ!

 

「「「遊矢兄ちゃん!」」」

 

子供たちが榊さんの名を必死に呼ぶ。

けれどその声は此処からでは届かない。

 

「柊さん、あなたのターンです」

「っ……! 私のターン、ドロー!」

 

柊さんのフィールドには幻奏の音女ソナタとエレジー、そして伏せカードが一枚。私のフィールドにはエルシャドール・ミドラーシュとウェンディゴ、セットモンスター、伏せカードが一枚。

エレジーの攻撃力はソナタの効果により500ポイント上がり、2500。ミドラーシュの攻撃力は2200、ウェンディゴの守備力は2800。特殊召喚が主体の幻奏デッキなら、特殊召喚に制限をかけるミドラーシュを破壊しなければ真価は発揮できない。

 

「バトルよ! エレジーでエルシャドール・ミドラーシュを攻撃!」

 

当然、そう来ますよね。

 

「罠カード、堕ち影の蠢きを発動。このカードはデッキからシャドールと名の付くカードを一枚墓地に送る事で発動でき、フィールドのセットされたシャドール・モンスターを表側守備表示へと変更する。私はデッキからシャドール・ハウンドを墓地に送り、セットモンスター、シャドール・ファルコンを表側表示に」

 

姿を現したのは隼。空を飛び、私たちが乗るドラゴンの隣へと滞空する。

 

シャドール・ファルコン

レベル2 チューナー

守備力 1400

 

「そしてファルコンのリバース効果を発動。墓地のシャドール・ビーストを裏側守備表示で特殊召喚します。さらに墓地に送られたハウンドの効果、フィールドのモンスターの表示形式を変更する、私はエレジーを守備表示へ」

 

シャドール・ビースト(セット)

レベル5

守備力 1700

 

幻奏の音女エレジー

レベル5

攻撃力 2500 → 守備力 1700

 

「また攻撃が封じられた!」

 

「……ターンエンドよ」

 

思い通りにバトルが出来ない歯がゆさに僅かに焦りの表情を見せながら柊さんはターンを終了した。

 

「……ファルコンを攻撃しなくて良かったのですか?」

 

思わず指摘してしまった。

 

「あっ……く、これでいいのよ!」

「そんなに榊さんの事が気になるのなら、早くデュエルを終わらせるべきです。……私も、時間は掛けたくありませんから」

「何ですって……!」

「私のターン、ドロー」

 

これで冷静さを失ってくれるのならありがたい。それに本音でもありますし。

 

……さてチューナーであるファルコンとレベル5のミドラーシュ、レベル6のウェンディゴがフィールドに存在している、が私のデッキにはシンクロモンスターはレベル6のヴァルカンのみ、意味がない。

今はまだ勝負は決められない。私の手札は2枚、墓地から回収した神の写し身との接触と今ドローしたマドルチェ・チケット。……このタイミングでどうしてモンスターではなくチケットを引いてしまうのか。けど、まだ手はある。

 

「私はシャドール・ビーストを反転召喚。リバース効果発動、二枚カードをドローし、その後手札を一枚捨てる……」

 

シャドール・ビースト

レベル5

攻撃力 2200

 

空を飛べないビーストは崩れ始めた幽閉塔に器用に着地し、遠吠えを上げるような仕草を見せた。

ビーストの効果でドローしたのは……欲しいと願ったカード。本当、焦らし上手なデッキで困ってしまう。

チケットを墓地に送り、手札は3枚。……これでようやく、子供たちの事を気にしなくて済む。

まずは、

 

「バトルフェイズ、ミドラーシュでエレジーを攻撃」

 

私の背後に座るミドラーシュが立ち上がり、杖を掲げる。その杖から発せられる力が風を巻き起こし、飛ばされないように必死にドラゴンの背中にしがみ付く。

 

「柚子お姉ちゃん!」

 

アユちゃんの悲痛な声が響く。

 

「大丈夫――罠カード、和睦の使者を発動! このターン、私のモンスターは戦闘では破壊されず、ダメージも0になる!」

 

柊さんはアユちゃんたちを安心させるように頬笑み、罠カードを発動した。……和睦の使者ですか、今の攻撃で発動させられて良かった。

 

「やった! これでエレジーを守れる!」

 

杖に集まった力と風が霧散し、ミドラーシュは再びドラゴンの背に座り込む。……いや、杖を振り回さないで。

 

「私はカードを二枚セットして、ターンエンドです」

 

防がれはしましたが、もう私も防御に徹する必要はなくなった。ミドラーシュとウェンディゴ、それにもう一人が居ればアクションフィールドが解除されなくても問題ない。

……沢渡さんの方は大丈夫でしょうか。ペンデュラム召喚に成功したとはいえ、榊さんもそれだけでやられるようなデュエリストではないはずですから。

 

「私のターン……っ!」

 

突然、柊さんが自分の頬を両手で叩いた。

 

「良し……遊矢をほっとけないわ、さっさと終わりにしてみせる! ドロー!」

 

……これ以上の心理戦はあまり意味がなさそうですね。

 

そしてドローカードを見た柊さんが笑う、何が出て来るか……私もこれ以上時間を掛けたくはない。沢渡さんの所へ早く行かなくちゃ。それと早く終わらせないとその内ミドラーシュに突き落とされそうな気がする。

 

「私は手札から幻奏の音女カノンを特殊召喚、このカードは自分フィールドに幻奏の音女が居る時、手札から特殊召喚出来る! 来て、カノン!」

 

仮面を被った紫の髪を持つ音女が現れる。私のフィールドと違って華やかになっていく柊さんのフィールド。いえ、別にこの子たちが華やかでないとは言いませんが。少し、自分勝手すぎる。

 

幻奏の音女カノン

レベル4

攻撃力 1400 → 1900

 

「これでこのターン、あなたはもう特殊召喚を行えない」

「分かってるわ! でもまだ私は通常召喚をしていない! 私は幻奏の音女カノンとソナタをリリースして、アドバンス召喚! 天上に響く妙なる調べよ、眠れる天才を呼び覚ませっ、いでよ! レベル8の幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト!」

 

二人の音女と入れ替わりで舞台に現れたのは最上級モンスター、赤いドレスを纏った音姫。

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト

レベル8

攻撃力 2600

 

「さらにエレジーを攻撃表示に変更するわ」

「ソナタがリリースされた事により、幻奏モンスターの攻撃力は本来の攻撃力に戻ります」

 

幻奏の音女エレジー

レベル5

攻撃力 2500 → 2000

 

「出た、柚子姉ちゃんのエース! 攻撃力が下がっても、これならあの融合モンスターを破壊できる!」

「いっけー、柚子お姉ちゃん!」

 

「さあバトルよ! 私はプロディジー・モーツァルトでエルシャドール・ミドラーシュを攻撃! グレイスフル――ウェーブ!」 

 

プロディジー・モーツァルトが手に持ったステッキを回転させ、衝撃破が放たれる。まだ問題はない、ミドラーシュが破壊されるのは予想できた。

その為のカードも伏せて――

 

「っ……!?」

 

襲い掛かるであろう衝撃に備えていたが衝撃は予想外の所から発生した。……ミドラーシュだ。

衝撃波が放たれると同時にミドラーシュはドラゴンを操り、宙を駆けた。私とウェンディゴを乗せたまま。

……当然の事ではあるけれど、質量を持ち、モンスターと共に地を蹴り、宙を舞うことが可能になったアクションデュエルとはいえ、相手の攻撃を躱したり、他のモンスターを盾にしたり、というルールに反する事は出来ない。破壊されるまでの時間を稼ぐことでアクションカードを発動する、といった芸当は可能ではあるが……此処は何もない空中、アクションカードなどあるはずもない。

よって、

 

このミドラーシュの行動に一切意味はない。

 

激しい空中での移動に視界が揺れる。上下が曖昧になる。

 

「いくら動き回っても、破壊は免れないわ!」

 

仰る通りです。今にも飛ばされそうになる私をウェンディゴが必死に掴んでくれていますが、この空中移動自体は苦ではなさそうですが、腕力が優れているわけではない彼女も限界のようです。

元が風属性だからか、ミドラーシュも心なしか楽しそうな気配を出していますが、おい、デュエルを進めろよ。今のあなたは闇属性です。

 

「エルシャドール・ミドラーシュを破壊!」

 

そんな中、漸くプロディジー・モーツァルトの攻撃がミドラーシュを、正確には彼女が駆るドラゴンを捉えた。

新たな衝撃と共に完全に空中に投げ出される。

私がドラゴンに振り回されるのをただ見ていたウェンディゴのイルカが慌てて私とウェンディゴをその背でキャッチする。

 

EIKA LP:3600

 

「……罠カード、発動……奇跡の残照……このターン破壊されたモンスター一体を特殊召喚します……来て、ミドラーシュ……」

 

息も絶え絶えにカードを発動し、再びミドラーシュが光と共にその姿を現す。私たちの横に滞空し、「おいでおいで」と言うように杖を動かしていますが、当然あんな後で従うはずありません。

 

「くっ、けどエルシャドール・ミドラーシュが一度フィールドを離れた事で、特殊召喚のカウントはリセットされたわ! これでもう一度特殊召喚が出来る!」

 

柊さんの口ぶりからして恐らくプロディジー・モーツァルトにも他の幻奏の音女たちと同じ、特殊召喚に関係する効果が備わっているはず。だとするとまだモンスターは増える……守備に徹する必要がなくなったとはいえ、勝負を急ぎたいのが本音だ。

沢渡さんの事が気になる。背後に見えるペンデュラム召喚の為の光の柱の中から、魔術師たちの姿が消えたのも心配だ。効果が無効になったのか、それとも破壊されたのか、あのソリッドビジョンが何を表しているのかは分からない。自分の目で確かめないと。

 

その為にも、まずは柊さんを倒す。

 

「まずはバトルよ! エレジーでシャドール・ファルコンを攻撃!」

 

シャドール・ファルコンは墓地に送られた時、自身を裏守備表示で復活させる効果があるが、それは戦闘ではなくカード効果によって破壊された時のみ。今破壊されれば戻っては来れない。

エレジーの歌声が聞いたものを惑わす魔笛となってファルコンを襲う。やらせるわけにはいかない。

 

「私は速攻魔法、マスク・チェンジ・セカンドを発動……!」

 

「えっ……!?」

 

攻撃がファルコンへと到達する瞬間、ファルコンの周囲に光と共に仮面が出現し、歌声を掻き消した。

私が伏せたカードは速攻魔法、マスク・チェンジ・セカンド。アクションデュエルであるが為に抜いたフィールド魔法、マドルチェ・シャトーの代わりに入れたカード。

そしてこのカードの効果は――

 

「このカードは手札を一枚捨てる事で発動できます。自分フィールドの表側表示のモンスターを墓地へ送り、そのモンスターと同じ属性でレベルの高いM・HEROをエクストラデッキから特殊召喚する。私は手札の神の写し身との接触を捨て、ファルコンを選択――お伽の国から抜け出た隼よ、一夜限りの魔法で新たな姿を見せよ――M・HERO(マスクドヒーロー) ダーク・ロウ」

 

現れた仮面がシャドール・ファルコンと重なり、光が溢れた。

そしてその光が収まった時、彼はこのダークタウンに現れる。

 

「見て、あそこ!」

 

フトシくんが崩れかけた幽閉塔の頂上のさらに上、細く尖った屋根に立つその姿を見つけた。

 

M・HERO ダーク・ロウ

レベル6

攻撃力 2400

 

仮面で顔を隠す勇者。本来の居場所から抜け出た、一夜限りの魔法で変身した姿。

本来ならシャドール・ファルコンの効果で墓地に送られたファルコン自身を復活させる事が出来ますが、今はミドラーシュの効果により特殊召喚は互いに一度まで、効果は発動できない。したところで破壊されるだけではありますが。

 

「攻撃力、2400……エレジー!」

 

エレジーが頷き、攻撃を中断し再び柊さんたちの下に降り立つ。

これでモンスターは破壊されず、柊さんのターンでの融合の為、私のターンでも一度なら特殊召喚が出来る。

 

「エクストラデッキから3体もモンスターを召喚するなんて……」

「敵だけど痺れるくらい強いぜ、あの姉ちゃん」

 

「――私はプロディジー・モーツァルトの効果を発動、デッキからレベル4以下の幻奏モンスターを特殊召喚する! もう一度舞台へ上がって! 幻奏の音女ソナタ!」

 

「おお! 柚子姉ちゃんも負けてない!」

「これでまた柚子お姉ちゃんのモンスターの攻撃力が上がるわ!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト

レベル8

攻撃力 2600 → 3100

 

幻奏の音女エレジー

レベル5

攻撃力 2000 → 2500

 

幻奏の音女ソナタ

レベル3

守備力 1200 → 1700

 

守備表示で特殊召喚された二枚目のソナタの効果で攻撃力、守備力が再び500ポイントアップし、さらにエレジーの効果によりソナタは効果破壊されなくなる。

けれど、それだけだ。

 

「ターンエンドよ!」

「私のターン」

 

手札は0。フィールドには2人の神の写し身と獣、そして黒き勇者が一人。この状況を打破する為のカードは何枚かデッキに入っている。それを引く確率はそれ程低くはない。それこそ私の大した事のないドロー力でも引き当てられる程度のはず。

 

(このターンを凌げば……! モンスターの数では負けてるけど、次のターンでミドラーシュさえ倒せれば……このデュエル、勝てる!)

 

一度息を吐き、柊さんたちを見る。意志の籠った瞳で私を見つめる柊さん、柊さんを応援する子供たち。そして私たちの下では榊さんが大切なカードを取り戻そうと必死で戦っている。……このデュエルは確認だ。こんな状況で、私のような人間が何かを成せるかどうか。そして沢渡さんの望みが叶うのかどうか。その確認。

 

此処に来て、2ヶ月。色々な事があった。色々な事があって、私は此処に立っている、生きている。

そしてこれからも私はあの人の隣に立ち続ける。だから、応えて。人形に心が宿るように、カードにも心が、想いが宿るのなら、私の願いに。

 

「ドロー」

 

…………本当に、ひねくれ者。誰に似たんでしょうか。

 

「手札から装備魔法、ワンショット・ワンドを発動し、ミドラーシュに装備。このカードを装備した魔法使い族モンスターの攻撃力は800ポイントアップする」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200 → 3000

 

虚空から現れた新たな杖を掴み、ミドラーシュがドラゴンの背に立つ。無表情、だけどまるで「どーよ?」とでも言いたげなポーズで私を見る。あ、はい。

 

「ああっ! ミドラーシュの攻撃力がエレジーを超えた!」

「でもまだプロディジー・モーツァルトには届かないよ!」

「いや、ソナタが破壊されたらプロディジー・モーツァルトの攻撃力は500ポイント下がる……そしたらっ」

 

「ウェンディゴを攻撃表示に変更」

 

エルシャドール・ウェンディゴ

レベル5

守備力 2800 → 攻撃力 200

 

「攻撃力200のモンスターを攻撃表示に……?」

「私のデッキでは攻撃しなければライフは削れませんから……バトル、シャドール・ビーストで幻奏の音女ソナタを攻撃」

「きゃ……!」

 

飛び掛かったビーストの牙を受け、ソナタが破壊される。残るモンスターは二体。

 

「ダーク・ロウの効果発動、ダーク・ロウが居る限り、あなたの墓地に送られるカードは全てゲームから除外される。そしてソナタが破壊された事により、幻奏の音女たちの攻撃力は再び元に戻る」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト

レベル8

攻撃力 3100 → 2600

 

幻奏の音女エレジー

レベル5

攻撃力 2500 → 2000

 

(除外……あのモンスターが居る限り、墓地から幻奏の音女を手札に加える事も、特殊召喚することも出来ない……そしてミドラーシュが居る限り、特殊召喚は一度しか出来ない……どっちも厄介なモンスターね)

 

「そしてミドラーシュでプロディジー・モーツァルトを攻撃……!」

 

ミドラーシュに倣うように私もイルカの上に立ち、ミドラーシュに目配せする。……が、ミドラーシュは動かない。さっき和睦の使者で攻撃を中断させられたからでしょうか。それともさっきのポーズを無視したからでしょうか。相変わらず無表情だが「やる気でなーい」とでも言いたげだ。……おい、本当にいい加減にしてくださいよ。

 

「ミドラーシュで攻撃……ミッシング・メモリー!」

 

少しだけ大きな声でもう一度攻撃を宣言すると、今度は大人しくミドラーシュは動いてくれた。

ドラゴンを駆り、プロディジー・モーツァルトへと肉薄する。その手には二本の杖、中断された攻撃の時以上の力がそれには宿っている。

まずドラゴンの咢が音姫を捉え、その勢いのまま空中へとその体を投げ出し、それに向かってミドラーシュは杖を力強く振り下ろした。そして杖から放たれた二つの光弾が挟み込むように音姫へと直撃し、破壊した。後一体。

 

「くぅ……!」

 

YUZU LP:3600

 

柚子さんとエレジーがミドラーシュたちによって生じた風から子供たちを守る。……塔の方も、そろそろ限界ですね。

 

「この瞬間、ワンショット・ワンドの効果発動。装備されているこのカードを破壊し、カードを一枚ドローする」

 

何度目でしょうか、こうして祈りながらカードを引くのは。

いつもいつも私の期待に素直に応えてくれない捻くれたデッキ、だけどいつだって私を助けてくれたデッキ。今更疑いません。

また一度息を吐いて、デッキに手を掛ける。

 

「ドロー」

 

気負う必要はない。ゆっくりと引いたカードを返し、その姿を視界に入れようとした時だった。

 

「う、うわ!? く、崩れるぅ!?」

 

それに気づいたのはまたしてもフトシくんだった。

幽閉塔を支える柱が端からどんどんと崩れ落ち、ついに塔を支える事が出来なくなり、崩壊を始めた。

カードを確認するよりも先に、ミドラーシュとダーク・ロウを見る。

 

「お願い」

 

短いその一言で二人は私が言わんとしている事を理解してくれた。

今、柊さんのフィールドにはエレジーのみ。彼女一人では、柊さんと子供たちを抱えて地上に降りる事は出来ないだろうから、二人にお願いする。

……本当なら崩壊する前に勝負をつけて、その後に、と思っていたのですが、思ったよりも塔の崩壊が早いのか、それとも私が愚図だったのか。

エレジーが居る今ならミドラーシュかダーク・ロウだけで十分助けられましたね。ダーク・ロウの召喚を待つ必要はなかった。

まあ地上に降りたからといって沢渡さんの邪魔をさせるわけにはいきませんから、今から決着を着ける為にダーク・ロウは必要でしょうし、完全に無駄になったわけではない。

崩壊する塔の壁を蹴りながら疾走するダーク・ロウとドラゴンで空を駆けるミドラーシュをウェンディゴと共に見つめながら、そう自分に言い訳する。

 

「いやぁあああ!?」

「きゃあああ!?」

 

そして、ついに塔から落下した柊さんたちへとダーク・ロウたちが到達する直前。

 

「頼む! 時読み、星読み!」

 

榊さんの声と共に、柊さんたちの落下が止まった。

 

「と、時読みの魔術師……!」

「星読みの魔術師も!」

「あ、ありがとうございます……」

 

時読みと星読み、二人の魔術師と幻奏の音女が柊さんたちを受け止めていた。

 

「っ……!」

 

私は身を乗り出し、地上を見下ろし、視線を彷徨わせる。沢渡さん……!

その姿はすぐに見つかった。

 

 

「ッ、全部こうなるようにッ、計算してやがったのか……!!」

 

 

忌々しげにそう吐き捨てる、あの人の姿が。

 

「計算じゃない! 俺は信じてた!」

「信じて、だぁ……!?」

 

どんなカードを使ったのかは分からない。けれど、二人の魔術師、二枚のペンデュラムカードが榊さんの手に戻っている。

……そうですか、こうなるんですね。

 

「計算通りにならねえのなら……全部ぶっ壊してやるぜッ!」

 

 

 

 

ダーク・ロウとミドラーシュ、ウェンディゴ、ビーストと共に着地した私は沢渡さんの背中をただ見つめるしかない。

 

「いくぞ、時読み、星読みッ! ――お楽しみはこれからだ!」

 

二枚のペンデュラムカードを掲げた瞬間、スポットライトが榊さんだけを照らし出す。

 

「レディース&ジェントルメン! 今日は皆さんに、素晴らしい光のショーをお見せしましょう!」

 

……これが榊さんのデュエル、エンタメデュエル。もう完全にこのフィールドは榊さんが支配している。

 

「まずはペンデュラムと言えば、この二人を抜きには語れませんね?」

 

「時読みの魔術師と!」

「星読みの魔術師!」

 

「その通り! この二人と一緒に、本日のスターたちに登場してもらいましょう! 皆さん、掛け声はもう分かってますねッ?」

 

「勿論!」

 

始まる。儀式、融合、シンクロ、エクシーズ、そのどれとも違う、新たな召喚方法が。

 

「俺はスケール1の星読みの魔術師とスケール8の時読みの魔術師でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

二つの光の柱が榊さんの背後に現れる。

 

「これによりレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能! ――揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク!」

 

私はそれを見ている事しかできない。結末を見届ける事しか、出来ない。

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスターたち!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えは!」

 

「「「「0!」」」」

 

 

 

WIN YUYA

WIN YUZU

 

そして、デュエルは終了した。

‟二人”のデュエルの勝敗が決した事によりアクションフィールドが解除されていく。

 

そこで漸く、私は動くことが出来た。

 

「沢渡さん!」

 

ブロック・スパイダーの攻撃により吹き飛んだ沢渡さんに駆け寄り、彼の名を呼ぶ。良かった……怪我はしてない。

 

 

「えっ、どうして私が……?」

 

沢渡さんを呼ぶ私の背後で柊さんの困惑したような声。ああ、そうか、気付いていなかったんですね。

 

「……1分以上デュエルを進行しなかった場合、そのプレイヤーは失格になる。ターンプレイヤーは私でした」

 

柊さんの方を振り向くことはせずに、立ち上がる沢渡さんに手を貸しながらそれだけを短く伝える。

 

「ちょっと、そんな決着で――」

「沢渡さん! 久守!」

 

駆け寄って来た山部たちに頷く事で沢渡さんが無事な事を伝える。

 

「い、いやお前の方こそ大丈夫か……?」

「酷い顔になってんぞ……?」

「私は……大丈夫」

 

 

「こうなったら、力づくで奪い取ってやるぜ……!」

 

立ち上がった沢渡さんが私の手を振り払う。デュエルに敗北したせいでもう、沢渡さんにはペンデュラムカードを奪う事しか頭にはない。

 

「皆、やっちま……」

 

山部たちに目配せし、強引にカードを奪おうとした沢渡さんの声が、不自然に途切れた。

 

「ッ……クソ! 行くぞ、お前ら!」

 

「「「は、はい!」」」

 

「榊遊矢……! この借りは必ず返す、覚えていろッ!」

 

それだけ榊さんに告げると沢渡さんは踵を返した。私たちもそれに追って踵を返す。

……これが、今回の結末だった。

 

 

 

 

 

「――――最後まで格好悪いなあ、あの人たちは」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

センターコートから抜け出し、LDSから出ても沢渡さんは無言のまま何処かへと向かっていく。

……そうしてたどり着いたのは、沢渡さんが良く使っている倉庫だった。

倉庫の扉を開け、中に入った沢渡さんが勢いよくソファに座り、足を投げ出す。

 

「久守!」

「は、はい!」

「ケーキと茶!」

「はい!」

 

一声はそれだった。反射的に返事をして、私は預けていた荷物を返してもらおうと大伴を見る。

 

「……やべっ、コートに置きっぱなしだ!」

「……突き落とす」

「い、今から取ってきます!」

「お、俺たちは近くのコンビニで何か買って来ます!」

「……」

 

青ざめた顔で大伴が外に出ると、それを追うように山部と柿本も慌てて外へと飛び出した。

残ったのは私と沢渡さんだけ。

沈黙が倉庫に満ちる。……そうだ、謝らないと。私までデュエルで負けてしまった。私が勝てば、まだ言い包めることも出来たかもしれないのに。

 

「……あの、沢渡さ――あうっ?」

 

沢渡さんに向き直り、謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、ゴム製のダーツが私に向かって飛び、額へとくっついた。痛みはない、けれど突然の事に困惑してしまう。

 

「ナイスダーツ、俺」

 

ソファから立ち上がった沢渡さんがツカツカと歩み寄り、私の額にくっついたダーツを取る。

 

「何しょぼくれた顔してんだ」

「それは……」

「俺が負けたのはカードの差、ペンデュラムカードを持ってなかったが故の不運。お前が負けたのも俺を気にしてたが故の失敗だ」

 

え、と……榊さんからペンデュラムカードを奪って持ってたし、デュエル中に他の事に気を取られるなんて自業自得だ、とか色々言わなきゃならないことはあるけど……。

 

「それ、でも……私は悔しいです……っ」

 

あるけど、そんな言葉は出て来なかった。

 

「何で」

「だって沢渡さんはカードに選ばれた人なのに! デュエルだってずっと沢渡さんが優勢だったのに! なんでっ、どうして! あんな風に逆転されて、見世物みたいな勝ち方されて! あんなっ、あんな都合の良いデュエルをされたのが悔しい!」

「……」

「それにペンデュラムカードだって、あの人だけが持っているカードで、他の誰もルールも効果も知らないのに! 自分だけの物みたいにっ、当たり前に使われるのが、悔しいんです!」

 

……そんな酷く情けない泣き言ばかりが口を吐いて出る。止めようとしても、言葉も、涙も、止まらない。私は悔しくてたまらない。

 

「誰も知らない? いいや、俺が知ってる。ペンデュラムカードの特性も、その攻略法も」

「え……」

「くっくくく、この俺がただでやられると思ってるのか? ――ペンデュラムの弱点はもう見えた。次やる時は完膚無きまでに叩きのめしてやるよ。あいつがしたよりもさらに劇的なデュエルでな!」

「沢渡さん……」

「だからとっとと涙を拭け、みっともねえ」

「っ……は、い」

 

沢渡さんが差し出したハンカチを受け取り、涙を拭う。しゃくりを上げながら、溢れる涙を何度も何度も。

 

「っ、あー女がそんな乱暴な拭き方すんじゃねえっ。貸せ!」

「あっ」

「ったく……」

 

しかし乱暴にハンカチを奪われ、沢渡さんの手で涙を拭われてしまう。……とても恥ずかしいです。あうあう。

 

「……よし、いいぞ」

「あぅ……す、すいません、ありがとうございます、沢渡さん……」

 

目が赤くなってるのは涙のせいですが、顔が赤いのは別です、はい。恥ずかしい……。

 

「ふん、俺は生まれ変わる。すぐにでも新しいデッキを組んで……そうだな、これから俺の事は――」

 

 

 

 

 

勝てなかった。カードも奪えなかった。でも、此処で終わりにはならない。

一度の敗北で退場なんてしない。

まだまだ、勝負はこれからです。

ああ、本当に――――

 

 

 

「ネオ沢渡さん、格好良すぎですよ!」

 

 




別に遊矢のことは嫌いじゃありません(予防線)

シャドールがまともに活躍しないのはドン千のせい。
ちなみに同じくまともな活躍も効果の活用もしていないダーク・ロウさんですが、彼は今後しばらく登場しません。

今回は顕著ですが、デュエル構成が稚拙なので今後はもう少ししっかりさせたいと思います。

そして今回で沢渡さんの取り巻き+1は完結となり、
次回からはネオ沢渡さんの取り巻き+1が始まります(棒


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ネオ沢渡さん 編
ネオ沢渡さん、出番がないっすよ!


サブタイ通り&今回デュエルなしです


「久守さん」

「……はい。何でしょうか」

 

昼休み。弁当を広げようと鞄を手に取った所でクラスメイトの方に声を掛けられた。珍しい。いやぼっちじゃないですよ? 私には沢渡さんが居ますし! 後山部たちも。

 

「お客さん、多分隣のクラスの子だけど」

「分かりました。ありがとうございます」

 

クラスメイトの方が指したドアの方を見れば、あのデュエルの後も何度か学校で見かけたショック・ルーラー……じゃない、柊さんの姿があった。……報復?

 

「お待たせしました」

「あ……久守さん、ちょっといい?」

「はい、構いません。私も話しておきたかったですし」

「そう……あ、お昼まだよね? だったらお弁当持って中庭に行きましょ?」

「校舎裏じゃないんですね」

「え?」

「いえ。分かりました」

 

どうやら報復に来たわけではなさそうなので素直に頷き、弁当を取って柊さんと歩き出す。

 

「……」

「……」

 

互いに無言のまま、中庭へと到着し、空いていたベンチに腰掛ける。以前一緒に帰った光津さんと違い、柊さんは無言の今が落ち着かないようで、視線があちこちを彷徨っている。

 

「柊さん、どうぞ」

「え、あ、ありがとう」

 

まずはともあれ、ということで弁当と一緒に持って来た水筒と紙コップを取り出し、紅茶を注いで差し出す。

 

「美味しい……」

「ダージリンです。ストレス緩和の効果があるそうです」

「へえ……って、別にストレスを感じたりなんてしてないからねっ?」

「そうですか」

「ええ……まあ確かに少し緊張はしてたけど」

「私もです」

「え?」

「柊さんに何をされるのかと」

「私を何だと思ってるのよ……」

「何をされても仕方のない事をしましたから」

 

横並びに座りながら、首を柊さんに向けると視線が交差する。……ケジメは必要ですよね。

 

「先日の件、申し訳ありませんでした」

 

深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。

 

「本当なら柊さんに誘われる前に遊勝塾に直接謝罪に行こうと思っていたのですが……」

「……」

「榊さんにもすぐに謝罪させていただきます。勿論、それで許してもらえるとは思っていません。それでも謝罪の言葉を紡がせて下さい。頭を下げさせて下さい……申し訳ありませんでした」

「ちょ、ちょっと頭を上げてよ久守さんっ」

「……はい」

「ペンデュラムカードを奪ったのは沢渡で、私は久守さんとデュエルをしただけっ。それに他の奴らに捕まった時に助けてくれたじゃないっ」

「ですがそれが言い訳には……」

「いいから!」

 

慌てる柊さんに申し訳なさが募る。ですがあの時の私は意固地になって、身勝手に喧嘩を売ったようなものですし……。

 

「それと、あの時私やアユちゃんたちを助けようとしてくれたでしょ?」

「それは……」

「あの時は遊矢に助けられたけど、久守さんが誰よりも先に助けようとしてくれた」

「……」

「だから私には謝らなくていいわ。それに遊矢だって久守さんの事までは気にしてないだろうし」

「……それは私が取るに足らないと……?」

「あ、ううん! そうじゃないの、あの後色々あったから……」

 

柊さんはあのデュエルの後、榊さんに弟子入りしようと現れた紫雲院素良という融合使いの少年の話をしてくれた。今は榊さんの友人として、遊勝塾の塾生になったという。

 

「素良のおかげで多分、それどころじゃなくなっちゃってたから」

「そうですか……それでも近い内、遊勝塾に伺わせていただきます。やっておかなければならない事ですから」

「……久守さん」

 

……それにまだ、沢渡さんもペンデュラムカードを諦めたわけじゃないです。今はそれよりも榊さんにリベンジする事に意識が向いていますが……それは黙っておきます。

 

「分かったわ。でもその時は歓迎させてもらうわね」

「……?」

「遊勝塾塾長の娘として、久守さんの友人として、ね」

「柊さん……」

「さ、お弁当食べましょ!」

「――はい」

 

誰かと学校でお昼を一緒に食べるのは、転入した時以来です。

 

「それにしても……」

「? 何でしょう」

 

ジッと私の目を見つめる柊さん。

 

「久守さんってあの時とは全然性格が違うわね」

「……? そう、でしょうか?」

 

そんな事はないと思いますが。私の頭は常に沢渡さんで一杯で、それは学校でもLDSでも変わらないんですが。

 

「だってあの沢渡と一緒になった時なんて凄いテンションになってたじゃない」

「だって沢渡さんと一緒に居られるんですよ?」

「……あ、そう」

 

何故かくすんだ目になる柊さん。何故でしょう。

 

「でもどうしてそんなに沢渡の事を?」

「柊さん」

 

……これは、せめてものお礼だ。

 

「友人として忠告するとそれを聞くと午後の授業には出られなくなりますが――いいでしょうか」

「ごめん、聞いた私が悪かったわ」

 

……残念です。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

授業を終え、私は駅前のケーキ屋に足を運ぶ。

ケーキも勿論買いますが、今日は以前もらったプティングの感想を伝えるのが目的です。

あの日、大伴がセンターコートに置き忘れた私の荷物を持って帰った来ましたが、急いだから中身は少し崩れていました、それでも味は良かったです。あ、勿論一緒に買った沢渡さん用のケーキは沢渡さんには渡さず、私が後で食べました。型崩れしたものを沢渡さんに渡すわけにはいきませんからね。大伴は突き落としました(比喩)。

 

「いらっしゃいませー! ……あっ」

「こんにちは」

 

カウンターに立っていたのは以前と同じ、女性の店員さんだった。

 

「はい、いらっしゃいませ!」

「どうも。……美味しかったです、あのプティング」

「本当ですか!?」

「はい。甘さが元々あったものより控えめで、私はあちらの方が好みでした」

「あ、ありがとうございます!」

 

何度も頭を下げてお礼を言う店員さんに少し気圧されながらも、ショーケースの中の商品を見ると、一番端にそれはあった。

 

「商品化されたんですね、おめでとうございます」

「はいっ、まだまだ美味しく出来るはずなので、まだPOPとかで宣伝はしてもらってないんですけど、それでも毎日少しずつですけどお店に出させてもらってます!」

「それでは約束通り、この――」

 

商品名を告げようとして気付いた。商品名が記載されているカードには短く『新作カスタード・プティング』としか書かれていない。他の商品には細かく、長い商品名が書かれているのがこのお店の特徴でもあるので、それがやけに浮いていた。

 

「あ、あの、実はもう一つお願いがあって……」

「何でしょうか」

「お客さんに、商品名を考えていただきたいんですっ!」

「……え」

「実は店長に、私が作ったんだから名前も私が決めろと言われて……で、でも店長みたいなセンスは私にはなくてっ、こんな名前で置かせてもらってるんです」

 

……商品名は店長のセンスだったんですか。いいセンスです。

 

「……いや、ですが私もあれ程のセンスは……」

「いえっ、センスの問題じゃないんですっ。やっぱり思い出のお客さんであるあなたに決めてもらいたくて!」

「ですが……」

「お願いします! 時間がどれだけ掛かっても構いませんから!」

 

今度は完全に店員さんに気圧されてしまう。

いや、でもそういうのは私よりも店長さんに……

 

「私がつけても『ケーキ屋発冥界行きデスプリン』とかそういうのしか浮かばなくてっ」

「分かりました私がつけます」

 

思わず言ってしまいましたがそんな商品を此処に並べさせるわけにはいきません。

 

「本当ですかっ? ありがとうございます!」

「……あまり期待はしないでくださいね」

「どんな名前でも胸を張って売り出します!」

「……じゃあ、この新作プティングを一つ下さい」

「はい!」

 

……安請け合いをしてしまいました。店長のセンスに勝てる気がしません。

 

「今日はお一つでよろしいんですか?」

「はい。いつも食べてくれる人に暫く会えないので」

 

沢渡さんはあれからLDSに来ていない。学校にはいらしてますが、恐らく家でデッキを組んでいるんだろう。見つけたというペンデュラム召喚の弱点を突く為のデッキを。

後でデュエルを見ていた山部たちから聞いた話だと、セッティングされたペンデュラムカードは魔法カード扱いとなってフィールドに置かれているらしいので、恐らくそれが鍵なんだろう。だとすれば私のデッキバウンスでも勝機はある。ペンデュラムの秘密がそれだけだとは思えないけれど、まだ知られていない貴重な情報だ。そして沢渡さんはその情報をしっかりと活かす。

 

「彼氏さんですか?」

 

店員さんがからかうように言いますが、それに対する答えは決まっている。

 

「いえ、違いますよ。大切な人です」

 

今の私は中学生だ。そんなんじゃない。それに沢渡さんに釣り合うとも思っていないし、私は今に満足してますから。

 

「そうですか……でも頑張ってくださいね!」

「だからそういうのでは……」

 

笑顔の店員さんに否定の言葉を重ねても無駄かと考えて、大人しく代金を支払って商品を受け取る、が少し考えてもう一つ追加することにした。

 

「すいません、やはりもう一つ同じ物をいただけますか」

「はい、かしこまりましたー! もしかして届けて差し上げるんですか?」

「いえ、別件で必要になるかと思いまして」

 

何を勘繰っているのか店員さんの微笑みは止まらない。……別に何を考えていようといいですけど。

 

「ありがとうございました! それと、よろしくお願いします!」

「……出来るだけ早く考えて来ますね」

「はい! お待ちしてます!」

 

……どうしましょう、本当に。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

沢渡さんがデッキを組んでいる間、私に出来る事はLDSで少しでも講義を進めて、沢渡さんが戻って来た時に一緒に居られる時間を増やすことだ。

そしてもう一つ、これは沢渡さんと同じ――デッキの変更。とは言っても大きく変更はしない。沢渡さんや他の人と違って、私の持っているカードはデッキを除けばそう多くはないから。それに……私の持つデッキには、きっと意味があるから。私のデッキはマドルチェとシャドール、二種類の人形たちが居る。彼女たちの居場所であるデッキを無闇に変えたくはない。

変更するのはヴァルカンやエフェクト・ヴェーラーといった此処に来て手に入れたカードたち。とはいえいい案が浮かばなかったのでずっとこのままだったのですが……。

 

「こいつなんてどうだっ? 甲化鎧骨格(インゼクトロン・パワード)

「悪いカードではないですが、せめてもう少し攻撃力が上か、相手のターンにまで影響を与えるような効果の方が良いです」

「ならこいつは? オリエント・ドラゴン。相手のシンクロモンスターを除外出来れば、そう簡単に復活もさせられねえだろ?」

「そもそもシンクロがそれ程普及していないでしょう」

「……ならこいつはっ、グラヴィティ・ウォリアー!」

「私のカードは攻撃力、守備力が低いものが多いですから、攻撃を強制させるより封じる方が良いです」

「……X-セイバー ウェイン」

「召喚時に戦士族が手札にある確率を考えると却下です」

「……だーっ! また全滅かよ!」

 

……今は案を持ってきてくれる人が居ますから。今の所は全て空振り、というか私が却下してしまっていますが。

 

「連日申し訳ありません、刀堂さん」

「あー? 別に気にすんな、俺から言い出した事だからな。シンクロコースの刀堂刃の名に賭けて、何が何でもお前に合ったカードを見つけてやるぜ」

 

以前言っていた通り、刀堂さんはあれから私にシンクロモンスターのカードを色々と紹介してくれている。

日によっては光津さんも一緒なのですが、今日は融合コースの講師、マルコ先生の講義を受けていていません。

 

「ありがとうございます。一度休憩しましょうか、良い時間ですし」

「そうだな、ずっと画面と睨めっこしてたら目が疲れた……そういや最初に何かガチャガチャやってたな」

 

休憩室の一角を使い、借りて来た小型のタブレットを刀堂さんが弄って、私がそれを見る、というのを繰り返していましたが、さすがに疲れたのか今はタブレットを投げ出し、背もたれに体を預けている。

それを尻目に私は隅の方で用意していたティーセットを手に取り、準備をしていく。この部屋なら流しもあるので処理も楽です。

 

「ええ。疲れた時はアイスよりもホットの方が良く効きますから」

 

……まあ実を言えば、前回美味しそうに飲んでいただけたので少し気合いを入れてしまっただけですが。

 

「あっ、そういえばお前、真澄の奴に何言ったんだよっ。スポーツドリンク飲んでたら「やっぱりそっちのが刃らしいわ」とか何とか言って笑ってたぞ!」

「ただ刀堂さんに紅茶を誉めていただいたと言っただけですが」

「言わなくていいんだよ、んなこと! 何か小恥かしいだろっ」

「そうでしょうか。沢渡さんにも「少しは腕を上げたな」と時々言っていただけますが」

「あいつと一緒にすんじゃねえ!」

「一緒になんてしてません!」

「うぉっ」

 

全然違いますよ! 沢渡さんが持ち歩くのは刀堂さんと違って竹刀ではなくダーツですし、沢渡さんは刀堂さんと違って服の襟を立ててませんし!

そう言ってやろうと刀堂さんに迫りますが、刀堂さんは椅子ごと後ろに下がって行ってしまった。

 

「中身入ったポッド持ったまま迫って来るな! 怖えよ!」

「ああ、失礼しました」

 

今はこちらに集中しましょう。せっかく準備したんですから、こんな所で失敗しては沢渡さんが戻って来た時に残念がらせてしまいます。

 

「どうぞ、それとこれも」

 

紅茶と一緒に、買っておいたプティングを刀堂さんの前に差し出す。どちらかと言うとコーヒーの方が合いそうですが、私は紅茶用のポッドしか持ち歩いていないのでそこは我慢してもらいましょう。

 

「あー、ありがとな。……けどまた真澄に知られたら笑われちまいそうだ」

「今度は黙っておきますので心配なさらず」

「ならいいけどよ……」

 

まだ気にしているのか、若干ふてくされたようにカップに口をつける刀堂さん。気にする必要なんてないと思いますが。

私も席に座り、カップに口をつける。うん、出来は悪くないと思います。

 

「……なあ久守」

 

少し言い難そうに、刀堂さんが口を開いた。

 

「何でしょう」

「お前、こないだセンターコートで沢渡たちと何してたんだ」

「……それは」

「いや、何をしてたか知ってる。ま、センターコートの貸切なんて目立つことしてたら、噂にもなるわな。何つーか……何でんなことしたんだ?」

 

言葉を選び、はっきりとは言わないように刀堂さんは気を遣ってくれている。刀堂さんが気を遣う必要なんてないのにも関わらず。

 

「真澄の奴は「沢渡に唆されたんでしょ」なんて言ってたが、マジでそれだけなのかよ」

「違いますよ」

 

そこだけははっきりと否定しておく。私が決心したのは確かに沢渡さんの存在が大きいけれど、それだけじゃない。私が‟確かめたかった”。

 

「私の意思でしたことです。沢渡さんのせいではありません」

「……」

 

沢渡さんだけに責任を押し付けることは出来ない。あれは私のせいでもある。

 

「そうかよ……だが」

 

カップを置いて刀堂さんが立ち上がり、竹刀を私に向ける。

 

「ルール違反で負けるってのはどういう事だよ!」

「そこまで知ってたんですか」

「素人でもあるまいし、アクションデュエルのルールは知ってんだろ!? それで何でんなことになった!」

「いや、それは……」

「LDSの生徒がジャッジキルなんざ、情けねえっつの! 俺はそれが気に入らねえ!」

「……はい、まあ、おっしゃる通りです、はい」

 

それに関しては一切言い訳できない。……私も榊さんのエンタメデュエルに飲まれていたというか、あの時点で諦めてしまっていたというか。

 

「北斗の奴もそれを聞いてまた落ち込みやがるし、お前に負けた俺だって何なんだ、って話だよ!」

「お、落ち着いてください刀堂さん、紅茶が零れます」

 

ヒートアップしていく刀堂さんに押されながらもそう言うと、刀堂さんは不機嫌そうに鼻を鳴らして椅子に座り込んだ。

 

「はん、どうせお前の事だ、沢渡の野郎を気にしてた、とかそんな事なんだろうけどよ」

「うっ……」

 

それは沢渡さん本人にも言われたことであり、事実なので何も言い返せない。

 

「いいか、もし今度またそんな情けねえ負け方したらただじゃおかねえからな!」

 

そこまで言って満足してくれたのか、刀堂さんが竹刀を手放した。

 

「おい刃、廊下にまで君の声が――げっ」

 

その大声に呼び寄せられ、休憩室に現れた(そして私を見て顔を引きつらせた)のは、今名前が出たエクシーズコースの志島さんだった。

 

「ああ、北斗か」

「や、やあ刃……久守詠歌さん」

 

以前会った(ほぼ初対面だった)時よりもよそよそしい態度で志島さんが挨拶してきた。……そんなに35連勝出来なかったのを引きずっているのでしょうか。

 

「お久しぶりです、志島さん」

「ああ、久しぶり……」

「んだよ、まだ気にしてんのか? 昨日こいつが負けたのを聞いて、散々落ち込んでたくせによ」

「余計な事を言わなくていい!」

 

慌てて刀堂さんの口を手でふさぐ志島さんですが、丸聞こえですし、それはもう聞きました。

 

「ふぅ……それにしても君たち二人で一体何をしてるんだ? 仲良く休憩中に見えるけど……はっ、まさかっ?」

 

机に用意された紅茶とプティングを見て、何かを察したような顔をする志島さん。

 

「お前が想像してるような事はねえよ」

「一切ありません」

 

勿論何も察せられていないので刀堂さんと一緒に否定しておく。

 

「光津さんと同じように志島さんもご存知なのかと思っていました」

「お前に負けてから暫く落ち込んでたからな。お前の話題を出すと面倒な事になると思って黙ってた」

 

私を見た時の反応を考えれば、その判断は正しかったと言わざるを得ない。

 

「お前も知ってんだろ、こいつがシンクロを使うのは」

「あ、ああ……そうだったね」

「なのにシンクロを抜こうとか考えてやがったから、俺がこいつのデッキに合うシンクロモンスターを探してやってんだよ」

「へえ……」

 

そこでまた志島さんが何かを思いついたような顔をする。

 

「それを聞くと君たちがまるで姉弟に見えてくるね」

「はあ?」

「……ご迷惑をお掛けします、兄さん」

「お前も変な所でノるんじゃねえよっ」

 

刀堂さんに軽く頭を小突かれてしまった。志島さんの言う事も一理あると思ったのですが。

 

「それでいいカードは見つかったのかい?」

「いーや、また今日も全滅だ」

「それで休憩中、というわけか」

「ええ。……志島さんも如何ですか」

「え、いや僕は……」

「遠慮しないでもらっておけよ。エクシーズコースの講義も終わったんだろ?」

「ああ……そうだね、お言葉に甘えるよ」

「はい」

 

席を立ち、志島さんが座る席を引いて新しいカップを取り出す。

 

「これもどうぞ」

「あ、ああ、ありがとう」

 

流し台へと向かう前に、まだ手を付けていなかったプティングを志島さんの前に置く。

 

「お前の分がなくなんだろ。そこまで気ぃ遣う必要ねえって」

「いえ。せっかくですから、是非。それに誰かが私が用意したものを食べたり飲んだりしてくれるのを見るのが好きなので」

 

それだけ言って、カップを持って流し台に向かい、お湯をカップに入れ、温める。

 

 

 

「いや流石にここまでしてもらうのは……」

「本人が良いって言ってんだ、貰っとけよ。あいつも真澄と同じで割と頑固なところがあるからな」

「……随分と仲良くなったみたいだね」

「お前が落ち込んでる間にな」

「うぐっ……ところで、あの噂の件は……」

「今確かめた。本人も認めてたぜ」

「そうか……」

 

 

 

準備を進める私の後方で刀堂さんと志島さんはさっきの事を話しているようだ。事実だし、別に気にしないですが。一応柊さんには謝罪を済ませましたし、後は榊さんに伝えるだけ……それで終わりになるわけではないですが。

とにかく私が負けたのも、榊さんのカードを奪う事に協力したのも変わらない事実である以上、侮蔑も罵倒も受け入れます。

 

「お待たせしました、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

 

席に戻り、紅茶を入れたカップを志島さんに差し出す。口に合えば良いのですが。

 

「……美味しい」

「ありがとうございます」

「このプリンもイケるぜ?」

 

買って来たプティングを口にした刀堂さんも続くように言う。

 

「沢渡さんお気に入りのお店の新作です」

 

今は私のお気に入りでもありますが。私が作った物ではないとはいえ、褒められるのは嬉しい。あの店員さんにも伝えてあげましょう。

 

「デュエルの腕はともかく、そういうセンスだけはあるんだな、沢渡の奴」

 

「……は?」

 

自然な流れで口にした刀堂さんの言葉に、私はカップを取り落としそうになるほどの怒りを覚える。

 

「刀堂さん」

「? 何だよ」

「今の言葉、撤回した方が身の為です」

 

刀堂さんにはシンクロの件で恩がある。私は怒りを抑えて、そう口にする。

 

「沢渡の事か? つってもレアカードを使ってるだけで、腕はお前と比べたら遥かに下だろ?」

 

ダンッ! と思い切り机に手を叩き付け、私は立ち上がる。そして刀堂さんの目の前に歩み寄り、彼を見下ろしながら言う。

 

「今撤回しないのなら覚えておいてください。沢渡さんは必ず今以上に強くなる。私も、榊さんも、あなたも足元に及ばないくらいのデュエリストに必ずあの人はなる。その時、あなたは今の言葉を恥じる事になりますよ。そもそも私に負けた人が沢渡さんをどうこう言う資格があるとでも思ってるんでしょうか。というかあなたは沢渡さんを弱いと言いますが、沢渡さんとデュエルした事があるんですか? もしかしてデュエルした事もないのにそんなことを言ったんでしょうか。沢渡さんの噂や人柄で判断したんでしょうね。そういった油断がデュエリストとして致命的だとまだ気付けないんでしょうか。気付けないんでしょうね、でないとそんな台詞吐けないですもんね。それにシンクロやエクシーズがエリートだと言うのならそれに興味を持たなかった沢渡さんはペンデュラムの存在を予期していたからこそ興味がなかったんです。流石沢渡さんです、既存の召喚方法ではなく全く未知の召喚方法の存在を予想してるなんて私やあなたには出来ないですよね。それだけでデュエリストとしての才覚が私やあなたよりも、いえ、他の誰よりも上だと言えますよね。もうこの時点で私たちの負けみたいなものじゃないですか。だというのにあなたは沢渡さんが弱いと、しかも私よりも遥かに下だなんて良くのたまれましたね。むしろ尊敬してしまいます。ああ、井の中の蛙大海を知らずという言葉をご存知ですか? まさに今のあなたにぴったりじゃないでしょうか。まあ沢渡さんは大海どころか大陸、大空、大宇宙にすら匹敵する存在であるのは言うまでもないんですが、そこまで大きいと成程確かにあなたにはちょっと想像できないですよね、納得です。でもだからといって侮辱が許されるわけではないんですよ。無知は罪です、あなたの言葉は天に唾するに等しい行為だという事を自覚していただきたいです。ああ、また難しい言葉を使ってしまいました。すいません、つい熱くなってしまったようです。いえ、私は落ち着いていますけどね? ただ沢渡さんの事を正しく伝えようと思うと私にはこうして言葉を重ねて並べ立てて説明するしか方法がないんですよ。沢渡さんならもっとスマートにするでしょうが、私は沢渡さんではありませんから。その辺りを考えてもやっぱり沢渡さんは私なんかよりも遥かに素晴らしいんです。少しは伝わりましたか? その顔は伝わっていない顔ですよね、いいです、ならいくらでも言葉を紡いで伝えてあげましょう。気にすることはありません、お礼代わりだと考えてくれれば結構ですから、そうですね、まずは何処から話しましょうか、ああ、そうだ、最初は私が沢渡さんに教えてもらった――」

 

「だああああ! 分かった! 俺が悪かった! だから座れ! そして茶飲んで落ち着け! マジで!」

 

「……分かりました」

 

まだ言い足りませんが、仕方ありません。刀堂さんには借りがありますから、今回はこの辺りにしておきます。

 

「もしもまた沢渡さんを侮辱するようなら次は止めません」

「しねえ! もうお前の前ではしねえから!」

「私の前では……?」

「いやしない! もう金輪際沢渡の話はしねえ!」

「それは沢渡さんが話す価値もないと言いたいんですか……?」

「違え! もうどうしろって言うんだよ!? おい北斗、お前も何か言ってやれ!」

「うぅ、どうして僕はこんな奴に……」

「北斗ォ!」

 

何やらまたネガティブになり始めた志島さんが助けの手を差し伸べてくれるはずもなく、それから紅茶が完全に冷めてしまうまで刀堂さんは私に詰め寄られ続けたのでした。

……少し、やりすぎたでしょうか。いやでもまだまだ言いたい事はたくさんあったので、大人しかった方ですよね、はい。

 

 

……沢渡さんに早く会いたいです。ここ数日、学校でしか見る機会がないんですよ! このままだと学校で沢渡さんに会いに行ってしまいそうな勢いですよ! ああ、でもそんなことしたら沢渡さんの迷惑に……一体山部たちはこの衝動をどうやって抑えてるんだろうか。って山部たちは沢渡さんと同じクラスだった……こんな思いをするぐらいなら、あの時お父様にお願いしておくべきだったでしょうか……はあ。

柊さんの謝罪を済ませたとはいえ、まだまだ悩みの種がいっぱいですね……。

 




シンクロテコ入れはまだ先……
リアルでも遊星ストラクでシンクロ復権するはず(願望)。
リミットオーバー・ドライブのおかげでベエルゼウスやスカノヴァ、セイヴァ―が出せるようになって楽しいです(勝てるとは言ってない)
次回はちゃんとネオ沢渡さんが出ます


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ネオ沢渡さん、タイミング悪すぎっすよ!

今日は学校はお休み、LDSの講義も私が受けなければならないのは夕方からなので、それまではフリー。

ですので、先日柊さんに伝えたように遊勝塾へ謝罪に行こうと思うのですが……足が重い。

いえ、謝罪の件でではなく、謝罪の品として用意する為にいつものケーキ屋へと向かう足が、重いんです。

頼まれた商品の名前が全然思い浮かばず、もしそれについて尋ねられたらと思うと……いつでもいいとは言っていましたが、いつまでも味気ない名前のままなのは可愛そうですし。

それに柊さん(のデュエルディスクのコードは知らなかったので遊勝塾に直接)に連絡して、今日尋ねると言ってしまいましたので、行くしかない……他のお店で買うという選択肢もありますが、やはり自信を持って誰かに渡せるのはあのお店ぐらいしか私はまだ知りません。

 

「いらっしゃいませー!」

 

考えている間にお店につき、入店するとやはりあの店員さんがカウンターに立っていた。

軽く会釈を返し、ショーケースの前で立ち止まる。

 

「いらっしゃいませっ」

「すいませんが、まだいい案は思いついていないです」

「いえ、気にしないでくださいっ。無理を言ってるのは分かってますからっ」

 

そう言って貰えると多少は気が楽になる、けれど解決にはなっていないんですよね……。

 

「お勧めの物を8つ選んでいただけますか」

「はいっ、かしこまりましたー!」

 

連絡した時に今日の人数は聞いてある。塾生は六人、それに講師兼オーナーである柊さんのお父さんに、多分、権現坂さんが来るかもしれないと。

 

「お土産ですか?」

「ええ、まあ。似たようなものです」

 

謝罪の品です、などと正直には言えないので無難に頷いておく。

 

「相手の好みが分からないので、偏らないように選んでもらえるとありがたいです」

「はい、お任せ下さい!」

 

ケースいっぱいに並んだケーキやタルトの中からほとんど迷うことなく次々に選び出し、箱に詰めていく。

その様子を眺めながら、この後の事に思いを馳せる。

柊さんに許してもらっても、怖い思いをさせてしまった子供たち、そして何より一番の被害者である榊さん。彼らが納得してくれるかは分からない。

山部たちのようにいっそ素知らぬ顔を出来たら楽なのだろうけど、私の性格はそれを許してくれないらしい。どんな形であれ、ケジメをつけなければ一生引きずることになるだろう。

そんな性格をしてるなら最初からしなければ誰にも迷惑が掛からなかったのだろうけど。

 

「お待たせしましたー! こちらでいかがでしょうかっ?」

「はい、ありがとうございます。お手数おかけしました」

 

詰められた箱の中身を一応軽く覗いて、頷く。少なくともケーキの事に関しては店員さんの方が良く知っている。私が口を出せる事はない。

 

「それではお会計お願いしますっ」

「はい」

 

いつもよりも倍近く多いので当然料金も高くなるが、気にするほどの金額でもない。

 

「あの、お客様って中学生ですよね?」

 

会計を進めながら、店員さんがそう尋ねて来た。今日は私服ですが、いつも制服で通っているので知っていても不思議はない。

 

「そうですが」

 

中学生には見えないという話でしょうか。それなら今まで何度も言われた事なので慣れています。「可愛げがない」「マセガキ」などと良く言われていました。

 

「じゃあデュエル塾にも通ってるんですか?」

「ええ、まあ」

 

普段ならLDSのバッジを襟につけていますが、今日は私服なのでつけていない。つけていなくても強く咎められはしませんが、一応LDSの中に入る時の為に持ち歩いてはいる。

 

「ってことはもうすぐ始まる選手権にもっ?」

 

ああ、そういえば選手権まであと一か月程でしたか。あまり意識していなかったので言われるまで忘れていました。

 

「いえ、私は参加資格を満たしていませんので」

 

参加資格を得るには公式戦で50戦以上且つ通算勝率6割以上が条件。もしくは公式戦で無敗の6連勝なら特例として参加資格が与えられる。私はそのどちらも満たしていない。

というのも私の公式戦の記録は1戦1勝。公式戦は以前行った志島さんとの一戦だけですから。

 

「あっ、そうなんですか……」

「興味があるんですか」

 

まさかこの店員さんがユース試験をパスしたデュエリスト、なんて事はないでしょうが。

 

「ええ、せっかくこの街に住んでいるんですから、やっぱり気になります」

 

それもそうか。ジュニア、ジュニアユース、ユース、三つの選手権が同時に開催される舞網チャンピオンシップは此処、舞網市では一年に一度の、最大級のイベントで、国内外を問わずに選手や観光客が訪れる。この街に住んでいる人間なら猶更気にもなるはずです。

 

「とはいっても私もこの街に来て日が浅いので、この街のデュエリストの事は全然知らないんですけど。あっ、零児様の事は知ってますよっ?」

 

零児様……赤馬零児社長の事ですよね。LDSを経営するレオ・コーポレーションの現社長。そういえばあの人は最年少のプロデュエリストでしたか。

 

「だからお客様が出場するなら是非応援を! と思ったんですけど……」

「たとえ知ってるデュエリストがいなくとも、デュエルに興味があるのなら見て損はないと思いますよ。それで気になるデュエリストが見つかるかもしれませんし」

「そうですね……」

 

残念そうに言う店員さん。どうしてそこまで私を気に掛けているのだろう。私たちは偶然最近この街に来た、という共通項があるだけで店員と客という関係でしかないのに。

 

「……私は出場しませんが、一人だけ私が自信を持って薦められるデュエリストが居ます、気に掛けていればきっと最高のデュエルが見られますよ」

「誰ですか?」

「沢渡さん。ネオ沢渡さん。沢渡シンゴさん。あの人の名前を覚えておけば、きっと今年の大会は忘れられないものになるはずです」

「はあ……あっ、ひょっとしてその人が以前言ってた大切な人ですか?」

「はい」

「……分かりましたっ、覚えておきますねっ!」

「はい。そしてあの人のデュエルを一度見れば覚えるまでもなく忘れられない名前になるはずです」

 

……と、この辺りにしておかないとまたヒートアップしてしまいそうです。

 

「それでは失礼します」

「ありがとうございました! またお待ちしてます!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

遊勝塾。柊さんや榊さんの通う其処は河川敷の傍に建っていた。学校からも近いですが、私の家やLDSとは反対方向なので今まで来たことはありませんでした。

しかしながら私の意識は遊勝塾よりも反対側の道から歩いてくる男性に向いています。

 

「むっ?」

「……こんにちは」

 

丁度遊勝塾の目の前で互いに立ち止まり、目が合う。会釈すると彼も返してくれた。

 

「はじめまして、権現坂さん」

 

学校で見るのと同じ制服姿の彼は、権現坂昇さん。学校でも時折榊さんと話しているのを見たことがある。

柊さんの言う通り、今日も遊勝塾に顔を出しに来たようだ。

 

「元クラスメイトにはじめましてはないだろう、久守」

 

彼の言う通り、一応元クラスメイトです。と言っても転入してすぐに学年が上がり、クラスが分かれたのでお互いの事は何も知りませんが。

 

「いえ、学校で話した事はありませんでしたので。転校した当初の自己紹介ぐらいでしかお互いを知らないですから」

「それもそうだ。だが奇遇だな、こんな所で会うとは」

「いえ、今日は私も此方に用が会って来たんです」

「遊勝塾に? だが確かお前は……」

「はい、LDSに所属しています」

「何か事情がありそうだな。立ち話もなんだ、まずはお邪魔するとしよう」

「はい」

 

勝手知ったる、と言える動きで遊勝塾の門を潜る権現坂さんに私も続く。

……権現坂さんと一緒だとこのエレベーターは少し狭いです。

 

「ん、おお、権現坂」

「遊矢」

 

柊さんにはお昼休みの頃に伺うと伝えておきましたが、丁度お昼を食べ終わり休憩していた所だったようだ。

 

「あ、いらっしゃい、久守さん、権現坂も」

 

奥から出てきた柊さんが私たちに気付き、挨拶してくれた。

 

「へ? 久守?」

「どうも」

 

どうやら榊さんからは権現坂さんが壁になって見えなかったようで、彼の横に出て頭を下げる。

 

「あ、ああ……どうも」

「とりあえず座ってちょうだい、今お茶を入れるわね」

「すいません、ありがとうございます。後、よければこれを、皆さんでどうぞ」

「わあ、ありがとう! でもいいのよ? そんなに気を遣わなくても」

「いえ、せめてもの気持ちですから」

 

ぎくしゃくとした挨拶を経て、ケーキの入った箱を渡してから柊さんに勧められるがまま榊さんの対面の席に腰掛ける。権現坂は榊さんの横に自然に座っていた。

 

「え、ええと……いらっしゃい?」

「はい、お邪魔しています」

 

……どうして私より榊さんの方が気まずそうなんでしょうか。

 

「どうした遊矢、クラスが違うとはいえ学友に対してその態度は。久守も固すぎるぞ、お見合いをしているわけでもあるまいし」

 

事情を知らない権現坂さんは怪訝な顔をするが、榊さんは曖昧に笑うばかり、私は「はい」と返事をしただけで何も状況は変わらなかった。

 

「……あー、権現坂、来て早々悪いんだけど」

「どうした?」

「塾長と一緒にフトシたちが買い出しに出かけてるんだ。塾長だけじゃ不安だから、迎えに行ってやってくれないか? 多分もう近くまで来てると思うからさ」

「おおっ、そうか。うむ、そういう事ならこの男、権現坂が責任を持って迎えに行って来よう」

 

榊さんの突然のお願いに権現坂さんは大仰に頷き、すぐに立ち上がってエレベーターに向かっていった。……ですが私からは権現坂さんが一瞬表情を曇らせたのが見えた。友達思いの方です、そして榊さんも他人を思いやれる方です。

権現坂さんを見送り、遊勝塾には私と榊さん、柊さんだけ。わざわざこの状況を作ってくれた榊さんには感謝しなくてはなりません。

 

「榊さん」

 

言葉を重ねても伝わらなければ意味がない。なら、重ねるよりも先にするべきことはこれだ。

 

「ちょ、急に何っ?」

 

柊さんにしたように、私は榊さんに頭を下げた。

 

「先日の件、申し訳ありませんでした。ペンデュラムカードを騙し取った事、子供たちや柊さんを人質に取った事、失礼な物言い、その全てに関して謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」

「えっ、いやっ」

「謝って許されるとは思っていません。それでもこうする事しか私には出来ないんです。もし私に出来る事があれば、言ってください。どんな事でもします」

「と、とりあえず頭を上げてっ!」

「……はい」

 

……本当は、これが卑怯な手だとも分かっている。榊さんのような人が真正面から頭を下げられて、強く出られるような人じゃないって事も。でも、私にはこうする事しか出来ない。

 

「ほらっ、今はペンデュラムカードは戻って来たし、柚子から聞いたけどあの時、皆を助けようとしてくれたんだろ? だったらもうそれでお終い! 同級生に頭下げられても困るって」

「すいま……いえ、ありがとうございます」

 

これ以上謝罪を重ねても榊さんの気分を逆に害してしまうだろう。私自身が納得できてはいませんが、これ以上は私のエゴになってしまうだけだ。

 

「話は終わったみたいね。それじゃ、久守さんが買ってきてくれた――「ケーキだねっ」きゃ!」

 

私の謝罪が終わるのを黙って待っていてくれた柊さんが皿に取り分けたケーキを運んで来ようとした時、突然何処に隠れていたのは水色の髪の少年が飛び出してきた。

それに驚きトレイを取り落としそうになる柊さん。

 

「素良!? お前、塾長たちと一緒に買い出しに行ったんじゃ……」

「んー、そのつもりだったんだけど、甘い物の方からやって来るような気がして帰って来たんだ」

「どんな勘してるんだよ……」

「ちょっと素良! 危ないじゃないっ」

「ごめんごめん、つい待ちきれなくて」

「もうっ……」

 

素良、という事は彼が柊さんの話してくれた融合使い。

 

「はじめまして、僕は紫雲院素良」

 

隣の席に腰掛けた紫雲院さんが私の顔を下から覗き込むようにしながら挨拶してくる。

 

「久守詠歌です」

 

今まで関わったことがないタイプ……というより最近は押しの強い方ばかりと知り合っている気がします。

 

「ねえねえ、くもりんは何しに遊勝塾に来たの? ひょっとして入塾希望? ってそんなわけないか」

「ちょっと素良、それどういう意味よ」

「気にしない気にしなーい」

 

「……くもりん?」

 

……ひょっとして私の事でしょうか。いやひょっとしなくとも私の事なんでしょうが。

くもりんって……いやでもくもりん……

 

 

『おい、くもりん、紅茶入れろよ』

『くもりん、今日のケーキはまだか?』

「やっぱりくもりんじゃその程度だよな』

『くもりん』『くもりんっ』『くもりーん』

 

 

……あ、これやばい。破壊力すごい。

そんな、じゃあ私はさわたりん、なんて……ああ! 駄目です、そんな呼び方沢渡さんに出来ません!

 

「くもりーん? ……ねえ、この子大丈夫なの?」

「……大丈夫です、おーけーです、よゆーです」

「とてもそうは見えないけど……まあいいや」

「あはは……」

 

ふと気づけば柊さんが渇いた笑いを上げていましたが私は大丈夫。

 

「今日は私は、榊さんに――「ウチに遊びに来たのよ。友達だもの、ね?」……はい、柊さんの言う通りです」

「ふーん。権ちゃんといい、自由な所だよね、此処って。まあ僕もその方が楽しいけど」

「さっ、素良と遊矢も手伝って。もう皆も帰って来る頃だから準備しちゃいましょ」

「はいはい」

「はいは一回!」

「えー? 僕もー?」

「当然でしょ、あなたは遊勝塾の生徒なんだから」

「私もお手伝いを「久守さんはお客さんなんだから座っててっ」……はい」

 

榊さん、紫雲院さん、私を次々に制しながら柊さんがテキパキとお茶の用意を進めていく。その動きは勉強になります。

暫く柊さんたちを若干落ち着きなく見ていると、背後のエレベーターが開く音がした。

 

「戻ったぞ」

「「「ただいまー!」」」

 

「おう、お帰り、みんな」

「お帰りなさい」

 

迎えに行った権現坂さんと子供たち、それに柊さんのお父さんが帰って来たようだ。

 

「いやー権現坂くんのお蔭で助かったよ、気が利くな遊矢!」

「塾長、何でそんなたくさん買って来たんだよ……」

 

一番最後に大荷物を抱えて出てきたジャージ姿の男性、彼がお父さんだろう。

 

「ん? お客さんか? はっ、まさか入塾希望者!?」

「違うわよっ、私の友達」

「なーんだ、柚子の友達か……ま、ゆっくりしていきなさい!」

 

荷物を仕舞に行くのだろう、笑いながらお父さんは奥に消えていった。

 

「友達って、その姉ちゃんは……」

「LDSの……」

「沢渡と一緒に居た……」

 

柊さんの発言に残った子供たちが怪訝そうに続ける。

子供たちの態度に事情を知らない権現坂さんも怪訝な表情を見せる。

 

「そうよ、だけど「改めまして、久守詠歌と言います」……久守さん?」

 

助け舟を出そうとしてくれた柊さんに今度は私が被せる。

……少し固すぎるでしょうか。

 

「先日は、怖い思いをさせてごめんなさい。柊さんや榊さん……お姉さんやお兄さんに酷い事をして、ごめんなさい」

 

出来る限り柔らかく、けれど気持ちが伝わるように頭を下げる。

 

「「「……」」」

 

子供たちは暫く無言だった。彼らが柊さんたちを慕っているのは伝わって来る。柊さんたちに酷い事をした私を許せない気持ちも分かる。……それでもいい、むしろ許せなくて当然だ。

しかし、子供たちは笑った。

 

「へへっ、俺は原田フトシっ」

「僕は山城タツヤです」

「私は鮎川アユ!」

 

柊さんを見て、察したのだろう。聡い子たちです。私がこの子たちぐらいの時とは全然違いますね。我が儘ばかり言う、可愛くない子供でした。

 

「あの時のデュエル、遊矢兄ちゃんのだけじゃなく、柚子姉ちゃんとのデュエルもすっげえ痺れたぜ!」

「融合って私、あの時初めて見たのっ!」

「それも一ターンに二回も……すごかったですっ」

「……ありがとう」

「――さあ皆、手を洗って来て! 久守さんがケーキを買ってきてくれたのっ。皆で食べましょっ」

「「「はーい!」

 

パン! と手を叩き、子供たちを促しながら柊さんが私を見て、片目を閉じた。……ありがとうございます、本当に。

 

「へえ……融合を使うんだ」

 

そんな中、紫雲院さんが楽しげに私を見ている事にその時は気付かなかった。

 

 

 

 

 

ケーキを食べ終え、一息入れる。……ちなみに本当ならケーキを渡して帰るつもりだったのですが、私まで頂いてしまいました。……すいません、柊さんのお父さん。

これ以上長居をして、塾のカリキュラムの邪魔をするのは本意ではありませんから、そろそろお暇させてもらいましょう。

 

「すいません柊さん、私はそろそろ……」

「えー! もう詠歌お姉ちゃん帰っちゃうの?」

「アユちゃん、ええ、皆さんもまだ今日の予定があるでしょうし」

 

他のデュエル塾のカリキュラムは知りませんが、午後が完全に自由というわけでもないだろう。

この短時間で随分と話すようになってくれたアユちゃんが残念そうな声を上げるが、これ以上は申し訳なくなってしまう。私は権現坂さん程、まだこの遊勝塾に慣れ親しんではいませんし。

 

「そう、分かったわ。でもまたいつでも来ていいのよっ。あっ、それとまた学校で一緒にご飯食べましょ?」

「おう、いつでも遊びに来てくれよ。此処にお客さんなんて権現坂くらいしか来ないからさ」

「柊さん、榊さん……はい、ありがとうございます。……なら連絡先を教えていただけますか?」

「勿論っ」

 

デュエルディスクを柊さんと私が互いに取り出し、連絡先を交換する。

 

「あっ、私も!」

「はい」

 

それを見てアユちゃんもディスクを取り出し、同じように交換する。

 

「えへへ、私にも連絡してねっ?」

「……善処します」

 

……小学生とどんな連絡を取り合えばいいんでしょうか。いや、というか同級生とどんな連絡を取るのかすら分かりません。用がなかったらしなくとも構いません……よね?

