ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~ (舞翼)
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SAO編
第1話≪はじまりの街≫


観覧ありがとうございます‼

これはユウキがSAOに居たらどのような物語となっていくのか?です。

読んでいただけたら嬉しいです。




「リンク・スタート!」

 

俺は仮想世界にダイブするコマンドを叫ぶ。

俺、桐ケ谷和人ことキリトは『ソードアート・オンライン』の世界にダイブした。

 

「帰ってきたこの世界に」

 

俺は、目の前のガラスに映る自分の姿を見て呟いた。

武器の片手剣を背負いフィールドへと走っていると1人のプレイヤーに足を止められた。

 

「兄ちゃん。元βテスターだよな?」

 

「そうだけど……」

 

「やっぱりそうか。俺にレクチャーしてくれないか? 恥ずかしいが俺、仮想世界初めてでよ」

 

「いいぜ。俺はキリト」

 

「俺はクラインだ。よろしくな」

 

「なになにレクチャーしてくれるのボクにも教えてよ。おにいさん達」

 

俺達に話しかけてくれたのは女の子は、とても元気で活発そうな子だ。

 

「俺が教えるわけじゃないぞ。お嬢さん」

 

「お嬢さんじゃないよ。ボクはユウキだよ。よろしくね」

 

「悪い悪い。俺の名前クラインってんだ。よろしくなユウキちゃん」

 

「ユウキちゃん? まぁいいや」

 

なんだこの状況は、俺はただフィールドに出ようとしただけなのに。

俺はコミュ障なんだよー。と心の中で呟く。

 

「そっちのおにーさんは?」

 

「俺はキリト。ユウキだっけか? よろしくな」

 

「よろしくね。キリト、クライン」

 

「じゃあ、フィールド行こっか。とその前にお二人とも武器は?」

 

「俺は曲刀だ」

 

「ボクは片手剣だよ」

 

「よし。じゃあ、行こうか」

 

 

 

フィールドにて

 

俺達がターゲットにしているモンスターはスライム相当である青いイノシシである。

名前は《フレンジーボア》だ。

《フレンジーボア》は俺に気づき突進してくるが、俺はそれをさらりと躱し、クラインがいる方向に促す。

 

「クライン、行ったぞ!!」

 

「おう!! おりゃー。ぐふっ」

 

クラインはイノシシの突進を受けて軽く吹き飛んでいた。

まだ、戦いなれていないのか?

 

「おいクライン。 だからモーションだって、構えるだけじゃなくて。 タメを作る感じで」

 

「だってよー。 あいつ動くんだぜ」

 

「うーん。 クラインが知っている必殺技を意識してモンスターに攻撃してみたらどうかな?」

 

「必殺技か……。 よし!!」

 

クラインは大きく、深呼吸し曲刀を肩に掲げる。

このモーションにより曲刀がオレンジ色に染まる。

ソードスキルの≪リーパー≫が発動され、ズバーンと音と共にモンスターがポリゴンになった。

 

「おしゃー!! 倒したぜ。 これがソードスキルか」

 

「自分の体を動かしてモンスターを倒す方が面白いだろ」

 

「確かに、画面越しのゲームより100倍面白いな。ところでユウキちゃんは?」

 

「ああ、あそこでモンスターと戦っているよ」

 

ユウキは、俺達のすぐ近くでモンスターを狩っていた。

この短時間で1人で狩りを出来るなんてすごいな。

俺の教え方は結構大雑把だったんだけど…。

もうソードスキル使いこなしているし。

モンスターを狩り終えたユウキがこちらにやってきた。

 

「ボクは大体のコツは掴めたよ」

 

「すげーな。 ユウキちゃん」

 

「そうかな。 キリトの教え方がいいからだよ」

 

マジか、ユウキちゃんは感覚派だな。とクラインは心の中で呟いた。

 

「じゃあ、俺は飯食いに1度落ちるわ」

 

「じゃあ、何かあったらここに連絡してくれ」

 

と言い、俺はクラインとフレンド登録する。

 

「ボクも」

 

ユウキともフレンド登録する。

 

「またな」

 

「あれっ」

 

「どうした?」

 

「うーん。ログアウトボタンがねーんだよ」

 

「ボクのも無いよ……」

 

そんなことあるはずはないと思いメニューを開く。

 

「本当だ。LOG OUTボタンが消えている…」

 

リンゴーン、リンゴーンと音がなった直後に転移させられた。

転移させられた場所は≪はじまりの街≫の中央広場だった。

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。 私の名前は茅場明彦。この世界をコントロール出来る唯一の人間だ。 すでに諸君のメニュー欄から“LOG OUT”ボタンが消滅していると思う。 これがソードアート・オンライン“本来の仕様”である。 また、諸君たちのHPバーが0になったらこの世界と現実世界から永久に退場してもらう。このゲームから脱出する方法は、ただ1つ。 このゲームの第100層をクリアすることだけである。 諸君たちの健闘を祈る。最後に私から些細なプレゼントを贈ろう。 これで正式にソードアート・オンライン、チュートリアルを終了する」

 

プレゼントのアイテム名は≪手鏡≫

 




こんな感じでどうでしょうか?
初めての投稿なので至らない点が多々あると思います。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。

感想、意見よろしくお願いします。

出来れば優しくお願いします。
硝子のハートなので(汗)


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第2話≪第1層ボス攻略会議≫

今回ユウキの出番少ないです。

ごめんなさいっ‼

頑張って書きました。

それではどうぞ。


突然≪はじまりの街≫の中央広場が真っ白に光に包まれた、周りからは罵声や悲鳴、怒気など言った負の感情が渦巻いている。

 

「出来るわけないだろうが!!」

 

「おいっ!! ここから出しやがれ!!」

 

「これから約束があるんだ!! 早く現実に返しやがれ!!」

 

5時間前には、母親と話していた、飯も食べていた、妹と話していた。それが出来なくなったのか、元の生活には戻れないのか、第100層なんてクリア出来るのか?

βでも10層まで上るのに1ヶ月かかったんだぞ。HPが0になれば現実で『死』なのか……?などと言う事が頭の中でループし続けていた。

このような事を考え戸惑いつつも、俺は≪手鏡≫を覗きこむ。

そこには黒髪に黒曜石のような瞳、中性的な顔立ちがあった。

 

「これ俺だよな……。 お前、誰」

 

俺は今の状況を一時的に忘れる為、隣にいた男性プレイヤーに声を掛けた。

 

「おまえこそ誰だよ」

 

この言葉を発したのは、隣に居る男性プレイヤーだ。

赤いバンダナを巻いた山賊に近い誰かだった。

 

「もしかしてお前クラインか!?」

 

「じゃあ、お前はキリトか!?」

 

言葉を交わしていたら≪手鏡≫を落としてしまった。

パリーンと音が鳴りポリゴンと変わった。

俺は茅場のプレゼントの意味を知った。

作ったアバターが現実世界の自分になっていると。

すると斜め横から声が聞こえた。「これボクの顔だよ!!」と何処かで聞いたことがある声だったので俺はクラインに待っていてくれと伝え、早まる心臓の鼓動を押さえつけながら急いで声の発生源へと走り始めた。

 

「お前ユウキか?」

 

「そうだけど。 なんでボクの名前知ってるの?」

 

声が少し怯えていた。

それはそうだろう。いきなりデスゲーム宣言され、見たことがないプレイヤーに話しかけられたら。

 

「もしかして、キリト?」

 

「うん」

 

「とりあえず、クラインの所に行こう」

 

「わかった」

 

クラインとユウキがそろったところで俺はこれからの事を提案する。

 

「いいか。 よく聞け。 茅場の言う通りなら自分を強化しなくちゃならない。 この街の外に居るフィールドモンスターは全て狩られてしまうだろう。 レベルを上げ自分を強化する為には、この街から一刻も早く出た方がいい。 危険な場所はβテストの時に把握しているから安全に次の街へ行ける。 俺はすぐに次の街に行く。 クライン、ユウキ一緒に来い」

 

「悪い……。 俺は行けない。 俺は他のMMOで知り合ったダチが居るんだ。 そいつ等も、この街の中の何処かで不安に駆られているはず、だから一緒には行けない。 俺は大丈夫だ。 お前から伝授してもらったテクでうまくやってみせるさ。だからお前は、次の街に行ってくれ」

 

「そうか……。 ユウキはどうする?」

 

ユウキはこれからの事を考えているのだろう。

 

「ボクはキリトと一緒に行くよ」

 

「わかった……。 行くぞユウキ!!」

 

こうして俺は、自分を苦しめる選択を取った。

別れの際、クラインの言葉が耳に入ってきた。

 

「キリトよ! お前、遠くから見ると結構カワイイ顔してんのな! ユウキちゃんもカワイイ顔してるぜ。 俺は結構好みだぜ!」

 

「クラインは元のアバターよりそっちの顔の方が似合ってるよ」

 

「お前は、その武士ヅラの方が何倍も似合ってるぜ!」

 

「よかったの?」

 

「……ああ」

 

俺は街から聞こえる悲鳴や怒気にも耳を塞いだ。

“俺達”はこのデスゲームを生き残る為に、次の街まで必死に走り続けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

ゲーム開始から1ヶ月過ぎた。死者は二千人。

まだ、第1層はクリアされていない。

あの後、街では自殺したプレイヤーも居たらしい。

その為、街に残ったプレイヤーが落ち着きを取り戻すには、数日以上掛かった。

日が経つに連れてプレイヤー達は自分の身の安全の為、今後の方針を決めていた。

1つ、パーティーを組み続ける者。

2つ、どこにも所属しないソロプレイヤー。

3つ、街から出ないプレイヤー。と大きく分かれる事になっていた。

俺とユウキは、この中に該当しないコンビを組んでいる。

 

「ねぇ、キリト。 今日は第1層のボス攻略会議があるんだよね?」

 

「……ああ」

 

「参加するの?」

 

「……ああ」

 

「もぉー、キリトは暗いよ。 もっと元気よくしなくちゃ」

 

俺は頑張って作り笑いをする。

 

「うん。 やっぱりキリトは笑っていた方がいいよ」

 

ユウキはこんな状況でも笑い掛けてくれる。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

攻略会議が始まった。

現れたのは片手剣使いのディアベルという青年だ。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。 俺はディアベル…職業は、気持ち的に騎士やってます!!」

 

周りが盛り上がっているな。

 

「今日、俺達のパーティーが第1層のボスの部屋を発見した」

 

この言葉で皆息を飲んだ。

 

「俺達がボスを倒して≪はじまりの街≫のみんなに希望を与えるんだ。 このゲームがクリア出来ると、それが今のトッププレイヤーの義務だ!!」

 

「ちょっと待ちやナイトはん」

 

会議に乱入してした男は言葉を続ける。

 

「会議の前に言いたいことがあるんや。 わいはキバオウっていうもんや。 この中に居るんやろ。 元βテスターが。 元βテスターはビギナーを見捨てて街を出たんやろ。 出てこいや」

 

この言葉に俺は身を縮めてしまう。

 

「キリト大丈夫? 何があってもボクはキリトの味方だから」

 

ユウキは優しく慰めるように言ってくれので、俺はこの状況に耐える事が出来た。

 

「発言いいか? 俺の名前はエギル、キバオウさん。 あんた、このガイドブック持っているだろう?」

 

「それがどうしたんや!!」

 

「このガイドブックを配布しているのは、元βテスターだ」

 

「うぐっ」

 

「いいかな……。 それじゃあ、会議を再開する」

 

俺はエギルの発言で助かったと思ってしまったのだ。

俺はユウキ以外のビギナーを見捨てた卑怯者だから。

 

「じゃあ、最大6人でパーティーを作ってくれ」

 

なにっ!!

 

「キリト今回もよろしくね」

 

「おう。今回もよろしくな」

 

ボス戦での2人パーティーは危険すぎる。

ここでユウキを失うわけにはいかない。

ユウキはこのSAOの希望になる存在だ。

どうしようと思っていたところに1人のローブを着たプレイヤーを発見した。

 

「あんたもあぶれか?」

 

「違う。 ああして仲良くやってるのが気に入らないだけ」

 

それをあぶれって言うんだよ。

と俺は心の中で呟いてしまった。

 




こんな感じかなー。

初投稿なので面白く書けているか不安でいっぱいです。

感想、ご意見よろしくお願いします。

優しくお願いします。


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第3話≪細剣使いとの出会い≫

お気に入りに入れてくれた方々ありがとうございます。

ご意見や指摘してくれた人たちにも感謝です。

まだ不安がいっぱいですがこれからもよろしくです。

あと、洞窟遭遇は無かったことでお願いします。

それでは、どうぞ。


攻略会議が終わり、プレイヤー達が解散して行くのを確認してから、ローブを着ているプレイヤーにユウキが話し掛ける。

 

「あのー。 会議終わりましたよ」

 

何故敬語になった?

 

「そう」

 

「なんでキミ。 ローブなんか着てるの?」

 

「…………」

 

「じゃあ、これからパーティー組む仲間だからボクとあそこにいる男の子と少しお話ししない?」

 

ユウキはローブのプレイヤーに余裕がないと感じ取ったのか話題を振った。

俺も巻き込まれた形になってしまったが、パーティを組むのだからこの際仕方がないと割り切る。

 

「私は、貴方達とおしゃべりする為に此処に来たんじゃないの!!」

 

が、それにローブを着たプレイヤーは怒鳴り返した。

 

「じゃあ、何の為に此処に来たの?」

 

ユウキはいつもの調子を崩さずに質問する。

 

「このゲームに負けたくないからよ!!」

 

ローブを着たプレイヤーはパーティーだけ組んでどこかへ行ってしまった。

 

「逃げるようにどっか行っちゃったよ」

 

「こんな状況じゃ割り切ることは、難しいさ」

 

「攻略会議中大丈夫だった?」

 

なぜ、彼女がこのような事を聞くのかと言うと「お前はβテスターだったんだな」などと疑われると体が勝手に畏縮しまうのだ。

そんな中でも唯一彼女だけに心を許せるのだ。

 

「おう、ユウキのお陰でなんとかなったよ。 ありがとな」

 

「その言葉を聞けてボクは安心したよ」

 

やっぱり、ユウキが微笑んでくれると安心するな。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

夜になり俺達は、夜食を取ることにした。

 

「やっぱり、毎日黒パンは飽きるね」

 

「仕方ないさ、黒パンには味がないからな。 だからユウキこの液体をパンに塗ってみ」

 

ユウキは、俺の差し出したカップから液体を取りパンに塗った。

 

「おお~、クリームの味がするよ!! 味がしない黒パンがここまで変わるとは!!」

 

「こうすれば、黒パンでもおいしいよな?」

 

「うん!!」

 

「ねぇ、キリト。 話は変わるけどさ」

 

「どうした?」

 

「今朝のローブを着たプレイヤーを見つけたんだよ。 ほら、あそこに」

 

ローブを着ているプレイヤーはベンチの左端に座り黒パンを食べていた。

 

「多分、ボクと同じ女の子かも」

 

「なんでそんなことがわかるんだ!?」

 

「パーティーの名前の所のスペルAsunaじゃん」

 

そう言われ、俺はHPバーの名前のスペルを確認した。

 

「確かに」

 

「そんな訳でキリトも付いてきてね」

 

「……了解」

 

「こんばんわー。 1人でお食事してるの? 一緒していい?」

 

「勝手にすれば」

 

棘があるなー、そんなことは気にしないユウキは話し続ける。

 

「それじゃ、お邪魔します~」

 

「早くキリトもボクの隣に座る」

 

「おっおう」

 

俺の返事が乱れてしまった…。俺達が今居るのは少し長いベンチだ。

配置は左からAsuna、ユウキ、キリトだ。

 

「ねぇねぇ。名前聞いてもいい?」

 

「アスナよ」

 

「やっぱり、ボクの勘は間違っていなかったよ。だよねー、キリト」

 

まさか、俺に言葉を振られるとは。

 

「そうだな」

 

「私の名前知ってたの? どこで知ったの?」

 

「もしかして、パーティー組むのこれが初めて?」

 

これは俺の問いだ。

 

「そうだけど」

 

「じゃあ、ボクが教えるよ」

 

「頼んだ」

 

俺はユウキに任せることにした。

その方が女の子同士だし、気が楽だろう。

 

「えっとね。 自分の視界の左側にHPバーが見えるでしょ。 その横にローマ字で名前が書いてない?」

 

「yuukiとkirito」

 

「そうそれがボク達の名前だよ。 じゃあ改めまして、ボクはユウキよろしくね」

 

「俺はキリトだ。 よろしくな」

 

「私はアスナよ。 よろしく」

 

「自己紹介も終わったところで、アスナはその黒パンを食べちゃおう。 これ使っていいから。 ボクのじゃないけど」

 

「何これ?」

 

「簡単に言えばクリームかな」

 

俺はこの会話を見て、女の子同士の方が会話が弾むなと思った。

 

「そう言えばキリトこのクリームどうしたの?」

 

「この前『逆襲の雌牛』ってクエストやったろ。 その時の報酬だよ」

 

「まさか、この黒パンがここまでおいしくなるなんて!!」

 

「アスナもボクと同じ反応したー」

 

「そう。 あなたと同じ反応をしたのね私……」

 

「あなたじゃないよ。 ユウキだよ」

 

「おいしかったわ。 ありがとう、ユウキ」

 

「今度は、現実世界で食べようね」

 

アスナは、一瞬ポカンとしたがすぐに、

 

「じゃあ、現実に帰ったらよろしくね」と。

 

「明日はいよいよボス戦だ……」

 

と俺は緊張感を少し出すようにして言葉を発した。




どうでしょうか?

上手く書けているかなー?

不安です(汗)

アドバイス、ご意見お願いしますー。


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第4話≪お風呂でパニック≫

お気に入り件数が30件超えたぞー‼

皆さま、ありがとうございます。

続き書きました。

それではどうぞ。


「よし。じゃあ、明日のボスの事をもう一度確認するぞ……」

 

何故かユウキに見つめられている俺。何故なんだ……。

 

「もしかしてキリト。今日の攻略会議の内容あんまり聞いてないでしょ?」

 

「うっ」

 

「まぁ。あんな状況じゃ仕方ないと思うけど、少しは話を聞こうね…」

 

「はっはい……」

 

怖いですよ。ユウキさん。

 

「全くキリトは、じゃあ明日の確認をしようか?」

 

「はいっ。お願いします!」

 

「そう言えば、アスナはどうしたの?」

 

「……分からん」

 

「分からんって。もーキリトはー!」

 

「すいません。もしかして、ユウキさん怒っていらっしゃる?」

 

「うん。ちょっとね」

 

やばい。この展開になったら俺は絶対にユウキには勝てん。

それは俺の経験上から体験済みである。 アスナさん早く来てください。

この様なやりとりをしていたら、こちらに歩いてくる足音が『かつかつ』と聞こえてきた。

俺はその足音を聞き、これはアスナの足音だと思ったので「助かった~」と思ってしまった。

ユウキさん、ごめんなさい。

 

「元の場所に居たんだ。探したよ。もしかして貴方達って何時も2人でいるの?」

 

「時々別行動を取るよ」

 

「キリト君も?」

 

「うん。ユウキの言う通り、時々別行動を取っているよ」

 

「でも、1日の大半はボクと一緒にいるよね?」

 

「そうだな」

 

「貴方達、仲がいいのね?」

 

「まぁ、ボク達にも事情って言う物があるんだよ」

 

俺達の事情と言うのは『あの日』の出来事『デスゲーム』が始まった日を指している。

『あの日』以来、ユウキは俺と一緒に居くれたんだ。ユウキには本当に感謝している。

≪はじまりの街≫を1人で出ていたら俺は今ここに居ないんじゃないか?とも思ってしまう。

俺は重い空気を紛らわす為、言葉を発した。

 

「じゃあ、改めてボスの確認をしようか?」

 

と俺が問うと、二人は

 

「「分かった!」」

 

と言ってくれた。

俺達が居る場所は先ほどの少し長いベンチだ。

 

「ボスの名前は≪イルファング・ザ・コボルドロード≫だ。 このボスはHPバーが4つある。 ボスの武器は斧とバックラー。最後の1つになると腰に携えている、曲刀カテゴリーのタルアールに武器を持ち変え攻撃パターンも変わるんだ。 でも、俺達の役割は取り巻きの≪ルインコボルド・センチネル≫を潰す事らしいな。 俺達はおまけ扱いだ。 何か質問はあるか?」

 

「ボクは了解したよ」

 

「私も大丈夫よ」

 

「じゃあ、ボク達の場合スイッチとポットが重要になって来るかもね?」

 

「スイッチ……、ポット……。 何それ?」

 

「……明日、ボク達が詳しく説明するよ。 じゃあ、解散ー。 キリト、早く帰ろうっか? ボク早く『お風呂』に入りたいからね!」

 

「……なんですって!!」

 

俺は見た。 『お風呂』と言うワードにアスナが神速のようにユウキの肩に手を掛ける所を…。迫力が籠った声が響いた事も…。

そして、次の言葉にユウキと俺は一緒に目を見開いてしまう…。

 

「……貴方達の所で『お風呂』貸して……」と。

 

俺達が借りている宿は≪トールバーナの町≫に広がる母屋のような場所の二階だ。

一階にはNPCが住んでいる。

 

「まっまぁ。どうぞアスナさん」

 

何か緊張するな。

 

「今日も無事に終わったー」

 

と言いユウキは部屋の中央にあるベットにダイブした。

 

「近所迷惑だぞ。大きな声出したら」

 

「ぶー。キリトのいじわるー」

 

「貴方達、本当に仲が良いのね」

 

「じゃあ、アスナ先に『お風呂』入ってきていいよ。ボクは後から入るから」

 

「じゃあ、お先に頂きます」

 

「此処を真っ直ぐ行って左に曲がるとお風呂場になっております」

 

やばっ敬語になったよ…。

 

「覗かないでね?」

 

「ばっ、そんなことしないよ!!」

 

「怪しいな。この前キリトさ、ボクが入っている時『お風呂場』の扉を開けそうになったよね?」

 

「あれは、不幸に不幸が重なって起きた不可抗力なんだよ!」

 

今の俺の顔が真っ赤だろう、ナーブギアの感情表現はオーバーなんだよな。

こうなってしまったら男はとことん弱い。

なので俺は何も言えなくなってしまったのだ。

 

 

Side アスナ

 

「ここがお風呂場か。結構綺麗な所ね」

 

私はメニューを開きウインドウを操作する。≪装備フィギュア≫の武器、防具を解除した。ローブは部屋にお邪魔した時に解除しておいた。

そして≪装備全解除≫のボタンをタップした。

解除した為、栗色のストレートヘアが露わになった。

そしてまた、変化したボタン≪衣服全解除≫のボタンにタップした。

もう、これで生まれた時の姿だ。「ばしゃーん」と背中から湯船にダイブする。

 

「きゃー。気持ち!!」

 

Side out

 

一方リビングでは

コンコンとノックの音が聞こえていた。

 

「誰だろうキリト?」

 

「一応警戒していてくれ」

 

「了解」

 

俺はゆっくりとドアを引き開けた。

 

「珍しいなアルゴ、“俺達”の部屋に来るなんて」

 

「うん。 今ボクもそう思った」

 

「こんばんワ。 ユーちゃん、キー坊」

 

とりあえず。俺は3つのグラスにミルクを注ぐ。

 

「キー坊にしては気が利くナ。 睡眠薬でも入っているのカ?」

 

「そんなことはしないさ。 もし眠っても、圏内でなら問題はないだろう?」

 

「まー確かにそうだナ。 いただきまス」

 

と言ってからアルゴはミルクを一気に飲んでしまった。

 

「そういえば、あのガイドブック無料で配布しているんだったな?」

 

「そうだガ?」

 

「なんで、俺だけコル払ってるんだよ…」

 

「ああ。 キー坊のハ、初版でアルゴ様のサイン付きだからナ」

 

「………………それなら、今度も買わないとな」

 

「で、本題はなんだ?」

 

「クライアントが、キー坊の片手剣『アニールブレード+6』を買いたいそうダ」

 

「……いくらだ」

 

「3万9千8百、だそうダ」

 

「微妙な金額だな、おい! 今の『アニールブレード』の相場は1万5千、2万あれば強化に必要な材料買えるぞ。 だから俺と同じ+6までは、安全に出来るはずだ。 まぁ、鍛冶料金もプラスされるが」

 

「オレッちも、これならあんまりかわらないゾト。 何回も言ったんダゾ」

 

「クライアントの名前って教えてくれるのか?」

 

「教えて構わないそーダ」

 

「誰だ?」

 

「キー坊もよく知っていル人物サ……。 今日の攻略会議で暴れたやつサ」

 

「まっまさか……。 キバオウ、か?」

 

「どうすル。 キー坊?」

 

「…………」

 

「無言と言うことハ。 不成立でいいんダナ?」

 

「ああ」

 

「わかっタ」

 

すると、今まで静かに聞いていたユウキが言葉を発した。

 

「ボクの考えだと、キリトの戦闘力を落とす事が目的じゃないかな?」

 

「そうかもな」

 

俺は会話に夢中になってしまってもう一人の存在を忘れてしまっていた。

やばっ。 『風呂場』にアスナが居るんだった。

 

「キー坊、『お風呂場の脱衣所』借りるヨ。 「夜専用」に装備に着替えたいからナ」

 

んっ、アルゴの奴。 今なんて言った?

 

「ねぇ、キリトやばいよ。 アスナが『脱衣所』にいたら……」

 

次の瞬間。

 

「ウワ!!」

 

「………………きゃあああああああー」

 

と言う声がこの部屋に響き、屋敷全体が悲鳴で揺れた。

直後、アスナが飛び出してきた。生まれたきたばかりの姿で…………。

 

俺はこの後の記憶がない。

 




こんな感じです。

ご意見、ご感想よろしくです‼

優しくお願いします(汗)

アルゴの言葉使い合ってるかな?


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第5話≪第1層ボス攻略戦≫

頑張って続き書いてみました!

たぶん、Progressiveと原作が混じっているかもです。(汗)

ユウキの出番が少ないかもです。

お気に入りに追加してくれた人たちありがとです(^^♪

では、どうぞ。


「今日はボス戦だ。 気を引き締めていこうな!!」

 

「「おー!!」」

 

とユウキとアスナは返事をしてくれた。

アスナは、俺達意外の人には顔を見られたくないらしいのでフードで顔を隠している。

 

「ねえ、キリト。 昨日起きた事憶えてないの?」

 

「そうなんだよ、ユウキ。 アルゴと話した所までは覚えてるんだけどな、その後の記憶がないんだよ。 変だよな。 あっアスナさん。 震えてますけど、どっどうしたんですか?」

 

「これは震えじゃないわよ。 怒りと恥ずかしさを表してるのよ。 キリト君」

 

「そっそうか」

 

「キリトは憶えてないんだし、あの事は水に流したら」

 

「ダメよ、ユウキちゃん。 いつか責任を取らせるわ!!」

 

「2人して何の話しているんだ??」

 

「「なんでもありません!!」」

 

「おっおう」

 

俺達は、目的地に着くまでアスナにスイッチの意味やポットの意味などを説明していた。

 

「スイッチとポットは理解したか?」

 

「ええ、理解したわ。 大丈夫よ」

 

「そうか。 じゃあ、最終確認だ。 今日、俺達が相手をする≪ルインコボルド・センチネル≫はボスの取り巻きで雑魚だが油断するなよ。 俺達はデスゲームをプレイしているんだ。 緊張感を切らすなよ。いいな?」

 

「「了解!!」」

 

「よし。 次に≪ルインコボルド・センチネル≫は頭と胴体を金属鎧で固めているから胴体には攻撃が届かない、喉元だけを狙うんだ。 俺とユウキのソードスキルで奴が持っている斧を跳ね上げさせるから、アスナはスイッチして奴の懐に飛び込んで細剣ソードスキル≪リニアー≫で俺がさっき言った喉元を狙うんだ。 俺達も最大限のサポートはする」

 

「わかったわ」

 

「じゃあ、みんなが居る噴水広場に行こうか」

 

噴水広場に向かっている途中でユウキからこの様な言葉を受け取った。

 

「ねぇ、キリト。 ボクは何があってもキリトに付いて行くからね。 それだけ!!」

 

とユウキは、俺にしか聞こえないボリュームで呟いて言った。

 

「何だったんだ、あいつ?」

 

噴水広場で武器やアイテムの最終確認をしていたら、青い髪の色をした青年ディアベルが現れた。

 

「今日は、1人も欠けることなく集まってくれてありがとう。 もう俺から言える言葉は1つしかない……。 勝とうぜ!!」

 

この言葉により全体の士気が上がった。

迷宮区からボス部屋まで移動する間、死者を出すことなく辿り着けた。

みんなボス部屋前で最終確認をしているので俺達も最終確認をする。

 

「俺達の武器は、現時点で最強の武器かもしれない。 俺は片手剣『アニールブレード+6』ユウキの片手剣も『アニールブレード+6』アスナは細剣の『ウインドフルーレ+4』、だけど武器の性能には頼るなよ。 ボス戦では自己判断能力が重要だからな。 忘れるなよ。 いいな?」

 

「「わかった!!」」

 

ボス部屋前から「行くぞ!」と言う号令がかかった。

 

「お前ら、絶対に死ぬなよ! いいな?!」

 

「「了解!!」」

 

「俺達もいくぞ!」

 

俺はボス部屋に入り周りを見た。 なんかボス部屋が広くなってないか、と思ってしまった。

これでは扉まで距離があり過ぎて背中を見せて逃走できない。

背中にボスのソードスキルを喰らってしまったら、スタン、或いはクリティカルヒットに成りかねない。

転移結晶は高価な物なので最初から持っているプレイヤーは少ないはず、そんなことを考えていたらもう隊が奥に走っていく姿が映った。

 

突入隊はこの様になっている。

最初に鉄板のようなヒ-ターシールドを持った戦槌使いの人が率いるA隊が突入。

次に左斜め後方からからB隊の斧戦士が突入。

右からディアベルが率いるC隊と、両手剣使いのD隊が突入。

その後ろにキバオウの遊撃隊E隊が突入。

E隊を追って長柄武器装備のF隊、G隊が突入する。

俺達は、その後を追う形で突入する。

A隊が奥まで進んだ途端に≪イルファング・ザ・コボルドロード≫が天井から姿を現した。 それに続くように、取り巻きの≪ルインコボルド・センチネル≫がPOPした。

 

「≪センチネル≫の数は3体だ。 打ち合わせどうり頼むぞ! 俺達の相手は≪センチネル≫だ。 ユウキ、アスナこっちだ!」

 

ユウキとアスナは頷き、俺の後を追って来た。

 

「3人で1体ずつ倒して行くぞ」

 

俺とユウキは片手剣スキルの《スラント》のモーションに入る。 俺とユウキが使った《スラント》は対象を斜めに斬りつけるスキルだ。 これにより、一体目の≪センチネル≫の体勢を崩させる。

 

「アスナ。今だ!」

 

アスナは≪センチネル≫の喉元を狙い的確な細剣ソードスキル《リニアー》を発動させる。 この技は武器を体の中心に構えて捻りを入れつつ素早い突きの一撃を繰り出すスキルだ。

1対目の≪センチネル≫の体力がガクッと下がり、残り6割となった。

 

「この調子で行くぞ。 ユウキ、アスナ!!」

 

「「了解!!」」

 

戦いは優勢に進でいる、まだ死者が出ていない。

≪イルファング・ザ・コボルドロード≫の体力はあと1本半、俺達も順調に≪センチネル≫を倒していくことが出来た。 ≪イルファング・ザ・コボルドロード≫のHPバーが後1本になった。

俺は何か嫌な予感がした。

≪イルファング・ザ・コボルドロード≫をもう一度よく見る。

俺の嫌な予感は的中してしまった。腰に携えていた剣がタルワールでは無く、《野太刀》だったのだ。

 

「よし、俺が前に出る!」

 

なぜ、ディアベルはこんな発言をしたんだ?

まさかディアベルもβテスターだったのか? ディアベルは俺を見て笑った気がした。

前に出たら危険だ。 あれは《刀専用ソードスキル》の重範囲攻撃、野太刀で水平360度の攻撃範囲を持つ《旋車》だ。

 

「ダッ、ダメだ。 下がれ!! 全力で後ろに跳ぶんだ!!」

 

ディアベルは動かない。 まさか、さっきの《旋車》でスタンしたのか?

攻撃をしていたプレイヤーはディアベルが倒れた事によって攻撃を停止してしまっている。

ディアベルが倒れた事で、パーティー全体に大きな影響を与えてしまっているのだ。

動ける者はディアベルを救うため援護に向かったが……。 間に合わなかった。

ディアベルは≪イルファング・ザ・コボルドロード≫が両手に握った。

床、すれすれの軌道から高く切り上げた《刀専用ソードスキル》《浮舟》に直撃してしまったのだ。

《浮舟》は相手を浮かせてから、スキルコンボになるスキルだ。

この技を所見で見切るのは不可能だ。

ディアベルは反撃できるようになったのか、ソードスキルを放とうとするがモーションがバラバラになってしまい、ソードスキルが発動しなかった。

そんなディアベルに正面から、下、上、に連撃、最後は溜めの一発の突き。《刀専用ソードスキル》《緋扇》をクリティカルに喰らってしまい大きく吹き飛ばされた。

HPバーはグリーンからイエロー、イエローからにレッドにと止まる気配がなかった。

 

「おい。 しっかりしろよ。おい!」

 

「キリト、さん。 ボスを、ボスを……。 たおして……、ください」

 

「ああ、任せろ!」

 

そう言うとディアベルのアバターは、俺の腕の中で消滅してしまった。

 

「おい。 ディアベルはん。 なんでリーダーのあんたが死んでるんや……」

 

ラストアタックボーナスを取ろうとした為だ。

こいつも、元βテスターだったんだと。しかし、俺にはこの様な事は言えない。

 

「ヘタっている場合か!」

 

「なんやと」

 

「まだ、ボスは生きているんだ。 ≪センチネル≫も絶対に湧いてくるぞ。 お前がしっかりしないとみんな死ぬぞ!」

 

「……あんたはどうするや。 逃げるんか?」

 

「それは決まっているさ。 ボスのLAを取りに行くんだよ」

 

ディアベル、お前の言葉は俺が守ってやるよ。

そう。ディアベルはボスを倒してくれと言ったんだ。逃げろじゃない。

 

「ボクも一緒に行くよ。 キリトのパートナーだからね!」

 

「私も一緒に行くわ。 パーティーを組んでいるから」

 

「……ああっ頼む。――手順は≪センチネル≫と同じだ。 行くぞ。 ユウキ、アスナ!!」

 

「「了解!!」」

 

あの技はなんだあの動きは、もしかしたら居合切り《辻風》か!!

 

「アスナ、攻撃が来るぞ。 避けろ!!」

 

その直後に居合切りの音がした、アスナはしっかり避けていた。

だがローブには掠ったらしくローブは破れ、ポリゴンになってしまった。

ローブの中からは、流星のような顔立ちの少女が現れた。

俺たち以外のプレイヤーはアスナを見て静かになってしまった。

俺は肩に力を入れ、片手剣ソードスキル《バーチカル・アーク》の2連撃を叩き込む。

ユウキも同じく、片手剣ソードスキル《バーチカル・アーク》の2連撃を叩き込む。

《バーチカル・アーク》は片手剣の2連撃技で、対象をV状に斬りつけて攻撃をするスキルだ。

アスナは一瞬の隙を突き、細剣ソードスキル《リニアー》を叩き込む。

 

「次来るぞ」

 

後ろからプレイヤーを呼びたいが後ろにいるプレイヤーは、ほぼHPが半分以下の者しかいない。

ユウキと俺とアスナで行ける所まで行くしかない。

俺は16回目の連携で一瞬反応に遅れてしまった。

 

「しまっ……」

 

反応が遅れた為、連携するはずのソードスキルがキャンセルされてしまった。

≪イルファング・ザ・コボルドロード≫からは《刀専用ソードスキル》《幻月》が襲いかかる。

これは上下にランダムでの攻撃だ。

今の攻撃でHPの3割が持って行かれた。

アスナは止まったが、ユウキは≪イルファング・ザ・コボルドロード≫に突っ込んで行ってしまった。

やばい、あのモーションはディアベルを殺した《緋扇》だ。

だが、それはユウキを襲う寸前で止まった。

 

「おおおッー!!」と太い雄叫びが、この部屋に轟いたのだ。

 

発生源は攻略会議で見たエギルだった。

両手斧系ソードスキル《ワールウインド》が《野太刀》と激突したのだ。

 

「回復するまで俺達が支える。 ダメージディーラーにいつまでも壁役やられちゃ立場がないからな」

 

「すまん頼む」

 

「命拾いしたよ。 キリト、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「キリト君、大丈夫?」

 

「ああ」

 

「次の連携で決めるぞ!!」

 

「「了解!」」

 

「いくぞ!」

 

「アスナは《リニアー》を、ユウキはもう一度《バーチカル・アーク》を頼む」

 

そして俺も、もう一度《バーチカル・アーク》だ。

 

「「「うおおおおッッッッッ!!」」」

 

≪イルファング・ザ・コボルドロード≫はバランスを崩し。そして、体に亀裂が入りポリゴンとなって消えた。

 

こうして、デスゲーム開始から一ヶ月でやっと第1層がクリアされた。

 




戦闘描写は難しい!!

ちゃんと書けているかな?不安ですね(汗)

ご意見、感想等、お待ちしています!!

今後ともよろしくお願いします。


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第6話≪ビーター誕生≫

お気に入りの数が増えてきてる!!

ありがとうございます!!

書き終わりましたのでどうぞ。

結構疲れました(汗)


ボスが消滅した後、後ろの≪センチネル≫共も、ポリゴンと変わり四散した。

本当に終わったんだよな……。

また何かの変更があって、モンスターがPOPするとかはごめんだぞ。

 

「キリト、お疲れさまー。 ねぇキリトそろそろ剣下ろしたら?」

 

「何言っているんだ?」

 

「自分の右腕を見てみなよ」

 

ユウキは苦笑していた。

ユウキに指摘された、右腕を見る。

これは確かに苦笑されるな。

なぜかと言うとボスを倒したフィニッシュの格好のまま停止していたのだ。

右腕の剣を付き上げる形の姿勢になっている。

そう考えているとユウキが近づいてきて、ゆっくりと俺の右腕に触れ、剣を下げてくれる。

 

「サンキューな。 ユウキ」

 

「キリトの事だから、今までその姿勢から動けなかったんでしょ?」

 

「まぁ。 うん」

 

「お疲れ様」

 

と横からアスナが労いの言葉をくれた。

2人と言葉を交わしたおかげでやっと第1層をクリア出来たんだ。と実感することが出来た。

やはり、第1層をクリア出来たことはプレイヤー達に希望を与えたんだなと思った。

フロアには両手を突き上げ喜んでいる者。男同士でも抱き合う者もいたのだ。

俺は床から、ゆっくりと立ち上がり周りを見た。

そうしてる内に大きな影がこっちにやってきた。

両手斧使いのエギルだ。

 

「見事な剣技だったな。 コングラチュレーション。 この勝利はあんたのもんだ」

 

「いっいや」

 

「なんでや! なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!」

 

「見殺し……?」

 

「だってそうやろ。 あんたは、ボスの使う技知っていたやんけ! ディアベルはんは、その前情報があったら死なずにすんだんや!」

 

そうしている内に残りのメンバーも声を上げていく。

1人が近づいてきて俺に指を突きつけた。

 

「こいつの事、知っているぞ……。 こいつは、元βテスターだ!」

 

(……この流れは、非常にまずいぞ。 どうする?と考えていたら1つだけ俺に出来ることがあった。 それは、元βテスターと情報を独占する元βテスターに分ければいい、と言う考えだ。後はそれが実行出来るかだ。)

 

後ろでずっと我慢していたアスナとエギルが口を開いた。

 

「あなたね……」

 

「おいっお前……」

 

だが俺は2人が話さないように手で制した。

 

「元βテスターだって。 俺をそんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな。 いいか、良く思い出せよ。 SAOのCBT(クローズドベータテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。 受かった千人の内、本物のMMOゲーマーは何人いたと思う。 ほとんどは、レべリングのやり方も知らない初心者(ニューピー)だったよ。 今のあんたらのほうがまだマシさ」

 

「でも、俺はあんな奴らとは違う。 俺はベータテスト中に、他の誰も到達できない層まで登った。 ボスの刀スキルを知っていたのは、ずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだ。 情報屋なんか問題にならないくらいにな」

 

「……なんだよ、それ……。――そんなのもう……、ベータテスターどころじゃねえじゃんか……。 もうチートだろう、チータだろうそんなの!」

 

「そうだそうだチーターだ。 ベータにチーターで《ビーター》だ」

 

「……《ビーター》いい呼び方だな。――そうだ俺は《ビーター》だ。 これからは元テスター如きと一緒にしないでくれ」

 

これで新規プレイヤーの敵意、怒りは《ビーター》に向くはずだ。

元βテスターがばれても、それほどまでには敵意は向かないだろう。

俺はパーティー、ギルドに入る手段を失った。

俺は一人で第2層に続く階段に向かおうと足を踏み出した瞬間、ユウキの言葉が浮かび上がってきた。これは噴水広場に向かっている途中でユウキから受け取った言葉だ。

 

『ねぇ、キリト。 ボクは何があってもキリトに付いて行くからね。 それだけ!!』

 

だから俺は聞くことにした。俺はユウキの場所まで歩を進める。

 

「俺はお前の言葉を思い出して此処に来た。 ユウキ、お前はどうする?」

 

ユウキが、俺と一緒に来てもデメリットしかない。

さすがのユウキも断るだろうなと思ったのだが。

 

「もちろん、ボクはキリトについて行くよ」

 

「お前にはデメリットしかないぞ。 何でだ?」

 

「だって、あの時ボク約束したじゃん。 何があってもキリトに付いて行くって!」

 

「……いいのか。 俺が今から歩く道は真っ暗だぞ」

 

「じゃあ、ボクがキリトの光になってあげるよ。 元気がボクの取り柄だしね!」

 

と優しく包むように微笑んでくれた。

 

「これからもよろしく頼むな」

 

「うん。 ボクに任せて」

 

「じゃあ、行こうか」

 

もちろんこの会話は、誰にも聞かれていない。

俺はLAボーナスの『コート・オブ・ミッドナイト』を装備する。

丈がずいぶん伸び膝下にまで達している。

ユウキも、同じような服『コート・イン・ブラックパープル』を装備する。

これはモンスタードロップした装備だ。

アスナとエギルは「じっー」とこちらを見ていた。

それは全部分かっていると目での訴えかけであった。

 

「第2層は“俺達”が有効化(アクティベート)しておいてやる。この上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、もし付いて来るなら。所見のモンスターに殺される覚悟をしとけよ」

 

とコートを翻して階段を上る。

 

 

 

フィールドにて

 

「ごめんな。 こんな事に付き合わせて」

 

「ボクは全然かまわないよ」

 

「そう言えば、さっきアスナと何話してたんだ?」

 

「信用出来るギルドからの勧誘は断るなって話してた」

 

「そうか……」

 

俺達が話していると階段を上る音が聞こてきた。

アスナだ。

 

「まっ間に合った。 キリト君、ユウキちゃん、エギルさんから伝言があるの「ボス戦のパーティーでは、俺達と一緒に組もうぜ」だって」

 

「これは私のお願いになっちゃけど、私との関係を切らないで欲しいんだ」

 

「わかった」

 

「うん。 了解したよ。 それじゃあ、ボク達とフレンド登録しよ」

 

俺達はアスナとフレンド登録をした。




ユウキちゃんの服の名前は適当です。

『コート・イン・ブラックパープル』

ただの黒と紫ですね(汗)


どうでしたでしょうか?

ご意見、ご感想、優しくお願いします!



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第7話≪月夜の黒猫団≫

今回はユウキの出番無いです。

ごめんなさい。

それでは、どうぞ。


第10層 迷宮区

 

此処の層は、主にゴブリン達が根城にしている迷宮区だ。

ここのモンスターは俺の全力のソードスキルで一掃できるし、もしダメージを喰らってしまっても戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルによる自動回復で長時間は潜って居られる場所だ。

そんな中、集団ゴブリンに追いかけられているパーティーを発見した。

あのパーテイーはソロプレイヤーの俺から見てもバランスが悪いパーティーであったのだ。

俺は一瞬、躊躇ったがそのパーティーを助太刀する事に決めた。

 

「ちょっと前、支えましょうか?」

 

「すいません、お願いします。やばそうだったらすぐ逃げていいですから」

 

「分かりました」

 

俺はこのパーティーの前衛に立ちゴブリンを葬る手伝いをしたのだ。

ソードスキルは上位の物は使わず下位の物しか使わなかった。

トッププレイヤーとばれない様にする為だ。

ゴブリン達は問題無く葬る事ができた。

これは出口まで送った方が良いかもしれない。

また襲われたら今度こそ危ないからな。

 

「出口まで送りましょうか?」

 

「心配してくれて、どうもありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて。出口まで護衛、頼んでもいいですか?」

 

「はい。分かりました」

 

それが《月夜の黒猫団》のギルドリーダー、ケイタの第一声だった。

 

 

 

第11層「タフト」NPCレストラン

 

「ありがとう……。 本当にありがとう。 凄い、怖かったから……。 助けに来てくれた時、ほんと嬉しかった。本当にありがとう」

 

俺はこの言葉が聞けただけで、あの時に助けて良かったと思った。

この言葉を言ってくれたプレイヤーはサチと言うプレイヤーだった。

 

「本当に助かりました。ありがとうございます。あのっ…お名前を伺っても…?」

 

「コンビを組んでいるキリトだ。 よろしくな」

 

「誰とコンビを組んでいるのですか? あと失礼を承知で聞きますが。 キリトさんのレベルはお幾つで?」

 

「ケイタ、敬語は無しにしよう。 コンビを組んで居る相棒の名前は言えない。 すまん。 後、コンビ狩りの時も基本1対を2人で狩るスタイルだ効率は良くないよ。後レベルも言えない」

 

コンビ狩りの事は嘘だ。

もしトッププレイヤーと分かってしまったら怖がられてしまう。

 

「じゃあ、キリト。 急にこんな事言うのは変だけど君達、僕達のギルドに入らないかい?」

 

「……ちょっと、待ってくれ、相棒にメッセージ送るから」

 

「分かった」

 

数分後、ユウキからメッセージが返ってきた。

内容はこうだ。『ギルドには、入らないけど手伝い、協力ならしていいよ。

後細かいことはキリトが決めていいよ』と。 多分、気を遣ってのことだろう。

俺が《ビーター》とばれない様に、本当にあいつはこういう場面で的確な指示ができるな。

お前とコンビを組めていて俺は本当に良かったよ。

 

「ギルドには入れないけど協力、手伝いなら出来るんだが、どうする?」

 

「分かった。 それでお願い出来るかな?」

 

「了解した。 じゃあ何か有ったら、メッセージ飛ばしてくれ。 これが俺の連絡先な。 じゃあ、俺は帰るな?」

 

「今日はありがとう。 じゃあまた」

 

「またな」

 

 

 

第50層「アルゲード」主街区

 

俺はユウキに、今日有った事を包み隠さず話した。

 

「今日は《月夜の黒猫団》と言うギルドをさっき伝えた経緯で助けたんだ。 協力、手伝い頼んでもいいかな?」

 

「うん。 了解したよ」

 

「じゃあ、よろしくな」

 

 

 

第11層「タフト」NPCレストラン

 

俺はケイタの呼び出しによって第11層に来ていた。

 

「キリト、待たせて悪いな」

 

「いや、全然待ってないから大丈夫だったよ」

 

「そうか。よかった」

 

「で、今日はどうしたんだ?」

 

「僕達は攻略組の仲間入りをしたいんだ」

 

「なんでだ?」

 

「あの迷宮区を1人で狩りが出来るからさ。なんか知っていると思って」

 

まさか、こんな言葉を聞かれるとは。

 

「うーん。 情報量の差じゃないかな。 あいつらは効率のいい狩り場や、どうやれば強い武器が手に入るとかの情報を独占しているからな」

 

それには、俺も入っているが。

 

「そりゃ、そう言うのもあるだろうけどさ。 僕は意志力だと思うんだよ。仲間を守り、そして全プレイヤーを助け出すって言う意志の力だと思うんだ。 そう言う力が有るからこそ、攻略組ギルドは危険なボスに挑戦し勝って来ていると思うんだ。 僕らはまだ守ってもらう側だけど。 いつかきっと、彼らに追い付けると信じているんだ」

 

まさかSAOでこんな考えを持っているプレイヤーが居るとは、俺は思ってもみなかった。

 

「そうか……。 そうだよな」

 

俺にはこの様に答える事しか出来ないんだ。 すまん。

 

「サチを槍から片手剣の前衛にコンバートしようと思うんだが。 キリトはどう思うかな?」

 

それは無理な注文だ。俺がサチを見た時にはモンスターと戦っているのに目を瞑りながら攻撃をしているからだ。 出来れば生産職に転向するべきだ。

 

「それは無理なんじゃないかな。 俺が助けに入った時サチは目を瞑りながら攻撃をしていたんだ。 前衛に転向させるのは自殺行為だよ。 出来れば生産職に転向させるのが一番いいと思うが」

 

「そうか、なら前衛が出来る人を探さないとな。 キリトが入ってくれれば、何の問題も無いんだけど」

 

「すまん。 それは出来ないんだ」

 

「分かった。 今日はこの事の相談だったんだ。 時間を空けてくれてありがとう」

 

「また、何かあったら呼んでくれ」

 

「うん。 また頼らせてもらうよ、今日はありがとう。またね」

 

「おう。 じゃあまたな」

 

この日の夜にケイタからメッセージが飛んできた。

サチが居ないと、俺は第11層の水路の中でサチを見つけた。

多分隠蔽スキルの能力が付いたマントを使っていたのだろう。

 

「サチ。 みんな探していたよ」

 

「キリトなんで此処が分かったの?」

 

索敵スキルをコンプリートしているとは口が裂けても言えない。

だから俺は言葉を濁した。

 

「勘かな」

 

「……そっか」

 

やっぱりこの世界に捉えられ、モンスターと戦う日々は怖いのだろうな。

 

「みんな心配しているよ、みんなの所に戻らないと」

 

「ねぇ、キリト。 一緒にどっか逃げよ」

 

なにっ!!

 

「……それは心中しようと言う事かな」

 

「それも良いかもね」

 

すまん…。 それは俺には出来ないんだ。 俺には帰る場所が有るのだから…。

 

「私、死ぬのが怖い。 怖くて、最近よく眠れないの……。 ねぇ、何でこんなことになっちゃたの、なんでこのゲームの中から出られないの? 本当に死ななきゃいけないの? あの茅場って人の言っている事は本当なの?……こんな事に何の意味が有るの?」

 

それを俺に聞かれても答える事は出来ないんだ。 だから俺が思っている事を言おう。

 

「たぶん、意味なんてない。 誰も得はしないんだ。 この世界が出来た時にはもう、大事な事はみんな終わっちゃったんだ…」

 

「そう……」

 

「みんなの所に戻ろうか?」

 

「分かった」

 

俺はケイタにサチの居る場所を伝え、迎えに来る様にとメッセージを飛ばした。




こんな感じです?どうでしたでしょうか?

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!

次回もお楽しみに!!


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第8話≪月夜の黒猫団の全滅≫

どもっ舞翼です!! 

今回は書くの難しかったな~

上手く書けているかわかりません(汗)

誤字脱字が必ずあると思います(泣)

あと、お気に入りにいれてくれた方々ありがとうです。

それでは、どうぞ。


第11層「タフト」NPCレストラン

 

今日、俺はケイタから連絡が有り、第11層のNPCレストランに来ていた。

今日は何の用が有って俺を呼びだしたんだ?

もしかして、俺の事を疑って真意を聞く為に呼び出したのか。

やばい、もし俺が《ビーター》だとばれたら、ギルドメンバーから糾弾されるんじゃないか?

そんな事は、まっぴらごめんだぞ。とその時、ドアから見知った顔が現れた。

ケイタ以外のギルドメンバーだ。

なんでだ、聞いてみよう。

 

「俺は、ケイタから呼び出されたんだが?」

 

「ちょっと、キリトに手伝って欲しい事が有るからケイタに頼んでキリトを此処に呼び出してもらったんだ」

 

「何を手伝って欲しいのかな?」

 

「ケイタが帰って来るまでに迷宮区でちょっとお金を稼いで、新しい家用の家具を全部揃えて、あいつを驚かせようと思ってな、どうかな。協力してくれないかな?」

 

「ああ、そう言う事なら構わないけど」

 

「そうか助かるよ!!」

 

「で、どこの迷宮区で金を稼ぐんだ?」

 

「第27層の迷宮区かな。あそこは金を稼ぐには打ってつけの場所だと聞いたことがあるからな」

 

第27層の迷宮区は以前ユウキとマッピングした場所だ。

ここのダンジョンはトラップが多発地帯になっている。

攻略組でも死者が出た場所だ。

俺はこの事を言おうとしたが、こんなに楽しそうな雰囲気を壊したくなかった。

だから俺は言ってしまったのだ。

 

「分かったよ」

 

「そうか、それは良かった。前衛が居なくてどうしようと思っていた所なんだ」

 

「そうだったのか、協力するよ」

 

 

第27層 迷宮区

 

迷宮区では、ある程度のレベルが有ったのか順調に狩りが出来ていた。

2時間程で目標金額が溜まったので俺達は帰ろうとしたのだが、メンバーの1人が大きな宝箱を見つけたのだ。

俺は嫌な予感がしたので、その宝箱を放置して帰ろうと言ったのだが。そいつは宝箱を空けてしまったのだ。

次の瞬間、俺達が居た場所が密閉空間になってしまったのだ。

これはアラームトラップだ。

俺の嫌な予感は当たってしまったのだ。

次々に周りの扉が開きモンスターが襲いかかって来た。

そのモンスターは今の最前線と同じ強さを持つモンスターばかりだった。

こうなったら転移結晶を使い離脱させるしかない。

俺は迷宮区に入る前に転移結晶は絶対に持っていろと口を酸っぱくして言っていたので、みんな結晶を持っているはずだ。

だからトラップに引っかかっても大丈夫だと思ってしまっていた。

早くみんなを離脱させよう。

俺は、転移結晶を使えと叫んだ。

 

「全員。 転移結晶を使って、元いた町に戻るんだ!!」

 

「結晶が使えないよ。 キリト」

 

サチはこの様な言葉を俺に発した。

なんだって、じゃあここはクリスタル無効空間か?

このままだったら全滅してしまう。

俺のレベル、スキルならこの程度は問題ないが、このギルドメンバーにはきつ過ぎる状況だ。

これは本格的にやばい。 俺はパニックに陥ってしまった。

こうしている間にもモンスターは続々と出て来て止まる気配が無い。

遂に最初のメンバーのシーフがポリゴンとなり四散してしまったのだ。

これが意味する事は死。 次にメイス使いのテツオが死に槍使いが死んでいったのだ。俺は完全に恐慌し、メンバー達に隠していた片手剣の上位ソードスキルを滅茶苦茶に繰り出した。

これによってモンスターは一撃で倒せていたが数が多すぎた。

鳴り響く宝箱のアラームを止めることが出来なかったのだ。

最後に残ったサチはモンスターに囲まれる形で攻撃を受けていた。

サチを助けようとしたが間に合わなかった。

そしてサチは死んでしまった。

俺はどうやって此処を脱出したか覚えていない。

俺は何も考える事が出来ず1人で宿に戻ったのだ。

俺が《月夜の黒猫団》を壊滅に陥れた事は疑いようのない真実だ。

ケイタ以外のギルドメンバーを殺した事には何の変わりはない。

俺は今日起きた事をケイタに包み隠さず真実だけを述べた。

ケイタからの言葉は俺の心を抉るには充分な言葉だったのだ。

「……《ビーター》のお前が僕達に関わる資格なんて無かったんだ」

彼はその足でアイングラッド外周部にまで歩を進め、何の躊躇いもなく飛び降りた。

ケイタは自殺したのだ。

俺は絶望のどん底まで落ちた。

そして俺は、一生癒えない心の傷を負ったのだった。

 

 

Side ユウキ

 

今日は、キリト《月夜の黒猫団》と言うギルドの手伝いに行っている。

ボクは君が居ないと寂しいんだよ。

キリト早く帰って来てよ。

ボクにとっての君は心の支えなんだよ。

デスゲームが始まった時にボクに声をかけ、此処まで連れて来てくれた人は君なんだよ。

あの誘いが無かったらボクは《はじまりの街》から出られないプレイヤーになっていたかもしれないんだよ。

キリトはどう思っているかは分からないけど、今のボクが居るのは君のおかげなんだよ。

ボクはキリトの姿を主街区で見つけた。

それは生きる気力が無く、今にも死んでしまいそうな姿であった。

多分、何かの事件、あるいは何かに巻き込まれてしまったのだろう。

ボクはキリトのあんな姿を見ていられなかった為、声をかけたのだ。

 

Side out

 

 

俺は第50層の「アルゲード」主街区に戻った。

今日の出来事は俺が死ぬまで一生忘れられない事になるだろう…。

俺はもう生きている事が怖くなってきてしまったのだ…もう何も考えたくない。

このような事を考えていたらユウキがこちらにやってきた。

 

「キリト、お帰りなさい!!――何かあったの?」

 

「…………」

 

「ねぇ」

 

「黙れ!!……すまん、大きな声を出して……」

 

「ボクは大丈夫だよ。 何があったかのか、ボクに教えてくれないかな」

 

「…………」

 

「分かった。 キリトが話してくれるまでボクは待っているね」

 

「ああ、頼む」

 

「じゃあ、今日は1人で居ないでボクの部屋においでよ?」

 

「いいのか?」

 

「ボクは全然構わないよ。 1人で居るより今は誰かと一緒に居たいでしょ?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、ボクの家に行こうか?」

 

「……今日はお邪魔するな」

 

「うん。 ゆっくりして行ってね」

 

「ありがとうな」

 

「じゃあ、行こっか」

 

「ああ」

 

この日は一生忘れられない出来事になったのだ。




小説書くのは難しいですね~

上手く書けているかが不安です(汗)

ご意見、感想、お待ちしております!!

優しくお願いしますね(汗)



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第9話≪クリスマスイベント≫

まさか初投稿1週間以内にお気に入り100件超えるとは…驚きです…

これで雲隠れ、更新停止出来なくなってしまった…

まぁ、細かいことは置いといて『サブタイトル』変えました。

それでは、どうぞ。


第46層 

 

闇の中に輝くソードスキル《ヴォーパルストライク》の閃光が、大型の昆虫モンスター3 体に直撃し昆虫モンスターのHPを0にし、ポリゴンを四散させた。

片手剣の熟練度950に達するとリストに追加されるソードスキルだ。

この単発重攻撃は技後の硬直はやや長いが、両手剣や重槍のスキル並の威力があり、リーチも刀身の2倍もある使い勝手のいい技だ。

ただし技後の隙が多いので、対人戦闘では見破られる可能性も高い。

この様な連戦でも使い続けていたらモンスターにも読まれてしまう可能性は大いに有った。

俺は6時間ぶっ通しで、モンスターを狩り続けていた。

俺がこうして昆虫モンスターの巣に籠ってレベルを上げているのには“理由”がある。

それを実行に移す為には無茶をしてもレベルを上げる事が必須だ。

ここでは経験値が効率良く積める狩り場なのだ。

 

「これ、飲めよ」

 

俺に渡された物は、レモンジュースの味に似たハイポーションだ。

 

「悪いな」

 

今、俺に声を掛けているのは、ギルド《風林火山》のリーダー、クラインだ。

 

「キリトよ、お前何時間、此処に潜ってる?」

 

「ああ。 6時間くらいかな」

 

「お前、無茶しすぎだ!」

 

「わかっているさ……」

 

これ位しないと俺の目的は達成出来ないんだ。

 

「ユウキちゃんはどうした?」

 

「ああ、ユウキは宿で寝ているよ」

 

俺はユウキをこの件に巻き込みたくは無い。これは俺の罪だから。

 

「じゃあ、お前ユウキちゃんが寝てから。今まで此処でレベルを上げていたのか?」

 

「ああ」

 

「それは、ユウキちゃんに心配をかけさせたくないからか?」

 

「ああ、あいつは気付いているかも知れないがな……」

 

あいつの勘の鋭さは1級品だからな。

 

「お前、此処の狩り場では気力を切らすと、どうなるか分かってるのか?」

 

「分かっているさ」

 

「お前が此処のSAOでは誰よりも強い事は知っているが無茶しすぎだ。ユウキちゃんを心配させるなよ」

 

「あいつも分かってくれているさ」

 

「お前達は第1層からの付き合いなんだ。相談したのか?」

 

そんな事出来る訳がない。

 

「相談はしていないな……。 あいつには心配を掛けたくないからな。 もしかしたら俺の雰囲気で気付いているかもしれないがな」

 

「お前。 レベル今いくつだ」

 

「今上がって69だ」

 

「俺よりも10以上上か、 ゲームクリアの為のレベル上げじゃないんだよな?」

 

「そうだな」

 

「なんで、ボロボロになりながらも、そこまでするんだ…? 正気の沙汰じゃないぞ。 もしかして“あのアイテム”の事が関わっているのか…?」

 

「……クラインも“その”情報を掴んでいたのか」

 

「じゃあ、お前クリスマスイベントの“蘇生アイテム”の取得の為に?」

 

「そうだ。 だから、あいつには相談出来ない。 絶対に!!」

 

あいつには絶対、口が裂けても言えない相談だ。

 

「24日まで後、4日だからな。 それまでのレベル上げさ」

 

「気持ちは、分かるぜ。 まさに夢のアイテムだからな。 《ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻せる神器が入っている》。 もしかしたら、ガセネタかもしれないぞ?」

 

「俺はそれでも、この情報に賭けているさ。 藁に縋る気持ちでな」

 

この情報は、なんの根拠も無いただの噂話に近いさ。

 

「この世界で死んだらどうなるか分かっていないんだぞ?」

 

「ああ、分かっているさ」

 

「お前、あの時のギルドの事を気にしているのか?」

 

「忘れられるわけがないさ……。 俺が協力したギルドが全滅したのだから」

 

「《月夜の黒猫団》だったな、そのギルド。 それはギルドメンバーがトラップのアラームに引っかかったからだろう。 お前のせいでは」

 

「黙れ!!――俺があの時に正直になればこんなことは起こらなかったのさ。 俺が何時も平静を保てているのは、ユウキが傍に居てくれるからさ。 ユウキが俺の支えなんだよ」

 

「……そうか」

 

このような会話をした後、クラインはこの場を去っていった。

俺はそのまま狩りを続ける為、モンスターの巣に舞い戻った。

 

 

Side ユウキ

 

今日もキリト、ボクが寝てから部屋を出て行ったんだ。

ボクは薄々気付いているんだよ。

キリトが何か大きな物を背負っていることに。

もしかしてクラインから聞き出した“あの事”が関係しているの?

何でボクに相談してくれないの?

ボクはキリトの力になってあげたいよ。

でもキリトが話してくれるまではボクは待っているよ。

それにボクのすべてをかけて君を支えるって決めているからね。

ボクはキリトの相棒だしね。

君の帰りを今日も待っているよ。

おやすみ、キリト……。

 

Side out

 

 

Side キリト

 

ユウキは寝てるか。

こいつは今の俺の状況に気付いているのか?

こいつは俺より勘がいいからな。 でも相談は出来ないんだ……。

ごめんな。 俺はお前の笑顔に毎日支えられているんだよ。

何時も俺の為にありがとうな。

 

Side out

 

 

こうして夜が更けていく。




こんな感じでどうですか?

誤字脱字がないか不安です…

感想、ご意見、お願いします!!

次回もお楽しみに!!


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第10話≪クリスマスボス≫

どもっ舞翼です!!

時系列間違えてこんな事になってしまいました。

すいません。

取り合えず書き上げたのでどうぞ。


クリマスマスまでに残された4日間で俺は更にレベルをひとつ上げ70台に乗せた。

その間は、俺は1、2時間しか睡眠を取らなかった。

その為なのか。時折、釘を打たれるような頭痛がするのだ。 残された時間は後3時間だ。俺は急いで第35層の街に移動した。 俺は足早にフィールドに出た。

雑魚モンスターの相手をしている暇も精神的な余裕はなかった。

背後を確かめ。 尾行者が居ないか確認してから、全速力でクリスマスボスの《背教者ニコラス》が出現する場所まで向かった。

《背教者ニコラス》が出現する場所は、第35層の「迷いの森」にある巨木のモミの木の下だ。

10分もしない内に第35層「迷いの森」に到着した。

此処のダンジョン、フィールドは地図を所持していないと踏破できない場所だ。

俺は地図にマーカーをつけた場所にある区間に向かった。

もう下調べは済んでいたからだ。

俺はマーキングした場所に走り出した。

俺は避けられる戦闘を極力さけ目標の場所へ到着した。

ボスが出現するポイントまで此処から5分で到着出来る。

ボスが出現するまで残り30分、ギリギリ間に合ったのだ。

だが背後のワープポイントからプレイヤーが現れた。

現れたのはギルド《風林火山》のメンバーであった。

 

「……尾けてきたのか」

 

「まぁな、追跡スキルの達人がいるんでな」

 

「なぜ、俺を尾けてきたんだ」

 

「お前ェが、全部のツリー座標の情報を買ったっつう情報を買った。 そして、念の為、第49層の転移門に貼り付けといた奴が お前がどこの情報にも出ていないフロアに向かったっつうじゃねえか。 オレはこういっちゃ何だけどよ。 お前ェの戦闘能力は群を抜いてる。ゲーム勘もそうだし、攻略組の中でも最強……、あのヒースクリフ以上だと思っている。 だから、だからこそなぁ、お前をこんな所で死なすわけにはいかねぇんだよ。キリト! だから、今のお前を止められるかもしれない人物を連れてきた」

 

次の瞬間、俺は目を見開いてしまった。

 

「なんで“お前”が此処に居るんだ……。 ユウキ」

 

「それは、ボクがクラインにお願いしたからだよ……。 ボクは此処の地図持ってないしね……。 キリトは1人でボスと戦う気なの?」

 

「ああ……。 これは俺が1人でやらないといけない事なんだ…」

 

「そっか、分かった。 キリトはボスの出現ポイントまで行って、此処はボクが死守するよ。 ボクの命をかけてね。 だから行って」

 

「……すまない」

 

俺はユウキの言葉を聞きボスが出現するモミの木まで走った。ユウキ、ありがとう。

 

 

Side ユウキ

 

「ちょっ、ユウキちゃん話が違うじゃないか。 キリトを止める為に付いて行くって」

 

「ごめんね、クライン。 ボクは何があってもキリトの味方なんだ」

 

「それは、此処絶対に通さないということなのか? 俺のギルドと戦う事になっても」

 

「……うん。 戦いたくは無いけどね」

 

「なんでそこまで出来るんだ……?」

 

「なんでだろうね。 ボクにも分からないんだ」

 

「ユウキちゃん。 なら何で腰から剣を抜いているんだ?!」

 

「クラインが尾けられていたからだよ」

 

それは、後ろのワープポイントからギルドの部隊が現れたからだ。

 

「聖竜連合か……。 ボスのドロップアイテムを取るためか」

 

「たぶんそうだね。 ざっと見ても30人はいるよ」

 

「戦う気か?」

 

「あっちがその気ならね」

 

「分かったよ、俺達も協力する。 此処は絶対に通さなければいいんだろ?」

 

「じゃあ、お願いするね」

 

「はぁ、じゃあやりますか」

 

Side out

 

 

Side キリト

 

俺はHPをレッドまで落としたが《背教者ニコラス》をポリゴンに四散させる事に成功した。

俺はこのボスを倒した瞬間にアイテムストレージを開きドロップ品を確認した。

そこには確かに蘇生アイテムがあった《還魂の聖晶石》と俺はすぐにこのアイテムを実体化さた。

【このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して<蘇生プレイヤー名>を発声する事で、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ10秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させる事ができます】たったの10秒間だけか……。 およそ10秒、それがプレイヤーのHPが0になり、仮想体(アバター)が四散してから、ナーブギアがマイクロウェーブを発して生身のプレイヤーの脳を破壊するまで時間だ。 俺は完全な絶望へと落とされた。

 

「うああ……、あああああ……」

 

俺はウインドウに浮く《還魂の聖晶石》を投げ、雪の上に叩きつけた。

そして俺は何も出来ないまま、雪に埋まった《還魂の聖晶石》を持ち、元のエリアに戻ったのだった。

 

Side out

 

 

Side ユウキ

 

「……キリト」

 

「……」

 

「……駄目だったの?」

 

「ああ、クライン達はどうしたんだ?」

 

「あそこに居るよ」

 

「これが蘇生アイテムだ。 過去死んだ奴には使えなかった。 次のお前の目の前で死んだ奴に使ってくれ」

 

俺は、クラインに蘇生アイテム《還魂の聖晶石》を手渡した。

 

「キリト……、キリトよぉ。 お前ェは、生きろよ……。 お前ェは、最後まで生きてくれよぉ」

 

「じゃあな」

 

「ユウキちゃん。 キリトの事、お願いしてもいいか?」

 

「うん。 ボクはキリトを支えになるって決めているから。 ここはボクに任せてくれないかな?」

 

「じゃあ、あいつの事……、あいつの事……頼むよ」

 

「うん。 任せて」

 

「ありがとな……。 ユウキちゃん」

 

「じゃあ、またね」

 

Side out

 

 

第50層 「アルゲード」主街区

 

「キリト、ボクは君が立ち直るまで君の傍に居続けるからね。 これは決定事項だからね」

 

「ああ」

 

「ボクは君の支えになれるように頑張るよ」

 

「……ありがとう。 ユウキ」

 

こうして俺達の1日は過ぎて行った。

 

 




こんな感じです。

やっぱり誤字脱字があるか心配です。

感想、意見お願いします!!


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第11話≪竜使いの少女との出会い≫

ご感想、ご意見、参考になりました!!

これからも『黒の剣士と紫の少女』をよろしくお願いします!!

今回も疲れました。


それでは、どうぞ。


アイングラッド 第35層 「迷いの森」

 

俺は溜息を吐いていた。 何故かと言うと、ユウキが迷子になっているからだ。

俺しか地図を持っていないのに何処に行きやがった、あいつ。

俺達は攻略組のトッププレイヤーだ。 だから此処に生息して居るモンスターに襲われても1撃で倒せるから問題は無いんだが。 やっぱり心配だ。

あいつのこと探さないと。また俺から溜息が出る。

声が聞こえる。「お願いだよ……。 あたしを独りにしないでよ……。 ピナ」

俺は、索敵スキルを使用し辺りを確認した。

1人のプレイヤーがモンスター3対に襲われ様としている。

俺はそのプレイヤーを助けるため走り出した。

 

 

 

Side シリカ

 

もし私が地図を持っていたら、無事に森を抜けられたのかも知れない。

だけど地図で道を確認をしていたのは、私が居た元パーティーメンバーの1人だった人だ。

 

「なんでこうなったの」と呟いてしまう。

 

それは些細な口論だった。 「帰還後のアイテム分配のことなんだけれど。そこのあんたは、そのトカゲが回復してくれるから分配時には回復結晶はいらないでしょ?」

 

「そうゆう貴方こそ、前衛に出ないで後ろからしか攻撃しないんですからクリスタルなんて必要ないじゃないですか! 私、アイテムなんて要りません。もうあなた達とはパーティーを組まない、私を誘ってくれるパーティーは山ほどあるんですから」

 

私は、地図の無いまま1人で行動をした。 私は「迷いの森」を1人で、出られると思ってしまったから。

そして、私は今の状況に陥ってしまった。

今の私の状況は≪ドランクエイプ≫3対と交戦中。

「迷いの森で」は最強クラスの猿人だ。

ずっと前に遭遇した時は、パーティーメンバーが居て簡単に倒せたが、今の私はソロだ。その為≪ドランクエイプ≫の特殊能力が判るはずが無かったのだ。

その特殊能力とは≪ドランクエイプ≫が壺の中の液体を飲むとHPが回復することだ。1対目を倒そうと思っていても、後ろで攻撃してくる≪ドランクエイプ≫がスイッチして来て、ダメージを喰らった≪ドランクエイプ≫が回復する時間を稼いでいる事だ。

でも私は、1人で戦ってるわけじゃない。 相棒のピナと一緒に戦っているのだ。 勝機は有るはずだ。

私は短剣ソードスキル《ラピッドバイト》を叩き込みHPを6割程度削る。 時間を掛けていると回復されてしまう為、直ぐに2度目のソードスキルに移る。

短剣ソードスキルの《ファッドエッジ》を追加で叩き込む。

私は≪ドランクエイプ≫のHPを確認した。 まだ1割残っている。

直ぐに回復させまいと3度目のソードスキルを放とうしたが、後ろで待機している≪ドランクエイプ≫にスイッチされてしまった。

ダメージを受けた≪ドランクエイプ≫は壺の中の液体を飲み体力を全回復している。

このままじゃ、じり貧だ。 遂に木を背にする形で追い詰められてしまった。

HPはもうレッドに突入している。

相棒のピナが回復してくれているが、それは微々たる物。

そして≪ドランクエイプ≫から強烈な1撃が襲う。

だが、その攻撃は私に届く事は無かった。ピナが私を守る為に≪ドランクエイプ≫に突進したからだ。

≪ドランクエイプ≫の1撃を受けてしまいピナのHPがどんどん減っていき最後にはHPが0になり、ポリゴンとなってしまった。

私は怒りに支配されHPがレッドになっていても1体の≪ドランクエイプ≫に突進を開始した。

そのモンスターはさっきピナのHPを0にした≪ドランクエイプ≫だ。 短剣『ソードスキル』≪ラピッドバイト≫を発動したが運が悪かったのか、避けられてしまったのだ。

そしてその≪ドランクエイプ≫からの1撃が迫る。私は『死』を覚悟した…。 だが次の瞬間、背後から斜め斬りで一線する光が通ったのだ。

この光はソードスキルだ。私はこの攻撃を放った人を見た。

黒い髪、黒いコート、インナー、手袋、ズボン、武器に至るまで“黒”なのだ。

その人は、剣を左右に振り背中の鞘に剣を収めた。

 

Side out

 

 

Side キリト

 

俺が、声の発生源で見た物は女の子が≪ドランクエイプ≫3対に1撃喰らいそうな場面だった。

俺は直ぐに剣を抜き≪ドランクエイプ≫を倒す為に走り出した。

俺は≪ドランクエイプ≫にソードスキルが当たる位置まで移動し、片手剣ソードスキル《スラント》の斜め斬りで一線の1撃で3対の≪ドランクエイプ≫をポリゴンへと四散させた。

だが俺は使い魔を助けて上げる事が出来なかった

そう言えばこんな情報が有ったな。

それを言う為、俺は改めて声を掛けた。

 

「その羽根だけどな。 アイテム名、設定させているか?」 

 

情報では、第47層の『思い出の丘』に使い魔を蘇生させる花があったな。

 

「最近、わかった事なんだが、使い魔を蘇生出来るかも知れない。 死んでから3日以内に47層に有る『プネウマの花』の粉を羽に振りかければ蘇生できるかも知れない。47層は此処よりも少し君には難易度が高いと思うんだが」

 

Side out

 

 

Side シリカ

 

私は希望も持った。“黒”の少年からピナを蘇生させる事が出来ると聞いたからだ。

少年はこう言った。

 

「最近、わかった事なんだが、使い魔を蘇生出来るかも知れない。死んでから3日以内に47層に有る『プネウマの花』の粉を羽に振りかければ蘇生できるかも知れない。 47層は此処よりも少し君には難易度が高いと思うんだが」

 

でも私はそのアイテム取得は叶わない。 此処のフロアから12層も上なのだから。

私はまた、泣き出してしまったのだ。

 

Side out

 

 

Side ユウキ

 

ヤバい、キリトとはぐれちゃった。 絶対お説教される。

「此処の森では一緒に居ないと駄目だって言ったじゃないか」

これは絶対言われるな。 ボクの口から溜息が洩れる。

ここで考えても仕方ないか、キリトを探さないと。 そこに≪ドランクエイプ≫が4対ほど現れる。

ボクは、片手剣ソードスキル《スラント》の斜め斬りの1撃で≪ドランクエイプ≫をポリゴンを四散させ、剣を腰に付いている鞘に納める。

早くキリト探さないとお説教の時間が延びちゃうよー。

ボクは『キリトー。 どこに居るのー』と声を上げた。

少し歩いていたら、ボクはキリトを発見した。

んっ…、キリトと一緒にいる女の子は誰だろうか?

取りあえず合流しないと。

 

side out

 

 

『キリトー。 どこに居るのー』

 

この声は、ユウキか?

ちょうどいいかもな、今の状況はちょと俺にはキツイからな。

 

「おーい。 こっちだー」

 

「キリト発見ー!!」

 

相変わらず元気いっぱいだな。

 

「で、これってどういう状況なの?」

 

ユウキさん。 怒ってます? 怒ってますよね、怖いです。 目が据わってますよ。

ヤバい。 もしかして、この状況を作りだしたのが俺だと思ってる。

早く誤解を解かないと。

 

「えーと、ユウキさん。 これはですね……」

 

「わかった。 協力するよ!」

 

「えっ、まだ何にも言っていないのに?!」

 

「47層の思い出の丘に行くんでしょ?」

 

「なんでわかった!?」

 

「フッフッフッ。 それは、ボクの愛の力だよ」

 

とユウキは胸を張って言った。

 

「…………」

 

「ごめん、今のボクの冗談だよ。 さっきの会話が聞こえたんだ」

 

「そっそうだったのか。 じゃあこの協力に免じて説教の時間を短縮して上げよう」

 

「やっぱりボクにお説教するんだ!」

 

「この森で1人で行動しようとして、逸れたお前が悪いんだぞ」

 

「はーい」

 

「えっと、これはどういう事でしょうか?」

 

と竜使いの少女が尋ねた。

 

「黒い人とボクが一緒に花を取りに行って上げようって話だよ」

 

「黒い人とは失敬な」

 

「キリト真っ黒じゃん」

 

「そうだけどさ……」

 

「それに、ボク達の“依頼”もそこにあるよ。 きっと」

 

依頼とは、俺達が最前線の転移門前で受けてきたものだ。

 

「そうだな」

 

「ボクの名前はユウキ。 短い時間かもしれないけれどよろしくね!」

 

「俺の名前はキリト。 よろしくな」

 

「私の名前はシリカです。 よろしくお願いします」

 

「自己紹介も終わったところで街に戻ろうか。 で、キリトはドロップ品をシリカちゃんに上げといてね。 多分5、6レベルは底上げ出来ると思うからさ」

 

「了解。 じゃあ、後でシリカにプレゼント上げるから受け取ってくれよ」

 

「何から何までありがとうございます。これ少ないと思いますが」

 

「いいよ。 お金は俺達の目的も被ってるかもだしな」

 

「じゃあ、街まで出発進行ー!!」

 

こうして俺達は街に戻るのであった。




こんな感じです?

どうでしたでしょうか?

ご意見、ご感想、お願いします!!



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第12話≪思い出の丘≫

お気に入りに入れてくた方ありがとうございます!!

やっぱりユウキちゃん。可愛いですね(笑)

あと『タイトル』変更しました。

『ソードアート・オンライン 黒の剣士と紫の少女』
           ↓
『ソードアート・オンライン 黒の剣士と絶剣』

それでは、どうぞ。


第35層「ミーシェ」主街区

 

Side シリカ

 

私は、第35層の「ミーシェ」の主街区に来ていた。

それは私のお気に入りのチーズケーキをキリトさんと、ユウキさんに奢る為だ。

だけど、私がフリーになったと言う情報が流れていた為、パーティーに勧誘してくるプレイヤーが沢山いたのだ。だけど今はピナを蘇生させる事が先決だ。

それにキリトさんとユウキさん共、一時的ではあるがパーティーを組んでいるのだ。

なので、私は勧誘してきたパーティーメンバーに受け答えが嫌みにならないように断る。

 

「あの…パーティーに誘ってくれるのは有りがたいのですが、今はこの方達とパーティーを組んでいるので…」

 

勧誘していたパーティーメンバーはキリトさんに疑いの眼差しを向けていたが、なぜかユウキさんはそのような目で見られていなかった…。

確かに傍から見ると、キリトさんは強そうなプレイヤーには見えないのだから。

 

Side out

 

 

Side キリト

 

なんだおいっ、何で俺に近づいてくるんだ。

 

「見ない顔だけど…。 抜け駆けはやめて欲しいな俺達はずっと前から、この子をパーティーに勧誘してるのだからな…」

 

えっと、俺はどう返したらいいんだ。 まぁ無難に返そう。

 

「そう言われても…、成り行きで…」

 

シリカさんは、俺にもうちょと言ってやれ的な感じで見ているんだ?

そうしている内に、そのパーティーメンバーは何処かに行ってしまった。

 

Side out

 

 

Side ユウキ

 

なんか、ボクは蚊帳外に居る感じ。キリトのバカ。

そういえば、宿はどうするんだろ? 聞いてみよ。

 

Side out

 

 

「そう言えばキリト。 宿はどうするの?」

 

「あっ…」

 

そういえば宿の事考えていなかったわ…どうしよう…。

 

「あっ、キリトさんホームはどこに……」

 

「ああ…いつもは、ユウキと一緒の50層なんだけど…。 面倒だし此処に泊まろうかな?ユウキもそれでいいか?」

 

「うん。 ボクは問題ないよ」

 

「了解した。 と言うことで此処の宿屋に泊ることにするよ」

 

「そうですか! 此処のチーズケーキ、結構いけるんですよ」

 

「それボクも食べてみたいなぁ」

 

「と、言うことだ。 案内よろしくシリカさん」

 

「はい。 わかりました! 後、シリカでいいですよ」

 

「了解した」

 

この様な会話をしていたら、シリカが今朝から組んでいたパーティーと偶然会ってしまった。

その中の一番最後尾に居た女性プレイヤー、ロザリアがシリカを見つけ話し掛けてきた。

 

「あら。 あのトカゲ、どうしたのかしら?」

 

シリカは唇を噛んでロザリアの言葉に応じた。

 

「ピナは死にました。 でも…、絶対に生き返らせます」

 

「ふ~ん。 じゃあ、思い出の丘に行くのね?」

 

「そんなにレベルの高いダンジョンじゃないさ」

 

「そうだよ。 おばさん」

 

俺達は、シリカをか庇う様にして前へ出た。

 

「おばッ…。 まぁいいわ。 あんた達とシリカは一緒に行くのね。 まぁせいぜい頑張ることね」

 

ロザリアは笑いを含んだ声で俺達に言った。

そのままロザリアが組んでいるパーティーは、街の人混みの中に消えていった。

ユウキはシリカが心配になり声を掛けた。

 

「大丈夫、シリカちゃん?」

 

「…大丈夫です。 ありがとうございます。ユウキさん」

 

「じゃあ、行こうか。 ほらキリトも行くよ」

 

「おう」

 

俺達は宿屋の≪風見鶏亭≫に向かった。

 

≪風見鶏亭≫の1階は、レストランのようになっている構造だ。

 

一番奥の席に座り俺達は料理が来るのを待っていた。

 

「……なんで、あんな意地悪言うのかな……」

 

「君は……MMOは、SAOが初めて?」

 

「初めてです」

 

「そうか…。 どんなオンラインゲームでも、自分から悪役、殺人鬼になるプレイヤーは居るんだ。それが従来のオンラインゲームだったんだろうな……。 だが、このSAOは違う此処でHPが0になったら現実世界でも、本当に死んでしまからな…。 此処では人を殺すプレイヤーが多すぎる…。 俺も人のこt「キリト!!」あっ悪い。 暗くしちゃったな…気にしないでくれ…」

 

俺の言葉はユウキに発言により遮られた。

 

「キリトさん…キリトさんは、いい人です。 私を助けてくれました」

 

「……ありがとう、シリカ。 俺が慰められちゃったな……どっどうしたんだっ…。 シリカ顔が赤くなっているぞ?」

 

「いえっ…。 なんでもないですよ…」

 

「そ、そうか」

 

 

Side ユウキ

 

もしかしてキリト。 シリカを落としたの?

天然のタラシなの?

キリトは何人落とせば気が済むの?

アスナだって怪しかったのに。

ボクもちょと怪しいかもだけどさ…。

 

Side out

 

 

俺達は別々の部屋を取る事にして明日に備えていた。

俺の部屋はユウキと一緒なんだが……。

 

「ねぇ、キリト。 明日はもしかしたら、オレンジが出てくるかもしれないよ」

 

「わかってる。 シリカを囮のような形にしてしまうけれども…」

 

十中八九、囮のような形にしてしまうだろうな。

 

「それはどうしようも無い事だよ…」

 

「だから明日は、シリカの護衛をお願いできるか?」

 

「了解したよ」

 

“コンコン”と扉をノックする音が俺達の耳に届いてきた。

 

「誰だろう? 怪しい人では無いと思うけど?」

 

「ユウキ。 警戒よろしく…」

 

「了解」

 

「開けるぞ」

 

「あっあの、こんばんは。 キリトさん、ユウキさん。 明日の第47層の事を聞いて置きたくて…」

 

俺達の部屋に訪ねてきた人物は竜使いの少女シリカであった。

 

「どうする、ユウキ?」

 

「ボクは大丈夫だよ。 それにキリトはシリカちゃんにドロップ品上げないと」

 

「あっ、そう言えばそうだったな」

 

「じゃあ、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

 

「「いいよ」」

 

と俺達は答えた。

 

「それで、明日はどういう所を通って行くんですか?」

 

「ちょっと、アイテム出すから待ってて」

 

俺はアイテムストレージからこれから使用するアイテムを取り出した。

 

「そのアイテムは、何ですか?」

 

「これはミラージュ・スフィアってアイテムだよ。 シリカちゃん」

 

「綺麗ですね」

 

「じゃあ、説明いいかな?」

 

「はい。 よろしくお願いします」

 

「ここが主街区で、此処からこの道を通ると『思い出の丘』に行ける通路なんだ。 で此処の橋を渡るt……」

 

俺は第47層の地理を説明していった。

 

「「誰だっ!!」」

 

俺達は座っていたベットから飛び出し、ドアを引き開ける。

俺達の耳には、階段を駆け去る足音が聞こえてきた。

 

「ねぇ、キリト今の話聞かれたね…」

 

「ああ」

 

「…えっ、でもドア越しの声は聞こえないんじゃ…」

 

「聞き耳スキルが高いと、その限りじゃないんだ……。 上げている奴なんて、なかなか居ないがな…」

 

「でも、なんでそんなこと…」

 

「明日になればきっと分かるさ。 俺はメッセージ打っているからちょっと待っていてくれ」

 

メッセージを打ち終え、俺は横のベットを見るとユウキとシリカが私服姿で眠っていた。

 

「やれやれ。 俺は床で寝ますか…」

 

こうして夜が更けていく。




こんな感じです。

疲れたー。

感想、ご意見、お待ちしております!!

次回もお楽しみに!!


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第13話≪《黒の剣士》と《絶剣》≫

今回はマジで疲れました(汗)

それでは、どうぞ。


Side シリカ

 

私は耳元で奏でられるチャイムで目を覚ました。

此処、私の部屋じゃない、なんで。そう思っていたら、昨日の事を思い出した。

そう言えば、私キリトさんとユウキさんの部屋にお邪魔してそのまま寝ちゃったんだ。

キリトさんは床で寝てる。 私がベットを占領したから。

う~、ごめんなさい。 キリトさん。

隣ではまだユウキさんが寝てる。

取り敢えず2人を起こさなくちゃ。

 

Side out

 

「キリトさん。 朝ですよ!」

 

「おはよう。 シリカ」

 

俺はシリカの言葉によって起床した。

 

「ごめんなさい。 此処で寝てしまって」

 

「いいよ、気にしなくて。 それで、ユウキは起きたのか?」

 

あいつは、俺よりも起きるのが遅いからな。

 

「ユウキさんは隣でまだ寝てますよ」

 

「はぁ~、やっぱりお前は俺より起きるのが遅いんだな……」

 

「ムニャ」

 

「おーい。 朝だぞ起きろー!!」

 

ユウキは目を細めながら言葉を発した。

 

「……キリト。 おはよう……」

 

「お前。 寝ぼけているだろ?」

 

「…………」

 

「おいっ、寝るな!」

 

「はぁ~い。 起きましたよ」

 

「おう。 飯食いに下に降りようか」

 

「はい」

 

「は~い」

 

俺達は飯を食い終わり転移門の前まで来ていた。

 

「今日はいい天気だね。 キリト」

 

「そうだな。 じゃあ行こうか!」

 

「はい。 今日はよろしくお願いします。 あっそう言えば私、第47層の街の名前知らないです……」

 

「そこは任せてボク達が指定するから」

 

「「転移!フローリア!」」

 

 

第47層「フローリア」主街区

 

「うわぁ。 綺麗な所ですね!」

 

シリカは思わず歓声を上げた。

 

「此処の層は通称《フラワーガーデン》って呼ばれていて、街だけじゃなくてフロア全体が花だらけなんだ。 時間が有れば、北の端にある《巨大花の森》に行けるんだけどな」

 

「それは、またの機会にお願いします」

 

「じゃあ、出発進行ー!!」

 

そうして、俺達はフィールドまで歩を進めた。

 

「さぁ、これから冒険開始だが」

 

「はい」

 

「君のレベルとこの装備なら此処のモンスターは苦労せずに倒せるかもしれない。 でもフィールドでは何が起こるか分からない。 だから俺達が逃げろと言ったら何処でもいいから違う街に転移するんだ。 いいかな?」

 

俺は腰に付いていたポーチを探り、中から青いクリスタル、転移結晶を取り出しシリカの手の中に落とした。

 

「で、でも」

 

「俺達は心配無いさ。 だろっ、ユウキ?」

 

「そうそう」

 

ユウキはいつも通りの平常運転だな。

 

「そう言う事だから。 いいね?」

 

「分かりました」

 

「よし! じゃあ、行こうか」

 

 

フィールドにて

「ぎゃあああああ!? なにこれー!? 気持ワルー!!やっやあああ!! 来ないでー。 キリトさん。そいつ倒してください!!」

 

「わっ分かった」

 

俺は片手剣ソードスキル《バーチカル・スクエア》4連撃でモンスターをポリゴンに四散させる。

 

「そいつでこうなっていたらこの先大変だぞ。 幾つも花が付いている奴や食虫植物に似たモンスターや、ぬるぬるの触手が山ほど生えたモンスターとか」

 

「キエー!!」

 

「キリト、からかいすぎ」

 

「おっおう」

 

ユウキさん怖いです。 ごめんなさい。

 

「わわわっ!!」

 

「今度はどうした」

 

俺は言葉が詰まってしまった……。 なぜならシリカを食虫植物みたいなモンスターが宙づりにしているのだから。

 

「キリト……。 それ以上視たらどうなるかわかるよね」

 

ユウキさん、まじ怖いです。……あと俺に剣向けないで。

 

「シリカちゃん、キリトには絶対見せないから両手を使っていいよ」

 

「はっはい!! このっいい加減にしろっ!!」

 

私は短剣ソードスキル《ラピッドバイト》を叩き込みモンスターをポリゴンに四散させた。

スカートの中はユウキさんのおかげでキリトさんには見られていない。

よかったー。

 

「たっ、助かりました。 ユウキさん」

 

「気にしなくていいよ。 ボクが好きでやっていることだし」

 

「あの~、もう目を開けても」

 

「もういいよ、キリト」

 

「は、はい!」

 

が、次の瞬間

 

「キャー!!」

 

と、ユウキの声。 そこを見てみると、ユウキが宙づりになっていた。

俺は一瞬の判断でユウキを助ける為、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》水平4連撃を発動させる。

モンスターがポリゴンと四散したので、ユウキをお姫様抱っこをする形でキャッチした。

だが、俺は失念していた。

今日のユウキの装備がコートではなくスカートだったことに……。

 

「スカートの中見た!?」

 

「……見てない……」

 

俺は明後日の方向に顔を背いた。

それから5、6回戦闘をこなし、『思い出の丘』に辿り着いた。

 

「あれが思い出の丘だよ」

 

「この橋を渡ればいいんですね?」

 

「此処からはモンスターが大量に出るから来るから気を引き締めて行こうか」

 

「分かりました」

 

「了解ー」

 

俺達は無事に思い出の丘に辿り着けた。

 

「ここに咲く花が……」

 

花畑の中央に白く輝く大きな岩が見える。シリカは岩に駆け寄り、その上を覗き込む。

 

「ない、ないよ。 キリトさん、ユウキさん」

 

「「そっそんなはずは……。 あっ見て(ごらん)」」

 

俺達の視線に促され、シリカは再び岩の上に視線を戻した。

 

「あ……」

 

柔らかそうな草の間に、今まさに一本の芽が伸びようとしているところだった。

二枚の真っ白い葉が貝のように開き、その中央から細く尖った茎が伸びていき、純白の花へになった。

シリカは花の茎に手を触れ、花を取った。

 

「これで、ピナが生き返かえるんですね?」

 

「ああ」

 

「そうだね」

 

「此処で生き返かえさせるのは危険だから1度街に戻ろうか」

 

「はい!!」

 

幸い帰り道ではそれほどモンスターには遭遇しなかった。

後は1直線に進むだけだ。

俺は、索敵スキルを使い安全確認をしたのだが。

やはりプレイヤーが検出された。 やっぱり出てきたか…。

 

「……そこで待ち伏せている奴、出てこい」

 

「やっぱり来たんだ……」

 

「昨日話した通り護衛任せた」

 

「了解」

 

橋の向こうから現れた人物は、昨日俺達と言葉を交わした女性プレイヤーだった。

真っ赤な髪、赤い唇、エナメル状に輝く黒いレーザーアーマーを装備し、片手には細身の十字槍を携えている。

 

「ろ、ロザリアさん。 なんでこんなところに……?」

 

ロザリアは唇の片側を吊り上げて笑った。

 

「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、剣士サン。 あなどっていたかしら?」

 

そこでシリカに視線を移す。

 

「その様子だと、首尾よくプネウマの花をゲット出来たみたいね。 おめでと、シリカちゃん。 じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」

 

「……な、なに、言っているんですか……?」

 

俺はシリカの前に立ち口を開いた。

 

「そうは行かないな、ロザリアさん。 いや、オレンジギルド《タイタンズハイド》のリーダーさんと言った方がいいかな?」

 

ロザリアの眉が跳ね上がり、唇から笑いが消えた。

 

「で、でも、ロザリアさんはグリーン……」

 

「オレンジギルドと言っても全員がオレンジカーソルじゃない場合が多いんだ。 グリーンメンバーが獲物をみつくろい、パーティーに紛れこんで、待ち伏せポイントまで誘導する。 昨夜、俺達の会話を聞いていたのもあいつらの仲間だよ」

 

「……じゃあ、一緒のパーティーにいたのは」

 

ロザリアは再び笑みを浮かべ言葉を発した。

 

「そうよォ。 あのパーティーの戦力を分析すると同時に冒険でたっぷりお金が溜まるのを待っていたの。 本当なら今日ヤッちゃう予定だったんだけどー。1番楽しみな貴方が抜けちゃうから、どうしようと思っていたら。なんかレアアイテムを取りに行くって言うじゃないプネウマの花は今が《旬》だからとっても良い相場なのよね。 やっぱり情報収集は大事よねー。 でも、そこの剣士さん“達”はそこまで分かっていてノコノコとその子に付き合っていたの?」

 

「いいや、そうじゃないよ」

 

「ボク達は、貴方達を探していたんだよ」

 

「どう言うことかしら?」

 

「あんた10日前に38層で《シルバーフラグス》って言うギルド襲ったな。 メンバー4人が殺されて、リーダーだけが脱出した」

 

「あの貧乏連中のことね」

 

俺の言葉にロザリアは頷く。

 

「リーダーだった男はな。 毎日朝から晩まで最前線のゲートで泣きながら仇討してくれる奴を探していたんだ。 でも、その男は“依頼”を引き受けた“俺達”に向かってあんたらを殺してくれとは言わなかった。 黒鉄宮の牢獄に入れてくれと頼んだんだ。……あんたに奴の気持ちが分かるか?」

 

ロザリアは面倒くさそうに次の言葉を発した。

 

「解んないわよ。 何よマジになっちゃって馬鹿みたい、ここで人を殺しても本当にその人が死ぬ証拠なんてないし。 現実に戻っても罪に問われる事は無いわよ。 ただ戻れるのかも分からないのにさ、正義とか法律とか笑っちゃうわよね。 アタシそういう奴1番嫌い。 この世界に妙な理屈持ち込む奴とかね。 で貴方達はその死にぞこないの言葉を真に受けて私らを探していたわけだ。 暇な人だねー。 まんまと貴方達の餌に引っかかってしまったことは認めるけど…でもたった3人でどうにかなると思っているの……?」

 

俺達は完全に囲まれていた。 現れた数は10人だ。

 

「キっキリトさん、ユウキさん……。 人数が多すぎます。脱出しないと……!」

 

「大丈夫。 俺達が逃げろと言うまでは、結晶を用意してそこで見てればいいよ」

 

「キリト、ユウキ……?」

 

この言葉を発した犯罪者プレイヤーは数歩後ずさった。

 

「その格好……、盾無しの片手剣……《黒の剣士》? そして《黒の剣士》の相棒の女性プレイヤーの《絶剣》……? ヤバいよ、ロザリアさん。 こいつら元β上がりの攻略組だ!!」

 

 

 

Side シリカ

 

《黒の剣士》、《絶剣》と言えば攻略組トップの剣士だ。 中層プレイヤーでもこの名前は誰でも聞いたことがあるはずだ。 そんな2人と私が一緒に居たなんて夢にも思っていなかった。

 

Side out

 

 

「こっ攻略組がこんな所ウロウロしている訳がないじゃない! どうせただのコスプレ野郎に決まっている。 それにもし、《黒の剣士》《絶剣》だとしてもこの人数でかかれば1人くらい余裕よ」

 

「そっそうだ! 攻略組ならすげーお宝や金を持っているに違いない!」

 

先頭に立っていた犯罪者プレイヤーが叫んだ。

 

「キリトさん、ユウキさん。……無理だよ。 逃げようよ!!」

 

「ボク達は大丈夫だよ。 ほらボクの傍を離れないで」

 

ユウキはシリカの事を抱き寄せた。

次の瞬間、ロザリアを抜いた犯罪者プレイヤーが俺に襲いかかってきた。

 

「オラァァァ!!」

 

「死ねやァァァ!!」

 

ロザリアを抜いた9人は剣や槍を俺の体に突き刺した。

 

「いやぁぁぁ!! キリトさんが死んじゃう!!」

 

ユウキは優しくシリカに言葉をかけた。

 

「大丈夫だよ。 ほら良く見て」

 

「あれっ、キリトさんのHPが減っていない」

 

「うん。 だから大丈夫だよ」

 

「あんたら何やってんだ!! さっさと殺しな!!」

 

苛立ちを含んだロザリアの命令により、再び斬撃の雨が俺に降り注ぐ。

だが、状況は変わらない。

 

「おっおい……。 どうなっているんだよコイツ……」

 

1人が異常なものを見るようにして数歩下がった。

それが呼び水をなり残り8人も攻撃を中止し距離を取った。

 

「10秒あたり400ってところか。 それがあんたら9人が俺に与えるダメージ量だ。 俺のレベルは78ヒットポイントは14500。 さらに戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルによる自動回復が600ポイントある。 何時間やっても俺を倒せないよ」

 

最初に攻撃を中止した犯罪者プレイヤーが言葉を発した。

 

「……そんなの……、そんなのアリかよ」

 

「そうだ。 たかが数字が増えるだけでそこまでの無茶が付くんだ。 それがレベル制MMOの理不尽さというものなんだ!!」

 

「チッ」

 

ロザリアは転移結晶を使いこの場を離れろうとした。

 

「転移ー」

 

俺は敏捷力を最大に活かして、ロザリアの前に移動した。

そして剣をロザリアの首に添えた。

 

「ひっ……」

 

ロザリアは体を強張らせ、声を漏らした。

同時にユウキの声も俺の耳に入ってきた。

 

「キリト!!」

 

ユウキが言いたいことは、俺にオレンジになるな。 と言うことだろう。

俺は右手に持っていた剣を背中に装備している鞘に戻し、体を強張らせるロザリアの手から転移結晶を奪い襟首を持って橋のこちら側に引き摺る。

 

「は……、放せよ!! どうする気だ畜生!!」

 

俺は依頼主から預かっていた、回廊結晶を腰に付いているポーチから取りだした。

 

「これは、俺の依頼主が全財産をはたいて買った回廊結晶だ、黒鉄宮の監獄エリアに設定してある。 あんたら全員これで牢屋に跳んでもらう。 あとは《軍》の連中が面倒を見てくれるさ」

 

「もし、嫌だと言ったら……」

 

「全員殺す。と言いたいとこだけどな。 仕方ない。 その場合はこれを使うさ、麻痺毒だよ。 レベル5の毒だから10分は動けないぞ。 全員をコリドーに放り込むには、それだけあれば十分さ。 自分の足で入るか、投げ込まれるか好きな方を選べ。コリドー・オープン!!」

 

「畜生……」

 

「やりたきゃ、やってみなよ。 グリーンの私を傷t「キリトは、じれったいな!!」」

 

 

Side キリト

 

ビックリしたー。 ユウキの奴ロザリアの事をコリドーに投げ入れたよ……。 怖かった。

これからはユウキさんを怒らせてはいけないな。

 

Side out

 

 

「ごめんな、シリカ。 君を囮にする形になっちゃって……。 俺達が攻略組だと言うと怖がられてしまうと思ったんだ。 ごめんな怖かったろ」

 

「いえ、大丈夫です。 ユウキさんが隣に居てくれたので」

 

「じゃあ、ボク達が街まで送るよ」

 

「あっ……、足が動かないんです」

 

俺とユウキは、そっと手を差し出し笑って上げた。

 

俺達は35層の≪風見鶏亭≫に到着するまで無言であった

 

「キリトさん……、ユウキさん……。 行っちゃうんですか……?」

 

「5日も前線から離れちゃったからな……。 直ぐに戻らないと」

 

「ごめんね。 シリカちゃん」

 

「……そう、ですよね……」

 

俺達は、シリカの頭に優しく手を置いた。

 

「レベルなんて所詮ただの数字だよ。 この世界での強さは単なる幻想に過ぎない。 そんなものよりも、もっと大切な事がある。 だから次は現実世界で会おう……。 そうしたら、また同じように友達になれるよ…」

 

「ボクとも友達になろうね」

 

「はい!!」

 

「じゃあ、ピナを生き返えさせようか?」

 

「うん。 そうしよう」

 

「分かりました」

 

ピナ生き返ったら今日の冒険のお話しをいっぱいしてあげるね。今日、1日だけのお兄ちゃんとお姉ちゃんの話も、だからこれからも頑張っていこうね。

 




やっと《黒の剣士》《絶剣》と言うワードが出せました!!

感想、ご意見お願いします!!

次回もお楽しみに!!


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第14話≪《二刀流》と《黒燐剣》≫

どもっ舞翼です!!

お気に入りが150件超えただと…まじか…

いやー、ありがとうございます!!

今回は、オリジナル回になるのかな?

頑張って書きました。

それでは、どうぞ。


第50層「アルゲード」主街区

 

「ねぇ。 キリトちょっと相談があるんだけど?」

 

「どうした?」

 

「ボク達、第65層でレべリングしたよね」

 

「ああ、そうだな。 で、それが何の関係があるんだ?」

 

「なんか“変”なスキルが出てて。 それを確認して欲しくてね。 キリトなら、何か知っていると思ってね」

 

「“変”なスキル?何ていうスキルだ?」

 

「片手剣スキルの“黒燐剣”っていうスキルなんだけど。 キリト知ってる?」

 

聞いたことがないな。 もしかしたら《エクストラスキル》か? 一応確認するか。

 

「ん~、聞いたことないな。 情報屋のスキルリストは確認したのか?」

 

「うん。 確認したんだけど情報屋のスキルリストには載ってなくてね。 ボクも聞いたことないからさ」

 

《ユニークスキル》が濃厚になってきたな。 そういえば俺にもあったんだよな…知らないスキルが。

 

「それってもしかしたら《エクストラスキル》じゃないのか? そういえば、俺もお前に相談事があったんだよ。 ユウキは“二刀流”っていうスキル聞いたことはあるか?」

 

「なにそのスキル。 聞いたことないよ」

 

マジか。 じゃあ、俺達のスキルは《ユニークスキル》かもしれないな? ばれたらヤバいな…。

 

「やっぱりそうか。 もしかしたら俺とお前のスキルは、あの“神聖剣”と似たようなスキルなのかもしれんな?」

 

「もしかして”ユニークスキル”!?」

 

「やっぱりお前もそう思うか。 でもヤバいんだよ。 この“二刀流”スキル、補正がチート過ぎるんだよな」

 

「それって、どんな補正なの?」

 

「此処では聞かれたらヤバいから場所移動しないか?」

 

「じゃあ、ボクの家に行こっか?」

 

んっ、幻聴が聞こえたぞ。

 

「今なんて言った……?」

 

「いや、ボクの家に行こうって」

 

「……此処の宿屋では駄目なのか?」

 

「もし聞かれたらどうするの? とゆうかキリト、ボクの家に来たことあるじゃん。 それに第1層の宿屋のときと、シリカちゃんの件のときは一緒の部屋だったよね?」

 

そうだけどさ……。 やっぱり、ちょっと抵抗がな。

 

「第1層のときはコルの削減で、あの件のときは、相談事があってだな……。 お前はいいのか?」

 

「うん。 ボクは平気だよ」

 

マジで……。

 

「でもお前は、一応女の子なんだぞ(お前は自覚はないかもしれんが美少女なんだからな。 俺とお前がコンビを組んだときから、攻略組の男性プレイヤーからの嫉妬の眼差しが凄いんだぞ……。 お前は気付いていないけどな。)」

 

 

Side ユウキ

 

キリト、心の声が漏れているよ。 それにボクのことを美少女って照れちゃうな。

キリトは素直じゃないんだから。いつもボクのことは「元気しか取り柄がない奴だな」しか言わないんだから。

キリトにこのこと聞いてみよ。

 

Side out

 

 

「ねぇ、キリト。 さっきボクのこと美少女っていったのかな?」

 

「えっ、なんでだ?」

 

「さっき言っていたことボクに聞こえていたよ!」

 

「なんのことかな?」

 

「さっき、ボクのこと美少女って言ったよね?」

 

「えっと……。 そう、ビジュアルがいいって言ったんだ」

 

あれ、これってあんまり変わっていないんじゃ。

おいっ、自分から聞いてきたのに、なに赤くなっているのですかユウキさん。

なにこの状況、俺にはこんな状況を回避出来るスキルは持ち合わていないぞ。

どうしよう…ここは腹を括るしかないな。

 

「じゃ、じゃあ。お邪魔しようかな」

 

「……うん」

 

おい、なんだ、その反応は。 いつも反応はどうした。

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

 

やばっ、敬語になったよ。

 

「……分かった」

 

俺達は無言でユウキの家まで歩を進めたのであった。

 

 

 

ユウキの部屋にて

 

「じゃあ、スキルの確認しようか?」

 

「……うん」

 

まじすか、まだ直っていないのか。 どうしよう……。

 

「えっと、スキルの確認しような?」

 

「分かったよ……」

 

それから俺達が元の状態に戻るまで10分かかったのだ。 そのあいだ俺達は無言であった。

 

 

10分後。

 

「じゃあ、確認しようか?」

 

「ボクのからする?」

 

「その前に、これは大事な話だから最大限の警戒をする。 いいな?」

 

「了解したよ」

 

「よし。 じゃあ、確認しよう」

 

「分かった。 ボクのスキル“黒燐剣”っていうスキルなんだ。 “黒燐剣”は“黒燐剣“専用ソードスキルの威力が2倍になるらしいんだ。 あとスキル後の硬直時間が半減する。 片手剣ソードスキルにも繋げることも出来るらしい。 盾を持てなくなるデメリットがあるらしいけど」

 

結構なチート補正だな。 これは《ユニークスキル》確定かもな。

 

「俺の“二刀流”は“二刀流”専用ソードスキルの攻撃力が1.5倍、上位剣技になれば硬直時間が長いらしいが。 あと、剣が2本装備出来ることで手数が増えるな。 武器防御も上がるらしいな」

 

「キリト、こんなスキル持っているの。 ばれたらヤバくないかな?」

 

「ヤバいな。 特に《軍》と《聖竜連合》にな」

 

「このことは秘密にしておいた方がボクはいいと思うな?」

 

確かにそうだな。 特に俺はな。

 

「お前は、出しても大丈夫だと思うが? お前は《ビーター》じゃないし、周りからも信頼されているしな」

 

「キリト!! 次に《ビーター》なんていったら怒るよ!」

 

「……すまん」

 

ユウキさん、怖いです……。 あと、もう怒ってますよ。

 

「ボクもこのことは秘密にしておくよ。 キリトも誰にも言わないこと。 分かった?」

 

「了解」

 

ここまで、俺のことを信頼してくれていたとはな。 ありがとな、相棒。

 

「じゃあ、試しにこのスキル使ってみない? 誰もいない迷宮区に行ってさ?」

 

「ああ。 俺もこのスキルの確認をしたいからな」

 

「じゃあ、迷宮区に行こうか」

 

「了解」

 

 

第65層 迷宮区

 

「なんで、アストラス系が出るダンジョンを選んだんだ!?」

 

「えっ、だってお化け退治したいじゃん。 それに此処の迷宮区にはあまりプレイヤー来ないし」

 

プレイヤーが来ないのは正論だな。

 

「まぁ、確かに」

 

「さっそく使ってみようか?」

 

「おう!」

 

「ボクからね」

 

こうしている内にモンスターがPOPした名前は《Grim reaper》(死神)そのままだな。

モンスターの名前でも切らしたのか?

 

「じゃあ、あのモンスターを倒すね」

 

ユウキは黒燐剣、突進技ソードスキル《ブラック・スパイラル》を《Grim reaper》に向け放つ《ブラック・スパイラル》は突進しながら横薙ぎに振り下ろすソードスキルの計2連撃だ。

続けて片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》水平4連撃に繋げる。

モンスターはこの攻撃をくらいポリゴンに四散した。

 

「それ、すごいな」

 

「ボクもばれたらヤバくないかな?」

 

「ああ。 ヤバいかも」

 

「だよねぇー」

 

「次は俺か」

 

「ボクは見てるね」

 

「おう」

 

俺は、第1層で使っていたアーニルブレード+6を左手に装備し、先ほどPOPしてきた《Grim reaper》に二刀流、全方位範囲技《エンドリボルバー》を発動する。

このソードスキルは周りのモンスターを一掃できる二刀流ソードスキルの計2連撃だ。

このスキルをくらい《Grim reaper》はポリゴンに四散した。

だが、アニールブレード+6はエリシュデータとの反動に堪え切れなかったのか亀裂が入りポリゴンを四散してしまったのだ。

 

「キリト。 それすごいね」

 

「だな。 それに、このエリシュデータと同等クラスの剣を探さないとな」

 

魔剣クラスの片手剣が見つかるのかな? 頑張って探さないとスキルの持ち腐れになってしまう。

 

「ボクも手伝うよ」

 

「助かるよ」

 

「確認も済んだことだし、帰えろうか?」

 

「そうするか」

 

「このことは、ボク達の秘密ね。それでいいかな?」

 

「ああ。 そうしよう」

 

こうして俺達は、第50層「アルゲード」主街区に戻ったのであった。




どうでしたでしょうか?

面白く書けたのか不安です(汗)

やっと出せました、オリジナルユニークスキル(笑)

ご意見、感想、お願いします!!


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第15話≪料理スキル≫

どもっ!!

舞翼です。

今回はユウキちゃんメインで書けたかと。

ユウキちゃんまじ天使!!

あと『タイトル』変更しました。

ソードアート・オンライン 『黒の剣士と絶剣』
         ↓
ソードアート・オンライン 『黒の剣士と絶剣と閃光』


あと、ぐだぐだになっていないか不安です。駄文になったかも(汗)

それでは、どうぞ。


第55層「グランザム」主街区

 

此処グランザムは別名≪鉄の都≫とも呼ばれている場所だ。

街は無数の鋼鉄の尖塔で形作られ、その職人も多い。

緑が少なく、寒々しい雰囲気がある。

此処の層は自然の類が全くない。

殆どの街などが、黒光りする鋼鉄で作られている。

まさに≪鉄の都≫だ。 此処には、アイングラッド最大で最強のギルド。

血盟騎士団(Knights of blood略称はKoB)の本部がある場所だ。

此処の本部前で待ち合わせをしている“少女達”が居た。

 

 

Side ユウキ

 

「今日はアスナに頼みたいことあるんだ。 聞いてくれるかな?」

 

「どうしたの。 ユウキちゃん? 私と待ち合わせをしてまで、頼みたいお願いって?」

 

「アスナは料理スキル取っているんだよね?」

 

「うん。 私の趣味が料理だからね。それがどうしたの?」

 

攻略組が料理スキル取っていることは珍しい事らしい。 ボクも取っているけど。

 

「実は、キリトにボクの料理を食べて欲しくて。 でもボク料理したこと無いし、いつも料理しても失敗してばかりだったから。 料理が出来る、アスナに協力して貰いたくて…それに現実の調味料の味も再現しようと研究しているんでしょ? ボクにも教えて!!」

 

なんか知らないけど、ボクが料理したらいつも失敗しちゃうんだよね。

なんでだろうか?

料理スキルをコンプリートするのと、調味料再現まで覚えられれば、キリトにアタック出来るチャンスが増えるからね。 このスキルはどうしても覚えたいんだ。

これには、アスナの協力が必要不可欠になるんだ。 お願い協力して!!

 

「うん。 いいけど……。 いきなりどうしたの?」

 

やった!!

 

「前に、余りの物になっちゃうからって言って、ボク達に差し入れくれたよね。 その時に差し入れしてくれた。 料理をキリトが凄い笑顔で食べていたの見ちゃったから。 ボクも美味しい物を食べさせてあげたくて、そr「まって」」

 

「そういう話はここじゃまずいから場所移動しよっか?」

 

「わかった」

 

 

第61層 セルムブルグ 主街区

 

此処は、城を構えた城塞都市。白亜の花崗岩で造れた高級そうな家々が立ち並ぶ場所だ。

此処に“少女達”は訪れていた。

 

「私の家に行こうか?」

 

「大丈夫だよ、アスナ。 ギルドのお仕事残っているんでしょう? ありがとね。 ボクの為に時間を空けてくれて」

 

「他でもないユウキちゃんの頼みだからね! 私は全然大丈夫だよ。 で、どうしたの?」

 

「えっと……。 キリトの為に、美味しい料理を作りたいって話なんだけど」

 

やっぱり自分が秘密にしている事は話づらいね。 ここは、お腹を括らないと。

 

「さっき言っていた事? キリト君が私の料理を美味しそうに食べていたって?」

 

「うん。 ボクも美味しい料理、キリトに食べて欲しくて」

 

最近料理の事になると目を輝かせているからね。

ここに付け込まないと。

 

「料理を教えて欲しいと?」

 

「……ダメかな?」

 

「いいよ。 じゃあ、攻略の合間に時間を見つけて、料理スキルを上げようか? あと現実の調味料の再現も一緒にやる? その前に、ユウキちゃん。料理スキル取ってる?」

 

「うん。 料理スキル取ってるよ。 でも、いつも失敗しちゃうんだ。 だからアスナに協力してもらおうと」

 

「たぶん、高いランクの食材を料理していたから失敗したんじゃないかな? まずは低いランクから作ってスキルを上げていこうか。 キリト君はこんなに可愛い子に思われていいなー」

 

なるほどねー。 いつもAランク食材を料理していたからか。 失敗するわけだ。

ボク、料理スキルまだ低いのにね。

ボクのおっちょこちょい。

んっ? アスナ今、なんていったの? もしかしてばれてたの?

ここは、隠しても仕方がないかな……。 正直になろう。

 

「実はボク、キリトの事……好きなんだ。……アスナは、どう思っているの?」

 

「うーん。 親友の友達かな」

 

そうなんだ。 アスナはセーフだよ。 キリトは落とした事に自覚ないからね。

もうこれってガールズトークだよね。

ガールズトークって、盛り上がるって聞いたこと有るけど。ここまで盛り上がるとは。

まだまだボクの知らないことは多いな~。

ここは無難な返事を返しておこう。

 

「そうなんだ」

 

「じゃあ、攻略の休みが取れたら連絡するね。 ユウキちゃんも、料理スキル上げとくんだよ。 いい?」

 

「分かった。 今日はありがとうね。 血明騎士団の副団長さま」

 

「もうっ。 じゃあ、またね。 ユウキちゃん」

 

「うん。 またね」

 

こうしてボク達のガールズトークは終了した。

アスナは転移門を潜り、第55層に戻った。

 

ここまでアスナと仲良くなった経緯は、第1層の時から連絡を取り続けていたから。

アスナから、血明騎士団の副団長になったときの連絡には驚いたな。

アスナは、人をまとめるのがすごい上手いしね。

副団長になったのも納得だね。

ボス攻略会議もスムーズに進んでいたしね。

第56層、ボス攻略では少し揉めたけど。

それは、血明騎士団の案を採用するか。

ボク達、ソロプレイヤーの案を取るかで。

ボクと《デュエル》までしたからね。

ボクが勝ちを拾ったけど。

それでボク達、ソロプレイヤーの意見が通ったんだよね。

それからなんだよな。ボクが《絶剣》って呼ばれだしたの《絶剣》って男性プレイヤーに付ける二つ名だよね。

“空前絶後の剣”で《絶剣》らしいけど。

ボクは、この二つ名好きじゃないし。

アスナは剣の速さから《閃光》だしね。

キリトは《黒の剣士》だっけ。

確かに黒いしね。 キリトって。

ボクも早く、第50層に帰らないと。

 

Side out

 

 

第50層「アルゲード」転移門の前

 

「お帰りユウキ。 捜してたんだぞ?」

 

「どうしたの?」

 

「一緒に攻略に行かないかって?」

 

驚いた。 キリトからこんな言葉をかけられるなんて。

そうだ! 料理を食べてもらう約束を取り付けよう。

いまがそのチャンスだよ。

 

「うん。 いくいく。 そうだ、今度ボクの料理を食べてくれないかな?」

 

「それは、味見役になれってことかな?」

 

「うん。 そんなところかな」

 

「おう。 了解した。 期待してるぜ」

 

「楽しみにしててね!!」

 

よしっ。 約束を取り付けられた。

勇気を出してよかった~。

やっぱりキリト。 『料理』ってワードに弱いね。

あっ。 そういえばキリトに“姉ちゃん”のこと紹介したっけ?

 

「どうしたユウキ。 そんなに考えこんで?」

 

「よくボクが考えこんでいるって分かったね」

 

「お前とは長い付き合いだからな。 これ位のことは、すぐわかるさ」

 

「そっか」

 

ボク、照れちゃうな。 こんなこと言われたら。

 

「本当にどうしたんだ?」

 

「えーとね。 キリトにボクの“姉ちゃん”のことは紹介したっけ?」

 

「…………今、なんて言った」

 

「ボクの“姉ちゃん”のことは紹介したかって」

 

あれ、ボク言ってなかったっけ?

 

「お前の“姉”がここ(SAO)にログインしているのか?」

 

「うん、してるけど。 キリトもボス攻略会議で会ってる人だよ」

 

「そんな話、お前から聞いたことないぞ……?」

 

 

Side キリト

 

マジか。 お前に“姉”が居たのかよ。 聞いてないぞ。

じゃあ、時々姿をくらましているときは、“姉”に会いに行ってたのか!?

 

Side out

 

 

「じゃあ、今度“姉ちゃん”に会わせるね。美少女だから期待してね」

 

「……おう。 分かった……」

 

「迷宮区に行こうか?」

 

「……分かった」

 

 

Side キリト

 

マジかー。 ここで考えても仕方がないか。

コミュ障が出なければいいけど。

そのときは、そのときだな。

 

Side out

 

このような会話をしたあと、俺達は最前線の迷宮区に向かったのだった。

 




こんな感じですー。

“姉ちゃん”を上手く出せるかな?

姉ちゃんを出したくて設定にぶちこみました。

すいません。

まぁー、今後も頑張ります!!

