緋弾のアリア~Sランクの頂き~ (鹿田葉月)
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第一章 再会と事件
1話~始まりのチャイム~


初めまして、鹿田 葉月です。小説を投稿するのは初なのですが、暖かい目で見てやって下さい。投稿速度は亀よりも遅いと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
では、本編スタートです、どうぞ!


「――ふぁ~……眠い」

 

まだ半分寝惚け眼のまま、俺、錐椰(きりや) (れい) は身体を起こす。起きてすぐに浴びる朝日がとても気持ちいいと思うのは俺だけではないはずだ。

 

「顔でも洗ってくるか……」

 

そう何となく呟きながら洗面台に向かう。顔を洗っているとだんだんと意識が覚醒し、目がしっかりと開くようになってきた。

その目に写しだされたのは、鏡の中の自分。赤い髪に赤い目、それなのにどことなく日本人だと思わせるような雰囲気。まさしく普段の俺だ。

そんなバカなことを考えていると、

 

……ピン、ポーン……

 

慎ましいチャイム音が部屋に鳴り響いた。

 

「あー……来たか」

 

いつも思うのだが、チャイム音だけで誰だか分かるって凄くないか?まあ、さっさとキンジを起こしてきますか。

 

「おーいキンジ、起きろー」

「うーん……後5分……」

 

と、俺と相部屋である遠山 キンジを起こそうとするのだか、キンジはトランクス一丁のまま、気持ちよさそうに寝ている。

しかしモタモタされていると、ドアの前で待っている彼女が可哀想だ。なので……

 

「起きろこのバカ!」ドコッ

「グハッ!」

 

と、金次の身体に強烈なストンピングを入れる。決して日頃のストレスを発散させるためにやった訳ではない。決してだ。

 

「何すんだよ!」

「うるさい!いつまでも寝てるから悪いんだろうが!」

「だからってストンピングはないだろう!」

「踵落としじゃないだけまだマシだと思え」

 

なんだよそれ……と呟きつつ、キンジは起きる。ちなみにいうと俺の踵落としは相当痛いらしく、人への脅迫に使ったりする。今回は二段ベッドの下側にキンジが寝ていたために使えなかったが。

 

「それより早く玄関行ってやれ、お前の幼馴染みで彼女が来ているぞ」

「彼女じゃないし、てかお前にとっても幼馴染みだろうが」

 

と言いつつキンジが玄関を開けると、

 

「あ、キンちゃん!」

 

と俺達の幼馴染みである星伽(ほとぎ) 白雪(しらゆき)がいた。

 

「その呼び方、止めろって言ったろ」

「あっ……ごっ、ごめんね。でも私……キンちゃんのこと考えていたから、キンちゃんを見たらつい、あっ、私またキンちゃんって……ごっ、ごめんね。ごめんねキンちゃん、あっ」

 

そう言って見る間に蒼白になり、あわあわと口を手で押さえる白雪。仕方ない、援護してやろう。

 

「まあまあ、キンちゃんもそうカリカリするなって、おはよう、白雪」

「あ、レンちゃん、おはよう」

 

誰がキンちゃんだと言っているキンジをスルーしつつ、俺と白雪は挨拶をかわす。ちなみに、白雪は俺のことをレンちゃんと呼ぶ。ああ、平和だな~

 

 

 

 

 

その後白雪が持ってきた朝食(重箱)を食べた後、ミカンを剥いてくれている白雪に対し、

 

「あ~……いつもありがとな、白雪」

 

日頃の感謝も込めてキンジは言ったのだが、

 

「えっ。あ、キンちゃんもありがとう……ありがとうございますっ」

 

と何故か白雪が言い、三つ指をついて深々と頭を下げる。

その際、制服の胸元が少し弛んで、白雪の深い谷間が覗いており、黒いレースの下着が見えた。

俺とキンジは一斉に顔をそむけたが、キンジの方を見ると、ひたすら何かに耐えているような顔をしている。

あー……どうだろう?こいつにとって今のは大分危なかったと思うが。

 

 

 

 

 

 

なんとか大丈夫そうだったので、俺とキンジが着替えていると、

 

「はい、キンちゃん、防弾制服」

 

と白雪が言いつつ、()()()()を持ってきて、さらに()()を持ってくる。

 

「始業式くらい、銃は持っていかなくてもいいだろう」

「ダメだよキンちゃん、校則なんだから」

 

……そう。武偵高は校則で『学内での拳銃と刀剣の携帯を義務づける』のだ。

ちなみに、キンジが使っている拳銃はベレッタM92F。どんなのかって言うと、バイ○ハザード5というゲームの初期装備のハンドガンって言えば分かるか?

俺も自分の拳銃――紅色のコルト・ガバメントをホルスターに入れる。今日は刀じゃなくてナイフにしとこう。 後、グロック17は今日はいいかな?

 

「それにまた、『武偵殺し』みたいなのが出るかもしれないし……」

「『武偵殺し』?」

 

ここで俺が口を出した。さっきまでは朝の時間をなるべく二人にさせようとしてあまり口を出さなかったが、聞き慣れない言葉が出てきたので思わず口を挟む。

 

「うん、武偵を狙った連続殺人事件だよ」

「その犯人は逮捕されたけどな」

 

白雪が説明してくれて、キンジが捕捉を入れる。

 

「じゃあ、なんで捕まったのにそいつがまたでてくるんだ?」

「正確には出てきてないんだけど、模倣犯が出るかもしれないし……もしキンちゃんに何かあったら、私……ぐすっ……私っ」

「あー、分かった、分かったから!」

 

そう言いつつ、キンジは机の引き出しからバタフライ・ナイフを取りだし、連続開閉する。

 

「キンちゃん、凄い!やっぱり先祖代々、正義の味方って感じだよ」

「相変わらずそれだけは得意だよなー、お前」

「……止めてくれよ、白雪。ガキじゃあるまいし。後、『だけ』は余計だ零」

 

と言うやり取りをしつつ、キンジはPCの電源を入れる。

 

「白雪、お前は先に学校行っててくれ。俺はメールチェックしてから行く」

「あっ、ならお掃除とかお洗濯とか……」

「いや、いいよ白雪。そう言うのは俺の役目さ。白雪も生徒会大変なんだろ?先に行って準備してな」

 

と俺が言うと白雪は渋々頷きつつ、

 

「じゃあ、キンちゃん、後でメールくれると嬉しいです」

 

と言い、白雪は出ていった。

――さて、今の流れの中に1つ気になることがあったので確認してみよう。

 

「キンジ」

「なんだ、零?」

「お前にメール送ってくれる友達なんていたのか?」

「うるさい!」

 

いや、だってあの根暗のキンジだぜ?そう思っても仕方ないだろう?本人も否定しないし。

 

 

 

 

 

それからしばらくキンジはPC、俺は家事をやっていると、

 

「――ヤバイ、零!バスに間に合わない!」

「何!?」

 

時計を見ると7時55分。バスが確か7時58分だったはずだから……っ!

 

「乗れないじゃないか!」

「だからそうだって言ってるだろ!!チャリで行くぞ!」

「(*^^*ゞ」

「遊んでいる場合か!」ドスッ

 

イテェ!あの野郎!ソバット見舞いやがって、後で覚えて ろよ!

そう思いつつ、俺達はチャリ置き場に行ってチャリをこぎ出した。

 

 

――後に、キンジはこの7時58分発のバスに乗れなかったことを悔んでいるが、俺は違う。だって空から……

 

 

 

 

 

 

神崎・H・アリアが

()()降ってきたのだから――

 




はい、どうでしたでしょうか?誤字・脱字・アドバイス・感想などもらえるとうれしいです。それでは、ごきげんよう


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2話~『錐椰 零の名の下に』~

投稿終了→( ̄q ̄)zzz→起きる→お気に入り三件→( ; ゜Д゜)←今ここ


となっている鹿田 葉月です。まさか、こんな駄作をお気に入りして下さるなんて……とても感謝してます。
さて、それでは第2話始まります。ついにあの子が登場!!








ルビ振りってどうやるんだろう…?


やあ、皆おはよう!え、テンションが高い?そんな訳ないじゃん!それよりさ、起きたばっかりの身体に浴びる朝日が気持ちいいのは俺だけではないはずだよな!え?これ、さっき聞いた?

 

ハァ……、分かってるよ。めっちゃ気持ち悪いよな、今の俺。でもな、こうでもないとやってられないぜ?だって……

 

「おい、零!何なにもない方向いてため息ついてやがる!それより後ろ向いて現実と向き合え!」

 

そう、俺達の後ろには、

 

『それ以上、減速すると、爆発し、やがりマス』

 

と言って俺達を追ってくるUZI付きセグウェイ達、その数なんと10。明らかなオーバーキルである。そりゃ現実逃避したくなるわ。

さて、どうしてこうなったかと言うと……

 

 

 

 

 

~回想~

 

「おいキンジ、チャリで登校するときってどれくらい時間がかかるんだ?俺初めてだからイマイチ良く分からないんだが」

「このペースなら充ぶ『その、チャリには、爆弾が仕掛けて、あり、ヤガリマス』んに間に合うさ……は?」

 

~回想終了~

 

……な?現実逃避したくなるだろ?サドルの下にはプラスチック爆弾、それも車でも木っ端微塵になる量だぜ?後ろには秒間10連射できるUZI。

ハァ……、

 

「おい、零!どうにかしろ、お前ならこれくらい朝飯前だろ!」

「朝飯さっき食っちまったからまた明日な」

「冗談言ってる場合か!早くしろ!いや、して下さいよ『紅電(こうでん)』さんよ!」

「こんな時ばっかり2つ名で呼びやがって……」

 

そう、『紅電(こうでん)』――これが俺の2つ名だ。なんでも電流が流れるような速さで事件を解決するからこう名付けられた。ちなみに紅は俺の髪の色を指しているらしい。

まあ、この状況は普通に解決できる。ただし……

 

「キンジの方の爆弾をどうするか……」

「おいまさか、見捨てる気か!?」

 

うるさい、そうしたくないから今必死に考えているだろうが、見て分かんないの?バカなの?死n……いや、死にたいならチャリの速度下げているか。

 

「こんな所で終われるか!俺は早く一般の生徒になりたいんだ!」

「遺伝的に一般じゃないのに何言ってるんだか」

「うるさい!」シュッ、サッ

 

危なっ!チャリに乗りながらソバット打ってきやがった!器用すぎるだろ、てか今俺に当たって転んでたら俺もお前も……いや、キンジだけが死ぬんだがソコんところ分かってるか、コイツ。

と言いつつも、キンジの方が大分息が上がってきたので、どうしようかと悩んでいると……

 

「おい、零。アレはなんだ?」

「アレ?」

 

キンジが空に向かって指を指しているからそれをたどっていくと……ッ!

 

「おいおい……」

 

前方にある女子寮の屋上に武偵校のセーラー服を着ている一人の少女が危険防止用の柵に立っていた。

遠いので具体的には良く分からないが、セーラー服を着ているのと、立っている柵にまで届きそうな、キレイな緋色のツインテールなので、少女だということが分かる。

 

「何してんだ、アイツ」

 

と、キンジが呟いた瞬間、なんとその少女が――屋上から飛び降りた。

 

「「ハア!?」」

 

何アイツ自殺志願者!?日本の武偵には自殺志願者がいるのか!?

勿論そんな訳がなく、少女は空中でパラシュートを開いていた。そしてあろうことか――こちらに目掛けて降下してきた!

 

「バッ、ばか!来るな!この自転車には爆弾が――」

 

とキンジは言いかけたが、少女はキンジの警告を無視し、左右のふとももに着けたホルスターから、それぞれ 銀と――金色の大型拳銃を2丁抜いた。そして――

 

「ほらそこのバカ達!さっさと頭を下げなさいよ!」

 

バリバリバリバリッ!

俺達が頭を下げるより早く、問答無用でセグウェイを破壊した!

拳銃の平均交戦距離は、7メートルと言われている。だが、少女と敵達の距離はその倍以上ある。しかも不安定なパラグライダーから、おまけに二丁拳銃の水平撃ち。

これだけ不利な条件が揃っていたにもかかわらず

彼女の弾は魔法のように次々命中していく。

――――うまい

ランクは軽くSだな。見事なもんだ。

しかし、少女が破壊できたのは3台。残り7台残っている。

少女が悔しそうな表情をしつつ、次にくる弾丸の嵐に耐えようと身体を縮める。

しかし、セグウェイが全部少女に銃口を向けたのでこちらが無防備になる。

――バカだな、お前達が追っていた人物は誰だと思っている。

俺は素早く懐から拳銃――紅色のコルト・ガバメントを取り出す。

そして前を向いたまま、後ろに向かって発砲した。

普通なら当たらないだろうが、お前達の位置はさっき後ろを向いた時に分かっている。外すなんて、有り得ない。

そう考えたことを証明するように次々と銃口に弾が命中。撃ち終わった頃には、すべてただのガラクタになっていた。

 

「相変わらず凄いな、お前……」

 

キンジが呆れたように言うがこんなこと簡単だぞ?

ってそれより、次は爆弾をどうにかしないと。――ってそうだ!そこの少女にキンジを頼もう。

 

「おい、そこの君!このバカを助けてやってくれ。俺はなんとかするから!」

 

そう言って返事を待たずに自転車のスピードを上げる。

後ろからなんか聞こえるが、無視だ無視!

そう思ってスピードを上げていると後ろから大きな爆発音が聞こえた。

 

「へぇ~ああなるんだ、恐い恐い」

 

キンジがいなくなったので、まるで他人事のように呟く。そして自転車に別れの挨拶をつげる。

 

「一回しか使ってないけど、お前は最高だったよ。今度はお前の生まれ変わりとゆっくりサイクリングしたいな」

 

そう言って俺はある言葉を口にする。

 

 

――『錐椰 零の名の下に』

『これより半径30メートル内の抵抗を0に』

 

 

その言葉を言った後、その場で自転車から飛び降りる。

普通は飛び降りた瞬間から速度が下がっていくのだが、自転車は何故か速度が下がらない。そして30メートルを少し過ぎた後、自転車が大爆発した。

 

「た~まや~」

 

自転車から降りた俺はそう言いつつ、爆発の余波に呑まれた二人の元へと向かう。

さて、二人はどうなっているのやら?




どうでしたでしょうか?
ご意見、ご感想をお待ちしております。
では、ごきげんよう。


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3話~弾込め~

まさかのお気に入り10件……本当にありがとうございます!!
また、こんな駄作を見てくださっている方々も本当にありがとうございます!!


今日はこれが最後です!!最後まで読んでもらえると嬉しいです!!

では、第3話、キンジがついに働きます(笑)


さて、二人がぶっ飛ばされた方に向かっていると、体育館倉庫が開いていた。恐らく二人とも中に居るのだろうと思い覗いてみると、

 

「えっ」

「「あっ」」

「……お邪魔しました」

 

そういって俺はドアをしm「「ちょっと待て~~!」」……チッ、なんだよ。邪魔したくないからそのままにしておこうと思ったのに……

 

「「お前(アンタ)は何か勘違いしている(わ)!」」

 

全く……失礼な、俺が何を勘違いしているって?

 

「俺はただ、この体育館倉庫の中、何故か崩れた跳び箱の中にいて、少女が少年に馬乗りしているのを見て、青春してるな~と思っただけだよ」

「「だからそれが勘違いしているって言ってんだよ(のよ)!」」

「はいはい、言い訳は良いから」

「「人の話を聞けー(聞きなさい)!」」

 

何憤慨してんだ、コイツら。そして誤解と言うなら何故まだ跳び箱の中にいる?

まあいいや。取り敢えず面白いからこのまま弄って……ッ!

 

「お前ら伏せろ!」

 

そう言いながら、俺はドアの陰に隠れる。すると次の瞬間、

――バリバリバリバリッ!

と銃弾が嵐のように体育館に撃たれた。

外を見てみると、先程俺達を散々追いかけてくれやがったUZI付きセグウェイが、今度は28台ほど来ていた。

 

「どうする!」

 

銃声が凄くうるさいので、跳び箱の中にいる二人(なお、跳び箱は防弾製らしい。ここら辺も武偵校らしいな)に向かって叫ぶ。

 

「応戦するわよ!」

 

と少女が俺に返し、拳銃を抜いた。見ると先程の拳銃の金色の方を使っている。どうやら俺と同じコルト・ガバメントのようだ。

 

……ん?金色のガバメント?えっ、ちょっと待て、それって……

 

1つ気になることがあったが、それよりもまずこの状況をなんとかしなければ。そう思って俺も銃を抜く。

そしてドアの向こうへ銃だけ出して応戦する。

俺は勿論外しはしない。すべてセグウェイにヒットし、7台をガラクタに返す。

少女も大半牽制目的でやったが、1台撃破した。これで向こうは残り20台。しかも一回体制を立て直すつもりなのか、並木の向こうへ隠れた。

その隙にマガジンをリロードしたのだが、ここで問題が発生。予備のマガジンがあと1つしかないのだ。

絶対に外すことがないから、軽量化目的の為にマガジンを少なくしていたのが裏目に出た。ガバメントのマガジン1つには7発しか入らないから後7発しかない!

少女の方も先程から牽制に多量の銃弾をバラまいたので、残りは少ないだろう。

こんなことになるなら俺が使っているもう1つの銃であるグロック17を持ってくるか、刀を持ってくれば良かったと後悔しつつ、ナイフで特攻するかどうか迷っていると……

 

「強い子だ、それだけでも上出来だよ」

 

というキザな口調が聞こえてきた。聞こえてきた方を見てみると、キンジが少女をお姫様抱っこしていた。

 

……アイツ、なりやがったな――――ヒステリアモードに!

 

 

――ヒステリア・サヴァン・シンドローム――

キンジは遺伝的にこの体質を持っている。(キンジはヒステリアモードと呼んでいるため、俺もそう呼んでいる)

この体質を持っている人間は、一定量以上の恋愛時脳内物質βエンドルヒィンが分泌されると、それが常人の約30倍もの量の神経物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させる。

その結果、大雑把に言って、性的に興奮すると、一時的に人が変わったようなスーパーモードになる。

 

なお、このモードになっている時、子孫を残すため、女子に対して不思議な心理状態になってしまう欠点があるらしい。

1つ目は、女子を、なにがなんでも守りたくなるらしい。まあ、これについてはそこまでって感じだが。

2つ目は、女子に対してキザな言動を取ってしまうことだ。これが極めて耐えがたいらしい。前に一度なっているのを見たことがあるが、誰だよコイツみたいなことになったのを今でも覚えている。

キンジは中学生時代、ヒステリアモードを女子に利用されてたらしい。俺はその時、各国を回っていたのでそのことは全然分からなかった。可哀想だと思う。

なお、朝白雪の胸と下着を見て、何かに耐えようとしていたのは、ヒステリアモードになりそうなところを必死に我慢していたというのが真相だ。

 

 

さて、そんな変態モードになったキンちゃんt「誰が変態だって?」……ヒステリアモードになったキンジと一緒に倉庫から出る。てかなんでコイツ俺の心読んでるの?いくらヒステリアモードだからって普通できなくない?

まあいいや、取り敢えず……

 

「――お片付けの時間だ」

 

残り20台がやって来たので臨戦体制に入った。

 

 

 

 

 

 

まずセグウェイが二手に別れた。キンジに7台、俺に13台……っておい!やけに俺の方多くない!?普通10台ずつだろ!?

そんなことを思っているとUZIが一斉に発砲してきた。

――狙いはすべて頭か。悪くはないが、相手が悪かったな!

俺は銃弾が向かってくる場所を瞬時に把握し、角度を読み、発砲する。

すると俺の撃った弾がUZIの弾に当たり、さらに当たった弾が跳ね返った先に別のUZIが撃った弾がきて、また当たる。

そんなことを繰り返して、ついに跳ね返った弾がUZI達の銃口に入り、UZI達を破壊した。そして俺の元に来た弾はもう一発発砲して当てて落とした。

 

――蜻蛉返り(とんぼがえり)

撃たれた弾の角度を考えて弾を撃ち当てて、相手の銃口へと戻す技だ。これも俺にとっては簡単だ。まあ、13台に向けてやったのは初めてだが。

こちらが終わったのでキンジの方を見てみると、あちらもちょうど終わったようだった。

 

「よう、お疲れさん、キンジ」

「ああ、零こそお疲れさん。悪かったな、そっちに多くいって」

「別に疲れてないし、お前が謝る必要ねぇだろ?それより戻ろうぜ」

「ああ、そうだな」

 

そう言いながら倉庫に戻ってくると、少女がポカーンとした顔で俺らを見ていた。しかし、我に帰るとすぐに跳び箱の中に入った。

 

「――お、恩になんか着ないわよ。あんなオモチャぐらい、あたし一人でも何とかできた。これは本当よ。本当の本当」

 

いやいや、28台のUZIを一人でなんとかできたら人間止めてるぞ?まあ、俺はできるけどな。

そんな風に強がりながら少女は、ゴソゴソと跳び箱の中で何かしていた。どうやらスカートのホックが壊れているようだ……何で?……(゜ロ゜;!

 

(キンジ!)

(なんだい、零?)

(お前まさか、ヒスる為にスカートを……)

(決してそんなことはしてないと断言するよ)

 

少女の手前、ヒステリアモードを知られたくないキンジの為にお互いに小さい声で囁いていると、

 

「そ、それに、今のでさっきの件うやむやにしようったって、そうはいかないから!あれは強制猥褻(きょうせいわいせつ)!レッキとした犯罪よ!」

 

そう言いつつ、少女は跳び箱の指を突っ込む穴から紅い瞳でキンジを睨む。

 

「……アリア。それは悲しい誤解だ」

 

キンジは――シュルッ……と。

ズボン留めるベルトを外して、跳び箱に投げ入れた。

 

……ん?『アリア』だって?ちょっと待て、じゃあさっきの金色のガバメントはやっぱり!

 

「あ、あれが不可抗力ですって!?」

 

アリアと呼ばれた少女は跳び箱の中から、キンジのベルトで留めたスカートを押さえつつヒラリと出てきた。

ふわ。見るからに身軽そうな体が、俺達の正面に降り立つ。

改めて見るその姿に、俺の脳に電流が走った。

ツノみたいな髪飾りに縛ったツインテール、目測142センチメートルの低い身長、そしてなにより、そのつり目。

――間違いない、神崎・H・アリアだ。でも、どうして……?

今にもキンジに噛みつかんとするアリアに疑問符が頭の中でいっぱいになる。兎に角まずは、

 

「久し振りだな……アリア」

 

と言った。するとアリアは驚いた顔をしてこちらを向き、そしてこう言った。

 

 

 

 

 

「アンタ、誰?」

 

――その顔は俺と同じく疑問符で頭がいっぱいになっているような表情だった。




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想をよろしくお願いいたします。

それでは、ごきげんよう。


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4話~再会の硝煙~

はい、どうも。皆さんこんにちは、鹿田 葉月です!!
皆さんのおかげで昨日の間だけでUA数が1000を突破しました!!ありがとうございます!!
相変わらずの駄作ですが、これからも頑張っていきたいと思いますので、是非最後まで読んで下さい。


さて、それでは第4話、始まります!!








遂に零とアリアの関係が明らかに!?


なん……だと……?

何故だ、何故俺のことが分からない?そりゃあ、アリアと別れてから約3年間たったが、それでも普通覚えているものだろ?結構ガックリくるぜ(´・ω・`)

――ん?3年前?あっ、そういうことね、了解(`・ω・´)ゞビシッ!!

 

「アリア、俺だよ。桐ヶ崎(きりがさき) 蓮斗(れんと)だよ」

「えっ、蓮斗!?」

 

俺がある名前を口にすると、アリアは再び驚いた顔をする。

 

「まさか……蓮斗なの?」

「ああ、俺だよ、蓮斗だ」

 

そう言って信じてもらえると思ったのだが、アリアはまだ疑っているようだ。

――仕方ない、()()を使うしかないようだな、できればあまり使いたくなかったが……

 

「神崎・H・アリア」

「な、何よ、いきなりフルネームでよn」

「5才で初めて会った時、親の陰に隠れながらオドオドした様子で挨拶。その後、俺を部屋へ招いたまでは良かったものの、挙動不審の状態で何も喋らずに、ジュースの飲み過ぎにて腹をこわす。その後なんとか仲良くなり、家の中を案内してくれたのだが、その時特に自慢していた超巨大のプールにて、プールサイドで足を滑らせて頭からダイブ。以来小さい時にて強烈なショックを受けたため、泳げなくなる。本人はカナヅチだと主張するも、実際の処は転び方があまりにもダサかったので、カナヅチだということにしている。

極めつきには12才の時、久し振りに会って『以前のアタシとは違うわ!!』と豪語するので、その時に有名だったホラーテーマパークに連れて行ったら、あまりの怖さにおもr「わあ~~~!」

「分かった!分かったからもうそれ以上言わないで!」

 

……ふうっ、ようやく信じてもらったか。いや~、人に信じてもらおうとするのはとても大変だな~(ゲス顔)

アリアは顔を真っ赤にしながらも、俺の言ったこと(トラウマ)で俺を信じたようだ。

しかし、気になるようなことがある顔をしている。コイツ分かりやすいな。てか俺の周りの人間って表情豊かな奴ばっかだな、無表情の奴とかいないのかよ。

まあ俺も気になることがあるから聞いてみるか。

 

「「なあ(ねぇ)、アリア(蓮斗)」」

 

……

 

「「いや、そっちからで良いよ(良いわ)」」

 

……気になることを聞こうとした時にハモると気まずくなるよな~。

 

「な、なあアリア」

「な、何?蓮斗」

「多分言いたいこと同じだろうから、せーので言うか?」

「良いわよ」

「よし。じゃあ、せー、のっ!」

 

 

 

 

 

「「なんでお前(アンタ)の髪と目の色変わっているんだ(のよ)?」」

 

そう、俺がアリアを、アリアが俺のことを分からなかったのはこれが理由である。

最後に会った時、俺は黒髪で目は茶色。ごく自然な日本人の見た目だった。アリアも緋色の髪に赤い瞳ではなく、金髪に碧眼だった。

 

「えっと……2つ聞きたいことがあるけど、良いかな?」

 

と、さっきまで放置されていたキンジ(ヒステリアモード継続中)から声がかかる。

 

「いいぞ」

 

俺が許可したため、キンジが喋りだす。

 

「まず、一つ目。アリアは何で零のことを蓮斗と呼んでいるんだい?二つ目。零、君が海外に行ったのは10才からじゃなかったのかい?聞いているとその前から行っていたように聞こえるけど?最後に二人は知り合いなのかい?」

 

キンジ、それ二つじゃなくて三つな。┐(-。ー;)┌

 

「何言ってるのよ、アンタ。蓮斗は蓮斗じゃない。それに零って誰よ」

 

まあ、そうなるわな。だって……

 

「アリア、よく聞け。零とは俺のことだ」

「嘘!?」

 

アリアは驚いた顔をするが、事実なんだよな。

 

「だってアンタの名前は桐ヶ崎 蓮斗じゃ……」

「それは、その()()() ()()という名前が偽名なんだよ。俺の本当の名前は錐椰 零だ」

「じ、じゃあなんで偽名なんか……」

「色々あったんだよ……」

 

俺はそこで少し昔を思いだして、表情を暗くする。

アリアもそれを察してか、それ以上は聞いて来なかった。

 

「二つ目の質問に答えるぜ、キンジ」

 

と、俺が言うと、キンジがこちらを向いた。

 

「確かに、俺が各国を回っていたのは10才からだ。しかし、俺が海外に行ったことがあるのは10才からじゃない、寧ろ生まれた時から毎年行っていたぜ?」

「……はっ?」

 

キンジは意味が分からないといった表情をしている。

 

「親の実家に行くことなんて、子供の時は当たり前だろ?」

 

そう言うと、今度は納得したような顔をする。

 

「なるほど、確かに零の母親は日本人とイギリス人のハーフだったね」

「そう言うこと」

 

そう、実は俺は生粋の日本人ではない。父親が日本人、母親が日本人とイギリス人のハーフ、つまりクォーターだ。

小さい時にアリアにこの話をした時、『私と逆なんだね、面白いね』と目をキラキラさせていたのを覚えている。どこが面白かったのかは、今でもよく分からないが……

 

「そして三つ目」

 

最後の質問に対する答えだ。

 

「俺とアリアは知り合いかということに対してだが、

俺とアリアは……

 

 

 

 

 

パートナー、だ」

 

…………

 

「はっ?」

「だから、パートナー」

 

意味が分からなかったのか、キンジは首をかしげるので、もう一回言った。

 

「えっと、そうなのかい?アリア」

「……ええ、そうよ、パー・ト・ナーよ……」

 

……あれ?気のせいか、アリアが凄く怒っているような……アハハ、おかしいな、空間が揺れているよ。汗止まんないよ?震えが止まらないよ?

 

「あ、あの、アリアさん?もしかして怒ってます?」

 

思わず敬語になりつつも、アリアに問う。

 

「べっつに~、ずっとパートナーとして隣にいてやるとか言ったくせに、アタシの13才の誕生日の日に、いきなり行方不明になったって連絡が来て、以来音沙汰もなしで心配して今まで各地を回ってたのに、アンタはその間ずっと各国を旅して遊んでたんだ~」

 

アリアの表情が怒った顔からいきなり笑顔になる。ただし、目は笑っていない。おまけに血管が浮き出てきて、『D』のような形になる。

――いや、呑気に観察してる場合か!てかあのDって何!?DIE!?それともDEAD!?

 

「そんな蓮斗には……風穴デストロイッ!」

 

なるほど、DESTROYのDだったのか。てかまだ蓮斗って呼んでるな、アリア。俺の名前は零『パァンッ、ヒュンッ』だってって危なっ!!普通に頭狙ってきたよこの子ッ!キンジが察してアリアの身体を押さなかったら、今頃俺はじいちゃんの元へと川を渡っていたかもしれない。

 

「何邪魔してんのよ!アンタにも風穴開けてやる!」パァンッ

「うぉっ!」

 

だがそのせいでキンジも風穴対象となり、アリアに撃たれている。こうなったら……

 

「キンジ、逃げるぞっ!」

「了解ッ!」

「こら~待ちなさ~い!」

 

と、俺とキンジが逃げてアリアが追いかけるというリアル鬼ごっこがはじまってしまった。勿論捕まれば風穴。

 

「でっかい風穴開けてやるんだから~!」

「「勘弁してくれ~!」」

 

 

 

 

 

――これが後に、『エネイブル』と呼ばれ、不可能を可能にする男と呼ばれる遠山 キンジと、

『緋弾のアリア』と呼ばれ、全国の犯罪者を震え上がらせる鬼武偵、神崎・H・アリアと、

『紅電』と呼ばれていたが、後に『緋電』と呼ばれ、人々の救いとなる錐椰 零との、

硝煙のにおいにまみれた、面白おかしい出会いと再会だった。




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想がありましたら、是非コメントしてください。



それでは、ごきげんよう。


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5話~東京武偵校~

どうも。お気に入りが30件を越したため、家の中で狂喜乱舞していたら、タンスの角に小指をぶつけるという昭和感満載のことをした、鹿田 葉月です!!
皆さんのおかげで、二重の意味で涙目になっております!!


では、第5話、始まります!!









皆の女神が登場!?


(´Д`)ハァ……疲れたぜ。あれからアリアをなんとかまいてきて、俺とキンジは自分達の割り振られたクラス――共に『2年A組』だ――に入った。

現在の状況は、ヒステリアモードになり、しかもそれを女子に見られたキンジが絶賛鬱モードに突入中で、俺がそれを弄っているというところだ。ちなみに席は隣の隣だ。

 

「ねぇねぇ、キンジ。女子にヒステリアモード見られた時ってどんな気持ち?ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

「うるさい……黙ってろ……」

 

おおぅ、返答にまるで気迫がない。てか存在感が希薄だ。そうとう堪えているのだろう。

仕方ない、弄るのここまでにしてy「いよーう、喜べ キンジ!今年も車輌科(ロジ)武藤(むとう) 剛気(ごうき)さまが一緒のクラスだぜ!」……なんかとてもうるさい奴が来たな。

声のする方に振り返ると、そこには『巨漢』という言葉で表せられる男がいた。身長は190くらいだろうか、かなりデカイ。顔のパーツもなかなか整っている。

だが、髪の毛はボサボサで手入れしていないのが一目で分かり、うるさく大雑把な性格だと感じた。ああ、コイツ、彼女できなさそうだな。

武藤という男は顔を机に突っ伏して反応を示さないキンジにさらに話かける。

 

「なんだよ、朝から元気ねぇな。星伽さんと別のクラスなのがそんなに悲しいとか?」

「……武藤、今の俺に女の話題を振るな」

 

そう言いながら、顔だけをこちらに向けるキンジ……って怖っ!コイツ今もの凄く怖い顔したぞ!武藤っていう男もなんか後ずさりしてるし。少し弄りすぎたか?

 

「そう言えば、お前は一体誰なんだ?今まで見たことないが……」

 

そう言って俺の方を向く武藤っていう男。そう言えば名乗ってなかったかな?見ると、クラスの中の全員が俺み見ている。

――それは当然だろう。なんせ去年まで知らなかった男が、普通に教室にいるんだから。

何故か女子は俺と目が合うと、キャーって言ってコソコソ喋っているが。何これ?新手の苛め?

 

「俺は錐椰 零。この前転校してきたばっかなんだ。これからよろしくな」

「そっか。俺は武藤 剛気!気軽に剛気って呼んでくれ!よろしくな、錐椰!」

「俺のことも零って呼んでくれて良いよ」

 

良かった。良い奴そうだ。これなら友達も心配なさそうだな。

 

「――ねぇねぇ、レイレイ」

 

と、俺が剛気のことを思っていると、制服の裾がクイクイッと引っ張られた。

そちらを見てみると、とても印象的な美少女がいた。

ツーサイドアップに結ったゆるい天然パーマの金髪。身長は目測147センチだが、その身長に似合わないスタイル。俗に言う『ロリ巨乳』という分類だろう。

だが、一番印象的なのは、その制服だ。武偵校は制服のアレンジがOKなので、してる奴は海外でもいた。

しかし、この少女は制服をヒラヒラなフリルだらけの服に魔改造してある。こんなの初めて見たぞ。

 

「レイレイって、専門科目とランクって何~?」

 

少女は俺の裾を掴んだまま、そう訪ねてくる。

 

「あの、君は?」

 

俺がそう問うと、少女は両手で敬礼ポーズをして、

 

「理子の名前は(みね) 理子(りこ)!りこりんって呼んでね?」

 

と言ってきた。だが、そう呼ぶのはなんかオタクっぽいし、かといって名字で呼んだらこの手の子は無理やり呼ばせようとするのだろうし、名前で呼ぶか。

……ん?元々オタクだろって?うるせぇよ。

 

「あ、ああ。よろしく、理子。ところで、レイレイってなんだ?」

「むぅ~、りこりんって呼んでない……レイレイはレイレイだよ」

 

俺がさっきのセリフの中で気になったことを理子に聞くと、理子は若干拗ねながらも俺を指さしながら答えた。

どうやら俺のことを言っているらしい。いきなりあだ名をつけるとは、行動力のある子だな。まあ、別にいいけど。

 

「それよりもレイレイの専門科目とランクを教えて?」

 

と理子が言ってくる。

ちなみに、普通の学校だったら普通科とか、理数科とかそんな感じだろう。

だが、ここは武偵校。『普通じゃない』。

そもそも、『武偵』というのは日々凶悪犯罪が増えているなか、警察だけでは足りないためにできたものだ。

ただし、警察と違うところがあり、武偵は金で動く。そして、金さえ払えば、武偵校の許す範囲内でどんなことでもするいわゆる『便利屋』である。

そのため、その依頼に対応できるように、様々な専門科目がある。

 

一番知られているのが強襲科(アサルト)。犯罪者達を追いかける警察と同じような動きをする専門科だ。

次に探偵科(インケスタ)。これはその名の通り、探偵としての調査や分析活動をする。

他にも乗り物を重点的に使う車輌科(ロジ)。武偵にとって必要な装備品を販売したり、作ったりする装備科(アムド)。遠距離から目標を狙い撃つ狙撃科(スナイプ)。挙げ句の果てには、超能力(ステルス)をもつものを育成する超能力捜査研究科(SSR)などがある。

次に『ランク』についてだが、これは『武偵ランク』と呼ばれるものであり、武偵には通常EからAまでのランクが存在し、民間からの有償の依頼解決の実績や学科の各種中間・期末試験の成績からランク付けされる。

そしてAランクの上に特別なSランクが存在し、極限られた人物にだけそのランクが与えられている。

なお、Sランクはその道のプロと呼んでも差し支えない実力を持っているAランクが束になっても敵わない程の実力差である。

さて、ここまで色々なことを考えていたせいか、理子が早く言ってよと言いたげな顔をしている。しかし、俺の場合どう説明すればいいのやら……

 

「あ~、理子。そいつは『紅電』だから、聞いてもあまり意味ないぞ」

 

そんな俺を見かねたキンジが助け船を出してくれた。と思ったが、

 

『えっ、紅電だって!?』

 

どうやら泥船だったようだ。しかもまったく固めていない。

キンジの言ったことに対してクラスの中に動揺が走る。

 

「『紅電』ってあの『紅電』か!?」

「15才の時に3大マフィアと呼ばれていた奴達が抗争を始めた時に、たった一人で壊滅させたあの『紅電』か!?」

「しかもその時にかけた時間は僅か10分っていう最早伝説つきだろ!?」

「っていうか、なんでそのことをキンジが知ってんだよ!?」

「それは俺が零と幼馴染みだからだ」

『なっ、なんだって~!?』

 

うわぁ……なんかすごいことになった。やはり、ここでも『紅電』の名は知られていたか。

ちなみに、俺の名前を聞いた時に誰も『紅電』だと分からなかったのは、『紅電』の二つ名が強すぎて、逆に名前だと分からなかったりする。少しショックだ(´・ω・`)

てかやばい。皆俺に取っ掛かりそうな感じになってきている。

どうしようかと考えていた矢先、

 

「はあ~い、ホームルームを始めますよ~。皆さん席についてくださ~い」

 

と担任の先生が入ってきた。

その言葉を聞いた生徒は、渋々ながらも自分の席についた。ナイスだ、ホームルーム!

 

 

 

 

 

「先生、アタシ、蓮斗……じゃなかった。零とあいつの隣が良い」

 

訂正、まったくもってナイスじゃない。

 

「うふふ、それじゃあまずは今日から転校してきた錐椰くんから自己紹介してもらいますよ~」と先生に言われたのはまだいい。

自己紹介した後、質問で女子に何故か「彼女いますか?」とか、「好きな女性のタイプはなんですか?」と聞かれまくったのもまだいいだろう。

だが、俺は気づかなかった。先生が『まずは』と『から』と言っていたことに。そして俺が自分の席の位置にいたまま挨拶をしたという失態に。

 

「じゃあ、次に三学期に転校してきたカワイイ子を紹介しますね~」と先生が言った後に一番前の席に座っていたアリアが前に出た時、俺とキンジは椅子から滑り落ちた。

――ヤバイ、風穴くらう!

と思った矢先にさっきのセリフをアリアは言った。

……えっ、何?どゆこと?

と思考がフリーズしてる中、俺とキンジの席に挟まれていた剛気が、「よ、良かったなお前ら。春が来たみたいだぞ!!先生、俺転校生さんと席変わりまーす!!」

と言い、先生も「あらあら~、最近の子は積極的ね~」とか言いつつ、席の交代を許可している。来たのは春じゃない。風穴使いだ。

どうされるんだろうと内心ビクビクしていると、

 

「キンジ、これさっきのベルト」

 

とキンジにベルトを渡している。見ると、スカートのホックが壊れていない。恐らく予備かなにかだろう。

 

「零、マガシン起きっぱなしだったよ」

 

と言って、今度は俺に空になったマガシンを渡してくる。そういえば拾うの忘れてたな、どこかの台風娘のせいで。

 

「理子分かった!分かっちゃった!――これ、フラグバッキバキに立ってるよ!」

 

キンジの左隣に座っていた理子が、ガタン!と席を立った。

 

「キーくん、ベルトしてない!そしてそのベルトをツインテールさんがもってた!さらにレイレイの空マガシンも!これ、謎でしょ謎でしょ!?でも理子には推理できた!できちゃった!」

 

なんの推理だ?まったくもって意味不明。それにキーくんってキンジのことか?

 

「キーくんは彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をした!そして彼女の部屋にベルトを忘れてきた!さらにレイレイがその場に乱入して、拳銃を使った!つまり三人は――昼ドラも素足で逃げ出すほどのドロッドロとした三角関係なんだよ!」

 

……ポカーン( ゚д゚)

えっ、何、その推理?どゆこと?まったく話が飲み込めないんですけど……

 

「零、理子は探偵科ナンバーワンのバカ女だ」

 

とキンジは言ってくる。

……ああ、なるほど。つまりバカな推理しかしないってことか。まあ、そんな推理誰も信じる訳――

 

「キ、キンジがこんなカワイイ子といつの間に!?」

「影の薄いヤツだと思ってたのに!」

「錐椰くん、彼女はいないんじゃなかったの?」

「せっかく零×キンジの幼馴染みコンビで書こうと思ってたのに!」

 

……忘れてた。武偵校の奴は皆バカばっかだった。まさか日本でも一緒だとは思わなかったな。そして最後の奴、何を書こうとしたんだ?場合によっちゃ俺の踵が火を吹くぞ?

 

「お、お前らなぁ……」

 

キンジが頭を抱え、机に突っ伏した時――

 

パァパァンッ!!

 

鳴り響いた二連発の銃声が、クラスを一気に凍り付かせ た。

――真っ赤になったアリアが、二丁のガバメントを抜きざまに撃ったのである。

――武偵校では、射撃場以外での発砲は『必要以上にしないこと』となっている。つまり、してもいい。まあ、さすがに新学期早々に撃つのなんてアリアぐらいしかいないはずだ……いないよね?

理子なんかビビって前衛舞踏みたいなポーズのまま、ず、ずず、と着席したし。

 

「れ、恋愛だなんて……下らない!」

 

そして、

 

「全員覚えておきなさい!」

 

アリアは、

 

「そういうバカなことを言うヤツには……」

 

これからしばらくの間、生徒の中で密かに流行語になる言葉を言った。

 

 

 

 

 

「――風穴開けるわよ!」




どうでしたでしょうか?

実は皆様にお知らせとお願いがあります。
詳しくは活動報告のほうにて。


それでは、ごきげんよう。


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6話&主人公プロフィール

どうも、鹿田 葉月です。
まず始めに、ネオ麦茶さん、風来坊のジャンク屋さん、ご意見有り難うございます!!
まだまだヒロイン募集をやっていますので、皆さま是非一度活動報告を閲覧して頂けたらと思います。

また、今回から『side~』というのを使います。サイドチェンジするときには必ず使いますので、誰視点か分からないというのはないと思います。
基本的に零視点ですので、最初に『side~』が使われていなかったら、零視点からスタートということになります。



では、第6話、始まります。









零の情報が明らかに!!


ハァ……どうも、最近ため息が多くなった錐椰 零です。

イヤァ、あの後が大変だったよ。

昼休みに入ると、俺とキンジはアイコンタクトをして、一目散に教室から逃げてった。その時にフラッシュ・グレネードで目を潰しておくのも忘れない。

それから俺達はキンジの提案で屋上に来ていた。

キンジ曰く、『あまり人が来なくて広い上に、入り口からの死角がある場所』らしい。

で、今屋上にてキンジと喋っている。

 

「まったく、最悪なことになったぜ。これからどうする、キンジ?」

「どうもこうも、クラスの熱が冷めるまで待つしかないだろ。あいつら多分放課後も追ってくるぜ」

「マジかよ……」

 

誰が嬉しくて男どもに追われないといけないんだよ……

あー、頭が痛くなってきた。少し休むか。

 

「キンジ、俺は今から寝るから、授業が始まりそうになったら起こしてくれ」

「分かった」

 

キンジの了承がとれたので、俺は入り口から死角になっているところに寝転ぶ。

――あ、ここ、結構いいかも。

と考えているうちに睡魔が襲ってきて、俺は夢の中へと旅立った。

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

……寝たか、てか早いな。某テスト0点ばっかの小学5年生かよ。

しかし、クラスのアホどもには困ったものだ。

だいたいアリアのことを聞かれても、俺は何も答えられないのだ。今朝零と一緒にチャリジャックから助けられてそれから追っかけ回されただけの関係。個人的なことは何も知らない……いや、トラウマなら知ってるか。

ため息混じりにしょぼくれていると……屋上に、何人かの女子が喋りながらやってきた。

声に聞き覚えがある。どうやらうちのクラスの、それも強襲科の女子どものようだ。

こそっ。俺は犯罪者のように零のところまで行き、隠れた。

 

「さっき教務科から出てた周知メールさ、2年生の男子二人が、自転車を爆破されたってやつ。あれ、キンジと錐椰くんじゃない?」

「あ。あたしもそれ思った。始業式に出てなかったもんね」

「うわ。今日のキンジってば不幸。錐椰くんも可哀想だよね~。チャリ爆破されて、しかもアリア?」

 

1・2・3と並んで金網の脇に座った女子たちは、俺と零の事を話題にしているようだ。

俺は苦虫を100匹ほど噛み潰したような顔をして、とりあえず静かに身を潜める。

 

「さっきのキンジと錐椰くん、ちょっとカワイソーだったね!」

「だったねー。アリア、朝からキンジのこと探って回ってたし」

「あ。あたしもアリアにいきなり聞かれた。キンジってどんな武偵なのとか、実績とか。後他にも海外の武偵に詳しい探偵科(インケスタ)の生徒知ってる?とか。『キンジは昔は 強襲科(アサルト)で凄かったんだけどねー』って、適当に答えたし、3年の探偵科(インケスタ)のAランクの人教えといたけど」

「アリア、さっきは教務科(マスターズ)の前にいたよ。きっと二人の資料漁っているんだよ」

「うっわー。ガチでラブなんだ」

 

俺は渦中の人として、ついつい会話を盗み聞きしてしまう。

朝から俺達を……ってことは、チャリジャックの直後からストーキングされてたのか。

 

「二人がカワイソー。キンジは女嫌いで、錐椰くんは転校初日なのに、よりによってアリアだもんねぇ。アリアってさ、ヨーロッパ育ちかなんか知らないけどさ、空気読めてないよねー」

「でもでも、アリアって、なにげに男子の間では人気あるみたいだよ?」

「あーそうそう。三学期に転校してきてすぐファンクラブとかできたんだって。写真部が盗撮した体育の写真とか、高値で取引されてるみたい」

「それ知ってる。フィギュアスケートとかチアリーディングの授業のポラ写真なんか、万単位の値段だってさ。あと新体操の写真も」

 

何なんだその授業は。本当に大丈夫なのかこの高校。

 

「そういえば錐椰くんにもファンクラブできたよね」

 

……ん?零のファンクラブ?

 

「そうそう、二年の女子のほとんどが入ったよね、机に座っているだけの写真が万単位だって。しかもその写真でまだ会ったこともない1年や3年の人も入っているらしいし」

「私も入ってるよ、ほらこの写真見て!指を顎に乗せて何か考えているところ!もう最高!!ハァ~零様、一生ついて行きます!」

「「うわぁ……」」

 

マジかよ、ちょっと凄い情報が入ったぞ。

ってか机に座っている写真が万単位?どうなってんだ一体?

まあ、これで分かったことは……

――アリアはどうやら、この変人揃いの武偵高でも浮くぐらいの目立つキャラらしい。

 

ーsideキンジ・outー

 

 

 

 

 

ーsideアリアー

 

「何よ、これ……」

 

アタシは思わず呟いてしまった。

今、私が見ているのはレイのプロフィール。さすが探偵科のAランクの三年生、朝にレイについて調べるように頼んだのに、もうできてる。

アタシといた時のレイは今朝見たみたいな人間辞めてますっていう感じではなかった。ランクもAだったし。

しかし、このプロフィールを見て、アタシは驚きを隠せなかった。その内容とは……

 

 

 

 

 

――プロフィール項目――

 

人物名 ―― 錐椰 零(きりや れい)

 

二つ名――『紅電』

 

専門科目――不明

 

ランク――

強襲科(アサルト) Sランク

狙撃科(スナイプ) Sランク

諜報科(レザド) Sランク

尋問科(ダキュラ) Sランク

探偵科(インケスタ) Sランク

鑑識科(レピア) Sランク

装備科(アムド) Sランク

車輪科(ロジ) Sランク

通信科(コネクト) Sランク

情報科(インフォルマ) Sランク

衛生科(メディカ) Sランク

救護科(アンビュラス) Sランク

超能力捜査研究科(SSR)

ランクS ・G(グレート)不明

 

 

S・D・Aランク(人間辞めましたランキング)

 

第17位

 

 

 

 

 

 

特徴――専門科目がなく、なんでもできる。そして、すべてのことがSランクの最上位レベルなので国からは『Sランク内最強』と呼ばれている。

また、超能力はどんなものでも使えるので不明 。ただし超能力を使う前には必ず、『錐椰 零の名の下に』と言う。

 

 

性格――面倒見が良く、また冗談も通じるので、皆に好かれるタイプ。また貧しい人達からの依頼では、報酬はガム一個で済ましたり、金持ちからの依頼の報酬のほとんどを募金したり、寄付したりするほどのお人好しである。

 

 

外見――身長175センチメートル、体重60キロ。赤髪に赤い目で、二重。足が長く、女性からの人気が高い。

 

 

家庭事情――父親は日本人、母親は日本人とイギリスとのハーフ。母親の祖母が貴族だったが、有名ではない。両親とは13才の時に事故で死別。以来一人身の状態である――――

 

 

 

 

 

「レイ、どうして……」

 

再び呟いたアタシの言葉は周囲の騒がしい音の中に消えていった……




どうでしたでしょうか?

まずは一言、皆さまにお伝えしたいことがあります。
スミマセン、此方の手違いで、零とアリアと別れたのは14才の時となっていましたが、13才に変更させていただきます。
後で編集しておきますので、そちらのほうもご確認ください。



それでは、ごきげんよう。


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7話~パートナーと……奴隷?

どうも、鹿田 葉月です。
風来坊のジャンク屋さん・太翔さん・syunntaさん、感想有り難うございます!!
これからも頑張っていくので是非最後まで見てください!!

それでは、第7話、始まります。








ついにアリアのあの一言が!!


キーンコーンカーンコーン……

 

「では今日の授業はここまでです。えーっ、皆さん、くれぐれも不用意な行動及び発砲は控えるよう……」

 

今日の授業の終了を知らせるチャイムが鳴り、担任の先生が締めの言葉を言い終える前に、クラスの全員が一斉に俺とキンジを見る。

――やばい、キンジの言った通り、放課後も追ってくるきだぞ、こいつら。

慌ててキンジとアイコンタクトをとろうとすると、キンジは既に窓からベルトに付けてあるワイヤーを使って逃げていた。アイツ、俺を見捨てて行きやがった!

そう気づいた時には既に遅く、俺の机の回りにはクラスの奴等で囲まれていた。

 

「ハハハ……降参」

 

最早笑うことしかできず、俺は両手を挙げて投降の意志を示した。

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

 

クラスの奴等に色んなことを聞かれた。しかも質問に答えようとしたら違う質問が飛んでくるから、結局質問されたことを全部覚えてから一つずつ答えなければならなかった。更に女子からはツーショットを頼まれたり、色んなポーズをとらされたりして写真を撮られた。何コレ?あとでばらまいて晒し者にしようってか?

ともあれようやく解放された俺は、男子寮に戻ろうと校門を出ようとする。

 

「レイ、ちょっと……」

 

が、校門の影に隠れていた人物に声をかけられる。その人物は――

 

「どうしたんだ、アリア。こんなところで」

 

そう、アリアだ。でも何故俺を待っていたんだ?だいたい、アリアは女子寮だろ?確か女子寮と男子寮は方角が違うから、一緒に帰るみたいなことはないし。

 

「少し話したいことがあるの」

 

そう言って、アリアは持っていたトランクをコロコロと転がしながら歩いて行くので、ついていく。ってかなんでアリア、トランクなんか持っているんだ?

 

「レイがアタシと離れている間、どんなことをしていたか、調べたわ」

「そうなのか?別に調べなくても、俺に聞けばよかったのに……」

 

俺がそう言うとアリアが歩くのを止め、こちらを向く。

 

「レイ、無理を承知で頼みたいんだけど……」

 

アリアはそう言って、頭を下げる。

 

「――もう一度、アタシと組んでほしいの」

 

………………

 

「実力が違うってことは充分分かってる!けれど、けれどそれでも、お願い!アタシとパートナーをもう一回組んで!」

 

………………

 

「何バカなこと言ってるんだ」

 

俺がそう言うと、アリアは体をビクッと震わせて言う。

 

「そう……よね。そうよね。やっぱりアタシとなんかじゃつりあ――」

「――『例えお前がどれだけ世間から疎まれようとしようとも、俺は決して離れない。例えどれだけお前が苦しい時でも、ずっと側にいてやる。お前がどれだけ強くなろうとも、俺はその分強くなってやる。だから、俺とずっとパートナーになってくれないか?』」

「――ッ!」

 

俺が言うとアリアは涙目になりながらも、顔を上げる。

 

「そ、それってあの時の……」

「だから、『もう一回』じゃない。俺達はずっとパートナーなんだから、な?」

「――っ、うん……うん!」

 

アリアはこれ以上はないという笑顔を作り、俺の胸の中に飛び込んできた。

 

「ありがとう……ありがとう、レイ!」

「はいはい」

 

そのまま俺の胸に顔を埋めて泣き出したので、俺はそっとアリアの頭を撫でた。密着したアリアからは、甘酸っぱい、クチナシの香りがした。

――そういや、昔もこんなことしたっけな、まあ、あの時は身長が同じくらいだったがな。

なんてことを思いつつ、アリアが泣き止むまでずっと頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

「ありがとう、レイ。もう大丈夫だわ」

 

あれから5分ほどだろうか、未だ俺を抱きしめたまま、アリアが言ってきた。

 

「そうか、ならこれで――」

「ところで、レイ。一つ質問があるのだけど」

 

俺が離れようとしたら、アリアが離れず、質問があると言ってきた。

――ってかさっきよりも抱きしめる力が強くなっているような……

 

「どうしてさっき、クラスの女子とツーショットなんかしていたの?」

 

アリアはそう言って、抱きしめる力をどんどん強くしてくる。

イ、イテェッ!ちょっ、まっ、痛すぎるって!アリア!鯖折りの力強すぎって!ほ、骨がぁ!背骨がぁ!

 

「そんなのにデレデレしていてるレイにはお仕置き、よっ!」

「ぐはぁっ!」

 

アリアは鯖折りの体勢から、そのままの状態で後ろに投げる――ジャーマンの逆バージョン、リバースジャーマンという離れ技を披露した。

普通だったら手をついて回避できるも、鯖折りのあまりの痛さに何もできずに頭から落ちた。それもコンクリに。

――ああ、どうせならエクスプロイダーの方が良かったな、あれは肩から落ちるし。

俺は薄れていく意識の中、そんなことを考えていた。そして俺の意識は闇の中へと消えていった……

 

 

 

 

 

「う、うーん……」

 

どれくらい時間がたったのだろうか、意識が戻ってきた……ハッ(゜ロ゜)!今何時だ!?

時計を見ると19:20。クラスの奴等に解放されたのが18時だったから、約1時間半か。ってかまだイテェ、まあコンクリに頭から落ちて痛いだけで済んでる方が奇跡だけどな。

辺りを見るとアリアはもういない。帰ったのだろう。俺も帰るとしますか……

 

 

 

 

 

「あんた、アタシのドレイになりなさい!」バタンッ

 

ヤア( *・ω・)ノ皆、一つ質問したいことがあるんだが。

俺の幼馴染みとパートナーがSMプレイを始めていたらどうすれば良いと思う?……えっ、お前も混ざれって?バカかお前。

まあ、ここでスルーしてあげるっていうのが優しさなんだろうな。仕方ない、今日は剛気にでも部屋に泊めてもr「「ちょっと待った~!」」……なんか前にもあったよな、コレ。

 

「とにかく話をきいてくれ!話せば分かる!」

「そうよ、レイ!話すということはとても大事なのよ!」

「大丈夫だ、みなまで言うな、理解したから」

「「絶対間違っているから、ソレ!」」

「はいはい、お楽しみは二人だけでやってくれ、俺は干渉しないから、さ?」

「「だから!人の!話を!聞け~!」」

 

……仲良いなお前ら。




どうでしたでしょうか?

ようやく、アニメ1話分終わりましたね。今の小説に追い付こうとすると………フゥ(ため息)

それでは、ごきげんよう。

ー追記ー
コメントにて、アンケートを感想の方で募るは禁止ということが分かりましたので、ヒロインを入れてほしい人は活動報告にて書いて頂けますよう、ご理解とご協力をお願いいたします。こちらのミスでご迷惑をお掛けして申し訳ありません。


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8話~恐怖の――

どうも、鹿(ろく)() ()(づき)です。
皆さまからのアンケートに関することや、ご意見やご指摘、さらにお気に入り50件突破……!
それもこれも、皆さまのお陰です。有り難うございます!!
そして、ジャミング邸ロークさんのお陰で、ルビ振りができるように出来ました!!有り難うございます!!

では第8話、始まります。





零が遂に()()を!?


「……と言う訳なんだ」

 

ヤア( *・ω・)ノ皆こんばんはー。錐椰 零だよ。えっ、この絵文字さっき見た?気にしない気にしない。

さて、現在の状況を説明すると、俺、キンジ、アリアの三人が机を囲んで座っている。それでさっきのSMプr「奴隷宣言な」……奴隷宣言についての説明を聞いたところだ。

なんでもキンジが家でくつろいでいる時に玄関のチャイムが鳴り、居留守を使おうとしたが、あまりにも何回も鳴らすので、キレたキンジが玄関を開けたらアリアだった。

そこから勝手に入ってきてさっきの場面になり、俺が帰ってきたというところかな。

――ん?待てよ?ならどうしてこんな時間に?俺がアリアによって意識を落とされたのが1時間半前。それからアリアが直接ここに来たら数十分でこれるはず。

アリアが持っていたトランクがあるから、直接来たのは間違いないはず……ん?さっきよりも少し大きくなってないか?

 

「そんなことよりレイ。お腹空いた」

「あ~はいはい、今作るよ」

 

アリアがお腹空いたというので、今からご飯にしよう。ちなみに言うと、俺が来てから料理は俺がするようになった。キンジの奴に任せると、いつも面倒くさいからってコンビニ弁当にするからな。

さてさて、冷蔵庫の中身は……豚肉とジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、それにピーマンだな。よし、今日はカレーにしよう。

ってカレー粉が切れてるじゃん……仕方ない。キンジに買って来てもらおう。ついでにアリアも。

 

「キンジ~、今日カレーにするから下のコンビニ行ってカレー粉買って来てくれ」

「分かった」

「ついでにアリアも」

「なんでよ、嫌よ」

 

キンジは承諾してくれて、アリアは拒否した。だが次の言葉を言えば、行ってくれるだろう。

 

「下のコンビニには『松本屋のももまん』があるぞ」

「えっ、ももまん!?」

 

よしよし、食いついてきてくれた。

――『ももまん』とは、文字通り桃の形をした饅頭のことであり、ちょっとしたブームを巻き起こしたものだか、今ではほとんどナリを潜めている。

しかし、アリアは12才の時にえらくももまんを気に入っていたから今も好きだろうと思ったが、どうやらその通りのようだ。

 

「分かった、すぐ行ってくる!」

「あ、おい!待てよアリア!」

 

アリアはそう言うと、財布をトランクから取りだし、すぐに出ていき、キンジも慌てて追う。元気だな~

 

ーside零・outー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

ピンポーン、ピンポーン……ありがとうございました……

今、俺は零に言われた通り、カレー粉をコンビニで買ってきた。

その俺の隣でアリアは鼻歌を歌いながら桃まんの入った袋を大事そうに抱えている。そんなに旨かったか?それ(桃まん)

少し気になったので、聞いてみよう。

 

「なあアリア」

「何?」

「そんなに桃まんが好きなのか?あるだけ全部買い占めて」

「ええ、好きよ。だって……」

 

アリアはそこで一端区切る。

 

「アタシにとって、思い出の味だから」

「思い出の味?」

 

なんだそりゃ、桃まんが思い出の味って一体どういうことなんだろうか?

 

「アタシね……12才の時にレイとパートナーを組んだの。そのことが嬉しくてね、レイとどこかでお祝いしようと思ったの。そんな時にたまたま近くに桃まん屋があって、一緒に入ったの。その時の桃まんが美味しくて、それからすっかり桃まんが好きになったのよ」

 

……なるほど、だから思い出の味なのか。よく分かった。しかし、桃まん屋というのは一体何なんだろうか。少し気になる。

 

「ほらキンジ、何ボケッとしてんのよ。早く行くわよ」

「あ、ああ」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にかアリアが結構前にいた。それに気づき、早足でアリアのところまで行く。

まあ何にせよ、アリアが桃まんが好きなことは良く分かった出来事であった――

 

ーsideキンジ・outー

 

 

 

 

 

ーside零・restartー

 

ガチャッ「「ただいま~」」

 

おう、帰ってきたか。てかアリアの場合はお邪魔しますじゃないのか?

 

「おう、お帰り。お使い御苦労様。コーヒー淹れておいたから、ゆっくりしててくれ」

 

まあ、そこら辺はどうでも良い。お使いに行ってくれた二人に対し(アリアは桃まん買いに行っただけだが)、俺は野菜や肉を沸騰した鍋の中に入れておいた間にコーヒーを淹れておいた。

 

「ああ、ありがとな」

「ありがとう」

 

二人は椅子に座ってゆっくりとコーヒーを飲む。

 

「あら、これってエスプレッソ?しかも砂糖にカンナが使われている……」

「さすが零、コーヒーを淹れるの上手いな」

 

フッ、クォーターだがイギリス人の血を引くものが、インスタントなど使うと思ったか?ちゃんと豆を使って淹れているわ!!

まあ、俺がエスプレッソ好きだから、エスプレッソ出しておいたが、どうやら好みだったらしいな。

――しかし、アリアがコーヒー飲めるのは意外だったな。5才の時に俺が飲んでたコーヒー(ブラック)を飲みたいと言ってきたから飲ませたら、あまりにも苦かったので吐いていた。俺の顔面目掛けて。

そんなアリアの成長に少し感慨深いものを感じていると、カレーができたので、皿によそう。

その皿をスプーンと一緒に机の上に置く。

 

「おかわりもあるから、しっかり食べるんだぞ~」

 

そう言いながら、俺も椅子に座る。

 

「「「いただきます」」」

 

そう言って、俺たち三人はカレーを食べ始めた。

 

 

 

 

 

「「ご馳走さまでした」」

「お粗末様でした」

 

食べ終わった後、俺は食器を片付けていく。てかキンジ三杯も食ったな。そんなに好きだっけ、カレー。

聞いてみるとそうではなくて、最近はコンビニ弁当か白雪の作ってくる豪華な食事かの両極端だったので、こういった一般的な家庭の味が懐かしいらしい。

さて、片付けも終わったし、デザートでも食べますか。

 

「で、アリア。さっきのドレイって、一体どういうことだ」

強襲科(アサルト)に戻って、アタシとレイのパーティーに入りなさい。一緒に武偵活動をするの」

 

俺は鼻歌混じりに冷蔵庫からカップの抹茶アイスを取り出す。

 

「何言ってんだ。俺は強襲科(アサルト)がイヤで、武偵校で一番マトモな探偵科(インケスタ)に転科したんだぞ。それにこの学校からも、一般の高校に転校しようと思ってる。武偵自体、やめるつもりなんだよ。それを、よりによってあんなトチ狂った所に戻るなんて――ムリだ」

「アタシにはキライな言葉が3つあるわ」

「聞けよ人の話を」

 

いや、ヤッパリ抹茶アイスって最高だよね!!本当に好きだわ~

 

「『ムリ』、『疲れた』、『面倒くさい』。この3つは、人間の持つ無限の可能性を自ら押し留める良くない言葉。アタシの前では二度と使わないこと。いいわね?――キンジのポジションは……そうね、フロントが良いわ」

「良くない、そもそもなんで俺なんだ。零がいるじゃないか」

「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

 

いや、ね?今日は色々とあったでしょ?それを頑張ったご褒美を自分にあげても良いと思うんだ、俺。

 

「キンジは質問ばっかりの子供みたい。レイはSランク武偵として色々あるのよ。だからレイがいない間をアンタがカバーするのよ。それくらい自分で推理しなさいよね」

「なんだよ、それ……とにかく帰ってくれ。俺は静かにしたいんだ。帰れよ」

「まあ、そのうちね」

「そのうちっていつだよ」

 

椅子に座って~、蓋を開けて~、いっただっきま~す。

 

「キンジが強襲科(アサルト)でアタシのパーティーに入るって言うまで」

「でももう夜だぞ?」

 

あっ、いっけね。スプーン忘れてた。俺としたことが……取ってくるか。

 

「なにがなんでも入ってもらうわ。うんと言わないなら――」

「言わねーよ。なら?どうするつもりだ。やってみろ」

 

え~っとスプーンはっと。お、あったあった。

 

「言わないなら泊まってくから」

「――は!?」

 

あ~成る程。だからトランク持ってきたのか。しかもあのでかさ、長期戦になるのも想定済みか。

俺はそう思いつつ、キッチンから戻ってくる。

 

「ちょっ……ちょっと待て!何言ってんだ!絶対ダメだ!おとn…」ガタッ

 

――その時、あまりにもキンジがテンパったのだろう。立ち上がろうとした際に机に足が当たり、机が大きく揺れる。

その結果、机の上に置いてあった物、つまり俺のアイスが揺れた振動で落ちる。

 

「「あっ」」

 

しかも落ち方が最悪で、逆さまになって落ちた。勿論アイスが地面につく。

お、俺のアイスが…………

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

「おい、キンジ……」

「は、はい!何でしょう!」

 

キンジはあまりの怖さについ敬語になる。

 

「食べ物を粗末にしてはいけないのは知ってるよな……」

「は、はい!その通りです!しかし、今のは不慮の事故で……」

「御託はいい……それより、()()()()()()()()?」

 

俺はそう言って、右足を前に出し、()()()()()()()()()()

それを見たキンジは絶望に染まりきった顔をし、アリアは静かに十字を切った。

 

「ま、待て!落ち着いて話そう!話せば分かる!」

「往生際が悪いぜ、キンジ。それより歯ァ食い縛っとけ、舌を噛むからさ♪」

 

そう言って俺は右足を高く上げる。これから数分間、キンジには痛みに悶えるだろう。

 

「ま、待て――」

「ドォ――ン!」グシャ、ドサッ

 

キンジはあまりの痛さに何も言えず、ただ悶えている。

痛みってさ。気絶するくらいの痛みよりも、気絶しないギリギリの方が長く続くからそっちの方が痛いんだぜ?

 

「さて、アリア」

「ご、ごめんなさい!許して!何でもするから許してお願い、お願いします!」

 

俺がアリアに話かけると、アリアは自分の番だと思ったのか、必死に謝ってくる。目は涙目になってるし。

 

「風呂入ってこい、さっき沸かして来たから」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな……えっ?」

 

アリアはキョトンとした顔を向けてくる。

 

「許して……くれるの?」

「許すも何も、お前が落とした訳じゃないんだから、謝る必要ねぇよ。それにキンジには、俺をクラスに残して帰って行きやがった恨みもあったしな」

 

そう言うと、アリアは安堵した表情になり、分かった、お風呂に入ってくるね。と言ってトランクを持って風呂場へと向かった。

 

――フゥッ、スッキリした!




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非お願い致します。

また、ヒロインアンケートにもご協力頂けたら嬉しいです!!

それでは、ごきげんよう。


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9話~白?黒?~

はい、どうも。鹿(ろく)()()(づき)です。

まず一言、皆様のたくさんのご意見とご感想、本当にありがとうございます!!
さてひとつ、皆様に聞きたいことがあります。
ヒロインアンケートに関してなのですが、数名の方にですね、『白雪と陽菜以外ヒロインにすればいいのでは?』というご意見を頂きました。
そこで、皆様は出てくる女キャラ全員ヒロインにすれば良いか、それとも何人かに絞ればいいのかを決めて頂けないでしょうか?
どちらが良いのかを活動報告に書いてもらえないでしょうか?皆様のご協力をお願い致します。

では、第9話、始まります。





ヤンデレ巫女さん登場!?後、今回少しエロ注意です。


あれから数十分後、ようやくキンジが地獄から還ってきた。

 

「イタタ……いくらなんでも酷すぎだろ、零」

「食べ物を粗末にするお前が悪い。それとも回転式踵落とし(サイクロン・ヘルヒール)の方が良かったか?」

「それ受けたら二度と地獄から還って来れなくなりそうだから止めてくれ……」

 

まあ、俺もアレは一回やったことあるが、それ以来封印してんだよな……あまりの酷さにやった俺本人が同情してしまったよ。

 

「しかし零、これからどうするんだよ」

「どうするって?」

「アリアのことだよ」

 

アリアのこと?……ああ、泊まってく宣言か。

 

「別に良いんじゃないか?ベットだって空きがあるし、個室も確か空きあったろ」

「お前は良いだろうが、俺のことを考えてくれよ。こっちは病気(ヒス)持ちなんだ」

 

じゃあ最初からそう言えよ、人の意見聞かないでさ。

 

「ま、大丈夫だろう」

「何が大丈夫なんだよ?」

「アリアはそういうこと自体に興味がないし、何よりお前が少し気をつければいいだけだろ?」

「それはまあ、そうだが……」

 

キンジは俺の言葉に対して多少は理解したものの、まだ納得できてない様子だ。

 

「まあ何か起こりそうなら、俺がカバーしてやるよ」

「信じてるぞ」

「はいはい、了解っと」

 

――ピン、ポーン……

というやりとりをしていると、()()()()()()()()()が鳴り響いた。あー……白雪だな。相変わらずチャイム音で分かる奴だな。本当不思議で仕方ないよ。

 

「――ヤバイぞ零!」

「ん?どうしたキンジ」

 

なんかチャイム音を聞いた瞬間、キンジが慌てだした。……何で?

 

「今、風呂場にはアリア――女子がいる!」

「――ッ!」

 

ヤバッ!考えればすぐ分かるのにどうして気づかなかったのだろう。

 

――()(とぎ)(しら)(ゆき)

つやつやとした黒髪ロングの、おしとやかで慎ましい、古き良き日本の乙女。

炊事・洗濯が上手で、誰にでも優しい、良妻賢母のタマゴなのだ。

……普段は、な。

白雪はキンジの周りにいる女性を、問答無用でボコ殴りにするのだ。

キンジはどういうシステムか分からないと言っていたが、何で分かんないだよ。白雪がお前のこと好きだからだろうが。それも重度の(ヤンデレ)

――昔はそんなことなかったのになぁ。俺も海外から帰って来てキンジに「ようキンジ、彼女でも出来たか?」って冗談混じりに言ったら、キンジの見えない角度で物凄く黒い顔になった。あれは俺でも怖かったよ。おそろしや、白雪ならぬ黒雪。

 

「どうする零!」

「居留守つかうしかねぇだろ!」

「ああ、そうす――」クラッ

 

その時、まだ踵落としのダメージが残っていたのだろう、キンジが突然よろけだす。そして――

 

「ウォッ!」ドタンッ

 

――盛大に転びやがった。このマヌケがッ!(零のせいです)

 

『キ、キンちゃんどうしたの!?大丈夫!?』

「気づかれちゃったじゃないか、居留守作戦は失敗だな~」

「そんな暢気に言ってる場合かっ!それよりどうする」

 

ウーン( ̄~ ̄;)困ったものだな……

 

「とりあえず、キンちゃん。お前が出てこい」

「キンちゃん言うな。だとしても風呂にいるアリアが音をだしてしまったら、対処しようがないぞ」

「そのために俺がいるだろう?俺が脱衣所に隠れれば、音がしても俺だということにできるだろう」

「分かった、じゃあ……行くぞ」

「健闘を祈る」

 

そう言って、キンジは玄関へ行き、俺はキンジが玄関のドアを開ける前に脱衣所に入った。

そのままキンジと白雪が会話を続けている。アリアが湯船から上がる音がしたものの、キンジが俺が風呂に入っていると説明したら、あっさりと信じた。よしよし、いい感じだ。

――ん?ちょっと待て、湯船から上がる音?

俺は気がつかなかった、アリアが風呂に入ってからすでに数十分経過していたことに。そして――

 

ガラリラッ

 

バスルームの中からアリアがでてきた。

――見つめ合う、赤い瞳。ただし、俺は驚愕に染まった表情。アリアはまだ現状を理解していないのだろう、俺を見てキョトンとした表情をしている。

――そして現状を理解したのだろう、顔が真っ赤に染まり、胸とその……へその下をそれぞれ手で隠した。そして、

 

「キ……キ……」

 

思いきり叫ぼうとしている。

――ヤバイッ!ここで叫ばれたら中にアリア()がいることが白雪にバレて、アリアとキンジが殺される!黒雪になった白雪は俺でも止めきれるかどうか分からん!

そう考えた俺は、すぐさまアリアの背後に回り、口と暴れないように腕を体ごと抑える。

――その結果、裸のアリアを俺が後ろから抱きしめるという状態になった。

アリアはその状態を理解して何とかして離れようとするが、今離れられたら二人の命が危なくなるので、何とかして押さえつけ、武偵だけが知っている暗号の一つ――指信号(タッピング)で、アリアと会話する。

 

『ワケ、アト、ハナス、イマ、シャベルナ』

 

アリアを抱きしめている状態で行っているため、必然的に指で叩く所がアリアの腰になる。

そのため指信号(タッピング)をする度に、

 

「ンッ///……ンンッ//」

 

と悶えるので、なんだかイケないことをしているような気分になる。……いや、実際イケないことなのだが。

 

『ワカッタ、ダカラ、ハナシテ』

 

とアリアが指信号(タッピング)で返して来たので、俺はアリアを見ないように離した。

するとアリアは素早くバスルームの中に戻ってドアを閉めた。

あー、どうしよう。後でボコられるだろうな、コレ。

そう思っていると白雪がもう帰るねと言ったのが聞こえきたので、そっと扉を少しだけ開けると白雪は巫女服姿だった……何で?

そう思ってると白雪が玄関を閉めて帰って行った。ドアが閉まる際、白雪の顔が黒い笑顔だったのは気のせいだと思いたい。

それはともかく、白雪が居なくなってくれたので俺が隠れている必要がなくなった。出ていこうか。その前にアリアに一つ言っておこう。

 

「あー……アリア。俺もう出て行くから、出てきても良いぞー」

 

……反応がない。こりゃ後で凄い怒るだろうな。さて、どうしようか……

 

 

 

 

 

「……あがったわ……」

 

あれから数分後、アリアが顔を俯かせながらパジャマ姿でリビングにやって来た。

 

「アリア、すまなかった」

 

俺はアリアの方に向きなおり、頭を下げた。いくら事情があったからといって、アリアを(はずか)しめたのは事実。決して許される事ではない。

 

「べ……よ」

「えっ?」

 

アリアが何か言ったようだが、よく聞き取れなかった。

 

「だから、別に良いわよって言ったの」

「えっ……」

 

何だって、別に良い?どうして?

 

「レイが理由も無しにあんなことをしないっての良く分かっているわ。だからこの件についてはもうおしまい」

「あ、ありがとう……」

「ただし」

 

そう言って、アリアは顔を上げる。

 

「次からはあんなことはしないでね?アタシも……恥ずかしいんだから///」

 

――そう言って顔を紅潮させながらはにかむアリアに、俺は少しの間見惚れていた――

 

 

 

 

 

一方その頃、

 

「なんだこれは……」

 

キンジは寝室に仕掛けられた地雷等のトラップに驚きを隠せないでいた。




どうでしたでしょうか?

ご意見・ご感想・作者への質問(ネタバレ、リアル情報を除く)がありましたら、感想の方に書いていただけると嬉しいです。


それでは、ごきげんよう。


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10話~万能の男~

はい、どうも。鹿(ろく)()()(づき)です。

お陰様で、10話まで来ました。本当にありがとうございます!!まあ内容はまだコミック一巻分すら終わってないんですけどね笑

では、第10話、始まります。




ほのぼのした感じです。


チュンチュン(・8・)(・8・)

 

「ファ~、眠い」

 

ヤァ(・ω・)ノおはよう。えっ?前と絵文字が違う?気にするな(*´∇`*)。それよりことりの(さえず)りが何か違うような……まぁ海外から帰って来てからずっとこうだったからあんまり気にしてないけど。

さて昨日、アリアに許された後、誰がどこに寝るという話があったのだが、ドアから見て左下のベットにキンジ、右上のベットにアリア、右下に俺といった感じだ。

 

「飯でも作るか」

 

そう言って、冷蔵庫の中から味噌、昆布、豆腐、ネギを取り出す。後キャベツと鮭も。

取り出したものから分かるように、俺が作ろうとしているのは味噌汁と魚、つまり和食だ。まぁ鮭はムニエルにするが。

パンにしない理由は腹持ちが良くないからだ。時間がない時はパンにしているが、基本は早く起きているのでちゃんと作る。

 

「ファ~……おはよう」

 

料理を作っているとアリアが半分寝たまま起きてきた。

 

「おう、おはようさん。今朝飯作っているから、顔洗って服着替えてこいよ」

「分かった……」

 

俺の言う言葉にアリアは素直に従い、制服を持って顔を洗いに行った。

そうこうしてる内に料理は作り終わり、後は皿によそうだけとなった。

 

「アリア~、キンジを起こして来てくれ」

「分かった」

 

制服に着替えたアリアにキンジを起こすように頼むとアリアは了承し、寝室へと向かって行った……何か二人が揉めてる声が聞こえてきたが、大丈夫なのか?

 

「おはよう、零」

「おう、おはようキンジ。何で腹押さえているんだ」

「昨日の朝がもう一回来ただけだ……それより早くご飯にしようぜ、じゃないと腹を空かせた仔ライオンがうるさいからな」

「誰が仔ライオンよ」

そんな会話をしつつ、俺達は席につく。

 

「「「頂きます」」」

 

 

 

 

 

「「ご馳走さまでした」」

「お粗末様でした」

 

さて、学校へ行きますか。

 

「アリア、登校時間をずらすぞ。お前、先に出ろ」

「なんでよ」

「なんでも何も、この部屋から俺達3人が並んで出てってみろ。見つかったら面倒な事になる。ここは一応、男子寮ってことになってんだからな」

 

おいキンジ、一応って何だ、一応って。

 

「勝手に指図しないでよ、奴隷の分際で。それに他の人が思っていることなんてどうでもいい」

「俺は奴隷になったつもりはないぞ」

「朝からケンカすんなよお前ら」

 

そんなことをやっていると、

 

――ピンホーン……すみませ~ん、武偵専用特急宅配で~す……

 

「お、来たか」

「こんな朝っぱらから何を頼んだんだ、零」

「まぁ、見てからのお楽しみということで」

 

そう言って、俺は玄関のドアを開ける。

 

「どうも、こちらにサインをお願いします」

「はい……これで良しっと」

「ありがとうございます。荷物は下に置いておくので、後でご確認ください」

「はい」

 

そう言って、宅配便の人は帰っていった。

 

「宅配物を下に置いておく?一体何を頼んだんだ?」

「見たいなら来いよ、面白いのが見れるぞ」

 

そう言って、俺は学生カバンと昨日学んだのでガバメントとグロック17、さらに俺の部屋から刀を二本取り出して腰にしまった。

 

「零、今の、日本刀だと思うけど何?峰の所が赤かったけど」

アリアがそう言って、キンジもそれに頷く。そういえば見せたことなかったな。

 

「これは俺が造った物だ」

「レイが造ったの?」

 

俺は柄から抜いて、アリアとキンジにもう一度見せる。

アリアは俺が造ったことに驚いているようだ。

 

装備科(アムド)Sランク舐めんなよ?」

「いや舐めてないけど」

 

俺は日本刀を柄に戻して玄関に行き、靴を履いた。

 

「それより何回も言うが、早く下に行くぞ」

 

そう言って玄関を出たので慌てて二人が靴を履いて追ってくる。てかキンジ、結局一緒に来てるけど大丈夫なのか?

 

 

 

 

 

「これが……」

「面白い物?」

「ああ、そうだ」

「「ただのバイクじゃん(よね)」」

 

ただのとはなんだ、ただのとは。

さて、宅配された物はバイク。でもただのバイクじゃない。

 

「でもこんなバイク見たことないぞ」

「当たり前だろ?俺が造ったんだから」

「「これも!?」」

 

アリア達は俺の作品part2に驚いているようだ。

 

「凄い……」

「でも日本刀は造ってもいいが、バイクは造ったって走らせることが出来ないんじゃないか?」

「大丈夫、特許は持っている。そこら辺に抜かりはないのだよ」

「語尾可笑しくなってんぞ」

 

まぁともかくこれで武偵高校までのアシが出来た。俺バスとか電車とか混雑している所嫌いなんだよな。

 

「って言うことでさっさと行くぞ」

 

そう言って俺はバイクに乗り、ヘルメットを被る。

 

「でも零」

「なんだキンジ」

「サイドカーがないぞ?」

「さっきメールで届いたが、サイドカーだけ明日届くようだ」

「じゃあどうするの?」

 

どうするってそりゃあ、

 

「キンジ、お前は一人が好きなんだろ?それにアリアと一緒に行きたくないんだろ?」

 

そう言いながら、俺はアリアにヘルメットを渡す。

 

「アリア、乗れ」

「分かったわ」

「えっ、ちょっと待「じゃあな~キンジ、また学校でな~」てって置いてくな~!」

 

アリアがバイクに乗ったことを確認してからバイクを発射させた。キンジの叫び声が聞こえてきたようだが無視することにした。




どうでしたでしょうか?

少し活動報告でお話がありますので是非見てください。


では、ごきげんよう。


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11話~犯罪なんてなかった~

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。
まず一言、
お気に入り100件突破!!
これも全て皆様方のお陰です!!拙い文章ですが、精一杯頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!!

では、第11話、始まります。


零が事件で大暴れ!?


ヤァ( *・ω・)ノどうも、零だ。

現在俺は依頼(クエスト)を受けようとしたが、アリアに付いてきてと言われた。そして付いていったら探偵科(インケスタ)の専門棟の入口で止まり、ここで少し待っててと言われて待っている状態である。

――武偵校は、一時間目から四時間目まで普通の学校と同じように一般科目の授業を行い、五時間目以降、それぞれの専門科目に分かれての実習を行うことになっている。

また、その時間を利用して依頼(クエスト)を受けることもできる。依頼(クエスト)が達成されると、依頼人(クライアント)から報酬を貰ったり、学校から単位を貰ったりすることができる。

アリアと待っていること数分後、探偵科(インケスタ)の入口からキンジが出てきた。……何か俺達を見た瞬間に膝から倒れたが大丈夫か?

 

「なんで……アリアがここにいるんだよ……あと零も!」

「アンタがここにいるからよ」

「俺はアリアに連れてこられた」

 

キンジが疑問を俺達にぶつけると、アリアは答えになってないことを言い、俺は事実を告げる。

 

「アリアの方は答えになってないだろ。強襲科(アサルト)の授業、サボってもいいのかよ。あと零も」

「アタシはもう卒業できるだけの単位を揃えているもんね」

「俺もアリアと同じ。てか俺は専門科目はないから行かなくてもいいんだけどな」

 

なんせ全部Sランクだし。てかさっきからキンジ俺のことをオマケ扱いにしてないか?

 

「で、アンタ普段どんな依頼(クエスト)を受けてるのよ」

「お前には関係ないだろ。Eランク武偵にお似合いの、簡単な依頼だよ。帰れっ」

 

ちなみに依頼(クエスト)にもランクが関係してくるもので、ランクが高ければ高いほど危険度が増す。

 

「アンタ、いまEランクなの?」

 

――へぇ、()()E()()()()()()?か。アリアお前、キンジの入試のことについて調べたか。

キンジは入学試験の時に、たまたま受験先が一緒だった白雪が武偵目指してるはずなのにいかにもチャラそうな男達に追われている時に廊下でぶつかり、そして転倒して制服が着崩れた白雪を押し倒すような体制になったことでヒステリアモードになり試験を余裕でクリアし、Sランクに格付けされていたのだ。

 

「そうだ。一年3学期の期末試験を受けなかったからな。ていうか、俺にとっちゃランクなんてもうどうでもいいんだよ」

「まあ、ランク付けなんて確かにどうでもいいけど。それより、今日受けた依頼(クエスト)を教えなさいよ」

 

ランクは関係ない、か。俺の場合はそれは逆だがな。

 

「お前なんかに教える義務はない」

 

と考えているとキンジとアリアが口喧嘩を始めそうになってたので、

 

「まぁいいじゃんキンジ、どうせ言っても離れる気がないんだし。てか俺も知りたい」

「結局お前が知りたいだけじゃないか!……ハァ、猫探しだよ」

「猫探し?」

青海(あおみ)に迷子の猫を探しに行くんだよ。報酬は1万。0、1単位分の依頼だ」

 

それはまた、随分と地味な依頼だな。

 

「ハァ、せっかく武偵校から離れて作戦を練ろうと思ってたのに……こうなったらさっさと終わらせて帰るか……」

「なんだキンジ、早く終わらせたいのか?なら見つけてやるよ」

「見つけるって言ってもそんな簡単に見つかる訳……って零、どこに行くんだ」

 

俺はキンジ達から少し離れた所に行き、キンジがそれに疑問をぶつける。

 

「二人とも俺から半径3メートル以内に入らないでくれよ?」

 

そう言って俺は集中する。

 

(きり)()(れい)の名の下に』

『これより半径3メートル以内を軸に座標を固定。サーチを開始する』

『キーワードは青海・飼い猫・迷子……一件特定、公園内の水辺にて小さな鈴をつけた子猫を発見。サーチを終了する』

 

……フゥッ、疲れた~。

 

「れ、零。い、今何したんだ?」

「何ってサーチしただけだが?猫は青海の公園の水辺にいるぞ」

「ア、アンタ本当にチートよね……」

 

そうか?半径3メートル以内に人がいないことが条件だから、あまり使えないんだよな。

 

「まぁキンジ、場所が分かったんだからさっさと行ってこいよ。あとアリアも」

「あ、ああ」

「え、ええ」

 

二人は戸惑いながらも青海に向かった。さて、依頼を受ける気でいたのになんだか面倒くさくなってきたな。街でもブラブラ歩いてきますか。

 

 

 

 

 

「さてさて、今から何をしようかな……何だあの銀行、人だかりが出来ているんだが。警察もいるし」

 

しかも銀行はシャッターが降りたまま。不信に思って警察に話しかける。

 

「スイマセン、なかで何が起こってるんです?」

「何だね君は……て、武偵じゃないか!」

 

その警察は俺の着ている武偵校の制服を見て驚き、俺に事情を話す。

 

「じ、実は今なかで複数人の強盗達が人質をとって立て(こも)っているんだ。目的は奪った金と逃げるための車と飛行機の手配。しかも強盗達は全員拳銃を所持している」

「成る程……人質の数は何人で、強盗達の数は何人か分かりますか?」

「人質はだいたい12~3人。強盗達の数は5~6人だ」

 

成る程ね、ありがちな犯行だな……よし。

 

「分かりました。じゃあ捕まえてきますね」

「分かった、気をつけてな……ておい!まさか一人で突入するつもりか!?」

「はい、そうですけど?」

 

今の流れ的にそうでしょ?何を言ってるんだこの人。

 

()()だ!敵は複数、人質もいる!それを一人で行くなんて出来るわけがない!」

「大丈夫ですよ。それに知ってます?()()って言葉は、人間が持つ無限の可能性を押し留めるってこと」

 

そう言いながら俺はシャッターの前に立つ。

 

「あ、今からシャッター壊しますので離れてて下さいね~」

「は?君、何を言って――」

 

そう言ってしゃがみ、思いっきりジャンプしながら回転し――

 

回転式踵落とし(サイクロン・ヘルニール)!」

 

――暫くの間封印していた踵落としの上位番をシャッターに叩きつけた。

 

――バキャッ、ドンッ

 

「いっちょ上がり~」

「……うそ……だろ……」

 

俺達の目の前にはシャッターがなく、変わりに何が起こったか分からない顔をしている犯人達と人質がいた。成る程、犯人は5人か。

 

「はいどうも~武偵です。説明するの面倒くさいので色々な犯罪で逮捕しま~す」

「えっ、何?どういうこと?なんでシャッターが真っ二つになって左右の壁にまでぶっ飛んだの?」

 

説明ご苦労、犯人Aくん。

 

「ああ、俺が蹴った」

『蹴った!?』

 

俺の発言に中にいた全員が驚く。て言っても本当なんだよね、コレ。

 

「お、おいどうする?」

「だ、大丈夫だ。ここには人質が――」

「人質が何だって?」

 

俺は喋りだした犯人2人に向かって接近し、顎に掌底を繰り出して脳を揺らし戦闘不能にする。

 

「――ッノヤロゥッ!」

 

続いて一人が接近して俺を銃で殴ろうとする。つーか銃持ってるなら撃てよ。バカだなこいつ。

まぁ一直線に突っ込んでくるだけなのでヒラリと(かわ)し、後頭部を殴って気絶させる。

 

「くそ、嘗めやがって……お前たち!拳銃使うぞ!」

「ええっ!?でも威嚇用に持ってるだけじゃ……」

「相手は武偵だ、撃ったって死なねぇよ!」

 

こいつらバカだな、相手に作戦内容モロバレじゃねぇか。しかも威嚇用って言ってるあたり、撃ったことがないのがバレバレだ。

そんな素人が撃った所で当たる訳がないが、人質がいるのでここは――

 

パァパァンッ!!

――蜻蛉(とんぼ)(がえ)り!

パァンッ、キィキィンッ

バラバラッ

 

俺の技の一つ、蜻蛉(とんぼ)(がえ)りで相手の銃弾を相手の銃口へ跳ね返し、相手の拳銃を破壊した。

そのことに戸惑っている間に接近して意識を沈めた。

 

「俺が通りかかったのが運のつきだったな」

 

そう俺が言った後、周囲から歓声が上がった。

 

 

 

 

 

「犯人達を無力化してくれたことに感謝する、武偵の君」

「いえいえお構い無く、これも武偵の仕事の一つです」

 

さっきの警察に犯人達を渡して、警察から感謝の言葉をもらう。

 

「ところで君の名前を教えて頂きたいのだが」

「そう言えば名のってなかったですね。僕の名前は(きり)()(れい)です。一応『紅電』ていう二つ名があります」

「紅電!?君がか!?」

「あれ、知ってるんですか?」

「知ってるも何も超有名人じゃないか!『紅電』の名前は下っ端のヤクザでも知ってるくらいだよ!」

 

へぇ~そうなんだ、本人だけど全然知らなかったな、その情報。

 

「やはり君には何か礼をしておきたい、私はこう見えて結構顔が聞くからな、なんでもいいぞ」

「なんでもですか、でしたら……」

 

――良かった、それなら頼みたいことがあったからそれを言おう。

 

「――銀行のシャッターのこと、器物破損にしないでくれますか?」

 

――真っ二つに割れたシャッターを指差しながら、俺は苦笑してそう言ったのであった。




どうでしたでしょうか?

ヒロインアンケートの途中結果ですが、

1に、6標
2に、4標

ということになっています。締切は11日までなので、皆様是非ご参加下さい。

それでは、ごきげんよう。


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12話~変わり者・りこりん~

はいどうも鹿(ろく)()()(づき)です。

少し皆様にお話が。
実は私用により今まで1日最低1話にしていたところを、これからは3日に1話のペースになります。なにとぞご理解ください。

では、第12話、始まります。


銀行強盗達を数分で無力化し、警察にシャッターの件についてお咎め無しというありがたい配慮を頂き、『紅電』の名前が意外な所にまで知れ渡っているということを知った翌日。俺はキンジに連れられて女子寮の前の温室に来た。なんだ、花でも見たかったのか?乙女かよ。

実際のところはそうではなく、誰かと待ち合わせに来ているらしい、その相手は……

 

「――理子」

「あ、キーくぅーん!レイレーイ!」

 

バラ園の奥で、理子がくるっと振り返った。

理子はアリアより少し背が大きいくらいだが、美少女の部類に入る。ふたえの目はキラキラと大きく、緩いウェーブのかかった髪はツーサイドアップ。ふんわり背中に垂らした長い髪に加えて、ツインテールを増設した欲張りな髪型だ。

 

「相変わらずの改造制服だな。なんだその白いフワフワは」

「これは武偵高の女子制服・白ロリ風アレンジだよ!キーくん、いいかげんロリータの種類ぐらい覚えようよぉ。あとレイレイも」

「悪いが俺も全然分からないわ」

「キッパリと断る。ったく、お前はいったい何着制服をもっているんだ」

 

そう言われて指を折り折り改造制服の種類を数え始めた理子。おいおい、両手でも数えきれないのかよ。

 

「理子こっち向け。いいか。ここでの事はアリアには秘密だぞ」

「うー!らじゃー!」びしっ。

 

理子はキヲツケの姿勢になり、両手で敬礼ポーズをとる。この前もやったな、それ。

キンジは苦い顔で紙袋を差し出すと、理子は袋をびりびり破いていった。ふんふんふん。荒い鼻息。まるでケモノだな、可愛い顔が台無しだ。

 

「うっっっわぁ――――!『しろくろっ!』と『(しろ)(つめ)(くさ)物語』と『(マイ)ゴス』だよぉー!」

 

ぴょんぴょん跳びはねながら理子が両手でぶんぶん振り回しているものはいわゆるR―15指定、つまりギャルゲーだ。

後にキンジに話を聞いたところ、理子は服装から分かる通りオタクらしい。

しかし世間一般のオタク女子と違うことには、理子は女のくせにギャルゲーのマニアという奇特な趣味の持ち主なのだ。中でも特に自分と同じようなヒラヒラでフワフワの服を着たヒロインが出てくる物に強い関心を示す。

もちろん理子も15才以上なのでギャルゲーを買うことができる。しかし先日、理子がゲームショップも兼ねている学園島のビデオ屋でバイトのお姉さんに身長で中学生と勘違いをしたのか、R―15のゲームを売ってもらえなかったらしいから代わりにキンジが買いにいったということだ。

 

「あ……これと、これはいらない。理子はこういうの、キライなの」

 

……なんでだ?全て理子が好みそうなパッケージなんだが。

ぶっすぅー、と、膨れっ面で理子がキンジに突っ返したのは『(マイ)ゴス』の2と3、続編だ。

 

「なんでたよ。これ、他と同じようなヤツだろ」

「ちがう。『2』とか『3』なんて、蔑称(べっしょう)。個々の作品に対する侮辱。いやな呼び方」

 

……ワケの分からないヘソの曲げかたしてるな、理子。

 

「まぁ……とにかく、じゃあ続編以外のそのゲームをくれてやる。あと零も連れてきたんだ、こないだ依頼した通り、アリアについて調査したことをきっちり話せよ?」

「――あい!」

「……ん?何で俺が出てくるんだ?」

 

てかなんで俺がここに呼ばれたんだ?

 

「それは~、理子が依頼の報酬に~、レイレイと会わせてって入れたからだよ~?」

 

何故に?

 

「レイレイに~、質問があるんだよ」

「なんだよ、俺に質問って?」

 

なんか気になるようなことでもしたか、俺?

 

「アリアと付き合ってるの?」

「は?」

 

何言ってるんだこいつ。

 

「だって~二人が朝にバイクに乗って登校してきたって聞いてるよ?それを聞いたアリアのファン達が『(きり)()(れい)殺す!』って張り切ってるよ?」

「ナニソレ、ボクシラナイ」

「片言になってるぞ……」

 

いやしょうがないだろ、いきなりそうなってるなんて思いもしないし。

 

「で、実際のところはどうなの!?アツアツ!?アツアツ!?」

「うるさい、俺とアリアはただのパートナーだ」

「――ふぅん、パートナー、ね」

 

パートナーという単語を聞いた途端、理子の目付きが鋭くなった。その目は俺を見定めるような感じだ。

 

「そんなことより理子、早くアリアの情報をくれ」

「うぉっと、そうだった。じゃあ教えまーす!」

そう言って理子はアリアの情報について語りだした。

 

 

 

 

 

理子からアリアの情報を聞いたあと、俺達は男子寮へと帰ってきた。男子寮の窓から見渡す『学園島』を夕陽が金色に染めていた。

武偵高とその寮、生徒向けの商品だけが乗っているこの人工浮島(メガフロート)。元々は東京湾岸の再開発に失敗して叩き売りされていた土地らしい。 その証拠に、レインボーブリッジを挟んですぐ北にある同じ形は未だに空き地で、見たまんま『空き地島』とあだ名されている。

そのがらんとした人工浮島の南端には仕方なしに立てられた風力発電機がノンキに回っている。のどかだなぁ。

 

『太平洋上で発生した台風1号は、強い勢力を保ったまま沖縄上空を北上しています』

 

ニュースを垂れ流す液晶テレビが、(かえ)ってこの部屋の心地よい静けさを際立たせる。ああ、平和だ。

 

「遅い」

 

ぎろ、とアリアがソファーから頭を傾けてこっちを見てきた。なんだ、いたのか。全然気づかなかった。

 

「どうやって入ったんだ、鍵は渡してなかったはずたが?」

「レイから貰ったわよ」

「おい零!どういうことだ!」

「女子を玄関先で待たす訳にもいかないだろう?」

「うっ」

 

こいつまさかそのこと分からなかったのか?それだったらヤバイぞ。

 

「そうよそうよ、失礼よ」

「お前にだけは言われたくないぞ、でぼちん」

「でぼちん?」

「額のでかい女のことだ」

「アタシのおでこの魅力に気づかないなんて本格的に人類失格ね、この額はアタシのチャームポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログ誌に載ったことだってあるんだから」

「そうかい、流石は貴族様、身だしなみにもお気をつかっていらっしゃる」

 

そう言ってキンジは洗面所へと向かう。アリアは自分のことを貴族様と呼んだキンジに最初は驚いていたが、すぐに嬉しそうにキンジの後についていく。

 

「アタシのこと、調べたのね」

「神埼・H・アリア。強襲科(アサルト)Sランク。母は日本人、父はイギリス人と日本人のハーフ。14才よりロンドン武偵局に所属。その間は犯人を逃がしたことはなく、99回連続で1回の強襲で逮捕。轟く二つ名は『双剣双銃《カドラ》』」

 

キンジは答える代わりにアリアのプロフィールを言う。

 

「へぇ~、そこまで調べたんだ」

「他にも泳げな――」

「風穴開けられたいの?」

 

ぎろ、とアリアが睨むとキンジが黙る。

 

「――まあでも、この間一人逃がしたわ。生まれて初めてね」

 

おっと、理子の情報に間違いがあったのか。あいつバカのくせに情報探るのが上手くて探偵科(インケスタ)Aランクだって言ってたんだけどな。

 

「ちなみに逃がしたのは誰だ?」

「キンジよ」

 

ブッハアッとキンジがうがいをするために含んでいた水を吐き出す。きたねぇ!

 

「な、なんで俺がカウントされてんだよっ!俺は犯罪者じゃないぞ!」

(きょう)(わい)したじゃないアタシに!あんなケダモノみたいなマネしといて、しらばっくれるつもり!?このウジ虫!」

 

なんかキンジの評価がどんどん堕ちていくな。ドレイに始まりケダモノ、さらにウジ虫か。

 

「だからあれは不可抗力だっつってんだろ!それに零だって逃げたじゃないか!」

 

おいキンジよ、さりげなく俺まで巻き込むな。

 

「レイは逃げただけであって犯罪を犯してないでしょ!――とにかく!」

 

びしっ!とアリアは真っ赤になりながらキンジを指さした。

 

「あんたなら、レイのいない時の代わりになるかもしれないの!強襲科(アサルト)に戻って、アタシから逃げたあの実力をもう一度見せなさいっ!」

「あれは……あの時は……零がいたからうまく逃げられただけだ。俺はEランクの、大したことない男なんだよ。はい残念でした。出ていってくれ」

「ウソよ!あんたの入学試験の成績、Sランクだった!」

 

アリアにそう言われてキンジはギクリとした表情になる。やっぱりキンジのことについて調べていたか。

 

「つまりあれはレイがいたからってだけじゃないってことよ!アタシの直感に狂いは無いわ!」

「と、とにかく……()()ムリだ!出てけ!」

 

あ、キンジ。墓穴掘ったぞ。その言い方なら――

 

()()?ってことは何か条件でもあるの?言って見なさいよ。()()()()()()()()()

 

――てことになるからな。

アリアにそう言われてキンジは赤くなる。

もちろんアリアはヒステリアモードのトリガーを知らないから気軽に言ったんだろうが、キンジにとっては爆弾発言だ。なんせ『性的に興奮させる』って意味だからな。このままじゃキンジは混乱してさらに自爆するだろう。

 

――しょうがない、助けてやるか。

 

「アリア、キンジ」

「何、レイ?」

「な、なんだ零?」

「一回だけお試し期間をつければどうだ?」

「「お試し期間?」」

「キンジは一回だけ強襲科(アサルト)に戻る、ただし、組むのは一回だけ。戻ってから最初に起こった事件を一件だけ協力するってこと。だからキンジは転科しないで自由履修として強襲科(アサルト)の授業を取る。それでどうだ?」

「「……」」

 

二人は暫くの間考えていたが、やがて顔を上げて頷いた。

 

「分かったわ、アタシにも時間がないし。その一件で、キンジの実力を見極めることにする」

「どんな小さな事件でも、一件だぞ」

「OKよ。そのかわりどんな大きな事件も一件よ」

「分かった」

「ただし、手抜きしたら風穴あけるわよ」

「ああ。約束する。全力でやってやるよ」

 

……キンジのヤツ、通常モードの全力でやるつもりだな。まあいいや、これで丸く収まったし。

 

「さあ、強襲科(アサルト)に戻ることにしたぞ。さっさと女子寮に帰れよ」

「――あら?誰が組むことにしたら帰るって言ったかしら?」

「「はっ?」」

 

え、どういうこと?俺も訳分からないんだけど……

 

「ど、どういうことだ!組んだら帰るはずじゃなかったのか!?」

「確かに『パーティーに入らなかったら泊まっていく』って言ったけど、誰も『組んだら戻る』って言ってないじゃない。それにレイの御飯も美味しいし」

「なん……だと……?」バタッ

「大丈夫か~キンジ?」

 

……返事がない。そうとう参ったみたいだな、合掌。

 

「ということで、これからもよろしくね。レイ」

「おう、分かった」

 

とはいえ、俺は別に嫌じゃないから反対しないけどな。

ドンマイ、キンジ。




どうでしたでしょうか?
ヒロインアンケートの結果ですが、
1に16標
2に8標となっています。

締め切りは11日までなので、早めにご参加ください。

では、ご機嫌よう。


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13話~『Sランク内最強』の教(恐)育~?

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。
3日に1話だと結構違うものですね。ネタを思いつくのが楽で楽で。
それはともかく、アンケート結果を活動報告に入れておきましたので、是非そちらもご覧ください。

では、第13話、始まります。


強襲科(アサルト)での出来事!?


ヤァ( *・ω・)ノこんにちは、零だ。

現在俺とキンジは強襲科(アサルト)――通称、『明日無き学科』の目の前に来ていた。

この学科の卒業時生存率は、97.1%。

つまり100人に3人弱は、生きてこの学科を卒業できない。任務の遂行中、もしくは訓練中に死亡しているのだ。本当に。

それが強襲科(アサルト)であり、武偵という仕事の暗部でもある。

 

「戻ってきてしまったな……」

「まあ良いじゃないかキンジ、もう遅いからそんなにクヨクヨするなって」

「俺は平和に暮らしたいだけなんだ、そういう零はなんでそんなに楽しそうなんだよ」

「だって初めて来るんだぜ、この学校の強襲科(アサルト)に。どんなヤツがいるのか楽しみで仕方ない」

 

本当にどんなヤツがいるんだろうか。将来性に期待が持てるヤツがいると楽しいのだが。

そう思いながら、強襲科(アサルト)の扉をあける。中では戦闘訓練をおこなっている者やトレーニングなどをしている者がいる。

 

「……キンジ?錐椰くん? 」

 

すると一人の女子がこちらに気づいて喋った途端、強襲科(アサルト)内の音がすべて消え去った。

 

「キンジ……キンジだ!」

「キャーッ!零様よ!本物だわ!」

 

そう言いながら俺達に近づいてくる強襲科(アサルト)のヤツら。いつもパーティーを組んで行動する強襲科(アサルト)では、生徒達が自然と人なつっこくなるもので……

 

「おーうキンジぃ!お前は絶対帰ってくると信じていたぞ!さあここで1秒でも早く死んでくれ!」

「キンジぃー!やっと死にに帰ってきたか!お前みたいなマヌケはすぐ死ねるぞ!武偵ってのはマヌケから死んでくもんだからな」

「零様ー!握手を、サインをお願いします!」

「あ、ずるい!零様私にも!」

「私にも!」

「くっそ錐椰のヤツ死ねばいいのに !」

 

……驚いたか?死ね死ね言うのは強襲科(アサルト)の挨拶なんだぜ?何故か俺の前にはペンと色紙を持って一列に並んでいる女子達と、明らかに挨拶だけではない殺意のこもった言葉が来るんだが。意味不明だ。

取りあえず女子達が何故か握手とサインを求めて来るので一人ずつ握手とサインをしていく。中には制服に書いてと言う女子もいた。一応したけどもうそれ使えないぞ?俺のサインなんか入っていたらバカにされるだろうし。

そう思いながら女子達の列が半分を切ったあたりで――

 

「――なんだよなんだよ、そんなヤツのどこが良いんだ?ええ?」

 

と複数人の男子生徒が段々と俺の方に近づいてくる。おそらく態度からして1年生だろう。

 

「いよぅ、あんたが『紅電』さんか?」

 

そのリーダー格であろう茶髪の男が俺の前に立つと、耳障りな声で話しかけてくる。

 

「ああ、そうだが。君達は1年生かい?」

「ああ?気安く話しかけてくんじゃねぇよ!」

 

なるべく事を起こさないように穏便に話しかけたつもりだったのに何故かキレた。本当にこの手のバカはよく分からん。

まあいいや、面倒くさいから無視し――

 

「こんなのが『Sランク内最強』?だったら俺がそう言われることになっても可笑しくないな!」

 

……何を言ってるんだ、コイツ。

 

「訂正しろ」

「ああ?だから気安く――」

「訂正しろって言ったのが聞こえなかったか?一年」

 

――瞬間、強襲科(アサルト)内に殺気が充満した。

 

「てめぇみたいな三下が簡単に名のれるほど、『Sランク内最強』は安くねぇよ」

 

シーン………

――静まりかえったな、今日はもう帰るか。

 

「なんやぁ、今の殺気は?」

 

俺が帰ろうとした時に入口から誰かが入ってきた。見るとどうやら教師のようだ。

 

「しかも滅多にない殺気やったでぇ……もしかして」

 

その教師は強襲科(アサルト)内を見渡して俺の姿を見つけるとどんどん近づいてくる。

 

「やっぱりお前やったかぁ、『紅電』」

 

その教師は俺の前に立つとそう言ってきた。女性なのだが、俺とほぼ同じぐらいの身長。長い髪をポニーテールにしている。この人の名前は確か――

 

(らん)(ぴょう)先生――」

「お、ウチのこと知ってるんか。感心感心……それで、一体どうして殺気が出とったんや?」

 

そう言って蘭豹先生は笑いかけてくる。

 

「さっき少し自分の神経を逆なでしてきたやつがいたので」

「ほう、お前の後ろに立っとるヤツらか?」

「ええ、そうです」

「おう、一年やないか。それなら……」

 

と蘭豹先生が強襲科(アサルト)内に響きわたるような声で言う。

 

「一年男子全員集合!今からお前たち全員と、『紅電』一人で勝負をしてもらう!」

 

――ザワァッ

 

蘭豹先生の言葉にざわつく。

 

「一年男子全員対『紅電』の錐椰!?」

「蘭豹先生一体何考えてんだ!?」

「そもそも一年男子何人いると思ってるんだ!」

「しかもAランクの奴も何人かいるんだぞ!?」

「いくら『紅電』でも、これは……」

 

強襲科(アサルト)の奴らが騒いでいる中、蘭豹先生が俺に語りかけてくる。

 

「まだ武偵高に入って間もない奴ばっか、さらにAランクやからって調子にのるアホゥもいる。逆なでしてきた奴もその一人や。やからちょっと武偵高とは何なのか教えてやってくれぇや」

 

成る程、この人なりの考え方があったのか。なら――

 

「はい、良いですよ。思い上がったバカどもを現実に叩き落としますよ」

 

ザワァッ

 

再びざわつく。俺が許可したことはおろか、楽勝で勝つってことを言ったからだ。

 

「なめやがって……おい野郎共!こんなチャンスは滅多 にないぞ!コイツを倒したら即Sランクだぞ!」

 

さっき俺を挑発してきた奴が他の一年に発破をかける。その言葉を聞いて、他の奴らもやる気になった。

 

「準備はええか?」

「良いですよ、ただ、自分が使うのはこれだけです」

 

そう言って背中から一本の日本刀をとりだす。

 

「おもしろい奴やなぁ、お前。では……始め!」

 

 

 

 

 

「囲め、敵は一人だ!」

 

そう言いながら一年は包囲網をかけてくる。ざっと見て30人か、なら剣技を使うまでもないな。

 

「よし、そのまま――」ヒュンッ

「遅い」

「なっ!?」

 

仕切っていた奴の目の前にいき、刀の峰で意識を落とす。

 

「おい、なんでもうあんなところにいるんだよ!?」

「10メートルくらい離れていたはずだぞ!?」

 

離れて見ている2年生達から驚きの声があがる。

 

「ちっ、くそが!」

 

一年の一人が拳銃を構えようとするが、

 

「だから遅いと言っている」ヒュンッ

「グハッ!」

 

構える前に接近し、意識を落とす。

 

「くそがぁ、全員撃てぇ!」

 

――パァパァパァパァパァパァパァパァンッ!

 

「全員、狙いが甘い」

 

――キィキィキィキィキィキィキィキィンッ!

 

『なっ!?』

一年全員が目を見開く。それもそうだ、なんせ20数名全員で撃ったのに、その全てを一本の日本刀ではじくか切ったのだから。

 

「ぼうっとしている暇があるのか?」

「しまっ――」

 

驚いている間に次々と意識を落としていく。残りは半分くらいになったな。

 

「どうすればいいんだよ……」

 

一年の誰かが呟く。接近しようとしたら一瞬で間合いを詰められ、拳銃で撃とうとしたら日本刀ではじかれる。そんな相手にどうすればいいかなんて分かる訳がない。

そうしている間にもどんどん数は減っていき、残りはさっきの複数人いたグループだけになった。

 

「ウオォォォォォッ!」

 

リーダー格だと思われる奴だけを残し、玉砕覚悟で突っ込んでくる。だが何も考えていない突撃なので当たる訳がない。そのまま全員の意識を落とした。

 

「残りはお前だけだな」

「くっ」

 

そう言いながら俺は日本刀をしまう。

 

「来いよ、最後は刀無しでやってやる」

「ッんの野郎ッ!」

 

リーダー格が接近して蹴りや掌底を繰り出してくるが、俺は全て受け流す。

 

「何故だッ!何故当たらないッ!」

 

当たらないことに苛立ちを隠しきれずに攻撃してくるリーダー格。そろそろ頃合いかな。

リーダー格が苦し紛れに出した拳を受け流し、腕を掴んで引っ張る。そのまま足を首に回して三角絞めをする。

 

「グッ……アッ……」

「ひとつ言っといてやる。世界には沢山のAランク武偵と、約800人のSランク武偵がいる。その中の頂点が『Sランク内最強』なんだよ。たかがAランクになって調子にのっているやつが、簡単になれるほど甘くは無いんだよ」

 

そう言って足の力を強め、意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

「おう、ようやってくれたなぁ、感謝するで」

 

数分後、意識を失った奴らを全員起こした後に蘭豹先生から声をかけられた。

 

「いえ別に。自分も一年の実力を知りたかったので」

「ガハハ、そう言ってくれると助かるでぇ……おい一年ども!これが『Sランク内最強』と言われている男や!手も足も出なかったやろ、しかも日本刀一本だけなのにな!コイツは武偵やから意識を落とすだけで済んだが、もしコイツが犯罪者やったらとっくに全員死んどる!死にたくなかったら調子にのらんと日々精進せんかい!」

 

蘭豹先生は一年男子にそう言うと、こちらに向き直る。

 

「しっかし、流石は『紅電』。その二つ名は伊達やないな。今度時間があったらウチと勝負してくれぇや」

 

そう言って蘭豹先生は好戦的な目で見てくる。

 

「遠慮しときます。美しい女性と勝負するのは気が引けるので」

 

だが俺は女性を相手に戦うのは好きじゃない。だから見逃してもらえると嬉しいのだか……

 

「な……な……何言っとるんや///」

 

そう思いながら遠慮すると何故か蘭豹先生が顔を真っ赤にしている。いやホントに何でだ?

まあいいや、今日はこの辺にしといて帰りにそこで見学していたキンジとゲーセンでも行こう。

 

「それでは蘭豹先生、失礼します。キンジ行くぞ」

「あ、ああ」

「お、おい!ちょっと待てや!何を言っとんのや貴様ー!?」

 

……先生風邪なのかな?後で風邪薬でも渡そうかな?




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら是非お願いいたします。

それでは、ごきげんよう。


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13話ーsideAAー

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。

今回は13話を別視点でお送りします。と言っても、サブタイトルで分かりますが笑

では、第13話ーsideAAー、始まります。


ーside間宮 あかりー

 

「アリア先輩来ないかな…」

 

あ、初めまして!あたしの名前は()(みや) あかりです!アリア先輩の戦姉妹(アミカ)です!

あ、戦姉妹(アミカ)と言うのは先輩の生徒が後輩の生徒とコンビを組み、1年間指導する二人一組(ツーマンセル)特訓制度のことで、男子の場合 『戦兄弟(アミコ)』、女子の場合『戦姉妹(アミカ)』と呼ばれるものです。

あたしはアリア先輩――神崎・H・アリアさんと戦姉妹(アミカ)の関係になってます。アリア先輩はあたしの憧れで、いつかパートナーとして一緒に武偵活動したいです!

まぁ今その話は置いといて。現在あたしがいるのは強襲科(アサルト)内のトレーニングルームです。

武偵高の強襲科(アサルト)でのトレーニングは最低限のノルマをこなした後は自由とされています。理由は武偵は自分がなんの訓練をすれば生き延びられるのか自ら考え自ら実践するもので、その習慣を早くから身につけさせるためである、ということなんです。

 

「志乃、行っちゃったな」

 

今喋ったのはあたしの友達で()() ライカといいます。ライカはあたしをよくからかってくるんだけど、金髪をポニーテールにしていてとてもスタイルが良くて身長なんかも160以上あって……良いなぁ……

ってそんなことはともかく、ライカが言った志乃ちゃんって子は()()() ()()ちゃん。まさに大和撫子って感じの子であたしの友達です。たまに過度な密着とか目が怖い時とかあるけど……すごく良い子です。

そして志乃ちゃんもすごくスタイルが良いです……ハァッ、身長139センチメートルのあたしへの当て付けかなんかでしょうか……羨ましい。

っておっと、考え事をしてたらライカの返事をするのを忘れてた。

 

「うん、そうだね……戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)の形式にも色々あるんだね」

「恐山で山籠もりさせるなんてヘンな戦姉(アミカ)だぜ」

 

ちなみに志乃ちゃんがどこに行ったのかと言うと戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)――戦姉が戦妹にだす採用試験みたいなもので、これに合格しなければ戦姉妹(アミカ)になれない――をするために戦姉が指定した場所、恐山に行きました。

プハーッと、ライカが腕立て100を終わらせた後、その場で寝そべる。あたしはトレーニングルームによくある、自転車をこぐようなやつをやっている。

 

「まあ志乃がいない間、あかりはアタシが独占出来るけどな……ウヘヘヘェー」

「……?」

 

どういう意味なんだろうと思ってライカの方を見ると、ライカは指で写真を撮るような形を作っていた。それがどこを向いているのかと言うと……

 

「うわー、白木綿(しろコットン)。ガキっぽ」

「ッ!?」

 

あ、あたしのスカートの中を覗きこんでた!

 

()()()と言うより()()()()だぜ」

「~~~!」

 

こ、この~///!

 

「こらー!」

「はんちゅ~~丸見え~~。キィーン」

 

あたしは逃げるライカを追うがライカはあたしより足が速いので同じスピードぐらいに保って遊んでる。

 

「バカライカ!ローアングラー!金払え!」

 

そんなことを言ってライカを追っていると、

 

「おい聞いたか?キンジが強襲科(アサルト)に帰って来るって!?しかも錐椰も来るってよ!」

「マジかよ!キンジって遠山キンジだよな?しかも錐椰もって……」

強襲科(アサルト)の首席候補って言われてたキンジと、『紅電』、『Sランク内最強』と言われてる錐椰か!」

 

その言葉を聞いたライカがいきなり止まる。当然追っかけていたあたしがぶつかる。

 

「ムギュッ……ライカ?」

「遠山キンジ……あの人が帰って来るのか……しかも錐椰ってあの錐椰 零のことか」

「キンジ……零?」

 

誰それ?全然知らないんだけど。

 

「あかり……遠山先輩の方は分からないのはまだ分かるが、錐椰先輩のことは分からないと武偵失格だぞ?」

「ええっ!?そんなに!?」

「二人とも2年の先輩。遠山先輩の方は任務でいつもいなかったし、あかりがインターンで入って来た頃探偵科(インケスタ)に転科しちゃったけど、去年は強襲科(アサルト)でSランク武偵だった。入試で教官を倒したらしい、伝説の男だよ」

「い……一年でSランク!?」

「……プロ武偵に勝てる中坊なんてバケモノだろ」

 

あ、あたしなんかEランクなのに……しかも入試で補欠合格……

 

「錐椰先輩はもっと凄い」

 

もっと凄いの!?今のも充分凄いけど!?

 

「15才の時、海外で三大マフィアと呼ばれていた奴たちが抗争を始めたんだ。その時にわずか10分、しかも一人で鎮圧に成功したのが錐椰零先輩なんだ。その時についた二つ名が『紅電』。電流が流れるように素早く事件を解決させたことから、その外見を入れてそう呼ばれるようになったらしい」

 

その内容を聞いて、あたしは驚きのあまり声が出なかった。

さ、三大マフィアの抗争を10分で鎮圧!?しかも一人で!?普通そんなことになったら歴史に残る大事件になるよ!?

 

「しかもその時の一般人の死傷者はゼロ。マフィアの連中も死者はゼロだ」

 

ど、どうやったらそんなことできるのだろうか……コ、コワイヨ~~~!

今あたしの頭の中には武偵高の制服がはち切れんばかりになっているくらいの筋肉ダルマで頬に傷痕がある2メートルくらいの巨大男子2人を思い浮かべた。

 

「錐椰先輩のことは知らないけど、遠山先輩は顔だけ知ってる……あっ、あれだ」

 

ライカが一階の広場の方を指差す。そこにいるのは……

 

「おーうキンジぃ!お前は絶対帰ってくると信じていたぞ!さあここで1秒でも早く死んでくれ!」

「まだ死んでなかったか夏海。お前こそ俺よりコンマ一秒でも早く死ね」

「キンジぃー!やっと死にに帰ってきたか!お前みたいなマヌケはすぐ死ねるぞ!武偵ってのはマヌケから死んでいくもんなんだからな」

「じゃあなんでお前が生き残ってるんだよ三上」

 

と言い合いながら強襲科(アサルト)の二年生にもみくちゃにされている根暗そうな人がいた。

 

「あの人が遠山先輩だ」

 

え、ええっ~~!?ぜ、全然イメージと違う…… ん?

 

「零様ー!握手を、サインをお願いします!」

「あ、ずるい!零様私にも!」

「私にも!」

「え、えっと……ど、とういうこと?と、とりあえず並んで」

 

遠山キンジが囲まれてる集団の隣に、女子たちが一列に並んでいる。何事かと思ってよく見ると、女子たちの先頭には困った顔をしている男子生徒がいた。

外見はというと、とても整った顔に赤い髪と瞳。身長は175程度だろうか、足がとても長い。一言で言うと美男子だ。

……ん?今女子たちが零って言わなかった?もしかして……

 

「ね、ねぇライカ。あそこにいる赤髪赤目の人ってもしかして……」

「あ、ああ。どうやら錐椰先輩のようだな」

 

あ、あの人が錐椰零!?あんな穏和そうな人が三大マフィアを一人で鎮圧したの!?全然イメージできない……

 

「な、なんかイメージと違う……」

「遠山先輩はそう見えるんだよな。上勝ちすると大手柄だから狙ってる一年もいるけど……なんか、勝てなさそうな気がするんだよな……錐椰先輩は良くわかんないんだけど」

 

と、やり取りを行っていると、

 

「なんだよなんだよ、そんなヤツのどこが良いんだ?ええ?」

 

と、いかにも悪そうな複数人の男子生徒が錐椰零の前に出てくる。あれは確か、Aランクをとって天狗になっている一年生だ。

 

「いよぅ、あんたが『紅電』さんか?」

 

その天狗男子は錐椰零に聞くのも嫌になるくらい耳障りな声で喋る。

 

「ああ、そうだが。君達は1年生かい?」

「ああ?気安く話しかけてくんじゃねぇよ!」

 

錐椰零は出来るだけ穏便に話しかけていたのに、天狗男子はいきなり切れた。なんでだろう?

錐椰零が呆れた顔をしている。当たり前だろう、穏便に話しかけていたのに切れられたら対処しようがない。そのまま無視して帰ろうとするが――

 

「こんなのが『Sランク内最強』?だったら俺がそ う言われることになっても可笑しくないな!」

 

その言葉を天狗男子が言った直後、

 

「訂正しろ」

 

錐椰零がとても低い声で言った。

 

「ああ?だから気安く――」

「訂正しろって言ったのが聞こえなかったか?一年」

 

さらに天狗男子が言おうとするが、錐椰零がそれを遮り、再び低い声で言い、さらに強襲科(アサルト)内に殺気が充満した。

 

「てめぇみたいな三下が簡単に名のれるほど、『Sランク内最強』は安くねぇよ」

 

何コレ……コワイヨ……

強襲科(アサルト)から音が消えた後、錐椰零は出ていこうとするが、

 

「なんやぁ、今の殺気は?」

 

誰かが入って来た。どうやら教師らしい。

 

「しかも滅多にない殺気やったでぇ……もしかして」

 

この声…蘭豹先生だ。

蘭豹先生は強襲科(アサルト)内を見渡して錐椰零の姿を見つけると、どんどん近づいてくる。

 

「やっぱりお前やったかぁ、『紅電』」

 

その後蘭豹先生は錐椰零と少し喋った後、強襲科(アサルト)内に響きわたるような声で言った。

「一年男子全員集合!今からお前たち全員と、『紅電』一人で勝負をしてもらう!」

 

ザワァッ

 

蘭豹先生の言葉にざわつく。

 

「一年男子全員対『紅電』の錐椰!?」

「蘭豹先生一体何考えてんだ!?」

「そもそも一年男子何人いると思ってるんだ!!」

「しかもAランクの奴も何人かいるんだぞ!?」

「いくら『紅電』でも、これは……」

 

そうだ、一年男子でさえ30人はいる。そんななか一人でなんて……

しかし、あたしは次に錐椰零が言ったことにさらに驚いた。

 

「はい、良いですよ。思い上がったバカどもを現実に叩き落としますよ」

 

ザワァッ

 

そ、それって楽勝で勝つって意味だよね!?一年なんか目じゃないってこと!?

 

「なめやがって……おい野郎共!こんなチャンスは滅多にないぞ!コイツを倒したら即Sランクだぞ!」

 

天狗男子が他の生徒に発破をかけ、一年男子がやる気になったようだ。

そんな中、錐椰零は一本の日本刀を取り出した。その日本刀を見て、あたしはとても綺麗だなって思った。

 

「おもしろい奴やなぁ、お前。では……始め!」

 

蘭豹先生の合図で一年男子対錐椰零の勝負が始まった――

 

 

 

 

 

結果を言うと、錐椰零の圧勝だった。

終始スピードで一年を圧倒し、銃弾は斬るか弾くというトンデモ技を披露した。

 

「ね、ねぇライカ、さっきから『Sランク内最強』がどうとか言っているけど、そもそもそれってどういうこと?」

「ああ、そのことか……あの人はな、ほぼ全部の専門科目をSランク――しかもそのすべてが最上位の実力だからそう呼ばれているんだよ」

 

す、すべてSランク!?しかも最上位!?今日のあたしは驚かされてばっかりだな……

 

「まああの人にはケンカを吹っ掛けたらダメだな。そもそもアタシは勝てないケンカはしない主義だし」

 

そう言って、ライカは帰っていく。あたしもノルマ終わったから帰ろうかな。

それにしても……とあたしは強襲科(アサルト)から出ていく二人の先輩を見る。

 

「遠山キンジ……錐椰零、か……」

 

そう呟き、あたしはバッグを手に出口へと向かった。




どうでしたでしょうか?

終わる前に一言、
UA数10000突破!お気に入り件数150突破!
本当にありがとうございます!!これからも頑張って行きますので是非読んでください!

それでは、ごきげんよう。


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14話~ゲーセン~

執筆終了→投稿する前に他の人を見る(タグ複製)→(≡^∇^≡)→さて、投稿するか→タグ排除→……→(´・ω・`)→自動保存?何コレスゴイ

となった鹿(ろく)()()(づき)です。
いや~焦りました(汗)。また打ち直しするのかと思うと本当にキツいですねw自動保存様様です。

では、第14話、始まります。



ほっと一息……


ヤァ(・ω・)ノどうも零だ。……なんかこの始まりかた定着してきたな。

今俺達は強襲科(アサルト)から出てきて自転車置き場のところにきている。と言っても俺はバイクをとりに来ただけだが。なんで自転車置き場の隣にバイク専用置き場があるの?意味不明すぎる。

まぁどうでもいいかと思いつつ、ゲーセンに行こうと思ったら門の前にアリアがいた。

アリアは俺達の姿を認めると、とてて、と小走りにやってきた。

そして俺達の間に入り、一緒に歩き始める。

 

「キンジ……アンタ、人気者なんだね。ちょっとビックリしたよ」

「あんな奴らに好かれたくない」

 

コイツ、本音で言っているな。

 

「アンタって人付き合い悪いし、ちょっとネクラ?って感じもするんだけどさ。ここのみんなは、あんたには……なんていうのかな、一目置いてる感じがするんだよね」

「それはなアリア、皆キンジの入試のことを覚えているからだよ。コイツは入試の時、他の受験生を全員すぐに倒して、さらに教官5人も――」

「やめろ零、どんどん鬱になってくる」

アリアに教えようと思ったらキンジが止めてきた。キンジにとっては黒歴史なのだろう。仕方ない、言わないでおくか。

 

「あのさキンジ」

「なんだよアリア」

「ありがとね」

「何を今さら」

 

小声ながらもアリアがキンジに言う。その声はどこか嬉しそうだ。

 

「勘違いするなよ。俺は『仕方なく』強襲科(アサルト)に戻ってきただけだ。事件を一件解決したらすぐ探偵科(インケスタ)に戻る」

「分かってるよ。でもさ……」

「なんだよ」

強襲科(アサルト)の中を歩いているキンジ、みんなに囲まれててカッコよかったよ」

「……」

 

返答に詰まったな、キンジ。

 

「あたしになんか、強襲科(アサルト)では誰も近寄ってこないからさ。実力差がありすぎて、誰も合わせられないのよ。だから『アリア』だったのよ……零に再会するまでは」

「『アリア』?」

 

アリアが自分の名前を普段とは違うイントネーションで呼んだことに、キンジは首を傾げる。

 

「『アリア』って、オペラの『独唱曲』って意味でもあるのよ。一人で歌うパートなの。一人ぼっち――あたしはどこの武偵高でもそう。ロンドンでも、ローマでもそうだった……でも、今は零がいるから『デュエット』かな?」

 

そう言って笑うアリア。その話を聞いて、もっと早く会ってあげられたらな……と思った。

 

「で、ここで俺をドレイにして『デュエット』からさらに『トリオ』になるつもりか?」

 

キンジがそう言ったことに対し、アリアはクスクスと笑った。

 

「フフ……アンタも面白いこと言えるんじゃない」

「面白くないだろ」

「いやキンジ、俺も結構面白いって思ったぞ。なあアリア?」

「ねー、零」

「お前らのツボは分からん……」

「やっぱりキンジ、強襲科(アサルト)に戻ったとたんにちょっと活き活きし出した。昨日までのアンタはなんか自分にウソついてるみたいで、どっか苦しそうだった。今の方が魅力的よ」

「そんなこと……ないっ」

 

いやいやキンジ、アリアの言ったことは結構合っているぞ。今の方が少し良い雰囲気になってる。

 

「俺と零はゲーセンに寄っていく。お前は一人で帰れ」

「いやよ、なんでアンタの言うこと聞かなきゃいけないのよ?それより『ゲーセン』って何?」

「ゲームセンターの略だ。そんなことも知らないのか」

「まあまあキンジ、アリアは帰国子女なんだから仕方ないよ」

「そうよそうよ、しょうがないじゃない。んー。じゃあアタシも行く。『ゲーセン』ってのがどんなものか知りたいし。いいかしら、零?」

「ああ、いいよ。キンジも別にいいだろ?」

「……(´Д`)ハァ…っ」

 

コイツなんか壊れてないか?まあいいや。

そんな感じでゲーセンまで歩いていくことになった。俺のバイクじゃ三人乗れないし。

しかし……と俺はばれないようにチラリ、と後ろを目だけで見る。

 

――学校からついてきている奴、一体どうしようか……

 

物陰に隠れながら俺らを尾行してきている奴を見て、俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

「ここがゲーセン……」

 

それから少し歩いて、俺達はゲーセンについた。アリアは初めて見るゲーセンに少し驚いているようだ。

 

「あ、アレ何?」

 

とアリアが指を差して聞いてきた物はクレーンゲームだ。

 

「ああ、あれはUFOキャッチャーだろ」

「UFOキャッチ?なんか子供っぽい名前。ま、どうせキンジみたいな奴が好きそうなんだから、下らないに決まっているけど」

 

アリアはバカにするような表情でクレーンゲームの中を覗き込んだ。

ガラスケースの中には、ライオンだかヒョウだか分からない動物の小さなヌイグルミがうじゃうじゃ入っている。

 

「…………ぁー……!」

 

べた。

と、アリアはガラスケースにへばりついた。

 

「どうしたアリア、そんなにクレーンゲームが珍しかったのか?」

「……」

「どうしたんだよ」

「……」

「腹でも減ったのか?」

「……………かわいー……」

 

コテン。

アリアが呟いた言葉でキンジが脱力した。そうかアリア、ヌイグルミが可愛かったから見惚れてただけか。

 

「やってみるか、アリア」

「けど零、やり方分からない」

「幼稚園児でもできるぞこんなの」

 

そうなのかキンジ?俺も最近帰ってきてからやりだしたからそこのところはよく分からないのだが。

 

「すぐにできる?」

「できる。やり方教えてやろうか?」

 

キンジが言うと、アリアはこくこくこくこくと首を縦にふった。

キンジが説明(するほどのルールもないが)し終わると、アリアはトランプ柄のがま口を出して100円玉を取り出した。

そして筐体(きょうたい)の前で姿勢を正し、狙撃の授業でもやってるかのような真剣さでクレーンを操作し始める。

ウィーン……

ポトッ。

だが、狙いが悪い。ライオンだかヒョウだか分からない奴はアリアのクレーンで前足をちょっと上げただけで、持ち上がりすらしない。

 

「い……今のは練習っ。おかげでやり方が理解できたわ」

「そりゃ一回やればバカでもできるだろうな」

「うっさいキンジ!もっぺんやる」

 

アリアはがま口からもう100円取り出すと、ばし!ばし!とボタンを押した。

だがさっきとほとんど一緒で少し持ち上がっただけですぐに落ちた。

 

「ちなみに500円入れると6回できる」

「うっさいキンジ!次こそ取れる!コツが分かった!」

 

それ分かってないヤツのセリフだぞ、アリア。

ポトッ。

案の定、またヌイグルミを少し持ち上げただけだ。

このままではアリアが壊れそうだな、と感じた俺は再び100円玉を入れようとしているアリアの隣に立ち、アリアの手を掴む。

 

「アリア」

「な、何よ零……」

「500円入れて6回チャレンジしてみようぜ。初めてやるんだから最初は取れなくて当たり前なんだ。気にしなくていい」

「零……分かった、そうする」

 

とアリアは100円玉を戻し、代わりに500円玉を投入する。

 

「アリア、穴に近いやつを狙ってみな。後、頭を狙うんじゃなくて胴体――脇の部分を狙うようにしてみるといい」

「分かった、やってみる」

 

アリアは言われた通り、穴に近いやつを狙う。

最初の3回は失敗して少し持ち上がっただけだった。だが4回目――

ウィーン。

ギュ。

 

「み、見て零!ちゃんと掴まえてる!」

 

見事に両脇の間にクレーンを挟みこむことに成功し、ヌイグルミを持ち上げている。後は穴まで運び込まれるだけだ。

 

「あ……あ、入る、入る、行け!」

 

アリアがそう呟き、クレーンが穴の所までくる。そして、クレーンが開き、ヌイグルミが穴に落ちた。

 

「よしよし、良くy「零ぃ~!」ってうわぁ!」

 

俺がアリアを褒めようとすると、アリアがドン、と俺に抱きついてきた。

 

「取れた!取れたよ零!ヌイグルミ取れた!」

 

アリアは満面の笑みでそう言ってきたので、俺はアリアの頭を撫でる。

 

「はいはい、よくやったな」

「うん!」

 

アリアは喜びながら俺から離れ、飛び出し口からヌイグルミを取り出し、ヌイグルミを抱きしめた。

ちょっと見せてもらうと、タグには『レオポン』と書いてある。面白い名前だな。

 

「かぁーわぁーいぃー!」

 

ぎゅうううう。

アリアはレオポンが破裂しそうなほど抱きしめている。気のせいだろうか、レオポンが苦しそうな表情になっている。

 

「あ……」

 

とそこで何かを思い出したような顔をしたあと、何か悩んでいる様子になる。

 

「アリア、どうした?」

「え、えっと……コ、コレ零にあげる!」

「えっ!?」

 

な、何でだ?どうして俺に?