 

「良し、では俺が途中まで送っていこう。まだ明るいとはいえ女子を一人で帰らせるわけにいかん」

「そうね、権現坂、お願いできる?」

「任せておけ」

「いえ、そこまでしていただかなくても……」

「良いから良いから!」

 

……本当に最近は押しの強い人ばかりと知り合います。嫌ではないですが。

 

「あ、待ってー! 僕もっ」

 

柊さんとアユちゃんと連絡先を交換し、お暇しようと立ち上がった時、黙々とキャンディーを舐めていた(ケーキの後で舐めていました。真似できません)紫雲院さんが立ち上がり、後ろ手に私の前に立った。

 

「えっ? 素良も?」

「うん、僕も」

「私は構いませんが……」

 

断る理由もないので頷く。ですが紫雲院さんは悪戯気に笑い、腕を出した。

 

「ただし連絡先じゃなくて、これ本来の使い方の方をね」

 

デュエルディスクをセットした腕を。

 

 

 

 

 

「それじゃーお願い!」

「任された!」

 

……所属していないデュエル塾でデュエルをするのはどうかと思い、一度は断ったのですが、紫雲院さんに押し切られてしまいました。というより駄々をこねられました。

塾長である柊さんのお父さんも最初は難色を示していましたが、紫雲院さんのお願いに折れました。イチコロでした。……まあ許可が下りたのなら私も異論はありませんが。

 

「よーし、素良のお気に入りの……こいつだ! アクションフィールド・オン! スウィーツ・アイランド!」

 

スピーカーから聞こえる塾長さんの声と共にリアルソリッドビジョン・システムが稼働し、アクションフィールドが形成される。これは……名前の通りお菓子の国をモチーフにしたフィールドですね。

私が得意とする、というより相性が良いアクションフィールドは普段から使っているマドルチェ・シャトー(アクションフィールド共通の、アクションカードに関してのテキストが追加されただけのもの)ですが、これは風景こそ似ていますが、恐らく単純なアクションカードのみのフィールドでしょうか。

 

「わーい! やっぱり此処が一番わくわくするよね!」

 

……ケーキを食べた後だとあまり乗り気にはなれませんが、本当に甘い物が好きなんですね、紫雲院さんは。

 

 

「素良と久守、融合使い同士の対決か……俺は久守がどんなカードを使うか知らないけど、柚子たちは知ってるんだろ?」

「当然よ、デュエルしたんですもの。……結果は納得いかないけどね。けど遊矢もこれから見られるわ、強いわよ、久守さん」

「LDSの融合召喚か、どんなものか拝見させてもらうとしよう」

「負けるな素良ー!」

「詠歌お姉ちゃんも頑張ってー!」

 

……そういえばこういう風に誰かに応援されるデュエルというのは初めてです。普段は応援どころかギャラリーが少ないですし。しかしながら私は榊さんを初めとした遊勝塾の方々が得意とするエンタメデュエルというのは……出来る気がしません。そこは紫雲院さんにお任せしましょう。

 

「よろしくお願いします、紫雲院さん」

「うん、よろしくー。……あ、ところでさあ、その紫雲院さん、ってのやめてくれない? 素良でいいよ、呼びにくいでしょ?」

「分かりました、素良さん」

「よし、それじゃあ始めようか、くもりん」

「……あの、私の呼び方も変えていただければ……」

 

気になっていた部分を訂正してもらおうとした私の言葉が、塾長さんのアナウンスと重なった。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

 

……後でもいいでしょう。

 

「モンスターたちと地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ!」 「これぞデュエルの最強進化系!」

「アクション――!」

 

「デュエル!」「デュエル……!」

 

 

SORA VS EIKA

LP:4000

アクションフィールド:スウィーツ・アイランド

 

 

「先行は私です」

 

デュエルディスクが私の先行を告げる。志島さんのように先行プレアデスを出されないなら後攻でドローが欲しかったですが……仕方ありません。

カードを5枚ドローし、手札を確認する。

私が知ってるのは素良さんが融合使いだということだけ。けれど素良さんも私の事をそれぐらいしか知らないはずだ。仮に知っていたとしても、ミドラーシュやウェンディゴ、ダーク・ロウたちのことだけ。条件は変わらない、むしろエクシーズとシンクロの事を知らない分、私の方が有利だとも言える。

情報は強力な武器だ。けれど、それだけでは勝てないという事も知っている。油断はしない。

 

「私はモンスターをセット。さらにカードを二枚セットし、ターンエンドです」

「僕のターン、ドロー!」

 

セットしたカードの一枚はブラフの魔法カード、マドルチェ・チケット。

 

まずは様子を見ます。どんなデッキかは分かりませんが、もし一枚でも専用カードを使ってくれれば対策も立てられるかもしれない。……この世界の膨大なカードプールの全てを把握しているわけではないので、あまりアテにも出来ませんが。

 

「僕はファーニマル・ベアを召喚!」

 

ファーニマル・ベア

レベル3

攻撃力 1200

 

召喚されたのは天使の翼を持つクマ……というよりはテディベアでしょうか。名前から察するとファーニマルというカテゴリのモンスターでしょうか……? 知らないカードです。

 

「ふっふふーん、遊矢とデュエルしてから何度もこのフィールドを使ってるからね、カードの有りそうな場所は覚えてるよっ」

 

素良さんが走りだす。アクションカード目当て……この状況でアクションカードを探すという事はこのフィールド固有のアクションカードはモンスターの攻撃力を上げたりするカードなのでしょうか。

 

「さらに僕は手札から永続魔法、トイポットを発動っ」

 

走りながら素良さんが魔法カードを発動する。フィールドに現れたのは……ガチャポン? また知らないカード……どうやら対策を立てる事は出来なさそうです。

 

「トイポットの効果は手札からカードを一枚捨てて、デッキからカードを一枚ドロー出来る。それがレベル4以下のモンスターなら、特殊召喚出来る――――見っけ!」

 

……コストとなるカードをアクションカードで代用する作戦ですか。

素良さんが見つけたのは、フィールドの中心部に設置されたお菓子の家、その屋根の引っかかるように配置されたアクションカード。

 

「よっ、ほっ、ほいっと!」

 

キャンディーで作られた二つの柱を蹴り上がり、素良さんはモンスターの手を借りることなく、自らの身体能力だけでお菓子の家の屋根へと着地した。……私もLDSでアクションデュエルの為の講義や体育実技を受けていますが、あの身のこなしは到底出来そうにない。エンタメデュエルにはああいった能力も必要になってくるのか……想像以上に奥が深そうです。

 

「僕はゲットしたアクションマジック、キャンディ・シャワーを墓地に送ってトイポットの効果を発動! あっ、ちなみにモンスター以外ならそのカードを墓地に送らないといけないんだよね。さーて、何が出るかなっ?」

 

楽しげに笑いながら、素良さんはカードをドローする。

 

「――ふふっ、僕が引いたのはレベル3のエッジインプ・シザー! よって効果により特殊召喚出来る!」

 

エッジインプ・シザー

レベル3

攻撃力 1200

 

此処でモンスターを引き当てる程度の事は予想できました。けれど、出て来たモンスターは想定外です。

特殊召喚されたエッジインプ・シザーは6つの巨大な鋏が連結したような奇怪な姿をしていた、しかもその中で赤い目が怪しく輝いている。

ファーニマル・ベアと同じ、私のマドルチェのようなモンスターたちが出て来るかと思っていましたが……人形と聞いてマドルチェかと思ったらギミックパペットが出て来たような感覚です。

 

「さあ、まずは僕から行くよ! 僕は手札から魔法カード、融合を発動!」

 

屋根の上に立つ素良さんが融合カードを掲げ、ディスクへと挿入する。光津さんといい、一ターン目から融合召喚を……。

 

 

「あっ!」

「融合カード……既に手札に持っていたのかっ」

「フィールドに居るのはファーニマル・ベアとエッジインプ・シザー……」

「ってことは、素良のエースが来る!」

 

 

「僕が融合するのはフィールドのエッジインプ・シザーとファーニマル・ベア。悪魔の爪よ、野獣の牙よ! 今一つとなりて新たな力と姿を見せよ! 融合召喚!」

 

素良さんの背後の空間が渦巻き、二体のモンスターが消えていく。そしてその渦の中から、融合モンスターが姿を現す。

 

「現れ出ちゃえ! 全てを切り裂く戦慄のケダモノ――デストーイ・シザー・ベアー!」

 

その姿は素材となったファーニマル・ベアよりも、エッジインプ・シザーに近い雰囲気を放っていた。腕の代わりに鋏によって手へと繋がれ、腹部からは巨大な鋏が私へと向かって伸びている。そして何より口から覗く何者かの赤い目が、エッジインプ・シザーによく似ていた。

 

デストーイ・シザー・ベアー

レベル6

攻撃力 2200

 

「どう? これが僕の融合モンスター、デストーイ・シザー・ベアーだよ」

「……随分と個性的なモンスターですね」

「これはこれで愛嬌があって可愛いでしょ?」

 

……どうなんでしょうか。あまり美的センスに自信がないので何とも言えません。

 

「さ、バトルだ! 僕はデストーイ・シザー・ベアーでセットモンスターを攻撃!」

 

素良さん程の身体能力のない私にはモンスターの手を借りずに今からアクションカードを手に入れる事は出来ない。攻撃は通る。

 

「っ……セットモンスターはシャドール・ヘッジホッグ。リバース効果を発動。デッキからシャドールと名の付く魔法、罠カード一枚を手札に加えます」

 

攻撃を受け、一瞬だけ姿を見せたヘッジホッグはすぐにシザー・ベアーの攻撃によって吹き飛ばされてしまう。けれど、次に繋いでくれた。

 

「私が手札に加えるのは魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)

「へえ、それが君の融合カードなんだ……僕はシザー・ベアーのモンスター効果発動! 戦闘で破壊したモンスターを装備カードとしてシザー・ベアーに装備する! そしてシザー・ベアの攻撃力は装備したモンスターの攻撃力分アップ!」

 

吹き飛んだヘッジホッグがシザー・ベアーの伸びる腕によって回収され……シザー・ベアーの口へと消えた。

吸収されたヘッジホッグの攻撃力は800。よって、

 

デストーイ・シザー・ベアー

レベル6

攻撃力 2200 → 3000

 

攻撃力3000。この時点で私のデッキのモンスターのステータスを完全に上回っている。シザー・ベアーをどうにかしなければいくらモンスターを召喚しても、次のターンには破壊され、吸収される……。けれど、そういうのは私のデッキの得意分野です。

 

「僕はカードを一枚セットして、ターンエンドっ。さあ、見せてみてよ、君の融合を」

「私のターン、ドローします」

 

ドローしたのは魔法カード、ワンショット・ワンド、ですが今回は魔法使い族のミドラーシュには休んでいてもらいましょう。……また次のデュエルで好き勝手されてしまいそうですが。

 

「私は手札から魔法カード、影依融合を発動」

 

 

「来るか、久守の融合召喚が……!」

「ええ。でも、どの融合モンスターを召喚しても今のシザー・ベアーは破壊できない……」

 

 

先日の柊さんとのデュエルでもこのカードを使い、融合召喚を行った。でもあの時とは状況が違う。そして呼び出す子もまた違う。

 

「このカードは相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、手札、フィールドに加えデッキのモンスターを素材として融合召喚出来ます」

 

志島さんとのデュエルで行ったのと同じ状況。そして呼び出すのも。

 

 

「デッキのモンスターで!?」

「融合召喚!?」

「そ、それって……かなり痺れるぅ!」

 

 

「私はデッキのシャドール・ビーストとエフェクト・ヴェーラーを融合」

 

今度は私の遥か頭上の空でデッキから伸びた影が渦巻く。

 

「人形を操る巨人よ、お伽の国に誘われた堕天使よ、新たな道を見出し、宿命を砕け……!」

 

その影の渦から彼女は堕りて来る。マドルチェを総べる女王がティアラミスなら、シャドールたちの頂点に立つのは彼女だ。

 

「融合召喚……来て、エルシャドール・ネフィリム……!」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800

 

お菓子の国に降り立つ巨人、ネフィリム。

 

 

「で、デカい!」

「なんだあのモンスターは……!?」

 

 

降り立ったネフィリムの影でフィールド全体が暗く覆われる。その中でシザー・ベアーの中の何かの瞳と、ネフィリムから伸びる紫の影糸だけが怪しい光を放っていた。

 

「融合素材として墓地に送られたシャドール・ビーストの効果発動。カードを一枚ドローします」

 

ドローしたのは……マドルチェ・マジョレーヌ。この手札なら次のターンでさらに繋げられる。

 

「さらにネフィリムの効果を発動。このカードが特殊召喚された時、デッキからシャドールと名の付くカードを一枚墓地に送る。私はデッキのシャドール・ドラゴンを墓地に送り、その効果を発動します。ドラゴンが墓地に送られた時、フィールドの魔法、罠カード一枚を破壊する――私はトイポットを選択」

 

トイポットが罅割れて砕け、フィールドから消える。

 

「あーっ! トイポットがぁ……」

「そしてマドルチェ・マジョレーヌを通常召喚。マジョレーヌが召喚に成功した時、デッキからマドルチェ・モンスターを手札に加える。私はマドルチェ・ミィルフィーヤを手札に加えます」

 

マドルチェ・マジョレーヌ

レベル4

攻撃力 1400

 

マジョレーヌが魔法のフォークに腰掛けながら空中に滞空する。結構フィールドが暗いんですが、飛んでいてぶつかったりしないんでしょうか。

 

「あっ、可愛い!」

「また初めて見るモンスターね……」

 

 

「そしてセットしてあった永続魔法、マドルチェ・チケットを発動。このカードが存在する限り、一ターンに一度、フィールド、墓地のマドルチェ・モンスターが手札またはデッキに戻った時、デッキからマドルチェ・モンスターを手札に加える事が出来る。そしてマドルチェ・モンスターたちは皆、相手によって破壊され、墓地へ送られた時、デッキに戻ります」

 

 

「……そうかっ、久守の言う通りならマドルチェ・モンスターはシザー・ベアーに破壊されても墓地に行かない、つまりシザー・ベアーに装備されて攻撃力が上がる事はない!」

 

 

榊さんの言う通り、デストーイ・シザー・ベアーの効果ならシャドールよりもマドルチェたちの方が相性は良さそうです。

 

 

「で、でもあのデッカいモンスターが破壊されたらシザー・ベアーの攻撃力が上がって……」

「2800のエルシャドール・ネフィリムが破壊されたら……5800ポイント!」

「そんなモンスター、どうやって倒せば……」

 

 

けれど、エルシャドールたちは特殊召喚されたモンスターとの相性が良いのであまり変わりません。

 

「バトル。ネフィリムでシザー・ベアーを攻撃」

 

 

「攻撃力の低いモンスターで攻撃だと!?」

「そんな事したらネフィリムを破壊したシザー・ベアーの攻撃力が上がって、次のターンでお姉ちゃんの負けだ!」

 

 

権現坂さんや子供たちが驚愕の声を上げている。……普段ならネフィリムの効果説明を行うのですが、今はアクションデュエル。先程の素良さんの動きを見た後では悠長に説明をしてはいられない。その間にアクションカードを取られてしまう可能性が高いですから。

 

「ストリング・バインド……!」

「僕は罠カード、びっくり箱を発動! 相手モンスターの攻撃を無効にして、そのモンスター以外のモンスターを墓地に送るっ」

 

ネフィリムの攻撃を見守っていたマジョレーヌの前方に現れた箱からボクシンググローブが飛び出し、彼女を吹き飛ばした。……痛そうです。

吹き飛び、ケーキの壁に穴を空けてマジョレーヌが消える。

 

「そして墓地に送ったモンスターの攻撃力か守備力の分、攻撃を無効にしたモンスターの攻撃力を下げる。エルシャドール・ネフィリムの攻撃力はマドルチェ・マジョレーヌの攻撃力、1400ダウン!」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800 → 1400

 

「きっと何か効果を持ってるんだろうけど、どう? これでもまだ発動できるのかな」

「……いいえ、ネフィリムの効果は特殊召喚されたモンスターと戦闘する時、ダメージステップ前に相手モンスターを破壊する。ですが攻撃が無効になった今、その効果は発動できません」

 

私が通常召喚を行わなければびっくり箱の発動条件は満たされず、ネフィリムでシザー・ベアーを破壊出来た。それにドラゴンの効果でトイポットではなくセットされていたびっくり箱を破壊すれば……今更悔いても仕方ありません。

こうなった以上、刀堂さんとのデュエルでもやった、禁じ手を使わせてもらいましょう。

 

「それに君のモンスターたちの共通効果は破壊された時にデッキに戻る効果。シザー・ベアーの効果から逃げられてもびっくり箱の墓地に送る効果じゃ発動しない。これで君の永続魔法も不発に終わっちゃったね」

 

素良さんの言う通り、びっくり箱の効果ではマドルチェの効果は発動しない。シャドールなら発動しますが……けれど、墓地にマドルチェが送られた事によって準備が整ったともいえる。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンドです」

「せっかくの融合モンスターの攻撃力が半分になったっていうのに、まだまだ余裕だね? 何を見せてくれるのか、楽しみだよっ。僕のターン! ――僕は手札からファーニマル・ライオを通常召喚っ。さらに手札のファーニマル・シープを特殊召喚! ファーニマル・シープは自分フィールドにファーニマル・モンスターが居る時、手札から特殊召喚出来る」

 

ファーニマル・ライオ

レベル4

攻撃力 1600

 

ファーニマル・シープ

レベル2

攻撃力 400

 

「さあバトルだ! ファーニマル・ライオでエルシャドール・ネフィリムを攻撃! この瞬間、ファーニマル・ライオの効果で攻撃力が500ポイントアップ!」

 

ファーニマル・ライオ

レベル4

攻撃力 1600 → 2100

 

攻撃力を上げる効果を持っていたから攻撃力の低いファーニマル・シープを攻撃表示で召喚したのか。ライオの攻撃が通ればネフィリムは破壊され、700ポイントのダメージ、それにシープとシザー・ベアーの直接攻撃で3400、私のライフが完全に削られる。

伏せカードを使ってもいいですが……ここはアクションカードを使わせてもらいましょう。

幸い一枚は既に見つけてある。マジョレーヌが空けたケーキの壁の中に埋まっていたアクションカードを。

 

ライオが飛び上がり、遥かに大きさの違うネフィリムへと攻撃を仕掛けようとしている。それが通るまでの僅かの時間、その間に取れれば伏せカードを温存できます。

 

「お願い、ネフィリム」

 

私の言葉に頷く事もせず、しかしネフィリムから影糸が私に向かって伸びる。それを掴むと、影糸は私をケーキの壁へと勢いよく運んでいく。……予想してましたけど物凄い勢いです、壁に当たる直前で止める、なんて考えていないですよね、絶対。

 

 

 

「ぶつかるっ!」

 

 

「わぷっ」

 

案の定、ケーキの壁へと勢いよく衝突し、壁にはマジョレーヌと私の形の穴が出来る。……ケーキじゃなければ大怪我です。

そのままの勢いで反対側へ抜ける。それでもカードは取れた。

手にしたカードは――

 

「アクションマジック、回避を発動。効果によりモンスター一体の攻撃を無効にします」

 

アクションマジック、回避。ほぼ全てのアクションフィールドに存在するアクションマジック。運が良い。

 

「これによりファーニマル・ライオの攻撃は無効」

「ちぇっ、避けられちゃったか。特殊召喚されたシザー・ベアーじゃネフィリムは破壊できない。バトルフェイズを終了するね」

 

影糸によって地面へと下ろされた時には素良さんがバトルフェイズを終了していた。

 

「僕はカードを二枚伏せて、ターンエンドっ」

「……私のターン、ドローします」

 

引いたカードはマドルチェ・シューバリエ。エクシーズモンスターであるティアラミスを除けば私のデッキのマドルチェの中で最も攻撃力の高いマドルチェ。もっともマドルチェ・シャトーの効果がなければ1700と大した数値ではありませんが。

 

「私はマドルチェ・ミィルフィーヤを召喚。そしてミィルフィーヤが召喚に成功した時、手札からマドルチェ・モンスターを特殊召喚出来る。おいで、エンジェリー」

 

マドルチェ・ミィルフィーヤ

レベル3

攻撃力 500

 

マドルチェ・エンジェリー

レベル4

攻撃力 1000

 

 

「可愛い!」

「あのモンスターたちも墓地に送られた時にデッキに戻る……けどあの攻撃力じゃ素良のモンスターはファーニマル・シープしか倒せない」

 

 

「エンジェリーの効果発動。このカードをリリースし、デッキからマドルチェ・モンスター一体を特殊召喚します。おいで、ホーットケーキ」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500

 

 

これで墓地にマドルチェは二体。女王さまの条件は満たした。

 

「さらにホーットケーキの効果発動。一ターンに一度、墓地のモンスターをゲームから除外し、デッキからホーットケーキ以外のマドルチェを特殊召喚する。私はシャドール・ドラゴンを除外。おいで、メッセンジェラート」

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

攻撃力 1600

 

お伽の国の郵便屋、メッセンジェラートが現れる。効果によりマドルチェと名の付く魔法、罠カードを手札に加える事が出来る、宅配する物を探して、私の横でカバンを漁るメッセンジェラートですが私のデッキにはもう該当するカードはない。アクションデュエルなら罠のマドルチェ・マナーを入れてもいいかもしれませんが、今回は入れていない。カバンを逆さにしても何も出て来ず、メッセンジェラートは諦めたように項垂れた。

 

「さあ次はどうするの? いくらモンスターを並べても、君のフィールドの永続魔法の効果は一ターンに一度、その攻撃力じゃ次のターンにはどれかがシザー・ベアーに吸収されちゃうよ?」

 

こうします。

 

「私はレベル3のマドルチェ・ミィルフィーヤとホーットケーキでオーバーレイ」

 

 

「あれは!?」

「嘘……エクシーズ召喚!?」

「い、いくらLDSの生徒だからって融合もエクシーズも教え始めたのは最近だって聞くぞ!? それを二つも使うなんて!」

 

 

榊さんたちが驚きの声を上げる中、デュエルを通して繋がる素良さんだけは、正反対の反応をしていた。ほんの僅か、私の勘違いかもしれませんが、呆れの混じった瞳……落胆している?

 

「エクシーズ召喚、ランク3、M.X―セイバー インヴォーカー」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ランク3

攻撃力 1600

ORU 2

 

「ふうん……それで? どうするつもりなのかな」

「……? 私はインヴォ―カーの効果発動。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからレベル4の戦士族を表側守備表示で特殊召喚します。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時、破壊される。私は二枚目のメッセンジェラートを特殊召喚」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ORU 2 → 1

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

守備力 1000

 

「これでレベル4のモンスターが二体……またエクシーズ召喚?」

「ええ」

 

やはり、雰囲気が少し変わった。何が彼の気に障ったのかは分かりませんが、今はデュエルを続けましょう。新たに特殊召喚されたもう一人のメッセンジェラートと元々フィールドに居たメッセンジェラートがお互いを見て、混乱しているようですし……。

 

「レベル4のメッセンジェラート二体でオーバーレイ、二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築……?」

 

二体のメッセンジェラートが光へと姿を変えた時、デュエルディスクが着信を告げた。

このタイミングで一体誰が……

 

「! すいません! このデュエル、中断させてください!」

 

 

「えっ? なんでいきなり……?」

 

塾長さんに頭を下げ、そう頼み込む。

 

「素良さん、すいません! 一度中断をさせてください!」

「へっ? 別にいいけど……どうしたの、急に?」

 

良し、素良さんの許可は得た!

事情の説明は後にして、通話モードにディスクを操作する。

 

 

「すいません、お待たせしました! 久守です!」

『よう』

「お久しぶりです、沢渡さん!」

『ああ。今LDSに居るんだが、お前、今日講義が入ってたよな。何処にいる?』

「今から行くところです!」

 

講義は夕方からですけど、私の予定を把握してるなんて流石沢渡さんですよ!

 

『そうか。だったら早く来い』

「はい! 今すぐ行きます! 少しだけ待っててください!」

『ああ』

 

通話が切れる。……こうしてはいられません! 今! すぐに! LDSへ!

 

「すいません素良さん! 続きはまたの機会に! 必ずお相手させていただきますから!」

「あ、うん……」

 

素良さんの雰囲気がまた変わり、呆気にとられたような感じになっていますが、今はそれどころじゃない。一刻も早く行かなくては!

 

アクションフィールドが解除され、元の景色へと戻ったデュエル場を駆け抜け、出口へと向かう。

 

「申し訳ありません! 私はこれで失礼します! 榊さん、柊さん、権現坂さん、また学校で! アユちゃん、フトシくん、タツヤくん、また機会があれば!」

「あ、ああ……またな――っていないし……」

「お姉ちゃん、人が変わったみたいだったね……何かあったのかな……」

「……あはは、多分、何かあったんでしょうね……」

 

素良さんと同じく呆気にとられた榊さんたちと心配そうな表情を浮かべるアユちゃん、渇いた笑みを浮かべた柊さんを残し、私は外へと飛び出した。

 

 

「つまらないのか面白いのか、判断に困る子だったなあ……」

 




実は権現坂さんが三年生なんじゃないかと危惧しながら書きました。
素良きゅんとデュエル。しかしまた不完全燃焼。
沢渡さんの出番が短くて申し訳ないです。予想より長くなってしまいましたので、次回に回します。


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ネオ沢渡さん、紅茶ですよ!

今回のデュエルはオリキャラ相手。


「はい、どうぞ沢渡さん!」

「おう」

「そうだ、これもどうぞ沢渡さん!」

「ああ」

「これなんてどうでしょう、沢渡さん!」

「……うん」

「お次はこれです、沢渡さん!」

「……少しは落ち着け!」

「はい! 沢渡さん!」

「……」

 

沢渡さんからの電話を受けてLDSに来てすぐ、紅茶とお菓子を用意し(今日はLDS内の売店で買いました)、ロビーで沢渡さんとお茶を始めました。

ですが久しぶりの生沢渡さんの前でついはしゃぎ過ぎてしまったらしく、怒られてしまいました!

 

「ったく……」

 

呆れたように呟きながら、私が淹れた紅茶に口をつける沢渡さん。動作一つ一つが様になってますね!

 

「そうだ沢渡さんっ、LDSに来たって事は完成したんですかっ?」

「ああ。榊遊矢がペンデュラム召喚を使おうと、このデッキで叩き潰してやる」

 

沢渡さんの取り出したデッキのトップは……氷帝メビウス? アドバンス召喚に成功した時に魔法、罠カードを破壊する効果を持つモンスター……ということは、

 

「セッティングされたペンデュラムカードは魔法カード扱いになるんですねっ?」

 

山部たちから聞いて知っていましたが。それでも感心してしまう。

 

「察しが良いな。その通りだ」

「それでメビウスをっ、流石です沢渡さん!」

「ふっふふ、ノンノン、今の俺は――」

「ネオ沢渡さん!」

「イエス!」

 

的確な対処法ですね! 流石ネオ沢渡さんです! 大嵐やサイクロン、砂塵の大竜巻などでは時読み、星読みの魔術師のペンデュラム効果で無効にされてしまいますが、モンスター効果ならその心配はない!

それに魔法カード扱いとしてフィールドに存在しているなら、私のティアラミスでも対策は打てる。オーバーレイユニットのようにカードではない状態であるのか、と危惧していましたが杞憂だったようです。実際にデュエルした沢渡さんの話を聞いて、改めて安心しました。

 

「このデッキで榊遊矢を倒す……!」

「その意気ですよ、ネオ沢渡さん!」

 

……良かった、もう強引にカードを奪おうとは考えていないようです。それなら私も少し気が楽です。榊さんが沢渡さんのリベンジを受けてくれれば、今度こそ沢渡さんの勝利は間違いないですね! 案外、良いライバルになってくれるんじゃないでしょうか!

 

「まずは明日にでもこのデッキの肩慣らしだ」

「慢心せずに練習するなんて、流石ですね!」

「当然、今でも使いこなしてみせるがな」

「はい! 私では練習相手にはならなそうで、申し訳ないですっ」

 

フィールド魔法がキーカードになっているとはいえ、私のデッキではシャドールたちの効果を魔法、罠の代わりとして使っているようなもの。アクションデュエルではそれが顕著ですし。残念ながら沢渡さんの練習相手としては合わない。勿論、私のデッキでもカードを破壊されるのが厄介なのは変わりありませんが。

 

「気にするな。それに今からデュエルしてもお前の講義で中断しちまうだろうしな」

 

こんな私に気を遣ってくれるなんて、本当に流石ですよ沢渡さん!

 

「あ、デュエルする時間はありませんが、紅茶のお代わりを淹れる時間ならありますよ! どうですかっ?」

「ああ、飲んでやる」

「はい!」

 

沢渡さんの言葉に嬉々として紅茶を淹れなおす私。ああ、まさに至福の時間です。

 

「んー、この香り、悪くないな」

「ありがとうございます!」

 

ひゃっほう! ……と、危ない危ない。また我を忘れてしまうところでした。沢渡さんと会えた時に訊こうと思っていた事があったんです。

 

「沢渡さん、一つ訊いてもいいですか?」

「なんだ?」

「中島……さん、って誰ですか?」

 

ずっと訊こうと思っていた事。

沢渡さんを利用した、中島という男。それが誰なのか、一体どんな繋がりが沢渡さんとあるのか。

 

「中島さん? ああ、まあお前が知らないのも無理はないか。最近は見かけないしな」

「有名な方なんですか?」

「まあ有名っちゃ有名だよ。LDSの理事長は知ってるだろ」

「理事長……確かレオ・コーポレーションの理事長も兼任している赤馬日美香さん、でしたよね」

「ああ。中島さんはその付き人、側近さ」

 

LDSとレオ・コーポレーションの重役の側近……ペンデュラムカード……最近新設されたコースの事を考えると、ペンデュラム召喚をLDSに取り入れる為? レオ・コーポレーションの人間なら手に入れたカードから新しいカードを生産する事も出来るはず……その為にペンデュラムカードを?

そう考えれば理由は分かる。自分たちが榊さんから直接カードを奪えば、会社の名前に傷が付き、世間から非難される。LDSの生徒たちからも不信感を抱かれるのは間違いない。だから沢渡さんを使った……という事でしょうか。

 

「たまにLDSにも来るから、その内会えると思うぜ。今は理事長が海外に出てるから忙しいみたいだけどな……久守?」

「……ああ、いえ。すいません、ありがとうございます!」

「けど何でいきなり中島さんの事を……ああ、お前、あの時の通信を聞いてたのか」

「っ、え、ええと……はい」

 

沢渡さんに盗み聞きをしていた事がバレてしまいました……。

 

「別にいいけど。俺だって中島さんの頼みを聞いたつもりはないしな。あの人が何を考えてるのかも興味ないね」

「沢渡さん……」

「俺は俺のやり方でペンデュラムカードを手に入れる。その為にもまずは榊遊矢に借りを返す。それだけだ」

「……はい!」

 

……うん、沢渡さんがこう言っている以上、私が何かをしても仕方ない。好意は抱けませんが、だからといって報復する必要もありませんね。……もしもまた同じような事をするなら、今度こそ容赦はしませんが。LDSだろうと、レオ・コーポレーションだろうと、世界だろうと。誰が相手でも関係ありません。

 

「ん、おい、そろそろ時間だろ?」

「あ、はい。……じゃあ、行ってきます」

「ああ」

「カップとかは後で回収しますから! それでは沢渡さん、また!」

 

……行きたくない、というより沢渡さんから離れたくない……! でも講義を受けなければ後に響く……くっ、今は我慢するしかありません。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

久守詠歌が去り、しばらくは一人で残った紅茶とケーキを食べていた沢渡だったが、そこに近づく人影があった。

 

「よお、沢渡」

「やあ」

「お前らは……シンクロコースの刀堂刃とエクシーズコースの志島北斗か」

 

刀堂刃と志島北斗。同じLDSで互いにそれなりに有名人同士、知らない仲ではない。とはいえそれ程仲がいい訳でもないが。

 

「何の用だ?」

「久守の奴は……いねえみたいだな」

 

刃が沢渡の前のテーブルに置かれたケーキと紅茶を見た後、周囲を見渡すが当然久守の姿はない。

 

「あいつに何か用か」

「いいや。お前に用があってな」

「そうそう、むしろ彼女が居ない方が都合が良い」

 

沢渡を挟むように隣に腰掛ける二人。

 

「な、なんだお前ら、気持ち悪い」

 

妙に近い距離感に沢渡が引くが、二人はおかまいなしに顔を近づけ、小さな声で言った。

 

「沢渡……お前、久守に何であんなに懐かれてんだ?」

「いや信奉と言ってもいいね、彼女のあれは」

「はあ?」

 

二人は先日、物凄い勢いで沢渡について捲し立てられた事を思い出しながら、沢渡に問う。

彼女が沢渡に懐いているのは彼の取り巻きに加わっている事から知っていた。けれど、あそこまでとは思っていなかったのだ。

 

「はっきり言って普通じゃないぞ、彼女……」

「お前なんかをあそこまで尊敬するなんざな……」

「おい、俺にかなり失礼な事を言ってるぞ、お前ら」

 

二人の失礼な言葉に腹立ちながらも、沢渡はその問い掛けに答える。

 

「あいつがこの俺の偉大さに気付ける聡明な人間だったってだけさ。あいつは人を見る目があるからな」

「ダメだこいつ……!」

「落ち着け刃、沢渡がこういう奴だって事は分かってた」

「そうだな……っつーかあいつっていつからお前の取り巻きなんざ始めたんだ?」

「気付いたら君の傍に居たね」

「あいつがLDSに入った時からだ。そもそもあいつにLDSを勧めたのは俺だからな」

「お前が?」

「そういえば君たちは同じ学校だったか……」

 

沢渡の口から出た意外な事実。けれど、同級生ならそういう事もあるか、と納得する。

 

「あいつが転校してきてすぐにデュエル塾を探してるって相談に来て、俺が此処を紹介してやったってわけだ」

「あいつ、この街の奴じゃなかったのか?」

「ああ。舞網市に来たのは転校してくるよりも早かったらしいが」

「? ならそれまで市内の別の学校に居たのか?」

「さあな。別に何処の学校に居たかなんて興味もない」

「……そもそも何で君に相談なんて?」

「どういう意味だそれ」

「ああいや、転校して来たばかりの子がどうして君にデュエル塾の事を聞きに来たのかと思ってね。デュエル塾を探してるなら最大手のLDSは一番最初に聞く名前だろう? 敷居が他と比べて高いから、それで諦めて別の塾を探してるならわざわざLDSの塾生に聞く必要もないじゃないか。バッジを着けてるからLDSかどうかは一目で分かるだろうし」

「ん、ああ……確かにそれもそうだな。しかもわざわざ沢渡に」

「わざわざは余計だっ。ふんっ、この完璧なるデュエリスト、沢渡シンゴの噂を聞いて来たんだろう」

「お前の噂なんざ悪評しかねえだろ……」

「確かに。しかし改めて思うと良く今まで無事にLDSに通えたものだよ。その内後ろから刺されるかもね」

 

呆れた表情で言う刃と北斗、しかし二人の疑問は未だ晴れない。

どうして久守詠歌というLDSのエリートに匹敵するほどのデュエリストが沢渡の取り巻きに甘んじ、心から尊敬しているのか、という疑問。

 

「うるせえ! あいつは最初から俺を立てる奴だった、つまりこの俺の伝説を聞いてやって来た以外にねえだろっ」

「ああ? 最初からぁ?」

 

沢渡の言葉に胡散臭そうに刃が表情を歪める。

 

「ああ、そうだ。「沢渡さん、沢渡シンゴさん、LDSの沢渡シンゴさんですよねっ!」って俺を訪ねて来たんだ」

 

沢渡の言葉を信じるなら久守詠歌は出会った当初から、いやそれ以前から沢渡を知っていて、尚且つ今同様に尊敬していた、という事になる。

知るだけなら同じ街に住んでいれば何かの機会があるかもしれないが(それに沢渡には次期市長候補の息子、という微妙な肩書もある)、あれ程の尊敬の念を抱くような理由になる出来事を沢渡が起こしたとも思えない。……ますます謎が深まっただけである。

 

「大体なんで急にあいつの事を……あ、まさかお前ら、久守の事を――」

「君が考えているような事は絶対に有り得ない!」

 

沢渡が言い切るよりも早く、北斗が声を大にして否定した。

 

「落ち着けよ北斗……けどまあ、北斗の言う通り、お前の考えているような事はねえよ。単なる好奇心だ。俺たちを負かすような奴が、どうしてお前なんかに懐いてるのかってな」

「何だお前らも久守に負けたのか。仮にもLDSのエリートが聞いて呆れるぜ」

「くっ、なんでこいつにこんな事を言われなきゃ……! 彼女に挑みさえしなければ今頃は40連勝も夢じゃなかったはずなのに……!」

「落ち着けよ北斗、気持ちは痛いほど分かるがな……!」

 

青筋を立てる二人の事など気にした素振りも見せず、沢渡は残りの紅茶に口をつけた。

 

「そもそもあいつの事が気になるなら久守本人に訊けよ」

「「絶対に嫌だ!!」」

 

先日の件を思い出し、即座に二人が声を合わせて否定する。恐らく尋ねれば訊いてもいない事までより詳しく、そしてより長く話すだろう事は嫌でも想像がつく。

 

「はあ……もういい、沢渡に聞いた俺たちが馬鹿だった、そろそろ講義も始まるしな」

「もうそんな時間か……酷く時間を無駄にした気分だ」

「だから失礼過ぎだお前ら!」

「つーか総合コースも久守が受けてるのとは別の講義あんだろ。お前も悠長に紅茶なんて飲んでないで、準備したらどうだ」

「生憎この俺が受けるような講義は今日は入ってない。お前らは勉学に励むんだな」

「はあ? だったらお前、日曜に何しにLDS来たんだよ? この時間じゃデュエルの相手も捕まんねえぞ?」

 

刃の至極当然な質問に、沢渡もまた当然と言うような態度で答えた。

 

 

「紅茶を飲む為に決まってるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「沢渡さん! 待っててくれたんですか!?」

 

講義を終え、ロビーに戻った私が目にしたのは退屈そうに雑誌を捲る沢渡さんの姿でした。まさかずっと待っていてくれたなんて……。

 

「別にお前を待ってたわけじゃない。本を読んでたらお前が戻って来ただけだ」

 

その割にはあっさり雑誌を閉じてしまいましたが、沢渡さんが言うならそうなんですよね!

 

「帰るぞ」

「はい! 今日もあの倉庫に行きますかっ?」

「いや、今日は真っ直ぐ帰るぞ。明日はデッキの肩慣らしと、榊遊矢を誘き出す為の作戦を考えなきゃいけないからな」

「分かりました!」

 

別に誘き出す必要はない気もしますが……そうかっ、以前沢渡さんが言っていた劇的な勝利の為の演出ですね! 流石沢渡さん、拘ってるぅ!

立ち上がり歩き出す沢渡さんをテーブルのカップを回収し追いかける。すぐ帰らなきゃいけないのは残念ですが、沢渡さんと一緒に帰れるなんて最高ですよ最高! たとえそれが帰宅途中までの10分だけでも!

 

LDSを出て、沢渡さんと並んで街を歩く。さり気無く道路側を歩いてくれる沢渡さんの優しさに感激です!

 

「そういやシンクロの刀堂とエクシーズの志島にも勝ったんだって?」

「はいっ、先日デュエルする機会があったので!」

「そうか。少しはやるようになったな」

「ありがとうございますっ!」

 

ひゃっほう! 沢渡さんに褒められた! 沢渡さんの前でデュエルしたのは数える程ですが、今初めてデュエルの事を褒められました!

 

「沢渡さんがLDSを薦めてくれたおかげです!」

「ま、この俺が通う塾だ。強くなってもらわなきゃ同じ塾の俺まで弱く見られるからな」

「はいっ、これからも頑張ります!」

 

その言葉だけで今後の講義も受ける気力が湧いてきました!

沢渡さんに恥をかかせるわけにはいきませんからねっ!

 

「ああ、そうだ久守」

「はいっ」

「お前って転校して来る前は何処に住んでたんだ?」

「? 何で急にそんな事を?」

「刀堂たちが気にしてたからな。俺は別に興味もないが、そういえば聞いてなかったと思ってな」

「えっと、そうですね。以前は誰も聞いたこともないような、遠い所に住んでいました」

「ふーん、の割にはLDS以外で融合だのエクシーズだのを教えてる塾があったんだろ? この街の外にそんな街があるなら有名そうだがな」

「ああ、いえ。塾でデュエルを習うのはLDSが初めてです。見て覚えた、っていうのが一番でしょうか。後は知り合いの人とやりながら少しずつ覚えたんですよ」

 

もう随分と懐かしい気がします。ほんの数か月前の話なんですが……やっぱり沢渡さんと出逢ってからの日々が充実してるからですね!

 

「へえ。ならこの街に来てからは何処の学校に居たんだ? 転校して来るより前に舞網には来てたんだろ?」

「えーと、転校して来る前までは休学していたんです。引っ越しで忙しかったので」

 

嘘ではないですよ? 沢渡さんに嘘なんて吐けませんから!

 

「お前も何かと苦労してんだな」

「いえっ、今はもう毎日が充実してますから! これも沢渡さんのおかげです!」

「この俺と一緒に居るんだ、当然だな」

「はいっ!」

 

沢渡さんにプライベートの事を聞かれるなんて、嬉しくてもうドッキドキですよ! けど楽しく話せるような私生活を送ってない……! いや、昔と比べたら十分充実してはいるんですが……休日よりLDSや学校に通っている方が楽しいだけですから!

 

「っと、お前は向こうだったな」

「あ……はい」

「じゃあな、明日は俺の新しいデッキと華麗なデュエルを見せてやるよ」

「はい! 楽しみにしていますね! それじゃあ、お疲れ様でした沢渡さん!」

「おう」

 

いつの間にか沢渡さんと別れる交差点まで来てしまっていました……くっ、ですが明日もまた沢渡さんに会える、今は我慢しなくては……!

沢渡さんに頭を下げ、手を上げて去っていく後ろ姿を見えなくなるまで見送る。去り方もクール!

ああ……色々ありましたが最高の一日でした……。後は明日を待つだけです。家に帰って、夕食と明日の準備をして、お風呂に入って寝ればもう明日! 最高ですね!

そうと分かればさっさと帰りましょう。

 

 

「……待っていたぞ」

 

 

それにしても流石沢渡さんです、この短期間でダーツモンスターたちとは全く別の、メビウスを主体にした新しいデッキを組んでくるなんて……私も見習わないといけませんね。連日カードを探してくれている刀堂さんにも申し訳ないですし……。

 

「待っていたぞ」

 

けれどレベル6というのは中々見つからないですね……7や8になればティアラミスやエルシャドールたちに負けない強力なカードたちもあるのですが……チューナー自体が少ないので、狙うのはそう簡単ではないですし。かといってチューナーを増やすのは……うーん。

 

「待て久守詠歌!」

「……え、はい?」

 

さっきから何やら視界の端に誰かが立っているとは思っていましたが、まさか私に用だったのでしょうか。

 

「この僕を無視とは良い度胸じゃないか」

「はあ……ええと、あなたは……」

 

道のど真ん中で私を遮るように立つ男性……確か彼は……

 

「同じ総合コースの……」

 

いや、違う。思い出した。彼は。

 

「……何の用です、元LDS総合コースの鎌瀬」

「元、だと……一体誰のせいで……!」

 

おかしな事を言う人だ。

 

「他の誰でもない、あなた自身のせいでしょう」

「……ああ、そうだな。君如きに負けた、僕のせいだ……!」

「分かっているじゃないですか。私に負けて、LDSを辞めたのはあなたの意思です。私は、私がデュエルで勝てば二度と同じ事をするなと言っただけで、辞めろとまでは言っていません。現に同じ条件で私に負けても今も通っている方たちもいます。勿論、約束は守ってもらっていますが」

 

ですが、まあ。

 

「あの人ではなく、私の前に現れた事だけは褒めてあげましょう。もしもまたあの人に害を成そうとするなら、今度はこの街から出ていく覚悟を持ってもらいます」

 

「ふざけるな! このっ――沢渡の人形が!」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう。それで、何の用ですか」

 

世間話ならまたの機会にしていただきたいです。もう私の中でこの後の予定が組み上がっているので。

 

「何の用だって? 決まってるだろう……復讐だよ」

「はあ……何のでしょうか」

「君に負けて僕はLDSを去った……いや、去らざるを得なかった! 何処の馬の骨とも分からない奴に負けて、強くなれないなら辞めろと両親から言われてね……! なのにその原因であるお前が今はLDSに通っている! そんな事許せるわけがないだろう……!」

「正規の手続きを踏んで入塾し、費用も支払っています。非難される謂れはありません」

「っ、うるさい! デュエルだ! 僕は君を倒し、今度こそあいつを……沢渡を倒してやる! どんな手を使っても……今度こそあいつの鼻っ柱をへし折ってやるんだ!」

 

……。

 

「言ったはずですよ。二度とあの人を陥れるような真似をするなと。あの人にデュエルを挑むのはあなたの自由です。それをあの人が受けたなら私は何の口出しもしません。ですが、それ以外の手段であの人に害を成す事は絶対に許さない……!」

 

デュエルディスクを構え、喚く鎌瀬。言葉を重ねても意味はない。此処ではデュエルが全てだ。それは嫌って程良く分かっている。

だから私も同じようにディスクを構える。予定変更だ。約束を違えるなら、此処でもう一度叩きのめす。

 

「近くに公園があります、そこでいいでしょう。道路の真ん中で敗北したいと言うなら此処で構いませんが」

「はっ、敗北するのは君の方だ! だがいいだろう、負けて這いつくばって、君が通行人の邪魔をするのは忍びない」

 

 

互いに睨み合いながら、すぐ近くの公園へと移動する。幸い誰も居ない、此処なら邪魔になる事もないでしょう。

移動の最中に別に束ねたサイドデッキの中からカードを三枚取り出し、ディスクのデッキへと追加する。本来なら同数のカードを入れ替えなければならない、というのがルールらしいですが、この世界にはそもそもサイドデッキという存在自体がほとんど認知されていないし、デュエル前のカードの入れ替えについての規定もない。本当なら何枚か抜いて、メインデッキの枚数を調整したいですが、そこまでの時間はくれないでしょうからカードを追加するだけに留めておく。

 

「君の敗北場所は此処で良いのかい」

「一人で言っていてください。用意は出来ていますね」

「いつでもどうぞ。楽しみだよ、君の無様な――」

「デュエルの話じゃないですよ。懺悔の用意は出来ているのか、と確認しただけです」

「っく……! いくぞ、久守詠歌ッ!」

 

「デュエル!」「デュエル」

 

EIKA VS KAMASE

LP:4000

 

「先行は僕が貰う! 僕はモンスターをセット! そしてカードを三枚セットして、ターンエンド!」

 

……あまり記憶に残っていませんが、以前の彼は確かパンサー・ウォリアーやゴブリン突撃部隊、ジェネティック・ワーウルフと言った攻撃力の高いモンスターばかりのデッキだった。エースカードも恐らくはそういった類の攻撃力の高いモンスターなのだろうけど、ティアラミスによって場をがら空きにさせてもらったので見る事はなかった。

ですが今回はセット……まだ分かりませんが、やはりカードを追加して良かったかもしれません。

 

「私のターン、ドロー」

 

どちらにせよ、このターンで分かる。もし分からなければ、それでまた、何もできずに彼のデュエルは終わりだ。

 

「私はマドルチェ・エンジェリーを召喚」

 

マドルチェ・エンジェリー

レベル4

攻撃力 1000

 

「エンジェリーの効果を――」

「もう君のやり口は分かってるんだよ! 永続罠発動! ――マクロコスモス! このカードが発動した時、手札、デッキから原始太陽ヘリオスを特殊召喚出来る! 僕はデッキから原始太陽ヘリオスを特殊召喚!」

 

原始太陽ヘリオス

レベル4

攻撃力 ?

 

……現れたのは太陽の顔と女性の体を持つ、不気味なモンスター。やはりですか。

 

「まずはマクロコスモスの効果により、お互いの墓地に送られるカードは全て除外される!」

「……私はエンジェリーの効果を発動。エンジェリーをリリースし、デッキからマドルチェ・モンスターを特殊召喚します。マクロコスモスによりリリースされたエンジェリーを除外される」

 

たとえ除外されても構わない。

 

「ふふ、ヘリオスの攻撃力は互いの除外されたモンスターの数の100倍の攻撃力になる!」

 

原始太陽ヘリオス

レベル4

攻撃力 ? → 100

 

「……私はデッキからマドルチェ・シューバリエを特殊召喚」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700

 

除外。私のデッキの最大の弱点。破壊されたマドルチェたちは一度墓地に送られてからデッキに戻る効果。シャドールたちもまた、墓地に送られた時に発生する効果を持っている。しかし墓地ではなく除外されればその効果は発動できない。

そして墓地にカードがなければホーットケーキやティアラミスの効果もまた使えず、シャドールたちを融合する為の融合カードも回収する事は出来ない。

だからこそ、この男がそういった対策を講じて来る事は予想出来ていた。

 

「バトル。シューバリエでヘリオスを攻撃」

「さらに罠カード発動! 攻撃の無力化! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

「カードをセットし、ターンエンド」

「ふふっ、僕のターン! ドロー! 僕はモンスターを反転召喚! 召喚されるのはライトロード・ハンター ライコウ! ライコウのリバース効果、フィールドのカードを一枚破壊する! シューバリエを破壊!」

 

ライトロード・ハンター ライコウ

レベル2

攻撃力 200

 

突如現れ、飛び掛かったハンターにより、シューバリエは馬から落とされ、破壊される……そしてゲームから除外される。

 

原始太陽ヘリオス

攻撃力 100 → 200

 

「ライコウの効果により僕はデッキの上から3枚のカードを除外する――ハハッ! 除外されたのは全てモンスターカードだ! よってヘリオスがさらにパワーアップ!」

 

原始太陽ヘリオス

攻撃力 200 → 500

 

「バトル! ライコウとヘリオスで直接攻撃!」

「っ……」

 

EIKA LP:3300

 

鬱陶しい。

 

「カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー。モンスターをセットし、ターンエンド」

「もう手詰まりかい? 僕のターンだ! ドロー! 僕はモンスターをセット! そして魔法カード、光の護封剣を発動! まずは効果により君のセットモンスターを表側表示にしてもらおうか」

 

光の剣が私の目の前に突き刺さり、光がセットされたモンスターの姿を浮かび上がらせる。

 

「私のセットモンスターはシャドール・ヘッジホッグ。リバース効果によりデッキから神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を手札に加えます」

「……シャドール? フュージョン……?」

「どうしました。早く進めてください」

 

シャドール・ヘッジホッグ

レベル3

守備力 200

 

ああ、そういえば前はマドルチェたちだけで、シャドールたちの出番もなく終わったんでしたか。

 

「言われずともそうするさ! バトル! ヘリオスでシャドール・ヘッジホッグを攻撃!」

 

ヘッジホッグが破壊され、除外される。それによりまたヘリオスの攻撃力が上昇する。

 

原子太陽ヘリオス

攻撃力 500 → 600

 

「ライコウで直接攻撃!」

 

EIKA LP:3100

 

「僕はターンエンド。だが護封剣の効果により、君は残り3ターン、僕に攻撃できない!」

「私のターン。モンスターをセット、エンド」

「くくっ、僕のターン。セットしていた二体目のライコウを反転召喚し、効果により君のセットモンスターを破壊!」

 

ライトロード・ハンター ライコウ

攻撃力 200

 

「セットされていたシャドール・ハウンドは破壊され、除外されます」

 

原子太陽ヘリオス

攻撃力 600 → 700

 

「そして僕はデッキの上から三枚のカードを除外……除外されたモンスターは1枚、よってヘリオスの攻撃力は100ポイントアップだ!」

 

原子太陽ヘリオス

攻撃力 700 → 800

 

「バトル! ヘリオスと二体のライコウで直接攻撃!」

「永続罠、影依の原核を発動。このカードは発動後、モンスターカードとしても扱い、フィールドに特殊召喚される。守備表示で特殊召喚」

 

影依の原核

レベル9

守備力 1950

 

「罠モンスターだと……チッ、僕は攻撃を中断して、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー。速攻魔法、神の写し身との接触を発動。手札のシャドール・ビーストとフィールドの影依の原核を融合」

「融合……!?」

「糸に縛られし獣よ、母なる核と一つとなりて、神の写し身となれ――融合召喚、来て、忍び寄る者、エルシャドール・ウェンディゴ」

 

エルシャドール・ウェンディゴ

レベル6

守備力 2800

 

光から現れたウェンディゴとイルカ。アクションデュエルでないからか、大人しくイルカの背に乗るウェンディゴが一度だけ私を見て、首を傾げた。

 

原子太陽ヘリオス

攻撃力 800 → 900

 

融合素材となり除外された影依の原核がモンスターとなるのは発動後、フィールドに存在している時のみ、よってヘリオスの攻撃力はビーストの分しか上昇しない。

 

「……はははっ! 融合なんて使って、どんな強力なモンスターを召喚するのかと思えば、ただの壁モンスターかい?」

「カードを二枚セットし、ターンエンド」

「また無視か。相変わらず人形じみた、気色悪い女だ! 僕のターン! ドロー! ……ふふ、壁があればヘリオスの攻撃力が上がるまでは耐えられると考えたんだろうが、無駄な事だよ。僕は二体のライコウをリリースし、アドバンス召喚! 人々の自由と希望を司りし天使よ! 六枚の翼を広げ、舞い降りろ! レベル7! 翼を織りなす者!」

 

翼を織りなす者

レベル7

攻撃力 2750

 

「ライコウがリリースされ、除外された事によりヘリオスがパワーアップ!」

 

原始太陽ヘリオス

攻撃力 900 → 1100

 

「残念ながらこの天使じゃ、君の壁モンスターにはほんの僅かだが届かない。だから安心、だなんて思っているんだろうけど……これは準備さ。次のターンのね。僕はこれでターンエンド」

「私のターン、ドロー――ターンエンド。この瞬間、光の護封剣の効果が消え、破壊される」

「っ、あははは! 本当に手詰まりみたいだね! 僕のターン! ドロー! 僕は手札から、紅蓮魔獣ダ・イーザを召喚!」

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ

レベル3

攻撃力 ?

 

「このカードの攻撃力は僕の除外されたカードの数の400倍! 僕の除外されたカードはさっき破壊された護封剣を含めて8枚! よってダ・イーザの攻撃力は――3200!」

 

召喚された紅い魔獣がその効果により力を増し、巨大化していく。私を見下ろし、言葉に出来ない鳴き声を上げる。うるさい。

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ

レベル3

攻撃力 ? → 3200

 

「くくっ、これで分かっただろう! 君に負けたのは僕が弱いからじゃない、‟カードの差”だったんだ! こうしてカードを変えれば君なんて敵じゃないんだよ!」

「……あは」

「何がおかしい? 敗北を悟って笑うしかない、って事か!」

「そんなわけないでしょう……あはは、ただ、なんででしょうね。あの人と同じ台詞なのに、どうしてこんなにも…………腹が立つんでしょうね」

「ッ――! バトルだ!」

 

私の言葉に何かを感じたのか、僅かに震える声で鎌瀬がバトルフェイズへの移行を宣言する。

 

「紅蓮魔獣ダ・イーザでエルシャドール・ウェンディゴを攻撃!」

 

巨大な拳がウェンディゴに向かって振り下ろされる。ウェンディゴが振り返り、私を感情の宿っていないようにも見える、二つの瞳で見つめる。安心してください、柊さんとのデュエルでのような結果にはしません。

 

「速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! フィールドのモンスター一体の攻撃力を400ポイントアップし、そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。私はダ・イーザを選択」

「なっ――」

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ

レベル3

攻撃力 3200 → 400

 

効果により上昇した攻撃力が0になり、聖杯の効果により400へと変わる。同時にその巨大な拳も小さく変化し、ウェンディゴへと届く前にその相棒たるイルカによって阻まれる

 

「ウェンディゴは守備表示の為、ダ・イーザは破壊されない。けどダメージは受けてもらう」

「ぐぅ……!」

 

KAMASE LP:1600

 

「小賢しい真似を……! 僕はターンエンド! だがこの瞬間、ダ・イーザは攻撃力3200の強力な姿を取り戻す!」

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ

レベル3

攻撃力 3200

 

「私のターン、ドロー! 私は手札からマドルチェ・ミィルフィーヤを通常召喚!」

 

マドルチェ・ミィルフィーヤ

レベル3

攻撃力 500

 

「さらに効果により、手札のマドルチェ・メェプルを特殊召喚!」

 

マドルチェ・メェプル

レベル3

守備力 1800

 

ウェンディゴの隣にマドルチェの小猫と子羊が現れる。二匹は私を見て、各々の鳴き声を上げた。力を借りますね。

 

「手札から速攻魔法、異次元からの埋葬を発動! 除外されているカードを三枚まで選択し、持ち主の墓地に戻す! 私はマドルチェ・エンジェリーとあなたのライコウ二体を選択し、互いの墓地へ戻す!」

「何をするつもりだ……?」

「そしてレベル3のマドルチェ・ミィルフィーヤとメェプルでオーバーレイ! 次元の海を揺蕩う海竜よ、御伽の国に姿を現せ! エクシーズ召喚、虚空海竜リヴァイエール!」

 

じゃれ合う二匹が光となり、光の渦に消える。そして其処から新たなモンスターが姿を現す。泳ぐように飛翔したのは水色の翼と黄金色のヒレを持つ、海竜。

 

虚空海竜リヴァイエール

ランク3

攻撃力 1800

ORU2

 

「エクシーズ……! だがあの忌々しい人形でなければ恐れる必要はない! しかもたかが1800の攻撃力じゃ、ヘリオスを破壊するのが精一杯、僕の場の天使と魔獣は倒せない!」

「リヴァイエールの効果発動、オーバーレイユニットを一つ使い、除外されているレベル4以下のモンスターをフィールドに特殊召喚する! 御伽の国の道標(ディメンション・コール)! おいで、マドルチェ・マジョレーヌ!」

 

リヴァイエールが天へと吠える。それにより生まれた次元の裂け目からマジョレーヌが魔法のフォークを操り、クルリと一回転しながらウェンディゴの隣へと滞空した。

 

マドルチェ・マジョレーヌ

レベル4

攻撃力 1400

 

異次元からの埋葬が除外されるがそれと同時に3枚のカードが墓地に戻った事によりヘリオスとダ・イーザの攻撃力が変化する。

 

原始太陽ヘリオス

攻撃力 1100 → 800

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ

攻撃力 3200 → 2400

 

「だがまだダ・イーザと翼を織りなす者の攻撃力が上だ!」

「そしてウェンディゴを攻撃表示に変更」

 

エルシャドール・ウェンディゴ

守備力 2800 → 攻撃力 200

 

「ふざけるな! たかが攻撃力200を攻撃表示だと!?」

「バトル! マジョレーヌでヘリオスを攻撃!」

「っ、しかも攻撃力の高いエクシーズモンスターじゃなく、マジョレーヌで攻撃!? 舐めた真似を……!」

 

沢渡さんもきっとこうしますよ。そうしないとバーストになってしまうじゃないですか……なんて、沢渡さんからの受け売りですけどね。

 

「罠カード、ブレイクスルー・スキルを発動! 相手フィールドのモンスター一体を選択し、その効果を無効にする! 私はヘリオスを選択ッ」

 

原始太陽ヘリオス

攻撃力 800 → 0

 

「御伽の国の魔女よ、偽りの太陽を砕け!」

 

マジョレーヌが魔法のフォークを操り、ヘリオスへと肉薄する。

そして、ヘリオスへとたどり着いた瞬間、勢いのまま器用に回転すると自身が乗るフォークで太陽を打ち砕いた。

 

KAMASE LP:200

 

「くっ……! だ、だがまだ僕にはライフが、フィールドには天使と魔獣が残ってる! しかも今の攻撃でヘリオスが除外され、ダ・イーザの攻撃力は上がる! 間抜けめ、数の計算も出来なくなったか!」

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ

攻撃力 2400 → 2800

 

だからどうしたんですか。これでいいんですよ、これで丁度なんですから。

 

「ウェンディゴでダ・イーザを攻撃!」

「馬鹿が、返り討ちだ、ダ・イーザ!」

 

アクションデュエルでない以上、鎌瀬にこの最後の伏せカードを防ぐ手はない。

 

「速攻魔法、決闘融合―バトル・フュージョンを発動! 融合モンスターがバトルする時、バトルする相手モンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加える! ダ・イーザの攻撃力は2800、よってウェンディゴの攻撃力も2800ポイント上昇する!」

 

エルシャドール・ウェンディゴ

攻撃力 200 → 3000

 

ウェンディゴはイルカを駆り、二人は一体となって魔獣へと迫る。携えた杖に影が集まり、破壊された偽りの太陽すら超える輝きを放つ。

 

「そんな……こ、攻撃力、3、000……ぼ、僕のライフは――」

「ウェンディゴ! 虚像の魔獣を砕けっ、影獣騎の杖(ワンド・オブ・シャドー)!」

 

 

KAMASE LP:0

 

WIN EIKA




主人公をメタるにはオリキャラ出すしかなかったので登場した鎌瀬ケンくん。
次回はアニメ7話相当の話になります。

以下関係のない戯言。
背景ストーリーはいい加減クリスタを休ませて、ウィンダに光を当ててもいいんじゃないでしょうかねえ……


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ネオ沢渡さん、大嵐っすよ!

今回の話は2014年10月のリミットレギュレーションで書かれています。だから大嵐を勧めてもおかしくはない、いいね?