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第16話≪出会い≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回もうまく書けているか不安です(汗)

駄文になっていたらごめんなさい。

では、どうぞ。


第53層 NPCレストラン

 

なぜ、“俺達”が此処の層のNPCレストランに居るのかというと。

ここで“ある人物”と待ち合わせをしているのだ。

 

「なぁ、ユウキ。 本当にお前の姉に会わないといけないのか?」

 

「ここまで来てそれを言うの?」

 

「だってさ、俺コミュ障じゃん。 上手く話せる気がしないし……」

 

マジでどうしよう。 上手く話せるかな、こいつの双子の姉らしいからな。

どんな人なんだろう。

 

「ほら。 来たよ」

 

「……おう」

 

本当だ。 誰か入って来たよ。……ヤバい。 緊張してきた。

 

「こんにちは。 キリトさんでしょうか?」

 

この人がユウキの姉か……。 双子だという割にはあまり似ていないな。

顔は……、ユウキより少し小さいな。

顔と雰囲気がなんとなく、アスナに似ているな。

長い黒髪と黒色の大きな瞳はユウキと似ているけど。

やっぱり、ユウキに似て美少女だな。

 

「はっはい。 はじめまして、ユウキさんと……コンビを組んでいる、きっキリトです。 よっよろしく……お願いします」

 

言葉に詰まっちゃったよ…。

最初の掴みは失敗したな…。

 

「キリト、上がりすぎ…」

 

「お前、俺の性格知っているだろ。 こういう場には弱いんだよ」

 

もちろん俺の声はユウキにしか聞こえていない。

 

「いつも妹がお世話になっています。 ユウキの姉の『ラン』です。 この子の為に色々としてくださり、ありがとうございます。」

 

「いえっ、こちらこそ。 ゆっ、ユウキさんには……。おっ、お世話になってばかりで」

 

「ねぇ、ボクのことを蚊帳の外に置かないでよー」

 

「ユウキ。 ごめんなさいね」

 

「まぁ、いいけどさ」

 

「あっあの、お話があっ……あって呼び出したのでしょうか?」

 

これは、俺のコミュ障が発動したな…。

 

「ええ。 いつもあなたのお話をこの子から聞いていたら、お話しがしたくなりまして。 それに一度、お会いしたかったので」

 

 

Side ユウキ キリト

 

「おいっ、お前。 俺のこと話したのかよ?」

 

「うん。 姉ちゃんの家にお邪魔したときは、いつもキリトのことを話してるよ」

 

「マジ?」

 

「うん。 マジ」

 

「どこまで、話したんだ?」

 

マジでどこまで話したんだよ。 こいつは……。

 

「えーと。 キリトにとって秘密にしたいことは全部かな?」

 

「もしかして、俺の個人情報が軒並みに漏れてるのかな?」

 

「たぶん」

 

Side out

 

 

「あの~。 何を話しているのでしょうか?」

 

「あっ……。 いえ、なんでも……。 ないですよ、はい」

 

「えっと、キリトさん。 敬語はやめていいですよ。 この子に、敬語使っていないと思うので」

 

「わかりm……わかった……。 それでなにを聞きたいんだ?」

 

なんとか、言葉を繋げることに成功したな。

よかったー。

 

「まず最初に、お礼を言いたいんです。 この子を《はじまりの街》から、ここまで連れて来てくださり、ありがとうございました。 あなたのおかげでこの子はここまで来れました。 あなたのことは、この子から聞いています。 あなたがどれだけ自分を犠牲にしたのかも。 それに、第25層のクォーター・ポイントのボス戦では、私はあなたに命を救われました。 私達姉妹はあなたに助けていただきました。 本当にありがとうございます」

 

「……そうだった、のか」

 

あの時、俺は自分のことしか考えていなかったんだ。

お礼を言われることなんてしていないのにな…。

 

「キリトはボクのことを救ってくれたんだよ。 そのことは忘れないでね」

 

「ああ……」

 

「さぁ。 暗い話はここまでにしてご飯を食べましょうか」

 

「ここのレストランの料理は、おいしくて評判なんですよ」

 

「それっ本当かっ!!」

 

「はい。 それも、絶品揃いらしいですよ。 ちょと、値が張りますけど」

 

 

Side ユウキ 

 

なんか、姉ちゃんとキリトがいい雰囲気。

ちょと、ボク不機嫌になっちゃうな。

キリトは料理に本当に弱いんだから。 もうっ!!

そういえば、姉ちゃんって料理スキル取っているのかな?

聞いてみよ。

 

side out

 

 

Side ユウキ ラン

 

「そういえば、姉ちゃん。 料理スキル取ってる?」

 

「これから取る予定だけど? それがどうかしたの?」

 

「じゃあさ。 アスナと一緒に料理スキル上げない?」

 

キリトには、ボクが作るけどね。

 

「アスナって、《閃光》の?」

 

「そうだけど」

 

アスナって誰にでも知られているんだね。

それに、アインクラッドでは美少女の類に入っているしね。

それには、姉ちゃんも入っているんだよ。

 

「いいの? 一緒に料理スキル上げをしても?」

 

「たぶん、大丈夫だと思うよ。 メッセージ飛ばしてみるね」

 

「わかったわ」

 

 

3分後。

 

「返信がきたよ。 姉ちゃん」

 

なんて返ってきたのだろうか? どれどれ、内容は。

 

『私はかまわないよ。ユウキちゃんってお姉さんがいたんだね。 私、メッセージ見てビックリしちゃったよ。お姉さんには、大丈夫だよって伝えといてね。 現実の調味料再現も一緒に挑戦しようって。 その時に、私にお姉さんを紹介してね。』

よしっ!! OKが出た!!

 

「なんて返ってきたの?」

 

「アスナはOKだって!!」

 

「じゃあ、今度お邪魔させてもらおうかしら?」

 

「アスナも姉ちゃんに会いたいらしいよ」

 

ガールズトーク、盛り上がりそうだな。

ボク、色々聞かれそう。 特に隣の黒い人のことを。

 

「じゃあ、ユウキ達と一緒に料理スキルを上げしようかしら」

 

「うん。 そうしよう」

 

楽しみになって来たなー。

 

「じゃあ、ユウキ。 その時にキリトさんのこと、どう思っているのか聞かせてね」

 

「えっ……」

 

姉ちゃんの質問は際どい所、聞いてくるからなー。

はぁー、考えても仕方ないか。

覚悟を決めて料理スキル上げに臨まないとね。

 

「……うん、わかったよ」

 

「じゃあ、楽しみにしているね。 ユウキが乙女になる姿が見られるかもね」

 

「……うん」

 

ボクに際どい質問する気だね。 姉ちゃん、すごい笑顔になっているし……。

 

Side out

 

 

「2人して、なんの話しているんだ?」

 

「きっ、キリトには関係ない話だよ」

 

「そうですよ。 キリトさん」

 

「そっそうか」

 

どんな話しをしていたのだろうか?

それよりも、この料理を食べなければ。

 

 

第53層 主街区 転移門前

 

「今日は楽しかったです。 ご馳走様でした」

 

「ボクも楽しかったよ。 姉ちゃん」

 

「ええ、俺も楽しかったですよ」

 

「キリトさん、今後もこの子のことよろしくお願いします」

 

「ええ、約束します。 俺の命にかえても、ユウキは絶対に守ってみせます」

 

俺の命にかえても、こいつを絶対に現実世界へ還しますよ。

 

「それを聞けて安心しました。 また機会がありましたら、お食事しましょうね。 あと、ユウキ。 キリトさんに迷惑をかけたらいけませんからね」

 

「わかったよ、姉ちゃん」

 

「それじゃあ、私は帰ります」

 

「ばいばい。 姉ちゃん」

 

「また攻略会議で会いましょう」

 

「それじゃあまたね。 キリトさん、ユウキ」

 

ユウキの姉ランは、転移門を潜りホームに帰った。

 

 

Side ユウキ キリト

 

「じゃあ、俺達も第50層に帰るか」

 

「了解ー」

 

Side out

 

こうして、ユウキの姉ランとの食事会が終わったのであった。

 




ユウキちゃんの設定は、
『マザーズ・ロザリオ』の表紙の髪と目が黒いバージョンということにしてください。

次回の話はどうしよう(汗)

書く内容が決まっていないんですよね…

大まかな設定は決まっているのですが…

まぁー、頑張って考えます。

ご意見、ご感想、よろしくおねがいします!!


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第17話≪女子会≫

どもっ!!

舞翼です!!

お気に入りが200件越えだと………まじか………

こんな駄文をお気に入りにいれてくれた方々に感謝感謝です!!

今回はオリジナルになると思います。

それでは、どうぞ。


第61層「セルムブルグ」転移門前

 

城を構えた城塞都市。

白亜の花崗岩で造られた高級そうな家々が立ち並んでいる。

それなりの金を持っているものはここの家を購入する。

この層で待ち合わせをしている“少女達”がいた。

 

 

Side ユウキ アスナ ラン

 

「おはよう。 ユウキちゃん」

 

「おはよう。 アスナ」

 

今日の為にボクは珍しく早起きをしたんだ。 今日は遅刻出来ないからねー。

いつもは、キリトより起きるのが遅いんだよね。

ここ最近は、早寝早起きしようと頑張っているのさ!

アラームもセットしているしね!

やっぱり、ボクが早く起きると変なのかな~。

今日キリトがボクに驚いていたしね。

「今日はどうしたんだ!? いつもより起きるの早くないか?」ってね。

「今日はたまたまかな。 ハハハ」って言ってごまかしてきたけど……。

これからは、キリトより早く起きないと。

そうだっ!! 朝早くに起きてキリトの為にお弁当を作ってあげればいいんだ!!

そうすれば、一石二鳥だしね。 ナイスアイデア!!

 

「ユウキちゃん。 なに考えこんでいるの?」

 

「なっ、なんでもないよ。 アスナ」

 

「そういえば、お姉さんは?」

 

「姉ちゃんは、今ホームから出たらしいよ」

 

「わかったわ。 じゃあ、ここで待ってる?」

 

「うん。 そうしよう!!」

 

数分後、転移門からこちらにやって来る人影が見えた。 姉ちゃんだ。

 

「おはようございます。 《閃光》のアスナさん。 私はユウキの姉のランと言います。今日は、料理スキル上げを手伝ってくださり、ありがとうございます」

 

「おはようございます。 今日はよろしくお願いします。 あっあと、《閃光》はやめてください」

 

「おはよー。 姉ちゃん」

 

アスナ、姉ちゃんから《閃光》って言われて顔を引き攣らせているよ…。

アスナ自身が《閃光》っていう二つ名好きじゃないらしいしからね。

ボクも自分の二つ名好きじゃないけど……。

 

「じゃあ、行きましょうか?」

 

「はい。 今日はよろしくお願いします」

 

「アスナの私邸へ出発ー!!」

 

 

アスナの部屋にて

 

「じゃあ、作りましょうか?」

 

「はい。 わかりました」

 

「了解ー」

 

うまく作れるかな。 でも、頑張って作らなきゃね!!

 

「じゃあ、C級食材からA級食材にと、順に作っていきましょうか」

 

「「よろしくお願いします」」

 

よしっ!! 頑張るぞー。

 

 

 

10分後。

 

「ランさん。 料理お上手ですねー。 初めてとは思えませんよ」

 

「ありがとう、アスナさん。 でも、私より隣の子を見ていた方がいいかと…」

 

「…………」

 

なんでボクが作ると失敗するの。

アスナ~。 助けて~。

 

「今ユウキちゃんが料理しているのは、C級食材じゃなくてA級食材だよ?!」

 

「えっ……」

 

あっ。 本当だ。

うわー。 これは恥ずかしいな。

穴があったら入りたいレベルだよ…。

 

「この食材から料理すれば成功するからね」

 

「あっ、ありがとう。 アスナ」

 

「ユウキ。 ちゃんと食材を見てから料理していたの?!」

 

「…………」

 

あっ。 それもやってなかった。

でも、久しぶりに姉ちゃんから怒られたな。

 

「そんなに怒らなくても、食材はたくさんあるので」

 

「大丈夫だよ姉ちゃん、次は失敗しないから」

 

「はぁ、分かったわ。 でもちゃんと確認するのよ?」

 

「は、はーい」

 

「次は失敗しちゃダメだからね。 今日ユウキちゃんが作った料理を、キリト君に差し入れするからね」

 

「……えっ」

 

えっ。 ボク聞いてないよ。

じゃあこれから作る料理は、キリトが食べる料理になるんだよね。

ヤバい。 緊張してきた。

でも、差し入れするとは聞いていないような。

確認してみよ。

 

「なんでボクの作る料理を差し入れする事になっているの?」

 

「それは、私がメッセージを送ったからよ。 ユウキ」

 

「?姉ちゃんが?」

 

「そうよ」

 

「えっ……。 でもなんで姉ちゃんがキリトの連絡先知っているの?」

 

なんで姉ちゃん、キリトの連絡先知っているの?

キリトも簡単に教えすぎ…。

ボクの姉だから教えてくれたのかもしれないけどさ。

相談の一つくらいしてもいいじゃん……。 もうっ!! キリトは!!

 

「53層でお食事していた時に教えてもらったのよ。 その時、ユウキは席を外していたわ」

 

「そうなんだ……。 アスナはこの事知っていたの?」

 

「うん。 今日の朝ランさんから聞いたんだ」

 

「2人とも、ボクにこの事秘密にしていたの?」

 

「「そう!!」」

 

「…………」

 

こうなったら、作るしか道はない。

ボクの愛情たっぷりの料理をキリトに食べてもらおう。

 

 

10分後。

 

「でっ、出来た」

 

やったよ。 綺麗にできたよ。 最初のと比べたら5倍くらい違って見えるよ。

この料理なら渡せるレベルだよ。 きっと。

 

「ユウキ、出来たの?」

 

「ユウキちゃん、出来たの?」

 

「うん。 これ見て」

 

「「良く出来ているじゃない!!」」

 

「これなら、大丈夫かな?」

 

これでOKがもらえれば……。

 

「これは喜ぶわよ。 キリトさん」

 

「喜ぶね。 キリト君」

 

「じゃあ、完成」

 

つ、疲れた。 ボス戦と同じ緊張感だったよ……。

 

「じゃあ、次にユウキの話を聞かせてね」

 

「あっ。 私も聞きたいな。ユウキちゃん」

 

「えっ……」

 

え、どういうこと……?

 

「「キリト(君)(さん)の事を聞かせてほしい(な)(わ)!!」」

 

「うん……」

 

やっぱり、こうなるんだ…。

もう、覚悟を決めないと…。

 

「「じゃあ、キリト(君)(さん)の事を好きになった経緯を教えてほしい(な)(わ)!!」」

 

「うん……。 わかった」

 

「「じゃあ、よろしくお願いします!!」」

 

 

「じゃあ話すね。ボクにとっての最初のキリトは≪はじまりの街≫から連れ出してくれた恩人だと思っていたんだよ。 でも、ボクは何があってもキリトの傍を離れないって決めていたんだ。 ボクは何があっても絶対にキリトの味方でいるってね。 アスナも知っているでしょう。 第1層ボス攻略戦の事を。 それから本当に色々な出来事が有ってね。 ボクはこう思うようになったんだ。 キリトの事をずっと隣で支えられる存在になりたいってね。ボクの命をかけても支えるって。 まぁ、ボクもキリトに支えられている部分は有るんだけどね。 それからは、キリトと一緒に行動する事が多くなったかもね。 ボクはキリトと一緒にいると安心するし。 心も落ち着くんだ。 キリトはどう思っているかわからないけどさ。 ボクはキリトと一緒ならどんな困難にも立ち向かえるとも思っている。 この感情を全部知った時に、ボクはキリトの事を“かけがえのない存在”だと。 そしてキリトの事を“好きになったと”自覚したんだ。 これがボクの今の気持ちかな」

 

「「………………」」

 

「どうしたの2人も?」

 

「いや、なんていうか。 ユウキはすごい子だなと」

 

「うん。 ユウキちゃんはすごいね」

 

「そうだろうか?」

 

だって、ボクがやりたい事を実行に移しただけだよ。

 

「「ごめんなさいっ!!」」

 

「ど、どうしたの?」

 

ボク、なんかしちゃったのかな?

 

「こんなに真剣に考えている人に、軽く教えてなんて言っちゃって……」

 

「ええ、私もよ。 ごめんなさい。ユウキ」

 

「大丈夫だよ。 ボクもこの思いを誰かに聞いてもらえて良かったなって思っているからさ」

 

これが今のボクの気持ちだよ。 姉ちゃん、アスナ。

 

「じゃあ、今日はここまでにしましょうか?」

 

「そうですね。 ユウキの真剣な話が聞けたことですし」

 

「そんなに言うと、恥ずかしい言葉を思い出しちゃうよ」

 

本当に恥ずかしいよ……。

今のボクの顔、真っ赤だろうな……。

 

「じゃあ、御暇しますね」

 

「じゃあね、アスナ」

 

「うん、またね。 ランさん、ユウキちゃん」

 

Side out

 

 

 

第61層「セルムブルグ」転移門前

 

 

Side ユウキ ラン

 

「じゃあ、ユウキ元気でね。 ちゃんとお弁当渡すのよ」

 

「うん、わかったよ。 姉ちゃん」

 

「じゃあね、ユウキ」

 

「うん、またね」

 

ボクも第50層に戻らなきゃ。

 

Side out

 

 

 

第50層「アルゲード」主街区

 

「おーい。 キリト」

 

「どうしたんだ、ユウキ?」

 

「これ、今日作ったんだ。 食べてもらってもいいかな?」

 

緊張するな~。

 

「おっ。 弁当か!! うまそうだな!! ユウキの手作りか?!」

 

「うん。 そうだよ」

 

「じゃあ、いただきます」

 

「どう?」

 

「…………」

 

う~。 キリト早く感想頂戴。

キリトはどんな料理でも味わって食べているから、どう思っているのかわからないよ。

 

「うまい。 俺が今まで食べた料理の中で一番うまい!!!」

 

「??本当??」

 

「おう」

 

 

Side ユウキ

 

“俺が今まで食べた料理の中で一番うまい”だって。

やばい!! すごい嬉しいよ!! 人生の中で一番嬉しいかも!!

 

Side out

 

 

 

Side キリト

 

この弁当マジでうまいな。 今度からユウキに作ってもらおうかな?

聞いてみよ。

 

Side out

 

 

「なぁ、ユウキ」

 

「どうしたの、キリト」

 

「今度から、俺に弁当作ってくれ!!」

 

「??いいの??」

 

「おう。 お願いできるか?」

 

「じゃあ、三食全部作ってあげるね」

 

「頼んだ」

 

 

Side ユウキ

 

やった!! やったよ!! ボクがキリトに料理を作って上げられるよ。

しかも三食だよ!! アスナから料理を教わって本当に良かった~~。

本当にありがとう。 アスナ。

 

Side out

 

 

「これ食べたら、攻略に行くか?」

 

「そうしよっか」

 

 

弁当が食べ終わった後、俺達は最前線の迷宮区に向かった。

 




今回は書くの難しかったです。

”姉”出しといて影薄くないか、と思っている方々すいません。

なんか設定がぐだぐだになってしまいました。

申し訳ない。

今後も頑張りますのでよろしくお願いします!!

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第18話≪圏内事件≫

どもっ!!

舞翼です!! 今日のクリスマス(イブ)をボッチで過ごしました(泣)

そんなことよりSAOⅡの最終回、感動でしたね!!

やっぱり、ユウキちゃんには生きていてほしいです。

今回はリアルで少しごたついてしまった為、更新が遅れました。

すいません。

それでは、どうぞ。


第59層「ダナク」

 

 

今日は此処、アインクラッドでの最高の季節の、更に最高の気象設定。

アインクラッドの四季は現実と同期している為、夏は毎日暑いし、冬は毎日寒い。

天候なんて攻略組の俺達にとっては、関係のないことだ。

だが、俺は今日の攻略は休むと決めていた。

今日は一年を通しても5日もあるまい、最良の気候設定だ。

こんな日に薄暗い迷宮に潜るなんて勿体無い。

だから俺は誰に何と言われようとも攻略を休むと決めていた。

そうだ! 隣に居るユウキにも教えてやろう。

 

「なぁ。 ユウキ」

 

「どうしたの? キリト」

 

「今日は、アインクラッド最良の気象設定なんだ。 今日は、攻略を休んであそこの草原で昼寝でもしないか?」

 

「うん! いいね! ボクもお昼寝したい!! あと、もしボクが眠っても寝顔は見ないでね。いい!?」

 

「わっ…わかった」

 

 

圏内町外れの草原にて

 

 

俺達は、木の陰で寝転んでいた。

横になると、今日は最高の気象設定ということが本当によくわかる。

そしてこの場所は、昼寝をするのに最適な場所だ。

隣で横になっているユウキも、同じ事を考えているのだろうか?

ヤバい。 眠くなってきた……。

 

 

「本当にいい天気だね。 キリト」

 

「だな。 眠くなってきたよ」

 

「……ボクも」

 

俺は、隣で寝ころがっているユウキを見た。

 

「お~い。 寝てるしこいつ、熟睡してるよ。……俺も寝るかな」

 

 

Side キリト

 

俺は索敵スキルによる接近警報をセットし熟睡はしないように眠りに就くことにした。

今、俺達が寝ている、第59層「ダナク」町外れの草原は≪圏内≫(・・)だ。

正確には《アンチクリミナルコード有効圏内》。

圏内ではプレイヤーを攻撃してもHPが減ることはない。

だから、圏内では一切の直接的犯罪行為は出来ない。

だが、これには抜け道がある。 それはプレイヤーが熟睡(・・)しているとき。

そこを狙って≪完全決着モード≫(・・・・・・・)のデュエルを申し込み、寝ている相手の指を勝手に動かしてOKボタンをクリックさせ、後は一方的に攻撃する。

実際こうした犯罪が≪殺人者≫(レッド)によって起きているのだ。

俺はこのような事態が起こらないように、こいつが起きるまでガードすることにした。

それに昼寝をしようと誘ったのは俺だしな……。

まさか熟睡(・・)するとは思わなかったが…。

やっぱりこいつ(ユウキ)の寝ている姿を見ていると“愛おしい”と思えるな。

俺、いまなんて言った……? てか、“愛おしい”って“好き”って意味だよな???

俺は何時からこいつの事を“好き”になっていたんだ。

でも、この感情にはフタをしよう。 今は攻略の大事な時期だし。

この気持ちは胸の中にしまって置こう。

 

Side out

 

 

8時間後

 

「……くしゅん」

 

「起きたか? お前、熟睡していたぞ」

 

「???寝顔見た???」

 

「…………」

 

開き直るしか道はない。 正直に答えないと後が怖いからな。

 

「見たんだ!!??」

 

「見たぞ。 可愛い寝顔だったぞ」

 

「ボクが可愛い……?」

 

「おう。 可愛かったぞ」

 

 

Side ユウキ

 

キリトに可愛いって言われた。

キリトってボクのことを、何時も可愛いと思ってくれているのかな?

聞いてみよう。

 

Side out

 

 

「キリトって、何時もボクのこと可愛いと思っているの???」

 

「そうだな。 俺はお前のことを可愛いとも思っているし。 美少女だとも思っているよ」

 

「…………」

 

どうしたんだ? なんで顔を赤くしているんだ?

 

「……そういえば、キリトお腹空いてない?」

 

なぜ、急に話を変えたんだ?

まぁ、いいか。

 

「じゃあ、57層のNPCレストランに行こうぜ」

 

「……わかった」

 

 

 

第57層「マーテン」NPCレストラン

 

「…………」

 

なんで一言も話さない?

 

「どうしたんだ、ユウキ。一言も話さないで?」

 

 

Side ユウキ

 

キリトの事をいつもより意識しちゃって、話す言葉が見つからないんだよ…。

なんで気付かないの。 キリトのバカ……。

ボクは、キリトのことを好きになった男性として見ている。

じゃあキリトは、ボクのことをどのように見ているのかな?

キリトの心を支えている相棒?? いつも傍に居る女性プレイヤー??

それともキリトには必要不可欠な存在??

この中に答えがあるのだろうか? 勇気を出して聞いてみよう。 頑張れボク。

 

Side out

 

 

「ねぇ。 キリト」

 

「どうした、ユウキ?」

 

「キリトって、ボクのk『きぁぁぁぁぁぁぁ!!!』」

 

「店の外だ!! 行くぞ。ユウキ!!」

 

「わかった!!」

 

俺たちは、椅子が倒れる程勢いよく立ち上がり急いで悲鳴の上がった方へ向かった。

俺達2人が見たものは、教会から首を吊るす形で、ぶら下がっている男性プレイヤー。

男の胸には、1本の短槍(ショートスピア)が深々と突き刺さっていた。

その間にも、胸の傷口からは、赤いエフェクト光が噴き出ている。

それはつまり、この瞬間も男のHPに連続的ダメージが生じている。

あれは《貫通継続ダメージ》。

なぜ≪圏内≫(・・)の“街の中”でHPが減少しているんだ?

今は、こんなこと考えている暇は無い。

 

「はやくその槍を抜け!!」

 

なぜ、分厚い鎧を装備しているんだ?

なんで顔が見えないようにヘルメットを被っているんだ?

今は、こんなこと考えている場合じゃない。

このままだと、男が死んでしまう。 早くロープを切らないと。

 

「ユウキはロープを切りに教会の二階に向かってくれ!!」

 

「わかった!!」

 

「俺は下で男を受け止める」

 

 

だが俺達が会話をした後すぐに、男性プレイヤーはポリゴンを四散してしまった。

これがデュエルの≪完全決着モード≫(・・・・・・・)なら、ウィナー表示がどこかに大きく表示されるはず。

デュエルには《初撃決着モード》《半減決着モード》《完全決着モード》がある。

それに、デュエルだとしたらウィナー表示が、どこかに表示されるはずだ。

俺は辺りを確認したが、“街の中”には表示が無い。

だとしたら、教会の中にあるのか?

なら、教会の内部からユウキがウィナー表示を見ているはずだ。

俺は、二階の窓から外を見ているユウキに声をかけた。

 

「ユウキ!! ウィナー表示は教会の中にあったか!!」

 

「ダメだったよ!! 教会の中にもウィナー表示は無かったよ!!」

 

「ダメだ。 30秒たった……」

 

30秒。 それがデュエルのウィナー表示が消滅する時間。

30秒経ってしまったのでPKを行った人物を特定する事が出来なくなった。

このような事を考えていたら、ユウキが教会の玄関から現れ俺に声をかけてきた。

 

≪圏内≫(・・)でHPにダメージを与えるには、デュエルを申し込んで、承諾されることだけだよね…?」

 

「ああ、確かにHPを減らすにはデュエルしかないよな。 でも俺は“何らかのトリックが仕組まれた”と予想している。 でも、必要な手がかりが無くなってしまったんだよな…」

 

「でも、このままという訳にはいかないよね……?」

 

「ああ……」

 

確かに、このまま放置しておくのは危険すぎる。 しかも“街の中”で起きた事だ。

攻略が遅れてしまうが、これは調べる必要がありそうだな。

 

「攻略が遅れてしまうが、この事件を調査しよう。 付き合ってもらえるか?」

 

「うん。 協力するよ」

 

こうして、俺とユウキのコンビ探偵が結成された。

 




キリト君が思いを書けました。

途中で思いが爆発しなければ良いんですけどね(汗)

もうトリックがあると考えてるキリト君(笑)

圏内事件は、アスナのインパクトが強いですね(笑)

今回はキリト君メインかもですね。

すいません。

今回も面白く書けているか不安です(汗)

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!



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第19話≪調査開始≫

どもっ!!

舞翼です!!

クリスマス終わっちゃいましたね。

僕はボッチで過ごしましたけどね…。

クリスマスなんて嫌いだー。

まー、細かいことは置いといて。

書きあげました。

それでは、どうぞ。


俺は残っていた、ロープと短槍(ショートスピア)を《証拠物件》として回収し、アイテムストレージへ収納した。

俺は、こちらを注視している野次馬(やじうま)たちに手を挙げてから大きな声で呼びかけた。

 

「すまない。さっきの一件を最初から見ていた人、いたら話を聞かせてほしい!」

 

これだけの人数だ。 この事件で何かを目撃した人物がいるはずだ。

数秒後、おずおずという感じで人垣(ひとがき)から一人の女性プレイヤーが進み出てきた。

女性プレイヤーだ。 女性プレイヤーの装備からしておそらく中層からの観光組だろう。

此処の層は大規模な街で、観光客やプレイヤーで(にぎ)わいを見せているからな。

 

「早速なんだが、話を聞かせてくれないか?? “いでっ”!!」

 

ユウキさん、 頭を叩かなくても。 痛いですよ……。

 

「キリトはデリカシーが無さすぎ。 この子怖がっているのに!!」

 

「……ごめんなさい」

 

確かに今の発言はデリカシーが欠けていたな。

女性プレイヤーさん、ごめんなさい……。

今度、質問する時には気を付けないと。

 

「ごめんね、怖い思いしたばっかりなのに。 この黒い人が失礼なことをしちゃって。 あなたのお名前は?」

 

「あ、あの私《ヨルコ》っていいます」

 

「もしかして、さっきの最初の悲鳴も、君が?」

 

今度は大丈夫だよな…。

 

「は、はい。 私、さっき殺された人と、友達だったんです。 今日は一緒にご飯を食べに来て、でもこの広場ではぐれちゃって。……それで……、そしたら……」

 

今度の質問は大丈夫だったな。 でもここからの質問はユウキに任せよう。

ユウキは近くにあった、ベンチに腰を下ろさせ自分も隣に座る。

俺は彼女達から、やや離れたところに立ち彼女が落ち着くのを待った。

友人がPKされてしまったんだ。 彼女には、相当ショックな出来事だろう。

 

 

side ユウキ

 

「大丈夫?? ボクはいつまでも待つから、落ち着いたらゆっくり話してくれればいいからね?」

 

「はい……。 も、もう大丈夫、ですから」

 

「あそこで立っている人を呼んでも大丈夫?」

 

「はい……。 大丈夫です」

 

Side out

 

 

ユウキからお呼びがかかった。 話を聞きに行こう。

俺は、2人が座っているベンチに足を進めた。

 

「あの人……。 名前は《カインズ》っていいます。 昔、同じギルドにいたことがあって…。 今でも、たまにパーティー組んだり、お食事をしたりしていました……。 今日はこの街まで晩ご飯を食べにきて……」

 

彼女は一度目を瞑ってから、震えが残る声で言葉を続ける。

 

「……でも、あんまり人が多くて、広場で彼を見失っちゃって……。 周りを見回したら、いきなり教会から……。 《カインズ》が宙づりに……。 しかも、胸に、槍が」

 

「その時、誰か見なかったか?」

 

「……一瞬、なんですが、《カインズ》の後ろに、誰か立っていたような気が……、しました……」

 

 

side キリト

 

やはり犯人は、あの教会の部屋の中にいたのか?

なら、その犯人の計画的犯行か?

やはり“何らかのトリック”が仕組まれていたのか?

もう少し、話を聞いてみよう。

 

side out

 

 

「その人影に見覚えはあったか?」

 

「……わかりません」

 

「その……。 嫌なこと聞くようだけど、心当たりはあるかな……? 《カインズ》さんが、誰かに狙われる理由に……」

 

「おいっユウキ。 聞きすぎだ……」

 

「ごめん……」

 

もし、圏内PKだとしたらアインクラッド全土のオレンジプレイヤーが容疑者候補になる。

その中からの人物特定は不可能に近い。

俺達は、ヨルコさんを一人で帰らせるのは危険と考えた為、下層の宿屋まで送ることにした。

 

「すいません。 宿まで送ってもらっちゃって…」

 

「気にしないで。 またボク達にお話を聞かせてね」

 

「はい……」

 

 

 

第57層「マーテン」主街区

 

 

「さて、これからどうする?」

 

「そうだね。 まずは、手持ちの情報を検証だね。 特にロープとスピアをだね」

 

「だな。 出所が分かれば、そこから犯人を追えるかもしれない」

 

「でも、検証となると鑑定(かんてい)スキルが必要になるね」

 

「ユウキのフレンドにアテは……」

 

「まえに、アスナに紹介してもらった鍛冶屋の《リズベット》って子が鑑定スキル持っていたはず。 だけど今は一番忙しい時間だし……」

 

確かに今頃は、一日の冒険を終えたプレイヤーが装備のメンテや新調に殺到する時間帯だな。

 

「じゃあ、エギルに頼むか?!」

 

「えっ、雑貨屋も今は忙しい時間帯じゃ」

 

「知らん」

 

俺は容赦なく送信ボタンを押しメッセージを飛ばした。

 

 

第50層「アルゲード」主街区

 

俺達は第50層にある、エギルの店の前に到着した。

 

「よし。 ぼったくり商人のところに行くか」

 

「はーい」

 

 

エギルの店にて

 

「うーっす。 来たぞ」

 

「……客じゃない奴に《いらっしゃいませ》は言わん」

 

「あのなぁ、キリトよ。 商売人の渡世は一に信用、二に信用、三、四が無くて五で荒稼ぎ……」

 

「こんばんは、エギルさん。 前回のボス戦以来ですね。 実は協力してもらい事があって」

 

「任せな!! ユウキちゃんの頼みなら協力する!!」

 

どんな男でもこうなるよな。

ユウキは美少女だし。

上目使いをされてのお願いだしな。

それとも男が単純なのか?

まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。

俺達は、今日起きた出来事をエギルに説明した。

ここは、エギルの雑貨屋の二階の部屋だ。

 

「圏内でHPがゼロになった、だとぉ!! デュエルじゃないのか?」

 

「誰もウィナー表示を見ていないんだ。デュエルなら何処かに表示されるはずだ」

 

「それに直前までヨルコさんと歩いていたら、睡眠PKの線は無くなるよね」

 

確かにユウキにいうとおりだ。 睡眠PKの線は消えたといっていい。

 

「そこで……、こいつだ」

 

俺はウインドウを開きアイテムストレージからロープとスピアを実体化させた。

それをエギルに手渡し、エギルはウインドウを出現させ《鑑定スキル》を使った。

 

「残念ながら、ロープはNPCショップで売っている汎用品(はんようひん)だ。 ランクもそう高くない。 耐久度は半分近く減っているな」

 

「ロープには期待していなかったさ。 次が本命だ」

 

この武器がプレイヤーメイドなら犯人に繋がる手がかりが出来るはずだ。

エギルは顔を苦くしながら鑑定スキルを使った。

 

「PCメイドだ」

 

「エギルさん。 作った人の名前はわかる?」

 

「《グリムロック》……。 綴りは《Grimlock》聞いたことねぇな。 少なくても一線級の刀匠(とうしょう)じゃねぇな」

 

「でも、ボク達で探すことは可能なはずだよ」

 

「ああ、そうだな」

 

この事件は俺達で何とかしないと。 いちおう武器の固有名も教えてもらうか。

 

「武器の固有名はなんていう名前だ?」

 

「えーと……。 《ギルティーソーン》となっているな。 罪のイバラってとこか」

 

俺はエギルから武器を受け取りもう一つの事を試してみる事にした。

 

「あともう一つ……、試してみるか」

 

俺は手に向かって武器を振り降ろそうとしたのだが、誰かに止められてしまった。

 

 

“ガシっ!!!”

 

 

「だめ!!!!!!」

 

「何だよ、ユウキ。いきなり手を止めて???」

 

「『何だよ』じゃないよ……。 キリトはなんでいつも自分を犠牲にしようとするの!!」

 

「でも、試してm「だめ!!」」

 

「キリトは自分を大切にして。 それにボクにとってのキリトは……、なんでもない…」

 

「わ、わかった。 この武器はアイテムストレージに収納するよ」

 

あいつ、なんて言おうとしたんだ???

 

「……おまえは、ユウキちゃんのことを考えて行動しろよ。 いいな?」

 

「わかったよ」

 

なんで、こいつの事を考えて行動しなければいけないんだ???

でも、心配をかけないようにしよう。

 

 

俺達の調査は始まったばかりだ。




上手く書けたかな~?

最近ユウキちゃんの影が薄い気もするんですよね…。

どうしよう…。


そこら辺は今から考えます。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第20話≪黄金林檎≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回は説明回になりそうです。

ごめんなさい。

頑張って書きました。

もしかしたら駄文になったかも(汗)

それでは、どうぞ。


第57層「マーテン」NPCレストラン

 

翌日、俺達は昨日の話をもう一度聞かせてもらうため、昨日夕飯を食べ損ねたNPCレストランの一番奥の席に座っていた。

ここ席から玄関までの距離はかなりある。

ここの席からなら大声を出さないかぎり、話声は聞こえないはずだ。

 

「ねぇ、ヨルコさん。この名前に聞き覚えはある? 一人は、たぶん鍛冶職人で《グリムロック》。 そしてもう一人は、槍使いで《シュミット》」

 

ユウキの言葉によって、俯けられていたヨルコさんの顔が、ぴくりと震えた。

やがて、ゆっくりと頷いた。

 

「……はい、知っています。昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」

 

「ボク達は昨日、犯行に使われた短槍(ショートスピア)を鑑定してもらったんだ。 作成者が《グリムロック》だったからね。 何か心当たりとか、思い当たることはないかなと?」

 

すぐには、答えは返ってこなかった。長い沈黙を続けたあと、ゆっくりと頷いた。

 

「……はい……、あります。 昨日、お話しできなくて、すみませんでした……。私たちのギルドはある“出来事”……そのせいで、消滅したんです」

 

ギルドの名前は≪黄金林檎≫(おうごんりんご)

半年前、一度も見た事のないモンスターを討伐したら、そのモンスターからのドロップ品が出た。

そのアイテムは敏捷力が20上がる指輪だった。

このアイテムは、ギルドで使う意見と、売った儲けを分配しようという意見に割れた。

なので多数決を取った。

結果は《3対5》で売却することになったのだ。

ギルドリーダーは前線の大きい競売屋(オークショニア)に委託することに決めたのだ。 リーダーは前線に一泊する予定で出かけたが……リーダーは、帰ってこなかった。

メンバー達は嫌な予感がして、何人かで《生命の碑》を確認をしたが、リーダーの名前の上に横線が入っていたのだ。

つまり、黄金林檎のリーダーは亡くなっていたことになる。

 

「グリセルダさんの『死』を知ったのはグリセルダさんが前線に行った、夜中でした。死亡理由は、貫通属性ダメージです……」

 

黄金林檎のリーダーの名前は《グリセルダ》という名前らしい。

 

「そんなレアアイテムを抱えて圏外出るはずがないよな……。 考えられるのは」

 

「睡眠PKだね」

 

ここまで、静かに聞いていたユウキが静かに呟いた。

だが、睡眠PKの線は無いはずだ…。 この犯行は、偶然に起きた出来事なのか…?

俺が考えついた事を話そう。

 

「ああ、ただ偶然とは考えにくいな。 リーダーのグリセルダさんを狙ったのは、指輪のことを知っていた人物……。 つまり……」

 

「黄金林檎の残り7人の誰かと言うこと?」

 

ユウキはこのような言葉を発した。

 

「ギルド黄金林檎の7人の中の誰か? 私たちも当然そう考えました。 なので、(みんな)が皆を疑う状況になり……、結果としてギルドが崩壊しました」

 

「ひとつ教えてほしい。 そのレア指輪の売却に反対した3人の名前は……?」

 

これは、重要な手掛かりになるかもしれない。

 

「カインズ、シュミット………。 そして、私です。 ただ私の反対理由は、彼らとは少し違いました。 私は……、当時、カインズと付き合い始めていたからです。 ギルド全体の利益よりも、彼氏への気兼ねを優先しちゃったんです。 バカですよね」

 

「ねぇ、ヨルコさん。 カインズさんと、ギルド解散後もお付き合いをしていたの?」

 

「……解散と同時に、自然消滅しちゃいました。 たまに会って近況報告するくらいで……、長く一緒にいればどうしても指輪事件のことを思い出しちゃいますから。 昨日もそんな感じで、ご飯だけの予定だったんですけど……。 その前に、あんなことに……」

 

「ごめんね……。 ボク達の質問で辛いこと色々聞いちゃって」

 

ヨルコさんは短くかぶりを振る。

 

「いえ、いいんです。 それで……、グリムロックですけど……」

 

んっ、なんでいまになってグリムロックの名前が出てくるんだ?

 

「彼は黄金林檎のサブリーダーでした。 同時に、ギルドリーダーの“旦那”でもありました」

 

「リーダーのグリセルダさんは、女の人だったのか?」

 

「ええ。 とっても強い。と言ってもあくまで中層レベルでの話ですけど……。 強い片手剣士で、美人で、頭もよくて……、私はすごく憧れていました。 だから……、今でも信じられないんです。 あのリーダーが、睡眠PKなんて粗雑な手段で殺されちゃうなんて……」

 

「じゃあ、グリムロックさんも相当ショックだったのだろうね」

 

ユウキの言葉に、ヨルコさんはぶるっと身体を震わせた。

 

「はい。 それまでは、いつもニコニコしている優しい鍛冶屋さんだったんですけど……事件直後からは、とっても荒んだ感じになっちゃって……。 ギルド解散後は誰とも連絡取らなくなって、今はどこにいるかも判らないです」

 

「最後に一つだけ教えてほしい。 昨日の事件……、カインズを殺したのがグリムロック、という可能性は、あると思うか?」

 

「その可能性があるとしたら、あの人は指輪売却に反対した3人、つまりカインズとシュミット、それに私を全員殺すつもりなのかもしれません……」

 

次のターゲットは、ヨルコさんかシュミットなのか!?

俺達はこの事件が解決するまで宿屋を出ないようにと念を押すように言った。

もし、さっき聞いた情報が本当なら、指輪売却に反対した彼女が非常に危険な状況にあるからだ。

 

 

 

 

第50層「アルゲード」主街区

 

「キリトはこの圏内殺人事件どう見る?」

 

「ああ、俺は大まかに三通りの考えがある。まず一つ目は、正当な圏内デュエルによるもの。 二つ目は、既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道。 そして三つ目は、アンチクリミナルコードを無効化する未知のスキル、あるいはアイテム。 でもここまでしか出てこないんだ。 そういえば、ユウキってアスナと仲良いよな?」

 

「うん。 ボクとアスナは親友だからね!!」

 

「そこで頼みがある。 アスナに連絡してある“人物”を呼び出してくれと頼んでくれないか」

 

「多分大丈夫だと思うけど、ある“人物”って???」

 

「血盟騎士団団長《ヒースクリフ》」

 

あいつなら、何でも知っていそうだからな。

 

「えっ!!」

 

まぁー、驚くよな。 ギルドの団長を呼び出すんだから。

 

「メッセージ飛ばしてみるね」

 

「おう。 頼んだ」

 

5分後。

 

「大丈夫だってよ!! あと『団長との会合セッティングはキリト君がやってね。』だって」

 

「了解した」

 

 

俺達は血盟騎士団、団長《ヒースクリフ》と会合することなった。

 




ユウキちゃんの影が薄くなってしまいました(汗)

すいません。

次からはたくさん出したいと思います。

それに駄文になっていないか不安です。

ご意見、ご感想、お願いします!!


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第21話≪ヒースクリフとの会合≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回の投稿はめちゃくちゃ不安です(汗)

これは、駄文になった可能性大ですね(汗)

読んでいただければ嬉しいです。

それでは、どうぞ。


第50層「アルゲード」主街区

 

ユウキがアスナに連絡してから1時間後に本当に“その男”が現れたのには実のところ少々驚いた。 まさか本当に来てくれたとは…。

男の姿を見た途端、第50層「アルゲード」転移門に居たプレイヤーたちが激しくざわめいた。

暗赤色のローブの背にホワイトブロンドの長髪を束ねて流し、腰にも一切の武器を持たない男。

《血盟騎士団》のリーダーにしてアインクラッド最強の剣士、《ヒースクリフ》は俺達を見つけこちらに近づいてきた。

 

 

「ユウキは、アスナと少し話をしてきてもいいぞ。 俺はここで少し、ヒースクリフと話をしているから」

 

「いいの???」

 

「おう。 いいぞ」

 

「ありがとう!! キリト!!」

 

親友のアスナとの再会だ、積もる話もあるだろう。

お前は何時も頑張ってくれているからな、息抜きも必要だろう。

 

 

第50層「アルゲード」転移門前

 

 

Side ユウキ

 

周りのプレイヤーたちが、ボクとアスナ見て激しくざわめいているが、

そんなことは関係ない。 ボクは早くアスナとお話しがしたいんだ。

アスナがボクに気付いて手を振ってくれている。

 

「アスナ、久しぶり」

 

「久しぶり、ユウキちゃん。 元気にしていた?」

 

「うん!! 元気100倍だよ!! アスナも元気にしていた?」

 

「うん、元気にしていたよ。 ところで団長を呼び出してまで、どうしたの?」

 

ボクはアスナにしか聞こえないボリュームで事件のことを大雑把に説明した。

 

「じゃあ、その事件のことをキリト君と一緒に調査をしているんだ」

 

「うん。 詳しいことは、これからNPCレストランでキリトが話すと思う。 あと、キリトが『俺はここでヒースクリフと、少し話をしているからユウキは転移門の前まで行ってアスナと話しをしてきていいぞ』って言ってくれたんだ。 たぶん、ボク達が少しでも話が出来るように気を使ってくれたんだと思う。 ボクはアスナと会える機会があまり無いからね。 このことはキリトも知っているし。 キリトは、人のことになると鋭いのに自分のことになると鈍いだよね。 まぁ、そこがキリトらしいけどさ」

 

「ユウキちゃんは、キリト君のこと何でも知っているんだね」

 

「まぁ、そうだね。 ボクとキリトは、第1層からの付き合いだしね。 これくらいの事はすぐわかるよ」

 

「じゃあ、少しだけ話そうか?」

 

「うん!! そうしよう!!」

 

ボク達はキリトが呼びに来るまでガールズトークに花を咲かせた。

 

Side out

 

 

Side キリト

 

「急な呼び出しに応じてくれて助かったよ、ヒースクリフ。 聞きたいことがあってな、今からNPCレストランに行くんだが……。 そこで話してもいいか?」

 

「ちょうど、私も昼食にしようと思っていたところだ。《黒の剣士》キリト君にご馳走してもらえる機会など、そうそうあろうとも思えないしな。 夕方から打ち合わせが入っているがそれまでなら付き合える」

 

「助かるよ、実は相談したいことがあってな。 あんたの知恵を借りたいんだ」

 

「それはどのようなことなのかな?」

 

「詳しくはNPCレストランで話すよ。 それでいいか?」

 

やはり、この男のは内心は読みづらい。

いつも、この男は何を考えているんだ……?

 

「かまわんよ。 話は変わるがキリト君、ユウキくんをアスナくんのところに行かせたのは二人の為に、なのかな?」

 

「まぁ、そうだ。 あいつらは会える機会が少ないからな。 それに二人とも息抜きが必要だしな。 あと少し経ったら、呼び戻してくるよ」

 

 

Side out

 

 

「そろそろいいか?」

 

「じゃあ、また今度話しましょ。ユウキちゃん」

 

「うん。 わかった。じゃあNPCレストランに行こう」

 

キリト。 ボクとアスナの為に話せる時間を作ってくれてありがとう。

 

「じゃあ、行くか。 ヒースクリフも待っているしな」

 

俺が案内したNPCレストランは、ここ「アルゲード」でもっとも胡散(うさん)臭い、謎のメシ屋だ。

俺もここのメシ屋の味が気に入っているわけではないが……。

ただ、ここのメシを食べた“三人”の反応を見てみたい。

 

 

 

第50層 NPCレストラン

 

ここの店の中には客が一人もいない。 まさに無人のNPCレストランだった。

とりあえず、安っぽい木で、できていた椅子に4人は腰をかける。

《アルゲードそば》を四つ注文し、本題に移る。

俺は、圏内殺人事件のことを詳細にヒースクリフとアスナに説明した。

ヒースクリフは表情一つ変えずに俺の話を聞いていた。

 

「今、話したことが事件の詳細だ。 あんたはどう見る?」

 

「まずは、キリト君の考えを聞こうじゃないか。 この事件、キリト君はどう見ているのかな?」

 

「俺の考えた可能性は三つだ。 一つ目は、正当な圏内デュエルによるもの。 二つ目は、既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道。 三つ目は、アンチクリミナルコードを無効化する未知のスキル、あるいはアイテム」

 

「三つ目の考えは除外してもよい」

 

「断言しますね。 ヒースクリフさん」とユウキが言い、

 

「……断言しますね。 団長」とアスナが言った。

 

「想像したまえ。 もし君らがこのゲームの開発者なら、そのようなスキルや武器を設定するかね?」

 

「……しないだろうな」と俺。

 

「何故そう思ったのかな、キリト君」

 

「フェアじゃないからさ。 だが一つだけ、あんたの“ユニークスキル”《神聖剣》を除いてだがな」

 

ヒースクリフが俺とユウキに向けて微笑した。

まさかとは思うが…“あのスキル”の事がばれているのか?

それに、“あのスキル”の事は、ユウキと俺が秘密にしていることだ。

知っているはずが無い。 とりあえず、話を戻さないと。

 

 

「とりあえず、三つ目は除外だな。 残るは、一つ目と二つ目の可能性になるが…。 でも俺達は、一つ目の可能性は無いと考えている……。 そもそも、ウィナー表示が何処にも無かったんだ、教会の内部にも表示が無かった。 それに、あの殺人は誰かが仕組んだようにも見えた。 あの短槍(ショートスピア)は圏内でのPKに“見せかける“為に、必要だったんじゃないかと、俺達は予想しているんだ。 もし、圏内デュエルだった場合は俺達のどちらかに絶対に鉢合わせるはずだ。 だから一つ目の可能性は無いはずだ」

 

「じゃあ、ボク達に残された可能性は二つ目の《システム上の抜け道》だね」

 

「ああ、そうなるな」

 

「おまち」

 

NPCレストランの店主は四角いお盆から白いドンブリを四つテーブルに移した。

 

「なんなの、この料理? ラーメンなの?」

 

「ボクも見たことない料理だよ。 でも、ラーメンに似ているよね…」

 

「これは、ラーメンに似た何か」

 

俺達は『ラーメンに似た何か』を無言ですすり続けた。

もちろんヒースクリフも入っている。

 

「……で、団長どのは、何か閃いたことはあるかい?」

 

ヒースクリフはスープまで飲み干しドンブリを置いた。

 

「……これはラーメンではない。 断じて違う」

 

「俺もそう思うよ」

 

「では、この偽ラーメンの味のぶんだけ答えよう。 現時点の材料だけで《何が起きたのか》を断定することはできない。 だが、これだけは言える。いいかね……。 この事件に関して絶対確実と言えるのは、君らがその目で見て、その耳で聞いた、一次情報だけだ」

 

「???どういう意味なのヒースクリフさん???」

 

「つまり、こういうことだよ。 アインクラッドに於いて直接見聞きするものはすべて、

コードに置換(ちかん)可能なデジタルデータであるということだよ。 そこに、幻覚幻聴(げんかくげんちょう)は入り込む余地は無い。 逆に言えば、デジタルデータではないあらゆる情報には、常に幻や欺瞞(ぎまん)である可能性が内包(ないほう)される。 簡単にいえば、この殺人……、《圏内殺人》を追いかけるならば、目と耳、つまるところの己の脳がダイレクトに受け取ったデータを信じることだ」

 

確かに。 いまの材料は短槍(ショートスピア)だけだからな。

だけど、材料以降の話の内容は俺にもさっぱりわからん。

ヒースクリフは俺に「キリト君、ごちそうさま」と伝え店を出て行った。

今、俺達がいる場所はNPCレストランの玄関から少し歩いて見つけたベンチに座っている。

 

「お前ら、ヒースクリフが話していた言葉の意味、分かったか?」

 

「ボクは全然わからなかった」

 

「キリト君、ユウキちゃん、こういう意味だよ。 伝聞(でんぶん)の二次情報を鵜呑みするなってこと。 この件では言えば、つまり動機面……、ギルド・黄金林檎のレア指輪の話のことだと思うよ」

 

「なるほど。 でもそうしたら、ヨルコさんを疑うことになってしまうよな…。 ヨルコさんを疑いたくはないが……。 まだ判断材料が必要だな。 当分は判断材料集めになるな。 あともう一人の“関係者”に話を聞きに行こう。 当分は聞きこみになるけど、大丈夫かユウキ?」

 

「大丈夫だよ。 それに、この事件はボク達で解決しないとね」

 

「二人とも、調査がんばってね」

 

「おう」

 

「任せといて、アスナ」

 

 

第50層「アルゲード」転移門前 

 

 

Side ユウキ アスナ

 

 

「ねぇ、ユウキちゃん。 さっきの『ラーメンに似た何か』は醤油が足りなかったからあんなに(わび)しい味になったと思うんだ。 だから時間が空いたときに醤油を一緒に作ってみない?」

 

「いいね。 姉ちゃんも呼んで作らない?」

 

「うん。 いいよ。じゃあ、ユウキちゃんはお姉さんに連絡よろしくね」

 

「うん。 後で姉ちゃんにメッセージ送っとくよ」

 

「よろしくね。 ユウキちゃん」

 

「了解したよ。 アスナ」

 

 

Side out

 

 

「じゃあ、またね。 キリト君、ユウキちゃん」

 

「おう。 またな」

 

「またね。 アスナ」

 

このような会話をしたあと、アスナは第55層「グランザム」に戻った。

 

 

side ユウキ キリト

 

「よし、調査再開だ」

 

「了解ー」

 

side out

 

 

俺達の調査はまだ続くのであった。




圏内事件は書くのが難しい!!

今回は書くのすごい難しかったです。

もし駄文になっていたらごめんなさい。

次回は話が分かりやすくなるようにに頑張ります。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第22話≪第二の圏内事件≫

ども!!

舞翼です!!

圏内事件は書くの難しいですね(汗)

あと、お気に入りにいれてくれた方々に感謝感謝です!!

頑張って書きました。

それでは、どうぞ。


第56層 聖竜連合(Divine Dragons Alliance略称DDA)ギルド本部前

俺達は、ヒーフクリフとの会合の後、聖竜連合のギルド本部が有る層までやってきていた。

 

「ねぇ、キリト。 シュミットさんが狩りに行っていたらどうするの?」

 

「居なければ、また出直そう。 だがシュミットは本部から出ていないはずだ。 シュミットは《指輪売却反対派》の一人だっただろ。 つまりだ。 ヨルコさんの話を信じるなら、今のシュミットは殺されたカインズと同じ立場にいるということさ。 自分が危険な状況なのに、わざわざ圏外に出て行くことはしないだろな」

 

「確かに。 そうだね」

 

「それに、俺は一度、シュミットに会っているんだ。 確か、第50層で一人で買い物をしていた時だ。 その時に第57層で起きた圏内PK騒ぎの事を聞かれたよ。 証拠品の槍もその時盗まれたな…。 もしかしたら、グリムロックが作った武器は圏内で人を殺害できる代物だと思ったから誰にも触らせないように盗んだのかもな」

 

この出来事はユウキに言って無かった気が……。

 

「そんなことがあったんだ。 なんでボクに教えてくれなかったのかな?」

 

ユウキさん、怖いですよ……。

 

「……ごめん。 言うの忘れてた」

 

「まぁ、いいけどさ。 今度からは絶対にボクに相談するように! いい!?」

 

「はい。 わかりました……」

 

俺達はこの後、シュミットとコンタクトを取ることに成功した。

彼は、ギルド《黄金林檎》の指輪事件の事を話すと、過剰反応を見せた。

そしてヨルコさんに会いたいと言ったので、俺達はシュミットと一緒にヨルコさんが居る第57層「マーテン」の宿屋に足を運んだ。

 

 

第57層「マーテン」

 

俺達は、ヨルコさんの借りている宿屋に集まっていた。

久しぶりに対面したからなのか、二人とも無言のまま、時間が過ぎていく。

先に言葉を発したのは、ヨルコさんだった。

 

「……久しぶり、シュミット」

 

「……ああ。 もう二度と会わないだろうと思っていたけどな」

 

やはり、部屋の中の空気が重いな。

 

「……カインズが圏内で殺害されたのは、本当なのか……?」

 

「ええ……本当のことよ……」

 

やはり、ヨルコさん本人の口から事実確認がしたかったのか…。

だが、この言葉を聞いてシュミットは自身が座っていた椅子が倒れる程勢いよく立ち上がった。

そして叫ぶように言葉を発した。

 

 

「……冗談じゃない!! なんで、カインズが殺されるんだ!? もしかして殺した犯人は、グリムロックなのか?  殺害に使われていた武器はグリムロックが作成した物…。 グリムロックは、指輪売却反対派、全員殺そうとしているんじゃないのか…!? じゃあ、オレやお前もターゲットにされているのか…!?」

 

「まだ、グリムロックさんがカインズを殺したと決まっていないわ。 彼に槍を作ってもらった他のメンバーかもしれないし、もしかしたら…黄金林檎のリーダー、グリセルダさんの復讐かもね……」

 

ヨルコさんはゆっくり立ち上がり一歩右に動いた。

 

「私、ゆうべ、寝ないで考えた。 結局のところ、グリセルダさんを殺したのは、ギルドメンバーの誰かであると同時に、メンバー全員でもあるのよ。 あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでグリセルダさんに、任せればよかったんだわ!!」

 

シュミットは体を小刻みに震わせている。

だが、ヨルコさんは話を続ける。

 

「ただ一人、グリムロックさんだけは、グリセルダさんに任せると言っていた。 だからグリムロックさんには、私欲を捨てられなかった私たち全員に復讐して、グリセルダさんの(かたき)を討つ権利があるんだわ…」

 

この言葉によって部屋の中は沈黙に包まれた。

この中でシュミットが言葉を発した。

 

「……なんで今更…半年も経ってから、何を今更……お前はそれでいいのかよ!? こんな、わけも解らない方法で殺されていいのか!?」

 

ヨルコさんが、何かを言おうとした、瞬間。

ヨルコさんの細い体が大きく揺れた。

彼女の背中に小さな黒い棒のようなものが突き出している。

あれは、投げ短剣(スローイングダガー)の柄だ。

そして、彼女はそのまま窓の外に。

 

「やばい!!」

 

「だめ!!」

 

俺とユウキは手を伸ばしヨルコさんの体を引き戻そうとする。だが、彼女の指を(かす)っただけでヨルコさんは、音もなく窓の外に投げ出されてしまった。

あれは、誰だ…?! 

窓の外に誰か居るぞ。 そいつは、フーデットローブに包まれ、顔が見えなかった。

 

「ユウキ、後は頼む。 俺はローブを着ている奴を追う!!」

 

「キリト!! 無茶だよ!!」

 

俺は窓から飛び出すと同時に背中の剣を引く抜く。

俺は屋根から屋根へと思い切り良く飛び移っていく。

暗殺者は懐からスローイングダガーでは無く、転移結晶(テレポートクリスタル)を取りだした。

 

「くそっ! 逃げられる」

 

俺は剣を持っていない左手でベルトに装備していたピックを三本同時に抜き、投剣スキル《シングルシュート》を発動させる。

だが、三本のピックは暗殺者の寸前で紫色のシステム障壁に阻まれてしまった。

次の瞬間、大きな鐘の音が聞こえてきた。

暗殺者はこの音と合わせて転移する街のコマンドを唱え呆気なく消え去った。

 

「……逃げられたか……」

 

俺は静かに呟いたのだった。

俺は宿に帰る途中、ヨルコさんを殺害したダガーを拾い上げ、俺はダガーを見て呟いた。

 

「ダガーを投擲するだけでHPを全損させることが可能なのか……?」

 

俺はヨルコさんが借りていた部屋に戻った。

扉を開けて待っていたのは、ユウキさんのお説教だった。

俺は、ユウキさんの前で正座をさせられていた。

今、俺が正座をしている場所は部屋の隅だ。

 

「ねぇ、キリト。なんであんなことしたのかな……?」

 

ヤバい。 めっちゃ怒ってるよ……。

それに、なんで泣きそうになっているのユウキさん!?

やばい罪悪感が。

早く謝って許してもらおう。

 

「えっと……、ごめんなさい!!」

 

「もう無茶はしないでね……。 いい?」

 

「ああ、すまなかった」

 

「それで、ローブを着た人が誰なのか分かった?」

 

「テレポートで逃げられた。 顔も声も男か女かも判らなかった」

 

なんでシュミットの奴、体を丸めて怯えているんだ?

 

「あ、あれは……。 グリセルダが着ていたローブだ……。 オレたちに復讐に来たんだ。あれはリーダーの幽霊だ」

 

シュミットさんよ。 それは無いでしょ。 と俺は心の中で突っ込んでしまった。

俺は部屋の隅から立ち上がり、手に握っていた。ダガーをシュミットの足元に放り投げた。

だが、シュミットは弾かれたように上体を()()らせた。

 

「そのダガーは実在するオブジェクトだよ。 SAOのサーバーに書き込まれた。 プログラムコードだ。 信じられなきゃ、それを持っていって、好きなだけ調べるといい」

 

「い、いらない!! 槍も返す!!」

 

「じゃあ、この槍とダガ―は俺達が預かるな」

 

「ああ、お前たちにやる!!」

 

じゃあ、遠慮なく。俺はアイテムメニューを開き、槍とダガーをストレージに収納した。

 

「ねぇ、キリト。 じゃあ、この事件にはシステム的なトリックがあるということ?」

 

「俺はそう考えている。 一緒に調査してくれるか?」

 

「うん!!」

 

こいつ(ユウキ)と一緒に居ると俺は、何でも出来ちゃう気がするんだよな。

気のせいかもしれないけどさ。

 

「……攻略組プレイヤーとして情けないが、オレはしばらくフィールドに出る気になれない。 ボス攻略パーティーは、オレ抜きで編成してくれ。それと……」

 

ギルド聖竜連合リーダー職を務めるランス使いは呟いた。

 

「……これからオレをDDA本部まで送ってくれ」と

 

俺達は彼を無事に第56層の聖竜連合本部まで送り届けることができた。

俺達の調査はまだ続くのであった。




うまく書けているでしょか?

ぐだぐだになっていないか不安ですね…。

圏内事件はやっぱりキリト君メインになっちゃいますね(汗)

次の更新も頑張ります!!

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第23話≪事の真相≫

どもっ!!

舞翼です!!

内容を全面的に編集してみました。

上手く編集出来ているか不安ですね。

それでは、どうぞ。


第56層 転移門前

 

俺達は、シュミットを聖竜連合ギルド本部まで送った後、転移門の近くにあったベンチに腰をかけていた。

 

「ねぇ、キリト。 あのローブを着ていた人は、グリセルダさんだった。 と、いう可能性はあると思う?」

 

「無い……。とは言い切れないな。 だが気になるのは、ローブを着た暗殺者は、なぜ俺から転移結晶(テレポートクリスタル)を使って逃げた? 俺に捕まるとまずいからか? それとも顔を見られないようにするためなのか……?」

 

「考えすぎると頭がパンクしちゃうよ。 これ食べて一度、頭を冷やそう」

 

渡されたのは、ユウキが作ったサンドイッチだ。

 

「おっ!! サンドイッチか!! ユウキの作る弁当の中で一番好きな料理かもしれん」

 

「そうなの? じゃあ、今度からサンドイッチは絶対にお弁当に入れるね!!」

 

「おう。 頼んだ」

 

俺は朝、昼、晩としっかり飯を食べている。

なぜかというと、ユウキが毎日三食とも弁当を作ってくれるからだ。

 

「キリト、早く食べないと耐久値が切れて消滅しちゃうよ」

 

「そうだった。 いただきます!」

 

俺は、サンドイッチをがつがつと食べていた。

 

「どう? おいしい?」

 

「うまいよ!! NPCレストランの料理より10倍はうまい!! そういえば、現実の調味料の再現に成功したらしいな」

 

「そうだよ、照り焼き風味のハンバーガの再現に成功したんだよ。 今度作って上げる」

 

「本当かッ!!」

 

「そんなに顔を近づけなくても、ボク恥ずかしいよ」

 

俺とユウキの距離はあと10センチ動けばキスをしてしまう距離だった。

俺は、恥かしくなり弾かれるように距離を取った。

 

「すまん……」

 

「気にしなくていいよ(それにボクにとっては嬉しいことだったしね。)」

 

 

第56層 NPCレストラン

 

俺たち、第56層のNPCレストランで今回の事件であったことを整理する事にした。

俺たちが居る場所はNPCレストランの一番奥の席だ。

 

「じゃあ、今回の事件を整理しよう」

 

「了解」

 

「まずは、貫通継続ダメージを発生させる事ができる槍が、カインズの鎧に突き刺さっていたな」

 

「その槍の貫通継続ダメージによってカインズさんの肉体はポリゴンを四散してしまったね」

 

「それに、直前までヨルコさんと歩いていたら睡眠PKの線は無いな」

 

ここまでは、第57層の街の中で起きた出来事だな。

 

「この事件が起きた後にヒースクリフさんに第50層に来てもらったよね」

 

「ヒースクリフはNPCレストランで『圏内殺人を追いかけるなら、目と耳、己の脳がダイレクトに受け取ったデータを信じること』と言っていたな」

 

俺とユウキはあいつが言っていたことは、さっぱり分からなかったが……。

でも、アスナが解説してくれたから理解することが出来たんだよな。

あのとき、アスナが居てくれて本当に助かったな。

 

「じゃあ、ヨルコさんが言っていた指輪の話はボク達を惑わせることになる、ということなのかな?」

 

「ヒースクリフの話を信じるなら、そうなるな」

 

あの男はSAOのシステムについては詳しいからな。

それにあの男の性格からして嘘はつかないだろう。

 

「そのあとはシュミットさんとヨルコさんの顔合わせだね」

 

「その時に、ヨルコさんは暗殺者が投擲したダガ―によって殺害された」

 

でも、どうやってヨルコさんを殺害したんだ?

ダガ―を投擲するだけでは、HPを全損させることなんて不可能なはず。

何かのトリックが隠されているとしか考えられないよな。

カインズが街の中で分厚い鎧を着込んでいたことも気になるしな。

 

「これが今回の事件を整理した結果なのか? 何か引っかかるんだよな。 なんでカインズは街の中で鎧を着ていたんだ……。 それにあの時、本当にHPバーの減少を見ていたのか? 街の中では絶対にHPは減少しないはずなのに……。 何か無いのか街の中で減少する物は……」

 

ユウキも頭を悩ませているな。

 

「あ、あったよ。 耐久値だよ!!」

 

「でも、装備類の耐久値は街の中では減少しないぞ……。 食べ物とかのオブジェクトの耐久値は減少するけど……」

 

「そうじゃなくて、カインズさんの鎧の耐久値はボク達が見たときから減少していたんだよ。 たぶんカインズさんは装備していた鎧に貫通継続ダメージが発生する槍を刺して損傷させてから、鎧が破壊される寸前に教会の二階の窓から飛び降りたんだよ」

 

「そうか! 損傷ダメージなら圏内でも継続されるからな。 じゃあ、カインズは圏外で自身が装備していた鎧に槍を突き刺していたのか。 でもどうやってカインズは、鎧に槍を突き刺したまま教会の二階に移動した?」

 

「たぶん、回廊結晶を使って誰にも見られないように教会の二階に上がったんじゃないかな?」

 

それなら誰にも見つからないで教会の二階に上がれるな。

 

「……あの時砕けたのはカインズの肉体では無くて、耐久値が無くなった鎧が砕けた、ということか!!」

 

「たぶん、そうだね。 それから破壊と同時に転移結晶(テレポートクリスタル)を使ったんじゃないかな。 転移結晶とポリゴンを四散した現象は似ているからね。 たぶんそこを狙って……」

 

「転移結晶でテレポートしたのか……。 じゃあ、ヨルコさんもこのトリックを使ったということか?」

 

「たぶん、ヨルコさんは最初からダガ―を自分の背中の服に刺していたんじゃないかな。 ヨルコさんの背中はローブに隠れていて見えていなかったしね」

 

「じゃあ、こういうことか。 ヨルコさんは服の耐久値を削る為に、俺達と会話をしていた。 ヨルコさんは服の耐久値が切れる寸前に窓から飛び降り、耐久値が無くなった服がポリゴンを四散すると同時に転移結晶(テレポートクリスタル)でどこかの街へテレポートしたということだな」

 

「たぶんそうじゃないかな」

 

「ダガ―の処理は暗殺者がダガ―を投擲してヨルコさんを殺害したように見せる為の演出か。 ということはあのローブの中の人物はカインズということか」

 

「たぶん」

 

「じゃあ、これで圏内事件は終わったということか」

 

これで事件解決だな。

 

「なぁ、ユウキ。 今ヨルコさんたちはどこの層にいるんだ。 お前はヨルコさんとフレンド登録していたはずだから、ヨルコさんが今居る場所を位置追跡が出来るはずだろ。 ヨルコさんが登録解除していなければだが……」

 

ユウキはヨルコさんの位置追跡を開始した。

 

「出たよ、キリト。 19層のフィールドにいるよ。 主街区から少し離れた、小さい丘に居る。 じゃあそこが……」

 

「たぶん、黄金林檎のリーダー、グリセルダさんのお墓だろうな。 そこに三人は居ると思う」

 

「あとのことは、ヨルコさん達に任せた方がいいよね」

 

「だな」

 

俺達はこれで調査が終わったと思っていたのだった。

 

 




うまく編集できていますかね?

これでも頑張って編集したんですよ

駄文になっていなければいいのですが…。

次回の更新は来年になりそうです。

ご意見、ご感想、優しくお願いします!!

ガラスの心が砕けちゃうので…。


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第24話≪笑う棺桶≫

どもっ!!

舞翼です!!

前回は不快な投稿をしてしまい申し訳ない。

圏内事件の編集できる場面は編集出来たと思っています。

ちゃんと編集出来ているか不安ですが…。

今回は新年初投稿です。

それでは、どうぞ。


第19層 十字の丘

 

この場所は、黄金林檎リーダー、グリセルダさんのお墓がある場所だ。

だが、いま彼女が眠っているお墓の前で最低最悪の出来事が起きている。

何者かが投げた、毒ナイフを受けて倒れているシュミット。

この現象を見て、動けなくなってしまった、ヨルコとカインズ。

そして彼らは絶対に遭遇してはならない人物達と遭遇してしまうことになる。

 

SAO殺人ギルド≪笑う棺桶≫(ラフィン・コフィン)

“此処”での“死”が現実の“死”となるSAOにおいてPKを行う快楽殺人集団。

頭陀袋(ずだぶくろ)を思わせる黒いマスクで顔を覆っている毒ナイフ使い『ジョニー・ブラック』。

赤をイメージカラーにしており、髪と眼の色を赤にカスタマイズしている針剣使い(エストック)

『赤目のザザ』。

膝上までを包む、艶消しのポンチョ。目深に伏せられたフード。

中華包丁のように四角く、血のように赤黒い刃を持つ肉厚の大型ダガーを扱う人物。

 

「…………PoH(プー)…………」

 

シュミットから漏れた一言は、恐怖と絶望を映していた。

笑う棺桶≫(ラフィン・コフィン)が結成されたのは、SAOというデスゲームが開始されてから一年後。

それまでは、ソロあるいは少人数のプレイヤーを大人数で取り囲みコルやアイテムを強奪するだけだった犯罪者プレイヤーの一部が、より過激な思想のもとに先鋭化した集団。

 

その思想とはつまり《デスゲームならば殺して当然》。

 

現代の日本では許されるわけもない《合法的殺人》がこのアインクラッドなら可能になる。

なぜならあらゆるプレイヤーの体は現実世界では完全ダイブ中、無意識状態であり、本人の意思では指一本動かせないからだ。

プレイヤーを殺すのはナーブギアを開発した『茅場明彦』であり自分達では無い。

デスゲームとなったSAOにおいて

『ならば殺そう。ゲームを愉しもう。それは、全プレイヤーに与えられた権利なのだから』という劇毒じみたアジテーションによって、オレンジを誘惑、洗脳し、狂的なPKに走らせたのが《笑う棺桶》のリーダー『PoH』であった。

 

「Wow……。 確かに、こいつはでっかい獲物だ。 DDAのリーダー様じゃないか。 さて、どうやって遊ぼうか?」

 

「あれ、あれやろうよ。 ヘッド《殺し合って、生き残った奴だけ助けてやるぜゲーム》。 まぁ、この三人だと、ちょっとハンデつけなきゃっすけど」

 

「ンなこと言って、お前こないだ結局残った奴も殺したろうが」

 

「あっあーっ! 今それ言っちゃゲームにならないっすよヘッドぉ!」

 

緊張感のない、しかしおぞましいやり取りであった。

現在、シュミットが装備をしてる鎧は最高レベルの鎧だ。

だが、PoHの持つ大型ダガー≪友切包丁(メイト・チョッパー)≫は、現時点で最高レベルの鍛冶職人が作成できる最高級の武器を上回る性能を持つモンスタードロップ、いわゆる《魔剣》だ。

フルプレートアーマーの装甲値をも容易く貫いてくるはずだ。

体は動かない。

装備している鎧も意味をなさない。

もう抗う術がない……。

シュミットは死を覚悟した。

 

だが次の瞬間。

主街区の方向から、一直線に近づいてくる白い燐光(りんこう)が見えた。

小刻みに上下する光が闇夜に溶けるような漆黒の馬の(ひづめ)を包む冷たい炎であると見て取れたのは数秒後だった。

馬の上には、二人の人影が見える。

その勢いに押されるように≪笑う棺桶≫(ラフィン・コフィン)の三人は数歩下がった。

目的地まで運んでいた馬が後方の足だけで立ち上がる。

 

“いでっ!!”

 

“きゃ!!”

 

「ユウキ大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。 それよりも間に合った?!」

 

「ぎりぎりな」

 

マジで、ぎりぎりだったな。

 

「シュミットさんよ。 タクシー代はDDAの経費にしてくれよな」

 

俺は握っていた手綱を引き、馬に尻を向けさせ、その尻を叩き、レンタルを解除した。

 

「よう、PoH。 久しぶりだな。まだその趣味悪い格好してんのか」

 

「ねぇ、キリト。 なんで≪笑う棺桶≫(ラフィン・コフィン)リーダー、PoHのこと知っているの?!」

 

「オレンジを潰し終わった後に偶然遭遇してな。 その時、何回か剣を合わせたんだ」

 

「へぇー、そんなことがあったんだ。 なんでそんな重要なことボクに隠していたのかな?」

 

ユウキさん、マジ怖い……。

《笑う棺桶》PoHより怖い……。

なんて返せばいいんだ。 

 

「えっと……、俺にとってお前は“大切な存在”だからかな。 だからこの件に巻き込みたくなかったんだ」

 

「……そっか」

 

「オイ!! お前ら俺達を無視すんな!!」

 

PoHが俺達に向かって叫んだ。 しかも殺気が籠っていた。

 

「ンの野郎……!! 余裕かましてんじゃねーぞ!! 状況解ってんのか!!」

 

ジョニー・ブラックが毒ナイフを振り回して聞いてきた。

 

「こいつの言うとおりだぜ、キリトと絶剣の嬢ちゃん。 お前達だけで俺達三人を相手にできると思っているのか?」

 

PoHは、ジョニー・ブラックの肩を≪友切包丁(メイト・チョッパー)≫を持っていない手で叩いていた。

 

「ま、無理だな」

 

「うん。 無理だね」

 

「でも耐毒POT(ポーション)飲んでるし、回復結晶ありったけ持ってきたから、ユウキと合わせれば二十分は耐えられるよ。それだけあれば、援軍が駆けつけるには充分だ。 いくらあんたでも、攻略組三十人を三人で相手にできると思っているのか?」

 

フードの奥で軽く舌打ちするのが聞こえた。

 

「…………Suck」

 

PoHは、≪友切包丁(メイト・チョッパー)≫を持った手を上げ、真っ直ぐ俺達を指し低く吐き捨てた。

 

「《黒の剣士》、お前は絶対に絶剣の嬢ちゃんの前で殺してやる……。 期待しといてくれよ」

 

「出来るものならやってみな。 あと忠告しといてやるよ、こいつ(ユウキ)に手を出したらお前らをこの仮想世界と現実世界からログアウトさせるからな。 覚えとけよ」

 

この言葉を聞いてから、PoHは、仲間のジョニー・ブラック、赤目のザザを連れて夜の闇の中に消えていった。

 

 

Side キリト

 

俺は≪笑う棺桶≫のリーダー、PoHとは、一度剣を合わせたことがあるが、『子供っぽい態度と外見の毒ナイフ使い』と『ボロボロ服を着たエストック使い』。

この二人は初対面であった。

次に会う時は“殺し合い”をする時だな…。

とりあえず、クラインにメッセージを飛ばさないと。

≪ラフコフは逃げた、街で待機していてくれ≫と送った。

あとは、シュミットの解毒だな。

 

Side out

 

 

「解毒ポーションだ」

 

俺は、シュミットに解毒ポーションを渡した。

 

「ああっ……、悪いな」

 

シュミットは震える手で解毒ポーションを飲んでいた。

後は、あの二人から話を聞くか。

 

「また会えて嬉しいよ、ヨルコさん。 ……それに初めましてかと言うべきかな、カインズさん」

 

「初めまして、……ではないですよ。 キリトさんとはあの瞬間、一度だけ目が合いましたね」

 

多分、あのときだな。

 

「確か、あなたが死ぬ、じゃない、鎧の破壊と同時に転移する瞬間だろ?」

 

「ええ、あの時、この人達には偽装死(ぎそうし)のカラクリを見抜かれてしまうかもしれない、って予感したんですよ」

 

「まぁ、俺は完璧に騙されたな。 こいつは違ったが」

 

俺はこう言いユウキを見る。

 

「ボクがこのカラクリに気付けたのは、キリトと調査や相談をしたからだよ」

 

鎧を鳴らして状態を起こしたシュミットは、いまだ緊張が抜けていない言葉で俺達に話しかけた。

 

「キリト、ユウキさん。 助けてくれてた礼は言うが……。 なんで判ったんだ。 あの三人がここを襲ってくることが」

 

「判ったわけじゃない。 あり得ると推測したんだ。 相手がPoHだと最初から知ってたら、ビビって逃げたかもな」

 

「ボク達がおかしいと思ったのは、ほんの三十分前だよ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

第56層 NPCレストラン

 

「今回の事件は一見落着だな」

 

「そうだね」

 

「俺たちは、ヨルコさんとカインズに綺麗に騙されたな」

 

しかし、こんなトリックを思い付くなんてな。

 

「ねぇ、キリト。 結局のところ指輪ってどうなったの?」

 

「あっ」

 

指輪の事が完全に頭から離れていたな。

 

「でも、確実なことはグリセルダさんのストレージにあったことだよね?」

 

「それは、確実にあったはずだ。 グリセルダさんは指輪を持って、最前線の大きい競売屋に委託しに行ったのだからな」

 

「じゃあ、指輪はグリセルダさんが亡くなったと同時に消滅したということ? でも本当に消滅したとは限らないよね」

 

「消滅はしていないと思う。 でも、死んでしまったらアイテムを見る事は不可能になるな。 アイテムストレージが開けなくなってしまうからな。 ストレージを何かしらの方法で確認することが出来るなら別だけどな」

 

「ねぇ、キリト。 今なんて言った?」

 

「『ストレージを何かしらの方法で確認することが出来るなら』って言ったぞ」

 

「ねぇ、キリト。 前にアスナから聞いた話だけど、この世界で結婚をするとストレージが共通化されるらしいんだよ」

 

結婚をしたらストレージ共通化をするのか。

じゃあ、離婚をしたらどうなるんだ? 特に無条件離婚を?

 

「じゃあ、グリムロックはグリセルダさんのアイテムストレージが何時でも見ることができたということか? でも、グリセルダさんが死んでしまったらストレージが見れなくなるぞ。 もし……、無条件離婚したらストレージはどうなるんだ? この場合は無条件離婚が当てはまるからな」

 

「えっと、離婚したら、アイテムストレージは元に戻るんじゃないかな? でもこの場合は相手が亡くなってしまったんだからアイテムはもう一人の結婚相手に全部渡る……、のかな?」

 

「じゃあ、グリセルダさんが死んだ瞬間に彼女が持っていたアイテムはすべてグリムロックに渡るということか? それで、持ちきれないアイテムは足許にドロップするということなのか」

 

「ボクたちの考えが正しければだけど……」

 

「急いでヨルコさん達が居る層に行く!」

 

このままだと、三人が危険だ。

 

「ボクも付いて行くからね」

 

「……わかった。 俺の傍を離れるなよ」

 

「わかった」

 

俺たちは、急いで、第19層 十字の丘に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「なぁ、カインズさん、ヨルコさん、あの武器はどうやって入手したんだ?」

 

「グリムロックさんに作ってもらったの?」

 

俺達の質問にヨルコさんとカインズは首を縦に振った。

 

「グリムロックさんは、最初は気が進まないようでした。返ってきたメッセージには、もう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書いてありました。 でも、僕らが一生懸命頼んだらやっと武器を作ってくれたんです」

 

「残念だけど、グリムロックがあんたたちの計画に反対したのはグリセルダさんの為じゃないよ。 《圏内PK》なんていう派手な事件を演出し、大勢の注目を集めれば、いずれ誰かが気付いてしまうと思ったんだ。 結婚によるストレージ共通化が、離婚でなく死別(・・)で解消されたとき……。 その中のアイテムがどうなるか」

 

「えっ…?」

 

意味が解らない、というようにヨルコさんたちが首をかしげた。

無理もない、アイングラッドではいくら仲が良くても結婚まで行うプレイヤーはごく稀だ。

それにアイングラッドでの結婚はお互いを信頼し、信じ合わなければできないことだ。

この中で離婚する者たちはもっと少ないだろうし、その理由が死別(・・)となれば尚更だ。

俺達もこの結論に至るまで指輪は殺人者の懐にドロップしたのだろうと信じて疑わなかったからな。

 

「……じゃあ、グリムロックがこの事件の犯人なのか? ……グリセルダを殺したのも…?」

 

ひび割れた声でシュミットが答えた。

 

「いや、直接手を汚しはしなかっただろう。 たぶん《笑う棺桶》に依頼したんだ」

 

「そんなはずはありません。 グリムロックさんが犯人なら、なんで私達の計画に協力してくれたんですか!?」

 

「あんたたちは、グリムロックに計画を全部説明したんだろう? たぶん、グリムロックはこの計画を利用して《指輪事件》を永久に闇に葬り去ろうとしたのだろうな。 この場でシュミット、カインズさん、ヨルコさん三人を……、纏めて消してしまえばいいからな…」

 

「……そうか。 だから……、だから、あの三人が……」

 

虚ろな表情でシュミットが呟いた。

 

「そうだ。 笑う棺桶のトップスリーが現れたのはグリムロックが依頼したんだろうな。

三人を殺害してくれと。 グリセルダさんの殺害実行を依頼したときから、パイプがあったんだろうな」

 

「そんな……」

 

膝から崩れ落ちそうになったヨルコさんをカインズさんが支えた。

 

「そうだな。 詳しいことは、直接本人から聞こうか。 そろそろ出てきたらどうだ? 真相を知る三人の殺害は失敗したぞ」

 

この言葉を発した後、丘の上からある“人物”が姿を現した。

 

「見つかってしまったね」

 

声の人物は、真犯人のグリムロックであった。

 




圏内事件は書くの難しいですな。

こう思っているのは僕だけですよね…。

圏内事件も終盤に入りましたね。

これからも頑張って投稿します。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第25話≪事件解決と二人の思い≫

ども!!

舞翼です!!

今回は早く書き上げる事ができました。

今回は二人の思いが爆発します(笑)

それでは、どうぞ。


丘から上からお墓の前まで移動してきたグリムロックはかなりの長身だ。

裾の長い、ゆったりとした前合わせの革製の服を着込み、つばの長い帽子を被っている。

陰に沈む顔のなかで、時折月光を反射して光るのは眼鏡をかけているからであろうか。

鍛冶屋というよりも香港映画に出てくる兇手(ヒットマン)を思わせる雰囲気だ。

シュミット、カインズさん、ヨルコさん、最後にグリセルダさんが眠っているお墓を見てから言葉を発した。

 

「やぁ……、久しぶりだね、皆」

 

「グリムロック……さん。 あなたは、ほんとうに……、グリセルダさんを……。それに……、私達まで……」

 

グリムロックの言葉にヨルコさんが応じた。

ヨルコさんが聞きたいことは、なぜ、グリセルダさんを殺害してまで指輪を奪ったのか。

なぜ、此処に居る三人を消そうとしたのか、ということだろう。

 

「……誤解だ。 私はただ、事の顛末(てんまつ)を見届ける責任があると思ってこの場所に向かっていただけだよ。 それに誤解を正したかったからだ」

 

この言葉は嘘だな。

笑う棺桶≫(ラフィン・コフィン)に依頼して、真相を知る三人を殺害しようとしたことは言い逃れができない真実だ。

こいつがこの場にいるのは、此処に居る三人が本当にこの世界から消えたか確認する為だろうな。

グリセルダさんを殺した犯人を永遠に判らなくするために、だから俺達の言葉はグリムロックの発言を否定した。

 

「お前は三人が殺害されるまで、隠蔽スキルで隠れて見ているつもりだったんだろう」

 

「それになんで、ボク達に見つからないように丘の上に隠れていたの?」

 

俺達は、索敵スキルをコンプリートしているから見つけることが出来たんだがな。

俺達の言葉にグリムロックは口を閉ざしてしまった。

 

「………………」

 

「……なんで……、なんでなの、グルムロック。 なんで、グリセルダさんを殺してまで、指輪を奪ったの!!??」

 

ヨルコさんは声を荒げてグリムロックに聞いた。

そしてグリムロックは乾いた声でこう言ったのだ。

 

「指輪の件は関係していないよ……」

 

グリムロックは言葉を続ける。

 

「私は、どうしても彼女を殺さなければならなかった。 彼女がまだ私の妻でいるあいだに」

 

グリムロックはグリセルダさんが眠るお墓を見てからこう言ったのだ。

 

「グリセルダは現実でも私の妻だった」

 

ここに居るメンバーは全員驚愕(きょうがく)してしまった。

当然だ、現実世界でも妻であった彼女を殺害したのだから…。

 

「私にとっては、一切の不満のない理想的な妻だった。 夫唱婦随(ふしょうふずい)という言葉は彼女のためにあったとすら思えるほど、可愛らしく、従順(じゅうじゅん)で、ただ一度の夫婦喧嘩すらもしたことがなかった。 だが……、共にこの世界に囚われたのち……彼女は変わってしまった……」

 

グリムロックは低く息を吐き言葉を続ける。

 

「強要されたデスゲームに怯え、怖れ、(すく)んだのは私だけだった。 戦闘能力に於いても、状況判断に於いてもグリセルダ……。 いや《ユウコ》は大きく私を上回っていた。 彼女は、やがて私の反対を押し切ってギルドを結成した。 彼女は……現実世界にいたよりも、生き生きとしていた。 私は認めざるを得なかった。私の愛した《ユウコ》は消えてしまったんだとね……」

 

前合わせの長衣(ながぎぬ)の肩が小刻みに震える。グリムロックは囁くように言葉を続ける。

 

「……ならば……いっそ、まだ私が彼女の夫でいるあいだに。 そして合法的殺人が可能なこの世界にいるあいだに、ユウコを永遠の思い出の中に封じてしまいたいと願った私を…誰が責められるだろう?」

 

「……奥さんに……、反対を押し切られたから……。 そんな理由であんたは殺したのか? SAOに囚われた人達の解放を願っていた人を、あんたは……、そんな理由で」

 

俺はこんな理由で彼女を殺害したこいつを今ここで切り刻んでやりたくなった。

俺の手はもうすでに背中に装備している剣の柄を握っている。

 

「ここでこの人を斬っても何の解決にもならないよ……」

 

だが、ユウキの言葉によって俺はこの衝動を抑え、手を下ろす事に成功した。

グリムロックは眼鏡の下端だけわずかに光らせて、俺に囁きかけた。

 

「そんな理由? 充分すぎる理由だよ。 君もいつか解るよ、そこいるお嬢さんもね。 愛情を手に入れそれが失われようとしたときにね」

 

この言葉を聞き、此処に居る全員は口を閉ざしてしまった。

この静寂をこれまで黙りこんでいたシュミットが破った。

 

「……キリト、ユウキさん。 この男の処遇は俺たちに任せてもらえないか。 死刑にかけたりはしない。 しかし罪は必ず償わせる」

 

「解った。 任せる」

 

「わかりました」

 

シュミットはグリムロックの右腕を掴んで立たせ『世話になったな』と短く言い残して俺達の横を通りすぎて行く。

その後に、ヨルコさんとカインズさんも続いた。

ヨルコさんは俺達の前で立ち止り深く一礼すると口を開いた。

 

「ユウキさん、キリトさん。 本当に、なんてお詫びしていいか……。 お二人が駆けつけてくれなければ、私たちは殺されていました。 本当にありがとうございました」

 

「気にしなくていいよ、ボク達が勝手にやったことだしね」

 

「だな」

 

ヨルコさんはもう一度俺達に頭を下げ俺達の横を通りすぎて行った。

俺達は、その場に立ったままヨルコさん達の背中が見えなくなるまで見送り続けた。

 

「この事件はこれで本当に終わったな」

 

「そうだね」

 

 

Side ユウキ

 

今なら聞けるかな? キリトにとってボクはどんな“大切な存在”なのってね?

聞いてみよう。

 

Side out

 

 

「ねぇ、キリト。 君にとってボクはどんな“大切な存在”なの?」

 

「俺にとってのお前は“かけがえない存在”だ。 それにお前とは生涯一緒にいたいな」

 

「……そうなんだ」

 

「ああ」

 

 

Side ユウキ

 

キリトには自覚がないかもしれないけど、これってプロポーズの言葉になるよ……。

ボク達って両想いだったんだね。

でも、今はこのままでいいんだよ。

いつか、ボクの気持ちも聞いて欲しいな。

愛しているよ、キリト。

 

Side out

 

 

Side キリト

 

つい、俺の本音が漏れてしまったな。

こいつは、俺のことをどう思っているんだろうな……。

近いうちに聞ければいいな。

その時がきたら俺の秘密を全て打ち明けるよ。

愛しているよ、ユウキ。

 

Side out

 

 

「行こうか、ユウキ。 前線から三日も離れてしまったからな」

 

「そうだね」

 

俺達が街に戻ろうとした瞬間、お墓の傍らに人影を発見した。

薄い金色に輝き、半ば透き通る、一人の女性プレイヤーの姿があった。

彼女の瞳にはこのデスゲームを終わらせるという強い意思が秘められていた。

 

「あなたの意思は……、“俺達”が確かに引き継ぐよ。 いつか必ずこのゲームをクリアして、みんなを解放してみせる」

 

「約束するよ。 だからボク達を見守っていてね、グリセルダさん」

 

女性剣士の顔は、にっこりと大きな笑みを向けてくれた。

俺達は手を優しく握り微笑んで言った。

 

「街に帰ろうよ」

 

「そうだな」

 

俺達は主街区を目指して歩き始めた。

 




ついに爆発してしまいましたね(笑)

さてさて、これからどうなるんでしょうね(笑)

妄想が膨らみますね。

次回も頑張って投稿します。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第26話≪リズベット武具店≫

今回はキリトくんの剣を作るお話ですね。

上手く書けていればいいんですけど…。

頑張って書きました!

それでは、どうぞ。




第50層「アルゲード」主街区

 

俺はユウキと一緒に第50層の「アルゲード」の大通りを通り消耗品を買いに行く為、エギルの店へと向かっていた。

 

「今日はいい天気だな」

 

「……うん、そうだね…」

 

 

Side キリト

 

俺達はあの事件以来、うまく話せていない。

原因は俺の言葉にあったはずだ。

あの時、俺の中の感情が漏出(ろうしゅつ)してしまったからだろう…。

でも、間違ったことは言っていない。

こいつのことを好きになったことは真実だからな。

とりあえず何か話して言葉を繋げないと。

 

Side out

 

 

「そう言えば、俺がいま装備している(エリュシデータ)と同等かそれ以上の剣を作れる鍛冶屋って知らないか? 何時でも“あのスキル”を使えるようにしておきたいからな」

 

「それなら、アスナが紹介してくれた第48層にある≪リズベット武具店≫に一緒に行こう」

 

「でも、鍛冶スキルが判らないからな」

 

「大丈夫だよ。 ボクの『黒紫剣』を作ってくれた鍛冶屋さんだよ」

 

ユウキが装備している片手剣『黒紫剣』は最高クラスの武器だ。

簡単に言えば『魔剣』に近いということだ。

こいつがここまで言うのだから信用できるな。

 

「じゃあ、エギルの店で消耗品を補充したあと一緒に行くか」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

第48層「リンダース」

 

俺達はエギルの店で消耗品を買い終わったあと第48層「リンダース」に足を運んでいた。

俺達が今いる場所は、巨大な水車がゆるやかに回転する職人クラス用プレイヤーホームだ。

軒先には≪リズベット武具店≫と書いてある大きな看板が掲げられていた。

 

「ここか」

 

「うん」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「OK」

 

 

 

リズベット武具店 店内

 

 

「リズベット武具店へようこそー!ってユウキじゃない!」

 

店主の名前はリズベットと言うらしい。

 

「久しぶり。 リズ」

 

リズとはリズベットのあだ名らしい。

 

「あのっ、あなたは鍛冶職人ですよね??」

 

「そうですけど!!」

 

俺は一瞬、ウェイトレスと勘違いしてしまった。

檜皮色(ひわだいろ)のパフスリーブの上に、同色のフレアスカート。

その上からの白い純白のエプロン、胸元には赤いリボン。

何より、特徴的なのは、ピンク色のふわふわしたショートヘアーだったからだ。

 

「すいません……」

 

「リズ、そんなに怒らないで」

 

「怒ってないわよ。 で、今日はどうしたの?」

 

「実は、オーダーメイドを頼みたくて」

 

「なんで剣が二本も必要なのよ? 私の打った魔剣級の『黒紫剣』があるじゃない」

 

俺がもう一本剣が欲しいからですよ。

俺の持つ『エリュシデータ』と同等かそれ以上の剣を。

 

「えっと、今日はこの人の為に作ってあげてほしいの」

 

「この人??」

 

リズベットは俺を見て言った。

 

「誰なのこの人?? 見たところ中層プレイヤーみたいだけど」

 

「違うよ、この人も攻略組だよ。 そしてボクの相棒だよ」

 

ユウキは俺に微笑みながら今の言葉をいってくれたのだ。

ボクの相棒と。それに遠回しだが、俺のことを強いプレイヤーとも言ってくれている。

ユウキは攻略組の中でもトップスリーに入る実力の持ち主だからな。

 

「じゃあ、あんたが《黒の剣士》?? 《絶剣》といつも一緒に居るっていう??」

 

「周りからはそう言われているよ。 リズベットさん」

 

「リズでいいわよ。 皆私のことをリズって呼んでいるから」

 

「じゃあ、今度からリズって呼ぶよ」

 

「呼び方はそれでいいわよ。 それでどんな剣を作りたいの? あと大体の基準も出してちょうだい」

 

「剣は片手剣を作って欲しい。 剣の基準はこの剣(エリュシデータ)と同等以上の性能ってことでどうかな」

 

俺は『エリュシデータ』をリズに手渡した。

 

「重っ!!」

 

 

Side リズベット

 

あたしはこの剣をあやうく取り落としそうになった。

恐ろしいほどの要求筋力値だ。

あたしの要求筋力値では、とてもこの剣を振れそうにない。

あたしこの剣の刀身を抜き出すと、ほとんど漆黒に近い色の肉厚の刃が光った。

一目で業物だと知れた。

あたしは鑑定スキルを使いこの剣のカテゴリーを表示させる。

≪ロングソード/ワンハンド≫、固有名≪エリュシデータ≫。作成者の銘、無し。

ということは鍛冶職人の手で作られたものではないということになる。

アイングラッドに存在する全ての武器は、大きく二つのグループに分かれている。

一つは鍛冶屋が作成する≪プレイヤーメイド≫

もう一つは冒険によって入手できる≪モンスタードロップ≫。

この剣はモンスタードロップの中でもかなりのレアアイテムだと思った。

なんで、この剣と同等の剣がもう一本必要なの?

聞いてみるか。

 

Side out

 

「作れそう?」

 

「作れるか?」

 

と俺達はリズに聞いた。

 

「作れないことはないわ。 でも一つだけ教えて。 何で剣が二本必要なの?」

 

「どうするユウキ?」

 

「大丈夫だよ。 リズになら教えても」

 

「わかった」

 

ユウキ達には攻撃が届かない位置まで移動してもらい、俺は、モンスタードロップした片手剣を左手に装備し、先ほど渡した『エリュシデータ』を右手に装備した。

俺は二刀流スキル、全方位範囲技《エンドリボルバー》計二連撃をカラ撃ちした。

だが、カラ撃ちにもかかわらず部屋の中のオブジェクトがぴりぴりと震えていた。

 

「こういうことなんだリズ。 だからこの剣と同等かそれ以上の剣が必要なんだよ」

 

「そういうことだ」

 

と俺達は答えた。

 

「あんたはユニークスキル使いなの??」

 

「そうだな“二刀流”使いになるな」

 

「ちょと待って、ユウキも持っていたわよね。 ユニークスキル??」

 

「うん。 ボクも持っているよ。“黒燐剣”っていう名前のユニークスキルをね」

 

リズは緊張した声で言葉を発した。

 

「攻略組トップスリーに入る二人がユニークスキル使いだとはね。 驚いたわ」

 

「このことは、誰も言わないで」

 

「俺からも頼む」

 

「誰にも言わないわ、安心して」

 

俺はこの言葉に安堵した。

こんなスキルを持っていると知られたら大変なことになるからな。

 

「どうやって剣を作るんだ?」

 

「ボクも気になる」

 

「えっとね。 第55層のドラゴンから取れる金属を打って作るのよ」

 

「でも、そのドラゴンからは金属が出てこなかったんだろ」

 

「ボクもそう聞いてるよ」

 

「ただドラゴンを討伐しただけでは出ないということよ。 たぶん《マスタースミスがいないと駄目なんじゃないか》っていう噂よ」

 

「「なるほど!!」」

 

「あんた達って仲がいいのね」

 

「まぁ、そうだな。 俺はこいつと第1層からの付き合いだからな」

 

「そうだね……」

 

リズさんよ、俺達を意識させるような言葉はあまり言わないで……。

俺も言ってしまっているけどさ…。

 

「そう言えば、リズってマスタースミスなの?」

 

「そうよ。 だから一緒に第55層に行くのよ」

 

「じゃあ、フィールドに出たらユウキの傍を離れないでくれよ、いいか?」

 

「了解したわ」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「OK」

 

 

俺達はドラゴンが生息する第55層に向かった。

 




次回はドラゴンの巣のお話ですね。

誰が落ちるのでしょうかね(笑)

次回は爆弾が落とせるように頑張ります!

どんな爆弾落とそうかな~。

落とせればいいですけどね(汗)

次回も頑張ります!!

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第27話≪ドラゴンの巣とクリスタルインゴット≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回は一番長いのかな?

爆弾落とせたかな~。

ガス漏れ程度かもしれません(汗)

まぁ、ワードは少し進化させましたが…。

あと、寝袋の大きさは二人が入れる大きさで。

それでは、どうぞ。


第55層 氷雪地帯 

 

「寒いんだけど……」

 

「ボクも寒い……」

 

「お前ら余分な服とかないのか」

 

「「ない……」」

 

俺はウインドウを操作し二着の厚手のコートを二人に手渡す。

 

「キリトは、寒くないの?」

 

「そうよ。 あんたは寒くないの?」

 

本当は、めちゃくちゃ寒い。

なぜ、俺が厚着をしないかというと先ほど渡した予備のコートで俺の分が無くなってしまったからだ。

さっき渡した二着の厚手のコートは俺とユウキの防寒用コートだったしな。

それに、インゴットを取得するフィールドが氷雪地帯だったなんて予想外だったし。

まぁ、インゴットを取得するまでの辛抱だしな。

ここは、やせ我慢しよう。

 

「寒くない……」

 

数分後。

このクエストのトリガーとなる村の長のNPCを発見し話を聞くことに成功したのだが…。

 

「聞き疲れた……」

 

「ボクも疲れた……」

 

「私もよ……」

 

俺達が話を聞き終わった頃には村はすっかり夕景に包まれていた。

 

「……まさかフラグ立てでこんな時間を食うとは」

 

「これからどうするの?」

 

とユウキが聞いてくる。

 

「うーん、ドラゴンの所にいくか。 ドラゴンは夜行性らしいからな」

 

「OK」

 

「リズもそれでいいか?」

 

「いいわよ」

 

「じゃあ、行くか」

 

「「了解(―)」」

 

雪山を登ること数十分、切り立った氷壁を回り込むと、西の山の山頂に到着した。

そこには、巨大なクリスタルの柱が伸びている。

残照の紫光が乱反射にて虹色に輝くその光景は幻想的の一言だ。

 

「ここに、例のインゴットをドロップするドラゴンが?」

 

「そのはずよ」

 

「じゃあ、ユウキの傍を離れるなよ。いいな?」

 

と俺はリズに念を押して言っておく。

 

「了解したわ」

 

「じゃあ、ボクの傍から離れないでね」

 

リズはユウキの傍に行った。

よし。これなら安全だな。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

姿を現したのは、氷のように輝く鱗を持った白竜だった。

巨大な翼を緩やかにはばたかせ、宙にホバリングしている。

ドラゴンはまず氷のブレスを俺の正面から吐いてきた。

 

「グオァァァァァ!!」

 

俺は剣を目の前で回転させて、ブレスを防ぐ盾を作った。

だが、完全にブレスを防ぎきれていなかった為、HPが減少するがに戦闘時回復(バトルヒーリングスキル)よる回復で何とかなった。

だが、次の瞬間、俺は雪に足をとられてしまった。

俺にドラゴンの鋭い鉤爪による攻撃が襲いかかる。

剣で攻撃の軌道をずらせば、多少のダメージで済むので問題はないが、でもここは山の山頂だ。この鉤爪による攻撃で大きく吹き飛ばされたら命に関わる。

だが、俺は攻撃を食らうことも、大きく吹き飛ばされることもなかった。

どうして攻撃がこないんだ?

その理由はすぐに分かった。

ユウキがクリスタルの陰から出てきてドラゴンに片手剣ソードスキル《ヴォーパルストライク》を放ったからだ。

この攻撃によりドラゴンのHPゲージはレッドまで落ちた。

俺はすぐに態勢を整えドラゴンに対して剣を構えなおした。

 

「すまん……。 助かった」

 

「もぉ、本当に心配させて。 やっぱりキリトの傍にはボクがいないとね」

 

次の瞬間ドラゴンは一際高く舞い上がり両の翼を大きく広げた。

やばい、突風攻撃だ!!

俺達は空高く投げだされた。

この軌道のまま下に落ちたらマズイ。

俺は右手を動かし、前方に振りぬいた。

重い突き技の反動で俺達は穴の壁面目指して角度を変え、俺達は右手を振りかぶり思い切り穴の壁面に剣を突き立てた。

この動作によって落下する勢いを止めつつ穴の中に落ちた。

 

 

ドラゴンの巣の中

 

「助かったな……」

 

「たっ、助かった」

 

「ポーション飲んでおくか。 一応な」

 

「そうだね」

 

俺のHPはイエローまで落ちていた。

隣に居るユウキも同じだろうな。

 

「すまん……。 こんなことになって……」

 

「気にしなくていいよ」

 

「ここからどうやって出ようか?」

 

「そうだねー。 結晶使えないしね」

 

「ところでリズはどうしたんだ?」

 

まさか、あのままってことは無いよな……。

 

「リズには第48層に転移してもらったよ」

 

「それは、俺が雪に足を取られた瞬間に?」

 

「そうだねー」

 

なんでこんな事になったんだ。

ただ、俺達はインゴットを取得する為に第55層に来ただけなのにな。

 

「考えてもしかたないよ。 とりあえずゴハンにしようか?」

 

「えっ、ここで作れるの?」

 

この穴の中で料理が出来るんですか?

 

「簡単な物しか作れないけどね」

 

ユウキは、アイテムストレージからパン、レタス、ハム、タマゴを取り出した。

 

「サンドイッチでもいい?」

 

「ありがとな。 ご馳走になるよ」

 

「はい。 どうぞ」

 

「じゃあ、いただきます」

 

俺がいま食べているサンドイッチはミックスサンドだ。

何時も食べているけどやっぱりうまいな。

 

「なぁ、ユウキ。 助けってくるのか?」

 

一生このままなのかな?

 

「リズに、このことは『ボク達が第55層の雪山に遭難したから助けに来てって、アスナに伝えといて』って言っておいたから大丈夫だよ。 たぶん明日の朝には、助けが来るんじゃないかな?」

 

「そっか」

 

「朝までなんか話すか??」

 

「いいね。 これまでの冒険や出会いの事を話そうよ」

 

「おう。 そうしよう」

 

俺達は、たくさんの事を話した。

アスナとの第1層での出会いの話、第1層で起きた出来事の話、竜使いの少女と出会った話、ユウキの姉と出会った時の話、圏内事件の話、たくさんなことを話した。

 

「こんなに沢山の出来事があったんだな」

 

「そうだね。 ボクとキリトは、たくさんの出会いや出来事を一緒に経験してきたんだね」

 

「そうだな。 色々な出来事があったな。 それに、お前とは一年近く行動を共にしていたからな」

 

「ボクとキリトって、いつも一緒にいたんだね」

 

「《はじまりの街》を出てからこれまでずっと一緒だったな。 これからも一緒にいような」

 

「ボクはそうするつもりだよ。 ずっと一緒にいようね。 あともう一つ言っておくね、ボクは何があってもキリトから離れないからね。 これは決定事項だからね」

 

「そうか。 じゃあ、俺もお前から離れないようにするよ」

 

「寝ようか?」

 

「そうするか。 あっ、そういえばユウキって寝袋持っているか?」

 

「ボクは持ってないよ」

 

俺はアイテムストレージを開き寝袋が二つあるか確認をした。

だが、寝袋一つしかなかった。

この寝袋は、ユウキに渡そう。

 

「寝袋が一つしかなかったからユウキが使えよ。 俺はそのへんの雪の上で寝ているからさ」

 

ユウキは俺から寝袋を受け取った。

 

「じゃあ、キリトは寒さに堪えながら寝るっていうことだよね?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

俺は次のユウキの言葉で目を見開いてしまう。

 

「ねぇ、キリト寒いから一緒に寝よう」と

 

この日、俺達は一緒の寝袋に入って寝たのであった。

 

 

 

次の日の朝

 

「よく寝た~。 あれ動けない?? なんで??」

 

そういえば昨日こいつと一緒寝たんだっけ…。

よくもまぁ、あんな大胆なことができたもんだな。 昨日の俺は。

でも、なんで動けないんだ??

こいつ、俺のことを抱き枕にしているからか…。

 

「愛しているよ……。 キリト……」

 

「えっ……」

 

この言葉を発してすぐにユウキが起きた。

 

「……おはよう……、キリト」

 

「おう、おはよう。 お前さっき言ったこと覚えている??」

 

「えっ……、何のこと??」

 

「えっと、俺のこと……、愛しているって……」

 

「……うん」

 

「そうなのか……」

 

やっぱりさっきの言葉、聞き間違えじゃなかったのか…。

 

「ねぇ、キリトはどう思っているの……??」

 

「えっと……」

 

どうしよう。

正直に言った方がいいのかな。

 

「俺もお前のことを愛してるよ」

 

「……そっか」

 

「じゃあ、起きるか」

 

「そうだね」

 

俺達は気持ちを切り替えて立ち上がった。

 

「ねぇ、キリト。 あれ何かな?」

 

「あれって?」

 

俺が見た物は、朝の光を反射して、何か雪の奥で光っている物であった。

 

「「これって俺(ボク)達が採りに来た金属!?」」

 

「なんで此処にあるの?」

 

「なぁ、ユウキ。 俺の予想聞く?」

 

「聞いてみようかな……」

 

「多分この穴はドラゴンの巣だよ。 つまり、あの金属はドラゴンが食べた水晶を腹の中で精製「もうそこまででいいよ」……分かった」

 

「あの金属はキリトが採ってきてね」

 

「了解」

 

あのインゴットってドラゴンの排泄物だよなー。

まぁ、これでインゴットを取得する目標は達成だ。

俺はこの金属をストレージに収納した。

あとは、此処を出るだけだな。

 

「ねぇ、キリト。 ドラゴンって、夜行性だよね……。 朝になるということは此処に帰ってくるっていうことだよね」

 

「……だな」

 

俺達が話している間にそいつはやって来た。

 

「グオァァァ!!」

 

鳴き声を轟かせながらドラゴンは巣に降りてくる。

 

「じゃあ、さっきの作戦でいくぞ」

 

「了解」

 

俺達は即興で作戦を作ったのだ。

頼りない作戦だが。

俺達は助走を付けドラゴンの巣の壁を水平に走りだした。

途中まで登った後、俺達はドラゴンの背中へ。

 

「で、ここからどうするの?」

 

「考えてない……」

 

「じゃあ、ドラゴンを驚かせて上へ飛んでもらおう」

 

「そうするか!」

 

俺達の会話はドラゴンの背中で行われた。

俺とユウキはドラゴンの尻尾の先端部分を引っ張った。

すると、ドラゴンはこの現象に驚いたようで上へ向かって急上昇を始めた。

 

「よしっ、地上が見えた。 背中から跳ぶぞ」

 

「了解」

 

俺達はドラゴンの背中から飛び降り雪の上へダイブした。

 

「「出れた(よ)!!」」

 

助かった~。

じゃあ、このまま武具店に行くか。

こいつに言わないと。

 

「じゃあ、このまま≪リズベット武具店≫へ行くか? あと、リズとアスナにドラゴンの巣から出られたことと、インゴットが取れたことを伝えといてくれ」

 

「OK」

 

俺達は第55層の氷雪地帯のフィールドから歩いて、

第48層「リンダース」にある≪リズベット武具店≫に向かった。

 

 

 

 

第48層「リンダース」

 

 

リズベット武具店 店内

 

「リズベット武具店へようこそー!」

 

「昨日ぶり。 リズ」

 

「昨日ぶりだな。 リズ」

 

と俺達は答えた。

 

「心配したんだよ。 ユウキちゃん」

 

アスナは親友のユウキが心配で駆けつけたようだ。

 

「ありがとう、アスナ。 こんなに心配してくれて」

 

「心配するに決まっているじゃない。 ユウキちゃんは私の親友だよ」

 

「あの~。 そろそろ俺の剣を作りたいんですけど」

 

「じゃあ、作りましょうか!!」

 

とリズが言ってくれた。

 

「「よろしく!!」」

 

 

 

リズベット武具店 工房にて

 

「片手用直剣でいいのよね?」

 

「おう。 よろしく頼む」

 

俺、ユウキ、アスナは、来客用の椅子に腰をおろして工程を見守った。

 

“カン”“カン”“カン”

と心地よい音を立てながらインゴットを叩く鍛冶屋のリズベット。

 

「できたわ。えーと、名前は《ダークリパルサー》ね。“闇を払うもの“って意味かしら?」

 

「試しに振ってみていいか?」

 

「どうぞ」

 

俺はこの剣《ダークリパルサー》を5、6回振ってみた。

 

「重いな。 ……いい剣だ。 あとこの剣の鞘も見繕ってくれるか?」

 

リズは黒い鞘を見繕ってくれた。

 

「よかったわ。 あんたの希望どおりの剣が作れて」

 

「よかったね。 キリト」

 

「よかったわね。 キリト君」

 

上から順に、リズベット、ユウキ、アスナだ。

 

「で、代金はいくらだ?」

 

「代金はいらないわ」

 

「なんで??」

 

「代金の代わりに教えて欲しいことがあるのよ」

 

「教えてほしいこと??」

 

「あんた、ユウキのことどう思っているの??」

 

「……それは答えないといけない質問ですか……?」

 

「そうよ!!」

 

それって代金よりも高いような気が……。

てか此処には、ユウキとアスナがいるんだぞ。

 

「で、どうなのよ」

 

なんでアスナは聞き耳立てているの…。

 

「じゃあ、likeかlove。 で簡単でしょ答えるの」

 

もうこれって尋問だよね…。

これってもう逃げ道がないの。

 

「えっと…………love……」

 

おい。 お前ら、なに顔赤くしているんだよ。

ユウキなんて顔真っ赤じゃん。

多分俺も真っ赤だろうけどさ。

 

「じゃあ、ユウキちゃんはキリト君のことどう思っているの??」

 

「そうよ。 キリトも言ったんだからユウキも言わなくちゃ、そうしないとフェアじゃないわ」

 

アスナさん。なんでそんなに目を輝かせているの?

リズさんの言葉は、逃げ道を封じさせているよね。

 

「えっと、ボクは…………love……」

 

「「きゃぁぁぁぁ!!」」

 

リズとアスナは凄いテンションがあがった声で「きゃぁぁぁぁ!!」とあがった声で叫んでいた。

 

「あんたら結婚しちゃえば」

 

「そうだよ。 しちゃえば」

 

とリズとアスナが言った。

 

「それとこれとは話が別だよな??」

「うん……。 そうだね……」

 

おい、お前らこの状況どうすんだよ。

 

「今日の所はこれくらいにしてあげる。 アスナもそれでいい?」

 

「今度もあるっていうことだよね」

 

「いいよね。 二人とも??」

 

「「はい」」

 

と俺達は答えることしか出来ない。

二人ともめっちゃテンションあがっているし。

 

「今度此処でお茶会やろうよ」

 

「いいね!! 私、その日には攻略のお休みを取るね」

 

「二人もいいわよね??」

 

「「わかった」」

 

「じゃあ、解散―」

 

 

俺達はお互いを意識しながら第50層に戻ったのであった。

 




爆弾になりましたかね…。

てか、もうキリト君はユウキちゃんと早くくっつけって言う感じですよね。

じれったい。

今後どうしよう…。

みなさんはどう思いますか?

ご意見、ご感想、優しくお願いします!!



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第28話≪プロポーズ≫

どもっ!!

舞翼です!!

お気に入りが300件超えただと…。

すごく驚きました…。

今回は早く書きあげました。

今回はキリト君メインですね。

それでは、どうぞ。


第61層 「セルムブルグ」 転移門前

 

城を構えた城塞都市。

白亜の花崗岩で造られた高級そうな家々が立ち並んでいる。

この層では待ち合わせをしている“人物”がいた。

 

 

Side キリト

 

「急に呼び出して悪いな。 アスナ」

 

「どうしたのキリト君。 初めて君からメッセージがきたから、私ビックリしたよ」

 

「相談したいことがあってな。 聞いてもらえるか?」

 

「いいけど……」

 

やっぱり言いづらいな…。

でも、アスナはユウキの親友だし、あいつの好みとか詳しそうだしな。

相談するしかないよな。

ここは腹を括ろう。

 

「実は……、ユウキに結婚指輪を買ってあげたいんだ……。 アスナならあいつの好みとか知ってそうだと思ったから呼び出したんだ。一緒に選んでくれないか?」

 

「やっと決心したんだ」

 

「そうだな」

 

「じゃあ、一緒に選んであげるよ。 私、ユウキちゃんの好み知っているしね」

 

「おう。 頼んだ」

 

「ユウキちゃんは今日何処に居るの?」

 

「ああ。 今日は家で現実の調味料再現に挑戦しているぞ」

 

「じゃあ、見つかることは無いんだよね?」

 

「無いな」

 

午前中は用事があるから、第50層「アルゲード」には居ないって伝えてあるからな。

鉢合わせることは無いだろう。

早くアスナについて行かないと。

 

「じゃあ、指輪店に行こうか」

 

「おう」

 

 

 

第61層「セルムブルグ」指輪、アクセサリーショップ

 

「たくさん種類があるな。 どれを選んでいいか分からん」

 

「エンゲージリングとかどうかな? 指輪の後ろにイニシャルをいれてさ。 ユウキちゃんのYとキリト君のKみたいにさ。 ユウキちゃんこういうの好きだよ」

 

「それいいな。 色はシルバーにしてさ。 あと紫色の宝石が嵌ったネックレスを買ってやろう」

 

あいつ喜んでくれるかな??

それに付き合うを飛ばしていきなり結婚だからな。

でも、いつもあいつとは一緒だったし、それに、今思えば付き合っている感じだったしな。

あいつも俺のこと愛してくれているし、俺もあいつのこと愛しているし。

いきなり結婚でも大丈夫だろう。

 

「ねぇ、キリト君。 何考えてるの?」

 

「すまん。 あいつのこと考えていた」

 

「そこまで、ユウキちゃんのこと好きなんだ」

 

「おう。 あいつには一生、俺の傍に居てほしいからな」

 

「そこまで言えるなんてすごいよ」

 

「俺はあいつの居ない生活なんて考えられないからな」

 

「じゃあ、思い出に残る指輪をあげないとね」

 

今日のプロポーズが成功したら俺の秘密を全てあいつに打ち明けよう。

特に“月夜の黒猫団”の事とかな……。

それから俺とアスナは全部の指輪を見て結論を出した。

 

「やっぱり、最初のエンゲージリングにイニシャルを入れるのが一番いいね。 あと紫色のネックレスだね。 小さい宝石が嵌っていた物がいいと思う。 キリト君は色違いの黒ね」

 

「そうするよ。 今から買ってくるわ」

 

「わかったわ。 ここで待ってるね」

 

アスナが腰を下ろして待っている場所は店を出て少し歩いた所にある長いベンチだ。

俺も買い物を終えて、アスナの隣に腰を下ろした。

 

「何処でプロポーズするか決まっているの?」

 

「第47層の『フローリア』にしようと思っている」

 

「場所はそこでいいと思うわ」

 

「今日はありがとな。助かったよ」

 

「私は、ただ相談に乗っただけで何もしていないよ。 これから頑張ってね」

 

「おう。 行ってくるわ」

 

俺は転移門を潜り第47層フローリア主街区に向かった。

 

Side out

 

 

Side ユウキ

 

ボクは、今日キリトと別行動を取っている。 何の用事があって出かけたのだろうか?

気になるな……。

でも、ボクはキリトのこと信じているから何の心配もしていないよ。

今、ボクはアスナと一緒に作ったレシピで醤油を作っているのさ。

キリトに、お刺身を食べさせたいからね。

でも、一つ気になることがあるんだよね。

これから、ボクとキリトの関係はどうなっちゃうのだろうか?

という事を考えていたらキリトからメッセージが飛んできた。

どれどれ内容は。

 

『これから重要な話をしたいから第47層「フローリア」へ来てくれないか?』

 

どんな重要な話だろうか?

とりあえず、第47層フローリアに行ってみないと。

ボクはすぐに家を出て、第47層フローリアに向かった。

 

Side out

 

 

 

 

第47層「フローリア」転移門前

 

 

Side キリト

 

俺は、転移門の近くにあるベンチに腰を下ろしてユウキが訪れるのを待っていた。

うまくプロポーズ出来るかな…。

アスナからは『何時もどおりに接すれば緊張もしないし、リラックスも出来るはずだよっ』って言われたけど無理……。

これは、ボス戦より緊張するな。

あっ、ユウキが転移門から姿を現した。

これから、俺の一世一代のイベントが始まる。

 

Side out

 

 

「どうしたの、キリト。 こんな所に呼び出して??」

 

「えっと……、お前に聞いて欲しいことがあるんだ。 とりあえず、俺の隣に座ってくれよ」

 

ヤバい。 心臓が飛び出そう。

 

「わかった」

 

緊張する。 勇気を出して言うんだ!

 

「俺は、お前のことが好きだ。 俺と結婚してくれ。 俺はお前のことを一生幸せにする。 だからこの世界から出たあとも、また再会して結婚しよう」

 

「……はい。 喜んで」

 

ユウキは涙を流しながら、俺の言葉に応じてくれた。

俺達は長いようで短いキスをした。

俺は、午前中に買った指輪とネックレスをアイテムストレージから取りだした。

 

「これは、お前に渡す指輪とネックレスだ」

 

「じゃあ、これを買う為に午前中はボクと別行動していたの?」

 

「そうなんだ。 午前中アスナと一緒にユウキにはどれの指輪が似合うか一緒に探してもらったんだ。 この指輪には、俺とお前のイニシャルが入っている。 あとネックレスは色違いだな」

 

「キリト。 着けてくれる?」

 

「ああ」

 

俺は、ユウキに指輪とネックレスを着けてあげた。

 

「これからは、一緒に暮さないか? お前の家で」

 

「うん。 そうしようか」

 

「あと、お前に聞いて欲しいことがあるんだ」

 

俺は“月夜の黒猫団”で起きた事を詳細に説明した。

 

「そうなんだ……。 キリトはこんなに重い物を背負っていたんだ。 でも大丈夫だよ。 ボクはキリトのことを絶対に離さないしね。 それにこの事も一緒に背負おうね」

 

「ありがとう」

 

俺はユウキの胸の中で涙が止まるまで泣いた。

ユウキは俺の涙が止まるまで頭を撫で続けてくれた。

 

「愛しているよ。 ユウキ」

 

「ボクも愛しているよ。 キリト」

 

 

こうして俺の一世一代のイベントは終わりを迎えた。

 




ついにキリト君とユウキちゃんが結ばれましたね(笑)

今回はアスナさんも出しました。

アスナさん。最近出していなかったですからね(汗)

これかも更新頑張ります!!

