暇潰しに書いたモンハン二次 (水代)
しおりを挟む

そして二人は出会った
一話 神との出会い


いや、なんか最近艦これ書いてばっかりだったから、気分転換に前から書きたかったモンハン書いてみた。


 それはまさに神としか形容のしようが無かった。

 存在するだけでそこにいる全ての生物を圧倒する威容。

 その巨大なアギトがひとたび開かれれば、世界を震わせているのだと錯覚するような咆哮が響き渡る。

 そして神の叫びに共鳴するかのごとく、辺りでは雪崩や落盤が起きる。

 

 白き神。

 

 自身の住む村に代々伝わる伝説に出てくる神。

 死したはずの巨神が、今。

 

 自身の目の前で死に瀕していた。

 

 それはまさしく神だ。紛れも無く、実際に相対もしていない、ただ近くにいるだけで分かる圧倒的な存在。

 

 だからこそ、その神を殺す男に、自身の目は釘付けになった。

 男が薙いだカタナの一閃に、とうとう神が崩れ落ちる。

 崩れ落ちる神を目の前に、男が何かを呟き…………。

 

 瞬間、最後の力を振り絞った神がそのアギトを開き、絶対零度の吐息を吐きかける。

 

 危ない、とか避けて、とも言えなかった。その間も無く、男は白い息に飲み込まれて…………。

 

 白が切り裂かれた。

 

 両断され、霧散していく絶対零度の白。そして飛び出し、鞘に収めたカタナを握り、神へと走る男。

 

 交叉は一瞬だった。

 

 気づけば、神は動くこと無く、その身に纏っていた威圧も全て雲散霧消していた。

 もう危険は無かった。けれど自身の体は動かない。

 

 雪に囲まれたこの場が寒かったから? 否。

 先ほどまでの恐怖に飲まれていたから? 否。

 圧倒的な光景に思考が止まっていたから? 否。

 

 打ち震えていた。

 圧倒的な歓喜に。

 打ちのめされていた。

 認識させられた事実に。

 

 これが。

 

 これが。

 

 これこそがハンターなのだと。

 

 この日、自身は二柱の神と出会った。

 

 

 * * *

 

 

 ハンターと言う職業に憧れたのはいつだっただろうか。

 確か幼少の頃はハンターなんて野蛮な職業は嫌いだったような気もする。

 当時の私は花屋やお菓子屋なんて女の子らしい職に憧れていた。と言ってもそんなもの大都市にでも行かなければ無いような本当に子供の夢程度の現実味の無いものだったが。

 近所の男の子たちはハンターと言う職業に憧れていて、いつもごっこ遊びに興じているのを冷めた目で見ていたのを覚えている。

 そんな私がハンターと言う職業に憧れたのはいつだっただろうか。

 なんて、そんな問い、投げかけてたって答えは決まっている。

 

 あの日、あの人を見てから。

 

 正確には私はハンターに憧れているのではない、あの人に憧れているのだ。

 だからあの人と同じハンターと言う職を目指した。

 あの人に拾われた、その日から

 

 ハンターを目指す、と言った私にあの人が苦笑してそれを許した。

 そんな私とあの人を見て、彼女は呆れた表情でハンターの危険性を説いたが、私の決意は変わらなかった。

 そんな私の頑固に、彼女は嘆息し、結局許した。

 

 あの人は私に、ハンターとして生き方を教えてくれた。

 帰る家も親も失い、兄弟も親戚も無い私に、生きる術を叩き込んでくれた。

 

 そうして十歳の時、初めて“狩り”をした。

 

 ランポスと言う小型の鳥竜種であり、一般人相手では少々厳しいが、ハンターにとっては物の数にも入らない程度の存在。

 

 けれど私にとっては自身を殺せる牙と爪を持った絶対的な悪意だった…………だった、はずなのに。

 

 けれど私の体は目前の敵に対して何の迷いも無く動く。

 

 恐怖も無く、憤りも無く、渇望も無く。

 

 ただ、淡々と“生きた存在”を殺した自身と、初めて自身の手で生物を殺したのに、なんの感情も浮かばない自身の心に驚く。

 ハンターにとって、これは最初の試練。ここで躓くようならこの先ハンターなどやっていけるはずも無い。

 だからそう言う意味では私は優秀だったらしい。けれどあの人が僅かにこちらを見る目が変わったのは確かで、その目は決して良いものではなかったのは理解できた。

 

 手に持った武器の重さを実感したのは十二の時だった。

 生きたいと渇望し逃げ惑う獣人(メラルー)を何の躊躇も無く殺した自身に、初めて明確な異常を感じた。

 確かにメラルーはアイルーと違い、人間と共存しようとしない個体、人間からすればモンスターだ。

 だがそれでも人の隣人とも呼べるアイルーと同じ形をしたそれを、何の動揺も無く、躊躇も無く殺した自分は、もしかするとそれが例えアイルーだとしても…………同じ人間だとしても殺せてしまうのではないかと思った。

 恐怖と言う感情を失っていたと気づいたのは、その時だった。

 どうやら私は、あの人と初めて出会った時の恐怖が切欠で、心がおかしくなっていたらしい。

 初めてランポスを殺した時に何の躊躇も無く行動できたのはそれが原因だったようだ。

 

 心まで怪物となるな、あの人がそう言った。私もそう思った。

 だから私はその日から人と言うものについて考えるようになった。

 普通の人、と言うのが良く分からなかったので自分の知る中で一番まともな人間である彼女を参考にして、周りに馴染む努力と言うものをした。

 結果的に、私と言う人間の異常性は隠れ、一見するとまともな人間に見える程度には取り繕うことができた。

 けれど根本的なところで何も変わっていないことを私もあの人も分かっていたし、一度根付いたものをそう簡単に変えられるものではないとも理解していたので、少しずつ変わっていけば良い、とあの人は言った。

 

 その一週間後、あの人は姿を消した。受注したクエストに向かったまま忽然と姿を消した。

 彼は死んだ、なんて噂も出ていたが、死んだ痕跡も遺体も無い、かと言った生きているならどうして戻ってこないのか、誰にも分からず、結局それは英雄の失踪として世間を騒がせたが、一月、二月、そして半年と時が経つにつれ、あの人の話題が人々の口から出ることが無くなっていった。

 

 まあきっとそのうち帰ってくる、そう言って彼女は苦笑していたが、いつも寂しそうに外を見ている彼女を見て、そして決めた。

 

 私が彼を探すのだ、と。

 

 あの日、私は二柱の神を見た。

 

 一柱は雪山の深奥に眠りし白き神。

 

 そしてもう一柱は…………。

 

 神をも狩った狩猟の神。

 

 だからこれは、私が神様を探す旅路。

 

 果て無き世界を一人の狩人が歩くその道程。

 

 その始まりは………………

 

 一人の英雄の失踪だった。

 

 

 * * *

 

 

 私こと、レーティアは人から良く二面性がある、と言われる。

 普段はまるでどこの貴族のお嬢様なのかと言わんばかりのお淑やかさ(自分では良く分からないが、恐らく立ち居振る舞いの参考にした人間が良かったのだろう)。

 けれどひとたび狩りに出れば、背筋が凍るほどの冷徹さで獲物を狩る狩人(ハンター)

 どちらが本当の私なのか、と聞かれたこともあるが、私自身そう言ったものを意識したことが無いので、どちらと聞かれても困る。

 ただ前者は自分で故意に作ったキャラクター故に、それを意識せずにやれていると言うのは、私的には良いことなのだろう。

 後は単純に、狩りに出かけた時は、意識を切り替えているからだろう。油断無く、隙無く、慎重に、臆病に、そうでなければ野性に劣る人間がモンスターに勝る道理など無い。大型モンスターに一瞬で殺され、腹の中に納まるのが関の山だろう。

 

 まあこんなこと考えている時点で、気が抜けていると言われても仕方ないのだが。

 

 無駄な思考を頭から打ち払い、目前の敵を見る。

「………………ランポスが三にドスランポス、あとはランゴスタもたくさん」

 密林の洞窟には良くランポスたちが群れを作っている。

 ランポスたちがいるならば、そこに群れの長であるドスランポスがいるのも当たり前の話だ。

 今回のメインターゲットはドスランポスなので、さっさと狩ってしまいたいのだが、周りにランポスがいるのが厄介だし、ランゴスタなど単体ですら厄介極まり無い。

 基本的に、どんな状況であれ、味方より相手の数のほうが多いと言うのは不利なのだ。

 特にソロ狩りを専門として、パーティーを組まない自分のような人間は、一対一でさえ身体能力の面で劣っているので不利。つまり有利な状況なんてものがほとんど無い。

 その辺りはあの人…………自分の師に散々教え込まれた。

 

 だから必要なのは、場を用意すること。

 

 自分が有利でいられる場を用意する。相手が不利に陥る場を用意する。それはどんな要素でも良い、海岸の砂浜のように、足場が踏み込みに向かない場所では、大型モンスターには走り辛い場となるし、木々が多い密林のジャングルに誘い込めば、中型モンスターはこちらへ攻撃するのに一々木が邪魔で、飛び掛り攻撃などもできなくなる行動阻害の場となる。逆に広い高台ならば確かに相手は不利にはならないが、カタナを使う自分にとって思う存分カタナを振り回せる有利な場となるし、周囲を見渡せるので、相手を見失うことも、別の場所からやってきたモンスターから奇襲を受ける心配も無くなる場となる。

 

 そうした要素を相手を探しながら確認していく、地形の把握はハンターにとって最重要事項の一つだ。

 どこにどんな敵がいるのか、どこに何があるのか。そう言った要素を集め、頭の中で組み立て、そうして自分と相手との力の差を零へと近づけていくのだ。因みにこれは実際には零以下になることなんて無い、どんな状況だろうと、どんな場所だろうと、どんな相手だろうと、人間と言うのはモンスターに劣っている、絶対的な不利を強いられているのだ。その不利の差を極限まで埋めていったならば、後に物を言うのは技と…………運である。

 

「………………動いた」

 

 ドスランポスが動き出す。予定通りこちらへと向かっているようだ。

 ランポスたちは巣を守るために動かない、それもまた予定通り。

 洞窟の入り口傍に陣取り、草葉の陰に隠れる。この高台の敵は事前に切り伏せてあるので、今この場所にいるのは自身とドスランポスのみ。

 恐らくすぐに見つかるだろうが、それでも一瞬でも発見を遅らせることができれば良い。

 洞窟から出てきてすぐに立ち止まり、辺りを見渡す。ちょうどその後ろのほうに自身が隠れていて。

 ドスランポスの視線がこちらを向く。

 だがその時にはもうすでに、自身は飛び出している。

 

 ギャー、とドスランポスが声を発すると同時に、自身の持つカタナ…………黒刀【弐ノ型】がドスランポスを切り裂く。

 ずぶり、とその柔らかな鱗を切り裂き、黒刀が肉に食い込み…………切り払う。

 ギャウ、とその痛みにドスランポスが仰け反り、同時に自身もまた後退する。

 

 ギャァ、と声を上げ、ドスランポスが飛び掛ってくる。

 

 そして、予測していたとばかりに刀を振りかぶっていた自身。

 

 【気刃斬り】+【攻撃力UP小】+【見切り+1】

 

 赤い練気を纏った刃が、いともたやすくドスランポスの体を切り裂き…………飛び掛って来た慣性のまま、息絶え転がっていく。

「…………ふう」

 もう動かないことを確認し、さらに周囲に敵影が無いことを確認して、ようやく息を()く。

 

 想像以上に想像通りなことに、思わず苦笑する。

 

 ハンターにとって観察とは地形把握と合わせて最も重要な技能の一つだ。

 相手の習性や行動パターンを知ると言うのは、身体能力に劣る人間が、モンスターに勝つための必須事項と言っても良い。

 例えば先ほどの場面。私は事前の観察により、ドスランポスが何度あの場所を通っても、ランポス三体はあの場所から動かなかったことを事前に見ていた。その奥には巣らしきものがあり、だからあの場所を守っているのだと理解する。

 つまりあの三体は、次にドスランポスが移動する時もついてこないだろう。

 さらに、ドスランポスも、敵と戦う時に一度後退し、次に飛び掛りをしてくる攻撃パターンを多かったのを何度か見つからないように確認している。

 ただしこの場合、後退しても飛び掛りをしてこない場合もある、してくる場合としない場合の違いを観察して気づいたことは、距離だ。つまり、後退すると飛び掛ってくるのではなく、ある程度以上の距離が開くと飛び掛ってくるのだと言うことが分かった。

 さらに観察して分かったことを言うなら、ドスランポスはファンゴの突進を食らうだけでよろめくことがある程度の防御力しか持たない。一度強化したこの黒刀ならば、容易くよろめかせることができると言うのは自明の理だ。

 飛び掛りと言うのは一見恐ろしい攻撃に見えるが、その実、直線的に突っかかってくるだけの攻撃だ。

 きちんと備えていれば、すれ違い様に一撃叩き込むのは容易い。

 それであっさりと即死したのは予想外と言えば予想外だったが、万が一逃走しても、逃げ道にはシビレ罠を張っていたので問題無い。

 

「………………周囲問題無し」

 

 やってくる敵の姿が無いのを確認し、ドスランポスの剥ぎ取りを行う。

 ハンターの暗黙の掟で、全ての素材を剥ぎ取ることは厳禁だ。なので、必要となりそうな爪や皮などと言った素材だけを剥ぎ取っていき、後はその場に捨て置けば、勝手に自然に返る。

 

 思ったよりも簡単だったな。

 

 それが感想。これが初めての中型モンスターの退治だったので、少しだけ緊張したが特に問題は無かった。

 新人が小型モンスターの討伐に慣れた頃に中型の討伐に望み、慢心してそのまま帰らぬ人となる、と言うのは良くある話だが、残念ながら油断するような性格もしていなければ、いきなりサイズの増した敵に恐怖し動けなくなるような可愛げのある性格もしていない自分には、事の他簡単に思えた。

 

「これも…………慢心かな?」

 

 少しだけ気を引き締める。油断してはならない、死にたくなければ。

 死んではならない。自身には目標があるのだから。

 

 あの人を見つけるまでは、死ぬわけにはいかない。

 

 自身の目的を思い出し、そうして一層心を引き締める。

 見れば先ほどの洞窟の入り口とは別の入り口からランポスがやってきている。

 

「さて…………狩りの時間だ」

 

 血拭った刃を再び鞘から抜き。

 

 そうして、再び走り出した。

 




言い忘れてましたけど、オリジナル設定とかオリジナルスキルとかいっぱい出ますよ。

あと、サブタイトルで「神様転生かよ」とか思った人は、ハーメルンに毒されすぎです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話 繋がれた手

やべー、モンハン書いてて楽しすぎる。

ヌイヌイ二次の四章のプロット考えてるけど、なんか行き詰ってるので、気晴らしにこっち書いてみたら楽しすぎて困る。


 

 この世界は場所によって文明の落差が大きい。

 噂に聞く王都のほうへと行けば見たことも無い優れた技術をふんだんに使われた煉瓦の町並みの栄えた文明があるのだろうが、自身の住むチッチ村などの田舎町では未だに茅葺(かやぶき)屋根の木造建築だ。

 村で一番大きな建物と言えば、村長(むらおさ)の家。それにしたって他の家二つ分も無い程度の大きさだ。

 民家など親子三人が暮らすのすら少し手狭だと言うほどの狭さ。雪が降り積もるチッチ村では屋根は急勾配が必要になる、故に家自体もそれにあわせて作られているため、どうしても手狭になるし、それを広く作る技術も無いのだ。

 チッチ村は雪山の麓にある村だ。だから、基本的に年中寒いし、雪が溶けることもあまり無い。

 だからマフモフコートなど防寒具は必須装備と言っても良い。

 特に、雪道を歩くときはマフモフブーツは必須だ。滑り止めにもなるし、簡易的なアイゼンの代わりにもなる。

 

 きっとそれは、最後の温情だったのだろう。

 

 雪山を歩いても寒くないようにマフモフコートを着せ、雪道で滑らないようにマフモフブーツを履かせる。

 

 もしかすれば、それは悪意なのかもしれない。

 

 そこにたどり着くまでに凍死しないように、雪道で滑って転落死しないように。

 

 だって。

 

 ()()()()()()()()()

 

 チッチ村が送り出した、神への生贄。

 古い古い因習だ。古き神の怒りを沈めるために村人から生贄を差し出す。

 良くある話だ……………………昔話程度になら。

 それを現代になってもやってしまうのがチッチ村だ。

 

 だから最初に言ったのだ。

 

 この世界は場所によって文明の落差が大きい、と。

 

 ど田舎のチッチ村には未だに生贄なんて風習がある。最もこれまでそれをしたことは無かった。

 何故なら古き神は眠りについていたから。

 だが何の因果か、目覚めてしまった。神の目覚めは沸き起こる雪崩から始まった。

 ただの一度で村の半分を飲み込んでしまった雪崩。村人の三割が雪崩に巻き込まれ、村は壊滅的打撃を受けた。

 だから、生贄なんて因習に縋ったのかもしれない。

 

 それに、ちょうど孤児が一人そこにいた。

 

 タイミングが悪かっただけなのかもしれない、それとも結局こうなっていたのかもしれない。

 振らないサイコロの目は出ない。予想の結果など、現実には何の意味も持たないのだ。

 かくして自身は生贄に選ばれた。

 そのことに対して、どうこう言うつもりは無い。

 ただの気休めでも良い、ただ今のチッチ村には…………雪崩により隣人の多くが死んでしまったあの絶望の村には、僅かでも良い救いが必要だったのだ。

 母が死んでから、どうして生きているのだろう、と思うことがある。

 そんな自分だからこそ、生贄と言うその行為に対して、是非は無い。

 一年もの間、村の人たちに助けられて生きてきたのだ、最後くらい村の人たちのために死んでも良いかもしれない。自身の認識なんて、その程度だ。

 

 雪山には多くのモンスターが住み着いている。

 けれど、今だけはそのモンスターたちも出てこない。雪山深奥に続く雪道には、ギアノス一匹、ブランゴ一匹居はしない。

 深奥にて目覚め、唸りを上げる神の存在を本能的に悟っているからだ。その威圧を恐れ、あらゆる生命は雪山の中で身を隠している。

 だからこうして、子供の身でもたどり着ける。

 

 雪山の深奥。山頂、では無い。深奥。チッチ村の中でも限られた人間だけが知る隠された道を通った先にある…………神の眠る場所、否、眠っていた場所。

 

 たどり着いたその場所で…………。

 

 

 一人の男が、神に刃を向けていた。

 

 

 * * *

 

 

 大怪鳥イャンクックの討伐は新人ハンターとベテランハンターの分かれ目といわれている。

 基本的に大体のハンターギルドではこれを討伐できて、初めて一人前のハンターとして認められることになるのだ。

 イャンクックの武器は、強力な蹴り足と鋭い嘴、そして口から吐き出す灼熱のブレスだ。

 だから、正面に立つことは、ほとんど自殺行為と言っても良い。

 さらにこれまでの敵と違い、閃光玉で目を眩ませても見えないながらにやたらと暴れて、攻撃してくる。

 闇雲に武器を振り回していて勝てていたこれまでの敵とは違い、初めて敵の行動を観察し、その攻撃方法を研究し、弱点を探し、攻略方を見つけ出す必要が出てくる。

 つまり、これからハンターとしてやっていくために必要なことの基本が初めて必須となるモンスターだと言ってもいい。

 逆に、しっかりと敵を観察し、研究し、攻略法を考え出せるハンターなら、ろくな装備が無くても倒せる程度の大した強さも無い敵でしかない。

 確かにブレスは強力だが、単発な上に飛距離も無く、範囲も狭い、簡単に避けれる程度のものでしかない。それでも当たれば直撃した部位が大火傷する程度の威力はあるが。

 因みに義兄に教わったが、鉄鉱石などを投げつければ、誘爆させて防げるらしい。石ころでは一瞬で溶解するだけなので防げないらしいが。

 何故こんな話をしたのか、察しの良い人ならもう気づいていると思うが。

 

 私の目の前にイャンクックがいる。

 

 黒刀を振りかぶる。自身の存在に気づいたイャンクックが振り返り。

 その顔へ一撃見舞う。

 

 ィィィィィィ、となんとも形容しがたい鳴き声で、イャンクックがよろめく。

 その隙を逃さず二撃、三撃と加えていく。

 鋭く研ぎ澄まされた刃によって刻まれていく傷跡に、イャンクックが堪らず翼をはためかせる。

 風圧によって体が押し戻されるより早く、伸ばした刃がイャンクックの翼を僅かに切り裂く。

 ギャァァァァァァ、とイャンクックが悲鳴を上げ、地に崩れ落ちる。

 

 ハンターとモンスターを比べた時、その頑丈さ、力強さ、持久力などれを取ってもモンスターのほうが圧倒的に有利なのは自明の理だ。

 けれどその中でも飛びぬけてモンスターが有利で、人に不利なものがある。

 それが、空の利だ。

 イャンクックなどを含める鳥竜種、リオレイアなどを代表とする飛竜種、そして伝説や災害と呼ばれる古龍種などは翼を持っていることが多い。そう言ったモンスターたちはその巨体でありながら、飛行することができる。

 人間も気球などを使えば空を飛べる。だが生身で空を飛んだと言う話は聞いたことが無い。

 つまり空と言うのは、未だにモンスターたちの領域なのだ。

 一度飛ばれてしまうと、ガンナーでも無ければ攻撃方法すら無いのが現状だ。太刀装備の私には攻撃手段は皆無と言っても良い。

 だが逆に飛ぶ瞬間と言うのは存外バランスを崩しやすい。

 普段中々転倒しないモンスターであっても、飛ぶ瞬間に上手くダメージを与えることが出来れば呆気なく墜落してしまうことも多々ある。

 と言っても、それをするには風圧を耐えるだけのスキルか、風圧に襲われるより早くタイミング良く攻撃できるセンスが必要になるのだが。

 だがこうして上手く攻撃できれば、大きな隙が出来るので、効率良くダメージを与える絶好のチャンスとなる。

 そのチャンスを逃さず、立ち上がろうとしても中々起き上がれず、もがき苦しむイャンクックの頭部を目掛け、二度、三度と太刀を振るう。

 そうして二撃、三撃と斬ると大怪鳥の嘴に大きな傷跡が残り、イャンクックが悲鳴を上げる。

 がくん、とイャンクックの膝を落ちる。そのせいか、その大きな顔の後方にある耳が上手い具合に狙える位置に来る。

 好機、とばかりに自身が現状持てる全ての力と技術を振り絞り、耳を狙う。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【一閃+1】+【剣術+1】

 

 びゅん、と風を斬って振るわれた一刀は、呆気なく大怪鳥の耳を切り裂く。

 部位破壊完了と言ったところか、耳を破壊して討伐してやると、ハンターギルドで少しばかり功績の色が付くのでチャンスがあれば狙っていきたいと思っていたところだ。

 さらに言うなら、イャンクックの耳は武器防具の素材にもなるので、後で回収しておこうと内心で呟く。

 耳を破壊されたイャンクックが、絶叫し、その顔が赤に染まっていく。

 

 俗に言う怒り状態、と言うやつである。

 

 ほぼ全ての中型大型モンスターはある程度以上のダメージを与えると、その様子を一変させる。

 自身の命を危機を感じた状態、つまり興奮状態であり、そうなるとだいたいのモンスターがその容姿になんらかの変化が見られる。イャンクックで例えるなら、顔に赤いラインが入ったりする。

 この通称“怒り状態”では、通常よりも高い能力値を示すことがあり、特に攻撃性は非常に高まり、凶暴になる。

 逆に、攻撃一辺倒に偏るせいか、肉質が柔らかくなり、通常よりもダメージが通りやすい、などと言う敵もいる。

 

 少しだけ話はずれるが、エスピナスと言うモンスターは全身を非常に硬い甲殻で覆われており、普段はどうやっても武器を弾かれるの硬さを見せる。と言ってもその状態では一切の攻撃はせず、攻撃してくるハンターを無視し、歩いたり、身じろぎしたりする程度である。

 だが一度怒るとそれまでの大人しさと反比例するような尋常ではない凶暴さを見せることになる。それと同時に、どんな武器を使っても弾かれていた強固な甲殻が柔らかくなり、ある程度以上の切れ味のある武器なら攻撃が通るようになる。

 そのため、このエスピナスは怒らせた状態が通常、と言っても過言ではない。

 

 とまあ、そんな一風変わったモンスターもいるのだが、こう言った例もあるため、怒り状態を見極めると言うのは非常に重要なことだ。

 怒り状態で一番重要なことは、何よりもモンスターの敏捷性が上昇することだ。

 それまでと同じように構えていたのは、その速度差に付いていず、怒りで攻撃力の上昇した一撃をもらい大ダメージを負うことが多い。

 だから、ここからは私もギアを切り替える。

 

 ホォォォォォァァァ

 

 イャンクックが絶叫し、口から可燃性の液体ブレスを吐き出す。

 当たれば大火傷は必至、だが当たらなければ問題無い。

 

 【体術+1】+【回避性能+1】

 

 元々攻撃範囲も狭く、しかも飛距離も無い攻撃だ、直前の動作さえ見切れれば避けるのは容易い。

 お返しとばかりに、こちらも太刀を振るう。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+1】

 

 怒り中のモンスターに避ける、と言う概念は無い。元々、サイズの違いから回避と言う選択肢を選ばないのがモンスターたちだ、あっさりとその顔面を切り裂き、イャンクックを鮮血で染める。

 その一撃でイャンクックが腰を落とす。またよろめいたか、と思ったが、直後に違うことに気づく。

 足に力が込められている、瞬間、次の攻撃が予想でき、横っ飛びに緊急回避(ダイブロール)する。

 

 【体術+1】+【回避性能+1】

 

 同時に、イャンクックが甲高い声を上げながら、突進してくる。

 だが予兆動作を見切っていた私は一瞬早くその場から離れており、突進は当たらなかった。

 と、同時に全力の突進によりイャンクックが滑り込むようにして止まり、隙を晒していたので背後から縦に切り裂く。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【剣術+1】

 

 背中の鱗を割って、ずぶり、と太刀がその背を切り裂く。

 瞬間、イャンクックのボロボロになった耳が収縮していく。

 ようやくか、と内心で呟きつつ、太刀を収める。

 普通の太刀使いと言うのは太刀を背に負って使うのだが、私はいつも腰に下げて使っている。

 理由は簡単で…………そのほうが自身の切り札が使いやすいからだ。

 

 【気刃放出斬り】+【抜刀改心】+【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【一閃+1】+【剣術+1】

 

 自身の持てる全ての技術を結集した必殺の一撃が、起き上がったイャンクックが振り向くと同時に放たれる。

 その顔面に一撃が直撃する、と同時にその巨体が力なく崩れ落ちていく。

 倒した、とは思うが少しだけ下がって様子を見る。

 そうして数秒観察し、けれどもう完全に動かないことを確認して、ようやく警戒を解く。

 周囲を確認し、敵が居ないことを確かめる。

 この洞窟はランポスの巣とも近いこともあって、たまに洞窟内の空洞からランポスが降ってくることがある。

 いまさらランポスの一匹や二匹、問題ないだろうがそれでも油断はならない。

 そうして周囲を警戒しながら私は、イャンクックの剥ぎ取りを始めた。

 

 

 * * *

 

 

 神を殺した男の名を、カイ・ブランドーと言った。

 ハンターと言う存在を初めて知ったのは今よりもさらに幼い頃。

 母曰く、自身の父もまたハンターだったらしいが、母はそれをあまり良く思っていなかったらしい。

 私の父は私が生まれて程なく死んでいる。その理由もまたハンターとしてモンスターの討伐中に死んだから。

 元々ハンターと言う職業に対して良い感情を持っていなかった母に、トラウマ的記憶を刻み込んだ一件。

 そんな母を見て過ごしたからか、私もまたハンターと言う職業に良い感情を持っていなかった。

 否、ハンターが…………と言うよりも、命の危険がある職業を忌避していた。

 何よりも母を思っていたからこそ、母を置いて死ぬ危険性のあるような職業は嫌だった。

 さて、そんな私が出会ったハンターは、最強で、最高で、至高だった。

 けれど何よりも――――――――

 

 神をも殺すその強さよりも、

 

 人々に賞賛されるその名誉よりも、

 

 有り余り持て余すその財よりも、

 

 何よりも、

 

 あらゆる理不尽を、不条理を踏破し、一蹴し、運命を、道を切り開くその姿に憧れた。

 

 

 どうしてこんなところに?

 雪山の深奥。死せる神の前で、ただただ驚くばかりの自身を見て、男…………カイが尋ねる。

 そうしてようやく正気戻った私は、ここに至る経緯を話す。すると、カイが眉をしかめ。

 くだらない、そう呟いた。

 くだらない、そんな風習、そう言えるのは彼だからだ。

 今も風習と因習に縛られ生きる人間と言うのはどこにでもいて、彼らがそれに縛られるのは弱いからだ。

 

 運命に立ち向かう力も無く。

 

 運命に抗う気概も無く。

 

 運命を打倒する強さも無い。

 

 得てして人間とはそう言うものである。だから私はそれを理不尽だとも、不条理だとも思っていない。

 本当に理不尽なのは、本当に不条理なのは、突如目覚め村を壊滅させた神であり、それを生み出した自然である。

 けれどあらゆる理不尽を凌駕し、不条理を踏破する彼にとってそれは余りにも勘に障るものだったらしい。

 

 神とやらなら倒した、だからお前は村に戻れ。

 

 そう告げる彼に対して、けれど私はもう村には戻れないことを告げる。

 雪崩により壊滅的な打撃を受けたチッチ村にとって、私のような石潰しを置いておくような余裕は無い。

 この生贄はある意味、口減らしも兼ねているのだ。

 そう冷静に告げる私に、カイはだったら、と呟き。

 

 お前、俺のところに来いよ。

 

 そう告げた。

 

 数秒考える、けれどそんなもの、考えるまでも無く。

 

 よろしく、そう告げた自身に、ああ、と笑って手を差し伸べる。

 

 一瞬その行動の意味を理解できず、目をぱちくり、とさせる私だったが、すぐに思い当たり。

 

 差し伸べられた手を取る。

 

 そうして二人の手と手が繋がれる。

 

 あったかい。

 

 それは、久々に感じた人の温もりだった。

 

 




なんとこの作中、一度も「 」の台詞が無いことに途中で気づいた。
つうか、自分で書いててこんな五歳児やべえわ、と思った。
面倒くさくなったらきっとそのうち転生者とか適当な設定つけるかな(

まあそれはさておき、主人公紹介。


称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+1】【スタミナ急速回復小】【防御+30】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+1】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】



ちょっとした解説。

モンハンのウィキ見てて、スキルの説明で、装備の機能性から得られるもの、みたいな感じに書いてあったんですよ。
例えばマフモフ装備なら全身あったかいから耐寒スキル、身軽な軽鎧なら動きやすいから回避性能とか、防御+10とかはその分鎧が厚いとか、代わりに重いからマイナススキルが付く、みたいな感じですね。
つまり装備によって得られる機能性を指して【装備スキル】として設定しました。

逆に剣術とか見切りとか、なんで装備で得られるの? って意味不明な技術的なスキルは装備無くても技術として習得可能、と言う設定にしました。主人公の場合、年中雪の降る寒い地方に住んでるから寒さには強いだろうから【寒さ半減】、雪にもなれてるだろうから【耐雪】、そして逆に暑さには慣れてないだろうから【暑さ倍加小】とか。
こういう本人が習得している技術的なものを総称して【習得スキル】として設定しました。

装備スキルは装備を変えることでしか成長しませんが、習得スキルは何度も使ってれば上位スキルになります。攻撃回避しまくってたら回避性能+1→回避性能+2とか。
ただ、習得スキルは技術的なスキルなので、発動に失敗することがあります。【一閃+1】とかもろにそれですね。

この世界のハンターはこう言った習得スキルをけっこう持ってます。
特にG級ハンターともなると、ゲームだったらチートだろって言いたくなるくらいいっぱいスキル持ってます。
でも逆に狩り自体はゲームよりシビアになってるので、バランスは取れてます。

だいたいおかしいと思う。なんでグラビーム浴びてハンターは生きてるの(
鎧部分はまあ良いとするけど、露出する部分は絶対にあるはずだから、あんなのくらったら一瞬で炭にならないとおかしい。
装備揃えるとクックの炎ブレスとかほとんどダメージ食らわないけど、そんなのこの小説の現実には無い(
なのでガードよりも回避のほうが非常に重要になってきますこの小説内だと。

実際、モンハンウィキでもグラビームとか、一瞬で炭化する、とか書いてある。なんでハンター大丈夫なのよ、と言いたい。
あと密林のベースキャンプにある崖、あんな軽く五十メートルくらいはありそうな崖からダイブして無傷とか普通にねえよ(
というわけでゲームよりその辺は厳しくやってきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話 沼地の毒怪鳥

まさかの二部構成。
三話だけで終わらなかった(


 

「カタナとは、刃だ」

 

 そんな当たり前のことを、あの人は私に呟く。

 

「斬れば切れる、振れば裂けるし、突けば刺さる」

 

 要は凶器だ。そう言って、私に一振りの太刀を握らせる。

 あの人にとっては刃渡りの短い短刀と読んだほうが差し障りの無いものでも、まだ十にも満たない私にはそれはとても重く、けれど頼りがいのある確かな力だった。

 

「俺たちの敵は強大だ。力では敵わない。頑丈さでも敵わない。素早さでも敵わないし、持久力でも敵わない」

 

 無い、無い、無いの無い無い尽くしだ。

 それでもたった二つ、自分たちが勝るものがある、とあの人は言う。

 

「刃と罠だ」

 

 今にして思えば、それは比喩の話だろう。

 刃とはつまり敵を打ち倒すための爪牙、人の爪牙とは鍛造された武器であり、それを扱う技術。

 罠とはつまり敵を陥れるための知恵、人の知恵とは生み出される数々の道具であり、それを使った戦術。

 つまり、ハンターとして必要な全てがそこにある。

 

「けれどそれだけじゃハンターとしては失格だ」

 

 敵を打ち倒すための刃と、敵を陥れるための罠。この二つがあっても、それでも足りないと言う。

 それが何なのか、その時の私には分からなかった。

 首を傾げる私に、あの人が笑って言う。

 

「意思だ。狩ると言う意思、己が手の中にある刃で、敵を殺すと言う意思、獣の爪牙を潜り抜け、生きて戻ると言う意志。意思こそが、ハンターの最も重要で、最も大切なものだ」

 

 そして、それこそが私が求めた――――――――

 

 

 * * *

 

 

 足元に広がる毒の沼を見て、顔を顰める。

 崖状の足場は、けれど眼下までそれほどの高さは無い。

 精々3,4メートルほど。常人ならともかく、訓練されたハンターなら問題無く降りることができる程度の高さ。

 だがその降下地点が毒沼、となるとさすがに尻込みもする。

 

「……………………迂回しましょ」

 

 誰にとも無く呟き、来た道を戻っていく。幸い、と言うべきかすぐ傍にある洞窟からぐるりと回っていけば別の出口から同じ場所に来れる。

 洞窟に入ると、視界が急に悪くなる。星の明かりも月の光もほとんど届かないのだから、当たり前だが、幸いと言うべきか気配察知で周囲に何がどこにいるのかは大体分かる。

 

 群晶(クラスター)に含まれたライトクリスタルが僅かに届いた入り口からの光で輝き、僅かな明かりをもたらしているため記憶した地形と照合しながら進めば道に迷うことは無さそうだが、それでもこの暗さは中々に骨が折れる。気配と音で奇襲は無いと分かっているが、それでも見えないと言う状況は神経をすり減らす。

 

「…………ここだったかな?」

 

 岩壁に生え茂る丈夫な蔦を掴み、そろりそろりと登っていくと、上方から僅かに光が漏れる。

 どうやら記憶通り、ここから外に繋がっているような、と安堵の息を漏らし登り切る。

 洞窟から出ると、先ほどまでの暗闇(くらやみ)から一転、星の明かりと月の光が辺りを照らす。

 書物を読むには暗いが、それでも辺りを見渡すには十分に明るい。ハンターをやっていれば、自然と薄闇の中でも目など慣れてくるものだ。

 

 そうして辺りを見渡せば、そこは中々に広い場所だった。

 四方を岩壁に囲まれた横長の構造で、両端には毒の沼が広がっている。

 踏み入れるだけで体を蝕まれ、一呼吸すれば肺が焼ける。地中に溜まった毒が地表に滲み出た濃厚で濃密な毒だ、即座に死ぬような毒ではないが、それでもかなり体力を消耗するし、最悪後に残るかもしれない危険性があるので、出来る限り遠慮したいところだ。

 

 そしてその毒の沼の周囲に数体のモンスターの姿が。

 あれはゲネポスとイーオスだ。

 

 ゲネポスは、体内に麻痺毒を溜め込んだランポスの亜種で、緑とオレンジ色の縞模様に口外にまで伸びている二本の牙、そして一対のトサカが特徴だ。

 牙や爪には大量の麻痺毒が染み出しており、自身の十倍の体重の生物ですら数秒で動けなくしてしまうほどの強力な毒を攻撃と同時に送り込んでくる。

 ランポスなどとは比較にならないほど危険な存在であり、そのためハンター養成訓練所では毒物耐性…………特に麻痺毒と催眠(さいみん)毒に対する耐性を付けることは義務付けられており、そのお陰でだいたいのハンターはこの麻痺毒を食らっても長くても十秒程度で痺れが取れる。

 だが稀に訓練所を出ていないハンターが、これを食らい、生きたまま食われると言う絶望を体験し、しかもこの毒、筋弛緩など運動機能の阻害だけを目的とし、五感など感覚は一切阻害しないので、激痛と恐怖のあまり想像を絶するような凄絶な表情で死んでいることが稀にある。

なので、基本的にハンターを目指す以上、訓練所を出ていなくても耐性を持つことは必須事項と言える。

 

 イーオスは、体内に猛毒を溜め込んだ同じくランポスの亜種で、毒々しい赤色の鱗とせき込むような鳴き声が特徴だ。

 他のランポスの亜種とは違い、足には鉤爪を持たず、手にも二本しか指や爪が無く、牙の本数も少ないなどと多少毛色が違う。喉元に出血性の強力な毒を生成する袋状の内臓器官を持っており、ここから作り出される毒液を武器とする。

 この毒こそがイーオス最大の特徴であり、最大の脅威だ。牙を通して毒を打ち込んだり、時には喉を通して直接原液を吐きかける事もあり。この毒が傷口に侵入すると、その傷を徐々に悪化させて獲物の体力を奪っていく。

 沼地にある毒沼よりもさらに凶悪な毒であり、完全なる毒への耐性を持っていなければ、絶対に食らいたくない、もしも食らってしまったら即座に解毒薬か漢方薬を飲んで治療しないと危険、と言えるほどのものである。

 

 因みにゲネポスもイーオスも、その牙から取れる毒はモンスター相手にも有効なので、危険ではあるが有用なアイテムとして剥ぎ取り素材に数えられる。

 予定としてはこの広場で標的の相手をするつもりなので、先に狩っておいたほうが良いだろう。

 そろり、そろり、と忍び足で敵に近寄る。最近になってギルドで気配を殺して相手に近づく隠密の方法を習ったのだが、早速役に立つ時が来たようだった。

 

 とは言え、さすがに近づけば近づくほどに気づかれやすくもなる。太刀が届くまであともう数メートルと言ったところで、敵がこちらに気づく…………と同時に駆け出す。

 モンスターを相手に、特に小型のモンスター相手ならば先手必勝と言うのは非常に良くハマる。

 数の多い敵を相手に受けに回っていては、いつまでたっても攻撃に転じれないどころかそのまま数の差に負けて押し込まれる危険性すらある。

 

 だからこそ、気づかれると同時に地を蹴り一息に間を詰める。

 腰に差した太刀を抜き、そのまま居合い一閃。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【一閃+1】

 

 振りぬかれた太刀が、ゲネポスの体を易々と切り裂き、真っ二つに両断する。

 絶命の声を上げることすら出来ずに崩れ落ちた仲間の死体を見て、ゲネポスとイーオスがギャァギャァと騒ぎ出す。

 だが。

 

「もう、遅い」

 

 そのまま縦に振り下ろす、イーオスの後頭部に直撃し、刃が首に減り込む。明らかな致命傷にイーオスと崩れ落ちるに併せて刃を抜く。

 だが相手とて棒立ちのままではない、こちらへとゲネポスが襲い掛かってくる。

 麻痺毒が染み出す爪を振りかぶり…………。

 

「っ!」

 

 下から掬い上げるように振り上げた右足が、ゲネポスの腹に直撃し、ゲネポスが仰け反る。

 その隙にイーオスの首から刃を抜き、その勢いのまま裏蹴りを放ち、こちらへ毒を吐きかけようとしていたもう一体のイーオスの首を吹き飛ばす。

 鋼鉄製の重い足防具に覆われた一撃はイーオスの伸びきった首を捻り、ボキリとその骨が軋み、砕けた感触を伝えてきた。

 

 あと一体。

 

 先ほど蹴り上げたゲネポスが飛び掛ろうとしていたのを見て、そのまま太刀を振りかぶり…………振り下ろす。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+1】

 

 スパッ、と脆くも切り裂かれた鱗が弾け飛び、ゲネポスの肉を刃が切り裂き…………そのまま転がっていく。

 血の滴る刀身を振って軽く血を落とし、布で拭ってやる。

 周囲を見る、敵の姿は見当たらない。どうやらここにいたのはこの四匹だけだったらしい。

 気配探知で探すが、近くに敵らしきものは感じない。と言うことは少しの間は安全だろう。

 

 すぐに手持ちの道具の中から砥石を取り出し太刀を研ぐ。

 数度強化し、切れ味も増しているものの、それでもまだまだ未完成と言っても良い。

 こうしてこまめに手入れしてやらないと、いざ大型モンスターの目の前で切れ味が鈍ったりしては生死に関わる。

 そうして何度と無く刀身を磨き上げ、切れ味が戻ったのを確認していると。

 

 ばさっ、ばさっ、と言う羽ばたく音が聞こえる。

 気配探知にも大きな気配が引っかかっている、どうやら待ち望んでいた相手がやってきたらしい。

 

 ギャァァァァ!!