「久守さん、お客さんだよ」

「はい。すいません、ありがとうございます」

 

学校での昼休み、またクラスメイトの方が来客を知らせてくれた。といっても今回は誰が来ているのかは分かっています。

お弁当を持って教室の外へと向かう。扉の所で柊さんが私に手を振っているのが見えた。

 

「おはようございます、柊さん」

「おはよう、久守さん。今日も中庭でいいかしら?」

「はい」

 

昨日、遊勝塾から慌ててLDSに行き、自宅に帰った後に柊さんから連絡があり、今日もお昼をご一緒する約束をしていた。普段から好きで一人で食べているわけではないのでありがたい申し出です。

 

「昨日は慌ただしくしてしまい、すいません」

「いいのよ、久守さんがあんな風に血相を変えるって事は沢渡からの電話だったんでしょ?」

「はい。久しぶりに沢渡さんの声を聴いたので、つい……素良さんにも申し訳ない事をしました」

 

中庭への道すがら、昨日の件を謝罪する。素良さんとのデュエルも中途半端になってしまった。これでまた遊勝塾に行く理由が出来てしまいました。あまり他の塾の生徒が通ってしまっていいのか……いや権現坂さんの例はありますが。

 

「大丈夫よ、素良も気にしてないみたいだったから」

「なら有難いのですが……」

「けど、今度は私ともデュエルしてね」

「え?」

「当然でしょ、あんな決着、納得いかないわ」

「……そうですね。刀堂さん――あのデュエルを知ったLDSの方にも情けないと怒られてしまいました」

 

それにあれでもしLDSの評価が下がるような事があれば、同じLDSの沢渡さんにも迷惑が! ……改めて反省です。

中庭に到着し、ベンチに腰掛ける。

 

「それにしても、融合召喚だけじゃなくエクシーズ召喚まで使えたのね」

「ええ、まあ。どちらかと言えばエクシーズの方がメイン、でしょうか。融合を使い始めたのは舞網に来てからですから」

 

……元々私が使っていたデッキはマドルチェたちがメイン。シャドールたちはこちらに来た時に加わっていたものだ。デッキの内容が変わり、最初は苦労しましたが融合の強さを自分で使ってみて改めて分かった。……HERO程ではないかもしれませんが、この子たちも十分すぎる程強力だ。

 

「それなのにあんな風に二つの召喚方法を使いこなすなんて……」

「召喚方法に優劣はありません。結局は使うデュエリストの実力次第ですよ」

「……そうねっ。次またデュエルする時まで、私ももっと強くなってみせるわ」

「……楽しみにしています。今度は何のハンデもなく、デュエルをしましょう」

「ええ。さ、食べましょ? 昼休みが終わっちゃう」

「はい」

 

互いに弁当箱を開け、柊さんは箸を、私はサンドイッチを手に取る。作るのが楽なので基本的にコレです。

 

 

 

「そういえば」

 

食事を終え、私が持ってきたアイスティーを飲みながら柊さんが口を開いた。

 

「素良とのデュエルで使ってたモンスター、マドルチェって言ったかしら?」

「ええ。……やはり私には似合わないでしょうか」

「ううん、そうじゃないの! ただ、随分可愛らしいモンスターだったから、私とのデュエルで使ってたカードとギャップがあって……」

「……確かにシャドールたちは不気味に見えるかもしれませんが、私はどちらも好みです」

 

光津さんにも言われましたが、個人的にはシャドールもマドルチェと同じくらい私好みの外見です。でなければいきなりデッキに入っていたカードをここまで使うわけありません。

 

「そ、そうなんだ……」

「ええ。少し自分勝手な所もありますが」

 

特にエクストラデッキの中に居る子たちが。通常のデュエルならともかく、アクションデュエルでは危ないです。それは柊さんとのデュエルや素良さんとのデュエルでミドラーシュとネフィリムが証明している。今の所は怪我もないですが……。

 

(素良のモンスターといい、融合モンスターってちょっと不気味なモンスターが多いわね……)

「柊さんの幻奏の音女たちは皆綺麗な姿をしていますね。エンタメデュエルにピッタリです。それに、それだけではなく特殊召喚に関する様々な効果を持っている」

「ええ。私のお気に入りのカードたちなの」

「榊さんのEM(エンタメイト)を使ったデュエルも遊勝塾の教えるエンタメデュエルを表しているかのような戦術でした。ペンデュラム召喚だけではないエンタメデュエルを。いずれ榊さんともデュエルをしてみたいものです。それに一度は単なる観客として、眺めてみたいです」

「それならきっと、今年のジュニアユース選手権でどっちも叶うわよ。お父さんも今年は塾の全員で舞網チャンピオンシップに出場するんだ、って張り切ってたもの。久守さんも出場するんでしょう?」

「……いえ、私は出場資格を満たしていませんから」

「えっ? って、そっか、舞網市に来てまだ半年も経ってないものね……」

「はい。今年は沢渡さんの応援に専念します」

「そっか……そういえば遊矢も公式戦は進んでるのかしら……ペンデュラム召喚の事があってから、色々と忙しかったからなあ……というか沢渡も参加出来るの?」

 

榊さんの心配をしながらも、柊さんは意外そうに尋ねた。

 

「勿論です。既に勝率6割を超え、資格を獲得しています」

「へえ……流石はLDS、って事かしらね」

 

どうも柊さんは沢渡さんの実力を過小評価してる節がある。沢渡さんが実力の面で誤解されやすいのは以前から分かっていましたが……いえ、今は何も言いません。私が何もしなくとも、ジュニアユース選手権で沢渡さんの実力は皆が知る事になりますから。……我が儘を言うなら、榊さんとの再戦はその時に、と思ってしまいます。そうすればきっと……私の懸念も払拭されるだろうから。

 

「ところで久守さんと沢渡たちが学校で一緒に居る所って見た事ないけど……ひょっとしてお昼もあいつらと約束があった?」

「いいえ」

 

柊さんが少し不安そうに言う。やはり優しい人です。

 

「学校では沢渡さんたちとは関わりがありませんから」

「ええ!? どうして!? LDSではあんなに仲良さげにしてたじゃない!」

 

「私が沢渡さんの取り巻きでいられるのは、デュエリストである時だけですから」

 

ただの学生になるこの学校では、沢渡さんの傍にはいられない。

……LDSで紅茶を淹れて待っているだけで最高に幸せなんですけどね! それにクラスが違うので学校ではすれ違う事すら滅多にありませんし! ちくしょう!(本音)

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

LDS デュエル場

 

「俺は氷帝メビウスでパワー・ダーツ・シューターを攻撃! アイス・ランス!」

「うわあああ!!」

 

KAKIMOTO LP:0

WIN SAWATARI

 

「すげえ……」

 

「ふっ」

「沢渡さん! 今度のカード、マジ強すぎっすよ!」

「チッチッチ、違うなあ。強すぎるのはモンスターじゃない。本当に強いのは、この――」

「「「沢渡さーん!」」」

「オー イエス!」

 

新たに構築したメビウスデッキを用い、かつて自分が使っていたダーツデッキを操る柿本を破った沢渡は饒舌に語り始める。

 

「大切なのはデュエリストの腕さ。計算された策略、的確な判断力、タフな精神力ッ、恵まれた容姿! 全て備えているのは――」

「「「沢渡さーん!!」」」

「イエス イエス!」

 

それを冗長させる柿本たちが居る為に沢渡の口は止まらない。

 

「つまり! 勝つべくして勝つ! 完璧なるデュエリスト。それがッ――」

「「「沢渡さん!!!」」」

 

「そーう! いや、新たなカードを手にした今、むしろネオ沢渡と呼んでくれ。ネオ――」

 

「「「沢渡さーん!!!!」」」

「オーケイオーケイ!」

 

まるで某塾に所属する某デュエリストのような話術と動作で沢渡のテンションは上がり続けていく――が、

 

「ちょっと影響されてね……?」

「榊遊矢にな……」

 

そんな大伴と山部の言葉を耳聡く拾った瞬間、彼はさらに大声を上げた。

 

「その名を……出すなああああ!!」

 

沢渡にとって、姑息な手を使ってペンデュラムカードを奪い、尚且つそれを使っておきながらデュエル中にカードを取り戻され、初めは自分が狙っていたジャストキルを自分がクズカードと罵って捨てたブロック・スパイダーで決められる、というあまりにも情けなく、あまりにも小悪党にお似合いな敗北を喫したせいで榊遊矢の名前は自分で出すならともかく、他人に出されると最も腹の立つ名前である。

それを察していた久守詠歌はその名を出すことは決してしなかったが……山部たちはそこまで頭が回らなかったようだ。

 

「どんな手を使ってでも倒す……! 榊遊矢……首を洗って待っていろ!」

 

それを止めるか咎めるかをしていたであろう久守詠歌は此処にはいない。山部たちはこれ以上他の塾生の迷惑にならないよう、沢渡をいつもの倉庫へと誘う事しか出来なかった。

なお沢渡の名誉の為に注釈を入れるなら、どんな手でも、というのはメビウスによってペンデュラムカードを破壊する戦術の事であり、前回のような子供じみた演技をするつもりはない。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

EIKA LP:4000

??? LP:2000

 

「俺は二枚目の永続魔法、禁止令を発動し、クイーンマドルチェ・ティアラミスを宣言! このカードが存在する限り、お互いに宣言されたカードを使う事は出来ない――残念だったなあ!」

「……」

「そして俺は霞の谷(ミスト・バレー)のファルコンを召喚! このカードは俺のフィールドのカードを一枚手札に戻さないと攻撃できない――俺はフィールドの光の護封剣を手札に戻し、マドルチェ・ピョコレートを攻撃!」

 

霞の谷のファルコン

レベル4

攻撃力 2000

 

「……」

「そして手札に戻した光の護封剣を再び発動! これでお前はまた三ターン攻撃出来ない! さらにカードを二枚伏せて、ターンエンドォ!」

「……私のターン、ドロー」

「この瞬間、罠カード、運命の火時計を発動! これも二枚目、もう効果は分かってるよなあ? 俺は終焉のカウントダウンを選択し、このカードのターンカウントを一ターン進める! これで後10ターン。もう折り返しだぜえ……! 10ターン後のお前のターンが終了した時、俺の勝利が確定するぅ……!」

 

……あー、鬱陶しい。

何なんですかね、昨日から。

 

「鎌瀬の野郎は一人で先走って無様にまた負けたみてえだが、俺はそうはいかないぜ」

 

鎌瀬は元LDSだったから覚えていましたが、この男の事は正直全く覚えていない。誰ですかこのハゲ。

しかも二枚の禁止令でティアラミスとサイクロンを封じられ、今私が使える魔法、罠を破壊できるカードは効果モンスターのシャドール・ドラゴンのみ。

さらに終焉のカウントダウンを一ターン目で発動し、その後は悪夢の鉄檻や和睦の使者などで攻撃を無効にされ、今に至っては光の護封剣と霞の谷のファルコンによってどちらかを破壊しなければ永続的に攻撃を封じられている。

終焉のカウントダウンによって特殊勝利を狙うロックデッキ、デッキが知られている私に対してのメタを張っている。昨日の鎌瀬の除外よりも厄介です。

終焉のカウントダウンの特殊勝利条件は発動後、20ターン経過すること。私に残されたターンは後5ターン。

 

「私はモンスターをセット、ターンエンド」

 

終焉のカウントダウン:残り9ターン

 

「俺のターン! バトルだ、霞の谷のファルコンの効果で光の護封剣を手札に戻し、セットモンスターを攻撃!」

「セットモンスターはマドルチェ・マーマメイド。守備力は霞の谷のファルコンの攻撃力と同じ2000。よって互いのモンスターは破壊されない」

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

守備力 2000

 

「ちっ、うざったい壁モンスターかよ……俺はもう一度光の護封剣を発動して、ターンエンド」

 

終焉のカウントダウン:残り8ターン

 

「私のターン、ドロー」

 

……刀堂さんと出会えて良かった。彼の言葉がなければ私はきっと、あのカードを抜いていただろうから。

 

「カードを一枚セットし、ターンエンド」

 

終焉のカウントダウン:残り7ターン

 

「俺のターン……へへっ、俺の場のファルコンじゃお前のモンスターを破壊出来ねえ。俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ」

「私のターン」

「この瞬間、罠カードを発動する。俺が伏せたのは、3枚目の運命の火時計! これによりカウントダウンがさらに早まる!」

 

終焉のカウントダウン:残り5ターン

 

「ドロー。もうカウントダウンに意味はありませんよ」

「あん?」

「このターンでお終いですから。私は罠カード、マドルチェ・ハッピーフェスタを発動。手札からマドルチェと名の付くモンスターを任意の数だけ特殊召喚する。ただしこの効果で特殊召喚されたマドルチェたちはエンドフェイズにデッキに戻る」

「ははっ、それじゃあ壁にもならねえじゃねえか! エクシーズ召喚を狙ってるのかもしれねえが、忘れてないか? 俺のフィールドの禁止令の効果でお前のエースは封じられてるって事をよ!」

「私は手札からマドルチェ・シューバリエ、バトラスク、メェプルを特殊召喚」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700

 

マドルチェ・バトラスク

レベル4

攻撃力 1500

 

マドルチェ・メェプル

レベル3

守備力 1800

 

「さらに手札からシャドール・ファルコンを通常召喚」

 

シャドール・ファルコン

レベル2

攻撃力 600

 

「レベル4のマドルチェ・シューバリエにレベル2のシャドール・ファルコンをチューニング。異界の獣よ、もう一度お伽の国に鍛冶の火を灯せ――シンクロ召喚、レベル6 獣神ヴァルカン」

 

騎士と隼が光となって繋がる。そしてもう一度、あのカードをフィールドへと呼び出す。

 

獣神ヴァルカン

レベル6

攻撃力 2000

 

本当に、刀堂さんには感謝しなくては。

 

「シンクロ召喚だと……!? 馬鹿な、お前がシンクロを使うなんて話、聞いた事も……」

「ええ。あなたが誰なのかは未だに思い出せませんが、あなたたちのような人相手には使った事はありませんよ。ヴァルカンは私がLDSに入ってからたまたま手に入れたカードですから――ヴァルカンの効果発動。シンクロ召喚に成功した時、お互いの表側表示のカードを一枚ずつ手札に戻す。私が選択するのはマドルチェ・メェプルとあなたのフィールドの禁止令。女王さまの禁止令を解いてもらいます」

「く……! だが俺の場にはまだ光の護封剣がある!」

「けれど私の場にも、同じレベルの二体のモンスターがいる」

「あっ……」

 

禁止令が手札に戻り、私のフィールドのお菓子の羊、メェプルも手札へと戻る。これで準備は整った。

 

「レベル4のマーマメイドとバトラスクでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け――エクシーズ召喚。来て、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」

 

メイドと執事、二人が光となって消えた渦から現れるのはヴァルカンによって封印を解かれたお菓子の女王。

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200

ORU2

 

「ティアラミスの効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使い、私の墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻した枚数分、フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す。私は墓地のシューバリエとハッピーフェスタをデッキに戻し、あなたのフィールドの光の護封剣と霞の谷のファルコンをあなたのデッキに戻す。女王の号令(クイーンズ・コール)……!」

 

ティアラミスが杖を掲げ、杖から発せられた光により突き立てられた光の剣と霞の谷の戦士が築かれたお伽の国から退場する。

それを操るデュエリストにも、退場してもらいましょう。

 

「バトル。獣神ヴァルカンで直接攻撃(ダイレクト・アタック)

「っ、ちくしょおおおお!!」

 

??? LP:0

 

WIN EIKA

 

「昨日の鎌瀬といいあなたといい、くだらない策を弄するには少し頭が弱すぎます。だから最後はこうしてあっさりと私に負ける事になる」

「……」

 

項垂れる男性にそう言い捨てて、私は踵を返す。ロックデッキのせいで余計に時間が掛かってしまった。もうすぐ夕方になる。早くLDSに行かないと。今日は大事な作戦会議の日なんですから。それとももういつもの倉庫に行ってしまったんでしょうか。

 

「ちくしょう……! 次だ、次こそはお前に勝ってみせる……!」

「お好きにどうぞ。沢渡さんの邪魔をしないのなら、いくらでも相手をしましょう」

 

といってもロックデッキは時間が掛かるので、出来れば別のデッキにしてもらいたいですが。

 

「沢渡? あいつなんざもうどうでもいい! 今度こそ、今度こそはお前に勝って……お前を振り向かせてみせる、久守詠歌!」

「……は?」

 

間抜けな声が出てしまった。いや、というか何を言ってるんだこのハゲは。

 

「忘れもしない、あの日……! 俺は沢渡の野郎をぎゃふんと言わせてやろうと待ち伏せしていた……」

 

何か語りだしましたし。今時ぎゃふんって。

 

「だがそんな俺の前にお前が現れた、久守詠歌! そして俺はお前に、今と同じようにフィールドをがら空きにされ、敗北した……」

 

まあその頃はそのパターンがいつもでしたから。あの頃はデッキを使いこなせていなかったのか、中々シャドールたちが手札に来なかったので。

 

「忘れないぜ、あのデュエル……あれが俺のハートを揺さぶった! いや! 射抜いたんだ!」

 

もう行ってもいいでしょうか。

 

「それから俺は修行の旅に出た(舞網市内)……鎌瀬ともそこで出会ったのさ。奴も俺と同じで君に執着していた……恋をしていたのさ」

「いやその理屈はおかしい」

 

どう見ても復讐に燃えていたんですが。本人もそう言ってましたし。

 

「だが俺は奴ほど直情的じゃあない。あいつが先走って君にデュエルを申し込んだときも、俺はじっと耐えた……だがその結果がこれだ……」

「あの、もういいでしょうか」

「待ってくれ!」

 

もう嫌だ……なんなの、この人……。

 

「初めて会った時も、昨日のデュエルもっ、どうしてそんなに沢渡に拘る!?」

「それをあなたに語る必要がありますか」

「……やっぱりあいつの事が……!」

「あなたが考えているような想いは抱いていません。私はあの人の傍に居られる、それだけでいい。あなたや鎌瀬と初めてデュエルした時とは理由は別ですが、私がすることは変わらない。あの人を陥れようとする者は誰だろうと倒す、それだけです」

「っ……」

「……もういいですか。いつまでもあなたに構っている程、私も暇ではないので」

「あ……」

 

これ以上彼の話に付き合う気はない。何処まで本気で言っているのかは知りませんが、沢渡さんに迷惑が及ばないならそれでいい。

 

 

 

足早にLDSへと向かう途中、デュエルディスクが鳴った。通信……沢渡さんからでしょうか!

しかしデュエルディスクを見ると画面に表示されていた名前は……アユちゃん?

 

「はい、もしもし」

 

『詠歌お姉ちゃん! 沢渡たちを止めて!』

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

UNKNOWN VS SAWATARI

LP:4000

 

海に面する倉庫。沢渡たちが良く溜まり場にしている其処に、普段とは違う顔が二つあった。

 

「先行は俺が貰う」

 

沢渡と対峙する黒マスクの男と、榊遊矢を狙う沢渡、その取り巻きの二人をつけて此処まで来た柊柚子の二人だ。

榊遊矢を守る為に沢渡にデュエルを挑んだ柊柚子を庇うように、その黒マスクのデュエリストは突然現れ、沢渡とデュエルを始めた。

 

「いいだろう、ナイトくん」

「俺は手札5枚、全てのカードを……伏せる」

「ああっ?」

「えっ……」

「ターンエンド」

 

先行の1ターン目にして黒マスクの男は全ての手札をセットし、ターンエンドを宣言する。

それを目の当たりにした柊柚子は思わず声を上げた。

そして沢渡に至っては――

 

「ふっ、あっははははは! おいおい……なんか格好つけて登場した割に、それだけかい?」

 

耐え切れない、といった様子で沢渡は顔を覆い、笑い声を上げた。

 

「沢渡さん、大嵐っすよ!」

 

取り巻きの一人、山部も挑発するように言う。

 

「モンスターが一枚も入ってなかったかい? 気の毒だがお前……持ってないねえ」

「聞こえなかったか、ターンエンドだ」

 

二人の挑発の言葉も意に介さず、男はもう一度エンド宣言を繰り返す。

 

「ああん……?」

 

その態度が沢渡の神経を逆撫でする。だが、沢渡はさらに笑みを深くしてデッキに手を掛けた。

 

「見せてやる、俺の完璧なデュエルを。俺のターン、ドロー!」

 

この状況は自分の新しいデッキにはお誂え向きの状況だ。本当に気の毒だが、目の前の騎士はあまりにも運がなかった、と内心で笑って。

 

「お前が伏せたカードを利用させてもらうぜ――相手の魔法、罠ゾーンにカードが二枚以上存在する時、手札からこのカードを特殊召喚することが出来る。出でよ、氷帝家臣エッシャー!」

 

この状況、やはり自分はカードに選ばれている。榊遊矢の前の前哨戦には丁度いい。

 

「さらに俺はエッシャーをリリースし、アドバンス召喚! ――氷帝メビウス!」

 

氷帝メビウス

レベル6

攻撃力 2400

 

「よっしゃあ! いきなり攻撃力2400のモンスター召喚だぜぇ!」

 

「メビウスの効果発動! このカードがアドバンス召喚に成功した時、フィールドの魔法、罠カードを二枚まで選択し、破壊できる。フリーズ・バースト!」

 

残る伏せカードは3枚。それをすべて破壊する為のカードも既に手札にある。

いける、このデッキでなら榊遊矢を倒せる。そう確信し、沢渡はさらにデュエルを進めていく――。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

アユちゃんはしゃくりを上げながら私に必死に状況を伝えてくれた。

買い物の帰り道、山部と大伴を見つけ、その会話から沢渡さんが榊さんをまだ狙っている事。

どんな手を使ってでも榊さんを倒そうとしているという事。

 

山部たちが言っていたというどんな手でも、というのは恐らくメビウスを使った戦術の事だろう。沢渡さんがまた同じような卑怯な手を使うとは思えない。

 

そして榊さんもアユちゃんの言葉を聞き、沢渡さんを探しに行ったという事。その後で沢渡さんの取り巻きである私に電話を掛けて、助力を頼んだという事。

私がした事を目の前で見ていながら、私を頼ってくれた……本当に優しい子だと思う。

私には沢渡さんが榊さんを敵視しているのを止める事は出来ない。けれど、こんな勘違いされたままの状況での決着は沢渡さんも望む所ではないはずだ。

もっとしっかりとした場で、劇的な勝利を演出する。それが今の沢渡さんの願いだ。

だからもし、このまま二人のデュエルへと発展するようならそれは止めなくちゃならない。いがみ合うようなデュエルは二人の決着に望ましくない。

……そうだ、沢渡さんは認めないだろうけど、ライバルとの決着は誰の邪魔も入らない、誰もが見届けたくなるような状況で着かなければ。

 

「だから安心してください、アユちゃん。柊さんも榊さんも、絶対に傷つけはさせませんから」

『ぐすっ……うん』

 

アユちゃんと柊さんが山部たちを見たという場所からして、恐らく沢渡さんはいつもの倉庫に居る。此処からなら遊勝塾に居る榊さんよりも早く辿りつけるだろう。早く行って、柊さんの誤解を解かなくては。

 

「私も探してみます。アユちゃんは安心して待っていてください」

『うん……ありがとう、詠歌お姉ちゃん……』

 

アユちゃんと通信を切り、倉庫を目指して走る。

未だに沢渡さんを敵視している柊さんの事だ、もしかするとデュエルになってしまっているかもしれない。これ以上、二人に喧嘩をしてもらいたくはない。それは……沢渡さんの取り巻きである私と、柊さんの友人である私の、共通の願いだ。

自分勝手な私の、勝手な願いだ。

 

 

 

――見えた。いつも使っている倉庫。扉が開いている……既に柊さんは中に居るんだろう。早く行って、事情を説明しなくては。

倉庫の扉へと走りよった瞬間、冷たい風が私の肌を刺激した。

……? いくら海に近いとはいえ、この時期にしては冷たすぎる。まるで冬の、氷を孕んだ風のようだ。

 

 

「エクシーズモンスターの真の力は己の魂たるオーバーレイユニットを使って相手を滅する事にある」

「エクシーズの講義は結構だ。興味もないし、お前以上に使いこなす奴を知ってるんでね」

 

冷気によって歩みを止めた私の体。しかし、倉庫の中から沢渡さんの声が私の耳に届いた。

エクシーズ……? 一体誰とデュエルを……

 

「ならばその身を以て知るがいい――ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果発動ッ! オーバーレイユニットを一つ使い、このターンの終わりまで相手フィールドに居るレベル5以上のモンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力をアップする!」

 

そして中から聞こえる知らない声に、私はゆっくりと倉庫の扉に手をかけ、中を窺った。

 

「トリーズン・ディスチャージ!」

 

倉庫の中では最上級モンスター、凍氷帝メビウスと見た事のない黒いドラゴンが対峙していた。

メビウスを操るのは沢渡さん、もう一方のドラゴンを操る、柊さんの横に立つ男性は私の位置からでは後ろ姿しか見えないが、黒い服装のデュエリスト。

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 2800 → 1400

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 2500 → 3900

ORU2 → 1

 

「ああっ、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力がぁ!」

「メビウスを上回った!」

 

「うっそーん!?」

「まだだ! 残るオーバーレイユニットを一つ使い、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動!」

 

「つまり、もう一度同じことが……」

「「「やべえ!」」」

 

「トリーズン・ディスチャージ!」

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 1400 → 700

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 4600

ORU1 → 0

 

「攻撃力、4600……!」

「嘘、ウソ、うっそーん!」

 

ディスクを取り出し、二人のデュエル状況を確認する。

二人のライフはどちらも無傷の4000、仮にあのドラゴンの攻撃が通っても沢渡さんのライフは100残る……それに沢渡さんのあの態度、何か策がある。

突然の展開に驚きましたが、ふっと息を吐く。柊さんの隣の男性が誰かは知りませんが、このデュエルが終わった後に事情を説明して、誤解を解くとしましょう。

沢渡さんが勝てば、話も聞いてくれるでしょうし。

そうと決まれば沢渡さんの名演技と華麗なるデュエルを目の前で見なくては!

今度こそ倉庫の扉を潜ろうとしたその瞬間だった。

 

「バトルだッ! 俺はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンで、凍氷帝メビウスを攻撃! 行け! その牙で氷河を砕け!」

 

男性の声に反応し、ドラゴンが翼を翻した瞬間。ディスクに内蔵されたソリッドビジョンシステム、通常のデュエルでは起こりえないドラゴンの起こした風が私の肌へと突き刺さった。

……おかしい。

 

「反逆のライトニング・ディスオベイ!」

 

そしてドラゴンがメビウスを破壊した瞬間、爆発と衝撃波が倉庫内で巻き起こった。その衝撃で沢渡さんが吹き飛ばされ、私もまた倉庫の外へと吹き飛ばされた。

これ、は……モンスターが実体化してる……?

 

「……こんな所、で、倒れてるわけには……!」

 

コンクリートの地面に打ち付けられ、体が悲鳴を上げている。関係ない。

今の私には自由に動く手足がある。この世界で戦う為のカードがある。

沢渡さんに危害が及ぼうとしている。その時に、私が動かないでどうする……!

 

強引に体を起こす。制服は爆風で汚れ、所々破れ、擦り傷で血が色々な所から流れている。けど関係ない。

頭を打ったのか、視界が揺れている。関係ない。

ほんの僅かな距離のはずの倉庫が酷く遠く感じる。関係ない。

今にも倒れて、楽に成りたいと体が悲鳴を上げている。関係、ない……!

 

「馬鹿め! デュエルは終わっていない!」

 

ほら、沢渡さんだってああ言っている。たとえどれだけ強力なモンスターを召喚し、メビウスを破壊しても、沢渡さんの心は折れていない。

なら、私が此処で折れる事も、絶対に許されない……! 私は、あの人の隣に居たいんだから……!

 

「罠、発動! アイス・レイジ・ショット!」

 

そして、沢渡さんの勝利を、この目で見て、一緒に喜ぶんだ……! 沢渡さんの、ネオ沢渡さんの、華麗なデュエルを!

 

「――安い戦略だ。児戯にも等しい」

「はいぃ!?」

「俺は墓地にある永続魔法、幻影死槍(ファントム・デス・スピア)を発動。相手の罠カードが発動した時、墓地のこのカードを除外する事で罠カードの発動を無効にし、破壊」

「なっ……!」

「そして! 相手プレイヤーに100ポイントのダメージを与えるッ」

「えっ、ええッ!? ま、待て待って! 待て待て待て待て待て待て――――」

「その身に受けろ、戦場の悲しみと怒りを――!」

 

 

「待てえええええ!!!」

 

 

沢渡さんの悲鳴を聞いて、漸く私の体は自由を取り戻した。

未だに爆煙の籠る倉庫を走り、沢渡さんに放たれようとする槍を追い越し、沢渡さんへと走る。

 

「っ!?」

「く、」「久守!?」

「久守さん!?」

 

「沢渡さんッ!」

 

SAWATARI LP:0

 

ディスクが沢渡さんの敗北を告げる。

けれど、槍が沢渡さんを貫くことはなかった。

 

「……無事ですか、沢渡さん」

「く、久守……」

 

間に合った……。槍よりも早く、沢渡さんを押し倒す事が出来た。

 

「良かった……」

 

微かに震えている沢渡さんの手を握り、もう一度無事を確かめる。煙で汚れているけれど、大きな怪我はしてない。

……本当に、良かった……。

 

沢渡さんの手を離し、私は立ち上がる。沢渡さんを守るように、黒マスクの男へと立ちはだかる。

 

「!?」「!?」

 

「あなたは……」

 

マスクを脱ぎ、割れたゴーグルを上げた事で黒マスクの男の素顔が見える。

 

「遊矢!?」

「き、貴様だったのか……!」

 

その素顔は紛れもない、榊さんのもの。

 

「……何処の誰かは知りません。けれど、この借りは返してもらいます。今、此処で……!」

 

榊さんがエクシーズ召喚を使うという話は聞いたことがない。使えるのであれば、LDSでエクシーズコースに興味を示すこともないはずだ。

この‟もう一人の”榊さんが誰なのかは知らない。どうして沢渡さんを狙ったのか、榊さんとどういう関係なのか、それも知らない。

だけど、私がすべき事はもう決まっている……!

 

「山部、大伴、柿本! 沢渡さんを連れて早く行って!」

 

「えっ!?」「は、はぁ!?」「何言ってんだ久守!?」

「お前も今のデュエル見てたんだろ!? こいつやべえよ!」

「だから早く行って! 沢渡さんを連れて、早く逃げて!」

 

「っ、ふざけるなよ久守……! お前、何を勝手な事を……!」

「お願いです、沢渡さん……!」

 

分かってる。こんな風に負けて、沢渡さんが黙ってるはずないって事ぐらい、良く分かってます……!

けど、それでも……!

 

「私に、あなたを守らせて……! 影からじゃなく、前に立って、あなたを助けさせてください……!」

「くも、り……?」

 

ごめんなさい。何を言っているのか、分からないですよね。

今まではこんな事、一度もなかったから。

 

「――早く行って!」

「っ、沢渡さん、行きましょう!」

「ふざけんな、あいつを置いて、尻尾巻いて逃げられるか!」

「早く早く!」「おい、そっち持て!」

「ふざけんなああああ――――!」

 

山部と大伴に抱えられ、沢渡さんが倉庫の外へと運ばれていく。

……これでいい。これでもう、憂いはなくなった。

 

「く、久守さん! それに遊矢も! どうして此処に……!?」

「柊さん、退いてください。私はその男に用がある」

「……」

 

無言のままの男を睨み付け、私はデュエルディスクを腕に装着する。

 

「デュエルです……! 沢渡さんを傷つけた罪は今此処で償ってもらいます……!」

「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて久守さん! 沢渡がやられて怒る気持ちは分かるけど――」

「本当に私の気持ちが分かるなら! 今の私が言葉で止まらないという事も分かるはずです!」

「……もう貴様らに用はない」

「私にはある! 逃げても何処までも追いかけてやる!」

「……」

 

私の言葉が本気だと悟ったのか、男は再びデュエルディスクを構えた。

それでいい、今此処で終わらせてやる……!

 

これもくだらない世界(ものがたり)の脚本なのだとしたら、今、此処で!

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

EIKA VS UNKNOWN

LP:4000




新制限に間に合った……!
これでサブタイに問題はない。
本来なら主人公のデュエル描写を入れるつもりはなかったのですが、この調子だとシンクロの出番がまだまだ先になりそうだったのでヴァルカンに再登場してもらいました。


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『方舟』

アニメ的演出多め。


「デュエル!」「デュエル!」

 

EIKA VS UNKNOWN

LP:4000

 

「ちょ、ちょっと二人共落ち着いてよ!」

 

柊さんが焦ったように言う。けれど、もう私は止まれない。アユちゃんとの約束も、柊さんの頼みも、今の私が止まる理由にはならない。

目の前の敵を倒し、沢渡さんにした事を償わせるまで。

 

「私の先行……! 先行のプレイヤーはドロー出来ない……私はモンスターをセット、さらにカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

このデュエルだけは、絶対に負けられない。絶対にこの男だけは倒す……!

 

「俺のターン、ドロー。俺はモンスターをセット、さらにカードを二枚セットし、ターンエンド」

 

私に似たプレイング……狙ってやっているのか、それとも私のシャドールたちのようにリバース・モンスターを主体にしたデッキ……?

先程の沢渡さんとのデュエル、この男が使ったのはエクシーズモンスター……ならリバース効果か、墓地に送られた時、モンスターを特殊召喚するカード?

さっき使っていたドラゴン、あれがエースなら……素材指定があるかは分からないが、ランク4なら召喚は容易だ。セットされたカードを警戒しようとしまいと、すぐにでも出てきてもおかしくはない。なら、迷う事に意味はない。

 

「私のターン――」

「久守さん! お願いだから落ち着いて! こんな所で遊矢とデュエルしても仕方ないでしょ!? それにさっきのデュエルだって、元々は沢渡の方が先に遊矢を陥れようとして――」

「……だから、何だって言うんですか」

「な……」

 

沢渡さんが榊さんを陥れる? 今回のそれは柊さんたちの勘違いだ。誤解されたのは山部たちが原因で、それを責める気も、その資格も私にはない。私たちは実際に一度榊さんを陥れ、カードを奪っているから。

けどそれは、それがっ、

 

「それが……この男があの人を笑って良い理由にはならない……!」

 

柊さんはこの男を榊さんだと思っているみたいだが、違う。容姿は確かに彼と瓜二つだが、この男は榊さんではない。無関係ではないだろう、でも別人だ。だからこそ許せない。

沢渡さんとの因縁があるのは榊さんで、この男は何の関係もない赤の他人だ。

その赤の他人が、沢渡さんを笑った……!

 

「この男は笑った! 児戯だと、子供の遊びだと! ……あの人が必死に組んだデッキを、あの人が戦ったデュエルを! 笑うのは誰だろうと許さない……絶対に! 予定調和のように決まる勝敗なんて認めない!」

 

榊さんとのデュエルの為に組んだデッキで戦うことも出来ずに終わるなんて、そんな展開を認める事なんて出来るはずがない……!

 

「私のターン、ドロー! マドルチェ・エンジェリーを通常召喚! そしてエンジェリーの効果発動、このカードをリリースし、デッキからマドルチェと名の付くモンスターを特殊召喚する! 来て、マジョレーヌ! さらにセットモンスター、マドルチェ・マーマメイドを反転召喚!」

 

マドルチェ・マジョレーヌ

レベル4

攻撃力 1400

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

攻撃力 800

 

フィールドに姿を現す、お菓子の魔女とメイド。出し惜しみなんてしない。絶対にこの男は倒す。

 

「レベル4のマドルチェ・マジョレーヌとマーマメイドでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け! エクシーズ召喚! ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」

「……」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200

ORU2

 

私のエクシーズ召喚を見ても男の反応はない。自分が使うとはいえ……やっぱりこの男、普通のデュエリストじゃない。けど、そんな事はどうでもいい!

 

「ティアラミスの効果発動!」

 

召喚されたティアラミスが一瞬、私を悲しげに見つめたような気がした。

 

「一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、私の墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻した枚数と同じ数、相手フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す! 私は墓地のエンジェリーとマジョレーヌをデッキに!」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ORU2 → 1

 

……いつもの私なら魔法、罠ゾーンにセットされたカードをバウンスするだろう。けれど、それじゃあ勝てない。相手のライフを0にしなければ、デュエルには勝てない!

 

「そしてあなたの場の伏せカード一枚とセットモンスターを選択し、デッキに戻す! 女王の号令(クイーンズ・コール)!」

 

ティアラミスが掲げた杖から発せられた光により、フィールドから二枚のカードが消え去る。

これで残るはリバースカードが一枚のみ、たとえミラーフォースのようなカードが伏せられていても関係ない、それならそれでこのティアラミスが墓地に送られ二体目のティアラミスの効果の発動条件を満たせる……!

 

「ティアラミスで直接攻撃!」

 

通ればライフを一気に削れる。そして沢渡さんとのデュエルと同じくモンスターが実体化しているのなら、その身で受けろ、沢渡さんの痛みを……! 

 

「――永続罠発動、幻影霧剣(ファントム・フォッグ・ブレード)。モンスター一体の攻撃を無効にし、このカードがフィールドに存在する限りそのモンスターの効果を無効にし、攻撃を封じる。ただし俺はそのモンスターを攻撃することは出来なくなる」

 

ティアラミスが杖を振り上げた瞬間、幻影の剣がティアラミスを貫き、私の後方の壁へと縫い付けた。

 

「……ターンエンド」

 

焦り過ぎた……いいや、攻撃しなければデュエルには勝てない、この男に償わせる事は出来ない。

 

「俺のターン、ドロー」

「遊矢……」

「君は下がっていろ。今の彼女には君の言葉も届かない」

 

私には何の興味も示さず、柊さんを気遣う言葉だけを発する男。

……ふざけるな。何だその言葉は、その態度は。まるで私が悪役のような口ぶりじゃないか。

私が悪なのは構わない、だけど、あの人を笑ったこいつが、そんな風に誰かを気遣うな。そんな言葉を吐けるなら、どうしてあの人を笑ったんだ……!

 

「俺はカードを二枚セットし、さらに手札から魔法カード、幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイルを発動。フィールドのモンスター一体の守備力を300ポイントアップする。俺は君の場のクイーンマドルチェ・ティアラミスを選択」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200

守備力 2100 → 2400

ORU1

 

「……馬鹿にしているんですか」

「違っ、久守さん、そのカードは――」

「っ、うるさい! 私は今、この男とデュエルをしているんだ! あなたは関係ない!」

 

余計な指図は受けない……この男は私が倒す……!

 

「久守さん……」

「俺はこれでターンエンド」

「そうやって相手を馬鹿にするのがお前のデュエルならッ、私が壊してやる……! 私のターン!」

 

たとえティアラミスを封じても、私のデッキにはもう一人の女王が居る。影糸を操る女王が。

 

「罠カード、影依の原核(シャドールーツ)を発動し、フィールドにモンスターとして特殊召喚! そして手札から神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動! 手札のシャドール・ビーストとフィールドの影依の原核を融合!」

「……融合」

 

初めて、男が反応した。関係ない。もうこの男の言葉に、行動に、耳を傾ける必要なんてない!

 

「人形を操る巨人よ、お伽の国に誘われた堕天使よ! 新たな道を見出し、宿命を砕け! 融合召喚! 現れろ、エルシャドール・ネフィリム!」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800

 

倉庫に収まるような大きさで現れた巨人。だが感じる。実体化しているからこそ、ネフィリムの強大な力を。

 

「あの融合モンスターは素良とデュエルした時の……」

 

「融合素材として墓地に送られたビーストの効果により、カードを一枚ドロー! さらに影依の原核の効果により墓地の神の写し身との接触を手札に戻す! そしてネフィリムの効果、特殊召喚に成功した時、デッキからシャドールと名の付くカードを墓地に送る! 私はシャドール・ドラゴンを墓地に送り、効果を発動! フィールドの魔法、罠カードを一枚破壊する! 永続罠、幻影霧剣を破壊!」

 

ティアラミスの戒めが解かれる。

けれど、ティアラミスの私を見る瞳は未だに悲しげだった。

 

「バトル! いけ、ネフィリム! 直接攻撃、オブジェクション・バインド!」

「ぐっ……!」

 

ネフィリムから伸びた影糸が触手のように男に絡みつき、壁へと吹き飛ばす。通った。これで私の勝利へと一気に近づいた……!

 

UNKNOWN LP:1200

 

「遊矢!」

「……下がっていろと言ったはずだ。君を巻き込みたくない」

「でも!」

「……私も言ったはずですよ、私は今その男とデュエルをしているんです。あなたは下がっていて下さい」

 

駆け寄る柊さんに私は冷たく言い捨て、デュエルを進める。

 

「これで終わり……! 私はティアラミスで直接攻撃!」

「永続罠、強制終了を発動! 俺のフィールドの伏せカードを墓地に送り、バトルフェイズを終了する」

「……ターンエンド」

 

またふざけた真似を。最初のネフィリムの攻撃の時点で発動していればライフを削られる事もなかったのに……!

……結果的に勝利は逃した。けど、これでいい。ただ勝利するだけでは駄目だ。

 

「これで私は私のデッキに存在する二体の女王を呼び出した……お前も早く呼び出してみせたらどうですか、あの人を笑った、あなたの遊びじゃないプレイングで……あのドラゴンを……!」

 

あのドラゴンを、この男のエースであろうあのモンスターを破壊してこそ、本当の勝利……。だから早く呼び出してみせろ……!

 

「俺のターン。俺はカードを一枚セットし、ターンエンド」

「……呆れますね。それで良くあの人を笑えたものです。私のターン」

 

墓地にマドルチェたちが居ない今、戒めが解かれたとはいえティアラミスの効果は発動できない。手札にも強制終了を破壊できるカードはない……それでもやる事は変わらない。

 

「ネフィリムで直接攻撃!」

「――直接攻撃宣言時、墓地の幻影騎士団シャドーベイルの効果を発動ッ。墓地のこのカードをモンスターとして、可能な限り守備表示で特殊召喚する、俺の墓地にあるシャドーベイルは三枚、よって三体のシャドーベイルをフィールドに特殊召喚!」

 

幻影騎士団シャドーベイル×3

レベル4

守備力 300

 

「さらに永続罠、強制終了を発動。伏せカードを墓地に送り、このターンのバトルを終了する」

「ようやくモンスターが並びましたか。随分と待たせてくれたものです……あの人なら絶対にこんなデュエルはしない。ターンエンド」

 

「レベル4のモンスターが並んだ……沢渡のデュエルの時と同じ……」

 

「俺のターン! ……一つ訊きたい」

「無駄口を叩く前にデュエルを進めたらどうです」

「命に別状はないだろうが、君の体はボロボロのはずだ。何故そうまでしてあの男の為に戦う」

 

私には無関心なように見えて、そう言う所だけは見ているらしい。確かに頭を打ったせいか、視界は揺れるし気分は最悪だ。いつまた倒れてもおかしくはないのかもしれない。けどそんな事はどうでもいい。

 

「初めに言ったでしょう――お前が、あの人を笑ったからだ……!」

「……そうか。――いくぞッ、俺は二体のシャドーベイルでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! ――漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ! エクシーズ召喚! ランク4、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 2500

ORU2

 

現れる黒いドラゴン。正面から相対すると思わず体が震えてしまいそうになる。……けど、あの人はこのドラゴンを前にしても引かなかった。メビウスが破壊される可能性を考えて罠カードを伏せ、逆転の手まで用意していた。私も引く気はない。正面から打ち砕いて、勝利してやる。

 

「バトルだ! 俺はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでクイーンマドルチェ・ティアラミスを攻撃――反逆のライトニング・ディスオベイ!」

「……」

 

咆哮を上げ、その牙を持って襲い来るダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンにティアラミスは成す術もなく貫かれ、破壊された。最後まで私を見ながら。

 

EIKA LP:3700

 

やはりティアラミスから破壊してきたか。残念ですね、ドラゴンの効果を使ってネフィリムを攻撃すれば、それだけで終わりだったのに。

 

「さらにカードを一枚セットし、ターンエンド」

「私のターン、ドロー! 私はモンスターをセットし、ネフィリムでダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを攻撃!」

「……永続罠、強制終了を発動。フィールドのシャドーベイルを墓地に送り、バトルフェイズを終了する」

 

当然か。やはりあのカードが邪魔だ。

 

「私はカードを一枚セットし、ターンエンド」

 

セットはブラフだが、この男が警戒するとも思えない。無駄になりそうだ。

 

「俺のターン……! 俺は、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、相手フィールドのレベル5以上のモンスターの攻撃力をこのターンのエンドフェイズまで半分にし、その数値をダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力に加える……トリーズン・ディスチャージ!」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800 → 1400

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 2500 → 3900

 

沢渡さんのデュエルと同じ状況。違うのは私のライフは僅かにだが削られているが故に、もう一度効果を発動され、ネフィリムが破壊されれば私のライフは尽きるという事。

けれどネフィリムは特殊召喚されたモンスターとの戦闘する時、攻撃力がいくら上回っていようと相手モンスターを破壊出来る効果がある。ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでは私のネフィリムは倒せない。

ネフィリムの力で、このドラゴンを打ち砕く……!

 

「バトルだ! 俺はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでエルシャドール・ネフィリムを攻撃!」

「……またそうやって人を馬鹿にしたデュエルを……!」

 

攻撃力を上げようが上げまいが結果は変わらない。だが、ネフィリムの効果を知らないこの男がするのでは意味が違う。自ら勝機を逃すプレイングでしかない……!

 

「反逆のライトニング・ディスオベイ――!」

「ネフィリムの効果発動! ネフィリムは特殊召喚されたモンスターとバトルする時、ダメージステップ開始時にそのモンスターを破壊する! 消えろ! ストリング・バインドッ!」

 

これでダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンは破壊され、この男を守るのは強制終了だけ。もういい、すぐにでも終わらせてやる……!

 

「ッ、罠発動! 幻影翼(ファントム・ウィング)! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの破壊を無効にし、攻撃力を500ポイントアップする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

攻撃力 3900 → 4400

 

ネフィリムから伸びた影糸はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの前に広がった翼により阻まれ、影糸はその薄暗い輝きによって消え去る。

 

「っ……! ネフィリム!」

 

幻影の翼を広げ、ドラゴンはネフィリムへとその牙を剥いた。

……私の目の前で破壊される瞬間、ネフィリムから伸びた一本の影糸が私の頬を撫でた。それがどういう意味だったのか、瞳すら閉じた彼女の無表情からは分からない。

 

EIKA LP:700

 

「……これで君の場の二体の女王は消えた。ライフも残り僅かだ」

「それが……どうしたんですか」

 

足がふらつく。頭痛がする。

 

「あの男は『アカデミア』を知らないと言った。ならば俺ももう君たちに用はない。これ以上のデュエルを続ければ君の体にも限界が来る。サレンダーして、治療を受けるべきだ」

「用はない……? 私にはある! 何度も言ったはずだッ、お前にはあの人を笑った罪を償わせると! そのドラゴンを破壊して、ライフを0にして!」

 

「久守さん……」

 

「……あの男を笑った事は謝罪しよう――すまなかった。君は彼女の友人なんだろう。その友人の前でこれ以上、君が苦しむ姿を見せるのは忍びない。もう二度とあの男に関わらないとも誓う。だからデュエルを中断して、治療を受けてくれ」

「……………………ふざけるな。そんな言葉で許されると思うな! 見下して、上から目線のそんな言葉で! 止まれるわけがない! もう私の拳は振り上げられた! それを今更下ろす事なんて出来ない! 振り上げた拳は振り下ろすしかないんだ! 早くデュエルを進めろ!」

「……俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「遊矢!? 久守さん、お願いもうやめて! これ以上続けたら本当に倒れちゃうわ!」

 

「私のターン、ドロー!」

 

ティアラミスでも駄目だった。ネフィリムでも駄目だった。壊すだけじゃ、駄目だ。

 

――私からあの人を奪おうとしたように、私も奪ってやる。

 

「私は速攻魔法、サイクロンを発動し、強制終了を破壊……! そしてマドルチェ・シューバリエを召喚! さらにシャドール・ハウンドを反転召喚!」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700

 

シャドール・ハウンド

レベル4

攻撃力 1600

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン……反逆の龍……私も同じなんですよ。私も世界を敵に回そうと、あの人の隣に立っていたい……だからどんな手を使っても、あなたを、倒す……! レベル4のマドルチェ・シューバリエとシャドール・ハウンドでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

この体の痛みは、心の悲鳴は、傷のせいだけじゃない。けど、それでも!

 

 

「エクシーズ召喚! 現れろ――――No.101!」

 

 

もう一度だけでいい。あの時のように、私の願いに応えて。

 

「満たされぬ魂を乗せた方舟よ! 光届かぬ深淵より‟もう一度”ッ、浮上せよ! S・H・Ark Knight(サイレント・オナーズ・アークナイト)!」

 

暗い渦の中から方舟が浮上する。

私の心を満たしてくれるこの世界に私を運んだ方舟。

意識が消えそうになる。しがみ付く。

体が折れそうになる。支える。

私の全てを必死で此処に繋ぎ止める。

 

「――――」

「――――」

 

もうあの男も、柊さんも良く見えない。

けど構わない。まだデュエルは続けられる。

 

No.101 S・H・Ark Knight

ランク4

攻撃力 2100

ORU2

 

「どうしてあの人の為に戦うのかって訊きましたよね。分からないでしょうね……誰にも分からない……! この作り物めいた世界の中で、あの人と出会えた幸運を! あの人と過ごせる幸福を……! ずっと、ずっと疑って生きてきた、ずっと冷めた目で世界を見てきた、世界を作り物だと諦めた私が……あの人の笑顔だけは! あの人と交わした言葉だけは! あの人だけは……絶対に作り物にしたくないと、そう思った! それだけで私はこの世界(げんじつ)を生きていけるようになった……!」

 

……私は嘘を吐いた。本当は、誰に言われるでもなく自分が一番良く分かってた。

 

「私にとってあの人は恩人で、大切な人でっ――――誰よりも大好きな人なんですよ!」

 

そうじゃなきゃ、こんなに必死になんてなれない。

私はただ怖かっただけだ。私みたいな人間が、そんな思いを抱いて良いのか。

それは今も変わらない。けど、その想いが今の私を奮い立たせる。

 

「だから世界が敗北をあの人に強いるなら、あの人に道化を押し付けるなら! 私はそんな世界と戦う……! アークナイトの効果、発動……! オーバーレイユニットを二つ使い、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターをこのカードのオーバーレイユニットにする――反逆の牙を私に! エターナル・ソウル・アサイラム……!」

「――――」

 

霞んだ景色の中、反逆の龍がアークナイトの力へと変わるのが見えた。

 

「これが私の答え……作り物の世界ならこの一撃で壊れろ! アークナイトで攻、撃……! 方舟よ、反逆の矛で世界を、運命を打ち砕け――! ミリオン・ファントム・フラッド!」

 

アークナイトの船体から放たれる無数の光線。きっとこの攻撃で倉庫は破壊されているだろうけど、もう、何も見えない。

……まだだ。まだデュエルは終わってない。

まだあの男のライフは残っているはずだ。後一ターン、後一度、それまで倒れるわけにはいかない。

 

「私、は、これで……ターン、エンド……」

 

もう少し、後少しだけ、なのに……!

 

「どう、して……私は……!」

 

……そして私の意識は完全に途切れた。

 

 

「……俺はこのカードを発動していた」

 

 

最後にそんな、悲しそうな、優しい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「っ……?」

 

来るはずの衝撃が訪れない事に気付き、柊柚子は久守詠歌が召喚したエクシーズモンスターの攻撃に思わず閉じていた目を開く。

広がっていたのは想像していたのとはまるで違う光景だった。ライトは割れ、未だに残り火が燃えてはいる。けれど攻撃によって吹き飛ぶはずだった男や倉庫は未だ健在だった。

 

「何が……っ、久守さん!」

 

そしてただ一人、久守詠歌だけが倒れ伏していた。そして唯一フィールドに存在しているのは先ほど召喚されたはずの方舟ではなく、

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 2500

ORU0

 

 

「なんで、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンが……」

 

吸収されたはずのダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンが男のフィールドに変わらず存在していた。

 

「……俺はこのカードを発動していた」

「遊矢……?」

「カウンター罠、エクシーズ・ブロック……ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンのオーバーレイユニットを一つ取り除く事で相手のモンスター効果を無効にし、破壊する」

 

悲しげにそう言って、男は自らのデッキをディスクから抜いた。それによりデュエルは強制的に終了し、最後に残ったダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンも消える。

 

「デュエルは終わりだ。彼女の手当を」

「わ、分かった!」

 

男の言葉に呆然としていた柚子は久守詠歌に駆け寄り、その体を抱き起こす。彼女は完全に意識を失っていた。

 

「久守さんっ、久守さん!」

「命に別状はないだろう。早く医者の下に連れていくんだ」

「う、うん! 遊矢も一緒に……」

 

久守詠歌を抱く柚子の言葉を無視し、男は地面に散らばったカードの一枚を拾い上げる。

 

(この少女が最後に使ったカード……あれは危険だ)

 

しかし、拾い上げたカードを確認しようとした瞬間、カードから光が発せられた。

 

「っ……!」

 

そしてその光が収まった時、あのカードから感じた、見ているだけで鳥肌が立つような強大な力は完全に失われていた。

 

「このカードは……」

 

眩い光を放ったカードを見て、彼は静かに残るカードを拾い集めた。

 

「彼女のカードを……目覚めたら渡してあげてほしい」

「それは分かった、けど遊矢、なんでそんな格好で……」

「俺は――」

 

カードを柚子に渡し、柚子の言葉に何かを返そうとした瞬間、再び光が倉庫に溢れた。

カードからではない、彼女の身に着けている、ブレスレットからだ。

 

「えっ、なにこれ……!?」

「――!」

「きゃあ!?」

 

そして一際強い光をブレスレットが放ち、もう一度目を開くとそこにはもう、男の姿はなかった。

 

「ゆう、や……?」

 

 

 

「――柚子!」

 

再び呆然とするしかない柚子の耳に、足音と自分を呼ぶ声が届いた。振り向けば息を切らしながら、消えたはずの榊遊矢が倉庫へと入って来ていた。

 

「遊矢……?」

「はぁはぁっ……大丈夫かっ?」

「遊矢……あなた、遊矢、よね……?」

「はあ? 一体何言って……って、それより久守はっ?」

「そ、そうだ、早く病院に……!」

 

あまりにも不可解な事の連続で混乱している。けれどまずは久守詠歌を病院に運ばなくては、そう考え焦ったようにディスクを取り出し、救急車を呼ぼうとする。

だがそれよりも早く、まだ呼んでいないはずの救急車のサイレンの音が聞こえて来た。

 

「こっちだ! 早く!」

 

それに続くように、沢渡の声も聞こえて来る。

 

「久守――! っ、榊遊矢!」

「沢渡!? そうか、お前が救急車を――」

「退け!」

 

倉庫に再び現れた沢渡は遊矢を見た瞬間、彼を突き飛ばすようにして久守詠歌に駆け寄り、彼女の容体を確認する。

 

「……こいつは俺が預かる」

「あ、ああ。けどなんでこんな事に……」

 

恐らく最も事態を把握できていない遊矢に、久守詠歌を柚子から奪うように抱きかかえた沢渡は苛立ちの表情を隠そうともせずに告げる。

 

「榊遊矢……この借りは必ず返す。今度こそ、どんな手を使っても、誰を利用してもな……!」

「はあ? 何を言って――」

 

遊矢の言葉は倉庫へと到着した救急車の音で掻き消され、救急車へと久守詠歌を運ぶ沢渡の姿をただ見送る事しか出来なかった。

 

 

 

「本当、此処で一体何があったんだよ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

舞網総合病院

 

「シンゴ!」

 

病室の扉を勢いよく開け、背の低い男性が飛び込んできた。

 

「パパ……!」

 

沢渡が尊敬する唯一と言ってもいい男、彼の実の父親だった。

 

「お前が病院に居ると聞いて、飛んで来たんだよ! 怪我はっ? それとも病気っ? 体は大丈夫なんだね!?」

 

病室のベットの脇の椅子に座る沢渡の周囲を回りながら、彼は心配そうに、目に涙まで溜めて問う。

 

「ありがとう、パパ。俺は大丈夫。運ばれたのは……」

 

自分の身を案じる父に感謝しながら、沢渡はベッドで眠る少女を見た。

 

「俺と同じLDSの子だよ。命に別状はないし、頭を打ったせいで眠ってるけど、怪我も大した事はないってさ」

「おおっ、そうか! 同じ塾の生徒をそこまで思いやれる優しい子に育ってくれて、パパは、パパは嬉しいぞぉぉおお!」

「ありがとう。ごめんね、仕事があるのに」

「いいんだいいんだっ、子が心配でない親などいるものか!」

「パパ……」

 

……だったらどうして、眠っている久守詠歌の傍に居るのが自分や、今席を外している山部たちなのだろうか。

連絡先が分からないとはいえ、彼女の家族はこんな時、何をしているのだろうか。

 

「しかしこれで安心したよ。この子の事は病院に任せて、シンゴも――ん?」

「パパ?」

 

そこで初めて、眠る久守詠歌を見た父の表情が変わった。

 

「いいや何でもない! それよりもシンゴ、お前もこんな所に擦り傷があるじゃないか! お前も先生に診てもらった方がいい!」

「え、いや俺は別に……」

「駄目だ! もしお前にもしもの事があったら……うぉおおお! パパは、パパはぁ!」

「わ、分かったよパパ……」

 

父に押され、息子は素直に頷く。父の愛情を知っているからこそ、無下には出来なかった。

 

 

 

 

 

久守詠歌は眠り続ける。この世界で。

運ばれたこの世界で、満たされるこの世界で。

彼の傍にもう一度立つ時まで。

 

彼女の手にはもう、満たされぬ魂を運ぶ船はない。




タグの『デッキは割とガチ』シャドールに続くガチ要素の登場。なおデュエルでの出番はこれが最初で最後の模様。期せずして再登場させたヴァルカンと違い、本当にデュエルで再登場はしません。


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『居場所』

デュエルなし。とある人物のオリ設定が多くなります。ご注意ください。


「しかし親父さんも過保護だよな。沢渡さんまで検査入院なんて」

「まあでも、あいつがやべえ奴だったのは間違いねえしな」

「でも本当に榊遊矢なのか? 俺は暗くて顔が良く見えなかったし、しかも戻った時には服装も違かったろ?」

「けど柊柚子も言ってたし、そうなんじゃねえの?」

「久守が起きれば全部解決だろ」

「だな」

 

久守詠歌が病院に運ばれた翌日。病院内の売店に、沢渡と久守への見舞いの品を買う山部、柿本、大伴の姿があった。

検査入院する事になった沢渡と違い、あの後家に帰り、いつも通り学校へ通った三人だったが誰が言い出したわけでもなく、放課後、真っ直ぐに病院に来ていた。

 

「おい、お前ら」

 

病室に向かう途中(当然だが二人は別の病室である)、彼らに声を掛ける者が居た。

 

「ん? って、お前は……シンクロコースの刀堂刃!」

 

病院を訪れるには不釣り合いな木刀を持つ少年、刀堂刃。

 

「それにエクシーズコースの志島北斗……」

「融合コースの光津真澄まで……なんで此処に?」

 

三人ともLDSで沢渡と同じか、それ以上に有名となっているエリートたちだった。関わりはないが、名前だけなら彼らも知っている。

 

「沢渡はさん付けなのに私たちは呼び捨てなのね」

「気にするなよ、真澄。沢渡の無駄な人望は彼女で知ってるだろう」

「分かってるわよ。あんたたち、あの子の病室は何処?」

「あの子って……久守の事か?」

「他に誰が居んだよ。俺たちが沢渡の見舞いに三人で来ると思うか? しかも今の話だと入院だって本当は必要ねえんだろ?」

「聞いてたのか……」

「別に誰かに吹聴する気もないわよ。沢渡の仮病の事なんて。それより早くあの子の病室を教えなさい」

 

偉そうな真澄の物言いだが、沢渡の取り巻きをしている彼らにとっては慣れたもので、特に腹を立てる事もない。

 

「それはいいけど……なんであいつに?」

「なんでって……別にいいでしょっ」

「そりゃダチが入院したって聞きゃ、見舞いぐらいすんだろ」

「未だに彼女は苦手だが、そのぐらいの常識は持ってるさ」

 

真澄と違い、刃と北斗は素直に理由を答えた。真澄だけが居心地が悪そうに視線を逸らす。

 

「ダチって、いつの間に?」

「何だ久守から聞いてねえのか。北斗だったら声高に主張してそうだけどな」

「うるさいよ! だけど無駄に勝利を喧伝しない彼女の性格には好感が持てるね」

「そのおかげでお前が負けたってのも噂どまりだからな」

「それは君も一緒だろうっ」

「あーもう……こいつらは放っておいていいからさっさと案内しなさい」

「あ、ああ」

 

事情はまだ良く呑み込めていないが、詠歌の見舞いに来たことは間違いないらしい三人に、山部たちは顔を見合わせ、頷いた。

 

「けど誰から聞いたんだ? 久守が入院したって」

「昨日、あいつに連絡しても出なかったからな。妙だとは思ってたが、今日LDSに行ったらもう噂になってたぜ。沢渡が闇討ちされたってな。ま、今はLDSの一部の奴が好き勝手言ってるだけだけどな」

「あの子の事も一緒にね。大怪我したとか、沢渡に付きっきりで看病してるとか、はっきりとはしなかったけど」

「それで病院に確かめに来たら、君たちを丁度良く見つけたってわけさ。LDSの医療機関に運ばれてないなら、此処しかないと思ってね」

 

正確かはともかくとして、人の噂は早い。それに昨日は救急車まで来る騒ぎになったのだから、それも不思議はなかった。

 

「沢渡さんは勿論だけど、久守の奴も大した事はないよ。今日には目が覚めるって先生が言ってたしな」

「それにしても結局、一体何があったんだい? 闇討ちとは言ってもアクションデュエルでもない、普通のデュエルだろう? それで怪我なんて……」

「……俺たちも良く分かんねえ。詳しい事は本人に聞いてくれ」

 

榊遊矢の事を話そうとも考えたが、これ以上変な噂を立てるのも面倒になるだけか、と三人は伝えなかった。

 

「それはそうと、久守と連絡を取り合うぐらいの仲だったのか? 刀堂って」

 

病室へと向かう中、大伴が刃に尋ねる。刃と詠歌が何をしているのかを知らない以上、当然の疑問だった。

 

「「はっ、まさか――」」

「北斗もそうだが、なんですぐそういう考えに行くんだよ! ただ、ようやくあいつに合いそうなカードが――」

 

刃が彼らの邪推を呆れたように訂正しようとした時。詠歌の病室まで目と鼻の先にまで迫った時。

 

「いやっ、イヤっ、嫌っ――――!」

 

そんな、悲痛な叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……?」

 

静かに意識が覚醒する。

……覚醒する? なんで私は眠っていたんだろう。

 

「痛っ……」

 

体を起こし、ぼんやりと記憶を遡ろうとした時、頭に痛みが走り、思わず押さえる。

押さえた手に、包帯が触れる。包帯……?

 

「ッ!?」

 

その感触に気付いた時、完全に意識が覚醒した。

 

「いやっ……」

 

周囲を見渡せば、白く、無機質な光景。

 

「イヤっ……」

 

病室特有の、消毒液の香り。

 

「嫌――!!」

 

忘れるはずもない、あの時と変わらない空間に私は居た。

 

「嫌だっ、嫌だっ! わたっ、私っ、私は!」

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!

違う、違う、違う、違う!

 

「私の居場所は此処じゃないっ、此処にはもう、戻りたくない……!」

 

頭の痛みを無視し、髪を掻き毟るように掴みながら、心の底から叫ぶ。

視界が涙で滲む。心が絶望に支配されていく。

此処は、この場所にだけは、絶対に戻りたくない。此処には何もない。此処では何もできない。此処には、あの人が居ない!

 

 

「「「――久守!」」」

 

絶望に落ちていく私を、引き戻してくれる声が聞こえた。

 

「あ……」

 

焦りの表情でこの空間に現れたのは――

 

「山部、柿本、大伴……?」

 

「ちょっと! 大丈夫!? しっかりしなさい!」

「光津、さん……」

「おい大丈夫か! どっか痛むのか!?」

「刀堂、さん……」

「すぐに先生を呼ぶ! 大丈夫だっ!」

「志島、さん……」

 

忘れるはずもない。私を、久守詠歌を知る人たち。私が、久守詠歌が知る人たち。

 

私の手を握る光津さんの手を、確かめるように抱く。

 

「あ、ああっ――!」

 

感情が制御できない。伝えたい言葉があるのに、口が思うように言葉を紡いでくれない。

確かめたい顔があるのに、瞳が景色を滲ませる。

それでも私が今感じるこの体温は、耳に届くこの声は、嘘じゃない……!

 

安堵からなのか、私の意識はまた、ゆっくりと闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

再び意識を失い、医師の診断を受ける事になった詠歌。

 

「ふぅ……先生は少し記憶が混乱しただけだろうってさ。今はまた眠ってる」

 

そして代表として医師から聞いた診断結果を大伴が皆に伝えた。

 

「なんだよ、ビビらせやがって……」

「人騒がせな子ね」

「そう言う君たちが一番焦っていたように僕には見えたけどね」

「お前が言うかよ、一目散にナースコール押してたくせに」

「う、うるさいな。あの状況で一番適切な行動をしたまでだっ」

 

医師の助言もあり、念の為にしばらくは面会を控える事になった。

病室のロビーで言い合う三人に山部が声をかける。

 

「まあまあ、三人とも、病院なんだから静かに……」

 

「おーい!」

「って言った傍から……どうしたんだよ、柿本。沢渡さんを呼びに行ったんだろ?」

「それが何か大事になってきてるんだよっ、と、とりあえず皆沢渡さんの病室に来てくれって」

「はあ? なんで私たちまで沢渡の所に顔を出さなくちゃならないのよ」

「まあまあ、沢渡も一応同じLDSなんだし、いいじゃないか」

「違っ、いや違わないけど、理事長が、赤馬理事長が呼んでるんだよっ」

「……理事長先生が?」

 

息を切らせながら語る柿本の口から出た名前に、各コースのエリートであり、山部たちよりも関わりのある三人は怪訝な表情を浮かべた。

 

 

 

そして向かった沢渡の病室には、何度か見た事のある沢渡の父と、柿本の言葉通り理事長の姿があった。

 

「丁度良かったわ、あなたたち」

「理事長先生、戻られたのですか?」

「ええ。つい先程ね。お久しぶり、光津さん、刀堂さん、志島さん」

「「「は、はい!」」」

 

何度か会話した事があるとはいえ、緊張の色を隠せないまま、名前を呼ばれた三人は姿勢を正して返事をした。

 

「なんでお前らまで此処に……見舞いは頼んでないぞ」

「誰があんたみたいなドヘタの見舞いになんて来るかっ。あの子のよ」

「ドヘ……この、あいつに負けた奴が偉そうな口を……!」

 

「うぉっほん! それで赤馬理事長、いい考えとは一体?」

「ええ沢渡先生、それにはこの子たち全員の力が必要なのです」

「へ?」「俺たちも」「ですか?」

 

総合コースの自分たちには関係ないと静観していた山部たちが唐突に触れられた事に間抜けな声を上げる。

 

「ええ、勿論。LDSの力を合わせて、沢渡先生のご子息と、LDSの生徒の仇を取らなくてなりません」

 

その言葉に反応したのは真澄たち三人だった。

 

「……詳しく聞かせていただけますか、理事長先生」

 

 

 

――そして、理事長と共に六人は消え、沢渡の父も息子との別れを惜しみながら仕事へと戻った。

沢渡シンゴだけが一人、病室に残る。

 

「榊、遊矢……! 今度こそ、借りは返してやる……!」

 

再び道化を演じている事も知らず、彼は怒りを燃やす。

その怒りが彼の力に変わるのは近い。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

――私がカードと出会ったのはあの病室。最初に同室になった、小さな女の子に教わったものだった。

可愛らしい絵柄の、人形のカード。ルールも良く分からないけど、私たちはそれを眺めているだけで勇気をもらった。

けれど、あの子はカードを置いていなくなってしまった。

 

ルールを教えてくれたのは、優しげなお兄さんだった。

大雑把なルールしか分からなかったけど、眺めるだけではなくなった。

けれど、正確なルールを教えてくれないまま、あの人もいなくなってしまった。

 

最初にデュエルをしたのは、少し怖い、お姉さんだった。

ルールを間違える度に指摘され、その難しさに挫けそうになった。けど、根気強くお姉さんは教えてくれた。

けれど、一度も勝てないままお姉さんもいなくなってしまった。

 

アニメを教えてくれたのは、おじいさんだった。

孫が好きなのだと、そう言って一緒にテレビを見た。

女の子がくれたカードで、お兄さんが教えてくれたルールで、お姉さんが教えてくれたプレイングで、おじいさんに教えた。

けれど、おじいさんはそれを覚える前にいなくなってしまった。

 

私は一人になった。

一人でカードを眺め、一人でカードを並べ、一人でテレビを見た。

今度は、最後まで一人だった。

 

 

 

そして、私はこの世界にやってきた。

あの子たちの事を忘れ、曖昧な記憶と、カードだけを持って。

最初は楽しかった。

カードが重要視されるこの世界で、記憶がなくても、体が覚えていたお姉さんの教えてくれたプレイングのおかげで私は女王になった気分だった。

けれどある時、私は思い出した。全てを思い出し、この世界がどういうものなのか、察してしまった。

榊『遊』勝の存在を知ったのもその時だ。彼の鮮やかなエンタメデュエルを見て、私は気付いた。

どれだけ強力なカードを使おうと、どれだけ優れたプレイングだろうと、この世界が5番目の物語なら、5人目が存在するなら、私は勝てない。異物でしかない私には。

だから私は諦めた。忘れてしまっていた罪悪感と自分の異常に気付いて。デュエルで頂点に立つことも。表舞台で輝くことも。

主役という輝きに焼かれるくらいなら、私は影で良い。私だけがこの世界で、出来なかった青春を、人生を、一人だけ歩むことなんて許されない。

だから私は諦めた。ただ生きると。楽しむ事は必要ない。目指す事も必要ない。ただ、残された命が続くまで生きていようと。

 

デュエルが強ければ生き方には困らない。幼い事だけが不安だったけど、それでも生き方が見つかった。

デュエルによる要人警護。その響きに笑いが出た。ああ、やっぱりこの世界は作り物じみている。

仮にこの世界で頂点に立ったとしても、それは箱庭の女王でしかない。それに気付いた時、これが罰なのかもと思った。一人だけ生きようと考えた私への罰。この作り物の箱庭で孤独に生きる事が罰なのだと。

 

 

 

 

 

けれど。

私はあの人に出会えた。

次期市長と目される男の息子。溺愛され、甘やかされて育った偉そうで、傲慢で、自分勝手な嫌な男。

それを嫌い、妬み、羨んだ者たちと私はデュエルをした。その男が気障に笑い、ますます調子づく影で私は人形と評されながらその男を守り続けた。

自分が馬鹿にされている事にも気付かず、馬鹿な事を続けるその男を、私は影でずっと見ていた。見たくもないその間抜けな姿を、愚かな行動を、延々と見せつけられた。

こんな作り物の世界で無駄な努力を続けるあの男を見ていると、私の心が何かを訴えた。

 

 

 

いつからだろう。その人から目が離せなくなったのは。自然とその人を目で追うようになっていたのは。

あの人の言葉を聞く為にあの人の影に立ち、あの人の姿を映す為にあの人を追いかけるようになった。

自信過剰なあの人の態度が、我が儘なあの人の言葉が、偉ぶる裏で必死に学ぶあの人の姿が、私の心に焼き付いて離れない。

もしもこの世界が作り物なら、あの人も? ……そうさせたくないと思った。

あの人の言葉を、あの人の笑顔を、あの人の努力を、作り物にしたくないと。

 

 

 

そして、暫くして私の仕事は終わった。もう十分だと、仕事は終わりだと、あの人のお父様に告げられた。息子を守ってくれてありがとう、君も普通の学生に戻りなさい、と感謝の言葉と優しい言葉を掛けられた。

……私は求めてしまった。頷いてしまった。

普通の学生という立場を、かつて手に入れられなかったその立場を。あの人を見ていられる、その立場が欲しいと。

お父様は私の願いを叶えてくれた。次期市長のこの私に任せなさいと、笑いながら。

 

 

 

 

 

「…………此処、は」

「目が覚めたか、久守」

 

目覚めたのはやはり病室だった。記憶に残るあの場所と変わらない、白い部屋。

でも違う。此処は、此処にはあの人が居る。

 

「さわ、たり、さん……?」

「おう。随分無茶したみたいじゃないか」

 

私の眠るベッドの脇に、沢渡さんが居た。

 

「すいません……勝手な真似を」

「まだ寝てろ」

 

体を起こそうとする私を、沢渡さんが止めた。

 

「……はい。……沢渡さん」

「なんだ?」

「どうして、此処に……? やっぱりどこか怪我を……」

「アホか! お前を心配してやってるに決まってんだろ!」

「……ありがとう、ございます」

 

その言葉が嬉しくて、緩む表情を隠そうと布団を口元まで被る。

 

「……あの、沢渡さん」

「ああ」

「あの後……あの男とのデュエルで一体、私は何をしたんですか? 少し、記憶が混乱してるみたいで……って、沢渡さんが知るはずない、ですよね」

「別に思い出さなくていい。大した事じゃないさ」

「そう、でしょうか……」

「ああ。……榊遊矢も、理事長が動いたんだ。すぐに終わる。この俺の手で終わらせられないのが残念だがな」

「……? どうして榊さんが……?」

「はあ? お前も見ただろ、榊遊矢がこの俺を襲うのを」

「……」

 

……それは覚えてる。覚えてますが……

 

「あれは多分、榊さんじゃないですよ」

「は?」

「だって榊さんが私より早くあの倉庫に辿りつけるはずないですし……見た目はそっくりでしたが、雰囲気が別人でしたから」

「……」

「沢渡さん?」

「……ごほんっ、まあお前が無事で良かったな。パパも山部たちも心配してたんだぞ」

 

沢渡さん、誤魔化し方が下手過ぎっすよ……!