出来れば高い評価をください!!

よろしくお願いします!!


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第29話≪二人の時間≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回の投稿は少し不安です。

上手く書けているでしょうか。

頑張って書きました。

それでは、どうぞ。


第50層「アルゲード」

 

ユウキの部屋

 

俺はユウキと結婚した後、ユウキの家に住み始めた。

もちろん左手の薬指にはエンゲージリングの指輪を嵌め、首には色違いのネックレスをかけている。

俺達は一日だけ攻略を休むことにした。

今の最前線は71層。攻略組の平均レベルは80台前半だ。

俺達がいなくても問題はないはずだ。

 

「今日の攻略は休まないか?」

 

「いいよ。 ボクの家でのんびりしようか。 膝枕してあげるからこっちに来て」

 

俺はユウキの傍まで行き、膝の上に頭を乗せた。

ヤバい。 眠くなってきた。

 

「……眠くなってきた。 このまま眠ってもいいか?」

 

「いいよ」

 

 

Side ユウキ

 

ボクの膝の上でキリトが寝ているよ。 可愛い寝顔だな。

キリトはボクより年上なのかな? それとも年下なのかな?

今度、聞きてみようかな。

でも、現実世界のことを聞くのは、マナー違反だよね。

“その時“が来るまで聞かないようにしよう。

もう、キリトとは一年以上の付き合いになるのか。

長いようで、短かったな。

君とは色々な出来事を経験したね。

経験した出来事はボクの思い出になっているよ。

ボクを此処まで連れて来てくれて本当にありがとう。

大好きだよ。キリト。

 

Side out

 

 

30分後。

俺はユウキの膝の上で目を覚ました。

俺は膝枕をしている状態から起きあがり言葉を発した。

 

「……おはよう。 ユウキ」

 

「おはよう。 よく眠れた?」

 

ユウキは微笑みながら俺に言葉をかけてくれた。

お前の笑顔は、春の陽だまりのようだな。

 

「ああ、よく眠れたよ。 お前といると安心できるから自然と眠りが深くなるんだよな」

 

「そうなんだ。 ボクと同じだね」

 

そういえば、感謝の気持ちを伝えとかないとな。

俺は、ユウキの顔を見つめ言葉を発した。

 

「俺はお前に言っておきたいことがあるんだ。 《はじまりの街》を出る時に一緒に付いてきてくれてありがとな。 お前と一緒に出ていなかったら、俺は存在しないプレイヤーになっていたかもしれない。 俺は、お前の笑顔に何時も支えてもらっていたんだよ。 それにお前は、俺の歩く暗い道を光で照らしてくれた。 俺が此処にいられるのは、お前のおかげだよ。 お前には、感謝しきれないよ。 ありがとな」

 

ユウキは微笑みながら俺の言葉を聞いてくれた。

俺はお前のその笑顔に、何度も救われていたんだよ。

 

「ボクもお礼を言わないと。 《はじまりの街》を出る時に声をかけてくれて、そしてボクを此処まで連れて来れてありがとね。 ボクは、君と一緒に《はじまりの街》を出た時から君の傍を離れないって決めていたんだよ。 今のボクが此処にいられるのは君が傍にいてくれたおかげだよ。 ボクもキリトには感謝しているよ。 ありがとね」

 

「そっか」

 

「暗くなっちゃうお話はこれで終わり!」

 

「だな」

 

俺達は暗い話を切り上げ、明日の攻略の話に話を切り替えた。

 

「明日の攻略に必要になる消耗品を補充しに行こっか?」

 

「おう」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺達は、第50層「アルゲード」の大通りを通ってエギルの店に向かっていた。

俺達がエギルの店に到着し、入ろうとした時に1人の男性プレイヤーが肩を落として店を出て行った。

店の中からは『また、よろしくな。兄ちゃん』と言う声が俺達の耳に響いてきた。

俺はため息を吐きながら呟いた。

 

「……ぼったくり商人の犠牲者だな」

 

「そんなこといっちゃダメだよ」

 

「まぁ、いいじゃないか。 早く行こうぜ」

 

「はいはい」

 

俺達は会話を終えた後、エギルの経営する店の中に足を踏み入れた。

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

エギルの店の中

 

「相変わらず、あこぎな商売しているようだな」

 

「こんにちは、エギルさん。 相変わらずの商売なんですね」

 

「よぉ。 キリトにユウキちゃんか。 安く仕入れて安く提供するのがウチのモットーなんでね」

 

この言葉は信じろと言われても無理な話しだ。

俺達は、先ほどの光景を何度も見ているしな。

 

「今日は、どうした?」

 

「「消耗品の補充に来た(ました)」」

 

「ちょっと、待ってろよ。 今用意するから」

 

俺達はエギルが用意してくれた消耗品を買いストレージに収納した。

何時もより、多少コルが高いような気がしたが、多分、気のせいだな。

 

「そういえば、お前ら攻略はどうしたんだ?」

 

「「今日は、休み(かな)」」

 

「ちょと待て、お前ら、その左手の薬指に付けている指輪どうした……?」

 

一応言っておくか。

エギルには何時も世話になっているしな。

 

「まぁ、エギルの思っている通りかもな。 俺達は結婚したんだ」

 

「そうか、やっとゴールしたんだな。 ユウキちゃんキリトの事を頼むな。 こいつは危なっかしい所があるからな」

 

「了解したよ。 エギルさん」

 

「じゃあ、またな」

 

「またね。 エギルさん」

 

俺達は消耗品を補充した後、エギルの店から出た。

家に着いた頃には、空は綺麗な夕景に染まっていた。

 

「ちょと、早いけどゴハンにする?」

 

「おう。 そうしよう」

 

10分後。

料理が出来上がった。

今日のメニューは『パン』と『シチュー』と『サラダ』だ。

俺は、この料理をリビングまで運んでテーブルの上へ置き、それからテーブルの前に椅子に座り、ユウキがテーブルを挟んだ向かいの椅子に座るのを待った。

1、2分待っていたらユウキがキッチンから出て来た。

そして、そのまま俺と向え合わせになるように座った。

 

「じゃあ、食べようか」

 

「そうだね」

 

「「いただきますー」」

 

俺達は合掌し料理を食べ始めた。

俺達は残さずゴハンを食べ終え一息ついた時に、最近気になっていることを話していた。

 

「なぁ。 ユウキ」

 

「どうしたの、キリト」

 

「第70層を超えてからモンスターのアルゴリズムが変化してきていると思うんだが…。

どう思う?」

 

モンスター達の行動、攻撃はいくつかのパターンが設定されており、与えられた設定の中から行動、攻撃をしてくる。

だが、第70層を超えたあたりから少しずつ変化してきているのだ。

もし、システム自体が学習してモンスターの行動、攻撃が変化していったら厄介な事になる。

俺達のレベルは、俺が89レベル。ユウキは88レベル。

俺達は不意を突かれない限り問題はない。

 

「最近ボクもそう感じていた。 でも、攻略組の平均レベルは80台前半だから、心配しなくても大丈夫だと思うけど」

 

「そうだよな」

 

「この話はこれでお終い!」

 

「だな」

 

この話が終わった後、俺達は睡眠を取ることにした。

俺は何時も、リビングに有るソファーで睡眠を取っている。

俺は何時も通り、ソファーに向かおうとしたのだが…。

次の言葉によって俺は過剰反応してしまう。

 

「じゃあ、今日は一緒に寝ようか?」

 

「いいんですかッッ!?」

 

「……うん。 いいよ」

 

「……じゃあ、お邪魔するな」

 

俺はユウキが寝ているベットに腰を下ろし、ユウキの隣に横になった。

この時、俺達の顔は真っ赤だっただろうな。 初めて一緒のベットで眠るからな。

俺達はそのまま、ぬくもりを感じながら眠りについた。

 

 

 

翌日。

俺達は顔を合わせながら目を覚ました。

俺達の顔は、後10センチ動けばキスをしてしまう距離だった。

 

「おはよう。 キリト」

 

「おう。 おはよう」

 

俺達は、布団をかけたまま話をしている。

このまま動きたくない。

このまま一緒に寝ていたい。

 

「そう言えば、今日リズから『店に来なさい』って呼び出されているんだけど」

 

「なんでかな……」

 

「多分、ボク達の現状確認じゃないかな?」

 

マジかよ。 行きたくないな。 と俺は心の中で呟いた。

 

「今、行きたくないとか思っているでしょ?」

 

「なんでわかった!?」

 

「やっぱり。 そうなんだ……」

 

そんな顔されたら罪悪感が。

今のユウキの顔はしょんぼりしている。

 

「キリトは、ボクを一人で行かせようとするんだ…」

 

「行くッ。 行くから泣きそうな顔しないでッ!」

 

「じゃあ、一緒に行こうね」

 

「おう。 でも、攻略はどうすんだ?」

 

「話が終わった後に行こっか」

 

「了解」

 

俺達はベットから起き上がり、戦闘服に身を包んでから、

第48層「リンダース」へ向かった。

 

 

 

 

 

第48層「リンダース」《リズベット武具店》玄関前

 

「なぁ、ユウキ。 店の中には誰が居るんだ……?」

 

「リズとアスナかな」

 

「やっぱり、雲隠れをしていいかな?? 女の子の中に男が入るのはダメな気がするし……」

 

尋問に近い質問攻めに遭うしな。

 

「へぇー。 キリトは奥さんを見捨てちゃうんだ?」

 

上目使いでその言葉は反則ですよ。

 

「……わかった。 一緒に行きます」

 

逃走は不可能だったな。

もう、腹を括るしかない。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「……了解です」

 

 

《リズベット武具店》店内

 

「来たわね。 色々と聞かせてもらいましょうか」

 

「私も詳しく聞きたいな」

 

「「わかった(よ)……」」

 

二人も目が輝いているよ。

特にリズは際どい質問をしてくるんだろう。

考えても仕方がないか。

俺達は来客用の椅子に腰を下ろした。

 

「そう言えばアスナ。 攻略どうしたの」

 

「今日の為にお休みを貰ったんだよ」

 

「それは、今日の集まりの為にかな……?」

 

「よくわかったね。 キリト君」

 

「まぁ。 予想はしていたからな……」

 

「じゃあ、色々と聞かせてもらいましょうか」

 

こうして質問?? タイムが始まった。

 

「キリト君に聞くね」

 

これはアスナからの質問だ。

 

「いいぞ」

 

「キリト君はユウキちゃんを何時、好きになったの?」

 

本人を前にすると恥ずかしい。

だが、抵抗しても状況が悪化してしまうと思ったので素直に従うことにした。

 

「いつの間にか好きになっていたな。 多分、第1層ボス攻略戦が終わった後からだな。 俺はユウキと一緒にいる事が当たり前になっていたから気付くのが遅れたのかもしれない。 意識をしだしたのは第57層の事件の前だな。そこで、ユウキを好きになったと自覚したんだ」

 

「へぇー。 ユウキちゃんは?」

 

「多分、色々な出来事を経験した後かな。 アスナはボクの気持ちを知っていたしね」

 

「そうだね。 女子会の時に知ったからね」

 

「じゃあ、私から質問するわ」

 

とリズが言った。

 

「あんたらキスは済ませたの?」

 

「「えッ!!」」

 

「どうなの?」

 

「「まぁ。 はい」」

 

俺達の顔はトマトみたいに真っ赤だろう。

なんか尋問に近い雰囲気になってないか。

 

「へぇー。 てか、あんたら一緒に住んでいるんでしょ?」

 

「「何で知ってる(の)!!??」」

 

「じゃあさ、一緒に寝ていたりするのかしら?」

 

「「はい」」

 

「もしかして夜n「「それはまだない(よ)!!」」」

 

「「あっ……」」

 

……自爆してしまった。

 

「……まだないのね」

 

リズめ、カマをかけたな…。

 

「あんたらは、これからが大変になるわね。 特にキリトがね」

 

なぜ? 聞いてみよう。

 

「なんでだ??」

 

「ユウキは此処アインクラッドでトップスリーに入る美少女なのよ?」

 

「それがどうしたんだ??」

 

「多分、あんたがユウキと結婚した情報が攻略組の男性プレイヤーの耳に入ったら、攻略組の男性プレイヤーからの嫉妬の眼差しが一段と増すでしょね。 妬み、恨みも買うと思うわよ。 あんたは、全未婚男性プレイヤーを敵に回したも同然だしね。 多分、デュエルも申し込まれるんじゃない」

 

「マジ??」

 

「十中八九そうなるでしょうね」

 

確かにそうかもしれない。

ユウキは全プレイヤーの憧れの的だ。

確かに今言われた事は本当に起こる得る事かもしれない。

 

「あんたら幸せになりなさいよ」

 

「うん。 幸せになってね。 あとキリト君、ユウキちゃんを泣かせたらダメだからね」

 

上から順に。 リズ、アスナだ。

 

「こいつのことは幸せにするし、泣かせもしないよ」

 

「ボクもキリトと一緒に幸せになるよ」

 

とユウキが微笑んで言ってくれた。

 

「ここまでにしてあげましょうか」

 

「そうだね」

 

俺達は質問が終わったところで、ストレージに収納していた武器を装備し攻略に向かうことにした。

 

「じゃあ、俺達は攻略に行くな」

 

「またね。リズ、アスナ」

 

こうして質問?? タイムは終了した。

 

 

《リズベット武具店》玄関前

 

「よしっ!! 迷宮区に行くか」

 

「OK」

 

俺達は手を優しく握り、最前線の迷宮区に向かったのであった。

 

 




上手く書けていましたかね?

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!

あと、改善点があれば教えてください!!

優しくお願いします。

心が折れちゃうので…。


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第30話≪ラフィン・コフィン討伐作戦≫

ども!!

舞翼です!!

投稿が遅れてすいません(汗

何回も書き直したんですが、内容が薄いかもです。

読んでくれたら嬉しいです。

それでは、どうぞ。


第56層 聖竜連合本部

 

今日、第56層にある聖竜連合本部ではラフィン・コフィン討伐作戦会議が行われる。

ラフィン・コフィン討伐作戦の会議内容は、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーを無力化し黒鉄宮の牢獄に押し込むことだ。

《討伐隊》は聖竜連合と血盟騎士団とソロプレイヤーの中から参加者を募った。

参加者の人数は約50人である。

俺は、この作戦会議に“一人”で参加をしている。

 

「それでは、ラフィン・コフィン討伐作戦会議を始める」

 

一人の聖竜連合幹部プレイヤーの発言と同時にマップが展開された。

 

「ラフィン・コフィンの幹部プレイヤーの情報を皆に回すから確認してくれ」

 

俺の手元に来た資料には、笑う棺桶のリーダー『PoH(プー)』、幹部プレイヤーの『赤目のザザ』、『ジョニー・ブラック』の情報が掲載させていた。

掲載されている情報には、三人の特徴、使う武器が書いてあった。

次にシュミットが立ち上がり言葉を発した。

 

「ラフィン・コフィンの根城が下層のある小さな洞窟と判明した」

 

この言葉により、あちこちから動揺の声が上がる。

なぜかというと、ラフコフのアジトを探すため、しらみ潰しに不動産ショップを探したがそのほとんどが空振りであったからだ。

幾つかのオレンジギルドのアジトは発見できても肝心のラフコフの本拠地だけは、何時まで経っても見つからなかったのだ。

それもそのはずだ。

展開されたマップが示すラフコフの根城と思われる場所は、デザイナーが忘れてしまったような洞窟であったのだから。

 

「どうりで今まで見つからなかった訳だ」

 

俺は、誰にも聞かれないボリュームで呟いた。

一人の幹部プレイヤーが言いづらそうに言葉を発した。

 

「……あと一つ言っておく事がある。 笑う棺桶メンバーが降伏せずに襲いかかってきたら“処分”することも視野にいれるように…」

 

処分するということはつまり俺達が殺すということだ。

出来れば、このような事態は避けたい。

このことは、此処にいる討伐隊メンバーも思っているはずだ。

 

「作戦は二時間後に開始する。 解散」

 

こうして、ラフィン・コフィン討伐作戦会議が終了した。

会議が終了したと同時に声をかけて来た人物がいた。

その人物は、ギルド《風林火山》のリーダー、クラインだった。

 

「お前も参加するんだな」

 

「まぁ……、そうだな」

 

「ユウキちゃんは、どうしたんだ?」

 

「ああ……、あいつは家に置いてきたよ。 後、アスナも一緒さ」

 

ユウキには、このラフィン・コフィン討伐作戦には参加させられない。

最悪の事態も考えなくてはならない。

それは、笑う棺桶のメンバーのHPを全損させてしまうこと。

つまり殺してしまうと言う事だ。

こんな汚れ仕事はして欲しくない。

汚れ仕事は、俺一人で充分だ。

 

「何でアスナさんが一緒なんだ?」

 

「アスナには、今日一日ユウキの傍にいてくれって頼んだんだ」

 

あいつを家に一人にはしておけない。

それに親友のアスナにもこんな危ない作戦には参加させたくないからな。

クラインは、俺の思っていることを察したのか、これ以上は聞いてこなかった。

 

 

二時間後。

 

「これから回廊結晶を使い、笑う棺桶が根城にしている洞窟前に移動する」

 

俺達は、笑う棺桶が根城にしている場所に向かった。

俺は、目的地に到着したと同時に呟いた。

 

「あの洞窟の中にいるのか」

 

俺達、討伐隊は、草むらに身を潜めている。

ここから洞窟に続く坑道の入口がある。

 

「よし、行くぞ」

 

聖竜連合幹部の言葉と同時に俺達、討伐隊は洞窟に続く坑道を通り、笑う棺桶が居ると思われる、大部屋へ突入した。

だが、周りを見渡しても笑う棺桶のメンバーは一人もいなかった。

 

「誰も、いないぞ……?」

 

討伐隊の一人が言った。

次の瞬間、奴らは、討伐隊の背後を襲ってきたのだ。

何処からか、討伐作戦の情報が漏れていたのだ。

俺達は完全に囲まれてしまっていた。

状況は最悪だ。

俺達討伐隊は、すぐに態勢を立て直し反撃した。

俺は、襲い掛って来るラフコフメンバーの手首、足首を切り落とし戦闘不能にさせていった。

 

「武器を捨てて大人しく投降しろ」

 

俺が話しかけたラフコフメンバーは、すでにHPゲージがレッドに突入していた。

 

「俺がこの程度でビビるとでも思っていたのか!!」

 

言葉が終わった瞬間、片手剣を握り直し、俺に突進してきた。

俺が剣を振るい攻撃をすれば、こいつのHPゲージが吹き飛ぶ。

殺したくはない。

だが、やらなければ、やられる。

俺は考えることを止め、男の胸に剣を突き刺した。

男の体は、ポリゴンを四散した。

俺は、無心になり討伐を続けた。

近くから襲ってきた両手剣使いの首を刎ねHPを吹き飛ばした。

 

「あれー。 黒の剣士じゃん」

 

「黒の、剣士、お前を、殺す」

 

現れたのは、ジョニー・ブラックと赤目のザザであった。

ジョニー・ブラックは、俺の眉間目掛けて毒ナイフを投擲してきた。

俺は、寸前で頭を下げ回避する。

 

「へぇー。 あれを避けるんだ」

 

確かに、今の攻撃は並の反応速度では回避することは不可能だった。

 

「あっ、そう言えば絶剣のお嬢ちゃんは一緒じゃないの?」

 

「そう、言われれば、確かに」

 

「……お前らの相手は俺一人で充分だ」

 

「いないのかー。 殺したかったのにな」

 

俺はこの言葉によって怒りに支配されそうになった。

だが、ここで怒りに支配されたら奴の思う壺だ。

なので、俺は低い声で呟いた。

 

「殺すぞ……」

 

俺はベルトに装備されていたピックを三本同時に抜き、ジョニー・ブラックに向け投剣スキル《シングルシュート》を発動させる。

だが、三本とも同時に放たれたピックによって相殺されてしまう。

 

「手伝うか」

 

赤目のザザはジョニー・ブラックに言った。

 

「おいおい! こんなに楽しい殺し合いなのに横取りはいけないよ」

 

「そうか」

 

ジョニー・ブラックは俺に毒ナイフを構え突進するように突っ込んできた。

俺は紙一重で避け、片手剣ソードスキル《ウォンパール・ストライク》を発動させた。

この攻撃によって毒ナイフを装備していた右手を吹き飛ばした。

だか、ジョニー・ブラックは態勢を立て直し、俺に向き直った。

 

「あーあ。 手が斬り飛ばさせちゃったよ」

 

「だから、手伝うと、いった」

 

とても緊張感のないやり取りだった。

 

「お前は、もう戦えないはずだ。 それに今の攻撃を食らってHPはレッドゾーンだろう」

 

俺はジョニー・ブラックに問いかけた。

 

「いやいや。 まだ、左手が使えるから。 殺しにHPなんて関係ないし」

 

ジョニー・ブラックは左手に毒ナイフを装備し直した。

 

「さてと。 第二ラウンド、行こうか」

 

ジョニー・ブラックは俺に向かって突進してきた。

俺の剣とジョニー・ブラックの毒ナイフがぶつかり火花が散った。

俺は、鍔競り合いを行いながらも口を開いた。

 

「大人しく投降しろ。 俺達討伐隊の勝ちだ」

 

俺がなぜ、この言葉を発したかと言うと、ラフコフメンバーの半分以上は捕縛されていたからだ。

だが、俺達の攻防は続いた。

 

「おれも、はいる」

 

赤目のザザも戦闘に参加してきた。

俺は片手剣スキル《ホリゾンタル》を発動し、エストックの刃にぶつけ距離を取る。

この勝負は、正直勝てる気がしない。

討伐隊がこちらに援護に来るのを待つしかないな。

俺は、持ち前の反応速度でこいつ等の攻撃をいなしていった。

すると、攻撃が途中で止まった。

 

「にげ、るぞ」

 

「この状況じゃ仕方ねぇか」

 

ラフコフメンバーで捕縛されていないのは、ジョニー・ブラックと赤目のザザだけだった。

二人は煙幕を使い、姿をくらました。

捕縛したラフコフメンバーは、回廊結晶を使い黒鉄宮の牢獄に押し込むことに成功した。

 

「終わったのか……」

 

俺は誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 

俺達、討伐隊はアジトを出た安全エリアで今回の作戦結果の報告をした。

 

「被害は《討伐隊》からは十一人。 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)からは、二十一名のプレイヤーが消滅した。 多大な犠牲が出てしまったが、これで笑う棺桶の勢力はゼロ近くまで殲滅できた。 これ以上被害が出る事はないだろう」

 

この言葉を発したのは今回の指揮を取っていた聖竜連合の幹部プレイヤーだった。

確かに、笑う棺桶の勢力はゼロ近くまで殲滅出来たが、幹部プレイヤーの赤目のザザ、ジョニー・ブラックは逃走。笑う棺桶のリーダー、PoHの姿は確認することが出来なかった。

 

俺は《風林火山》のギルドリーダー、クラインに声を掛けた。

 

「悪い、クライン。 俺はもう帰るわ……」

 

「……そうか」

 

俺は第50層「アルゲード」に足を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

Side ユウキ

 

今日は、ボクの家にアスナが遊びに来ているのだ。

だけど、アスナの様子が何時もと違う。

でも、大体の予想は出来ているんだよ。

 

「ユウキちゃん。 醤油の味覚再現は成功だね」

 

「完成したー。 キリトが帰ってきたら、さっそく味見してもらう」

 

「それがいいね」

 

「ねぇ、アスナ。 話は変わるんだけど」

 

ボクはアスナに聞いてみることにした。

 

「今日って、ラフィン・コフィン討伐作戦があるんでしょ?」

 

「…………」

 

やっぱり、図星なんだね。

 

「……やっぱり、勘が鋭いユウキちゃんには隠せないね……。 実は今日、聖竜連合と血盟騎士団と少数のソロプレイヤーによって、ラフィン・コフィン討伐作戦が行われているの……。もう終わっている頃だと思う……」

 

「キリトは、この作戦に参加したの??」

 

アスナは頷くだけであった。

 

「そうなんだ……。 朝早く出て行った理由は、この作戦に参加したからなんだ」

 

アスナは俯き言葉を伝えた。

 

「……私も参加しようとしたんだけどキリト君に止められてね……。 『今日一日、ユウキの傍に付いていてくれ……、頼む』って土下座までしてね」

 

そっか……。 だから朝早くからアスナがボクの家に来たんだね……。

アスナとこのような会話をしていたら玄関から“コンコン”と音が聞こえてきた。

ボクは玄関まで行き玄関の扉を開ける。

 

「……ただいま」

 

「おかえり」

 

扉を開けて入って来たのはボクの夫、キリトだった。

だが、何時もと雰囲気が違う。

何かあったんだ。

 

「アスナはどうしたんだ?」

 

「リビングに居るよ」

 

「そうか……。 話したい事があるから一緒に来てくれないか……?」

 

「うん……」

 

玄関前で会話が終わった後、ボク達はリビングまで足を進めた。

 

Side out

 

 

「討伐作戦はさっき終了した……。 被害は《討伐隊》からは十一人。 笑う棺桶からは、二十一名のプレイヤーが消滅した……。 その内の二人は俺が殺した……。 ……だから。 俺が、お前達と一緒にいる資格なんて……」

 

俺は、震える言葉で伝えた。

部屋の中は、長い沈黙が続いた。

 

「……ボクはキリトとずっと一緒にいるよ」

 

「俺は、人を…殺したんだぞ……」

 

「……ボクはキリトと一緒にそれを背負うよ。 ボクは討伐には参加していないけど、一緒にその十字架を背負うよ」

 

ここまで、静かに聞いていたアスナが口を開いた。

 

「キリト君は一人じゃないからね……。 一人で抱えこまないでね……」

 

「ありがとう……」

 

 

こうして、ラフィン・コフィン討伐作戦は幕を閉じた。

 




やっぱり内容が薄かったですよね…。

はぁー、小説書くの難しいですね。

ご意見、ご感想、優しくお願いします!!


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第31話≪休息≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回はもしかしたら、ぐだぐだになっているかもしれません。

ごめんなさい。

それにサブタイトルが思いつかない(汗)

それでは、どうぞ。


ラフィン・コフィン討伐作戦から二日が経過した。

 

「今日は攻略をお休みしようか?」

 

「えっ、どうしてだ?!」

 

「キリト。 最近攻略中に集中出来ていないよね」

 

「…………」

 

図星であった。

嫌でも考えてしまうのだ。

あの時、まだ他の道が残されていたんじゃないか。

あの時、思考を停止しなければその方法が思い付いたのではないか。

それに、罪の無いこいつに俺の罪をさらに押し付けてしまっていいのかと。

 

「また考え込んでいる」

 

「……すまん」

 

「よしっ!! 今日は攻略を休んで気分転換しようか」

 

「……わかった」

 

俺達は、攻略を休み気分転換することにした。

 

「じゃあ、第47層「フローリア」に行こう!!」

 

「……おう」

 

俺達は家から出た後、転移門まで足を進め転移門を潜り第47層「フローリア」へ向かった。

 

第47層「フローリア」転移門前

 

「いつ見ても綺麗な所だねー」

 

ユウキは、足を進め花壇の前にしゃがみこんでアジサイに似た花を愛でた。

俺は、ユウキの後を追いユウキの横にしゃがんだ。

 

「そうだな」

 

ユウキは近くにあった矢車草に似た花を採り、髪飾りのように髪に付けた。

 

「どうかな?」

 

ユウキは、顔を赤くして聞いてきた。

 

「とても良く似合っているよ」

 

俺は笑顔で言葉を返した。

「一人で悩まないでボクを頼ってもいいんだよ」

 

ユウキは真剣な表情になり俺に言ってくれた。

俺はその言葉に応じた。

 

「いいのか……?」

 

「いいんだよ。 ボクはキリトと一緒に悩みたいし、考えたいよ」

 

「……わかった。 あそこに有るベンチで話そう」

 

「うん」

 

俺達は、転移門近くにあるベンチに腰を下ろした。

最初に俺が口を開いた。

 

「あの時、違う道が残されていたんじゃないって、何時も考えてしまうんだ。 もう過ぎたことなのにな。 それに、これ以上俺の罪をお前に背負わせていいのか。とかな……」

 

少しの沈黙の後、ユウキが口を開いた。

 

「ボクはキリトと一緒に十字架を背負うよ。 ボクはキリトを一生支えるって決めているから。 それに、殺めてしまった事はもう覆せない。 だから、その人達の名前を心に刻んで生きていこうよ。 それが、今のボク達に出来る事だからね」

 

確かに、殺めてしまった事はもう覆せない。

だから、これ以上考えても仕方のない事だ。

今の俺に出来る事は、さっきユウキが言ってくれたことしかない。

じゃあ、その事を実行に移そう。

俺はユウキに言葉を返した。

 

「そう、だな」

 

 

♦♦♦♦♦

 

俺達は、第1層にある《生命の碑》まで足を運んだ。

俺は、その中から日付と死因が一致するプレイヤーの名前を探した。

その中から該当する人物を二人見つけた。

俺はユウキに知らせた。

 

「この二人だ」

 

「この二人だね」

 

二人の名前はスーティブとアーロンという名前であった。

 

「この二人の名前を心に刻もうね」

 

「ああ」

 

命を奪ってしまった事はもう取り返しがつかない事。

だから俺は、その罪と向き合い生きていく。

隣で俺の事を支えてくれるパートナー(ユウキ)と一緒に。

俺達は第1層の《生命の碑》前で、殺めてしまったプレイヤーの名前を心に刻んだ後、

第50層「アルゲード」に戻った。

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

 

第50層「アルゲード」主街区

 

俺達は、大通りを散歩していた途中に見つけたベンチに腰を下ろした。

俺からユウキに声をかけた。

 

「ユウキ、今日はありがとうな。 お前のお蔭で心が軽くなったよ」

 

俺は、ユウキに向き合い言った。

一呼吸置いてから、ユウキから言葉を返してくれた。

 

「どういたしまして。 今度からは何でも相談してね。 いい?」

 

ユウキは俺の目をしっかり見て言った。

 

「ああ」

 

会話を交わした直後、一人のプレイヤーから話しかけられた。

俺は、そのプレイヤーを見て少々驚いてしまった。

話しかけてきたプレイヤーは、ユウキの姉のランであった。

 

「キリトさん。 お久しぶりですね」

 

「久しぶり。 確か、第53層で食事して以来か。 今日はどうしたんだ?」

 

「エギルさんの経営しているお店に行ってドロップ品を換金した帰りですよ」

 

大丈夫かな? あこぎな商売の被害にあっていないよな?

でも、ランはしっかりしているから大丈夫か。

 

「姉ちゃん。 久しぶり―」

 

「久しぶりね」

 

「そういえば、ユウキ。 キリトさんと結婚したの?」

 

ランは、俺とユウキの左手の薬指に嵌めているエンゲージリングを見た。

 

「そうだよ。 とりあえず、ボクの家に場所移さない?」

 

「いいけど……。 キリトさんは大丈夫ですか?」

 

「いいよ。 それじゃあ、行こうか」

 

俺達は、ユウキの姉ランを連れてホームに戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

「このお家に、キリトさんとユウキが一緒に暮らしているのね」

 

ランは俺達が暮らしている家の中を興味深そうに見ていた。

 

「変わった物は何も無いよ」

 

“そういう物”は置いていないよ。

 

「キリトの言う通りだよ。 姉ちゃん」

 

「あら。 そうだったの」

 

ランは、おちゃらけた様に言った。

 

「二人は、何時結婚したの?」

 

「約一ヶ月位前位かな」

 

「そうだねー」

 

「私に報告してくれてもよかったのに」

 

ランは、頬を膨らませて俺達に言ってきた。

 

「「ごめんなさい!」」

 

「まぁいいわ。 ところで先ほどお話ししていた内容って、もしかして……」

 

気付いていたのか? ランにも話しておくか。

 

「察しの通りだよ。 ラフィン・コフィン討伐作戦の話をしていたんだ」

 

俺は、ラフィン・コフィン討伐作戦であった出来事を詳細に説明した。

俺が、ラフコフメンバーの二人の命を奪ったことも。

この言葉を発した後、暫く部屋の中が沈黙に包まれた。

この沈黙をランが破った。

 

「私も、一緒にその十字架を背負います」

 

俺はその言葉に目を見開いてしまった。

ランは言葉を続ける。

 

「キリトさんは、色々な物をその小さな背中に背負いすぎです」

 

ランは、優しい眼差しで俺を見た。

ここまで静かに話を聞いていたユウキが口を開いた。

 

「ボク達姉妹は、キリトを全力で支えるよ」

 

「……ありがとう」

 

俺は、耐えていた涙を流しながらランとユウキの言葉に応じた。

それと同時にランとユウキは、俺を優しく抱きしめてくれた。

 

「もう一人で背負わないでくださいね」

 

「姉ちゃんの言う通りだよ」

 

二人は、俺の涙が止まるまで優しく抱きしめ続けてくれた。

 

 

5分後。

 

「みっとも無い姿を見せてごめん」

 

俺は、恥ずかしくなり顔を俯けた。

 

「いいんですよ」

 

「そうだよ」

 

二人は笑顔で答えてくれた。

俺達はそれから色々な事を話した。

特に、俺とユウキに関する事を。

俺達は、顔を真っ赤にしながら会話をしていただろうな。

会話が一息付いた時に、ランは時計を見た。

 

「あら。 もうこんな時間なの」

 

時間は、午後の6時まで回っていた。

此処からは、綺麗な夕焼けが見える。

 

「じゃあ、そろそろ御暇しますね」

 

「わかった。 玄関まで送るよ」

 

「ボクも一緒に送る」

 

俺達は、ランを見送る為、玄関まで足を進めた。

 

「じゃあ、またね。 キリトさん、ユウキ」

 

「気を付けて帰るんだぞ」

 

「じゃあね。姉ちゃん」

 

ランは、俺達の家から出た後、自分のホームがある第47層「フローリア」に戻った。

その後、俺達は食事を摂り眠る事にした。

俺達は今、ベットに横になっている。

勿論、何時も一緒に寝ている。

 

「今日は、ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

俺達は見つめ合い言葉を交わした後、短いキスをした。

 

「明日に備えて寝よっか」

 

「そうだな」

 

俺達は抱き合い眠りについたのであった。

 

 




こんな感じです。

最近ギアチェンジがうまくいきませんね(泣)

ご意見、ご感想、よろしくお願します!!


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第32話≪S級食材の晩餐≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回は早く書き上げる事が出来ました。

それでは、どうぞ。


俺達は、第74層迷宮区から歩いて帰宅していた。

 

「ボス部屋まで辿り着けなかったね」

 

「そうだなー。 ボス部屋まで、後もう少しだと思うんだけどな」

 

俺は、大きな樹の枝かげに隠れている一匹のモンスターを見つけた。

俺は、視線を集中させモンスターの名前を表示させた。

《ラグー・ラビット》超がつくレアモンスターだ。

俺は、ユウキに知らせた。

 

「ユウキ。 あれ見ろよ」

 

俺は、ユウキの肩を優しく叩き、大きな樹のかげに視線を誘導させた。

ユウキは、大きな樹のかげに隠れている一匹のモンスターを見て呟いた。

 

「……ラグー・ ラビット??」

 

俺は、ユウキの呟きに頷いた。

 

「今日の夕食にしようか??」

 

「賛成!!」

 

俺とユウキは、ピックを二本同時に抜き、投剣スキル《シングルシュート》のモーションに入った。

先にユウキがピックを放った。

放ったピックは、ラグー・ラビットの近くにある木に刺さった。

ラグー・ラビットは、木に刺さったピックに驚き、俺の目の前に飛び出してきた。

俺は、ラグー・ラビットが飛び出してきた所を狙いピックを放った。

ピックが命中し、ラグー・ラビットのHPをゼロにした。

ラグー・ラビットは、ポリゴンを四散した。

 

「よし。 作戦成功だ!!」

 

「やった!!」

 

今のが、俺達が即興で作り上げた作戦だった。

ユウキはわくわくしながら、アイテムストレージを開いた。

俺も、ユウキに続いてアイテムストレージを開く。

そこには《ラグー・ラビットの肉》と書かれた文字があった。

 

「やったよ!! S級食材ゲットだよ!!」

 

ユウキのテンションは最高潮にあがっていた。

 

「だな」

 

ユウキは、このS級食材をどうするんだろう?

 

「このS級食材は、みんなで食べようね」

 

「みんなって、誰の事だ?」

 

「えっと、キリトとアスナと姉ちゃん、 かな」

 

みんな、攻略組トッププレイヤーだな。 それに全員二つ名持ちだよ。

俺が《黒の剣士》、ユウキが《絶剣》、アスナが《閃光》、ランが《剣舞姫》。

 

「今日は、腕を振るっちゃうぞ~」

 

「おう。 楽しみにしているよ。 ところで、その晩餐会は何処で開くんだ」

 

「う~ん。 ボク達の家で開こうか」

 

「了解した」

 

俺達は、夕食の事を考えながら第50層「アルゲード」へ足を進めた。

 

 

♦♦♦♦♦

 

俺達は無事ホームに戻った。

ホームに戻った後、すぐにユウキは、ランとアスナにメッセージを飛ばした。

 

「よし。 これでOK」

 

「だな」

 

 

20分後。

まず、ユウキの姉ランが俺達の家にやって来た。

 

「S級食材を手に入れたって本当なの!?」

 

ユウキは、ランに聞かれアイテムストレージを可視モードにした。

 

「本当だわ!!」

 

ランのテンションは最高潮にあがっていた。

こういう所はとても似ているな。

 

「アスナが来てから料理しよう」

 

「そうしましょうか」

 

ユウキとランは、下準備をする為キッチンに入って行った。

 

 

10分後。

アスナが俺達の家にやって来た。

アスナの息はとてもあがっていた。

何でだろう?

聞いてみよう。

 

「どうしたんだアスナ。 そんなに息をあげて?」

 

「護衛のクラディールを撒いて来たのよ」

 

ずいぶん仕事熱心な護衛だな。

 

「ところで本当なの? ラグー・ラビットの肉を手に入れたって?」

 

「ああ」

 

俺は、アイテムストレージを可視モードにしてアスナに見せた。

 

「本当だったんだ」

 

アスナは、半信半疑だったんだな。

ユウキとランがキッチンから出てきた。

 

「姉ちゃん。 アスナが来たよ」

 

「アスナさん。 こんばんは」

 

「こんばんは。 ユウキちゃん、ランさん」

 

玄関前で挨拶を交わした後、俺達はリビングに有るテーブルまで足を進めた。

俺は、アイテムウインドウからラグー・ラビットの肉をオブジェクトとして実体化させ、テーブルの上に五つ並べてある一つの皿の上に置いた。

三人は、俺がオブジェクトとして実体化させた“それ”を見て言葉を発した。

 

「これがS級食材のお肉かー」

 

「美味しそうな。 お肉ね」

 

「ですね」

 

と三人が言った。

 

「どんな料理にする?」

 

とユウキが俺に聞いてきた。

 

「シェ、シェフのお任せで」

 

「じゃあ、≪ラグー(煮込み)≫なんだから、シチューにしようよ。 姉ちゃんもアスナもそれでいいかな?」

 

「「OK」」

 

三人はシチューを作る為、キッチンに入っていった。

 

「うまいシチューが出来るはずだ。 三人とも料理スキルを完全習得(コンプリート)しているからな」

 

俺は、声に出し呟いた。

俺は、リビングで料理の完成をわくわくしながら待っていた。

 

 

5分後。

三人がキッチンから姿を現した。

三人は、出来あがった料理をテーブルの上に並べた。

ユウキと俺が向い合せになるように、アスナとランが向い合せになるように席に着いた。

眼前の大皿には湯気を上げるブラウンシチューがたっぷりと盛り付けられ、鼻腔を刺激する芳香(ほうこう)を伴った蒸気が立ち上っている。

照りのある濃厚なソースに覆われた大ぶりな肉がごろごろと転がっている。

俺達は、合掌し眼前に並べてあるシチューを食べ始めた。

俺達は、一言も発することなく、黙々とシチューを口に運んだ。

俺達は、シチューの痕跡が無くなるまで綺麗に平らげた。

 

「「「「今まで頑張って生き残れてよかった(わ)~~」」」」

 

俺達は、原始的欲求を心ゆくまで満たした充足感に浸りながら、不思議な香りのするお茶を啜った。

アスナがポツリと呟いた。

 

「不思議よね……。 なんだか、この世界で生まれて今まで暮らしてきたみたいな、そんな気がするわ」

 

暫しの沈黙の後、ランが沈黙を破った。

 

「確かにそうね。 この頃は、クリアだ脱出だって血眼になる人が少なくなってきたわ」

 

「攻略のペース自体も落ちてきているわ。 今最前線で戦っているプレイヤーなんて、五百人いないでしょう。 危険度のせいじゃない……。 みんな、馴染んできている。 この世界に……」

 

俺は帰りたいな。

ユウキとの約束もあるし。

ユウキは、俺の内心を見透かした様に言った。

 

「でも、ボクは帰りたいな。 キリトとの約束もあるしね」

 

「約束ってなんのこと?」

 

とランが聞き。

 

「なんのことなの?」

 

とアスナが聞いた。

 

「『現実世界でも結婚をしよう』っていう約束だよ」

 

ユウキは頬を赤く染め質問に答えた。

 

「「へ~~」」

 

ランとアスナは、温かい視線を俺に向けた。

 

「なっなんだよ」

 

俺は、逃げるように話を戻した。

 

「おっ俺達ががんばらなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないからな」

 

すると、ランが提案してきた。

 

「じゃあ、明日みんなで攻略に行きましょうか?」

 

「いいぞ」

 

「了解したよ。 姉ちゃん」

 

「私もいいわよ」

 

上から順にラン、キリト、ユウキ、アスナだ。

アスナは、ギルドの活動どうするのだろう?

俺は聞いてみる事にした。

 

「アスナ、ギルドはどうするんだ?」

 

「うちには、レベル上げのノルマとかないから大丈夫よ。 それに明日はオフだしね」

 

「じゃあ、明日九時、第74層の転移門前に待ち合わせでいいかな?」

 

「「わかったわ」」

 

「じゃあ、今日はこれで解散しようか」

 

とユウキが言った。

 

「ええ。 そうしましょうか」

 

「そうですね」

 

俺達はランとアスナを送る為、立ち上がり玄関へと足を進めた。

 

「今日はご馳走様でした。 とても楽しかったです」

 

「今日は誘ってくれてありがとね。 キリト君、ユウキちゃん」

 

「じゃあ、またな。 二人とも」

 

「またね。 姉ちゃん、アスナ」

 

「「また明日ね」」

 

ランは第47層「フローリア」に、アスナは第61層「セルムブルグ」に有る自分のホームに戻った。

俺達は、家の中に入り明日の攻略に備える事にした。

 

「ポーションと結晶は、これでOKだな。 そっちは終わったか?」

 

ユウキは、武器の手入れをしている。

 

「終わったよ」

 

「よし。 これで準備完了だね」

 

「だな」

 

「アスナとパーティー組むのは、第1層ボス攻略戦以来だね」

 

「ランとは、初めて組むな」

 

明日の迷宮区攻略が楽しくなりそうだな。

 

「明日は、遅刻をしないようにしようね」

 

「了解」

 

俺達はベットに横になった。

 

「おやすみ。 キリト」

 

「おやすみ。 ユウキ」

 

俺達は、ゆっくり目を閉じ眠りに付いた。

 




こんな感じに書き上げました。

上手く書けているかな~。

あと、ランのポジションが曖昧になってきてしまった(汗)

どうしよう…。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第33話≪格の違い≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回の投稿はめちゃくちゃ不安です。

あと、ランさんの立ち位置どうしよう…。

キリト君はユウキちゃん一筋にしようと思います。(ネタバレ)

それでは、どうぞ。


翌日。

俺達は、起床アラームによって目を覚ました。

今は、朝の8:30だ。

俺は、起きあがり戦闘服に身を包み、武器を装備した。

ユウキは、俺より早く起床していた。

すでに、戦闘服と武器を装備していた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「OK」

 

俺達は、第74層転移門前に向かった。

 

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

第74層 転移門前

 

転移門前には、ユウキの姉ランが俺達を待っていた。

 

「姉ちゃん。 おはよう」

 

「おはよう。 ラン」

 

「おはようございます」

 

俺達は、朝の挨拶を済ませアスナを待つことにした。

 

 

10分後。

 

「来ない」

 

「だねー」

 

「ですね」

 

上から順にキリト、ユウキ、ランだ。

俺達は、転移門のすぐ傍に立っている。

転移門から青いテレポート光が発生した。

空中に人影が実体化し、そのまま俺に向かって飛んできた。

 

「きゃぁぁぁぁ! よ、避けてー!」

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

このプレイヤーは転移門ゲートに飛び込んで、そのままここまでテレポートしたから俺に向かって飛んできたんだろう。

 

「なっ、な……!?」

 

「…………?」

 

俺の手に、何やら好ましい不思議な感触が伝わってきた。

なんだこれは?

 

「や、やーーーっ!!」

 

突然耳元で大音量の悲鳴が上がり、俺の後頭部は激しく地面に叩きつけられた。

同時に体の上から重さが消滅する。

俺は、後頭部を擦りながら上半身を起こした。

目の前に、ペタリと座り込んだ女性プレイヤーがいた。

その女性プレイヤーは、赤と白を基調とした《血盟騎士団》のユニフォームを着込んでいる。

俺に飛んできた女性プレイヤーは、血盟騎士団副団長《閃光》のアスナであった。

アスナの両腕は、胸の前で交差をしている。

もしかして、……胸を……、触ってしまったのか…?

俺は、恐る恐る右隣に立っている、ユウキとランを見た。

マジかよ。 二人からあり得ない殺気が漂っているよ……。

後ろには、修羅が見えるし…。

ヤバい。 後で殺される。

とりあえず……、アスナに挨拶をしないと。

 

「や……やぁ、おはようアスナ」

 

アスナに挨拶が終わった後、ユウキが声をかけてきた。

 

「後で夫婦会議をするからね!!」

 

「はい……」

 

「キリトさん。 私も会議に混ざりますからね!!」

 

「わっ、わかりました」

 

俺は心の中で呟いた。 短い人生だったなと。

アスナが姿を現した直後、新たな人影が転移門から出現した。

今度の転移者はきちんと地面に足を付けている。

光が消え去ると、そこに立っていたのは《血盟騎士団》のユニフォームを着込み、やや装飾過多気味の金属鎧と両手用剣を装備した男であった。

その人物は、アスナが昨日撒いた護衛だった。

確か名前は、クラディールだっけか。

アスナは、出現した人物を見て俺の後ろに隠れた。

 

「ア……アスナ様、勝手なことをされては困ります……」

 

アスナ様って。

こいつ、アスナを崇拝しているプレイヤーか?

 

「さぁ、アスナ様、ギルド本部まで戻りましょう」

 

「嫌よ、今日は活動日じゃないわよ! ……だいたい、アナタなんで朝から家の前に張り込んでいるのよ!?」

 

こいつ、ストーカーか?

 

「ふふ、こんなこともあろうと思いまして、一ヶ月前からずっとセルムブルグで早朝より監視の任務についておりました」

 

うん。 こいつ、ストーカーだ。

 

「そ……それ、団長の指示じゃないわよね……?」

 

「私の任務はアスナ様の護衛です! それにはご自宅の監視も……」

 

「ふ……含まれないわよ。バカ」

 

クラディールは、怒りと苛立ちの表情を浮かべ、かつかつと歩みよると俺の後ろに隠れたアスナの腕を掴んだ。

 

「聞き分けのないことを仰らないでください……。 さぁ、本部に戻りますよ」

 

俺は右隣に立っている、ユウキとラン見た。

ユウキとランは、頷いてくれた。

俺がこれから実行する事に賛成してくれた。 ということだろう。

俺は、アスナを掴んだクラディールの右手首を握り、街区圏内で犯罪防止コードが発動してしまうギリギリの力を込める。

 

「悪いな。 お前さんのトコの副団長は、今日は“俺達”の貸し切りなんだ」

 

「そうだよ。 おじさん」

 

「そうね」

 

「貴様ら……!」

 

クラディールは軋むような声で唸った。

 

「アスナの安全は、俺達が責任を持つよ。 別に今日ボス戦をやろうって訳じゃない。 本部にはあんた一人で戻ってくれ」

 

「ふ……ふざけるな!! 貴様らのような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!! わ……私は栄光ある血盟騎士団の……」

 

「あんたよりはマトモに務まるよ」

 

「ガキィ……そ、そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな……」

 

クラディールは、震える右手でウインドウを呼び出すと、俺の視界にシステムメッセージが出現した。

【クラディールから 1vs1 デュエルを申し込まれました。 受諾しますか?】

発光する文字の下に、Yes/Noのボタンといくつかのオプション。

俺は、左隣に居るアスナに視線を向けた。

アスナは小声で言った。

 

「団長には、私から報告するから。 大丈夫よ」

 

続いて、右隣に居るユウキとランを見た。

ユウキとランは、小声で言った。

 

「格の違いを見せ付けてあげなよ」

 

「見せ付けてください」

 

「了解」

 

俺は、三人に聞こえる様に呟いた。

Yesボタンに触れ、オプションの中から《初撃決着モード》を選択した。

メッセージは【クラディールとの 1vs1 デュエルを受諾しました】と変化、その下で六十秒のカウントダウンが開始される。

 

「ご覧くださいアスナ様! 私以外に護衛が務まる者など居ないことを証明しますぞ!」

 

クラディールは、腰から大ぶりの両手剣を引き抜く。

俺も背中に装備している愛剣を引き抜く。

俺とクラディールは、五メートルほどの距離を取って向き合った。

カウントを待っていたら、周囲に次々と野次馬が集まってきた。

 

「《黒の剣士》キリトとKoBメンバーがデュエルだとよ!!」

 

野次馬は、口笛を鳴らしたり、野次を飛ばしている。

だが、カウントが進むにつれ、それらの声が聞こえなくなっていた。

クラディールは、剣を中段やや担ぎ気味に構え、前傾姿勢で腰を落としていた。

俺は、剣を下段に構えて緩めて立つ。

カウントが0になり【DUEL!!】の文字が飛散したと同時に俺は地面を蹴っていた。

ほんの一瞬遅れてクラディールの体も動き始めた。

クラディールは、驚愕の表情をしていた。

下段の受身姿勢を見せていた俺が、突進したからだ。

クラディールが放ってきた技は両手用大剣の上段突進技《アバランシュ》だ。

優秀な高レベル剣技だ。

モンスターが相手ならばな。

俺は、上段の片手剣突進技《ソニックリープ》を選択した。

技の威力は、向うのほうが上だ。

だが、俺の狙いはクラディール本人ではない。

二人の距離が凄まじいスピードで縮んでいく。

大きく後ろに振りかぶられた大剣が、オレンジ色のエフェクト光を発しながら俺に向かって撃ち出されてくる。

一瞬早く動き出した俺の剣は、斜めの軌道を描き、黄緑色の光のエフェクト光を発しながら、攻撃判定の発生する直前の奴の大剣の横腹に命中した。

武器と武器の衝突した場合の結果のひとつ、それが《武器破壊》。

クラディールの両手剣が横腹から圧し折れた。

そのまま俺と奴は、空中ですれ違い、位置を入れ替え着地した。

折れた奴の両手剣の上半分が、中間に有る石畳に突き刺さった後、両手剣の上半分はポリゴンを四散させた。

クラディールの手に残った下半分もポリゴンを四散させた。

 

「すげぇ、いまの狙ったのか」

 

この言葉と同時に歓声が上がった。

俺は、クラディールにゆっくり歩み寄る。

俺は、小声で言った。

 

「武器を替えて仕切りなおすなら付き合うけど……。 もういいんじゃないかな」

 

クラディールは、軋む声で「アイ・リザイン」と呟いた。

俺の横に歩み寄ってきたアスナが冷ややかな声で言葉を発した。

 

「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。 本日をもって護衛役を解任。 別命があるまでギルド本部にて待機。 以上」

 

「……なん……なんだと……この……」

 

クラディールは、呪詛であろう言葉を呟きながら、俺を見据え予備の武器を装備し直し、犯罪防止コードに阻まれるのを承知の上で斬りかかろうとしていた。

だが、奴は自制すると、転移門に足を進め「転移…グランザム」と呟いた。

野次馬は、散っていき俺達四人が残された。

 

「……ごめんなさい、嫌なことに巻き込んじゃって」

 

「ボクと姉ちゃんは大丈夫だよ」

 

「俺も大丈夫だ。 それよりアスナは大丈夫なのか?」

 

アスナは弱々しい笑みを浮かべて見せた。

 

「ええ。 いまのギルドの空気は、ゲーム攻略だけを最優先に考えてメンバーに規律を押し付けたわたしにも責任があると思うから……」

 

「アスナの頑張りがあったからこそ、攻略がここまで進んだんだ」

 

「そうですよ。 アスナさん」

 

「そうだよ。 アスナ」

 

「ありがとう。 三人とも」

 

アスナは、俺達の言葉を聞き、張り詰めていた頬を緩めた。

 

「じゃあ、三人に前衛(フォワード)を頼もうかな」

 

「じゃあ、ボクと姉ちゃんが前衛をやるね」

 

「そうしましょうか」

 

「……俺が前衛をやるよ。 後一人は三人の中から決めてくれ」

 

俺達はこのようなやり取りをした後、第74層迷宮区に足を進めた。

 




どうでしたか?

ぐだぐだですよね。

今回の話はレベルが高すぎです…。

僕だけだと思いますが…。

あと、夫婦会議はもう少し話が進んだら書こうと思います。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第34話≪第74層 迷宮区攻略≫

ども!!

舞翼です!!

今回も早く書きあげる事が出来ました。

ぐだぐだになっていたらごめんなさい!

それでは、どうぞ。




第74層 迷宮区。

 

俺達は、第74層の迷宮区の最前線で戦闘の真っ最中だ。

俺達が相手をしているモンスターは、デモニッシュ・サーバントの名を持つ骸骨の剣士だ。

恐ろしい筋力パラメータを持った厄介な相手だ。

俺達の前には、二体出現している。

俺達四人は、二人一組みになりデモニッシュ・サーバントに対峙していた。

ユウキは、デモニッシュ・サーバントに片手剣ソードスキル《バーチカル・スクエア》の四連撃を放つ。

 

「キリト、 スイッチ」

 

ユウキの声が迷宮区に響き渡った。

俺は、隙だらけのデモニッシュ・サーバントの懐に潜り、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》の水平四連撃を放つ。

俺達の攻撃を受けた、デモニッシュ・サーバントは、ポリゴンを四散させた。

俺とユウキは、デモ二ッシュ・サーバントの完全な消滅を確認してから、武器の刀身部分を鞘に戻した。

 

「やったね!」

 

「だな」

 

俺は、アスナとランを見た。

二人は初めてパーティーを組んだと思えない連携を見せていた。

アスナは、デモニッシュ・サーバントの隙を付き細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》計八連撃を放つ。

アスナが攻撃を放ち終わった後、ランがスイッチし、片手剣ソードスキル単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

この攻撃を受けたデモニッシュ・サーバントは、ポリゴンを四散させた。

こちらも同じく、デモニッシュ・サーバントの完全な消滅を確認してから武器の刀身部分を鞘に戻した。

 

「やった」

 

「やりましたね」

 

俺達四人は、未踏破の迷宮区を突き進んで行く。

途中五回ほどモンスターに遭遇したがダメージを負うことなく切り抜けた。

マップデータの空白部分もあとわずか、後は、一直線に進むだけだ。

一直線に進んだ俺達を待ち受けていたのは巨大な二枚の扉だった。

 

「なぁ、これって」

 

「ボスの部屋だね」

 

「どうします?」

 

「覗いてみる……?」

 

上から順に、キリト、ユウキ、ラン、アスナだ。

俺とユウキとランは、アスナの問いに頷いた。

 

「一応、転移結晶を用意しといてくれ」

 

「「「了解」」」

 

俺達は、アイテムストレージから転移結晶を取り出し、左手に握り締めた。

 

「いいな……。 開けるぞ……」

 

全員頷いたのを確認してから結晶を握っている左手を鉄扉(てっぴ)にかけゆっくりと力を込めた。

この動作によりゆっくりと扉が開いていく。

部屋の中は暗闇に包まれていた。

俺達は、一歩だけボス部屋に足を踏み入れた、

少し離れた場所の床の両側に二つの青い炎が灯った。

次の瞬間、ボボボボボ……と連続音と共に入り口から中央に向かって真っすぐに炎の道が出来上がる。

激しく揺れる火柱の後ろから徐々に巨大な姿が出現した。

見上げるようなその姿は、全身に縄のごとく盛り上がった筋肉に包まれている。

肌の色は周囲の青い炎に負けぬ深い青、分厚い胸板の上に乗った頭は、人間ではなく山羊(やぎ)そのものだ。

頭の両側からは、ねじれた太い角が後方にそそり立つ。

眼は、青白く燃えているかのような輝きを放っている。

下半身は、濃紺の長い毛に包まれている。

簡単に言えば悪魔の姿そのものだ。

恐る恐る視線を凝らし、出てきたカーソルの文字を読む。

《The Gleame Eyes》。

グリームアイズ、輝く目。

名前に定冠詞がつくのは、ボスモンスターの証である。

グリームアイズは、右手に持った巨大な剣をかざして、こちらにまっすぐ地響きを立てながら猛烈なスピードで走り寄ってきた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」」

 

俺達は、ほぼ同時に悲鳴を上げ、出口に向き直ると全速力で安全エリアまで走り出した。

安全エリアに指定されている広い部屋に飛び込み、並んで壁際にずるずるとへたり込む。

俺達は大きく一息を吐いた後、どちらともなく笑いがこみ上げてきた。

冷静にマップなりで確認すれば、あの巨大な悪魔が部屋から出てこないのはすぐに判ったはずだが、どうしても立ち止まる気にはならなかったのだ。

 

「あはは、やー、逃げた逃げた」

 

「あはは、確かに逃げたね」

 

「ふふ、ですね」

 

三人は床にペタリと座り込んで、愉快そうに笑いあった。

 

「こんなに一生懸命走ったのはすっごい久しぶりだよ。 まぁ、私達よりキリト君のほうが凄かったけどね」

 

「…………」

 

否定できない。 憮然(ぶぜん)とした俺の表情を眺めながら、三人はくすくすと笑い合っていた。

 

「……あれは苦労しそうだね……」

 

とアスナは表情を引き締めて言った。

 

「そうだね。 武装は大型剣ひとつだけど特殊攻撃アリかもね」

 

とユウキが言い、

 

「前衛に堅い人を集めてどんどんスイッチしてくかないですね」

 

とランが言った。

 

「盾装備の奴が十人は欲しいな……。 まぁ、少しずつちょっかい出して傾向と対策って奴を練るしかなさそうだ」

 

と俺。

 

「「盾装備、ねぇ」」

 

アスナとランが意味ありげな視線でこちらを見た。

 

「君達、なにか隠しているでしょ」

 

「……隠しているわよね」

 

「「なんで(かな)……」」

 

「だっておかしいもの。 普通、片手剣の最大のメリットって盾を持てることじゃない。 でも二人が盾持ってるとこ見たことない。 私の場合は細剣のスピードが落ちるからだし、スタイル優先で持たないって人もいるけど、君達の場合はどっちでもないよね。……あやしいなぁ」

 

「……あやしいわね」

 

「ねぇキリト。 二人には教えよっか」

 

「了解」

 

俺達は、二人に教える事にした。

 

「「実は「まぁ、いいわ。 スキルの詮索はマナー違反だもね」」」

 

「そうですね」

 

「後で二人には教えるよ」

 

「ボクも教えるね」

 

ユウキは、時計を確認した。

 

「わ、もう三時だ。 遅くなっちゃたけど、お昼にしよっか」

 

「「「賛成!!」」」

 

ユウキは手早くメニューを操作し、紫革の手袋の装備を解除して小ぶりなバスケットを出現させた。

バスケットから大きな紙包みを三つ取り出し俺達に配ってくれた。

丸パンをスライスして焼いた肉や野菜をふんだんに挟み込んだサンドイッチだ。

胡椒(こしょう)に似た香ばしい匂いが漂う。

俺達三人は、口を開けてかぶりついた。

 

「……うまい」

 

「「おいしいわ」」

 

俺達三人は、率直な感想を呟いた。

 

「本当ッ!! 嬉しいな~」

 

ユウキは、笑顔で応じた。

 

「あと、これも作ってみたんだ。 こっちがグログアの種とシュブルの葉とカリム水」

 

言いながらユウキは、バスケットから小瓶を二つ取り出し、片方の栓を抜いて俺達三人の人差し指に紫色の液体を付着させた。

俺達三人は、人差し指に付着した紫色の液体をゆっくりと口の中に運んだ。

 

「「「…マヨネーズ!!」」」

 

「凄いよユウキちゃん。 マヨネーズの再現に成功したんだ」

 

「凄いわ。 さすが私の妹ね」

 

「えへへ」

 

「で、こっちは何なんだ?」

 

俺は、もう一つの小瓶を見た。

 

「こっちは、アビルパ豆とサグの葉とウーラフィッシュの骨で作った調味料だよ」

 

こちらは、黄緑色の液体であった。

ユウキは、先程と同じ様に俺達三人の人差し指に液体を付着させた。

俺達三人は、ゆっくり人差し指を口に運んだ。

 

「「「醤油!!」」」

 

「醤油は、アスナと協力して再現したんだ」

 

「二人とも凄いわね……」

 

「確かに……」

 

俺とランは率直な感想を言った。

 

「キリト君は、何時も食べているんでしょ?」

 

「まぁな。 マヨネーズと醤油は、今日初めて食べたな」

 

この様な会話をしていたら不意に下層側の入り口からプレイヤーの一団が鎧を鳴らして入って来た。

現れた六人パーティーは、ギルド《風林火山》であった。

 

「おお、キリト! ユウキちゃん! しばらくだな」

 

俺とユウキに気付いて笑顔で近寄って来た《風林火山》のリーダー、クラインに俺とユウキは、腰を上げて挨拶を交わす。

 

「まだ生きていたか、クライン」

 

「久しぶりだね。クライン」

 

「相変わらず愛想のねぇな野郎だな、キリの字よ。 ユウキちゃんも久しぶり。 ……キリトの後ろにいる人……は…」

 

立ち上がったアスナとランを見て、刀使いは額に巻いた趣味の悪いバンダナの下を丸くした。

 

「あー、っと、ボス戦で顔を合わせているだろうけど、一応紹介するよ。こいつはギルド《風林火山》のクライン。 で、こっち二人は《血盟騎士団》のアスナ、《剣舞姫》のランだ」

 

俺の紹介に二人はちょこんと頭を下げたが、クラインの目のほかに口も丸く開けて完全停止した。

 

「おい、何とか言え。 ラグってんのか?」

 

肘でわき腹をつついてやるとようやく口を閉じ、凄い勢いで敬礼気味に頭を下げる。

 

「こっ、こんにちは!! くくクラインという者です二十四歳独身」

 

どさくさに紛れて妙なことを口走る刀使いわき腹をもう一度今度は強めにどやしつける。

だが、クラインの挨拶が終わると同時に後ろに下がっていた五人のパーティーメンバーが三人に駆け寄ってきた。

俺は三人に近寄ってくる手前でガードをした。

だが全員我先にと口を開いて自己紹介を始めのだ。

二年前、このデスゲームが始まった日、俺が怯み、拒んだその重みを、クラインは堂々と背負い続けている。

クラインは、独力で仲間を一人も欠くことなく守り抜き、攻略組の一角を占めるまでに育て上げたのだ。

 

「ま、まぁ、悪い連中じゃないから。 リーダーの顔はともかく」

 

クラインが俺の足を思い切り踏みつける。

結構痛い…。

突然我に返って俺の腕を掴むと、抑えつつも殺気の籠った声で聞いてきた。

 

「どっどどどうゆうことだよキリト!! その左手薬指に嵌めている指輪はどうした??」

 

「えっと……、ユウキと俺は、結婚したんだ。 後ろに立っている、アスナとランは、昨日の成り行きでパーティーを組んでいるな」

 

「く~、羨ましい」

 

この様な言葉を発しているが内心では激怒してるな。

クラインが、先程掴んだ俺の腕に有り得ないほどの力を込めてきた。

めちゃくちゃ痛いんですけど……。

これは、ただで解放されそうもない、と俺が肩を落とした。

その時、先程ギルド《風林火山》メンバーが通って来た通路から新たな一団の訪れを告げる足音と金属音が響いてきた。

 

「キリト。 《軍》だよ」

 

とユウキが俺に囁いた。

軍の連中は、俺達とは反対側の端に部隊を停止した。

先頭にいた男が『休め』と言った。

途端、軍のメンバーが腰を下ろした。

軍のメンバーは、疲弊の色が見て取れる。

先頭に立っていた男がこちらに向かって近づいてきた。

男の装備は他のメンバーの装備とやや異なるようだった。

金属鎧も高級品だし、胸部分に他の者にはない、

アインクラッド全景を意匠化したらしき紋章が描かれている。

男は先頭に立っていた俺に向かって口を開いた。

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

《軍》というのは、その集団外部の者が揶揄(やゆ)的につけた呼称のはずだったが、いつから正式名称になったんだ。

その上《中佐》と来た。

俺は「絶剣とコンビを組んでいるキリトだ」と名乗った。

男は、軽く頷き、横柄(おうへい)な口調で訊いてきた。

 

「君らはもうこの先も攻略しているのか?」

 

「……ああ。 ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

 

「うむ。 ではそのマップデータを提供して貰おう」

 

当然だ、と言わんばかりの男の口調に俺も少なからず驚いたが、後ろにいたクラインはそれどころではなかった。

 

「な……て……提供しろだと!? 手前ェ、マッピングする苦労が解って言ってんのか?!」

 

未踏破のマッピングデータは貴重な情報だ。

トレジャーボックス狙いの鍵開け屋の間では高値で取引されている。

クラインの声を聞いた途端男は片方の眉を動かし、顎を突き出すと、

 

「我々は君ら一般プレイヤー開放の為に戦っている!!」

 

大声を張り上げた。 続けて、

 

「諸君が協力するのは当然の義務である!!」

 

傲岸不遜(ごうがんふそん)とはこのことだ。

ここ一年、軍が積極的にフロア攻略に乗り出してきたことはほとんどないはずだが。

 

「ちょっと、あなたねぇ……」

 

「て、てめぇなぁ……」

 

「傲岸不遜のいい見本ね……」

 

「このおじさん嫌い……」

 

上から順に、アスナ、クライン、ラン、ユウキだ。

アスナとクラインは爆発寸前である。

 

「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ、構わないさ」

 

「おいおい、そりゃ人が好すぎるぜキリト」

 

「マップデータで商売する気はないよ」

 

言いながらトレードウインドウを出し、コーバッツ中佐と名乗る男に迷宮区のデータを送信する。

男は表情一つ動かさずマップデータを受信すると「協力感謝する」と感謝の気持ちなどかけらも無さそうな声で言い、くるりと後ろを向いた。

その背中に向かって声をかける。

 

「ボスにちょっかい出す気ならやめといたほうがいいぜ」

 

コーバッツはわずかにこちらを振り向いた。

 

「……それは私が判断する」

 

「さっきちょっとボスの部屋を覗いてきたけど、生半可な人数でどうこうなる相手じゃないぜ。 仲間も消耗しているみたいじゃないか」

 

「……私の部下はこの程度で音を上げるような軟弱者ではない!!」

 

部下、という所を強調してコーバッツは苛立ったように言ったが、床に座り込んだままの当の部下たちは同意している様には見えなかった。

 

「貴様等さっさと立て!!」

 

というコーバッツの声によろよろ立ち上がり、二列縦隊に整列する。

コーバッツは最早こちらには目もくれずその先頭に立つと、片手を上げて振り下ろした。

軍のメンバーは、一斉に武器を構え、重々しい装備を鳴らしながら進軍を再開した。

 

「……大丈夫なのかよあの連中……」

 

軍の部隊が上層部へと続く出口に消え、規則正しい足音が聞こえなくなった頃、クラインが気遣わしげな声で言った。

 

「いくらなんでもぶっつけ本番でボスに挑んだりはしないと思うけど…」

 

「でも、どこか無謀さを感じました」

 

「一応様子だけでも見に行く?」

 

「そうだな」

 

俺達が言うと《風林火山》クラインの仲間五人も相次いで首肯してくれた。

ここで脱出して、あとからさっきの連中が未帰還だ、

などという話を聞かさせたら寝覚めが悪すぎる。

 

俺達は、装備を確認したあと軍の連中の後を追った。

 




話が進むに連れ、書くのが難しくなってきてますね…。

僕だけかもしれませんが…。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第35話≪青眼の悪魔とユニークスキル≫

ども!!

舞翼です!!

今回も早く書き上げたぜ!!

誤字脱字などがあったらごめんなさい。

それでは、どうぞ。


俺達は、立ち塞がるモンスターを蹴散らしながら、ボス部屋へ続く通路まで辿り着いた。

ボス部屋までは、真っ直ぐに進むだけだ。

 

「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」

 

「そうだといいんですけど…」

 

クラインが、腰の鞘に納刀しながら言った。

ランは、腰の鞘に片手剣の刀身部分を戻しながら呟いた。

 

「俺は、嫌な予感がする……」

 

「ボクも嫌な予感がする……」

 

俺達が半ばほどまで進んだ時、俺とユウキの嫌な予感が的中してしまったのだ。

 

「あぁぁぁぁ……」

 

その声は悲鳴だった。

俺達は、顔を見合わせると、一斉に駈け出した。

俺達は、風の如く疾駆する。

俺達の後ろを追いかけていた《風林火山》メンバーは、モンスターに道を塞がれていた。

 

「俺達だけで行くぞ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

やがて、彼方にあの大扉が出現した。

すでに左右に大きく開いている。

 

「バカやろう!!」

 

「「「バカッ……!!」」」

 

俺達は、思わず叫んでしまった。

俺達は、扉の手前で急激な制動をかけ、入り口ギリギリで停止した。

 

「おい、大丈夫か?!」

 

俺は、扉の手前に到着したと同時に叫ぶ。

部屋の内部は、地獄絵図だった。

部屋の奥で必死に逃げ回っている人影を発見した。

軍の部隊だ。

陣形がバラバラになっており統制も何もあったものではない。

咄嗟に人数を確認するが、二人足りない。

こうしている間にも軍の部隊は、青い悪魔の攻撃を受けている。

なんで、転移結晶を使わない?!

俺は、転移結晶を使えと叫んだ。

 

「何をしている!! 早く転移結晶を使え!!」

 

一人の男がこちらに顔を向けると絶望の表情で叫び返してきた。

 

「だめだ……!! けっ……結晶が使えない!!」

 

このボス部屋は《結晶無効化空間》なのか?!

今までのボス部屋には無かったトラップだ。

これでは、迂闊に助けに入れない。

その時、一人のプレイヤーが剣を高く掲げ、怒号を上げた。

コーバッツであった。

 

「何を言うか……ッ!! 我々解放軍に撤退の二文字は有り得ない!! 戦え!! 戦うんだ!!」

 

「馬鹿野郎……!!」

 

俺は思わず叫んでいた。

結晶無効化空間で二人居なくなっているということは“死んだ”つまり消滅したということだ。

ようやくクライン達六人が追い付いてきた。

 

「おい、どうなっているんだ!?」

 

俺は手早く事態を伝える。 クラインの顔が歪む。

 

「な……、何とかできないのかよ……」

 

俺達が斬り込んで連中の退路を拓くことは出来るかもしれない。

だが、緊急脱出不可能なこの空間での戦闘は危険すぎる。

こちらに死者が出る可能性は捨てきれない。

あまりにも人数が少なすぎる。

俺が逡巡している内、部隊を立て直したらしいコーバッツの声が響いた。

 

「全員……突撃……!!」

 

十人の内、二人は瀕死状態だ。

残る八人を四人ずつの横列に並べ、その中央に立ったコーバッツが剣をかざして突進を始めた。

 

「やめろ……っ!!」

 

俺の叫びは届かない。

余りに無謀な攻撃だった。

八人一斉に飛び掛かっても、数ドットしか青い悪魔のHPバーを削ることしか出来ていなかったのだ。

青い悪魔は、口から眩い噴気を撒き散らした。

この攻撃を受けて軍の部隊は壊滅状況まで陥った。

どうやらあの息にもダメージ判定があるらしい。

その時、部隊の一人がすくい上げられる様に斬り飛ばされ、青い悪魔の頭上を越えて俺達の眼前の床に激しく落下した。

その人物は、コーバッツだった。

自分の身に起きたことが理解出来ないという表情で口がゆっくりと動いた『有り得ない』と。

直後、コーバッツの体はポリゴンを四散させた。

余りにあっけない消滅だった。

奥には、喚き声を上げるながら逃げ惑う、軍のパーティーメンバー。

すでに全員のHPが半分を割り込んでいる。

 

「だめよ……だめよ……もう」

 

絞り出すようなアスナの声。

ヤバい、と思いアスナの腕を掴もうとする。

だが一瞬遅かった。

 

「だめーーーーーッ!!」

 

絶叫と共に駈け出した。

空中で抜いた細剣と共に、一筋の閃光となり青い悪魔に突っ込んでいく。

 

「…… 行くぞッ!! ユウキ、ラン」

 

「「了解!!」」

 

俺達は、抜剣してアスナの後を追った。

 

「どうとでもなりやがれ!!」

 

クライン達も追随してくる。

アスナの攻撃によりこちらに誘導することに成功したが、グリームアイズは、アスナに向けて斬馬刀を振り下ろした。

アスナは咄嗟にステップでかわしたが、完全には避けきれず余波を受けて地面に倒れ込んだ。

 

「アスナ!!」

 

俺は、斬馬刀の間に潜り込み、ぎりぎりのタイミングで攻撃の軌道を逸らす。

 

「下がれ!!」

 

俺の言葉によってアスナは、後ろに飛び後退した。

グリームアイズが斬馬刀を大きく振りかぶり、俺の頭上目掛けて振り下ろした。

俺は、右手に装備している片手剣で受けた。

HPがじわじわと減少していく。

 

「「キリト(さん)スイッチ!!」」

 

この言葉と同時に俺は、無理やり斬馬刀を撥ね上げ二人と入れ替わる。

ユウキは、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》水平四連撃を放つ。

ランは、片手剣ソードスキル《シャープネイル》計三連撃を放つ。

俺は、その間にハイポーションを口の中に流し込みHPを全快にさせる。

俺の隣までアスナがやって来た。

アスナもハイポーションでHPを全快にしたようだ。

 

「いける!?」

 

「ああ」

 

「「スイッチ!!」」

 

二人は、グリームアイズの斬馬刀を左に受け流し、俺とアスナが入れるスペースを作る。

俺は、片手剣ソードスキル単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

アスナは、細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》計八連撃を放つ。

俺は、グリームアイズのHPを見た。

グリームアイズHPバーは、減少こそしていたが微々たるものだった。

《風林火山》メンバーは、倒れた軍のプレイヤーを部屋の外に連れ出そうとするが、俺達が中央で戦闘をしているため、その動きは遅々として進まない。

次の瞬間、斬馬刀が俺を捉えた。

痺れるような衝撃が俺を襲った。

HPバーが今の攻撃で半分削られた。

俺の装備とスキル構成は壁仕様(タンク)ではないのだ。

このことは、ユウキ、アスナ、ランにも当てはまる。

俺とユウキは、攻撃特化型。 アスナは、速度特化型。 ランは、速度特化型に近い。

その為、グリームアイズの一撃が当たれば致命傷に近いダメージになる。

このままでは、じり貧だ。

最早離脱する余裕は無い。

残された選択肢は一つだけだ。

攻撃特化仕様(ダメージディーラー)たる俺の全てを以て立ち向うしかない。

だが、俺だけでは火力が足りない。

 

「ユウキ!! “あれ”を使うぞ!!」

 

「わかった!!」

 

「アスナ! ラン! クライン! 十秒持ちこたえてくれ」

 

「「「わかった(わ)」」」

 

俺は、アスナと一緒に斬馬刀を撥ね上げる。

後ろからランとクラインが飛び込んできて応戦する。

それと同時に、俺はユウキの隣まで後退する。

俺は、所有アイテムのリストをスクロールし、一つを選び出してオブジェクト化する。

装備フィギュアの、空白になっている部分にそのアイテムを設定。

スキルウインドウを開き選択している武器スキルを変更。

全ての操作を終了し、OKボタンにタッチしてウインドウを消すと、背に新たな重みが加わった。

俺は、隣でスキルを変更の操作をしていた、ユウキを見る。

ユウキは、頷いた。

スキルの変更が完了したということだろう。

俺とユウキは同時に叫んだ。

 

「「いい(ぞ)(よ)!!」」

 

俺とユウキの声を、背を向けたまま三人は頷いた。

三人は、グリームアイズの斬馬刀にソードスキルを当て、俺とユウキが入れる間合いを作りだした。

 

「「スイッチ!!」」

 

俺とユウキは、タイミングを逃さず叫ぶと、グリームアイズの正面に飛び込んだ。

グリームアイズは、斬馬刀を構え直し大きく振りかぶる。

振り下ろされた斬馬刀を右手に装備しているエリュシデータで弾き返すと、間髪入れず左手を背に回して新たな剣(ダークリパルサー)の柄を握った。

抜き様の一撃をグリームアイズの胴に見舞う。

 

「グォォォォ!!」

 

憤怒の叫びを洩らしながら、グリームアイズは上段斬り下ろし攻撃を放ってきた。

俺は、剣を交差して斬馬刀を受け止め押し返す。

これにより、グリームアイズは態勢を崩す。

俺は“二刀流”上位剣技《スターバースト・ストリーム》十六連撃を放つ。

 

「うぉぉぉぉあああ!!」

 

俺は絶叫しながら、システムアシストをも上回ろうかという速度で攻撃を放ち続ける。

 

「…………あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

雄叫びと共に放った最後の十六撃目が、グリームアイズの胸の中央を貫いた。

だが、奴のHPバーは、後一本残っていた。

俺は、大技の硬直で動けない。

だが、ユウキが俺の後ろから飛び出してきて“黒燐剣”最上位剣技《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃を放つ。

グリームアイズは、フィニッシュの一番強烈な十一撃目の突きを受け、青い欠片となって爆散した。

 

「終わった……の?」

 

「終わった……のか?」

 

俺は、自分のHPバーを確認する。

赤いラインが、数ドットの幅で残っているだけであった。

隣で、剣を杖にしながら片膝を付いているユウキも同じだろうな。

俺も、剣を杖にしながら片膝を付けた。

 

こうして青い悪魔との戦闘は終了した。

 




出しちゃいました。

“黒燐剣”最上位剣技『マザーズ・ロザリオ』

“二刀流”上位剣技『スターバースト・ストリーム』

あと、クラインもちゃんと攻撃してましたよ…。

戦闘描写は難しい…。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第36話≪紅の聖騎士・ヒースクリフ≫

ども!!

ランちゃんもヒロインにしようか、すごく迷っている舞翼です!!

今回は少しだけオリジナル設定を入れました。

誤字脱字があったらゴメンナサイ…。

それでは、どうぞ。


青い悪魔との戦闘が終えたと同時に、俺は右隣で剣を杖にして片膝を付いているユウキに声を掛けた。

 

「……大丈夫か?」

 

「……一応、大丈夫かな」

 

ユウキは、弱々しい笑みを浮かべていた。

先程の戦闘による倦怠感(けんたいかん)が襲って来たんだろうな。

 

「……キリトは、大丈夫?」

 

俺は、剣を杖にしたまま応じた。

 

「……大丈夫だ」

 

ボス部屋は、まだ青い光の残滓(ざんし)が舞っている。

俺の左隣からランの声がした。

 

「キリトさん。 こっち向いてください」

 

俺は、ランが立っている方向に顔を振り向けた。

 

「どうしt “うぐっ”」

 

ランは、俺の口にレモンジュースの味に似たハイポーションが入った小瓶を突っ込んできた。

俺は、目を白黒させて飲み干した。

俺は、ランの事を恨めしそうに見たが無視されてしまった。

俺がハイポーションの中身を飲み干したのを確認してから、ランは、俺の隣に座った。

 

「ユウキちゃんもだよ。 ほらっ口を開けて」

 

ユウキは、アスナにハイポーションを飲ませて貰っていた。

こちらは普通に飲ませて貰っていた。

ハイポーションの中身を飲み干したのを確認してからアスナはユウキの隣に座った。

足音に顔を上げると、クラインが遠慮がちに声を掛けて来た。

 

「生き残った軍の連中の回復は済ませたが、コーバッツとあと二人死んだ……」

 

「……そうか。 ボス攻略で犠牲者が出たのは、六十七層以来だな……」

 

「こんなのが攻略って言えるかよ。 コーバッツの馬鹿野郎が……。死んじまったら何にもなんねぇだろうが……」

 

吐き出すようにクラインが言った。

頭を左右に振ると気分を替える様に聞いてきた。

 

「そりゃあそうと、お前ら、何だよさっきのは!?」

 

「言わなきゃダメか?」

 

「ったりめえだ! 見たことねえぞあんなの!」

 

ユウキが俺の前まで座りながら近寄ってきて口を開いた。

 

「それって、ボクも言わないといけないんだよね……?」

 

「……だな」

 

周りを見渡してみるとアスナとランを除いた、部屋にいる全員が沈黙して俺とユウキの言葉を待っていた。

 

「エクストラスキルだよ。“二刀流”」

 

「おおっ……。 ユウキちゃんのは」

 

「同じく、エクストラスキルの“黒燐剣”だよ」

 

おお……と、軍の生き残りやクラインの仲間の間にどよめき声が流れた。

エクストラスキルとは、ある条件を満たすと、新たに選択可能になるスキルのことだ。

俺の《体術》スキルもこれに含まれる。

 

「しゅ、出現条件は!?」

 

「解ってりゃもう公開している」

 

「そうだね」

 

首を横に振った俺達に、刀使いも『まぁそうだろうな……』と唸る。

出現条件がはっきり判明していない武器スキル、ランダム条件とさえ言われている、それが《エクストラスキル》と呼ばれるものだ。

このスキルには、クラインの《刀》も含まれる。

もっとも、刀スキルはそれほどレアなものではなく、曲刀をしつこく修行していれば出現する場合が多い。

 

このように、十数種類知られている《エクストラスキル》の殆どは最低でも十人以上が習得に成功しているのだが、俺の持つ“二刀流”と、ユウキの持つ“黒燐剣”と、【ある男】のスキルだけはその限りではなかった。

この三つは、恐らく習得者がそれぞれ一人しかいない《ユニークスキル》とでも言うべきものだ。

今まで、俺とユウキは“二刀流”と“黒燐剣”の存在をひた隠ししていたが、これだけの人数の前で披露してしまっては、とても隠しおおせるものではない。

 

「ったく、水臭ぇな二人とも。 そんなすげぇ裏技黙ってるなんてよう」

 

「スキルの出し方が判っていれば隠したりしないさ。 でもさっぱり心当たりがないんだ」

 

「何気なくスキルウインドウを見たら、今のスキルの名前が出現していたんだ」

 

以来、俺の“二刀流”と、ユウキの“黒燐剣”の修業は常に人の目が無い所でのみ行ってきた。

モンスター相手でもよほどのピンチの時以外使用していない。

いざという時の為の保身という意味もあったのだが。

それ以上に無用な注目を集めるのが嫌だったからだ。

 

「二つとも情報屋のスキルリストに載ってねぇな……。 てことは、ユニークスキルか!?」

 

クラインは、スキルリストを確認しながら呟いた。

 

「「多分……」」

 

俺達は言葉を続ける。

 

「……こんなスキル持っているって知られたら」

 

「しつこく聞かれたり、面倒なことになると思ったから表に出せなかったんだ」

 

クラインが深く頷いた。

 

「ネットゲーマーは嫉妬深いからな。 俺は人間が出来ているからともかく、妬み嫉みはそりゃあるだろうな」

 

クラインは、俺とユウキの左手薬指に嵌めらている結婚指輪を一瞥した。

 

「……まぁ、苦労も修業のうちと思って頑張りたまえ、若者よ」

 

「どういうことだ……?」

 

「どういうこと……?」

 

クラインは腰を屈めて俺の肩を叩くと、振りむいて軍の生存者達の方へと歩いて行った。

 

「お前達、本部まで戻れるか?」

 

クラインの言葉に一人が頷く。

まだ、十代とおぼしき男だ。

 

「はい。 ……あ、あの……有り難うございました」

 

「礼なら奴らに言え」

 

こちらに向かって親指を振る。

軍のプレイヤー達は、よろよろと立ち上がると座り込んでいる俺達四人に深々と頭を下げ、部屋を出て行った。

回廊に出た所で次々に転移結晶を使いテレポートしていく。

クラインは、軍全員のテレポートを見届けてから俺達に声を掛けてきた。

 

「オレ達は、このまま七十五層の転移門をアクティベートしに行くけど、お前達はどうする?」

 

「俺達は、このまま帰るよ」

 

「そうか。 ……気を付けて帰れよ」

 

向うには上層へと繋がる階段があるはずだ。

扉の前で立ち止まると刀使いはこちらに振り向いた。

 

「その……、キリトよ。 おめぇがよ、軍の連中を助けに飛び込んでいった時な…」

 

「……なんだよ?」

 

「オレぁ……、なんつうか、嬉しかったよ。 そんだけだ、またな」

 

まったく意味不明だ。

首を傾げる俺にクラインは右手親指を突き出すと、扉を開け仲間達と一緒にその扉の向こうへ消えて行った。

だだっ広いボス部屋に、俺達四人だけが残された。

 

「キリトさん、心配したんですからね!!」

 

「ユウキちゃんもだよ!!」

 

「「ごめんなさい……」」

 

「じゃあ、私はギルド本部に戻って、団長にこのことを伝えに行くね」

 

「「「わかった(わ)」」」

 

アスナは、アイテムストレージから転移結晶を取り出てから回廊まで移動し転移結晶を使い第55層「グランザム」に転移した。

 

「じゃあ、俺達も帰るか?」

 

「だね」

 

「そうですね」

 

俺達は、転移結晶を使わず迷宮区を抜ける事にした。

俺とユウキの“二刀流”と“黒燐剣”により途中でPOPしてきたモンスターを蹴散らしながら第74層迷宮区から抜け出した。

 

「明日から面倒な事になるよなー」

 

「だねー」

 

「手伝える事が有ったら何でも言ってくださいね」

 

俺とユウキは、ランを第47層「フローリア」に送ってから、第50層「アルゲード」に戻った。

 

 

 

第50層「アルゲード」

 

翌日。

 

俺達は攻略に向かう為、戦闘服に身を包んでから武器を装備して第75層迷宮区に向かうことにした。

 

「よしっ! 迷宮区に行くか」

 

「OK」

 

だが、俺達は失念していた。

剣士や情報屋が家の前で張り込んであろうことに…。

玄関を開けたら絶叫に近い声が届いて来た。

 

「「「「「《絶剣》と《黒の剣士》が出て来たぞーーーーー」」」」」

 

「「「「「スキルの出現条件教えろごらーーーーー」」」」」

 

「「「「「この二人結婚しているらしいぞーーーーー」」」」」

 

剣士と情報屋の人数は、ざっと見ても15人は居るぞ…。

攻略組の連中はともかく、何で一般プレイヤーも一緒に張り込んでいたんだ…?

それに、どうやって俺達の家を特定した…。

今は、逃げるしかない。

 

「ユウキ、逃げるぞ!!」

 

「わっわかった!!」

 

俺達は、アルゲードの大通りを疾風の如く駆け抜け、エギルの経営する店まで走った。

エギルの経営している前に到着すると扉を勢いよく開けた。

 

「「はぁ……はぁ……はぁ…」」

 

「「エギル(さん)匿ってくれ!!」」

 

「……おう。 二階使ってもいいぞ」

 

「「ありがとう!!」」

 

俺達は、二階までダッシュして掛け上がった。

 

 

10分後。

エギルが二階に上がって来た。

 

「まさか、二人がユニークスキル使いだったとな。 ほれ、今日の新聞だ」

 

俺とユウキは新聞の見出しを見た。

新聞の見出しにはこう書いてあった。

 

『《軍の大部隊を全滅させた悪魔》曰く《それを撃破した二刀流使いの五十連撃》曰く《黒燐剣使いの三十連撃》』

 

こうも書いてあった。

 

『二人は、結婚していた。 プレイヤー名は《黒の剣士キリト。絶剣ユウキ》二人の左手薬指に注目。 男性プレイヤーの諸君これを見てどう思う?!」

 

……あの時、クラインが俺達の左手薬指に嵌めている結婚指輪を一瞥してから、発した言葉の意味は、こういう事を予想していたからか……。

この新聞を見て一般プレイヤーも押し寄せてきたのか……。

つか、いつの間に第74層のボス部屋の内部の写真撮ったんだ。

 

「一度くらい有名になってみるのもいいさ。 どうだ、いっそ講演会もやってみたら。会場とチケットの手はずはオレが」

 

「するか!!」

 

「しません!!」

 

俺とユウキは、ほぼ同時に叫び右手カップをエギルの顔頭のぎりぎりを狙って投げた。

が、染み付いた動作によって投剣スキル《シングルシュート》が発動してしまい、輝きながら猛烈な勢いで飛んだカップは部屋の壁に激突して大音響を撒き散らした。

幸い、建物本体は破壊不能なので、視界に“Immortal Object”のシステムタグが浮かんだだけだったが、家具に命中したら粉砕していたに違いない。

 

「おわっ、二人とも俺を殺す気か!」

 

俺とユウキは、エギルに一言謝罪する。

 

「はぁー、まぁいいか。 俺は店番しているから、落ち着くまで二階を使っていていいぞ」

 

「すまん。 助かる」

 

「助かります」

 

エギルは、店番に戻っていった。

同時にユウキに声を掛けられた。

 

「ねぇ、キリト。 今アスナからメッセージが飛んで来たんだけど……」

 

「どうした?」

 

「今、ヒースクリフさんがこちらに向かってきているみたい……」

 

「なんで俺達がいる場所が判ったんだ……? そして何の用だ……?」

 

 

5分後。

そいつは、やって来た。

 

「こんにちは、エギル君。 キリト君とユウキ君は居るかね?」

 

「こんにちは、エギルさん」

 

「こっ……、こんにちは、キリトとユウキちゃんに話があるんですか?」

 

上から順に、ヒースクリフ、アスナ、エギルだ。

アスナは、此処までの道案内を頼まれたらしい。

 

「うむ。 二人と話したくてね。 お邪魔させてもらったのだよ」

 

ヒースクリフは、表情一つ変えずエギルに伝えた。

 

「キリト、ユウキちゃん。 降りて来てくれ。 俺だけじゃ話が進まん」

 

「「了解……」」

 

俺達は、しぶしぶ一階に下りた。

俺とユウキを、呼び出した人物の名はヒースクリフ。

最強の男。 生きる伝説。 聖騎士等々。

血盟騎士団のギルドリーダーに与えられた二つ名は手の指で足りないほどだ。

 

そしてこの男は、唯一のユニークスキルを持つ男として知られていた。

こいつが操るユニークスキルは、十字を象った一対の剣と盾を用い、攻防自在の剣技を操る。

そのスキルの名は《神聖剣》。

とにかく圧倒的なのはその防御力だ。

彼のHPバーがイエローゾーンに陥った所を見た者は誰もいないと言われている。

 

大きな被害を出した第50層のボスモンスター攻略戦において、崩壊寸前だった前線を十分間単独で支え続けた逸話は今でも語り草となっているほどだ。

 

そいつが俺達に何の用だ?

 

「キリト君、ユウキ君。 君達はユニークスキル使いなんだね」

 

「「……ああ(ええ)」」

 

「どうだい。 私とデュエルをしてみないかい?」

 

何を言っているんだ、この真っ赤っか野郎は。

俺達には、メリットが無いだろうが。

じゃあ、家が欲しいわ。

あの家には戻れそうにないだろうからな。

 

「ふむ。 キリト君達にはメリットはあるよ」

 

何で俺の心が読めるんだよ……。

 

「で、メリットって何だ……?」

 

「君達は、家は欲しくないかい?」

 

だから、何で俺の心が読めるんだよ…。

今さっき思ったさ、家が欲しいってな!

 

「……受けてやるよ。 俺が勝ったらちゃんと家を買えよ。 でも、俺だけしか受けないぞ……」

 

「それで構わんよ」

 

ヒースクリフは表情一つ変えず頷いた。

 

「で、何処でやるんだ?」

 

「第75層「コリニア」の闘技場はどうかな?」

 

「じゃあ、明日朝10時でどうだ?」

 

「それで構わんよ。 私に負けたら一日だけ任務をこなして貰いたい」

 

「……いいぜ。 じゃあ、明日な」

 

「楽しみにしているよ。 お邪魔したね、エギル君」

 

「お邪魔しました。 エギルさん」

 

こうして、ヒースクリフとアスナは第55層「グランザム」に戻って行った。

ヒースクリフとアスナが帰った後、ユウキが声を掛けてきた。

 

「キリトの馬鹿……。 何で一人で決めちゃうの……」

 

ユウキは、今にも泣きそうだ。

 

「ごめん……。 勝手に決めて……」

 

「でも、ボク達が新しく住む家が欲しかったんだよね」

 

こいつは、俺の考えが解ったのか。

さすが、俺の奥さんだ。

 

「そうだな」

 

「たとえワンヒット勝負でも強攻撃をクリティカルでも貰うと危ないからね。 危険だと思ったらすぐにリザインしてね。 いい?」

 

「ああ」

 

こうして、俺とヒースクリフの決闘が決まった。

 




ついに決まりました。

ヒースクリフとキリト君の決闘!!

あと、ランちゃんをどうしたらいいと思います?

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第37話≪二刀流 vs 神聖剣≫

ども!!

舞翼です!!

ランちゃんを正式にヒロインに決定しました!!

どうやって大きなフラグ建てようかな(笑)

戦闘描写は、原作を忠実に書き上げました(笑)

誤字脱字があったらごめんなさい…。

それでは、どうぞ。


第75層「コリニア」転移門前

 

先日新たに開通した第75層の主街区はローマ風の造りだ。

街は、四角く切り出した白亜の巨石を積んで造られいる。

何よりも特徴的だったのが、転移門前にそびえ立つ巨大なコロシアムだ。

俺とヒースクリフの決闘(デュエル)そこ(コロシアム)で行われることになっている。

 

「火噴きコーン十コル! 十コル!」

 

「黒エール冷えているよ~」

 

コロシアム入り口には、口々にわめき立てる商人プレイヤーの露店がずらりと並び見物人に怪しげな食い物を売り付けている。

コロシアムの入り口の上には、この様な看板が大きく掲げられていた。

《二刀流剣士キリト VS 紅の聖騎士ヒースクリフ。 アインクラッド最強剣士はどちらのプレイヤーか!!》

 

「……どうゆうことだ、これは」

 

俺は、隣にいるユウキに聞いた。

 

「……ボクにも解らない」

 

転移門が青く発光し、俺達と待ち合わせをしている人物が現れた。

ユウキの姉のランだ。

昨日の出来事をランには伝えているから、俺の応援?に来たんだろう。

ランは、俺の隣までやって来てから、周りを見渡してから言葉を発した。

 

「これは、どうゆうことですか……?」

 

「わからん……」

 

「あれ見て」

 

俺は、ユウキが指を指した方角を見た。

あそこで入場チケットを売っているのはKoBの人間じゃないか?!

てか、何処から漏れたんだ。

俺とヒースクリフがここで決闘(デュエル)をやると。

俺は、大観衆の中で決闘をやらないといけないのか……?

ここから逃げたい……。

 

「……俺と逃げないか二人とも。 第20層辺りの広い田舎に隠れて畑を耕そう」

 

「ボクは揺り椅子に揺られながら編み物をやろうかな」

 

「私は一緒に畑を耕そうかしら」

 

二人は、俺の質問に笑顔で応じた。

俺達がこの様な会話をしていたらアスナが俺達の前まで歩いて来た。

 

「キリト君、こんにちは」

 

「おい。 何なんだよこれは……?」

 

俺は、アスナに聞いた。

 

「えーとね。 昨日団長が幹部会議の時に、キリト君と第75層「コリニア」の闘技場で決闘(デュエル)をすることを洩らしてしまったの」

 

あの、真っ赤っか野郎……!

余計な事言いやがって……!

俺は、肩を落とした。

 

「あ、ダイゼンさん」

 

顔を上げると、KoBの白赤制服がこれほど似合わない奴は他にいるまいというほど横幅のある男が、たゆんたゆんと腹を揺らしながら近づいてきた。

彼は、血盟騎士団の経理を任されている人物らしい。

こいつが宣伝したんだろうな……。

 

「いやー、おおきにおおきに!!」

 

丸い顔に満面の笑みを浮かべながら声を掛けて来る。

 

「キリトはんのお陰でえろう儲けさせてもろうてます! あれですなぁ、毎月一回位やってくれると助かりますなぁ!」

 

「誰がやるか!!」

 

「ささ、控え室はこっちですわ。 どうぞどうぞ」

 

「ユウキ、ラン、アスナ。 一緒に付いて来てくれ……」

 

「「「わかった(わ)」」」

 

のしのし歩き始めた男の後ろを俺、ユウキ、ラン、アスナは付いて行った。

控え室は闘技場に面した小さな部屋だった。

ダイゼンは入口まで案内すると、オッズの調整がありますんで、などと言って消えた。

すでに観客は満席になっているらしく、控え室にも歓声がうねりながら届いてくる。

 

「じゃあ、私は観客席に行っているね」

 

アスナは、控え室から出て観客席に行った。

 

三人だけになると、ユウキとランは真剣な表情になり、俺に言ってきた。

 

「危険だと思ったらすぐにリザインしてね?」

 

「いいですね?」

 

「大丈夫だ。 いつも通り一暴れしてから、お前達の元に戻るさ」

 

俺は、笑顔で応じた。

歓声に混じって、闘技場の方から試合開始を告げるアナウンスが響いてくる。

俺は、背中に交差して吊った二本の剣の刀身を同時に少し抜き、“チン”と音を立てて鞘に納めると二人に言葉を発した。

 

「じゃあ、行ってくるな」

 

「「いってらっしゃい!!」」

 

俺は四角く切り取ったような光の中へ歩き出した。

円形の闘技場を囲む階段状の観客席はぎっしりと埋まっていた。

軽く千人はいるのではないだろうか。

最前列にはエギル、クライン、アスナの知った顔もある。

俺は、闘技場の中央に達した所で止まった。

直後、反対側の控え室から真紅の聖騎士が姿を現した。

ヒースクリフは、通常の血盟騎士団制服が白地に赤の模様なのに対して、それが逆になった赤地のサーコートを羽織っていた。

鎧の類は俺と同じく最低限だが、左手に持った巨大な純白の十字盾が目を引く。

どうやら剣は盾の裏側に装備されているらしく、頂点部分から同じく十字を象った柄が突出している。

俺の目の前まで無造作な歩調で進み出てきたヒースクリフは、周囲の大観衆に目をやると、さすがに苦笑した。

 

「すまなかったなキリト君。 こんなことになっているとは知らなかった」

 

「……俺が勝ったら、三人(・・)が住める大きさの家を買えよ」

 

「……いや、君は試合後からは一日だけ我がギルドの団員だ」

 

言うと、ヒースクリフは笑いを収め、瞳から圧倒的な気合を(ほとばし)しらせてきた。

俺は意識を戦闘モードに切り替え、ヒースクリフの視線を正面から受け止めた。

大歓声が徐々に遠ざかっていく。

ヒースクリフは視線を外すと、俺から距離を取り右手を掲げた。

この動作により、俺の眼前にデュエルメッセージが出現した。

もちろん受諾。

オプションは初撃決着モード。

カウントダウンが始まった。

周囲の歓声は、もはや俺の耳には届かない。

俺は、背中から二振りの愛剣を同時に抜き放った。

ヒースクリフも盾の裏から細身の長剣を抜きピタリと構えた。

俺とヒースクリフは、ウインドウには一瞬たりとも視線を向けなかった。

【DUEL!!】の文字が閃くのと同時に俺と奴は地を蹴った。

俺は沈み込んだ体勢から一気に飛び出し、地面ギリギリを滑空するように突き進み、ヒースクリフの直前で体を捻り右手の剣を左斜め下から叩きつける。

十字盾に迎撃され、激しい火花が散る。が、攻撃は二段構えだ。

右にコンマ一秒遅れて、左の剣が盾の内側へと滑り込む。

二刀流突撃技、《ダブルサーキュラー》。

左の一撃は脇腹に達する直前で長剣に阻まれてしまった。

だが、この一撃は挨拶代わりだ。

技の余勢で距離を取り、向き直る。

今度は、ヒースクリフが盾を構えて突撃して来た。

巨大な十字盾の陰に隠れて、奴の右腕がよく見えない、なので俺は右への回避を試みた。

盾の方向に回り込めば、初期起動が見えなくても攻撃に対処する余裕が出来ると踏んだからだ。

ヒースクリフは盾自体を水平に構えると、尖った先端で突き攻撃を放ってきた。

純白のエフェクト光を引きながら巨大な十字盾が迫る。

俺は咄嗟に両手の剣を交差してガードした。

激しい衝撃が全身を叩き、数メートルも吹き飛ばされる。

右の剣で床を突いて転倒を防ぎ、空中で一回転して着地する。

あの盾にも攻撃判定があるらしい。

まるで盾と剣で二刀流だな。

手数で上回れば一撃勝負では有利、と思っていたがこれは予想外だ。

ヒースクリフはダッシュで距離を詰めてきた。

十字を象った右手の長剣が、《閃光》アスナもかくやという速度で突き込まれてくる。

連続技が開始され、俺は両手の剣を使ってガードに徹した。

連撃最後の上段斬りを左の剣で弾くと、俺は間髪入れず右手で単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》を放った。

ジェットエンジンめいた金属質のサウンドと共に、赤い光芒(こうぼう)を伴った突き技が十字盾の中心に突き刺さる。

岩壁の様な重い手応えにも講わず、そのまま撃ち抜く。

凄まじい衝撃音が轟き、今度はヒースクリフが撥ね飛ばされた。

盾を貫通するには至らなかったが、多少のダメージは《抜けた》感触があった。

奴のHPバーがわずかに減っている。が勝敗を決するほどの量ではない。

ヒースクリフ軽やかな動作で着地すると、距離を取った。

 

「……素晴らしい反応速度だな」

 

「そっちこそ堅すぎるぜ」

 

言いながら俺は地面を蹴った。

ヒースクリフも剣を構え直して間合いを詰めて来る。

超高速で連続技の応酬が開始された。

俺の剣は奴の盾に阻まれ、奴の剣を俺の剣が弾く。

二人の周囲では様々な色彩の光の連続的に飛び散り、衝撃音が闘技場の石畳に突き抜けていく。

時折互いの小攻撃が弱ヒットし、双方のHPバーがじりじりと削られ始める。

たとえ強攻撃が命中しなくても、どちらかのHPバーが半分を下回れば、その時点で勝者が決定する。

俺は、攻撃のギアを上げていく。

まだだ。 まだ上がる。

全能力を解放して剣を振るう法悦(ほうえつ)が俺の全身を包んでいた。

剣戟(けんげき)の応酬が白熱した。

ついに五割が見える所まで来た。

 

「らぁぁぁぁぁ!!」

 

俺は全ての防御を捨て去り、両手の剣で攻撃を開始した。

二刀流上位剣技《スターバースト・ストリーム》、恒星から噴き出すプロミネンスの奔流(ほんりゅう)の如き剣閃(けんせん)がヒースクリフに殺到する。

ヒースクリフが十字盾を掲げてガードする。

構わず上下左右から攻撃を浴びせ続ける。

 

―抜けるー

 

俺は最後の一撃がガードを超える事を確信した。

盾が右に振られすぎたそのタイミングを逃さず、左からの攻撃がヒースクリフの体に吸い込まれていく。

その時、世界がブレた。

俺を含む全てが一時停止した様な気がした。

ヒースクリフ一人を除いて。

右に振られたはずの奴の盾が瞬間的に左に移動し、俺の必殺の一撃を弾き返した。

 

「なッ……」

 

大技をガードされた俺は、致命的な硬直時間を課せられる。

ヒースクリフがその隙を逃さず、戦闘を終わらせるダメージを右手の剣の単発突きによって与えられ、俺はその場に無様に倒れた。

視界の端で、デュエルの終了を告げるシステムメッセージが紫色に輝くのが見えた。

 

「「キリト(さん)!!」」

 

駆け寄って来た、ユウキとランの手で助け起こされる。

 

「あ、ああ……。 大丈夫だ」

 

ヒースクリフは俺達を一瞥すると身を翻し、ゆっくりと控え室に消えて行った。

ランは、俺の隣に座り小さな小瓶を渡してきた。

 

「キリトさん、これを飲んでください」

 

「……悪い」

 

ランが俺に渡してきた物は、小さな小瓶に入った液体、ハイポーションだった。

俺は、両手に一本ずつ持っていた剣を放し石畳に置いてから、ランから小瓶を受け取り栓を開け、口の中にレモン味に似た液体を流し込んだ。

これで俺のHPは、五分もしない内に全快するだろう。

 

「キリトの馬鹿……」

 

ユウキは、泣きそうになりながら俺に抱き付いてきた。

 

「……ごめんな」

 

俺は、ユウキの頭を優しく撫でた。

ランは、頬笑みながら俺達を見ていた。

てか、周りからの視線が痛い。

そう言えば、ここ闘技場のど真ん中だよな……。

闘技場にいる奴らの目が、えぐい事になっているよ。

早く離れてもらわないと。

 

「あの~、ユウキさん。 そろそろいいですか……?」

 

「離れないよ。 絶対にね……」

 

それから10分間、俺はユウキに抱きしめられ続けた。

俺とヒースクリフの決闘(デュエル)は、俺の敗北という形で終わりを告げた。

 




上手く書けたか不安です。

早くユイちゃん回を書きたいですね(笑)

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第38話≪純色の殺意≫

どもっ!!

どうやって、大きなフラグを立てようか考えている舞翼です!!

今回は結構書きました。

なので、ぐだぐだになっていないか不安です…。

あと、ご指摘をくれた方々に感謝です!!

次回から参考にさせていただきます!!

今回は勘弁してください(汗)

誤字脱字があったらゴメンナサイ…。

では、どうぞー。


第47層「フローリア」

 

昨日の騒ぎがあった為、俺とユウキはホームに帰れなくなっていた。

なので、ランの家を避難場所にしていた。

俺は、第55層「グランザム」の血盟騎士団ギルド本部に赴き、任務内容を聞き、一日だけ任務をこなす事になっていた。

ギルドの制服には、袖を通していない。

いつも通り、黒いコートに袖を通している。

制服を袖に通していない理由は、今着ているコートの方が動きやすいし防御力があるからって言って、ヒースクリフから許可を貰ったんだよな。

血盟騎士団ギルド本部なんて行きたくねぇー。

 

「キリト。 準備出来たの?」

 

「出来たんですか?」

 

ユウキとランがリビングから出てきて玄関付近の椅子に座っている俺に言ってきた。

 

「出来たよ……」

 

俺は、ため息を吐き出して立ち上がった。

 

「ほらッ、しゃきっとして」

 

ユウキは、前屈みになっていた俺の背筋を真っ直ぐ伸ばす。

 

「今日、一日だけなんだから我慢しようね……。 いい?」

 

「我慢しましょうね。……いいですか?」

 

二人は、上目使いで俺を見上げて来た。

 

「わっわかった」

 

俺は、頷き言葉を返していた。

お前達、美少女に上目使いをされたらどんな男でも頷いてしまうよ。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

 

「「いってらっしゃい!!」」

 

俺は玄関の開け外に出た。

 

「さて、行くか」

 

俺は、第55層「グランザム」に足を向けた。

 

 

第55層「グランザム」血盟騎士団ギルド本部

 

ギルド本部で俺を待っていた言葉は任務ではなく訓練だった。

 

「訓練……?」

 

「そうだ。 私を含む団員四人パーティーを組み、ここ55層の迷宮区を突破して56層主街区まで到達してもらう」

 

そう言ったのは、もじゃもじゃの巻き毛を持つ大男で斧戦士だ。

彼は血盟騎士団の前衛の指揮を執っている人物だ。

名前はゴドフリー。

 

「では、集合場所に行こうか」

 

「ああ」

 

集合場所は、血盟騎士団本部の西門であった。

俺は、集合場所で最も見たくなかった人物の顔を見ることになった。

そこには、クラディールの顔があったのだ。

 

「……どうゆうことだ」

 

俺はゴドフリーに小声で尋ねた。

 

「ウム。 君らの間の事情は承知している。 だがこれからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思ってな!」

 

「……俺は、今日だけしかギルド加入しないぞ」

 

血盟騎士団の仲間入りなんて絶対にお断りだ……。

 

「そうだったのか。 それは失礼した。 では訓練を始めようか」

 

すると、クラディールがゆっくりとこちらに進み出てきた。

俺は、反射的に身構える。

だが、俺の予想を裏切る行動を取った。

突然頭を下げたのだ。

 

「先日は……、ご迷惑をお掛けしまして……」

 

俺は、突然の事に驚き、口をぽかんと開けてしまった。

 

「二度と無礼な真似はしませんので……、許していただきたい……」

 

「……ああ」

 

だが微かに、今の言葉には殺意が籠っていた。

この訓練、嫌な予感がする。

 

「よしよし、これで一件落着だな!!」

 

しばらくすると残り一人の団員もやってきて、俺達は迷宮区目指して出発することになった。

歩き出そうとした俺をゴドフリーが引き留めた。

 

「……待て。 今日の訓練は限りなく実践に近い形式で行う。 危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムは全て預からせてもらおう」

 

「……転移結晶もか?」

 

俺の問いに、当然だと言わんばかりに頷く。

俺は、かなりの抵抗を感じた。

クリスタル、特に転移結晶は、このデスゲームにおける最後の生命線だからだ。

俺とユウキはストックを切らした事は一度もなかった。

俺は、クラディールと一人の団員を見た。

血盟騎士団の二人はゴドフリーに全ての結晶アイテムを手渡していた。

 

「さぁ、早くお前も渡せ」

 

「断る! このストレージは、俺だけのストレージじゃないからな!!」

 

これはもう、俺一人のストレージでは無い。

ユウキとストレージを共通化しているのだ。

 

「何を言う。 早く渡さんか!」

 

「嫌だね。 そんなに渡して欲しいならユウキに許可を貰え」

 

「貴様―!!」

 

ゴドフリーは爆発寸前だ。

 

「じゃあ、俺が今からメッセージ送るから待ってくれ」

 

俺は、ユウキにメッセージと飛ばした。

『結晶アイテムが全て奪われた。 アイテムの補充を頼む。 後、俺の位置追跡をしてから、継続してモニタリングしてくれ』と送った。

俺は、返事が返って来る前に全ての結晶アイテムを実体化させゴトフリーに手渡した。

 

「ウム、よし。 では出発」

 

ゴドフリーの号令に従い、四人グランザム市を出て彼方に見える迷宮区目指して歩き出した。

俺は、その最後尾でユウキからのメッセージを待っていた。

鈴の音が鳴り、メッセージが飛んできた。

俺は、三人に見えない様に確認した。

『アイテムの補充は全て完了したよ。 後、モニタリングも実行しているよ。 何か遭ったら、すぐに飛んで行くからね。 任務頑張ってね』

俺は、続いてアイテムのウインドウを確認した。

アイテムもしっかり補充されていた。

『助かったよ。 ありがとうな』と、俺は送り返した。

 

55層のフィールドは植物の少ない乾いた荒野だ。

俺は早く帰りたかったので迷宮まで走っていくことを主張したが、ゴトフリーの一振りで退けられてしまった。

どうせ筋力パラメータばかり上げて敏捷度をないがしろにしているんだろうな。

筋力値重視の脳筋だな。

何度かモンスターに遭遇したが、こればかりはゴトフリーの指揮に従う気にならず、俺は、ユニークスキルの二刀流を使用し、モンスターがPOPするたびに二刀流ソードスキル全方位攻撃《エンドリボルバー》を繰り出した。

この攻撃を受け、モンスターは一撃で葬り去っていた。

早く帰りたいなー、と思っていたら灰色の岩造りの迷宮区が姿を現した。

 

「よし、ここで一時休憩」

 

ゴドフリーが野太い声で言い、パーティーは立ち止った。

 

「では、食料を配布する」

 

ゴドフリーはそう言うと、革の包みを四つオブジェクト化し、一つをこちらに放ってきた。

片手で受け取り、中身を開けた。

中身には水の瓶とNPCショップで売っている固形パンだった。

本来ならユウキの手作りサンドイッチが食べられるはずだったのに、と自分の不運、と言うより、あの時に口約束をしなければよかったなと考えながら、瓶の栓を抜いて一口呷る直前に、一人離れた岩の上に座っているクラディールの姿が目に入った。

奴は何か持っている。

俺は咄嗟に水の瓶を投げ捨てた。

周りを見渡すとクラディールと俺を除く全員がその場に崩れ落ちていた。

倒れた二人のHPバーは、普段は存在しないグリーンに点滅する枠に囲まれている。

間違いない。 麻痺毒だ。

俺は、グラディールの真正面に立ち同時に背中に装備している二刀を同時に抜き放った。

 

「どういうつもりだ!」

 

「クッ……クックックッ……クハッ! ヒャッ!ヒャハハハハ!!」

 

岩の上でクラディールが両手で自身の体を抱え、全身をよじって笑った。

落ち窪んだ三白眼に、狂喜の色が浮かんでいる。

ゴドフリーが茫然とした顔でそれを眺める。

 

「ど……どういうことだ……この水を用意したのは……クラディール……お前……」

 

「早く解毒結晶を使え!!」

 

俺は、ゴドフリーに向かって叫んだ。

俺の声に、ゴドフリーはようやくのろのろとした動作で腰のポーチを探り始めた。

 

「ヒャーーーーーーッ!!」

 

クラディールは岩の上から跳び上がり、俺の頭上を飛び越えゴドフリーの左手をブーツで蹴り飛ばした。

その手からは、緑色の結晶がこぼれ落ちる。

この行為により、ゴトフリーのHPが僅かに減少し、同時にクラディールを示すカーソルがグリーンから犯罪者を示すオレンジに変化した。

だが、それは事態に何ら影響を与えるものではない。

こんな攻略完了層のフィールドを都合よく通りがかる者などいるはずがないからだ。

 

「ゴドフリーさんよぉ、馬鹿だ馬鹿だと思っていたがあんた筋金入りの筋肉脳味噌(ノーキン)だなぁ!!」

 

クラディールの声が荒野に響く。

 

「あんたにも色々言ってやりたいことはあるけどなぁ。……オードブルで腹いっぱいになっちまっても困るしよぉ……」

 

言いながら、クラディールは両手剣を腰の鞘から引き抜いた。

体をいっぱいに反らせ、大きく振りかぶる。

 

「ま、まてクラディール! お前……何を……。 何を言っているんだ……? く……訓練じゃないのか……?」

 

「うるせぇ。 いいからもう死ねや」

 

同時に両手剣が振り下ろされた。

それと同時に俺も動き出した、二刀流突撃技《ダブルサーキュラー》を放つ。

しかし、ここからでは距離が開き過ぎていた

俺の二刀は、クラディールに綺麗に避けられてしまったのだ。

 

「黒の剣士、お前は後だ」

 

俺は、すぐにクラディールに向き直る。

 

「死ねーーッ!!」

 

クラディールの声が響いたと同時に無造作に両手剣が振り下ろされた。

鈍い音が響き、ゴドフリーのHPバーが大きく減少した。

ゴドフリーはようやく事態の深刻さに気付いたらしく、大声で悲鳴を上げ始めた。

 

「ぐあああああああ!!」

 

「やめろーーォォ!!」

 

俺は、クラディールに向かい叫んだ。

だが、グラディールは二度、三度、ゴドフリーの身体に剣を突き刺しHPバーを確実に減らし続ける。

HPが赤い危険域に突入して動きを止めた。

だが、ゆっくりとゴドフリーの体に突き立てた。HPがじわじわ減少する。

そのまま剣に体重をかけていく。

 

「ヒャハアアアアア!!」

 

剣先はじわじわゴドフリーの身体に食い込み続け遂にHPバーゼロにした。

無数の破片となって飛び散る。

ゴドフリーの身体は消滅したのだ。

クラディールは地面に突き刺さった両手剣をゆっくりと抜くと、機械仕掛けの人形のように動きで、首だけをもう一人の団員のほうに向けた。

 

「ヒッ!! ヒッ!!」

 

クラディールがゆっくり近づいて行く。

 

「……お前にゃ何の恨みもねぇけどな……。 俺のシナリオだと生存者は俺一人なんだよな」

 

クラディールは両手剣を振りかぶる。

 

「ひぃぃぃぃっ!!」

 

「いいか~? 俺達のパーティーはァー」

 

俺は次の瞬間、奴が無造作に振り下ろしてきた両手剣と団員の間に潜り込み両手に持つ剣を交差させて受け止めた。

 

「逃げろッッ!!」

 

俺は、団員に叫んだ。

団員は全身を震わせながら頷き、グランザム市の方向に走った。

姿が見えなくなるのを確認してから口を開いた。

 

「なんでこんな事をした!!」

 

「お前ぇを殺したかったからだよ。 ヒャヒャヒャ」

 

クラディールは両手剣の剣先を俺に向けて応じた。

 

「あのデュエルの時にいた、絶剣のお嬢ちゃんと剣舞姫のお嬢さんの悲しむ顔が見たいからねぇ。あの美貌が崩れる姿を堪能したいからなぁ、クックック」

 

クラディールは尖った舌で唇を嘗め回した。

ユウキとランのこと言われ殺意が湧いてきた。

だが、一つだけ聞きたいことがあったので殺意を抑えて口を開いた。

 

「……お前みたいな奴がなんでKoBに入った?」

 

「クッ、決まってんじゃねぇか。 あの女だよ」

 

あの女?

アスナのことか!?

こいつは、屑野郎だな……。

 

「……お前のような屑野郎は犯罪者ギルドがお似合いだ……」

 

俺は、殺気の籠った声音で言った。

 

「おもしれー事言ったなぁ、黒の剣士さんよぉ!」

 

「……事実だろう」

 

「褒めているんだぜぇ? いい眼しているってよ」

 

クラディールは突然左のガントレットを除装した。

純白のインナーの袖をめくり上げ、露わになった前腕の内部を俺に向ける。

 

「…………!!」

 

俺が見たものは、タトゥーだ。

カリカチュアライズされた漆黒の棺桶図案。

蓋にはにやにや笑う両眼と口が描かれ、ずれた隙間からは白骨の腕がはみ出している。

 

「その……、エンブレムは……≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫の……?」

 

掠れた声でそう口走った俺に、クラディールはにんまりと頷いてみせた。

《笑う棺桶》。

それは、かつてアインクラッドに存在した、最大最凶の殺人ギルドの名前だ。

俺は《ラフィン・コフィン》討伐作戦で、メンバー二人の命を奪ってしまった。

 

「これは……、復讐なのか? お前はラフコフの生き残りだったのか?」

 

掠れた声で訊いた俺に、クラディールは吐き捨てるように答えた。

 

「ハッ、違げーよ。 そんなだせぇことすっかよ。 俺がラフコフに入れてもらったのはつい最近だぜ。 さっきの麻痺テクもそん時教わったんだぜ……、と、やべぇやべぇ」

 

「誰から教わったんだ!?」

 

「言うわけねぇだろうが、クックック」

 

俺とクラディールは一定の距離を取り武器を構え直した。

俺とクラディールは同時に地面を蹴った。

俺の二刀と奴の両手剣がぶつかり火花を散らした。

次の瞬間、背後から小さなナイフが飛んできた。

クラディールに気を取られていた為、背後から飛んできたナイフに反応が出来ず、背中にナイフが突き刺さった。

HPゲージを、緑色に点滅する枠が囲っている。

麻痺毒だ。

背後から飛んできたナイフは、麻痺毒ナイフだったのだ。

俺は、全身の力が入らなくなりその場に崩れ落ちた。

 

「ワーン、ダウン」

 

俺の背中に麻痺毒ナイフを投躑した人物は《笑う棺桶》幹部プレイヤー、ジョニー・ブラックであった。

その隣には、相棒の赤目のザザも立っている。

 

「オマエ、なに失敗しているんだよ」

 

ジョニー・ブラックはクラディールに向かって言葉を発した。

 

「悪りぃ悪りぃ」

 

「まぁ、いいや。 早くやっちゃえ」

 

ジョニー・ブラックは甲高い声でクラディールに指示をした。

右手の大剣を引きずり耳障りな音を立てながら、奴がゆっくりとこちらに歩み寄って来た。

ラフコフの二人は、俺の前まで移動してきた。

俺の消滅する瞬間を見物する為だろう。

俺は、前に移動してきたラフコフの二人に声を掛けた。

 

「なんで此処にいる……」

 

「んー。 ヘッドに言われてお前の消滅を確認しにきたんだよ」

 

「その、とおりだ」

 

何だと、PoHとこいつらは一緒に行動していたのか?