 

「だって、零から教えてもらったのにアタシの物になるのはおかしくない?だからコレは零のもの!」

 

そう言うアリアは少し寂しそうな表情をする。

仕方ないやつだな、と俺は残り2回できるクレーンゲームの前に立つ。

ウィーン。

ギュ。

ウィーン……。

ポトッ。

ウィーン。

ギュ。

ウィーン……。

ポトッ。

その残り2回を使って2体のレオポンを取った。

 

「ほら、これで俺も持ってるぞ。だから心配するな」

 

そう言って俺はアリアにレオポンを見せて笑う。

 

「零……本当に、本当にありがとう」

 

アリアもそう言って笑う。

 

「ほら、キンジも」

「えっ……いいのか?」

「ああ、元々そのつもりで二体取ったから」

 

そうか……と呟きつつ、キンジは受け取る。そして何か気付いたように携帯を取り出す。その行動を見て、俺はレオポンを見る。

あ……コレ、携帯のストラップになってるのか。なら俺もつけるか。

そう思い、俺は携帯を取り出し、ストラップのヒモを携帯の穴にねじこむ。

それを見たアリアも携帯を取り出し、見よう見まねでレオポンをつけ始める。

レオポンの尻から出ているヒモは中途半端に太く、なかなか携帯の穴に入らない。設計者もうちょっと考えろよ。

 

「先につけた方が勝ちよ、零、キンジ」

「お、いいなソレ」

「なんだそりゃ。ガキかお前ら」

「やったわ、入りそう」

「俺も入りそうだ」

「こっちも……入るぞ、お前らなんかに負けねー」

 

結局やってるじゃないか、キンジ……まあいいや、楽しいから。

それより……と俺はゲーセンの外に目をやる。

 

――まだついてきているな。

 

さて、どうしようか?




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら是非感想の方へ。

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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15話~追跡者との談話~

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。

最近AA見直してみたんですけど……なんというか、原作と時空列的におかしくないですか?()()()()に入るまでにいろんな事起きてるんですけど……
ということで、これからはAA視点が多くなると思います。原作を早く進めてほしい人は申し訳ありません。

では、第15話、始まります。

零達をつけていた者とは!?(初っぱなに分かります笑)


ーside間宮 あかりー

 

ど……どういうこと!?

あ、どうもこんにちは。間宮 あかりですm(__)mペコリ……え?なんで絵文字なのかって?なんかやらないといけないと思ってしまったので……

ってそんなことはともかく、今のコレどういう状況!?なんで……

 

「取れた!取れたよ零!ヌイグルミ取れた!」

「はいはい、よくやったな」

「うん!」

 

なんでアリア先輩が、錐椰零に抱きついているの~~~!?

 

――時は少し遡る。

あたしは強襲科(アサルト)からでて帰ろうとした際に、校門前にアリア先輩を見つけた。

 

「アリ――」

「キンジ……アンタ、人気者なんだね。ちょっとビックリしたよ」

「あんな奴らに好かれたくない」

 

――ッ!?

 

「アンタって人付き合い悪いし、ちょっとネクラ?って感じもするんだけどさ。ここのみんなは、あんたには……なんていうのかな、一目置いてる感じがするんだよね」

「それはなアリア、皆キンジの入試のことを覚えているからだよ。コイツは入試の時、他の受験生を全員すぐに倒して、さらに教官5人も――」

「やめろ零、どんどん鬱になってくる」

 

――なに!?なに!?なに!?なに!?なに!?なに!?なに!?なに!?なに!?

強襲科(アサルト)の中を歩いているキンジ、みんなに囲まれててカッコよかったよ」

 

遠山キンジ、錐椰零……何者!?

その後、アリア先輩と約二名はゲーセンに寄ってクレーンゲームをしてさっきの状況に至る。

これから察するに……

――アリア先輩につく悪い虫って奴!!?

あ、移動するみたい。追わなきゃ!

 

 

 

 

 

少し歩いていると、

 

「アリア、キンジ先に帰っててくれ」

「どうした零?」

「……だからさ」

「ああ……分かった」

 

遠いから少し聞こえずらかったけど、どうやら錐椰零が離れるみたい。

どっちを追うかな……アリア先輩を追いたいのは山々なんだけと……それでも錐椰零の方が気になる!

よし、錐椰零を追おう!

 

 

 

 

 

大分歩いているけど……どうやら公園に向かっているみたい。こんな所で一体どんな用事が?

あたしは3メートルくらい離れた木に隠れて様子をうかがう。

あ、ベンチに座った。ペンとメモ帳を取り出して何かを書いている。

書き終わったみたいだけど……書いた所をちぎってなにやら織り出した……紙飛行機?なんで?

不思議に思っていると、錐椰零がこちらに向けて紙飛行機を投げてきた。ちょうどあたしが隠れているところに落ち、あちらからは死角になっている。

気づかれないようにそっと拾い上げ、書かれた内容を見てみると……

 

『どうして俺らを尾行して来たんだ?バレバレだから出てきて話してくれないか?』

 

えっ!?バ、バレてる!

もう一回錐椰零の方を覗いてみると、人差し指をクイクイと曲げている。どうやら本当にバレてるみたい。仕方ないので姿をさらす。

 

「どうして分かったんですか」

 

あたしは緊張しながらもそう言う。相手が凄腕だからって、最初から怖じけついたらいけない。

 

「バレバレだよ?多分探偵科(インケスタ)諜報科(レザド)ならEランクでも分かるよ」

 

嘘!?結構注意をはらっていたのに……ちょっとショック……

 

「それで、君はなんで俺達をつけていたんだい?」

 

錐椰零から声をかけられて意識を戻す。

 

「錐椰零……先輩」

 

いけない、心のなかで呼び捨てにしているから、さん付けするの忘れてた……

だけど錐椰零……先輩はそのことに関して苦笑するだけだった。普通後輩に呼び捨てにされたら怒るのでは?武偵校では上下関係が凄く厳しいのに……てそんなことより、

 

「だってズルイです!あたしは戦ってようやくお近づきになれたのに、アリア先輩が自分から追っかけるなんて!どういう関係なんですか!」

 

そう、あたしは 戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)でアリア先輩と勝負して勝ったから戦姉妹(アミカ)になれたのだ。

 

「ええっと……話がよく見えないんだけど……ひょっとしてアリアのファンなのかな?」

 

ア、アリア先輩を呼び捨て!?無礼者ー!

 

「俺とアリアはパートナーだけど、それがどうかしたのかな?」

――え?今、何て言った?

さっきまで熱くなっていたが、その言葉を聞いた途端に頭から冷水をかけられたみたいになった。

 

「えっ……アリア先輩の……パートナー……?」

「ああ、そうだよ」

 

念のため確認してみると、やはり肯定してきた。

――そんな、アリア先輩のパートナーになるのはあたしだと思っていたのに……アレ、なんだか意識が遠くに……錐椰零先輩が何か言ってるみたいだけど、聞こえない……何か、温かい感じかしてくる……

そのままあたしは意識を失った。

ーside間宮 あかりoutー

 

 

 

 

 

ーside零ー

 

「ううーん……」

 

お、ようやく起きたみたいだな。

 

「アレ……ここは……?」

「やあ、取りあえずコレでも飲んで」

 

あれから数十分後、ようやく少女が起きた。少女の容姿は身長が139くらいで、アリアより低い。茶色の髪に紫がかっている瞳、さらに短いツインテールにしている。どことなくアリアを思い浮かばせるな。てか俺まだこの少女の名前を知らないんだが……

取りあえずそこら辺にあった自動販売機でオレンジジュースを買ってきて渡す。

 

「あ……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

少女は起きあがってオレンジジュースを飲む。そして意識が覚醒してきたのだろうか、何か頭に疑問符があるような表情になる。

 

「アレ?さっきあたし地面に倒れたはずなのに、なんでベンチに寝ていたの?」

「それは、俺が君が倒れる前に受け止めて、そのままベンチまで運んだだけだよ」

「えっ……」

 

それを聞いた時、少女はキョトンとした顔をしたが、すぐに赤くなった。この辺もアリアに似てるなぁ~。

 

「あ……えっと……その……あ、ありがとうございます///」

 

そしてお礼を言ってくるあたり、とても素直で良い子だな。

 

「どういたしまして。それより……」

 

俺は気になっていたことを言う。

 

「君はなんで倒れたんだい?その理由は?」

 

俺がそう言うと、少女はすぐに落ち込んだ表情になる。

 

「あたし……アリア先輩の戦姉妹(アミカ)なんです。今はまだEランクなんですけど、いつか凄く強くなって、アリア先輩のパートナーになりたいと思っていたんです……」

 

そうか、アリアの戦姉妹(アミカ)だったのか。戦妹(いもうと)戦姉(あね)に似ると言うが、まさにその通りって感じかな。

 

「でも……錐椰先輩がアリア先輩のパートナーなら、確かにつりあってますね……あたしみたいな凡人は天才の域までたどり着けないですよね……」

 

あらら……どうやら目標にしてたことが先に取られていたから、落ち込んでいるようだな。

 

「君、確かに俺はアリアのパートナーで、俺達は両方ともSランクだ。しかし、最初からSランクだった訳じゃない。アリアだってランクの低い時はあったし、俺だって13才まではAランクの下側だったんだぜ?」

「嘘っ!?錐椰先輩、元から強いんじゃなかったんですか!?」

「ああ、少なくとも『紅電』やら『Sランク内最強』やらという二つ名がつくような武偵じゃなかったさ」

 

それでもAランクまではいってたけどな……とは言わない。ソレ言うとまたヘコむだろうからな。

 

「だから、頑張ればいつか凄く強くなって、アリアなんか抜かせるかも知れないし、俺を抜かせるかも知れないぞ?そうなれば君が『Sランク内最強』と呼ばれるぞ?」

「えっ……錐椰先輩、『Sランク内最強』をバカにされた時、怒っていませんでしたか!?」

「確かに調子に乗ってる奴や、バカにする輩の時はキレるけれど、君みたいに頑張っている人には『目標』になりたいと思う。そう言うのを含めて、『Sランク内最強』なんだからさ」

 

俺がそう言って笑うと、少女が唖然とした表情になる。

 

「あたし……錐椰先輩のこと、少し勘違いしてました。あの、もし良かったらこれからも強襲科(アサルト)にきて、あたしを指導してくれませんか?」

 

少女はそう言って、頭を下げてくる。

 

「ああ、良いよ。なら君の名前を教えてくれないか?教える時にずっと『君』って呼ぶのはちょっとな……」

 

俺がそう言うと、少女はクスクスと笑う。

 

「はい!あたしは強襲科(アサルト)一年、間宮 あかりです!これからよろしくお願いいたします!」

「――ああ、よろしくあかりちゃん」

 

それから少し話した後、あかりちゃんが帰っていくのを見て、俺も帰路についた。アリアも良い子を戦妹(いもうと)にしたもんだな。それより……

 

「――()()か……もしかして……」

 

――そう呟いた俺の表情は、少し沈んでいた――




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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16話~後輩との絡み~

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。少し皆様にお話が。
実はこれから約1週間、まったくインターネットが使えない状況になりますので、投稿することができません。よって次に投稿するのは大晦日になります。申し訳ありませんがご理解いただけると嬉しいです。

では、第16話、始まります。




前回のラブライ……ではなくてSランクの頂き!

 

俺、キンジ、アリアの三人でゲーセンで遊んでいる中、俺達をつけていたやつがいたから誘い出して話を聞いた。なんでもアリアの戦姉妹(アミカ)らしい。しばらく話していると警戒を解かれ、これから色々と教えてほしいと言われたので了承した。素直で良い子は嫌いじゃない。

さて、今日も頑張りますか!

 

 

 

 

 

ヤア( *・ω・)ノ、零だ……ってなんだ今回の始まりかた!?まぁ良いか、それより……

 

『そーだ!志乃ちゃん!無事戦姉妹(アミカ)契約(けいやく)出来たんだね!』

『はい♡』

『うわー、今日は先輩の引率で身体検査とか、嫌な予感しかしないぜ』

『いいから早く着替える!武偵憲章5条!行動に()くあれ!』

『『『はぁーい』』』

 

「……なんで俺、こんなところにいるんだろう……」

 

女子更衣室の前に立ちながら、俺はそう呟いた。

事は昨日の夜に遡る――

 

「零、ちょっと明日付き合ってくれない?」

「いいけどどうした?」

「明日一年生の身体検査の付き添いなんだけど、零にもついてきてほしいの。アタシの戦姉妹(アミカ)もいるから紹介したいし」

「ああ、あかりちゃんのことか?」

「あれ、知ってるの?」

「ちょっと色々あってな……まぁ分かった、付き合ってやるよ」

「ありがとう、零」

 

――という訳である。

 

「零、お待たせ」

「「「お待たせしました!」」」

 

お、ようやくか。

俺はアリアと並んでいる一年生三人のほうに向き直る。

 

「こんにちは、錐椰先輩」

「ああ、こんにちはあかりちゃん」

 

あかりちゃんと俺が挨拶すると、他の一年生二人が驚く。

 

「「あかり(ちゃん)!錐椰先輩と知り合いなの(か)!?」

「えっ?うん、そうだよ。昨日ちょっとした事があって、その時にね」

「へぇ~、あかりがね……あ、申し遅れました!あたしは強襲科(アサルト)一年、火野ライカです!」

「ああ、よろしくね」

 

金髪のポニーテールの子が俺にそう言って手を出してくる。うん、この子も良い子だな、常識人っぽいし。

 

「私は探偵科(インケスタ)一年、佐々木志乃です。以後お見知りおきを」

「ああ、こちらこそよろしく――」

 

こちらも手を出してきたので手を差し出すと、恐ろしいくらい強い力で握ってきた。イテェッ!

 

「あかりちゃんに手を出したらどうなるか知りませんからね」ボソッ

 

こ、こぇ~!何この子、超怖いんですけど!なんか顔が白雪が黒雪に変わったときのような表情だし!

 

「アンタ達!そんなことしてないでさっさと行くわよ!零も早く!」

 

アリアがそう言ってようやく手を離してくれた。まだヒリヒリする。

 

「どうかしたんですか、錐椰先輩?」

「なんでもないよ、あかりちゃん……」

 

これ以上喋るとまたやられそうだ、大人しくしておこう……

 

 

 

 

 

「最初は身長から測定するわよ……と言いたいところだけどもう終わってるから次に行くわよ」

「「「えっ?」」」

 

アリアが身長測定は終了していると言うと、一年三人が驚く。

 

「あの、アリア先輩。終わってるってどういうことですか?」

「それは零がもう測定したからよ、()()()

「「「えっ!?」」」

 

先程よりも驚いている三人。仲良いんだな。

 

「あの、錐椰先輩。本当ですか!?」

「ああそうだよ。火野は165、佐々木は155、あかりちゃんは139だ。ちなみにアリアは142」

「アタシのは言わなくていい!」

 

そんなやりとりをしていると、

 

「あの、錐椰先輩」

「ん?どうした火野?」

「アタシのこと、名前でいいですよ」

「いいのか?」

「はい、てかあかりのことは普通に名前で呼んでますよね」

「なんかあかりちゃんはその方が良いと思ったからね」

「あ~、それなんとなく分かりますね」

「それどういうこと!?」

「まあ分かったよライカ」

「はい!」

「えっ!?あたしのことスルー!?」

「大丈夫ですよあかりちゃん!あかりちゃんのことはしっかり私が見てますから!」ギュー

「あ、ありがとう志乃ちゃん……でも苦しいよ」

「アンタ達何やってるのよ!」

 

……カオスだ……

 

 

 

 

 

「次は視力検査をするわよ。全員構えて」

「「「はい!」」」

 

俺達が来たのは狙撃科(スナイプ)棟。ここでは視力検査をしている。ただが、ここでは視力検査の為に使うのは狙撃銃(ライフル)。いかにも武偵校って感じがするな。

 

「えっと……右?」

 

それを傍で見ている俺だが、あかりちゃんは狙撃銃(ライフル)を構えている時に口を開けるクセがあるようだ。佐々木なんかそれ見てトリップして視力検査に集中してないし。

 

「下」

「じゃあこれは?」

「左ナナメ上」

 

一方、ライカは順調にアリアが指したものを答える。目がいいようだ。

そして次に向かったのは通信科(コネクト)。ここでは聴力テストを行っている。ただ、ここでも普通とは違う。

 

「足音……5人?」

「聴音弁別OK、次行くわよ」

 

このように、音から何をしているのかを聞き取るテストだ。しかしライカは耳も良いらしい。あかりちゃんは混乱しているようだ。

 

 

 

 

 

こうして順調に身体検査を進めていって、残りはあとひとつ。

ここまでのことを考えるに、ライカはとても優秀だ。佐々木はまあまあといったところか。あかりちゃんは……ファイトだよ!

 

「あれ?ここは……」

 

あかりちゃんがそう呟いた。目の前にあるのは強襲科(アサルト)の別館だ。

 

「最後のはなんッスかー?」

「ふふっ、武偵高名物、運動神経測定(マッスル・リベンジャー)。恒例行事みたいなものよ」

 

そう言って中に入ると……

 

「女の子の部屋みたいな……訓練室(モックアップ)ですね」

 

そう、今佐々木が呟いたように、ここは室内を想定した格闘戦(CQC)をする場所だ。

 

「ここでの検査は引率をさせられた2年のストレス解消も兼ねてるのレポートもちゃんとつけるからね」

「2年の……ってことは、錐椰先輩もですか!?」

 

そう言って慌てるライカ。

 

「そんなことしたら一年の評価全部最低ランクになるじゃないか。俺は見学だよ」

「そう、零はただの見学よ。相手はアタシ一人。普通は1対1なんだけど……」

 

そう言いながら、アリアは武器を構える。

 

「――面倒くさいから3対1でいいわよ?」

「――なめやがって!」

 

ライカが武器を構えたのを合図に他の二人も構えてアリアに襲い掛かる。

だが、アリアもSランク武偵。一年三人くらい、余裕を もって相手できる。

そのまま押され始めた一年。だがライカが身長差を活かし、アリアを後ろから捕まえる。

 

「今だあかり、志乃!上下!」

 

ライカが言ったとおりにあかりちゃんが銃――俺達のトラウマ、マイクロUZIでアリアの頭に標準を定め、佐々木が刀で足を狙う。

 

「――やるわね」

 

アリアはそう呟いた後、後ろにいるライカの顔面に肘を入れ、怯んだ際にライカの顔面を掴んで引きずる。

その時にあかりちゃんの銃に掌底を入れ、あかりちゃんの方に銃口が向いた。めっちゃ驚いている。

しまいに佐々木の刀を足で踏みつけ、動かないようにした。

 

――キーンコーンカーンコーン……

 

「あ~あ、もう終わりか」

 

アリアはそう言って、武器を仕舞う。

 

「アンタはちょっと素質あるわね」

「ちぇっ……」

 

アリアがライカにそう言うと、ライカは悔しそうに舌打ちする。

 

「アリア、終わったから帰って良いか?」

「ええ、ありがとう零。お疲れ様」

「ああ、それと……」

 

アリアに一年三人に聞こえないように喋り、俺は強襲科(アサルト)の別館を後にした。

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideあかりー

 

「はぁ……手も足も出ませんでしたね」

「ありゃチートだぜ」

「悪いレポート書かれちゃったんだろうなぁ」

 

あ、どうもm(__)mペコリ。あかりです。今あたし達は強襲科(アサルト)のプール併設女子浴場にいます。二人ともスタイル良いなぁ……

ってそれよりさっきの事。きっと悪いレポート書かれちゃったんだろうなぁ……錐椰先輩も何か言っていたようだし……

 

「そうでもないわよ」

 

あたしが考えているとアリア先輩が入ってきた。

 

「Bプラスってとこね。あなたたち三人、とても息が合ってたから最後はちょっと本気出しちゃった。これからもいいチームでいなさい?」

「「「はい!」」」

 

その言葉を聞いて、あたし達は喜ぶ。

 

「それと零から伝言を預かっているわ」

 

えっ!?錐椰先輩から!?

 

「まずはアンタから。『ライカ、お前は全体的に優秀だ。だがもう少し作戦を練ることを覚えろ。ライカくらいなら一年の中で負けることは少ないと思うが、その中でも頭を使え。そうすればもっと伸びるはずだ』」

「成る程……勉強になります」

 

ライカが興味深そうに聞いている。

 

「次にアンタ。『佐々木、お前はもう少し積極的に行動しろ。刀を使っているのに後手に回るような感じだったぞ。後、()()のことばかり見てないで戦闘に集中するように』」

「は、はい。分かりました……」

 

志乃ちゃんも真面目に聞いている。でも特定のことって何?

 

「最後にあかり」

「はい!」

 

あ、あたしの番だ。一体どんなことを言ったのだろう……

 

「『ファイトだよ!』」

「ナニソレ、イミワカンナイ!」

 

錐椰先輩の言葉に、あたしはそう叫んだ――




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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17話~イラ☆からのグシャ!

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。
一週間の内にかなりの作品がでてましたね。流石は冬休みといったところでしょうか。読者としての自分にとっては嬉しいのですが、作者としての自分としては複雑な心境です。

それでは今年最後、第17話、始まります。




伝家の宝刀、炸裂!?


ーsideあかりー

 

「とぉーう!」シュッ

「甘い!」スッ、ドカッ

「キャフン!」バタッ

「もう、あかりってば本当にドジね」

 

イタタ……あ、どうもm(__)mペコリ、あかりです。今あたしは強襲科(アサルト)でアリア先輩とCQC訓練を行っています。

それにしてもアリア先輩強いなぁ~、あたしも頑張らないと。

 

「ギブギブギブ!負けを認める!」

 

と意気込んでいると、なにやら声が聞こえてきたのでそちらを見てみると、ライカが男子生徒相手に寝技でギブアップを奪っていた。

 

「ライカカッコいい!」ヒョコッ

(すぐに起き上がった、あかりってば、体力だけならAランクね……)

 

アリア先輩がなにか考えているようだけど、あたしはそれに気づかずにライカを見ていた。

 

「クソ!男女め!」

 

その男子生徒は悪態をつけながら去っていく。ああいうのを負け犬の遠吠えっていうんだよね……

 

「ふん、アタシに勝てると思っているなら大間違いだっての」

 

汗一つかいてない状態のライカ。本当に楽勝だったのだろう。

 

「――なら、次は俺とやろうか?」

 

――え?今の声って……

 

「(*´∀`)ノヤァ、ライカ。随分勝っているようだな」

「あ、錐椰先輩……」

 

声のした方を見ると、錐椰先輩がライカに向かって歩きながら声を掛けていた。

 

「き、錐椰先輩とですか?無理が過ぎますね……」

「まあそう言わずに。ライカもコイツらとやっても暇だろ?少し稽古をつけてやる。それにどれくらいの実力か見ておきたいからな」

「そ、そうっすか。なら……」

 

そう言って構えるライカ。それに対して錐椰先輩は何も構えない。

 

「ルールは打撃武器OK、ライカが俺に有効打を当てるか、俺がライカの背中を地面につけるかということで勝敗を決めるが、良いか?」

「はい」

「なら……スタートだ」

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

ライカが錐椰先輩に近づいて鋭いローキックを放つ。だが錐椰先輩はその場から動かずに蹴りが体に当たる瞬間に足を引いて受け身をとる。

ローキックを放った後、今度はハイキックで頭を狙う。が、腕でブロックされ、少し後退する。

 

「錐椰先輩からは仕掛けてこないんっすか?」

「言ったろ?お前の実力を見たいって。最初は様子見だ」

「そうっすか、なら遠慮なく!」

 

そう言ってライカは背中からトンファーを取りだし、錐椰先輩に殴りかかる。だが……

 

「中々良い動きだな」

「焦ることなく避けたり受け流したりされながらだと、説得力皆無ですね」

 

そう、錐椰先輩はほとんどその場から動かずにギリギリで躱したり、受け流したりしている。

 

「クッ……ハァッ!」

 

そのことに徐々に焦りだしたのか、ライカの攻撃が少し単調になった。

そこを錐椰先輩が見逃す訳がない。攻撃を素早く受け流し、ライカを大内刈(おおうちがり)で倒そうとする。

 

「――甘いっスよ!」

 

――でた!ライカの得意技!足技を躱してからの投げ。そのまま投げきって寝技に移行すれば……

 

「甘いのはどちらかな?」スッ

 

く、空中で切り返した!?もう投げられる寸前だったのに!

 

「中々良かったぜ、また相手してやるよ」

 

着地した後、錐椰先輩は右手を前に突き出し、右手を下げた。すると――

カクンッ

 

「……えっ?」

 

ライカの膝が曲がり、後ろ向きに倒れた。

結果、背中が地面についてしまった。

 

「はい、背中が着いたからライカの負けだな」

 

――えっ?今何をしたの?

 

「い、今のは一体……?」

「――洗脳、よ 」

 

あたしがそう呟くと、アリア先輩が答えてくれた。そう言えばアリア先輩と訓練してたんだっけ。忘れてた……

 

「零は今、ライカを洗脳して膝を曲げるようにした。それによってライカが倒れたのよ」

「そ、そんなこと出来るんですか!?」

「出来るからしたんじゃないの」

 

す、凄いなぁ。流石は錐椰先輩、規格外だ。

 

「――へ、男女が負けたぜ!ざまぁないな!」

「今まで勝ってたからっていい気になってやがって、調子に乗ってるからだよ!」

「男女から戦闘を取り除いたら、一体何が残るんだろうな~?」

 

――勝負が終わった後、見ていたギャラリーからヤジがとんできた。ライカがその声を聞いて、顔が赤くなり、ペタンと座りこんだ。

 

(こ、この男子ども、いい加減に――)

 

「――おい、今喋った奴、前に出てこい」

 

と、その時、錐椰先輩が低い声でギャラリーの方へ喋った。見るとその顔は無表情だが、明らかに殺気立っている。

ギャラリーもそれを見て静かになった。だが誰かが出てくる様子はない。

 

「へぇ、シラを切るってか。ならば仕方ないな」

 

そう言って錐椰先輩は()()()()を口にした。

 

『錐椰零の名の下に』

 

ーsideあかりoutー

 

 

 

 

 

ーsideライカー

 

つ、強い……流石は錐椰先輩だぜ……

あ、よう皆!(*´・∀・)ノライカだぜ!……え?お前もかって?細かい事は気にするなって!

しかし、やっぱり負けたか~。まだまだだなアタシも。

 

「――へ、男女が負けたぜ!ざまぁないな!」

「今まで勝ってたからっていい気になってやがって、調子に乗ってるからだよ!」

「男女から戦闘を取り除いたら、一体何が残るんだろうな~?」

 

――アタシがそう思っていると、見ていたギャラリーからヤジがとんできた。

 

『男女』

 

それがアタシが男子から呼ばれているアダ名。女なのに男子くらいの身長があって、態度も男子っぽいからそう呼ばれるようになった。

それに対して、アタシは何とも思っていない……訳ではない。アタシだって女子だから、そう言われると傷つく。まして集団で言われたんだ。とても悲しいし、つら い。

アタシはその場で座り込んでしまった。そのまま泣き顔を見られたくなくて顔を隠した。すると――

 

「――おい、今喋った奴、前に出てこい」

 

――錐椰先輩が低い声でギャラリーの方へ喋った。顔を上げて見ると、その顔は無表情だが、明らかに殺気立っている。

ギャラリーもそれを見て静かになった。だが誰かが出てくる様子はない。

 

「へぇ、シラを切るってか。ならば仕方ないな」

 

そう言って錐椰先輩は一呼吸おいた。

 

『錐椰零の名の下に』

『嘘つき狼に洗脳を』

 

すると、

 

「え……ちょっと待てよ!」

「な、何だってんだよ!」

「か、体が勝手に……」

 

ギャラリーの中から三人の男子生徒が出てきた。あ!真ん中の奴、さっきアタシに負けた奴じゃん!

 

「お前らだな」

 

錐椰先輩は依然として低い声のまま、男子生徒に喋りかける。

 

「そ、それがどうしたってんだよ!」

「「そうだそうだ!」」

 

アタシに負けた奴……面倒くさいから負け犬って呼ぼう。負け犬は開き直ったように言う。それに便乗して他の二人も言う。

 

「まず聞きたいことがあるが、『男女』ってどういう意味だ。あからさまにライカが嫌がっているようだが?」

「男子っぽいし、可愛げがないからそう呼んでんだよ!」

「それに男子にも勝つくらいだからな!ますます『男女』だぜ!」

「そうだ!『男女』って呼んで何が悪い!」

 

その言葉を聞いて、アタシの心がいたむ。

 

「へぇ、成る程ね……要するにただの負けた腹いせか」

「「「なっ!?」」」

「だってそうだろう?男子より強いからそう呼んでるって、ライカに負けた腹いせじゃなかったら一体何なんだ?女々しい奴らだな、ライカが『男女』であるんじゃなくてお前らが『女男』なんじゃないか?」

 

そう言われた男子生徒三人は怒りのあまり、顔が赤くなっている。

 

「それに、ライカが男っぽい?俺にはただの美少女にしか見えないけどな」

――え?ちょっと待って、今なんて……

 

「あ、あの、錐椰先輩?」

「ん?どうしたライカ?」

「今あの、アタシのこと美少女って……」

「ああ、それが?」

 

錐椰先輩は当たり前みたいな顔でそう言った。

――え、えっと、つまり錐椰先輩はアタシのこと美少女って思っているってことになる……よな?そんなこと言われたことないから心の準備が……///

 

ーsideライカoutー

 

 

 

 

 

ーside零ー

 

( *・ω・)ノヤァどうも、零だ。なんかライカが顔を赤くして俯いているが、何でだ?

まぁいいや、と俺は思い、目の前にいる負け犬達を見る。

 

「さて、お前達、覚悟出来てるんだろうな」

「は?なんの覚悟だよ」

 

分かんないのかコイツら。

 

「ライカを傷つけたことを謝罪しろ」

「はあ?何で謝んなきゃいけないんだよ!」

「もう一度だけ言う、謝罪しろ」

「断る!なんでそんなことしなきゃいけないんだよ!なぁお前ら!」

「「そうだそうだ!」」

 

……ほう、成る程ね。それなら――

 

「どうしても謝りたくないんだな」

「ああ、そうだよ文句あっか!」

「ならば仕方ないな、しばらく痛みに悶えてな」

 

俺はそう言って、負け犬の目の前で()()()()()()()()()

 

「――え?」

(かかと)落とし!」グシャ、ドサッ

「「……えっ?」」

 

負け犬についていた二人がそろって負け犬をみる。負け犬は痛みのあまりに声もでない。

 

「さて、残るのはお前ら二人だが――」

「「すみませんでしたぁ!」」

 

俺が残る二人を見た瞬間、二人はすぐにライカに向けて土下座した。ちなみにもう洗脳は解除してある。

後知ってるか?土下座って額をつけたら『五体投地』っていう別のものになるからつけたら駄目なんだぜ?

 

「「これから二度と言いません!許してください!」」

「あ、うん、いいよ」

「「有り難うございます!それでは!」」スタタッ

 

ライカに許された二人は、物凄いスピードで帰って行った。

 

「あ、あの、錐椰先輩!」

「ん?どうしたライカ?」

「ありがとうございました!」

 

そう言ってライカは頭を下げてくる。

 

「別にいいって、ああいうのが嫌いだからやっただけなんだからさ」

「でもそれじゃアタシの気がすまないんです!何でもするんで言ってください!」

 

そう言ってくるライカの必死さを見て俺は思わずライカの頭を撫でた。

 

「可愛いな、お前」

「ファッ///」

 

ん?また赤くなった。何でだ?

 

「れ~い~!」

「き~り~や~せ~ん~ぱ~い~!」

 

――ゴゴゴゴゴゴッ

 

\(゜o゜;)/ウオッ、なんかアリアとあかりちゃんが近くに来たと思ったら怒ってる!なんでだ!?

 

「一体どういうことよ!」

「ですか!」

「え、えーと、何のこと?」

 

取りあえず怒ってる理由を聞こうとするも、

 

「「なんでそんなにだらしないのよ(ですか)!」」

 

うん、全く分かんない。超意味不明ですね。

まぁこのままでは何か知らないけど戦姉妹(アミカ)揃って怒られることになりそうなので……

 

「じゃあな!」シュンッ

「「ああ、逃げた!」」

 

さっさと逃げる。コレダイジ。

そうして俺は強襲科(アサルト)から出ていった。

 

 

 

 

 

しばらくして、

 

「ア、アタシが美少女……可愛い……エヘヘ///」

 

ライカは零から言われた言葉に喜んでいた。




零「(きり)()(れい)と!」
アリア「神埼・H・アリアと!」
キンジ「遠山キンジの~」
零・アリア・キンジ「「「Q&Aコーナー!!」」」
キンジ「ってなんだこのコーナー!?いつもの後書きどうした!」
アリア「なんでも今年最後なのと、お気に入り200突破を記念して今回はこのコーナーをするんだって」
零「お気に入りしてくれた方々の人と、この作品を読んでくれた方々の人には本当に感謝しています」
キンジ「おいアリア、なんか零の様子がおかしいぞ」
アリア「なんでも今回は作者不在だから代わりに質問などに答えるんだって」
零「そういうこと」
キンジ「そうなのか……まぁ良いや」
アリア「それでは早速一つ目の質問!」

『この作品いつになったら原作に追い付くんですか?』

零「追い付かない(即答)」
キンジ「おい!?」
零「いや、だってさぁ、今3日に1話のペースじゃん?ていうことは1ヶ月に10話のペースってことになるから、小説のサイクルの5ヶ月だと50話になるってことになる。今の進行状況だと確実に50話以上になっちゃうんだよね~」
アリア「ぶっちゃけたわね……でもオリキャラとか番外編とか色々考えているんでしょ?」
零「そうなんだよ、だから少しづつ削りながらも違和感のないように、かつ早くできたら良いなってところだな」
キンジ「ちゃんとしろよ」
零「モチロンサァ」
キンジ「最近聞かなくなったよな、ソレ」
アリア「メタ発言は控えなさいよ」
零「てか俺の今の状況ほとんどメタだけどな」
キンジ・アリア「「それでは二つ目の質問!」」
零「スルーするな!」

『なんで零は白雪(黒雪)を苦手とするんですか?零の実力なら倒すのは楽なのでは?』

キンジ「らしいぞ零」
アリア「確かにアタシも気になっていたのよ」
零「いや、今の状況じゃアリアまだ白雪に会ってないからな?」
アリア「後書きだからなんでもいいのよ」
キンジ「駄目だろ後書きでも……」
零「まあいいや……ええと、なんで俺が()雪を苦手とするかっていうと、本編でも出てきたように、キンジに女子絡みのジョークを言ったら恐ろしい顔をしてきたからだ。あれは俺でも怖かった」
キンジ「零でも怖かったのか」
零「ソレだけじゃない」
アリア・キンジ「「えっ?」」
零「その翌日からキンジが何をしているかとか、キンジが何食べてるの?とかそういったメールが一分ごとに送られて来たんだ。それも一週間続けて」
キンジ「えっと、その……なんかスマン」
零「しかも出歩こうとしたら靴に画ビョウ入っているし、メール見たくないから携帯の電源切ったら矢文で来るし、しかも俺の顔面スレスレ。一体どこから打っているのか俺でも分からん」
キンジ「ギャグ補正ってやつだな」
零「メタ発言すんなし」
アリア「えっと……大丈夫?ハヤt……じゃなくて零?」
零「ああ……てか今アリア違う人の名前呼んだよな?それもとびきり不幸な執事の名前を」
アリア「中の人繋がりでつい……」
キンジ「アウトー!」
零「まあそんなことで()雪を苦手としているということ。俺は女子相手にはあまり手を出したくないからこちらからは何もしないし怒らない訳」
アリア「そういうことだったのね」
キンジ「お、次でラストみたいだな」
アリア・キンジ「「それでは最後の質問!」」
零「どうぞ!」

『零の(かかと)()としは一体どれだけの力なんですか?』

キンジ・アリア「「……」」
零「おい、なんで二人とも黙っているんだよ?」
キンジ「だってお前の(かかと)()とし、バカみたいに痛いんだぞ」
アリア「アタシはやられたことないけど、12才の時に犯罪者相手にした時のことで相手が凄くカワイソウに思えたわ」
零「ああ、そういったこともしたなぁ……まぁ本気じゃないんだけどな」
キンジ・アリア「「えっ!?」」
零「だってそうだろう?『気絶しないギリギリの強さ』なんて本気でやって出来ると思うか?そこら辺は調整してやっているよ」
アリア・キンジ「「ちなみに本気でやると?」」
零「銀行の時にやった回転式踵落とし(サイクロン・ヘルヒール)と同じ威力になる」
キンジ・アリア「「……えっと、じゃあ回転式踵落とし(サイクロン・ヘルヒール)の本来の威力は?」」
零「形容し難い謎の物体になるな、人間が」
キンジ「……Q&Aコーナー、そろそろ終わりが近づいてまいりました」
零「ちなみに踵落としにはもう一つ、威力が段違いなやつがあるぜ?」
アリア「……もしこれからも質問などがありましたら、このコーナーを開くかもしれません」
零「現実逃避したなこの二人」
キンジ・アリア「「それでは、良いお年を!」」
零「ごきげんよう~(´・ω・`)/~~バイバイ」
キンジ・アリア「「(´・ω・`)/~~バイバイ」」


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18話~カルテット・前編~

キンジ「新年明けまして……」
零・アリア「「Happy new year!」」
キンジ「セリフかぶせんな!後俺が日本語で言っているのに何で英語なんだよ!」
アリア「だってアタシ達イギリス人の血が流れてるんだし、仕方ないじゃない」
零「それにキンジは絶対日本語で言うから英語で言ったら面白いじゃんか」
キンジ「何が面白いんだよ……」
零・アリア「「お前(アンタ)の反応」」
キンジ「もうやだこのパーティー……」
零「それはそれとして、今年も『Sランクの頂き』をよろしくお願いします」
キンジ・アリア「「よろしくお願いします」」
零「それでは早速今年初、第18話」
キンジ・アリア「「始まります!」」

アリア「今回もキンジは出ないみたいよ?」
キンジ「キンジーチカおうち帰る……」
零「キンジ、ドンマイ。後キモいから止めろ」
キンジ「酷すぎる何この扱い!」


(*´∀`)ノヤァどうも零だ。強襲科(アサルト)でライカのことについてあった事件から数日が経ったが、色んなことがあった。

まずランドマークタワー事件、CVR科のインターンの武偵一人が誘拐されたのだが、あかりちゃん・ライカ・佐々木の一年生コンビで解決したらしい。アリアに聞くと間接的に手伝ったって言ったが。

次にライカの戦姉妹(アミカ)契約のこと。これはランドマークタワー事件の時に助けた奴がライカを戦姉にすると言ってきて、色々な事があって結局戦姉妹(アミカ)になったってこと。

えっ?俺のことはって?俺はここ数日の間は戦姉妹(アミカ)契約申請してくる女子達を相手してただけだ。数十人来たが全員戦姉妹(アミカ)にはしなかったよ。相手してたせいで全然強襲科(アサルト)に寄れなかったが。

さて、今俺とアリアは体育の時間が終了して着替えに戻っているんだが……何か、教務科(マスターズ)の前で言い争っている声が聞こえてきた。

気になったのでアリアと一緒に行ってみると、いつもの一年生コンビと――何か一人増えている。

その子の容姿は背はあかりちゃんより小さく、 どこか理子を思い出させるロリータファッション。(あお)い瞳に茶髪をロングヘアーにしていて、『お人形さん』というイメージがある。この子がライカの戦妹かな。確か(しま) 麒麟(きりん)って言ったかな?

対するは……あ、俺に戦姉妹(アミカ)契約申請してきた子だ。確か高千穂(たかちほ) (うらら)って言う子だ。

身長はライカと同じ……いや、ハイヒールはいてるから実際の身長は分からないが、スタイルは良い。金髪ロングヘアーで髪の毛の先にウェーブをかけている。制服は東京武偵高ではあまり見ないロングスカートだな。体を護れる部分が広がるから教務科(マスターズ)からは推奨されてるが。なんで皆ロングスカートにしないんだろう?

高千穂の後ろにいるのは……双子だと一瞬で分かるアホ毛の二人と……おい風魔、なんでお前がそっちにいる。

 

――風魔(ふうま) 陽菜(ひな)

黒髪のポニーテール(本人はチョンマゲと言っている)である有名な忍の末裔らしい。ただし赤貧で、学校の授業料なども滞納して生活費をやりくりしている。ちなみにキンジの戦妹で、中学の時の後輩らしい。『修行』と言えば何でもやってくれるので、報酬の代わりに戦兄妹(アミカ)になってるということだ。

 

「アンタ達!教務科(マスターズ)の前で何やってんの!」

 

アリアが忠告すると、全員がコッチを向いた。その中で高千穂が凄く驚いた顔をしていた。

 

「それじゃ、本番をお楽しみに」

 

そう言って高千穂達はそそくさと帰っていった。後に残ったのは……

 

「絶ッッッッッ対に許さないんだからぁ!」

 

何故か頭にクレープがついているあかりちゃん達だった。

 

 

 

 

 

「成る程ね……カルテット(4対4戦)、か」

 

場所は食堂に移り、さっきのことについて事情を聞いた。なんでもカルテットの相手が高千穂達で、そのことで一悶着(ひともんちゃく)あったらしい。

カルテットと言うのは一年生全員参加の4対4の実践テストで、インターンも混ぜていいものだ。

 

「仲間をお金で雇うなんてズルい!」

「あかり、アンタ 敵の傭兵に殺されてもあの世でそう言うの?」キッ

「アリア先輩……でも~でも~」ジワッ

 

あかりちゃんが高千穂がお金で風魔を雇ったことに不満を言うも、アリアに怒られて涙目になっている。

 

「対策を教えてあげたいけど、アタシ転入生だからその試験やった事ないのよねぇ。零はどう?」

「おいおいアリア、俺も転入生だぞ?とはいえ……カルテットは簡単に言えばチーム戦だろ?だったら教えることはできるな」

「「本当ですか!」」

 

俺ができると言ったら、あかりちゃんとライカが食い付いてきた。信頼されてるのかな?

 

「さっきから思っていたんですけれど、そこにいる殿方は一体誰なんですの?」

 

麒麟(きりん)ちゃんが言ってきた。そういや名乗ってなかったな。

 

「ああゴメン、俺の名前は錐椰 零だ」

「錐椰 零……ってええ!?あの『紅電』のですの!?」

「ああ、そうだよ」

 

俺が名乗ると、麒麟(きりん)ちゃんはかなり驚いていた。この感じ久しぶりだな。

 

「そ、そうでしたの……これは失礼しました。でも、ライカお姉様は渡しませんの!」

「ブッ!ちょ、ちょっとおい麒麟(きりん)!」

 

渡す?一体どういうことだ?何かひどくライカが慌てているが……まあいいや。

 

「それで?修行する場所はどこにするんだ?」

「そうでした。合宿場所を借りないと……」

 

そう言って麒麟(きりん)が探し出すが、ライカが首を横に降る。

 

「ダメだ、武偵高の合宿施設がすべて高千穂の名前で借り占められてる」

「な、なんてお金持ちなの……」

 

うわぁお、そこまでするか普通。

 

「それなら――私の家を合宿場として提供します」

 

とそこで、佐々木が立ち上がって案を出した。

 

「高千穂家には負けません!……錐椰先輩は家から通って下さいね」

「ハイハイ」

「後、あかりちゃんに何かしたら承知しませんからね」ボソッ

 

……前途多難だな。主に佐々木(コイツ)のせいで。

 

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideあかりー

 

「おお……大きいな……」

 

あたし以外の皆が驚いている……まぁ、あたしは一回来たことあるから驚いていないんだけど。

あ、どうもm(_ _)mペコリ。あかりです。高千穂さんと一悶着あった翌日、あたしとライカと麒麟(きりん)ちゃんと零先輩と妹であるののかと一緒に志乃ちゃんの家の前にいます……て、

 

「何でののかも来るの~?」

「お姉ちゃん外泊が多いからチェックも兼ねて来たの」

 

――間宮 ののか。

あたしの妹で、身長はあたしと同じくらい。あたしと同じ紫色の瞳に、あたしとは違う黒髪を肩くらいまで伸ばしている。

 

「あかりちゃんに妹がいるとはね、知らなかったよ」

「あ、錐椰さんですね。お姉ちゃんからいつも話を聞いてます。いつもお姉ちゃんがお世話になっています」

 

――そしてこういう風に気の聞く子で、あたしの自慢の妹です……て、

 

「ののか、そんなことは言わなくていいの!」

「え~?だってお姉ちゃん、いつも錐椰さんの話ばっかりするんだもん。『錐椰先輩にこういうこと教わったんだ~』とか、『錐椰先輩に褒められた~』とか。あと他にも――」

「わぁーーー///!!」

 

何で言うのののか!そんなこと言ったら錐椰先輩にバレちゃうよ///!

 

「へぇ、そうなんだ。ところで早く入らない?佐々木も待っていることだし」

 

……そうだった。アリア先輩に聞いたけど、錐椰先輩鈍感だった……そのくせアメリカにもいたせいか、女子のことを恥ずかしがらずに誉めるし。天然の女たらしだ。

 

「何か今凄く失礼なこと考えてないか?」

「き、気のせいですよ。それより入りましょう」

 

そう言って玄関に入るあたし達。

 

「皆さんようこそー」

「「「「「お邪魔します」」」」」

「佐々木 志乃さんですね」

「あっ、はい」

「姉がお世話になっています」ペコリ

(し、姉妹丼!)クラッ

 

……ののかが志乃ちゃんに挨拶したら志乃ちゃんが倒れたけど、大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

ののかが帰っていった後、皆でオーディオルームに行き、志乃ちゃんから説明を受けていた。

要約すると、今回のあたし達の競技は『毒の一撃(プワゾン)』と呼ばれるもので、それぞれハチとクモの描かれた攻撃フラッグを持つ。

そして双方のチームが守るべきフラッグもあり、それには目が描かれている。これを誰かの攻撃フラッグで先にタッチしたチームの勝ちになる、というものだ。

試験場は武偵高第11区全体で、区内にあるものは何を使ってもOK。あたし達は南端から、高千穂班は北端からスタートする。

 

「シンプルだねぇ」

「だな」

 

あたしが単純だと思い、ライカがそれに賛同する。

 

「……でも、隠匿(いんとく)・強襲・逃げ足・チームワーク――色んな能力がためされますわ」

 

――だが麒麟(きりん)ちゃんはこの競技の目的をしっかりと捉えて発言した。うう、あたし達の方が年上なのに……

 

「錐椰先輩、ここまでで何か対策は考えられましたか?」

 

志乃ちゃんが錐椰先輩に意見を聞こうとする。

 

「――ダメだな」

 

が、返ってきたのはダメという一言。

 

「な……何がダメなんですか!」

 

それに対して志乃ちゃんが怒った。ただ競技の説明をしただけなのに何で言われたのか分からないのだろう。

 

「佐々木、お前は探偵科(インケスタ)だったよな?ならなんで相手チームの説明をしない?なんで相手チームの情報を調べない?『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』っていう言葉を知らない訳ではないよな?」

「そ、それは……」

 

錐椰先輩の言葉に志乃ちゃんが言葉を詰まらせた。

 

「佐々木、お前が俺のことを嫌っているのは分かる。だけどこれだけは言わせてもらう。お前の将来のためにな――情報戦を侮るな。相手の得意・不得意、癖・特徴・武器の種類や数、性格や容姿まで、どれか一つだけでも重要な情報となり、そこから対策を練ることができる。それをしないのは、相手に『どうぞ、好き勝手やってください』って言ってるようなものだぞ」

「……」

 

錐椰先輩の言ったことに対して、志乃ちゃんは真面目に聞いている。

 

「だから情報は集められるだけ集めろ。分かったか?」

「はい……あの、錐椰先輩、ありがとうございます」

「おう」

「……錐椰先輩を見る目、変えないといけませんね」ボソッ

「ん?なんか言ったか?」

「いえ何も」

 

錐椰先輩が最後まで言うと、志乃ちゃんがしっかりお礼を言った。そのあと何か呟いていたけど、何を言っていたのだろう?

 

「では、早速調べてきますね」

 

そう言って志乃ちゃんは何処かへ行こうとするが、

 

「ああ、もう調べなくていいぞ?」

「「「「へ?」」」」

 

錐椰先輩が言った言葉に皆が驚いた。

 

「あの、錐椰先輩、一体今のはどういう……」

「高千穂 麗。強襲科(アサルト)一年、Aランク。父親が武装弁護士で、高飛車でサディストな性格。携帯している武器はスタームルガー・スーパーレッドホーク、フェンシングのフルーレ。性格と相手のチームバランスを考えて、多分双子を囮に使い本命は風魔で勝負させにくる。守りは自分一人でどうにかなると考えるだろう」

 

そのことを聞いてあたし達は唖然とした。

 

「え、えっと、錐椰先輩?」

「ん?どうしたあかりちゃん?」

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

 

誰で勝負させるとか、一体どうやって分かるの?

 

「今までの経験則も含めているが……風魔は諜報科(レザド)で隠密行動には馴れてるし、こちらの一番の戦力であるライカは強襲科(アサルト)強襲科(アサルト)の奴らは諜報科(レザド)狙撃科(スナイプ)の奴らとは相性が悪い。そう言うのも含めると、さっき言ったパターンが一番確率が高い」

 

な、成る程……凄い分析力だ。

 

「後、高千穂は鳥取出身」

「それ関係ありますか!?」

「鳥取出身って言うと何かキョドる癖があるから意外といいぞ?」

 

そ、そうなんだ……

 

「さぁ、それを踏まえた上で訓練を始めるぞ」

「「「「はい!」」」」

 

よ~し、絶対に勝ってやるんだから!このチームで!




どうでしたでしょうか?
先に言っておきますけど、作者は別に鳥取を馬鹿にしている訳ではありませんので、あしからず。
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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19話~カルテット・後編~

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。
気づいている方もいらっしゃると思いますが、都合によりランドマークタワー事件と麒麟(きりん)戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)については省略させていただきました。ご了承ください。

それでは、第19話、始まります。

カルテット後編スタート!


ーsideあかり視点ー

 

「それじゃあ、今から訓練を始めるぞ」

「「「「はい!」」」」

 

あ、どうもm(_ _)mペコリ。あかりです。現在あたし達は庭にでて錐椰先輩の訓練を受けようとしています。

 

「まず佐々木」

「はい!」

「お前は対双子対策だ。基本は佐々木とあかりちゃんの二人で攻めてもらうが、道中で双子と戦闘になった時に佐々木が双子と勝負。あかりちゃんはそのまま進み、佐々木は双子を撃破次第あかりちゃんを追ってくれ」

「はい!」

「という訳で……すみませーん!出てきてくださーい!」

 

と錐椰先輩が屋敷に向かって言うと、志乃ちゃんの使用人が木刀を二本ずつ持って出てきた。そして錐椰先輩がどこから取り出したのか、長めの木刀一本を志乃ちゃんに渡す。

 

「佐々木、今からお前には使用人二人相手に勝負してもらう」

「はい、分かりました」

 

志乃ちゃんが返事をすると、錐椰先輩がキョトンとした顔をする。

 

「あの、どうされましたか?」

「いや……意外と素直に受け取ったなぁって思ってさ。てっきり『勝手に指図しないで下さい、このウジ虫が!』って言われるかと思ったから」

「錐椰先輩から見て私ってどんな人ですか!」

 

……何か言い争ってる。でもさっきの時みたいな感じではなく、何か楽しそうな感じだ。志乃ちゃんも笑ってるし。

 

「続いてライカ」

「はい!」

 

錐椰先輩がライカに向き直り、ライカも姿勢を正す。

 

「お前は防御に回ってくれ。さっきも言ったが、あっちは間違いなく風魔で勝負を仕掛けてくる。相性が悪いとはいえ、こっちで風魔に対抗できるのはライカだけだ。できるか?」

「はい!任せてください!」

「良し、ならこれで目を隠せ」

 

そう言って、錐椰先輩がハチマキをライカに渡す。

 

麒麟(きりん)ちゃん。君は今回は連携のバックアップ係になってほしいから、今君に特別なことは教えない。だからライカの特訓相手になってほしいんだが」

「了解したですの!」

「という訳だライカ。今から目隠しした状態で麒麟(きりん)ちゃんの攻撃を受けてもらう。反撃はするな、ただ四方からの攻撃を耐えろ。相手は諜報科(レザド)だ、どこから攻撃が来るか分からないからな」

「分かりました!よし麒麟(きりん)、どっからでも来い!」

「はいですの!」

 

そう言って特訓を始める二人、志乃ちゃんも特訓を始めているし、後はあたしだけだ。

 

「最後にあかりちゃん」

「はい!」

 

一体どんな訓練なのだろう?

 

「取りあえず、屋内いこうか」

「……はい?」

 

 

 

 

 

「あ、あの錐椰先輩。一体何故屋内に来たんですか?」

 

あたしと錐椰先輩がいる場所はさっきも来たオーディオルーム。特訓なら外でやればいいのに……

 

「監視されてたからな」

「えっ!?監視!?」

「ああ、視線的に恐らく望遠鏡か何かで見られていた。高千穂班の奴らだろう」

「そんな視線、まったく感じなかったんですけど……」

「そりゃそうだ。相手との距離はかなり遠い。普通の人なら分からないよ」

 

それって錐椰先輩は人じゃないってことだよね?あ、今さらかな……

 

「何か失礼なこと考えてないか?」

「キ,キノセイデスヨ……」

 

そして鋭い。その鋭さを違う部分にも使ってほしい。

 

「まあとにかく、これからあかりちゃんに教えるのは切り札になるから、相手に見せたくなかった訳」

「はあ……って切り札!?」

 

何それ、凄そう!

 

「ただ、覚えるのはかなり難しい。それでもやるか?」

「はい!やります!」

「よし、じゃあまずは……」

 

そうして、あたしと錐椰先輩との特訓が始まった。

 

 

 

 

 

そしてカルテット当日、あたし達、間宮班と高千穂班は小夜鳴(さよなき)先生から『毒の一撃(プワゾン)』の説明を受けていた。

 

「……使用弾薬は非殺傷弾(ゴムスタン)のみ。まあ頭とかに当たると死んじゃうこともありますけどね」ハハハ

 

小夜鳴(さよなき)先生、それ笑えませんよ。

まあいいや(よくないけど)と思いつつ、あたしは高千穂さんに向き直り、手を差しのべる。

 

「お互い頑張ろう」

 

でも高千穂さんはあたしの手を軽く見ると、持っていた扇子で叩いた。

 

「イタッ……」

「対等なつもり?不愉快だわ」

 

そう言って扇子で扇ぎ始める高千穂さんとそれを睨むあたし達。剣呑な雰囲気だ。

 

「はいはい、それでは間宮班は南端、高千穂班は北端へ。10分後に試合開始です」

 

そんななか、小夜鳴(さよなき)先生がパンパンと手を叩きながらあたし達に移動を促す。それを聞いて、あたし達は移動する。

よぅし、絶対に勝ってやるんだから!

 

 

 

 

 

「作戦を確認します。攻撃は間宮様と佐々木様、守備はライカお姉様と(わたくし)が受け持ちます」

 

場所は移り11区の南端。ここであたし達は装備を整えて麒麟(きりん)ちゃんの話を聞いている。

 

「間宮様、敵は『目』をロッカーなどに入れて鍵をかけるかもしれません」

「うん、汎用の解錠(バンプ)キー持ってきたよ」

「では あかりさん、行きましょう」

「うん」

 

あたしは志乃ちゃんと一緒に北端へと向かった。

 

 

 

 

 

「奥に行くにはこの先の通りを通るしかありません。待ち伏せに注意して下さい」

「うん」

 

今あたしと志乃ちゃんは中央通りまで来ている。当然相手もいるはずだ。

そのことを考えつつ、慎重に進んでいく。いつもの街中なのに不気味に見える。一般の人や、武偵高の生徒も通る。

 

「……だよね~」

「アハハ」

 

その中で進んでいくと、二人組の武偵高の女子生徒が仲良さげに喋りながら歩いている。

 

「……志乃ちゃん」

「はい」

 

――その二人組の武偵高の女子生徒があたし達の横を通りすぎた瞬間、あたしと志乃ちゃんは武器を取り出しながら後ろを向いて構えた。

 

「「――なっ!?」」

 

そこにはカツラを取り外してあたし達に攻撃しようとしていた双子がいた。あたし達が気づいていたことに驚いている。

その隙にあたしは二人に向かって発砲する。射撃は不得意だが、流石にこの距離では当たる。そして怯んでいる間に志乃ちゃんが二人をチェーンで縛り付けた。

 

「な、何故だ!?」

「どうして変装を見破った!?」

 

双子はとても驚いている。

 

「錐椰先輩の教えだからね」

 

『佐々木、あかりちゃん、二人は必ず双子に当たるだろう。ただ、相手もバカじゃない。必ず変装してくるはずだ。しかし、武器を使ってもいいルールだから、武偵高の制服のままだと思う。だから武偵高の生徒を見つけたら、まずそいつの目線を追え。まだ一年だから、変装していてもターゲットから目を反らすことは出来ないはずだ』

 

昨日錐椰先輩から教わったことだ。なのでやってみたら、双子は会話しているようにみせてはいたが、目線がこちらに向いていた。なので変装を見破れた。

 

「あかりさん、先に行ってください。私はこの二人を動けなくしてから援護に向かいます」

「分かった」

「絶対に勝ちましょう!」

「うん!」

 

 

 

 

 

さっき麒麟(きりん)ちゃんから連絡があったけど、やっぱり風魔さんが来たみたい。ライカが応戦中だから急がないと……

そう思って北端に来たのでフラッグを探すと、工事現場の土が盛り上がっている天辺に刺さっていた。と言うことは――

 

「お前が来たのね、これも因縁(いんねん)かしら?」

(高千穂 麗……!)

 

土山の向こうから、高千穂さんが出てきた。

 

(わたくし)ね、神崎アリア先輩と錐椰 零先輩に戦姉妹(アミカ)契約をお願いしてたの」

「――ッ!?」

 

えっ!?アリア先輩と錐椰先輩に!?

 

「でも契約試験で(つまず)いちゃって、その後いくら契約金を提示してもダメだった」

 

そうだったんだ……

 

「でも、今は戦姉妹(アミカ)にならなくて良かったと思ってるわ――お前を戦妹(アミカ)にしたり、指導したりするなんて、錯乱されたとしか思えないもの」

 

このっ……!アリア先輩と錐椰先輩を悪く言って……!

 

『挑発されても慌てない。まずはその場で深呼吸』

 

スゥー、ハァー。

 

「……?」

 

……そうだった。冷静にならなきゃ、勝利から遠ざかる。それに()()()も使えなくなる。冷静に……良し。

 

「何だか良く分からないけど、攻めてこないならこちらから行かせてもらうわよ!」

 

高千穂さんはそう言って、ストック付のスタームルガー・スーパーレッドホークを取り出した。確かあれは、44口径マグナム、装弾数6発。なら――

あたしはマイクロUZIで牽制しながら物陰に隠れる。

 

「取り巻きがいないと何もできないとでも思ったのかしら!?」ドンッ、ドンッ

 

高千穂さんがそう言いながらあたしの方に向かって発砲してくる。強襲科(アサルト)Aランクとあって、精度が良い。一つ一つに無駄がない。

 

(……今ので二発、時間は……よし!)

 

あたしは物陰で素早く時計を確認して、頃合いだと思い、物陰から走って出てきた。

 

「自分から出てきて、マヌケね!」

 

ドンッドンッ。

それを見た高千穂さんは撃ってくるが、あたしは全速力で走り続けるので、狙いが定まらず、当たらない。

 

(――残り二発!)

 

「この……チョコマカと!」

 

高千穂さんは当たらないことに動揺して、一発検討違いな所に撃った。

 

(……残り一発、ここが勝負どころ!)

 

そう思ったあたしは走るのを止め、高千穂さんと向き合う。

 

「……なんで止まったのかは知らないけど、これで終わりよ!」

 

そう言って引き金を引こうとする。

 

(――今!)

 

あたしは引き金が引かれる瞬間、その場でしゃがみ込んだ。

ドンッという音と同時に風を切る音が真上から聞こえた。

 

「――なっ!?」

 

そのことに関して高千穂さんは凄く驚いている。

 

『もし相手が銃を構えていたら、相手が引き金を引く瞬間、どこを見ているか確認するんだ。目は口よりモノを言う。それでだいたい狙っている場所がわかるさ』

 

これも錐椰先輩から教えてもらったこと。高千穂さんの目を見て、頭部を狙っているのが分かった。だからしゃがんで躱すことができたのだ。

そして今、高千穂さんは驚きのあまり、何もできずにいる。リロードされる前に切り札を使う!

練習の時は成功率は50%、でもここで決めないでいつ決める!

そう思い、あたしは少し笑い、()()()()()()()()()()()

カクンッ

 

「えっ?」

 

すると高千穂さんが倒れこんだ。やった、成功した!今のうちにフラッグを!

そう思って土山に向かう。後ろでは高千穂さんが起き上がろうとしているだろうが、心配はいらない。だって……

 

「――頼んだよ、志乃ちゃん!」

「――はい!」

 

志乃ちゃんが起き上がろうとした高千穂さんをそのまま倒し、拘束していた。さっき時間を確認していたのは、志乃ちゃんからの援護にくる時間を確認していたからだ。

 

「これで……終わりっと」

 

そうしてあたしは攻撃フラッグを『目』のフラッグに当て、カルテットは間宮班の勝利に終わった――

 

 

 

 

 

「では、間宮班の勝利に、カンパーイ!」

「「「「「「カンパーイ!」」」」」」

 

あたし達は今、アリア先輩と錐椰先輩とののかと一緒にファミレスで祝勝会を開いていた。

 

「しっかし、良く勝ったなあかり。高千穂ってAランクだったろ?」

「そうだよライカ、錐椰先輩に教えてもらったことをやったら勝てたんだ!」

「そう言えば間宮様は一体何を教えられたのですの?(わたくし)達はまったく知らないのですけれど……」

「そう言えばそうですね。あかりさん、一体何を教えられたのですか?」

「えーっと、それは……」

 

どうしよう、どうやって説明すればいいか分からない……

 

「口で言うより見た方が早いだろ」

 

と悩んでいると、錐椰先輩がノートパソコン(どこに仕舞っていたの?)を取り出して開き、こちらに向けてきた。

全員でそれを見ると、そこにはさっき(おこな)ったカルテットの動画が流れていた。

 

「えっ?これどうしたんですか?」

「今日暇だったから撮ってたんだよ」

「暇だったって……」

 

それから数分後、そこにいるメンバー全員が驚いた。

 

「おいあかり!一体これどういうことだよ!?」

「そうよ!どういうことよ!?」

 

特にライカとアリア先輩が驚いている。

 

「これって錐椰先輩がアタシ相手に使っていたやつじゃないか!」

 

そう、あたしが高千穂さんに使ったのは、錐椰先輩がライカを転ばせたやつだったのだ。

 

「何であかりが使えるの!?あれって洗脳じゃなかったの零!?」

「取り合えず落ち着け二人とも」

「「落ち着いてられないわよ(っスよ)!」」

 

錐椰先輩が宥めようとするが、二人とも興奮しているのか、まったく落ち着いていない。

 

「あの~、お客様。他のお客様に迷惑ですので、大声はお控え下さい」

「「ハッ……スミマセン……」」

 

店員さんに注意を受けてようやく静まった。

 

「お前ら二人とも勘違いしているようだが、これは別に洗脳ではないぞ?」

「「……えっ?」」

 

二人とも( ゚д゚)ポカーンとしている。

 

「これはな、相手に向かって殺気を当てているんだよ」

「殺気……って、アタシはそんなの感じませんでしたけど!?」

「そこがこの技のポイントだよ。相手に気付かれないように、本能の隅っこだけが捉えられるような殺気を相手に当てるんだよ。そうすることで相手は無意識に怯えてその場に座り込む。それが急激すぎて、そのまま後ろに倒れこむってことだ」

「へ、へぇ。凄い技ね……」

 

錐椰先輩以外の皆が驚いている。

 

「ただ、この技には条件があるんだよ」

「条件?」

「ああ、相手に余裕を見せないといけない。それこそ相手の攻撃をすべて避ける、とか。そうした上で余裕を見せ、冷静な殺気を当てなければならないんだ」

 

そう、あたしが高千穂さんの銃撃を走ったりしゃがんだりして避けたのは、相手に余裕だと見せるため。その後笑ったのも余裕だと思わせるためだ。

錐椰先輩もライカと戦った時は攻撃をすべて躱したり、受け流したりと余裕を見せていた。そのなかで殺気を当てたから成功したんだ。

 

「でも、覚えるのは本当に大変だったよ。殺気を操るなんて想像したこともなかったから」

「そうなんですか……あかりさん、頑張りましたね」

「うん!ありがとう志乃ちゃん!」

「ま、まぁまだ納得出来ないけど……今は勝ったからいいか」

「そうですの!もっと楽しくやりましょう!」

 

そうしてワイワイ盛り上がって、本当に楽しい祝勝会になった。

――だが、あたしは気付かなかった。

あたしの妹・ののかの顔が浮かなかったことに。そして、闇へと(いざな)う手は、もうすぐそこで手招きしていることに――




どうでしたでしょうか?
最長の執筆のため、最後がグダグダになりましたが、ご了承ください。
誤字・脱字・ご意見・ご感想などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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20話~不協和音~

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。
お陰様で、お気に入り250突破しました!ありがとうございます!

それでは、記念すべき第20話(sideAA入れると21話)、始まります。


久し振りの原作へ!そして緋弾のアリアssでもっともヒロイン枠が多い子が登場!


( *・ω・)ノヤァ零だ。今俺はアリアと一緒にあかりちゃんの射撃訓練を観ている。

バララッバラッバラッ

しっかし……面白いほどに外れるな~。

今回の射撃の的は武装した犯罪者を描いた物である。武器の部分から肩にかけてまでが得点の範囲内であり、それ以外の部分に当たると加点されないというシステムだ。

 

「もう、こんな命中率あり得ないわよ?」

 

そう言ってアリアは先程の射撃訓練のスコアをあかりちゃんに見せる。スコアは6/100、つまり100発撃って6発しか当たっていないということだ。

 

「すみません……」

「アンタ、元々撃ち方に悪い癖がついててそれを抑えてるんじゃない?」

 

アリアの指摘に対してあかりちゃんはビクッと反応した。顔が俯いているため表情は分からないが、明らかに動揺している。

 

「やっぱりね。どうせ入学前に違法で撃ってたんでしょ、まったく」

 

そう言いながらアリアはあかりちゃんのマイクロUZIを取り、マガジンをリロードする。

 

「ちょっと見せなさい。元々手が覚えてた撃ち方を」

「――嫌です」

 

……これは驚いた。あかりちゃんがアリアの指示を拒否するなんて。アリアも拒否されると思わなかったのか、少し面食らっている。

 

「矯正するためよ、どこに当ててもいいから」

 

そう言ってアリアは再度拳銃を渡そうとするも、

 

「嫌です。矯正なら自分でやります」

 

再度、拒否。よほど見せたくないのだろう。

 

(もしかして……)

 

俺はあることに気がつき、アリアを止めようとするが――

 

「撃ちなさい!」

 

キレたアリアが叫ぶように言う。するとあかりちゃんはすぐにアリアの手から拳銃を奪い取り、的を見ずに発砲した。

 

「えっ……」

 

アリアが的を見て動揺している。

的は、額・右目・左目・ノド・心臓――つまり致命傷となる場所に二発ずつ、全弾命中していた。

 

(……()()()()、か)

 

俺は今まで疑問に思っていたことが起こったので、特段驚かなかった。

 

「――こうすれば満足ですか」

 

ボソッ、とあかりちゃんが呟いた。その目には涙が浮かんでいた。

 

「こんなの、武偵の技じゃない!」

 

そう言ったあかりちゃんは目元を拭いて、そのまま走り去っていった。

 

「今まで何か隠しているとは思ったけど……『9条破り』の手癖とはね」

 

――武偵法9条

武偵は如何(いか)なる状況に()いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。

 

「……零は分かっていたの?あかりのこと」

「何となくは。ただ、確証がなかったから言わなかった」

「……そう。アタシ、あかりと少し話したいから今日は帰らないわ」

 

そう言ったアリアはそのまま訓練室を後にした。

 

(……俺もまだまだだな)

 

そんなことを思いつつ、俺はその場に残って射撃訓練を行った。スコアは言うまでもないので語らない。

 

 

 

 

 

翌日、アリアから『そのまま学校向かうから、先に学校行ってていいよ』とメールが来たため、キンジと二人で向かうことにする。

 

(しっかし、今日は雨かぁ……)

 

空は雲で覆われて、大雨が降っている。これではバイクが使えない。

 

「キンちゃん、今日はバスでいいか?」

「ああ、別に構わないぞ?てか、キンちゃんって言うの止めろ」

「分かったよキーくん」

「誰がキーくんだ」

「えっ?誰って、生徒会副会長のハーレム王(笑)の奴だけど?」

「本当に誰だよ……」

 

まぁそんなこんなでバス停に向かっていると、バス亭には既に7時58分のバスが来ていて、生徒たちが押し合いへしあいして乗り込んでいるところだった。

俺はバイクで通っているから乗ったことはないが、一時間目の始まる直前に一般地区に着くとあって、いつもこのバスは混むらしい。

だから7時50分に部屋を出たはずなのに、なんでこんなにこんでいるんだ?

そう思って時計を確認してみると、長針が10の所で動いてなかった。故障かよ!

 

「やった!乗れた!やったやった!おうキンジに零おはようー!」

 

バスに駆けつけると、入り口のタラップで車輌科(ロジ)の剛気がバンザイしている。

奥の方はもう生徒でギチギチだ。

(;゜∇゜)ヤバイ。雨のためか、チャリ通の生徒が一斉にバスを使っている。

 

「のっ!乗せてくれ武藤!」

「そうしたいとこだがムリだ!満員!お前らチャリで来いよっ」

「俺らのチャリは爆破されたんだよ!なんかの当て付けか剛気!」

「ならあのバイクで来いよ!あんな良いもんあんのに使おうとしないからだ!という訳で2時間目にまた会おう!」

 

その言葉を聞いた瞬間にバスのドアが閉まり、そのまま行ってしまった。

 

「仕方ない、バイク使うか」

「切り替え早いな!てか使えるなら最初から言えよ!」

「うるさいなぁ、なんなら歩いていくか?」

「是非乗らせて下さいお願いします」

 

 

 

 

 

大雨の中、バイクで学校へと向かう。ちなみにサイドカーはもう既に届いている。いつもアリアはサイドカーに乗らずに俺の後ろに座っているが。

間もなく強襲科(アサルト)の黒い体育館を通ろうとした時に電話が鳴ったので出る。勿論停車してからだ。安全大事。

 

「――もしもし」

『零。今どこ?』

 

アリアだった。

 

「今強襲科(アサルト)のそばだ。キンジもいる」

『良かった。そこで武装を整えて女子寮の屋上に上がってきて、出来るだけ早く』

「どうした?何かあったか?」

 

俺がそう言うと、アリアは少し低めのトーンになった。

 

『ええ、事件よ。すぐに来て!後キンジも!』

 

 

 

 

 

俺は現在自分の装備を確認している。今回はキチンとマガジンもかなり持って来たし、日本刀もちゃんと持ってきてある。

キンジはというと、防弾ベストに強化プラスチック製の面あて付きヘルメット。武偵高の校章が入った無線のインカムに、フィンガーレスグローブなどなど、通称『C装備』と言われる攻撃的な装備をしている。

 

「キンジ、準備は出来たか?」

「ああ、てか零はC装備をしなくていいのか?」

「俺にとってはただの重りにしかならないからな」

 

そんなことを言い合いつつ、俺達は屋上に出ると、そこにはC装備に身を包んだアリアがいた。

アリアは冷静に何か無線機に言っている。

 

「……?」

 

ふと気がつくと、階段の下には、黄色いヘッドフォンをつけた美少女がいた。

身体は細く、黄緑色の髪をショートカットにしている。なお、座っているために伸長は分からない。

 

「レキ」

 

とキンジが話しかけるが、ヘッドフォンで何か聞いているため無反応だ。後名前はレキらしい。

コツコツ、とキンジが指でその頭をノックすると、レキはようやくヘッドフォンを外して立ち上がり、こちらを見てくれた。成る程、伸長は150センチメートルだな。後顔がCGで描かれたんじゃないかって言うくらいに整っている。

 

「お前もアリアに呼ばれたのか」

「はい」

 

抑揚のない声。変わらない表情。クールな少女だということが分かった。

その子がこちらに顔を向ける。おそらく俺が知り合いじゃないから警戒しているのだろう。

 

「はじめまして、錐椰 零だ。『紅電』と呼ばれている。よろしくな」

「レキです」

 

こちらが挨拶したら名前だけ言ってくれた。どうやら必要最低限のことしか話さないようだ。

 

(レキは狙撃科(スナイプ)2年、Sランクだ。基本的に無口・無表情・無感情だ)ボソッ

 

キンジが小声でそう教えてくれた。そういえば肩にドラグノフ狙撃銃(SVD)担いでいるな。

 

「一体どんな音楽を聞いていたんだ?」

「音楽ではありません」

「えっと……じゃあ何?」

「風の音です」

 

うーん、何とか会話してみようとしたけど、難しいな。てかなんで風の音を聞いてるの?

 

「これでよし、っと……」

 

そうこうしていると、アリアが通信をきってこちらを向く。

 

「アリア、一体何が起こった?状況説明(ブリーフィング)をしてくれ」

「バスジャックよ」

「――内容は」

「武偵高の通学バス。男子寮マンションに7時58分に停留したのよ」

 

――マジかよ、あのバスには武偵高のみんながすし詰め状態で乗ってるぞ。

 

「――犯人は、車内にいるのか?」

「分からないけど、たぶんいないと思う。バスには爆弾が仕掛けられてるわ」

 

――爆弾――

その単語を聞いて、俺とキンジの脳に数日前のチャリジャックがよぎる。

それを感じ取ったのか、アリアは言葉を続けた。

 

「零、キンジ。これは『武偵殺し』。二人の自転車をやったヤツと同一犯の仕業(しわざ)よ」

 

――『武偵殺し』……だって?ちょっと待てよ。

 

「最初の武偵はバイクを乗っ取られたわ。次はカージャック。その次が二人の自転車で、今回はバス……ヤツは毎回、乗り物に『減速すると爆発する爆弾』を仕掛けて自由を奪い、遠隔操作でコントロールするの。その操作に使う電波にパターンがあってね。今回もその電波をキャッチしたのよ」

「でも、『武偵殺し』は逮捕されたハズだぞ?」

 

そう、それだ。武偵殺しは捕まったと白雪とキンジから聞いたのだ。それなのに何故……?

 

「それは真犯人じゃないわ」

 

アリアが言った言葉には、何か強い意志がこめられているような感じだった。

 

「――確証は?」

「今は背景を説明する時間がないからしないけど、確証はあるわ。ヘリが来るから準備して」

 

アリアがそう言った瞬間に激しい音が聞こえてきた。

 

「キンジ、どうやら本当のことらしいぜ?」

「何でそう言いきれるんだ、零」

「アリアがこんな感じで言う時は、本当に確証がある時だけだ。嘘ついてたらすぐ分かるし」

「……ああ、分かったよ。やってやる」

 

キンジがやる気になったのをみて、アリアが笑った。

 

「キンジ。これが約束の、最初の事件になるのね」

「大事件だな。俺はとことんついてないよ」

「お前が幸運の時なんてみたことないしな」

「うるさいぞ零」

「じゃあ……行くわよ」

 

そんなやりとりをしつつ、俺達はヘリに乗り込んだ。




どうでしたでしょうか?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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21話~『剣技』~

はいどうも、投稿していたと思ったらしていなかった鹿(ろく)()()(づき)です。
最近インフルエンザが流行りだしています。皆様も家に帰ったらうがい手洗いをしっかりしましょう。
エッ(*´・д・)?したくない?零の踵落とし喰らうのとどっちが良いですか?

まあそれは置いといて、第21話、始まります。

バスジャック後編、開始!



( *・ω・)ノヤァ、零だ。今俺達はヘリに乗り込んで通信科(コネクト)から話を聞いている。剛気達を乗せたバスはどこの停留所にも()まらず、暴走を始めたという。その後、車内にいた生徒からバスジャックされたという緊急連絡が入った。

定員オーバーの60人を乗せたバスは学園島を一周した後、青海(あおみ)南橋を渡って台場に入ったという。

 

「アリア、警視庁と東京武偵局は動いていないのか?」

「動いているけど、相手は走るバスだから、それなりの準備が必要だわ」

「じゃあ俺達が一番乗りか」

「まあね、武偵殺しの電波をつかんで、通報より先に準備を始めたんだもの」

 

成る程ね、だから対応が早かったのか。しかし通報はしといた方が良いと思うが。

アリアは最終整備のため、銀色のガバメントと――金色のガバメントを取り出した。

あ、薄々(うすうす)気付いている人もいると思うけど、アリアの持っている金色のガバメントは俺が造ったやつだ。俺の持っている紅色のガバメントもな。

確か12才のアリアの誕生日にあげたんだっけ?勿論色々改造してあるが、今は秘密だ。

ガバメントは既に諸々(もろもろ)の特許が切れてるから改造しても良いんだぜ?

そのグリップについているのはピンク貝(コンクシェル)のカメオで、そこに浮き彫りにされた女性の横顔は……成る程ね、アリアのお母さんか。

 

「見えました」

 

レキの声に、俺達三人は揃って防弾窓に顔を寄せた。

 

「何も見えないぞレキ」

「いやキンジ、ホテル日航の前を右折しているバスだ」

「錐椰さんの言った通りです。また窓に武偵高の生徒が見えています」

「よ、よく分かるわね。二人とも視力はいくつ?」

「左右ともに6・0です」

「左右ともに8・0だ」

 

サラッと言った俺達に、キンジとアリアが顔を見合わせた。

そうしている間にもヘリはどんどんバスへと近づいている。もうすぐ追い付く所だ。

 

「空中からバスの屋上に移るわよ。あたしはバスの外側をチェックする。キンジは車内で状況を確認、連絡して。レキはヘリでバスを追跡しながら待機。零はバスの上で緊急事態に備えて」

 

テキパキと告げると、アリアはランドセルみたいな強襲用パラシュートを天井から外し始めた。

 

「内側……って。もし中に犯人がいたら人質が危ないぞ」

「いや、その可能性はない。さっき見たがそれらしき人物はいなかったし、第一車内にいるならそれこそイヤというほど沢山いる武偵に取り押さえられてるよ」

「……それもそうだな。分かった、車内は任せろ。その代わり外は任せたぞ二人とも」

「ああ」

「当たり前よ」

 

 

 

 

 

強襲用パラシュートを使いつつ、俺達三人はほとんど自由落下するような速度でバスの上に転がった。

その際にキンジが危うくバスから滑り落ちそうになったので、俺とアリアが腕を引っ張って引き留めた。

 

「ちょっと――ちゃんと本気でやりなさいよ!」

「本気だって……これでも、()()……!」

 

キンジのやつ、ヒステリアモードじゃないから今のが精一杯だったんだろうな。それにしても酷くないか?

キンジが屋根にベルトのワイヤーを撃ち込み、振り落とされないようにし、アリアもワイヤーを使って、リペリングの要領でバスの背面に体を落としていった。

σ(`・・´ )オレ?俺はワイヤーは使わない。こんなのバランスと足腰が強ければ問題ないし、ワイヤー使うと行動範囲が狭まるからな。

しばらくするとキンジから車内には爆弾がなかったそうだ。続いて――

 

「アリア、そっちはどうなんだ?」

『爆弾らしきものがあるわ!』

 

耳に入れているインカムから報告が入った。

 

「種類と大きさは?」

『カジンスキーβ型のプラスチック爆弾(Composition4)、武偵殺しの十八番(おはこ)よ。見えるだけでも――炸薬(さくやく)の容積は、3500立方センチはあるわ!』

 

なんだそりゃ( ; ゜Д゜)。ドカンといけば、バスどころか電車でも吹っ飛ぶぞ!急いでアリアのサポートに……!

 

「キンジ、バスの中の奴ら全員をしゃがませろ!」

『どうした?何かあった――』

「早く!」

 

俺が叫ぶと、インカム越しに一斉に動く音が聞こえてきた。どうやらキンジが説得したらしい。

 

「アリアはそのまま解体作業を続けてくれ」

『分かったわ』

 

アリアが了承し、解体作業に入った。

さて、と俺はバス後方を見る。その視線の先には、30台程度のオープンカー――赤いルノーだな――が走っていた。UZIを付けた状態で。

 

「ウワァーオ、凄い数だな」

 

なんて言いながら、俺はガバメントを取り出してルノーのタイヤに向けて発砲する。

しかし、タイヤに直撃したがパンクしない。防弾性なのだろう。

俺が発砲したためか、UZIの銃口が揃って俺に向く。そして秒間10連射というまさに銃弾の嵐が俺に襲いかかってきた。

それを俺は蜻蛉(とんぼ)返りで迎撃する。だが今は場所が限られているので角度が合わない物が多く、やむを得ず自分に当たりそうなヤツだけを弾いていく。

何台かタイヤの一部分だけ当たってスリップして大破したが、数はまだ23台ある。

流石にキツイな、と思っていると後ろの方のルノー一台が横から来た弾丸によってタイヤをパンクさせられて大破した。

横を見てみると、ヘリがバスに並走してドアが開いていて、そこからはレキが膝立ちの姿勢でドラグノフ狙撃銃を構えていた。

 

『――私は一発の銃弾』

 

インカムから、レキの声が聞こえてきた。

 

『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない――』

 

何か、詩のようなことを呟いている。

 

『――ただ、目標に向かって飛ぶだけ』

 

そう呟いたレキは発砲し、ルノーのタイヤに命中させて大破させる。狙撃銃は拳銃よりも威力があるため、近い距離なら防弾性でも貫ける。

しかし、さっきのレキが呟いていたのはまじないの一種だろうか?それにしては何か違和感あるな。後でキンジに聞いてみよう。

ともかくルノーの数が減ってきた。しかし、ガバメントじゃタイヤをパンクさせるのにかなりの弾を必要とする。レキのドラグノフなら一発だが、狙撃銃は装弾数が少ないから殲滅させるのに時間がかかるだろう。

 

「――じゃ、近接戦でも仕掛けますか」

 

俺は気軽にそう言ってガバメントを仕舞い、代わりに日本刀を二本取り出す。

 

「さて、この数だから()()が必要だな」

 

俺はそう言って、走っているバスから飛び降りてルノーを迎え撃つ。インカムからキンジの焦った声が聞こえたが、こんなの痛くもない。

そんなことを考えているうち、ルノーがどんどん近づいている。弾がこないので、そのまま引き殺すつもりなのだろう。

21台のルノーと俺が衝突する前に俺は空高く跳び上がり、二本の日本刀を振り上げる。

 

「――剣技!一式・三節『乱心(らんしん)絶牙(ぜっか)』!」

 

そしてルノー相手に足が地面につくまで刀を降り下ろし続ける。まるで狼が襲いかかり、何度も牙を立てて息の根を止めるように。

拳銃でもビクともしなかったルノー達がまるでゴミのよう……ではなく、ガラクタになっていく。

まだ残っているルノー達が今度は一斉にUZIで連射してくるが――

 

「――剣技!二式・五節『深谷(ふかだに)』!」

 

刀の切っ先だけですべて弾く。ターゲットである俺までは、まだまだ遠いということを告げるかのように。

UZI達の連射が止まったので、俺はすぐさまルノーに近づいた。

 

「――剣技!一式・四節『瞬爆(しゅんばく)』!」

 

近づいた勢いそのままに刀を横薙ぎに振るう。急に目の前に現れて勢いのついた一閃。ルノーがキレイに真っ二つになる。

そんな感じでやっていると、レキのサポートもあってか、残りのルノーの数が4台にまで減った。

残った4台が四方から玉砕覚悟で俺を潰しにくる。

 

「――剣技!三式・一節『螺旋(らせん)演舞(えんぶ)』!」

 

が、俺が舞うように廻りながら刀を振るって、ルノー全てを破壊した――

 

 

 

 

 

「フゥ、疲れたな。流石に結構な数相手にしたからな~、無傷だけど」

 

俺は今、さっき戦いが終わったのでバスに向かっている。インカムから聞いたのだが、どうやら俺が戦っている間にアリアが解除したらしく、今は止まっているとのそうだ。

 

「れーい!」

 

そんなことでバスを目指して歩いていると、アリアが俺を見つけて走ってくる。アリアの後ろを見ると、キンジが止まったバスから降りてきて負傷した武偵達を運んでいる。

そんなことを思っていると、どんどんアリアが近づいてくる。このパターンは抱き付いてくるパターンかな?仕方ない、受け止める準備でもするか。

そう思って両手を広げて待っていると、ヒュウと風がイキナリ吹き始めた。

スパッ

と同時に、()()()()()()()()()()()()()

――何だ、今の音?てか何か腹の当たりが寒くなっているような……

そう思って腹を見てみると、

 

――何かとても鋭利なもので切りつけられたように深い傷が横に広がり、血が大量に出ていた。

 

「――は?」

 

ま、待て、どういうことだ?何故傷が――

と焦っていると、どんどん意識が薄くなっている。

前を見てみると、アリアが何が起こったのか分からないという顔をしている。

 

「アリ……ア……」

 

アリアの名前を呼ぼうとするが、意識がもう持たない。

 

「え?ど、どういうこと?なんで零に怪我が……」

「すま……ない……救護科(アンビュランス)に連絡を……」

「イヤ!零、しっかりして!零!」

 

俺は動揺しているアリアに心のなかでもう一度謝り、そのまま意識を失った――

 




どうでしたでしょうか?
果たして零は一体どうなる!?続きはWeb……ではあるんですけれど、次回で!

それでは、ごきげんよう。


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22話~動き出す歯車~

はいどうも、鹿(ろく)()()(づき)です。
今回は前書きはそこそこに、第22話、始まります。(書くことないなんて言えない)


ーsideあかり視点ー

 

「あかり、これ見たか?」

「何?ライカ」

 

あ、どうもm(_ _)mペコリ。あかりです。今あたしは武偵高の教室でライカと話しています。

 

「錐椰先輩の経歴が書いてあるぞ」

 

そう言ってライカが見せてきたのは武偵高新聞(武偵高のことについて詳しく書かれている新聞だ)。そこに錐椰先輩の写真がでかく貼られていて、「捜査完了!これが『紅電』の経歴だ!」と書かれている。どうでも良いけど、ネーミングセンスが低い。

 

「錐椰先輩、これまで色々なことしているんだな。『三大マフィア抗争鎮圧』とかは割と有名だけど、他にも『テロリスト団体壊滅』とか『時効寸前の極悪犯罪者の捜索、逮捕』なんてのもあるぞ。強襲成功率なんか100%で世界ランカー達をぶっちぎっているし」

 

ライカが錐椰先輩の経歴を喋っているが、あたしは記事のある一点に注目する。

 

「何より武偵違反がゼロなのがステキ!まさに完全無欠の武偵っ!」

「はいはい、わっーてるわっーてる」

 

あたしが興奮して喋っているのに対してライカは軽く受け流している。もっとちゃんと聞いてほしいのに……って、

 

「あれっ?車輌科(ロジ)のヘリ……?」

「緊急着陸運動だな」

 

バラバラと外から音が聞こえてきたので見てみると、大雨の中とんでいるヘリを見つけた。

 

(中に乗っている人は……あ、アリア先輩の友達の人だ。確かレキ先輩だったかな?)

 

そう思っていると、今度はピーポーピーポーと救急車の音が聞こえてきた。

その瞬間、あたしは何かイヤな予感がして、教室を飛び出してヘリの着陸地点まで走った。

そこには人だかりが出来ていたので掻き分けながら前に進むと、

 

「――腹に原因不明の傷!意識不明!心拍不整!」

「ねぇ零!起きてよ零!大丈夫だよね!?返事をして!」

 

――そこには、腹の周りが血だらけになっている錐椰先輩を運ぶ遠山先輩と、泣き叫びながら錐椰先輩に話し掛けるアリア先輩がいた。

 

(……えっ?何、どういうこと?何でアリア先輩が慌てているの?いやそれよりも、錐椰先輩が怪我をしている?えっ?何で?嘘だよね?だって錐椰先輩は完全無欠の武偵……)

 

あたしはそれを見た時、何が起こっているのかサッパリ分からなくて、混乱していた。そんな間に錐椰先輩が救急車に運ばれて、そのまま走り去ろうとしている。

 

「――零さーん!」

 

あたしはそこでようやく混乱から覚めて救急車を追おうとするけど、相手は車。どんどん離されていく。途中で足がもつれて転んでしまい、そして救急車が完全に見えなくなった。

 

(そんな……錐椰先輩だけじゃなくてアリア先輩も元主席候補の遠山先輩も狙撃科(スナイプ)の先輩もいたのに……一体、誰に……?)

 

 

 

 

 

「グスッ……錐椰先輩……錐椰先輩……」

 

あたしはおぼつかない足取りで大雨の中、傘も指さずに泣きながら街中を歩いていた。近くにいた人が心配そうな表情をしている。

 

「――間宮あかり」

 

――すると、イキナリ雨が当たらなくなって名前を呼ばれた。不審に思って見てみると、そこにはあたしに傘を指している美少女がいた。

セーラー服を身に(まと)い日本人形の様に切り揃えられた黒髪を持つ、クールな雰囲気の美少女。だが左手にはリボンのついた白い手袋をしている。

その少女を見て、あたしは驚愕した。

――あたしは、この少女のことを知っている……!

 

「……夾竹桃(きょうちくとう)

「おいで」

 

そう言って夾竹桃は歩き出した。

 

(どうしよう、夾竹桃はあたし達間宮の敵。何をされるか分からない。でもこのタイミングで夾竹桃が出てきたってことは、さっきの事件に関係あるかもしれない。なら――)

 

あたしはそこまで考えると、黙ったまま夾竹桃についていく。

それを横目で見た夾竹桃が、少し笑ったような気がした――

 

ーsideあかりoutー

 

 

 

 

 

ーside零ー

 

「ん……ここは……病院か」

 

俺が目を開けると、真っ白な天井が見えた。その後にキョロキョロと辺りを見回すと病室だということが分かった。

 

「ええっと……そうだ、確か俺は腹を……イテッ」

 

だんだんと意識が覚醒してきたからか、腹が痛くなってくる。だが治療が終わったからか、少しズキズキとくるだけだ。

ガラガラ

すると、病室のトビラが開いて、アリアが入ってきた。

アリアは沈んだ表情で入ってきたが、俺が起きているのを見るとキョトンとした表情になる。

 

「( *・ω・)ノヤァ、アリア。起き「零!」たぞってグフォッ!」ドンッ

 

取りあえず起きたことを知らせようとすると、アリアが目に涙を浮かべて突進してきた。そしてそのまま抱き締めてくるが俺今腹痛いからってイタタタタ!

 

「ア、アリア痛い痛い!俺今腹に傷があるから!」

「あ!ゴ、ゴメン……」スッ

 

フゥ~、ようやく離してくれたか……

 

「ねぇ零、大丈夫なの?傷痛くない?何か食べたい物ある?」

 

そう言って心配してくるアリア。手には何やら桃やリンゴなどが入っているレジ袋を持っている。心配してくれるのはありがたいが、俺は風邪を引いている訳じゃないぞ?

 

「ああ、大丈夫だよ。少しズキズキするくらいだ」

「そ、そうなの。良かったぁ……」

 

俺の言ったことに安堵したのか、アリアがほっと息をつく。

 

(……ん?何かアリアに違和感があるぞ……あ、ヘアピンが無いのか)

 

アリアの形の良いでこが前髪で隠れていることに気づいた俺はアリアに聞いてみる。

 

「アリア、ヘアピンはどうした?忘れてきたのか?」

「ああ、ヘアピン?実は爆弾解体している時にルノーにぶつけられてヘルメットが割れて、ヘアピンと一緒にとれちゃったの。そのままレインボーブリッジの海の中に入っちゃったから見つけられないし。また新しいの買わないとなぁ……」

 

成る程、そういうことがあったのか。頭を怪我したとかそういうのじゃなくて良かった。

 

「でも買わなくて良いんじゃないか?前髪があると少し大人っぽく見えるぞ」

「え!?ホント!?」

 

俺が思ったことを言うと、アリアは結構喰いついてきた。

俺は改めてアリアの顔を見る。今までずっとおでこを出していたから、前髪があると新鮮に感じる。それに少し大人っぽく見える。

 

「ああ、ホントだぞ」

「そう……じゃあこれからこのままにしようかな」

「良いのか?」

「ええ」

 

とここまで楽しく会話していたのだが、アリアが真剣な表情になったので俺も真剣になる。

 

「零、いつ退院出来そう?」

「どうした?何かあるのか?」

「決まってるわよ、『武偵殺し』を捕まえるのよ。敵討ちよ」

「イヤ、俺死んでないんだが……」

 

俺の目の前で拳を握って決意するアリア。しかし言葉を間違えてないか?それだと俺死んでいることになるんだけど。

 

「それで、いつ頃に退院出来そう?」

 

再度確認してくるアリア。俺はそれを聞いて時計を確認する。

 

「16時か……なら20時だな」

「分かったわ、20時ね……ってそんなの無理に決まっているじゃない!」

 

俺の言ったことに一度頷いたが、即座に大声で叫ぶ。ここ病院ってこと忘れてないか?

 

「落ち着けアリア」

「落ち着ける訳(ヾノ・∀・`)ナイでしょ!重症なの分かってる!?」

 

いや混乱しすぎだぞアリア。顔文字になってるし。

 

「ああ、分かってるよ」

「なら何で……」

 

アリアが何かを言い切る前に俺は両手を広げる。

 

『錐椰 零の名の下に』

『自然治癒能力を二乗に』

 

そう言って俺は手を降ろした。

 

「――俺だからな」

「……そうね、零だもんね」

 

アリアは少し黙ったあと、何か納得したような表情になった。

 

「ところでキンジはどうした?」

「ああ、キンジならさっき帰っていったわよ。『零が起きたら連絡してくれ』って暗い表情で言っていたわ。他にも沢山の人が来てたわよ?」

 

そう言われたのでもう一度辺りを見回すと、何か見舞品らしき物が沢山あるぞ。花もあるな、白百合(カサブランカ)の花か。『レキより』ってこれレキが持ってきてくれたのか!?何か意外だ……

 

「まぁ後でキンジに連絡しておくとして、20時まで何してる?」

「そうだなぁ……あ、アリア、『武偵殺し』の資料持ってないか?」

「持っているけど」

「じゃあ貸してくれ」

「どうするの?」

「どうするかって?決まってる、勝負は既に始まっているからな」

 

そう言って俺はニヤリと笑った。

待っていろよ『武偵殺し』、俺に目をつけられたが最後だからな――




「錐椰 零の説明コーナー!」
「( *・ω・)ノヤァ皆、零だよ。今回は21話の『剣技』について説明するよ。何でも作者が説明入れ忘れていたみたいだから代わりに俺が説明するよ」
「まず『剣技』とはその名の通り剣の技だ。ちなみに日本刀がメインだが、刀剣類なら一応なんでも使えるぞ」
「次に『式』について。これは『剣技』の種類を指しているんだ」
「『一式』は攻撃系、つまり自分から攻めていく時だな。基本的に一番使うかな」
「『二式』は防御系、相手の攻撃の数が多かったり、相手との距離が離れている時はこれを使うよ」
「『三式』はカウンター、一対一だったり、相手との距離が近い場合はこれを使う。これだけで勝つことも出来るぞ」
「最後に『節』について。これは『式』からさらに細かく分けていて、その場の状況で決める。まあこれで技名が変わるって処だな。ちなみに『節』はそれぞれ五節まであって、基本的には数が小さくなるほど強くなっていくんだ」
「これで分かってくれたかな?他にも説明してほしいのがあったらどんどん言ってくれ!それじゃ、ごきげんよう( ´∀`)/~~バイバイ」




「……ねぇキンジ、零は一体どんな夢を視ているのかしら」
「……取りあえず、ナースコールしとくか」

これは零が起きる、数十分前のお話(嘘)


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23話~夾竹桃~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)です。
今回はあまり手を入れることが出来ませんでした。主人公入れる部分ないから当然と言えば当然なんですけれど……
それはともかく、第23話、始まります。


今回は終始あかり視点です!


ーsideあかりー

 

『From 火野ライカ

件名 あかりどこだ?

 

錐椰先輩が入院した。命に別状なし――』

 

パタンとあたしはメールを見た後に携帯を閉じ、目の前にいる夾竹桃を睨む。あたしたちは今カフェにいて向かい合っている。

 

「あなたが錐椰先輩を……?」

「やったのは私の友人よ、同格だけど異種の子。うちの組織では学園風に『同期』って呼んでるけど。それに凄腕の用心棒も雇ってるわ」

 

(……仲間も来てるんだ……それに用心棒……?)

 

「まだ殺してないんだから落ち着きなさいな」

「……錐椰先輩の事だけじゃない」キッ

 

夾竹桃の言ったことに対してあたしは怒りを覚えた。あたしの右手は太ももにある拳銃を握っていて、左手は制服の背中に隠してナイフを握っている。

 

「そうよ、その目でいいのよ。そういう間宮の子が欲しい」

 

夾竹桃があたしが殺気立っていることに気づき、そう言ってくる。

 

「二年前、あなたたち間宮は私達の組織に賛同せず技術を()した。だからその技術を私達に奪われ、間宮一族は日本各地に隠れ住んだそうね」

「あなたたちのせいだ、夾竹桃」

 

そこで夾竹桃は手に持っていたパイプを含み、息を吐く。

 

「私、あなたの事は気に入っていてよ。そうね……ペットにしてあげる」

 

夾竹桃は少し考えた後、笑顔でそんなことを言ってきたのでゾッとした。

 

「どうしてあたしの前に現れたの?」

「間宮の口伝――秘毒・『鷹捲(たかまくり)』。知っているんでしょ」

 

あたしは夾竹桃の言ったことに対して驚いた。何故夾竹桃が『鷹捲(たかまくり)』の事を――

 

「知らないし、仮に知っていたとしても――」

「まァ、とぼけちゃって」

 

バレバレよ、っと言ってくる夾竹桃を無視して言葉を続ける。

 

「あたしは間宮の術を全部封じたの。教えない」

「教えたくなるようにしてあげましょうか?」

 

と、そこで夾竹桃は足を組み替える。その時に帯銃していないことを確認した。

やるなら今だ――とあたしは思って拳銃を抜いて立ち上がる。

 

「夾竹桃、あなたを逮捕する!おとなしく……」

 

その時、ピッと何かがあたしの首の皮を切った。

 

「え……?」

 

ヒュッと夾竹桃がさっきまで吸っていたパイプを振るう。その先端には、何か細い紐のようなものがついており、あたしの首を絞めている。

 

TNK(ツイステッドナノケブラー)ワイヤー。その防弾制服にも織り込まれてる極細繊維よ」

 

そう言いながら、夾竹桃はワイヤーで首を絞めてくる。ほどこうにも、無理に外そうとすれば指が切れる。

 

「戦っちゃダメ。()()()()()()()()()……いっちゃおうか?ポトリって。交渉決裂気味だし」

 

夾竹桃が操るワイヤーがどんどん首を絞めてくる。もう……息が……

シュルルル、ズバッ

その時、何かが飛んできてワイヤーが切れた。見るとそれは……扇子(せんす)

 

「――『弱い』ですって?聞き捨てならないわね。これ以上その子を傷つけるなら、障害罪で逮捕するわよ!」

 

現れたのは、カルテットで勝負した高千穂さんだった。

 

「間宮あかりは(わたくし)を倒した。それを『弱い』と侮辱したのは、(わたくし)への侮辱でもあるわ!」

 

そう言ってあたしの隣まで来てそう宣言した。良く分からないけれど、助けてくれたらしい。

 

「高千穂さん……助かったよ」

 

あたしがお礼を言うと、高千穂さんは顔を赤くしていた。熱でもあるのかな?

 

「べっ別にお前を助けたかったワケじゃないわよっ、話を聞いてなかったの?」

「で、でも」

「お前はお前でまたイジメてやるっちゃ!」

 

な、何で!?ていうか高千穂さん、方言出ちゃってるし……

 

「――つまり、どこのどなたか知らないけど、(わたくし)を侮辱し、あまつさえ獲物を横取りしようとした罪は重くてよ!」

 

そう言いながら高千穂さんはロングスカートのジッパーを降ろし、スカート内のホルスターからスタームルガー・スーパーレッドホークを取り出した。

これで戦況は2対1。いくら夾竹桃でも二人相手にするのは厳しいはず。一体どう出る……

夾竹桃はあたしたちを無言で見ていた後、何故か頬を赤く染めた……何で?

 

「そう。そういう関係なの」

 

そう言いながら夾竹桃はスッと立ち上がった。

 

「……これで一冊描けるわ。夏に間に合うかしら……」

 

ボソボソと何か夾竹桃が呟いているが、声が小さいので聞こえない。

 

「そういう女同士の友情はジャマしないわ。私は無法者だけど、無粋(ぶすい)じゃない」

 

鼻血をハンカチで拭きながらそう告げてくる夾竹桃。何故鼻血が出ているんだろう……高千穂さんも首を傾げている。

 

「間宮の子、あなたに一週間の時を与えるわ。何にせよ()は二年前に植えた、そろそろ花咲く頃よ……あなたの全てが私のものになれば、誰も傷つかなくて済むわ」

 

そう言い残し、夾竹桃はカフェから出ていった。その時に何か小さな紙を落としていったので拾って見てみると、メアドが書かれていた。

その後にあたしと高千穂さんは外に出た。

 

「高千穂さん、ありがとう」

「か、勘違いしないことね。今のはその……お前がコロッと(たお)されたら、(わたくし)も学校で笑われるからよ」

 

あたしがお礼を言うと高千穂さんは驚いて、アタフタと喋った後、スタスタと歩いていった。あたしはそれを見送った後、武偵病院の方へと向かった。

 

 

 

 

 

現在あたしが居るのは武偵病院。錐椰先輩の様子を見に来たのだが、錐椰先輩は面会謝絶だった。

あたしが落ち込んでいると、ののかが病院に入ってきた。何かフラフラとしているけど、大丈夫かな?

 

「ののか、ここだよ」

 

あたしがそう言うと、ののかはこちらを振り向いた。

 

「お姉ちゃん」

「ごめんね、急に呼び出して。あたし今日ここを離れられないから……はい」

 

あたしが制服のポケットの中から二万円と新幹線の長野行きのチケットを取り出す。それを見て、ののかは不思議そうな顔をした。

 

「しばらく長野のおばさんの所にいて。ワケは後で話すよ」

 

――これは夾竹桃が東京に現れたからだ。多分だが、夾竹桃は東京にしばらく居続けるだろう。

あたしは武偵だが、ののかは一般の中学校に通っている。武装もしていないなか、夾竹桃と居合わせたらののかが危ない。だからしばらく長野に居てもらうことにした。

 

「う、うん……あ……」

「?のの……」

 

あたしの言葉に頷いたののかは受け取ろうとするが、取り損なったと思ったらそのまま倒れこんだ。

 

「ののか……?ののか!ののか!」

 

 

 

 

 

「……ののか、うっ……ぐすっ……」

 

その後、ののかはすぐに入院となり、結果を調べると原因不明の失明とのことだった。現在は病室にいる。

 

(錐椰先輩だけじゃなくて、ののかまで入院だなんて……どうしたらいいの?)

 

「大丈夫だよお姉ちゃん、きっとすぐ治るから」

 

そう言ってののかはあたしの手の上に自分の手を置いてくる。その目には包帯がまいてある。

 

「でも、お医者さんも原因が分からないって……」

「だらしないぞ、お姉ちゃん。目が見えなくても耳は聞こえるし、喋れるんだから」

「――(いな)。視覚の次は聴覚、続いて味覚――8日もすれば、命を落とされる」

 

その時、突然ののかとは違う声がしたのでそちらを見ると、そこには風魔 陽菜がいた。

 

「間宮様!」

「あかり!」

「ののかさん!」

 

それに続いて、麒麟(きりん)ちゃん、ライカ、志乃ちゃんが病室に入ってくる。

 

「ののか殿の症状の原因は、打たれて二年の後に五感と命を奪う『符丁毒(ふちょうどく)』。その分子構造は暗号状になっており、作った本人しか解毒出来申さぬ」

「どうして知っているのそんなこと!」

「……それは元々、風魔の術に御座(ござ)った(ゆえ)

 

風魔さんが言ったことに、あたしたちは驚きを隠せなかった。元々は風魔の技……?

 

「それがどうしてののかさんに……?」

「一党の不覚をお詫び致す。数年前に幼子に別の毒を打たれ――解毒して欲しくばと製法を強請(ゆす)り取られたので御座る」

 

麒麟(きりん)ちゃんの質問に、風魔さんが答える。ということは……

 

「毒を以て毒を奪うこの手口、()()()に御座るな」

 

やっぱり……夾竹桃……

 

『あなたの全てが私のものになれば、誰も傷つかなくて済むわ』

 

カフェで夾竹桃が言ったことの意味がようやく分かった。あれは、ののかのことを言っていたんだ……

クシャリとあたしは制服のポケットの中にある、夾竹桃のメアドが書かれている紙を握った。

 

(ののかの毒を解けるのは……夾竹桃だけ……!あたしが夾竹桃のペットになれば……ののかを助けられるんだ!)

 

そう思ったあたしは病室から出て行こうとする。

 

「あかり!」

「あかりさん!」

「ついてこないで!あたしが犠牲になれば……いいの!」

 

そう言ってガラッと病室の扉を開けて駆け出そうとした。

すると、ドスッ!

 

「ゴフッ!」

 

――病室の目の前にいた誰かに思いっきり体当たりしてしまった。

ヤバい!謝らなきゃと思って相手を見ると、

 

「グォォォォ……腹が、腹が~!」

 

――と、腹を押さえてのたうち回っている、錐椰先輩だった。

 

「え!?錐椰先輩!?」

「ああ……あかりちゃん……( ;∀;)ノヤァ……」

 

腹を押さえたまま、挨拶してくる錐椰先輩。でもとても痛そうで、顔文字も泣いている……ってそんなことじゃない!

 

「錐椰先輩、面会謝絶じゃなかったんですか!?」

「ああ、あれね?ちょっと調べたいことがあったから集中できるようにそうしてもらったんだ。怪我自体はもうほとんど大丈夫だよ」

 

そう言ってスクッと立ち上がる。本当に大丈夫そうだ。当たった時は痛そうだったが。

 

「で、調べものしている最中に高千穂さんからメールが来たからアリアと一緒にあかりちゃんのこと捜していたって所。なあアリア?」

「そうよ」

 

ヒョコッとアリア先輩が顔を出す。

 

「それで何かののかちゃんが入院したっていう話を聞いたから病室番号聞いて来てみたら、あかりちゃんからのタックル喰らったってところ」

「う……すみません」

「まあ、冗談はさておき……あかりちゃん、敵に接触(コンタクト)されたでしょ?」

「な、何で……」

 

やっぱりね、と錐椰先輩は言ったが、あたしは何で分かったのかサッパリ分からない。

 

「ねぇ、あかり。アタシ、カンは鋭い方なの」

「……?」

 

アリア先輩がイキナリ真面目な顔でそう言ってくる。

 

「アンタが隠しているのはその事――夾竹桃だけじゃない。自分自身の事も隠している」

「……‼」

 

アリア先輩が言ったことに対して、あたしは何も言えない。

 

「ずっと隠して本当の能力を抑えてきた。だから武偵ランクも低いまま。違う?」

 

アリア先輩の言葉に、麒麟(きりん)ちゃん、ライカ、志乃ちゃんは驚愕する。その中で唯一、錐椰先輩は動じなかった。錐椰先輩のことだ、きっと最初から分かっていたのだろう。

 

「何もかも隠したまま、何もかも解決できるの?」

 

アリア先輩の最後の言った言葉に、あたしはようやく決心がついた。

――話そう。皆にあたしのことを、間宮のことを。例え嫌われようとも、罵倒されようとも。

 

「ごめんねみんな、今まで隠してて……」

 

――これがあたしが武偵としていられる、最後の瞬間なんだ。

 

「……話します。あたし、尊敬するアリア先輩や錐椰先輩の前で……嘘つけませんから……」

 

――サヨウナラ、皆。サヨウナラ、アリア先輩。サヨウナラ、錐椰先輩。

 

「――あたしは元々、この学校に入っちゃいけなかった生徒なんです」




どうでしたでしょうか?
次から主人公絡めることができますので、今回はこれで失礼します。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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24話~『コードネーム』~

申し訳ありません!(土下座)
はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)です。(正座しつつ)
すみません、諸事情により投稿が遅くなりました。そしてお気に入り300件突破しました!ありがとうございます!
こんな感じですが、これからもよろしくお願いいたします。
では、第24話、始まります。

最近、あかりちゃんが主人公のような気がしてきた←オイ


ーsideあかりー

 

「あたしの家は昔、公儀(こうぎ)隠密(おんみつ)

――今でいう政府の情報員みたいな仕事をしてました。でもそれは生死を懸けた戦いが続く、危険な仕事だったそうです……そこで培われた戦技は子孫に伝えられてきました」

 

あたしが話している内容に皆が驚いている。錐椰先輩だけは何も言わず話を聞いている。

 

「でも二年前……その先祖代々の技を目当てに間宮一族は襲撃を受けたんです。一族はバラバラになりました。一緒にいるとまた襲われるかもしれないから……あたしたちが襲われたのは……ののかがこんな目に()わされているのは、間宮の術なんかがあったからなんです……!」

 

……誰も、何も言えなくなった。アリア先輩も何か考えているように見える。

 

「――『初心忘るべからず』」

「え……?」

 

その時、さっきまで無言・無表情で話を聞いていた錐椰先輩が突然喋った。

 

「あかりちゃんのお母様が言っていたんだろ?『人々を守るために戦う』。その理念はどうするんだ?」

 

それは、さっき間宮の事を話していた時に言った、お母さんがあたしとののかに言った言葉だ。

 

「それは……守りたいです!でも、間宮の技は人を殺める技なんです!だからあたしは武偵高で……」

「技術を()()しようとしてたのね。武偵法では殺人が禁じられているから。だから『鳶穿(とびうがち)』も奪取の法に改変したのね」

 

アリア先輩が言ったことにあたしは頷いた。

 

「『鳶穿(とびうがち)』、か」

「錐椰先輩、知っていたんですか?」

 

錐椰先輩には見せたことはなかったはずなんだけど……

 

「ああ。間宮の一族に伝わる技で、敵の眼球や内臓を素手で毟り取る忍びの殺法だろ?」

「……はい、そうです。ですが、何故錐椰先輩が知っているんですか……?」

「知り合いから聞いたことがあったからな。それより矯正したってどうやってだ?」

「……錐椰先輩、武器を構えてくれませんか?」

「ん?構えればいいのか?」

 

そう言って錐椰先輩がナイフを取り出した途端にあたしは錐椰先輩の横を通りすぎた。

 

「……成る程ね、そういうことか」

 

納得した表情をする錐椰先輩。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「相手の急所を狙うんじゃなくて、武器を(かす)め取って無力化するようにしたのか」

 

錐椰先輩は今の交差で全てを理解したようだ。普通初めてやられた人は何をされたのかすら分からないのに。

 

「はい……でも……何年もかかって作り直せたのはそれだけです。体に染みついた癖は、なかなか取れないんです」

 

あたしはそう言って立ち上がり、ドアの前まで歩いた。

 

「みんな、お別れだね」

 

そう言ってあたしは武偵高のワッペンを制服から取り外した。それで皆が驚く。

 

「あたし……やっぱり行くよ。夾竹桃のものになって、ののかを助ける」

 

それには『武偵』としてのあたしは必要ない。ならばこそ、『武偵』との縁を切ろう。

 

「アリア先輩、戦姉妹(アミカ)契約を解消します。錐椰先輩、ののかのことをよろしくお願いいたします……あたしは、アリア先輩や錐椰先輩みたいには……なれなかった」

 

そう言ってあたしはドアに手をかけた。

 

「――皮肉なものね。戦姉妹(アミカ)試験の時はアンタがアタシを追い、今はアタシがアンタを追う」

 

アリア先輩が言ったことにあたしは戦姉妹(アミカ)試験でアリア先輩のことを追いかけ続けたことを思い出す。

 

「規則上、戦姉妹(アミカ)の途中解散には双方の合意が必要よ。アタシは合意しない。アタシの戦姉妹(アミカ)なら戦いなさい!敵と――そして、自分と!『武偵』として敵を逮捕するのよ!」

 

アリア先輩の言ったことにあたしはハッとした。

けど――

 

「でも……敵は、夾竹桃は強いんです……あたしは間宮の技もほとんど失っているんです……昔のものは封じて、新しいものは身につかなくて」

 

『戦っちゃダメ。()()()()()()()()()

 

夾竹桃がカフェであたしに言ったことが胸に突き刺さる。

 

「今のあたしは、何も持っていないんです……!」

「――あかりちゃん」

 

その時、後ろから何かに包まれるような感じがして、そこから錐椰先輩の声が耳元で聞こえた。

 

(……え?なんで耳元で錐椰先輩の声が?それに何か暖かい……これっても、もしかして……あ、あたし、錐椰先輩に抱き締められている……///)

 

あたしはそのことに気づき、顔が真っ赤になっている。

 

「どう?少しは落ち着いた?」

 

(むし)ろ頭の中がフィーバーしてます。

 

「あ、あの錐椰先輩!?」

「――あかりちゃん、本当に何も持っていないのかい?」

「……え?」

 

そこで錐椰先輩が離れつつ(少し名残惜しい)、後ろを指差した。

 

「振り返ればそこに、あかりちゃんが持っている大事なものがある」

 

そう言われて後ろを振り返れると、そこには――

 

「家が何だ、技が何だ!あかりはあかりだろ!」

「微力ですがお力添えしますの!」

「あかりさんの力になれるならどんなことでも手伝います!」

(それがし)も助太刀致す。風魔の秘伝『符丁毒』の悪用許すまじ」

 

――あたしが持っていた、大事なもの(友達)がそこにいた。

 

「みんな……」

「――全員暗誦(あんしょう)!武偵憲章一条!」

『仲間を信じ、仲間を助けよ!』

「……みんなァ……」

「あかりちゃん」

 

あたしが涙を流していると、錐椰先輩が近づいてあたしの手から武偵高のワッペンを取ってあたしの制服につけた。

 

「――作戦命令を(くだ)す。俺とアリアは『武偵殺し』を、あかりちゃんは夾竹桃の逮捕だ……作戦コードネームは――」

 

独唱曲(アリア)照らす(あかり)清き水()

 

「『零』は、『清らかな水玉』って意味があるんだよ。これは俺達の戦いだからな。ネーミングセンスないけど」

「あ……」

 

『作戦コードネーム』とは、ここ一番の強襲作戦(オペレーション)に付くものである。そして、作戦コードネームが付くものには認められた者にしか参加できない。

 

(ということは……あたし、錐椰先輩に認められた……錐椰先輩からの、正式な作戦命令……!)

 

「返事は?」

「っ!はいっ!」

 

その後嬉しすぎて泣いてしまった。あたし、今日本当に泣いてばっかだな……

 

「作戦開始は二日後、皆で力を合わせて戦うんだぞ……絶対に諦めないように。俺も調査が終わったからな、次はこちらから『武偵殺し』のことを吊り上げる。そっちはしっかり準備するように」

『はい!』

 

よし、絶対に夾竹桃を捕まえてやる!そしてののかを助けるんだ――




どうでしたでしょうか?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問がありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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25話~闘う意味~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

小説の『緋弾のアリアAA』買いました。ネタバレにならないように内容には触れませんが……色んなネタになりそうなのはありましたね(  ̄▽ ̄)

それでは、第25話、始まります。

前半コメディ後半シリアスです(コメディって言えるだけのものもないが)



( *・ω・)ノヤァ、零だ。えっ?誰だお前って?この物語の主人公だぞ?あかりちゃんじゃないからな……多分……きっと……( ;´・ω・`)

と、ともかく俺は今、入院して全治数ヶ月と思われたのに数時間後に退院するという医者の度肝を抜かした翌日、美容院の前にいる。その理由は――

 

「零、行こっか」

 

と、美容院の中からアリアが出てきた。その姿は白地に薄いピンクの柄が入った清楚なワンピースだ。

実は今日、アリアがどうしても寄りたい場所があるから零もついてきてと言われてついてきたのである。その途中に美容院により、前髪を整えたということだ。

 

「ああ、そうだな」

 

アリアの私服を見るのは久しぶりのため少し魅入ってしまったが、すぐにアリアの隣に立ち、歩き始める。

 

「何か、こうやって二人で歩くのも久しぶりだね」

「そうだなぁ、今じゃ二人とも外見が変わってしまったけど」

「外見が変わったからって関係ないわよ。それに緋色と紅色なんて何だかお揃いみたいで良いじゃない」

「信号では一緒にいない方が良いな。人が間違えてずっと横断歩道渡らなくなるぞ?」

「その前にパニックになるわよ。両方とも赤なんてことが起こったら」

 

なんてバカげた話をしながらアリアは俺の前を歩いていく。

 

(……変わったなぁ、アリア。昔はどこかに行くときは必ず俺の後ろについてくるだけだったのにな……)

 

「零?どうしたの?」

「いや、全国のお父さんの気持ちが分かった気がするだけだ」

「――?」

 

 

 

 

 

その後、電車に乗ってついた降りた場所は新宿。そこからまた少し歩いている。道中に街の男たちがチラチラとアリアを見ている。

 

(ま、そうなるだろうなぁ……アリアみたいな美少女が私服で歩いているんだから、注目するのも無理ないよ)

 

とか思っていると、アリアは高層ビル街の方へカツカツとミュールを鳴らしつつ歩いていく。

 

(……意外な方向だな、こっちはオフィスビルぐらいしか無かったハズだが……)

 

すると、

 

「――ここよ」

 

と言ってアリアがある場所で止まった。そこは……

 

「――新宿警察署?」

 

何故こんな所に用が?

 

「それは中に入ったら分かるわ」

「分かった……ところで」

 

と、俺はそこで言葉を遮り、後ろの方へチラリと目をやる。アリアも俺が何を言いたいのか分かったのだろう、少しため息をついた。そして……

 

()()な尾行。シッポがにょろにょろ見えてるわよ」

「ついでに尾行する時くらい、そのネクラな眼を止めろよ」

「誰がネクラな眼だ!」

 

そう言ってキンジが電柱の影から出てきた。そういや退院から会ってなかったな。

 

「あー、零。怪我はもう大丈夫なのか?」

 

そう言って話題を変えながら俺に聞いてくるキンジ。だがその目は俺を見ておらず少し下を向いている。

 

「やっぱり気にしてたか……大方俺が怪我したのは自分のせいだとか思って、気まずいから会いにこなかったんだろう?」

 

ウグッとキンジが呻いた。図星だな。

 

「まったく……お前はお人好しだから自分を責めているとは思ってはいたが……」

「お、俺のことはどうでもいいから、怪我は大丈夫なのかどうなんだ!」

「図星だからって慌てんなって……それに大丈夫じゃなかったらこんな所に来てないよ。通院中のお散歩だってこんな所までは来ないぜ?」

「まあそうだが……」

 

俺の発言にキンジは黙りこむ。

 

「で、どうして追いてきたのよ?」

「あー……、その、お前が昔言ったろ?『質問せず、武偵なら自分で調べなさい』って。ていうか、気づいてたんならなんでそう言わなかったんだよ」

「迷ってたのよ。教えるべきかどうか。あんたも、『武偵殺し』の被害者の1人だから」

「?零は何か知っているのか?」

「知らねぇよ、俺もついてきただけだし」

「まぁ、もう着いちゃったし。どうせ追い払ってもついてくるんでしょ」

 

と言うアリアはスタスタと署内へ入っていくので、俺とキンジは慌ててついていった。

 

 

 

 

 

留置面会室で二人の管理官に見張られながらアクリルの板越しに出てきたのは――ッ

 

「まぁ……アリア。この方々は彼氏さん?」

「ちっ、違うわよママ」

「じゃあ、大切なお友達さんかしら?お友達を作るのさえヘタだったアリアが、ねぇ……初めまして。わたし、アリアの母で――神崎かなえと申します。娘がお世話になってるみたいですね」

 

――高校生の子を持っているとは思えないくらいの若々しさがある、アリアの母親であるかなえさんだった。

 

(……は?)

 

俺はイキナリのことに驚いてまったく動けない。

な、何でかなえさんが()()()()()()()()!?

 

「あ、いえ。その……」

 

かなえさんのほんわかとした感じに、キンジがドモる。キンジ、年上の人には弱いもんな。

 

「そちらの方も、アリアには苦労されていると思います」

 

と、かなえさんが俺に話をふってきた。ちょうどいい、話すか。

 

「――久しぶりですね、かなえさん」

「……あら?どこかでお会いしましたか?」

「……僕です。桐ヶ崎……いや、かなえさんは本名知っていましたね。錐椰 零です」

「え!?零君!?」

 

俺の言ったことにかなえさんが驚く。その驚きかたがアリアとそっくりだったので、やっぱり親子だな~と思った。

 

「はい、かなり外見が変わりましたけど」

「あらあらあら……見ないうちにずいぶん大きくなって、お母さん嬉しいわ」

「かなえさんこそ、昔とまったく変わってないですね。大学生って言っても不思議に思わないですよ」

「あら、お世辞まで言えるようになったの?」

 

そんな感じでやりとりをしていると、

 

「ママ、零。面会時間があまりないから」

 

アリアに注意されたので俺とかなえさんは話すのをやめた。

 

「手短に話すけど……零とこのバカ面は『武偵殺し』の被害者なの。先週、武偵高で自転車に爆弾を仕掛けられたの」

「……まぁ……」

 

かなえさんが表情を固くする。

 

「さらにもう一件、一昨日はバスジャック事件が起きてる。そこで零が負傷したわ。ヤツの活動は、急激に活発になってきてるのよ。てことは、もうすぐシッポも手を出すハズだわ。だからアタシ、(ねら)い通りまずは『武偵殺し』を捕まえる。ヤツの件だけでも無実を証明すれば、ママの懲役(ちょうえき)864年が一気に742年まで減刑されるわ。最高裁までの間に、他も絶対、全部なんとかするから」

 

――アリアの言葉に、俺は目を丸くした。864年だと!?

 

「そして、ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を、全員ここにぶち込んでやるわ」

「アリア、気持ちは嬉しいけど、イ・ウーに挑むのはまだ早いわ――零君」

「はい」

「零君がいるってことは、アリアとパートナーっていうことでしょ?――アリアのこと、よろしくお願いしますね?」

「……分かりました、必ず守ってみせると誓います」

「……ありがとう」

 

と、そこで、

 

「神崎、時間だ」

 

壁際に立っていた管理官が、壁の時計を見ながら告げる。

 

「え……やだ!アタシ、もっとママとお話したい!」

「……アリア……」

「やだやだやだ!」

「アリア……!」

「時間だ!」

 

興奮するアリアを宥めようとアクリル板に身を乗り出したかなえさんを、管理官が()()い締めにするような形で引っ張り戻した。

あっ、とかなえさんが小さく(あえ)ぐ。

 

「やめろッ!ママに乱暴するな!」

 

アリアがそう言うも、管理官は話を聞かずにそのまま強引に連行しようとする。

……流石に切れたぜ、オイ。

 

「――おい、管理官」

 

俺が殺気をこめて呼ぶと、管理官は恐怖のあまり止まった。

 

「てめぇら二人、いくら犯罪者相手だろうとやって良いことと悪いことがあるだろうが。次そんなことをしてみろ、『紅電』の権限でお前ら二人の首を飛ばすぞ」

 

そこまで言って、俺が『紅電』だと気づいたのだろう、慌ててかなえさんの腕を離し、普通に同行させた。

そして、かなえさんは面会室から姿を消した――

 

 

 

 

 

カツカツとミュールを鳴らしてアルタ前まで戻ってきたアリアは急に立ち止まった。

背後から見れば、アリアは顔を伏せ、肩を怒らせ、ぴんと伸ばした手を震えるほどきつく握りしめていた。

ぽた。

ぽた……ぽたた。

その足元に、何粒かの水滴が落ちてはじけている。

それは……聞くまでもない、アリアの涙だった。

 

「アリア……」

「零……」

 

アリアが顔をあげると、今にも涙が溢れ出そうになっている。

俺はたまらず、アリアのことを抱き締めた。

 

「いいぞ……今は、思いっきり泣いても」

「うっ……わぁ……うぁあああぁぁあああぁぁ!」

アリアは糸が切れたように、泣き始める。

「うあぁあああああああ……ママぁー……ママぁああああぁぁ……!」

 

アリアが泣き出した途端、ザァーと大雨が降り始めた。まるで、アリアの心の中を表すかのように。

 

「辛かっただろう……苦しかっただろう……不安だっただろう……ごめんな、1人にさせてしまって……これからは、俺がいるから。絶対に1人にはさせない。一緒に、かなえさんの無実を証明しよう」

「……うん……うん……!」

 

その光景を見て、キンジは何も言わずに去っていった。恐らくあいつなりに気づかってのことだろう。

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

「うん……」

 

あれから数分後、ようやくアリアが落ち着いたのでアリアから離れる。

 

「じゃあ、明日に向けて準備でもするか」

「うん……そういえば、零。一体どこに『武偵殺し』がいるの?調べものが済んだって言ってたけど」

「ああ、アリアには言ってなかったっけ……まあ、部屋にある荷物まとめておけ」

「?何で?」

 

アリアが不思議そうな顔をする。何故強襲するのに荷物が必要なのか、分からないようだ。

仕方ない、言いますか。

 

「明日から行くんだよ――イギリスに」




どうでしたでしょうか?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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26話~『武偵殺し』~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
インフルエンザに見事にかかってしまいました……申し訳ありません。それと、お気に入り350件有難うございます!