 

「……そういえば、光津さんたちが来ていました、よね。みんなはもう帰ってしまったんでしょうか」

「ごほんごほんっ! そうみたいだな、全く薄情な奴らだ!」

 

……その反応で、察しがついてしまった。

あの男が榊遊矢という事にすれば、LDSの、いやレオ・コーポレーションが以前沢渡さんを利用してペンデュラムカードを手に入れようとしたように、榊さんからペンデュラムカードを奪う口実になる。沢渡さんの言った、理事長が動いたというのはそういう事、なのだろう。

……私のせいだ。私が意識を失っていたから、そのせいでまた、私は沢渡さんを……道化にしてしまった。

 

「沢渡さん……ごめんなさい」

「何で謝る?」

「ごめんなさい……弱くてごめんなさい、勝手な事してごめんなさい。余計な事ばかりして、ごめんなさい……」

 

それに気づくともう止められなかった。また私は、謝る事しか出来ない。

 

「久守」

「ごめん、なさい……」

「――気にすんな。お前らの面倒ぐらい、俺がみてやる。お前らが失敗すんのは当たり前だ。この世で唯一完璧なデュエリストである俺を除けば、失敗は誰にでもある」

「……」

「俺は誰だ? お前が尊敬する、この世でただ一人のデュエリストである俺の名は――ネオッ」

「……沢渡さん、です」

「イエス! だったらお前は、そんな事気にしてないで怪我を治す事だけ考えろ。仮にあれが榊遊矢じゃなかったとして、もしこれで終わっちまうような奴なら最初からペンデュラムカードに選ばれてなかっただけの事だ」

「ですが……」

「それに、今更言ったところで何も変わらねえよ。あの時中島さんが俺に頼んだ時点で、LDSは榊遊矢のペンデュラムカードを手に入れる事を考えてた。俺もお前もダシに使われただけだ」

「……」

 

それは……事実だろう。LDS、レオ・コーポレーションはペンデュラムカードを欲している。もう、私が何を言っても無駄……私には何も出来ない、何も……出来なかった。

 

「あれが榊遊矢じゃなくとも、LDSが何を考えていたとしても、どっちにも借りは必ず返す。榊遊矢がカードを奪われるような事になったら、今度は俺がLDSからカードを奪い取った後で、俺自身の手で榊遊矢から奪い取るだけだ」

「沢渡さん……」

「お前も、柊柚子に借りを返さなくちゃならないだろ」

「柊さん……そうだ、私、柊さんに酷い事を……」

 

朧げだけど覚えている。あの時、私は私を止めようとした柊さんに……。

 

「……ほらよ」

「え……」

 

沢渡さんが差し出して来たのはデッキだった。

 

「これは……」

「あの時、柊柚子から預かったもんだ。これだけは渡してくれってな」

 

罰が悪そうに頭をかきながら、沢渡さんは言う。酷い事を言ったはずだ。なのに、柊さんは私のカードを……。

 

「ありがとう、ございます……」

「それは本人に言ってやれ」

「はい……!」

 

私は震える手でデッキを沢渡さんから受け取った――受け取ろうとした。

 

「あっ……」

 

けれど、デッキは私の手から零れ落ち、床に散らばる。

 

「おいおい大丈夫か?」

「……は、い」

 

私は自分の手を見つめる。震えは止まらなかった。

 

「まだ本調子じゃないんだな。デッキとデュエルディスクは此処に置いとくぞ」

「はい……すいません」

 

拾い集めたデッキをディスクと一緒に沢渡さんがベッドの傍の棚に置いてくれる。

…………。

 

「とにかく今はゆっくり休め。いいな?」

「はい……ありがとうございます、沢渡さん」

「ああ。なら俺も自分の病室に戻る。何かあったらすぐ呼べよ」

「え、沢渡さんもやっぱりどこか怪我をっ」

「違う。パパがどうしてもって言うから今日だけ検査入院してるだけだ。心配ないさ」

「そう、ですか……」

「じゃあな。無理はするなよ」

「はい……」

 

退室する沢渡さんを見送り、私はベッドの上からデッキを見る。

手を伸ばせば届く距離。けれど、手を伸ばす事がどうしても出来なかった。

 

「どうして……怖いの……?」

 

怖い。

カードが、怖い。

 

「……」

 

扉の外にまだ沢渡さんが居た事にも気づかず、私は呆然と呟いた。何も言わずに去ったあの人が何を考えていたのか、今の私には知る事も出来なかった。

 

「……そう、だ。お父様……沢渡さんのお父様と、柊さんに、謝らなくちゃ……」

 

誤魔化すようにそう言って、私はデッキには触れず、デュエルディスクへと手を伸ばす。

ふら付く足取りだが、怪我は大したことない。問題なく自分の足で立つことが出来た。

そのまま病室を抜け、屋上へと上がる。

 

「柊さん……」

 

最初に掛けたのは柊さんへだった。けれど、応答はない。やはりもう、沢渡さんが言ったように理事長が動いているのか。

 

「……」

 

次に掛けたのは、沢渡さんのお父様にだった。かつて、お父様の下で仕事をしていた時に教えてもらったコード。それは未だに繋がった。あの時以来、もう使う事はないと思っていたけれど。

 

『はい、市議会議員の沢渡ですが』

「あ……」

 

数回のコールの後、通話は繋がった。

 

「あ、あの……私、です」

『どちら様ですかな?』

「久守、久守詠歌、です……」

『……』

 

私が名乗るとお父様は押し黙った。

 

『……一体何の用だね?』

「私、謝らないと……私が居ながら、沢渡さんを、危険な目に……」

『……何を言ってるんだね、君は?』

「え……」

 

緊張からか、途切れ途切れに伝えた言葉は、あっさりと切り捨てられた。

 

「私は、あなたから沢渡さんを守るお仕事を貰ったのに、それを……」

『はて、記憶にありませんな。私がそれを頼んだのは、随分と昔の話。私の知っている今の久守という少女はシンゴと同じ学校で、同じLDSの生徒で、友人ですが』

「……ですが、私は……!」

 

理解した。理解してしまった。

お父様は私を責める気などないという事を。

 

「私はあなたに無理を言って、学校にまで入らせてもらって……! あの人の傍に居たのに、私は……!」

 

けど駄目だ。私は沢渡さんを守れなかった。友人に酷い事を言ってまで、それなのに私は守る事も、あの男を倒すことも出来なかった……!

 

『今の君はシンゴと同じただの学生だろう。シンゴから聞いているよ、気立ての良い、良い子だと。そんな君にシンゴを襲うような暴漢相手に何が出来ると言うんだね?』

「けど……!」

『……いいかね、久守くん。私は次期市長になる男だ』

 

諭すように、お父様は語り始めた。……記憶の片隅に辛うじて残っている私の父のような、優しい声色だった。

 

『君が私に仕事をくれ、と押しかけて来た時、私は決めたんだよ。シンゴと同じくらいの歳の子が、一人孤独に生きていかなくてはならない、そんな街に舞網市をしてはならないと』

 

……忘れもしない。街頭演説をしていたお父様を追いかけ、そう頼んだ日の事は。

 

『本当は仕事なんて建前で、君にも普通の生活をしてもらいたかった。けど君は頑なで、本当にシンゴの為に働いてくれた……。だから私は嬉しかったんだ。ある時、君が羨ましそうに他の学生たちを見ている事に気付いた時。仕事を辞めて、普通の学生に戻ってくれと言って、君が頷いてくれた時』

「それは……」

 

それは、私が弱かったから。私が過去を捨てて、今を選んでしまったから。

 

『久守くん。君はこの街が好きかね?』

「……はい」

『私もだ。幼い頃から育った、アクションデュエルが生まれる前から住んでいたこの街が、シンゴが育ったこの街が。君もこの街の市民で、学生だ。そんな君が謝る必要なんてないんだよ』

「……」

『だから久守くん、謝らないでいい。自分を責めなくても良い。後の事は我々に任せて、君はゆっくりと休むんだ』

 

沢渡さんと、息子と同じ優しい言葉。……駄目ですね、私は。

 

「っ、はい……ありがとう、ございます……!」

 

誰かの優しさにまた、甘えてしまう。何も変わっていない。私は弱くて、子供で、自分勝手だ。

 

『息子の事をこれからも頼んだよ。友人としてね、私に似た子だ。無理や無茶もするし、嘘も吐く。けれど本当に大切な事だけは教えてきたつもりだ。私の生き方で教えたつもりだ』

「はいっ、はい……!」

 

また涙が溢れる。もう止める事も出来ない。耐えることも出来ない。

 

『今は外かね? 早く病室に戻りなさい。シンゴや友人たちに心配を掛けてはいけないよ』

「……はい」

『次に会う時は私が市長になってからになるだろう。今の私は忙しい時期なものでね』

「はい……応援、しています……」

『ありがとう――はっはっは! 次期市長最有力候補のこの私に任せておきなさい!』

 

沢渡さんと重なる笑い声を上げて、お父様は通話を切った。

 

……おじいさん、おねえちゃん、おにいさん、――ちゃん、ごめんなさい。

私はやっぱり、此処で生きていたいよ。大好きな人の傍に、いたいです。

 

カードが怖くなっても、女王になれなくても、私は此処に居たい……!

デュエリストでなくともあの人のそばにいれるなら、私は……!

 

「ああ、そうだ……思い出した」

 

あのデュエルの結末を。

 

――『俺はこのカードを発動していた』

 

満たされぬ魂を運ぶ方舟は、その役目を終えた。

私を此処に運んだ時、あの人に出会えた時、私はもう、運ばれる資格を失ったんだ。

だから勝てなかった。私が取るべきだったカードは、方舟じゃない。

テレビで憧れたカードではなく、みんながくれたカードたち。この世界に来た時に私に与えられた、私のカードたち。

 

……ごめんなさい。私は間違えた。その挙句にカードから逃げ出したくてたまらなくなっている。今でもカードを手に取る事を考えただけで手が震える。

……もう二度と、カードを手に取る事は出来ないかもしれない。ごめんなさい。

 

「……それでも私は、此処にいたいよ」

 

我が儘でごめんなさい。子供でごめんなさい。

それでも私はあの人を好きでいる事を……やめられない。

私にとってもうこの世界は、真実(げんじつ)だから。




今回でオリ主に関する謎は大体です。
オリ設定が多く、雰囲気の違う話になってしまいましたが、今後はこういった話は滅多になくなると思います。
次回は前回に続きタグ回収のおはなしです。


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ネオ沢渡さん、強脱っすよ!

今回もデュエルなし。


――二日前。

 

「実は昨夜、沢渡先生のご子息が暴漢に襲われました」

 

LDS。その最上階の執務室。そこに赤馬零児と赤馬日美歌、親子の姿があった。

 

「襲ったのはエクシーズ召喚を使うデュエリスト。彼自身は大した怪我はありませんでしたが、彼を庇い、その友人であり同じ総合コースの久守詠歌という少女が負傷し、昨夜から入院しています」

「久守……? 確かその子は――」

「ええ。以前沢渡先生が言っていた、ご子息の護衛役の少女です」

 

モニターに久守詠歌のデータが表示される。

 

「彼女もLDSに?」

「はい。既に護衛の仕事は終了し、ただの学生として二か月ほど前に入学していたようです」

 

彼ら親子もLDSの塾生全員を把握しているわけではない。久守詠歌がLDSに入学していた事を知ったのは、零児も先日の件――沢渡シンゴによるペンデュラム強奪事件の時だ。

 

「両親は既に他界し、他に兄妹も居らず天涯孤独の身の上で市内のマンションに一人で暮らしています」

「……」

 

その事実を聞いて、赤馬日美歌は僅かだが悲痛そうに顔を歪めた。

 

「そして昨夜、極めて強力なエクシーズ召喚反応が同じ場所で三度観測されました」

「三度?」

「一度目は沢渡シンゴとその襲撃犯とのデュエル。二度目は久守詠歌とのデュエル、そして三度目も――ですが三度目の召喚反応は襲撃犯のものではなく、推測ですが彼女によるものです」

「っ、それは何故?」

「三度目の反応は他の二つと違い、すぐに消失したのです。恐らくは彼女の敗北によって」

「……」

「彼女が行った公式戦は一度のみ、同じLDSの生徒とのデュエルです。そのデュエルで彼女は融合とシンクロ、二つの召喚方法を操っている。公式の記録には残っていませんがエクシーズ召喚を使用していた、という証言もあります」

「零児さんと同じく、三つの召喚方法を操るデュエリスト……そして強力な召喚反応……」

 

日美歌の言葉に頷き、零児は言う。

 

「ペンデュラムの始祖、榊遊矢と同じく、彼女も奴と――赤馬零王との戦いの為の槍となってくれるかもしれません」

「……!」

「ですが」

 

そこで一度言葉を切り、眼鏡に手を当てる。レンズの奥の瞳が鋭さを増した。

 

「彼女は沢渡シンゴに執着している。恐らくかつて以上に――それは彼女を御する鍵であると同時に、諸刃の剣と成り得る要因です」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

ゆっくりと意識が目覚めていく。

目覚めと共に、嗅ぎなれた、消毒液の嫌な臭いが私を包む。

震える。体が、心が、恐怖に蝕まれていく。

 

「っ……違う……此処は、違う……」

 

自分に言い聞かせながら、恐る恐る目を開く。視界に広がる、白い天井とカーテン。

体を起こし、窓を見る。眠る前と変わらない舞網の街が、広がっていた。

 

「……ふぅ」

 

そこでようやく、緊張が解ける。大丈夫、此処は、舞網市、舞網の病院。私の居場所、私の世界。

 

「随分、不規則な生活になってしまってますね……」

 

独り言も増えてしまっている。

体を起こして時計を見れば、既に10時近い時間だった。一度目覚めた時、混乱して醜態を晒したからか、看護師さんたちも気を遣って私を無理に起こそうとはしない。食事も遅くなっても三食しっかり食べるようにとだけ言い含められた。

そのせいでまた寝過してしまった。夜になる度、目を閉じるのが怖くて、眠ってしまうのが怖くて。目覚めた時、あの場所に戻っているのではないかという恐怖のせいで中々寝付けないせいもあるのだろう。退院は明日だというのに、これでは普段の生活に戻るのに苦労してしまいそうだ。

 

「……あれから、どうなったのでしょうか」

 

榊さんと良く似た、エクシーズ召喚を使うデュエリストとのデュエルの後入院して、今日で三日目。

沢渡さんも言葉通り、一昨日退院して行った。それでも学校が終われば毎日、山部たちと一緒にお見舞いに来てくれる。

柊さんや光津さんたちは……あれから一度も来ていない。理事長が動いた事と何か関係があるのか、沢渡さんははっきりとは教えてくれなかったけれど、それが答えのようなものだ。

きっと光津さんたちは……ペンデュラム召喚をLDSの物にする為に、動いた。それが一体どんな結果になったのかは分からない。

お見舞いに来てくれる沢渡さんたちは何も話してはくれない。……いいや、デュエルに関する話題を出そうともしない。

……気付かれて、いるのだろうか。

 

「……」

 

ベッドの横の棚を見る。其処には変わらず、私のデッキが置かれていた。

恐る恐る手を伸ばし、けれど触れる前に私の手はベッドへと落ちる。震えている。怖がっている。

原因は……私にある。負けた事が原因じゃない。きっと……私は怖いんだ。

今のこの場所が、あの場所の、あの人たちを思い出させるから。

一緒にカードを眺めたあの子を。私にルールを教えてくれたあのお兄さんを、私とデュエルしてくれたあのお姉さんを、一緒にテレビを見たおじいさんを。

そして最後には一人ぼっちになった、私を……この場所が、カードが、思い出させるから。

沢渡さんたちを見て、此処が何処なのか何度も再確認しても、怖い。全てが夢で、今も私は一人ベッドの上でカードを眺めているんじゃないかと。

この世界で私は生きる。そう決めた。けどあの人たちを忘れられるわけがない。もう二度と、忘れちゃいけない。

でも……怖いんだ。この世界が真実でも、あの世界が嘘になったわけじゃない。嘘にしちゃ、いけない。

それが私を怯えさせる。……二度とカードを取る事は出来ないかもしれない。それでも私は沢渡さんの傍に居たい。

でも……それで本当にいいんだろうか。デュエリストでなくなった私に、あの人の隣に立つ資格があるのだろうか。……ううん、違う。資格があるとかないとかじゃない。カードを怖がったままで、本当に沢渡さんの傍に居れるのだろうか。

デュエリスト、沢渡シンゴの傍に立てるのだろうか。

 

「……そんなわけ、ないですよね」

 

あの人はデュエリスト。あの人のデュエルを心躍らして見る事も出来ないなら、私はきっといつか沢渡さんからも逃げ出すことになる。嫌だ。それは絶対に、嫌だ。

 

「……」

 

なのに、手の震えは止まらない。手を伸ばす意思が生まれない。

 

「――あ、起きてたの? おはよう」

「……おはようございます。はい、今起きた所です」

 

丁度通りかかって部屋を覗いた看護師さんが私に気付き、挨拶を返す。

 

「そう。それじゃあご飯持って来るわね? 食べたくないかもしれないけど、少しでも食べないと元気になれないわよ? 体も、心もね」

「はい。大丈夫です、食べられます」

「なら良かったわ。そうだっ、今日は何とプリンが付いてるのよ」

「そうですか……好きです、プリン」

 

笑顔で頷き、看護師さんは食事を運んで来る為に去って行った。

……あのお店にも行けていない。あの店員さんが作ったプティングの名前も、今の私には思いつきそうにない。

 

 

 

運ばれてきた食事を終える。この世界でも、病院の食事は変わらない。嫌という程食べた、あの味のままだ。食欲は戻っても、中々喉を通ってくれなかった。

 

「……」

 

食事を終えたら、カードと窓の外を交互に見つめる時間。

怯えと安堵、正反対の感情が交互に私を支配する。どちらを見ていても、最後には決まって溜め息が出た。

少し遅い昼食を食べて、検査をして、また同じ事を繰り返す。あれからずっとその繰り返しだ。

ああ――

 

「……沢渡さんに会いたい」

 

カードを見ていても、勇気が出ない。窓の外を見ていても、心の底から安心出来ない。

やっぱりあの人に、沢渡さんに会いたい。あの人の笑顔が見たい。あの人の声が聞きたい。

 

「……やっぱりいけませんね、これじゃあ気が滅入るばかりです」

 

そう呟いて、また独り言だな、と内心で思った。

点滴はとっくに外れた。歩くのに不便はない。ずっとベッドの上に居たせいでふら付く足で立って、病室の外に出た。

何処までも続くように感じる白い廊下を見て、また少し気持ちが沈む。大丈夫、此処はあの場所じゃない。自分に言い聞かせて、舞網市を見渡せる屋上に向かう。

 

ロビーで談笑する患者さんや、廊下ですれ違う患者さんたちを極力見ないようにして、私は屋上に上がった。

 

「……」

 

舞網市。私の住む街、私の居場所。

 

「……学校に行きたい。LDSに行きたい。みんなに、会いたい」

 

昔なら、行きたい場所なんてなかった。会いたい人なんて、皆いなくなってしまった。けど今は違う。

私はこんなにも我が儘になった。けどそんな風になった自分が、嬉しくも思えた。

 

「……」

 

少し間を置いて、一人屋上で黄昏てそんな事を呟いている自分が無性に恥ずかしくなる。……駄目だ、ベッドに戻って転がり回りたいです。いや、転がり回る(断言)。

踵を返し、屋上の扉の方を向く。さあ行こう。今すぐ行こう。そして忘れてしまおう。

 

「……」

「……」

 

屋上の扉から、顔だけを出して私を見つめる、アユちゃんの姿があった。

 

「……」

「……」

「……なぁにこれ」

「え!?」

 

私の口から絞り出たのは、そんな言葉だった。

耐え切れなくなって膝から崩れ落ちる。もういっそ殺して……! いやそれは嫌だけど……嫌だけど……!

 

「だ、大丈夫っ、詠歌お姉ちゃん!?」

「もう駄目です、本当……」

 

駆け寄って来たアユちゃんに、私は沈んだ声で言う。

 

「ええ!? わ、私、お医者さん呼んで来る!」

「待って! お願い、本当に待ってください!」

 

慌てて走りだそうとするアユちゃんを縋り付くように止める。もうやめて、これ以上私を辱めないで……!

 

「大丈夫、全然大丈夫! ほら元気元気!」

 

自分でも何を言ってるのか分からないまま、とにかくアユちゃんを止める事だけを考えて必死にアピールする。

 

「本当……?」

「はい、本当です。マジです。やばいです」

「ほ、本当かなあ……?」

 

どうにかアユちゃんを止める事に成功し、私は立ち上がる。

 

「お久しぶりです、アユちゃん」

「うん、久しぶり、詠歌お姉ちゃん!」

「……」

 

そこで言葉に詰まる。一体何を話せばいいのか。……一つしか、ありませんか。

 

「……え、と……メールで送った通り、です。柊さんからも聞いたかもしれませんが、私は……」

「ストーップ! 謝るのは禁止!」

「え……」

 

私はあの時、アユちゃんとの約束も忘れ、あの男を倒す事だけでいっぱいだった。それについて一昨日メールで事実と、謝罪の言葉を送りました。けれど返事も、電話もかかっては来なかった。今度こそ嫌われてしまったかと思った。けれどこうしてアユちゃんは私に会いに来てくれた。なら、やはりもう一度謝らなくては、そう考えて開いた私の口は、アユちゃんの指で塞がれてしまう。

 

「お姉ちゃんが沢渡の事になると暴走しちゃうってのは良く分かってたもん。何度も謝らないで」

「……はい」

「それにお姉ちゃんも大変だったって事は、柚子お姉ちゃんと……LDSの人たちから聞いたから」

「LDS……もしかして、光津さんたちが……?」

「そう。お姉ちゃんが入院してから色々あったんだ。でも大丈夫っ、もう全部解決したから! って、お姉ちゃんもLDSなんだよね」

「……いえ。良かったです」

 

アユちゃんの反応を見れば分かる。何があったのかは想像しか出来ないが、悪い結果にはならなかったようだ。

 

「また、迷惑を掛けてしまいました」

「病人がそんなの気にしないのっ」

「……はい」

 

……なんだかさっきよりも情けない気分になります。小学生の子にこんな――

 

――『ねえお姉ちゃん、この子たち、お姉ちゃんにあげる』

――『病人が遠慮なんてしないのっ。って、あたしもそうなんだけどね』

――『大事にしてあげてね。あたしとお姉ちゃんの思い出の証なんだからっ』

――『あたしとお姉ちゃん、お姉ちゃんと次の誰か、そうやってこの子たちを色々な人の思い出にして欲しいな』

 

「あ……」

 

見た目は全然違う。性格も、あの子の方がずっと子供だった。けれど、アユちゃんが、あの子と重なった。

 

「……分かってますよ」

 

あなたとの思い出は、終わりにはしない。まだ続いていく。終わりにするわけにはいかない。今は勇気が出ないけど、必ず。

 

「詠歌お姉ちゃん……?」

「何でもないですよ。大丈夫です」

 

アユちゃんの頭を撫でる。昔してあげたように。

 

「中に戻りましょうか。春とはいえ屋上にずっと居るのは寒いですから」

「うんっ」

 

アユちゃんと一緒に屋上の扉を潜り、病室へと戻る。すれ違う患者さんたちと挨拶を交わしながら、ゆっくりと。

 

 

 

「はい、お姉ちゃん、これ!」

「これは?」

「もう、決まってるでしょ、お見舞いの品だよっ」

「……気を遣わせてしまってすいません」

 

病室に戻り、私をベッドへ寝かせると、アユちゃんは一本の造花を私に差し出した。これは……花菖蒲、でしたか。あまり自信はありませんが。

 

「えへへ、ちなみに花言葉は『あなたを信じます』って言うんだってっ」

「……はい。もう、裏切りません」

「とか言ってー、また沢渡の事になったら私との約束なんて忘れちゃうでしょー?」

「……」

「そこはすぐに否定して欲しかったなー……」

「いや本当にすいません……」

 

もうアユちゃんには頭が上がりません、本当に。

 

「まったく、詠歌お姉ちゃんは」

 

椅子に座り、花が開くようにアユちゃんは笑う。この笑顔を曇らせる事はしたくない。そう思ったのは嘘じゃない。

 

「本当はね、止められてたんだ。詠歌お姉ちゃんのお見舞いに来るの」

「……柊さんに、ですか」

「ううん。遊矢お兄ちゃん」

「……」

 

当然、か。榊さんの判断は正しい。私のような奴に、お見舞いなんて……。

 

「遊矢お兄ちゃんも誰かさんに止められたんだって」

「榊さんも……?」

 

それはやはり、柊さんでしょうか。いや、それなら榊さんにではなく、アユちゃんに直接言うはず……一体誰に……?

……誰に止められても、おかしくはないか。それぐらいで丁度いい。それぐらいの罰がなければ、駄目だ。

けれどどうして、アユちゃんは笑顔のままなんでしょう。それにこうしてアユちゃんは私のお見舞いに来ている。

 

「でも来ちゃった。他の人には内緒だよ?」

「ええ、勿論」

 

誰が止めたのかは分からないけれど、それでも来てくれた。それだけで十分です。

アユちゃんは楽しそうに話始めた。

 

「それで凄かったんだよ、その北斗って人。「久守を倒した君を倒し、通算40勝を達成してやる!」って! 塾長みたいに凄い迫力だったの!」

「ふふ……そうですか、志島さんが」

「ふふーん、お姉ちゃん、モテモテだね?」

「え? 何でそうなるんですか?」

「……うん、何でだろうね」

 

何故か呆れたような目で見られたり。……いや志島さんは間違いなく私をそういう目では見ていませんよ? むしろ怯えられてましたし、苦手意識を持たれています。

 

「次の真澄って人はもっと凄くて、柚子お姉ちゃんは……負けちゃった。「あなたみたいな人に負けるなんて、やっぱりあのドヘタのせいでくすんでるわね、あの子」って」

「光津さんは少し、言葉が乱暴な所がありますから。でも優しい人です」

「うん。それも分かるよ。勘違いだけど、詠歌お姉ちゃんの仇を取るんだって、凄く怖かったもん」

「私がもっと早く起きていれば……すいません」

「だーかーら!」

「はい、すいませんじゃなくて……はい」

「もうっ」

 

そんな風に怒られたり。……情けないです。

 

「刃って人は……一人でやってたよ~」

「……それは?」

「フトシくんの真似! どう、似てた?」

「……私には少し、レベルが高すぎて……」

「ええっ! 自信あったのになぁ……でも本当に凄かったよ。権現坂が引き分けに持ち込んだんだけど、後少し遅かったらアクションカードを取られて、負けちゃってたかもしれなない。「久守の野郎に偉そうに説教タレといて、負けられねえんだよ!」って……」

「……野郎ではないんですが」

「あ、そこなんだ」

 

……これは照れ隠しも入ってますよ? 本当に、刀堂さんには苦労を掛けてばかりです。私の事なんて気にしなくてもいいのに……嬉しいですが。

 

「そして最後は……遊矢お兄ちゃんと赤馬って人で延長戦」

「……赤馬?」

「うん。赤馬零児って人。最年少のプロで……ペンデュラム召喚を使ってた」

「っ……」

 

まさか……もう既にペンデュラムカードを? ならどうしてまだ榊さんのカードを……。

 

「結局、何かあったみたいでデュエルは中断しちゃったけど……それに何だかカードもおかしくなってたの」

 

カードがおかしく……? 馬鹿げた話ですが、ペンデュラムカードは未完成、という事でしょうか。この世界ならそういった現象が起きても不思議ではない、と思いますが……。

 

「でも遊勝塾も守られたし、遊矢お兄ちゃんも一皮剥けたみたい! って塾長が言ってたっ」

「……そうですか。本当に、良かったです」

 

まだLDSやレオ・コーポレーションの事情について完全には分かりませんが、とにかく最悪の事態は避けられた。私が迷惑をかけた事に変わりはないけれど……それでも、本当に良かった。

 

「ありがとうございます、アユちゃん。時間を忘れてしまうようなお話でした」

「うんっ。やっぱりLDSの人は凄いね。勿論、私たち遊勝塾も負けてないけどね!」

「ええ。……私も、負けてられません」

「うん! お姉ちゃんも早く元気になって、私ともデュエルしてね!」

「……はい。必ず」

「ふふっ。って、もうこんな時間! 塾に行かなくちゃ! それじゃあ私、帰るねっ」

「あ、玄関まで――」

「病人は大人しくするー! 大丈夫だから!」

 

慌ただしく立ち上がり、病室の外へと向かうアユちゃんを追いかけようとすると、扉の前でそう戒められる。

 

「またね、詠歌お姉ちゃん! お大事に!」

「……行ってしまいました」

 

最後までアユちゃんに押されたまま、アユちゃんは帰って行った。

 

「……本当に、負けていられない」

 

布団の下に隠していた手を出すと、光津さんたちのデュエルの話を聞いていただけなのに、震えが酷くなっていた。

手を握りしめ、どうにかそれを抑える。この震えが止まらない限り、恐怖に勝たない限り私は……止めてみせる。勝ってみせる。

思い出を繋ぐ為にも、沢渡さんの隣に立つ為にも……!

 

一度深く息を吐き、もう一度棚に置かれたデッキを見る。

 

「……」

 

怖い。震える。ここで手を止めるな。伸ばすんだ。自分にそう言い聞かせ、手を伸ばす。

後少し、もう少し。震える手をデッキへと伸ばす。

 

「もう、少し……っ」

 

震える手がデッキへと触れる刹那、閉じられたはずの病室の扉が、音を立てて開いた。

 

「――久守」

「っ、は、はい!」

 

ビクリと大きく体が震え、手は、デッキから遠ざかった。

 

「沢渡さん、おはようございます!」

「おう」

 

棚の方に一瞬目をやった後、姿を現した沢渡さんは病室へと足を踏み入れた。

 

「体調はどうだ」

「はい、もう大丈夫ですっ。元々頭を打ったぐらいで、怪我もほとんどしていませんし。脳にも異常はないって先生は仰ってました。検査でも問題ないし、明日にでも退院出来るだろう、って」

「そいつは良かったな」

「はいっ。これで沢渡さんに手間を掛けなくて済みますっ。本当に毎日来てもらって、すいません」

「バーカ、そんな事で謝るな」

「そう、ですね……沢渡さん、毎日ありがとうございますっ!」

「おう。ほらよ、見舞い品」

「ありがとうございます!」

 

持っていた袋を掲げながら、沢渡さんは椅子に座った。

 

「……誰か来てたのか?」

「え?」

「椅子の位置、いつもなら部屋の隅に置いてあるだろ?」

「あ……ええ、看護師さんが話し相手になってくれてたんです。造花まで貰っちゃいました」

 

沢渡さんに嘘を吐くのは心苦しいですが、アユちゃんとの約束をさっきの今で破るわけにも……! すいません、沢渡さん!

心の中で何度も謝りながら、誤魔化す。

 

「ふーん。まあいいや。食うだろ、メロン」

「はい、いただきますっ」

 

袋から出て来たのは、高級そうなカットメロンだった。……また怒られてしまうだろうから言葉にはしませんが、本当に毎日申し訳なくなります。

 

「ほら」

「ありがとうございますっ」

 

私に手渡し、沢渡さんも自分の分を手に取る。それを見届けて、私もメロンを口に運ぶ。

 

「ん~美味しい!」

「はい、美味しいです!」

 

満面の笑みでメロンを食べる沢渡さんを見ているだけで、もう何倍も美味しく感じますよ!

 

「そういえば今日は山部たちは一緒じゃないんですか?」

 

だとしたら沢渡さんを一人で来させるなんて、許せないっすよ……! いや嬉しいけど……!

 

「ああ。準備があるからな」

「? 準備……ですか?」

 

一体何のでしょうか。

 

「すぐに分かる。それより、本当に体は大丈夫なんだな? 嘘吐いてないだろうな」

「はい! 本当にもう、体は心配ないです!」

 

沢渡さん、心配性っすよ! 素良さん程の身体能力はありませんが、私だってLDSで体は鍛えられてますから! でも本当に心配してくれてありがたいっす!

 

「そうか。――なら、行くぞ」

「え?」

 

最後の一切れを食べ終えた沢渡さんが立ち上がり、私に言う。

行くって……何処にでしょうか?

 

「どうした。さっさとしろ」

「え、あの……」

 

立ち上がった沢渡さんに急かされるが、一体何をどうしたら良いのか分からずに困惑する。

 

「体は大丈夫なんだろ。それともまた背負ってほしいのか?」

 

そのまたって所を詳しく! あ、いやそうではなくて……何が何だか分からないまま、私もベッドから降りる。

 

「ほら」

「わっ」

 

立ち上がった私に、沢渡さんが自分の制服を脱いで投げ渡してくる。……か、嗅いだりすればいいんでしょうか……!(混乱中)

ってそんなわけない。と、とりあえず患者衣の上から羽織らせてもらいましょう。

――動揺している私は、沢渡さんがベッドの横の棚に手を伸ばしていたことに気付かなかった。

 

「行くぞ」

「は、はい」

 

沢渡さんに先導され、私は廊下へと出る。本当に一体何処へ……というか体調はほぼ万全とはいえ、一応まだ入院患者なので外に出るのはマズイような……。

 

「え? ちょ、ちょっとあなたたち!」

 

案の定、病院の玄関近くで受付の看護師さんが外に出ようとする私に気付き、慌てて声を掛けて来た。

 

「駄目よっ、久守さんはまだ入院してるんだからっ。明日の検査で問題がなければ退院出来るんだから、ねっ?」

「さ、沢渡さん……」

 

当然の言い分に、私は困ったように目の前の沢渡さんを呼ぶ。

 

「ごめんね、看護婦さん。少しだけこいつ借りてくよ」

 

それだけ言って、沢渡さんは私の手を取り、走りだした。

 

「ええっ!? ちょ、君たち!?」

 

さらに慌てる看護師さんを尻目に、私は沢渡さんに引かれるまま、舞網の街へと飛び出す。

 

……不謹慎かもしれませんが、私の胸は高鳴ってしまう。

病室から、一人ぼっちのあの部屋から、連れ出してくれたのが沢渡さんである事に。

 

 

 

沢渡さんに手を引かれ、辿り着いたのは……LDSだった。

見上げるこの場所は以前と何も変わっていない。

 

「こっちだ」

 

沢渡さんは私の手を離し、通路の中央を進んでいく。この先にあるのは……センターコート?

本当に一体何を……

 

「ってこの馬鹿!」

「あっイタぁ!?」

 

相変わらず事情が呑み込めない私が後を追う途中、通路の先から光津さんが血相を変えて走りより、沢渡さんを引っ叩いた。……光津さん、私の目の前で良い覚悟です。沢渡さんにそんな事をして、この私が駆けつけないと思ったのでしょうか。

 

「まさかとは思ったけど、あんたって本当に信じられないわね!」

「ああ!? いきなり何しやがる!」

「患者衣に制服だけ羽織らせて、街の中を此処まで歩かせて来たの!?」

「はあ? それがどうした!」

「こ、の……! 久守!」

「は、はいっ?」

 

……彼女の蛮行を咎めようとしていた私は、光津さんの怒りの形相に気圧され、ビクリと肩を震わせる事しか出来なかった。非力な私を許してください……。

 

「こっちに来なさい!」

 

……光津さんに手を引かれ、連れられてきたのは更衣室だった。

 

「ほら」

「これは……?」

「あなた、やっぱりくすんでるわ! 沢渡の馬鹿がそこまで感染(うつ)ったの!? さっさと着替えなさいっ」

「は、はあ……」

 

光津さんがロッカーから取り出し、私に渡してきたのは舞網第二中学の制服だった。……どうして学校の違う光津さんがこの制服を持っているのでしょうか……ブルセラマニア?

 

「何だか不愉快な勘違いをしてそうだから言っておくけど、それは遊勝塾の柊柚子に頼ん……柊柚子に言って、用意させたものよ! あなたの制服、ボロボロだったでしょ」

「……ありがとうございます」

 

遊勝塾を乗っ取りに行って、柊さんを負かした後でわざわざ頼んでくれたのでしょうか……私の為に。

 

「まったく……あなたも沢渡に言われたからってホイホイとついて行くな! しかもそんな格好で!」

「すいません……確かにこんな格好では沢渡さんまで悪目立ちしてしまいますね、軽率でした」

「あなたって子は、本当に……!」

 

何やらまた光津さんが何かを言いたげに唇を引くつかせていますが、どうしたのでしょうか。

 

「はあ……さっさと着替えなさい」

「はい……あの、同性とはいえ目の前で着替えるのは流石に少し恥ずかしいのですが」

「その羞恥心の方向をどうしてもっと……!」

 

何かを呟きながら、光津さんは後ろを向いた。あ、出ては行かないんですね。……まあ、私を心配してくれているというのは伝わります。でも倒れたりはしませんから、大丈夫ですよ。

 

「お待たせしました」

「着替えたわね。なら行くわよ」

「あの、一体今から何を……?」

 

結局、沢渡さんは教えてくれませんでしたし……。

 

「すぐに分かるわ」

 

しかし私の質問には光津さんも答えてくれない。指先で髪を流しながら、微笑みと共にそれだけを言われた。

 

LDS センターコート前

 

「悪いっ、今貸切なんで!」

「他のコートに回ってくださーい!」

「現在センターコートは貸切でーす!」

 

光津さんに連れられ、センターコートの入り口に辿り着くと入り口には人だかりがあり、その中で山部、大伴、柿本の三人が『現在貸切!』と書かれた垂れ幕を掲げながら、他の生徒たちに大声でそう伝えていた。何をしてるんでしょうか、この三人は……?

 

「おっ、来たか久守」

「待ってたぞ……」

「ほらさっさと入れって! 抑えてるのも大変なんだよ!」

「う、うん……」

 

山部たちは他の生徒たちにブーイングを受けながらも、三人は私と光津さんが通る道を作ってくれた。その道を通り、私と光津さんはセンターコートへと入場した。

 

センターコートに来るのはあの時、榊さんからペンデュラムカードを奪った時以来だ。

 

「……」

 

誰もいない貸切のセンターコート……いや、違う。あの時と同じだ。コートの中には、人影があった。

 

「来たようだね。本日の主賓が」

「随分待たせてくれたじゃねえか」

 

観客席の最前列に座る、志島さんと刀堂さんの二人。

 

「それじゃ、期待してるわ。あなたがあいつを叩きのめすのをね」

 

私を此処まで連れて来た光津さんも、そう言って刀堂さんたちの居る観客席へと上がって行った。

……此処まで来て、察しがつかないはずはない。

 

「うぉっ、なんだ?」

 

センターコート、デュエル場に一人私が残され、コートの全ての照明が消える。

 

「あのドヘタの仕業でしょ。こういうの好きそうだし」

「間違いないね。まったく、派手好きな奴だ」

 

……そうですね。でも違いますよ、派手好きなだけじゃない、これはあの人の――演出ってものですよ。

暗闇に包まれたコートに、一筋の光が差す。その光の先に居るのは、あの人しかいない。

 

 

「暗闇に包まれた世界に一人、カードで闇を斬る男が此処に居る――俺が誰だか分かるか」

 

足元だけが照らされ、その顔までは見えない。

でも……当たり前、じゃないですか。間違えるはずなんてない。

 

「……ネオ沢渡さん、です」

「そう! カードに選ばれた男、それがこの俺――」

 

ゆっくりと、照明があの人の全身を照らし出す。

 

「――ネオ! 沢渡だ!」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「社長、実はセンターコートで騒ぎが……」

「何……?」

 

LDSの最上階、赤馬零児とその側近、中島の姿があった。

 

「どうやら沢渡たちが原因のようでして……」

「一体何をしているんだ」

「それが、無断でセンターコートを貸切り、他の生徒たちを締め出しているようで……監視カメラで確認した所、先日遊勝塾でデュエルをした三人や、それに久守詠歌の姿も……」

「ほう」

「すぐにやめさせます。主犯である沢渡も、退学処分を……」

「いや」

 

沢渡は榊遊矢の件で中島の命令を無視した件もある。今回の件と合わせれば、一生徒には目に余る行動だ。妥当な判断だろうと、そう告げようとした中島だったが、零児は静かにそれを止めた。

 

「そのまま続けさせろ。コートに関しても正式に許可を出しておけ」

「は? ですが……」

「構わん。彼の好きにさせろ」

「わ、分かりました……ではすぐに生徒や講師に通達します」

「ああ、頼んだ」

 

すぐに命令を遂行しようと足早に去っていく中島を見送り、零児は部屋に設置されているモニターを起動し、センターコートのカメラの映像を繋いだ。

 

『ネオ! 沢渡だ!』

 

「久守詠歌……果たして彼女は我々の槍と成り得るのか、それとも……」

 

これから起こるであろう事を見届ける為、そして見定める為に。




今回、次回でタグ回収。どのタグの事かは言わずもがな。


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君の為のエンタメデュエルショー

「沢渡、さん……」

 

照明が元に戻り、光が満ちる。

 

「受け取れ、お前のだ」

 

そして沢渡さんが投げ渡したのは……私のデッキが収められた、私のデュエルディスクだった。

 

「っ、く……」

 

震える。手が、体が。

 

 

「……? どうしたんだ? 何か様子が変じゃないか、彼女?」

「まさか沢渡の奴、まだ本調子じゃないまま無理矢理引っ張って来たんじゃねえだろうなっ」

「そうは見えなかったけど……」

 

「怖いか」

「っ!」

 

やっぱり、気付いていたんですか。

 

「それ、は……」

「お前もLDSの生徒なら、乗り越えてみせろ。アクションフィールド、オン!」

 

沢渡さんにより高らかに宣言される、フィールド魔法の名。それは、

 

 

「フィールド魔法――マドルチェ・シャトー!」

 

 

……私が使うものと同じ、私が最も得意とするフィールド。

お菓子で作られた、お伽の国。

 

リアル・ソリッドビジョン・システムが稼働し、コートはお伽の国へと変わる。

 

「……!」

 

震えは止まらない。でも、沢渡さんから逃げ出すなんて出来ない。私は震えた腕でディスクを構える。

 

 

「久守の奴もやる気みたいだな――ならっ」

「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る! 見よ!」

 

「これぞデュエルの最強進化系!」「アクション……!」

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

SAWATARI VS EIKA

LP:4000

アクションフィールド:マドルチェ・シャトー

 

デュエル開始の宣言と共に、アクションカードがフィールドに散らばっていく。

もう、止まらない。

 

「今度またルール違反で負けたりしたら、承知しねえぞ久守!」

 

……その通りだ。また刀堂さんに怒られるのも、勘弁してもらいたい。

 

「いくぞ、久守!」

「はい……!」

 

恐れるな。此処は、私が最も得意とする、慣れ親しんだフィールド。怖がる必要なんて、ないのに……!

デッキの上から手札となる5枚のカードを引かなければならないのに、私の手はデッキトップに触れたまま、動かない。

 

「先行は俺だ。俺のターン!」

「くっ……!」

 

沢渡さんのターン宣言と共に、私は強引に手を動かし、5枚のカードを引く。

 

「ふっ、俺はカードを二枚セットしてターンエンドだ!」

 

「相変わらずあいつは……あんな偉そうに始めておいてカードをセットしただけだと?」

「まさか召喚出来るモンスターが一枚も手札になかったとはね……」

 

「私の、ターン……!」

「どうした。早くカードをドローしろよ」

「……ドロー」

 

沢渡さんを待たせるわけにはいかない。その一心で震える手でカードをドローする。

 

「私はカードを二枚セット……私は、」

 

「まさかあの子も手札にモンスターが……?」

 

……モンスターカードは私の手札にある。でも……怖いんだ。リアル・ソリッドビジョン・システムは質量を持つ。モンスターに触れられる、デュエリストとモンスターが一体となって行う、それがアクションデュエル……けど、今の私には……

 

「私はこれで――」

「ふざけるな。俺をコケにするつもりか、久守」

「っ……」

「そんなザマを俺に見せるのかよ、お前は」

 

……怖いんですよ。怖くて震えて、今にもまた崩れ落ちそうになるんですよ……それでも沢渡さんは、私にデュエルをしろって言うんですね……本当に、我が儘な人です。

 

「ッ――私はマドルチェ・シューバリエを通常召喚!」

 

私の目の前に召喚される、お菓子の騎士。可愛らしい外見、案じるように私を見る、優しい騎士。それでも、私はそんな騎士すら恐れている。怖くてたまらない。

 

「……アクションフィールド、マドルチェ・シャトーの効果によりフィールドのマドルチェたちの攻撃力は500ポイントアップします」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700 → 2200

 

「……バトルですっ、シューバリエで直接攻撃!」

 

それでもやるしかない。沢渡さんを裏切るわけには、いかない……!

 

「永続罠、始源の帝王を発動! このカードは発動後、モンスターとして俺の場に特殊召喚される」

 

沢渡さんの前に現れ、シューバリエの攻撃を阻んだのは巨大な影。

 

始源の帝王

レベル6

守備力 2400

 

「さらに始源の帝王のもう一つの効果を発動! このカードがモンスターとして特殊召喚された時、手札を一枚捨て、このカードの属性を任意の属性に変更し、さらに宣言した属性のモンスターをアドバンス召喚する時、二体分のリリース素材に出来る! 俺は水属性を選択!」

「……私はシューバリエの攻撃を中断します」

「まだこれからだぜ、久守。コストとして捨てた、素早いアンコウの効果を発動。デッキから二体の素早いマンボウを特殊召喚! さらに俺は永続罠、連撃の帝王を発動! このカードは相手ターンのメインフェイズかバトルフェイズに毎ターン一度だけ、モンスターをアドバンス召喚出来る! 俺は水属性となった始源の帝王を二体分としてリリースし、アドバンス召喚! 来い、凍氷帝メビウス!」

 

素早いマンボウ×2

守備力 100

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 2800

 

「凍氷帝メビウスのモンスター効果、発動! このカードがアドバンス召喚に成功した時、フィールドの魔法、罠を三枚まで破壊できる! さらに水属性モンスターをリリースして召喚されたメビウスの効果で破壊されるカードは発動出来ない。俺はお前のフィールドの伏せカード二枚を選択! ブリザード・デストラクション!」

「あっ、く……!」

 

凍氷帝から発せられた冷気により、私の伏せカードは全て破壊される。体の震えが酷くなったのは、冷気のせいだけじゃない。……怖い。立ちはだかる巨大なモンスターが、怖い。

 

「ターン、エンド……です」

 

「ふん、少しはやるじゃない」

「相手ターンに最上級モンスターをアドバンス召喚とはね」

「これで久守のフィールドにはモンスターが一体だけか……」

 

「さあ見せてやる、この俺、ネオ沢渡の完璧なるデュエルを……俺のターン! ――バトルだ! 凍氷帝メビウスでマドルチェ・シューバリエを攻撃! インペリアル・チャージ!」

「きゃ……!」

 

EIKA LP:3400

 

「どうした、随分と可愛い声を上げるじゃないか。あの時はこの俺に向かって守らせてくれ、なんて言ってた割にはよ」

「あっ……」

 

沢渡さんにそう言われ、自分がらしくない悲鳴を上げていた事に気付く。……此処まで私は、弱く……。

 

「……破壊されたマドルチェ・シューバリエはフィールド魔法、マドルチェ・シャトーの効果により手札に戻ります」

「俺はこれでターンエンド」

 

「完璧なデュエル、なんて言った割にただ攻撃しただけかよ……アドバンス召喚しないのか?」

「放っておきなさい、あいつの偉そうな態度は今に始まった事じゃないでしょ」

 

「私の、ターン……!」

 

震えたままの手で、カードを引く。

 

「……私は、モンスターをセット。そしてカードを一枚伏せて、ターンエンドです」

 

「沢渡のフィールドにはメビウスと二体のモンスターが残ったまま……!」

「くっ、何やってやがるんだ久守の奴は!」

「完全に沢渡のペースじゃないかっ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ドローしたカードを見て、沢渡さんは笑みを浮かべた。普段なら見惚れてしまうようなその笑みも、私にはこれからの襲い掛かるであろう恐怖への前触れにしか、感じられない。

 

「素早いマンボウ一体をリリースし、アドバンス召喚! 現れろ、氷帝メビウス!」

 

氷帝メビウス

レベル6

攻撃力 2400

 

現れるもう一体のメビウス……二体の氷帝が発する冷気と、威圧感が私の体の震えを増幅させる。

 

「氷帝メビウスのモンスター効果発動! こいつがアドバンス召喚に成功した時、フィールド上の魔法、罠カードを二枚まで破壊できる。俺はお前の伏せカード一枚を破壊! フリーズ・バースト!」

 

召喚されたメビウスによって破壊されたのは罠カード、ハーフorストップ……。

 

「バトル! 俺は凍氷帝メビウスでセットモンスターを攻撃!」

「……セットモンスターは、シャドール・リザード。リバース効果を発動、します……フィールドのモンスター一体を、破壊……!」

 

震える指先で沢渡さんのフィールドのモンスター、まだ攻撃を行っていない氷帝メビウスを指さす。

氷帝はリザードから伸びた影糸に縛られ、リザードと共に光となって消滅する。

 

「ふっ、凌いだか。俺はこれでターンエンドだ」

「私の、ターン」

 

一向に震えは収まらない。むしろ、どんどん酷くなっていく。ドローする事も出来ない程に。

 

「……」

 

もう、駄目だ。本当にもう駄目なんです。怖くて怖くて堪らないんです。立ちはだかるモンスターが、カードが。

耐え切れず、私はお伽の国の大地に膝をつく。

 

「久守っ!」

「やっぱりまだ体調が……!」

「っ、沢渡! デュエルを中断――」

 

「お前らは黙ってろ! 元々このデュエルは俺とこいつだけでやるつもりだった、観戦を許してやっただけありがたいと思え!」

 

「……」

 

デュエル。沢渡さんと、一対一の、デュエル……どうして、そんな状況なのに、私は……!

震える体を両手で抱きしめる。怖い、怖い、怖い……!

 

「久守」

「……」

 

沢渡さんの呼びかけにも、応えられない。

 

「こっちを見ろ」

「……」

 

顔だけを上げ、私は沢渡さんを見る。きっとその目は、失望に満ちているだろう。そう思いながら。

 

「久守」

 

けれどその目は、何処までも真っ直ぐに私を見つめていた。

失望しているのでも、責めるでもない。ただ真っ直ぐに……私を信じていると言うかのように。

 

「お前がぶっ倒れたなら、俺が支えてやる。お前がどうしようもなくなったら、俺が助けてやる。お前が挫けたなら、俺が引っ張ってやる。……けどよ、違うよな。お前はそんなキャラじゃねえだろ」

「……」

「お前はいつも俺より先回りして、一人で俺を待ってる奴だ。一人で俺が来るのを紅茶とケーキを用意して待ってる、そんな奴だ」

「……」

「だがお前はいつだって一人ぼっちじゃない。お前が待ってるなら、そこには必ず俺が行く。お前だってそれが分かってるから、いつだって俺を待ってるんだろ」

「……」

「お前は俺に手を引かれなきゃ歩けないような、そんな女じゃないだろ」

「っ、違い、ます……私は、弱いんです……! 弱くて、我が儘で、子供で……どうしようもない、自分勝手な人間なんです……沢渡さんが思ってくれている程、私は……!」

 

強くなんて、ない。

私は初めて、沢渡さんの前で弱さを、私の本性を吐露する。今度こそ、失望されても仕方がない、弱音を。

 

「今更何言ってんだ。そんなのは知ってる。お前は弱っちくて、子供で、勝手に俺の生活を変えた。お前が毎日紅茶を淹れて、ケーキを用意してるせいで俺はそれがないと落ち着かなくなっちまった」

 

けれど、沢渡さんはそんな私の言葉などお見通しだったかのように、そう口にした。

 

「だったらお前の勝手を最後まで通せよ。お前の我が儘を押し通せよ、子供らしく、駄々を捏ねろ! 弱いならやせ我慢なんてすんな! 俺に隠し事なんてしてんじゃねえ!」

「……」

「言えよ! 自分は一人で待ってるって、苦しくて、辛くて怖いのを我慢して、一人で待ってるって、俺を待ってるんだって、そう言え!」

 

「沢渡……」

「あいつ……」

 

「沢渡、さん……」

「いつまでも甘えてんな、一人で耐えてたら誰かが助けてくれるなんて思うな。お前が口にしなきゃ、俺は助けねえぞ。お前が言わなきゃ、俺はお前を無視して先に行く」

「……、です」

「一人で勝手に苦しんで、一人で勝手に怖がって、一人で勝手に茶を用意して、一人で勝手に待ってろ。俺の知った事じゃない」

「……や、です……」

「まったく、時間の無駄だったな。こんなデュエルじゃ俺の完璧なデュエルも見せられねえ。山部たちとデュエルしてる方がよっぽど楽しい」

「……いや、です……」

「デュエルは終わりだな。ったく、組み直したデッキも無駄に終わりか」

「――嫌です!」

 

叫ぶ。はっきりと、沢渡さんに届くように。

 

「嫌ですっ……嫌だ! 私は、沢渡さんと一緒に居たい! こんな、苦しいままなのは嫌だ! 沢渡さんと一緒に笑って、心の底から楽しんでっ、デュエルがしたい! お話がしたい! 沢渡さんを待って、お茶がしたい、沢渡さんに私の紅茶を飲んでもらいたい……沢渡さんに、美味しいって、褒めてもらいたいんです! 我が儘だけど、自分勝手だけどっ、私は沢渡さんと一緒に居たい!」

「……はっ、本当に我が儘な奴だな、お前」

「……そうです、私は我が儘です」

 

あの世界で出来なかった事をしたくて、この世界にやって来てしまうぐらいに。

生きて、笑って、恋をして、そんな、いっぱいを望んでしまうぐらいに。

 

「けどまあ、仕方ないか。我が儘に応えるのも、選ばれたデュエリストの役目だ」

「沢渡、さん」

「お前のターンだ! お前の我が儘、全部吐き出せ! それに全部応えて、楽しませてやるよ! 久守!」

 

震えは、止まっていた。

 

「……はいっ!」

 

あの病室で私は一人ぼっちになった。

あの子たちはもう、帰っては来ない。

けど、今まで私はただ待っていただけだ。寂しいと誰かに口にする事もなく、一人で誰かが手を差し伸べてくれるのを待っていただけだ。

それじゃあ駄目なんだ。私の言葉で、私が呼ばなきゃ。

そうすればきっと、沢渡さんが応えてくれる。この世界の私の友人たちが、手を掴んでくれる。

あの病室から抜け出すには、私が自分の足で立たなくちゃ……!

 

「私のターン! ドロー!」

 

私が望めば、デッキもこうして応えようとしてくれる。

 

「私は魔法カード、手札抹殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分デッキからカードをドローする! 私が捨てたカードは三枚! よって三枚ドロー!」

「俺の手札は三枚、三枚ドローする」

 

三枚……? 沢渡さんの手札は二枚だけだったはず……。

 

「おいおい、これはアクションデュエルだぜ?」

 

沢渡さんの手に握られているのは、アクションカード。いつの間に……って、その隙はいくらでもありましたね。けれどもう、そんな隙は晒さない。

 

「さらに! 手札抹殺の効果により墓地へ送られたシャドール・ヘッジホッグとビーストの効果発動! デッキからヘッジホッグ以外のシャドールを手札に加え、デッキからカードを一枚ドローする!」

 

手札抹殺によって新たに加わった三枚のカード……あの子が早く呼べと、急かしているようだ。

 

「さらに手札を増やしたか……だが、俺はさらにその上を行く! 俺は手札抹殺の効果で墓地に送られた、エレクトリック・スネークの効果を発動! このカードが相手のカード効果により手札から墓地へ送られた時、デッキからカードを二枚ドローする」

「え……」

 

カードを引く為にデッキへと伸びていた私の手が止まる。

エレクトリック・スネーク……? 相手の効果に限定されているとはいえ、二枚ドロー出来るカード……。

 

「俺とのデュエルの後、きっちり対策してやがったか……」

 

観客席で感心したように呟く、刀堂さんの声が私の耳に届く。沢渡さん、刀堂さんとデュエルを……? 確かにハンデス戦術を使う相手とデュエルしたなら、そのカードを入れても不思議はない。けれど、そのカードは沢渡さんが使うにはあまりにも……。

 

「ステータスが低くても案外役に立つもんだな。ははっ、やっぱり俺ってカードに選ばれ過ぎぃ!」

「沢渡さん……」

 

決して強力な効果ではない。決して強力なモンスターでもない。沢渡さんが好むような、レアなカードというわけでもない。それに沢渡さんのフィールドに存在する素早いマンボウだって決して沢渡さんが好んで使うタイプのカードではなかったはずだ。

けれど、それを沢渡さんはデッキに入れて、しかも手札に呼び込んでいた……違う。明らかに今までの沢渡さんとは。これが本当の、ネオ沢渡さん……。

 

「さあどうした、お前もカードを引けよ」

 

それでも、負けるわけにはいかない。沢渡さんを、ネオ沢渡さんを越える。そしてもう二度と、誰にも沢渡さんを傷つけさせはしない!

 

「はい! 私はヘッジホッグの効果により、シャドール・ハウンドを手札に加えます! さらにカードを一枚ドロー」

 

そしてビーストの効果によりドローしたカードは――

 

「あ……」

 

入れた覚えのない、いいや、かつて入れていたはずのカード。この世界に来た時に消えた、あの子のカード。

 

「――私は手札から魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)を発動! 手札のシャドール・ハウンドとシャドール・ファルコンを融合!」

 

二体の人形が渦へと消えていく直前。人形から伸びていた影糸の一本が、私の頬を撫でた。姿は見えない。でも今度は伝わる。全てのシャドールたちを操る彼女が、私を祝福してくれている。

 

「影糸で‟繋がり”し猟犬と隼よ! 一つとなりて、神の写し身となれ! 融合召喚! 来て、探し求める者! エルシャドール・ミドラーシュ!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200

 

「さらに融合素材として墓地へと送られたハウンドとファルコンの効果発動! フィールドのモンスター一体の表示形式を変更する! 私は凍氷帝メビウスを選択! そしてファルコンを裏側守備表示で特殊召喚!」

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 2800 → 守備力 1000

 

「ミドラーシュの効果により、互いのプレイヤーは一ターンに一度ずつしか特殊召喚を行えない」

 

光の中からお伽の国へと姿を現したミドラーシュは、己が駆るドラゴンから飛び降り、何故か私の傍に降り立った。

無表情な人形の瞳。けれど、何を考えているのか、今の私には分かる。

 

「ごめんね、ミドラーシュ。私のデッキ。私はずっと、あなたたちから目を逸らしてた。信じていたけれど、それだけだった……」

 

私を焦らしていたんじゃない。私にずっと訴えていたんだね。けどもう信じるだけじゃない、あなたたちを頼るから、あなたのように探し、求めるから。力を貸して。

 

『……』

 

コツン、とミドラーシュは私の頭を優しく杖で叩いた。ただそれだけして、私を守るように凍氷帝の前に立ちふさがった。

 

「……ありがとう。待ってて、あなたを一人にはしないから――私は手札から魔法カード、貪欲な壺を発動! 私の墓地のモンスター5体をデッキに戻し、シャッフル! そして二枚ドロー!」

 

私の墓地に眠る4体のシャドールと、マドルチェ・シューバリエがデッキへと帰っていく。おかえりなさい。

そして新たに手札に加わる二枚のカード……こっちのカードは、私には似合いませんね。だって私はこんなにも我が儘で、貪欲なんだから。

 

「シャドール・ファルコンをリリース!」

 

満たされぬ魂を運ぶ方舟は私を置いて旅立った。そして残された、託されたあの子のカード。

もう二度と、手放しはしない!

 

 

「アドバンス召喚! ――未来を担う次代の女王、お伽の国の奔放なお姫様! 来て――――マドルチェ・プディンセス!」

 

 

お伽の国に現れた……ううん、帰って来たのは、未来へと向かう心優しき姫。

あの子のように優しくて、私のように我が儘な、自由なお姫様。

けれどその表情はかつての私と同じく、悲しみに彩られていた。大丈夫ですよ、あなたが悲しむ理由は何処にもない!

 

 

「マドルチェ・シャトーの効果により、プディンセスの攻撃力は500ポイントアップ!」

 

マドルチェ・プディンセス

レベル5

攻撃力 1000 → 1500

 

「そして魔法カード、無欲な壺を発動。互いの墓地から合計二枚のカードを選択し、持ち主のデッキに戻す! 私が選択するのは私の墓地のシャドール・ファルコンと魔法カード、影依融合!」

 

今までにない感覚、私のデッキが応えてくれている。それが分かる。まるで自分の手足のように、動いてくれる。

 

「無欲な壺は発動後、墓地には送られず除外されます――マドルチェ・プディンセスは私の墓地にモンスターカードが存在しない時、さらに攻撃力が800ポイントアップする!」

 

マドルチェ・プディンセス

攻撃力 1500 → 2300

 

プディンセスの表情が悲しみから、我が儘な子供らしい勝気な笑顔へと変わる。そうだ、笑って。

お伽の国に、あの子が託してくれたカードに、悲しみは似合わない!

 

「バトルです! 私はマドルチェ・プディンセスで凍氷帝メビウスを攻撃! プリンセス・コーラス!」

 

氷の帝王へと立ち向かうプディンセスを、お伽の国の住人たちが助ける。騎士が、魔女が、執事が。隼が、猟犬が、竜が。姫君を支えるように、彼女と共にメビウスへと向かっていく。決して一人では倒せない敵も、支え合う者が居れば倒せる。プディンセスはそれを体現する効果を持っている。

 

「プディンセスのさらなる効果! プディンセスが戦闘を行った時、相手フィールドのカード一枚を破壊する! 私は残る一体の素早いマンボウを選択! 姫君の特権(プリンセス・コール)!」

 

メビウスを破壊し、プディンセスたちはその勢いに任せ、残るモンスターをも吹き飛ばす。

これで、沢渡さんのフィールドに残ったカードは連撃の帝王だけ――

 

「――沢渡さん、いきます! ミドラーシュで直接攻撃! ミッシング・メモリー!」

 

待っていたと言わんばかりに、ミドラーシュは自身が持つ杖を振るい、風を巻き起こした。かつてダークタウンの幽閉塔で吹き荒れた風とは違う、包み込むようなガスタの風を。

 

「くっ……!」

 

SAWATARI LP:1800

 

風は沢渡さんを舞い上げ、吹き飛ばした。

 

「沢渡さんっ!」

「……はっ、やってくれるじゃねえか、久守」

 

けれど軽やかに体勢を立て直し、沢渡さんは地面へと両足で着地する。

 

「……これが私の気持ち、私の我が儘です! 私は沢渡さんに勝ちたい、勝って、今度こそ沢渡さんを守れるくらい、強くなります! 私はこれでターンエンド!」

「己惚れてんじゃねえよ。この俺が、お前に負けるか! 俺のターン、ドロー! ――手札から永続魔法、魂吸収を発動! このカードが存在する限り、カードが除外される度、一枚につきライフを500ポイント回復する。さらに俺は手札からジャンク・フォアードを特殊召喚! このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない時、特殊召喚出来る!」

 

ジャンク・フォアード

レベル3

守備力 1500

 

ジャンクの名を持つモンスター……これも、以前までの沢渡さんが使うとは思えないカード。けど、沢渡さんがただの壁として出すはずがない。先程のドローでアドバンス召喚するモンスターが手札に加わっていても不思議はない。

 

「あれは……僕とのデュエルで考えた対抗策か。フィールドをがら空きにされた時の為の……」

「ふん、案外対策はきっちりしてるのね」

 

「お前が手札抹殺で引き当てたように、俺も引いてんだよ。このショーをクライマックスに導くカードをな――いくぞ、久守。俺はジャンク・フォアードをリリースし、アドバンス召喚!」

 

魂吸収……私が使うマドルチェ・ホーットケーキの効果を利用する為かと思っていましたが、違う。沢渡さんは私の予想のさらにその上を行く……さっきの手札抹殺とスネークの効果で呼び込んでいたんだ。

 

「現れろ、邪帝ガイウス!」

 

氷帝に続く、二体目の帝王を。

 

邪帝ガイウス

レベル6

攻撃力 2400

 

「邪帝ガイウスの効果発動! こいつがアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を除外する! 俺はエルシャドール・ミドラーシュを選択! ダーク・ブレイク!」

「ミドラーシュ!」

 

ミドラーシュが闇に包まれていく……闇がミドラーシュを完全に包み隠す直前、彼女は私を見た。そして、仕方ないとでも言うように肩をすくめた。

……ごめんなさい、ミドラーシュ。

 

「そして除外されたカードが闇属性モンスターだった場合、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与え、さらに永続魔法、魂吸収の効果により俺はライフを500ポイント回復する」

「くっ……」

 

EIKA LP:2400

SAWATARI LP:2300

 

私と沢渡さんの間に最早ライフの差はない……負けられない。

 

「まだだ! 俺は魔法カード、アドバンス・カーニバルを発動! このカードはアドバンス召喚に成功した時、もう一度アドバンス召喚を可能にする!」

「まさか……」

 

氷帝と凍氷帝。そして邪帝……残る手札は二枚、まさかそのカードまで手札に……?

 

「いいや」

 

しかし、沢渡さんは首を振った。私の予想は外れ……なら邪帝をリリースして一体何を……?

 

「言っただろう? 俺はお前のさらに上を行くってな。俺は手札から速攻魔法、帝王の烈旋を発動! このカードはアドバンス召喚する時、一度だけ自分フィールドではなく、相手フィールドのモンスターをリリースしてアドバンス召喚出来る!」

「っ!」

 

私のフィールドに居るのは、プディンセス――アドバンス召喚されたマドルチェ・プディンセスがいる。

 

「お前のフィールドのマドルチェ・プディンセスをリリースし、アドバンス召喚!」

「プディンセス!」

 

お伽の国を吹く風が変わる。荒々しい風が吹き荒れ、嵐となってプディンセスを包み込んだ。

嵐に包まれたプディンセスの表情は――

 

「どうして……」

 

笑っていた。悲しそうにでもなく、苦しそうにでもなく、身を任せ、私に全てを任せるように、笑っていた。

どうして……じゃない。あの子と同じ、あの子も、最後にはそういう風に笑っていた。私にカードを託して、思いを託して。

 

「現れろ、怨邪帝ガイウス!」

 

嵐が収まる。そして、闇が広がっていく。

 

怨邪帝ガイウス

レベル8

攻撃力 2800

 

「怨邪帝ガイウスはアドバンス召喚したモンスターをリリースする場合、一体のリリースで召喚が出来る! そしてこいつは邪帝を超えた怨邪帝、その効果もまた進化している! ガイウスの効果発動! フィールドのカードを一枚除外し、そのカードの種類に関係なく相手に1000ポイントのダメージを与える! 俺は俺のフィールドの永続罠、連撃の帝王を除外する! ダークネス・デストロイヤー!」

 

除外されたのが沢渡さんのカードでも、ダメージを受けるのは私……。

 

EIKA LP:1400

 

「当然、俺のライフも500ポイント回復する」

 

SAWATARI LP:2800

 

「これでお前のフィールドはがら空き、これで決まりだ……!」

 

……私は託されたものを一度、忘れた。あの子たちが私に残してくれたものを一度は忘れていたんだ。

でももう二度と、忘れたりしない。逃げ出したり、しない!