 

 相手もこちらに気づく。

 一対の翼、藍色身を帯びた表皮、丸く細長い尾、そして頭部のトサカ。

 名前を毒怪鳥ゲリョスと言う。

 他の鳥竜種とは違い、鱗を一切持たないと言う不思議な特徴を持つ鳥竜種だ。

 

 かと言って防御力が低いかと言われるとそれもまた違う。

 ゲリョスの大きな特徴の一つとして、その皮膚が上げられる。

 弾力に富むゴム質の皮をしており、打撃系武器の攻撃はほとんど通らず、また斬撃系武器や刺突系武器の攻撃もある程度以上の鋭さが無ければ表皮を撫でることしかできないと言う厄介な性質を持つのだ。

 

 地上に降り立ったゲリョスがこちらへと向き直り、威嚇の叫びを上げる。

 自身の数倍の背丈の怪物の叫びを前に、けれど眉一つ動かさず太刀を握る。

 ゲリョスがその強力な蹴り足で巨体を軽々と持ち上げつつこちらへと飛び掛る。

 だがその攻撃方法はすでに見知っている。ゲリョスの蹴り足の強さは有名だ。

 

 だからこそ、それを読み切っていたからこそ、前のめりに転がる。

 ゲリョスの脇へと避けるように転がると、自身の横をその巨体が過ぎ去っていく。

 すぐさま立ち上がり、こちらへと背を向かえるゲリョスの、その尾へと太刀を振り下ろす。

 ざくり、とその柔らかくも弾力性のある尾に斬線が刻まれる。

 伸縮するこの尾は、ゲリョスの各部位の中で最も斬撃でダメージを与えやすい、この程度の個体の尾では素材としての価値は無く、切り落とすのも難しいのだが、それでもダメージを与え、体力を削り取ると言う意味でならこの尾への攻撃は非常に有効になる。

 

 一閃、二閃と斬撃を重ねるたびにゲリョスが悲鳴を上げる。

 だがゲリョスとてむざむざ攻撃されたまま黙ってはいない。

 その巨体に勢いをつけて回転を始める。遠心力に引かれ、その尾がぐいぐいと伸びる。

 長くしなやかな鞭のような太い尾、それが回転しながらこちらへと向かってくる。

 咄嗟にしゃがみこむ。ゲリョスの背が高いので、こうすれば当たらない、と考えたのだが…………。

 

「っぐ……ぁぁ……」

 

 尾がしなり、絶妙な軌道を描いて自身の顔面へと直撃した。

 幸い直前に両手でガードしたが、それでも吹き飛ばされ、地面をごろごろと転がる。

 

「…………つぅ」

 

 ここ最近の狩りで初めてまともに食らった一撃に、衝撃が隠せない。

 だが動揺は驚くほど少ない、元々恐怖心と言うものが欠けているきらいがあったせいか、こう言った場面でもすぐに冷静に動けるようになる性質(たち)なのだ。

 

 慌てることなく体を起こし、立ち上がる。

 こちらへと狙いを定めたゲリョスが再び飛び掛ろうとするので、サイドステップ。

 バックステップでは恐らく飛距離で負けてあっさりと捉えられるだろうことは分かりきっている。

 だが蹴り足で爆発的な飛距離を生み出す反面、その動きは直線的なものに限られているので、直前のサイドステップで簡単に回避できる。

 

 だが脚力に優れると言うことは、爆発的な突進力と同時に想像を絶する制止力をも持つと言うことだ。

 こちらが攻撃を回避したのと同時、即座に地面を蹴りつけて勢いを止める。

 すぐさまこちらへと振り返って再び飛び掛ってくる。

 

 厄介な、内心で思わずこぼす。

 あの急激なストップアンドゴーは非常に厄介だ。最悪こちらがサイドステップを終えるより先に相手が再び動き出す、なんて展開もあるかもしれない。

 早急に対処しなければ、と思うが、差し当たって考え付くのはあの足を攻撃してみること。

 即決で結論付け、再び飛び掛ってくるゲリョスの脇を再度くぐり、すれ違い様にその足へと太刀を薙ぐ。

 

「かった…………ぃ」

 

 通りはする、がかなり固い。弾力性が高いと言うべきか、なんとも肉厚で、恐らく今の一撃も表層の一部しか切れていないだろう。

 これを歩行不能になるまで斬ろうとするならば、相当苦労することは必至だ。

 やはり当初の予定通り、尻尾を切り続けて体力を減らし、頭部でトドメを差す方向で行くしかないだろう。

 

 太刀を握り締める。

 先ほど研いだばかりの刃は、月の光を受けて鈍く光る。

 

 長い戦いになりそうだ。

 

 目の前でこちらを見つめてくる巨大な姿を見て。

 

 内心、そう呟いた。

 

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+1】【スタミナ急速回復小】【防御+30】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+1】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】NEW


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話 意思の刃

誰か俺にモンハン世界の地図を見せてくれ(


 

 振り抜いた刃がゲリョスの尾にまた一つ傷を付ける。

 お返しとばかりに吐きかけられた毒を、けれどバックステップで避けて一度間合いを広げる。

 サイドステップ、サイドステップと繰り返しとにかく正面に立たないように心がけながらその隙を伺う。

 飛び掛ってくるゲリョスの横をすれ違い、そのまま尻尾を切りつける。

 

 これで一体何度目か、十を数えたところで止めた覚えはある。

 そうこうしているうちに、ゲリョスが立ち止まる。まだこちらとの距離はあると言うのに。

 

「来た」

 

 思わず呟く。これで何度目かの攻撃パターン。さすがに理解する、次の攻撃は。

 カチン、カチンと自身の頭を振りながらトサカと嘴を何度と無くぶつけ合い…………。

 スライディング気味にゲリョスの真下に潜り込み、眼をきゅっと閉じる。十数メートルを越す巨体だ、人一人、まして女の細身がすっぽり隠れる程度の隙間をある。

 

 直後、夜の闇を切り裂き、閃光が放たれる。

 だがトサカから放たれた閃光はゲリョスの巨体に隠れた自身にはほとんど届かない。

 けれど、眼を開けば視界がチカチカとする。ここまでしてもこれか、と思うが、直視すれば気絶するほどの強烈な光なのだから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 

 眩む視界に舌打ちしながら素早くゲリョスの真下から後方に抜けて脱出する。

 起き上がりざまに尻尾に一太刀浴びせると、ゲリョスが悲鳴を上げて大きく仰け反る。

 そうして、体勢を立て直したゲリョスだったが、こちらを向いたと同時にトサカが明滅しだし、その眼が赤に染まっていく。

 

「怒った…………」

 

 ここからさらに厳しい状況が続くことになる。何よりも厳しいのはその俊敏性だろう。

 ただでさえギリギリのところで避けていたのに、さらに俊敏に動きだされては反撃の(いとま)すら見いだせなくなる。

 ゲリョスがこちらを振り返る。キッとこちらを一瞥し…………。

 

 次の瞬間、猛然とした勢いで飛び掛ってくる。

 

「っ!!」

 速すぎる、先ほどまでよりもさらに勢いを増すその攻撃に、咄嗟に横に転がって避けることしか出来ない。

 彼我の距離は五メートル以上あったはずなのに、僅か一蹴でその間を詰められた。

 その速度は察せる通りのものであり、そんな速度であの巨体が猛然と向かってくるのである、それだけで人一人殺すには十分過ぎる必殺の攻撃である。

 地を転がり、すぐ様起き上がる…………だがすでにゲリョスはこちらへと向き直っていて…………。

 

「ちっ」

 

 舌打ち一つ。即座に両手を交叉させ…………直後、とてつもない衝撃が体を襲う。

 ごろん、ごろんと体が四回転、五回転、六回転と転がったところでようやく止まる。

 不味い、と内心で呟く。あと二度か三度この攻撃をもらったら、体が動かなくなるか、意識が飛ぶ、どちらにしろ、末路は死だ。

 それは嫌だ。まだ何も為していないのに、まだ何も終わっていないのに、始まってすらいないのに。

 こんなところで終わるなんて嫌だ。

 

 きゅっと歯が食いしばり、起き上がる。

 

 猛然と向かってくるゲリョス。

 

 腰を落とす、刃を収める、その柄をぎゅっと握り締め。

 

「いい加減に」

 

 【気刃放出斬り】+【抜刀改心】+【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【剣術+1】

 

「しなさい!!!」

 

 振り抜いた一閃が、ゲリョスの頭へと直撃する。

 ギャァァァァァ、と悲鳴を上げ…………ゲリョスが崩れ落ちる。

 ドスゥゥン、と轟音を立てつつ、ゲリョスが地に倒れ伏す。

 

「倒……した……?」

 

 一瞬、安堵のため息を漏らしそうになり…………すぐ様気づく。

 

 ゲリョスってのは臆病なやつでな、やられる、と思ったら死んだ振りをしてハンターをやり過ごそうとする、もし戦うことがあっても、油断するなよ?

 

 昔、義兄がそう言って私に教えたことがある。

 と言っても、目の前で見るそれは本当に死んだようにしか見えない…………が。

 熟練ハンターですら見分けるのは困難と言われるような有様なのだ、新人の私がそう簡単に分かるようなものでもないのだろう。

 

 仮定、現状敵はまだ生きているとする。

 だとするなら、ここは一度退くべきだろう、先ほどはほとんど博打のようなもので上手く敵を退けたが、この状況でもう一戦しようものなら確実にやられる。

 中型上位のゲリョスの討伐目安期間は二日。あと一日あるのだ、今無理する必要も無い。

 

 最後に手持ちの中からペイントボールを出し、偽死行為をしているゲリョスへと投げる。

 これで行方を見失うと言うことは早々無いだろう。

 そうして少し重くなった体を引き摺りながら、私はベースキャンプへと戻っていった。

 

 背後で、ゲリョスが僅かに身じろぎした気がした。

 

 

 * * *

 

 

 握る太刀が重く感じる。

 目の前にいる子供の自身の数倍の大きさの化け物(モンスター)

 ランポスと言う名のハンターたちが狩るモンスターの中でも最弱の敵。

 けれどその爪は子供の柔肌をあっさりと引き裂き、自身を殺すだろう必殺の爪であり。

 けれどその牙は子供の脆い骨をあっさりと砕き、自身を殺すだろう必殺の牙である。

 

 どれほど弱い相手でも、死ぬ時はあっさり死ぬのがハンターと言う職業なのだとあの人は言う。

 

 だとすれば、目の前の敵を相手にあっさりと死ぬかもしれない、そんな恐怖は…………けれど無かった。

 何の恐怖も無く、憤りも無く、渇望も無く、躊躇いも無く、油断も無く、ただ淡々と間を詰め、太刀を振り上げ。

 

 そして振り下ろした。

 

 一瞬の早業。二年もずっと振り続けてきた太刀だ。もう自身の体のように馴染む。

 振り下ろした太刀は、ランポスの脆い鱗をあっさりと切り裂き、その肉をずたずたにする。

 悲鳴を上げ、仰け反る。怯んだその隙を逃さず、さらに一歩、間を詰めて…………。

 

 その首を跳ね飛ばした。

 

 間近で見ていたあの人が眼を丸くするくらいに。

 自分でやっておいて、なんだか現実味を無くすくらいに。

 

 あまりにもあっさりと。

 あまりにも簡単に。

 

 自身は初めて“生きた存在”を殺した。

 

 そしてそこには、何の感情も無く、感慨も無く、意味も無かった。

 

 

 * * *

 

 

 焚き火を起こすと冷えた体が温まっていくのを感じる。

 いくら気温も湿度も高い沼地とは言え、寒冷期に野外で眠ると寒いものは寒い。

 凍りついたかのように冷えた体が序々に解れていくような感覚。

 吐く息が白むほどでも無いが、やはり朝と言うのは冷え込む。

 特に、雨が降っているような朝は、余計に…………だ。

 

 携帯食料を齧りながら、太刀を抜く。

 ベースキャンプに戻ってきてから、血を拭い、砥石で研いでおいたので切れ味は戻っている。

 幸い刃こぼれも無いようなので、戦闘には支障は無いだろう。

 

 刃に意思を乗せろ、とは義兄の言葉だ。

 

 刃筋を立てろ、斬線を見切り、刃に意思を乗せろ。

「『そうすりゃあ、なんだって切れる』…………ね」

 そんなことありえるのだろうか、とも思うが、実際目の前で本当になんでも斬ってしまう義兄を見てきただけに、否定もし辛い。

 今の私にはまだそこまでの境地は難しいけれど。

「やるしかない…………か」

 そう一人ごちた。

 

 

 

 モンスターと言うのは傷の治りが人と比べて遥かに早い。

 人間の十倍近い速さでその傷を治していくと言われているが、けれどその体力とて最大値が底なしに大きいので結果的に割合自体は人間とそれほど変わっていないようにも見える。

 とは言っても、人と同じく、生物である以上、傷を治すにはある程度必要な行為がある。

 食事と睡眠だ。

 昨日あれだけ戦った以上、一晩や二晩で完治、とはいかないだろうから恐らくまだかなり傷は残っているだろう。疲労はともかく、傷はそう容易くは治りはしない。

 すでに朝、自然界で明るくなってからももたくさ眠いっては襲ってくださいと言っているようなものだ。

 恐らく今は食事に飛び回っているころだろう。

 

 狙い時である。

 

 生物と言うのは須らく睡眠中と食事中は気が緩んでいるものだ。

 居場所もだいたい察しはついている。食事、となれば居場所は二つに一つだ。

 エサとなるものがある場所か、水場か。

 ゲリョスと言うのは雑食性だ。最悪そこら中に生えた毒キノコだって食べるだろう。

 体内に毒の生成機関を持つだけに、そう言った耐性は高そうだし、まあ間違ってもいないだろう。

 山を張るとすれば水場、この辺りでそれがある場所と言えば…………。

 

 

 

 ベースキャンプを東寄りに北上していった先に、洞窟への入り口がある。

 自身が昨日飛び降りようとして毒沼のせいで止めた崖のある辺りだ。

 そこに川が流れており、水場を求めてケルビが集まってきている。

 いるとすればここだろう、と予想しながら近づくにつれて匂って来るその香りに予想が当たっていたことを確信した。

 

 ペイントボールは付着し、その中身を弾けさせると強烈な香りを撒き散らす。

 遠くからでも微かに匂って来るその香りは、近づくにつれどんどんその臭気を強めていく。

 だが自然界にもある植物…………ペイントの実と人の間で命名されたものを使っているせいか、ほとんどのモンスターはこの匂いを気にしないらしい。

 結果的に、見失ったモンスターを探すための分かりやすい目印として使われる。

 

 流れる川に顔をつけ、水を飲むゲリョスの姿を認める。

 

 影を置き去りするかのように、流れるような動きで疾走する。

 気配を薄める隠密スキルの影響で、ゲリョスは気づかない。

 さらに近づく、その距離はもう数歩で刃が届く。ゲリョスは気づかない。

 完全にこちらの射程に入った、その時。

 

 ギャァァァァ!!

 

 ゲリョスがこちらに気づく、だがすでにこちらは刃を抜いている。

「『刃に意思を』」

 まるで呪文のように、呟く。そうすれば何度と無く見てきた義兄の技巧に近づけるような、そんな気がしたから。

 斬、ありったけの意思を込め、カタナを振りぬく。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【剣術+1】+【??+1】

 

 その一撃は昨日の最後の一撃によって脆くなっていたゲリョスのトサカを両断する。

 体の一部を失ったゲリョスが大きく仰け反る、その絶好の隙を逃す自身ではない。

 返す刀でその翼を袈裟切りにする。さすがに切れはしないが、痛めつけることには成功したようで、がくん、と斬ったほうの翼が力なく崩れる。

 仰け反ったところに、さらなる一撃を食らったことにより、ゲリョスの体勢が一時的に止まる。倒れそうになる体を両の足で踏ん張っているような状態。

 

 昨日は固すぎてまともに斬れなかった。

 

 だが、今ならば。

 

 刀を真横に構え、そうして。

 

 ゲリョスの足目掛け、薙ぐ。

 

 【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 ひゅん、と風を切って刃が薙がれる、と同時にゲリョスの足が大きく切り裂かれ、痛みでゲリョスがバランスを失い、その巨体が地を転がる。

 二転、三転したところでその巨体が止まる。

 

「これで」

 

 だがその時にはすでに、私は刃を納め、体勢を作っている。

 

「終わり」

 

 【気刃斬り】+【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 一閃、二閃、三閃、四閃。

 刃を薙ぐごとにゲリョスの体が切り刻まれていき。

 

 五閃。

 

 振り下ろした刃がゲリョスの首を切り裂き。

 

 その生命を完全に絶った。

 

 

 * * *

 

 

 気球船と言うのは、現人類が唯一空を飛ぶ方法だ。

 当然ながら所有している人物、組織と言うのは限られており、その数少ない組織の中に、古龍観測所と呼ばれるものがある。

 その名の通り、古龍と呼ばれる災害級のモンスターたちの情報を集め、情報が入ってくると気球を飛ばし古龍の存在を望遠鏡などを使って確認するのが役目だ。

 古龍種と呼ばれる存在は、総じて災害に例えられるほどの破滅的な被害をしばしば人類にもたらす。

 その存在をどれだけ早く察知し、正確な居場所を捉え、警告を促すことができるか、と言うのはその地に生きる人間の生命にも関わる自体である。

 需要があれば必然的に供給もできる。そうしていつしか人が集まり、物が集まり、古龍観測所は大きな組織へと成長していった。

 

「ガセ、ですかねえ?」

 

 気球船から望遠鏡を覗く男が寒そうな震えた声で呟く。空の上から見える景色は森と山ばかり。そこに特に異常は認められず、空の上故に男が一人、寒さに震えるばかりだ。

 街を出発してはや一週間。観測所に入ってきた黒いモンスターの情報を確かめるためにやってきたが、それらしき影は一向に現れない。

 そんな男の後ろ、気球船のマストに背を預け、床に座って楽そうに足を伸ばす女が笑う。男とは違い、寒さに強そうなコートを羽織っており、随分と暖かそうだと男が睥睨する。

 

「まあ良くあることじゃないですか、今回も何も無かった良かった良かった、それでいいと思いますけど?」

 

 そう、女の言うとおり、実際こういうことは良くある。

 古龍と言う災害をいち早く察知するために作られた機関ではあるが、実際問題、古龍など早々…………いや、滅多に現れるものでも無い。

 そのため、寄せられた情報の大半がガセだったり、何かの見間違いだったり、と情報の真偽を確かめるために出向いた観測隊が徒労で終わることと言うのも多い。

 つまり今回もそうだった、と言うだけのことなのだろう。

 男だってこれまでに何度も徒労を味わった経験もある、そう考え、そろそろ帰還すべきだろう。

 

 そう考えた、その時。

 

 

 唐突に、眼下の森が爆発した。

 

 

「っ!?」

「なっ!!」

 

 木々が吹き飛び、広大な森の一部にぽっかりと穴が開いたような状況。

 そして、その場所から飛び出してくる黒い影。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

 男も、女も、声が出なかった。

 その黒い翼をはためかせ、我が物顔で空を飛行する竜に、けれど何のアクションも起こせないまま、それが過ぎ去っていくのをただ呆然と見つめる。

 

 圧倒されていた。その巨体から放たれる圧倒的な威圧感に。

 

 男は観測隊の中でも古株のメンバーだ。二十年近く観測隊に所属しているだけあって、古龍と呼ばれる存在を目視したことも何度かある。少々のことでは動じない自信もあるし、実際古龍が出てきたしても冷静に対処できるからこそ、こうして現場のリーダーを任せられている。けれど、先ほどの竜は、これまでに見てきた災害たちとすら、さらに一線を隔し、男が平静を保てないほどの圧倒的な威圧を醸し出していた。

 

 女は最上級のランクを持つハンターだ。観測隊の護衛、そして現地での調査のため雇われ、共にここまで来た。女が今の地位へと昇りつめるまでに、大小あわせて数百ものモンスターを狩って来た。何度と無く死にかけたこともあるし、これまでに見たことも無いような怪物と戦ったことだってある。だが、先ほどの竜は、それら怪物たちが可愛く見えるほどの威容と威圧を持って、女を圧倒していた。

 

 そして何よりも。

 

「なんだアレは」

 男が女へと振り返る。けれど女は無言で首を振る。

 

 なんだ、アレは。

 

 見たことが無い。

 

 

 これまでに幾度と無く観測されてきた古龍たち。

 そのどれにも当てはまらない、全く新しいモンスター。

 

 

 この日、観測隊が持ち帰った情報から、未知なるモンスター。

 

 

 通称“アンノウン”と称される黒い竜がメゼルポルタ地方各所で目撃されることとなる。

 

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+1】【スタミナ急速回復小】【防御+30】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】RANK UP【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】NEW









タグにもありますけど、オリ主スレッドのモンハンをベースにしてるので、オリジナルスキル、とかあります。
もう最近のフロンティアは、新スキルに溢れかえってて、今更な感じありますけど、まあそういうものが嫌な人は読むのをやめましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話 個人依頼

 

「はい、確かにダイミョウザザミの討伐確認しました」

 その一言にふう、と息を吐き。報酬を受け取って、受付カウンターを離れる。

 盾蟹の討伐クエストを受けてからおそよ三日。

 硬い甲殻に覆われたダイミョウザザミはその巨体とは裏腹に中々に素早く動く強敵だ。

 地面に潜り、足元から急に背中の巨大な殻ごと体当たりしてくる攻撃をまともに食らえば、自身など一撃で全身の骨が砕かれるだろう。

 例え逃げ出そうとも、両脚四本の脚を器用に動かし、見る間にその背を追いかけてくる俊敏さは中々に厄介で…………。

 

「まあ、脚一本落とせば後は簡単だったけれど」

 

 一部位を十度、二十度と斬り付け、切り落としてしまえば、後はバランスを崩し、爪を使ってのろのろと歩くだけのただの的だ。

 まあ潜行攻撃には気をつけなければならなかったが、それだってその巨体故に、スペース的に絶対に地上に出てこれない岩間などに隠れれば防げる。

 最悪防げずとも、浮上直前に地面が揺れるので、それを合図に背後に飛べばそれで威力は大幅に減少する。

 そうしてじわじわりと体力を削っていき、およそ半日かけてダイミョウザザミを倒した。

 

 基本的にクエストと言うのは対象となるモンスターを倒したら終了となる。

 それは、討伐したモンスターの素材の鮮度と言った問題などによるものであるが、何より狩場を管理するハンターズギルドの決まりだ。

 

「まあ今回は道のりが長かったわね」

 

 ダイミョウザザミの生息する砂漠までの道のりはそれなりに長い。特に、アプノトスの引く竜車は長距離を移動する持久力はあるが、速度の観点から見ると、首を傾げざるを得ない。

 結局、移動だけで一両日を使ってしまい、移動した先での敵を索敵などを含め、三日で行って戻ってきた、と言うわけだ。

 

「二週間で三つ目…………一週間くらい休養しようかしら?」

 

 この二週間、とある目的のためにクエストをこなしてきたが、少しハイペース過ぎるのは自覚している。

 基本的にハンターなど一週間に一度クエストに出かけるのが常だ。特に、現状で勝てるかどうかギリギリの大物など一月に一度あるかないか程度である。

 凡その人間にとってハンター業とは、あくまで生きる手段であり、そこに無意味の命を賭ける意味などありはしないのだから。

 

 街の大道りはいつものように賑わっている。

 雑多に通りを歩く人々の中には、自身と同じような装備に身を固めた人物がちらほらと。

 ハンターかもしれない、もしくは城の衛兵かもしれない、あるいはどこぞの商談の護衛かもしれない。

 まあどこの誰なのか、と言うのにはそれほどの興味は無い、だが彼ら、彼女らが身にまとうその装備を見て、思わず考えてしまう。

 

「そろそろ潮時かもしれないわね」

 

 そっと腰に差した太刀に目をやる。これまで幾度と無く使い続けてきた相方がそこにある。

 だがそれも限界だろう、これ以上この太刀は酷使すべきではない。

 

 何せ、一度折れた太刀をもう一度接合したのだ。

 

「…………感傷、よね、どう考えたって」

 

 そしてため息を付く。

 

「ちょっといいかい?」

 

 そうして横合いから声をかけられた。

 

 

 * * *

 

 

 狩場と言うのはどうやっても危険を孕むものだが、密林と言うのはモンスター以外の危険も孕む。

 じめじめとした亜熱帯気候。細い木々が立ち並び、視界の悪いジャングル。そして人を刺す毒虫の数々。

 ランゴスタやカンタロスと言った類のものはまだサイズの問題で発見も難しくないが、もっと小さい、ムカデなどの毒虫は気をつけていなければ、気づかないことも多い。

 虫除けの薬などを常に常備しておかねば、下手すれば毒虫の毒で、熱を発症し死んでしまった例と言うのも決して無くは無いのだ。

 

「暑いわね」

 

 端的に言葉を零しながら、けれど足を進めていく。

 事前にもらった地図を見ながら目的地がもうすぐなことを悟る。

 

「それにしても…………個人依頼、ねえ」

 

 手に持った地図を眺めながら、これをもらった時のことを簡単に思い出す。

 

 

 

「依頼? 私に?」

「ああ、その装備、ハンターさんだろ? 頼みがあるんだ」

 私に声をかけてきた男…………外見からして恐らく学者だろう、年齢は恐らく四十弱と言ったところか。

 男の後ろには竜車が止まっており、中の様子は良く伺えないが、何かの荷物がぎっしりと詰まっているのは察せられた。

「見ての通り…………と言って分かるかは分からんが、私は学者をしていてな。実は今とある密林の遺跡の調査をしているんだが、その遺跡の周辺に最近になってイャンクックが住み着き始めてな。どうだ、報酬は出すからハンターさんにこいつを退治してきてもらいたいんだ」

「ふむ…………と、言っても。私はしばらく休養する予定だったのだけれど」

 そう言って去ろうとする私に、男がまあ待て待てと告げ。

「報酬は…………………………ぐらいでどうだ?」

 そう言って男が提示した金額はかなりのものだった。

 

 代わりの太刀を探そうと思っていた私にとってはかなり魅力的な報酬と言える。

 正直言えば、ここ最近クエストを連続してやっているのも、新しい太刀を作るための準備と言える。

 もしこの報酬があれば、もっと良い太刀を作れるかもしれない、そう考えれば利は大きい。

 

 受けないデメリットは、正直特に無い。個人的な依頼を断ったからと言って特に問題があるわけでも無い、これがギルド指名依頼などの場合は問題が起こるが、それ以外での依頼の受託など、基本的には本人の自由だ。

 そして受けないメリットは、安全性だ。

 

 個人依頼と言うのは、ギルドを通さない依頼全てを言う。

 大概の場合は依頼(クエスト)と言うのはギルドを仲介して行われる。

 だがその場合、依頼側は仲介料を、受託側は契約料を取られることになる。

 それを嫌った一部の人間はギルドを通さず、個人的に依頼を出してくることになる。

 それが個人依頼。ただしこれにも色々メリット、デメリットがあり、基本的にはデメリットのほうが大きい。

 ある意味、この仲介料と契約料(マージン)はギルドから発布される依頼側、受託側両者への保証であり、保険である。

 

 ギルドを通した依頼と言うのは、依頼側からの情報をギルド側である程度精査しており、正確な情報のみがハンターに与えられる。

 そして受託するハンターたちもギルド側が選別しており、達成できるだけの力のあるハンターが受託するよう依頼を回される。

 

 依頼側は、ギルドへ任せておけば大体は安定して依頼を達成してもらえるし、受託側もギルドを通した依頼は基本的に信頼のおけるものが多い。

 

 そう、個人依頼最大のデメリットは信頼性の欠如だ。

 

 それが知り合い、友人、身内などであればまだ問題無いが、こう言った見ず知らずの人間から受ける依頼と言うのは偶に情報が間違っていたり、欠けていたりするものがある。

 

 それらを踏まえた上で私が出した答えは…………。

 

 

 

「着いた、ここね」

 密林の中に遺跡を見つけ、ようやく一息付く。

 周囲を見渡してみる、木々が茂っていて視界は悪い、が一本一本は細く身を隠せるような太さは無い。

 厄介な地形だ。平坦に広がった地形故に、木々に隠れて接近と言うのは難しい、木々のせいで視界は悪く距離感が掴みづらい、だがその細さのせいで木よりも大きければすぐに発見できてしまう。

「近づいて接近、と言うのは難しそうね」

 ならばあの遺跡はどうだろうか? 奥まで行く必要は無い、入り口の辺りで身を潜めれればそれで十分なのだから。そう考え、遺跡の入り口へと近づいていき…………。

 

 バサッバサッ、と言う羽ばたく音にすぐ様気づく。

 

 キエェェェェェェェェェェェ

 

 上空から聞こえる声に奇襲にすぐ様対応しようとし…………。

 

 

 そこにいるはずの無いモンスターの姿を見て、一瞬、体が硬直する。

 

 

「っしま」

 言葉を漏らしたその時にはもう遅かった。

 ブレた斬線を辿った手の中の刃が上空からやってきたモンスターへと突き刺さり…………。

 

 ピキン、と小さな音を立て、あっさりと折れた。

 

「!!!」

 声にもならない悲鳴を上げ、自身の体が吹き飛ばされる。

 ごろごろと転がりながら、勢いが止まる、と同時に立ち上がる。

 ギャァァァァァ、と声を上げながらソレが追撃しようと猛然と襲いかかる。

 

「くっ」

 折れた太刀を抉るようにして突き出す。

 ピキィィィン、と音を立て、柄だけ残して刃が折れる。だがソレの目を僅かに傷つけることに成功し、ソレが数歩後退する。

 その僅かな隙に視線を走らせる。見つけたのは遺跡、中がどうなっているか分からないが、他に選択肢が無い。

 走る。全速力で走る。その後ろをソレが追いかけてくるのが分かる。

 追いつかれれば、そのまま突進をもろに食らってただでは済まないことは自明の理。

 生死のかかった走り合い、そのプレッシャーは想像を絶するものがある。

 

 そうして。

 

 ギャアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 それが一際大きな声を上げ、助走の勢いそのままに跳ねる。

 上から迫ってくる影、けれど自身は一切振り向かずに…………。

「あああああああああああああああああああ!!!」

 叫び、叫び、叫び、そして跳ぶ。

 

 ごろん、ごろんと二転、三転しながらそれでも自身の体は間一髪のところで遺跡の入り口へと滑り込んでいた。

 狭い入り口にソレの巨体は侵入は出来ず、外から威嚇の声が聞こえる。

 だがそれを無視して、中へ、中へと入ってく。

 幸い、と言うべきか入り口付近は一本道のようで迷う心配は無い。

 続けて内部の様子を探る、この上中にまで凶悪なモンスターが棲み付いている場合、本当の本当に万事休すのだが、幸い中からそれらしき音は聞こえてこない。少なくとも、今すぐ邂逅、と言うことは無いようだった。

 

 そうして僅かな余裕が出来たらようやく入り口に陣取ったソレを見る余裕ができた。

「……………………随分と話が違うじゃない、黒狼鳥だなんて」

 全身を紫色の甲殻に覆われたその怪物を見て、そう呟く。

 

 黒狼鳥イャンガルルガ。

 

 大怪鳥イャンクックに似たシルエットをしているが、その強さはまるで桁違いのモンスターだ。

 造形が似ているので、過去にはイャンクックと間違われた討伐依頼がいくつもあったそうだが、今となってそんなもの過去の話だ。

 その生態は獰猛の一言に尽きる。戦闘を好むと言う非常に特異な性質を持っており、一度獲物を見つけると決して逃さず、どこまでも食らいついてくる。

 その癖、非常に狡猾であり、自身が不利と悟れば即座に逃げ出すこともある。だがその戦闘狂いな気質からか、本当に危険な状況にならない限り、ひたすら獲物を襲ってくる。

 

「…………目、付けられたわね」

 

 一度接触してしまった以上、あれはもうどこまでも食らいついてくるだろう。

「あーもう…………これだから個人依頼なんて受けるんじゃなかったわ」

 偶然なのか、それとも故意なのか、そんなことは知らないが少なくともあの依頼主の情報が正しくなかったのは確かだ。間違えたのか、それとも最近になって事情が変わったのか、はたまた嘘を吐かれたのか、今となってはどうでも良い。そんなことは生きて帰ってから考えるべきだ。

 

 ふと手に握った太刀の柄へと視線を向ける。

 最早刃は折れ、柄のみとなったそれ。

「……………………はあ、感傷だわ」

 またその言葉を呟く。

 

 結局、自身のツケだろう、これは。

 ここまで酷使してしまったツケ。代償。

 本来ならもうとっくに限界が来ているのは分かっていた。

 それでも使い続けたのは、まさに感傷だろう。

 

 たった一振り、義兄から渡された初めて手に取った武器。

 

 子供だったなら良かった。多少短くたって、十分な長さで振るうことができた。

 けれど、成長してしまった今となってはそれはあまりにも短すぎた。

 太刀に限らず、武器の利点とは射程だ。自身の腕よりも、脚よりも長い間合いを攻撃できる。

 それが故に、腕よりも短い太刀など使い勝手が良いはずが無い。脆い片手剣を振り回しているようなものである。

 けれど諦め切れなくて、だから伸ばした。刀身を伸ばし、射程を延ばし。

 

 そして脆すぎて折れた。

 

 一度折れた刃など、最早使い物になるはずも無い。

 

 けれどそれを無理矢理接合して、無理矢理使い続けてきた。

 

 折れないように、潰れないように。

 

 そんな風に武器に大きなハンデを背負ったままやってきた、ここまでやってこれた。

 けれどこれから先はもう無理だ、そんなこと分かりきっている。

 

「…………ごめんね、今までずっとありがとう」

 

 だからこれは自業自得だ。

 だがそれを今考えたってどうしようも無い。

 悔やんでも仕方ない、意味が無い。

 

 もうそんなこと、今更、だ。

 

「…………どうにかしないと」

 予備の太刀は無い。これが最後のつもりだったから、これで終わりのはずだったから、まだ買っていない。

 バッグの中にはそれなりの準備はしてある。

 イャンガルルガは本来、ハンターランク4…………上位クエストに分類されるような強敵だ。

 

 クエストはその難易度に分けて、下位、上位と区別がされている。

 下位クエストはまだ若かったり、傷を負っていたりと比較的弱い固体を対象としており、HR1以上、つまり全てのハンターが受けることができる。

 上位クエストは成熟した固体と戦うことになるので、それなりの腕前が求められ、HR4以上の上位ハンターたちが受けることができる。

 そしてHR7以上のハンターたちのみが受けることができる最上位クエストがG級クエストと呼ばれる。この領域に至ると、並のハンターですら想像を絶する強さの固体が現れる。

 

 同じ下位クエスト同士でおさえ、敵の強さの上下と言うのは大きい。

 まして下位クエストと上位クエストの間にある敵の強さの差など、推し量るまでも無い。

 何よりもまず、武器が無いのでは下位モンスターにすら勝てはしない。

 

 どうする、どうする?