それでは、第26話、始まります。

まだ頭痛いや……


( *・ω・)ノヤァ、零だ。現在は午後7時。俺とアリアは今夜、イギリスにチャーター便で向かう。

ちなみに俺達が乗っているのは『空飛ぶリゾート』と言われている、全席スィートクラスの超豪華旅客機だ。座席ではなく高級ホテルのような12の個室を機内に造り、それぞれの部屋にベッドやシャワー室までもを完備した、いわゆるセレブご用達しの新型機だ。

金髪と銀髪のアテンダント二人に案内されながら部屋に入る。

 

「もうすぐ離陸だな」

「そうね」

「しっかし、久しぶりにイギリスに行くな~。着いたら何しようかな?」

「メヌに会いに行かないの?あの子、零がいなくなった時に珍しく大泣きしたのよ?」

「メヌエットかぁ……そういや連絡してないな、悪いことしたなぁ……」

 

アリアとそんな話をしていると、

ぐらり。

機体が揺れた。離陸準備に入ったな。

そのまま滑走路に入って、離陸した。

 

 

 

 

 

離陸まもなくして、ガチャっ、個室の扉が開いた。そこにいたのは――

 

「……キ、キンジ!?」

 

アリアが突然入ってきたキンジに対して驚いている。そりゃそうだ。キンジには言ってなかったんだから、キンジが来るのはあり得ないことだ。

 

「……さすがはリアル貴族様だな。これ、チケット、片道20万ぐらいするんだろ?」

「――断りもなく部屋に押しかけてくるなんて、失礼よっ!」

「お前にそれを言う権利はないだろ」

 

アリアは自分が俺の部屋に押しかけたことを思い出したのだろう。

うぐ、と怒りながらも黙る。

 

「……なんでついてきたのよ」

「太陽は何で昇る?月はなぜ輝く?」

「うるさい!答えないと風穴あけるわよ!」

 

セリフをパクられてカッとなったのか、アリアはホルスターに手をかけた。

 

「まぁまぁ、アリア落ち着けって……それで?何でキンジはついてきたんだ?教えてないし、そもそもアリアとの契約は終了しただろ?」

 

そう、キンジはバスジャックが終わった時にもう契約は終了しているのだ。それなのに何故……?

 

「武偵憲章二条。依頼人との契約は絶対守れ」

「……?」

「俺はこう約束した。強襲科(アサルト)に戻ってから最初に起きた事件を、一件だけ解決してやる――『武偵殺し』の一件は、まだ解決してないだろ」

「……クッ」

 

キンジが言ったことに対して俺は思わず笑ってしまった。

それを見たキンジは怪訝そうな顔をする。

 

「何がおかしいんだよ」

「いや、やっぱりお前は『正義の味方』――遠山金四郎の血を引き継いでいる者だよ」

 

時代劇とかで皆も聞いたことないか?

 

『――この桜吹雪、見覚えがねぇとは言わせねぇぜ――!』

 

って言うやつ。あの人だ。なんでもあの人もヒステリアモードのDNAを持っていて――露出狂のケがあったのか、もろ肌を脱ぐと急激に知力体力を高めることができる人だったらしい。

 

「何だよそれ」

「さぁてね」

 

そんなやりとりをしていると、

 

「帰りなさい!」

 

アリアが切れた。

 

「ロンドンについたらすぐ引き返しなさい。エコノミーのチケットくらい、手切れ金がわりに買ってあげるからっ。アンタはもう他人!アタシに話しかけないこと!」

「元から他人だろ……それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。零なら分かっているんじゃないか?」

「……はぁ?何を言って――」

 

キンジが言ったことにアリアが首を傾げると……

 

パン!パァン!

 

――音が機内に響いた。

それは、俺達武偵の生徒が最も聞き慣れた音――

銃声――!

 

狭い通路に出るとそこは、大混乱になっていた。

12の個室から出てきた乗客たちと、数人のアテンダント――文字通り老若男女が、不安げな顔でわあわあ騒いでいる。

銃声のした機体前方を見ると、コクピットの扉が開け放たれている。

そこにいたのは、さっき俺とアリアを部屋まで案内した金髪と銀髪のアテンダント二人。

そいつらが、ずる、ずる、と機長と副操縦士を引きずり出してきている。

二人のパイロットは何をされたのか、全く動いていない。

どさ、どさ、と通路の床に二人を投げ捨てたアテンダントを見て、俺とキンジは拳銃を抜いた。

 

「――動くな!」

 

キンジの声にアテンダント達は顔を上げると、にぃッ、と、その特徴のない顔で笑った。

そして1つウィンクをして操縦室に引き返しながら、

 

「「Attention Please.(お気を付けください)でやがります」」

 

ピン、と音を立てて、胸元から取り出したカンを放り投げてきた。

 

「――みんな部屋に戻れ!ドアを閉めろ!」

 

足元に転がってきたカンを見て、ガス缶だと思ったのだろう、キンジが乗客全員にそう叫んだ。

乗客がそれを聞いて部屋に戻るなか、俺はアテンダント達を追おうとしたが、

 

「零!何やっているんだ!早く来い!」

「ちょっ……おい!」

 

キンジに腕を捕まれて部屋に引きずられた。

パタン、と扉を閉める一瞬前に――飛行機はグラリと揺れ、パチン、と機内の照明が消え、乗客たちが恐怖に悲鳴を連ねた。

 

 

 

 

 

暗闇はすぐに、赤い非常灯に切り替わった。

 

「零!何で追いかけようとした!ガス缶が目に入らなかったのか!」

 

とキンジが言ってきたが、

 

「バカかキンジ」

「なっ……何でバカにされるんだよ!」

「もしあれがガス缶だったとしたら、何で投げてきたアテンダント達がガスマスクしていないんだよ?」

「――ッ!クソッ!一本取られたか……」

 

キンジは悔しそうに壁を殴った。

 

「それよりキンジ、1つ聞かせろ。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って言ったよな?っていうことは、キンジ()こうなることが分かっていたっていうことで良いんだな?」

「ああ」

「ちょっと、一体どういうこと?それにキンジ()って……零もこうなること分かっていたっていうこと?」

 

アリアが混乱しているような感じで聞いてくる。

 

「ああ、アリア。まず1つ言っておくことがある……俺は始めから、イギリスに行くために飛行機に乗った訳じゃないんだ」

「……え?」

「『武偵殺し』はバイクジャック、カージャックから事件を始めているのは分かるな……調査の時に分かったんだが、シージャックで――ある武偵を仕留めた。そしてそれは、直接対決だった」

 

俺の話を聞いて、少しキンジが俯いたが、今は話を続ける。

 

「……どうして」

「そのシージャックは違う事件とされていたからな。電波も傍受してなかったんだろ?」

「う、うん」

「『武偵殺し』は電波を出さなかった。つまり、船を遠隔操作する必要がなかった。ヤツ自身が、そこにいたからだ」

 

……この話はすべてキンジに関係することだが、今は説明する時間がない。

 

「ところが、バイク・自転車・船と大きくなっていった乗り物が、ここで一度小さくなる。俺とキンジのチャリジャックだ。次がバスジャック」

「……!」

「ここまで言えば分かるか?ヤツはかなえさんに罪を着せ、アリアに宣戦布告したんだ。そしてシージャックと同じ三件目で、今アリアと直接対決しようとしている。この、()()()()()()で」

 

推理が苦手なアリアが、ぎり、と悔しさに歯を食いしばる。

 

「――だからこそ、誘った」

「えっ?」

「アリア。逆を返すと、今まで出てこなかった『武偵殺し』と直接対決できるってことなんだ。このチャンスは逃す訳にはいかない」

「……そうね。どこのどいつだか知らないけど、アタシ達を嘗めてくれたこと、後悔するといいわ」

 

そこに――

ポポーンポポポン。ポポーン。ポポーンポポーンポーン……

ベルト着用サインが、注意音と共に不自然な点滅をし始めた。

 

「……和文モールスか……」

 

オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ

オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ

 

「……誘ってるな」

「上等よ。風穴あけてやるわ」

 

と久しぶりに風穴宣言を聞きながらバーに向かう。

 

「一緒に行く。()()()が役に立つかどうかは、分からないけど」

「来なくていい」

 

キンジの申し出をアリアが拒否した途端――

ガガーン!

雷の音が聞こえてきた。だいぶ近いな、雷雲の近くを飛んでいるのか?

 

「きゃっ!」

 

雷がなった瞬間、アリアが驚いて俺に抱きついてきた。

 

「れ、れい~」

 

……そういえばアリア、雷苦手だったな。

 

「キンジ、ついてきてくれ。アリアのオシメを替えることくらいできるだろ?」

「ちょっ、零!それどういうこと!?」

 

 

 

 

 

床に点々と(とも)る誘導灯に従って、俺達は慎重に一階へと降りていく。

一階は――豪奢に飾り立てられたバーになっている。

その、バーのシャンデリアの下。

カウンターに、足を組んで座っている女がいた。さっきの金髪のアテンダントの方だ。

そのアテンダントは、武偵高の制服を着ていた。

それもヒラヒラな、フリルだらけの改造制服――だ。まさか……

 

「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねぇ」

 

言いながら……ベリベリッ。

アテンダントはその顔面に被せていた、薄いマスクみたいな特殊メイクを自ら剥いだ。

中から出てきたのは――

 

Bon soir(こんばんは)

「――理子!?」

 

くいっ、と手にした青いカクテルを飲み、パチリ、と俺達にウィンクをしてきたのはやはり、理子――だった。

 

「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。レイレイは違うみたいだけど。でも……お前の一族は特別だよ、()()()()

 

――ッ!どうして理子が、アリアの『H』家の名を――

 

「あんた……一体……何者……!」

 

眉を寄せたアリアに、にやり、と理子が笑う。

 

「理子・峰・リュパン四世――それが理子の本当の名前」

 

その顔を、窓から入った稲光が照らした――




どうでしたでしょうか?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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27話~用心棒~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
体調良くなってきたし、筆も乗ったし、久しぶりの連日投稿です!次がいつになるやら……
それと、今回から少し書き方変えました。会話文の地の文を一行あけています。
それでは、第27話、始まります。


リュパン……か。どうりでな。

リュパンとは、探偵科(インケスタ)の教科書にも載っている、フランスの大怪盗だ。

 

ル○ン・ザ・サ~ド♪

 

……今違うものが出てきたような……気のせいか。

 

「でも……家の人間はみんな理子を『理子』と呼んでくれなかった。お母様がつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方がおかしいんだよ」

「おかしい……?」

 

アリアが呟く。

 

「4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人どもまで……理子をそう呼んでたんだよ。ひっどいよねぇ」

「そ、それがどうしたってのよ……4世の何が悪いってのよ」

 

ハッキリと言ったアリアに、理子はいきなり目玉をひんむいた。

 

「――悪いに決まってんだろ!!あたしは()()か!?あたしはただのDNAかよ!?あたしは()()だ!数字じゃない!どいつもこいつもよォ!」

 

突然キレた理子は――

俺達ではない、誰かに対して、叫んでいた。

ここではない、どこかに対して怒っていた。

 

「曾お爺様(じいさま)を超えなければ、あたしは一生あたしじゃない、『リュパンの曾孫』として扱われる。だからイ・ウーに入って力を得た……100年前、曾お爺様同士の対決は引き分けだった。つまり、オルメス4世を(たお)せば、あたしは曾お爺様を超えたことを証明できる。あたしは、手に入れた力でもぎ取るんだ――あたしをッ!」

 

……なるほど、言いたいことは良く分かった。

 

「……それで、やるのか?こちらは3人だぞ?しかもSランク1人に『Sランク内最強』1人に元首席候補1人だぜ?」

 

俺の言葉を合図に、俺達三人は臨戦態勢に入る。

 

「……確かに、オルメスの一族にはパートナーが必要だ。曾お爺様と戦った初代オルメスには、優秀なパートナーがいた……だが、お前みたいな化け物ではなかったがな、零」

 

……なるほど、『化け物』ね。そう思われても仕方ないか。それに、初めて理子から『零』って呼ばれたな。

 

「……だからこそ、目には目を、歯には歯を、公式チーターには――非公式チーターを。入ってきて」

 

と、理子の声で、コツ、コツ、と歩いてくる音が聞こえてきた。操縦室からだな。

そちらを見てみると――

 

武偵高の制服を身に(まと)い、

銀髪というより、白髪に少し銀色が混じっているような髪を肩より少し伸ばしていて、

目鼻立ちがくっきりとしていて、

脚がスラッと伸びた、美少女がいた。

 

「――ッ!」

 

俺はその少女を見て、動けなくなった。

 

「さっきのアテンダントみたいだな……武偵高の制服着てるけど……」

「ええ……しかし、あんな奴見たことがないわ。零の相手にならないと思うけど……」

 

キンジとアリアが少女を見て呟く。

 

「――零、久しぶりね」

 

その少女が俺にそう言ってくる。

 

――アリア、アリアが言ったことは半分正解で半分外れだ。確かに相手にならないだろう。

 

「ああ、久しぶりだな。ネリー」

 

俺はその少女、ネリーを見ながらそう言う。

――ただ、相手にならないのは彼女ではなく……

 

 

「それで、何しに来たんだ?『リバースランカー』――『技神』さんよ?」

 

 

――俺の方だ。

 

 

 

 

 

 

「零……一体何者なんだ彼女は?」

 

俺の表情を見てただ事ではないと判断したのだろう、キンジが真剣な顔で聞いてくる。

 

「ああ、ネリーは……」

「待って、自己紹介くらいするわよ」

 

そう言ってネリーは微笑んだ。

 

「初めまして、ネリー・リチャードと言います。以後お見知り置きを」

 

そう言って深々と頭を下げてくるネリーに、キンジがつられて頭を下げる。

 

「今はパリ武偵高、二年強襲科(アサルト)Cランクとして活動して――」

「――そんな表向きのプロフィールは今はいいだろ」

 

ネリーが今はいらない情報を流そうとしているので止める。

 

「あら?一応零が言わせたいことは最重要機密事項になっているものだけど、いいのかしら?」

「ああ、俺が許可させる」

「へぇ~」

 

そう言った俺に、ネリーは少し驚いた表情でキンジとアリアを見る。

 

「良かったね、あなた達。今の、零から信用されてるってことよ」

「言わなくていいからさっさと本当のこと言え」

 

ハイハイ、と言って手をフラフラッ、と左右に振るネリー。

 

「じゃあ本当のこと言うわね……あたしは『リバースランカー』と呼ばれる者よ」

 

さっきまで微笑んでいた顔が急に表情を消した。

 

「『リバースランカー』って何かは知らないわよね……『リバースランカー』は、表向きはB~Dランク、最高でもAランクなんだけど、実際は生まれつき圧倒的な強さを持つ者のこと。そして、武偵活動の表面上は平凡なんだけど、裏ではプロ武偵が何十人いても歯が立たないような依頼をこなしたり、国からの任務を遂行したりするのよ。当然汚れ仕事もあるわ。言っちゃえば『裏の武偵』ね」

 

「「なっ――」」

 

キンジとアリアが、揃って目を見開く。

 

「そして、『リバースランカー』と呼ばれる者は『神』と呼ばれる称号もつくのよ。あたしは『技神』――まあ正直誰も『リバースランカー』のことすら知らないから、称号なんて飾りにしかならないけど」

 

そう、『リバースランカー』は本当に一部の者だけしか知らない。知ったら最期――消されてしまうから。

 

「で、でも零は、零は勝てるよね!?」

 

アリアがそう言ってくるが――

 

「――そんな訳ないじゃない。少なくとも、()()零じゃ」

 

そうバッサリとネリーが言う。

 

「それは一番あなたが分かっているはずよ、零。いや――」

 

 

「元・『リバースランカー』、『破壊神』さん?」

 

 

……ついに言ったか……

 

「えっ……どういうこと?零?」

「そのまんまだよ。俺は昔、『リバースランカー』だったんだよ」

 

俺の告白に、キンジとアリアが驚く。

 

「『リバースランカー』は生まれつき圧倒的な強さを持っていることが条件なんだ。そして、国からの依頼ももらうくらいだ……負けることなんてあり得ないんだよ……でも」

「でも零は負けてしまったのよ。13才の時に」

 

俺の言葉を、ネリーが繋げた。

 

「……えっ?13()()の時って……もしかして」

 

アリアが何かに気づいたような顔をする。

 

「ああ、そうだアリア。俺がアリアの前からいなくなった理由――それは、事故で両親を失ったんじゃなくて、()()()との勝負で負けて、両親を殺されたんだ。そして――」

 

そこで俺は我に返り、

 

「いや……とにかく、それで『リバースランカー』を剥奪。以来国からはRランクにもなることも許されず、かといって下げすぎると反発がくると思ったのか、『Sランク内最強』の称号が与えられたんだ。そんなことする気はないけどな」

 

と、少し言葉を濁してそう言った。

 

「そう……だったの……」

 

アリアは少し俯いた。色んな情報が飛び交っていて、頭の中が整理できていないんだろう。

 

「待てよ」

 

とキンジがネリーに言った。

 

「何?」

「確かに零が負けたことは分かった。だけど零が弱くなったわけじゃない、それなのにどうして零が勝てないことになるんだ」

 

とキンジが最もらしい質問をする。が……

 

「えっと……遠山くん、で良かったかしら?」

「あ、ああ」

「何で零が『錐椰 零の名の下に』って言うと思う?」

「はっ?」

 

ネリーのいきなりの質問に戸惑うキンジ。

 

「おかしいとは思わない?何で毎回言っているのかって」

「それは……発動するための条件なんじゃないのか?」

「50点。確かに発動するための条件ではあるわ。でも、零が負けるまでは、何も言わずに能力を使っていたわ」

「なっ――」

「つまり何が言いたいのかっていうと、零はわざと発動条件を付けているっていうことよ。それに、もう1つ制約をつけている」

「もう1つ?」

「それは――」

「同じ系統の能力を一定期間内には使わない」

 

ネリーの言葉を遮って、俺が言った。

 

「キンジは知っているよな?俺がサーチ能力を使ったことを」

「あ、ああ」

 

あれはキンジが青海の猫探しの依頼を受けた時だ。その時に俺が使った能力ですぐに見つかった。

 

「あれを使えば『武偵殺し』がどこにいるかとか、そういうのは全部分かったはずじゃないか?」

「……」

 

俺の言ったことに、キンジはようやく気づいたような顔をする。

 

「そう、俺は自らリミッターを掛けているんだ。せめてもの、ケジメとして」

「ケジメ……?」

「ああ」

「……で、そろそろいいかな?」

 

と話していると痺れを切らしたのか、理子が少し声を震わせながら言ってくる。

 

「ああ、すまなか――」

 

ヒュンッ、サッ

 

――たな、と続けようとしたが、目の前に刃物が来たので避ける。

そしてさっきまでいた俺の場所には、傷跡ともいえないキレイな切り込みが床にあり、そこには、トンファーに刃がついたような物を二本手にしたネリーがいた。

 

「『風月』――それがこの武器の名前。まあ、私はタガーって呼んでるけど」

「そうかい」

「ちなみにどんな武器か分からないって人はファン○タのタガーを思ってもらえると良いよ」

「お前は誰に言っているんだ?」

「私はポー○ブル――つまり、通称P○Pが好きだったんだけど……でもPS○がもうソフト販売しなくなったから……」

「メタ発言は控えようか」

 

何てことを言ってはいるものの、背中には冷や汗が伝う。

 

「まぁ、この程度は避けられることは分かったし……そうね、遊んであげる」

 

そう言って今度は微笑むんじゃなくて、愉しむように笑うネリー。その後ろでは、アリアと理子が戦闘を始めている。

さて……どうするか……

 

 

「さぁ……風舞う私のフィールド(戦場)にようこそ」




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28話~『技神』~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
インフル明けで部活動すると本当にキツいですね。
最近リアルが忙しくて更新遅れてます。申し訳ありません!

それでは、第28話、始まります。


考える暇はない。すぐに俺は日本刀を取り出し、グロック17を地面に置く。

俺達の戦いでは、音速など話にならない。銃弾なんて、亀が歩いているようなもんだ。

 

「ハァッ!」

 

そのまま駆け出し、ネリーに向かって刀を振るう。

それをネリーは二対の『風月』で舞うように受け流す。

キン、キィン、と金属と金属がぶつかり合う音がし、俺とネリーの位置が何度も入れ替わる。

 

「成る程、刀の腕は鈍っていないようね」

「そりゃどうも、全部受け流されている中で言われても説得力皆無だが」

「何言ってるのよ、本当に全然衰えてないわ……でも、()()()()()()()()

 

そう言ったネリーは俺の攻撃を受け流した後、スッ、と懐に入ってきた――ヤバい!

『風月』は腕の周りに刃があるので、リーチが自分の腕の長さとほぼ同等だ。だから拳銃がメインの現代では使われることは少なく、使われたとしてもあくまでサブウェポンなのである。

しかし俺達のような音速の銃弾が効かない者は、必然的に近接戦となる。

そして剣の間合いより更に中に入られると、そこはもう『風月』の独壇場。剣ですら充分な威力を発揮できない、超近接戦になるのだ。

 

「懐ががら空きよ」

 

ネリーが懐に入った瞬間にそれを察知した俺は全力で後ろに飛ぶ。

シュッ、と空気を切り裂く音を聞きながら自分の容態を確かめると、防弾・防刃である制服の腹の部分がキレイに斬られていた。

 

「ヘェ~、ギリギリだけど(かわ)したのね。前は気づかない内に斬られていたのに」

「やっぱりバスジャックの負傷はお前の仕業だったのか……」

「あら?気づいてたの?それに、口調が変わっているわよ、零は女子相手に『お前』って言わないはずじゃないの?」

「斬ってくれやがったくせによく言うな。それにお前相手だと女子と戦っているって感じじゃねーんだよ、ネリー」

「それはショック」

 

――全然何とも思っていない顔で良く言うぜ。

心の中で愚痴を言いながら距離を詰める。とにかく、ネリー相手の時は近づき過ぎないように細心の注意を……

 

「遅い」スッ

「なっ!?」

 

目の前から突然いなくなったと思ったら、背後に廻られていた。

そのまま後頭部を蹴られて壁まで吹っ飛ばされ、衝突した衝撃で息が詰まる。

 

「私が『リバースランカー』内でスピードが桁違いだっていうこと、忘れたの?音速なんて目じゃないわ」

 

そう言ってファサッと髪を払うネリー。

 

「忘れる訳ないだろ……ただ、俺が目で追えなかったのが驚きでな……」

「何で零の目が追いつけるスピードに合わせなくちゃいけないのよ」

「なら本気を出せば良いじゃないか?まだ加速できるんだろ?」

 

俺がそう言うと、ネリーはやれやれ、と言いたげな顔をする。

 

「┐(´∀`)┌ヤレヤレ」

「口にしなくていいから!そして顔文字使うな!」

「だって冒頭で零が使わなかったじゃない」

「メタ発言すんなって……」

「まぁ、弱い相手には使いたくないって訳……出させてみなさいよ、『Sランク内最強』さん?」

 

クイクイッ、と指で挑発してくる。

……嘗めやがって。

 

「――剣技!一式・四節『瞬爆』!」

 

俺はすぐさま立ち上がり、ネリーの元まで思いっきり地面を蹴りあげて近づき、その勢いで刀を振るう。

ネリーは力の籠った刀をなんなく受け止め、刀と『風月』を押し合う形になる。

 

「――剣技!一式・五節『蛇道(じゃどう)!』」

 

そこで俺は手首を最大限までクネクネと動かしてネリーの『風月』から刀を外し、同時に膝を折りながら足下を狙う。

それを察知したネリーはバックステップで避ける。

 

「――剣技!一式・三節『乱心絶牙』!」

 

ここぞとばかりに俺は跳び上がり、ネリーに無数の刀を浴びせようとするが――

 

「――剣技。三式・三十七節『平心麗華(びょうじんれいか)』」

 

――ネリーは俺の刀を受け流し始めた。違和感を感じない、自然と流れるような動きで。

そして全て受け流すと、最後に空中で膠着している俺に一閃。

シュッ、という音の後に腹から電気が走るような痛みを感じた。

 

「グッ!」

 

思わずうずくまる俺にネリーが近づき、俺の腹に目掛けてソバットを見舞った。

 

「ガッ!」

 

再び俺は壁まで吹っ飛ばされる。腹を見ると、この前のバスジャックの時と同じ場所に同じような傷痕ができており、大量の血が流れ始める。

 

「『技神』の私に、技で勝てる訳ないでしょ?それにその剣技は、私が教えたモノ。どうくるかなんて、手に取るように分かるわ」

「クッ……『錐椰 零の――』」

「遅いと言った!」

 

ドゴッ!と更に頭に蹴りを入れられて脳が揺さぶられ、詠唱が途切れる。

 

「ゴフッ……」

「相手が能力を使う時に待つバカはテレビの中だけよ……どう?勝てる気がしないでしょ?早く本気になりなさいよ」

 

――チッ、ヤバイな……

 

俺は心の中で舌打ちしつつ、現状を確認する。

アリアは理子と戦っている。若干アリアの方が圧しているみたいだが、今ネリーが理子の支援に入ったら太刀打ち出来なくなる。

ならやるのは……ネリーの足止めだな……

 

「……それ、は……どう、かな……」

 

俺は痛みを堪えつつ、立ち上がってネリーに刀を向ける。

 

「いく、ぜ……ハァッ!」

 

そのままネリーに向かって駆け出した。

 

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

視点は俺に変更するぞ……な、何だよ。何か文句あるのか?

えっ?顔文字はどうしたって?知らねぇよそんなもん。そんなことより今は勝負の方だ。

現在、アリアと理子は至近距離で拳銃の撃ち合いをしている。

そこで戦っている零達のような人外はともかく、常に防弾服を着用している武偵同士の近接戦では、拳銃弾は一撃必殺の武器になりえない。()()()()なのだ。

そして武偵法9条。

武偵は如何(いか)なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。

そのためアリアは理子の防弾制服の上しか狙えず、また理子はアリアと対等にしたいためか、同じように防弾制服の上しか狙っていない。

まるで格闘技のように、アリアと理子の手が交差する。

武偵同士の近接拳銃戦は、射撃戦を避け、躱し、あるいは相手の腕を自らの腕で弾いての戦いだ。

バッ!ババッ!

放たれる銃弾は、お互いの小柄な体を捕らえず壁に、床に撃ち込まれていく。

その流れ弾が、零とネリーの方にもいくが――キィン!という甲高い音とともに弾かれる。その間二人はずっと目にも留まらぬ剣劇をしている。二人にとって邪魔にもならないのだろう。

どちらかの加勢になりたいが、アリアの方に入っても()()俺じゃ邪魔になるだけだ。零の方に入ったら邪魔どころかミンチにされるだけだ。

 

「――はっ!」

 

ガキンッ!と弾切れを起こした次の瞬間、アリアはその両脇で理子の両腕を抱えた。

二人は抱き合うような姿勢になり、理子の銃撃が止む。

ここだ!と俺は思い、兄の形見であるバタフライ・ナイフを、手のひらの中で回転させて開く。

非常灯の下で、刀身が赤く光る。

 

「そこまでだ理子!」

 

アリアの背後に突き出た拳銃に注意しつつ、慎重に近づこうとした時――

 

双剣双銃(カドラ)――奇遇よね、アリア」

 

理子が、言った。

 

「理子とアリアは色んなところが似てる。家系、キュートな姿、それと……二つ名」

「?」

「あたしも同じ名前を持ってるのよ。『双剣双銃(カドラ)の理子』。でもねアリア」

 

俺の足が、止まった。

その、ありえない、不気味な光景に。本能的に。

なんだ……あれは!?

 

「アリアの双剣双銃(カドラ)は本物じゃない。お前はまだ知らない。()()()のことを――!」

 

しゅら……しゅるるっ。

笑う理子の、ツーサイドアップの、テールの片方が――まるで神話にあるメデューサのように、動いて――

シャッ!

背後に隠していたと思われるナイフを握り、アリアに襲いかかった。

 

「!」

 

それを何とか躱したアリアだったが、不意の一撃を急に避けたため、体制が崩れる。

そこを狙ってもう一度理子が――反対のテールに握られたもう一本のナイフで狙ってる!回避は間に合わないし、ヘルプにも入れない!

そのままなすすべもなくアリアをナイフが襲う――

パァン!

――と、そこで一発の銃声。その後にキィンと理子のテールが握っていたナイフを銃弾が撃ち落とした。

慌てて銃弾が来た方向を見てみると、そこには全身に傷痕があり、制服の胸元が開いている零が、紅色のガバメントを握ってこちらに正対していた。そして、その後ろにはネリーが刃を無警戒な背中に向けていた。

ザシュッ!

とネリーが後ろから一閃。次の瞬間に背中から血が大量に出てきた。

 

「ッ――!」

 

零は口からも血を吐き出し、その場に片膝立ちになる。

 

「零!」

 

それを見たアリアが取り乱しそうになったが、零が何か懐から取り出して地面に放り投げた瞬間、辺りが光で被われた――フラッシュグレネードか!

 

「キンジ……一旦引くぞ……」

 

予告なしで投げられたので、俺も目がやられたが、零が俺を引っ張って連れていく。アリアも一緒のようだ。

 

(――ちくしょう!……何も、何も出来なかった……ただの役立たずじゃないか……!)

 

俺は自分が何も出来なかったことに怒りを覚えつつ、零に腕を引っ張られていった……




どうでしたでしょうか?
『Sランク内最強』と謳われている零が完敗状態。このハイジャック事件、一体どうなる!?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などかありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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29話~覚悟~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
少し早く投稿できました。次はどうなることやら……

まぁそんなことはともかく、第29話、始まります




さっきのスィートルームに逃げ込んでバタンと扉を閉める。と同時に体が悲鳴を上げて思わず倒れこんだ。

 

「零!」

 

フラッシュグレネードにやられた目が回復したアリアが、急いで倒れた俺の容態を確認する。

俺の体にはあちこちに傷があり、特に直撃をもらった腹と背中からはいまだに血が流れている。

 

「零、しっかりしろ!」

 

キンジがそう言って部屋にあった救急箱から包帯を取り出して俺の元にやってくる。

そして俺の体に巻き付けようとするが、俺がキンジの手から包帯をひったくって自分で巻き付ける。

 

「零、無理すんな!」

「大……丈夫だ……それに、俺は救護科(アンビュランス)もSランクだ……俺の方が慣れてる……」

 

そう言って素早く自分に包帯を巻き付け、ユラリと立ち上がろうとするが、フラフラとしてしまい、近くにあったベッドに倒れこむ。

――チッ……思ったよりダメージが酷いな……

その様子を見ていたアリアが無言で弾切れを起こした拳銃をリロードして、構えながら扉の方に向かっていく。まさか……

 

「アリア……何を……」

「――アイツ等の所よ。あたし一人で行くわ」

「バ……バカ野郎……アリア一人じゃ、あの二人は止められない……」

「元々アタシが狙われたことなの。これ以上零が傷つくくらいなら、アタシ一人で行くわ!」

 

そう言って扉を開けて出ていこうとするアリアの両腕を、体の激痛を無視して掴む。

 

「グッ……アリア落ち着け!あの二人相手にするのはムチャだ!殺されるぞ!」

「手を離して零!」

「離すもんか、パートナーの死が分かっているのに止めない訳にはいかない!」

「アタシだって、これ以上パートナーが傷つくのを見てられないわよ!いいから離して零!」

 

両腕を掴んでいるため、正面向かっている状態でアリアが俺の手を離そうともがく。その手には拳銃が握られていて、俺が手を離したら、例え俺を撃ってでもあの二人の元へと向かって行くだろう。ならばこの手は離せない。

どうする、どうすればいい。この状況でアリアを止める方法は――

 

(……イヤ、あるにはある。だが、それは……)

 

だが迷っている時間はない。この間にもあの二人がこちらに迫ってきているかもしれないのだ。

 

「零、離し――」

 

ああ、アリア。

――許せ!

 

(わめ)くアリアの口を、俺は。

(ふさ)いだ。

()()

 

「――――!!!」

 

赤紫色(カメリア)の目を、飛び出さんばかりにして驚くアリア。

恋愛沙汰はとことんニガテなアリアは、俺からの突然のキスに――

思った通り、完全に、固まってくれた。

黙るどころか、両手の先までまるで石化したようにびびんとつっぱっている。

桜の花びらみたいなアリアの唇は、小さくて、柔らかくて、そして熱かった。

 

――ぷは!

 

と俺とアリアは口を離し、同時に息を継いだ。

 

「アリア……悪い、許してくれ」

「零……」

 

先程までは飛び出さんとばかりにして開いていた赤紫色(カメリア)の瞳が、トロンとした目になっている。

そして、ふら、ふらら、へなへなと、その場に倒れこんだ。

 

「れ、零……ア、アタシ、ふぁ、ふぁ……ファーストキス……」

「……悪いな、アリア。俺もだよ……少しは冷静になれたか?」

「う、うん……」

「そっか……おいキンジ」

 

とりあえずアリアの頭を撫でながらさっきまで黙って見ていたキンジの方を見ると、

 

「何だい、零?」

 

――いつもより遥かに落ち着いていて、低くなっている声が返ってきた。

 

「おい、まさかキンジ……」

「ああ、()()()()みたいだ、今のでね」

 

こ、コイツ……人のを見てヒステリアモードになりやがった……マジかよ……

ま、まぁこれでこちらに重要な戦力が増えたので、(いじ)るのは別の機会にするか。

 

「ま、まぁともかく二人とも聞いてくれ……俺に案が一つある」

「何、案って」

「アイツ等二人を同時で戦うのは厳しい。それに今の俺がネリーを倒すこともな。だから分断させる。この部屋にキンジとアリアが残って、俺がバーに向かう。理子はアリアが目的だから俺とは戦わずにこの部屋に向かってくるだろうし、ネリーは俺が来たから相手するだろう。だから二人はこっちに来た理子を協力して逮捕してくれ」

「でも、そんなことをしたら零がまた――」

「俺はネリーの足止めをしているさ。ネリーは雇われの身。雇い主の理子が逮捕されたら早々に引き上げるはずだ」

「……分かった。でも、無理だけはしないでね」

「勿論」

 

こうしてキンジとアリアが部屋に残って作戦を考えている間に俺は部屋を飛び出し、バーへと向かった。

 

 

 

 

 

「あれ?後もう少ししたら行こうと思ってたけど、そっちから来たんだ~……って、レイレイ一人だけ?」

 

俺がバーまで戻ってくると、カウンターに座っていた理子が話しかけてきた。その隣にネリーも座っている。

 

「部屋まで来たら歓迎会開くってよ。俺はその招待状代わりってところだな」

「へぇ~、そうなんだ。楽しみだな~」

「因みに招待されたのは理子だけだぜ?」

「くふっ。良いよ。ネーちゃん、レイレイの相手は任せたよ」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

理子はスタッと立ち上がり、そのままルンルンとスキップしながら部屋に向かった。ここまでは予定通りだ。

 

「それで?歓迎会に招待されなかった私には一体どんなことをしてくれる訳?」

「俺が一緒に踊ってやるよ。剣劇という舞台でな」

「……私と張り合うつもりなの?リミッターをかけていて、立っているのもやっとな状況の中で」

「誰も勝負をするとは言っていない。目的は足止めをすることさ。後は俺のパートナーと親友に任せた」

「……足止め?簡単に言ってくれるわね」

 

次の瞬間、ネリーは立ち上がったと思ったら一瞬で俺の目の前まで来て、俺の首を掴んで持ち上げた。

元々ほとんど動けない俺は反応できずになすがままとなっている。

 

「カッ……グッ……」

「ふざけないで」

 

そのままネリーは俺を壁に投げる。

その衝撃で切られた背中の血が滲み、痛みが増す。

 

「――そう。そんなにリミッターを外したくないなら、そのまま殺してあげる……その前に、その胸元に隠してある()()()()()を破壊してからね」

「――何……?」

 

――その瞬間、さっきまでの激痛が嘘みたいに消えた。

そして、俺は胸元から――綺麗な銀色の外見に、小さなエメラルドが付けられているペンダントを取り出した。

 

 

『これはね、私の大切な宝物なんだけど、お兄ちゃんにあげる。それでね、私との写真を入れておいて。二人がずっと側にいられますようにって』

 

 

脳に流れる、はにかむ少女の表情。

――次の瞬間、辺りは殺気で満ち溢れてた。

 

「――ネリー、その言葉は禁句だぜ。例え冗談でもよ」

「冗談なんかじゃないわ。私は本気よ」

「……そうか。ならこっちも()()でやってやるよ」

 

そう言って、俺は目を閉じ、両手を左右に広げてある言葉を口にする。

 

『錐椰 零の名の下に』

『リミッターコード・0000Z。全ての超能力及び身体能力のリミッターを解除。リバースランカー・破壊神、再起動開始』

 

そう言った俺は目を開ける。外見的には何も変わってないが、

 

「……久し振りだけど、やっぱり凄い気迫ね」

 

と、さっきまで余裕の顔だったネリーの頬に冷や汗が流れる。それと同時にネリーは腰を落として構えた。

 

「どうしたネリー?さっきまでの表情がなくなっているぞ?」

「……そうなるわよ。速さではあたしが圧倒してるけど……今のあんたの超能力だけは喰らいたくないもの」

「そうか……なら、早速喰らえよ」

 

そう言った途端、俺の周りにいきなり無数のナイフが集まり、ネリー目掛けて飛んでいく。

それをネリーは自分に当たりそうなやつだけを『風月』で叩き落としながら避ける。

 

「テレポートにサイコキネシス……いきなり二つ同時に使ってきたわね。普通、一つだけしか使えないのに」

 

そう言ったネリーの声は後ろから聞こえたが……

 

「無駄だ」

 

ガキンッ!

俺は既に背中に回していた刀でガードし、距離をとる。

 

「先読み……嫌なモノ使ってくれるじゃない」

「どうした?こんなものだったか、ネリー?」

 

その言葉にカチンと来たのか、好戦的な目を向けてきて、

 

「……じゃあ、先読みしても間に合わないようなスピードにしてあげる」

 

ネリーがそう言った途端、ゴウッと機内の中なのに風が吹き荒れ始めた。

 

「ネリーもようやく本気ってことか」

「私はスロースターターなだけよ」

「よく言うぜ。任務の時に一番先に突撃して終わらせるくせに。俺とか他のやつらほとんど仕事出来ないんだぞ」

「あら?ごめんあそばせ」

 

そうな風に向かい合う二人。お互いに重心を低くし、いつでも動けるようにする。

 

「さぁ……大陸一つを一人で制覇できる『リバースランカー』同士の対決、始めようぜ!」




どうでしたでしょうか?

ついに零が本気を出す!そしてペンダントをくれた少女とは!?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などかありましたら、是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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30話~対決!『破壊神』vs『技神』~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
申し訳ありません、更新遅れました。最近リアルが忙しくて、もしかしたら次回も遅くなるかもしれません。ご了承下さい。

そして感想数100突破!有難うございます!

では、第30話、始まります。


「――グラビティ」

 

俺がそう告げた瞬間、ドン、といきなりネリーの体が沈んだ。

そこを狙って近づこうとするも――

 

「カマイタチ!」

 

ネリーが手を俺に向けたのでバックステップする。

ザシュッ!という音と共にさっきまで俺がいた所に爪痕のようなものが出来た。

そしてネリーが目の前にいるが、俺は()()に向けて刀を振るった。

ガキンッ!

と刃と刃がぶつかり合い、俺と()()()()()ネリーは反動で離れる。

 

「――剣技!(ゼロ)式・一章『紅炎(プロミネンス)』!」

「――剣技。一式・一章『銀風』」

 

俺の刀が炎に染まり、ネリーの『風月』の周りに風が纏う。

両者一斉に近づいた瞬間、周りに炎の嵐が巻き起こった。

その衝撃でまたしても両者が離れ、一定の距離が空いた。

その際に今まで受けたダメージがぶり返してきて、少し目が霞んできた。

 

「……相変わらず、本気出すとテレポートしたかのような速さだな」

「本当に使えるあなたには言われたくないわよ」

「そうかい……ところで、俺も限界が近いから、そろそろ決めさせてもらうぞ」

 

その瞬間、

 

――バチバチッ!

 

俺の周りに赤い、火花のようなものが流れた。それを見たネリーの顔が引きつる。

 

「……まさか、『破壊神』の象徴たる所以の『赤い雷』を放とうとするんじゃないでしょうね?」

「ああ、そのつもりだが?」

「……洒落にならないわよ。万物を破壊する超能力を、この狭い飛行機の中で使うなんて。飛行機が破壊されて上客全員吹き飛ぶわよ!」

 

最後の方はかなり焦った声になっている。

 

「安心しろ、手加減はするさ……ちゃんと受け止めろよ?」

 

俺は刀を鞘に入れて戻し、腰を落として右手を前に出した。

するとバチバチッと俺の手の中で赤い電流が溜まっていき、球体のような形になる。

 

「くっ……風よ!『風月』に力を!」

 

ネリーが叫ぶように言った後、また『風月』の周りに風が纏い、それに呼応するかのように『風月』が鈍く光る。

確か、『風月』は風が吹き荒れる程、その強さを増すって言ってたっけ?まぁでも……

 

「無駄だ」

 

そう告げた俺は手のひらをネリーに向ける。

 

「ああそれと、少し訂正させてもらうぜ」

「……?」

「『赤い雷』じゃない。最近良い二つ名をもらったからな――穿て、『紅電』」

 

 

ガゥンッ!

 

 

――空間を『紅電』が切り裂き、ネリーの持つ『風月』に激突。

そのまま『風月』はネリーごと『紅電』に呑み込まれ、『紅電』が消えた時には、木っ端微塵になっていた。

さらに持っていたネリーにもダメージがあり、体がマヒして動けないようだ。

かくいう俺も、とうとう限界がきたのかその場で座り込む。こりゃ立てそうにないな。

 

「……さい、あくね……」

「悪かったな、『風月』を破壊して。大事にして――」

「髪の毛跳ねちゃったじゃない……」

「たもんな……て、髪の方を心配してんのかよ!」

 

確かに電流を流したのだから髪の毛は跳ねてるが。

 

「当たり前じゃない!髪は女の命なのよ!」

「今心配することじゃねーだろ!つーか、『風月』のことは良いのかよ!」

「もう一対造ったから問題ないのよ!」

「……さいですか。まぁ、今回俺が勝てたのは狭い空間でコースが読みやすかったからかな?ネリーのスタイルは他方向からの攻撃だから」

「そんなこと言って、広い範囲だったら全方位攻撃使ってくるでしょ?それも手加減なしで」

 

二人とも何もする気が起こらず、そのまま喋っていると、グラッ、と機体が揺れた。

そのからしばらくして、タッタッタと理子が廊下から走ってきて、こちらを見て驚いた。

見ると、理子の髪がツーサイドアップにしていた部分が無くなっており、ただのロングヘアーになっている。

 

「ああ、理子ちゃんお帰り」

「ああ、ただいま……じゃないよ!ネーちゃんボロボロじゃん!大丈夫!?」

「大丈夫よ、マヒして動けないけど」

「それ全然大丈夫じゃないよ!」

 

俺がいるにも関わらず、コントみたいなことをしだす二人。仲が良い様子だな。後今更だがネリー、ネーちゃんってアダ名付けられたのか。

理子は動けないネリーに肩を貸して、そのまま歩き出す。

 

「良いのか理子、俺にトドメを刺さなくて。俺は今動ける状態じゃないぞ?」

「そんなことしてたら、後ろから来るキーくんに捕まっちゃうからね~……キンジの奴、あの体制から銃弾を切るとは思わなかったぞ……」

 

最後の方はボソッ、と呟いていたが、しっかり聞こえた。どうやらキンジが銃弾を切ったらしい。

流石ヒステリアモード、マジチート……今何か、お前が言うなって聞こえたぞ。

そのまま理子はバーの片隅に爆弾を貼り付けた。

 

「狭い飛行機の中――どこへ行こうっていうんだい、仔リスちゃん」

 

理子が爆弾を貼り付け終えた途端に、キンジが廊下から歩いてきた。キザな発言をしつつ。

 

「くふっ。キンジ。それ以上は近づかない方がいいよー?」

 

にい、と理子が白い歯を見せる。

キンジは爆弾に気づいたのだろう、そこで歩みを止める。

 

「ご存じの通り、『武偵殺し(ワタクシ)』は爆弾使いですから」

 

キンジが歩みを止めたのを見て、理子はスカートをちょこんとつまんで少しだけ持ち上げ、慇懃無礼(いんぎんぶれい)にお辞儀してきた。

 

「ねぇキンジ。この世の天国――イ・ウーに来ない?一人ぐらいならタンデムできるし、連れていってあげられるから。あのね、イ・ウーには――」

 

理子はその目つきを鋭くしながら、

 

()()()()()()()()?」

 

と言った途端、キンジが目を見開き、俺は軽く舌打ちする。

 

――遠山 金一(きんいち)

それが、キンジの兄さんの名前。勿論武偵()()()

いつも力弱き人々のためにほとんど無償で戦い、どんな悪人にも負けなかった金一さんは、キンジにとっての憧れであり、人生の目標となるヒーローだった。

キンジは最初から武偵を辞めたいと思っていた訳ではない。寧ろ自分から進んで武偵高に進学した。

中学の時のキンジは知らないが、ヒステリアモードのことで酷い目に遭わされたらしいが、それでも前向きに物事を考えていたらしい。

……だが去年の冬、そんなキンジの人生を一変させる出来事が起きた。

浦賀沖(うらがおき)海難事故。

日本船籍のクルージング船・アンベリール号が沈没し、乗客一名が行方不明となり、死体も上がらないまま捜索が打ち切られた、不幸な事故だ。

死亡したのは――金一さんだった。

警官の話によれば、乗員・乗客を船から避難させ、そのせいで自分が逃げ遅れたそうだ。

だが、乗客たちからの訴訟を恐れたクルージング・イベント会社、そしてそれに焚き付けられた一部の乗客たちは、事故の後、金一さんを激しく非難した。

(いわ)く、『船に乗り合わせていながら事故を未然に防げなかった、無能な武偵』と。

ネットで、週刊誌で、そして遺族のキンジに向かって吐かれた罵詈雑言の数々。それによって、金一さんという目標を失ったキンジの心が、完全に折れてしまった。

 

『武偵なんて、正義の味方なんて、戦って、戦って、傷ついた挙げ句、死体にまで石を投げられる、ろくでもない、損な役回りじゃないか……だから、俺は、武偵を辞めて、普通の人間になるんだ……』

 

久し振りに会ったキンジの顔が、とても憔悴(しょうすい)しきった顔だったのを、とてもよく覚えている。

……そして、俺が()()()()()()として判断したのも、この事故だ。

調べていておかしいと思ったのだ。金一さんが逃げ遅れるようなマヌケなことをするはずがない。金一さんは今のキンジがヒステリアモードの時でさえ、勝つことはできないくらいだから。

そして、今の理子の言い方だとどうやら本当らしいな。そして()()()()。まあ金一さんが理子に負けるはずがないからな。

だが、キンジは兄の名前が出てきたからか、ヒステリアモードなのに怒りを理子にぶつけている。

 

「……理子、怒らせないでくれ。いいか、次兄さんのことを言ったら、俺は衝動的に()()()()()()()()()()()()()()()んだ。それはお互いに嫌な結末だろう?」

 

武偵法9条。

武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。

 

「あ。それはマズイなー。キンジには武偵のままでいてもらわなきゃ」

 

理子はウィンクしたかと思うと、両腕で自分を抱きしめるような姿勢を取った。

 

「零」

「なんだ、ネリー?」

 

理子の肩を貸りながら、ネリーが俺を見る。

 

「一応教えといてあげるわ。イ・ウーに雇われたのは私だけじゃない。『リバースランカー』の溜まり場――『GOW』が雇われているわよ」

「……そうか」

 

嫌なことを聞いたもんだ。ということは、またすぐにでも事件が起きるってことか。

 

「だから、その時は全力で戦いなさいよ?リミッターかけてるあなたなんか、すぐに負けるわよ?」

「……肝に命じておくよ」

「あとそれと……」

 

まぁその時はその時、だな……てかまだあるのかよ。どうせ(ろく)な事じゃ……

 

「――(のぞみ)ちゃんの情報を、イ・ウーは知っている」

 

――ッ!

 

「じゃあ、バイバイ」

 

俺が驚いている間にネリーが手を振る。そして……

 

 

ドゥッッッッ!!!

 

 

いきなり、背後に仕掛けていた爆弾を爆発させた。

壁に丸く穴が開き、理子とネリーはその穴から機外に飛び出ていった。パラシュートも無しで。

 

「りっ……」

 

理子! とキンジが叫ぼうとしたが、できない。

室内の空気が一気に引きずり出されるようにして、窓に向かって吹き荒れる。

機内に警報が鳴り響き、天井から酸素マスクや消火剤やシリコンのシートがばらまかれた。

トリモチのようなそのシートは空中でベタベタとお互い引っ付き合い、穴に蜘蛛の巣を張るようにして詰まっていく。

窓に近いところで座っていたから外が見れたが、理子が背中のリボンを解くと、あのゴスロリ制服が不恰好なパラシュートになっていく。

最後に見えたのは、下着姿になった理子とそれに引っ付いているネリーがこっちに手を振りながら雲間に消えていく姿だった。

 

「おい!零!」

「なんだ、キン――ッ!」

 

その、理子とネリーと入れ違いに――

この飛行機めがけて、雲間から冗談のような速度で飛来する2つの光があった。

――マジかよ……ミサイルだと!?

 

ドドオオオオオオンッッッ!

 

轟音と共に、今までで一番激しい振動が機内を襲った。

 

「――チッ……やられた……マズいな」

 

俺はすぐさまANA600便の翼を確認し、舌打ちした。

翼は2基ずつある左右のジェットエンジンのうち、内側を一基ずつ破壊されていた。外側にある残りの2基は無事だが……

 

「零、一体何がマズいんだ?見たところエンジンは2基無事のようだが……」

「破壊された所が問題なんだよ。B737ー350の機体側のエンジンは燃料系の門も兼ねている。分かりやすく言うと、燃料漏れで止める方法がない。フライト時間から考えて、後20分で墜落する」

「なっ……」

「急いで操縦室に向かわないと……」

 

そう言って俺は立とうとするが、まったく力が入らない。それどころか、さっきよりも意識が朦朧とし、目が霞んでいる。

 

「グッ……」

「零、大丈夫か!?」

 

俺に肩を貸そうとしてくるキンジだが、俺はそれを手で制する。

 

「キンジ……3分だ」

「は?」

「3分で、着陸の仕方を教える。俺はもう、何も出来ない。アリアもセスナくらいしか飛ばしたことないから、旅客機の着陸方法なんて知らない。だからしっかりとその頭に叩き込んで、近くの空港に着陸しろ。ついでに剛気と連絡しておけ」

「零……でも」

「時間がない!狼狽えるな!」

「……分かった」

 

 

 

 

 

「というところだ……どうだ?」

「……ああ。しっかり覚えた」

「良し。なら行ってこい。俺はここで、少し早めに休んでいるよ」

「ああ。ゆっくり休んでくれ」

 

そう言った後、キンジが去っていった。

 

「……(のぞみ)……」

 

俺はもう一度、ペンダントを取り出して開ける。

 

――中には、美しい景色を背景に、今より背が低い俺と、その俺の腕に抱きついている少女がいた。

 

「……今、どこにいるんだ……」

 

そして目の前が暗くなり、俺は意識を失った――




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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31話~エピローグ~

はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

お気に入り400件、有難うございます!これからも頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします!

では、第31話、始まります。


目を開けると、そこには知らない……いや、最近見たことがある真っ白い天井があった。

 

「病院か……」

 

俺が体を起こすと、ガララッと病室の扉が開いた。

 

「やぁ、起きたのかね?」

「はい」

 

入ってきたのは、顔にメスの傷痕がある黒髪の前だけ白髪の男ではなく、顔がカエルに似ているわけでもない、いたって普通の医者がきた。

 

「体の具合はどうかね?」

「悪くないですね」

「それは良かった。君のような有名人の手術をするのは緊張するからね」

「そうですか……あの、ここに見舞いに来た人はいますか?」

 

アリアやキンジのことが気になるのでそう聞くと、医者は少し苦笑いしながら俺の右側を指さした。

俺が吊られて指差された方を見ると、

 

「……うわぁ……」

 

と唸らざるを得ない程、見舞品だと思われる物が()()()()()()

流石に花などは机に置かれているが、それ以外はほとんど机に乗りきらなくて、下に置かれている。

 

「ええっと……医者さん」

「はい」

「俺がここに来てからどれぐらい経ってますか?」

「まだ半日だよ」

 

半日でこれだけとか……ヤバすぎだろ。てか、『WE LOVE 零様♡』て書いてあるTシャツとかあるんだけと。誰がこんな手のかかったことしたんだよ。

 

(※零は自分のファンクラブがあることを知りません)

 

「まぁ良いか……医者さん」

「はい」

「見舞いに来た人の中で、ピンクのツインテールの少女と、いかにもネクラそうな男子が来ませんでしたか?」

「ああ、それなら……」

 

医者が何か言おうとすると、ガララッと扉が開いて、アリアとキンジが入ってきた。

 

「(*´∀`)ノヤァ」

「零、起きたのか」

「おう」

「それじゃあ僕は出ていくね」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

そうして医者は去っていった。

 

「具合はどう、零?」

「大分良いよ。それにしても、手術大変だっただろうな。めっちゃ怪我してたし」

「それについてはそこまでだったらしいぞ?キレイに切られてたからやりやすかったとさ」

「そうか……でも、めっちゃ血を流してたけどな」

 

俺がそう言うと、アリアの顔が赤くなった。何故だ?

 

「零、何も聞いてなかったのか?」

「何をだ」

「今回で失った血液を、アリアから輸血したんだぞ?」

「……え?」

「本当は病院が管理しているやつを使おうとしたけど、アリアが『あたしのを使って!』ってきかなくてさ」

 

キンジにそう言われて、俺はアリアの方を見た。

アリアは顔を赤く染めながら、自分の髪の毛をせわしなく触っている。

 

「え……えっと……零と血液型が一緒って覚えてて……頑張ってくれた零に少しでも恩返しがしたくて……その……」

 

俯きながらゴニョゴニョ言うアリア。それを見て思わずアリアの頭を撫でた。

 

「ありがとな」

「ッ!うん!」

 

お礼を言うと、アリアがとても良い笑顔で頷いた。

 

「ところで、俺が気を失った後どうなったんだ?」

「ああ、それは……」

 

気になったので聞いてみると、キンジが教えてくれた。

何でも、キンジは操縦室に向かい、剛気と連絡を取って羽田空港に降りようとした。

しかしそこで何故か剛気との通信が途絶。代わりに防衛省が通信に入ってきて、羽田空港が使えないと言い、 海の上で不時着させるように命令してきた。戦闘機の案内つきで。

だがそこで剛気との通信が戻り、防衛省はキンジ達が着陸出来ないと踏み、海の上で戦闘機で攻撃、被害を最小限にするという魂胆だった。

そこでヒステリアモードのキンジは防衛省に、『戦闘機を撤収させなければ紅電を仕向けるぞ』と脅しをかけた。それを聞いた防衛省は慌てて戦闘機を撤収させた。俺は猛獣か!

それでキンジは羽田空港ではなく、武偵高のある学園島の隣り、『空き地島』を使うと剛気に宣言。剛気は滑空距離がギリギリで雨も強いし、発煙筒がないから危険だと言うが、キンジがもう一度言うと剛気は通信を切った。『墜落したら轢いてやる!』という言葉を残して。

そして『空き地島』まで来たが、やはり何も見えない。キンジは如何に被害を最小限に抑えるかということを考えた時、突然『空き地島』が明るくなった。剛気達が装備科(アムド)の備品を強引に持ってきたらしい。

それで着陸を開始。雨のせいで距離が足りなかったが、なんとキンジは『空き地島』にある風力発電にぶつけて止めるという荒業を成し遂げ、無事生還できた、ということらしい。

 

「……なんか、俺が気絶している間に恐ろしいことがあったんだな」

 

ていうか、一歩間違えたら俺、知らない間に死んでたんだな。そう考えるとぞっとする。

 

「もう二度とこんなことはしたくない」

「そうね」

 

キンジとアリアも同じことを考えていたようだ。

 

「じゃあ俺はもう行くぞ。アリアは?」

「アタシはもう少しここにいるわ」

「分かった」

 

キンジは俺の具合の確認と報告が済んだので帰っていった。キンジも疲れてるし、部屋でゆっくりさせてやろう。

 

 

 

 

 

キンジが帰って数分後、アリアと何気ない話をしていると病室の扉が勢いよく開いた。入ってきたのは――

 

「零先輩!」

「おお、あかり「零先輩ッ!」ちゃグホォッ!?」ドスッ

 

名前を呼ぼうとしたらいきなりタックルされ、そのまま抱きしめられた。だから俺は腹を負傷しているってイタタタタッ!

 

「あ、あかりちゃんstop! stop! 俺腹を負傷しているから!」

「あ!す、すみません!」

 

俺が言うとあかりちゃんは慌てて離れた。

イテテ……この前はアリアにやられたし、この戦姉妹(アミカ)揃って一体何なんだ?

 

「零先輩、大丈夫ッスか?」

「零先輩、ご無事ですか?」

「零様、大丈夫ですの?」

 

俺が腹を抑えていると、ライカ、佐々木、麒麟(きりん)ちゃんの順に入ってきた。

 

「あ、ああ。大丈夫だよ」

 

俺がそう言うと、全員ほっとしたような表情になった。

 

「それで、夾竹桃は?」

「はい!無事捕まえられました!」

 

俺が聞くと、あかりちゃんが元気一杯にそう言ってきた。

 

「もう、お姉ちゃん。ココ病院ってこと忘れてない?」

 

と言いながら入ってきたのは、目に巻き付けていた包帯がとれ、しっかりと歩いているののかちゃんだった。

 

「ののかちゃん、無事解毒できたのか」

「はい」

「そっか……『独唱曲を照らす清き水』。先輩と後輩の立場が逆転しちゃったかな?」

「い、いえそんなこと!」

「でもねあかりちゃん、()()()で戦ったでしょ?」

 

俺がそう言うと、あかりちゃんはギクッとした表情になった。図星だな。

 

「な、何でそんなこと……」

「佐々木の怪我を見れば分かる」

 

そう言って俺は佐々木を見る。佐々木の体は、あちこちに包帯が巻かれていた。

 

「佐々木が怪我したことによって怒りを覚えて、死んでも夾竹桃を捕まえてやる。そんな感じだろう?」

「……はい」

「バカ」

 

そう言って俺はあかりちゃんの頭を撫でる。

 

「この世に死んでもいい戦いなんてない。その人が亡くなってしまったら、残された人が悲しい思いをする。だから、二度と死んでもいいなんて思ったらダメだ」

「ハイ……」

「それに、俺も悲しくなるからな」

「ハイ……ハイ!?」

 

ん?どうしてそこで驚く?

 

「え……えっと……れ、零先輩。それって……///」

「ん?何だ?」

「……いや、なんでもありません///」

「?」

 

不思議に思いながら頭を撫でていると……

 

「あかりばっかりズルいですよ!あたしも撫でて下さい!」

「えっ?」

「私もです!ていうか、私も名前で呼んでください!」

麒麟(きりん)もですの!」

「じゃあ私も!」

「ええっ!?」

 

ライカがズイッと頭を出してきて、それに続いて佐々木……志乃や麒麟(きりん)ちゃん、しまいにはののかちゃんまでもが頭を出してきた。

 

「あんた達!一体何してんのよ!」

 

アリアが顔を赤くしながらそう叫ぶと……

 

「すみません、他の患者さんの迷惑になるので、なるべく静かにしてください」

 

と、開きっぱなしになっていた扉から、ナースが笑顔でそう言ってきた。ただし、顔は笑っていない。

 

『申し訳ありません』

 

全員がすぐさま謝った。てかまったく気配感じなかったけど。めっちゃ怖い。

 

 

 

 

 

「まったく……あの子達は……」

「まぁまぁ」

 

それから暫くして、あかりちゃん達は用事があると言って帰り、今は俺とアリアだけと言う状況だ。

ポスンッとアリアが俺が座っているベットの隣に腰掛ける。

 

「……ママの公判が延びたわ。今回の件で『武偵殺し』が冤罪だったって証明できたから……弁護士の話では、最高裁、年単位で延期になるんだって」

「そっか。良かったな」

「うん……ねぇ、零?」

「何だ?」

「これからも、アタシのパートナーで――」

「当たり前だ」

「……そう」

 

俺が即答すると、アリアは微笑みながら俺の肩に頭を乗せてきた。俺はその頭を撫でる。

 

「じゃあ、これからもよろしくね。アタシの()()()()さん?」

「こちらこそ。神崎・()()()()・アリアさん」

 

 

――笑いあう少年少女を、窓から柔らかな日射しが包み込んだ――

 

To Be Continued!!!




第一章、完結!

私が執筆活動してから二ヶ月半といったところでしょうか。
読んでくれている読者さんの感想や評価を、いつも心待ちにしながらも、自分の趣味を続けられる。これって本当に素晴らしいですね。

長くなりましたが、次章もお楽しみに!
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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第二章 カゴを燃やす二対の炎翼
32話~やはり完全な黒~


はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

今回から第二章が始まります。そして気づけば5000文字越してる……自分でもびっくりです(なお、文才は皆無な模様)

それでは、第32話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ……なんか、この始まり方久し振りだな。

それはともかく、病院を超能力を使ってまた1日で退院するということをした俺は、今現在アリアとキンジの口論を聞いていた。その内容とは……

 

「キンジ、アタシの奴隷のくせに良くそんなことが言えるわね……」

「奴隷になったつもりは無いし、それにこれだけは譲らねぇ……」

 

両者が睨み合う。そして……

 

「美味しいのは桃まんよ!」

「何言ってやがる!うなぎまんだ!」

 

という、第三者視点から見ると凄くどうでもいい内容だ。

事の発端は、キンジがアリアにパシられて桃まんを買ってきた時に、自分が食べるように買ってきたうなぎまんをアリアが間違って食べた。

饅頭なのに何故か魚特有の生臭い匂いがするうなぎまんを食べたアリアは大激怒。うなぎまんに対しての文句を言うと、今度は珍しくキンジがそれにくいついて、現在に至るという訳である。

 

「アンタは桃まんのことを理解していないからそんなことが言えるのよ!この如何にも食欲をそそる外見!食べたときに伝わるモチッとした食感とアンコの絶妙なハーモニー!そんな変な魚の形になっている物とは訳が違うわ!」

「お前こそ何も分かっていない!変な魚じゃなくてウナギだ!日本の高級食品だ!それがコンビニで低価格で風味を味わえる、素晴らしい商品だぞ!そんな誰でも作れるような商品じゃない!」

 

――ガルルルル……

 

口論がかなりヒートアップして、お互いに相手に噛みつくような感じになっている。アリアはまだ分かるが、キンジがそんな風になるのは珍しい。そんなにうなぎまんが好きなのかな?

 

「零!この分からず屋に言ってあげて!桃まんが最高だってこと!」

「何言ってやがる!零、うなぎまんの方が最高だよな!」

 

おいおい、俺に振るなよ……てか俺はうなぎまん食ったことないし。まあでも一つ言うとしたら……

 

「抹茶アイス美味しい」

「「今そんなものの話を聞いている訳じゃない!」」

 

……()()()()()

 

――コンコンッ

 

「お前達……1回逝ってみるか?」

 

と俺は右足の踵で床を二回叩く。

 

「「申し訳ありませんでした」」

 

即座に二人が謝ってきた。うん、素直でよろしい。

あ、ちなみにまたリミッターをかけたぜ?リミッター外していると身体能力まであがるから、ちょっとの攻撃で下手したら重症に追い込むから、武偵法9条を破りかねん。

まあでも、『リバースランカー』達相手には外すけどな。ネリーと戦った時の教訓だ。

何てことを思っていると、キンジと俺のケータイから、メール着信音が同時に上がった。

この部屋は微妙に電波状況が悪く、たまにメールが送られてから着信するまで少し時間がかかったり、後でまとめて来たりするのだが……画面を見て、俺はギョッとした。

現在の未読メール:37件。留守番電話サービス:録音13件。

それも全部、白雪から来ている。キンジの方を見ると、どうやら同じことが起きているみたいだ。それも俺より多い。

そこには――

 

『レンちゃん、キンちゃんが女の子と同棲してるってホント?』

 

に始まり、

 

『さっき恐山(おそれざん)から帰ってきたんだけどね、神崎・H・アリアって女の子が、キンちゃんをたぶらかしたって噂を聞いたの!』

『どうして返事くれないの?』

『すぐ行くから』

 

といった感じである。

 

「ア、アリア、に、に、にに、ににに逃げろッ!」

「な、何よキンジ。なに急にガクガク震えてんのよ。キ、キモいわよ……」

「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

「って零まで!?」

「ぶ、ぶ、『武装巫女』が――うッ。マズい……」

「来たぞ……!」

 

――どどどどどどどどど…………!

 

猛牛か何かが突進しているかのような足音が、マンションの廊下に響き渡っている。

 

――シャキン!

 

金属音と共に、玄関のドアが冗談のように()()()()られた。

そこに仁王立ちするのは、巫女装束に額金(ひたいがね)、たすき掛けという戦装束に身を固めた――

 

「「白雪!」」

 

だった。

 

「やっぱり――いた!神崎・H・アリア!」

 

ここまで猛突進してきたのだろうか、ぜーぜーと息を切らせながら、般若のような顔になっている。はっきり言おう。

――超怖ぇッ!

 

「ま、待て!落ち着け白雪!」

「キンちゃんは悪くない!キンちゃんは騙されたに決まっている!」

 

キンジが落ち着かせようとするも、白雪は話を聞いてない。

 

「ア、ア、アリアを殺して私も死にますぅー!」

「何でアタシなのッ!人違いよ!」

 

アリア、白雪相手にそれは通じないんだ。

 

『錐椰 零の名の下に』

『アリアの身体能力を5分間2乗に!』

 

俺は今から起きることを想定して、アリアが死なないように能力を使う。

そして俺は一目散にベランダに向かう。

なぜベランダに向かうのかって?防弾性の物置があるからだよ!

俺が物置に入った瞬間、『破壊神』である俺もびっくりするほどの破壊音が聞こえてきた。

 

「零!俺も入れてくれ!」

 

そしてキンジも説得に失敗したのか、慌てて物置に入ってきた。

女子相手に逃げ出す男?『Sランク内最強』の名が泣く?なんとでも言え。

――そんだけ今の白雪が怖いんだよ!

 

 

 

 

 

星伽の巫女は、武装巫女。

どっかのスピリチュアルなアルバイトさんも巫女をやっているが、白雪の実家こと星伽神社は、長い歴史の中で何と武装してご神体を守っているのだ。

で、白雪を見れば(今の白雪は見たくない)分かるが、星伽の巫女は、強い。

どれぐらい強いかっていうと、彼女も銃弾を日本刀で弾ける。いわば()()じゃない。

彼女の強さの源は、鬼道術(きどうじゅつ)という『超能力』の一種だ。

とかなんとか考えていると破壊音が止まったので、俺とキンジはそーっ……と防弾物置から出た。

 

「……なあ、キンジよ」

「……なんだ?」

「ここ、俺達の部屋だよな?」

「……そうだ」

「……台風でも来たのか?」

「……台風の目ならそこにいる」

「……(´Д`)ハァ……」

 

――壁には至る所に弾痕やら斬撃の跡ができ、部屋に置いてあったテレビや食器やソファーなどが、見るも無惨な姿に成り果てていた。あ、あれ俺のお気に入りのコップだ……

 

「はぁ……はぁ……なんて、しぶとい、どろ、ぼう、ネコ……」

 

白雪は日本刀を杖のようにしてなんとか立ち、ぜーはーと荒い息をしている。ここ地面じゃなくて床だってこと分かってる?

 

「あ、あんたこそ……とっとと、くたばり、なさいよ……」

 

アリアは床に尻をつき両膝を立て、上体が後ろに倒れるのを腕で支えている。

見たところ引き分けだな。てかアリアの身体能力2乗にしたのにそれと引き分けるって……白雪マジ怖い。

 

「……で、決着はついたのか。見たところ引き分けっぽいんだが」

「――キンちゃんさまっ!」

 

キンジが物置から出てきたことにいま気付いたらしい白雪は、刀をがしゃんと脇に置き、よろよろとその場に正座し、顔を両手でおおった。

 

「しっ、死んでお詫びしますっ、きっ、キンちゃんさまが、私を捨てるんなら、アリアを殺して、わ、私も今ここで切腹して、お詫びしますっ!」

 

白雪だったらマジでやりそうだから笑えない。

てかキンちゃん様って、接尾詞が2つついてるし。

 

「あ、あのなー……捨てるとか拾うとか、なに言ってんだ」

「だって、だって、ハムスターもカゴの中にオスとメスを入れておくと、自然に増えちゃうんだよぉー!」

「意味が分からん上に飛躍しすぎだ!」

 

俺は意味は分かるが、何故その話が出てきたのかは俺にも分からん。

と考えていると、白雪がガバッと泣き顔を上げた。

 

「あ、あ、アリアはキンちゃんのこと、遊びのつもりだよ!絶対そうだよ!」

「ぐえっえぐえ襟首をつかむな!」

「私が悪いの、私に勇気が無かったからキンちゃんは外にっていうか内に女を……」

「それ以上勇敢になられても困るわよ」

 

おいアリア!今の流れだと会話だけで解決出来ただろ!

横から憎まれ口を叩いたアリアめがけて、

 

「キ、キンちゃんと恋仲になったからっていい気になるなこの毒婦!」

 

白雪はキンジを床に放り投げると、じゃらっ!

袖に仕込んでいた鎖鎌をアリアめがけてブン投げた。

 

「ハァッ!?恋仲!?」

 

アリアは銀のガバメントを盾にしながら叫ぶ。

 

「何でアタシとキンジが恋仲にならなきゃならないのよ!」

「じゃあキンちゃんはアリアの何なの!恋人じゃないの!?」

 

ギリギリリと鎖鎌を引っ張り合いながら喋る二人。

 

「キンジは奴隷に過ぎないわ!」

「ど、奴隷!?」

 

あー、やっちまったぞアリア。

白雪は何を想像したのか、火がついたように真っ赤になる。

 

「そ、そんな……イケナイ遊びまで、キンちゃんにさせてるなんて……!」

「な、ななな、なにバカなこと言ってんのよ!違うわよ!」

「違わない!わ、私だってその逆のは頭の中で考えたことあるから分かるもん!」

 

武偵高大丈夫か?白雪を生徒会長にしておいて。

 

「ちがうちがうちがうちがうち――が――う――!キンジ!」

 

白雪と喋るのでは拉致が開かないと思ったのか、今度はキンジを睨む。

 

「このおかしい女が湧いたのは、100%アンタのせいよ!何とかしなさい!そうしなきゃ後悔させてやるんだから!」

 

多分もうしてる。

 

「……えっーとだな。おい……白雪」

「はい!」

 

呼ばれた白雪は鎖鎌をぱっと放して俺の方に正座し直した。あ、アリア転んだ。

 

「よく聞け。俺は零とアリアのパートナーと、一時的にパーティーを組んでるに過ぎないんだ」

「……そうなの、レンちゃん?」

 

何故俺に振るし。

 

「も、勿論だ」

「……そうなの?」

「そうだぞ白雪。お前、俺のあだ名を知っているだろう?」

「……女嫌い」

「だろ」

「あと、昼行灯(ひるあんどん)

「それは今関係ない」

「は、はい」

「というわけでお前のそのよく分からない怒りは誤解であり無意味なんだ。だいたい俺がこんな小学生みたいなチビと「風穴」そんな仲になったりするワケがないだろう?」

 

キンジ、見事にアリアをスルーしたな。アリアが疲れてなかったら文字通り風穴があいていただろう。

 

「で、でも……キンちゃん」

 

お?珍しく白雪が意見を出してきたな。普段ならこれで終了なのに。

 

「なんだ?」

「それ……」

 

と、白雪が指差したのは、キンジのポケットから顔を出している『レオポン』が。

そして今度はアリアのスカートのポケットに移る。そちらにも『レオポン』が。

 

()()()()()してるゥゥゥー!」

 

叫んだ白雪は涙を噴水みたいにほとばしらせた。

 

「ぺあるっく?」

 

アリアはペアルックという死語を知らないみたいだ。

 

「ペ、ペアルックは好きな人同士ですることだもん!私、私、何度も夢見てたのに!」

「だーかーらー!アタシとキンジはそういうんじゃないのよ!こんなヤツとなんて、1ピコグラムもそういう関係じゃない!それに零もしてるでしょ!」

 

少しいい感じになってきたと思ったが、また振り出しに戻ったな。てかアリア、ピコグラムって……

 

「こら白雪。お前、俺の言うことが信用出来ないのか?」

 

キンジ、両肩を掴んでそう言うのは反則だ。それを言われると何も言えなくなる……流石、天然の女たらしだな。

 

「そ、そんなんじゃないよ。信じてる。信じてますっ……」

 

とはいえ、ようやく態度を軟化してくれた白雪。よかった、これで一件落着……

 

「じゃあ、じゃあ、キンちゃんとアリアは、()()とかしてないのね?」

「そんなことするわけ――」

 

……()()、ですか。

その単語で、俺とアリアが見合わせた。

思い出すのは、この前のハイジャックのこと。あの時はアリアの興奮を抑えるためにやって、そのあと色々あったからウヤムヤになってたが……

アリアは顔を真っ赤にして、そのまま俯いてしまった。かくいう俺も頬が熱い。

キンジが『あー、そういえばそんなことあったなー』的な顔をすると、

 

「え?あれ?」

 

白雪が俺とアリアを見て困惑していた。

 

「もしかして……」

 

そして何かに気付いたように、白雪はアリアの側に行き、ゴニョゴニョと何か耳元で呟いた。

それを聞いたアリアは驚いたように顔を上げ、そして俺と目が合うと更に顔を赤くしてまた俯いた。

 

「なんだ……そうだったの……」

 

白雪はそう言ったと思ったら、さっきまでの顔はどこに行ったのかというくらいに慈愛に満ちた顔になった。

 

「ごめんねアリア……さっきまで勘違いしてて。でもこれからは相談相手になってあげるよ……レンちゃんの小さい時の写真とかあるよ?」ボソッ

「!ホント!?」

 

白雪がアリアに謝ったと思ったら何かをアリアに呟いて、アリアがそれに反応する。

 

「うん、私にできることがあったら何でも言って!同じ想いを持っている子は応援するよ!」

「ホントに!?ありがと、白雪!」

 

と思ったら今度は握手した。一体何が起こっているんだよ……

 

「白雪、早速聞きたいことがあるんだけど……」

「うん、どんなこと?」

 

そして二人は和気あいあいとしながらアリアの自室(にしている)に入っていった。

 

「……キンジよ」

「……ああ」

 

残された俺とキンジは……

 

「「部屋片付けるか……」」

 

取りあえず壊滅した部屋を片付けることにしたのだった……




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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33話~武偵校の日常~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
今気づいたんですけど、AAの4巻から5巻て、原作の小説の2巻を飛ばして3巻にいってますね。これは絡め方が難しいな……

さて、そんな個人的な話は置いといて、第33話、始まります。



(*´∀`)ノヤァ、零だ。昨日はアリアと白雪がケンカ(戦闘)をして、その後何故か仲良くなった。しかもアリアはそのまま部屋にいていいと言った。

ただでさえキンジの隣に女子がいるだけでもボコボコにする白雪が、一体どんな風の吹き回しだ?

 

「ていうかアリア、昨日からえらくご機嫌のようだけど、一体白雪と何があったんだ?」

「秘密~♪」

 

バイクで登校している最中に後ろに乗っているアリアに聞いても、アリアはニコニコしているだけで何も教えてくれない。キンジはサイドカーに乗って携帯イジッてる。

 

「まぁいいや……ついたぞー」

 

武偵高に着いたのでバイクを停める。

 

「あ、零せんぱ~い!アリアせんぱ~い!」

 

バイクから降りると、今登校してきたのか、あかりちゃんが手を振りながら駆け寄って来た。その後ろでライカや志乃、麒麟(きりん)ちゃんがゆっくりと歩いてきた。

 

「おはようございます!」

「チワッス」

「おはようございます」

「ですの」

「ああ、おはよう」

 

皆挨拶してきたので返す。

……おいキンジ、いくら女子の後輩だからってそそくさと逃げるなよ。あかりちゃんたちからも変な目で見られているし。

 

「そういえば、零」

「何だアリア?」

「いつの間にあかり達に名前で呼ばれてたの?」

 

……

 

「ああ、そういえばいつからだ?」

「自覚なかったの!?」

「いや、あまりにも自然だったから……」

 

そう言ってあかりちゃん達を見ると、見事に目を反らした。

 

「ま、まぁ良いじゃないですか!」

「そ、そうっスよ!」

「ええ、そうですね!」

「ですの!」

「お、おう……」

 

四人一斉に顔を近くに寄せてきたので、思わず身を引く。いや別に呼ばれ方は何でも良いんだけど……

 

 

 

 

 

あかりちゃん達と別れて、俺とアリアは教室に向かってる。

そういや、バスジャック以降、ハイジャックに向けての準備で忙しかったから、学校にくるの久し振りだな……

 

ガラリラッ

 

教室のドアを開けて中に入ると、さっきまでガヤガヤと煩かった音が急に止んだ。

そして、クラスの奴ら全員が俺を見る。

……え?何、俺なんかした?

 

「よーう零!久し振りだな!」

 

俺がどうしようかと悩んでいると、剛気が俺の後ろにまわって背中をバシバシ叩いてきた。そして……

 

「おう錐椰、生きていたのか!」

「ハイジャックの時に死にかけたんだろ?お前を半殺しに出来るやつって誰なんだよ!?」

「零様!もう動いて大丈夫なのですか!?困ったことがあったら何でも言って下さい!」

「『全学年の同士達に朗報!零様が帰ってきた!放課後に2-Aに集合!』」

 

ズラァッと俺のまわりに男女共に集まってきた。

……えっと、どうすれば良いかな?最初のは強襲科(アサルト)の挨拶だろうからスルーして、二つ目のは機密事項だから教えられないし、三つ目はノートとか借りようかな?

てか最後のポニテの子、トランシーバーで誰に何を言ってるんだ……

あ、担任の高天原(たかあまばら)先生が困ってる。そういや、もうHRの時間だな……後で謝るか。

 

 

 

 

 

 

「錐椰くん。ここ、いいかな?」

 

時間は映り、昼休み。がやがやとうるさい学食の中、キンジがハンバーグ定食を、アリアが持ち込みの桃まんと俺が作った弁当を食べていると、目が覚めるようなイケメン面の男が、話しかけてきた。

……ん?俺は何を食べているかって?自分の分の弁当忘れてきたから学食にしようと思ったけど、何故かクラスの女子が弁当を渡してきたからそれを食べてる。のりででっかく♡が作られていたのはびっくりしたが。これ何のイタズラだ?

 

「ああ、良いぞ不知火(しらぬい)

 

俺が言うと、イケメン――不知火 (りょう)がニコッと優男スマイルをしてきた。

不知火は強襲科(アサルト)のAランク。実はランクは何かずば抜けている物があれば高くなるが、不知火の場合はバランスが良い。格闘・ナイフ・拳銃、全ての能力が高い。拳銃はLAM(レーザーサイト)つきのSOCOMとこちらも信頼性が良い。

そして、モテる。今だってクラブサンドを乗せたトレイを置いた際に少しズレたキンジのトレイを、ちゃんと戻して謝るくらいの人格者だし。

……分かると思うが、武偵高には人格者が非常に少ない。

強襲科(アサルト)が良い例だ。挨拶で『死ね』。気に入らないことがあれば拳銃をぶっ放す&ナイフで斬りかかる。

他の科も、大抵は酷い。例えるなら、俺の幼なじみとのチャンネル争いで大型拳銃(ガバメント)をぶっ放すエリート武偵とか、好きな男子の周りに女子がいたら日本刀を振り回す生徒会長とか。

……え?好きな食べ物落とされたくらいで人を地獄に落とす奴は人格者じゃない?おいおい何を言っているんだ?俺は人外だぞ?

……話が逸れたな。とにかく、不知火は良い奴だからすぐに馴染めた。しかもキンジの数少ない友達だから、剛気と一緒に四人でいることが多い。

 

「……今なんか、失礼なこと言われたような気がするんだが」

「気にすんな」

 

だが不思議なことに不知火には彼女とか、そういうのはいないらしい。意外だよな。

 

「いよう、零にキンジ」

 

噂をすれば影が差す。

キンジの隣に剛気がトレイを持ってやってきた。

剛気は、乗り物と名の付くものなら汽車から原潜までなんでも操縦できるという凄腕の持ち主だ。キンジは『ただの乗り物オタク』と言うが。

ちなみに剛気の拳銃はメンテが楽だからという理由で回転式弾倉(リボルバー)のコルトパイソン。

装弾数は少ない&減音機(サプレッサー)がつけられないので、武偵としては人気が低い。

大人の武偵は、『銃は女』。たまに触れて(メンテして)やらないと拗ねる(ジャムる)からと言うが、俺は『銃は性格』。その人の心を映す鏡だと思う。

 

「……で、不知火、何か話があるんじゃないのか?」

「おい零!無視するな!」

「うん、実は……」

「不知火まで!?」

「うるさいぞ武藤、他の人の迷惑になる」

「キンジまで……」

 

剛気がさめざめと泣いているが無視する。

 

「アドシアードのことなんだけど、錐椰くんや神崎さんは出場しないのかなって」

「あー……」

 

アドシアードとは、年に1度行われる武偵高の国際競技大会で、スポーツでいえばインターハイ、オリンピックみたいなモノだ。

話を振られたアリア(桃まんを食べている時は静か)はモキュモキュと可愛らしく桃まんを食べ終えて、

 

「アタシは競技には出ないわ。拳銃射撃競技(ガンシューティング)代表に選ばれたけど辞退した。閉会式の()()だけやる」

()()……?」

「アル=カタのことだ、零」

 

アル=カタとはイタリア語の武器(アルマ)と日本語の(カタ)を合わせた武偵用語で、ナイフや拳銃による演武をチアリーディング風のダンスと組み合わせてパレード化したものだ。ここではそれをチアと呼んでいるらしい。

 

「キンジもどうせ出場しないだろうし、手伝いくらいしなさいよ」

「あ、ああ……音楽、か。まあ得意でも不得意でもないし……それでいいか、もう」

「あ。皆がやるんだったら、僕もしようかな。武藤君も一緒にやろうよ」

「バンドかぁ。カッコいいかもな。よし、皆でやるかぁ」

 

アリアがキンジを誘い(強制)、不知火と武藤がそれについてきた。いつの間にか全員でやるみたいな雰囲気になってるな。だけど……

 

「悪い、俺はできないわ」

「えっ?何で?」

 

アリアが驚いた顔をし、他の三人も不思議そうな顔をする。

 

「選ばれたからだよ、『対高戦(クロスカントリー)』に」

 

一瞬の静寂、そして……

 

「「「『対高戦(クロスカントリー)』!?」」」

 

アリア、キンジ、剛気が叫んだ。不知火でさえ、目を大きく開けて驚いている。

 

「れ、零。『対高戦(クロスカントリー)』て、あの……?」

「ああ、5年に一度各学校から選抜された代表者一名による、何でもありのリアルファイトのことだ」

「う、嘘だろ……三年生のSランク武偵が出場するのが各学校の暗黙のルールだろ……」

「知らん、見舞品の中に蘭豹先生からの手紙があって、何かと思って見てみたら出場権が入ってたんだよ。その横に『強制参加』の殴り書きと共に」

 

ちなみに何で三年生が出るのが暗黙のルールかって言うと、実践経験を二年間積んできた三年生相手に、まだひよっこの一年・二年が対抗できる訳がないからだ。

 

「ま、俺に言わせりゃ三年もまだまだだけどな」

「……何でだろう、失礼なこと言っているはずなのに正論に聞こえる」

 

そりゃあ事実だからな。三年だって、一人でマフィアと正面衝突したことあるやつはいないと思うし。

 

「各学校の校長が焦る顔が目に浮かぶぜ……」

「アタシはそれより、対戦相手の絶望に染まる顔が視えるわ……」

「マジかよ零……俺、こんな変人が友達だったんだな……」

「ハハハ……錐椰くん、一般の人や報道陣の人もいるから、程々にね?」

 

四人がそれぞれ違う反応をする。まぁ今は『対高戦(クロスカントリー)』のことはどうだっていい。

そ・れ・よ・り・も……

 

「おい剛気、ちょっとこい」

「へ?」

 

ガシッ、と剛気の頭を掴む。

 

「俺は別にチートやら、化け物やら、人外やらと言われても別に怒りはしないさ。だけど、変人ってどういうことだ?ゆっくりとO☆HA☆NA☆SHIしようじゃないか……」

「イ、イタタタタッ!は、離してくれ!悪かった零!謝る、謝るから!キ、キンジ、不知火助けてくれ!」

 

剛気が必死にキンジと不知火に助けを求めるが、アリアも入れて三人で合掌していた。

 

「う、裏切り者~!」

 

 

 

――その後、体育館倉庫の裏から絶叫と、何かが潰れたような音が聞こえたという。




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34話~『魔剣』~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

テストが終わったので、久々の投稿です。テストの結果?聞かないでください……

とりあえず、第34話、始まります。


「零、子供の作り方教えて」

「ブフォッ!」

 

ゲホッゴホッゴホッ……あ、(*´∀`)ノヤァ、零だ。今俺は自宅のリビングでコーヒーを飲んでいたが、開幕初っぱなに吹き出した。

アリアが聞きたいことがあると言ってきて、何かと思って聞いたら……

 

「え、えーと、アリア。何でそんなことを?」

「えっとね、この前……」

 

 

~回想~

 

『ね、ねぇ白雪』

『ん?どうかしたのアリア?』

『ここら辺に産婦人科ってある?』

『……え?』

『だから、産婦人科』

『え、えっと、何でそんなことを……?』

『だって、ア、アタシ、れ、れれれ零と、キ、キキキキスしたのよ!』

『え?』

『だ、だから!キ、キスしたのよ!それで……』

『え、えっと、どういうこと?話が視えないんだけど……』

『だから、子供ができてないか、確認するためよ!』

『……えっと、アリア。キスで子供はできないよ?』

『え?だって小さい頃、キスで子供ができるってお父様が……』

『……(純粋だな~)』

 

~回想終了~

 

 

「それで、じゃあ子供はどうやって出来るのって聞いたら、『そ、それはレンちゃんに教えてもらうと良いよ』って言われたのよ。何故か顔真っ赤にして」

 

おい白雪、何面倒なことを人に押しつけているんだよ。

し、しかし、子供の作り方、か……いや、知らない訳ではないよ?でも、教えるとなると……

 

「ア、アリア、保健の教科書読んだことないのか?」

「授業は眠たいから聞いてない」

「おい」

 

ちなみに武偵高の偏差値は50を切っている。まぁ一般知識より専門的な知識を学ぶ武偵高だから当然と言えば当然なのだが。偏差値75である白雪や、それに準ずる者達が必死で勉強するから、まだ50を切るくらいで済んでいるのだが。

ん?俺の成績?白雪といつもテストの点数で勝負しているとだけ言っておこう。

 

「それで、結局どうすれば子供ができるの?」

 

ズズイと顔を寄せてくるアリア。だが……

 

「アリア、そこにパソコン置いてあるから、自分で調べてくれ!」

 

俺はそう言って立ち上がり、ベランダに向かって走って飛び降りる。

ワイヤーを使って上手く寮の外に降りて、そのままあてもなく駆け出した。後ろから何か聞こえるが気にしない。

だって、それを言ってしまったら、取り返しのつかないことになりそうだし……ヘタレじゃないからな!

――数時間後、部屋に戻ってくると、顔を真っ赤にしてパソコンを見ているアリアを発見し、一悶着あったのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

数日後、アドシアードに向けて強襲科(アサルト)で調整し、あかりちゃんとライカの相手をしてきた帰り。いつものようにアリアとキンジと一緒に帰ろうとすると――

 

「零、キンジ、あれ見て」

「何だ?」

 

ピシッとアリアが指差したのは、教務科の掲示板。そこに書かれていたのは――

 

『生徒呼出(よびだし) 二年B組 超能力捜査研究科 星伽白雪』

 

……珍しいな。(普段は)生徒の模範を素でいっている白雪が呼び出しとは。

 

「アリア。お前、このあいだ白雪に襲われたのをチクったのか?」

「何で友達を売らなきゃいけないのよ」

 

キンジがアリアのことを疑うが、アリアは心外とばかりに頬を膨らます。あ、可愛いな。

 

「それにアタシは貴族よ。『H』家の名に懸けて、そんなことはしないわ」

「……そういえば、結局その『H』ってのは、一体なんなんだ?」

「はぁっ!?まだ分かってなかったの!?信じらんない!このバカ!ギネス級のバカ!バカの金メダル!」

 

いやアリア、キンジに何も教えてないんだから分からなくて当然だろ。キンジがバカなのは認めるが。

 

「……ハァ。まぁいいわ、教えてあげる。アタシのフルネームは――神崎・()()()()・アリア」

「ホー、ムズ……!?」

「そう!アタシはシャーロック・ホームズ4世よ!」

 

キンジは目を見張る。まぁこの学校にも、このことを知ってるのは少ないしな。あかりちゃんは知っているけど。

 

――シャーロック・ホームズ。

100年ほど前に活躍した、イギリスの名探偵。拳銃の名手で格闘技(バリツ)の達人。そして武偵の始祖とも言われている。

 

「じゃあ、理子が言っていた『オルメス』というのは?」

「あれは、『HOLMES(ホームズ)』をフランス語で発音した時の言葉だ」

 

キンジがアングリと口を開けているが、まぁ仕方ないだろう。誰だって知っている超有名人の子孫が、こんな可愛い美少女だとは思わないだろうからな。

 

「それにしても、白雪が呼ばれるなんて……何があったんだ?」

「そうねぇ……よし。零、キンジ、白雪が指定されてる呼び出しの時刻、一緒に……」

 

そこまで言ったアリアはそこで一旦言葉を区切り――

恐ろしいことを言った。

 

「教務科に潜入するわよ!」

 

……マジで?

 

 

 

 

 

東京武偵高は隅から隅まで危険きわまりない高校だが、その中にも『三大危険地域』と呼ばれる物騒なゾーンがある。

強襲科(アサルト)

地下倉庫(ジャンクション)

そして、教務科(マスターズ)だ。

教師の詰め所にすぎない教務科が、なぜ危険なのかって?

答えは簡単。武偵高の教師が、危険人物ばっかりだからである。

考えてみればすぐ分かるが、普通じゃない学校の先生が、普通な訳がない。

例を挙げると蘭豹先生だが、蘭豹先生は香港マフィアのドンの一人娘で、まだ19才なのに酒を飲んでいる。俺がやんわりと止めたほうが良いですよって言うとすぐにその時は止めるが。

他にも前職が各国の特殊部隊とか、傭兵とか、殺し屋とか。それはもう聞かなければ良かったという人がたくさんいる。少しはマトモな人もいるが。

 

「零。手が届かないから抱え上げて」

 

と無声音で言うアリアの両脇をつかんでダクトの所へと持ち上げた。

にしても、軽いなー、アリア。女子に体重の話をするのは厳禁だが、アリアはとても軽いので失礼にならないだろう。その代わり身長の話は何があってもしてはいけないが。

アリアをダクトへ入れた後、今度はキンジをアリアが上から引っ張って入れ、その後で俺がジャンプして自力で入り、ゴソゴソと匍匐(ほふく)前進で進む。

ゴソゴソ。

シャカシャカシャカシャカ。

……アリア、匍匐前進速いな~。キンジとどんどん差がでている。

 

「アリア、匍匐(ほふく)前進速いな」

「得意なの。強襲科(アサルト)の女子で一番速いわ」

「だろうと思ったよ。邪魔になるもの()がないからな」

 

――ゴスッ!

キンジがとんでもなく失礼なことを言ったら、アリアの足が急にぶれて、気付いたらキンジの側頭部にキックが入り、10センチほどめり込んでいた。

……胸についても厳禁だな。

 

 

 

 

 

白雪を――見つけた。

呼び出しをしていた教師の、個室にいたのだ。

俺たちは狭い通気口から、部屋の内部を伺う。

 

「星伽ぃー……」

 

この女にしては低めの声……(つづり)先生か。

武器(エモノ)はグロック18。目がいつも据わっていて、年中ラリっているような感じだ。そして世界を旅していた俺でも分からない、明らかに市販の者とは違う草っぽい匂いがするタバコを吸っている。

だが侮ることなかれ。この先生は尋問の技術に()いては、日本で五指の指に入る名人なのだ。

何をさせるのかは誰も知らないが、綴先生に尋問されると、どんな口の堅い犯罪者でも洗いざらい何でも白状する。その後おかしくなって、綴先生を女王とか女神とかよぶようになるのだが。

 

「お前最近、急ぅーに成績が下がっているよなー……」

 

ああ成る程、成績の話だったのか。確かに綴先生は2年B組の担任で、白雪は2年B組だからな。

しかし珍しい。武偵高の先生が成績の話をするなんて。やっぱりこんな学校でも先生は先生なんだな――

 

「あふぁ……まぁ、勉強はどぉーでもいぃーんだけどさぁ」

 

前言撤回。やっぱり武偵高の先生は武偵である。アクビまでして、本当にどうでもよさそうにしているし。

 

「なーに……えっーと……あれ……あ、変化。変化は、気になるんだよね」

 

おい……まさか、『変化』という単語すら忘れていたという訳ではないよな?わざとだよな?

 

「ねぇー、単刀直入に聞くけどさァ。星伽、ひょっとして――アイツにコンタクトされた?」

魔剣(デュランダル)、ですか」

 

白雪の言葉に――

アリアがピクッ、と反応した。

魔剣(デュランダル)』か。確か、超能力を用いる武偵・『超偵(ちょうてい)』ばかりを狙う――誘拐魔、だったかな。

だが魔剣(デュランダル)は、その実在自体がデマだと言われている。というのも、その姿を見た者が誰もおらず、誘拐されたとされる超偵も、実は別件での失踪では?という見方の方が今や多数派らしい。最早都市伝説といってもいい犯罪者だ。

 

「それはありません。と言いますか……もし仮に魔剣(デュランダル)が実在したとしても、私なんかじゃなくてもっと大物、例えばレンちゃ――錐椰くんとかを狙うでしょうし」

「星伽ぃー。もっと自分に自信を持ちなよォ。アンタは武偵高(ウチ)の秘蔵っ子なんだぞー?それに、錐椰を狙うなんて、赤ちゃんに富士山とエベレストまでを繋いだ幅0.001ミリのロープを渡れって言ってるようなものだぞォー?」

「それはまぁ、そうですけど……」

 

何だよその例え方。白雪も肯定しちゃってるし。

……アリアとキンジ。分かったから『あぁ……』みたいな納得の表情で頷くのを止めろ。そんなに今の例えが適正なのか?

 

「星伽ぃ、何度も言ったけど、いい加減ボディーガードつけろってば。諜報科(レザド)魔剣(デュランダル)がアンタを狙ってる可能性が高いってレポートを出した。超能力捜査研究科(SSR)だって、似たような予言をしたんだろ?」

「でも……ボディーガードは……その……」

「にゃによぅ」

「私は、幼なじみの子の、身の回りのお世話をしたくて……誰かがいつもそばにいると、その……」

「星伽、教務科(ウチら)はアンタが心配なんだよぉ。もうすぐアドシアードだから、外部の人間もわんさか校内に入ってくる。その期間だけでも、誰か有能な武偵を――ボディーガードにつけな。これは命令だぞー」

「……でも、魔剣(デュランダル)なんて、そもそも存在しない犯罪者で……」

「これは命令だぞー。大事なことだから、先生2度言いました。3度目はコワいぞー」

 

プフゥーッ、と綴先生は白雪の顔面にタバコの煙を吹き掛けた。おい、白雪は未成年だぞ。

 

「けほ。は……はい。分かりました」

 

煙に目を細めつつ、白雪はとうとう首を縦に振った。

……難しいところだな。白雪は幼なじみ(キンジ)の世話をやきたいからボディーガードは嫌だという。それに対して教務科(マスターズ)は白雪は期待の星だから、例え眉唾モノの話でも万が一のことがあったらいけないからボディーガードを命じる。白雪もかわいそうだが、大人達の考え方も分かる。

さて、どうしたものかと考えた時に……

 

がしゃん!

 

と、アリアが通気口のカバーをパンチで開けて、ダクトから室内に降り立った。そして――

 

「――そのボディーガード、アタシ達がやるわ!」

 

と声高らかに宣言した。

おいおい……今度はどんなことが起きるんだ?




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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35話~ボディーガード・開始!

すみませんでした!(土下座)

どうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
色々とリアルが忙しかったので小説に手がまわせませんでした。楽しみにしていた方は申し訳ありません。しかもいつにもまして駄文です。

では、第35話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。まったく……アリアの行動力が凄まじ過ぎるな。成長の一端が見れて思わず涙が出てきそうだね。

まぁ考えても仕方ないか。そう考えてダクトから飛び出す。その後キンジもノソノソと出てきた。

 

「アリア!?キンちゃん!?レンちゃん!?」

「んー?――なにこれぇ?」

 

白雪が突然の訪問者達に驚き、綴先生は俺らの顔をのぞき込む。

 

「あー、なんだぁ。こないだのハイジャックのパーティーじゃん」

 

すーっ、とタバコを一気に吸って、こき、こきと何か薄ら笑いを浮かべて、ナナメ上を見つつ首を鳴らしている。

だ、大丈夫なのか東京武偵高。教師の中に中毒者がいるんだが。

 

「これは神崎・H・アリア――ガバメントの2丁拳銃に小太刀の二刀流。二つ名は『双剣双銃(カドラ)』。欧州で活躍したSランク武偵。でも――アンタの手柄、書類上ではみんなロンドン武偵局が自分らの業績にしちゃったみたいだね。協調性が無いせいだ。マヌケぇ」

 

綴先生はアリアのツインテールの片方をつかんで顔を確かめている。メチャクチャ痛そうだな。

 

「い、イタイわよっ!それにアタシはマヌケじゃない。貴族は自分の手柄を自慢しない。たとえそれを人が自分の手柄だと吹聴していても、否定しないものなの!」

「へー。損なご身分だねぇ。アタシは平民で良かった~。そういえば欠点……そうそう、アンタ、およ……」

「わぁ――――!」

 

うわっ!びっくりした。アニメ声並みの高い声だから、すっごい頭に響いてくるぞ。

 

「そそ、それは弱点じゃないわ!浮き輪があれば大丈夫だもんっ!」

「アリア……自爆してるぞ?」

「――ッ!」

 

……

 

「んで、こちらは、遠山キンジくん」

「あー……俺は来たくなかったんですが、アリア(コイツ)が勝手に……」

「――性格は非社交的。他人から距離を置く傾向あり」

 

……まさかこの人、全生徒のデータが頭の中に入ってるんじゃないだろうな?だとしたら『変化』の二文字ぐらい覚えていろよ。

 

「――しかし、強襲科(アサルト)の生徒には遠山に一目置いている者も多く、潜在的には、ある種のカリスマ性を備えているものと思われる。解決事件(コンプリート)は……たしか青海の猫探し、ANA600便のハイジャック……ねぇ、何でアンタ、やることの大きい小さいが極端なのさ」

「俺に聞かないでください」

武器(エモノ)は、違法改造のベレッタ・M92F。三点バーストどころかフルオートも可能な、通称・キンジモデルってやつだよなぁ?」

 

あ、キンジの顔が引き攣ってる。てかなんでそんなことまで知っているんだ?

 

「あー、いや……それはこの間ハイジャックで壊されました。今は米軍払い下げの安物で間に合わせてます。当然、合法の」

「へへぇー。装備科(アムド)改造(イジリ)の予約入れてるだろ?」

 

ジュッ!

 

「うわちっ!」

 

笑いながらキンジの手に根性焼きした。めっちゃ怒ってる。

 

「んで最後に、歩くムリゲーくん」

「おい」

 

もう人かどうかじゃなくて動物ですらなくなったわ。ていうかなんだよ歩くムリゲーって。

 

「蘭ちゃんのお気に入り。性格は社交的で、世界中に交流を持っている。13才の時から急に頭角を現し、以来『Sランク内最強』と呼ばれている。二つ名は『紅電』で、解決事件は数知れない。武器は13才まではグロック17だったが、現在は紅色のガバメントを使用している」

 

……マジか、13才までの武器までも知っているとは。驚きだぞ。

 

「趣味は麻雀で、最近の嬉しかった出来事は、体重が60キロという身長の割に細すぎた体を鍛えて、67キロまで増やしたこと。あとは……そうそう、苦手なのが星とg……」

「ワァァァァーーー!」

 

今度は俺が叫ぶことになった。なんでこの人本人の目の前でそのこというかな!?その他にも誰にも言ったことがないこと言っているし!

 

「……でぇー?どういう意味?『ボディーガードをやる』ってのは」

「――言った通りよ。白雪のボディーガード、24時間体制、アタシ達が無償で引き受けるわ!」

「お、おいアリア……!」

「キンジ、諦めろ。こうなった時のアリアの意識は固いぞ」

「……(´Д`)ハァ…」

 

キンジがため息をつくが、それで結果が変わることはない。ドンマイ。

 

「……星伽。なんか知らないけど、Sランク武偵と歩くムリゲーが無料(ロハ)で護衛してくれるらしいよ?」

 

黒いコートの裾を揺らして振り返った綴先生に、白雪は、

 

「で、でも……その、迷惑かけたくないし……」

 

ぱっつん前髪の下の眉毛を下げて、すまなさそうな顔をする。

 

「キンジの部屋で一緒に護衛するから――」

「よろしくね、アリア!」

 

ガシッ!

 

――いきなり白雪が座っている状態からジャンプしてアリアの所まで跳び、着地とともにアリアの両手を掴んだ。

そしてキンジの頭からヒュウとキンジの形をした何かが出ていき、綴先生はタバコを吸いながらニヤニヤ笑っている。

はっきり言おう。超CHA○S(カオス)。イヤァオ!

 

 

 

 

 

ボディーガードは、武偵にとって最もポピュラーな仕事の一つだ。

通常は政治家・有名人・会社役員などのVIPおよびその子供などに付き添い身辺を警護する仕事だが、命を狙われている武偵を他の武偵が守ることも、間々ある。

 

「で、今俺達は依頼の翌日に引っ越しの手伝いか……」

「言うな零、悲しくなってくる」

 

剛気の運転してきた軽トラからタンスを運びつつ、俺達は話す。てか剛気、さっきから白雪に対して敬語で喋ってるし。心なしか上機嫌だし、白雪のこと好きなのかな?だとしたらドンマイだな。キンジがいるから。

などと思いつつ、タンスを部屋にまで運ぶと、アリアが窓に赤外線探知器を設置している。

 

「何やってんだ」

「見れば分かるでしょ。この部屋を要塞化してるのよ」

「すんなよ!」

「何驚いてるのよキンジ、武偵の癖に。こんなのボディーガードの基礎中の基礎でしょ?アラームをいっぱい仕掛けて、依頼人に近づく敵を見つけられるようにしておくの。ちょうどいろいろぶっ壊れたんだし、やりやすいわ」

「ぶっ壊したの間違いだろ」

「OK。あとは天窓ね」

 

キンジの抗議を完全スルーして、アリアは手を伸ばして棚の上にある探知器をくっつけようとした。が、届かない。

 

「零、手伝って」

「はいはい」

 

仕方ないので俺が手伝っていると……

 

「おじゃ、ま、しまーす……」

 

セリフを噛みまくりながら、白雪が部屋に上がってきた。

そしていきなり90度ぐらいの、深ぁーいお辞儀をした。

 

「こ、これからお世話になります。星伽白雪ですっ」

 

いや、何で自己紹介したの?この場にいる全員知ってるけど。

 

「ふ、ふつかつか者ですが、よろしくお願いしますっ!」

「あのなー……なにテンパってんだ、今さら」

「あ……キ、キンちゃんのお部屋に住むって思ったら、緊張しちゃって……」

 

あの、白雪さん?『緊張』の意味知ってます?日本刀を平気で振り回すようなことしてるんだよ、君。

 

「あの、お引っ越しついでにお掃除もするね。そもそも散らかしちゃったの、私だし」

 

自覚あったんかい。

 

 

 

 

 

その後、白雪の修理作業の異常なスピードに驚いたり、アリアに危険物がないかどうかチェックしてと言われたキンジがタンスを開いたら白雪の下着が出てきたりと色々あった。

そして今はアリアと一緒に学校の購買まで手錠を買いに来ている。

この手錠はただの手錠じゃない。純銀製の()()()()()()の手錠だ。値段はかなり高いが。

ちなみに白雪の見張りはレキに任せてある。でもスナイパーが見張りっていうと、スコープ越しで十字を白雪に当てていそうだな。

 

「そう言えばアリア。なんで急にボディーガードをやるって言い出したんだ?」

 

昨日疑問に思ったことを聞くとアリアは――

ぱち。ぱちぱちち。ぱちち。

と、左右の目を何度かウィンクさせ始めた。

――マバタキ信号(ウィンキング)

俺が前に使っていた指信号(タッピング)と同じで、武偵同士が人に聞かれたらマズい情報を伝達する際に使う信号だ。

――デュランダル ノ トウチョウ キケン

魔剣(デュランダル)?どういうことだ?

アリアが手招きするので耳を寄せる。

 

魔剣(デュランダル)は――アタシのママに冤罪を着せてる敵の一人なのよ。しかも剣の名手っていう噂がある。迎撃できればママの刑が残り635年まで減らせるし、うまくすれば高裁への差戻審(さしもどししん)

も勝ち取れるかもしれない」

 

……なるほど、かなえさんに冤罪を着せてるのか。道理で教務科で魔剣(デュランダル)の名を聞いた途端に人が変わったようになったわけだ。

 

「……なら、絶対に捕まえて、頭の固い連中に見せつけるか」

「うん!」

 

アリアが嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。

ヤレヤレ……と思いつつ、そのまま二人で歩いていく。

 

「待っていろよ。魔剣(デュランダル)。俺達二人が、風穴を開けてやるからな――」




とある室内にて。

「よぉ~。アンタらの情報、当たっとったみたいで~。教えてくれてありがとな~」
「いえいえ、綴先生には色々と我々RKSに投資してくれていますから。それに私達が零様の情報を間違うことなど、するわけがありません」
「そっかぁ~。それでぇ、RKSって一体何なん?」
「それは、R(零様を)K(影から)S(支え隊)の略です!」
「……そっかぁ。じゃあまた、有益な情報よろしく~」
「はい!」


――RKS最低入隊条件――
隠密スキル・Sランク以上
情報スキル・Sランク以上――


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36話~巫女占札~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
もう、一週間に1度くらいでしか更新できない……楽しみにしている方は申し訳ありません。
なるべく早く更新できるように頑張ります!
それでは、第36話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。いやぁ……白雪の家事スキルがえげつないわ。夕飯がどこの高級和食店だよっていうレベルだ。

で、食後アリアとキンジのチャンネルの取り合い(アリア、拳銃(ガバ)を出すな。キンジも拳銃(ベレ)抜くな)を見ていると――

 

「三人とも、あのね、これ……巫女占札(みこせんふだ)っていうんだけど……」

「――みこせん……?占いか?」

「うん、キンちゃんを占ってあげるよ。将来のこと、気にしてたみたいだから」

「ふーん……じゃあ、やってもらうか」

 

ちなみに言っておくと、白雪の占いは非常によく当たる。

アリアも占いは興味あるのか、なにそれ、なんて言いながらHDDレコーダーに動物番組を録画セットしながらテーブルについた。

アリアさん、録画で良いなら拳銃(ガバ)抜かないでくれます?

 

「キンちゃんは、何占いがいい?恋占いとか、金運占いとか、恋愛運を見るとか、健康運を占うとか、恋愛占いとかあるんだけど」

 

白雪、どんだけ恋愛系統の占いさせたがるんだよ。

 

「じゃあ……数年後の将来、俺の進路がどうなるのか占ってくれ」

 

そしてキンちゃんはスルーですか。いや、コイツのことだから多分素で気づいていないな。

そして白雪、「チッ」と舌打ちするな。そんなにやらせたかったのかよ。

その後すぐに「はい」と、天使のような笑顔になって、カードを星形に伏せて並べ、何枚かを表に返し始めた。

 

「どうなのよ?」

 

アリアがウズウズとしながら尋ねたので、白雪の顔を見ると……少し、険しい表情をしている。

 

「どうした?」

「え、あ……ううん。総運、幸運です。良かったねキンちゃん」

「おい。それだけかよ。何か具体的なこと分かんないのか?」

「え、えっと、黒髪の女の子と結婚します。なんちゃって」

 

ニッコリと笑って答えた白雪だが……その笑顔はかなり作り笑いっぽい。

一体どんな占い結果だったんだろうな。

 

「はいじゃあ次はアタシの番!」

 

ウズウズしていたアリアが机に乗り出し、ハイハイと挙手をする。

 

「生年月日とか教えなくていいの?アタシ乙女座よ?」

「あ、私の占いは詳細な個人情報はいらないの」

 

そう言ってまた星形に並べて何枚かを取る。

 

「どうなの?」

「――前途多難。この先、様々な試練が襲いかかる。けど、仲間を信じることを心に入れておくこと、だって」

 

アリアの顔を見ながらそう言った白雪。

 

「前途多難、ね……良いわ。そんなの、いくらでも乗り越えてみせてあげるわ!」

 

アリアはグッ、と握りこぶしを握る。どうやら心配無いようだな。

 

「じゃあ、次はレンちゃんの番だね」

「ああ」

 

そう言って三度目の占いを行う。

 

「――ッ!」ガタッ

 

すると、白雪が驚いた顔で突然立ち上がる。その拍子に足がテーブルに当たり、カードがバラバラになった。

 

「あっ……ご、ごめんね」

 

そう言って白雪がアセアセとカードを取って束ねる。

 

「あ、あの、私、勉強しなくちゃいけないから、お休み!」

 

そう言ってサッサと寝室に向かっていった。

 

「……何だったんだ?」

「さぁ?」

 

キンジの疑問にアリアが首をかしげ、俺は何かモヤモヤした気分になった。

一体、どんな占いになっていたんだ……?

 

 

 

 

 

翌日、いつものように早起きして朝食の準備をしていると……

 

「おはよう、レンちゃん。何か手伝うよ」

「ああ、おはよう白雪。じゃあ味噌汁作るの頼むわ」

 

白雪が起きてきて手伝ってくれることになった。

 

ザクッ、ザクッ、ザクッ

ジュ~~~

野菜を切ったり、オムレツを作ったりしていると……

 

「レンちゃん、昨日の占いのことなんだけど……」

 

ポツリ、と白雪が呟いた。

 

「ああ」

「あのね、驚かないで聞いてほしいの」

「……大丈夫、言ってくれ」

「うん……占い結果にね……」

 

 

――レンちゃんが、何者かに殺されるって。

 

「……」

「誰かまでは分からなかったけど、そう、でたの……」

 

そうか……

 

「……白雪」

「ごめんね、昨日言えなくて。でも信じたくなくて……」

「味噌汁、沸騰しているぞ?」

「えっ……あっ」

 

グツグツと音を立てているので、白雪に伝えると、慌てて止めた。

 

「味噌汁は沸騰させすぎるとせっかくの風味が無くなるぞ?それに、キンジとアリアも起きてくるだろうし」

 

チラッと時計を確認すると、大分時間が経っている。早く作ってしまわないと。

 

「……気にしてないの?」

「何をだ?」

「だって……レンちゃん自身のことなんだよ?それに……レンちゃんが死んだら、私もキンちゃんも、アリアも悲しいんだよ?」

「白雪」

 

俺は作業しながら、白雪に問う。

 

「運命って、どうなっていると思う?」

「えっ……」

「俺は……どんなに抗っても、逃れられないものだと思う。元から定められた選択肢があり、そのレールの上を歩いているのが人生だと思う。だから占いに出た将来は、その通りなんだと思う」

「……」

「でもな……その定められた選択肢を増やすことができるとも、俺は思う」

「……え?」

「勝負事だって、元々は『勝ち』と『負け』の選択肢があるけど、まったくの初心者がその道の手練れの人と闘ったって、『負け』の選択肢しかない。でも、努力して、勉強して強くなって闘ったら、『勝ち』の選択肢も出てくる。その結果、将来が変わるっていうこともある。占いに出た将来だって、俺が選択肢を広げれば、『1つの将来』としてしかならないってことだ」

 

俺はそこまで言って、まだ寝てるであろう二人を起こしにいこうとする。このままだと遅刻しそうだしな。

 

「つまり、何が言いたいかって言うと……俺は、簡単に死ぬ気はないってこと。それに……」

 

キィ、と寝室のドアを開ける。

そこには、愛くるしい表情で寝ているアリアと、少し魘されているような表情のキンジがいる。

 

「――お前達を置いて死ぬほど、俺も不孝者じゃないからな」

 

そう言って、俺はアリアとキンジを起こすことにした――

 

 

 

 

 

学校につくと、教室がザワザワと騒がしかった。

 

「いよーう、キンジに零。神崎さんも」

「おはよう剛気」

「朝からうるさいぞ武藤」

「他の人の迷惑よ、ノッポ」

「……あれ、まともに返してくれたの零だけ?」

 

シュン、と落ち込む剛気。あとアリア、他の奴らも騒いでいるからな?

 

「それより武藤、一体これは何の騒ぎだ」

「ああそうだ、転校生がくるみたいだぜ?」

「転校生、か」

「あれ、驚かないのか?」

「そりゃあ、まあ」

 

何故俺が驚かないのかって言うと、普通の学校なら意外なことになるが、武偵高では結構頻繁なことだからだ。理由は、武偵は長期依頼とかで拠点を違う高校を移したり、世界を飛び回るためだったりするから。

 

「逆に何でこんなに驚いているのか、不思議でならないよ」

「バカだね、零は。そんなの、カワイイ女子がきてくれるかどうかで盛り上がるからだよ!」

「……剛気、現実を()ようぜ」

「うるさい!」

 

そんなこんなで、担任の高天原先生が「はぁ~い、HLを始めるので、席についてくださ~い」と言ったので、みんなゆっくりと席に座る。

……武偵高では時間厳守。もし先生が入ってきた時に着席していなかったら、キツい処罰が与えられるのだが……この高天原先生は『武偵高の良心』と言われるくらい穏和な性格で、ダラダラしててもニコニコと笑顔で許してくれるのだ。本当、この人が担任で良かったと思うよ。

 

「では今日は特に連絡事項もないので……早速、転校生さんを紹介しますよ~」

 

ヒュー、ヒュー

パチパチ

口笛を鳴らしたり、拍手をして盛り上げる2-Aの奴ら。

ここに理子がいたらもっと大変なことになっただろうな……と思いつつ、現在長期依頼で出張中ということになっている行方不明の理子の席を見る。

 

「皆さん、驚くかもしれませんよ~……それでは、どうぞ~」

 

先生まで驚くかもって言うんだ……少し興味を持ってきたな。誰なんだろ?

そう思っていると、ガラリラッ。教室のドアが開いた。

――そこには、美少女がいた。

身長は160くらいで、クッキリとした目鼻立ちに、大きな藍色の瞳。

黄緑色の髪を腰よりも少し長いストレートにしており、前髪に桜の花のような髪止めをつけている。

武偵高の制服に身を包んだ少女は、さっきまで騒いでいたのが嘘みたいに静寂になった教室を歩き、教卓の前に立った。

 

「初めましての人は初めまして。知っている人はこんにちは。シェイル・ストロームです。気軽にシェイって呼んでください」

 

そう言ってチラッ、と俺の方を見る少女――シェイを見て、俺は頭を押さえずにはいられなかった。

 

――何で来たんだよ……シェイ!




どうでしたでしょうか?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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37話~武偵アイドル・シェイ~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
今回、まったく話が進みません。作者も書いていて『どうしてこうなった?』という部分がたくさんあります。なので、いつもより駄文です。ご注意ください。

それでは、第37話、始まります。


「ぶ、ぶ……武偵アイドルのシェイ、ちゃん?」

 

静寂に包まれた教室の中、誰かがポツリと呟いた。

 

「うん、そうだよ」

 

それに対してシェイが笑顔で頷く。するといきなりドワァッと一気に騒がしくなった。

 

「う、嘘!シェイちゃん!?」

「マジで!?これドッキリとかじゃないよな!?」

「……ハ!さてはこれは夢だな!おい誰か!俺を撃ってくれ!」

「良いぞ」パァンッ

「グオォォ……いてぇ……現実だ……」

 

……男子どもが偉く騒いでるな……何か一人ぶっ倒れたし。

 

「はいはい、皆さん、お静かに~。これから質問タイムにしますから~」

 

高天原先生がパンパンと手を叩いて皆を静める。倒れたやつ放っとくのかよ。そして男子、何我先にと挙手を始める。

 

「好きな食べ物は!?」

「苺かな」

「料理はする!?」

「できるけど、時間がないからあまりしないかな?」

「趣味は!?」

「うーん……バスケかな?」

「笑顔ください!」

「……はい」ニコッ

「グハァッ」バタッ

「大変だ!血を吐いて倒れたぞ!」

救護科(アンビュランス)のやつ来てくれ!後輸血パックも!」

 

……さて、教室内が色々とカオスなことになってきたので、さっき男子が言っていた『武偵アイドル』について説明しよう。

そもそも武偵高は、世間からは非難される対象になっている。

当然だ。まだ未成年の子供がナイフや拳銃を使って世界を飛び回ったり、将来有望な少年少女達が死の危険に晒されたりするからだ。

このまま非難の対象のままだと、武偵高存続の危機に晒されると思った教師陣達は、イメージアップのために様々な内容を考えた。それが『武偵アイドル』だ。

単純にテレビという情報モラルで人気を勝ち取れば、世間の武偵へのイメージが上がる、と考えた教師陣達はすぐに実行。最初の何人かは上手くいかなかったが……シェイは別だった。

単純な可愛さは勿論、歌や踊りなど、まるで一人で行っているとは思えないほどの実力を持ち、更に優しい性格なので、人気になるのは言わば必然だろう。

 

「はい、じゃあ質問タイムは終わります。ええと、シェイルさんの席は……」

「先生」

 

HLが終わる時間なので、高天原先生がシェイの席を言おうとすると、シェイが言葉を遮った。

……何だろう、凄く、凄くイヤな予感がする。

 

「私、彼の隣が良いです」

 

そう言ってシェイが指差したのはある一点の場所。その隣の席のアリアがポカンとした表情になり、その更に隣のキンジが『ドンマイ』みたいな表情をする。

つまり、俺の席を指している。

つかつかと歩いてきて、俺の左隣の席の男子生徒の前に立つ。

 

「ごめんね、席を譲ってくれないかな?」

「は、はい!どうぞ!」

 

頼まれた男子生徒はすぐに机の中にある教材を取りだし、空いている席へと移る。

そしてシェイはこちらを向き、

 

「よろしくね、零君」

 

と言ってきた。瞬間――

 

ドワァッ!

 

と、さっきまでよりも一段と騒ぎだした。

ヤバイ……このままでは、何でシェイが俺のことを知っているのかみたいなことで、俺の転校初日の放課後みたいなことになる!(※7話参照)

そう考えた俺は、右隣にいるキンジとアリアに、『オクジョウ ツイテコイ』と素早く指信号(タッピング)をして、懐から発煙筒(スモーク)を投げつける。そしてすぐさま教室から逃げ出す。

 

「おい、零が逃げるぞ!」

「追え!追うんだ!」

「ちくしょう、何で零ばっかりなんだ!」

「この野郎、ぶっ殺して……」パァンッ、バタッ

「おい、大丈夫か!?」

「零様に危害を加えようとする輩は排除します」ニコッ

「お、おい、やめ……」

 

教室から様々な声が聞こえるが無視して走る。途中発砲音も聞こえたが、こちらに弾がくる感じもない。何が起きているんだ?

 

 

 

 

 

「で、あの子は一体誰なの?零」

 

屋上についた後、アリアが笑顔でそう聞いてきた。ただし目は笑っていない。

 

「あ、あの、アリアさん?怒ってます?後さっきから足踏まれているんですけど……」

「べっつに~?」グリグリ

「おいアリア、話が進まないからその辺に……」

「あ?」

「いえなんでもないです」

 

キンジがフォローに入ってくれようとしたが、一言で玉砕した。もっと粘れよ。

 

「まぁ良いわ……それで?一体誰なの、あの子?」

 

ようやく足をどかしてくれて、話を聞いてくれるようになった。ああ、爪先が痛い。

 

「ああ、シェイは……」

「――私がどうかしたの?」

 

話そうとしたら、シェイが屋上の扉から歩いてきた。

 

「初めまして、ネリーちゃんから話は聞いているよ。神崎・H・アリアさんと遠山キンジ君だよね?」

 

――ネリーという人物名を聞いた瞬間、アリアとキンジが拳銃を抜いたが、手で制する。

 

「大丈夫だ、シェイは」

 

俺が言うと、シェイはクスクスと笑いだした。

 

「東京武偵高って、本当に個性豊かな人が多いよね。世界中の武偵高を回ってきたけど、ここより個性豊かな人達はいなかったよ」

「そうか、どうなんだ、最近のアイドル活動は?」

「順調だよ」

 

俺とシェイが普通に会話しているのをみて、ようやくアリアとキンジが拳銃を下げた。

 

「一体誰なのよ、アンタもリバースランカーなの?」

「うーん、当たらずも遠からずかな?私は救護科(アンビュランス)衛生科(メディカ)のSランクだよ」

 

リバースランカーは最高でもAランクまで。Sランクということは、それだけでリバースランカーではないと証明されるものだ。

 

「じゃあなんで、ネリーのことを知っているんだ?」

 

キンジがワケが分からないといった顔をする。

 

「ねぇ、神崎さんに遠山君。あなたたちは、『GOW』ってネリーちゃんから聞いた?」

「……いいえ、知らないわ」

「……名前だけなら聞いた。何でも、『リバースランカーの溜まり場』……だったか?」

 

シェイの問いにアリアは横に首を振り、キンジはネリーが脱出する際の俺への警告を聞いていたので知っている。

 

「そっか……なら、『GOW』について説明するね」

 

よっ、とシェイが屋上の落下防止用のフェンスに腰かけながら座る。危ないな、ここ屋上だぞ?

 

「『GOW』っていうのは、対闇組織専用に結成された、リバースランカーが集結したチームなの」

「……リバースランカーが集結?」

「……相手が可哀想と思うのは、アタシだけかしら?」

 

アリアとキンジは実際に想像してみたのだろう、顔がゲンナリとしている。

 

「リーダーが零君で、特攻担当がネリーちゃん、他にも後三人いるんだけど、私は回復(ヒール)担当で配属されていたの」

「……ん?後三人ってことは、その三人はリバースランカーなのか?後、シェイが配属された理由が分からない。そんなチームなら回復(ヒール)担当なんていらないと思うが」

 

キンジが話を聞いて分からなかったところを尋ねる。

 

「最初の質問の答えはYesだよ。リバースランカーは全員で5人……いや、零君はもう違うから4人かな?二つ目の質問については……別に回復させる相手が味方とは限らないんだよ?」

「『味方とは限らない』?」

「だって考えてみてよ。零君やネリーちゃんみたいな人が5人いるチームだよ?相手を蹂躙(じゅうりん)するだけだよ。だから相手の人が死なないようにケアするのが私の役目。その時は別にリバースランカーじゃなくても良いから、私が配属された理由」

 

まぁリバースランカーは『一人で大陸一つを制覇できる』と言われているからな。一応汚れ仕事をしているとはいえ、被害は最小限の方が良いし。

 

「と、言うわけで私は戦う気はないの。OK?」

「あ、ああ……」

「分かったわ」

 

二人の確認を取った後、シェイは落下防止用フェンスから飛び降りる。

 

「何か他に聞きたいことある?」

「いや……」

「何も」

「俺はある」

「何?零君」

「何で東京武偵高に来たんだ?」

 

俺が聞くと、「ああ、それね?」と言った。

 

「アドシアードが近日中にあるでしょ?それのエンディングで歌うことになってるの……表向きは」

「……本当は?」

「……ネリーちゃんに、『零がこれから色々やらかすだろうから、サポートしてあげてね~』っていう理由」

「……ご迷惑をおかけします」

「……今更だよ」

 

ネリーの人使いの荒らさにため息をつく。

そしてシェイは少し俺達から離れて、

 

「改めまして……これからよろしくね?」

 

と笑顔で言ってきたのであった――

 

 

 

 

 

なお、教室へ戻ると男子全員が地面に倒れており、女子達がニッコリと笑っていて恐怖を覚えたのは別の話で。




どうしでしたでしょうか?
誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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38話~始動!『KAS』&『RKS』~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
いやぁ~……怪我しました(唐突)。ちょっと部活動でヘマやって、針で怪我を縫いました。
怪我よりも麻酔の方が痛いって……何か変な感じでしたね。

そんなことはともかく、今回も話が進みません!『早く原作に追い付けよ!』という人は申し訳ありません。

では、第38話、始まります。


ーsideあかりー

 

……零先輩遅いなぁ、今日はあたしとライカと志乃ちゃんの稽古をつけるって言ってたのに……

あ、どうもm(_ _)mペコリ。あかりです。今は放課後、強襲科(アサルト)棟で零先輩を待っています。

先輩は基本あたしとライカに稽古をしてくれるんだけど、たまに志乃ちゃんも一緒に稽古をする。

 

「おっ、来たみたいだぜ」

 

ライカがそう言ったので振り向くと、何故か不機嫌そうなアリア先輩と、困った顔をしている零先輩が来た。

 

「零せんぱ……」

「――へぇ、東京武偵高の強襲科(アサルト)って、こうなっているんだ」

 

――あたしが零先輩を呼ぼうとすると、零先輩の背中からヒョコッと美少女が顔を出した。

 

((……誰?))

 

あたしと志乃ちゃんの頭に疑問符が漂う中……

 

「……え?も、もしかして……武偵アイドルのシェイルさん、スか?」

「あ、うん。そうだよ~」

 

ライカが何かを尋ねて美少女――シェイルさん?は肯定した。

 

「マ、ママ、マジッスか!?え、本物!?あ、アタシ、火野ライカって言います!」

「ライカさんですね、分かりました。私のことも気軽にシェイって呼んでね?」

「い、いえ、そんなこと……」

 

……何故かライカが異常なくらい取り乱している。何で?

 

「あ、あの、ライカさん?此方のシェイルさんという方は一体誰なのですか?」

「ハァッ!?何で知らないんだよ!」

「ごめんライカ、あたしも分からない」

「あかりまで!?」

 

な、何で信じられないみたいな表情をするんだろう……

 

「良いか!?シェイルさんは武偵アイドルっていう世界中の武偵の生徒から選ばれた少数人数で、唯一莫大な人気を持っている人なんだよ!デビュー曲である『From...』を筆頭とする少女らしい一面を持つ曲だけじゃなく、『Pride』や『Drop』といったロック系統も完璧にこなす実力を持っているんだよ!更に人気の理由は歌唱力だけじゃなく、その超美少女すぎる外見と、高嶺の花のような感じじゃなくて誰にでもフレンドリーな性格でもあってさらに……」

 

ラ、ライカ怖いよ……怖いよライカ……

 

「アハハ……誉めてくれるのは嬉しいけど、直にそんなに言われると少し恥ずかしいかな?」

「あ……ス、スミマセン……」

 

シェイルさんに諭されてハッとなり落ち込むライカ。それにしてもライカ、シェイルさんのファンだったんだ……

改めてシェイルさんの方を見ると、身長はライカと志乃ちゃんの間くらいで、とてもスラッとしている。目鼻立ちはクッキリしているし、スタイルもいい。

そんな感じで見ていると、シェイルさんがこっちに気づいてニコッと微笑んだ。

……性格も非の打ち所がない。人気が出るのも頷ける。

 

「……で、そろそろ周囲の視線が痛くなってきたから、何故ついてきたのか教えてほしいんだが?」

 

今まで黙っていた零先輩がシェイルさんに向かって言う。

 

「うーん、別についてきた理由は無いかな?強いて言うなら、これから治療することになる人達が一番多い強襲科(アサルト)だから、かな」

「なんだそれ」

「まぁただ単にフラフラしてるだけだよ」

 

そんな会話をする零先輩とシェイルさん。とても仲が良さそうだけど……

 

「シェイルさん、私は佐佐木 志乃と言いますが……」

「ん?何かな、志乃さん」

「零先輩とどんな関係なのですか?先程からとても仲がよろしいみたいですが……」

「ああ、そのことね?私は小さい頃から組んでいたパーティーがあるんだけど、そのリーダーが零君だったの」

「そうだったのですか、道理で仲が良い訳ですね」

 

志乃ちゃんの問いに答えるシェイルさん。すると……

 

「シェイルちゃんのチームのリーダー……だと?」

「羨ましい……」

「錐椰の野郎、どこまで勝ち組なんだ!」

 

ガヤガヤと周りがざわつき始めた。な、何!?

――ヒュンッ、パシッ。

そしてどこからともなく矢が零先輩に向かって飛んできたが、零先輩は当たり前のように小指と薬指で止めた。何で一番取りづらい所で取ったんだろう……

 

「チッ、取られたか……」

 

そう言って弓矢を持ってツカツカと歩いてくる男子。それに続いて大勢の男子が歩いてきた。

 

「あ、あの人は……」

「何か知ってるの、志乃ちゃん」

「はい。あの人の名は三井 智則。現在強襲科(アサルト)二年Aランクで、中学生の頃、弓道で全国優勝している人です」

 

そ、そんな凄い人が何で零先輩を……?