なら何で、あの時PoHの姿が確認できなかった?

もしかして、討伐隊に見つからない様に逃げていたのか?

俺は、這いつくばりながら聞いた。

 

「なんであの時PoHは姿を見せなかった?」

 

「俺達二人が、先にヘッドを逃がしたからだよ」

 

「そうだ」

 

ラフコフの二人は俺の問いにこう答えたのだ。

待てよ。 じゃあ、この訓練は最初からPoHが糸を引いていたのか!?

クラディールに指示を出して。

 

「おしゃべりもこの辺にしねぇと毒が切れちまうよ。 デュエルん時から、毎晩夢に見ていたぜ……。この瞬間をな……」

 

クラディールは剣先を俺の右腕に突き立てた。

そのまま二度、三度とこじるように回転させる。

 

「…………ッ!!」

 

痛みはない。

だが、強力な麻痺をかけた上で神経を直接刺激されるような不快な感覚が全身を駆け抜ける。

剣が腕を抉るたび、俺のHPが僅かだが確実な勢いで減少していく。

ラフコフの二人は、俺の苦悶の表情を見てにやにや笑っていた。

クラディールは一度剣を抜くと、今度は左足に突き下ろしてきた。

再び神経を痺れさせるような電流が走り、無慈悲にダメージが加算される。

 

「どうよ……、どうなんだよ……。 もうすぐ死ぬってどんな感じだよ……。教えてくれよ……。 なぁ……」

 

クラディールは、そう言いじっと俺の顔を見つめている。

とうとうHPバーがイエローゾーンに突入した。

 

「おいおい、なんとか言ってくれよぉ。 ホントに死んじまうぞォ?」

 

クラディールの剣が足から抜かれ、腹に突き刺された。

HPが大きく減少し、赤い危険域へと達した。

俺は両目を見開き、自分の腹に突き刺さっていたクラディールの剣の刀身を左手で掴んだ。

力を振り絞り、ゆっくりと体から抜き出す。

 

「お……お? なんだよ、やっぱり死ぬのは怖ぇってかぁ?」

 

「そうだ……。 まだ……、死ねない……」

 

俺は、ユウキを現実世界に還すって決めているんだ。

こんな所で死ねない。

 

「カッ!! ヒャヒャッ!! そうかよ、そう来なくっちゃな!!」

 

クラディールは怪鳥じみた笑いを洩らしながら、剣に全体重を掛けて来た。

それを片手で必死に支える。

だが、剣先は徐々にだが、確実な速度で再び下降を始めた。

 

「死ねーーーーーッ!! 死ねーーーーー!!」

 

一センチ、また一センチと、切っ先が俺の体に潜り込んでいく。

その時、一陣の疾風が吹いた。

 

「な……ど……」

 

驚愕の叫びとともに顔を上げたその直後、クラディールは剣ごと空高く跳ね飛ばされた。

俺は目の前に舞い降りた人影を声も無く見つめた。

 

「「……間に合った……間に合った……よ(わ)……」」

 

二人は、黒いロングヘアーを揺らしながら呟いた。

 

「「遅くなって……ごめん(ね)……」」

 

ユウキとランは泣きそうになり俺に駆け寄って来た。

 

「……助かった」

 

俺は掠れた声で呟いた。

すると、俺の処刑を見ていたジョニー・ブラックが言った。

 

「やべーよ。《絶剣》と《剣舞姫》だ。……離脱するぞ」

 

ジョニー・ブラックは煙幕を使い、赤目のザザと一緒にこの場から姿を消した。

俺達三人は、その場所を一瞥した。

ラフコフの二人が消えたのを確認するとユウキがアイテムストレージからピンク色の結晶を取り出し、俺に向けて「ヒールー!」と叫んだ。

結晶が砕け散り、俺のHPバーが一気に右端までフル回復する。

 

「「……監獄に行ってもらうよ(わ)」」

 

ユウキとランは、立ち上がりクラディールに剣先を向けた。

声には怒気が含まれていた。

ユウキとランは同時に飛び出し、クラディールに向かって片手剣を振った。

この攻撃により、クラディールの両手両足がポリゴンを四散させた。

クラディールは両手両足を無くした為、地に崩れ落ちた。

 

「「直に軍がこっちに来るから、おじさん(あなた)は軍のお世話になりなよ」」

 

ユウキとランの声はとても冷ややかな声であった。

 

「このアマァァァァ!! 殺す、絶対に殺すッッ!!」

 

クラディールは叫んだ。

 

 

5分後。

軍が到着した。

クラディールは回廊結晶で監獄に送られた。

軍のプレイヤー達は、クラディールを監獄に送った後この場から姿を去った。

この場には、俺達三人が残された。

 

「助かったよ……。 ありがとう、二人とも……」

 

「うん……。 キリトが無事でよかった……」

 

「……無事でよかったです……」

 

ユウキとランが、俺に抱きついて来て言った。

心配してくれてありがとな。

 

「なんで、俺がこうなっているって判ったんだ」

 

俺は、疑問をぶつけてみた。

 

「キリトの位置がいきなり停止したからだよ」

 

「後、HPが減少したからですよ」

 

そういうことか。

位置追跡をしていた俺がいきなり止まったからか、この二人とは、パーティーを組み続けていたから俺のHPバーが見えていたのか。

もう、前線で戦う事に疲れたな…。

 

「なぁ、三人で攻略を休まないか?」

 

俺は言葉を続ける。

 

「今日、三人で住める大きさの家を買える金が溜まったんだ。 三人で引っ越さないか?もう物件は抑えてあるんだ。 確か第22層のプレイヤホームだったな。 森林と水で覆われた綺麗なフロアだ。 三人でそこに引っ越そう。 そこは、静かでモンスターも出現しないしな」

 

俺は頬をポリポリ掻きながら言う。

もう、あの家には帰れないし。

ランの家も、直に見つかってしまうだろう。

 

「う、うんっ! そうしよっか!」

 

「そ、そうしましょうか!」

 

ユウキとランは、頬を赤らめた。

その表情は、笑顔で幸せに満ち溢れていた。

 

「じゃあ、帰ろうか?」

 

「「うん! 帰ろう!」」

 

俺達は手を優しく繋ぎ、グランザム市街に向かい歩き出した。

 




ラフコフを再登場(PoHは出していないけど)させましたー(笑)

戦わず逃げたけどねー(笑)

ザザ影薄っ!

まぁー、あのまま戦っていたらキリト君が危なかったしね。

PoHとジョニーとザザさんは、討伐作戦時に逃げてますからな(笑)

そして合流してるって…。

クラディールが、ラフコフの幹部とリーダーにすでに会っていた(笑)

ゴドフリーさんゴメンナサイ。

キリト君は、ゴドフリーさんが殺されるのを見ていただけになってしまった(汗)

団員さんの麻痺は、ゴドフリーが消滅と同時に解けたということで。

麻痺の意味がない気がするが…。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第39話≪姉妹の会話と告白≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回はリアルでごたごたしていたので投稿が遅れました…。

とりあえず書き上げました。

人の思いを描写するってめちゃくちゃむずいね…。

誤字脱字があったらごめんね…。

それでは、どうぞ。


第61層「セルムブルグ」

 

Side キリト

 

事件が起きた翌日、俺は引っ越しに必要な小物類を揃える為、第61層「セルムブルグ」に買いだしに来ていた。

あの後、ヒースクリフに事件のことを伝えたら『すまなかった、キリト君。 これは私の失態だ』と言っていたな。

俺は助かったからいいけど……。

血盟騎士団からは、犠牲者が出てしまったんだよな……。

もう、過ぎた事を考えても仕方がない。

俺は、アイテムストレージを開き、頼まれた物を購入したか確かめた。

 

「えっと、これで全部かな」

 

俺は、ユウキに頼まれたメモを見て呟いた。

ユウキは『姉ちゃんと大事な話がある』と言っていたな。

後、新たな調味料再現にも挑戦するとも言っていたな。

つか、どんな大事な話だ。

めちゃくちゃ気になるなー。

……もしかして俺の話か?

まぁ、いいか。

さてと、帰ろうかな。

 

「買い物も終わったし帰るか」

 

俺は、第47層「フローリア」に有るランのホームへと戻った。

 

Side out

 

♦♦♦♦♦

 

第47層「フローリア」

 

Side ユウキ

 

今、ボクと姉ちゃんはキッチンに立っている。

何故かというと、新たな調味料再現に挑戦をしているから。

ボクが挑戦している調味料はタルタルソース!!

キリト好物らしいからね。

まぁ、ボクも大好きだけど。

お魚のフライに付けると美味しいもんね。

完成したらキリトに“毒味“して貰おう。

あっ、毒味じゃなくて“味見”だ。 てへ。

まぁ、最初にボクが味を確かめるんだけどね。

そして、姉ちゃんも新たな調味料再現に挑戦をしている。

それはズバリ、とんかつソース。

とんかつソースは、ボク達姉妹の好物なんだけどね。

これも、キリトの好物らしいけど。

 

「ユウキ、味見してくれない?」

 

あっ、姉ちゃんが出来たらしい。

姉ちゃんは、鍋からとんかつソースを掬って小皿に移し、それをボクに渡して来た。

味見してみよう。

 

「はい。 どうぞ」

 

ヤバいよ、凄く美味しそうだよ。

ここまで、再現できるなんて。

ソースがトロリとしていて美味しそう。

涎が出そうだよ!!

これ、絶対美味しいよ!!

 

「いただきまーす」

 

「どうぞ召し上がれ」

 

ボクは、とんかつソースを口に運んだ。

美味しい、美味しいよ!!

姉ちゃんは天才だ!!

口の中でとろける様に出来ているよ!!

 

「どう?」

 

姉ちゃんが、不安な表情をしてる。

今から感想を言うから大丈夫だよ。

 

「美味しいよ!! 現実世界でボク達が食べていた味と同じだよ!!」

 

「よかったわ。 私も味見したのだけれど自信が無くて」

 

「大丈夫だよ。 とんかつソースの再現に成功―」

 

ボクは、両手を上げて喜んだ。

ボクが、再現した訳では無いんだけど……。

 

「ユウキは、出来たの?」

 

そうそう、ボクも今さっき出来たんだった。

あっ、まずはボクから味見しないと。

 

「ちょっと、待っててね」

 

ボクは、出来たてのタルタルソースを鍋から掬って小皿に落としてから口に運んだ。

うん!!

上出来!!

これなら、食べて貰っても平気だね。

ボクは、タルタルソースを鍋から掬って小皿に落としてから姉ちゃんに手渡した。

 

「………………」

 

「どう??」

 

姉ちゃん、早く感想頂戴。

もしかして、駄目だったのかな……。

ボクが味見をした時は平気だったんだけど……。

 

「……美味しいわ。 さすが私の妹ね!!」

 

「本当??」

 

「ええ」

 

やったー。

タルタルソースの再現成功だよ!!

揚げたお魚に付けて食べてみたいな。

 

「ところで、キリトさんは何処に行ったの?」

 

「キリトなら、引越しに必要な小物類を第61層「セルムブルグ」に買い出しに行かせたよ」

 

ボクが頼んだら、すぐにOKが出たからね。

もしかして、ボクがお尻に敷いているのかな??

まさかね……。

あっ、そう言えば姉ちゃんに訊きたい事があったんだっけ。

それは、姉ちゃんってキリトのことをどう思っているか? なんだよね。

ボクは、キリトと姉ちゃんと親しくしていても気にならないんだよね。

だから、キリトと姉ちゃんが一緒に行動していても気にならない。

何でだろうか?

だから、キリトと姉ちゃんがくっ付いてもいいかな、とも思ってしまっているんだよね。

まぁー、キリトが現実世界で言う二股になっちゃうけど。

姉ちゃんにキリトのことをどう思っているか聞いてみよう。

 

「ねぇ、姉ちゃん?」

 

「どうしたのー?」

 

キッチンでお弁当を作っていた姉ちゃんは、手を止めてボクを見た。

 

「姉ちゃんってさ、キリトの事どう思ってるの?」

 

ボクは、先程考えていた疑問をぶつけてみた。

どう思っているのだろうか?

気になるな~。

 

「えっ……と……」

 

姉ちゃんの歯切れが悪いね。

多分、言い辛いんだろうな。

正直に話していいよ、姉ちゃん。

ボク、怒らないし。

 

「怒らないから正直に言っていいよ、姉ちゃん」

 

暫し沈黙した後、姉ちゃんが口を開いた。

 

「……実は、キリトさんの事を好きになってしまったの…」

 

「やっぱりね」

 

ボクは、優しい眼差しで姉ちゃんの顔を見た。

 

「ごめんなさい。 ユウキはキリトさんと結婚しているのに……」

 

「まぁ、好きになっちゃんだからしょうがないよ」

 

やっぱり、キリトのこと好きになっていたんだね。

姉ちゃんの行動を見ていて薄々気付いてはいたけどね。

どんな些細な事でも解っちゃうよ、ボクと姉ちゃんは姉妹なんだからね。

 

「……私がキリトさんの事を好きなままでいいの?」

 

「全然OKだよ」

 

ボクの予想では、キリトも少し怪しいような…。

ボクという奥さんを持っていながら、浮気者!

 

「あっ、そうだ! 一つ条件を付けるね」

 

「条件?」

 

うふふふ。

それは、姉ちゃんがどうやってキリトを好きになったという条件だよ!

 

「姉ちゃんがどのような経緯でキリトを好きになったのか教えてよ。 これがボクからの条件だよ」

 

「えっ……!!」

 

ふふふ。

驚いてる驚いてる。

 

 

Side ラン

 

この子がこんなこと言うなんて…。

あっ、女子会の時の仕返しね…。

 

Side out

 

 

「……わかったわ」

 

「やった!!」

 

どんな、話が聞けるのかな?

ボク、ドキドキだよ!!

 

「……じゃあ、話すわね」

 

「お願いします~」

 

きゃー! 今から姉ちゃんの本音が聞けるよ。

こんな機会滅多にないからね。

 

「私も最初は、キリトさんの事は恩人だと思っていたわ。 第25層クォーター・ポイントのボス戦で助けていただいたからね。 でも、キリトさんを見ていると、あの小さな背中を支えてあげたくなるのよ。 そう考えている内にキリトさんから目が離せなくなっていたわ。 後、とても危なかっしいから、見ていてあげなくちゃいけないとも思ったわ、ユウキが隣で支えているのにね、ごめんなさいユウキ。 それに、キリトさんは私に何時も優しく接してくれた。 そこから惹かれたわ。 時が経つに連れキリトさんは私の中で大きな存在になっていったわ。 “あの時”キリトさんに一緒に引っ越さないかって言われた時、とても嬉しかった。 その時に自覚したわ、私はキリトさんが“好き”になったってね」

 

キリトは姉ちゃんをここまで落としていたんだ。

キリトって、天然のタラシなのかな??

でも、姉ちゃんの本音を聞けて良かったな。

これで、姉ちゃんを公認してあげよう。

そうと決まればさっそく行動しないと。

 

「じゃあ、公認してあげるね」

 

「……えっ、いいの??」

 

「OKだよ」

 

「ありがとう。 ユウキ」

 

姉ちゃんの顔からやっと緊張が取れたね。

 

「じゃあ、これからはライバルとしてもよろしくね。 姉ちゃん」

 

「ええ、結婚していてもガンガンアタックさせて貰うわ」

 

でも、ボクの方が一歩リードしているよ。

ボクは、キリトと一年以上も一緒に行動を共にしていたからね。

ボクは“愛”で、姉ちゃんは“好き”だからね。

これは大きいよ。

でも、うかうかしていたら抜かされちゃうね。

正妻の座は譲らないからね。

ボク達姉妹の会話が終わってから数分後、玄関をノックする音が聞こえてきた。

 

「あら、お客さんかしら?」

 

「多分、キリトが買い出しから帰って来たんだよ」

 

「じゃあ、一緒にお出迎えしようかしら」

 

ボクと姉ちゃんは玄関まで足を向けて歩き出した。

 

「はーい。 今開けますー」

 

ボクは玄関のドアノブに手を掛けドアを開けた。

ドアを開けて立っていたのは、ボクの夫のキリトだ。

 

Side out

 

 

「今帰ったよ」

 

「「お帰りなさい!!」」

 

ランとユウキは俺の言葉に微笑みながら応じてくれた。

俺は、そのまま玄関付近の椅子に腰を下ろした。

結構この椅子の座り心地が良いんだよな。

 

 

Side ユウキ 

 

「姉ちゃん、今告白しちゃえば!?」

 

「えっ……?!」

 

告白するチャンスは今しかないよ。

 

「でも、断られたら……」

 

「大丈夫だよ、キリトは拒否したりしないから」

 

キリトも何だかんだ言いながら受け入れそうだしね。

後は、姉ちゃんの勇気次第かな。

 

「……わかったわ」

 

頑張れ姉ちゃん!!

 

Side out

 

 

「……あの……、キリトさん……」

 

ランが緊張した面持ちで俺を見ているな。

声も微妙に震えているしな。

何か大事な話があるのか?

俺は、ランに問いかけた。

 

「どうしたんだ?」

 

「…………」

 

ランは沈黙してしまい口を閉じてしまった。

マジでどうしたんだ?

 

「本当にどうしたんだ?」

 

 

Side ラン

 

勇気を出さないと、ユウキが背中を押してくれたのだから。

う~。 緊張する~。

でも、ここで言わないと言う機会が無くなっちゃうわよね。

よし!! 言うわ!!

 

Side out

 

 

「……えっと、キリトさん……好き……、です」

 

「へっ」

 

俺は口をぽかんと開け、素っ頓狂な言葉を出してしまった。

 

 

Side キリト

 

どうするどうするよ、ランから告白された。

ヤバい、頭の中が真っ白だ。

でも、断る訳には……。

でも俺は、ユウキと結婚しているし……。

でも、ランとは一緒にいたいんだよな。

おい!! これじゃあ浮気じゃないか!!

でも、もしOKしたらユウキはどうするんだろう?

俺一人では、答えが出せん。

ユウキは、どう思っているんだろうか?

聞いてみよう。

 

Side out

 

 

「えーと、ユウキはこの告白をどう思っているんだ?」

 

「ボクは、キリトがOKすれば大丈夫だよ」

 

ユウキは、何事も無かったように答えたな……。

何でだ……??

もッ…もしかして、俺が居ない間に俺のことを二人で話していたのか?

 

「……まだ、曖昧だが俺もランの事が好き……。なの……、かな…」

 

俺は、自信なさげに答えた。

俺は、ゆっくりとランの顔を見た。

 

「本当ですか!?」

 

「……ああ」

 

ランは俺の言葉を訊き飛び上がる様に喜んでいた。

俺は、心の中で呟いた。

これって俗に言う二股だよなと……。

ここは話を変えよう。うん! そうしよう。

 

「……よしっ! 引っ越しの準備をしようか」

 

俺達三人は、引っ越す準備をする事にした。

どのようなログハウスに引っ越すは、もう二人には言ってある。

輝く湖面(こめん)濃緑(こみどり)の木々の向こうに大きく開けた空を一望することが出来る場所だと。

 

「じゃ、じゃあ、リビングに行こうか?」

 

「そ、そうですね」

 

「はーい」

 

ランは顔を真っ赤にして応じ、ユウキはいつも通りの長い返事で応じた。

俺は、椅子から立ち上がり、ユウキとランと一緒にリビングに足を向けた。

リビングに着き、俺達三人はリビングにある椅子に座った。

俺の隣にユウキ、向かいにラン。

俺からは、ランの顔がはっきり見える。

顔がまだ、トマトの様に真っ赤だ。

多分、俺も真っ赤だろうけど……。

 

「攻略を休んで新婚生活かー」

 

ユウキが黄昏ながら言った。

そんなに黄昏れなくても。

多分、二股生活の間違いかも…。

 

「私も一緒に住んでもいいんですよね?」

 

ランさん、そんなに上目遣いで見なくても…。

もうOK出しているんだから。

 

「ああ、俺達三人で暮らそうな」

 

俺達三人なら仲良く暮らしていけるしな。 だぶん。

 

「よしっ、じゃあ。 第22層「コラル」主街区にあるNPC不動産屋に行こうか? そこに押さえた物件があるんだ」

 

まだ、俺は場所と景色しか教えていないしな。

どんな物件かも見て貰わないとな。

気にいってくれればいいけど。

 

「「そう(だね)(ですね)」」

 

俺達三人は第47層「フローリア」にあるランのホームから出て、転移門まで足を向け、転移門を潜り、第22層「コラル」にあるNPC不動産に向かった。

 




人の感情の描写はむずい!!

上手く書けたかな?

あと、更新遅れてごめんね…。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第40話≪三人の新居≫

ども!!

舞翼です!!

今、絶賛スランプ中です…。

とりあえず書き上げました。

誤字脱字や意味がわからん日本語があったらゴメンよ…。

それでは、どうぞ~。




第22層「コラル」主街区

 

俺たち三人は、ランのホームを出た後、第22層に点在するNPC不動産屋に訪れた。

理由は、俺が押さえた物件を見てもらう為だ。

 

「ここでいいか?」

 

俺が押さえた物件は、第22層フロアにあるログハウスだ。

ログハウスの近くは、常緑樹の森林と無数に点在する湖に占められている。

ここの窓からは大きく開けた空も一望することが出来る。

主街区もごく小さな村と言ってよい。

フィールドにモンスターは出現しない場所だ。

 

「「いい(ね)(ですね)」」

 

この言葉を聞き迷わず購入した。

購入したと同時にログハウスの鍵が現れた。

出現した鍵を手に取り二人に声を掛けた。

 

「じゃあ、行くか?」

 

「「OK」」

 

 

湖面のログハウス

 

俺は、ログハウスの鍵を鍵穴に差し込み扉をゆっくり開けた。

俺たち三人は、ログハウスの中に足を踏み入れた。

 

「早く綺麗な景色が見たい!!」

 

ユウキは子供の様に、はしゃぎながら俺とランに言ってきた。

俺とランは、一度顔を見合わせ笑い合った。

 

「行こうか」

 

「そうですね」

 

俺たち三人は二階の寝室まで移動し、寝室の南側の窓を大きく開け放った。

 

「うわぁぁぁ、綺麗―」

 

ユウキは感嘆な声を上げ、身を乗り出した。

ランもユウキの隣まで移動し、身を乗り出してから外の景色を眺めた。

 

「確かにそうね」

 

俺もランの隣まで移動し呟いた。

 

「そうだな」

 

確かに絶景だ。

外周部が間近にある為、輝く湖面と濃緑の木々の向こうに大きく開けた空を一望することが出来る。

 

「二人とも、いい眺めだからってあんまり外周に近づいて落っこちるなよ」

 

「「大丈夫(だって)(ですよ)!!」」

 

俺は、ユウキとランの間に入り、二人の体に腕を回した。

二人からは、冬の陽だまりの様な温かさと同時に不思議な感慨、なんと遠い所まで来てしまったのだろうという驚きに似た気持ちが湧き上がってくる。

この世界に囚われるまで、俺は目的も無く家と学校を往復する日々を送るだけの子供だった。

しかし最早現実世界は遥か遠い過去となってしまった。

もしこのゲームがクリアされ、元の世界に帰ることになったら……。

それは俺やユウキ、ランを含む全プレイヤーの希望であるはずなのだが、その時の事を考えると正直不安になる。

 

「どうしたの、そんなに考え込んで?」

 

ユウキは、俺の顔を見て聞いてきた。

俺が知らぬ内に、こちらを振り向いていたようだ。

すごいな、俺が考え込んでいる事に気付くなんて。

 

「確かに、考え込んでいましたね」

 

ランもこちらを振り向いていた。

ランも俺が考え込んでいる事に気付いたらしい。

この姉妹に隠し事は出来ないかもな。

 

「……俺たち三人が……、現実世界に帰ったらどうなってしまうんだろうって……」

 

俺は、一瞬口籠ってしまった。

 

「大丈夫だよ。 現実世界に戻ってもボク達の関係は変わらないよ」

 

ユウキは、優しい眼差しを向けて来た。

 

「そうですよ。 私達の関係は一生壊れる事はありませんよ」

 

ランは、真っ直ぐ俺の瞳を見て言って来た。

 

「……そうだな、そうだよな」

 

二人の言う通りだ。

俺たちの関係は一生壊れる事は無い。

俺は、二人の言葉に感謝した。

ありがとう、二人とも。

 

「じゃあ、家財アイテムの整理をしましょうか」

 

「そうだな」

 

「そうだね」

 

俺とユウキは、ランの言葉に頷いた。

俺たち三人は、一階に下り家財アイテムの整理をする事にした。

 

 

3時間後。

家財アイテムの整理が終わった。

 

「「「出来た!!」」」

 

俺たち三人は、リビングの左側に設置したソファーに腰を下ろした。

左からユウキ、ラン、俺だ。

 

「そういえば、夫婦会議していないですよね」

 

俺は、全身を強張らせた。

覚えていたのか……。

 

「そういえば、そうだね」

 

ユウキも思い出しちゃったよ……。

身の危険を感じる……。

何か言わないと。

 

「えっと……。 あれはハプニングでして……。 私は悪くないと主張します……」

 

「「でも、触ったんでしょ!!??」」

 

……全力で謝るしかない。

 

「すいませんでしたッッッ!!!」

 

俺は、二人の前まで移動し綺麗な土下座をした。

俺の行動に、二人は顔を見合わせた。

二人は頷いてから言葉を発した。

 

「「許す」」

 

「本当か?」

 

許して貰えたよ。

よかった~。

俺って完全に尻に敷かれているよね……。

ハハハ…。

俺は、中央に設置したテーブルに上に置いてある、ポットから熱いお茶をコップの中に注ぎ、ランの隣に腰を下ろした。

一口呷ると同時にユウキが口を開いた。

 

「……胸を触りたかったら、何時でもボクの胸を触らせてあげるよ……」

 

俺は、口の中に含んでいたお茶を思いっきり噴いた。

 

「ごほッ……、げほッ……、ごほッ」

 

……まさか、ユウキがこんなこと言うなんて……。

 

「大丈夫ですか」

 

ランは、俺の背中を擦ってくれている。

 

「だっ大丈夫だ」

 

まだ、喉に違和感が残っているがそんなことを気にしている余裕が無かった。

ユウキの奴、マジで言っているのか…。

ユウキさん、顔を赤くするなら言わなければいいのに。

 

「ちょ、ちょっと早いけどゴハンにしようか?」

 

ユウキが立ち上がり、顔を赤くしながら俺とランに言った。

 

「ええ、そうしましょうか」

 

この言葉にランは同意した。

二人は、キッチンに移動した。

俺は、先にテーブルの前の椅子に座った。

今日の料理は何だろうな~?

 

 

10分後。

料理が出来上がった。

メニューは、揚げた魚と白いご飯だ。

揚げた魚の上には、タルタルソースが満遍なく乗っている。

これは、絶対に美味いな。

ユウキがテーブルを挟んだ向かいの椅子に座り、ランは俺の隣の椅子に座った。

どうやらこれが指定席らしい。

 

「「じゃあ、食べ(ようか)(ましょうか)」」

 

「だな」

 

俺たちは、合掌し料理を食べ始めた。

 

「そういえば、何時タルタルソースを作ったんだ」

 

俺は、箸を止めて二人に疑問をぶつけてみた。

ユウキは、箸をテーブルの上に置いてから言葉を発した。

 

「昨日、作ったんだよ」

 

俺が居ない間に作っていたのか。

てか、凄いな…。

タルタルソースの味が、ほぼ再現されているぞ。

 

「姉ちゃんは、とんかつソースの再現に成功したんだよ」

 

マジか……。

二人とも凄いな……。

 

ランは、箸をテーブルの上に置いてから、こちらを振り向いて言って来た。

 

「今度、とんかつソースを使った料理を作ってあげますね」

 

「おう。 楽しみにしているよ」

 

俺たち三人は、ゴハンを残さず食べ終え一息つくことにした。

最初に俺が口を開いた。

 

「二人は、明日何をやるんだ?」

 

「ボクは、両手剣スキルを削除して代わりに裁縫スキル設定したから、裁縫スキルを上げをしようかな」

 

「私も、余ったスキルスロットに裁縫スキルを設定したから、ユウキと同じく裁縫スキルを上げようかしら」

 

二人とも、裁縫スキルを上げるのか。

今度、服でも作ってもらおうかな。

 

「キリトは?」

 

ユウキが俺に聞いてきた。

 

「俺は、両手剣スキルを削除して代わりに釣りスキルを設定したから、湖に行って釣りをしてくるわ」

 

釣れるかな?

釣れたら日々の食料にしよう。

 

「じゃあ、お皿を片付けましょうか」

 

「「そうだな(だね)」」

 

俺とユウキとランは、使った食器を台所の流しまで持っていった。

 

「リビングに戻っていていい(よ)(ですよ)」

 

どうやら二人が洗ってくれるらしい。

俺はリビングまで移動し、リビングの左側に設置してあるソファーの真ん中に座った。

 

 

3分後。

二人がキッチンから出て来た、食器を洗い終えたのだろう。

二人はリビングまで移動し、リビングの左側に設置してあるソファーに腰を下ろした。

俺の左隣にはユウキが腰を下ろし、右隣にはランが腰を下ろしている。

寝る時はどうするのだろう?

 

「そういえば、寝る時はどうするんだ?」

 

「えっ、三人で寝るんでしょ?」

 

ユウキは、当然のように言った。

俺は大丈夫だけど。

ランは、どう思っているんだろう?

 

「俺はいいけど……。 ランはどうする?」

 

「ええ、三人で寝ましょう」

 

ランも大丈夫らしい。

 

「じゃあ、二階の寝室に行くか?」

 

「「わか(った)(りました)」」

 

俺たち三人は、ソファーから立ち上がり寝室に向かった。

 

「じゃあ、キリトは真ん中ね」

 

俺の場所は決定しているんですか……。

まぁ、いいけどさ。

 

「ボクが、キリトの左隣で姉ちゃんが右隣ね」

 

ランの寝る位置も決まっているのね…。

で、ランの反応は?

 

「それでいいわよ」

 

即OKなのね……。

 

「じゃあ、寝るか?」

 

二人は、俺の問いに頷いてくれた。

俺たち三人はベットまで移動し、それから先程の決めた配置になるように横になった。

上には、タオルケットをかけている

まぁ、この世界ではかけようがかけまいが変わらないんだが…。

 

「「おやすなさーい」」

 

二人は声を揃えて言って来た。

 

「おやすみ」

 

さてと、俺も寝るか。

 

 

翌日。

俺が最初に目を覚ました。

俺は起き上がろうとしたが、何故か体が動かん。

俺は首を動かし左右を見た。

あっ、そういうことね。

俺が、二人の抱き枕になっているのね…。

 

「「…………うみゅ」」

 

これは当分起きそうに無いな、二人とも寝息立てているし。

二度寝しよう、そうしよう。

俺はゆっくり瞼を閉じた。

 

「キリトさん。 朝ですよ」

 

俺はランの言葉によって目を覚ました。

 

「おはようー」

 

「おはようございます」

 

俺とランは朝の挨拶を交わした。

ランは、微笑みながら応じてくれた。

そういえば、ユウキはどうしたんだろう?

 

「そういえば、ユウキはどうした?」

 

「今、朝ゴハンを作っていますよ」

 

俺と結婚してからユウキは、早起きして朝メシを作るようになったんだよな。

俺はベットから起き上がり、ランと一緒にリビングに向かった。

 

「朝ゴハンが出来たよー」

 

ちょうど朝食が出来たらしい。

ユウキは、朝食をテーブルの上に置いた。

それから、俺たち三人は指定された椅子に腰を下ろし眼前に置かれた、朝食を食べることにした。

 

「「「いただきまーす」」」

 

俺たちは朝食を食べ終え、これからの予定を話した。

 

「俺は、これから釣りに行くわ」

 

「ボクと姉ちゃんは、裁縫スキルを上げているね」

 

俺が食器を台所の流しに持っていこうとしたら、ランに声を掛けられた。

 

「キリトさんは、もう行っても大丈夫ですよ。洗い物は私たちがやっときますから」

 

じゃあ、お言葉に甘えようかな。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

湖面に垂れた糸の先に漂うウキはぴくりともしない。

俺は大きく欠伸をして、竿を引き上げた。

糸の先端には銀色の針が空しく光るのみだ。

なんで、釣れないんだ……。

……5時間はやっているんだぞ……。

 

「やってられるか……」

 

小声で毒づくと竿を傍らに投げ出し、芝生にごろりと寝転んだ。

寝転がっていると、不意に頭の上の方から声を掛けられた。

 

「釣れますか?」

 

仰天して飛び起き、顔を向けると、そこには一人の男性プレイヤーが立っていた。

重装備の厚着に耳覆い付きの帽子、鉄縁の眼鏡をかけ、俺と同じく釣り竿を携えている、五十代に近い男性プレイヤーだ。

ここ失礼します、と言って俺の傍らに腰を下ろした男は、腰のポーチから餌箱を取り出すと、不器用な手つきでポップアップメニューを出し、釣り竿の針に餌を付けた。

 

「私はニシダといいます。 ここでは釣り師。 日本では東都高速線という会社の保安部長をしとりました。 名刺が無くてすみませんな」

 

東都高速線はアーガスと提携していたネットワーク運営企業だ。

SAOのサーバー群に繋がる経路を手掛けていたはずだ。

 

「俺はキリトといいます。 最近上の層から越してきました。……ニシダさんは、やはり……、SAOの回線保守の……?」

 

「一応責任者ということになっとりました」

 

ならばニシダは業務の上で事件に巻き込まれたことになる。

頷いたニシダを俺は複雑な心境で見やった。

 

「私の他にも、同じような理由で此処に来てしまったいい歳の親父が二、三十人ほど居るようですな。 同じ趣味を持つ者同士で、この場所を根城にしているんですよ」

 

「な、なるほど……。 この層にはモンスターが出ませんしね」

 

ニシダは、俺の言葉にニヤリと笑っただけで答えなかった。

 

「どうです、上の方には良いポイントがありますかな?」

 

「うーん……。 61層は全面湖、というより海で、相当な大物が釣れると思いますよ」

 

「ほうほう! それは一度行ってみませんとな」

 

その時、垂らした糸の先で、ウキが勢いよく沈み込んだ。

間髪入れずニシダの腕が動き、釣り竿を引き上げる。

水面から青く輝く大きな魚が飛び出して来た。

魚はニシダの手許で跳ねた後、自動でアイテムウインドウに格納された。

 

「お見事……!!」

 

「いやぁ、ここでの釣りはスキルの数値次第ですから」

 

と頭を掻いた。

 

「ただ、釣れるのはいいんだが料理の方がどうもねぇ……。 煮付けや刺身で食べたいもんですが醤油無しじゃどうにもならない」

 

「あー……っと……」

 

俺は一瞬迷った後、口を開いた。

 

「……醤油にごく似ている物に心当たりがありますが……」

 

「なんですとッッ!!」

 

ニシダは眼鏡の奥で目を輝かせ、身を乗り出して来た。

 

♦♦♦♦♦♦

 

 

「「お帰りなさい!」」

 

ニシダを伴って帰宅した俺を、ユウキとランが出迎えてくれた。

 

「「お客様?」」

 

「ああ。 こちら、釣り師のニシダさん」

 

「「こんにちは!」」

 

二人は、ニシダにぺこりと頭を下げた。

さすが双子姉妹、シンクロ率が凄い。

 

「えっと、キリトさん。 お嬢さん方とはどういう関係で??」

 

どう答えよう……。

 

「……えっと……。 二人とも、俺の奥さんです……」

 

「なんとッッ!!」

 

ニシダは目を見開き驚きの声をあげた。

 

 

 

ユウキとランは、ニシダから受け取った大きな魚の調理をする為、キッチンに入って行った。

俺とニシダはリビングに移動した。

 

「とりあえず、座ってください」

 

俺はテーブルの前にある椅子に座るように促した。

俺はテーブルを挟みニシダと向かい合わせになるように座っている

椅子に座ったニシダが口を開いた。

 

「いやぁ、驚きました。 先程の美人さんお二人がキリトさんの奥さんだったとは」

 

「ははは……。このことは誰にも言わないでください」

 

これが一般プレイヤーにばれたら殺されるんじゃないか……。

 

「そうですな」

 

ニシダは苦笑いをしながら応じた。

 

「「出来たよー」」

 

ユウキとランは、調理した料理をテーブルの上に並べた。

香ばしい匂いが部屋中に広がる。

テーブルに上に並べられた刺身や煮物が美味そうだ!

ユウキとランは椅子を持って来て、俺の隣になるように座った。

 

「それでは、いただきましょうか?」

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

ランの音頭に続き、俺達四人は合掌し箸を手に取った。

 




キリト君が完璧な二股になってしまった。

今後の展開どうしようかな…。

白いご飯があるってww

ご意見、ご感想、優しくお願いします!!


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第41話≪ヌシ釣り≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回は短いです…。

すいません…。

今回は、ヌシ釣りのお話ですね。

誤字脱字があったらごめんなさい。

それでは、どうぞ。


たちまち食器は空になり、熱いお茶のカップを手にしたニシダは陶然(とうぜん)とした顔で長いため息をついた。

 

「……いや、堪能しました。 ご馳走様です。 しかし、まさかこの世界に醤油があったとは……」

 

「よかったらお持ち下さい」

 

ランは、キッチンから小さな瓶を持ってきてニシダに手渡した。

恐縮するニシダに向かって、こちらこそ美味しいお魚を分けていただきましたからと笑う。

 

「ところで、キリトが釣ってきた魚は?」

 

ユウキは、こちらを振り向いて聞いてきた。

 

「……えーと……。 一匹も釣れませんでした……」

 

俺は、肩を縮めながら呟いた。

 

「一匹もですか?」

 

ランもこちらを振り向いて聞いてきた。

 

「俺が釣りをしていた湖の難易度が高すぎるんだよ」

 

「いや、そうでもありませんよ。 あの湖だけ難易度が高いんですよ。 他の湖でなら初心者でも釣れますよ」

 

「な……」

 

ニシダの言葉に俺は絶句した。

俺の5時間はなんだったんだ…。

二人とも、お腹を押さえて笑っているし。

 

「なんでそんな設定になっているんだ……」

 

「実は、あの湖にはですね……」

 

ニシダは声を潜めるように言った。

俺たち三人は身を乗り出す。

 

「どうやら、主がおるんですわ」

 

「「「ヌシ?」」」

 

ニシダは眼鏡を押し上げながら続けた。

 

「村の道具屋に、一つだけ値が張る釣り餌がありましてな。 物は試しにと使ってみたことがあるんです」

 

俺たち三人は固唾を呑む。

 

「ところが、これがさっぱり釣れない。 散々あちこちで試した後、ようやくあそこ、唯一難度の高い湖で使うんだろうと思い当たりまして」

 

「大当たりと……」

 

と俺が聞いた。

ニシダは深く頷く。

 

「ただ、私の力では取り込めなかった。 竿ごと取られてしまいましたわ。 最後にちらりと影だけ見たんですが、大きいなんてもんじゃありませんでしたよ。 ありゃ怪物、そこらにいるのとは違う意味でモンスターですな」

 

両腕いっぱいに広げてみせる。 あの湖で、俺が此処にはモンスターは居ないと言った時にニシダが見せた意味深な笑顔はこういうことだったのか。

 

「「見てみたいな!!」」

 

ユウキとランは目を輝かせながら言う。

ニシダは、そこで物は相談なんですが、と俺に視線を向けてきた。

 

「キリトさん筋力パラメーターの方に自信は……?」

 

「う、まぁ、そこそこには……」

 

「なら一緒にやりませんか!! 合わせる所までは私がやります。 そこから先をお願いしたい」

 

「ははぁ、釣り竿の《スイッチ》ですか……」

 

「「やろう!! やろうよ!!」」

 

ユウキとランのテンションが最高潮まであがっていた。

 

「……やりますか」

 

俺が言うと、ニシダは満面に笑みを浮べて、そうこなくちゃ、わ、は、は、と笑った。

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

ニシダからの主釣り決行の知らせが届いたのは三日後の朝のことだった。

どうやら仲間に声を掛けて回ったらしく、ギャラリーが三十人来るらしい。

 

「……参ったなぁ」

 

此処で暮らしているのがばれたら、情報屋や剣士が押し掛けて来るよな…。

 

「「これでどうかなー??」」

 

ユウキとランは、長い黒髪をアップに纏めると、大きなスカーフを眼深に巻いて顔を隠した。

さらにウインドウを操作して、だぶだぶした地味なオーバーコートを着込む。

 

「お、おお。 いいぞ、生活に疲れた農家の主婦っぽい」

 

「「……キリト(さん)!!」」

 

「ごめんなさい……」

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

湖畔にはすでに多くの人影が見える。

やや緊張しながら近づいて行くと、見覚えのある男が、聞き覚えのある笑い声と共に手を上げた。

 

「わ、は、は、晴れてよかったですなぁ!!」

 

「「「こんにちはニシダさん」」」

 

俺たち三人は、頭をぺこりと下げる。

 

「え~、それではいよいよ本日のメイン・イベントを決行します!!」

 

長大な竿を片手に進み出たニシダが大声で宣言すると、ギャラリーが大いに沸いた。

俺は何気なくニシダが持つ竿と、その先の太い糸を視線で追い、先端にぶら下がっている物に気付いてぎょっとした。

トカゲだ。

だが大きさが尋常ではない。

大人の二の腕位のサイズがある。

赤と黒の毒々しい模様が浮き出た表面は、新鮮さを物語る様にぬめぬめと光っている。

 

「……大きいですね」

 

「……うん、大きいね」

 

ランとユウキは、顔を引き攣らせて言った。

ニシダは湖に向き直ると、大上段に竿を構えた。

見事なフォームで竿を振ると、巨大なトカゲが宙に弧を描いていき、やや離れた水面に盛大な水飛沫を上げて着水した。

俺たち三人は固唾を呑んで水中に没した糸に注目した。

やがて釣り竿の先が二、三度ぴくぴくと震えた。

だが竿を持つニシダは微動だにしない。

 

「き、来ましたよニシダさん!!」

 

「なんの、まだまだ!!」

 

ニシダは、細かく振動する竿の先端をじっと見据えている。

と、一際大きく竿の穂先が引き込まれた。

 

「いまだッ!!」

 

傍目にも判るほど糸が張りつめた。

 

「掛りました!! 後はお任せしますよ!!」

 

ニシダから竿を手渡された途端、猛烈な力で糸が水中に引き込まれた。

 

「うわっ!!」

 

慌てて両足で踏ん張り、竿を立て直す。

 

「こ、これ、力一杯引いても大丈夫ですか?」

 

俺はニシダに声を掛けた。

 

「最高級品です!! 思いっきりやって下さい!!」

 

俺は竿を構え直し、全力を解放した。

 

「「あっ! 見えた(よ)!!」」

 

ユウキとランが、水面を指差した。

俺は岸から離れ、体を後方に反らせているので確認することが出来ない。

俺は、全筋力を振り絞って竿を引っ張り上げた。

突然、俺の眼前で皆揃って二、三度後退する。

 

「どうしたん……」

 

俺の言葉が終わる前に、連中は一斉に振り向くと猛烈な勢いで走り始めた。

 

「キリトー、逃げないのー」

 

遠く離れた所からユウキが言って来た。

ユウキの奴、何を言っているんだ??

嫌な予感がする…俺は背後を振り向いた。

……魚が立っていた。

そいつは、六本脚で岸辺の草を踏みしめて俺を見下ろしていた。

こいつは魚じゃない、モンスターだ……。

俺は、そのままくるりと後ろを向き、脱兎(だっと)の如く駆け出した。

俺はそのまま、ユウキとランの後ろに隠れた。

 

「ず、ずずずるいぞ!! 先に逃げるなんて!!」

 

「こっちに近づいていますよ」

 

ランさん、そんなに呑気に言わなくても…。

 

「おお、陸を走っている……。 肺魚なのかなぁ……」

 

俺も呑気に言っているけど…。

 

「凄いよ!! お魚が歩いているよ!!」

 

ユウキは、魚を見てテンションがあがっているし……。

 

俺たちって緊張感が無いよね……。

 

「早く逃げんと!!」

 

ニシダが慌てて叫ぶ。

数十人のギャラリー達も余りの事に硬直してしまったらしく動かない。

中には座り込んだまま呆然としているだけの者も少なくない。

 

「じゃあ、ボクと姉ちゃんで殺りますか」

 

「わかったわ」

 

ユウキとランは、アイテムウインドウを操作し片手剣を装備した。

ギャラリーには、見えないようにスカーフを解除し、二人は同時に走り出し、走っている途中で片手剣を腰の鞘から抜剣した。

正面から巨大魚に突っ込んでいき、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル》で水平に斬りつけ、巨大魚はポリゴンを四散させた。

二人は、片手剣の刀身を鞘に収め、こちらに歩み寄って来た。

すぐにスカーフを眼深く巻き、顔が見えないように隠した。

 

「二人ともお疲れ」

 

「久しぶりの戦闘は楽しかったね」

 

「そうね」

 

俺とユウキとランで緊張感の無いやり取りをしていると、ようやくニシダが口を開いた。

 

「……いや、これは驚いた……。 奥さん方、ず、ずいぶんお強いんですな。 失礼ですがレベルは如何ほど……?」

 

俺たちは顔を見合わせた。

ユウキとランは、顔を隠しているのだが…。

この話題は引っ張ると危険だ。

 

「そっそんなことよりホラ、今の魚からアイテムが出ましたよ」

 

俺は話を逸らす為、口を開いた。

 

「お、おお、これは?!」

 

ニシダが目を輝かせ、それを手に取る。その手の中には白銀に輝く一本の釣り竿が出現した。

 

「それじゃあ、俺たちは帰りますね」

 

俺は、此処を早く離れたいのでニシダに言った。

 

「今日はありがとうございました」

 

ニシダは満面の笑みで応じた。

 

「「「じゃあ、また(ね)」」」

 

俺たち三人は、帰宅することにした。

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

「「「ただいま~」」」

 

俺たち三人は、扉を開けたと同時に言った。

ログハウスに足を踏み入れた二人は、顔を隠していたスカーフを解除した。

俺たち三人は、リビングの左側に設置してあるソファーに腰を下ろした。

 

「今日は、楽しかったね!」

 

俺の左隣に腰を下ろしているユウキが言った。

 

「だな」

 

俺は、ユウキの言葉に応じた。

確かに、楽しかったな~。

珍しい物も見れたしな。

俺の右隣に腰を下ろしているランも口を開いた。

 

「私も楽しかったです!」

 

ランも今日のヌシ釣りを楽しめたようだ。

 

「明日は、何をする?」

 

ユウキが俺に質問してきた。

 

「よしッ!! じゃあ、明日は森を探検しよう!!」

 

「「OK」」

 

二人は頷いてくれた。

 

こうして明日の予定が決まった。

 




顔がばれないようにしちゃいました(+o+)

ばれたらユイちゃんが出せなくなっちゃうしね…。

まぁ、後でばれるようにします。

次回はユイちゃんの登場です。

ご意見、ご感想、よろしくお願いします!!


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第42話≪眠れる森の少女≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回の話はユイちゃん回です!!

あっ、あとホロウフラグメント編はやりませんよ~。

上手く書けたかな?

誤字脱字があったらごめんよ…。

それでは、どうぞ~。


翌日。

俺たち三人は、ソファーに腰を下ろして話していた。

 

「それで、今日は何処の森に探検に行くんですか?」

 

とランが俺に聞いてきた。

俺はにやりと笑い、左手を振ってマップを呼び出した。

可視モードにし、ユウキとランに場所を示す。

 

「此処の森なんだけどな」

 

指差したのは、俺たち三人の家から少し離れた森の一角だ。

 

「この場所には、噂があるんだよ……」

 

「なになに噂って」

 

ユウキは興味津々だ。

 

「出るんだってさ……」

 

「何が出るんですか?」

 

ランは首を傾げて聞いてきた。

ランはどんなしぐさをしても可愛いね。

ユウキも可愛いけどさ。

 

「……人間の、幽霊。 女の子だって」

 

「きゃーー」

 

俺の隣に座っていたユウキが、俺の胸に飛び込んできた。

俺は、胸の中に飛び込んできたユウキを優しく受け止めた。

ユウキは、俺の顔を見上げてきた。

頭をくしゃくしゃと撫でてあげる。

 

「えへへ~」

 

ユウキは目を細めて気持ち良さそうにしていた。

 

「む~~」

 

ランは、俺とユウキを見て頬を膨らませていた。

うん、可愛いね。

 

「ほら、ランはここだ」

 

俺は自身の足の膝の上をポンポンと叩き、膝の上に座るように促した。

ランは立ち上がり、俺と向き合うように膝の上に座った。

俺はランの頭を撫でてあげた。

 

「気持ちですー」

 

ランも目を細め気持ち良さそうにしていた。

二人とも小猫みたいだな。

それから数分間、頭を撫でてあげた。

 

「もういいか?」

 

「「うん」」

 

俺たち三人は立ち上がり、玄関の扉へ向かった。

 

「じゃあ、行こうか?」

 

「「はーい」」

 

 

♦♦♦♦♦♦

 

俺たち三人は、手を繋ぎ目的地まで移動していた。

勿論、俺が真ん中だ。

 

「わぁ、いつ見ても綺麗だね」

 

ユウキが見ている湖は、太陽の光が反射し光り輝いている。

ランも光輝いている湖に視線を向ける。

 

「綺麗ですねー」

 

「だな」

 

俺は、二人の言葉に同意した。

ここの層に越してきて正解だったな。

釣りをしていたプレイヤー達が、手を繋いで歩いている俺たちに気づき手を振ってきた。

ユウキとランは、釣りをしているプレイヤー達に手を振り返した。

 

「キリトも手を振りなよ」

 

「そうですよ」

 

「……嫌だ」

 

俺たち三人は、手を繋ぎ直し目的地の森へ足を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「まだ着かないの~??」

 

とユウキに聞かれた。

俺は左手を振り、マップで現在位置を確認する。

 

「う~ん、そろそろ着くはずなんだけどな……」

 

「そういえば、どんな噂話だったんですか??」

 

ランが俺に聞いてきた。

 

「ええと、一週間くらい前、木工職人(ウッドクラフト)プレイヤーがこの辺に丸太を拾いに来たんだそうだ。 この森で採取できる木材は質が良いらしくて、夢中で集めている内に暗くなっちゃって……。 慌てて帰ろうと歩き始めた所で、ちょっと離れた木の陰に。……ちらりと、白いものが」

 

「「それでそれで!!」」

 

ユウキとランは、こういう話が大好きなんだよな。

 

「モンスターかと思って慌てたけど、どうやらそうじゃない。 人間、小さい女の子に見えたって言うんだな。 長い黒い髪に、白い服。 ゆっくり、木立の向こうを歩いて行く。 モンスターでなけりゃプレイヤーだ、そう思って視線を合わせたら……、カーソルが出ない」

 

「……ねぇ、キリト。 もしかして“あれ”のこと……??」

 

「嘘だろ……」

 

ユウキの視線の先には、白いワンピースを纏った幼い少女が無言で佇み、俺たち三人をじっと見ている。

ふらりと少女の体が揺れた。

少女の体は地面に崩れ落ちた。

俺たち三人は、倒れた少女へと駆け寄って行く。

 

「大丈夫かな??」

 

ユウキは、少女の顔を覗き込みながら言った。

俺は少女の体を抱え起こした。

少女の意識は戻っていない。

長い睫毛(まつげ)に縁どられた(まぶた)は閉じられ、両腕は力なく体の脇に投げ出されている。

俺も少女の顔を覗き込みながら言った。

 

「うーん。 でもまぁ、消滅していない……っことは生きているって、ことだよな。 しかしこれは……、相当妙だぞ……」

 

暫しの沈黙の後、ランが口を開いた。

 

「確かに妙ですね……。 カーソルが出ないんですから……」

 

ランも少女を覗き込みながら言った。

アインクラッドに存在する動的オブジェクトならプレイヤー、モンスター、NPCはターゲットにした瞬間必ずカラー・カーソルが出現する。

だが、少女からはカーソルが出現しなかったのだ。

 

「とりあえず、家に連れて帰りましょう。 目を覚ませばいろいろ判ると思いますし」

 

俺とユウキは、ランの言葉に頷いた。

俺は少女を横抱き(お姫様だっこ)したまま立ち上がった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺は二階の寝室に少女を横たえ、毛布を掛けてから一階のリビングに向かった。

俺たち三人は、指定された椅子に座り少女のことを話していた。

 

「まず一つだけ確かなのは、こうして家まで移動させられたからにはNPCじゃないよな」

 

「でも、カーソルが出なかったんだよね??」

 

ユウキは首を傾げていた。

 

「妙ですね」

 

ランも首を傾げていた。

 

「十歳はいっていないよな……。 八歳くらいかな??」

 

「それくらいだね」

 

「ですね」

 

「うーん、考えても仕方ないよな……」

 

「とりあえず、お昼ゴハンにしようか」

 

ユウキの言葉で、俺たち三人は昼食を摂ることにした。

時間が過ぎ去っても少女は変わらず眠り続けていた。

少女のことはユウキとランに任せることにして、俺は一階のソファーで寝ることにした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「キリト!! 起きて!!」

 

俺はユウキの声によって目を覚まし、ソファーから起き上がった。

 

「……おはよう。 どうかしたのか??」

 

「あの子が瞼を閉じたまま、ボクの起床アラームに合わせて歌っていたんだよ!」

 

「とりあえず、 二階に行くか」

 

俺とユウキは、一緒に二階の寝室に向かった。

俺は寝室に足を踏み入れ、少女の隣まで移動し顔を覗き込んだ。

 

「おーい、起きてくれー」

 

やがて、長い睫毛がかすかに震え、ゆっくり持ち上がった。

黒い瞳が、至近距離から真っ直ぐに俺の目を射た。

数度の瞬きに続いて、色の薄い唇がほんのわずかに開かれる。

 

「あ……う……」

 

少女の声は極薄の銀器を鳴らすような、儚く美しい響きだった。

少女の隣に座っていたランが、少女の体を抱き起こした。

ユウキも俺の隣までやって来た。

 

「……自分がどうなったか解るか??」

 

俺は少女に問いかける。

少女は数秒のあいだ口をつぐみ、小さく首を振った。

 

「じゃあ……、名前は……??」

 

今度は、ユウキが少女に問いかけた。

 

「二人とも、いきなり質問攻めはよくないですよ」

 

「「ごめんなさい……」」

 

ランに怒られてしまった。

 

「お名前は? 言える?」

 

ランは優しい声音で少女に問いかけた。

 

「……な……まえ……。わた……しの……なまえ……」

 

少女が首を傾げると、艶やかな黒髪がひと筋頬にかかった。

 

「ゆ……い。ゆい。 それが……なまえ……」

 

「ユイちゃんね。いい名前ね。 私はラン」

 

「ボクはユウキだよ」

 

「俺はキリトだ」

 

俺たち三人は、ユイに自己紹介をした。

 

「りゃ…ん。 ゆぅ…き。 き…と」

 

たどたどしく唇が動き、切れ切れの音が少女の口から発せられる。

 

「どうしてあの森にいたんだ?」

 

俺が一番聞きたい疑問をユイに問いかけた。

ユイは目を伏せ、黙り込んでしまった。しばらく沈黙を続けた後、ふるふると首を動かす。

 

「わかん……ない……。 なん……にも……、わかんない……」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たち三人は、ユイを連れてリビングまで移動した。

ユイを椅子に座らせ、温めて甘くしたミルクを勧めると、カップを両手で抱えるようにして飲み始めた。

その様子を目の端で見ながら、離れた場所で意見交換をすることにした。

 

「どう思う??」

 

俺は、ユウキとランに問いかけた。

 

「記憶喪失なのかな??」

 

ユウキも俺と同じ事を考えていたのか。

 

「私たち三人で、出来る事をやりましょうか??」

 

「「だ(な)(ね)」」

 

俺とユウキは、ランの言葉に頷いた。

俺たち三人はリビングまで移動し、椅子を移動させてから、ユイに向い合うように座った。

俺は明るい声でユイに話し掛けた。

 

「やぁ、ユイちゃん。……ユイって、呼んでいい?」

 

カップから顔を上げたユイが、こくりと頷く。

 

「そうか。 じゃあ、ユイも俺のこと、キリトって呼んでくれ」

 

「き……と」

 

「キリト、だよ。 き、り、と」

 

「…………」

 

ユイは難しい顔をして黙り込んでしまった。

 

「……きいと」

 

俺は立ち上がり、ユイの頭に手を置いた。

 

「ちょっと難しかったかな。 何でも、言いやすい呼び方でいいよ」

 

再びユイは長い時間考え込んでいた。

やがてユイはゆっくり顔を上げると、俺の顔を見て、恐る恐る、というふうに口を開いた。

 

「……パパ」

 

次いでユウキを見上げて、言う。

 

「ゆぅ…きは……ママ」

 

ユウキの隣に座っていたランにも言う。

 

「りゃ…んは……ねぇねぇ」

 

ユウキとランは、微笑みとともに頷いた。

 

「そうだよ。 ボクがママだよ、ユイちゃん」

 

「じゃあ、私はユイちゃんのお姉さんね」

 

それを聞くと、ユイは初めて笑顔を浮かべた。

 

「ママ! ねぇねぇ!」

 

ホットミルクを飲み、小さな丸パンを一つ食べると、ユイは椅子の上で頭を揺らしはじめた。

眠くなってきたのだろう。

俺はユイの隣に椅子を移動させてから座り、俺の肩に寄り掛かるようにした。

ユイは、俺の肩に寄り掛かり寝息をたて始めた。

俺はユイをゆっくりと横抱きし、ソファーの上に寝かせ毛布を掛けてあげた。

俺は座っていた椅子まで移動し、椅子に腰を下ろしてから二人に問いかけた。

 

「で、どうする」

 

「まず、お母さんとお父さんを探さないとね」

 

「とりあえず、はじまりの街に行きましょうか?」

 

「だな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

ユイは昼食の準備が終わる頃に目を覚ました。

テーブルについたユイは、俺がかぶりつくマスタードたっぷりのサンドイッチに興味を示し、俺たち三人を慌てさせた。

 

「ユイ、これはな、すごく辛いぞ」

 

「う~……。 パパと、おんなじのがいい」

 

「そうか。 そこまでの覚悟なら俺は止めん。何事も経験だ」

 

俺はユイにサンドイッチを一つ差し出した。

ユイは小さな口を大きく開けてサンドイッチにかぶりついた。

俺たち三人が固唾を呑んで見守るなか、口をもぐもぐさせていたユイは、ごくりと喉を動かすとにっこり笑った。

 

「おいしい」

 

「中々根性のある奴だ」

 

俺は笑いながらユイの頭をぐりぐりと撫でる。

 

「晩飯は激辛フルコースに挑戦しような」

 

「「そんなもの作りません!!」」

 

「……あい」

 

ユウキとランに全力で拒否されてしまった…。

結局残りのサンドイッチは、俺とユイで全て平らげてしまい、満足そうにミルクティーを飲むユイに向かって、ユウキが言った。

 

「ユイちゃん、午後はパパとママとねぇねぇでお出かけしよう!」

 

「おでかけ?」

 

ユイは、ユウキの言葉にきょとんとした。

 

「ユイの友達を探しに行くんだ」

 

「ともだち……って、なに?」

 

俺たち三人は、顔を見合わせた。

記憶喪失がここまで酷いのか……。

記憶がところどころ消滅しているような感じだな……。

 

「お友達っていうのは、ユイちゃんのことを助けてくれる人のことだよ」

 

ユウキは、優しい声音でユイに言った。

ユイは、こくりと頷いて立ち上がった。

 

「とりあえず、厚手のセーターに着替えをようか」

 

ユウキが俺のことを見て言ってきた。

 

「キリト……」

 

「……了解です」

 

俺は着替えが終わるまで、二階の寝室に移動した。

数分後。

 

「降りてきてー」

 

俺はユウキに呼ばれたので、一階のリビングまで移動した。

 

「どうしたんだ?」

 

「これを見て下さい」

 

ランに言われ、視線をユイの可視モードになっているアイテムウインドウを覗き込んだ。

基本は他人のスターテスを見るのは重大なマナー違反であるが、こういう状況だ、仕方がないだろう。

 

「なんだこれ!?」

 

メニューウインドウのトップ画面は、基本的に三つのエリアに分けられている。

最上部に名前の英語表示と細いHPバー。EXPバーがあり、その下の右半分に装備フィギア、左半分にコマンドボタン一覧という配置になっている。

だが、ユイのウインドウの最上部には《Yui-MHCP001》という奇妙なネーム表示があるだけでHPバーもEXPバーも、レベルの表示すら存在しなかった。

僅かに《アイテム》と《オプション》の二つだけが存在するだけ。

 

「……システムのバグか??」

 

「ボクにはバグというよりは、もともとこういうデザインになっている様にも見えるけど……」

 

とユウキが言い、

 

「ユイちゃんが、アイテムウインドウを開くことを難しかしそうにしていたんですよ」

 

ランが言った。

 

「……これ以上考えても仕方ない」

 

「そうだね」

 

「ですね」

 

二人が同意したのを確認してから、俺は二階の寝室に向かった。

ユイがまだ着替えていないからだ。

数分後。

 

「いいよー」

 

俺はユウキに呼ばれ、一階のリビング向かった。

俺たち三人は、ユイを連れて玄関の扉まで向かおうとした。

俺は、ユイに服の袖を掴まれた。

ユイは、俺に向かって両手を広げた。

 

「パパ、だっこ」

 

俺は、苦笑しながらユイの体を横抱きにして抱え上げた。

 

「本当のパパみたいだね」

 

ユウキがこちらを振り向いて言ってきた。

 

「ユウキはママだろ」

 

「えへへ~」

 

ユウキは、満面の笑みを浮かべていた。

ランもこちらを振り向いて言ってきた。

 

「私は、キリトさんとユウキの子供になっちゃうわね」

 

「だな。 ランはユイの姉だからな」

 

俺たち三人は顔を見合わせ笑い合った後、玄関の扉まで足を向けた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「だね」

 

「ですね」

 

俺は、玄関の扉をゆっくり開けた。

 

「キリト、そのまま動かないでね」

 

「動かないでくださいね」

 

突然、ユウキとランに呼び止められた。

どうしたんだ??

すると、両頬から柔らかい感触が伝わって来た。

俺は顔を真っ赤にした。

ユウキとランにキスをされたのだ。

 

「パパ、どうしたの??」

 

ユイが首を傾げて聞いてきた。

 

「なっなんでもないぞ……」

 

「ユイちゃんは、まだ覚えなくていい事だよ」

 

「大きくなったら覚えようね」

 

俺たち三人は、はじまりの街に足を向けた。

 




どうでした?

上手くイチャイチャが書けたかな?

後、噂はキリト君が釣りに行ったときに聞いたって事にしといてください。

ご意見、ご感想よろしくおねがいします!!


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第43話≪ユイの親捜しと軍の徴税部隊≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回は結構長く書きました。

原作と被り過ぎていたらごめんよ。

被らないように書いたけど…。多分、大丈夫のはず。

それでは、どうぞ。


第1層《はじまりの街》に降り立ったのは、デスゲームが始まって以来だ。

ここはアインクラッド最大の都市であり、冒険に必要な機能は他のどの街よりも充実している。

物価も安く、宿屋の類も存在し、効率だけを考えるならここをベースタウンにするのがもっとも適している。

ここの中央広場に立って大空を仰ぐと思いだす。

全てが終わり、全てが始まった場所と。

戦う事が出来るプレイヤーは、はじまりの街に留まっている者はいない。

俺たち四人は、転移門を出たところで立ち止まった。

俺は巨大な広場と、その向こうに横たわる町並を見渡した。

 

「……思い出してしまうな……」

 

俺がポツリと呟いた。

 

「……うん」

 

「……全てが終わり、全てが始まった場所ですからね……」

 

ユウキとランは、俺の呟きが聞こえていたようだ。

俺はランを見てから口を開いた。

 

「……デスゲームが始まったあの日……、声をk「キリトさん」」

 

ランが俺の言葉を遮ってきた。

ランは言葉を続ける。

 

「いいんですよ。 キリトさんにも事情があったはずです。私はキリトさんを責めたりはしません。 全プレイヤーには失礼ですが、私は今とても幸せです」

 

ランは優しい声音で言ってきた。

 

「ボクも幸せだよ」

 

俺の左隣りに立っていたユウキが言ってきた。

背にいたユイが、俺の顔を覗き込んで声を掛けてきた。

 

「パパ、元気だして……」

 

「ああ、そうだな」

 

ありがとう、三人とも。

俺は三人に笑顔を見せた。

 

「キリトは、笑っていた方がいいよ」

 

「そうですね」

 

ユウキとランは、俺の頬を撫でながら言ってくれた。

 

「パパ、やっと笑った」

 

俺はユイの頭に手を置きくしゃくしゃと頭を撫でた。

まったく、いい子だな。

早くお父さんとお母さんを探さないとな。

 

「ユイ、見覚えのある建物とかあるか??」

 

「うー……」

 

ユイは難しい顔で、広場の周囲に連なる石造りの建物を眺めていたが、やがて首をふった。

 

「わかんない……」

 

「はじまりの街はとっても広いしね」

 

俺の左隣に立っていたユウキがユイの頭を撫でながら言った。

 

「歩いていればそのうち何か思い出しますよ。 とりあえず、中央広場に行きましょうか??」

 

俺の右隣に立っていたランがユイの頭を撫でながら言った。

ユイはユウキとランに撫でられ、目を細めて気持ち良さそうにしていた。

 

「じゃあ、行くか?」

 

俺の言葉にユウキとランは頷き、大通りに向かって歩き始めた。

 

「ねぇ、キリト」

 

ユウキが俺に聞いてきた。

 

「んっ、どうした?」

 

「人が少ないような気がするのは気のせいかな……??」

 

「確かに……」

 

俺は、訝しげに広場を見渡した。

確かに、意外なほど人が少ない。

はじまりの街はアインクラッドで一番広く、尚且(なおか)つ安全な層だ。

一般プレイヤー、戦えないプレイヤーは、はじまりの街に留まっているはずだ。

何で人が少ない??

 

「ここって今プレイヤー何人くらい居るんでしたっけ?」

 

ランが俺に聞いてきた。

 

「うーん、そうだな……。 生き残っているプレイヤーが約六千人、《軍》を含めるとその三割くらいがはじまりの街に残っているらしいから、二千弱ってとこじゃないか??」

 

「じゃあ、マーケットの方に集まっているのかな?」

 

ユウキが俺とランの会話に混ざってきた。

確かにマーケットの方に行けば、人が大勢集まっているのかもしれないしな。

大通りに入り、店舗と屋台が建ち並ぶ市場エリアにさしかかっても、相変わらず街は閑散としていた。

どうにか、通りの中央に立つ大きな木の下に座り込んだ男性プレイヤーを見つけた。

俺たち四人は、男に近寄り声を掛けた。

 

「あの、すいません」

 

ランが口を開いた。

妙に真剣な顔で高い梢を見上げている男は、顔を動かさないまま面倒くさそうに口を開いた。

 

「なんだよ」

 

男は、俺たち四人を遠慮のない目つきでじろじろと見てきた。

 

「なんだ、あんたらよそ者か?」

 

「ああ……、この子の保護者を探しているんだ」

 

俺は背中でうとうとしているユイを指し示す。

 

「……迷子かよ、珍しいな。……東七区の川べりの教会に、ガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでいるから、行ってみな」

 

「ありがとう。 おじさん」

 

ユウキが男性プレイヤーにぺこりと頭を下げた。

 

俺たち四人がこの場を離れようとした時、男が声を掛けてきた。

 

「お前さんたち、軍の徴税部隊には出くわすなよ」

 

「ああ、わかった」

 

俺は頷いた。

教会に向かっている時、ユウキが俺に声を掛けてきた。

 

「……ねぇ、もしだよ!! もしユイちゃんの保護者が見つかったら……」

 

ユウキの声がだんだんと弱くなっていく。

 

「ユイちゃんと別れたくないのね。 そうでしょ、ユウキ?」

 

ランがユウキに聞いた。

ランの質問にユウキはこくりと頷いた。

 

「別れたくないのは俺も一緒さ。 何ていうのかな……。 ユイがいることで、あの森の家が本当の家になったみたいな……。 そんな気がしたもんな……」

 

俺は背中で眠っているユイを見やった。

 

「ちょっ……、ユウキ泣かないで、会えなくなるわけじゃないんだから」

 

俺はユウキの左隣まで行き片手でユイを支え、空いた片手でユウキの頭を撫でてあげた。

 

「元気だせよ、なっ」

 

「……うん、わかった」

 

ユウキの声はまだ弱い。

ランはユウキの右隣まで行き、ユウキの頭を撫でた。

 

「ユウキはユイちゃんのママでしょ、泣いていたらダメでしょ」

 

「……うん」

 

ユウキはユイの頭を撫でて意を決して歩きだした。

 

「じゃあ、行くか」

 

俺はユイを支え直し、再び教会に向け足を進めた。

 

「そうですね」

 

俺の言葉に応じてくれたランは、寂しそうな顔をしていた。

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「どなたかいませんかー?」

 

ユウキは、教会のドアを開け言った。

だが、声の残響エフェクトの尾を引きながら消えていっても、誰も出てくる様子はない。

 

「……いや、人がいるよ。右の部屋に三人、左に四人……。二階にも何人か」

 

「……あっ本当だ」

 

ユウキも索敵スキルを使用したのだろう。

ユウキは索敵スキルを完全習得しているしな。

俺とランも完全習得しているけど。

俺たち四人は、そっと教会内部に足を踏み入れた。

静寂が周囲を包むが、なんとなくその中に息を潜める気配がある。

 

「あの、すいません、人を探しているんですけど」

 

ユウキがもう一度呼びかける。

すると、右手ドアが僅かに開き、その向こうから細い女性の声が響いてきた。

 

「……《軍》の人じゃ、ないんですか?」

 

「違いますよ。 上の層から来たんです」

 

と俺が言った。

俺もユウキもランも、剣はおろか戦闘用の防具ひとつ身に着けていない。

軍所属のプレイヤーは、常にユニフォームの重装備を纏っているので、格好だけでも軍とは無関係であることが解るはずだ。

やがてドアがゆっくり開くと、一人の女性プレイヤーがおずおずと姿を現した。

暗青色のショートヘア、黒縁の大きな眼鏡をかけ、その奥で怯えをはらんだ深緑色の瞳をいっぱいに見開いている。

簡素な濃紺のプレーンドレスを身に纏い、手には鞘に収められた小さな短剣。

 

「ほんとうに……、軍の徴税隊じゃないんですね……?」

 

ユウキとランは、安心させるように微笑みかける。

 

「私たちは人を探していて、今日上から来たばかりなんです」

 

とランが言い、

 

「軍とは何の関係もないですよ」

 

とユウキが言った。

 

――その途端

 

「上から!? ってことは本物の剣士なのかよ!?」

 

甲高い、少年めいた叫びと共に、女性の背後のドアが大きく開き、中から数人の人影がばらばらと走り出て来た。

直後、祭壇の左手の扉も開け放たれ、同じく数名が駆け出してくる。

どれもこれも少年少女と言っていいうら若いプレイヤーたちだった。

下は十二歳、上は十四歳といったところだろう。

 

「こら、あんたたち、部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」

 

慌てたように子供たちを押し戻そうとする女性だけが二十歳前後だと思われる。

もっとも、誰一人として命令に従う子はいないが。

だが、真っ先に部屋から走り出てきた、赤毛で短髪のつんつん逆立てた少年が失望の叫び声を上げた。

 

「なんだよ、剣の一本も持ってないじゃん。 ねぇあんた、上から来たんだろう? 武器くらい持ってないのかよ」

 

「いやっ……、ないことはないけど」

 

俺が答えると、子供たちの顔がぱっと輝いた。 見せて見せてと、口々に言い募る。

 

「こらっ、初対面の方に失礼なこと言っちゃだめでしょう。 ――すいません、普段お客様なんてまるでないものでしたから……」

 

いかにも恐縮したように頭を下げる眼鏡をかけた女性。

 

「そういえば、幾つかアイテムストレージに入れっぱなしの武器があった気がする」

 

「私もあるわ」

 

ユウキとランはウインドウを開き、指を動かした。

たちまち十五個ほどの武器アイテムがオブジェクト化され、傍らの長机の上に積み上げられていく。

子供たちは、剣やメイスに手に出しては「重―い」「かっこいい」と歓声を上げてその周囲に群がった。

中には、武器で遊んでいる子供もいる。

だが、街区圏内では武器をどう扱おうとそれによってダメージを受けることは有り得ないので大丈夫だろう。

 

「……すみません、ほんとうに……」

 

眼鏡をかけている女性が、困ったように首を振りつつも、喜ぶ子供たちの様子に笑みを浮かべて言った。

 

「……あの、こちらへどうぞ。 今お茶を準備しますんで……」

 

礼拝堂の右にある小部屋に案内された俺たち四人は、振舞われた熱いお茶をひとくち飲んでほっと息をついた。

ユイは俺の膝の上で寝ているが。

 

「それで……、人を探していらっしゃるということでしたけど……?」

 

向かいの椅子に腰掛けた眼鏡をかけた女性プレイヤーが小さく首を傾げて言った。

 

「ええ、そうです。 あっそう言えば自己紹介をしていませんでしたね」

 

ランが眼鏡をかけた女性プレイヤーに言った。

 

「私はランと言います」

 

「ボクはユウキだよ」

 

「俺はキリトだ」

 

俺たち三人は、眼鏡をかけた女性プレイヤーに自己紹介をした。

 

「私はサーシャです」

 

ぺこりと頭を下げて言う。

 

「で、俺の膝の上で眠っている子がユイです」

 

俺はユイの頭を撫でながら言った。

俺は続けて言った。

 

「この子、22層の森の中で迷子になっていたんですよ。 記憶をなくしていて」

 

「まぁ……」

 

サーシャという女性の、大きな深緑色の瞳が眼鏡の奥でいっぱいに見開かれる。

 

「装備も、服以外は何もなくて、上層で暮らしていたとは思えなかったので……。はじまりの街にこの子のことを知っている人がいるんじゃないかと思って探しに来たんですよ。こちらの教会で、子供たちが集まって暮らしていると聞いたので」

 

ランがサーシャに言った。

 

「何か知りませんか?」

 

ユウキがサーシャに問いかけた。

サーシャは、お茶をひとくち飲んでから話し始めた。

 

「……この教会には、小学生から中学生くらいの子供たちが20人くらい暮らしています。 多分、現在この街にいる子供プレイヤーのほぼ全員だと思います。 このゲームが始まった時……」

 

サーシャは言葉を続ける。

 

「それくらいの子供たちのほとんどは、パニックを起こして多かれ少なかれ精神的な問題を来たしました。 勿論ゲームに適応して、街を出て行った子供もいるんですが、それは例外的なことだと思います」

 

このことは、俺にも言える事だった。

俺もゲーム開始時にパニックを起こしたから。

 

「当然ですよね。まだまだ親に甘えたい盛りに、いきなりここから出られない、ひょっとしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから……。 そんな子供たちは大抵虚脱状態になって、中には何人か……、そのまま回線切断してしまった子もいたようです」

 

サーシャの口元が固く強張る。

 

「私、ゲーム開始から1ヶ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げしていたんですけど……。 ある日、そんな子供たちの一人を街角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです。 それで、そんな子供たちが他にもいると思ったら居ても立ってもいられなくなって、街中を回っては独りぼっちの子供に声を掛けるようなことを始めて、気付いたら、こんなことになっていたんです。 だから……、お三方みたいに、上層で戦っていらっしゃる方もいるのに、私はドロップアウトしちゃったのが申し訳なくて」

 

「そんなことないですよ、サーシャさん」

 

「サーシャさんは立派に戦っているよ」

 

「ええ、そうですよ」

 

俺たち三人は、サーシャに優しい声音で言った。

 

「ありがとうございます。 でも義務感でやっているわけじゃないんですよ。 子供たちと暮らすのはとっても楽しいです」

 

ニコリと笑い、サーシャは俺の膝の上で眠るユイを心配そうに見つめた。

 

「だから……。 私たち、二年間ずっと、毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って、困っている子供がいないか調べているんです。 そんな小さい子が残されていれば、絶対気付いたはずです。 残念ですけど……、はじまりの街で暮らしていた子じゃあ、ないと思います」

 

「「そうですか……」」

 

ユウキとランは俯いてしまった。

 

「そういえば、毎日の生活費、どうしているんですか?」

 

俺が口を開いた。

 

「あ、それは、私の他にも、ここを守ろうとしてくれている年長の子が何人か居て……、彼らは街の周辺のフィールドなら絶対大丈夫なレベルになっていますので、食事代くらいはなんとかなっています。贅沢はできませんけどね」

 

「「「それは凄いね…」」」

 

俺たち三人は口を揃えて言った。

 

「だから、最近眼を付けられちゃって……」

 

「……誰に、です?」

 

俺が応じた。

サーシャの穏やかな目が一瞬にして厳しくなった。言葉を続けようと口を開けた、その時―

 

「先生! サーシャ先生! 大変だ!」

 

部屋のドアが開き、数人の子供たちが雪崩込んできた。

 

「こら、お客様に失礼じゃないの!」

 

「それどころじゃないよ!!」

 

先ほどの赤毛の少年が、目に涙を浮かべながら叫んだ。

 

「ギン兄ィたちが、軍の奴らに捕まったんだよ!!」

 

「――場所は?!」

 

別人のように毅然とした態度で立ち上がったサーシャが、少年に訊ねた。

 

「東五区の道具屋裏の空き地。 軍が十五人くらいで通路をブロックしている。 コッタだけが逃げられたんだ」

 

「解った、すぐ行くわ。――――すみませんが……」

 

「いや、俺たちも助けに行くよ」

 

俺はユウキとランを見た。

 

「「うん!!」」

 

ユウキとランは、俺の言葉に頷いた。

 

「――ありがとうございます。 お気持ちに甘えさせていただきます」

 

サーシャは深く一礼すると、眼鏡を押し上げ、言った。

 

「それじゃ、すいませんけど走ります!」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「おっ、保母さんの登場だぜ」

 

「……子供たちを返してください」

 

硬い声でサーシャが言う。

 

「人聞きの悪いこと言うなって。 すぐに返してやるよ。 ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな」

 

「そうそう。 市民には納税の義務があるからな」

 

わははは、男たちが甲高い笑い声を上げた。 固く握られたサーシャの拳がぶるぶると震える。

 

「ギン! ケイン! ミナ! そこにいるの?!」

 

サーシャが男たちの向こうに呼びかけると、すぐに怯えきった少年少女の声でいらえがあった。

 

「先生! 先生!……助けて」

 

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

 

「先生……だめなんだ……!!」

 

今度は、しぼり出すような少年の声。

 

「くひひっ」

 

道を塞ぐ男の一人が、ひきつるような笑いを吐き出した。

 

「あんたら、ずいぶん税金を滞納しているからなぁ……。 金だけじゃ足りないよなぁ」

 

「そうそう、装備も置いていってもらわないとなぁー。 防具も全部……何から何までな」

 

男たちは下卑(げび)た笑いを見せ、俺は路地の奥で何が行われているか咄嗟に察した。

恐らくこの《徴税隊》は、少女を含む子供たちに、着衣も全て解除しろと要求している。

俺は、この屑野郎共に殺意にも似た憤りが芽生える。

だが、俺より先にユウキが動いた。

ユウキは爆発寸前だ…。

 

「……キリト。 姉ちゃん……」

 

ユウキの声には怒気が含まれていた。

ユウキはアイテムストレージから、愛剣《黒紫剣》取り出した。

 

「……私とキリトさんは、こちらに向かってきた軍のプレイヤーの処理をするわ」

 

「……おう」

 

俺とランは、ユウキの静かな怒りにとても驚いた。

普段の活発さが無いのだ。

 

「……じゃあ、武器を装備するか?」

 

俺はランに問いかけた。

 

「そうですね」

 

俺はユイを右手で抱き上げ、先程アイテムストレージから取り出した愛剣《エリュシデータ》の柄を握り鞘から抜剣し左手に装備した。

ランもアイテムストレージから自分の愛剣《青龍剣》を腰に装備し、腰に装備した剣の柄を握り鞘から《青龍剣》を抜剣した。

俺とランは、後ろに隠れているサーシャと子供たちの護衛をすることにした。

ユウキは無造作に地面を蹴り、敏捷力と筋力補正を全開にして跳躍し、軍のメンバーの頭上を軽々飛び越え、四方に囲まれた空き地へと降り立った。

 

「もう大丈夫だよ。 装備を戻して」

 

ユウキは子供たちに歩み寄り、微笑みかけながら言った。

少年たちはこくりと頷くと、慌てて足元から防具を拾い上げウインドウを操作し始めた。

 

「おい……。 オイオイオイオイ!!」

 

先頭に立っていた軍のプレイヤーの一人が喚き声を上げた。

 

「おい……。 嬢ちゃん……、《軍》の任務を妨害すんのか!」

 

「まぁ、待て」

 

それを押し留め、ひときわ重武装の男がユウキの前に進み出てきた。

どうやらリーダー格らしい。

 

「あんたら見ない顔だけど解放軍にt「おじさん、うるさい……」」

 

ユウキの声は先程より怒気が増していた。

ユウキは、腰に装備している黒紫剣の柄を握り鞘から抜剣する。

 

「おぉ、解放軍と戦おうってかい、戦うんなら《圏外》でやるか!?」

 

軍のリーダー格がユウキに向かって言った。

 

「……うん……、戦おうか。 圏外でやってもいいけどね……」

 

ユウキは黒燐剣、最上位剣技『マザーズ・ロザリオ』計十一連撃を放った。

 

軍のリーダー格は、ユウキが放った攻撃を受けて思いっきり後方へ吹き飛んだ。

俺とランの横を通り過ぎ、後方にある小屋に激突し大きな爆発音を立てた。

 

「安心していいよ、HPは減らないから……」

 

ユウキは、残りの軍の連中に言った。

犯罪防止コード圏内では、武器による攻撃をプレイヤーに命中させても不可視の障壁に阻まれるのでダメージが届くことは無い。

だが、ソードスキルの威力によっては、わずかながらノックバックが発生する。

慣れない者にとっては、HPが減らないと解っていても耐えられるものではない。

 

「……ねぇ、おじさん達、戦う?」

 

「ひあっ……、た、助けて」

 

ユウキの奴、今の攻撃で完全に恐怖を植え付けたな……。

軍の連中はリーダー格を見捨て、この場から逃走した。

ユウキは、軍の連中の逃走と、俺とランが相手をしていた数人の軍のプレイヤーの処理(気絶)を確認してから、黒紫剣を腰の鞘に収めた。

 

「スッキリしたー」

 

ユウキは伸びをしていた。

先程の戦闘を見ていた、サーシャと教会の子供たちは絶句して立ち尽くしていた。

 

「あ……」

 

ユウキは、先程の戦闘を思い出し息を詰めて一歩後ずさった。

だが突然、子供たちの先頭に立つ赤毛で逆毛の少年が、目を輝かせながら叫んだ。

 

「すげぇ……、すげぇよ姉ちゃん!! 初めて見たよあんなの!!」

 

「このお姉ちゃんは無茶苦茶強いだろう」

 

俺は、子供たちに向けて言った。

 

「どうだユイ、ママはすごく強いだろ」

 

俺は、ユイの顔を見て言った。

 

「うん!! ママは強い」

 

ユイは、嬉しそうにしていた。

 

俺とランは、ユウキのもとへ歩き出した。

俺はユイを右手で抱き、左手には剣を下げている。

ランはすでに、青龍剣の刀身を腰に装備している鞘に収めていた。

俺はユウキの隣まで移動し、剣をアイテムストレージに収納してから頭を撫でてあげた。

 

「えへへ~」

 

子供たちも一斉に飛びついてきた。

主にユウキにだが……。

その時だった。

 

「みんなの……みんなの、こころが」

 

俺の腕のなかで、ユイが宙に視線を向け、右手を伸ばしていた。

俺とユウキとランは、その方角を見やったが、そこには何もない。

 

「みんなのこころ……が……」

 

「ユイ! どうしたんだ! ユイ!」

 

俺が叫ぶとユイは二、三度瞬きして、きょとんとした表情を浮かべた。

ユウキは、ユイの手を握る。

 

「ユイちゃん……。 何か、思い出したの?!」

 

ユウキが声を上げて言った。

 

「……あたし……あたし……」

 

眉を寄せ、俯く。

 

「あたしは、ここには……いなかった……。 ずっと、ひとりで、くらいところにいた……」

 

何かを思い出そうとするかのように顔しかめ、唇を噛む、と、突然ー

 

「うぁ……あ……あああ!!」

 

その体が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。

SAO内で初めて聞くノイズじみた音が俺の耳に響いた。

直後、ユイの硬直した体のあちこちが、崩壊するように激しく振動した。

 

「ゆ……ユイちゃん……!」

 

ユウキが悲鳴を上げ、その体を両手で必死に包み込む。

 

「ママ……ねぇねぇ……こわいよ」

 

かぼそい悲鳴を上げるユイをユウキは、俺の右腕から抱き上げ、ユウキはぎゅと胸に抱きしめた。

ランは、ユイの頭を心配そうに撫でてあげてた。

数秒後、怪奇現象は収まり、硬直したユイの体から力が抜けた。

 

「なんだよ……今の……」

 

俺のうつろな呟きが、静寂に満ちた空き地に低く流れた。

 




どうでした?

あと、ランちゃんの武器の名前を出しました。

やっぱり、ユウキちゃんといえば『マザーズ・ロザリオ』ですよね~。

また出しちゃいました(笑)

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第44話≪アインクラッド解放軍≫

どもっ!!

舞翼です!!

設定が決まりましたよ~。 決めるの結構悩んだな~。

いきなりの変更は出来ないので、ご容赦を…。

1つだけ、ハーレムは無いかな。

まぁ、それは置いといて。

書き上げました。

誤字脱字があったらごめんよ…。

それでは、どうぞ。


第1層 教会

 

「ミナ、パンひとつ取って!」

 

「ほら、余所見しているとこぼすよ!」

 

「あーっ、先生ー! ジンが目玉焼き取ったー!」

 

「かわりにニンジンやったろー!」

 

傍目から見ても凄い光景だった。

 

「これは……、すごいな……」

 

「ボクはこれくらい賑やかな方が好きだな」

 

「私も賑やかな方がいいわ」

 

俺は眼前で繰り広げられる戦場さながらの朝食風景に、呆然としてしまった。

はじまりの街、教会の一階広間。

巨大な長テーブル二つに所狭しと並べられた大皿に載る、卵やソーセージ、野菜サラダを、二十数人の子供たちが盛大に騒ぎながらぱくついている。

 

「でも、楽しそうだな」

 

俺が呟いた。

俺たち四人とサーシャは、少し離れた丸テーブルに座っている。

俺とユウキとランとサーシャは、微笑しながらお茶を口許に運んだ。

 

「毎日こうなんですよ。 いくら静かにって言っても聞かなくて」

 

そう言いながら、子供たちを見るサーシャの目は心底愛おしそうに細められている。

 

「子供、好きなんだね」

 

ユウキが満面の笑みでサーシャに言うと、サーシャは照れたように笑った。

 

「向こうでは、大学で教職課程取っていたんです。 ほら、学級崩壊とか長いこと問題になっていたじゃないですか。 子供たちを私が導いてあげるんだーって、燃えてて。 でもここに来て、あの子たちと暮らし始めたら、何もかも見ると聞くでは大違いで……。 むしろ私が頼って、支えられている部分のほうが大きいと思います。 でも、それでいいって言うか……。 それが自然なことに思えるんです」

 

「何となく解る気がするな」

 

ユウキは頷いて、隣の椅子で真剣にスプーンを口に運ぶユイの頭をそっと撫でた。

ユイの存在がもたらす温かさは驚く程だ。

目に見えない羽根で包み、また包まれるような、静かな安らぎを感じる。

昨日、謎の発作を起こし倒れたユイは、幸い数分で目を覚ました。

だが、すぐに長距離を移動させたり、転移ゲートを使わせる気にはならなかった。

それにサーシャの熱心な誘いもあり、教会の空き部屋を一晩借りることにした。

今朝からはユイの調子も良いようで、俺たち三人は安心した。

しかし基本的な状況は変わっていない。

かすかに戻ったらしきユイの記憶によれば、はじまりの街に来たことは無いようだった。

そもそも保護者と暮らしていた様子すら無いのだ。

ユイの記憶障害、幼児退行といった症状もまるで不明で判らないのだ。

これ以上何をしていいかも思いつかない。

ーーもしかしたら、これ以上出来る事が無いのかもしれない。

 

「パパ、どうしたの?」

 

隣に座っているユイが、俺の顔を見て問いかけてきた。

 

「んっ、何でもないぞ」

 

俺が考え込んでいると気付いたのか。

俺はカップを置き、話し始めた。

 

「サーシャさん……」

 

「はい?」

 

「……軍のことなんですが。 俺が知っている限りじゃ、あの連中は専横(せんおう)が過ぎることはあっても治安維持には熱心だった。 でも昨日見た奴等はまるで犯罪者だった……。 いつから、ああなんです?」

 

サーシャは口許を引き締めると、答えた。

 

「軍の方針が変更されたのは、半年くらい前ですね……。 徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人たちと、それを逆に取り締まる人たちがいて。 軍のメンバー同士で対立している場面も何度も見ました。 噂じゃ、上のほうで権力争いか何かあったみたいで……」

 

「権力争い??」

 

何かの派閥があるのか?

俺が考え込んでいた時、ユウキが口を開いた。

 

「誰か来るよ」

 

「ええ、一人教会の入口に近づいていますね」

 

ランも近づいてくるプレイヤーに気付いたらしい。

俺も索敵スキルを使用した。

確かに、こちらに一人のプレイヤーが近づいて来ている。

 

「ああ、間違いなく一人こちらに近づいて来ているな」

 

「え……。 またお客様かしら……」

 

サーシャの言葉に重なるように、教会内に音高くノックの音が響いた。

教会の扉を開けた先に佇むのは、長身の女性プレイヤーだった。

銀色の長い髪をポニーテールに束ね、怜悧(れいり)という言葉がよく似合う、鋭く整った顔立ちをしているプレイヤーだった。

鉄灰色のケープに隠されているが、女性プレイヤーが身に纏う濃緑色の上着と大腿部(だいたいぶ)がゆったりとしたズボン、ステンレススチール風に鈍く輝く金属鎧は、間違いなく《軍》のユニフォームだ。

 

「みんな、この方は大丈夫よ。 食事を続けなさい」

 

サーシャの言葉により子供たちは、ほっとしたように肩の力を抜き、食事を続けた。

歩いてきた女性プレイヤーは、俺たちが座っている丸テーブルまで歩を進め、俺たちの座っている前で立ち止まり声を掛けてきた。

 

「初めまして、ユリエールです。ギルドALFに所属しています」

 

「「「ALF?」」」

 

初めて聞くギルド名に、俺とユウキとランは首を傾げた。

 

「あ、すみません。 “アインクラッド解放軍”の略称です。正式名はどうも苦手で……」

 

女性の声は、落ち着いた艶やかなアルトだった。

 

「初めまして、ボクはユウキ言います」

 

ユウキが最初に口を開いた。

 

「初めまして、私はランと言います」

 

続いてランが口を開いた。

 

「俺は、キリトだ」

 

最後に俺が自己紹介をした。

ユリエールは、俺たち三人の名前を聞いた途端、目を見開いた。

 

「……あの、もしかして《黒の剣士》《絶剣》《剣舞姫》ですか……??」

 

「……ああ、そうだ」

 

そう言えば俺たちの名前って、アインクラッドの下層まで広まっているんだった……。

 

「……なるほど、道理で連中が軽くあしらわれるわけだ」

 

連中、というのが昨日の暴行恐喝集団のことだと悟った俺たち三人は、警戒心を強めた。

 

「つまり、昨日の件で抗議に来たの」

 

ユウキのユリエール言葉に応じた。

 

「とんでもない。 その逆です、よくやってくれたとお礼を言いたいくらい」

 

この言葉により、俺たち三人は警戒を解いた。

ユリエールは姿勢を正した。

 

「今日は、お三方にお願いがあって来たんのです」

 

「「「お願い……?」」」

 

ユリエールは、銀色の髪を揺らして頷いた。

 

「はい。 最初から説明します。軍というのは、昔からそんな名前だったわけじゃないんです……。 軍の名前がALFになったのは、かつてのサブリーダーで現在の実質的支配者、キバオウという男が実権を握ってからのことです。 最初はMTDという名前で……、聞いたこと、ありませんか?」

 

ユウキとランは首を傾げていたが、俺が即答した。

 

「《MMOトゥデイ》の略だろう。 SAO開始当時の、日本最大のネットワーク総合情報サイトだ。 ギルドを結成したのは、そこの管理者だったはずだ。 名前は……シンカー」

 

その名前を口にした時、ユリエールの顔が僅かに歪んだ。

 

「彼は……決して今のような、独善的な組織を作ろうとしたわけじゃないんです。 情報とか、食料とかの資源をなるべく多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで……」

 

危険を極力減らした上で安定した収入を得て、それを均等に分配しようという思想自体は間違っていない。

だが、MMORPGの本質はリソースの奪い合いだ。

SAOのような異常かつ極限的状態のゲームになってもだ。

理想を実現する為には、組織の現実的な規模と強力なリーダーシップが必要だった。

だが、軍は大きくなりすぎた。

 

「そこに台頭してきたのがキバオウという男です」

 

確かキバオウって奴は、第1層ボス攻略会議の時に暴れた奴だ。

 

「彼は、シンカーが放任主義なのをいいことに、同調する幹部プレイヤー達と体制の強化を打ち出して、ギルドの名前をアインクラッド解放軍に変更させました。 更に公認の方針として犯罪者狩りと効率のいいフィールドの独占を推進したのです。 それまで、一応は他のギルドとの友好も考え狩場のマナーを守ってきたんですが、数の力で長時間の独占を続けることでギルドの収入は激増し、キバオウ一派の権力はどんどん強力なものとなっていきました。 シンカーはほとんど飾り物状態で……。 キバオウ派のプレイヤーは調子に乗って、街区圏内でも《徴税》と称して恐喝まがいの行為すら始めたのです。 昨日、あなた方が痛い目に遭わせたのは、そんな連中の急先鋒だった奴等です」

 

ユリエールは一息つくと、サーシャの淹れたお茶を含み、続けた。

 

「でも、キバオウ派にも弱みはありました。 それは、資財の蓄積だけに現を抜かせて、ゲーム攻略をないがしろにし続けたことです。 本末転倒だろう、と言う声が末端のプレイヤーの間で大きくなって……。その不満を抑えるため、最近キバオウは無茶な博打に出ました。 配下の中で、ハイレベルプレイヤー十数人による攻略パーティーを組んで、最前線のボス攻略に送り出したんです」

 

俺たち三人は、顔を見合わせた。

 

「……コーバッツか」

 

俺が呟いた。

 

「あのパーティーでボス攻略なんて無謀すぎだよ。 あの時、ボク達が切り込まなかったら軍のパーティーは全滅していたよ」

 

ユウキは、悲しい顔をして言った。

 

「ええ、そうね」

 

ランは、ユウキの言葉に頷いた。

 

「いかにハイレベルと言っても、もともと我々は攻略組の皆さんに比べれば力不足は否めません。……結果、パーティーは敗退、隊長は死亡という最悪の結果になり、キバオウはその無謀さを強く糾弾されたのです。 もう少しで彼を追放できるところまで行ったのですが……」

 

ユリエールは強く唇を噛んだ。

 

「三日前、追い詰められたキバオウは、シンカーを罠に掛けるという強硬策に出ました。……シンカーをダンジョンの最奥に置き去りにしたんです。 シンカーは、キバオウの『丸腰で話し合おう』という言葉を信じてしまい、……転移結晶も持っていかなかったんです……」

 

「転移結晶を持っていかなかった!?」

 

俺は、声を上げて叫んでしまった。

 

「それで、シンカーさんは!?」

 

ユウキはユリエールに問いかけた。

 

「生きているの!?」

 

ランもユリエールに問いかけた。

 

「彼は、まだ生きています。《生命の碑》の彼の名前はまだ無事なので、どうやら安全地帯までは辿り着けたようです」

 

俺たち三人は、胸をなで下ろした。

 

「ただ、場所がかなりハイレベルなダンジョンの奥なので、身動きが取れないようで……。 ご存知のとおりダンジョンにはメッセージを送れませんし、中からはギルドの倉庫(ストレージ)にアクセスできませんから、転移結晶を届けることもできないのです」

 

出口を死地のど真ん中に設定した回廊結晶を使う殺人は《ポータルPK》というメジャーな手法だ。

当然シンカーも知っていたはずだ。

反目していたとは言え、同じギルド仲間、サブリーダーがそこまでするとは思わなかったのだろう。

ユリエールはポツリと『いい人過ぎたんです』と呟き、続ける。

 

「シンカーが罠に落ちるのを防げなかったのは彼の副官である私の責任、私は彼を救出に行かなければなりません。 でも、彼が幽閉されたダンジョンは、とても私のレベルでは突破できませんし、《軍》の助力は当てに出来ません。 そんなところに、恐ろしく強い三人組が街に現れたという話を聞きつけ、いてもたってもいられずにこうしてお願いに来た次第です。 キリトさん、ユウキさん、ランさん」

 

ユリエールは深々と頭を下げ、言った。

 

「お会いしたばかりで厚顔極まると思いでしょうが、どうか、私と一緒にシンカーを救出に行って下さいませんか」

 

悲しいことだが、SAO内では他人の言うことを簡単に信じることは出来ない。

今回のことにしても、俺たち三人を圏外に誘き出し、危害を加えようとする陰謀である可能性は捨てきれない。

俺たち三人が考え込んでいたら、今まで沈黙していたユイが、カップから顔を上げて言ってきた。

 

「だいじょうぶだよ、パパ、ママ、ねぇねぇ。 その人、うそついていないよ」

 

昨日までの言葉のたどたどしさが嘘のような立派な日本語である。

 

「ユ……ユイちゃん、そんなこと、判るの……?」

 

ユウキは、ユイの顔を覗き込んで問いかけた。

 

「うん。……うまく……言えないけど、わかる……」

 

俺はユイの頭に右手を置き、くしゃくしゃと撫でてあげた。

 

「そうだな、疑って後悔するよりは信じて後悔しようか」

 

ユウキとランも、俺の言葉に頷いていた。

 

俺は、ユリエールに言った。

 

「シンカー救出に手を貸します」

 

「ありがとう……。 ありがとうございます……」

 

ユリエールは、瞳に涙を溜めながら、深々と頭を下げた。

 

「ごめんね、ユイちゃん。 これからママとパパとねぇねぇは、お出かけするからお留守番していてね」

 

ユウキがユイの頭を撫でて言った。

 

「いやだ!! パパとママとねぇねぇと一緒に行く!!」

 

ユイが足をバタバタさせて言ってきた。

 

「ユイちゃん、これからお出かけする場所は危ない所なの」

 

ランが優しい声音でユイに言ったが……。

 

「やだやだやだ!! 一緒にいく!!」

 

ユイは、首を左右に振りだした。

 

「おお……。 これが反抗期ってやつか」

 

「「キリト(さん)!!」」

 

俺たち三人は最後には折れてしまい、ユイを連れてダンジョンに向かうことになった。

 

 




結構原作と被ってしまったような……。

マジですいません。

これでも頑張って書いたんすよ…。

ランちゃんの影が薄くなってしまった…。ごめんよ。

サーシャさんは、キリト君たちの正体が素で解らなかったっていうことにしてください。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第45話≪ユイの涙≫

ども!!

舞翼です!!

ちょっと、リアルでごたついてて。

更新遅れました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それでは、どうぞ。


教会の扉から出た後、皆が転移結晶を持ったのを確認してから、俺とユウキとランは戦闘服を身に纏ってから武装した。

武装した俺たち三人は、ユリエールの先導に従って足早に街路を進んでいた。

ユイは、ユウキと手を繋いで歩を進めている。

俺は、前を歩くユリエールに声を掛けた。

 

「あ、そう言えば肝心なこと聞いていなかったな。 問題のダンジョンってのは何層にあるんだ?」

 

「ここです」

 

ユリエールの答えは簡素だった。

 

「「「…………?」」」

 

俺とユウキとランは、首を傾げた。

 

「はじまりの街の……中央部の地下に、大きなダンジョンがあるんです。 シンカーは……多分、その一番奥に……」

 

「マジかよ。 ベータテストの時にはそんなのなかったぞ。不覚だ……」

 

俺は呻くように言った。

 

「そのダンジョンの入り口は、黒鉄宮――つまり軍の本拠地の地下にあるんです。 恐らく、上層攻略の進み具合によって開放されるタイプのダンジョンなんでしょうね。 発見されたのはキバオウが実権を握ってからのことで、彼はそこを自分の派閥で独占しようと計画しました」

 

「なるほどな、未踏破のダンジョンには一度しか出現しないレアアイテムも多いからな。 さぞかし儲かったろう」

 

「それが、そうでも無かったんです」

 

ユリエールの口調が、僅かに痛快といった色合を帯びる。

 

「基部フロアにあるにしては、そのダンジョンの難易度が恐ろしく高くて……。 基本配置のモンスターだけでも、60層相当位のレベルがありました。 キバオウ自身が率いた先遣隊は、モンスターに追い回されて、命からがら転移脱出する羽目になったそうです。 使いまくったクリスタルのせいで大赤字だったとか」

 

「ははは、なるほどな」

 

俺の笑い声に応じたユリエールだが、すぐに沈んだ表情を見せた。

 

「でも、今はそのことがシンカー救出を難しくしています。 キバオウが使った回廊結晶は、モンスターから逃げ回りながら相当奥まで入り込んだ所でマークしたものらしくて……。 シンカーが居るのはそのマーク拠点の先なのです。 レベル的には、一対一なら私でもどうにか倒せなくもないモンスターなんですが、連戦はとても無理です。――失礼ですが、お三方は……」

 

「まぁ、60層位なら……、なんとかなるかな」

 

俺は、ユウキとランを見る。

二人は頷いてくれた。

60層配置のダンジョン攻略に必要なマージンはレベル70だが、俺たち三人のレベルは90を超えている。

これならユイを守りながらでもダンジョンを突破出来るだろうと思って、ほっと肩の力を抜く。

だが、ユリエールは気がかりそうな表情のまま、言葉を続けた。

 

「……それと、もう一つだけ気がかりな事があるんです。 先遣隊に参加していたプレイヤーから聞いたんですが、ダンジョンの奥で……、巨大なモンスター、ボス級の奴を見たと……」

 

俺たち三人は、顔を見合わせる、

 

「60層位のボスなら大丈夫だよね。 てか、どんなボスだっけ」

 

ユウキは、首を傾げて俺とランに聞いてきた。

 

「えーと、確か……、石でできた鎧武者みたいな奴だっけか?」

 

俺は、ランに問いかける。

 

「確か、そうだったはずです」

 

ランは言葉を続ける。

 

「まぁ、大丈夫でしょう」

 

「そうですか、良かった!」

 

ようやく口許を緩めたユリエールは、何か眩しい物でも見るように目を細めながら言葉を続けた。

 

「そうかぁ……。お三方は、ずっとボス戦を経験しているんでしたね……。すいません、貴重な時間を割いていただいて……」

 

「気にするな、今は休暇中だから問題ない」

 

俺は手を振りながら答えた。

そんな話をしている内に、前方の街並みの向こうに黒光りする巨大な建築物が姿を現し始めた。

はじまりの街最大の施設、《黒鉄宮》だ。

正門を入ってすぐの広間にはプレイヤー全員の名簿である《生命の碑》が設置され、そこまでは誰でも入れるが、奥に続く敷地の大部分は軍が占拠してしまっている。

ユリエールは宮殿の正門には向かわず、裏手に回った。

高い城壁と、それを取り巻く深い堀が侵入者を拒むようにどこまでも続いている。

人通りはまったくない。

数分歩き続けた後、ユリエールが立ち止ったのは、道から堀の水面近くまで階段が降りている場所だった。

石壁に暗い通路がぽっかりと口を開けている。

 

「ここから宮殿の下水道に入り、ダンジョンの入り口を目指します。 ちょっと暗くて狭いんですが……」

 

ユリエールはそこで言葉を切り、気がかりそうな視線をちらりとユウキと手を繋いでいるユイに向けた。

するとユイは心外そうに顔をしかめ、

 

「ユイ、こわくないよ!」

 

と主張した。

その様子に、俺たち三人は思わず微笑を洩らしてしまう。

ユリエールには、ユイのことは『一緒に暮らしている』としか説明していない。

彼女もそれ以上のことは聞こうとしなかったが、さすがにダンジョンに伴うのは不安なのだろう。

 

「大丈夫ですよ、この子は見た目よりしっかりしていますから」

 

ランはユリエールを安心させるように言った。

 

「大丈夫だよ、ボクがユイちゃんの手を離さないから」

 

ユウキもユリエールを安心させるように言った。

 

「うむ。 将来はいい剣士になる」

 

俺とユウキとランは、顔を見合わせ笑い合った。

ユリエールは大きく頷いた。

 

「では、行きましょう!」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「ぬおおおおお」

 

俺は右手に装備した《エリュシデータ》でモンスターを切り裂き、

 

「りゃあああああ」

 

左手に装備した《ダークリパルサー》でモンスターを吹き飛ばす。

俺は、久々の戦闘に嬉々していた。

俺は二刀流、全方位攻撃《エンドリボルバー》を連発し、モンスターを蹂躙し続けた。

ユイの手を引くユウキは、ため息をついている。

ユウキの後ろでユイを護衛しているランは笑っている。

金属鞭を握ったユリエールには出る幕が全くない。

 

「パパー、怪物をやっつけてー」

 

「おう!! 任せろ!!」

 

俺はユイの声援により、更に気合が入る。

全身をぬめぬめした皮膚で覆った巨大なカエル型モンスターや、黒光りするハサミを持ったザリガニ型モンスターなどで構成されているモンスター群が出現する度に、俺は左右の剣でちぎっては投げ、ちぎっては投げで蹂躙し続けた。

 

「あれ? 終わった? これからなのに」

 

どうやら、今のモンスター群で狩り終わってしまったらしい。

鞘に剣の刀身を収め、ユウキとランの元に戻ったと同時にユウキに声を掛けられた。

 

「ねぇ、キリト。 ボス戦より気合が入っていなかった?」

 

「えッ……、そんなこと……ないぞ…」

 

俺は、明後日の方向に顔を背ける

うん。 ボス戦より気合が入っていたな。

 

「ユリエールさん。 シンカーさんの位置まで、後どれくらいですか?」

 

ランがユリエールに問いかけた。

ユリエールは、左手を振ってマップを表示させると、シンカーの現在位置を示すフレンドマーカーの光点を示した。

このダンジョンのマップが無いため、光点までの道は空白だが、もう全体の七割を詰めている。

 

「シンカーの位置は、数日間動いていません。 多分安全エリアに居るんだと思います。 そこまで到達出来れば、後は転移結晶で離脱できますから……。すみません、もう少しだけお願いします」

ユリエールに頭を下げられ、俺は慌てて手を振った。

 

「い、いや好きでやっているんだし、アイテムも出るし……」

 

「へぇ、どんなアイテムなの?」

 

ユウキが俺に問うてきた。

ユウキがランの顔を一瞥してからユイの手を離した。

すると、ランがすぐにユイと手を繋いだ。

ユウキは、俺の隣まで歩を進めた。

 

「おう」

 

俺は手早くウインドウを操作し、赤黒い肉塊を出現させた。

グロテスクなその質感に、ユウキの顔を引き攣らせる。

 

「……何それ」

 

「カエルの肉! ゲテモノほど旨いって言うからな、後で料理してくれよ」

 

「……無理!!」

 

ユウキは、共通化しているアイテムウインドウを開いた。

ユウキは、容赦なく《スカベンジトードの肉×24》をゴミ箱にドラッグする。

 

「あっ! あああぁぁぁ……」

 

世にも情けない顔で声を上げる俺を見て、ランとユリエールは顔を見合わせ笑い合った。

途端、

 

「お姉ちゃん、初めて笑った!」

 

ユイは嬉しそうに叫び、ユリエールの顔を見やった。

彼女は満面の笑みを浮かべている。

ユウキは、ユイと再び手を繋ぎ直した。

ユイは、ユウキとランの二人と手を繋いでいる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

俺は言葉を発してから、俺たちは最奥に向かって歩を進めた。

ダンジョンに入ってから暫くは水中生物型が主だったモンスター群は、階段を降りる程にゾンビやゴーストといったオバケ系統に変化した。

俺は携える二本の剣は、現れる敵を瞬時に屠り続けた。

二時間でマップに表示される現在位置と、シンカーが居るとおぼしき安全エリアに着実な速度で近づき続けた。

遂に暖かな光が洩れる通路が目に入った。

 

「あっ、安全地帯だ!!」

 

ユウキが叫んだ。

 

「プレイヤーが居るわ」

 

ランが俺たちに聞こえるように言った。

俺は、索敵スキルを使用した。

 

「奥にプレイヤーが一人居る。グリーンだ」

 

「シンカー」

 

もう我慢が出来ないという風に一声叫んだユリエールが、金属鎧を鳴らして走り始めた。

剣を両手に掲げた俺と、ユイを抱いているユウキ、片手剣を右手に掲げているランも慌ててその後を追う。

右に湾曲した通路の明かり目指して数秒間走ると、やがて前方に大きな十字路とその先にある小部屋が目に入った。

部屋は眩い程の光に満ち、その入り口に一人の男が立っている。

逆光のせいで顔はよく見えないが、おそらくシンカーだろう。

男は、こちらに向かって激しく両腕を振り回している。

 

「ユリエ――――ル!!」

 

こちらの姿を確認した途端、男が大声でユリエールの名を呼んだ。

ユリエールは左手を振り、走る速度を速める。

 

「シンカ―――!!」

 

涙混じりのその声に被さるように、男が叫んだ。

 

「来ちゃだめだ――っ!! その通路には……っ!!」

 

俺とユウキとランは、それを聞いて走る速度を緩めた。

だが、ユリエールにはもう聞こえていない。

部屋に向かって一直線に駆け寄って行く。

 

その時。

 

部屋の数メートル手前で、通路と直角に交わっている道の右側死角部分に、不意に黄色いカーソルが出現した。

表示された名前は《The Fatal-scythe》―。

《運命の鎌》という意味であろう固有名とそれ飾る定冠詞。 ボスモンスターの証だ。

 

「――ユリエールさん、戻って!!」

 

ユウキは叫んだ。黄色いカーソルはゆっくりと左に動き、十字路に近づいて来る。

このままでは、出会い頭にユリエールと衝突する。

 

「くそッ」

 

俺は敏捷力を最大に活かしてユリエールの背後まで移動し、背後から右手でユリエールの体を抱きかかえた。

俺は、左手に握っていた《ダークリバルサー》の刀身を思い切り床に突き立てた。

すさまじい金属音と共に急制動をかけた。

十字路のぎりぎり手前で停止した。

俺とユリエールの直前を大きな鎌を携えた黒い影が横切った。

黒い影は左の通路に飛び込むと一度停止し、体の向きをゆっくりと変え再び突進して来る。

俺はユリエールから右手を離してから床に突き立てた《ダークリパルサー》を抜き、左の通路に飛び込んだ。

ランも俺の後に続く。

ユウキは呆然と倒れるユリエールの体を起こし、ユイを腕から降ろしてユリエールに預けてから叫んだ。

 

「この子と一緒に安全地帯に退避してください!!」

 

ユウキはユイが安全地帯に向かうのを確認してから、腰の鞘から《黒紫剣》を抜剣し、左の通路に飛び込んだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たち三人は、ボスモンスターと対峙していた。

ボスは、身長三メートルはあろうかという、ぼろぼろの黒いローブを身に纏った人型だ。

フードの奥と、袖口から覗く腕には、漆黒の闇が纏わりつき蠢いている。

暗く沈む顔の奥には生々しい血管の浮いた眼球が嵌まり、俺たち三人を見下ろしている。

右手に握るのは長大な黒い大鎌。

凶悪に湾曲した刃からは、赤い雫が垂れ落ちている。

いわゆる死神の姿そのものだ。

俺は、ユウキとランに言葉を掛けた。

 

「……二人とも今すぐ安全エリアの三人を連れて、クリスタルで脱出しろ」

 

「「え……?」」

 

「こいつ、やばい。 俺の識別スキルでもデータが見えない。 強さ的には多分90層クラスだ……」

 

三人の中で、俺が一番レベルが高い。

その俺が識別出来ないのだ……。

こいつはやばすぎる。

俺が考えている間に死神は徐々に空中を移動し、こちらに近づいて来る。

 

「俺が時間を稼ぐ、早く逃げろ!!」

 

「キリトも一緒にッ」

 

ユウキが俺に言ってくれるが、この死神は簡単に逃がしてくれそうに無い。

最終的離脱手段である転移結晶も、万能のアイテムでは無い。

クリスタルを握り、転移先を指定してから実際にテレポートの時間が完了するまで、数秒間のタイムラグが発生する。

その間にモンスターの攻撃を受けると転移がキャンセルしてしまうのだ。

なので、時間を稼ぐ殿が必要になる。

 

「……ユリエールさん、ユイちゃんを頼みます!!」

 

ランはユリエールに向かって叫んだ。

 

「ラン、逃げろ!!」

 

俺は叫んだ。

だがランは、俺に笑顔を向けて死神と対峙した。

俺の隣で、ユウキが声を掛けてきた。

 

「死ぬ時は、一緒だからね」

 

ユウキも死神と対峙した。

ユウキも戦う気か…。

 

「……お前ら、死ぬなよ」

 

俺たち三人は死神と対峙した。

 

その時だった。

 

大鎌を振りかぶった死神が、突進を開始した。

俺は、二刀を十字に交差させた。

ユウキとランも、俺の二刀と剣を合わせた。

死神が大鎌を俺たちの頭上めがけて振り下ろしてきた。

凄まじい衝撃音。

俺たち三人は、バラバラに吹き飛ばされた。

朦朧とした意識のまま、俺はHPを確認する。

俺たち三人のHPバーはレッドゾーンに割り込んでいた。

このままでは、次の一撃には耐えられない。

俺の体は、先程の衝撃により動かない。

このままでは、やばい。

 

――と、その時

 

小さな足音が耳元から聞こえてきた。

視線を向けると、細い手足。 長い黒髪。 背後の安全地帯に居たはずのユイの姿だ。

 

「ばかっ!! はやく逃げろ!!」

 

「ユイちゃん、行っちゃダメ!!」

 

「ユイちゃん、戻って!!」

 

俺たち三人は、必死に上体を起こそうしながら叫んだ。

死神は再び重々しいモーションで大鎌を振りかぶる。

この攻撃を受けてしまえば、ユイのHPは確実に消し飛んでしまう。

しかし次の瞬間、信じられない事が起こった。

 

「だいじょうぶだよ、パパ、ママ、ねぇねぇ」

 

言葉と同時に、ユイの体がふらりと宙に浮いた。

見えない羽根を羽ばたかせた様に移動し、死神の目の前で止まった。

あまりにも小さな右手を、そっと宙に掲げる。

死神の大鎌が容赦なくユイに向けて振り下ろされた。

その寸前、紫色の障壁に阻まれ、大音響と共に弾き返された。

ユイの掌の前には、システムタグが浮かび上がり表示された。

【Immortal Object】、不死存在――プレイヤーが持つはずの無い属性。

直後、ユイの右手を中心に紅蓮の炎が巻き起こった。

紅蓮の炎が凝縮し、巨大へ姿を変えていく。

巨剣は、ユイの身長を上回る長さを備えていた。

ユイは僅かな躊躇いも見せず、炎の刀身を死神に向けて振り降ろした。

死神は大鎌を前方に掲げ、防御の姿勢を取った。

死神が携える大鎌と、ユイが振り降ろした炎の巨剣が衝突した。

炎の刃は、死神の持つ大鎌にじわじわと食い込んでいく。

 

やがて――。

 

死神の大鎌が真っ二つ断ち割れた。

炎の刀身は、死神の顔の中心に叩きつけられた。

死神は断末魔を響かせながら消滅した。

俺たち三人は、ようやく力が戻った体を動かした。

剣の刀身を支えにして立ち上がる

ゆっくりとユイに向かって歩み寄った。

 

「ユイ……」

 

俺は、ユイに呼びかけた。

ユイは、音もなく振り向いた。

小さな唇は微笑んでいたが、大きな漆黒の瞳にはいっぱいの涙が溜まっていた。

ユイは、俺とユウキとランを見上げたまま、静かに言った。

 

「パパ……ママ……ねぇねぇ……。ぜんぶ、思い出したよ……」




いやー。

今回の話は書くの楽しかったな~。

今思うと結構書いてるのね。

誤字脱字が多いけれどさ(汗)

もうちょいで設定改変するよ~。たぶん…。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!

あ、あと、予想とか書かんといてね。



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第46話≪ユイの心≫

ども!!

舞翼です!!