私にはまだ、みんながくれたカードがある。私に与えられたカードがある。そしてこの世界で私が手にしたカードたちがある。お伽の国の住人達が、私と共に在る。

この子たちと一緒なら、帝王すら屠ってみせる。

 

「いけ、怨邪帝ガイウス! 久守に直接攻撃!」

「手札のッ、速攻のかかしの効果を発動! このカードを捨てる事で直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

沢渡さんが刀堂さんとのデュエルでハンデス対策を入れたように、私も志島さんとのデュエルで、私自身も使うバウンスの対策を入れた。沢渡さんと同じく、フィールドをがら空きにされた時の為に。それがこのカード。

私がこの世界で手にした、この世界での繋がり。

 

「防いだか……だが決着が一ターン延びただけだ!」

「いいえっ、そうはさせない! 繋げてみせますっ、その先に!」

「なら、やってみろ。ターンエンドだ」

「私のターン……ドロー!」

 

……繋がった。私のデッキは、私に応えてくれた。

 

「私はマドルチェ・ホーットケーキを通常召喚!」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500 → 2000

 

一羽の梟が私の肩に降りる。何度も私を助けてくれたカードの一枚。また、私に……ううん、改めて、私に力を貸して。

 

「ホーットケーキの効果発動! 墓地のモンスター一体を除外し、デッキからホーットケーキ以外のマドルチェを特殊召喚する! 私は墓地の速攻のかかしを除外し、おいでマドルチェ・エンジェリー!」

 

マドルチェ・エンジェリー

レベル4

攻撃力 1000 → 1500

 

私の前に降り立つ天使。けれど、こんな事言うのは酷いかな。神々しさはあまり感じられない。感じるのは、ただ心強さ。

エンジェリーは任せろ、と言うように私の前でクルリと回転し、微笑んだ。うん、力を借りるよ。

 

「カードが除外されたことにより、俺のライフが回復するッ」

 

SAWATARI LP:3300

 

「エンジェリーの効果発動! このカードをリリースし、デッキからもう一度マドルチェを特殊召喚する! 私が召喚するのはマドルチェ・メェプル!」

 

マドルチェ・メェプル

レベル3

攻撃力 0 → 500

 

私の足にすり寄りながら現れる一匹の羊。この子たちが、このデュエルをまだ繋げてくれる。

 

「エンジェリーの効果で特殊召喚されたメェプルは戦闘では破壊されず、次の私のエンドフェイズにデッキに戻る……メェプルのモンスター効果を発動! 私のフィールドのマドルチェ一体と相手フィールドのモンスター一体を守備表示に変更する! この効果で守備表示となったモンスターは次の相手ターン終了時まで、表示形式を変更できなくなる! 私が選択するのはメェプルと怨邪帝ガイウス!」

 

マドルチェ・メェプル

攻撃力 500 → 守備力 2300

 

怨邪帝ガイウス

攻撃力 2800 → 守備力 1000

 

「さらに! 私は墓地の罠カード、スキル・サクセサーの効果を発動!」

「メビウスの効果で墓地に……お前も抜け目ない奴だ」

「ふふっ、ありがとうございますっ。墓地のこのカードを除外し、私のフィールドのモンスター一体の攻撃力をエンドフェイズまで800ポイントアップ!」

「カードが除外された事により、俺のライフがさらに回復する」

 

SAWATARI LP:3800

 

マドルチェ・ホーットケーキ

攻撃力 2000 → 2800

 

「バトル! ホーットケーキで邪帝ガイウスを攻撃! お伽の国に不似合いな帝王には、退場してもらいます!」

「くッ……!」

 

邪帝ガイウスの攻撃力は2400。これで僅かだが沢渡さんのライフを削れる。けどまだ足りない。

 

SAWATARI LP:3400

 

これは、賭けだ。分の悪い賭け。私と沢渡さんの手札はお互いに0。互いに次のドローがこのデュエルの勝敗を左右する。沢渡さんのフィールドに残った怨邪帝ガイウスはメェプルの効果によりまだ表示形式を変更することは出来ない。だけど、もし沢渡さんが私のモンスターを一体でも破壊できるようなカードを引いたなら。次のターンで私が逆転できる可能性は限りなく低くなる……カードが私と沢渡さん、どちらを選ぶか――勝負です。

 

「私はこれでターン、エンド。同時にスキル・サクセサーの効果が終了し、ホーットケーキの攻撃力は元に戻る」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

攻撃力 2800 → 2000

 

「俺のターン……ドロー!」

 

…………一瞬が、永遠にも感じる時間。

 

「……俺はこれで、ターンエンド」

「私のターン……ドロー!」

 

この瞬間、カードは勝者を選んだ。

 

「――私は、マドルチェ・マーマメイドを召喚」

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

攻撃力 800 → 1300

 

「そしてレベル3のホーットケーキとメェプルでオーバーレイ……エクシーズ召喚、ランク3、M.X―セイバー インヴォーカー」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ランク3

攻撃力 1600

ORU2

 

「そしてインヴォーカーの効果を発動ッ、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからレベル4の戦士族を守備表示で特殊召喚します。来て、メッセンジェラート……!」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ORU1

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

攻撃力 1500 → 2000

 

私のフィールドの傭兵はただ寡黙に立ち、メイドとメッセンジャーは微笑んでいた。

 

「レベル4のマーマメイドとメッセンジェラートで、オーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! これが、これが今の私の全部です! 今までの想いを重ねて、これからも思い出を繋いでいく! エクシーズ召喚! 力を貸してっ、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス!」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200 → 2700

ORU2

 

渦の中から、二つの輝く球体を纏ったお菓子の女王がお伽の国へと姿を現す。私を映すその瞳にはもう、悲しみはなかった。私を見て、嬉しそうに女王さまは笑った。

 

「ティアラミスの効果……発動っ。オーバーレイユニットを一つ使い、私の墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻した枚数と同じ数、相手フィールドのカードを相手のデッキに戻す……私は墓地のエンジェリーとプディンセスを選択、さらにマドルチェ・シャトーの効果によりデッキではなく、私の手札に戻す。そして、沢渡さんのフィールドの永続魔法、魂吸収と怨邪帝ガイウスを、デッキに戻す……! 女王の号令(クイーンズ・コール)!」

 

女王さまの杖から発せられた優しい光がお伽の国を包み込む。

その光が晴れた時、沢渡さんのフィールドから邪帝の姿は消えていた。

…………。

 

「沢渡さん」

「なんだ」

「ありがとう、ございました……! 最高のデュエルで、最高の、ショーでした……!」

「……そうか」

「絶対に、忘れません! ――私はインヴォーカーとティアラミスで、沢渡さんに直接攻撃!」

 

忘れない。忘れる事なんてきっと、出来やしない。沢渡さんが魅せてくれた最高のショーを、沢渡さんが私に掛けてくれた最高の言葉を、絶対に忘れたりしない。

……ああ、駄目だ。視界がまた涙で滲む。このショーを最後まで見届けないといけないのに、涙が溢れて止まらない。

 

 

 

SAWATARI LP:1800

 

「お前ならそうすると思ってたぜ、久守……! M.X―セイバー インヴォーカーの直接攻撃を受けた瞬間、俺は手札から冥府の使者ゴーズを特殊召喚!」

 

冥府の使者ゴーズ

レベル7

攻撃力 2700

 

「え――」

「このカードは俺のフィールドにカードが一枚も存在しない状態で相手のカードによってダメージを受けた時、手札から特殊召喚出来る。さらに受けたダメージが戦闘ダメージだった場合、受けたダメージと同じ数値の攻撃力、守備力を持つ冥府の使者カイエントークン一体を特殊召喚する! 俺が受けたダメージはインヴォーカーの攻撃力分、1600!」

 

冥府の使者カイエントークン

レベル7

攻撃力 1600

 

 

沢渡さんのフィールドに新たに姿を現した、二体の冥府からの使者。

それが私の前に立ちふさがる。

 

「どうした、さっきお前がやったのと似たようなもんだ。それとももう勝った気でいたのか?」

 

……そうですね。私とした事が、気持ちが逸っていたみたいです。

だけどっ、

 

「……それでも、私はそれを超えていく! ティアラミスでカイエントークンを攻撃! ドールズ・マジック!」

 

SAWATARI LP:700

 

「冥府の使者が私と沢渡さんの間に立ちふさがるなら、私はそれを超えてみせる! 私はこれで、ターンエンド!」

「俺のターン!」

 

これが本当のクライマックス。冥府の使者を超えて、私は沢渡さんの傍に立ってみせる!

 

「バトルだ! 冥府の使者ゴーズでインヴォーカーを攻撃! ソード・ブラッシュ!」

「っ……!」

 

EIKA LP:300

 

まだ、私のライフは残っている。そして私には、女王さまが、私のデッキがついていてくれる!

 

「残念だが、お前の前に立ちふさがるのはこいつじゃあない」

「え……?

「俺はゴーズをリリースし、アドバンス召喚!」

 

ここで、またアドバンス召喚……!

汗が背中を伝っているのが分かる。体が震えている。恐怖からではない、期待に打ち震えているんだ。沢渡さんのデュエルへの期待で。

 

「――風帝ライザー!」

 

召喚される三体目の帝王、風を操る、風帝。

 

風帝ライザー

レベル6

攻撃力 2400

 

「ライザーがアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を持ち主のデッキの一番上に戻す! 女王陛下には退場願おうか!」

「っ、ティアラミスはエクシーズモンスター……よって戻るのはデッキトップではなく、エクストラデッキ……」

「バトルフェイズが終了した今、攻撃は出来ない。俺はこれでターンエンドだ」

 

……カードを引くことに、もう躊躇いも怯えもない。

 

「私のターン、ドロー」

 

……。

 

「私はマドルチェ・エンジェリーを召喚! そしてエンジェリーをリリースし、効果発動! デッキからマドルチェ・ピョコレートを守備表示で特殊召喚!」

 

マドルチェ・ピョコレート

レベル3

守備力 1500 → 2000

 

「エンジェリーの効果で特殊召喚されたピョコレートは戦闘では破壊されず、次の私のターンのエンドフェイズにデッキに戻ります! 私はこれで、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ――見ろ、久守! これがネオ沢渡の伝説のデュエルショーだ! 俺はライザーをリリースし、アドバンス召喚!」

 

見ていますよ、もう涙は流さない。沢渡さんのデュエルから、あなたから一瞬たりとも目を離さない。

 

「このカードはアドバンス召喚したモンスターをリリースした場合、一体のリリースでアドバンス召喚出来る! 現れろ、烈風帝ライザー!」

 

風帝が姿を変える。荒ぶる風を纏う、烈風帝へと。

 

烈風帝ライザー

レベル8

攻撃力 2800

 

「烈風帝ライザーの効果発動! このカードのアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚と墓地のカード一枚を、持ち主のデッキの一番上に戻す! 俺が選択するのは俺の墓地の風帝ライザー、そして戻れ! マドルチェ・ピョコレート!」

 

風に誘われ、雛がデッキへと帰って来る。

……。

 

「お前にとってはこのデュエル、忘れられないものかもしれないが、俺にとっちゃこんなのはすぐに忘れちまう程度のもんだ」

「……」

「だから、お前も俺に忘れられたくなかったら、しっかりついてこい」

「――――はい!」

「――俺はライザーで、直接攻撃!」

 

風が私を通り過ぎていく。私が抱えていたものすべてを、心の翳りすべてを流しながら。

 

 

EIKA LP:0

WIN SAWATARI

 

 

アクションフィールドが解除されていく中、私は自分の手札に目を落とした。

私の手札にあるのはマドルチェ・プディンセス、そして……フィールド魔法カード、マドルチェ・シャトー。

たとえリアル・ソリッドビジョン・システムが解除され、アクションフィールドが消えても、お伽の国は私の手の中にある。

そう私のデッキは伝えたかったのだろうか。それとも……今までの仕返し、なんだろうか。本当に、誰に似たのか天邪鬼なデッキです。

 

私にはお似合いの、私のデッキ。

少しずつ形を変えながら、私はこのデッキと共に生きていく。

大好きな人のそばで、これからも。




おい、アクションしろよ。ってツッコミは次回まで待ってください……
次回でネオ沢渡さん編は終了です。


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『繋がる思い出』

デュエルなし。


――あれから、数日が過ぎた。

あの後、病院に戻った私は、私を連れ出した沢渡さんと一緒にこってりと絞られた。けれど最終的には検査にも問題はなく、予定通り翌日に退院できました。

アクションデュエルとはいえ、ほとんど動かなかったので体調が悪化する事もなかったのと、私の心で蟠っていたものがなくなったのも、理由だと思います。

沢渡さんには本当に感謝してもしきれません。アクションカードを使っていれば、あそこまでの接戦にもならなかったはず、沢渡さんが使ったのは手札を増やす為に手札抹殺を使った時の一度きり。……勿論、それは私にも言える事ではありますが、あの状況ではアクションカードの事なんて頭にはなかった。それを言い訳にするつもりもない。

けれど、一つだけ言える……次は必ず、私が勝ってみせます。

 

……それからあの後、LDSから正式に発表があった。

私が入院している間に、LDSの講師がエクシーズを使うデュエリストに襲撃された、と。襲われたのは融合コースの講師、マルコ先生。話した事はほとんどないけれど、光津さんが慕っている、良い先生だと聞いている。

襲ったのが沢渡さんを襲った、あの榊さんとそっくりなデュエリストかは分からない。けど、もしそうなら……私が勝ってさえいれば、こんな事には……。

私が気にすることじゃない、そう光津さんは言ってくれた。気丈に振る舞ってはいるけれど、彼女が一番辛いはずなのに。

 

LDS ロビー

 

「真澄が言っただろ、お前が気にする事じゃねえよ」

「それにLDSの講師に勝つような奴じゃ、いくら君でもね」

「……それでも、光津さんが、友人が辛そうにしているのを見ているだけなのは、悲しいです」

「真澄の事は僕たちに任せてくれ。彼女の気が済むまで、調査に付き合うさ」

「……はい」

 

光津さんは刀堂さんたちと襲撃犯を捜している。私も、と申し出ても「あなたの力は借りないわ」と断られてしまった。襲撃犯に負けた、私の事を案じての言葉だと、嫌でも分かる。それに沢渡さんにも止められてしまった。同じように、私が気にすることじゃない、と。

 

「光津さんは、今は?」

「他の生徒に話を聞いて回ってる。君の件といい、噂も馬鹿には出来ないからね」

「俺たちはお前の相手でもして待ってろ、だとさ」

「そうですか」

 

私に出来るのは、こうして紅茶を振る舞う事ぐらいだ。ほんの少しでもこれが癒しになってくれれば、と思う。

 

「どうぞ、おかわりです」

「おう、悪ぃな」

「ありがとう。いただくよ」

 

本当なら光津さんにも飲んでもらいたいですが、中々話す機会が出来ない。会っても、すぐに去って行ってしまう。焦っているのだと、何かをせずにはいられないのだと、分かる。その気持ちは私にも痛いほど分かる。だから止める事も出来ない。ただ私とは違うのは、光津さんには刀堂さんと志島さんが居る。彼女の力になってくれる、友人が居る。

だから私は待ち続けよう。こうして紅茶を淹れて、いつでも迎えられるように。……でも、街を歩いていて襲撃犯を偶然見つけてしまったりしたら、しょうがないですよね? 勿論、そんな事は口には出しませんが。私も少しでも、光津さんの力になりたい。

 

「ところで沢渡の奴は何処に行ったんだ? 見当たらねえけど」

「今日は学校も休みですし、お休みしているはずです……ただ私が退院してから、時々姿が見えなくなるんです。何処で何をしているのか、訊いても濁されてしまって……」

「ふぅん……まあいい機会じゃないか? 君も少しは沢渡離れしたまえ」

「えっ……」

「……いやそんなこの世の終わりみたいな顔をしないでくれよ」

 

そんな事出来るわけないじゃないですか! もしもそんな事になったら私がラスボスになって世界を滅ぼす勢いですよ!

 

「まあいい、丁度いいタイミングだったな。お前が退院してからは俺たちも調査で忙しかったし、今の内に渡しとくぜ。ほらよ」

「これは……」

 

刀堂さんが取り出したのは、一枚のカードだった。

 

「んだよ、忘れちまったのか? お前に合いそうなシンクロモンスターだよ。あれから色々と考えたが、これが一番じゃねえか。お前が気に入るかは分からねえけどな」

「……いえ、ありがとうございます、本当に……大切に使わせてもらいます」

「おいおい、まだどんなカードかも見てねえだろ」

「たとえどんなカードでも、刀堂さんがこれだけの時間を掛けて選んでくれたカードです。ならきっと、それは私の力になりますから」

 

そう言って、ようやく私はカードに目を落とす。白い枠を持つ、シンクロモンスター。私のデッキの新しい仲間。

 

「――私からも、これを」

「ん? ってこいつは……俺より北斗に渡した方がいいんじゃねえか?」

「お守り代わりにしてください。元々私のデッキには二枚入っていますから、刀堂さんに受け取ってもらいたいんです」

「……受け取っとく」

「はいっ」

 

私も代わりに一枚のカードをデッキから取り出し、刀堂さんに手渡す。刀堂さんには必要ないかもしれませんが、それでも。

 

「……やっぱり君たち、兄妹みたいだね」

「大切にしてくださいね、兄さん」

「誰が兄さんだっつの!」

 

笑いながら、冗談めかしにそう言うとまた刀堂さんはムキになって否定した。

 

 

 

刀堂さんたちと別れた後、私はLDS内にあるショップへと向かい、その片隅で自分のデッキを取り出し、広げる。

ショップの一角にはデッキ構築の為のスペースが設けられている。今までは空き教室を使っていたけれど、今度は私が持っているカードだけでは足りない。ショップに来たのは新しいカードたちが必要になってくるからだ。

 

「……」

 

広げられたカードから一枚、手に取る。

マドルチェ・プディンセス。マドルチェ唯一の上級モンスターで、あの子が一番好きだったカード。

沢渡さんとのデュエル、いつの間にかデッキに加わっていたカード。

エクストラデッキを確かめると、やはり方舟――No.101 S・H・Ark Knightは消えていた。

あの時、あの黒い男とのデュエルで気を失った時、私のカードは散らばった。当然その時、唯一ディスクにセットされていたあのカードも。きっとそれが、この子に変わったんだろう、自然とそう思えた。

 

ショップのカードのデータと自分のカードたちを眺めながら、構築を考える。一人でカードを並べるのは、あの世界での最後の時と同じ。でも悲しみはない、むしろ楽しくて仕方がない。強くなりたい、この子たちと一緒に、強く。

 

「柊さんや榊さんも、強くなるために頑張っている……私も負けられません」

 

久しぶりに学校に戻ると、柊さんが声を掛けてくれた。その時、絶対に強くなって光津さんを倒してみせる、と教えてくれた。

それと同時に、私のお見舞いに行けなかった事の謝罪も。……謝罪するような事じゃないのに、と言った途端に怒られてしまいました。

アユちゃんから聞いた通り、LDS、光津さんたちとの勝負や赤馬零児のペンデュラム召喚、それにあの榊さんとよく似た男との出会い、様々な出来事があった、無理もない。そう思っていたのですが、真実は違った。

……沢渡さんに、止められたのだと言う。私が沢渡さんにあの黒い男が榊さんではないと告げた後、すぐに沢渡さんは柊さんと榊さんに、見舞いに来るなと、そう告げたのだ。

 

『沢渡の奴も、あれが遊矢じゃないって分かったって。でも私や遊矢、遊勝塾のみんなは見舞いに来るな、って……理由は言わなかったわ。でも、遊矢には何かを教えてたみたい。遊矢も、納得してた。嫌がらせで言ってるんじゃなく、久守さんの事を思って言ってるんだって』

 

……きっと、その時点で気付いていたんだろう。私がカードに怯えている事に。だから自分たち以外のデュエリストを私に会わせないようにしていた、特にあの男と瓜二つの、榊さんには。

榊さんとも話すことが出来た。彼も心配してくれていた。

 

『沢渡から聞いたんだ。久守がデュエルを、カードを怖がってるって。刺激したくないなら、俺や柚子を含めて遊勝塾のみんなは来るな、って。初めはまだ俺を襲撃犯だと勘違いして言ってるのかと思ったけど、あいつの目に嘘はなかった。本気で、お前を心配してたんだ。最近塾に来ない素良以外のみんなにも伝えたよ、沢渡が本気で心配して言った事だから、待ってようって』

 

それでも待ちきれずにアユちゃんが私のお見舞いに来てくれた。……そのおかげで私は、あの子の事を思い出した。あの子の笑顔を、アユちゃんに重ねた。それがなかったら、沢渡さんとデュエルも出来ず、今もまだあの病室に居たかもしれない。本当に、色々な人たちのお蔭で私は此処に居る。

今度は私がみんなを助ける番。その為にも、デッキを変える。この世界との繋がりが私をもっと強くする。

 

 

 

それから一時間程だろうか、デッキを変更し終えたのは。テーマを変えるわけではないですが、それでもプディンセスや刀堂さんがくれたカードを使いこなす為、今まで以上にカードが入れ替わった。刀堂さんがくれたカードには属性も種族指定もないので、そこまで意識する必要はありませんでしたが。

けれどこれで完成した、今の私の……そう、つまりネオ……いや沢渡さんと被るのはいけませんね。そう、ニュー久守のデッキが! 

ふふふ、これから私の事はニュー久守と呼ぶように柊さんやアユちゃんにお願いしましょうか。

 

「失礼」

 

などと、一人有頂天になっていた私に声を掛ける人がいた。

 

「はい。何か御用でしょうか」

 

デッキをディスクに仕舞い、立ち上がる。振り返ると、そこに居たのはサングラスを掛けた男性だった……え、不審者?

 

「君が久守詠歌で間違いないな」

「そう、ですが……あなたは?」

「ああ、私は中島。赤馬理事長の秘書をやっている者だ」

「……!」

 

男性は中島と名乗った。……忘れるわけがない、その名前は。沢渡さんが気にしていない以上、私もあれ以上調べる事はしませんでしたが、こうして目の前に現れるとどうしても表情が強張る。

 

「……その、中島さんが私に何の用でしょう」

「一緒に来て欲しい。君に会いたいという方が居てね」

「私に……?」

「ああ。先日の件だ」

「先日……襲撃犯の事でしたら既に他の方にお話ししました。榊さんに良く似た別人だった、と」

「いや。その件じゃない。先日の……センターコートの無断使用の件だ」

「えっ」

 

……沢渡さん、病院と同じく、また一緒に絞られるしかないみたいです……。

 

 

「――へっくし!」

「久守が治ったと思ったら、今度は沢渡さんが風邪っすか?」

「いや……この俺の噂を誰かがしてるんだろう。人気者は辛いねえ」

「それこそ久守の奴なんじゃ……あいつ、以前に増して沢渡さんに懐いているし」

「昨日なんて学校でまで沢渡さんの話に付き合わされたぞ……どうして寝癖を直してあげないのかに始まって延々とな……」

「俺もだよ、ほつれた制服で沢渡さんの傍に立つな! って制服まで直されたぞ」

「俺も自分が居ない時の為に、って紅茶の淹れ方をレクチャーされた……まあそれは沢渡さんが必要ない、って止めてくれたけど」

「ふふん、良い心がけだ。あいつもようやく自分の立場が分かったみたいだな」

 

詠歌が去った後のLDSのロビーに、沢渡たち四人の姿があった。詠歌の予想とは裏腹に、遅れてLDSに顔を出しに来ていた。

 

「この人は相変わらずこんなだし……」

「まあ元に戻っただけだけどな」

「沢渡さんだからなあ……」

 

「それにしても遅え! 久守の奴は俺を待たせて何してやがるっ」

「いや、別に約束してるわけじゃないし、仕方ないんじゃあ……今日は講義も入ってなかったはずだし」

「会いたいんなら呼べばいいじゃないっすか」

「変な所で気を遣うからなあ……沢渡さんの呼び出しなら、あいつも喜んで来るだろうに」

 

センターコートジャックの主犯であり、共犯者である四人はそれからも詠歌を何だかんだと言いながら待ち続けた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「失礼します」

 

中島さん(呼称についてはこれで良いでしょう、年上ですし)に連れられ、向かったのはLDSの上層、一般の生徒の立ち入りが許されていないエリアだった。そのエリアのさらに上、LDSの最上階にある部屋に、中島さんは丁寧にノックをした後、私を連れて入室した。

部屋の中は広く、ガラス張りの壁から舞網市を一望出来る。其処に居たのはデスクに向かう一人の男。

 

「ご苦労だった」

「はっ」

 

デスクの前にまで進むと、中島さんは私の傍を離れ、デスクの男の後ろに控えた。

 

「……はじめまして、久守詠歌です」

 

警戒しながらも、私は初めにそう挨拶した。男は頷き、口を開いた。

 

「私は赤馬零児。君の事は聞いているよ、非常に優秀な生徒だと」

「ありがとうございます」

「中島から聞いた通り、君を呼んだのは先日のセンターコートの無断使用の件だ」

「……はい」

 

やっぱり人気のセンターコートのジャックって、社長さんが直々に動かなくてならないような事だったんですね……!

などと、単純には考えられない。そんな事でレオ・コーポレーションのトップが動く、なんて。

 

「あの件に関しては私が許可を出した。君や沢渡、それに協力した者たちに罰則を与えるような事はしない。安心していい」

「……はい、ありがとうございます、申し訳ありませんでした」

「謝る必要はない。あのデュエル、私もカメラ越しに見させてもらった。センターコートを使用するに相応しい、素晴らしいデュエルだった」

「っ……!」

 

その言葉に、私は反射的に言葉を発していた

 

「ですよね! 流石沢渡さんっ、いえ、ネオ沢渡さん! と言ってしまうような、素晴らしいデュエルでした! まさに伝説のデュエルショーでっ、いつ思い出しても興奮してしまいます! 私のターンでのアドバンス召喚に始まり、三種類の帝王、合わせて六体も召喚する素晴らしいプレイングで! 間違いなく、私の中で最高で最大のデュエルでした!」

 

ひゃっほう! 社長にまで素晴らしいと言わせるネオ沢渡さんの伝説のデュエルショー、やっぱり今思い出しても最高ですよ最高!

 

「ゴホンッ、少し落ち着きたまえ、社長の前だぞ」

「あ……失礼しました。つい、興奮してしまって」

「気にしないでいい。君の言う通りの素晴らしいデュエルだったと私も思う」

 

クールに眼鏡の位置を直しながら、そう言う赤馬社長。き、気にしなくていいならもっと語ってもいいですかね……!

 

「君に本当に伝えたかったのはセンターコートの件ではなく、別件だ」

「別件……ですか」

 

流石にそんな事を言われては、私も嫌でも冷静にならざるを得ない。

 

「君や沢渡を襲ったエクシーズ召喚を扱うデュエリストの事だ」

「その件でしたら……」

「これはまだ公表していないが、君たちを襲った襲撃犯とLDSの講師を襲った襲撃犯は――別人だ。恐らく犯人は二人、私はそう考えている」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「何をしている! にっくき襲撃犯はあそこだ!」

 

同時刻、舞網の街に沢渡の父の姿があった。

 

「榊遊矢を捕まえるんだ! シンゴと久守くんの仇を取るんだ!」

 

息子の勘違いと、それが解けた事を知らぬまま、父は暴走を続ける。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「あの男とは、別人……どうして、そう思うんですか?」

「最初に襲われた君たちと、次に襲われた講師、それにLDSのチームのメンバーの意見が違うのだよ。彼らは皆、榊遊矢とは似ても似つかない人物だったと、そう証言している」

「! 証言しているという事は、襲われた人たちは無事なんですねっ?」

 

噂では行方不明になったと聞いていましたが、無事なんだ……!

 

「ああ。ただ今は‟昏睡状態にある”。これ以上の情報は分からない」

「昏睡状態……」

 

安堵したのも束の間、告げられたのは厳しい現実だった。そんな……。

 

「……でもどうして、その話を私に……? まだ公表されていないような情報を、何故……」

「今の話を聞いた上で、君に依頼したい。かつて君が沢渡先生の下で働いていた時のように」

「……知っていたんですか」

「心配しなくとも、他言するつもりはない」

「っ……それで、依頼とは」

 

かつての私ならともかく、今はもう、誰からも仕事を受けるつもりはない。沢渡さんと出会い、お父様に普通の学生という立場を与えてもらった私が、もうそんな仕事を受けられるはずがない。けれど、話だけは聞いておかなくてならない。何か、新しい情報が得られるかもしれないから。

 

「君に、二人の襲撃犯の確保を頼みたい」

「……どうして、私に。LDSには制服組が、トップエリートが揃っているはずです。そのチームですら勝てなかったという相手に、ただの学生の私ではどうする事も……」

「君の実力はそのトップチームに匹敵する、私はそう考えている。先日のデュエルでそう確信した」

「ですが、私は沢渡さんに負け、何より襲撃犯本人に負けています」

「それでも、私の君に対する評価は変わらない」

「……」

 

随分と評価してくれているようですが、それでも私の答えは変わらない。

 

「申し訳ありませんが、私には荷が重い話です……お断りさせていただきます」

「そうか――」

「すいません、これで失礼します。今聞いた話は他言しませんので」

 

事実は光津さんにも、伝えられそうにない。病院で待ち続ける辛さは、私も良く知っているから。それなら知らない方がきっといいはずだ、きっと……。

 

「――では、この件は沢渡に依頼するとしよう」

 

頭を下げ、退室しようとした私の足が止まる。

 

「……どうして、沢渡さんに」

「彼もまた襲撃犯と対決し、敗北したものの大きな怪我もなかった。それに先日のデュエルでは君に勝利した程の実力者だ。彼になら君の代わりも任せられる」

「っ……」

 

それは……それは!

 

「時間を取らせてしまってすまなかった。話は以上だ」

「……待って、ください」

 

それだけは、許すわけにはいかない。

 

「榊さんのペンデュラムカードを奪う事に利用した挙句、今度は襲撃犯を捕まえろだなんて……そんな事、許せません」

「……」

「沢渡さんはっ、今、榊さんを倒す為に必死なんです! ようやくペンデュラム召喚っていう、自分のデュエルの可能性を見つけたのにっ、これ以上、あなたたちの勝手でそんな寄り道をさせたくないっ!」

「社長になんて口の利き方を……!」

 

声を荒げた中島さんを、赤馬さんが手で制した。

 

「沢渡の件については謝罪しよう。我々も未知のペンデュラム召喚を知る為、必死だった。彼のお蔭でペンデュラム召喚のデータが揃い、ペンデュラムの研究が進んだ」

「ならそれでいいじゃないですかっ、どうしてまた沢渡さんを……!」

 

必死に言葉を重ねる私を、赤馬さんは冷静に見つめていた。っ……

 

「……分かり、ました。その依頼、私が受けます。ですから沢渡さんにはこれ以上、余計な事を背負わせないでください、これ以上、沢渡さんを利用しないで……!」

「ああ、約束しよう。協力、感謝する」

「……」

 

……また、沢渡さんから離れる事になってしまう。襲撃犯が何時、何処に現れるのか分からない以上、これまでのような生活は送れなくなる……。

 

「襲撃犯の捜索はこれまで通りLDSのチームが行う。襲撃犯を発見次第、君に連絡が行くようにしておく。それまではこれまで通りの生活を続けてくれ」

「え……」

「君はこれまで通り、生活をしてくれればいい。勿論、この事は誰にも話してはならない。だがそれ以外は今までと変わらず、学校に通い、LDSでデュエルの腕を磨いて欲しい」

「それで、いいんですか……?」

「ああ。それが沢渡先生の願いでもあるのだろう?」

「っ、そこまで……いえ、分かりました。改めて、この依頼、お受けします」

 

……この条件なら、お父様の厚意を裏切る事にはならないはずだ。それに僅かとはいえ、光津さんのお手伝いにもなる……沢渡さんにも迷惑が掛かる事はない、なら、受けない理由もない。この人たちが何を考えて私に依頼したのかは分からないけれど、それでも私は私で利用させてもらいます。

 

「ありがとう。詳しい事は後で連絡する」

「分かりました。それでは、失礼します」

 

 

 

「社長の考えた通りでしたね、沢渡の名を出せば彼女は必ず縦に首を振る……お見事です。ですが本当に彼女に襲撃犯の確保を?」

「いや」

 

詠歌が退室した後、赤馬は中島の問いを否定した。

 

「先日の沢渡とのデュエルで検知された召喚反応は融合、エクシーズ共に想定内のエネルギーだった。情報通り、彼女がジュニアユース選手権に出場する意思がないのなら彼女の真の力――あの時検出されたエクシーズ召喚反応、それを見極めるにはこうするべきだと判断した」

「では、襲撃犯の代わりに他の者とデュエルを?」

「襲撃犯の狙いがまだ掴めない……だが、もしも送られてきたティオとマルコの‟魂が封印されたカード”が、私を誘い出す為のものだとすれば……」

 

そこで赤馬は言葉を一度切った。

 

「今はまだ、調査を進める事が先決だ。彼女が戦う相手を決めるのはその後で良い」

「はっ、チームにも調査を急ぐように通達します」

「ああ。全てのデュエリストたちを救う為にも、急ぐんだ」

 

中島も退室し、赤馬一人が部屋に残される。

瞳を閉じ、今交わした詠歌との会話を思い出す。

 

「……やはり彼女は、このままでは諸刃の剣となり兼ねない」

 

沢渡シンゴを慕う、少女。

沢渡シンゴを尊敬する、少女。

沢渡シンゴに――依存する少女、久守詠歌。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「沢渡さん!」

 

下に降り、ロビーへと戻った私は沢渡さんと山部たちの姿を見つけ、駆け出す。

 

「遅え! どんだけ待たせるつもりだ」

「すいません! デッキを変えていたら時間を忘れてしまって……でもどうしてLDSに? 今日はてっきりお休みしているものだと思っていました」

「何処で何をしようが俺の勝手だ」

「そうでしたっ! 急いで紅茶を用意しますねっ!」

「これ以上俺を待たせるなよ」

「はい! すぐに準備します!」

 

「約束したわけじゃないのになんでこの人、こんな偉そうなんだ……」

「それを笑顔で受け入れる久守もどうなんだ……」

「また聞こえたら怒鳴られるぞ、ほっとけ」

 

ひゃっほう! 休日でも沢渡さんの顔を見れるなんて、さっきまでの沈んだ空気なんて吹っ飛びますね!

鼻歌交じりに紅茶を準備して、沢渡さんの所に戻る。

 

「お待たせしました!」

「おう」

 

私も席に着き、紅茶に口をつける沢渡さんを見守る。

 

「……ん、まあ悪くねえ」

「ありがとうございますっ!」

 

やりました!

こうして沢渡さんに紅茶を飲んでもらって、それを褒めてもらう。この日常を続けられるなら、赤馬さんの依頼を受けたのは決して間違いじゃない。

今度こそ、沢渡さんは榊さんに勝つ。それを絶対に見届ける。それが今の私の一番の願いです。その為にも、襲撃犯が二人だろうと百人だろうと、倒してみせる!

 

 

 

 

 

「それでは沢渡さん、今日は私は此処で!」

「ああ」

「山部たちもまたね」

「おう」「また明日な」「気を付けて帰れよ」

「うん。それじゃあ――」

「久守」

「はい!」

 

LDSの玄関前で沢渡さんたちに別れを告げると、沢渡さんが私を呼び止めた。

 

「……お前、入院してただろ」

「……? はい、でも沢渡さんのお蔭で、完全に復活しました!」

「それは分かってる。……ただ、あれだ」

「……?」

「お前が入院してる間、俺はコンビニの紅茶で我慢してたわけだ」

「それは……本当にすいませんでした! でもこれからは毎日、用意して待ってますね! 今日は待たせてしまいましたけど……」

「それは当然だが、前と変わらねえ。それじゃあいつまで経ってもお前が居なかった分の紅茶は取り戻せない」

「うっ……そ、その分今まで以上に美味しくしてみせます!」

「それも当然だ。……だから、明日からは学校でも持って来い」

「……え」

「出来たてじゃないのは気に入らないが、我慢してやる。だから明日からは毎日、昼休みに俺たちの教室に来い」

「……」

 

言葉が出ない。けど、口元が緩むのが止まらない。

山部たちがニヤニヤしながら私を見ているのが分かる。

でも、だって、しょうがないじゃないですか。

 

「――はい! 沢渡さん!」

 

こんな、こんな事を言われて、嬉しくないわけがないじゃないですか。

デュエリストとしてではなく、ただの学生として沢渡さんの傍に居れる、なんて。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ――あっ」

「どうも、お久し振りです」

「いらっしゃいませ!」

 

沢渡さんたちと別れた後、私はいつものケーキ屋に足を運んだ。まだそれほど経っていないはずなのに、随分と久しぶりに感じる。

 

「最近いらっしゃらなかったから、心配してたんですよっ」

「すいません、色々ありまして。でも、また今までのように通わせてもらいますね」

「ありがとうございます! ……でも今日はもう、あまり残っていなくて……」

 

時間も遅い、このお店を利用するのはいつも放課後、学校が終わってすぐや休日の昼間だったので、こんな遅い時間に利用するのは初めてだ。

 

「閉店も近いですからね。でも、お目当てのものは残っていました」

「え?」

「これを、この新作プティングを一つ、いただけますか」

「あ、はい! ありがとうございますっ」

 

すぐに用意を始める店員さんを見ながら、私は切り出した。

 

「ずっと、ずっと考えていたんです。名前」

「すいません、そんなに悩んでもらうなんて……」

「ようやく、決まりました」

「本当ですかっ?」

 

頷く。色々と考えたけれど、これ以上の物は私には思い浮かびそうにない。

 

「他のものとは気色が変わってしまいますけど……」

「いいんです! どんな名前でも、お客さんが考えて下さっただけで!」

「そう、ですか。まあ私が考え付いたわけではないんですが……それでも、私が付けたいと、多くの人に知って、食べてもらいたいと思って考えた名前です。聞いて、もらえますか」

「はい!」

「――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校帰りに以前のようにケーキ屋に足を運んだ。

お店の外に出た看板に、大きく、そして可愛らしい文字が並んでいた。

 

 

『お菓子のお姫さま 【マドルチェ・プディンセス】 発売中!』

 

 

「――いらっしゃいませ!」




現在の時系列はアニメでの18話あたり、クイズ回直前です。
ちなみに前回の話は15話前後、沢渡さんが遊矢に宣戦布告したあたり。
今回でネオ沢渡さん編は終了です。
前回はデュエル構成が酷く、何度も修正する事になってしまいましたが、今回はデュエルがないから安心。はやくTFが発売すればああいうミスも減ると思いたい……今後はもっと注意します。

社長たちをなかったことにすれば綺麗な終わり方だ。初めから予想できた方もいたと思いますが……


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ネオのその先へ 編
沢渡さん、ロマンチストっすよ!


デュエル&沢渡さんの出番なし


放課後の舞網第二中学校、最後の授業を終えたクラスには喧騒が戻る。

開放感から両手を広げ、椅子に体を投げ出す者、何処に遊びに行くかを話し合う者、早々に帰路につく者。それは各々、様々だ。

その中の一人、久守詠歌という少女は誰と話すでもなく、帰り支度を整えていた。

 

「ねえねえ久守さん」

 

そんな少女に、一人の同級生が声を掛けた。

 

「何でしょうか」

「最近、一組の沢渡くんたちと一緒に居るのを見たんだけど、どういう関係なのっ?」

「……関係」

「そうっ、久守さんって物静かで、不思議な組み合わせだと思って。それに最近はお昼休みに一人で何処かに行くようになったじゃない? 柊さん、だっけ。あの子ともいつの間にか仲良くなってたみたいだし」

「柊さんは大切な友人です。一度デュエルをしてから良く話してくれるようになりました」

「へえ……あ、じゃあ沢渡くんも? 彼も確か久守さんと同じ、LDSだよね。やっぱり同じデュエル塾の塾生同士、弾む話もあるんだ」

 

いつも一人だった詠歌を案じていた同級生の少女は仲の良い友人が出来た事に内心で安堵した。なら沢渡もそうなのだろうか、と考えての軽い発言だった。

 

「いいえ、それは違います。以前までならそうだったかもしれませんが、今となってはデュエリストであるなしは関係ありません」

 

すぐさま否定の言葉を返され、しかも詠歌の瞳が輝いている事に気付いた同級生の少女は内心で「……あれ?」と違和感を感じる。しかし、もう手遅れだった。

 

「勿論同じ、いえ私と沢渡さんを同列に語るのは烏滸がましい事ではありますが、同じデュエリストである事は大きな共通点です。ですが今はもうデュエリストである事だけが沢渡さんとの繋がりではありません。カードに関する事だけでなく、今日の授業の内容や最近のテレビ番組など、学生らしい世間話でも沢渡さんの話題は尽きません。それはもう話しているといつも時間を忘れてしまう程です。ああ、勿論これは比喩で沢渡さんと過ごした時間を忘れるなんてある訳がないんですが。そう、忘れるはずありません。ああ、今でも思い出せます。初めて会った時から今日まで、一瞬たりとも忘れてしまった事などありません。惜しむべくは私の記憶に残っているだけで映像画像音声その他が残っていない事ですが……けれど先日のデュエルに限っては赤馬さんにお願いしてカメラの映像を頂きましたのでそれだけで良しとします。たとえそれ以外が形に残っていなくともそれは全て現実に起こった事ですから。むしろだからこそ尊いとも言えます」

 

今まで見た事ない様子で語る詠歌に気圧され、同級生は震えた声で頷くしかなかった。

 

「そ、そうなんだ……」

 

結局、心優しい同級生が解放されたのは他の生徒たちが帰路についてからだった。

それに気付いた詠歌の必死の謝罪に、少女は笑い、「良かった」とだけ言った。同時に彼の話を詠歌に振るのは会話が途切れてしまった時の最終手段にしよう、と誓った。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

思わず、溜め息が出た。

理由は……姿の見えない沢渡さんの事だ。勿論、つい同級生の方に長々と沢渡さんについて語ってしまった事も溜め息の原因ですが……。

沢渡さんはやっぱり最近になって、姿が見えなくなる事が多くなった。何をしているのか聞いても「気にするな」と返されるばかりで、教えてもらえない。

ただ、気になる噂を聞いた。最近レオ・コーポレーションが独自にペンデュラムカードを開発している、という噂だ。そしてそれは単なる噂ではないという事は、アユちゃんから聞いて知っている。

赤馬零児、赤馬さんが遊勝塾でのデュエルで、実際にペンデュラム召喚を行ったと。沢渡さんが時折姿を消す事と、無関係とは思えない。もしかしたら一人でその噂の真偽を確かめているのかも……心配です。けれどそれを止める事もまた、出来ない。沢渡さんがペンデュラム召喚に拘っている事を知っているから。融合にも、シンクロにも、エクシーズにも興味のなかった沢渡さんがようやく見つけた、自分のデュエルの可能性。その可能性をみすみす閉ざすような真似、出来るはずがない。

本音を言えば、私にも話して欲しい。私に協力出来る事があれば、言ってほしい……けど、沢渡さんが何も言わないという事は、自分の手でやると決めたという事だ。ならその意思を無視して、余計な手出しは出来ない。沢渡さんは必ずペンデュラムカードを手に入れる、そう信じて待つ事しか出来ない。

今日は沢渡さんも、山部たちもLDSには来ない。お昼休みに学校で別れた時、そう言っていた。

けれど私の足は自然とLDSに向かっていた。家で一人で居てもやる事がないし、必修の講義はほとんど終えたとはいえ、何か得るものもあるはずだと出来る限り通っている。それに――

 

「あ――」

「――っと、危ないわね。しっかり前を向いて歩きなさいよ」

「……急に飛び出して来たのは光津さんでは?」

「それでもあなたが俯いて歩いていた事に違いはないでしょ。気をつけなさい」

「いやまあ……はい」

 

こうして、友人に会えるからだ。

 

「今日も調査……ですよね」

「ええ」

 

もっとも、光津さんはこうして出会っても中々ゆっくりと話す時間が取れない。

 

「一刻も早く襲撃犯を見つけ出して、マルコ先生の事を訊き出す。ただ待ってなんていられないわ」

「そう、ですよね」

 

赤馬さんの話を信じるなら、光津さんの恩師、融合コースのマルコ先生は……今は昏睡状態にあると言う。赤馬さんには他言しないように念を押されているし、私としても話すべきではないと思っている。不安と疑心の中で待ち続けるより、こうして我武者羅にでも走り回っている方がきっと、苦しくないと思うから。手掛かりが見つからない事の焦りはあるだろう、それでも……いつ目覚めるとも分からない、目覚めるかも分からない人を待ち続けるより、その方がきっと……良いはずだ。

 

「……あまり無理だけはしないで下さい。マルコ先生も、きっとそう言います」

「分かってるわ。……でもあなたにだけは言われたくないわね。沢渡の事で無茶ばかりするあなたには」

「それを言われると……何も言い返せません」

 

素直に頷くと、クスリと光津さんは笑った。

 

「大丈夫、分かってるわよ……でも何もせずにはいられない、この気持ちも、あなたなら分かるでしょ」

「……はい」

「安心しなさい、あなたみたいなヘマはしないわ。マルコ先生を倒した相手に、私一人で勝てるなんて自惚れるつもりもない。いざという時は制服組や刃たちの力も借りるわ」

「その時は私も頼ってください」

「それは嫌」

「……」

「そんな顔しないでよ。……その気持ちだけで十分よ。あなたは襲撃犯の事なんて忘れて、普通に生活してればいいの。また入院したくないでしょ」

「……分かりました。でも、本当にいざという時は無視してでも力を貸します。押し付けますから」

「……あっそ。好きにしなさい。まったく、可愛くない子」

 

互いに譲らなかったけれど、最後には二人でクスリと笑い合った。

 

「頑固なのはお互い様ですね」

「ふん……それじゃ、私は行くわね」

「はい。気を付けて」

「ええ」

 

走り去る光津さんを見送る。沢渡さんが襲われ、我を忘れて襲撃犯にデュエルを申し込んだ私と違って、光津さんは冷静な判断が出来る人だ。やはり私は子供だったと、改めて思い知らされる。

考えなきゃいけない事は色々あるけれど、今は待つしかない。沢渡さんの事も、赤馬さんからの依頼の事も。

とりあえずはLDSに行こう。光津さんが一人だったということは、刀堂さんたちは多分LDSに居るはずだ。

 

「久守ッ!」

 

そう考え、今度は顔を上げて歩き始めた私を呼び止める声があった。

 

「……権現坂さん?」

 

声のした方を見れば、見慣れた制服にタスキを巻いた、権現坂さんの姿が。

 

「級友として、この男権現坂の頼みを聞いて欲しい!」

「……はい?」

 

 

 

権現坂さんと共に、LDSの門を潜る。

 

「大丈夫だとは思いますが、最近は事件のせいで事務局も神経質になっているので、私から離れないでください」

「ああ。事件と言うと……やはりあれか」

「はい。沢渡さんの事件に始まり、まだ続いています」

「むう……許せん! 同じデュエリストとして、闇討ちなど嘆かわしい! ……だが元気そうで安心したぞ、遊矢や柚子から退院したとは聞いていたが、直接話す機会がなかったのでな」

「はい、お蔭さまで。学校ではクラスが違いますし、最近はずっと沢渡さんたちと一緒に居ますから仕方ありません。心配して下さってありがとうございます」

「うむ。本来なら学校で一声掛けようと思っていたのだが、あまりにも楽しげだったのでな」

「気を遣わせてしまってすいません」

 

やっぱり楽しいですオーラが出ていましたか……えへへ。

けれどそれで気を遣わせてしまったのは申し訳ないですね。以前ならともかく、今の私はそこまで狭量ではありません。気にせずに話しかけてくれてよかったのですが。

 

「っと、すぐに見つかりましたね」

 

LDSの中に入ってすぐ、メインモニターの前に立っている二人――刀堂さんと志島さんが目に入った。

 

「おはようございます、刀堂さん、志島さん」

 

話し込んでいた二人に近づき、挨拶する。

 

「ん、よお、くも――りぃ!?」

 

私に気付き、振り向いた刀堂さんが急に大きな声を上げた。

 

「急に大声を上げないでください、驚きました」

「驚いたのはこっちだっつの! お前の声がしたと思ったら大男が――って、お前は……」

 

竹刀を抜き、警戒するように飛び退いた刀堂さんが、権現坂さんに気付く。

 

「遊勝塾のフルモンスター……?」

「その言い方は凄い失礼に聞こえますよ、志島さん。この方は、」

「権現坂道場の権現坂昇と申す……刀堂刃殿!」

「な、なんだよ!? あれかッ? 今度こそ決着を着けようって乗り込んで来やがったのか! この俺と!」

 

竹刀を向け、威嚇する刀堂さんと熱いオーラを放ちながら刀堂さんを見下ろす権現坂さん。……その二人に挟まれた私。物凄く居心地が悪いです。

 

「落ち着いてください、二人とも。……とりあえず、場所を移しましょう。此処では必要以上に注目を集めてしまいますし」

 

二人の間から抜けて、そう進言する。権現坂さんの放つオーラと竹刀を今にも振り回しそうな刀堂さんのおかげでもう随分と目立ってしまっている。これでは話も上手く出来ない。

 

「むぅ……面目ない。この男権現坂、つい気が逸ってしまったようだ」

「あ、ああ……とりあえず、お礼参りってわけじゃねえんだな……?」

「違いますよ。二階に喫茶店があります、詳しい話はそこで話したらどうでしょう」

「おう……」

「ああ。やはり久守に頼んで正解だった。俺ではそこまで気が回らず、この場で頼み込んでいただろう」

 

今の様子だと、本当にそうしていそうですね……。

 

 

 

私たちは二階に上がり、喫茶店LDS Caffeに入る。実はLDSの生徒でありながら、ほとんど利用した事がありません。

 

「それでは、詳しい話は権現坂さんが直接」

「ああ。すまないな、久守」

「刀堂さん、そう警戒しないで話を聞いてあげてくださいね」

「分かってるっつーの。つーかお前は一緒じゃねえのか」

「話が終わるまでは志島さんと別の席で待っていますから」

 

権現坂さんが刀堂さんにする頼み事については本人から聞いています。けれど、だからといって同席するのは少し気後れしてしまう。これは権現坂さんが真剣に考えて出して結論なのだろうから。

 

「いきましょうか、志島さん」

「ああ……ってそれなら僕まで一緒に来る事なかったんじゃないか?」

「まあそう言わずに、お茶しましょう」

 

もしもこのお店の紅茶が私よりも遥かに美味しかったりしたらさらに精進しなくてはなりませんし、私だけでなく志島さんの感想も聞きたいので。

 

「……なんだか君、以前よりも強引さが増してないか?」

「最近気付いたんですが、私、意外とお喋り好きだったみたいです」

「……それは今更だろう」

 

そうじゃないですよ。沢渡さんの事だけじゃなく、それ以外でも、です。でも確かに気付くのが遅かったですね。

 

「しかし同じ学校とはいえ、あの彼とも繋がりがあったとはね」

 

刀堂さんたちとは離れた席につき、注文を終えると志島さんがそう口にした。

 

「同級生ですから」

「って事は、こないだのデュエルも知ってるわけだ」

「遊勝塾を賭けた試合の事なら、少し前に聞きましたよ」

「……そうかい」

 

退院してから何度か話す機会はありましたが、志島さんも刀堂さんも、その件については触れなかった。隠していた、という程ではないでしょうが、知られたくなかったのだろう。

 

「志島さんが通算40勝を逃した事も」

「ぐっ……」

 

志島さんは顔を歪ませる。やはり触れられたくなかったようだ。

 

「お互い、負けていられませんね」

 

権現坂さんを見て、その思いはさらに強くなった。

 

「一度の勝負が全てではない。でも、私も沢渡さんに勝てませんでした」

「あれは君も本調子じゃなかっただろう。でなきゃ、僕たちに勝った君が沢渡なんかに……いや、何でもない」

「そうですか」

 

思わず睨むように志島さんを見てしまった。

 

「調子で言えば、あの時の私は今までにない、最高のコンディションでしたよ。勝ちたい、その一心でした。でも勝てなかった」

「……」

「その時の気持ちは今でも変わりません。沢渡さんに勝ちたい、沢渡さんより強くなりたい。あの人を今度こそ守れるように、もっと強く」

「僕も同じさ。いいや、強くなる。君に負けないぐらい、榊遊矢に負けないぐらい、あの三番勝負、僕は唯一の黒星だ。ジュニアユース選手権優勝最有力候補、なんて言われておいてあのザマ。このまま終われるわけがない」

 

志島さんの言葉を聞いて、改めて私は今まで弱かったと思い知る。勝ちたい、強くなりたい、その思いが私には足りなかった。けど今は違う。私も志島さんや権現坂さんと同じ、もっと強くなりたい、そう心から思う。

 

「ええ。お互いに頑張りましょう」

 

注文した紅茶が運ばれて来る。私の下にはキーマンが、志島さんの下にはカンヤムが。どちらもストレートティーだ。

 

「……ああ」

 

紅茶を受け取りながら、少し困ったように頷く志島さんに私は気になっていた事を尋ねる事にした。

 

「……もしかしてまだ私の事、苦手だったりするんでしょうか」

 

光津さんや刀堂さんと同じく、志島さんも友人だと思っていたんですが……私の勝手だったでしょうか。

 

「え、ああいや、そんな事はないさ。あの敗北は確かに堪えたけど、今は気にしてない。勿論いつか借りは返させてもらうけどね。ただ、君はジュニアユース選手権には出ないんだろう?」

「はい。公式戦は50戦には程遠いですし、今回は沢渡さんと、皆さんの応援に専念します」

 

選手権の出場資格は公式戦50戦以上且つ勝率6割以上が条件。今からではとても間に合わない。

 

「けど君なら今からでも無敗の6連勝で資格を得る事も出来るんじゃないか? 公式戦は僕との試合だけでも、後5試合くらいならどうにか――」

「いいえ。私の公式戦の記録は2戦1勝1敗ですよ。それに、今から公式戦の相手を探しても中々見つかりません。既に出場資格を得ている人は当然勝率を下げる危険は冒したくないでしょうし、得られていない人もわざわざ他人の出場資格の為に公式戦を受けようという方は中々見つけられないでしょうから」

「……な、なあまさかその1敗って」

「ええ、先日の沢渡さんとのデュエルです」

 

私が答えると、志島さんは驚きからか固まった。

今言った通り、先日の沢渡さんとのデュエル、私の知らない内に沢渡さんが公式戦としてセッティングしていた。それに志島さんが驚くのも無理はない。

 

「……僕は今、初めて少しだけ、ほんの少しだけ沢渡の奴を見直したよ。そう簡単に出来る事じゃない。僕だって君に借りを返すとは言ったものの、今の時期に君と公式戦ではやり合いたくない」

 

志島さんの言う事は最もだ。勝率が6割を超えていて、仮に1敗したところでそれを下回る事がなくとも、この時期に勝率を下げても良い事はない。

選手権前の最後の試合結果が敗北で終わっていれば、対戦相手に嘗められる事になり兼ねない。それはデュエリストとして耐えがたい屈辱だ。それに勝率は参加人数によってはシード権の獲得にも影響すると言うし、普通なら参加資格を得た時点で公式戦は控える。今から探すとなれば街中を探し回るか、相当の人脈や情報網を持った誰かに探してもらうしかない。

けれど沢渡さんはそれでも、私とのデュエルを公式戦とした。きっとそれは絶対の自信があったからだろう。でも……

 

――『お前にとってはこのデュエル、忘れられないものかもしれないが、俺にとっちゃこんなのはすぐに忘れちまう程度のもんだ』

 

もしも、あえて公式の記録として残してくれたのだとしたら……なんて、考えてしまうのはロマンチストだろうか。

 

「君の言う通り一度の勝負で実力が決まるわけじゃない。だが沢渡が僕に勝った君を倒した、それは事実だ。……その点も、素直に賞賛するよ」

「その言葉を聞けて嬉しいです。でも、それは本人に言ってあげてください。沢渡さんは他人からの賛辞は素直に受け止める人ですから」

「それは断る」

「……むぅ」

 

無碍もなく断られ、つい頬を膨らませてしまう。

 

「君やあの3人みたいな太鼓持ちが居るのに、これ以上沢渡を持ち上げても仕方ないだろう」

「そんなつもりはないのですが……」

 

私はただ純然たる事実を言っているだけですので。

 

「っと、向こうの話は終わったみたいだね」

 

その言葉に振り向くと、反対方向の席で刀堂さんが手を上げ、権現坂さんもこちらを見ていた。

 

「移動しましょうか」

「ああ」

 

丁度一杯目も飲み終わった所ですし。

店員さんを呼び止め、席を移動する事を伝えてから席を立つ。

 

 

 

「何の話かは知らないが、話はまとまったのかい?」

「まあな」

「本当に感謝する、刃殿」

 

志島さんが刀堂さんの隣に、私は権現坂さんの隣の席につく。次はどの銘柄にしましょうか。

 

「……って、何だよ、興味なさげだな」

「あ……いえ、すいません。デュエルは勿論ですがこちらの方も精進しなくてはと」

「熱心だな、おい……」

 

私にとってはこちらも重要なので……とりあえず追加の注文を頼み、改めて刀堂さんの方を向き直る。

 

「それで、一体何の話だったんだ?」

「ああ、それが――」

「それは俺の口から説明させて頂こう。実はこの男権現坂、刃殿を男と見込んでとある頼み事をしに参ったのだ。しかし急に押し掛けるのも不躾と思い、久守に仲介を頼んでな」

「私は特に何もしていませんから、気になさらないでください」

 

権現坂さんが私に畏まった視線を向けるが、本当に大した事はしていないので反応に困ってしまう。

 

「LDSの、しかも遊勝塾を賭けて直接戦った刃に頼み事だって?」

「うむ。いや、直接デュエルをした相手だからこそ、刃殿を置いて他には居ないと考えたのだ。我が権現坂道場が唱える――否、俺の不動のデュエル、その新たな進化の為に教えを乞う相手は」

 

再び権現坂さんが燃えるようなオーラを発しながら、そう口にした。

 

「それってつまり……刃にシンクロ召喚を?」

 

権現坂さんは頷き、胸の前で拳を握り締めた。

 

「あのデュエル、引き分けとなるその瞬間まで刃殿は勝利への執念を捨てなかった。だが俺は追い込まれ、心の何処かで引き分けという結果を良しとしてしまった……! 勝利への執念が、渇望が、俺には足りなかったのだ……!」

「ふん……だが俺も、結局はこいつに、権現坂に引き分けに持ち込まれちまった。お前に偉そうに説教しておきながらな」

「私とは事情が違います。柊さんとのデュエルでは私には勝利への執念なんてありませんでした。それどころか目の前の柊さんから目を逸らしていた。LDSの生徒である以前に、それはデュエリストとして有るまじき事だと思っています」

 

今度は刀堂さんが私に視線を向け、歯痒そうに言う。私が柊さんとのデュエルを悔み続けていたように、刀堂さんも未だに私へと言い放った自分の言葉を気にしていた。

 

「話を切ってしまいすいません、権現坂さん」

「いや。俺も柚子からそのデュエルについては聞いている。柚子も悔やんでいたからな、そのような結果に終わった事を。柚子もまた新たな一歩を踏み出そうとしているとも聞いている。俺も刃殿の下でその一歩を踏み出したいと思ったのだ」

「それで、その様子だと受けたんだね?」

「ああ。……ま、こいつの覚悟を聞いちまったらな」

「覚悟?」「ですか?」

 

それは私も聞いていない。私はただ、シンクロ召喚を刀堂さんに習う為に、刀堂さんの所に連れて行って欲しいと頼まれただけだ。

 

「ジュニアユース選手権まで残り僅か、だが参加資格の年間勝率6割を達成するには俺は後一勝しなければならない。俺はその相手に、遊矢を指名した。遊矢のプロデューサーをしているニコ・スマイリーに頼み込んでな」

「なッ――」

「そこまでの覚悟で……」

 

私も志島さんも言葉が出ない。

 

「き、君は榊遊矢の親友なんだろうっ? しかも部外者でありながらあの勝負、しかも大将戦に参加するぐらい彼にも信頼された……」

「親友だからこそ、情けを捨てて全力で倒すッ。遊矢も年間勝率6割まで後2勝、次の試合で遊矢が勝てば、その次の相手はこの男権現坂が務める、そう決めた。他者からの挑戦も全て断っている」

 

……これが、権現坂さんの覚悟。そして榊さんへの信頼の証。権現坂さんは榊さんが必ず勝つと信じている。信じて、待っているんだ。自分を追い込み、さらなる高みを目指しながら。私が沢渡さんへと向ける絶対の信頼とも、柊さんや光津さんたち、友人に対して向ける信頼とも違う、権現坂さんの榊さんに対する信頼の証。

 

「そんな覚悟を見せられちゃ、俺も男として頷かないわけにはいかねえだろ」

「……成程、似た者同士だったわけだ、君たちは」

「はあ!? 俺が、こいつとか!?」

「……ふふ、そうかもしれませんね」

 

自分に厳しく、義理堅く、情に厚い、けれど勝負に情けは掛けない。確かに二人は似ている。

納得いかなそうに文句を言う刀堂さんと裏腹に、私たちはクスクスと笑う。権現坂さんの性格のおかげもあるけれど、一度は争い合った者同士がこうして笑いあえる。それはきっと、とても幸せな事だ――そんな穏やかな時間は、唐突に終わりを告げた。

 

「っ――刃」

「何だよ……」

「そろそろ時間じゃないか?」

 

志島さんがデュエルディスクに目を落とした後、刀堂さんに声を掛ける。

 

「はあ? 時間って何の――いや、そうだったな。こうしちゃいられねえ」

「まさか何か予定が……? そうとは知らず、押し掛けてしまうとは……配慮が足りていなかった。申し訳ない、刃殿」

「気にすんな、大した事じゃねえよ」

 

手をひらひらと振りながら、刀堂さんと志島さんは立ち上がった。

 

「久守から俺のコード聞いといてくれ。後で連絡する」

「承知した」

「つーわけで久守、そいつの事を頼んだ。俺も北斗も野暮用があってな」

「まさか……」

「お前が考えてるような事じゃねえから心配すんなって」

「行くぞ、刃」

「おう。それじゃあな!」

「あ――」

 

口調は軽かったが、それ以上私が声を掛ける前に慌ただしく二人は喫茶店から走り去った。

 

「行ってしまったか……どうした、久守? 浮かない顔だが」

「いえ……考えすぎ、でしょうか」

 

もしかしたら襲撃犯に関する何かかもしれない、と思ったけれど制服組も見つけられていない襲撃犯がそう簡単に見つかるとは思えない……本当にただの用事、なのだろう。

それに身体能力で刀堂さんたちに遠く及ばない私では、今から追いかける事も出来はしない。

 

「……とりあえず、刀堂さんの連絡先を教えておきますね」

「ああ、感謝する。俺のコードも教えておこう。もし会う事があれば刃殿に伝えておいてくれ」

「分かりました。ところで」

「? どうした?」

「……此処の支払いは折半でいいでしょうか」

 

お金に困っているわけではないですが、無駄遣いは禁物です。デッキを変更して、少しばかり入用だったので猶更。

 

 

 

 

 

『襲撃犯を見つけた! LDSにも連絡してっ、出来るだけ大勢を寄越してって!』

「了解ッ、今刃が連絡してる!」

「――そうですっ、港近くの倉庫街にッ」

 

詠歌の懸念通り、北斗と刃は真澄から襲撃犯を見つけたという連絡を受け、現場に向かっていた。

 

「連絡は入れた! すぐ来るってよ!」

「僕らも急ぐぞ!」

「おう!」

 

真澄とは違い彼らにとって、襲われたLDSの講師、マルコは数居る講師の一人に過ぎない。けれどそれでもこうして息を切らせて走るのは、友人にとってマルコが誰よりも尊敬する人だからだ。

彼らが詠歌に襲撃犯の事を告げなかったのは、あの日、病室で怯えるように己を抱く彼女を見たからだ。

友人の為、彼らは走る。走る事が出来る。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「社長ッ、生徒から事務局に港近くで襲撃犯を見つけたと連絡が!」

「ああ、聞いている。すぐにチームを向かわせろ」

「はっ、既に手配しています」

 

LDS、最上階の執務室。

刃からの連絡を受けた事を中島は報告していた。そしてもう一つ、尋ねるべき事があった。

 

「久守詠歌にはどういたしますか」

「……まだ連絡は控えろ。報告を受けた地点ならば、すぐにチームも到着する。もし発見した生徒が襲われ、カードに封印されたとしてもその間にチームの包囲が完了するだろう。仮に逃げたとしてもその生徒は沢渡と彼女に続く、新たな証言者となる。そこから何か情報も得られるはずだ」

「分かりました」

 

冷静に、冷酷に、焦る事なく赤馬零児は状況を分析し、指示を出す。その指示は間違ってはいない。結果、赤馬零児は光津真澄から齎された新たな情報から、襲撃犯の真の狙いに気付く。

 

久守詠歌に彼から指示が下るのは、数日後の事になる。だがその頃には全てが遅かった。

久守詠歌にとっても、光津真澄にとっても、刀堂刃にとっても、志島北斗にとっても――沢渡シンゴにとっても、遅すぎた。

――別れが近づいていた。




アニメでも沢渡さんの出番がない時期の話なのでサクサクと進めます。


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さようなら、沢渡さん

サブタイ通り(二回目)
ネフィリムが禁止になった2015/4の禁止制限について活動報告を更新しています。


『では襲撃犯の一人は遊勝塾の生徒を誰かと勘違いしていたんだね?』

『はい……柊柚子を見て瑠璃だとか、瑠璃を助けるにはこうするしかないとかって……その後、現れたもう一人の男に気絶させられて……消えたんです』

『消えた……か』

『本当ですっ、本当に私の目の前で消えたんです! 私はあの男から目を離さなかった!』

 

 

 

「どう思いますか、社長」

 

LDSの一室に光津真澄、刀堂刃、志島北斗は居た。

其処で光津真澄は制服組に必死に自らが見た光景を訴える。

それをモニター越しに見つめる、二人の影。赤馬零児と中島。

 

「彼女はああ言っていますが人が消えるなどと……」

「彼女はカードに封印されたマルコを尊敬していたのだろう。なら嘘を吐く必要はないはずだ。それに重要なのは襲撃犯が消えたかどうかよりも、瑠璃という名だ」

「柊柚子と見間違えていた、と言っていますが……」

「彼女の証言が真実なら、襲撃犯の一人は瑠璃という少女を救う為にLDSを襲っている。私の下にマルコとティオが封印されたカードを送って来たのも、そちらだろう」

 

これで辻褄が合う。最初の事件、沢渡を襲った黒マスクの男は『アカデミア』という言葉を、光津真澄が発見した、マルコたちを襲った男は『瑠璃』という名前を出した。

沢渡たちを襲った黒マスクの男は調査の為に沢渡を襲った。だがマルコたちを襲い、カードに封印した男は調査とは別の、明確な目的と手段を以て行動している。

 

「ならば襲撃犯の狙いは……私か」

 

赤馬零児は僅かな情報から、真実に辿り着く。そして同時に自らが選ぶべき行動も見えた。

 

 

『私は襲撃犯の顔をこの目で見ました! 私にも協力させてください!』

『僕たちにも協力させてください!』

『俺、いや僕らだって特別コースで学んだデュエリストです! 邪魔にはなりません!』

『北斗、刃……』

 

 

「馬鹿な、これ以上スクールの生徒を使うなんて……」

「いや、丁度いい。彼女たちにも協力してもらおう。彼女の言う通り、もう一人の襲撃犯の顔を見ているのは彼女だけだ」

「ですが彼女たちは生徒、しかも久守詠歌に敗北しているんですよっ?」

「構わない。これ以上の被害が出る前に、襲撃犯と接触する。それが最優先だ」

「……了解しました」

 

 

少女たちの未来が、大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

「沢渡の件はどういたしますか」

「彼の望む通り、ペンデュラムカードを渡してやれ。既にテストはクリアしている。後は実戦に耐えうるかどうかだけだ」

「はっ」

 

 

そして彼の運命もまた、動き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「聞いた通りよ。襲撃犯の顔を知っている私が囮として街を歩く。制服組は私が見つけ次第すぐに動けるようLDSで待機してくれる。北斗たちも私が呼んだらすぐに来れるようにしておいて」

「ああ。 襲撃犯の特徴は? 僕も街を捜す、もしその特徴と一致する奴が居たら真澄に連絡する」

「丁度いいな。なら俺は街の外、人気のない所に行く。あの倉庫の周りにはもう近づかねえだろうしな。山の中かどっかに隠れてる可能性もあるだろ」

 

二人の提案に真澄は頷いた。

 

「分かったわ。あの男の特徴は――!?」

「……見つけました」

「く、久守……」

 

しかし男の特徴を告げる直前、突然背後から掛かった声に思わず身構える。

そこに居たのは、久守詠歌だった。

 

「や、やあ奇遇だね……」

「此処はLDSで、私も生徒なんですが」

「そ、そうだったわね」

 

……何でそんなに余所余所しい態度なのでしょうか。

 

「刀堂さん、権現坂さんの連絡先です。早く連絡してあげてください」

「ああ、悪い……」

「権現坂、ってあの時刃とデュエルした奴よね。なんでそいつの連絡先なんか?」

「ん、まあ色々あってな」

「刃の弟子になったんだよ」

「弟子……?」

「時間もありませんから、早く教えてあげてくださいね、師匠」

「茶化すなよ……分かってるって」

 

権現坂さんから教わったコードを刀堂さんに伝える。これで後は二人次第だ。大会まで間に合うのかどうか、そして大会に出られるのかどうか。榊さんの三戦目のデュエルももうすぐだそうですし。

 

「んじゃ、俺は行くわ。心配しなくても自分の仕事はきっちりやっからよ。何かあったら連絡してくれ」

「あっ、刃!」

「行かせてやってくれ。刃もやる気になってるのさ」

「……分かったわよ。私たちも行くわよ、北斗」

「また調査に?」

「ええ」

「……気を付けて下さい」

「分かってるわ。あなたも、遅くならない内に帰りなさい」

「……」

 

私の心配より、自分の心配をしてほしいです。

まるで逃げるように走り去る光津さんたちを見送りながら、そう思った。

 

 

「……何ボーっとしてんだ」

「沢渡さん!」

 

そんな事を考えていたからだろう、いつの間にか私の背後に立っていた沢渡さんに気付けなかったのは。

 

「いらしてたんですね!」

「ああ。それで、どうしたわけ? こんな所に突っ立って」

「いえ、光津さんたちを見送っていただけですっ」

「例の襲撃犯の調査か。飽きないね、あいつらも」

 

少しだけ呆れたように沢渡さんが言う。

 

「沢渡さんは気にならないんですか? あの、榊さんに似たデュエリストの事」

「もう一度俺の目の前に現れたら相手してやるさ。けど、わざわざこの俺が捜してやる理由はない」

 

やはり沢渡さんにとって今、一番の目的は榊さんへのリベンジのようだ。うん、その方がいい。沢渡さんには前だけを見ていてもらいたい。それ以外の余計なものなんて、全部無視して進んでほしい。

 

「そういうお前はどうなんだ」

 

ぶっきらぼうに私に尋ねる沢渡さんだけど、私の身を案じて言っている事は伝わって来る。だから、私の答えは決まっていた。

 

「私も同じです。また私の前に現れたら相手をしてあげますっ」

「はっ、言うようになったじゃねえか」

 

こんな冗談めかしに言えるのも沢渡さんや皆のお蔭だ。私はもう大丈夫。もう、見失ったりしない。……もしもまた沢渡さんを笑う様な事があれば今度こそ許しませんが。

もう、彼に私怨はない。戦う理由は赤馬さんからの依頼と、何より大切な友人の為だからだ。

 

「それで沢渡さん、今日は――」

 

私がこの後の予定を尋ねようとした時だった。

 

「すまない、少しいいかな」

「ん? ……中島さん?」

 

私たちの背後から音もなく近づいていた中島さんが声を掛けて来たのは。

 

「……何か、御用ですか」

 

依頼の件だろうか。それなら場を変えて、その意味を込めて現れた中島さんに視線を向ける。

 

「ああ。沢渡、君に話がある」

 

しかし、中島さんが呼んだのは沢渡さんの名だった。

 

「俺に? ……へえ」

 

何か心当たりがあるのか、沢渡さんは笑みを浮かべた。

 

「ご指名なんでな。久守、お前は適当に講義を受けて帰れ」

「え……それなら沢渡さんを待って……」

「気にすんな。俺は俺でやる事が出来た」

 

私の申し出は沢渡さんにあっさりと却下される。

 

「ならついてきてくれ」

「はいよ。それじゃあな久守」

 

中島さんに促され、沢渡さんは私に後ろ向きに手を上げて去って行った。

……沢渡さん。

光津さんも志島さんも刀堂さんも、皆去って行ってしまった。大伴たちも今日はLDSには来ない。一人ぼっちになってしまった。

……ま! 今の私にとっては一人でも問題ありません! 私たちは固い絆で結ばれた友達ですからね! せいぜい物凄く寂しくて心細いだけです!