 

「何のようだ?本来なら北斗○拳二指真空○を見舞ってやる所だが……」

 

零先輩、それじゃ相手死んじゃいます。

 

「錐椰 零……貴様がいる限り、俺達に春はやって来ない……だから!」

 

そこでクワッ!と目を開ける三井さん。

 

「今ここで始末してやろう、KASの俺達が!」

「……KAS?」

「K(錐椰を)A(暗殺)S(し隊)だ!」

 

ババーン!と効果音が流れそうなくらい堂々と言う三井さん。

……暗殺って、堂々とやるものだったっけ?

 

『黒星!ビッグ☆ウェ○ブ!』

 

いやあの人最後武神になったから!もう暗殺者じゃないから!

……あたしは誰に何を言っているんだろう?

 

「……で、カス(KA()S())の皆様方が、一体俺にどのようなご用件で?」

『略すな!』

 

全員で突っ込んできた。意外と統一性があるなぁ~。

 

「俺達は今まで、幾度となく錐椰 零を暗殺しようと試みた」

「……ああ、そういえば」

「何か思い当たることあるの、零?」

「ああ。ロッカーの中に小型爆弾が仕掛けてあったり、どこからともなく矢が飛んできたり、机の中にピアノ線仕掛けてあったり、射撃練習している時に手榴弾飛んできたり、バイクの近くに地雷仕掛けてあったり、強襲科(アサルト)で流れ弾と見せ掛けてヘッドショット狙ってきたり……」

「そんなにあったんですか!?」

 

寧ろそれを『そういえば』でよく済ませましたね!?

 

「靴の中に画ビョウ入っていたり……」

 

……何だろう、普通にイジメなのに『何だ、その程度か』って思えた。

 

「だが、ことごとく失敗してきた……よって、今回は隊員総出で貴様を抹殺することにしたのだ!」

『ウォォォォォォ!』

 

うわ……凄い熱気。総勢50……60……いや、70名くらいかな?凄い人数だ。

 

「野郎共!今こそ復讐の時!モテない男達の底力、リア充に見せ付けるのだ!」

『ウォォォォォォ!』

 

M4、PC356、タガーナイフ……各人の武器を手にして零先輩へと近づいていくカス……KAS。零先輩もそれに応じようとするが……

 

――パァンッ

 

「グハァッ……」バタッ

 

――突然発砲音が聞こえたと思ったら、KASの一人が倒れた。

零先輩がやったのかと思って零先輩を見ると、

 

「……(゜д゜)?」

 

何が起こったのか分からない、といった表情をしている。アリア先輩とシェイルさんも同じような表情だ。

――えっ、じゃあ一体誰が……?

と考えていると、また発砲音が鳴り、それに続いて一人が倒れる。

 

「だ……誰だ!俺達のジャマを……」

 

と、三井さんが何かを言おうとした瞬間、発砲音の嵐が鳴り響いた。それに伴い、次々と倒れていくKAS。

 

「な、何故だ……」

 

そしてとうとう三井さんだけになった時、ツカツカと三井さんの目の前まで一人の女性が歩いていく。

その女性は、黒髪をセミロングにしており、顔もスタイルもまぁまぁ良い。

 

「だ、誰だ貴様!何故俺達のジャマを……」

「害虫が喋らないでください。虫酸が走ります」

 

パァンッ。とその女性は三井さんの鳩尾に発砲した。それにより三井さんが気絶し、辺りはシン、と静まり返った。

な、何なの、あの人……

と思っていると、その女性がコチラの方を向くと、ツカツカと歩いてきて、零先輩の前に立って微笑んだ。

 

「零様、お怪我はありませんでしょうか?」

「あ、ああ……」

「それは良かったです。零様の神聖なお体に傷がついたらいけないですから」

 

零先輩の体を赤い瞳で確認したその女性は安堵した。

 

「あの、君は一体……」

「ああ、申し遅れました。私は宮野(みやの) 志保(しほ)と申します。以後、お見知りおきを」

「あ、ああ……その、ありがとう、助かったよ」

「零様からのお礼の言葉……!ありがとうございます!」

「えっ、何で俺がお礼言われるの?」

「――隊長、害虫どもの運搬が終了しました」

 

と、宮野さんと零先輩が話していると、別の女性がやって来た。

そして辺りを見ると、さっきまで倒れていたKASのメンバー全員がいなくなっていた。

 

「そうですか、なら今から殺虫剤をかけてあげないとね……では零様、ごきげんよう」

 

軽く会釈してそのまま立ち去ろうとする宮野さん。

 

「ちょっと待って宮野さん。彼らは一体どこに……」

「零様」

 

零先輩が聞こうとするが、宮野さんが振り向きかえって、

 

「世の中には、知らなくていいことがあるんですよ♡」

 

と言って、そのまま去っていった。

――彼女は一体何者何だろう……そう思う出来事でした。




どうでしたでしょうか?
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それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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39話~かごのとり~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
最近気づいたのですが、2巻って、キンジと白雪がメインだから、零が介入するところが少ない……。もしかしたら、第一章よりもはるかに少ない話数でできるかもしれません。

では、第39話、始まります。


「――星伽さんもぜひ、せめて閉会式のアル=カタには出ていただきたいわ」

「ええ。枠も一人分、ちゃんと空けてありますし」

「え、えっと……」

 

(*´∀`)ノヤァ、零だ。現在俺とキンジは『アドシアード準備委員会』として動いている生徒会に来ている。理由は白雪の護衛。生徒会会長でもあるからな、白雪。

だが俺とキンジは居づらいことこの上ない。何故かって?生徒会役員が女子しかいないからだよ!

これはかつて男子に任せていたら、部費の取り合いで撃ち合いに発展してしまったからである。さすが武偵高、くだらないことで銃が簡単に出てくるよ。

 

「星伽先輩は美人だし、報道陣も好印象を持つと思います」

「あたしもそう思うなー。武偵高、ううん、武偵全体のイメージアップになるはずだよ」

「今回の振り付けを考えたのだって、星伽さんですし……アル=カタのチアは、自分でもできますよね?」

「は、はい。でも、私はその――あくまで裏方で貢献させてください」

 

そこで白雪はチラッとキンジを見た。

おいキンジ、何『とっとと切り上げろ』みたいな顔してやがる。失礼だろ。確かに持病(ヒス)持ちのお前には辛いだろうが。

 

「――では今日はもう時間ですし、これで会議を終了したいと思います」

 

白雪はよく通るキレイな声で、一同にそう宣言した。

こういう時の白雪って、発音がキレイだから頼もしい感じがする。アリアは声優だとしたら、白雪はアナウンサーかな……何か今、『くぎゅうぅぅぅ!』って聞こえてきたんだが……

そしてお開きになってからしばらくすると、女子達がキャイキャイしだした。

 

「――ねぇ、これから台場に行きませんこと?」

「あっ、賛成です!」

「行く行く!マルイ改装したんだよね」

「あたし夏物のミニほしいー!」

「台場で思い出した!エスケーラの限定シュガーリーフパイ、今日発売だよー!」

「でた、色気より食い気!モテない武偵娘(ブッキー)の典型だよーっ!」

「星伽先輩もどうですか?夏に向けて、私服とか見に行きませんー?」

 

皆で喋っている中、一年が話しかけると、白雪は、えっ、という顔になった。

 

「あ、私はこれから帰宅して、S研の課題と、アドシアードのしおり作成を……」

「さすがですね。勉強熱心……」

「疲れを知らないんですね、星伽さんは」

「本当に超人だわ……」

 

などと、イヤミじゃなくて本気で白雪を尊敬している模様だった。同時に、なんか一歩引いている感じがする。

 

「じゃあ、錐椰君はどう?一緒に行かない?」

「あ、それ良い!ねぇねぇ、錐椰先輩も行きましょうよ~」

「えっ……アハハ、俺はちょっと用事があるから……」

 

白雪を誘えなかったからか、今度は俺を誘ってきた。

――ヤバイ。このまま誘いを断りきれなかったら、買い物に付き合わされる……!女子の買い物は本当に長いし、持たされる。これ経験談。相手はシェイとネリー。

 

 

 

 

 

なんとか女子の誘いを断り、夕焼けの道を三人で帰る。

 

「きょ、今日はキンちゃんが見てたから、緊張しちゃった。私……どうだった?」

 

体の前に提げた学生鞄を両手で持つ白雪が、キンジと下校するのが心底嬉しそうな顔をしている。てか、俺がいたことはスルーですか。いや、別に良いけど。

 

「みんなに信頼されてるカンジがしたよ。いいんじゃないか?」

「……き、キンちゃんに……ほめ……ほめられちゃった……」

 

白雪は顔を真っ赤に染めて、俯きながら独り言している。

あ、電柱にぶつかった。それ、結構痛いよな。

 

「そういえばお前、アル=カタのチアには出ないのか?みんな、出てくれって言ってたじゃんか」

「だ、だめだよ。出られないよ。チアは……もっと、明るくてかわいい子の方がいいよ。私みたいな地味な子が出たら、武偵高のイメージが悪くなっちゃう」

「……白雪。あまり自分を卑下するな。悪いクセだぞ?」

「零の言う通りだ。チアなんか、やってる時だけ明るい演技すりゃいいだろ。演技している内に、本当に明るくなるかもしれないし。で、本番で大勢の人にそれを見せて、自信をつけるんだよ」

「でも……」

「ひょっとして教務科の――魔剣(デュランダル)の話にビビってんのか?確かにいるかもしれないけど、こっちには零がいるから大丈夫だろ」

「うん……分かってるよ……でも、ダメなの」

「それはどうしてだ?」

「星伽に、怒られちゃうから」

 

星伽。

と、こう白雪が言う時は、星伽神社、つまり実家を意味する。

 

「なんで怒られるんだ。そんなことで」

 

キンジが白雪に聞くが、

 

「私は――あまり、大勢の人前には出ちゃダメなの」

 

少し頑なな、白雪の声。理由を説明するのではなく、否定を繰り返した。

何がなんでも、ダメなのだろう。星伽神社は格式を重んじるあまり、あれこれ制限つけるからな。

 

「……さっき生徒会の後輩に台場行くの誘われてたのに、断ってたな。あれもひょっとして星伽か?」

「うん」

「お、おい」

「私は――神社と学校からは、許可なく出ちゃいけないの……星伽の巫女は、守護(まも)り巫女。生まれてから逝くまで、身も心も星伽を離るるべからず。私たちは一生……星伽神社にいるべき巫女なの。そういう、決まりなの。もちろん他の神社にご用があって行くこともあるし、現代(いま)は義務教育とかもあるけど……あくまで最低限にしなきゃいけないの。私が武偵高に来たのだって、すっごく、すっごく、反対されたよ……」

「白雪……」

「それにね、私、何も外のこと知らないから会話も持たないし……どんな服着ればいいのかも分からない。何も知らないから……みんなと、理解し合えないの」

「……」

「でも」

 

でもね、と白雪は続ける。

 

「でもいいの。私にはキンちゃんがいる。レンちゃんもいる。アリアもいる。私には、それで十分だよ」

 

白雪のそう言った後の笑顔は、少し寂しそうだった。

それきり、誰も喋らなくなってしまったので、どうにかしようとして何か考えていると――

 

「そ、そういえば、この三人でいるの、久し振りだね!」

 

と、白雪も焦っていたのだろう。必死に話題をふってきた。よし、それに便乗するか。

 

「そうだなぁ。俺が10歳の頃から世界を旅してたから、その前になるな」

「ああ……俺と零で星伽神社に行った時だな」

 

俺とキンジは4~5歳くらいの時、星伽神社に行ったことがある。そこで出会ったのが、まだ星伽神社から出たことのない白雪だった。

 

「星伽神社は男子禁制なのに、何故か俺達は許されたしな」

「あの時の白雪は俺達を怖がって近づいてすらこなかったな」

「だ、だって、男の人がくるなんて初めてだったし……それにキンちゃんは普通だったけど、レンちゃんは本当に怖かったんだよ?」

「えっ?俺が怖かった?いつもはしゃいでいたと思ってたんだけど……」

「いや、全然はしゃいでいなかったぞ。寧ろ今の俺より他人とのコミュニケーションをとれてなかったし。なんか気難しい顔してたから」

「マジで!?」

 

初耳なんですけど!?何、俺そこまで酷かったの!?全然そんなこと……あぁ、そういえばあの時はリバースランカーだったから、あまり関係を持とうとしてなかったんだっけ。それで無愛想になっていたのか。OK,納得した。

 

「で、段々キンちゃんだけと仲良くなった時にキンちゃんが町の花火大会にすっごく興奮してて……私のこと、神社から連れ出してくれたんだよ。物心ついてから星伽神社の外に出たのは、あれが初めてだったよ。あの時の花火、すっごくキレイだった……」

「あー……あれか。よく覚えてるな、そんなこと」

「それで帰ってきて怒られるかと思ったら、何故かレンちゃんが大人達に殴られていて……それなのにレンちゃんは、『かくれんぼしているだけ』とか大人達に言ってて……こっちに気づいた時に、『よう、楽しめたか?』って初めて笑ったの」

「あぁ、そういえばそうだったな」

 

『白雪はどこにいる!?』って言ってくる大人達を探しに行かせないようにしていたなぁ。あまりにも外に出られない白雪が可哀想すぎて、せめてこの時間だけは白雪を解放してあげたかったんだったな。結局白雪は怒られたけど。

 

「それからもキンちゃんとレンちゃん、よく星伽に遊びに来てくれたよね」

「兄さんの仕事について行ったんだよ。近所に同い年ぐらいの子供も零しかいなかったしな」

「俺も同様だな」

 

何して遊んだんだっけ。サッカーとかは他の小さな巫女たちの多数決で否決されて、ママゴトとか、折り紙とか、かごめかごめばっかりやってたな。まぁその時から拳銃握っていたから、どんなことでも平和的で楽しかったけどな。

 

――かーごめ かごめ かーごのなーかの とーりぃーは――

 

あの歌は、今でもよく覚えている。

金一さんが白雪達を、『かごのとり』と、哀れむように呼んでいたから。

 

「あ……寮に着いたよ。中に入ろ?」

 

と言って中に入っていく白雪。それが何故か俺には、かごの中に戻る小鳥に見えた。

白雪……まだ、まだなのか?

まだ、かごのとり、なのか。




どうでしたでしょうか?

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それでは、ご機嫌よう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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40話~再び!『KAS』&『RKS』~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

いやぁ、ようやく抜糸をしました……これから少しずつ動けるようになったので、スポーツの好きな自分にとっては嬉しいことです。

そんなことより、第40話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。現在は強襲科(アサルト)対高戦(クロスカントリー)に向けてどう会場を盛り上げようか(優勝前提で)考えながら練習している。

 

「……おい、見てみろ錐椰のヤツ。剣の軌道が筆記体で『Rei Kiriya』になってるぞ」

「どんな斬撃の仕方しているんだよ」

「で、今度は『Kouden』になってるし……」

「ただの自己紹介じゃねーか!」

 

……なんか外野がうるさい。まぁいいや、続きは明日にして今日は帰ってゆっくりしよう。

そう考えた俺は刀を仕舞い、強襲科(アサルト)を出た。

 

「――じゃあアカっち、後よろしくねー」

「ねー」

「う、うん……」

 

そのまま校門を向かおうとしたら、掃除している一年女子三人を見かけた。そしてその内の二人は箒をその場に置いてさっさと帰っていった。

残った一人の女子はせっせとまだ掃除をしている。

 

(……何か、可哀想だな)

 

そう思った俺は自然とその女子の前に行った。

 

「手伝うよ」

「えっ……」

 

ヒョイとさっき帰っていった女子が残していった箒を取り、声をかけると振り向いた。

――美少女だった。

身長は153くらい。髪の毛は――俺と同じ紅色でボブカット。目も紅色。幼い顔立ち。そして――

 

(……デカイな)

 

どこをとは言わないが。一般に『ロリ巨乳』と言うやつだろう……あ、言っちゃった。

その美少女は俺の顔を見て少しキョトンとした顔をしていたが、やがてその大きな目を開けて、

 

「れ、れれれ、零様!?」

 

と言ってきた。

 

「うん。そうだよ」

 

何か最近女子達から様付けで呼ばれることが多いので普通に返事した。

 

「な、何でここに……」

「あー、君が一人で掃除しているのを見て少し可哀想だと思ってね。手伝うよ」

「い、いえ!零様の手を(わずら)わせる訳にはいきません!私なんかのために……」

 

……あー、この子、ネガティブな子だな。

改めて美少女を見ると、肩が少し上がっている。普段からおどおどしている証拠だ。目も垂れぎみで、争い事とかできなさそうだな。武偵高には珍しいタイプだ。

しかし、こういう子は頑なに拒否してくる。だから俺は了承を得る前に掃除を始める。

 

「俺はこっちをやるから、君はそっちをやってね?」

「え、でも……」

「ね?」ニコッ

「は、はい///」

 

もう一回言うとその少女は掃除を始めた。何故か顔を赤くして。

そしてテキパキと掃除して、ゴミをゴミ箱に入れた。これで終わった。

 

「ん~ん、終わった~」

「あ、あの零様、ありがとうございました!」

 

大きくのびをすると、少女が頭を下げてお礼を言ってきた……頭を下げた時に大きく揺れた。ふぅ、眼福眼福……じゃなくて!

 

「別に良いよこれくらい。頭を上げて」

「いえ、零様に手伝ってもらったので……あの、何かお礼をさせてください!」

「いや、これくらいでお礼をもらうと逆に俺が困るんだけど……」

「何かお礼をさせてもらわないと申し訳ありません」

 

(……まいったな、どうしようか……)

 

「じゃあ、名前を教えてもらえないかな?」

「な、名前ですか?」

「うん。知り合いになった人を『キミ』呼ばわりするのは嫌なんだ」

「じ、じゃあ、ええと。わ、私の名前は……紅野(あかの) 瑞姫(みずき)、です」

紅野(あかの)さん、ね。分かったよ」

「れ、れれれ、零様が私の名前を……///」

 

……紅野さんが顔を赤くして(うつむ)いてしまった。風邪かな?

と、その時。

 

「――見つけたぞ、錐椰!今日こそ抹殺してやる!」

 

と、弓矢を持った男と20人程度の男子達がやってきた。

 

「ああ……またカスの奴らか」

『カスじゃない!KASだ!』

「はいはい」

 

コイツらは俺を殺そうとしているグループの『KAS』というやつらだ。めんどくさいからカスと俺は呼んでいる。

 

「なぁ三っちゃん。そろそろ止めてくれないかな?いいかげん飽きたんだけど」

「止めるわけないだろう!貴様を殺すまではな!後三っちゃん言うな!」

「先生……バスケが、したいです……」

「貴様……」

 

ピキピキと額に青筋を浮かべる三井。

 

「もういい……お前ら、やっちまえ!」

『ウオォォォォォ!』

 

三井の合図によって拳を上げるカスのヤツら。仕方ない、少し相手して――

 

「――こちら紅野。二番隊の皆さん、発砲してください」

 

瞬間、

 

――パパパパパパパパァンッ!

 

と、多数の発砲音。それによって倒れるカス。

 

(……あれ?これ、どっかで見たことあるような……)

 

「だ、誰だ!」

 

と叫ぶ三井。これも見たことある。そして……

 

「公害が歩かないでください。迷惑です」

 

と言って持っている拳銃――XDs(9mmモデル)で三井の鳩尾に発砲する紅野さん。

そしてカスは全滅した。

 

「――紅姫(あかひめ)隊長、指示を」

「――7番から15番は証拠隠滅。20番から31番までは周囲の警戒。残りは公害の撤去。急いでください」

『はい!』

 

カス達が全滅した後、ぞろぞろと女子達が集まってきた。そして一人が紅野さんに何かを問うと、紅野さんはおどおどしていたのが嘘みたいにテキパキと指示をしていた。

……というか、

 

「あの、紅野さん」

「は、はい」

 

あ、元に戻った。

 

「さっき一人の女子から『紅姫(あかひめ)隊長』って呼ばれていたけど、それは?」

「あ……えっと、それは私のアダ名です。『紅野 瑞姫』だから『紅姫(あかひめ)』なんです……零様の二つ名から取っているところもありますけど」

「えっと……俺の『紅電』から取ったって言うこと?」

「は、はい。そうです」

「――紅姫(あかひめ)隊長、撤去作業が終了しました」

「ご苦労様です」

 

喋っていると、一人の女子が報告に来た。そして辺りにいたカスはもういない。

 

「それでは、零様。ごきげんよう」

「あ、ああ」

 

この前――宮野さんの時に学んだこと、『知らなくてもいいことは知らないままで良い』から、三井達がどうなるのかは聞かない。

そして、紅野さんは去っていった。

 

 

 

 

 

あれから数日がたち、5月5日の朝。

 

「零。ちょっと良いか?」

 

いつものように朝食を作っていると、珍しくキンジが早起きしてきた。

 

「今日は雨かな……」

「おい」

「冗談。で、何のようだ?」

「実は……今日、白雪と東京ウォルトランド・花火大会に行くことになった」

 

そのことを聞いて、俺はピタッと料理する手を止めた。

 

「東京ウォルトランドって、『学園島』から離れているぞ?」

「知ってる」

「しかも花火大会だから、人の多くなる場所になるぞ」

「それも問題ない。少し遠くなるが、葛西臨海公園から見ることにしている」

「……そうか」

 

そこまで聞いた俺は、止めていた料理を再開する。

 

「じゃあ俺は、アリアの説得をすれば言いわけだ」

「……察しが良くて助かる。だけど頼もうとしていた俺が言うのもなんだが、できるのか?」

「当然。パートナーだからな。それにアリアも魔剣(デュランダル)を追いすぎて疲れてるだろうから、無理にでも休ませるよ。それより――かごのとりに、ちゃんと自然の素晴らしさを教えてこいよ?」

「……ああ、分かった」

「じゃあキンジ、朝食の準備手伝え。折角早起きしたんだから」

「げぇ……」

 

キンジが心底嫌そうな顔をする。飯抜きにしてやろうか……と、

 

「キンジ」

「どうした?」

「言いたいことがあるんだが」

「何だ?」

「実は――」

 

 

 

 

 

「――というわけだから、今日は白雪の護衛無しにして、白雪とキンジを二人で行かせたいんだ」

「……」

 

今、俺はファミレスでアリアを説得中だ。アリアがすんなりと許してくれれば良いんだが……

 

「……大丈夫なの?」

「問題ない。キンジに何かあったらすぐ連絡しろとは言っておいた」

「……なら良いけど」

「良いのか?」

「ええ。白雪にそんな事情があること知らなかったし、良い機会じゃない?」

「良かった」

 

俺は安堵して、ドリンクのコーラを口にした。

 

「……で、そ・れ・よ・り・も……何でアンタが零の横にいるのよ!」

「うん?私?」

 

そう、何故かアリアと二人で来たはずなのに、いつの間にかシェイがいたのだ。そして俺の隣に座ってパフェを食べている。ちなみにアリアは対面。

 

「……シェイ。こんな所で油売ってていいのか?アドシアードに向けて色々準備が必要なんじゃないのか?」

「大丈夫だよ。私がやることは歌うことだけ。ある程度の調整だけで充分だよ」

「だからって、何で零の隣なのよ!こっちにくれば良いでしょ!?」

「私、出口に近い方に座りたい人なの」

「アンタ反対側にいるけど!?」

「まあまあ……」

 

何故か激昂しているアリアを(なだ)めようとする。でないと、ファミレスで拳銃(ガバ)の射撃訓練が行われそうだ。

 

「あ、そういえば零君。教務科(マスターズ)からこんなの届いていたよ」

 

ハイ、と俺に一枚の小さい手紙を渡してきた。てか、今どっから取り出した?

 

「ええと、何々……?」

 

とりあえず開けて読んでみる。そこには……

 

 

「――部屋の移動?しかもこの号室……隣じゃないか。何でだ?」

「隣に住んでいた3人が一斉に転科したから無人になっていて、使わないのももったいないからだって」

「3人一斉って……普通じゃないわよ?」

 

アリアが言ったことはその通りなのだが……まぁ、移動しろと言われたらするしかないな。

 

「――ついでに私も一緒に住むから、よろしくね」

「ああ、分かっ……は?」

「ちょっ……ちょっと待ちなさいよ!女子が男子寮に部屋に住むなんて許されないわ!」

 

アリア、それブーメランだぞ?分かっているのか?

 

「大丈夫だよ。既に寮長にも了承を受けているし」

「早っ!?」

 

なんと既に公式的に認められているとは……

 

「と、いうわけで……よろしくね」

「ハハハ……」

 

シェイの笑顔と一緒の言葉に俺は乾いた笑いしか出ず、

 

「ぜ、ぜ、絶対に零は渡さないんだから――!」

 

というアリアの声がファミレス内に響いた。

神よ……俺に安静な地をください。できれば今すぐに。

なんて思いつつ、結局拳銃(ガバ)を抜いてしまったアリアを止めることに専念した――




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう(´・ω・`)/~~バイバイ。


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41話~アドシアード~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
リアルがかなり忙しくなってきました……本当に不定期更新になりそうです。
それでは、第41話、始まります。


チュンチュン……

 

「ふぁ……」

 

眠い……あ、(*´∀`)ノヤァ、零だ。今日はアドシアード当日。大勢の武偵や職員、更には一般人が集まる日だ。この日のためにしてきた(盛り上げるための)準備もしてきたし、後は今日の朝飯と昼の弁当作りだな。

そう思ってベッドから体を起こそうとする――

 

「……あれ?」

 

が、何故か体が動かない。具体的には、右半身がいつもより重く感じる。そして布団とは別の暖かさを感じる。

何かと思って見てみると……

 

「……んっ……」

 

――シェイが俺の腕を抱いて寝ていた。

 

「……は?」

 

現状を理解できずに固まってしまった。

 

(え、何これ?どんな状況だよ……あ、成る程。これは夢か)

 

そう思って自分の頬をつねろうと腕を動かそうとしたが、動かそうとしたのは右腕、つまりシェイに抱かれている方である。

当然動かすことはできず、代わりに……

――フニッ、と柔らかいナニカが俺の腕が動くとともに形を変えた。

 

「――ッ!?」

 

あまりのことにまた固まってしまう。そして目が完全に覚めた。

――な、何でシェイが俺のベッドの中にいるんだよ!?

慌てて離れようとしたが、シェイに腕を抱かれている以上、動くことはできない。

や、ヤバイ。こんなところ、アリアに見られたら……

 

「……朝から一体、何をしている訳……?」

 

そう、俺のベッドの目の前で前髪で顔が隠れている、仁王立ち状態のアリアに見られたら……

 

「……え?」

 

ア、アリアだって?

 

「一体、どういうことなの……?」

 

――ゴゴゴゴゴゴッ!

アリアは身の回りに何かオーラを纏いながら、依然として仁王立ちのままである。前髪で顔が隠れたまま。

ヤ……ヤバイ!超怖い!

 

「ア、アリアさん?と、とりあえず、その物騒なオーラをしまっていただけないでしょうか?」

 

あまりの怖さに敬語になる俺。プライド?知ったことか!

 

「……」

 

無視・無言・無表情。アリアって、こんなにポーカーフェイスができる子だっけ?お兄さんビックリだよ。

だが、こんなところでアリアの成長を確認している場合じゃない。早くどうにかしないと、風通しが良すぎる体にされてしまう。

そこでどうしようかと考えていると……

 

「……んっ。ふぁっ……あれ?零君にアリアさん、どうしたの?」

 

と、シェイが起きて俺達二人に聞いてきた。

 

「ど、どうしたもこうしたもないわよ!何でアンタが零の隣で一緒に寝てる訳!?」

 

するとアリアは先程から一転して顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。

 

「……零君の隣?」

 

と、シェイがアリアの言葉に反応してキョロキョロと辺りを見回す。

そして「ああ……」と何かに納得した表情をする。

 

「ごめんね、零君。()()みたい」

「……ああ、そういうことか」

「……どういうことよ」

 

アリアも何かあると思ったのか、怒りを抑えてくれたようだ。良かった。

 

「ええと、それはね……」

「その前にシェイ」

「何?」

「そろそろ腕を離してくれると助かるんだが……朝飯の準備もしたいし」

「ああ、ごめんね?」

 

と言ってようやく離してくれたので俺は素早くベッドから出てキッチンへと向かった。別に俺の腕をまだ離していなかったことにアリアが気づいて再びオーラが出てきたからではない。早く朝飯を作りたかっただけなのだ。本当だぞ!

 

 

 

 

 

「で?さっきのは一体どういう訳?」

 

朝飯が出来たので、俺・アリア・シェイ・キンジ(白雪が何故か女子寮にいるため、朝飯がないから来たとのこと)でテーブルを囲みながら朝飯を食べる。

ていうかキンジの顔が浮かないようだが、何かあったのかな?

 

「私、抱き枕が無いと眠れないの」

「……じゃあ、抱き枕を使えば良いじゃない」

「宅配便に不備があったみたいで、まだ実家から届けられてないの」

「しかもシェイは、抱き枕がない時はだいたい寝惚けるから、人のベッドの中に入ることがあるんだよ」

「……まぁ、理由は分かったわ。それで、いつになったら抱き枕がくるのかしら?」

「それが……一週間後」

「ハァッ!?何言ってるのよ!」

 

バンッと強くテーブルを叩くアリア。そんなに強く叩いたらテーブルが壊れるぞ。

 

「まぁだからこれからもあるかもしれないけど、その時はよろしくね?」

「そ、そんなこと許される訳ないでしょ!零の隣で寝るなんて羨ま……じゃなくてダメなんだから!」

「……ごちそうさまー」ダッ!

「あ、こらキンジ!逃げるな!」

 

……朝から凄く疲れた。これから毎日こんな風になるのか?栄養ドリンク買い溜めしておこうかな……

 

 

 

 

 

『ただいまより、アドシアードを開催致します!』

 

開会式が始まるとともに、大勢の武偵や観客が盛り上がる。

アドシアード、一年に一度の大イベントだ。この日のために努力してきた者達が、己の腕を確かめにくる。

そして俺はというと、観客席の方にいた。

 

(よくよく考えたら、アドシアードは2日かけて行うし、俺の出番である対高戦(クロスカントリー)は一番最後。今日張り切る必要はなかったな)

 

少し恥ずかしい。

 

「――あれ?零先輩」

 

観客席で一人で観ていると、あかりちゃん達一年生組&麒麟(きりん)ちゃんがやってきた。

 

「(*´∀`)ノヤァ」

「こんちはッス。それにしても一人でどうしたんッスか?」

「俺の出番は明日だから、今日はここで観戦しているんだ」

「では、明日の準備をしなくてよろしいのでしょうか?」

「準備する必要がないからな」

「……さすがですの」

「じゃあ、あたし達も一緒に観戦して良いですか!?」

「ああ、良いよ」

 

ヤッター!とか言いながら、俺の右隣に座るあかりちゃん。そんなに席がなかったのかな?確かに空席はあんまりないけど。

 

「じゃあこっちはアタシが」

「いえいえ、ここは私が」

麒麟(きりん)ですの」

 

すると残り三人が左隣の席を同時に掴んだ。

――バチバチッ!

な、なんか三人の間で火花が散っているんだが。しかも本人達は笑ったまま。

 

「どうしたんだ志乃。お前は男嫌いだろ?だったらアタシに譲れよ。麒麟(きりん)戦姉(あね)のいうことはもちろん聞くよな?」

「私は一言も男嫌いとは言っていません。それにライカさんだって、男よりも可愛いお人形さんの方が好きなのでは?」

「いくらライカお姉様のお言葉でも、今回ばかりは聞き入れませんの。ライカお姉様こそ、ここは戦妹(いもうと)である麒麟(きりん)に譲るべきだと思いますの」

 

――バチバチバチバチバチバチッ!

 

な、なんか三人とも言ったと思ったら、さらに火花が飛び散りだした。何かよく分からないが……ここは、

 

「じゃあな!」ダッ

 

逃げる!

 

「「「「あっ!」」」」

 

四人とも気づいたようだが、もう遅い。

俺はそのまま、観客席から離れていった。

 

 

 

 

 

「もうやだ……最近俺のまわりが平和じゃない……」

 

トボトボと観客席から逃げてきて歩く俺。もう疲れたよパトラッシュ。

 

「誰か、物静かな人とかいないものかな……いないだろうな」

 

そう思っていると――

 

「――零さん」

 

抑揚のない、しかし透き通るような綺麗な声。この声は……

 

「レキか」

「はい」

 

後ろを向くと、ドラグノフ狙撃銃を肩に担いだレキがいた。

レキは基本、無口・無表情・無感情。そのため何回か会ったことはあるが、喋ったことはほとんどない。

 

(……いや、確かに物静かな人を探したけどさ。誰も無口とまでは言ってねぇよ)

 

とはいえ、あちらから話しかけられるのは珍しいことだな。少し驚いた。

 

「どうしたんだ?」

「――良くない風がふいています」

 

その小さな口が開かれたと思ったら、良くない風……?一体どういうことだ?

 

「気をつけてください」

 

そう言ってスタスタと歩いっていった。

 

「何だったんだ……?」

 

そう呟いた俺の声は、

――ピリリリリッ

という携帯電話の音に掻き消された――




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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42話~『ケースD7』~

GW中……部活の練習試合2日、全国模試2日

葉月「やっと終わった~。よし、これから……」
先生「来週定期テストだから勉強しろよ」
葉月「……はい?」

となった鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
いやぁ……疲れてる(現在形)。執筆時間がなかった&ネタが思い付かなかったので今まで投稿できませんでした。スミマセン。

では、第42話、始まります。


――ピリリリリッ

 

ヤァ(*´∀`)ノ、零だ。レキと別れた直後、ポケットに入れておいた携帯電話が鳴り出した。

取り出して開いてみると、『天然女たらし』と表示されているので出る。

 

「もしも……」

『零!今どこにいる!』

 

ウワッ!びっくりした、いきなり叫ぶなよ。

 

「何だよキンジ。どうしたんだ?」

『ケースD7――白雪が誘拐された!』

 

――ケースDとは、アドシアード期間中の、武偵高内での事件発生を意味し、D7となると、『ただし事件であるかは不明確で、連絡は一部の者のみに行く。なお保護対象者の身の安全のため、みだりに騒ぎ立ててはならない。武偵高もアドシアードを予定通り継続する。極秘裏に解決せよ』――という状況を表す。

 

「おう、分かった」

『ああ……って、何でそんなに冷静なんだよ!白雪が拐われたんだぞ!』

「逆に慌てたところで上手くいくのか?」

『――ッ。それは……』

「よく考えろ。いくら相手が誘拐のプロだと言っても、武偵や先生達がいる武偵高で完全に誘拐できる訳がない。必ず一度近い場所でしばらく時間を空けるはずだ……そして、ここら辺で誰の目にも止まらない場所といえば?」

『……地下倉庫(ジャンクション)か!』

 

実際は、白雪は生徒会活動をしていたわけだから、自分から向かった可能性が高いけどな。何か弱味でも握られたんだろう。

 

『……零、今から俺は地下倉庫(ジャンクション)へ向かう』

「ああ、俺も今から向かうから、白雪を発見しても急がないように」

『ああ』

 

そしてキンジとの電話が切れる。

 

「さてっと……」

 

そして俺は携帯を操作しつつ、地下倉庫(ジャンクション)へと向かった――

 

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

――俺がバカだった。思えばいくらでもそんな予兆はあった。

 

『キンちゃんごめんね。さようなら』

 

白雪から送られてきた一通のメール。そこにはたった二言、されど今の白雪がどんな状況なのかを充分に示されていた。

自分の不甲斐なさに歯軋(はぎし)りしつつ、地下倉庫(ジャンクション)に向かって走る。

地下倉庫(ジャンクション)は名前だけ聞いたら平凡だが、実際は強襲科(アサルト)教務科(マスターズ)と並んで、三大危険地域に数えられる一つなのだ。

マズイ、マズイぞ。

よくない予感がする。

零に言われてから魔剣(デュランダル)のことは警戒していた……つもりだった。

実際は、まだ都市伝説なのではないかと疑っていた。だから今日も白雪を一人にしてしまった。それに……

(クソッ、こんな時にアリアがいてくれたら……)

そう、アリアが白雪の護衛から外れていた。その話は零に花火の話について相談しにいった時に遡る。

 

 

~回想~

 

『キンジ』

『どうした?』

『言いたいことがあるんだが』

『何だ?』

『実は……アドシアード1日目、アリアは白雪の護衛につけられないんだ』

『は?何でだよ』

『実はロンドン武偵局と少しトラブったみたいで、1日対応に追われるみたいなんだ』

『何してるんだよアイツ……』

『俺もアドシアード参加者だから、あまり護衛をすることができない。だから主にキンジが白雪の護衛につくことになるんだ……頼んだぞ?』

『……ああ、分かった』

 

~回想終了~

 

 

(あの時ちゃんと頼まれたのに、何をやっているんだよ、俺は!)

自分に対しての怒りを抑えきれないまま、地下倉庫(ジャンクション)に辿り着く。

武偵高の地下は船のデッキみたいな多重構造になっていて、地下2階からが水面下になる。

俺はそこまで階段を駆け下り、さらに下の立入り禁止区画に続くエレベーターに飛び付いて、緊急用のパスワードを打ち込むが――

エレベーターが、動かない。

おかしい。

普段通りじゃない。それは確定だろう。

そう考えた俺は変圧室に入り、その片隅にある非常ハシゴから固い保護ピンを抜いた。

マンホールのように床に設置されているハシゴ用の扉は浸水時の隔壁も兼ねており、3重の金属板で出来ている。

パスワード認証、カードキー、それと武偵手帳に内蔵されている非接触(コンタクトレス)ICを使って扉を開け、ハシゴをおろして下の階へ――

降り立ったボイラー室でも同様にハシゴを使い、地下3階、4階、5階と降りていく。

ハシゴは錆びており、急いで降りるため、どんどん手の皮が擦りむいて傷ついていくが……どうでもいい。

白雪がここにいる可能性があるんなら、全速力で降りるんだ。

あいつを、俺のことを信じてくれたあいつを――助けるために――!

そうしてようやく降り立った地下7階――

地下倉庫(ジャンクション)

ここは、武偵高の最深部だ。

恐らく白雪は排水溝を使ってきたのだろう。

第9排水溝はここに繋がっている。

無論、排水溝を伝ったところでそう簡単に入れる場所ではないのだが……やれば、できてしまう。武偵高はそのだだっ広い構想上、外部からの侵入に対してそれほど堅牢でもないのだ。ただ、武偵が何百人もうろついている島に不法侵入しようというバカがそんなにいないだけで。

地下倉庫の片隅、今はもう使われていないらしい資料室に着いてから……俺は気付く。

――暗い。

音を立てないように扉をそっと開けて廊下を見るが、やはり真っ暗だ。

電気が落とされている。

点いているのは、赤い非常灯だけだ。

ゲームみたいに都合よく、ライトが落ちてたりはしない。

できるだけ足音を殺して通路を走り、白雪の姿を探す。

廊下は広く、左右に弾薬棚を連ねている。

武偵手帳を携帯の灯りで確認すると、この先は大広間みたいな空間になっている。

地下倉庫(ジャンクション)の中でも最も危険な弾薬が集積されている、大倉庫と呼ばれる場所だ。

そこから……

 

「……!」

 

人の、気配がする。言い争っているようだ。言葉までは聞き取れないが、誰かがいることだけは確かだ。

俺はベレッタに手を伸ばし――かけて、止めた。

赤色灯で薄暗く照らされた周囲には、『KEEP OUT』や『DANGER』などの警告があちこちに書かれている。

()()()()()()()

もしマズいものに跳弾が当たりでもして、誘爆を起こしたら――武偵高が吹っ飛ぶ。

比喩表現じゃなく、本当に、魚雷の直撃を受けた戦艦みたいなことになる……今この説明で海で戦う女子を想像した奴は末期だ。

もし誘爆が誘爆を呼んだら、武偵高の教員、生徒、アドシアードの選手――世界各国の優秀な青年武偵たち――に、多数の死傷者が出る。

それだけじゃない。アドシアードの競技には報道陣も来ている。報道されるぞ。何百人もの高校生がバラバラになって吹っ飛ぶ、未曾有の大惨事が。

……とにかく、銃は使えない。

ポケットからバタフライ・ナイフを取り出し、音を立てないように開いた。

そして刃を即席の鏡にしてそっと角の向こう側をチェックした俺は……息を飲んだ。

巫女装束の、白雪がいたのだ。

 

「どうして私を欲しがるの、魔剣(デュランダル)。大した能力もない……私なんかを」

「裏を、かこうとする者がいる。表が、裏の裏であることを知らずにな」

 

怯えきった白雪の声に、少し時代がかった、男喋りの――女の声。

この声が、魔剣(デュランダル)……なのか。

 

「和議を結ぶとして偽り、陰で、備える者がいる。だが闘争では、更にその裏をかく者が(まさ)る。我が偉大なる始祖は、陰の裏――すなわち光を身に(まと)い、陰を謀ったものだ」

「何の、話……?」

「敵は陰で、超能力者(ステルス)を錬磨し始めた。我々はその裏で、より強力な超能力者(ステルス)を磨く――その大粒の原石――それも、欠陥品の武偵にしか守られていない原石に手が伸びるのは、自然な事よ。不思議がることではないのだ。白雪」

「欠陥品の、武偵……?誰のこと」

 

白雪の声に、怒りの色が混じる。

対する女は、少し(あざけ)るような声になった。

 

「『紅電』には用心棒を当てるとして、ホームズには少々てこずりそうだったが……今日1日ロンドン武偵局の対応に追われているんだろう?残っているのは欠陥品の遠山キンジだけだ」

「キンちゃんは――キンちゃんは欠陥品なんかじゃない!」

「だが現にこうして、お前を守れなかったではないか。ホームズは無数の監視カメラを仕掛けていたが……逆に私がお前たちの部屋を監視していた。だから今日動きやすかったのだ」

 

……逆に、見られていたのか。

忍び寄って、いたのか。

――魔剣(デュランダル)は。

 

私に続け(フォロー・ミー)、白雪。だが……お前は我々の一員になる前に、まず遠山に幻滅するべきだ。お前のような逸材が見も心も捧げるべき人物は、別にいる。私が今から、つれていってやる――イ・ウーにな」

 

――イ・ウー。

神崎かなえさん――アリアの母親に懲役864年もの冤罪を着せ、そして『武偵殺し』こと峰・理子・リュパン4世を使って――

 

俺ノ兄サンヲ殺シタ――!

 

(……バカ、さっきも零に言われたろ。冷静になれ)

 

頭に血が上っていたが、なんとか落ち着ける。

このまま零がくるまで待って、それから――

 

「それともう一つ。『何も抵抗せず自分を差し出す。その代わり、武偵高の生徒、そして誰よりも遠山キンジには手を出さないでほしい』――お前はそう約束したはずだが……()()()()()()()()()()()

 

最後の一言は、明らかにコチラ向かって放たれた言葉だった――




どうでしたでしょうか。

さて、これから私はモンス……いや、何でもありませんよ。ちゃんと執筆活動しますからね。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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43話~『デュランダル』~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

久し振りの連日投稿……かなり疲れました。目標はアリア20巻が出る前に第二章を終わらせることです。いけるかな……

まぁ取りあえず、第43話、始まります。

(※前半は原作通りなので、中盤くらいまで飛ばすことをオススメします)


――気付いてやがったか――

そう思った次の瞬間、俺は。

 

「白雪逃げろ!」

 

叫ぶと同時に、白雪たちの方へと駆けていた。だが何も考えずに突っ込む訳ではない。

ここは火薬庫、俺もだが、ヤツも銃は使えない。

敵まで50メートル、俺の足で7秒の間に俺の武器を把握し、逃げるか戦うかの判断をし、何らかの武器を用意し、体勢を整え――そこまでの事が、できるものか!

 

「キンちゃん!?」

 

驚いた白雪の声が、大倉庫に響く。

 

「来ちゃだめ!逃げて!()()()()()()()()()()!」

 

悲鳴のようなその叫び声に続いて、俺の足元に――

ガツッ!

目にも止まらぬ速さで飛来した何かが突き刺さる。

 

「うおっ!?」

 

ダンッ!と倉庫に音を響かせ、俺はつんのめってブッ倒れた。

足元の床には、優美に湾曲(わんきょく)した銀色の刃物が突き立っている。

これは……ヤタガンと呼ばれる、フランスの銃剣。細長い古式銃の先端につける、サーベルのような小剣だ。

 

「『ラ・ピュセルの枷(l’anse de la Pucelle)』――罪人とされ枷を科される者の屈辱を少しは知れ、武偵よ」

 

女の声に続いて、銃剣を中心に何か白いものが広がっていく。その白い何かが、パキ……パキ、と俺の足を床に張り付けていくのが分かる。

う、動けない。

 

「――うっ!?」

 

起き上がろうとした肘にも、その白いものが広がっていく。

なんだ、これは……!?

冷たい……氷か?

 

「我が一族は光を身に纏い、その実体は、陰の裏――策士の裏をかく、策を得手とする。その私がこの世で最も嫌うもの、それは、『誤算』でな」

 

未だ姿を見せない敵の声に続いて、フッ――と室内の非常灯が消えた。

周囲は完全な闇に包まれる。

 

「……い、いやっ!やめて!何をするの!――うっ……!」

 

ちゃりちゃり……!

という金属音が、白雪の方から聞こえる。敵が動いている。

 

「――白雪!」

 

俺の叫びに、白雪は――答えない。

焦る俺だが、氷に縫い付けられた今となっては、何も出来ない。

シャッ!

という、次の銃剣が空を切る音。

暗闇の中でも分かる。

あれは俺を――殺す刃――!

――ギンッ!

そしてその刃は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「じゃあ――」

「バトンタッチね」

 

その方向から聞こえてきたのは、男女二人の声。

そこには……電話で呼んだ零と、

 

「アリア!?」

 

ロンドン武偵局の対応に追われているはずの、アリアだった。

 

ーsideキンジoutー

 

 

 

 

 

ーside零ー

 

(*´∀`)ノヤァ、零だ。いやぁ、何だか凄いことになってるな。

と俺は呑気に考えつつ、登っていた棚からアリアと共に降りる。

 

「ようキンジ、面白い格好してるな」

「ホント、まさにドレイっていう感じにひれ伏しているわね」

「な、何でアリアがここにいるんだ!?ロンドン武偵局はどうしたんだよ!?」

「ああ、それは――」

 

ぶんっ、ギンッ!

 

「おっと……人が喋っている時に剣を投げちゃいけないって、教えてもらわなかったのか?」

「まずそんな状況になることがないぞ」

 

まぁ当たることはないけどな、O☆RE☆DA☆KA☆RA!

 

「まぁ結論を言うと、アタシの話は全部嘘っていうこと」

「……は?」

 

キンジがマヌケのような顔をしている。まぁそうなるわな。

 

「い、一体どういうことだ?」

「それはな、俺達が魔剣(デュランダル)が盗撮・盗聴しているのに気付いてたからだよ」

「何だと!?」

 

おうおう、魔剣(デュランダル)が焦ってる。

 

「だからわざとアタシがアドシアード1日目にいないという嘘を事前に言って、今日犯行に移させるということをしたのよ」

「そういうこと。ついでに俺もアドシアード参加者だからあまり護衛できないということを言って、護衛をキンジだけと思わせるということをしたんだよ」

「ということは、零の方も嘘なのか!?」

「いや、俺のはホントだよ。実際、『アドシアード参加者は競技場内にいることを推奨する』ということだし」

 

まぁ『推奨する』っていうだけであって、別に絶対いなければならないということではないけどな。

それに嘘の中に真実を混ぜることによって、嘘を嘘と思わなくさせるということが出来るからな。

 

「……で、どうだ魔剣(デュランダル)サンよ、策を仕掛けたつもりが逆に仕掛けられてた気分は?素直に俺だけが確実にいなくなる2日目に動けば良かったものを」

「……クッ!」

「……なぁアリア、零がおかしくなってないか?」

「……そうね」

 

後ろでキンジとアリアが何か話しているが無視する。

こっちは色んな事情でオリ展開にしないといけないから必死なんだよ!

……今、俺は誰に何を言ったんだろう……

と考えていると、ガチャンとどこかの扉が閉まる音がした。

 

「逃げたな」

「逃げたわね」

 

俺が呟き、アリアが確認しながら、キンジの体を拘束していた氷を剥がす。

 

「さて、と……これからどうするの、零?」

「俺は魔剣(デュランダル)を追うから、キンジとアリアは白雪と合流してから追ってきてくれ。たぶん拘束されているだろうから、解錠(パンプ)キーを先に取り出しておけ」

「分かった」

「気を付けろよ」

「誰に言っているんだ?」

 

そう言った後、俺は魔剣(デュランダル)が向かったであろう地下6階へと向かった。

 

 

 

 

 

地下6階は、周囲に壁のように巨大なコンピューターが無数に立ち並ぶ、HPCサーバー――俗に言う、スーパーコンピューター室だった。

チカチカと、あちこちでアクセスランプが点滅しているが、『DANGER』やら『CAUTION』などのサインボードがない。

かといって壊してもいいという物ではないため、俺はガバメントを抜きコッキングしておく。

え?何で壊したらいけないのに拳銃を出すのかって?俺の場合拳銃が一番威力が小さいんだよ。

とか思っていると……

ズズン――!

と、くぐもった音が地下倉庫に響き渡った。更に微かにだが、ごぼ、ごぼぼ……と水が流れている音が聞こえてくる。

――マズイ、たぶん排水系を壊されて、下の階に水が浸水している。

戻って状況を確かめようかどうかを考えていると、コツコツと鉄格子を上がってくる音と共にアリアが上がってきた。

 

「アリア、キンジと白雪は?」

「白雪は今拘束されてて、キンジが解錠しようとしてる。アタシはその……泳げないから零と一緒に魔剣(デュランダル)を捕まえてこいってキンジが言ってた」

「そうか……なら、俺達は先に進むぞ」

「うん」

 

そうして俺とアリアは慎重にクリアリングしつつ、大型コンピューターが衝立(ついたて)のように並ぶ、迷路みたいな部屋を進む。

そして10分ほど探していたが、まったくもって見つからない。上へと続く場所は全て閉ざされていたため、この部屋のどこかにいるはずだが……

とその時、角に人影が。

 

「――ッ!」

 

素早く構えて照準を定める。相手も銃を向けてくるが――

 

「……何だ、零じゃないか」

「……キンジか」

 

相手がキンジだと気付き、銃を下げる。

 

「キンジがここにいるってことは、白雪の解錠には成功したんだな。それで、白雪は?」

「途中ではぐれてしまってね。今探しているところなんだ」

 

そこで俺はキンジがいつも違う口調になっていることに気付いた。

 

「キンジお前、()()()()

「ああ」

 

アリアがいるため少しボヤかしたが……キンジがヒステリアモードになっている。何かしたのか?それともお得意のラッキースケベか?まぁ一ついえるのは、こちらのカードが揃ったということだ。

 

「まぁまずは、白雪と合流してからにしましょ?」

「ああ、そうだな――」

 

と言った時、

――けほっ、けほっ

という、微かな咳の音が聞こえた。

 

「白雪だわ、あっちにいる」

 

それを野性動物なみの聴力をもつアリアが反応し、方向を示す。

 

「周りを警戒しながら行くぞ」

 

そして俺、キンジ、アリアの順番に慎重に進むと……いた。

HPCサーバー室の奥にある唯一の広い空間――エレベーターホールに人魚姫みたいな姿勢で座っていた巫女装束の女子は――

排水溝から出た水を飲んだのか、両手に口を当てて咳き込んでいた。

 

「白雪、大丈――」

 

それに駆けつけようとしたアリアを、俺は手で制する。そして俺が話しかける。

 

「大丈夫か?」

「うん……ありがとう、レンちゃん」

「そうか……で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()魔剣(デュランダル)

「……え?一体何のこ――」

「惚けようとしたってムダだ。俺の視力は8・0。黒髪の中に銀色の髪の毛がバッチリ見えてるぜ?」

「――ッ!」

 

そこで白雪の変装をしていた魔剣(デュランダル)の顔が歪み、筒のような何かを落とした。

そして筒から、白い煙がみるみるうちに広がっていく――発煙筒、煙幕か。

襲ってきても大丈夫なように構えてはいたが……気配が遠くなった。一旦下がったな。

 

「零、よく分かったわね。全然気付かなかった」

「俺もだ」

「まぁ変装自体は完璧だったが……相手が悪かったな」

 

俺達三人が固まっていると――

 

「――キンちゃん、レンちゃん、アリア」

 

後ろから、今度は本物の白雪が現れた。

 

「白雪、大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫だよ」

「――錐椰 零……貴様がいなければ……」

 

すると、だいぶ離れた所から魔剣(デュランダル)の声が聞こえてきた。

 

「どうだ?魔剣(デュランダル)。そろそろ決着をつけたいところなんだが」

「……いいだろう。直接対決の可能性も想定済みだ。後、私の名前は魔剣(デュランダル)ではない――私の名前は、ジャンヌ・ダルク30世だ」

 

……へぇ、ジャンヌ・ダルク……ねぇ。

15世紀、イギリスとフランスによる100年戦争を勝利に導いた、フランスの聖女の子孫ということか。

 

「ウソよ!ジャンヌ・ダルクは火刑で……十代で死んだ!子孫なんていないわ!」

「あれは影武者だ。我が一族は策士の一族。聖女を装うも、その正体は魔女。私たちはその正体を、歴史の闇に隠しながら――誇りと、名と、知略を子々孫々に伝えてきたのだ。私はその30代目――ジャンヌ・ダルクだ」

 

そう言いながらコツコツと現れたのは、部分的に身体を覆う、西洋の甲冑(かっちゅう)に、刃のような切れ長の眼は、サファイアの色。

二本の三つ編みをつむじの辺りに上げて結った髪は、氷のような銀色。

まさに、美しい白人だった。

そして、その周囲には先程の煙で作動したスプリンクラーの水が、氷の結晶となって雪のように舞っている――ダイヤモンドダストという現象が起こっている。

なるほど……ヤツは、銀氷(ダイヤモンドダスト)の魔女か。

 

「始祖の名に懸けて、お前達を倒す……が、お前だけは別だ、錐椰」

 

そう言いながらこちらを見てくるジャンヌ・ダルク30世。

 

「だから、用心棒を雇った……出てこい」

 

ジャンヌ・ダルクの声に反応し、後ろから出てきたのは――

 

「よっ、零。久し振りだな」

 

片手を顔付近まで上げて挨拶してくる、身長190近くの大柄な男子。

俺は現れたソイツに対し、軽く頭を抱えた。

 

「今度はお前かよ――サイア」

 

俺の言葉に対し、男子――サイアは軽く笑みをこぼした――




どうでしたでしょうか。

用心棒サイア、彼は一体どんな人物なのでしょうか……

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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44話~白雪~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
表れたサイア。彼は一体何者なのか……

第44話、始まります。


――俺は目の前にいるサイアをよく見る。

身長は190程で、ガタイはとてもしっかりしている。キレイな蒼髪は少しツンツンしている。

 

「零、少し見ない間にガタイ良くなったな」

「……お前に言われると何か苛立つ」

「何でだよ!?」

 

そしてこのような弄られキャラ。何だろう、どこか剛気と似ている。

 

「……零、アイツは?」

「ああ、アイツは……」

「ああ、それは自分で言うぞ」

 

アリアが聞いてきたので答えようとすると、サイアが口を挟んできた。

 

「俺の名前はサイア・クロニクル。サイアって呼んでくれ。武偵ランクは……」

「そんなのいいわよ、どうせアンタも『リバースランカー』なんでしょ?」

「……何だ、バレてるのか」

「同じパターンでネリーがやっているからな」

「そうですかい……なら言うわ。『守護神』。これが俺の二つ名だ」

 

そう言ったサイアは笑みを浮かべる。

コイツいつも笑みを浮かべているんだよな……ここら辺は不知火に似ている。

まぁそんなことより――

 

()()()()()()()()、サイア?」

「……ああ、分かっているよ」

 

ピシッ――と、空気が張り詰めたような感覚。

コツッコツッと両者共に近付き、その間は約1メートルとなった。

いきなりの展開にキンジ、アリア、白雪、更にはジャンヌ・ダルクまでもが息を飲んだ。

そして俺達は中段に拳を握り、そして――

 

 

「「――じゃんけんぽん!」」

「「「「……は?」」」」

 

俺がチョキ、サイアもチョキ。所謂(いわゆる)あいこだ。

何か外野から声が聞こえてきたようだが、そんなことより――

 

「チッ、またあいこかよ。今日こそはいけると思ったのに……」

「甘いな、零。俺の道は誰だろうと閉ざすことはできない」

 

 

そんなやりとりをしていると……

 

「「「「……」」」」

 

他の四人が呆気に取られたような顔をしていた。

 

「どうしたんだ、お前達」

「い、いやレンちゃん。空気が張り詰めたと思ったらいきなりじゃんけんを始めたことに驚いているんだけど……」

 

白雪の言葉に他の三人が頷く。

てかジャンヌ・ダルク。お前も頷くなよ。最早敵としての威厳が無いぞ。

 

「まぁ何でかって言われると、これが毎度のお約束みたいなものなんだよ」

「お、お約束?」

コイツ(サイア)、今までの人生の中で一回も負けたことも、勝ったこともないんだよ」

「……は?負けたことも、勝ったこともない?」

「つまり、()()()()()()()()()()()

「……それはまた、凄い才能ね」

「だからコイツを一回でもいいから負けさせるか、勝たせるかしたいんだけど……絶対にあいこにしかならない」

「『何事も平等が大事』。これが俺のモットーだからな」

 

……そうなんだよ、コイツはとにかく平等、平等ってうるさい。いや、いいことなんだけどな。

 

「……そろそろいいか?サイア。お前は私の用心棒なのだ。しっかりと役目は果たしてくれよ」

「おっと、そうだったな」

「……忘れていたのか?」

 

ジャンヌ・ダルク……面倒くさいからジャンヌでいいや。ジャンヌが痺れを切らしたのか、サイアに呼びかけたが、そのサイアはのんびりとしている。

流石、『GOWの天然記念物』とメンバーに言われるくらいだな。

 

「ああ、忘れてたわ……でも」

 

そこまで言ったサイアは俺から離れ……

背中に隠してあった、見た目が軽そうな手甲(ガンフレット)を取り出して腕に嵌めた。

 

「――こっから、絞めるわ」

 

――ピシッと、空気が張り詰めた。しかし、先程よりも数段上。

ようやく集中しだしたか……なら、と俺は両手を広げる。

 

『錐椰 零の名の下に』

『リミッターコード・0000Z。全ての超能力及び身体能力のリミッターを解除。リバースランカー・破壊神、再起動』

 

リミッターを外し、臨戦態勢をとる。

 

「さぁ、始めようか――」

 

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

一瞬の静寂。

そして、零が動いた。

 

「「「……え?」」」

 

そして、俺とアリアと白雪は驚いた。

 

「見え……ない」

 

アリアがそう、呟いた。そして、それは俺と白雪も思っているところだ。

見えない。

辺りのコンピューターが無惨に壊れていくのに、零とサイアという男の、動きが。

ヒステリアモードで強化された、亜音速の銃弾をスローモーションのように捉えることのできる動体視力でさえ。

 

「これが、『リバースランカー』同士の戦い……」

 

初めて見た……いや、この場合は見えてないから、知ったというのが正しいか。とにかく、これが零の本当の実力、なのか。

 

「――余所見してたら危ないぞ」スタッ

「ウワァッ!」

 

い、いつのまにか、零が隣まで来ていた。お前、さっきまで奥にいなかったか?

 

「ジャンヌが戦闘体制に入ってるのにお前達が棒立ちのままだったから忠告しに来たんだよ」

 

零がそう言ったのでジャンヌの方を見ると、いつの間にか華麗な洋剣を手にしていた。

 

「まったく、油断大敵だぞ。俺がサイアを抑えておくから、お前達は三人で――」

「――キンちゃん、レンちゃん、アリア。お願いがあるの」

 

とその時、零の声を遮って、白雪が話しかけてきた。

 

「どうした?」

「ジャンヌとの勝負、私一人にやらせて」

 

――その声は、いつもの慎ましく弱々しいモノではなく。

とても勇敢で、力強かった。

 

「白雪……」

「ごめんね、3人で戦えばいいんだろうけど……でも」

「別にいいんじゃないか?」

「零!?」

「キンジ、考えてみろ。あの白雪が一人で戦うと言ったんだぞ……かごから、飛び出したいと言ったんだぞ」

「……そうだな」

「キンちゃん……レンちゃん……」

「ただし、危なくなったら問答無用でキンジとアリアがカバーに入ること。これが条件だ」

「……うん、それで十分。ありがとう」

 

白雪は礼を言った後に前に出る。

 

「ジャンヌ。もう……やめよう。私は誰も傷つけたくないの。たとえそれが、あなたであっても」

「笑わせるな。3人がかりならともかく、原石に過ぎぬお前一人が、イ・ウーで研磨された私を傷つけることはできん」

「私はG(グレード)17の超能力者(ステルス)なんだよ」

 

という白雪の言葉に、今度は――

言葉が、返ってこない。

俺には分からないが、今の白雪の言葉は超能力者には相当の威嚇(いかく)だったらしい。

零もへぇ……と興味ありげに呟いているし。

 

「――ブラフだ。G17など、この世に数人しかいない」

「あなたも感じるハズだよ。星伽(ほとぎ)には禁じられているけど……この封じ布を、解いた時に」

「……仮に、真実であったとしてもだ」

 

ジャンヌの声には、今度は少し緊張感が籠もっていた。

 

「お前は星伽を裏切れない。それがどういうことを意味するか、分かっているならな」

「ジャンヌ――策士、策に溺れたね」

 

白雪の声が、強まる。

 

「それは今までの、普段の私。でも今の私は、私にどんな制約(おきて)だって破らせる――たった一つの存在の、そばにいる。その気持ちの強さまでは、あなたは見抜けなかった」

 

白雪の不思議なセリフに、ジャンヌは――黙った。

策を(ろう)するタイプは、予想外の展開に弱い。

そしてジャンヌは零に散々策を破られた後、今はこの、()()()()()()白雪によって。

 

「キンちゃん、ここからは……私を見ないで」

 

俺に背を向けたまま、白雪が、微かに震える声で言った。

 

「……白雪……?」

「これから――私、星伽に禁じられている技を使う。でも、それを見たらきっとキンちゃんは私のこと……怖くなる。()()()()()、って思う。キライに……なっちゃう」

 

言いながら、白雪は頭にいつもかけていた白いリボンに手をかける。

その指も、小刻みに震えていた。

 

「――なぁキンジ、ありえないことって、俺の存在だけで十分だよな?」

 

と零が言ってきたので、

 

「ああ、そうだな。だが……白雪。俺がお前のことをキライになる――?()()()()()()()()()()()

 

二人の幼馴染みの声に、押されるようにして。

しゅらり。

白雪はムリに微笑んだ顔を半分だけ振り返らせながら、その髪に留めていた白いリボンを解いた。

 

「すぐ、戻ってくるからね」

 

そして、かつん、と赤い鼻緒(はなお)の下駄を鳴らし、刀を構え直す。

その構えが――普段の八相とは違う。

柄頭(つかがしら)のギリギリ先端を右手だけで握り、刀の腹を見せるように横倒しにして、頭上に構えている。

剣道ではおよそ一切の流派に存在しないであろう、奇怪な構えだ。

 

「ジャンヌ。もう、あなたを逃がすことはできなくなった」

「――?」

「星伽の巫女がその身に秘める、禁制鬼道(きんせいきどう)を見るからだよ。私たちも、あなたたちと同じように始祖の力と名をずっと継いできた。アリアは150年。あなたは600年。そして私たちは……およそ2000年もの、(なが)い時を……」

 

くッ――と、白雪がその手に力を込めたかと思うと――

刀の先端に、ゆらっ――と、緋色の光が(とも)る。それがみるみるうちに、バッ!と刀身全体に広がった。

 

『キンちゃんは……火って、好き?』

『こういうのはいいけどな。でかい炎とかは怖いだろ。それが人間の本能だ』

 

花火大会が終わった後、二人で線香花火をしていた時の会話が頭の中でリピートされる。

あの時は意味が良く分からなかったが、今ではハッキリと分かる。

室内を明るく照らしあげたそれは、(ほのお)――!

あれこそが、白雪の切り札の超能力。

 

「『白雪』っていうのは、真の名前を隠す伏せ名。私の(いみな)、本当の名前は――『緋巫女(ひみこ)』」

 

言い終えると共に、カッ!

白雪は床を蹴って、火矢のようにジャンヌに迫った。

白雪の術に一瞬目を奪われたジャンヌはその場に低く屈むと、ガキンッ!と洋剣でその渾身の一撃を受け止めた。

じゃりんっ!と、通常なら火花のところを――宝石のようなダイヤモンドダストを散らしながら、そしてその氷を瞬時に蒸発させながら、二本の剣が(しのぎ)を削り――

さっ――いなされた白雪の刀が、傍らのコンピューターを音も立てず切断した。

 

「いまのは星伽候天流(ほとぎそうてんりゅう)の初弾、緋炫毘(ヒノカガビ)。次は、緋火虜鎚(ヒノカグッチ)――その剣を、切ります」

 

白雪は再び、緋色に燃えさかる刀を頭上に掲げる。

あれは、立ち上る炎が白雪自身を傷つけないようにするための構えだったのか。

 

「さてっと……俺もそろそろ、行きますかな」

 

そう呟いた零は背中から紅色に染まる日本刀二本を取り出した。

 

「白雪に敬意を表して――俺も、使()()()

 

――そう言った瞬間、零の刀も、炎に包まれていた。ただし、零の炎はとても静かに、けど確実に燃えている。

 

「――さぁ、終わらせようか。俺の目が()()うちにな」

 

そう言った零は、サイアに向かって歩いていった――

 

ーsideキンジoutー




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45話~『守護神』~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
間に合わなかった……てか、戦闘シーンの描写難しい……誰か文才を分けてください。

それはともかく、第45話、始まります。


――コウヒノホダシ。

それが、俺の刀の名前。俺が勝手に決めただけだが。

この刀は一見すると普通の日本刀に見えるが……

実は、俺の最大出力の超能力を(まと)っても壊れないくらいの丈夫な刀なのだ。

今、コウヒノホダシは両方とも炎に包まれている。

(ゼロ)式――超能力を駆使した剣技。その一章――炎の能力。

 

「待ちくたびれたぞ、零」

「悪いな、少し幼馴染みの成長を見届けていたんだよ」

「そうか……なら、かかってこいよ」

 

スッと腰を落として両手を顔の前で構えるサイア。

 

「なら遠慮なく……ハァッ!」

 

地面を蹴りあげ、サイアとの距離を縮める。

そして刀を使う――と見せかけて右足でソバットを見舞う。

サイアはそれに対して自身は右に避けながら左手で受け流す。そしてそこにカウンターの右ストレートを打ってくるが……

 

「――剣技!(ゼロ)式・一章・五節『流猛』!」

 

受け流された勢いのままその場で回転し、横切りを仕掛ける。

リミッターが外れた今、普通の攻撃ですら音速を越える。その中で更に回転を入れて速度を上げている。

見た目はとても優雅に、しかしどこか猛々しい一撃。

サイアは自分のカウンターよりも先に俺の攻撃が通ると認識したのだろう、前に出そうとした右腕を引き戻してガードに移る。

ギンッ!と金属がぶつかり合う音。

俺の刀は、サイアの手甲(ガンフレッド)に阻まれる。

それを理解した俺はバックステップをしながら足下に牽制して距離をとる。

 

「相変わらず硬いなその手甲。あのスピードでの斬撃なら、普通の金属なら容易に切断されてもおかしくないっていうのに」

「それくらいじゃなきゃ、『守護神』の防具にふさわしくないってね」

「そうかい……」

 

喋りながらも、サイアの様子を観察する。

――スキがない。どこを狙っても、容易に防がれるだろう。

まぁそれはともかく……

 

「サイア」

「何だよ零、来ないのか?」

「お前まだ、()()()()()()()()()()?」

「いつも言っているだろう?平和の象徴である『守護神』が、自分から攻める訳にはいかないって」

 

――そう、サイアは決して自分から攻撃することはない。全てカウンターか防御、拘束のどれかしかしない。

それだけを聞くと、かなりのデメリットだと思われるが……そういう訳でもない。特に護衛任務に関しては、その圧倒的防御力から依頼成功率100パーセントなのだ。

更に明らかに待ち伏せしていると思われる狭い空間には先にサイアに突撃させ、相手が攻撃が通らないことによって焦りだした時に強襲する、といったパターンもできる。まさに一家に一人、サイアが欲しいくらいだ。

 

「お前も相変わらずだなぁ……『サイアとだけは模擬戦したくないわ。全部引き分けでつまらない』とネリーが口癖のように言っていたのを思い出すぞ」

「そういえばそんなこと言っていたなぁ……」

 

まったくコイツは……ッ!

――バッ!

足元に異変を感じ、すぐさまバク転で後ろに下がる。

――次の瞬間、俺がいた場所を何かが覆った。

出てきたのは――水。

 

「――『水牢(すいろう)』か」

「ご明察」

 

俺の呟きに返答するサイア。その周りには、球体の水がフヨフヨと浮かんでいる。

そう、サイアは水の超能力者(ステルス)だ。

――水とは、一見するとそれほど脅威に思われない。

それは当たり前で、この地球上の7割を占めている海という水。普段から生物が生きていくために必要な水や、体を清潔にするために使う水。

このように身近な場所で、多彩な部分で使われている水は、重要なモノであるとしか認識されない場合が多い。

しかし、水とはとても脅威的なモノなのだ。

金属を水で断ち切るのを見たことがあると思う。強力な水圧によって金属すら簡単に断ち切れるのだ。

今サイアが使った『水牢』という超能力も、見た目は縦横奥行き3メートルずつの正方形に薄い水が貼っているだけに見える。

しかし実際は水が超高速で流れていて、触れれば万物を切り裂く。まさに脱出不可能な、拘束用の超能力なのだ。

 

「良く避けきれたな。気配を隠していたのに」

「そういうのには鼻が利くんだよ」

「犬かよ」

「噛ませ犬のお前には言われたくないな」

「ひどっ!?」

 

……さて、ここでふと疑問に思った人がいると思う。

『サイアが水使いだと知っていて、何故電ではなく炎の超能力(ステルス)を使うのだ?』と。

確かに普通に考えたらそうなるだろう。

――だが、サイアの使っている水は()()。電気をほとんど通さないのだ。

ならば液体という形を持たないモノ相手にどうすればいいか?

――答えは簡単、蒸発させてしまえば良い。

いくら純水だろうと、水は水。蒸発させることができる。マグマの中に2リットルの水を入れても何も起こらないように、圧倒的な炎の前では水は弱点にはならない。

しかしこれは逆もまた然りで、川の中にマッチの火を投げ入れても何も起こらない。

つまり、これは――

 

「「自分の超能力(ステルス)が、相手の超能力(ステルス)よりも強い方が勝つ」」

 

サイアも同じことを考えていたのだろう、呟くタイミングが一緒だった。

ならば様子見や出し惜しみなどは必要ない。全力で相手にぶつかる、それだけだ。

 

「……ああ、そうだ。零に良い忘れたことがあった」

「……何だよ」

「――(のぞみ)ちゃんについてだ」

「――ッ!」

 

 

『――お兄ちゃん♪』

 

 

脳内で、濃緑色のボブカットの少女が俺に向かってはにかむ。

 

「俺に勝ったら、知っているだけの情報をくれてやるよ」

「……そうか」

 

なら……

ツブス。

 

「――剣技。零式・一章・三節――『鬼火焼』」

 

 

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

ブワァッ――と、室内に何か冷たいものが流れたような感覚がした。

これは……ジャンヌの超能力(ステルス)じゃない。もっと、ナイフが首に当てられたよう。そしてこの感覚を、俺は知っている。

――間違いない。『望』という人物の名をネリーから聞いたときに感じた、零の殺気だ。

俺はそこで戦っているはずの、しかし視ることができない零の方を向く。

 

(零。お前は、何を抱えているんだ。何を、隠しているんだ……?)

 

そう思っていると、ギンッ!ギギンッ!と金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。

見ると、白雪とジャンヌの刀剣が斬り結んで、そして離れる。

 

「――ムダだよ、ジャンヌ。このイロカネアヤメに、斬れないものはないもの」

「それは――こっちのセリフだ。聖剣デュランダルに、斬れぬものはない」

 

対峙するジャンヌが、勇気を振り絞るように胸の前に掲げた幅広の剣は――

古めかしい、しかし、手入れの行き届いた壮麗な洋風の大剣(クレイモア)

鍔に飾られた青い宝石が、白雪の炎に照らされて輝いている。

カツッ!再び駆けた白雪は――

俺の目には、どこか、勝負を焦っているようにも見えた。

白雪の刀、ジャンヌの剣が交差し、掠めた室内のものは、全てが冗談のように切断されていく。

巨大なコンピューターがキャビネットごと。防弾製のエレベーターの扉。リノリュームの床も、壁も。

だが、白雪の刀・イロカネアヤメと、魔剣――ジャンヌの言い分では、聖剣・デュランダル。

斬れないものがないと(うた)ったお互いの刀剣だけは、何度切り結んでも傷1つつかずにいる。

 

「これが一流の超偵の戦い……なのね……」

 

隣にいるアリアが、ボソボソと呟いた。

 

「でも、この均衡はもうすぐ崩れるわ」

「それは、どうしてだ?」

「超能力者は使う力が大きいほど、精神力をたくさん消耗するの。武偵と戦う時は勘所(かんどころ)で最小限の力を使おうとするものなんだけど……同類が相手の時は、ああやって全力を出し続ける。だからすぐにガス欠を起こすのよ」

 

成る程……じゃあ、その瞬間を狙えば……

 

「――ダメよ、キンジ。これは白雪の戦いよ。アタシ達があの戦いに入り込むのは、許されないわ」

 

――と、アリアが俺の心を見透かしたようにそう言った。

 

「……ああ、分かってるよ。白雪が自分から言い出したことなんだ」

「そうよ。だからアタシ達がすることはただ1つ……見守ることだけよ」

 

そう言いながらも、危なくなったら介入できるように準備しているアリア。

――白雪、頑張れ。

俺は心の中でそう呟いた。

そして、均衡していた戦いに、動きが生じた――

 

 




どうでしたでしょうか?

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46話~大きく羽ばたいて~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まずは一言、遅れてすみませんでした。最近部活動の練習がピークを迎えていて、携帯触る余裕がありませんでした。
そして執筆活動が停まっている間にも読んでくださった方々やまだお気に入り登録してくださっている方々、新しくお気に入り登録してくださった方々には本当に頭が上がりません。ありがとうございます。

では、第46話、始まります。


ーsideキンジー

 

初め、炎……白雪有利に見えた炎と氷の戦いは、互角のような雰囲気になっていた。

 

「――ッ!」

 

白雪はまるで息を止めているかのように、歯を食いしばりながら刀を振るう。

体当たりするようなその一撃に、とうとう、ジャンヌが半ば尻餅をつくような姿勢で、壁際に倒れた。

だが……

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

グロッキーなのは、押し倒した白雪の方に見える。白雪の息が上がっているのを象徴するように、刀を包む炎も今はだいぶ小さくなっていた。

 

「剣を捨てて、ジャンヌ――もう、あなたの負けだよ」

「ふ……ふふ」

 

投降を促した白雪。だが返ってきたのは微笑のみ。

 

「ハァッ!」

「――ッ!」

 

そしてジャンヌは素早く立ち上がり、白雪に斬りかかる。

白雪も咄嗟に受けようとするが、力が入らずに押し切られた。

そしてさっきの状況と逆転し、白雪が倒れこみ、立ち上がろうとした時に、剣の切っ先を首の前に出されていた。

 

「くっ……!」

 

それを察した白雪は、何故か刀を鞘に納めた。

勝利を諦めたように見えるが……違う。おそらくあれは、次の攻撃に向けて、できるだけ力を貯めている。

それが分かったからこそ、俺とアリアも何とか自制している。

 

「――甘い女だ。私を狙わず、剣ばかりを狙うとは。聖剣デュランダルが斬られることなどないというのに」

 

そう言ったジャンヌの周囲に再び――ダイヤモンドダストが、舞い始める。

そしてそれが、見る間に吹雪のように室内に吹き荒れた。

 

「見せてやる、『オルレアンの氷花(Fleur de la glace d’Orleans)』――」

 

そしてジャンヌのデュランダルが、見る間に青白い光を蓄えていく。

 

「銀氷となって――」

 

そしてジャンヌがデュランダルを振り上げ――

 

「――ジャンヌ。あなたには、理由があるの?」

 

――と言った白雪の声で、ジャンヌの動きが止まる。

 

「――理由だと?一体何の理由だ」

「勿論、この戦いに勝つ理由だよ」

「……いきなり何を――」

「私には、あるよ」

 

――白雪がそう言った瞬間、雰囲気が変わった。

先程まで荒々しかった息も、今は整っている。

 

「――アリアがいる。アリアはいつも私と相談してくれる。他にも外に行かない私に、外での出来事を教えてくれる」

 

白雪が俺の隣にいるアリアを見る。

 

「――レンちゃんがいる。レンちゃんは私が何かする時、いつも影から支えてくれる」

 

今度は戦っている零の方を向きながら立ち上がる。

 

「そして――キンちゃんがいる」

 

そして再び、刀を掴み、ジャンヌを見据える。だが鞘に納めたままで。

その様子に、ジャンヌは――ズリッ、と後退した。

 

「キンちゃんはいつも、私を、私の知らない世界へ連れて行ってくれた。その度に怒られたりもしたけど……それでも、私にとっては大切な思い出」

 

そう言いながら白雪は鯉口を見せる。そこから、今までとは比べように無い程の炎が舞い上がった。

 

「その三人が、私の背中を押してくれた。だから私は、負けるわけにはいかない」

「――ッ!『オルレアンの氷花』!」

 

白雪の気迫に一瞬怖じ気づいたジャンヌ。だが、すぐさま白雪に向かって絶対零度のデュランダルを斬りつける――

 

「星伽候天流――緋緋星伽神(ひひのほとぎかみ)!」

 

そこに、居合い切りの要領で燃え盛る炎に覆われたイロカネアヤメがぶつかる。

ぶつかり合う、炎と氷。そして――

氷が、消えた。

ジャンヌの超能力が底をついたんだ。対して白雪の超能力はまだ続いている。

勝った――と思ったその時、

――ギィンッ!

と、白雪の刀が弾かれた。ジャンヌに押し戻された訳ではない。

見ると、白雪とジャンヌの間に、何か水膜のようなものができている。

 

「――『水面鏡』」

 

と呟く声。

そちらを見ると、サイアが自分の体の周りに水を浮かべている。恐らくサイアの超能力だろう。

――マズイ、白雪は今、完全な無防備だ!

ここでようやく止めに入ろうとするが、それよりも速くジャンヌがデュランダルを振りかぶり――

 

「――白雪!受け取れ!」

 

とその時、白雪に向かって何かが投げられる。

パシッ、と白雪が掴んだ物は――刀身が紅く染まっている、2本の日本刀だった。

投げられた方向には、零の姿が。

 

「今くらい、その羽で飛んでみろ!」

 

その声に応えるように――

再び、炎が舞い上がる。

 

星伽候天流(ほとぎそうてんりゅう)――緋緋星伽神・二重流星(ふたえのながれぼし)!」

 

2本の日本刀を交差させ、十字に振るう。

そして、

バキィンッ――

 

という音と共に、聖剣・デュランダルが切断された――

 

ーsideキンジoutー

 

 

 

 

 

ーside零ー

 

「終わった、な……」

 

そう思った俺は、ふぅ、と息をつく。

 

「私の……聖剣が……」

 

ジャンヌは自分の剣が折られたことに動揺していて動けない。

そこへ、

 

魔剣(デュランダル)、逮捕よ!」

 

先程までずっと見届けていたアリアがジャンヌに襲い掛かるように近付き、両手両足に手錠をつけた。まるで猫がネズミを見つけた時並の速さだったぞ、今。

 

「あ~らら、捕まっちゃったか……」

 

と、俺の隣にサイアが歩いてきた。

 

「どうしたサイア?まだ俺達の方は終わってないぞ?」

「いや、もういいよ。雇い主(ジャンヌ)が捕まったんなら、俺は引くだけだ」

 

そう言いながら手甲を外すサイア。どうやら本当にやる気はないらしい。まぁ元々サイアは非好戦的だしな。

それより……

 

「サイア……(のぞみ)の情報、教えてくれるんだよな?」

「……」

 

サイアに望の情報を聞こうとすると、サイアは無言になる。

 

「別に俺自身は負けてないけどな……まぁいいか。少しだけ、教えてやるよ」

 

そう言ったサイアはコチラに向き直る。そしてポケットの中から、何かを取り出した。

取り出した物は――

 

「写真……?」

「見てみろよ」

 

サイアがそう言ってきたので見てみると……

 

――多少ぶれている、海の背景に。

砂浜の上に立つ、濃緑色のボブカットの少女。

 

「――ッ!」

 

ぶれているため、顔までは判別できないが……間違いない。

これは、望だ――

 

「おいサイア……これは、一体どこで……」

 

隣にいるサイアにより詳しく情報を聞こうとすると、

――そこにはもう、サイアはいなかった。

 

「……」

 

俺はもう一度写真を見る。

この海がどこの海かまでは特定できない。

だが良かった……望が()()()()()。今は、それだけ分かれば良い。

そう思った俺は写真をポケットの中に入れて、白雪達の方に向かう。

白雪は全力を出しきったのだろう、その場から動けずにペタンと座り込んでいる。

それに気付いたキンジが白雪に近寄る。

 

「白雪」

「キ、キンちゃん」

 

白雪が何か今にも謝りそうな感じになっている。

 

「白雪、謝るのは検討違いじゃないか?」

「レンちゃん……そうだね……」

 

俺が遠回しに諭すと、白雪は謝りそうになるのを止めて、

 

「アリア、レンちゃん、キンちゃん。ありがとう」

 

と笑顔で言ってきた。

 

「白雪、よく頑張ったな。白雪のお陰で――魔剣(デュランダル)を逮捕できた」

「こ……怖くなかった?」

「何がだい?」

「さ……さっきの私……あ、あんな……」

 

……どうやら、さっきまで使っていた超能力のことを恐れていると思い込んでいるらしい。

 

「怖いもんか。とてもキレイで、強い火だったよ。この間の打ち上げ花火より、ずっと、ずっとな」

「キンちゃん……う……うあ……」

 

あーん……とキンジに抱きつきながら泣き出した白雪の傍から離れ、アリアの方に向かう。

 

「アリア、お疲れさま」

「アタシは今回何もしてないわよ。今回頑張ったのは白雪と零でしょ?」

 

俺の労いの言葉にそう返してきたアリアの言葉は、少し震えていた。

おそらく、白雪の涙を見て貰い泣きしたのだろう。

そんなアリアの頭に手を置いて撫でる。

 

「まぁともかく――これで一段落、だな」

「ええ、そうね」

 

しばらくホールには、かごの鳥が、新たな人生を踏み出すための囀りが響き渡った――

 

 

 

 

 

――また、両手両足に手錠をしていたジャンヌをお姫様だっこで運んだ際に一悶着あったのは別の話で。




どうでしたでしょうか?

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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47話~エピローグ~

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
エピローグですが、ほとんどオリジナルです。そのおかけで少し早く執筆できました。

というわけで、第二章エピローグ、始まります。


『さぁ、今年も数々の名シーンがありました。そして時間も過ぎて……アドシアード二日目ラストです!』

 

司会のマイクに観客が湧く。

ジャンヌとサイアとの戦いが終わった後の翌日。俺は会場のど真ん中に立っている。

周りには、一癖も二癖もありそうな、いかにも実力を持っている者ばかりいる。

 

『ここまでで印象に残ったのは、やはり狙撃科(スナイプ)競技ですね。東京武偵高2年・レキ選手が見事世界記録(ワールドレコード)を更新しましたから』

 

へぇ、レキ更新したんだ……まぁ、なんとなく予想はできるが。

 

『だけど……今年はこれよりもっと盛り上がること間違いなしの種目があります!五年に1度しかない、各学校の代表者が己の力をぶつけ合う競技……その名も、対高戦(クロスカントリー)!』

 

ドワァッ――!

 

対高戦(クロスカントリー)』という競技名を聞いた瞬間、先程よりも強く、会場が揺れたような歓声があがった。

そう、今からやるのは、『対高戦(クロスカントリー)』。今年のアドシアードの一番の目玉だ。

 

『ルールを説明します!これはあくまで競技ですので、使える弾丸は非殺傷弾(ゴムスタン)のみ。刀剣類は木刀か、峰打ちのみとさせていただきます……また、戦っている最中は、東京武偵高の生徒のチアも行いますので、そちらも是非ご鑑賞下さい……では、各学校の選手紹介を行います。まずは……』

 

と司会者が選手紹介を始めた所で、チアの格好をした女子達が入ってきた。

そこには、日頃から練習してきたアリアと――

 

「ほら、なに恥ずかしがっているのよ」

「で、でもやっぱりこんなの……」

「あーもう!ここまで来てなに言ってんの!ほら出る!」

 

と、アリアに押されるようにして出てきた、チアガール姿の()()だった。

外出禁止や禁止の技の使用など、今回様々なことをやった白雪は……アリアの強力な推薦により、チアに出ることになったのだ。

まぁ、人前で緊張するのは直せないみたいだが……もう、『かごのとり』じゃなくなったな。

 

『――最後に紹介するのは、知らない人は誰もいない。数々の依頼や事件を解決した、全ての学科においてSランク。紅電こと――錐椰 零選手です!』

 

おっと。考え事していたら、俺の番になったな。

 

『エル!オー!ブイ!イー!零様!』

『おおっと!錐椰選手のファンクラブが一斉に盛り上がり始めました!』

 

いや、俺のファンじゃなくて東京武偵高代表だから応援してくれてるだけだろ。

 

『そんな実力、人気、容姿ともに揃っている錐椰選手!対高戦(クロスカントリー)に向けて何か一言!』

 

と司会の人がマイクをこちらに向けてきた。おいおい、他の人にはしていないだろ……何も考えてないし。

まぁ取り敢えず……

 

「(*´∀`)ノヤァ」

『(*´∀`)ノヤァ』

 

おおう!?まさか会場全体が返してくるとは……驚いたぞ。てかなんで知っているんだよ。

 

「はい、先程紹介に預かった錐椰 零です。今回の対高戦(クロスカントリー)に向けては――皆さんを楽しませるように、頑張っていきたいと思います」

『……あの、錐椰選手。優勝しますとか、そんな感じのを期待していたんですけど……』

「――わざわざ言うまでもありませんよ」

 

――俺の笑みを浮かべながらの発言に、会場中がざわついた。

 

『おおーっと!錐椰選手!まさかの余裕宣言だ!これは期待以上の返し方です!』

 

司会者が盛り上がっている最中、他の出場選手は全員、俺のことを睨み付けていた。

そりゃそうだ。相手は全員3年生。長期依頼などをこなしてそれなりに自負がある者ばかり。それがいくら有名なやつとはいえ、2年生の俺に余裕で勝てると言われたんだ。良い思いはしないだろう。

 

『さぁ、良い感じに選手達のムードも高まってきたので……対高戦(クロスカントリー)、始め!』

 

司会者が開始の合図を言った途端――

 

――パァパァパァパァパァンッ!

 

()()()()が一斉に俺に向けて発砲してきた!

 

「おっと……」

 

まさか全員が俺をターゲットにしてくるとは思わなかったので少し戸惑いながらも刀で弾く。

すると今度はサイコキネシスやら風やら炎やらと、各人の超能力が、俺の周りを覆った。

 

『な、なんと!開始早々、いきなり錐椰選手への集中攻撃!今は立ち上がる煙でよく見えませんが……果たして錐椰選手は無事なのか!?』

 

司会者がいつの間にか実況者になってるし。まぁでも――

 

「狙いは」

「良かったんじゃない?」

「開始早々」

「いい強襲だよ」

「流石3年生」

「侮れない」

「でも」

「それじゃ」

「「「「「「「「俺には勝てない」」」」」」」」

『……は?』

 

この時の会場にいる全員が、何が起こったのか分からないだろう。疑問に満ちた顔をしている。

まぁでも仕方ないだろう。何せ――

 

『な、な、なんと……煙が開けたと思ったら、き、錐椰選手が、一人、二人……八人もいます!い、一体何が起こっているんでしょう!?』

『これは分身して、会場を驚かせようと思ったからですよ、司会者さん』

『ああ、解説ありがとうございます……ってここにも錐椰選手が!?』

『さぁ、会場中が混乱の中、REIsはどう動いていくんでしょうか?』

『勝手に実況しないで!』

 

とまぁ初めてやった分身だが……思ったよりも良い感じだな。一目ではどれが本物か分からないだろう。

 

「れ、零様が9人も……ここが、天国ですのね……」バタッ

『おおっと!何故か選手より先に観客の女子生徒が倒れました!これは一体どういうことなのですかね、解説の錐椰選手?』

『さぁ、こればっかりは僕でも良く分かりません。というか……順応早いですね、司会者さん』

『さて、そうこうしている内に選手達が我に返ったようです!戦闘態勢になっています!』

『……スルースキルもあるんですね』

 

まぁ司会者さんが言った通り、ようやく我に返ったのか、次々と戦闘態勢をとる選手達。

それと同時に、俺の分身達が駆け出した。

鳴り響く銃声と、空を切る斬撃。

 

『す……凄い!あらかじめ相談していたように軽々と銃撃と斬撃を避ける錐椰選手!まるでサーカスのようだ!』

『使っている道具が拳銃と刀剣類とは……世も末ですね』

『あなたが言えるセリフではないですよ!?』

『まぁでも……もうすぐ終わりますよ』

『……え?それは一体どういう――』

 

意味ですか?と続けそうだった司会者さんの隣で、実況している場所にいる俺が、スッ――と指を空に向ける。

そこには――

俺が、()()()()()

 

『な、なんと!錐椰選手の背中に、鳥のような羽が!?』

『因みに言うと、あれが本体です』

 

司会者さんと解説役の俺の分身が喋ったことによって、慌てて他の選手達が空を見上げる。

だが――遅い。

 

『錐椰 零の名の下に』

『一回のみ、剣技・零式を解除』

 

俺が呟いた瞬間、コウヒノホダシが炎に包まれる。

そして羽を大きく羽ばたかせて一気に急降下する。そして――

 

「――剣技。零式・一章――『紅炎(プロミネンス)』――派生(はせい)!」

 

――飛燕焔(ひえんほむら)

 

巨大な炎が、会場を包みこむ。

――そして炎が消えたときには立っている者はおらず、空を駆ける少年に惜しみ無い拍手と歓声が巻き起こった。

 

 

 

 

 

「いやぁ……良かった。会場全体が盛り上がってくれて」

「……零君があんなことするから選手達全員大怪我で私が駆り出されて、結局最後歌えなかったんだけど」

「……申し訳ありません」

「ま、まぁまぁシェイちゃんも落ち着いて。レンちゃんも悪気があったわけじゃないんだし」

「でもあれは流石にやりすぎだと思うけどな」

「アンタの話は聞いてないわよ、キンジ」

 

アドシアード終了後、俺達はキンジの部屋に集まっていた。何故キンジの部屋かというと、白雪が心配かけたお詫びをしたいと言ったので、だったら皆で飯食うかって話になったのだ。

 

「皆……本当に心配かけてごめんなさい」

 

飯もだいたい食べ終わった後、白雪が突然立ち上がったと思ったら、こちらに頭を下げてきた。

 

「……白雪、頭を下げるな」

「で、でも……」

「キンジの言う通りだ。寧ろ謝られるとコッチが困る」

「え……えっと……」

「あーもう!じれったい!この話はもう終わり!」

 

白雪が何かまだ言いたそうにしていたが、俺の隣にいる活火山(アリア)が噴火した。

 

「そんなことより白雪!」

 

ビシッ!と白雪を指さすアリア。

 

「――白雪も、アタシ達のパーティーに入って!」

「……えっ?」

 

突然の発言に戸惑う白雪。

 

「な、なんで……?」

「アタシが入って欲しいから!」

 

理由ないのかよ!?

 

「今なら、もう使わなくなったこのキンジの部屋の合鍵をつけ――」

「よろしくねアリア!」

「うぉぉおい!何勝手に渡してやがる!」

「何か文句あるのドレイ!」

「大有りだ!俺の意見……も聞いていただけると嬉しいのですが……」

 

キンジよ……いくら拳銃(ガバ)出されたからって、もう少しくらい粘ればいいのに……シェイはずっとクスクス笑っているし。

 

「では、新たなパーティーメンバーの歓迎に――Cheeeeeers(カンパーイ)!」

「乾杯!嬉しい、嬉しいよ!合鍵……キンちゃんの愛の証だよー!」

「クスッ……本当に、見ててあきないね。面白いよ……乾杯!」

「ああ、もう……勝手にしろ!」

 

嬉しそうにするアリアと、嬉し泣きしかけている白雪と、それを見て笑っているシェイ。そして、ヤケクソ気味でグラスをあてるキンジ。

――そこには、いつまでも続いてほしい、騒がしいけど退屈しない日常があった――

 

To Be Continued!!!




どうでしたでしょうか?

これで原作二巻が終了しました。本当、小説家の皆様は大変だということが分かります。無の状態から5ヶ月程度で完成させるとは……自分には絶対無理です。

さて、次回からは原作三巻。つまりあの娘の出番です。というか、彼女の喋り方マネするの難しい……まぁ、善処します。

誤字・脱字・ご意見・ご感想・質問などがありましたら、是非感想の方へ。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第三章ハニートラップ!召し上がれ~?
48話~甘い誘惑~


はいどうも、最近まで半分放心状態だった鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
いや~……部活動を引退してから、急に時間が増えたので逆に何をすればいいか、まったく分かりませんでした。
まぁ今は自分が受験生という立場にあるということが分かっています。ということで、受験勉強しつつ、引き続き執筆活動していきたいと思います。

では、第48話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。どうでもいいけど、何故か羽が能力無しで出し入れ可能になってしまった……えっ?どうでもよくない?

まぁそれはともかく、俺は今、放課後にキンジ・剛気・不知火の4人で集まっている。何をしているかというと……

 

「……7」

「8」

「9」

「……10」

「ダウトだ零」

「甘いな、Jokerだ」

「クソッ!」

 

……とまぁ、色んなトランプゲームやカードゲームをしている。理由としては……キンジの時間潰しだ。

最近白雪がアリアからキンジの部屋の合鍵を貰ったので出入りするようになったから、キンジが登校拒否ならぬ下校拒否になりつつある。

で、放課後の時間潰しにノリの良い剛気と付き合いが良い不知火、さらに俺を(強制的に)入れて遊んでいる。俺もそこまで暇じゃないんだけどなぁ……キンジの状態を考えると断れないし。

最初の方は遊○王とかデュ○マとかやっていたんだが……剛気があまりにも強すぎて他の三人がまったく勝てなかったから止めてトランプをしていた。

つかなんだよ、剛気の強さ。あんなもんチートだろ。チートの代表とも言える俺が言うんだ、間違いない。

そんなことで今、ダウトをやっていると……

――ピリリッ

と、俺の携帯に電話がかかってきた。

キンジ達に断りを入れてから席を外してポケットから携帯を取り出す。

かかってきた番号は……03から始まっている。携帯からではないな。一体誰だ?

 

「もしもし?」

『零?今どこにいるの?』

 

――電話に出ると、特徴的なアニメ声が聞こえてきた。

 

「キンジ達と一緒にいるけど……何か用事があるのか?」

『女子寮、1011号室に来て。できればすぐに』

「……分かった」

 

俺は電話を切って、そのまま……行くわけにもいかないから、キンジ達の所まで行き、もう一度断りを入れてから女子寮に向かった。

 

 

 

 

 

「ついた……」

 

女子寮の1011号室の目の前まできて、俺はふぅっ……と息を吐いた。

武偵高の女子寮の寮長はとても厳しく、もし万が一見つかると死よりも恐ろしい事をされるという噂がある。

べ、別に怖くなんかないんだからね!

……キモチワルイ。男のツンデレって誰得?

それはともかく、1011号室(女子寮は男子寮よりも個室率が高く、ここもそうらしい)のドアを開ける。

 

「おーい、来たぞー」

「――零、いらっしゃい。さっ、上がって」

 

玄関に入ると、セーラー服姿のツインテールの少女が洗面所からとててと出てきた。

そしていきなり、ぎゅっ、と俺の手を握って部屋まで連行された。

 

「ここ」

「……ウワォーオ」

 

その光景に、俺は思いっきり引いた。

え、何これ。足の踏み場もないほどの服があるんですけど。それも普通の服じゃなくて、メイド服とか巫女装束とか。

 

「零、どれがいい?」

「……何が?」

「んもー零。どのコス着てほしいかっていうこと」

 

そう言いながら、1歩2歩近づいてくる少女。そして――

 

「――よっと」

「えっ?」

 

近づいてきた所で腕を掴み、俺の背後にあったベッドに引っ張った。

少女はなすすべもなく、そのまま倒される。

 

「れ、零?一体どういう――」

「それで?一体何のようだ……()()

 

――俺の言葉に、ツインテールの少女は押し黙る。

 

「い、一体何の」

「まず電話の時。普通の人なら分からないだろうが……アリアの喋った時の発音の違い、それから喋り方。アリアの場合、『できればすぐに』じゃなくて『すぐに来て』という。後、ジャンヌの時もそうだったが……俺の視力は8・0。見えるんだよ――金髪が」

「……くふっ」

 

そこまで言うと、ツインテールの少女――いや、()()()()()()()()()()が笑い出した。

 

「さっすがレイレイ!当たり前のように変装を看破してくる。そこに痺れる、憧れる~!」

「はいはい」

「流されたッ!?」

「どうでもいいから、さっさとアリアの変装止めろ」

「……はぁーい」

 

ぶーっ、と頬を膨らませながらツインテールのカツラをとる理子。

カツラの下から、ツーサイドアップに結ったゆるい天然パーマの金髪。

 

「たっだいま~レイレイ!リコリンが帰って来たよ~!」

 

理子・峰・リュパン4世――理子が元気良くベッドの反動を利用してダイブしてきた。

 

「おっと……」

「えへへ~、レイレイの匂いだ~♪リコォ、レイレイの匂い、だぁーい好き♪」

 

流石に避けることはせずに受け止めたが……いきなり抱きついて俺の首元をクンカクンカと嗅いできやがった。変態か!

 

「あい!理子は変態さんです!」

「心を読むな!」

「そんなことよりもレイレイ~……理子と、()()()()()()?」

 

先程まで自分が倒れていたベッドを指差しながら言う理子。

 

「……理子。お遊びも程々にして、本題を――」

「理子といいことしたら~……(のぞみ)ちゃんのこと、教えてあげるよ?」

「――ッ!?」

 

――(のぞみ)のことだと!?

 

「――くふっ」スッ

「ッ!しまっ――」

 

俺が明らかに動揺していると、それを見計らった理子が足払いをしてきた。

普段なら躱せていたが、なすすべもなくそのままベッドに倒される。

そして理子が俺が倒れた上に馬乗りになり、身動きができなくなる。

 

「もう~、レイレイったら、一言言われるだけで反応できなくなるようじゃ、武偵失格だぞ?」

「チッ……」

 

せめてもの抵抗として、理子の腕を掴む。こうすれば、何かをされる心配はない。

だが、理子はその状態のまま自分のブラウスを掴み――

 

「ここで選択肢!レイレイは理子を()()()()()()()?もし受け入れてくれたら――終わった後に、(のぞみ)ちゃんの情報、教えてあげる♪」

 

(……(のぞみ)の、情報……)

 

その言葉を聞いた俺は――理子を抑える腕の力が弱くなった。

それに気付いた理子は、徐々に制服を持ち上げていく。今は形のいいヘソの部分まで上がっている。

 

(……ダメだ。(のぞみ)のことになると、抵抗できない……理子のやつ、これを見越して――)

 

そしてとうとう、理子が脱ぎきろうとしたところで――

ピタッと理子の動きが止まった。

 

「……でも理子ってぇ~、ハーレムルートって、嫌いなんだよね~」

「……?」

 

いきなりそう言った理子に、俺が疑問を感じていると……

 

――がっしゃあああああん!

 

「アタシのパートナーを盗むな!」

 

と、SWATみたいにガラス窓を蹴り破って、神崎・H・アリアが。

ワイヤーを伝って、外から突入してきた。

その瞬間に理子は身を(ねじ)るようにしてベッドから降りる。

アリアはベッドでワンバウンドしながらワイヤーを切り離し、アクロバットの要領でスカートの中から、2丁拳銃を抜いた。

バリバリバリッ!と眩いマズルフラッシュが理子を狙って弾切れになるまで撃ち続けられる。

理子はそれを器用に躱しながら、床に置いてあった赤いランドセルを拾って担いだ。

……女子高校生にこんなこと言うのもなんだが、結構似合っている。自己主張しすぎたある一部分を除いて。

 

「もぅー、アリア。イベント発生中の乱入は、ぷんぷんガオーだぞ?」

 

両手の人指し指で角を作る理子。その手にはいつの間にか懐中時計らしきものが握られている。

 

「この……汚らわしい、ドロボーの一族!アタシのパートナーは盗めないわよ!」

 

対するアリアは俺の頭をまたぐようにして仁王立ちしている。

そして何故か赤面している。これ絶対さっきの光景ある程度覗き見してたろ。

 

「えー?レイレイだって()()()だったんだよ?アリアだって見たでしょ?レイレイ、もう理子の胸に溺れる3秒前だったんだからぁ」

「お……おぼっ!?」

 

……あー。ショートしちまったよ、アリア。色恋沙汰が大の苦手だもんな。でも、一体何を想像したらこんな風になるんだ?

 

「そう。女の子の胸の前にひざまずかない男子はいないのでーす。あっ、でも……くふっ。アリアには関係ないか」

「ッ!か、か、風穴!あけてやる!あけてやる!あけてやるからっ!」

 

ちょっ!おいアリア!地団駄踏むな!危ないだろ、俺の顔面が。

 

「――くふっ」

 

そして理子は手に持っていた懐中時計を、宙に投げる。

カッッッ――!!

それが、強力な光を放った――閃光手榴弾(フラッシュ・グレネード)か!

 

「――きゃっ!」

 

いきなりの閃光にアリアも驚き、体を縮め、しゃがみ込む。

その結果、俺がアリアに文字通り尻に敷かれていること数秒して、ようやくアリアが膝立ちになり、周囲を見回した。

 

「り……理子ッ!どこよ!?」

「――扉が幽閉する音は無かった。つまり――」

 

と言いながら窓に駆け寄ると、頭上に、動力つきのワイヤーで女子寮の屋上へと上昇する理子の姿が見えた。

 

「いた。屋上だ!」

「――追うよ零!ここで会ったが100年目だわ、風穴あけてやる!」

 

アリアがそう言いながら非常階段へと向かい、俺もその後を追う。

 

(……理子、お前は一体、何がしたいんだ――)

 

そんなことを考えながら、非常階段を駆け上っていった――




ふむぅ……他の投稿者様みたいに、後書きに何かおまけみたいなのを書いた方が良いのでしょうか……
皆様はどう思われますか?よろしければアドバイスしてください。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ


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49話~英仏対決~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(*`・ω・)ゞデス。
前回言ったあとがきについて、おまけを書くことにしました!
内容は『儀談のアリア』みたいに、全員が『緋弾のアリア』を演じていると言った感じです。そちらも読んでくださると有りがたいです。

では、第49話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。今俺はアリアと非常階段を駆け上っている最中だ。

 

「それにしてもアリア……よく俺が理子に呼び出されたことに気付いたな」

「キンジ達の所に行ったら、『零と女子寮で話があったんじゃないのか?』って言われて、急いで来たのよ」

「なるほどな」

 

そして屋上へと繋がるドアを蹴り開けながら屋上に飛び込むアリア。おいおい、バイオハザードみたいに攻撃も一緒にできるドア先輩じゃないんだぞ?

 

「――理子!」

 

屋上に出た俺達が見たのは――屋上のフェンスに腰掛けた理子が、子供のように足をぷらぷらさせていた。

夜空に輝く、満月。

月明かりが、理子の笑顔を――どこか妖艶(ようえん)に、照らす。

 

「あぁ……今夜はいい夜。オトコもいて、硝煙のニオイもする。理子、どっちも大好き」

「あぁ、そう。そりゃ良かったな。後……いいかげん姿を現したらどうだ――ネリー?」

「……あら?」

 

俺がそう言うと、ちょうど俺達がいる場所から死角になっている場所からネリーが現れた。

 

「気配を消していたはずなのに……零、あなたもしかして」

「その通り。非常階段を駆け上ってくる際に、ついでにリミッターを外してサーチしていたんだよ。どうせいるだろうと思っていたが……ビンゴだったな」

「理子!今度こそ逮捕よ!ママの冤罪償わせてやる!」

俺が戦闘態勢に入ると、アリアが理子に向かって二丁の拳銃を突き付ける。

対する理子は妖艶の笑みをしながらフェンスから飛び降りる。

 

「やれるものならやってみな、ライム女(ライミー)?」

「言ったわね、カエル女(フロッギー)……」

 

と、二人はイギリス人とフランス人の蔑称(べっしょう)を応酬する。

ホームズ四世とリュパン四世による、英仏戦争だな。

 

「あら?私達だって、イギリス()フランス()の戦争じゃない」

「……勝手に人の心をよむな。それに俺達の場合は戦争じゃなくて核兵器の撃ち合いだろ」

 

そんな小言を言いつつ、俺達も戦闘態勢に入る。

6月の重い雲に、月が遮られ――

バッ!と四人同時に動いた。

 

「理子!」

 

アリアが二丁拳銃を発砲しながら理子の正面に突っ込んでいく。

 

「くふっ!」

 

初弾を側転で躱した理子が、屋上の中央で月面宙返り(ムーンサルト)を切りながら背負っていたバックから小ぶりな拳銃――ワルサーP99を取り出し応戦する。

 

「やっ!」

 

ネリーが俺に近付いて速さ重視の掌底や下段蹴りを仕掛けてくる。

 

「ふっ!」

 

俺はそれを躱し、受け流し、受け身をとりながらカウンターの裏拳をつきだす。

 

緋・金・銀・紅の四色が雲の隙間から月に照らされ、銃声という音楽によって華麗に舞う。

 

「かわいー!戦うアリアってかわいー!アリアかわいいよアリア!」

 

早口言葉のようにそんな事を言った理子は――笑っていた。

 

(なるほど……アドレナリンに酔ったような表情。典型的な戦闘狂(ガンモンガー)だな)

 

「――余所見してる暇あるの」

 

と、ネリーがローばかり狙っていたところを急にハイキックを放つ。

ネリーの足が俺の側頭部を捉える――

 

「ああ、あるぜ。今の俺は全体が見えるからな」

 

――前に顔の前に腕をおいてガードする。

ガードされたネリーはすぐにもう一方の足で地面を蹴って後退する。

そこまでして……銃声が止んだ。

見ると、アリアと理子二人ともが距離を取って小太刀とナイフを抜いていた。弾切れか。

 

「アンタ、ブサイクだから今気付いたんだけど」

 

アリアが背を剃らし、理子をムリヤリ見下ろすような視線を作って言う。

……そんなことしても身長は伸びないと思うが。

 

「髪型、元に戻したのね」

 

アリアは先日のハイジャックで自分が切断した、理子のツーサイドアップのことを皮肉げに持ち出した。

今の理子は改めて髪の毛を()い、髪型を元に戻している。

 

「よく見ろオルメス。テールが少し短くなった。お前に切られたせいだ」

「あら。ごめんあそばせ」

 

男喋りで言った理子に、アリアはわざとらしくほほほと笑った。

 

「言ってろ、チビ」

「何よブス」

「チビチビ」

「ブスブスブス!」

 

……ガキのケンカかよ。ネリーも呆れてるし。

 

「チビチビチビチビ」

「ブスブスブスブうっぷぇ!」

 

どうやら口撃は理子が勝ったみたいだ。アリア噛んだし。

さて……

 

「ネリー、そろそろじゃないか?」

「……ええ、そうね」

 

俺とネリーは会話をしつつ、それぞれコウヒノホダシと風月を取り出した。

そして今までのやり取りでお互いしか見えなくなったアリアと理子が、ざっ――!

と疾風のように距離を詰めた、その中間に。

――俺とネリーは割り込んだ。

――ギィィィンッ!

アリアの日本刀が、ネリーの風月と。理子のナイフが、俺のコウヒノホダシと切り結ぶ。

 

「――ネリー!?」

アリアは犬歯を剥いて、ネリーが割り込んできたことに驚きの声をあげた。

理子は俺と目を合わせたあと、フンっ、と鼻を1つ鳴らす。

 

「アリア、一端落ち着いてくれ。そして……理子。()()()()()()()理由を教えてくれ」

 

そう。理子は明らかに本気ではなかった。

本気だったら――あのハイジャックで見せた、髪で武器を操る『双剣双銃(カドラ)』を出してアリアを苦しめたハズ。

そしてネリーもそうだ。本気だったらあのハイキックの後、後退せずにもう片方の足で顎を蹴り上げにきたりするハズ。『技神』の称号を持つネリーのことだ。それくらい余裕でやってのける。

疑問に思ったことを聞いた俺に、理子は寂しげな目つきを返してきた。

そして俺達から距離をとり、背中のランドセルを振ってカバーを開け、落ちてきた二本のナイフを見もせずに中に受けとめ――頭を振って、カバーを閉じた。

 

「……流石だね、レイレイ。今の理子は万全じゃない。だから、アリアとは……まだ決着つける時じゃないんだよ」

「……そうか」

 

俺はコウヒノホダシを仕舞った。

 

「アリア。理子と戦うな」

「なっ……どうし――」

()()()()、だろ?」

「あったりー!そうでぇーす!理子とネーちゃんはもう4月の事件についてはとっくに司法取引を済ませているんですよー、きゃはっ!」

 

――司法取引とは、犯罪者が犯罪捜査に協力したり共犯者を告発することで、罪を軽減――もしくは無かったことにできる制度だ。

 

「つまり理子とネーちゃんを逮捕したら、不当逮捕になっちゃうのでーす!」

 

ちっちっち、と立てた人差し指を口の前で振る理子にアリアは歯軋りをしている。

そういえば……と、俺は近くにいたネリーに声をかける。

 

「ネリー。俺の予想だと、お前は――」

「……ええそうよ。私はもう――『リバースランカー』じゃない。例え相手が元リバースランカーだとしても、私が負けたことに変わりはないもの。今の私は強襲科(アサルト)2年、ネリー・リチャードよ」

 

……やっぱりか。リバースランカーはリバースランカー以外の者に負けることは許されないからな。

 

「どうだ?今の心境は?」

「……不思議な感じ。今まで当たり前だったことがなくなったから。まぁでも……」

 

と、そこまで言ったネリーは大きく伸びをする。

 

「――今度は、『Sランク内最強』でも目指そうかな?」

「……はっ。上等だな」

 

そんなやり取りをしていると、アリアがびしっ!と理子に刀を突きだした。

 

「――もし司法取引をしていたとしても、ママに『武偵殺し』の濡れ衣を着せた罪は別件よ!理子!その罪は最高裁で証言しなさい!」

「いーよ」

「イヤというなら、力ずくでも……って……え?」

 

セリフの間に理子が了承したことに、アリアが目を真ん丸にした。

 

「証言してあげる」

「ほ……ほんと?」

 

再び言った理子に、アリアは疑うフリをしながらも嬉しさを隠しきれていない。

あー……アリア。人をすぐ信じるなよ。将来が心配になってくる。

 

「ママ……アリアも、ママが大好きなんだもんね。理子も、お母様が大好きだから……だから分かるよ。ごめんねアリア。理子は……理子は……」

 

そこまで言った理子は顔を伏せ、

 

「お母様……ふぇ……えぅ……」

 

といきなり泣き出したのだ。

 

「え……えっ……えっえっ?」

 

そんな理子にアリアは戸惑いオロオロしている。これアタシが泣かしたの?みたいな顔で。

場違いなのだが、オロオロしているアリアに微笑ましさを感じる。

 

「ちょ、ちょっと。なに泣いてんのよっ。ほ、ほら……何よ。ちゃんと話しなさい」

 

アリアは泣きじゃくる理子に母性でも目覚めたのか……なだめるような口調になっている。まさにロリおかんだ。

しかし……本当に騙されやすいな、アリア。

今だって理子、口の端がニヤッて笑ったぞ。

まぁこれで闘争する気配は完全になくなったけど……理子の目的がまだ分かっていない。

まさか、ただかなえさんの証言をするためだけに来た訳じゃないだろう。

そんな疑問を察したのか、理子はえうえう泣きながら語りだした。

 

「理子、理子……アリアとレイレイとキーくんのせいで、イ・ウーを退学になっちゃったの。しかも負けたからって、()()()に――理子の宝物を取られちゃったんだよぉー」

 

理子の一部分の発言に……

ぴりっ、と周囲の空気が張り詰める。

 

「……理子。ブラドってのは、イ・ウーのNo.2。『無限罪のブラド』のことか?」

「そーだよ。理子はブラドから宝物を取り返したいの。だからレイレイ、アリア、理子を()()()()

「たすけてって……何をすれば良いんだ?」

 

ときくと、理子は「泣いちゃダメ理子。理子は本当は強い子。いつでも明るい子。だから、さぁ、笑顔になろっ」などとまぁわざとらしく独り言し、

 

「レイレイ、アリア、一緒に――」

 

にやっ、と笑顔になって――

 

()()()()()()()()!」

 

と言った。

……これからどうなるか分からなくなったな。

俺は一人静かに溜め息をついたのだった――




――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――


「アリア、一端落ち着いてくれ。そして……理子。()()()()()()()理由を教えてくれ」

そう。理子は明らかに本気ではなかった。
本気だったら――あのハイジャックで見せた、髪で武器を操る『双剣双銃(カドラ)』を出してアリアを苦しめたハズ。
疑問に思ったことを聞いた俺に、理子は寂しげな目つきを返してきた。
そして俺達から距離をとり、背中のランドセルを振ってカバーを開け、落ちてきた二本のナイフを見もせずに中に受けとめ――

ゴツンッ

「あイタッ!」

――られずにナイフのグリップの所が理子の頭に当たる。

「いったーい!」
「……キンジ、カットで」
「もう、理子!ちゃんとしなさいよ!これ何テイク目だと思ってるのよ!先に進まないじゃない!」
「だってこれ超ムズイんだよ!?見ないでやらないとダメなんだよ!」
「良いから早くしてよ理子ちゃん。もう私疲れた。後シャワー浴びたい」
「誰も庇ってくれないの!?」

(……哀れだな、理子)


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50話~モフモフ~

どうも、鹿田 葉月(*`・ω・)ゞデス。

お久しぶりですみまさんが、実はしばらくの間、執筆活動ができません。詳しくは活動報告の方で。今回は話も短め&後書きなしです。

では、第50話、始まります。


「……ということだ」

「いや、『ということだ』じゃねぇよ!」

 

(*´∀`)ノヤァ、零だ。突然だけど、『がっこうぐらし!』が面白い。めっちゃ嵌まった。

さて、今何をしているかというと、俺の部屋でキンジとシェイに昨日起きたことについて説明中だ。

白雪はいない。だって白雪に『武偵殺し(理子)』のことを話したら理子、八つ裂きにしてコンクリ行きだぞ?話せる訳ねぇだろ。

 

「……えーと、つまりだ。理子とネリーがやって来て、色々バトッた挙げ句、犯罪者の家に泥棒しに行くのを勧誘されたということか?」

「そういうことだ」

「……零、なんでそんな平然としているんだよ」

「俺だからな」

「意味分かんねぇよ!」

「まぁまぁキンジ君。少し落ち着いた方が良いよ~」

 

抗議してくるキンジに自制を促すシェイ。その顔は満面の笑みを浮かべている。何故かというと……

 

「シェイ?もうそろそろ離してくれないか?」

「あとちょっと~」

 

シェイが俺の()をモフモフしているのだ。

この前能力で出したはずの羽が何故か常時出せるようになったことをシェイが知ってから、だいたい朝はモフモフされているのだ。

イヤなら羽を出さなければ良いじゃないかと言われるかもしれないが……出さなかったらまるで子犬が捨てられたような顔をするため、仕方無く出している。

 

「モフモフ~♪」

 

シェイはモフモフしていて気持ちがいいみたいだか、この羽にも感覚があるため、少しくすぐったいのだ。

 

「……」

 

なお、シェイがモフモフしているとき、アリアはずっと無言&無表情なので、凄く胃がキリキリと痛む。

は、はやく終わってくれ。この年で胃薬が相棒とかイヤだぞ俺は。

 

 

 

 

 

なんとかシェイに離してもらって学校に着き、教室で一息つく。

 

「よーう、零。何か疲れているみたいだけどどうした?」

「あぁ……剛気か。自室で朝から色々とあってさ……悪いけどHR始まるときに起こしてくれないか?」

「お、おう。大変なんだな」

 

剛気が若干引きながらも了承していたので、そのまま机に突っ伏して寝た。

……寝ているときに横向きになり、寝顔を女子に撮られていたことは別の話である。

しばらくして……

 

「――い。おい零。起きろ。始まるぞ」

「……ああ」

 

剛気が高天原先生が来たときに、自分の席に戻る前に俺を起こしてくれた。

別にキンジかアリアに頼んでも良かったのだが……キンジは忘れる可能性が高いし、アリアは今日の朝からずっと無言。頼める訳がない。

ならシェイは?頼めると思うが、そうしたら昼休み辺りにまたモフモフされるだけだ。

 

「はい、HRを始める前に、皆さんに二つ朗報があります。一つ目は、4月から長期の極秘犯罪捜査でアメリカに行っていた理子さんですが……」

 

高天原先生がそう言った瞬間、がらりらっ。

 

「たっだいまぁー!みんなー、おっひさしぶりー!りこりんが帰ってきたよー!」

 

教室の扉が開いて、理子が廊下から飛び出してきて教壇に上がる。

クラスの奴らは理子が入ってきた瞬間に集まっていく。キンジ曰く、集まった順がアホランキング上位なのだとか。

 

「理子ちゃんおかえりー!あーこれなにー?」

「えへへー。シーズン感を取り入れてみましたー!」

 

赤ランドセルにてるてる坊主をつけていることで会話に花を咲かせている女子達。男子達も理子が帰ってきたことに喜んでいるようだ。

まぁ、理子は人気者だからな。おバカで美少女でフリフリな改造制服で金髪で。もう本当狙ってやっているとしか思えないくらいに。

……さて、何故犯罪者である理子がクラスメイトに受け入れられているのかという疑問が出てくるかと思うが、これには訳がある。

――武偵少年法。

犯罪を犯した未成年の武偵の情報は公開が禁止されている。

そのプロフィールをやり取りすることは武偵同士の間でも禁忌とされ、知ることができるのは被害者と限られた司法関係者のみ。

よって現状、理子が『武偵殺し』だと分かっているのは、ハイジャックに乗り合わせた俺・アリア・キンジと、『GOW』のネリーが絡んでいたということでシェイの四人だけなのだ。

 

「はいはいみなさーん。理子さんが帰ってきたことが嬉しいのは分かりますが、もう一つのお知らせを聞いてからにしてくださーい」

 

そのまま理子と数人の男子でヲタ芸をやりだそうとした時に、高天原先生がパンパンと手を叩く。そういえば二つって言っていたな。一体何だ……?

クラス全員が高天原先生に『空気読め』みたいな視線を送り、先生がそれで涙目になると……こんこんっ。

理子が開けっぱなしにしていた扉をノックする音がして、

 

「……お楽しみのとこ、失礼します」

 

と、()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……は?)

 

クラスの奴らは勿論、俺も驚いた。その隣で、シェイが「……え?」と声を漏らす。

クラスが静寂に包まれる中、黒板にチョークで名前を書き、

 

「始めまして。ネリー・リチャードです。以後お見知りおきを」

 

と少女――ネリーは言うのであった――

 

 

 

 

 

「……シェイ、ネリーが転校してくるって知ってたか?」

「……いや、知らなかったよ。そもそも、ネリーちゃんが『リバースランカー』じゃなくなったのだって、さっきメールくるまで知らなかったし」

「……どっちにしろ、これから騒がしくなるだろうな」

「……間違いないと思うよ」

 

授業が終わり、自室に戻って俺とシェイは二人揃ってため息を吐いた。

人のことをからかうのが好きなネリーのことだ。これから大変なことになるだろうな。

 

「……ねぇねぇ零くん」

「どうした?」

「羽出して♪」

「……イヤと言ったら?」

「……」

「分かった。分かったからそんな表情するなって」

 

バサッと背中から羽を出す。

シェイは羽を出した瞬間に俺の羽を抱き、「モフモフ~♪」と言っている。

 

「……あー、零。その、えっと……」

「言うなキンジ。分かっているから」

 

実は最初からいたキンジとアリア。そして羽を出した瞬間にアリアがまた無表情にこちらを見ている。

 

(普段表情豊かなアリアなだけに、無表情が怖すぎる……!)

 

この状況をどうしようかと考えていると、シェイが小声でボソッと

 

「……アリアちゃんを羽で包んでみたら?」

 

と言ってきた。そんなことで直るのか……?

試しに恐る恐る羽をアリアに近付け、包んだ。

 

「……!」

 

すると、どうだろうか。先程まで氷のような表情を浮かべていたアリアが、見る間に周りがキラキラしだした。

そして、もふっ。もふふっ。

見事に羽に食い付き、もふもふしだした。

 

「あー……えっと、アリア?」

「……もふもふ~♪」

 

――アリアもかい!

俺は心の中でそう叫んだ。

しばらくの間、シェイとアリアの間でモフモフされていたのであった――



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51話~スポーツテストと三度目の――?

どうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
いや、あの、なんというかですね……息抜き代わりに他の方のss読んでいたら執筆欲が出てきてですね……気付いたら完成してました。
というわけで、今年の締めくくりも兼ねての急な投稿です。

では、第51話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。久し振りだな……えっ、誰だお前だって?そうか、記憶障害か……踵落としすれば思い出すかもな(黒笑)

まあそんなことはさておき、午前中に中間テストを終えた俺達は、昼休みを挟んでスポーツテストをしている。

元々偏差値が50切っている学校なので生徒達のほとんどが流すか就寝に当てるので、今の生徒達はやる気に充ちており、曰く付きの教師陣達の目に怯えながらもスポーツテストに精を出している。

 

「零、ここにいたんだ」

 

声のする方を見てみると、先程まで短距離走を行っていたアリアがやってきた。

その髪はいつものようにツインテールにしていなくて、ストレートに伸ばしている。

……なんだろう、どことなく灼眼を思わせるな。

 

「ああ、アリア。お疲れ」

 

んしょ、と俺の隣に座るアリアに労いの言葉をかける。

 

「うん。キンジは?」

「あいつなら、自分の競技が終わった途端にすぐ着替えに行ったよ」

「ふぅん……あっそうだ。零の記録は?」

「俺のか?……こんな感じだが」

「……うわぁ」

 

手に持っていた記録用紙を見せると、アリアは引いたような顔をした。

 

「何よこの、『測定不能』のオンパレード。1500メートルでも1分32秒って……どんなスピードで走ればできるのよ」

「これでもまだ調節した方なんだけどな」

「……本当に有り得ないわ」

 

アリアが頭を抱えていると、あかりちゃん達やシェイなどが、競技を終えたのか近づいてきた。

 

「零先輩、こんにちは!」

「(*´∀`)ノヤァ、あかりちゃん」

「見てましたよ零先輩。もう圧巻の一言ッスね」

「ですの!」

「まぁそうだろうね」

「零先輩に勝てる相手なんて、いるのでしょうか?」

 

ライカの言葉に麒麟(きりん)ちゃんが肯定し、志乃が疑問に思ったことを口にすると――

 

「――零。私のタイム測って」

 

と、俺の目の前に白に近い銀髪の少女――ネリーがいつの間にかストップウォッチを突き出していた。

 

「……なんで俺なんだ?」

「あなたしか、私のタイム測れないでしょ?」

「なるほど」

 

ネリーの言葉に納得しつつ、ストップウォッチを受けとる。

それを確認したネリーは、女子なので1000メートル走のスタートラインに立った。

 

「――おい見ろよ、『疾風』のネリーが走るぞ」

「おっ、本当だ。これは見物だな」

「CランクからイキナリSランクに昇格し、付いた二つ名が『疾風』。その身体能力はいかに……」

 

ネリーがスタートラインに立った瞬間、他の生徒達がガヤガヤと騒ぎだした。

見れば教師陣も、一同揃ってネリーのことを見ている。

 

(……まぁ、数日前に起きた()()があればそうなるわな)

 

――それは、ネリーが入学してきた直後のこと。

あの日の放課後にネリーは強襲科(アサルト)に来て、取り敢えず担当教師である蘭豹先生の所に向かった。

……が、その時の蘭豹先生は酒に酔っていて、「よぅし、強襲科(アサルト)に入りたかったら今いる1・2年生のSランク以外の奴を倒せや!できんかったら他の科に移りな!」ということを言い出した。

……ちなみに言っておくと、本来Cランクということになっているネリーが、総勢100人以上――しかもAランクもいる状況での全員抜きは絶対に不可能。余興にもならないレベルだった。

――しかし、『リバースランカー』ではなくなり、更に俺みたいにリミッターをつけていない状態のネリーである。

つまりこれが何を意味するかというと……瞬殺である。それはもう見事なまでに。もう相手が可哀想だったね。

それを見た蘭豹は大慌てで教務科(マスターズ)に報告。すぐに緊急ランク考査を行い、見事ネリーはSランクになった、ということだ。

 

「じゃあ、準備はいいか?」

「ええ。良いわよ」

 

たーん、たーんと軽くその場でジャンプしながら了承するネリー。

そしてライン前に立ち、軽く前傾姿勢になった。

 

「――On your mark」

 

――パァンッ

ピッ、ピッ――

カチッ。

 

『――は?』

 

その瞬間、見ていたギャラリー全員が唖然とした。今目の前で起こったことが理解できなかったのだろう。

そのギャラリー達が目にしているのは――既に走り終えたネリーの姿だった。

 

「ネリー・リチャード。1000メートル走、記録――2秒17」

 

そんな中、俺はため息をつきつつ、そう報告した。

 

「……お、おい。冗談だろ?」

「2秒って……もはや分単位でもねぇじゃねぇか!」

「どんな脚力してんだよ……」

 

驚嘆、困惑。この2つの言葉が、武偵高の運動場を包み込んだ。

そんな中、異常なタイムを叩き出した張本人が近づいてきた。

 

「どうだった?あたしのタイム」

「……どうもこうも、狙って出したんじゃないのか?」

「あら?何でそう思ったの?」

「このタイムの数字、()()()()()()()()()()()()()()()()

「せいか~い♪」

 

――ザワッ

 

動揺していたこの場の雰囲気が、更に動揺に包まれるのを感じた。

それはそうだろう。この尋常どころか、陸上競技自体にケンカを売っているようなタイムを叩き出しておいて、狙って出したもの――つまりまだ本気じゃない発言をしたのだから。

 

(……ああ、そう言えば志乃の質問に答えてなかったかな)

 

と、先程の会話の途中だったことを思い、一人呟いた。

 

「――俺も、速さではネリーに勝てねぇよ」

 

 

 

 

 

スポーツテストを終えた後は放課後となり、各自の学科での自習をするか、任務(クエスト)を受けるかのどちらかとなる。

キンジは探偵科(インケスタ)で単位がもらえる小テストに参加しているし、理子も悪い顔をしながらそれについていったのでキンジをからかいに行ったのだろう。

アリアはあかりちゃん達とどこかに行ったし、今は俺一人の状態。

それで今は強襲科(アサルト)で射撃訓練を行っている。

――ガァン、ガァン。

紅のガバメントから射出される45.ACP弾が、ターゲットである犯人の武器を捉える。

そのターゲットには、風穴が1つしかなかった。

 

「――おい見ろよ。錐椰の奴、1発しか当たってないぞ」

「あれ?本当だ、珍しいな」

「調子でも悪いのか?」

 

ギャラリー達は俺が1発目以外すべて外していると思っているのだろう、ザワザワとざわめきだした。

まぁ、これは外しているんじゃなくて――

 

「――まあ、零様が行っていらっしゃることがご理解いただけませんとは……これだから低俗で野蛮な男はキライですわ」

 

その時、少し高めの声が、ギャラリー達を挑発するような感じで発せられた。

そっちを見てみると――1人の女子生徒が、こちらを向いて立っていた。

身長は162程。地毛であろう綺麗なブラウン色の髪にウェーブをかけている。

スタイルが良く、モデルと言われても信じるだろう。

 

「ごらんなさい。零様が的にしていたターゲットの穴を。いくら零様の使っているのが大型拳銃(ガバメント)とはいえ、あの大きさはおかしいとは思わなくて?つまりこれは、零様が不自然に思われないように少しずつ精密に広げた――という訳ですわ」

『――ッ!?』

 

その女子生徒が言ったことにギャラリー達が驚き、急いで俺が撃っていたターゲットを見る。

 

「……本当だ!よーく見れば、確かに大きい!」

「てことは、本当に少しずつ広げていったのか!?」

「有り得ねぇだろ!銃弾の構造上、一体何ミリのレベルで広げていかないといけないと思ってんだよ!?」

 

ギャラリー達が俺のしたことに対して驚いている中、その女子生徒がこちらに向かって歩いてきて、ペコリとお辞儀した。

 

「こんにちは、零様。やはり素晴らしい腕前ですね。1度撃ち込んだ所にしか撃たないピンホールショットではなく、わざと少しずつ広げていくとは、恐れ入りました。流石は零様です」

 

……この女子生徒、アレに気付いただけじゃなく、俺の考えすら分かっていたのか。

そう、俺はわざとピンホールショットにしなかった。やっても良かったが、それじゃつまらない。

なら少しずつ広げていって、どのくらいになったらギャラリー達が気付くのかを検証していたのだが……まさか広げようとしていた穴の10%で気付かれるとは思わなかったぞ。

 

「……こんにちは。確か君は――四葉(よつば) 美樹(みき)さん、だったよね」

「あら、(わたくし)のことをご存知でいらっしゃったなんて……光栄ですわ」

 

そう言って女子生徒――四葉さんはニコリと笑った。

――そう、四葉 美樹。それがこの女子生徒の名前だ。1年生、強襲科Aランク。氷の超能力(ステルス)持ちで、前衛・後衛・支援どれでもできるオールラウンダーだ。

更に家はかの有名な四葉。規模は同じ一年の高千穂家以上というお嬢様だ。

……氷とは言ったが、それは公式上の話。彼女の実際の戦闘映像を見たときに違和感があった。恐らく何かを隠しているのだろう。

 

「ああ、君のうわさは聞いているよ。それにしても良く分かったね。ターゲットにも、俺の考えていたことも」

「いえいえ、気付くことができたのは、零様の眼のおかげですわ」

「眼?」

「はい。ただ狙っているのではなく、かといって投げやり的な感じでもなく、何か目的意識のある眼をしていらっしゃったので」

「……凄いな、一年でそこまで気付けるとは」

 

普通はそんなにできないぞ。てか今の二年ですらそこまで気付ける奴はそういないだろう。すごい洞察力だ。

と、そんな感じで四葉さんに感心していると――

ヒュンッ。

パシッ。

と、イキナリ()()が飛んできたので、()()()()()()()小指と薬指で掴んだ。

 

「――クソッ、今度こそはと思ったのに……」

 

と言いながら、()()()()()()()大勢の男子生徒を率いてやってきた男。

 

「なんだ()っちゃん。こりずにまた狙ってきたのか?」

()っちゃん言うな!俺は三井だ!」

「あ~はいはい。それで?今日もやられに来たのか、KAS(カス)の皆さん?」

「このヤロウゥ……!」

 

プルプルと怒りで肩を揺らしているのは、ことあることに俺を暗殺(という(てい)での公開殺人)しようとしている、KAS(錐椰零を暗殺し隊)の奴ら。

実は最近は一日に一回は必ずくるようになってきた。数打ちゃ当たる作戦なのだろうか。俺としては迷惑なことこの上ない。

 

「フッフッフッ……今日の俺達は一味違うぜ……」

「元から味わってすらいないんだが」

「そんな軽口を叩けるのも今の内だ……おい、持ってこい!」

 

三井がそう言うと、手下の者が何か持ってきて、それを三井に渡した。

あれは……

 

「……火炎放射機、か?」

「ああ、良く分かったな」

「いや。良く分かったな、じゃねぇよ」

 

何そんな大層なモノ持ってきてるんだよ。お前ら武偵法9条忘れたのか?それ人に使ったら確実に死ぬぞ。そして教師陣、生徒達が犯罪者になるぞ。さっさと止めろよ。

 

「ハァーッハッハッハ!今日こそ非リア充の祈願が果たされる時……皆の者、構え!」

 

ガシャンッ。とKASの全員が火炎放射機を構え、いつでも撃てるようにした。

そして――

 

「――てぇー!」

 

――ゴォウッ

 

三井の合図とともに勢い良く火炎放射が発射され――

 

「――『Brinicle(ブライニクル)』」

 

――突如、でかいつららのようなものが現れ、火炎放射をすべて凍らせた。

横を見ると、四葉さんの足元に、水色の紋章のようなモノが広がっていた。

 

『……は?』

「――『Penitente(ペニテンテ)』」

 

KASの全員が呆気に取られる中、更に四葉さんが声を発する。

と同時に、KASの足下から氷の刃が現れ――グサッグサッ!とKASを()()()()()()

 

(――ってええっ!?アレ思いっきり刺さってね!?え、死んでないよな!?大丈夫だよな!?)