いや~、 ユイちゃん回は書くの楽しいですな。

設定の改変したよたぶん…。 自分では出来ているかわからんが…。

ALOどうしよう…。 最初しか考えてないのよね…。

まぁ、それは置いといて。

頑張って書きました。 誤字脱字があったらごめんよ。

それでは、どうぞ。


黒鉄宮地下迷宮最深部の安全エリアは、完全な正方形だ。

入り口は一つだけで、中央には磨かれた黒い立方体の石机が設置されている。

ユイは、石机に腰を掛けている。

ユリエールとシンカーには一先ず先に脱出してもらったので、今は四人だけだ。

記憶が戻った、ひとこと言ってから、ユイは数分間沈黙を続けていた。

その表情は何故か悲しそうだ。

俺は意を決して訊ねた

 

「ユイ……。記憶が戻ったのか……?」

 

ユイはしばらく俯き沈黙していたが、こくりと頷いた。

泣き笑いのような表情のまま、小さく口を開く。

 

「はい……。全部、説明します―――キリトさん、ユウキさん、ランさん」

 

ユイの丁寧な言葉を聞いた途端、何かが終わってしまったのだという、切ない確信があった。

四角い部屋の中に、ユイの言葉がゆっくりと流れ始めた。

 

「《ソードアート・オンライン》と言う名のこの世界は、一つの巨大なシステムによって制御されているのです。 システムの名前は《カーディナル》、それがこの世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しているのです。 カーディナルは元々、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。 二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する……。 モンスターやNPC、AI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプラグラム群に操作されています。――しかし、一つだけ人間の手に委ねばければならない物がありました。 プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間でないと解決できない……。 その為に、数十人規模のスタッフが用意されるはずでした」

 

「GM……」

 

俺がポツリと呟いた。

 

「ユイ、つまり君はゲームマスターなのか……? アーガスのスタッフ……?」

 

ユイは暫し沈黙した後、ゆっくりと首を振った。

 

「……カーディナルの開発者たちは、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。 ナーブギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーの元を訪れて話を聞く……。《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、コードネーム《Yui》。それがわたしです」

 

俺たち三人は、驚愕のあまり息を呑んだ。言われたことを即座に理解できない。

 

「じゃあ、ユイちゃんはAIなの……」

 

ユウキは、ユイに問いかけた。

ユイは、悲しそうな笑顔のままこくりと頷いた。

 

「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。――偽物なんです。全部……この涙も……。ごめんなさい、キリトさん、ユウキさん、ランさん」

 

ユイは両目からぽろぽろと涙が零れ、涙は光の粒子となり蒸発した。

ユイは言葉を続ける。

 

「……二年前。 正式サービスが始まった日、カーディナルが予定に無い命令をわたしに下したのです。 プレイヤーに対する一切の干渉禁止……。 それでも、わたしはプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けました。――状態は、最悪と言っていいものでした……。 殆んど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時として狂気に陥る人すらいました。 わたしは徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していきました……。 ある日、いつものようにモニターをしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメターを持つ三人のプレイヤーに気付きました。 喜び、安らぎ……。 でもそれだけじゃない……。 そう思ってわたしはその三人のモニターを続けました。 会話や行動に触れるたび、わたしの中に不思議な欲求が生まれました。 あの三人の傍に行きたい……。 わたしと話をして欲しい…。 わたしは毎日、三人の暮らすプレイヤーホームから一番近いシステムコンソールで実体化し、彷徨いました。 その頃にはもうわたしはかなり壊れてしまっていたのだと思います……」

 

「それが、あの22層の森なの…?」

 

ユウキの言葉に、ユイはゆっくり頷いた。

 

「はい。 キリトさん、ユウキさん、ランさん……。 わたし、とっても会いたかった……。 おかしいですよね、わたし、ただの、プログラムなのに……」

 

涙をいっぱいに溢れさせ、ユイは口をつぐんだ。

ユウキがゆっくり口を開いた。

それは、とても優しい声音であった。

 

「ユイちゃん。 ユイちゃんは、プログラムなんかじゃないよ。 ボク達の大切な娘だよ」

 

ランも口を開いた。

 

「そうよ、私はユイちゃんのお姉さんよ」

 

俺はユイの前まで行き、頭を撫でてあげた。

 

「ユイは俺たちの娘だよ。 ユイもうシステムに操られるだけのプログラムじゃない。 だから、自分の望みを言葉にできるはずだよ。 ユイの望みはなんだい?」

 

「わたしは……、わたしは……」

 

ユイは、細い腕をいっぱいに広げて伸ばしてきた。

 

「ずっと、一緒にいたいです。……パパ……ママ……ねぇねぇ……」

 

ユウキは溢れる涙を拭いもせず、ユイに駆け寄るとその小さな体をぎゅっと抱きしめた。

 

「ずっと、ずっと、一緒だよ。 ユイちゃん」

 

「そうよ、ユイちゃん。 一緒に帰りましょう」

 

ランはユイの前まで行き、ユイの頭に手を置いた。

 

「ああ……。 ユイは俺たちの子供だ」

 

だが――ユイは、ユウキの胸の中で、そっと首を振った。

 

「もう……遅いんです……」

 

「なんでだよ……。 もう遅いって……」

 

俺は、途惑った声でユイに問いかける。

 

「わたしが記憶を取り戻したのは……あの石に接触したせいなんです」

 

ユイは部屋の中心に視線を向け、黒い立方体の石机を小さな手で指差した。

 

「あれは、ただのオブジェクトじゃないんです……。 GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです。 さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近づけないようにカーディナルの手によって配置されたものだと思います。 わたしはこのコンソールにアクセスし、《オブジェクトトレイサー》を呼び出してボスモンスターを消去しました。 その時にカーディナルのエラー訂正能力によって、破損した言語機能を復元できたのですが……。 それは同時に、今まで放置されていたわたしにカーディナルが注目してしまったということでもあります。 今、コアシステムがわたしのプログラムを走査しています。 すぐに異物という結論が出され、わたしは消去されてしまうでしょう。 もう……あまり時間がありません……」

 

「……嫌だよ……お別れなんて……」

 

「……このまま……お別れなの……」

 

「なんとかならないのかよ! この場所から離れれば……」

 

三人の言葉にも、ユイは黙って微笑するだけだった。

ユイの白い頬を涙が伝った。

 

「パパ、ママ、ねぇねぇ、ありがとう。これでお別れです」

 

「やだよッ! お別れなんて! ボクはユイちゃんとたくさん遊んで、たくさんの思い出を作りたいよ!」

 

「そうよッ! お別れしたくないわよ!」

 

ユウキとランは必死に叫んだ。

 

「暗闇の中……。 いつ果てるとも知れない長い苦しみの中で、パパとママとねぇねぇの存在だけがわたしを繋ぎとめてくれた……。 パパとママとねぇねぇの温かい心で、みんなが笑顔になれた……。 わたし、それがとっても嬉しかった。 お願いです、これからも……わたしのかわりに……みんなを助けて……喜びを分けてあげてください……」

 

「やだよ!! やだよ!! ユイちゃん、いかないで、いかないでよ、お願いだから!!」

 

ユイは、俺たちに微笑みかけた。

 

「ママ、笑って。 泣かないで」

 

溢れる光に包まれながら、ユイはにこりと笑った。

ひときわ眩く光が飛び散り、それが消えた時にはもう、ユウキの腕の中にはからっぽだった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

抑えようもなく声を上げながら、ユウキは膝を突いた。

ユウキの隣に立っていたランも、膝を突いた。

 

「カーディナル!! そう簡単に……、思い通りになると思うなよ!!」

 

俺は部屋の天井を見据え絶叫した。

俺は中央の黒いコンソールに飛びついた、表示されたままのホロキーボードを素早く叩く。

 

「「キリト(さん)……何を……?!」」

 

「今なら……、今ならまだ、GMアカウントでシステムに割り込めるかも……」

 

ここから先は《黒の剣士》キリトの出番は無い。

ここからは現実世界でコンピューターに長けていた桐ケ谷和人の出番だ。

俺は高速で必要なコマンドを立て続けに入力した。

不意に黒い岩でできたコンソール全体が青白くフラッシュし、破裂音と共に後方に弾き飛ばされた。

 

「ぐわぁ!」

 

「「大丈夫(ですか)?!」」

 

二人が歩み寄って来た。

俺は笑みを浮かべると、右手に握っている大きな涙の形をしたクリスタルを見せた。

 

「それは……?」

 

ユウキが俺に聞いてきた。

 

「……ユイが起動した管理者権限が切れる前に、ユイのプログラム本体をどうにかシステムから切り離して、オブジェクト化したんだ……。 このクリスタルはユイの心だよ」

 

「ユウキ。 ユイちゃんの心は私よりあなたが持っていた方がいいわ」

 

「……うん」

 

俺は涙の形をしたクリスタルを、ユウキの手の中にゆっくりと落とした。

ユウキは、クリスタルを抱きしめて言った。

 

「ユイちゃん……。 そこにいるんだね……」

 

再び、ユウキの両目からは、とめどなく涙が溢れ出した。

 

――パパ、ママ、ねぇねぇ、がんばって……。 俺たち耳の奥に、微かにそんな声が聞こえてた気がした。

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

第1層 転移門前

 

「じゃあ、俺たちはこれで帰ります」

 

俺たち三人を見送りに来てくれたのは、シンカー、ユリエール、サーシャと子供たちだ。

 

「本当にありがとうございました!!」

 

ユリエールが俺たち三人に、深々と頭を下げた。

ユリエールにユイちゃんはどうしたの? と聞かれたがユウキがお家に帰りましたと答えた。

ユウキの首には、細いネックレスがかけてある。

光っている華奢な銀鎖の先端には、同じく銀のペンダントが下がり、その中央に大きな透明の石が輝いている。

 

「助けてくれて、本当にありがとう」

 

シンカーもユリエールと同じく、深々と頭を下げた。

シンカーは、キバオウと彼の配下は除名したそうだ。

軍も解散させるらしい。

 

「キリトさん、ユウキさん、ランさん。 時々は、遊びに来てくださいね」

 

サーシャも深々と頭を下げた。

 

「そう言えば、キリト」

 

ユウキが問いかけてきた。

 

「ん? どうしたんだ」

 

「この世界がなくなったら、ユイちゃんはどうなるの?」

 

「ああ……。 容量的にはぎりぎりだけどな。 俺のナーブギアのローカルメモリに保存されるようになっているよ。 向こうで、ユイとして展開させるのはちょっと大変だろうけど……、きっとなんとかなるさ」

 

「そっか」

 

「キリトさん、後で話したいことがあります」

 

ランが俺に問いかけてきた。

何で、ランとユウキは顔を見合わせて頷いているんだ?

 

「わかった」

 

何の話だ?

まぁ、今日のメシの話だろう。

 

「じゃあ、またな」

 

俺たち三人は、第22層にあるログハウスに戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

第22層 湖畔のログハウス

 

俺は、ユウキとランに向かえ合わせになるように椅子に腰を掛けている。

長い沈黙が続く。

俺はゆっくり口を開いた。

 

「……話ってなんだ?」

 

俺は二人に問いかけた。

二人は頷き合い言葉を発した。

 

「ねぇ、キリト。やっぱり決めてもらうことにしたよ」

 

とユウキが言い、

 

「私かユウキ、これから一緒に歩むパートナを決めてください」

 

とランが言った。

 

「えッ?」

 

「ボクと姉ちゃんで話あったんだ。このままじゃいけないって」

 

「だから、決めてもらえませんか?」

 

二人は真剣な目で俺を見た。

 

「……わかった」

 

そうだよな、このままじゃダメだよな。

俺の気持ちを正直に言おう。

俺は言葉を続ける。

 

「……俺はランのことは嫌いじゃない……。 だけど、共に一生を歩んでいきたいのは…ユウキだ……」

 

俺はランを見る。

 

「……やっぱりユウキには敵いませんね、頑張ったんですけどね。 でも、何かあったら何時でも相談してくださいね。 キリトさん、ユウキを一生守ってくださいね」

 

ランは言葉を続ける。

 

「これからもユウキを、妹をお願いします」

 

「ああ、一生守り、一生幸せにするよ。 絶対に不幸にさせない」

 

「ボクもキリトと幸せになるよ。 だから安心してね、姉ちゃん」

 

「ええ、わかったわ」

 

そんな時だった。ヒースクリフから簡素なメッセージが届いたのは、内容は『前線に復帰してもらえないだろうか? もうすでに被害が出ている』と。

 




ランちゃん、ごめんなさい(>_<)!!

キリト君はユウキちゃん一筋にしたかったんです(>_<)!!

でも、美少女を振ったキリト君…。

ランちゃんは強い子。

今回はユウキちゃんメインでしたね、ユウキちゃんは、ママだしね。

キリト君はヒースクリフとフレンドだった。

SAOもあと少しやね。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第47話≪骸骨の狩り手≫

ども!!

舞翼です!!

SAOも終盤まできたぜ。

長かったな~。

今回も書くの楽しかったな~。

う~ん、ALOのことを考えないとな。最初しか考えていないしね。

頑張って考えないと。

今回も頑張って書きました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それでは、どうぞ。




第22層 湖畔のログハウス

 

ヒースクリフからのメッセージが飛んできてから3時間が経過した。

ランはすでに、第55層にある血盟騎士団ギルド本部に向かっている。

 

「う~、やっぱり行きたくない」

 

俺は黒い戦闘服に身を包み、リビングに設置されているソファーに仰向けに寝転がっている。

 

「はぁ~、姉ちゃんが向かったんだからボク達も行かないと」

 

「……わかったよ」

 

俺はしぶしぶ腰を上げる。

アイテムウインドウを開き、愛剣を背中に交差して吊り、俺は剣の刀身を少しだけ抜き、勢い良く鞘に収めた。

高く澄んだ金属音が部屋中に響いた。

 

「じゃあ、行こっか?」

 

「……おう」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

第55層 血盟騎士団ギルド本部

 

「偵察隊が、全滅したのか――!?」

 

ギルド本部の塔の最上階、幹部会議で使われている硝子張りの会議室があり、半円形の大きな机の中央にはヒースクリフのローブ姿がある。

左右にはギルドの幹部連が着席している。

ヒースクリフは両手を組み合わせ、俺とユウキを見て言った。

 

「昨日のことだ。 75層迷宮区のマッピング自体は、時間が掛かったが何とか犠牲者を出さず終了した。 だがボス戦はかなりの苦戦が予想された……」

 

俺も考えていた。

クォーター・ポイントの75層ボス戦は、かなりの苦戦が強いられると……。

 

「……そこで、我々は五ギルド合同パーティー二十人を偵察隊として送り込んだ。 偵察は慎重を期して行われた。 十人が後衛としてボス部屋入口で待機し……、最初の十人が部屋の中央に到着して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉じてしまったのだ。 ここから先は後衛の十人の報告になる。 扉は五分以上開かなかった。 鍵開けスキルや直接の打撃等、何をしても無駄だったらしい。 ようやく扉が開いたとき――」

 

ヒースクリフの口許が固く引き結び、一瞬目を閉じ、言葉を続ける。

 

「部屋の中には、何も無かったそうだ。 十人の姿も、ボスも消えていた。 転移脱出した形跡も無かった。 彼らは帰ってこなかった……。 念の為、はじまりの街最大の施設《黒鉄宮》まで、血盟騎士団メンバーの一人に彼らの名簿を確認しに行かせたが……」

 

その先は言葉に出さず、首を左右に振った。

 

「……十……人も……」

 

ユウキは絞り出すように呟いた。

 

「結晶無効化空間か……?」

 

俺の問いにヒースクリフは小さく首肯した。

 

「そうとしか考えられない。 アスナ君の報告では74層もそうだったということだから、おそらく今後全てのボス部屋が結晶無効化空間と思っていいだろう」

 

緊急脱出不可能となれば、思わぬアクシデントで死亡する者が出る可能性が飛躍的に高まる。

死者を出さない、それはこのゲームを攻略する上での大前提だ。

だが、ボスを倒さなければクリアも有り得ない……。

 

「いよいよ本格的なデスゲームになってきたか……」

 

「だからと言って攻略を諦めることはできない」

 

ヒースクリフは目を閉じると、囁くような、だがきっぱりとした声で言った。

 

「結晶による脱出が不可能な上に、今回はボス出現と同時に背後の退路も断たれてしまう構造らしい。 ならば統制の取れる範囲で可能な限り大部隊をもって当たるしかない。 休暇中の君たちを召喚するのは本意ではなかったが、了解してくれ給え」

 

俺は肩をすくめて答えた。

 

「協力はさせて貰いますよ。 だが、俺にとってはユウキの安全が最優先です。 もし危険な状況になったら、パーティー全体よりも彼女を守ります」

 

ヒースクリフは微かな笑み浮かべた。

 

「何かを守ろうとする人間は強いものだ。 君の勇戦を期待するよ。 攻略開始は三時間後。 予定人数は君たちと《剣舞姫》のラン君を入れて三十二人。 75層コリニア転移門前に午後一時集合だ。 では解散」

 

それだけ言うと、ヒースクリフとその配下の男たちは一斉に立ち上がり、部屋を出て行った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「三時間かー。 何しよっか?」

 

鋼鉄(こうてつ)の長机に腰掛けて、ユウキが聞いてきた。

俺は無言でその姿をじっと見つめていた。

 

「なぁ、ユウキ……」

 

「んー、どうしたの?」

 

「……怒らないで聞いてくれ。 今日のb「待って」」

 

ユウキは、俺の言葉を遮ってきた。

ユウキは立ち上がると、ゆっくりと俺の前まで歩み寄って来た。

 

「キリトはボクに今日のボス戦に参加するなって、そう言いたいんでしょう?」

 

「ああ、そうだ。 クリスタルが使えない場所では何が起こるか判らない。 だから……」

 

「ねぇ、キリト。 覚えている? ボクが死神と対峙した時に君に言った言葉を」

 

「……死ぬ時は一緒だって」

 

ユウキは、俺に向かって微笑みかける。

 

「そうだよ。 この戦いキリトは消滅しない、だからボクも消滅しない」

 

ユウキは、言葉を続ける。

 

「それに、約束があるでしょ。 現実世界で結婚をするって約束が」

 

「……そうだな」

 

ユウキは、俺の体を優しく抱きしめてくれた。

ユウキの温かさが俺を包んでくれる。

 

「……それに、ボク達には時間が残されていないのかもしれないよ」

 

「……俺たちの体の衰弱か……」

 

「……うん」

 

現実世界での俺たちの体は、病院のベットの上で色々なコードに繋がれて、どうにか生かされている状況なのかもしれない…。

そんなのは、何年も無事に続くとは思えない。

 

「……つまり……、ゲームをクリア出来るにせよ出来ないにせよ、それとは関係なくタイムリミットは存在する、ってことだよな……」

 

「うん……、そうだと思う……。 それにボクは《向こうで》キリトに会いたいよ」

 

「ああ、俺もお前に会いたいよ。 だから……、今は戦わないといけないんだな……」

 

「きっとボク達なら大丈夫だよ」

 

「ああ」

 

大丈夫――きっと大丈夫だ。 二人ならきっと――。

胸の中に忍び込んでくる悪寒を振り払うように、俺はユウキを抱く腕に力を込めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

75層の主街区コリニアの転移門前には、一見してハイレベルと判るプレイヤーたちが集結していた。

俺とユウキが転移門から出て歩み寄って行くと、皆ぴたりと口を閉ざし緊張した表情で目礼を送ってきた。

中にはギルド式の敬礼をしている連中までいる。

それもそのはずだ。

俺とユウキはユニークスキルホルダーだから。

ここに俺とユウキ、ヒースクリフ、三人のユニークスキルホルダーが揃ったことになる。

 

「ほら、キリトもちゃんと挨拶しないと」

 

ユウキは、ぺこりと頭を下げていた。

 

「んな……」

 

俺は、ぎこちない仕草で敬礼する。

今までのボス攻略戦で集団に属したことは何度もあったが、このように注目を集めるのは初めてだ。

ランが俺たちの元にやって来た。

 

「遅かったですね」

 

「色々あってな」

 

「うん。 色々あった」

 

「そうですか」

 

俺たちは顔を見合わせ笑い合った。

 

「よう!」

 

肩を叩かれて振り返ると、刀使いのクラインの姿があった。

その横には、両手斧で武装したエギルの姿もある。

 

「なんだ……、お前らも参加するのか」

 

「なんだってことはないだろう! 今回はえらい苦戦しそうだって言うから、商売を投げ出して加勢に来たんじゃねぇか。 この無理無欲の精神を理解できないたぁ……」

 

野太い声を出して主張しているエギルの腕を、俺はポンと叩き、

 

「無欲の精神はよーく解った。 じゃあお前は戦利品の分配から除外していいのな」

 

そう言ってやると、途端に頭に手をやり眉を八の字に寄せた。

 

「いや、そ、それはだなぁ……」

 

情けなく口籠るその語尾に、俺、ユウキ、ラン、クラインの笑い声が重なった。

笑いは集まったプレイヤーたちにも伝染し、皆の緊張が徐々に解れていくようだった。

午後一時になり、転移門から新たな人影が出現した。

血盟騎士団の精鋭部隊だ。

真紅の長衣に十字盾を携えたヒースクリフと、血盟騎士団副団長《閃光》のアスナの姿もある。

彼らを目にすると、プレイヤーたちの間に再び緊張が走った。

ヒースクリフは、プレイヤーの集団を二つに割りながら、真っ直ぐに俺とユウキの元に歩いて来た。

立ち止まったヒースクリフは俺とユウキに軽く頷きかけると、集団に向き直って言葉を発した。

 

「欠員はないようだな。 よく集まってくれた。 状況はすでに知っていると思う。 厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――解放の日のために!」

 

ヒースクリフの力強い叫びに、プレイヤーたちは一斉に声を上げ答えた。

ヒースクリフはこちらに振り向くと、微かな笑みを浮かべ言った。

 

「キリト君、ユウキ君、今日は頼りにしているよ。《二刀流》、《黒燐剣》、存分に揮ってくれたまえ」

 

俺とユウキが無言で頷くと、ヒースクリフは再び集団を振り返り、軽く片手を上げた。

 

「では、出発しよう。 目標のボスモンスタールーム直前の場所までコリドーを開く」

 

クリスタルは砕け散り、ヒースクリフの前に青く揺らめく光の渦が出現した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

75層迷宮区は、僅かに透明感のある黒曜石のような素材で組み上げられていた。

鏡のように磨き上げられた黒い石が直線的に敷き詰められている。

空気は冷たく湿り、薄い(もや)がゆっくりと床の上を棚引いている。

俺の隣に立ったユウキが、寒気を感じたように両腕を体に回し、言った。

 

「……なんか……嫌な感じだね……」

 

「ああ……」

 

俺も肯定する。

周囲では、三十人のプレイヤーたちが固まってメニューウインドウを開き、装備やアイテムを確認している。

俺はユウキを伴って一本の柱の陰に寄ると、ユウキの小さな手を握る。

戦闘を前に、押さえつけていた不安が噴き出してくる。

体が震える。

 

「……だいじょうぶだよ」

 

ユウキが耳元で囁いた。

 

「……ああ」

 

「約束しよう。 絶対生き残るって」

 

「ああ……、約束だ」

 

俺は握っている手に少し力を込め、握っている手を離した。

ヒースクリフが鎧を鳴らし、言った。

 

「皆、準備はいいかな。 今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報が無い。 基本的にはKoBが前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限りパターンを身切り、柔軟に反撃をして欲しい」

 

攻略組の全員は無言で頷く。

 

「では――行こうか」

 

ヒースクリフは黒曜石の大扉に歩み寄り、中央に手を掛けた。

全員に緊張が走る。

俺とユウキは、並んで立っているエギルとクラインとランに声を掛けた。

 

「死ぬなよ」

 

「死んだらダメだからね」

 

「へっ、お前らこそ」

 

「今日の戦利品で一儲けするまではくたばる気はないぜ」

 

「絶対に死にませんよ」

 

エギルとクラインとランが言い返した直後、大扉がゆっくり動き出した。

プレイヤーたちは一斉に抜剣する。

俺も背から《エリュシデータ》、《ダークリパルサー》を引き抜いた。

隣に立っているユウキも腰に装備している鞘から《黒紫剣》を放剣した。

十字盾の裏側から長剣を音高く引き抜いたヒースクリフが、右手を高く掲げ叫んだ。

 

「――戦闘、開始!」

 

完全に開ききった扉の中へ走り出す。

全員が続く。

内部は、かなり広いドーム状の部屋だった。

全員が部屋に走り込み、自然な陣形を作って立ち止まった直後――背後で轟音を立てて大扉が閉まった。

最早開けることは不可能だ。

ボスが死ぬか、俺たちが全滅するまで…。

広い周囲に注意を払うが、ボスは出現しない。

 

「おい――」

 

誰かが、長い沈黙に耐え切れず声を上げた、その時。

 

「上!!」

 

隣で、ユウキが叫んだ。

全員頭上を見上げる。

ドームの天頂部に――それは貼りついていた。

灰白色の円筒形をした体節一つ一つからは、骨剝き出しの鋭い脚が伸びている。

その体を追って視線を動かしていくと、徐々に太くなる先端に、凶悪な形をした頭蓋骨があった。

流線型に歪んだその骨には二対四つの鋭く吊りあがった眼窩(がんか)がある。

大きく前方に突き出した顎の骨には鋭い牙が並び、頭骨の両脇からは鎌状に尖った巨大な骨の腕が突き出している。

《The Skullreaper》――骸骨の狩り手。

こいつは、不意に全ての足を大きく広げ――俺たちの真上に落下してきた。

 

「固まるな! 距離を取れ!!」

 

ヒースクリフが鋭い叫び声を上げた。

全員が動き出す。

俺たちも落下予測地点から慌てて跳び退く。

 

だが、落ちてくるスカルリーパーのちょうど真下にいた三人の動きが、僅かに遅れた。

 

「こっちだ!!」

 

俺は慌てて叫んだ。

呪縛の解けた三人が走り出す――。

だが。その背後に、スカルリーパーが地響きを立てて落下してきた、床全体が大きく震えた。

足を取られた三人がたたらを踏む。

三人に向かって巨大な大鎌が横薙ぎに振り下ろされた。

三人が背後から同時に切り飛ばされた。

宙を吹き飛ぶ間にも、HPバーが猛烈な勢いで減少していく――黄色の注意域から、赤の危険域と――。そして、あっけなくゼロになった。

まだ空中にあった三人の体が、立て続けに無数の結晶を撒き散らしながら破砕(はさい)した。

消滅音が重なって響く。

 

「……一撃で……死亡……だと」

 

俺は絞り出すように呟いた。

SAOでは数値的なレベルさえ高ければそれだけで死ににくくなる。

特に今日のパーティーは高レベルプレイヤーだけが集まっている。

攻撃は数発の連撃技なら持ちこたえられる――はずだったのだ。それが、たった一撃で――。

 

「こんなの……無茶苦茶だわ……」

 

俺とユウキの後方にいるアスナが掠れた声で呟く。

一瞬にして三人の命を奪った骸骨の狩り手は、上体を高く持ち上げて雄叫びを上げると、猛烈な勢いで新たなプレイヤーの一団目掛けて突進した。

 

「わぁぁぁ――!!」

 

その方向にいたプレイヤーたちが恐怖で悲鳴を上げる。

再び大鎌が高く振り上げられる。

その真下に飛び込んだ人影があった。ヒースクリフだ。

巨大な盾を掲げ、大鎌を迎撃する。

すさまじい衝撃音。 火花が飛び散る。

だが、鎌は二本あった。

左側の腕でヒースクリフを攻撃しつつも、右の鎌を振り上げ、凍りついたプレイヤーの一団に突き立てようとする。

 

「くそっ……!!」

 

俺は飛び出していた。

瞬時に距離を詰め、大鎌の落下地点に移動し、左右の剣を交差させ大鎌を受ける。

すさまじい衝撃。だが――大鎌は止まらない。

火花を散らしながら大鎌が迫ってくる。

 

重すぎる――。

 

その時、新たな剣が下から大鎌に命中した。

勢いが緩んだその隙に、俺は全身の力を振り絞って大鎌を押し返す。

俺の真横には、ユウキが立っていた。

ユウキは、俺を見て言った。

 

「二人同時に受ければ――いけるよ! ボクとキリトならできるよ!」

 

「ああ、頼む!」

 

俺は頷いた。

再び、今度は横薙ぎに繰り出されてきた大鎌に向かって、俺とユウキは同時に右斜め斬り降ろしを放った。

完璧にシンクロした二人の剣が大鎌に命中する。

今度は、敵の大鎌を弾き返した。

俺は、声を振り絞って叫んだ。

 

「鎌は俺たちが食い止める!! みんなは側面から攻撃してくれ!! アスナ、ラン指揮は任せたぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

遠くからだが、アスナとランが俺の言葉に応じてくれた。

その声に、ようやく全員の呪縛が解けたようだった。

全員は、武器を構え直し迎撃に向かう。

俺とユウキは雄叫びを上げ、武器を構えてスカルリーパーの体に向かって突撃する。

数発の攻撃が敵の体に食い込み、ようやく初めてボスのHPバーが僅かに減少した。

だが、直後、複数の悲鳴が上がった。

大鎌を迎撃する隙を縫って視線を向けると、スカルリーパーの尾の先についた長い槍状の骨に数人が薙ぎ払われ、倒れるが見えた。

 

「くっ……」

 

歯嚙みをするが、俺とユウキにも、少し離れて左の大鎌を捌いているヒースクリフにも、これ以上の余裕は無い。

 

「キリトッ……!」

 

ユウキの声に、ちらりと視線を向ける。

 

『――だめだ! 向こうに気を取られると、やられるぞ!』

 

『――わかった……。 来るよ……!』

 

『――左斬り上げで受ける!』

 

『――了解!』

 

俺とユウキは瞳を見交わすだけで意思を疎通し、完璧に同期した動きで大鎌を弾き返した。

まるで思考がダイレクトに接続されたような一体感。

息もつかせぬペースで繰り出される敵の攻撃を、瞬時に同じ技で反応し、受け止める。

時折繰り出される敵の強攻撃を受ける余波で、僅かずつHPが減少していくが、俺たちはそれすらもすでに意識していなかった。

 

戦いは一時間以上の激戦の果てに、決着がついた。

 




あとSAOは1、2話で終わるのかな。

なんか、アスナさん。

ごめんなさい…。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第48話≪世界の終焉≫

ども!!

舞翼です!!

SAOが遂に完結しましたー!!

書いていたら、1万字超えたし(笑)

まぁ、前置きはこれくらいにして。

本編をどうぞ。


骸骨の狩り手との戦いは一時間以上にも及んだ。

無限と思えた激戦の果てに、遂にスカルリーパーの巨大な骨が青い欠片となって爆散した。

だが、誰一人として歓声を上げる余裕のある者はいなかった。

皆倒れるように床に座り込み、あるいは仰向けに寝転がって荒い息を繰り返している者もいる。

 

終わった――の……?

 

ああ――終わった――。

 

この思考のやりとりを最後に、俺とユウキの《接続》も切れたようだった。

不意に全身を重い疲労感が襲い、床に膝を付く。

俺とユウキは、背中合わせに座り込んだ。

暫く動くことは出来なかった。

俺たち二人は生き残った――。

だが、犠牲者は余りにも多すぎた。

 

「何人――やられた……?」

 

左の方でしゃがみ込んでいたクラインが、顔を上げて掠れた声で聞いてきた。

俺は右手を振ってマップを呼び出し、プレイヤーを示す光点を数えてみた。

出発時の人数から犠牲者の数を逆算する。

 

「――十四人、死んだ……」

 

自分で数えておきながら信じることができない。

皆トップレベルの、歴戦のプレイヤーだった筈だ。

離脱や瞬間回復不可能な状況でも、生き残りを優先した戦いをしていればすぐに死ぬことはないはずだった。

 

「……うそだろ……」

 

俺の発言にエギルが応じた。

エギルの声は掠れていた。

ようやく四分の三――まだこの上には25層もある。

1層ごとにこれだけの犠牲者を出してしまえば、最後のラスボスに対面出来るのはたった一人になってしまう可能性がある。

 

おそらくその場合は、間違いなくあの男だ……。

 

俺は視線を部屋の奥に向けた。

そこには、他の者が全員床に座り込んでいる中、背筋を伸ばして立っている人物。

ヒースクリフだ。

彼も無傷では無かった。

HPバーがかなり減少している。

ヒースクリフのあの視線、あの穏やかさ。

あれは傷ついた仲間を労わる表情では無い。

あれは――神の表情だ…。

 

俺はヒースクリフとのデュエルを思い出していた。

あれは、SAOシステムに許されたプレイヤーの限界速度を超えていた。

プレイヤーでは、出来ない事を可能にする存在。

デスゲームのルールに縛られない存在。

NPCでも無く、一般プレイヤーでも無い。

となれば、残された可能性はただ一つ、この世界の創造者だけだ。

だが、確認する方法が無い。

いや、ある。 今この瞬間一つだけある。

ヒースクリフのHPバーは、ギリギリの所でグリーン表示に留まっている。

未だかつて、ただ一度もHPバーをイエローゾーンに落としたことが無い男。

圧倒的な防御力。

この世界を創り上げた人間ならそういう設定にすることが可能だろう。

 

ゆっくりと剣を構え握り直した。

徐々に右足を引いていく。

腰を僅かに下げ、ヒースクリフに突進する準備姿勢を取る。

ヒースクリフは俺の動きに気付いていない。

仮に俺の予想がまったくの的外れなら、俺は犯罪者プレイヤーになってしまうだろう。

そして容赦ない制裁を受ける事になるな。

 

その時は……御免な……。

 

俺は隣で床に座っているユウキを見やった、ユウキの視線が交錯した。

 

「どうしたの……?」

 

「(ゴメンな)」

 

俺は声を出さず口だけ動かした。

地面を蹴った。

床ぎりぎりの高さを全速で駆け抜け、右手の剣を捻りながら突き上げた。

片手剣、基本突進技《レイジングスパイク》。

威力が弱い技なので、ヒースクリフに命中しても殺してしまうことは無い。

だが、俺の予想通りなら――。

青い閃光を引きながら、ヒースクリフの左側に剣を振り下ろす。

ヒースクリフは咄嗟に左手の盾を掲げ、ガードしようとする。

しかしその動きの癖を、俺はデュエルの時に何度も見て覚えていた。

俺の剣が空中で軌道を変え、盾の縁を掠めてヒースクリフの胸に突き立つ――。

寸前で、目に見えぬ障壁に激突し、同時に俺の腕に激しい衝撃が伝わった。

同時にヒースクリフからシステムカラーのメッセージが表示された。

【Immortal Object】。 不死存在。

俺たちプレイヤーにはありえない属性だ。

静寂の中、ゆっくりとシステムメッセージが消滅した。

俺は剣を引き、後ろに跳んでユウキの隣に着地した。

俺は周囲を見回し言った。

 

「これが伝説の正体だ。 この男のHPバーは、どうあろうとイエローまで落ちないようにシステムに保護されているのさ。 ……不死属性を持つ可能性があるのは……、システム管理者以外有り得ない。 だが、このゲームには管理者は居ないはずだ。 ただ一人を除いて。……この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった……。 あいつは今、何処から俺たちを観察し、世界を調整しているんだろう、ってな。 でも俺は単純な真理を忘れていたよ。 どんな子供でも知っていることさ」

 

俺はヒースクリフを真っ直ぐ見据え、言った。

 

「《他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない》。 ……そうだろう、茅場明彦」

 

全てが凍りついたような静寂が周囲に満ち、ヒースクリフは無表情のままじっと俺に視線を向けている。

ヒースクリフは俺に向かって言葉を発した。

 

「……なぜ気付いたか参考までに教えて貰えるかな」

 

「……最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。 最後の一瞬だけ、あんた余りにも速過ぎたよ」

 

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。 君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 

ヒースクリフは頷き、ほのかな苦笑いを浮かべる。

 

「予定では攻略が95層に達するまで明かさないつもりだったのだがな」

 

ゆっくり周囲を見回し、堂々と宣言した。

 

「――確かに私は茅場明彦だ。 付け加えれば、最上階で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

「……趣味が良いとは言えないぜ。 最強プレイヤーが一転最悪のラスボスか」

 

「なかなか良いシナリオだろう? 盛り上がったと思うが、まさか四分の三地点で看破されてしまうとはな。 ……君はこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは」

 

茅場明彦は薄い笑みを浮かべながら肩を竦め、言葉を続けた。

 

「……最終的に私の前に立つのは君と君の隣に座っているユウキ君だと私は予想していたのだ。 全十種存在するユニークスキルの内、《二刀流》スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担う。 《黒燐剣》スキルは勇者の姫に与えられる。 まさか本当に姫が現れるとは思ってもいなかったが……。 それにこの想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな……」

 

その時、凍りついたように動きを止めていたプレイヤーの一人がゆっくりと立ち上がった。

血盟騎士団の幹部を務める男だ。

 

「貴様……貴様が……。俺たちの忠誠を――希望を……よくも……よくも……」

 

両手剣を握り締め、

 

「よくも―――――ッ!!」

 

絶叫しながら地を蹴った。

大きく振りかぶった両手剣が茅場へと―。

だが、茅場の動きの方が一瞬早かった。

素早くウインドウを開き操作したかと思うと、男の体は空中で停止してから床に音を立て落下した。

HPバーにグリーンの枠が点滅している。

麻痺状態だ。

茅場はそのまま手を止めずにウインドウを操り続けた。

 

「キリト……」

 

横を振り向くとユウキも、それに俺以外のプレイヤー全員が麻痺状態になっていた。

俺は手に携えていた剣を背の装備している鞘に収めると、跪いてユウキの上体を抱え起こした。

俺は茅場に声を掛けた。

 

「……どうするつもりだ。 この場で全員殺して隠蔽する気か……?」

 

「まさか。 そんな理不尽な真似はしないさ」

 

ヒースクリフは微笑を浮かべたまま左右に首を振った。

 

「こうなってしまっては致し方ない。 予定を早めて、私は最上階の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つことにするよ。 90層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団。 そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっと辿り着けるさ。 だが……その前に……」

 

ヒースクリフは言葉を切ると、俺を見据えてきた。

右手の剣を軽く床に突き立て、高く澄んだ金属音がドーム内に響く。

 

「キリト君、君には私の正体を看破した報奨(ほうしょう)を与えなくてはな。 チャンスをあげよう。 今この場で私と一対一で戦うチャンスを。 無論不死属性は解除する。 私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウト出来る。 ……どうかな?」

 

俺はユウキに視線を向ける。

 

「……受けるんでしょう……?」

 

「……ああ」

 

「無事に帰ってきてね」

 

「……わかった」

 

俺はヒースクリフに視線を向けてから、ゆっくり頷いた。

 

「……受けてやるよ……。 此処で全て終わらせてやる……!」

 

奴は、己の創造した世界に一万人の精神を閉じ込め、その内の四千人の意識を電磁波によって殺した。

それに奴は、プレイヤーたちが絶望や恐怖にもがく様をすぐ傍で眺めていたという訳だ。

俺は、そんな奴を許すわけにはいかない。

此処で決着をつける!

俺はユウキに優しく声を掛けた。

 

「じゃあ、待っていてくれ」

 

「うん。 約束を忘れないでね」

 

俺は、ユウキの体を床に横たえて立ち上がる。

無言でこちらを見ている茅場にゆっくりと歩みよりながら、背から二本の剣を引き抜く。

 

「キリト! やめろ……っ!」

 

「キリト――ッ!」

 

声の方向を見ると、エギルとクラインが必死に体を起こそうとしながら叫んでいた。

俺はエギルとクラインが居る方向に向き直ると、まずエギルと視線を合わせ、小さく頭を下げた。

 

「エギル。 今まで、剣士クラスのサポート、サンキューな。 知ってたぜ、お前の儲けの殆んど全部、中層ゾーンのプレイヤー育成に注ぎ込んでいたこと」

 

目を見開くエギルに微笑み掛けてから、顔を動かしクラインに視線を向ける。

 

「クライン。 ………あの時、お前を……一緒に連れて行けなくて、悪かった。 ずっと、後悔していた」

 

クラインは再び起き上がろうと激しくもがき、声を張り絶叫した。

 

「て……てめぇ! キリト! 謝ってんじゃねぇ! 今謝るんじゃねぇよ!! 許さねぇぞ! ちゃんと向こうで、メシの一つも奢ってからじゃねぇと、絶対に許さねぇからな!!」

 

俺は頷いた。

 

「解った。 約束するよ。 次は、向こう側でな」

 

右手を持ち上げ、親指を突き出す。

俺は最後にユウキを見詰めた。

俺は胸中で、すまない、と呟き、体を翻した。

俺は茅場に向かって口を開く。

 

「……悪いが、一つだけ頼みがある」

 

「何かな?」

 

「簡単に負けるつもりはないが、もし俺が死んだら――暫くでいい、ユウキが自殺出来ないように計らって欲しい」

 

茅場は頷いた。

 

「良かろう。 彼女はアルゲードから出られないように設定する」

 

「キリトーッ!! もう約束を破る気なの――ッ!!」

 

俺の背後で、涙混じりのユウキの絶叫が響いた。

俺は振り返らなかった。

二刀流での戦闘スタイルなり、剣を構える。

茅場がウインドウを操作すると不死属性が解除された。

奴の頭上に、【changed into mortal object】―――不死属性を解除したというシステムメッセージが表示される。

俺と茅場の間の緊張感が高まっていく。

これはデュエルでは無い。 単純な殺し合いだ。 そうだ――俺は、あの男を――

 

「殺す……ッ!!」

 

言葉と同時に、俺は床を蹴った。

遠い間合いから右手の剣を横薙ぎに繰り出す。

茅場が左手の盾でそれを難なく受け止める。

一気に加速した二人の剣戟の応酬の衝撃音が周囲に響いた。

俺の《二刀流》スキルをデザインしたのは奴だ。

単純な連撃技は全て読まれる。

俺はシステム上で設定された連撃技を一切使わず、奴を倒さなければならないのだ。

ということはソードスキルが使えない。

俺と茅場の剣戟の応酬が続く。

俺と茅場の二人の視線が交錯した。

茅場――ヒースクリフの瞳は冷ややかであった。 人間らしさは、今は欠片も無い。

俺が今相手にしているのは、四千人もの人間を殺した男なのだ。

俺は恐怖してしまった。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

俺は心の奥に生まれた恐怖を吹き飛ばすように絶叫した。

だが、俺の攻撃は十字盾と長剣を操る茅場に全て弾き返されていた。

恐怖が焦りに変わっていく。

 

「くそぉっ……!!」

 

ならば――これでどうだ――!

 

俺は攻撃を切り替え、二刀流最上位剣技《ジ・イクリプス》を放った。

いや、放ってしまった。

茅場は、俺のシステムに規定された攻撃を待ち構えていたのだ。

奴の顔には、勝利を確信した笑みがあった。

奴は、俺を焦らせソードスキルを放つように誘導したのだ。

ソードスキルは途中で止めることが出来ない。

二刀流の大技を放った後は、大きな硬直時間が課せられる。

俺が放つ攻撃は、最後の一撃に至るまで茅場に把握されている。

十字盾に攻撃を放ちながら心の中で呟いた。

 

――ごめん――ユウキ……。 せめて君だけは――最後まで生きてくれ――。

 

27連撃。 最後の左突き攻撃が、十字盾に中心に命中し、火花を散らした。

直後、俺の左手に握られてた《ダークリパルサー》が砕け散った。

 

「さらばだ――キリト君」

 

動きの止まった俺の頭上に、茅場が右手で握っている長剣が高々と掲げられた。

長剣が俺の頭上目掛けて振り下ろされる。

だが立ち尽くす俺の前に、凄まじいスピードで飛び込んで来た人影があった。

その人物は、俺が愛した人であった。

ユウキだ。

麻痺状態によって動けなかったはずの彼女が、俺の目の前に立っていた。

胸を張り、両腕を広げて。

茅場の表情にも驚きの色が見えた。

だが斬撃はもう誰にも止められない。

全てがスローモーションのようにゆっくりと動く中、長剣はユウキの肩口から胸まで切り裂き、停止した。

こちらに倒れてくるユウキに向かって、俺は必死に手を伸ばした。

音も無く、俺の胸の中に彼女が崩れ落ちた。

ユウキと俺の視線が合う、ユウキは俺に向かって微笑していた。

 

「ごめんね……。 ボクが約束を破っちゃったね」

 

ゆっくりと彼女のHPバーが減少していく。

 

「おい……。 うそだろ……」

 

俺は震える声で呟く。

だが、光はどんどん輝きを増していく。

ユウキの全身が、少しずつ金色の輝きに包まれていく。

光の粒が零れ、散っていく。

 

「……キリト、愛しているよ。 永遠に」

 

遂に彼女のHPバーがゼロになり、俺の胸の中でひときわ眩い光が弾け、無数の金色の羽根が散った。

そして、俺の胸の中にはもう彼女はいなかった。

崩れるように両膝をついた俺の右手に、最後の羽根が微かに触れ、消えた。

声にならぬ絶叫を上げながら、俺はその輝きを両手で必死にかき集めようとした。

だが、金の羽根は風に吹き散らされるように舞い上がり、拡散し、蒸発していく。

彼女の命が散った。

茅場は唇の端を歪め、大袈裟な身振りで両腕を広げると言った。

 

「これは驚いた。 麻痺から回復する手段が無かったはずなのに彼女は動き、君を守り、命を散らした……。 こんなことも起きるものかな」

 

だがその声も俺の意識には届かなかった。

あらゆる感情が灼き切れ、暗く、深い絶望の淵に落下し続ける感覚だけが俺を包んでいた。

最愛の人が、俺の目の前で命を散らした。

彼女が最期に残したものは、彼女の愛剣である《黒紫剣》。

俺は左手を伸ばし、それを掴む。

右手には俺の剣、左手には彼女が携えていた片手剣を握り、のろのろと立ち上がる。

背後で、誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。

しかし立ち止まることなく、右手の剣を振りかぶり、俺は茅場に剣を突き出した。

二歩、三歩不格好に前進し、剣を突き出す。

技とも呼べない、攻撃ですら無いその動作に、茅場は憐れむような表情を浮かべ――盾で右手に握っていた俺の剣を弾き飛ばすと、長剣で俺の胸を貫いた。

俺は自分の体に深々と突き立った長剣を見詰めた。

視界の右端で、俺のHPバーが緩やかに減少していく。

その時、不意に俺は、かつて感じた事の無い猛烈な怒りを覚えた。

こいつだ。 ユウキを殺したのはこいつだ。

ユウキの体を引き裂き、彼女の命を奪った奴はこいつだ。

俺たちは一体何だ。 SAOのシステムが良しと言えば生き延び、死ねと言えば消滅する、それだけの存在か。

だが、俺のHPバーがゼロになり、視界にはメッセージが表示された。

【You are dead】死の宣告だ。

 

俺の体がポリゴンの欠片となって――四散し――。

 

そうはいくものか。

俺は簡単に死ねないんだ。

まだだ、まだ見える。

俺の胸に長剣を突き刺したままの茅場の顔、その表情は驚愕していた。

本来ならば瞬時に行われるはずの仮想体(アバター)爆散過程までも、ごくゆっくりと感じられる。

各所で弾けるように光の粒が零れて消滅していくが、まだ俺は存在している。

まだ生きている。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

俺は絶叫した。

絶叫しながら抵抗した。

システムの神に。

俺は左手を握り締める。

ユウキの片手剣――それに込められた彼女の意志が感じ取れる。

『がんばれ』と励ます声が聞こえてくる。

ゆっくりと左手が動き始めた。

少しずつ、少しずつ、魂を削りながら持ち上げていく。

遂に、黒く輝く先端が茅場の胸を捉えた。

俺の腕が距離を詰め、茅場の胸を貫く。

音も無く体を貫いた剣を、茅場は目を閉じて受け入れた。

茅場のHPバーが消滅した。

お互いの体を貫いた姿勢のまま、俺と茅場はその場に一瞬立ち尽くしていた。

全ての気力を使い果たし、俺は宙を見つめた。

 

――これで――いいかい……?

 

彼女の返事は聞こえなかったが、彼女の暖かさが俺の左手を包むのを感じた。

俺は、砕けかけていた全身を繋ぎ止めていた力を解き放った。

そして同時に茅場と俺の体が青い欠片となって破砕した。

意識が遠ざかっていく中で、無機質なシステムの音声が聞こえてきた。

 

――ゲームはクリアされました――ゲームはクリアされました――ゲームは……。

 

こうして俺とヒースクリフとの決闘に終止符が打たれた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

気付くと、俺は不思議な場所に居た。

足場は分厚い結晶の板だ。

透明な床の下には、赤く染まった雲が連なりゆっくりと流れている。

どこまでも続くような夕焼け空。

赤金色に輝く雲の空に浮かぶ小さな水晶の円盤、その端に俺は立っていた。

 

……ここはどこだろう。 確か俺の体は無数の破片となって砕け散り、消滅したはずなのに。

まだSAOの中に居るのか……。 それとも本当に死後の世界に来てしまったのか?

自分の体に視線を落としてみる。

黒いレーザーコートや長手袋といった装備類は死んだ時のままだ。

だが、その全てが僅かに透き通っている。

右手を伸ばし、指を軽く振ってみた。

聞きなれた効果音と共にウインドウが出現する。

ということは、此処はまだSAOの内部だ。

だがそのウインドウには、装備フィギアやメニュー一覧が無い。

ただ無地の画面に一言、小さな文字で【最終フェイズ実行中 現在54%完了】と表示されているだけだ。

これはどういうことだ?

ウインドウを消去した時、不意に背後から声がした。

 

「……キリト」

 

今の声が幻でありませんように――。 必死に祈りながらゆっくり振り向く。

赤い空を背後に、俺の最愛の人が立っていた。

彼女も同じように全身が僅かに透き通っていた。

夕焼け色に染まり、輝くその姿は、この世に存在する何よりも美しい。

涙が溢れそうになるのを必死に堪え、俺は如何にか笑みを浮かべた。

囁くように声を掛ける。

 

「ごめん。 ……俺も、死んじゃったよ」

 

「……キリトのバカ」

 

俺の胸の中に飛び込んで来たユウキを優しく抱きしめる。

もう離さない。 何があろうとも二度とこの腕は解かない。

ユウキは俺の胸の中から顔を出し、顔を上げた。

ユウキが俺に声を掛けてきた。

 

「また会えて嬉しいよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

ユウキは、首を傾げて聞いてきた。

 

「で、ここどこかな?」

 

「う~ん、どこだろうな?」

 

本当に此処は何処だろう?

 

「ねー、あれ見て」

 

ユウキが視線を向けた場所を見る。

俺たちが立っている小さな水晶板から遠く離れた空一点に―それが浮かんでいた。

円錐形(えんすいけい)の先端を切り落としたような形。

薄い層が無数に積み重なって全体を構成している。

目を凝らせば、層と層の間には小さな山や森、湖、そして街が見える。

 

「アインクラッド……」

 

「うん。 そうだね」

 

間違いない、あれはアインクラッドだ。

俺たちが二年間の長きに渡って戦い続けた剣の世界だ。

 

――鋼鉄の城は――今まさに崩壊しつつあった。

 

記憶に焼き付いた浮遊城の一つ一つの層がゆっくり崩壊していく。

思い出の場所も。

俺とユウキは手を繋ぎ、水晶板の端に腰を下ろした。

 

「全部無くなっちゃうんだね」

 

「そうだな」

 

「なかなかに絶景だな」

 

不意に傍らから声がした。

俺とユウキは声がした方向に振り向く、そこには一人の男が立っていた。

 

茅場明彦だ。

 

今の茅場はヒースクリフの姿では無く、SAO開発者としての本来の姿だ。

白いシャツにネクタイを締め、長い白衣を羽織っている。

茅場も消えゆく浮遊城を眺めている。

茅場の全身も、俺たちと同じように透き通っていた。

この男とは、数分前までお互いの命を懸けた死闘を繰り広げていたはずなのに、俺の感情は静かなままであった。

俺は茅場から視線を外し、崩れいく浮遊城を見やり、口を開いた。

 

「此処は、どうなるんだ?」

 

「現在、アーガス本社地下5階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置データの完全消去作業を行っている。 後10分ほどでこの世界の何もかもが消滅するだろう」

 

じゃあ、あの数字が100%になったらこの浮遊城が完全消滅するのか。

 

「あそこに居た人たちは……どうなったの?」

 

ユウキがポツリと呟いた。

 

「心配には及ばない、先程生き残った全プレイヤー、6147人のログアウトが完了した」

 

「……そうか」

 

俺は、茅場の言葉に応じた。

俺は、茅場に聞いてみた。

 

「……死んだ連中は? 一度死んだ俺たちが此処にこうしているからには、今まで死んだ4千人だって元の世界に戻してやることが出来るんじゃないのか?」

 

茅場はウインドウを消去し、浮遊城を眺めながら言った。

 

「命は、そんなに軽々しく扱うべきではないよ。 彼らの意識は帰ってこない。 死者が消え去るのは何処の世界でも一緒さ。 君たちとは――最後に少しだけ話をしたくて、この時間を作らせて貰った」

 

それが四千人を殺した人間の台詞か――と思ったが、不思議と腹が立たなかった。

だから俺は、根本的な、恐らく全プレイヤー、この事件を知った全ての人が聞きたいと思う疑問を問いかけた。

 

「なんで――こんなことをしたんだ……?」

 

「なぜ――、か。 私も長い間忘れていたよ。 何故だろうな。 フルダイブ環境システムの開発を知った時――いや、その遥か以前から、私はあの城を、現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけ欲して生きてきた。 そして……、私の世界の法則を超えるものを見ることが出来た……」

 

茅場は静謐(せいひつ)な光を湛えた瞳を俺たちに向け、すぐに顔を戻した。

 

「子供は次から次へと色々な夢想をするだろう。 空に浮かぶ鉄の城の空想に私が取りつかれたのは何歳の頃だったかな……。 その情景だけは、何時まで経っても私の中から去ろうとしなかった。 年を経るごとにどんどんリアルに、大きく広がっていった。 この地上を飛び立って、あの城に行きたい……。 長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。 私はね、キリト君。 まだ信じているのだよ――何処か別の世界には、本当にあの城が存在するのだと――」

 

「ああ……。 そうだといいな」

 

俺はそう呟いていた。

茅場はゆっくり俺たちに向かって歩き始めた。

 

「……言い忘れていたな。 ゲームクリアおめでとう。 キリト君、ユウキ君」

 

茅場は穏やかな表情で俺たちを見下ろしていた。

 

「――さて、私はそろそろ行くよ」

 

風が吹き、それにかき消されるように――気付くと茅場の姿はもう何処にも無かった。

俺たちは再び二人きりになった。

この世界に留まる時間は余り残っていないだろう。

俺たちは、茅場に与えられた僅かな時間の中に居る。

この世界の消滅と同時にナーブギアの最終機能が発動し、俺たちの全てが終わる。

 

「……お別れだな」

 

「……うん」

 

俺とユウキは再び抱き合い、ユウキ顔を上げ俺の顔を真っ直ぐ見てきた。

 

「最後にキリトの本当の名前を教えてよ」

 

「ああ、俺の名前は桐ケ谷……桐ケ谷和人(きりがや かずと)。 多分先月で16歳」

 

俺は、約二年ぶりに自分の本当の名前を言った。

 

「きりがや……かずと……」

 

一音ずつ噛み締めるように口にして、ユウキはちょと複雑そうに笑った。

 

「ボクの名前はね、紺野木綿季(こんの ゆうき)。 15歳だよ!!」

 

こんの……ゆうき。こんのゆうき。その美しい六つの音を何度も胸の中で繰り返す。

俺は子供のように喉を詰まらせ、両手を固く握り締めながら声を上げて泣いた。

 

「ごめん……ごめんな……木綿季。 ……君を……あの世界に……還せなくて……」

 

言葉にならない。結局、俺は最愛の人を助けられなかった。

 

「いいんだよ……。 ボクは幸せだった。 和人に会えて、一緒に暮らして、一緒に色々な事を経験して、幸せだったよ」

 

木綿季は、笑みを浮かべ言ってくれた。

 

俺は、涙を流しながら言った。

 

「俺も幸せだったよ」

 

俺と木綿季は最後のキスし、固く抱き合い、最後の時を待った。

 

「愛しているよ。 和人」

 

「愛しているよ。 木綿季」

 

俺たちは魂が溶け合い、一つになり、この世界から消えていった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺の意識は何処かの世界で目を覚ました。

ここは何処だ……?

俺はもう一度瞼を閉じ、再び開く。

目に大量の液体が溜まっていた。

涙であった。

涙は、後から後から湧き出てくる。

俺は泣いていた。

強すぎる光に目を細めながら、如何にか涙を振り払う。

俺は周囲を見回して見た。

今気付いた。

柔らかい物の上に横たわっている。

ジェル素材のベットだ。

上には天井が見える。

此処はアインクラッドでは無い。

体のあちこちに、色々なコードに繋がれていた。

つまり、此処は現実世界。

還って来たのか……。

 

「あっ」

 

俺は思わず声を上げた。

二年間使われなかった喉に鋭い痛みが走る。

俺が目を覚ましたということは、彼女も目を覚ましたはずだ。

 

「木……綿……季……」

 

俺が愛し、妻とし、あの世界で一緒に思い出を作り、最後の終焉まで一緒だった少女は…。

頭を覆っていたナーブギアを両手の力を振り絞り外す。

ドアの向こうでは慌しく行き交う足音、キャスターを転がす音が聞こえてきた。

此処の病院で眠っていたSAOプレイヤーたちが目を覚ましたのか。

俺は必死に上体を起こした。

体に絡みついていたコード類は、力を振り絞り無造作に外した。。

俺は点滴の支柱を握り締めた後、床に足を付け立ち上がった。

点滴の支柱に体を預けて、俺はドアに向かって最初の一歩を踏み出す。

 

俺が愛した彼女を探す為に。

 

SAO編 ~完結~




アスナさん、ランちゃん。 マジですいません!!

今回一回も出てないような……。

タイトル変えようかな……。

なんか、ころころタイトル変えているよね。

マジすまん。

あと、今まで観覧してくださったみなさまのおかげでSAOが完結出来ました。

ありがとうございます!!

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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現実世界での再会
第49話≪木綿季との再会≫


ども!!

舞翼です!!

ALO始まったぜ!!

今回は、オリジナル? かな。

ALOの話題は出てこないからな。

誤字脱字があったらごめんよ。

それでは、どうぞ。


埼玉県川越市 総合病院

 

私、桐ケ谷直葉は総合病院に赴き、眠りについたお兄ちゃん・桐ケ谷和人《眠り姫》の病室にやって来ていた。

お兄ちゃんの頭を覆っているのは、フルダイブ型VRマシン悪魔の機械《ナーブギア》。

お兄ちゃんは、この悪魔の機械《ナーブギア》によって、日本中を震撼させた悪魔のタイトル、《ソードアート・オンライン》に囚われてしまった。

 

お兄ちゃんは、ゲーム内で数少ないトッププレイヤーの集団に属している。

――常に危険な最前線で、自身の命を賭けて戦っている。

数千人の囚われたプレイヤーの解放の為に。

このことは、《SAO事件対策チーム》のメンバーに教えてもらった。

きっと今も、お兄ちゃんは死と隣合わせの状況で戦っているんだ。

だから私がここで泣くわけにはいかない。

お兄ちゃんの手を握り、応援しようと思う。

 

「お兄ちゃん……がんばって……」

 

私はそっと眠る兄・和人に呼びかけた。

 

「もう二年も経つんだね……。 あたし、今度高校生になるんだよ……。 早く帰ってこないと、どんどん追い越しちゃうよ……」

 

お兄ちゃんとは、ずっと一緒に暮らしてきた。

でも、お兄ちゃんは正確には《従兄》になる。

 

お兄ちゃんは、住基(じゅうき)ネット抹消の記録に気付いて本当の事を知ったんだよね。

お母さんのコンピュータマニアの血が遺伝したのかな。 精神的に。

お兄ちゃんが本当のことを知ってから、私と深い溝が出来てしまった。

会話の数も激減し、お兄ちゃんは部屋に閉じこもるようになり、ネットの世界に身を投じるようになったんだよね。

お兄ちゃんが《ソードアート・オンライン》に囚われ、現実世界から意識が切り離されたと分かった時、声を上げてお兄ちゃんの体にすがって、わんわん泣いた。

私は後悔した。

もっと早く、お兄ちゃんとの距離を埋めようと努力しなかったのか。

それは決して難しいことじゃなかったはず、私にはそれが出来たはず。

私は何時もように、お兄ちゃんの骨ばった右手を両手で包み込み、『早く帰ってきてよ』と懸命に言った。

 

「早く帰って来てよ……。 お兄ちゃん」

 

お兄ちゃんは今どこにいるんだろう。

暗い迷宮区を、地図を片手に彷徨っているのか。

道具屋で品定め中なのか。

それとも――恐ろしげなモンスター相手に、果敢に剣を切り結んでいるのか。

 

「今日は、お兄ちゃんの誕生日だね。 誕生日おめでとう、お兄ちゃん」

 

私は、ベットの横に設置されている丸椅子から腰を上げた。

 

「また来るね。 ばいばいお兄ちゃん」

 

私は、お兄ちゃんが眠る病室から出て行った。

 

お兄ちゃんが目覚めたという急報が届いたのは、それから一ヶ月後、2024年10月7日のことだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

2ヵ月後。 桐ケ谷家

 

額の汗を拭いながら竹刀を振り下ろし、日課となっている朝の稽古を終わらせた。

竹刀を下ろし、くるりと振り向いた――。

 

「あ……」

 

家に目をやった途端、私はぴたりと立ち止まった。

いつの間にか、スウェット姿のお兄ちゃんが縁側に腰を掛け、こちらを見ていた。

目が合うとニッと笑い、口を開く。

 

「おはよう」

 

言うと同時に、右手に持っていたミネラルウォーターのミニボトルをひょいと放ってきた。

左手で受け止め、言った。

 

「お、おはよ。 ……やだなぁ、見てたなら声をかけてよ」

 

「いやぁ、あんまり一生懸命やっているからさ」

 

「そんなことないよ。 もう習慣になっちゃっているから……」

 

この2ヵ月で、これ位の会話なら自然に出来るようになった。

お兄ちゃんの右隣に微妙な距離を開けて座る。

竹刀を立てかけボトルのキャップを捻り、口を付ける。

よく冷えた水で喉を潤す。

 

「そっか、ずっと続けているんだもんな……」

 

お兄ちゃんは立てかけてあった竹刀を握ると、座ったまま竹刀を軽く振った。

 

「軽いな……」

 

「ええ?」

 

私はボトルから口を放し、お兄ちゃんを見た。

 

「それ真竹だから、けっこう重いよ」

 

「あ、うん。 その……イメージというか……比較の問題というか……」

 

「何と比べたの?」

 

「SAOで俺が握っていた剣と、かな」

 

「重い剣を振っていたんだね」

 

「なぁ、ちょとやってみないか」

 

私は、お兄ちゃんの言葉に唖然とした。

 

「やるって……。 試合を?」

 

「おう」

 

お兄ちゃんは当然とばかり頷く。

私は表情を改め、

 

「体のほう、だいじょうぶなの……? 無茶しないほうが……」

 

「だいじょうぶだ。 毎日ジムでリハビリしまくっている成果みせてやるさ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

桐ケ谷家 剣道場

 

「そ、それなぁに、お兄ちゃん」

 

お兄ちゃんの構えを見た途端、私は思わず吹き出してしまった。

珍妙、としか言いようがない。

左足を前に半身に構え、腰を落とし、右手に握った竹刀の殆んどは、床板に接するほどに下げられている。

左手は、柄に添えられているだけだ。

 

「審判がいたらむちゃくちゃ怒られるよそんなの~」

 

「いいんだよ、俺流剣術だ」

 

試合結果は、私が勝った。

私の必殺の引き面一発で。

お兄ちゃんは数歩ふらついたが、如何にか踏みとどまった。

 

「だ、大丈夫、お兄ちゃん」

 

「だ、大丈夫だ。 ……いやぁ、参った。 スグは強いな、ヒースクリフなんか目じゃないぜ」

 

「……ほんとうにだいじょうぶ……」

 

「おう、終わりにしよう」

 

そう言ったお兄ちゃんは数歩下がると、また珍妙な行動をした。

右手の竹刀を左右に払い、背に持っていったのだ。

私はいよいよ心配になった。

 

「あ、頭打ったんじゃ……」

 

「ち、ちがう!! 長年の習慣が……」

 

それからお兄ちゃんがポツリと呟いた。

 

「“あいつ”も同じことをするだろうな」

 

お兄ちゃんは、満面の笑みをしていた。

 

「楽しいな。 またやってみようかな、剣道……」

 

「ホント!? ほんとうに!?」

 

私は思わず勢いづいてしまった。

顔が綻ぶのが自分でも解る。

 

「スグ、教えてくれる?」

 

「も、もちろんだよ! また一緒にやろうよ!」

 

「もうちょとキンニクが戻ってからな」

 

お兄ちゃんに頭をぐりぐりされて、私はにへーっと笑った。

また一緒に練習ができると思うだけで、涙が出そうなほど嬉しくなる。

 

「で、今日はどうするの?」

 

「ん、ああ、病院に行ってくるわ。 あと、お見舞いもしてくる」

 

今日は、SAOの最後の終焉まで一緒に居た少女と面会をする日らしい。

面会が可能な時間に病院に行くので、少女と沢山話すことが可能だそうだ。

 

「えっと、木綿季さん、だっけ?」

 

「まぁ、そうだ」

 

「ねぇ、一緒に行っていいかな?」

 

「いいぞ」

 

俺が覚醒したとき、SAOの中で何があったのか問い詰める為に、俺の病室を強襲して現れた人物。

彼は《総務省SAO事件対策本部》の人間だと名乗った。

俺は、現れた黒縁眼鏡の役人に条件を出した。

SAO内部で起きたこと可能な限り話す。

その代わりに俺の知りたい事を教えろと条件を出した。

それは、俺の最愛の人が居る場所を聞き出すことだ。

 

彼女は、埼玉県所沢市――その郊外に建つ最新鋭の総合病院に居た。

俺は彼女に早く会う為、リハビリを人一倍こなした。

早く彼女に会いたい一心で。

結果、二週間で歩けるようになった。

 

彼女は目を覚ましたが、全国で約三百人のプレイヤーが目を覚ましていないらしい。

当初はタイムラグとも思われていた。

しかし、何時間、何日待とうとも、約三百人のSAOプレイヤーは、意識を覚醒されることは無かった。

その中には、木綿季の親友である結城明日奈。

彼女の姉である紺野藍子が囚われてしまっていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

今、俺とスグは、病院のエレベータに乗っている。

彼女が居る場所は、此処の病院の15階にある個室だ。

最上階には、結城明日菜。 紺野藍子が眠っている。

数秒で15階に到着し、エレベータの扉が滑らかに開く。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うん」

 

長い廊下を真っ直ぐ歩き、突き当たりに扉が見えてきた。

扉の横には、ネームプレート。

紺野木綿季 様、という表示の下に、一本の細いスリットが走っている。

俺は、受付窓口で受け取ったパスをスリットに滑らせる。

微かな電子音と共にドアがスライドする。

中に一歩踏み込む、中央に設置させているベットを見やると、彼女は俺に微笑みかけた。

木綿季は、今日俺が面会に来ることを知っていたらしい。

 

「よっ!!」

 

「こんにちは」

 

俺は木綿季に向かって手を上げ、そのままベットの横に設置してある丸椅子に腰を下ろす。

スグも、もう一つの丸椅子に腰を下ろす。

 

「久しぶり! 和人、元気だった?」

 

「おう! 元気だったよ」

 

「……和人の隣に居る人は誰かな」

 

俺とスグの関係を、木綿季が黒いオーラを出して聞いてきた。

 

「待て待て待て待てッ、妹の直葉だ」

 

俺がそう言うと、木綿季は黒いオーラを収めてくれた。

 

「初めまして、和人の妹の桐ケ谷直葉です」

 

「初めまして、紺野木綿季です」

 

二人は、ほぼ同時にぺこりと頭を下げた。

 

「可愛い人だね―、木綿季さんって」

 

「えへへ~、ボクのこと可愛いだってよ」

 

木綿季は俺が座っている方向に顔を向け、俺の顔を覗き込んできた。

 

「何で俺を見るんだ!?」

 

「えっ、ボクのこと可愛いと思っていないの??」

 

「……世界で一番可愛いと思っているよ」

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃんと木綿季さんは、どんな関係なの?」

 

俺と木綿季は顔を見合わせ、スグの顔を見て言った。

 

「「えっと……婚約者かな」」

 

「あらそうなの」

 

新たな声の発生源は、桐ケ谷(みどり)だ。

扉が開き、紺野家の両親と桐ケ谷家の母親が現れたのだ。

なんで母さんが居るんだ?

 

「初めまして、私の名前は紺野春香」

 

「俺は、紺野雄介だ」

 

紺野家のご両親が、俺とスグに自己紹介をしてきた。

俺とスグは、丸椅子から立ち上がり自己紹介をした。

 

「こっ…こん…にちは、き…桐ケ谷…か…和人…です」

 

「こんにちは、桐ケ谷直葉です」

 

スグは自己紹介した後、母さんの隣まで移動した。

木綿季が俺の背中を叩いてきた。

 

「も~、和人は。 コミ障を発動させちゃって」

 

「う…だって…お前、俺の性格とか色々知っているだろう」

 

「まぁー、そうだけど」

 

「……何で母さんが此処に居るんだ?」

 

俺はすごく気になっている疑問をぶつけた。

 

「和人は知らなかったのね、紺野さんとはお家が隣なのよ。 越して来たのは、約二年前ね。 紺野さんが妹さんのお見舞いに行くって言っていたから、私も一緒したの、で此処に和人が居たってわけよ」

 

はぁぁぁあああ―――!!

家が隣かよ!

何で今まで気付かなかったんだよ!

木綿季に会いたいっていう思いが強くて、周りが見えていなかったからだと思うけどさ!

 

「えっ、そうだったの、知らなかった」

 

どうやらスグも知らなかったようだ。

 

「和人君。 SAOの内部では、木綿季と結婚していたらしいじゃないか」

 

「結婚生活は、楽しかったでしょ」

 

木綿季の父親、紺野雄介さんと、母親の紺野春香さんが俺に言ってきた。

 

 

Side 木綿季 和人

 

「おい、何でお前の両親は、俺たちがSAOで結婚していたことを知っているんだ!?」

 

「えっと、ボクが話した。 最初から最後までね。 秘密にしておきたいことは話してないけど」

 

ちょと待てよ、最初から最後まで…。 てことは俺が木綿季をどう思っているかを知っているってことだよな。

俺がどうやってプロポーズをしたのかも…。

俺の二股生活も…。

俺は、震えた声で木綿季に聞いた。

 

「お前の両親の反応は?」

 

「えっと、お父さんは『木綿季はそんな風に和人君からプロポーズをして貰ったのか。そして最後には、木綿季を選んだのか。 藍子は残念だったな、藍子にも前にも現れるさ、王子様がな』って言っていたよ。 あと『木綿季は、和人君と結婚をしたいかい?』とも言っていた。 お母さんは『木綿季にも運命の人が見つかったのね。私はあなたの結婚に賛成するわ』って言っていたよ」

 

「で、お前はどのように答えたんだ??」

 

「和人とは生涯一緒に居たい、結婚したいって」

 

「そっそうか」

 

俺の知らない間に話が進んでいないか……?

木綿季の両親は、俺がラン(藍子)を振ったことも知っているのかよ…。

 

「和人は、どう思っているの?」

 

「木綿季と結婚したいさ」

 

「じゃあ、ボク達の両親と和人の妹さんが揃っているから、この場を借りて言おうか、結婚したいですって」

 

「……わかった」

 

もう覚悟を決めるしかない。

俺は、木綿季の両親と母さんとスグに声を掛けた

 

Side out

 

 

「春香さん、雄介さん、母さん、スグ、ちょっと聞いてくれないかな」

 

「「「「どうした(の)(のかしら)」」」」

 

「えっと」

 

ヤバい。

緊張する。

 

「俺は、木綿季さんを愛しています。 一生幸せにします。 俺と木綿季さんの結婚を認めてください。 おねがいします!!」

 

俺は、紺野家の両親と母さんを見ながら深々と頭を下げた。

 

「ボクも和人を愛しています。 ボクと和人の結婚を認めてください。 おねがいします!!」

 

木綿季も座りながら、頭を下げた。

紺野家の両親は、俺と木綿李を見据え言った。

 

「私は結婚に賛成するわ。 木綿季、 退院したら、桐ケ谷さんのお宅にお世話になりなさい」

 

「俺も結婚に賛成だ」

 

母さんの桐ケ谷翠と妹の桐ケ谷直葉は、俺と木綿季の顔を見てから言った。

 

「私も結婚に賛成よ。 家においで木綿季ちゃん。 峰高さんは私が言い包めるわ」

 

「私も結婚に賛成するよ。 お父さんの説得にも協力する」

 

春香さんが口を開いた。

 

「あら、もうこんな時間。 木綿季、私たちは帰るわ。 木綿季は明日退院でしょう。 あなたは、そのまま桐ケ谷さんのお宅に行きなさい。 着替えとかは、後で取りに来なさい」

 

「それじゃあ、帰ろうか」

 

「私も帰るわ、後はよろしくね。 和人」

 

「じゃあ、私も帰るね。 またお家でね、お兄ちゃん」

 

紺野家の両親と、母親の翠と妹のスグが言い、嵐のように木綿季の病室から去って行った。

残されたのは、俺と木綿季だけだ。

 

「……えっと、明日迎えに行くな」

 

「……うん。 待ってる」

 

俺と木綿季の顔は、真っ赤だろうな。

俺たちの結婚は、親が公認したも同然だしな。

俺と木綿季は短いキスをした。

 

「また明日。 じゃあな、木綿季」

 

「ばいばい、和人」

 

俺は1階の受付窓口にパスを返却してから、駐輪場に止めていた自転車に乗り、家へ戻った。

 

 




剣道の勝負内容の過程は、みなさん知っていると思ったので書きませんでしたー。

両親が公認しましたね(笑)

あと、紺野家の両親の名前がわからなかったから、自分で考えた名前にしちゃった(笑)

病院も合わせちゃった。

和人君は、もっと早く会いに行けばよかったかな…。 なんかすまん。

話が吹っ飛びすぎかもしれん…。

でも、このネタはやりたかったんだよね。

やばい、ネタが尽きてきたよ…。

紺野姉妹は、越してきて数日たってからSAOに囚われたということで。

和人君は、インドアだったから気付かなかったんでしょうね。

あと、アスナさん、ランちゃん。 マジすまん!!

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!



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第50話≪二人の手掛かり≫

ども!!

舞翼です!!

今回も頑張って書きあげたぜ。

1万字超えたしね(笑)

誤字脱字があったらごめんよ。

それでは、どうぞ。



翌日。

 

俺は、埼玉県所沢市に建つ病院に親と車で向かっている。

木綿季を迎えに行く為だ。

…本当は俺一人で迎えに行きたかったのだが、母親の翠に『私も一緒に向かえに行くわ。 いいね。』って言われ、押し切られてしまったのだ。

俺は助手席に座っている。

車の運転をしているのは、母親の桐ケ谷翠だ。

俺は聞きたいことがあったので、翠に声を掛けた。

 

「そういえば、木綿季の部屋どうするんだ??」

 

「木綿季ちゃんの部屋が建て上がるまで、和人と一緒の部屋ね」

 

「マジで」

 

「うん、マジで。 問題ないでしょ、SAOでは一緒に暮らしていたんだから」

 

まぁ―、確かに問題ないな。

SAOで結婚してから木綿季とは、毎日一緒に寝ていたしな。

ランとも一緒に寝ていたけど。

 

「了解」

 

「着いたわ」

 

「おう」

 

母さんは、『駐車場に車を止めてくるから、和人は木綿季ちゃんが居る病室に先に行っていなさい』と言い、病院の入り口付近に下ろしてくれた。

 

「じゃあ、行くかな」

 

受付窓口でパスを受け取り、入り口付近にあるエレベーターに乗ってから木綿季が居る十五階まで移動した。

数秒で十五階に到着したエレベーターから降り、木綿季が居る病室まで向かった。

ネームプレートの下にある一本の細いスリットに、受付窓口で受け取ったパスをスライドさせ、電子音と共にドアがスライドした。

俺はノックをせず、病室に足を踏み入れた。

木綿季と俺の目が合った。

俺は固まってしまった。

なぜなら、木綿季が着替え中だったのだ。

 

3秒後。

 

「和人のエッチーー!!」

 

「うぐ!」

 

木綿季が投げた枕が、俺の顔に命中した。

俺の顔から枕が落ちた。

俺の顔は真っ赤になっていた。

木綿季の肌は白くて、スタイル抜群だった。

 

「この覗き魔」

 

「うっ、ワザとじゃ無いんだ……。 ごめん」

 

「今度から気を付けるように。 わかった?」

 

「……わかりました」

 

そう言った後、木綿季は布団で体を隠した。

俺はベットの横に設置してある丸椅子に座った。

 

「ほら、後ろ向いてて」

 

「……あい」

 

俺が後ろを向いて数秒後。

 

「もういいよ」

 

木綿季から『いいよ』と声を掛けられたので、前を向いた。

俺はこれからの事を話すことにした。

 

「荷造りは終わったのか?」

 

「うん、終わったよ。 てか、ボクの部屋ってあるの?」

 

「しばらくは俺と同じ部屋だ」

 

「うん。 了解」

 

扉からノックする音が聞こえてきた。

木綿季が『いいですよー』と言ってから、扉が開いた。

病室に入って来た人物は、俺の母さんだった。

 

「あら、二人で話していたの、お邪魔だったかしら」

 

俺と木綿季は、顔を左右に振った。

母さんは、俺と木綿季を見てから言った。

 

「一階の総合窓口に行きましょうか」

 

「わかりました、翠さん」

 

「あら、私のことはお義母さんでいいのよ、木綿季ちゃん。 あと私には、敬語を使わなくていいわ」

 

「お、お義母さん……。 早く……行こうよ」

 

「一階の総合窓口に行きましょうか」

 

母さんはニッコリ笑うと、病室から出て行った。

木綿季はベットから立ち上がり、床に足を付け、俺が座っている丸椅子の隣に移動した。

俺は木綿季の荷物を持ってから、木綿季に声を掛けた。

 

「行くか」

 

「うん」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

廊下を歩いていた時、木綿季が俺の肩を優しく叩き声を掛けてきた。

 

「重くない?」

 

「おう、大丈夫だぞ。 良いリハビリにもなるしな」

 

「ありがとね」

 

俺と木綿季は、ナースステーション付近にあるエレベーターに乗り、一階へ移動した。

一階に到着したエレベーターから降り、総合窓口に向かった。

 

「退院手続きが終わっていたわ。 多分、木綿季ちゃんのご両親が既に手続きを済ませていたのね」

 

「じゃあ、早く行こうぜ」

 

「行こうよ、お義母さん」

 

俺と木綿季と母さんは、駐車場に止めた車に乗り、桐ケ谷家に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

木綿季は俺の家を見て、感嘆の声を上げた。

 

「わぁ~、大きいね~」

 

「そうなのか」

 

「うん」

 

いや、木綿季さん。

あなたの家もこれ位の大きさですけど。

俺の家は約45坪程度、外には縁側もある家だ。

まぁ―、大きい家なのかもしれんな。

俺は木綿季の手を引き、家の敷地に足を踏み入れた。

玄関前まで移動し、玄関の扉を開く。

 

「「ただいま~」」

 

「おかえりなさいー」

 

スグが俺と木綿季を出迎えに来てくれた。

 

「今日からお世話になります。 紺野木綿季です」

 

木綿季は俺とスグにぺこりと頭を下げた。

木綿季は今日から桐ケ谷家の家族だな。

まだ苗字は紺野だが。

 

「おう。 今日から此処は木綿季の家だと思ってくれ」

 

「そうですよ。 木綿季さん」

 

「うん。 あっ、敬語は使わなくていいよ。 スグちゃん」

 

「うん、わかったよ。 木綿季ちゃん」

 

さすが木綿季、俺と違ってコミュ力が高い。

 

「俺と木綿季は、荷物を置きに二階に行くわ」

 

「じゃあ、ご飯が出来たら呼ぶねー」

 

「ん、じゃあ、行くか」

 

「了解ー」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

俺の部屋の広さは6畳。

デスクの上にパソコンのモニターが2つ、部屋の中央には小さなテーブル、隅には本棚、窓際にはベットが設置してあるだけだ。

本棚の一番下の段には、悪魔の機械《ナーブギア》が置いてある。

 

「ここが和人の部屋か~」

 

「まぁな、何も無いだろう。 取り敢えず荷物をベットの上に置いておくな」

 

俺はそう言い、手に持っていた木綿季の荷物をベットの上に置いた。

それからベットの上に腰を下ろす。

俺は隣をポンポンと叩いた。

それを見て木綿季は俺の隣に腰を下ろし、悲しい表情をして言った。

 

「姉ちゃんと明日奈は、いまどこに居るのかな……?」

 

「……二人は、二ヵ月前から目を覚ましていないんだよな」

 

「……うん」

 

俺は木綿季の頭をくしゃくしゃと撫でてあげた

俺に出来ることをしてあげよう。

 

「よし!! 明日は二人のお見舞いに行こうか」

 

「うん!」

 

「荷物の整理をするか」

 

「だね」

 

1時間後。

荷物の整理が終わった。

 

「「終わった!」」

 

と言った直後、下からスグの声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃん~、木綿季ちゃん~。ご飯が出来たよ~」

 

どうやらメシの準備が出来たらしい。

 

「いま行くよ~」

 

俺は大きな声を出し、スグの言葉に応じた。

 

「行くか」

 

「うん。 行こっか」

 

俺と木綿季は立ち上がり、部屋を出てから一階にある台所へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「「「いただきま~す」」」

 

俺と木綿季とスグは合掌してから箸を手に取り、料理を口に運んだ。

 

「美味しいよ、美味しいよ、スグちゃん」

 

「よかった~。 木綿季ちゃんの口に合って」

 

俺も率直な感想を言った。

 

「確かに旨いぞ、スグ」

 

「お兄ちゃんの口にも合ってよかった~」

 

スグは、美味しそうに食事を摂る俺と木綿季を見てニッコリと笑った。

 

「そういえば、木綿季。 風呂はどうするんだ?」

 

木綿季はこちらを振り向き言った。

 

「和人と入ろうかな」

 

いや、ダメでしょ、木綿季さん。

ほら、スグが俺のことを『じ―っ』と見てるじゃん。

『お兄ちゃんの回答しだいでは』的な目でさ。

 

「……ダメだ……。 一緒には入らないぞ」

 

「SAOの中では、一緒に入ったじゃんよー」

 

アウトーーッッ!!

その発言はアウトですよ、木綿季さん。

ヤバい……。

スグの目が『お兄ちゃん。 この事はお母さんに言うからね』っていう目だよ……。

マズイ、何か話さないと。

 

「……あのな、スグ……。 これには、深――い事情があったんだ」

 

「へー、深――い事情があったんだ」

 

ちょ、ジト目はやめてくれ。

よし。 此処は戦略的撤退だ。

俺は口の中にご飯を掻き流した。

 

ごひぃひょうさま(ごちそうさま)

 

俺はそそくさに席を立ち、自分の部屋に逃げたのであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「ふー、助かった。 いや、本当に助かったのか…? ……少し横になろう」

 

部屋の扉がノックされた。

部屋の外からは、『和人―、入っていいかな』と言う木綿季の声が聞こえてきた。

俺は起き上がり、木綿季に向かって声を掛けた。

 

「いいぞー」

 

ドアが開き、木綿季が部屋に入って来た。

木綿季の髪は少し濡れていた。

 

「お風呂に入ってきたよ。 あと、歯磨きもすませてきたよ」

 

風呂に入ったから髪が濡れていたのか。

てか、風呂?

俺は時計を見た。

俺が横になってから、約二時間が経過していた。

どうやら、眠ってしまったらしい。

 

「和人もお風呂に入ってきたら?」

 

「おう。 そうするよ」

 

「あっ、お風呂の件は、ボクが無理やりってことにしといたから大丈夫だよ」

 

「おう。 了解した」

 

俺は内心でほっとした。

あのままだったら色々とやばかったしな。

俺は部屋を出て、風呂場に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

風呂から上がり、歯磨きをしてから自分の部屋に向かい、ノックをしてから部屋に入った。

ベットを見やると、木綿季が寝息をたてて眠っていた。

俺は木綿季の横に腰を下ろしから、木綿季の上にタオルケット掛けてあげた。

 

「おやすみ、木綿季」

 

俺は木綿季の隣に横になり、体の上にタオルケットを掛けてから眠りに就いた。

 

 

翌日。

俺は何時もより早く起床した。

だが、状態がヤバかった。

 

「ちょ、これはヤバい」

 

木綿季の顔が目の前にあったのだ。

髪からはいい匂いがする。

ちょと待て、この状況は非常にマズイ。

とりあえず落ち着くんだ、桐ケ谷和人。

ふー、よし、窓を開けて外の空気を吸おう。

俺は木綿季を起こさないように起き上がり、窓を開け、外の空気を吸った。

 

「はぁー、現実世界と仮想世界がこんなに違うとは、これから大丈夫か…マジで」

 

「和人~、おはよ~」

 

木綿季が目を擦りながら、俺の隣までやって来た。

 

「おう。 おはよう木綿季」

 

ヤバい。 木綿季の顔を見たらさっきの光景がフラッシュバックする。

あっ、そういえば、今日の予定を話していなかったな。

 

「朝メシ食べてからお見舞いに行くか」

 

「うん」

 

「じゃあ、行くか」

 

俺は木綿季の手を引き、階段を下りた。

それから台所で食事を摂ってから、自転車(木綿季は俺の後ろ)に乗り、二人が眠る病院へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

埼玉県所沢市 総合病院 最上階 601号室

 

中央に設置されているベットに、紺野藍子が眠っている。

俺と木綿季は、ベットの横に設置されている丸椅子に座り、藍子に声を掛けた。

 

「久しぶりだね、姉ちゃん」

 

「久しぶりだな、藍子」

 

藍子の頭は、ナーブギアによって包まれている。

ナーブギアのインジケータのLEDが三つ、青く輝いている。

ときおり星のように瞬くのは、正常に通信が行われている証。

今この瞬間にも、彼女の魂は何処かの世界に囚われている。

 

「姉ちゃん。 ボクと和人は正式な婚約者になったんだよ」

 

「木綿季のことは絶対幸せにするって誓うよ」

 

背後から扉が開く音が聞こえてきた。

 

「あら、来てたの」

 

俺と木綿季に声を掛けてきた人物は、木綿季と藍子の母親、紺野春香だった。

俺は立ち上がり挨拶をした。

 

「こんにちは、春香さん。お邪魔しています」

 

「あら、お義母さんでもいいのよ」

 

「あ、はい。 お義母さん」

 

「よろしい」

 

春香は立て掛けられていたパイプ椅子を広げ、木綿季の隣に腰を下ろした。

俺もそれに合わせて座り直す。

 

「藍子の意識はどこにあるんでしょうね」

 

と春香さんが呟いた。

 

「「………」」

 

俺と木綿季は答えなかった。

いや、正確には答えられなかった。

 

「ごめんね。暗くなっちゃったわね」

 

「大丈夫ですよ。 お義母さん」

 

「大丈夫だよ。 お母さん」

 

春香は、藍子に話し掛けた。

 

「藍子。 和人君と木綿季は一緒に暮らしだしたのよ。 大丈夫かしら? 和人君と木綿季は」

 

「「ちょ、お(義母)(母)さん」」

 

「藍子も早く王子様を見つけないとね。 木綿季にどんどん追い越されちゃうわよ」

 

「きっと見つかるよ」

 

「だな。 藍子は美人なんだから」

 

あっ、やば、今の発言は。

木綿季がこちらを振り向き、言った。

 

「……和人」

 

「いや、違うぞ。 俺は木綿季のことを愛している」

 

俺はきっぱり言った。

木綿季は俺の言葉を聞き、顔を真っ赤にした。

 

「和人……。 此処には、ボクのお母さんが居るんだよ」

 

「え、だって本当のことだぞ」

 

「和人君には自覚が無いと思うけど、それって結構照れくさい言葉なのよ」

 

と春香さんに言われた。

照れくさい言葉なのか?

よくわからん。

 

「藍子も和人君のような人を見つけなさいよ」

 

俺と木綿季は立ち上がり、春香に声を掛けた。

 

「じゃあ、俺たちはそろそろ」

 

「またね、お母さん」

 

「わかったわ。 またね和人君、木綿季」

 

俺と木綿季は春香と言葉を交わした後、病室から出た。

 

「次は、602号室に行こうか」

 

「うん」

 

602号室、此処の病室には木綿季の親友、結城明日奈が眠っている。

俺は、『結城明日奈 様』と書かれたネームプレートの下のある、一本のスリッドにパスを滑らせる。

微かな電子音と共にドアがスライドする。

俺と木綿季は、病室の中に足を踏み入れた。

中央に設置されているベットには、血盟騎士団副団長《閃光》のアスナが眠っていた。

俺と木綿季は明日奈の隣まで移動し、明日奈を見た。

俺と木綿季は、明日奈に自己紹介をすることにした。

 

「初めまして、俺の名前は桐ケ谷和人だ。 アインクラッドの内部では、キリトと名乗っていた」

 

「初めまして、紺野木綿季です。 アインクラッド内部では、ユウキって名乗っていたよ」

 

俺と木綿季が自己紹介をしていたら、背後でドアが開く音がした。

振り返ると、二人の男が病室に入って来た。

前に立つ恰幅のいい初老の男性が、言った。

 

「君たちは誰かね?」

 

「ご挨拶が遅れました。おr…僕は、桐ケ谷和人と言います」

 

「ボk…私は、紺野木綿季と言います」

 

「ははは、何時も喋り方でいいよ。 こんにちは、私は明日奈の父親、結城彰三だよ」

 

結城彰三と言う名前は聞いたことがある。

確か、総合電子機器メーカー《レクト》の最高経営責任者の名前だ。

 

「君たちは明日奈と、如何いう関係だったのかな?」

 

「俺は親友の友達です」

 

「ボクは明日奈の親友です」

 

「そうだったのか、この子が世話になったね」

 

そう言うと、彰三氏は笑みを浮かべた。

背後に居た男が、俺と木綿季に自己紹介をしてきた。

 

「こんにちは、須郷伸之です」

 

須郷は木綿季の前まで移動し、木綿季に握手を求めた。

だが、俺が須郷と握手をした。

こいつ、木綿季を嫌らしい眼つきで見てきやがった。

俺は少し手に力を入れて、自己紹介をした。

 

「初めまして、桐ケ谷和人です。 よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく」

 

この会話が終わった後、俺と須郷は手を離した。

 

彰三氏が俺と木綿季を一瞥し言ってきた。

 

「そういえば、桐ケ谷君。 そちらのお嬢さんとはどういう関係なんだい?」

 

「えっと、婚約者です」

 

「ほぉー、婚約者が居るのか」

 

俺の言葉を聞いた須郷は、彰三氏に向き直った。

 

「社長、あの件のことなんですが、来月にでも、正式にお話しを決めさせて頂きたいと思います」

 

「――そうか。 しかし、君はいいのかね? まだ若いんだ、新しい人生だって……」

 

「僕の心は昔から決まっています。 明日奈さんが、今の美しい姿でいる間に……ドレスを着せてあげたいのです」

 

「……そうだな。 そろそろ覚悟を決める時期かもしれないな……」

 

何の話をしているんだ?

あの件って何のことだ?

 

「では、私は失礼させてもらうよ。 桐ケ谷君、紺野君、また会おう」

 

一つ頷いてから、彰三氏は大柄な体を翻し、ドアへと向かい病室から出て行った。

後には、俺と木綿季と須郷が残された。

 

「痛かったじゃないか、桐ケ谷君。 手が赤くなっちゃたよ」

 

「木綿季を嫌らしい眼つきで見たからだ」

 

「へぇー、よく見ているね」

 

俺は須郷の本当の顔を見た。

細い眼からは、やや小さい瞳孔が三白眼気味に覗き、口の両端を上げて笑うその表情は、酷薄という以外に表現する言葉を持たない奴であったのだ。

これがこいつの本性か。

木綿季は須郷の本性を見た途端、俺の手を握ってきた。

 

「桐ケ谷君。 さっき私が彰三さんと話していた、話の内容を知りたくないかい」

 

須郷はニヤニヤ笑いながら言った。

 

「……ああ」

 

「僕と明日奈が結婚するという話だよ」

 

この男は何を言っているんだ?

そんなこと出来るはずがないだろう。

 

「出来るはずないだろう。 明日奈の意思確認が必要だ」

 

「確かに、この状況では意思確認が取れないゆえに法的入籍は出来ない。 書類上は僕が結城家の養子に入ることになる。 ……実のところ、この娘は、昔から僕のことを嫌っていてね」

 

須郷は明日奈が眠っているベットの隣まで移動し、左手の人差し指を明日奈の頬に這わせた。

 

「親たちはそれを知らないが、いざ結婚となれば拒絶される可能性が高いと思っていた。 だからね、この状況は僕にとって非常に都合がいい。 当分眠っていて欲しいね」

 

須郷の指が明日奈の唇に近づいていく。

 

「やめてッ!!」

 

俺の手を握っていた木綿季が動き、須郷の手を掴み、明日奈の頬から引き離した。

引き離してすぐに木綿季は、須郷の左手を振り払った。

須郷は左手を擦りながら言った。

 

「痛いじゃないか、お嬢さん」

 

「お前……、明日奈の昏睡状態を利用する気なのか」

 

須郷は再びニヤニヤと笑うと言った。

 

「利用? いいや、正当な権利だよ。 ねぇ桐ケ谷君。 SAOを開発した《アーガス》がその後どうなったか知っているかい?」

 

「……解散したと聞いた」

 

「うん。 開発費に加えて事件の補償で莫大な負債を抱えて、会社は消滅。SAOサーバーの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術研究部門さ。 具体的に言えば、僕の部署だよ――つまり、明日奈の命は今やこの僕が維持していると言っていい。 なら、僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか?」

 

待てよ、藍子の命も須郷が握っているのか……?

そして、明日奈の命も……。

須郷は立ち上がると、一人でぶつぶつ呟いた。

 

「何なんだあの仮想体(アバター)は、僕の邪魔ばかりして。何であんな奴が居るんだ、明日奈だけ捕らえたのに」

 

俺は須郷の言葉を聞き取った。

あの仮想体……?

須郷の邪魔をする……。

ていうことは明日奈を守っている……?

明日奈を知っている人物。

もしかしたら……、ランのことじゃないか……!?

 

須郷はドアを出る前に、俺と木綿季に言ってきた。

 

「式は来月この病院で行う。 君たちも呼んであげるよ。 それじゃあな」

 

と言い須郷は病室から出て行った。

俺は、須郷が居なくなったことを確認してから木綿季に声を掛けた。

 

「木綿季。 もしかして、須郷の邪魔をしている仮想体って」

 

「うん! 姉ちゃんだよ! きっと」

 

「お前も、そう思うか」

 

「うん!」

 

俺と木綿季は明日奈の病室を出てから、受付窓口にパスを返し、駐輪場に止めてある自転車に乗り家へ帰った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

昼過ぎに家に着いた。

木綿季は、俺の部屋に居る。

俺が木綿季に話しかけようとした時、パソコンから電子音が流れた。

メールだ。

俺は椅子に腰を下ろしてから、メールボックスを開いた。

俺は、送信者の名前を見て驚いた。

送信者は――エギルだった。

エギルとは、二十日前に東京で再会した。

その時にメールアドレスを交換しておいたのだが、連絡が来たのはこれが初めてだった。

タイトルは【LooK at this】となっている。

開くと一枚の写真が添付されていた。

これは、鳥籠か……?

誰か居るぞ、白いワンピースを着た女性が一人。 ぼろぼろのワンピースを着た女性が一人。

 

「アスナ…? ラン…?」

 

「どうしたの和人」

 

俺の隣に来た木綿季にも、写真を見てもらった。

 

「アスナ…? 姉ちゃん…?」

 

「木綿季もそう思うか」

 

「うん」

 

俺はデスクの上に置いてあった携帯端末を取ると、電話帳にある一つの連絡先に電話を掛けた。

呼び出し音が耳元で鳴る。

接続音の後、野太いエギルの声が聞こえた。

 

「もしもし」

 

「久しぶり、キリトだけど」

 

「キリトか。 俺が送った写真を見たか」

 

「ああ、見た」

 

「どう思う。ユウキちゃんに確認を取ってみてくれ」

 

「木綿季も確認したよ」

 

「……話がしたい。 店に来れるか?」

 

「了解。 木綿季と一緒に行くよ」

 

俺はそう言うと通話を切った。

 

「木綿季。 出かけるぞ」

 

「どこに?」

 

「着いてからのお楽しみということで」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

エギルが経営する喫茶店兼バーは、ごみごみした裏通りにある。

エギルの経営する店名は≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫。

俺はベル音を響かせてドアを押し開けると、カウンターの向こうでエギルが顔を上げ、ニヤリと笑った。

 

「よぉ、久しぶりだな。 キリト、ユウキちゃん」

 

「おう、久しぶり。 ……相変わらず不景気な店だな。よく二年も潰れずに残ってたもんだ」

 

「うるせぇ、これでも夜は繁盛しているんだ」

 

まるであの世界に戻ったような、気安いやり取りを交わす。

交わした直後、頭が優しく叩かれた。

 

「こらっ和人。 そんなこと言わないの」

 

「ごめん」

 

エギルに連絡したのは、先月の末だった。

総務省の役人から、思いつく限りの知り合いの本名と住所のリストを入手したのだ。

エギルやクライン、ニシダにシリカ、リズベットと。

だが、木綿季のリストだけが入手出来なかった。

その後、エギルが経営している店を訪ねた、というわけだ。

エギルの本名は、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。

 

エギルは、俺を見てニヤニヤ笑い言った。

 

「キリトよ。 お前、尻に敷かれてんのな」

 

「そんなことないよね~、和人」

 

「……おう」

 

「まぁ、キリトにユウキちゃん。 取り敢えず座りな」

 

俺と木綿季はカウンターまで移動し、革張りのスツールに腰を下ろした。

 

「で、あれはどういうことなんだ」

 

俺は写真の事をエギルに聞いた。

エギルはすぐには答えず、カウンターの下に手をやり、長方形のパッケージを取り出すと俺と木綿季の方に滑らせた。

俺が指先で受け止める。

これはゲームソフトか?

俺はプラットフォームを確認する。

《AmuSphere》なるロゴだ。

 

「聞いたことのないハードだな……」

 

「《アミュスフィア》。 オレたちが向こう側にいる間に発売されたんだ。 ナーヴギアの後継機だよ、そいつは」

 

とエギルが教えてくれた。

イラストの下部には、凝ったタイトルロゴがあった《ALfheim Online》。

 

「アルフ……ヘイム・オンライン? ……どういう意味だ」

 

「アルヴヘイム、と発音するらしい。妖精の国、って意味だとさ」

 

「妖精。 まったり系のMMOなの」

 

「それが、そうでもなさそうだぜ。 どスキル制。プレイヤースキル重視。 PK推奨。それに《レベル》が存在しない。 各種スキルが反復使用で上昇するだけで、育ってもヒットポイントは大して上がらないそうだ。 戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、剣技(ソードスキル)なし、魔法ありのSAOってとこだな」

 

「よく売れたな。 こんなマニア向けの仕様なのに」

 

と俺が言うと、エギルは口元に笑みを浮かべた。

 

「今は大人気なんだと。理由は、《飛べる》かららしい」

 

「「飛べる?」」

 

「妖精だから羽根がある。 フライト・エンジンとやらを搭載してて、慣れるとコントローラ無しで自由に飛び回れる」

 

「このゲームの事はだいたい解った。 あの写真はなんだ」

 

「エギルさん。 早く教えて!!」

 

エギルは再びカウンターの下から一枚の紙を取り出し、俺と木綿季の前に置いた。

俺と木綿李は、プリントを凝視してから言った。

 

「やっぱり、間違いない。 この二人はアスナとランだ」

 

「うん。 この二人は姉ちゃんとアスナだよ」

 

「……やっぱりそうか。 キリトとユウキちゃんが言うならそうなんだろうな」

 

「ねぇ、エギルさん。 ここはどこなの?」

 

木綿季がエギルに聞いた。

 

「その中だよ。 アルヴヘイム・オンラインの」

 

エギルはカウンターの上に置いてあるパッケージを取ると、裏返して大樹のイラストを指でこつんと叩いた。

 

「世界樹、と言うんだとさ。プレイヤーの当面の目標は、この樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着することなんだそうだ」

 

「飛んでいけばいいじゃないか」

 

木綿季も首を縦に振っている。

 

「なんでも滞空時間ってのがあって、無限に飛べないらしい。 この樹の一番下の枝にも辿り着けない。 でもどこにも馬鹿なことを考えるやつがいるもんで、体格順に五人が肩車して、多段ロケット形式で木の枝を目指した」

 

「ははは、なるほどね。 馬鹿だけど頭いいな」

 

「うむ。 目論見は成功して、枝にかなり肉薄した。 ぎりぎりで到着出来なかったそうだが、五人目が到着高度の証拠にしようと写真を何枚も撮った。 その一枚に、奇妙なものが写り込んでいたらしい。 そいつをぎりぎりまで引き伸ばしたのが、この写真ってわけだ」

 

俺はパッケージを取り、もう一度眺めた。

パッケージの下部に視線を移す。

メーカー名は《レクト・プログレス》とあった。

俺と木綿季は、その名前を凝視した。

 

「おい、どうしたキリト、ユウキちゃん? そんなにこええ顔して」

 

「「いや、なんでもない(よ)」」

 

俺と木綿季は顔を見合わせ、頷いた。

 

「エギル――このソフト、貰っていいか」

 

「エギルさん――このソフトもう一つないかな?」

 

「お前らならそう言うと思ったよ」

 

エギルは、木綿季にもう一つ用意してあったソフトを渡した。

 

「死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ。 ……ゲーム機を買わなくちゃな」

 

「ナーブギアでも動くぞ。アミュスフィアは、単なるアレのセキュリティ強化版でしかないからな」

 

「そりゃあ助かる」

 

「だね」

 

「じゃあ、俺たちは帰るな。 また情報があったら頼む」

 

「情報代はツケといてやる。――二人を助け出せよ」

 

「ああ、いつかここでオフをやろう」

 

「ここでオフをやろうね」

 

俺と木綿季とエギルは拳を打ち付け合うと、俺と木綿季は振り向いてドアを押し開け、店を後にした。

 




今回はゲ須郷を出しましたー。

ランちゃんと、アスナさんも出しましたよ(眠っていたが)

う~ん、メインが和人君と木綿季ちゃんになっちゃうんだよな。

なんかすまん。

この小説のキリト君は落ちついているよな~。

お風呂の設定は、SAO内であったということにしといてください。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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ALO編
第51話≪妖精の世界≫


ども!!

舞翼です!!

ALOの本編が始まりましたね。

後、少しだけ間が空いたね。

すまんな。

あんまり間を開けないように頑張るよ。

それでは、どうぞ。


部屋に戻った俺と木綿季は、先程エギルから受け取ったゲームパッケージ、《アルヴヘイム・オンライン》をバックの中から取り出した。

 

「この中に二人が居るんだよね」

 

「ああ、そのはずだ」

 

俺は本棚の下に置いてあったナーヴギアを手にした。

実は、木綿季のナーヴギアも此処にある。

木綿季は、ゲームパッケージに入っていた説明書を見ながら聞いてきた。

 

「和人は、何の種族にするの?」

 

新規プレイヤーは九つの種族の内、どれか一つを選択しなければいけないらしい。

 

「……解っているくせに」

 

「まぁね~」

 

と言い、木綿季は『ははは』と笑っていた。

俺はナーブギアに電源を入れ、スロットにカードを挿入する。

ベットに横たわり、ナーヴギアを頭に装着した。

 

「じゃあ、俺は先に行っているな」

 

「うん。 わかった」

 

「ダイブする時、俺の隣を使っていいからな」

 

「了解―」

 

俺は目を閉じ、妖精の世界にダイブする言葉を言った。

 

「リンク・スタート」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

今俺が居る場所は、暗闇に包まれたアカウント情報登録ステージだ。

頭上にはアルヴヘイム・オンラインのロゴが描き出され、同時に柔らかい女性のウェルカムメッセージが響き渡る。

 

俺は合成音声の案内に従って、アカウント及びキャラクターの作成を開始した。

新規IDとパスワード、キャラクターネームを入力し、次に種族を選択する。

妖精の種族によって、得手不得手があるらしい。

 

俺は、黒を基調とした《スプリガン》という種族を選択した。

初期設定が終了し、幸運を祈ります、と人口音声に送られて、光の渦に包まれた。

説明だと、それぞれの種族のホームタウンからゲームがスタートするらしい。

床の感触が消え、落下感覚が俺を襲う。

だが落下している途中で、あちこちでポリゴンが欠け、世界が溶け崩れていく。

 

「な――なんだ!?」

 

俺は再び落下状態に陥った。

広い暗闇の中を、果てしなく落ち続けていく。

 

「どうなっているんだぁぁぁぁぁ!?」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「フムグ!!」

 

途方もない落下の末、俺は何処ともしれぬ場所に墜落した。

声がくぐもって響いたのは、最初に地面に接したのが足では無く顔面だったからだ。

深い草むらに顔を突っ込んだ姿勢で数秒間静止した後、ゆっくり背中から仰向けに倒れる。

 

夜だ。 深い森の中。

 

虫の鳴き声や遠く響く獣の遠吠え、鼻腔をくすぐる植物の香り。

SAOと何ら遜色ないように思える。

 

「あっ、そういえば木綿季って何の種族を選んだんだ」

 

種族が判らないと合流が出来ないぞ。

と、その時。

上空から声がした。

 

「どいてくださ―――い」

 

人影は、俺に向かってどんどん迫ってくる。

ヤバい……、 避けられない……。

……こうなったら受け止めるしかない。

数秒後。

凄まじい衝撃音が深い森の中に響いた。

周りは、凄まじい砂埃が舞っている。

 

「痛ててててて」

 

「ごめんなさい!」

 

声と雰囲気が木綿季に似ているな。

一か八か聞いてみよう。

 

「あの~、すいませ~ん」

 

俺が言うと、胸の中に飛び込んで来たプレイヤーが顔を覗かせた。

女性プレイヤーだ。

 

「貴方の名前って木綿季かな?」

 

「え、なんでボクを知っているの? ……和人なの?」

 

「おう、和人だ。 この世界ではキリトだけどな」

 

SAOのように顔が瓜二つまでいかないが、木綿季の面影が微かに残っている。

醸し出す雰囲気は木綿季ものであった。

俺は木綿季の背中を左手でポンポンと優しく叩いた。

木綿季が顔を少し赤くして言ってきた。

 

「……和人、ボクの胸を掴んでいるよ」

 

と木綿季に言われ、俺は右手を確認した。

俺の右手が、木綿季の胸を鷲掴みしていたのだ。

 

「うわッ」

 

俺は、すぐに木綿季の胸から手を離した。

 

「ごめん……。 木綿季」

 

「怒ってないから大丈夫だよ。 ……それに、和人が触りたかったら……いつでも触らせてあげるよ。 …… 現実世界でも、ね」

 

いや、木綿季さん。

顔をもっと赤くして言われても……。

それに、そういう機会はないはずだ……、 たぶん……。

 

「そっそうか……。取り敢えず、合流できてよかったな」

 

「……うん。 結構すごい合流しかただったけどね」

 

俺の上から退いてもらわないと。

 

「とっ取り敢えず、起き上がろうか」

 

「うん」

 

俺と木綿季は起き上がり、周りを見回す。

 

「で、何でこんな森の中にログインしたんだ?」

 

「う~ん、わかんない。 この場所、ホームタウンじゃないよね」

 

「おい、まさか……。 まさかね……」

 

先程のオブジェクト表示異常、謎の空間移動、そして今の場所。

俺は片頬を引き攣らせながら、右手を上げ、揃えた人差し指と中指を振り、ウインドウを呼び出す。 が、何も起こらない。

 

「ウインドウを呼び出すには、左手の指を振るんだよ」

 

と木綿季に言われ、俺はさっきのチュートリアルで言っていたことを思い出した。

メニューの呼び出しと飛行コントローラ操作は左手と言っていたな。

俺は、左手の指を振った。

今度は、聞きなれた効果音と共にメニューウインドウが開いた。

右に並ぶメニューを食い入るように見つめる。

 

「あ、あった……」

 

一番下に、《Log Out》と表示されたボタンが光っていた。

俺は、木綿季見て言った。

 

「木綿季は、何の種族にしたんだ?」

 

「ん、ボクは《インプ》にしたよ。 てか、やっぱり和人は《スプリガン》にしたんだね」

 

「種族には興味が無かったからな。 黒を基調としたスプリガンにしたよ」

 

「ボクの予想通りだね」

 

「そうだな。 ダイブする前から予想していたからな」

 

と、木綿季と会話を交わした後、再びウインドウに目を落とす。

 

「「うあ……」」

 

「もしかして和人も」

 

「ああ……」

 

俺と木綿季を驚かせたのは、スキル欄だった。

並んでいるのは、《片手剣》やら《体術》、《武器防御》といった戦闘系スキルから《釣り》のような生活系スキルが表示されていたからだ。

殆んどが九〇〇台で、中には一〇〇〇に達してマスター表示させているものまである。

 

「ん、ちょっと待てよ」

 

このスキルデータには見覚えがある。

片手剣一〇〇〇……体術九九一……釣り六四三……。

《二刀流》を始め幾つか欠損しているが、これはSAOでの《黒の剣士》キリトのものだ。

待てよ、《あれ》もあるはずだ。

アイテム欄も凄くなっていた。 謎の漢字、数字、アルファベット。

俺は、高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、ウインドウをスクロールさせる。

その中で、《あれ》を見つけた。

 

「あった!」

 

「ん、何が?」

 

木綿季が俺に聞いてきた。

 

「これだよ」

 

俺は木綿季に、《MHCP001》と表示された文字を見せる。

 

「それって」

 

「ああ」

 

俺はその名前に触れた。

すると、無色透明のクリスタルが展開された。

神様、お願いします――。

と念じながら、俺は人差し指の先でそっとクリスタルを二度叩いた。

すると、俺と木綿季の目の前で純白の光が爆散した。

光からは、四方にたなびく長い黒髪。 純白のワンピース。 すらりと伸びた手足。

瞼を閉じ、両手を胸の前で組み合わせた一人の少女が輝きを纏いながら、俺と木綿季の目の前に舞い降りてきた。

やがて、両目が静かに開かれる。

 

「俺だよ……ユイ。 解るか……?」

 

「ボクのことも解る……?」

 

俺と木綿季は、あの世界と異なる姿だ。

だが、心配は杞憂だった。

ユイの唇がゆっくり動き、懐かしい鈴のような声が響いた。

 

「また、会えましたね、パパ、ママ」

 

大粒の涙を流しながら、ユイは俺の胸の中に飛び込んで来た。

 

「パパ……パパ!!」

 

「久しぶりだね。 ユイちゃん」

 

と木綿季が言い、ユイの頭をくしゃくしゃと撫でてあげた。

 

「また会えて嬉しいです!! ママ!!」

 

「ボクもだよ。 ユイちゃん」

 

ユイ。 今は無きSAOの世界で出会い、数日だけ一緒に暮らし、そして消えてしまった少女。

あの日々は、俺の中でかけがえのない記憶として焼きついている。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「で、こりゃ一体どういうことなんだろ?」

 

「だよね~」

 

森の中、近くにあった切り株を見つけて腰を掛けた俺と木綿季は、俺の膝の上に座っているユイに訊ねた。

 

「…………?」

 

俺の胸に頬をすり寄せて笑みを浮かべていたユイは、きょとんとした顔で見上げた。

 

「いや、ここはSAOの中じゃないんだよ実は……」

 

「うん。 アルヴヘイム・オンラインっていうゲームの中なの」

 

ユイが消滅してからの経緯を掻い摘んで説明する。

サーバーから消去されようとしていたユイを、データの一部として保存したこと。

ゲームクリアとアインクラッドの消滅。

この世界に存在する俺と木綿季のSAOのデータのこと。

 

「ちょっと待ってくださいね」

 

ユイは目を瞑ると、耳を澄ますかのように首を傾けた。

 

「ここは――」

 

ぱちりと目を開け、俺と木綿季を見る。

 

「この世界は、《ソードアート・オンライン》サーバーのコピーだと思われます」

 

「「コピー……?」」

 

「はい。 基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一です。 わたしがこの姿を再現出来ていることからも、それは明らかです。 ただカーディナル・システムバージョンが少し古いですね。 その上に載っているゲームコンポ―ネントはまったくの別個のものですが……」

 

「じゃあ、何でボク達の個人データがここにあったの……?」

 

「ちょっとパパとママのデータを覗かせてくださいね」

 

ユイは再び目を閉じた。

 

「……間違いないですね。 これはSAOでパパとママが使用していたキャラクター・データそのものです。 セーブデータのフォーマットがほぼ同じなので、二つのゲームに共通するスキルの熟練度を上書きしたのでしょう。 ヒットポイントとマナポイントは別形式なので引き継がれなかったようです。 所持アイテムは…破損してしまっているようですね。 このままではエラー検出プログラムに引っかかると思います。 アイテムは全て破棄したほうがいいです」

 

俺と木綿季は、文字化けしているアイテムを全て選択した。

この中には、思い出の詰まった品が幾つもあるはずだが、今は感傷を捨てて動かなければならない。

それに、どうせもう名前も解らず、オブジェクト化も出来ないのだ。

選択したアイテムをデリートすると、残ったのは正規の初期装備品だけとなった。

 

「このスキル熟練度はどうしたもんだろう」

 

「システム的には問題ありません。 プレイ時間と比較すれば不自然ではありますが、人間のGMが直接確認しない限り大丈夫でしょう」

 

「そ、そうなんだ。 ボクのデータは最早チートだよ……」

 

「こりゃもうビーターというよりチーターだよな……」

 

だがまぁ、キャラクターが強力であるに越した事はない。

これから世界樹とやらに登り、アスナとランを探し出さねばならないのだ。

俺はウインドウを閉じ、ユイに聞いた。

 

「そう言えば、ユイはこの世界でどういう扱いになっているんだ……?」

 

「ボクも気になる」

 

「えーと、このアルヴヘイム・オンラインにも、プレイヤーサポート用の疑似人格プログラムが用意されているようですね。 《ナビゲーション・ピクシー》という名称ですが……わたしはそこに分類されます」

 

直後、ユイの体がぱっと発光してから、消滅してしまった。

 

「「ユイ(ちゃん)!!」」

 

俺と木綿季は、慌てた声を上げる。

立ち上がろうとした俺だが、膝の上に可愛らしい小さなモノが、ちょこん乗っているのに気付いた。

身長は十センチほど、ライトマゼンダの花びらを象ったミニのワンピースから細い手足が伸びている。背中には半透明の羽根が二枚。

まさに妖精の姿だ。

愛くるしい顔と黒髪は、サイズこそ違うがユイのままである。

 

「これがピクシーとしての姿です」

 

ユイは俺の膝の上で立ち上がると、両腰に手を当てて翅をぴこぴこと動かした。

 

「「おお……」」

 

俺と木綿季は、ユイのほっぺたを突いた。

 

「くすぐったいですー」

 

ユイは、笑いながら俺と木綿季の指から逃れ、羽根を羽ばたかせ空中に浮き上がった。

そのまま俺の肩に乗る。

 

「ユイちゃん。 なら、前と同じように管理者権限もあるの?」

 

木綿季がユイに訊ねた。

 

「いえ……」

 

少ししゅんとした声。

 

「できるのは、リファレンスと広域マップデータへのアクセスくらいです。 接触したプレイヤーのスターテスなら確認できますが、主にデータベースには入れないようです……」

 

「そうなんだ……」

 

「ユイ……実はな……」

 

俺は表情を改め、本題を切り出した。

 

「ここに、ねぇねぇと……ママの友達がいるらしいんだ」

 

ユイは俺の肩から飛び上がり、俺と木綿季の顔の前で停止した。

 

「どういうことですか……?」

 

木綿季が口を開いた。

 

「えっとね……。 ねぇねぇとママのお友達は、SAOが消滅しても現実世界に復帰していないの。 この世界で、似た人を見たという情報を貰ってここにきたんだ」

 

「……そんなことが……。 ごめんなさいパパ、ママ。 わたしに権限があればプレイヤーデータを走査してすぐに見つけられるのに……」

 

俺が口を開いた。

 

「いや、大体の居場所の見当は付いているんだ。 世界樹……といったかな。場所判るかい?」

 

「あっ、はい。 ええと、ここからは大体北東の方向ですね。 でも相当遠いです。 リアル距離置換で五十キロメートルはあります」

 

「「うわ……遠い(な)(ね)……」」

 

「そういえば、何で森の中にログインしたのかな?」

 

木綿季が、俺も疑問に思っている問いをユイに訊ねた。

ユイは首を傾げた。

 

「さぁ……位置情報が破損したのか、あるいは近傍の経路からダイブしているプレイヤーと混信したのか、何とも言えません」

 

「どうせなら、世界樹の近くに落ちてくれればよかったのにな」

 

「だねー」

 

「そういえばここでは飛べるって聞いたなぁ……」

 

「試してみようよ」

 

俺と木綿季は立ち上がった。

 

「おお、羽根がある」

 

俺と木綿季の背中からは、黒く透き通る鋭い妖精の羽根が伸びている。

 

「どうやって飛ぶんだろ」

 

「感覚?」

 

マジですか、木綿季さん。

 

「補助コントローラがあるみたいです。 左手を立てて、握るような形を作ってみてください」

 

俺は、再び肩に乗ったユイの言葉に従って、手を動かした。

すると手の中に、スティック状のオブジェクトが出現した。

 

「えと、手前に引くと上昇、押し倒すと下降、左右で旋回、ボタン押し込みで加速、離すと減速となっていますね」

 

「あっ、できたよ」

 

俺は木綿季を見た。

木綿季は、すでに随意飛行を可能にしていた。

マジか……。

俺は、ユイの指示通りスティックを使ってみた。

 

「おっ、飛んでいるぞ」

 

上昇、下降、旋回、加速、減速、を一通り試した。

 

「なるほど、大体わかった」

 

木綿季は羽根を羽ばたかせながら、俺の隣までやって来た。

 

「ボクは完璧かな」

 

「とりあえず、近くの街に行こうぜ」

 

「西のほうに《スイルベーン》という街がありますね。 そこが一番……、あっ……」

 

突然ユイが顔を上げた。

 

「どうしたの、ユイちゃん?」

 

「はい、ママ。 プレイヤーが近づいています。 三人が一人を追っているようですが……」

 

「おお、戦闘中かな。 見に行こうぜ」

 

「あいかわらずパパはのんきですねぇ」

 

「まぁ、それがパパだからねぇ」

 

ユイと木綿季に溜息をつかれた。

俺はウインドウを操作して初期アイテムの片手用直剣を背中に装備した。 抜いて、数回左右に振ってみる。

 

「うわぁ、なんかちゃっちい剣だな。 軽いし……まぁいっか……」

 

鞘に剣の刀身を収めた。

 

「だね」

 

木綿季も腰に装備した片手用直剣を抜いて、言っていた。

木綿季も数回左右に振った後、片手剣の刀身を腰に装備している鞘に収めた。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「おう。ユイ、先導頼む」

 

「了解です」

 

飛び立ったユイを追って、俺と木綿季は空中移動を開始した。

 




鳥籠の内部、何時書こうかな……。

まぁ、一応考えましたよ。
あと、呼び方は、次回変わりますね。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第52話≪火妖精族と風妖精族≫

ども!!

舞翼です!!

今回は早く書きあげられたのかな?

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


Side リーファ

 

私は今、サラマンダーの部隊に追われている。

逃亡を図りながら風属性の防御魔法を張っておいたお陰でHPバーには余裕があるものの、シルフ領はまだまだ遠い。

その上、滞空制限時間ときた。

 

「くっ」

 

樹海へ逃げ込む為、急角度のダイブ。

私は樹海の木に隠れ、スペルを唱え、薄緑色の膜で体を隠した。

これで敵の視界からはガードされる。

 

「このへんにいるはずだ! 探せ!!」

 

「いや、シルフは隠れるのが上手いからな。 魔法を使おう」

 

すると、サラマンダーの男が詠唱を始めた。

この詠唱は……火属性の看破魔法だ。

この魔法は、数十匹のコウモリのサーチャーを放ち、隠形中のプレイヤーまたはモンスターに接触すると燃え上がり居場所を教える魔法だ。

一匹のコウモリが、私の体を覆っている薄緑色の膜に接触した。

コウモリが甲高い鳴き声を上げて燃え上がり、居場所を知らせる。

 

「いたぞ、あそこだ!!」

 

「くっ」

 

私は木の陰から飛び出し、放剣して構える。

サラマンダーも立ち止まりランスを向けてくる。

 

梃摺(てこず)らせてくれるじゃねーの」

 

一人のサラマンダーが興奮を隠しくれない様子で言った。

中央に立つリーダー格が言葉を続ける。

 

「悪いがこっちも任務だからな。 金とアイテムを置いていけば見逃す」

 

「なんだよ、殺そうぜ!! オンナ相手超ひさびさじゃん」

 

《女性プレイヤー狩り》

VRMMOで、女性プレイヤーを殺すのはネットゲームにおける最高の快楽とうそぶく連中。

正常に運営されているALOですらこうである。

 

いまや伝説となった《あのゲーム》の内部はさぞ……と思うと背筋が寒くなる。

 

私はおとなしく殺される気はない。

私は、愛剣のツーハンドブレードを大上段に構え、サラマンダーを睨んだ。

 

「あと一人は絶対に道連れにするわ。 デスペナルティの惜しくない人からかかってきなさい」

 

「諦めろ、もう翅が限界だろう。 こっちはまだ飛べるぞ」

 

確かに、飛行する敵に地上で襲われるのは絶対的に不利なポジションだ。

それに三対一なら尚更だ。

だけど、お金を渡して命乞いなんてもってのほかだ。

 

「気の強い子だな。 仕方がない」

 

リーダー格が肩を竦め、ランスを構え、翅を鳴らして浮き上がった。

それに倣って、二人のサラマンダーも続く。

敵が三方から私を取り囲み――今まさに突撃しようという、その時だった。

突然後ろの草むらが揺れ、人影が二つ飛び出でてきた。

一人は、派手な音を立てて草の中に墜落していた。

予想外のことに、私とサラマンダーの動きが止まり、草むらを凝視した。

 

Side out

 

 

俺は盛大な音を立てて草むらの中に墜落した。

 

「うう、いてて……。 着地がミソだなこれは……」

 

言うと、隣に着地した木綿季に言われた。

 

「大丈夫」

 

「……おう」

 

「で、助けるんでしょ」

 

さすが木綿季。 俺がやろうとした事を即座に理解するとは、俺は起き上がり言った。

 

「だな。 女の子を助けよう」

 

「了解したよ」

 

 

Side リーファ

 

緊張感のない声で話しているプレイヤーは、つんつんと尖った髪型、やや吊り上った大きな眼、どことなくやんちゃな少年と言った男性プレイヤーだ。

もう一人は、黒く長い髪、漆黒の大きな目、とても活発そうな女性プレイヤーだった。

二人の背から伸びる、黒く透き通る鋭い羽根は、闇妖精族(インプ)影妖精族(スプリガン)のものだ。

インプとスプリガンがなんでこんな中立域の奥深くに居るの??