 

 そうして思考を巡らせていた、その時。

 

 こつん、と背後のほうで音がした。

 

「っ!」

 

 咄嗟に振り返り、臨戦態勢を取って。

 

「…………そこにいるのは、人か?」

 

 向こうから発せられた声に、目を見開いた。

 

 




下位ハンターに、武器を奪っておいてさらに上位ガルルガぶつけるような最低な作者がいるらしい。



称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話 スナイパー

スレッド書こうと思ってたはずなのに、気付いたらモンハンが書きあがってた不思議。


 

「誰っ?!」

 遺跡の中から聞こえた声に、咄嗟に警戒する。

 外見からしてそれほど大きさは無いと思っていたが、思ったよりも奥行きがあるらしく、奥から反響して聞こえてくる声の主は見えない。

「ああ、済まない…………驚かせてしまうつもりは無かったんだがな、キミもガルルガから逃げてきた口かい?」

「…………キミも、ってことは、そちらも?」

 かつん、かつん、と奥からゆったりとした足音が聞こえる。それと同時にずず、ずずと何かを引きずる音。

 そうして出てきたのは、一人の少女だった。

 ハンターだ、すぐに気づいた。その全身は見たこともないようなモンスターの素材で構成させれており、その背にはライトボウガンを背負っている。

「初めまして、と言っておこうか。こんな状況で何だけどね」

 苦笑しながらそう呟く少女。その右足のしっかりとした足取りとは対象に、引きずられぴくりとも動かない左足に思わず目が行く。

 自身の視線に気づいたのか、少女もまた自身の左足へと視線をやり、目を細める。

「ああ、まあ見ての通り動かないんだが…………まあそれは今はいいさ、それより奥へ行こう。ガルルガのブレスがここまで届く危険性もある」

 そう言われ、後ろを振り返る。入り口の辺りでイャンガルルガが遺跡の中を伺っているのが分かった。幸い攻撃してくる様子は無いが、確かに下手にブレスでも吐かれて入り口が焼かれれば問題だ。

 片足を引きずりながら奥へと歩く少女の後を自身もまたそそくさと付いていく。

 その姿が見えなくなるまで、イャンガルルガは動かなかった。

 

 

「さて、この辺までくれば大丈夫だろう。自己紹介をしておく、私はリオ。HR2のハンターだ」

 遺跡の壁に寄りかかりながら座る目の前の少女…………リオがこちらを見ながら自らの名を告げる。

「って、HR2? その装備で?」

 明らかに上級クラスの風格を漂わせる装備、そしてその装備に着られていない、着こなしている本人も相当な風格があった。

 リオと名乗った少女は見た目確かに小柄な少女だ。年の頃も自身と同じかそれ以下に見える。だがその雰囲気はまるで同年代の少年少女とは異なっている。まるで兄を思い出すかのような、そう、まさしく一流の風格。

 だからこそ、自身は警戒したのだ。明らかに格上だと、そう認識したから。

 だと言うのに、そのHRが2とは一体どういうことだろうか。

 HR2と言えば、初心者からやっと抜け出したと言った程度である。自身もまたHR2ではあるが、それは自身がまだ最近ハンターになったばかりで功績が低いから甘んじているが、正直HR4か5程度…………上位ハンターたちと比べても決して遅れを取らない程度の腕前はあると思っている。

 

 そんな自身の疑問を察してか知らずか。リオが自嘲染みた笑みを浮かべる。

「まあ色々あってな…………それよりそっちは? 同じハンターだと見受けるが?」

「レーティアよ…………アナタと同じHR2のハンター」

 その言葉に、リオが目を丸くして首を傾げる。

「そちらこそ、HR2とはまた不思議な。正直HR6くらいのハンターだと思ったがな」

 HR6は上位ハンターの最上位。G級ハンターの一歩手前と言ったところだ。

 G級と上位の間には、絶対的なほどの壁があり、それを超えることができる一握りの存在だけがG級ハンターへと至る。つまり、HR6とは通常のハンターが目指す最終目標とも言えるものであり、それに間違われたと言うのは正直言えば多少嬉しかったりする。

 けれど自身の目指す目標を考えるならば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まあ、それは置いておくとして。

「こっちはまだ最近ハンターになったばかりなのよ」

 そんな自身の言葉に、なるほど、とリオが頷く。

「それで、そちらもあのイャンクックを倒しにきた口か?」

「……………………そう言うこと」

 ガルルガ、では無く、クック、と言ったということは、恐らくリオもまた情報に騙された口なのだろう。

「やられたわね」

 簡単に言えば、詐欺行為だ。イャンクックの討伐と言ってクエストを受注させ、実際に出向いたハンターはイャンガルルガと相対することになる。

 何のためにそんなことをするのか、分からないが…………少なくとも依頼をブッキングさせている時点で悪意があったのは確実だろう。こんな辺境のモンスター討伐を別々の人間が同時に依頼するなんて偶然、普通に考えればあり得ない。

 

「さて…………どうしようか」

 遺跡の壁に背を預けながら、リオが呟く。

 その視線がこちらを向いている、それだけで察する。

「いいわ…………こっちも何時までもここに居るわけにもいかないもの。協力しましょう」

 リオが単独でここを抜け出せないのは、それだけの能力が無いことは、未だにこの場所にいることが証明している。そして武器があるならばともかく、太刀を失ってしまった自身ではあのガルルガを掻い潜って逃げ出すのも難しいのも事実。故に、協力してことにあたろう、あの視線はそう言う意味だ。

「と、言っても、さっきガルルガの攻撃を流した時に武器が折れちゃったから、今の私はろくな武器がないわね」

 柄と僅かな刀身が残った太刀を見せると、リオが僅かに眉根を顰める。

「そうか…………分かっているとは思うが、私は左足が動かなくてな、走って逃げると言うことができない」

 先ほどから引きずっているのはつまりそう言うことらしい。片足が不随状態でよくハンターなんてやっていられる、と思ったが、つまり風格の割りにHRが不相応なほどに低いのはつまりそう言うことなのだろう。

「まあ私の獲物はこれだからな、一応動けずとも戦うことはできる」

 そう言って背中に担いだそれを見せてくる。ライトボウガンと呼ばれる軽く取り回しの効く小型の遠距離武器だ。これならば確かに動けずとも戦えるし、弓と違って片足でも威力に変化は無い。だが逆にモンスターに接近されれば途端に絶体絶命の危機に陥ることにはなるが。

 

 武器の折れた剣士に、片足のガンナー。

 全く、どうしようも無いもの同士である。

 

「私が囮になる」

 余りにもどうしようもない自体に思わず眩暈がする。そんな自身にリオが呟いた。

「どうせ私は走れない以上逃げることはできない。だから私が囮になってヤツの注意を引きつける、その隙にキミが逃げて誰か助けを連れてきてほしい」

 リオのそんな提案。思考する。それを実行したとして、どうなるのか。

「ガルルガがこちらを追ってこないかどうか、つまり本当に注意を引き付け、引き付けたままでいられるのか」

 ヘイト管理、と兄は言っていた。一時的に注意を向けることは簡単だ、だが向け続けさせることは非常に難しいとも言っていた。

「そこは信じてもらうしかないな…………」

「第一、ここに来るまでに最寄の村から数日、そこにギルドが無い以上、ハンターがいるかどうかも賭け。ギルドのある街まで行って帰ってくれば十日以上。どうやって生き残るの?」

 リオが今日までにどれだけの間ここで隠れていたのかは知らないが、少なくともブッキングさせるなら多少前後はさせるだろう。ガルルガと出会うより先にハンター同士が出会い、真相が知れては事だろうから。

 勿論あの依頼者がリオへの援軍代わりに自身を寄越した可能性も否めないが、だとすれば事前に説明が無かったのも怪しい。

 つまり、最低でも一日か二日は自身より早くここに来てるだろうリオ。そしてこの遺跡に閉じ込められている以上、手持ちの食料を少しずつ消費していったとしても、持って数日。例え自身の持っている分も置いていったとしても、自身が誰か連れてくるまでに餓死していないかどうか怪しい。

 まして相手は上位モンスター。そんなすぐに対処できる人が見つかるとは思えない。

 つまり。

 

「現実的じゃないわね、運試しでもしてるようなものだわ」

 

 却下だ。少なくとも、自身は助かるかもしれないが、けれど生憎自身は他人を犠牲にして生き残るような真似はしたくない。

 

「じゃあ、どうするんだい、他に何かあるのかい? 武器の無いキミと、足の無い私と、こんな状況で、他に手があるのかい?」

 

 確かに絶望的だ。だがそれでも自身は死ぬ気は無い。そしてリオを見殺しにする気も無い。

 

「……………………そう、ね、まず足りないピースから集めましょうか」

 

 こう言うのは兄の領分だろう。そしてその薫陶を受けた自身の領分でもある。

 

「…………腕のほうは?」

「動かずに狙わせてもらえるならどこにだって当てれるよ」

 数秒思考を回し、リオに問う。

 端的なその問いにリオが不敵に答える。

 つまり大事なのは敵の視線をこちらに釘付けにできるかどうか。

 それともう一つ。

 

「全力で移動したとして、どの程度で動ける?」

「そうだね…………他の人たちが歩く程度くらいかな」

 

 その足で本当に動けるのか、尋ねればそう答えが返ってくる。

 

「……………………そう、ね」

「何か思いついたかい?」

 

 リオの言葉に、薄く微笑み、そうして口を開いた。

 

 

 * * *

 

 黒狼鳥。

 かつて自身の兄は、防具を一切つけず、ハンターナイフ一本でこの化け物を討伐したことがあるらしい。

 その時の話を聞こうとすると、何故か遠い目をして乾いた笑いを零すのみであり、結局詳しいことは聞いていないのだが、とにかく、かなり絶望的な状況ではあるが、決して生き残る目が無いわけではない。

 

 よく兄が、ハンターはただ武器や防具を強くし、腕を磨くだけでなく、もっと周りのものを利用すべきだ、と言っていた。

 ただ斬って、殴って、避けて、その程度で勝てるほどモンスターと人間の差は浅くないと。

 実際、兄ほどそれを実戦したハンターも居ないだろうと思う。

 だから私は…………。

 

 

 遺跡の中からそっと外の様子を伺う。

 昼を過ぎて、夕方を超え、時刻はすでに夜。遺跡の外も暗さが増している。

 遺跡の入り口にはガルルガの姿は見えない。

 だが感じる、気配で感じる。いる、確実に。どこかからこちらを見ている。

 

「予定通りに」

「分かった」

 

 振り返り、リオにそう告げると、リオが頷いたのを確認してから入り口から飛び出す。

 

 キァァァァァ、と言う甲高い音が耳に響く。

 

 真上から風を切る音。そのまま走り抜けながら、即座に反転。音の方向へと振り向けば、ズドン、と先ほどまで自身がいたところに降り注ぐ巨体。

 イャンガルルガがそこに居た。

 

 夜の闇に隠れながら、月の光に照らされながら、悠然と佇むその巨体に握る拳に力が入る。

 

 ガルルガの視線がこちらの視線とぶつかり合い。

 

 ――――轟、翼が大きく羽ばたき、ガルルガが雄叫びを上げる。

 

 サイドステップ、と同時にガルルガが飛び出す。

 実際に相対するのは初めてだが、対策は兄から聞いている。

 まず絶対に正面に立たない。

 何の予兆も無く突然の突進が来るから。

 その速度が故に、見て避けるのはほぼ不可能と言われるほどの初見殺し。

 ガルルガと戦うならば、まず真っ先に念頭に置かねばならないことだ。

 

 自身の真横を抜けていった巨体が、すぐさま方向転換をする。

 その口元が仄明るくなっていることに気付き。

 

 斜め方向に向けて駆ける。直後吐き出される炎が着弾、自身の背後、周囲に炎を撒き散らす。

 今が接近のチャンスである、即座に駆け寄り…………。

 

 二歩、ガルルガが後退したのを見て、即座に地を蹴りバックステップ。前進の勢いもあってそれほど距離は稼げなかったが、それでも。

 

 直後、自身の目の前を抜けていくガルルガの尾。

 

 ギリギリである。あと一歩踏み込んでいたら、あと一瞬後退が遅れれば。完全に巻き込まれていた。

 これが気をつけること二つ目。二歩下がれば宙返りの合図。

 この時、尾に触れれば毒に侵されることとなる。絶対にもらってはいけない一撃の一つだ。

 

 そしてチャンスである。

 

 この宙返りをする時、必ずガルルガは飛び上がる。

 そして先ほどガルルガが吐いたブレスにより周囲は燃え盛り、明るさを取り戻している。

 

 空を飛ぶガルルガを視認するにはやや頼りなくはあるが。

 

 ()()にはどうやら関係なかったらしい。

 

 ダン、と一発だけ聞こえた銃声。直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………凄い」

 

 思わずこぼれた感嘆。だが実際この薄明かりの中で、正確に滞空するガルルガの目を狙い、そしてたった一撃で傷つける、どころか、射抜いたのだ。

 立ち止まって撃てるのなら外さない、そう言ったリオの言葉に嘘はなかったらしい。想像以上の腕前である。

 そして滞空中に撃ち抜かれ、撃墜したガルルガは大きな隙を晒す。

 

 これが最初で最後のチャンスだ。

 

 利き手に持つのは、ハンター御用達し、()()()()()()である。

 正直、武器と呼ぶにはかなり心元無いのだが。

 

 一足でガルルガの喉元まで近寄り、その巨大な顔の潰れた目の反対側、残った正常なほうの目を狙い。

 

 一閃。

 

 ナイフを振り抜く。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 振りぬいたナイフが、浅くはあるがガルルガの眼球へと傷をつける。

 

 ギィアアアアアアアアアァァァァァァ

 

 ガルルガが絶叫にも似た叫びを放ち、地に崩れ落ちたまま強引に翼をはためかせる。

 

 暴れる、暴れる、暴れる。

 

 片目は完全に潰れているし、もう片方も傷付き、さぞ視界が悪いことだろう。こちらを視認できているかどうかすら怪しい。

 

 じたばたともがく、平行感覚すらなくなっているのかもしれない。

 

 だから、最後の一押しを、リオが放つ。

 

 ボォン、と大砲でも撃ったかのような音がして。

 

 直後、ガルルガの周囲で小さな爆発が三度、四度と起こる。

 

 拡散弾と呼ばれるそれは、確実にガルルガに危機意識を覚えさせるに値したらしい。

 

 ふらふらになりながら何とか両の足で地面に立ったガルルガは、そのまま両の翼を羽ばたかせ、夜の空へと飛び上がり。

 

 あっと言う間に闇に溶けて消えていった。

 

 空を見上げながらしばしの沈黙。

 

 十秒が経ち、二十秒が経ち、一分経っても戻ってこないその姿を見。

 

 そうして周囲の確認、危険が無いことを知ると。

 

「…………疲れたあ」

 

 思わず地面に体を投げ出し、大の字に寝転んだ。

 

 遺跡のほうからやってきているだろうリオのゆっくりとした足音を聞きながら。

 

 大きく息吐いて、なんとか生き残った、そう確信して苦笑した。

 




やっぱモンハンなら4人PTだよな(2/4)

というわけで、片足動かないのでスナイパーやるしかねえぜ系ガンナーリオちゃん登場。
基本戦術⇒どっかに罠を張って潜む。獲物が罠にかかったらひたすらスナイプ。バレたら近づかれる前に何とか倒す、無理なら逃げる(クエスト失敗)。元はかなり上のほうのハンターだったので、防具は良いもの使ってます。その他色々設定はあるけど、その辺は本編で出そうかと。

ところで、解体用のナイフってあれ凄いと思いませんか。どんなモンスターでも関係なく、剥ぎ取りできるし、しかもクエスト中どんだけ使っても刃こぼれ一つ起さない。何気にハンターナイフよりは切れるんじゃないかと思ってる(



称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】



称号:ストライダー
名前:リオ(?)
HR:2/10

装備スキル 不明
習得スキル 不明


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話 パーティー

 ようやく街に戻ってこれたのは、遺跡を脱出して八日後のことであった。

 と言うのも、片足しか動かせないリオがいる現状、移動速度の低下は否めない。

 近くの村まで五日ほど、ちょうどいいタイミングで着ていた隊商に同行させてもらう形で拠点としている街まで三日。

 命からがら生き残り、ようやく戻ってこれた安心感からまる一日布団の中で過ごし、ようやく起きてこれたのは九日目のことだった。

 

 一方のリオはと言えば、さすがに自身よりもベテランのハンターと言うべきか、帰ってきてすぐにギルドのほうに今回の件についての報告に向かったらしい。

 詐欺を行った男はすぐ様、衛兵に捕らわれ連行されて行かれたらしい。

 天罰覿面と言ったところか。まあこれ以上あの詐欺師に関わることはもう無いだろうし、記憶に彼方に忘却すべきことである。一発くらい殴っておけば良かったかと思ったが、まあそれももう終わった話である。

 

 終わった話があれば、始まった話もある。

 例えば、自身とリオの関係とか。

 

「パーティーを組まないかい?」

 

 ほぼ二週間ぶりに顔を出したギルドで自身を待っていたとばかりに座椅子に腰かけたリオが居た。

 リオと顔を合わせ、先ほどの話を聞いた後、唐突に彼女はそう言った。

 

「…………パーティーね」

 

 基本自身は単独でクエストを受け、向かうが、本来ハンターとは複数人で協力してモンスターたちと戦う。その協力の最小単位をパーティーと言う。

 二人から四人までの人数が基本であり、これはこれ以上の人数は隠密に向かない、と言うのが大きな理由に挙げられる。

 あくまでハンターは狩人であり、兵士では無いのだ。獲物に忍び寄り、罠にハメ、狡猾に殺すのが本業であり、人数を増やして正面からモンスターに挑む、と言うのは職業を間違っているとしか言いようが無い。

 さらに言うならば、人数を増やそうが、報酬額は一定な以上、増やした人数分、報酬は頭割りされていく。ハンターの大半は、生きるために、明日生きる糧を得るために、つまり金のために戦っている。

 だがハンターとは何かと物入りな職だ。武器、防具を作るのにも、手入れするにも、道具類を揃えるのにも、罠を作るのにも、そしてクエストの受注にすら契約金が取られるとんでもない金食い虫な職業だ。

 だが一番就職に対しての敷居が低く、うまくやれば大金を得ることができる職でもある。

 何かと博打なのは確かであり、金のために少しでも人数は減らしたい、と思うのも当然の心理ではある。

 だが減らした人数は、反比例する危険度の上昇を意味する。

 だからこそ、ジレンマなのだ。

 

 そして最大四人と言う数字にはちゃんと意味がある。

 先ほど隠密に向かないと言ったが、大人数で狩場を荒らすことは、その地域に潜み棲むモンスターたちを無暗に刺激することとなりかねない。目的としたモンスターだけでなく、他の余計なモンスターたちまで呼び寄せてしまわないためにも、人数と言うのはある程度絞るべきなのだ。

 

 さて、話を戻すが自身はパーティーと言うものに肯定的である。だが同時に、まだ必要無いとも思っている。

 義兄が何度も言っているように、モンスターとハンターの差と言うのは余りにも大きい。その差を少しでも埋めるために、一番良いのは単純に人数を増やすことだ。だが同時にHR2で戦う程度の敵ならば、現状で戦う程度の敵ならば、まだ一人でも戦っていけると言う確信もある。

 そして単独でモンスターと戦うと言うのは、自身を非常に成長させていると言う自覚がある、モンスターとの死闘を潜り抜けるたびに強くなっていると言う自負がある。

 パーティーを組めば、その利を捨てることになる。

 

「……………………」

「悩んでいるみたいだね。まあ当然か…………こちらから提供できるメリットは、後衛としての私、そして()()()()()()()()()としての知識、と言ったところかな」

 

 その言葉に、顔を上げる。

 

「HR…………8?」

 

 HR(ハンターランク)はいつかも言った通り、三つの段階に分けられる。

 HR1~3までの下位ハンター。HR4~6までの上位ハンター。

 

 そしてHR7以上のG級ハンター。

 

 HR8とはつまり、そういう事である。

 

 あの義兄と同じ、人外魔境の領域に踏み込んだ存在の一人。

 

「……………………分かったわ、一度、一緒にクエストに行って試してみましょう」

 

 どうしてG級ハンターが今となってはこんなところでくすぶっているのか知らないが。

 

「…………ああ、是非そうしてくれると嬉しいよ」

 

 明らかな格上がこうして誘ってくれているのだ。

 

 存外、幸運なのかもしれない。

 

 そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 鬱蒼と茂る草木を払いながら、見えてきた巨大な洞に、目的地がすぐそこであることを察する。

 後方を見れば、後ろのほうからゆっくりとした足取り…………それでも本人からすればそれなりに急いでなのだろうが…………でやってくる仲間の姿。

「すまない、待たせたね」

 ようやく追いついてきたリオに、首を振って問題無いと告げ、洞のほうを見やる。

「ここにいるわ…………準備は良い?」

「ああ、問題無いさ」

 がちゃん、とライトボウガンの弾倉の交換を終えたリオが頷くと、ゆったりと、足音を殺し、気配を殺し、息を殺して洞の中を伺う。

 

 (うろ)は樹の根元にできた空洞だ。だがその大きさは尋常ではない。

 何せその中は最早洞窟と呼んで相違ないほど巨大であり、大型モンスターたちが中で暴れたとしても支障ないほどの広さを誇っている。そしてその洞を作る樹は見上げれば天を衝くかのごとき高さを誇っており、しかもその高さで、その実、幹が半ばで折れているのが分かる。

 一体、当初の大きさとはどれほどのものだったのか、想像を絶するその規格外のサイズに誰もが絶句するだろう。

 

 その頂上部に住み着くモンスターたちもいるのだが、今はその洞のほうに用がある。

 

「いた」

 小さく呟き、後ろでこちらを伺うリオにこちらに来るよう合図を出す。

「…………気配を読む、ていうやつかい、私には良く分からないものではあるが…………凄まじいね」

 小声でリオが苦笑する。歩きながらモンスターの気配を探知し、目的のモンスターを探る、と言うのは義兄に教えられたことの一つなのではあるが、同じG級ハンター…………ただし元ではあるが…………であってもリオには分からない感覚であるらしい。

 代わりに、自身はこの相方の凄まじいまでの視力と観察力に驚かされることになったが。

「そっちこそ…………どんな視力してれば遠くで空を飛んでるモンスターなんて見えるのよ」

 ベースキャンプからこの巨大な樹の姿なら誰にでも確認できるだろうが、そこからさらに樹の付近を飛ぶモンスターの姿をはっきりと視認するなどはっきり言って、ハンターであることを鑑みても異常としか言いようが無い。

 まあそれはさておいて。

 洞の中、洞窟と化したそこには、器用に体を立てたまま、翼を畳んで眠る一匹の巨大な鳥がいた。

 眠鳥ヒプノックと呼ばれるそのモンスターは、どうやら現在睡眠中らしい。

 チャンスだ、と太刀を握り、いざ行こう、とした時、背後から肩を掴まれる。

「…………何?」

 リオだった、一瞬気勢を削がれた、と思ったが彼女がくだらない理由で止めたりはしないだろうと考え、そう尋ねる。

「…………ヒプノックは良く寝ている、ただ警戒心が強いのか迂闊に近づくとすぐに気づかれる」

 その言葉に視線をヒプノックへと向ける。

 うつら、うつらと頭を揺らしているその姿は警戒心の欠片も無いが、けれどリオがそう言うのならそうなのかもしれない、と考える。

 モンスターを人の常識で図るな、とは義兄の言葉である。自分にはそうと見えずとも、どんな可能性を秘めているものか分からないのがモンスターなのだ。

 故に慎重になる。

 

 先手を取る、と言うのは戦いにおいて非常に重要なことだ。

 モンスターの攻撃の隙を見ながら一撃入れると言うのがそれなりに難しいことである以上、先制を取れる余地があるならばできるだけ取っておきたい。その一撃が戦いの趨勢すら決めてしまうかもしれない。

 

 故にここで取れる選択肢は二つとなる。

 

 一つはリオが遠距離より攻撃。相手が視認できるとは言え、まだそれなりに距離はあるが、先の遺跡で見たリオの腕前ならば問題無く攻撃できるだろう。

 ただ問題はそれをすれば確実にヒプノックの視線はリオへと向く。自身が距離を詰めてこちらへ視線を向けるまでにどれだけの間を詰められるか、その距離はリオを確実に危険へと晒すこととなる。

 普通のハンターならば別に問題のあることではない。いざとなったら下がればいいし、逃げ出しても良い。

 だがリオに限って言えばそれができない。何せ片足が動かないのだ、咄嗟に逃げ切るなんて真似難しいに決まっている。

一応戻り玉…………使うと緑色の煙に包まれいつの間にかベースキャンプまで移動している不思議な玉…………は持っているようだが、きちんと発動しないこともある以上絶対の安全ではない。

 

 まあ色々言ったが、選択肢としてはもう一つのほうが良いだろう。

 

 つまり、リオがダメならば自身がやる、と言うこと。

 これはまあ当初の予定通りではある、ただリオが一筋縄ではいかないぞ、と忠告してきたのでやり方は多少変えるが。

 

 それに、パーティーを組んでほしいと言ってくれた相手に、こちらの信頼を勝ち取るために自身の技能(スキル)まで教えてくれた相手に、多少の信頼で応えるのは義理と言うものかもしれないと思う。

 

「…………私が行くわ」

「大丈夫かい?」

 

 まあ向こうからすれば自身はまだHR2のひよっこなのだ。心配になるのも当然かもしれないが。

 

「最悪でもこちらに視線を釘付けにできるわ…………まあ見てなさい。アナタが組もうとしている人間の実力を」

 

 

 

 

 意外、と言えばそうでもないのかもしれない。

 それでも安易にこちらに任せなかった理由の中に、自身への気遣いが含まれていることに、自身の判断が決して間違いではなかったことを知る。

 人間性はやはり問題無い。と言うか誰に習ったのか知らないが、とてもHR2の新人とは思えないほどこちらの…………プロハンターの流儀と言うものを知っている、慣れている。それに風格もある。

 後は肝心の実力、それさえあれば、最早言うことなどない。

 

 そしてその実力も、すぐさま知れることとなる。

 

「…………凄いな、これは」

 

 頬に伝わる汗は、果たしてどう言う意味のものなのか。

 彼女が無事やってくれるのだろうか、と言う疑心の冷や汗なのか。

 自身の想像を遥かに超えてしまうだろう狩人の誕生を間近に見ている、と言う興奮なのか。

 

 彼女…………レーティアは、無だった。

 

 上手く説明するこができない、だが感覚的に言うならば、一歩、踏み出したレーティアの透明感が増した、とでも言おうか。

 そこにいるはずなのに、見えているはずなのに、そこにいるように感じない、そこにいることがあり得ないと思ってしまう。

 一歩、また一歩とレーティアがヒプノックとの間を詰めていく。

 とっくにヒプノックの警戒範囲内。少なくとも自身が同じように間を詰めてもすでに気づかれているだろう範囲。だがヒプノックは眠っている、何も気づいていない風に。

 

 隠形技能(スキル)と言う技術であると分かってはいる。

 自身も戦い方の性質上必須であり、取得している技能ではあるが。

 

 格が違う。

 

 目の前を歩いているはずの人間がまるで錯覚でも見ているかのように思えてしまう。

 そこに居ないのだと、視界が否定しても脳が納得してしまう。

 ヒプノックの目の前までついにたどり着く。

 ヒプノックは相変わらず眠ったままだ。

 

 太刀を抜き、上段に構える。

 

 所持している太刀は、あの遺跡の一件で折れてしまった太刀の代わりの太刀を見つけるまでの繋ぎとして購入した鉄刀だ、とてもじゃないが切れ味が良いとは言えない。

 

 だが、斬れる。

 

 当事者ではないリオにすらそう確信できた。

 まるでそれが当然のことのように、レーティアは太刀を振り下ろし。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 振り下ろされた一刀がヒプノックのその細く長い首を深く傷つける。

 ヒプノックの絶叫が洞窟に響くと同時に、自身…………リオレイシア・ハーティスもまた自身が武器を構えた。

 

「……………………カイ?」

 

 脳裏に過去に出会ったレーティアと同じ太刀を使う男の名が過った。

 

 

 

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】



称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】




説明⇒軽銃技銃傑
モンハンフロンティア限定スキル。秘伝書スキルと呼ばれる秘伝防具のみで発動するかなりレアなスキル。
以下原文
・超高級耳栓が発動
・ライトボウガンの攻撃力が1.3倍に上がる。
・弾が跳ね返される確率が下がり、その際に受けるダメージが大幅に減る。
・武器を出したまま消費アイテムの一部が使用できる
・ジャストショットに加え、より攻撃力の高いパーフェクトショットが使用可能になる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話 正体不明

 

 想像以上、と言うのが自身、レーティアの相方リオに対する感想であった。

 

 敵と近づいて戦う剣士は、どうしても敵からの被弾率も高くなる傾向にある。

 特に、太刀はその切れ味のために、刀身が大剣などよりも薄くなっている、とてもではないがモンスターの攻撃をガードするようなことはできない。

 故に太刀使いは回避に特化することを強いられる。そんな太刀使いにとって一番嫌な攻撃とは、小技の連続だ。反撃の隙も見いだせず、回避し続ければ攻撃ができないため一方的に攻撃を避け続けるハメになる。

 そして避け続けているうちにモンスターが大振りした攻撃を見切って反撃。と言うのがこれまでのレーティアのやり方だった。打ち合い上等、なんてモンスター相手にできない以上、そうするしかない、と言うのが正しいのだが。

 だが今は違う、そう違う、余りにも違い過ぎる。

 

 連続した攻撃、その間隙を縫って飛来する弾丸。

 

 モンスターの急所や傷口を正確に、そして容赦無く抉るその一撃に僅かながらモンスターも怯む。

 その一瞬の隙でいいのだ、こちらが反撃の一撃を繰り出すのは。

 

 一閃。薄暗い洞で銀光が煌めき、血飛沫が舞う。

 

 違うのだ、余りにも違うのだ。これまでの戦いと。

 たった一人増えただけなのに、リオと言う少女の存在は、レーティアの常識をあっさりと覆した。

 

 動けないガンナー。確かに字面だけ見れば余りにも酷い。致命的と言ってもいいかもしれない。

 

 だが実際に彼女と共闘すればすぐに理解する、その凄まじさを。

 百発百中のその腕前もそうなのだが、何よりもその狙いが素晴らしい。

 とにかくモンスターの動きを阻害することに特化したような狙い撃ちは、自身の反撃のチャンスを次々と生み出してくれる。

 独りで戦っていた時よりも、ずっとアグレッシブに戦えるし、こちらのペースにすぐに巻き込める、と言うのは想像以上に精神的にも楽だった。

 

 びゅう、と翼を大きくはためかせながらヒプノックが後方へと飛ぶ。

 その口から吐き出される白い吐息は、ハンターの意識を一瞬で奪う強烈な催眠毒だ。

 けれどそれも、口を閉ざし顔を下に向けて突っ切れば問題も無い。

 ぶん、と太刀を振るう、薙がれた刃は翼の放つ風圧を切り裂き、一足飛びに開かれた間を詰める。

 直後、だん、と音がする。直後、ヒプノックの嘴を弾丸が直撃し、浮き上がった巨体がバランスを崩し、地へと落ちる。

 大きな隙を晒すヒプノックに、薙いだばかりの太刀を再度構え直し。

 

 【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 振り抜いた刃が先ほど傷つけたその首の傷をさらに抉り。

 

 そうして、眠鳥が完全に沈黙した。

 

 

 * * *

 

 

「お見事、だね」

 眠鳥が完全に沈黙したのを確認した後、リオがやってくる。

「まさかそんな武器でこいつを狩るとは思わなかったよ」

「そうね、その辺りに関しては貴女のお蔭かしらね、リオ」

 刀身に着いた血を拭い、鞘へと納める。

 周囲を見渡すが、敵の気配は無い。

 今のうちに剥ぎ取りをしておくが良いだろうと、ハンターナイフを取りだす。

 

「嘴はまだ使えそうだね、剥いでしまおう、貴重な素材だ」

 

 そんなリオの言葉に従いながら眠鳥の死体から素材として使えそうな部位を剥いでいく。

 一応最低限の剥ぎ取り部位は知識として詰め込まれてはいるが、リオの豊富な経験はこんなところにまで現れる。

 簡単に言えば、素材の数、だ。

 

 新人ハンターとベテランハンターを比較した時、ベテランハンターになるほど同じモンスターを狩猟しても持ち帰える素材の数は多くなる、と言う。

 それは経験則として、どの部位が使えるか、そしてどうすれば上手く剥ぎ取れるか、と言うのを知っているからだ。

 特に貴重な素材ほどベテランハンターのほうが上手く持って帰ってくる。

 新人ハンターはその経験が無いため、すぐに貴重な素材をダメにしてしまい、何度も狩るハメになったりするのだが、そう言った部分も含めて新人なら通る道、と言うやつなのだろう。

 

 実際自身もそこそこな回数剥ぎ取りをしているが、それでもリオと比べたならその回数は天と地ほどにも差が開いていることは想像に容易い。

 

 なるほど、この辺りもメリットかもしれない、と思う。

 

 モンスターの素材の数と言うのはとにかく膨大なので、自身も完全に把握しているとは言えない、と言うかむしろ知らない素材のほうが多い。

 しかも手に入れた素材の使用用途とまで考えると、最早キリが無い。

 だがリオなら自身よりも数段多くの知識を有しているのは明らかだろうし、何よりも、素材ごとの有用性を知っている、と言うのは大きい。

 どの素材が何に使えるのか、そしてどのくらい必要なのか。武器を作るにも、防具を作るにもモンスターの素材は必要になる以上、そう言った計算ややり繰りは必要となってくる。

 

 特に上を目指すのならば…………自身の目的を考えたならば、無駄な時間を過ごしている暇は無い。

 

 決め時かな、と考える。

 ここまでメリットが多い上に、デメリットもそれほど感じない、否、リオ自身は感じさせないように立ち回っているのかもしれない。同ランクで、どころか、上位ハンターまで範囲を広げてみても、リオよりも有用な仲間と言うのは少ないだろう確信がある。

 

 ならば、パーティーを組まないか、と言う彼女に対する答えは決まったようなものだ。

 

「…………取れるだけは取ったし、帰ろうか」

 いくつかの部位を剥ぎ取られたヒプノックから視線を外し、リオがこちらに確認してくる。

「ええ、分かったわ」

 必要な部位だけ取って、後は自然に還す。それが暗黙の了解だ、ならばこの辺りが引き上げ時だろう。これ以上時間を置けば、眠鳥の死肉を求めて別の大型モンスターがやってくるかもしれない。

「引き上げましょう」

 そう告げ、洞の出口を目指して歩き出す。

 

 そうして、洞から外に一歩踏み出し。

 

「……………………………………」

 

 その違和感に気づき、足を止める。

 

「……………………っと、どうしたんだい、レーティ……ア……」

 

 遅れてやってきたリオも訝し気な表情をし、直後にその違和感に気づいて言葉を止める。

 

 静かだった。

 

 いっそ、異様なほどに、樹海は静まり返っていた。

 

「…………一応聞いておくけど、リオ。見える範囲で異常はあるかしら?」

「…………そう、だね。一つある、かな。逆に聞くけどレーティア、キミのほうで異常はあるかい?」

 

 互いに尋ね。

 

「「生物が居ない」」

 

 呟いた声がぴたりと重なる。

 

「ヒプノックと戦う前に通った時は樹海のあちこちに他の生物の気配があったのに、今は全部消えてる」

「そうだね…………見える範囲にモンスターどころか、何の生物の姿も確認できなくなっている」

 

 異常、明らかな異常。

 

「…………急いでキャンプまで戻りましょう」

「そうだね…………何か嫌な予感がするよ」

 

 互いが互いに、脳内で警報が最大レベルで鳴っていた。

 何かおかしい、何か、何かが。

 

 足の悪いリオに肩を貸しながら急ぐ。モンスターがいる時は咄嗟に対応できないために避けるが、今この周辺にモンスターどころか生命の一つも感じられないので問題は無い。

「すまないね、私のせいで」

「構わないわこの程度は最初から考慮済みよ」

 そうしてもうすぐベースキャンプにたどり着くと言った距離。

 

 もう、目視できる範囲までキャンプが迫った…………その時。

 

 グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 轟音、としか言いようの無い咆哮が樹海に響き渡った。

 

 直後。

 

「リオ!」

「レーティア!」

 

 互いが互いに叫ぶ。

 

 自身は気配で気づき、リオはそれを視認した。

 

「…………なんだ、あれは」

 呟くリオの声が震えている。その視線の先へと向いて。

 

 ドォォォォン

 

 まるで世界を揺らしているかのような錯覚すら覚えるほどに大きな地響きと共に。

 

 自身たちの目の前にそれが降り注いだ。

 

「……………………りお…………れいあ?」

「違う…………()()!!!」

 

 自身の言葉を、けれどリオが強く、強く否定する。

 

 そこにいたのは、リオレイアと呼ばれる飛竜によく似た存在だった。

 

 リオレイアが全身が緑がかっているのに比べ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 開かれた赤い瞳が、その視線が、自身たちへと向けられ。

 

 グアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!