が、そんな時の為のデュエルです! 今日の講義は張り切って頑張ります!

 

「……あ、今日は座学だけ……」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

その夜、沢渡さんからメールが来た。

 

『また暫くLDSには行かない。もう一度デッキを組み直す』

 

簡潔で、けれど強い意志の籠ったメール。

分かってはいた。榊さんに勝つ為に組み上げたデッキはあの黒マスクの男に敗れた。それに改良を施し、私を倒したデッキでもまだ沢渡さんは満足していないという事は。

けれどどうして今、なんでしょうか……私とのデュエルが終わってすぐではなく、何故……。

 

LDSがペンデュラムカードを独自に開発しているという噂。そして今日現れた中島さん。……やはり関係があるのでしょうか。

 

「考えても分からない、ですけど」

 

ベッドの上で沢渡さんからのメールを何度も読み返し、文を指でなぞる。それで何かが分かるわけでもない。

デュエルディスクを置いて、エクストラデッキを取り出してベッドに並べる。

紫、白、黒、3色のカードたちが輝いていた。

紫。私がこの世界にやって来た時に得た、シャドールたち。

黒。私と共にこの世界にやって来た、マドルチェたち。

そして白。刀堂さんから頂いた、この世界で私が手に入れたカード。

 

「……少しだけ、選手権に出られないのが残念かな」

 

この子たちと舞台に上がれないのが、少しだけ残念。

デュエルとカードに対する恐怖はもうない。むしろ、もっともっとデュエルがしたい。少しでも沢渡さんに近づけるように、沢渡さんに負けないくらい、強くなって、もう一度デュエルがしたい。

 

「大会には出られないけど、力を貸して。……友達を助ける為に」

 

マルコ先生たちを昏睡状態に追いやった襲撃犯を倒す為に。

 

「沢渡さんも頑張っているんです、私も頑張らないとっ」

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

メールを打ち終え、沢渡はベッドに体を投げ出した。

デッキをディスクから取り出し、眼前に掲げる。

 

「こいつで俺は榊遊矢に勝つ」

 

一番上に輝く、‟二色”のカード。それを眺め、笑みを浮かべる。

かつて一度は手にし、しかし奪い返されたモノが今の沢渡の手にはある。

 

「榊遊矢、首を洗って待っていやがれ。この俺の伝説のリベンジデュエルをな……!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

数日後

 

「…………」

 

「……な、なあ、柚子、あれって」

「何も言わないで……言わないであげて」

 

榊遊矢のジュニアユース選手権出場を賭けた四戦、その三戦目、方中ミエルとの試合を彼が終えた後、遊矢の勝利を喜ぶ遊勝塾の面々は偶然、街のベンチに座り込む久守詠歌の姿を見つけた。

 

「……沢渡さん、ああ沢渡さん、沢渡さん」

 

「……な、何か詠み始めたぞ」

「季語が入ってないわね……」

「いやそこじゃないだろ……」

 

ベンチに座り意味不明な一句を詠む詠歌を遊矢たちは少し離れた所から見守っていた。

 

「詠歌お姉ちゃん……」

「滅茶苦茶落ち込んでるぜ、何かあったのかな?」

「うーん、デュエルでスランプとかかな?」

 

今の妄言が聞こえなかったのか、見守りながら何が原因なのかと首を傾げるフトシとタツヤを他所に、彼らの中では最も詠歌の事を理解しているアユと柚子は内心で呟いた。

 

((また沢渡か……))

 

しかしながら、あの状態の詠歌に話しかけるのは中々勇気がいる、だが見てしまった以上無視することも出来ない。アユと柚子は視線を交わし、頷くと意を決して詠歌に近づこうとした。

 

「ねえねえくもりん、こんな所で何してるの?」

 

が、それよりも早くいつの間にかキャンディーを咥えた少年、紫雲院素良が臆する事もなく近づき、自然な調子で声を掛けていた。

 

「くもりん……そう言うあなたはさわたりん、なんて…………って、あっ、え、と、素良さん……?」

 

顔を上げ、虚ろな目でそんな事を呟いて二ヘラと笑った後、漸く詠歌は正気に戻り、素良に気付いた。

 

「うん、久しぶり、くもりん」

「あ、はい。お久しぶりです、素良さん」

 

……随分とボーっとしていたみたいです。気付けば夕方、素良さんに話しかけられるまで意識が飛んでました。

ええと、今日は講義もないし、沢渡さんも相変わらずLDSに来ないので、例の襲撃犯を捜しに街を歩いていた(勿論、光津さんにバレたら怒られるので隠れて)んでした……が、いつの間にかこんな時間になっていた。うぅ、いけませんね、沢渡さんも頑張っているのに。

 

「あっ、それに柊さんたちも……」

「え、ええ。こんにちは、久守さん」

 

視線を動かすと何故か引きつった笑みを浮かべる柊さんたちが近づいて来ていた。

 

「こんにちは、詠歌お姉ちゃん!」

「はい、こんにちは、アユちゃん」

 

あのお見舞いの後も何度か顔を合わせているし、アユちゃんとの関係は良好です。

 

「今日は皆さんお揃いなんですね。何かあったんですか?」

「へっへへーん、今日は僕のジュニアユース選手権出場決定を祝して大パーティー!」

「って、まだ早い!」

 

笑顔と大きな手振りで喜びを表した素良さんを榊さんが窘める。

 

「俺は後一戦残ってるんだ。祝うのはそれが終わってからっ」

「後一戦……」

「ん、ああ。たった今試合を終えてさ。後一勝すれば俺も勝率六割達成で選手権の出場資格を満たせるんだ」

 

……あれから刀堂さんから権現坂さんの詳しい話は聞いていない。けれど、榊さんが後一勝まで来たという事は……その時が迫っているという事だ。

 

「そういや、LDSの刀堂刃が妙な事を言ってたんだよなあ……」

「……榊さん、頑張ってください。応援しています……どちらの事も」

「え? ああ、うん。ありがとな」

 

榊さんに勝ってもらいたい、勝って、沢渡さんと大会でデュエルをしてもらいたい。けれど、刀堂さんに師事している権現坂さんの事も……。どちらにせよ、それを決めるのは二人のデュエルだ。私が口を出して何かが変わるわけでもない。素直に二人を応援しよう。

 

「……」

「……? 柊さん?」

「えっ? あ、ううん、何でもないの。気にしないで」

 

心此処に在らず、と言うように考え込むような表情を見せた柊さんが気になり名前を呼ぶが、慌てたように手を振って柊さんは誤魔化した。私も人の事は言えないのでそれ以上追及する事はしない。

 

 

(……『君にこのカードは似合わない』、か……)

 

 

柚子の心に過るのは黒マスクをした、遊矢に良く似た少年の言葉。つい先ほど、方中ミエルとのデュエルで遊矢の融合召喚を見たからか、彼に言われた言葉が頭から離れなかった。

 

 

「それより久守さんも一緒にどう? パーティーはまだだけど、せっかくだから何か食べに行かない?」

「あっ、それいい!」

「僕もさんせーい!」

 

柊さんの提案にアユちゃんと素良さんは仲良く手を上げ賛同する。……私も賛成です。

 

「はい、それなら是非。行き詰っていた所ですから」

「決まりね、遊矢たちもいいでしょ?」

「ああ。次の試合に向けて英気を養わないとな」

「うん、僕も賛成」

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 

榊さんたちも頷くと、フトシくんが先導し、歩き始めた。こんな大人数で出掛けるなんて初めてです。少し前までは沢渡さんと山部たちとずっと一緒でしたから。

 

「何処にし――――あっ」

 

私もそれに続こうとした時、柊さんが声を上げた。私を含め、皆が柊さんを見る。

 

「っ!」

「あっ、何処行くの柚子姉ちゃんっ?」

「ごめんっ、ちょっと用事思い出して! 私の事は気にしないで!」

 

タツヤくんの問い掛けにそれだけ返し、柊さんは走り去って行った。……なんだろう、何か……嫌な予感がする。

 

「…………すいません、私もやはり用事を済ませたいと思います。また、よかったら今度は榊さんたちの出場決定パーティーの時に誘ってください。ささやかですが紅茶とケーキをご馳走しますから」

「あっ、詠歌お姉ちゃんまでっ?」

 

私もそれだけ伝えて、柊さんが走り去った方へ足を向けた。

 

「本当!? 約束だからねー! くもりーん!」

「はいっ!」

 

素良さんに手を上げて答え、私は柊さんを追った。

 

 

 

 

 

柊さんを追って辿り着いたのは、人影のない路地裏だった。……まさかこの先に柊さんが? それとも途中で見失ってしまったのだろうか。……とにかく、先に進もう。この嫌な予感が気のせいなら、それでいい。

 

 

「囚われた仲間……それが瑠璃……!?」

 

 

路地裏を進んだ先、柊さんはそこに居た。

そして、

 

「ッ!」

 

忘れるはずのない、黒マスクの男も。

 

「えっ、久守さん……!?」

「君は、あの時の……」

 

「……久しぶりですね」

「……」

 

男の表情はマスクに隠れ、窺い知れない。

 

「あなたが此処に居るという事は、やはりこの先にもう一人の襲撃犯が居るんですね」

「久守さんっ、この先に真澄もっ」

「ッ――」

 

柊さんが先ほど急に走りだしたのは、光津さんを見つけたからか。こんな近くにいながら気付かないなんて、自分が情けない。

……まだ、間に合うはずだ。

 

「久守さんッ!?」

 

無言で私はデュエルディスクを構え、男へと近づく。

男もまた身構え、デュエルディスクに手を掛けようとした。

 

「俺の仲間の邪魔はさせない……!」

「待って久守さん! またいきなりデュエルなんて……! この人に話を聞かせて!」

 

あの時と同じように、柊さんが私たちの間に両手を広げ立ち塞がった。

すいません、柊さん……!

 

「ッ!」

「え――」

 

一瞬、男の意識が柊さんに向いた瞬間、私は二人の横を走り抜ける。

今、私がすべきことは柊さんの言う通り、この男とデュエルする事じゃない。この先に進む事だ……!

 

「私は私のやるべき事をします! 柊さんも、自分のやるべき事を、やりたい事をやってください!」

 

振り返らず、立ち止まらず、そう叫んで私は路地裏を抜けた。

そして、その先で見たのは――

 

 

 

 

 

「い、16400……!?」

「そんな……!」

「マジ、かよ……!?」

 

炎を纏う‟隼”の姿。

 

「バトルだッ! RR(レイド・ラプターズ)―ライズ・ファルコン!」

「待――!」

 

「全ての敵を引き裂けッ! ――ブレイブクロー レボリューション!」

 

MASUMI LP:0

HOKUTO LP:0

YAIBA LP:0

 

 

「あ…………」

 

私の制止の声は何の意味もなさず、隼は光津さんたちのモンスター全てをその爪で引き裂いた。

 

「こ、光津さん! 志島さん! 刀堂さんッ!」

 

吹き飛ばされ、倒れた光津さんたちに駆け寄り、光津さんを抱き起こす。

 

「光津さんっ、光津さん!」

 

けれど、光津さんたちから反応は返って来なかった……だい、じょうぶ、息はある。ただ気絶しているだけだ。

 

「……」

 

光津さんをゆっくりと地面に下ろし、私は隼を操るデュエリストを見上げた。

 

「お前もそいつらの仲間か。だが遅かったな」

「……あなたが、LDSの講師たちを襲った襲撃犯ですか」

「そうだ」

 

私の問いを否定することなく、男は頷いた。

 

「なら……今度は私が相手です」

「お前が? ……ふん、もう雑魚共の相手はたくさんだ」

「……雑魚かどうかはデュエルをすれば分かります」

 

大きく息を吐き、立ち上がる。

……もう、あの時のような愚は冒さない。自分を見失うな。私が今成すべき事は怒りに身を任せる事じゃない。この男を倒し、LDSに連れて行く。

 

『久守詠歌!? 何故お前が其処に居る!』

「……中島さんですか」

 

デュエルディスクに通信が入り、中島さんの責めるような声が聞こえて来た。

 

「偶然ですよ。でも、襲撃犯は見つけました。赤馬さんから受けた依頼、今達成しましょう」

『待て! まだ何も指示は――』

 

強制的に通信を切る。指示を待つまでもない。襲撃犯は目の前に居る。

 

「どうやらお前は上の連中と繋がりがあるようだな」

「ええ。あなたたちの目的は知らない。けど、LDSの上層部に用があるなら私とデュエルをしましょう。勝っても負けても、会えると思いますよ」

「……いいだろう」

 

男も再びディスクを構えた。

準備は整った。目的は分からないけど、LDS上層部に用があるならこれで逃げる事はない。逃がすつもりも、ない。

 

「……待っていてください、光津さん」

 

私の力を押し付ける、今がその時です。

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

EIKA VS KUROSAKI

LP:4000

 

「私のターン! 私は手札からマドルチェ・エンジェリーを召喚! そして効果発動! このカードをリリースする事でデッキから新たなマドルチェを特殊召喚する! 来て、マドルチェ・プディンセス!」

 

マドルチェ・プディンセス

レベル5

攻撃力 1000

 

「エンジェリーの効果で特殊召喚されたプディンセスは戦闘では破壊されず、次の私のターンのエンドフェイズに私のデッキに戻る……さらにフィールド魔法、マドルチェ・シャトーを発動! このカードが存在する限り、私のフィールドのマドルチェたちは攻撃力、守備力が500ポイントアップする。そしてこのカードが発動した時、墓地のマドルチェをデッキに戻すッ。さらにプディンセスは墓地にモンスターカードが存在しない時、攻撃力、守備力を800ポイントアップさせる!」

 

マドルチェ・プディンセス

攻撃力 1000 → 1500 → 2300

 

お伽の国に現れるお姫様、私の心強い、仲間。力を貸して……!

 

「カードを一枚セットし、ターンエンドッ」

「俺のターン……! 俺はRR―バニシング・レイニアスを召喚」

 

現れたのは機械の体を持つ、鳥獣。

 

「さらにこのカードの召喚、特殊召喚に成功した時、手札のバニシング・レイニアスを特殊召喚出来る」

 

RR―バニシング・レイニアス ×2

レベル4

攻撃力 1300

 

……先程のデュエル、光津さんたちを攻撃した隼、一瞬だったけれど確かに見えた。その身に纏う炎と、オーバーレイユニットを。

やはりこの男も同じ、エクシーズ使い……聞いていた通りですね。

 

「そして場にバニシング・レイニアスが存在する時、手札からRR―ファジー・レイニアスを特殊召喚出来る」

 

RR―ファジー・レイニアス

レベル4

攻撃力 500

 

「レベル4のモンスターが三体……」

 

来るか。けれどたとえどれだけ強力なモンスターであっても、私の場のプディンセスはこのターン、戦闘では破壊されない。

 

「俺は特殊召喚されたレベル4のバニシング・レイニアスとファジー・レイニアスでオーバーレイ! 現れろ、ランク4! RR―フォース・ストリクス!」

 

RR―フォース・ストリクス

ランク4

攻撃力 100 → 600

ORU 2

 

「このカードは自分の場のこのカード以外の鳥獣族モンスターの数×500ポイント、攻撃力、守備力をアップするッ。そして俺の場にRRのエクシーズモンスターが存在する時、手札からRR―シンギング・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス

レベル4

攻撃力 100

 

RR―フォース・ストリクス

攻撃力 600 → 1100

 

「さらにフォース・ストリクスのモンスター効果、発動ッ。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからRR―シンギング・レイニアスを手札に加え、シンギング・レイニアスの効果で特殊召喚する! そしてオーバーレイユニットとして墓地に送られたファジー・レイニアスの効果、デッキからファジー・レイニアス一体を手札に加え、特殊召喚する」

 

RR―ファジー・レイニアス

攻撃力 500

 

RR―シンギング・レイニアス×2

攻撃力 100

 

RR―フォース・ストリクス

攻撃力 1100 → 1600

ORU 2 → 1

 

「レベル4のシンギング・レイニアスとファジー・レイニアスでオーバーレイ! 現れろ、RR―フォース・ストリクス!」

 

目まぐるしく展開していく男のフィールドに、思わず舌打ちそうになる。黒マスクの男と同じ、この男も一筋縄で行く相手じゃない……!

 

「フォース・ストリクスの効果、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからシンギング・レイニアスを手札に、そして特殊召喚!」

「……そしてファジー・レイニアスの効果でファジー・レイニアスを手札に加える」

「ふん、俺は手札に加わったファジー・レイニアス一体を特殊召喚し、ファジー・レイニアスとシンギング・レイニアスでオーバレイ!」

 

RR―フォース・ストリクス ×3

攻撃力 100 → 2100

 

「さらに三体目のフォース・ストリクスの効果を使い、デッキからバニシング・レイニアスを手札に加える。俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

RR―バニシング・レイニアス

攻撃力 1300

 

RR―フォース・ストリクス ×3

攻撃力 100 → 1600

ORU 1

 

特殊召喚とエクシーズ召喚を繰り返した男のフィールドには四体のモンスターと伏せカード二枚……けれどどうして攻撃力の低いフォース・ストリクスやバニシング・レイニアスを攻撃表示で……攻撃を誘っているのか。

 

「私のターン、ドロー!」

 

良し、これなら……!

 

「私は手札から魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)を発動!」

「融合……ッ!」

「……!?」

 

私がカードを発動した瞬間、男の瞳に初めて感情の色が宿った。強い、恐ろしいほどの……憎悪の色。

 

「っ、このカードは相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、手札、フィールド、そしてデッキのモンスターを素材として融合召喚出来る! 私が融合するのはデッキのエフェクト・ヴェーラーとシャドール・ビースト! 人形を操る巨人よ、お伽の国に誘われた堕天使よ、新たな道を見出し、宿命砕け! 融合召喚! 来て、エルシャドール・ネフィリム!」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800

 

「ネフィリムの効果、このカードが特殊召喚に成功した時、デッキからシャドールカード一枚を墓地に送る――私はシャドール・ファルコンを墓地に。そして融合素材として墓地に送られたビーストの効果を発動! デッキからカードを一枚ドローする!」

「……」

「さらにシャドール・ファルコンのモンスター効果発動! このカードを裏守備表示で特殊召喚!」

 

シャドール・ファルコン(セット)

レベル2 チューナー

守備力 1400

 

「そして融合によってモンスターが墓地に送られた事により、プディンセスの攻撃力、守備力は800ポイントダウンする……」

 

マドルチェ・プディンセス

レベル5

攻撃力 2300 → 1500

 

けれど、あの男の場のモンスターの攻撃力なら問題はないッ。

 

「バトル! エルシャドール・ネフィリムでバニシング・レイニアスを攻撃! オブジェクション・バインド!」

 

男の場に残っているバニシング・レイニアスは最初に通常召喚された方、ネフィリムの効果は発動せず、効果ではなく戦闘破壊となる。よって戦闘ダメージも発生する……!

 

KUROSAKI LP:2600

 

「そしてバニシング・レイニアスが破壊された事にフォース・ストリクスの攻撃力も変動する!」

 

RR―フォース・ストリクス ×3

攻撃力 1600 → 1100

 

「マドルチェ・プディンセスでフォース・ストリクスを攻撃! プリンセス・コーラス!」

「……」

 

KUROSAKI LP:2200

 

 

「プディンセスのモンスター効果! この子がバトルした時、相手フィールドのカード一枚を破壊する! 破壊するのはもう一体のフォース・ストリクス! 姫君の特権(プリンセス・コール)!」

 

RR―フォース・ストリクス

攻撃力 1100 → 100

 

これで残ったのは攻撃力100のフォース・ストリクスが一体だけ……!

 

「罠、発動! RR―リターン! 戦闘では破壊されたバニシング・レイニアスを手札に戻すッ」

「ッ……」

 

二体のエクシーズモンスターは破壊した……けれど、再びバニシング・レイニアスが男の手札に……光津さんたちを倒したエクシーズモンスター、必ずこの男は召喚して来る。

どんな効果かは分からないけれど、私にも策はある。

 

「ターンエンド。この瞬間、エンジェリーの効果で特殊召喚されていたマドルチェ・プディンセスはデッキへと戻る」

 

何処か心配そうな表情でプディンセスはデッキへと戻っていた。……ありがとう。でも私は大丈夫。

 

「……やはり貴様らLDSからは鉄の意思も鋼の強さも感じられない……! 時間の無駄だったな」

「……言ってくれますね。あなたのデュエルにはそれがあるって言うんですか」

 

男は答えない。でもそれは無言の肯定と同じだ。

 

「仮にそうだとしても、関係のない人を襲い、私の友人を悲しませた……誰かを悲しませる強さなんて、私はいらない! 私が欲しいのは大切な人を守る力、大切な人と共に歩んでいく為の力ッ!」

「――俺のターン……! 手札からバニシング・レイニアスを召喚ッ、さらにモンスター効果により手札からもう一体のバニシング・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス ×2

レベル4

攻撃力 1400

 

「俺は永続魔法、RR―ネストを発動! フィールドにRRの同名モンスターが二体存在する時、デッキまたは墓地から同名モンスター一枚を手札に加える!」

「三枚目……!」

 

男の手に、オーバーレイユニットとしてフォース・ストリクスと共に墓地へ送られた3枚目のバニシング・レイニアスが加わる。

 

「そして二体目のバニシング・レイニアスの効果により、特殊召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス ×3

攻撃力 1400

 

「貴様を倒し、瑠璃を取り戻す……! レベル4のバニシング・レイニアス三体でオーバーレイ!」

「来る……!」

 

「雌伏の隼よ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ! エクシーズ召喚! 現れろォ! ランク4! RR―ライズ・ファルコン!」

 

「ッ――!」

 

闇の中から現れた、六つの複眼に赤い光を灯した隼。これだ、このモンスターが光津さんたちを……!

 

RR―ライズ・ファルコン

ランク4

攻撃力 100

ORU 3

 

攻撃力はたったの100……しかし三体のモンスターを素材としたエクシーズモンスター、それだけじゃない。

それにあの鋭い眼光は、私の体をビクリと震えさせる。何か、恐ろしい効果がある……。

 

「このカードは相手の場の特殊召喚されたモンスター全てに一度ずつ攻撃することが出来る」

「っ、私の場に存在するのは特殊召喚されたシャドール・ファルコンとネフィリムの二体……!」

 

特殊召喚されたモンスターを対象とする効果、ネフィリムたちと同じ……! 残るはオーバーレイユニットを使用する効果……一体何がッ。

 

「ライズ・ファルコンのモンスター効果発動! オーバーレイユニットを一つ取り除き、敵のフィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃力を自らの攻撃力に加える!」

「ッ!」

 

一体だけでなく、全てのモンスターの攻撃力分……! この効果で光津さんたちは……!裏側守備表示のファルコンの攻撃力が加わる事はない、よって加わるのはネフィリムの攻撃力、2800。

 

RR―ライズ・ファルコン

攻撃力 100 → 2900

ORU 3 → 2

 

「――バトルだ、ライズ・ファルコン! セットモンスターとエルシャドール・ネフィリムを攻撃! ブレイブクロー レボリューション!」

 

炎を纏い、隼は大空へと舞い上がる。

でも、その効果ならば!

 

「シャドール・ファルコンのリバース効果、発動! 墓地のシャドールモンスター一体を裏側守備表示で特殊召喚する! お願い、ファルコン!」

 

機械仕掛けの隼の爪が私の隼を引き裂く寸前、シャドール・ファルコンもまた上空へと舞い上がり、私の墓地から仲間を連れ帰る。

 

「シャドール・ビーストを裏側守備表示で特殊召喚!」

 

シャドール・ビースト(セット)

レベル5

守備力 1700

 

「無駄だ! ライズ・ファルコンは全ての敵を引き裂く! 行け!」

「けれどこの子もまた、次へと希望を繋いでくれる! ビーストのリバース効果! デッキからカードを二枚ドローし、手札を一枚墓地へ送る! 私は手札のマドルチェ・バトラスクを墓地へ!」

 

ビーストもまた隼の爪へと引き裂かれる。残ったのはネフィリムだけ、でも!

 

「ネフィリムのモンスター効果! 特殊召喚されたモンスターと戦闘する時、ダメージ計算を行わずにバトルしたモンスターを破壊する! お願い、ネフィリム! ストリング・バインド!」

 

シャドールたちを総べる女王の力で、隼を打ち砕いて!

 

「カウンター罠、発動! エクシーズ・ブロック! ライズ・ファルコンのオーバーレイユニットを一つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にし、破壊する!」

 

RR―ライズ・ファルコン

ORU 2 → 1

 

「くっ……!」

 

あの時と、黒マスクの男のデュエルと同じカード……でも私はあの時とは違う! 方舟にはもう、頼らない!

 

「ネフィリムのもう一つの効果! このカードが墓地に送られた時、墓地のシャドールと名の付く魔法、罠カードを手札に加える! 私が加えるのは影依融合!」

 

……これで、私の場のモンスターは全て破壊された。けれどライフに傷はなく、シャドールたちは次へと繋いでくれた。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド。同時にライズ・ファルコンの効果が終了し、攻撃力が元に戻る」

 

RR―ライズ・ファルコン

攻撃力 2900 → 100

 

「私のターン、ドロー!」

 

効果が終了した今、ライズ・ファルコンは攻撃力100のモンスターでしかない……!

 

「魔法カード、影依融合を発動! デッキに存在する二枚目のシャドール・ファルコンとフレア・リゾネーターを融合! 影糸で繋がりし隼よ、炎の調律者と一つとなりて、神の写し身となれ! 融合召喚……! 来て、見張る者! エルシャドール・エグリスタ!」

 

エルシャドール・エグリスタ

レベル7

攻撃力 2450

 

私の後ろに降り立ったのは宝玉をその身に宿し、赤い影糸を翼のように広げる巨人だった。

 

「さらにファルコンの効果、このカードを裏側守備表示で特殊召喚する! もう一度蘇れ、影糸で繋がる隼よ!」

 

ライズ・ファルコンに応じるかのように、エグリスタと同じ赤い影糸を帯びた隼が再び姿を現す。

男のライフは残り2200……けれど、油断はしない。

 

「手札からマドルチェ・シューバリエを召喚! そして罠カード、堕ち影の蠢きを発動! デッキからシャドールカードを一枚墓地に送り、シャドール・ファルコンを表側表示へと変更する! デッキから影依の原核(シャドールーツ)を墓地に送り、効果を発動! 墓地の影依融合を手札に加える!」

 

男の場には伏せカードが一枚……本来ならドラゴンを墓地に送り、破壊する所ですが……私はそれで沢渡さんに敗北した。それに、先ほどの光津さんたちとのデュエル……3対1であの三人の攻撃を凌ぎ切るのは容易な事ではない。それに何より、志島さんのバウンスと刀堂さんのハンデス戦術を凌いだのはただカードを伏せたり、モンスターの効果だけではないはずだ。恐らく、墓地で発動するカードも存在しているはず……。なら私はそれに賭ける。

 

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700 → 2200

 

シャドール・ファルコン

レベル2 チューナー

守備力 1400

 

ファルコンの効果は一ターンに一度のみ、よって効果は発動しない。でも、これでいい。

 

「……」

 

残るはライズ・ファルコンだけ。これ以上の効果が残されているとは思えないけれど……力を貸してください、刀堂さん!

 

「私はレベル4のマドルチェ・シューバリエにレベル2のシャドール・ファルコンをチューニング!」

 

私の、私たちの力でこの男を――!

 

「魂を照らす太陽よ、お伽の国の頂に聖火を灯せ! ――シンクロ召喚! 人形たちを依代に降臨せよ! レベル6、メタファイズ・ホルス・ドラゴン!」

 

メタファイズ・ホルス・ドラゴン

レベル6

攻撃力 2300

 

私のフィールドに降り立ったのは、幻想的な白き輝を放つ龍だった。

刀堂さんが私に託してくれた、シンクロモンスター。

 

「メタファイズ・ホルス・ドラゴンの効果発動! このカードのシンクロ召喚に成功した時、素材となったチューナー以外のモンスターが効果モンスターだった場合、相手フィールドの表側表示になっているカードの効果を無効にする! 私が選択するのはRR―ライズ・ファルコン!」

 

ドラゴンの咆哮と共に輝きを増した光に照らされ、ライズ・ファルコンの身から効果が失われた。

 

「エクシーズモンスターの真価は己の魂たるオーバーレイユニットを使い、敵を滅する事……けれどこれで、その効果すら封じた!」

「……」

「さあ……懺悔の用意は出来ていますか」

 

かつて光津さんに向けて言い放った台詞を、男に向かって言い放つ。これで、終わらせる!

 

「バトル! メタファイズ・ホルス・ドラゴンでライズ・ファルコンを攻撃! 降天のホルス・フレア――!」

「――罠発動、逆境!」

「ッ――!」

 

リバースされたカードのテキストには墓地で発動する効果は記されていない。読み違えた……!

 

「相手モンスターより攻撃力が低いモンスターが攻撃を受けた時、その破壊とダメージを無効にし、さらに攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

RR―ライズ・ファルコン

攻撃力 100 → 1100

 

「まだッ! エルシャドール・エグリスタでライズ・ファルコンを攻撃! この一撃で、今度こそ!」

 

エグリスタはその巨大な拳を振り上げ、隼へと振り下ろした。

 

「……」

 

KUROSAKI LP:850

 

そしてその拳は隼を砕き、男へとダメージを与えた。

 

「はぁっ、はぁ……私はカードを一枚セットし、ターンエンド」

 

ライズ・ファルコンは破壊され、あの鋭い眼光からは解放された。けれど、私の体から緊張は解けない。

 

「これで貴様は最後のチャンスをふいにした。お前の言う守る力も、お前には備わっていない……!」

「まだ、デュエルは終わっていない……!」

「このターンで終わりだ――俺の、ターン!」

 

その瞬間、私は理解した。

私を震えさせていたのはあのモンスターのせいだけじゃない。

この男の目と、意思。

 

「俺は手札から魔法カード、ディメンション・エクシーズを発動! ライフが1000以下で俺の場、手札、墓地のいずれかに同名カードが三枚揃っている時、それを素材にエクシーズ召喚するッ」

「――!」

「俺は墓地のバニシング・レイニアス三体でオーバーレイ! 現れろォ! RR―ライズ・ファルコン!」

「あ、く……」

 

再び、機械仕掛けの隼はその姿を現した。

 

「ライズ・ファルコンのモンスター効果、発動! オーバーレイユニットを一つ使い、貴様の場のモンスター全ての攻撃力を自らに加える!」

 

RR―ライズ・ファルコン

ランク4

攻撃力 100 → 2400 → 4850

ORU 3 → 2

 

「バトルだッ! ライズ・ファルコン、全ての敵を引き裂け――! ブレイブクロー レボリューション!!」

 

「――きゃあああ!!」

 

 

EIKA LP:0

WIN KUROSAKI

 

 

「っ、く……光、津さ……」

 

私は光津さんの隣へと吹き飛ばされた。

朦朧とする意識の中、光津さんへと手を伸ばす。

けれど、その手は届くことなく、私の意識は遠退いて行く。

 

圧倒的、だった……私が得た強さなんて、話にならない程に。

これが、この男の言う、鉄の意思と、鋼の、強さなの……?

この力の前じゃ、私は何も――

 

意識が完全に途切れる瞬間、複数の足音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

意識が浮上する。

 

「此処、は……」

 

目を開くと、見覚えのない天井。けれど鼻を刺す消毒液の臭いは‟何故か”慣れ親しんだものに感じた。

 

「……LDSの、医療施設、か……」

 

こうしてベッドに横になるのは初めてだが、景色に見覚えがあった。

 

「……痛っ」

 

体を動かすと走った痛みに頭を押さえると、包帯の感触が手に伝わった。

どうして私は此処に居るんだろう、その原因を思い出そうと記憶を辿ろうとした時、ベッドの傍に置かれたデュエルディスクが通信を繋いだ。

 

『目が覚めたようだな、久守詠歌』

「ん、ああ……中島さん、ですか」

 

その声には聞き覚えがあった。

 

『目覚めたばかりですまないが、社長がお呼びだ。すぐに来て欲しい』

「赤馬社長が……? 分かりました、今すぐ伺います」

 

まだ意識がはっきりしない。この怪我と何か関係のある話だろうか。

ともかく、上に向かおう。

 

 

 

「失礼します、久守詠歌です」

「ああ。呼び立ててすまない」

「いえ」

 

社長室に入室するといつかと同じように赤馬社長と中島さんが奥のテーブルで私を待っていた。

 

「怪我は平気かね?」

「はい。少し痛みますが、見た目程じゃありません」

「それは良かった。覚えているか? 再び襲撃犯に襲われた君をLDSのチームが発見したんだ」

「襲撃……」

 

その単語に記憶が呼び戻される。……ああ、そうだ。

 

「……申し訳ありません、また失態を」

「気に病む必要はない。君のおかげで調査も進んだ」

「はい」

 

そう、私はあの‟黒マスクの男”にまた敗れた。

少し改良を加えた程度のデッキでは、歯が立たなかった。

 

「……依頼は必ずを完遂してみせます」

 

二度も敗れておいて何を言うのか、と自分でも笑いたくなる。

……情けない。

しかし、赤馬社長は頷いた。

 

「ああ。よろしく頼む」

「っ、はい!」

 

良かった……まだ、私にはチャンスがある……!

 

「君の任務の達成の助けになればと思いこれを用意した」

 

社長が目配せすると中島さんが私にカードを差し出した。

 

「これは……?」

「レオ・コーポレーションが開発したペンデュラムカードだ。まだ試作段階だが、君ならば使いこなし、完成へ近づけてくれると信じている」

「ペンデュラムカード……!」

 

受け取ると、それは確かに二色の輝きを持つ、ペンデュラムカードだった。

 

「それから君のデッキもだ。ペンデュラムカードを加えるにあたり、君のデッキにも調整を施させてもらった」

 

次に渡されたのは私のデッキ。……良かった、ディスクに装着されていなかったから気になっていたんです。

 

「このカードを使い、今度こそ任務の達成を……!」

 

社長は頷き、中島さんが念を押すように言った。

 

「分かっているな? 君の任務は――」

「はい、新たな任務はこのペンデュラムカードを完成させる為のテスト。そして一番の任務は――来たる選手権において、‟ランサーズ”の候補者の選抜です」

 

 

そうだ。

それが私を拾ってくれたLDSへの恩返しになる。

 

 

「もしも相応しくないデュエリストが居れば、私の手で引導を渡します――特に‟あの男”のような、親の保護の下、七光りで参加するようなデュエリストは」

 

 

来たるべき戦いに向け、私がやるべき事。

この世界を守る為の私の使命。私の願い。

それを邪魔する要因は私が排除する。

 

 

 

 




サクサクと黒咲さんが不審者だった時代を進めて、次回からオリ展開を交えたジュニアユース選手権編です。

注釈として、黒崎さんとのデュエルで使った時点でのメタファイズはOCGと違いPモンスターに関するテキストが丸々削られています。社長によってOCG仕様になりました。ストーリー上、Pカードが遊矢しか持ってないのに刃がそれに関するカードを持って来るのはおかしいですので。


ネフィリム禁止の代わりではないですが、これでもうすぐシャドール二枚とネオ・ニュー沢渡さんの妖仙獣が解禁出来る。


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人形と選手権

久守詠歌にとって、赤馬零児は恩人である。

両親を早くに失い、一人で生きていく事になった彼女をレオ・コーポレーションが優秀なデュエリストであると判断し、LDSへの入学と生活の支援を行ってくれたからだ。

だから彼女にはその恩に報いる義務がある、報いたいと思う心がある。

 

LDSへ入学してから、彼女の日常は変化した。

光津真澄や志島北斗、刀堂刃といった友人に恵まれ、笑顔を見せる事も多くなった。

互いに切磋琢磨し、実力を高め合える友人との出会いはレオ・コーポレーションへの恩義をさらに強くした。

 

 

「『今日はLDSに行く』……ふん」

 

 

久守詠歌にとって、沢渡シンゴという男は――――最大の汚点である。

何の気の迷いからか、彼女は彼に惹かれていた時期があった。

犬のようにありもしない尾を振り、媚びて、彼に付き従っていた時期が。

彼女にとってそれは拭い難い過去であり、忌むべき記憶だ。

 

 

 

 

 

「おはようございます、光津さん」

「久守、ええ、おはよう」

 

怪我が完治(といっても大した怪我ではないですが)し、治療の間に新たに組み終えたデッキを持ち、私はLDSの医療施設からロビーへとやってきた。

光津さんを見つけ、挨拶をしながら同じテーブルに着く。

 

「何だか久しぶりね」

「そうですね、少し用事があったので。今日はお一人ですか?」

「あのね、私だっていつも刃や北斗と一緒に居る訳じゃないわ。同じLDSでも、選手権ではライバル。今はそれぞれ、自分のデッキの最終調整をしてるわ」

「成程。もう明日ですもんね」

「そういう事」

 

先日、権現坂さんから連絡があった。榊さんとのデュエルは権現坂さんの敗北に終わり、榊さんは選手権出場を決めた、と。それから自分も出場の為、さらに修行を積むとも。

舞網チャンピオンシップの開幕は明日、間に合うかは分からないけれど、純粋に友人として権現坂さんには頑張ってもらいたい。勿論、赤馬社長の目的の為にも。

 

「今更光津さんに心配する事じゃないですが、緊張を解す為に如何ですか? 今日はカモミールです」

「今更、というかあなた会う度に何かと理由をつけて渡してくるじゃない。……ま、いただくわ」

「はい」

 

鞄から魔法瓶と紙コップを取り出し、光津さんに紅茶を注いで手渡す。

本当ならしっかりとしたティーセットの方が見栄えもいいんですが、流石にわざわざ持ち歩くのは手間だし、私は学生の身分、そんな気を遣っても仕方がない。そんなのは無駄でしかないのだから。

 

「私も今更だけど、本当に残念ね」

「? 何がですか?」

「あなたの事よ。結局選手権の出場資格を得られなかったじゃない――どっかのドヘタのせいで」

「あははっ……そうですね、本当に残念です」

 

たとえ出場出来なくとも私の任務を果たす方法はある。けれど、光津さんの言う通り本当に残念だ。‟あの男”のせいで出場の機会を失ったという事実が、ひどく不愉快で仕方がない。……虫唾が走る。

 

「っ……ごめんなさい、不躾だったわね」

「え?」

「今のあなた、凄い目をしてるわよ」

 

光津さんにそう指摘され、視線を紙コップに注がれた紅茶に落とす。水面に映る私の瞳は、酷く荒んでいた。

 

「……」

 

一度瞳を閉じ、紅茶に口をつけて、息を吐く。

 

「こちらこそすいません。もう過ぎた事でした」

 

そう言って微笑むと、光津さんはもう一度だけ謝り、いつもの調子に戻った。気を遣わせてしまいました。

 

「今回は光津さんたちのデュエルの観戦に集中します。それもまた勉強ですから」

 

出場を決めたデュエリストたちは舞網市だけでなく、海外にも居る。数多くのデュエリストが集まるこの大会で、私は私の仕事をする。

光津さんたちは勿論、LDSに次ぐナンバー2のデュエル塾、梁山泊塾や海外参加のナイトオブデュエルズなど、‟槍”と成り得る可能性を秘めたデュエリストたちを見極めなくてならない。

 

「……そうだ、光津さん。もしよかったら――」

 

大会前の今、頼むのは少し気が引けたが、光津さんなら結果がどうであれ明日に影響する事はないと考え、お願いしようとしたその時だった。

 

「――おいこら、この俺のメールに返事も寄越さずに談笑とは良い身分じゃねえか、久守」

 

その男が現れ、気安く私の名を呼び、気安く私の肩に触れたのは。

 

「……」

「へっ?」

 

無言でその手を払い除け、私は立ち上がった。

 

「……触れないでくれますか」

「……あ、お、おう」

 

間抜けな表情で男は手を下した。

 

「なんだ? 何かあったのか、そんな苛々してよ」

「話しかけないでもらえますか、不愉快です」

「……は?」

 

口を開け、さらに間抜けな表情を晒す男に私は言葉を重ねる。

 

「聞こえなかったんですか。私の前から消えてください、そう言ったんです」

「いや言ってる事が違えじゃねえか!」

 

大きな声を上げる男に私は思わず嘆息する。

 

「はぁ……耳障りで、目障りですね。癪に障る……あなたを見ていると本当に苛々する」

 

まるで信じられないモノを見たかのように目を白黒させる男に、私は溜まっていたものを吐き出すように続けた。

 

 

「ほんの一時でも、ほんの僅かでも、あなたに心を許していた事は私にとって最大の汚点です。今更それを雪ぐ事は叶いませんが……せめてもう二度と、私に関わるな――――沢渡シンゴ」

 

 

溜まっていた鬱憤を、憎悪を、怒りを、その全てを乗せた言葉がどこまでこの男に届いたのかは分からない。けれど、それを確かめる為にこれ以上、この男と共に居る事に私は耐えられなかった。

 

「行きましょう、光津さん」

「え、ええ……」

 

紙コップを握り潰し、私は足早にその場を立ち去った。

 

 

「ご愁傷様。ま、少しだけ同情してあげるわ。どうせあんたの自業自得なんでしょうけど」

 

真澄は気の毒なモノを見る目を向けながら沢渡にそう言うと、去って行った詠歌を追いかけて行った。

 

「……な、なっ」

 

そして、一人取り残された沢渡は――

 

「――なんじゃそりゃあああああああああああ!?」

 

周囲に人が居る事も忘れ、力の限りそう叫んだ。

 

 

 

 

 

「何処まで行くのよ?」

「すいません、改めて光津さんにお願いしたい事があります」

 

私たちがやって来たのはLDSのデュエル場。ただし生徒に解放されているフリースペースではなく、講義などで使う専用のデュエルコートだ。

 

「あなた、何で此処の鍵を?」

「中島さんから許可は得てあります」

「……?」

「光津さん、私とデュエルしてください」

「それは構わないけど……どうして此処で?」

「まだ人目につく事を赤馬社長たちも望んではいませんから」

 

赤馬社長たちはジュニアユース選手権の場でレオ・コーポレーション製のペンデュラムカードを初めて披露するつもりでいる。……あの男に使わせて。

だから私も、公の場でテストを行うわけにはいかない。けれど同じLDSの光津さん相手ならば構わない、そう許可も得ている。

 

(……やっぱり雰囲気が少し変わった? それだけ沢渡の奴との一件が堪えているのかしら。喧嘩をしたって言うのは聞いていたけれど……ここまでとはね)

 

真澄は詠歌の変化をそう認識していた。……それを誰から聞いたのかも分からず、しかしそれを疑問にも思わず。

 

「……いいわ。相手をしてあげる。大会前の最終調整としてね」

「ありがとうございます。全力でお願いします」

「言われなくともっ!」

 

光津さんは勝気な笑みと共にデュエルディスクを構えた。私も静かにディスクを構え、組み直したデッキをディスクへと挿入する。

これはテストだ。ペンデュラムカードの完成の為の、そしてこのデッキの力を確かめる為の。

 

 

「デュエル!」「デュエル……!」

 

 

EIKA VS MASUMI

LP:4000

 

「先行は私よ! 私はジェムナイト・ルマリンを召喚!」

 

ジェムナイト・ルマリン

レベル4

攻撃力 1600

 

現れるイエロートルマリンの戦士、ルマリン。効果を持たないバニラモンスター。

 

「カードを二枚セットして、ターンエンド!」

「私の、ターン……!」

 

カードをドローし、手札に加える。六枚の手札を見て、私は想像する。この新たなデッキの軌跡を。

 

「私はフィールド魔法、機殻の要塞(クリフォートレス)を発動。このカードが存在する限りクリフォート・モンスターの召喚は無効化されず、さらに通常召喚に加えてもう一度だけクリフォート・モンスターを召喚することが出来ます」

「クリ、フォート……?」

 

初めて聞くカードと名前に光津さんは怪訝そうに眉を細めた。

 

「私は手札から――クリフォート・ゲノムを召喚。このカードはレベルと攻撃力を下げ、リリースなしで召喚出来る」

 

クリフォート・ゲノム

レベル6 → 4 ペンデュラム

攻撃力 2400 → 1800

 

「装備魔法、機殻の生贄(サクリフォート)を発動し、クリフォート・ゲノムに装備する。このカードを装備したクリフォート・ゲノムは攻撃力が300ポイントアップし、戦闘では破壊されない」

 

クリフォート・ゲノム

攻撃力 1800 → 2100

 

「そして機殻の生贄を装備したモンスターはクリフォート・モンスターをアドバンス召喚する時、2体分のリリース素材となる……私はフィールド魔法、機殻の要塞の効果により、もう一度通常召喚を行う。二体分となったゲノムをリリース」

 

分かる。私が取るべき手が、勝利への道が。

 

「アドバンス召喚……クリフォート・シェル」

 

クリフォート・シェル

レベル8 ペンデュラム

攻撃力 2800

 

現れたのは奇怪な形をした、砦とも言える物体だった。

 

「さらに機殻の生贄がフィールドから墓地へ送られた時、デッキからクリフォート・モンスター一枚を手札に加える……私が手札に加えるのは、ペンデュラムモンスター クリフォート・ツール」

「ペンデュラムモンスター……!? あなた、何処でそれを!?」

「心配しなくとも正規の手段で手に入れたものです。あの男のような汚い真似をしたわけではありませんよ」

 

私が公開したクリフォート・ツールを見て、光津さんはようやくクリフォートの事を理解したようだ。

 

「私はスケール9のクリフォート・ツールをペンデュラムゾーンにセッティング」

「っ……成程ね、融合でもシンクロでもエクシーズでもない、総合コースのエリートのあなたにはピッタリだわ。けど、使うのは初めて? ペンデュラムカードは二枚ないと――」

 

言い掛けて、光津さんは口を噤んだ。

 

「……言うまでもないわよね。あのストロング石島のエキシビションマッチの映像を何度も見返して、誰よりも早く研究していたあなたには」

「誰よりも早く、というのは買いかぶりですよ。クリフォート・ツールのペンデュラム効果、発動。ライフを800ポイント払い、デッキからこのカード以外のクリフォート・カードを手札に加える。私が加えるのはクリフォート・アーカイブ。そして、スケール1のクリフォート・アーカイブをペンデュラムゾーンにセッティング……!」

 

EIKA LP:3200

 

「これで……」

「レベル2から8までのモンスターが同時に召喚可能……ただし、セッティングされたクリフォートたちのペンデュラム効果により、私はクリフォート以外のモンスターの特殊召喚は行えない」

「けどそのデメリットの上でペンデュラムゾーンにセッティングしたって事は、あるんでしょう? あなたの手札に」

「ええ――お見せしましょう、赤馬社長に次ぐ、LDSのペンデュラム召喚を……! ペンデュラム召喚! 現れろ、レベル5、クリフォート・アセンブラ!」

 

クリフォート・アセンブラ

レベル5 ペンデュラム

攻撃力 2400

 

私の背後に設置された二つの光柱、その中心の空間より、新たなクリフォートが飛来する。

それもまた奇怪な形をした、石版だった。

 

「さらにクリフォート・アーカイブのペンデュラム効果、私のフィールドのクリフォートたちの攻撃力が300ポイントアップする」

 

クリフォート・シェル

攻撃力 2800 → 3100

 

クリフォート・アセンブラ

攻撃力 2400 → 2700

 

「……随分と不気味ね。ただでさえシャドールとマドルチェっていうアンバランスなデッキだったのに、不気味さが増しちゃってるわよ」

 

……ああ、そういえば前使っていたのはそういうデッキでしたね。

 

 

「大丈夫ですよ。シャドールたちは残していますが、マドルチェたちはデッキから全て抜きました」

 

 

「え……?」

「強くなる為にはそうするべきだと判断しました。マドルチェたちを使っていては、勝てるデュエルも勝てなくなる。これ以上強くなんてなれませんから」

 

自分でも不思議なくらい、冷めた声だった。

でも何も可笑しな事はない。強くなる為にデッキを改良する、デュエリストとして当然の行為だ。

 

「バトル! クリフォート・アセンブラでジェムナイト・ルマリンを攻撃」

「ッ、罠カード、輝石融合(アッセンブル・フュージョン)を発動! ジェムナイト・ルマリンと手札のジェムナイト・ラピスを融合! 雷を帯びし秘石よ、碧き秘石よ! 光渦巻きて、新たな輝きと共に一つとならん! 融合召喚! 現れよ、ジェムナイト・プリズムオーラ!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ

レベル7

攻撃力 2450

 

「バトルは続行、プリズムオーラを攻撃」

「速攻魔法、決闘融合―バトル・フュージョンを発動! このバトルの間だけジェムナイト・プリズムオーラにクリフォート・アセンブラの攻撃力を加える!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ

攻撃力 2450 → 5150

 

「……」

 

EIKA LP:750

 

私も入れていたカード、融合召喚を扱う光津さんなら当然入れていても不思議はない。

 

「この瞬間、プリズムオーラの攻撃力は元に戻る……ペンデュラムカードを手に入れたからって浮かれ過ぎじゃない? 以前のあなたならもっと慎重だったと思うけど」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ

攻撃力 5150 → 2450

 

「破壊されたアセンブラはペンデュラムモンスター、よって墓地ではなくエクストラデッキへ送られる。……いくらライフに傷がつこうと、0にならなければ同じ事です。そして私は、その前に敵のライフを削り切る……! クリフォート・シェルでプリズムオーラを攻撃!」

 

もう光津さんの場に伏せカードはない。

 

「くっ……!」

 

MASUMI LP:3350

 

爆風と共にプリズムオーラは砕け散る。

 

「クリフォート・シェルの効果発動。このカードがクリフォート・モンスターをリリースし、表側表示でのアドバンス召喚に成功した場合、二度の攻撃を行える。あなたのフィールドにカードは残されていない……直接攻撃」

「なっ、くぅ……!」

 

MASUMI LP:250

 

「カードを一枚セットし、ターンエンド」

「やるじゃない……私のターン!」

 

ドローしたカードを見て、光津さんは微笑んだ。

 

「どういうつもりであなたがデッキを変えたのかは分からないけれど、私も本気で行かせてもらうわ。あの時とはもう、違うのよ。永続魔法、ブリリアント・フュージョンを発動!」

 

フュージョン……永続魔法の融合カード……?

 

「デッキのジェムナイト・ガネット、エメラル、クリスタを素材として、融合召喚! 現れよ、全てを照らす至上の輝き! ジェムナイト・マスターダイヤ!」

 

ジェムナイト・マスターダイヤ

レベル9

攻撃力 0 → 600

 

(今、本当のエースまで出すのは遠慮させてもらうわ。マスターダイヤで勝負を着ける……!)

 

「永続魔法でかつデッキ融合……ですか、成程、確かに強力なカードです」

「勿論、デメリットはあるわ。この効果で召喚したモンスターの攻撃力、守備力は0になる。今のマスターダイヤは自分の効果で上昇した、600ポイントの攻撃力しか持っていない――けれど、手札から魔法カードを墓地に送る事で、元の力を取り戻すのよ! 私は手札のパーティカル・フュージョンを墓地に送る!」

 

ジェムナイト・マスターダイヤ

攻撃力 600 → 3500

 

デッキ融合、それが如何に強力かは私も良く知っている。だからこそ私もデッキにシャドールを残したのだ。しかもこのカードならジェムナイト・フュージョンが手札にあれば、その効果で実質手札コスト0で強力な融合モンスターを召喚出来る。

……けれど、力を出し惜しんで私に勝てるなんて、侮られたものだ。

 

「……光津さん、やはりあなたは強いです。けれど、私はこのカードを発動していた。永続罠、機殻の再星(リクリフォート)

 

 

 

その後の結果は、わざわざ思い出すまでもない。

私が勝ち、光津さんが負けた。

けれどこのままでは駄目だ。強く、もっと強く。

鉄の如き意思と鋼の如き強さを。

赤馬社長に恩を返す、そうすれば私は……やっと。

 

 

 

「……っと、いけない」

 

何処か気まずい雰囲気で光津さんを見送り、今日はもう帰ろう、そう思った時、デュエルの時に置いた鞄を忘れて来た事に気付く。なんて間抜けな……以前ならこんな事なかったのに。

踵を返し、再びデュエル場へと足を向ける。

一番奥のデュエル場へと向かう途中、この時間は使われていないはずの別の講義用のデュエル場に明かりが灯っていた。

 

 

 

「俺はスケール3の妖仙獣 左錬神柱とスケール5の妖仙獣 右錬神柱でペンデュラムスケールをセッティング! ペンデュラム召喚! 来い! 妖仙獣 鎌壱太刀! 鎌弐太刀、鎌参太刀!」

 

「来たぁ! ペンデュラム召喚!」

「沢渡さん、決まり過ぎっす!」

「ネオ沢渡最高!」

 

中から聞こえて来たのは山部、大伴、柿本の声と聞きたくもない男の声だった。

中島さんから聞いてはいたが、本当にあの男にペンデュラムカードを……。いや、けれどそれは正しい。赤馬社長はペンデュラムカードを普及させようと研究していたんだ。あの男に扱えるのであれば、他のデュエリストたちにも間違いなく扱える。そういう意味ではテストプレイヤーとしては最適だろう。

……これ以上此処で立ち止まっていても仕方がない。気分が悪くなる前に行こう。

 

 

 

「妖仙獣 閻魔巳裂(やまみさき)で氷帝メビウスを攻撃! 続いて鎌弐太刀で直接攻撃!」

「うわあああ!」

 

YAMABE LP:0

WIN SAWATARI

 

 

「沢渡さん、やっぱりペンデュラム召喚強すぎっすよ!」

「違うなあ、強いのはペンデュラム召喚じゃあない、それを使うデュエリスト――つまり強いのは!」

「「「「沢渡さーん!」」」

「イエース! ペンデュラムカードを手にした今、榊遊矢も敵じゃない。勝つのはこの、ネオ!」

「「「沢渡さーん!!」」」

「イエス! イエス!」

 

詠歌が来ていた事も知らず、彼らは沢渡を持ち上げ続ける。この瞬間だけは沢渡も先程の事を忘れ、気分を良くしていた。

しかし、

 

「でも沢渡さん、LDSに来たんなら久守の奴も呼んでやれば良かったんじゃ……?」

「ああ……相当キテたからな、久守の奴」

「この前、虚空に向かって名前を呼んでたのを見たぞ……」

 

「……そう! そうだよなあ、なーに、明日になれば選手権が始まる。その時は呼ばないでも来るさ……あいつも一日経てば頭を冷やすだろうからな」

 

聞こえないようにそう付け加えて、沢渡は笑った。

 

「……?」

「沢渡さん」

「何かあったんすか? 久守と」

 

だが沢渡の態度の変化に気付いたのか、山部たちはそう尋ねた。

 

「別に? ただあいつがらしくもない様子だったからな、まあこの俺に会えなかったが故に拗ねでもしたんだろうさ。まったく、人気者は辛いねえ」

「久守が?」

「珍しい事もあるもんすね」

「確かに最近見かけなかったけど……拗ねるってか風邪でも拗らせたんだと思ってました」

「風邪……そう、それだ! そうに違いねえ! 明日も来ないようならそれしかねえ!」

「「「……?」」」

 

まだ、誰も事の重大さには気づいていなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「社長、久守詠歌の様子ですが」

「ああ、どうなっている」

「経過を見る限り、異常はありません。記憶の抹消と改竄は成功しているようです」

「そうか」

「はい。チームからの報告を受けた時は懸念もありましたが……」

「この街に来る前の記憶が読み取れない、か……だが彼女が記憶を失っている様子はない。元々人間の脳はまだ未知の領域も多い、無理に触れようとすれば後遺症が残る可能性もある。記憶の抹消が出来ただけで十分だ。彼女は貴重な戦力なのだから」

「はい。ですが彼女をこちら側に引き入れるのなら、沢渡にペンデュラムカードを渡す必要はなかったのでは? 奴の事です、またごねてテストが終わってもペンデュラムカードを返さないとも限りません」

 

中島にとって沢渡の印象は良いものではない。最初の榊遊矢からのペンデュラムカード強奪の件での命令違反に、センターコートのジャック、頭が痛くなるような問題ばかり起こす厄介者。確かにペンデュラム召喚を行ったデュエリスト、という意味では適任なのかもしれないが、それでも他に手はあったのではないか、と思わずにはいられない。現に詠歌も成功させている今となっては、猶更。

 

「いや、これでいい。どちらにせよ大会は明日だ、沢渡には予定通り、一回戦で榊遊矢とデュエルをしてもらう」

「はっ、そのデュエルで我が社のペンデュラムカードの存在を認知させる、癪ですが沢渡ならばその点は適任でしょう」

 

沢渡の性格はそういった方面では役立つ、これ以上ないアピールになるだろう。中島はそう自分に言い聞かせた。

 

「久守詠歌もペンデュラム召喚を成功させた。沢渡のデータと合わせれば量産も可能になる」

「はい、テストではまだ不安定なカードでしたが今の所召喚反応、エネルギーバランス共に異常は見受けられません、しかしまたいつ異常が出ないとも……」

「その為に大会に出場しない彼女にあのカードを与えたのだ。安定した運用が出来るのであればそれで良し、仮に異常が出てもそのデータは有用なものだ。沢渡という枷が外れた今、彼女にはさらに実力を高めてもらわねばならない」

 

冷静に、淡々と赤馬零児は言葉を紡ぐ。

 

「確かめさせてもらおう。彼女の真の力を。鎖を外された彼女が何処へ辿り着くのかを」

 

それぞれの思惑が渦巻く中、大会が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

舞網チャンピオンシップ 当日

 

開催直前のスタジアムに私は居た。観戦も目的だが、それだけではない。

 

「此処に居たんですか」

「む……お主は」

「聞いているはずです、LDSの久守詠歌。あなた方が風魔の……日影さんと月影さんですね」

 

忍装束に身を包んだ二人組、日影さんと月影さん。彼らもLDS、社長からの依頼を受け大会に参加したデュエリストだ。

 

「私は大会には出場できません。ですから私の代わりに相応しくないデュエリストたちを振るい落とすのはあなた方の役割です」

「承知している」

「それ以外の邪魔者は私が排除します。あなた方も自分の仕事を」

 

私の言葉に二人は頷く。信用していないわけではありませんが、一応念を押しておく。

 

「伝えたかったのはそれだけです。……任務とは関係なく、応援もさせていただきます。頑張ってください」

 

 

 

「兄者」

「ああ。気付いたか、あの少女……」

「何かに駆り立てられている。隠しているつもりのようだったが、酷く不安定な気をしていた……」

「……どんな状況であろうと、我らが成すべき事は変わらぬ、行くぞ、月影」

 

 

 

念の為、会場を一度見回ってから、スタジアムの観客席へと足を運んだ。

既に開会式も終盤、榊さんの選手宣誓が始まっていた。

 

「――どんどんデュエルが楽しくなって、もっとデュエルを好きになりたいと思いましたっ。そして俺は榊遊勝のように誰かの誇りにされる、最高のプロデュエリストになりたいです! 自分も、皆もデュエルが好きになる、そんなデュエリストになりたいです!」

 

――かつて臆病者の息子と蔑まれ、それでも必死にデュエルと向き合おうとしていた少年の言葉に、会場は拍手を送った。

……何故だろう、確かに榊さんの言葉に嘘はなく、私の心にも響いた。素直に尊敬したいと思った。でも、この痛みはなんだろう。どうして私の心はこんなにも、何かを訴えるように痛むのだろう。

 

「っ……」

 

分からない。この感情の根源は、何?