 

「グフ……ま、まだだ……まだやれ――」

「下等生物が動かないでくださいます?不愉快ですわ」パァンッ

「カハッ……」

 

と最後に三井に対して拳銃――アストラ・コンスタブル・スポーツを発砲し、意識を刈り取った。

それが終わった後、四葉さんは腕につけている時計――に見えた、通信機を使いだした。

 

「ごきげんよう、宮野(みやの)さん。四葉ですわ」

『はい。どうされましたか?』

「また下等生物が零様にたてつきました。これはもう2番隊隊長紅野(あかの)さんとも相談した方が良いと思います」

『またですか……そうですね。最悪、()()に進言して、会議を開かなければなりませんね』

「ええ。そうですわね」

『じゃあ今日の19:00に、329号室で』

「分かりました。では、後程」

 

ピッ、と通話を切ってこちらに向く四葉さん。それと同時に俺はKASがいつの間にかいなくなっていたことに気付いた。

だが、これは触れてはいけないことだと、今の四葉さんの通話の相手だった宮野(みやの)さんの時に知っているので触れない。

 

「零様。少し用事が入りましたので、失礼させて頂きます」

「あ、ああ」

「では、ごきげんよう」

 

ペコリ、と最後に頭を下げて、四葉さんは帰っていった。

 

「……今日はトンカツにしようかな」

 

色々ありすぎた俺は考えるのを放棄し、今日の夕食の材料を買いにいくため、その場から離れたのだった――




はい、どうでしたでしょうか?

今年もこの作品にお付きあい頂き、ありがとうございました。来年も是非、この作品のことをよろしくお願いいたします。

そしてオンリーさんより高評価を頂きました、ありがとうございます!

では、良いお年を!(´・ω・`)/~~バイバイ。



――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――

「じゃあ、準備はいいか?」
「ええ。良いわよ」

たーん、たーんと軽くその場でジャンプしながら了承するネリー。
そしてライン前に立ち、軽く前傾姿勢になった。

「――On your mark」

――パァンッ

ピッガゥンッ!

『……は?』

その瞬間、見ていたギャラリー全員が唖然とした。今目の前で起こったことが理解できなかったのだろう。
そのギャラリー達が目にしているのは――

――ゴォォォォォォォウ!

と荒れ狂う、楕円の形をした砂嵐だった。

「……ヤバ、加減間違えた♪」
「このど阿呆!収録機器全部吹っ飛んだじゃねぇか!」
「えへ、ゴミィ」
「ゴミィじゃねーよ!」



ネリー・リチャード。匙加減で竜巻を起こすことができる。色んな意味での破天荒女である。


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52話――日本の代表とする喫茶店――

まだだ……まだ終わらんよ!(受験が)


はいどうも皆様、明けましておめでとうございます(いまさら)、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)です(*`・ω・)ゞデス。

とりあえず私立は落ち着いたので、後は国公立だけとなりました。それが終わったら本格的に投稿再開となります。

では、第52話、始まります。


――ザワザワザワザワ……

(*´∀`)ノヤァ、零だ。今俺とアリアとキンジは、秋葉原――別名、『武偵(ぶてい)封じの街』に来ている。

秋葉原は常に人が溢れかえっていて拳銃が使いにくく、路地が入り組んでいるため犯人の追跡もしづらい。まぁ翼がある俺にとってはどうだっていいことだが。

 

「理子の奴、何でこんな所を指定したんだよ……」

「何ボヤいてるのよキンジ、さっさと行くわよ」

 

キンジが不満顔で辺りを見回し、それをアリアが(とが)める。

とはいえアリアも初めて秋葉原を訪れたせいか、キョロキョロと辺りを見回しているため、あまり説得力がない。

 

(……まぁ、無理もないな。ここには色々と個性的な人達が集うからな)

 

アリアを見た人達が口々に、「ツインテだ」「アホ毛だ」「ミクだ」「いや、シェイちゃんがツインテにした方がリアルミクだ」等と言っているのを聞きながら考えていた……なんか一人シェイのこと言っていたが。

 

「――っと、ここだな」

 

しばらくして、理子が指定した店に到着した。

すると突然キンジとアリアが、まるで犯罪組織のアジトに突入するかのように扉の脇に移動する。

 

(おいおい。何してんだ、お前ら。ここは――)

 

がちゃ。

緊張の面持ちで扉を開け、中に突入し――

 

「「「ご主人様、お嬢様、お帰りなさいませー!」」」

 

中にいる、ヒラヒラとした衣類を身に(まと)っている美女・美少女に丁重に挨拶されて驚く二人だった。

 

(――ただの、メイド喫茶だぞ?)

 

 

 

 

 

――メイド喫茶。

悲しいことに、現代の日本人なら入ったことはなくても、その存在を知らない人はいないと思う喫茶店。

基本的に美女・美少女が様々なメイド服を着て、客を奉仕する、といった場所だ。

アリアとキンジの顔が引きつっている中、近くにいたメイドさんに峰理子という少女と待ち合わせしている旨を伝えると、店の奥の個室に案内された。

 

「……じ、実家と同じ挨拶だわ……まさか、日本で聞くとは思わなかった……」

 

アリアは先程の挨拶にまだ引いていた。まぁアリアはイギリス産まれの貴族だし、こういったことは知らなかっただろうしな。

一方のキンジはというと……ああ、既に帰りたそうな表情をしている。個室もピンクや白といった少女趣味バリバリの内装だし、メイドという病気(ヒステリアモード)持ちなら猛毒に近い場所だからな。

 

「なんで零は平気そうな顔をしているんだよ……」

「……キンジ、ネリーとシェイの趣味に付き合わされていたら、自然と慣れるものだぞ。一回経験してみるか?」

「……いや、良い。それよりそのハイライトの消えた目をなんとかしてくれ。見てて怖い」

 

フフフ、男一人で『GOW』の女子達に付き合わされるのがどんなに大変なことか……その時に限ってサイアがいないし。

――よし、今度サイアに会ったら一発殴ろう。

 

「……な、何よあの胸、じゃなくて衣装っ!いくら給料が良くても、あれはないわ。イギリスならともかく、日本で着るなんて場違い。恥っずかしい。なんて店なの。アタシだったら絶対着ない。絶対絶対、あんなもの着ないっ!」

 

と、どうやってサイアを殴ろうか、いっそのこと踵落としでも良いな……と考えていると、アリアがメイドを指さしながらそう言った。

アリアが指している指の方向を見てみると、少々どころかやたらと胸を強調した衣装を着ているメイドさんがいた。

……今度から栄養が体に届きやすい料理を中心にしようかな。

 

「理子さまお帰りなさいませ!」

「きゃあーおひさしぶりー!」

「理子さまがデザインされた新しい制服、お客様に大好評なんですよー!」

 

しばらくして、枝毛を探していたアリアと水ばかり飲んでいるキンジ、何故か周囲にいるメイドさん達に写真を求められる俺(普通逆じゃね?てかメイド喫茶って写真撮影ダメじゃなかったか?)の耳に、玄関付近にいたメイドさん達の歓声が聞こえてきた。

内容的に、理子が来たのだろう。

 

「ごっめぇーんチコクしちゃったー!急ぐぞブゥーン!」

 

いつものゴスロリ制服に、首もとに鈴を増設した理子が、飛行機の物真似をしながら走ってくる。その両腕には、恐らくゲームやフィギュアといった物がパンパンになった紙袋を提げていた。

 

(……遅れた理由が自己主張し過ぎて、注意する気力がなくなったな)

 

「んと、理子はいつものパフェとイチゴオレ!根暗なほうにはマリアージュ・フレールの花摘(はなづ)みダージリン。ダーリンにはエスプレッソ・リスレットのブラックと抹茶アイス!そこのピンクいのにはももまんでも投げつけといて!」

 

席にポスン、と座った理子は、メニュー表を見ることすらなくスラスラと勝手に注文した。

……なるほどな。秋葉原に慣れている理子にとっては、ここはホームグラウンド。ここで話をすることによって、慣れていない俺達への会話権のアドバンテージを取るってことか。流石理子、狡猾に考えているな。

 

 

 

 

 

「――まさか、リュパン家の人間と同じテーブルにつくとはね。偉大なるシャーロック・ホームズ郷もきっと天国で嘆かれてるわ」

 

イヤミったらしく文句を()れつつ、アリアはモフモフとももまんを食う。基本的にももまんを食べる時は静かなので、本当に理子と一緒な席が嫌なのだろう。

かたや理子は、流石に冗談だろうとキンジと一緒に言ってしまった、タワーのような巨大パフェをすでに半分まで平らげている。

 

「俺だったら甘すぎて途中で食べられないぞ。絶対に3分の1くらいでダウンするな」

「……すり(ばち)大の器いっぱいにある抹茶アイスをひたすら食っているやつが言えることじゃねぇぞ」

「バカめ、抹茶アイスは別腹だ」

「他のスイーツでも一緒だろうが……理子。俺達は茶を飲みに来たんじゃない。アリアと俺にした約束は、ちゃんと守るんだろうな?」

 

紅茶を一度口にしてから、キンジが訊ねる。アリアの約束は、かなえさんの裁判で証言すること。

――ん?キンジにした約束?それは初耳だが……ああ、金一さん(兄貴)のことについてか。可能性としては考えられるが、いつの間にしたんだ?

 

「もちろん!理子は約束はきちんと守る子なのです!ダーリンもそう思うよね♪」

 

キンジに訊ねられた理子は頷き、俺を見てウィンクしながらイチゴオレの入っているマグカップを両手で持ち、んくんく飲む。

 

「……なぁ理子。さっきから気になってたんだが、ダーリンって誰のことだ?」

「ぷは。レイレイに決まってるじゃーん!理子たちコイビトじゃーん!」

「そんな関係になったことはない。だいだい何で俺の好物を知ってるんだよ。コーヒーもリスレットにしてるし」

「ふっふっふっ。理子はレイレイのことなら、なんでも知っているのです!」

「意味分かんねぇよ!」

 

――だんっ、だんっ!

理子と俺がヒートアップしてると、アリアが『静粛に、静粛に!』と言う裁判長みたいに机を叩いた。拳銃で。

 

「そこまで。理子、風穴あけられたくなければ――いいかげんミッションの詳細を教えなさい」

 

……アリア。言っていることはいいのだが、(はた)から観れば拳銃で脅しているヤーさんと何も変わらんぞ。身なりは可愛らしい少女だが。

対する理子は――

 

「――お前が命令すんじゃねぇよ、オルメス(Holmes)

 

いきなり乱暴な男言葉と三白眼になって、アリアを射殺すように見えた。

アリアすら一瞬怯ませる凄みを見せた()()()()(キンジ命名)は、紙袋からノートパソコンを取りだして起動させつつ――

 

「――では只今より、『大泥棒大作戦』作戦会議を始めたいと思いまーす!」

 

と、()()()()()に戻りながら、声高らかに宣言した。

――そう、俺達がここ、秋葉原に来た理由。それは、理子の宝物を取り返す、『大泥棒大作戦』の作戦会議のためだ。どうでも良いことだが、『大』という漢字が2つ入っていて非常に語呂が悪い。

 

「横浜郊外にある、『紅鳴館(こうめいかん)』――ただの洋館に見えて、これが鉄壁の要塞なんだよぉー」

 

カタカタとパソコンを操作し、くるっと俺達にディスプレイを見せる。

地下3階・地下1階建てと思われる建造物の詳細な見取り図と、そこにびっしり仕掛けられた無数の防犯装置についてが資料にまとめられていた。

……スゲェ。侵入経路や必要な道具とかまで、ビッシリ書かれている。プロでもこのレベルだと半年はかかるぞ。

 

「これ……アンタが作ったの?」

「うん」

「いつから?」

「んと、先週」

 

……アリアの目が真ん丸になってる。まぁそれもそうか、アリアは弾丸みたいに突っ走るだけだから、こういった作戦はロクにたてないし。

 

「どこで誰に作戦技術を学んだの」

「イ・ウーでジャンヌに習った」

 

ジャンヌって……この前戦った策士(笑)のやつか。白雪を誘拐しようとした、魔剣(デュランダル)

――そういえばジャンヌ逮捕後、両手両足に手錠つけていたから運ぼうと思ってお姫さま抱っこしたら、何故か顔真っ赤にして暴れてたな。アリアは噛みついてくるし、大変だった。

 

「……で、理子。ブラドはここに住んでるの?見つけたら逮捕しても構わないわね?知ってると思うけど、ブラドはアンタ達と一緒にママに冤罪(えんざい)を着せたカタキの一人でもあるんだからね」

「あー、それムリ。ブラドはここに何十年も帰ってきてなくて、管理人とハウスキーパーしかないの。管理人もほとんど不在で、正体がつかめてないんだけどねぇー……」

 

理子の言葉に不満顔のアリアだが、自制したのか口をへの字に曲げただけだった。

 

「まぁ……分かった。で、俺達は何を盗み出せばいいんだ?」

「――理子のお母さまがくれた、十字架」

「アンタって――ほんと、どういう神経してるのっ!?」

 

ガタンッ!とアリアは眉をつり上げ犬歯をむき出し、立ち上がった。

……ヤバイな。さっき自制した分、興奮が止まらないぞ。

 

「アタシのママに冤罪を着せといて、自分のママからのプレゼントを取り返せですって!?アタシがどんな気持ちか、考えてみなさいよ!」

「おいアリア、落ち着け。理子の言うことでいちいち頭に来てたらキリがないぞ」

「頭にも来るわよ!理子!アンタはママに会いたければいつでも――」

「――アリア」

 

ヒートアップしそうになるアリアの頭に手を置く。そして、痛くないように気を付けつつ、アリアの頭をくりん、くりんと回す。

 

「――な、何するの零!」

「落ち着けアリア」

「落ち着いていられるわけ――」

 

くりん、くりん。

 

「きゃっ……な、何――」

 

くりん、くりん。

 

「きゃっ……わ、分かった!分かったから、頭回さないで!」

「ん。よろしい」

 

頭を回されることに多少の違和感を感じたのか、アリアがギブした。頭から手を離すと、アリアは不満げに座ったので、俺は理子の方を見る。

――その顔は、ひどく悲しげなものだった。

 

「……レイレイ。どうしてアリアを止めたの?」

「……理子。お前には――家族がもう、いないんだろ?」

「……え?」

 

俺の発言にアリアが驚いた表情をする。その中に、先程までの怒りはない。

 

「……何で、知ってるの?」

「ネリーから聞いた」

 

――理子ちゃんの両親は、理子ちゃんが8つの時に寿命でなくなってるの。あの子は、両親が大分(だいぶ)年を()されたあとにやっとできた一人っ子よ――

 

「……あは。ネーちゃんも意外とお喋りさんだね……」

「それは違うぞ。あいつは戦闘中にも冗談かましたり、平気で毒舌吐くが――大事なことは必要な時にしか話さないやつだからな」

 

実際、それを言っている時のネリーは、真剣そのものだった。

 

「……そうだよ。理子の両親は、もういない。十字架は、理子の5歳のお誕生日にくださった物なの。あれは理子の大切なもの。命の次に大切なものなの。でも……」

 

そこで理子は少し顔を伏せたかと思うと……

 

「ブラドのヤツ。アイツはそれを分かってて、あれを理子から取り上げたんだ。それを、こんな警戒厳重な所に隠しやがって……ちくしょう……」

 

憎悪に満ちた声で、ボソボソと続けている。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

 

(分かるよ、理子。大切な人からの贈り物が、どんなに大切な物か。そしてそれをどれだけ取り戻したいのか)

 

――制服の下にある、エメラルドが嵌め込まれたペンダントをそっと触りながら、思う。

 

「ほ、ほら。泣くんじゃないの。化粧が崩れて、ブスがもっとブスになるわよ」

 

ぽん。

泣いている理子の前に、アリアは横を向きつつトランプ柄のハンカチを投げた。

アリアは根は優しい子だ。さっき理子に対して親がどうこう言おうとしたことへのお詫びのつもりだろう。

 

「ま、まぁ……とにかく、その十字架を取り戻せばいいんだな?」

 

と、場の空気を元に戻すようにキンジが言うと、こくり。

理子はアリアのハンカチで少し目を押さえ、涙を吸い込ませながらうなずいた。

 

「泣いちゃダメ理子。理子はいつでも明るい子。だから、さあ、笑顔になろっ」

 

まるで自己暗示をかけるように独り言した理子が顔を上げた時に、ちょうどメイドさんが入ってきて……楚々(そそ)とお冷やを注いで回ってくれた。

おかげで少し雰囲気も和やかになり、理子はいつものいたずらっぽい笑顔を取り戻す。

 

「……とはいえ、このマップね」

 

ノートパソコンを閉じながら、理子はテーブルに身を乗り出す。

マップ、と言っているのは第三者(メイド)がいるから、ゲームの話を装っているんだろうな。

 

「ふつーに侵入する手も考えたんだけど、それだと失敗しそうなんだよね。奥深くまではデータが無いし、お宝の場所も大体しか分かんないの。トラップもしょっちゅう変えてるみたいだから――しばらく潜入して、内側を探る必要があるんだよ!」

「潜入、か……」

 

確かに、その方が急なトラブルの対策もしやすいし、妥当な所だろう。

――だが、何か嫌な予感がするのは何故だ。

 

「潜入って……どうすんだよ」

 

キンジが尋ねると、理子はばんざいするように両手を挙げて、

 

「三人には――紅鳴館の()()()()()()()()()()()になってもらいます!」

 

――Oh...

 

俺はハトが豆鉄砲をくらったような顔をしている二人を尻目に、一人空を仰いだのだった――




う~む……ここは重要な所だったので、あまり手を加えられませんでしたね……次からなんとかしないと。

後いまさらですが、本作品では零がアリアのストッパーになるので、

・アリアが主人公にツンツンしない(デレデレ)
・喧嘩になりにくい(恋愛面を除く)
・零の妹的存在感(&小動物感)

となっております。ご注意下さい。

また、紗々音様に高評価9を頂きました。ありがとうございます!

では、ご機嫌よう。(´・ω・`)/~~バイバイ。



――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――

キンジに訊ねられた理子は頷き、俺を見てウィンクしながらイチゴオレの入っているマグカップを両手で持ち、んくんく飲む。

「……なぁ理子。さっきから気になってたんだが、ダーリンって誰のことだ?」
「ぷは。レイレイに決まってるじゃーん!理子たちコイビトじゃーん!」
「そんな関係になったことはない。だいだい何で俺の好物を知ってるんだよ。コーヒーもリスレットにしてるし」
「ふっふっふっ。理子はレイレイのことなら、なんでも知っているのです!例えば――」

(……あれ、ここで理子のセリフは終わりなのに。アドリブかな――)

「朝起きるのは4時でそこからタンスの下から二番目にあるトレーニング用のジャージを取り出して着替えて朝練行くしそれが終わったら帰ってきて朝ごはんとお弁当作って制服に着替えてバイクで学校に登校して三井君達を軽くいなして教室に入って筆箱と教科書とメモ用の付箋(ふせん)とりだして授業受けて放課後は大抵強襲科(アサルト)であかりちゃん達の指導して帰宅して靴を右足から脱いで部屋の電気つけてお風呂の準備して夕食の準備して食べた後にお風呂に入ってその時に左肩から洗って――」

――この後のテープが不自然に切れていて、その後のことは誰も覚えてないと言う――


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53話~一匹とよく言われるが実際は群れで生活する動物~

ハーメルンよ……私は帰ってきた!



はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
ついに……ついに終わりました!いや、とっても長い受験でした。終わってから唐突に、「あ、高校生活終わったんだ」っていう感じになりました。

それから、活動報告に返信をくださったゼットフォースさん、ありがとうございます。そして返信遅れてすみませんでした。

では、第53話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。今俺はシェイと一人の教師と廊下を歩いている。

 

その教師の名は、小夜鳴(さよなき)先生。救護科(アンビュランス)の非常勤講師であり、海外の大学を飛び級で卒業した20歳の先生だ。

メガネの奥の目は明らかにイケメンのそれで、スラッとした細身で長髪が似合い、背は高く、鼻も高く、ブランドもののスーツにネクタイでキメていて、足は長く――

まぁ一言で言うと、超優等生美青年なのだ。しかも性格も優しく、女子からは「王子」と呼ばれている人だ。

ホント、何で武偵高の教師なんかやっているんだろな、この人。

 

錐椰(きりや)くん、荷物運びを手伝ってくださってありがとうございます。ストロームさんも、採血の手伝いを引き受けてくださってありがとうございます」

「いえ。ただ保健室に運ぶだけですし、この量は一人では運びづらいですから。気にしないでください」

「私も、こういうのは慣れてますから。むしろ手伝いの依頼をしてくださったことに感謝しているくらいです」

 

雑談を交え、廊下を歩く俺達。他の奴等は授業を受けているが、これくらいなら別に良いだろう。

 

「――しかし……錐椰くんの能力は凄いですね……」

「そうですか?」

 

すると、小夜鳴先生が苦笑しながら俺達の後ろを見たので、俺もつられてそっちを見る。

――そこには、フワフワと浮いている、10~15程の段ボールがあった。

それは俺達が前に進むと、自然とついてくる。まぁ、ついてくるように俺がしているんだが。

 

「このくらい、念動力(PK)持ちなら誰でも出来ますよ」

「零君は一回、超能力操作研究科(SSR)に道場破りをしてくるべきだよ。数十キロの壊れ物扱いの段ボール十数個を、喋ることに専念しながら規則的に宙に浮かせるなんてこと、滅多にできる人いないから」

 

超能力を知らない小夜鳴先生にこれが普通だと言ったら、シェイが飽きれながらそう言ってきた。

そうなのか?このくらいなら誰でも出来ると思っていた。だから教室掃除の時に机全部テレポートで動かしたら、皆目を丸くしていたのか。これで納得した。

 

「凄いですね……錐椰くん。もし良かったらですが、女子達の採血が終わったら、君の採血もお願いしたいのですが」

「何でですか?」

「いや、ただ単に君の血がどうなっているのかを知りたいのです。君の家系は言い方が悪くなってしまいますが……あまり有名ではない。それなのに君のような人物が産まれてきたことに対して、学者としての血が騒いでいるですよ。君の血を調べたいって」

 

そう言って、アハハと笑う小夜鳴先生。言ってることは怖いのだが、イケメンオーラで普通のことに感じる。

 

「イケメンって得するんだな……イテッ!何だよシェイ、いきなり小突いてきて」

「何だかこうしないといけないと思って」

「何だよそれ」

「アハハ、生徒同士の仲が良いのは教師としては嬉しいことですね……と、着きましたよ」

 

喋りながら歩き、ようやく保健室へと辿り着いた。

ガチャリ、と小夜鳴先生がドアを開けると――

 

「「「……え?」」」

「なっ――れ、零!?」

「レイレイ!?」

「「「零先輩ッ!?」」」

「……」

「……何しに来たのよ、零」

 

――知り合いばかりがいた。アリアに理子、レキやネリー、更にあかりちゃん・志乃・ライカの一年生コンビもいる。

他にも装備科(アムド)であり、違法改造でも無邪気に改造し、法外な金を取る平賀(ひらが) (あや)。キンジの戦妹(アミカ)である風魔(ふうま) 陽菜(ひな)などがいる。

それだけなら別に何も問題ない――全員が、()()姿()()()()()()

トランプ柄、ハニーゴールド、無地、パープル、白、赤、黒、クマさん刺繍、ふんどし――等、下着専門売り場かと勘違いするかのように色とりどりとなっている。

 

(――って、暢気に見てる場合じゃねぇ!)

 

我に返り、慌てて保健室の外に出ようとするが……

ガシッ。

と誰かに肩を掴まれ、

ドタンッと地面にうつ伏せに倒され、馬乗りにされた。

 

(――ッ!男子に下着見られた後にすぐに行動に出ることができて、なおかつ俺を拘束できる相手――)

 

「何逃げようとしてんのよ、理由を言いなさいよ」

「――ネリー!」

 

女子にしては若干低めの声で、俺に馬乗りになっているネリーがそう言ってくる。

 

「落ち着けネリー、俺は別に覗こうと思って――」

「それは分かってるから、何でこうなったのか理由を教えてって言ってるのよ。他の子も混乱してるし」

 

マウントを取られた以上何もできないので必死に弁明しようとすると、ネリーは澄まし顔(うつ伏せで見えないので予想だが)で再度理由を聞いてくる。

 

「……ネリー。俺が覗こうとしてきた訳じゃないってこと、信じるのか?」

「むしろあなたがそんなことする奴なら、私はあなたとチーム組もうとしないわよ」

「……それもそうか。昔のネリーは――」

「問答無用で手錠(ワッパ)掛けても良いんだけど?」

「マジスイマセンでした」

 

今掛けられたら裁判で勝てる気がしねぇ。そのまま武偵3倍法で無期懲役コースだ。それだけはやめてほしい。

うつ伏せのまま両手を挙げて降伏を示すと、スッと体が軽くなった。ネリーがどいてくれたのだろう。

 

「で、納得できる形で説明してもらえるかしら。小夜鳴先生にもお願いいたします」

「ええと……何でこうなったのか分かります、小夜鳴先生?」

「いえ、私にもさっぱり……あの、皆さんは採血だけ行うので、制服のままで結構ですよ?」

「え、そうなの?」

 

小夜鳴先生の言葉に、先程から顔を真っ赤にしていた(と思われる)アリアが反応した。

他にもザワザワとしてきたため、どうやら身体検査か何かだと勘違いしていたようだ。

流石の武偵娘(ブッキー)でも全員勘違いしていたことが恥ずかしいのか、そそくさと着替えに向かっているようだ。そして、俺が来たことに対しては不問のような感じになっている。

小夜鳴先生が女子達の着替えを覗かないようにカーテンがある所に移動したので、俺もそちらへと移動する。

 

(……そういえば、今の女子の面子(メンツ)、有名所ばっかりだったな)

 

アリアや理子は言うまでもないし、レキも詳しくは知らないが、有名所なのは違いないだろう。

あかりちゃんは間宮林蔵――裏の一族であり、ライカは火野バット。志乃は佐々木小次郎の者だ。

他にも平賀さんは平賀源内だし、風魔は風魔一族のものだろう。

有名所が揃う中、しかし一人だけ違和感がある。

そう――ネリーの存在だ。

ネリーは特別有名所では無い。それなのになぜ呼ばれているのか。

 

(……まあ、俺が考えすぎているだけかもしれないが)

 

そう思っていると、バタンッ!と大きな音がした。

――人間、いや、動物は音に敏感である。大きな音は自分への被害を及ぼす危険なモノとして、生存本能が働き、その方向を見てしまうものだ。

そして、武偵は普通の人よりも更に音に敏感になる。日常から常に生と死の隣り合わせである武偵は、一瞬の油断が命取りとなるからだ。

この場合の俺も例によらず、女子が着替えていることを完全に忘れて、音の発生源を見る。

するとそこには――

 

「うおっ!?」

「ま、待てレキ!話せば分かる――」

 

――掃除用ロッカーを開け放った下着姿のレキが、ロッカーの中にいた()()()を引っ張り出していた。見ると剛気もロッカーの中に入っている。

――いや、何してんだよお前ら。

キンジが好き好んでこんなこと(覗き)をするはずがないので、恐らくそこで口の端が緩んでいる理子が何か仕掛けたんだろう。

とはいえ俺とは違って覗きをしていたことと見なされるため、弁解しようがない。

必死に言い訳をしようとしているキンジと剛気に静かに合唱しようとする――ッ!

 

「剛気!ロッカーから出ろ!」

「は?どうした零、いきなり――」

 

俺が忠告し、剛気が訳が分からないような顔をしていると――

パリィンッ!

と、イキナリ窓が割れ、ドゴンッ!

 

「ウオッ!」

 

何かが剛気が入っているロッカーに衝突し、ロッカーが倒れて剛気を下敷きにする。

倒された剛気は危険を感じたのだろう、懐から愛銃であるコルト・パイソンを取り出す。

 

「……嘘だろ?」

 

だが、自分を下敷きにしている正体が分かると、剛気は固まってしまった。

その正体は――銀色の毛を纏った、一匹の()()()()だった――

 

ーside零endー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

理子に特別演習と騙されて保健室に呼ばれ、ロッカーに何故かいた武藤と一緒に入り、女子達のストリップショーを見ないようにするなどと不幸なことが連発したが――これはシャレにもならねぇぞ。

今、武藤を下敷きにしている奴は――

圧倒的な殺気、どこか気品すら感じさせる逞しい肉付き。

そして、100キロに迫ろうかという巨体。

間違いない。絶滅危惧種・コーカサスハクギンオオカミの成獣だろう。

しかし、何故……こんな所に!?

 

「……お前ら、早く逃げろ!」

 

武藤が女子達に叫び――ドォンッ!

.357マグナム弾を使用するコルト・パイソンで、天井に向けて威嚇射撃を行った。

通常、動物は大きな音に弱い。しかし――この狼は、.357弾に全く怯まなかった。

 

「――武藤、銃を使うな!跳弾の可能性がある!女子が防弾制服を着ていない!」

 

武藤に伝えながら、どうするか考える。相手は獣だ。どんな動きをするか予測できない――

 

「――オオカミ……だと……」

 

その時、誰かが小さく、何かを呟いた。

辺りを見回してみると――零が、コーカサスハクギンオオカミから目を離さずに驚いていた。

そしてコーカサスハクギンオオカミの目も、零を捉えている。

スッ――と、零の足が動いた。

そのまま、一歩ずつ、一歩ずつオオカミに近づいていく。

対してオオカミは、動かない。

やがて零とオオカミの距離はなくなり……

さわっ。

――零が突然、オオカミの口元を触った。

 

『……は?』

 

全員が驚愕する中、触られているオオカミすら驚いていることを気にするわけでもなく。

口元から頭、次第に胴体へと手を動かし、触っている零。

その目は、今まで見たことないくらいにキラキラとしていた。

 

「いや、ちょっ……零!何してんだよ!」

 

我に返り、注意を呼び掛けるが、どこ吹く風のようにオオカミをさわり続ける零。

 

「あー……()()()わね」

「そうだね」

 

その光景に、シェイとネリーが口々にそう言った。

 

()()()って……一体どういうことなんだ、ネリー?」

「アレ、知らないの?」

 

俺に聞かれたネリーは、スッ――と零を指差し、

 

あいつ()――大の動物好きよ」

 

と言った……まったくの初耳なんだが。

 

「そうそう。よく任務で捨て猫を見つけては、たくさん愛でた後に近隣にしっかり世話できる人がいるか、能力使って探したり」

「『廃棄処分など言語道断』なんて言って、自分で施設建てて飼えなくなった人達の動物を預かったり」

「あげくの果てには獣耳つけてる人を膝の上に乗せて頭を撫でる始末だしね」

 

シェイとネリーが口々にそう言う中、先程の間に素早く着替えたアリアが近付いてきて、

 

「……それ、アタシもされたわ。仮装パーティーの時に。おかげで凄い恥ずかしい思いしたわ」

 

メヌなんかそれを知った時にどこからかネコミミ取り寄せて、零と会う時に必ず着けてるし……と続けるアリア。メヌって誰だよ。

 

「それに、何故か動物達は零君に(なつ)くし」

 

と言ったシェイの言葉通り。

零に触られているオオカミは、段々と目をつむり、零に縋るように体を近づけ――

そこで、ハッとしたように目を開けて体を起き上がらせて。

パリンッ――と、再び窓から飛び出していった。

 

(マズイ、あんなのが町中にいたらパニックになるぞ――)

 

慌ててオオカミを追おうと窓に向かうが……

 

『錐椰 零の名の下に』

『バイク、召喚(サモンズ)

 

ドンッ!といきなり零のバイクが表れ、思わず足を止めた。

 

「まだ足りてないぞ!勝手に行くな!」

 

ドルゥンッとバイクに股がった零は、そのまま窓へと向かい――

いつの間にか後ろに乗っていた下着姿のレキと共に、窓から飛び出していった――

 

 

――その後。妙に艶々した顔の零と、オオカミ(ハイマキという名前にしたらしい)に首輪をつけたレキが帰ってきて。

俺と武藤は、覗き見したということでアリア達に折檻されたのだった――




どうでしたでしょうか?
最近零のチート分が足りないように感じたので、ここで一気に3つ解放しました。やはり零はこうでなくては。
ご意見・ご感想・質問・コラボ等々、いつでもお待ちしております。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――

「イケメンって得するんだな……イテッ!何だよシェイ、いきなり小突いてきて」
「何だかこうしないといけないと思って」
「何だよそれ」
「アハハ、生徒同士の仲が良いのは教師としては嬉しいことですね……と、着きましたよ」

喋りながら歩き、ようやく保健室へと辿り着いた。
ガチャリ、と小夜鳴先生がドアを開けると――

「「「……え?」」」
「なっ――れ、零!?」
「レイレイ!?」
「「「零先輩ッ!?」」」
「……」
「……何しに来たのよ、零」

そこには――()()()()()()()()、下着姿の女子達がいた。

「……」
「ちょっ!待って止まって零君今愛でるようなことしたら問答無用で捕まるから一旦落ち着いて素数でも数えてだから止まってっていうか何で皆獣耳してるの誰こんなこと提案したの一旦カメラ止めて零君止めて~!」
(……フフ、零様のことについて、私達(RKS)が知らないことなど、ありませんわ)

シェイが必死に零を抑えている中、一人静かに『零様ノート』を閉じる四葉であった――


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54話~ランク考査・筆記試験~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まず始めに、
toukizinさんに評価9
楽描筆さんに評価10

という高評価をいただきました!ありがとうございます!

後今回は、『――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――』はお休みさせていただきます。ご了承ください。

では、題54話、始まります。


「――間宮様。今日は武偵ランクアップのチャンスですわよ!」

「いつまでもEランクじゃ恥ずかしいもんな」

「お百度参りと水行であかりさんの合格を祈ってきました……」

「み、みみ皆おお応援に来てくれてあ、ありがとう」

「あかり、緊張しすぎよ」

 

うぅ~だって、だって……

あ、どうも皆さんこんにちは!m(_ _)mペコリ。間宮あかり役の佐倉あy……じゃなくて間宮あかりです!今日はあたしにとっての重要な日です。

何故かというと、今日はランク考査――つまり、ランクアップができるかどうかの日なんです!

ランクアップができればより良い依頼(クエスト)を受けて報酬も良くなるし、アリア先輩や零先輩のチームになることだってできるんです。

だから、今日は頑張らないと……せっかく皆やアリア先輩、零先輩にも来てもらってるんだから……だから!

 

「――あかりちゃん、とりあえず落ち着こうか」

 

ポンッ。

気合いを入れて逆に緊張してしまったあたしの肩に、零先輩が手を置いてきた。

それだけで何故かスッ――と、胸の中の何かが落ちたような気がした。

 

「大丈夫。あかりちゃんは頑張ってるよ。今日はその『頑張っている所』を出す時だよ」

「そうよ。それにランク考査には、『時の運』もあるわ。でも、ベストは尽くしなさい」

 

零先輩とアリア先輩。あたしには今はまだ全然届かない人達。

その二人からアドバイスを貰って、あたしは――

 

「はい!頑張ります!」

 

――元気を貰った。だから、精一杯頑張るんだ!

 

「……ところで零。さっきから気になってたんだけど、その首元の『臨時試験官』って書いてあるカードは一体何?」

「あれ?言ってなかったっけ?今日蘭豹先生二日酔いでいないし、他の試験官が綴先生しかいないから、変わりに俺が試験官することになった」

『……え――?』

 

 

 

 

 

「――記述試験終わったよ~!」

「どうでしたか!」

 

ランク考査は記述試験、実技試験の順に行われる。

先程に記述試験が終わって皆の元に行くと、緊張した面立ちで待っていた。

 

「けっこう出来たよ!」

 

あたしがVサインすると、皆の顔が明るくなった。

 

(ふっふ~ん、全問しっかり解いたからね!これだったら百点満点もあるかも)

「――採点結果が出ましたですの!」

 

皆と喋っていると、麒麟(きりん)ちゃんが掲示板を指差しながらそう言った。

――え~と、あたしの点数は~……

 

1位・乾 桜 100 A

2位・水口 美由紀 91 A……

 

(う~ん、流石に100点はなかったか~。まあ70点くらいかな~)

「――お、おい、あかり……」

 

と、あたしが70点くらいの所を探していると、ライカがあたしの裾をクイクイと引っ張ってきた。

何だと思ってライカの方を見ると、ある所を指差していた。

そこを見ると――

 

47位・間宮 あかり 28 E……

 

と、下から3番目の所に書かれてあった人をライカは指差していた。

 

(うわぁ、ランク考査でこれは酷いなぁ……ん?――うぇぇ!?)

「これあたしじゃん!?」

「逆に誰に見えたんだよこのバカ!」

「あっ、ひどい!バカって言う方がバカなんだよ、バカライカ!」

「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ!それよりどうしたんだよこれ!自信あったんじゃねぇのか!?」

 

そ、そうだよ!自信あったのに、一体どういうこと!?

 

「――あかりちゃん」

 

あたし達が混乱していると、試験室だった所から零先輩が歩いてきた。

……何故か、目から()ハイライトを消して(死んでいる)

ふらふらと歩いてきた零先輩があたしに近づいて目線を合わせ、試験をやる前みたいに肩に手を置いてきた。

――なんだろう。さっきは元気を貰ったのに、今は逆に変なプレッシャーが……

 

「あ、あの、零先輩。一体どうしたんですか?」

「……あかりちゃん。(知人)が試験室にいたから集中出来なくて、頭が真っ白になったんだよね?だからあんな回答になったんだよね?」

「……え?いや、普通に解い――」

「待って。いや待ってくれ。今のは聞かなかったことにする。だからもう一度聞かせてくれ――集中できなかったんだよね?」

「い、いえ。出来ました……」

 

何故かの2回聞いてきたけど、素直に答えたら「……はぁ……」と溜め息を吐かれた。

な、何か悪いことしたかな?

 

「零。一体どうしたのよ?」

「……アリア。あかりちゃんの持っている問題用紙のメモ書き、見てみろよ」

「あかりのメモ書き?」

「それって、これのことですか?」

 

手に持っていた、筆記試験の問題用紙をアリア先輩に渡した。

それを見るアリア先輩と、身長差からアリア先輩の頭の上から覗き見るライカ。

 

「……『問33. 自動式(オートマチック)拳銃の命中制度に関わる要素を書け』」

「……お、おいあかり。ここにメモ書きしてある『価格』って……」

「安物は使うなって、先生が言ってたもんっ」

 

…………

 

「と、『問34. 短銃身のリボルバー拳銃で、弾道を安定させる条件を書け』」

「――ね、『狙いを定める』?」

「間違ってないよね?なのになんでこんなに点数が低いの!?」

「あーもー!実技だけじゃなくて、知識も教えてやりゃよかったー!」

 

な、何が!これのどこが間違っているの!

採点ミスだ!やり直せ!――と言っていたからか、

 

「……零。どうせハイライト消す()()して、あかりが嘘ついてるかどうか能力で調べたんでしょ?」

「……お、何で分かったんだ?」

「勘よ」

「そっか……アタマでっかちでも能力の無い武偵はゴマンといるが――」

「こんな知識量で今まで戦ってこれたなんて……逆に凄い持ち主ね」

 

零先輩とアリア先輩の会話を、あたしは聞いていなかった。

 

「でもあかりさん。採点ミスを疑うということは、零先輩が間違っているということになりますよ!」

「……アッ!」

 

――クスクス。

そんなやり取りをしていると、どこからか笑う声が聞こえた。

 

「……?」

 

怪訝に思い、辺りを見渡すと――婦警服に身を包み、婦警帽を被った、ツインテールの娘が口に手を当てて笑っていた。

 

「……あっ、ごめんなさい!」

 

あたし達の不審な視線に気付いたみたいで、慌てて頭を下げてきた。

 

「……架橋生(アクロス)ね?そのカッコ」

 

アリア先輩がその娘に向かって何かを言ったけど――あく、ろす……?

 

「――民間人を助ける警察と、金さえあれば何でもやる武偵。相互衝突し、剣呑な仲になり……警察は命がかかるような仕事を武偵に押し付け、武偵は金にならない仕事を警察に押し付けるようになった。このままだと国の安全が危ぶまれる危険性があると感じた政府は、武偵の中から研修という立場で警察の事務を行うようにした――警察と武偵の仲を取り持つ、架け橋(アクロス)という制度を作った。それが彼女達だよ」

 

あたしの頭が疑問符で一杯になっているのを感じたのか、零先輩が補足を入れてくれた。

……武偵と警察って、仲悪かったんだ。それすら知らなかったよ……

 

「はいっ!午前中に研修があったので、この格好のままです!」

 

ビシッ!と敬礼をしたその娘は敬礼を解くと、あたしの方を向いた。

な、なんだろう。

 

「あの、さっきの問題ですけど。解答例としては、命中制度は主にバレル長・マズルブレーキ・薬室制度で決まります。『短銃身リボルバーの弾道は、ライフリングで安定する』です」

 

そこで彼女は自らの拳銃――短銃身リボルバーである、S&W M60を取り出し、ニコリと笑った。

完璧な解答例を出されたため、先程まで採点ミスだどうだ言ってたのが恥ずかしくなり、顔が熱くなる。

 

「――流石、筆記試験の成績トップ。素晴らしい解答だね」

 

パンっパンっと拍手をしながら、零先輩がその娘にこう言った。

 

(いぬい) (さくら)。中学3年。武器は今出した拳銃に警棒・手錠を使ったもの。通称『何でも持ってる桜さん』。成績優秀・運動神経バツグン・お父様は麻布(あざぶ)警察署の署長さんで、今はノーランクながらAランク相当の実力を持つ……格闘訓練無敗(かくとうくんれんむはい)で、経歴(キャリア)に負けやミスが一切無い完璧主義者、だったよね」

 

それを聞いた彼女――桜ちゃんは、驚いたような顔をした。

そして零先輩を良く見て――何かに気付いたような顔をした。

 

「も、もしかしてき、錐椰先輩ですか!?」

「あれ?俺のこと知ってるの?」

「はい!」

 

ズイ、と零先輩の懐まで近付き、何やら目を輝かしている。

――ム、ちょっと近付きすぎじゃないかな。

 

「錐椰先輩は数々の現場を潜り抜け、輝かしい経歴(キャリア)を残し、武偵法の違反ゼロ!正に私が理想とし、憧れているスタイルを貫いているのです!」

「あ、ああ」

「更に先程私のプロフィールを述べた通り、『情報』という捜査・強襲等に必要なモノをきちんと知っていて、活用できる人です!」

「ああ、うん。ありがとうね」

 

目をキラキラとさせながら零先輩を見上げるように言う桜ちゃんに、零先輩がただ狼狽えている。

 

「それに加えて――と、失礼しました」

 

そのままヒートアップしそうだったが、何やら時計を確認したかと思うと、少し下がった。

あたしも時計を確認してみると、次の実技試験まで残り15分になっていた。

 

「では、錐椰先輩。後ほどまた、お話させて貰えると嬉しいです」

 

ペコリ、と最後に頭を下げて、桜ちゃんは去っていった。

――うう、あんな娘も、ランク考査に出てるんだ……頑張らないと!

そうやって自らを鼓舞するように、ペシペシと頬を叩いていると――

つつつ。

 

「――うひゃい!」

 

いきなり首元を何かが通り、思わず変な声が出た。

 

(な、なに今の!)

 

何が原因か後ろを振り向こうとすると――ふにっ。

零先輩の人指し指が、あたしの頬をつついた。所謂肩を叩かないバージョンの頬つつき。

 

「な、にゃにすりゅんでしゅか(何するんですか)!」

「ほら、変な力は抜けただろ?実技試験はいつも通りにやれば大丈夫。『Sランク内最強』が言うんだ、間違いないだろ?」

 

そう言って、はにかむ零先輩。他の皆も、皆笑ってくれている。

 

「――はい。頑張ってきます!」

 

そう言って、あたしは実技試験の受験会場へと向かった――

 

 

「あ、あかりさん!次はナイフ術(CQC)審査ですから、射撃レーンじゃなくて体育館ですよ!」

「ええ!?」

「……やっぱ、不安になってきた」

「ええ、不安だわ」

「不安っスね」

「ですの」

「ちょ、ちょっと皆~!そんなこと言わないで~!」




どうでしたでしょうか。
今回のランク考査は、2~3話かかります。ご了承ください。

いやぁ、画才が欲しい(唐突)誰かシェイとかネリーとか描いてくれませんかねぇ……(チラリ

え、自分ですか?自分はこの程度です。


【挿絵表示】


因みにこれは本作品の誰かの画像とかではありません。ただ適当に描いただけです。
というわけで描いてやるよという人、感想をくれる人、コラボ等の企画などなど、いつでも待ってます!

では、ごきげんよう、(´・ω・`)/~~バイバイ。


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55話~ランク考査・実技試験~

はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まず始めに、

absurdさんに評価9という好評価をいただきました。ありがとうございます!

それでは、第55話、始まります。


先程筆記試験を終わらせたあたし達ランク考査生は今、体育館に来ています。

ここでの審査内容はCQC――つまり、ナイフ術をメインに審査します。

考査生複数人が十分に距離を取った後、各々(おのおの)が思うようにナイフ術を披露し、それを審査員が判断するといった形です。

 

「ではぁ、えーっと……あぁそうだ。CQC審査ぁ、始めぇ」

 

綴先生が気だるげに開始の合図をしました。

――まずは、普通に、確実に……

あたしは強襲科(アサルト)で習った通りの型で、ナイフを振るう。

――おお……

すると、審査員の先生達が驚嘆の声をあげた。

え、そんなに良かったかな?

チラリと審査員の先生達を見てみると、先生達はあたし――の後ろで警棒を振るっている、乾さんを見ていた。

乾さんは正に教科書通りといった感じで、イメージビデオとかに抜擢されそうなくらいに完成されていた。

するとあたしの視線に気付いたのだろうか、少し口元が緩ませていた。

 

(むぅ。先輩相手にその態度……いい度胸だよ!)

 

初めて零先輩にあった時の対応を棚に上げながら、あたしは意気込んでいた。

 

(先生達はあたしの後ろを見ている。あたしが小さ――身長的にそこまで視線がずれている訳ではない。なら――零先輩に教えてもらった、()()を使う!)

 

 

 

――それは、ランク考査が始まる、数週間前のこと。

 

『あかりちゃん。飛穿(とびうがち)って、どんな時に使えるの?』

『どんな時にって……具体的にいうとどんな感じですか?』

 

訓練を始める前の軽いストレッチを行っていると、零先輩が両足を開いて体を地面につけながらあたしに話しかけてきた。

うう、零先輩柔らかいな……あたしそこまでできないよ。

 

『例えば、【足場が悪いと安定して使えない】とか、そんなやつ』

『ああ……えっと、そんなことはないです。ただ、相手の懐に入らないと、腕のリーチ的に届かないですけど……』

『ふむ……』

 

ストレッチを先に終わらせた零先輩はそのまま片手倒立を始め、更に人差し指と中指だけにしながら、何やら考え始めた。

……毎回思うけど、何で平気な顔してやることなすこと凄いのかな、零先輩は。もう慣れてきたけど。

 

『それってさ……()()()()()()()()()()()()()()()()穿()()使()()()、ってことだよね』

『……ええと、どういうことですか?』

『だからさ――』

 

 

 

(そこからできたのが――これ!)

 

そう思いながらあたしは――()()()()()()()()()()()

 

『――ッ!?』

 

突然あたしが起こしたアクションに、先生達が驚いたような表情をした。

――零先輩だけが何をするか気付き、笑ったまま。

そして先生達の目線があたしのナイフに移動した時――

 

(――飛穿(とびうがち)!)

 

姿勢を低くしながら、()()()()()()()()()()()()()()()、飛穿を放つ。

重力の抵抗だけを受けていたナイフのグリップを素早く掴み、そこから前方に向かって斬りかかる。

――おお……。

ブー。

先生達が驚嘆の声をあげるのと、審査終了のブザーが鳴るのは、ほぼ同時だった――

 

 

 

 

 

「次、射撃訓練――始め」

 

CQC審査が終了した後、そのまま射撃レーンに向かい、次の審査が始まった。

ここでは単純に射撃訓練――人型のターゲットに向かって撃ちつづけ、人型が持っている銃のターゲットにどれだけ命中させられるか、といった内容です。

バララッ。バラッ。

パンッ。パァンッ。

ドンッ。

ランク考査生が持つ様々な銃の発砲音が、射撃レーンに響く。

バララッ。バラッ。

 

『あかりちゃんが持っている銃はマイクロUZI。片手でも扱えるタイプの短機関銃(マシンガン)だから、的に当てるというより、集めるといった感じで狙ってみるといいよ』

 

零先輩に教わったことを思い出しながら、ターゲットに向けて銃を放つ。

前まではかすりもしなかったけど、今はある程度までなら当てられるようになってきた。

……まぁ、未だに外れる弾のほうが多いけど。

 

「――終了。各自で自らの成績表を提出してから、最後の実戦試験へと望むこと。以上!」

 

数分経った後、男の先生が終了の合図を行い、それによってランク考査生が銃を射撃レーンの物置用机に乗せる。

そして自分が使用していた射撃レーンの後ろにある計測器から成績表を印刷し、審査員の先生に渡した。

 

(――うん。しっかりできた!)

 

成績表の結果を思い出しながら、あたしは一旦みんなのもとに向かう。

成績自体は良いとはいえないけど、あたしなりには頑張った。きっと上手くいってる。

それに、零先輩に教えてもらったモノもできたし。

 

(アレって確か……ミスディレクション、っていうんだったっけ?」

「――そうだよ」

「わきゃあ!」

 

考え事をしていたら、いつの間にか零先輩が隣にいた!

ていうか零先輩、あたしの考えていた事を読まなかった!?

 

「たぶん今あかりちゃんが思っている疑問に答えるけど、最後の方声に出てたよ」

「えっ、ホントですか?」

 

うわぁ、全然気付かなかった。恥ずかしい……

 

「前にも言ったけど、あかりちゃんに教えたアレはミスディレクションという一種の技。最近とある漫画で有名になった奴。戦闘中において最も人間が注意を払うのが武器である以上、どうしてもそちらに目が奪われてしまう。そこでわざと武器を投げてそちらに目線が動いた瞬間、『飛穿(とびうがち)』の要領で高速に武器を取りながら斬りかかる。相手が目線を下げた時には既に斬られているってこと」

 

人差し指をピッと立てて歩きながら解説してくれる零先輩の右腕には……大きな紙をクルクルと巻いて抱えていた。さっきの実技試験の中間発表のものかな?

はぇ~と零先輩の解説を聞いていると、皆のもとに着いた。

 

「あ、あかりさん。どうでしたか……?」

 

志乃ちゃんが片方だけ目を描いてない達磨を手にしながら聞いてきた。さっきのこともあるし、余計に心配してるのかな?

他にもライカや麒麟(きりん)ちゃん、そしてアリア先輩も不安そうにこちらを見つめている。

 

「まぁ、結果は今分かるから、まずはそれを見てからだな」

 

そう言った零先輩はトコトコと掲示板の所まで向かうと、バサッ。

手に持っていた紙――やっぱり中間発表だった――を張り付けた。

ざわざわと他のランク考査生が集まる中を掻い潜って結果を見る。

 

 

――間宮 あかり 強襲科(アサルト)

 

CQC訓練・評価――Cランク

射撃訓練・評価――Dランク

 

中間総合結果・評価――Dランク

 

 

「あっ……」

 

書いてあった評価に、あたしは思わず声が漏れた。

 

(やっ、た――やった!Dランクだ!)

「やったなあかり!」

「やりましたねあかりさん!」

「おめでとうですの!」

 

あたしの結果を確認した皆が喜んでくれてる。まだ中間発表だから、確定じゃないけど。

それでも、それでも。今まで強襲科(アサルト)の落ちこぼれだと思っていたあたしがDランクにまで届いたんだ!嬉しくないわけがない!しかもCQCに至ってはCランク!

やった、やったと喜んでいるあたしの頭に、ぽんっ。

 

「やっぱりアレが響いたみたいだ。よく頑張ったな」

 

と、零先輩が手を置いて、そのまま撫でてくれた。

 

「でも、まだ試験は終わってないわ。あかり、しっかり最後まで頑張るのよっ」

「ハイ!」

 

最後にアリア先輩に応援されて、あたしは最後の試験に向かった――

 

 

 

 

 

最後の試験は、実戦試験。

他のランク考査生一人と条件付きでの実戦勝負となっています。

その準備のため、あたしは更衣室で着替え――女子は何故かスクール水着――を行っています。

 

「――『時の運』って、あるものなんですね」

 

あたしが着替え終えると――後ろから誰かの声がした。

 

「私は運も()()()()()ようです」

 

後ろを振り返ると、架橋生(アクロス)の服を脱ぎ、ロッカーから水着を取り出している、控え目な花柄の下着姿の桜ちゃんがいた。

 

「対戦カードの確認が遅いですよ、先輩」

 

下着も取り外しながら(あたしよりも少しだけスタイルが良い……少しだけ!)、桜ちゃんが言う。

 

(対戦カード……?)

 

あたしは自分のスカートのポケットから、先程もらった対戦カードを取り出して見る。

 

 

――実戦試験(MMA)

 

16:30~16:45 第4会場

 

No.7 乾 桜

VS

No.23 間宮 あかり

 

 

と書いてあった。

 

「……運も持ってるって……どういう意味?」

 

この状態でそれを言うってことは、つまり。

 

「校内ネットによればいくつか事件を解決されてるようですが……今回の試験成績から考えて、間宮先輩は受験生の中で一番弱そうですから」

 

ブチッ。

あたしの何かがキレるような音が聞こえた。

 

(せ……先輩への口の利き方を知らんのかー!こいつはー!)

 

想像の遥か上を言ったよ!?もっとオブラートに包んでくると思ったよ!?

 

「いいですよ、棄権しても」

「……ッ!勝負はやってみないと分かんないんだよ!」

 

桜ちゃんの言ったことにあたしはキレ気味に返す。

それが何か癪に障ったのか、桜ちゃんもムッとした表情になった。

 

「――あなたな有名な戦姉(アミカ)さんのキャリアに傷がつきますよ?」

「――ッ!?」

 

桜ちゃんの一言に、あたしは冷水をかけられたような感覚に陥った。

――アリア先輩のキャリアに、傷……?

 

「――知らなかったんですか?」

 

あたしの表情を見て理解したのだろう桜ちゃんが、驚いたような表情をする。

 

「私には現在戦姉(アミカ)はいませんが……戦妹(いもうと)が考査でランクを上げられないと戦姉(あね)には『人を育成できない』という評価が残り、彼女の次回ランク考査に響くんです」

「えっ……そんな……」

 

アリア先輩はそんな事一言も……!

 

「――ただ、あなたが棄権すれば、評価記録は残りません」

 

桜ちゃんの言葉に、あたしの心が揺れる。

アリア先輩――!

 

『ベストを尽くしなさい』

 

……そうだ。何を迷ってたんだ、あたし。

ぎゅっと両手を握りしめて、桜ちゃんに向き直る。

 

「……あたしはベストを尽くすっ!アリア先輩のためにも……!」

「……そうですか。まぁそれならそれで好都合です」

 

あたしの言葉を聞いた桜ちゃんは、失望したと言わんばかりの表情をしつつ、更衣室のドアに向かう。

 

「私はこの試験が終了した後、錐椰先輩に戦兄妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)を申し込みます」

「――ッ!?」

 

 

――乾 桜 ノーランク

 

 

「錐椰先輩の戦兄妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)は今の所37人が挑んで失敗していますが――Aランクになった私なら大丈夫でしょう」

 

 

――CQC訓練・評価――Aランク

 

 

「錐椰先輩の元で一年間教えてもらい、人数制限のあるSランク武偵には先輩の戦姉(アミカ)の分が空くので、そこに入らせていただきます」

 

 

――射撃訓練・評価――Aランク

 

 

「――先輩はそこへの踏み台になってください」

「――ッ」

 

 

――中間総合結果・評価――Aランク

 

 

これが……桜ちゃん(この娘)が。

あたしの、相手――




どうでしたでしょうか。

次回、あかりvs桜!果たして結果はどうなるのか――

というわけで今回はここで終わります。

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――

「私はこの試験が終了した後、錐椰先輩に戦兄妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)を申し込みます」
「――ッ!?」

――ピーポピーポピーポニャン♪

「錐椰先輩の戦兄妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)は今の所37人が挑んで失敗していますが――Aランクになった私なら大丈夫でしょう」

――ピーポニャン♪ピーポニャン♪   

「錐椰先輩の元で一年間教えてもらい、人数制限のあるSランク武偵には先輩の戦姉(アミカ)の分が空くので、そこに入らせていただきます」

――ピーポピーポピーポニャン♪

「――先輩はそこへの踏み」警察官だよ~♪「台になってくださいってちょっと待ってください」
「――えー!?何で最後まで言ったのに止めちゃうの桜ちゃん!」
「何でも何も、なんですかこのBGM!」
「何って、桜ちゃんの好きなピーポニャンのOP――」
「何故それを今使うんですか!?」


原作であかりにこんなこと言ってた娘が今じゃキャラ建ちすぎている件について。


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56話~ランク考査・実戦試験~

はいどうも、引っ越し前に荷物を送ったら、間違えて緋アリ系統の小説・漫画全てを送ってしまって執筆できなかった鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

いや、本当に申し訳ありません。何故中身を確認しなかったんだ、自分!
やることなかったのでパワプロアプリやら白猫やらやっていましたが……ようやく書けます。

また、鍵姫(沙*・ω・)ゞさんに高評価9を頂きました。ありがとうごさいます!あと顔文字ソックリですね(笑)

では、第56話、始まります。



「――ルールは総合格闘技(MMA)な。相手に与えたダメージも採点対象だぞー……あー、あと今回の試験は審査員は一人で十分だと判断したため、アタシだけだぞ~……はぁー、しんど。おい錐椰ぁー。お前が審査員やれよぉう」

「いや、僕はあくまで手伝いですよ?元々は綴先生の仕事なんですし、これで最後なんですから。しっかりやってください」

 

体育館の真ん中に設置された、プロレスとかボクシングなどに使われるリングの中に、水着姿のあたしと桜ちゃんがいる。

リングの横には、審査員である綴先生が椅子を逆に座ってダルそうにしている。

そして先生に話しかけられた零先輩は、今あたしのコーナー下の所に皆と一緒にいる。

 

(……あたしが負けたら、アリア先輩のランクが下がって、零先輩の戦妹(アミカ)に桜ちゃんがなる……!)

 

――あかりさん平常心です!落ち着いていけよ!ファイトですの……

あたしのコーナー下にいるはずの皆の声が、やけに遠く感じる。

緊張で震える体を、必死に抑える。

だめ、あたし。考えるな、集中しろ。この試験は――絶対に負けられないんだ!

 

「じゃあ、始めるぞぉ。えーっと、この対戦のランダム付加ルールはだなぁー……『ビル屋上戦』だとよ。『リング外に落ちたら転落と見なす』。よぉーし、()()()()()()()やれぇー!」

 

カァンッ。

 

ゴングの音が鳴り響いたと同時に、バッ!

先手必勝だと思って、あたしは思いっきり前に出る。

ブンッ。バッ。

そしてそのまま右ストレート、左アッパーと拳を突き出す。

けど桜ちゃんはそれを冷静に、確実に避けている。

この!と思って右フックを狙うけど、それも上体を反らすだけで躱され、がしっ。

あたしの脇の下と首もとを抱き込み、クランチの体制に入られた。

 

日本拳法(にっけん)に近い我流ですね。歩法は古流柔術にも似てる……では、ディフェンスは試験管に見せたので――」

(――ッ!?この娘、得点稼ぎのためにわざと避けて――!)

 

それに気付いた時にはクランチを解かれ、バッ!

左のジャブを数回見舞ってくる。

あたしはそれをなんとかガードしていたけど……

ゴッ!

左ばっかり気にしていた所為で、右のストレートをモロに受けてしまった。

 

「うっ!」

 

脳が揺れる感覚を感じながら、なんとか立っているけど……

 

「打たれ強いですね……じゃあ、それも利用させてもらいます!」

 

そう言って、桜ちゃんは左蹴りをしてくる。

狙いはミドル。防げる――

そう思った時、カクンッ。

桜ちゃんの足の軌道がいきなり変わり――ドカッ!

あたしの頭部にハイキックが入った。

先程よりも更に強い脳の揺れを感じ、倒れてしまった。

 

「くっ……うっ……!」

打撃術(だげきじゅつ)だけじゃなく……」

 

仰向けになって動けなくなったあたしの左腕を桜ちゃんが取り……

 

「――間接技(サブミッション)も披露します!」

 

両手両足で極める――鍵固め(キーロック)を使ってきた!

ギリギリとあたしの腕を極め、締め付けてくる。

い――痛い!痛い!

痛みの所為で、自然に涙が出てきてしまう。

 

「ぐっ……うう……!」

「――先輩。そろそろタップ(ギブアップ)して。私は『()()()()()()()』桜。これでランクも持ってる桜になる。先輩はその踏み台」

 

桜ちゃんが何か言ってるけど、あたしは痛みで何を言っているのか分からない。

 

(このランク考査は……あたしだけのものじゃない……!みんなのため……アリア先輩のため……)

 

――皆が応援してくれる声が聞こえる。

 

「あかり!持ちこたえろ!」

「間宮先輩!」

「あかりさん……!」

「あかりっ!」

 

そして……

 

「――頑張れ、あかりちゃん」

 

(――零先輩のためにも、頑張る役目なんだ!)

 

――sideあかりend――

 

 

 

 

 

――side零――

 

「――踏み台は踏み台の役目をちゃんと果たし……え?」

「ぐ……ぎぎ……!」

 

――おいおい、マジかよ……

あっ。(*´∀`)ノヤァ、零だ。ってこんなことしてる場合じゃないな。

つってもビックリしたな……まさか。

 

(自分より体格が良い相手に、腕極められながら持ち上げられるとは……!)

 

あの綴先生ですらタバコを落としてるぞ。ましてや担ぎ上げられている乾さんならなおさら驚いているだろう。

 

「えっ、なっ!?」

「――ヤァ!」

 

何が起こっているか分からない乾さんを、あかりちゃんはそのままリング内に叩きつけた。

不意打ちで叩きつけられた乾さんは痛みでロックを外してしまう。

あかりちゃんはその隙にリング端まで下がった。

 

「くっ……!よくも!」

 

だが乾はすぐに立ち上がり、あかりちゃんに追い討ちを掛けようと近付いた。

 

(あーあ。やらかしたな、乾さん。あかりちゃんはどっかのネクラ(キンジ)と一緒で――)

 

乾さんのダッシュの勢いを乗せた右ストレートが当たる――

ヒュッ。

 

「……え?」

 

前にあかりちゃんの姿が消える。

慌てて乾さんがあかりちゃんを探すも――もう遅い。

 

(――カウンターの方が得意なんだから)

 

「――燕帝舞流(えんていぶりゅう)!」

 

パルスをジャイロ回転によって意図的に使えるあかりちゃん――足の回転で一瞬だけ身体能力を底上げして目に見えない速度でジャンプし、相手が見失った時にもう一度ジャイロ回転で短距離型『鷹捲(たかまくり)』を仕掛ける。

本来なら武器や衣服を震動だけで破壊する鷹捲だが、短距離なのでジャイロ回転が不足し、身体能力を上げた打撃となる。

ドスンッと鈍い音を立てながら直撃した技は、乾さんを一撃で沈めた。

 

「あー……乾 桜。気絶による戦闘不能。よって勝者ぁ……間宮 あかり」

 

それを聞いたライカや志乃、麒麟(きりん)ちゃんやアリアは喜び――

フラッ。

 

「――よっと」

 

終わって気絶したあかりちゃんを、俺は倒れる前に抱き留めたのだった――

 

 

 

 

 

「――やったよやったよー!ランクDだよー!」

「おめでとうございますですのー!」

「途中まで負けると思ってヒヤヒヤしてたぜ」

「昇格は昇格だもんねー!」

 

あの後しばらくして、起きたあかりちゃんが無事Dランクを取れたということで皆で集まって食堂でご飯を食べている所だ。

 

「そういえばあかり。あれ一体なんだったのよ」

「あれって何ですか、アリア先輩?」

「あかりが最後にやったやつよ」

「あー……えっと……零先輩に教えてもらったんです。あたしも感覚だけでやったんで、詳しくはなんとも……」

「……零?」

 

アリアがこちらに説明を求めるような目線を送ってきたので、弁当を食べている箸を休める。

 

「あれは間宮一族の技である『鷹捲(たかまくり)』のショートバージョンだ。ジャイロ回転を少なめにして一撃を重くすることに特化した感じだ」

「……?何で零はその、『鷹捲(たかまくり)』ってやつを知ってるの?」

「あっ、そういえばそうっスよ。なんで零先輩が知っているんっスか?あれは夾竹桃逮捕の時に使っていたから、零先輩知らないはずっスよ?」

「あかりちゃんに聞いたんだよ。『間宮の技で他に使えるやつないの?あるなら俺に掛けてきてくれ』って。すぐに技の本質に気付かなかったら公開処刑になってたわ。同じ分のパルス当てて相殺したけど」

「零先輩、片手だけであたしと同じジャイロ回転したんですよ……」

 

あかりちゃんのゲンナリとした言葉に、今更だろと他のやつらが言った。なんか気に入らないんだが。

 

「――あっ……桜ちゃん」

 

そんな感じで喋っていると、あかりちゃんが何かに気付いた。

あかりちゃんが見ているを見ると、そこには架橋生(アクロス)の格好に戻った乾さんが、ざるそばの乗ったトレイを持ってこちらのテーブルに歩いてきた。

 

「……私もBランクになれたから及第点です」

 

カタッ、とトレイをテーブルに置き、空いていた俺の隣の席に座りながら、乾さんがそう言った。

……それと同時に、何故か気温がスッと下がった感じがするんだが。なんだ、風邪でも引いたか?

 

「でも、ひとつだけ分からないことがありました。何故私をリングの外へ投げなかったんですか?そちらの方がより効率的に勝てたのに……どうして?」

 

あー。要するにリングアウトにすれば良かったのでは?ってことか。

でもそれって愚問なんだよな。何故なら……

 

「……それは、『ビル屋上戦』っていうシュミレーションだったからだよ。落っこちたら桜ちゃん、死んじゃうんだもん」

「……?」

 

あかりちゃんの言葉に乾さんは首を傾げている。これ絶対に分かってないやつだな。

 

「アリア、武偵法9条」

「『武偵はいついかなる時でも人を殺害してはならない』、でしょ?あかりはそれを守ったのよ」

「――ッ!」

 

アリアの言葉に、乾さんは顔を赤くした。

恐らく、自分が点数稼ぎばかりしていたのを振り返ったんじゃないかな?

 

「……成る程、確かに私の完敗です。負けた理由にも納得しました。それと、あかり先輩」

 

そこで乾さんはくるりとあかりちゃんの方を向き、

 

「今まで失礼なことばかりして、申し訳ありませんでした!」

 

と、しっかり謝った。

なんだ、普通に良い子じゃないか。強気な発言も自分に発破をかけるような感じだったのだろう。

 

「ううん。もう過ぎたことだし、気にしなくていいよ」

「ありがとうございます……でも、零先輩に戦兄妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)を挑むのは、まだまだ先になりそうですね」

「ん?いつでも受けにきていいんだよ?」

「いえ。一回しか受けられないのですから、大事にしたいです。それに零先輩の試験は難落不動と聞いていますし」

「そっか、なら良いけど」

「ですので……」

 

と、乾さんはまたあかりちゃんの方を向く。

 

「あかり先輩!私を戦妹(アミカ)にしてください!」

 

ゴフッ!ケホッ!き、器官に水が入った。

 

「あかり先輩は私にないものを『持って』います!その下で学べば、きっと零先輩に近づけますから!」

「えっ。いやでも、あたしよりランクが高い子なんだし、他の人にすれば……」

「アハハハ!あ、あかりに戦妹(アミカ)!?は、腹痛いーアハハハ!」

「ラ、ライカお姉さまが壊れたのですの!しっかりなさってくださいまし!」

「あ、あかりさんの戦妹(アミカ)!?私の屍を越えてから言いなさい!」

 

ワイノワイノ、ギャーギャーと騒いでいる後輩達に対して。

 

「ああ、青春だのう」

「何でお爺ちゃんみたいなこと言ってるのよ、零」

 

と、軽い漫才みたいなことをする先輩達であった――




はいどうでしたでしょうか。
これから大学生なのでバイトとかしながらチマチマやっていきたいと思います。
それではごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――

「そういえばあかり。あれ一体なんだったのよ」
「あれって何ですか、アリア先輩?」
「あかりが最後にやったやつよ」
「あー……えっと……零先輩に教えてもらったんです。あたしも感覚だけでやったんで、詳しくはなんとも……」
「……零?」

アリアがこちらに説明を求めるような目線を送ってきたので、弁当を食べている箸を休め――
ドシャッ。

「――えっ!?ちょ、ちょっと零!いきなりどうしたのよ!」
「……誰だ……この弁当を用意したのは……」
「え……確か、ネリーだったと思う――」
「何か仕込んだだろあのヤロー!」トイレダッシュ

ネリーちゃんを自由にさせてはいけない。絶対に何かやらかしてくるから(シェイ談)


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57話~ツンツン頭~

じ……時間が欲しい……!

はいどうも、バイトで忙しい鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

……始めは週四三時間で頼んだはずなのに、何故か週5の5時間になってます。なんでや!まぁその分バイト代は良いんですが。

では、第57話、始まります。


「――お嬢様、こちらにコーヒーをお持ちいたしました」

「ええ、ありがとう」

「いえ」

「お嬢様方、コーヒーをお持ちいたしました」

「ありがとっ、キンジ君、零君♪」

「……ククッ。あなたの執事姿久しぶりに見たわ。これ写真に収めとこ」

「……温かいうちにお召し上がり下さい」

 

朝日が体を照らす中、執事姿の少年二人と、メイド服を着た少女。

それに対して、3人の武偵服を着た少女達が、それぞれに違う反応を返す。

――(*´∀`)ノヤァ、零だ。今俺達はとあるカフェを借りて、執事とメイドの練習を行っている。

俺とキンジが執事服で、アリアがメイド服。理子・シェイ・ネリーが主人役として想定訓練……まぁ簡単に言うと、オママゴトをしている。

 

「――はい!これでしゅーりょー!」

「――はぁー。終わったわ……」

 

主人役の理子がパンッと手の平と手の平を打ち合わせると、イスに座ったアリアがぐてー、と両手を伸ばしながらテーブルに体を置いた。

先程までアリアなりに神経使って頑張っていたからなぁ……今は仕方ないけど、これを一週間程続けなければいけないんだぞ?

 

「アリアんもキーくんもレイレイも!お疲れ様であります!」

「お前はどこぞのカエル軍曹だよ」

 

びしっ!といつもは理子流敬礼(両手で敬礼をするやつ)なのに、今回は右手だけで行い、左手はまっすぐ降ろしている。その内背中のリュックからスターフルーツとガンプラ出してきそうだ。

 

「クスクス。理子ちゃんはいつも元気で面白いね」

「おお!歌姫のシィちゃんから褒められた!これはSNSで自慢するしかないね!」

「騒がしいから静かにしてくれない?じゃないとその携帯切り落とすわよ?」

「ちょっ!?理不尽すぎますよネーちゃんの旦那ぁ!」

「男なのか女なのかハッキリさせなさいよそこは」

 

終わったと同時に女性群が会話に花を咲かせ始めた。あと、シェイのことを理子は『シィちゃん』と呼ぶことにしたらしい。元々の名前がシェイルなのでシェイ自体がアダ名なのに、理子はそれを嫌ったらしいな。『他の人が考えるようなアダ名は付けたくない!』って胸を張って言ってそうだ。

まぁ女性群が話し始めたので、こちらも男同士話そうか。

 

「よっ、キンジお疲れ」

「ああ、ホントだよ……」

 

キンジに話し掛けると、キンジはイスの背中部分に体を預けるようにして座っている。

ただ、普段からアリアにこき使われているからか、言うほど疲れた表情はしていない。

 

「流石、ドレイだな。執事服にも違和感ないし」

「うるせぇな。俺だって好きでやってる訳じゃねぇよ。大体、零だって執事服似合っているじゃねぇか」

「そうか?まぁ潜入捜査(スリップ)とかで着る機会があったからな」

 

キュッ、とネクタイを緩めながら会話する。

まぁ俺よりキンジの方が執事服似合っているけどな。黒髪だし。ネクラな目してるからどちらかというと不良執事みたいだけどな。

 

「――でもよ、零だって昔は黒髪だったじゃないか」

「何時までの時のことを話してるんだよ。もうかなり前じゃないか」

「それもそうだな。でも、あれから随分変わったよな、お前」

「ああ、色々あったんだよ」

 

そう話ながら、俺はキンジの方を向く――

ピタッ。

思わず、体が止まった。

 

(待て。何故俺はキンジの方を向こうと顔を動かした?それは本来できないはずだぞ?だって……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? )

 

目の前にいるキンジは、驚いたような表情をしている。

 

 

「――『海に出て 木枯らし帰る ところなし』ってな?」

 

先程までキンジの声が聞こえた所から、今度は陽気な声が聞こえ――

よっと、と言いながら、キンジの隣のイスに座った人物。

大柄で、髪が青く、ツンツン頭。

その男の名は――。

 

「よう零。久しぶり」

「――サイアか」

 

かつてのチームメイト――最近地下倉庫でジャンヌと一緒に相手した少年――サイアが、俺の反応にどこか憎めない笑顔を浮かべた。

 

「な――何でここにいるんだよ、サイア!」

「おー。あー、えっと……キンジつったか?おひさー」

「おひさじゃないわよ!」

「まぁまぁ、そう騒ぎなさんな。おふたりさん」

 

キンジが懐からベレッタを抜いて構え、サイアに気付いたアリアもガバメントを取り出すが……サイアは自然体でゆったりとしている。

それどころか、ふわぁとアクビをしだす始末だ。

 

「やめとけ二人とも。こいつは拳銃如きじゃひるまねぇよ」

「そうそう。俺を牽制するなら、水爆くらい用意しないと無駄だぞ~。まぁ牽制だけで終わるけどな」

 

俺の制止とサイアの言葉に、アリアとキンジは拳銃をしまった。

だが警戒は解いておらず、いつでも動けるように準備している。

 

「まったく、俺が何したっていうの」

「お前は一旦黙れ。そして息を止めろ……ああ間違えた。息を引き取れ」

「何故言い直した!それに余計悪化してるじゃねぇか!?」

「……あら?サイア、あなたいたの?」

「あ、サイア君だ~」

「おお!サイっち、チョリース!」

「何故そちらのお三方は今頃になって気付いているんですかねぇ!同席のおチビは気付いているのに!?」

「誰が身長も胸もチンチクリンなロリ体型よ!」

「そこまでは言ってねぇ!」

 

ギャイギャイワーワー。

サイアを中心に、朝から騒がしい。もう少し静かにしろよ。

 

(……でも、こういうところは流石だな)

 

話を誘導して、周りの殺気やら警戒をとく。そういったことが、サイアは昔から大の得意だ。

現に今もアリアは会話に乗せられているし、キンジもなんだこれ……と言いつつ警戒を解いている。

 

「……あっ、ところでサイア」

「ん?どうした零――」

 

そこで俺は大きく腕を振りかぶり――

 

「――じゃんけん!」

「ぽい――!」

 

俺が出したのは、チョキ。

サイアは――チョキ。

つまり、あいこだ。

 

「チッ。またあいこかよ……」

「ハハッ。まだまだだな」

「サイア君の引き分け記録、また更新していくね……」

「それだけしか取り柄がないんだから、続かせてあげれば?」

「……ネリーの毒舌も相変わらずのようだな」

 

ガタッ。と疲れた表情でサイアは座り直した。登場時は笑みを浮かべていたのに、今は疲労困憊といった様子だ。

 

「……それよりサイア。なんだよその格好は」

 

先程から気になっていたんだが……コイツが来ているのは――制服だ。東京武偵高(ウチ)の。

随分デカメに作られているが、190あるコイツだと普通に着こなしている。

……が、今はコイツが似合っているいないは関係ない。

 

「ああ。多分察していると思うけど、俺も転校することになったから」

「……『リバースランカー』の方は?」

「それはまだ健在。イ・ウーとはもう関わらないけどな。負けたわけじゃないし、そもそも俺のスタイルじゃ引き分けしか狙えないからな。俺が転校してきたのは、お前とネリーの監視役ってこと」

「監視役……大方、二人も『リバースランカー』がいなくなって、しかも同じ高校にいるから、反乱にくる可能性を考えてっていうところね」

「さあ?そこら辺はよく知らね」

「サイア君、昔からそうだったけど、もう少し考えて行動しようよ」

 

俺・シェイ・ネリー・サイア。内二人が現在抜けている『GOW』のメンバーで久しぶりに喋っていると……

クイクイ。

と、いつのまにかアリアが側にいて、俺の袖を引っ張った。

 

「零。いつもこんな感じだったの?」

「いつもって?」

「その、『GOW』っていうチームにいた時」

「それ、理子も知りたい!教えて教えて!」

「ああ……」

 

聞かれたことがことなので、俺は現在も『GOW』に所属しているシェイとサイアを見る。

するとシェイは目を伏せ、サイアはニコリと笑った。

……なるほどね。少しなら良いってところか。

『GOW』の時に使っていた表情暗号(フェイシング)という独特の暗号で確認をした俺はアリアと理子に向き直る。

キンジも気になっていたのか、横目だけでチラリと見ているな。

 

「そうだな。大体はこんな感じだった」

「零君がリーダーで、サイア君が後衛(バック)。ネリーちゃんが前衛(フロント)で私が衛生(メディック)担当。残り二人いるんだけど……まぁ今は関係ないね」

「日常生活だったら……サイアがお調子者でいじられ役。私が毒舌で、零が両方。シェイがフォローするって感じだったわ」

「もう少し俺に優しくしてくれませんかねぇ、皆様……」

「仕方無いよ、サイア君だもの」

「シェイさんそれフォローじゃなくて槍を投げてる(スローしてる)っこと分かってます!?」

「うるさいわよサイア。あんまり喚き散らさないで」

「そっちこそうるさいわ!だいたいネリーだって、昔はあんなにな――」

「鎌――」

 

サイアが何か言おうとした途端、ガシッ。

いつの間にか立ち上がっていたネリーが右足の膝裏で、座っているサイアの首もとを挟んだ。

そしてネリーはそのまま後ろに倒れ込み、サイアも足に挟まれている以上一緒に倒れ――

 

「――刈」

 

ネリーが倒れきる前に左足の膝をサイアの脛椎(けいつい)に立て、倒れた勢い、つまりサイアの全体重が首へと集中した。

 

「ゴフッ!?」

 

両足で挟み込むような形になったため、サイアの体が首を中心にネリーの左膝の上で一回転した。

……相変わらずエグい技だな。普通首折れて即死コースだぞ。ホント、『技神』の名に恥じないことをやってのけるな……あ、今は『疾風』だったか。

 

「カウント!ワンー、ツー、スリー!勝者!5秒鎌刈(かまがり)➡体固めで、ネリー・リチャード!」

 

何故か理子がプロレスのレフェリーみたいに地面を3回叩いてネリーの右腕をつかんで上げている。ネリーもネリーでサイアの肩を押さえていたし。アリアとキンジがかなり心配しているぞ。

 

「大丈夫だぞアリアにキンジ。こんなこと日常茶飯事だったからな」

「こんなことが日常茶飯事だったのか!?」

「ていうか大丈夫なのソイツ!?明らかに首をやってたけど!?」

「大丈夫だ、3分くらいすれば復活する」

「カップ麺か何かかよ……」

「やっぱり零のチームはチート揃いなのね……」

 

サイアの回復力にドン引きしているキンジとアリア。まあそうでもないと『守護神』なんてやってられないけどな。

しかし……本当に久し振りだな、この感じ。あと二人足りないけど、こうやって喋って、任務こなして、遊んで……ホント、あの時のように……

 

『――お兄ちゃん!』

 

(のぞみ)……!)

「「――零(君)」」

 

ポンッ。

――目の前から色が消えかけたと思ったら、ネリーとシェイが同時に肩を叩いた。

それに伴って、手のひらから鈍い痛みがしてくる。いつの間にか、爪を立てていたようだ。

 

「……悪いな、二人とも」

「別にいいけど。一々昔を思い出す度に自己嫌悪に襲われないでよ、めんどくさい」

「そうだよ。今は慌てず、だよ?」

 

二人の言葉に、俺は幾分か冷静になった。

 

「そうそう、ゆっくりしようぜ~」

「うわ!ホントに回復した!?」

 

急にヒョコッと体を起こして言ったサイアに、近くにいたキンジが驚いた。

 

「お前は黙ってろ。てかそのまま一生寝てろ」

「俺の扱いひどっ!ってそれより、零に言うことがあるんだよ」

「何だ?」

「武偵高の音楽室に行ってこい。待ち人がいるぜ」

「待ち人?」

「行けば分かるさ」

 

そうやってひらひらと手を振るサイア。早く行けってことか。

 

「あー、レイレイ行っちゃうのかー。じゃあ理子達もそろそろ……」

「――それなんだけど、理子ちゃん達は残ってて」

「ほぇ?何で?」

「いいからいいから♪」

 

席から立ち上がり帰ろうとした理子をシェイが止めた。

なんだ、何かあるのか?()って言ってるからアリアとキンジのことも指してるだろうし。

ということは、俺を抜いた状態でアリア達と話し合いたいってことになるな……なんだろう?

どういうことか分からないながらも、俺は席を外して武偵高の音楽室へと向かった――




どうでしたでしょうか?

時間が取れずに申し訳ありません。なんとかGW中に1~2話執筆したいと思います。

それではごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


――S頂!へ~んしゅ~ぶ!――

俺の制止とサイアの言葉に、アリアとキンジは拳銃をしまった。
だが警戒は解いておらず、いつでも動けるように準備している。

「まったく、俺が何したっていうの」
「お前は一旦黙れ。そして息を止めろ……ああ間違えた。息を引き取れ」
「何故言い直した!それに余計悪化してるじゃねぇか!?」
「……あら?サイア、あなたいたの?」
「あ、サイア君だ~」
「おお!サイっち、チョリース!」
「何故そちらのお三方は今頃になって気付いているんですかねぇ!同席のおチビは気付いているのに!?」
「……」


「……アレ?おーいアリアさん、今あなたのセリ――」
「グス……」
「え?」
「グス……ヒグッ……どうせアタシなんか……万年142㎝の小学生体型よ……うう……」
「えっ!?いや、ちょっと!なんで泣いてるの!?この台詞考えたのアリアさん本人でしたよね!?」
「あーあ。サイっち、アリアんのこと泣かした~」
「わーるいな、わーるいな。せーんせに言ってやろー♪」
「なに小学生みたいなノリを……いや、零さんにネリーさんや何故に右足を大きく上げているんですかいや待って今回俺わるくなギャアッ!?」


――言葉は正しく、注意して使いましょう!(N○K感)


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58話~銀氷の再来と理子の過去~

間に合わなかった……orz

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。皆様はGW、いかがお過ごしでしたでしょうか?
GW中に投稿するつもりでしたが……間に合いませんでした。全部バイトか就寝に当ててしまいました……本当に、申し訳ありませんでした。

では、第58話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。今俺はサイアに言われて、武偵高にある音楽室に向かっている。

 

(しかし……一体誰だ、俺を呼び出すなんて。下らないことならボコるぞ……サイアを)

 

戦兄妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)はほとんどの一年が受けに来て落ちたから可能性は低いし、先生や任務だったら職員室に呼ぶはず。

なら生徒くらいしかいないと思うが、サイアは転校生。しかも知り合いである俺達が知らなかったくらいだから、他の生徒と接触しているはずもない。

先程まで晴れていた天気に雲がかかり、雨が降りだしている中、考えながら歩いていると……ピアノを弾く音が聞こえてきた。

音楽室から聞こえてくるあたり、どうやら俺を呼び出した人物らしい。

……しかし、やたら上手いな。思わず聞き入れてしまいそうだ。

あまり音楽には聡くないが、この曲は知っている。

確か……『火刑台上のジャンヌ・ダルク』。

……。

…………。

 

(……ネタバレって、怖くね?)

 

音楽室についた俺は、扉の窓から――

()()()()()()()()()()()()()()少女――

先月のアドシアードの時に地下倉庫(ジャンクション)で戦った、ジャンヌ・ダルク30世を見た。

俺に気付いたのか、ジャンヌはピアノを止め……。

くいっ。とアゴを音楽室内へと動かした。

――来い(フォロー・ミー)ってことか?いいだろう。

ジャンヌに敵意がないことを察した俺は、ガラリラと扉を開けて音楽室へと入る。

 

「ジャンヌも、司法取引といったところか?」

「そういうことだ」

 

切れ長の碧眼で俺を見ながら、ジャンヌは口元でバカにするような笑みを作る。

 

「とはいえ、今の私は囚われの身も同然だ。取引条件の1つで、東京武偵高の生徒になることも強制されているのだからな。今の私はパリ武偵高からきた留学生、情報科(インフォルマ)2年のジャンヌだ」

 

女子にしては少し低めの声で、自分の状況をスラスラと述べていくジャンヌ。

……てか、同い年だったのか。てっきり年上かと思ったぞ。

銀色に輝く長い髪に、170センチメートルくらいある身長。キリッとした碧い瞳が、年齢以上の雰囲気を醸し出している。

 

「なるほどな、だから東京武偵高(ココ)の制服を着ているのか。サイアと一緒で」

「……あの男か。アイツとはもう一緒に任務をしたくないな」

 

サイアの名前を出した途端、ジャンヌがゲンナリとした表情を浮かべた。

……あのバカ、一体何をしでかしたんだよ。

まぁ大方、静かにしてろって言われたのにずっと喋っていたっていうところか。

うるさいサイアと、クールなジャンヌ。

なるほど、相性は最悪といったところだな。

 

「それより、俺を呼んだ理由は何だ?まさか、転校したことを伝えるためじゃないよな?」

「……その通りだ錐椰 零。お前に伝えたいことがある」

 

キィ。と座っていたイスから立ち上がったジャンヌは、トコトコ。

窓際に寄せてあった机に向かって歩き、ストンと座った。

……武偵高の女子制服のスカートが短いため、ジャンヌのスラッとした長い足が太ももの付け根部分まであらわになっている。

キンジでもないのに何故かヒヤリとした俺は、少しだけジャンヌから目を離した。

 

「話したいことは、峰理子のことだ」

 

少し天然な部分があるのか、ジャンヌは俺の視線に気付かずに坦々と言った。

理子のこと?イキナリ何を話すつもりなんだ、コイツ。

 

「今度お前達は、紅鳴館(こうめいかん)へ理子の十字架(ロザリオ)を盗みにいくのだろう?そこで少し話をしておこうと思ってな」

 

理子から話を聞いたのか、ジャンヌは……

どうやら、重要なことを話すつもりらしい。

詳しく聞こうと、視線をジャンヌに戻すと……。

ガラリラ。

音楽室の扉が開き。

 

「あの……使用しても、良いでしょうか?」

 

どうやら軽音部らしい一年生の女子が、申し訳なさそうに入ってきた。

今から部活動を始めるのだろう、その肩にはギターケースを背負っている。

ジャンヌにアイコンタクトで、『どうする?』と聴いてみると――。

パチッ。パチッ。

『バショ ヘンコウ イドウ』。と、マバタキ信号(ウィンキング)で素早く返してきた。

……マバタキ信号(ウィンキング)、使えるんかい。

 

 

 

 

 

流石に雨の中で話をするわけには行かず、俺はジャンヌを連れて、東京武偵高がある人工浮島(メガフロート)に唯一あるファミレス――『ロキシー』に来た。

席についたと同時に、若い女性店員さんにドリンクバー2つとパフェ一つ。後、()()()()を頼む。

そしてドリンクバーの機械へ向かおうとするが……ジャンヌが何故か空のグラスを持ったまま、席に座っている。

 

「錐椰。聞きたいことがある」

「何だ?」

「何故店員は、空のグラスだけを置いていったのだ?これでは何も飲めないではないか」

 

ジャンヌの発した言葉に、思わず引っくり返りそうになった。

聞けばジャンヌは、ドリンクバーを知らないという。マジかよ。

仕方がないのでジャンヌの手を取って(何故か手を掴んだときに慌てていた)、ドリンクバーの機械の前まで向かった。

 

「これがドリンクバーの機械。ここから飲みたい物のボタンを押して、自分の持っているグラスに入れて飲めるんだ。飲み放題だから、好きなだけな」

「好きなだけ……じゃあ、100リットル飲んでも問題ないということなのか?」

「理論的にはそうだが、そんなに飲むやつはいないし、できるわけないだろ」

「分かっている。冗談で言ったまでだ」

 

と、意外とお茶目なことを言ってくれたジャンヌ・ダルク30世さんは……。

俺が注文しておいたパフェのでかさに驚きつつ、メロンソーダを飲んでいる。

てか、さっきいれ忘れていたはずの氷がいつまにか入ってるし。意外と応用が効くんだな、ジャンヌの超能力(ステルス)

 

ふぇ?(で?)ふぉんふぁふぉふふぇふふぁふふぁ?(どんな用件なんだ?)

「……まずソレを飲み込んでから喋ってくれ。後、一体何なんだソレは」

「ンクッ……何って、『抹茶アイス・錐椰 零スペシャル』だけど。ここの抹茶アイス旨いから頻繁に通ってたら、いつの間にか店長がメニュー作ってくれていた」

 

ジャンヌの言葉に反応しつつ、俺は6人用ファミレスの()()()()()()()容器一杯入っている抹茶アイスを食べ進める。

しかし……ここの店長。やけにスイーツ系統の物は凝っているんだよな……。アリアもここのももまんは美味しいと言っていたし。

半分ほど食べ進み、舌鼓を打っていると……コホン。とジャンヌは咳をして。

 

「理子の話をしたいのだが、良いか?」

 

真面目な表情になりながら、こちらを見つめている。

流石に真面目な話中にアイスを食べるのもどうかと思うので、一端スプーンを置く。

 

「ああ」

「まず、理子は努力家だ。イ・ウーで最も貪欲に力を求め、勤勉に学んでいたのが――峰・理子・リュパン4世だ。理子は誰よりも有能な存在に変えたがっていた。悲痛なまで、一途に……な」

「……なるほど。イ・ウーという、天賦の才を神より授かった者達が集い、技術を伝え合い、どこまでも強くなる――いずれは、神の領域まで行くという所だからか?」

「……何故それを知っている」

「ジャンヌはサイアに依頼して組んだんだろう?てことは、俺の裏を知っているはずだと思うんだが?」

「……『リバースランカー』、『GOW』か」

「ご明察」

 

『GOW』という、俺がリーダーを勤めていたチームは最重要機密組織。特Ⅰ級国家機密の者や、公安0課のほんの一握りしか知ることを許されていない。

逆に言えば、俺らレベルになると、特Ⅰ級レベルなら知ることを許されているのだ。

 

「話を戻すが、何で理子は強くなろうとしたんだ?」

「――自由のためだ」

 

俺の質問にジャンヌは一つ、長い瞬きをする。

その発言には、理子を気の毒がるような感じがした。

 

「自由?」

「理子は少女の頃、監禁されて育ったのだ」

 

……。

 

「理子がいまだに小柄なのは、そのころロクな物を食べさせてもらえなかったからで……衣服に対して強いこだわりがあるのは、ボロ布しか身にまとう物がなかったからだ」

「――理子はリュパン家の者。怪盗とはいえ、高名な一族……いや。そういえば以前に、没落したと聞いたな」

「その通りだ。リュパン家は理子の両親の死後、没落したのだ。使用人たちは散り散りになり、財宝は盗まれた。最近、母親の形見の銃を理子は取り返したようだがな」

「……それで、理子はどうなったんだ?」

「その頃まだ幼かった理子は、親戚を名乗る者に『養子にとる』と騙され……フランスからルーマニアに渡った。そこで囚われ、監禁されたのだ。長い間な」

 

理子……あの表にだしている、明るい性格の下に。

そんな、暗い過去があったのか。

 

「――誰に、監禁されていたんだ?」

「『無原罪のブラド』――名前は知っているだろう?イ・ウーのNo.2だ。この前保健室で現れたコーカサスハクギンオオカミも、奴の下僕(しもべ)と見て、まず間違いない」

 

ジャンヌの発言に、俺はこの前現れたオオカミを思い出す。

確かに、かなり頭が良かったな。それに遊撃のような素振りでもあったし。

……ああ。今はハイマキという名前で、レキに飼われていたっけ。

 

「まあいい。とりあえずブラドについて少し教えてくれ。どうせ、人じゃないんだろ?」

「察しがいいな。そうだ、ブラドは人じゃない。強いていうなら……『オニ』だな」

 

ハッ。オオカミの後はオニか。次は閻魔様でも出てくるのかね?

 

「……ブラドは理子を拘束する事に異常に執着していてな。檻から自力で逃亡した理子を追って、イ・ウーに現れたのだ。理子はブラドと決闘したが、敗北した。ブラドは理子を檻に戻すつもりだったのだが、そこで成長著しかった理子に免じて――ある約束をした」

「約束?」

「『理子が初代リュパンを超える存在にまで成長し、その成長を証明できれば、もう手出しはしない』と」

「……だから、理子はアリアに執着していたのか」

 

初代リュパンと、アリアの先祖であるシャーロック・ホームズは、100年前に引き分けていた。

つまり、理子はその曾孫であるアリアを倒すことで、初代リュパンを越えたと証明しようとしたのだろう。

 

「ブラド自体のことだが……口で話しても分かりずらい。奴の姿を絵で描いてやろう」

 

というと、ジャンヌは胸ポケットから縁なしメガネを取りだし、続けて学校指定の黒鞄からノートとサインペンを取り出す。

そして、キュキュッ。と何かを描き出した。

 

「いいか錐椰。奴と当たった時は、お前でも撤退を前提に考えておけ。私の3台前の双子のジャンヌ・ダルク達と初代リュパンが組んで戦ったことがあるが……引き分けたのだ。それはブラドがただ強いだけじゃない。どれだけ急所を突いても、死ななかったという。ヤツは死なないのだ」

 

そうやって話ながらも、ジャンヌは――

キュキュッ。と、ナニカを描いている。

 

「私も直接見た訳ではないが、ヤツが敗れたのは――イ・ウーのリーダーと戦った時だけだ。その後、イ・ウーで聞いた情報だが……ブラドを倒すには、全身4箇所にある弱点を同時に破壊しなければならなかったらしい」

 

意外とメガネが似合っているジャンヌは――。

()()()を、描いている。

 

「4箇所の弱点のうち、3箇所までは判明している。ここと、ここと、ここだ……ヤツは昔、ヴァチカンから送り込まれた聖騎士(パラディン)に秘術をかけられて、自分の弱点に一生落ちない『目』の紋様をつけられてしまったのだ。よし。だいぶ描けたぞ」

 

最後に黒い点のような物をグリグリと描いたジャンヌは――。

ピラッ。とこちらに描いた物を見せてくれた。

……はっきり言ってしまうと。

 

「ジャンヌ……絵心無いんだな」

 

そう。ただピーマンに触手のような物がついているようにしか見えない、三歳児のお絵描きレベルの者だったのだ。

 

「なっ……!し、失礼なっ!ブラドはこういうヤツなのだ!これはちゃんと似ているっ。取っておけ!」

 

バンッ。と音がなるくらいにその絵を俺の胸に押し付けてきたジャンヌは、ムスッ。

如何にも不満げな顔で、メロンソーダの入ったグラスのストローに口をつけている。

まあ、ジャンヌなりに忠告してくれたものだ。有り難く貰っとくか。

と考え直しながら抹茶アイスを食べ終わり、レシートを持って店を出ることにした。

 

「ありがとなジャンヌ。後はそのパフェでも食べながらゆっくりしておいてくれ」

「……ああ。分かった」

「おう。じゃあな……と、その前に2つ。聞きたいことと、言いたいことがある」

「何だ?」

 

根が真面目なのだろう、ジャンヌはムスッとしながらも律儀に返してくれる。

 

「一つ。ジャンヌは、理子のことをどう思ってる?」

「……さっきも言った通り、理子は勤勉家で努力家だ。そして、私は彼女のことを好ましく思っている。親友と言っても差し支えないくらいにな」

 

そうやって、理子のことを言うジャンヌの表情は……どこか、誇らしげな物を感じる。

本当に、仲が良さそうだな。

 

「そっか。ならいい……2つ目」

 

そこでビシッ、とジャンヌを指差し。

 

「――死なないヤツは、俺の絶好のカモなんだよ。覚えておきな」

 

ジャンヌにそう言って、俺は『ロキシー』を後にしたのだった――




はい、どうでしたでしょうか?

そういえば、検索方法に、『最終更新日時(新しい順)』以外に色々あったんですね……一年以上経っているのに初めて知りました。
それで、少し興味が湧きまして……自分の作品がどのくらいの物なんだろうと思って調べてしまいました。

そしたらなんと……『緋弾のアリア』内にて、この作品が『通算UA数(多い順)』が12番目だったんです!
しかも、それより多かった作品は、皆様が一度は閲覧されたことがあるかと思われる、有名な作品ばかり。

これもすべて、皆様のおかげであります!ありがとうございます!
そしてこれからも、この作品のことをよろしくお願いいたします!

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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59話~作戦開始~

はいどうも、最近バイトに向かう途中に余所見運転していた車に引かれそうになった、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まず最初に

スターライトさんに評価9。
ロム専さんに評価9。
きら@さんに評価1。

を付けていただきました!ありがとうございます!

それでは、第59話、始まります。



「――遅い!何やってるのよ、あのバカ(理子)は!」

 

(*´∀`)ノヤァ、零だ。今日は6月13日。『大泥棒大作戦』開始の日だ。そのため今、俺・アリア・キンジは、朝早くに待ち合わせとしていたモノレールの駅で、理子を待っている。

が……待てど暮らせど、来ない。

淡いピンクのシフォンワンピースを着ているアリアが、イライラし出してガバを抜きそうになるくらいに。

 

(理子のヤツ。今日もアニメとか漫画とかで遅れた、なんて言うつもりなんじゃないだろうな……?)

 

そんなことを思いながら、イラつき過ぎてキンジに八つ当たりしだしたアリアを止めていると。

 

「キーくん、アリア、レイレイ~、ちょりーっす!」

 

背後から理子の声がした。

まったく。ようやく来たか。

 

「おい理子、遅――」

 

さっきまでアリアに理不尽に八つ当たりされていたキンジの不機嫌そうな声を聞きながら、後ろを振り返ると――

 

(――なっ!?カ、()()!?)

 

時が静止した錯覚が起きた。

カナ……いや、違う。

あれは理子が変装したカナだ。声が理子だったし、背格好も違う。

俺が覚えているのは10歳の時までだが、そこからはキンジに詳細を聞いたことがある。確か、今のキンジとほぼ同じだと言っていたはずだ。

 

「……り、理子……なんで、その顔なんだよ!」

 

とそこで、我に帰ったのだろうと思われるキンジが、理子に問い詰めていた。

その顔には真剣そのもの――その中に、少しの安堵が垣間見えていた。

多分だがキンジは、『ニセモノで良かった』と思っているだろう。

だが、それは俺もだ。もし本物のカナだったら……キンジは金縛りにかかったように、しばらく動けないのだろうから。

本物のカナは――周囲の時が止まるほどの美しい人で。

その柔和そうな、長いまつげの目は――視線そのものに引力をもち、男も女も無関係に人の心を虜にした。

優しげな笑みを形作るその唇は、どんな荒れた心も穏やかに変える――魔法のかかった薔薇の花びら。

キンジ曰く――『神々(こうごう)しくて、崇高(すうこう)な存在』なのだ、カナは。

 

「くふっ。理子、ブラドに顔が割れちゃってるからさぁ。防犯カメラに映って、ブラドが帰って来ちゃったりしたらヤバイでしょ?だから変装したの」

「だったら他の顔になれ!なんで……よりによってカナなんだ!」

 

武偵高では『ネクラ』とか『昼行灯』とまで言われるキンジが、珍しく感情を隠しきれていない。

普段とは違うキンジの様子に、アリアはカメリアの瞳を真ん丸にして驚いている。

 

「カナちゃんが理子の知ってる世界一の美人だから。それにカナちゃんはキーくんの大切な人だもんね。理子、キーくんの好きな人のお顔で応援しようと思ったの。怒った?」

「……いちいち……ガキの悪戯(いたずら)に腹を立てるほど俺もガキじゃない。行くぞ」

「心の奥では喜んでいるくせにぃ」

 

理子に言われたキンジは何も答えず、自動改札へと向かう。

 

「れ、零?何かキンジの様子がおかしいんだけど。誰なのよ、理子が変装してきたの」

 

キンジと理子のやり取りをポカーンと見ていたアリアがハッとした表情になると、俺の所によってきた。

だが、俺もどう説明すればいいのか、検討もつかない。なので俺は。

 

「あれは……キンジの大切な人だ。そして、俺の知り合いでもある」

 

差し障りのないところだけを話して、改札口へと向かうしかなかった。

だからなのだろうか。

――アリアが俺の背中に、何か聞きたそうな目線を送っていることに、気付かなかった。

 

 

 

 

 

横浜へ向かう京浜東北線の中で、理子はカナの顔のまま、キンジにずっと喋りかけていた。

キンジは冷たい反応ながらも――カナの変装している理子の表情を見て懐かしく感じたのか――「まあな」とか、「そうかよ」とか受け答えしていた。

それを見ていた俺も、懐かしく感じている。

まだ小さかったころ、俺とキンジで戦闘訓練(当初の俺は、実力を隠していた)を終えた後、カナと良く喋っていた。

キンジが目を輝かしてカナに喋りかけ、カナがそれを聖母のような笑みを浮かべてキンジの頭を撫でる――そんな光景が、日常だった。

 

「――おっと、そろそろだよレイレイ!今の内に、()()()()()?」

 

――と、先程までキンジと喋っていた理子が、急にこちらを見てそう言った。

そろそろ……ってことは、もうすぐ降りるってことだな。

理子に分かったと返事して立ち上がり、両手を広げた。

 

錐椰(きりや) (れい)の名の下に』

『髪の色を黒。瞳の色を茶色に』

 

詠唱とともに少しだけ視界が白く染まり――フッと元に戻る。

そして武偵手帳を取りだし、武偵手帳についている小さな鏡を見る。

――そこには、髪・瞳共に紅色(あかいろ)である普段の俺ではなく。

黒い髪に茶色の瞳をした、如何にも純日本人の外見になっている俺が映っていた。

 

「へぇ~。レイレイって、子供の時はそんな感じだったんだねぇ」

「あんまり近付くな。後、今の俺は東京武偵高2年の錐椰 零じゃなくて、神奈川武偵高2年の桐ヶ崎(きりがさき) 蓮斗(れんと)だから。間違えるなよ?」

 

――さて。何故俺がこんなことをしてるのかというと……単純に変装しているだけだ。

今回、表面上はあくまで任務。それも難易度が低い方の。

そんな低いやつなのに、アリアという名の知れたSランク武偵に、更に『Sランク内最強』である『紅電(こうでん)』が一緒だと依頼主(クライアント)が知ったらどうなるか。

身近な人物を例に出すと、『たまたま入ったファミレスで店員にオーダーを頼もうと思ったら、その店員がシェイだった』ってことになる。

つまり、まず驚き、そして何かがあると勘ぐられる。そうなると、非常にやりにくくなる。

だから『紅電』の特徴たる所以の、紅色の目と髪を変える。ついでに名前も以前使っていた偽名にしておく。

さらに、神奈川武偵高の方にも少しハッキングをかけて、『桐ヶ崎 蓮斗』の偽プロフィールを創っておいた。これでまず、バレることはない。

 

「――零の今のカッコ、昔の零をそのままおっきくしたみたいな感じね」

 

俺の隣の席に座っていたアリアが、覗きこむようにして俺を見ている。

その表情にはありありと、『懐かしい』という感情が浮き彫りになっていた。

 

「まぁ、あのまま成長していたら、今はこの状態になってただろうな」

「へぇ~……ねぇレイレイ!何でレイレイは、髪と瞳が(あか)く――」

「おい、ついたぞ」

 

理子が興味津々に何かを聞こうとした時、キンジが窓を見ながらそう言った。

つられて窓を見ると、確かに横浜についている。

それを見た理子は俺から離れて、ピョンッと席から立ち上がり。

 

「じゃあ皆、いっくよー!ここからはタクシーで行くからねー!」

 

トテテテ。と、一足先に降りていった。

……相変わらず、忙しいやつだな。もう少し落ち着けよ。

とはいえ理子を一人にさせる訳にもいかないので俺達もモノレールから降りて、タクシー乗り場に向かう。

そしてタクシーに乗り込み、横浜郊外にある、紅鳴館(こうめいかん)に向かう。

タクシーに乗っている最中、何故かアリアは俺の方をチラチラと見ながら落ち着き無さそうにしていたが……紅鳴館についた途端、不安そうな表情へと変わった。

昼なのに薄暗い、鬱蒼(うつそう)とした森の奥にあったその館は……

 

「の、呪いの館……ってカンジね……」

 

と呟くアリアの表現が当てはまりすぎる、ホラー・ゲームにでもでてきそうな、(あや)しーい洋館だったのだ。

こういった雰囲気が大のニガテであるアリアが。ぎゅっ。

俺の制服の裾を握って、後ろに隠れた。

 

「初めまして。正午からで面会のご予定をいただいております者です。本日よりこちらで家事のお手伝いをさせていただく、ハウスキーパー3名を連れて参りました」

 

と言う理子がちょっと引きつった顔で挨拶している『管理人』の姿を見て……。

俺も、思いっきり不安になった。

 

(おい……この潜入作戦、いきなり失敗じゃないのか?)

 

と俺が何故そう思うのかというと。

門の前で執事とメイドのバイトを出迎えた『管理人』が――。

 

「い、いやー。意外なことになりましたねぇー……あははー……」

 

と苦笑いする、武偵高のイケメン非常勤講師である、小夜鳴(さよなき)先生だったからだ。

 

 

 

 

 

 

「――いやー。武偵高の生徒さんがバイトですかぁ。まぁ正直な話、難しい仕事でも無いので誰でもいいといえばいいんですが……ははっ。ちょっと、気恥ずかしいですね」

 

館のホールに入った俺達(アリアがホールの物騒な装飾品を見て怯えまくってた)は、小夜鳴先生に案内されたソファーに腰かけて話し始めた。

 

「小夜鳴先生、こんな大きなお屋敷に住んでたんですね。ビックリしましたよ」

「いやー、私の家じゃないんですけどね。私はここの研究施設を借りることが時々ありまして、いつの間にか管理人のような立場になってしまっていたんです。ただ……私はすぐ研究に没頭してしまう癖がありますからね。その間に不審者に入られたりしたら、あとでトラブルになっちゃいますからね……むしろ、ハウスキーパーさんが武偵なのは良いことかもしれませんね」

 

キンジの発言に律儀に答えた小夜鳴先生はどうやら……。

そのトラブルを起こす予定である不審者こと俺達を、予定どうり雇ってくれるらしい。

 

「ですが……遠山君に神崎さんは私の生徒であるため知り合いではありますが、そちらの君はどちらの方なんでしょうか?」

「……ああ。申し遅れました。僕は神奈川武偵高2年、強襲科(アサルト)Aランク、桐ヶ崎 蓮斗といいます。こちらにいるキンジとは家が近所であり、アリアとは依頼(クエスト)中に共に行動することがあったので、旧知の仲です。今回僕は潜入捜査の練習という形式でハウスキーパーをやることになりました。よろしくお願いいたします」

 

小夜鳴先生が俺を見て不思議そうにしていたので、俺はもともと考えていた自分のプロフィールをスラスラと述べていく。

ここで大事なのは、如何に相手に信用してもらえるかということと、仲間のボロを未然に防げるかだ。

前者は少し準備すればいいだけだが、後者はついいつもの癖で間違えられてしまい、矛盾が生ずることがある。

だから、偽プロフィールの中に、あえてある程度の本当のことを話す。実際にキンジとは近所だったし、アリアとは何度も依頼をこなしてきた。

こうすることで、本人達もいつも通りに接することができる。流石に名前は変えなければいかないが、そこは武偵なので大丈夫なはずだろう。

 

「そうでしたか。旧知の仲なら、二人共とも気兼ねなく行動ができますね」

「はい。それと……小夜鳴先生、でよろしいですか?その腕に巻いている包帯はどうしたのですか?」

 

あくまで今の俺は小夜鳴先生のことを知らないので、名前を確認しながら疑問をぶつける。

今の小夜鳴先生は、何故か腕に包帯を巻いていたのだ。

最後に小夜鳴先生と会ったのは、保健室に狼が出現した時。その時は包帯をつけていなかったし、狼が襲ったわけでもないので腕を怪我することはなかったはずなのだが……。

 

「ああ、これですか?お恥ずかしながら、うっかり階段で転んでしまいましてね。その時に腕を出してしまったもので」

 

アハハ。と苦笑いをしながら、包帯をしていないほうで後ろ頭を掻いている小夜鳴先生。

 

「そうですか、それはお気の毒ですね……それにしても、まさか偶然、学校の先生と生徒だったなんて。ご主人様がお戻りになられたら、ちょっとした話の種になりますね。まあ、この三人の契約期間中にお戻りになられれば……の話ですが」

 

本当に想定外だったらしい、派遣会社の人間を装う理子が少し困惑ぎみながらも、さりげなく館の主人・ブラドが潜入中に戻ってくるかどうか確認している。

 

「いや、()()()()()()()()()()()()()()。しばらく、帰ってこないみたいなんです」

 

……ッチ。帰ってこないのか。帰ってくれば、俺が特大サービスで『お☆も☆て☆な☆し』してやろうと思ってたのに。

 

「ご主人は――お忙しい方なのですか?」

 

理子が、カナの顔で小夜鳴先生に訪ねる。

 

「それが実は、お恥ずかしながら……詳しくは知らないんです。私と彼はとても親密なのですが……直接話したことが無いものでして」

 

と苦笑いしながら語った小夜鳴先生は、なんだか不思議なことを言い出した。

親密だが、話したこともない?

小夜鳴先生は研究熱心でも有名だ。メールのやり取りとかで知り合ったとかではないのだろう。

少し引っ掛かりを感じていた俺だったが、小夜鳴先生はホールにあった時計を見てソファーから立ち上がり。

 

「申し訳ないんですが、私は今から研究施設に戻ります。仕事については前のハウスキーパーさんたちがメモを台所に残していってあるので、適当にやっちゃってください。暇になったらビリヤードとかも遊戯室にあるので遊んでくださっても構いません。夕食の時間になったら教えてくださいねー」

 

なんて言いつつ……コツコツコツ……と、螺旋階段を降りて……パタン。

地下にある研究施設に閉じ籠ってしまった。

あまりにも機敏な動きだったため、俺達四人はしばらく固まっていたが――。

 

「じゃ、じゃあ理子は行くから、後はよろしくね」

 

と言って帰った理子で我に返り。

 

「とりあえず……着替えるか」

「そうだな」

「そうね」

 

なんとも締まらない感じで、『大泥棒大作戦』が始まったのであった――。




はい、どうでしたでしょうか。

ここで皆様に一つ、お願いがあります!

実は、この章が終わった後、閑話を挟もうと思っております。そこで一つ、皆様にアンケートをしたいと思っております。
詳しくは活動報告にて、確認していただけるとありがたいです。初めての人でも大歓迎です。

期限は第三章が終わるまでなので、よろしくお願いいたします。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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60話~雷と異変~?

はいどうも。幼稚園児と思われる女の子が笑顔で、『血祭り~♪』といって親が『お祭りでしょ~?』と笑っていたことに軽くドン引きした、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まず最初に。

たけぞうさんに評価6。

風邪ひきさんに評価8。

太刀風の二刀流さんに評価10!

を頂きました!ありがとうございます!
また、きら@さんも評価1→4にして頂きました!ありがとうございます!

そして、アンケートを活動報告にて行っていますので、是非ご参加をお願いいたします!

それでは、第60話、始まります。



(*´∀`)ノヤァ、零だ。『大泥棒大作戦』から数日間たったが、いろんなことがあった。

アリアがメイド服の格好で鏡の前でポーズとってる所を目撃したり(見た瞬間直ぐにそっ閉じした)、キンジが骨の髄まで沁みている執事(ドレイ)スキルをいかんなく発揮したり。

そんな中でも着々と仕事をこなしながら――紅鳴館(こうめいかん)の状況を調べていった。

事前に理子が調査してくれていた防犯カメラの視界を避けつつ、館内にある防犯設備や小夜鳴先生の行動パターンを観察していた。

 

(……防犯カメラの量が少なければ、小夜鳴先生の行動パターンを見ずとも能力を使えるんだけどなぁ)

 

思わず溜め息を吐きつつ、自分の部屋として割り当てられている部屋のベッドに入る。

現在の時刻は10時半過ぎ。今日は深夜2時から理子との定期連絡をする予定があるから、今から少し仮眠をとるつもりだ。

大粒の雨が降り、ゴロゴロ……。と遠雷の音も聞こえる中、意識が薄くなっていく――

コン、コンッ。

前に、部屋の扉からノック音が聞こえてきた。

誰だ……?こんな夜中に。

眠ろうとしたために頭が回らず、見当がつかないまま扉を開けようとすると……。

ピカピカッ、ガガーン!

と、先程の遠雷よりも遥かに近いと思われる場所に雷が落ちた。

 

『きゃっ!?』

 

それと同時に、ドテーン!

扉の向こうから可愛らしい悲鳴と、何かが倒れこむような音が聞こえてきた。

それで扉の前に立つ――今は座り込んでいるようだが――人物が誰か、そして何をしに来たのかが分かってしまった俺は、ガチャッ。

 

「ほら、入れよ――アリア」

 

廊下に座り込んでいる、薄いピンク色のネグリジェ姿である少女――アリアへと手を差し出した。

いつもはキリッとしているツリ目が、何かに怯えるように不安を帯びている。

体は不自然に強張っており、持っている枕を両腕で抱き締めていた。

 

「れ、零……あの、その……」

「みなまで言わなくていい。分かってるから」

 

強襲している時は鬼武偵と言われ、『双剣双銃(カドラ)のアリア』と二つ名がつくほど強いアリアだが……そんなアリアにでも、弱点はある。

その一つが、雷なのだ。

幼少の時から雷が鳴るとアリアはパニックを起こして誰かにくっつき、離れなくなってしまう。それが例え、就寝中であっても。

本人はなんとか堪えようとしたこともあったが、やはり本能には逆らえないらしく、今も続いている。

まぁ、何が言いたいのかというと……。

 

「――ご、ごめんね、零……」

「いいよこのくらい。それより深夜2時前まで体を休めるぞ」

「う、うん」

 

――いっしょに寝る、ということになるのだ。

用意されていたキングサイズのシングルベッドの中に、俺とアリアの二人がくっついて入っている。

まぁくっついているというよりは、アリアが俺の腕にしがみついている、と言った方が正しいか。

アリアがラッコのように俺の腕にしがみついているので、アリアの体温が直に伝わっている。

――まるでここにいるということを、俺に教えてくるみたいに。

 

「こうしていると、初めてアリアが雷でパニクった時を思い出すよ。近くにいた俺に抱き付こうと飛び込んできて、アリアの頭が俺の頭にダイレクト・アタックしてきたな」

「も、もう!いつの話をしているの?あれからアタシだって成長したんだから!」

 

アリアの雷の恐怖を和らげようと思い、少し軽口を叩く。

するとアリアは、ぷくぅ。

可愛らしい頬を赤らめながら膨らませて、俺を軽く睨んできた。

 

 

「どうだかな。現に今だって、俺の腕を掴んで離さないじゃないか」

「うぐ。そ、それは――きゃあ!」

 

――ガガーン!

光ってから一秒とかからずに、落雷の音が部屋に響き渡った。

完全に油断していたアリアが驚き、俺の腕をへし折りにきていると思えるくらいにしがみついている。

 

「うう~……」

 

目をギューと閉じており、体が萎縮しきっている。このままでは体を休めることなどできないだろう。

そう思った俺は、ギュッ。

アリアの頭を胸に抱き寄せて、頭を撫でた。

人間という生き物は、自分が信頼できる相手や好ましい相手、恋人などと一緒にいる時、幸せ物質なるものが発生するらしい。

それは人を安心させるもので、簡単に言えば、眠くなるのだ。

また、抱き寄せることで体を温めることができ、コチラも睡眠を促すことができる。

 

「大丈夫だ、雷はこない。だからお休み、アリア」

「……れ……ぃ……」

 

できるだけ穏やかな声で話しかけながら、アリアの頭を撫でる。

アリアはだんだんと目が閉じてきて――コクリ。

一回船をこいだ後、スゥスゥと規則正しい寝息をたてながら眠った。

これでもう大丈夫。後は深夜2時前に起こしてやるか。

胸に温かいものを感じながら、俺も意識を薄めていった――。

 

 

 

 

 

「――キンジ、理子、聞こえてるか?俺とアリアはOKだ」

『ああ、俺は大丈夫だ。理子、俺の方は聞こえているか』

『うっうー!ダブルおっけー!それにしても、アリアは何で――』

「それ以上追及するなら、それなりの覚悟をしておくことね」

「――そんじゃレイレイから中間報告よろ!」

 

現在の時刻は深夜2時。雷雲も無事遠ざかっていったところで、理子との定期連絡の時が来た。

起きた時間がギリギリだったため、アリアは未だに俺の部屋にいるが……理子が弄ろうとした時に携帯越しに理子に殺気を送るという離れ技をやってのけ、見事に本題へと話を戻した。すげぇな。

 

「……周囲の状況だが、やはり監視カメラの数が多い。俺自体が十字架(ロザリオ)の本体を確認する機会がない以上、監視カメラのないところから能力を使って盗るのは難しいだろう」

『むー、やっぱりかぁー。じゃあ次、アリアよろ!』

 

俺の情報が喜ばしいものではなかったからか、少し不満げにアリアに情報確認を促した。

俺の隣にいるため自分の携帯を使っていないアリアに携帯を渡し、携帯を挟むようにアリアと頭を並べる。

 

「……理子。あんたの十字架は、やはり地下の金庫にあるみたいよ。一度、小夜鳴(さよなき)先生が金庫に出入りするのを見たけど……青くてピアスみたいに小さい十字架よね?棚の上にあったわ」

『――そう、それだよアリア!』

『だが、地下にはいつも小夜鳴がいるから侵入しにくいぞ。どうする』

 

キンジが毛布でも被っているのだろう、ガサガサとノイズが混じりながら小声で囁いた。

 

『だからこそ、理子は三人チームに頼み込んだんだよ。超・古典的な方法だけど……「誘き出し(ルアー・アウト)」を使おう。レイレイは変わらず働きながら、周囲の状況の把握とバックアップに努めて。アリアとキーくんのどちらか先生と仲良くなれた方が先生を地下から連れ出して、その隙にもう片方が十字架をゲットするの。具体的なステップは……』

 

このように、潜入している俺達の情報を元に、理子がドロボーの作戦を修正していく、ということを繰り返していった――。

 

 

 

 

 

潜入10日目の夜――窓から、雲間に満月が見えている。

バカみたいに広く、豪華な晩餐会をできそうなくらいの食堂で、俺達は小夜鳴先生に夕食を出していた。

潜入捜査――この場合は捜査ではなく盗人だが――で最も重要なポイントは、如何に仕事を普通にこなすことができるかつきる。

 

「山形牛の炭火串焼き、今日は柚子胡椒(ゆずこしょう)添えです」

 

キンジがぱか、とドームみたいな銀のフタを開けて小夜鳴先生に見せる。

ちなみにこの料理はアリアが作ったことになっているが……お分かりだろう、実際は俺が作っている。

前に一度、俺が介入せずに理子とアリアだけで料理を作っていたが……何故か理子の髪の毛がアフロになるという珍事件が起きてしまったため、やむを得ずに俺が作ることになったのだ。

だが、俺も料理は作れるとはいえ、このような場所での食事は流石に作ったことがないので不安だったが……小夜鳴先生は実に簡単な料理しか注文してこなかった。

――串焼き肉。

なんと小夜鳴先生は毎晩、それでいいと言ったのだ。焼き方は表面を軽く炙る程度のレアで、香辛料にニンニクを使うなという注意のみ。

……一回、『食文化』というものについて小夜鳴先生に叩きこむ――教えようと思って、キンジとアリアに止められたことがあった。

まあそれはともかく、今キンジが右腕を骨折している小夜鳴先生の代わりに串から肉を抜いている。

後は食堂の片隅におとなしく突っ立って指示を待つだけ。これがバイトだったら楽なことこの上ないな。いや、一応依頼(クエスト)として扱われているけど、これ。

 

小夜鳴先生が選んできた古い洋モノのレコードが、ノイズ混じりの夜想曲(ノクターン)を奏でている。

 

Fii(フィー) Bucuros(ブッコロス)...」

 

と、月光に照らし出された庭のバラ垣を見て、気分良さそうに呟いた小夜鳴先生に――

 

Doamne(あらっ),te-ai vorbi limba romana(ルーマニア語ですか)...?“Fii Bucuros(すばらしい)”...?」

 

メイドアリアが赤ワインをグラスに注ぎながら、同じ外国語――ルーマニア語で喋った。

 

「驚きましたね。語学が得意なんですか?神崎さんは」

「むかしヨーロッパで武偵やってましたから、必要だったんです。先生こそどうして……ルーマニア語をご存じなんですか?」

「この舘の主人が、ルーマニアのご出身なんですよ。私達は、ルーマニア語でやりとりするんです」

 

と言った小夜鳴先生は、初めてアリアに興味を持ったような視線を送った。

 

「神崎さんは――何か国語、できるんですか?」

「えっと、17か国語、喋れます」

 

おっ、アリア。17か国語喋れるようになったのか。成長したな。

……ん、俺はどうなのかって?喋るだけなら全か国語喋られるぞ?読み書きだってある程度はできるし、分からなかった場合でも能力使って翻訳すればいいだけだし。

 

すばらしい(フィー・ブッコロス)!驚きですね。そしてピッタリ同じ数です」

「数?」

「ええ、あの庭のバラと」

「……あの……バラ?」

 

小夜鳴先生の視線を追って、アリアが窓の外のバラ垣を見る。

そこには大輪の、暗闇でも分かるほど鮮やかな赤バラがいくつも咲いていた。

 

「あれは私が品種改良した新種のバラで、ちょうど17種類のバラの長所を集めた優良種なんです。まだ名前だけが無かったんですが――『アリア』にしましょう」

 

深紅のバラにいきなり自分の名前を命名されたアリアは、目を丸くしている。

 

すばらしい(フィー・ブッコロス)。アリア。いい名前です。神崎さんのおかげで、しっくりくる名前を付けられた。嬉しいですよ(フィー・フエリチート)――アリア」

 

少しワインで酔ったのか一人でテンションを上げている小夜鳴先生は、ご満悦だ。

アリアはそんな小夜鳴にはその後、特に何も言わず――

メイドらしく、そばにちょこんと立って食事の時間が終わるのを待っていた。

……しかし、品種改良されたバラ、か。

 

「――くだらねぇ。何も分かってない」

「れぃ……蓮斗?」

 

ぼそりと呟いた俺に、名前を間違えそうになりながらもキンジがコチラを向く。

 

「……なんでもない。気にするな」

 

キンジにそう言いつつ、俺は小夜鳴先生が食事を終わらすまで待っていたのだった――。




はい、どうでしたでしょうか?

アンケートはまだまだおこなってますので、是非皆様のご協力をお願いいたします。

そしてなんと、お気に入り数が800を越えました!ありがとうございます!

では、私はこれから9時間バイトに逝ってきます(誤字にあらず)ので、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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61話~違和感~

はいどうも、前話だけでお気に入り登録30以上だったことにとても驚いている、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

前々からなんですけど、アリアの可愛い所や、シェイがメインの回を執筆すると、お気に入り登録者がいつもよりふえるんですよね……やはり可愛いは正義か。
また、

カタミさんに評価3。

夏明蒼さんに評価10!

を頂きました、ありがとうございます!
また、評価をして頂いた時にコメントを貰うと、凄く嬉しいです!ありがとうございます!