 

 轟、と()()()が直撃したような衝撃と共に、リオ共々吹き飛ばされる。

「きゃあ」

「なっ」

 ごろごろと地面を転がりながら、素早く体勢を立て直す。

 だがリオは片足が動かないせいか、起き上がるのに少しばかり苦労しているようだった。

 

「…………なんなの、こいつ」

 

 黒いリオレイアなど、存在すら聞いたことも無い。

 目の前のソレが一体何なのか、理解ができない。

 

 分からない、分からない、分からない。

 

 分からないからこそ、恐ろしい。

 

 一手試すか、そんなことを考え、けれど即座に否定する。

 今優先すべきは、未知の敵から逃げることだ。倒すことではない。

 だとすれば余計な危険を冒す必要は無い。

 

「…………リオ、戻り玉で戻って、早く帰還の準備をお願い」

 

 後方で起き上がろうとしているリオにそう告げながら、一歩、前へと進み出る。

 キャンプシップで合図を上げれば迎えが来る。だがそれをむざむざ目の前の黒い竜が見逃してくれるとは思えない。だから引きつける必要がある。

 そして、できれば引き離す必要がある。

 

「……………………済まない」

 

 リオがそれだけ呟き、緑色の煙に包まれて消える。

 視界からリオが消えたことにより、黒い竜の視線がこちらを向く。

 ただそれだけのことで体が震えた。

 

 恐ろしい、とそんな感情を抱く。

 

 それは遥か昔に死に絶えたはずの感情だった。

 あの日、あの雪の日、あの雪の山で、あの時、あの神に出会った時から。

 死に絶えたはずの感情が、再び芽吹きだす。

 

 恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい。

 

 なんて怖いのだろうか。

 

 まるで闇そのものの化身であるかのようなその威容は、ただ見るだけで恐怖を駆り立てる。

 ぶうん、と竜がその翼をはためかせる。

 直後、ぶぉん、と爆発でも起きたかのような音が鳴り響き、周囲の草木が千切れ飛んだ。

 

 そして。

 

 ずどん、ずどん、と竜が一歩、また一歩と足を踏み出す。

 

 一歩、それが踏み出すたびに挫けそうになる心を無理矢理奮い立たせる。

 かちり、と太刀を握り、鍔を掴みながら、ゆっくりと溜める。

 

  【気刃放出斬り】+【抜刀改心】+【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】

 

 そうして無造作に近寄ってくる竜の頭部に向け、十二分に溜めこんだ練気を載せた刃を振り抜く。

 

 けれど。

 

 ずぶり、と確かにその刃は竜の頭を切り裂き…………指先一つ分ほどの傷をつけた。

 

 竜の巨体からすれば、痛みすら感じなかったらしいその威容は揺らぐことも無く、そして反応すら返さなかった。

 

 今の自身にできる精一杯だと言うのに、だ。

 

「…………さすがに、傷つくわよ、それは」

 

 引きつった笑みが零れる。

 最早笑うしかないだろう。

 

 何と言う化け物だろうか。

 

 そして。

 

 ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!

 

 全身を突き抜けるような咆哮に、目の前のが真っ白になる。

 ふわっ、とした浮遊感。直後に戻ってくる現実感。

 意識が飛んでいたのだとすぐに気づく。攻撃でも何でもない、ただの咆哮で、だ。

 

 と、同時。

 

 どん、と空高くに火花が舞った。

 救難信号、リオがどうやら出してくれたらしい、さすがに仕事が早い。

 

 問題は。

 

「…………どれだけ待てば来るのかしら、ね」

 

 救援が来るまで、自身がこの化け物相手に生き残れるかどうか。

 

 そして。

 

 この化け物が自身を逃がしてくれるかどうか、だろう。

 

「…………やるしかない」

 

 太刀を握る手に力が入る。

 こんなことになるならば、新しいものがきちんと打ち上がるまで待てば良かったと今更に思う。

 手の中の安物の太刀が、今は酷く頼りない。

 獲物を理由にするなど余りにも情けないが、それでも自身はまだ義兄ほどの腕前に到達していない以上、武器でその差を少しでも埋める必要がある。

 

「…………やるしかない」

 

 再度呟く。

 そう、それでもやるしかない。

 負けられない、死にたくない、こんなところで諦めていられない。

 

 義兄の言葉ではないが。

 

「そこにやるべきことがあるなら」

 

 やらなければならないことがあるのならば。

 

「やり通す、それだけよ」

 

 そしてまた一歩、正体不明の黒竜へと踏み込んだ。

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】



称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】



店売りの鉄刀装備の下位ハンター相手に、アンノウンをぶつける鬼のような作者がいるらしい。
ベースキャンプの設定とか、あとその他色々、独自設定多いですので、注意。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話 空ヲ断ツ

 正直無理。

 

 と言うのがこの黒竜と戦ってすぐに抱いた感想。

 

 硬い、とにかくそれに尽きる。

 刃がその鱗を突破できない。どれだけ全力を込めようとも、その黒光りする竜麟の表面を浅く傷つけるだけで割ることすらできない。

 

 だが何よりも、竜のあらゆる行動に、こちらの動きが阻害される。

 

 並の竜とは威圧の桁が違う、風圧の桁が違う、震動の桁が違う、咆哮の桁が違う。

 

 ぎろり、と一睨みするその威圧に背筋が凍る。

 ぶん、と翼を揺らすだけで地につけた足を根ごと引き抜くような勢いの暴風に吹き飛ばされる。

 ずどん、と一歩踏み出せば最早震動どころではない、文字通り()()()()()()()()

 ごう、と一度口を開けば手で覆っていても、一瞬気絶してしまうほどの大音量が耳を突き抜ける。

 

 胆力、風圧、震動、耳栓系の保護系スキルがまるで意味を為さない。

 立ち回りでどうにかできるレベルでは無い。一つくらいならならともかく、全てが意味を為さないなどさすがに規格外過ぎる。

 

 あえてランク付けするならばG級、それもかなり上位に入るだろうと予想する。

 

 G級、それはつまりこちらの常識など遥かに超えた高みに君臨する絶対強者。

 

 人外魔境の住人と言うことに他ならない。

 

 いつかたどり着きたい高み、だが今の自分がそこに手をかけているなど、そんな己惚れたことは決して言えない。

 

 勝ち目どころか、どうこうすることすらできる相手では無い。それは明らかだった。

 

 

 ――――――――だと言うのに。

 

 

「く…………あああぁぁぁぁぁ!!!」

 振り回される竜の尾を間一髪のところで転がって回避する。

 すぐ様起き上がり、けれどその時にはすでにこちらへと顔を向けた竜の口が開き。

 

 ――――――――未だに生きているのは。

 

 “轟”

 

 響く爆音に視界が真っ白に染まる。この轟音には分かっていても慣れない、慣れることなどできるはずもない。

 ただの音ではないのだ、竜種がその喉の奥から捻りだすその声には、人の可聴域を超えた超高音が混じる。

 それが人の鼓膜を揺さぶるのだ。轟音の中に混じる聞こえない音によってこの現象は起きる。

 

 故に、対処法は分かっている。体の位置をずらす、何かで防ぐなどして、音の波長を変えてしまえば良い。それだけで衝撃のほとんどは軽減される。

 

 本来ならば。

 

 これは無理だ、これだけは無理だ、この竜の声にはそれが通じない。

 

 軽減した上で尚、人を気絶させるほどの威力がこの声にはある。

 

 ほんの一瞬で意識は戻る、だが切断された思考と体が再びつながるまでにさらに一瞬の時を要する。

 

 その一瞬の間を竜が見逃さない。

 

 両の翼をぶん、とはためかせる。それだけのこと、それだけの動作で暴風が吹き荒んだ。

 ごろごろと無防備に転がっていく体、その途中で再び体の自由を取り戻し、一瞬で起き上がる。

 

 ――――――――遊ばれている。

 

 分かっている、だからこそ自分が今生きているのだと言うことは。

 遊んでいるのだ、この竜は。自身を甚振りながら、いつだって殺せるのに、あえて殺さないように動いている。

 そして自身はそれを甘受する。

 

 自身がやるべきは時間稼ぎだから。

 

 だから殺されないように嬲られている現状はある意味()()()()()のだろう。

 

 腸が煮えくり返りそうになっていることを除けば。

 

 

 

 自分がおかしくなっていることには気づいている。

 普段の自分はもっと冷静なはずだ。()()()()()()()()()()()()はずなのだ。

 だとしたらどうしてだろうか。

 

「はあああああああああああ!!!」

 

 振り降ろされた太刀、一閃の銀光を空に描きながら、けれどその一撃は竜にさしたる意味を為さない。

 ぐるぅ、と竜が哭く。どうしてだか、竜が嗤った気がした。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 叫ぶ叫ぶ、叫ぶ。

 最早その行動に思考は無い、ほとんど本能のままに、躱し、振り抜き、守り、射抜き。

 けれどそこに意味は無い、意味は無い、意味は無い。

 この武器でどれほど頑張ろうと竜を傷つけることはできない。

 

 狂っている。それを自覚する。明らかに今自分は狂っている。

 

 感情が乱れる、乱れに乱れ、怒りのままに太刀を振るっている。

 

 どうしてこれほどまでに感情が乱れるのか、理解できない。

 

 理解できないからこそ、抑制もできない。自分で自分の感情が支配(コントロール)できない。

 

 ()()!!!

 

 ()()()()!!!

 

 明らかにこのままではいけないと理性が叫んでいる、だと言うのに。

 ()()()()()()!!! と本能が叫ぶ。

 

 理解できない、理解できない、理解できない。

 

 竜がすぅ、と大きく息を吸い込む。

 

 咆轟、すぐ様気づく。だが同時に防ぐ手立ては無い。自分で自分を抑えきれないのに、どうしろと言うのだ。

 

 “轟”と爆音が樹海を揺るがす。

 

 最早衝撃波となって襲い来る()()()

 

 斬。

 

 一閃、太刀が煌めく。

 本能のままに、怒りのままに任せたその一撃が虚空を切り裂き。

 

 同時に()()()()()()()()()()()()()()()を伝えてくる。

 

 すとん、とまるで何かが綺麗に収まったかのように。一瞬にして理性が体を取り戻す。

 

「何…………今の…………」

 

 本能のままに振るった一閃、言ってみれば、ほとんど無意識だった。

 けれどそんな僅かな思考の余地すら目の前の竜は許してくれない。

 

 黒竜のアギトが開く。咆哮…………違う、あれは!!!

 

 灼熱の火球が三度、その口から噴出される。

 避ける、当たり前だ、当たれば一瞬で消し炭だ。

 そして大地に着弾し、爆発しながら燃え広がる。

 

 最悪だ、とすぐに理解する。

 

 ここは()()なのだ。そんなところで()()()()()など吐かれれば。

 

 燃える、燃える、燃える。炎が広がり、徐々にだが樹海を飲み込んでいく。

 竜がその翼を揺らす。轟、と吹き荒んだ風が加速度的に炎の勢いを増していく。

 

 直観的に気づく。わざとだ、と。

 

 非常に不味い状況だ、燃え盛る炎は竜にとっては大した意味の無いものかもしれないが、自身にとっては危険極まり無い。

 そして目の前の竜は恐らく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その狡猾さに戦慄する。

 

 そして同時に気づく、いよいよ仕留めにかかりに来た、と。

 玩具で遊ぶのは飽きたらしい。助けは…………まだ来ない。だが恐らくキャンプのリオもこの火災にはすぐに気づくだろう。逃げるのか、それとも手を打つか。どちらにしろ、彼女に危険が及ぶことは無いと思っていい、そんな無謀を彼女が侵すとは思っていない、その程度にはすでに彼女を信頼している。

 

 だから、後は自身をどうにかするだけだ。

 

 死にたくない、今心の底からそう思っている。

 死の恐怖を知った…………否、思い出したからこそ、全身が死を理解し、恐怖し、そして否定する。

 生きるのだ、絶対に、絶対に生きるのだ。そう覚悟し、太刀をぐっと握りしめる。

 

 この竜から逃げるのには一つ厄介な物がある。

 

 咆哮だ。他は倒すには問題があっても、逃げ出すならば問題無い程度のものばかりだ。

 だがあの咆哮だけはダメだ、一瞬でこちらの意識を吹き飛ばすあれを使われては逃げてもすぐに捕まるのがオチだ。

 

 だからこそ、あの咆哮をどうにかしなければならない。そのために鍵は先ほどの一撃だろう。

 

 戦いながら、少しずつ考えていた。そうして気づいたのは、太刀を振るう直前、竜は咆哮をしていた。だが自身は気絶しなかった。何故? 心当たりは、あの太刀を振るっていたから、しかない。

 あの時の手ごたえは一体何だったのか。あの時は確かに空を切っていた。何もない空間を切って、けれど確かな手ごたえがあった。

 それが何なのか、二つの出来事をつなげて考えればすぐ分かる。

 

 音だ。

 

 それが本当に手ごたえ…………刃を押し返したのかどうかは分からない、ただの感覚的な物(フィーリング)だったのかもしれないが、それでも確かに自身が感じたあの手ごたえはそれだろう。

 

 音を斬る。

 

 可能かどうか、と言われれば。

 

 ()()()()()

 

 正確には音だけではない、風圧でも良かった、何ならブレスでも良かった。

 

 ()()()()()()()()ための技。

 

 義兄の得意としていた技の一つ。

 

 確か名を。

 

「断空」

 

 覚えている。確かにそれは教えられたことがある。

 あの時の自身にはできなかったことではあるが。

 

「…………ふ、ふふ」

 

 無意識とは言え、一度自身はそれを成功させた。そう考えれば、笑みも零れてくると言うものだ。

 あの義兄の技を、たった一つ、偶然とは言え。

 

「…………私にもできる、のね」

 

 無理だと半ば思っていた。いつかきっと、そう諦めていた。

 けれどそうではない、何年も何年も、憧れたその背中を見つめ、追い続けてきたその過去は。

 

 決して無駄ではなかったのだと、気づかされた。

 

 気分が前向きになる。まるで何でもできるとでも言うかのように。

 分かっている、ただの錯覚だろう。

 けれど、手札は増えた。たった今、増えたのだ。

 

 行ける、もう竜の行動は大方把握できた。

 唯一逃げ出すのに何としても防がなければならない咆哮への対策も出来た。

 

 気分が良い。義兄風に言うならば、“テンション上がってきた”だ。

 

 笑みが増えた分だけ、心の余裕も増す。そうすると見えなかった部分も見えてくる。

 

 竜が跳びあがる。跳びながら、飛ぶ。

 その脚力で勢いをつけたまま地を蹴り、翼を大きくはためかせ高さを稼ぐ。

 そしてその勢いのまま滑空し、その両の脚でこちらを掴もうと降りてき、それを横にずれて躱す。

 そしてすれ違い様にその脚の先…………そう、爪の先端を狙って…………一閃。

 

 【練気】+【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 体の芯から絞り出すように集めたなけなしの練気を刃に乗せた一撃は、黒竜の爪の先の先、ほんの数センチほどを切り裂き、()()()()

 

「練気まで使ってこの程度、ね…………ホント、未熟で嫌になるわ」

 

 呟きながら、欠けて宙に舞った爪の先を空いた左手で掴み取り、走り出す。

 どすうぅぅぅん、と派手な音が響く。

 着地寸前でつま先を斬られた黒竜が着地に失敗し、転んだのだ。

 転倒し、勢いのままに二転、三転し。

 その隙をついて燃える樹海を駆け抜ける。

 

 竜が起き上がる気配がする。

 

 だが振り返らない走り続ける。

 

 竜がこちらを振り向く。

 

 同時に振り向く。足を止める。

 

 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 咆哮を発する。同時に、太刀を構え。

 

 見えない音の壁が吸った息を吐くよりも早く迫る。

 

 けれど理解する、ほとんど狩人(ハンター)の生存本能で、迫る危機を理解する。

 

 だからそれを切り裂いた。

 

 轟、と直後、咆哮が響く。非常に喧しい、だが気を失うほどではない。

 

 再び走りだす、だが今度は何度も背後を振り返りながら。

 

 黒竜は走りだそうと一歩踏み出す、だがそこで止まる。

 欠けた爪に視線を落とす。ぐるぅ、と唸る。

 

 ああ、やっぱりだ、と内心で呟く。

 モンスターたちの巨体を支えているのはその太い脚。

 そしてその巨体が突進してくる際、その勢いを殺すのは、爪だ。

 ティガレックスやナルガクルカなどが分かりやすい例。大地を掴む爪を失くせば、突進をしても勢いを殺しきれずに転ぶ。モンスターとて生物だ、そう言う当たり前の弱点は確かに存在する。

 そしてあの黒竜は非常に頭が働く、自身が狙って爪を奪ったことを理解しているだろう。

 だから警戒している、二足歩行とは言え、両手が翼と化したあの黒竜では転倒すれば起き上がるのは苦労するだろう。先ほども数秒の間があった。

 黒竜は野生の生物だ。故にどんな状況であっても、無防備を晒すことを嫌う、厭う。例え捨て身で自身を追いかけてくれば自身はあっさり詰むとしても、モンスターの本能がそれを許さない。

 だから、取れる手は二つしかない。一つは咆哮で足止め、けれどそれも失敗した。

 

 だから、もう一つ。

 

 黒竜が大きくその口を開き。

 

 直後に過った嫌な予感に、思わず真横に飛び込むようにして跳ねる。

 

 結果的に、それが自身の命を救う。

 

 直後、先ほどまで自身がいた地点を飲み込むかのように放たれた極太の光の柱。それは僅か数秒のことに過ぎなかったが、黒竜の向いた方向の直線状、数百メートル先までの全てを一直線に薙ぎ払っていた。

 危なかった、幸いBCとは大きく進路がずれていたから向こうに被害は無いだろうが。

 

 アレをベースキャンプに向けて撃たれたらそれだけで詰む。

 

 だがそれは結果的に杞憂に終わる。

 黒竜は動かなかった、こちらを睨むように視線を向けたまま、その姿が見えなくなるまでただ動かずこちらを見ていた。

 

 

 と、同時に遠くにベースキャンプが見えてくる。

 

 

 思えば黒竜から逃げながら随分と遠くまで来てしまったものだと思う。

 

 そこにいるリオの姿を認識し、僅かに安堵の笑みを零した…………瞬間。

 

 

 ズダァァァァァァァァァ

 

 

 背後の森から爆音が響く、と同時に森の中から黒い影が飛び出し、そのまま凄い速度でぐんぐんと空をへと飛びあがっていく。

 

 そしてそれが遠く空の彼方へと着ていくと同時に。

 

「…………た、助かっ…………た?」

 

 すとん、と全身から力が抜ける。崩れ落ちそうになる体に鞭打ってなんとか支える。

 

 この間からどうしてこう危ない目ばかりに遭うのだろう。

 

 そんな愚痴を吐きながら。

 

 遠くキャンプからこちらを見て手を振るリオに、手を振り返す。

 

「…………取りあえず、帰ったら早く武器を変えないいけないわね」

 

 呟き、手の中のボロボロに刃の零れ落ちた(なまくら)を見、苦笑した。

 

 

 

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】


称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】




EXスキル→本作オリジナルスキル。G級ハンターとなると割と当たり前のように持ってる。

EXスキル【断空】→形の無い物を斬る技術。咆哮、風圧、特定のブレスなどの“当たり判定”に対して斬撃武器で攻撃を当てた時、その効果を無効化する。

ぶっちゃけカイさんが序章でウカムのブレス斬ってたのこれ。
あと某チャット部屋で「…………空裂○?」って言われた時「あれ?」ってなったのは秘密(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話 休息

 ぷかぷかと、湯に浮かぶ感覚が心地よい。

 全身を弛緩させ力が抜けきったまま手足を投げ出すように広げてぷかぷかと湯に浮かぶ。

 義兄も義姉もこれだけは絶対に必要だ、と拘っている理由が良く分かる。

 

 自宅に風呂が…………それも温泉があるなど、さすがはG級ハンター、その中でもトップクラスだった義兄の家である。

 

「湯加減はどうですか?」

 そうして眠り心地に誘われながらゆったりと湯につかっていると、湯殿の外から声をかけられる。

「…………大丈夫、とってもいいわ、()()()()

 閉じていた目を開き、視界に飛び込んでくる高い天井と硝子なんて贅沢なものを使った大きな窓から見える外の景色に心揺さぶられながら、声の主…………義姉に返事する。

「そうですか、着替えは置いておきますから、ゆっくり入ってください」

 そう告げて、義姉の足音が遠ざかる。更衣所から出て行った辺りで扉を閉める音が聞こえ、そして後にはチョロチョロと湯船に湯が注がれ続ける音だけが流れる。

 

 

 

 黒い竜との闘いから三日が過ぎた。

 

 ベースキャンプに戻るとほぼ同時にリオの呼んだ緊急帰還用の迎えがやってきていた。

 街に戻るとリオはすぐ様、自身を連れてギルドへと向かった。

 

 黒い竜の報告にギルドが一時騒然となる。その時、一人の職員が口走っていた台詞が自身の耳にやけに残った。

 

“またか”、と。

 

 黒い竜の報告は実は以前から少しだけあったらしい。古龍観測所からの報告が一番最初であり、それ以降もここちらほら見受けられていたのだが、実際に襲われたと言うハンターがここ最近になって増えていると言う。

 すでに六名。新人ベテラン問わずそれだけのハンターが件の竜に殺されていると言う。襲われて命からがら逃げかえった自身たちのようなハンターも数人ながらおり、ギルドとしてもどうにか対策を考えてはいるのだが。

 

 黒い竜は常に移動しており、どこかに定住すると言うことが無い。

 

 それがギルドを悩ませる最大の要因となっていた。

 モンスターとしてはかなり異例なことではあるのだが、あの黒い竜…………ギルドで定められた呼称“アンノウン”は、縄張りと言うものを持たない。

 各地を飛び回り、気紛れにハンターに襲い掛かる天災であった。

 

 元は別の地方にいたらしいのだが、最近になってこちらへとやってきたらしい、と知り合いのギルド受付嬢が零していた。

 

 厄介なものである、普通G級などの強力な個体と言うのは自身の縄張りから出てこない。追い出された上位個体や、そこからさらに逸れた下位個体などを分類付けして難易度ごとにハンターたちに割り振るのがギルドの仕事だが。

 

 あの黒い竜はG級でありながら縄張りを持たない。それはつまり、下位ハンターたちの向かうような浅いエリアにでも姿を現す可能性がある、と言うことである。まさしく今回の自身たちのように。

 G級ハンターたちを配置して待つくらいしか打てる手が無い。だがそもそもG級ハンターの絶対数が少ない上に、いつ来るか分からない天災のようなモンスターを倒すまでの間、下位ハンター上位ハンターたちへのクエストを差し止める、などと言うこともできない。

 

 だから、近々ギルドの総力を上げての討伐戦を行う、そんな話が上がっているらしい。

 

 いくら縄張りを持たないとは言え、安全を確保した(ねぐら)の一つや二つはあるだろう、それを探し出し、待ち受け、塒に戻ってきた竜を討つ。

 

 

「…………ただまあ、私たちには関係の無い話よね」

 ぼんやりと外の景色を見ながら、呟く。

 G級モンスターの相手をするのは同じG級のハンターたちになる。今、この街にG級ハンターを招集しているらしい。分かってはいたが、下位ハンターである自身の出番などありはしない。

 

「…………悔しいわ」

 

 口惜しい、規則とは言え、戦うことすら許されないわが身の未熟に苛立ちさえ覚える。

 着実に力をつけている、その自負が自身にはある。かつては使うことのできなかった義兄の技を使うことができたのがその証左となりうるだろう。

 だがそれでも足りない。近づくだけではダメなのだ。

 

 真似ているばかりでは、いつまで経っても追いつけない。

 

 それが分かってしまう程度には才覚があってしまったからこそ、焦る部分もある。

 こんな調子で本当に義兄を見つけることができるのだろうか、と。

 

「…………ダメね、やっぱり」

 

 ざぱん、と湯船の中で体を起こす。たっぷりと湯を吸い込んだ長い黒髪の先からぽたぽたと雫が流れ出す。

 髪をまとめて摘まみ、きゅっと水気を絞りだす。そのまま立ち上がり、湯殿から出る。

 更衣所に置かれた大きな姿見は義兄の拘りらしい、様式美、とか言っていたがよく分らない。

 そこに映る女の姿を見る。

 

 背丈の頃は百六十弱と言ったところ、十六と言う年齢を考えればまあ育ったほうだろうか。長く腰まで届くまっ黒な髪、光を吸い込むような暗い色の髪とは反対に赤く紅玉のように輝く瞳。体にはハンターと言った職業にありがちな傷などもほぼ無い。元が雪山の麓の村の出身だからか、肌はやけに白い。ハンターとなって幾度も太陽の下で戦ってきたのだが、ほとんど焼けることが無い。顔はまあ他人曰く整ったほうらしい、正直自分では良く分らないし、こだわりもさしてないのだが、あまり顔に傷をつけるような真似をすると義姉が顔を暗くするのでその辺りは気をつけていたりする。

 見慣れた姿の女だ、姿身を見て、それから視線を下げる。

 僅かな起伏がそこに見え隠れするが、義姉と比べると、悲しくなるほど平たい、ほぼ誤差と言ってしまえる。いや、義姉の発育が良すぎるだけなのだろうが。

 ただ表情に関しては義姉よりも柔らかいと自負する。それも人間を取り繕ってきた結果と考えると、あまり良い物とは言えないが。

 

 更衣所から出るとすぐに食卓だ。見れば義姉がすでに座っていた。

「義姉さん、待っていてくれたの?」

 食卓に並べられた料理には一切手はつけられておらず、料理のレシピ本を読みながら座る義姉の姿を見てそう呟く。

 こちらの存在に気づいた義姉が本から視線をずらし、こちらを見やる。とそう言った何気無い仕草の中でも、どどん、とその存在感を主張する双丘に思わず視線が向く。いや、普段ならそこまで気になるようなものでは無いのだが、風呂上りなど…………自身の無さを実感した直後だけに思わず見てしまう。

「あらレティ、あがったんですね、じゃあ一緒に食べましょう」

 そんな自身の視線に僅かに首を傾げつつ、そう告げる義姉の言葉にはっと我に返る。

 ぱたん、と本を閉じて席を正す義姉に誘われるままに向かいの席に座る。

 机の上に並べられた料理を見ると、そう言えば朝から何も食べていなかったと思い出し、くう、と腹の音が鳴る。

 そんな自身の様子に義姉が微笑しながらどうぞ、と促してくる。

「それじゃあ…………えっと、いただきます」

 両の手を合わせそう告げる。不思議な習慣だと思う、少なくとも自身の知る限り他にこんなことをやっている人たちを見たことは無い。

 そもそも自身だって義兄に拾われてから教わった習慣であり、言ってみれば義兄が発祥みたいなものだ。

 ただ十年以上繰り返された習慣だけに、そうすることが最早自然であり、逆にそうしなければ違和感を覚えてしまう程度には繰り返してきた。

 

「なんだか久しぶりですね、こうしてレティと二人で食事をするのは」

 

 大皿に盛りつけられたパスタ料理を小皿に取り分けながら義姉がそう呟く。一人分に取り分けた小皿をこちらに差し出し、それをありがとうと告げて受け取る。

 

「最近は…………まあ、忙しかったから」

 

 元々は武器を新調するためにクエストを多くこなしていたし、例の個人依頼のせいで一週間くらいは取られたし、それが終わったらリオと試しに組んでクエストに行き、行ったと思ったら先日の黒い竜である。

 僅か一月足らずの間に、色々起こりすぎではないだろうか、なんて思いながらそう答える。

 小皿に取り分けられたパスタを、フォークで一口分ほどに巻いていき、口に運ぶ。

 ハンターと言うのはけっこう粗野な連中が多い。勿論中には例外もあるのだが、一般的なイメージとしては割とそんなものだ、何せクエスト先で狩った草食竜の肉をその場で焼いて食事にしてしまうようなことだってあるのだ、そんなところで上品さなど求めてはいられない。

 ただ自身の場合、街の中…………少なくとも、落ち着いて食べることができる時はきちんとマナーを守って食べている。

 そう言う風に仕込まれたからだ、目の前の女性に。

 

 ハンターとしてのレーティアは義兄が仕込んだ結果であり。

 人間としてのレーティアは義姉が仕込んだ結果である。

 

 自身の人間性や性格などは割と目の前の義姉の影響が大きい。

 死の恐怖から感情が狂ってしまった自身がまっとうな人間になるために、まっとうな人間に擬態するために、参考にしたのが当時義兄の傍にいた彼女だからに他ならない。

 年を追うごとに正常な感情を取り戻し、先日長年凍っていた恐怖と言う感情をも取り戻した今となってはもうそんな擬態にも意味は無いのだが、けれど長年続けてきた習慣染みた行動と言うのは中々変えられないものである。

 

「ハンター…………頑張っているみたいですね」

 

 僅かに眉根を潜めながら義姉が呟く。

 その心中が一体どうなっているのか今の自身には分からない。

 けれど義姉からすれば自身の内心などまるでお見通しなのだろう。

 

「あまり…………無理はしないでください。私は、大丈夫ですから」

 

 空気が重い…………感情を押し殺したその声に、けれど自身は答えない。答えられない。

 

「…………………………………………っ?! けほけほけほ」

「食べながら話すな、と言ったのは私ですが、話そうとしてそんなに急いで食べるものじゃありませんよ」

 

 義姉に答えようと、口の中のものを何とか片づけようと急い飲み込み、思わず喉に詰まらせ咽る。

 義姉が席を立ち、自身の背中を摩る。同時に目の前にカップを差し出してくれるのでそれを受け取り中の果実水を一息に飲み込む。

 ようやく口の中の物を飲み込み、人心地ついてから口を開こうとして…………けれど口を閉ざす。

 

 何と言うか、この空気で真面目な話はし辛い。

 

 やってしまった感はあるが、誤魔化せた感もあるので何とも言い辛いが…………まあいいか。

 

「私は…………私なりに意味があってハンターをやってるわ。だから、義姉さんが気に病む必要なんて無いの」

 

 それだけを口にして、再び食事に戻る。

 

 義姉はもう何も言わなかった。

 

 それを良いとも、悪いとも言わず。

 

 黙して同じような食事を続けた。

 

 

 * * *

 

 

 しばらく休息をしよう、とリオは街に戻ってきたその日に言った。

 ギルドからの簡単な事情聴取などもあったが、何とか報告も終え、解放された直後のことだ。

 

「その鉄刀もさすがにもう使えないだろう、代わりのものを用意する必要もある。けどそれ以上に、あんな怪物と一人で戦ったんだ、自分で自覚できない疲れが体中に溜まっている…………ゆっくりとそれを抜いておいたほうが良い」

 

 先輩からアドバイスだ、とリオがそう告げる。

 確かに、肉体的にもそうだが、あの黒竜との戦いは精神的にもかなりの疲労を感じた。生死のかかった状況だっただけに普段以上に疲労しているのは事実だろうし、そして生死がかかっていた状況だけに、それを自覚しきれていない部分もあるだろうことも事実だろう。

 そう言った疲労は普通に休んだだけでは抜けきらない。抜くには、戦わずゆっくりと過ごすのが一番だろう…………いざ、と言う時にその疲労は体を侵す猛毒となりかねない。だからリオの言葉に素直に頷く。

 

 それに、と少しだけうつむきがちに彼女は続ける。

 

「私は私でやっておきたいことができた」

 

 そう呟くリオの様子に、どこか違和感を感じつつも、そこで別れる。

 

 それから三日経つがリオからの連絡は来ない。

 ハンターカードを交換したので、お互いの連絡先や住所は知っている。

 もう数日様子を見て、来ないようならこちらから尋ねてみてもいいだろう。

 

 それよりも今は行かなければならないところがある。

 

 街の東側、職人通りと呼ばれるそこに目的地はある。

 街の中央を上下に分断するように流れる川に沿って建てられた工房の数々。

 あちこちからキンキン、カンカン、と槌を振るう音が聞こえてくる。

 

「さて、どうなってるかしらね」

 

 呟きながら、左手に持つ鉄刀を見る。

 見事にボロボロだ、鞘のあちこちに歪みがあり、刀身を抜いてみればあちこちに刃こぼれやひび割れが目立つ。

 よくこんなボロ状態で戦えたものだ、と改めて先の戦いの悲惨さを思い出す。

 

 行く先は…………まあ察しはついているだろうが、工房だ。

 

 元々リオとパーティーを組む前に依頼は出していたのだ。

 すでに素材とお金は渡している。ただ一本一本武器を手打ちする以上、一日二日で、とはいかないのが武具生産だ。

 あれから一週間ほど経っている。出来上がっているならそれで良いし、出来上がっていないならば借りていた鉄刀だけでも返しておこうと思い来たのだ。

 

 出来上がっていない場合、武器が無くなるが…………取りあえず今のところ新しい武器が出来上がるまで自身はクエストに出るつもりが無い。

 リオにもその旨は伝えてある。

 

 可能性の話ではあるが、今後もまたあのアンノウンのような規格外の個体と出くわさないと言う可能性は無いわけではないのだ。

 だからこそ、クエストに出る時はいつまたあのアンノウンに出会っても良いような出来うる限りの万全の準備をして出発したい。

 

 きっとまた出会ったとして、その時万全の準備をしても、きっと勝てはしないだろう。

 

 それでも、その爪の一本、鱗の一枚でも貰っていく。

 

 それだけの借りがあの黒い竜にはあると、思っているから。

 

 だから…………絶対、絶対に。

 

「今度会ったら、ただじゃおかないわ」

 

 そう、決めた。

 

 

 

 




下位、上位、G級のバランス調整ちう。

特にハンター側の武器バランスが難しい。

取りあえず参考資料は種類の豊富なフロンティア、あと元ネタとも言える2Gあたりかな。

因みに義兄が昔使ってた武器は、フロンティアの覇種武器くらいを想定してる。
分からない? 2GのG級の最上位くらい。
フロンティア基準のG級武器は多分出ない。出したらチートすぎるし。でもトンファーは出したい(


称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】


称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話 再起の誓い

 

 

 

「きゅうひゃく…………はちじゅういいち…………きゅうひゃく、はちじゅうにい…………」

 

 ぷるぷると震える腕。けれど構わず体を支える腕を曲げる。

 

「きゅうひゃく…………はちじゅうさん、きゅうひゃくはちじゅう…………よん!!」

 

 すっかり鈍ってしまっている、と感じた。自身が片足を失ったその日から、ずっと鈍らせてきた体は、酷く錆び付いていた。

 

「きゅうひゃく…………はちじゅうごお…………きゅうひゃく、はちじゅうろく」

 

 左腕は背中に、今地面について体を支えているのは右腕だけだ。体は倒立の要領で持ち上げ、全体重を右腕一本に集約させる。

 

「きゅうひゃく、はちじゅうなな…………きゅうひゃく…………はちじゅうはち…………きゅうひゃくはちじゅうきゅう……………………」

 

 震える腕が曲がらない、痙攣を起こし、筋肉が悲鳴を上げている。

 だが足りない、この程度では足りない。

 

「きゅうひゃく…………きゅうじゅう!!!」

 

 腕の重みも、限界を感じさせる震えも、全て意思でねじ伏せ、無理矢理に曲げる。

 

「きゅうひゃくきゅうじゅう…………いち」

 

 この程度のことならば、昔の自分ならば容易にやっていたはずだ。

 片腕ずつ全体重を乗せての腕立て伏せ千回。ほとんど日課のようにこなせていたはずだ。

 

「きゅうぎゃくきゅうじゅう…………にい、きゅうひゃくきゅうじゅう…………さ…………ん」

 

 まずは落とさなければならない、錆び付いた体からブランクを。

 そして片足を失った以上、以前以上の力が必要だ。

 

 これから先、再びG級ハンターに復帰するつもりならば。

 

「きゅうひゃくきゅうじゅうよん、きゅうひゃくきゅうじゅう…………ごお…………きゅうひゃくきゅうじゅうろくう!」

 

 相方レーティアはこの先に、必ずG級に到達するだろう。

 それだけの潜在能力が彼女にはある、そして狡猾なる狩人の理を知る彼女はこの先も生き延びて、その才能を開花させていくだろうことは予想できる。

 

 そしてG級に到達した彼女の隣に、けれど自身の居場所などありはしない。

 

「きゅうひゃくきゅうじゅうなな、きゅうひゃくきゅうじゅうはちいい…………きゅうひゃくきゅうじゅうきゅう!!」

 

 片足を失ったハンターの居場所など、無い。

 

 自身はそれが原因でG級でいられなくなったのだから、当たり前の話だ。

 

「せ…………ん…………」

 

 千回、確かにやり遂げると同時にどさりと崩れ落ちる。

 痙攣し、言うことを聞かない右腕を歯がゆく思う。

 

 きっとこの先も彼女は、先の黒い竜のような強敵たちと戦い続ける。

 けれどそれに自身がついていけないことは、先の黒い竜の戦いを見れば一目瞭然だった。

 

 今の…………片足を失ったリオレイシアにはG級モンスターどころか、上位モンスターとだって戦って生き残る術がない。

 

 やり方を変える必要があるのは分かっていた。それでも、ただ生きていくだけならば下位クエストをG級時代に培った経験と武器防具で無理矢理こなしているだけでもなんとかなった。

 けれど、今はそれではダメなのだと悟る。

 

 

 正直に言えば、リオは怒っていた。

 

 誰よりも、何よりも、自分自身に腹の底から怒りを覚えていた。

 

 どうして、どうしてなのだ。

 

 どうして自身はあの黒い竜を前にして、彼女を一人置いて逃げ出したのだろうか。

 

 分かっている、あの場でリオが残ったとしても意味などない。

 二人して竜に言いように遊ばれるのがオチだろうことなど分かり切っている。それどころか、レーティアに自身を庇わせてしまう分だけ足を引っ張る結果にしかならないことなど分かっている。

 それでも納得はできない。

 

 自身よりも三つも下の少女に全てを押し付けて自身は安全圏で助けを待つだけだなんて、納得できるはずがない。

 

 どうしてそうなってしまったのか…………分かり切っていた。

 

 弱いからだ、リオが、あの黒い竜を前にして、何の手立ても無いほどに弱かったからだ。

 あの時、竜を怯ませる手立ての一つでもあれば、レーティアをサポートすることだってできたはずだ。

 あの時、竜を相手に逃げ延びる手立ての一つでもあれば、囮となってレーティアを助けることだってできたはずだ。

 

 無力だった、余りにも、無力だった。

 

 そんな自身に腹が立った。

 

 情けない、それでも元G級ハンターなのか、つまらない、弱い女に成り下がったな。

 

 自身を(なじ)れば詰るほどに怒りが沸き上がってくる。

 

 何一つ言い返せない。自身で呟いた言葉の全てが自身の胸を射抜いてくる。

 

 それはつまり、自分で分かっていると言うことに他ならない。

 

 自身の弱さが、脆さが、愚かさが。

 

 だからこそ、必要だと思った。

 以前の強さが…………否、以前以上の強さが。

 

 少なくとも、足を失った直後のあの当時のリオならば、あの黒い竜と対峙しても手立ての一つや二つあっただろう、例え片足を失っていても、何もできずに逃げ出すだけだなんてこと絶対にありえなかった。

 当時の日課だった訓練をやってみれば結果は一目瞭然だ。

 自身の体は酷く鈍っている。分かってはいたが想像以上に酷かった。

 だからまずは元の身体能力へと戻す。あの頃の自身の強さを手に入れる。

 

 だがそれだけではダメなのだ。

 

 そこで終わってしまってはリオの目指す立ち位置にはたどり着けない。

 

 例え元の身体能力と、以前の戦闘勘を取り戻したとして。

 

 ――――今のリオには片足が動かないと言う大きなハンデがある。

 

 確かにそれでも十分と言えば十分だろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ふ ざ け る な !!!