頭が痛む、私は一体何をしているんだろう、という漠然とした疑問が頭を過ぎる。

……くだらない、私はただ、やるべき事を、言われた事をやるだけだ。

 

「……」

 

スタジアム、LDSの列に並ぶ志島さん、刀堂さん、光津さん、そしてその後ろでニヤリと笑いながら気障に拍手を送る、あの男が居た。

 

「っ……!」

 

虫唾が走る。気に入らない、あの表情も、いやあの男があの場所に立っている事自体が酷く気に入らない。

 

「おっ、居た居たっ、おい、久守」

「……大伴」

「探したぜ、いつまで経っても来ないからよ」

 

大伴に続いて、山部と柿本が追いかけるように私の前に現れた。

 

「昨日メールしただろ? 今日の集合場所」

「……ああ、そういえばそうでしたね」

「そういえば、って……沢渡さんも言わなかったけど、滅茶苦茶気にしてたぞ?」

「気にする? ……ははっ」

 

思わず、失笑が零れた。

 

「同じLDSの友人として忠告しておきます」

「は?」

「あなたたちも早く、あの男と縁を切った方がいい」

 

開会式を終え、通路へと戻っていくあの男を見下ろしながら、そう忠告した。

 

「道化に付き合って笑い者になりたくはないでしょう」

「お前、何を言って……」

 

顔を見合わせ、信じらないといった表情で口を開いた大伴に被せるように、私は言葉を続けた。

 

「私はもうあの男の取り巻きでも、人形でもない――あなたたちとの縁も、これまでです」

 

そうはっきりと伝え、私は席を立った。彼らと一緒に居る必要も、もうない。もう、いらない。

 

 

 

 

 

去って行く詠歌を三人は呆然と見送り、誰ともなく、震える声で呟いた。

 

「…………沢渡さん、一体久守に何したんだ……?」

「マジギレだったぞ、あいつ……」

「沢渡さん、マジやばいっすよぉ……」

 

久守詠歌の決別の言葉は、彼らには届いてなどいなかった。




主人公の新デッキのお披露目として申し訳程度のデュエル描写となりました。
これならきっと黒咲さんにも勝てるね(にっこり)


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人形と風斬る刃

ついに舞網チャンピオンシップは開会した。

榊さんの選手宣誓を見届けた私は観客席から離れ、スタジアム外の木影に腰を下ろす。

 

「っ……」

 

人混みはあまり好きじゃない。試合は中継もされている、ジュニアクラスに関しては中継映像で十分だろう。

ディスクでトーナメント表を確認すると、最初はフトシ君、そしてアユちゃんの試合だ。……アユちゃんの相手は、赤馬零羅。赤馬社長の弟。気の毒だが、アユちゃんに勝ち目はない。いや、アユちゃんだけではない。恐らくジュニアクラスのデュエリストでは誰も彼に敵う者はいないだろう。

赤馬社長もそれは分かっている。社長が期待しているのはジュニアユース以上の選手、特にペンデュラム召喚を生み出した榊さんと同じ世代、私たちジュニアユースクラスだ。

 

「ん……」

 

デュエルディスクがメールの着信を告げた。差出人はアユちゃん。

 

「『私とフトシ君の試合、しっかり見ててね』……ええ、分かっていますよ」

 

実力を疑うわけではないが、零羅くんの力を確かめる良い機会だ。言われずとも観戦させてもらおう。いずれ来たる戦いの為に。

 

 

 

「沢渡さーん!」

「待って下さいよ、沢渡さん!」

「いくら試合が明日だからって、そんなに急いで帰らなくてもいいじゃないっすか!」

 

会場の出入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえ、私は咄嗟に樹の後ろへと姿を隠した。

 

「んな事より久守はどうしたッ、あいつ、大会当日になっても俺の前に姿を見せねえとは……!」

「だ、だから言ったじゃないっすかぁ、滅茶苦茶怒ってたって……」

「沢渡さん、本当あいつに何したんすか……?」

「俺が知るか! 大体、俺は昨日まであいつには会ってないっつの!」

「それが原因なんじゃあ……」

「そんな訳あるかッ、この俺がわざわざメールで伝えたんだ。それで怒る訳が分からねえ」

「だって沢渡さん、隠れて俺たち相手にずっとペンデュラム召喚の練習をしてたし……」

「それをどっかで知って、仲間外れにされた事を怒ってるんじゃ? その前からずっとコソコソしてたし」

「そ、そうっすよ。それに何で久守だけ呼ばなかったんすか? 久守相手に隠す必要はないでしょ?」

 

……どうやらまだ私の意思は伝わっていなかったようだ。くだらない、そんな理由で今更私がどうこうなるはずもない。

今から出て行って、もう一度、今度は沢渡シンゴ本人にその意思を伝えてやりたい……けれどまたあの男の前に姿を現す事自体、私にとっては耐え難い苦痛だ。

 

「分かってないなあ、君たち。観客相手に練習を見せてどうする。本番で初披露してこそ、輝くってもんさ」

「……要は久守相手に良い所を見せたかったって事ですか?」

「んなっ! なんでそうなる! 俺はただショーを盛り上げる為にだな――」

 

「ショー、ですか。まるで榊さんのような事を言うんですね」

 

「ッ、久守!」

 

その苦痛に耐える事を選び、私は沢渡シンゴの前に姿を現した。

 

「久守、お前……一体どういうつもりだ! この俺の呼び出しにも答えないで、しかも好き勝手こいつらに言ったみてえじゃねえか」

「好き勝手? それはあなたの方だ。榊さんのペンデュラムカードを奪い、しかもそれを逆恨みして柊さんを巻き込もうとした……尤も、それはあの襲撃犯の手で防がれましたが。あの無様な姿があなたの本当の姿だ。榊さんの真似をする今のあなたは滑稽で、見るに堪えない」

「んだと……チッ、今はそんな事はどうでもいい! 何で俺から逃げるッ!」

「逃げる……あなたにはそう見えるんですか?」

「実際そうだろうが、俺を避けてコソコソしやがって、言いたい事があるならハッキリ言いやがれ! 前にも言ったよな、お前が何も言わなきゃ、俺はお前を無視して先に行くって」

「どうぞご自由に。あなたの行く先に道があれば、ですが」

「ッ、この……!」

 

「さ、沢渡さん! 落ち着いて!」

「久守もいくらなんでも言い過ぎだって!」

「お前が一番沢渡さんの事知ってるだろ!?」

 

「知りませんよ。……私はかつて、この男の事を愚かにも慕っていた。盲目的に、盲信していた。そんな濁った瞳で見たこの男の事なんて、何一つ理解できない。それはあなたたちと私も同じだ。自分を慕い、嫌な顔一つせず付き従っていた私しか知らないあなたたちに、本当の私なんて分からない。結局、私たちが過ごした時間は上辺だけの物です。今、それが漸く取り払われた……それだけです」

「……それがお前の本心だってのか」

「そうです」

「……なら、あの時のデュエルは。お前が言った、お前のやりたい事ってのはどうなる」

「忘れましたよ、そんなもの。私にとってはあんなデュエル、覚えている価値もない。ただ、そうですね……あなたに敗北を喫したという事実は屈辱です。今此処でそれを雪いでおきましょうか」

 

私はデュエルディスクを構えた。本気で潰すつもりはない。この男にはレオ・コーポレーションのペンデュラムカードを披露するという役目がある。

 

「……クソッ、行くぞお前ら!」

「逃げるんですか、臆病者」

「今お前に構ってやる暇はないんでね」

「榊さん、ですか。懲りない男」

 

私の言葉には答えず、沢渡シンゴは去って行った。

 

「あなたたちも行ったらどうですか。それが、あなたたちの選択なんでしょう」

「……なあ久守、本当にどうしちまったんだよ」

「あるべき形に戻っただけです。今までが異常だったんですよ。どうして私があんな男に惹かれていたのか、本当に理解できない。あなたたちが今もあの男に付き従う訳も」

「「「……」」」

 

山部たちもまた、無言で沢渡シンゴを追った。

……どうしてあんな男を慕うのか、分からない。

 

まあいい、これで静かになった。もう試合は始まっているだろう。

ディスクを起動させようとした時だった。

 

「あ、あの……」

 

今度は誰……嫌気が差しながらも振り向く。

 

「お、お久しぶりです……」

「あなたは……」

 

 

 

私たちはスタジアムの外に設置されたベンチに腰掛けていた。

 

「これ、良かったらどうぞ。大会中は暇だからと休憩を頂いて、もしかしたら会えるかも、って思って持って来たんです」

「はあ……ありがとうございます」

「あれから改良を加えて、今では結構リピーターも獲得したんですっ」

 

手渡された紙袋を広げると、中には見覚えのあるプティングが入っていた。

 

「店長からもそろそろ新しい商品を作ってみないか、って言われててっ、これも全部お客様のおかげです!」

「いえ、私は何も……」

「何を言うんです、お客様は名付けの親じゃないですかっ、この――マドルチェ・プディンセスの」

 

彼女――もう暫く行っていない、ケーキ屋の店員の女性からスプーンを受け取る。

マドルチェ・プディンセス、そう、そういえばそう名付けたんだったか。何か、願いを込めて……その願いが何だったのか、今となっては思い出せないけれど。

 

「……美味しいです」

 

一口、口にしてそう告げる。

 

「……あ、あれ? 失敗しちゃってましたかっ!?」

「え……?」

「だ、だってちっとも美味しいって顔じゃないですし……ま、慢心していたつもりはないのに!」

「い、いえ、そんな事は……美味しい、です」

 

嘘は言っていない。十分お店に出せるレベルの味だ。決して気を遣っている訳ではない。

 

「うぅ……新味の研究をしている場合じゃなかったですね。もっと精進します……」

「そんな……あっ、ほ、ほら試合が始まりますよっ。赤馬社長の弟さんのデュエルです」

「零児様の……?」

 

ライブ映像が映し出されるデュエルディスクを設置されているテーブルに置いて、声を掛ける。

アユちゃんと零羅くんの試合が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

それからお昼まで私たちは並んでデュエルを観戦した。

 

「凄いですね、あんなに小さな子たちが……」

「たとえジュニアクラスでも出場資格を勝ち取った精鋭ですから。退屈はしないと思います」

「ええ、本当にっ」

 

目を輝かせながら頷く女性に、思わず頬が緩む。……でも、この大会の真の目的は誰かを楽しませる事じゃない。

 

「……あっ、この人、ですよね」

 

私のデュエルディスクでトーナメント表をぼんやりと眺めていた女性が、一人の写真を指差した。

 

「え?」

「以前言っていた沢渡シンゴさん、って方。試合は……明日」

「……ああ、そういえばそんな事も言いましたね」

「……?」

「いえ。ではすいませんが私もそろそろ会場に入ります。午後からのデュエルは直接観戦したいですから」

「あっ、はい。私もお店に戻ります。またいつでもいらしてください!」

「ええ」

「私もまた明日、観戦に来ますね」

「はい、ではまた明日」

「……ふふっ、はいまた明日!」

 

何故か笑う女性に首を傾げてしまう。何か変な事を言っただろうか。

 

「いえ、こんな風に誰かと約束をするのが久し振りで。社会人になると中々職場以外の友人って出来ないんですよ。だから何だか嬉しくって」

「友人、ですか」

「はい。……あっ、ごめんなさい、お客様相手に失礼でした、よね……」

「いえ、此処はお店じゃありませんし、今の私はただの中学生ですよ。でも友人、ですか……私も‟外”の友人が出来るのは初めてです」

 

…………? なんだろう、今の違和感は。‟外”……? 確かにLDSや学校以外での友人というのは彼女が初めてだ。でも何故、そんな言い方をしたんだろう……。

まるで別の、他の場所を指しているような……。

 

「中学生……そうですよね。知ってましたけど……どちらかと言うと姉妹ですかね?」

「……ふふ、そうかもしれませんね」

 

……気にする事もない。些細な事だ。

 

「それでは、私はこれで」

「はい、気を付けて。プティング、ご馳走様でした」

「今後ともご愛顧、よろしくお願いしますっ」

 

最後にちゃっかりとアピールしながら、彼女は去って行った。……少し、気分が安らいだ。彼女がデュエリストではないからだろうか。余計な事を考えず、ただ一人の私として接することが出来るから。

 

「……行こう。午後には光津さんと柊さんのデュエルだ」

 

 

 

 

 

 

そして午後、刀堂さんと志島さんと合流し、光津さんたちのデュエルを観戦した。

結果は融合召喚を習得した柊さんの勝利、昨日、私とのデュエルで見せた永続魔法での融合に加え、真のエースと称したカードを用いた全力でのデュエル。その果てに光津さんは敗北した。

残念ながら彼女はランサーズに相応しいと言える器ではなかった。……何故だろう、その事に何処かホッとしている自分が居た。

 

「惜しかったな、真澄」

「ああ。でもまさかあの短期間でここまで融合召喚を使いこなすなんて、柊柚子も大したものだ」

「……ま、あいつも受け入れてるんじゃねえか。この結果をよ」

 

退場していく光津さんの表情には悔しさが滲んでいた。けれど、満足気にも見える。

 

「全力でやった結果なんだ。賞賛するよ、どっちもね」

 

光津さんと柊さん、二人の姿が見えなくなるまで刀堂さんと志島さん、いえ、会場の観客たちは拍手を送り続けた。

…………。

 

「……甘い」

「……久守?」

「……いえ、何でもありません」

 

……分からない。何なんだろう、この感情は。

安堵している自分と苛立つ自分。素直に拍手を送る自分とこの結果に冷ややかな目線を送る自分。

真逆の感情が私の中で渦巻いている。

 

 

 

「……なあ沢渡の奴と喧嘩したってのはマジなのか?」

「今の様子を見れば明らかだろう……自分では気づいていないのかもしれないけど、相当苛ついてるよ、彼女」

「はぁ……ったく、何があったかは知らねえがとっとと謝っちまえよ、沢渡の奴……」

 

「何こそこそしてるのよ、あんたたち」

「うぉ、真澄っ!」

「戻ったのか」

 

私がその感情を持て余す中、光津さんが観客席へと戻って来た。

 

「……お疲れ様です、光津さん」

「ええ……納得のいく結果じゃなかったけどね」

「残念だったね」

「今回は私の負けよ。でも、次やる時は勝つわ。負けっぱなしじゃLDSの名が泣くからね」

「へへっ、それでこそお前だよ」

「勿論、あなたにもよ。久守」

「え……」

 

光津さんに急に視線を向けられ戸惑ってしまう。

 

「昨日のデュエル、あなた相手に出し惜しみをしたのが間違いだったわ。次やる時は全力でやりましょう……お互いにね」

「私は全力、でした」

「良く言うわ。負けた私が言えた事じゃないけど、前のあなたはもっと強かったもの」

「ッ……そんなはずありません。私は強くなった、以前よりもずっと……」

 

ペンデュラムカードを手に入れ、弱いカードたちを抜いて、沢渡シンゴという枷を取り払い、私は強くなった。

 

「悪い事は言わないわ。早く許してあげなさい」

「……一体誰の事を言ってるんですか」

「あのドヘタ以外に誰が居るのよ。喧嘩の原因は知らないけど、今のあなたには前みたいな輝きがないのよ。ずっと許さないでいるのも辛いでしょ」

 

……耐え切れなかった。

 

「ッ、勝手な事を! ……勝手な事を、言わないでください……!」

 

「お、おい久守っ?」

 

耐え切れず立ち上がり、そう言い放った私に光津さんたちは驚き、私を見上げた。

光津さんにこんな風に声を荒げるのは初めてだ。

 

「私は解放されたっ、強くなったんだ! あんな男に縛られないだけの強さを手に入れた!」

 

観客席に居る事も忘れ、私は叫ぶ。

 

「私に輝きがない? くすんでいるのはあなたの方です、光津さんッ」

 

駄目だ。これ以上口を開いてはいけない。

 

「全力を出すまでもなく一度は完勝した柊さんに敗北した、それが何よりの証拠だ!」

 

けれど、止まってはくれなかった。

 

「融合コースのエリートも随分と――」

「おい久守!」

 

刀堂さんが立ち上がり、私を睨みながら両肩を押さえた。

 

「やめろ刃!」

「いいや、流石に黙ってられねえよ。久守、お前自分が何言ってんのか分かってんのか」

「……」

「やめて刃」

「けど真澄!」

「その子の言ってる事は事実よ。あなたが腹を立てる事じゃないわ」

「けど!」

「お願い、やめて」

「……ちっ!」

 

光津さんの言葉に、納得できない様子で刀堂さんは私から手を離し、乱暴に席に着いた。

……一体、何をやっているんだ私は。

 

「…………すいません。少し、頭を冷やしてきます」

 

私はもう一度席に着くことも出来ず、他の観客たちの注目を集めたまま外へと通じる通路に向かった。

 

 

 

アテもなく観客席を抜け、スタジアム内のロビーへと辿り着いた。……何をしているんだ、私は。何を考えているんだ、私は。一人になりたい。一人になって、気持ちを落ち着けよう。このどうしようもない感情を。

 

「久守さん!」「詠歌お姉ちゃん!」

「……柊さん、アユちゃん」

 

けれどそういう時程、私は間違った道へと進む。

ロビーには柊さんやアユちゃん、榊さん、遊勝塾の方々が居た。

 

「見ててくれたっ? 私と真澄のデュエルっ! 遊勝塾での雪辱を――」

「すいません、柊さん。今は……ごめんなさい」

「あっ……」

 

……ごめんなさい。今、あなたたちと話したら、きっと傷つけてしまう。あなたたちの事も、私自身の事も。

俯き、顔を合わせる事無く私は走り抜けた。

 

 

 

詠歌が去った後、観客席に残された刃たちは不機嫌そうに口を開いた。

 

「……何だってんだよ、あいつは。沢渡の野郎と何があったのかは知らねえが、こんな八つ当たりみてえな真似しやがって」

「あの子も慣れない事をして辛いのよ」

「だからって許せねえだろ。あいつが言った事は、言おうとした事は今のデュエルを、お前を侮辱するもんだぞ」

「……僕も刃に同感だよ。正直、刃が動かなかったら僕が立ち上がってた」

「ありがと。でも私は大丈夫よ。今回は許してあげるわ」

「何でそこまで寛容なんだよ」

「私も一度、あの子と初めてデュエルした時色々と言ったからね。これでお相子よ。もし次また同じ事を言ったら私にも考えがあるけどね」

「おっかねえな……」

「……ま、君がそう言うならそれでいいさ」

 

北斗が頷き、真澄たちは視線をデュエルコートへと戻した。

……しかし、数拍置いて刃がガシガシと髪をかき、立ち上がった。

 

「刃?」

「悪ぃ、ちょっくら野暮用が出来たわ」

「……? ちょっと刃っ?」

 

訝しげに見上げる真澄にそう言って、刃は観客席を走り抜ける。

ただ一人、北斗だけが呆れたように肩を竦めた。

 

「まさかあの子を追いかけて?」

「さてね、どっちかと言うともう一人の方じゃないかな」

「もう一人って……」

「やっぱり兄妹みたいだよ、あの二人は」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

真澄たちと別れ、一人刃は自らの学び舎であるLDSへと戻っていた。

此処のセンターコートでも既にユースクラスの試合が始まっている。LDS内に人はほとんど居なかった。

だがその中に刃の目的の人物は居た。

 

LDSの奥、今使われているはずのない講義用のデュエルコートに。

 

「こんな所に居やがったか。テメェがそこまで熱心だとは思わなかったぜ。おかげで随分走り回っちまった」

「お前は……」

「一人か? いつもの連中はどうしたんだよ――沢渡」

 

デュエルコートに一人、沢渡シンゴは立っていた。

 

「別に? 休憩ついでに買い物を頼んだだけだ」

「パシリかよ。相変わらずだな」

 

大勢の塾生を抱えるLDSにおいて、二人は別段仲が良い訳ではなかった。詠歌の存在がなければ刃にとって沢渡は総合コースに居る問題児程度の認識しかなかっただろう。

沢渡にとっても刃の存在は興味もない、名前もろくに知らない生徒でしかなかっただろう。

 

そんな二人が今、デュエルコートで対峙している。どちらも不機嫌さを隠す事もなく、苛立たしげに互いを見据えて。

 

「何の用だよ。生憎とお前に構ってる暇はないんだよね」

「俺だってお前になんざ構いたくねえよ」

「だったら――」

「だがな、見てられねえんだよ」

「何?」

「今のあいつも、こんな所で突っ立ってるお前もな」

「……お前もか。ったく、どいつもこいつも……」

 

沢渡の視線が変わる。行き場のない不機嫌さが蟠っていただけの瞳から、八つ当たりに近い、敵意を含んだものに。

 

「光津真澄もそうだが、久守、久守、鬱陶しいんだよ。俺とあいつがどうなろうとお前らにゃ関係ねえだろ」

「大ありだ。俺も真澄も、北斗も、あいつのダチだ。お前のせいで俺らまでギクシャクしてんだよ」

「ッ、俺のせいだぁ!? 知るか! 大体あいつが急に態度変えて来たんだ、俺は何もしてねえ!」

「お前らの事情は知らねえよ。あいつは何も話さねえからな。けど確かに、お前は何もしてねえ」

「ああ……?」

「今だってお前は、何もしないままじゃねえか」

「ッ! 俺に何をしろってんだ!」

「デュエルだ」

「何だと……?」

「俺とデュエルしろ、沢渡」

 

竹刀を沢渡に向け、はっきりと、毅然とした表情と口調で刃はそう告げ、デュエルディスクを構えた。

 

「……はっ、おいおい。あいつに負けたお前が俺とデュエルだって? やめとけよ、大事な試合前に自信を失うぜ?」

「お前こそ、このままじゃ大事な試合で大失敗するぞ? せっかく念願の、榊遊矢から騙し取ってまで欲しかったペンデュラムカードを手に入れたってのによ。それに第一、あいつとのデュエル前に散々俺に負けただろうが」

 

一瞬、コート内が静まり返った。センターコートでの歓声が此処まで響いた。

 

「いいぜ……やってやろうじゃん……!」

「端っからそうすりゃいいんだよ……!」

 

ついに、沢渡もまたディスクを構える。舞網チャンピオンシップで盛り上がる舞網市の中で、観客のいない二人だけのデュエルが始まろうとしていた。

 

「フィールドは俺が選ばせてもらうぜ」

「ああ、お好きにどうぞ」

「アクションフィールド・オン! フィールド魔法、剣の墓場!」

 

コートが刀剣の突き刺さる荒野へと姿を変えていく。

 

「成程、お前にはピッタリじゃんか」

「言ってろよ、いくぞ!」

 

このフィールドはかつての遊勝塾でのデュエル、刃と権現坂がデュエルを行ったのと同じフィールド。そして権現坂が榊遊矢とのデュエルで自ら選んだフィールド。それをあえて刃は選択した。権現坂にとってこのフィールドが因縁深いものであるように、彼にとってもまた、意味を持つフィールドだった。

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

SAWATARI VS YAIBA

LP:4000

アクションフィールド:剣の墓場

 

「先行は貰うぜ! 沢渡、確かにテメェの言う通り俺は久守に負けた。運が良かっただけとか言ってたが、俺はあいつのエクシーズにやられた」

 

それは覆せない事実だ。真澄のように融合とエクシーズでもなく、北斗のようにシンクロと融合でもなく、エクシーズのみで刃は敗北した。

だがしかし、これまで詠歌と戦って来たデュエリストの中で唯一、刀堂刃だけが。沢渡シンゴすら見た事のない彼女のフィールドに二体のお菓子の女王が揃ったのを目撃したデュエリストなのだ。

 

「だけどな、俺がいつまでもあいつに負けたままだと思うんじゃねえぞ! 俺のターン! 俺は手札からXX-セイバー ボガーナイトを召喚! ボガーナイトの召喚に成功した時、手札からレベル4以下のXセイバー一体を特殊召喚出来る! 俺はレベル1のチューナーモンスター、X―セイバー パロムロを特殊召喚!」

 

XX―セイバー ボガーナイト

レベル4

攻撃力 1900

 

X―セイバー パロムロ

レベル1 チューナー

守備力 300

 

「はっ、お得意のシンクロかよっ」

「ああ、そうさ! これがLDS仕込みの、俺のシンクロだ! レベル4のボガーナイトにレベル1のパロムロをチューニング!」

 

二体の異形の傭兵たちが星と光の輪へ姿を変え、道筋のように光が指す。

 

「シンクロ召喚! 現れろレベル5! X―セイバー ウェイン!」

 

光と共に姿を現す、蒼いマントと銃剣を携えた新たな傭兵。

 

X―セイバー ウェイン

レベル5

攻撃力 2100

 

「さらにウェインのモンスター効果! このモンスターがシンクロ召喚に成功した時、手札からレベル4以下の戦士族モンスターを特殊召喚する事が出来る! 俺が召喚するのはレベル3のチューナーモンスター、XX―セイバー フラムナイト!」

 

XX―セイバー フラムナイト

レベル3 チューナー

攻撃力 1300

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 

立ちはだかる二体のモンスター。未だに使い手の少ないシンクロ召喚の使い手、刀堂刃。しかし沢渡に恐れはない。確かに詠歌に敗北した時より強くなっているのかもしれない。だがそれは彼も同じだ。詠歌に勝利した時よりもさらに先へ、高みへ、自分は昇っている。その自負がある。

 

「俺はスケール5の妖仙獣 右鎌神柱をペンデュラムゾーンにセッティング……!」

「ペンデュラムカード……!」

「さらに俺は手札から妖仙獣 鎌壱太刀を召喚。さあ、来い! 鎌壱太刀!」

 

妖仙獣 鎌壱太刀

レベル4

攻撃力 1600

 

「それがテメェの新しいデッキかよ。だがペンデュラムカード一枚じゃ意味はねえ!」

 

今まで見た事のないカードだった。和装に身を包む、鎌鼬に似た戦士。そして沢渡の背後、光の柱に昇る神柱。

それを見た瞬間、刃は走りだしていた。

 

「ふっ、さらに鎌壱太刀の召喚に成功した時、手札から妖仙獣一体を召喚出来る。俺は妖仙獣 辻斬風(つじきりかぜ)を召喚!」

 

妖仙獣 辻斬風

レベル4

攻撃力 1000

 

「さらに鎌壱太刀の効果発動! 自分フィールドに鎌壱太刀以外の妖仙獣が存在する時、相手フィールドの表側表示のカード一枚を手札に戻す! だがシンクロモンスターが戻んのは手札ではなくエクストラデッキ! 戻れウェイン!」

「させるかよ! アクションマジック、透明! このターンウェインは相手のモンスター効果を受けねえ!」

 

鎌壱太刀の召喚と共にフィールドを駆けていた刃は効果が発動したと同時にアクションカードを手にした。

 

「まだだ! 辻斬風の効果ッ、俺の場の妖仙獣一体を選択し、その攻撃力をターン終了時まで1000ポイントアップする。俺は鎌壱太刀を選択」

 

妖仙獣 鎌壱太刀

攻撃力 1600 → 2600

 

「さあバトルだ! 俺は鎌壱太刀でX―セイバー ウェインを攻撃!」

 

風斬る刃が傭兵へと迫る。今のウェインの攻撃力は鎌壱太刀には及ばない。アクションカードも今からでは間に合わない。

しかし刃は怯まない。

 

「フラムナイトのモンスター効果発動! 一ターンに一度、相手モンスター一体の攻撃を無効にする!」

 

ウェインの前にフラムナイトが躍り出て、鎌壱太刀を受け止めた。

 

「チッ……」

「傭兵ってのは仕事はきっちり果たすもんなのさ」

「シンクロコースのエリートともあろうデュエリストが一ターン目から随分必死じゃねえか、余裕がねえぞ?」

「……ああ、そうだな。あの時とは違う。俺はもう、お前を侮らねえよ……沢渡」

 

もう既に、刃にとって沢渡は総合コースの問題児などではない。全力で相手をするに足る、いや、全力で掛からなければ勝てないデュエリストだ。

 

「……ふん、俺はカードを二枚伏せてターンエンド。この瞬間、召喚された妖仙獣 鎌壱太刀と辻斬風は自身の効果によって俺の手札に戻る」

「自分のフィールドをがら空きに……? 俺のターン! 俺はXX―セイバー レイジグラを召喚!」

 

沢渡のフィールドにあるのは二枚の伏せカードと一枚だけセッティングされたペンデュラムカード。何かある、そう確信しても刃のやる事は変わらない。

 

XX―セイバー レイジグラ

レベル1

攻撃力 200

 

「レイジグラの召喚、特殊召喚に成功した時、墓地のXセイバー一枚を手札に戻す! 俺はボガーナイトを手札に!」

「レベルの合計は9……来いよ、刀堂刃」

 

かつて詠歌とのデュエル、その為に彼は刃や北斗たちとデュエルをしていた。だから沢渡は知っている、Xセイバー最強の戦士を。

 

「レベル5のX―セイバー ウェインとレベル1のXX―セイバー レイジグラにレベル3のフラムナイトをチューニング! 白銀の鎧輝かせ刃向う者の希望を砕け! 出でよレベル9! XX―セイバー ガトムズ!」

 

XX―セイバー ガトムズ

レベル9

攻撃力 3100

 

「いくぜ! ガトムズで直接攻撃!」

「残念だったなあ、バトルフェイズの前に罠を発動させてもらうぜ。リバースカード、オープン、威嚇する咆哮! このターン相手の攻撃を封じる」

「へっ、流石に対応策は用意してたか。俺はカードを一枚セットし、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードを見て、沢渡は笑った。

 

「来たか、俺は永続魔法、修験の妖社を発動!」

 

カードが発動した瞬間、沢渡の背後に怪しげな社が現れる。

 

「そして俺は妖仙獣 鎌壱太刀を召喚! 妖仙獣の召喚に成功した時、修験の妖社に妖仙カウンターが一つ点灯! さらに鎌壱太刀の効果により――」

「おっと! させねえよ! カウンター罠、セイバー・ホール! 俺のフィールドにXセイバーが居る時、相手モンスターの召喚を無効にし、破壊する!」

「何!?」

「鎌壱太刀の召喚が無効になった事により、妖仙カウンターの点灯も無効だ!」

「くっ……!」

 

風と共に再び現れた鎌壱太刀の姿が薄れていく。

 

「何をする気かは知らねえが、やらせるかよ!」

「――なんてな。カウンター罠、妖仙獣の秘技! 俺のフィールドに妖仙獣が存在する時、モンスター効果、魔法、罠カードの発動を無効にし、破壊する!」

 

だが鎌壱太刀は風にもう一度包まれ、今度こそその姿を現した。

 

「何……? お前のフィールドには――」

 

そこまで言って、刃は気付く。

 

「セッティングされたペンデュラムモンスターは魔法カード扱いになる。だが魔法カードだろうと妖仙獣であることに変わりはねえのさ。俺は召喚に成功した鎌壱太刀の効果で手札から辻斬風を召喚! 二体の妖仙獣が召喚された事で妖仙カウンターは二つ点灯する! はっ、俺の方が一枚上手って事だ!」

 

妖仙獣 鎌壱太刀

攻撃力 1600

 

妖仙獣 辻斬風

攻撃力 1000

 

 

カウンター罠を防がれた刃にはもう、この召喚を防ぐ手はなかった。

 

「まずは鎌壱太刀のモンスター効果! 俺の場に別の妖仙獣が存在する時、相手フィールドの表側表示のカード一枚を手札に戻す! 消えろガトムズ!」

 

最強の傭兵は鎌壱太刀の風に流され、消える。

 

「ガトムズはエクストラデッキに戻る……来いよ」

「辻斬風の効果を発動し、辻斬風自身の攻撃力を1000ポイントアップ! いけ! 妖仙獣 鎌壱太刀と辻斬風で直接攻撃!」

 

辻斬風

攻撃力 1000 → 2000

 

「ぐぅ……!」

 

風の刃に吹き飛ばされ、刃は剣の荒野を転がった。

 

YAIBA LP:400

 

「これで俺はターンエンド。そして鎌壱太刀たちは俺の手札に戻る」

「……俺の、ターン! 俺は手札からXX―セイバー ガルドストライクを特殊召喚! このカードは墓地にXセイバーが二体以上存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、特殊召喚出来る!」

 

XX―セイバー ガルドストライク

レベル5

攻撃力 2100

 

「さらにボガーナイトを通常召喚!」

 

XX―セイバー ボガーナイト

レベル4

攻撃力 1900

 

「バトル! ボガーナイトで直接攻撃!」

「うぁぁああ!」

 

ボガーナイトの斬撃により沢渡もまた剣の荒野を転がる。

 

SAWATARI LP:2100

 

後一撃、ガルドストライクの攻撃が通ればそれで終わり。

 

「ガルドストライク、攻撃!」

「――ッ! アクションマジック、回避!」

 

しかし、運は彼を見離さなかった。彼の言葉を借りれば、カードが沢渡シンゴを選んだ。

転がった先、剣の影に隠れたアクションカードを掴み、ディスクへと挿入する。

 

「モンスター一体の攻撃を無効にする!」

「防いだか……俺はこれでターンエンド」

「俺のターン。……光栄に思え、こいつを見せるのはあいつらを除けばお前が初めてだ! 俺は妖仙獣 鎌壱太刀を召喚! さらにその効果により、妖仙獣 木魅(こだま)

を召喚! これにより妖仙カウンターが二つ点灯!」

「辻斬風じゃない……?」

「木魅のモンスター効果発動! このカードをリリースする事で修験の妖社にさらに三つ妖仙カウンターが点灯する! これで点灯したカウンターは7! 修験の妖社の効果発動! 一ターンに一度、妖仙カウンターを三つ取り除き、デッキから妖仙獣一枚を手札に加える!」

 

妖しく灯ったカウンターの内、三つの灯りが吹き消される。

 

「俺が手札に加えるのは妖仙獣 左鎌神柱!」

「もう一枚のペンデュラムカード……!」

 

沢渡が手札に加え、公開したカードの色は二色。既にセッティングされている右鎌神柱の対となるペンデュラムカード。

沢渡の手札は三枚。その内、一枚は辻斬風だが――これで条件は整った。

 

「俺はスケール3の妖仙獣 左鎌神柱とセッティング済みのスケール5の妖仙獣 右鎌神柱でペンデュラムスケールをセッティング!」

「へっ……来やがれ!」

 

沢渡の背後に二つの光柱が出現する。そして空中へと浮かび上がる、二つの神柱。

 

「さらに右鎌神柱の効果! もう片方のペンデュラムゾーンに妖仙獣がセッティングされている時、スケールは5から11へと上がる!」

「これで……」

「そう! これでレベル4から10のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚!」

 

光柱、その間から現れる2つの光。

 

「来い辻斬風! そして出でよ、妖たちの長よ! レベル10、魔妖仙獣 大刃禍是!」

 

妖仙獣 鎌壱太刀

攻撃力 1600

 

妖仙獣 辻斬風

攻撃力 1000

 

巨大な嵐と共に姿を現す、妖仙獣の長。

 

魔妖仙獣 大刃禍是

レベル10 ペンデュラム

攻撃力 3000

 

「こいつが……!」

「鎌壱太刀の効果、ボガーナイトを手札に戻す! さらに大刃禍是の効果発動! このカードが召喚、特殊召喚に成功した時、フィールドのカードを二枚まで持ち主の手札に戻す! 戻れガルドストライク! そしてお前の伏せカードもだ!」

 

その身を包む烈風を解き放ち、大刃禍是は咆哮した。

巻き起こされた風により、成す術もなく二体の傭兵は姿を消した。

そして唯一残されていた伏せカードもまた、手札へと戻る。

 

「アクションカードを取らせる暇は与えねえ! これで終わりだッ、大刃禍是で直接攻撃!」

 

迫りくる巨大な体躯。けれど、その状況で刃は笑った。

 

「アクションカードは取らせない? もう遅えよ――アクションマジック、大脱出! バトルフェイズを終了する!」

「何ぃ!?」

「へへっ、何だっけか……お前が言う所のカードに選ばれてるって奴か」

 

巻き上がった砂煙の中、刃の声が響く。

 

「そうか、あの時既に……!」

 

沢渡が転がった先でアクションカードを手にしたように、刃もまた既にその手にカードを掴んでいた。

 

「甘えんだよ、沢渡!」

 

竹刀を振るい、砂煙を吹き飛ばし刃が姿を現した。

 

「くっ……ターンエンド。この瞬間、特殊召喚された大刃禍是は手札に戻る……だが、鎌壱太刀と辻斬風が手札に戻るのは通常召喚された場合のみ、よって二体はフィールドに残る」

 

大刃禍是の巨大な体が風となりフィールドに散っていく。

残されたのは二体の妖仙獣。

 

「もう逃がさねえぜ、鼬野郎! 俺のターン、ドロー! 俺はもう一度ガルドストライクとボガーナイトを召喚! さらにボガーナイトの効果により、手札からXX―セイバー エマーズブレイドを特殊召喚する!」

 

XX―セイバー ガルドストライク

攻撃力 2100

 

XX― セイバー ボガーナイト

攻撃力 1900

 

XX― セイバー エマーズブレイド

レベル3

攻撃力 1300

 

「バトルだ! ボガーナイトで鎌壱太刀を攻撃!」

「っ……!」

 

SAWATARI LP:1800

 

鎌壱太刀は斬り捨てられ、その衝撃に顔を顰めながら、沢渡は走る。

 

「ガルドストライクで辻斬風を攻撃! 砕けろ鼬野郎!」

「アクションマジック、エクストリームソード! 辻斬風の攻撃を1000ポイントアップする!」

 

辻斬風

攻撃力 1000 → 2000

 

「く……!」

 

SAWATARI LP:1700

 

「エマーズブレイドで攻撃!」

「っ、この……!」

 

二枚目のアクションカードへと手を伸ばすが、その手は届かない。昆虫を思わせる傭兵が沢渡を吹き飛ばした。

 

SAWATARI LP:400

 

「……俺はカードを伏せ、ターンエンドだ」

「くっ、やるじゃねえか……!」

 

刃も、沢渡も、二人の体は砂埃に汚れていた。泥臭い、男同士の喧嘩の最中であるかのように。

 

「俺のターン! くっ……」

 

ドローしたカードに思わず、顔を顰める。引いたのは二枚目の修験の妖社。ペンデュラムスケールがセッティングされていても、手札にあるモンスターは大刃禍是のみ。これだけでは刃のライフを削り切る事は出来ない。

 

「俺は右鎌神柱の効果でスケールを11に上げ、セッティング済みの左鎌神柱と右鎌神柱でペンデュラム召喚! 烈風纏いし妖の長よ、荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ! 魔妖仙獣 大刃禍是!」

 

魔妖仙獣 大刃禍是

攻撃力 3000

 

「大刃禍是の効果! お前のフィールドのエマーズブレイドと伏せカードを手札に戻す!」

 

再び現れた大刃禍是の咆哮により、二体の傭兵は刃の手札へと戻される。

 

「いけ、バトルだ! 大刃禍是でガルドストライクを攻撃!」

「……!」

 

この攻撃が通れば残りライフ400の刃の敗北が決定する。

 

「うっ、おおおおおおおおお!!」

 

故に刃は走った。まだ、負けるわけにはいかない。まだ此処に来た目的を果たしていない。それを果たすまではどれだけ見苦しい様を晒したとしても、負けるわけにはいかない。

 

「アクションマジック、回避! 大刃禍是の攻撃は無効だッ!」

「チッ……修験の妖社のカウンターを三つ取り除き、デッキから妖仙獣 大幽谷響を手札に加える……俺はこれで、ターンエンド……!」

 

エンド宣言と共に、大刃禍是は消える。

 

「はぁっはぁっ……!」

「っ……」

 

互いのライフに後はない。

アクションカードを求め走り回った二人の距離はいつの間にか随分と近づいていた。

刃も、沢渡の息も既に上がっていた。汚れと汗に塗れるその姿は彼を知る者からは驚かれるだろう。

それでも尚、沢渡はデュエルを続ける。勝利は目前だと信じて。

 

「俺の、ターン……!」

 

刃も沢渡も、二人の視線は一か所に注がれていた。

剣の荒野、その中心に突き刺さった一枚のアクションカードに。

距離はどちらもほとんど変わらない。息を整えながら、二人は走りだす瞬間を窺っていた。

 

「……俺はエマーズブレイドを召喚!」

「……!」

 

刃が再びエマーズブレイドを召喚した瞬間。二人は同時に駆け出した。

 

「さらにフィールドにXセイバーが二体以上存在する時、手札からXX―セイバー フォルトロールを特殊召喚出来る!」

 

視線だけで刃のフィールドを確認しながら、沢渡は走る。

 

XX―セイバー フォルトロール

レベル6

攻撃力 2400

 

ターンを進行する刃よりも、僅かに沢渡の方が速い。

 

「させるかァ!」

 

だが、刃は叫びと共に背中に掛けた竹刀を抜き、力の限りそれを振るった。

 

「なっ……!」

 

風が沢渡を追い抜き、後一歩、いや後指一本にまで迫ったアクションカードを吹き飛ばした。

それに目を見開き、沢渡は体勢を崩した。

 

「フォルトロールの効果、発動! 墓地のレベル4以下のXセイバーを復活させる! 甦れ、XX―セイバー フラムナイト!」

 

XX―セイバー フラムナイト

レベル3 チューナー

攻撃力 1300

 

「レベル3のエマーズブレイドにレベル3のフラムナイトをチューニング! シンクロ召喚! XX―セイバー ヒュンレイ!」

 

XX―セイバー ヒュンレイ

レベル6

攻撃力 2300

 

「ヒュンレイがシンクロ召喚に成功した時、魔法、罠カードを三枚まで破壊する! 俺が破壊するのは永続魔法、修験の妖社、そしてペンデュラムゾーンの左鎌神柱と右鎌神柱!」

 

姿を現した女の傭兵の舞う様な剣に貫かれ、沢渡のフィールドに存在していた社、そして二つの光の柱が消滅する。

 

「――――」

 

フィールドのカードを全て破壊され、体勢を崩し地面へと倒れ込む最中、沢渡の脳裏に過ぎったのは、少女との別離だった。

 

『ほんの一時でも、ほんの僅かでも、あなたに心を許していた事は私にとって最大の汚点です。今更それを雪ぐ事は叶いませんが……せめてもう二度と、私に関わるな――――沢渡シンゴ』

 

次に思い出すのは、あの時のデュエルで自分が言った言葉。

 

『いつまでも甘えてんな、一人で耐えてたら誰かが助けてくれるなんて思うな。お前が口にしなきゃ、俺は助けねえぞ。お前が言わなきゃ、俺はお前を無視して先に行く』

 

 

 

「……! ざっけんじゃねええええ!!」

 

剣の荒野に、沢渡シンゴの叫びが響き渡った。

地面へと倒れ込む刹那、沢渡は大地を蹴り、跳んだ。

今までの彼には有り得ない、転ぶような、酷く無様な跳躍だった。

けれど、それでも彼は前へと跳んだ。

 

「アクションマジック、回避! モンスターの攻撃を無効にする!」

 

「……へっ」

 

それを見て、刃は笑う。

 

「それでいいんだよ、格好つけて平気なフリしやがって」

 

きっと北斗が居ればまたからかわれる、そう思いながら刃は笑う。素直にならないこの男を……友人を呆れたように笑う。自分勝手な妹の世話を焼く兄のように、呆れたように微笑む。

 

 

 

そしてもう一つ、勝利を信じて、笑う。

 

 

 

『ERROR』

 

デュエルディスクが機械的な音声で告げる。

 

「んなっ……!? ぶっ!」

 

目を丸くし、エラー音声と共に排出されたカードを掴んだ瞬間、沢渡の跳躍は終了し、地面へと倒れ込んだ。

 

「ちっと気が早かったな、沢渡。今はまだバトルフェイズじゃねえぜ」

「なんじゃそりゃあ!? もうお前にはバトルするしかねえだろうが!」

「それがそうでもねえのさ……魔法カード、シンクロキャンセル!」

 

刃の手に残された最後の一枚、伏せられ、しかし妖仙獣たちの効果で手札に戻されていた一枚。発動される事もない罠カードだと考えていたが、それは違う。

 

「ヒュンレイをエクストラデッキに戻し、シンクロ素材に使用したモンスターを墓地から特殊召喚する! もう一度現れろ、エマーズブレイド、フラムナイト!」

 

XX―セイバー エマーズブレイド

レベル3

攻撃力 1300

 

XX―セイバー フラムナイト

レベル3 チューナー

攻撃力 1300

 

沢渡の手にあるのはアクションマジック、回避、永続魔法、修験の妖社、魔妖仙獣 大刃禍是、そして妖仙獣 大幽谷響。

回避は相手モンスター一体の攻撃を無効にする効果。大幽谷響は直接攻撃を受ける時、手札の妖仙獣を墓地に送る事で攻撃力と守備力を攻撃してきたモンスターと同じにして特殊召喚する効果。

つまり、沢渡に耐えることが出来る攻撃は二度。しかし今、刃のフィールドには三体のモンスター。だか、それでも沢渡は笑う。

 

「……ははっ、またお得意のシンクロ召喚か? だが今更ガトムズを召喚しても無駄だ。お前の言う通り気が逸っちまったが、俺にはアクションカードがある。それにそれ以外の手もな」

 

刀堂刃ならば、必ずシンクロ召喚をもう一度行う。試合を見ていなかった沢渡は知る由もないが、それは柊柚子と同じ考えだった。シンクロに誇りを持つ刃なら、必ずシンクロで決める、と。

 

――けれど、そこまで分かっていて尚、沢渡の緊張は途切れず、刃の笑みも消えなかった。

 

「試してみようぜ、沢渡」

「何?」

「俺とお前、今カードに選ばれてるのはどっちか」

「はあ……?」

 

大きく息を吐いて、刃は手に持った竹刀を大地へと突き刺した。

目付きが変わる。今までのように沢渡を意識したものではない、自分自身を見つめるような、そんな集中した目付きだった。

 

 

「俺はレベル3のXX―セイバー エマーズブレイドとXX―セイバー フラムナイトで、オーバーレイ!」

 

 

それは、聞き覚えのある口上と見覚えのある光景だった。

 

 

「――黒金の鎧輝く始まりの傭兵、同朋の屍踏み越え再び剣を握れ! エクシーズ召喚! 出でよ、ランク3! M.X(ミッシングエックス)―セイバー インヴォーカー!」

 

 

「エクシーズ召喚だと!? しかも、それはあいつの……!」

 

二つの光球、オーバーレイユニットを纏い荒野へと降り立つ、新たな傭兵。

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ランク3

攻撃力 1600

ORU 2

 

「あいつから貰ったお守り代わりでな。生憎と俺はあいつほどお上品な使い方は出来ねえし、上手くも扱えねえ……だが、それでも、このデュエルの決着はこいつで着けなきゃならねえ」

「……」

 

沢渡にはプライドがある。他人から傲慢で我が儘だと囁かれながら、捨てられないプライドが。それは尊敬する父の子としてのものであり、沢渡シンゴという一人のデュエリストである為に決して捨てられないはずのプライドだ。

刀堂刃がシンクロ召喚に抱くものも同じだと、沢渡は無意識で感じていた。

だが今、刀堂刃はその誇りを捨て、沢渡に挑んでいる。

 

「いくぞ……バトルだ! 俺はM.X―セイバー インヴォーカーで、直接攻撃! 受け取りやがれ――!」

 

それを一時とはいえ捨てさせる程の想い、その根源は――

 

 

『ネオ沢渡さん、格好良すぎですよ!』

 

 

――きっと、自分と同じものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




鎌壱太刀たちの召喚口上で刀堂の方を思い出したのは私だけではないはず。大刃禍是の口上に隠れがちですが、あれもかなり短いけどお気に入りです。

LDS三人組の中で唯一デュエルを省略されていた刃の活躍回。デュエルの結果はご想像にお任せします。
ちなみに注釈を入れるとすると、今回は沢渡もまだ妖仙ロスト・トルネードを披露していませんし、刃もインヴォーカーで決める為にデュエルをしていたので実際の実力ははっきりとしていません。あくまでこのSS内では、ですが。

刃はSSを書き始めてさらに好きになったキャラなのでようやく活躍が書けて満足です……いや、やっぱりこんなんじゃ満足できねえ!









アクションデュエルは難しい



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ネオ・ニュー沢渡さん 編
人形とエンタメデュエルショー


今回はアニメ31話を見ていないとデュエルの状況が分からないと思います。



「レディース&ジェントルメーン!」

 

「すっげぇ!」

「おもしれぇぞ!」

 

観客を、そして対戦相手すらも魅了する榊さんのエンタメデュエル。

その甘さを、優しさを、貫く事が出来るなら、それは強さだ。

けれど、

 

「私にはそんな甘さも優しさも必要ない」

 

「くっ……」

「さあ、来い! 久守詠歌!」

 

 

雑木林の中、私と榊さんはそれぞれ二人のデュエリストと相対していた。

現在スタジアムで行われている権現坂さんと暗黒寺のデュエル。権現坂さんを動揺させるための暗黒寺の策略により、榊さんは此処に誘き寄せられた。

それを目撃し、追いかけた私の前に立ちはだかっているのは以前にもデュエルした鎌瀬と名前も知らないデュエリスト。

 

「特にあなたたちのような落ちる所まで落ちたデュエリスト相手には」

「言ってくれるじゃあないか、久守詠歌……!」

「大会を邪魔したあなたたちは全員、然るべき処罰を受けてもらいます。勿論、それを依頼した暗黒寺ゲンにも。もっとも、彼に関しては権現坂さんが排除してくれるでしょうが」

 

暗黒寺はフリーで大会出場資格を得た数少ない参加者の一人だったので、少しは期待していましたが……取るに足らないデュエリストだった。そしてそれに与するこの男たちもまた。

 

「時間を掛けるつもりはありません。私のターン……スケール1のクリフォート・アーカイブとスケール9のクリフォート・ゲノムでペンデュラムスケールをセッティング……ペンデュラム召喚! 現れろ、三体のクリフォート・アセンブラ……!」

 

クリフォート・アセンブラ ×3

レベル5

攻撃力 2400

 

「おおっ、ペンデュラム召喚!? 流石だ久守詠歌! いつの間にペンデュラムカードを!」

「くっ、でも無駄だ! 僕のフィールドの永続魔法、つまずきの効果でそいつらも守備表示に変更される!」

 

クリフォート・アセンブラ

攻撃力 2400 → 守備力 1000

 

思わず溜め息が出る。

 

「進歩がない、成長する見込みも、余地もない……最初から期待なんてしていませんが」

 

以前と同じロックデッキ。そんなもの、今の私には何の意味もない。

 

「私は三体のアセンブラをリリース」

 

そう、この圧倒的な力の前では何の意味も。

 

「隠されし機殻よ今姿を現し、形在るモノ全てを壊せ! アドバンス召喚! 起動せよ、無慈悲な殺戮機械、アポクリフォート・キラー!」

 

アポクリフォート・キラー

レベル10

攻撃力 3000

 

「このカードは魔法、罠カードの効果を受けない……潰れてしまえ」

 

冷めきった声で私はそう命じた。

 

 

 

 

 

「……」

 

それから数分後、決着は着いた。アクションデュエルでの衝撃で気を失った二人を見下ろす私に、榊さんが声を掛ける。

 

「久守……」

「流石ですね、榊さん。二人を相手にこうも容易く勝利するなんて」

「それはお前も同じだろ。ありがとな、手伝ってくれて……でも、さっき使ってたのは」

「察しの通りです。レオ・コーポレーションが開発した、ペンデュラムカード」

「やっぱり……って事は沢渡も」

 

覚悟を決めた顔で榊さんは一人頷く。

 

「ところでさ、沢渡となんかあった?」

「っ……」

 

あなたも、ですか。会う人が皆、その名を口にする。私はもう、あの男とは何の関係もないのに。

 

「どうしてそう思うんですか」

「え……いや、だってそんな顔してたらな……」

 

頭をかきながら榊さんが言う。

そんな顔……一体、どんな表情を浮かべているというのだろう。今の私は無表情そのもののはずだ。だって、私の心をかき乱すあの男と縁を切ったのだから。

 

「今の久守、今にも泣き出しそうでさ」

「……」

「俺は柚子たちほど久守の事は知らないけど、それでも分かるよ。今の久守は全然楽しそうじゃないんだ。辛そうで、苦しそうで、泣きそうな顔で」

「……それは」

 

……それは勘違いだ。そんなはずはない。

 

「友達として、何よりエンタメデュエルの遊勝塾として、見過ごせないよ」

「……」

「だからさ、俺が昔父さんから教えてもらった言葉を贈るよ」

「え……?」

「俺が泣きたい時、いつも思い出す言葉。俺に勇気をくれる言葉なんだ」

 

榊さんが教えてくれた言葉は、何故か私の心に馴染んだ。

 

「……急いだ方がいいです。権現坂さんが待ってるんでしょう?」

「あっ、ああ! そうだ、権現坂にタスキを届けなきゃ!」

「行ってください。この四人の事は私が運営に報告しておきます」

「ああ! 頼む!」

 

取り戻したタスキを掴み、榊さんは走りだした。

それを見送り、私は呟く。

 

「……‟泣きたい時は笑え”、ですか」

 

良い言葉です。でも、今の私には必要ない。

……それでも覚えておこう。そう思った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

その場で大会運営本部に連絡し、四人を引き渡した後、私はスタジアムに向かった。

ディスクで確認すると、ついさっき権現坂さんの試合が終わったようだ。結果は彼の勝利、暗黒寺にも然るべき処置が取られるだろう。

とはいえこんな手を使うデュエリストが素直に認めるとも思えないが。

 

「あっ、おはようございます!」

「……おはようございます。待っていたんですか?」

 

スタジアムの入り口に着くと、見覚えのある女性が小走りで駆け寄って来た。

 

「ええ。約束してましたからっ」

「気にせずに入ってくれても良かったんですが……」

「あはは……何だか一人だと入り難くて」

「そうですか。……では、行きましょう」

 

女性を伴い、私は観客席へと向かう。

 

「楽しみですねっ、次の試合!」

「……」

 

嬉しそうに笑う女性に、私は無言で居る事しか出来なかった。

次の試合は榊さんと……沢渡シンゴの対戦。権現坂さんの試合以上に、結果の分かり切った試合だ。

だがせめて、自分の役割ぐらいは果たしてもらいたいものです。レオ・コーポレーション製のペンデュラムカード、その存在をしっかりと全世界にアピールしてもらわなくてはならない。

 

「席空いてるといいんですけど……」

 

私はチケットを持っているが、彼女にはそれがない。自由席もあるし、立ち見も出来るが……一応、探してみよう。

そう考え、自由席のある方向のゲートを目指して歩く。

 

「……おっ、来た来た」

「ギリギリじゃんか」

「ったく、今まで何してたんだ?」

 

「……あなたたちは」

 

しかし、私たちを三人が呼び止めた。

 

「あれ、そっちの人、何処かで……?」

 

そして私の隣の女性に気付き、首を傾げた。

 

「あっ、いつもありがとうございます!」

 

その視線に気づき、女性は微笑んで頭を下げた。

 

「ああっ、沢渡さんのお気に入りの店の店員!」

「ああ……そういえば何度か見た事あるな」

 

「お知り合いだったんですねっ」

「ええ、まあ。けれど良く覚えていましたね、私ほど通い詰めていたわけでもないはずですが」

 

……あの男の好みそうな物を買いに行かされるのはいつも私だったから。

 

「はいっ。いつも決まってスイートミルクアップルベリーパイ~とろけるハニー添え~を買って行ってくれるから覚えていたんですっ。男性だと珍しいんですよ、結構甘さがありますから」

「あはは……沢渡さんのお気に入りなもんで」

「あの人、見た目が華やかだからって言ってるけど、甘党だからなあ」

 

山部たちが苦笑し、女性も笑う。

 

「っといけねえ、早く行こうぜ。試合が始まっちまう」

「そうだな、店員さんも観戦に来たんだろ?」

「あ、はい。彼女と約束して」

「……」

 

女性が私を見て、笑う。何故かそれが照れくさくて顔を背けてしまった。

 

「ああ、久守はほとんど毎日通ってるみたいなもんだったもんな。仲良くもなるか」

「あ、久守さんって仰るんですね」

「? 何だ、名前も知らなかったの?」

「ええ。でも何だかそれも素敵だなって。名前を知らなくてもこうして約束して、お話しできるって」

「……なら、まだ暫く名乗らないでおきますね。私も、こういう関係は嫌いじゃありません」

「ふふっ、はい」

 

深く関わり過ぎず、けれど心地の良い関係。今の私にはそれが良い。

 

「んじゃ行こうぜ。後一席くらいならどうにかなるだろ」

「っ、私はあなたたちと一緒に観戦する気は――」

「ままっ、いいからいいから」

「ほら行くぞ」

 

柿本と大伴にそれぞれ押され、私たちは観客席へと入る。

……どうして、この三人は……。

 

 

「遅い。君たち、いつまで待たせるつもりだ」

「まったく、何で私たちが場所取りなんて……」

 

入った観客席、その自由席の一角に不満そうな顔で座る志島さんたちが居た。

 

「来たか、久守」

「刀堂さん……」

「ま、座れよ」

 

刀堂さんの隣に私が、その隣に女性が、そして柿本たちが横並びに座る。

 

「……光津さん、昨日は申し訳ありませんでした」

 

一日経って私も少しは落ち着いた。昨日のは私の失言だった。

 

「何の事かしら」

「ですから昨日の件で……」

「覚えてないわね」

「……そうですか。ありがとう、ございます」

「おかしな子ね。まあ、いいわ」

 

ムスッとした顔で言う光津さんに頭を下げる。……私は、子供だ。

 

「……ふふっ」

 

そんな私を見て、女性は微笑んでいた。

 

「良い友達ですね?」

「……ええ」

 

私には勿体ないくらいに。

 

女性が光津さんたちに挨拶をしている間に、実況、ニコ・スマイリーが次の試合のアナウンスを始めた。

 

『続きましては本日の第二試合! 遊勝塾所属、榊遊矢対LDS(レオ・デュエル・スクール)所属、沢渡シンゴの一戦でございまぁす!』

 

そして、デュエルコートに榊さんが姿を現した。

 

「あれが噂のペンデュラム使いか……」

「でもペンデュラムなんて本当はないって言ってる人もいるわよ?」

「まあストロング石島とのデュエルもインチキだったって噂もあるけどな……」

 

その姿に、何処からともなくそんな言葉が聞こえて来た。愚かしい、現実を受けいれられず、新たな力も認められない者たちには期待はしないけれど。

 

「あの……」

「はい、何か?」

 

遠慮がちに女性が私に話しかけて来た。

 

「私もニュースで見たんですけど、ペンデュラム召喚って……」

「実際に存在します、間違いなく。そしてあの榊さんがペンデュラムの始祖である事は嘘偽りのない事実です」

「そうなんですか……何だかこういう野次、少し悲しいです」

「そうですね。でも、榊さんはデュエリスト。デュエルで証明するだけです。かつて榊遊勝が自らアクションデュエルの新たな境地を見せつけた時のように」

「……でも、やっぱり彼に勝って欲しいんですよね?」

「……別に。強い方が勝つ、それだけです。そして榊さんは強い、結果は見えています」

「ふふっ、なら私が二人分応援しちゃいますね、沢渡さん……えっと、ネオ沢渡さんの事」

「……誰を応援するのは個人の自由ですから」

 

それを咎めるつもりはない。この心の苛立ちは止められそうにないけれど。

 

「ふっふっふ」

「……何、山部。変な笑いはやめて」

「それが違うんだなあ、今の沢渡さんは」

 

私の言葉にもめげず、山部は偉そうに笑う。

 

「何だか知らねえけど、生まれ変わったんだってさ」

「そうっ。昨日、買い出しから戻ったら何か急にやる気になっててさ」

 

「……ふっ」

「……どうしたの、刃? 急に笑って。あんたまで気持ち悪いのが感染(うつ)った?」

「んなっ、違えよ!」

 

光津さんたちが何か言い合う中、反対側のゲートから入場する人影。当然、あの男だ。

あの男なのだが……

 

――――♪

 

「……何ですか、あのふざけた格好は」

 

草笛の音と共に入場する、和装に身を包んだ男。

 

――――♪

 

その登場に会場が静まり返る。

……なんだ、あれは。

 

「――カードが俺を呼んでいる。ドローしてよと呼んでいる」

 

「「「待ってました!」」」

 

私の横で囃し立てる山部たち。……つくづくふざけた男だ。

 

「天に瞬く星一つ! 御覧、デュエルの一番星ッ!」

 

「……」

 

ようやく、会場にざわめきが戻る。

 

「……ふふふっ、俺が誰だか分かるか」

「……沢渡だろ?」

「――違う!」

 

榊さんの尤もな言葉を否定し、男は和装を脱ぎ捨てた。なら初めから着て来なければいいのに。

 

 

「ネオ! ニュー! 沢渡だッ!」

 

 

「「「ネオ・ニュー沢渡最高ッ!!」」」

 

「うるさっ……」

 

横で声を上げる三人に、思わず耳を塞ぐ。

 

「そもそもネオとニューは……」

 

 

「……同じ意味じゃん」

 

榊さんと意見が一致した。あの男の恥で済めばいいが、LDSの恥になるとも限らない。これ以上恥を上塗りするような真似はやめてもらいたいが……無駄だろう。

 

「榊遊矢! お前には数々の恨みがある」

「……怨み?」

「その1! 俺からペンデュラムカードを奪い、俺に敗北を味あわせた! 屈辱だ!」

 

「……元は自分が奪ったというのに」

 

それに加担した事もまた、私にとって拭い去れない過去だ。

 

「んぐっ……その2! お前そっくりのエクシーズ使いに怪我を負わされた! 屈辱だ!!」

 

「自分でそっくりって言っているんですが……逆恨みにも程があります」

 

そして怪我をしたのは私だ。

 

「んんッ、その3! 俺の尊敬するパパを襲って怪我をさせた! 屈辱この上ない!!!」

 

「だからそれは榊さんじゃない」

 

そして沢渡議員も大した怪我はしていない。

 

「お前に受けた屈辱の数々、今こそ何百倍にもして返してやるぜッ! ……と言いたい所だが、お前には借りもある」

 

「……借り?」

 

あの男が榊さんに借りを作るとは思えないが…………いや、一つだけあった。

 

――『沢渡が本気で心配して言った事だから、待ってようって』

 

私から榊さんたちを遠ざけた事だ。

 

「だがッ! それとこれとは話が別! 此処に宣言する! 榊遊矢、お前をこのデュエルで完膚無きまでに叩きのめす!」

 

「……結局変わっていないじゃないか」

 

あの男に貸し借りの概念を期待しただけ無駄だった。

 

『おおっとぉ! 早くも沢渡選手の勝利宣言です!』

 

「お前をこれまで勝利へと導いたペンデュラム召喚、それが今日はお前を敗北へと導くだろう」

「……ははっ」

「んなっ! 何笑ってやがる!」

「いや……良いデュエルにしよう、沢渡。皆が笑顔になれるような、そんなデュエルに」

「ふんっ、そう言っていられるのも今の内だ。その皆の笑顔に、お前の笑顔はねえ!」

 

『一体この勝負どうなるのか! ではっ、アクションフィールドをセットしましょう! カモーン!』

 

ニコ・スマイリーの言葉と共に、ランダムにフィールド魔法が選出される。選ばれたのは――

 

『決定しましたァ! アクションフィールド、オン! フィールド魔法、夕日の荒城!』

 

決定されたフィールド魔法にデュエルコートが塗り替わっていく。

夕焼けに佇む、荒れた城へと。

 

「いくぜ! 戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「「フィールド内を駆け巡る!」」

『見よ! これぞデュエルの最強進化系! アクショーン!』

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

YUYA VS SAWATARI

LP:4000

アクションフィールド:夕日の荒城

 

「先行は譲ってやるぜッ」

「俺のターン!」

 

始まった二人のデュエル。結果は分かり切っているとはいえ、ペンデュラムカードの披露は見届けなければならない。

 

「……やっぱり、素敵ですね」

「……誰の事を言ってるんですか?」

 

まさかあの男の事を? ……そうなら止めなくてはならない。新しく出来た友人を不幸にしたくはない。

 

「あなたと、沢渡さんの関係です。本当にあの人の事を思ってるんだなって」

「……あの、何を言ってるのか良く分からないんですが」

「さっきの二人の会話一つ一つに合いの手を入れて、すっごく楽しそうでしたよ?」

「合いの手って、私はただあの男のふざけた勘違いを訂正しただけで……」

「思わず声に出ちゃったんですよねっ?」

「……まあ、そうですが」

 

それはあの男がふざけた事を言うから……。

 

『な、なんと沢渡選手! 三回の召喚を決めた!』

 

「スゲェ沢渡さん! いや、ネオ・ニュー沢渡さん!」

「まさに最強だぜ!」

 

私が弁解をしようとしている間に、沢渡シンゴは三体のモンスターを召喚していた。

 

妖仙獣。あのカードたちのデータは見ている。一見デメリットにも見える、召喚されたターンに手札に戻る効果を持つが、それは毎ターン自らの効果を使用できるという事だ。

勿論フィールドががら空きになる事に違いはないが、それを防ぐためのカードも妖仙獣には存在している。

 

「さあショーを続けようぜ、エンタメデュエリスト、榊遊矢!」

 

『沢渡選手、まさに余裕を見せて榊選手を挑発!』

 

 

「その油断がなければまだ勝負の結果も分からないだろうに……本当に愚かな男」

 

……私とのデュエルの時のように。

……いや、何を考えているんだ、私は。

 

「いくぞ、俺のターン! ――俺はスケール1の星読みの魔術師とスケール8の時読みの魔術師でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

来た。かつてのデュエルでも使われた榊さんのペンデュラムカード。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能! 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスターたち!」

 

「来たか、榊遊矢のペンデュラム召喚……!」

「これが……ペンデュラム召喚」

 

刀堂さんが警戒するように、女性が驚きの声を上げる。

 

『来ましたァ! かのストロング石島選手をも破った、榊選手のペンデュラム召喚!』

 

榊さんのペンデュラム召喚を初めて自らの目で目の当たりにした観客たちが沸き立つ。

……さて、この状況で、榊さんに注目の集まったこのデュエルで、あなたはどう会場を湧かせる? 今このデュエルを見ているのはあなたを持ち上げる取り巻きたちだけじゃない。

 

……ッ。何を、一体何を期待しているような事を考えているんだ。別に会場が湧こうが湧くまいが、関係ない。ただレオ・コーポレーションのペンデュラムカードを披露すれば、最低限の目的は達せられる。

 

首を振り、愚かな考えを霧散させる。

 

SAWATARI LP:2800

 

「俺はターンエンド!」

「ふふっ、此処からが本番だ……沢渡シンゴ、伝説のリベンジデュエル……! 榊遊矢! お前はこれからペンデュラム召喚の恐ろしさを知る!」

 

「ったく、一々勿体着けるわよね、あいつ」

「同感です。無駄この上ない」

 

光津さんの言葉に同意する。

 

「あなたが言っても説得力ないわよ。演出なんでしょ」

 

しかし、それはバッサリと切り捨てられてしまう。……。

 

「――妖仙獣一枚を手札に加える! 俺が加えるのは――ペンデュラムモンスター、妖仙獣 左鎌神柱!」

 

『何とォ! 沢渡選手がペンデュラムカードを!?』

 

あの男の公開したカードに、会場がどよめく。

 

「やっぱり、持っていたのか……!」

 

榊さんも覚悟はしていたのだろう。私のクリフォートたちを見た時点で、或いはそれ以前に。

 

「修験の妖社の効果発動! 妖仙カウンターを三つ使い、デッキから妖仙獣カードを一枚手札に加える! 俺はペンデュラムモンスター、妖仙獣 右鎌神柱を手札に加える!」

 

これで、ペンデュラムカードが二枚。

 

「榊遊矢! 宣言通り、ペンデュラム召喚がお前を敗北に導く!」

 

会場が、観客が、あの男の一挙一動に注目している。

 

「俺はスケール3の妖仙獣 左鎌神柱とスケール5の右鎌神柱でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

来た……!

 

「あ、あれ? でもスケール3と5じゃ……」

「いいえ、違います。あのカードにはペンデュラム効果がある」

 

女性が気付いた事に少し驚く。

 

「生憎だったなあ。右鎌神柱の効果発動ッ、もう片方のペンデュラムゾーンに妖仙獣が居る時、ペンデュラムスケールが11に上がる!」

 

「あっ、これで……!」

 

「これでレベル4から10のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚!」

 

左鎌神柱と右錬神柱、二つの間の虚空から竜巻が飛来する。

あれが、妖仙獣の切り札。

 

「烈風纏いし妖の長よ、荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ! 出でよ、魔妖仙獣 大刃禍是!」

 

実際にこの目で見るのは初めてになる。これが、魔妖仙獣 大刃禍是……。

‟あの人”の、新しい力……。

 

「……!?」

 

今私は、何を……。

 

『驚きましたッ! 沢渡選手のペンデュラム召喚ですッ!』

 

頭を過ぎった考えをまた首を振って振り切る。

 

「スゲェぜ、ネオ・ニュー沢渡……!」

「妖仙獣最強だぜ……!」

 

「――やっぱりお客様の言った通りでした」

「え……」

「この大会、忘れられないものになりそうです!」

「……そう、ですか」

 

「そうだ湧けッ、もっと湧け! お楽しみはこれからだッ!」

 

「っ、それはあなたの台詞じゃない……」

 

本当に、一々あの男は……。

 

「俺こそ選ばれた男……ネオ・ニュー沢渡だ……!」

 

「緩みきっただらしのない顔……」

 

もはや呆れかえる事しか出来ない。

 

「そして俺はペンデュラム召喚を出来るようになっただけじゃあねえ。その上を行くッ!」

 

ペンデュラムの上、なんて大仰に言ってはいるが、結局は大刃禍是のモンスター効果によるバウンスでしかない。

それはかつての私や志島さんが得意としていた戦法だ。そして私は手札バウンスではなくデッキバウンスを、志島さんは相手ターンでのバウンスを。今のあの男よりも上を行っている。

 

「俺はターンエンドッ。だが、ただのターンエンドではない! 見せてやろう、沢渡レジェンドコンボ! 妖仙ロスト・トルネード!」

 

……だが、不覚だった。

 

「妖仙大旋風の効果は自分フィールドの妖仙獣一体が手札に戻る時、相手フィールドのカード一枚を手札に戻す! そして妖仙郷の眩暈風(めまいかぜ)の効果は妖仙獣以外のカードが手札に戻る時、手札ではなくデッキに戻す」

 

あの男は、少なくともバウンスという点においてはかつての私を超えていた。

 

「鎌壱太刀三兄弟はエンドフェイズ、手札に戻るッ。これにより妖仙大旋風の効果でお前のカード三枚を手札に戻し、眩暈風の効果でデッキに消し去る!」

 

鎌壱太刀三兄弟の利点は手札に戻り、次のターンでまた同じ効果を使える事。けれどこのコンボはそれを遥かに上回る利点を与える。

 

「大刃禍是の効果発動! このカードは特殊召喚したターンの終了時、手札に戻る! 妖仙ロスト・トルネードォ!」

 

「……」

 

ペンデュラムカードにデッキバウンスは有効な戦術、それは分かっていた。だけど以前私が使っていたティアラミスで戻せるのは一ターンに二枚まで、それもオーバーレイユニットを使う効果であるが故に最大でも二ターンで四枚。

だがこのコンボならば鎌壱太刀三兄弟と大刃禍是、一ターンで四枚ものバウンスが可能。しかも手札に戻る以上、次のターンで再び同じ事が出来る。エンドフェイズという特性上、このターンで勝負を決める事は出来ないが、このコンボを破るには残された僅かな手札とドローカードに賭けるしかない。

……認めよう、このコンボの完成度は極めて高い。たとえサイクロンなどで一枚を破壊しても、自分の場ががら空きになるのは間違いない。完全に打ち破り、その上で勝利へと繋げるにはあの男以上にカードを展開しなければならない。

 

「どうだ……! この大旋風は文字通り相手のカードを巻き上げ、舞い上がったカードは眩暈風に誘われフラフラとデッキへ行っちまう! これぞ沢渡レジェンドコンボ、妖仙ロスト・トルネードだ!」

 

「榊遊矢のペンデュラムを封じ込めたか……」

 

僅かに感心したように志島さんが呟く。

 

「……ま、沢渡にしちゃ上出来じゃねえか」

 

刀堂さんが笑いながら、言う。

 

「コンボのネーミングセンスは最悪だけど、ね」

 

光津さんが呆れながら、告げる。

 

……光津さんたちが、あの男を認めたように、言葉を紡いでいた。

 

「俺はネオ・ニュー沢渡ッ。伝説を生む男……!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「これが社長の仰った、ペンデュラム封じ……!」

 

LDSの管制室、モニターを見つめる三人の人影。中島、赤馬零児、赤馬零羅。

 

「ペンデュラムは手札に戻されようと破壊されようと、次のターンで復活出来る。そこが最大の強みだ。だが、デッキに戻すことが出来れば……」

 

封じる事が出来る。それに赤馬零児も気付いていた。詠歌もまた知っていた。

そして、

 

「それに沢渡が気付くかは彼次第だったが……少々彼を甘く見ていたようだ」

 

沢渡シンゴもまた、分かっていた。

 

「久守詠歌に勝利したのは運や彼女の不調だけではない。彼の実力だった、というわけだ」

「……」

 

沢渡を認める零児の言葉に、中島は複雑そうな表情を浮かべる。沢渡に振り回されている彼にとっては、納得しづらい事実なのだろう。

 

 

――『素晴らしいプレイングで! 間違いなく、私の中で最高で最大のデュエルでした!』

 

「彼女の目も節穴ではなかったという事か」

 

零児はまだ知らぬ事だが榊遊矢がペンデュラムの先、ペンデュラム融合に辿り着いたように、沢渡もまた榊遊矢のライバルと言えるだけの実力を手に入れていた。

そして或いは、ランサーズの一員に成り得るだけの力を。

 

「残るは――」

 

零児の視線がモニターの隅に表示された、観客席の一角へと移る。そこには二人のデュエルを食い入るように真剣な眼差しで見つめる、久守詠歌が映し出されていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「お前との因縁、決着を着けるぜ……!」

「決着? 馬鹿言うなよっ。デュエルは始まったばかりだ!」

 

榊さんの言う通りだ。まだデュエルは始まったばかり。だというのにあの男は既に勝った気でいる。その油断が命取りになると、まだ気付かないのか。

……けれど、今はもういい。そんな苛立ちも、不満も、今は捨て置こう。

 

「お楽しみはこれからだッ!」

 

……今はただ、結末を見届けよう。

一人の観客として。このエンタメデュエルショーの。

 

沢渡シンゴという愚かな男の、いや、一人のデュエリストのリベンジを。

 




二十話目(番外編含む)にしてついにネオ・ニュー沢渡さん登場。
このSSを書く切っ掛けとなったアニメ31、32話の話となります。

ちなみに鎌瀬くんの再登場は考えていませんでしたが、ハゲについては最初から暗黒寺の取り巻き(?)のイメージで書いていました。


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久守詠歌という人形

「ペンデュラム召喚! 烈風纏いし妖の長よ、荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ! 出でよ、魔妖仙獣 大刃禍是!」

 

再び現れる妖仙獣たちの長。

 

「この大刃禍是の効果は伏せカードにも有効だぜ……! 大刃禍是の効果発動! フィールドのカード二枚を手札に戻す!」

 

これで榊さんのフィールドは完全にがら空き、そして。

 

「同時に妖仙郷の眩暈風の効果を発動させ、その二枚をお前のデッキへ戻し、ジ・エンドだ!」

 

舞い上がったカードは眩暈風に誘われデッキへと消え去る。……妖仙ロスト・トルネード、以前使っていた氷帝メビウスでの破壊よりも有効な、ペンデュラム封じのコンボ。

 

「残念だったなぁ! せっかく伏せたカードも無駄に終わったようだ!」

 

このコンボを破るには逆に沢渡シンゴのペンデュラムを封じる事だが、大刃禍是には自身のペンデュラム召喚を無効にされない効果が備わっている、となれば召喚されたモンスターの効果を封じるのが最も効果的だが……そのカードも榊さんの手にはなかった。残る頼みの綱はアクションカード……間に合うのか。

 

「いや、これでよかったのさ!」

 

けれど、榊さんもまた私の予想を超えた。

 

「伏せられたこのカードがフィールドを離れた時、このターン、相手フィールドのモンスター全ての名前をななしにする!」

 

「……!」

「えっ、えっ?」

 

隣で女性が困惑の声を上げる。

 

「……あの男の使う妖仙獣はターンの終わりに手札に戻る。そして永続罠、妖仙郷の眩暈風は妖仙獣以外のカードが手札に戻る時、デッキへと戻す。榊さんのカードの効果で妖仙獣でなくなった事でこのターンの終わりに大刃禍是たちは全て手札ではなくデッキへと戻るんです」

「あっ、そうか! ……で、でもターンの終わり、ってそれじゃあ遅いんじゃ……?」

「ええ。でも、榊さんがこれで終わるとは思えません」

 

恐らくアクションカードを見つけている。……そして信じている、この繋がった希望をさらに次へと繋げると。

 

「ああっ……!?」

「……」

 

大刃禍是の直接攻撃により、崩壊していく城。それに思わず目を覆う女性とは反対に私は真っ直ぐに見つめながら、確信する……いいえ、違いますね。期待しているんだ。このデュエルはまだ終わらない、と。

 

「アクションマジック、大脱出! バトルを強制終了させる!」

 

その私の勝手な期待に応えるように、榊さんは崩れ落ちた城から見事に脱出してみせた。

 

「凄い……! 凄いですっ!」

「ええ」

 

女性と同じように、観客も湧いていた。

 

「まるで脱出ショーだわ!」

「いいぞーッ!」

 

「ふざけんなぁ! お前が客席湧かせてんじゃねえよ!」

「これが俺のデュエルスタイルなの!」

 

その反応を見て、沢渡シンゴは大刃禍是の背で地団駄を踏む。……直接攻撃を防がれ、妖仙獣たちがデッキへと戻ってしまうこの状況で何処からそんな余裕が出て来るのだろうか……。

 

「ぬぅ……! だが最後に歓声を受けるのはこの俺だッ」

 

「っ……一体何の為にデュエルをしているんだ、あの人は……」

 

観客の反応なんて些末な事で、最も重要なのは勝利する事だ。その過程なんて、何の意味も……

 

「楽しむ為だろ」

「刀堂さん……?」

 

つい口をついて出た私の言葉に、刀堂さんが二人の試合を見つめたまま、答えた。

 

「この会場全部、いや中継で見てる奴らも全員を湧かせて、楽しませて、その上で自分も楽しんでやがる」

「……これは試合です、それもLDSの看板を背負った、重要な試合です。そんな余裕が何処に……」

「刃の言う通りさ、不本意だがね」

 

志島さんもまた、視線を試合から外すことなく肯定した。

 

「LDSに入って、辛い事や苦しい事はいくらでもあった。君に負けた事や榊遊矢に負けた事、今でも悔しいさ。でもそれだけじゃない。LDSにはもっと楽しかった事もある。エクシーズ召喚と出会って、強くなって、優勝候補筆頭とまで呼ばれたりね」

「LDSは数あるデュエル塾の中の頂点なのよ。ただ辛い事や苦しい事だけじゃ、強くなんてなれない」

 

そして光津さんも。

 

「私たちのLDSはそういう所でしょ」

「……」

 

……そう。そうだったはずだ。

私もそれをLDSで学んでいたはずだ。

辛い事も苦しい事も、それ以上に楽しくて、幸せな事があったから私は強くなろうと、そう思ったんじゃなかっただろうか。

 

「……」

 

視線を反対側に動かす。其処には私たちの会話など聞こえていないのだろう。大仰な手振りで声援を送る、山部たちの姿があった。

 

「沢渡さん、ペンデュラムっすよ!」

「もう一回大刃禍是が見たいぜぇ!」

「ネオ・ニュー沢渡、最高っす!」

 

……そう思っていたはず、なのに。

私の心の中で、二つの声がする。

刀堂さんたちの言葉を肯定し、このデュエルを楽しんでいる自分。

それを否定し、冷めた目でこのデュエルを見極めている自分。

私の本心は、どっち……?