では、第61話、始まります。


「――理子、キンジ。マズいわ。掃除の時に調べたんだけど……地下倉庫のセキュリティが、事前調査の時より強化されてるの。気持ち悪いぐらいに厳重。物理的な鍵に加えて、磁気カードキー、指紋キー、声紋キー、網膜キー。室内も事前調査では赤外線だけってことになってたけど、今は感圧床まであるのよ」

『な……なんだそりゃ……』

 

(*´∀`)ノヤァ、零だ。今は深夜。作戦決行まで残り4日と迫り、理子との定期連絡を行っている。

……ちなみに、何故かアリアは雷が落ちたあの日以来、毎日俺の部屋にきて寝ている。現在も、俺の隣で電話している状態だ。

本人に聞いたところ、『い、いつ雷が来るか分からないから……』と、ゴニョゴニョ小声で呟いたためよく分からなかった。

 

「おいおい……米軍の機密書類だって、もう少し甘いセキュリティだぞ」

『どうする、理子。これじゃ、金庫の扉なんて開けられるはずがない』

 

本当にアリアが言った通りバカみたいなセキュリティに驚き、キンジが理子に問い掛ける。

 

『よし、そんじゃプランC21で行くかぁ。三人とも、なんにも心配要らないよ。どんな厳重に隠そうと、理子のものは理子のもの!絶対お持ち帰り!はうー!』

 

おい、今何故か鉈を持った理子が想像できたんだが。そのテンションもlevel5だからじゃないだろうな。

 

『んで、いま小夜鳴先生とはどっちの方が仲良しになれてるのかな?かなかな?』

『……アリアじゃないか?』

「ああ、俺もアリアだと思う」

「ええ、アタシ自身もそう思うわ」

『おお!正に三位一体みたいな感じになってるね!』

 

俺達三人の意見がまとまっていたことに、理子は更にテンションが上がっている。

……近所迷惑になってないだろうか、理子の部屋は。

 

『じゃあ、とりあえず先生を地下金庫から遠ざける役目はアリアで決まりね!どう?できそう?』

「……彼は研究熱心だわ。おびき出しても、すぐ研究室のある地下に戻りたがると思う」

『夜もいつも起きてるし……いつ寝てるのかまったく分からん。何の研究してるんだろうな』

「こないだちょっとお喋りしたとき聞いたけど……なんか、品種改良とか遺伝子工学とかって言ってたわ」

 

……そう言えば、この間の探偵科(インケスタ)で行われたっていう履修も小夜鳴先生が担当で、『遺伝子』について行われたって剛気が言ってたな。

他にも、バラの品種改良を行ったとかこの前言ってたし、アリアが得た情報に偽りはないだろう。

 

『キーくん、アリア。じゃあ時間で言えば、何分ぐらい先生を地下から遠ざけられそう?』

『アイツの普段の休憩時間の間隔から見て、まあ、10分ってとこだろうな』

『10分かぁー』

 

と言う理子の声は……少し、考え込んでいるようだった。

歴史的な大泥棒・リュパンの子孫にも、これは難題らしい。

まぁ簡単に言えば、米軍の機密書類を10分で奪い取れってことだしな。難しいことこのうえないだろう。

しかも、今回行うのは理子本人ではなく、通信越しのノーマルキンジだ。ヒステリアモードのキンジなら余裕だろうが、ノーマルキンジは少し手先が器用なだけだ。

 

『なんとか。15分がんばれないかなぁ。たとえばアリアが!』

「たとえばアタシが?」

『ムネ……は無いから、オシリ触らせたりして。くふっ

「バ、バカ!風穴!アンタじゃないんだから!」

『おおこわいこわい。まぁその辺は理子が考えとくよ。いざとなったらレイレイにもアシスト頼むから、そこら辺よっろしくー!りこりん、おちまーす!』

 

ぶつっ。

理子は最後に俺に言いながら、逃げ足早く電話を切っていった。

 

「……俺達も、もう寝るか」

『そうだな』

「そうね」

 

理子が通話を切ってしまった以上、特にすることがないので、明日に備えて寝ることにした。

くいっ。

携帯を充電器に刺し、アリアに上着の裾を引かれる感触を感じながらも、俺は意識を薄めていったのだった――。

 

 

 

 

 

そして日にちはたち――紅鳴館(こうめいかん)潜入、最終日。

今日が、理子の十字架(ロザリオ)を盗み返す日だ。

今アリアは小夜鳴先生を地下から呼び出し、『最終日なので品種改良された庭のバラを一緒に見てみたい』と言って時間を稼いでいる。

その間にキンジは遊戯室――地下金庫の真上にある部屋で、数少ない監視カメラが無い部屋――から、毎日コツコツと掘りつづけた穴を通って、地下金庫へと宙吊りになりながら十字架(ロザリオ)を盗もうとしているだろう。

 

「……まあ、俺は最後まで分からないんだけどな」

 

と、呟く俺の手には――塵取りとほうき。

近くにはモップや雑巾、掃除機等の掃除用具があり、掃除好きの人がいたら黙々と掃除するだろう広々としたホール。

簡単に言うと、単なる掃除中なのだ、俺は。

というのも、アリアが庭にいる以上、館内の監視カメラには俺とキンジの両方が映っているということになる。

それが、両方とも監視カメラに映っていなければ、不信に思われる。朝方だからまだ仕事中になるし。

そこで俺がわざと監視カメラのあるところでいつも通り掃除をすることで仕事をキチンと行っているというアピールをし、キンジは小休憩中ということにすればいい。

だが、これをするためには監視カメラに映る俺に不信な所があってはならない。よって、キンジ・アリア・バックアップの理子はインカムをつけているが、俺は装着していない。

 

(一応、携帯の着信で3回バイブしたら『成功』。それ以外が『トラブル発生』もしくは『失敗』ってことになってるが……まあ、今はアイツらに任せるしかないからな)

 

今俺がするべきことは、この広いホールを掃除することだ。

黙々とほうきをかけたり、掃除機をかけたり……。

 

(――そう言えば、ここはブラドの屋敷だったな……)

 

ふと思い、掃除をしている手を止める。

結局ブラドとの接触は無かったが、いつかブラドと闘う時がくるかもしれない。

その時に全くの情報がないのは、こちらにとっては不利になる。

俺が直接ブラドとやれれば問題ないが……どうせまた、『GOW』を雇っているだろう。残りの『GOW』メンバーは二人。

あの二人のことを考えれば、次に来る奴はもう分かりきっている。それを踏まえると、ブラドと直接やるのは俺じゃない。

 

(なら、今の内に少しでも情報を得て、キンジ達に教えといた方が良いな)

 

そう思った俺は掃除がてら、周囲の観察を行った。

まず今俺がいるホール。ここには獣の剥製や、尖った槍など、言い方が悪くなるが趣味が悪い。

パチリ。

目を瞑り、頭の中で考える。

 

(獣の剥製……コイツは関係なさそうだな)

 

それよりも気になっているのが、槍。これが何故か、妙に違和感を感じる。

槍……ブラド……ヴラド……槍……串刺し……。

 

――『強いていうなら――鬼だ』

 

(――なるほど、な。分かったぞ、ブラドの正体。確かにジャンヌが言っていた通りだな、予想通りなら)

 

ブラドの正体が分かったことで、ある程度の予想はつく。これで少しは対策しやすいはずだ。

 

(だが……何故、ブラドは小夜鳴先生と関係を持っている?俺の予想が正しければ、一般人の研究学者にすぎない小夜鳴先生と関係を持つことは不可能に近いはず)

 

ブラドの正体が分かったことで、更に一つ違和感を感じたことがあった。だがどんなに考えても、一向に答えがでない。

……少し、見方を変えてみよう。ブラドが小夜鳴先生と関係を持つ方々じゃなくて、小夜鳴先生がブラドと関係を持つ方法を考える。

小夜鳴先生は、研究学者。主に遺伝子工学や品種改良を研究している。

ならばここの大きな施設を借りているだけ?

――違う。そのためには一般人である小夜鳴先生には()()()()()()()()()

……もっと考えろ。今までの時間の中に、何かヒントがあるかもしれない。

 

(思い出せ――必要な事柄だけを)

 

 

――『理子は少女の頃、監禁されて育ったのだ』

――『……そうだよ。理子の両親は、もういない。十字架は、理子の5歳のお誕生日にくださった物なの。あれは理子の大切なもの。命の次に大切なものなの。でも……ブラドのヤツ。アイツはそれを分かってて、あれを理子から取り上げたんだ。それを、こんな警戒厳重な所に隠しやがって……ちくしょう……』

――『理子が初代リュパンを超える存在にまで成長し、その成長を証明できれば、もう手出しはしない』

――『それが実は、お恥ずかしながら……詳しくは知らないんです。私と彼はとても親密なのですが……直接話したことが無いものでして』

――『――理子、キンジ。マズいわ。掃除の時に調べたんだけど……地下倉庫のセキュリティが、事前調査の時より強化されてるの。気持ち悪いぐらいに厳重。物理的な鍵に加えて、磁気カードキー、指紋キー、声紋キー、網膜キー。室内も事前調査では赤外線だけってことになってたけど、今は感圧床まであるのよ』

 

 

――数少ない監視カメラが無い場所で、地下金庫の真上にある遊戯室――

 

 

「――まさか」

 

目を開け、驚く俺に。

――ブー、ブー、ブー。

携帯のバイブ音が3回鳴り、止まった。『成功』の合図だ。

 

「……」

 

成功を確認した俺は黙ったまま、雑巾を濡らして絞る用に水を入れたバケツを持って歩く。

各場所を回ったために少し濁った水に映る俺の顔は……ひどく険しいものだった――




はい、どうでしたでしょうか?

最近、自分の作品の1話を見直したのですが……まったくといっていいほど地の文使ってませんね。あまりにも今と違ってビックリしました。
文字数やら執筆の仕方が変わっていく自分ですが、これからもよろしくお願いいたします!

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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62話~ランドマークの屋上で

はいどうも、製作途中のプロフィールで零だけで文字数2000越えてどうしようと思っている、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まず最初に。

神崎遼哉さんに評価8。

シロカナタさんに評価9(コメント付)

を頂きました。ありがとうございます!


……さて、話を戻しますが、どうしましょう。こうなったらリクエスト頂いた物は番外編として違う部分に出そうかと思っている所です。
まだまだアンケートは行っておりますので、是非皆様活動報告のアンケートの方をよろしくお願いいたします。

では、第62話、始まります。


(*´∀`)ノヤァ、零だ。『大泥棒大作戦』は無事十字架(ロザリオ)を盗むことに成功し、俺達執事、メイド組も仕事を終了した……何故かキンジは憂鬱そうな表情していたが。

小夜鳴先生とはテキパキと挨拶だけ済ませ、タクシーを呼んで向かった先は――横浜駅に程近い、横浜ランドマークタワー。

ここの屋上で、理子の十字架(ロザリオ)の受け渡しを行うということになっている。

一階のエレベーターホールにあったガイドによれば、高度は296メートル。日本一高い高層ビルらしい。

『立入禁止!』と書いてある看板の横を通りすぎ、人気の無いヘリポートに上がると、周囲には少し段差のついた四つ角が見えた。フェンスはない。

 

「レイレーイ!」

 

とててててっ!

蜂蜜色の髪を風になびかせながら、例の改造制服を着た理子が駆け寄ってきて……ぼふっ。

俺の体にタックル気味に抱きついてきた。

 

「やっぱり三人に任せた理子の目に狂いはなかったよ!理子にできないことを平然とやってのける!そこにシビれるあこがれるゥ!」

「分かったから、さっさと離れろ」

 

大きな二重の目をキラキラさせながら胸元からこっちを見上げてくる理子を、肩を押して離れさせる。

なんか頭にいつもはつけていない、でっかい赤いリボンを増設してるし。麒麟(きりん)ちゃんを彷彿とさせるよ。流石は元戦姉妹(アミカ)

 

「零。さっさと十字架あげちゃって。なんかソイツが上機嫌だとムカつくわ」

「おーおーアリアんや。レイレイを取られてジェラシーですね?分かります」

「違うわよ!っていうか零!いつまで黒髪茶目なのよ!」

「あっ、ホントだ」

 

アリアに言われてようやく気がついた。そう言えばこのままでやってきたんだっけ。

軽く目を瞑り――自分の中でボタンを押すような感覚と共に――フッ。

俺の外見が、いつもの紅髪・紅目となった。まあ、俺からは見えないんだが。

そして、胸ポケットから、ここに来る前にキンジに渡された青い十字架を出し。

 

「ほら、理子。依頼内容の確認をしてくれ」

 

理子の顔の前にチャリ……とぶら下げた。

それを見た理子は、声にならない声を上げたかと思うと――首につけていた細いチェーンに、手品のような素早さで繋いでしまった。

 

「乙!乙!らん・らん・る――!」

 

理子は喜びのあまり両手で敬礼ポーズをするわ、両手をシャカシャカ振り回すわ、最高にハイってやつだ。

 

「理子。喜ぶのはそのくらいにして、約束は――ちゃんと守るのよ?」

 

腕組みをしたアリアが、こめかみをピクピクさせながら釘を刺す。

……相当イライラしていらっしゃるご様子が、一目で分かります。

理子は、

 

「アリアはほんっと、理子のこと分かってなぁーい。ねぇ、キーくぅーん」

 

何やら怪しげに笑って、キンジに手招きした。

キンジが訝しげに近付くと――理子は蜂蜜色の髪をカチューシャのように留める、大きなリボンを向けた。

 

「お礼はちゃんとあげちゃう。はい、プレゼントのリボンを解いて下さい」

 

何だ……?それを解いたら契約満了ってか?

理子の意味不明な動きにキンジがウンザリした顔で、しゅる。

理子のリボンをテキトーに解くと。

 

「くふっ!」

 

ガシッ。とキンジの後頭部を掴み。

――そのまま、自らの胸に押し当てた。

 

「……?――――ッ!」

何が起こったのか分からなかったキンジはきょとんとした顔だったが……その後ジタバタし始めた。

が、理子はそれでも押し当て続ける。

やがて、キンジが動かなくなったところを見て……ようやく解放した。

トタタッ……と、二、三歩後ろに歩いたキンジは……()()()()()表情だった。

 

「り……りりりりり理子おッ!?」

 

俺の横から、アリアが非常ベルのように叫んだ。

 

「な、なな、ななな何やってんのよいきなり!」

 

――と怒鳴るアリアに、理子はさっきまでのオフザケを何一つ返さず――

たたん、たたっ。

屋上のほとんど縁とも言える場所を回り込むように、華麗な側転を切った。

とんっ。

そして俺達の退路を塞ぐように、階下へ続く扉を背に立つ。

湿った海風に、その蜂蜜色の髪をざわつかせる理子は――

 

「ごめんねぇーキーくぅーん。キーくんがさっき言った通り、理子、()()()なのぉ――。この十字架さえ戻ってくれば、理子的には、もう欲しいカードは揃っちゃったんだぁ」

 

にぃ……と、ハイジャックの時と同じ目で、(わら)った。

……いつ、『悪い子』なんて言ったんだ?

 

「もう一度言おう――『悪い子だ、理子』。約束は全部ウソだった、って事だね。だけど……俺は理子を許すよ。女性のウソは、罪にならないものだからね」

 

でた、ヒスキン特有のキザな発言。

……まあそんなことより、隣にいる、正に怒り心頭といった表情のアリアをどうするかだな。

 

「ま、まあ……こうなるかもって、ちょっとそんなカンはしてたけどね!念のため防弾制服を着ておいて正解だったわ。零、サポートに回って。キンジはそこにいなさい」

「了解」

「仰せのままに」

「くふふっ。そう。それでいいんだよアリア。理子のシナリオにムダはないの。アリア達を使って十字架を取り戻して、そのまま三人を(たお)す――先に抜いてあげる、オルメス――ここは武偵高(シマ)の外、その方がやりやすいでしょ?」

 

理子は、右、左。

スカートの中から、名銃・ワルサーP99を二丁取り出した。

 

「へぇ、気が利くじゃない。これで正当防衛になるわ」

 

鏡像のように、アリアも、右、左。

その小さな手に不似合いな、白銀と金色のガバメントを取り出す。

 

「……へぇ、『紅電(こうでん)』の俺もまとめてねぇ……随分と嘗められたもんだな」

 

そう吐きつつ、俺もホルスターから、紅色のガバメントを取り出した。

 

「……くふっ。レイレイ相手は悔しいけど敵わないからねぇ。だから――呼ばせてもらったよ?『GOW』のメンバーを」

 

という理子の発言と共に、キィ……。

理子の後ろの扉が、ゆっくりと開かれた。

――前に『GOW』のメンバーが残り二人の内、次に誰が来るか分かるって言ったよな。あれの理由、今教えるぜ。

なぜなら――

テク、テク、テク……という足音が、()()

 

「――お久しぶりです。零さん」

「お元気そうでなによりです」

 

間を空けずに繋がれる、()()()()

 

「ああ、久し振りだな……B、G」

 

――その二人が、()()()()()、だ。

名前は、BとG。Bが男で、Gが女。身長はどちらも150程度。外見はとにかくうり二つで、両方とも橙色の髪をボブカット気味にしている。

瞳は空色で、違いを上げるなら、Gが左側面の髪に蒼深いヘアピンをつけているくらいだ。それぐらいしか、見分けがつかない。

 

「零……あいつらは、誰?」

 

二人がただ者ではないと直感で気づいたのだろう、アリアが臨戦体制のまま訪ねてくる。

 

「BとG。どこで生まれたのかも、本名すら誰にも解析できない奴等だ。本人達も名前を言わないから、Boy()Girl()ってことでBとGって呼んでる。一人一人だとSランクの中間くらいだが、二人の連携が完璧で、あいつらは『双神』と呼ばれている」

 

実際、BとGは連携してこそ力を発揮する。だからこそ、コイツらは二人でリバースランカーに当てられたんだ。

 

「まあ今は僕達よりも」

「理子さんの話を聞いた方が良いかと」

 

その言葉に、アリアは理子に向き直るが……俺はそのままだ。いつコイツらが仕掛けてくるか分からないからな。

 

「理子。風穴あける前に一つ教えなさい。なんでそんなモノがほしかったの。何となく分かるけど……ママの形見、ってだけの理由じゃあないわよね?」

 

アリアは理子が胸にさげた十字架を拳銃で指す。

理子は……ワルサーを口元に寄せて、笑った。

 

「――アリア。『繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)』って呼ばれたこと、ある?」

繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)……?」

「腐った肉と泥水しか与えられないで、狭い檻で暮らしたことある?ほらぁ。よく犬の悪質ブリーダーが、人気の犬種を()やしたいからって……檻に押し込めて虐待してるってニュースがあるじゃん。あれだよ、あれ。あれの人間版。想像してみなよ」

 

大仰な身ぶり手振りを交えて、理子は笑いながら語る。

早送りのように流れる雲の下、ランドマークタワーの屋上に何か異様なムードが漂う。

 

「何よ、何の話……?」

 

理子を許すよ制するように、アリアが両手を前に出す。

――それを合図にしたかのように。

理子は突如、悪魔のような表情になった。

それは、ハイジャックの時と同じ。

 

「ふざけんなっ!あたしはただの遺伝子かよ!あたしは数字の『4』かよ!違う!ちがうちがうちがう!あたしは理子だ!峰・()()・リュパン4世だっ!『5世』を産むための機械なんかじゃない!」

 

理子は途中から……虚空に向かって、アリアではない誰かに叫んでいた。

その言葉は、アリアの言葉と会話を成立させていない。

断片的で、意味がつながっていない。

ただ、理子の感情のままに放たれている感じだ。

ピカッ!ゴロゴロ……

海の方から(かす)かな遠雷が響いて、アリアがビクンと(すく)んだ。

 

「……『なんでそんなモノが』って()いたよね、アリア」

 

にい、と理子がアリアを睨んで笑う。

 

「この十字架はただの十字架じゃないんだよ。これはお母様が、理子が大好きだったお母様が、『これは、リュパン家の全財産を引き換えにしても釣り合う宝物なのよ』って、ご生前に下さった――一族の秘宝なんだよ。だから理子は檻に閉じこめられていた頃も、これだけは絶対に取られないように……ずっと口の中に隠し続けてきた。そして――」

 

そこまで言った理子は、ツーサイドアップの髪のテールを――

わささっ、と、ヘビのように動かし始めた。

神話に出てくる魔物・メデューサのような光景に、キンジは1歩退いた。

 

「ある夜、理子は気づいた。この十字架……いや、この金属は、理子に()()()をくれる。それだ檻から逃げ出せたんだよ。()()()で……!」

 

理子の左右のテールが、じゃき、じゃき、と背の襟の下に隠していた大振りのナイフを抜く。

双剣双銃(カドラ)

アリアと同じ――しかし異なる意味を持つ二つ名の通り、理子は4つの武器を構えた。

 

「さあ……決着つけよう、オルメス。お前を(たお)して、理子は今日、(ひい)爺様(じいさま)を超える。それを証明して、自由になるんだ……!」

 

左の拳銃でアリアを、右の拳銃でキンジを狙った理子。その横で、寡黙でいたBとGが静かに構え出す。

 

「オルメス、遠山キンジ、錐椰零――お前達は、あたしの踏み台に――」

 

と、理子が叫ぼうとした瞬間。

ダッ――と俺が理子目掛けて、翼をだしながら、駆け出す。

それに驚いた理子が、アクションを起こす前に――ガシッ。

理子を抱き抱えて、そのまま()んだ。

 

「なっ、何を――!」

 

理子が驚きを隠せずに、そう叫ぼうとした時。

 

バチッッッッッ―――!!

 

小さな雷鳴のような音が上がった。

その音源は――先程まで、理子がいた所から。

 

「なっ――――」

 

何度目の驚きを隠せない理子は、声を出せずにいた。

バサッ。大きく1度羽ばたきながら旋回し、アリアとキンジの所に理子を抱えたまま、降りる。

 

「ここは立ち入り禁止の場所ですよ。看板にも書いてあったじゃないですか」

 

翼を戻し、理子を降ろしながら、俺は先程まで理子のいた場所に言った。

そこには、勿論理子はいないが――代わりに誰かが、立っている。

その物は――手にスタンガンをもちながら、自身のメガネをくい、と浮かべていた。

 

「そうですよね――()()()()()?」

 

俺の言葉に、その者――小夜鳴先生は、意地の悪い笑みを、浮かべていた――




はい、どうでしたでしょうか。

たぶん他の小説にはないであろう(ていうかそうであってほしい)、理子がスタンガン喰らう前に救出!キチンと()()の対策は施してありますので、お楽しみにしてください。

では、ご機嫌よう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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63話~小夜鳴 徹~

はいどうも、一ヶ月ぶりです、鹿田 葉月(*`・ω・)ゞデス。
すみません、軽くスランプ中で、あまり思い付きませんでした。それに今忙しく、もしかしたら夏休みまで次が出ないかもしれません。

Emiya Sirouさんに評価8。
マスタースパーク魁さんに評価9。
pandorainzabokkusuさんに評価10!
A.yu-goさんに評価7(コメ付)

を頂きました!ありがとうございます!

では、第63話、始まります。


「――おや、よく(かわ)せましたね。流石は『破壊神』と言ったところでしょうか」

 

立ち入り禁止となっているランドマークタワー屋上の中央付近で、わざとらしく驚いた表情をつくる人物――小夜鳴先生。

その横には、先程まで理子の隣についていた、BとGが静かに立っている。

 

「な、なぜ……何故お前がここにいるんだ、小夜鳴ッ!それにBとG!お前らは何故そっちにいる!依頼主(クライアント)はあたしだぞッ!」

 

突然現れた小夜鳴先生に、理子は素を隠すこともせずに問いただす。

それはそうだろう。なんせ、理子の言葉を借りるなら――シナリオ通りなら、ここで小夜鳴先生が出てくることはなかったのだから。

それに、BとGがアチラについていることも分からないようだ。

アリアとキンジは驚きはしたものの……臨戦体制は崩さずにいる。

ただ、その標的が理子ではなく、小夜鳴先生の方になっている。

 

「ふふっ。私が何故ここにいるか、ですか……。それは、貴方の隣にいる錐椰くんが教えてくれると思いますよ?」

 

手に持っていたスタンガンをポイ……と捨てながら、小夜鳴先生は俺を見た。

その目には、何か確信を持っているのが表れている。

 

「零!一体これはどういうことだッ!」

「簡単に言えば……泳がされていただけだ」

「――ッ!」

 

理子に胸ぐらを捕まれそうになる勢いで捲し立てられるので、諭すように静かに告げる。

苦虫を噛み潰したような表情になり、俺から二、三歩離れる理子。

 

「お、泳がされていた……?あたしが?」

「理子。お前はどうやってBとGを雇った?」

「どうやってって……『理子さんに、イ・ウーから雇われました』って、アイツらが――」

「――イ・ウーを退学したお前にか?」

 

なっ――と、声にならない声が上がる。

 

「それに色々とおかしいんだよ。俺らが潜入始めてからのセキュリティ強化。別に強化だけなら然程(さほど)おかしくはないが、それだとアリアが掃除中に分かるようにはしない。それになぜ金庫の真上にある遊戯室に監視カメラがない?感圧床があって正面からも入れなさそうな以上、上からの浸入が一番確率が高いのに……つまり、()()()()()()()()()()()

 

そう、俺が感じた違和感はこれだったんだ。まるで、『ここから盗んで下さい』と言われているみたいに、限定されてたんだよ。

それに気付いたのが、作戦終了後だったけどな。

 

「そして、盗んで浮かれている間にスタンガンを使って拘束した後に十字架(ロザリオ)を奪い返し、そこにいるB・Gと共にここで撃退……というプランだったのでしょう、小夜鳴先生?」

「――素晴らしい(フィー・ブッコロス)!流石は錐椰くん、素晴らしい観察眼です!」

 

大げさに腕を広げたり、拍手したりしながら、小夜鳴先生は言う。

その目はいつも生徒達に向ける優しい目ではなく、ただ意地が悪いやつの目をしている。

 

「しかし、君たちの()()()には実に楽しませてもらいましたよ。桐ヶ崎くんは潜入捜査のカモフラージュだとここにくるまで思ってましたので、そこは分かりませんでしたが。まったく、実に傑作でした」

「……そうかい」

「な、何よ……なんなのよ、アンタ!まさか、アンタがブラドなのっ!?」

 

不気味な雰囲気を持つ今の小夜鳴先生に、アリアは『小夜鳴先生=ブラド』説を唱える。が……

 

「アリア。それは残念ながら違う」

「ええ。彼はまもなくここに来ますよ」

 

俺と小夜鳴先生の二人からの否定に、アリアは少し顔を赤くして、「そ、そう……」と呟いた。

だが、アリアの言ったことは違うことには違うが……読みは当たっている。流石はホームズ家の長女。しっかりと直感は働いている。

 

「なら零。一体どうして、小夜鳴がここにいるんだ」

「今本人が言っていただろ、キンジ。『彼はまもなくここに来ますよ』って」

「……?」

「そうですよね、小夜鳴先生?いや――」

 

キンジの問いに答えた後――

 

「――『人格のある擬態』さん?」

 

小夜鳴先生の目を見ながら、そう言った。

それに対し小夜鳴先生は少し、本当に驚いた表情を浮かべた。

 

「……何故、私が擬態だと?」

「とぼけないんですね」

「錐椰くんがそう言った以上、確信があると思いますので」

 

――そうかい、そいつは光栄だね。

皮肉めいたことを考えながらも、小夜鳴先生から目を離さない。

 

「どういうことだ、零!」

「落ち着け、理子。零にも何か考えがあるはずだ」

「その通りだ……キンジ、アリア。お前らにブラドの正体を教えてやるよ」

「ブラドの正体……って零、既に知っていたの!?」

「ああ。つっても、今日の朝気付いたけど」

 

それも、紅鳴館(こうめいかん)で一番最初に入ったロビーでな。

……あそこにあったのは獣の剥製や、複数の槍。

そして、俺が目につけた物は――槍だ。

 

「アリア。槍・ワラキア・ブラド・串刺し――この単語で導き出せることがあるだろ」

「……?――ッ、ドラキュラ――!」

「そうだ。ブラドの正体は、ドラキュラ・串刺しブラド公だ」

「ドラキュラ……?それは……架空のモンスターの名前じゃなかったのか?」

「……違う。ドラキュラ・ブラドはワラキア――今のルーマニアに実在した人物の名前だ。そして、()()()()()()()。あたしはアイツに監禁されていたんだ」

 

キンジの最もな疑問に、理子が答える。

監禁されていた頃を思い出してしまったのだろう、その顔は苦渋に満ちている。

対して小夜鳴先生は――笑ったまま、此方を見つめている。続きをどうぞ、ってことか。

 

「そして、何故小夜鳴先生がここにいるかについてだが……これも、ブラドのことを考えればすぐに分かる」

「ブラドのこと?」

「ああ。奴は言った通り、ドラキュラだ。吸血鬼とは、吸血で自分の遺伝子を上書きして進化する生物と言われている。だが、吸血鬼も所詮(しょせん)動物。本能のままに吸血していたために滅んだとも言われている。だが、ブラドは恐らく――人間の血を偏食していたんだろう」

「人間の血を偏食……?」

「ああ。人間の血を得たブラドは知性を得て、計画的に多様な生物の吸血を行って、屈強な個体となった。が……人間の知性は、そこら辺の動物の能力とは訳が違う。だから、人間の吸血を継続しなければならなかった。結果、ブラドには人間の遺伝子が上書きされ続け……小夜鳴 徹という、()()()()()()()()()()()()()()()。違いますか?小夜鳴先生」

「――正解です。流石は錐椰くんですね。つくづくあの時に血液を採取しておけば良かったと思いますよ」

 

パチパチパチ。

俺の推理に、小夜鳴先生は拍手を行った。まるで、よくできた生徒を誉める先生のように。

……いや、一応先生だったな。今では違うが。

 

「そうです。私はブラドの殻であり、私が激しく興奮した時――つまり私の脳に神経伝達物質が大量分泌された時にブラドが出現するようになっていました……ところで遠山くん。ここで一つ、補講をしましょう」

「……補講?」

「君がそこにいるリュパン四世と不純な遊びに(ふけ)っていて追試になったテストの、補講ですよ」

 

おい。なにやってたんだよキンジ。

しかし、いきなり何の話をしているんだ、コイツ。

 

「遺伝子とは――気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして……そこのリュパン四世は、その遺伝の()()ケースのサンプルと言えます。10年前、私はそこのリュパン四世のDNAを調べた事があります。その結果、リュパン家の血を引きながら、その子には――」

「や、やめろ!オルメス達には関係な――」

「――優秀な能力が、全く遺伝していなかったのです。遺伝子学的に、この子は『()()』な存在だったんですよ。極めて希なことですが、そういうケースもあり得るのが遺伝です」

 

言われた理子は――ぎりっ、と歯を食い縛り。

俺達から、顔を背けた。

――本当に、心の底から聞きたくない言葉を言われた――

――それを、絶対に聞かれたくなかったライバルに、聞かれた――

そういう、表情だった。

 

「――さて、もう少し教育してあげてもよろしいのですが……錐椰くんがいるのにそれをするのは少々危険なので、もう彼――ブラドに登場してもらいましょう」

「……どうやってだ。見たところさっきお前が言ったように、神経伝達物質が大量に分泌されていないようだが?」

「ええ。まだ私には神経伝達物質の規定量までは分泌されていません――そこで、この子達の力を借りるのですよ」

 

そこで小夜鳴が目線を送った先には――先程から一言も喋らなかったBとG。

小夜鳴から視線を送られた二人は小夜鳴の近くまで寄り……

ポゥ。と、手に青白い何かを表した。

 

「れ、零。あの二人のあれは?」

「――夢を視させる気だ」

「夢……?」

「あの二人は夢を操ることのできる超能力(ステルス)持ちだ。だが、何故今それをしたんだ……」

 

俺の呟いた疑問は――

 

「遠山くん。よく見ておいて下さいよ?私は人に見られている方が、()()()()()()ものでしてね」

 

小夜鳴がキンジを指名しながら、BとGの手を当てられて、()()()()()()()()ことで答えが出た。

なっ……と、声にならない声を上げるキンジ。

そりゃそうだ。なんせ、この中で一番馴染み深いのは、キンジなのだから。

あの独特の、スイッチが切り替わるような気配は、間違いない。

 

(ヒステリアモード……!)

 

気付いた俺と、あまりのことに呆然とするキンジに、小夜鳴は笑いかけた。

……なるほどな。そりゃ、BとGが当てられる訳だ。大量に神経伝達物質を送ることができるヒステリアモード持ちなら、夢で()()()()()のを見せれば……ブラドを呼べるってか。

アリアとキンジが警戒し、理子が怯える表情の中――

 

 

「さあ かれ が きたぞ」

 

まるで神の降臨を迎えるかのような、小夜鳴の恍惚(こうこつ)とした声。

それに伴い――びり、びりびり!

洒落たスーツが紙みたいに破け、その下から出てきた肌は赤褐色に変色していく。肩や腕の筋肉は、ばき、ばきり、と不気味な音を立てて雄牛のように盛り上がっていく。ズボンは上の方の布が残っていたが、露出した脚はもうケモノのように毛むくじゃらだ。

 

「へ……変、身……!?」

 

驚きのあまり途切れ途切れになったアリアの言葉は、的をついている。

まさに、バケモノ。変身している。

 

「Ce mai faci...いや、日本語の方がいいだろう。()()()()()、だな」

 

声帯まで変わったのか、急に何人かが同時に喋っているかのような不気味な声で喋りだした。

 

「オレたちゃ、頭ん中でやり取りするんでよ……話は小夜鳴から聞いてる。分かるか?()()()()()()()()()()――」

 

そう言ってこちらを睨む凶暴そうな眼は、黄金の輝きを放っている。

そして、その目が理子を捉えると――

 

「おぅ4世。久しぶりだな。イ・ウー以来か?」

 

ズシィン……!と響く足音を立てながら、真っ直ぐ理子に向かって歩く。

一方、理子は恐怖のせいか、足がすくんでいる。まともに動けそうにもない。

そこにキンジが、バババッ――!

三点バーストにしたベレッタで、ブラドの足を狙い撃った。

だが――

 

「……うっ!?」

 

呻いたのは、キンジの方だった。

ブラドの足に開いた3つの銃創が……赤い煙のようなものを一瞬上げたかと思うと……

まるで口を閉じるように、簡単に塞がってしまったのだ。

それも、ほんの一秒ほどで。

 

「四世。そういえば、お前は知らなかったんだよな。オレが人間の姿になれることを」

 

撃たれたブラド本人は気にしていないのだろう、理子への歩みを止めない。

 

「ま……待てブラド!オルメスの末裔を(たお)せば、あ、あたしを解放するって約束だろ!あたしはまだ――」

「――お前は()とした約束を守るのか?」

 

ゲゥゥウアバババハハハハハハ!

理子の言葉をふさぎ、ブラドはキバを()いて笑った。

その笑い声がまた――明らかに人類のそれではない。

 

()()()()繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)。少し放し飼いにしてみるのも面白(おもしれ)ぇかと思ったんだがな。結局お前は自分の無能を証明しただけだった。ホームズには負ける、盗みの手際も悪い。弱い上にバカで、救いようがねえ。パリで闘ったアルセーヌの曾孫とは思えねぇほどだ」

 

ブラドは、100年前に引き分けたという初代・怪盗リュパンの名前を出した。

 

「だが、お前が優良種であることに違いはない。()()次第では品種改良されたいい5()()が作れて――ソイツから、いい血が採れるだろうよ!錐椰。おめぇの遺伝子でも掛け合わせてみるかァ?」

 

…………。

 

「いいか4世。お前は一生、オレから逃れられねぇんだ!イ・ウーだろうがどこだろうが関係ねぇ。世界のどこに逃げても、お前の居場所はあの檻の中だけなんだよ!ほれ、これが人生最後の、お外の光景だ。よーく目に焼き付けておけよ!ゲハッ、ゲバババババッ!」

「ひっ……!」

 

理子に近づいたブラドは、理子に手を伸ばす。

対して理子は恐怖で座り込んでしまい――それでも胸元のロザリオはとられまいと、強く握りこんでいる。

そして小さく――

 

「お父様、お母様――たすけ、て」

 

と言った。

――もう、良いよな。

ガシッ。

 

「――ア?」

 

ブラドの腕を、何かが邪魔をした。

それは――俺の腕。

 

「おい錐椰、てめぇ、誰の手を――」

「――ぶっ飛べ」

 

――ガァゥンッ!

ブラドの懐に入った俺は、右腕の掌底一発で……

ブラドを、屋上と屋内へと繋ぐ階段がある所の壁まで吹き飛ばした。

 

「……え?」

「――おい理子、助けを求める相手が違うんじゃないか?」

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった理子の目の前に、スッと膝を曲げて目線を合わせた。

その目には、必死に堪えようとしていたのか、大粒の涙が溜まっている。

 

「目の前にいるだろ?求める相手が」

「えっ……?だって、あたしは、オルメスと因縁が――」

「アリア本人は、そう思っていないみたいだが?」

 

ブラドへガバメントを向けながら、警戒しているアリア。

そこには理子と闘おうとする姿勢はなく、寧ろカバーしようとしているところもある。

 

「でも、あたしはお前達を殺そうとして――」

「武偵は『常在戦場』。そんなもん日常茶飯事だし、殺されたら殺された方が悪い」

「で、でもあたしは――」

「あーもう、まどろっこしい!」

 

まだ何か言おうとしている理子の頭をグシャグシャに撫で回す。

 

「さっさと助けを求めろ、俺ら()()によ」

「とも……だち……?」

「そうだろ?同じ学校行って、同じ任務やってるじゃないか。なら友達だろ……ったく、俺のキャラにないことさせるな」

 

ポンポン。と頭を軽く叩く。

理子は、俺、キンジ、アリアを見やって、少し迷うような素振りを見せて――

 

「たす、けて……アリア、キンジ、零」

 

と言った。

 

「おう、任せろ」

 

そう言って俺はキンジとアリアの元に行く。

 

「キンジ、アリア。少しいいか?」

「――アタシ達はブラドの足止めをしておくから、その間に零はあの二人を相手しておくってところかしら?」

「……流石だな、アリア。キンジ、いけるか?」

「可愛い女の子から『助けて』って求められたんだ。するしかないさ」

「流石はヒスキンだな」

 

そんなやり取りをしていると……

 

「オイ錐椰ァ……!てめぇ、よくもやってくれやがったなぁ!」

 

ズシィンッ……!と足音を立てながら、ブラドが歩いてきた。

その眼は血走っており、俺だけを見ている。

そしてスッ――と、BとGも構えだした。

 

「いくぞ、アリア、キンジ」

「ええ。いいわよ」

「ああ、いくぞ!」

 

俺はB・Gに、キンジとアリアはブラドに向かって、それぞれ駆け出した――。




はい、どうでしたでしょうか?
自分は車校とバイトに挟まれながらですが、なんとか頑張っています。
皆様も風邪や怪我のないようにお過ごしください。

では、ご機嫌よう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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64話~双神の実力~

「――よう、B・G。改めて、()るか」

「はい、胸を借りるつもりでお願いします」

「あの頃は勝てたことはありませんが、今回は勝たせて頂きます」

 

夜の横浜ランドマークタワーの屋上。雲の切れ端から月光が差し込む中、一対の双子が俺の目の前に立っている。

これから闘う俺に対して、橙色のボブカットの頭を下げたかと思うと……顔を上げて、空色の目を俺に向けてきた。

――瞬間、BとGの体が、ブレた。

 

「――ッ!」

 

すぐにバク転をして、その場から離れた……

――はずなのに、何故か()()()()()()()()

そのことに気付いた時には、もう遅い。

いつの間にか左にいたBが俺の後頭部を。右にいたGが両足を狙って蹴りを放つ。

どちらかは確実に当たるしかない状況で、頭だけは守ろうとしゃがみ……

直後――ガァゥンッ!

Gの細い足から、ダンプカーに衝突したくらいの衝撃が両足に伝わった。

 

「グッ……!」

 

痛みを無視して1度下がろうとするが、BとGがそれを許さない。

これが連撃だとばかりに頭、首元、鳩尾、足を狙ってくる。

頭・首元・鳩尾は勿論急所だし、足を潰せば相手は動けなくなる。必然的に、相手は抵抗できない。

 

(俺が『GOW』にいた時に教えたこと、そっくりそのままやってきやがって……!)

 

教えたことをしっかりと実践できていることに感動を覚える間もなく、急所へのガードを余儀なくされる。

カウンターで肘などを入れておきたいが、片方に返そうとすると、もう片方がすぐに攻撃を仕掛けてくる。

 

(仕方ねぇ、一発もらってもいいから一時離脱する!)

 

そう決めた俺は防御を止め、Bの攻撃の反動で下がる――

フッ。

はずだったのに、何故かB()()()()()()()

そして――

 

「「『白虎(びゃっこ)』」」

 

目の前に背中合わせの状態のBとGが現れ――

俺の鳩尾に、的確に掌底を二発同時に入れた。

アリアや俺の持つコルト・ガバメント(M1911)の放つ45.ACP弾より遥かに強い衝撃に吹っ飛ばされ、体の中の空気が抜ける。

 

「ガフッ、ゴフッ!」

 

なんとか受け身を取りながら体勢を立て直し、息を整える。

対するB・Gは『白虎』を放った体勢を崩し、その場で直立するように立っている。

 

「チッ……お前ら、相変わらず厄介な能力だな」

「零さんにだけは言われたくないですね」

「知るか。それにG、お前また力強くなっただろ。単純な力比べならそこらの奴に負けないだろ」

「確かに強くはなりましたが、まだまだ零さんには勝てません。日々精進しています」

「……本当に、相変わらずだな」

 

口元を軽く拭いながら、今の状況を確認する。

俺が圧されている理由は、ただ一つ。

 

(『夢物語』か……本当に厄介な超能力(ステルス)持っていやがって)

 

間違いない。B・Gの超能力(ステルス)である、『夢物語』のせいだ。

元々、B・Gは夢を操る超能力者。ネリーの『風』やサイアの『水』のようなモノとは違い、一見戦闘には関係ないように見える。

――とんでもない。寧ろ厄介さで言えば、コッチの方が上だ。

人間は性質上、五感から感じたモノが脳に伝達されて、脳がそれに対する信号を送る。脳が人間の全てだと言っても、過言ではないだろう。

そこでもし、夢――つまり、人間が浅い眠りに陥り、夢の中では体を動かしていても、実際の体は動いていない――を意図的に操れるとしたら?

答えは簡単、相手に不利な場合は()()()攻撃し、自分達が不利な場合は、()()()に閉じ込めれば良い。

先程B・Gの体がブレ、いきなり目の前に現れたのも……夢の中に俺を閉じ込めた後、俺に近付いてきたから、消えたように見えたから。

バク転して離れたはずなのに景色がそのままだったのは……『俺がバク転する』という夢を見させられたためだ。

夢の中なのか、現実なのかが分からない。言ってしまえば、常に幻覚を見せられる能力――一体どうして、『使えない』と言えるだろうか。

 

(さらに厄介なのは……コイツラ、力強ぇんだよな……)

 

思わず愚痴りたくなる。

B・Gは華奢な体つきなのに、一発が重い。特にGなんか、『GOW』の中で二番目に力が強い。常に重戦車のような衝撃が与えられるのだ。

だが、いつまでもやられている訳にはいかない。

ユラリ。と両手を脱力させながら、左右に広げる。

 

錐椰(きりや) (れい)の名の下に』

『リミッターコード・0000Z。全ての超能力及び身体能力のリミッターを解除。リバースランカー・破壊神、再起動開始』

 

――ピリッ……

空気が張り詰めたような緊張感を(ただよ)わせる。

それに伴い、B・Gが再び構えだした。

 

「やっとですか。リミッターを掛けた零さんは相手にならないので」

「ようやく本気の零さんと闘えるようでなによりです」

「そうかい。じゃ、俺からも一つ言わせてもらうわ――成長したところ、見せてみろ」

「勿論です」

「よろしくお願いいたします」

 

ペコリ。

先程と同じように頭を下げるB・G。そして……

 

『さあ、その目に(うつ)るは(うつつ)(いつわ)か。行く末()たるは生か死か』

 

――BとGの体が、ブレた。

 

(――先程からの能力使用回数、現れるまでの時間、アイツらとの距離を考えて……ここだ!)

 

そう思った時に、再び景色が揺れる。

そして目の前には、BとGが。

 

(あめ)ぇんだよ!『虎咆(こほう)』!」

 

ドンピシャのタイミングで現れたB・Gに向かって、空気を圧縮し、砲弾のようにソレを放つ。

見極められていたことに気付いたB・Gは慌てて左右に緊急回避し、難を逃れる。

だが、そこが狙いだ。こうすれば、両方からの攻撃は来ない。

俺から見て左に避けたBに向かってロー、ミドル、ハイと右足で蹴りを入れる。

一人一人ではSランクの中間くらいのB・Gでは、リミッターを外した俺には遠く及ばない。反撃するチャンスもなく、ひたすら防御に徹するB。

攻撃の連打から抜け出せないBの救助に向かおうと、俺がローキックを入れようとしている時に、Gが逆方向からハイキックを仕掛けてくるが……無駄だ。

 

「『置換』」

「え……?」

「ガハッ!」

 

Gの驚いたような声に、Bの思わず出た苦痛の声。

俺を蹴ろうとしていたGのハイキックが、ローキックを防ごうとしていたBの顔面に直撃したのだ。

ズシリと響く突然の攻撃に、なすすべなく吹き飛ばされるB。

 

「ど、どうして……」

「俺とGの場所を『置き換えた』だけだが?」

「――クッ!」

「遅い。『グラビティ』」

「――ッ!」

 

ズシィッ……

こちらに振り向こうとしたGの体に、不自然なまでの重力が襲う。

何とか(しの)ごうと、耐えるような仕草を見せるが……たまらず、膝をついた。

これでGはしばらく動けない。BもGのハイキックをまともに受けたから、脳がまだ揺れているはずだ。

 

「――ぃ――ッ――」

 

チラリとアリアとキンジの方を見ると、キンジがアリアのサポートをしながら、ブラド相手に時間稼ぎをしていた。

よし、よくやってくれた。

 

「れ――ッ――」

 

とりあえずキンジ達と合流して、ブラドを倒す。

その前に……理子の所に行くか。もしかしたらブラドの4つ目の魔臓の位置を知っているかもしれないし、最後は自分の手で決めたいだろう。

そう思って、理子がいる所に行く……

 

「――零ッ!しっかりして、零ッ!」

 

……あれ?おかしいな、何故だ?

何故、()()()()()()()()()

ユサユサと俺の体を揺すってくる理子。その後ろには、何故か雲に覆われた夜空が見える。

ということは……俺は今、仰向けになって倒れている?何故だ?

状況を確認しようと、体を動かそうとするが……動かない。

鈍い痛みが全身から感じるだけで、まったく動く気配がしない。さらに……

 

(リミッターが……解除されてないッ!?)

 

リミッターを外した時特有の少しの浮遊感が、まったくといっていいほど感じられない。

おかしい、確かに外したはずなのに。

――いや、待て。落ち着け。

今俺が考えたことが正しければ――

 

()()()()……『()()()()()()ってことかよ……」

「――その通りです、零さん」

「私達では、リミッターを外した零さん相手だと、()()()()()になりますからね」

 

声が聞こえた方向を見ると、ユラ……と景色が揺れ、虚空からBとGが現れた。

――やられた。『夢物語は、攻撃する時には人間の防衛本能が働き、一瞬だけ能力が効かなくなる』なんて昔のデメリットを信じすぎていた。

俺がいなくなってから三年以上経過したんだ。コイツラだって強くなり、デメリットを無くしてしまったんだ……!

マズい。マズいぞ、この状況。

アリアとキンジはブラド相手に時間稼ぎが精一杯。最後の魔臓の位置が分からない以上、トドメを刺すこともできない。

俺の方は、まずリミッターを解除させてもらえない。解除しようとすれば、コイツラが攻撃してくるか、『夢物語』の中に閉じ込められる。

 

「では、零さん」

「さようなら、です」

 

現在の状況に気付いた時、BとGが腕を振りかぶり――

 

「――零ッ!」

 

――カッ!

俺の体に拳が落とされる前に、辺り一面を光が覆った。

それと同時に、ガシッ。

体を誰かに引っ張られながら走られて、しばらくしてフワッと浮遊感が襲う。

そして何かが擦れる音がした後……バサッと、何かが開く音が聞こえた。

目が光にやられてから、少しずつ見えるようになり、状況を確認する。

俺を引っ張っていたのは……武偵服を改造してパライグライダーにしている、ハニーゴールドの下着姿になっている――理子だ。

俺を落とさないように、俺の両肩に太ももを置いて、脇の下にふくらはぎを巻くようにして曲げている。

 

「サンキュ、理子。おかげでたすか――」

「逃げよう、レイレイ。このままなら逃げ切れるよ」

 

俺の言葉を(さえぎ)ってそう言った理子の顔は、焦燥に()られていた。

……なんだって?逃げる?

 

「アリアとキンジはどうするつもりだ?まだあそこにいるが」

「アリアとキーくんなら、きっと何とかするよ。やっぱりブラドに勝てるはずなんかなかったんだよ……()()だったんだよ」

 

……アリアとキンジを置いて、逃げる?俺が?

そんなこと――できるわけねぇだろ。

 

「理子。()()って言葉はな、『人間の可能性を押し留める良くない言葉』だぞ。『自分が数字じゃない(理子が理子である)』なら、二度と使うな」

「――――」

「それとも自分に自信が無いか?なら俺が言ってやるよ、理子。お前は理子だ。クラスの人気者で、バカみたいに騒いで、可愛いものに目がなくて、でも仕事はキチンとこなす――その実、裏では問題抱えながらも、それに(あらが)おうと懸命に生きている。それが理子、お前だ。決して数字じゃない。数字(ゼロ)である()が言うんだ、間違いないだろ?」

 

最後に言葉遊びを加えながらそう伝えると……理子は、かぁ……と、頬を赤らめた。

それは、色仕掛け(ハニートラップ)演技などではなく……どこか普通の女の子らしい、本当に愛らしい表情だった。

そして理子はしばらく黙って……。

――クンッ!

と、パライグライダーを上昇気流へと捉えて――

ほとんど真上ともいえるような角度で、飛び上がった。

 

「ありがとう、理子」

「ううん……理子も、レイレイに感謝しているんだから。それよりも、どうするの?ブラドだけじゃなくて、B・Gもいるんだし。レイレイがリミッター解除するには、座標固定――つまり、その場から動いたらダメなんでしょ?ネーちゃんが言ってたよ」

「……この前思ってたこと、撤回するわ。やっぱりお喋りだわ、アイツ(ネリー)

 

俺の頭の中で、わざとらしく手の甲を頬に寄せながら笑っているネリーが容易に浮かんだ。

その後ろでサイアが「なんだ、ネリー。()()()()()があるのか?」と言って、ネリーのフランケン・シュタイナーが炸裂(さくれつ)するところまで想像できたのは、サイアクオリティなんだろう……て、そんなことはどうでもいい。

俺は胸元からスッ――と、銀色のフィルムで包まれた、長方形の物を取り出した。

その銀色のフィルムを丁寧に取り外すと……

 

「……ガム?」

 

と、理子が怪訝に思ったであろう表情で呟いたとおり、これはガムである。

 

「何で今、ガムを……」

「――これが、重要なんだよ。今の状況なら」

 

銀色のフィルムを胸元に戻し、ガムを(くわ)えようとする、その時。

突然――ビュウッ!

より一層強い風が吹いてしまい――ガムを手放してしまった。

ヤバいと思って手を伸ばしてとる――前に。

ぱくっ。

両手両足でパラグライダーと俺を掴んでいる理子が――咄嗟(とっさ)に口で、飛ばされたガムをキャッチしてしまった。

……あー、えっと。もう一個取り出すか。

そう思った俺が再度、胸元から取り出そうとすると……突然、フワッ。

体が浮く感覚に続いて、重力に引き寄せられる感覚。

そこで理子に足を離されたと思い、辺りを見渡そうとした時。

何故か、理子が目の前にいて――その顔は赤く染まりながら――

 

「――くふっ♪」

 

――ちゅ!

と、顔をナナメに傾けたかと思うと、俺に――

――キス。

してきたのだ。

鼻の奥まで忍び込んできた、バニラみたいな息の香り。

シュガーミルクみたいな、キャンディーみたいな、(みつ)のような――。

しかしその幼さとは不釣り合いに、肉感的な女っぽさを()(そな)えた、理子の唇。

更に――ヌルッ。と、小さな舌を押し込まれ。

コロリ。と、少し咀嚼(そしゃく)していたのか、丸くなっているガムを口移しで渡されたと気付いた時。

――カチリ。と、俺の中の何かが、外れるような感覚がした――




はいどうも、皆様お久し振りです。鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

ようやく色々と一段落ついたので、久し振りの投稿です。なんとか緋弾のアリアの新刊が出る前にこの章を終わらせたいですね。

熨斗目花さんに評価1。
コーラスさんに評価1。
とんぬらMk-2さんに評価1。
七伏さんに評価1。
さはらあたまさんに評価2。
yutさんに評価9。
キョポさんに評価9。
黒羽 ファントムさんに評価10!
まどくんさんに評価10!
AinScarletさんに評価10!

を頂きました!ありがとうございます!
一ヶ月の間に評価数が10件であることに驚いたり、やはりこの作品は読者を選んでしまうことを再確認したりすることはありますが、評価を頂けることは本当に嬉しいです。ありがとうございます!

では、ごきげんよう、(´・ω・`)/~~バイバイ。


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65話~『あたしは理子だ!』

――マズい。マズいぞ。

ツゥ……と、背中に冷や汗が流れる感覚を覚える。

 

「どぉしたホームズに遠山ァ、もう降参するのか?最初の威勢はどこに行っちまったんだァ?」

 

――ゲゥゥウアバババハハハハハハ!

色々な声が混ざったような声で笑うブラド。その目は完全に、俺達のことを見下している。

しないわよ!と、ブラドに返すアリアだが……その肩は上下に揺れていて、頬を汗が(つた)っている。

見てわかる通り、状況は最悪。

ブラドは不死であるため、いくら弾丸がブラドの体に埋まっても――数秒後には、ポトポトと排出される。

更に気になるのは――

 

(何やっているんだよ――零ッ!)

 

ランドマークタワーの屋上から、理子に引っ張られていった零の状況が気になる。

理子の制服にはパラシュートにできる機能があるから、死んではいないだろうが……その後がまったく分からない。

BとGは常に周囲を見渡しながら、腰を落とした状態で動かない。完全に、零が戻ってきた所を叩こうとしている――

 

「――戦闘中に余所見とは、随分余裕があるじゃねぇかァ、遠山ァッ!」

「ッ!しまっ――」

 

俺が視線を動かしていた所に、ブラドが前に詰めていた。

その手に握られている数トンはありそうな、5メートル程の携帯基地局アンテナが振るわれようとしている。

バンッ、バァンッ!

アリアが、ブラドの体に45.ACP弾を撃ち込むが……無限の回復力を持つブラドには、足止めにすらならない。

転ぶようにしてブラドが振るうアンテナを避けようとした俺は、それでも金棒に肩を(かす)められた。

 

「――うッ!」

 

ガシュッ――!

それだけで、俺の身体(からだ)は交通事故みたいに吹っ飛んだ。

視界がぐるん、と回転し、自分が宙を舞っていることに気づく。

文字通り、飛ばされた。10メートル、いや、20メートル以上。

何の身動きも取れなかった。なされるがままだった。

ワンバウンドした俺の身体は、屋上の(ふち)を掠めて。

あっ――

と思うヒマもなく。ワイヤーを引っかけるヒマもなく。

296メートルの屋上から、地上めがけて。

落ちる――

 

 

「――おう、どうしたキンジ。こんなところで何してんだ?」

 

ガシッ。

重力以外の抵抗を感じなかった身体が、何かによって後ろに引っ張られている。

その何かとは――

 

「もしかして、(ひも)無しバンジーでもしてたのか?そいつは楽しそうだが、今は止めてくれよ。危うくぶつかるところだったし」

 

バサッと、白く綺麗な羽を広げながら理子を抱えている、紅髪紅目の少年である――

――零だった。

 

「――零ッ!無事だったか!」

「ああ、なんとかな。いやぁマジで、B・G(アイツら)の成長ぶりには驚かされたわ」

 

ヘラヘラと笑いながら旋回し、アリアの近くへと着地する零。

 

「零、大丈夫?」

「おう。時間稼ぎサンキュ、アリア」

「それはいいけど……でもどうするの、この後。牽制のために弾を結構使ったから、残り少ないけど」

「俺の弾倉渡すよ。同じ45.ACP弾だし、同じガバメントだからな。それと――」

 

ぽん、とアリアに弾倉を渡し。

くるりと、いきなりその場で回転した零は……

――フッと、()()()()()()()B()G()に、ゴスッ!

強烈な右のミドルキックを叩きこんで、B・Gを吹き飛ばした。

 

「ッ!『夢物語』が――」

「効いて、ないッ!?」

「どうだ?B・G。『幻映(げんえい)』――『「夢物語」を発動したという「夢物語」』の味は」

「――ッ!?まさか、零さんッ……」

「リミッターが、外れてるッ!?何故ッ!?」

 

吹き飛ばされた場所で、先程から無表情でいたBとGの顔が、驚愕に満ちている。

何故かは分からないが、零のリミッターが外れていることに驚いているようだ。

 

「まったく。何でネリーもお前らも、『座標固定が必要』ってのに気付けたのかどうかは知らんが……その通りだよ。リミッター外す時は、基本動けない」

「だったら、何故……」

「それは……これだよ」

 

そう言って、べぇ。

突然零が出した舌には……緑色の固形物があった。

それ自体は俺達もよく知っている物。

――つまり、ガムだ。

 

「俺のリミッター解除の条件その2……『ガム』だよ。ガム一個あれば、いつでもリミッター外せるぞ?」

「そ……そんな……」

 

零の発した言葉に、驚きを隠せないBとG。

……なんて言っているが、俺も驚いている。

ただでさえ俺のヒステリアモードみたいにデメリットがあるわけでもない、零のリミッターを外した時の状態。

それが今までなら、リミッターを外す時に隙ができていた……ということだったらしい。

だが、そんなことを嘲笑(あざわら)うかのように告げられた、『ガムを噛むだけ』という解除法。

クチッ……。

零が舌を戻し、ガムを一噛み。

 

「さて……リミッターを外し、『夢物語』も完璧に返される。お前らは武器を持たない派の奴らだから、必然的に肉弾戦になるが……それは、俺の得意分野だ。一応聞いとくぞ、B・G――俺に勝てると思うか?」

「「…………」」

 

零に言われた二人は、しばらく黙ったまま(うつむ)き……

 

「「参り、ました……」」

 

スッ――

二人して片膝を地につき、拳を立てた膝と地面につけ、項垂(うなだ)れる。

絶対服従の構え。B・Gは、自らの敗北を認めた。

……おいおい、マジかよ。さっきまで優勢の位置にいたんだぜ、コイツら(BとGは)

それを、零の奴……

 

(さっきの一瞬で、勝負をつけやがった……ッ!)

 

相手のやる気すら、一瞬で削ぎ落とす。

それが、リミッターを外した時の零の姿。

前のサイアとの時は、攻防が速すぎて観れなかったが……今回も、違う意味で観れなかったな。

と、思っていると……ユラリ。

B・Gの方を向いている零の後ろに、巨大な影が揺れる。

そこにいたのは、既にアンテナを振りかぶっている、ブラドだった。

――マズい!あの威力がとんでもないのは、さっき吹っ飛ばされた時に充分に分かっている。

アリアがガバメントをリロードし、理子が零に注意を促そうとするが――それより早く。

 

「ゲゥゥウアバババハハハハハハ!死ねぇ、錐椰ァッ!」

 

下品(げひ)た笑みを浮かべながら、ブラドがアンテナを振りかざす。

――ゴウッ!

その衝撃に、周りにいた俺達にまで影響を及ぼす程の風が吹き荒れた。

 

「――零ッ!」

 

飛ばされないように必死に腰を落としながら、アンテナが振りかざされた所を見る。

そこには――

 

「……ん?どうしたキンジ、何かあったか?」

 

――と、平然とした顔の零が、()()()()()()()()()()()()()()()()()――

 

sideーキンジout

 

 

 

 

 

sideー零

 

ミシッ……。

頭の上にあるアンテナを支えながら、先程俺を呼んだキンジの顔を見る。

なんだよその、『有り得ない者を見た』って言いたげな表情は。こちとら『チート』やら『人外』やら『歩くムリゲー』やら言われてんだぞ。いや最後のは(つづり)先生にしか言われてないが。

見ると、アリアや理子も同じ表情をしている。B・Gは寧ろ当たり前みたいな表情をしていた。そうそう、この感じだよ、この感じ。

 

「な、何故だ……何故貴様は潰れてないんだァ!」

 

っと、なんか上の奴がギャーギャー騒いでいる。相手にするのも説明するのもバカらしいが、まぁ言わなきゃならないだろう。

アンテナを支えている右腕を軸に、くるり。

ブラドに対面して、ため息を一つ。

 

「あのさぁ、リミッター付けている状態でさえ、自分の何倍もの体格のある奴を吹き飛ばしたり、超能力(ステルス)のオンパレードしといて、スタミナ切れすら起こらなかったりする奴なんだぜ?ソイツはさっきBとGになんて言った?『肉弾戦は俺の得意分野』って言ったんだぞ――テメェ(ごと)きじゃ話にならねぇよ」

 

俺がそう言うと、ブラドは頭にきたのだろう、赤く染まっている目をこちらに向けて睨んでいる。

そして、アンテナを引いてもう一度叩こうとするが……俺の手から、アンテナが離れない。

 

「――ふざけるなぁッ!俺様が人間如きに、遅れをとるわけねぇだろうがぁッ!」

 

吠えるように叫んだブラドは、拉致があかないと思ったのだろう。

ぱっ、とアンテナから手を離し、その巨体から繰り出される強力なパンチを放つ。

――あ、バカだコイツ。

残念な思考回路しか持ってないブラドに呆れ果てながら……。

――ブンッ!

ブラドが離したことによって、完全にフリーになったアンテナで、ブラドのパンチを弾く。

そして体勢が崩れたブラドに、先程振るったアンテナを引き戻し――ゴッ、と鈍い音と共に、ブラドの頭に当たる。

頭をやられたブラドは脳震盪(のうしんとう)でも起こしたのか、ドサッと後ろ向きに倒れる。

そこでタンッ、と地面を蹴って跳び上がり――

 

「アデュー♪」

 

ドスッ!

ブラドの腹に、思いっきりアンテナを突き刺し、そしてそのまま屋上のコンクリへと突き刺す。

……これがホントの、『串刺しブラド公』ってか?

 

「ガッ……ォノクソがァッ!」

 

五月蝿いくらいに叫ぶブラドはアンテナを引き抜こうと、両手に力をこめる。

が、抜けない。いくら無限再生があったところで、自分の腹に突き刺さっているアンテナを引き抜くことは出来ないようだ。

さて。本来なら、このまま俺が終わらすところなんだが――

チラリと理子の顔を見てみると、あまりの出来事に放心状態になっている。

 

「理子」

 

近付いて名前を呼ぶと、ハッとした感じで俺の顔を見てくる。

 

「理子。お前が決めろ」

「……え?」

「お前が、ブラドを倒せ。どうせ最後の魔臓の位置知っているんだろ?」

「いや……だって、ここまで追い詰めたのは、レイレイだよ?理子は何も――」

「初代アルセーヌ・リュパンも、双子のジャンヌ・ダルクと戦ったんだろ?なら別に良いだろ。なぁ、アリアとキンジもそう思うだろ?」

 

キョドっている理子を尻目に、後ろにいる二人に声をかける。

すると二人は前に出てきて、それぞれの拳銃――ベレッタM92Fと銀と金のガバメント二丁――を取り出した。

 

「な、なんで……」

「武偵憲章2条と8条。『依頼人との契約は絶対守れ』と『任務は、その裏の裏まで完遂すべし』よ。別にアンタのことなんかちっとも考えてないし」

「俺はそれに、『仲間を信じ、仲間を助けよ(武偵憲章1条)』も加わるけどね。可愛い女性を助けないことなんて、出来るわけないからね」

 

俺から貰った弾倉を入れてコッキングしながら、明後日の方向を向いて言うアリアと、ヒステリアモードが続いているキンジがキザな言葉を述べつつ、グリップの部分で頭をかいている。

そして、チャッ――。

アリアが右肩と右脇腹(みぎわきばら)、キンジが左肩に、それぞれ標準を合わせる。

その様子に、理子は驚いた表情の後、しばらく俯き――

スッと、胸の谷間から超小型銃(デリンジャー)を取り出した。

理子が普段使っている、ワルサーP99を使わないということは――何か理子にとって、思い入れのある物なんだろう。

ブラドに標準を合わせようとしているその顔は怯えていて、腕も震えている。

スッ――

そんな理子の背後に立ち、理子の手を取って一緒に標準を合わせる。

 

「レ、レイレイ……」

「大丈夫だ、理子。なんかあったら、俺が仕留めてやる。だから――頑張れ」

 

なんてことのない、ありきたりな励ましの言葉。

だが、それで理子の震えが――止まった。

 

「四……世ェ……テメェ、こんなことしてただですむと――」

「ぶわぁーか。そんなこと、知ったことじゃねぇよ。それとな、最後に一つ教えてやる――」

 

ブラドの言葉を(さえぎ)り、アカンベーをする理子。その顔にはもう、迷いはない。

 

「撃て」

 

俺の合図によって、アリアとキンジが発砲する。

ビスビスビスッ!

三つの弾丸は、右肩・左肩・右脇腹の目玉模様を撃ち抜き――

 

「――あたしは理子だ!」

 

理子のデリンジャーから放たれた弾丸が、最後まで減らず口を叩いていたブラドの口の中――

その長く分厚いベロの中心にある目玉模様を、綺麗に撃ち抜いたのだった――




はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

終わらせ方を考えている内に、気づけば20日間……待ってくださっている方たちには大変お待たせしてしまいました。申し訳ありません。

うる.さんに評価8。
壁ワロタ(笑)さんに評価8(コメ付)。
ポンポンさんに評価9(コメ付)。

を頂きました、ありがとうございます!
次回はエピローグなので、前書きアリになります。

では、ごきげんよう、(´・ω・`)/~~バイバイ。



Twitter: @rokutadesu1


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66話~エピローグ~

はいどうも、お久しぶりです。鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

……いや、ホントに申し訳ありません。今回は何か忙しかったとかそういうことなしに、ただ単純にサボってました。お待ちいただいた方に謝罪します。すみませんでした。

そんな中でも、お気に入りしてくださる方、評価を入れてくださった方達には、本当に感謝しています。ありがとうございます!

ノムリさんに評価9。

魁鬼さんに評価9。

nakasukeさんに評価10!

を頂きました!ありがとうございます!

では、第3章エピローグ、始まります。
今回は長めです。


「――たっだいまぁー!りこりんが月の(みやこ)から帰ってきたよー!」

『ウオォォォォォッ!』

 

(*´∀`)ノヤァ、零だ。朝から騒いでいるクラスだが、そんなことより後日談だ。

ブラドを打ち倒した後、理子はしばらく呆然(ぼうぜん)としていたが、くるり。と俺らの方を向き。

 

「ブラドのこと――感謝はしないよ。今回は偶然、利害が一致しただけだ。それと――神崎・()()()()・アリア。遠山キンジ。錐椰零。あたしはもう、お前達を下に見ない。騙したり利用したりする敵じゃなくて、対等なライバルと見なす。だから――した()()は守る」

 

アリアを初めてフルネーム、しかもミドルネームをフランス語の『オルメス』ではなく英語の発音で正式に呼び――ダッ。

ビルの屋上の縁まで勢い良く走っていく。

 

バイバイ(Au revoir)ライバルたち(Mes rivaux)。あたし以外の人間に殺られたら、許さないよ」

 

ばっ、とそのままビルから飛び降り。

パラグライダーを起動させて、港の倉庫街へと消えていった――

 

「――って、なんかカッコよく行ったハズだったのになぁ……」

 

教壇の上に乗り、ハチャメチャな躍りをする理子に、りこりん!りこりん!と一部男子が群がっている。

なんてことのない。東京武偵高2年A組の日常だ。それが今、目の前に広がっている。

アリアの隣に座っているキンジは、苦虫(にがむし)を100匹ほど噛み潰したような顔をしている。

そして、アリア本人は……あれ。怒ってないな。頬杖はついているけど。

 

「理子ちゃん元気そうで良かったね、零くん」

「……いきなり喋りかけてくるな、シェイ。他の奴らが見てたらまた俺が絡まれる」

「もう三井くん達に絡まれるからいいんじゃない?」

「お前なぁ……」

 

クスクスと俺の左隣りの席で笑っているシェイ。まぁ、シェイも理子の心配をしていたのだろうし、それを知れたので良かったのだろう。

……右隣りから感じる、『風穴開けるわよ』オーラが凄いことになっているが。

やっぱりシェイ、学校ではあまり話しかけないでくれ。死人が出る。アリアの八つ当たりで。

てか、さっきまで怒ってなかったですよね、アリアさん?

――そんなこんなで、アリアの怒りを何とか(なだ)めつつ、授業に参加した放課後。

強襲科(アサルト)で暇を潰し、いつものようにKASを叩きのめした後の下校中に――

 

「レイレイ」

 

校門の所で、とたた、と理子が出てきた。

 

「理子」

 

俺は驚きつつも、理子が抱きついてきたり腕組みしてきたりするんじゃないかと身構える。

が、理子は普通の女子っぽい仕草で……

俺の横に、並んできた。

 

「……あ、えっと……帰ろっか」

 

普段お喋りな理子とは思えないほど、普通の女子みたいなことを言い出した。

――その後も、歩きながら俺の方をチラチラと盗み見たり、かといって目をあわせようとすると、あっ……と小さく声を出して視線を横に()らしたりする。

……何だこれ、凄くやりにくい。

普段とは違う理子の態度に俺も少し混乱しながら、お台場のレインボーブリッジの方へと視線を逃がす。

先程までぽつぽつと降っていた小雨が上がり、虹が架かっている空。梅雨も、もうすぐ明けそうだ。

 

「か……勘違いは無しだよ。理子は別に、そっちの味方になったワケじゃない」

「……なんだ理子、そのツンデレのような発言。いつものお前らしくないぞ」

 

――げしっ!

理子のあまりの変化に驚いて、つい口に出すと、理子の小さいアンヨで思いっきり足を踏みつけられた。イテェ!

 

「レイレイのぶわぁーか!もう知らないっ!」

 

アカンベーをしながら、とたたっ、と俺から走って離れていく理子。

――その顔は、いつものように……いや、違うな。

心の底から、理子が笑っているのが伝わってきた。

 

(……これで取り敢えずは、御苦労様って言っていいかな)

 

踏み込まれた足を(さす)りつつ、そう考えていると……ピロッ。

携帯から、メールの受信音が鳴った。

携帯を取り出し、表示されているのは……『理子』の二文字。

 

『アリアのママの弁護士には会った。差戻審(さしもどししん)は確実になる。後、ネーちゃんが夜7時にランドマークタワー屋上に来いって』

 

……ああ、だからアリアは理子に対して何も言わなかったんだな。

おそらくだが理子はアリアに、『かなえさんの証言をする』旨を伝えたのだろう。

それで、アリアは疑いながらも、理子のことを信じていた。だから教室では何も言わなかったんだな。

今ごろ弁護士からメールが届いて、喜んでいるアリアが容易に目に浮かんだ。

――良かったな、アリア。

そう思う一方で、もう一つの事柄が気になりはじめた。

 

(ネリーが俺を呼んでいる?しかもなんでまたランドマークタワーに……)

 

良く分からないが、行くしかない。

ぱたん、と携帯を折り畳んでポケットに入れ、ランドマークタワーへと歩き始めた――

 

ーside零outー

 

 

 

 

 

ーsideキンジー

 

「――で、一体これはどういうこと?」

 

東京武偵高男子寮の一部屋、つまり俺の部屋のソファーにあぐらをかいて座りながら、桃色のツインテールの少女――アリアが聞く。

先程まで弁護士と話していた所、急に連絡が入り、呼ばれたらしい。その顔は若干不機嫌になっている。

 

「それはあたしも知りたい。正直に言って、今この二人と同じ場所にはいたくない」

 

リビングによしかかっている金髪の少女――理子は、()()()()全開にしながら、自身を呼んだ存在を睨み付けている。

勝手に俺の部屋を集合場所にし、現状居合わせるのが難しい二人を平気で呼んだ奴とは――

 

「もうちょっと待ってて……あ、いた。丁度皆で行動してるし、手間が省けて良かった――『L()i()n()k()』」

 

突然自分の目の前に人が通れるくらいの黒い穴を出現させ、そこに手を突っ込んで何かを引っ張り出している、黄緑色の髪を持つ少女――

――シェイル・ストローム。零と同じ部屋に住んでいる、『武偵アイドル』と呼ばれる少女。

 

『――うわあぁっ!』

 

そのシェイルに、黒い穴から引っ張り出されていたモノが、一斉にリビングの床に落とされた。

その顔を見ると……見覚えがある顔が4つと、見知らぬ顔が1つ。

 

「イタタ……何が起こったの?」

「あ、あかりさん、大丈夫ですか?」

「イッツ……一体ここどこだよ。さっきまでファミレスにいたはずなのに……」

「意味が分かりませんですの~……」

「うう……」

「――()()()?それにアンタ達……一体どうして?」

 

そう、シェイルに引っ張りだされたのは――良く零が面倒を見ている一年生とインターン組だった。

アリアの戦妹(アミカ)である間宮(まみや)あかり。白雪の戦妹(アミカ)である佐々木(ささき)志乃(しの)。一年の強襲科(アサルト)で有名な女子の火野(ひの)ライカと、その戦妹(アミカ)である(しま)麒麟(きりん)

もう一人は、架橋生(アクロス)のカッコをしている女子。

そういや零が前、名前を言っていたような気がする。確か、(いぬい)(さくら)、だったか。

 

「あ、アリア先輩!何でっ!?というか、ここ何処!?」

 

ガバッと身体を起こし、辺りをキョロキョロとしている。

それもそうだろう、女子が男子寮の部屋を知っているわけがない……()()()()

その『普通』にカテゴライズされていないアリアは間宮達の登場に最初驚いたものの、

 

「零がいたチームにいるから、何かしらの超能力(ステルス)を持っていると思ったわ。それで?後輩達まで呼んで、一体何をしたいのかしら?」

 

シェイルの方を向き、目線を外さない。

その目は、『つまんないことやウソついたらただじゃおかないわよ』と、言外に述べている。

 

「そうだね、そろそろだと思うし……キンジくん、今何時か分かる?」

「……19:05だが?」

「じゃあもう始まっている頃だね。ん……『Link』」

 

時間を確認したシェイルは、少し力んだ様子を見せたと思ったら……ウォンッ。

またシェイルの側に、黒い穴のようなモノが現れた。

一年生+α達がシェイルの能力に驚いている中、シェイルは穴に向かって何か言っている。

読心術で読み取ってみると……『場所・ランドマークタワー屋上に繋げて。ただし、今回は映すだけ』と言っている。

ランドマークタワー?この前ブラド・B・Gと戦ったばかりの場所じゃないか。今更何を……?

不思議に思って、シェイルのだした黒い穴を(のぞ)くと。

黒い穴は段々と(にご)りが消えていき……どこかの、風景を映し出した。

その風景は、見覚えがある。というか、つい先日に見た景色。

間違いない。この景色はランドマークタワー、その屋上だ。

 

「――やっぱり、もう始めているね。皆も見て」

 

クイクイと、俺らに向かって手招きするシェイル。

それを見てアリア達も不審がりながら、ランドマークタワーが映し出されている穴を覗く。

そこにはやはり、ランドマークタワーの屋上と……

――そこに大の字で倒れている、零の姿が映し出されていていた。

 

「……は?」

 

思わず出た、というような声は、一体誰のモノだったのだろうか。

誰とも分からないし、自分が出したかどうかすらも分からない。が、この場の誰もが、その声を出していたとしても不思議じゃない。

 

(何で……何で、零が倒れているんだ!?)

 

それも、ただ倒れているのではない。

武偵服はボロボロになっており、その隙間から見える肌からは血が(にじ)み出ている。

――そして、倒れている零に、近付く影。それも、見覚えのある容姿。

 

白に近い銀髪を肩くらいまでに伸ばした少女――ネリー・リチャード。

 

蒼いツンツン髪で、190くらいの大柄な男子――サイア・クロニクル。

 

橙色の髪をボブカットにしている双子――Bと、G。

 

零が元リーダーであったという、『GOW』のメンバー。今俺達の前にいるシェイルを除き、全員が集結している。

だが、それはチームとして現れたというような雰囲気ではない。

 

『グッ……。てめぇ、ら。いったい、何のマネ……ガァッ!』

 

ドスッ!

零が睨みを利かせながら起き上がろうとするが、その前にネリーのストンピングが鳩尾に極められ、再び大の字になる。

 

「零!零!シェイ、これは一体どういうことなのよっ!?」

「へぇ、ネリーちゃん結構()()()()ね。やっぱり広々とした所ならそのくらいは()()()()()んだね」

 

アリアが映し出された光景に対してシェイルに問い掛けるが、シェイルは聞こえていないかのようにその光景を平然と見ていた。

理子は舌打ちしながら苦悶(くもん)の表情を浮かべ、一年組は驚愕の表情を浮かべている。

理子は『GOW』のメンツがどれくらいヤバイか知っている。だから今零の状況が如何(いか)に危険かが、分かっているんだ。

一年組は理解していないのだろう。時々うわ言のように、「え……なんで、零先輩が……?」と呟いている。

 

「しかもBくんGちゃんも()()()()()()()、サイアくんもガードを固めているし……まぁ、最終的に両腕の粉砕骨折ってところが妥当だね。治すの大変なのになぁ」

「――くっ!」

 

ジャキッ

シェイルの耳を疑うような発言に、アリアはたまらずリビングの扉まで行きながら、自身の拳銃――銀と金のガバメントをコッキングしていた。

 

「――アリアちゃん、どこに行こうとするの?」

「決まっているでしょ!ランドマークタワー(あそこ)よっ!」

「アリアちゃんが行った所で、あの中の誰にも勝てないよ。できても、BくんGちゃんに対しての僅かな時間稼ぎぐらいだよ。知ってるでしょ?『GOW』の力を」

「――ッ!」

 

――コイツは本当に、シェイル・ストロームなのか。

『武偵アイドル』としてメディアにも出ていて、大人気である少女。

いつも笑顔を絶やさなくて、ウチの武偵高にもすぐにファンクラブができている、あの少女が。

アリアを見ているその藍色(あいいろ)の目は――笑っていない。見たものを射ぬく、そんな目だ。

 

「それでも……それでも、行くわよ!武偵憲章1条!『仲間を信じ、仲間を助けよ』!アタシはそれに従って、零を――パートナーを助けに行くわよっ!」

「……零くんの、パートナー、ね」

 

そこで、スッ――と、目線を外し。

 

「なら何で――()()()()()()()とか言い出すの?」

「……え?」

「アリアちゃん、今、『仲間を信じ』の方を守っていないんだよ。まずはソッチに従うのが普通じゃないの?」

「だ、だって今零はやられているのよっ!?リミッターていう何かよく分からないのも掛けたままのようだし、あれじゃ零が……」

「――アリアちゃんは何も分かってないよ、零くんのこと」

 

狼狽えるアリアを、一蹴。

 

「さっき私が『両腕の粉砕骨折』って言ったのはね。零くんじゃなくて、()()()()()()()()()。それも、リミッターを外していない状態で」

「……は?」

 

シェイルの発言に、思わず声が漏れてしまった。

零じゃなくて、よりによってサイアの方だと?リミッターを外していた状態の零でさえ、最終的には一撃も入れられずに引き分けたほどの相手だぞ?

他のヤツらならいざ知らず、今もネリーのストンピングを受けた続けている状態からどうやって、しかもリミッターを外さずに反撃できるというのか。

 

「今から、零くんが勝てる理由、クイズ形式のヒント3つに分けて説明するね」

 

ピッと、指を三本立ててこちらに向けてくるシェイル。その目は先程の射ぬくような目線ではなく、試すような感情が浮かんでいた。

 

「その1、『零くんは未だに全力を出していない』。リミッターを解除している時でも、掛けている時でも」

「……何だって?零のリミッターってのは、全力を使う為に外しているんだろ?それなのにリミッターを掛けている時でも全力じゃないって、おかしくないか」

「確かにそう思われ()()なんだけどね。でも実は違うんだよ」

 

指を一つ折りながら、段々と喋るシェイル。

その言葉に、このリビングにいる全員が、釘付けになっている。

 

「その2、『零くんはとても不器用』。全然器用じゃないんだよ」

『はぁっ!?』

 

二つ目の指を折ったシェイルに対して、驚愕の声が重なってぶつかった。

零が器用じゃないだって?あの『万能』という言葉を嘲笑(あざわら)うくらい何でも最上限にこなす零だぞ。それを、『不器用』って言うのか、コイツは。

疑問の渦が巻き起こる中、シェイルは3つ目の指を折り――

 

「その3、『人間の誰もが持っているモノを、零くんは使っていない』。二つ持っている人も(まれ)にいるけど、大抵の人は一つしか持っていない」

 

と、言った。

 

(『人間の誰もが持っているモノ』……?それを、零は使っていない?)

 

更に、二つ持っている人と一つしか持っていない人がいる?

何だよそれ、まったく分からん。ヒステリアモードの時なら(ひらめ)くかもしれないが……無い物ねだりはしたくない。

 

「分からないなら、もう少しヒントを出そうか……アリアちゃん」

「……何よ?」

「アリアちゃんは、二つの拳銃と、二つの刀を使うよね。何で一つずつじゃないの?」

「何でって……両腕で使うからに決まっているでしょ」

 

アリアの返答に、そうだよね、と返すシェイル。

そして、くるっ。

アリアから視線を外し、目線を変えたシェイル。

その視線の先には……俺と。

 

「な……何ですか?」

 

と、シェイルを警戒しながら見ている、間宮だった。

 

「ねぇ、キンジくん、あかりちゃん」

「は、はい!」

「……なんだよ」

「キンジくんは左脇、あかりちゃんは右足のホルスターの中に拳銃を入れてるよね」

「はい」

「ああ」

 

何だ、何の話をしている。

拳銃の位置と、零の全力に、一体何の関係があるんだ。

 

「何でキンジくんは右脇、あかりちゃんは左足にホルスターを巻かないの?」

「何でって……それは、取りやすいからだろ」

「じゃあ何で取りやすいの?左右反対になっているだけだよね」

 

俺の返答に、今度は更に質問を返してくる。

 

「何で取りやすいかですか……?それは、あたしが()()()()()()――」

 

間宮がシェイルに対して答えていた、その時。

 

――ゴヴゥゥゥゥゥゥゥゥッ!

 

『キャアッ!』

 

思わず耳を塞いでしまうぐらいの大音量が、リビングに響いた。

まるで、何か大きいモノが倒れた時のような音。

暫くその音のせいで耳がやられていたが……やがて、少しずつ収まってきた。

 

「な、何だったんだ、今のは」

「――皆、これを見て」

 

疑問が頭に浮かんできたが、それを遮るようにシェイルが穴を見るように言ってくる。

不審がりながら、ランドマークタワーが映し出されていた穴を見てみると……

――そこには、何も無かった。

先程まで見ていた、ランドマークタワー屋上の景色ではない。ただ高い空の光景が広がっているだけ。

 

「おい、シェイル。さっきまでの光景を移せよ。あのランドマークタワー屋上の」

「何言っているの、キンジくん?これが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……は?」

「だから、さっきまでと同じ位置にあるの」

「じゃ、じゃあランドマークタワーと、零達は?」

「――零くんがランドマークタワーを跡形もなく壊しただけだよ。リミッター掛けた状態のパンチ一発で。サイアくん達も吹っ飛ばされているだろうし、零くんは追いかけて行ったんじゃないかな?大方、ネリーちゃんが零くんのペンダントに触れようとしたからじゃないかな?」

 

……おい。一体何を言っているんだ、コイツは。

何もない景色がランドマークタワーがあった場所だといい、それを零が粉々にした?リミッター掛けた状態でか?

――ランドマークタワーは、296メートルの巨大ビルなのにかっ!?

ありえない。ありえる訳がない。

だが……それを語るシェイルの顔は、いたって真剣そのもの。

ということは……本当なのだろう。人間の拳が、巨大ビルを粉々にしたという事実は。

だが、今までの零を見てきたが、流石にビルを素手で壊すような力は出してなかった。せいぜい、ブラドの攻撃を軽く受け止めることができたぐらい。

それなのに、何故……?

 

「――さっきのクイズの答えだけど、あかりちゃんの返答がそれだよ」

 

と、先程のやり取りを持ち出したシェイル。

 

「――『利き腕』。それが、さっきの答え……キンジくん。零くんが拳銃握るときって、どっちの手?」

「……右だ」

「お箸を持つのは?」

「右」

「零くん必殺の踵落としは?」

「右、だ……」

「さっきのヒントその2、『零くんはとても不器用』――」

 

――まさか。

いや、待て。

俺はある、一つの可能性を思い付いた。

だが、それがもし本当なら……

 

「キンジくんが気付いたようだから、言うよ――零くんは、『左利き』なの」

 

……マジかよ。

人間は、利き腕と利き腕じゃない方に、大なり小なり差はある。

一番簡単に言うなら、(はし)だ。器用な人なら利き腕じゃない方でも多少は使えたりするが、不器用な人はまったくと言っていいほど使えない。

だが、不器用な人でもレベルが高ければ、利き腕じゃなくても普通の人と同じぐらいの力になる。一プロ野球選手で、利き腕で150㎞以上投げる投手が、利き腕じゃない方でも130㎞出たという話を聞いたことがある。

だが、零はそんな次元じゃない。

零は不器用だから、利き腕じゃない方だと――『Sランク内最強』()()()()()()()()、ということになる。

ここにいる誰もが呆気に取られるような衝撃の発言。

 

「そして、零くんが全力を出すときは決まって1つ。キンジくんなら、分かるんじゃないかな?」

 

そんな中、シェイルは俺に更に質問を重ねてくる。

零が全力を出すとき。それは今の俺でも分かる。

――(のぞみ)という人物が、絡んでいる時だ。

さっき、シェイルは零のペンダントがどうこうと言っていた。

忘れもしない、4月のハイジャック。そこで黙ってシェイルの話を聞いている理子が、俺達に仕掛けてきて、飛行機から飛び降りた後。

負傷した零の代わりに運転するということで、零から話を聞いている最中に――銀色の外見をした、綺麗なエメラルドのようなものが埋め込まれていたペンダントを目撃している。

中身は見ていないが、恐らく『(のぞみ)』という人物が絡んでいるのは間違いない。

 

「ねぇ、みんな。聞きたいことがあるの」

 

こちら側が何も喋らないなか、シェイルは……

 

「――零くんの過去、知りたい?」

 

全員の顔を見渡しながら、そう言った――

 

To Be Continued!!!




はい、どうでしたでしょうか。

最後の終わり方のとおり、次の章は零の過去編!オリジナル章となっております。

はたして零はどうやって『GOW』に入ったのか、(のぞみ)という少女とは?
キンジやアリア、その他現在ではまだ出てこないハズのキャラ達の子供時代も!

そして、お気に入り数900件突破!評価者数60件以上!本当にありがとうございます!

それでは、次回は『Sランクの頂き』オリジナルキャラのプロフィール集です!是非見てください。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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閑話
オリキャラプロフィール~part1~


happy birthday to you~♪happy birthday to you~♪
happy birthday~happy birthday~♪
happy birthday to you~♪

アリア、誕生日おめでとー!

というわけでどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
先月の9月23日は、アリアの誕生日です!同じ乙女座として、盛大に祝いたいですね!まぁ今回はオリキャラだけしかでませんが笑

ちゅうさんに評価1。
腹痛常習犯さんに評価8。
菅原 零さんに評価9。
milkteaさんに評価9。
アラジンnextさんに評価9。
紫銀の召喚士さんに評価9(コメ付)

では、オリキャラプロフィール~パート1~、始まります。


錐椰(きりや) (れい)

 

男性。

10月10日生まれ、天秤座。

16歳。左利き。

身長――175センチ。

体重――67キロ。

趣味――麻雀。

好物――抹茶アイス・ガム。

苦手なモノ――()雪。

外見――紅髪を自然なくらいに伸ばしている。紅目。

出身――イギリス。

家系――父親が日本人。母親が日本人とイギリス人のハーフ。

二つ名――『紅電(こうでん)』。『Sランク内最強』。『歩くムリゲー(綴先生案)』

 

 

本作品の主人公。性格良し。外見良し。家事ができて頭も良いなどといった、正に『ぼくのかんがえた~』を地でいっている。

ほぼ全ての学科内にてSランクの上位として存在するため、『Sランク内最強』という称号が与えられている。

元々は黒髪に焦げ茶色の瞳であったが、何かをきっかけに紅髪・紅目となった。

表舞台の武偵の活躍では、『三大マフィア抗争鎮圧』、『テロリスト団体壊滅』などといったものがあり、今や彼の二つ名である『紅電(こうでん)』は、警察を始めとした多くの裏の者に知られている。なお、『紅電』の二つ名の方が覚えられていて、本名の方が覚えられていていないことがある。

後輩からは頼られ、憧れの対称となっており、戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)が殺到しているが……現時点では戦妹(アミカ)はいない。

攻撃スタイルはとにかく多彩。銃撃戦、剣劇、能力の応酬など、幅広い部分を使いこなす。

なお、自分に制限を掛けているために能力を使う時には必ず、『錐椰 零の名の下に』と言う。

ちなみに彼の『踵落とし』は相当強く、石頭でお馴染みのキンジでさえ耐えきれないという。

ちなみに大の動物好きである。動物園とかに誘うと喜んでついてきたり、獣耳をつけた人を無意識の内に膝に乗せて撫で回したりする。

なお、11話で猫探しについていかなかったのは、ついていったら確実に任務の邪魔になるだろうと思ったため。一応自制心はある。

 

 

――裏の情報

 

元リバースランカー・『破壊神』

 

最重要機密組織、『GOW』の元リーダー。リバースランカーと呼ばれる、『一人で大陸一つを制覇できる』存在として裏の武偵活動を行っていた。

13才の時に()()()との勝負に負け、現在は『GOW』から脱退している。

リミッターを掛けていない状態は、正に無敵。能力だけでなく、身体能力も解除するので、手のだしようがない。

更に利き腕である左腕では、リミッター付きですら約300メートルある巨大ビルをパンチ一発で消し飛ばせる。

望という少女を探しているようだが――?

 

――武器

 

―コルト・ガバメント(紅色)

アリアが使っている物と同じで、既存品にはない紅色をしている。装弾数は7発。なお、トリガーを1度引くのではなく前に押すと完全分解(オーバーホール)するまで自動的にセーフティがかかる仕様になっており、奪われる前に押して相手に撃たせないことができる。

 

―グロック17(『GOW』の時に使用していた物)

ご存知オーストラリア産の9㎜銃。装弾数は複列弾倉となっているので17発と多い。

こちらにはこれといった改造は施しておらず、単なる牽制用として用いられていた。なお、現在は使われていない模様。

 

―コウヒノホダシ

零が自身で創った、二振りの日本刀。峰の所が紅くなっており、零の能力をフルに使えるほどの耐久性を誇っている。

切れ味は抜群で、弾丸を切り裂いても全く刃こぼれしない。普通はありえないのだが……。

 

 

――これまで使ってきた技・能力

 

銃技

 

蜻蛉返(とんぼがえ)り。

 

相手が拳銃で発砲した際にその軌道を読み、計算。そして自らが発砲した弾に当てて相手の弾の軌道を変え、相手の拳銃の銃口に戻す。

 

 

剣技――剣類を使用している時に使う。主に一式・二式・三式があり、それぞれ一節~五節まである。

 

☆一式――攻撃系。自分から攻めていくスタイルの時に使用する。

 

――三節・『乱心絶牙(らんしんぜっか)

 

空高くまで跳び上がり、地に足がつくまでに刀を振り続ける。まるで狼が獲物に何度も牙を突き立て、息の根を止めるようなのでこの名前がついた。

なお、前にコメント欄で教えてもらったように、同じ表現の技が存在するらしい。

 

――四節・『瞬爆(しゅんばく)

 

標的との距離が遠い場合にのみ使用。突進時に持ち前の脚力によって発生する急速度のまま敵を斬りつける。ただし、強風も同時に発生してしまうため、味方が近くにいないことが条件になる。

 

――五節・『蛇道(じゃどう)

 

鍔迫り合いとなった時に使用するもの。手首をはじめとして体全体をクネクネを動かして鍔迫り合いを解き、そのまましゃがみ込みながら足元を斬りつける。とはいえ基本的には離脱用か相手の体制を崩すために行うので、決定打にはなりにくい。

 

☆二式――防御系。相手の攻撃数が多かったり、相手との距離が遠い場合に使用する。

 

――五節・『深谷(ふかだに)

 

刀の切っ先だけで相手の攻撃を受け流し、弾く。本人の懐にすら届かせないことで相手の動揺を誘い、ミスを促す。

 

☆三式――カウンター系。1対1の時や、相手との距離が近い場合に使用する。場合によれば、これだけで勝つことができる。

 

――一節・『螺旋演舞(らせんえんぶ)

 

三式の中で一番強い技。相手が間合いに入った瞬間、その場で回るようにして相手を斬る。その性質上、この技は多人数相手でも使用できる。端的にいえば、二刀流の鞘無し居合い抜きである。

 

零式(ゼロシキ)――能力を使用した剣技。リミッター解除していないと使用不可。

 

――1章・『陽炎(プロミネンス)

 

10000度の灼熱の炎を纏いながら、相手に斬りつける。主に相手を焼く部分に長けているが、相手の武器を蒸発、または熱して相手の武器を失わせることもできる。

なお、派生系で『飛燕焔(ひえんほむら)』がある。

 

――三節・『鬼火焼(おにびやき)

 

本編ではまだ説明がされていない技。どのような技かは、この後分かるようになるだろう。

 

――五節・『流猛(りゅうもう)

 

相手が攻撃を受け流して自分が体制を崩した場合、その崩れた体制から体を捻り、駒のように回りながら二の手を繰り出す。前方に崩された場合は踏み込みもできるので更に重い一撃となる。

 

――現在使われている剣技一覧

 

☆一式

 

一節・?

二節・?

三節・『乱心絶牙』

四節・『瞬爆』

五節・『蛇道』

 

☆二式

 

一節・?

二節・?

三節・?

四節・?

五節・『深谷』

 

☆三式

 

一節・『螺旋演舞』

二節・?

三節・?

四節・?

五節・?

 

☆零式

 

1章・『紅炎』

派生――『飛燕焔』

 

一節・?

二節・?

三節・『鬼火焼』

四節・?

五節・『流猛』

 

 

 

現在使用している超能力系統一覧

 

サイコキネシス

グラビティ

サーチ

召喚(サモン)

虎咆(こほう)

置換(ちかん)

幻映(げんえい)

 

☆『紅電』

 

彼を象徴する技。紅色の放電が相手に放たれ、包み込む。その電流・電圧は調整可能だという。

 

――処刑用必殺技。

 

☆踵落とし

 

上記したので割愛。

 

回転式踵落とし(サイクロン・ヘルヒール)

 

踵落としの上位互換。その場でバク宙をして、その回転の勢いと共に踵落としを決める。防弾・防刃シャッターごときなら軽く一刀両断でき、人間相手なら悲惨なことになる。

 

☆?

 

踵落としの一番最後。上記した二つが既にとんでもないので、この一つも凄まじいものだろう……。

 

 

――本人が大切にしている言葉・事柄

 

『色よりも、大切なものはない』

 

 

 

 

 

○ネリー・リチャード

 

女性。

2月17日生まれ、みずがめ座。

16歳。右利き。

身長――172センチ。

体重――ぶっ飛ばされたいのかしら?

B・W・H――76・58・76

趣味――風に当たること。

好物――グラタンパイ。

苦手なモノ――タコ。

外見――銀に近い白髪を肩ぐらいまで伸ばしている。トパーズの瞳。

出身――フランス。

家系――一家族の元に生まれた。両親共にフランス人。

二つ名――『疾風(しっぷう)

 

 

『27話~用心棒~』から登場。スラッとした脚に、長身。の割には胸部装甲は薄いが、本人曰く、「動きやすいからこれでいい」とのこと。

毒舌であり、面白いことが大好き。

パリ武偵高では特にパッとした実績もなく、ランクもC程度であった。

速さの部分には他に追撃を許さず、東京武偵高に転入してから急激に頭角を現した。現在ではSランクとなり、『疾風』という二つ名がついた。

攻撃スタイルは、速さを武器にした速攻。相手に防御も反撃も許さずに沈める。

なお、一部男子の間で密かにファンクラブが出来ているらしい。その者達曰く、『二年のネリー。一年の高千穂』らしい。その者達の性癖は語る必要はないだろう。

 

 

――裏の情報

 

元リバースランカー・『技神』

 

『GOW』の突攻隊長。現場についたら真っ先に敵陣に乗り込み、瞬時に制圧する。だいたいの任務は彼女一人だけで終わらせてしまい、その度に零が頭を抱えていた。

彼女の本質部分である技は芸術的で、零の『剣技』は彼女が教えたものである。

また、シェイル・ストロームが66話にて、「()()()()」と言っているので、まだ何かがある様子だ。

零やサイアがたまに何か言おうとすると止めるので、過去に何かがあるようだが――?

 

――武器

 

―『風月(ふうげつ)

彼女が使用しているタガー。その刃は肘の部分まで伸びており、綺麗な曲線を描いている。

リーチがほぼ腕の長さと同等なので剣の間合いなら届かないが、逆に懐に入れば剣では斬りづらいが、『風月』の間合いになる。そこは、ネリーの技術力の真価が問われる部分だろう。

また、『風月』は周りに風が吹けば吹くほど強度が上がるという特殊な性質を持っている。

ハイジャック時に零に壊されているが……?

 

 

――これまで使ってきた技・能力

 

剣技

 

☆三式

 

――三十七節・『平心麗華(びょうじんれいか)

 

流れるような動作で相手の攻撃を全て受け流し、最後に一閃する。リミッターをかけた零が瞬殺されるレベルだが、本人的にはまだ上があるという。

 

☆一式

 

――1章・『銀風』

 

能力を使ったもので、風を巻き上げて自分と『風月』にあて、その勢いで相手に斬りかかる。元々のネリーちゃんが自体の力があまりない(『GOW』比)のでこういった力の補助が多い。

 

 

現在使用している能力系統

 

☆カマイタチ

 

――処刑用必殺技。

 

鎌刈(かまがり)

 

相手の首元に自分の右足の膝裏で挟み、倒れ込む。

相手も足に引かれて倒れ込むので、その倒れ込む場所に自分の左足の膝を立てる。

基本的には背中に落として悶絶させるのだが、サイア相手になると頸椎を狙う。流石はドS……おっと誰かきたようだ。

 

 

――本人が大切にしている言葉・事柄

 

『弱気は罪』

 

 

 

 

 

○サイア・クロニクル

 

男性。

6月29日生まれ、かに座。

16歳。右利き。

身長――192センチ。

体重――87キロ。

趣味――様々なゲームで引き分けにすること。

好物――フランクフルト。

苦手なモノ――静寂。

外見――蒼い髪のツンツン頭。蒼い目。

出身――アメリカ。

家系――少し貧乏な家系に生まれた。両親共にアメリカ人。妹一人に弟二人がいる。

二つ名――なし。

 

 

『43話~デュランダル~』から登場。性格はおおらかであり、どこか憎めないやつ。

場の空気を和らげるのに長けていて、交渉などに役に立つ。

自分からは攻撃せず、相手の攻撃を利用したカウンターや、拘束させることを主としている。

じゃんけんなどの原理上、引き分けにすることができるゲームは必ず引き分けにする。『サイアに持ちかけるゲームはほぼ全て勝敗の決まるゲームのみ』とは、ネリーの談。

武偵ランクはD。なのに零やネリーという有名どころと仲が良いため、周りからは不思議に思われている。

ちなみに、武藤 剛気とは、初見で仲良くなったらしい。どちらもベクトルが一緒(弄られるバカ)だからだろうか。

 

 

――裏の情報

 

リバースランカー・『守護神』

 

GOWの護り手。ムードメーカー。というか彼が喋らないと任務中はずっと静か。

防御主体、というより防御かカウンターのどちらかしかしない。ただガタイが良い分、カウンターの一発が重い。

意外と頭の方はキレる方。たまに作戦を建てるが、ネリーが無視して特攻して終わらせるため、あまり活用できていない。

『水』を操る超能力(ステルス)持ち。しかも純水なので、電気を通さない。護りという点において、もっとも厄介な超能力だと思われる。

 

 

 

現在使われている能力系統

 

水牢(すいろう)

水面鏡(すいめんきょう)

 

 

――本人が大切にしている言葉・事柄

 

『平等』

 

 

 

 

 

○B

 

男性。

?生まれ、?座。

?歳。右利き。

身長――151センチ。

体重――43キロ。

趣味――お菓子作り。

好物――モンブラン。甘いモノ。

苦手なモノ――頭を撫でられること。

外見――橙色の髪。空色の瞳。

出身――?

家系――?、双子の妹であるGがいる。

二つ名――なし。

 

 

『62話~ランドマークの屋上で』から登場。双子の妹であるGと共に行動する。

本人達の素性を一切(いっさい)話さないため、出身地等のことは誰にも分からない。

滅多に表の世界には出ないため、あまり情報が足りていない。

零達曰く、「普段は意外とお喋り」とのこと。そして意外とお菓子作りが得意であり、よく作っては、皆に振る舞う。

そして、()()()()に悩まされているようだが――?

 

 

――裏の情報

 

リバースランカー・『双神(そうしん)

 

『GOW』の遊撃手。どちらかといえばネリーよりの戦闘スタイル。

一人では精々Sランクの中間くらいだが、二人が揃うとリバースランカー級になる。

戦闘時には冷静でいようとするあまり、双子揃って寡黙(かもく)になる。が、サイアが無理矢理絡んでくるため、殴ったり蹴ったりしながらも少しは喋らざるを得なくなっていた。

Gと連携して攻撃し、相手に反撃・回避行動を取らせないようにする。そして彼らの十八番である『夢物語』は、実はBを媒介としている。火力ではG、技術ではBといったところだ。

 

 

 

現在使われている能力系統

 

白虎(びゃっこ)

 

☆『夢物語』

 

BとGの共通技。相手を夢の中へと閉じ込め、幻覚を見せる。以前は自分達の攻撃時のみは能力が解除されていたようだが、現在ではそれもなくなっている。その能力の強さは、リミッターを掛けている状態の零、すなわち『Sランク内最強』を手駒にできるほど。

 

 

――本人が大切にしている言葉・事柄

 

切磋(せっさ)

 

 

 

 

 

○G

 

女性。

?生まれ。?座。

?歳。左利き。

身長――151センチ。

体重――ご注文は『悪夢』ですか?

B・W・H――72・54・74。

趣味――アニメ鑑賞。ラノベ。

好物――ピーマン。

苦手なモノ――ナス。

外見――橙色の髪をボブカットにしている。空色の瞳。左側面の髪に蒼深いヘアピンを付けている。

出身――?

家系――?双子の兄であるBがいる。

二つ名――なし。

 

 

『62話~ランドマークの屋上で』から登場。双子の兄であるBと共に行動する。

本人達のの素性を一切話さないため、出身地等のことは誰にも分からない。

滅多に表の世界には出ないため、あまり情報が足りていない。

零達曰く、「Gは素でおとなしい方」とのこと。

昔日本での依頼(クエスト)において日本の文化にドはまりして、今では時間があればアニメやラノベなどを鑑賞している。これだけは、双子の兄であるBも「どうしてこうなった」と述べている。

ピーマンやBの作るお菓子をよく食べていて、その時だけ表情が緩む。可愛い。

 

 

――裏の情報。

 

リバースランカー・『双神』

 

『GOW』の遊撃手。どちらかといえば零よりの戦闘スタイル。

一人では精々Sランクの中間くらいだが、二人が揃うとリバースランカー級になる。

戦闘時には兄のBも喋らなくなるため、二人揃って寡黙になる。が、サイアが無理矢理絡んでくるため、殴ったり蹴ったりしながらも少しは喋らざるを得なくなっていた。ちなみに、殴ったり蹴ったりするのはほとんどGがしている。

彼女の攻撃の一つ一つが重戦車に衝突するぐらいの衝撃で、『GOW』の中では2番目に力が強い。なお、1番目()とは差がありすぎる模様。

 

 

 

現在使われている能力系統

 

Bと同じなので省略。

 

 

――本人が大切にしている言葉・事柄。

 

琢磨(たくま)

 

 

 

 

 

○シェイル・ストローム

 

女性。

4月6日生まれ。おひつじ座。

17歳。右利き。

身長――162センチ。

体重――デリカシーが欠けているんじゃないかな?

B・W・H――83・57・82。

趣味――バスケ。

好物――苺。

苦手なモノ――お化け。

外見――黄緑色の髪を腰よりも少し長く伸ばしている。藍色の瞳。前髪部分に桜の花のような髪止めを付けている。

出身――ロシア。

家系――一般家庭で生まれた。両親共にロシア人。

二つ名――本編未公開。

 

 

満を持して紹介。『36話~巫女占札~』の末尾より登場。

『武偵アイドル』という、世間からの武偵のイメージアップとしてプロデュースされ、絶大な人気を誇る。

性格が良く、大体のことは笑顔で答えてくれる。そのためファンからは喜ばれる一方で、『将来悪い男に掴まるのでは?』と心配されるほど。

歌の中で代表的なのは、ファーストソングの『From...』等。

普段行っているライブには自分で決めた服を持っていく。因みに、彼女が最も気に入っているのが白色のワンピースである。

料理をする時には髪をポニーテールにしたり、寝る時は抱き枕(カピパラの刺繍(ししゅう)がしてある物)がないと他の人のベッドに潜り込んで抱き枕代わりにしたりしている。正に『The・女の子』。花より団子の武偵女子(ブッキー)とは訳が違う。

住所は登録上は女子寮となっているが、誰もが入る瞬間を目撃していない。何度か帰りの後を追ける輩がいたが、『途中で急に消えてしまった』とのこと。実際の所は、当事者と男子学生寮の寮長しか知らない。

……なお、彼女がメインの話になると、何故か決まってお気に入り件数が異常に伸びる。やはり可愛いは正義か。

彼女は救護科(アンビュランス)衛生科(メディカ)のSランクなので二つ名が存在するはずだが、まだ本編では未公開である。

 

 

――裏の情報。

 

彼女はリバースランカーではないため、裏の二つ名はない。

 

『GOW』の回復担当。とは言っても『GOW』のメンバーはほとんど重傷はおろか、かすり傷一つすらしないため、大体は相手や救助した人を治すことになっている。

また、彼女の『Link』で移動するということもできる。後方支援型としては、これだけ頼れる人材はあまりいないだろう。

昔、何かがあったようなことを述べているが――?

 

 

 

現在使われている能力系統

 

☆『Link』

 

空間・次元を操り、黒い穴のようなモノをその場で形成し、そこから色々と指示をだせる。

大半は移動手段として現地に(つな)いで(また)ぐのが主だが、時間の概念が存在しない場所に繋げて、その場での手術を行うこともできる。

なお、空間の一部分を収納スペースにしているため、青狸……失礼、猫型ロボットよろしくなんでもだしてくれる。本人曰く、『すごく便利』だとか。

 

 

――本人が大切にしている言葉・事柄。

 

『後悔は後にするもの、今じゃない』




――というわけで、パート1は『GOW』メンバーの紹介でした。どうでしたでしょうか?
次回のパート2は、『RKS』と『KAS』の紹介となります。そちらも是非よろしくお願いいたします。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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オリキャラプロフィール~パート2~

はいどうも、ほぼ一週間前に起きた出来事に未だにびっくりしている、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

何をびっくりしているのかというと……実は。


――この作品、『緋弾のアリア~Sランクの頂き~』が、日間ランキングに載っていました!

その日の朝は何もなかったのですが……バイトから帰ってきた夜10時半頃に自分の作品を確認してみると、なんとお気に入りが30以上伸びていたんです。
何で!?と思ってランキングを見てみると……あったんですよ、それも『7位』に。

それもこれも、今まで見てくださった&評価してくだった皆様のおかげです!ありがとうございます!

Bibaruさんに評価1。
kamitohitoさんに評価3。
ただはさんに評価8。
kiusuさんに評価8。
れお666さんに評価9。
永遠の王さんに評価9。
メガネ神さんに評価9(コメ付)。
シグザウェルさんに評価10!
ピアーズさんに評価10!

を頂きました!ありがとうございます!

では、オリキャラプロフィール~パート2~始まります。


宮野(みやの) 志保(しほ)

 

女性。

12月3日生まれ、いて座。

16歳。右利き。

諜報科(レザド)Aランク。

身長――158センチ。

体重――貴方も、『害虫』なのですか?

B・W・H――78・58・78。

趣味――零のストー……人間観察。

好物――ナポリタン。

苦手なモノ――零に害をなす虫けら(KAS)

外見――黒髪のセミロング。赤色の瞳。

出身――日本。

家系――両親共に日本人。

二つ名――無し。

 

 

『38話~始動!『KAS』&『RKS』~』より登場。顔、スタイルともに上の下といったところ。

どこにでもいる、普通の武偵女子(ブッキー)のようにも見えるが、『零様を影から支え隊』――通称、『RKS』の一番隊隊長を勤めている。

基本的には穏やかな性格だが、零が関わると容赦が無くなる。

 

――本人からの一言。

 

「『RKS』入隊希望者は、是非私の所までどうぞ」

 

 

 

 

 

紅野(あかの) 瑞姫(みずき)

 

女性。

5月16日生まれ、おうし座。

16歳。右利き。

探偵科(インケスタ)Bランク。

身長――153センチ。

体重――さ、流石に恥ずかしいです……。

B・W・H――90・60・88。

趣味――読書。

好物――桃。

苦手なモノ――驚かしてくる人。

外見――紅髪のボブカット。紅色の瞳。

出身――日本。

家系――両親共に日本人。

二つ名――無し。

 

 

『40話~再び!『KAS』&『RKS』~』より登場。小柄な身体に豊満な果実。間違いない、『ロリ巨乳』だ。

普段からおどおどとしており、肩が上がり気味の垂れ目。そのせいか、学校生活では基本的に損な役回りが多い。

――しかし、彼女は『RKS』の二番隊隊長であり、零の危険を察知すると素早く的確な指示を出せる。

そのため、『RKS』内では零の二つ名である『紅電(こうでん)』にあやかって、『紅姫(あかひめ)』と呼ばれている。

 

――本人からの一言。

 

「え、えと、これからもよろしくお願いいたしますっ!」

 

 

 

 

 

四葉(よつば) 三樹(みき)

 

女性。

1月21日生まれ、やぎ座。

15歳。右利き。

強襲科(アサルト)Aランク。

身長――162センチ。

体重――その舌、無くなってもよろしくて?

B・W・H――85・58・87。

趣味――乗馬。

好物――ピザ。

苦手なモノ――男子(零を除く)。

外見――ブラウン色のウェーブ。琥珀色の瞳。

出身――日本。

家系――両親共に日本人。高千穂家以上の財閥。

二つ名――無し。

 

 

『51話~スポーツテストと三度目の――?』より登場。一年ながらにして『RKS』の三番隊隊長を勤めている。隊長の中で最も実力を持っているのは彼女である。

前衛・後衛・支援全部を行えるオールラウンダー。それに女子からの信頼が厚く、不埒な行いをした男を瞬時に(社会的に)抹殺することも可能。

氷の超能力(ステルス)持ち。というのが表のプロフィール。実際は『災害』の超能力(ステルス)持ちである。

 

 

 

現在使用している能力系統

 

Brinicle(ブライニクル)

Penitente(ペニテンテ)

 

――本人からの一言。

 

「女性の皆様、是非私と共に行動いたしませんか?」

 

 

 

 

 

三井(みつい) 智則(とものり)

 

男性。

5月24日生まれ、ふたご座。

17歳。右利き。

強襲科(アサルト)Aランク。

身長――172センチ。

体重――66キロ。

趣味――弓道。

好物――アワビ。

苦手なモノ――カエル。

外見――黒髪。黒目。

出身――日本。

家系――両親共に日本人。

二つ名――無し。

 

 

『38話~始動!『KAS』&『RKS』~』より登場。中学生の時弓道の全国大会で優勝しているが、その時には既に武偵になりたいと思っており武偵高に入学。

『錐椰零を暗殺し隊』――通称、『カス』……失礼、『KAS』の隊長を勤めている。

暗殺し隊という名前の割には白昼堂々と殺しにかかっているが、気にしてはいけない。どうせ負ける運命にあるのだから。

 

――本人からの一言。

 

「男性の諸君、忌まわしきリア充を殺したいと思うのなら、是非KASに入隊を!いつでも待ってるぞ!」

 

 

 

 

 

鹿田(ろくた) 葉月(はづき)

 

本作品の作者。もうすぐ執筆してから約2年。未だに文才無し。

なるべく書き方も原作似、つまり赤松中学先生に似せようと日々小説を見返していたりする。だがまだできていない模様。

オリキャラが多数、しかもキャラが確立しているのは、実は元々オリジナル作品を投稿しようとしたため。ただ、当時の状態じゃ絶対エタると思って急遽『緋弾のアリア』の二次小説に切り替えた。

最近アニメになって小説も買った、『Re:ゼロから始める異世界生活』が携帯小説サイト、『小説家になろう』から出てきたのを知って、オリジナル作品を本気でやろうかと検討している。だが、いずれにしてもこちらの作品はエタることはしない。

 

――本人からの一言。

 

「お気に入り1000件突破しました!ありがとうございます!これからもよろしく(*`・ω・)ゞデス。それではごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ」



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第0章零の過去
プロローグ


はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

まずはこの章を読む前の注意事項を。

1.初の試みである3人称視点です。
2.シリアス多めです。
3.完全なオリジナル章です。そのためいつもより更に駄文になります。

『それでもいいよ!』の方は是非閲覧下さい。お願いいたします。

せんぷうきAさんに評価0。
このよさんに評価1。
九重言葉さんに評価3。
poruさんに評価7。
sheroさんに評価9。
ロリ最高説&氷炎 龍矢さんに評価10!
rikuoさんに評価10!

を頂きました!ありがとうございます!

では、オリジナル章プロローグ、始まります。


「――零の過去、だって?」

 

東京武偵高、第三男子学生寮。(みな)がそれぞれ自分だけの時間を過ごしているであろう、午後7時15分。

その一部屋に、明らかに寮生だけの集まりでない集団がいる。

――ピンク色の長い髪をツインテールにしている少女、神崎(かんざき)・H・アリア。

――金色の長い髪をツーサイドアップに結った少女、(みね)理子(りこ)・リュパン四世。

――アリアの戦妹(アミカ)である少女、間宮(まみや)あかり。

――星伽(ほとぎ)白雪(しらゆき)戦妹(アミカ)である、佐々木(ささき)志乃(しの)

――金髪のポニーテールの長身少女、火野(ひの)ライカ。

――そのライカの戦妹(アミカ)である少女、(しま)麒麟(きりん)

――架橋生(アクロス)の格好をしている少女、(いぬい)(さくら)

――唯一男であり、今集団が集まっている部屋の住人、遠山(とおやま)キンジ。

――そして、この集団を集めた張本人である少女、シェイル・ストローム。合計9名、この部屋に集まっている。

男子学生寮の一部屋にこれだけの人数が集まるという異色な光景の中、キンジがシェイに言葉を投げかける。

内容は、ここにはいない、けれどここに集まっている者達とは深い関わりのある人物――錐椰(きりや)(れい)についてのモノ。

 

「そう、零君の過去。知りたくない?」

 

吸い込まれてしまいそうな程に綺麗で深い藍色(あいいろ)の瞳で、シェイは(みな)のことを見渡す。

対して、その瞳に射ぬかれた者達は一様に黙ったまま。

いや、この場合は唖然(あぜん)としている、と表現した方が正しいだろうか。

――いきなり集合させたと思ったらランドマークタワー屋上で重傷を負わされている零を見せられて、止めにいこうとするアリアを抑えていきなり『零君は本気じゃない』と言われ、その零が296メートルもある巨大ビルを瓦礫(がれき)一つ残さずに壊した後にあの発言。

ここまでの突然すぎる経緯(いきさつ)を考えると、成程、唖然(あぜん)とする理由も分かる。そもそも、話の繋がりがみえてこないのだ。

 

「何でいきなりそんなことを言うんだ。意味が分からないぞ」

「――零君の過去、知りたくないの?」

 

キンジの発言を無視して、三度(みたび)問い掛けるシェイ。真剣な表情から察するに、どうやら疑問に答えるつもりがないようだ。

――それは、知りたいに決まっている。

キンジだけではなく、この場にいる全員の考えだった。

今まで中途半端に聞かされた零の過去。『GOW』のことや、(のぞみ)という少女のこと。

幼馴染みのキンジや、パートナーであるアリアですら、まったくと言っていいほど知っていない。

それが、教えてくれるというのだ、シェイは。

 

――ガチャリ。

 

不意に、玄関に繋がっているリビングの扉が開かれた。

今日キンジの部屋に訪ねてくる予定の者はおらず、そもそも訪ねてくる可能性のある人物は既にここに集まっている。

全員の視線が集められる中、その扉を開いた者は――。

 

「――これは一体どういうことだ、シェイ」

 

赤、と形容するには少し深い、紅色の髪。中肉中背の身体。

髪と同じ紅色の相貌は、シェイを捉えている。

 

「やっと来たね、零君」

 

――錐椰(きりや)(れい)。この集まりの話の中心にいた男が、姿を現した。しかも、一人じゃない。

 

「ご、ごめんね、キンちゃん」

「……」

 

――超能力捜査研究科(SSR)の秘蔵っ子、星伽(ほとぎ)白雪(しらゆき)

――狙撃科(スナイプ)麒麟児(きりんじ)、レキ。

その二人が、一人は申し訳なさそうに、もう一人は無表情という対極の表情で、零の後に続いて入ってきた。

先程までランドマークタワーの屋上――最早(もはや)(ちり)すら残っていないが――にいたハズの零の出現と、白雪とレキの突然の訪問に、シェイ以外の一同が驚いた。

 

「あいつら追いかけている内に違和感を感じてな。周りに対盗撮結界を張ったら案の定反応ありだった。それで逆探知して来てみたら玄関にこの二人がいたんだよ」

 

シェイからまったく目線を外さないまま、自らの後ろにいる二人を親指で差す零。

その仕草や表情は、普段の社交的な彼のモノではないのは、誰の目にも明らかだ。

 

「うーん、白雪ちゃんとレキちゃんが来るのは少し予想外だったけど、まぁ別にいいかな」

「質問に答えろ、シェイ」

「そんなに怒らないでよ、零君。ちゃんと答えるから……。ねぇ、零君」

「なんだ」

「――零君は、いつまで過去のことを隠し続けるつもりなの?」

 

その一言に、零の身体が思わずといった反応を示した。

 

「……これは俺の問題だ。コイツらには関係ない。勿論、『GOW』のメンバー達も――」

「――『関係ない』、なんて言ったらぶっ飛ばすわよ」

 

零の発言を途中で遮った、少し低めの女性の声。乱暴な言葉。もちろん、シェイがそんな発言をすることはない。

 

「おいおいやめてくれよ。只でさえ今、両腕が粉砕骨折しているんだ。今おっ始められたら流石に庇いきれないぜ?」

「その時は両足を粉砕骨折すればいいだけじゃないですか」

「そのまま最期に顔面に貰うのがベストです」

「お前ら二人揃って酷いな!後『サイゴ』の発音が不吉過ぎるわ!」

 

更に続けて陽気な声に、冷静に淡々と話す声が二つ。

それは全て、先程零が入ってきたリビングの扉から聴こえてきた。

――白に近い銀髪を肩くらいまでに伸ばした少女、ネリー・リチャード。

――蒼いツンツン髪で、190くらいの大柄な男子、サイア・クロニクル。

――橙色の髪をボブカットにしている双子、Bと、G。

『GOW』のメンバー全員が、ここに姿を現した。

尤も、ネリーは全身ボロボロ。サイアは両腕をプランと力なく下ろしており、B・Gからは疲れが容易に見てとれるが。

 

「アンタ、いい加減にしときなさいよ」

 

自分の身体の状況を(かんが)みることなく、零の胸ぐらを掴む。

身長が近い二人の目が交差し、互いに睨み付ける。

 

「何が言いたいんだ?(のぞみ)のことは、俺が必ず見つけ出す。他の奴がどうこうする問題じゃない」

「あたし達だって、(のぞみ)ちゃんのことを探しているわよ!そのためにイ・ウーにわざわざ存在を知らしてまで近付いて、情報を集めていたのよ!」

「それで?お前らが見付けてどうするんだ?さっきリミッターを掛けた俺に負けたお前らが、俺が全力でやって勝てなかった奴に勝てるのか?」

「……ッ!」

 

――パァンッ!

部屋に響く、乾いた音。

ネリーの手が振り上げられたような位置にあり。

ぶたれた本人は――

 

「いっ……てぇなこの状態だとシャレになんねぇなチクショーがぁぁぁっ!」

 

――床を転げ回っていた。

 

「……サイア、何故中に入った?お前が受ける理由は無かったハズだし、そもそも折れている腕で庇う理由が思い付かない」

「そうよサイア!バカやってんじゃないわよ!」

「イツツ……こうすればお前らの頭を冷えるだろうからやったんだよ。現にいつもみたいに毒舌吐いてこないほど(いきどお)っているだろ、お前ら」

 

零とシェイの二人が視線を向けているのに対し、両腕が使えないため起き上がらずに仰向けになりながら、へへっとでも言いそうな表情のサイア。

ただし、その顔には冷や汗がツゥ――と流れている。防御力が強い彼でも、折れた腕に追撃をされたのは流石に(こた)えたようだ。

 

「お二人だけで盛り上がるのもいいけどさ、これだけの人数を無視するのは、無作法にも程があるだろ。それに、過去のことを話すのが、そんなに悪いことなのか?」

 

彼はそう言って、アリア達の方を顎でしゃくった。その動きにつられるようにして、この時初めて零がアリア達の顔を見る。

険しい表情の者。不安そうな表情の者。いつも通り無表情の者。

十人十色の表情だが、(みな)一様(いちよう)にして零と視線が交わっている。

 

「零……」

 

普段の様子とはまるで別物の、消え入りそうな、高いアニメ声。

 

「……アリア」

 

いつも勝ち気なつり目は垂れており、不安そうな表情を浮かべているアリア。

そんな彼女の様子に、零の(いきどお)っていた表情が揺らぐ。

 

「零……教えて。零のこと」

「……アリア。いくらアリアでも、このことは――」

「教えて」

 

零の拒否しそうな言葉を遮り、アリアは一歩前に出る。

いや、アリアだけではない。

理子。あかり。志乃。ライカ。麒麟(きりん)(さくら)。キンジ。白雪。レキ。

この場にいる誰もが、零の話を聞くことを望んでいる。

その様子に零は続く言葉が出せず、口を閉ざして黙っている。

 

「教えるくらいなら、いいんじゃないか?」

「……サイア。余計なことを」

()()()()()()()()()()()()()、すればいいんだよ」

「……」

 

サイアの言葉に、零は黙りこむ。

そして、もう一度ぐるりと皆の顔を見て、大きく息を吐き……。

 

「――シェイ。『Link』してくれ」

「……場所は?」

「知ってるだろ?――俺の実家だ」

 

 

 

 

 

「ここが……零の実家」

「ああ、アリア以外は初めてだよな」

「お……大きいっ!志乃ちゃんの家よりも大きい!」

「アリアの実家はこれ以上だぞ、あかりちゃん」

 

――今、治療のためにサイアとシェイが抜けたこの集団がいるのは、キンジの部屋ではない。

シェイの『Link』によって場所は変わり、零の実家――つまり、イギリスに来ている。

あまり有名では無かったが、それでも貴族である零の実家は、佐々木家より少し大きいものだった。

門をくぐり、玄関の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。

十数秒といったところだろうか。ガチャリと音をたてて、大きな扉が開いた。

 

「おぼっちゃま、お久しぶりでございます」

 

中から出てきたのは、初老だと思われる、白髪の男性。

ただし身長は180程あり、背筋がピンとしている。

しっかりとしたスーツを身に(まと)い、彼が執事に当たる者だとは誰の目にも明らかだ。

 

「お久しぶりです、ひぃじぃ。元気にしてましたか?」

「おっほっほ。まだまだ、おぼっちゃまの晴れ姿を見るまではこのじぃや、死ぬわけにはいかないですぞ」

 

零の挨拶の言葉に、『ひぃじぃ』と呼ばれた初老の男性は肩を揺らし、楽しげに笑っている。

普段から仲が良いのだろう、零の方も表情は明るい。

 

「えっと、零。この人は……」

「おや、そういえば自己紹介が遅れましたな。(わたくし)(ひいらぎ)(さとる)。零おぼっちゃまの執事の者です」

 

零に対して呟いたキンジの発言に、柊が素早く答える。

イギリスにいるハズなのに先程から日本語での会話になっていることに、英語のできない者は安堵した。

 

「ネリー様やB・G様も、お久しぶりでございます。サイア殿とシェイル様はいないようですが」

「あの二人は後で合流の予定です」

「「シェイさんだけ通しておいて下さい」」

「おっほっほ。相変わらず、サイア殿は人気のようですな」

「に、人気ってことですましていいのかな?」

 

当たり前のようにサイアをハブるように伝え、それを軽く受け流した状況に、武偵校の人気者である理子が思わず疑問を口にした。

その疑問に誰も答えることなく、柊が零に向き直り。

 

「さて、零おぼっちゃま。ここに来られたということは……」

「そういうことです。誰にも近寄らせていないですか?」

「勿論でございます。では、どうぞ」

 

扉を更に開け、皆に中に入るよう(うなが)す柊。

それに対して零・ネリー・B・Gが直ぐに入り、慌ててアリア達も中に入る。

大きなシャンデリアや、広々としたホール。大きな階段。高級そうな絵画の数々。

こういった物に関わりがないキンジやあかりはキョロキョロとしていたが、零はそれらには目もくれず、どんどんと廊下の奥へと歩いていく。

数分ほど歩いただろうか。廊下の幅は狭くなり、明かりも乏しくなる。普段から使われているような感じは無く、それゆえに醸し出す雰囲気は暗い。

アリアの表情が引きつりだして、今にも走り出しそうになった時。

 

「――ここだ」

 

零の足が止まり、前を指差す。

指差された方向へと皆が視線を向けると、一つの扉があった。それは、この大きな屋敷には相応しくない、木製の扉だった。

 

「……この奥に何が?」

「まぁ、よく見てろ」

 

キンジの問いかけに応じず、零は胸元へと手をやる。

制服の中へするりと手をいれ、取り出したのは――綺麗な銀色の外見に、小さなエメラルドが付けられているペンダントだった。

首に掛けていたそれを扉の前まで持って行き、扉の真ん中にある小さな(くぼ)みへと――入れた。

すると、カチリ。

小さくて聞き取りづらいモノだったが、鍵が開く音がした。

 

「入るぞ」

 

零がドアノブを引く。

扉の向こうにあったモノ。それは……。

 

「――」

 

――絶景だった。

緑が生い茂り、透き通った川が流れ、小鳥の(さえず)りが聴こえてくる。

暖かな太陽と、心地好(ここちよ)い風に当たる一同は、先程まで薄暗い廊下にいたことの差もあり、言葉を失った。レキですら、いつも被っているヘッドホンを外して、風に髪をなびかせている。

 

「――ここは、(のぞみ)の好きだった場所だ。世界のどこにあるかも分からない、たった一つの場所」

 

近くにある崖の先端部分に座り込みながら、遠くを見渡すように目線を上げる零。

その発言を聞き、ようやく皆が気付いた。先程まであった、自分達が入ってきた扉がないことに。

零の発言した内容から察するに、ここは世界にはない場所なのだろう。そして先程零がペンダントを扉に嵌めたのは、ここと繋ぐための鍵だということ。

現実的に考えれば馬鹿馬鹿しいことだが、それが今現実に起こっている。

 

「さて……B・G」

「「はい」」

 

たった一言。内容の無い、名前を呼んだだけ。

それなのにBとGは呼ばれた意味を理解し、集団を挟むような位置に立った。

 

「今からB・Gの『夢物語』を使って、俺の過去を『夢』として見る」

「そ、そんなことができるの?」

「本来B・Gの『夢物語』は実戦用ではなくて、犯人達の犯行現場を『夢』として見ることを主としている。それを応用して俺の過去を『夢』として見た方が、俺が話すよりも分かりやすいだろう」

 

ポウッ……と、BとGの手に、青白い光が(とも)る。『夢物語』を使用するときに出る光だ。

 

「俺と(のぞみ)の関係。何故俺が(のぞみ)を探しているか。そもそも(のぞみ)とは誰か。言っておくが、面白いことなんて何も無いぞ……B・G、やれ」

「「『夢物語』」」

 

その瞬間、皆は光に包まれ、意識が飛んだ――




はい、どうでしたでしょうか。
今回は過去の話に繋げるためのものですので、次からが零の過去の話になります。

それではごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第0話――始まり

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。
テストとかバイトが重なって執筆出来ませんでした。待ってもらった皆様には申し訳ありません。


――さて、今日のこの時間を持ちましてこの作品。『緋弾のアリア~Sランクの頂き~』並びに自分自身の執筆活動が、ちょうど二年となりました!
この作品を読んでくださった方々。感想を下さった方々。お気に入りしてくださったり、評価をしていただいた方々には、頭が上がりません。本当にありがとうございます!そしてこれからも頑張りますので、よろしくお願いいたします!

というわけで、第0話、始まります!