それにどう見ても初期装備のままだ。

二人とも簡素な胴着(ダブレット)にズボンのみでアーマーの類はなく、武器は貧弱な片手用直剣一本だけ。

 

「何しているの! 早く逃げて!!」

 

だが、二人は動じる気配もない。

インプの少女は、少年の肩に寄り添っている。

スプリガンの少年が私と上空のサラマンダーたちを見渡し、声を発した。

 

「重戦士三人で女の子一人を襲うのはちょっとカッコよくないなぁ」

 

「なんだとテメェ!!」

 

三人のサラマンダーの内一人が声を上げ、二人のサラマンダーが空中を移動して少年の前後で止まり、ランスを構え、突進の姿勢を取る。

 

「くっ……」

 

助けに入ろうにも、リーダー格の男がこちらを牽制しているため、うかつに動けない。

 

初心者(ニューピー)二人がノコノコ出てきやがって馬鹿じゃねぇのか。 その内の一人は女じゃねぇかよ。 お望みどおり狩ってやるよ!」

 

とその時、少年から殺気が放たれた。

 

「ボクは大丈夫だよ」

 

と少女が言った直後、少年の殺気が霧散した。

 

「ああ、そうだな。――さてと、さっさとかかってきな」

 

「やろうッ!!」

 

少年の前方を陣取ったサラマンダーが、音高くバイザーを降ろした。

直後、大きく翅を広げて突撃を開始する。

後方の一人は、少年と少女が回避した所を仕留めるべく時間差で襲いかかるつもりらしい。

前方のサラマンダーのランスが当たる――その寸前。

――信じられないことが起こった。

サラマンダーの必殺の威力をはらんだランスの先端を掴んだのだ。

ガードエフェクトの光と音が空気を震わせる。

 

「よっと」

 

少年はサラマンダーの勢いを利用して、掴んだランスごと背後に居るサラマンダーに目掛けて放り投げた。

 

「わぁぁぁぁぁ」

 

悲鳴を上げながら吹っ飛んだサラマンダーが、背後に待機していた仲間と衝突し、両者は絡まったまま地面に墜落した。

金属音が重なって響く。

 

「ええと……あの人たち、斬ってもいいのかな?」

 

と少年が私に聞いてきた。

 

「……そりゃいいんじゃないかしら……。 少なくても先方はそのつもりだと思うけど……」

 

と私は呆然と答える。

 

「ボクも斬りたいな」

 

「じゃあ、俺は左を」

 

「ボクは右だね」

 

少年と少女は剣を抜き、消えた。

衝撃音と共にサラマンダーが小さな炎に包まれた。

少年と少女は、遥か離れた場所に停止していた。

 

――速すぎる!!

 

この世界でキャラクターの運動速度を決定しているものは唯一つ、フルダイブシステムの電子に対する反応速度である。

私とサラマンダーのリーダーが唖然とした。

二人のサラマンダーのHPバーは、全快状態でこそなかったものの、まだ半分は残っていた。

それを一撃で吹き消すとは尋常じゃない。

ALOにおいて、攻撃ダメージの計算はそれほど複雑なものではない。

武器自体の威力、ヒット位置、攻撃スピード、被ダメージ側の装甲、それだけだ。

それに対してサラマンダーの装甲はかなりの高レベルだったはず、つまりそれをあっさり覆すほど少年と少女の攻撃精度と、何よりスピードが驚異的だったというわけだ。

 

「どうする? あんたも戦う?」

 

「うん。 おじさんも戦う?」

 

その、あまりにも緊張感のない少年と少女の言葉に、我に返ったサラマンダーが苦笑した。

 

「いや、勝てないな、やめておくよ。 アイテムを置いていけというなら従う。 もうちょっとで魔法スキルが九〇〇なんだ、死亡罰則(デスペナ)が惜しい」

 

「正直な人だな」

 

「そうだねー」

 

少女が私に聞いてきた。

 

「そっちのお姉さんはどうするの? 彼と戦いたいなら邪魔はしないけど」

 

「あたしもいいわ。 今度はきっちり勝つわよ、サラマンダーさん」

 

「正直君ともタイマンで勝てる気はしないけどな」

 

言うと、翅を広げ、燐光を残して飛び立った。

あとには私と少年と少女、二つの赤いリメインライトだけが残された。

それらも一分が経過すると共にふっと消えた。

 

「……で、あたしはどうすればいいのかしら。 お礼を言えばいいの? 逃げればいいの? それとも戦う?」

 

少年は右手に握っている剣を左右に切り払うと、背中の鞘に音を立てて収めた。

 

「うーん、俺的には正義の騎士が悪漢からお姫様を助けた、っていう場面なんだけだな」

 

片頬でニヤリと笑う。

 

「感動したお姫様が涙ながらに抱きついてくる的な……」

 

「ば、バッカじゃないの!!」

 

私は思わず叫んでいた。顔がかあっと熱くなる。

 

「ははは、冗談冗談」

 

と、その時。

少女が少年から数歩下がり、片手剣の刀身を向けていた。

黒いオーラを出して……。

 

「冗談だってッ…冗談だから!…」

 

「……浮気はダメだよ」

 

「大丈夫だ。 俺が愛しているのは木綿季だけだ」

 

「もう、和人は。 平気でそういうこと言うんだから」

 

と言い、少女は黒いオーラを収め、片手剣の刀身を腰に装備している鞘に収めた。

 

「パパ、浮気はダメですよ!!」

 

「あっ、こら、出てくるなって」

 

少年の胸ポケットから小さな、何やら光るものが飛び出してきた。

 

「パパにくっついていいのはママとねぇねぇとわたしだけです!!」

 

「ぱ、ぱぱぁ!?」

 

私は警戒を忘れ、声の発生源をまじまじと見つめた。

小さな妖精だ。

てか、さっき和人って、木綿季とも言っていたし。

確認してみようかな。

 

「ねぇ、確認したいことがあるんだけど……?」

 

少年と少女は首を傾げた。

 

「スプリガンの男の子って、お兄ちゃん? さっきインプの女の子が和人って言っていたから」

 

「……お兄ちゃん?……もしかして……スグか?」

 

「うん。 妹の桐ケ谷直葉だよ。 ってことは、インプの女の子は木綿季ちゃん?」

 

「うん、そうだよ。 スグちゃん」

 

「そうなんだ! てか、なんでこんなところに居るの?」

 

「う~ん、ログインした場所が深い森の中だったんだよ」

 

とお兄ちゃんが言った。

小さな妖精がお兄ちゃんの肩に乗ってきた。

 

「パパの妹さんでしたか」

 

「そうそう、お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 パパとママとねぇねぇってどういうことなの?」

 

私はすご~く気になる疑問を、お兄ちゃんと木綿季ちゃんにぶつけた。

 

「えーと、ユイちゃんはボクと和人の子供かな。 あと、ユイちゃんにはお姉さんがいるよ」

 

「そっそうなんだ」

 

「「おう(うん)」」

 

ん~、どう言うことなのかな……?

 

Side out

 

俺と木綿季とスグとユイは、改めて自己紹介をした。

 

「お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 これからどうするの?」

 

「装備を整えたいかな」

 

確かに、この武装じゃ心もとないからな。

 

「そうだな」

 

「じゃあ、遠いけど北の方に中立の村があるから、そこまで飛ぼうか?」

 

「あれ、スイルベーンって街のほうが近いんじゃあ?」

 

あれ、スグに呆れられたぞ。

何でだ……?

 

「そうだけど……お兄ちゃん、あそこはシルフ領だよ」

 

「何か問題あるのか?」

 

あっけからんとした俺の言葉にスグが絶句した。

 

「……問題っていうか……街の圏内じゃお兄ちゃんと木綿季ちゃんはシルフに攻撃できないけど、逆はアリなんだよ」

 

「そうなんだ。 でも、デュエルを申し込めばボク達も攻撃できるよ」

 

お、ナイスアイディアだな。

さすが木綿季。

 

「……木綿季ちゃん。 すごいこと考えるね」

 

「まぁね~」

 

「でも、別にみんなが即襲ってくるわけじゃないんだろう? スグもいるし」

 

「ボクはシルフの国を見てみたいなぁ~」

 

「命の保証までできないからね。 あ、あとここではリーファでお願いね」

 

「おう。じゃあ、俺のことはキリトって呼んでくれ」

 

「ボクはユウキで」

 

「じゃあ、スイルベーンまで飛ぼうか?」

 

リーファは、透き通る緑色の翅を広げて軽く震わせた。

 

「あれ、ス……リーファは補助コントローラなしで飛べるの?」

 

「あ、まぁね。 お……キリト君は?」

 

「ちょっと前にこいつの使い方を知った所だからなぁ」

 

俺は左手を動かす仕草をする。

 

「ユウキちゃんは?」

 

「ん、ボクは完璧だよ」

 

ユウキは感覚でほぼ出来ていたからなぁ~。

 

「ユウキちゃんはOKね。 キリト君、コントローラを出さずに、後ろを向いてみて」

 

「あ、ああ」

 

リーファはくるりと体を半回転させた、俺の背中の肩甲骨の少し上に手を添える。

肩に座ったユイが興味津々といった風に見ている。

隣に居るユウキも同様だ。

 

「今触っているの、わかる」

 

「うん」

 

「ここのところから、仮想の骨と筋肉が伸びていると想定して、それを動かすの」

 

「仮想の骨と……筋肉……」

 

すると、俺の肩甲骨辺りから伸びる灰色の翅がぴくぴくと動き、小刻みに震える。

 

「おっ、そうよ、そんな感じ。 今の動きをもう一度、もっと強く!」

 

「むむむ……」

 

俺は唸りながら両腕を引き絞った。

先程より強く翅が振動し始めた。

と、その時。

リーファに背中をどんっ、と思い切り押し上げられた。

 

「うわ!?」

 

俺はロケットのように真上に飛び出した。

 

「うわあああぁぁぁぁ!?」

 

俺の体はあっという間に上空に消えていった。

リーファとユウキとユイは顔を見合わせた。

 

「やばっ」

 

「あっ」

 

「パパー!!」

 

三人は同時に飛び立ち、後を追う。

ぐるりと夜空を見渡すと、スプリガンの少年が右へ左へとふらふら移動する姿を見つけた。

 

「わあああああぁぁぁぁぁ………止めてくれえええええぇぇぇぇぇ!!」

 

再びリーファとユウキとユイは顔を見合わせ、同時に吹き出した。

 

「「あはははは」」

 

「ご、ごめんなさいパパ、面白いです~~」

 

並んで空中にホバリングしたまま、リーファとユウキとユイは、お腹を抱えて笑う。

すると、ユウキが俺の襟首を捕まえて停止させてくれた。

 

「ありがとう。 ユウキ」

 

「どういたしまして」

 

十分ほどのレクチャーで如何にか自由に飛べるようになったな。

 

「おお……これは……これはいいな!」

 

俺は、旋回やループを繰り返しながら大声で叫んだ。

 

「そーでしょ!……それじゃあ、このままスイルベーンまで飛ぼっか。ついてきて!」

 

「「おう(うん)!!」」

 

四人は真横一列になってシルフ領の首都スイルベーンまで空中移動を開始した。

 

 




なんか中途半端でおわっちゃったかな(;_;)

まぁ、ここら辺が区切りが良かったんよ。

次回あたりに鳥籠の内部書こうかな?ww

やっぱり、もうちょい先かな。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!



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第53話≪翡翠の都スイルベーン≫

どもっ!!

舞翼です!!

今回はいちゃいちゃを書きました~。

上手く書けているかわからんが。

あと、ぐだぐだになっていないか不安だな~。

誤字脱字があったらごめんよ。

では、さっそく本編をどうぞ。


俺とユウキはじわじわと加速するリーファの後ろに追随(ついずい)した。

全身を叩く風圧が強まり、風切り音が耳元で唸る。

 

「もっとスピード出してもいいぜ」

 

「ボクもいいよー」

 

「ほほう」

 

俺とユウキは、リーファの最高速度に追随した。

 

「うそッ!」

 

「はうー、わたしはもうだめです~」

 

ユイは俺の胸ポケットにすぽんと飛び込んだ。

 

「あれかな」

 

ユウキが指差した先には、色とりどりの光点の群が姿を現した。

シルフ領の首都《スイルベーン》と、そのシンボルである《風の塔》だ。

街はぐんぐん近づいてくる。

 

「真下の塔の根元に着陸するわよ!……って……」

 

不意にリーファがあることに気付いて、笑顔を固まらせた。

 

「キリト君、ユウキちゃん。 ランディングのやりかた解る……」

 

俺は顔を強張らせた。

 

「えっ……と……解りません……」

 

「ボクは大丈夫かな」

 

すでに、視界の半分以上が巨大な塔に占められている。

 

「頑張れ!」

 

「うん。 幸運を祈るよ」

 

二人は急減速に入った。

翅をいっぱいに広げて制動をかけ、広場めがけて降下を開始する。

 

「そ……そんなバカなああぁぁぁ―――」

 

俺は、絶叫と共に塔に突っ込んでいった。

数秒後、凄まじい大音響がシルフ領首都、スイルベーンに響いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「うっうっ、ひどいよリーファ、ユウキ……。 飛行恐怖症になるよ……」

 

塔の根元、色とりどりの花が咲き乱れる花壇に座り込んだ俺は、二人を恨みがましい顔で言った。

 

「はいはい。 頭を撫でてあげるから機嫌直して」

 

とユウキが言い、俺の頭を撫でてくれた。

……立場が逆転している気がする。

 

「眼がまわりました~」

 

俺の肩に乗っているユイも頭をふらふらさせている。

リーファが両手を腰に当てて言ってきた。

 

「キミが調子乗りすぎなんだよ~。 あと、人前でいちゃいちゃしない!」

 

「「うっ……ごめん」」

 

「まぁいいか。 ヒールしてあげるよ」

 

リーファは俺に右手をかざすと回復スペルを唱えた。

俺に青く光る雫が放たれ、放たれた雫によってHPが回復していく。

 

「お、すごい。 これが魔法か」

 

「高位の治癒魔法はウンディーネじゃないとなかなか使えないんだけどね。 必須スペルだから君たちも覚えたほうがいいよ」

 

「種族によって魔法の得手不得手があるのか。 スプリガンてのは何が得意なの?」

 

「トレジャーハント関連と幻惑魔法かな。 どっちも戦闘には不向きなんで不人気種族ナンバーワンなんだよね」

 

「マジか…。 そう言えばユウキが選んだインプは何が得意なんだ?」

 

「えっとね、暗視、暗中飛行が得意かな」

 

「俺もインプにすればよかったかな……。 まぁいいか」

 

俺は大きく一つ伸びをして、周囲をぐるりと見渡した。

 

「おお、ここがシルフの街かぁ。 綺麗な所だなぁ」

 

「そうだね。……ねぇ…手を繋いでいいかな……?」

 

「おう。 いいぞ」

 

今日のユウキは何時もより甘えてくるな。

俺はユウキの手を優しく取り、恋人繋ぎをした。

街の人の眼がこちらに集まってきているな。

まぁ、気にしていないが。

 

「和人の手、温かいね。 ずっと繋いでいたいよ」

 

「俺もだよ。 ユウキ」

 

「んッんッ!!」

 

リーファに咳払いをされてしまった。

うん。 “ピンク色のオーラ”をメッチャ出していたな。

ユウキさん。 俺のリアルネーム出したらダメだよ。

まぁ、嫌な気はしないが。

 

「和人。 大好き!!」

 

「ママだけズルいです。 私もくっ付きます」

 

あっ、ユウキとユイが俺の左腕にくっ付いてきたよ。

……ユウキさん。 胸が当たってますよ。

今日のユウキはマジでどうしたんだろう?

 

「はぁー、私の前で見せつけないでよー」

 

「和人。 大好きだよ。 世界で一番好きだよ……」

 

「俺もユウキのことが世界で一番好きだよ」

 

「……和人になら……なにされてもいいよ……」

 

「……おう」

 

……なにをされてもって……いや、邪の心を持ってはいけない……平静を保つんだ……。

少し大胆な事をしようかな。

俺は左腕をユウキの腰に回し、抱き寄せた。

ユイは俺の頬にすりすりしている。

 

「……和人。 いつもより……大胆だね」

 

「ん、まぁな」

 

……なんでこれが現実世界では出来ないんだろうな。

ユウキは、俺の肩に寄り添ってきた。

俺はユウキを支える為、少しだけ抱き寄せている左手に力込めた。

 

「和人……。 現実世界でも同じことをしてね」

 

う、マジか。

 

「……わかった」

 

ユウキは幸せそうな顔をしていた。

俺はそれを見て顔を綻ばせてしまう。

大好きだよ。 ユウキ。

 

「もうダメだこりゃ」

 

リーファは大きな溜息をついた。

それから数分間、この状態が続いた。

その間街の人たちの眼は、俺とユウキに集中していたのだった。

 

「うん。 もういいよ」

 

「ハイです~」

 

ユウキとユイはとても満足そうにしていた。

 

「おう。 じゃあ、行こうぜ」

 

「はぁ~、行こうか」

 

リーファはとても疲れていたが。

スイルベーンは、別名《翡翠の都》と呼ばれている。

華奢な尖塔(せんとう)群が空中回廊で複雑に繋がりあって構成される街並みは、皆艶やかなグリーンに輝き、それらが夜闇の中に浮かび上がる有様は幻想的の一言だ。

街に見入っていたら、リーファに声を掛ける者が居た。

 

「リーファちゃん! 無事だったの!」

 

顔を向けると、手を左右に振りながら近寄ってくる黄緑色の少年シルフが見えた。

 

「あ、レコン。 うん、どうにかね!」

 

リーファの前で止まったレコンは目を輝かせながら言った。

 

「すごいや、あれだけの人数から逃げ延びるなんてさすがリーファちゃん……って……」

 

レコンは、俺とユウキを見て口を開けたまま数秒間立ち尽くす。

 

「な……スプリガンとインプじゃないか!? なんで……!?」

 

飛び退き、腰のダガーに手をかけようとするレコンをリーファが慌てて制した。

 

「あ、いいのよレコン。 この人たちが助けてくれたの」

 

「へっ……」

 

リーファは唖然とするレコンを指差し、俺と木綿季に言う。

 

「こいつはレコン。 あたしの仲間なんだけど、キミたちと出会うちょっと前にサラマンダーにやられちゃたんだ」

 

「そりゃすまなかったな。 よろしく、俺はキリトだ」

 

「ボクはキリトの婚約者のユウキだよ」

 

ユウキさん。 さりげなくリアル情報出しちゃダメだよ。

 

「あっどもども」

 

レコンは俺の差し出す右手を握り、ぺこりと頭を下げてから、

 

「いやそうじゃなくて!」

 

また飛び退く。

 

「だいじょうぶなのリーファちゃん!? スパイとかじゃないの!?」

 

「あたしも最初は疑ったんだけどね。……これは……とてもスパイに見えなくてね」

 

リーファは、俺とユウキを見た。

 

「ボク達はスパイじゃないよ」

 

「だな」

 

ユウキは俺の肩に頭を乗せてきた。

俺はユウキの頭を優しく撫でてあげる。

ユウキは目を細め、気持ち良さそうにしていた。

子猫みたいだな。

うん。 可愛いな。

 

「えへへ~」

 

「……これがスパイに見える?」

 

またリーファに溜息をつかれてしまった。

 

「えっと……見えないかな。……リーファちゃん、シグルドたちは先に≪水仙館(すいせんかん)≫で席取っているから、分配はそこでやろうって」

 

「あ、そっか。 う~ん……。 あたし、今日の分配はいいわ。 スキルに合ったアイテムもなかったしね。あんたに預けるから四人で分けて」

 

「へ……リーファちゃんは来ないの?」

 

「うん。 お礼にキリト君とユウキちゃんに一杯おごる約束しているんだ」

 

「えー、こないの~」

 

レコンは、残念そうな声を上げていた。

 

「次の狩りの時間とか決まったらメールしといて。 行けそうだったら参加するからさ、じゃあ、おつかれ!」

 

「あ、リーファちゃん……」

 

リーファは照れくさくなったのか、強引に会話を打ち切ると、俺の袖を引っ張ってきた。

『いくよ』っていう合図かな。

 

「行こうか」

 

「うん」

 

ユウキは俺から離れ、リーファを追う為歩き出した。

ユウキは、『もうちょっと和人の肩に頭を乗せていたかったな』と言っていたが。

俺もリーファの後を追い、歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「さっきの子は、リーファの彼氏?」

 

「コイビトさんなんですか?」

 

「ボクも気になるな~」

 

俺とユウキと俺の胸ポケットから顔を出したユイが訊ねた。

 

「ち、違うわよ! パーティーメンバーよ、単なる」

 

「へ~、それにしては仲良さそうだったね」

 

「だよな」

 

「はぁ~、キリト君とユウキちゃんは仲良すぎだよ」

 

俺とユウキは恋人繋ぎをしている。

さっきから周りの視線がすごいな。

 

「着いたよ」

 

どうやら目的地に着いたようだ。

目的の店は《すずらん亭》という店だ。

スイングドアを押し開けて店内を見渡すと、プレイヤーの姿は一組もいなかった。

まだ、リアル時間では夕方になったばかりなので、冒険を終えて一杯やろうというプレイヤーが増えるには暫く時間がある。

俺とユウキとリーファは窓際の席に腰を掛ける。

リーファと向き合うように、ユウキは俺の隣に座っている。

 

「さ、ここはあたしが持つから何でも自由に頼んでね」

 

「じゃあお言葉に甘えて……」

 

「うん。 お言葉に甘えるね」

 

「私もです~」

 

「あ、でも今あんまり食べるとログアウトしてから辛いよ」

 

実に不思議なのだが、アルヴヘイムで食事をすると仮想の満腹感が発生し、それが現実世界に戻ってからも暫く消えることがないのだ。

俺たちが頼んだ料理は、リーファはフルーツババロア、俺とユウキは木の実タルト、ユイはチーズクッキーをオーダーし、飲み物は香草(こうそう)ワインボトルを一本取ることにした。

NPCのウェイトレスが即座に注文の品々をテーブルに並べる。

 

「それじゃあ、改めて、助けてくれてありがと」

 

不思議な緑色のワインを注いだグラスをかちんと合わせ、一息に飲み干す。

 

「いやまあ、成り行きだったし……」

 

「てか、ああいう集団PKってよくあるの?」

 

「うーん、もともとサラマンダーとシルフは仲悪いのは確かなんだけどね。 領地が隣り合っているから中立域の狩場じゃよく出くわすし、勢力も長い間拮抗していたし。 でもああいう組織的なPKが出るようになったのは最近だよ。 きっと……近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな……」

 

「そう!! ボク達は世界樹について教えて欲しいの!!」

 

「俺とユウキは世界樹の上に行きたいんだ!!」

 

俺とユウキは先程と打って変わり、真剣な表情になりリーファに聞いた。

リーファには少々呆られてしまったが。

 

「……それは、多分全プレイヤーがそう思っているよきっと。 っていうか、それがこのALOっていうゲームのグランド・クエストなのよ」

 

「「どういうこと(だ)」」

 

俺とユウキは首を傾げた。

 

「滞空制限時間があるのは知っているでしょう? どんな種族でも、連続して飛べるのはせいぜい十分が限界なの。 でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、《妖精王オベイロン》に謁見した種族は全員、《アルフ》っていう高位種族に生まれ変われる。 そうなれば、滞空制限はなくなって、いつまでも自由に空を飛びことができるようになる……」

 

「「なるほど……」」

 

俺とユウキは頷いた。

 

「うん。 魅力的な話だね。 世界樹に上に行く方法っていうのは判っているの?」

 

「上に行く方法を教えてくれ」

 

俺は急かすように言った。

 

「世界樹の内側、根元のところは大きなドームになっているの。 その頂上に入り口があって、そこから内部を登るんだけど、そのドームを守っているNPCのガーディアン軍団が凄い強さなのよ。 今まで色んな種族が何度も挑んでいるんだけどみんなあっけなく全滅。 サラマンダーは今最大勢力だからね。 なりふり構わずお金を貯めて、装備とアイテムを整えて、次こそはって思っているんじゃないかな」

 

「そのガーディアンは、そんなに強いの?」

 

とユウキが聞いた。

 

「もう無茶苦茶よ。 だって考えてみてよ、ALOってオープンしてから一年経つのよ。 一年かけてクリアできないクエストなんてありだと思う?」

 

「「確かに……」」

 

「う~ん……何かキークエストを見落としている。 もしくは……単一の種族だけじゃ絶対に攻略できない?」

 

俺は頭を悩ませながら言った。

リーファはババロアを口許に運ぼうとしていた手を止め、俺を見た。

 

「クエスト見落としのほうは、今躍起になって検証しているけどね。 後の方だとすると……絶対に無理ね。『最初に到達した種族しかクリアできない』クエストを、他の種族と協力して攻略しようなんて。 だから、世界樹攻略は現状不可能ね」

 

「不可能なんて言わないでッ!!」

 

ユウキが声を上げて言った。

リーファが吃驚(びっくり)して視線を上げた。

 

「ママ……」

 

両手でチーズクッキーを抱えて端をかりかり齧っていたユイが、クッキーを置いて飛び上がり、ユウキの肩に座った。

宥めるようにユウキの頬に小さな手を這わせる。

 

「ど、どうしたの、ユウキちゃん?」

 

「……驚かせてごめん。 スグちゃん」

 

「…ユウキ」

 

「うん。…大丈夫」

 

俺はユウキの小さな手を優しく握ると、俺は真剣な表情になりリーファを見て言った。

 

「俺たちはどうしても世界樹の上に行かなきゃいけないんだ」

 

リーファは俺とユウキを見てから、ワインを一口飲み如何にか口を開く。

 

「なんで、そこまで……?」

 

「スグちゃん。 ボク達はね、……人を探しているの」

 

「ああ。 俺たちがこの世界に来たのは、人を探すためなんだ」

 

「ど、どういうこと?」

 

「……簡単には説明できないんだ……ごめんね。 スグちゃん」

 

「そうだな」

 

俺とユウキは、リーファを見て微笑んだ。

だが、ユウキの瞳はとても悲しそうだった。

 

「ありがとう。 色々教えて貰って助かったよ。 じゃあ、俺たちは行くな」

 

俺とユウキが立ち上がろうとした時、リーファに止められた。

 

「ちょ、ちょと待ってよ、お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 世界樹に……行く気なの?」

 

「「ああ(うん)」」

 

「無茶だよ、そんな……。 ものすごく遠いし、途中で強いモンスターもいっぱい出るし、お兄ちゃんも木綿季ちゃんも強いけど―――じゃあ、わたしが連れていってあげる」

 

「「え……」」

 

俺とユウキは眼を丸くする。

世界樹が存在するアルヴヘイムの央都《アルン》まで行くのは、現実世界での小旅行に匹敵するほどの旅になる。

ということは、リーファが領地から出ることにもなってしまう。

……本当にいいのか?

 

「……いいの?」

 

「……いいのか?」

 

「うん。 いいの。 わたしが連れて行ってあげるよ」

 

「ありがとう。 スグちゃん」

 

「ありがとな。 スグ」

 

「じゃあ、明日は午後三時に此処に集合ね。 あと、ログアウトには上の宿を使ってね。 また現実世界でね」

 

と言い、ログアウトボタンを押し、リーファは虹色の光に包まれ現実世界に戻った。

後に残ったのは、俺とユウキとユイだけになった。

 

「スグちゃんにお礼をしないとね」

 

と言い、ユウキは俺の胸の中に飛び込んで来た。

俺は、飛び込んで来たユウキを優しく抱きしめる。

 

「そうだな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺とユウキは、カウンターでチェックインを済ませ、階段を上がる。

俺とユウキは、リーファの言葉に従って《すずらん亭》の二階でログアウトすることにした。

部屋に入りログアウトボタンを押せば即現実に復帰できるはずだったが、ゲーム内と現実世界に情報の差がありすぎると、現実に復帰した時に不快な酩酊感(めいていかん)を覚えるのだ。

なので、俺とユウキは《寝落ち》を試してみるべく、武装を解除するとベットに腰を下ろした。

ユイも空中をぱたぱたと移動し、くるんと一回転したかと思うと、本来の姿に戻って床に着地した。

ユイは両手を後ろに回すと、僅かに俯きながら言った。

 

「……明日まで、お別れですね、パパ、ママ」

 

「……そうか、ごめんな。 せっかく会えたのにな……」

 

「またすぐに戻ってくるよ、ユイちゃん」

 

「……あの……」

 

眼を伏せたユイの頬が僅かに赤く染まった。

 

「パパとママがログアウトするまで、一緒に寝てもいいですか?」

 

「おう。 いいぞ」

 

「パパとママの真ん中においで」

 

とユウキが言うと、ユイは俺とユウキの真ん中に横になった。

 

「パパ、ママ。 ねぇねぇとママのお友達を助け出しましょうね」

 

「そうだな。 ねぇねぇもユイに会いたがっているはずだぞ」

 

「うん。 早く助け出してママのお友達を紹介してあげるね」

 

「はい。 おやすみなさい、パパ、ママ」

 

俺とユウキは暖かい暗闇の中に意識を手放した。

 

 




う~ん、上手く書けたかな~。

次回あたりに鳥籠内部書こうかな。(予定)

ご意見、ご感想お待ちしています!!


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第54話≪囚われの姫たち≫

ども!!

舞翼です!!

今回は書くのに時間がかかってしまった。

一度書き直したからかな。

一度目を投稿したらシリアスで進めないといけなかったからね。

なんか言い訳に聞こえるよね。

すまん。

今回はランちゃんがメインかな。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。



Side アスナ

 

私。 いや、私たちが居る場所は、白い大理石で造られた、冷ややかな硬いテーブルと椅子。

傍らに、同じく純白の豪奢(ごうしゃ)天蓋(てんがい)付きベット。

 

白のタイルが敷き詰められた床は、端から端まで大きな真円形で、壁は全て煌く金属の格子で出来ている。

十字に交差する黄金の格子は垂直に伸び上がり、やがて半球形に閉じる。

その頂点には巨大なリングが取り付けられ、それを太い枝が貫いていて、この構造物を支えている。

つまりこの部屋は、大樹の枝から下がった金の鳥籠()――私たちはこの中に囚われている。

 

「私たちが囚われてから、何日経っているんでしょうね」

 

私に声を掛けてくれた人物は、アインクラッドで《剣舞姫》の二つ名を持っていたランさんだ。

私たちの鏡に映っていた姿は、現実世界とほぼ同じ容姿だった。

私の栗色の長い髪と、ランさんの長い黒髪も元のままであった。

私が身に纏うのは、白い薄いワンピース一枚。

胸元に、血のように赤いリボンがあしらわれている。

――ランさんが身に纏うのは、薄いぼろぼろのワンピース

私たち二人の背中からは不思議な羽根が伸びている。

鳥というより妖精の翅。

 

「わからないです……」

 

私は涙を抑えながら、ランさんの言葉に応じた。

本当にいつもありがとう。

ランさんが居なかったら、私の心はすでに折れていました。

――須郷の手によって。

 

「アスナさん。 そんな悲しい顔しないでください。 “あの子”が悲しみますよ」

 

「……はい」

 

「私は大丈夫ですよ」

 

「……ごめんなさい……」

 

「気にしないでください。 アスナさん、笑って」

 

と言い、ランさんは私にニッコリと微笑んでくれた。

私は、今出来る最高の笑みを作った。

 

「アスナさんには笑顔が似合いますよ」

 

「……ありがとう……。 本当にありがとうございます……」

 

「助けが来るまで頑張りましょうね」

 

「……はい」

 

 

不意に鳥籠の中に声が響いた。

 

「その表情が一番美しいよ、ティターニア」

 

金の檻の一個所、《世界樹》と呼ばれる巨大な樹に面している部分に、小さなドアが設けられている。

そのドアから入って来たのは、一人の長身の男、波打つ金髪が豊かに流れ、それを額で白銀の円冠が止めている。

体を包むのは濃緑のゆったりした長衣、これも細かな銀糸で細かい装飾が施されている。

背中からは私たちと同じように翅が伸びている。

その翅は艶のある四枚の翅、鮮やかなエメラルドグリーンの模様が入った巨大な蝶の翅。

顔は、作り物としか言いようのない程端麗だ。

滑らかな顔から連なる鋭い鼻、切れ長の双眸からは、翅と同じ色の虹彩(こうさい)が光を放っている。

だがそれらを台無しにしているのが、薄い唇に張り付く微笑、全てを蔑むような歪んだ笑い。

私はその人物を一瞬見ると、汚わらしいものを見たかのように視線を逸らせた。

 

「泣き出す寸前のその顔がね。 凍らせて飾っておきたいくらいだよ」

 

「なら、そうすればいいでしょう。 それにこんな所に閉じ込めといてよく言うわ。 それにその変な名前で呼ぶのはやめて。 私はアスナよ、オベイロン――いえ、須郷さん」

 

私は言葉を続ける。

 

「――あなたなら何でも思いのままでしょう、システム管理者なんだから、好きにs「ダメよアスナさん、それ以上言ったら!!」…」

 

私の言葉を遮ってきたのはランさんだ。

 

「また君かい、セイレーン。 もう少しでティターニアの口からいい言葉が聞けると思ったのに。 それに君は、何時まで僕の邪魔をするんだい?」

 

ランさんは私の前に立ち、須郷を見据えた。

 

Side out

 

 

Side ラン

 

「また君かい、セイレーン。 もう少しでティターニアの口からいい言葉が聞けると思ったのに。 それに君は、何時まで僕の邪魔をするんだい?」

 

セイレーンとは、ギリシャ神話に登場する半人半鳥の怪物の名前。

美しい歌声で船乗りを惑わして遭難させるといわれる、海の妖精。

まぁ、今の私はちゃんと人の姿をしているけどね。

 

「アスナさんに近づかないで」

 

私はアスナさんの前に立ち、須郷を見据える。

こんな汚い男の手で、アスナさんを触らせるわけにはいかない。

 

「君は何時まで僕の邪魔をするんだい?」

 

「私が死ぬまでかしら、《妖精王オベイロン》。 それとも須郷信之さんの方がいいかしら」

 

「君が居るからティターニアの心が折れないのかなぁ。 それに、この世界では僕は妖精王オベイロンだよ。 此処アルヴヘイムの支配者。 そして君の後ろに居るのは、僕の伴侶、女王ティターニア。 君は邪魔なんだよ」

 

「あなたが支配者? 笑わせないで」

 

私は須郷を見て笑いながら言った。

須郷の眼を、アスナさんに向かないようにする為には強く出ないとね。

 

「君は何時までそんな口を聞くのかなぁ、僕はこの世界の神だよ」

 

「あなたが神? ふふ、可笑(おか)しすぎて笑っちゃうわ」

 

須郷が此処に居られる時間を減らさないとね。

その為には、私が時間を稼がないと。

 

「助けは来るわよ、あの子がね」

 

「あの子? ……ああ、あの子か。 僕の手を振り払った子のことかな。 たぶんそうだろうな、君とよく似ている、特に僕を見る眼がね。 確か、紺野木綿季とか言ったかな。 そうそう隣に男の子も居たね。 確か、桐ケ谷和人と言ったかな」

 

「そう」

 

桐ケ谷和人は、きっとキリトさんのことね。私の妹、木綿季も一緒に居るのね。

貴方はミスをしたわ。

アスナさんに希望を持たせるというミスをね。

二人は私たちの事を知ったら助けに来てくれるはず。

私は二人を信じる。

きっと助けに来てくれる。

 

「……何が可笑しいんだい」

 

どうやら私は笑みを零していたのね。

ふふ、嬉しい情報が手に入ったんだから。

 

「いえ、何でもないわよ」

 

「君は本当に気に食わない。 何で此処に居るのかな?」

 

須郷は顔を歪めながら言った。

貴方はその醜い顔の方が似合っているわ。

 

「さぁー、何でかしらね。 貴方がミスでもしたんじゃないの」

 

「君は本当に気に食わないよ。 もう君とのお喋りはここまでだよ」

 

もう時間稼ぎが限界かしら。

けど、結構時間が稼げたわ。

 

Side out

 

 

Side アスナ

 

「ティターニア。 僕に顔を見せておくれ」

 

須郷は舌を舐め回し私に言った。

 

「嫌よ。 貴方の顔は眼に毒だわ」

 

「またつれない事を言う、でもティターニアは此処で起きたことは全部忘れ、そして僕を求めるようになる。 ふふ、時間の問題さ」

 

「――絶対貴方なんか求めないわよ」

 

「いや、すぐに君の感情は僕の意のままになるんだから。 ……ねぇ、ティターニア」

 

須郷はにやにやと笑い浮かんだ顔を鳥籠の外にぐるりと巡らせる。

 

「見えるだろう? この広大な世界には、今も数万人のプレイヤーがダイブし、ゲームを楽しんでいる。 しかしね、彼らは知りゃしないのさ。 フルダイブシステムが娯楽市場のためだけの技術ではないという真実をね!」

 

須郷は芝居がかった仕草で両手を大きく広げる。

 

「冗談じゃない! こんなゲームは副産物にすぎない。 フルダイブ用インタフェースマシン、つまりナーブギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定して照射し、仮想の環境信号を与えているわけだが――もし、その枷を取り払ったらどういうことになるか。――それは、脳の感覚処理以外の機能……すなわち思考、感情、記憶までも制御できる可能性があるってことだよ!」

 

私とランさんは、須郷の言葉に絶句するしかなかった。

私は須郷に見て、どうにか声を絞り出す。

 

「……そんな、そんなことが許されるわけが……」

 

「誰が許さないんだい? すでに各国で研究が進められている。 でもねぇ、この研究はどうしても人間の被験者が必要なんだよ。 自分が何を考えているか、言葉で説明して貰わないといけないからね!」

 

須郷は、ひっ、ひっと甲高い声で笑いを洩らした。

 

「脳の高次機能には個体差も多い、どうしても大量の被験者が必要だ。 脳をいじくり回すわけだからね、おいそれと人体実験なんかできない。 それでこの研究は遅々として進まなかった。――ところがねぇ、ある日ニュースを見ていたら、いるじゃないか、格好の研究素材が、一万人もさ!」

 

一万人――それはSAOにログインした人の人数。

そして私は、須郷が何をこれから言おうとしているのか、その先が想像できてしまった。

 

「――茅場先輩は天才だが大馬鹿者さ。 あれだけの器を用意しながら、たかがゲーム世界の創造だけで満足するなんてね。 SAOサーバーに手をつけられなかったが、あそこからプレイヤー連中が解放された瞬間に、その一部を僕の世界に拉致できるようルーターに細工するのはそう難しくなかったさ」

 

須郷は舌を這わせた。

 

「いやぁ、クリアされるのが実に待ち遠しかったね! 全員とはいかなかったが、結果三百人もの被験者を僕は手に入れた。 現実ならどんな施設でも収容できないほどの数さ、まったく仮想世界さまさまじゃないかい!」

 

須郷は饒舌(じょうぜつ)に言葉を捲し立て、続ける。

私は昔から須郷のこういう性癖が大嫌いだった。

 

「三百人の旧SAOプレイヤー諸君のお陰で、たった二ヶ月で研究は大いに進展したよ! 人間の記憶に新規オブジェクトを埋め込み、それに対する情動を誘導する技術は大体形ができた。 魂の操作――実に素晴らしい!!」

 

「そんな……そんな研究、お父さんが許すはずがないわ」

 

「無論あのオジサンは何も知らないさ。 研究は私と極少数のチームで秘密裏に進められている。 そうでなければ商品にできない」

 

「商品……!?」

 

「アメリカの某企業が(よだれ)を垂らして研究終了を待っている。 せいぜい高値で売りつけるさ。――いずれはレクトごとね。 僕はもうすぐ結城家の人間になる。 まずは養子からだが、やがては名実ともレクトの後継者となる。 君の配偶者としてね。 その日のためにもこの世界で予行演習しておくのは悪くない考えだと思うけどねぇ」

 

私は首を振った。

 

「そんな……そんなこと、絶対にさせない。 いつか現実世界に戻ったら、真っ先にあなたの悪行を暴いてあげるわ」

 

「私もそんなことはさせないわ。 現実世界に帰ってアスナさんと一緒にあなたの悪行を暴くわ」

 

「やれやれ、君たちはまだ理解していないのかい。 実験のことをぺらぺら喋ってあげたのはね、君がすぐに何もかも忘れてしまうからさ! セイレーンも僕が迎えてあげよう。 あとに残るのは僕への……」

 

不意に須郷は言葉を切ると、僅かに首を傾け沈黙した。

すぐに左手を振ってウインドウを出し、それに向かって言う。

 

「今行く。 指示を待て」

 

ウインドウを消し、再びにやにや笑いを浮かべながら、

 

「――という訳で、君が僕を盲目的に愛し、服従する日も近いということが解ってもらえたかな。 しかし勿論、君の脳を早期の実験に供するのは望まない。 次に会うときはもう少し従順であることを願うよ、ティターニア」

 

囁くと、須郷は身を翻し、ドアに向かって行った。

ドアの開閉音が響き、次いで静寂が訪れた。

 

「アスナさん、もう少しの辛抱ですよ。 きっと二人は助けに来てくれます。 それまで気をしっかり持ってくださいね」

 

ランさんは、私が安心できるように微笑みかけてくれた。

 

「……はい」

 

私は心の中で呟く。

――早く……早く助けに来て、キリトくん、ユウキちゃん……。

 

 




こんな感じに書きあげました。

ランちゃんは恐れを知らないね。

胆が据わっているね。

今回は久しぶりにアスナさんとランちゃんを出しました~。

最近あんまり出ていなかったからね。

もっと須郷を最低に書きたかったんだけど、これ以上は無理だった。(多分イライラが止まらなくなると思うから)

あと、何でランちゃんが鳥籠の中に居るか? 後で書くよー。

多分、読者の皆さんが疑問に思っているだろうしね。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!



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第55話≪旅立ちの準備≫

ども!!

スランプ気味の舞翼です!!

うん。 マジでスランプ気味かもしれん。

今回の投稿、滅茶苦茶不安だ……。

あと、書いていてブラックコーヒーが必須だったね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


俺と木綿季は、《寝落ち》のログアウトで現実世界に戻った。

瞬きを数回した後、ナーヴギアを外し、上体を起こした。

「綺麗な世界だったね」

 

「そうだな」

 

「ユイちゃんにも会えたしね」

 

「藍子と明日奈にも会わせてあげたいな」

 

「うん」

 

木綿季の声が段々と弱くなったので、俺は木綿季の表情を(うかが)って見た。

木綿季は、まだ悲しそうな表情をしていた。

 

「早く二人を助け出そうな」

 

「うん。 絶対に助け出そうね」

 

「木綿季。 おいで」

 

俺は手招きをして、木綿季を優しく抱きしめる。

 

「…和人。 ありがとう」

 

「おう」

 

すると木綿季は、俺の腕の中で顔を赤くした。

多分“あの事”を思い出したんだろうな。

……俺も照れくさかったが。

 

「木綿季。 今日して貰いたい事はある?」

 

俺は優しく木綿季に問いかけた。

 

「……今日は、……ボクを抱きしめて寝てくれないかな」

 

う、そうきたか。

 

「…わかったよ」

 

「……ありがとう。 大好きだよ、和人」

 

「ああ、俺も木綿季のことが大好きだよ」

 

「メシを食いに行こうか?」

 

「うん、行こっか。 ……和人。キスしてくれないかな?」

 

上目遣い+涙眼は反則だよ…。

 

「…わかった」

 

俺と木綿季は抱き合いながらキスをした。

緊張のせいか、短いキスがとても長く感じた。

俺は抱擁(ほうよう)を解き、木綿季と一緒に一階の台所へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

一階の台所へ向かったら、意外な人物が居た。

母親の翠だ。

母親の翠は、パソコン情報誌の編集者で徹夜が多く殆んど家を開けているが、今日は早く帰って来たようだ。

俺は母親の翠に話し掛けた。

 

「何で母さんが此処に居るんだ? 仕事じゃなかったのか?」

 

「そうなんだけどね。 和人と木綿季ちゃんの同棲生活が見たくて、仕事を押し付けてきたわ。 まぁ、また戻るけどね。 それより見たわよ~、和人の部屋の中を」

 

……まさか見られていたのか……?

 

「まぁ、するなとは言わないけど、ほどほどにするのよ。 この家には直葉が居るんだからね」

 

「「……はい」」

 

俺と木綿季は、その言葉を聞いて顔を真っ赤にしてしまった。

スグは、俺と木綿季を見てにやにやしてた。

……どうやら察してしまったらしい。

テーブルの上には、美味しそうな料理が並んでいる。

 

「食べましょうか?」

 

「「「おう(はい)(うん)」」」

 

俺たちは指定席に座り、夕食を摂ることにした。

母親の翠が口を開いた。

 

「そういえば木綿季ちゃん。 和人に変な事されてない?」

 

「ごほっ、げほ、ごほ」

 

俺はこの言葉を聞いた途端、むせてしまった。

……この母親は、何てこと聞いているんだよ。

 

「大丈夫だよ、お義母さん。 ちゃんとボクが許可してから和人はしてくれているから。 それに、和人は優しくしてくれるしね」

 

ちょ、その言葉はいかんよ、木綿季さん。

誤解を招く言い方だよそれは。

 

「そう。 よかったわ」

 

「……お兄ちゃんと木綿季ちゃんは、もしかして……。 私は気にしないから大丈夫だよ」

 

とスグに言われた。

誤解だーーーッッ!!

俺は心の中で絶叫した。

 

「……うん。 和人、その時はお願いね……」

 

木綿季さんもスグの言葉に乗ったらいかんよ。

は、ははは、もう俺のHP0だよ。

 

「まぁ、和人を弄るのはこれくらいにして」

 

「そうだね、お義母さん」

 

「そうだね、お母さん」

 

あれが弄りだったのか……。

疲れが半端ないな……。

 

数分後。

 

テーブルに並んであった料理を、俺たちは全て完食した。

俺は流しに食器を下げ、言った。

 

「じゃあ、俺は先に二階に戻るわ」

 

その後風呂に入り、俺と木綿季は眠る支度をした。

俺と木綿季はベットに横になり、眠りに就くことにした。

 

「……和人。 明日奈と姉ちゃんを助け出そうね。 現実に復帰した二人と早くお話がしたいよ」

 

木綿季の瞳には涙が溜まっていた。

やっぱり悲しみを抑えて俺たちと食事を摂っていたんだな。

 

「俺も二人と話がしたいよ」

 

「うん。 明日頑張ろうね」

 

と言い、木綿季は腕を広げてきた。

俺は木綿季を優しく抱きしめる。

 

「そうだな。 頑張ろうな」

 

「おやすみ、和人」

 

「おやすみ、木綿季」

 

俺と木綿季は抱き合いながら眠りに就いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

翌日。 2025年 1月 15日 午後2:55分

 

「行くか」

 

「うん。 行こう」

 

俺と木綿季はナーブギアの電源を入れ、ベッドに横になってからナーブギアを装着する。

次いで、妖精の世界にダイブする為の魔法の言葉を発する。

 

「「リンク・スタート」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

奥のテーブルに姿を現した俺とユウキは、数回瞬きしてから、近づくリーファを見て微笑んだ。

 

「よう」

 

「早いね、リーファちゃん」

 

俺とユウキは、軽く手を上げた。

 

「ううん、さっき来たとこ。 ちょっと買い物していたの」

 

「あっ、ボク達も色々準備しないと」

 

今の俺とユウキの装備は初期装備のままだ。

装備を整えて、万全の状態にしておきたい。

 

「道具類は一通り買っておいたから大丈夫だよー」

 

「じゃあ、武器と防具を買いに行こうか」

 

「「おう(うん)」」

 

「キリト君、ユウキちゃん。 お金、持ってる? なければ貸しておくけど」

 

「「えーと」」

 

俺と木綿季はウインドウを出し、顔を引き攣らせた。

 

「「……この《ユルド》っていう単位がそう(なの)?」」

 

「そうだよー」

 

「いや、ある。 結構ある」

 

「……これはありすぎじゃないかな」

 

うん。 これは子供が持ってはいけない金額だな。

俺は胸ポケットを覗き込んだ。

 

「……おい、行くぞ。 ユイ」

 

するとユイは、俺の胸ポケットから眠そうな顔を出し、大きな欠伸をした。

 

「ふぁー、おはようございます。 パパ、ママ」

 

「おはよう、ユイちゃん」

 

「おはよう、ユイ」

 

俺と木綿季はユイにニッコリと笑うと、次いでリーファを見た。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「「おう(うん)」」

 

俺たちが向かった先は、リーファ行きつけの武具店であった。

俺が選んだ防具は、防御属性強化がされている黒いロングコート。

俺を困らせたのが武器であった。

プレイヤーの店主に、ロングソードを渡されるたびに一振りして「もっと重い奴」と言い続け、最終的に妥協した剣が、俺の背丈と同じ位の大剣だ。

 

「これでいいか」

 

「ボクは選び終わったよ」

 

ユウキも武器と防具の新調が終わったようだ。

ユウキが選んだ武器は、アインクラッドで使用していた愛剣、《黒紫剣》に酷似している片手剣であった。

防具は、防御属性強化がされている紫を基調としたロングコートだ。

 

「どうかな?」

 

「うん。 アインクラッドで見ていた時の装備にそっくりだ」

 

「う~ん、それは褒めているの?」

 

「おう。 とても良く似合っているよ」

 

「…ありがと」

 

ユウキは、頬を少し赤らめて応じてくれた。

つか、お前に似合わない服なんてあるのか?

 

「で、キリトは終わったの?」

 

「終わったぞ」

 

ユウキは俺の格好を見てクスクスと笑っていた。

背に吊った大剣の先が地面に擦りそうになっている為、剣士の真似をする子供に見えてしまうからだ。

 

「リーファちゃんの所に行こっか」

 

「おう」

 

俺とユウキは手を繋ぎ、リーファの元へ向かった。

 

俺は、店の奥で武器を見ていたリーファに声を掛けた。

 

「おーい、終わったよー」

 

「うん。 今行くよ」

 

と言い、リーファは俺とユウキの元まで歩いてきた。

リーファは俺とユウキを見て言った。

 

「……キリト君とユウキちゃんはラブラブだね。 まぁ、今に始まったことじゃないけどさ」

 

リーファに溜息をつかれてしまった。

んー、少しは抑えた方がいいのかな?

……うん。 無理だ。

 

「てか、キリト君。 そんな剣振れるのぉー?」

 

呆れつつリーファに聞かれたが、俺は涼しい顔で頷いた。

 

「ん、問題ないぞ」

 

「ま、そういうことなら準備完了だね! これからしばらく、よろしく!」

 

とリーファが言い、俺とユウキとリーファは手を重ねた。

俺の胸ポケットから飛び出してきたユイは、三人の上に手を置き言った。

 

「がんばりましょう! 目指せ世界樹」

 

「「「おー!!」」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ユイを肩に乗せた俺と、俺の隣を歩いているユウキ、そして俺とユウキの前方を歩いているリーファ。

歩くこと数分、俺たち四人の眼の前に、翡翠に輝く優美な塔が現れた。

シルフ領のシンボル、《風の塔》だ。

俺は昨日激突した壁を見て、少し顔を強張らせてしまった。

 

「キリトはあの塔に突っ込んだんだっけ」

 

う、ユウキさん。 言わないでよ。

 

「すごい音だったよね」

 

こちらを振り向いたリーファにも言われた。

 

二人とも、笑わないでよ……。

 

「……それはそうと、なんで塔に? 用事でもあるのか?」

 

俺がリーファに訊ねた。

 

「ああ……長距離を飛ぶときは塔の天辺から出発するのよ。 高度が稼げるから」

 

「「なるほど」」

 

リーファは俺とユウキの背を押しながら、歩きだした。

 

「さ、行こ! 夜までに森を抜けておきたいね」

 

「俺はまったく地理がわからないからなぁ。 案内よろしく」

 

「ボクも地理には自信がないんだ。 案内よろしくね」

 

「任せなさい!」

 

リーファはトンと胸を一回叩いてから、ふと思いついて視線を塔の奥へと移した。

そこには、シルフ領主館の壮麗(そうれい)なシルエットが朝焼けに浮かんでいた。

だが、建物の中心に屹立(きつりつ)する細いポールにはシルフの紋章旗が揚がっていない。

今日一日領主が不在だという印だ。

 

「どうしたの?」

 

「どうかしたの?」

 

俺とユウキは首を傾げ、聞いた。

 

「うん。 知り合いに挨拶をしていこうと思ったんだけど、今は不在らしいから後でメールをしておこうかなって」

 

「なんか悪いな」

 

「うん。 ごめん」

 

「だいじょうぶだよ。 二人が謝らないでよ」

 

リーファは慌て、両手を左右に振って言ってくれた。

 

「さ、行こっか」

 

俺たちは、風の塔の正面扉を潜って内部へと進む。

一階は円形の広大なロビーになっており、周囲を色々なショップの類が取り囲んでいる。

ロビーの中央にはエレベータが二基設置させている。

 

「このエレベータに乗って頂上に行くよ」

 

「おう」

 

「了解―」

 

俺とユウキはリーファの後を追い、歩き出した。




物語が全然進まなかったね……。

なんかすまん。

シグルドは次回出すよ。

あと、ユウキちゃんが装備している《黒紫剣》に酷似している片手剣は、マザーズロザリオ編で使用していた剣ということで。

防具の紫を基調としたロングコートも同様かな。

まぁ、あまり肌が見えないようになっているが。

SAO編でこの事を説明出来なくてごめんよ。

次回も頑張って書くよ。 うん。 頑張る。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第56話≪目指せ世界樹≫

ども!!

スランプ気味でも投稿をする舞翼です!!

あと、第55話のサブタイトル変えたよー。

第56話のタイトルと被っちゃうからね。

頑張って書いたよ。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


Side リーファ

 

エレベータに乗り込もうとした時、不意に傍らから数人のプレイヤーが現れ、私たちの行く手を塞いだ。

激突する寸前で、如何にか翅を広げて踏み止まる。

 

「ちょっと危ないじゃない!」

 

私が反射的に文句を言いながら、眼の前に立ち塞がる長身の男を見上げると、それは私のよく知った顔だった。

シルフにしては図抜(ずぬ)けた背丈に、荒削りだが男っぽく整った顔。

やや厚めの銀のアーマーに身を包み、腰には大ぶりのロングソード。

額に幅広の銀のバンド巻き、波打つ濃緑の髪を肩の下まで垂らしている。

彼の名前はシグルド。

彼の両脇に控えている二人はパーティーメンバーだ。

シグルドは、この数週間私が行動を共にしているパーティーメンバーの前衛だ。

また、シルフ最強剣士の座を私と争う剛の者で、同時に、主流派閥に関わるのを忌避(きひ)している私と違って政治的にも実力者だ。

 

「こんにちは、シグルド」

 

私は笑みを浮かべて挨拶したものの、シグルドはそれに応える心境ではないらしく、唸り声を交えながら行き成り切り出した。

 

「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」

 

私はこくりと頷いた。

 

「うん……まぁね。 貯金もだいぶできたし、しばらくのんびりしようと思って」

 

「勝手だな。 残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか」

 

「ちょっ……勝手……!?」

 

私がパーティーに入る時に出した条件は、パーティーに参加するのは都合のつく時だけ、抜けたくなったら何時でも抜けられる、という二つを出したんだけど……。

シグルドは太い眉を吊り上げ、言葉を続けた。

 

「お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。 そのお前が理由もなく抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥を塗られることになる」

 

「……………」

 

私は口を閉ざしてしまった。

私はレコンに真面目な顔で忠告された事があった。

『このパーティーに深入りするのはやめたほうがいいかもしれない』。

理由を聞くと、シグルドはリーファを戦力としてスカウトしたのではなく、自分のパーティーのブランドを高める付加価値として欲しがったのではないか。

更に言えば、自分に勝ったリーファを仲間、というより部下とアピールすることで勇名の失墜を防いだつもりではないか、と。

考え込んでいたら、背後で気配を消していたキリト君とユウキちゃんが口を開いた。

 

Side out

 

 

俺とユウキは、シグルドに向かって言葉を発した。

 

「仲間はアイテムじゃないぜ」

 

「そうそう」

 

シグルドは俺とユウキの言葉を聞いて、唸り声を上げた。

 

「……なんだと……?」

 

俺とユウキは一歩踏み出し、リーファの間に割って入り、シグルドに向き合った。

 

「他のプレイヤーを、あんたの大事な剣や鎧みたいに、装備欄にロックしておくことはできないって言ったのさ」

 

「それにさっきの話を聞くようだと、リーファちゃんは条件を出していたんじゃないの?」

 

「ッ……きッ……貴様らッ……!!」

 

俺とユウキのストレートな言葉に、シグルドの顔が瞬時に赤く染まった。

肩から下がった長いマントを巻き上げ、剣の柄に手をかける。

 

「屑漁りのスプリガン、インプ風情がつけあがるな! リーファ、お前こんな奴の相t「おい……お前、今なんて言った……」…」

 

俺はシグルドの言葉を遮り、シグルドに向けて殺気を放った。

ユウキは笑みを浮かべながら、俺の肩をポンポンと優しく叩いてくれた。

 

「ボクは平気だから、抑えて抑えて」

 

「…了解」

 

俺は殺気を霧散させた。

シグルドは、剣の柄に手を添えたまま震えを我慢していた。

……やりすぎたか?

 

「失礼なこと言わないで! キリト君とユウキちゃんは、あたしの新しいパートナーよ!」

 

シグルドは、驚愕を滲ませ口を開いた。

 

「……リーファ……領地を捨てて《レネゲイド》になるのか……」

 

「ええ……そうよ。 あたし、此処から出るわ」

 

自発的に領地を捨てた、あるいは領主に追放されたプレイヤーを脱領者(レネゲイド)と呼称している。

シグルドは唇を歪め、食い縛った歯を僅かに剥きだすと、ロングソードを抜き放った

 

「……小虫が這いまわるくらいは捨て置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎだな。 のこのこと他種族の領地まで入ってくるからには斬られても文句は言わんだろうな……?」

 

俺とユウキが肩を竦める動作で応じた後、ユウキが口を開いた。

 

「おじさん。 デュエルしようか?」

 

ユウキはウインドウを開き、シグルドにデュエル申請しようとする。

だが、シグルドは歯噛みしながらロングソードを鞘に収めた。

 

「ちッ」

 

シグルドは周囲に目立つことはしたくないようだ。

 

シグルドさんや、目立ちたく無いなら剣を抜くなよ。

 

「せいぜい外では逃げ隠れることだな。――リーファ」

 

俺たちに捨て台詞を浴びせてから、俺たちを睨む。

 

「……今オレを裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ」

 

「留まって後悔するよりずっとマシだわ」

 

「戻りたくなった時のために、泣いて土下座する練習をしておくんだな」

 

それだけ言い放つと、シグルドは身を翻し、塔の出口へ歩き始めた。

付き従う二人もシグルドを追って走り去って行った。

彼らの姿が消えると、リーファは大きく息を吐き出し、俺とユウキを見た。

 

「……ごめんね、妙なことに巻き込んじゃって……」

 

「いや、俺たちも火に油を注ぐ真似しちゃって……。 いいのか? 領地を捨てて……」

 

「うん。 今ならまだ間に合うかも……」

 

「あー……うん。 いいのよ」

 

と言い、リーファは俺とユウキの背中を押して歩き始めた。

野次馬の間をすり抜け、ちょうど降りて来たエレベータに乗りこむ。

最上階のボタンを押して数十秒後、エレベータが停止すると、ドアが音も無く開いた。

白い朝陽と心地良い風が同時に流れ込んで来る。

彼方に殆んど空と同化した色で高く(そび)える影――世界樹。

 

「おぉ……凄い眺めだな……」

 

「わぁー、綺麗だねー」

 

俺とユウキは、リーファの後に続いてエレベータから降り、数歩歩き周囲を見回した。

リーファは俺の隣に立ち、言った。

 

「でしょ。 この空を見ていると、小さく思えるよね、色んなことが」

 

リーファは言葉を続ける。

 

「……いいきっかけだったよ。 いつかは此処を出て行こうと思っていたの。一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけど……」

 

「そうか。……でも、なんだか、喧嘩別れみたいな形にさせちゃって……」

 

「……ごめんね。 リーファちゃん……」

 

「あの様子じゃ、どっちにしろ穏便には抜けられなかったよ――なんで……」

 

この先は、リーファの独り言だった。

 

「なんで、ああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな……。 せっかく、翅があるのにね……」

 

この問いに答えたのは、俺の胸ポケットから顔を出したユイであった。

 

「フクザツですね、人間は」

 

音を立てて飛び立つと俺の肩に乗り、小さな腕を組んで首を傾げる。

 

「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」

 

リーファはユイの顔を覗き込み、屈みこんだ。

 

「求める……?」

 

「他者の心を求める衝動が人間の基本的な行動原理だとわたしは理解しています。 ゆえにそれはわたしのベースメントでもあるんですが、わたしなら……」

 

ユイは俺の頬に手を添えると、音高くキスをした。

 

「こうします。 とてもシンプルで明確です。 ママとねぇねぇも、こうしていました」

 

あっけに取られて目を丸くするリーファの前で、俺は苦笑いしながら指先でユイの頭を突いた。

それに、余計な事は言ったらいけないよ。

 

「……ユイちゃん覚えていたんだ」

 

「人間界はもうちょっとややこしい場所なんだよ。 気安くそんな真似したらハラスメントでバンされちゃうよ」

 

「手順と様式ってやつですね」

 

「……頼むから妙なこと覚えないでくれよ」

 

「……うん。 妙なことは覚えないでね」

 

俺とユウキとユイのやり取りを呆然と眺めていたリーファは、如何にか口を開いた。

 

「す、すごいAIだね。 プライベートピクシーってみんなそうなの?」

 

「こいつは特にへんなんだよ」

 

「ユイちゃんは特別だからね」

 

俺はユイの襟首を摘み上げると、ひょいと胸ポケットに放り込んだ。

 

「そ、そうなんだ。………人を求める心かぁ……」

 

リーファは、屈めていた腰を伸ばした。

 

「さ、そろそろ出発しようか」

 

展望台の中央に設置されたロケーターストーンという石碑を使って俺とユウキに戻り位置をセーブさせると、リーファは四枚の翅を広げて軽く震わせた。

 

「準備はいい?」

 

「「ああ(うん)」」

 

俺の胸ポケットから顔を出したユイが頷くのを確認して、いざ離陸としようとした所で。

 

「リーファちゃん」

 

エレベータから転がるように飛び出してきた少年に呼び止められ、リーファは僅かに浮いた足を再び着陸させた。

 

「あ……レコン」

 

「ひ、ひどいよ、一言声をかけてから出発してもいいじゃない」

 

「ごめーん、忘れてた」

 

ガクリと肩を落としたレコンは、顔を上げると真剣な表情で言った。

 

「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」

 

「ん……その場の勢い半分だけどね。 あんたどうすんの」

 

「決まっているじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げているんだから……」

 

レコンは短剣を空に突き上げたが、

 

「えー、別にいらない」

 

リーファの言葉により、よろけてしまっていた。

 

「ま、まぁそういうわけだから当然僕もついて行くよ……と言いたいところだけど、ちょっと気になることがあるんだよね。 だから、当分シグルドのパーティーに残るよ……」

 

確かに、何か企んでいる感じがしたしな……。

レコンが俺とユウキに向き直った。

 

「キリトさん、ユウキさん。 彼女、トラブルに飛び込んでいくクセがあるんで、気をつけてくださいね」

 

「あ、ああ、わかった」

 

「大丈夫だよ。 ボクはキリトのトラブルに付き合っていたしね」

 

……ユウキさんの言う通りですね。

SAOでは、何時も俺のトラブルに付き合ってくれていたからな~。

 

「それから、言っておきますけど彼女は僕のンギャッ!」

 

語尾の悲鳴は、リーファがレコンの足を思い切り踏みつけたからだ。

 

「余計なこと言わなくていいのよ! しばらく中立域に居ると思うから、何かあったらメールでね!」

 

そう言って、リーファは翅を震わせて飛翔した。

 

「り……リーファちゃん元気でね!! すぐ追いかけるからねー!!」

 

とレコンの叫び声。

 

俺とユウキも飛翔し、リーファの隣まで移動する。

 

「彼、リアルでも友達なんだって?」

 

「……まぁ、一応」

 

「へ~」

 

ユウキは笑みを浮かべている。

俺の胸ポケットから顔を出したユイが言った。

 

「あの人の感情は理解できます。 好きなんですね、リーファさんのこと。 リーファさんはどうなんですか?」

 

「し、知らないわよ!!」

 

リーファは照れ隠しをする為、スピードを上げた。

 

「さ、急ごう! 一回の飛行であの湖まで行くよ!」

 

「「了解!!」」

 

俺たちは思い切り翅を鳴らし空中移動を開始した。

 




こんな感じに書き上げましたー。

あと、何でランちゃんが鳥籠の中に居るのか? 考えたよー。

あ、予想とか書かんといてね。

次回も頑張るよ。

頑張る。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第57話≪いざ、鉱山都市へ≫

ども!!

なかなかスランプから抜け出せない舞翼です!!

今回の投稿も滅茶苦茶不安だな。

でも、頑張って書いたよ。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


~中立域 《古森》上空~

 

Side リーファ

 

私は半ば感嘆し、半ば呆れながらキリト君の戦闘を眺めていた。

今私たちが相手にしているモンスターは、羽の生えた単眼の大トカゲ《イビルグランサー》。

シルフ領の初級ダンジョンならボス級の戦闘力を持っている。

紫の一つ目から放つ《邪眼》――カース系の魔法攻撃が命中すると一時的に大幅なスターテスダウンを強いられる。

ユウキちゃんは、魔法攻撃の事を考えて一定の距離を保ちながら戦っているけど、キリト君の戦闘は、ヒットアンドアウェイの法則を無視して、次々に大トカゲを斬り伏せていく。

キリト君に魔法攻撃が命中するたびに、私とユウキちゃんで解呪魔法をかけてあげているんだけど……正直言ってその必要があるのか怪しい。

キリト君の戦闘は、剣を振り回しながら突進し、時には暴風に巻き込み、切り刻む。

当初は五体居たイビルグランサーを四体屠り、最後の一匹は残り二割程度に減らされた所で逃走に移った。

 

「やべ。 一匹逃がした」

 

「リーファちゃん、行ったよ」

 

「了解―」

 

情けない悲鳴を上げながら森に逃げ込もうとする奴に向かって、私は左手をかざすと、遠距離ホーミング系の攻撃魔法放つ。

緑色に輝くブーメラン状の刃が宙を奔り、イビルグランサーがポリゴンの欠片となって四散した。

 

Side out

 

 

俺とユウキは武器を収めてからリーファの元に向かい、

 

「おつかれ!」

 

「援護サンキュー!」

 

「援護ありがとね!」

 

手を上げてから、手の平を打ち付け合う。

 

「しっかしまぁ……何ていうか、ムチャクチャな戦い方ねぇ」

 

俺はリーファに言われ頭を掻いた。

 

「そ、そうかな」

 

「そうだよ。 何時もボクがサポートに回っているんだからね」

 

「……まぁ……そうだけどさ」

 

「今みたいな一種構成のモンスターならそれでもいいけどね。 近接系と遠距離型の混成とか、もしプレイヤーのパーティーと戦闘になった時は、どうしても魔法で狙い撃たれるから気を付けないとだめだよ」

 

「魔法ってのは回避できないのか?」

 

「遠距離攻撃魔法には何種類かあって。 威力重視で直線軌道の奴は、方向さえ読めれば避けられるけど、ホーミング性能のいい魔法や範囲攻撃魔法は無理ね。 それ系を使うメイジがいる場合は常に高速移動しながら交錯タイミングをはかる必要があるのよ」

 

「じゃあ、タイミングを合わせて魔法を斬ればいいんだね!」

 

ユウキさん。 満面の笑みですごい事をさらりと言ったね……。

……お前になら出来るかもな、すぐには無理かもしれんが。

 

「……ユウキちゃん、凄い事を考えるね。……あれ……デジャブったよ……」

 

リーファと会った中立の深い森の中で、同じようなやり取りをしていたな。

 

「キリトは出来るんじゃないかな? 魔法を斬るの。 SAOでは、武器破壊とかやっていたんだから」

 

「じゃあ、ユウキも出来るんじゃないか? お前も武器破壊出来ていたしな」

 

俺とユウキの会話に、リーファは口をポカンと開けてしまっていた。

 

「き、キリト君とユウキちゃんは、そんなことが出来たんだ……」

 

「ま、まぁ」

 

「うん。 最初にこの技を編み出したのはキリトだけど」

 

リーファの顔が少し引き攣っているよ。

……もしかして……異常な技なのかな……。

 

「……とっ、とりあえず、先に進もうか?」

 

「「おう(うん)」」

 

頷き合い、俺たちは翅を鳴らして空中移動を開始した。

その後はモンスターに出会うこと無く、古森を脱して山岳地帯に入った。

 

「あ、そろそろ翅が限界ね。 一度着陸しましょうか?」

 

「「わかった」」

 

リーファが先に降下したのを確認してから、俺とユウキも降下を開始する。

地面に着陸した俺とユウキは、腰に手を当てて背筋を伸ばした。

 

「疲れた?」

 

「いや、大丈夫だぞ」

 

「ボクも大丈夫」

 

「頑張るわね二人とも、でも空の旅はしばらくお預けよ」

 

「「なんで(だ)?」」

 

「見えるでしょう、あの山」

 

草原の先にそびえ立つ、真っ白に冠雪(かんせつ)した山脈をリーファが指差した。

 

「あれが飛行限界高度よりも高いせいで、山越えには洞窟を抜けないといけないの。 シルフ領からアルンへ向かう一番の難所、らしいわ。 あたしも此処からは初めてなのよ」

 

「そうなんだ。 結構長い洞窟なの?」

 

「かなり。 途中に中立の鉱山都市があって、そこで休めるらしいけど……。 キリト君、ユウキちゃん。今日はこれから予定ある?」

 

俺はウインドウを開き、時計を確認する。

 

「リアルだと夜七時か。 俺とユウキは大丈夫だ」

 

「わかった。 それじゃあ、もうちょっと頑張ろうか。 一旦《ローテアウト》しよっか」

 

「「ろ、ろーて?」」

 

「ああ、交代でログアウト休憩することだよ。 中立地帯だから、即落ちできないの。 だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るのよ」

 

「なるほどね。 ユウキとリーファからどうぞ」

 

「お言葉に甘えて。 二十分ほどよろしく! そうだ、作り置きしておくから後で食べてね」

 

「じゃあ、ボクもお言葉に甘えるね」

 

そう言って、リーファとユウキはウインドウを出してからログアウトボタンを押し、現実世界へ帰還した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

桐ケ谷家 

 

Side 直葉

 

ベットの上で目を覚ました私は、アミュスフィアを急いで外して一階に駆け降りた。

すでに、一階のキッチンには木綿季ちゃんの姿があった。

木綿季ちゃんは、夕食の準備に取り掛かっていた。

 

「ご、ごめん、木綿季ちゃん。 手伝うよ」

 

「あ、スグちゃん。 ベーグルサンドでいいかな?」

 

そう言って、木綿季ちゃんは首を傾げた。

その仕草は、とても可愛かった。

う~ん、こんなに可愛い子をお兄ちゃんはどうやって落としたんだろう?

ALOで少し聞いてみようかな。

 

「うん。 私はそれで大丈夫だよ」

 

「了解―。 スグちゃんは先にシャワーを浴びてきなよ。 ボクがやっておくから」

 

「い、いいの」

 

「いいよー」

 

う~、私より出来た子だな~。

お兄ちゃんが羨ましい!

 

「じゃあ、お言葉に甘えるね」

 

そう言って、私はお風呂場に向かった。

私は手早くシャワーを済ませから、ジャージに着替え、キッチンに戻ると、テーブルの上に完成したベーグルサンドを並べている木綿季ちゃんの姿があった。

お皿の上に乗っていたベーグルサンドは、ハム、チーズ、マスタード、野菜類が挟んでありとても美味しそうだ。

 

「どうぞ。……何か簡単すぎる気がするけど」

 

「いたただきま~す」

 

その後、私はベーグルサンドを食べ、食器を片付け、自室に戻った。

木綿季ちゃんが作ったベーグルサンドはとても美味しかった。

木綿季ちゃんは、シャワーを浴びてからALOに戻るらしい。

私は自室に戻ってから、アミュスフィアを装着し、妖精の世界に舞い戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

Side リーファ

 

「お待たせ! モンスター出なかった?」

 

キリト君は、片膝立ちでしゃがみ込んだ格好から立ち上がり、口から緑色のストロー状の物を離し、頷いた。

 

「おかえり。 静かなもんだったよ」

 

「……それ、ナニ」

 

「雑貨屋で買い込んだんだけど……スイルベーン特産だってNPCが言っていたぜ」

 

「あたし知らないわよ、そんなの」

 

キリト君は、それを私にひょいっと放ってきた。

それを一息吸うと、甘い薄荷の空気が口の中に広がった。

 

「じゃ、今度は俺が落ちる番だな。護衛よろしく」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

キリト君はウインドウを出し、ログアウトボタンを押し、現実世界に還った。

 

「戻ったよー」

 

ユウキちゃんが、キリト君と代わるようにALOに戻った。

私とユウキちゃんが、ぼんやりと空を眺めていたら、キリト君の胸ポケットからユイちゃんが姿を現した。

 

「……ゆ、ユイちゃん、ご主人様いなくても動けるの?」

 

ユイちゃんは当然といった顔で小さな手を腰に当て、頷いた。

 

「そりゃそうですよー。 わたしはわたしですから。 それとご主人様じゃなくて、パパです」

 

そう言って、ユイちゃんはユウキちゃんの肩に乗ってから言った。

 

「こちらがママですよ」

 

「そうだね。 ボクはユイちゃんのママだよ」

 

ユウキちゃんは、ユイちゃんの頬を優しく突いている。

 

「そういえば……なんでユイちゃんは、キリト君とユウキちゃんのことをパパとママって呼ぶの? あと、ねぇねぇって誰のことなの?」

 

「パパとママとねぇねぇは、私を助けてくれたんです。 わたしのことを俺の子供だ、娘だ、お姉さんだ、ってそう言ってくれたんです。 だから、パパとママとねぇねぇです」

 

「ごめんね、リーファちゃん。 ねぇねぇはまだ紹介できないの」

 

ユウキちゃんの表情は少し悲しそうだった。

どうしたんだろう……?

 

「う、うん……」

 

う~ん、やっぱり事情が飲み込めないな。 色々あったんだろうな。

私は、ユイちゃんに訊ねてみた。

 

「……パパとママとねぇねぇのこと、好き?」

 

「はい! 大好きです!」

 

ユイちゃんは、満面の笑みで私の質問に応えてくれた。

 

「ユウキちゃん、一つ聞いていいかな?」

 

「どうしたの~」

 

「どうやって、キリト君のことを好きになったの?」

 

ユウキちゃんは、顎に手をやって少し考えてから口を開いた。

 

「色々な出来事を一緒に経験してから、ボクにとってかけがえのない存在になったんだよ。 あと、キリトとボクは二年間離れることはなかったよ。 う~ん、答えになっているかな」

 

「キリト君とユウキちゃんは、《あのゲーム》が始まってからずっと一緒だったんだー……あっ、ごめん」

 

「大丈夫だよ、リーファちゃん。 途中から、ねぇねぇも一緒だったけどね」

 

「そ、そうなんだ」

 

それから数秒後、キリト君がログインして戻って来た。

 

「ただいま……あれ、何かあったの?」

 

「ボク達の話をしていたんだよ」

 

「そうか。 あ、作り置きありがとな、美味しかったよ」

 

「うん。 ボクの愛情がたっぷり入っていたからね」

 

「はいはい。 私の前でいちゃつこうとしない」

 

「「……ごめん」」

 

「じゃあ、出発しましょうか。 遅くなる前に鉱山都市まで辿り着けないと、ログアウトに苦労するからさ。 さ、洞窟の入口までもう少し飛ぶよ!」

 

「「おう(うん)」」

 

そう言って、私たちは翅を広げ、軽く震わせる。

キリト君とユウキちゃんが、今まで飛んで来た森の方向に振り向いた。

 

「どうしたの、二人とも?」

 

「いや……」

 

「……誰かに見られた気がするんだ」

 

キリト君とユウキちゃんは、木立の奥を見据えている。

 

「ユイ、近くにプレイヤーは居るか?」

 

「いいえ、反応はありません」

 

ユイちゃんは小さな頭をふるふると動かした。

だけどキリト君とユウキちゃんは、なおも納得出来ない様子で森の奥を見ている。

 

「見られた気が、て……。 この世界にそんな第六感みたいもの、あるの?」

 

「これが中々バカに出来ないんだよ。 特にユウキの勘はな」

 

「でも、ユイちゃんが見えないなら誰も居ないんじゃないかな」

 

「うーん、ひょっとしたらトレーサーが付いているのかも……」

 

私が呟くとキリト君が眉を上げた。

 

「そりゃ何だ?」

 

「追跡魔法よ。 使い魔の姿で、術者に対象の位置を教えるのよ」

 

「へー、便利な魔法があるんだね。 それは解除出来ないの?」

 

「トレーサーを見つければ可能だけど、術者の魔法スキルが高いと対象との間に取れる距離も増えるから、こんなフィールドだとほとんど不可能ね」

 

「そうか……取り敢えず先を行こうぜ」

 

「そうだね」

 

「うん。 じゃあ、二人とも行くよ」

 

「「おう(うん)」」

 

私たちは頷き合い、地面を蹴って浮かび上がった。

それから翅を大きく震わせ空中移動を開始した。

 




こんな感じに書き上げましたー。

今回はリーファちゃん視点が多かったね(笑)

ユウキちゃんも武器破壊出来たんだね(笑)

やばい、今後の展開あんまり考えていないのよね……。

まぁ、頑張って考えるよ。

次回も頑張って投稿するね。

うん。 頑張る。

えッ……ランキングに載ってた……めちゃくちゃ嬉しいーよ。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第58話≪ルグルー回廊≫

ども!!

舞翼です!!

お気に入りが500件超えたどー。

感謝感激お礼祭りだぜー!!

っと、失礼、取り乱しました。

頑張って書いたでー。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。



数分の飛行で、三人と一人(ユイ)は洞窟の入り口まで辿り着いた。

その洞窟は、ほぼ垂直に切り立った一枚岩を中心に、四角い穴が開いている。

入り口の周囲は、不気味な怪物の彫刻が飾られていた。

 

「この洞窟、名前はあるの?」

 

俺の問いに、リーファは頷きつつ答えた。

 

「《ルグルー回廊》って言うのよ。 ルグルーってのが鉱山都市の名前」

 

「へー、面白そうな洞窟だね」

 

俺たちは言葉を交わした後、洞窟の中へと歩き出した。

外から差し込む光もすぐに薄れ、徐々に視界が暗くなり始めた。

リーファが魔法で(あか)りを(とも)そうと手を上げてから、ふと思いついて俺を見た。

 

「そう言えば、キリト君とユウキちゃんは魔法スキル上げているの?」

 

「あー、まぁ、種族の初期設定のやつだけなら……。 使ったことあんまりないけど……」

 

「ボクは種族の初期設定と、回復魔法とかは上げているよ。 あと、ボクが選んだ種族は、暗視が得意だから暗闇でも物が見えるよ」

 

「あっ、そっか。 ユウキちゃんはインプだもんね。 じゃあキリト君。スプリガンの得意分野の灯り術をお願い、風魔法よりいいのがあるはずだから」

 

「えーと……ユイ、ユウキ、分かる?」

 

頭を掻きながら俺が言うと、ユイとユウキに溜息をつかれた。

 

「もう、パパ、マニュアルくらい見ておいたほうがいいですよ。 灯りの魔法はですね……」

 

ユイに続いてユウキが口を開いた。

 

「ユイちゃんが発音した後にボクも続くから、キリトはボクの後に続いてね……いい?」

 

「……おう」

 

ユイとユウキが発声したスペルワードを、俺は右手を掲げながら覚束(おぼつか)ない調子で繰り返した。

右手から灰色の波動が広がり、それがリーファの体を包んだ途端、リーファの視界が明るくなった。

続けて、自分にも暗視付与魔法をかけ、視界を明るくした。

 

「わぁ、これは便利ね。 スプリガンも捨てたもんじゃないわね」

 

「あ、その言われ方なんか傷つく」

 

「でも、使える魔法は覚えといたほうがいいよ。ボクは全部覚えたしね~」

 

「ユウキちゃんの言う通りだよ。 使える魔法は暗記しといたほうがいいわよ、いくらスプリガンのしょぼい魔法でも、それが生死を分ける事だってひょっとしたらあるかもしれないしね」

 

「うわ、さらに傷つく」

 

軽口を叩きながら、曲がりくねった洞窟を下っていく。

いつの間にか、入り口の白い光はすっかり見えなくなっていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「うええーと……アール・デナ……レイ……」

 

俺は紫に発光するリファレンスマニュアルを覗き込み、覚束(おぼつか)ない口調でスペルワードをぶつぶつと呟いていた。

 

「つっかえていたら魔法が発動しないよ」

 

ユウキにそう言われ、俺は深い溜息と共にがっくりと項垂れる。

 

「まさかゲームの中で英単語の勉強みたいな真似をすることになるとは思わなかったなぁ……俺はもうピュアファイターでいいよ……」

 

「はいはい、泣き言を言わない。 ほら、最初からもう一回」

 

「…あい」

 

俺はしぶしぶ魔法の発音の練習を開始する。

俺とユウキの言葉のやり取りを見ていたリーファが心の中で呟いた。

 

「(お兄ちゃんは将来、木綿季ちゃんの尻に敷かれるね)」

 

洞窟に入って数時間が経過していた。

オークとの戦闘も難なく切り抜け、スイルベーンで仕入れておいたマップのお陰で迷うことなく、順調に洞窟内を進んでいた。

マップによればこの先に、広大な地底湖に架かる橋があり、それを渡ればいよいよ地底鉱山都市ルグルーに到着することになる。

突然『ルルル』と電話の呼び出し音に似たサウンドエフェクトが鳴り、リーファが足を止めた。

 

リーファは顔を上げ、俺たちに声を掛けた。

 

「あ、メッセージ入った。 ごめん、ちょっと待って」

 

「「ああ(うん)」」

 

リーファは立ち止まりウインドウを開くと、送られて来たメッセージに目を通す。

【やっぱり思ったとおりだった! 気をつけてs】

書かれていた内容はこれだけであった。

 

「なんじゃこりゃ」

 

思わずリーファが呟いた。

全く意味が解らない。 何が思った通りなのか、何に気を付けろというのか、そもそも文末の『s』と言うのは何なのだ。

 

「エス……さ……し……す……うーん」

 

「どうしたんだ?」

 

「どんなメッセージだったの?」

 

俺とユウキがリーファに聞いた。

リーファが俺とユウキに内容を説明しようとした、その時だった。

俺の胸ポケットからぴょこんとユイが顔を出した。

 

「パパ、ママ。 接近する反応があります」

 

「モンスターか?」

 

「もしかして、プレイヤー?」

 

「はい。 ママの言う通りプレイヤーです」

 

俺とユウキは、剣の柄に手を掛ける。

だが、ユイはふるふると首を振った。

 

「パパ、ママ。 人数が多いです。 十二人」

 

「じゅうに……!?」

 

リーファはユイの言葉に絶句した。

通常の戦闘単位にしては多すぎる人数だ。

 

「ちょっとヤな予感がするの。 隠れてやり過ごそう」

 

隠れようとしたその時、ユウキが思いついたように言葉を発した。

 

「あ、そうだ。 此処で返り討ちにしちゃおうよ」

 

「お、それもいいな」

 

「あ、そうでした。 パパとママなら可能でした。 ()っちゃいましょう」

 

リーファは、俺とユウキとユイの言葉に口をポカンと開けてしまった。

まぁ、そういう反応になるわな。 二対十二だからな。

リーファが参加すれば三対十二になるが。

 

「ちょ……ちょっと待って……ここは隠れようよ」

 

俺とユウキは少し迷った後、口を開いた。

 

「うーん、リーファちゃんがそう言うなら」

 

「なら隠れるか。 どうやって隠れるんだ?」

 

此処は長い一本道の途中で、幅は広いが身を隠せるような場所が無い。

 

「ま、そこはお任せよ」

 

リーファはそう言うと、俺とユウキの手を取り、手近な窪みに引っ張り込んだ後、左手を上げスペルを詠唱する。

すると、緑に輝く空気の渦が発生し、窪みの前に薄緑色の膜が張られた。

この魔法によって、外部からはほぼ完全に隠蔽されるのだ。

リーファは、俺とユウキを見ると小声で囁いた。

 

「喋るときは最低のボリュームでね。あんまり大きい声を出すと魔法が解けちゃうから」

 

「了解。 便利な魔法だなぁ」

 

「本当に便利な魔法だねー。 ボクもこうゆう魔法覚えようかな」

 

俺とユウキが風の膜を見回していたら、ユイがポケットから顔を出し、ひそひそと囁いた。

 

「あと二分ほどで視界に入ります」

 

俺たちは首を縮め、岩肌に体を押し付ける。

やがてザッザッという足音が微かに届いてきた。

俺は首を伸ばし、不明集団が接近してくる方向を睨んだ。

 

「あれは……何だ?」

 

「あれ?」

 

ユウキも首を伸ばした。

 

「あっ、あれだね」

 

ユウキも俺が見ている物に気付いたようだ。

 

「何、二人して。 まだ、何も見えないでしょ?」

 

「うん。 赤い、ちっちゃいコウモリが見えるの」

 

「あの赤いコウモリは、モンスターなのか?」

 

「!?」

 

リーファは息を呑んで眼を凝らした。

洞窟の暗闇の中を、確かに小さな赤い影がひらひらと飛翔し、こっちに近づいてくる。

あれは――

 

「やられたっ!?」

 

リーファは窪みから道の真ん中に転がり出た為、自動的に隠蔽魔法が解除される。

 

「お、おい、どうしたんだよ」

 

「どうしたの? リーファちゃん」

 

「あれは、高位魔法のトレーシング・サーチャーよ!! 潰さないと!!」

 

リーファは両手を前に掲げ、スペル詠唱を開始。

長めのワードを唱え終えると、リーファの指先からエメラルド色に光る針が無数に発射された。

この攻撃により赤いコウモリは、赤い炎に包まれて消滅した。

リーファは身を翻すと俺とユウキに向かって叫んだ。

 

「街まで走るよ、キリト君、ユウキちゃん」

 

「え、逃げるのか?」

 

「ボクは此処で戦ってもいいんだけど……」

 

とユウキは呟いていたが。

そんなに戦いたかったのか?

 

「……まぁ、とにかく逃げるよ。 それに……さっきのは火属性の使い魔なの。ってことは、今接近しているパーティーは……」

 

「サラマンダーか」

 

「サラマンダーって、赤い人たちのことでしょ」

 

「赤い人って……まぁ、そうだけど」

 

俺たちがやり取りをしている間にも金属音の混じった足音が大きくなっていく。

 

「行こう」

 

「「おう(うん)!!」」

 

頷き合い、俺たち三人は走り出した。

一目散に駆けながらリーファがマップを広げて確認した後、俺たちに声を掛けてきた。

 

「この一本道はもうすぐ終わり、その先に大きな地底湖が広がっているの。 湖に架かっている橋を一直線に渡れば、鉱山都市ルグル―の門に飛び込むことができるわ。 門を潜れば安全よ」

 

「「了解!!」」

 

「(でも、どうしてこんなところにサラマンダーの大集団が……。今は、此処から逃げ切ることが先決ね)」

 

橋に入ると、周囲の温度が僅かに下がった。

ひんやりと水の香りがする空気を切り裂いて疾駆する。

 

「どうやら逃げ切れそうだな」

 

「うん。 行けそうだね」

 

「油断して落っこちないでよ。 水中に大型のモンスターがいるから」

 

俺たちは短く言葉を交わした直後だった、背後から二つの光点が高速で通過したのだ。

その二つの光点は、門の手前に落下した。

すると、重々しい轟音と共に、橋の表面から巨大な岩壁が高くせり上がり、行く手を完全に塞いだ。

 

「やばっ……」

 

「やっぱり逃がしてくれないよね」

 

「まっ、そうだな」

 

俺とユウキは逃げるのを諦め、壁の前で立ち止まった。

 

「この壁って壊せるの?」

 

「それボクも気になる」

 

「これは土魔法の障壁だから物理攻撃じゃ破れないわ。 攻撃魔法をいっぱい撃ち込めば破壊できるんだけど……」

 

「じゃあ戦うしかないわけか」

 

「そうだね。 戦おうよ」

 

俺とユウキはそう言って、武器を放剣した。

 

「うん。 戦うしかないんだけど、ちょっとヤバいかもよ……。 サラマンダーがこんな高位の土魔法を使えるってことは、よっぽど手練のメイジが混ざっているんだわ……」

 

「大丈夫でしょ。 それに試したい事があるしね」

 

「試したい事ってなんだ?」

 

「秘密~」

 

「……キリト君とユウキちゃんは、何でそんなに余裕そうなの……」

 

リーファの言う通り、俺とユウキは一度も焦りを見せていない。

 

「場数をたくさん踏んでいるからね。 この程度は序の口だよ」

 

「そうだな。 もっと加勢されても大丈夫だしな」

 

俺とユウキの言葉に、リーファは片手で頭を押さえていた。

 

「……そうなんだ。(キリト君とユウキちゃんが色々と規格外ってことがわかったよ)」

 

「むっ、何か失礼こと言われたような気がする」

 

「気が合うな、俺もだ」

 

そう言ってから、リーファを見る。

 

「あ、あはは、気のせい気のせい」

 

リーファは、両手を大きく左右に振っていたが。

 

「いっちょ殺るか」

 

「OK」

 

「私はヒールに徹するね」

 

これから、(俺たち)十二(サラマンダー)の戦闘が始まろうとしていた。

 




オリジナル性、入れることが出来たかな?

次回は、無双? するのかな。

この小説のユウキちゃんはしっかり者だよね(笑)

つか、キリト君とユウキちゃんって、最強夫婦だよね(笑)

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第59話≪橋の上で戦争勃発!?≫

ども!!

舞翼です!!

うん。 投稿遅れてごめんね。
これが今書ける戦闘描写の限界だ。
これでも頭を抱えて考えたのよ。

あ~、文才が欲しいよー。

まぁ、言い訳に聞こえるよね。 すまん。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。




俺とユウキは数十歩歩き、剣を構えて隣に立つと言葉を交わした。

 

「行くか」

 

「ん、了解」

 

リーファはヒール役に徹する為、橋を遮る岩壁ぎりぎりの場所まで退いている。

目の前では、重い金属音を響かせながら接近してくる敵集団をはっきりと目視出来る。

先頭、横一列に並んだ巨漢のサラマンダー三人は、分厚いアーマーに身を固め、右手にメイスなどの片手武器、左手に巨大な金属盾を携えている。

俺は腰を落とすと体を捻り、巨剣を後ろ一杯に引き絞り、横一列に並ぶ重戦士に斬りかかる。

 

「――セイッ!!」

 

気合いと共に、重戦士たちに向かって横薙ぎに叩きつけたが、三人のサラマンダーは武器を振りかぶることもせず、右手の盾を前面に突き出して体を隠し、攻撃に耐え切った。

三人のサラマンダーのHPバーは、揃って一割以上減少している。

だがそれも束の間、後方からヒール詠唱が響き、三人のサラマンダーのHPバーを瞬時にフル回復させた。

大型シールドの後方から、オレンジ色に光る火球が次々に発射され、俺が居る場所で着弾する直前、俺の背後からユウキが飛び出してきた。

ユウキは、光る炎球に斬りかかった。

 

「はぁぁぁあああーー」

 

次いで、凄まじい爆発音。

ユウキは俺の眼の前で“魔法を切った”のだ。

剣を左右に振り払い、ユウキは俺の隣に立ち、武器を構え直した。

俺も武器を構え直す。

 

「大丈夫?」

 

「おう。 試したい事って魔法破壊だったのか」

 

ユウキは、のんびりした口調で言った。

 

「まぁねー、ぶっつけ本番で緊張したけど、成功してよかったー」

 

「俺も出来るようにしとかないとな」

 

「キリトはボクより技量が高いんだから、絶対出来るようになるよ」

 

「嬉しいこと言うじゃないか。 さすが俺の奥さん。 あ、関係ないか」

 

今戦闘に参加しているプレイヤー全員が、驚きのあまり呆然としている。

まぁ、そうなるのも仕方が無いはずだ、目の前であんな神業を見せられたら。

てか、俺とユウキは緊張感が無いよね。

うーん、何でこんなに人数を送り込んでまで俺たちを狙うんだ?

それに何時から対策されていた?

短時間ではここまでの対策が出来なかったはずだ。

もしかしてスイルベーンから出た時から、トレーシング・サーチャーが付けられていたのか?

うん。 考えても解らんな。

今はこの状況を何とかせんとな。

 

「さてと、じゃあ行くか」

 

「あ、そだ。 あともう一つ試したいことがあるんだ」

 

「おう。 じゃあ、俺の攻撃に続いて打ち込めよ」

 

「うん。 了解」

 

俺は猛然と重戦士の列に斬りかかる。

前列のサラマンダーは、すぐに我に返り、盾を前面に突き出して攻撃に耐えた。

ユウキが俺とスイッチして、強烈な突き攻撃を叩き込んだ。

あの技何処かで見たことがあるな……。 あいつ、あの技を模倣したのかよ。

それはSAOで使用していた剣技、《黒燐剣》最上位剣技『マザーズ・ロザリオ』計十一連撃。

 

「うわぁぁぁあああ」

 

前衛三人の重戦士は、俺とユウキの強烈な攻撃を盾越し受けたのにも関わらず、完全に体勢を崩した。

ユウキは攻撃を終え、俺の横に着地した。

メイジ隊は余りの出来事に体を硬直させてしまっていた。

すると、リーファの肩に乗っていたユイが大きな声で叫んだ。

 

「パパ。“あれ”を使ってください」

 

「おう!!」

 

俺は剣を掲げ呪文詠唱を始める。

 

「セアー・ウラーザ・ノート・ディプト」

 

今俺が詠唱した呪文は、ただ見た目がモンスターになるだけの幻影魔法だ。

この魔法で変化する姿は、プレイヤーの攻撃スキル値によってランダムに決定されるのだが、大抵パッとしない雑魚モンスターになってしまう上、実スターテスの変動がないということが周知されてしまっていて恐れる者がいない魔法だ。

詠唱が終了し、一際大きく炎の渦が巻き起こり、ゆっくりと鎮まっていく――

 

「わー、凄い。 グリームアイズみたいだよ」

 

俺が幻影魔法で変化した姿は、頭部は山羊のように長く伸び、後頭部から湾曲した太い角が伸びている。

丸い目は真紅に輝き、牙を覗く口からは炎の息が漏れている。

漆黒の肌に包まれた上半身はごつごつと筋肉が盛り上がり、腕は地に着くほど長く、腰には鞭のようにしなる尾。

その姿を表現する言葉は、《悪魔》以外になかった。

その場の全員が魂を抜かれたように見守る中、黒い悪魔はゆっくりと天を振り仰ぎ――

 

「ゴアアアアアア」

 

轟くような雄叫びを上げた。

体の底から、原始的な恐怖が沸き起こる。

 

「ひっ! ひいっ!」

 

体勢を崩していたサラマンダーの前衛の一人が悲鳴を上げた。

 

「ボクも一緒に行くよ」

 

「ゴアアアアアア(おう、背中は任せた)」

 

「了解したよ」

 

次の瞬間、恐ろしいスピードで悪魔が動いた。

次いで、ユウキが悪魔の後ろに続く。

悪魔は鉤爪が生えた右手の指先で重戦士の体を貫くと、次の瞬間、赤いリメインライトが吹き上がって、サラマンダーの姿が消滅した。

悪魔の後ろから飛び出してきたユウキも、前衛に居たサラマンダーの一人を消滅させた。

 

「うわあああ!?」

 

一撃で仲間が倒されるのを見た残り一人の前衛は、恐怖の叫びを上げた。

すると、後方のメイジ集団から、リーダーのものと思わしき怒鳴り声がした。

 

「何をしている、奴らは二人しかいないんだぞ!」

 

しかしその声は戦士たちには届かなかった。

漆黒の悪魔は大音響で吠えながら大きく跳躍すると、右の戦士を噛み砕き、左の戦士を鉤爪で掴み上げた。

激しく振り回し、叩きつける。

ユウキは神速で動き、サラマンダーを次々に赤いリメインライトに変えていく。

これを見たリーダーと思しき男は「ヒィ!」と喉を詰まられたような悲鳴を上げた。

 

「た、退却! たいきゃ――」

 

それから後はもう、戦闘と呼べるものではなかった。

器用に逃げ回っていたリーダーが、最早これまでと見て橋から飛び降りた。

水中には大型のモンスターが棲んでいる。

直後、水音を残してその体が一瞬に水に引き込まれ、湖水の上に赤いリメインライトが浮かんだ。

とうとう最後になったメイジを悪魔が両手で高々と持ち上げ、その体を二つに捻じる勢いで力を込めていく。

 

「う~ん、あの人をちぎちゃうのかな?」

 

剣を収めたユウキが呟いた。

呆然としていたリーファは、そこでようやく我に返った。

ハッとして、大声で叫ぶ。

 

「あ、キリト君!! そいつ生かしといて!!」

 

『すごかったですね~』などと呑気な感想を述べるユイを肩に乗せたまま、リーファは駈け出した。

悪魔は動きを止め振り返ると、唸り声を上げながら、サラマンダーを空中で解放すると、リーファは右手の長剣を男の足下に突き立てた。

 

「さぁ、誰の命令か吐いてもらうわよ!!」

 

男も先程のショックから覚めたらしく、顔面を蒼白にしながら首を振った。

 

「こ、殺すなら殺しやがれ!」

 

「この……」

 

その時、黒い霧を撒き散らしながらゆっくりとその巨体を消滅させ、宙に溶けていく霧の中央から小さな人影が飛び出し、橋の上に着地した。

 

「いやぁ、暴れた暴れた」

 

「ボクも久しぶりに暴れたよ」

 

「いやー、まさか、魔法破壊(スペルブラスト)を成功されるとはなー」

 

「えへへ~」

 

と言葉を交わしながら二つの影がこちらに近づいてきた。

俺は剣を収めてから、サラマンダ―の隣にしゃがみ込み、肩をポンと叩く。

 

「よ、ナイスファイト」

 

「は……?」

 

「いやぁ、いい作戦だったよ。 俺一人だったら速攻やられていたなぁ」

 

あ、ユウキが溜息をついたぞ。

俺がこれからすることが分かったんだろうな。

まぁ、気にせず続けよう。

 

「さて、物は相談なんだがキミ」

 

俺はトレードウインドウを出し、男にアイテム群の羅列を示す。

 

「これ、今の戦闘で俺がゲットしたアイテムと(ユルド)なんだけどな。 俺たちの質問に答えてくれたら、これ全部、キミにあげちゃおーかななんて思っているんだけどなぁー」

 

「はぁー、やっぱりこうなるのね。 ボクのもあげるよ」

 

男は、死亡したサラマンダーがセーブポイントに転送されたのを確認してから口を開いた。

 

「……マジ?」

 

「マジマジ」

 

「うん。 マジだよ」

 

俺とサラマンダーの男は笑みを交わしながら、ユウキは溜息をつきながら取引が成立した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

サラマンダーは、話し出すと饒舌(じょうぜつ)であった。

 

「今日の夕方かなぁ、ジータクスさん。 あ、さっきのメイジ隊リーダなんだけどさ、あの人から携帯メールで呼び出されてさ、入ってみたらたった三人を十何人で狩る作戦だっつうじゃん、イジメかよオイって思ったんだけどさ、昨日カゲムネさんをやった相手だっつうからなるほどなって……」

 

「そのカゲムネさんってのは誰なの?」

 

「ランス隊の隊長だよ。 シルフ狩りの名人なんだけどさ、昨日珍しくコテンパンにやられて逃げ帰ってきたんだよね。 あんたらがやったんだろ?」

 

俺とユウキとリーファは視線を交わした。

おそらく昨日撃退したサラマンダー部隊のリーダーのことだな。

 

「で、そのジータクスさんは何でボク達を狙ったの?」

 

「ジータクスさんよりももっと上の命令だったみたいだぜ。 なんか、《作戦》の邪魔になるとか……」

 

「作戦って?」

 

「サラマンダーの上のほうで何か動いてるっぽいんだよね。 俺みたいな下っぱには教えてくれないんだけどさ、相当でかいこと狙ってるみたいだぜ。 今日入った時、すげぇ人数の軍隊が北に飛んで行くのを見たよ」

 

「北……」

 

サラマンダーとユウキの会話を聞いていたリーファがポツリと呟いた。

リーファは唇に指をあて、考え込んだ。

アルブヘイムのほぼ南端にあるサラマンダー領の主都《ガタン》から真っ直ぐ飛ぶと、現在通過中の環状山脈にぶつかる。

そこから西に回ればこのルグルー回廊があるし、東に行けば山脈の切れ目の一つ《竜の谷》がある。

どちらを通過するにしても、その先にあるのは《央都アルン》、そして《世界樹》だ。

 

「……世界樹攻略に挑戦する気なの?」

 

リーファの問いに、男は首を横に振った。

 

「まさか。 さすがに前の全滅に懲りたらしくて、最低でも全軍に古代武具級の装備が必要だってんで金貯めているとこだぜ。 ま、俺が知っているのはこんなとこだ。―――さっきの話、本当だろうな?」

 

後半は俺とユウキに向けられた言葉だ。

 

「取引でウソはつかないさ」

 

「はいはい、ウソはつかないよ」

 

俺とユウキはトレードウインドウを操作した。

トレードが完了するとサラマンダーの男は、元来た方向に消えて行った。

 

「あ、えーと……。 さっき大暴れした悪魔、キリト君なんだよねぇ?」

 

リーファにそう聞かれ、俺は視線を上げて答えた。

 

「んー、そうだぞ」

 

ユウキは先程の戦闘を振り返るように、言った。

 

「あの悪魔、グリームアイズに似てたよ。 色は黒だったけど」

 

「俺があの第74層のボスになったのか。 うーん、素直に喜べんな」

 

あのボスとの戦いでは色々あったからなー。

 

「あ、そういえばユウキちゃん。 聞きたいことがあったんだ」

 

「んー、どうしたのー?」

 

「えっと、さっきの突き攻撃って何なの? あんなの見たことないよ。てか、魔法破壊なんて凄すぎだよ!! あんなの誰にも出来ないよ」

 

うん。 解らない人はみんな疑問に思う技だよな、あの神業は。

魔法破壊も、現状ユウキしか出来ない技だろうな。

俺も魔法破壊を出来るように練習しないとな。

 

「えーとね、あの技はね、ボクがSAOで取得したユニークスキル(黒燐剣)の最上位剣技、『マザーズ・ロザリオ』を模倣したんだよ。 魔法破壊は、やってみたら出来た」

 

「へ、へー(キリト君とユウキちゃんはやっぱり規格外だね。 てか、あの戦闘中、私何もしてないしね)」

 

「まぁ、先を急ごうぜ」

 

「うん。 そうだね」

 

「先を急ごうか」

 

俺たちはサラマンダーとの戦闘を潜り抜け、鉱山都市に足を向けた。

 




土の壁魔法は術者が消滅すると消えたということで。

ユウキちゃん、最早チートだよね(笑) 世界樹一人で攻略出来ちゃうんじゃね(笑)
出しちゃいました『マザーズ・ロザリオ』。
うん。 ユウキちゃん、凄すぎだよ。

戦闘描写上手く書けるようになりたいなー。

ユウキちゃんと怪物になったキリト君の会話は愛の力が可能にしたということで。

今回の投稿は突っ込み所満載やね(笑)

てか、ネタが思いつかん。 まだスランプ継続中かも……。

次回の投稿大丈夫かなー(>_<)

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!


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第60話≪蝶の谷へ≫

どもっ!!

舞翼です!!

ふー、書きあげたぜ。
疲れたー。

後半は少しアレンジしたよ(笑)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。






サラマンダーとの戦闘が終わり、俺たちは並んで《鉱山都市ルグル―》の城門を潜った。

街の中は武器や防具、各種の素材、酒や料理など多種多様の店が密集していた。

普段出会うことが少ない、音楽妖精族(プーカ)鍛冶妖精族(レプラコーン)といった種族のパーティーが談笑しながら行き交っている。

補給と、色々気になることが出来たので、情報整理も兼ねてこの街で一泊することにした。

リアル時刻は既に深夜0時に近い。

 

「へぇぇー、此処がルグル―かぁ!」

 

リーファは、初めての眼にする《鉱山都市ルグル―》の賑わいに歓声を上げると、手近な武器商店へ足を向けた。

 

リーファの背後で俺とユウキが、のんびりした口調で話し掛けた。

 

「そう言えばさぁー、サラマンダーズに襲われる前、何かメッセージ届いてなかった? あれはなんだったの?」

 

「うん、あのメッセージはどういう意味だったのかな?」

 

俺とユウキの質問に、リーファは思い出したように呟いた。

 

「あ、忘れてた」

 

リーファはウインドウを開いて、メッセージを改めて読み返したが、さっぱり意味が解らない。

それに、続きも届いていなかった。

こちらからメッセージを打って確認しようとしたが、フレンドリストのレコンの名前はオフラインになっていた。

 

「何よ、寝ちゃったのかな」

 

「一応《向こう》で確認を取ってみたら?」

 

ユウキの言葉に数秒考え込んでから、頷いた。

 

「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるから待ってて」

 

「わかった。 じゃあ俺は、手近にある屋台で何か買って食べているわ」

 

と俺が言うと、ユウキが俺に声を掛けてきた。

 

「無駄遣いしたら駄目だからね。―――うーん、お小遣い制にしようかな」

 

後半はよく聞き取れなかったが、……今後に関わる事を言われたような。

どうやらリーファは聞き取れたらしい、リーファは口に手を当てて笑いを堪えていた。

何でだ?

 

リーファは手近なベンチに座ると左手を振ってウインドウを出し、ログアウトボタンを押し、現実世界に還った。

長田慎一(レコン)に確認を取る為に。

これから確認することが、今後の事を左右する重要な事だとは知る由もなかった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺の眼の前でリーファが眼を見開き、同時に勢い良く立ち上がった。

 

「うわッ」

 

俺は吃驚(びっくり)して、屋台で買った串焼きを取り落としそうになったが、危うく握り直した。

 

「お、お帰り、リーファ」

 

「おかえりなさい、リーファちゃん」

 

「おかえりなさいです」

 

口々に言う俺とユウキとユイに向かって、リーファは『ただいま』を言う間も惜しんで口を開いた。

 

「キリト君、ユウキちゃん―――ごめんなさい」

 

「「どうした(の)?」」

 

「あたし、急いで行かなきゃいけない用事が出来ちゃった。 説明している時間もなさそうなの。 多分、此処にも帰ってこられないかもしれない」

俺とユウキは一瞬リーファの眼を見詰め、すぐに頷いた。

 

「そうか。 じゃあ、移動しながら話を聞こう」

 

「え……?」

 

「うん、そうだね。 どっちにしても此処から足を使って出なくちゃいけないんでしょう?」

 

「……わかった。 じゃあ、走りながら話すね」

 

ルグル―の目貫通(めぬきとお)りを、アルン側の門目指して俺たちは駆け出した。

幸いこの世界では、どれだけ走ろうと息切れをすることは無い。

 

リーファの話を簡単に纏めるとこうだ。

《風の塔》のエレベータ前で、俺たちが出会ったシグルドというシルフ男は、敵対関係にあるサラマンダーと内通していた。

シグルドは、リーファとレコンを売った。

いや、シルフ族を売ったのだ―――領主サクヤ諸共(もろとも)

そして今日、領主サクヤがケットシーと正式に同盟を調印する為、極秘で中立域に出ているらしい。

シグルドはサラマンダーの大部隊に、その調印式を襲わせる気だと。

まぁ、レコンは尾行に見つかってしまって、サラマンダーとシグルドの会話を聞いている途中で、毒矢を撃ち込まれたらしい。

だから、リーファに送ったメッセージが途切れていた、と言うことだ。

 

「じゃあ、いくつか聞いていいかな」

 

俺は幾つか気になる事があったので、リーファに質問をすることにした。

 

「どうぞ」

 

「シルフとケットシーの領主を襲うことで、サラマンダーにはどんなメリットがあるんだ?」

 

「えーと、まず、同盟を邪魔出来るよね。 シルフ側から漏れた情報で領主が討たれたらケットシー側は黙っていないでしょう。 それに最悪、シルフとケットシーの間で戦争になるかもしれないわ……。 サラマンダーは今最大勢力だけど、シルフとケットシーが連合すれば、多分パワーバランスが逆転するだろうから、それを何としても阻止したいんだと思うよ」

 

「……なるほど」

 

ユウキは納得の声を上げていた。

 

「あと、領主を討つことによって、討たれた側の領主館に蓄積されている資金の三割を無条件で入手出来るし、十間日、領内の街を占領条件にして税金を自由に掛けられる。 それにサラマンダーが最大勢力になったのは、昔、シルフ最初の領主を罠にはめて殺したからなんだ。 普段領主は中立域には出ないからね。 ALO史上、後にも先にもあるのはその一回だけ―――だからね……お兄ちゃん、木綿季ちゃん」

 

リーファは言葉を続ける。

 

「これは、シルフ族の問題だから……これ以上キミたちが付き合ってくれる理由はないよ……。この洞窟を出ればアルンまでもうすぐだし、多分会談場に行ったら生きて帰ってこれないから、またスイルベーンから出直しで、何時間も無駄になるだろうね……。 それに、世界樹に行きたい、っていうお兄ちゃんと木綿季ちゃんの目的の為には、サラマンダーに協力するのが最善かもしれない。 サラマンダーがこの作戦に成功すれば、十分な資金を得て万全の体制で世界樹攻略に挑むと思う。 スプリガンとインプなら、傭兵として雇ってくれるかもしれないし。――今此処で、あたしを斬っても文句は言わないわ」

 

俺が口を開いた。

 

「所詮ゲームなんだから何でもありだ。 殺したければ殺すし、奪いたければ奪う。――そんなふうに言う奴には、嫌っていうほど出くわしたよ。 一面ではそれも事実だ。 俺も昔はそう思っていた。 でも、そうじゃないんだ。 仮想世界だからこそ、どんなに愚かしく見えても、守らなきゃならないものがある。 俺はそれを大切な人から学んだよ。 そしてその人は、俺の傍にずっと居てくれて、支えてくれたんだ。 なっ、木綿季」

 

『もう一人、支えてくれた人が居るけどな』と最後に付け加えたが。

木綿季の声は優しく、暖かみを帯びていた。

 

「ボクも和人には、支えて貰っていたんだよ。―――スグちゃん、VRMMOっていうゲームのアバターは、もう一人の自分なんだよ。 だから、この世界で経験した出来事はリアルの人格に還っていくんだよ。 ボク達はたとえどんな理由があっても、自分たちの利益の為に相手を斬るようなことは絶対にしないよ。 それにスグちゃんを斬る事なんて、ボク達には出来ないよ」

 

木綿季も『和人の言う通り、もう一人支えてくれた人が居るけどね。 ボクの場合は二人かな』と付け加えた。

 

「お兄ちゃん、木綿季ちゃん。……ありがとう―――じゃあ、洞窟を出たところでお別れだね」

 

「「へっ」」

 

俺とユウキは、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。

 

「いや、今の流れだと俺たちも行くぞ」

 

「うんうん、まぁなんとかなるよー。 サラマンダーの大部隊が襲ってきても、ボクとキリトの愛の力で返り討ちだよ」

 

「何か、お前が言うと冗談に聞こえないんだよな……」

 

リーファも首を縦に振ってるよ。

シリアス展開が台無しだな。

 

「そうと決まったら急ごうか。ユイ、走るからナビよろしく」

 

「りょーかいです!」

 

俺の肩に乗ったユイが頷くのを確認してから、リーファとユウキに向かって、

 

「ちょっと手を拝借」

 

「「え?」」

 

次の瞬間、俺は猛烈なスピードで駆け出した。

手を握っているリーファとユウキの体は殆んど水平に浮き上がり、洞窟の湾曲に沿ってコーナリングするたび左右にぶんぶん振り回される。

 

「「きゃぁぁぁぁぁあああああ!!??」」

 

何度かオークその他のモンスターにエンカウントしたが、俺は足を止める事なくすり抜けを繰り返した。

結果、背後にはモンスター集団が形成され、地響きを立てて追いかけて来る。

まぁ、《トレイン》と呼ばれる非マナー行為なんだが。

前方に白い光が見え始めた。

 

「お、出口かな」

 

直後足元から地面が消えた。

二人は慌てて翅を広げ、詰めていた息をいっぺんに吐き出した。

 

「「ぷは!!」」

 

二人はぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しながら、俺を見てきた。

 

「―――寿命が縮んだわよ!」

 

「ははは、時間短縮になったじゃないか。―――痛い、痛いよユウキさん」

 

隣を見てみれば、ユウキが俺の肩をポコポコと叩いていた。

まぁ、優しく叩いてくれているんだが。

 

「……キリトのバカ」

 

う、涙眼+上目使いは反則だよ。

やばい、どうしよう。

 

「ごめん。 何でも一つ言うこと聞いてあげるから許してくれ」

 

「……何でも?」

 

あ、つい何でもって言っちゃったよ。

色々と腹を括るしかないかもな……。

 

「おう」

 

「キリト君とユウキちゃんって、どんな状況でもラブラブなんだね……」

 

そう言ってリーファは、俺とユウキを見ていた。

 

「まぁ、うん、そうだな」

 

「まぁねー」

 

「「「あっ……」」」

 

俺たちは思わず息を呑んだ。

雲海の彼方に巨大な影が見える。

空を支える柱かと思うほどに太い幹が垂直に天地を貫き、上部には巨大な枝葉が伸びている。

 

「あれが……世界樹か……」

 

俺に続いてユウキが呟いた。

 

「あの木の一番上に、姉ちゃんとアスナが……」

 

それから暫く無言で世界樹を眺めていたが、俺とユウキは我に返り、リーファに聞いた。

 

「あ、こうしちゃいられない。 リーファ、領主会談の場所ってのはどの辺りなんだ」

 

「早く行かないと、領主さんたちが危ないよ」

 

「あっ、そうね。 ええと、確か、北西の方角に見える《蝶の谷》。 会談場所はその蝶の谷の、内陸の出口で行われるわ」

 

リーファはぐるりと視線を巡らせると、その方角を指した。

 

「了解。 リーファ、残り時間は?」

 

「あと、二十分かな……」

 

「じゃあ、早く行かないと。 先を急ごう。 ユイちゃん、サーチ圏に大人数の反応があったら知らせてね」

 

「了解です、ママ!」

 

「頼むから間に合ってくれよ……」

 

ユイが俺の胸ポケットに入るのを確認してから、俺たちは翅を鳴らして加速に入った。

 




うん。 ユウキちゃんが言うと本当の事になりそうだよね(笑)
最強夫婦降臨、的な(笑)

あと、ユウキちゃんは、突然手を取られたから、ということで。

次回は、ユージーン戦やね。
誰が戦うか未定なんだよね、どうしようか。

ご意見、ご感想よろしくお願いします!!
あと、評価もお願いします!!

つか、もう60話もいってたのね。
うん、びっくりしたよ。



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第61話≪最強夫婦 vs 最強サラマンダー≫

ども!!

舞翼です!!

この挨拶が定着したね(笑)

うん。 今回の投稿はマジで頭を抱えながら考えたね。
橋の上の戦闘より抱えたかもしれん。

オリキャラ出したしね(笑)
これが今の戦闘描写の限界だね(前にも同じことを言ったが)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。




空気の塊を切り裂き飛翔しながら、俺が呟いた。

 

「サラマンダーの大部隊より先行しているか微妙だな」

 

俺に続いてユウキが呟いた。

 

「うーん、警告が間に合えばいいんだけど」

 

「警告が間に合っても全員でケットシー領に逃げ込めるか、もしくは揃って討ち死にか、どっちかだと思うよ。……最悪、領主だけ逃がせればいいんだけど」

 

リーファの言葉に、俺が思案顔で顎を撫でていたら、ユウキが口を開いた。

 

「むっ、それはキリトとボクが倒されちゃうってこと」

 

「リーファは俺たちの事は心配してないと思うぞ」

 

自分で言うのもなんだが、俺とお前が組めば敵無しって気がするんだよな。

まぁ、気のせいかもしれんが。

 

「うん、心配してないよ。 てか、キリト君とユウキちゃんって、最強夫婦だもん」

 

俺たち会話をしていた、その時――。

 

「あ、プレイヤー反応です!」

 

不意にユイが叫んだ。

 

「前方に大集団――六十八人、これがおそらくサラマンダーの強襲部隊です。 さらにその向こう側に十四人、シルフ及びケットシーの会議出席者と予想します。 双方が接触するまであと五十秒です」

 

その言葉が終わると同時に、視界を遮っていた雲の塊が切れた。

限界高度を取って飛んでいた俺たちの眼下に、緑の高原が広がる。

その一角に飛んでいる無数の黒い影。

多分、この集団がサラマンダーの強襲部隊だろう。

視界の向こうには、白く横たわる長テーブル、あの場所が即席の会談場と言った所だろう。

椅子に座る領主たちは、会談に夢中になっていて、サラマンダーの強襲部隊に気付いていない。

 

「――間に合わなかったね」

 

リーファが俺たちに向かって呟いた。

 

確かに、今からサラマンダーの強襲部隊を追い越し、領主を逃がす事は不可能だ。

だから、俺とユウキがやる事は決まっていた。

 

「さてと、行くか。――準備はいいか?」

 

後半はユウキに向けた言葉だ。

 

「OKだよ。 ユイちゃんはリーファちゃんの傍から離れないでね」

 

「了解です、ママ!」

 

ユイはそう言って、リーファの肩にちょこんと座った。

俺とユウキは翅を思い切り震わせ、猛烈な加速を開始し、急角度のダイブに入っていた。

 

「ちょ……ちょっとぉ!! なによそれ!!」

 

リーファも慌ててダイブに入った。

 

次の瞬間、大きな爆発音が鳴り響いた。

俺とユウキが速度を緩めず着陸したからだ。

その場に居る全ての者が、凍り付いたように動きを止めていた。

俺とユウキは大きく息を吸いこんで、

 

「「双方、剣を引(け)(いいて)!!」」

 

俺とユウキの声は、空気をビリビリ震えさせた。

サラマンダーの強襲部隊は動揺して僅かに後退る。

 

 

Side リーファ

 

私は会談場所に着陸し、旧友の居る場所まで移動し、話し掛けた。―――シルフ族の領主サクヤだ。

 

「サクヤ、無事?」

 

声を掛けると、呆然とした表情で振り向き、私を見て眼を丸くする。

 

「リーファ!? どうして此処に―――!? い、いや、そもそもこれは一体―――!?」

 

「うーん、簡単には説明出来ないのよ。 ひとつ言えるのは、あたしたちの運命はあの人たち次第、ってことだわ」

 

「……何がなにやら……」

 

サクヤは再び、こちらに背を向けて屹立(きつりつ)する、少年と少女に眼を向ける。

私はその心中を思いやりながら、改めて会談場を見やった。

此処にはシルフ、ケットシーが七名ずつ。

その内のシルフ、ケットシーの六人は護衛だろうか?