 

 

 自身と彼女は相棒だ。互いが互いを助け合うことはあっても、片方が片方を一方的に助ける関係などではない。

 サポートにしかならない相棒…………そんなもの、パーティーでも何でもない、お供程度の存在ではないか。

 

 明確に意識する。

 

 そうだ、自身はレーティアと対等で居たいのだ。

 

 自身にとって、レーティアが必須だと思えるように。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に必要なのだ。今までの自分に無い、何かが。

 

 もしくは。

 

 今までの自分を取り戻せる何かが。

 

 

 そのためならば。

 

 ――――強さを妥協してはならない。

 

「…………いいさ。恥は捨てよう」

 

 ――――弱さを甘受してはならない。

 

 どうせ以前散々迷惑をかけたのだ…………今更なことである。

 

 ――――強くあれ、ただ強くあれ。

 

 呟き。

 

 ――――そうでなければ狩人に生きる資格など無い。

 

 遠くからやってくる人影を見ながら。

 

「さて、まずは着替えてくるとしようか」

 

 ショートパンツにタンクトップ一枚で汗だくになっていると言う中々異性に見せられないような自身の恰好に思わず呟いた。

 

 

 * * *

 

 

 工房ですでに完成していた太刀を受け取り、その足でギルドに向かった。

 

 鉄刀に関しては借り物をダメにしてしまったこともあり、こちらで引き取ると言ったのだが、工房主の鍛冶師がいいと言ったので、少しだけ気兼ねしてしまう。

 義兄が長年愛用している工房らしく、自身の義兄から紹介されて通うようになったのだが、あの工房の太刀は確かに他の工房と比べても随分と質が良い。同じ素材と代金で頼むならば、絶対にあそこが良い、と思う程度には。

 ただ工房主である鍛冶師が随分と寡黙な職人であり、決して気難しいわけではないのだが、どうにも苦手に思ってしまっている。

 

 まあそれはさておき、ギルドに入ると相変わらずそれほど広いわけでもない一階のフロアに所狭しとテーブルが並んでおり、狩りから戻ったばかりのハンターや、これから狩りに向かうハンターたちがテーブルで酒を酌み交わしたり、パーティー内でクエストの説明をしていたり、狩ってきた獲物の自慢話を吹聴していたりと、非常に騒がしく雑多としている。

 

 ハンターとは賑やかな人間が多い。それは、明日自身が生きているかも知れないそんな命がけの職であるからこそ、その日その日を全力で生きようとする風潮のようなものだ。だからいつだって騒ぐための口実を探している。口実の半分以上は酒を飲みたいと言う欲求だが、それでもそう言う面があるのも事実である。

 例えG級ハンターであろうとも同じだ。いつ死ぬか分からない、義兄だって本当はもう…………。

 

「お、レーティアの嬢ちゃんじゃねえか」

 

 誰かがそう言った。

 クエスト受注カウンターと半ば兼用になった酒場を歩く自身を認めて、誰かがそう言った。

 

「おい、生きてたのかよ嬢ちゃん」

「お、なんだ…………レーティアの嬢ちゃん、戻ってきたのか」

「噂の竜と戦ってた聞いたが、やっぱり嬢ちゃんなら生きて戻ってこれたな」

「だから言ったろ、嬢ちゃんが死ぬわけねえだろ、なんたってカイの野郎の妹なんだからよ」

「は? でもカイだって死んだじゃねえか」

「ばっか、あいつが死ぬわきゃねえだろ。あいつが本当に死ぬようなタマかよ」

「そりゃそうだ、きっとどっか別の地方でまたぞろ女ひっかけながら狩りでもしてるんだろうよ」

「おいバカやめろ、俺たちがレイナさんに殺される」

「ちくしょおおおお、俺のレイナさんをおおおおおおおお」

「まだ泣いてるバカいるのな、もう何年経ってると思ってんだよ」

「いやでもあの鉄壁のレイナさんがまさかの爆弾発言だぜ、俺あの時いたけど思わずジョッキ落としちまったわ」

「号泣してるバカ多かったなあ、まあかく言う俺もジョッキどころか樽一つ頼んでパーティー全員でヤケ酒したけどな」

「いやでも前から素振りはあったろ」

「バカ野郎、レイナさんなら誰でも優しかったじゃねえか、それならアイツも所詮その一人だって思ってたのに、思ってたのにいいいいいいいいい」

「でもカイの野郎いなくなって、レーティアの嬢ちゃんも独り立ちしちまったら、レイナさんもあの家に一人で寂しいんじゃねえのか?」

「お? 俺の出番かな」

「「「「「下がってろ三下」」」」」

「んだとこの野郎ども!!!」

「そうそう、三下は下がってろ、ここは俺の股間のラオシャンロンの出番だろ」

「おいおい、その汚いモスの尻尾しまえよ」

「ふざけんな俺の話まだ終わってねえだろ」

「つうかモスの尻尾って、渦巻いてるのかお前」

「なにそれみた…………いや、冷静に考えなくても見たくないな」

「てめえら…………ぶっ殺してやらああああああ」

 

 ………………………………うん、何と言うか、本当に賑やかな人たちである。

「…………ふふ、みなさん、お元気そうで」

 後ろで起きている乱闘に苦笑しつつ、酒場エリアを抜けて奥のクエストカウンターへと向かう。

「えぇっとだからこっちの区域のクエストを…………こっちだよねぇ? えっとぉ? それから、こっちのクエストはぁ…………あ、これ上位クエストじゃない、向こうに回さないと…………それにこっちのは…………ちょっと、ここどこよぉ未開のエリアを当たり前のように指定されたって行くわけないでしょ、焚書よ焚書」

「ユイさん? ちょっと良いですか?」

 ぶつぶつと一人呟きながらクエストの紙を仕分けている下位クエストカウンター受付嬢に声をかける。

「あ? 今忙しいんですけどぉ…………ってレティちゃんじゃない。よく来たわね、お菓子食べてくぅ?」

「あ、いや、今はいいです」

 

 この少しだけ間延びした喋り方をする受付嬢がユイ・カーティス。

 

 元受付嬢だった義姉さんの後輩だった人。

 

「んー…………さてぇ、ではではぁ。レーティアちゃん。ようこそギルドへぇ、本日はどのような用でしょうかぁ?」

 

 その縁で昔からの知り合いであり、半ば私の専属みたいに、私好みなクエストを優先的に回してくれる人。

 

「リオからの伝言は、あります?」

「ああ、レティちゃんのパーティーメンバーのリオちゃんねぇ。ありますよ…………えっとですねぇ、もう一週間ほど時間が欲しい、だそうです。因みにこれ昨日の伝言ですねぇ」

「なるほど…………じゃあ、その一週間、使わせてもらいましょう」

 

 そうして告げようとする言葉に、胸が弾む。

 太刀を握る力が強くなる。

 

「クエストお願いします」

 

 告げた言葉にユイの顔に笑みが咲く。

 

「はぁい」

 

 そうして彼女が渡してきたそれを見て。

 

「ふふ…………ふふふ」

 

 義姉にも言ったが。

 

 やっぱり私は私なりの理由があってハンターをやっている。

 

 だってほら…………今だって。

 

 新しい武器を持って、身に着けた技を振るいに行けると思うと。

 

 笑みが止まらないのだから。

 

 私ももう心の底からハンターと言う生き方に染まってしまっている。

 

 

 




登場人物紹介


レーティア・ブランド― 16歳 身長159cm 黒髪赤目

ポッケ村の隣村辺りに住んでた元村娘。村の風習である、神への供物として死ぬところをカイによって助けられ、以降はカイの義妹として街に引っ越してくる。
現在ハンターランク2のハンター。数か月前までは義兄の家に義姉と共に住んでいたが、行方不明の義兄を探すためハンターとなるべく家を飛び出す。現在ボロ家に一人暮らし。ただしほとんど寝るためにしか戻ってないので、半分以上は物置状態。でも下位のハンターなんて割とそんなもん。
因みにリオ曰く“ハンターランク6くらいの実力はありそう”。ただし装備は(
アンノウンと出会ったことで、少しだけ意識が変わったらしい。
基本スタイルがハンター基準なので、女性らしい悩みと言うのはそれほど持っていないが、それでも義姉との圧倒的女性としての性能の差には少しばかり思うところが無いわけでもない。


リオレイシア・ハーティス 18歳 身長149cm 白髪青目

実はレーティアよりもちんまり合法微ロリ。髪は元々金だったが、片足を失った時に白くなった。元G級ハンターで“スナイパー”の称号持ちだったが、クエスト中の出来事により片足を失い、現在HR2まで降格した。因みにこの世界の制度的に、一定期間内に最低限の成果を出せないか、もしくは何度も連続でクエストを失敗すると降格処分が下る。リオの場合、片足を失ったことに自棄になってクエストを受けて、失敗するを何度も繰り返してしまったため。割と落ちるとこまで落ちて冷静になってからは受けるクエストも選ぶようになったがそれでも消沈してしまっており、もう上を目指す気力も無く日銭を稼ぎながら生きていたらレティと出会った。現在割と真面目に片足のハンデをどうにかする方法を考えているらしい。


カイ・ブランドー 24歳 身長186cm(最後の記録では) 黒髪黒目

誰だっけこいつ?


レイナ・ブランドー 23歳 身長164cm 茶髪金目

レーティアの義姉ちゃん。元ギルドの受付嬢。誰に対しても変わらない公平でありながら優しく親切な態度で、その反面表情はぴくりとも動かない、そのギャップに射抜かれたバカな男は数知れず。今でもファンの多い、街の中で伝説的扱いをされている超人気受付嬢。他の街のハンターにまでファンがいるとかいないとか。それだけにカイとの結婚は波紋を呼んだ、と言うか大タル爆弾Gを誤爆したような大騒ぎになった。本当の本当に、本気で一時期とは言えギルドの運営が止まりかけるほどの大騒ぎになったが、最終的にカイが全員黙らせて、そのカイをレイナがノックアウトして終了と言うオチがついた。カイとのエピソードは割とオモシロユカイなものが多いが、ここでは語らないでおく。
それほど自身の性を意識していないレーティアが思わず意識してしまうほどに圧倒的な女性として魅力に満ち溢れた人物。と言うか、美人で胸が大きくて、家事万能で、料理が上手い。元ギルドの受付嬢だけあって、ハンターと言う職に対する偏見も無く、寛容であり、あとこれで一人の男に一途、となれば誰も勝てねえよこんなの。
それだけにカイの行方不明に精神をすり減らしている薄幸ヒロイン。あれ? この小説のヒロイン(女主人公)誰だっけ(


ロイ・ゴールド 56歳 155cm 茶髪茶目

誰だよこいつ、って思った人、本編に名前は出てない。
カイ…………今ではレーティア行きつけの工房の鍛冶師。本編じゃ名前無いのに、まさかのこっちで出演である。
ゴールドと言うのは、金属鍛冶を代々行ってきた割と由緒ある家の名前らしい。その名の由来は祖先がとある山で金を掘り当てたことに端を欲するとかなんとか。
腕前に関しては伝説の鍛冶師を除けば、()()()()()()はほぼ最高峰。
と言うか、ゴールド家の鍛冶師は一人一人得意とする分野のようなものがあり、お爺ちゃんの場合、太刀が専門らしい。
この世界、当たり前だが機械産業なんて無いので、素材と金があれば均一の質、なんて夢のまた夢。職人の腕前次第で割とその武器の質は大きく左右されることなんて当たり前のようにある。
自分の住む街に太刀専門の職人がいるとか、レーティアさん勝ち組過ぎである。


ユイ・カーティス 18歳 身長156cm 金髪碧目

Q.なんでお爺ちゃんより紹介が後なんですか?
A.キミのほうが後に登場したからです。
18歳って若いけど、実はレイナさんが居た頃からずっと受付やってるので、通算するともう2年か3年くらいは受付やってるベテラン職員だったりする。
自身の教育も担当したレイナのことを先輩として当時から慕っており、敬愛する先輩の義妹としてレーティアのことも割と昔から知っていたりする。
何となく勘の良い読者諸君ならば察したかもしれないが、カイとレイナが結婚したのは、実はここ数年のことであり、レーティアはその時すでに拾われてきて数年くらいは経っている。当時のレーティアは、レイナの義妹(予定)なのだが、まあ実際のとこ実の妹のように可愛がっていたので、後輩としては多少嫉妬もあったのだが、レーティアに実際に合うと、キャーこの子カワイイー、となって骨抜きになってしまったオモシロキャラでもある。






登場人物紹介なっが(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十二話 鮮血の雪山

 

 肌を刺すような冷たい風を、寒いと感じるより懐かしいと感じてしまう自身に自嘲染みた笑みが零れる。

 フラヒヤ山脈の一角。雪山エリアと呼ばれるそこは、自身にとって故郷であるチッチ村のすぐ近くにあり、自身にとっても馴染み深い場所であった。

 一歩、足を進めるたびに、この雪山を上った幼い日のことを思い出す。

 

 決してそれは良い思い出とは言えないけれど。

 けれどその後の出会いは悪い物では無かったから。

 

 だから今更、そんな思い出にレーティアが左右されることは無い。

 それでも、確かにこの場所は。

 自身にとって懐かしいと思える場所であり。

 

「…………郷愁なんて、今更過ぎるわね」

 

 けれどもうそれも過去の話だ。全ては過去の話。

 少なくとも、今を生きる自身には関係の無い話。

 

「…………気が抜けてるのかしらね」

 

 だとすれば大変だ。少なくとも今から戦う敵は、今まで自身が狩ってきたモンスターよりも、一段も二段も上に座す存在なのだから。

 空を見上げれば厚く黒い雲に覆われている。いつ雪が降りだしてもおかしくないし、いつ吹雪に発展してもおかしくない。

 昔からこの寒さに慣れているせいか、他のハンターたちよりも寒さに強い自信はあるが、それでもこの過酷な環境下、野ざらしのままいつまでも戦えるなんて自信はさすがにない。

 寒さは容赦無く自身の体力を削り取っていくだろう。ホットドリンクも持ってきてはいるが、数はそう多く無い。

 最初から時間に制限がついている…………中々に厳しい状況だが、上を目指せば目指すほどこんなもの当たり前のようにある。ごちゃごちゃと文句ばかり言っていても仕方ない。

 

 その程度で弱音を吐いているならば、上を目指す資格などあるはずもない。

 

「…………っと、ここね」

 

 岩壁に茂った太く丈夫な蔦を使いながら高台に昇ると、視線の先には洞窟への入り口。

 風が無い分、外よりも暖かく感じるが、それは錯覚だ。洞窟内部は一層冷え込んでおり、適応のできない生物の生命を容赦なく削っていく。

 急いだほうがいいかもしれない。今日はここ数週間で一番冷え込みそうだ。

 目安として、二日以内に狩りを終わらせるつもりではいるが、この分では安全を取って三日か四日程度見て置いたほうが良いかもしれない。

 

 洞窟の入り口は壁伝いの細い崖の上の道となっており、崖下には竜種の巣やギアノスの群れが見える。

 

 と、その時、ジジジジジ、と耳障りな音が聞こえる。

「……………………不味いわね」

 その正体をすぐに察し、腰に差した太刀に手をかける。

 ジジジジジジ、と音がゆっくりと移動し…………そうして、自身の背後にやってきた瞬間。

 

 すぱん、と振り向き様に太刀を一閃させる。

 

 キィィィ、と断末魔の声を上げながら、一メートル弱はあろうかと言う巨大な甲虫種ランゴスタが上半身と下半身を真っ二つに切断されてぼとりと地面に落ちる。

 ランゴスタは甲虫種に分類されるモンスターであるが、大抵の武器で一撃殴れば死んでしまう脆弱さの代わりに、多くの厄介な特徴を持つ、ハンターにとっての死神だ。

 

「…………まさしく一匹見れば…………ね」

 

 ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ、とどこからともなく羽音が聞こえてくる。

 第一に、虫のような外見に違わず、だいたい一匹見かければ二十から三十程度は群れていると思えば良い。酷いところでは百匹を超える群れを作っていることがある。

 

 そして第二に。

 

「っく、そこ!」

 羽があるので宙を自在に移動できるのだが、やたらとハンターの死角を狙う傾向がある。気づいたら真後ろにいた、なんてことも多く、特に大型モンスターと戦っている最中だと気づかないことが多い。

 そして何よりも。

 

「っ、ぶないわね!」

 

 ひゅっ、とその尻に生えた針を突き出してくる。間一髪で躱しながら太刀でその体を切り裂く。

 ランゴスタの針からは、麻痺毒が流れ出している。

 一撃、二撃程度ならば訓練所で耐性をつけたハンターならば問題無いが、言った通り一匹見れば数十匹の群れを作っているような相手である。

 三度、四度、五度と刺されればさすがに体が痺れて動かなくなる。そうなれば待っているのは数十匹の群れによる刺殺しだ。

 こいつに殺された初心者ハンターは数知れず、時には上位ハンターですら殺されることすらある非常に危険な敵である。

 

 ただし、対処法はきちんとある。

 

 一つは実力行使。数は多いが、下位ハンターが一撃殴っただけで死ぬような脆弱さしかないので、多数を相手取れるのならば、気をつけて戦えばそれほど問題のある敵でも無い。

 

 そしてもう一つが。

 

「準備しておいて良かったわ」

 

 事前に準備し、いつでも取り出せるように袖口に入れておいたソレを地面に叩きつける。

 

 瞬間、ぶわぁ、と紫の噴煙が洞窟内を舞う。

 

 そして、次の瞬間。

 

 じ、じじじじじ、じじじじじじじ

 

 羽音が断続的に途切れ出す。次第に視界内にゆらゆらと揺れる、随分と不自然な動きのランゴスタたちの群れが現れ、やがて。

 

 キ、キイイィィィィィ

 

 と、次々と悲鳴を上げながら地面に落ちていく。

 

「効果覿面ね」

 

 口元を腕で押さえながらぼそりと呟く。

 

 毒けむり玉、と言う道具がある。毒テングダケと素材玉を調合しただけ弱い毒性の煙をまき散らす道具で、それほど使い道は多くないのだが。

 甲虫種相手には非常に有用な道具となる。

 

 広範囲に毒をまき散らす上に、体の小さい甲虫種は少量の毒でも致命的となりうるために、こうしてランゴスタの群れを殲滅するのに非常に向いている。

 

 いつもならここで群れの素材を剥ぎ取るところなのだが、今回は先を急ぐため全て崖下に蹴り落とす。

 下のほうでギアノスが落ちてきたランゴスタの死骸を啄もうと集まってきている。

 崖上の細道を進むと、割と広い凍った道に出る。上り道と下り道があるが、周囲に敵の姿は無い。恐らくギアノスたちが集まってしまっているためだろうと予測し、運が良いと笑う。

 そのままそそくさと目立たないよう道を上っていくと、洞窟の出口が見えた。

 

 そうして洞窟から抜け出し、広い雪原へとやってくると同時。

 

 

 それがいた。

 

 

「…………ビンゴ」

 

 そこに白い竜がいた。

 目は無い、鱗も無ければ甲殻も無い。角のようなものも無く、全体的な印象として丸みを帯びている。

 真っ白な全身のいたる箇所に血管と思しき赤い線が浮き上がっており、その異様さを際立たせている。

 

 フルフル、そう呼ばれる飛竜の一種だ。

 

 そう、飛竜。今まで狩ってきた鳥竜種とは違う。

 正真正銘の竜種。

 フルフルは飛竜の中でも小柄なほうであり、少々他とは違う特異な生態をしていはいるが、総合的な実力を見れば飛竜の中では下のほうと言っても良い。

 

 新しくなった武器と、そして今の自身の腕を試すには絶好の相手だろう。

 

 かちん、と鍔を鳴らしながら僅かに太刀を抜く。

 そんな些細な音も、けれど無音の雪山では良く響く。

 ぴくり、とフルフルがそれに反応を寄越し、顔をこちらに向ける。

 

 そこにはあるべき目が無い。

 

 暗所を好むフルフルは、その目を退化させてしまっているため、煙玉や閃光玉など視覚を潰す攻撃は意味を持たない。

 けれど、代わりに使えるものがある。

 

「嫌な臭い…………でもまあ仕方ないわね」

 

 呟き、しっかりと密封していた箱の中を開き、あふれ出した臭気に思わず顔をしかめながらそれを取りだす。

 

 肥やし玉、そう呼ばれる球状のそれをフルフルの手前に投げる。

 

 ぼん、と弾けるようにして周囲に茶色がかった煙が噴出する。

 鼻の曲がりそうな臭いに、思わず涙が出そうになるがなんとか堪えて走り出す。

 

 目の無いフルフルだが、嗅覚は存在していることは研究者たちの調べで分かっている。

 だから周囲に強烈な臭いを発する肥やし玉を使うと、ほんの一時とは言えフルフルはこちらの存在を見失うのだ。まして、まだこちらに完全に気づいていなかった時点での不意打ち気味のソレである。

 

 状況が分からず一瞬硬直するフルフルに肉薄し。

 

「まずは一発、もらうわ」

 

【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【抜刀改心】+【業物+1】+【剣術+1】

 

 一閃、煌めく銀光が真一文字にフルフルを薙ぐ。

 スパァ、とその首が切れ、血が噴き出す。

 

「いい切れ味」

 

 呟きつつ、身を沈める。

 フルフルがそこにいるはずの自身を薙ぐように首を伸ばすが、一瞬遅く、空振りに終わる。

 そうして半分体を沈めた態勢、そこからもう一度太刀を鞘に戻し。

 

「二発目」

 

【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【抜刀改心】+【業物+1】+【剣術+1】

 

 振り抜いた刃がフルフルの首の傷をさらに抉る。

 ァァァァァァァァ、とフルフルが悲鳴染みた声を上げながら後ずさる。

 その隙を逃さずもう一撃…………とは行かず、後退する。

 

 視線の先の白い巨体が、バチバチと放電を開始する。

 直後、その全身を電流が包み込む。

 今突っ込んでいれば電流の餌食になっていたことは間違いないだろう。

 

 僅かに距離を置いて、放電が収まるのを待つ。

 ルゥゥゥゥ、と荒い息を吐きながらフルフルが放電を止めると同時にすぅ、と大きく息を吸い込み。

 

「っまず」

 

 オオオオオオオオオアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ

 

 雪山中に響き渡るような絶叫がその口から発せられる。

「斬っ!!」

 

 【断空】

 

 タイミングを合わせるように一つ息を吐きながら、鞘に納めた太刀を薙ぐ。

 キィィィィと耳鳴りのような音がするが、それでも体が動かなくなるほどではない。

 けれど、技の未熟さ故か、ほんの一瞬、体が崩れそうになる。

 その隙を見逃さないとフルフルが首に力を込めて。

 

 突如その首がぬいっ、と伸びる。文字通り、あり得ないほどの長さまで伸びている。

 知識としては知っていた、フルフルは自身で首の骨を外し、筋肉で支えることにより一時的に首の長さを伸ばせる、と言うのは知っていたのだ、ただ目の前で起きたあまりにも常識離れしたその光景は、知識と経験の差を思い知らせるかのように自身を驚かせた。

 

 だが、亜種とは違う、ただ真っすぐ伸びるだけだ。

 食らいつけば自身の頭くらいなら丸呑みできそうなほどの巨大な口がすぐ傍まで迫る。

 けれど冷静に半歩、体をずらせばその口もすれ違うばかり。

 

 すれ違い様に、太刀の柄で思い切りその横面を殴りつける。

 

 オォォォォォォ、と悲鳴を上げながらフルフルがその首を支えきれず、ドシン、と地面に横たえさせる。

 ずるずると首を引き戻すその隙に、歩法を持って数歩でその間を詰める。

 首が引き戻されたと同時、その顔に向かって上から太刀の柄を振り下ろし、同時に下から膝で蹴りを入れる。

 

 がちん、と上と下同時にやってきた衝撃に、さしもの弾性に富んだその皮膚も衝撃を逃しきれず。

 

 どたぁぁぁぁん、とフルフルのその巨体が崩れ落ちる。

 

 とは言っても死んだわけではない。脳震盪を起こし、気絶しているだけだ。

 モンスターの驚異的な回復力があれば、十秒…………否、五、六秒あれば回復するだろう。

 

 ただし、裏を返せば、五秒以上もの間、敵を目の前にして無防備になっていると言うことだ。

 

 太刀をその頭部に突き立てる。

 

 焦る必要は無い、敵は動かないのだから。

 

 そうして慎重に狙いをつけて…………。

 

 ずん、と一息に太刀を押し込む。

 その巨体に比べると幾分か小さく見えるその頭部を太刀が貫くと、どくどくと血があふれ出し、びくん、とその巨体が揺れる。

 直後、左右の翼を揺らしながら数度びくり、びくりと痙攣し…………。

 

 けれど脳を貫かれた生物など最早生きていられるはずもない、やがて動かなくなる。

 

「…………フルフル討伐完了、ね」

 

 三日の予定だったが、思ったより早く終わってしまったな、なんて思いつつ。

 

 周囲を見渡し、敵影の無いことを確認して。

 

 そうして剥ぎ取り用のナイフを取りだした。

 

 

 * * *

 

 

 ぱきり、と人の気配の無い雪山の山頂で何かの音がした。

 

 雪山の山頂エリアは大きな広場となっており、ブランゴやその主であるドドブランゴ、時折ドスファンゴや稀にティガレックスなどの大型モンスターまで訪れる危険地帯である。

 今もブランゴが雪原に足跡をつけながら徘徊しているが、その音がしたと同時に、ぴくりと顔を上げる。

 音は小さな小さな物だ。ブランゴとて野生の生物として身体機能は良いのだろうが、それでも聞き取れるほどではなかったはずだ。だがそれにも関わらず、まるでその音に反応したかのようにブランゴは周囲を警戒し始める。

 

 ぱき、ぱきぱき、と音がした。

 

 瞬間、ブランゴが目の前の崖に向かって威嚇を始める。

 

 まるでそこに何かがいると思っているかのように。

 

 ぱきぱきぱきぱきぱきぱきぱき、と音がした。

 

 途端、ブランゴが一目散に駆け出す、雪山を下ろうと。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして。

 

 ぱきぱきぱきぱき…………ぱりーん、と何かが割れる音がして。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ

 

 天地を揺るがさんばかりの咆哮が雪山に轟いた。

 

 直後、先ほどまでブランゴがいたその広場にソレが降り立つ。

 

 そうしてソレがその場に存在しているのだと、()()()()()()()()()()()()()()()瞬間。

 

 ゴオオオオオオオオオオオ、と激しい風と舞い上げられた雪が吹雪となって吹き荒れる。

 

 そうして誰も居ない雪山の山頂で。

 

 一匹の怪物が、産声を上げた。

 

 

 




鮮血の雪山、ただしその血はモンスター用(

と言うわけで咆哮無効化されたらフルフルなんて実はそんなに強くないよなあ、と言う話。
基本フルフルの即死コンボって咆哮→ブレスだし。

そもそもほとんど攻撃させてもらえずに、割としゅんころされてしまったフルフルさん。

因みにモンハンドス時代に俺は殺されまくった恨みがある。まあ嫌いじゃないんですけどね、フルフル。多分、G級とかになったら本気のフルフルさんが見れる。


と言うわけで第一章ボスの伏線(見えてる)を立てつつ本日は終了。



称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十三話 緊急クエスト

 

 

「久しぶりだね」

「ええ、久しぶり」

 およそ一週間ぶりに出会ったリオの姿に、思わず笑みが零れる。

 ハンターギルドの酒場の一角で、互いにジョッキを交わし合い、一息に飲み干していく。

 度数の低い、ほとんどジュースのような酒だが、これからクエストに出ようかと言うときに酔っても仕方ないだろう…………義兄じゃあるまいし。

 

 あの義兄は一度、べろんべろんに酔っぱらって伝説に称される黒龍に裸一貫で戦ったとか言う頭の痛くなる事実を残している。義兄のことは好きだし、尊敬もしているが、さすがにそれだけは目を逸らしたくなる。しかも本当に勝ってしまったから当時のギルド職員たちは多いに頭を抱えたと言っていた。

 …………まあその酔っぱらって判断力の怪しい義兄にさらっとG級最上位のクエストを渡したのは他ならぬ義姉なのだが。

 

 あの二人は当時すでに恋人だったらしいが、何と言うか。

 

 どうも他の地方で一度撃退された黒龍がたまたま通り道にあったこの街に襲来してきた、と言うことらしい。私も後で聞いた話だ。その時の私は義兄に言われ別の街にいたのでその話を後になって聞いただけである。

 

 まあリオはあまり酒に強くないようなので、そう言った心配も無いだろうが。

 

 そんな思考はさておき、対面して座るリオの様子を伺う。

 一週間、彼女が何をしていたのか自身は知らない。

 だが何もしてないわけではないだろう。

 時間が欲しい、そう言ったのは彼女なのだから。

 

 とは言うものの、ぱっと見た限り何か変わった様子は無い。

 さて一体何をしていたのだろうか、少し楽しみでもある。

 

「さて、今更ではあるのだけれども」

 

 膨らませていた想像を断ち切るように、リオが呟く。

 

「一週間、待ってもらって悪かったね」

「本当に今更ね、構わないわ。それが必要なことだったんでしょ?」

 自身の言葉にリオが僅かに口を閉ざし…………やがて、ああ、と返した。

「まあ、まだ完璧に、と言うわけではないけど…………下地だけならできた」

「そう…………まあそれは次のクエストの時にでも聞かせてもらうわ」

 配膳されたリュウノテールのステ―キを適度に切りながら口に運んでいく。

 かなり固めの肉なのだが、調理した人間の腕のお蔭か苦も無く噛み切れる。じわ、と内よりあふれ出てくる肉汁に舌鼓を打ちながらジョッキに残った果実酒を口に含む。ステーキに使われているトウガラシ、ペッパーバグなどがかなり辛いので、甘口の果実酒がそれを緩和してくれ口内の調和を保ってくれている。

 最近発掘した組み合わせだが、なかなか当たりだと思っている。

「次のクエストか…………その前に一つ、レーティア、キミに聞いておきたいことがあるんだが」

 手に持ったロースハツ丼を置いて、リオが姿勢が正す。

 何か重要な話だろうか、と少しだけこちらも身構えて。

 

「キミは、カイの家族か何かかい?」

 

 出てきた言葉に、一瞬だけ思考が飛んだ。

 

 

* * *

 

 

 リオレイシアと言う少女は、かつてG級ハンターだったことがある。

 と言ってもほんの一年前とかそれほど昔のことでは無かったが、とにもかくにも、G級ハンターとして第一線で活躍していたことが時機がある。

 

 G級ハンターは人外魔境の世界だとリオは思う。

 

 ハンターランクだけで見れば7以上の人間をG級と呼ぶが、本当のG級ハンターとはハンターランク8からを差す。ハンターランクは上位を卒業した通称“凄腕”クラスと呼ばれ、真にG級ハンターと呼ばれるようになるには、もう一つランクを上げる必要がある。

 G級ハンターの定義とは非常にシンプルなものである。

 

 ハンターギルドにG級と定められたモンスターを狩ることができること。

 

 たったそれだけ。

 だがそれだけのことができるハンターが、この世界には数えるほどしかいないのだ。

 G級とは、それ単体で国一つ滅ぼすことのできる怪物だ。

 それを滅ぼすためには国家一つが総力を上げる必要があるとすらされる怪物。

 

 G級とは、覇者だ。

 

 種族の頂点に君臨する怪物中の怪物。

 

 例え最底辺と定義されるようなドスランポスであっても、その下位個体であろうと、どのハンターよりも強靭な肉体を持っている。そんなモンスターたちの中で頂点に立つポテンシャルを持ち、そして生存競争に生き残り、さらにはハンターたちとの激戦を潜り抜けた種族最強の存在、それをG級と呼ぶ。

 

 その肉体からはモンスターならではの圧倒的な身体能力。その経験からは身体能力を十全に発揮する技術と、生き残るために身に着けた知恵。

 

 生き抜くために身に着けた力の全てを振り絞ってハンターと戦うその在り方は、まさしく食うか食われるかの自然の有様であり、G級に限って言えば、モンスターもハンターも対等。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんなシンプルな理論で動いている。

 そしてそんなG級と言う名の覇者を殺すG級ハンターたちもまた人中の覇王と言えるのだろう。

 

 G級ハンターと銘打っても、その肉体だけを見れば他のハンターたちより少しばかり身体能力に秀でている、程度に過ぎない。それだって長年戦い続けて成長したから、とも言える。

 モンスターの血肉を食らい、モンスターから剥ぎ取った素材を身に纏い、モンスターの武器を自身の武器とする。

 その末にたどり着いた境地は、人外魔境の異界だ。

 

 G級ハンターとはすべからく、何かに対して突き抜けている。

 

 肉体的なものでも良いし、技術的なものでも良い、それこそ知恵だって良い。

 

 ただそれを絶対の武器とし、それがG級モンスターよりも上回っていること。

 

 それがG級ハンターがG級モンスターを討伐できる最大の理由であり、唯一の理由である。

 

 例えばの話。

 

 リオレイシア・ハーティスは昔から目が良かった。

 一種、異常とも言えるほどに遠くまで鮮明に見通すことができた。

 半面、身長や体重、体格など言ったものには恵まれなかった。実際十八になった今でも年下の少女に身長で抜かされてしまっているくらいだ。

 だから力など関係ない武器として、ライトボウガンを選んだ。

 

 けれどそれだけではただのボウガン使いだ。専門とし、立ち回りを覚えてもモンスターの圧倒的強さには敵うはずもない。

 

 故に、手持ちのボウガンをひたすらに改造し。

 

 ()()()()()()()()()()、なおかつ()()()()()()()()()改良した。

 

 後はひたすら練習だ、()()()()()()()それでいて()()()()()()()()()弾丸を当てる練習。

 

 そうしてリオは“スナイパー”との二つ名呼ばれるG級ハンターへと至った。

 

 

 

 カイ・ブランドーと呼ばれるハンターは、それら全てを超越していた。

 

 

 

 バカだろこいつ、誰かがそう言った。

 否、そんなの彼を知る誰もが思うだろう。

 実際リオだってそう思った。

 