――1983年10月10日。新たな生命がこの地に産み出された。初めて見る我が子に、苦痛を乗り越えて出産した母親は泣いて喜んだ。

小さな手に、短いあんよ。ヘソの緒が繋がったままのお腹等の全てが(いと)おしくて仕方無い。

その子の名前は、(れい)。子供の名前を考える時、日本人の名前にしてあげようという思いで、この子の父親と共に決めたのだ。何もない所からでも挑戦して欲しいという、意味を込めて。

そんな思いを受け取った小さな命は、その存在を知らすかのように大きな産声を――あげなかった。

その様子に助産師の間に緊張が走り、母親の頭に不安がよぎる。何故なら、赤ちゃんは泣くということは、自発呼吸ができているということだからだ。

産まれてから一瞬泣かない赤ちゃんはいるが、その場合は足を少しつねることで泣かせる。

だが、助産師がそれをしているのにも関わらず、産声をあげない。つまり、呼吸ができていないハズなのだ。――通常は。

 

「……What?」

 

その声をあげたのは、はたして誰だったのか。いや、誰が最初であっただろうか。

皆の視線が交わっている場所、そこにいる子供は――胸を上下させて、呼吸をしていたのだ。

更にはもう既に目を開けていて、辺りをキョロキョロと見渡している。誰だ、お前ら――そう言いたげに。

前代未聞の状況に、助産師達は不気味に思ったが――母親は違った。長い時間苦しい思いをしながらもようやく授かった我が子を、慈しむように胸の中へと納めた。

またそれは、後に出産したことを聴いてドアを破らんばかりに入ってきた父親の方も母親同様に純粋に喜んだという。

これが後に世界に名を(とどろ)かせる武偵――錐椰(きりや)(れい)の、異様な誕生の瞬間であった。

 

 

 

 

 

零が誕生してから数日間。両親や周りの者が、零の異変に気付く。

まず、泣かない。異様な誕生光景から一度もである。赤子というのは自分では何も出来ないため、泣くことで周りの者に意思表示をするものである。

(まれ)に自分が泣く前に欲求を満たす行為を親がする為に泣かない子もいるようだが、零の両親は貴族という立場上、ずっと子供にばかり構っていられない。

メイドや執事はいるが、我が子ではない子供のことを完璧に分かるという者はいない。そのため、零が泣かないというのは異常であるのだ。

なので、メイドや執事達は零が何をどのタイミングでして欲しいかが分からないハズだが……ここでまた、『普通』ではないことが起こる。

 

「零様、お食事の方は如何(いかが)ですか?」

「……」

 

ふるふる。

 

「では、お昼寝になられますか?」

「……」

 

ふるふる。

 

「それでは、積み木などをご用意致しましょうか?」

「……」

 

こくり。

 

「では、ご用意致しますね」

「……」

 

こくり。

床に座り込んで頷く零にメイドが反応して動き、遊び道具である積み木等を取りに行く。

……さて。改めて確認するが、零はまだ産まれて数日が経ったばかり。まだ録に言葉も喋ることが出来ず、自分の手足が動かせるということに気付いていないような時期である。

それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

発達が早いというような次元ではない。産まれた時から既に言葉を理解しているかのように、零は大人達の言葉に反応していた。

そんな積み木を規則正しく積み上げていく零を見ながら、仕事が終わり時間が取れた零の父親――錐椰(きりや)(まもる)は椅子に座りながら笑みを浮かべていた。

息子の異常な行動に不安を覚えていない訳ではない。やはり周りの子供と比べてしまう部分はある。

だが、それがどうした。医者にも病気ではないと言われた以上、その程度で愛する我が子を不気味がることなど、どうして出来るだろうか。

積み木で遊ぶのに飽きたのだろう。土台としている一番下から一つずつポイポイと抜いていく零を見て、一緒に遊んであげようと思い、椅子から立ち上がる守。

そのまま零の側まで歩いていき、しゃがみこんだ所で――積み木が倒れていないことに気付く。

 

「……?」

 

たくさんの積み木を土台にしていれば、1個や2個取り除いたとしても倒れないことはある。

だが今零の目の前に置いてある積み木は、土台全てが取り除かれているのだ。なのに、倒れない。それどころか、()()()()()()()

スゥ――。

目の前に起きている光景に呆気に取られている守の横で、零が積み木に対して指差す。そしてそのまま、指を頭上へと上げる。

すると、どうだろうか。積み木が零の指に釣られて、フワフワと浮上しだしたではないか。

自分の頭上へと積み木が来たことを確認した零は、今度は積み木を入れるおもちゃ箱へと指差す。それと同時に積み木も動きだし、ストンストンとおもちゃ箱の中へと入っていく。

完全に固まってしまった守を横に、零は興味を失ったかのようにあふぅ、と一つアクビをした――。

 

 

 

 

 

それからというもの。守は異常すぎる息子に対して、様々な情報を集めていた。

自分や愛する妻は、零のことを決して見放さない。が、周りの子供達は違う。周りとは違う零は、もしかしたら仲間外れにされてしまうかもしれない。

他にも零のような子供がいるか、また零がしっかりとした生活ができるのか。時にはネットで調べた怪しげな場所にも出向いてでも零のことを思って行動して……一年が経過した。未だに有益な情報は無く、その間にも更に零の異常は続いた。

言葉を喋ることが出来るようになってもあまり喋らず、立てるようになってから父親の執務部屋から辞書を引っ張り出してきて読み込む。

父親を驚かせた超能力は、今や日常的に使用。それもサイコキネシスだけではなく、風・水・炎……等を、自由に使っている。

あまりに人とかけ離れている現象に不気味がり、辞めていくメイドや執事達も出だした。残っている者も、どのように応対すれば良いのか分からずに困っている。

 

「ダメだ……何一つ分からないまま。このままじゃ零は……」

 

自分の執務室である椅子に座りながら、頭を抱える守。

そこに、コンコン。

 

「守様。お客様がお見栄になっています」

「……(ひいらぎ)か。今はそんな気分じゃない、悪いけど帰ってもらってくれ」

 

扉をノックして入ってきたのは、(ひいらぎ)(さとる)。錐椰家の執事長を勤めており、守が絶対の信頼をおいている者。また零のことを他の執事達のように不気味がらず、しっかりと普通の対応をしてくれる者。

その柊から客が来たことを伝えてもらったが、零のことを考えているためにそれどころではない守。誰かは知らないが、来てくれたのに申し訳無いと思いつつ、対応できないと柊に伝える。

 

「守様。それが――『特殊な子供のことについて』とのことです」

「――何っ!?」

 

ガタッ。

柊から聞いた内容に、条件反射で立ち上がる守。柊の顔を見ても真剣そのもの。嘘をついているような表情ではない。

 

「――通してくれ」

「はい」

 

柊にお客を呼ぶように伝えて、応接室に向かう守。その足は今の守の心境を表すかのごとく、どんどんと進んでいく。

この一年間。どれだけ頑張ってきても、まったく零のことについて分からなかった。息子の将来に不安を覚え、焦り、困惑した毎日。

それが、今日ついに……。

ガチャリ。

応接室につくと、そこには、一人の男性がスーツに身を包んだ状態でソファーに座っていた。

黒髪であるから、恐らく自分と同じ日本人。体つきはスーツの上からでも分かるくらいに良く、ただの一般人ではないことはすぐに分かった。

その者は守が入ってきたことに気付くとソファーから立ち上がり、片手を差し出した。

 

「初めまして。(わたくし)須郷(すごう)という者です。如何お見知りおきを」

「あ、ああ。こちらこそ」

 

こちら(イギリス)に来てから初めて行う日本語での挨拶に若干の違和感を感じつつ、握手に応じる守。

握手を解いて座ってもらうように促し、自分も座る。

 

「それで、話というのはうちの子……零のことか」

「はい。守殿が特殊な子供を持ち、今後どうなるのかが分からないから情報を集め回っている……というのを、風の噂で聞きつけまして」

「そこら辺はどうでもいい。うちの子は、零はこれからどうなるんだ?」

 

この際どのような流れで話が伝わったのかはどうでもいい。大事なのは、これからの息子の将来についてだ。

そのことが伝わったのか、須郷と名のる男性はそれ以上余計なことは言わず、スッ――と懐から名刺を取り出し、守へと手渡す。

 

「――『特殊児童捜査研究家』……?」

「はい。私はそこの者になります。ただ、研究家と言っても実験等を行うのではなく、発達の早い子供達を他の子供達より早く社会に慣れされる、というモノです。言ってしまえば、特殊な子供の幼稚園というところです」

「ま、待ってくれ。特殊な子供達ということは……零以外にもいるのか?」

「ええ。僅かばかりですが存在します。今回は守殿の息子さん以外にも約二名いますし、既に私達のところにいますよ」

「……その、うちの子は発達だけじゃなく、その、不可思議な現象を起こすんだ。積み木を手も使わずに空に飛ばしたり、炎や水を手から出したり……」

「守殿。それは超能力(ステルス)と言ってあまり知られていませんが、最近の武偵さん達の中にも密かに存在するモノなんです。だから、決して特殊なモノではありません。珍しいモノではありますが」

 

今まで分からなかった疑問を、アッサリと解答してくれる須藤。

自分の子供のような子が、他にもいる。そのことを知ることができたことで、守はこれ以上ないほど安堵した。

 

「ただ、超能力(ステルス)というのは使い方次第ではとても危険なモノで、特に常識をまだ理解していない子供時代に暴発、なんてこともあります。そこで先程も申した通り、今の内から社会の常識を教えて、それを防止しようということです。勿論常識が分かれば超能力(ステルス)なんて滅多に使わないから、普通の生活を送ることも可能です」

「なるほど……」

「早く帰りたい日には連れて帰ってもらえれば良いし、お子さんが風邪などで動けない場合は欠席してもらっても構いません。毎日17時ぐらいには終わります。是非一度私達の施設にお越しください。他の子の両親も集まる予定ですよ」

 

その提案は、守の心を鷲掴みにした。心配していた息子の将来が無事過ごせるようになり、更に毎日キチンと帰られるのは有難い。

零も自分と同じ境遇の子と一緒に過ごした方が良いだろうし、友達になれるかもしれない。それに、同じ子供を持った親達と交流できるというのも嬉しいことだ。断る理由など、ない。

 

「はい、是非参加させて下さい――」

 

 

 

 

 

「――お父さん。今日はどこに向かってるの?」

 

『特殊児童捜査研究家』の施設に行くと約束してから数週間後。守は零をつれて、須郷に教えられた場所へと向かっていた。

柊が運転するリムジンで、決して子供用ではない哲学の本を読みながら、珍しく自分から話しかけてきた零。

 

「ああ、今はね。零のようなスゴいことができるお友達の所に行くんだよ」

「ふぅん……」

 

本人の手前、少し話をボカしながら伝えるが、零はあまり興味なさげだった。

黒髪を邪魔にならない程度に伸ばし、焦げ茶色の瞳で本を読み続ける零。まだ一歳数ヵ月というのに、その瞳は真剣というものを帯びている。

 

「零は何で、辞書とか小説ばかり読むんだ?絵本とか読んだ方が面白くないか?」

「絵本……」

「そう。楽しいお話や、綺麗な色の絵とかがある奴」

「絵本は……つまんない」

「えっ、どうして?」

「全部、同じだから」

「同じ……?それはどういう――」

「守様、到着しました」

 

詳しく聞いてみようと思ったが、運転席にいた柊が声をかける。どうやら着いたようだ。

窓から見てみると、そこには至って普通の幼稚園のような施設が建っていた。

 

「守殿、ようこそおいでくださいました。どうぞ中へ」

「ああ、ありがとう。須郷さん」

 

零の手を引きながら車から降りると、先日応接室であった格好のままの須郷が、入り口付近に立っていた。

須郷は守と、その守に手を引かれている零を確認し、施設の中へと案内する。

施設の中も至ってシンプルで、しっかりとした教育施設なのだということが分かる。

しばらく施設内をぐるっと案内されると、一つの部屋の前で須郷の足が止まる。

 

「この中に、零君と同じような子供が二人います。守殿はこのまま私と一緒に子供達の親と会合しますが、零君は先に子供達と一緒にいた方が良いと思われます。如何なされますか?」

「そうですね……なら、零は先に子供達に会わせます。零、しっかりしているんだぞ?」

「大丈夫」

 

何も気にしていないような表情を浮かべている零の頭を、ぐしゃぐしゃと撫で回す守。こうすると、零の頬が少しだけ膨らむのだ。

ぷくぅ、といつも通り頬を膨らませ、表情らしい表情を浮かべたことを確認した守は、須藤と共に他の子供達の両親の所に向かった。

その親の背中が曲がり角で消えるのを確認した零は、その部屋の扉に体を向ける。

そして、引き戸式の扉をガラリラと開けた。

――そこにいたのは、二人の子供。

一人は男子。青い髪をツンツン頭にしていて、青い瞳は綺麗な色をしている。

もう一人は女子で、銀に近い白色の髪を肩まで伸ばしている。瞳はトパーズ色。

――そう。その二人の名は、サイア・クロニクル。ネリー・リチャード。

零の元・チームメートであり、それぞれ『守護神』・『技神』として『リバースランカー』を勤めていた者達。

『裏の武偵』として、僅かな者だけが知る圧倒的集団、『GOW』のメンバーである者達の初会合は――

 

「――だからクヨクヨしてねぇで言いたいことあるなら言えって言ってんだろうがぁっ!」

「うわぁ~ん!ママァー!パパァー!」

「……なんだこれ」

 

――サイアが切れ、ネリーがウサギのぬいぐるみを抱きながら大泣き。それを無表情で零が見つめるという、なんともシュールな光景であった――




さて、どうでしたでしょうか。

私のための私さんから評価1。
水色空模様さんから評価1。
NOアカウントさんから評価2。
kozuzuさんから評価3。

零の精霊さんから評価10!

を頂きました!ありがとうございます!

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第01話――顔合わせ

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

今年もいよいよ大晦日!皆さんはどのような一年をお過ごしでしたか?最後のしめは紅白ですか?ガキ使ですか?

YJRさんに評価1。
烏瑠さんに評価6。
HRKTYさんに評価8。
課したさんに評価9。
めぐめぐさんに評価9。
遊びの鬼さんに評価9。

暁月神威さんに評価10!
室町さんに評価10!
setuzetuna@0さんに評価10!

を頂きました!ありがとうございます!

では、今年最後の話、始まります。


「……何だ、これ」

 

扉を開けてから一拍おいて、零は再び疑問を口にした。

父親によく分からないまま連れてこられ、いざ扉を開けると、中には二人の子供。

恐らく同い年であろうツンツン頭の少年が、これも同い年であろう銀に近い白色の髪の少女に怒鳴っている。少女の方は涙目になりながら、自身が抱えているウサギのぬいぐるみを潰すぐらいの勢いで抱き締めている。心なしかウサギのぬいぐるみの瞳が揺れているように見えるのは気のせいであろう。

しばらくそのまま眺めていると、ピクッ。

白色の少女が、部屋に入ってきた零に気付いた。

そして、トテテッ。

まだ小さい足で懸命に走り、零の後ろへと回る。零の身体に自身の身体を隠れるように縮こまり、視線だけをツンツン頭の少年に向けている。

それでようやくツンツン頭の少年も零の存在に気付いたのか、ズンズンと近寄ってくる。

 

「おう、てめぇは誰だ。さっさと答えろ」

 

初見のハズなのに何故かキレながら、アメリカンイングリッシュでツンツン頭の少年は零に突っ掛かって来た。それを見た後ろの少女はひゃうっ……と可愛らしい悲鳴をあげて、零の服を引っ張っている。

自分に言われた訳でもないのに、どうしてそこまで恐がるのかと思いながらも、質問されたからには答えようと思い、目の前の少年と目を合わせる。

その服装はTシャツにジーパンとシンプルな物だが、所々が汚れている。

 

「……僕は、錐揶 零」

「ケッ。つまんねぇ名前しやがって。お前自身もつまんねぇ野郎だし、お似合いだな」

 

名前を聞かれたから答えたのに、どうして目の前の少年は悪態をつけてくるのか。それが零には不思議で仕方無かった。

理に敵っていないことや者は相手しない方が良いと本で学習していたので無視して立ち去ろうと思ったが、後ろの少女が目一杯服を引っ張っているので動けない。

服が伸びるのでそろそろ止めてほしいと思っていると、ツンツン頭の少年がチッ……と舌打ちしながら、部屋の隅に置いてあった長椅子にドカッと座り込んだ。どうやら興味を失ったらしい。

 

(M)……ありがとう(Merci)……」

 

と、後ろから小さい声で言いながら、先程の少女が頭を下げていた。言語からするに、フランス人らしい。ワンピース姿の少女は大事そうにウサギのヌイグルミを抱えている。

フランス語は本を読んでいる内の翻訳で自然と覚えため、会話に支障は無い。そう判断した零は、その少女と向き合う。

 

「……ん」

「わ、私、ネリー・リチャードっていうの。あなたは?」

「……錐揶 零」

 

先程ツンツン頭に名前を言ったのを聞こえていないハズがないのに、何故もう一度聞いたのか。

そこを聞こうと思ったが、よろしくね、と花が咲いたような笑顔で手を差し出してくる少女――ネリーを見て、聞くのをやめた。

なし崩し的に握手することになり、それを見ていたツンツン頭がチッ……と舌打ちをしたところで、ガラリラ。

引き戸式の扉が不意に開き、それに驚いたネリーがビクッとしてサッと零の後ろに隠れた。

 

「ようお前ら。仲良く……やってるような雰囲気じゃないな」

「……須郷(すごう)さん、でしたか?」

「おっ、良く覚えてるな。感心感心」

 

入ってきたのは、先程まで零と零の父親である守を案内していた、須郷という男だ。

須郷は零が自分の名前を覚えていたことに気を良くし……部屋の長椅子に一人で座っているツンツン頭の少年を見て、溜め息をついた。

 

「サイア君……周囲の人間との関係は大事だって言っているじゃないか」

「ハッ。俺は仲良しこよしをやりに来たわけじゃねぇんだ。それにそんなもん、()()じゃ邪魔なだけだろ」

「あのなぁ……」

 

須郷が呆れているが、ツンツン頭の少年――サイアは悪態をつけるだけで取りつく島もない。

まぁいい、と言って再び零の方に向き直り、そこで須郷は零の後ろにネリーが隠れていることに気付いた。

 

「あー、ネリーちゃん?いい加減私のことを怖がらないで欲しいのだが……」

「お、おじさん怖いもん……」

「お、おじさん……」

 

ズーンという擬音がつきそうな感じで、須郷は落ち込んでいた。

一歳の子供三人の中で膝を地につけている大柄の男。先程からシュール過ぎる光景が続いているが、もしかしてここでは日常茶飯事なのかと零は他人事のように考えていた。その考えに至る一歳児というのが、一番シュールであるというのに。

 

「と、とにかく!三人には今すぐ能力検査を行ってもらう」

「……『能力検査』?身体検査じゃなくて?」

「君達の能力のスペックを計っておきたいんだ。どのような能力が使えて、どれくらいの力を発揮できるのか。それを知らないと、こちらとしても対処できないからね」

 

――成る程、と零は思う。確かに何も知らないまま接していて、いきなり超能力や思わぬ力で自分の身に危険がっ!となる可能性はある。

そしてそれは、須郷だけではない。特殊な子供である零、サイア、ネリー。この三人も、互いの能力で互いを巻き込むなんてこともある。特にサイアに至っては、ネリーに対してキレて使う可能性が非常に高い。

なら最初から相手のことを知っておけば、対処法も思い付く。今からやる検査には、そういった意味があるだろう。

 

「分かりました。僕は大丈夫です」

「わ……私も、です」

「零君とネリーちゃんはOKだね。サイア君は?」

「やらねぇと任務出来ないんだろ?さっさとやろうぜ」

「……『任務』?何のこと?」

「それは後ほど話すよ。それじゃ、三人ともついてきてくれ」

 

零の質問を後回しにして、須郷は引き戸の扉を開き、さっさと進んでいく。

それに黙ったままサイアがついていき、それに零がついていこうとして――ネリーが服を掴んだままなのを思い出し、仕方無く手を繋いで向かった。

 

 

 

 

 

教室のような部屋から出てきてやって来たのは、外の大きく広い運動場のような場所だ。10メートル毎にラインが引かれていたり、大きな囲いのような場所があったりする。測定用だろう機材も豊富に備えられており、準備万端といった感じだ。

まだ身長が100㎝にも満たない子供3人に対してこの設備はどうなのだろうかとなるのだが、それに関しては誰も触れない。

 

「……それで、このカッコは一体何なの?」

「何って、動きやすい格好だろう?」

「それはそうですけど……」

 

質問を質問で返されてため息をつく零の格好は俗にいう、体操服だ。それも日本の。

白い半袖のシャツに、黒い短パン。サイズこそ特注しなければならない程の小ささだが、動きやすさで言うなら抜群の性能を持つ。隣にいるサイアも文句はないのか、一足先に準備運動を始めている。

ちなみにネリーは恥ずかしいのか、モジモジしながらまた零の後ろに隠れた。どうやら避難場所と認識されてしまったらしい。

 

「まぁいいや……最初は何を測定するんですか?」

「最初は100メートル走からだ。誰からやる?」

「――もうスタンバイしてるから、早くやってくれねぇか」

 

測定する順番を決めようとすると、既にサイアがスタートラインに立っていた。どうやら本当にさっさとやってしまいたいようだ。

零とネリーから非難が出なかったので、須郷はそのまま片手に持っていたバックの中からタブレットを取り出す。どうやらゴールした時のタイムがタブレットの画面に表示される仕組みになってるらしい。

そして――カチャリ。

もう片方の手で、競技に使われる、音だけの拳銃を取り出した。

――パァンッ。

運動場に乾いた音が鳴り響き、それと同時に駆け出すサイア。

スピードがのり、一気にゴールへと向かい――

 

「――ラァッ!」

 

ダンッ。

力強くゴールラインを越え、声を上げるサイア。

タブレットに表示されたタイムを見る須郷と、それを覗き見する零とネリー。

――8秒02。それが、サイアの100メートル走のタイムだった。

 

「チッ。8秒切ってると思ったんだが……まぁいいや。どうせ俺が1位だろ」

 

世界記録を優に越えていると言うのに、少し不満げな表情で帰ってきたサイア。彼にとってはまだまだなのだろう。

 

「次、どちらからやる?」

「……僕は、最後で良い」

「じゃあ、ネリーちゃんからだな。スタートラインに立って」

「えっ……あっ、うん……」

 

サイアのタイムに眉ひとつ動かさない須郷と、そもそも表情の起伏が乏しい零に驚きつつ、ネリーがスタートラインに立つ。

そういえば、何故彼女だけ紺のブルマなのだろう。

さっきまで自分の後ろにネリーがいたために分からなかった事情が明らかとなる。

 

(……まあ、須郷さんの趣味だろうな)

 

少し考えた後、零はそのように判断した。

実際は須郷ではない者の趣味で準備した物であり、須郷はそれを持ってきただけなのだが、そんなことなど知るよしもない零はさりげなく須郷から距離をとった。

自分の株が下がっていることに気付いていない哀れな須郷は、ネリーがスタートラインに立ったことを確認すると、拳銃を空に向かって突きだし――パァンッ。

音に対して少し驚きながらも、ネリーはゴールに向かって走る。

走る。走っている。のだが…… 。

 

「おっそ」

「こらサイア君、そんなこと言わない」

 

そう、遅い。遅いのだ。懸命に走っているのは分かるのだが……遅い。サイアがゴールしたタイムで、ようやく5分の2を過ぎた所である。

 

「ハァッハァッ……ケホ、コホッ」

 

息も絶え絶え、足はフラフラと覚束ない。

結局、ネリーは27秒61というタイムでゴールした。結局といっても、1歳の幼女が100メートル走を完走したということ自体が凄いことで、先にサイアがとんでもない記録を叩き出してしまったために起こったことだが。

疲れてしまいおんぶしてもらっているネリーを須郷達の所に運んだ後、零がスタートラインに向かう。

 

「へっ。どうせてめーも遅い記録出すんだから、さっさと走れよ」

「サイア君、だからそのような言葉は……」

「良いですよ須郷さん。気にしてないので」

「ああん?」

 

零の台詞が頭に来たのか、苛ついた表情を隠そうともしないサイア。そのままガンを飛ばしているが、知らぬ存ぜぬといった感じでやり過ごす。ネリーは疲れて気付いていないのか、怖がらずに先程配られたペットボトルでコキュコキュと水分補給を行っている。

 

(……やれやれだな、これをチームにしないといけないのか。骨が折れそうだ)

 

その中で一人、須郷は小さくため息をついた。

まだ零には話してないが、先程サイアが口にした『任務』のことを考えていると、頭が痛くなる。

 

「――須郷さん、まだですか?」

 

その言葉に顔を上げると、零がスタートラインに立って首を傾げていた。どうやら考えごとに(ふけ)っているうちに少し時間をかけすぎてしまったらしい。

すまない、と零に謝りつつ、拳銃を空に突きだす須郷。

 

「いくら俺に負けるからって、最後までちゃんと走れよ?」

(Du)頑張れ(Du courage)……」

 

その右横でサイアはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ、少し離れた所でネリーが小さく応援している。

それには目もくれず、ゴールラインを見つめている零を見て、引き金を引く。

パァンッ――。

――ダァンッ!

 

「……は?」

 

サイアのマヌケな声が、静寂に響く。他の音が、ない。

ネリーが今日一番の驚いた表情をして、須郷も驚きを隠せない様子だった。

それは何故か――

 

「――須郷さん、タイムどれだけだった?」

 

――()()()()()()()()()()()()()()、この幼児のせいだ。

涼しい顔をして戻ってきた零に対して、須郷は我に返り、タブレットを見る。

この設備はコンマ00秒までを正確に計れる物であり、先程までの二つもしっかりと測れていた。

そのタブレットに表示されている数字は……。

――『0秒00』。つまり、コンマ00以内に走りきったということ。

 

「は…ハハハ……」

 

あまりのできごとに、須郷は笑うしかなく……零は、無表情のままだった――。




はい、どうでしたでしょうか。

自分はこの一年間、色々なことがありました。
執筆活動二年目。お気に入り数1000件突破。ランキング入り……ハーメルン様の活動の中でも、これだけのことがありました。
これも全て、読んでくださっている皆様のおかけです。本当にありがとうございます。

では、よいお年を!(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第02話――能力検査

はいどうも、明けましておめでとうございます(今更)、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

申し訳ありません。年明けから都合が重なり、時間が取れませんでした。しかもまだ都合が残っているという……辛い。

紫銀の召喚士さんに評価9→10!
オンリーさんに評価7→9。

を頂きました!ありがとうございます!

それでは、第02話、始まります。


衝撃のタイムを叩き出した零に衝撃を受けたのもつかの間、大人一人と幼児三人の能力検査が再開された。

次に行われたのは、握力測定。使用される測定器は子供用に小さく作られているが、値は300㎏まで計れるという優れものである。

今回は三人とも一斉に始めるということで、それぞれ測定器を片手に握る。

 

「アレ、零君は左で持つんだ?」

「左利きなので」

「日本人って、左利きが少ないって聞いたことある……」

「一応クォーターだけど……それより、始めようよ」

「ああ、そうだな。それじゃ――始め」

 

グッ――。

須郷の合図と共に、三人とも手に力をこめる。

――バキッ、ガシャッ。

直後。握力測定には似合わない、鈍い効果音が響く。

 

「スミマセン……壊れました」

 

そう報告してきたのは、やはりと言うべきだろうか。

手のひらに残った測定器の取手だった残骸を見つめながら、無表情の黒髪の幼児である、零であった。

その零の足元には、取手部分を失って重力に逆らうことなく落下した測定器。自らも測定中であるサイアは動きが止まり、ネリーは何度も零の手のひらと足元へと視線が行ったり来たりしている。コレ(測定器)って壊れるの?といいたげな表情だ。

実際には壊れたのではなく、零が力業で壊したのだが。

 

「次は加減してやります」

「それだと握力測定器ではなくて、握力調整器となってしまうのだが」

「では、どうすればいいのですか?」

「ハァッ……零君の記録、『測定不能』で」

「分かりました」

 

淡々としたやりとりをし、それ以上やらなくてもよいと言外に伝える。実際、300kgまで計れる測定器を一瞬で壊したのだ。これ以上計ることはできないだろう。

ちなみに。隣で負けじと頑張っていたサイアは70kg。ネリーは2kgしかなかった。

――それからも、三人の能力検査は続いた。反復横飛や長座対前屈など、日本で言うところのスポーツテストや、モニターに一瞬だけ映る続いた数字を計算していくモノや、テニスコートで赤・青・黄色に分けられたボールをランダムに出され、それを反対側に設置された同じ色のカゴに正確に入れるという、特殊なモノも行った。

サイアは身体が固いのか、長座対前屈を苦手としていて、逆にネリーはそれだけは一番柔軟に行えた。

そして零に至っては、独壇場といっても良いレベルであった。特に計算においては、200以上出題された10桁以上の計算を、暗算で即答していた。

しかし、その零がまったくといっていいほどできなかったのは、最後のテニスコートでの検査。

ボールをカゴに打ち返すのは良いのだが……色がまったく別。赤色のカゴに黄色のボールを入れたり、青色のカゴに黄色を入れたり。

結局、正しく入ったのは20球中3球。サイアが18球でネリーが10球なので、一番下ということになる。

ここまで完璧だった故に気になる所ではあるが、単に動体視力が悪いだけだろうと須郷は思い、特に深く考えなかった。

 

「――さて、次の検査で最後だ」

「やっとかよ。いい加減飽きてきた」

「規定なんだから我慢してくれ。零君やネリーちゃんは文句一つ言ってないだろ?」

「チッ……まあいいや。で?次は何するんだ?」

「――超能力(ステルス)検査。私達が最も欲しい情報であり、必要不可欠な検査だ。この場所の中央に立って各自それぞれの超能力(ステルス)を使ってくれ」

「なら、俺からいくぜ」

 

言うが早いか、順番を決める前にスタタタッと運動場の中央に向かうサイア。

ネリーと零が何もないので、特に異論はないのだろう。というか、二人が反論するようなタイプではないことはこの短い時間の中でも充分にわかることだ。

中央地点に着いたサイアはくるりと振り返り、須郷が検査の準備が完了したという合図を確認する。

 

「よっしゃ。なら……いくぜッ!」

 

子供特有の高いテンションで、サイアが右腕を前に出す。

すると、タプンッ――。

サイアの目の前に、大きな水の固まりが現れた。

 

「ほう……サイア君は『水』か」

「うりゃっ!」

 

ヴォンッ。

須郷が検査用紙に書き込む中、その水の固まりが形を変える。

フヨフヨと浮いていた水がサイアの手に収まり、細長くなり――剣のようなモノになった。しかもただ形を型どった訳ではなく、刃渡り部分にあたる所が振動している。

それを手にしたサイアはブンブンと振り回し、運動場の地面を斬りつける。斬られた部分はキレイな断面になっていた。

 

「――検査終了。サイア君、OKだ」

「へっ。まあこんなもんよ」

 

手にしていた水の剣を手放し、ドヤ顔で戻ってくるサイア。100メートル走の時とまったく変わらない仕草に、須郷は思わず苦笑した。

 

「次はネリーちゃんだ。準備してくれ」

「う、うん。分かった……」

 

少しは須郷に()れてきたのか、キョドりながらもキチンと返事をして運動場の中央へと向かうネリー。

 

「……つうかよぉ、アイツ本当に使えるのかよ、須郷さん?ここまでまったく良いとこないし、ダメなんじゃね?」

「……『使える』?一体何の話?さっきの『任務』のこと?」

 

サイアがネリーについてダメだしを口にするが、その言葉に引っ掛かりを感じた零が須郷に問いかける。

 

「零君が疑問に思うのは分かるが、それは後々説明しよう。それよりサイア君――気を付けた方が良い。じゃないと危ないぞ?」

「は?何言って――」

「ネリーちゃん、始めてくれ!」

 

サイアの疑問を遮って、ネリーに合図する。それをネリーが確認し……。

――突如、突風が吹き荒れた。それも徐々に吹き荒れるのではなく、いきなり台風が目の前に発生したような感じで。

言葉を発する余裕すらなく、踏ん張ることもできずに地面から足が離れる。

その状況にサイアは慌てて空中で水を張って吹き荒れる風によって飛んでくる測定器類から身を守り、事前にネリー本人から自身の能力を聞いていた須郷は、いつの間にか風の範囲外である安全な場所に避難していた。

なお、零は風に流されるがままに飛んでおり、飛んでくる測定器類を蹴りで次々と壊していた。

 

「ネリーちゃんの超能力(ステルス)は『風』……事前に聞いていたから良かったが、知らぬまま行っていたらと思うと、背筋が凍るな」

「おい!そんなことよりさっさと止めろよ!危なくて仕方ねぇぞ!」

「おっとすまなかった。ネリーちゃん、検査終了だ!やめていいぞ!」

 

冷静に観察している須郷に、サイアの怒号が当てられる。

実際のネリーの超能力(ステルス)がどのくらいなのかを見ることができたし、先程から調子にのっているサイアに一泡吹かすことができたので、もういいだろう。

そう判断した須郷はネリーに声を掛けるが……風が消える気配が一切無い。

おかしいと思い、ネリーの方を見れば……風の中心で、アタフタとしている様子だった。

 

「――まさか、自分で止めることが出来ないのか!?」

 

自分で消せることが出来ると考えていたため、予想外の出来事に驚きを隠せない。このままではいつ消えるのかが分からないし、子供達にケガがでてしまう危険がある。

サイアは上手く身を守っているし、零はそもそもなんとも無いかのようにしているが、この状態になってしまっている本人であるネリー自体に風の影響が及ぶかもしれない。自分で制御できない以上、あり得ない話ではない。

 

「どうする……」

「――須郷さん、僕の番はいつ?」

 

止める方法を必死に考えていると、いつの間にか風から脱出していた零が、須郷の服を引っ張っていた。

 

「すまない。今はそれどころじゃないんだ。どうにかしてこの風を止めなければ……」

「ん。止めればいいんだね。分かった」

「なに?」

 

無表情であっさりと止める宣言をした零に、須郷は眉を寄せる。

零の父親である(まもる)から話を聞いた限り、零は多重の超能力(ステルス)を操ることが出来ることは知っている。

しかし、その内容は精々が積み木を飛ばしたり、マジックショー程度の炎であったということも聞いている。それなのにこの台風並みの風をどうこうできるとは、とても思えない。

止めようと思い、零に近づこうとするが、その前に零が風の中に入り……。

次の瞬間――パシュッ、という音と共に、風が消滅した。

突然消えた風に、先程まで流されていたサイアが地面に落ちてきて、ネリーと須郷はポカンとした表情をしている。

 

「れ、零君……君は一体、何を……」

「同じ力の分の風を当てて、()()()()()()。力はさっきまで流されていたからどの程度か分かったから、当然の結果」

 

さも当たり前のように述べる零に、須郷達は言葉を失った――。

 

 

 

 

 

「――零。突然だけど、日本に行くことになった」

 

『特殊児童捜査研究家』の施設で能力検査を終えてから数日後。検査を元に教育のスケジュールを組み立てるため、しばらくは自由にしていてくださいと言われて自宅にいると、守が医学の本を読んでいる零に向かってそう切り出した。

 

「日本?お父さんの生まれ故郷の?」

「ああそうだ。お父さんのお父さんが、急に体調が悪くなったらしくて、直ぐに行かなければならないんだ。お母さんはここに残るし、しばらくの間お父さんは日本にいることになるけど、零はどうしたい?」

「……行く」

「そうか。ああ、施設のことなら気にしなくて良いぞ。須郷さんに言ったら、『それなら通信教育にしましょう』と言ってくれたし。施設から帰ってくる前にタブレットもらっただろ?」

「うん。分かった」

「よし、なら行くか」

 

そう言って既に準備してあった零の着替え等が入ったカバンを持ち、零の手を引いて空港に向かう。

途中に何かあることもなく無事に空港に到着し、飛行機に乗り込む。

初めての飛行機に対して少しは興味があるのか、キョロキョロと辺りを見渡す零が可愛らしく、頭をぐしゃぐしゃと撫でては、零の頬がぷくぅと膨らんでいた。

――そして飛行機が離陸してから、数時間後。無事に着陸し、着いた先は、日本。

 

「ねぇ、お父さん。おじいちゃんの家は、どこにあるの?」

「ああ。おじいちゃんの家は、巣鴨(すがも)っていう所にあるんだ。もう少しで着くからな」

「分かった」

 

タクシーに乗り換え、巣鴨にある守の実家に向かい、近くまできた途中から降りて、歩き始める。

商店街をかすめるようにして歩き、古い一戸建ての大い住宅街にでる。路地で遊んでいる子供達、チャリンコで警邏(けいら)するお巡りさん、雑種のネコとすれ違い……寂れたタバコ屋の角を曲がり、材木屋の前を通る。

そして、次の角を曲がった所にある、少し大きい日本家屋が、守の実家である。

久々に訪れる自分が育った場所に懐かしさを覚えながら、その角を曲がる。

すると、我が家の目の前で、掃除をしている老人がいる。そしてその人を、守は覚えていた。

 

「――(まがね)さん、お久しぶりです!」

「うん?……おお、守か!一瞬誰だか分からんかったぞ!」

「僕ももう大人ですし。鐵さんは相変わらず元気そうで良かったです」

「ハッハッハ!ワシはまだまだ死ぬ気はないからのう。お前こそ、イギリスの女のとこに行ったと聞いておったが、元気そうで良かったわい!」

 

この元気な老人の名前は、遠山(とおやま)(まがね)。近所に住むお爺ちゃんで、守が小さい頃良くしてもらっていた人だった。

鐵はひとしきり守を見て笑った後、守の手を引いている零の姿を見て、顔を緩ませた。

 

「ほう!守の息子か!」

「……錐椰 零、1歳です。初めまして」

「おお、しっかりした子じゃな!ワシの孫とは大違いじゃ!」

 

ガシガシと零の頭を撫でる鐵に、頬を膨らませる零。自分が小さい頃も、こんな感じで撫でてもらっていたな。

そう守が思っていると。

 

「――おじいちゃん!あそぼー!」

 

ドンッ。と鐵に飛びつく、一人の少年。髪と目は黒く、正に日本の子供。

 

「こら、キンジ。急に飛びつくでない。危ないじゃないか」

「へへっ、ごめんなさーい……ん?」

 

鐵の注意をさらりとかわした少年はこちらに気付いたのか、目の前までくる。

 

「おじさんだれ?」

「ああ。おじさんは錐椰 守っていうんだ。初めまして」

「ぼくはとおやまキンジ!はじめまして!」

 

子供らしく元気一杯に自己紹介するキンジに、やれやれと鐵が首を振る。ただその頬が緩んでいるため、なんだかんだで子供好きだということが一目で分かる。

そして少年は、零の存在にも気付き。

 

「ぼくはキンジ!よろしく!」

 

と手を出してきた。

 

「……錐椰零。よろしく」

 

零もそれに応えて手を出し、握手をした。

――これが、錐椰零と遠山キンジ。この二人の初めての出会いだった。




どうでしたでしょうか?

ようやく原作キャラを出せた……まだ他にもいますけど、これからキチンと出していきたいですね。

通算UA数200000突破!本当にありがとうございます!これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします!

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第03話――違和感

はいどうも、お久しぶりです。鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

少し他の事に興味を持っていかれて、執筆意欲が無くなっていました……遅れてしまい、申し訳ありません!こんな作者ですが、どうかこれからもよろしくお願いいたします!

kamitohitoさんに評価1。
結城さんに評価5(コメ付)。
レミレイさんに評価9。
rikuoさんに評価10→9。

を頂きました。ありがとうございます!

では、第03話、始まります。


「零、どうだった?(まがね)さんとキンジくんは?」

 

日本に来た本来の目的の為に再開もそこそこに別れ、守の実家に入った二人。

久し振りに出会った鐵と、その孫であるキンジとの出会い。それを零がどう感じたのか、(まもる)は非常に気になった。零は感情が豊かな方ではない。それ故に物事をどのように捉えているのかが分かりにくい。だから直接本人に問いただす。

 

「ん……二人とも()()()()

「『太かった』?」

「うん」

 

良い人そう、とか元気な子、とかと言った感想が来ると思っていたが、結果は予想の斜め上。まったく意味が分からない感想に、守は困惑する。

 

(『太い』というのは、どういう事だ?普通は人の事を『太い』というのは肥満体やゴツい人のことを指すけど、鐵さんやキンジくんはそれに該当するような体格じゃない。では一体……)

 

考える守を、ボーッとしたような表情で見つめている零。その視線に気付き、一度考えることをやめて広い縁側を歩き、(ふすま)のある部屋の前で止まる。スッと襖を開けると、10畳ほどある部屋の中に、ポツンと一つの布団が引いてある。

 

「親父、久し振り」

「……なんだ、守か。来なくていいと言っただろうに」

「そんな訳にも行かないよ。それにほら、今日は零も連れてきたよ」

 

守が声を掛けると、布団から白髪混じりの初老の男が顔を覗かせた。守は年齢がそこそこ経った後に生まれたので、守が30歳になったばかりにも関わらず、もう65歳になっている。

その守の父親、零の祖父に当たる初老の男性は零のことを見つめ、少し笑う。

 

「初めまして。君のお爺ちゃんだ。何も無いところだけどゆっくりしていってくれ」

「はい」

 

簡潔的に行われたやりとり。二人とも自発的に喋らない性格なので、後が続かず無言の間になる。初夏になり、セミが少ないながらも自己主張の激しい求愛行動(うるさい鳴き声)が余計に静かさを引き立て、守はどうすればいいかと頭を抱える。

すると、どうだろうか。玄関の方からガラガラと引き戸を開ける音が聞こえ、ドタドタと縁側を誰かが走ってくる。

 

「れいー!いっしょにあそぼー!」

 

バンッと(ふすま)を開ける時に鳴らしてはいけないくらい音を立てて開け放ったのは、先程出会った黒髪の少年――キンジが、元気良く姿を現した。そしてキョロキョロと辺りを見渡し、祖父の前で座り込む零の姿を認めると走ってかけより、腕を引っ張る。

対する零はいきなり腕を引っ張るキンジにされるがままに立ち上がりつつ、守の方を見る。このまま行っていいの? と言外に伝えてくる。

 

「いいよ、零。いってらっしゃい。キンジくん、零のことをよろしくね」

「分かったー!」

 

祖父との挨拶も済ませたし、須郷(すごう)さんの通信教育以外には零がする用事はない。それならこのままキンジと遊ばせるのが一番だろう。そう判断した守はキンジに零を任せた。

対するキンジはいきなり他人の家に上がってきたことを悪びれもせずに、最近テレビで知った敬礼のポーズを取ってどや顔を決めている。

そして敬礼を解いた後、再び零の手を引きドタドタと走り去っていく。元気一杯なキンジに対して表情に乏しい零。これが15年後には『ネクラのキンジ』と呼ばれていたり社交的で話の中心にいる人物になっていたりするから、世の中どう転ぶか分からないものである。

――さて。靴を履いて一気に玄関を飛び出したキンジに待っていたのは……怒りに肩を震わす、零達より一回り大きい一人の少年だった。

 

「……キンジ、人の家に勝手に上がるなと言っただろう」

「うっ……え、えっと」

「えっと、じゃない!お前はいつまで人様に迷惑をかけるんだ!」

 

言い訳を考えているキンジに向かって、その少年はキンジの頭を両手で掴んで上体を反らして……。

――ガツンッ。とキンジの頭が割れるのじゃないだろうかと心配になるほどの強烈な頭突きをかました。

あまりの痛みにキンジは涙目になりながら転がり回り、その少年はふうっ、と息を吐き、そこで初めて零の方を見る。茶髪だがどことなくキンジに似ているので、兄弟なのだろうか。

 

「初めまして、零くん。キンジからさっき名前を聞いたよ。――遠山金一、キンジの兄だ」

「初めまして、錐椰零です」

「見ろキンジ。零くんはこんなにしっかりしているじゃないか。それに比べてお前ときたら……」

「そ、そんなことより、れい!あっち行こーぜ!」

「あっ、こら待てキンジ!」

 

痛みから割と早く立ち直り、兄からのお説教は聴き飽きたと言わんばかりに首を振り、零の手を引いて走り出すキンジ。なされるがままの零は、鬼の形相で追いかけてくる金一を見て、一言こう呟いた。

 

「やっぱり……『太い』」

 

 

 

 

 

「――来たね、零君」

「おっせぇな!呼ばれたならさっさと来いよ!」

「……日本じゃ朝5時。お父さんを起こさないように分身置いて飛んでくるのは流石に時間かかる」

「れ、れいくん。やっほー……」

 

時刻はイギリスで20:00。『特殊児童捜査研究家』の施設にて、日本にいるはずの零の姿があった。その零を待ち受けていたのは、須郷とサイア、ネリーの三人。

――零がここに来た理由は、メールで通知が来たためだ。

キンジに引っ張られて色々と走り回り、金一に捕まってキンジが説教を受け、その後結局弟に甘い金一と三人で意味もなく遊び回った。

そして帰宅した後そのまま夕食を食べて就寝していたのだが……須郷から貰ったタブレットが振動し、それで零が起きて確認すると、受信表示が赤く点滅していた。

何かと思って見てみると、『守殿にバレないように、今すぐ一人でくること』と、まるで脅迫メールのような表現で無茶ブリをかましてくれていた。

すぐさま零は隣で寝ている守にバレないように着替えて、それでももう少し時間が経てば自然と起きるであろう守への対策として、超能力(ステルス)で分身を作り、そのまま瞬間移動してきたのだ。まるで漫画の最強キャラのような行動を平然と行って現れた1歳児だが、最早他の三人にとっては、『零だから』の一言で済ませるようになった。

 

「それで、呼ばれた理由は何ですか。須郷さん」

「ああ……実は『能力検査』の結果、三人とも規定値に達していると判断したため、今から君達に『任務』を与えることになった」

「『任務』……?」

 

何のことか分からない零は疑問を口にしたが、サイアとネリーは黙ったまま須郷の話を聞いていたので、先に『任務』のことについて理解していたのだろう。

そう言えばちょくちょく、サイアが『任務』とか『使えない』とか発言していたのを思い出す。今回の集まりでは、それが該当しているのだろうか。

 

「実は私達は、特別な子供達を一般社会に馴染ませるなどといったことはしていない。『特別な子供達の集団で裏の世界を平穏にする』といったことをしているんだ」

「……」

「『能力検査』を行ったのは、その裏の世界で生き残れるかどうかを確認したかったため。もし規定値に達していないなら表通りに教育するだけだが、君達は規定値に達していたために、()()()に来てもらうよ」

 

驚きもせず静かに話を聞いている零に、須郷は言葉を続ける。

・普通の警察や武偵が扱えるような規模のモノではないため、一般殉職率は全て9割越え。

・任務の依頼については、誰にも言わないこと。

・仕事の依頼は不定期に、かつメールで届けられる。

内容を纏めると以下の3つに纏められる。『任務』について内容が教えられなかったのは、秘密裏に行動する集団なので情報が漏れるのを防ぐためだったのだろう。

だがそのことについて、零に一つ、疑問が浮かんだ。

 

「須郷さん、質問が」

「何かな?」

「情報隠蔽するのは分かりました。だけど、何故最初からサイアとネリーが『任務』について知っているようだったのか、気になります」

「ああ、それはだね。この二人には事前に伝えていたからだよ」

「理由は?」

「――お金だよ。お金。俺は金でコイツラと契約したんだよ。どっかから俺の事を知ったコイツラが家に来てさ、最初は一般人のように育てるとかなんとか言ってたけどな」

 

零の疑問に答えたのは須郷ではなく、その隣で手を頭の後ろに回しながらニヤニヤと笑っているサイアだった。

 

「そんな嘘、すぐに分かった。連中人の良さそうな顔して、心の中では笑っているんだよ。頭に来たからちょっと痛めつけたら本当のことゲロってよ。依頼金が結構あるっていう話だから、乗っかっただけだよ」

「……とても一歳児の発想ではないな」

「おめぇが言えるセリフじゃねぇよ」

「それで、ネリーは?君はお金に釣られるような子じゃないだろ?」

 

サイアからの思わぬ反撃に何も言えず、すぐさま照準をネリーに切りかえる。この人見知りの激しい子が須郷さん達を返り討ちにする度胸はないはずだし、お金目的で来るような子じゃないことも分かる。

そう思いながらネリーの方を見ると……ネリーは、顔を伏せて何も話さない。

どこか調子が悪いのだろうか、と確認するためにネリーに近づこうとすると、ガシッ。

サイアの隣にいた須郷に肩を掴まれ、止められた。何かと思って横目で須郷を見る。須郷は零の視線に合わせるように膝を曲げ。

 

「――ネリーちゃんは、捨て子なんだ」

 

と、なるべく本人に聴こえないよう、小さく呟いた。

 

「生まれてから数ヵ月経ったある日、母親に抱かれていたネリーちゃんが泣き出したと思ったら、急に周囲に竜巻が発生して母親を襲ったんだ。重症を負って入院した母親に対して、ネリーちゃんはまったくの無傷。その後もネリーちゃんが泣き出す度に竜巻が起こり、ネリーちゃんが原因だと判明。それで恐ろしくなったんだろうね。たまたまフランスに用があって街を歩いていた僕が、ボロボロの状態で倒れているネリーちゃんを発見して今に至る、ってことさ」

 

話終えた須郷からネリーへと視線を(うつ)した零が見たのは――初めて会った時から持っていた、うさぎのヌイグルミを抱き抱えながら、涙を堪えているネリーの姿だった。

もっと早く超能力を自制できていれば、今彼女はここにいなかっただろう。

生まれながら人とは違う『モノ』を持つ者。周囲からは天才と呼ばれる者。だが当人にすれば、それは決して、喜ばしいものであるとは限らない。

今のネリーに、かける言葉は見つからない。須郷はそう判断し、任務の話を続けることを決める。

だが、資料を渡そうと持っていたファイルを開いたと同時に、気付く。零が、いつの間にかネリーの前に立っていたのだ。

ここで今情緒不安定なネリーの琴線に触れて、能力が暴走してしまう可能性がある。止めようと動く前に零はネリーに腕を伸ばし……。

――ポンッ。とネリーの頭の上に、その小さな手を置いた。下を向いていたネリーはその突然の感触に驚き、顔を上げて目の前の零を見る。

零は頭の上に手を置いたまま、何もしない。その表情の乏しい顔にネリーは戸惑い……それで顔から力が抜けたのか、ツゥ、と溜めていた涙を流した。

 

「……ん。良し」

「え、えっと……?」

「これから任務が始まる。一緒に頑張ろ、一緒に」

「一緒に……?」

「うん。少なくとも、ここにいる三人は」

 

そう言って手をネリーの頭から離し、須郷の元に戻る零。ネリーはそれをしばらく呆然と見つめ……やがておずおずとしながらも、しっかりと須郷の話を聞くように近付いた。

 

「……零くん、ありがとう。ネリーちゃんのこと励ましてくれて」

「別に……ただ、()()()()()だったから」

「『視える相手』……?」

「――おい、須郷さんよぉ!いつまで待たせるんださっさとしてくれ!」

「あ、ああ。スマンな。じゃあ、『任務』の資料を渡すから、皆受け取ってくれ」

 

零の言葉に引っ掛かりを覚えた須郷だが、サイアからの催促に思考を切り換え、三人に資料を渡す。

各自資料に目を通したことを確認した所で、須郷は『任務』についての話を始める。

――後に、『GOW』という6人のチームとして裏の世界で暗躍する初の『任務』は……。

 

「今回はこのメンバーの初めての『任務』なので、とりあえずは軽く――『裏の研究施設の破壊』から行こうか」

 

須郷の軽い調子の言い方から告げられた、とても軽くはないモノから行われた――。




どうでしたでしょうか?

季節の変わり目ですので、皆様も風邪を引かないように注意してください。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第04話――初任務・開始

はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

どうして初投稿の頃は一日に3話とか投稿できていたのか、今は不思議で仕方ありません。今は……はい。頑張ります。

まさに外道さんから評価9。

八雲ルイスさんから評価10!

を頂きました!ありがとうございます!

では、第04話、始まります。



(※今回は軽くグロ・ホラー注意です。苦手な方は後半は流し読みかスルーでお願いいたします)


『――あ、あー。テストテスト。おめぇら聴こえてるかー』

『う、うん……』

「こちらも、問題ない」

『うっし。じゃあドブネズミの駆除作業、やりますかー』

 

耳につけているインカムから、気楽な声と控えめな声が聞こえてくる。どちらも雑音(ノイズ)が聞こえてこないので、状況確認に対しての支障は出ないだろう。

機械の状態をしっかりと確認した零は、実はすぐ後ろにいたネリーとサイアの方に向き直る。超近距離でのチェックは一見すると無駄に見えるが、この距離で肉声が聞こえないくらいの音を拾えるか確かめるには一概に悪いとは言えない。

 

「い、意外と聞こえるモノだね……」

「そりゃそうだろ。不良品だったら須郷の野郎をぶっ潰すだけだ」

「須郷さんはここにはいないけど」

「帰ってからに決まってるだろ。いちいちうるせーな、お前」

 

呑気に話している三人のいる場所は、先程までいたイギリスではなく――アメリカ。今回の任務の目的である、『研究施設の破壊』のため、零の超能力(ステルス)でその研究施設のあるアメリカまで三人は飛んできたのだ。

広い高原の中にポツンと小さく建っている工場に見えるが、地下に巨大な施設を作っているという情報がある。

なお、零の移動速度はマッハ単位であったため、到着してから10分の間、ネリーが放心状態であった。

身体に負担が来ないように零が調整したので問題ないのは確かだが、それはそれ。怖いものは怖いのである。

 

「じゃまあ、作戦の確認な。基本俺が突っ込んでかき回すから、お前ら二人で資料等のデータの回収及び破棄な。何かあったらインカムで報告。いいな?」

「う、うん……」

「僕は分かったけど……一人で大丈夫?」

「当たり前だろ?それにお荷物(ネリー)抱えるのはごめんだしな。今回は()()だが、どうせソイツ――殺せねぇだろ?」

「う……」

 

バッサリと吐き捨てたサイアの言葉に、ネリーの視線が下に向かう。確かにこのメンタルだと、今回の任務に支障が出るだろう。

『裏の研究施設の破壊』と言われたが、実際は『関わっている全ての存在の抹消』、つまり()()()()()()()()()()

それを考慮すると、主に資料の破棄を担当する方にネリーを配置するのは妥当であり、なおかつ単独で敵とコンタクトした場合に対処できなくなることを避けるために、零と行動させるというのは悪くない判断である。

初任務の指揮を担当する(勿論自分から名乗り出た)サイアだが、脳筋のようにただ正面突破という考え方にならなかったのは、零にとっては意外だった。

 

「ということで、潜入するぞ」

「うん。だけど、どう潜入するつもり?排気口でも探すの?」

「あん?そんなめんどくせーことしねーよ」

「じゃあ……」

 

どうするの、と続けようとした零を尻目に、サイアは正面の扉に近づき……。

――直後、強烈な破壊音を鳴らしながら扉を蹴破った。

ビーッ、ビーッ。とやかましくサイレンが侵入者確認を鳴り響かせる中、サイアはスタスタと中に入り……。

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

と、どや顔をかましながら零とネリーに催促する。潜入の『せ』の字もないような行動に、零は数十秒前の思いを改めた。

――やはりコイツ、脳筋(バカ)だ、と。

 

 

 

 

 

「B1F5に侵入者確認っ!直ちに射殺せよっ、爪も残すな!」

「侵入者は一人だけとは限らんっ、各部屋探し回れっ!」

「はあ?侵入者はガキだと!?バカ言ってねぇでさっさと始末しろっ!」

 

怒号が響き渡り、ドタドタと足音が右往左往する。通信機片手に指示を出し、状況を確認する。

やがて足音が遠くへ行き……完全に聞こえなくなった所で、スッ――。

何も無い所から徐々に姿が見えるようになった、零とネリー。言うまでもなく、零の超能力(ステルス)で消えていたのだ。

 

「行くよ」

「う、うん」

 

短いやりとりをかわし、先へと進んでいく二人。というよりは、先に進む零とそれに必死についていくネリーと表現した方が正しいだろうか。

――潜入(という体の正面突破)をした直後、尋常ではないくらいの足音が聞こえてきた。

ここで作戦通りにサイアがかき回す役を担い、零とネリーはなるべく見つからないようにそれぞれ地下へと続く階段を下った。

そのまま最深部まで下ることができれば良かったのだが、階段は侵入者対策なのか、そのフロア毎に違う場所に設置されているようだ。それも各階がとても広く、探すのにも一苦労がいる。

現在零とネリーがいるのは地下3階。サイアは地下一階で奮闘しているらしいので、今の所敵に遭うことはあまり無いだろう。もし遭うことがあるとすれば、階段付近か、もしくは……。

 

「――いた。恐らくあの部屋に、資料がある」

 

『D2』と書いてある壁を背に、曲がり角から先の様子を伺う。そこには武装を施した二人の研究者らしき人物が、部屋の横隅で待機していた。

 

(H&K XM8……明らかに()()()のモノじゃないのは確か)

 

アサルトライフルの中でも連射・命中制度・耐久性能に優れているモノを、「護身用です」と言い張ることはできない。まず間違いなく、関係者以外を射殺するためのものであろう。

潜伏している以上、サイア以外にも侵入者がいることを悟られてはいけない。故に発砲音や通信機での報告などは許してはいけない。

音を立てず、相手に何もさせない内に行動不能にさせるしかない事態に、他の侵入者は苦戦するだろう。

だが、今の侵入者は、零だ。100メートルを1秒経たずに走り、300kgまで計測できる握力計測器を一瞬で破壊できる零なのだ。複数の超能力(ステルス)を使いこなせる零であるのだ。

バキッ――ドスッ!

 

「うん?――ガッ!」

 

部屋の前で武装していた二人が異音を確認した瞬間、胸部に強い衝撃。思わず後ろに倒れこみ、扉に背中をぶつける。

背中の痛みを気にしつつ何事かと思い、衝撃を食らった胸部を見てみる。するとそこには、包丁のモノであろう、黒いグリップ部分があった。

繰り返すが、()()()()()()()()()()()()あったのだ。

その先にあるべきはずの『刃渡り』部分は、自分達の身体で覆われている。つまる所――刺されているのだ。

 

「え……なん、で……っ!」

 

先程までは衝撃があったという感覚でしか無いが、脳が視覚を通して、『刺された』ことを正確に認識する。本来なら強烈な痛みが体を襲うはずなのだが、急な状況の変化に混乱しているため、滲んで流れ出す『血の熱さ』しか感じられない。

熱い。アツい。あつい。

刺されている包丁周りを握ることしかできないパニック状態の者達だが、その耳に何故か、繊細に小さな音が入ってくる。

その音につられて顔を上げると、目の前に侵入者と言うにはあまりにも小さく、しかし無表情で見下ろしてくる存在――零がいたのだ。

その目は、俗に言う『石ころを見るような目』。これが普通の子供なら蹴ったり水切りに使ったりして、多少好奇の視線を向けるだろう。

だが、目の前の幼児は、『普通じゃない』。邪魔だからどかした(殺した)、ただそれだけのこと。

その目に恐怖を覚え、通信機で侵入者の確認と救助の要望をしようとした研究者が、ここでようやく気づく。

腰に付けていた通信機が、破壊されているのだ。さらに、XM8のトリガー部分も壊されている。先程聞こえた異音は、この二つの破壊された音だったのだ。

連絡手段を絶たれ、攻撃する為の武器も失った。彼らができることは、目の前の幼児の皮を被った化け物の前に絶望し、今頃やってきた痛みに絶叫するだけ。

だが化け物()は、その絶叫すら許さない。研究者の胸元に刺されている包丁のグリップを掴み、上へスライドさせる。

一気に喉元に入った所で、腕を止めた。もう叫ぶこともできない。そのまま研究者二人は、帰らぬ人となった。

研究者二人の殺害。命ある者の生を初めて絶った零は、表情を変えることなく、扉の邪魔にならないように死体をどかした。

 

「ネリー、来ていいよ」

「う、うん……ヒッ!」

 

曲がり角の所で待機していたネリーが姿を現し、そこにある死体と、返り血を浴びている零を見て恐怖を覚えた。

作戦内容では確かに殺人アリだと聞いていたが、いざ死体を見ると身体が震える。そして、そんな状況でも無表情の零が、信じられなかった。

 

「どうした?行くよ」

「な、何でそんなにへ、平気なの?」

「……『視えない相手』だから、かな。まぁ、『視える相手』でも殺せるとは思うけど」

「視え、る……視え、ない?」

 

ネリーの疑問によく分からない受け答えをしながら、扉を開けて部屋に入る。中はファイリングされた資料がズラリと棚に並んでいる。素早くそれらを引き抜いて開き、情報収集を開始する。

 

「ネリー。『全盲目』って知ってる?」

「『全盲目』……?」

「簡単に言うと、僕は景色が白黒にしか見えないんだ。だからどれがどんな色かなんて、まったく分からない」

「え……?」

 

ファイルを次々と読み漁っていく零の口から、さらりと深刻な言葉が流れ出てきた。それを聞いたネリーは、思わず持っていたファイルを落とす。

 

(白黒にしか見えないって……それって、紙に鉛筆だけで書かれたような世界ってこと?)

 

現在、衣類や雑誌、家具や車。TVなどに鮮やかな色が使われ、それに対して人は好みの色の者を選び、使用する。

十人十色と言われるように、他の色ではなく黒色が好きな人がいれば、白色が好きな人もいる。

だが、それはあくまで他の色が存在している場合である。全てが白色か黒色の物になってしまったら、どうなるのか。

人間は主に視覚から情報を得る、つまり視角から得る娯楽が多い。そしてそれらは小説など一部を除き、色がついている。

結論を言うと、零は大半の情報を手に入れられず、娯楽を楽しめていないということになるのだ。

そう言えば、とネリーは初めて零がきた時に行った、『能力検査』のことを思い出す。

凄まじい成績を叩き出していった零だったが、テニスボールを色によって打ち返すという競技には散々な結果だった。

あの時の須郷は動体視力が悪いのではと判断していたが、実際は色が分からないから、取りあえず打ち返していたということだ。

 

「そんな……可哀想……」

「そうでもない。そもそも産まれた時から色が分からないから、これが普通だと思ってる」

「……あれ?でも、『視える相手』と『視えない相手』って、何?色が分からなくても、人とかはキチンと見えるはずじゃないの?」

「ああ、それね……」

 

そこで零はファイルをめくる作業を止め、どこからかペンと真っ白な紙を取り出した。そしてそのまま部屋を出ていったので追いかけると、先程殺害した研究者の死体の前に立ってなにやら書き始めた。

そこでまた怖くなったのか、死体を見ないように後ろを向くネリー。泣かないように必死に堪える。

そこにちょんちょん、と肩を叩かれて、目の前に紙が表れる。零が書き終わったのを背中の方から出してきたようだ。

後ろを振り向くと死体が目に映るのでそのまま受け取り、紙を見る。するとそこには、外枠を線で引いたら人の形になるように、『0』の数字が刻まれていた。

何かの暗号か、それとも情報なのか。確認しようと零の方を向き直るネリーが、気付く。

――零が、見たことのない嘲笑を浮かべていることに。

 

「面白いでしょ、それ。僕にはあの死体が、()()()()()()()()()()()()

 

何が可笑しいのか、クスクスと手を口に当てて笑う零。固まるネリーを余所に、零は続ける。

 

「結構医学的な本を読み漁っていたんだけど、こんな症状なんて前例が無かったよ。『人が0と1の数字に視える』なんてね。でも、普通の人間として視える人もいるんだ。それは白黒の世界だけど、重要な人物や関係が深い人ほど線が太く視えるんだ。それ以外の人は全て数字にしか視えない。それにさっき気付いたけど、死んだ人は――『0』の数字しか視えない」

 

そこにはいつも無表情の零はいない。子供らしく笑い――されど、子供らしからぬ狂気を纏った者。

 

「笑っちゃうよね?死んだ人が残すモノは、僕の名前である、『0()』だよ。だったら元から死んでいる者(0の人間)である僕は、一体何者なんだろうね?」

 

死体に対しての恐怖が比較にならないくらいに、狂い笑う零は――

 

『こちらサイア、状況を報告しろー』

『こちら零、有力な情報を手に入れた。これから最深部へ向かう。オーバー』

『まだ行ってなかったのかよ。こっちはひたすらモグラ叩きしてて暇だ。何か面白いことないか?オーバー』

『シューティングゲームにでも切り換えれば?アウト』

 

――背後から聞こえる悲鳴をBGMに、暢気に通信してくるサイアによって元通りになった。

サイアの返答を待たずに強引に通信を切った零は、再び部屋の中に戻る。そして、恐らく超能力(ステルス)で取り出したのだろう時限爆弾を設置し、部屋を出る。

先程までに情報収集は終了していたため、後は破棄するだけだ。

 

「ネリー、最深部に向かうよ」

「えっ……あ、うん」

 

いつも通り無表情の零。先程までの零はどこにいったのか。もしかして、あれが本当の零なのだろうか。

疑問が頭の中を駆け巡るのを感じつつ、それでもネリーは零に置いていかれないよう小走りで追いかけていった――。




はい、どうでしたでしょうか。

取りあえず伏線とも言えぬ伏線が回収できました。これからも地道に頑張っていきたいと思います。

そして、評価者数100件突破!本当にありがとうございます!

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第05話――任務完了

エキ、コワイ。

――はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

今月、私用で横浜に行ったのですが……どの電車に乗ればいいのか分からず、ついても駅から出られない、といったことがありました。そしてまだ緋弾のアリア新刊買えてないです。ツライ。

テオーリアさんに評価8。
テイクワンさんに評価9。
occhanさんに評価9。
を頂きました!ありがとうございます!


では、第05話、始まります。あとがきにお知らせがありますので、良かったら見てください。


『こちら零、最深部に到達。そちらの状況は?』

『こちらサイア、退屈だ。オーバー』

『……聞いているのは状況で、心境は聞いてないけど』

『それぐらい優勢だってことだよ。やつら叫ぶだけしか脳がねぇんじゃないのか?』

『了解。これから最深部の調査、及び破壊工作に移る。アウト』

 

潜入捜査が始まってから、一時間が経過した。通信機を通して聞こえる声は疲れているような様子はなく、その後ろから聞こえる雑音(悲鳴や銃声)の方が耳に響く。それをいつも通り表情の乏しい顔で平然と聞き流した零は通信を切り、自らの横で同じく通信を聞いていたネリーに向き直った。

――地下三階で資料を破棄した零とネリーの二人は、そのまま更に地下に潜り……ついに、最深部へと到達した。その間に零は、人が数字に視えるということについて、詳しく話し続けた。

まず第一に、どのように視えるか。これは人の形に数字が羅列されるということで、棒人間を数字で書いたように視えるということ。そしてその数字は、『0』と『1』の数字で視える。

第二に、しっかりと人間として視える人物がいること。零の経験からすると、自分が興味を持った者や才能を持っている者に関しては人間として視えるということらしい。そしてその人間が大きな存在であるほど、線が黒鉛筆で筆圧を強くしたように濃く、太く視えるらしい。キンジや(まがね)を『太い』と表現した理由はこれである。

これを聞いたネリーは自分はどう視えるかを聞いたところ、『太い』と言われて複雑な表情を浮かべた。大きい存在であると言われたのは嬉しいが、女としては『線が太い』と言われるのは嬉しくはない。

第三に、数字は状況によって変化するということ。相手の心情や行動によって、『0』や『1』の個数が変化する。例えば左手を前に出す時には、左手の部分が動く前に『1』が増えたり、図星を疲れた時は心臓部分に『0』が増えたりする。つまり、相手が何を考えていて次に何をするのかが分かるということである。

これを零は有効に使い、階段付近で待機している敵の油断をついて強襲し、何もさせずに仕留めていた。零の手に塗りたくったようについている返り血が、ここにくるまでの行動を物語っている。

 

「ネリー、用意はいい?」

「う、うん……これで最後だよね?意外と早かったね」

「まあ、サイアが囮になってくれたから、動きやすかったからね」

 

初めての任務としてはサクサクと進んでいるので、割と落ち着いてきたネリーが話しかける。対する零も無表情ながら、しっかりとネリーに答え、最深部へと進んでいく。

だがそこで、ピタッ。

零が急に止まり、後ろをトコトコとついてきたネリーが背中に顔面を突っ込む。

あう、と後ろから聞こえてくる可愛らしい声とは裏腹に、零は前方をじっと見ている。

見つめている通路の先には大きな扉があり、先に行くにはその扉を開けていくようになっている。

 

「ど、どうしたの?」

「……いる。ざっと130といったところ」

「ひゃっ……ひゃくしゃんじゅふ……」

 

敵がいること自体は予想がつくが、言い放たれたあまりの人数に、驚きの声をあげようとする。その口を素早く手で塞いだ。

事実零が言った通り、扉の向こう側の広場には100人を越える武装した者達が待機し、扉の前にも4人張り付いている。

 

「恐らくサイアが通信機を使っているところを見られて、他の侵入者がいるという予想が確信に変わったんだろう。全員武装しているようだし、3階にあった資料とは段違いの情報がありそうだね」

「どう、するの?その人数じゃ、見つからないようにするのはできないよ」

「なら簡単な話。――強行突破だよ」

「……え?」

 

言うが早いか、スタスタと扉に近付いた零は、右足を高く振り上げた。

この時の零の考えとしては、蹴りで扉を強く開けることで、扉に張り付いているであろう数名を無力化。更に他の者にも多少なりとも動揺を与え、その隙に殲滅する、というものであった。

そう計算された結果を頭に浮かべながら、降り下ろされた右足は……。

――零に、産まれて初めての『誤算』を生み出した。

零の(かかと)の部分が扉に当たると、扉と壁の設置部分が見事に破壊され。

無力化程度と考えていた張り付いている敵を、壁に伝わった衝撃波のみで吹き飛ばし。

支えを失った扉は、衝撃によって音速を越える勢いで敵の大群を薙ぎ倒していく。何故扉自体が壊れないのか疑問に思うほど、その威力は凄まじかった。

結果、130程いた武装集団は、飛んできた扉だけで半壊。70人程が生命活動を停止した。

残った者達は何が起きたのかが脳で処理仕切れず、構えていた武器を解いた。これを狙っていたハズの零も、まさか蹴りだけで半数以上が消えるとは思っていなかったので、この隙に攻撃することができず、固まっていた。

後でネリーに聞いたところ、「(かかと)が肉食動物に見えた」とのことだ。

これが、後の零の処刑技になる、初めての『踵落とし』である。

 

「――れ、零くん。今のうちに……」

「……うん」

 

しばらく足を降り下ろした状態で固まっていた零だが、ネリーに話しかけられたことにより、脳が再び回転する。それと同時に武装集団もようやく事態を把握して、解いた武装を構え出した。

半数以上が死体となっても混乱する者がいないということは、それなりに修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。恐らくは、ここの研究者達に雇われた傭兵達のようだ。

だが、いくら傭兵達が集まろうと、音速を越える零には関係ない。

指揮官らしき人物が発砲の合図を出す前にネリーの手を掴みつつ、その手に握られているナイフで目の前にいる10人程の首元を斬りつける。その内の一人から連射可能な銃――M4を奪い取り、20人(装填数分)の眉間を正確に撃ち抜く。

発砲した先に相手がいないことを認識するまでに、背後に周り、一閃。同じく首元を(えぐ)り、武器を奪い正確に撃ち込む。

指揮官が気付いた時には、もう遅い。周りは血の海になっており、先程まで武器を構えていた部下が、今はうつ伏せに倒れてピクリとも動かない。

代わりに立っているのは、年端もいかない幼児幼女。こんなこと、許されていいだろうか。

 

「あ、ああ……アアァーッ!」

 

一人だけになった指揮官が、部下の(かたき)と言わんばかりに銃を捨て、単身で殴りかかる。零はそれを避けず、豪腕の鉄拳を右手一つで受け止めた。

 

「何なんだ……何なんだよ、お前はっ!一体誰なんだよっ!」

 

部下を卑下にする指揮官なら命乞い等をしてくるが、この相手はどうやら部下思いの人物らしい。そこには少し、好感が持てる。

――まあ、少し『1』が多めの、有象無象だけど。

心の中でそう思い、さて、質問にどう答えようと零は考え……(わら)う。

 

「――ただの、化け物だよ」

 

そう答えた零は、相手の腕を掴んでいる右手を軸に、パルクールの要領で回転。そのまま相手の頭に目掛けて――

 

(『回転式踵落とし(サイクロン・ヘルヒール)』)

 

パッと頭に思い浮かんだ技名と共に、踵を振り落とした。

グシャリ。

踵に確かな手応えを感じながら、地面に着地。そのまま辺りを見渡すと……指揮官だったソレの全身が、壁に投げつけられたトマトのようになっており、辺り一面に血が飛び散っていた。それにより、零は確信する。

 

(何か僕、異常に踵落としが強い……)

 

自分の新たな才能を知ると同時に、『回転式踵落とし』の方は封印しようと考える。いくら敵であっても、このような(むご)たらしい最期は可哀想だ。掴んでいた指揮官の片腕をポイっと捨てながら、零はそう思った。

そこに、トテテ。

130を越える死体の山には目もくれず、ネリーが零の元へ走ってくる。

 

「終わったね……」

「うん。とりあえずこの先にある部屋に行こう」

 

広場の先にある扉を指差しながら、歩き出す零。それにトテトテとついていくネリー。ここだけ見れば可愛らしいものだが、背景が公園ではなく血染めの広場であることには違和感を禁じ得ない。

そのまま部屋の扉に到達した零はパスコードを電気を操って強引に開け、中に入る。そこには、三階には比べ物にならない程のファイルやメモリーディスクが置いてあった。

中身を引き出したり写真に収めたりする作業に入り、30分を過ぎた辺りで終了。サイアの方に連絡を入れると、そちらもあらかた片付いたようだ。

任務完了。零達の初任務は、危なげなく終了したのだ。後は、帰投するだけ。

 

「ネリー。帰るよ」

「うん!」

 

終了したことにホッとしたネリーが元気良く答えるのを他所に、零は時限爆弾を設置する。最後の爆弾を一つの机の下に潜り込んで設置したところで、気付く。

何かが、落ちている。

石のような物に、ヒモが付いている。ネックレスのようなモノだろうか。色が視えない零にとって、その石のようなモノが何かは分からないが……。

何故か、それに惹かれた。

 

「零くん……何やってるの?」

 

机に潜り込んでいるため、ネリーは零が何をやっているのかが分からない。零はその惹かれたネックレスを首にかけ、服の中に仕舞うと、なんでもないと言って部屋から出る。そしてサイアに通信を繋げ、その研究所を後にした。

――その石が、ルビーの宝石とは違う(あか)い色だとは、誰も知らずに。

 

 

 

 

 

それから二年と半年が過ぎ、零は4歳の誕生日を迎えた。他の4歳児が元気に外で遊んでいるのとは裏腹に、零達は数々の仕事をこなしてきた。基本的にはサイアが突撃し、零がカバー。ネリーは書類の破棄といった比較的安全なモノを担当していた。

初任務時に通信機を見破られたことから腹話術を覚えたり、本名を使うのは危ないとのことで偽名を使うことにしたり。

一回()に夜中に出ていく所を見つかり、即座に超能力(ステルス)で眠らせて記憶を消したこともあった。哀れなり、錐椰(きりや)(まもる)

 

「――ぃ。おい、零。聞いてるのか?」

 

トントンと肩を叩かれて零が顔を上げると、少し不機嫌な様子のキンジが、眼前まで顔を近付けていた。

周りは色々な遊具が置いてある公園。その砂場の所。どうやら零は少し考え事をしていたらしい。

 

「……ごめん、聞いてなかった。何?」

「まったく……今度の土曜日に、兄さんと青森に行く予定があるから、零も一緒にどうだ?って聞いたんだけど」

「青森……?」

「うん。何か神社に用があるんだって。えっと、ほ、ほと……ホトトギス神社?」

「……鳴かされたり待たれたり殺されそうな神社だね」

 

キンジの記憶力の低さを垣間見たのはさておき、零は少し悩む。

任務が入ったら途中で抜け出せば良いだけだし、そもそも事前に通知が来るため当日直ぐに、ということはあまりない。親の心配も、守なら多分キンジと行くと言えばOKを出してくれるだろう。

 

「……行くよ」

「よしっ。なら兄さんに伝えてくるっ!また土曜日になっ!」

 

言い切ったと同時に、キンジは走り去って行く。4歳になったというのに、落ち着きがない。砂場に一人ポツンと残された零が考えていることは、それこそ4歳児の思考ではないだろう。

――そして時は流れ、その土曜日。

朝早くに部屋に上がり込んだキンジと金一に叩き起こされ、新幹線に揺られながら朝御飯を食べて、青森へと到着した。

そして着いた場所は……。

 

「――星伽神社(ほとぎじんじゃ)……」

「そうだ、ここに用がある。入るぞ……ああ、ここは男子禁制だから、なるべく静かに入るんだぞ」

「えっ」

 

白黒の世界ながらも存在感のある神社に見とれていると、金一の口からサラリととんでもないことが告げられた。

男子禁制。つまり、男は入れない。じゃあ、零達は?勿論男である。それなのに入るということは、あれか。

 

(女装……?確かに、金一さんは()()()()()()得意だろうけど……)

 

その場でうんうんと、検討違いなことを考えながら歩く零。これを金一が知ったら顔を真っ赤にしてキンジに八つ当たりするだろうが、勿論金一は零がそんなことを考えているとは思ってないので、目の前にある石段を登りだす。知らぬが仏とは、このことである。

百三十五段ある石段を登り、鳥居を潜ると……そこに、一人の少女がいた。

前髪パッツンのおさげ。髪色は日本人なので黒と認定。

線が太く視える――重要な人物であると零が判断できるその少女は――巫女(みこ)

 

「は、初めまして。私、星伽(ほとぎ)白雪(しらゆき)という者です」

 

礼儀正しく、しっかりと挨拶してきた少女――白雪を視た零は何故か……。

白雪の周りに、鉄柵のようなモノが視えた気がした――




はい、どうでしたでしょうか?

前書きに書いていたお知らせと言うのは、この小説の展開についてです。
どうやら、自分が予定していたよりも遥かに長くオリジナル章が続きそうで、いつになったら原作に戻るか分からない状態です。そこでこれからは、オリジナル章と原作章を一話毎に更新していくようにしたいと思います。
4章一話→オリジナル一話→4章二話……といったように。なるべく矛盾点を作らないように頑張りますので、宜しくお願いいたします。

次回は4章一話です。お楽しみに!(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第06話――星伽神社

はいどうも、初めまして(違)、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

えーっ、約1年ぶりの投稿となります……『あー、そう言えばコイツいたな』ってなっているかと思います。
GWに入って時間が確保出来たので、少ないながらも執筆致しました。待ってくださった方達には申し訳ありません。

前書きを長くするのもあれなので、第06話、始めます。


※携帯を替えた結果、何故か現在の携帯が三点リーダーやダッシュが使えないため、今までとは違う書き方になっています。ご了承ください。


青森にある、星伽(ほとぎ)神社。男子禁制であるこの場所に何故か入ることができ、そこで零は、巫女服に身を包んでいる少女――星伽(ほとぎ)白雪(しらゆき)に出会った。

 

「よ、ようこそ来てくださいました!ど、どうぞこちらへ!」

 

ぎこちない動きながらも、4歳時とは思えないほどしっかりとした案内を進める白雪。その小さな背中に、少し逞しさすら感じる。

そう思いながら、白雪の後をついていく金一。その横からスルリと、イタズラ顔のキンジが抜け出ていく。

零が制止を呼び掛けるのも無視して、白雪の背後に立ったキンジは……。

 

「――ワッ!」

 

白雪の耳元で大きな声を出しながら、肩を軽く叩いた。

ビクゥッ。

突然のことに、その場で10cmほどジャンプして驚く白雪。その際に足を曲げずに跳んでいたのを、零は不思議がりながら見逃さなかった。これが後の白雪ジャンプである。

キンジに振り返った白雪は、金魚のように口をパクパクさせている。驚きすぎて声が出ないようだ。

してやったり、と言わんばかりに笑うキンジ。 その顔に影が差し込み……。

――キンジの頭上から、金一が勢いよく頭突きをかました。

ゴツッ!

骨と骨、と言うよりは、石と石。鈍い音が鳴り、キンジが頭を抑えて倒れこむ。

 

「何やっているんだ、キンジッ!折角道案内してくれていたのに、怖がらせるようなことしたらダメだろっ!」

「だ、だって……」

「『だって』じゃないだろ……ほら。キチンと謝れ、キンジ」

 

最初こそは怒鳴っていた金一だったが、最後は諭すようにキンジに促す。キンジも出来心でやったとはいえ反省はしているのか、しぶしぶと立ち上がり白雪の前に立つ。

 

「……ごめんなさい」

「……あっ、えっと。うん……」

 

頭を下げて謝るキンジ。それに対して白雪はオドオドとするばかり。何とも気まずい雰囲気が漂い、二人とも顔を会わせない。

その間に、スッ――。

今まで傍観していた零が入り込み、キンジの頭を掴む。それも、先程金一に頭突きをもらった場所を。

 

「痛い痛いっ!零っ、何するんだッ!」

「キンジ、初対面の子にさっきのは有り得ない。ちゃんと反省するべき」

「だから今謝ったじゃないか!」

「反省が足りてない。それにせっかく僕が呼び掛けたのに無視した。だいたいキンジは落ち着きが無さすぎ――」

「あーもう!知らないよ、そんなの!白雪、行くぞ!」

「えっ……えっ?」

 

クトクドとキンジに文句を言う零。その間にも頭を掴まれていたことに我慢できなくなったキンジが、零の手を振り払い。

零を挟んで反対側にいる白雪の手を掴み、建物へと向けて走り出した。

それを見届けた零は追いかけることもせずに、ふぅと息を吐いた。

 

「……零は、優しいんだな。キンジと白雪をくっつける為に、わざと説教したんだろ?」

「……何のことか分かりません」

「普段はあまり喋らない零が、いつになく饒舌だったからな」

 

金一の言葉に、零は逃げるように視線を反らす。自分の考えを当てられるということは、何となく気恥ずかしいモノである。

そこでふと、零の動きが止まる。

何か、いる。

視線を反らした先にある大きな木から、先程白雪が着ていた巫女服と同じ物がはみ出ていた。しかし、白雪はキンジと共に中に向かったし、そもそも白雪のより小さく見える。

 

(――それにまた、視える(数字じゃない)相手)

 

時折こちらを覗こうとしているのか、ひょっこりと木の裏から顔を出す少女。最早隠れているのかどうかすら分からない。

その少女は、白雪をそのまま小さくしたような見た目。前髪パッツンのロング。だが、目元だけは白雪のようなおっとり目ではなく、少しキツめ。

興味が湧いた零は、その木に向かってゆっくりと歩く。背後に回り込むようにしても良かったのだが、それだと驚かれてしまい、その拍子で転んで怪我をするかもしれない。

それならバレていることに気付いてもらって、なおかつ敵対心がないことを伝えた方がいい。

零が近付いていることに気付いた少女は、だが動かない。好奇心が強いのだろうか。あるいはびっくりしすぎて動けなくなったのか。どちらにしても、零にとっては好都合。

そして木を回り込み、少女と対面する。

 

「……初めまして、錐椰(きりや) (れい)です」

 

膝を曲げて、目線を同じ高さにする。なるべく怖がらせないように、ゆったりとした口調で話しかける。

 

「ほ……ほとぎこなゆき、です……」

 

その少女――星伽(ほとぎ)粉雪(こなゆき)も、小さな声で、しかしキチンと名前を言った。

 

「どうして、木からこっちを見ていたの?」

「おねえさまが……」

 

隠れていた理由を聞くと、モジモジとして、最後まで答えない。だが、なんとなく零は理解した。

この子は白雪の妹で、お姉ちゃん子なのだろう、と。

今日外から男の人が来るということ、それに対して白雪が対応するということ。しかし、勿論白雪も男の人相手は初めてで、性格上上手くやれるか分からない。

それらが合わさって、心配でついてきたのであろう。恐らくは、白雪に黙って。

 

「……よろしくね、粉雪」

「あっ、えっと、その……よ、よろしくお願い、します」

 

粉雪に手を差し出し、粉雪はオドオドしながらもそれに応じる。

 

「じゃあ、お姉さんの所に行こうか」

「あっ……ハイッ!」

 

ようやく子供らしい、元気の良い返事を聞きながら、キンジ達が向かった方に行く。

無表情の零と、その零に手を引かれたままの笑顔の粉雪。

その背中を見ながら、金一も少し頬を弛めてついていった――

 

 

 

 

 

「――サイア。そっちの調子は?」

『特に何もねぇよ。テメェがいなくても任務は滞りなくこなしているよ』

「そう」

『ただなぁ……ネリーの奴がおかしいんだよ』

「おかしい?」

 

キンジ達と合流した後、予想外に多かった白雪の姉妹(義妹含め)達との会合をした夜。

一緒の場所で寝ることになった子供達が寝静まった後、零は一人外に出て、イギリスの『特殊児童捜査研究家』にいるサイアと連絡をとっていた。

 

『何つーか、相変わらず()()()は出来てねぇんだが……現場に鉢合わせても、普段通りに接してくんだよ。超能力(ステルス)の方も暴走することが無くなって、解錠とかに役に立ってるし』

「ふぅん……」

『それに俺に対しても、怯えることなく話しかけてくるし……調子狂うんだよな』

 

サイアからの情報に、零は少し考える。

最初に零が研究員を殺した時、明らかに動揺し、目を背けていた。元から死体が大丈夫だと言う訳ではないはずだ。

 

(うん?そういえば、その後……)

 

すると零の脳に何かが引っ掛かり、それは何かと考える。

それは、初めての任務の最深部の時のこと。潜入していることがバレ、130人以上の人数で待ち伏せされ、それを零が惨殺した。

その後ネリーが零に近寄ってきたが……その時は、普通に駆け寄ってきた。

死体が見えなかった、という訳ではないだろう。100人を越える死体が丸々見えないということは有り得ない。零みたいにそもそも『人間として視えなかった』というのなら話は別だが。

――つまり、あの時には既に死体が大丈夫になっていたというのか……?それまでに、2体しか見てないのに?

 

『――ぃ、おい、零!聞いてんのか!?』

「……ごめん、考え事をしてた。それで、何か不都合があるの?」

『いや、寧ろ俺も戦闘に集中できるから、悪くはねぇ。ただ、何となく引っ掛かってな』

「そう」

『そんじゃ、そろそろトレーニングがあるから切るわ。そっちは……夜か』

「そうだね。僕ももう寝るよ」

『ああ……そうだ。来週、コッチに来いって須郷(すごう)が言ってたぞ。雰囲気的に何かやるみたいだ』

「了解」

 

じゃあな、と言い残して、サイアとの通信は切れた。

 

(……サイアも、何か変わった?)

 

暗くなったタブレットの画面を、そのまましばらく見つめる。

サイアの攻撃的な発言はそのままだが、物腰が少し柔らかくなっていた気がする。ネリーの名前を呼んだ時も、怒ったような声では無かった。

零が最後に二人に会ったのは、約一週間前と、そこまで月日が流れた訳ではない。が、そのままの状態で関係が良くなるような雰囲気でも無かった。

 

(……まあ、いいや。来週になれば分かることだろうし)

 

今日ももう遅い。自分も早く寝よう。

そう結論付けた零は、寝床に向かう。月が辺りを照らす中、その動く小さな身体は……されど、足音を立てない。

スッ――と、キンジ達が眠る寝床の(ふすま)を開ける。

そこで零の視界に広げられた光景は――凄いモノだった。

零が出ていく前に綺麗に敷かれていた布団は乱雑に散らばっていて、子供達は所定の位置から大移動。

更にキンジの寝相の悪さからなのか、全員あられもない姿。これが子供だったから良かったものの、成熟した大人達だったら間違いなくR指定が入るだろう。

 

(……さて、どこで寝ようか)

 

勿論、だからと言って零が反応することはないのだが。

全体的に踏み場が無く、皆が全体的に広がっているため、寝る場所の確保が出来そうにない。

いっそのこと、外で寝ようと思った時……ゴソッと、零の視界の端で誰かが動いた。

目の焦点をそこに合わせると、起きていたのか、同じく目線を合わせてくる者。

――というか、粉雪だった。

 

「あっ……あの、錐椰、様……」

 

イタズラがバレた子供のように、アタフタとし出す粉雪。だが、粉雪が何かしていた様子はない。

 

(となると、単純に起きていたことに対して罪悪感があるのかな?子供は早く寝なさいって良く言われるし)

 

実際零も父親である守に何度も言われている。が、任務の関係上夜に行動することが多いため、その言い付けはほとんど聞いていない。

 

「零でいいよ。それで、何かあったの?」

「あ、あの……えっと、その。が、外部の人と同じ寝床になるのが初めてなので……しかも、男の人……」

 

昼間の時と同じように、小さな声で話す粉雪。その言葉は足らない所もあるが、ああ、と零は納得した。

ようは、普段と違うから緊張して眠れないということだ。

別にそれはおかしいことではない。他の皆のように男女関係なく眠れる子供達も普通だが、引っ込み思案な子供もいるのだ。

むしろ、白雪が普通に眠れていることに対しての驚きが少々ある。同じように眠れないと思うが、この大人数の長女なだけあるのか、意外と肝っ玉が大きいのかもしれない。

 

「……そっか。大丈夫だよ、大人達には何も言わないから」

「あっ……あ、ありがとうございます」

 

その言葉に安心したのか、少し笑顔になる粉雪。神社ということもあり、他の所より厳しい制約とかがあるのだろうか。

 

「あ、あの……もしよろしければ、こ、こちらへどうぞ」

「……いいの?」

 

少し考えていると、粉雪がポンポンと、自分の布団――寝ていなかったためか、唯一綺麗に整っている――を叩き、零を招いている。

 

「はいっ」

「……じゃあ、遠慮無く」

 

零としても、やはり外で寝るよりは布団がある方が有難(ありがた)い。素直に提案を受け入れ、粉雪と同じ布団に入る。

 

「入ってから聞くのも何だけど、本当に良かったの?僕も男子だけど」

「はい。きり――零様は何か、その、不思議な雰囲気というか……暖かいと言えば良いのでしょうか?とにかく、嫌じゃないです」

「『雰囲気』とか、子供らしからぬ言葉を使うね、粉雪は」

「零様も同じではないですか?」

 

クスクスと、小さく笑う粉雪。本当に緊張していないのか、その笑顔はとても愛らしい。

 

「あの、零様。よろしければ、外のことについて色々と聞きたいのですが……」

「外のこと、か……。やっぱり粉雪達は、外に出るのには厳しかったりするの?」

「はい。『星伽(ほとぎ)の巫女は、守護り巫女。生まれてから逝くまで、身も心も星伽を離るるべからず』――私達は一生、星伽神社にいるべき巫女なのです。だから外出も禁止されていて……だから、外のことを知らないのです」

「……なるほど、ね」

 

少し苦笑しながら放たれた言葉は、とても重い制約。先程一般よりは厳しい制約があるのではと考えていたが、思っていたよりもずっと厳しい。

そして……それに何故か、自分と重ねてしまう。『色』というものを生まれつき知らない、一般の人とは違う自分を。

 

「……分かった。実は僕こう見えて、外国出身なんだ。だから普通の人よりもっと色々と知っているよ」

「えっ……そうなのですか?全然気付かなかったです」

「お父さんが日本人で、お母さんが日本人とイギリス人のハーフ。僕はお父さんの血が強かったのか、日本人にしか見えないけど。だから今日一緒に来たキンジもまだ知らないんだ」

「遠山様も知らない……ですか?」

「うん。だからこのことはこの中では、粉雪しか知らないんだよ……これ、秘密にしといてね」

「あっ……はいっ」

 

子供というのは、自分だけが知っている秘密というモノに弱い。

現に粉雪も、秘密という言葉を聞いた途端、目を輝かさせていた。

それから零は起きている間、自分が体験してきたことを淡々と話した。勿論、任務についての話は除いてだが。

粉雪は、まるでおとぎ話を聞いているかのように、楽しそうに聞いていた。

しかし、やはり子供だからか。押し寄せる睡魔に勝てず、段々と(まぶた)が閉じていく。

そしてそれほど時間が経たずに――スゥスゥと、小さな寝息を立てて、眠ってしまった。

それに気付いた零は、自分も一緒に布団を深く掛け直し、同じく寝ようとする。

チラリと、最後に寝床全体をもう一度見渡す。粉雪と喋っている間にまたキンジが大移動していて……。

 

――その右手には、『花火――』と途中で見えなくなっている、グシャグシャになったチラシが握られていた――




はい。どうでしたでしょうか。

こうして零は、粉雪と出会いました……本編での登場はまだ先ですが(笑)
久し振りということで、軽く五千文字程度になりました。もうちょい頑張って増やしたいですね(汗)

本編の方は明日投稿出来ればいいなと思っておりますので、是非閲覧の方をよろしくお願いいたします。

それでは、ごきげんよう。(*・ω・)ノバイバイ。


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第07話――花火大会

前回――『2018年5月4日』投稿。
今回――『2019年5月31日』投稿。

アカン()

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

お久しぶりです……といっても覚えていないかもしれないですね。月日が経つのが早く感じる今日この頃です(違)
待たせてしまい、申し訳ありません。

カカシさんに評価・8。

ベルファールさん
ZAX016さん
niftyさん
1498さん
如月 妖斗さん
スコルとハティさん

に評価9を頂きました!ありがとうございます!

では、第07話、始まります。


「……花火大会?」

「そう!零も一緒に行こーぜ!」

 

一人部屋の隅で黙々と本を読んでいた零に、どこか興奮した様子で詰め寄るキンジ。その口から出てきた言葉に、零は昨晩のことを思い出して反応する。

気紛れで粉雪に自分が体験してきた外の話をして、粉雪が眠った後。ふとキンジの方を見た時に、『花火――』と途中まで見えていたチラシを握っていたことを確認している。恐らく、いや確実にこの事だろう。

チラリと本の上からキンジを覗くと、目をキラキラと光らせながら待ち構えている。まだネクラではない、純粋なキンジに、思わず視線を本に戻してしまう。

 

「いつ行うの?」

「今日の夜!」

「えっ」

 

とはいえそのまま無視するのも忍びないので、開催日を聞くと、予想の斜め上をいく答えが返ってきた。いくらなんでも急過ぎる。

しかも、今の時刻は17:30。19:00前後に開催と考えると、今から出ないと間に合わないだろう。

今なら提出日が今日だと言って重要な提出物を渡される、朝食の準備をしている母親の気持ちが分かる気がする。

『親子の心』と題された本を閉じ、改めてキンジに顔を向ける。4歳児が読むような内容でない事が一目で分かるタイトルだが、普段から哲学や医学の本を読んでいる零にしては、寧ろ年齢に近付いている。あくまで誤差の範囲でだが。

キンジに目線を会わせるように顔を上げた時、同時に気付いた。

ーー部屋の襖から、髪の毛とリボンの様な物が出ていることに。

本人は隠れているつもりなのだろう。そわそわと落ち着きなく揺れる髪を見て、零はその本人に問い掛ける。

 

「……白雪、何をしているの?」

 

ビクゥッ!

揺れていた髪が真っ直ぐになり、30センチくらい飛び上がってた。きっと(ふすま)の向こうでは、昨日お披露目した白雪ジャンプが行われたのだろう。

 

「白雪?」

 

キンジが零の声で振り返り、(ふすま)の方を確認する。

二人の少年に見つかった少女――白雪は、何故か申し訳なさそうに部屋の中に入ってきた。

 

「白雪、どうして隠れてたんだ?かくれんぼ?」

「あっ……えっと、その……ご、ごめんなさい。聞くつもりは無かったんだけど……その、えっと……」

 

キンジの疑問に、ワタワタと要領の得ない解答と謝罪をする白雪。そのまま尻込みしていく声と、チラチラキンジの持っているチラシを見る様子から、零は察した。

要は、白雪も見に行きたいのだ、花火大会を。

昨日粉雪と話したから分かるが、星伽(ほとぎ)の者は外に出られない。だけど、外の事に興味が無い訳じゃない。好奇心の塊である子供なら尚更、外に対しての興味があるだろう。

それで、外から来た人間(零とキンジ)が、外の事(花火大会)について話しているこの状況。これで察することが出来ないのは、頭に疑問符を浮かべているキンジくらいだ。

ふむ、とここまで考えた零は一息いれ。

 

「……キンジ、悪いけど僕は行けない」

 

キンジの誘いを断った。

 

「えーー!何でだよ!行こーよ!」

「ちょっと用事があるんだ……そうだ、キンジ」

 

当然のごとく反発して不機嫌になりかけるキンジに、次を言わせる前に零が言葉を繋ぐ。

 

「――白雪と一緒に行けば?」

「白雪?」

「……え?」

 

零からの代替案に、思わず二人がキョトンとした顔になり、そのまま顔を会わせる。

だが、そこは(まだ)活発(であった頃)なキンジ。直ぐ様納得したように手を叩く。

 

「そうだなっ、白雪!遊びに行こうよ!」

「えっ……で、でも」

「綺麗だよ、花火!」

「――ッ」

 

根が真面目な白雪が、星伽の言いつけを守ろうとして断ろうとした時……キンジが、純粋な笑顔と共に、そう告げる。

そこで白雪は……やはり、好奇心には勝てなかったのか。

こくん。

迷った様な笑顔を浮かべながら、小さく頷いた。

 

「零も来れれば良かったのになあー」

「……そうだね」

「まあ、来れないのは仕方ない!白雪、行こーぜ!」

「えっ……えっと、その……う、うん!」

 

キンジが白雪の手を引いて、それに対して躊躇いながらもついていく白雪。

部屋を出て、廊下を走る音が遠ざかり……そして完全に、聞こえなくなった。

それを確認した零は、再び本を開いて読み始める。ペラペラと本を読む様子は、何か用事がある様には見えない。

それもその筈。何せ、用事があるというのは、真っ赤な嘘であるから。

花火というのは音と、カラフルで綺麗な見た目を楽しむ物と、本に書いてあった。

だが色の見えない零にとっては、うるさい音に、白黒の世界で白黒のヒモのようなモノが散らばっているだけ。メトロノームが揺れているのを見ていた方が、まだ有意義だと思える程だ。

だから、白雪に行かせる事で、自分は読書に専念できる。そんな打算的な考え方で、零は白雪に行かせたのだ。

昨日大勢で一緒に寝た広い部屋で、ページをめくる音だけがかすかに響いていた――

 

 

 

 

 

――ュ――ダ――サガ――。

 

(……ん?)

 

読書に専念していた零の耳元に、遠くの方で騒ぐような声が聞こえてくる。

キンジ達が帰ってきたのか、と思って時間を確認するが、時刻は19:50。キンジのチラシで確認した花火大会が一時間程度だったから、まだ終わっていないハズだ。

それに騒ぎ立てる様な声。これは……子供の声じゃない。大人達だ。

その声が段々とこちらの方へ向かってきている。足音も聞こえてくるようになり、その音から歩幅と体重を割り出したが、やはり大人の者。しかも複数人だ。

ダッダッダ――バンッ!

 

「――白雪はどこだっ!」

 

襖が壊れる程の勢いで開けられ、部屋の中に入ってきたのは、般若の表情を浮かべている大人達であろう、『0』と『1』の集合体。つまり、零の興味のない、重要でもない人物達。

部屋をキョロキョロと見渡した所で……部屋の端にいた零を捉える。

チラリと、入ってきた大人達を確認した零は、それでも直ぐに視線を本に戻す。

 

「お前……遠山様の所の子供と一緒に来た子だな?」

 

子供相手に鬼気迫る表情で問い掛ける大人。しかし、零はページをめくるだけで反応しない。

その態度を見たリーダー格らしき先頭にいた者はズンズンと、零の目の前まで来て。

 

「白雪はどこにいる!?」

 

零が知っている事前提で、怒声を浴びせるように叫んだ。

他の大人達も、零が知っている事は分かっているのだろう。粉雪を始めとする星伽の子供も先程から懸命に探しているし、白雪だけではなくキンジの姿も見えない。

そんな中で、キンジと共に来た少年が、一人だけポツンと本を読んでいるこの状況。居場所を知っているのは間違いないだろう。

目の前まで来られた零は、流石に読書を止めて顔を上げる。

それから、興味無さそうに辺りを一瞥(いちべつ)した後。

 

「……さあ?かくれんぼでもしているんじゃない?」

 

と、盛大にシラを切った。

子供らしからぬ無表情のままでその口から出された言葉に、大人達は一瞬呆けて……。

――リーダー格が、零を思い切り蹴りあげた。

ドンッ!

抵抗する気配さえ見せなかった零はそのまま壁まで飛び、背中を打ち付けた。

だが、それで終わることはない。

そのまま零に覆い被さるようにマウントをとり、その拳を振り落とす。

ゴスっ!バキッ!ドゴッ!

容赦のない連打に、鈍い音が部屋に響き続ける。リーダー格の怒りのスイッチが入っているのか、自分の拳の皮が殴りすぎて少し剥がれてきているのにすら気付かない。

殴り続けて数分後、フーッ、フーッと、獣のように息を荒げ、ようやくリーダー格が動きを止めた。

周りの者はしばらく動けなかったが、リーダー格が停止したことにより、慌ててリーダー格を倒れている零から引き離す。

いくら白雪を探し出すためでも、年端のいかない子供を大人が殴り続けてたら、生命の危機に関わる。いや、もう遅いかもしれない。

兎に角、少年の容態を確認しようと、一部の者が動き……。

――ムクリと、零の上体が起きたことに驚愕した。

 

「――ッ!」

 

人間はあまりに驚愕すると、声が出ないと良く言われるが、正にその通りの現象が起こっている。

リーダー格を抑えていた者も、いやリーダー格さえもが、その光景に度肝を抜かれた。

 

「……で、その程度?」

 

呆れたと言わんばかりに喋った零は、先程まで殴られてたとは思えない程に平然としてる。服は多少汚れているが、中心的に殴られてたハズの顔には、傷一つすらない。

――何だ、これは。何が起こっている。

リーダー格は一瞬夢なのでは?と思ったが、ヒリヒリと今になって出てきた拳の痛みに、現実逃避が出来ない(夢では無いと知る)

――タッタッタッタッ――

脳の処理が追い付いていない中、廊下を走る音が聞こえてくる。足音が軽いことから、恐らく子供達だろう。

それだけは理解できたリーダー格の目の前で、零は突然口元に親指を持っていき。

 

「――反撃しない代わりに、協力してね。キンジ達にはまだ早いから」

 

絶対零度という表現が似合う、淡々とした言い方で伝えたと同時に、親指の爪で口元を引っ掻いた。

タラリ、と赤い血が口元から垂れて、口内出血した様に見える形になったタイミングで。

 

「――零ッ!」

「――零くんっ!」

「――零様ッ!」

 

部屋の中に、三人の子供達が入ってきた。

祭りから帰ってきたキンジと白雪。それに粉雪もいる。恐らくはこの部屋から、怒声や騒ぎを聞いた粉雪が、祭りから帰ってきた二人を見つけて駆けつけて来たのだろう。

呑気に零が推理していると、三人とも驚愕した顔で零を見つめてきている。ボロボロになった服に、口元の出血。そしてそれを囲っている大人達。

これだけ揃っていれば、いくら子供でも何が会ったのかは想像できる。零が殴られていたということに。

 

「……何だ、意外と早く終わったんだね、かくれんぼ」

「はっ……いや、零お前何言って……それに、血が――」

「白雪」

 

キンジの動揺した声を遮って、零は白雪に顔を向ける。

 

「――よう、楽しめたか?」

 

そこで初めて、零が白雪に対して笑いかけた。普段の零には考えられないような、(とぼ)けた様子で。

――その表情の中に、同情の念を混ぜながら。

 

 

 

 

 

それからというもの。キンジと白雪はキッチリ怒られ、白雪は一日土蔵から出してもらえなかった。

一方、零の方は何も無く(大人達が避けているような態度だったが、キンジ達は気付かなかった)、泣きじゃくりながら救急箱を持ってきた粉雪に、有無を言わさず手当されることになった。

その後。何かと理由をつけて、隣に来るようになった粉雪や、密かに避けられていた、土蔵から出してもらった白雪から遊ぼうと言われるようになり、キンジと共に別にやりたくないおままごとをやらされたりもした。

特に楽しいとは感じなかったが、普段『任務』の方でナイフやら拳銃等を握って動き回っているため、おもちゃの包丁を持ってたわいもない会話をするのは新鮮だった。

役は交代交代でやっていたが、何故か零がお父さん役の時に粉雪が常にお母さん役だったのだが、そこは割愛。

そうして、『任務』とは離れた一時を送って……一週間が経過した、その夜。

皆が寝静まった頃に、一人ベットから出る零。他に誰も起きていないことを呼吸音で確認した後、外に出る。木に覆われた、自然豊かな景色。

そして――ヒュンッ。

一瞬だけ目の前が完全に白一面になり……次に見えたのは、幼稚園のような部屋の風景。ただ普通の幼稚園と違うのは、同じような部屋がいくつも用意されている施設であるということ。

そう、イギリスにある『特殊児童捜査研究家』である。先程まで星伽神社にいた零が、当たり前のようにテレポートを使って移動したのだ。

二週間前に来たので、そこまで懐かしい感覚は無く、適当に部屋の中で(くつろ)いでいると。

――廊下の方から、騒ぐような声が聞こえてきた。

似たような出来事が一週間前にあった気がするが、あの時と違うのは、聞き慣れた声と足音であるということ。

 

『――だから、あそこは俺が制圧したからそれで良いだろうが!』

『ダメだよ!資料回収の為に隠密行動が原則だってあったのに、サイアくん正面から突っ込んでいったじゃん!』

『全員殺れば見つかってねぇのと一緒だろが、面倒くせーな!』

『ダメなものはダメ!』

 

ギャーギャーと言い争う声と共に、部屋に備え付けられている引き戸式の扉が開かれる。

ツンツン頭の少年と、最近少し髪が伸びてきた少女。

それが、この『特殊児童捜査研究家』で零がパーティを組んでいる二人、サイア・クロニクルと、ネリー・リチャードである。

二週間前に会った風貌と変わらず、しかし何故か違和感を覚える零。

 

「……久しぶり、二人とも」

「おっ、いたのか零」

「あ、零くん。やっほー」

 

――そして、零の違和感は、確信に変わる。

まずサイアの方。これは正直今回はどうでもいい。少し態度が柔らかくなったくらいで、()したる事じゃない。

 

「ん?どうしたの、零くん?何かあった?」

 

――そう、問題なのはこっち。きょとんとしながら、純粋な瞳で見つめてくる、ネリーの方だ。

 

「……それはこちらのセリフだけど、ネリー」

「えっ、嘘。私何かついてる?」

 

零の返答に何を勘違いしたのか、自分の服や身体を見ていくネリー。その場でターンしながらキョロキョロしているネリーを横目に、零は問題をそのままスライドさせてサイアに問う。

 

「サイア。これはどういうこと?」

「どうもこうも、この前電話で伝えた通りなんだが」

「思っていた以上だったんだけど」

 

――そう、零の違和感の原因は、ネリーの態度である。

 

――『ただなぁ……ネリーの奴がおかしいんだよ』

『おかしい?』

『何つーか、相変わらずコロシは出来てねぇんだが……現場に鉢合わせても、普段通りに接してくんだよ。超能力ステルスの方も暴走することが無くなって、解錠とかに役に立ってるし』

『ふぅん……』

『それに俺に対しても、怯えることなく話しかけてくるし……調子狂うんだよな』――

 

確かに、サイアからネリーが変わった事を聞いている。

だが、それは予想では、普通に話しかけてくるだけだと思っていた。それまでのネリーは常にサイアに対して怯えていたし、零に対しても避難場所にしながらも、どこか距離を置いていた部分があった。

 

『……ま、また今度……』

 

これが二週間前、ネリーが最後に伝えた言葉である。この時も落ち着きなく身体を揺らし、視線もあちらこちらと動いていた。

それが、今はどうだ。廊下で聞こえていた内容を考えると、サイアに対してダメ出しを行い、零に対しては軽やかな挨拶とともに笑顔で相手した。

しかも、零が驚いているのは、そこだけではない。

 

(ネリーの()()()()()()()()()()()()()()()()()()――?)

 

零は色や人そのものが数字となって視えない代わりに、興味を持った者や才能を持っている者に関しては、人間の姿で見えるようになっている。

そして、その人間の存在が大きいほど、その身体の線が太くなる。

今までのネリーも、線は太い方ではあった。だが、サイアと比べると細く、見劣りしてしまう所があった。そのサイアですら、キンジの祖父である(まがね)よりは細い。

それが、今はどうだ。自分の身体に異常が無いことを確認し終えて(ふく)れっ(つら)になっているネリーは、この二週間で、サイアと同等の太さになっている。

 

「もう!何もついてないじゃん!零くんのいじわる!」

「別に何かついているなんて、一言も言ってないけれど」

「え?そうだった?」

 

あれ?と、零の発言を呑気に思い出しているネリーは、()()()()()()()()()()()()()()()――

ガラリラッ。

 

「――おっ。零君もちゃんと来ているな」

 

ネリーの急激な変化に深く思考に入ろうとした零の耳に、聞き覚えのある声が届く。

引き戸を開いて入ってきたのは、零達三人の面倒を見ている、須郷(すごう)という者。スーツ姿からでもガタイの良さが分かるその身体を壁に寄りかけて、ゆったりと話しかけてくる。

 

「先週にサイアから聞いていたので」

「連絡が入っていて良かったよ」

「なあー、須郷(すごう)さん。いい加減に教えてくれよー。一体今度は何をするんだ?」

 

サイアの不満げな声と態度を見るに、サイア達二人もまだ教えてもらっていないらしい。

 

「それは着いてから教えるよ。まずは移動しよう」

 

サイアの問いに答えず、入ってきたばかりの引き戸から出ていく須郷。

 

「……なあ、零。何か見覚えねーか、このパターン?」

「うん、ちょうど僕も同じこと考えていたよ」

 

須郷の姿が見えなくなると、サイアが語りかけ、零もそれに同意する。

二人が思い出しているのは、この三人が初めて出会った日。能力検査時も零の問いを受け流し、後に『任務』についての詳細を告げられた。

 

「ま、ここで考えていてもしかたねーか。さっさとついてこーぜ」

「そうだね」

 

その場にいても解決する事はないと二人は判断し、廊下で待っているだろう須郷の元へ向かう。

廊下に出て、零が丁寧に閉めようとした所で……まだネリーが頭に疑問符を浮かべたまま残っていたことに気付いた。

 

「ネリー、何してるの?おいてくよ」

「――ふぇ?え、ちょっ、ちょっと待ってー!」

 

呼び掛けた事でようやく気が付き、慌てながら駆けてくるネリー。

何度目になるか分からない違和感を覚えながら、零は二人と共に須郷についていくのだった――




どうでしたでしょうか。

次は第4章の投稿になります……いつになるかは分かりませんが、気長に待って頂けると幸いです。

それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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第四章緋弾・紅電
67話~絶世の美女


……はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス(小声)。もう私のこと覚えている人少ないかも。

すみません2ヶ月の間、まったくと言っていいほど書いてませんでした。その代わりといえるかは分かりませんが、今回は普段の二話分の文字数になってます。ご了承ください。

では、第4章、始まります。



なるほどな、そういうことだったのか。

物陰に隠れながら、一人でそう納得する。

――キンジ達に俺の過去を話した、その次の日である今日の放課後。ベランダから何気なく外の景色を見ていると、キンジが出かけるところを目撃した。

それだけなら、ただ買い物に向かったのかと思って気にもしなかったのだが……キンジの顔が真剣そのものだったのが気になった。

部屋でストレッチをしていたシェイに一言言って男子寮から飛び出し、キンジの後を尾行する。いくら探偵科(インケスタ)だとしても、キンジ相手に見つかるようなヘマはしない。

しっかりと間隔を開けてキンジを追うと――武偵高とレインボーブリッジを挟んだ向かいにある人工浮島に着いた。

キンジはそこを上がり――4月のハイジャックで飛行機をぶつけたせいで折れ曲がり、回ることを忘れた風力発電機に近づく。その近くに隠れられるモノが無かったため、ある程度離れたコンテナに俺は隠れる。そして、そこから見えたモノに、一人納得した。

風力発電機のプロペラの一枚に、黄昏時の東京を背に腰掛けていたのは――

カナ、だったのだ。

キンジは自分の目を疑っているのだろう、カナに近付こうと未だ解体されていないANA600便の残骸をよじ登っていく。この間みたいに、理子が変装したカナかもしれないとでも、思っているのだろう。

だが、それはありえない。距離の離れているここからでも分かる、カナのオーラ。時が止まるほどの美しさ。

それは――どんなに巧みな変装でも、作り出せるものじゃない。

キンジも近づくにつれて感じているのか、その顔から疑いの表情が消えていく。

ロングスカートのワンピースを着たカナは、編んだ長い後ろ髪を海風に揺らし――

祈るように閉じていたその眼を、そっと開いた。

間違いない、本物のカナだ。

 

(……しっかし、いつ見ても凄いよな、あの人。ホントに性別合ってるのか?いや、過去にさんざん見てきたけど)

 

遠山家に代々伝わるヒステリアモードは、性的興奮をトリガーにしている。

そしてキンジ達のご先祖様、名奉行・遠山の金さんは――もろ肌を脱ぐことで、性的に興奮できる嗜好を持つ人だったらしい。

つまり、彼は自分の意思でいつでもヒステリアモードになれたのだ。

そして、21正紀。遠山金一、つまりキンジの兄さんも――その金さんのように、いつでもヒステリアモードになれる方法を見つけ出した。

金一さんに備わっていた嗜好は、ご先祖と同じものではなかった。しかし、異性を必要とせず、自らの意思で自分を性的に興奮させられるものだった。

つまり、それは――絶世の美人に、()()()こと――!

 

「キンジ。ごめんね」

 

予め超能力(ステルス)で強化していた耳が、カナの言葉を正確に捉える。

 

「イ・ウーは遠かったわ」

 

キンジも俺も、驚きは少なかった。金一さんのことを知っている俺達からすれば、理子に金一さんが負けるとは思えない。

 

「どういうことなんだ。教えてくれ、カナ――いや……」

 

ただ静かに長い髪を揺らしているカナに、キンジは怒りに肩を震わして、叫ぶ。

 

「……()()()!」

 

キンジの言葉に、カナ――金一さんは、応えない。

そしてその代わり、唐突な質問を返してきた。

 

「キンジは、神崎・H・アリアと――なかよしなの?」

 

急な質問に、キンジは眉を寄せる。

 

「――好きなの?」

「そんなこと……今、関係ないだろ!」

 

意図の掴めぬカナの質問に、キンジは怒鳴る。

カナは、おっとりとした瞬きを返し。

 

「キンジが肯定したら、一人でやろうと思っていたんだけどな。しなかったね」

 

そして――その薔薇色の唇で、言った。

 

「これから一緒に、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

――プツンッ――

強風で流されたキンジの動きに、あっけなくプロペラにつけていたワイヤーが切れて。

キンジが、暗闇に呑まれていく――。

 

(――出るとしたら、ここかな?)

 

ダンッ――!

隠れていたコンテナから勢いよく飛び出し、風力発電機へ一瞬で近付く。プロペラ下に着くと同時に落ちてくるキンジを空中で掴む。

キンジに巻き付けてあったワイヤーへの抵抗が無くなったことに疑問を抱いたカナが、プロペラ下を覗きこむと動作に合わせて、カナの乗っているプロペラに着地する。キンジはプロペラの端に寝かせておいたが、落ちることはないだろう。

 

「どーもです、金一さん。いや、カナさん」

「……貴方は――?」

 

不意に後ろから聞こえた声に反応したカナが振り向き、俺と相対する。

ゆったりとしたその動作に、焦りはない。振り向く前に敵意がないことを確認したのだろう。だが、一応は警戒しているのか、()()()()()()()()()

その目が、俺に問いかけてくる。何故、ここにいるのか。お前は誰だ、と。

 

「お久しぶりですね、カナさん。俺……いや、()です。錐椰 零です」

 

分かりやすく一人称を変えて、カナに自分が誰なのかを伝える。

すると、パチクリ。

その瞳を二、三度瞬きさせて、そして近付いてくる。

グイッと、鼻と鼻が当たるくらい覗きこんできたカナは、穴が開くほど俺のことを見つめ……。

 

「零、なの?」

 

一言、そう呟いた。

 

「はい、零です」

「……私の知っている零は、黒髪焦げ茶色の、おとなしそうな子だったハズだけど?」

「あー……それはまあ、色々あったんで」

 

昔の俺しか知らないカナは当然の質問をしてきて、それにどう答えようか迷う。自分でもよく分からないことを、人に説明するのは難しい。

頭を悩ませていると、ふわり。

俺の頭の上に、何かが置かれる。カナの手だ。

カナはそのままゆっくりと、俺の頭を撫でる。幼少期の頃から、あまり頭を撫でられることは好きではない。思わず頭を引いた。

 

「……ふふっ。頭を撫でると、頬を膨らます癖。本当に、零のようね」

 

柔らかい笑みを浮かべてながら、慈しむように俺を見るカナ。どうやら顔に出ていたらしい。

 

「そ、それより……さっきの話、一体どういうことですか?アリアを、殺すって」

 

頬の熱さを感じつつ、聞きたいことに話を変える。それは先程まで、キンジとカナが話していたこと。

 

『アリア。神崎・H・アリア。あの少女は――巨凶の因由。巨悪を討つのは、義に生きる遠山家(わたしたち)の天命――』

 

義とは、すなわち『正義』。

その言葉を口にした時、カナが目的を成し遂げなかったことは今まで一度もない。

カナは、何故かは知らないが――本気で『アリアを殺す』つもりらしい。

それを止めようとしたキンジが、カナに対して拳銃を突き付け――返り討ちにあった。あの、カナに対して盲目的なまでに信頼している、あのキンジが。

 

「教えてくれませんか、カナさん。イ・ウーで何があったのか。何でカナさんが――そうなってしまったのか」

「……ごめんなさい。どちらも、答えられないわ」

「……そうですか。けど、アリアは()らせませんよ。僕の……パートナーですから」

 

答えるカナが俯き、前髪で表情が見えなくなる中、そう宣言する。

――パァン!

それと同時に、銃声。だが、カナの手元には銃は握られてない。

不可視の銃弾(インヴィジビレ)』。カナ――金一さんが得意だった、()()()()()()()()

そのまま銃弾が俺を捉える……。

 

「――カナさん。俺には、効きませんよ」

 

――ことはなく、少し身体をズラして銃弾を避ける。

俺には、音速程度のものなど、通用しない。

通り過ぎていく銃弾を見届けたカナは、その目を少し大きく開き……そう、と呟いた。

 

「あなたも、実力を隠していたのね」

「一応、『紅電(こうでん)』、『Sランク内最強』を名乗っていますけど」

「同姓同名の別人だと、思っていたわ。昔の零とは全然違ったもの」

 

あまりいないと思うけどな、俺の名前。

そう思ったが、口にはしない。カナになった金一さんは、どこか抜けているところがある。それを一々指摘するほど、俺も神経質ではない。

力を抜いたカナは、気絶しているキンジを見て、聖母のような笑みを浮かべて、ストン。

プロペラの(ふち)に座り、足を宙に投げた。

 

「……カナ?」

「零がいるなら、『第一の可能性』は保留にしておくわ。『第二の可能性』、信じてみることにする」

「……よく分からないけど、アリアを殺さないって解釈でいいんですか?」

 

俺の言葉に、カナは反応を示さない。だが、雰囲気は変わった。俺の知っている、カナの雰囲気。

もう話すことはないのか、遠くを見つめるカナを余所にキンジを担いで……。

人工浮島を、後にした。

 

 

 

 

 

「アリア、学校行くぞー」

「んー」

 

バイクの鍵を机から取りつつ、アリアに呼び掛ける。今日から夏服になる制服に着替えたアリアは、トテトテと玄関まで小走りでやってきた。

 

「シェイ。先行ってるからなー」

「うん、行ってらっしゃい」

 

午前中に仕事が入っているシェイに声をかけて寮を出て、駐輪場に置いてあるバイクにキーを差し込み、アリアにヘルメットを渡す。

そしてバイクにまたがり、武偵高へと向かい走り出す。後ろで掴まっているアリアは、機嫌良さそうにしている。

――今日の朝早くに、キンジからメールが届いた。『アリアは、無事か?』と。

『アリアなら寝てるが、どうかしたのか?』と返すと、『いや、何でもない。おやすみ』と返信がきた。恐らく、昨日人工浮島にいたのに目を覚ましたら自室にいたので、夢か何かだったと思ったのだろう。

訂正してもいいんだが、キンジも混乱しているだろうし、後回しにすることにした。落ち着いた頃に、話してやろうと思う。

 

『あー、そういえば、アリア』

『何ー?』

『今月の7日7時に、緋川神社で七夕祭りがあるんだ。皆誘って一緒に行くか?』

『――行くわ!日本のお祭り、行ってみたいと思っていたの!』

 

うおっ、うるさっ!

ヘルメットについているインカムから、大音量のアニメ声が聞こえてきた。その声は弾んでおり、はしゃいでいる子供のようだ。

しかし、まぁ……常日頃からかなえさんのことについて、色々と奔走しているんだ。これくらいの楽しみがあってもいいだろう。

その後もアリアが楽しそうに話し、それを俺が聞いている内に、武偵高に到着。

バイクを駐輪場に停めると、教務科からの連絡掲示板の前に生徒が集まっているのが見えた。

その中に――見覚えのある後ろ姿があったので、アリア共々足を止める。

ジャンヌ。ジャンヌ・ダルク30世だ。見ると、ちょっと幅広の松葉杖をついている。

 

「ジャンヌ」

 

俺の視線を追ったらしいアリアが、その名を呼ぶ。

ジャンヌはクルッと髪をなびかせて振り返り、俺を見て『こいこい(フォロー・ミー)』と手招きした。

アリアが先にジャンヌの方にズカズカ歩いていってしまったため、俺もついていく。

 

「――アンタが武偵高の()()()になったのは知ってたけど。似合うじゃない、制服」

 

アリアはいきなり身長差を感じさせないでかい態度で、ジャンヌにイヤミを垂れる。

ジャンヌは「フン」と鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

 

「私は錐椰を呼んだのだ。神崎・H・アリア。お前に用はない」

「こっちにはあるの。――ママの裁判、アンタもちゃんと出るのよ?」

「……分かっている。それも司法取引(とりひき)の条件の一つだからな」

 

イ・ウーと呼ばれる組織によって冤罪を被せられたアリアの母親、神崎かなえさんは今――東京拘置所で、最高裁での裁判を待っている状態だ。

かなえさんは二審までに事実上の終身刑を言い渡されているのだが、その無実を一つ一つ照明することができれば、無罪判決を勝ち取るチャンスも増える。

母親の無実をジャンヌに証言させる約束を取れたアリアはニンマリと笑い、

 

「ま、ケガしてるみたいだから、イジメるのはまた今度にしてあげる」

 

と。勝ち誇るように胸を張って見せた。

 

「……私は、今すぐでも一向にかまわないぞ?」

 

そんなアリアにイラッと来たらしいジャンヌが、ちょっとケンカ腰になる。

 

「『構わない』って、アンタ杖ついてるじゃない」

「足一本ぐらい、ちょうどいいハンデだ。それにこの杖には聖剣デュランダルが仕込んである。星伽白雪に斬られたあと、寸を詰めて幅広の鎧貫剣(エストック)に造り替えたのだ」

 

おい、聖なる武器を仕込み杖にするな。先代達にボコられても知らねぇぞ。

 

「朝からケンカするなよ。それよりジャンヌ、足、どうしたんだよ」

「……虫が、な」

「虫?」

「道を歩いていたら、コガネムシのような虫が膝に張り付いたのだ」

「……うん、それで?」

「私は驚いてな。そのせいで、道の側溝に足がはまった」

「……」

「そこをちょうど通りかかったバスにひかれたのだ」

「…おい……」

「全治2週間だ」

 

ジャンヌ……お前、ドジだな。見かけによらず。

まぁ、バスにひかれて全治2週間で済んでるあたりは、さすがジャンヌというかなんというかだけど。

 

「――それでも、ドジなことには変わりないけどね」

「いやぁ、()()()しろとはこのことだな」

「……アタシは今、サイア(この害虫)を駆除することにしたわ」

「え、いや待って流石にそこまでするほどケバブッ!?」

 

挨拶がわりに人の心読んできたのと、寒いこと言ってフランケンシュタイナー(両足で側頭部摑んで地面に突き刺す技)を喰らってる二人――ネリーとサイアが、集団の中から出てきた。一人は直ぐに首が埋まるハメになってるが。

その埋めた本人であるネリーはチラリとこちらを見た後、ジャンヌに向き直り。

 

「久し振りね、あたしの2Pキャラさん?」

 

いい笑顔で、とんでもないことを言い切りやがった。

 

「また貴様か、ネリー・リチャード!会う度に私をそのように呼ぶなと言っているだろう!大体なんだ、その『つーぴーきゃら』と言うのは!」

「2Pキャラくらい知っておきなさいな。あたしとほぼ同じ身長、似ている髪の色……キャラ被ってんのよっ!」

「それこそ知ったことではないわっ!?それに、む、胸の大きさは私の方が大きいぞ!他にも髪型とか、違いはいくらでもあるだろうっ!」

「ハッ。戦闘時に邪魔でしかない脂肪の塊を自慢するなんて、流石は2Pキャラね」

「いや、胸の大きさは大いに関係あるぞ。俺は大きい方が大好――」

「あんたはもっぺん埋まってなさいっ!」

「カロンゴッ!?」

 

逆立ちの要領で頭を抜いたサイア。その胴体を掴んだネリーはパイルドライバー(そのまま頭から落とす技)でサイアを再び埋めた。

なんというか……カオスだな。どうしようか、これ。

 

「零、零」

「ん?どうした、アリア」

「アレ」

 

ネリーとジャンヌの言い争いを見ていると、アリアが俺の袖を引っ張ってきた。

アリアを見ると、その視線が掲示板の方を向いていたので、その先を目で追ってみる。

生徒が集まっている掲示板。その近くに、この世の終わりとでも言いたげな表情のキンジがいた。いや、何やってんだよ。

気になったのでアリアと一緒にキンジの所に向かい(ジャンヌとネリーは放置することにした)、キンジの後ろから掲示板を見る。

そこには『1学期・単位不足者一覧表』と書かれた張り紙が画鋲のかわりにサバイバルナイフで留めてあり(誰か直せよ)、そのリストには……キンジの名前があった。

 

『2年A組 遠山金次 専門科目(探偵科(インケスタ))1.9単位不足』

 

不足単位――1.9単位!

不足単位の数字に、思わずキンジを二度見する。

武偵高も一応の一応は日本の高校なので……文科省の学習指導要領通り、単位を取った生徒でないと進級はできない。

で、二年生は一学期――正確には二学期の始業日までに二単位取らないと、留年なのだ。

この単位、自分の所属する専門科が、民間から受けてきた任務(クエスト)完了(コンプ)することでもらえるのだが……1.9単位不足って。青海の猫探し分しかやってないじゃないか。

 

「おいキンジ……お前、どうすんだよ」

「うっせぇ!ちょっと黙ってろ!」

 

おおう、目がいつにも増してキレてやがる。今なら視線だけで人を殺せそうだな、コイツ。

キンジが血眼で隣の掲示板を見ているので、そちらを覗いてみると……『夏期休業期・緊急任務(クエストブースト)』と書かれた張り紙があった。

武偵高では単位不足はよくある事なので、休み中に解決すべき任務を学校が割引価格でたくさん請けてきてくれる。一般の高校でいう、補習授業みたいなものである。

この緊急任務、そのぶん報酬は安くなるが――単位の帳尻合わせはできる。

 

「これだ……!」

 

そこからキンジが見つけたのは、『港区 カジノ「ビラミディオン台場」私服警備(強襲科(アサルト)探偵科(インケスタ)、他学科も応相談』というもの。

要・大剣もしくは帯銃。必要生徒数5名。女子を推奨。被服の支給有り――

なんか、今のキンジを狙ったかのような依頼(クエスト)だな。

カジノとは日本でも近年合法化された公営ギャンブルの一つで、会場には用心棒として武偵が雇われることが多い。とはいえ実際のところはほとんどトラブルが起こらないので、武偵業界じゃ『腕が鈍る仕事』としてバカにされている。

 

「零、頼む。一緒に請けてくれないか?」

「うーん……まあすることないし、いいか」

「うっし!後は――」

 

大急ぎで日程を確認し、携帯から登録希望のメールを送ろうとしたキンジの手が、止まる。

その視線が、俺の隣からキョトンと見上げている――アリアに向けられる。

 

「――アリア。お前も、この仕事(クエスト)、一緒にやれよ」

「……なんで?アタシは単位、不足してない」

 

ほっぺを膨らまして言うアリア。まあ俺とアリアは卒業までの単位を揃えているからな。請ける意味がない。

 

「――仲間だろ」

 

と、キンジが返してきた。

言われたアリアは赤紫色(カメリア)の目を見開いて、一瞬驚いたような顔をする。

そしてもったいぶるように腕組みして横を向き、検討しているような仕草を見せた。

 

「ふーん、キンジがアタシを仕事に誘うなんてね。ま、いい傾向といえるわね」

 

だがその横顔は、にやぁー。キンジに仕事に誘われた嬉しさを隠しきれていない。

ここにくるまでのアリアは、基本一人で依頼(クエスト)をこなしてきたので、誘われることはなかった。だから、素直に嬉しいんだ。

 

「最低5人必要って書いてあるし……そうね。チーム同士、困った時はお互い様――やってあげてもいいわよ?」

 

頷くアリアに少し安堵の表情を浮かべるキンジ。それは、人数を確保できたことに対してなのか。

――それとも、『夢』のことに関してだろうか。

 

 

 

 

 

(つづり)先生が二日酔いだかバッドトリップだったかで休講になった2時間目に、蘭豹(らんぴょう)先生がテキトーなこと言って直ぐに帰ってしまった三時間目という、武偵高にとっては割と日常茶飯事な午前授業を終えて。

今は、5時間目。各学科専門の授業が始まる中、俺は一人、屋上にいた。

ほとんどの科目においてSランクの上位にいる俺は、どの科目をどの日に受けても良いという特例を与えられている。どれも受けなくてもいい、ということもできる。

今日は天気が良いし、最近ゆっくりしていなかったので、のんびりしようということだ。

 

(……ああ、気持ちいい)

 

季節が夏に移り変わり、太陽がジリジリと照す中、日陰に寝転がり、目を閉じる。風が強すぎない程度に吹いており、このまま何時間でも寝れそうだ。

 

「――眠いのですか、零さん?」

「それなら、『良い夢』を見せましょうか?」

 

耳元で囁くように言われた、鈴が鳴るような声。

一瞬、そのまま頷きそうになり……直ぐに、上体を起こして目を開ける。

 

「――Bと、Gか」

「はい、BとGです」

「二日ぶりですね、零さん」

 

橙色の髪のボブカットに、澄んだ空色の瞳。瓜二つの容姿の――双子。

『リバースランカー・双神』、『GOW』最後の二人組であるBとGが、()()()()()()()()()()()、俺の両隣で正座していた。

 

「お前らも、武偵高に来たのか」

「はい。零さんに負けた僕達は、リバースランカーではなくなり、『GOW』から脱退しました」

「それなら零さんのところに行こうという結論に至り、高校一年生の転校生として編入しました」

 

そこでなぜ、俺の所に来るという結論に至ったのか。というか、『GOW』のメンツ全員同じ場所に集まったけど、そこのところは大丈夫なのだろうか。

まあ、いいか。どうせ須郷(すごう)さんの胃に穴が開く程度だろう、合唱。

 

「ところで、零さん。一つ聞きたいことがあります」

「なんだ、B」

 

ズイッと顔を近付けてきて、真剣な表情をしているB。大方、裏でずっと生きていたから、表での生き方が分からない、とかだろう。同じような境遇になったことがあるから、分かる。戸惑うこともあるだろう。

俺は、コイツらの先輩だ。教えることが、俺の責任だろう。

そう思った俺は、Bに体を向け、しっかりと目を見て……。

 

「――男としてみられるために、どのようなことをすれば良いんでしょうかっ!?」

 

予想の斜め上をいく質問に、思わず固まってしまった。

 

「言われたんですよ、転校初日である今日の自己紹介の時!『美少女双子キター!』って!面識のある間宮さん達からも、『何で男子の制服着ているの?』って!僕は男ダァーッ!」

 

はぁはぁと、叫び疲れて息を切らすB。あ、相変わらず戦闘時と違って表情豊かだな、お前。

 

「どう思いますか、零さん!どうして皆僕を男として認識してくれないんですかっ!」

「いや、どうしてって言われても……」

 

言葉を一旦区切って、改めてBの容姿を見る。

151センチという、女子にしても高一では小さすぎる身長。ボブカットにしている髪型。少し高めな声。

うん……。

 

「仕方無いだろ」

「なっ!?」

 

裏切られた、という表情になるB。だって容姿に加えて趣味がお菓子作りだろ、お前。今黙ってGがモフモフ食べているクッキーもBの手作りだし。てかBを止めろよG、お前の兄貴だろう。

 

「零さんまでそんな……あったまきた!G、サイアさん見つけてサンドバッグにするぞ!」

「……ん、分かった」

「では、零さん!」

 

すくっと立ち上がったBは、Gの手を取ったかと思うと、突風を起こしながら屋上から消えていった。とりあえず、サイアにも合唱。

 

「……結局、何がしたかったんだろな、アイツら」

 

まあでも、武偵高に馴染めそうで良かった。このまま、二人には頑張ってもらいたいな。

そう思っていると――携帯から着信音がなり、震える。電話のようだ。相手は――理子だ。

今、探偵科(インケスタ)は授業中のハズだが……サボったのだろうか。

通話ボタンを押し、耳に当てる。

 

「もしもし、理子か?どうしたんだ?」

『――零っ!今、どこにいる!?』

 

その声は、いつもの理子の声ではない。ハイジャックの時の――『武偵殺し』の時の方の理子だ。

その状態ということは、非常事態ということか。

 

「屋上にいる。何が起きているんだ?」

 

屋上の出口に向かいながら、理子に問い合わせると……。

 

強襲科(アサルト)へ急げ零!いま武偵高裏サイトに書き込みがあった――()()()()()()()()()()()()!』

 

――理子の口から、考えもしなかったことが飛び出てきた――。




はい、どうでしたでしょうか。
次回は第0章第6話です。なるべく早くあげるように頑張ります!
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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68話~『緋弾』

はいどうも、鹿田葉月(*`・ω・)ゞデス。

ということでお待たせしました、本編の方です。何とか間に合いました……ホントに良かったです。

テレビスさんに評価7。
白夜(´・ω・)さんに評価9。
黒村 白さんに評価9。
雅[みやびー]さんに評価9。
まさに外道さん評価9。

を頂きました!有難うございます!