 

「俺は修験の妖社の効果で妖仙カウンターを三つ使い、デッキから魔妖仙獣 大刃禍是を手札に加える!」

『沢渡選手の手札に大刃禍是が入ったァ!』

 

「「「「ペンデュラム! ペンデュラム!」」」」

 

「そうだ湧け! 湧き返れ! もっと激しく! もっと熱く!」

 

揺れ動く私の心とは裏腹に、会場は沢渡シンゴの言う通りに湧きあがり、観客たちの思いは一つとなっていた。

 

「いくぜ! 俺がセッティングしているペンデュラムスケールは3と5! よってレベル4のモンスターが召喚可能!」

 

「右錬神柱のスケールは上げないのか……?」

「召喚は大刃禍是じゃないっ……?」

 

「ペンデュラム召喚! 出でよ、風切る刃! 妖仙獣 鎌壱太刀、鎌弐太刀!」

 

「どうして大刃禍是をペンデュラム召喚せずに……っ」

 

また悪い癖が出た……? どうしていつもそう……!

 

「まずは目障りなEM(エンタメイト)から消えてもらうぜッ。鎌壱太刀の効果! 自分フィールドに鎌壱太刀以外の妖仙モンスターが居る時、一度、相手モンスター一体を持ち主の手札に戻す! 消えろ、ドラミング・コング!」

 

確かにこの効果が通れば榊さんのフィールドはがら空き、手札も0。だけど……

 

「アクションマジック、透明! このターン、自分のモンスター一体は相手の効果を受けない!」

「消えんじゃねえ!」

 

「自分で言っておいて……」

 

呆れて呟く…………いや、違う。だから、あの人は大刃禍是を……!

 

「……ふっ、まだ手はあるんだよ……! 俺は鎌壱太刀と鎌弐太刀をリリースし、大刃禍是をアドバンス召喚!」

 

「ペンデュラム召喚を使わずに……」

「アドバンス召喚、か。考えたじゃねえか」

 

……刀堂さんも気付いていたようだ。

アドバンス召喚された大刃禍是はターン終了時に手札には戻らない。仮にペンデュラム召喚で鎌壱太刀と鎌弐太刀と同時に召喚すればフィールドに残るのは鎌壱太刀たちの方……通常のデュエルなら、そうするべきだっただろう。

だけどこれはアクションデュエル、先程の大脱出や今の透明のようにカードを使われ、次のターンに繋げられた場合、鎌壱太刀たちでは力不足の可能性が高い。

アクションデュエルを得意とする遊勝塾のデュエリスト相手なら猶更、この選択は決して間違いではない。

 

「そこまで考えて……」

 

私ももう、視線を動かすことが出来なくなっていた。

この絶望的とも言える状況で笑う榊さんと大刃禍是を従え対決するあの人から。

 

「何を笑ってんだッ、状況分かってんのか……!?」

「分かってるさ。だけど……観客が湧いてる」

「ああ?」

「俺だけじゃない。お前と俺のやりとりや先の読めないショーに、観客が湧いてるんだっ」

 

楽しみ、楽しませるデュエル。これがエンタメデュエル……。

 

「俺は新しい可能性を見つけた! だから楽しくて仕方ない!」

「……はっ。俺も楽しくて仕方ねえよ。これだけ大観衆の前でお前をぶっ潰せるんだからなあッ」

「っ、沢渡……」

 

最悪の出会い、最悪の印象、互いに嫌いこそすれ、友好的な感情なんて抱けるはずもない二人が、笑っていた。

 

「そう簡単には終わらせない! まだまだショーは盛り上がる!」

「いいやッ、今がクライマックスだ! いくぞ、バトルだ! 大刃禍是でドラミング・コングを攻撃!」

「ドラミング・コングの効果発動! バトル終了まで自分フィールドのモンスター一体の攻撃力を600ポイントアップする!」

 

ライフへのダメージを押さえた……それでも破壊は免れない。

 

YUYA LP:1400

 

「凄い! まさにガチの戦いだ!」

「本当! 良い勝負……!」

 

二人のデュエルに会場は一体となる。言う通りだ、二人は互いに楽しみ、観客を楽しませている。けれど、勝負に対しては本気で、真剣だ。油断があるわけでも、驕りがあるわけでもない。

 

「……俺はターンエンドだ!」

 

このターンでの決着は着かなかった。やはり、あの人の選択は間違ってなかった。

 

「今度は出るか!? 榊遊矢のペンデュラム!」

「「「「ペンデュラム! ペンデュラム! ペンデュラム!」」」」

 

 

「――来いよ、エンタメデュエリスト」

「えっ?」

「湧いてるんだよ、今俺達のデュエルに会場が。期待してんだよ、観客が!」

「沢渡……」

「お前のターンだ! 見事応えてみせろ!」

「っ――ああ!」

 

流れが、変わった。

それはかつてあの人と榊さんが初めてデュエルした時と同じ。

けれどあの時と違うのは、あの人が自らの意思で、それを榊さんへと促した。

流れを、榊さんへと受け渡した。

 

「――レディース&ジェントルメーン!」

 

かつて榊さんに支配され、翻弄された光のショー。今は違う。これは、あの人たち二人のデュエルショーだ。

 

 

 

「俺はスケール4のEMトランプ・ウィッチとスケール8の時読みの魔術師でペンデュラムスケールをセッティング! これでレベル5から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

天空に浮かび上がる二体の魔術師。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク! ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスターたち! まずはEMドラミング・コング! そしてッ、雄々しくも美しい二色の(まなこ)、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

「さあ、決着の時だ!」

「おう!」

 

ドラミング・コングの効果を使えばオッドアイズの攻撃力は大刃禍是を上回る。だけど、ペンデュラムゾーンの左鎌神柱にもペンデュラム効果が備わっている。

 

「バトルだ! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで大刃禍是を攻撃!」

「はっ、攻撃力が足りてねえぞ!」

「ドラミング・コングの効果発動! モンスター一体がバトルする時、攻撃力をバトル終了まで600ポイントアップする!」

 

オッドアイズと大刃禍是が交差する。けれどまだ終わらない。

 

「オッドアイズの効果! レベル5以上のモンスターとのバトルダメージを二倍にする!」

「左鎌神柱の効果! 妖仙獣が破壊される時、代わりにこのカードを破壊する! ――ぐっ……!」

 

SAWATARI LP:1200

 

「何かすげえ興奮してきた!」

「もう俺、どっちが勝ってもいい!」

「二人とも勝たせたい……!」

「そうだっ、二人とも頑張れ!」

 

観客たちが私の一方の心を代弁する。

 

 

「ふっ、楽しもうじゃねえか!」

「ああ! お楽しみはこれからだッ! EMトランプ・ウィッチのペンデュラム効果発動! 一ターンに一度、バトルフェイズ中に自分フィールドのモンスターで融合召喚出来る!」

「何ぃ!?」

 

「融合召喚!?」

「バトルフェイズに!?」

「そんなのってありぃ!?」

 

ペンデュラムモンスターでの融合召喚……! 私も融合を使うデュエリストとして、その発想自体はあった。けれどクリフォートにはペンデュラムモンスターしか存在せず、私の使うシャドールにはクリフォートの属性である‟地属性を用いた融合モンスターは存在しない”。だから諦めていた……けど榊さんはそれをやろうとしている。しかもペンデュラム効果によって……!

 

「胸を打ち鳴らす森の賢人よ、神秘の龍と一つとなりて新たな力を生み出さん! 融合召喚! 出でよ、野獣の眼光りし獰猛なる龍! ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

 

呼ぶとするならペンデュラム融合……召喚されたビーストアイズの攻撃力は大刃禍是と同じ、3000。

 

『同じ3000の攻撃力を持つ両雄激突ゥ!』

 

「バトルだッ! ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで大刃禍是を攻撃!」

 

なら勝負を分けるのは、

 

『二人の狙いはアクションカードだァ!』

 

観客たちが見守る中、二人が跳ぶ。屋根の上、瓦の下、同じ位置に二枚のアクションカードが姿を現していた。

 

「ッ――取った!」

 

思わず、叫んだ。

榊さんよりも一瞬早く、あの人がアクションカードを手にした。

 

「――アクションマジック、大火筒、発動!」

 

大刃禍是とビーストアイズ、二体は相討ち、爆煙が二人の姿を隠す。その中から聞こえて来たのは……多分、私が聞きたいと願った声だった。

 

「このカードはバトルで破壊された相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを相手プレイヤーに与える!」

 

榊さんのライフは1400、3000の半分、1500のダメージが通れば……!

屋根の上へと着地した榊さんへ、放たれた炎が降りかかる。

これで……!

 

「あ……」

 

その吐息のような声は誰のものだったのだろう。

声は天空へと上がった花火の音で掻き消えていった。

 

「な、なにぃ!?」

 

『榊選手、ダメージとなる炎を花火へと変えてしまいました! これぞまさに、エンターテイメントォ!』

 

「アクションマジック、奇跡でビーストアイズの破壊を無効にしたから、お前の効果は無効になったのさ!」

 

奇跡……モンスターの破壊を無効にし、バトルダメージを半減させる。二体のモンスターの攻撃力は同じ、よって榊さんのライフにダメージは、ない。

 

「貴様……! 派手すぎだ!」

「ここでビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの効果発動! バトルでモンスターを破壊した時、融合素材とした獣族モンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

融合素材となったのはドラミング・コング……つまり、

 

「ドラミング・コングの攻撃力は――1600!」

 

「っ――ぐぁあああ!!」

 

SAWATARI LP:0

 

「あ――」

 

『決まりましたぁ! 第二試合勝者は、榊遊矢選手!』

 

 

 

「……ふぅ。運を味方につけた榊遊矢の勝ち、か」

「けどまあ、良くやったさ。あいつは」

「……ドヘタ、っていうのは撤回してあげてもいいかもね」

 

「沢渡さーん! 最高でしたぁ!」

「ネオ・ニュー沢渡最高だぜぇ!」

「もう一度、今度こそリベンジっすよ!」

 

「……負けちゃい、ましたね。沢渡さん」

 

皆の声が、何処か遠くに聞こえる。

これは誰かに応えたわけじゃない、ぽつりと零れた、ひとりごと。

 

「……いい、デュエルでした」

 

観客全員が抱いたであろうその言葉は、誰に届くこともなく、ただ私の胸に染み込んでいった。

惜しみのない拍手が二人のデュエリストに送られる中、私は一人立ち上がる。

 

「……私はこれで失礼します」

 

「あっ、おい久守!」

「今はそっとしておいてあげなさい。色々と思う所があるんでしょ、あの子にも」

 

私を呼び止めた柿本を制止する光津さんの声を聞きながら、私は観客席を跡にした。

一人に、なりたかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……」

 

デュエルコートから退場し、観客席に向かう事無く沢渡シンゴは会場を跡にしようとしていた。

 

「ご苦労だった」

 

それを遮るように、沢渡の前に一人の男性が立ちはだかる。

 

「……ああ、中島さんか」

 

僅かに気怠げに沢渡がその名を呼ぶ。

 

「約束は守ってもらおう。君は今の試合で榊遊矢に負け、敗退した。ペンデュラムカードを渡すんだ」

「ああ、分かってるさ。約束は守るよ。……けどさあ、中島さん、一つお願いがあるんだよね」

「何? ……ふざけた事を言うな、お前の役目は終わった。敗北した以上、君にそのカードを持つ資格はない」

 

これ以上、沢渡に振り回されるのはごめんだと、中島は怒りを込めて言う。

 

「赤馬零児に! 赤馬零児に会わせてくれ。いいだろ? ペンデュラムカードを借りてた礼も言いたいしさあ」

「許可できるわけないだろう! 社長は多忙の身だ、お前に構っている暇は――」

 

我慢できず、声を荒げた中島を制するように彼の持つ携帯端末が着信を告げ、映像が浮かび上がった。

そこに映っていたのは、

 

『――私に何か用かね、沢渡シンゴ』

「社長!?」

 

映し出された赤馬零児の姿を見て、沢渡は笑みを浮かべた。

 

「流石は社長さん、耳が早い。まずは礼を言っとくよ。レオ・コーポレーションが開発したペンデュラムカード、大したもんだったよ」

『我々としても今のデュエルで有用なデータが取れた。さらに改良し、量産を急がせるつもりだ』

「量産ね」

 

デュエルディスクからデッキを取り出し、一番下、表になっている大刃禍是を眺めながら沢渡が呟いた。

 

「なら話は早い」

「っ」

 

そしてデッキから三枚のペンデュラムカードを抜き取り、中島へと投げ渡した。

 

「本当なら今すぐに、と言いたい所だが約束は約束。そいつは返す」

 

偉そうに、尊大に、沢渡は言葉を続ける。

 

「この短期間で此処までのペンデュラムカードを開発したレオ・コーポレーションなら、量産もそう時間は掛からねえだろ?」

『だとすれば、どうする?』

「もう一度、このデッキでデュエルをさせろ」

『君の一番の標的だった榊遊矢とのデュエルは済んだはずだが? それともまだ未練があるのかね?』

「はっ、この大会中はあいつに手出しするつもりはねえよ。この俺に勝った榊遊矢が何処まで勝ち残るか、見ててやる」

『ほう。では一体誰とのデュエルを望む?』

「……あいつと、久守とデュエルさせろ」

 

そこだけは静かな、しかし確かな決意を秘めた台詞だった。

 

『何故だ? 君は以前使っていたデッキで彼女に勝利している。ペンデュラムカードを加え、より強力となったデッキならデュエルするまでもなく結果は見えていると思うが』

 

詠歌にも試作型のペンデュラムカードを渡している事を伏せたまま、赤馬零児は沢渡に問う。

 

「そんなデュエル、もう忘れたね。……それで、どうなんだ」

 

その問い掛けを一蹴し、沢渡は問い掛ける。

 

『――いいだろう。データの解析は数日の内に終了する。それが終わり次第、君にはもう一度そのペンデュラムカードを預けよう』

「社長!?」

「礼を言うぜ、赤馬零児」

 

それだけ言って、沢渡は中島の横を通り抜け、会場の外へと続く通路を歩いて行った。

 

一人、残された中島は繋がったままの通信越しに零児へと問う。

 

「社長、このような事をしてはまた奴が付け上がります。既に我が社のペンデュラムの存在と価値は世間に知らしめられました。奴に付き合う必要はないかと……」

『彼にはまだ価値がある。広告塔としての利用価値だけではなく、‟槍”足り得るデュエリストとしての価値も見出せるやもしれん』

「まさか本気で沢渡を‟ランサーズ”に!?」

『まだ結論を出す時ではない。大会は続いている、この大会が終了したその時こそ、‟ランサーズ”結成の時だ。沢渡シンゴ、そして久守詠歌がその時までどう成長するのか……見定めるとしよう。それに彼女は未だ真の力を見せてはいない』

「最初の襲撃犯とのデュエルで見せたあのエクシーズモンスターの事ですか」

『回収した彼女のデッキにあのカードはなかった。しかしディスクの記録と、読み取れた彼女の記憶に確かに存在している。隠し持っているのか、それとも何らかの理由で失われたのか……どちらにせよ、沢渡とのデュエルは彼女の本当の力を引き出す役に立つだろう』

 

 

 

沢渡シンゴと久守詠歌、二人のデュエリストの再戦が近づこうとしていた。

だが彼女の手にはもう、方舟はない。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「くっ……!」

「これで終わり……メタファイズ・ホルス・ドラゴンとバーバリアン・マッドシャーマンで直接攻撃……!」

「ぐぁああああ!」

 

ANKOKUZI LP:0

WIN EIKA

 

「……私の勝ちです。約束通り、あなたから公式大会の出場資格を永久に剥奪します。……お前にデュエリストを名乗る資格はもうない」

 

大会四日目、明日で第一試合は終了する。

それまでに後始末を、試合での妨害行為を認めようとしなかった暗黒寺ゲンへ処罰を言い渡す。

……いいや、これは言い訳だ。ただの建前でしかない。私はただ、デュエルがしたかっただけ。……デュエルをして、勝ちたかっただけ。

理由は……認めたくはないが、やはりあの二日目の試合だろう。

沢渡シンゴと榊遊矢……そして黒咲隼と紫雲院素良。あの二つの試合を見てから、私の中で燻り続ける思い。

私は強くなった。以前より遥かに……だが、それでもまだ足りない。

榊さんはペンデュラムの先とも言えるペンデュラム融合へ辿り着き、黒咲‟さん”はランクアップというエクシーズの進化を使いこなしていた。

私には、そのどちらもない。私を強くしたのは……借り物のペンデュラムの力だけ。

まだ足りない。もうペンデュラムは量産化が始まっている。これだけでは、足りないんだ。

 

黒咲さんと素良さん――紫雲院素良は試合の後、姿を消した。柊さんから連絡があった。そして赤馬さんからも。

紫雲院素良、彼は融合次元のデュエリストだった。

だとすれば、中断した私とのデュエルでの反応も頷ける。……もし、あの時中断してなかったら、あの時の私は、彼に勝てたのだろうか。

融合次元へ、‟アカデミア”へ帰ったという彼。もしも彼が再び、今度は明確に侵略という形で私たちの前に現れた時、私は勝てるのだろうか。今の私のままで。

 

「……強く。もっと、強く」

 

運営委員たちに連れ出される暗黒寺を一瞥し、私は自らのデッキに目を落とす。もっと強くなれるはずだ……もう一度、あの方舟を手にすることが出来れば。

かつて手にし、しかし今は失われてしまった力。あの力をもう一度。そうすれば私は。

 

「随分荒れてるじゃねえか」

「……刀堂さん、ですか」

 

誰もいなくなったはずのデュエルコートに、刀堂さんが姿を現す。

 

「見ていたんですか」

「まあな。俺の試合は明日、その前の最終調整のつもりで来てたんだけどよ」

 

バツが悪そうに頭を掻きながら、刀堂さんが言う。

 

「沢渡の奴とはどうなった」

「……また、あの男の話ですか」

 

不思議とあまり苛立ちはなかった。

 

「……あの男から呼び出されました。明日、港の倉庫に来い、と」

 

沢渡シンゴの試合が終わってすぐ、メールがあった。日時と場所を指定しただけのメール。

 

「そうか」

「はい」

「負けんなよ」

「え……」

「俺も明日の試合で勝つ。だからお前も勝て。一体何があったのか聞かねえ、けど、溜まってるもん全部、あいつ相手に吐き出して来い」

「……」

 

ぶっきらぼうに、けれど思いやりに溢れた言葉。

 

「前は負けちまったが、今度こそ勝って来い……あの時と違って俺が選んでやったカードがあるんだっ、負けちまったら承知しねえぞ!」

「……刀堂さん」

 

……久しぶりに、笑みを浮かべた気がする。

 

「ありがとうございます、兄さん」

「いつまでそれ引っ張るんだよ……」

「ふふ、意外と気に入ってるんですよ。本当の兄みたいで。……本当の家族みたいで」

 

最後の一言は余計だった、言ってから後悔してしまう。

 

「……」

 

こうして刀堂さんに悲しい顔をさせてしまうと、分かったから。

誰も触れようとはしなかったけれど、皆もう知っているのだろう。私が入院した時、家族からの見舞いがなかった時に。

 

「すいません、失言でした」

「なんでお前が謝んだよ」

「……」

「……ま、俺はお前の兄貴でもなんでもねえけど、それでも、ダチだからよ。とっとと抱えてるもん吐き出して、元気出せよ」

「元気がない、そう見えますか」

「自覚がねえんなら重傷だな」

 

呆れたように笑い、刀堂さんはひらひらと手を振った。

 

「そんじゃ、俺は帰るわ。お前も遅くならねえ内に帰れよ」

 

……まただ。また、私の中で二つの心が生まれる。

もっと強くなるために戦いたい私と……友人を頼りたい私が。

 

「……」

 

答えは出ない。けれど時間は止まらず、刀堂さんの背は遠ざかっていく。

結局、私は見送る事しか出来ない。

 

「……」

 

諦めにも似た感覚で扉の向こうへと消えるその背中を見送る。

 

「……あー」

 

しかし、扉が閉じる直前、刀堂さんが振り返った。

 

「真澄にバレたらまたどやされそうだしな……」

 

照れくさそうに、刀堂さんが口を開く。

 

「……お前ももう帰るんなら送ってくぞ」

「……」

 

時間は止まらなかったけれど、答えは出た。

 

「……お願いしても、いいでしょうか」

 

ほんの少しだけ、私の中の一方の声が大きくなった気がした。

 

 

 

「刀堂さん、明日の試合は……」

「ああ、去年準優勝の勝鬨とだ」

「所属は梁山泊塾……気を付けてください」

「相手が誰だろうが負けるつもりはねえよ。油断もしねえ。どんな手を使って来ようと、俺のデッキで打ち砕いてやるだけだ」

「……」

 

梁山泊塾。LDSに次ぐ、ナンバー2のデュエル塾。勝利に執着する、という点では尊敬すべき物がある……けれど、私は。

 

「気を付けてください」

 

念を押すように、忠告した。

 

「実力で劣っているとは微塵も思っていません。ですが、それだけで勝てる程甘くはないですから」

 

甘すぎる、そう呆れる私の心の声は無視して、そう告げた。

 

「おう。けどコンディションはバッチリだ。沢渡と榊遊矢、そして黒咲さんと紫雲院素良のデュエルを見てからずっとな」

 

笑う刀堂さんを見て、しかし私の不安は拭い切れなかった。

 

「……此処で大丈夫です。そこのマンションですから」

「そうか。じゃあな」

「はい」

 

マンションの入り口の前で一度、振り返る。

刀堂さんは私を見て、ニヤリと笑い背負った竹刀を向けた。

 

「第二試合からは見に来いよ。沢渡の奴も引っ張ってな」

 

それだけ言って駆け出す刀堂さんの背を、見えなくなるまで見送った。

 

「……そうですね、あの男の試合の時のように。私と刀堂さんに志島さん、光津さん。山部たち、あの女性に……それにあの男を加えて、観戦ぐらいなら、許してあげてもいいかもしれません」

 

その未来予想図は簡単に描けた。

きっと叶うものだと、そう思っていた。

 

知っていたはずなのに。

笑いあってた人たちが次の日にはいなくなる。そんな残酷な現実もあると、私は確かに知っていたはずなのに。




揺れる主人公のマママインド

念の為の補足ですが、主人公にも刃にも恋愛感情はありません。

次回、沢渡さんと主人公の再戦となります。


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久守詠歌というデュエリスト

主人公のデッキ的に最も出しやすいはずの彼女がようやく登場。
そして今回は今までと少し雰囲気が違います。


「いらっしゃいませー!」

 

朝、お店が開店するとほぼ同時に入店する。

 

「あ、何だかお店で会うのは久しぶりですねっ」

「はい。今日は何だか甘い物が食べたくなりまして」

 

大会中、会場で毎日会っていたが、彼女の言う通りお店で会うのは随分と久しぶりな気がする。

 

「……スイートミルクアップルベリーパイを一つ、いただけますか」

「はい! スイートミルクアップルベリーパイ~とろけるハニー添え~をお一つですね」

「……そういえば」

「はい?」

 

何故か気になって……いや、名付け親としては自然な事だろうか、女性に尋ねる。

 

「このプティングの売れ行きはどうですか」

 

ショーケースの端に並べられたカスタードプティング、マドルチェ・プディンセスを指して、言う。

 

「あー……あはは、前にも言ったようにリピータも居て、決して不人気ではないんですが、やっぱり店長が作った商品と比べると、どうしても一歩劣りますね」

「そう、ですか」

「でも店長からは褒められてるんですよっ。初めて作った商品にしては上出来だって」

「はい。私も好きですから」

 

……でも何故だろう、以前、会場で食べた時は少し、味が変わっていた気がした。決して不味いわけではない。でも何かが変わった。

 

「そうだっ、前に言ったと思うんですけど、店長からのアドバイスも取り入れて、新味を作ってるんですよっ」

「新味、ですか」

「はいっ。甘い商品はたくさんありますし、甘さ控えめな商品も取り揃えているんですが、そこにさらにもう一押しという事で……」

 

私に背を向け、ゴソゴソと女性は後ろの冷蔵庫を漁った。

 

「こちらですっ!」

 

そこから取り出したのは、小さなカップ。中身は……

 

「チョコレート味、ですか?」

「ふっふっふー、惜しいっ」

 

楽しげに、指を振りながら女性はスプーンを取り出して、カップと一緒に私の方に差し出す。

 

「いいんですか?」

「はいっ、是非食べてもらいたいんですっ。何せ名付け親ですからっ」

「……いただきます」

 

名付け親、その通りだ。彼女に頼まれ、私はあのプティングに名前をつけた。私が以前使っていたカードの名前を。

どうしてその名前をつけたのか……きっと、他に思いつかなかったからなのだろう。理由が思い出せない、きっと忘れてしまう程だから、その程度の理由のはずだ。

そんな名付け方をした事に少し申し訳なくなりながら、スプーンとカップを受け取り、一口すくって、口へと運ぶ。

 

「ん……」

 

このお店の商品では初めて食べる味だった。想像していたような甘さはなく、むしろ口に広がるのは苦味だ。

 

「カスタードプティングから一味変えて、ビターな味付けにしてみたんです。甘さを控えめにした、というよりも正反対の味付けで、少し大人向けの味でしょうか」

「……ふふっ」

 

その説明を聞いて、思わず笑いが零れた。

 

「なら私が食べても、ただオマセさんですね」

 

女性の言う通り、中学生には少し早い味だ。

 

「ああいやっ、そういうつもりで言ったわけじゃなくて……お客様って大人びて見えるので、つい、と言いますか……」

「良く言われます。でも確かにこれなら、他の商品にはない味ですね」

「あはは……今は最終調整中なんです。苦すぎてもいけないし、かといって甘過ぎるとくどくなっちゃいますし、その微妙なさじ加減がもう少しで……はい、お待たせしましたっ」

 

カップとスプーンを返し、小さな箱に詰められたケーキを受け取る。

 

「ありがとうございます」

「今日でジュニアユースクラスの一回戦はお終いなんですよね?」

「ええ。今日の試合は志島さんと刀堂さんが出ます」

 

そしてジュニアクラスでは遊勝塾のタツヤくんが唯一勝ち残っているようだ。

 

「あの方たちですか。今日も午後には抜けられるから、間に合いますよね……?」

「そうですね、志島さんは結構ギリギリになってしまうかもしれませんが、刀堂さんの試合には十分間に合うはずです」

 

志島さんの前には風魔のデュエリストの試合がある。一回戦程度に時間を掛けるようでは困る、それを考えれば志島さんの試合には間に合うか微妙な所だろう。

 

「……ただ、申し訳ありませんが今日、私は会場には行けないかもしれません」

「え?」

「少し、用事があるんです。……まあ、時間を掛けるつもりもないですが」

「そうですか……分かりましたっ、お客様の分まで私、応援してきますねっ! 差し入れはどれにしましょうっ」

 

並べられたケーキを眺めながら、女性は笑う。今日の試合を、デュエルを楽しみにして。……デュエルで観客に笑顔を、それを否定はしない。むしろ以前までは私もそれを肯定していた。今の私は……どうなんだろうか。

 

「それでは失礼します……大会、楽しんでください」

「はい。ありがとうございましたっ!」

 

踵を返す直前、そうだ、と思い立つ。

 

「今度会った時は私がご馳走しますね」

「?」

「いつもいただいてばかりですから、お菓子に合う紅茶を用意します」

「……はい! 楽しみにしています」

 

久しぶりに、ティーセットを用意しておこう。そう決めて、今度こそ店を跡にした。

 

 

 

「――――」

「……っと、すいません」

 

店を出てすぐ、入店しようとしているお客さんとぶつかりかける。

 

「――いや、こちらこそ。驚いて反応が遅れちゃったよ」

「……?」

 

妙な言い回しだと思った、けれどそれ以上に、そのお客さんは奇妙な出で立ちをしていた。この時期には不似合いな長いマント、いやローブだろうか? 体と顔全体を覆い隠すような服装、背格好は私と変わらない、だから余計にその奇妙さが浮き彫りになる。

 

「……失礼、します」

 

関わり合いにならない方が良いタイプの人間だろう、そう判断してそれ以上観察せず、このお客さんの相手をする女性に僅かに同情しながら外へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……やっぱり、甘すぎる」

 

最後の一口を飲み込んで、そう呟く。

沢渡シンゴが好んで食べていたケーキは、私には甘すぎた。

公園に設置されたくずかごにゴミを入れ、ベンチから立ち上がる。指定された時刻までもう間もなく……行こう。

港近くのこの公園からすぐ、以前毎日のように通っていた倉庫。そこが指定された場所。

かつて私はそこで胸に秘めていた思いを吐露した。

あの人を守らせてほしい、と。そして、あの人が好きだ、と。

……今日、ようやくその思いに決着が、いや、決別が出来る。

どれだけ言葉を重ねても沢渡シンゴには届かなかった。こうしてメールが送られてきたのが何よりの証拠だ。

今更言葉だけで清算出来る程、私たちの関係は軽くはなかった。なら、言葉ではなく、デュエルで。

 

「……終わらせよう、今日、此処で」

 

見えて来た倉庫、そこに居るであろうあの人に宣誓するよう、呟いた。

 

「よっ、待ってたぜ」

「あなたたちも居たんですか」

 

倉庫の目の前まで来ると、見慣れた三人組、山部、大伴、柿本の三人が私を迎えた。

 

「時間ぴったりか、何か変な感じだな」

 

柿本が笑う。

 

「何がですか」

「沢渡さんに呼ばれて、お前が時間丁度に来るのがだよ」

「そうそう。いつも待ち合わせの三十分とか一時間前ぐらいには居たもんな」

「昔の話に意味はありません。言ったはずです、あなたたちは私の何も知らないと」

「あー、はいはい。分かった分かった」

「……」

 

聞き流すような態度の三人に、少し苛立つ。言葉で伝わらないとは分かっていたが、こうも流されるのは不愉快だ。

 

「入れよ、あの人が待ってる」

「今回俺たちは此処で留守番だってさ」

「ま、あのセンターコートの前で留守番してた時より気が楽だな」

「だな、いやぁ、あん時は大変だった……」

 

軽口を言いあいながら、山部と大伴が倉庫の扉を開いた。

倉庫の中はあの日、照明が割れたままだったが日の光が差し込み、それほど暗くはなかった。それでも倉庫の奥は薄暗く、人が居るのかすら分からない。

 

ゆっくりと倉庫の扉を潜り、中へ。

そして扉が閉じられた。

 

「……ッ!」

 

同時、倉庫の奥から何かが飛来する。

それに反応し、眉間へと迫って来たそれをどうにか掴み取る。

 

「……随分な挨拶ですね。マナーがなってない、それとも期待するだけ無駄でしたか」

 

掴んだそれは、先端が吸盤になっている玩具のダーツだった。

 

「――見事なもんだろ?」

「そうですね。デュエリストをやめて、それを練習した方がいいんじゃないでしょうか」

 

ゆっくりと、倉庫の奥、暗がりから姿を現す、私を呼び足した張本人。

 

「一応聞いておきましょう、何の用ですか――沢渡シンゴ」

 

彼はいつもと変わらない、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「パパに」

「……?」

「パパに全部聞いた。お前がLDSに入る前、何をしてたのか」

「っ……」

 

それは私にとって忌むべき過去だ。

 

「転校してきたのも、LDSに入ったのも、それの延長か?」

「……」

「違えよな。パパはもう、お前に何の頼み事もしてないって言ってた。だったら転校して来てからの事は全部、お前の意思でやってたんだろ。俺と一緒に居たのも」

「……」

「此処で勝手な事を言って、俺をかばったのも、全部」

「……そうですね、そうだった」

 

過去は消せない。その事実はいくら言葉を重ねても、なかったことには出来ない。

 

「けど今は違う。あなたのような人間を好いていた事は私にとってはもう、屈辱の記憶でしかない。今も私がそうだなんて、あなたの自惚れだ」

 

我が儘で自分勝手で傲慢な嫌な男。そんな男に、それだけじゃないこの人に心惹かれていた。でも、もう違う。目が覚めたんだ。

 

「もううんざりです。あなたに引っ張りまわされるのも、あなたに媚を売るのも……全部、全部うんざりだ。私は私の邪魔になるもの全部捨てて、強くなる」

 

強くなって、社長に、LDSに恩を返す。そしてこの世界を守るんだ。その為に強くならなくちゃならない。こんな男に構っている暇はない。

 

「ふうん、言うじゃん。それで? お前は強くなったのか? あの黒マスクの男に負けた時より、この俺に負けた時より」

「……確かめてみますか。今、此処で。大会を敗退した今なら、あなたを倒しても何の問題もない……!」

 

もう彼と榊さんのデュエルに決着は着いた。見届けた。もう、我慢する必要はない。

 

「あなただってその為に私を呼び出したんでしょう。決着を着けましょう、私はもう、あなたなんかに頼らなくてもいいんだ……!」

 

……私はこの世界に来て、不安だった。

ひとりぼっちで、見知らぬ世界に来て、頼れる人のいないこの世界で私は不安だった。

だから求めてしまった、縋れる人を。それが……それが私が抱いていた恋心の正体だ。きっと誰でも良かった。いくつもの偶然が重なって、たまたまこの人だっただけで。

気付いてしまえばそれは酷く空虚で、愚かな想い。そんなものをいつまでも抱き続けて、良いわけがない。

だから捨ててしまえ、そんな想いも、過去の記憶も。

私はただ、この世界を守る槍と成ればそれでいい。そしてその果てに、私は……帰るんだ。あるべき場所に。何もかもを捨てて。

 

デュエルディスクを構える。収められた私のデッキ、私の決意の証。

 

「いいぜ、相手になってやる」

 

彼もまた、ディスクを構えた。

 

「いきますよ、沢渡シンゴ……!」

「違うなあ、今の俺は――ネオ! ニュー! 沢渡だ! 来な、久守詠歌!」

 

そしてこれを正真正銘、決別のデュエルに。

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

SAWATARI VS EIKA

LP:4000

 

「先行は俺だ! 俺は手札から永続魔法、修験の妖社を発動!」

 

修験の妖社……既にペンデュラムカードと妖仙獣たちは返却したと思っていましたが……もう一度借り受けたのか。けど、そうでなくては。全力の彼を倒さなくては、意味がない。

 

「このカードは妖仙獣が召喚される度、妖仙カウンターが点灯する。俺は妖仙獣 鎌弐太刀を召喚!」

 

妖仙獣 鎌弐太刀

レベル4

攻撃力 1800

 

「さらに鎌弐太刀が召喚に成功した時、手札から鎌弐太刀以外の妖仙獣一体を召喚出来るッ、俺は鎌参太刀を召喚!」

 

妖仙獣 鎌参太刀

レベル4

攻撃力 1500

 

「二体の妖仙獣が召喚された事により、妖仙カウンターが二つ点灯!」

 

妖仙カウンター 2

 

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド。それと同時に鎌弐太刀と鎌参太刀は手札に戻る」

 

アクションデュエルではないこのデュエル、大刃禍是もだが鎌壱太刀三兄弟はかなり厄介。既に二枚が彼の手に、次のターンには修験の妖社にカウンターが溜まり、デッキから鎌壱太刀も手札に加わるだろう。けれど対策はある。

 

「私のターン、ドロー……!」

 

あのカード一枚で妖仙獣の要となるバウンス戦術は崩壊する。

 

「私はシャドール・リザードを召喚」

 

シャドール・リザード

レベル4

攻撃力 1800

 

「セットじゃなく、攻撃表示でだと……?」

「私はもう、あなたの知る久守詠歌じゃない……! 私はスケール1のクリフォート・アセンブラとスケール9のクリフォート・ツールでペンデュラムスケールをセッティング!」

 

私の背後に二つの光柱が出現し、その光の中に浮かび上がる二体の機殻。

 

「ペンデュラムカード……チッ、社長さんの言った通りかよ」

「知っていたんですか。けれど、知った所で無意味だ……! クリフォートたちがペンデュラムゾーンに居る時、私はクリフォート以外のモンスターを特殊召喚する事は出来ない。けど、それでいい。クリフォート・ツールのペンデュラム効果を発動! ライフポイントを800支払い、デッキからクリフォートと名の付くカード一枚を手札に加える! 私が加えるのは永続罠、機殻の再星(リクリフォート)!」

 

EIKA LP 3200

 

そしてこれが、妖仙獣を封じる為の一枚。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「どうした攻撃して来ないのか?」

「安い挑発に乗る気はありません」

 

あの伏せカードか、それとも既に大幽谷響が手札にあるのか、どちらにせよ動くのは次のターンからだ。

 

「ふっ、せっかくのペンデュラムカードも、他にモンスターが居ないんじゃ無意味だな! 俺のターン、ドロー!」

「永続罠、機殻の再星を発動! このカードが存在する限り、召喚されたレベル4以下のモンスター効果はターン終了時まで無効となる。さらに特殊召喚されたレベル5以上のモンスター効果もまたターン終了時まで無効にする……!」

「ッ……!」

 

鎌壱太刀三兄弟のレベルは全て4、ターン終了時に手札へと戻り、また次のターンで召喚され、相手のフィールドを野晒しにする妖仙獣だが、このカードがあればその利点は全て封じられる。ただし手札から別の妖仙獣を召喚する任意効果に関してはこのカードでは無効には出来ない……けれど、それだけで十分だ。

これで問題となるのは大刃禍是。大刃禍是は召喚、特殊召喚に成功した時、フィールドのカード二枚を持ち主の手札に戻す任意効果、それもまたこのカードでは封じる事は出来ない。

 

「俺のペンデュラム封じを対策してやがったか……」

「あなたと榊さんのデュエルはこの目で見ていた。その対策を考えるのは当然です」

 

それとも……もしかしたら、こうなる事が最初から分かっていたからなのだろうか。私がこのカードをデッキに入れていたのは。

 

「だがまだ甘え! 俺は手札から妖仙獣 鎌参太刀を召喚!」

 

妖仙獣 鎌参太刀

攻撃力 1500

 

「さらに鎌参太刀の効果を発動し、鎌参太刀以外の妖仙獣一体を手札から召喚する! 俺は鎌参太刀をリリースし、アドバンス召喚! 現れろ、妖仙獣 凶旋嵐(まがつせんらん)!」

 

妖仙獣 凶旋嵐

レベル6

攻撃力 2000

 

現れたのは鎌壱太刀たちよりも凶悪な風貌のモンスター……まさかこんなにも早く対応して来るとは思わなかった。凶旋嵐の効果は……

 

「凶旋嵐の効果発動! このカードが召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の妖仙獣一体を特殊召喚する! 来い、妖仙獣 鎌壱太刀!」

 

妖仙獣 鎌壱太刀

レベル4

攻撃力 1600

 

「これで俺は合計三体の妖仙獣の召喚に成功した。よって妖仙カウンターが三つ点灯する!」

 

妖仙カウンター 2 → 5

 

「鎌壱太刀のレベルは4! 機殻の再星で無効化されるのは通常召喚された場合のみ、よって鎌壱太刀の効果は無効にはならねえ! 鎌壱太刀の効果発動! フィールドにこのカード以外の妖仙獣が居る時、相手フィールドの表側表示のカード一枚を手札に戻す! 俺が選択するのはシャドール・リザード!」

「っ……」

「何だあ? 呆気ねえな。俺の知ってるお前じゃない、ってのはそういう意味か?」

「言ってなさい……!」

「ふっ、バトルだ! 鎌壱太刀と凶旋嵐で直接攻撃!」

 

こんなもので終わらせてたまるか。

 

「手札の速攻のかかしの効果発動ッ、このカードを墓地に送り、直接攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了する!」

「防いだか。それぐらいじゃなきゃ面白くねえ」

「この程度で勝った気にならない事です……まだ、勝負は始まったばかりです」

「お前の言う通りだ。楽しもうじゃねえか、久守!」

「私はこのデュエルを楽しむつもりなんてない!」

 

このデュエルだけは……楽しめるはずが、ないんだ。

 

「はっ、この俺のデュエルで今度はお前を湧かせてやるぜ! 修験の妖社の効果発動! 妖仙カウンターを三つ使い、デッキから妖仙獣一体を手札に加える! 俺が加えるのは妖仙獣 左鎌神柱!」

 

妖仙カウンター 5 → 2

 

「ペンデュラムカード……!」

「俺はスケール3の妖仙獣 左鎌神柱とスケール5の妖仙獣 右鎌神柱でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

っ、既にもう一枚のペンデュラムカードは手札に……大刃禍是を含めてもたった三枚しかないはずなのに。

……そういえば、口癖のように言ってましたね。自分はカードに選ばれている、と。

 

「これで準備は整った……! ターンエンドッ」

「私のターン!」

 

今あの人を守るのはたった一枚の伏せカードだけ。鎌壱太刀も凶旋嵐も脅威にはならない。

 

「クリフォート・ツールのペンデュラム効果を発動、ライフを800ポイント支払い、デッキからクリフォート・ゲノムを手札に加える……!」

 

EIKA LP:2400

 

「そしてクリフォート・ゲノムを通常召喚、このカードはレベルと攻撃力を下げる事でリリースなしで召喚出来る……!」

「レベルを下げて……ッ」

「レベル4となったクリフォート・ゲノムが召喚された事で機殻の再星の効果が発動! クリフォート・ゲノムの攻撃力とレベルは元に戻る!」

 

クリフォート・ゲノム

レベル6 ペンデュラム

攻撃力 2400

 

「バトル! クリフォート・ゲノムで鎌壱太刀を攻撃!」

 

螺旋を描く機殻の先端から雷にも似た光が放たれ、鎌壱太刀を焼き尽くした。

 

「チィ……!」

 

SAWATARI LP:3200

 

「私はカードを一枚セットし、ターンエンド……!」

「俺のターン……ドロー!」

 

カードを引いた瞬間、あの人は確信めいた笑みを浮かべた。自信に溢れた、いつもの顔。

 

「俺は鎌弐太刀を通常召喚」

 

妖仙獣 鎌弐太刀

レベル4

攻撃力 1800

 

妖仙カウンター 2 → 3

 

「さあ、ショータイムといこうじゃねえか……! 修験の妖社の効果を発動! 妖仙カウンターを三つ使い、デッキから魔妖仙獣 大刃禍是を手札に加える!」

「っ……!」

 

妖仙カウンター 3 → 0

 

魔妖仙獣 大刃禍是……!

 

「右鎌神柱の効果発動! もう片方のペンデュラムゾーンに妖仙獣が居る時、ペンデュラムスケールは5から11になる! これでレベル4から10のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚!」

 

大きく、見せつけるように一枚のカードを頭上へと掲げ、ディスクへと設置する。

左鎌神柱と右鎌神柱、二つの柱、その中空から現れ出でる巨大な竜巻。

 

「烈風纏いし妖の長よ、荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ! 出でよ、魔妖仙獣 大刃禍是!」

 

――――!

 

リアルソリッドビジョンではない、単なる立体映像、だけど感じる。その力の強大さを、解き放たれた烈風を。

 

魔妖仙獣 大刃禍是

レベル10 ペンデュラム

攻撃力 3000

 

妖仙カウンター 0 → 1

 

今の私の切り札、アポクリフォート・キラーに対抗し得るカード、大刃禍是。出来る事ならその姿を見せる前に終わらせたかった。

 

「大刃禍是の効果発動! 召喚、特殊召喚に成功した時、フィールドのカードを二枚まで持ち主の手札に戻す! 消えろ、クリフォート・アセンブラ、クリフォート・ツール!」

「くっ……!」

 

私の背後に浮かび上がった二体の機殻が吹き飛ばされていく。

……。

 

「確かにお前の永続罠の効果で妖仙獣たちが手札に戻らない以上、俺のレジェンドコンボは完全に封じられた。だが、これでお前が大刃禍是を消し去るには自力でどうにかするしかねえ。詰めが甘いんだよ!」

「……それは、どちらでしょうね」

「バトルだ! 大刃禍是でクリフォート・ゲノムを攻撃! 最後に残った気色悪い機械にも消えてもらう!」

 

私の呟きは届かない。私はかつて、それで間違えた。

 

烈風に斬り裂かれ、最後の機殻も消える。

 

EIKA LP:1800

 

「……私のフィールドにクリフォートが存在しなくなった事により、機殻の再星は破壊される」

「はっ、これで終わりだ……! やっぱり弱くなってんだよ、お前は! 凶旋嵐で直接攻撃!」

 

……今度はあなたが間違える番でしたね。

 

「――速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動! ペンデュラムゾーンのクリフォートが手札に戻った今、この融合召喚を邪魔するものはない!」

「ッ、俺がペンデュラムカードを戻す事を計算してやがったのか……!」

「私が融合するのは手札のシャドール・リザードとデブリ・ドラゴン、‟糸に縛られし”猟犬よ、宙を揺蕩う竜と一つとなりて神の写し身となれ……! 融合召喚! 現れろ、忍び寄る者、エルシャドール・ウェンディゴ!」

 

エルシャドール・ウェンディゴ

レベル6

守備力 2800

 

現れるのはイルカを操る人形。小柄で今にも崩れ落ちそうな、人形。

けれどこれが私を守る盾になる。

 

「シャドール・リザードの効果でデッキからシャドール・ドラゴンを墓地に送る……そしてその効果で相手フィールドの伏せカードを破壊する……!」

 

破壊されたのは永続罠、妖仙郷の眩暈風。あのコンボの要となる一枚。最初の私のターンの挑発も含めてブラフ……舐められたものです。

 

「チッ、また……! だがせっかくの融合召喚も守備表示じゃ無意味だ!」

 

効果を無効化された大刃禍是は手札に戻らない。眩暈風の破壊は無駄だった。けれど、融合は無意味じゃない。

 

ウェンディゴは凶旋嵐の放った鎖鎌に縛られる。

たとえ壊れても、それでも役目を果たさんとする、それが人形だ。ウェンディゴはその役目を果たしてくれる。

人形の身体に亀裂が入っていく。それでも、この攻撃は届かない。

 

「――――」

 

罅割れた顔で、ウェンディゴが私の方を振り向いた。

何かを訴えるような――ありえない。シャドールは人形だ。いや、そもそもただの立体映像でしかない。それが何故、感情の宿っているかのような瞳で私を見るの。

そんな悲しそうな目で、私を。

 

永遠にも思えた刹那の視線。

鎖鎌が外れ、ウェンディゴたちは私の前の地面へと崩れ落ちる事で終わりを告げた。

 

「っ、く……」

 

嫌な汗が背中を伝うのが分かる。気持ちの悪い感覚が私の中で大きくなっていく。今にも体の内から何かが溢れだしそうになる。

 

「凶旋嵐の攻撃は中止、バトルフェイズを終了する……これも耐えたか……だが無駄だ」

「無駄じゃ、ない……これであなたは二度も私を仕留める機会を失った……詰めが甘いのはあなたの方だ」

「まだ分かんねえのか。今のお前はギリギリで耐えてるだけだ。俺を追い詰める事もなく、ただやられてるだけじゃねえか。……あん時とはまるで違え」

「あの時……一体いつの事ですか、覚えて、ませんね」

「そうかよ。けど何度だって言ってやる、この状況は俺が強くなっただけじゃねえ。お前が弱くなったからだ」

「ッ、そうやって勝ち誇って、見下してッ、その結果が榊遊矢との試合だ! デュエルが終わってもいないのに、勝った気でいるな!」

 

私を見るな……カードも、あなたも……私を見るな……ッ!

 

「お前、いつものカードはどうした」

「なに……?」

「お前がいつも使ってた、お前に似合いのお人形はどうしたんだよ」

「……ははっ、あんなカード、もう使わない。あれを使ってたから私はお前に負けたんだ。あれを使ってたから私は襲撃犯に負けたんだ……あれを使ってたから私は……!」

 

意識が遠退いて行く。自分が何を言っているのかも分からなくなっていく。ただ、内から溢れ出る感情に従い、私は言葉を吐き出す。

 

「――あんなもの、‟久守詠歌”には必要ない!」

 

完全に、私の意識は途切れた。

 

 

 

「私にはこの子たちが居ればいい! 忠実な操り人形とこのペンデュラムカードが……圧倒的な力さえあれば私は誰にも負けない! 誰よりも強く、誰よりも高く! 私は上り詰める、誰にも媚びらない、誰にも頼らない、誰もいらない!」

 

「――ふざけんなァ!」

 

倉庫中に響く大声で、沢渡が叫んだ。苛立ちを隠そうともしない、感情をむき出しにした叫びだった。

 

「お前が何を好き勝手言おうと、知った事じゃねえ! 駄々を捏ねろとは言ったが、それを聞いてやるなんざ俺は一言も言ってねえからな!」

 

詠歌の好き勝手な叫びに劣らない、身勝手な叫びだった。

 

「媚びる必要なんてねえ、無理に頼る必要もねえ……けどな! お前がいらなくても俺がいるんだよッ! お前の方から近づいてきて勝手に離れてんじゃねえよ! 大体いつ俺がお前に守ってくれだなんて言った! それもお前の勝手じゃねえか! 今となっちゃお前だけの問題じゃねえんだ、俺の問題なんだよ! どいつもこいつも久守、久守、お前が何かすれば俺に話が来るんだよ! 無視してられるか!」

 

かつてのデュエルとは真逆の言葉だった。

詠歌を無視して先に進もうとしても、もう、進めなかった。周りがそうさせてはくれない。沢渡シンゴ自身がそれをしようとはしない。

黙って後ろを着いてくるならいい。自分の後ろで立ち止まってしまうのもいい、けれど、勝手に違う道に進むのだけは許さない。

 

恋だとか愛だとか、そんな綺麗なものではない。その感情に名前をつけるにはまだ早い。けれど今、沢渡シンゴが出した結論はそれだ。

 

彼は未だ、何が詠歌の身に起こったのか知らない。ただ勝手に消えようとしている、それしか知らない。その癖周りは自分に原因があると言う。

その原因も知らないまま、勝手に消えるのは許せない。

 

沢渡シンゴは誰かの為に、なんて理由で動く男ではない。いつだって、自分の為に動いて来た。例外と言えるのは尊敬する自分の家族だけだ。

その姿を疎ましいと思う者たちがいた。

そして、その姿を傍で見守っていたいと思う者たちがいた。

だから、沢渡シンゴは変わらない。そうやって自分を見守る者たちが居る限り、自分が正しいと心の底から信じて進む。

だから、沢渡シンゴは止まらない。

 

「分かったらさっさと戻って来やがれ!」

 

 

 

 

 

 

……けれど、久守詠歌もまた、止まらない。

 

 

「うるさい、うるさいっ、うるさいッ! 誰の指図も受けない、私は私だッ! 私の邪魔を、するなぁぁぁああああああああああッ!!」

 

 

少女の口から出たとは思えない、獣のような叫び。怨み、妬み、怒り、悲しみ、嘆き、負の感情全てを孕んだような叫びだった。

 

「私のターン!」

「ッ、勝手に進めてんじゃ――」

 

ドローしたカードを一瞬、睨むように見て、それを詠歌は叩き付けるようにディスクへと置いた。

 

「装備魔法、魂写しの同化(ネフェシャドール・フュージョン)をウェンディゴに装備!」

 

発動した瞬間、崩れ落ちていたウェンディゴの身体が跳ね、何かに操られるように宙へと浮かび上がった。

 

「このカードは装備したシャドールの属性を宣言した任意の属性に変更する! 宣言するのは光属性、さらにこのカードを装備したモンスターとフィールド、または手札のモンスターを素材に融合召喚する!」

「装備魔法の融合カードだと……!?」

 

今まで見た事のない、詠歌の融合カード。蟠る想いを飲み込み、沢渡はデュエリストとして詠歌に対峙する。

 

「光属性となったウェンディゴと手札のシャドール・ビーストを融合! 神の写し身よ、魂を捧げ、主たる巨人を呼び起こせ! 融合召喚! 現れろッ、エルシャドール・ネフィリム!」

 

浮かび上がったウェンディゴの身体が紫の影糸に包まれ、そしてその姿を巨人へと変える。

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800

 

「素材となったビーストの効果で一枚ドロー! ウェンディゴが墓地に送られた事で墓地から神の写し身との接触を手札に加える! さらにネフィリムの効果でデッキからシャドール・ハウンドを墓地に送る!」

 

詠歌の気迫に押されたのか、それとも別の何かか、沢渡は今まで感じた事のない感覚に襲われていた。

何か、取り返しのつかない事が起きようとしている、そんな感覚。

 

「ハウンドの効果で大刃禍是を守備表示に変更する!」

 

魔妖仙獣 大刃禍是

攻撃力 3000 → 守備力 300

 

「ネフィリム! 大刃禍是を攻撃!」

「左鎌神柱の効果発動! 妖仙獣が破壊される時、代わりにこのカードを破壊する!」

 

ネフィリムの効果は特殊召喚されたモンスターをダメージ計算を行わずに破壊するもの、それがなくとも守備表示となった今の大刃禍是に成す術はない。

ウェンディゴと同じように糸に包まれ、しかしその糸は左鎌神柱の放った光により消滅し、大刃禍是を守る。

 

「無駄! たとえ効果破壊を無効にしても、まだバトルは終わってない!」

 

ネフィリムから伸びた影糸が今度こそ大刃禍是を縛り上げ、その巨体を包み込み、破壊する。

 

「だがこれでバトルは終わりだ……!」

「まだだ! まだこんなものじゃない! もっと強く、もっと、もっと! 速攻魔法、神の写し身との接触!」

「性懲りもなく……!」

 

詠歌の手札にあるのは二枚のクリフォートとたった今ドローされた一枚、沢渡の知る詠歌の融合モンスターはかつてのデュエルでも姿を現したエルシャドール・ミドラーシュのみ。たとえ大刃禍是を破壊したとしても、特殊召喚を封じるミドラーシュの効果は詠歌にとってもデメリットが強い。まだ、終わらない。

 

「誰にも見下されないで済むだけの力を、誰もが羨むような力を、私はッ!」

 

そのはずだった。

詠歌が召喚しようとしているのがミドラーシュだったならば。

 

「私が融合するのはエルシャドール・ネフィリム、そして!」

 

詠歌のデュエルディスクのエクストラデッキ部分が開閉し、召喚されるべきカードが排出される。見慣れたはずの光景は、異様な物へと変化していた。

薄暗い輝きを放つカードがディスクから出現する。

詠歌の手に素材となる二枚のカードが握られる。

 

「手札のアポクリフォート・キラー!」

 

それらが墓地へと送られ、詠歌の手が薄暗い輝きを放つカードを掴んだ。

 

 

「反逆の巨人よ、感情無き殺戮の機械を従え、舞台に、世界に終焉の幕を引け! 融合召喚! 現れろ――エルシャドール・シェキナーガ!」

 

 

ついに、デュエルディスクを通してその姿が顕現する。禍々しき女神が、暴風を伴って現出する。

 

エルシャドール・シェキナーガ

レベル10

攻撃力 2600

 

 

まるで玉座のように機殻へと鎮座する、かつての天使。影糸に縛られているのは機殻なのか、それとも天使なのか。一見では判断できない。

しかし、それでも分かる事がある。

 

「ッ……!」

 

知っている。沢渡シンゴは知っている。

この感覚を、肌を刺す痛みを伴った威圧を。

それはかつても此処で感じたもの。あの襲撃犯とのデュエル、あの‟反逆の牙”から感じたのと同じもの。

立体映像ではない、実体にしか発する事の出来ない圧倒的な力。

 

「――――あは」

 

そしてそれを従える少女、詠歌の口元が歪む。

まるで裂けるかのように、つり上がる。

 

「あはははははははははははははははははははははははは!」

 

天井を見上げた詠歌の口から壊れた人形のように際限なく笑い声が響く。

また思い出す、あの時感じたもの。

あの時、幻影の槍に貫かれかけた時に感じた、いやそれ以上に明確な、はっきりとした死の感覚を。

 

 

「アハ、アハハハハハハハハハハハ! ねえ見て、見てる!? ねえ、ねえ――‟お父さん”、‟お母さん”!」

 

 

死の感覚、即ち恐怖。

沢渡シンゴは今、目の前の少女に恐れを抱いている。

理解できない者に対する恐怖。良く知っているはずの少女が、別の誰かに、別の何かに見えてしまう程の恐怖。

 

「私はこんなに立派になったんだよ! 一人で、誰にも頼らないで! 邪魔するのも、バカにするのも全部全部壊せるくらいっ! だから見ててね! 私の事、私が全部全部壊す所を!」

 

 

ふいに、詠歌の笑い声が止まる。視線が、沢渡を捉える。

 

「ッ――!」

 

その瞬間、理解した。

沢渡が恐怖を抱いたもの、それは詠歌にではない。

この少女は自分の知る詠歌ではないのだと。

 

「だ、れだ……テメェ」

 

昏く澱んだその瞳に射抜かれながら、それでも沢渡シンゴは逃げない。

その瞳の奥に、目の前の少女の中に居る久守詠歌から沢渡シンゴは逃げ出さない。

 

「何なんだよ、テメェは!」

 

沢渡の叫びは、届かない。

 

 

 

「潰れちゃえ」

 

 

無慈悲で無邪気な少女の呟きが倉庫内で反響した。

巨大な銀の機殻の足が、振り上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、ここまでかな」

 

次に聞こえて来たのは巨大な足が振り下ろされる破壊の音ではなく、聞きなれた声だった。

 

「速攻魔法、融合解除を発動。バイバイ、女神様」

 

その声と共に、倉庫内に充満していた重圧が霧散する。

 

「な――」

 

圧倒的な存在感を放っていた銀色の女神が消える。

 

そしてそれを成したのは、沢渡と詠歌の姿をした誰かの間に入り込んだ、ローブを纏った少女だった。

 

「っ、あ――」

 

続いて聞こえて来たのは詠歌が地面へと倒れる音と腕から外れたデュエルディスクが地面を滑る音。

 

「久守!」

 

状況は理解できていない。けれど、やるべき事は分かる。

沢渡は倒れ伏した詠歌に駆け寄り、その体を抱き起こした。

 

「おい久守!」

 

「うんうん、美しい恋愛ごっこってやつ?」

 

ローブの少女はそんな様子を見て、茶化すように笑った。

 

「テメェ、一体何なんだ……いきなり出て来やがって」

 

その笑い声は酷く沢渡の気に障った。

 

「そんな怖い顔しないでよ。何かが間違ってたら、その手に抱いてたのは僕かもしれないんだからさ」

「ああ……?」

 

苛立ちを隠そうともせず、沢渡はローブの少女を睨み付ける。

それに怯えるでもなく、やはり笑いながら少女は顔を隠していたフードを下した。

 

「……!?」

「でもまさか本当にあのお姉さんに聞いた通りだとは思わなかったよ。まさか、‟私”が、ねえ?」

 

「……榊遊矢のソックリの次は、久守のかよ……!」

 

その顔は、まさに今自分が抱き起こしている少女、詠歌と同じ顔をしていた。

 

「一応名乗っておこうかな、僕は逢歌。‟私”が随分世話になっているみたいだね、沢渡シンゴくん」

「……」

 

言葉が出て来ない。沢渡自身、酷く混乱している。

詠歌が詠歌でない誰かになったかと思えば、次は詠歌と同じ顔をした逢歌という少女が現れる。一体誰が誰の何なのか、頭の整理が追い付いて行かなかった。

 

「まあ色々言いたい事とかもあるかもしれないけど、今はそのまま黙ってなよ。答えてあげる気はないし」

「……何なんだ、テメェ」

 

結局、同じような台詞を繰り返す事しか沢渡には出来なかった。

 

「だから答えないって」

「ふざけた事言ってんじゃ――」

 

それでも尚、食い下がろうとする沢渡を止めたのは、腕に抱いた詠歌だった。

 

「――っあ、あっ、あっ……あぁッ!」

「ッ、おい久守!?」

 

震えていた。

何かに怯えるように己の肩を抱きしめる詠歌の身体が酷く、小さく思えた。

 

「おい一体どうした!?」

「ッ、うっ……」

 

意味のある言葉は詠歌の口からは出て来ない。ただこのままでいていいわけがない。それだけは分かる。

 

「待ってろ、すぐ病院に――」

「忠告しておくと、病院はやめたほうがいいよ。むしろ悪化するんじゃないかなあ」

「ああ!? 適当な事言ってんじゃねえよ!」

「本当の事さ。僕も‟私”も病院にろくな思い出がないからね」

 

逢歌と名乗った少女は軽い口調で言いながら、倉庫の端へと滑ったデュエルディスクへと歩み寄り、衝撃でばらまかれたカードを拾い集めていた。

 

「ふうん、これがペンデュラムカードか。綺麗なものだね、記念にもらっておこうかな。それぐらいしてもいいよね」

「おい何を勝手な事してやがる!」

 

「確か二枚ないと意味ないんだっけ。よし、なら一枚だけ残しておいてあげよう。僕って優しいっ」

 

座り込み、十枚ほどカードを拾い集めると逢歌は立ち上がり、沢渡に目を向ける事もなく倉庫の出口へと目を向ける。

 

「待ちやがれッ!」

「嫌だ。それより‟私”をどうにかした方がいいんじゃない?」

「っ……」

 

未だに詠歌は震え続け、何かに怯えていた。

 

「お勧めは自宅かな? 病院よりはマシだと思うけど。さっさと連れて行ってあげたら?」

「……クソ!」

 

悪態を吐き、それでも沢渡はプライドを捨て、逢歌の言葉に従う事を選んだ。詠歌を背負い、逢歌を追い越して倉庫の扉を潜り、外へと飛び出した。

 

「そうそう、それで正解。あ、そうだ。入って来る時男の子を三人くらいノシちゃったけど、気絶してるだけだから安心してよ――って聞いてないか」

 

あっという間に倉庫から姿を消した沢渡に呆れたように言うと、逢歌は落ちたデュエルディスクを拾った。

 

「しょうがない、サービスで救急車も呼んであげよう。ディスクと残りのデッキは……まあ外の彼らに持たせとけばいっか」

 

詠歌と逢歌。

二人の初めての遭遇は、言葉を交わすことなく終わりを告げた。

 

「せいぜい苦しんで苦しんで苦しみ抜いてよ、‟私”。どうせ本当の家にはもう、帰れないんだからさ。それでもやっぱり、あの白くて消毒液の臭いのする部屋に戻るよりマシでしょ? ほんの少し、だけどね」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「っはぁっ、はぁっ、はぁっ……くそ、何で俺がこんな事してんだ!」

 

走ってる内に僅かに冷静さを取り戻し、文句を言いながらも、沢渡は詠歌を背負い彼女のマンションの部屋の前まで辿り着いた。

 

「おい久守、部屋の鍵出せるか?」

「っ……あっ、くっ……」

 

問い掛けても返って来るのは震えと、弱弱しい吐息のような声だけ。

詠歌のポケットを漁るしかないか、と考えながらドアノブに手を掛けると、ノブは抵抗なく回った。

 

「一人暮らしの癖にどんだけ不用心なんだよ……! ったくッ入るぞ」

 

ドアを開き、玄関へと入る。立地の関係で玄関に陽は全く差さず、部屋の中は暗くて何も見えない。

手探りでライトのスイッチを探し出す。

 

「痛ッ、なんだ……?」

 

その最中、何か刺すような痛みが指先に走った。だがそれを気にしている場合でもない、そのまま手を動かすと漸くスイッチへと行き当たった。

僅かな時間差の後、部屋を光が照らした。

 

「…………なんだよ、これ」

 

呆然とした様子で沢渡は呟いた。

 

そして、その背で詠歌が漸く意味のある言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「……わたしは、だれなの……?」

 

 

 

 

 

 




なんだか遊戯王っぽくない話。沢渡さんがもはやオリキャラと言われても仕方ない気もするので、早い所元に戻したいです。

でもここまで長かった。ようやくシェキナーガを登場させられました。これで残るエルシャドールは……

そして前回に増して露骨な前ふりプディンセス。一体何ア・ラ・モードになるんだ……

不完全燃焼に終わった再戦ですが、いずれ万全の状態で決着はつけます。

今回出たオリキャラですが、ストーリーをたたむにあたって主人公に明確なライバルキャラを用意する必要があり、執筆当初から予定していたキャラクターになります。
完結までのプロットは出来ていますが、アニメの進行に合わせてどの辺りで終了させるか考え中です。

主人公のごちゃごちゃな記憶とかマママインドについては次回。

※非OCGプレイヤーには分かりづらく、本文でも詳しい説明は出来ませんでしたが機殻の再星では鎌壱太刀たちの連続召喚効果と大刃禍是のバウンスは無効にできません。正確に言えば召喚された時、場合に発動出来る任意効果は無効化できません。
相変わらず遊戯王はリアル勝鬨くん状態になりそうなものが多い。

ちなみに演出上省略して