 G級モンスターと言うのは基本的に多対一が基本だ。勿論ハンターが多のほうで。

 どんなハンターでも、ある程度専門とする武器種と言うものがある。

 武芸百般、など現実にはあり得ない。誰だろうとたった一つ、生涯をかけて極めるのが精々であり、対峙するモンスターによって武器を変えるなんてことはできない。だからどんな状況にでも応じられるように複数人でパーティーを組み、複数の状況に対応できるように武器種の幅を持たせ、対応力を上げるのだ。

 

 本来は。

 

 あの男はたった一人でどの武器をも使いこなす。大剣だろうと、双剣だろうと、弓だろうと、ランスだろうと、ハンマーだろうととにかくなんでも使うし、なんでも使いこなす。

 けれど最終的には太刀を使う。それが専門だと皆が知っている。

 

 そして太刀一本で全ての状況を覆す。

 

 不条理で、不合理、で理不尽な存在。

 

 故にその二つ名は“天災”。

 

 扱いとしてはG級古龍となんら変わらない。人の内より生まれた怪物の中の怪物。

 G級モンスターが怯え逃げ出したハンターなど、後にも先にもあの男だけだろう。

 

 リオ自身、それほどカイと関わりがあるわけではない。

 だが偶然、クエストで同じフィールドに向かったことはある。

 共同で狩りをしたこともある。

 

 故にその太刀捌きを見たことがある。

 

 G級モンスターを一刀で斬り伏せるその理不尽な強さを見たことがある。

 

 レーティアの太刀筋は何となくカイのその姿を彷彿とさせた。

 

 故に少しだけ調べて、すぐに気づく。

 

 レーティア・ブランド―。

 

 ブランド―と言う名。カイ・ブランドーと同じその姓。

 

 故に尋ねる。

 

「キミは、カイの家族か何かかい?」

 

 告げた瞬間、レーティアの目を大きく見開かれた。

 

 

 * * *

 

 

「私は――――」

 

 口を開こうとした、その瞬間。

 

 からんからんからん、とハンドベルが鳴らされる。

 

 瞬間、ギルド内にいたハンターほぼ全員が音の方向へと向いた。

 向いた方向…………クエストカウンターで、ユイが立ち上がって両手を口元に当てて叫ぶ。

「緊急クエストが発布されましたぁ! 対象は()()()()()。目標地域はフラヒヤ山脈頂上部、そして狩猟目標は…………()()()()!」

 

 古龍、その言葉と共に、動揺が広がった。

 

 全てのモンスターは、いくらかの分類がされている。

 例えばアプノトスなど比較的安全な草食種、ランポスやイャンクックなどの鳥竜種、ランゴスタやカンタロスなどの甲虫種、リオレイアなどを始めとする飛竜種など様々だ。

 

 古龍種と言うのはその分類の一つである。

 

 一言で言うならば、生きる天災。

 

 他を圧倒し超越した生命力と他に類を見ない能力を持ち、一たび動き出せば破壊と殺戮を振りまく文字通りの動く災害。

 

「雪山を生息域とする古龍…………と、なると」

 

 ふと視線をやれば、リオが何か考え込んでいた。

 元G級ハンターの彼女である、どうやら何か思い当たる節があるらしい。

 それから周囲のハンターたちに視線をやる。

 

 …………誰もかれもが動揺を隠せないままに、口々に展望を話し合っている。

 

「受注するハンターはこちらの受付カウンターへ」

 

 ユイのその言葉に、立ち上がった男たちがいた。

 その様子にハンターたちがざわめく。

 

 HR6、今最もG級に近いとされる男たち。固定メンツでのパーティーであるために、パーティーそのものに二つ名がついている、余り他人に興味の無いレーティアですら知っているその名。

 

 “恐れ知らず(ドレッドノート)”パーティー。

 

 常に全身甲冑の四人組であるため、どの街でもすぐに噂になる存在である。

 その実力は確かなものであり、G級に最も近いとされるのは伊達ではない。

 

「私たちの出番は無さそうね」

 

 そもそもがHR3以上の制限がついている以上、HR2の自身たちではどうあっても受けれるわけがない。

 …………まあ()()()()()()()()()()()別かもしれないが。

 そんなことを対面に座るリオに告げると、リオが僅かに目を細め。

「ああ…………そうだね、そうだと、いいね」

 などと呟く。その言葉に首を傾げながら。

 

「レティちゃん、ちょっといいですかぁ?」

 

 突然背後からかけられた声に目を丸くしながら振り返る。

 

「リオさんと一緒に、中まで来てもらえますぅ?」

 

 そこにユイがいた。

 

 

 * * *

 

 

 木造の床がぎしぎしと軋み、音を立てる。それほど長くはない通路の左右には多くの扉があり、それだけの数の部屋がある。元来ギルドとはそれほど大きな建物ではない。むしろ兼用している酒場のほうが大きいくらいだ。

 そんなギルドの奥、と言うものに実は幾度か入ったことがある。

 今更言うまでもないが自身の義姉は元ギルドの人間だった、その関係で何度か連れて入れてもらったことがあった。

 だからこそ理解する、そして首を傾げる。自身たちが連れてこられたこの場所。

 人十人か二十人は入りそうな大きな部屋だった。中央に大きな机が置かれており、四席が四方向に十六人までの人間が席に座れるよう椅子が置いてある。

 

 だが今ここにいるのはたったの四人だ。

 

 一人は自身、レーティア。

 一つは相方、リオ。

 

 そして一人は自身をここに連れてきた彼女、ユイ。

 

 そして最後の一人、老練な人間の多い中で、未だ四十代でその座に上り詰めた男。

 

 ギルドマスターがそこにいた。

 自身たちがこの部屋に通された時、すでに男はそこにいた。並べ、揃えられた椅子の一つに座り、その対面側へと自身たちは案内され、座る。

 そうしてユイが男の後ろに立ち、全員が揃ったところで。

 

「ようこそ…………と言ってやりたいが、緊急事態故に単刀直入に言わせてもらおう」

 

 男、ギルドマスターが自身たち二人を見つめながら口を開く。

 

 

「ギルドからの指名依頼だ、飛翔龍クシャルダオラを討伐して欲しい」

 

 

 そう告げた。

 

 

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10 ←

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】


称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10 ←

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十四話 風翔龍

 

 雪山山頂部。

 

 あと少しあるけばそこにたどり着く。

 

「凄いわね…………これが古龍ってことなのね」

「気をつけるんだ、正直古龍は下位個体であろうと、桁が違う」

 

 ざくり、ざくり、と雪を踏みしめる。

 太刀を握る左の手が僅かに震える、それが恐怖から来るのか、それとも武者震いなのか、自身には判断がつかなかった。

 ふとギルドで言われたことを思い出す。

 

 “飛翔龍クシャルダオラを討伐して欲しい”

 

 ギルドからの指名依頼。ハンターはそれを断る権利を持たない。

 故に依頼された時点でそれは強制的に受託されるのだが。

 

 だが疑問があった。

 

 先ほどメンバー募集していた時、上位ハンターパーティーが立ち上がっていたはずだ。

 ならば下位個体の古龍ならばそれで終わるはず。

 どうして自分たちにまで依頼してくるのか。

 

 答えを口にしたのは、意外にもリオだった。

 

 “もう一匹、いるということだよ”

 

 その言葉に、ギルドマスターとユイの表情がハッとなった。

 曰く“その古龍は下位個体、つまり生まれたての存在だ。だとすれば他の個体の縄張りの中で生まれたはずだ。そうなれば古龍の反応も予測できる。古龍な縄張りの中で滅多に動くことは無い、それを侵すものがいようともだ。何故なら古龍にとって人間や他の生物は圧倒的格下の存在に過ぎない、だから一々反応はしない。だが同じ古龍なら…………縄張りを荒らされた龍の行動など決まっている”

 

 つまり、排除。

 

 その言葉にギルドマスターが苦々しく頷いた。

 

 上位個体の中でもG級一歩手前の古龍が雪山目指して移動していると。

 そしてその進路上にある街は…………まあ考えるまでも無いだろう。

 

 古龍とは天災だ。たかが一匹の龍がそれ単体で天災と呼ばれる所以はつまりそういうことなのだ。

 

 故にドレッドノートパーティーはそちらに向かっている。討伐できればそれに越したことはないが、最悪でも撃退はしなければならない。

 だが撃退をしても、件の古龍が生きている限り再び襲来することは間違いないし、何よりも自身に向けて近づく敵の気配を察知して新しく生まれた古龍が雪山から移動する前に、これを討つ役割が必要だ…………だが先ほどの酒場での一件を見た通り、誰も動こうとはしない。

 当たり前だ、古龍など、生きるためにハンターになっている彼らにとって普通戦う相手では無いのだ。古龍を見つけるたびに新鮮な素材だあぁぁ! などと叫びながら討伐に向かう義兄のような存在のほうが明らかに異質なのだ。

 上位パーティーですら下手すれば下位の古龍に全滅することすらある、そのためギルド側も指名依頼を出しづらいし、何よりも確実性が無い。このパーティーならば必ずやってくれる、そんなパーティーは今ちょうどクエストで他所に行っていたり、別の街で休暇中だったりして、あのドレッドノートパーティーが最後だったのだ。

 

 だからこそ、ユイが告げた。HR2だが、古龍を倒せそうなパーティーに心当たりがある、と。

 

 つまりそれが、私たち、と言うことらしい。

 

 

 買いかぶり…………な気もするが。

 どのみち、自身はG級まで一直線に目指しているのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………ねえ、リオ」

「どうした。何か見つけたかい?」

 

 ふと立ち止まる。すでにもう頂上部の目の前、雪の嵐が乱れ吹いているのがすでに感じられる距離。

 もう少し踏み入れば、完全に古龍の攻撃圏内と言ったところ。

 

 だから、今の内に言っておくことがある。

 

「あの時の質問に答えてなかったと思って」

「あの時の質問?」

 何のことか分からない、そんなリオに一度黙し。

 

「私は、十年くらい前にカイ・ブランド―にここで拾われたわ」

「?!」

 

 告げた言葉にリオが目を見開く。

 

「親はもういない。そして…………まあ詳しいことは省くけど、この場所に死ぬためにやってきていた。そこをカイに拾われた」

「……………………死ぬため?」

「そう、それが私に与えられた役割だったから。でもそれも必要無くなった、カイが全部薙ぎ払った、斬り捨てた。だから私は何者でも無くなった。そんな私をカイが拾って…………だからハンターになった」

 

 多分、それが私の原点。

 

「そんなカイが帰ってこなくなった…………半年くらい前だったかしら。もう少し前だったかしらね。だから私、探すことにしたの」

 

 それが今の私の指針。

 

「多分こんな感じのことが知りたかったんでしょ?」

「……………………ああ、そうだね」

 しばし沈黙したまま、けれどリオがやがて捻りだすように声を挙げた。

「そこまで深く知ろうとしてたわけではないんだが…………事情は分かった。ただ一つ聞いておきたい」

「何かしら?」

 リオがきゅっと目を細めた。まるで言い辛いことを言おうとしているかのように。

 

「半年も音沙汰も無いのに、キミはカイが生きていると思っているのか?」

()()

 何の躊躇いも無く頷く。そのことに、リオが呆気に取られたかのように目を丸くし、やがて苦笑した。

「なるほど…………まあいいさ。確かに()()()()()()()()。あの天災がそう簡単にくたばるとは思えない」

「やっぱりリオ、義兄さんのこと知ってたのね」

「ああ、昔何度か一緒に戦ったことがある…………レーティア、キミの太刀は彼によく似ているから、何となく気づけたよ」

 そんな、自身にとって最も嬉しいことを言ってくれる相方に笑みを浮かべながら。

「レティ…………そう呼んで、リオにならそう呼ばれてもいい」

「……………………ふふ、そうか。うん、ならレティ、まずは前哨戦だ。彼の義妹ならば、彼を追うと言うならば、この程度…………()()()()に負けていられない」

 

 あれは正真正銘の天災だからね。そう告げ、不敵に笑うリオに、刀を握る手に力が、熱が籠る。

 

 震えは…………もう無い。

 

「行くわ」

「ああ」

 短く告げ、そうして山頂部へと足を踏み入れる。

 

 

 

 生ける災害がそこにいた。

 

 

 

 * * *

 

 

 オオオォォォオオオォォオオオオオォォォォォォオオオオオオォォオオオオォオオォォォォ

 

 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

 狂ったように龍が叫ぶ。

 

 その度に雪が舞い上がる、地面が爆破でもしたかのように風が叩きつけられ、雪が跳ね、そして荒れ狂う吹雪となって空を舞う。

 

 言うなれば歓喜。この世に生まれ落ちたことに対する、生を受けたことに対する歓喜の咆哮。

 

 今はまだ良い、生まれたばかりでこの龍が確固たる自己を手に入れるまで僅かばかりの時間がある。

 だがそれが終われば、それが過ぎれば。

 龍が動きだす、生ける災害として、自然界に生きる一匹の龍として。

 己の縄張りを広げだすだろう。まずはこの雪山、そしてその麓、やがてそれが人の生きる場所にまで届いた時。

 

 滅びが始まる。

 

 故に殺さなければならない。

 人が人の生きる地を守るために、狩らねばならない。例えそれが自然現象の具現だとしても。災害そのものだとしても。

 

 これは人と自然の生存競争、その代理戦争と呼んで相違無いのだから。

 

 怪物がそこにいた。雪山を、空を、風を、雪を、ほんの一部とは言え、世界そのものを支配下に置いた怪物がそこにいた。

 

 白い、その体はとても白い。

 

 風翔龍クシャルダオラ。

 

 別名鋼龍とも呼ばれるその名の由縁は、体を覆う外殻、そして鱗の尋常ではない硬さにある。主食が鉱石と言うだけあり、生半可な武器では傷一つ負わせることができない。

 そして何よりも、外殻は日を追うごとに硬くなっていく。

 クシャルダオラの成長とはつまり鉱石を食らい、外殻を硬くし、そして極限まで硬化した外殻を脱ぎ捨て変性することを差す。そうした脱皮を繰り返すごとにより強固で強靭な肉体を得ていき、そして長く生きるごとにその肉体を生かす術を覚えていく。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 タッタッタッ、と一足飛びに古龍との距離を詰めていく。

 自身の役割は攻撃役と盾役の兼任だ。正直太刀と言う武器の性質状、盾役は荷が重いと言わざるを得ないが、それでもやることは同じ。

 

 真っすぐ、一直線に、何よりも早く、誰よりも先に距離を潰し、そして。

 

「一刀…………一閃!」

 

【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【抜刀改心】+【剣術+1】

 

 振り抜いた斬撃が、こちらに気づき振りむいた古龍の頭を真っ芯で捉える。

 

 ずぶり、と確かな手ごたえと共に、古龍の…………クシャルダオラの頭部に生えた角の一本がへし折れる。

 

 オァアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 切り裂かれた顔面から血が弾け飛び、けれどもすぐに止まる。修復されていく。

 そして角を斬られたクシャルダオラが激昂の咆哮を上げ。

 

 【断空】

 

 ()()()()

 

 返す刀で振り下ろした一撃でその咆哮を無力化する。

 自身と、古龍と、両者の間にできる一瞬の空白。

 

 そしてその隙間を縫うように弾丸が飛来する。

 

 弾丸がクシャルダオラに接触し、そして。

 

「下がれ!」

 声に従いバックステップ。間合い一つ遠く離れた直後。

 

 ドォン、ドンドォン、連発して起きる小規模な爆発。

 

 拡散弾、そう呼ばれる弾丸だとすぐに気づく。距離を見ればほとんど山頂部の入り口付近。確かこの弾丸はそれほど飛距離が無かったと思うのだが、こんなものまで垂直に飛ばせるのか、彼女の武器は。

 そんな関心をしながらも、決して視線を逸らさない。

 

 黒い噴煙がもうもうとクシャルダオラを覆い、互いの視線を遮る。

 

 そして。

 

 オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ !!!

 

 クシャルダオラを中心として、突如爆風が巻き起こる。

「なっ!?」

 黒煙が消し飛び、巻き起こる風に一瞬、足が止まる。

 

 そして。

 

 ヴォォォォン、と轟音と共に古龍の口から何かが噴き出し。

 

 ずどん、と吹雪を消し飛ばしながら飛来したナニカの衝撃に吹き飛ばされる。

 

 めきぃ、と骨が軋むような音。咄嗟に盾にした左腕に激痛が走る。

「ま…………ず…………」

 吹き飛ばされ、雪原に叩きつけられ、バウンドし、けれどすぐに態勢を立て直す。モンスターの目の前で無造作に転がっていればそんなものただの自殺と変わりない。この辺りの技術は絶対必要と義兄から習得させられた。

 

 ヴォォォォン、二度目の衝撃波。態勢は立て直したが、次弾が速い。避けきれない!

 

 けれど一度食らったから分かる。

 

「行ける…………はず!!!」

 

 激痛に動かない左腕を歯を食いしばって耐え、右腕だけで太刀を構える。

 

 【断空】

 

 一閃、真っ二つに引き裂かれた()()()()()が形を失い虚空へ消える。

「…………折れて…………無い!」

 骨が軋み、痛めている…………だがまだ折れては無い、痛みと硬直から回復しつつある左腕をゆっくりと動かしながら自身の状態を確かめる。

 足、動く、手、動く、体、動く、頭、回る。

「十分!!」

 即座に立ち上がり、走りだす。だが真正面から言ってはダメだ、あの空気の弾丸を吐き出すブレスは強力だ。真っ芯体で受け止めれば即座に全身の骨が折れかねない。左腕が無事なのは、咄嗟に突き出しながら()()()()()()()()()からだ。

 威力の二割か三割は減と言ったところか。受け流しきれなかったら完全に折れていた。実態の無い…………風と言う形の無いブレスだったことは不幸中の幸いか。

 だが困ったことでもある。

 

 風を弾丸にしているが故に、その実態は不可視だ。

 

 地面を、そして雪を消し飛ばしながら飛来するので、辛うじて視認することはできるが、その本質は不可視。()()()()()()()()

 

 だがその性質は分かりやすい。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に回り込むように近づく。そして古龍に限らずモンスターの傾向として。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから近づいて、近づいて、そうして。

 

 ヴォォォン、と三度目のブレス。だがすでにその大きさは見切った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 近づかれた古龍がその腕を振り上げる、だが。

 

 かち、と古龍の頭に、何かが刺さる。

 

 直後、ボンッ、と言う音と共に頭に刺さったそれ…………()()()()()()()()

 

 ガァァァ、と龍が怯み。

 

「一閃…………“一刃”!!」

 

 【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【剣術+1】+【斬心+1】

 

 一瞬の空隙を突き、刃が暗い雪山に煌めいた。

 

 

 

 





称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】【斬心+1】



称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】


EXスキル【斬心+1】→スキル発動から一定時間切断系武器の切れ味を一段上昇、攻撃が弾かれなくなる。



古龍はそんなに頻繁ではないですけど、それでも数か月に一度はどこかの街で出現が確認&討伐が起こってます(この小説では)なのでそれなりに情報はある。

そしてリオちゃんG級ハンターだけあって、クシャと戦ったことある。だから下手に弾撃つと跳ね返ることも知ってるので、反射されない頭部にしかも徹甲榴弾とか炸裂弾とか使ってる。まじでベテランハンター(まあゲームでやったら頭部殴るやつ吹き飛ばしてリアルファイトだが)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十五話 食い合い

 

 斬、ただその一文字だけ込めた刃がクシャルダオラの首筋を薙ぐ。

 刃が過ぎ去ったその直後、ぶしゃあ、と首に赤いラインが引かれ、血が噴き出す。

 

 かなり深く入った…………とは思う。

 

 リオが上手くアシストしてくれた。タイミング的には最高だった、ほぼ理想的な一閃だった。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だがまだだと直観する。首を薙いだ程度で、この程度で古龍が死ぬはずも無い。

 

 かなり大きなダメージだとは思う、修復まで相当な時間も要するだろう。少なくとも、この戦闘中に治るような傷ではない。

 だが目の前の巨体はまだ動く、まだ声を張るし、爪牙を光らせるし、翼をはためかせる。

 戦闘は続行可能だ。ならばまだこれは自身たちを殺そうと動くだろう。

 

 そして自身たちもまた目の前の怪物を殺すために刃を振り上げねばならない。

 

 これは生存競争だ、人と怪物の食い合いに相違無いのだから。

 

 だから、それを終わる時は、どちらかが死ぬ時でしかない。

 

 ガァァァァァ!!

 

 クシャルダオラがその前足を真横に振りかぶり、降ろす。

 振りかぶりから振り下ろしまでの僅か2テンポ程度の短い動作に反応が一瞬遅れる。

 グシャァァと土と雪の入り混じった地面を弾き、こちらへと飛ばしてくる。

「っぐ、不味い」

 音や風ならば刃で斬り裂ける、だが実体のある物は断空では斬り裂けない。特にこんな最初から四散したものを更に斬るなんて真似、自身にはできない。

 咄嗟に後退しながら左腕で顔を覆う。目だけは絶対に守らなければならない。土が目に入れば良くて一、二秒、下手すれば五秒も六秒も視界を潰される。それだけの時間目の前で隙を晒せば…………間違いなく死ぬ。

 同時に理解する。

 

 ()()()()()()()

 

 咆哮を斬り、ブレスを斬り、二度、目の前で見せた技を、技術をこの化け物は学習している。

 こうして目を潰してから。

 

 ヴォォォォォン、と音が聞こえる。片腕で隠し、視界の効かない状況に、咄嗟の判断で真横に転がると同時、自身の横を何かが地面を薙ぎながら通り過ぎていく。

 すぐに腕にかかった土と雪を払いながら、視界を戻す。

 

 そうしてその時点ですでにこちらに体を向けるクシャルダオラの姿を見て。

 

 不味い、とそう感じるより先にクシャルダオラがその巨体で全力のタックルをしかけようと前足を一歩、踏み出した…………瞬間。

 

 ダァン、とその顔面で弾丸が弾ける。

 通常弾程度ならば気にしなかったかもしれないが、貫通弾はそこそこ痛かったらしい、クシャルダオラが足を止め、弾丸が撃たれた先…………リオの方へと顔を向け。

 

「こっちを…………見なさい!!!」

 

 その明確な意識の空白を縫うように、刃を真横に構えながらクシャルダオラに接近し…………()()()()()

 その顔がすぐさまこちらを向き、そして同時、その時にはすでに再び腕が振りかぶられており…………。

 

「罠っ?!」

 

 古龍は人と同じかそれ以上に狡猾である、そんなことを思い出した直後、腕が振り下ろされて。

「間に…………合え!!」

 クシャルダオラの腕が地面を薙ぐと同時、横薙ぎに出された刃がその腕を切り裂き、指先を斬り飛ばす。

 

 ギャォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 

 クシャルダオラが絶叫を上げ、弾かれたように腕を引き戻す。

 だが代償に、咄嗟に瞑った左の目とは反対、右目に土が被さり、強烈な痛みと共に視界が閉ざされる。

「ぐ…………くっ…………」

 片方だけの視界の中で、クシャルダオラが数歩後退しながらこちらを睨む。

 すでに古龍特有の傲慢さは無い、完全なる敵認定。獲物ではない、敵と認識された以上、最早この龍はその死力を尽くしてこちらを殺そうとしてくるだろう。

 正直言って、片目の不利は否めない、だが逃げ出そうにも隙も無い。

 

 どうする?

 

 そう考えた直後。

 

 世界が光に包まれた。

 

 閃光玉だ、とすぐに気づく。そしてそれが()()()()()()()()()()退()()()()だとも。

 

 すぐさまに太刀を収め、一心不乱に走り出す。

 幸い、と言うべきか、クシャルダオラには閃光玉が通じることは事前に分かっていた。

 だから逃げ出すことは十分に可能だろうと予測はしていた。

 ただし、あの怪物の目の前で悠長に道具を取りだし投げる暇があるのならば、だが。

 

 走りながら思う、今回はリオに助けられた部分が多い、そして同時に自身の足りない部分も。

 

 逃げる途中にゆっくりと後退するリオを拾い、背に負う。自身の太刀は基本腰に差してあるのでこういう時は邪魔にならない。

「助かるよ」

「こっちの台詞だわ」

 互いに軽口を叩きあい、山頂部から十分に距離を取って、洞窟内に逃げ込む。

 これで上空から奇襲に合う心配は無いだろう。

 凍った坂道を滑り落ちないように移動しつつ、周辺にモンスターが居ないことを確認して腰を落とす。

 すぐに腰に下げた水筒を抜き、水で目を洗い流す。

 単純な水分と言う意味でも重宝するのは確かだが、それ以上に汚れや毒などを洗い落とすのに水筒はほぼ必須だ。ベースキャンプに置いてくるハンターも多いのだが、義兄に倣って自身はこうして持って歩くようにしている。

 時折こうして必要になることを知ってからは最早必需品だ。

 

「左腕、大丈夫かい?」

「…………こっちね、問題無いわ。少し痛めたけど、まあ折れては無いし、もう一戦くらいはやれるわよ」

 こうして戦闘から離れると途端に骨を痛めたせいか、ずきずきと痛みが走るが甘えたことを言えば死ぬだけだ。だったら多少の無茶も容認すべきだろう。

 左腕の防具を外し、足元に積もる雪で冷やしていく。手の内側に籠った熱がすっと引いて、痛みも少し和らいだ気がする。

「問題は、次で終わらせれるか、と言うことね」

「確かに…………まだ生まれたてとは言えさすがは古龍と言ったところか。冗談抜きで回復が速い」

 初撃で斬り飛ばした角はすでに再生していた、と言っても見かけだけであり、本質的には戻ってないのは知ってはいるがまあ角の一本斬り落とした程度では誤差だろう。

「あの風を纏う厄介な力は角を複数折ると使えなくなるんだが」

「やらせてくれるかしら…………相当に頭が回るわよ、あの怪物」

 まさかこちらに罠まで仕掛けてくるとは思わなかった、リオが咄嗟に撤退の判断を出せなければもう一撃まともにもらっていた可能性は高い。

「ここで一旦撤退…………とは行かないかい?」

「無理ね。ここで逃してもより強くなるだけよ、もう一体のほうが倒されている保証も無いし、最悪突破されてこちらに向かっているかもしれない可能性を考えれば、今仕留めるしかないわ」

 まあそれは余りにも上位パーティーを信用して無い意見なので、考えたくは無いのだが、可能性としては決して否定しきれない。

 

 戦ってみて分かる、生まれたての最弱状態でこれなのだ、これ以上知恵をつけさせ、肉体を強化されては手の施しようがなくなる。

 少なくとも、今の自身たちでは今ここで倒せなければもうチャンスが来ないと思ったほうが良い。

 

「それに…………逃がしてくれる気はないみたいよ?」

「…………何?」

 呟いた言葉に、リオが反応する。

「雪山の周囲を飛んでるみたいよ」

 本当に頭が回る、この雪山から出るための道全てを飛び回って哨戒している。そのことを探知のスキルで気配を読み取りながら察知していた。

 完全に敵として認定されている、こちらを殺し尽すと決め、絶対に逃がすつもりは無い、と言った様子だ。

「覚悟…………決めないとね」

「全く…………勘弁して欲しいね」

 苦笑しながらリオが呟き、立ち上がる。

 それに追従するように自身も立ち上がる。左手の痛みは…………もうほとんど気にならない。闘志が痛みを消し去っていく。それが必ずしも良い状態とは言わないが、少なくともこれから戦う以上は痛みなど邪魔でしかない。

「どうする? 山の麓に行く? それとも」

「いや…………堂々と行こう」

 

 山頂部だ、そう呟くリオの瞳は、決意に固められていた。

 

 

 * * *

 

 

 空に向かって投げた閃光玉が派手な合図となり、龍をおびき出す。

 光に向かって真っすぐにやってくるクシャルダオラの姿に、両手でしっかりと太刀を握り。

 

 ゴガァァァァァァァァァァ

 

 空中で停滞しながら咆哮する龍の脚元を駆け抜け、その尾に向かい一閃。

 ずぱっ、と尾先に切れ目を入れながらそのまま走る。足を止めればその瞬間、クシャルダオラのブレスが飛んで来ることを理解していたからだ。

 目の前でちょろちょろと動く自身を追い、クシャルダオラが翼をはためかせながら飛んで来る。

 だがその動きは滑空していた先ほどまでとは違い、ゆるやかだ。代わりにいつでも攻撃が出せる姿勢ではあった。

 

 だがそれはリオからすれば悪手だ。

 

 拡散弾が発射される。

 爆発を引き起こすこの弾丸は、クシャルダオラの纏う風に阻害されない数少ない弾丸である。

 クシャルダオラが纏う風の鎧は、ほとんどの弾、弓を文字通り()()してしまうガンナー殺しである。故にガンナーがクシャルダオラと相対するのならば、相応の準備と弾丸の選択が要求される。

 小規模ながら爆発を引き起こす拡散弾がクシャルダオラに命中する。

 翼を狙って放たれた弾丸がその翼を爆破し、クシャルダオラの滞空を阻害する。

 一瞬で重力に捕らわれたクシャルダオラが地面へと落ちていき、ズドォォォン、と轟音を立て、地面が揺れる。

 だが無防備に横倒しに倒れたクシャルダオラを狙い、間を詰め…………一閃。

 

 【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【剣術+1】+【斬心+1】

 

 構えから一瞬、真横に薙がれた刃がクシャルダオラの腕を切り裂く。先ほど斬り飛ばした指先は血こそ止まれどさすがに再生はしていない。

 少なくとも、これでもう突進はできない。それどころか、後方にジャンプして距離を置こうとしてもバランスを崩す。

 

 後は。

 

「リオっ!」

 

 後方にいるリオへと声を挙げると、返答代わりに次々と弾丸が起き上がろうともがくクシャルダオラに刺さっていく。

 太刀を収め、クシャルダオラを狙い。

 

 【気刃放出斬り】+【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【剣術+1】+【斬心+1】

 

 居合い一閃。起き上がった瞬間、クシャルダオラの翼を放出された気の刃が切り裂く。

 ボロボロになった翼に、クシャルダオラが怒り、風の鎧を纏おうとして…………失敗する。

 ガァァァと苦し気に呻くその姿に。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ペース、上げていくわよ」

 

 直後、背後から爆発的な光が弾ける。リオが閃光玉を投げたのだと即座に理解する。

 光に背を向けて尚目が潰れそうなその光に、思わず目を閉じる。

 直後目を開くと、視界が潰され、毒にもがき苦しむクシャルダオラの姿があった。

 

 間を詰め、刃を振るう。一閃、二閃と薙がれた刃がその度にクシャルダオラに傷を作り出す。

 痛みに暴れるクシャルダオラから一旦距離を取ると、反撃とクシャルダオラが腕を振り回し…………まだ無事なほうの前足を振り上げた衝撃で傷つけた片方の前足が折れ曲がり、その巨体を崩す。

 

 直後その翼にリオの徹甲榴弾が刺さり。

 

 【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【剣術+1】+【斬心+1】

 

 二度目の…………渾身の刃が先ほど首に付けた傷をさらに深く抉った。

 

 

 ガアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 絶叫、絶叫、絶叫。最早生命の危機に瀕した古龍の絶叫が雪山に轟く。

 

 クシャルダオラが大きく翼を羽ばたかせながら後退する。

 その着地に前足片方ががくりと崩れるが、それすら気にせず。

 

 ガアアアアアアアアアア、ガアアアアアアアアアアア、ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 吼えながらその翼を羽ばたかせ、吼え、羽ばたき、吼え、羽ばたき。

 

 そうして、クシャルダオラを中心としたその周囲に徐々にだが風が渦巻いていく。

 首から最早早々に癒えぬ傷からぼたぼたと血を垂れ流しながら、古龍が叫び、叫び、叫び。

 

 それが決死の一撃だと理解する。

 

 だからこそ…………構えた。

 

 両手でしっかりと柄を握り、袈裟に構える。

 

 両足を少し広げ、スタンスを広く取る。

 僅かに腰を落とし、両足を前後させて状態の安定をさせる。

 

 そうして体内で練気を練り上げていく。

 

 練気はハンターにとって必須の技能であると言える。

 これが無ければハンターがモンスターと戦うことも出来なければ、そもそも過酷な自然の中を自在に動くことすらできなくなる。

 

 だから、それは基本の動作。

 

 息を吸って、吐く。吸って、吐く。

 

 呼吸一つ取っても、練気の練り上げは完成されていく。

 刃を交わすことで練り上げるのが一番効率が良いとされている、中でも太刀は特に練気の蓄積と放出に長けた武器であると言われているが、逆に言えば、練気の扱いの得手不得手が太刀の技にも直結することも多々あると言うことだ。

 

 想像するは最も速く、最も鋭い一撃。

 

 義兄にのみ許された最強の一撃の模倣。

 

 撃ち落とす、それ以外に生き延びるための選択肢は無いし、それ以外の思考を削ぎ落していく。

 

 ただ視線の先の怪物にのみ、その一撃にのみ思考を集中させていく。

 

 怪物が咆哮を終え、こちらを見据える。

 

 ブレスの速度から考えて、見て斬るのでは遅すぎるだろう。

 

 当てるのならば、純粋なる勘で危険を察知するしかない。

 

 元より義兄の使う断空とはそう言う技なのだから。

 

 タイミングはシビアと言わざるを得まい、と言うか初見の攻撃の対応など早々できるはずも無い。

 

 だから、目を閉じる。

 

 耳を研ぎ澄ませ、音にだけ神経を尖らせ。

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 轟音がごとき風の唸りが発せられると同時に、自身の勘が危険を察する。

 

 “必要なのはタイミング、あとは鋭さだ…………力は入れ過ぎず、抜き過ぎず”

 

 袈裟に構えた刃が振り下ろされる。

 

“重要なことは斬ることじゃない、斬れる線をなぞるだけで良い”

 

 風と刃がぶつかり合う。ただの風ではない、古龍の決死の一撃、ただの刃ならば弾き返されてそのまま一緒に薙ぎ倒されるだけだろうが。

 

 模倣猟技【■■】+【断空】

 

 “後は勝手に斬れる、そんなもんだ”

 

 振り抜いた刃が風を断つ。

 

 生命を燃やし尽くした古龍がその動きを止め…………ゆっくりと倒れていく。

 

 ひゅっ、と刃を横に薙ぐ。

 

「クシャルダオラ…………討伐完了」

 

 小さく呟き、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 




称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】【斬心+1】
EX猟技【■■】→まだ完全には習得していない。



称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】



EX猟技→この小説オリジナルの猟技。G級はならだいたい持ってる。

EX猟技【■■】→一刀両断、一撃必殺を極めようとしたバカの必殺猟技。本来の性能の場合、当てた部位ごとに固定のダメージを与え、与えた結果残りHP30%未満になったら即死するとか言うアホみたいな仕様。確実に部位破壊を引き起こし、部位破壊した場合さらに固定ダメージが通る。

あんまりにもアホ過ぎる仕様だけど、割とモンスターたちも洒落にならないレベルでぶっ飛んだのが多いG級なので実はこのくらい普通に見える罠。
今回のクシャのラストで使ったみたいな、ゲームで使う以外の技も独自に作って組み込んでいきます。まあ余りにもできそうにないのは使わないけど。
クシャに使わせてみたい技その②→上空に渦を生み出して、空に飛びあがって眼下のハンターに大量の竜巻落とし(マップ全体攻撃)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十六話 昇級

 

 

 

 

 街から雪山まで竜車で片道四日。討伐までにかかった時間を考えると、約十日の旅路を終えて街に戻れば、すでに先に旅立った上位パーティーは戻ってきていたらしく、街がざわついていた。

 ギルドに入ると、顔なじみのハンターたちが声をかけてくる、それらをかき分けてさらに奥、ギルドカウンターへと向かう。

「あらぁ…………おかえりなさぁい、レティちゃん」

 こちらに気づいたギルドカウンターの受付、ユイがにこりと笑う。

「討伐、終わったわよ、ユイさん」

 その言葉に、ユイが分かってました、と言わんばかりにこちらに一枚の紙を差し出す。

「ふふ、さすがですねぇ…………そんなレティちゃんにご褒美ですぅ」

 差し出された紙を受け取り、目を通す。と言っても、書かれているのは数行の文章と右下に押されたギルドの印だけ。物の数秒でその内容を理解し…………ばっと顔を上げる。

「これ、本当?!」

 思わず声が上ずる、けれど仕方がないではないか、この紙に書かれていることが本当だとすれば…………。

「レティ? 何が書かれてるんだい?」

 自身の後ろからリオがひょい、と顔を覗かせる。そんなリオの目の前に紙を差し出し。

「……………………え゛っ」

 思わず、と言った様子で声が裏返ったままこちらを見るリオにこくり、と頷き、そうして視線をユイへと向ければ。

 

「はい、本当ですよぉ。おめでとぉございます。今回の功績によりぃ、お二人とも()()()()()()()()()()()致しましたぁ」

 

 ほぼ絶句。と言うか聞いた事が無い…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな自身たちの疑問を察したようにユイが口を開く。

「古龍なんて、下位とは言え最上位個体ですからぁ、元々HR3用のクエストでしたしぃ、それを倒せるならHR3は当然としてぇ、今回はギルドからの指名依頼、それも緊急クエストでしたのでぇ、こちらで功績に色を付けて置くように手を回しておいたんですよぉ」

 ふふ、と笑う目の前の受付嬢の得体の知れなさに、思わずリオが黙り込み。

「…………ありがとうございます、ユイさん」

 昔から付き合いのあった自身は謝辞を言葉にした。

 

「ふふ、知らなかったでしょうけどぉ」

 

 くすり、と笑ってユイが告げる。

 

「わたしぃ、レティちゃんのファンなんですよぉ?」

 

 目をぱちくり、とさせる自身にユイが笑い。

 

「期待してますからぁ、頑張ってくださいねぇ?」

 

 そう告げた。

 

 

 * * *

 