では、第68話、始まります。


一度向かった出口から再び屋上に出て、そのまま飛び降りる。階段から降りていくよりかは、こちらの方が速い。

着地と同時に全速力で走り、あっという間に強襲科(アサルト)(とう)の第一体育館に駆け込む。

強襲科(アサルト)の体育館とは、体育館とは名ばかりの……戦闘訓練場だ。

闘技場(コロッセオ)とあだ名されるスケートリンクみたいな楕円形のフィールド前に、生徒達が大勢集まっている。

防弾ガラスの向こう、闘技場の中心から……銃声が聞こえてくる。

戦っている――アリアと、カナが。

 

「ちょっと、通してくれ」

 

人だかりをかき分けるようにして、銃声の方へ向かう。

 

札幌武偵高(サッコウ)にあんなすげぇ女子がいたなんて――聞いたことねぇ!」「神崎の無敗伝説、こりゃ本気で終わっちまうぜ」「どうやってんのよ、全然見えないわ、あの銃撃……」

 

闘技場を囲んでいる強襲科(アサルト)の生徒達が、興奮気味の声を連ねている。

 

「やれややれや!どっちか死ぬまでやれや!」

 

という大声に顔を上げると、防弾ガラスの衝立の上に、2メートルはある長刀を何本も背負った強襲科(アサルト)教師――蘭豹(らんぴょう)先生がいた。

カットジーンズから長く伸びた脚でガンガンと蹴っている蘭豹先生は、19歳。

俺達と同年代だが、香港では無敵の武偵として恐れられている。

その後で教職に就いたが……あまりの凶暴さに各地の武偵高を次々クビになり、転々としている。

その蘭豹先生の横に行くように衝立に飛びつこうとすると――

 

「――どけ、どいてくれっ!」

 

人だかりを押し退けながら、キンジも衝立に飛び付いてきた。恐らく理子に話を聞いたのだろう。

キンジが見る先、砂が撒かれた闘技場(コロッセオ)には――

 

――カナが、いた。

 

カナは武偵高の女子制服を着て、既に片膝をついた状態のアリアを見下ろしている。

 

「おいで、神崎・H・アリア。もうちょっと――あなたを、見せてごらん」

 

憂いの色を表情に浮かべたカナは……パァン!

あの、不可視の一撃(インヴィジビレ)を放っている。

バシィッ!とアリアが鞭で叩かれたような音。当たっているのだ。カナの弾が。

 

「うっ!」

 

ずしゃっ!

アリアは短い悲鳴を上げ、見えない足払いをかけられたように前のめりに倒れた。

血しぶきは上がっていない。視えたが、防弾スカートに当たっている。

武偵高の防弾制服に使われているTNK繊維は、銃弾を貫通させることはない。だが、その衝撃のダメージが無くなるワケではないのだ。

聞いた話だが、制服に被弾すると金属バットで殴られたような衝撃を受けるとのこと。

当たり方が悪ければ内部破裂で死ぬことだってある。

 

「蘭豹、やめさせろ!こんなのどう考えても違法だろ!また死人がでるぞ!」

 

キンジが蘭豹先生に対して、怒鳴るように叫ぶ。

実弾・実銃を使った決闘形式の模擬戦は、強襲科(アサルト)のカリキュラムの一つである。

だが、その実施には体中を完全に防護するC装備の着用が義務づけられている。

制服での模擬戦は、現実には生徒同士の私闘やこの蘭豹の命令で希に行われてしまっているが――明らかな武偵法違反行為だ。

 

「おう死ね死ね!教育のため、大観衆の前で華々しく死んでみせろや!」

 

教育者にあるまじき発言をした蘭豹先生は、ぐいっ。

でかくて長いポニーテールを揺らし、手にした瓢箪(ひょうたん)から酒を飲んだ。

酔っている。誰の目にも、それは明らかだった。

キンジもそのことに気付き、蘭豹先生に二人を止めさせるのを諦めたのか、防弾ガラスの扉をICキーで開け放つ。

そして驚く周囲に見向きもしないで、アリアとカナに向かってかけるキンジ。その後ろに俺もついていく。

 

「カナ、やめろ!」

「くォらこの遠山ァ、錐椰ァ!授業妨害すんなや!脳ミソぶちまけたいんか!」

 

ドウッ!

落雷のような発砲音とともに、銃弾がこちらに向かってくる。

その銃は世界最大級の巨大拳銃。『象殺し』とあだ名されるM500。一般人が発砲したら、まず間違いなく()()()()()()()

それを酔っている状態で、オモチャのように軽々と発砲した。その銃弾の軌道は正確にキンジの背中を捉え――

 

「なら、ちゃんとした授業をお願いしますよ。蘭豹先生?」

 

――る前に、その銃弾をコウヒノホダシで斬り捨てる。重い感触が刀を通じてくるが、それでもこの刀は刃こぼれすら許さない。

少し呆気に取られている蘭豹先生に背を向け、キンジ同様に駆ける。

 

「……キンジ、零?」

 

と、カナが一瞬こっちを見たスキに――倒れていたアリアは、バッ!バッ!

逆立ちするように跳ね起きながら、左右の脚でカナの顎めがけて蹴りかかった。

カナはそれを、ほとんど動きすらせずに躱す。

 

「――このぉッ!」

 

着地より早く2丁拳銃を抜いたアリアは、カナを至近から撃とうとするが――

とん。とん。

振り向いたカナに左右の手首を軽く押され、銃口を逸らされた。

 

「――!」

 

バスバスッ!がきんがきん!

トリガーを引く指を止められなかったアリアの銃が、スライドをオープンさせる。

弾切れだ。2丁とも。

――だがアリアは今の交錯で、カナの背後に回り込めていた。

そして放り投げた2丁拳銃が宙を舞う中で――

流星を二筋走らせるように、カナの背中に二刀流で斬りかかる。

 

「――やッ!」

 

カナを背後から襲う、起死回生の挟撃だ。

今までやられていたアリアの逆転技に、おおっ!と生徒たちが声を上げる。

 

……だが、カナ程の人間に、死角はない。

 

ギギンッ!

くるくるくる……

かしゃん、かしゃん。

 

と、アリアの小太刀は……闘技場(コロッセオ)の左右に、力無く転がっていった。

誰にも、何も、見えてないだろう……俺以外には。傍目から見たそれは、ただその長い三つ編みの髪を揺らして振り返っただけ。

――サソリの尾(スコルピオ)

昔キンジから聞いたもので、カナの背後に回った敵には、それが襲いかかるのだ。

 

「はぁ……はぁっ」

 

荒い息をするアリアは――よろ、よろ、と何歩か後退した。

その口元からは、先程の攻防で顎を殴打されたために、一筋の血が流れ出ている。

 

「はぁ……はぁ……さ……さっきの銃撃……『ピースメーカー』ね……!?」

 

アリアの目はそれでも、まるで小さな獅子のように闘争心を失ってはいなかった。

 

「――よく分かったわね。そう。わたしの銃は、コルトSAA――通称、平和の作り手(ピースメーカー)。でも、あなたはそれを視ることができなかったハズだけど」

「アタシ、には……分かる。銃声と、マズルフラッシュで。骨董品みたいな古銃だから、はぁ、はぁ……イマイチ、思い出しにくかったけど――」

「じゃあ、もっと見せてあげる」

 

パァン!

カナの右前方が光り、アリアはツインテールを跳ね上げさせて真後ろにひっくり返った。

 

「うぁッ!」

 

胸を撃たれたらしいアリアの両手が、力尽きたように地面に倒れてしまう。

それを見たキンジが、限界だとばかりに二人の間に飛び出す。

 

「逃げろアリア!」

 

ベレッタをカナに向けながら――歯を食いしばって起き上がろうとするアリアと、追撃の銃弾を放とうとしたカナの間に、キンジが割って入る。

パン!パァン!

ほぼ同時に二発放たれたカナの銃弾が、キンジの脇腹を掠めてアリアの脇の地面に着弾する。それにより、キンジの体が揺らぐ。

だが、その銃口は逸らさない。キンジが心から尊敬している、カナから。

 

「ど、どきなさい……キンジ……!」

 

そのキンジの背後から、がくがくと震える膝で立ち、顔を上げることすらできないアリアが――

キンジのズボン、そのポケットから抜き取ったバタフライナイフを、構えている。

 

「どきなさい、キンジ」

 

カナも、アリアと同じセリフでキンジに命令する。

 

「あなたのような素人は動きが不規則な分、事故が起きやすい。危ないわ」

「そんなことは分かってる、あんたに言われなくても……!」

「なら、どうして?なんのために危険に身をさらすの?まさか、私と戦うつもりではないでしょう?そこにいる零ならともかく、未完成なあなたが私に勝てるハズは、万に1つも――」

「……れ、い?」

 

キンジとカナの言い合い。そのカナの言葉に反応したアリアは、先程まで下げていた頭を、上げる。

そして、ゆっくりと周囲を見渡すように頭を動かし……闘技場内にいる、俺と目が合う。

追い込まれて気付かなかったのか、そこでようやく俺の存在を認めたアリアは……その瞳を大きく開く。

そして、どこか様子がおかしい。

体が小刻みに震え、それを治めるかのように両手で肩を抱くが、それでも止まらない。

 

「アリア――?」

「あ…ああ……」

 

そこで思わず声をかけてしまったのが……間違いだった。

 

「――アアアァァァァッ!」

 

いつものアニメ声より、少し低い声で叫んだと思うと――

持っていたバタフライナイフを、カナに投擲(とうてき)した。

だがその軌道は、カナから少し外れている。それを投げる時から察していたのであろうカナは、悠長に待ち……。

――何かに気付いたのか、慌てて大きく避けた。何故だ。

疑問に思いながら、ナイフの行く末を見る。

目標を捉えなかったナイフは、そのままフィールドの防弾ガラスに向かう。

そのバタフライナイフの刀身が、うっすらと()()に染まっているのを視認すると同時に、ガラスに突き刺さる。

 

バシュウウウウウッ――――!

 

爆発や銃声とは全く異なる音が、フィールド内を包む。緋色の光が、視界を全て塗りつぶす。

突然起きたことに思わず顔をガードし……腕を降ろすと。

 

「……嘘、だろ……」

 

防弾ガラスが、()()()()()()()()()()

カランカランッと、バタフライナイフをその場に残して。

見学していた生徒達は現状を理解できずに呆然とし、蘭豹先生も、酔って赤くなっていた顔を引き締めている。

キンジは驚きの表情のまま固まっており、カナだけはあり得ないモノを見た、と言わんばかりに目を開いている。

その中で一人、アリアは立っていた。

普段の感情表現が激しい彼女とは思えない程、無表情で。

――マズい。このままだと混乱が起きて、事の発端のアリアに危険が及びかねない。

そう判断したときには、自然と両手を広げていた。

 

錐椰(きりや)(れい)の名の下に』

『当事者以外に休息、及びこの場で起きた事の記憶の消去』

 

ドタッ。

詠唱を終え、両手を降ろすと……俺と、キンジ、カナ、それにアリア以外の人間が、地に伏せていた。すぅすぅと、寝息を立てて。

これで、この件に関しては大丈夫だ。

 

(後は……アリア本人について、だ)

 

辺り一面を確認した後、再びアリアに視線を向けると……アリアも、俺に目を向けていた。変わらない、無表情のまま。

――普段とは違い、その瞳は()()()()()()()

 

『…ゃ……め…………た……』

(――なん、だ……?)

 

すると突然頭の中に、何かが入ってくる。

いや、入ってくるというよりは、聞こえてくるという方が正しいか?

それに何だか、視界がボヤけて……アツい――。

 

「れ……ぃ……」

 

思わず目に手を当てて押さえると、アリアは呟くように名前を呼び……。

ドサッ。

線が切れたように、その場に倒れこんだ。

その瞬間、スッ――と、目元のアツさが収まり、ボヤけた視界もクリアになっていく。

 

「アリアッ!」

 

直ぐに倒れたアリアに駆け寄って抱き寄せ、脈を確かめるが……異常はない。

良かった、どうやら気を失っただけらしい。

 

(でも、さっきのは一体――?)

 

普通に考えてみれば、超能力(ステルス)を使ったと思うのだが……アリアは超能力者ではない。小さい頃から一緒だったんだ。その頃から一度も使っていないことは分かっている。

だが、防弾ガラスを跡形もなく消し去ったというのが、実はただの物理攻撃でした、何てことも有り得ない。仮に出来たとしても、バタフライナイフが損傷していないことへの理屈が通らない。

 

「――『緋弾』……」

 

さっきの現象に裏付けが出来ない理論を考えていると……目を見開いたままのカナが、ボソリと呟いた。

それに後から気付いたのか、口元に手を寄せる。思わず出てしまった、と言わんばかりに。

 

(『緋弾』……?何だ、それは?)

 

何かの暗号だろうか。いや、暗号にしては言葉の形成が簡単すぎる。そのままで意味が通じるものだろう。

緋弾。緋色の、弾。

緋色と言えば、アリアの髪と瞳。これは昔は違った。キレイな金髪(プラチナブロンド)で、碧眼だった。

そういえば、先程のバタフライナイフも、刀身が緋色に染まっていたが――。

 

(……待て。もし、もしもだ。アリアの髪や瞳が原因不明の病気とかじゃなくて……)

 

()()()創られた、人為的なモノだとしたら――

 

「――ぃ。零ッ!大丈夫かっ」

 

前方からの呼びかけに、ハッとする。

見ると目の前にキンジがいて、俺の肩に手を置いていた。

 

「あ、ああ。少し考え事をしていただけだ。アリアも気を失っているだけだし」

「そうじゃなくて……お前、気付いていないのか?」

「何がだよ」

「お前、アリアがおかしくなってから、倒れるまで……」

 

――瞳が、緋色に光っていたぞ――

 

 

 

 

 

カナももう仕掛けるつもりも無いようなので(そもそも『あの時期』が近付いていたのか、呑気にアクビしていた)、アリアを背負って救護科(アンビュランス)に向かう。あの後のことはキンジと、何故か婦警の変装した理子(周りの生徒や蘭豹先生が倒れていることに変装しているのを忘れて驚いていた)に任せてきたので、問題ない。

小救護室に着いたが、救護科(アンビュランス)衛生科(メディカ)の面々は武偵病院で実習をしていて不在。

とりあえずアリアをベッドに寝かせて、適当に薬品箱を漁る。

 

「ん……ここ、は……」

 

すると後ろから声がしたので振り向くと、アリアが目を開けてぼぅ、としている。良かった、起きたんだな。

 

「――カナはっ!?決闘はッ!?」

 

しばらくそのまま天井を見つめていたアリアだったが、急にガバッと上体を起こして叫ぶ。

 

「アリア、落ち着け」

「あっ……零……」

 

カナと戦って傷ついた身体を酷使させる訳にはいかない。そっと肩に手を置き、ベッドに寝かせる。

徐々に脳も覚醒してきたのか、落ち着いた様子で……しかし、悔しそうに目を伏せ。

 

「アタシ、カナに負けた、んだ……」

 

消え入るような声で、呟いた。

負けた、と言っていることは……

 

(あの出来事の、記憶が無いということか)

 

覚えているのなら勝ち負けがどうこうというより、周りのことに意識が及ぶだろう。

であるとすれば、あれはやはりアリア自身の超能力(ステルス)ではないだろう。偶然あの時に覚醒した、というケースもなくは無いが。

 

「いきなり、カナが強襲科(アサルト)に現れて、アタシに決闘を挑んできた。逃げるわけにも、負けるわけにもいかなかった」

 

ギュッ。

アリアはあまり力が入らない両手を握りしめ、目に涙を浮かべる。

 

「……アリア、知っておけ。世の中にはSランク武偵を鼻で笑うような、そんな猛者達がいるんだ。カナも、その中の一人だ」

「だめ!だめなの!アタシは、アタシは強くなきゃいけないの!いくら差戻審(さしもどししん)になったって……ママはまだ勾留されてる!1審の終身刑だって消えてない!アタシが、アタシが強くなきゃ……ママを……助け……られ……ない……」

 

とうとう堪えきれなくなったアリアは、その瞳から大粒の涙を流す。

 

「……アリア、大丈夫だ。アリアが強いことは、俺も良く知ってる。それに、俺だっているんだ。そのためのパートナー、だろ?」

「零……ありがと。でも、アタシは、零に何も、何も返せてない。初めて会った時から、ずっと。それに、零も、(のぞみ)ちゃんのことが――」

「アリア」

 

普段の勝ち気なアリアとは違う、弱々しい姿。でも、それは不自然じゃない。

いくらSランク武偵の二つ名持ちだとはいえ、中身はまだ16歳の少女なのだから。

その小さい頭に手を置き、目線を合わせる。

 

「そう思うのなら、ここから始めていこう。今はカナが……自分より上の人間がいることを認めて、ここからその人達を抜いていこう。その後でかなえさんのことも、(のぞみ)のことも、一緒に解決しよう」

「零……」

「それにな、アリアは俺に何も返せてないって言ったけど……」

 

――出会った時に大きな()()、貰ってるから。

 

 

 

 

 

気持ちを整理するから、今日は女子寮に帰る。

手当てを終えた後、アリアは一人で帰っていった。

こればかりは、俺がどうこうするという問題じゃない。少しは励ましたが、結局はアリアの気持ちの持ちようだしな。

ということで、珍しく一人で下校して、男子寮の自分の玄関を開ける。

 

(……?)

 

そこでふと、違和感を覚える。だが、それが何に対してなのかが分からない。

取り合えず中に入ってドアを閉め、辺りを見渡すと……違和感の正体が分かった。

――靴が三足、並んでいるのだ。

この部屋には俺、アリア、シェイの三人が暮らしている。つまりアリアが帰ってこないで、俺自身が履いている靴を除けば……ここにある靴はシェイの一つか、ゼロであるはず。

それが三足。しかも、普段シェイが履いている靴はない。

一足は白のスニーカーで、残り二足は……サイズ、色が同じの革靴だった。

 

(どういうことだ……?)

 

一応警戒して紅のガバメントが入っているホルスターに片手を伸ばしつつ、静かに靴を脱ぐ。

しかし、一体誰なんだ。シェイが誰かを呼んだというのであれば連絡してくるだろうし、不法侵入者ならそもそも律儀に靴を脱がない。

がちゃり。

不意に、後ろから――脱衣所のドアを開ける音を耳が拾った。

反射的にガバメントを取り出してセーフティを外し、振り返る。

 

「動くなっ!」

 

ジャキッとコッキングを済ませて、標準を合わせる――と共に、絶句する。

何故ならそこにいたのは……

 

「あら?帰ってきたの」

「零さん、お帰りなさい」

 

――風呂上がりだと直ぐに分かる、()()姿()()()()()()G()()()()

 

(……ッ!)

 

あまりのことに、身体が固まって動けない。

紫色と、水色。風呂上がりで火照った、しかしそれでも白い肌を包むように装着されていて、まるで二輪の花がそこにあるかのようだ。

 

(……って何考えているんだよッ!頭沸いてんのかっ!?)

 

ようやく身体が動くようになり、顔を背け銃をしまう。その間もネリーとGは平然と(見ていないが)した表情でこちらを見つめている。

何だ、何だよこのイベント。『男子寮に帰ったら昔のチームメイトの女子二人が下着姿でお出迎え』?一体どこの三流ライターが描いたシナリオだよ。

それにマズいのは、ここが玄関の目の前だということ。つまり誰かが入ってきたら、まず間違いなく誤解される。

しかしこの二人、言って聞くような奴らじゃない。いや、Gだけなら聞いてくれるかもしれないが、ネリーは確実に面白がって邪魔してくる。

 

(ならばここは、逃げるが勝ちっ!)

 

そう判断した俺は、一目散に廊下を駆け抜け――何とか邪魔されずに済んだ――バンッ!

何故か開いていたベランダにある、防弾物置に入って鍵をかける。

アイツラなら余裕で突破してくるだろうが、流石にそこまではしてこないだろう。これでようやく一息つける。

 

「――零さん」

「うおっ!」

 

ポンッと肩を叩かれ、吐こうとした息を止める。

振り返るとそこには……何故か武偵高の制服を着崩している、涙目のBがいた。

 

「Bか、驚かすなよ……何でここにいるんだよ」

「フロ……三人……連行……」

「分かった。分かったから、その目をやめろ。怖い」

 

ハイライトが消えた目で、カタコトをしゃべるB。見た目は美少女にしか見えないし、『GOW』内ではGと同じく最年少。

そりゃあ、弄られる対象になるよな。双子の妹であるGも、おもちゃぐらいにしか思ってないだろう。

 

「取り敢えず、服をちゃんと着ろ。どうせアイツら、着替える頃には飽きているだろう」

「はい……」

 

言われた通りに服を着直すBを尻目に、防弾物置の扉をゆっくりと開ける。そして少しだけ顔を出し、部屋の中を覗く。

そこには私服に着替え終わった二人が、リビングでテレビをつけながらくつろいでいた。

ネリーの衣装は黒色をベースにし、胸の部分にワンポイントで『N』とピンク色で書かれたシャツと、白と黒の縞模様のウォームアーマー。青のデニムショートパンツから覗くスラッとした長い足は、紫色のガーターベルトに包まれている。

Gの衣装は薄いピンクのペプラム・トップスに、丈の短い黒のフリルスカート。表情は乏しいが、しっかりとお洒落をしている。

良かった、弄ってくる雰囲気ではなさそうだ。

少し安堵し、着直したBと一緒にリビングに入る。

 

「……で?お前達がここに来た理由は?」

「さあ?何かサイアが集まってくれって連絡してきたのよ」

「だから私達も、理由は知りません」

 

帰ってきてから思っていた疑問を聞くと、何とも要領の得ない回答が返ってきた。

 

「何だそれ、意味分からないぞ。これでつまらない内容ならただじゃ済まさないぞ」

「良く分からないのは同意するわ。でも、つまらない内容じゃないことは確かだと思うわ」

「……珍しいな、ネリーが毒を吐かないなんて」

「集まれって連絡、『コレ』で来たから」

 

そう言ってネリーが差し出したのは……()()()()()

その携帯についての形状や色については、特に語ることはない。普通にどこでも売っていそうな、ありきたりの携帯である。

――ただ、差し出した人物と、差し出された人物に対しては、『普通の携帯』には当てはまらない。

おい……それって。

 

「『GOW』時代の……」

「そう。『仕事用』の携帯。アンタはタブレットだったと思うけどね」

 

それはともかく、とネリーは一呼吸おいて。

 

「――現在も『GOW』メンバーのサイアが、ふざけ半分でコッチで連絡する訳無いでしょ?」

「……なるほど。だからネリーも、()()の時の格好なんだな」

「まあ話し合いで終わると思うけど、一応ね」

「――ゴメン、遅れたね」

「全員集まっているな」

 

ネリーと話していると……ヴォンッ。

何も無い所から、黒い穴の様なモノが現れ……スタッ。

そこから、武偵服姿のシェイ。と、サイア出てきた。

俺。ネリー・リチャード。サイア・クロニクル。B。G。シェイル・ストローム。

俺がリーダーだったチーム、『GOW』。その全員が、この部屋に集まった。

 

「全員集合したんだ、世間話の一つや二つでもしてみたいが――どうやらそう言う感じじゃ無さそうだな」

 

軽口を叩くが、直ぐに止めた。

サイアの顔がマジになってる。久し振りに見たぞ、コイツの真剣な表情は。

 

「それで?真剣なのは分かったけど、さっさと本題を話してくれない?アタシ達、理由は知らないんだから」

「「サイアさん」」

「――少し前に、減ってしまった『GOW』メンバーの補強として、新たに二人入ってきた。俺とシェイで先程会合してきた」

「……単なる自慢じゃ、無いのよね?」

 

ネリーの一応の確認に、頷くサイア。

 

「その内の一人が、とんでもない超能力(ステルス)の持ち主で、『全世界の鏡に映し出されるモノの観察』――つまり、鏡に映るモノ全てに対しての監視カメラだ」

「それは……凄いな。窓とか水溜まりとかも利用できるなら、隠れる所が無くなるぞ。この上無く捜査に使える」

「ソイツにダメ元で()()()を頼んだ。そしたら、見事やってくれたよ」

「何をだ?」

 

思わず聞いた俺に対して、サイアは真っ直ぐに視線をぶつけてくる。

その蒼い目は、しっかりと俺の紅目を捉え……

 

「――(のぞみ)ちゃんの、居場所を見つけた」

 

その口から出た言葉は、その場にいる者の耳を疑わせた――




はい、どうでしたでしょうか。

今回は原作とは違ったルートをご用意致しました!これからどうなるのか……是非ご期待ください。

疑問や批評などを感想や評価で頂けると嬉しいです!私もできる限り答えて行きますのでよろしくお願いいたします!
コラボなども大歓迎です!

それでは、ごきげんよう。(*・ω・)ノバイバイ。


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69話~七夕祭り

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

何とか今年中に投稿できました。流石に一話は投稿しておきたかったので……間に合ってよかったです。

フリーダムGOさんに評価・9

ナギンヌさんに評価・9

を頂きました!ありがとうございます!

それでは、第69話、始まります。


――(のぞみ)ちゃんの、居場所を見つけた。

 

その言葉が頭の中で、何度も繰り返される。

会えなくて、見つからなくて……それでも、必死に探した。

世界を飛び回り、情報を集めた。人脈を広げるために表舞台で名前を売り、武力を誇示し、『紅電(こうでん)』と呼ばれるようになった。表でも裏でも、俺の事を知らない人間は数少ないだろう。

それでも……それでも。望には、届かなかった。心のどこかでは、もう望はこの世界にはいないではないか。そう、思っていた。

だけど、それが……。

 

(それが、ついに……)

「――ン。―ェィ―。――零君っ!」

「うおっ!」

 

何もなかった暗い所で、急に耳元で叫ばれる。

思わず身を引きながら声の元を辿ると……。

 

「……シェイ、か?」

「それ以外の誰に見えるの?零君は」

 

澄んでいる藍色の瞳を不機嫌と言わんばかりに細めている少女――シェイル・ストロームが、隣に立っていた。

 

「今日は変装してないから、間違える事ないと思うんだけど?」

「あ、ああ……でも何で、()()()()()()()()()?」

「……え?」

 

何言ってるの?と細めていた瞳を丸くするシェイ。

その身に着けているのは――鮮やかな色をした、浴衣だった。

白を基準とした綺麗目な素材に、青い紫陽花(アジサイ)が、控えめに咲いている。

いつもはストレートにしている黄緑色の髪はアップにしており、桜の髪止めは外している。

少女らしい可愛さというより、大人の綺麗さを感じさせる今のシェイからは、まるで夏祭(なつまつ)りを彷彿(ほうふつ)させる――

 

(――夏祭(なつまつ)り?)

 

頭の中で出てきたワードに引っ掛かりを覚え、同時に今までシェイに向けていた目線を周囲に向ける。

辺りを見渡すと……シェイと同じように浴衣を着たカップルやグループだらけで、集団で盛り上がっている者、誰かを待っているのか、腕時計を何度も確認しつつ立っている者。

そうした者達が溢れかえっている中、ふと目に映ったのは、ジャイアントパンダ。

となると、ここは……

 

「……上野駅、か?」

「……零くん。寝ぼけているのかどうか知らないけど、今日は7月7日だよ」

「7月7日……てことは」

「そっ。七夕祭(たなばたまつ)り。その当日だよ」

 

俺が困惑しているのが冗談ではないと分かったのか、隣に立って説明してくれるシェイ。

カランッ。と乾いた音を鳴らす下駄を聞き、普段は髪で隠れているシェイのうなじから目をそらしつつ……段々とクリアになってきた頭で考える。

確か、アリアと七夕祭りに行く予定は計画していた。これは間違いない。

それで、だ。俺の記憶にあるのは……アリアとカナが戦って……それで。

 

(……(のぞみ)の居場所を、サイアから聞いた時)

 

あの時はまだ、6月28日くらいだったハズ。武偵高の夏休みは緊急依頼等の関係上、普通より早い7月7日。つまり今日から夏休みだが、一週間以上が抜けている。

 

「シェイ。俺は――」

「一週間前からずっと、何処か上の空だったよ。周囲からは気付かれない程度には、だけどね。受け答えもしてたし」

 

シェイに確認しようと疑問を口にする前に、先に答えられた。聞きたい事が分かっている、そんな風に。

 

「昨日自分から、『明日七夕祭りあるから準備しておけよ』って言ったから治ったと思ったんだけど……」

「あー……すまん。全く記憶にない」

 

どうやらそれだけの期間、シェイに心配をかけてしまったらしい。

居場所についてサイアから教えてもらい、具体的な話は後日。ということにしたハズなのに。

 

「もう……(のぞみ)ちゃんの事が心配なのは分かってるけど、気負いすぎも良くないよ。その時までゆったりしておこうよ」

 

折角のお祭りだし。と続け、上機嫌に鼻歌まで歌い出すシェイ。全て見透かした上で、敢えてムードを軽くしてくれているようだ。

……シェイのこういうところ、凄い助かるよ。言葉にすると何の事?とか言いそうだから言わないけど。

 

「さて……色々と分かったけど、アリアは?元々はアリアから誘っていたんだが……」

「それがまだなの。そろそろ来ると思うんだけど……」

 

話と頭を切り替える為、待っているハズのアリアを探すが、見当たらない。7時に集合予定であり、現在時刻は6時55分だから、遅れてはいないけど。

道行くカップル達を眺め、何故か腕を両手で掴んでくるシェイに驚いていると……。

 

「――零ッ、シェイ!」

「おいアリアッ、引っ張るなって!」

 

俺達が背にしている巨大パンダが入っているガラスケース、その後ろから聞き慣れた声がした。

それにつられて顔を向けると……笑顔で近寄ってくるアリアと、そのアリアに腕を掴まれてついて来るキンジがいた。

あー……これ、集合場所にはいたけど、待ち合わせる位置が違ったパターンだな。そもそもアリアがこういった行事には楽しみすぎて早く到着する傾向があるし。

からころと下駄を鳴らして近寄ってくるアリアの浴衣姿は……

ああ――可愛いな。

ピンクと赤を基調にしたアリアの浴衣は金魚柄で、女子の中でも身長が低い体にこれでもかというほど似合っている。

隣にいるシェイが女性らしさと言うなら、今のアリアは少女らしさが全面に出ている。

 

「な、なに零。何処かおかしい所ある?」

 

思わず見続けていた俺の表情に何を感じたのか、アセアセと浴衣の帯と胸元を正している。それがまた今のアリアの格好に合っていて、笑いそうになってしまう。

 

「いや、おかしい訳じゃないよ。寧ろ似合っている」

「そ、そう……?」

「うん、可愛いよ」

「かっ、カワッ!?」

 

ボボボボボッ!

思っていた事を素直に言ったら、アリアの顔や首筋が瞬時に赤くなった。

え、どうなってるんだ今の。俺の目でも捉えきれなかったんだが。

 

「――零君?私の浴衣には可愛いとかって感想ないの?」

「うん?シェイは可愛いと言うより綺麗だろ。月並みしか言えないけど」

「そっか、ありがとっ♪」

 

アリアの急速赤面術に目を丸くしていると、隣にいたシェイがずいっと顔を近付けてきて感想を求めてきた。

こちらに対しても思っている事を言ったら気を良くしたのか、コテンと肩に頭を乗せて鼻唄の続きに入る。

 

「……キンジ、どうすればいい、この状況」

「女嫌いの俺に聞くか?それ」

「ごもっともで」

 

俺と同じく武偵の制服を着込んでいるキンジに助けを求めるが、爆弾(ヒス)持ちのキンジは我関せずと言った対応。事情を知っているから無闇に巻き込めないし。

 

「――と、とととにかく!早くお祭りに行きましょっ!後シェイも零の腕掴むの禁止ッ!」

「え、でもアリアちゃんだってさっきキンジ君の腕掴んでなかった?」

「いいからっ、さっさと行くわよっ!」

「あっ、ちょ、ちょっと待って!」

 

アリアの唐突な禁止令を(かわ)そうとしたシェイだったが、バシッ。

俺とシェイの間にたったアリアがそのまま手刀で腕を離し、そのままシェイの腕を掴んで、人の流れに向かう。シェイも最初は抵抗しようとしていたが、アリアの掴む強さに諦めたのか、なされるがままについていく事にしたらしい。

 

「何だったんだ……?」

「分からん。まあ俺らも行こうぜキンちゃん」

「キンちゃん言うな。弾くぞ」

「おーこわ」

 

 

 

 

 

JR上野駅から国道沿いに少し歩いて折れ曲がると、屋台が連なる通りに出る。

カナや(のぞみ)の事があったから、それなりにぎこちなさはあるものの……俺達は『それはひとまず置いといて』という雰囲気で一緒に歩いていた。

 

「……わぁ……」

 

日本のお祭りを見たことが無かったアリアは、色とりどりに飾られた街路(がいろ)(にぎ)わう人々の喧騒(けんそう)に目をまんまるにしている。

その様子が可愛らしいのか、軽く笑みを浮かべながら隣を歩くシェイ。一歩下がってついていく俺とキンジ。

 

「……というか、シェイはそのままの格好なのによくバレないな。さっき会った時に不安しか無かったけど」

「ああ、あれか?認識阻害をかけといたんだよ。知り合い以外には女性がいるってくらいにしか感じない状態になってる」

「……さすが零だな」

「だろ?」

 

まあかけた記憶が無いんだが。どうやら無意識の内にやっておいたらしい。シェイに聞いたら呆れられた。

前を歩く二人に聞こえないようにコソコソ話していると……

ピタッ、と、アリアが一つの屋台で立ち止まった。

 

わたあめ

 

の屋台である。

アリアの視線の先では綿飴屋(わたあめや)のおじさんが、くるくる、くるるっ、と本当に綿(わた)のような飴を割り箸に絡ませている。

大きなふたえの目をくりっくりさせてそれを見ていたアリアは、

 

「零。なにあれ」

「なに……って、わたあめだな。書いてある通りに」

「あめ……ってことは食べられるの?」

 

アリアは斜め下から、本当にふしぎそうな顔をしてこっちを見上げてきた。

 

「あれはガキの食べもんだぞ?」

 

キンジが小声で補足(ほそく)するように教えると、アリアは、かあ、と赤くなり――

 

「た、た、食べたいなんて一言も言ってないでしょ!」

 

ちょっとヨダレらしきものを口の端にのぞかせながら犬歯をむいた。

体液の分泌はやいなぁ、アリア。

しかし、アリアがこういう状態の時は、『ものすごく食べたい時』なのが分かっている。

ちら、と目線をシェイに向けると、言いたいことが伝わったのかウインクで返してきて。

 

「でもまあ、お祭りって年齢を気にせず楽しむものじゃないかな?ほら、キンジくんだって駄菓子屋に行くとつい買いたくならない?」

「それは、まあ……」

「てことだな……すみませーん。わたあめ、4つ下さい」

 

ロシア出身のシェイに駄菓子屋の話を持ち出されると思わなかったのか、少しつまるキンジを他所(よそ)に、屋台のビニールのれんをくぐる。

するとざっ!とアリアも超高速で入ってきた。

そんなに食べたいんだな、アリア。屋台の台がちょっと高いから、頭だけやっと上に出せている状態だけど。

 

「おじさん!味は選べるの?」

「えらべるよぉー」

 

へー、選べるのか。

何で俺の分まで……と愚痴りながらシェイと屋台に入ってきたキンジを尻目に、そんな事を思う。

 

「ももまん味!ある?」

「あるわけねーだろ」

「あるよぉー」

「あんのかよ!」

 

普通の屋台にはないだろう味に愕然(がくぜん)とするキンジ。

 

「私はイチゴ味で」

「じゃあ俺は抹茶」

「はいよぉー」

「キンジ、うなまん味まであるってさ」

「なんだこの店は……」

 

とか言いながらもうなまん味買ってるじゃねーか。

くる、くる、くるる……

つま先立ちになり見える範囲を少しでも広げて、アリアは目をキラキラさせながらわたあめ誕生シーンを見守る。

 

「ほいっ、わたあめの完成。お兄さん達のカノジョさん達可愛いからおまけだ」

 

オジサンはももまん味とイチゴ味だけ少し大きめに作ってくれたわたあめを俺に渡す。

 

「カノジョじゃないですよ」

「……今はまだ、ね」

「ん?シェイ何か言ったか?」

 

ボソリと呟いたシェイはなんでもないよーとか言いながらイチゴ味を受け取る。

代金を支払いおえ、アリアとキンジにそれぞれわたあめを渡し、

 

「零!これ、これ、どこから食べるの!?」

 

などと目の中に星を輝かせ、小さくジャンプしながら俺の服をぐいぐい引っ張ってくるアリアを(なだ)める。

だけど、こういった雰囲気は、嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

わたあめを食べきった後(キンジの食べたうなまん味が絶品だったらしい。複雑そうな顔してたが)、アリアは、タコ焼き、りんご飴、チョコバナナ……と、目に映る全てのモノを食べまくった。その隣でシェイはりんご飴をまだ食べている途中だというのに凄いペースだ。

キンジが武偵としてなのか、体重(ウェイト)のコントロールは出来ているのかとデリカシーに欠ける事を聞いたら、

 

「アタシはこないだの体重測定で、背がほとんど一緒の理子より軽かったから大丈夫」

「それって理子ちゃんが……いや、なんでもないよ」

 

視線を一ヶ所に固定していたシェイが、コホンと話を変えるように咳をする。言いたいことは分かるが、自分から地雷を踏みに行く必要はない。

ともあれアリアはお祭りを堪能(たんのう)していた。金魚すくいでは金魚がアリアの凶暴性を察知して逃げ回り一匹も取れなかったので、かわりにヨーヨーを釣ってやったらさらにテンションが一段と上がった。

射的は、さすがに俺たちがやってしまうとチートなのでパス……おい誰だ『そもそも存在がチートだろ』って言った奴。(かかと)落とすぞ。

 

「どこの国でも――お祭りになるとみんな、はしゃぎすぎね。こういう時こそ犯罪は起きやすい。警戒が必要だわ」

 

というような事を時々思い出したように言うアリア。突っ込みたい所が色々とあるが、触れないであげた方がいいだろう。

 

「……おい、あれって」

「どうした、キンジ?」

「あーあれ。確かあかりちゃんの戦妹(アミカ)になるかもしれない架橋生(アクロス)の子?」

 

キンジとシェイが何かに気付いたらしく、同じ方向を見ている。

俺とアリアがつられる様に見ると、そこには……。

 

「――ピーポピーポピーポニャン♪ピーポニャン♪けいさつかんだっよ~♪」

 

白ビキニに猫耳をつけた少女――(いぬい) (さくら)が、あかりちゃん達に(はや)し立てられながら机の上で歌っていた。

 

「し、将来有望そうだったインターンが……アタシの戦妹(アミカ)にもう毒されてる……」

「あかりちゃん、求心力(きゅうしんりょく)はずば抜けてあるからねぇ」

 

(ひたい)に手を置き空を見上げるアリアと、面白そうに見ているシェイ。

 

……。

 

「おい、零?大丈夫か?黙ってるけど」

「――あっ、やばい」

「やばいって……何がやばいんだよ、シェイ」

「アリアちゃん、協力してっ!零君っ、()()()()ッ!」

「えっ……あっ」

 

――その後、気付いたら乾さんを膝に乗せて、頭を撫で回していた。

周りにはぐったりとした様子のアリア達が座っており、乾さんは顔が真っ赤になっていたが、それはまた別の話で……。




はい、どうでしたでしょうか。

この一年だけでも緋弾のアリアAAの漫画が最終回を迎えましたね。
AAの世界観は好きでしたし、もう少し続いてほしいと思いましたが、それくらいに終わるのが丁度いいのかもしれませんね。

それはそれとて、七夕祭りが拾う所多すぎて一話にまとめられなかったので、二話構成になります!よって次回は第零章ではなく第四章の続きからになります!

それでは、皆さん良いお年を!(´・ω・`)/~~バイバイ。


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70話~祭後の夜

はいどうも、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

はい、七夕祭り回を連続でやるっていって5ヶ月程空いていますね……連続とは(哲学)

魔暴闘風さんに評価・3
わけみたまさんに評価・4

エイト☆5さんに評価・9
暇らやほってぷさんに評価・9
シニカケキャスターさんに評価・9

を頂きました!ありがとうございます!

それでは、第70話、始まります。


「――アリア。すまなかった」

「い、いいいのよ別に……アタシよりも桜の方がやばそうだし」

 

あかりちゃん達と合流した後、カップルだらけの拝殿(はいでん)を避けて人けのない神社の本殿の裏に、俺とアリアは縁側(えんがわ)に座っていた。

色々とトラブル(桜さんネコミミ事件)があったため、一先ずお互いに整理しようという話になった。その時に流石にあの状況をそのまま一年生だけに任せるわけにもいかず、シェイと――女の後輩だらけになる為めちゃくちゃ嫌そうにしてた――キンジが(シェイに無理やり連れられて)対応してくれている。

 

「でも、本当にレイは動物の耳がついていると見境(みさかい)がなくなるわね……しかも前より悪化してるし」

「あ、ああ……」

 

じぃー。

赤紫色(カメリア)の瞳が普段の釣り目からジト目になって俺を見てくる。非難するような視線が気まずくなり、思わず空へと目線を逸らしてしまう。

前まではもうちょっと抑えられてたんだけどな・・・最近動物に会えてないからだな。今度実家帰ってモフろう、ヨシ。

どん、どどん。

下らない事を考えている最中、もう真っ暗になった夜空に――色とりどりの花火が上がっている。

日本の花火を見るのが初めてであるアリアは、俺を見るのを止め……花火を見上げる。

アリアは……夏が似合う女の子だな。泳げないけど、何となくそう感じる。

――花火が終わると、夜空にはかわりに満天の星がきらめき始めた。

本殿の裏には木立(こだち)(しげ)っており、そこからいろんな虫の音が聞こえてくる。

夏が、来たな。

……。

 

「――レイ、少しいいかしら」

「ん?どうした、アリア」

 

りーりー、という虫の声をしばらく聞き流していると、もじもじしながらアリアが話しかけてきた。

 

「アタシ……もっと、もっと強くなる。今まで認めなくなかったけど……アタシは、弱いわ。Sランク武偵として、色んな場所で、色んな犯罪者を逮捕してきた。その自負はあるわ」

 

少し遠くを見ながら、言葉を(こぼ)すアリア。少し大きい着物に隠れている拳は、自分の葛藤(かっとう)を表す様に強く握りしめられている。

本人が言うように、アリアには一人で様々な実績を残し、強襲成功率99%の鬼武偵――双剣双銃(カドラ)のアリアとして世界の犯罪者達を震え上がらせてきた。

 

「だけどレイを始めとして、ここではアタシより強いヤツらばっかりだった。今まではレイが相手してきたからまだ自覚がなかった。そこに来たのが、カナよ」

「アリア……」

「強かったわ。アタシの攻撃が全部見切られてた。近づいても離れても、あの()()()()()()でやられたわ。曾おじい様の様な完璧な推理が出来ないアタシには、唯一の取柄(とりえ)である戦闘で負けたのが悔しかった……でも、今はいい勉強になったと思ってる」

 

たんっ。

縁側から軽く跳ぶ様に降り立ったアリアは、くるりと振り返り……

 

「――だから、レイ。これから少しずつ……少しずつ、レイのいるところまで行くから。これからも……よろしくね?」

 

先程まで見ていた花火より鮮やかで可愛らしい、満面の笑みを浮かべた。

その顔にはもう悔しさや葛藤(かっとう)の色はなく、純粋無垢な少女の表情だけがあり……

 

「俺くらいになるまでって、アリアも人外と呼ばれる様になりたかったんだな。今度S・D・A(人間辞めました)ランクつけている人にアポ取っておくよ」

 

さっきとは別の意味で顔を背けながら、軽口を叩いた。

真剣な話だったのに冗談で返されたアリアはもぅ、と少し膨れた後、クスクスと笑う。

 

「ランク付けている人にアポ取れるって、やっぱりレイは凄いわね。この前武藤(むとう)が『零に運転とカードゲーム以外勝てる気しねぇ』って言ってたわよ?」

「マジか、ちょっとカーレース挑んでぼっこぼこにしてくるわ」

 

俺が車輪科(ロジ)でもSランクっての忘れてるのかな、剛気(ごうき)は……カードゲームでの勝負?アイツに勝てるヤツいるのかな……

――ゾクッ。

 

呪術(じゅじゅつ)系の気配ッ――!)

 

それも不運や不幸を呼ぶ程度ではない、本格的に()()()()()()()()()ッ!

気づいたと同時に俺の手は、アリアの身体を押し出していた。

きゃっと声を出して倒れるアリアを横目に、背中から二振りの小刀(コウヒノホダシ)を抜刀する。そして反射的に、先ほど感じた気配の方向へと振り下ろした。

(あか)色に染まった刀身が捉えたモノは……気配からは想像できない程に、軽く。

特に反撃や回避などもされず、あっさりと斬れた。

 

「レ、レイ?いったい何を」

「アリア、こいつを見ろ」

 

いきなり倒されたアリアが驚愕の表情のまま聞いてくるので、俺は元凶である()()に指を差す。

言われるがままに視線を動かしたアリアは、真っ二つに切断された()()を目で捉えた後、パチパチとマバタキをして。

 

「……ムシ?」

 

不思議そうに首を傾けて、きょとんとしていた。

大方、ムシが来ただけで何故自分が突き飛ばされたのかが理解できなかったのだろう。まあ普通なら気づかないモノだ、仕方ないだろう。

だが、その手の事……超能力(ステルス)に携わっている俺には、分かる。

 

「アリア。これは普通の虫なんかじゃない。タマオシコガネというスカラベ――呪いを込められた、使い魔の(たぐい)だ」

「なっ――!」

 

突然告げられた内容に、大きく目を開けて絶句するアリア。使い魔と聞いてからの受け入れが早いのは、どこかで使い魔を操る超能力者(ステルス)と対峙した事があるのだろう。

使い魔とは、ゲームや漫画とかで知ってる人も多いが……実際に存在していると知っている人は、あまり多くない。

世間ではやっと超能力者(ステルス)の存在があるかもしれないという認識なのだ。武偵でも使い魔の存在を知っているのは、 超能力捜査研究科(SSR)か一部の高ランク武偵といったところか。

 

「コレが、使い魔?」

「ああ。直接狙うよりは力は弱くなっているが、それでも十分な呪術を感じる。それに……」

「それに?」

「……いや、なんでもない。追撃があるような気配がないし、とりあえずは大丈夫だろう。他にやる事もないし、俺らも帰るか」

「う、うん」

 

既に夏祭りの雰囲気は無くなり、長居する必要もないので、俺とアリアは共に帰宅する。

その帰路では最近の面白かった話や、昔懐かしい事を口にして、お互いに笑ったり、怒ったりしていた。最初は周囲の警戒をしていた様子のアリアだったが、徐々に警戒を解いていたのを見るに……。

俺は、上手く誤魔化せていたのだろう。

――あの距離になるまで呪術を気付けなかった違和感に対して、ずっと考えていた事を。

 

 

 

 

 

「「――ただいま」」

「あ、お帰り二人とも。先にお風呂入ってたよ」

 

寮の玄関を開けてリビングに入ると、ソファーの上でくつろいでいるシェイが出迎えてくれた。

今日一日浴衣姿で疲れたからか、ゆったりとした青い寝巻きに着替えているシェイは、読んでいた本を机に置き、大きく伸びをする。

んー、という声に連動する様に寝巻のシャツが、シェイの決して小さくない胸によって押し上げられている。

いや、小さくはないというより、普通に巨――

と、良からぬ事を考えていた事が、持ち前の直感で感じ取ったのだろう。

――パァンッ!

俺の後ろにいたアリアが、俺の腰に蹴りを入れてきた。イテェッ!

 

「レ~イ~?なーに見てるのかしら~?」

「ナンデモゴザイマセンデアリマス……」

 

後ろに修羅がいると錯覚する程の威圧を発しながら詰め寄ってくるアリアに、後ずさりしながらカタコトで返してしまう。というか痛みが引く感じないんですけど。一体どんだけ強く蹴ってきたんだよ。

……あ。(*´∀`)ノヤァ、零だ(今更)。何か凄く久しぶりに言った気がする。腰を手を当てながら言うことでもないけど。

 

「二人とも何やってるの。漫才の練習?」

「色ボケしてたから突っ込んだという点では間違ってないわ。それよりあの後、あかり達は大丈夫だったの?」

「まあ何とか、って感じかな……あっ。そういえば二人(あて)に荷物が届いてたよ」

「荷物って、机の横に置いてあるその段ボール箱の事か?」

 

そうだよーと肯定を返してきたので、改めて箱を確認する。

そこそこ大きい箱の上部に貼られている送り主を見てみると、『TCA』と書かれている。今度キンジの単位不足を解消する為の任務(クエスト)依頼主(クライアント)だ。

不審なモノではないと分かったので開けてみると、中には服や小物などが色々と入っている。

 

「なにそれ」

 

アリアとシェイも気になったのか箱の中身を覗いてきたため、添付されていた手紙を読み上げる。

 

「カジノ警備の小道具。『来場客の気分を害さない為に、客・店員に変装の上で警備して頂きますようお願いします』だってさ」

「なるほどね。分からないでもないわ。歓楽施設(かんらくしせつ)の警備ではよくあることよ」

「そうだね。せっかく遊びに来ているのに、武偵がうろついていると楽しめないだろうし。マナーみたいなモノだよね」

 

二人の言っている事は当たり前のことだが、とはいえ送られてきた服のサイズが合っていなければ別。その所為(せい)で動きが(にぶ)っても困るので、警備用の被服をもらった時は事前に試着しておくのが武偵の鉄則だ。

というわけで、特にこれからすることも無かった俺とアリアはそれぞれ自分の服を着てみる事にした。お互いの個室で着てくる事にして、面白そうと思ったのか、シェイはアリアについていった。

説明の紙を見ると、それぞれに役割が書いてあり……キンジは『青年IT社長』、俺は『ディーラー』となっている。いや色々突っ込みたいんだが。キンジが社長役とか素人にディーラー(ゲームの進行)やらせる辺りとか。

入っていたこれまたディーラーらしい服――ただし武偵という事を考慮してか、防弾仕様となっている――に着替えてリビングに戻ると。

 

「何よこれ……こんなので人前に出られるわけないじゃない……」

「大丈夫だってアリアちゃん。凄く可愛いよっ!自信持って!」

 

アリアとシェイの声が、個室から聞こえてきた。一方は(うめ)き声の様で、もう一方はかなりテンションが高い。

 

「どうした、アリア。何か問題でもあったか」

 

良くわからない状態であるのは間違いないので、個室の方に声をかける。

 

「ほらっ、アリアちゃん。零君が呼んでるから行って行って!()()は預かっておくからっ!」

「あっ、ちょちょちょっと!ドア開けないでっ――」

 

アリアのテンパる声が聞こえたと同時に、ばんっと勢いよく個室のドアが開く。

そこから押されるように飛び出してきたアリアは俺と目が合うと、ぶわあぁっ……。

相変わらずの高速赤面術で顔を真っ赤にして、自分が今来ている()()()()()()()()服を隠すように腕を縮ませながらしゃがむ。

 

「み、みみ見ないでー!」

 

ぷるぷるるるー!

そのまま背を向けた際に恥ずかしさに震えている毛玉みたいなシッポでも分かるが……アリアは……

()()()()()()、の服を着ていたのである。

……そういえばさっき書いてあったな、役割分担の紙に。というかカジノだから当然バニーガールはいるか。ミミが無いのは恐らくまた俺が暴走する可能性があるからっていうシェイの配慮か。

しかし……アリアのバニーガール姿か。普通にかわいいな。

バニーガールは通常大人のスタイルが良い女性が着るものなので、色々と(身長や胸が)足りていないアリアは色気等は無いモノの、少女らしい可愛さがある。

 

「あっ、背中っ、せ、背中はダメっ!ホントに見ちゃダメッ!」

 

そう言われると自然と見てしまうモノで、アリアのバニーガール服――その背中は大胆にV字に開いていて、白い素肌がほとんど丸出しになっている。

わたっ、わたたっ、とアリアが手で隠そうとしているその背、左側には……

古い、弾痕(だんこん)があるな。

……昔俺とアリアが組んでいた時には、見たことが無かった傷だ。任務途中にでも負傷したのだろうか。

 

「零君っ、あまり見てあげないように。武偵とはいえ、女の子は傷を見られたくないんだよ?」

「あ、ああ。そうだよな。ありがとうシェイ――」

 

扉の奥からシェイに諭されて我に返ったので、感謝して顔を上げた所で、絶句する。

そこにいたのは寝巻姿ではなく――アリアと同じく、バニーガールの姿をしたシェイだった。

 

「いや、何でだよっ!シェイはカジノ警備の任務に参加してないだろっ!何でバニーガールの衣装があるんだよ!」

「えっ……ホントだわっ!?というかさっきまで寝巻のままだったじゃないっ!いつの間に着替えたのよアンタッ!」

「私には『Link』があるからね。前に理子ちゃんから気紛れで衣装貰っていたから、『Link』の中に入れておいたんだ。それと早着替えはアイドルとしての基本だよ」

 

何を渡しているんだよ、あのバカ(理子)は。それを実際に貰って今来ているシェイも大概(たいがい)だが。さっきまで縮こまっていたアリアが即時復帰する位には驚いているぞ。

 

「まあまあ。それは横に置いておいて。どうかな、零君。自分で言うのも何だけど、結構似合っていると思わない?」

 

ぐいっ、と身長差故に下からのぞき込む様に懐に入ってきたシェイに、思わずたじろいでしまう。

武偵アイドルとしての人気に拍車をかけている完璧なスタイルを持っている彼女が、白い雪肌を丸出しにして、更にその大きな胸は下半分しか隠れていない。

その状態で下からのぞき込まれたら、()()()()と見えてしまいそうで……。

 

「――レ・イ・?」

 

ヒエッ。

シェイの後ろにいる為、死角となっているアリアから底冷えする程の威圧を感じ。

ギギギッと何とか首を動かすと。

アリアの手に金色と銀色のガバメントが握られている事が、見たくない光景なのに視認してしまい……。

ジャコッ。

セ、セーフティを外していらっしゃるっ!?ココ寮だけどっ!

 

「風穴ッ!デストロイッ!」

 

バリバリバリバリバリッッッ!

何がトリガーなのか分からないが、アリア自身抑えが聞いてないらしく、問答無用で撃ってきやがった!

超至近距離であることと、何よりアリアの威圧感の所為でロクに武器も構えられず、一目散に窓へと走る。幸い気温が温かい為に窓を開けておいた為に逃げられる……

ヒュンッ――

 

(うおぉぉぉっ!?今掠った!掠ったぞ頬に!)

 

死因が相棒からの誤射(故意)とかシャレになんねぇぞオイ!

何とか維持で弾を避けきり、窓から外へと決死のダイブ。

最後に横目で確認すると、『Link』の中へと逃げているシェイと、弾切れを起こしたのか肩で息をするアリア。そして隣の部屋から何事かと顔を出していた制服姿のキンジに、その奥に何故かいる巫女服姿の白雪が見えて。

ガシャンッ!と東京湾の海面スレスレにある落下防止柵(ぼうしさく)に飛び降り、金網(かなあみ)人型(ひとがた)の凹みを作るのであった。

……いや、ホントに良く生きてるよ。俺。

 

 

 

 

 

ダイブする際にある異変に気付いた俺は、アリアの阿修羅状態が解除されるのを待つついでに……第二()()()へと足を運んでいた。

というのも窓際へと向かう際に、第二女子寮の暗い窓からキラッと反射光――スコープと、それで覗いていた本人が見えた。それも、()()だ。

()()の性格上、さっきのアリアの発砲を教務科(マスターズ)にチクられる事はないと思うが、何故見ていたのかは聞いておきたい。

夜に女子寮になんて、出来れば来たくはなかったのだが。

スコープが見えた位置から最上階の部屋と分かっているので、階段を昇り、問題の部屋の前に立つ。

そしてチャイムを押すが……出ない。中で動いている感じもないので、居留守を使っている訳でも無さそうだ。普通に留守だな。

どうするかなーと思っていると、いきなり膝裏に衝撃をくらい、尻餅をつく。

そして――ペロペロッ。

 

「お、おお?」

 

敵意が無かったのでなされるがままにされていると、白くて大きな動物――

()()()()が、俺の頬を舐めていた。

この銀狼(ぎんろう)、先月に武偵高に侵入してきていたのを追いかけまわしてモフ……捕まえた奴だ。

俺と――狙撃科(スナイプ)麒麟児(きりんじ)()()が。

 

「ハイマキ、やめなさい」

 

そのレキの声が聞こえたので、俺は顔を上げる。

そこでは、武偵高の夏用制服を着たレキがいつもの無表情顔で狼に話しかけていた。

抑揚のないレキ喋りでたしなめられたハイマキは――

わふ、と満足した様に舐めるのを止め。

スリスリと俺の手に頭を摺り寄せてきた。何だこの可愛い大動物。

 

「……」

 

一方レキは日頃からつけたままのヘッドホンを外しすらせず、そのCGみたいに整った顔でボーッとしていた。

手には、買い物に行ってきたのかコンビニ袋を提げたままだ。

 

「……」

 

ええっと、何か喋ってほしいんだが。手持無沙汰(てもちぶさた)でハイマキずっとわしゃわしゃしているんだが……目がキラキラしているって?ナンノコトヤラ。

 

「ええっと、レキ。ちょっと話したい事があって来たんだが」

 

沈黙に耐えかねた俺がそう切り出すと、レキは……すっ、とカードキーでドアを開けた。

そして、俺の目の前にあった部屋に、狙撃銃――()()()()のついたドラグノフSVDを担いだまま、ハイマキを連れて、無言で中に入る。

 

「あ、いや。立ち話でいいんだが……」

 

この時間に女子の部屋に入るのを躊躇ってしまうが、レキは薄暗い奥へと行ってしまう。

本当に……何を考えているか読めないな。でもドアを閉ざされたら、話すことすらできなくなるかもしれない。

そう思った俺は仕方なく、レキの部屋に入っていく。

天井からぶら下がった裸電球に照らし出された室内は――

ビックリするほど、何もない空間だった。

ベッドも、箪笥(たんす)も、テレビもパソコンもない。カーペットや畳すらないから、床も壁もコンクリートがむき出しだ。

狼にハイマキを食べされるトレーが、部屋の隅にあるだけ……

 

(なんだよ……この部屋……)

 

夏なのに、ちょっと寒気を覚えるな。これは。

レキは冷蔵庫も戸棚もないキッチンで、コンビニ袋からカロリーメイトを出していた。

壁際には、同じカロリーメイトの空き箱が幾つか並べてある。

レキはあれしか食わないのか。よく生きているな。

 

「……?」

 

呆気(あっけ)にとられながらも、横にもう一部屋あることに気付く。

ちょっと電気を勝手ながらつけさせてもらうと中には机があり、黒い金床みたいな工具が設置されていた。

これは……銃をメンテナンスする道具だな。それも本格的な物が一式揃っている。

多かれ少なかれ、武偵は自分の銃を自らメンテするものだが――大体は、簡易な整備にとどめる。完全分解整備(オーバーホール)改造(カスタマイズ)といった作業には、プロの手を借りるのが普通だ。武偵高では装備科(アムド)がこれを請け負って、単位か金を貰っている。

だがレキの場合はこの工房を見るに、自分の狙撃銃は何から何まで自分で手入れするらしい。火薬を(はか)天秤(てんびん)まであるところを見るに、銃弾まで自分の手で部品から作っているな。

一流の武偵達の中でも、ここまで徹底する者は、果たしてどのくらいいるのだろうか。

あまりのプロフェッショナルぶりに、なんだかこの部屋はレキの世界――という感じがして、自分が場違いな存在という気さえしてくる。

……とりあえず、用件をすましておくか。

 

「レキ、一つ聞いてもいいか?」

「はい」

「さっき俺の部屋を見ていたよな。ドラグノフのスコープで」

「はい。正確には、零さんとキンジさんの二部屋です」

 

キンジの部屋も見ていたのか。ますます疑問が増えるな。

 

「何で覗いていたのかってのは、教えてくれないのか」

「はい」

 

特に謝罪する素振りも見せずにそう応えたレキは、壁に背に向けて、すとん。

ドラグノフ狙撃銃を杖の様に抱いて……体育座りした。

 

「――話は、それだけですか」

 

短いスカートはいているのにお構いなしで膝を立てるので、俺は目を()らす。

用心深いんだが無防備なんだか分からないな。レキは。

 

「あ……ああ。もう帰るよ。ごめんな、こんな時間に」

「構いません。それとそちらの部屋の電気は、零さんが消していってください。ハイマキ、おいで」

 

ぱちん。レキは座ったまま狙撃銃の先端でスイッチを押し、リビングの電気を消す。

その(かたわ)らにやってきた銀狼(ぎんろう)……ハイマキは伏せて、目を閉じた。

 

「もう電気を消すのか」

「はい、もう就寝の時間です」

「寝るって、その姿勢のままで?」

 

と驚いて聞くと、こくり。

レキは機械仕掛けのように目を閉じつつ、ヘッドホンを外してうなずいた。

 

「もしかして……いつも座って寝てるのか?」

 

こくり。

……マジか。

狙撃手(スナイパー)はストイックだ。どんな悪環境にも耐えて、ターゲットが射程圏内に入ってくるのを待つ――ってのが普通だが、普段からここまでストイックなのは類を見ない。

まるで行住坐臥(ぎょうじゅうざが)、敵に備えているサムライみたいだ。

 

「零さん。私も一つ、いいですか。カジノ警備の仕事をされるそうですか」

「……そうだけど」

「私も、やります」

 

何?なんでレキが?キンジと同じ単位不足――って訳ではないだろう。というかSランク武偵が単位不足な訳がない。

 

「俺よりもキンジに言ってくれ。アイツの依頼(クエスト)だし」

「キンジさんには既に許可を頂いています。白雪さんも一緒にいて、白雪さんも参加するといた言っていました」

 

初耳なんだが。でもそうか、さっきキンジと白雪が一緒にいたのはそういうことか。

 

「じゃあ何で参加するんだ」

 

と尋ねると――

 

「――風を感じるのです。熱く、乾いた、(たと)えようもなく……邪悪な風を……」

 

物のない部屋に、レキならではの透明感のある声が少しだけ響いた――




はい、どうでしたでしょうか。

『(*´∀`)ノヤァ、零だ』。久しぶりに書いたなーと思って最後に書いた日を確認したら。

2016/09/17 10:53

約3年と8ヶ月でした……うっそだろ(驚愕)
後、今回昔みたいにちょいボケ多めに入れたのですが、どっちの方が良いか考えてます。

それでは、ごきげんよう。(*・ω・)ノバイバイ。


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短編集~○○の1日~
~アリア編~


はいどうも、鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

本編を楽しみにしていて下さっていた方々はスミマセン。今回は番外編です。
何故二章のクライマックスに入ろうとしている時に番外編をやろうとしたかというと……なんと、この作品がお気に入り500件を越えました!
それもこれもこの作品を読んでくださっている読者の皆様方のお掛けです!有り難うございます!

さて、今回最初の番外編ですが……零が絡んだ時のヒロイン達って、普段はどんな感じなんだろう?と考えたので作りました。
そしてタイトルから分かる通り、今回はアリア視点というわけです。

では、500件突破記念短編集、始まります。

(※今回のお話は第一章と第二章の間のお話です。まだシェイはいませんので、ご理解お願いいたします)


7:00

 

チュンチュンとことりの鳴く声と、カーテンの隙間からの暖かい太陽の日差しで、アタシは目を覚ます。

ふぁっ、と手を口に添えてアクビをして、しばらくボーッとしていると、いい臭いがしてきた。

……これは、零が朝食を作っているのね。

アタシは二段ベッドの下側に、綺麗に畳んである布団を見ながら、二段ベットの階段を下りる。

そして寝室のドアを開けてリビングに向かうと、キッチンで鼻歌を歌いながら、アタシのパートナー――錐椰(きりや) (れい)が、朝御飯を作っていた。

赤い髪をキチンと整えており、身長はアタシより30センチ近く離れているし、まるでモデルのようなスラッとした足をしている……今アタシの身長をバカにしたやつ、後で風穴よ。

 

「お、アリア起きたのか。おはよう」

 

そこで零がこちらに気付き、振り返る。

赤い瞳に、整った顔立ち。所謂(いわゆる)イケメンね。

 

「おはよう……」

「まだ寝惚けているのか?しっかりと顔を洗ってこい」

 

そう言って零はまた朝食作りを開始した。アタシもまだ寝惚けているのか、普段考えないようなことを考えているわね。

零に言われた通りに洗面所に向かい、パシャパシャと顔を洗う。冷たい水が適度に脳を刺激し、頭が徐々に目覚めはじめた。

……よし、これで大丈夫。

トテテ、とリビングまで小走りでやってきたアタシに零は苦笑しながら、

 

「アリア、キンジを起こしてきてやってくれないか?」

「分かったわ」

 

そう言ってアタシは寝室へと向かう。

しっかし、本当に毎朝遅れてやってくるわね……何をやっているのかしら、奴隷の分際で。

アタシはすぐに朝御飯を食べたい派だから、待たされるとイライラするのよ。

少しイライラしながら、もう一人のこの部屋の住民――遠山(とおやま) キンジのベッドの前まできた。

 

「キンジ、朝よ。起きなさい」

 

そう呼び掛けながらユサユサと揺らすが、キンジは気持ち良さそうな表情をしていて起きそうにもない。

イラッ

キンジの顔を見て、思わずイラついた。

――コイツ、奴隷のくせに主人を待たすとは、いい度胸ね……

アタシはそのままゆっくりと足を上げ……

 

「起きろッ!」

 

キンジの腹目掛けてストンピングをした。

ドスッという鈍い音と同時に、キンジの体がくの字になる。

 

「イッ……テェな!何しやがる!」

 

キンジがガバッと起きて抗議してくる。

 

「アンタが早く起きないからでしょ!」

「だからってストンピングはないだろ!」

「やられたくなかったら、目覚ましでも何でもして、早く起きれば良いじゃない!」

「この前携帯の目覚まし使った時に無意識で携帯を破壊したヤツがどの口で言いやがる!」

 

グヌヌヌヌ、とアタシとキンジが言い争いをしていると……

 

「はいはい、二人とも。朝御飯できたぞー」

 

――スッ、サササ。

零が呼びにきたのでアタシとキンジは言い争いを中断して、急いでリビングに向かう。

この前、ずっと言い争っていたらご飯下げられたことがあった。その時はコンビニ弁当を買って食べたけど、零のご飯は美味しいから食べたい。だからアタシとキンジはご飯の時になったら、何が起こっても素直に零に従うというルールを決めている。

 

「「「いただきます」」」

 

食べる前に手を合わせる、ということは日本に来てから初めて知って少し驚いたことだけど、今では自然とできるようになった。それに食に関わっている全てに感謝というのは、日本の良いところだと思うし。

ちなみに今日の朝御飯は、白いご飯にお味噌汁、卵焼き、魚、ほうれん草のお浸しに納豆といった、ザ・和食。

零は別に洋食が嫌いではないけど、朝御飯は絶対に和食にする。理由は、和食にした方が朝の体に良いし、パンとかと違って腹持ちが良いからということらしい。

うん、今日もご飯が美味しい♪

 

 

 

 

 

8:00

 

朝食を食べ終えて支度したあと、アタシ達はバイクの元に向かう。

このバイクはなんと零が造った物で、未だに謎だけど何かしらの機能が搭載されているとのこと。

零が乗ったのを確認して、アタシはその零の後ろに乗り、零の腰に腕を回して抱き付く。サイドカーはキンジが使用しているため、アタシは零の後ろに乗る、というのが普通になってる。まぁキンジがいなくてもサイドカーに乗らないけど。

ブォンブォン。

変わっていく景色の中、アタシは零の背中に顔をつけると、お日様に照らされた葉っぱのような匂いがしてきた。いつもと変わらない、零の匂い。

何で零って、女子でもないし香水をつけている訳でもないのに、こんなに良い匂いがするんだろう?

 

「おいキンジ、携帯をそんな近くで見るな。目が悪くなるぞ。目付きは元々悪いけど」

「お前は俺のオカンか。後目付きは余計だ」

 

そう言うやり取りをする零とキンジ。確か、幼なじみなんだっけ。

良いなぁ、そういうの。アタシはそう言った人はいなかったし、友達もいなかったから憧れる。

まぁでも、パートナーが零だし、退屈しないから別に良いかも。

 

 

 

 

 

12:20

 

キーンコーンカーンコーン……

 

「はい、じゃあ今日の授業はここまで」

 

古典の先生がそう言って教室から出ていくと、ガヤガヤとうるさくなった。

武偵高は基本、一般の授業は4限までしかないから、この時間で終了なの。

 

「アリア、授業くらいちゃんと聞けよ」

 

右隣のキンジがまとめていたノートを閉じてアタシにそう言ってくるけど、アタシは気にしない。

だって武偵に必要なのは専門的な知識だし、外国に行く時だって、アタシは17ヶ国語話せるから問題ないわよ。古典なんか、なんで今更誰も喋らない言語を勉強しなきゃいけないのよ。それなら睡眠に当てた方が良いと思わない?

 

「まぁキンジ、武偵は専門的なことを覚えていればいいんだから仕方ないよ。現に今の時間、ほとんど聞いている人いなかったし」

 

左隣の零がそう言ってくる。零のノートをチラリと見ると、マーカーでの線引きなどをしっかりとしていて、少し見ただけでも要点が分かるようになっている。

確か、零って白雪と同じくらい勉強できるのよね。

 

「零、そんなこと言っているから、武偵の偏差値が50切るんだよ」

「その偏差値50切っている武偵高の、だいたい平均くらいしかないキンジが言えるセリフじゃないだろ」

「うぐっ」

 

……キンジ、平均あったのね。驚きだわ。

アタシの点数?風穴開けられたいの?

 

「まぁいいや、飯に行こうぜ」

 

そう言って零がバックから弁当箱を取り出し、キンジは財布を取り出す。アタシもバックから弁当箱と、大好きな桃まんを取り出した。

そして学食まで向かい、適当に机を見つけて座る。その間にキンジは学食を買いに行っている。

基本はアタシ達3人で食べているけど、たまに優男の不知火(しらぬい)と、身長がとてもデカイ武藤(むとう)がやってくる。なんでもキンジの数少ない友達だとか。

でもアタシ、不知火はなんか怪しいというか、信じきれない感じがするのよね……まぁもし武偵活動を一緒にする時は、武偵憲章一条にのっとって信用するけど。

武藤については取りあえず、会ったら一発殴る。理由は単純にウザい。決して身長がデカイからではない。決してよ。

 

 

 

 

 

14:00

 

「とーう!」ダッ

「甘い」スッ

「あうっ」ドタッ

 

現在アタシがいるのは強襲科(アサルト)。武偵高は午後からは各科目のノルマをこなすか、依頼を受けることになっているのよ。

今零に突撃して見事に手首を掴まれ、そのまま投げ飛ばされたのは、アタシの戦姉妹(アミカ)である間宮(まみや) あかり。ちょっと天然だけど、素直でとても良い子なのよね。

 

「じゃあ、次はあたしの番っスね」

「ああ、良いぞ。来い」

 

次に零と対戦するのは、火野(ひの) ライカ。基本的に何でも出来るけど、思考回路が単純な子ね。

 

「行きます……ハァッ!」

 

ライカがトンファーを持ち出して殴りかかる。が……

 

「ほい」ヒョイ

「んなっ!?」

 

零はその場でジャンプして躱した。それだけならまだ分かるけど、跳んだ高さが異常すぎるわよ。何で二階の手すりの所まで跳べるのよ?

ライカは思わず驚愕の声を出すけど、すぐに切り替えて落ちてくる零を待ち受ける。

 

「よっと」スタッ

「……え?」

 

……零、何で自然な感じで()()()()()()()()のよ。まぁきっとジャンプしている途中で詠唱したんでしょうけど。

……何で驚かないのかって?新しいアプリが出た時に一々驚く?

 

「あ……えっ……」

 

だがライカは上空にいる零を見たまま固まっている。それを見逃す零ではない。

 

「ハァッ!」

 

止まっていた時から一転、急に自由落下して呆然としているライカに上段蹴りをしようとする。

だがライカもハッとして顔の前にトンファーを持ってきてガードしようとする――

 

「フェイクだ」

 

が、零は足を引いてそのまま着地する。そして顔をガードしているためにがら空きになっている胴体に肘を入れる。

そして体が折り曲がったライカの足を払おうとする。

 

「――ッ!ラァッ!」

 

が、ライカはそれを避けて、逆に腕を取って投げに入る。うまい!流れるように動いている。そのまま……

 

「――よっと」

 

――投げられる寸前、零がライカに掴まれている腕を逆に掴んで、外側へと捻られる。

そうしてライカも一緒に倒れこむことになり、零はそのまま腕ひしぎ逆十字固めに移行する。

 

「イタタタタッ!ギブギブッ!」

 

ライカは耐えられずタップする。それによって零も手を離した。

 

「まだまだだな」

 

チッチッチッ、と人差し指を左右に振る零。

 

「……あー、やっぱり強いっスね。遊ばれているの分かりますし」

「いや、投げに入られた時は少なからず焦ったぞ?おかげで滅多にしない返し技使ったし。前も使っていたけど、あれがライカの得意技か?」

「はい、そうっスよ。投げ返して寝技に入って相手を無力化するんっスよ」

「そうか……ライカ」

「はい」

「しばらくそれ使うな」

「……えっ?」

 

零の突然の命令に驚くライカ。かくいうアタシも疑問に思う。何で使ったらいけないの?

 

「確かにその技はとても強力だ。不殺を義務づけられている武偵で、素早く無力化できる投げ技からの寝技は有効的……だが」

 

そこで零はライカの目をしっかりと視る。紅に染まっている目は澄んでいて、視た者を惹き付けるようだ。

 

「これはあくまでも、相手との距離が近く、また相手が武器を持っていない時にしか使えない。また、相手が武道を嗜んでいる場合、返される場合がある。しかし、ライカは銃もアサルトライフルだから近距離型だ。やはり近接戦に持ち込みたいはず。そこで……アリア、拳銃(ガバ)構えてくれ」

「……?分かったわ」

 

零はアタシに構えるように指示したあと、距離をとった。大体15メートル程。アタシの射程圏内だけど、一体何をするつもりなの?

 

「アリア。今から近づくから、遠慮なく撃ってくれ」

「分かったわ」

「よし、なら……いくぞ!」

 

ダッ、と零が地面を蹴って走ってくる。そこにアタシは遠慮なく発砲した。

パン、パァンッとアタシの銃――銀と金のコルト・ガバメント二丁から飛び出される、一般的な9mm弾より大きい45ACP弾が、左肩・右足・胴体・牽制のため体の外回りに二発向かっている。

それを零は――まず左肩にきた銃弾を少し体を捻ってことで避け、続いて右足にきた銃弾は足を開いて避ける。

胴体にきた銃弾はさっき体を捻ったことにより自然と通り抜けて、牽制に撃った銃弾は少ししか体を動かしていないので当たらない。

よって全ての銃弾が避けられた。それと同時に零が距離を詰めてくる。残り5メートルといったところ。

――でも、まだ銃弾は残っている!

アタシは零がくれた金色のガバメントの改造の1つ――フルオート機能にチェンジする。そして残り全ての銃弾を撃つ――

サッ

(……え!?引き金を引ききる前に避けた!?)

しかしもう引き金を引く指は止まらない。

そのまま銃弾は発砲され、ガキンと撃ち尽くした。

 

「ほい、終わりっと」

 

そして零にそのまま近づかれて距離がなくなり、腕を掴まれた。

 

「……というわけで、ライカにはコレを完璧にできるようになってもらうぞ」

「……え?今のをッスか?」

「ああ」

「む、無理ッスよ!そんな、()()()()()()()()()なんて……」

「……ライカ。ちゃんと見てたか?」

「はい、見てましたけど」

「……ハァッ」

 

零が頭に手を置いて溜め息をついた。

 

「え?あたし、なんか変なこと言いました?」

「……アリア、説明してやってくれ」

「……ライカ。零が今やったのは、()()()()()()()()()ということをしたの」

「……え?」

「そういうこと。誰も音速近い銃弾を見切って避けろとは言わないよ……俺はできるけど」

「でしょうね」

「ですよね」

「寧ろできないと驚きますッスよ」

「……ついに誰も驚かなくなったな」

 

アタシ、あかり、ライカの三人にスルーされて逆に驚いている零。何を今更……と思う。

 

「ま、まぁとにかく、ライカに覚えてほしいのは『見切り』。相手が何を、何処を狙っているのかを些細な言動から読み取って対処することだ」

「見切り……スか。でも、そんな簡単にできるものじゃないッスよね?」

「当たり前。相手が素人ならともかく、それなりの力を持っている奴ならフェイクだって入れてくる。今のアリアの攻撃だって、狙ってくる所は一瞬しか見ていないし、その前まで銃口は別の所に照準を定めていた」

「じゃあなんで零先輩は狙いが分かったんスか?」

「さっき言ったろ?『一瞬しか見ていない』って。裏を返せば、絶対に一瞬は見ているってことだ。ということは、見ている所以外は狙ってこないから、見ている所から特定して、そこから避ける。ただ、特定するのには並外れた動体視力や洞察力、経験が必要になる。ライカは動体視力が良いからできるようになると思うが……やれるか?」

「……はい。教えてください!」

「分かった」

 

そう言ってライカに教え始める零。それ事態は別に良いけど……

(……ちょっと、近すぎない?)

ライカの体を軽く動かしながらパターンを教えているから、必然的に体が密着している状態になっている。ライカも満更ではないような表情をしているし。

 

「あ、あのアリア先輩?顔が怖くなっています……」

 

後ろからあかりが何か言っているようだけど、そんなのはどうでも良い。

(何よ。零ったら、後輩ばっかり構って……アタシにも、もうちょっと構ってくれても良いじゃない……)

そう思いながら、アタシは零がライカに教えている姿を見ていた――

 

 

 

 

 

18:00

 

「アリア、帰るぞ~」

 

しばらくたって、零が帰る支度を済ませてアタシの方にやってきた。

けど、今のアタシはそれに返事をする気分じゃない。そのままスタスタと歩き出す。

 

「……?どうしたんだアリア、黙りこくって」

「……別に、何でもない」

 

零が不思議がって声をかけてくるが、アタシは素っ気なく返す。すると――

ポンッ

とアタシの頭に零の手が置かれ、そのまま撫でられる。

零の手から感じられる、確かな温もり。

 

「ごめんな、アリア。また何か俺がしたんだろ?」

「……ううん」

 

そして撫でながら謝ってくる零。アタシはそれに対して首を横に振った。

(……別に零が悪い訳じゃない。アタシがただ拗ねてるだけなのに……)

零はとにかく優しい。自分が悪くないのに自分の責任にして、決して人に責任を擦り付けない。そして困っている人がいたら助ける。これが零の人格。

 

「このまま桃まんでも買って帰ろうか」

「……うん」

 

アタシの大好物の桃まん。零とのパートナーになった時の思い出。

 

(……そうよ。これくらいのこと、零がいなくなった3年間よりずっとマシじゃない。だって、いつも零が側にいてくれているんだから)

 

そう考え直したアタシは頭に置かれていた零の手を掴んだ。

 

「じゃあ、早く行こっ」

 

そう言って零の手を掴んだまま走り出す。

 

「おっと……やれやれ、退屈しないパートナーだな」

 

零が後ろで何かを呟いたようだけど、アタシには聞こえなかった。

夕日に染まる道を、緋色と紅色が駆け抜けていった――

 

 

これがアタシ、神崎・H・アリアの、

何気ない、ある日の1日だった――




どうでしたでしょうか?

好評だった場合、他のヒロイン達の視点も作るかもしれません。
それでは、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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~シェイ編~

はいどうも、お久しぶりです。鹿田(ろくた) 葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。

いやですね……活動報告にも書いたんですけど、本当に来年の4月まで一切書かないつもりでした。
ですが今日、12月1日は、この作品『緋弾のアリア~Sランクの頂き~』の執筆一周年ということを思いだし、記念として執筆させていただきました!
皆様のおかげで、一周年記念を迎えることができました。本当にこの作品を見てくださっている皆様には、感謝の言葉が見つかりません。

さて、一周年記念を飾るのは、この作品のオリジナルヒロイン、シェイル・ストロームさんことシェイさんの『○○の一日~』です。一周年記念ということで張り切った結果、一万以上の文字数になりましたので、所々休憩を入れて読んでください。

それでは、始まります。


5:30

 

 

――身体に感覚が回り、重く感じる。

(まぶた)の裏から光が差し込んでくるのを感じながら、ようやく私は身体を起こす。

いつも思うけど、起きたばっかりって、何か不思議な感覚だよね。素直に何も考えてない、からっぽの状態みたいな感じ。

 

「うーん……」

 

抱き枕(カピバラの絵が刺繍されている)を離して、右手を上げて左手を頭の後ろに回しながら右手を掴み、軽く伸びをする。そしてベッドから降りてリビングへ向かう。

 

「――おっ、シェイ。起きたか。おはよう」

 

――トクン

 

「おはよう、零君」

 

声が聞こえた方を振り向くと、丁度玄関から黒色のタンクトップとハーフパンツを来た、汗だくの零君がやって来た。

 

「悪いけど先にシャワー浴びてくるから、朝飯は後にしてくれ」

「ううん、まだお腹すいてないし。ゆっくりしていいよ~」

「ああ」

 

スタスタと脱衣所へ向かっていく零君。

こんな朝から何で零君が汗だくかというと……実は朝練をしているの。

普段学校では後輩への指導や依頼(クエスト)とかで、練習しているイメージがないかもしれないけど……実は誰も起きていない朝早くに起きて練習しています。

また、零君といえば大技ばっかりのイメージがあるけど、練習では基礎中の基礎をずっとやっているの。でも、その動きはとても綺麗。

誰も知らない、零君の秘密。

それを知っていることに、少し嬉しく思う。

 

「……シェイ、何やってるんだ?」

「ふぇっ!?」

 

いきなり後ろから声をかけられてびっくりした。

見るといつの間にか、武偵高の制服に身を包んだ零君が立っていました。

知ってると思うけど、武偵は常在戦場。いつどんな時に何が起こるか分からない。そのために常に防弾使用である制服を着ている人が多いの。

 

「れ、零君。シャワーは?」

「もうあがったけど?」

 

は、早くないかな。時計を見てもまだ5分くらいしか経ってないよ?

何で男の子って、シャワーとかお風呂とか結構早い人が多いんだろう?

 

「それよりシェイ。まだ寝惚けているんじゃないのか?ぼ~ってしてたけど」

「う、ううん。大丈夫だよ」

「そうか?なら良いけど」

 

そう言いながら、エプロンを取り出す零君。どうやら今から朝御飯の準備をするみたい。

 

「あっ、私も手伝うよ」

 

そう言って私もエプロンを取り、ゴムで髪をくくり、ポニーテールにする。普段はロングだけど、料理する時は髪をまとめているの。

 

「先に着替えてこいよ。寝間着のままだぞ?」

「今朝は少し余裕があるの」

「……それで、昼からライブか。日曜なのに大変だな、シェイも」

「ううん。楽しいから全然苦じゃないよ……で、何をすれば良い?」

「今から魚焼くから、味噌汁作ってくれ」

「分かったよ……良かったら、毎朝味噌汁を作っても良いよ?」

「いや、毎朝作るのは大変だろう?シェイも忙しいんだしさ」

「……そういう意味じゃないんだけどね……」ボソッ

「ん?今何か言ったか?」

「ううん、何にも」

 

とりとめのない話をしながら、二人並んで料理を作る。私が零君の部屋に泊めてもらってからずっとあるこの光景。

この瞬間が、私は好き♪

 

 

 

 

 

7:00

 

 

「……ふぁ~ぁ……」

 

朝食作りももうお皿によそうだけになった時に、寝室からアリアちゃんがやってきた。

 

「おはよっ、アリアちゃん♪」

「おはよう、アリア」

「おはよう……」

 

目をネコみたいに手を丸めて擦りながらやってくる。その姿はとても愛らしく、ファンクラブがあるのも頷けるね。

 

「アリア、顔洗ってこいよ。まだ眠そうだぞ?」

「うん……」

 

零君に言われたように、まだアリアちゃんは眠たそうで、足取りもおぼつかない様子。

……あ、ドアに頭打った。痛そう。

 

「シェイ、冷蔵庫から牛乳出しといてくれ」

「あ、うん。分かった」

 

洗面所に入っていくアリアちゃんを見ながら、冷蔵庫から牛乳を取り出す。ついでに砂糖も。

……毎回思うけど、アリアちゃんいつも牛乳に砂糖入れて飲んでるけど、虫歯にならないのかな?私も牛乳は飲むけど、砂糖は入れないし。あと零君はコーヒー。

 

「――桃まんある?」

 

トテテと洗面所からやって来るアリアちゃん。もう完全に目が覚めたみたい。

因みに桃まんとは彼女の好物で、キンジ君曰く、『桃の形をした、ただの饅頭』だって。そんなこと言ったらほとんどの物に『ただの~』がつくことになっちゃうけど……

 

「……朝から砂糖入りの牛乳に桃まんじゃ、本当に虫歯出来ちゃうよ?」

「大丈夫よ、ちゃんと歯磨きしてるし」

「その歯磨き粉だって味付きのでしょ?」

「細かいことはいいの!」

「――はいはい。親子喧嘩はいいから、食べるぞ?」

 

そう言いながらエプロンを外して席につく零君。

 

「――零。今、どっちが『親』の方で言った?」

「……え?」

「――勿論、私が『親』だよね。零君?」

「何言ってるのよ。アタシが『親』よ」

「アリアちゃんと私だったら、私の方が『親』に向いてるよね」

「アタシの方が向いてるわ」

「私」

「アタシ」

「私!」

「アタシ!」

「おいおい二人とも。なんでそんなことで――」

「「零(君)は黙ってて!」」

「あっ、はい」

 

……何で真剣に言い争っているのかって?だって今の感じだと、零君が『父親』みたいな言い方になってるよね。

ということは、この場合の『親』は『母親』、つまり零君のおよ――

 

(……お、およ、よ……///)プシュー

 

「えっ、どうしたシェイ?顔赤くなってるぞ?風邪か?」

「だ、大丈夫!大丈夫だから!そんなに覗きこまないで///」

 

うぅ……急に恥ずかしくなってきた。アリアちゃんも同じみたいで、顔を真っ赤にして俯いている。

この雰囲気は良くないと思ってアリアちゃんとアイコンタクトする。

 

「た、食べようか」

「そ、そうね」

 

素早く私達は席に座り、呆気に取られている零君を待つ。

 

「さ、零君。食べよう」

「食べましょ、零」

「あ、ああ……」

 

 

 

 

 

7:30

 

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」

「ごちうさ……じゃなくてお粗末様」

 

食べ終えた私達は自分の食器を片付けだす……何か、零君違うこと言ってなかった?

 

「気のせいだ。別に心がぴょんぴょんしている訳でも、ぽいぽいしている訳でもない」

「心を読まないで!ていうか気のせいじゃない!?」

 

まったくもう……心を読まれるのは零君の役割じゃなかった?相変わらず人の機微には鋭いなぁ……ある感情以外には。

 

「で、シェイは今日どうするの?」

「ああ、アリアちゃんには言ってなかったね。私これからライブに行ってくるの」

「ふーん……そういえばアタシ、シェイがアイドルの時の姿、見たことなかったわね」

「そうなのか?一昨日にも某Mなステーションに生放送で出てたじゃないか」

「録画していた動物番組を観てた」

「……そうか」

「――よしっ!零!今日は一緒にシェイのライブ観に行きましょっ!」

「――ふぇっ?」

「――はい?」

 

アリアちゃんのいきなりの提案に、私と零君は驚いた。

 

「観に来るって……何で?」

「なんとなくよ。どうせ今日は用事も無いし」

「おいおい。俺にも用事があるんだが……だいたい、そんなことしたらシェイも困るんじゃないか?」

「私は大丈夫だよ。それよりも零君の用事って?」

「12:00からあかりちゃん達一年生組の稽古だよ」

 

あかりちゃん達……確か、強襲科(アサルト)を覗いた時にいた子達だね。

 

「零君。携帯貸して」

「……?良いけど」

 

ホイッ、と首を傾げながらも携帯を取り出して渡してくれた。

 

(ええと……あかりちゃんの苗字って何だっけ……あ、名前で登録してあった)

 

受け取った後電話帳を開いて、あかりちゃんに電話を掛けるために調べる。あかりちゃんの苗字を知らなかったけど、名前で登録してあったために探すのが簡単だった。

そのままコールすること数秒して、元気な声が携帯から耳に届いた。

 

『もしもし!零先輩どうしましたか?』

 

(……何だろう。アリアちゃんがネコか仔ライオンだとしたら、あかりちゃんは完全に仔犬だよね)

 

電話越しでのあかりちゃんがパタパタと尻尾を振っている姿が容易に目に浮かんだ。

 

「ヤッホーあかりちゃん♪シェイだけど」

『……え?な、何でシェイ先輩が零先輩の電話に?』

「そんなことより、今日私のライブに来てくれない?」

『……え?シェイ先輩のライブですか?そんな――『行きます!』ってライカ!?』

 

うわ、びっくりした。

今あかりちゃんのセリフに被せて言った、活発そうな声の子は――ライカちゃんだね。私のファンだって言ってくれた……今思い出しても嬉しいな♪

 

「ライカちゃん、おはよう♪」

『お、おはようございます!っていうか私達が行っていいんッスか!?』

「勿論。零君達も来るし、皆で一緒に来てくれても良いよ」

「いや、俺まだ行くっていってな――」

『『『『行きます(ですの)!』』』』

「……だってさ、零君♪」

「……分かったよ」

 

良し。なんとか零君を誘えたよ。

……ん?何でそこまでして零君を誘ったかって?それは……ふふっ。乙女の秘密って事で♪

 

「んー。そうすると午後までの時間が空くな……」

 

そう言って考え込む零君。

 

「なにも予定ないの零君?」

「ああ……そうだな、武器の点検でもしようかな――」

「なら、買い物に付き合って♪」

「……Oh...」

 

 

 

 

 

10:00

 

 

「――やっぱり、日曜日だから人が多いな」

「アリアちゃん。日本のショッピングモールに来るのは初めてでしょ?どう、感想は?」

「そうね。ここまで人が多く集まる所に来るのは初めてだわ」

 

あれから着替えた私と零君とアリアちゃんは、大型のショッピングモールに来ています。

 

「しっかし……何か、周囲から見られているんだが……何でだ?」

「武偵だからじゃない?」

 

周囲からの目線に、少し気にしている零君と、あまり気にしていないアリアちゃん。確かに武偵だからという部分もあるんだけど……

 

「おい。あのピンクのツインテールの子、超可愛くね?」

「本当だ。超可愛い!」

「その隣の男子も超カッコよくない?あたしモロタイプなんだけど!」

「足もスラッとしてて長いよ!モデルさんかな?」

 

――実際は、こんな風な感じなんだよね。二人とも美男美少女だから、注目を集めてしまうのも無理はないよね。

 

「二人とも凄い美人……髪の色も似てるし、兄妹かな?」

「かもしれないな……しっかし、後ろの()()()()()()()はパッとしないな」

「えっ……あ、ホントだ。てかいたの気付かなかったわ」

「あたしも」

「帽子目深に被りすぎだし、眼鏡してるしねー」

 

そんな中、周囲の人たちは()()()()()()、口々にそう言っている。

 

「……しっかし、相変わらずシェイの変装はバレないな」

「ホント。知っているアタシでも、一瞬他人と思ってしまうわ」

「こういうことができないと、普段の生活が大変でしょ?」

 

そう。私は今、黒髪短髪の女子の変装をしている。黒髪はカツラで、眼鏡と帽子は地味な色の物。これだけでほとんどバレないの。

 

「まぁ私の変装はともかく……取り敢えず服屋さんに行こう?良いのがあったら今日のライブに使うし」

「勝手に決めて良いの、ソレ。詳しくはないけど、衣装とか用意されてるんでしょ?」

「私の所の事務所は基本何でも許してくれるから、衣装じゃなくて自分でも持ってきたのでもいいんだよ」

「へぇ~……そういえば、今日のライブってどこでやるんだ?」

「ラクーン台場にある遊園地だよ」

「え、ラクーンシティ?」

「誰もそんな物騒な所に遊園地建てないし来ないよ!」

 

……いや、零君やネリーちゃんなら「「肝試し~♪」」とか言いながら無双して帰ってきそうだけどさ。右手にタイラント、左手にGみたいな感じで。ウェスカーさん思わずサングラス落としちゃうよ。

そんな会話をしつつ、私達は服屋さんに着いた。

結構大きい店で、色々な服が揃ってる。

 

「……じゃあ、俺はそこら辺にいるから、後は二人で……」

 

すると零君がそそくさとどこかに行こうとする。でも、逃がさないよ?

ガシッ、と零君の腕を捕まえてニッコリと笑う。

 

「零君。どこに行こうとしてるの?」

「え、いや、えーっと、ほら、女子二人の方が服について何か言えるだろ?だから俺はちょっと……」

「男子からの感想言ってくれた方が決めやすいんだけどな~」

「いや、そう言っていつもネリーと1、2時間ほどかかって――」

「後荷物持ちも♪」

「……はいはい。参りました」

「良し。じゃあアリアちゃん、服見てこよっか」

「え、ええ……」

「……( ´Д`)ハァ……」

 

溜め息をつく零君をよそに、アリアちゃんの背中を押しながら店内を見回る。

――結局1時間と少しの間、零君がフラフラになるまで試着して感想を求めることになりました――

 

 

 

 

 

13:00

 

 

「シェイちゃん。そろそろだからよろしくー」

「分かりましたー」

 

場所は変わってラクーン台場。

マネージャーさんに催促されて、私は最後に自分の状態を鏡で確認する。

 

(……髪型・服も良し。髪留めも着けた。良しっ!)

 

結局、私の好みである白のワンピースにして、準備万端な状態。それを確認して、ステージに向かう。

ステージの裏側にあるカメラを見ると、お客さんがびっしり詰まっている。

……目の前に光る棒を持っている人達がいるのは御愛嬌だね。まぁ他の人の迷惑にならないなら別に良いけど。

 

『えー、皆様。大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、シェイル・ストロームさんのライブが始まります』

(シェイちゃん、頑張って!)

(ありがとう、行ってくる)

 

同じ武偵アイドルの子にエールを貰って、ステージに上がった。

 

『みなさーん。()()()()()!』

『おはちはー!』

 

私が挨拶をすると、お客さん全員が元気よく返事してきた。

……ん?『おはちは』って何って?えっと……これはあまり言いたくないんだけど……まぁいいや。言うね。

これは私が日本でのファーストライブ、まだ日本語をよく知らなかった時のことなんだけど。あまりにも緊張しすぎていて、『おはようございます』と『こんにちは』が混ざっちゃって、さらに『こんにちは』の『は』を『わ』と言うことを知らなくてそのまま言ってしまい、『おはちは』となったの。

それを言った瞬間、私は火が出るくらい真っ赤になったんだけど、それがファンの心を掴んだみたいで……すっかり定着しちゃった、ということなの。

 

『まずは今日来てくださってありがとうございます。今日も頑張りますので、是非応援よろしくお願いいたします』

『頑張れ~!』

『ふふっ、ありがとうございます』

 

その後、少し他愛のないトークをしつつ、零君達がどこにいるかさりげなく見渡す。

……あ、いた。後列から10列目の左端付近。そこにいるのは勿論零君……の首を絞めつつ笑っているネリーちゃんがいた。

 

(――ってネリーちゃん!?何でいるの!?アリアちゃん達が目を真ん丸にしているけど!?)

 

凄くびっくりしている状態だけど、あくまで顔は崩さないまま。アイドルとしての基本が役に立ってる。

……まぁ、ネリーちゃんのあの顔は、また零君が何か変なこと言ったみたいだから問題ないかな。それより集中しないと。

 

『では、そろそろ最初の歌を歌います……聴いて下さい――』

 

――『Drop』

 

――激しいエレキギターの演奏から始まり、それによって会場は一気に盛り上がり、私は歌い出した。

この曲は、私がライブをする時に、絶対に最初に歌うようにしている曲。

理由は、この曲の内容が、イジメを受けた少年の末路を描いたものだから。こんなにもイジメというものは酷いものなんだと、皆に知って欲しいから。

 

 

 

――『崩れ落ちてゆく世界』

 

(はかな)く、()ちてゆく。緩やかに

 

色褪(いろあ)せてゆく現実』

 

もう僕の目に映るものはない――

 

 

 

一番を歌い終わった後、零君達の所を確認する。

アリアちゃんは……驚いているみたいだね。日本のアイドルファンの熱狂に唖然としているのかな?

あかりちゃんは……アリアちゃんとおなじような感じ。流石は戦姉妹(アミカ)って感じだね。

志乃ちゃんは……こういうところにあまりこないのか、とまどってばかりだね。なんだか初々しい。

 

 

 

――『明るく綺麗な未来』

当の昔に暗闇に消えた

 

『友達と過ごした日々』

時が過ぎても、戻ることはない――

 

 

 

二番が終わった。後もう少し。そう思いながら、再び零君達の方を見る。

ライカちゃんは……アハハ。どこからか光る棒を取り出して振っている。麒麟ちゃんが困った様子で見ているよ?

ネリーちゃんは……誰かと話をしているみたい。

……って、あれ私の事務所のスカウターじゃない!?もしかしてネリーちゃん、スカウトされてる真っ最中?

……いけない。ネリーちゃんを見ると表情が崩れそうになる。集中しないと。

 

 

 

――『関わらないことが僕のセオリー

その結果、消えていく大事なmemory

大丈夫、何も、心配ないって

思っていた、頃が、ありまして

終わらない、暴と名のつく言動

見えないや、この現実のend

身を投げて、辿り着いた深海

息を止め、この世から引退』――

 

 

 

 

 

――『静かな、静かな最期』

僕は求めていたの、この瞬間を。

 

『側に舞い降りた天使』

未練はないよ。Go to the next!

 

――『綺麗な、綺麗な世界』

きっとこれから、楽しくなるの。

 

『最後に、一つだけいい?』

この世界に言うよ、サヨウナラと――

 

――うつ くし いさ いご ――『drop』――

 

 

 

歌が終わり、会場から拍手が巻き起こる。

その中で私が目にしたのは、屈託のない笑顔で拍手を贈ってくれている零君だった。

 

『ありがとうございます。では早速次の曲、いきまーす!』

 

そうして私はたくさんの皆様方に、歌を贈った――

 

 

 

 

 

16:00

 

 

「シェイ、お疲れ~」

「お疲れ、シェイ」

「お疲れさまでした、シェイ先輩!」

「アハハ、ありがとう」

 

あれから2時間ライブをして、1時間サイン会と握手会を行った後、私は皆に囲まれていた。

 

「アタシ、日本のライブ初めてだけど、スッゴク良かったわ!」

「あたしもです!シェイ先輩ほっんとうに凄かったです」

 

アリアちゃんとあかりちゃんが目をキラキラさせて話している。そんなに気に入ってくれたのなら嬉しいな。

 

「流石はシェイさんッス!やっぱり『From...』は『Drop』とは反対で青春を謳歌している感じでしたし、『Pride』の時の盛り上がりは半端なかったッスし、後は『約束事』や、新曲の『恋・君』は少女らしさを感じましたし、後それからそれから――」

 

う、うん。ライカちゃんが変なスイッチ入っちゃった。まぁでも楽しんでくれたみたいで良かった。

それから後の人達は――と考えた所で、

 

――ピロ……テロ……プロ……

 

「……ん?何の音?」

 

急に聞こえてきた音に、皆がキョロキョロしだす。

……零君とネリーちゃん以外。

 

「……ああ、ごめんね。私の()()()携帯の着信音なんだ」

「そうなの?変わった着信音ね」

「仕事用だし、なるべくすぐに出れるように特殊な音楽にしてるんだ……ちょっと確認してくるから、少し離れるね」

 

そう言って皆の元から離れ、()()()携帯を取り出す。

白色の、特に語ることのない、普通の携帯。

私は、常に3つの携帯を所持している。一つは私用、後の二つは仕事用。

なんで仕事用が二つあるのかって?それは――

届いたメールを見てみると、題名に、『GOW』と書いてあった。

――その一つが、()()()()()()()()

 

 

『From ?

件名 GOW

 

シェイル・ストローム――イラク』

 

(……はぁ、今ライブ終わったばっかりだったのにな……)

 

私はため息をつきつつ、『了解』と送り、そのメールと発信履歴を排除した。そしてそのまま零君達の所に戻る。

 

「ごめんね。今仕事が入っちゃって、今から行かないといけないの」

「そうなの?大変ね」

 

私の言葉を素直に聞き取ったアリアちゃんと一年生達。

 

「……シェイ、頑張ってこいよ」

「気を付けてね」

 

事情を知っている零君とネリーちゃんは、複雑そうな表情をしている。もう『リバースランカー』ではないから、自分達は関与できないからね。

 

「うん、行ってくるよ」

 

そう言って私は小走りでその場を後にする。

零君達からの死角に入った。周りにも誰もいない。

 

「ん……『Link』」

 

ちゃんと確認した私はその場で止まり、少しだけ力を入れて言葉を発する

すると――何もなかった目の前から、人が通れるような、黒い穴のような何かが出てきた。

 

「場所・イラクに繋いで」

 

私がそう言うと、黒かったモノがいきなりグニャリと変化し、そこには明らかに今この場所の景色でもなく、ましてや日本でもない景色が映っていた。

 

「……やっぱり、国内部での紛争だね。大方、怪我した人の中に関係者が混ざっているのかな?」

 

何て呟きつつ、私はその景色が映っている穴へと歩き出す。

……ああ、そう言えば言ってなかったね。

私は――空間・次元を操れる超能力者(ステルス)なんだよ。

穴を通ると、そこはもうイラク。

怪我した人を探そうとすると、

 

――パァンッ、キンッ!

 

と一発の銃声に、金属音。

音のした方を振り向くと、一人の男がこちらに向かってツァスタバ M70を構えていた。

 

「――ったく、突拍子に現れるなっていつも言っていますよねぇ、シェイさん?」

「アハハ、ごめんねサイア君」

「……その『ごめんね』を、いい加減『次から気を付ける』って意味にしてくれないかね?」

「ゼンショ ケントウ シナイ」

「何故カタコト!?それに検討しないのかよ!?」

 

毎回恒例の挨拶に、私を守ったツンツン青髪の大柄な少年――サイア君ががっくり肩を落とす。

 

「それよりもサイア君」

「それよりもって……一体何――」

「じゃんけん!」

「ぽい――!」

 

――私はグー。サイア君……も、グー。引き分けだ。

 

「むぅ~……サイア君の記録が伸びてゆく……」

「多分人生全部費やしても俺に勝ち負けつけられる奴はいないよ」

「……サイア君のバーカ。アーホ。ツンツン頭」

「何で俺disられてんの!?しかも最後関係ないよな!?」

 

……ふふっ、やっぱりサイア君を弄ると面白い。これは『GOW』メンバーの共通意識だね。

 

「――&∋%¥¢♀≦◎○<″≠●¥!?」

 

さっき撃ってきた人が何か言ってるけど、私アラビア語分からないしなぁ……

 

「サイア君。何言ってるのか分かる?」

「『何者なんだよお前ら!?』だってさ」

「おお~、流石はアメリカ人だね!」

「いま出身地まったく関係ないよな!?」

 

……と、言っている間にもイラク人は銃を連射してくるが、サイア君が『水牢』でイラク人を囲っているため、私達に届く前に全て強力な水圧で粉々にされる。

 

「そう言えばサイア君、()()()()()()?」

「ああ、あいつらか?最前線で殲滅作業に入ってるよ。今頃鉄臭いレッドカーペットでも歩いているんじゃないか?」

「……物騒なアメリカンジョークだね」

「アメリカ人だからな……あ、そうだ。怪我人なら左の建物の三階にいるぜ。軽傷が7・ある程度が8・重傷が3だ」

「うん。ありがとう」

 

サイア君に例を言いつつ、言われた建物の中に入っていく。

カツカツと三階まで上がり部屋に入ると、中からは呻き声や悲鳴などが飛び交っていた。

 

(……うーん、思ったよりも騒いでいるね。さて、重傷の人は……いや、その前に日本語、もしくは英語を喋ることのできる人がいるかどうか)

 

「すみません!誰かこの中で日本語を話すことができる人はいますか?」

「Excuse me! Is there anyone who can speak English?」

 

日本語と英語、どちらともで呼び掛ける。すると、

 

「I can do it」

 

軽傷の中の男性が一人、(つたな)いながらも英語で返してきてくれた。

 

「良かった。話せる人がいて」

「ああ。それより私は何をすればいい?」

「取り敢えず今から重傷の人の手当てを行いますので、私の通訳係と補助をお願いします」

「了解だ」

 

男の人が了承してくれたので、私は重傷の人の下へ行く。

一人目……足を撃たれて動けないみたいだけど、止血さえしてしまえば数時間はもつ。

二人目……同じく止血さえしてしまえば問題ない。

三人目……腹部を何発か撃たれている。まだ生きているみたいだけど、直ぐに手術しないと手遅れになる。この人を先にした方が良さそう。

 

「すみません。私はこの人を手術するので、あなたは他の二人の止血を行ってください」

「ああ……だが、どうやって止血すればいいのだ?私には分からないぞ」

「大丈夫です。私が手術を行いながら指示するので、それに従って行ってください」

「そ、そんなことができるのか?」

「できます……『Link』」

 

男性と話ながら、少し力を入れる。

 

「亜空間に繋げて。患者の体半分を入れる穴とこちら側から覗く穴、手を入れる穴の三つ」

 

私が指示すると、黒い穴が三つ分現れる。

私はその一つの中に、腹部を負傷した人を入れる。

 

「こ、これは一体……」

「この空間は、時間の概念が無い空間です。この中に入れておけば、これ以上の流血を阻止できますし、手術中に目を覚ます心配がありません」

 

戸惑う男性に説明しつつ、私はその空間に予め入れてある手術道具を手にし、覗く用の穴に顔を向ける。

 

「まず、撃たれている人を落ち着かせて下さい。興奮していると血の流れが速くなり、止血が難しくなります」

「分かった」

 

(撃たれた所は……弾丸が通り抜けている物がほとんど。繋ぎあわせるだけでいい。埋まっている場所は……良かった、盲腸の所だけ。ここなら、人体にあまり必要としない場所だから、そのまま摘出。他の臓器への癒着が心配されるけど……私なら大丈夫)

 

男性に指示を送りながら、着々と手を動かし、縫い合わせていく。

 

「す、凄い……君は一体……」

「武偵です。それもSランクの……良し。終わり」

「は、早い。もう終わったのか?」

「はい」

 

手術が終わったので、穴から人を出す。

若干の手術痕は残るけど、それ以外は普通に動けるようになるよ。

 

「……良し。後は全てやりますので、あなたは他の人にこちらに来るよう呼び掛けてください」

「あ、ああ」

 

止血を男性から交代しつつ、お願いをしておく。

男性は了承し、皆に呼びかけにいった。

 

(本当に、話が通じる人が良い人で良かった。自分も軽くとはいえ負傷しているはずなのに)

 

二人分の止血を坦々と進めながら、負傷者に呼び掛けてくれている男性を見る。

 

(……良し。止血も終わった。後の皆もパパッと終わらせよう!)

 

こちらに来てくれている負傷者の人達を見ながら、私は一人気合いを入れた――

 

 

 

 

 

22:00

 

 

「ただいま~……」

「お帰り、シェイ」

「お帰り。夕食は食べたか?」

 

あれから数時間、治療や後始末などに追われ、気付けばもうこんな時間になっていた。

 

「うん、仕事先で食べてきたから大丈夫だよ」

 

アリアちゃんの手前、少しボカして言いながら、リビングのソファに座る。

 

「はふぅ……つかれたよぅ……」

「あまり無茶はするなよ?してほしいことがあったら何でも言ってくれ」

「……何でも?」

 

ソファに寄りかかるように体を横にしていたけど、零君の発言に体が反応した。

そして――両腕を広げ、赤ちゃんの『抱っこして』のポーズをとる。

 

「モフモフ」

「……はいはい」

 

意味を理解した零君は――バサッ。

その背中から、白い、大きな翼を出した。それを私は、思いっきり抱き締める。

モフモフ……モフモフ……

 

「……モフモフ♪」

 

ただただ、触ることだけに専念する。

触る度にモフモフとした感触がして、フワフワとした柔らかさに顔を埋める。

 

(もう羽毛布団じゃなくて零君の翼で寝たいよ……柔らかいし暖かいし気持ちいいし……あっ……なんだか、ねむく……)

 

フカフカした零君の翼に包まれたせいか、段々と眠たくなってきた。何とかして起きていようとしてみるけど、全然眼が覚めない。

 

「シェイ?眠たいのか?」

「……うん……」

「……仕方ないな」

 

目を開けるのも億劫になってきた時、体がフワッと浮く感覚がしたと思ったら、ゆりかごに乗せられているような感覚。

それがまた眠たさに追い討ちをかけることになり、私はそのまま体を預けた。

 

 

 

 

 

2:00

 

 

(ん……あれ……ここは……)

 

意識が覚醒し、薄暗い中私は目を開けた。

辺りを見渡すと、私のベッドで寝ていることが分かった。

 

(あれ……私確か、リビングで零君の羽を触っていて……)

 

頭の中から記憶を引っ張り出して、現在の状況を確認する。

 

(……もしかして、途中で寝ちゃって、零君にここまで運んでもらった……みたいだね)

 

記憶が途切れる前に感じた、揺りかごに揺られるような感覚。

 

――トクンッ

 

それを思い出した私の体に、体温以上の熱が帯びてきた。絶体今、全身が火照っている。

 

(零……くん……)

 

二段ベッドの上から降りて、下で眠っている零君の寝顔を見ると、スゥスゥと静かな寝息を立てて寝ていた。

 

――トク、トク、トク……

 

それを見ているだけで熱が収まるどころか、さらに高まっていくのを感じ、鼓動が速くなる。

 

(――ダメ。いつもそうだけど、零君といるだけで鼓動が速くなる……普段は零君から気付いてもらおうと、少しだけアピールしているだけ。だけど、寝ている今なら……少しだけ、気持ちを伝えても良いよね?)

 

いまにも破裂してしまいそうな鼓動を感じながら、寝ている零君に顔を近づける。

 

「零君、あのね?私、『あの日』からずっと零君のことが――」

 

零君の顔の側まで私の顔を近付けたその時――

 

「ううーん……」モゾッ

「――ッ!」

 

いきなり今まで動かなかった零君が動いたので、思わず顔を引っ込めてしまった。

零君は軽く動いた後、またスゥスゥと静かな寝息を立て始めた。

 

(……びっくりしたよ~。急に動き出すのはないよ、零君……)

 

思わず胸を撫で下ろしつつ、溜め息をついた。

 

(……ハァ、今ので何かやりづらくなったな……)

 

鼓動を抑えようとしても強く、速く打ち続けたまま。一向に治まる気配はない。

どうしようと思っていると、零君が動いたために空いているベッドのスペースが目に映った。

 

(……今日は色々あったんだし、良いよね――?)

 

そう思った私は、きしっ……と零君の寝ているベッドに腰掛け、そのまま布団の中に入り、零君に抱きついた。

 

……クン、トクン、トクン――

 

抱きついた零君の体から、規則正しい鼓動が感じられ、そこに零君がいるということを感じさせてくれる。

 

(……やっぱり、零君が気付いてくれるまで、この言葉はとっておくよ。だから――早く気付いて、ね?)

 

……トクン、トクン――

 

いつの間にかうるさかった私の鼓動は治まり、ただ零君の鼓動を感じながら、再び目を閉じました――

 

 

 

 

 

翌朝。たまたま早く起きたアリアちゃんに見られて一悶着あったけど、それは別のお話。

これが私、シェイル・ストロームの、

何気ない、ある日の一日でした――




はい、どうでしたでしょうか。今回はオリジナルヒロインのシェイの表の顔と裏の顔をお送りしました。
これを機に、少しでもシェイのことを、そしてこの作品のことを好きになって頂けると幸いです。


ところで……皆様はどれくらいの文字数が読みやすいでしょうか。今はだいたい4000くらいにまとめてますけど、要望があったら増やすかもしれません。

そして檸檬_lemon様に評価10を頂きました!ありがとうございます!

では、ごきげんよう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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番外編
コラボ~暁月神威様~


――メリークリスマス!
どうも、江風の限定グラにやられた、鹿田(ろくた)葉月(はづき)(*`・ω・)ゞデス。分からない方は、『艦これ江風 限定グラ』で検索してください。

さて!今回は本編を一旦置いておいて、暁月神威(あかつきかむい)様とのコラボ話となっております!クリスマスに向けてのサプライズ企画ですね!

……あっ。本編は大晦日に更新しますので、どうか缶を投げないでくださいお願いします何でもしますから!

それでは、コラボ企画、始まります。


「――理子、異世界人に会いたい!」

 

午前7時半。日曜日ということでいつもより少し遅めの朝食をとっている時、それは起きた。

お母さん、見てみて!と言わんばかりに机に身を乗り出して、ムッフーと鼻息荒くしているのは、金髪の美少女――理子だ。

突然の来訪者に驚いている同居人――アリアとシェイを横目に見つつ、口の中にあるご飯を咀嚼(そしゃく)する。

 

「……理子。どうやって入ってきた?発言の意味は?後、朝飯いるか?」

「理子は武偵であり泥棒だよっ!言葉はそのままで捉えよう!食べるからレイレイ用意して!」

 

質問を投げ掛けたらあかりちゃんの持っているマイクロUZI並みのマシンガンで返してきた。朝から元気だな、理子。でも理子って夜行性って言ってなかったか?てことは夜はこれより酷いのか。近隣の奴には同情を禁じ得ない。

というか理子。ちゃんと持ってくるから俺の朝飯勝手に食い出すな。

ムフー!レイレイの朝御飯美味しいですぞー!と花をも恥じらう女の子とは思えないほどガツガツと食べる理子に、ようやく我に帰ったのか、ガチャリ。

 

「い、いきなり来て何意味不明なこと言ってんのよ、理子!これ以上変なこと言うのなら風穴あけるわよっ!」

「えー、いきなり銃を向けてくる方が意味分かんないーっ。器が小さい証拠だよアリアん。……あっ、器だけじゃないかもねー」

「ど、どどどこ見て言ってんのよ!ぶっ飛ばすわよっ!」

 

自身のレッグホルスターから金銀のガバメント二丁を取り出して構えるが、理子はどこ吹く風といった感じであしらう。

ついでにアリアの胸を見ながら意味深なセリフを吐いてアリアを怒らせているあたり、今日も理子ワールドは全開のようだ。

 

「まあまあ、アリアちゃん落ち着いて。それで理子ちゃんはまた、アニメかゲームの影響?」

「さっすがシィちゃんっ、理子のこと分かってるー!」

「いや分かってるって……自分が今何を言ってるのか分かってるのか?」

 

コトリ。

理子の分の朝御飯を机に置き、椅子に座る。

シェイの言った発言をそのまま捉えるなら、理子はアニメなどで異世界人に憧れたということらしい。

恐らくだが、そこからどうしよう……あっ、万能レイレイに頼めば大丈夫じゃん!理子あったま良い~!とでもなったのだろう。それで現在、朝御飯をガツガツと頬張っている状況になっているということか。

だが……。

 

「悪いが理子、俺が呼び出すのは出来ないぞ?」

「えーっ!?なんでぇー!?」

 

意外、というよりは驚愕といった表情の理子。隣にいたアリアも声に出してないだけで驚いている。

 

「レイレイができないなんてそんなの嘘だー!エイプリルフールは今日じゃないよ?」

「そうよ零、風邪でも引いたの?熱は?」

「……驚いているのは分かったが、ちょっと酷すぎないか?」

 

できないと言っただけでこの言われよう。理不尽じゃないか?いや、確かに普段から色々有り得ないことやってるっていう自覚はあるけど、今回のは理由があるし。

だからシェイ。エプロン着けて冷蔵庫から玉子とネギを取り出すな。完全にお粥作る気だろ。

 

「まあ待て。確かに異世界人を呼ぶことは可能だが……リミッターつけてる状態だから、同じ能力が一定期間使えないんだよ。呼ぶだけ呼んで、『帰りはしばらく待ってください』なんて無責任なこと言えないし。だから、出来ない」

「レイレイ、無断で呼んでる時点で無責任だと思うよ?」

「やらせようとしている張本人が何言ってるんだよ。とにかく、俺は出来ないからな……『俺は』、な」

「「……?」」

「あいにくこのテのことに関してなら、俺より優れているやつがいるぞ」

「えっ、誰々!?」

 

理子の質問に答えず、スッ――とある一点を指差す。それにつられた理子が顔を向けると……。

 

「皆、出来たよー……って、どうしたの零君?」

 

ホカホカと湯気を立てている鍋を両手で持ちながらやって来た、寝間着エプロン姿のシェイだった――

 

 

 

 

 

「ん……『Link』」

 

ヴォンッ。

シェイが少し力んだ様子を見せると、目の前に黒い穴のようなものが表れる。

――現在俺達は朝飯を済ませた後(シェイが作ったお粥も美味しく頂いた。主に理子が)、制服に着替えて学生寮の外に出ている。

 

「いやー。やっぱりシィちゃんってレイレイ達のチーム、『GOW』に所属しているだけあるね!異世界人にもコンタクトとれるなんて!」

「正確には、『空間・次元を操る能力』だけどね。後、私達のチームのこと言わない方が良いよ?文字通り首が飛ぶから」

「うー、らじゃっ!それよりも、どんな人かなー?来る人」

「くっだらない。こんなことしてるより、強襲科(アサルト)で射撃訓練でもしてた方がマシよ」

 

アリア。『Link』をガン見しながら言っても説得力は無いと思うぞ。

それにしても、異世界人、か。どんな奴なんだろう?そもそも言語は通じるのだろうか。

知らず知らずの内に俺自身興味を持ち始めながらも、シェイの邪魔にならないように静かにしている。

 

「――来るよっ」

 

バシュッ。

黒かった穴が透き通るように色を変え、やがてどこかの景色を映し出す。

古い屋敷のようなものがチラリと見え――。

 

「――うわあっ!?」

 

ドサッ。

『Link』から吐き出されるようにして――少年が出てきた。

 

「イツツ……ここは?――スバル?エミリア?レム、ラム?ロズワールにベアトリスは!?」

 

身長170センチで中肉中背の、茶髪茶目。執事服を着ていることから、先程チラリと見えた屋敷に勤めていたように見える。

……その割りには、凄く若い印象を受ける。歳も俺らと同じぐらいだろう。

 

「やったー!異世界人に会えたー!ヒャッフゥーッ!」

 

理子は異世界人に会えたのが嬉しいのか、執事服の少年の周りをグルグル回りながら、よく分からない躍りを始めている。

おい、理子。少年が凄い困った表情を浮かべているんだ。少しは自重しろ。

 

「大丈夫?ごめんね、呼び出しちゃって。えと、君の名前は?」

「えっ、あっ。俺は――カズマ。佐藤(サトウ) 和真( カズマ)……です」

「カズマ君、だね。私はシェイル。気軽にシェイって呼んで良いよ。よろしくね」

「よ、よろしく……ところで、『呼び出した』って……?」

「それはね……」

 

シェイは混乱している少年――カズマを見て、すぐさま声をかけていた。この辺の気配りは流石だと思う。カズマも混乱しながらも、キチンと応えることが出来ている。理子、アレだよ、アレ。いい加減良く分からない踊りするの止めろ。

そして……。

 

「……アリア。何の心配もないから、素直に出ればいいのに」

「だ、だって異世界人よ?いつ爆発するのか分からないじゃない!」

 

異世界人を一体何だと思っているのか。

よく分からない発言をしたアリアは現在、俺の背中の後ろに隠れて服を掴んでいる。

フルフルと震えているので頭を撫でると、フニャリと顔が(ゆる)んだ。何だ、この可愛い小動物。

……おっと。俺も挨拶しないとな。

 

「やぁ、カズマだったな。俺は零。錐椰(きりや)零だ。よろしく」

「あ、ああ。よろしく」

 

シェイに一通り説明されて理解したのか、本来の彼の姿であろう、人懐っこい表情を浮かべている。

それにしても、偉く立ち直りが早いな。知らないところに突然引っこ抜かれて、ここまで早く立ち直れるものだろうか。まるで、『異世界に来ること』自体に慣れているようだ。

とはいえ、馴れない環境に置かれたということに違いない。先程見た景色に、古い屋敷と森が見えた。恐らく、中世次代辺りの世界観となっているのだろう。この世界のことを少し教えといた方が良いかな。

 

「なぁカズマ、この世界についてだが……」

「――うおっ!コンビニがある!久しぶりだ!」

「……えっ?」

 

学生寮の一階にある、小さなコンビニを見つけてカズマは喜んでいる。それは、初めて見る物に対しての目ではなく、懐かしい物を見るような目だ。

おかしい。失礼だがあの世界を垣間見た時に、コンビニが置いてあるような雰囲気は無かった。

 

「カズマ。お前はコンビニを知っているのか?」

「おう、知ってるよ!とはいえ、見るのは久しぶりだけどな」

「何故だ?あちらの世界でも、コンビニはあったのか?」

「いや、コンビニは無かったんだけど……」

 

ええと……と言いながら空を見上げる。言いたいことが定まらず、言葉を選んでいるんだろう。

そろそろうざくなったのだろう。俺の背中から離れたアリアが、躍り回っていた理子をジャーマン・スープレックスで沈め、それをシェイが治療し始めた中――

 

「俺、転生者なんだよ」

 

頬をかきながら、必死に絞り出されたような声でカズマが言った――。

 

 

 

 

 

「――理子にゲームで勝とうなんて、一億光年はやいんだ、よっ!」

「元引きこもりニートをなめんじゃ、ねぇ!」

 

場所は変わり、ゲームセンター。そこの一角の格ゲーにて、カズマと、いつの間にか復活していた理子が勝負している。二人ともかなり出来るみたいで、さっきからかなりの接戦を繰り広げている。因みにシェイはアリアを引き連れてクレーンゲームの方へと向かっていった。恐らく帰る頃には両手にたくさんのカピバラのヌイグルミを抱えてくるだろう。後、理子のセリフにはあえて突っ込まない。

――それにしても、転生者、か。

劣勢になっているのか、苦悶の表情になっているカズマを見て、思う。

曰く、彼は現代の日本にいたんだが、一度死んで(死んだ理由は何故か気難しそうな表情をしていて教えてくれなかったが)、そこから駄女神(本当にこう言った)にある世界に転生させられたらしい。

その後、色々な奴らとばか騒ぎしながら転生後の人生を楽しんでいたら、ある日突然、知らない屋敷の部屋にいたという。その知らない屋敷というのが、『Link』に映った屋敷だと思われる。

とにかく、これでカズマが冷静になるのが早いのが分かった。ようするに、慣れているだけのことだった。異世界に飛ばされるということに。

 

「クッ……!この俺が負けた、だと?」

「フッフッフッ……このスーパー理子りん様に勝てる者など誰もいないのだよ、少年」

 

色々と考えている内に、勝敗が決まったようだ。項垂れるカズマに対し、理子は足を組んでどや顔を決めている。何してんだよ、お前ら。

 

「……てゆーか、カーくんって異世界人って感じがしないねー」

「さっきも言っただろう?俺も元々は一般人なの」

「なんか、こう。出来ることってないの!?異世界人としての自覚はっ!?」

「俺の発言無視かよ……あー、まぁ。出来ないこともないが……」

「ホントっ!?見せて見せて~!」

「ああ、じゃあ――」

 

異世界人ならではのことが見れると聞いて、喜んでいる理子。それに対してカズマは顔を下に向け――口の端が何故かつり上がっている――理子に対し手のひらを向けるように伸ばし……。

 

「『スティール』ッ!」

 

その瞬間、カッ――。

辺りを光が包み、何も見えなくなる。だが、それだけだ。

やがて光が薄れ、辺りを確認するも、カズマや理子、周囲に変わった様子はない。もしかして、ただの目眩ましか?

理子も何の変わりもないことにガッカリした様子で、ため息をつき――表情が突然変わった。

そして、バッ。

何故か自分のスカートに手を伸ばして、スカートを抑えた。

 

「なっ……なっ……無い!」

 

カァッ……。

いきなり頬を赤くしながら、必死にスカートを抑えていた。

 

「ハッハッハッ!見よ!これが、俺の力だー!」

 

理子がそのまま膝をつけてしゃがみこむ中、カズマが大きく叫ぶ。その手には、何か握り込まれていた。

それは、どこかで見たことがある、ハニーゴールドの――

 

「か、返せッ――!」

 

 

 

 

 

「じゃ、そろそろ行くわ」

「ああ」

 

夕日が辺りを照らす時間になり、色々な場所を回った俺達の行動も終わりになった。

夕日に照らされているカズマは、夕日以外の何かで赤く染まっている顔で、いい笑顔を浮かべていた。

『Link』の中に足を突っ込み、もうすぐで移動が始まる。

 

「だけど……良いのか?」

「何が?」

「お前の戻る所。自分の元いた場所でも、駄女神とやらがいる世界でもなく。あの屋敷がある世界で」

「ああ。まだあそこの奴らと別れの挨拶終わってないからな」

「そうか……」

「またね、カズマ君」

「エロカズマッ!二度とくんなっ!」

「アンタが呼び出したんでしょうが……」

「ああ、じゃあな!」

 

そして、カズマは元いた世界に帰っていった。

 

「アリアッ、桃まん買いに行くぞ!やけ食いだッ!」

「ちょっ、ちょっと、何をそんなに怒ってんのよ!」

 

カズマが帰った後、理子がアリアの制服の襟首を掴んで、ズルズルと引っ張っていった。珍しい……気持ちは分からんこともないが。

さて、俺も帰りますか。

そう思い、学生寮へ向かって歩こうとした所で――クイッ。

制服の袖が、引っ張られている。

チラリと見ると、シェイが『Link』を見つめながら、俺の袖を掴んでいた。

 

「どうした、シェイ?帰らないのか?」

「零君、見て」

 

なおも掴まれたまま、シェイは『Link』を指差す。

ずっとこのままというわけにもいかないので、シェイの横に並んで、見る。

 

「で、どうしたんだ一体?」

「『Link』の上の方を見て。いつもここには行き先が書いてあるんだけど……」

 

そう言われて、『Link』の上側を見る。

すると、確かに緑色の字で、こう書かれていた……。

 

 

 

「『re.カズマが始める異世界生活』――?」




はい、どうでしたでしょうか。

ということで今回は暁月神威様の『re.カズマが始める異世界生活』とコラボになりました。
コラボ企画は初めてでしたので新鮮な感じで執筆出来ました。これからも機会があればコラボしたいと思っております。

では、また大晦日に会いましょう。(´・ω・`)/~~バイバイ。


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