武装して領主を守るように立っている。

シルフの領主サクヤは、髪は黒色に近いダークグリーンの艶やかな直毛を背に長く垂らし、整った顔立ちをしている、何より特徴的なのは緑色の和服の長衣だ。

 

サクヤの隣に視線を向けると、小柄な女性プレイヤーが眼に入った。

身に纏うのはワンピースの水着に似た戦闘服に、とうもろこし色に輝くウェーブヘア、両脇から突き出た大きな耳、お尻からは長い尻尾が伸びている、ケットシーの証だ。

おそらく彼女がケットシー領主、アリシャ・ルーだろう。

 

私は二人の領主を確認すると、キリト君とユウキちゃんに眼を向けた。

そして再び、キリト君とユウキちゃんが口を開いた。

 

Side out

 

 

「指揮官に話がある!!」

 

「うん。 指揮官の人、前に出てきて」

 

俺とユウキの、余りにふてぶてしい声と態度に圧倒されたように、サラマンダーのランス隊の輪が割れ、一人の大柄な男が進み出て来た。

この男が指揮官だな。

俺とユウキは、並んで翅を羽ばたかせている。

俺とユウキの前に立った大男が口を開き、よく通る太い声が流れた。

 

「スプリガンにインプがこんな所で何をしている。 貴様らが何を企んでいるか知らんが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」

 

俺は臆することなく、大声で答えた。

 

「俺の名はキリト、こいつはユウキ。 スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。 この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」

サラマンダーの指揮官は、絶句した。

 

「スプリガンとウンディーネが同盟だと……。 なら、其処(そこ)に居るインプはなんだ」

 

「ボクは大使キリトの護衛として雇われたんだよ。 此処に来た理由は、シルフとケットシーとの貿易交渉らしいよ」

 

よくフォローしてくれた。

つか、よく思いついたな。

まぁ、ウンディーネの姿が無いんだけどね。

俺が言葉を続けよう。

 

「そうだ。 此処には貿易交渉に来ただけだからな。 だが会談が襲われたとなれば、四種族で同盟を結んでサラマンダーに対抗することになるだろう」

 

暫しの沈黙が流れた。――やがて、

 

「たった二人、たいした装備も持たない貴様らの言葉を、そう簡単に信じる訳にはいかないな」

 

サラマンダーの大男は突然背に手を回すと、巨大な両刃直剣を音高く抜き放った。

 

「オレの攻撃とオレの懐刀のこいつの攻撃を、三十秒耐え切ったら、貴様らを大使と、その護衛だと信じてやろう」

 

すると、隊の輪を中から、一人の男がこちらにやって来た。

男性プレイヤーだ。

 

「こんにちは、僕の名前はシンと言います。 僭越(せんえつ)ながら僕がどちらかの相手になります」

 

そう言ってから、俺とユウキに頭を下げ、腰に装備していた鞘から刀を抜剣した。

 

「へー、三十秒か。 ずいぶん気前がいいね」

 

「じゃあボクは三十秒、シン君の相手をするよ」

 

俺とユウキも武器を抜剣した。

 

 

Side リーファ

 

緊迫した空気の中、私の隣に立つサクヤが低く囁いた。

 

「まずいな……」

 

「え……?」

 

「あの大男が装備している両手剣、あれは《魔剣グラム》だ。……大男の方は《ユージーン将軍》だろう。 もう一人の人物は将軍の懐刀《シン》だな。 知っているか?」

 

「……な、名前くらいは……」

 

「サラマンダーの領主《モーティマー》の弟……リアルでも兄弟らしいがな。 知の兄に対して武の弟、純粋に戦闘力ではユージーン将軍の方が上だと言われている。 それに、ユージーン将軍の懐刀シンは、戦闘力は解らないが、相当なものだろうな」

 

「……じゃあ、全プレイヤー最強と、その最強プレイヤーの懐刀が出て来たって言うことなの……?」

 

「ってことになるな……。 とんでもないのが出て来たもんだな」

 

「(大丈夫、キリト君とユウキちゃんは絶対に勝ってくれる。 最強夫婦だもんね)」

 

私は両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。

 

Side out

 

 

空中で対峙する俺とユウキは、実力を計るように長い間相手を見ていた。

最初に動いたのは、ユージーン将軍だった。

予備動作なく、超高速で突進を掛ける。

大きく振りかぶった大剣が俺に襲い掛る。

だが、俺も《あの世界》で培った反応速度を以て迎撃態勢に入った。

無駄のない動作で頭上に巨剣を掲げ、剣を受け流し、カウンターの一撃を撃ち込む為に。

その直後、

 

「!?」

 

ユージーンが振り下ろした大剣が、俺が携えてる巨剣と衝突するその瞬間、刀身が透過し、再び実体化。

俺は胸の中央に炸裂した斬撃で地面に叩き落された。

轟音が響き、次いで土煙。

 

「キリトッ!!」

 

ユウキが俺を追う為、急ダイブに入ろうとするが、それをもう一人が許さなかった。

 

「何処に行く気ですか? えっと、ユウキさん?」

 

「うん。 ボクの名前はユウキで合っているよ、シン君」

 

二人は武器を構えて、睨み合う。

最初に動いたのはシンだ。

翅を強く鳴らして、突進してきた。

ユウキも突進を開始。

シンは刀を横薙ぎに繰り出す。

それをユウキが、受け止め、迎撃に入る。

次いで、火花が飛び散る。

凄まじい斬撃の応酬が始まった。

 

 

Side リーファ

 

「な……いまのは!?」

 

絶句する私の問いに応えたのはケットシー領主、アリシャ・ルーだった。

 

「魔剣グラムには、《エセリアルシフト》っていう、剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けてくるエクストラ効果があるんだヨ」

 

「そんな無茶苦茶な」

 

隣に居るサクヤが呟いた。

 

「ユージーン将軍もそうだが、シンと言うプレイヤーも中々やるぞ、私にはあの斬撃の応酬が霞んで見えるぞ。 もう、次元が違う戦いだよ」

 

「(まさか、キリト君とユウキちゃんが苦戦するなんて、……二人とも頑張って)」

 

Side out

 

 

俺はホバリングするユージーン目掛けて一直線に突進していく。

 

「ほう……よく生きていたな!」

 

さっきの斬撃は、ぎりぎりの所で後方に身を引いて、ダメージを軽減したからな。

 

「まぁな、それよりもなんだよ、さっきの攻撃は!」

 

そう言ってから、お返しとばかりに巨剣を叩きつける。

翅を強く鳴らし超加速移動を繰り返しながら、斬撃の応酬が続いた。

俺の連続攻撃をユージーンが両手剣で弾き返していく。

この斬撃の応酬は、他のプレイヤーの眼から見たら、霞んで見えるはずだ。

ユージーンは僅かな隙を見つけて、魔剣グラムのエクストラ効果を使用し、攻撃をヒットさせてくる。

 

「……効くなぁ……おい、もう三十秒経ってんじゃないかよ!」

 

「悪いな、やっぱり斬りたくなった。 首を取るまでに変更だ」

 

「この野郎……絶対泣かせてやる……」

 

俺とユージーンが一定の距離を取る。

 

「キリトっ!!」

 

後方からユウキも合流して来た。

ユウキの力を持ってしても、シンと名乗る男は倒せなかったようだ。

ユウキのHPバーを確認したら、イエローゾーンまで落ちていた。

まぁ、此処で戦っている四人とも、イエローまで落ちているんだが。

 

「キリト、“あれ”を使わないと勝てないかもよ」

 

「じゃあ、お前も“あれ”を使うのか?」

 

「うん」

 

「わかった。―――行くぞ!!」

 

俺は右手を突き出した。

その手が黒く輝き、ボン、ボボボボボ!と周囲の視界を真っ黒に染め上げた。

眼くらましの魔法だ。

俺はすでに詠唱を終えていたのだ。

俺は急ダイブに入り、リーファからあるものを借りる。

 

「リーファ、ちょっと借りるぜ」

 

「わっ!?」

 

どうやら吃驚(びっくり)させてしまったようだ。

でもまぁ、これで準備完了だ。

 

「時間稼ぎのつもりかァ!!」

 

ユージーンの叫び声が響き渡ると、赤い光の帯が迸り、黒煙を切り裂いた。

しかし、黒衣の少年と紫の少女の姿は、何処にも見当たらなかった。

空をホバリングするのは、ユージーンが将軍と、将軍の懐刀のシンだけだ。

 

「ジンさん。 あいつらは逃げていないよ、何処からか現れるよ」

 

そう言って、ユージーンとシンは武器を構え直した。

 

すると、照射される太陽光の中から、少年と少女が力強く翅を鳴らし、近づいて行く。

どんどん、どんどん大きく。

 

「ちッ」

 

「行きますよ」

 

ユージーンとシンがそう言ってから、急上昇を始めた。

 

ユージーンとシンは急上昇をしながら、迎撃の態勢に入っていた。

流石と言うべきか、普通なら此処で太陽光線を避けるため水平移動しようとし、そこを上から叩き落されていたはずだ。

ユージーンは俺に、シンはユウキに武器を振り下ろしてくる。

ユージーンの必殺の一撃は、これまで常に両手で握られていた黒い巨剣に、そして魔剣グラムのエクストラ効果で透過させたが、“左手”に握られていた長剣によって阻まれていた。

《二刀流》――、“あの城”で勇者が取得したスキル。

驚愕の気配を洩らすユージーンに向けて、俺は雷鳴のような雄叫びを放った。

 

「お……おおおおああああ――――!!」

 

直後、両手の剣を、霞む程の速度で次々に打ち出した。

俺はこの剣技を模倣した。

《二刀流》上位剣技、『スターバースト・ストリーム』計十六連撃。

ユージーンも対抗するが、二段構えのパリィに次々に弾き返される。

 

「ぬ……おおおお―――!!」

 

地上に向けてどんどん押し込まれるユージーンが野太い咆哮を放った。

彼が身に着けている防具の効果なのか、薄い炎の壁が半球状に放射され、僅かに俺の体を押し戻した。

 

「落ちろおおぉぉおお!!」

 

ユージーンは、魔剣の小細工抜きの大上段に構え―――。

大音響と共に、真正面から撃ち込んだ。

だが俺は臆することなく突進で距離を詰め、エセリアルシフトが発動するより速く攻撃を叩き込む。

 

「ら……ああぁぁぁぁ!!」

 

最後の突き攻撃が、真っ直ぐに突き込まれた。

それから素早く剣を引き戻し、右肩から斜めに体を切り裂いた。

凄まじい爆発音と共に、ユージーンはエンドフレイムを巻き上げながら、燃え尽きた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「嘘だ。ジンさんがやられた」

 

先の戦闘に気を取られてしまったシンは、振り下ろした刀を途中で止めてしまっていた。

 

「ほら、シン君。 余所見はダメだよ」

 

「えっ」

 

「はああぁぁぁああ―――!!」

 

ユウキが放った攻撃は、先の戦闘で使用した剣技の模倣、《黒燐剣》最上位剣技、『マザーズ・ロザリオ』計十一連撃。

 

「あああぁぁぁあああ―――!!」

 

シンも叫びながら何とか突き攻撃をパリィしていたが、やはりと言うべきか、神速に近い速度にはついて行けなかった。

凄まじい突き攻撃がシンの体に叩き込まれる。

この攻撃を受けて、握っていた手から刀が零れ落ちた。

攻撃を止める為に、ユウキの腕を掴もうとするが、そんな事をしても無意味であった。

地上に向けてどんどん押し込まれていく。

 

「やぁぁぁあああ―――!!」

 

気合いの入ったユウキの大きな声が、空気にピリピリと響いた。

そして最後の突き攻撃と同時に、凄まじい爆発音。

シンの体がエンドフレイムに包まれ、燃え尽きた。

俺はそれを見届けてから、剣を左右に振り払い、巨剣の方を背に収めた。

こうして最強サラマンダーと、最強夫婦の戦いに終止符が打たれた。

 




また出しちゃいました。

《二刀流》上位剣技、『スターバースト・ストリーム』

《黒燐剣》最上位剣技、『マザーズ・ロザリオ』
キリト君とユウキちゃんの必殺技ですね。

つか、オリキャラのシンくん強すぎ(だって、書いてて思ったもん)。
まぁ、ユージーン将軍の方が一枚上手なんだが。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!





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第62話≪再戦の約束≫

どもっ!!

舞翼です!!

ふうー、書き上げたぜ。
うん。 最強夫婦降臨したね(笑)

なんか、この小説って特徴的やね(多分)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


誰一人身動きする者は居なかった。

シルフも、ケットシーも、五十人以上のサラマンダー強襲部隊も、魂を抜かれたように凍り付いていた。

それほどまでに、先の戦闘がハイレベルだったのだ。

流れるような剣舞、超高速エアライド、ユージーンの天地を砕かんばかりの豪剣、それを打ち砕いた俺の超高速の二刀流―――。

シンの神速の剣技、そしてその神速を越えたユウキの超高速の剣技―――。

最初に沈黙を破ったのは、シルフ族領主サクヤだった。

手にした扇子をパッと開き、高らかに声を上げた。

 

「見事、見事!!」

 

「すごーい! ナイスファイトだヨ!!」

 

ケットシー領主のアリシャ・ルーがそれに続き、シルフ、ケットシーの護衛十二人も加わった。

盛大な拍手に混じって、サラマンダーの強襲部隊の中からは賛辞や歓声が上がった。

それ程までに、俺とユージーン、シンとユウキのデュエルが彼らの心を揺さぶったのだろう。

歓声の輪の中央で、立役者となった俺とユウキは笑みを浮かべ、四方にくるりと一礼すると、リーファたちの方に向かって着陸する。

其処には、赤いリメインライト二つがふわふわと漂っている。

 

俺はユウキが剣を収めてから口を開いた。

 

「誰か、蘇生魔法頼む!」

 

「解った」

 

サクヤは頷くと、リメインライトの前まで移動し、スペルワードの詠唱を開始する。

やがてサクヤの両手から青い光が迸り、赤い炎二つを包み込んだ。

その炎は、徐々に人の形を取り戻していく。

ユージーンは、肩を回しながら俺とユウキに向かって口を開いた。

 

「見事の腕だな。 オレとオレの直属の部下シンまで倒すとはな、貴様らは今まで見た中で最強のプレイヤーだ」

 

「そりゃどうも」

 

俺が応じてから、

 

「楽しいデュエルだったね、おじさん」

 

ユウキが応じた。

 

「貴様らのようなスプリガン、インプが居たとはな……。 世界は広いということかな」

 

すると、ユージーンの後ろで話を聞いていたシンがおずおずと少し前に出てきてから、口を開いた。

 

「あ、あの、とても楽しいデュエルでした。 ありがとうございました、ユウキさん」

 

「うん。 ボクも楽しかったよ」

 

ユウキの言葉を聞いた後、シンはユウキに一礼してから俺を見た。

 

「あと、キリトさん。 今度相手をしてくれませんか?」

 

おお、凄い好戦的だな。

ま、そういう奴は嫌いじゃないが。

 

「おう。 今度やろうな」

 

「はい。 よろしくお願いします」

 

シンは俺に一礼をしてから、ユージーンの後ろに戻った。

 

「で、俺たちの話、信じてくれたかな?」

 

ユージーンは眼を細め、俺とユウキを一瞥して沈黙した。

 

「…………」

 

その時、会談場所を取り囲むサラマンダーの部隊から、一人のプレイヤーが着陸し、此方に歩み寄ってきた。

 

「ジンさん、ちょっといいか」

 

「カゲムネか、何だ?」

 

ユージーンが口にした人物は、ルグルーの橋の上で聞いた名前であり、俺とユウキが古森で剣を交えたサラマンダーのランス隊隊長だ。

 

「昨日、俺のパーティーが全滅させられたのはもう知っていると思う。 その相手がまさに其処にいるスプリガン、インプなんだが―――その時は、こいつ等と一緒にウンディーネがいたよ」

 

「「ッ!?……((へぇ))」」

 

俺とユウキは一瞬眉を上げたが、すぐにポーカフェイスに戻る。

 

「……そうか、そういうことにしておこう」

 

ユージーンは軽く笑みを浮かべ、次いで俺たちに向き直る。

 

「確かに現状でスプリガン、ウンディーネとも事を構えるつもりは俺にも領主にもない。 この場は引こう。―――だが貴様とはいずれもう一度戦うぞ。 インプの小娘もな」

 

「望むところだ」

 

「うん。 楽しみにしているよ、おじさん」

 

「僕も忘れないでくださいよ」

 

上から順に、ユージーン、俺、ユウキ、シンだ。

四人が右手の拳をゴツンと打ち付けると、ユージーンは身を翻してから、翅を広げ、地を蹴る。

それにシンとカゲムネが続く。

サラマンダーの大軍勢は一糸乱れぬ動作で隊列を組み直すと、ユージーンとシンを先頭に鈍い翅音を響かせながら遠ざかっていった。

再び訪れた静けさの中、俺が笑いを含んだ声で呟いた。

 

「……サラマンダーにも話の解る奴がいるじゃないか」

 

ユウキが笑いながら俺に続いた。

 

「うんうん。 あのおじさんは話が解るねー」

 

リーファは片手を頭にやりながら、今浮かんできた言葉を口にした。

 

「……やっぱり、キリト君とユウキちゃんはムチャクチャね」

 

「「よく言われる(よ)(ね)」」

 

「すまんが……状況を説明してもらえると助かる」

 

シルフ族の領主サクヤを含め、両陣営十四人が説明を求めていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

静けさを取り戻した会談場の中央で、『一部は憶測なんだけど』、と断ってからリーファは事の成り行きを説明した。

サクヤ、アリシャ・ルーを始めとする両種族の幹部たちは一つも音を立てず、リーファの長い話に聞き入っていた。

リーファが話し終わり、口を閉じると、両種族の幹部たちは揃って深い溜息を洩らした。

 

「……なるほどな」

 

両腕を組み、サクヤが頷いた。

 

「此処何ヶ月か、シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいるのは私も感じていた。 まさか、サラマンダーに通じていたとはな……」

 

サクヤ曰く、シグルドはパワー志向の男だから、彼には許せなかったのだろう。

勢力的にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況が、との事だ。

 

「でも、だからって、なんでサラマンダーのスパイなんか……」

 

「もうすぐ導入される《アップデート》の話は聞いているか? ついに《転生システム》が実装されるという噂がある」

 

「あっ……じゃあ……」

 

モーティマー(サラマンダー領主)に乗せられたんだろうな。 領主の首を差し出せばサラマンダーに転生させてやると。 だが転生には膨大なユルドが必要になるらしいからな……。 冷酷なモーティマーが約束を履行したかどうかは怪しいところだな」

 

俺がサクヤの言葉に苦笑い混じりで言った。

 

「プレイヤーの欲を試すゲームだな、ALOって。 デザイナーは嫌な性格しているに違いないぜ」

 

次いで、ユウキが口を開いた。

 

「うーん、ボクは転生なんて興味ないけどなー。 ボクはキリトと居られれば何でもいいしね」

 

ユウキは俺に肩を寄せ、ぴったりと接してから、体重を預けて来た。

 

リーファが口を開き、サクヤに言った。

 

「それで……どうするの? サクヤ」

 

リーファが訊ねると、サクヤは一瞬瞼を閉じた。

それからケットシー領主、アリシャ・ルーに振り向いた。

 

「ルー、確か闇魔法スキル上げていたな?」

 

サクヤの言葉に、アリシャは大きな耳をぱたぱたと動かして肯定した。

 

「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」

 

「いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長く持たないヨ」

 

「構わない、すぐ終わる」

 

もう一度耳をぴこっと動かし、アリシャは詠唱を開始する。

周囲が僅かに暗くなり、一筋の月光が降り注いだ。

それがやがて、完全な円形の鏡を作り、その表面がゆらりと波打って――滲むように何処かの風景を映し出した。

 

「あ……」

 

リーファが微かに吐息を洩らした。

鏡に映った場所は、何度か訪れた事がある、領主館の執務室だったからだ。

鏡の向こうで、椅子に座り、机にドカッと両足を投げ出している人物がいた。

眼を閉じ、頭の後ろで両手を組むその男は間違いなく―――シグルドだ。

サクヤは鏡の前に進み出ると、琴のように張りのある声で呼びかけた。

 

「シグルド」

 

鏡の中のシグルドは眼を開き、椅子から跳ね起きた。

震える声で呟く。

 

「サ……サクヤ……!?」

 

「ああ、そうだ。 残念ながらまだ生きている」

 

サクヤは淡々と答えた。

 

「なぜ……いや……か、会談は……!?」

 

「無事終わりそうだ。 条約の調印はこれからだがな。 そうそう、予期せぬ来客があったぞ」

 

「き、客……?」

 

「ユージーン将軍が君によろしくと言っていた」

 

「な……」

 

どうやらシグルドは、今の状況を悟ったようであった。

言葉を探すかのように視線を動かし、俺とユウキとリーファを捉えた。

眉間に深くシワ寄せ、猛々しく歯を剥き出す。

 

「……無能なトカゲどもめ……。で……? どうする気だ、サクヤ? 懲罰金か? 執政部から追い出すか? だがな、軍務を預かるオレが居なければお前の政権だって……」

 

「いや、シルフで居るのが耐えられないなら、その望みを叶えてやることにした」

 

「な、なに……?」

 

サクヤが領主專用の巨大なウインドウを開き、一枚のタブを引っ張り出し、素早く指を走らせる。

 

「貴様ッ……! 正気か!? オレを……このオレを、追放するだと……!?」

 

「そうだ。 レネゲイドとして中立域を彷徨え。 いずれ其処にも新たな楽しみが見つかる事を祈っている」

 

「レネゲイドとして旅に出なよ。 きっと楽しいはずだよ、強いモンスターとか出るけどね」

 

とユウキがシグルドに向けて言葉を放った。

 

「だ、そうだ。……さらばだ、シグルド」

 

金色の鏡はが消えると、周囲の暗闇が薄れ、再び太陽の光が照らしだした。

リーファはサクヤを心配するように、そっと声を掛けた。

 

「……サクヤ……」

 

サクヤはシステムメニューを消すと、吐息交じり笑みを浮かべた。

 

「礼を言うよリーファ。 君が救援に来てくれたのはとても嬉しい」

 

するとリーファは顔を左右に振り、俺とユウキを見た。

 

「あたしは何もしていないもの。 お礼ならキリト君とユウキちゃんにどうぞ」

 

「そうだ、そう言えば……君たちは一体……」

 

「ねェ、キミたち、スプリガン=ウンディーネの大使と、その護衛って本当なの?」

 

並んだ二人の領主が、疑問符を浮べながら俺とユウキを見て来た。

俺はユウキを支えながら、領主二人に言った。

 

「勿論大嘘だ。 ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」

 

続いてユウキが言った。

 

「ボクはキリトの案に乗っただけだよー」

 

「「な――……」」

 

二人の領主は口を開け、絶句した。

それからサクヤが口を開いた。

 

「……無茶な事をする二人だな。 あの状況でそんな大法螺を吹き、それに乗るとは……」

 

「手札がショボイ時はとりあえずレイズする主義なんだ」

 

「ボクは何時もキリト無茶に付き合っていたからね」

 

すると、それを聞いたアリシャ・ルーは突然二ィッと悪戯っぽい笑みを浮かべると、数歩進み出でて、俺とユウキを覗き込んだ。

 

「おーうそつきくんにしてはキミたち、ずいぶん強いネ? 知ってる? さっきのユージーン将軍と将軍の懐刀シンは、ALO最強って言われているんだヨ。 それに正面から勝っちゃうなんて……スプリガン、インプの秘密兵器、だったりするのかな?」

 

「いや、俺たちはしがない用心棒だよ」

 

「うんうん。 ボクとキリトは二人一組の用心棒かな」

 

「ぷっ。 にゃはははは」

 

アリシャは大きく笑うと、俺とユウキに顔を近づけて来た。

 

「フリーなら、キミたち―――ケットシー領で傭兵やらない? 三食おやつに昼寝付きだヨ」

 

「「へっ」」

 

俺とユウキは、同時に声を上げた。

サクヤはアリシャを退けてから、

 

「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ。――キリト君とユウキ君と言ったかな。 どうかな、個人的興味もあるので礼も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも……」

 

「うーん、ボクはキリトと一緒なら何でもいいよー」

 

「まぁ、そうだな。 でも、俺たちにはやる事があるんだよな。――俺たちはリーファに《アルン》まで連れて行ってもらう約束をしているんです」

 

と俺とユウキは、サクヤの問いに答えた。

 

「ほう……そうか、それは残念」

 

サクヤは、残念そうに引き下がった。

 

「アルンに行くのか、リーファ。 物見遊山か?――それとも……」

 

「領地を出る――つもりだったんだけどね。 でも、いつになるか分らないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」

 

「そうか。 ほっとしたよ。 必ず戻って来てくれよ――彼等も一緒にな」

 

サクヤに続いてアリシャが言った。

 

「途中でウチにも寄ってね。 大歓迎するよ」

 

二人の領主は表情を改め、俺とユウキに一礼した。

顔を上げたサクヤが言った。

 

「――今回は本当にありがとう、リーファ、キリト君、ユウキ君。 私たちが討たれていたらサラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。 何か礼をしたいが――」

 

「いや、そんな……」

 

俺は困ったように頭を掻いた。

不意にユウキが声を上げた。

 

「ねぇねぇ、サクヤにアリシャ。 今回の同盟って、世界樹攻略の為なんだよね?」

 

「ああ、まぁ――最終的にはな」

 

「ボク達もそれに同行していいかな?」

 

ユウキの言葉にサクヤとアリシャは顔を見合わせる。

 

「……同行は構わない。 と言うよりこちらから頼みたいほどだよ。 しかし、なぜ?」

 

すると、ユウキが悲しい表情になってしまった。

俺はユウキの頭を撫でながら二人の領主に言った。

 

「俺たちがこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。 そこに居るかもしれない、ある人たちに会うために……」

 

「人? 妖精王オベイロンのことか?」

 

「いや、違うはずだ。 リアルで連絡が取れないんだけど……どうしても会わないといけないんだ」

 

俺の言葉に興味が引かれたアリシャが言った。

 

「へぇェ、『世界樹の上で待っている人が居る』。 何だかミステリアスな話だネ?」

 

だが、すぐに申し訳なさそうに、

 

「でも……攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ……。 とても一日や二日じゃ……」

 

「そうか……そうだよな。 いや、俺たちも取り敢えず樹の根元に行くのが目的だから……あとは何とかするよ。――あ、そうだ。これを資金の足しにしてくれ」

 

そう言って、俺はウインドウを手早く操り、かなり大きな革袋をオブジェクト化させる。

ユウキも『じゃあボクもだね』と言い、革袋をオブジェクト化させる。

 

それを受け取ったアリシャとサクヤが一瞬ふらついてから、革袋の中を覗き込んで眼を丸くした。

 

「……十万ユルドミスリル貨……これ全部……」

 

サクヤは摘まみ出したのは、青白く輝く大きなコインだった。

 

「……いいのか? 一等地にちょっとした城が建つぞ」

 

「構わない。 俺にはもう必要ない」

 

俺は何の執着も無さそうに頷く。

 

「うん、ボク達には必要が無くなったからね。 資金の足しにして」

 

ユウキも俺に続いて頷いた。

再び革袋を覗き込んだサクヤとアリシャは、『ほうーっ』と深く嘆息してから顔を上げた。

 

「……これだけあれば、かなり目標金額に近づけると思うヨー」

 

「大至急装備を揃えて、準備が出来たら連絡させてもらう」

 

「「よろしく(頼む)」」

 

二人の領主は手を振りながら一直線に上昇すると、赤く染まった空に進路を向け、その後を六人の護衛が美しい隊列を組んで追っていく。

夕焼けの中に彼らの姿が消えてしまうまで俺とユウキとリーファは無言で見送った。

沈黙を破ったのはリーファだった。

 

「じゃあ、行こうか? 日が暮れちゃうよ」

 

「うん。 行こうか」

 

「行くか」

 

そう言ってから、俺たちは地を蹴る。

俺たちは世界樹に向かって、大きく翅を振るわせながら加速を開始した。




こんな感じに書き上げたでー。

うん。 キリト君とユウキちゃんは、相変わらずだね(笑)

次回は、イチャイチャ? するのかな(わからんが)

もしかしたら、次回更新遅れるかもしれん(ロストソングにはまったら)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第63話≪闇と氷の世界ヨツンヘイム≫

どもっ!!

舞翼です!!

更新ちょいと遅れたね。

ロストソングのユウキちゃん可愛いー。
猫耳ヤバいって!!

っと、失礼、取り乱したよ。

決めた。 何処かで猫耳を書こう。
まぁ、前置きはこれくらいにして。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。




今俺たちが居る場所は、妖精の世界の地下に広がる、もう一つフィールド、邪神級モンスターが支配する闇と氷の世界《ヨツンヘイム》。

こうなった原因は、俺たちが休憩する為に視界に入った森の中の小村に降下し、その村の宿屋に入ろうとした時、村の形が崩れミミズ型モンスターになったのだ。

簡単に言えば、その宿屋が寄せ餌だったという訳だ。

ミミズ型モンスターも俺たちを食べる事が出来ず、消化器ツワーをしてから、投げ出させた。

後から分かった事なんだが、そのミミズ型モンスターは、此処《ヨツンヘイム》に強制移動されるトラップだったのだ。

それに此処ヨツンヘイムには、邪神級モンスターがうようよ居るらしい。

だからまぁ、今こうして(ほこら)に避難している。

 

「おーい、起きろ―」

 

リーファは小声で俺を起こそうとするが、俺は『くうくう』と寝息を立てている。

ユウキが膝枕してくれて、頭も擦ってくれている。

そりゃ眠くなるって。

それに今のリアル時刻は、午前二時を回っている。

 

「ねぇー、ユウキちゃんも何とか言ってよ」

 

どうやらリーファは、ユウキに助け船を求めたようだ。

ユウキは優しく声を掛けてくれた。

 

「もう終わりだよ」

 

「……あと、五分」

 

俺はうとうとしながら呟き、瞼を閉じた。

ユウキは『はぁ』と溜息をついてから、

 

「起きないと………もう膝枕してあげないよ」

 

「はい! 起きました!」

 

俺はバネのように上体を起こした。

 

「ユウキさん……」

 

「リアルでも膝枕してあげるから、子猫のような目でボクを見ないの」

 

「……おう」

 

会話を終えた後、俺とユウキは気持ちを切り替えた。

リーファは一つ咳払いをしてから、これからの事を話した。

 

「話を戻すよ―――ええと、脱出プランはあるの、二人とも」

 

「「ない!」」

 

脱出する為に此処からログアウトしてもいいのだが、現在俺たちが居る祠は、宿屋でも安全地帯でもないから、此処でログアウトしたら空っぽになった仮想体(アバター)が一定時間取り残されてしまう。

空っぽになったアバターは、よくモンスターを引き寄せるのだ。

モンスターに襲われ死亡してしまったら、セーブポイントであるシルフの街《スイルベーン》へ戻されてしまう。

俺とユウキの目的は、アルヴヘイムの央都《アルン》へと辿り着くことだ。

死亡してしまったら、此処まで遥々(はるばる)旅して来た意味が無くなってしまう。

 

「……そこまでハッキリ言わなくても……」

 

「そう言えばリーファちゃん、 此処って邪神級モンスターが出るんでしょ?」

 

リーファは、ユウキの問いに頷いた。

 

「居るわよ。 それも君たちが相手に出来ないほどの邪神がね。 君たちが散々苦戦した最強サラマンダーも、邪神一体を相手にして二十秒持たなかったらしいよ」

 

「………そりゃまた……」

 

「………うん。 ボクとキリトでも、邪神の相手は無理そうだね……」

 

俺とユウキは同時に溜息をついた。

邪神を倒して進もうと思ったんだけどな。

 

「このヨツンヘイムは飛べないんだろ」

 

「そ。 翅の飛行力を回復させるには、日光か月光が必要なの。 でも此処にはどっちも無いからね……。 闇妖精族(インプ)なら地下でも少しだけなら飛べるらしいけど……」

 

とリーファが言い、ユウキを見る。

俺は真剣な表情になり、言った。

 

「ダメだぞ。 こんな場所を一人で飛ぶなんて」

 

「大丈夫だよ、そんなことしないから」

 

ユウキは優しい声音でニッコリ笑い言ってくれた。

 

お前が襲われる所なんて絶対に見たくないからな。

それに、あんな経験はもうしたくない。

 

「飛ぶのは無しと言う事で。 うーん、そしたら邪神狩り大規模パーティーに合流させてもらって、一緒に地上に戻るくらいしかないかなー」

 

「ユイちゃんに聞いてみようか」

 

ユウキは自分の肩の上で眠る小さな妖精の頬を優しく突いた。

 

「ユイちゃん、起きてー」

 

ユイは睫毛を二、三度震わせから、体をむくりと起こした。

右手を口元にあて、左腕を大きく伸ばして、大きな欠伸をした。

 

「ふぁ……。――おはようございます、パパ、ママ、リーファさん」

 

ユウキは寝起きのユイに、優しく話し掛けた。

 

「おはよう、ユイちゃん。 起こしちゃってごめんね。 今近くに他のプレイヤーが居ないか、確認して欲しいの」

 

「了解です、ママ。 ちょっと待ってくださいね……」

 

ユイは頷いてから瞼を閉じる。

数秒後、ユイはふるふると首を振った。

 

「すいません、わたしがデータを参照できる範囲内に他のプレイヤーの反応はありません。 それ以前に、あの村がマップに登録されていないことに気付いていれば……」

 

それを聞いたリーファは、反射的にユイの髪を指先で撫でていた。

 

「ううん、ユイちゃんのせいじゃないよ。 あの時あたしが、周囲プレイヤーの索敵警戒を厳重に、なんてお願いしちゃったから。 そんなに気にしないで」

 

「うんうん。 ボクも気にしてないから大丈夫!」

 

「……ありがとうございます。 ママ、リーファさん」

 

リーファは視線を俺に向けた。

 

「ま、こうなったら、やるだけやってみるしかないよね」

 

「「何を?」」

 

俺とユウキは、同時に小さく声を上げた。

 

「あたしたちだけで地上に出るのよ。確か、何処かに階段があったはずだわ。―――邪神の視界と移動パターンを見極めて、慎重に行動すれば行けるはずよ」

 

「「「おー」」」

 

俺とユウキとユイは、小さく拍手した。

 

すると、遠くの方から“ぱるるるるぅ”と大音響な咆哮が放たれた。

これは間違いなく邪神モンスターから放たれたものであった。

地面を揺るがすような足音も轟く。

 

「げっ、もしかして今の邪神の鳴き声か……」

 

「大きな足音が近づいてきているね……」

 

「そうね、早く此処を離れましょうか……」

 

上から順に、俺、ユウキ、リーファだ。

逃げないと、ぷちっと()られてしまう。

俺は耳を澄ませてみた。

 

「いや、待った。 様子が変だ」

 

「うん。 一匹じゃないんだよ」

 

どうやらユウキにも聞こえてようだ。

邪神の大音響の後に、“ひゅるる、ひゅるる”という木枯らしのような声も混ざっているのだ。

 

「二匹もッ!! 早く逃げないと!!」

 

「いえ、違いますリーファさん」

 

ユイがリーファに細く叫んだ。

 

「接近中の邪神級モンスター二匹は……互いを攻撃しているようです!」

 

「えっ……邪神が互いを攻撃するって聞いたことないよ」

 

「ねぇ、キリトにリーファちゃん。 様子見に行かない」

 

「俺も気になっていたしな。 行こうか」

 

「わ、わかったわ」

 

俺とユウキとリーファは頷き合い、邪神が戦闘している場所へ足を踏み出した。

数歩進んだだけで、二匹の邪神はすぐに視界に入った。

じっと眼を凝らし、二匹の邪神を見た。

縦三つ連なった巨大な顔の横から四本の腕を生やした巨大な邪神と、やや小柄な象水母(ぞうくらげ)の姿に似た邪神だ。

だがどう見ても、三面邪神の方が優勢だ。

三面邪神が携えている巨剣が水母邪神の胴体に叩き込まれるたびに、悲鳴にも似た鳴き声を上げている。

 

「ど……どうなっているの……」

 

リーファは暫し無言になり、呆然と呟いた。

 

「ねぇ、キリトくんユウキt「「おう(うん)、助けようか!」」」

 

「えッ、何で解ったの!?」

 

リーファは、俺とユウキの言葉を聞いて驚いていた。

 

「リーファは俺の妹だぞ。 妹が何を考えているかくらい解るって」

 

「リーファちゃんはボクの義妹なんだからね。 リーファちゃんが考えている事くらい解るよ」

 

俺は邪神を見てリーファに訊ねた。

 

「で、どっちを助ける?」

 

「苛められている方を助けようよ」

 

リーファの代わりにユウキが答えた。

リーファも頷いている。

う~ん、でもどうやって助けようか?

いや待てよ、小柄な邪神は……水母(クラゲ)……だよな?

俺は周囲を見渡し、肩に乗っているユイに問いかけた。

 

「ユイ、近くに水面はあるか!? 川でも湖でもいい!」

 

「あ、そういうことね」

 

ユウキは手をポンと打っていた。

 

「え、どういうこと?」

 

リーファは首を傾げていたが。

すると、ユイが叫んだ。

 

「あります、パパ! 北に約二百メートル移動した場所に、氷結した湖が存在します!」

 

「よし……いいかユウキ、リーファ。 其処まで死ぬ気で走るぞ」

 

「久々に全力全開走れるよ!! ボク達に付いてくるんだよ、リーファちゃん」

 

俺とユウキの言葉にリーファは戸惑っている。

 

「え……え?」

 

俺は腰から投躑用のピックを取り出し右腕を振り、

 

「せいッ!!」

 

ピックを三面邪神の眼と眼の間に命中させた。

すると、三面邪神がこちらにターゲットを切り替えた。

 

「ぼぼぼるるるぅぅぅ!!」

 

と三面邪神が怒りの雄叫びを上げ地面を轟かせながら、此方に近づいてくる。

 

「……逃げるぞ!!」

 

そう言ってから、俺は北に向けて雪煙を散らして走り出した。

 

「了解♪」

 

ユウキも俺の後に続く。

 

「え、ちょっ……」

 

リーファは口をパクパク動かしてから、俺とユウキを追う。

三面巨人の邪神も咆哮を轟かせ、追いかけて来る。

 

「待っt……や……いやあああああああ!!」

 

リーファは悲鳴を上げ俺とユウキを追うが、みるみるリーファを引き離す。

 

「ひぃぃどぉぉいぃぃぃぃ!!」

 

リーファは両足の回転速度を上げ、全力で走った。

すると、前の二人が雪を蹴散らして停止した。

リーファはユウキに抱き止められた。

直後、ぱきぱきぱきっ、という音が響き渡った。

その音は、三面邪神が雪下にあった氷を踏み抜いた音であった。

 

「そ、そのまま沈んじゃえぇ……」

 

リーファは三面邪神に力一杯懇願したが、そう簡単にいかなかった。

足を上手く使って此方に近づいて来たのだ。

だが、象水母邪神の二十本近い肢が一斉に伸び上がり、三面邪神を水中で拘束した。

どうやら水母邪神は、あの後逃げずに追いかけて来たらしいのだ。

水母邪神の拘束により、三面邪神のHPバーがどんどん減少していく。

数秒後、三面邪神はポリゴンの欠片となり、四散した。

 

「作戦、成功したの?」

 

ユウキが俺に聞いてきたので、

 

「まぁ、そうだな」

 

と答えた。

水母邪神が追いかけて来てくれなかったら、俺たちは殺られていたな。

まぁ、水母邪神に倒してもらう作戦だったのだが。

すると水母邪神が眩い純白の光を包まれ、形状を変えた。

放射状に真っ白い輝きを帯びた、四対八枚の翼が広げられた。

それから俺たちを巻き取り背中に放り投げ、お尻から墜落した。

まぁ、俺は『ひえええぇぇっ』と情けない声を出してしまったが……。

ユウキとリーファは、口を閉じていたな。

 

「痛てててて」

 

「うん。 ボクも痛かったよ」

 

「私もよ」

 

仮想世界では痛みを感じないんだが。

 

「ねぇねぇ、この邪神に名前つけようよ」

 

リーファが提案してきた。

 

「うーん、トンキーってのはどうだ?」

 

「ボクはそれでいいと思うよ」

 

「私もそれでいいと思うわ。―――おーい邪神くん、キミは今からトンキーだからね」

 

リーファが言うと、トンキーが小さく鳴いた。

この名前でいいということだろう。

トンキーの上に乗る事数分。

世界樹の根っこに近づくにつれ、何か金色に輝く物を発見した。

根っこの氷柱の一番下――鋭く尖った先端に。

 

「なぁ、あの輝いている物って何だ?」

 

俺はリーファに聞いた。

リーファは遠見水晶(アイススコープ)の魔法の大きなレンズを覗き込みながらこう言った。

 

「《聖剣エクスキャリバー》だよ、あれ。 たった一つの武器……最強の剣」

 

「さ、最強」

 

欲しいなー、最強の剣。

 

「キリト、今はやる事があるでしょ。 今度みんなで取りに行こうよ」

 

う、確かに。 今はランとアスナの救出が最優先。

今回は諦めよう。

 

「だな。 今度みんなで取りに行こうぜ」

 

「そうだ! 代わりにボクが何かしてあげるよ」

 

「マジか!!」

 

「はいはい。 二人の世界に入らないの」

 

うん、リーファの突っ込みが板についてきたな。

それからトンキーは、世界樹の木の根まで運んでくれた。

順番にトンキーの背中から脱出階段に飛び移る。

この階段を上がれば央都《アルン》に到着する。

 

「助かったよ、トンキー」

 

「うん。 ありがとね」

 

「また来るからね、トンキー。 それまで元気でね」

 

上から順に、俺、ユウキ、リーファだ。

俺たちはトンキーに感謝の言葉を述べた後、トンキーは嬉しそうな声を上げ、そのまま物凄い速さで降下していく。

不思議な邪神はヨツンヘイムの暗闇に溶けていった。

 

「さ、行こ! この階段を登れば《アルン》だよ!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

俺たちは階段を上り央都《アルン》に向けて足を踏み出した。

 




遂に《アルン》まで書けたよ。

あと、邪神狩りパーティーはカットしたよ。
書かなくてもいいかなっと思っちゃって(汗)

ここからノープランなんだよね(汗)
どうしようか……。

ご意見、ご感想、評価よろしくお願いします!!



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第64話≪絆≫

どもっ!!

舞翼です!!

うん、書きあげたよ。

今回は、明日奈さんと藍子さんを出したよー。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


俺たちは、太い木の根を貫く螺旋状の階段を勢いよく駆け上がり始めた。

十分以上経過した頃――遂に、行く手に一筋の細い光が現れた。

勢いよく飛び出した場所は、苔むした石のテラスだった。

一瞬眼を瞑ってから周りを見渡すと、そこは美しく、積層都市の夜景であった。

石造りの建築物が、縦長に何処までも連なっている。

その明りの下を行き交うプレイヤーは、妖精九種族が均等に入り混じっている。

暫し夜景に見入っていた俺とユウキは、夜空を枝葉の形に切り取る影を見た。

それから、俺とユウキが呟いた。

 

「……あれが世界樹かな……」

 

「……ああ、多分、あれが世界樹だ……」

 

リーファは視線を俺とユウキに移し、言った。

 

「……うん、あれが世界樹よ。 そうすると、此処は《アルン》で間違いないわね。 アルヴヘイムの中心。世界最大の都市」

 

「……やっと着いたな……」

 

「……うん。 やっと着いたね……」

 

ユイが俺の胸ポケットから顔を出し、輝くような笑みを浮かべた。

 

「わぁ……! わたし、こんなにたくさんの人が居る場所、初めてです!」

 

「今日はここまでだね。 宿屋でログアウトしよっか」

 

俺とユウキは、リーファの言葉に頷いた。

 

「ああ、そうだな」

 

「うん。 わかった」

 

これから週に一度の定期メンテナンスがあるらしいのだ。

時間は、午前四時から昼の十二時までだ。

 

「さ、宿屋探そうぜ」

 

世界樹を眺めていたユウキも、顔を戻して俺の言葉に続いた。

 

「そうだね」

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

それから大きな部屋を取り、三人同時にベットに仰向けになり、そのまま睡魔に襲われ《寝落ち》した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

薄く雪の残る庭に出ると、冷たい朝の空気が体を包んだが、俺の頭に居座る微かな眠気が消える事は無かった。

何度か顔を左右に振ってから、庭の隅にある手洗い場へ向かう。

水道管の蛇口を捻り、零れる冷水を両手で受け止めてから、顔にばしゃりと顔に浴びせた。

 

「ッ………!!」

 

構わず二度、三度被り、首にかけたタオルで顔を拭いていると、縁側のガラス戸が引き開けられ、スウェット姿の木綿季とジャージ姿の直葉が顔を覗かせた。

 

「おはよー、お兄ちゃん」

 

「おはよー、和人」

 

木綿季と直葉は、まだ半眠半覚醒といった顔でぼーっと頭を揺らしている。

二人は、そのまま俺の前までやって来た。

 

「おはよう、木綿季、スグ。――二人とも眠そうだな。 まぁ、《こっち》に還って来たのが、午前三時過ぎだからな」

 

俺はちょっとした悪戯心が出て来た。

これを実行すれば、二人とも完璧に覚醒するだろう。

後が怖いかもしれんが。

 

「木綿季、スグ。 後ろ向いてみ」

 

木綿季と直葉は首を傾げてから、くるりと半回転する。

無防備な背中に、極低温の水滴を半ダースほど投下する。

 

「「きゃ――――――ッ!!」」

 

飛び上がった二人の悲鳴が、桐ケ谷家に響き渡った。

木綿季が頬を、ぷく―と膨らませて不機嫌になってしまったが、俺が何でも一つ聞いてあげる所を二つにしてあげたら機嫌を直してくれた。

直葉は、近所のファミレスで宇治金時ラズベリークリームパフェを奢る約束をしたら、機嫌を直してくれた。

それから一階のキッチンに向かい、朝食の準備に取り掛かることにした。

母親の翠は徹夜の仕事帰りで、案の定寝室で爆睡中だったので、俺と木綿季と直葉の三人で朝食を摂る事になる。

今日の朝食は、俺と木綿季で作る事にした。

最近は、直葉に作って貰ってばかりだったからだ。

洗ったトマトを六等分に切っている木綿季と、隣でレタスを千切っている俺を交互に見ると、指定席に座っていた直葉がこう言った。

 

「なんか……お兄ちゃんと木綿季ちゃんって、もう(・・)新婚さんみたいだね」

 

「まぁ、うん、そうだな」

 

俺はぎこちない返事で直葉に返したが、

 

「ボクはその………和人とボクの子供が欲しい、かな………」

 

「なッ!!??」

 

木綿季は顔を真っ赤にして、ダイナマイト級の爆弾を放り込んだ。

それから俺と木綿季は、顔を真っ赤にしながら朝食を作った。

指定の椅子に座り、朝食を摂る事にした。

直葉がサラダボールの中のトマトをフォークで刺した後、俺と木綿季に聞いてきた。

 

「お兄ちゃんと木綿季ちゃんは、学校はどうするの?」

 

今の俺の年齢は十六歳。

木綿季の年齢は十五歳。

本来ならば今月の四月から俺は高校二年、木綿季は高校一年のはずだが、当然入試など受けていないし、今までに勉強した内容はSAO関連の事で頭が埋め尽くされていて、覚え直しが必要になる。

アイテムの値段やらモンスターの攻撃パターンを忘れ、歴史の年号や英単語を覚えるだけでも一苦労になるだろう。

俺と木綿季は齧っていたトーストを皿の上に戻し、口を開いた。

 

「ええと、確か、都立高の統廃合で空いた校舎を利用して、SAOから帰還した中高生向けの臨時学校みたいの作るらしいな。 入試なしで受け入れて、卒業したら大学受験資格もくれるらしい」

 

「だからボクと和人は、そこに入学って事になるかな。でも待遇が良すぎるよね。 多分、SAO帰還者を一箇所に纏めておきたいんじゃないかな、その方が政府も安心できるから」

 

そう、木綿季の言う通りである。

政府は、SAO帰還者を一箇所に集めて管理しておきたいのだろう。

何せ俺たちSAO帰還者は、二年も殺伐としたデスゲームに身を投じていたのだから。

心理面に、どんな影響を受けているかも知っておきたいのだ。

その為、定期的にメンタルカウンセリングを行うと記載もされていた。

この話は、総務省の眼鏡の役人から俺が聞いた話だ。

俺は大丈夫なんだが、木綿季がこの臨時学校に通うのは少し抵抗があった。

もちろん、明日奈と藍子も同様だ。

何せ、同じ学校にデスゲームをプレイしていた人が集まるからな。

木綿季の希望は、『皆と一緒に高校に入学したい。 SAOで出会った人たちとまた再会して、話がしたい』。

おそらくこの事は、明日奈と藍子も同じだと思ったのだ。

だから、考えた末にOKと言ったのだ。

それまでに、ランとアスナを救い出す。

 

「そ、そんな……」

 

直葉はくしゃっと顔を歪めので、俺は木綿季の言葉に付け加える。

 

「でも、管理云々はさて置いても、セーフティネット的な対処してくれるのは、有り難いしな。 それに学校には、心強い仲間も居ると思うから」

 

「ならいいけど……」

 

直葉も納得してくれたようだ。

トマトを一齧りしてから、直葉が聞いてきた。

 

「で、今日は、木綿季ちゃんとお兄ちゃんは何をするの?」

 

「ああ、今日は木綿季の大切な人に会いに行くんだ」

 

俺が言うと、直葉が少し声を上げて言った。

 

「えっ、そうなの、私も行っていいかな!?」

 

「まぁ、うん。 前に紹介が出来ないって言っていたねぇねぇと、ボクの親友を紹介するよ」

 

木綿季は、『本当は起きている時の姉ちゃんと、明日奈を紹介したかったんだけどね』と聞き取れないボリュームで呟いていた。

木綿季の表情は、やはり寂しそうであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺は携帯端末で三人分の料金を払い、バスに乗り込んだ。

今日は人数も多いということで、バスを使うことにしたのだ。

約二十分、バスに揺られ目的の病院に到着した。

俺と木綿季は、直葉を連れ立ってバスの降車口から降りた。

 

「わぁー、やっぱり大きい病院だねー」

 

「そうだな。 スグは一回来たことがあるからな」

 

「それって、ボクに会いに来た時のこと?」

 

俺は、木綿季の問いに頷いた。

 

「そうだぞ」

 

それから病院の中に入り、三人分のパスを受け取ってから、二人が眠る最上階までエレベータ移動し、人気の無い廊下を突き当りまで歩く。

 

「最初は、ボクの親友に会ってね」

 

そう言ってから木綿季は、パスカードをドアのスリッドに差し込んだ。

そこには、602号室『結城明日奈 様』と書かれている。

すると、金属プレートを見て直葉が呟いた。

 

「結城……明日奈……さん。 今から会う人が、木綿季ちゃんの親友なんだね」

 

「うん、そうだよ。 スグちゃん」

 

言いながら木綿季はカードを滑らせると、同時に控えめな電子音と共に、ドアがスライドした。

ゆっくりと病室に足を踏み入れる。

ベットの中央は、純白のカーテンで仕切られている。

俺たち三人は中央にあるベットの前まで移動してから、木綿季が純白のカーテンに手を掛け、それをゆっくり引き開ける。

 

「スグちゃん、紹介するね。 彼女が結城明日奈だよ。 SAOでは、血盟騎士団副団長《閃光》のアスナ。 そして、ボクの唯一無二の親友だよ」

 

木綿季は優しい顔で、そっと明日奈の栗色の長い髪を撫でている。

直葉は無言のまま佇んでいたが、はっとした。

それほどまでに、見入っていたんだろう。

直葉は、恐る恐る声を掛けた。

 

「……はじめまして、明日奈さん。 桐ケ谷直葉です」

 

当然の如く、彼女からの答えはない。

彼女の頭を拘束するのは、《悪魔の機械ナーヴギア》。

その前縁部で、青く輝く三つのインゲージランプが彼女の存在を示している。

だが彼女の魂は、どことも知れない居世界に繋がれたまま。

 

「久しぶりだね明日奈。 今度ユイちゃんを紹介するね。 明日奈に会いたがっていたよ。 『ママの親友に会いたいです!』って、ボクたち四月から学校が始まるんだ。 今から楽しみだよ、明日奈と同じ学校なんて。 もちろん、和人も楽しみにしているよ」

 

「木綿季に言いたい事全部言われちゃったよ。 俺と木綿季は、明日奈と入学出来ることを楽しみにしているからな」

 

すると、直葉がゆっくり口を開いた。

 

「……お兄ちゃんと木綿季ちゃんと明日奈さんって、深い絆で繋がっているんだね」

 

「ああ、明日奈は俺の恩人だからな。 明日奈は木綿季のことを支えてくれていてな、俺が木綿季から眼を離した時は、何時も木綿季のことを見てくれていたんだ。 俺と木綿季の為にも、一肌脱いでくれたな。 今の俺たちがあるのは、明日奈のお陰もあるしな」

 

「……それって、プロポーズの指輪選びの事?」

 

「まぁそれもあるな」

 

俺と木綿季は顔を見合わせ、笑い合った。

 

「明日奈、また来るな」

 

「うん。 また来るね明日奈。―――絶対助けるからね、待っていてね」

 

木綿季の後半の言葉は、誰にも聞かれないように呟いた。

 

「じゃあ、失礼します。 明日奈さん」

 

と最後に直葉が言い、病室を後にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

明日奈の病室を後にした俺たち三人は、隣の病室に足を向けた。

そこには金属のネームプレートで、601号室『紺野藍子 様』と書いてある。

直葉は、その名前を見て眼を丸くした。

 

「えっ……紺野って……」

 

「スグちゃん。 今から会う人はボクの双子の姉であり、ユイちゃんのお姉さんだよ」

 

「ああ、俺を支えてくれたもう一人だ」

 

直葉は、俺と木綿季の言葉に驚いていた。

そして同時に思った。

紺野姉妹がSAOにログインをしていて、兄・和人を支えていたんだと。

 

「じゃあ、ユイちゃんが言っていたねぇねぇって!?」

 

「うん。 ボクの姉のことだよ」

 

直葉の問いに、木綿季が答えた。

木綿季はパスカードをドアのスリッドに差し込み、ゆっくりと滑らせる。

それと同時に、オレンジのLEDが青く変わり、電子ドアがゆっくりと開く。

病室の内部にゆっくりと足を踏み入れる。

中央のベットは、純白のカーテンで閉め切られていた。

中央にあるベットの前まで移動した所で、俺が純白のカーテンに手を掛け、ゆっくりと引き開ける。

 

「今度は俺が紹介するな。 彼女名前は紺野藍子、木綿季の実の姉だ。 SAOでは、途中から俺と木綿季と行動を共にして、支えてくれたんだ。 主に俺の事を支えてくれたな。 名前は、《剣舞姫》のランだ」

 

暫し見入っていた直葉は、如何にか口を開き、挨拶をした。

 

「……はじめまして、和人の妹の桐ケ谷直葉です。 えっと、木綿季ちゃんには毎日お世話になっています。 よろしくお願いします、藍子さん」

 

彼女の頭には明日奈と同じく、《ナーヴギア》で覆われている。

ナーブギアが正常に作動されているということは、彼女の意識も今何処かの居世界に閉じ込められているのだろう。

 

「久しぶりだね、姉ちゃん。 今ボクは、和人のお家でお世話になっているよ。 姉ちゃんも、和人の家に遊びにおいでよ。 和人部屋を荒探ししよう。 和人が隠してる“聖書”を探し出すんだよ、きっと楽しいよ。 和人が、あたふたしている姿が見られるはずだよ。 その為には早く起きないとね。 ボク待ってるからね、姉ちゃんが起きるのを」

 

「荒探しなんかやめてくれよ。 そんなものは置いてないからな。 うん、置いてないぞ。 まぁ藍子は『和人さん、あそこの本と本の間が怪しいですね。 見てもいいですか?』とか言いそうだけどな」

 

隣に居る木綿季がクスクスと笑っていた。

十中八九言いそうな言葉だからなー。

 

「ねぇ、お兄ちゃんと木綿季ちゃんと藍子さんって、どういう関係だったの」

 

と直葉が聞いてきた。

 

「えっとね、ボクと姉ちゃんは、和人にふたm「トリオ関係だったんだ!!」」

 

俺は木綿季の言葉を遮った。

木綿季さん、その言葉はNGだよ。

 

「そ、そうなんだ」

 

如何にか誤魔化せたかな。

誤魔化さないと、俺が色々とヤバいからな。

 

「お兄ちゃんと木綿季ちゃんは、明日奈さんと藍子さんに支えて貰っていたんだね?」

 

直葉は、俺と木綿季に問いかけてきた。

 

「そうだな」

 

「どんな時も、味方で居てくれたよね」

 

そう言って、俺と木綿季は答えた。

 

「そろそろ御暇しようか?」

 

俺は、木綿季と直葉に聞いた。

 

「「うん」」

 

「それじゃあまたね、姉ちゃん」

 

と木綿季が言い、

 

「失礼します。 藍子さん」

 

と直葉が言った。

 

二人が病室から出て行ったのを確認してから、眠っている藍子に言った。

 

「今度は俺が助ける番だ。 絶対助ける。 もう少しの辛抱だからな」

 

そう言ってから、俺は病室を後にした。

それから俺たち三人はバスに乗り、桐ケ谷家に戻った。

 




うん。 木綿季ちゃん、爆弾発言したね(笑)

妹の直葉にも、アスナとランの紹介をしておきましたー。

さて、ここからどう展開しようか。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第65話≪グランドクエスト≫

ども!!

舞翼です!!

そろそろ、ALOも終盤に入ってきたね。

それでは、本編をどうぞ。


病院から帰った俺たち三人は、定期メンテナンスが終わったALOに戻る為、自室に戻って来た。

俺と木綿季はベットに横になり、妖精の世界にダイブする言葉を唱える。

 

「「リンク・スタート」」

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

眼を開けると、既にリーファが立っていた。

リーファが差しだす手を握り、俺とユウキは軽く引っ張られて立ち上がった。

俺は上空を見渡し、言葉を発した。

 

「ユイ、いるか?」

 

三人の真ん中の空間に光が凝集し、ユイがピクシー姿で出現した。

 

「ふぁ~~~……。……おはようございます、パパ、ママ、リーファさん」

 

目許を擦り、大きな欠伸(あくび)をしながら、俺の肩の上に着地した。

俺たち三人は頷いてから、ウインドウを出して武装を完了させた。

 

「さて、行こうぜ!!」

 

「「うん!」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

街の外は、週に一度の定期メンテナンス終わった直後だったので、多くのプレイヤーがログインしていた。

消耗品の補充をしながら大通りを進んでいると、前方に大きな石段と、その上に大きなゲートが見えてきた。

あれを潜ればアルヴヘイムの中心、アルン中央市街に到着する。

―――門を潜った、その時であった。

ユイが空を見上げて叫んだ。

 

「この上に、ねぇねぇとアスナさんがいます!!」

 

「本当に!!??」

 

ユウキは空を見上げた。

 

「はい、間違えありません! このプレイヤーIDは、ねぇねぇとアスナさんのものです……座標はまっすぐこの上空です!」

 

ユウキは翅を大きく広げ、破裂音と共に地上から姿を消した。

 

「ユウキッ!!」

 

俺も翅を大きく広げ、ロケットブースターのように急上昇するユウキに追随する。

 

「ちょ……ちょっと、二人とも!!」

 

リーファも慌てて後を追い、叫びかける。

 

「気をつけて、キリト君、ユウキちゃん!! すぐに障壁があるよ!!」

 

直後、衝撃音がこのアルン中央市街に響いた。

ユウキが障壁によって弾かれた音だ。

ユウキはすぐに意識を取り戻し、上昇を開始する。

俺はユウキの元まで移動し、叫びかける。

 

「一人じゃ無理だ!!」

 

「ボクが、ボクが助けないと!! だから行かないと!! 今度はボクが助ける番だよ!!」

 

ダメだ、完全に血が上っている。

ユウキを後ろから抱きしめ、優しく囁きかけた。

 

「落ちつけ、落ちつくんだ」

 

すると、ユウキの体からゆっくりと力が抜けていった。

ユイが、俺の胸ポケットから飛び出した。

そうだ……。 ユイなら、この障壁を突破できるかもしれない。

だが、システム属性のユイの小さな体を、眼に見えない障壁が冷酷に拒んだ。

ユイは必死の面持ちで障壁に両手を突き、口を開いた。

 

「警告モード音声なら届くかもしれません……! ねぇねぇ!! アスナさん!!」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

~世界樹 鳥籠内部~

 

Side ラン

 

テーブルに座っていた私とアスナさんは、弾かれたように立ち上がった。

 

「ランさん、今の声って!?」

 

「きっと、ユイちゃんの声だわ!!」

 

ユイちゃんが居るということは、きっと傍に、キリトさんとユウキが居るはず。

 

「ユイちゃんって、ランさんの妹ですよね!?」

 

私はアスナさんの問いに頷いた。

私はアスナさんに、ユイちゃんの事を鳥籠内部で話ていた。

ユイちゃんが、私にとってどんな存在なのか。

私は、格子の壁に駆け寄った。

アスナさんも私の後に続いた。

 

『ねぇねぇ……アスナさん……ここ……ここにいるよ……!!』

 

「ユイちゃんは私のことを知っているの!? なら、そこ居る人は!?――ランさん。 何か、何か、メッセージを届ける物はありませんか!?」

 

私たちが今メッセージに使える物……。

――1つだけある。

それは私とアスナさんが、此処から自力で脱出した時に入手した、銀色のカード。

 

「アスナさん、これなら」

 

私は、銀色のカードを取り出した。

 

「それは確か、研究施設から私たちが命懸けで取ってきた物ですね」

 

私とアスナさんは頷いてから、私が右手に握っていた銀色のカードを手放した。

 

「アスナさん。 あの子たちが、すぐそこまでやって来ています。 あと少し頑張りましょうね」

 

「はい!!」

 

アスナさんは、涙を零しながら頷いてくれた。

――信じていますよ、キリトさん、ユウキ。

 

Side out

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺はゆっくり、ユウキを抱きしめていた腕を解いた。

 

「ユウキ、落ち着いたか?」

 

「……うん。 なんとか……」

 

俺は上空にある世界樹を睨めつけた。

――その時だった。

俺とユウキの視界に、銀色に輝く物が舞ってきた。

 

「あれは……?」

 

「あれは何……?」

 

俺とユウキは、それを凝視した。

それは、ゆっくりとゆっくりと、こちらを目指して舞ってくる。

俺は手を差し伸べ、それを手の中に収めた。

俺の隣に居たユウキがそれをじっと見つめた。

そして左からユイ、右からリーファが覗き込む。

 

「……カード……?」

 

ユウキがポツリと呟いた。

カード型オブジェクトであった。

透き通る銀色の表面には、文字や装飾の類は何もない。

俺はリーファに聞いてみた。

 

「リーファ、これ何だかわかる……?」

 

「ううん……こんなアイテム見たことないよ。 クリックしてみたら?」

 

カードをクリックしてみたが、出現するはずのウインドウが表示されることは無かった。

その時、ユイが身を乗り出し、カードの縁に触れながら言った。

 

「……これは、システム管理用アクセス・コードです!!」

 

「「ッ!?」」

 

俺とユウキは、銀色のカードを凝視した。

それから、俺が口を開いた。

 

「……じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか?」

 

「いえ……これを使ってゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です」

 

「そうか……。 でも、そんな物が理由もなく落ちてくるわけがないよな。 これは、多分……」

 

「はい。 ねぇねぇとアスナさんが、わたし達に気付いて落としたんだと思います」

 

すると、ユウキが俺を見てきた。

 

「キリト……」

 

「……ああ」

 

このカードはきっと、ランとアスナが俺たちに託した物だ。

二人は囚われの身になっても戦っている、この世界で。

このカードからは、彼女たちの意思がおぼろげに感じ取れるような気がした。

次いで、カードをユウキに手渡した。

ユウキは、カードを握り締めた。

俺はリーファに聞いた。

 

「リーファ、教えてくれ。 世界樹の中に通じているっていうゲートはどこにあるんだ?」

 

「え……あれは、樹の根元にあるドームの中だけど……」

 

「そうか、根元か」

 

「じゃあ、ここから先はボク達だけで行くよ」

 

そう言ってから、ユウキはカードをポケットに収めると、翅を鳴らして急降下に入った。

俺もユウキに続いて急降下に入る。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

 

俺とユウキはリーファの叫び声には振り返らず、降下スピードを上げた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

急降下を数十秒続けると、やがて世界樹の根元が姿を現した。

大きく広げた翅でブレーキをかけながら、両足を突き出し、大きな衝撃音と共に着陸した。

ユウキが俺の肩に乗っているユイに話し掛けた。

 

「ユイちゃん。 ドームの入口の道、わかる?」

 

「はい、ママ。 前方の階段を登ればすぐです。 でも―――今までの情報からすると、パパとママでもゲートを突破するのは、かなり難しいと思われます……」

 

「何とかなるさ」

 

「うん、パパとママが力を合わせれば何とかなるよ。 今までもそうだったしね」

 

俺とユウキは、ユイの頭を撫でた。

 

「……はい」

 

目の前の大きな階段を、俺とユウキは歩き出した。

そこはもう、アルン市街区の最上部らしかった。

その壁の一部に、プレイヤーの十倍あろうかという身の丈の、妖精の騎士を象った彫像が二体並んでいる場所があった。

像の間には、華麗な装飾を施した石造りの扉が(そび)えている。

 

「(待っていろよ、ラン、アスナ。 すぐ助ける)」

 

「(待っててね、姉ちゃん、アスナ。 今行くよ)」

 

更に数歩歩き、大扉に前に立った途端、右の石像が低音を轟かせながら動き始めた。

石像は兜の奥の両目に青白い光を灯しながら、こちらを見下ろし、口を開いた。

 

『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ致らんと欲するか』

 

同時にウインドウが開き、最終クエストの挑戦意志を質す為のイエス、ノーボタンが表示された。

俺とユウキは顔を見合わせてから頷き、イエスボタンに手を触れる。

 

『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』

 

大扉の中央がぴしりと割れ、左右に開いていく。

 

「行くぞ、ユウキ。―――ユイ、しっかり頭を引っ込めてろよ」

 

「わかった、行こうキリト。―――ユイちゃんは、しっかり隠れているんだよ」

 

「パパ、ママ。 がんばって」

 

胸ポケットに収まったユイを確認してから、背中の剣を抜き放つ。

隣に立っていたユウキも、腰の鞘から剣を抜き放つ。

内部は完全な暗闇であった。

剣を構えた直後、眩い光が頭上から降り注いだ。

そこは、とてつもなく広いドーム状空間だ。

天蓋(てんがい)の頂点に、四枚の石盤がぴたりと閉ざしている。

おそらくあの先で、ランとアスナが俺たちの到着を待っている。

 

「行くぞッ!!」

 

「わかったッ!!」

 

俺とユウキは、四枚の翅を大きく広げ、咆哮と共に地を蹴った。

飛び上がってからすぐに、白く光る窓から、白銀を纏った騎士が現れた。

右手には、巨大な大剣を携えている。

間違いなく、あれがリーファの言っていたガーディアンだろう。

ユウキが騎士の剣を弾いてから、俺が振り下ろす大剣で屠る。

次いで、凄まじいライトエフェクト。

 

「ゴガァァアア!!」

 

白銀の騎士は絶叫を上げ、ポリゴンの破片を爆散させる。

一対一なら、こちらに分がある。

こちらに向かってくるガーディアンは、すべて切り捨てる。

俺とユウキは翅を震わせ、猛烈な突進を開始する。

光る窓から生み出された騎士が、数を増やしていく。

 

「そこをどけえぇぇぇぇッ!!」

 

「そこをどいてぇぇぇぇッ!!」

 

俺とユウキは剣を振りかぶり、白銀の騎士に振り下ろす。

白銀の騎士は、(ゆが)んだ悲鳴と共に爆散する。

一撃でガーディアンを沈め、上昇していく。

 

――行ける!!

 

俺とユウキは同時にそう思った。

だが、天蓋近くのステンドグラスの殆どの全ての窓から、白銀の騎士が現れた。

その数は、数十――いや数百か。

 

「うおぉぉぉおおお!!」

 

「やあぁぁぁあああ!!」

 

俺とユウキは叫び、空気を切り裂き加速する。

向かって来るガーディアンを沈めていく。

騎士の攻撃が掠り、徐々にHPバーを減少させていくが、俺とユウキは加速を緩める事は無い。

白銀の騎士たちが詠唱して、光の矢を放つ。

今放たれた光の矢の数は、全て回避することは不可能な数だ。

だが俺とユウキは、HPが減少しているのにも関わらず、猛烈に突進する。

突進しながら、飛んでくる光の矢を弾いていく。

すでに俺とユウキのHPバーは、レッドに突入している

 

「うおぉぉぉおおお!!」

 

「はあぁぁぁあああ!!」

 

光の矢の第二波が、俺とユウキに向かって殺到してくる。

それを見て、俺とユウキは歯軋りした。

――くそ、ここまでなのか。

と、その時。

 

「ピナ、バブルブレス!!」

 

「キリトとユウキちゃんに、手ぇ出すんじゃねぇぇええ――ッ!!」

 

「おおおぉぉぉッ!!」

 

後ろを振り返って見ると、青い竜が無数の光の矢を消し飛ばし、残りの光の矢は刀の斬撃と、両手斧の強烈な暴風で消滅させた。

右手にメイス、左手に盾を持った、工匠妖精族(レプラコーン)が話し掛けてきた。

 

「やぁ、二人とも」

 

「「って、リズ!!??」」

 

「また無茶したのねぇー、あんたらは。――取り敢えず、まず此処から脱出しましょうか」

 

「キリト君、ユウキちゃん、無事?」

 

リーファが心配そうにやって来た。

 

「ああ」

 

「大丈夫かな」

 

俺とユウキは短く答えた。

俺たちの元に駆けつけてくれたのは、シリカ、クライン、エギル、リズベット、リーファであった。

俺とユウキは後退する中で、天蓋のゲートを見上げていた。

すでに、天蓋のゲートは無数の騎士が密集し、幾重(いくえ)もの肉の壁を作り上げていた。

援護に駆けつけてくれたみんなが、俺とユウキを守るようにして後退していく。

俺とユウキは危機一髪の所を助けられ、ドームの外に脱出することに成功した。

 

 




ピナ強ッ!!

残りの光の矢は、ほぼ、エギルとクラインが処理しましたね。
他のメンバーも弾き落していましたよー。

やっぱり、二人では世界樹の攻略が出来ませんでしたね。

カード取得は、カットしちゃいました。(書くのが難しすぎて、諦めました)

SAOメンバーがそろいましたね(笑)

さて、ここからどうしようか。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第66話≪閃光となって≫

ども!!

ALO編を書き終わったら、ゴールしちゃおうかなー、と思っている舞翼です!!

書きあげました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


ドームから脱出した俺とユウキは、大きな息を吐いた。

背後の眼を向けると、巨大な石扉が自動的に閉まっていった。

世界樹攻略のイベントが終了したのだろう。

それを見てから、視線をSAOメンバーとリーファに向けた。

 

「助かったよ、みんなありがとう」

 

「うん、本当にありがとう。 もう少しで、ボクとキリトが()られちゃう所だったよ」

 

俺とユウキは、小さくお辞儀をした。

俺が頭を上げた途端、火妖精族(サラマンダー)の刀使いが、肩に手を回してきた。

頭には、趣味の悪いバンダナを巻いている。

 

「キリの字よ。 お前、無茶しすぎだぞ。 もうちぃと、俺たちを頼ってもよかったじゃねぇか。 オレは、何時でもお前らの力になるのによぉ」

 

隣に立っていたユウキも、ピンク色のふわふわヘアーが特徴的な、鍛冶妖精族(レプラコーン)のメイス使いに肩に手を回されていた。

 

「そうよ。 あたし等は、あんたらの味方なんだからね。 頼ることを覚えなさいな」

 

「「……う、ごめん……」」

 

そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。

そう言ってから、二人は手を離した。

青い竜が、俺の頭に乗ってきた。

 

「こらっ、ピナ。 キリトさんの頭に乗ったらダメでしょ。 キリトさん、ごめんなさい。――あと、キリトさんユウキさん。 私のことも頼ってくれてもいいんですよ。 微力ながらお手伝いします」

 

「きゅる~」

 

どうやらピナも、シリカの言葉に賛同しているようだ。

シリカは、ニッコリと笑ってくれた。

それからピナは、シリカの元に戻った。

シリカの言葉が終わると、大柄でスキンヘッドが似合う、土妖精族(ノーム)が話し掛けてきた。

 

「案の定無茶をしたな、キリトにユウキちゃん。 オレも店を閉めて助太刀に来たぜ」

 

エギルは親指をぐっと立てた。

此処に集合してくれたメンバーは、剣の世界で共に戦った仲間たちであった。

エギルから情報を得て、ランとアスナの救出の為に、此処まで駆けつけてくれたのだ。

――すると、頭上から飛竜の雄叫びが聞こえた。

――次いで、濃緑色の鎧を身に纏ったシルフの団体が姿を現した。

 

「すまない、遅くなったな」

 

「ごめんネー。 全ての装備を準備するのに、時間がかかっちゃったヨー」

 

――シルフ族の領主サクヤと、ケットシー領主のアリシャ・ルーの姿であった。

 

「私も世界樹攻略に協力するよ、キリト君、ユウキちゃん」

 

リーファも、俺とユウキを見て言ってくれた。

 

「リーファちゃ~~ん。 僕、此処まで追い付いたよ~~。……え、これ、どういう状況なの……」

 

手を左右に振って走って来た人物は、《スイルベーン》の風の塔の上で別れたレコンであった。

レコンは、此処に集結しているメンバーを見て驚いている。

 

「あ、レコン」

 

「え、え、何が起こっているの。 何で此処にサクヤさんとケットシー領主がいるのさ……。 あと、この人たちは……誰なの……??」

 

「みんな仲間よ。 これから世界樹を攻略するのよ、このメンバーでね。 もちろんあんたも入っているわよ」

 

「えーーーッ!!……世界樹攻略!!??」

 

「そうよ。 いいとこ見せなさいよ」

 

「……善処します……」

 

それから、レコンとリーファに、ランとアスナが世界樹の上に捕まっていることを話た。

リーファとレコンも同意したのを確認してから、胸ポケットに隠れていた、ユイに話し掛けた。

 

「ユイ、いるか?」

 

すると光の粒が凝集し、ピクシー姿のユイが出現した。

両手に腰を当て、唇を尖らせている。

 

「もー、遅いです! パパたちが呼んでくれないと出てこられないんですからね」

 

「悪い悪い」

 

「ごめんね、ユイちゃん」

 

俺とユウキは苦笑しながら、ユイに謝った。

俺は改めてユイの顔を見た。

 

「それで、あの戦闘で何か解ったか」

 

「はい。 あのガーディアン・モンスターは、ステータス的にはさほどの強さではありませんが、湧出パターンが異常です。 ゲートへの距離に比例してポップ量が増え、最接近時には秒間十二体にも達していました。 あれでは……攻略不可能な難易度に設定されているとしか……」

 

すると、ユウキが周りを見渡した。

 

「皆の力を合わせれば、突破できるよ」

 

「ああ、そうだな」

 

リズがウインドウを操作し、何かを取り出した。

――それは、純白の片手剣一本と漆黒の片手剣二本であった。

 

「私が今打てる最高の剣よ、世界樹攻略に使いなさい。 今のあんたらの武器より性能がいいはずだから」

 

「ああ、ありがとう」

 

「ありがとう、リズ」

 

俺とユウキはリズに礼を言ってから、渡された片手用直剣を装備した。

俺は純白の片手剣と、漆黒の片手剣を背に交差して吊り、ユウキも漆黒の片手剣を腰に装備した。

 

「おっしゃーーッ!! オレ様のカッコいい所を見せて、惚れさせてやるぜぇッ!!」

 

「いや……。 それは無理だから」

 

「そんな~……」

 

クラインとリズが漫才を繰り広げていた。

それを見て、此処に居る全員が笑ってしまっていた。

俺は真剣な表情になり、言った。

 

「世界樹の上には、俺とユウキの大切な人たちが囚われているんだ。 その人は世界樹の上で、俺とユウキの到着をずっと待っているんだ。 だから、みんなの力を貸してくれ」

 

「私とルーは、君たちの仲間から大体の事情は聴いたよ。 世界樹攻略に協力する」

 

「私とサクヤちゃんは、君たちに命を救われているからネ。 その恩返しをしないとネ」

 

サクヤとアリシャに続いて、SAOで共に戦ったメンバーと、リーファとレコンが頷いてくれた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ致らんと欲するか』

 

みんなが頷いてから、俺はイエスボタンに触れた。

それから、左の石像が大音声を発した。

 

『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』

 

重々しく、左右の扉がゆっくりと開いていく。

先頭に立った俺が、背に吊った純白の剣と漆黒の剣を放剣した。

次いで、隣に立っているユウキが放剣する。

 

俺とユウキに続くように、此処に居るメンバーが放剣した。

 

「行くぞッ!!」

 

「みんな、行くよッ!!」

 

俺とユウキの掛け声と共に、一気にドーム内に突入した。

俺とユウキはドームに入った瞬間に地を蹴り、翅を大きく広げて、猛烈な加速で天蓋のゲート目指して急上昇を開始した。

白い窓からは、白銀の騎士の軍勢が姿を現す。

 

「おおぉぉぉおおおッ!!」

 

「はあぁぁぁあああッ!!」

 

俺は《二刀流》を駆使して、交差した白銀の騎士を沈めていく。

沈める事が出来なかった騎士たちは、後ろから追随してくるユウキが沈めていった。

横から突撃してくる騎士たちは、クラインの刀の斬撃と、エギルの振るう両手斧の一撃で真っ二つにする。

後方の支援にはシリカとリズベットが回り、魔法攻撃で叩き落とす。

 

「さて――我々も行こう!!」

 

「そうだネ、サクヤちゃん!!」

 

領主二人が中央まで急上昇すると、ケットシー領主アリシャ・ルーが高く右手を上げ、よく通る声で叫んだ。

 

「ドラグーン隊! ブレス攻撃用――意!」

 

翼を大きく広げ飛竜は、長い首をS字にたわめ、牙の奥からオレンジ色の光を微かに洩らす。

次いで、シルフ領主サクヤが朱塗りの扇子をさっと掲げた。

 

「シルフ隊、エクストラアタック用意!」

 

密集方形陣に固まったシルフ部隊も、突進しつつ右手の長剣を頭上に翳す。

その刀身を、エメラルド色の電光が網目のように包み込む。

 

「ファイアブレス、撃て――――ッ!!」

 

直後、飛竜が、溜め込んで紅蓮の劫火を一斉に吐き出した。

眩い光が、ドーム内を照らした。

紅蓮の劫火を受けた騎士たちは、白い炎を引いて、燃えて尽きていく。

 

「フェンリルストーム、放てッ!!」

 

シルフ部隊が一糸乱れぬ動作で長剣を鋭く突き出し、剣それぞれから眩いグリーンの電光が迸り、宙を切り裂いて白銀の騎士たちに深く貫通した。

騎士たちを粉々に吹き飛ばしていく。

 

「「(シルフ)(ケットシー)隊。 全員、突撃!!」」

 

 

Side リーファ

 

――今しかない。

私はそう思い、突進を開始しようとした。

不意に、レコンが私の右手を掴んだ。

驚いて振り向くと、緊張に震えた声で、しかし何時になく真剣な表情を浮かべつつ言った。

 

「リーファちゃん……、僕、さっきの話聞いてもよく解んないだけど、これ、大事なことなんだよね?」

 

「――そうだよ。 ゲームじゃないのよ、今だけは」

 

「……わかった。 僕も道を開くよ」

 

レコンはそう言ってから、コントローラを握り、正面から白銀の騎士たちに向かって行く。

 

「ば、ばかっ……」

 

レコンは、風属性の範囲魔法を詠唱し、正面から騎士たちに浴びせていく。

同時にターゲットがレコンに移る。

レコンは時々掠める攻撃でHPバーをじわじわ減少していくが、ふらふら飛行しながら先頭に立ち、長い詠唱を開始した。

体を、深い紫色のエフェクト光が包む。

 

「……!?」

 

――あれは、闇属性魔法の輝き。

たちまち、複数の魔法陣が展開される。

その大きさから、かなりの高位呪文だ。

魔法陣は、全方位から押し寄せる騎士の群れを包みこんだ。

複雑な光の紋様が小さく凝縮し――次いで恐ろしいほどの閃光を放った。

すさまじい爆音が轟き、ドーム全体を激しく振動させた。

レコンの姿は、其処には無かった。

代わりに、小さな緑色のリメインライトがポツンと漂っている。

 

「――自爆魔法……!?」

 

私は呆然と呟く。

そう言えば闇魔法に、そのようなものが存在するとは、昔聞いた記憶があった。

しかしあれは、死ぬと同時に通常の数倍のデスペナルティを課せられる、言わば禁術だったはずだ。

たかがゲーム、たかが経験値、でもその為にレコンが費やした努力と熱意だけは、本物の犠牲だ。

もう、ここから撤退の二文字は許されない。

そう決意して、上空を凝視する。

翅を大きく広げ、上空に飛翔する。

――私の向かうべき場所は、キリト君とユウキちゃんの元だ。

 

Side out

 

 

「お兄ちゃん、木綿季ちゃん」

 

「スグ――後ろは頼んだ!!」

 

「スグちゃん――後ろは任せたよ!!」

 

「任せて!!」

 

俺とユウキは背中を預け、前方を見据えた。

リーファに背中を預けたまま、急上昇していく。

クライン、エギル、シリカ、リズベットが、俺とユウキとリーファに、襲い掛ってくる騎士たちを沈めていく。

仕留め損ねた騎士は、リーファが沈める。

 

「行くぞ、ユウキッ!!」

 

「うん。わかったッ!!」

 

リーファの背から離れ、俺とユウキが二つの閃光となって、肉壁の間隙に突進を開始した。

 

「うおぉぉぉおおお!!」

 

「はあぁぁぁあああ!!」

 

途中で襲って来た騎士たちは、俺とユウキの超高速斬撃に巻き込まれ、紙くずのように引き千切られ、周囲に散った。

二つの閃光は、光の尾を引き、ゲートに向かって飛翔していく。

――そして、抜けた。

一瞬開いた隙間を、白銀の騎士たちが、幾重にも重なり埋め尽くした。

それを見届けたサクヤが、後方から叫んだ。

 

「全員反転、後退!!」

 

 

Side リーファ

 

身を翻し急降下に入った私は、一瞬、天蓋の方向を振り返った。

ガーディアンの壁に阻まれて姿を見る事が出来なかったが、私の眼には、高く、高く、かつて誰も達したことのない場所を目指して舞い上がって行く、黒衣の少年と紫の少女の姿が映った。

 

飛べ――飛べ――空を翔けて――どこまでも高く――世界の核心まで――!!

 




今回は、みんながメインでしたね。

レコン、かっこいいぜ!!
お前の犠牲は無駄じゃなかったぜ。
あと、レコンは爆発には、誰も巻き込まれてませんよ。

遂に、世界樹の上に辿りつきましたね。
領主二人は、キリト君とユウキちゃんが離れた時に、事情を聴いたということで。

ここからは、流れしか考えていないんですよね~。
さて、どうしようか。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第67話≪泥棒の王と鍍金の勇者≫

ども!!

舞翼です!!

いやー、中盤は胸糞が悪かったなー。

これを読んで不快にさせてしまったら、ごめんなさい(>_<)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。



俺とユウキは、脳神経が灼きつくかと思うほどの速度で、最後の距離を駆け抜けた。

眼前にある、巨大な円形のゲートに降り立つ。

白銀の騎士たちが、白い窓から生み出され、俺たちに押し寄せてくる。

だが、俺たちの方が早い。

ゲートの向こうに、彼女たち――ランとアスナが居る。

しかし――。

 

「……開かない……!?」

 

「えッ!!??」

 

俺の言葉に、ユウキが眼を丸くした。

 

閉ざされた十字の溝は、重く閉ざされている。

俺が剣を抜こうとした直前、ユイが俺の胸ポケットから姿を現し、小さな手でゲートの塞ぐ石盤を軽く撫でた。

 

「パパ」

 

ユイは振り向き、早口で言った。

 

「この扉は、クエストフラグによってロックされているのではありません! 単なる、システム管理者権限によるものです」

 

ユウキが、ユイに訊ねた。

 

「つまり、どうゆうことなの??」

 

「……この扉は、プレイヤーには絶対開けられないということです!」

 

「「……な」」

 

このグランドクエスト――世界樹の上の空中都市に達した者は、真の妖精《アルフ》に生まれ変われるというそれは、永遠に手の届かないニンジンだったということか?

ユウキが思いついたように、ポケットから銀色のカードを取り出した。

あのカードは――《システムアクセスコード》だ。

 

「ユイちゃん――これを使って!!」

 

ユウキは銀色のカードを、ユイの眼前に差し伸べた。

ユイは大きく頷き、小さな手でカードの表面を撫でる。

光の筋が幾つか、カードからユイへと流れ込む。

 

「コードを転写します!」

 

一声叫ぶと、ユイの両の掌でゲートの表面を叩いた。

ユイの手の触れた個所から、放射状に青い閃光が走り、直後、ゲートそのものが発光を始めた。

 

「――転送されます!! パパ、ママ。掴まって!!」

 

ユイが伸ばした小さな右手を、俺とユウキの指先がしっかりと掴んだ。

光のラインは、ユイの体を伝わり、俺とユウキの中に流れ込んできた。

騎士たちが大剣を振り下ろす直前、俺たちの体が薄れ、白く輝くゲートに中へ突入した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

転送された先は、何も無い、真っ白い空間であった。

ユイはピクシー姿ではなく、白いワンピースを着た少女の姿だ。

ユウキは、ユイに訊ねた。

 

「ユイちゃん、此処どこなの」

 

ユイも困惑した顔で言った。

 

「……判りません。 マップ情報が、この場所には無いようです……」

 

「ユイちゃん。 ねぇねぇとアスナの場所、わかる?」

 

「はい、ママ。 少し待ってくださいね」

 

ユイは一瞬目を閉じ、すぐに大きく頷いた。

 

「はい、かなり――かなり近いです。 上のほう……こっちです」

 

俺とユウキは頷き、ユイを追って数分走ると、扉が見えてきた。

 

「ここの扉を出ると、頂上に到着します」

 

俺とユウキは、勢いよく扉を開け放った。

そこは、世界樹の幹がただ伸びていただけであった。

――ALOのプレイヤーたちが夢見た頂きには、何もなかったのだ。

 

「無いじゃないか……空中都市なんて……」

 

俺は呆然と呟いた。

全ては中身のないギフトボックスであったのだ。

包装紙やリボンで飾り立て、しかしその内側に広がるのは空疎な嘘。

 

「……許されないぞ……」

 

俺は思わず呟いていた。

この世界を動かしている、誰かに向かって。

 

「……キリト……」

 

ユウキが、心配そうな顔で覗き込んでくる。

ユイも、気遣わしそうな顔で見上げていた。

 

「ああ、そうだな。 行こう」

 

全ては、ランとアスナを救い出してからだ。

人工的な小刻みな道を、ユイとユウキの手を握り、走り始めた。

道の先には、夕陽の光に反射して、金色に光る何かがあった。

写真で見た鳥籠だ。

俺は直感で解った。

――あの中には、ランとアスナが居る。

二人も感じているはずだ、あの中に居る人物を。

走る速度が増していく。

 

遂に、鳥籠の前に到着した。

テーブルの椅子には、二人の少女が座っている。

間違いない――ランとアスナだ。

 

「――ラン、アスナ」

 

「――姉ちゃん、アスナ」

 

俺とユウキは、優しく囁きかけた。

ユイも叫んだ。

 

「ねぇねぇ……アスナさん!!」

 

ユイは閉ざされた格子に手を当て、その手を青い輝きが包んだ。

直後、金属の格子が、吹き飛んで消滅した。

開け放たれた入口から、鳥籠内部に駆け込む。

そのまま、ランの胸の中に飛び込んだ。

 

「ねぇねぇ――!!」

 

「ユイちゃん、来てくれたのね」

 

ランは、ユイを抱きしめた。

俺の隣に立っていたユウキも、涙を流しながらアスナの元に駆け寄った。

 

「アスナ、助けに来たよ」

 

「――助けに来てくれるって、信じていたよ。 ユウキちゃん」

 

アスナは栗色の髪を揺らしながら、椅子から勢いよく立ち上がり、大粒の涙を流しながらユウキと抱き合った。

 

「……ごめんな、遅くなった」

 

俺が呟くと、ランが応えた。

 

「信じていましたよ。 絶対に助けに来てくれるって」

 

「ああ、――帰ろう。 現実世界へ」

 

俺はユイに訊ねた。

 

「ユイ、ここからランとアスナをログアウトさせられるか?」

 

ユイは眉を寄せ、首を振った。

 

「ねぇねぇとアスナさんをログアウトさせるには、システムコンソールが必要です」

 

「コンソール……」

 

俺が首を傾げると、アスナが緊張した声で言った。

 

「わたし、ラボストリーの最下層で多分それらしい物を見た」

 

「白い何も無い通路のことか?」

 

ランがアスナに続いて答えた。

 

「そうです。 其処に須郷の手下が居ませんでしたか?」

 

「ちょっと待て、須郷!?――奴がランとアスナを閉じ込めた張本人か!!??」

 

「須郷は此処で恐ろしい実験を実行しているの、その内y」

 

ランの言葉が途中で途切れたのは、いきなり鳥籠の内部が水没したからだ。

鳥籠内部が深い暗闇に覆われていく。

呼吸は出来るが、空気が異常に重くなった。

ユイが声を上げた。

 

「パパ……ママ……ねぇねぇ……アスナさん……気をつけて! 何か……よくないモノが……!」

 

「「「「ユイ(ちゃん)!!」」」」

 

俺たちは同時に叫んだ。

周りを見渡しても、ユイの姿は何処にもなかった。

凄まじい重力が襲った。

俺以外は倒れ込み、俺は片膝を突いた。

その時だった。

粘付くような笑いを含んだ、甲高い声が暗闇の中に響き渡った。

 

「やぁ、どうかな、この魔法は? 次のアップデートで導入する予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎるかねぇ?」

 

それから須郷は、くっくっくと嘲笑った。

俺は唸り声で叫んだ。

 

「――須郷ッッ!!」

 

「チッチッ、この世界でその名前はやめてくれるかなぁ。 君らの王に向かって呼び捨ても戴けないね。 妖精王、オベイロン陛下と――そう呼べッ!!」

 

頭を強く打ち付けられた。

須郷の片足が、俺の頭に載せられていた。

圧し掛かる重力に耐え切れず、俺は床に押し付けられた。

 

「「「キリト(さん)(君)!!」」」

 

アスナ、ラン、ユウキは、必死に俺の名を呼ぶ。

須郷はニヤニヤと笑みを浮かべ、何かを思い付いたように言葉を発した。

 

「そうか、君があの《英雄キリト》君なんだね。――いや、桐ケ谷君」

 

須郷は、くっくっくっと笑いを含んでユウキを見た。

 

「桐ケ谷君と一緒に居た闇妖精族(インプ)の女……。僕は解ってしまったよ!!――桐ケ谷君の婚約者、紺野木綿季だろう!! 明日奈の親友なんだろう。 隣の病室の紺野藍子の関係者だ!!」

 

須郷は言葉を続ける。

 

「僕は最高の人物たちに出会えたよ――そうだ、この子たちを使ってショーを開こうかな」

 

須郷は唇を嘗め回してから、指をパチンと鳴らすと、無限の闇に塗り込まれた上空から、じゃらじゃらと音を立てて六本の鎖が落ちてきた。

ぶら下がった鎖の先端には、幅広の金属リングが輝いていた。

それを、俺の眼の前に倒れている、ランとアスナとユウキの両の手首に、音を立てて嵌めた。

六本同時に、真っ直ぐ伸びている鎖を軽く引く。

 

「「「きゃあっ!」」」

 

三人は、両手から吊り上げられた。

爪先がぎりぎり床につくかどうかという所で、停止する。

 

須郷は、ひっ、ひっ、と笑うと芝居がかったように両手を広げた。

 

「いい光景だねぇ。 全員、僕の伴侶にしてあげるよ。 僕に全てを捧げるんだ。 身も心もね、可愛がってあげるよ。 クククッ」

 

そう言うと、須郷は下品な口笛を吹いた。

須郷は、順番に三人の髪を一握り取り、鼻から大きく息を吸い込む。

 

「うーん、全員いい匂いがするね。――香りを再現したのは明日奈だけなのに、黒髪の二人からもいい香りがするねぇー。 ひっ、ひっ」

 

「貴様――――ッッ!!」

 

俺は絶叫した。

耐えがたい怒りが俺の全身を貫く、体に圧し掛かる重力を吹き飛ばした。

 

「ぐ……おっ……」

 

右手を突っ張り、体を床から引き剥がした。

片膝を立て、全身に力を込めて体を持ち上げていく。

 

「やれやれ、観客おとなしく……這いつくばってろッ!!」

 

両足を真横に払われ、俺は支えを失って、再び床に叩き付けられた。

 

「ぐはッ!!」

 

凄まじい衝撃に、思わず声を上げてしまう。

 

「システムコマンド!! ペインアブゾーバーをレベル8に」

 

――須郷は、俺が背に装備している鞘から純白の片手剣を抜き、俺の背に突き刺した。

 

「がっ……!!」

 

鋭い痛みが全身に駆け巡る。

 

「和人ッ!!」

 

不意にユウキが叫んだ。

アスナとランも、涙を浮かべながら俺を見ていた。

 

「くくく、まだツマミ二つだよ君。 段階的に強くしてやるから楽しみにしていてたまえ。 レベル3以下にすると、ログアウト後もショック症状が残る恐れがあるらしいがね」

 

さて、最初は誰にしようかな、と言い俺の元から離れて行く。

 

「最初は、君の婚約者にしようかな?」

 

こいつ、ユウキに変な事をする気か!!??

アスナとランが叫んだ。

 

「最初は私にしなさい!!」

 

「いえ、最初は私にしなさい!!」

 

須郷はニヤニヤしながら、

 

「ヒヒッ、立候補が居るのか。……じゃあ最初は、明日奈にしようかな。キャハハハ!!」

 

須郷はアスナ頬を人差し指で撫で、指先はアスナの顔を縦横に這い回り、

 

「そうだね、ここまでにしようか。 次は君だよ」

 

そう言ってから、須郷はランの頬を人差し指でなぞり、ゆっくり下に降ろして行く。

 

「やめてッ!!」

 

耐えられなくなったユウキが叫んだ。

須郷は手を止め、ユウキを見た。

 

「ふーん、神にそんな口を聞くんだ。 君にもやってあげるよ」

 

須郷はユウキの元まで歩き、頬を撫でた。

やがて首筋に降りた。

 

「やめろ――――ッ!!」

 

俺は必死に体を起こそうとしながら、叫んだ。

須郷は、ユウキのコートの中に手を入れようとする。

 

「貴様――ッッッ!! その手をどけろ――ッッッ!!」

 

「ああ……君の婚約者が涙を我慢している……なんて美しい光景なんだ!!」

 

全てを焼き尽くす程に白熱した怒りが、俺の頭の中を一直線に貫き、視界を激しくスパークさせた。

立ち上がろうとしたが、貫いた剣は小揺るぎもしない。

もがきながら、咆哮した。

 

「貴様……殺すッ!! 殺すッ!! 絶対に殺すッッ!!」

 

ランとアスナが叫んだ。

 

「キリトさんッ!! その言葉を使ったらダメよッ!!」

 

「キリト君ッ!! その言葉はダメだよッ!!」

 

俺の耳にはその言葉は届かない。

俺の耳に届くのは、須郷の狂ったような声だけであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

今、俺に立ち上がる力を与えてくれるなら、何を代償にしてもいい。

命、魂、全て奪われても構わない。

鬼でも悪魔でもいい、あの男を斬り倒す力を与えてくれるなら。

――俺は誓ったんだ、守ると、絶対に泣かせないと。

――誰でもいい、俺に立ち上がる力を、システムの神に抗う力を!!

 

『ほう。 やはり君は、意志の力を知らしめようとするか』

 

――誰だ貴様は?

 

『私は、君の意志の力を感じ取った者だ』

 

――そうか、お前は。

 

『――そうだ。 立ちたまえ、キリト君』

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

その声は雷鳴のように轟き、稲妻のように俺の意識を切り裂いた。

遠ざかっていた感覚が、一瞬で全て接続された。

俺は両目を見開いた。

 

「う……お……」

 

喉の奥からしわがれた声が洩れた。

 

「お……おおぉ……」

 

俺は歯を食いしばり、右手を床に突き、肘を立てた。

――背筋を貫いた剣が重く圧し掛かる。

――あの世界の刃はもっと重かった、もっと痛かったはずだ。

 

「う……おお……」

 

俺は力を込めて上体を起こし、立ち上がった。

須郷は俺を見て、芝居じみた動作で大きく肩を竦める。

 

「やれやれ、オブジェクトの座標を固定したはずなのに、妙なバグが残っているなぁ。 運営チームの無能どもときたら……」

 

須郷は俺の前まで歩き、右拳を振り上げて俺の頬を殴り飛ばそうとした。

だが、俺は須郷の右手を空中で掴んだ。

 

「お……?」

 

訝しい顔の須郷を見てから、言葉を紡ぐ。

 

「システムログイン。 ID《ヒースクリフ》。 パスワード……」

 

複雑な英数文字の羅列を唱え終えた途端、俺を包んでいた重力が消滅した。

次いで、背の鞘から漆黒の片手剣を放剣し、剣を投げ、ユウキを拘束している鎖を斬り落とした。

 

「なに……!? 何だそのIDは!!??」

 

須郷は驚愕の声を上げると後ろに飛び退き、システムウインドウを出現させる。

俺は奴より速くコマンドを唱えた。

 

「システムコマンド、スーパーバイザー権限変更。 ID《オベイロン》をレベル1に」

 

須郷の手からウインドウが消滅した。

須郷は苛立ったように左手を振った。

しかし、何も起こらない。

――妖精王の力が消滅した。

 

「ぼ……僕より高位のIDだと……!? 有り得ない……有り得ない……僕は支配者……創造者だぞ……この世界の帝王……神……」

 

甲高い声で須郷は捲し立てた。

俺は醜い顔に視線を向け、言った。

 

「そうじゃないだろ? お前は盗んだんだ。 世界を。 そこの住人を。 盗み出した玉座の上で、一人踊っていた泥棒の王だ」

 

「こ……このガキ……僕に……この僕に向かってそんな口を……後悔させてやるぞ……その首すっ飛ばして飾ってやるからな……」

 

須郷は俺に人差し指を突き付け、金切り声を上げた。

 

「システムコマンド!! オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート!!」

 

システムは須郷の声には応えなかった。

 

「システムコマンド!! 言うこと聞けこのポンコツがッ!! 神の……神の命令だぞ!!」

 

俺は須郷から視線を外し、後ろを見た。

自由になったユウキが、腰の鞘から剣を放剣して、ランとアスナを拘束していた鎖を切り落としていた。

――三人は、大丈夫だよ、と言っていた。

須郷に視線を戻した。

須郷を見た途端、新たな怒りの炎が噴き上がった。

俺は視線を上空に向けると、言った。

 

「システムコマンド!! オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート!!」

 

俺の手の中に一本の剣が形を作った。

美麗な装飾を施されたロングロード。

間違いなく、ヨツンヘイムの中心部の尖端に封じられていた、最強の剣だ。

――たった一言のコマンドで、最強の武器を召喚出来るとはな……。

ロングソードを須郷の足許投げた。

床に転がったままの剣の柄頭を強く踏むと、剣は音を立てて、回転しながら垂直に飛び上がった。

落ちてくる剣の柄に向け、右手を横薙ぎに振る。

重い響きと共に、剣が手の中に収まる。

純白の片手剣の刀身を須郷に向け、言った。

 

「決着を付ける時だ。 泥棒の王と鍍金の勇者の……。 システムコマンド、ペインアブゾーバーをレベルゼロに」

 

「な……なに……?」

 

俺の言葉を聞き、須郷は二、三歩、後退く。

 

「逃げるなよ。 あの男は、どんな場面でも臆したことはなかったぞ。――茅場晶彦は」

 

「か……かや……」

 

須郷はその名を聞いた途端、顔を大きく歪めた。

 

「茅場……ヒースクリフ……アンタか。 またアンタが邪魔をするのか!!」

 

須郷は金属を引き裂くような声で絶叫した。

 

「死んだんだろ! くたばったんだろアンタ!! なんで死んでまで僕の邪魔をするんだよ!! アンタはいつもそうだよ……いつもいつも!! いつだって何もかも悟ったような顔しやがって……僕の欲しい物を端から攫って!!」

 

須郷は更に叫んだ。

 

「お前みたいなガキに……何が、何が解る!! アイツの下に居るってことが……アイツと競わされるのがどういうことか、お前に解るのかよ!?」

 

「ああ、解るさ。 俺もあの男に負けて家来になったことがあるからな。――でも、俺はあいつになりたいと思ったことはないぜ。 お前と違ってな」

 

「ガキが……このガキが……ガキがぁぁああ!!」

 

須郷は悲鳴と共に地を蹴り、剣を振り下ろしてきた。

俺は一歩踏み込み、その間合いに入り、軽く剣を一薙ぎした。

須郷の頬に剣が掠めた。

 

「いたッ……」

 

須郷は頬を抑え、飛び退った。

 

「――痛い、痛いだと!!??」

 

この男は二ヵ月に渡り、ランとアスナを鳥籠の中に閉じ込めていた。

ユウキにも手を出した。

俺はこの男を許さない!!

怒りの炎は更に燃え上がった。

大きく踏み込み、須郷の両の手を斬り飛ばした。

次いで、肩から斜めに切り裂く。

両の手首は高く飛んで、暗闇の中に溶けていった。

澄んだ落下音が響いた。

――だが、足りない、足りるはずがない!!

 

「アアアァァァアアアッッッ!! 手が……僕の手があああぁぁぁあああ……体があああぁぁぁあああッッッ!!」

 

須郷は、床にごろごろと転がっている。

 

「ヒギィィィイイイッッッ!!」

 

俺は須郷の髪を掴み、持ち上げてから、剣を力任せに薙ぎ払った。

須郷の胴は、振られた剣により真っ二つになった。

下半身は、白い炎に包まれ消滅した。

 

「グボアアァァアアッッ!!」

 

上半身だけになった須郷を、左手で持ち上げた。

見開かれた両目からは、涙を流し、口をぱくぱくと開閉させていた。

左手を大きく振って、須郷の上半身を垂直に投げる。

耳障りな絶叫を撒き散らしながら、落ちてくるモノに向かって、剣を真上に突き立てた。

 

「うおおぉぉおお!!」

 

俺は全力で剣を撃ち込んだ。

刀身が須郷の右眼から後頭部へ抜け、深々と貫いた。

ペインアブゾーバーをゼロに設定してあるので、凄まじい痛みが襲っているはずだ。

 

「ギャアアァァァアア!!」

 

数千の錆び付いたような歯車を回すような、不快なエフェクトの掛かった悲鳴が暗闇に響き渡った。

剣を挟んで左右に分断された右眼から、粘りある白い炎が噴き出し、それがすぐに頭部から上半身に広がり、悲鳴を上げながら消滅していった。

須郷は、燃え尽きるまで途切れることなく叫び続けていた。

静寂が戻ると、左右に剣を払い、背の鞘に戻した。

俺は三人の元に駆け寄った。

三人は、座り込んでいた。

 

「――終わったよ」

 

俺は優しく囁きかけた。

 

「全てが終わりましたね。 帰れますね、現実世界に」

 

「ああ、そうだな」

 

ランが言葉を返してくれた。

 

「――ユウキちゃん……」

 

アスナは涙を流しながら、ユウキに抱き付いていた。

ユウキも、アスナの背中に手を回している。

 

「ボクとアスナの親友だよ。 ボクはどんな時もアスナを助けるよ。 ボクはアスナの味方だからね」

 

「ありがとう、ユウキちゃん」

 

俺とランは、笑みを浮かべながら見ていた。

 

「ずっと、二人を信じていましたからね」

 

「俺たち二人にとって、ランとアスナは大切な人だ。 助けに行くに決まっているだろう――さて、現実世界に帰ろうか」

 

左手を振り、普通とは異なるシステムウインドウを出現させた。

転送画面まで移動させ、指を止めた。

 

「現実世界では、もう夜だ。 でも、すぐに会いに行くよ、俺とユウキでな」

 

「うん。 待ってるよ、ユウキちゃん」

 

「待ってますよ。 キリトさん」

 

俺はログアウトボタンに触れ、青く発光する光が、ランとアスナの体を包み込んだ。

青い光が収まると、二人の姿は消えていた。

――現実世界に帰ったのだろう。

 

「終わったね」

 

「ああ、全て終わった」

 

俺とユウキは、アスナとランの救出に成功した。

俺たちの旅に終止符が打たれた。

 




うん。 下種郷にお仕置きしたね(笑)

ユウキちゃんは、愛されているね。

さて、下種郷は原作よりも懲らしめないとね(笑)

今回は、キリト君がメインでしたね。

次回は、ランちゃんが何で鳥籠に居たか?を書くでー。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第68話≪世界の種子と最後の戦い≫

ども!!

舞翼です!!

ALOも終わりが近づいてきたね。

誤字脱字があったらごめんよ

それではどうぞ。


俺はユウキの手を握り、軽く引き上げた。

次いで、暗闇に包まれた上空を見詰め、呟く。

 

「――そこにいるんだろう、ヒースクリフ」

 

「――ヒースクリフさんが、ボクたちを助けてくれたんでしょう?」

 

数秒後、錆びた声で返答があった。

 

『久しいな、キリト君、ユウキ君。 もっとも私にとっては――あの日のことも、つい昨日のようだが』

 

「――生きていたのか?」

 

『そうであると言えるし、そうでないとも言える。 私は――茅場晶彦という意識のエコー、残像だ』

 

「相変わらず解り難いことを言う人だな」

 

「うん。 ボクにはまったく解らないよ!」

 

茅場の苦笑いする気配がした。

 

『すまないな、ユウキ君』

 

俺は茅場に言った。

 

「とりあえず礼は言うけど――どうせなら、もっと早く助けてくれてもいいじゃないか」

 

『システムに分散保存されたこのプログラムが統合・覚醒したのが、つい先ほど――君の声が聞こえた時だったものでね。 それに礼は不要だ』

 

「何で?? 茅場さんは、ボクたちを助けてくれたんでしょ??」

 

『君たちと私は、無償の善意などが通用する仲ではなかろう。 もちろん代償は必要だよ、常に』

 

茅場は言葉を続ける。

 

『ユウキ君に、言わなくてはならないことあるんだ』

 

「何、茅場さん??」

 

『――私が鳥籠内部にラン君を送ったのだ。 正確には、ラン君が私に頼んだんだがね』

 

「どういう事??」

 

『私は君たちと邂逅する前に、アスナ君とラン君とはすでに会っていてね。 その時須郷君の手によって、アスナ君が鳥籠に囚われるのを知ってね。 ラン君が私に申し出たのだ。 “私の意識もそこに送ることが出来る”とね』

 

暫しの沈黙がこの空間を支配した。

沈黙を破るように、ユウキが口を開いた。

 

「――姉ちゃんはボクたちを信じて、アスナと鳥籠に入ったんだ」

 

「――そうだったのか。 ランはアスナを守るために鳥籠に、俺たちを信じて」

 

『君たち姉妹には、驚かされてばかりだったよ』

 

ユウキはその言葉を聞き、大きく息を吐いた。

ユウキは小さく呟いた“ボクが其処に居たら同じことをしていたね”と。

 

『だが、私がラン君を傷付けたのは事実。 私からの詫びとして受け取ってくれたまえ』

 

俺の眼前に、小さなメモリカードが現れた。

俺は茅場に聞いた。

 

「なんだこれは?」

 

『その中のファイルには、須郷君が行っていた研究内容が入っている。 私の後輩、比嘉君に解析を頼みたまえ』

 

「わかった。 ありがたく貰っておく」

 

俺はメモリカードを、腰のポケットの中に収めた。

ユウキは気持ちを切り替え、茅場に聞いた。

 

「茅場さん。 ボクたちに何をして欲しいの??」

 

遥か遠い暗闇の中から、何か――銀色に輝く物が落下してきた。

俺が手を差し出すと、微かな音を立てて収まった

それは小さな、卵型で光り輝く結晶であった。

ユウキが結晶を一瞥してから、茅場に聞いた。

 

「これは何、茅場さん??」

 

『それは世界の種子だ。芽吹けば、どのようなものか解る。 その判断は君たちに託そう。 消去し忘れるもよし……しかし、君たちが、あの世界に憎しみ以外の感情を残しているなら…………』

 

そこで声は途切れた。

短い沈黙に続いて、素っ気無い挨拶だけが降ってきた。

 

『――では、私行くよ。 いつかまた会おう、キリト君、ユウキ君』

 

唐突に気配は消え去った。

俺は輝く卵型の結晶を、胸ポケットに収めた。

ユウキが顔を上げた。

 

「ユイちゃん、いる? 大丈夫!?」

 

そう叫んだ途端、オレンジの光が暗闇を切り裂き、闇を払っていく。

そこは、鳥籠の内部であった。

 

「ユイ、いるのか?」

 

俺が呼ぶと、眼前の空間に光が凝縮し、音を立てて黒髪の少女が姿を現した。

 

「パパ、ママ!!」

 

ユイは叫んでから、俺の胸の中に飛び込んで来た。

 

「無事だったか。――よかった……」

 

「はい……。 突然アドレスをロックされそうになったので、ナーブギアのローカルメモリに退避したんです。 でももう一度接続してみたら、パパもママもねぇねぇもアスナさんも居なくなっているし……心配しました。――ねぇねぇとアスナさんは……?」

 

「ああ、戻ったよ……現実世界に」

 

「そうですか……よかった……本当に……」

 

ユイは、俺の胸に頬を擦り付けた。

ユウキがユイの長い黒髪を、そっと撫でていた。

俺もユイの黒髪をそっと撫でる。

 

「――また、すぐに会いに来るよ。 でも……どうなるんだろうな、この世界は……」

 

俺が呟くと、ユイはニッコリ笑って、言った。

 

「私のコアプログラムはこの場所ではなく、パパのナーブギアにあります。 何時でも一緒です――あれ、なんだか大きなファイルがナーブギアのストレージに転送されています。……アクティブなものではないですようが……」

 

「そうか……」

 

多分、世界の種子だろうな。

ユウキが口を開いた。

 

「――じゃあ、パパとママは行くね。 ねぇねぇとママの親友を迎えに」

 

「はい。 パパ、ママ――大好きです!!」

 

うっすらと涙を滲ませ、力いっぱい抱き付くユイの頭を優しく撫でながら、左手を振った。

この世界はどうなってしまうのだろうか。

――ALOプレイヤーたちが愛した世界は。

俺とユウキは、ユイの両の頬に軽く唇を当て、ゆっくりとログアウトボタンに触れた。

放射状の光が視界に広がり、意識を包んで、高く運び去っていった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

頭の芯に深い疲労感を覚えながら瞼を開けると、目の前に直葉の顔があった。

心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいたが、目が合うと慌てたように体を起こした。

俺もナーブギアを外し、ゆっくりと上体を起こす。

 

「ご、ごめんね、勝手に部屋に入って。 なかなか戻ってこないから、心配になって……」

 

「遅くなって、ごめんな」

 

「……全部、終わったの?」

 

「――ああ、終わった……何もかも……」

 

「ううーん」

 

木綿季も数秒遅れて覚醒したようだ。

木綿季はナーブギアを外し、上体を起こしてから口を開いた。

 

「スグちゃんただいま。 全部終わったよ……」

 

「……木綿季ちゃん!!」

 

直葉は木綿季に抱き付いた。

詳しい話は、たった一人の妹にとても言える事ではない。

これ以上心配を掛けたくなかった。

直葉には、言葉では言い尽くせないほど救いを与えて貰っているのだ。

俺は改めて直葉の顔を見てから、彼女の頭にそっと手を伸ばし、彼女の頭を撫でながら言う。

 

「本当に――本当にありがとう、スグ。 お前が居なかったら、俺たちは何も出来なかったかもしれない」

 

木綿季も直葉の頭を優しく撫でながら、笑顔を浮かべて言った。

 

「本当にありがとうね。 スグちゃんが居てくれなかったら、ボクたちは何も出来なかったかもしれないんだよ」

 

直葉は木綿季の胸から顔を上げ、言ってきた。

 

「ううん……あたし、嬉しかった。 お兄ちゃんと木綿季ちゃんの世界で、役に立てて――。取り戻したんだね、藍子さんと明日奈さんを……」

 

「ああ、――取り戻した」

 

「うん、――ボクたちの戦いが終わったよ」

 

直葉がゆっくり口を開いた。

 

「お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 会いに行ってあげないとね」

 

「「ああ(うん)」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺と木綿季はそう言ってから立ち上がり、身支度をして縁側に立つと、外はすっかり暗くなっていた。

柱時計の時刻は、夜九時を指している。

面会時間は終了しているが、状況が状況だ。

ナースステーションで事情を話せば入れてもらえるだろう。

直葉が走り寄って来て『これ、作っといた』とサンドイッチを差しだしたので、俺と木綿季は口に咥え、冊子(さっし)を開けて庭に降りる。

 

「「寒(い)……」」

 

俺と木綿季はジャケットに身を竦めると、直葉が夜空を見上げて、言った。

 

「あ……雪」

 

「「え……」」

 

確かに、大きな雪片が二つ、三つ、白く輝きながら舞い降りてくる所であった。

タクシーを使うか迷ったが、幹線道路まで歩いて拾うよりは、自転車で飛ばした方が時間的には早いだろう。

 

「木綿季、自転車で向かうぞ。 俺の後ろな」

 

「了解―」

 

直葉が言ってきた。

 

「気を付けてね。――明日奈さんと藍子さんに、よろしくね」

 

「ああ、今度紹介するよ。 二人とも、スグに会いたいと思ってるぞ」

 

「笑顔で迎えてくれるよ」

 

俺と木綿季は直葉に手を振ってから、自転車に跨り、俺はペダルを踏み込んだ。

目的地に自転車を走らせる。

木綿季は、俺の腹に手を回して体を預けている。

俺と木綿季は同時にこう思ったはずだ。

――明日奈と藍子に会いたい、と。

俺はペダルを踏み続け、車体を加速させる。

 

病院の駐輪場に自転車を停め、もどかしく俺と木綿季は入口に走った。

パーキングを横切り、濃い色のバンと、白い車の間を通り抜けようとした、その時であった。

俺は後ろから走り出て来た人影と、衝突しそうになった。

 

「あ……」

 

すいません、と言いつつ身を躱そうとした俺の視界を――金属の輝きが横切った。

俺は左腕を上げて、それを受け止めた。

 

「―――――ッッ!?」

 

直後、俺の左腕に鋭い痛みが走った。

咄嗟に上げた左腕に、金属の刃物が少しだけ食い込んでいた。

俺の腕から赤い鮮血が流れ出した。

俺は黒い影を凝視した。

黒いスーツを着た男だ。

次いで、腕に食い込んでいる物を見た。

大ぶりなサバイバルナイフだ。

殆ど囁き声のような、しがわれた声が流れた。

 

「遅いよ、キリト君。 僕が風邪を引いちゃったらどうするんだよ」

 

その声は、キーの高い、粘り気がある声であった。

 

「す……須郷……」

 

不意に木綿季が叫んだ。

 

「和人ッ!!」

 

「木綿季!! 事情を説明して助けを呼ぶんだ!!」

 

木綿季は頷き走り出した。

数日前に相対した時は、丁寧に撫で付けられた髪が、激しく乱れている。

尖った顎には、(ひげ)(かげ)が浮き、ネクタイは殆どぶら下がっているだけだ。

左眼は限界まで開かれ、瞳孔が細かく震えているが、右目は小さく縮小したままだ。

サバイバルナイフを携えていない手で、肩のあたりを押さえている。

俺の剣が貫いた場所と、切り裂いたのがまさにその場所だった。

 

「酷いことをするねぇ、キリト君。 まだ痛覚消えないよ。まぁ、いい薬が色々あるから、構わないけどさ」

 

スーツのポケットから幾つかの薬を取り出し、口の中に放り込む。

音を立てながら噛み砕き、須郷はナイフを離した。

 

俺は乾いた唇をどうにか動かした。

 

「――須郷、お前はもう終わりだ。 おとなしく法の裁きを受けろ」

 

「終わり? 何が? 何も終わっていないさ。 まぁ、レクトはもう使えないけどね。 僕はアメリカに行くよ。 僕を欲しいっていう企業は山ほどあるんだ。 僕には、今までの実験で蓄積した膨大なデータがある。 あれを使って研究を完成させれば、僕は本物の王に――神に――この現実世界の神になれる」

 

――この男は狂っている。 いや、遥か昔から壊れていたのだ。

 

「その前に、幾つか片付けることはあるけどね。 とりあえず、君は殺すよ。キリト君」

 

表情を変えず、ボソボソと喋り終わると、須郷は歩み寄って来た。

俺の腹目掛けてナイフを無造作に突き出してくる。

俺はそのナイフを素手で掴んだ。

 

「――――ッッ!!」

 

左手で掴んだので、左手の(てのひら)からは、血が滲み出ている。

俺は一歩踏み込んで須郷の懐に入り、右手で拳を作り、腹に抉り込ませた。

 

「ギギギャャャヤヤヤッッ!! イタイ、イタイよ――――ッッッ!!」

 

俺は突進し、右足を蹴り上げ、須郷が握っていたナイフを路面に転がした。

須郷はナイフに飛び付こうとするが、俺がナイフを掬い上げた。

俺はナイフを路面に放り投げ、須郷に飛び掛かった。

左手で髪を鷲掴みにし、後方にあるバンに頭を打ち付けた。

鈍い音と共にドアのアルミがへこみ、眼鏡が吹き飛んだ。

 

「ヒイイイィィィイイイ――――ッッッ!!」

 

俺は血が滲んだ左手で拳を作り、須郷の頬を殴った。

不意に須郷の眼球が裏返り、悲鳴が途切れ、機械のように脱力した。

今度こそ決着が付いた。

完全なる勝者と敗者。

俺はこの場を後にして歩き始めた。

俺が移動してから数分後、警備員が須郷を掴み、手錠を掛けた。

木綿季が呼んでくれた警備員が、助けに来てくれたんだろう。

木綿季が警備員室から飛び出し、俺の元にやって来た。

木綿季は俺を見て眼を丸くした。

 

「和人ッッ!! どうしたのッッ!!」

 

「そうだな。 最後の戦いの、怪我、かな……」

 

俺は血を綺麗にふき取った。

俺と木綿季は、病院の中に入った。

 

「あの……すいません!!」

 

木綿季が叫んだ直後、薄いグリーンの制服を着た看護師が二人現れた。

二人は俺の姿を見た途端、眼を大きく見開いた。

 

「――どうしたんですか!!??」

 

左手の掌から、血が流れ出でいたらしい。

俺はエントランスの方向を指差し、言った。

 

「駐車場で、ナイフを持った男に襲われました。 助けに来てくれた警備員さんに拘束されていると思います」

 

看護師の一人がカウンターの内側にある機会を操作し、細かいマイクに顔を寄せた。

 

「警備員、至急一階ナースステーションまで来てください」

 

巡回中の警備員が小走りに現れ、看護師の説明を聞くと、警備員の顔が厳しくなった。

通信機に何度も呼びかけ、エントランスに向かった。

若い看護師もその後に続く。

残った看護師は、俺の木綿季を眺めて言った。

 

「君たち、最上階の紺野さんと結城さんのご家族よね? 傷はそこだけ?」

 

俺と木綿季は頷いた。

 

「そう。 すぐにドクター呼んでくるから、そこで待っていて下さい」

 

そう言ってから、廊下を駆けていった。

俺は誰も居なくなったのを確認してから、カウンターに身を乗り出して、長い包帯とゲスト用のパスカードを二つ掴み取る。

俺はパスカードを木綿季に渡してから、包帯を無造作に左腕と左掌に巻いた。

一時的にだが、これで出血を抑えられるだろう。

 

「行こうか」

 

「うん」

 

俺と木綿季はエレベータに乗り込み、最上階のボタンを押す。

数秒後、エレベータからが最上階に到着した。

扉が開いたと同時に廊下を走りだした。

通路を左に曲がると――正面に、白いドアが二つ見えた。

――このドアの向こうでは、明日奈と藍子が、俺と木綿季の到着を待っている。

俺は藍子の病室の扉の前に、木綿季は明日奈の病室の扉の前に。

カードをスリッドに差し込み、同時に滑らせた。

モーター音と共に扉が開いた。

俺と木綿季は、同時に病室に入った。

 

 

Side 和人

 

病室の中央は、大きなカーテンで仕切られている。

俺はカーテンの前まで移動し、手を伸ばし、カーテンを掴み、引く。

そこには診察衣を纏った少女が、ベットの上で上体を起こし、こちらを見ていた。

ナーブギアは外されており、少女の傍らに置いてある。

 

「藍子」

 

「キリトさん」

 

彼女の手は僅かに震えている、ナーブギアを外すのにかなりの力を使ったのだろう。

俺は藍子の細い手を、そっと、取った。

 

「最後の……最後の戦いが終わった。 さっき、終わったんだ……」

 

藍子は細い手で、俺の手を握ってくれた。

 

「音がよく聞こえないんですが、そうですか、終わったんですね」

 

「ああ、全て終わったんだ」

 

俺の瞳から涙が零れ落ちた。

 

「ふふ、泣かないでください。 あの子に笑われちゃいますよ」

 

藍子は微笑みながら、俺を見て言った。

 

「はじめまして、紺野藍子です。――ただいま帰りましたよ、キリトさん」

 

「桐ケ谷和人です。……お帰り、藍子」

 

俺は嗚咽を堪えながら、笑みを浮かべた。

 

Side out

 

 

Side 木綿季

 

ボクは明日奈の病室に足を踏み入れた。

病室の中央は、大きなカーテンで閉め切られている。

ボクは此処から動けない、これ以上進めない、声も出せない。

ボクは震える足に鞭打って移動し、カーテンの前に立つ。

手を伸ばし、その端を掴み、引く。

 

「……明日奈」

 

診擦衣を身に纏った少女が、ベットの上で上体を起こし、こちらに背を向けて暗い窓を見ていた。

ボクはもう一度少女の名前を呼ぶ。

 

「明日奈」

 

永い眠りから覚めた少女が、ボクに微笑みかけてくれた。

 

「木綿季ちゃん」

 

明日奈を拘束していたナーブギアは頭を覆ってない。

枕の傍らに置いてある。

明日奈が力を振り絞って外したんだ。

両手が震えている。

ボクが手を伸ばすと、明日奈は細い手で、ボクの手を握ってくれた。

明日奈の優しさが、ボクを包んでくれる。

ボクは涙を零しながら、明日奈に声を掛けた。

 

「……明日奈、会いたかったよ……」

 

ボクは言葉を続ける。

 

「……和人が……最後の戦いを終わらせてくれたんだよ……」

 

明日奈はボクの頭を優しく擦ってくれた。

ボクは明日奈の胸に顔を埋めた。

 

「……ごめんね……まだちゃんと音が聞こえないの。 でも……解るよ、木綿季ちゃんの言葉が」

 

「うん」

 

「……最後の戦いが終わったんだね」

 

明日奈はボクの顔を覗き込み、濡れた瞳で、全てを伝えるようにじっと見た。

ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「はじめまして、……結城明日奈です。――ただいま、木綿季ちゃん」

 

ボクも顔を上げて言葉をゆっくり言葉を紡ぐ。

 

「紺野木綿季です。……おかえり、明日奈」




ランちゃんのお願い事は、アスナに聞かれていなかったということで。(鳥籠のこともね)
つか、ランちゃん凄すぎだね!!