 

「上位ハンター…………あの子が、ですか」

 木製の机で頬杖を突きながら、女…………レイナ・ブランド―が一人考える。

 職を辞して二年、今年で二十三、もう決して少女とは呼べない年齢ではあるが、けれど未だに彼女に惹かれ、憧れるギルド職員、ハンターたちは多い。

 憂いに揺れる瞳、ため息を吐くその横顔すらも他人から見れば息を呑むほど美しく感じる。

 

 そんな彼女が悩まし気な吐息をついている原因は、先ほどやってきて上位ハンター昇格の報を告げた自身の義妹のことであった。

 義妹…………レーティアはレイナの夫である、カイ・ブランドーが数年前に拾ってきた孤児だ。

 まだ二人が結婚する前の話である。

 その当時から、レーティア…………レティはカイに懐いていた。否、あれは憧れていた、と言うべきか。

 夫、カイ・ブランドーを他人が一言で言い現わせばバカか天災、どちからになる。

 レイナから言わせれば、スリル狂い、としか言いようが無いのだが。

 

 二人の出会いは、カイが初めてのクエスト受けに来た時、その時対応したのがレイナだった、と言う他人からすると運命を感じるらしい出会いだった。

 

 まあそれはさておき、問題は義妹のことである。

 いや、それを問題と呼んでいいのかどうか疑問ではあるが。

 

 悩まし気な問題から逃避するように、カップに注いだ果実水を呷る。

 すっと喉を抜けていく爽やかな甘みに少しだけ気分が和らぐ。

 

 昔からレティはカイに懐いていた、憧れていた。

 だからハンター、と言う道を選ぶことは、前々から予想はできていた。

「…………本当は、普通に生きてほしかったんですけどね」

 普通の女の子として、普通に生きて、普通に恋をして、普通に結婚して、子供を産んで、家庭を作って。

 レイナからすれば、そんな普通の生き方をして欲しかったのだが…………まあ、選んでしまったからには仕方がない。

 ハンターとしての生き方はカイが仕込んでいった。だから、女としての生き方を自身が仕込んだ。

 結果として、クエストに出かけている時ならばともかく、街にいる時は普通の女の子のように振る舞えるようにはなった。あくまで振る舞えるだけであって、根本的にはハンターとして生きることを決めているため、そんなもの誤魔化しでしかないのだが。

 まあそう言う生き方もあるのだろう、仮にも元はハンターズギルドの職員だったのだ、ハンターとしての生き方を否定するような真似はしない。

 

 だからそう、それはそれで良かったのだ、思ったようにはならなかったが、自身がいて、カイがいて、レティが二人のところに帰ってきて、三人で家族を作って。

 それはそれで幸せな生き方のはずだった。

 

 カイが居なくなるまでは。

 

 とは言っても、レイナ自身他の人間が言うように、カイが死んでいるとは思っていない。

 アレがそう簡単に死ぬはずがない。

 少なくとも、戦いの場でアレが死ぬはずがない、そう思っている。

 

 もしカイが死ぬ時があるとすれば、それは余程偶然に見放された時か、もしくは。

 

 まるで何の気ない、日常の中で、さながらぷっつりと線が切れてしまったかのように呆気無く死ぬだろうと思っている。

 だから、行方が知れないと言うのは、意図的に眩ませているか、もしくは…………。

 

 ()()()()()()()()()()()()()かのどちらかだろう、と予測している。

 

 だから急ぐ必要も、焦る必要も無いのだ。放っておけばそのうちひょっこり帰ってくるだろうから。

 ただ少しだけ…………少しだけ寂しいと思うだけで。

 義妹が命がけでランクを駆けあがり、探しに行くような必要など、ありはしないのだと。

 そう思っている、そう言っている、言い聞かせている。

 

 だが義妹は止まらない。

 

 あの義妹は義妹で何か考えているらしい、そしてそれが自分にも関係がありそうだと、何となく気づいてはいる。

 だから止まらない、止まれと言っても効かない。あの辺りの猪突猛進さは本当に義兄によく似ている、似無くても良い部分まで似てしまっている。

 

「全く…………帰ってきたら、酷いですからね」

 

 ぽつり、と呟く。

 ハンターズギルドの職員は基本的には事務仕事が多いが、その腕は達者な人間が多い。時折だがマナーの悪いハンターがいたりするため、最低限自衛程度はできなければならないからだ。特にここの街のギルドの場合、同じ階層に酒場があるため、酔っ払いの対処などもしなければならないこともあるから猶更だ。

 自身もまあほどほどに腕に覚えはある、と言ってもあくまで対人技能であってハンターの真似事ができるような立派なものではないが。例えG級ハンターだろうと、下位ハンターだろうと同じ人間だ、非力な女の身でも人体の構造さえ理解していれば制圧するのもそう無理な話ではない。

 だからあのバカが馬鹿した時に制圧するのは自身の役目だった。

 カイが暴走した時にそっと死地へ送り込み、平然とした顔で戻ってきたバカに関節技決めて最後に絞め落として簀巻きにするのはいつも自分の役割だった。

 結婚しても時折そういう事があったが、けれど実際、それは互いのじゃれあいの範囲であると理解していた。カイが本気で抵抗すれば、きっと自分では抑えきれないだろうから。捕まっていると言うことは、カイにとって本気では無いと言うことに過ぎない。

 けれど、もし、もしも。

 

 この先、あの義妹に本当に何かあるようならば。

 

「…………少し、冗談じゃすみませんよ? カイ」

 

 いるはずの無い誰かが、そこにいるような気がして。何となく懐かしみを覚え、居ないはずの誰かにそっと呟いた。

 

 

 

* * *

 

 

 ぶるり、と背筋を震わせ男が思わず振り返る。

「…………気のせいかあ?」

 何だ今の、なんて小声で呟きつつ、足音を潜めてゆっくり、ゆっくりと林を抜けていく。

 

 きぃん、きぃん、と金属を擦るような音がどこからともなく響いてくる。

 

 ルォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォォォォォォ

 

 林の中を抜けてくる獰猛な叫びに、一切臆せずさらに足を進める。

 地面から巨大な岩が突き出し僅かに作られた影に身を滑り込ませながら、さて、と呟く。

 

「アイツ、どこに行ったんだ」

 

 周囲を見渡す、だがそこに人の気配は無い。

 だからと言って、そこに居ないとは限らないのが厄介なところなのだが。

 しゃきん、しゃきんと先ほどよりも鋭い音が聞こえる、敵が近いのだと予測し、さてここからどうすると考えて。

 

「センセイ」

 

 ()()()()()()()()()()に、思わずびくりと体が震えた。

「お、おま…………どっから出てきた」

 人一人分ぎりぎり滑り込むようなこの狭い岩場でそして周囲は開けた場所であり、死角らしい場所などここにしかないのに、一体いつどこからこの場所にやってきたのだ。

 そんな疑問は、けれど声の主…………少年があっさりと答える。

「最初からここにいた、センセイがあとから来た」

「忍者かよお前」

 誰も居ないと思ったはずのその場所には、すでに先客がいたらしい。

 全く気づかなかった自身が間抜けなのか、気づかせなかった少年が凄いのか。

「にん……じゃ……?」

「ん? ああ、気にするな。それより見てきたか?」

 問うた言葉に少年がこくり、と頷く。

「こっちに向かってきてる、もうすぐここを通ると思うよ」

「そうか、んなら後はまあ…………いつも通りで行くか」

「無鉄砲をいつも通りと言うのはセンセイだけだと思うよ?」

 

 そんな少年の言葉に苦笑しつつ、岩場の影で、そっとライトボウガンの弾を装填する。

 

「それじゃあ…………レクチャーと行こうか」

 どしん、どしん、と地響きのような足音と、同時にしゃりぃん、しゃりぃん、と言う金属を擦るような音。

「ああ…………ちょうど来たな」

 こっそり、と岩場の影から顔を覗かせる。

 

 だん、だん、と時折地面に叩きつけられるその尾こそが何よりの特徴と言えるだろう。

 

 その尾は堅く、そして何よりも鋭い。

 軽く薙ぐように振り回しただけで、射線上にあった大木が一本、すっぱりと()()された。

 

 そして切れ味が鈍くなれば。

 

 ガ、ギィィィィィィィィィィ

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 斬竜ディノバルドと呼ばれる獣竜の最大の特徴である。

 

「まずは復習だ、ハンターの鉄則を三つ言ってみろ」

 そう告げれば、少年が一つずつ指を折りながら教えたことを諳んじる。

「ハンターの鉄則…………一に観察、二に対策、三で対処」

「よし、ならあれを相手にまずは観察してどう思った」

「そんなこと言ってる場合じゃないと思うけど…………()()()()()()()()()()()()

「分かってるから言ってみろ」

 そんな自身の言葉に、少年が少し戸惑いながら口を開く。

 

「まずあの尻尾をどうにかしないといけない…………あれが最大の脅威であることは確かだから。他にも獣竜種ってことは足もかなりのものだろうから罠にはめる…………落とし穴とかが良いと思う」

 

 少年が呟く間にも足音はどんどんと近づいてきており、やがて…………。

 

「来た」

 

 岩場の影からぬっと、ディノバルドの顔が覗く。

 眼下のハンター二人に、けれど一瞬、気づくのが遅れて…………。

 

 気づいた時には、すでにその顔の目前まで迫られていた。

 

 【気刃放出斬り】+【剛撃+5】+【一閃+3】+【見切り+5】+【閃転】+【抜刀改心】+【集中+2】+【溜め威力UP+2】+【適応撃+2】+【闘覇】+【血気活性】+【太刀技大刀神】+【剣神+2】+【斬心+4】+【修羅一刀】+【鋼刃羅刹】+【死中活有】

 

 一閃、鞘から抜き放たれた刃が絶大な威力を持ってディノバルドの顔を()()()にする。

 僅か一撃、たった一度の抜刀の()()でディノバルドの意識が途絶する。

 

「スタン完了っと」

 

 あのハンマー狂いならここから永続スタンハメとかすんのになあ、なんて呟きながら横倒しになったその体を駈け上っていき。

 

 まだ熱を帯び、赤熱化した尾へと到達する。

 

 直接踏めばまあ控えめに言って、足が焼けるだろうから、直接踏みはしないが。

 

「一刀一刃」

 

 袈裟に刃を構える。

 

 僅か一秒ほどの停滞。呼吸すら止めて。

 

 猟技【■■】

 

 振り下ろした刃が何の抵抗も無く、振り抜かれる。

 

 音も無く、勢いも無く、ただ無造作に。

 

 ディノバルドの尾がその体から切り離され、地に転がる。

 ディノバルドはまだ昏倒から目を覚まさない。

 

「その時点でもう…………お終いなんだけどな」

 

 刃をそっと目へと突き立て。

 

 ずぶり、と突き刺す。

 

 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 痛みに目を覚ましたディノバルドが絶叫するが、けれど昏倒したばかりの体がすぐさま動くはずも無く。

 

「俺を殺すには」

 

 刃が深く、刺さっていき。

 

「もう遅かったな」

 

 その脳髄を完全に貫くと同時、ディノバルドの全身から力が抜けていく。

 

「斬竜討伐完了っと」

 

 ぴっと、横に向けて刃を薙ぎ、太刀に着いた血を払う。

 

「と、言うわけで、だ」

 

 そうして未だ岩場に隠れた少年に向かって告げる。

 

「正解はさっさと一撃で昏倒させてさっさと殺せば関係ねえ殺せなくてもさっさと尻尾斬ればいいよってことだな」

 

 そんな自身の結論に、岩場から出てきた少年が呆れたようにため息を吐き。

 

「…………それができるのはアナタだけだよ、センセイ」

 

 やれやれ、と両手を振りながら肩を竦めた。

 

 

 




称号:????
名前:レーティア・ブランドー
HR:4/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】【斬心+1】
EX猟技【■■】→まだ完全には習得していない。




称号:????
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:4/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】




称号:■■
名前:■■・■■■■■
HR:?

装備スキル【剛撃+5】【豪放+3】【絶対防御態勢】
習得スキル【体力+50】【スタミナ急速回復大】【一匹狼】【ランナー】【一閃+3】【見切り+5】【閃転】【巧撃】【抜刀改心】【納刀術】【集中+2】【溜め威力UP+2】【ブチギレ】【適応撃+2】【闘覇】【血気活性】【纏雷】【生命力+3】【太刀技大刀神】【剣神+2】【状態異常無効多種】【酔っ払い】【回避性能+2】【受け身】【移動速度UP+2】【ハンター生活】【地図常備】【採取+2】【自動マーキング】【隠密】

EXスキル【断空】【斬心+4】【修羅一刀】【鋼刃羅刹】【死中活有】

EX猟技【■■】




スキル解説
【剛撃】→攻撃力UPの上位スキル、攻撃倍率が違うだけ。
【適応撃】→攻撃が斬、打、弾の中から特定の物に変化する、今回の場合、太刀で攻撃したけど、適応撃で打攻撃に変更したのでスタン値溜まった、みたいな解釈。ゲームだとある程度規則性で決まっているけど、この小説内だと自分で習得したスキルとして使うんだから自分で使い分けれる。
【闘覇】→抜刀中、攻撃力が1.2倍に上昇する。ただし、効果発動中は常にスタミナが減少していく。
【血気活性】→体力が100以上の時、攻撃力が1.1倍になる。
【太刀技大刀神】→フロンティア固有の秘伝書スキルと呼ばれるモノ。超高級耳栓が発動。太刀の攻撃力が1.2倍に上がり、攻撃がはじかれなくなる。錬気ゲージの消費量が半分になる。錬気がMAXの場合、業物+2と同等の効果がある気刃状態(錬気ゲージ点滅)時、攻撃力が1.1倍になる。切れ味+1が発動する。と一つのスキルでこんだけ詰め込まれてる。
【剣神】→切れ味+1と剣術と業物を同時に発動する。
EXスキル【斬神+4】→????
EXスキル【修羅一刀】→????
EXスキル【鋼刃羅刹】→????
EXスキル【死中活有】→あらゆる可能性を生み出すことができる。全EXスキルの中でもぶっちぎりのチート。ただし効果は超絶微妙。詳細不明。




後半に出てきたセンセイ…………一体誰なんだ(


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狩人祭
十七話 祭の始まり


 

 HR4以上のハンターを上位ハンターと呼ぶ。

 上位ハンターになって何が変わるか、と言われれば、まずギルドの扱いが変わる。

 新人、ルーキー、半人前扱いの下位ハンターと違い、上位ハンターからは一人前のハンターとして扱われる。故に、HR3から4への壁は相応に厚い…………のだが、まあそれは今は良いだろう。

 次に工房や道具屋などの商品もいくつか購入を解禁される品もある。特に素材玉や光蟲、ハチミつなど下位ハンターの内は自身で採取して作るしかないものも、普通に街の販売店で買えるようになる。

 この辺りの規制は、新人の内は自分で集めて、作って、使って、覚えさせると言うギルド側の意向であり、他所の地域に行くと違うこともある。

 街中でも、上位ハンターともなれば信用が大きく変わる。

 金貸しもより大きな額を貸してくれるようになるし、武器屋や防具屋でもオーダーメイド品などを作ってくれるようになる。

 さらにHRを上げて行けば、もっと多くの利が得られるようになる。

 

「と、まあ…………色々と違いはあるんだが」

 

 酒場で、ジョッキに注がれた果実酒を片手にリオが呟く。

 お題は、下位ハンターと上位ハンターの違いについて、だ。

 

「最大の違いは…………猟団、だね」

「…………猟団」

「猟団の設立は上位ハンター以上じゃなければできない、これが最も大きな違いだろう」

 

 リオの言葉を思わずそのままに呟く。

 猟団、つまり猟のための団。

 読んで字のごとく、狩人(ハンター)の集団。

 パーティ、とはまた違うものであり、意味合いとしては、パーティよりもさらに規模の大きなものを指す。

 簡単に言えば、ハンターの組織だ。ギルド、とはまた意味合いが違う。

 ギルドはハンターを運営する組織だ。ハンターのもたらす産物を国家に流し、国家から与えられるものをハンターへと流す、仲立ち的な役割が強い。

 ハンターは別に、国家に所属しているわけではない。故に、国から見ればどうしても信用と言うものに欠ける。だが同時にハンターの力は大きな力に成り得る。

 モンスターと言う明確な人類の脅威が存在する以上、ハンターの力はどうしても必須となる。

 だからこそ、ギルドはハンターランクを制定し、ハンターの力量と評価を明確にし、それを信用の代わりとする。

 だがハンターとて国家とは無縁ではいられない。ギルドに納品した採取物やモンスターの素材はギルドから国、そしてその下の商人たちへ流れるし、そこで得た金銭はギルドの運営に回され、巡り巡ってハンターたちの報酬やギルド運営施設としてハンターたちに還元される。

 ギルドの役割とはつまりそう言うものだ。

 

 だが翻って猟団は違う。

 簡単に言えば、ハンター同士の相互補助を目的とした組合だ。

 半ば固定パーティと似たものではあるが、その規模をさらに大きくしたものと言える。

 規模の大きな猟団では二百人以上の猟団員(ハンター)が在団し、専用の居住施設や工房、果ては商人まで誘致しているところもあるらしい。

 この話で分かると思うが、猟団の主な目的は()()()()だ。

 功績の共有、名誉の共有、信頼の共有、など付加価値は色々とあるが、極論を言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだろう。

 まあそれも()()()()()()()()()()()()からすれば外れたものだろうが。

 

 つまるところ、猟団を結成する意味とは()()()を得ることだ。

 

 個人じゃできないことを人数を増やし、相互扶助をすること。

 

 それが猟団の力、と言える。

 

 また猟団が積みあげてきた実績や高めてきた信用が、そのまま猟団員全員に共有されるのも一つの良い点だろう、最も悪名なども共有されるのは悪い点だろうが。

 

「で、だね」

 

 そこまで話したところで、リオが言葉を止める。

 とん、とジョッキを机に置き、こちらを見つめる。

 その様子に、何か言いたいことがあるのだろう、と予測をつけ。

 

「レティ、猟団を作る気は無いかい?」

 

 飛び出した言葉に、思わず目を丸くした。

 

 

 * * *

 

 

 メゼポルタ。

 元はドンドルマを拠点とするハンターのために作られた区域だが、開拓を推し進めるハンターが次から次へとやってきて、現在では周辺でも最大の人数規模を誇るようになった、この大陸の中心地と呼んでも差し支えない大都市。

 ドンドルマもまた大規模な都市だったが、近年ではメゼルポルタの隆盛に押されるようにして、人の移り変わりが多く、隆盛期ほどの繁栄は無くなってしまっている。

 

 そしてそんなメゼルポルタで年に一度、毎年開かれているものがある。

 

 狩人祭。

 

 年に一度の祭典。

 

 指定区域における()()()()()()()()()が発布され、無制限に狩りを行うことが許される。

 

 そして狩りで得た素材はギルドが全て通常よりも高い価格で買い取り、さらには狩猟や採取の成果によって評価と点数を与えられる。この点数は祭りの後に、ギルドで取引に使われ、貴重な素材などを得ることも可能となる。

 

 最後にこの時期に出回る大量の素材を買い取ろうと多くの商人が集まり、この時期のメゼルポルタには世界中からありとあらゆる品が集まると言われるほどの大規模な祭典である。

 

 祭りの期日は約一月。

 

 最初の一週間は登録祭。狩人祭に参加するハンターたちを登録する期間。

 次の二週間が狩猟祭。狩人祭の本番とも言える、狩猟のための期間。

 そして最後の一週が褒章祭。誰がどれほどの成果を得たのか、また狩猟祭でより結果の良かったハンターへ特別な褒章が与えられたりする、一週間続くギルド主催の酒宴。祭に参加したハンターたちの労いの一週間とも言えるだろう。

 

 狩人祭ではとにかく多くの獲物を狩ることができる。腕に自信のあるハンターたちにとっては、より多くの評価を、そして金を、素材を得るチャンスである。

 そのため、狩人祭では大陸全土から大勢のハンターたちが集まって来る。

 そしてハンターが集まれば、そこに商人も集まる。狩の準備に必要なものなどいくらでもあるし、寝泊りするための場所、夜に飲む酒、食べる物、着る物。

 必要とするものは多くあり、必要とする者が多く居り、それを目ざとい商人たちが放っておくはずも無い。

 そうして各地から商人が多くの品を抱えてメゼルポルタに集まる、そして他では見ない珍しい物を求めて好事家や貴族たちも集まり、それに伴う人間たちもやって来る。

 普段は街で大人しく暮らす住人たちも、この活気溢れる祭の空気を味わいに、あちこちからやってきて、さらに需要は増える。

 

 大陸最大規模の都市でありながら、人で飽和しそうなほどに大勢の人間がこの時期には訪れ、金を落としていく。

 

「重要なのは、この時期、この街には多くの人間が集まる、と言うことだ」

 

 メゼポルタの雑多な街並を歩きながら、隣をゆっくりと歩くリオがそう告げる。

「レティ、キミがカイを探すに当たって、一番重要なのは情報だ、それは分かってるね?」

「ええ」

 頷く。そんなことは分かっている。分かり切っている。今頃どこにいるのか、それが分かっているならば、すでにそこへすっ飛んでいる。

 

「そしてこの場所には多くの人が集まっている、人が集まれば必然的に情報も集まる。そう言った物を専門に扱う人間もいるし、後でそっちも当たってみたほうがいいかもしれない」

 

 そんなリオの言葉になるほど、と頷く。

 

 ――――猟団を作る気は無いかい?

 

 そんなことを突然言われた時は、一体どうしたことかと思ったものではあるが。

 なるほど、つまりこういう事だったか、と納得する。

 

 実は狩人祭、ハンターには一つだけ参加資格がある。

 

 それが、猟団に所属していること。

 正確には、猟団一つが一つのチームとして登録され、褒章も猟団単位で渡されるのだ。

 だから、個人で参加と言うのが基本的には不可とされている。

 リオが猟団を作らないか、と言ったのは、これに参加するためのものだったらしい。

 

「実際のところ、ハンターランクを手っ取り早く上げるなら、狩人祭は効率が良いんだ、私も…………それにレティも、もっと上を目指すならここで短縮できるに越したことはないし、その途中でカイの情報が手に入れば万々歳と言ったところかな?」

 

 と言うのが、リオの言い分。

 

「まあ取りあえずは今日一日は宿の確保だね、登録祭は後二日は続くから、明日の朝行っても十分間に合う」

「そう…………じゃあ、それで行きましょう」

 

 リオの言葉に頷き、それで方針を決定する。

 さすがは元G級ハンター、と言うだけあってか、相応の知識と、それ以上に段取りの巧さがある。

 この辺りは経験の薄い自身には無いものだと思う。

 

「リオ、宿に当てはあるの?」

 街に滞在中は宿を取るしかない。とは言え、宿と言ってもピンからキリまである。

 安い代わりに防犯面の悪い宿や、値は張るがそう言ったものが良い宿。

 食事の安い宿に、高い宿。水はあるのか、風呂はともかく、トイレは存在するのか。

 酷いところならば、無言で納屋に放り込まれることすらあり得るのだから、その辺はきっちりと考えておいた方が良いだろう。

 

「大丈夫…………以前に泊まったことのある、良い宿があるんだ」

 

 そしてさすがはリオと言ったところ。

 きっちりと当てはあったらしい。自身よりも長くハンターをやっているだけあって、コネと言うものがリオにはある。本当に、彼女とパーティを組めたのは運が良かったと思う。

 

 そうして、リオに案内されるままに宿への道を歩いていると。

 

 ずり、ずりと、何か金属を引き擦るような音が聞こえた。

「……………………ん?」

 リオにも聞こえたようで、足を止めて周囲を見渡す。

 場所は建物と建物の隙間の路地。リオが近道だと教え、案内してくれていたのだが、人の気配の無いはずの場所での音だけに、少し気になった。

「…………どうする?」

「ちょっとだけ、見て見ましょう」

 ずり、ずり、と未だに何かを引きずる音は聞こえていた。

 音のする方角は…………まあ大体分かる。

 リオに行こうと声をかけ、二人で歩く。

 

 そうして。

 

「……………………………………あっ」

 

 路地裏の先に一人の少年がいた。

 

 淡い水色の髪を後ろで雑に束ねた、自身より年下と思わしき青い瞳の少年。ズタボロになり、あちこち破れている布の服を着、その手に持っていたのは、身の丈に会わない大剣。

 それなりに使い込まれた様相はあるが、少年には余りにも不釣り合いな大きさが違和感を生んでいる。

 

「……………………」

 

 無言のまま、こちらを一瞥した少年が自身たちを見て、僅かに表情を歪める。

 けれど、まるでそれが気のせいだったかのように、一瞬で表情を元の無表情へ戻し。

 

 ずり、ずり、と大剣の先を引きずりながら歩いていく。

 

「……………………っ」

 一瞬、何かを言って引き留めようとするが、けれど一体何を言えばいいのか、分からず。

 少年を引き留める言葉も無く、そのまま見送ってしまう。

 

「……………………行きましょう、リオ」

 

 呟いた自身の言葉に、リオが路地裏へと消えていく少年から視線を外し。

 

「ああ…………そうしよう」

 

 一つ頷いた。

 

 

 * * *

 

 

 がしゃん、と手から大剣が零れ落ちる。

「…………ぐっ…………つっ」

 痺れた片腕を抑え、蹲る。

 腕が痛み、涙が出そうだった。

 当たりまえだ、大の大人のハンターが重そうにしながらようやく持ちあげることのできた大剣を、引きずったとは言え子供の細腕でここまで運んできたのだ。

 

 畜生。

 

 内心で毒づく。

 先ほどすれ違った二人。

 きっとあの二人もハンターなのだろう。あの鎧や武器を見れば分かる。

 この時期にあんな恰好の人間、ハンター以外にあり得ない。

 

 畜生、畜生、畜生。

 

 二度、三度と呟く。

 それでもイライラは収まらない。

 

「絶対…………絶対に、取り戻すんだ」

 

 震える手で、再び大剣を拾い上げる。

 まだ痺れの残る手で、大剣の柄を握りしめ。

 ずり、ずり、と再び引きずりながら歩いていく。

 

 歩いて、歩いて、歩いて。

 

 この道の先に一体何があると言うのか。

 本当は分かっている、それでも。

 

 やらなければならない。

 

 例え、どれほど恐ろしかろうと。

 

 例え、どれほど危険だろうと。

 

 例え、どれほど無理があろうと。

 

 やらねばならないのだ。

 

 それなければ取り戻せないから。

 

 だから。

 

「……………………やってやる。やって、やる」

 

 握りしめたのは大剣。

 

 たった一本残された()()()()()

 

 歯を軋らせながら。

 

 涙を堪えながら。

 

 震える手で。

 

 震える足で。

 

 ふらつく体で。

 

 揺れる頭で。

 

 それでも、目だけは、口だけは。

 

「…………やって、やる」

 

 ギラギラと輝いていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十八話 アカツキ猟団

 【攻撃力UP小】+【一閃+2】+【見切り+2】+【剣術+1】+【斬心+1】

 

 振り抜いた一閃が、ドスファンゴの体を切り裂き、ドスファンゴが悲鳴を上げながら崩れ落ちる。

 崩れ落ちたドスファンゴの死体からいくつか部位を剥ぎ取り、残りは自然に還して。

 

「次ね」

「ああ」

 

 自身の言葉に、短くリオが頷き、森丘のさらに奥へと進む。

 森を抜け、やがて丘へと出る。さらに上へ、上へと昇って行くと、見つけたのは洞窟。

 しっかりと手入れをした武器を握りしめ、洞窟へと突入する。

 天蓋の一部が崩れ、十二分に明かりを取り入れた洞窟の中、自身たちの視線の先には一体の巨大な竜が瀕死の体を休めるために眠っている。

 

 口を閉ざし、互いに視線だけでコンタクトする。

 準備が終わった、そのことを互いが告げ合い。

 

 疾走する。

 

 眠っている、とは言え生存競争厳しい野生の中に身を置いてきたモンスターたちは、眠っている状態でも本能で危険を察する。

 

 故に、走る。

 

 音を殺し、気配を殺し、それでも走る。

 

 ぴくり、と竜が瞼を揺らす。

 

 気づかれた。否、本能が危機を察知した。

 瞼が開かれ、ひりつくような殺気を竜が放つ。

 ただの殺意が威圧となって、身を竦ませようとする。

 

 【断空】

 

 故に断つ。()()()()()()()

 洞窟の闇の中に閃いた鈍色の光が竜の圧を切り裂き、返す刀で振りかぶった一撃を。

 

 ――――竜の首へと振り下ろす。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオア!?」

 

 絶叫する。竜が悲鳴を上げ…………それでも倒れない。

 故に、追撃が入る。

 

 ズドン、と小さな爆発音。

 

 【攻撃UP大】+【見切り+4】+【弱点特効】+【貫通弾・貫通矢威力UP】

 

 放たれた弾丸が正確に竜の瞳を射抜く。

 ドスン、と派手な音を立てながら竜が倒れる。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 同時に尾を振り回し、こちらを近づけまいとする。

 それは分かっていたのでバックステップ、距離を取りながら刀を鞘に納める。

 

「リオ」

「了解」

 

 短いやり取り、それでも彼女には伝わっている。

 互いが何をすべきか、すでに互いに分かっている。

 

「疾っ」

 

 再度走り出す。

 片目を射抜かれながらけれど竜が再び立ち上がる。

 そうして自身へと走り迫る存在に気づいた竜が大きく口を開き。

 

 ――――その喉奥に火が灯る。

 

 ブレスの兆候。

 それを理解しながらけれど自身は避けようとする素振りも見せず、竜へと駆け。

 炎が放たれると同時にその口元へと突き刺さった弾丸が爆発を起こす。

 徹甲榴弾、彼女の虎の子の一発が竜の攻撃を阻害する、と同時に目の前で炎が弾けた竜が一瞬怯み。

 

 

 【気刃放出斬り】+【抜刀改心】+【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【剣術+1】+【??+1】

 

 

 鞘から解き放たれた刃に乗せられた練気が見えざる刃となり、竜を切り裂く。

 ここに来るまでに散々与えられたダメージ、そして目を射抜かれ、首を切り裂かれ、最後にこの一撃。

 そこまでして、ようやく竜が動きを止め。

 

 そのまま真横に倒れ、動かなくなった。

 

 

 * * *

 

 

 狩猟祭期間中は、狩猟区域内での全狩猟制限が解除される。

 とは言え、当たり前だがランクごとに制限は解除されない、故に新人ハンターが上位狩猟区域に迷いこむことは無いし、ましてG級狩猟区域にG級ハンター以外が入ることも無い。

 究極的に言って、ハンターの役割とは自然の調和を保つことにある。

 勿論人間に害を為すモンスターを狩ることも役割ではあるが、それは極論で言えばモンスター側に傾き過ぎた天秤を少しだけ人間側に傾けているに過ぎない。

 本質的にこの世界はモンスターたちの世界であり、人間はその中で小さな土地を開拓し、必死になって守っているに過ぎない。

 だからハンターはモンスターを狩る、モンスターを狩ることで人が滅びないように戦っている。

 だが厳密に言えば、ハンターは人の味方と言うわけではない。

 

 過去、シュレイド王国という国家が存在した。

 

 人類の栄華を誇っていたような大国であり、モンスターの脅威を寄せもつけないほどの強大な力を持っていた。

 

 だがそれ故にシュレイド王国は滅びた。

 

 ()()によって滅ぼされた。

 

 国の中心であった城から、その膝元に栄えた城下町まで全てが廃墟と化し、人々は滅ぼされ尽くした。

 

 それはバランスが崩れたからだと言われる。

 

 モンスターと人間のバランスが、天秤が、人間の側に傾いた…………否、傾き過ぎた。

 

 要するに()()()()()が故に王国は滅びた、と考えられている。

 この世界にはそういう神のような存在が確かに居るのだ。

 だからこそ、そこから人類は自然との調和を目指した。

 自然の中で自然と共に生きる。それが神の怒りに触れない生き方であると自然と学んだ。

 そうして自然との激しい戦いの中で生まれたのがハンターという存在だ。

 自身の何倍もの大きさの怪物を相手に立ち回り、時に狡猾に、時に勇敢に、戦い、討ち取る。

 そして倒した怪物の素材を使い、さらに強くなる。

 だからこそ、ハンターは倒したモンスターの素材を全ては取らない。

 むしろ大半を自然の中に残す。それは自然の物を自然へ返すという意味であり、必要以上を取らないのがハンターとしての()()である。

 

 とは言え、世の中は綺麗亊ばかりではない。

 当たり前だが命をかけて戦っているハンターからすれば、多くの素材が欲しいと思うのは当然のことである。

 だがハンターには依頼されたモンスター以外を必要以上に狩ってはならないというルールがある。

 それは自然環境が崩されることを恐れたギルド側が定めたルールである。

 とは言えそれは仕方の無い部分もある。

 

 自然の生態系とは奇跡のようなバランスの中で保たれている。

 ハンターがそれを意図的に崩すようなことをすれば、バランスが乱れ()()()()()()()()か分かったものではない。

 

 一つ事例を上げるならば、以前にどこかの地方で村を襲う鳥竜種の群れを追い払っていたハンターが仲間と共に群れの巣を強襲し、巣ごと全滅させたことがあった。

 そうすると付近から天敵となる鳥竜種が消えたことにより、草食種が増えた。そして卵を狙う存在が消えたことにより飛竜種の動きが活発になった。

 捕食者と被捕食者、その両方の数を抑えていた鳥竜種が消えたことで、両者の数が増大した。

 だが捕食者である飛竜が増えるほどに被捕食者である草食種は減る。

 結果的にその地方は飢餓に陥った膨大な飛竜種が発生し、守られていた村ごと全滅してしまったという話がある。

 

 このように、ハンターの行動一つで生態系に大きな変化を起こすことがある。

 

 だからこそ、ハンターは必要以上に数を狩らない。

 最低限だけ取って、後は自然に返す。

 

 だが狩猟祭だけは別だ。

 

 狩猟祭の間だけはこの繁殖期の始まりに異常発生するモンスターたちを()()()()()狩ることができる。

 

 メゼルポルタ周辺で大量発生したモンスターたち、それを捕食する別のモンスター、さらにそれを捕食するモンスター、と連鎖するかのように、この時期には大量のモンスターが狩猟区域に集まってくる。

 いくら狩ってもキリが無い、否、むしろ狩り尽くす勢いで狩らねば増えすぎて後々大災害を引き起こすとされるほどのモンスター。

 だがハンターにとってそれは言い換えれば()()()()()とも言える。

 

 いくらでも沸いて出てくるモンスター、制限の無くなった狩り。

 

 素材を得て、金に換える者。

 新しい装備を作ろうとする者。

 依頼を受けて素材を集める者。

 

 色々な人間がこの祭に集まり、各々が好きに狩りを楽しむ。

 

 勿論、実力が無ければ死ぬのもハンターの暗黙の了解とも言える。

 

 だが実力があるハンターならば、莫大な利を得ることができる。

 

 それが狩人祭である。

 

 

 * * *

 

 

 カチャカチャと鳴り響く食器の音と騒々しい人の声。

「乾杯」

「かんぱーい」

 こつん、と互いのジョッキを軽くぶつけ合い、そのまま口をつける。

 

 まあ最低十八になるまで酒は飲むなと義兄に言われているため、自身のジョッキの中身は果実水だが。

 とは言え、狩猟帰りで疲れた頭と体に甘い果実水が染み渡り、何とも言えない多幸感を感じる。

「くはあ…………溜まらないね」

 テーブルを挟んだ反対側で自身とは違い、ジョッキに並々と注がれた酒を飲みほしたリオも恐らく同じものを感じているだろうことはその恍惚とした表情を見ていればすぐに分かった。

 

「あ、これ美味しい」

「ん? どれだい…………ああ、それかい、確かにそれはこの店のおススメの一品だよ」

 

 テーブルの上にところ狭しと並んだ料理を端から順々に食していく。

 普段こんな食べ方をしていれば義姉がため息を吐くところだろうが、生憎ここに義姉はいないし、そもそも家とは違う、大衆酒場でマナーを守って食べるのは逆に浮いた印象を与えるだけだろうから、多少雑なくらいでちょうど良い。

 まあ、だからと言って店の中で他のハンターたちがやっているようなドンチャン騒ぎをする気は微塵も無いが。

 

「それにしても、人が多いわね」

 メゼルポルタは自分たちが拠点としている街とは比べ物にならないほど巨大な都市だ。

 特に今は狩人祭の関係上、ハンターや商人たちなど一年で最も集まってきている時期と言える。

 人の波、という言葉の表現がまさにぴったり当てはまるほどの道行く人々の数に目を丸くする。

「そうだね…………テラス席しか空いてなかったのはつまりこういうことだね」

 すでに日はどっぷりと落ちているとは言え。否、むしろだからこそ、狩猟から戻ってきたハンターたちが酒を飲める場所を求めて街中に溢れかえっている。

 そんな状況で、道に面したテラス席にいれば、それはもう回りの視線も多いし、何より人が歩けば土埃が立つ。

 とは言え、ハンターなんていざとなれば狩猟区域で泥水啜ってでも生き延びようとする連中の集まりだ、そのくらいのこと気にするか、と言われると。

 

「それでもまあ、街にいると気になるんだから、不思議だよね」

「そうね…………あ、土着いた…………避けておきましょうか」

 

 リオが以前来たことのある店だというから入ってみたが、なるほど、料理の味は良い、酒…………はともかく飲み物も種類が多く、自身が飲んでいる果実水も清涼ですっきりとした味わいで美味しい。席の問題さえなければ良い店だと素直に思うだろう。

 

「失敗したかなあ…………前に来た時は人と一緒だったから中で飲んでたんだよね、だからテラス席(こっち側)だとこんなことになるとは知らなかったよ」

「今日はもう授業料だと思って諦めましょうか」

 

 嘆息しつつ、フォークで突き刺した茸を口へと運ぶ。

 美味しい、と素直に思う。

 料理は良いのだ、本当に。リオが何年も前に来ただけにも関わらず勧めてくるのも納得できるくらいに。

 後は環境さえ良ければ、そう思いながら店の中へと視線を移し。

 

「まあ、あっちはあっちで面倒そうね」

 

 乱痴気騒ぎと化している店内を見て、もう一度嘆息した。

 

 

 * * *

 

 

 一通りの料理を平らげる。

 中々に量もあったが、女とは言え体が資本のハンター二人だ、並の女性の倍以上は平然と食べるし、それだけ食べてもいざ狩猟の際には激しく動くため太る、ということもほとんど無い。

 リオだって一見動いていないように見えるが、周囲警戒に戦況把握に自分の立ち位置、こちらの状況を見たり、時には手助けをしたりと中々に忙しい。自分は基本的に相手に接近して戦うために、どうしても周囲警戒が薄くなりがちなのでそんな自身を補うように動いてくれており、動けない、という事実を考慮してもその消耗は大きいだろう。

 だから二人して食べる。今日消耗した分を補填するかのように、並の人間の倍する以上の量を容易く平らげ、何杯目になるのか数えるのも億劫になるほどのジョッキを傾け。

 

「じゃあ、話をしようか」

 

 人心地ついたところでリオがそう切り出した。

 

「まず最初に、私たちは猟団を結成した」

 

 リオの言葉に頷く。

 それはこの祭への参加条件だ。

 故に元の街でユイさんに協力してもらいながら、猟団を作った。

 

 名を、アカツキ猟団。

 

 夜明けを意味するらしい、義兄の好きだった言葉を使わせてもらった。

 自慢げにそんなことを説明した後、チュウニクセーとか落ち込んでいたのは一体何だったんだろうと思うが、まあそれは良いだろう。

 

「我らがアカツキ猟団の初日のスコアはリオレウスが一頭にその他鳥竜種が十数頭、ドスファンゴが一頭にファンゴが六頭。まあ二人で狩ったスコアとしては十分と言える」

 

 規模の大きい猟団なら、もっと強い竜をさらに大量に狩っているのかもしれないが、()()()()()()なんて初めて行ったのだから、初日は慎重になっていても仕方は無い。そう言う意味ではこの結果は満足のいくものだろうとは思う。

 

「…………いや、まあ私はともかく、初めての上位でいきなりレウスとかレティって本当に…………」

 

 リオがこちらへ視線を向けながらぶつぶつと何かを呟いているが、良く聞こえず首を傾げていると、数度咳払いをして、リオが顔を上げる。

 

「まあともかく、ひとまず上位でもこれまで通りやれば問題ない、ということが初日で証明できたと思う。そして、だからこそまず最初にやらなければならないことがある」

「やらなければならないこと?」

 

 正直、そんなものはいくつもあるが、けれどいの一番に、と優先するべきことなどあっただろうか、と小首を傾げた自分に、リオが嘆息し。

 

「装備だよ、装備…………」

「装備?」

 

 告げられ、リオの装備を見る。

 元G級だっただけあり、今の自分ではとても入手できないような素材ばかりが使われている。

 現状ではまずこれ以上を望めない装備だろうことは明白であり、だからこそ首を捻っていると。

 

「だから、キミのだよ、レティ」

「…………私?」

 

 向けられた視線に、自分を指さすと、リオが頷く。

 

「キミは強い。正直HR6かと思ったって昔は言ったけど、今ならそれ以上を目指せるとはっきり言えるほどに。でもキミの装備は下位ハンターとしては凡庸なものだ。正直それでよくあの風翔龍を倒せたものだと言いたくなるくらいに」

 

 リオの視線が自身の脇に立てかけられた太刀に向く。

 自身の太刀は義兄もお世話になった工房の人が作ってくれた特別製だ。

 使っている素材は凡庸でも、あの人が作ってくれた太刀は他とは比べ物にならない切れ味と強度を持つ。

 だからこそ、下位で手に入るような素材でもクシャルダオラの鋼の鱗を切り裂くことができた。

 

 もっとも、リオの言うことも分かるのだ。

 

 まだまだ未熟な自身は兄と違ってどんな武器を使っても戦える、などということはできない。

 良い刀を使えるならば、それに越したことは無いし、上位というこれまでより強力になった敵を相手に、未だに下位素材の太刀、というのは確かに不安にも見えるだろう。

 

「武器だけじゃなく防具もだよ…………火力はいざとなれば私でも手助けできるけど、防具の問題は生死に関わる。武器に関してはキミの行きつけがあるなら無理には言わないけど、防具に関してはこの狩猟祭の間に素材を集めて上位装備を作るよ?」

「…………分かったわ」

 

 有無を言わさないリオの態度もあるが、さすがに命を預ける防具が頼り無い、というのは不安も感じるのは確かなので、リオの言葉に頷く。

 そうして自身が頷いたのを見て、満足そうにしながら。

 

「ならまずはそれを最初の目標としよう」

 

 リオがそう告げた。

 

 

 




実は未だにハンター装備のレティちゃん。



称号:????
名前:レーティア・ブランドー
HR:4/10

装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】

EXスキル【断空】【斬心+1】



称号:????
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:4/10

装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十九話 漆黒の影

 

 樹海の鬱蒼とした森林地帯はいつかの黒竜を思い出させて体を震わせる。

 以前のような不運に早々見舞われるようなことは無い、とは思うのだがそれでも脳裏に克明に刻まれた死の記憶はそう簡単には消えてくれそうに無かった。

 

 だが今はそんなことどうでも良い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くっ」

 

 きぃん、と風を切って飛来する影に体を倒しながら太刀を合わせる。

 だが刃翼とぶつかり、火花を散らして弾かれ、影が自身の真横をすり抜けていく。

 

「はや……過ぎる!」

 

 目で追うより素早く動かれる、というのはさすがに初めての経験かもしれない。

 ただでさえ全身が黒く、日差しを遮る薄暗い樹海の中に紛れてしまうというのに。

 強靭な筋力と瞬発力を持ってじぐざぐと木々に飛び移り、時にその両翼で風を切って飛来し、失敗すればすぐにまた木々の中へと消えていく。

 

 『迅竜』と、そう呼ばれるだけはある。

 

 何よりこちらの死角へ死角へと逃げていくその知能の高さが厄介だ。

 ただ早いだけならば見失うようなことにはならない。

 だが時にフェイントすら入れてこちらの視線を誘導し、一瞬で視界の外へ逃げていく。

 自らが運動能力と知能を組み合わせた言うなれば『体術』とでも言うべき物をこの竜は持っている。

 それが何よりも厄介だった。

 人がモンスターと対等に戦えるのは知恵と技術があるからだ。

 ただでさえ肉体的には大幅に劣っている人間が、知恵や技でまで差を詰められればその優位は大きく削がれる。

 

「リオを置いてきて正解だったわね……」

 

 ただでさえ片足が動かないというハンデがあるのだ。あの迅竜相手に動かない固定砲台など狙ってくれと言っているようなものである。

 

 しゅん、と音が聞こえた。

 

 瞬間にその場を飛びのく。直後に飛来する鋭利な棘が何本と地面に突き刺さる。

 悪態を吐きそうになる内心を押し殺しながら移動し始める。

 先ほどの一撃でまた()()られた。

 急降下でも太刀を合わせられる、と。

 その危険性を察し、遠距離から攻撃することを覚えたらしい。

 技を身に着けるほどの高い知能からすれば、相手の挙動から一つや二つ学ぶことなど何でもないのかもしれない。

 

「ああもう……武器を新調しておいて良かったわ」

 

 上位狩猟地区の敵は下位狩猟地区の敵よりも強大であり、その皮膚や鱗も強靭である。

 故に下位で使っていた頃の武器のままではすぐに折れるのも分かっており、今まで使っていた太刀もメゼルポルタの工房で強化してもらっていた。

 フルフルの素材を使った太刀は武器自体に雷の属性を宿す。故に一太刀振るうごとに走る紫電はあの『迅竜』をして僅かに怯ませる。

 だからこそ、余計に脅威を覚えられたのかもしれないが。

 

 上位狩猟地区では単純なモンスターの素材だけでなく、採取てきる植物や昆虫、採掘できる鉱石などの種類、質も変化する。

 特に鉱石類は重要で、上位モンスター相手にやり合えるだけの強度としなやかさを併せ持つ武器を作るためには必須である。

 だからこそ、メゼルポルタに来てからはまず簡単なクエストを受けてリオを二人でそちらの採掘を優先していたのだが、それにもある程度目途が立ってきたのでようやく本格的に防具作りに乗り出すことにしたのだ。

 

 とは言え防具とは何でもいいわけじゃない。

 

 例えば以前狩ったクシャルダオラの素材で装備を作れば上位狩猟区域でも十分にやって行けるだろう防御力はある。

 例え下位素材だとしても曲りなりも古龍である。その素材から作った防具は大抵のモンスターの攻撃から身を守ってくれるだろう……が。

 

 重い、のだ。

 

 大剣やハンマー、もしくはいっそボウガンなどを装備しているハンターになら有用なのだろう、が。

 自分のスタイルというのは機動性を重視し、攻撃は回避、もしくは太刀で切り払うのが基本だ。

 重い鎧というのは動きを制限する、例え防御力があっととしても今のスタイルを大きく崩すことになりかねない……故に使えない。

 だからリオの相談しながら最終的に決めたのが……『迅竜』の素材を作った装備。

 

 『迅竜ナルガクルガ』は上位狩猟区域以上からしか現れないモンスターだ。

 

 下位というのは基本的に『若い個体』や加齢や怪我などで『弱った個体』が分類される。

 つまり比較的『弱い個体』を指して下位と指定されるわけだが、ナルガクルガは非常に好戦的なモンスターであり『弱い』とあっという間に死んでいくため、そもそも狩猟指定されるほどの個体は最低でも上位以上の個体にしかならないのだと言われている。

 

 まあそれはさておき。

 

 かきん、と飛んできた針を太刀で撃ち落しながら影から影に消えていく漆黒をなんとか目で追おうとする。

 ギリギリ、と言ったところで追うことはできる。

 正確にはワンテンポ遅れて追っているようなものだが、それでも相手の攻撃時の一瞬の溜めで追いつくのでなんとか迎撃は間に合っている状況だ。

 

 だが相手への攻撃はほとんどできていない。

 

 何せ相手が木の上から降りてくることがほとんど無いのだ。

 太刀一本の自身の限界を完全に見切られて一方的に攻撃されているこの状況は半ば詰んでいる。

 選択肢は現状二つ。

 

 一つはこのまま迎撃を続けて、相手がこれでは倒せないと判断するまで待つ。

 どれだけの時間かかるかは分からないが、そうすれば直接こちらを攻撃するために降りてくるはずだ。

 最低でも接近して攻撃はしてくると予想している。

 逃げていくという選択肢は恐らくナルガクルガには無いだろう。

 非常に好戦的であり、かつて出会ったあのイャンガルルガのようにまず戦わないという選択肢が無い。

 つまり絶対にどこかで仕留めに来るはずなのだ。

 

 問題はそれまでこちらのスタミナが持つか、ということだが。

 もしかすると逆に相手のスタミナ切れのほうが早いかもしれない。

 何せあの運動量である、例え大型モンスターだったとしてもナルガクルガの運動量は他のモンスターとは比べ物にならない。実際、ほとんど全力疾走を続けているようなものである。

 いかに迅竜と言えどどこまであのスタミナが続くのかという疑問は確かに残る。

 

 二つ目は一度迅竜から逃れて機を伺うことだ。

 極論を言えばあの刃翼か鉤爪のどちらかに傷をつければあの運動能力は激減する。

 急激なストップアンドゴーを支えるのは両腕の強固な鉤爪と空中で体を安定させる刃翼の両方があるからこそだ。

 鉤爪を痛めればほとんどノーモーションのあの加速も無くなるだろうし、急制動もできなくなる。

 刃翼を傷めれば飛び上がっても空中で上手くバランスが取れないだろうし、急降下するのも難しくなる。

 問題はあの迅竜から逃げ切れるか、ということだ。

 さらに言うならば一旦逃れたとして、あの迅竜が気づくより先に一撃見舞えるか、というのもある。

 とは言え後者に関してはそれほど心配していない。

 樹海を探索しているだろうリオと合流すれば良いだけの話だ。

 

 迅竜ナルガクルガは目が悪い。勿論見えないわけではない……実際閃光玉だって通用する。

 だがこの薄暗い樹海の中で育ったせいか視力よりも聴力に重きを置いている部分がある。

 故にこの樹海の中にあって、尚遠方まで見通せるリオの尋常ではない視力と狙撃能力があれば相手の警戒範囲の外から一撃見舞うことは十分可能だと思っている。

 

 後はそう……降り切れるかどうか、それだけの問題だ。

 

 

 * * *

 

 

 樹海の奥地にチャチャブーという獣人種がいる。

 小型モンスターに分類される獣人種だが、メラルーやアイルーのように多少厄介な面はあるが、基本的に危険性は低く、また基本的には臆病でハンターが武器を振りかざすだけで逃げ出すこともある。

 

 だがチャチャブーは違う。

 

 極めて好戦的かつ厄介な擬態能力を有し、強靭な筋力とタフな肉体、そして時にはハンターを真似たかのような武器を持って戦うこともある凶悪な種族である。

 その危険度はハンターズギルドにランポスやアプケロスよりも危険視されているほどであり、樹海や森丘など一部の地域に生息しているのが確認されている。

 特にここ樹海の奥地にはチャチャブーの住処があることが確認されており、非常に危険な場所となっている。

 

 正直かつてのリオならばともかく、今のリオにとってチャチャブーは危険な相手だ。

 かつての防具があるので致命傷は避けれると思うが、正直下位の防具程度ではチャチャブーの持つ鉈であっさりとかち割られることもある。

 下手するとアイルーよりも小柄なため逃げようと思えば逃げられるのだが、何よりも擬態能力が厄介で、周囲のキノコや鉱物などに擬態して地面に隠れ潜んでおり、本当によくよく注意して見なければ気づかないほど精巧な擬態にやられ初撃で足を切られたりしようものならば複数のチャチャブーに滅多切りにされ殺されるハンターも少数ながら存在する。

 とは言えチャチャブー自体が遭遇がそう多くないこともあって、その件数は他のモンスターに殺されるよりも圧倒的に少なく、殺された人間は運が無かった、としか言いようが無い。

 

 とは言え弱点も多い上、昼間は大半出払っているため巣に残っているのは極めて少数だけだ。

 

 しかも擬態もせずに歩いているためすぐに気付ける。

 ただ大半のハンターにとってチャチャブーの巣とは行く意味の無い場所である。

 チャチャブーを倒しても稀に持っている道具を落とすくらいであり、その大半がガラクタ、あったとしてもハンターの落とし物などであり、希少性のあるものでは無い。

 つまりチャチャブーとは百害あって一利無し、相手をするだけ無駄なモンスターなのだ。

 

 では何故リオがわざわざそんな無駄なモンスターの巣に来ているのか、と言われれば簡単だ。

 

 チャチャブー自体には旨味は無くとも、その巣にはあるからだ。

 

 正確には、チャチャブーの巣では時折鉱石が掘れるのだ。

 嘘か本当かは知らないが、チャチャブーたちは鉱脈を()()()()()秘法を有しているらしく、そこで呼び寄せた鉱脈には非常に希少な鉱石が混じっていることが多い。

 

 その名を『アミノタイト』と言う。

 

 粘土状で柔らかく、見た目も相まって長年ただの石ころと見間違えられてきたが、最近になって非常に有用なレアメタルであることが発見され需要が爆発的に高まった鉱石である。

 ただし増大する需要に対してまるで供給が追い付いていない。

 何せまず下位狩猟区域からは出ない。そして上位狩猟区域まで行ってもほぼ出ない。それこそG級狩猟区域まで行ってようやく偶に出る、と言った具合の希少性であり、そもそもG級狩猟区域に行けるようG級ハンターが今更採取なんてほぼしない、というのもその希少性に磨きをかけている。

 

 ただ一部……ほんの一部のハンターは上位以上のチャチャブーの巣で偶に発見できることを知っており、樹海に来たらだいたい一度はチャチャブーたちの巣に寄って行く。

 

 つまりリオもその一人、ということだ。

 

 とは言え危険なのには変わりない、だから安全性確保のために先に道具を使う。

 チャチャブーたちは普通に攻撃しても非常にタフで倒している間に仲間が集まってきてしまうので真っ当にやるのはむしろ邪道だ。

 

「それっと」

 

 ひょいっと手に持った閃光玉を投げ、片手で視界を塞ぐ。

 直後にぱぁぁ、と手越しに目に焼き付いた強烈な光が放たれる。

 

 ぎぃぃ、と巣の中のチャチャブーが悲鳴を上げながら眩暈を起こしている間にそそくさと巣の中を進んでいき。

 

「お、あった」

 

 地表に鉱石がむき出しになったポイントを見つけるとツルハシを振るっていく。

 かん、かん、と派手な音が響くが閃光玉で気絶したチャチャブーたちが動き出す気配は無い。

 とは言えれっきとしたモンスターだ、一分もしないうちに動き出すだろうため、急いで採掘をする。

 五度、六度、とツルハシを振るい、地表に露出していた鉱脈を掘り終わると鉱石をバッグに詰めてそそくさと退却する。

 中身を検分している暇も無いので、急いで巣を抜けていく。

 去り際にもう一度閃光玉を転がしていく。視界が回復し、リオを追いかけようとしていたチャチャブーたちがまた閃光に目をやられ倒れる。

 

 そうしてチャチャブーの巣を抜け、樹海中央にそびえる巨大な木の中に出る。

 以前ここでヒプノックを倒したなと思い出しながらそのまま木の中から出ようとして。

 

「……は?」

 

 そこに居るはずの無い緑色を見つけ、絶句した。

 

 非情に硬度の高い緑色の外殻、そしてそこから突き出した赤い棘。

 頭と尻尾を器用に丸めて眠るソレはきっとリオが少々小突いた程度では起きないだろう。

 ソレはそういう存在だとリオは知っている。

 過去何度か戦ったこともあり、ソレの厄介さを良く知っている。

 

「なんで……いるんだ」

 

 今回の狩猟目標は迅竜ナルガクルガのはずだ。

 確かに上位狩猟区域では時に同じ狩猟区域に複数の大型モンスターがいることはあるが。

 それでもこんな大物がターゲット外にいるならば絶対にギルドから警告があるはずであり。

 何の対策も無しに挑めばまず間違いなく殺される、ソレはそういう存在だ。

 

 棘竜エスピナス。

 

 飛竜種でありながら太古の昔に樹海に君臨した古龍と縄張り争いを繰り広げたとされ、人間にとっての脅威という意味ではなく、古龍種に対抗しうる「古龍級生物」とも言われている。

 勿論目の前の個体が古龍と戦ったわけではないだろう。実際成体になる前のエスピナスならちゃんと対策すればそう強い個体ではない……勿論上位では、と但し書きがつくが。

 とは言え『成体前』ですでに上位レベルというだけで『棘竜』という種族の強さが見え隠れする。

 『成体』のエスピナスは上位でも最上位レベルの強者であり、上位ハンターがパーティを組み、対策を組み、装備を整え、万全の準備をしてようやく狩猟可能になるレベルの怪物だ。

 

 見たところまだ成体前、最悪とまではいかない……がそもそもナルガクルガと戦いながらこんなのの相手をしては居られない。

 幸いエスピナスは基本的に眠っている時間が長く、深い。

 小タル爆弾が目の前で爆発しても起きないレベルで深く眠っているので刺激しなければ無視できる……はず。

 

 そう、考えて。

 

 た、た、た、と足音が聞こえた。

 リオのやってきたほうとは反対側の入口から走って来る影。

 

「レ……ティ……」

 

 それが自身の相棒であると気づき。

 直後、その後ろから迫る漆黒の影に気づいた。

 

「待った! レティ!」

 

 咄嗟に叫ぶがもう遅い。

 迅竜の尻尾から排出された棘が高速で飛んでいく。

 それを避けたレティ、そしてその棘が向かう先には……。

 

 眠ったままのエスピナス。

 

 数本の棘が緑の外殻に突き刺さる。

 エスピナスの外殻は非常に硬い、がナルガクルガの尾棘とて非常に鋭利だ。

 それが寄りにも寄って外殻の隙間に正確に刺さり、その身を傷つける。

 走る鋭い痛みにエスピナスが目を覚まし……。

 

 Guruaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

 

 その全身を赤く染めながら、ほとんど洞窟と化した木の洞全体に咆哮を轟かせ。

 

 Giaaaaaaaaaaaaaaaaa

 

 鋭敏な聴覚が激しく刺激されたことに激怒したナルガクルガが咆哮を上げる。

 位置関係はリオ、数メートル離れてエスピナス、さらに十メートル近く離れてレティ、その数メートル後方にナルガクルガ。

 逃げようにもレティが完全に挟まれている。

 エスピナスが完全に覚醒してしまった以上、最早安易逃げる選択肢もできない。

 

「最悪だ……」

 

 呟かずにはいられなかった。

 

 




アミノタイトはフロンティア専用の鉱石。
めっちゃ希少で希少過ぎるせいで鉱石の癖に救済クエスト実装されたくらい希少。
調べたけど上位でのクエスト一回における期待値0,1個だって。G級で0.5個。

因みにエスピナスもフロンティア専用モンスター。
通称那須。ナスでも良い。亜種と稀少種がいるけど、稀少種がくそ強い。
因みにかつては剛種チケット救済クエストで落とし穴にはめられてライトボウガンで超速射されて眠らされてを繰り返して一方的にハメられる悲しい存在だった。
基本的に通常種と亜種は登場時いつも寝てる。だから落とし穴ハメると長時間拘束できるけど、怒るまで肉質が非常に硬い。
非怒り字の肉質が平均5くらいと言えば分かるかな?
因みに怒ってない時はほぼ攻撃してこない、他のモンスターでいう非発見時みたいなのっそのっそとした動きであるくんだが、怒ると全身が赤くなって肉質が20~30くらいまで柔らかくなる。
ただしものっそい動く。突進がくそ速い上にホーミング性能そこそこある。ぶっちゃけティガレックスより突進早い。
さらに予兆も無くいきなり走り出すから走ったと思った次の瞬間には轢かれてることもままある。
さらにバックステップで飛びながら炎ブレス吐いたりと怒ってる時はやりたい放題やってくる。
ナス稀少種、通称白ナスはさらにやりたい放題だがな。
因みに必殺ブレスがくそかっこいい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二十話 樹海の狂宴

 

 

 放たれる紫紺の炎を避けながら、疾走する黒を追いかける。

 樹海中央に聳えたつ巨大樹の内側は完全なる洞穴だ。

 巨大な空洞には長い時間をかけて土が溜まっており、踏みしめるそこは樹の外の地面となんら変わりない。

 本当に木の内側とは思えないほどの広大な空間は、けれど隠れるところも掴まるところも無く、ここに迅竜を誘い込んだこと自体は確かに狙い通りと言えた。

 持前の瞬発力で壁を伝いなら走ってはいるが、空間が限定された分だけ捉えやすい。これなら最早見逃すことも無い。

 

 問題は先ほどから迅竜を狙う緑竜の存在だ。

 

 棘竜エスピナス。その存在は知ってはいた。

 樹海に生息するモンスターの中でも最強と言っても過言ではないその存在。

 だがクエスト受注時のそんな存在がいるとは聞いていない。

 どうしてここに、と考えたって別にモンスターだって人間の都合で動いているわけでは無いのだ。

 気まぐれにやってくることだって偶にはある。ギルドだって常に最新の情報を告知できるわけでも無い。

 

 こういうことは稀にある。

 

 そう言ってしまえばそれだけのことなのだが。

 よりもよって、と言いたくなる。

 当たり前だが迅竜との戦闘前に一応フィールドの確認をしようとしたのだが、リオと別れてほとんどすぐに迅竜に見つかってしまったのだが運の尽き、ということか。

 迅竜の索敵範囲は非常に広い。百メートル以上手前からでも僅かな音だけでこちらを察知して警戒してくる。

 自分だって十数メートル程度ならば気配だけで追えるがさすらに百メートルは無理だ。

 こちらの警戒の範囲外から一気に跳んできてなし崩しに戦闘せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのは完全に運が無かったとしか言いようが無い。

 

 だがもう起こってしまった以上は変えられない。

 むしろ現在進行形で起こっている自体をどうにかしなければ命が無い。

 

「リオ……に……近づくな!」

 

 交差の一瞬。突如とした迅竜の方向転換にけれど迷いも無く太刀を振るう。

 浅い、それは分かっていた。迅竜の僅かな溜め。ほんの一瞬ほどの力を込めた刹那がこちらの太刀をずらした。

 舌打ちしそうになる内心を抑えながら即座に太刀を持ち直し、同時に浅くでも傷つけられた迅竜の注意がこちらを向く。

 直後に棘竜から放たれた紫紺の炎が着弾、即座に飛び立った自身と迅竜の間で爆発する。

 

「っぶ……ない!」

 

 棘竜の放つ炎は()()()()()()の混合物だ。

 可燃性のそれを放ち、炎で対象を焼き、火傷の傷口から毒が流入するという極めて凶悪なそれは当たれば全身が麻痺し、焼かれ、毒に蝕まれる。

 

 即ち致命の一撃である。

 

 動き回る迅竜のせいで棘竜もまたブレスばかりだが、あれが走り出せば厄介なことは知っている。

 見たことが無いため伝聞になるが棘竜は古龍すら打ち果たす強者だ。

 あれを相手に戦うのは現状無謀としか言いようが無い。

 幸い、というべきか相手の敵意は迅竜へと向かっているため、棘竜の背後にいるリオへの危険性は少ない。

 だがそれとていつまで、という話であり。

 

「どうにかしてリオと合流しないと」

 

 だが危険なのが迅竜である。

 あれは知能が高い……リオが動けないと気づけば優先的に狙ってくる可能性もある。

 故に迅竜の敵意をこちらに釘付けにする必要がある。

 位置関係的には棘竜が盾になっているためそう簡単には手出しできないだろうが、この瞬発力は危険過ぎる。

 

 ギィィアァァァァ!

 

 迅竜を咆哮を上げながらこちらと棘竜の両方を警戒し。

 

 ダンッっと……突如として棘竜の地面が爆ぜた。

 

 走り出したのだと気づいたその直後にはすでに迅竜の目前にまでその巨体が迫っており。

 

 グギャアアアアアアアアアォォォォ!

 

 迅竜の巨体を軽々と吹き飛ばして端まで飛ばす。

 ごろごろと転がる迅竜がダメージに体を鈍らせ。

 直後に走り出す。

 

「リオ!」

「レティ!」

 

 レティが体を引きずりながらこちらへやって来る。

 そうして二人の距離がゼロになり。

 

「担ぐわよ!」

「頼む!」

 

 即座にその体を担ぐ。

 とは言え自身よりも小柄とは言え重装のリオは重い。

 さすがにいつも通りの速度で、とは言えず。

 

「レティ! 迅竜が!」

 

 振り返ればこちらを追いかける黒い影。

 ただでさえ瞬発力で負けているのに、さすがにリオを担いだ状態では追いつかれる。

 

「リオ!」

「分かっている!」

 

 担がれたままのリオが腰に下げていた玉を後方へと投げ。

 

 直後、閃光が洞窟内を焼いた。

 

 位置関係的に自分が見たのは壁に照り返って来た光だが、それだけでも目が痛くなってくる。

 直視してしまった迅竜は明らかに視力を失い、方向感覚すら失っている。

 その直後に突撃してきた棘竜に弾き飛ばされ迅竜が地面を転がる。

 

「今のうち!」

「わか……ってるわ」

 

 ややもたもたしながら、それでも大樹の内側から抜け出し、樹海の中へと戻ってくる。

 あふれ出した緑にまず最初にしたのは周囲の気配を読むこと。

 

「いない、わね?」

「こっちでも確認した……いないよ」

「一旦戻るわ」

「問題無い……さすがにこれは予想外だった」

 

 了解を得ると共に、地面にモドリ玉を投げつける。

 直後に溢れ出す緑色の煙に紛れてそそくさと撤退した。

 

 

 * * *

 

 

 まるで長い間水の中に潜っていたかのように、ベースキャンプに辿りつくと同時に崩れ落ちる。

 

「ふう……はあ……」

 

 荒く息を吐き出しながら大きく吸い込む。また吐き出して、吸い込んで、そうして何度となく深呼吸しながら跳ねる心臓の鼓動を落ち着かせていく。

 リオもまた地面の上に寝転がりながら何度と無く深呼吸を繰り返していた。

 

 単純な体力もそうだが、それ以上に張り詰めていた神経を緩めるための、尖らせていた感覚を戻すためのスイッチが必要だった。

 

 大型モンスター……それも上位モンスターの中でも最上位クラス二体との乱戦は自分たちの精神を大きく削り、余裕を奪っていたのは間違いない。

 だが戦闘中ならともかく、拠点でまでそんな状態を続けていれば体力が持たない。

 だから戦闘時と非戦闘時の切り替え作業というのは必須になってくる。

 

 そうして少しずつ、少しずつ、体から力を抜いていく。

 脱力し、尖った感覚をゆっくり、ゆっくり、平時のそれに戻していき。

 

「それで……どうする?」

 

 口に出したのは自分から。

 どう考えたってこれは緊急事態だ。

 事前情報に無かった大型モンスターの乱入。クエストをリタイアするには十分な理由であり、契約金こそ取られども評価の減少は無いだろう。むしろここで無茶して二人して大怪我するほうが余程査定に響く。

 

「どうするって……何がだい?」

 

 それを自分も、リオも分かっていて。

 それでも尚、尋ねた意味をリオだって察していた。

 

「分かってるでしょ?」

 

 察していても、それでも尚それは簡単なことではないからこそ。

 互いの意思が何よりも重要だ。

 

「「やられっぱなしじゃ気に食わない」」

 

 重なる声と声に、互いに顔を合わせ。

 

「長生きできないね、キミも、私も」

「するわよ……勝てば良いだけだもの」

 

 呟いた言葉に、そう返せばリオが少し目を丸くし、苦笑する。

 そのまま上半身を起こし、ポーチを漁る。

 

「そうは言えど、完全に想定外の相手だ……道具だって多少の予備はあれど、閃光玉だって数に限りがある。ナルガクルガはともかく、エスピナス相手に音爆弾なんてあっても仕方ないしね」

 

 モンスターの視界を奪う閃光玉はハンターにとってシビレ罠や落とし罠と併せて最も頼りになる道具の一つではある。

 ただどれもそう多く数を用意できないという問題もある。

 閃光玉なら仕組みがそもそも光蟲の絶命時に放つ強大な光を利用したものなので、内側の光蟲が生きている間しか使えないという大きなデメリットがある。

 そもそもサイズからしてそれなりにかさばるので普通のハンターで三個、多めに持って行っても五個が限度と言ったところか。光蟲を現地調達できればもう少し数も増やせるが、今回は虫網を持ってきていないので持ってきた五個のみ、一個使って残り四個。

 シビレ罠や落とし穴も誤作動や磁気の問題で複数持つと壊れることがあるので基本的には一つずつ、というかそもそも材料のトラップツール自体のサイズがそれなりにあるので二つも三つも持つと持ちきれない。

 

「落とし罠……あったわよね?」

「迅竜相手だからいらないかと思ったけれど……まあ一応ね」

 

 迅竜ナルガクルガは警戒心が強い。さらに索敵能力も高いため、普通に落とし罠をしかけてもすぐに違和感を見抜いて踏み抜いた瞬間、その持前の瞬発力で逃げられてしまう。

 それこそ踏み抜いた瞬間攻撃で怯ませ無理矢理落とすか、もしくは怒らせて警戒心を薄くした状態でなければまず落ちることは無いらしく、わざわざかさばって持って行く割に効果は薄いと持って行くハンターは少ないらしい。

 とは言え不注意ならば落ちるのは落ちるのだ、何があるか分からないが一応持ってきたのだが、それが功を奏したらしい。

 

「私とリオで一個ずつ……捕獲玉も一応あるわね」

「回復薬の類も十分あるし、探索中にハチミツが採取できる場所もあった」

 

 本当は温暖期が一番なのだが繁殖期でもハチの巣にはハチミツが蓄えられている。

 これを回復薬と調合すればより効果を高めることができる。

 

「リオ確か調合書持ってたわね?」

「弾薬の調合に必須だからね……本当は覚えれば良いんだろうけど」

 

 調合書は単なる調合のレシピ、というわけではなく、状況に応じた調合のやり方を記してある。

 例えば火山などの暑い場所と雪山などの寒い場所で同じように調合しても全く同じ結果になるはずが無い。

 他にも湿気や素材の状態、器具の良し悪しまでそこに記された知識は膨大の一言であり全五巻に渡る調合書の全てを覚えれば調合屋になることだってできる、つまりその道の専門家になれる。

 ハンターをしながらそれはさすがに無理なのでハンターたちは必要に応じた調合書を狩場まで持ち歩き、それを参考にしながら狩場で調合している。

 

「私は基本的に回避優先だから回復薬はそれほど使わないとして」

 

 回復薬とて飲めば一瞬で傷が癒えるなどという出鱈目な力は無い。

 ハンターの回復力を高め、いくらか体力を回復してくれるくらいであり、最終的に傷を癒すのは戦わない時間である。

 故にソロで活動するなら余り世話になることの無い物であり、基本的に自分は回復薬の世話にならないように戦っている。

 

「念のために秘薬はいつも持っているけど、これ一つだけだから注意して欲しい」

「というか良く持っているわね、そんなもの」

 

 秘薬と呼ばれる回復薬がある。

 先ほど回復薬は飲めば一瞬で傷を回復してくれるわけではない、と言ったが秘薬に関しては別だ。

 不死虫やマンドラゴラと言った貴重な素材を使って作られる秘薬は、ハンターの自己治癒能力を過剰なまでに活性化させ傷だけでなく体力までも全回復させる。

 ただしそれは一時的なドーピングに等しいため、一度の狩猟で最大でも二個。それ以上の服用はハンター本人に極めて危険な副作用をもたらす。

 文字通りの奥の手である。因みに非常に高価であり、上位ハンターでも一部の人間しか持っていないとされるほどに貴重な物である。

 勿論自分だって持っていないが、昔ハンターになる時に義姉に言われて義兄の道具箱からいくつか道具をもらっていくときに大量にストックされているのを見たことがある。

 多分あれ全部売り払えば家族三人が三回人生を謳歌してもまだ余るくらいの金額になる。

 欲しいなら持って行っていいですよ、と義姉に言われているがさすがにそんな高価なもの持っていけないと言って断ったが一個くらいもらっておけば良かったかもしれない。

 

「昔はG級だった、つまりそういうことだよ」

「……まあ何にせよ助かるわ」

 

 使わないに越したことは無いが、あるなしで生存率がまるで違う。

 しかもこれから生死を賭けるほどに無茶をするならば保険としてあったほうが良いに決まっている。

 

「弾薬のほうは?」

「ほぼ使ってないよ……調合すればまだ余裕はある」

 

 とすれば道具に関してはほぼ問題無い。

 幸か不幸かまだほとんど最初に出くわしたのでそれほど消耗は無い。

 刀身もそれほど摩耗はしていない……がまあ一応砥石で研いでおく。

 リオもまたボウガンの銃身を掃除していた。

 

「じゃあ後の問題は」

「私たち自身、だね」

 

 相手は二体。

 

 迅竜ナルガクルガ。正直言えばこちらはそれほど問題は無い。

 元々狩猟予定だったのだ。ここまで戦ってみた限り、リオと協力すれば倒せないことも無いと思う。

 

 問題となるのは。

 

「エスピナスだ……元々この樹海でも最上位の強敵だ。少なくとも上位に上がったばかりのハンターが戦うような相手じゃない」

「そもそも乱入してきた時点で棘竜は倒す必要性が無いのよね」

 

 というのは分かってはいるが、だからと言ってあれだけ驚かされてぽんぽんブレスを吐かれて、一発も返さずに逃げ出すのは性に合わない。

 

「棘竜の最大の特徴はあの甲殻だ。戦闘態勢に入ればいくらか軟化するとは言え、私の弾丸の大半があの甲殻に弾かれる」

 

 貫通弾や拡散弾、徹甲榴弾などは硬い鱗や殻を持つ相手でも十分な効果が発揮できるとは言え、それ以外が弾かれるというのは弾の種類に大きく制限がかけられているに等しい。

 

「私の刀で……アレを斬れるかしらね」

 

 無駄に敵意を集めないように先ほどは無視したが、敵対するなら考えずにはいられない。

 分厚く固い甲殻は並大抵の武器では弾かれてしまうだろうし、いくら新調したとは言え上位ハンターとして見ればまだ初歩の初歩としか言いようの無いこの太刀で、上位最強クラスと言われるあの竜を斬ることが果たして可能か……。

 

「刃に意思を乗せて」

 

 刃の尖の先まで斬る、という意思を満たす。

 そうすれば斬るという行為は必然と化す。

 義兄にそう教えられたが、果たして今の自分がどこまでそれを再現できるだろう。

 

「もし……斬ることができれば」

 

 エスピナスという極めて強固な甲殻を持つモンスター。

 

 それを斬ることができたならば、きっと。

 

 自分また一歩、義兄に近づける、そんな予感があった。

 

 

 




アンノウンの第八形態のBGMかっこよすぎかよ!!!


あとグァンゾルムの第二形態BGMとかも好き。
テンション上がり過ぎてしばらくモンハン続きそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。