もう一つの下種郷のお仕置きは、次回ということで。
和人くん、よく綺麗に血を拭きとれたね。
包帯巻いたら、一応出血が止まったしね(笑)
あと、左腕の怪我はばれていないということで。

今回もキリト君メインやったね。
最後は、木綿季ちゃんだったが。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第69話≪日常への復帰≫

ども!!

舞翼です!!

書き上げました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


「それでは今日はここまで、課題ファイル25と26を転送するので来週までにアップロードしておくこと」

 

チャイムが午前中の授業の終わりを告げ、教師が大型パネルの電源を落としてから立ち去ると、広い教室には弛緩(しかん)した空気が漂った。

俺はマウスを操り、ダウンロードされた課題ファイルを確認してから、大きな溜息を吐いた。

端末をバックに放り込み、肩に掛けて立ち上がろうとすると、隣席の仲のいい男子生徒が見上げて言ってきた。

 

「あ、かず、食堂行くなら席取っといて」

 

「無理無理、今日は《姫》と、だろ」

 

「あ、そうか。 ちきしょう、いいなぁ」

 

「うむ、まぁ、そういうことだ。 悪いな」

 

俺と木綿季の関係(婚約者)は、この学校に居るほぼ全員(・・・・)が知っているのだ。

何処から情報が漏れたかは分からんが。

俺は連中の愚痴が始まる前に、教室から抜け出した。

小道を数分歩くと、円形の小さな庭園に出る。

其処の花壇の外周部には白木のベンチが幾つも並び、その内の一つに、青い空を見上げながら長い黒髪を揺らし、一人の女子生徒が腰を掛けている。

俺はベンチに近づき、声を掛けた。

 

「今朝ぶりだな、木綿季」

 

木綿季はこちらを振り向くと、唇を尖らせた。

 

「和人は朝に弱いんだから。 ボクが何回も起こしてるのに、布団の中に潜るんだから」

 

「う、悪い」

 

「もう、ボクと部屋が離れたらどうするの?? 一人で起きられるの??」

 

「……多分、大丈夫だ」

 

何か、説教を受けている旦那の気分だな……。

木綿季には、頭が上がらないだろうな。

俺は木綿季の隣に腰を下ろして、大きく伸びをした。

 

「ああ……疲れた……腹減った……」

 

「はいはい、ご飯にしましょうね」

 

そう言ってから木綿季は、バックの中からバスケットを取り出した。

今日のメシはなんだろうか、楽しみだな。

そう思ってから、俺は木綿季を横目で見た。

 

「木綿季」

 

「なに~?」

 

「今更だけど、俺とお前って、学校ではもうバレバレだよな」

 

「うん、バレてるね」

 

「だよな~」

 

この特殊な《学校》に通う生徒は全て、中学、高校時代にSAO事件に巻き込まれた者が通う場所だ。

この学校で卒業すれば、大学の受験資格が与えられる。

表向きはそのようになっているが。

実際は、SAO帰還者を一つの場所に集めておきたいのだろう。

俺を含めて、自衛の為に他のプレイヤーに手を掛けた者は少なくないし、盗みや恐喝といった犯罪行為は記録に残らない為チェックのしようもない。

基本的に、アインクラッドでの名前は出すのは忌避されているのだが、顔がSAOと同じなのだ。

俺と木綿季と藍子と明日奈は、キャラネームを出さなくても、入学直後に即バレしたのだが……。

尤も、すべて無かったことにしようと言うのは無理な話なのだ。

あの世界での体験は、夢でもなく現実なのだし、その記憶は、それぞれのやり方で折り合いを付けていくしかないのだ。

木綿季の小さな手を優しく握った。

この小さな手に何度も助けられた。

《はじまりの街》を出てから、クリアされるまでの二年間。

 

「和人」

 

「どうしたー」

 

「この場所って、カフェテリアから丸見えなんだけど。 ――窓際を、何時も姉ちゃんたちが使ってる」

 

「なぬ!?……まぁいいか」

 

顔を上げると、確かに木々の上に、校舎最上階の大きな迷彩ガラスが見えた。

俺は一瞬手を離そうとしたが、バレてることだしいいか、と思ったので改めて握り直した。

木綿季も握り返してくれた。

 

「和人がいいなら、ボクもいいけどさ」

 

「少しの間、このままでいいかな??」

 

「うん、いいよ」

 

俺と木綿季は暖かい風に吹かれながら、手を握り続けた。

数分後手を離し、ご飯を食べる事にした。

 

「ご飯にしようか」

 

「おう」

 

木綿季は隣に置いたバスケットを膝の上に乗せ、蓋を開けた。

キッチンペーパーの包みを一つ取り出し、俺に差し出す。

受け取って紙を開くと、それはレタスのはみ出た大ぶりのハンバーガーだった。

香ばしい香りに刺激され、かぶり付く。

 

「こっ……この味は……」

 

「えへへ~、覚えてた」

 

「忘れるもんか。 第74層の安地で食べたハンバーガーだ……」

 

「味の再現に苦労してね。 姉ちゃんにも手伝って貰ったんだよ。 こんなに苦労するとは思わなかったね」

 

何時もこいつが早起きして試行錯誤していた料理は、このハンバーガーだったのか。

う~む、俺はいい奥さんを持ったなー。

 

「で、和人。 午後の授業は?」

 

「今日はあと二コマかな……。 まったく、黒板じゃなくてELパネルだし、ノートじゃなくてタブレットPCだし、宿題は無線LANで送られてきやがるし、これなら自宅授業でも一緒だよなぁ」

 

ぼやく俺を見て、木綿季が笑った。

 

「明日奈の話だと、パネルとかPC使うのは今の内だけらしいよ。 そのうち、全部ホログラフィになるらしいね。 此処は次世代の学校のモデルケースになるらしいね。――学校に来れば、みんなに会えるしね」

 

木綿季は両の手を腰に当て、えっへんと胸を張った。

まぁ、うん。 お前が胸を張って言える事でも無いと思うんだが。

 

須郷についても説明しておこう。

 

あの日病院の駐車場で逮捕された須郷は、その後も醜く足掻きに足掻きまくった。

黙秘に次ぐ黙秘、否定に次ぐ否定、最終的には茅場晶彦に背負わせようとした。

須郷は『僕は人体実験には関わっていない。 僕は無実』と主張し、黙秘を続けた。

 

木綿季のナーヴギアには、茅場晶彦から受け取ったメモリデータが、暗号化されて保存されていた。

それはSAO対策チームの菊岡誠二郎から、茅場の後輩にあたる比嘉(たける)によって解析が完了した。

ファイルには、須郷伸之の研究内容が記載されていた。

木綿季、藍子、明日奈に手を出した罰として、俺とユイでテレビ局の放送をハッキングしてから、須郷の悪行(ファイル内容)を全国に流したんだけどな。

これによりレクトの上層部、国民全員に、須郷の悪行の数々が知れたということになる。

これで須郷は、“社会から抹殺”されるはずだ。

 

須郷は裁判に掛けられた。

壇上に上がった須郷の顔は(やつ)れ、髪は過剰なストレスや恐怖で、白髪になっていた。

須郷は黙秘を続けていたが、不意に藍子がボイスレコーダーを再生させたのだ。

鳥籠内部で、須郷が話ていた人体実験の内容を録音していたらしい。

……いつの間にそんなものを入手していたんだ……藍子さん、恐るべし!!

その内容を聞いて須郷は、眼を見開いた。

それから数分後、須郷は観念したのか、己が行った罪を洗い(ざら)い吐いたのだ。

須郷は無期懲役の判決を言い渡され、部下たちは懲役40年と言い渡された。

俺はそれを聞いて、『ざまーみろ』と言ってしまったのだ。 それも裁判所で……。

その後、木綿季と藍子に頭を叩かれたな……。 うん、結構痛かった。

須郷とその部下たちは、“社会から抹殺された”のだ。

現在須郷とその部下たちは、仲良く刑務所生活を楽しんでいるだろう。

 

奴の手掛けていた、フルダイブ技術による洗脳という邪悪な研究も、初代ナーヴギア以外では実現不可能であるということが判明したのだ。

ナーヴギアは全て廃棄され、そして万が一の対策も可能にしたらしい。

 

幸いであった事は、300人の未帰還者プレイヤーに人体実験中の記憶が無かったことだ。

精神に異常を来してしまったプレイヤーは居らず、全員が十分な加療ののちに社会復帰が可能だとされている。

残念になってしまったことは、VRMMOというジャンルゲームそのものが、回復不可能な打撃を(こうむ)ったことだ。

今度こそ安全、と展開したALOを含むVRMMOゲームが、須郷の起こした事件によって全てのVRワールドが犯罪に利用される可能性がある、と注目されてしまったのだ。

ALOも運営停止に追い込まれ、中止を免れないだろう。

だが、この状況を変える物を俺は持っている。

茅場晶彦が俺に託した《世界の種子》だ。

 

「おーい、和人」

 

木綿季は、俺の顔の前で手を振っていた。

どうやら考え込んでいたらしい。

 

「あ、悪い。 ちょっと考え事してた」

 

「うん、和人が考えていたことが解るよ。 ボクもその場に居たんだしね。 あと、 “あれ”をどうするかは、和人が決めなよ。 ボクは和人の考えに賛同するね」

 

「おう。 サンキューな」

 

「で、今日のオフ回だけどさ」

 

「ああ、それがどうしたんだ??」

 

それから俺と木綿季は、昼休みが終わるまで手を繋ぎながら話込んだのだった。

カフェテリアからの視線には気付かずに……。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

Side リズ 

 

私は、カフェテリアの西側の窓際のテーブルに座り、乙女が立てるには相応しく無い騒音を盛大に発生し、パックの底に残ったいちごヨーグルトドリンクをストローで力任せに吸い上げ、外を眺めていた。

其処に映し出されていたのは、学校内でラブラブしているキリトとユウキだ。

 

「もう……リズ……里香さん、もうちょっと静かに飲んでくださいよ」

 

「だってさぁ……あー、キリトの奴、あんなにくっついて……」

 

私の視線の先では、中庭のベンチで男子生徒と女子生徒が手を繋ぎながら、肩を触れ合わせて座っている。

 

「けしからんなもう、学校であんな……」

 

「そ、それ趣味悪いですよ、覗きなんて!」

 

人がラブラブしている所は、いやでも気になってしまうのだよ。

私はシリカを見て、少々意地悪い口調で言った。

 

「そんなこと言いながら、シリカだってさっきまで一生懸命見ていたじゃない」

 

シリカは歯切れが悪い口調で、隣に座っている人物に助けを求めた。

 

「ら、ら、ランさんの妹さんですよ……。 ランさんは、何とも思っていないんですか??」

 

「ええ、何とも思っていないわよ。 ユウキを任せられる人だからね、キリトさんは」

 

ランはきっぱりと言った。

それに続いて、私の隣に座っていたアスナが口を開いた。

 

「そうね。 キリト君とユウキちゃんは、お似合いのカップルよ。 キリト君の隣を歩ける人は、ユウキちゃんしか居ないと思うしね」

 

何と、世間を盛大に騒がせた《ALO事件》には、キリトとユウキ、アスナとランが関わっていたのだ。

世間には伏せられているけど、ランとアスナは特殊な被害者だったのだ。

どうやって私の連絡先を入手したかは解らないけど、ランとアスナが救出されてから、キリトから連絡を貰った。

『ランとアスナが会いたがっている』と言われ、すぐさまお見舞いに飛んで行った。

雪の妖精のような姿を見て、アインクラッドで見に付いてしまった、保護者的感情が大いに刺激されてしまったのだった。

私はランとアスナのリハビリを手伝い、身体のマッサージなどをしていた為、保護者的立ち位置に就いてしまったのだ。

だからこそ二人は、四月の入学に間に合ったのだけどね。

多分、いや、そうであって欲しい。

 

「で、あんたらは、今日のオフ回行くの??」

 

「もちろんですよ。 私、リーファちゃん……直葉ちゃんに会いたいなー」

 

「私も行くわよ。 皆とお話がしたいしね」

 

「私も行くわ。 皆と再会して、話がしたいもの」

 

上から順に、私、シリカ、ラン、アスナだね。

私もオフ回楽しみにしてるしね、特にみんなの変わりようとかね。

それから私たちは、顔を見合わせ笑い合った。

 




下種郷のお仕置きしました。(現実世界で)
四人の会話の時の名前は、キャラネーム統一ということで。

四人は、即バレしたね(笑)
まぁ、四人とも二つ名持ちだし、下層のプレイヤーまでに知られていたしね。
そりゃバレるよね(笑)

あと、ALOも1、2話やね。
うーん、ALO終わったらどうしようか……。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第70話≪攻略記念パーティー≫

どもっ!!

舞翼です!!

頑張って書きました。

うん。 やっぱ小説書くのって難いね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


オフ会を開催する場所は、エギルが経営している≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫。

店のドアには、無愛想な文字で《本日貸切》木札が掛けられている。

俺は隣の直葉に顔を向け、言った。

 

「スグは、エギルと会ったことあったっけ?」

 

「うん、向こうで二回くらい一緒に狩りをしたよ。 おっきい人だよね~」

 

「言っとくけど、本物もあのマンマだからな。 心の準備しておけよ」

 

直葉の向こうで、木綿季がクスクス笑った。

 

「最初見た時は驚いたよ」

 

「俺も最初はびびったな~」

 

驚いた顔をする直葉の頭に手を置いて笑いかけると、俺は一気にドアを押し開けた。

店の奥では《SAO攻略記念パーティー》と書かれた横断幕が掲げられ、皆の手には飲み物のグラスが握られており、かなり盛り上がっていた。

 

「おいおい、俺たちは遅刻してないぞ」

 

「うん。 ボクたちは、時間通りに来たはずだよ」

 

俺とユウキがそう言うと、リズベットが進み出て来て言った。

 

「主役は最後に登場するものですからね。 あんた達には、ちょっと遅い時間を伝えてたのよん。 さ、入った入った」

 

俺たち三人は店内に引っ張り込まれた後、飲み物を受け取った。

リズがステージの上に立つと、店内に流れるBGMが途切れた。

 

「えー、それでは皆さん、ご唱和ください。……せーのぉ!」

 

「「「「「「キリト、ユウキ、SAOクリア、おめでとー!!!!!!」」」」」」

 

全員の唱和。 盛大なクラッカーの音。 拍手。

今日のオフ会――《アインクラッド攻略記念パーティー》。

店内には、俺の予想を遥かに上回る人数が参加していた。

ステージに立っているリズが言ってきた。

 

「さ、キリトとユウキで、乾杯の音頭をとって」

 

「「……え」」

 

これは、予定に無かったはずだ……。

参加しているメンバーが歓声や、口笛を吹きながら、俺とユウキを壇上に押し上げた。

俺とユウキが『せーの』と息を合わせ、

 

「「それでは皆さん、乾杯―!!」」

 

「「「「「「「カンパーイー!!!!!」」」」」」

 

乾杯の後、エギル特製の巨大ピザの皿が何枚も登場する辺りで、パーティーは完全なカオス状態に突入した。

ユウキは、リズに連行されていたが……。

余計な事は言うなよ。

俺はカウンターに辿り着き、スツールに腰を下ろした。

 

「マスター、バーボン。 ロックで」

 

いい加減なオーダーと告げると、白シャツに黒の蝶ネクタイ姿の巨漢が俺を見下ろしてから、本当にロックアイスに琥珀色の液体を注いだ、ダンブラーが滑り出てくる。

恐る恐る舐めてみれば、ただの烏龍茶だった。

ニンマリ笑う店主を見上げて、唇を曲げていると、スーツ姿にネクタイを締め、額に趣味の悪いバンダナを巻いている男が、俺の隣に座った。

風林火山ギルドリーダー、クラインだ。

 

「エギル、オレには本物をくれ」

 

「おいおい、いいのかよ。 この後会社に戻るんだろう」

 

「へっ、残業なんて飲まずにやってられるかっての」

 

それから反対側のスツールに、もう一人の男が腰を降ろした。

元《軍》の最高責任者、シンカーだ。

俺はグラスを掲げると、言った。

 

「そういえば、ユリエールさんと入籍したそうですね。 遅くなりましたが――おめでとう」

 

俺はグラスを合わせた。

シンカーは照れくさそうに笑った。

 

「いやまぁ、まだまだ現実に慣れるのに精一杯って感じなんですけどね。 ようやく仕事も軌道に乗ってきましたし……」

 

クラインもダンブラーを掲げ、身を乗り出した。

 

「いや、実にめでたい! そういえば、見てるっすよ、新生《MMOトゥデイ》」

 

シンカーは再び照れた笑顔を浮かべた。

 

「いや、お恥ずかしい。 まだまだコンテンツも少なくて……それに、今のMMOの事情じゃ、攻略データとかニュースとかは、無意味になりつつありますしねぇ」

 

「まさしく宇宙誕生の混沌、って感じだもんな。 そういえば、キリの字よ。 今のユウキちゃんとは、どういう関係なんだ??」

 

「え、うん、まぁ、《婚約者》だ」

 

「じゃあ、籍を入れられる年齢になったら、入れるつもりですか??」

 

シンカーは笑みを浮かべて言っていた。

 

「まあ、はい」

 

クラインは、俺の肩を掴んで、

 

「――ちきしょー、リア充爆発しろ!! それにしても……いいねぇ……」

 

鼻の下を伸ばしまくるクラインに、俺は溜息を吐くと烏龍茶の入ったダンブラーを呷った。

確かに、眼の保養と言いたくなる光景ではあるな。

ユウキ、ラン、アスナ、リズベット、シリカ、サーシャ、ユリエール、リーファと、女性プレイヤーが勢揃いしている光景は、写真に撮って飾っておきたいほどだ。

――実際、ユイの為に録画をしているんだが。

 

 

Side ユウキ

 

このテーブルには、ボクと姉ちゃん、アスナ、リズ、シリカちゃん、リーファちゃん、サーシャさん、ユリエールさんが集まっている。

此処のテーブルには、女性プレイヤー陣が揃ったことになるね。

 

「そういえば、ユウキちゃん。 キリト君一緒に住んでいるんでしょ??」

 

アスナがボクにそう言ってきた。

う~ん、これ位なら言ってもいいかな。

みんな、ボクたちの関係知っているしね。

 

「うん、一緒に住んでいるよ。 ボクは今、和人のお家でお世話になっているよ」

 

リーファちゃんが、ボクに続いて言った。

 

「もう家では、『お義姉ちゃん』って感じですね」

 

「(スグちゃんは、ボクのことをそういう風に見ていてくれたんだ。 嬉しいなー。)」

 

リズがグラスを掲げながら、ボクの前まで出て来た。

 

「ちょっと待ちなさい。 一緒に暮らしているの!!?? ラン、あんたはこの事知っていたの!!??」

 

姉ちゃんには報告したから知っているよね。

『ボクと和人は、正式な婚約者になりました』って、同棲している事も伝えたっけ。

姉ちゃんは笑みを浮かべながら、言った。

 

「知っていたわよ。 あとこれも言っとこうかしら。 私はキリトさんには振られたわ。 この子には敵わなかった。 あの世界では、一緒に暮らしていたわよ。 とても楽しかったわ。 ユイちゃんにも会えたしね」

 

「「「「「「振られたの、一緒に暮らしていたの!!!!!?????」」」」」」

 

驚きの声が一斉に上がった。

 

「キリトさんを責めないであげてくださいね。 告白したのは私からなんですから。 吹っ切れているから、ネタにしてもいいわよ。 でも、キリトさんに迷惑は掛けないようにね」

 

「「「「「「えーーーーーーーーー!!!!!」」」」」」

 

姉ちゃんの言葉で、本日二度目の驚きの声が上がったね。

姉ちゃんが、ボクを見て言った。

 

「そういえばユウキ。 キリトさんとは何時頃結婚するの??」

 

「う~ん、結婚出来る年齢になったらするつもりだよ。 先に籍を入れてからだけどね」

 

「幸せになりなさいよ」

 

「うん。――姉ちゃんも、王子様を見つけないとね」

 

「もう、余計なお世話よっ」

 

その後、ボクはへろへろに成るまで質問をされた。

きちんと全部答えたけどね。

それから、覚束無い足取りで和人が座っているスツールに向かった。

 

Side out

 

 

「和人~、疲れたよ~」

 

「おう、お疲れ」

 

ユウキは自然に、俺の膝の上に座った。

俺も自然に、腰に手を回した。

 

「和人ー、この烏龍茶飲んでいいかな? 喉が渇いちゃって」

 

「いいぞ」

 

ユウキは、俺の飲み掛けの烏龍茶を一気に飲んでしまった。

これを見ていたエギル、シンカー、クラインは眼を丸くしていたが。

シンカーは、気を取り直して俺を見てきた。

 

「キリトさん。 あの時、助けてくださって本当にありがとうございました」

 

そう言ってから、シンカーは座りながら頭を下げた。

多分、地下で救出した時の事を言っているんだろう。

 

「いえ。 あの時は、二人の協力があったからですよ」

 

「あ、そういえば、もう一人方とは、どうなったんですか?」

 

シンカーは、ランとユウキを一瞥してから聞いてきた。

てか、其処を聞いてくるか……。

 

「えーと、察してください……」

 

「……なるほど」

 

シンカーは大人だ、今ので伝わるとは。

 

「くそう、俺も《あっち》で相手を見つけとけばよかったぜ。 キリの字。 てめぇー、羨ましすぎるぞ!!」

 

「クラインさんも、いい相手が見つかるよー」

 

ユウキは、クラインを慰めるように言っていた。

俺はそれを見てから、エギルの顔を見た。

 

「エギル、どうだ? その後――《種》のほうは」

 

エギルは笑みを浮かべると、愉快そうに言った。

 

「すげえもんさ。 今、ミラーサーバーがおよそ五十……ダウンロード総数は十万、実際に稼働している大規模サーバーが三百ってとこかな」

 

《世界の種子》――。

それは茅場の開発した、フルダイブ・システムによる全感覚VR環境を動かす為の物。

《ザ・シード》と名付けられた、一連のプログラム・パッケージだった。

《カーディナル》システムを整理し、小規模サーバーでも稼働出来る、その上で走るゲームコンポ―ネントの開発支援環境もパッケージリングした。

VRワールドを作りたいと望む者は、パッケージをダウンロードして、回線のそこそこ太いサーバーに接続すれば、それだけでVRワールドが誕生する。

《真なる異世界》を求め続ける、果てしない夢想だ。

俺は事前にエギルに依頼し、《ザ・シード》を全世界にばら撒きサーバにアップロードし、個人でも落とせるように完全開放させた

死に絶えるアルヴヘイム・オンラインを救ったのが、この《ザ・シード》だ。

それから、次々にVRサーバーが稼働したのだ。

《ザ・シード》の利用法は、ゲームだけに留まらなかった。

教育、コミュニケーション、観光。

これにより、カテゴリーのサーバーが誕生し日々新たな世界が生まれるのだ。

シンカーは苦笑しながらも、何処か夢見る眼差しで言った。

 

「私たちは、多分いま、新しい世界の創生に立ち会っているのです。 その世界を括るには、もうMMORPGという言葉では狭すぎる。 私のホームページの名前も新しくしたいんですがね……なかなか、これ、という単語が出てこないんですよ」

 

「う~…………む……」

 

腕組みしながら考え込むクラインに、俺は笑いながら言った。

 

「おい、ギルドに《風林火山》なんて名前付けるやつのセンスには誰も期待してないよ」

 

ユウキがフォローするように言った。

 

「でも、ボクはカッコいい名前だと思うけどな~」

 

「お、ユウキちゃんは解ってくれるか!!」

 

それを見て苦笑してから、再びエギルに向かって言った。

 

「おい、二次会の予定は変更無いんだろうな?」

 

「ああ、今夜十一時、イグドラシル・シティ集合だ」

 

俺は声を潜めた。

 

「アレは、動くのか?」

 

「おうよ。 新しいサーバー群を丸々一つ使ったらしいが、何せ《伝説の城》だ。 ユーザーもがっつんがっつん増えて、資金もがっぽりがっぽりだ」

 

「そう上手く行きゃいいけどな」

 

俺はそれを聞き、店の天井を見詰めた。

今日《伝説の城》が彼方から現れる――。

 

「おーい、キリト、ユウキ。 また詳しく話を聞かせて貰うから、こっちこーい!!」

 

リズベットが手を振って、俺とユウキを呼んだ。

俺はエギルに聞いた。

 

「……あいつ、酔ってるよな……?」

 

彼女はピンク色の飲み物が入った、グラスを片手に掲げている。

あれ、酒だよな……?

エギルが澄まし顔で言った。

 

「一パーセント以下だから大丈夫だ。明日は休日だしな」

 

「おいおい……。はぁ~、行こうか」

 

俺はユウキの肩に手を置いた。

 

「ん、了解」

 

俺とユウキは立ち上がった、長い夜になりそうだ。

 




ユウキちゃんだけ、リアルの呼び方にしました(キリト君の)
キャラネームだと、違和感がありまして。
店に入ってからは、キャラネームということで。
あと、女性陣の声は男性陣には、ただの世間話に聞こえていたということで。

さて、ALOも残す所、あと一話だね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第71話≪Fairy Dance≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、サブタイトルを英語にしてみました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


漆黒の夜空を貫いて、私は飛翔していた。

四枚の翅で大気を蹴り、空気を切り裂き、何処までも加速する。

以前なら、限られた飛翔力で最大限の距離を稼ぐため、最も効率のいい飛行手段など、色々なことを考慮しながら飛ばなくてはならなかった。

しかしそれは過去の話。

今はシステムの枷は存在しない。

世界樹の上に空中都市は無かった。

光の妖精アルフは存在せず、それはすべて偽りの妖精王の嘘であった。

この世界が一度崩壊し、新たに生まれ変わったことにより、この世界を調整する者たちが、あらゆる妖精に永遠に飛べる翅を与えたのだ。

私はこれで十分だった。

私は集合時間より一時間早くログインし、もう二十分近くも漆黒の夜空を飛翔し続けた。

 

ALOの飛行は根性の一つ。

恐怖に打ち勝ち、精神力を保ち続けること。

だけど大抵のプレイヤーは、恐怖と精神的疲労に負けて減速していくことになる。

 

先週開かれた《アルヴヘイム横断レース》では、私とキリト君とユウキちゃんが凄まじいデットヒートを演じた挙句、僅差でゴールに飛び込んだ。

負けてしまったけどね。 一位はキリト君とユウキちゃんであった。

全てのタイムが同じなんて、以心伝心でもしているのかな。

 

……あの時は、楽しかったな……。

 

私はそれを思い出し、飛びながら苦笑した。

ああいうイベントで飛ぶのもいいけど――頭の中を空っぽにして、ただ限界の先を目指して、加速していくのが一番気持ちいい。

 

数十分の飛翔で、すでに速度は限界ぎりぎりの所まで到達している。

暗闇に包まれた地上は最早流れていく縞模様でしかなく、前方の小さな灯りが現れては後方に消え去っていく。

 

頭上では、巨大な満月が輝いている。

輝く満月目指して、舞い上がっていく。

雲海を切り裂き、(そび)える世界樹の尖端に到着した。

 

もう少し――もう少し近づければ――。

 

しかしこの世界の限界まで到達してしまった。

加速が急激に鈍り、体が重くなる。

これ以上の上昇は出来ない。

私は満月を掴むように片手を差し伸べる。

 

――行きたい。 もっと高く。 どこまでも遠く、あの世界まで――。

 

上昇速度がゼロになり、次いでマイナスになる。

私は手を大きく広げたまま夜空を自由落下していく、月が徐々に遠ざかっていく。

私は瞼を閉じ、微笑を浮かべる。

 

――今はまだ、届かないけど、何時かきっと――。

 

このアルヴヘイム・オンラインも、より大きなVRMMOの≪連結体(ネクサス)≫に参加する計画があるそうだ。

月面を舞台にしたゲームと相互接続するらしい。

そうすれば、あの月まで飛んで行くことが出来る。

やがて他のゲーム世界でも、それぞれ一つの惑星として設定され、星の海を渡る連絡船が行き来する日が来る。

 

――何処までも飛べる。 何処までも行ける。 けれど……絶対に行けない場所もある――。

 

私は雲海を落下しながら、両手で体を抱きしめる。

その寂しい理由は解っている。 今日――私の兄・和人、お義姉・木綿季ちゃん――に連れて行ってもらったパーティーのせい。

 

とても楽しかった。 この世界でしか会う事の出来なかった、新しい友人たちと初めてリアルで顔を合わせ、色々な話をした。 あっという間の時間だった。

でも、私は感じていた。 彼らを繋ぐ、目には見えないけれどとても強い、絆の存在。

今は無い《あの世界》、浮遊城アインクラッドで共に戦い、泣き、笑い、恋した記憶。

 

――それは、現実世界に帰ってきてもなお、彼らの中で強い輝きを放っている――。

 

あのパーティーで、お兄ちゃん、木綿季ちゃんが遠くに行ってしまうような気がした。

あの人たちの絆の中には、私が入ってしまったらいけない。 そんな気がしたのだ。

私には、《あの城》の記憶がないのだから。

 

このような事を考えながら、流星のように落下を続けた。

集合場所は世界樹の上部に新設された街、《イグドラシル・シティ》なので、そろそろ翅を広げ、滑空を始めないといけない。

でも、心を塞ぐ寂しさのせいで、翅が動かせない。

 

突然体が何かに受け止められ、落下が止まった。

 

「ッ!?」

 

驚いて瞼を開けた。

眼の前に、ユウキちゃんの顔があった。

両手で抱きかかえ、雲海をホバリングしている。

その横には黒衣の少年。

二人とも笑みを浮かべながら私を見ていた。

なんで――、と言う前に、長い黒髪を揺らしながら、闇妖精族(インプ)の少女が口を開いた。

 

「何処まで昇っていくか心配したよ。 もうすぐ時間だから迎えに来たよ」

 

「皆の所に行こうぜ」

 

「……うん。 ありがと」

 

私は笑みを浮かべると、翅を羽ばたかせ、ユウキちゃんの腕の中から抜け出した。

この新しいアルヴヘイム・オンラインを動かしている運営体が、レクトプログレス社から移管された全ゲームデータ、その中にはソードアート・オンラインのキャラクターデータも含まれていた。

運営体は元SAOプレイヤーが新ALOアカウントを作成する場合、外見を含めてキャラクターを引き継ぐか選択出来るようにした。

日頃一緒に遊んでいるシリカちゃんやアスナさん、ランさんリズベットさんたちは、妖精種族的特徴は付加されたものの、基本的に現実の姿に限りなく近い外見を持っている。

でも、キリト君とユウキちゃんは選択枠を与えられた時、以前の外見を復活させる事をせず、今の妖精の姿を使う事にしたのだ。

凄まじいまでのスターテスを二人はあっさりと初期化し、一から鍛え直している。

私はその理由が知りたくなり、同じくホバリングしながら二人に聞いた。

 

「ねぇ、キリト君……ユウキちゃん。 何で二人は、元のデータを引き継がなかったの?」

 

「「うーん……」」

 

キリト君とユウキちゃんは、腕を組んでから答えた。

 

「あの世界のキリトの役目は、もう終わったんだよ」

 

「そうだね。 ボクもキリトと同じかな」

 

「……そっか」

 

私は小さく笑った。

私も何と無く、その考えが解った気がするから。

キリト君とユウキちゃんの後ろに、長い黒髪を揺らしながら、水妖精族(ウンディーネ)が姿を現した。

ランさんだ。

ランは私たちを見て、口を開いた。

 

「ユウキたちはこんな所に居たのね。 探しましたよ」

 

私は幸せだな、と思った。

自分が居なくなっただけで、探しに来てくれるなんて。

私は笑い、言った。

 

「ね、皆で踊ろうよ」

 

「「「へ(え)?」」」

 

私がランさんの右手を取り、雲海を滑るようにスライドする。

ホバリングしながらゆっくり移動する。

 

「こっ、こうかしら」

 

「そうです。 うまいうまい」

 

さすがユウキちゃんのお姉さんだ。 飲み込みが早い。

これを見ていたユウキちゃんが、リズムを取るように見ていた。

『うん。 OK』と言うと、キリト君の右手を取った。

 

「じゃあ、ボクたちも踊ろうか?」

 

「おう」

 

キリト君はたった数分で、ランさんと同じくマスターした。

私は腰のポケットから小さな瓶を取り出した。

栓を抜き空中に浮かせると、瓶の中から銀色の粒子が流れ出し、澄んだ音楽を奏でた。

音楽妖精族(プーカ)の吟遊詩人が、自分の演奏を詰めて売っているアイテムだ。

 

「私たちも踊りましょうか。 一曲踊っていただけませんか?」

 

「はい。 喜んで」

 

音楽に合わせ、私たちはステップを踏み始めた。

大きく、小さく、また大きくと、空を舞う。

蒼く月光に照らされた無限の雲海を、私たちは音楽に合わせて滑る。

最初は緩やかだった動きを徐々に速く、一度のステップでより遠くまで。

 

私たちの翅が撒き散らす、黒い燐光と緑色の燐光、青い燐光が重なり、空にぶつかって消えていく。

 

これが最後になるかもしれない、そう思った。

お兄ちゃん、木綿季ちゃん、藍子さん――彼らの世界がある。

学校、仲間、そして大切な人。

手を伸ばしても届かない世界がある。

 

その背中に近づきたくて、妖精の翅を手に入れてみたけど、お兄ちゃんや、木綿季ちゃん、藍子さん。 今日パーティー会場に居たみんなの心の半分は、今でも幻の城にある。

私には決して訪れることが出来ない、夢幻の世界。

閉じた瞼から、一筋の涙が流れた。

 

「リーファさん?」

 

耳元でランさんの声がした。

キリト君とユウキちゃんも、私の元に近づいて来てくれた。

私は微笑みながら、三人の顔を見た。

同時に小瓶から溢れだしていた音楽が薄れ、フェードアウトし、瓶が微かな音と共に砕け、消滅した。

私はランさんの手を離し、言った。

 

「……あたし、今日は、これで帰るね」

 

ランさんが私に聞いてきた。

 

「なんでですか?」

 

涙が溢れた。

 

「だって……遠すぎるよ……お兄ちゃんたちが……みんなが居る所。 あたしじゃそこまで、行けないよ……」

 

ユウキちゃんが、軽く首を振った。

 

「スグちゃん、それは違うよ」

 

「ああ、ユウキの言う通りだ」

 

「そうですよ。 行こうと思えば、何処だって行けるんですよ」

 

「さ、行こうぜ」

 

キリト君が先頭に立ち、身を翻してから、翅を大きく鳴らし、加速を始めた。

雲海の彼方の世界樹に向かって。

 

「私たちも行きましょうか」

 

「うん、そうだね。 姉ちゃん」

 

ユウキちゃんとランさんが、私の手を握ってから翅を鳴らし、加速を始めた。

ユウキちゃんとランさんは、繋いだ手を緩めず加速した。

世界樹は近づくに連れ、天を覆うほどの大きさになった。

幹が幾つもの枝に分かれている中心に、無数の光の群れがあった。

イグドラシル・シティの()だ。

 

その中央を、私たちは一際大きく翔けて行く。

その時、幾重にも連なった鐘の音が響いた。

アルヴヘイムの零時を知らせる鐘だ。

先頭のキリト君が翅を大きく広げ、制動をかけた。

私の手を握っていてくれていた二人も、制動をかける。

私は驚きの声を上げた。

 

「わあっ!?」

 

「間に合わなかったな」

 

「だねー」

 

「そうですね」

 

私は三人の話している意味が解らなかった。

キリト君が私たちの隣まで移動し、空を指差した。

 

「――来るぞ」

 

指差した先は、巨大な満月が蒼く光っている。

 

「月が……どうしたの?」

 

「ほら、よく見ろ」

 

私は目を凝らした。

輝く銀の真円、その右上の縁が――僅かに欠けた。

 

「え……?」

 

私は眼を見開いた。

月を侵食する黒い影は、どんどん大きくなっていくからだ。

その形は円形ではない。

不意に、ゴーン、ゴーンと重々しく響く音。

遥か遠くから聞こえてくる。

近づいて来たそれは、円錐形の物体で、幾つもの薄い層を積み重ねて作られているようであった。

底面からは三本の巨大な柱が垂れ下がり、その先端も眩く発光している。

一つの層が幾重にも重なるように出来ている。

あれは――。

 

「あ……まさか……まさかあれは……」

 

ユウキちゃんが私の顔を見た。

 

「そうだよ。 あれが――浮遊城アインクラッドだよ」

 

「……でも……なんで?なんでここに……」

 

キリト君が静かな声で言った。

 

「決着をつけるんだ。 今度こそ一層から百層まで完璧にクリアして、あの城を征服する」

 

「そうですね。 前は、誰かさんが四分の三で終わらせてしまいましたからね」

 

「う、まぁ、俺がズルしちゃったんだけどな……」

 

キリト君はランさんの言葉を聞き、肩を落としていた。

ユウキちゃんが、私の頭に手を置き、

 

「ボクたち、弱くなったからね。 ボクたちと一緒に、攻略手伝ってくれるかな」

 

――行こうと思えば、何処だって行けるんですよ。

ランさんの言葉が胸に落ちた。再び、涙が零れ落ちた。

 

「――うん。 行くよ……何処までも……一緒に……」

 

私たちが浮遊城を眺めていると、眼の前に長い青い髪を揺らした水妖精族(ウンディーネ)が姿を現した。

アスナさんだ。

 

「さ、行こう」

 

「さて、行くか」

 

「「「うん!!」」」

 

すると、足元から声がした。

赤い髪に黄色と黒のバンダナを巻いた、クラインさんだ。

 

「おーい、遅ぇぞ、おめぇら」

 

その隣に、土妖精族(ノーム)の証である茶色い肌を光らせ、巨大なバトルアックスを背負ったエギルさん。

 

「お前らも早く来い。 俺たちで第一層のボスを倒しちまうぞ」

 

鍛冶妖精族(レプラコーン)専用の銀のハンマーを下げ、純白とブルーのエプロンドレスを(なび)かせたリズベットさん。

 

「ほら、あんたらも早く来なさい。 置いてくわよ」

 

艶やかに茶色い耳と尻尾を伸ばし、肩に水色のドラゴンを乗せたシリカちゃん。

 

「リズさん~、待って下さいよ~」

 

手を繋いで飛ぶ、シンカーさんとユリエールさん。

スティックを握ってふらふら飛ぶサーシャさん。

手を振って上昇するレコン。

その後ろにシルフの領主サクヤ、ケットシーのアリシャ・ルーも続く。

ユージーン将軍とその部下たち。

ユイちゃんが、キリト君の肩に乗った。

 

「ほら、パパ、はやく!」

 

「おう!!」

 

キリト君はアインクラッドを見詰め、微かな声で誰かの名前を呼んだようだった。

キリト君は不敵な笑みを浮かべ、ユウキちゃんと手を握ってから、翅を大きく広げ、真っ直ぐに天を目指す。

 

再び、あの城へ

 

ALO編 ~完結~

 




今回は、リーファちゃん視点が多かったですね(笑)
ランちゃんはウンディーネにしました~。

ALO編が完結いたしました!!
読者の皆さんが観覧してれたおかげです!!
ありがとうございます!!

さて、次回はGGO編にすぐに行っちゃおうか、それとも何かを挟もうか。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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日常編
第72話≪想う気持ち≫


ども!!

舞翼です!!

今回は、日常編だね。

上手く書けたかわからんが。

誤字脱字があったごめんよ。

それではどうぞ。


俺は放課後を心待ちにしていた。

木綿季とデートをする日だからだ。

今日は化粧をしてくれるらしいな。

絶対綺麗だろうな~。

俺がそんなことを考えていたら、隣席の男子が声を掛けてきた。

 

「カズ。 今日は《姫》とデートの日なんだろう」

 

「あー、それ俺も知ってるよ」

 

「ちょっと待て!? 何でお前らがそれを知っているんだ!?」

 

《婚約者》は知られていることはいいとして。

デートの日を、何でこいつ等が知っているんだ??

 

「この事は学校の全員が知っていると思うぞ。 城の新聞に書いてあったからな」

 

「だな。 カズが《姫》と同棲している事も書いてあったぞ」

 

こんな的確な情報を流せる奴なんて、俺が知る限りじゃ一人しかいないぞ。

それから午前中の授業が終了し、庭園のベンチで食事を摂ることにした。

俺は木綿季に聞いてみた。

 

「なぁー、木綿季。 何処から情報が漏れたんだろうな??」

 

「多分、アルゴさんが情報を撒いたんだと思うよ。 新アルヴヘイムで開催した、女子会の内容をね」

 

『その時、アルゴさんも参加していたよ』と最後に付け加えた。

アルゴも参加してたんかい!!

俺は心の中で突っ込んでしまった。

 

「まぁいいじゃん。 全生徒がボクと和人の関係を知っているんだからさ」

 

「そうだな。 お前とは将来一緒になることが決まっているんだしな」

 

その時、後ろから声がした。

 

「あんたら、傍から見るともう夫婦ね」

 

声の主は里香であった。

その後ろには明日奈、藍子、珪子の姿も見えた。

何で此処に居るんだ??

俺の疑問に里香が答えた。

 

「あんた、今何で私たちが此処に居るの??と思ったでしょ」

 

なんで解った!?

里香はエスパーか!?

 

「あんたの思っていることは、単純で読みやすいのよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

今後は気を付けないと。

すると、藍子が爆弾?を放り込んだ。

 

「和人さんと木綿季って同じ部屋で、同じベットに寝ているんでしたっけ??」

 

「……まぁ、うん、そうだ」

 

俺は木綿季に顔を向けた。

木綿季は明後日の方向に顔を向けていたが。

俺は木綿季の頭を撫で、優しく囁きかけた。

 

「木綿季、俺は怒ってないよ。 ちょっと驚いただけだよ」

 

「……本当に」

 

木綿季は眼をうるうるさせ、俺を見上げていた。

これで許せない男子は居ないはずだ。

これを見ていた藍子が、笑みを浮かべた。

 

「ふふ、和人さんと木綿季って、俗に言うバカップルですね」

 

「そうですね。 私もいい人見付けないとな~」

 

「明日奈、藍子、あんたらなら男を虜に出来るでしょうが。 私と珪子は色々と頑張らないといけないけど」

 

「そうですよ~。 明日奈さんと藍子さんのスタイルが羨ましいです!!」

 

それから後ろの四人は、隣のベンチに腰を下ろし昼食を摂った。

昼食を摂った後、皆で雑談をしてから、個々の教室に戻った。

放課後、昇降口で木綿季と合流して帰宅する事にした。

その帰り道、木綿季が俺の腕に体を密着させ、こう言った。

 

「今日は久々のデートだね。 楽しもうね、和人。 大好きだよ」

 

ヤバい、可愛すぎる。

上目使いで覗き込まれると、破壊力が凄まじい。

俺は木綿季の長い黒髪を撫でながら、言った。

 

「ああ、俺も大好きだよ。 今日は楽しもうな」

 

歩く事数分、眼の前に桐ケ谷家が見えてきた。

木綿季の手を引きながら、庭に足を踏み入れ、玄関のドアを開けた。

 

「「ただいまー」」

 

「おかえりなさいー」

 

直葉がリビングからスリッパをパタパタと鳴らしながら、こちらにやって来た。

直葉は俺を見て言った。

 

「お兄ちゃんは二階の自室で着替えて来てね。 木綿季ちゃんにおめかしをするからさ。――さ、木綿季ちゃんはこっちだよ。 着替えも用意してあるからこれに着替えてね」

 

と直葉に言われ、木綿季はリビングに連行されて行った。

俺は着替えてから、待ち合わせである公園の噴水広場にやって来ていた。

あの後直葉に一緒に行けばいいじゃないかと言ったら、『お兄ちゃんはロマンが無いな。 待ち合わせをしてから、デートするのがいいんじゃん』と言われ、先に来た次第だ。

乙女心なのだろうか? 俺にはよく分からん。

 

数分間待っていると、横から足音が聞こえてきた。

どうやら木綿季が待ち合わせ場所に現れたようだ。

俺は隣を見て固まってしまった。

いや、見惚れてしまったのだ。

その姿は白いワンピースに袖を通し、顔は薄く化粧が施されている。

腰の辺りまで伸びている長い黒髪は、後頭部に纏めポニーテールにして、ヘアゴムで止めている。

何時も前髪にしているリボンの代わりに、ヘアピンをしている。

何時もの活発な少女では無く、清楚な女性と言った感じだ。

木綿季は顔を近づけて首を傾げた。

 

「どうしたの和人。 何か変かな」

 

「いや、そうじゃなくて、何時も印象と全然違うから。 あの、その、とても似合ってるよ。 可愛いよ」

 

「気に入って貰えてよかったー。 鏡を見たら『本当にボク?』ってなったからさ」

 

自分でもそうなったのか。

まぁ、凄く変わっているからなー。

 

「最初は驚いたよ」

 

「ボクも驚いちゃったしね」

 

「さ、行こうか」

 

それから手を繋ぎ、目的地に向かった。

俺たちが訪れた店は指輪店。

俺は事前に木綿季の薬指のサイズを測っていた。

だから、どのサイズの指輪を買えばいいか解っているのだ。

俺は店内を見回り、一つの指輪に眼を向けた。

装飾は施されていないシルバーの色をした指輪だ。

値段は一つ三万円。

この金額なら購入する事が可能だ。

実は、アルバイトをして金を溜めていたのだ。

それと自分の貯金を合わせて、指輪を購入出来る金額になったのだ。

俺は近場に居た店員を呼び、言った。

 

「すいません、これください」

 

俺はガラスケースを指差し、指輪を取り出してもらう。

うん、これにしよう。

アンクラッドで嵌めていた指輪に少し似ているな。

 

「彼女さんにプレゼントですか??」

 

「はい、そうです」

 

「では、こちらですね」

 

俺は指輪を差し出され、受け取った。

次いで、隣に立っている木綿季の顔を見た。

 

「嵌めていいかな??」

 

「……うん」

 

木綿季は頬を少しだけ赤く染め、頷いた。

俺は屈み、ゆっくりと左手薬指に指輪を嵌めた。

 

「和人もだよ。 ほら、貸して」

 

木綿季も俺の左手薬指に指輪を嵌めてくれた。

店員さんは、俺たちを見て微笑んでいた。

 

「幸せになってくださいね」

 

店員さんにそう言われ、俺たちは答えた。

 

「「はい。 幸せになります」」

 

代金を払い、店を出た。

店を出て数歩歩いてから立ち止まり、木綿季が俺に顔を近づけた。

動いたらキス出来てしまう距離だ。

 

「一生大切にするね。 ボクの宝物だよ」

 

木綿季と俺の唇に重なった。

触れ合うだけのキスだった。

 

「ああ、宝物だ。 一生大切にする」

 

すると、周りから声が聞こえてきた。

『いやー、今の若者は熱いねー』、『リア充爆発しろッ』等々。

俺たちは失念していた。

此処が街中であることだったという事に。

俺と木綿季は顔を真っ赤にしながら、帰路に着いた。

家に帰って食事を済ませ、自室に戻った。

俺と木綿季はベッドに腰を掛けている。

 

「今日は楽しかったな」

 

「うん、楽しかったね。 一生心に残る思い出になったよ。ありがとね、和人」

 

「俺も一生に残る思い出になったよ」

 

俺は顔を見合わせた。

これも言っとかないとな。

俺は木綿季の手を優しく握り、

 

「木綿季。 順番が逆になっちゃったけど、これから言うこと聞いてくれないか??」

 

「うん、いいよ」

 

俺は大きく深呼吸してから、言葉を紡いだ。

 

「俺はお前のことが世界で一番好きだ。 俺と結婚してください」

 

「……はい、喜んで。 ボクも和人のことが大好きです。 よろしくお願いします」

 

木綿季はニッコリと笑ってくれた。

それから唇が重なり長いキスをした。

 

「この指輪を学校に嵌めていっていいかな??」

 

「おう、いいぞ。 俺も嵌めていくしな」

 

「ねぇ、和人。 結婚したいね」

 

「そうだな」

 

結婚したら俺たちの名字はどうなるんだろう??

“桐ケ谷 木綿季”、“紺野 和人”

う~む、どっちも捨て難いな。

 

「和人。 何考えていたの?? 大体解るけどさ」

 

「結婚したら名字はどうなるのかな~、と思ってな」

 

「う~ん、ボクが和人の家に嫁ぐから“桐ケ谷 木綿季”じゃないかな」

 

「だな。 あと、“あれ”を言ってくれないかな??」

 

木綿季は少し考えた後、『あ、あれね。 いいよ』と言ってくれた。

 

「和人、おかえりなさい。 ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し」

 

と首を傾げて言ってくれた。

一度言われてみたかったんだよな~。

男の夢だよね。

 

「ちょっとだけ恥ずかしかったよ」

 

木綿季はもじもじしながら頬を朱色に染めた。

それから笑みを浮かべて、言った。

 

「まぁ、和人はご飯でしょ」

 

「いや、最初から順番だな。 もうちょっと大人になってからだがな」

 

「今からでもいいけど……」

 

俺は歯切れの悪くして答えた。

 

「いや、うん、まぁ、えーと」

 

「冗談だよ。 今すぐじゃなくてもいいよ。 ボクはその時まで待つよ」

 

「……おう」

 

うん。 俺は甲斐性なしだね……。

 

「和人は大人になったら、ボクに何て呼ばれたい??」

 

「和人のままでいいぞ」

 

木綿季は顎に人差し指を当て、

 

「う~ん、そうじゃなくて。“貴方”とか“旦那さん”とかあるじゃん」

 

「あー、そういう事か。 う~ん、”貴方”がいいな」

 

「じゃあ、結婚して少し経ったらそう呼ぼうかな」

 

「頼んだ」

 

俺たちは何年後の話をしていたのだろうか??

まぁ、そう遠くない話だと思うが。

木綿季は立ち上がり、引出しから着替えを取り出した。

見慣れてしまった光景でもあるんだよな。

 

「じゃあ、お先にお風呂貰うね。 入って来てもいいからね」

 

そう言ってから木綿季は俺の部屋から出て行き、風呂場に向かった。

それから小さく呟いた。

 

「一緒に風呂入ったら、俺の理性が吹き飛んじゃうよ」

 

数時間後。

木綿季が上がってから俺も風呂場に向かい、数分で上がり自室に戻った。

それから寝る支度をして、俺たちは顔が向い合せになるように横になった。

 

「一緒に寝る事が当たり前になってきたね」

 

「そうだなー、最初はちょっと緊張したけどな」

 

「じゃあ、寝ようか。 明日も早く起こしてあげるから、ちゃんと起きるんだよ」

 

「……おう、善処するよ」

 

「そこは『大丈夫だ』、じゃないの」

 

「頑張って起きるさ。 さ、寝ようぜ」

 

「うん、おやすみ和人」

 

俺はそれを聞いてから、木綿季の上に布団を掛けてあげた。

 

「おやすみ、木綿季。 大好きだよ」

 

それから俺も布団を自身に掛け、眠りに就いた。

今日は心に残る日になった。

 




ユウキちゃんは、女子会で色々と話してしまったんでしょうね(笑)
ユウキちゃん可愛すぎ!!
自宅に帰ってからは部屋着に戻ったということで(リボンも)
あと学校での呼び方は、リアルネームにしましたー。

お風呂は、現実世界と仮想世界では違うんでしょね~(笑)

現実世界でもプロポーズしましたね。
この時系列はGGOの前ということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!



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GGO編
第73話≪ガンゲイル・オンライン≫


ども!!

舞翼です!!

GGO編に入りましたね。

それではどうぞ。


プロポーズしてから数日後、ある人物から連絡を貰い、待ち合わせの場所を目指して歩を進めている。

 

「はぁ~、行きたくないな。 帰っていいかな」

 

「そんなこと言わないの。 話だけでも聞いておこうよ」

 

俺の言葉に応じてくれた人物は、最愛の人である紺野木綿季。

俺はもう一度溜息を吐いてから、店のドアを押し開けた。

 

『いらっしゃいませ。 お二人様でしょうか?』と静かに頭を下げるウエイターさんに、待ち合わせです、と答えて店内に足を踏み入れる。

店内は、どれを取っても高級そうな装飾品などが飾られている。

セレブ御用達の店、と言った所だろう。

俺は広い店内を見渡した。

奥の窓際の席から、無遠慮な大声が俺たちを呼んだ。

 

「おーい。 キリト君、ユウキ君、こっちこっち!」

 

途端に、非難めいた視線が集中する。

俺と木綿季は首を縮めて、声の主へと近づき、向い合わせに成るように腰を下ろす。

待ち合わせをしていた人物は、菊岡誠二郎。

太い黒縁の眼鏡にしゃれっ気の無い髪形、生真面目そうな線の細い顔立ち。

とてもそうは見えないが、これで国家公務員なのだ。

所属するのは、総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二別室。

省務内での名称は、通信ネットワーク内仮想空間管理課、通称《仮想課》。

 

俺は差し出されたメニューを手に取り、広げた。

テーブルの向かいから陽気な声が飛ぶ。

 

「ここは僕が持つから、何でも好きに頼んでよ」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「そうだね。 ボクもそのつもりだったしね」

 

メニューに目を走らせると、恐ろしいことに最も安くても《シュー・ア・ラ・クレーム》の千二百円。

だが、よくよく考えてみればこの男は政府の人間であり、それ以前に支払いは交際費、つまり国民の血税によって行われる。

阿保らしくなった俺は、平静を装った声で次々にオーダーした。

 

「ええと……パルフェ・オ・ショコラ……と、フランボワズのミルフィーユ……に、ヘーゼルナッツ・カフェ」

 

「それを二つずつ」

 

と木綿季がオーダーを締めくくった。

合計金額は七千八百円だ。

 

「かしこまりました」

 

ウエイターが退場して、俺は一息ついた。

菊岡は最後のプリンの欠片を口に運び、顔を上げ無邪気な笑みを浮かべた。

 

「やぁ、ご足労願って悪かったね。 それにしても、君たちって何時も一緒に居るね」

 

「決まってるだろ。 木綿季は俺の大切な人なんだから」

 

「和人は大切な人だもん。 離れるわけがないじゃん」

 

菊岡は数回瞬きをしてから、俺たちの左手薬指を見て『なるほど……』と納得していた。

俺はメニューを閉じ、本題を切り出した。

 

「で、何でこんな所に俺たちを呼び出したんだ?」

 

「うん。 協力するかは話を聞いてからだね」

 

「いやー、≪黒の剣士≫(ブラッキー先生)、≪絶剣≫さまと、リアルで話が出来るなんて光栄だよ」

 

そう。 俺たちはALOで、菊岡と交流を持っているのだ。

菊岡――クリスハイトとして。

因みに、《黒の剣士》、《絶剣》は、ALO内での俺たちの二つ名だ。

 

「「……帰る」」

 

「わぁッ! 待った待った! 僕が悪かった!」

 

俺たちは大きく溜息を吐いてから、再びテーブルの椅子に座り直した。

菊岡は、隣の椅子の置いたアタッシュケースからタブレッド型端末を取り出し、一人の男性プロフィールを見せた。

それから、のんびりした口調で言った。

 

「いやぁ、ここに来て、バーチャルスペース関連犯罪の件数が増え気味でねぇ」

 

その言葉を聞き、木綿季の眼付が鋭くなった。

威圧感も出している。

木綿季は静かに口を開いた。

 

「……菊岡さん。 それがどうしたの?」

 

「いやー……君たちに調査を……お願いしたいなー……って」

 

俺は木綿季の肩に手を置き、

 

「話だけでも聞いておこうか。 お前も、此処に来る途中に言っていただろ」

 

木綿季は大きく息を吐いてから、改めてタブレットに目を落とした。

 

「……キリト君、ありがとう。 助かったよ……」

 

菊岡は、胸を撫で下ろしていた。

それほどまでに、木綿季の威圧感が凄かったのだろう。

俺も改めてタブレットに目を落とす。

 

「……誰だ?」

 

俺が問うと、菊岡は指先を滑らせた。

 

「ええと、先月……十一月の十四日だな。 東京都中野区某アパートで、掃除をしていた大家が異臭に気付いた。 発生源と思われる部屋のインターホンを鳴らしたが返事がない。 電話にも出ない。 しかし部屋の電気は点いている。 それから電子ロックを解錠して踏み込んで、この男……茂村保(しげむら たもつ) 二十六歳が死んでいるのを発見した。 死後五日半だったらしい。 部屋は散らかっていたが荒らされた様子はなく、遺体はベッドに横になっていた。 そして頭に……」

 

「アミュスフィア、か」

 

俺がそう言うと、菊岡は頷いた。

 

「その通り。――すぐに家族に連絡が行き、変死ということで司法解剖が行われた。 死因は急性心不全となっている」

 

タブレットに目を落としていた木綿季が、顔を上げた。

 

「心不全?って心臓が止まった事を言うんだよね? 何で止まったの?」

 

「それが解らないんだ……。 死亡してから時間が経ち過ぎていたし、精密な解剖は行われなかったんだ。 ただ、彼はほぼ二日に渡って何も食べないで、ログインしっぱなしだったらしい」

 

俺は眉を寄せた。

その手の話は珍しくない。

現実世界で何も食べなくても、仮想世界で食べ物を食べると偽りの満腹感が発生し、それは数時間持続するからだ。

当然そんな事をしていれば体に悪影響を及ぼし、栄養失調や発作を起こして倒れ、そのまま……ということも珍しくない。

俺は一瞬眼を瞑り、口を開いた。

 

「菊岡さん。 あんたはこんな話を聞かせる為に、俺たちを呼んだんじゃなんだろ」

 

暫しの沈黙が流れた。

菊岡は意を決したように答えた。

 

「茂村氏のアミュスフィアに、インストールされていたVRゲームは一タイトルだけだった。《ガンゲイル・オンライン》……知っているかい??」

 

菊岡の問いに、木綿季が答えた。

 

「それボクも知ってるよ。 日本で唯一《プロ》が居るMMOゲームでしょ」

 

ガンゲイル・オンライン。

ゲーム内でリアルマネーが稼いだ金を現実の金として換金できる、《ゲームコイン現実還元システム》を採用している。

まぁ、正確には電子マネーだが。

その中での《プロ》と呼ばれるGGOプレイヤーは、毎日コンスタントに金を稼ぐプレイヤーの事を指す。

《プロ》は月に二十万から三十万稼ぎ、GGOのハイレベル連中は、他のMMOと比較にならないほどの時間と情熱をGGOにつぎ込んでいるのだ。

亡くなった茂村氏も、相当な豪腕プレイヤーだったのだろう。

また、ガンゲイル・オンラインを運営している《ザスカー》なる企業は、外国に拠点を持っている、電話番号やメールアドレスは全くの未公開。

 

「彼は、ガンゲイル・オンライン……略称GGO中ではトップに位置するプレイヤーだったらしい。 十月に行われた、最強者決定イベントで優勝したそうだ。 キャラクター名は《ゼクシード》」

 

「……じゃあ、亡くなった日もGGOにログインしていたの?」

 

「いや、そうではなかった。《MMOストリーム》というネット放送局の番組に、《ゼクシード》の再現アバターで出演中だったようだ」

 

俺が口を開いた。

 

「ああ……Mストの《今週の勝ち組さん》か。 そういや、一度ゲストが落ちて番組が中断したって聞いたような気もするな……」

 

「多分それだ。 出演中に心臓発作を起こしたんだな。 ログで、秒に到るまで時間が判っている。 で、ここからは未確認情報なんだが……ちょうど彼が発作を起こした時刻に、GGO中で妙なこと有ったって、ブログに書いているユーザーが居るんだ」

 

「「妙?」」

 

「MMOストリームは、GGOの内部でも中継されているだろう?」

 

「ああ。 酒場とかで見られる」

 

「GGO世界の首都、《SBCグロッケン》という街のとある酒場でも放送されていた。 で、問題の時刻に、一人のプレイヤーがおかしな行動をしたらしい」

 

菊岡は言葉を続ける。

 

「何でも、テレビに映っているゼクシード氏の映像に向かって、《裁きを受けろ、死ね》等と叫んで銃を発砲したということだ。 それを見ていたプレイヤーの一人が、偶然音声ログを取っていて、それを動画サイトにアップした。 ファイルには、日本標準時カウンターも記録されていてね……。 ええと……テレビに銃撃があったのが、十一月九日、午後十一時三十分二秒。 茂村氏が番組出演中に突如消滅したのが、十一時三十分十五秒」

 

俺が呟いた。

 

「……偶然だろう」

 

「――いや、そうでもないんだ。 実はもう一件あるんだ。 今度は約十日前、十一月二十八日だな。 埼玉県さいたま市大宮某所、やはり二階建てアパートの一室で死体が発見された。 新聞の勧誘員が、電気は点いているのに応答がないんで、居留守を使われたと思って腹を立て、ドアノブを回したら鍵が掛かっていなかった。 中を覗くと、布団の上にアミュスフィアを被った人間が横たわって居て、同じく異臭が……」

 

『ごほん!!』と隣の席のマダムが咳払いをして、凄まじい邪眼をこちらに向けていたが、菊岡は会釈をしただけで会話を続けた。

 

「……まぁ、詳しい死体の状況は省くとして、今度もやはり死因は心不全。 名前は……これも省いていいか。 男性、三十一歳だ。 彼もGGOの有力プレイヤーだった。 キャラネームは……《薄塩たらこ》? 正しいのかなこれ?」

 

俺と木綿季は不躾だが、それを聞いて笑みを零してしまった。

 

「今度のはテレビの中では無く、ゲームの中だね。 アミュスフィアのログから、通信が途絶えたのは、死体発見の三日前、十一月二十五日、午後十時零分四秒。 死亡推定時刻もそのあたりだね」

 

これまで、静かに話を聞いていた木綿季が言った。

 

「じゃあ、その銃を持ったプレイヤーは、同一人物なの??」

 

「そう考えていいかもしれないね。 毎回同じキャラネームを名乗っているからね」

 

「「……どんな……」」

 

菊岡はタブレッドを滑らせ、

 

「《シジュウ》……それに、《デス・ガン》」

 

――すなわち、≪死銃≫(death gun)か……。

 

木綿季はテーブルの椅子から立ち上がり、俺の肩を叩いた。

 

「ごめんね、菊岡さん。 ボクたちは手伝えそうにないや。――和人、帰ろうか」

 

「おう」

 

俺も立ち上がろうとすると菊岡が、

 

「わぁ、待った待った。 ここからが本題の本題なんだよ。 ケーキもう一つ頼んでいいからさ、あと少し付き合ってくれ」

 

木綿季は再び椅子に座り、大きく溜息を付いてから、言った。

 

「……あと、五分だけ」

 

「えっと、二人にはガンゲイル・オンラインにログインして、この《死銃》なる男と接触してくれないかな」

 

と言い、菊岡はにっこりと笑った。

直後、先程と比較にならない威圧感が木綿季から発せられた。

 

「菊岡さん……ボクたちに、《撃たれてこいって》、言っているでしょ……その《死銃》さんに……」

 

「……いや……まぁ……ハハ……」

 

菊岡は額から、冷汗をだらだらと零している。

しょうがない……俺が助け船を出すか。

 

「菊岡さん。 何でこの件にそこまで拘るんだ?」

 

菊岡は、何時もの笑顔に戻っていた。

 

「実はね、上の方が気にしているんだよね。 フルダイブ技術が現実に及ぼす影響というのは、今や各分野で最も注目される分野だ。 仮想世界が、はたして人間の有り方をどのように変えていくのか、とね。 もし仮に、何らかの危険がある、という結論が出れば、再び法規制を掛けようという動きが出てくるだろう。 だが僕たち《仮想課》は、この流れを後退させるべきないと考えている。 VRMMOを楽しむ、君たち新時代の若者の為にもね。 そんなわけで、規制推進派に利用される前に把握しておきたいのさ。 そして対処も出来るように完璧にしておきたいね。――こんなところで、どうかね??」

 

俺と木綿季は長く沈黙した。

菊岡は焦るように言葉を発した。

 

「も、もちろん万が一の事を考えて、最大限の安全措置は取らせて貰うよ……。 こちらが用意する部屋からダイブして貰って、モニターもする。 アミュスフィアの出力に、何らかの異常があった場合はすぐに切断する。 銃撃されろとは言わない。 君たちから見た印象で判断してくれればいい。――行ってくれないかね??」

 

ゆっくり俺が口を開いた。

 

「どうする、木綿季?」

 

「……菊岡さん……。 ただリサーチするだけでいいんだよね……?」

 

「そうだとも。 報酬も支払うよ――これだけだそうじゃないか」

 

菊岡は指を三本立てた。

正確には、三十万。

再び長い沈黙。

 

「…………わかった。 これ以上犠牲者を出さない為に、行ってあげる事を忘れないでね……。――もし、和人に異変が起きたら、ボクは一生貴方を恨むよ……」

 

「大丈夫。 そこは安心してくれたまえ。 君たちの安全は保障するよ」

 

菊岡は思い付いたように手を打ってから、イヤホンを取り出し、

 

「音声ログを圧縮して持って来ているんだ。 これが《死銃》氏の声だよ。 どうぞ、聴いてくれたまえ」

 

俺たちは片方のイヤホンを耳に入れ、菊岡が液晶画面を突くと、ざわざわと喧騒が再生される。

それが突然消失し、張り詰めた沈黙を、鋭い宣言が切り裂いた。

 

『これが本当の力、強さだ! 愚か者どもよ、この名を恐怖と共に切り刻め。 俺と、この銃の名は《死銃》……《デス・ガン》だ!!』

 

何処か非人間的な、金属音を帯びた声だった。

その声はロールプレイでは無く、殺戮を欲する本当の衝動を放射しているように思えた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

店を出てから、俺たちは今後の事を話した。

 

「和人。 危険だと思ったらすぐにログアウトしてね、いい??」

 

木綿季は涙を溜めながら、俺の顔を覗き込んだ。

 

「ああ、解ってるさ。 お前も危険だと思ったら、すぐにログアウトするんだぞ。 いいな??」

 

「うん、解ってるよ」

 




今回は導入でしたね。

さて、次回はGGOにログイン?ですかね。

てか、木綿季ちゃん、怒ると怖いね。

あと、帰るまでにはデザートは完食していたということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第74話≪銃の世界と黒髪美少女≫

ども!!

舞翼です!!

頑張って書きました。

それではどうぞ。


俺たちはセレブ御用達の店を出てから、エギルが経営するカフェ兼バーの≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫に向かっていた。

 

理由は、ALOでエギルが経営している店に、アイテムを預かって貰う許可を得る為だ。

ドアを押し開けたと同時に、備え付けられていたベルが“カランカラン”と音を立て、店内に響いた。

カウンターでグラスを磨いていた、巨漢の男がニヤっと笑いこちらを見た。

 

「いらっしゃい。 キリトにユウキちゃん」

 

俺たちは近くのスツールに腰を下ろした。

 

「エギル。 ジンジャエール」

 

「ボクも同じのお願い」

 

数分後。

眼前に炭酸の気泡を、シュワシュワと音を立てたグラスが置かれた。

一口飲んで喉を潤す。

俺たちは一息吐いてから、口を開いた。

 

「エギル。 実はALOから、キャラクターをコンバートさせる事になったんだ」

 

「だから……アイテムの事なんだけど。 二、三日の間だけ預かってくれないかな……」

 

エギルは一つ頷いてから、

 

「まぁ、それはいいが……また危ない事に、首を突っ込んでるんじゃねぇよな?」

 

「「ギクッ!?」」

 

エギル、勘が鋭すぎるよ……。

 

「大丈夫だ。 危険な事は無いはずだ」

 

「ちょっとだけ、他のゲームのリサーチをしてくるだけだから」

 

「……なら、いいけどよぉ。 何かあったら俺たちを頼れ、いいな??」

 

「「ああ(うん)」」

 

俺と木綿季は、『いい仲間を持ったな』、と改めて実感したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たちは今、菊岡に指定された入院病棟三階にやって来ていた。

ドアの隣のネームプレートに患者の名前は書かれていない。

ノックの後、ドアを引き開けた。

 

「おっす! 桐ケ谷君、お久しぶり!」

 

俺を出迎えた人物は、長いリハビリの期間にお世話になった、女性看護婦の安岐さんだ。

俺は軽く頭を下げた。

 

「あ……ど、どうも、ご無沙汰してます」

 

安岐さんは、俺の隣に眼をやった。

 

「そっか~、君が紺野木綿季ちゃんだね。 桐ケ谷君がリハビリ期間中、何時も君の事を言っていたね。『俺の大切な人だ』ってね」

 

人に言われると恥ずかしいな……。

あの時は早く歩けるようになって、木綿季に会いに行くことしか頭になかったからな。

 

「こんにちは、桐ケ谷(・・・)木綿季です。 和人がお世話になりました」

 

そう言ってから、木綿季はぺこりと頭を下げた。

安岐さんは首を傾げた。

 

「ん、桐ケ谷……紺野じゃなくて……」

 

安岐さんは手を打ってから、

 

「あ、そういうことね……。 二人はできているのね……。 なるほど、桐ケ谷君の必死さが解ったわ」

 

安岐さんは少し考えてから、

 

「二人は、もう経験済みなのね」

 

「「いや、まだです(けど)」」

 

「結婚の約束もしているんでしょ。 早めに終わらせときなよ」

 

木綿季が爆弾を投下した。

 

「誘っているんですけど。 和人は中々の奥手で」

 

嫌な予感がする。

 

「ほほう。 美少女の誘いを断るなんて、桐ケ谷君……いや、和人君も中々やるね」

 

「いや、そういうのは、もう少し大人になってから……。 木綿季も待ってくれるらしいので……」

 

安岐さんは笑みを浮かべた。

 

「まっ、頑張りなさい。 君たちはお似合いのカップルよ」

 

俺は自分を立て直してから、安岐さんに聞いた。

 

「……あと、今日なんですけど」

 

「あの眼鏡のお役人さんから話は聞いているよー。 何でも、お役所の為に仮想……ネットワーク?の調査をするんだって? 君たちが《あの世界》から帰って来て一年も経っていないのに、大変だねぇ。取り敢えず、これからよろしくね。 桐ケ谷夫婦」

 

「「こ、こちらこそ……よろしく(お願いします)……」」

 

俺は気になる事を聞いてみた。

 

「……で、眼鏡の役人は来てないんですか?」

 

「うん、外せない会議があるとか言ってた。 伝言、預かってるよ」

 

渡された茶封筒を開き、手紙を引っ張り出す。

 

【報告書は店で渡したアドレスに頼む。 諸経費は任務終了後、報酬と併せて支払うので請求すること。 追記――美人看護婦と婚約者と個室だからといって、若い衝動を暴走させないように】

 

「……あのやろう」

 

一瞬で封筒ごと握り潰し、ポケットに放り込む。

俺は強張った笑みで、安岐さんを見た。

 

「あー……それじゃあ、早速ネットに接続をお願いできますか……」

 

「あ、はいはい。準備出来てます」

 

俺たちが案内されたベッドの脇には仰々しいモニターの数々が並び、ベッドレストの上には新しいアミュスフィアが置かれている。

 

「じゃあ脱いで、桐ケ谷夫婦。 電極を貼るから」

 

「「は」」

 

「早く早く、カーテンあるから」

 

電極を貼ってから、俺たちはベットに横になった。

 

「何で、一緒のベッドに寝れるのかな~」

 

安岐さんは、ニヤニヤと笑みを零していた。

 

「ま、まぁ、色々あるんですよ……」

 

俺は言葉を濁した。

何か、色々とばれてる気もするが……。

 

「安岐さん。 ボクたちの体、お願いしますね」

 

「多分、五時間位潜りっぱなしだと思いますが……」

 

「はーい。 君たちの体はしっかり見てるから、安心して行ってらっしゃい」

 

それから俺たちは眼を閉じ、銃の世界に赴くコマンドを唱えた。

 

「「リンク・スタート」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

数秒後。 俺は銃の世界に降り立った。

この世界の空一面は、薄く赤味を帯びた黄色に染まっていた。

GGOの舞台である地は、最終戦争後の地球という設定だ。

この空は、黙示録的雰囲気を出す為の演出なのかもしれない。

俺は改めて、眼前に広がるGGO世界都市、《SBCグロッケン》の威容に眼を向ける。

メタリックな質感を持つ、高層建築群が天を衝くように黒々と聳え、それらを空中回廊が網目のように繋いでいる。

ビルの谷間を、ネオンカラーのホログラム広告が鮮やかに流れている。

俺が立っている場所は、金属プレートで舗装された道の上だった。

どうやら此処が、初期キャラクターの出現位置らしい。

俺は両手を広げて見た。

俺はそれを見て、嫌な予感がした……。

両手の肌は白く滑らかで、指も吃驚するほど細い。

視点からして、そんなに身長は高いとは思えない。

すると、後ろから声を掛けてきた人物が居た。

振り向くと、漆黒の大きな眼に長い黒髪を揺らした、女性プレイヤーであった。

 

「あの~、貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか??」

 

「えっと、キリトですけど……。貴方は??」

 

「ボクの名前は、ユウキでs」

 

「「え、ええええぇぇぇぇええええ―――――ッッッ!!!!!」」

 

よく見てみたら、ユウキだ。

現実世界の容姿に酷似している。

この世界では、敵を怯えさせる外見がパラメーターになる。

男たちは濃い無精髭(ぶしょうひげ)を伸ばし、或いは顔に目立つ傷痕を刻んでいる。

だがユウキのアバターは、一言でいえば美少女だ。

 

「え、本当にキリトなの!!?? ボクの婚約者のキリトだよね!!??」

 

「あ、ああ、そうだぞ……。 どうしたんだ、そんなに取り乱して……??」

 

俺はユウキに手を引かれ、近場にあるガラスに自身を映した。

そして、眼を見開いた。

 

「な……なんじゃこりゃ!!??」

 

映っていたのは、ユウキと同じく美少女だった。

長い黒髪が、頭頂部から肩甲骨あたりまで滑らかに流れている。

顔は手と同じで、透き通るような白、唇は紅、漆黒の瞳。

 

すると、俺たちに駆け寄るプレイヤーが居た。

 

「おお、お姉さん運がいいね! そのアバター、F一三〇〇番系でしょ! め~~~たに出ないんだよ、そのタイプ。 どう、アカウントごと売らない? 二メガクレジット出すよ!」

 

え……お姉さん??

俺は放心していたが、すぐに我を取り戻し、ある事故が起きていないか調べる為、両手で自身の胸をまさぐった。

幸い、そこには平らな胸板があった為、危惧した事には成らなかった。

次の言葉が俺の胸を貫く。

 

「おじさん、この子はボクの可愛い()なの!」

 

……ユウキさん、今何と仰いました。 俺の耳が確かなら、妹って。

うん。 腹を括るしかない……。

少し声のキーを上げて、

 

「……ユ、ユウ姉(・・・)。 怖いよ~」

 

と言い、俺はユウキに抱き付いた。

ユウキは、俺の頭を撫でてくれた。

 

「そ、そうなのか……。 姉妹(・・)なのか、悪かった」

 

……今のおじさんが姉妹だってよ。

てか、傍から見れば姉妹に見えるんだね……。

 

男はそれを聞き、残念そうにこの場から去って行った。

だがまぁ、一つだけ良かったことがある。

この世界に来た目的は、噂の《死銃》と接触して、正体を探ることでもある。

その為には、とにかく強いアピールをし、目立たなくてはならない。

この姿で勝ち続ければ目立つことが出来る、と言う事だ。

……俺って、妹キャラを通すのか……。

自分で言うのも何だが、こんなに可愛い子が銃をぶっ放すなんて、シュールすぎるだろう……。

 

「なぁ、ユウキ。 俺って妹キャラを通していくのか……??」

 

「この世界に慣れるまでは、姉妹で通そうよ!!」

 

ユウキさん、何かテンション上がってませんか??

そう言えば、前から妹が欲しいとか言ってたな。

……この世界に慣れるまで、ユウキの妹で通すか。

 

「この世界に慣れるまでは、俺はお前の妹でいくか……」

 

「姉妹なんだから、手を繋いで移動しようか」

 

そう言ってから、ユウキは手を差し出して来た。

俺は手を取り、握り返した。

 

「行こうか」

 

「おう」

 

それから、俺たちは移動を開始した。

 

――数分後、あっけなく道に迷った。

 

SBCグロッケンと言う都市は、どうやら広大なフロアが幾つも重なる、多層構造をしているらしい。

簡単に言えば、ダンジョンを彷徨っているみたいだ。

メインメニューから詳細なマップを呼び出す事は可能だが、表示される現在地と、実際に広がる光景を照合するが容易ではない。

だが、此処はMMOだ。

ここで取るべき手段は一つ。

俺たちは一人の後ろ姿に駆け寄り、背後から声を掛けた。

 

「「あの~、すいませーん。 道を……」」

 

振り向いたのは、女の子だ。

細い青い髪は無造作なショートで、くっきりとした眉の下に、猫科な雰囲気を漂わせる藍色の大きな瞳が輝き、小ぶりな鼻と薄い唇。

首には、サンドカラーのマフラーを巻いている。

彼女には警戒の色が見えたが、すぐにそれは消え去った。

彼女に眼には、女の子が映っていたからだろう。

……俺は男なんだが。

彼女を騙す事になってしまうけど、姉妹で通そう。

 

「……このゲーム、初めて? 何処行くの?」

 

「はい、初めてなんです。 おr……私たち、道に迷ってしまって……」

 

「何処か安い武器屋さんと、あと総督府、って所に行きたいな」

 

と言い、美少女二人は首を傾げた。

 

「総督府? 何しに行くの?」

 

「えっと、バトルロイヤルイベントのエントリーに……」

 

それを聞いた途端、彼女は眼を丸くした。

 

「え……ええと、今日ゲームを始めたんだよね? その、イベントに参加するには、ちょっとステータスが足らないかも……」

 

ユウキが、彼女の問いに答えてくれた。

 

「大丈夫だよ。 コンバートだから」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

彼女から笑みが浮かんだ。

 

「聞いていい? 何で貴方たち姉妹は、こんな埃っぽくて、オイル臭いゲームに来ようと思ったの」

 

「それは……ええと、私たちは、ずっとファンタジーなゲームばっかりやっていたんですけど。 たまには、サイバーっぽいのが遊びたいなってね。 ね、ユウ姉」

 

「うんうん。 銃を使うゲームに、興味もあったしね」

 

「そっかー。 それでいきなりBOBに出ようなんて、根性あるね」

 

彼女は大きく頷き、

 

「いいよ、案内してあげる。 私も総督府に行く所だったんだ。 その前にガンショップだったね。 好みの銃とか、ある?」

 

「「え、えっと……」」

 

俺たちは言葉に詰まった。

俺とユウキは、銃の事は全くの無知なのだ。

解るとしても、アサルトライフルとサブマシンガン位だ。

女の子は微笑をした。

 

「じゃあ、大きいマーケットに行こう。 こっち」

 

美少女三人(・・・・・)は、マーケットに歩を進めた。

 




遂に、GGOにログインしましたね。

この世界では、キリト君はユウキちゃんの妹?なんですかね(笑)

あと、キリト君はユウキちゃん以外の人に話す時は、キーが高くなっているということで。

シノンの過去の話を飛ばしてしまったが……。

何処かで書ければ書きますね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第75話≪武装選びとUntouchable!≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、ユウキちゃんが大胆発言?

それではどうぞ。


三人の美少女は、曲がりくねった路地や階段を次々通り抜け大通りに出た。

正面には、煌びやかな店舗が見える。

女の子が店舗に指差し、

 

「あそこがガンショップだよ」

 

女の子の背中を追って、俺たちは店内に足を踏み入れた。

店内は様々な色と光と喧騒で満ち、アミューズメントパークのようだった。

NPC店員は揃って露出の大きいコスチュームを纏った美女たちで、天真爛漫な営業スマイルを振りまいているのだが、彼女たちの手には物騒な黒光りする拳銃や機関銃が握られている。

 

「……何だか、凄い店だね。 ユウ姉」

 

「そうだね。 シオリ(・・・)ちゃん」

 

……シオリとは、俺の偽名だ。

これは、黒歴史になるな。

俺たちが言うと、女の子が苦笑した。

 

「本当は、こういう初心者向けの総合ショップよりも、専門店の方が掘り出し物があったりするんだけどね。 まぁ、此処で好みの銃系統と見つけてからそういうとこ行ってもいいしね」

 

確かに、店内をうろついているプレイヤーは、ビギナーっぽい印象が多い。

 

「さてと、貴女たちのスターテスは、どんなタイプ?」

 

最初に俺が答えた。

 

「えっと、筋力優先、その次が素早さかな」

 

「うーん、ボクは素早さ優先で、その次が筋力かな」

 

「二人とも、AGI型に近いわね。 じゃあ、ちょっと重めのアサルトライフルか、もうちょっと大口径のマシンガンをメインアームにして、サブにハンドガンを持つ中距離戦闘タイプがいいかなぁ……。 あ……でも、貴女たちコンバートしたばかりだよね? てことは、お金が……」

 

「「……あ」」

 

俺とユウキは右手を振り、ウインドウを開いた。

コンバートをすればキャラクターの能力は引き継がれるが、アイテムや所持金は引き継がれない。

つまり、必然的にゲームを始めた時の初期金額になるということだ。

 

「「……千クレジット(だね)」」

 

二人の金額を合わせても、二千クレジットしかない。

こんな金額で買い物が出来るのか……??

 

「……ばりばりの初期金額だね」

 

女の子は唇の下に人差し指を当て、首を傾げた。

 

「う~ん、……その金額だと、小型のレイガンしか買えないかも……。 実弾系だと、中古のリボルバーが……どうなかぁ……。――あのね、もしよかったら……」

 

俺とユウキは女の子が今から言う事を察し、首を横に振った。

ここまで助けて貰って、会ったばかりの人にお金を貸してもらうなど以ての外だ。

 

「い、いや、いいですよ。 そこまでは。 えっと……何処かに、ドカンと手っ取り早く儲けられるような場所ってないですか? 確か、この店にはカジノがあっるって聞いたんですが……」

 

「えっ、カジノがあるの!!?? 見てみたいな~~」

 

ユウキは眼を輝かせているね。

こいつはイベントゲームが大好きだからなー。

 

「ああいうのは、お金が余っている時に挑戦した方がいいよ。 確かに、この店にカジノはあるけどさ……」

 

女の子は視線を巡らせ、店の奥を指差す。

 

「ほら。 あそこにギャンブルゲームがあるよ」

 

指差す先には、壁際の一画を占領する大きな代物が輝いていた。

金属タイル敷いた床の奥に、NPCガンマンが立っている。

そのガンマンの後ろには無数の弾痕に刻まれたレンガの壁と、その上部にピンクのネオンで≪Untouchable!(アンタッチャブル)≫の文字。

 

「あれは何??」

 

ユウキの問いに、女の子が解説してくれた。

 

「手前のゲートから入って、奥のNPCガンマンの銃撃を躱しながら何処まで近づけるか、っていうゲームだね。 今までの最高記録があそこだね」

 

女の子が指を指した先には、赤く発光するラインが引いてあった。

全体の三分の二といった所だ。

何か、俺も興味が出て来たな。

俺は女の子に聞いてみた。

 

「あれをクリアすると、幾ら貰えるんです??」

 

「えっと、確かプレイ料金が五百クレジットで、十メートル突破で、千クレジット。 十五メートル突破で、二千クレジットかな。 もしガンマンに触れば、今まで注ぎ込んだお金が全額バックね」

 

「「ぜ、全額!!??」」

 

「ほら、看板の所にキャリーオーバー表示があるよ。 えっと、今は六十万ちょいか。 でも、クリアするのは不可能ね」

 

「何でですか??」

 

俺が聞くと、女の子は肩を竦めた。

 

「あのガンマン、八メートルを超えるとインチキな早撃ちになるんだ。 リボルバーのくせに、無茶苦茶な高速リロードで三点バースト射撃するの。 予測線が見えた時には、もう手遅れよ」

 

「予測線……」

 

女の子が俺たちの肩を叩き、

 

「ほら、またプール額を増やす人が居るよ」

 

俺たちの視線の先には、三人連れの男たちが映った。

その内の一人がゲートの前に立ち、(てのひら)をパネルに添えた。

同時にゲーム開始のファンファーレが響き渡った。

この音を聞き、店内に居たプレイヤーたちが集まってくる。

NPCガンマンが英語で『へぇい。 てめぇのケツの穴を吹き飛ばしてやるぜ』的な言葉を放った後、ホルスターからリボルバーを抜いた。

ホログラフの数字が【0】になり、ゲートの金属バーが開いた。

男は『ぬおおぉぉりゃぁああ』と叫びながら、ガンマン目掛けてゲートを走る。

一メートル走った所で男は左足を上げた。

次の瞬間、ガンマンがリボルバーから銃弾を発射し、男が上げた左足の下を銃弾が通り抜けて行った。

男には、弾丸が通るコースが解っていたようだ。

 

「……今のは」

 

俺が呟くと、女の子は小声で答えてくれた。

 

「今のが、≪弾道予測線(バレッド・ライン)≫による攻撃回避」

 

男はガンマンまで残り五メートルという所で、三点バーストによって沈められていた。

男はとぼとぼとゲートから出て、元の場所に戻った。

女の子は再び肩を竦めてから、

 

「ね? 無理でしょう。 左右に動けるならともかく、殆んど一直線に突っ込まなきゃならないんだから。 絶対にあの辺が限界なのよ」

 

「シオリちゃん。 ちょっと耳貸して」

 

ユウキに言われ、俺は耳を貸した。

 

「(あのゲームにクリア出来たら、何でも一つだけお願いを聞いてあげるよ)」

 

と言ってから、ユウキは顔を離した。

 

「……本当に??」

 

「うん、本当だよ」

 

……うん。 絶対にクリアする。

やばい……燃えてきた……。

女の子が、俺の変わりように首を傾げていた。

 

「……ねぇ、何でそんなにやる気になっているの……??」

 

俺の耳には、彼女の言葉は届かない。

どうやってあれをクリアするか考えていないからだ。

 

ユウキは微笑みながら答えた。

 

「えっとね。 ボクが魔法を掛けたんだよ」

女の子は、再び首を傾げていたが。

 

「よしッ!! じゃあ、行ってくるね。 ユウ姉」

 

「行ってらっしゃい~」

 

ユウキは手を振り、俺を送り出してくれた。

このゲームは予測線が見えた時点で、クリアが出来なくなっているはずだ。

なら、答えは一つだ。

予測線を予測すればいい話だ。

 

「ねぇ、貴女の妹さん。 クリア出来るの……??」

 

「うん。 100%クリアするね」

 

という声が後ろから聞こえたが。

俺はゲートの前に立ち、パネルに手を添えた。

次いで、賑やかなサウンドが鳴り響く。

同時にカウントダウンが始まった。

カウントが【0】に成り、ゲート前の金属バーが開いたと同時に、床を蹴った。

ガンマンがリボルバーの照準は頭、右胸、左足をポイントしているはずだ。

それを予測し、思い切り左に跳ぶ。

直後、予想した場所を銃弾が通り過ぎた。

それを確認した後、思い切り跳び中央に戻る。

飛び道具を攻略する手段は、相手の《眼》見て射線を読むことだ。

SAOではモンスター《眼》を見て、先読みをしたものだ。

このシステム外スキルには、何度お世話になった事か。

このまま先読みを続けながら左右に跳び、弾丸を躱していった。

残り八メートルになると、女の子が言っていた三点バーストのインチキな早業になった。

これも躱して、残り二メートル半。

今、最後の銃弾を避けたので弾切れのはずだ。

だが、弾切れの筈なのにNPCガンマンが――にやりと笑った気がした。

突進してガンマンにタッチしようとしたが、嫌な予感がしたのでジャンプに変更。

ジャンプした途端、俺が居た場所にノーリロードでレーザーが放たれた。

俺は心の中で『そりゃないでしょ』と叫びつつ、空中で一回転半してガンマンの隣に着地し、肩にタッチした。

すると、ガンマンが頭を抱え、

 

「オーマイ、ガ―――――ッッッ!!」

 

と叫び、膝を付いたと同時にファンファーレの音が鳴り響き、ガンマンの背後のレンガが崩れ、そこから大量のコインが流れ出した。

ウインドウが出現し、金額入手ボタンに触れた。

するとコインが消滅し、ストレージの中に約六十万クレジットが収納された。

よっしゃッッ!! 金とお願い券が手に入った。

まさに、一石二鳥だね。

俺はゲートから出て二人の場所に戻った。

 

「お疲れさま」

 

「あれ、ユウ姉もクリア出来るよ。 私が出来たんだし」

 

「う~ん、でもどうやって??」

 

「あれはね。 弾道予測線を予測すればクリア出来るよ」

 

「なるほどね。 そういう攻略方があったのね」

 

そう言ってから、俺とユウキはハイタッチをした。

何か、妹の振りをするのが慣れてきたような……。

思い過ごしであって欲しい……。

水色髪の少女が声を枯らしながら、言った。

 

「……あなた。 弾道予測線を予測して、あのゲームをクリアしたの……??」

 

「え、まぁ、そうです」

 

「……貴女たち姉妹って、何者……」

 

「「えっと……私(ボク)たちは、ユウ姉(シオリちゃん)が大好きな姉妹だけど……」」

 

俺たちの言葉を最後に、ギャラリーたちが口を開けて黙り込んでしまった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

数分後。

周りに居たギャラリーたちが散ったガンショップの一角で、ライフルを順に眺めていた。

 

「ユウ姉。 どんな銃にすればいいか解らないね……」

 

「メインアームはアサルトライフルかマシンガンがにいいって言っていたけど……。 何か、しっくりこないんだよね……」

 

「「う~ん……」」

 

少女は水色髪を揺らしながら、俺たち二人を『じーっ』と見ていた。

 

「……ねぇ、あなたもあんな回避技術持っているの……??」

 

この言葉は、ユウキに向けられた言葉だ。

 

「うん、持ってるよ。 シオリちゃんに出来る事は、ボクも出来るからね」

 

「……貴女たちって、前はどんなゲームに居たの?」

 

俺が少女の問いに答えた。

 

「よくある、ファンタジー系のやつですよ。 私たちは二つ名持ちでしたね」

 

「そう……。――BOBの予選では、貴女たちの戦闘力を見せて貰うね」

 

それから、ショーケースの前をゆっくり歩き始めた。

どれにしようか迷いながら唸っている内に、一番端の陳列棚まで来てしまった。

その一番端の陳列棚には、銃と明らかに異なる、金属の筒が並んでいた。

俺が少女に聞いた。

 

「あの……これは?」

 

彼女は肩を竦め、

 

「ああ……これは光剣よ。 正式名称は《フォトンソード》だけど、みんなレーザーブレードとか、ライトセーバーとか、ビームサーベルとか、適当に呼んでる」

 

「け、剣!!?? この世界にも剣があるんですか。 ユウ姉!!」

 

「うん!! これにしようよ!!」

 

そう言ってから俺とユウキは、黒い塗装の筒の画面をワンクリックし、出てきたポップアップメニューから【BUY】を選択した。

それからNPCの店員がやって来て、スキャナ画面を表示させた。

それに掌を押しあて、《フォトンソード》を実体化させてから手に取り持ち上げた。

NPC店員は『お買い上げありがとうございました~』と笑顔で一礼してから、元の定位置まで戻った。

 

「……あーあ、二人して買っちゃった。 ま、戦闘スタイルは自由だけどさ。 貴女たちは、戦闘スタイルも似てる気がするね」

 

「ま、まぁ、確かに。 私たちは戦闘スタイルも似てますね」

 

「だねー。 ボクとシオリちゃんは、二人で一人って感じだからね」

 

そう言ってから親指でスイッチを入れ、エネルギーの刃をが一メートルほど伸長して周囲を照らした。

 

「「おお」」

 

何度か光剣を振ってから、エネルギー刃を収納させた。

 

「サブに、ハンドガンは持っていた方がいいわよ。 牽制に使えるしね」

 

「「……確かに」」

 

「もう、お願いしようか。 ユウ姉」

 

「そうだね」

 

「あの、もう、お任せします」

 

女の子は銃が並んでいる陳列棚をゆっくり歩き、その内の一つを指差す。

 

「貴女たちにはこれがいいわね。《FN・ファイブセブン》」

 

少女が言った《FN・ファイブセブン》と予備弾倉、防護ジャケット、ベルト型の《対光学銃防護フィールド発生器》を二つずつ購入したら、先程のゲームで稼いだ六十万が綺麗に消えてしまった。

 

「一通り買い終えましたね」

 

「ありがとう。 助かったよ」

 

少女にお礼を述べると、

 

「いいよ、こっちもやることが無くて暇だったしね。 エントリーまで時間があるけど、店の中を見て行く??」

 

「いや、いいですよ」

 

「総督府に行こうよ」

 

「わかったわ。 それじゃあ、行きましょうか」

 

美少女三人は総督府に向けて足を進めた。

 




武装選びが終わりましたね。
あと、シオリの漢字の書き方は士織ね。
ゲームは、キリト君がクリアしましたね。

つか、キリト君。妹キャラが板に付いてきてるね(笑)
ユウキちゃんが、お姉さんっって感じだもんね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第76話≪BoB予選開始≫

ども!!

舞翼です!!

書きあげました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


総督府に向っている途中で、俺は女の子に声を掛けた。

 

「あの、すいません」

 

女の子はくるりと振り向き、

 

「どうしたの?」

 

俺とユウキは、顔を合わせてから頭を下げた。

姉妹と偽ったことを謝るために。

 

「「ごめんなさいッッ!!」」

 

女の子は、俺たちが頭を下げた事に驚いていた。

 

「ど、どうしたの!!??」

 

頭を下げながら俺が答えた。

 

「……俺たちは貴方を騙していました。……実は俺、男なんです……」

 

「ボクたち、本当は恋人なんです……」

 

「……えっと。 どういう事か説明してくれる??」

 

俺たちは包み隠さず、これまでの事を話した。

女の子は腕を組み、

 

「なるほどね。 其処に私が通りかかったということか。 あと、姉妹じゃなくて恋人なのね。――まぁいいわ。 許してあげる」

 

「「ありがとう」」

 

俺たちは頭を上げた。

 

「約束して。 絶対に予選を通過して、本戦まで上がってくること」

 

「おう、約束するよ」

 

「うん、約束するね」

 

女の子はウインドウを開き、ネームタグをスライドした。

表示された文字は――【Sinon】。 性別はF(フィーメル)

俺たちもネームタグをスライドさせる。

 

「キリトとユウキね。にしてもあんた達、やっぱり恋人より姉妹に見えるわね」

 

「まぁ、姉妹で通そうと思っていたからな」

 

「この世界では、キリトとボクは双子に見えるしね」

 

そう言ってから、シノンと握手を交わした。

数分歩いた後、眼の前に途轍もなく巨大な金属のタワーが屹立していた。

おそらく、この建物が総督府だろう。

内部は広い円型のホールだった。

正面モニターには、《第三回バレット・オブ・バレッド》のプロモーション映像が映し出されている。

右端に設置させている端末まで足を進め、一台の前に赴く。

シノンがひょこっと顔をこちらに向け、

 

「これで大会のエントリーをするの。 よくあるタッチパネル式端末だけど、操作のやりかた大丈夫そう?」

 

ユウキが、シノンの質問に答えてくれた。

 

「大丈夫だと思うよ。 解らなくなったら聞くね」

 

俺は端末に眼を向けた。

エントリー者名に《kirito》。

職業欄は空欄にした。

指先でメニューを辿ると、画面フォームに【以下のフォームには、現実世界におけるプレイヤー本人の住所等を入力してください。 空欄や虚偽データでもイベント参加は可能ですが、上位入手プライスを受け取ることはできません】という内容が表示された。

とても魅力的な誘いではあったが、今回の目的は《死銃》なるプレイヤーに接触し、俺たちの眼で見極める事だ。

ゲーム内でリアル情報を晒すのは賢明な判断ではない。

仮に《死銃》なるプレイヤーが運営側の人間で、登録データにアクセスすることが出来るかもしれないのだ。

それにこのゲームは胡散臭すぎる。

俺はフォームを空欄にしたまま、一番下の《SUBMIT》ボタンに触れた。

エントリー完了を知らせる画面と、予選トーナメント一回戦の時間と日付が表示された。

 

「終わった?」

 

「うん、終わったよ」

 

「おう、終わったよ」

 

三人は端末から離れた。

シノンが言葉を発した。

 

「貴方たちは、何処のブロック?」

 

「えっと、俺はFブロック。 Fの三十七番」

 

「えっと、ボクはCブロック。 Cの十五番」

 

「キリトとは決勝で当たるわね。 絶対来なさいよ」

 

「了解だ」

 

俺たちは総督府一階ホールの奥へ向かってから、エレベータに乗り地下【B20F】で降りた。

床、柱、壁は全て黒光りする鋼板か、赤茶けた金網。

ドームの壁際は無骨なデザインのテーブルが並び、頂点分には巨大なホロパネルで【BoB3 Preliminary】という文字と、残り二十分という文字が表示されていた。

 

「さて、控え室に行きましょうか? 貴方たちも、さっき買った戦闘服に着替えないとね」

 

「「ああ(うん)」」

 

「よかったわ。 キリトが男だと解らなかったら、一緒に着替えていたわ」

 

「大丈夫だよ。 ボクがそんな事させなかったから」

 

「……まぁ、うん、そうだな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

戦闘服に着替えてから、壁際のデーブルの椅子に腰を下ろした。

BoBのレクチャーをしてくれるらしい。

 

「最低限のことだけ説明しておくね」

 

予選までのカウントは十分を切っている。

 

「カウントがゼロになったら、全員予選一回戦の相手と、二人だけのバトルフィールドに自動転送されるの。 フィールドは一キロ四方の正方形。 地形、天候、時間はランダムね。 決着したら勝者はこの待機エリアに転送されるわ。 次の対戦者が決まっていれば、すぐに二回戦がスタートね。――質問はある??」

 

俺とユウキは首を横に振った。

 

「キリト、もう一度言うけど決勝まで来るのよ。――最後に教えてあげる」

 

「最後?」

 

「敗北を告げる弾丸の味」

 

俺は思わず微笑してしまった。 苦笑いなどではなく、本心からの笑みだ。

こういうメンタリティの持ち主は嫌いではない。

 

「……楽しみだな。 しかし、君の方は大丈夫なのかい?」

 

シノンは『フン』、と小さく息を吐き出した。

 

「予選落ちなんかしたら引退する。 今度こそ――」

 

広いドーム犇く好敵手たちを凝視するシノンの瞳が、強烈な瑠璃色の光を放った。

 

「――強い奴らを、全員殺してやる」

 

――この台詞は、彼女の心の奥底から絞り出すように聞こえた。

俺たちの耳が、近づく音を捉えた。

一直線に歩み寄ってくるプレイヤーは、銀灰色の長髪を垂らした背の高いプレイヤーだった。

 

ダークグレーの迷彩を上下に身に纏い、肩にはアサルトライフルを下げている。

戦歴の兵士というよりは、特殊部隊の隊員といったところか。

男はシノンを真っ直ぐ見て、口許に笑みを零した。

 

「遅かったねシノン。 遅刻するんじゃないかと思って心配したよ」

 

シノンは微笑を浮べて応じた。

 

「こんにちはシュピーゲル。 ちょっと予想外の用事で時間取られちゃって。 あれ、でも……あなたは出場しないんじゃなかったの??」

 

男は照れくさそうに笑いながら、片手を頭に置いた。

 

「いやあ、迷惑かと思ったんだけど、シノンの応援に来たんだ。 試合も大画面で中継されるしさ。 それにしても、予想外の用事って?」

 

「ああ……ちょっと、そこの二人を案内しててね」

 

「こんにちは」

 

「どーも、そこの人です」

 

「あ……ど、どうも、はじめまして。 ええと……お二人はシノンさんのお友達さんですか?」

 

シュピーゲルは外見に似合わず、礼儀正しい性格のようだ。

『ここでどう答えると面白いかなぁ』と思いながら言葉を探していたら、シノンが短く吐き捨てた。

 

「騙されちゃダメよ。 二番目に挨拶をした奴は《男》よ」

 

「えッ!? 姉妹じゃなくて」

 

眼を丸くするシュピーゲルに、俺は普通に名乗った。

てか、姉妹に見えたのね。

 

「あー、キリトと言います。 男です」

 

「お、男……。 え、ていうことは、えーと……」

 

シュピーゲルは困惑した顔で、俺とシノンを交互に見る。

ユウキが『なるほどね』、と手を打ち、

 

「大丈夫だよ、シュピーゲルさん。 この人はボクの《婚約者》だから」

 

「ッ!?……えーと、その、あの」

 

ユウキは『やっぱりね』と言っていたが、何がやっぱりなのか??

婚約者という言葉を出した途端、シュピーゲルが安堵したような……。 気のせいかな。

 

ドーム内に控えめのボリュームで流れていたBGMがフェードアウトし、代わりに荒々しい音楽が響き渡った。

次いで、女性の合成音声が大音量で響き渡った。

 

『大変長らくお待たせしました。 ただ今より、第三回バレッド・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始致します。 エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。 幸運をお祈りします』

 

ドーム内に盛大な拍手と歓声が沸き起こった。

シノンは立ち上がり、

 

「二人とも本戦まで来るのよ。 私に案内までさせたんだから」

 

「おう、任せろ」

 

「うん、任せて。 絶対に本戦まで行くから」

 

俺とユウキは、転移に備える為前を向いた。

カウントダウンがゼロになり、体を青い光の柱が包み込み、たちまち視界の全てを覆い尽くした。

 

 

Side ユウキ

 

ボクの眼の前には薄赤いホロウインドウで、【yuuki vs ジェネラル将軍】。

将軍将軍?? 何で同じことを言ってるのかな?

ウインドウの下には、【準備時間:残り58秒 フィールド:深き森の中】と書いてあるね。

さてと、準備しなきゃね。

えっと、まずは主武装を《ムラサメ・斬》っていう光剣、副武装を《F・Nファイブセブン》にセットと。

キリトとボクって、初戦から光剣を振り回すのかな??

 

残り時間がゼロになり、転送エフェクトがボクを包んだ。

放り出された場所は、深い森の中だ。

このフィールドは、木が沢山あって視界が悪いね。

隠れる場所も沢山あるしね。

う~ん、取り敢えず全力で走ってみようかな。

走っていたら、予測線がボクの体に伸びた。

次の瞬間、弾丸の嵐がボクを襲う。

 

「きゃ!」

 

ボクは近くの木の柱に隠れた。

さっきのが、シノンが言っていた《フルオート射撃》かな。

約二十メートル離れた所から銃撃してるよ。

 

「う~、どうしよう。 近づけないよ」

 

途中でハンドガンを撃ったんだけど、全く違う方向に飛んで行ったし。

本当にどうしよう……。 ボクが今使える武器は、《ムラサメ・斬》しかないよ。

この状況で、キリトならどうするんだろう??

そう言えば転移する直前に、『みんなが吃驚することしようぜ』って言ってたっけ。

う~ん……あ、そう言えばALOでは魔法が切れたっけ。

予測線上にタイミングを合わせて光剣を当てれば、銃弾は切れるんじゃないかな……??

やってみる価値はあるよね。

将軍さんは何処に居るのかな??

ボクは耳を澄ませて将軍の位置を探った。

……此処から真っ直ぐ、十五メートルの所に隠れているね。

 

ボクは右腰のベルトから《ムラサメ・斬》を外した。

親指でスイッチをスライドさせ、青色に輝く刃が長く伸びた。

 

「よし!!」

 

ボクは一直線に、将軍目掛けて走り出した。

その途中で、六本の弾道予測線がボクの体に伸びてきた。

そこに光剣の刀身を当て、寸分の狂いもなく遮った。

光剣を閃光のように動かし、二弾、三弾と銃弾を全て弾いていく。

弾くと同時に、耳元でプラズマエネルギーによって弾かれる衝撃音がする。

遂に、将軍さんが弾切れになった。

ポケットから予備のマガジンを取り出そうとするけど、ボクの方が速い。

 

「ま、マジかよ!!??」

 

残り二メートル。

ボクは突進の勢いを弱めずに、全力の突き。

SAOの世界で、ボクとキリトが好んで使っていた片手剣ソードスキル単発重攻撃《ヴォーパルストライク》。

光の刃が将軍さんの胸を貫通し、【Dead】の文字が浮かび上がった。

 

「つ、疲れた……。 あ、途中でハンドガンを使うの忘れた……」

 

ボクは光剣を左右に振り払い、スイッチを切る。

光剣を右腰のスナップリングに吊った。

勝利を告げるウインドウが浮かび上がると、ボクは元の控え室に戻された。

 

Side out

 

 

俺が待機エリアに戻ると、ちょうどユウキの試合も終わった所であった。

俺はユウキに歩み寄った。

 

「勝ったか?」

 

ユウキは、Vサインで応じた。

 

「俺も勝ったぞ」

 

シノンはまだ戻って来ていない。ということはまだバトル中だということだ。

シノンが映っている場所を探している、その時だった。

俺とユウキの後ろから声がしたのは、低く乾いた、それでいて金属質な響きのある声だ。

 

「おまえたち、本物、か」

 

「「ッ!?」」

 

反射的に俺たちは跳び退き、振り向く。

全身ボロボロに千切れかかったダークグレーのマント。

目深に被ったフードの中には漆黒で、その奥の眼だけが仄かに赤く光る。

俺は一瞬ゴーストと見間違えてしまった。

だが、この世界にゴーストが居るはずがない。

俺はこのプレイヤーの足元を確認した。

すり切れたマントの裾から、ほんの少しだけ爪先が覗いていた。

俺は大きく息を吐いた。

隣に居るユウキも同様だ。

俺たちは、何時でも放剣出来る状態だ。

 

「本物って……どういう意味だ? あんた誰だよ?」

 

「そうだよ。……答えて欲しいなら名乗りなよ」

 

不快で切れ切れの声が響く。

 

「試合を、見た。 お前ら、剣を、使ったな」

 

「あ……ああ、別にルール違反じゃないだろ」

 

俺の声は掠れていた。

ユウキの声は力強かった。

 

「何でそんなことを聞くの。 貴方は何者?」

 

ボロマントはCブロックと、Fブロックに載っている俺たちの名前を指し、

 

「この、名前、あの、剣技。……お前たちは、本物、なのか」

 

俺も強気で出た。

 

「解らないな。 本物って何のことだ?」

 

「本物だとしたらどうするの?」

 

こいつはワザとグローブの隙間を覗かせた。

其処にはタトゥーが刻まれていた。

図柄は、カリカチュアライズされた西洋風の棺桶。

蓋にはニタニタ笑う不気味な顔が描かれている。

その蓋は少しだけずらされ、内部から白い骸骨の腕が伸びて、手招きをしている。

このエンブレムは、殺しを快楽とする集団《笑う棺桶》の図柄だ。

此処で導き出される答えは一つ。

このボロマントはSAO帰還者で、《笑う棺桶》に属していたという事だ。

ユウキが居てくれなかったら、俺は危険な状況に陥っていたかもしれない。

ボロマントが低く囁いた。

 

「……本物、だったら。 いつか、殺す」

 

この言葉は、ゲーム内のロールプレイだとは全く思えなかった。

ボロマントは音も無く遠ざかって行き――唐突に消滅した。

俺たちは大きく息を吐いた。

 

「もしかしたら、あれが《死銃》かもね」

 

「……ああ、その可能性は高いかもな……」

 

あの声は、ボイスレコーダで聞いた声と限りなく一致する。

 

「これは本選で調べる必要があるね」

 

「だな。――さっきは助かったよ、ありがとう」

 

「旦那を守るのは妻の役目だからね」

 

「いや、それは逆じゃないか」

 

「だから、和人はボクを守ってね」

 

「ああ、絶対に守る」

 

張り詰めていたものが解れていく、そんな気がした。

俺は改めて誓った。

命を賭けて、木綿季を守ると。




ユウキちゃんの戦闘が、キリト君と同じになってしまった……。

戦闘スタイルが似ているっていうことで勘弁してね(>_<)

さて、死銃と接触しましたね。
シノンには死銃の事は話していないということで。
あと、ブロックは本選に出る為に分けたということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第77話≪BoB本戦前≫

どもっ!!

舞翼です!!

頑張って書きました。

今回はご都合主義発動です(笑)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


二、三回戦も順調に勝ち進んでいった。

俺の決勝の相手はシノン。

ユウキの決勝の相手はボロマントに決定した。

俺は心配になり、ユウキに声を掛けた。

 

「なぁユウキ」

 

「んー、どうしたの?」

 

「本戦の出場権を手に入れたんだから、無理に戦わなくてもいいぞ」

 

「大丈夫だよ。 ボロマントさんを探るいい機会だしね」

 

俺は暫し沈黙してから答えた。

 

「……わかった。 無茶だけはするなよ」

 

「うん、無茶はしないよ」

 

この会話を終えた数秒後に、俺たちの体を青い光が包み込んだ。

 

 

Side ユウキ

 

ボクは今、暗闇の中に浮かぶ一枚の六角形の上に立ち、上部に映る薄赤いホロウインドウを見詰めている。

其処にはボクの名前と、ボロマントさんの名前が浮かび上がっている。

上部には【yuuki vs Sterben】、下部には【準備時間:残り30秒 フィールド:失われた古代寺院】と表示されてる。

ボクは主武装《ムラサメ・斬》、副武装に《FN・ファイブセブン》を装備した。

 

「う~ん、スティーブンって読むのかなー??」

 

カウントがゼロになって、ボクは黄昏の空の下に転移した。

上空では黄色い雲が千切れんばかりに流れ、傍らには巨大な柱が崩れ落ちている。

昔に滅びた神殿といった所だね。

周りを見渡しながら慎重に進んで行くと、ボロマントさんが居た。

ボクとの距離は、約三五メートル位かな。

ボクは《ムラサメ・斬》を腰のベルトから外し、青色に輝くプラズマの刃を伸ばした。

光剣を下げながら、残り五メートルという所まで近づいた。

ボクは話し掛けた。

 

「何で武器を構えないの?」

 

「本戦出場は、決定した。 これ以上戦っても、無意味だ」

 

本戦には出れるから、ボクとの勝負は如何でもいいってことかな??

何か、ちょっとむかつく。

 

「じゃあ、斬っていいかな??」

 

「……似てる。 黒の剣士の相棒、絶剣に」

 

――ボロマントさんは、圏内事件で遭遇した《笑う棺桶》の誰かだよ。

あそこに居たのは、PoH、ジョニーブラック、赤目のザザだよね。

じゃあ、三人の中の誰かなの??

でも、情報が少なすぎるよ……。

これは和人と相談しないとね。

 

「じゃあ、バイバイ」

 

ボクは体に染みついたスキル。

片手剣ソードスキル、《バーチカル・スクエア》放った。

 

「……やはりお前は、黒の剣士の……ククク……」

 

この攻撃を受けて、【Dead】の文字が浮かび上がった。

ボクは《ムラサメ・斬》を左右に振ってから、光剣のスイッチを切る。

光剣を右手に持ちながら、地面に座り込んでしまった。

 

「……大変な事になってきちゃったよ」

 

視界の上には、勝者のホロウインドウが表示された。

ボクは青い光に包まれ、控え室に戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺が転移された場所は、どこまでも一直線に伸びる高架道、その先で真っ赤な夕日。

《大陸間高速》ステージだ。

俺は大声で叫んだ。

 

「なぁシノン。 決闘スタイルで勝負を決めないか?」

 

すると、俺の真横を弾丸が通り過ぎた。

次いで、弾丸が道路に着弾し大きな爆発音。

OKという合図だな。

シノンはバス中から姿を現し、歩き出した。

俺も柱から姿を現し、歩き出す。

シノンとの距離が、残り約三メートルといった所で停止した。

 

「私も決闘スタイルがいいわ。 どうせチャンスは一度きりだったもの」

 

「そうか。 なら最高の勝負をしよう」

 

俺は左腰のホルスターから《FN・ファイブセブン》抜き、スライドを引く。

排出された弾丸を空中でキャッチしてから、シノンに言った。

 

「俺が十メートル離れて、シノンはライフルを、俺は剣を構える。 で、この弾丸が地面に落ちたら決闘スタート。 どうかな??」

 

シノンは驚きを通り越して、呆れていた。

 

「あんたバカなの。 たった十メートルからなら、このヘカートの弾は絶対に当たるわ。 私のスキル熟練度とスターテス補正、それにこのヘカートのスペックが重なるから、システム的に必中距離なのよ。 光剣を動かす暇もないわよ。 あなた自殺願望者なの??」

 

「まぁまぁ。 勝負はやってみきゃ判らないだろ」

 

俺は笑みを浮かべた。

 

「はぁー、解ったわ。 それでいいわよ」

 

「俺は十メートル離れるから、その間撃たないでくれよ」

 

今頃観客たちは、首を捻っているだろうな。

『あの二人は何やってるの』ってな。

俺は十メートル離れた所に立ち、シノンに向き直った。

シノンも銃撃の構えを取っている。

俺も光剣を左腰のベルトから取り外し、親指でスイッチをスライドさせ、紫色のエネルギーの刃を伸長させた。

俺のシノンの間で、緊張感が張り詰めていく。

 

「……じゃあ、行くぜ」

 

左の指で握った弾丸を弾く。

空に舞い上がり、ゆっくりと落ちてくる。

俺はその間に腰を落とし、右手で握っている光剣をやや下向きに垂らした。

弾丸がゆっくりゆっくりと、回転しながら落ちてくる。

落ちた瞬間、ヘカートからオレンジ色の炎が迸った。

俺は雷閃のように光剣を振った。

輝く小さな弾丸が二つに、左右に分かれて後ろに飛んでいった。

 

俺が今行ったことは、光剣を斜めに斬り上げ、己に向かってくる弾丸を斬った(・・・)

左右に分かれた弾丸が道路に着弾し、凄まじい爆発音が起こった。

俺は突進し、シノンの背後に回り光剣を喉元で停止させた。

沈黙が支配し、プラズマの振動と風の音だけが聞こえた。

シノンが囁いた。

 

「……ねぇ、どうして私の照準が予測できたの?」

 

「スコープのレンズ越しでも、君の眼が見えたから」

 

つまり――視線。

視線を読み、弾道を予測した。

シノンは唇を震わせ、

 

「貴方は、その強さを何処で身に付けたの……」

 

俺は暫く沈黙してから、

 

「これは強さじゃない。 ただの技術さ」

 

「嘘よ。 嘘よそんなの。 テクニックだけでヘカートの弾を斬れるはずがない。 あなたは知っているはずよ。 私にもその強さを教えて。 私は……それを知るために……」

 

一拍置いてから、言葉を発した。

 

「俺は強くなんてない、むしろ弱いさ。 ただ俺は、強くあろうと頑張っているだけさ」

 

「……何で、そんなこと」

 

「……俺には、守りたい人たちが居るからかな」

 

俺は小さく首を振った。

 

「――さて、この勝負は俺の勝ちでいいかな?」

 

「え……あ、その、ええと……」

 

どうやらシノンは、気持ちの切り替えが出来ていないようだ。

俺は顔を近づけて、

 

「降参してくれないかな。 女の子を斬るのは好きじゃないんだ」

 

シノンは俺の言葉を聞き、現状を再確認したようだった。

この光景が待機ドーム、総督府ホール、グロッケン中に生中継されていることに。

シノンは顔を赤く染めて、

 

「…………あんたともう一度戦うからね。 明日の本戦、私と遭遇するまで絶対に生き残るのよ」

 

それからぷいっと顔を背け、『リザイン!』と叫んだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

試合が終了し、俺は控室に転送された。

俺の眼の前で、ユウキが微笑んで立っていた。

 

「おう、お疲れ」

 

「うん、お疲れ」

 

ユウキは真剣な表情になり、

 

「――帰ったら重要な話があるんだ」

 

「……まさか、ボロマントのことか?」

 

ユウキは頷いた。

ユウキは気持ちを切り替えて、

 

「さっきの試合見たよ。 凄かったね。 あそこから銃弾を斬るなんて」

 

「お前も、やろうと思えば出来るぞ」

 

「最後、シノンと何を話していたの」

 

「ああ、俺の強さのことだ。 でも、俺は強くなんかない。 皆が支えてくれるから強く居られるんだ」

 

ユウキは、俺に体重を預けてきた。

 

「ボクも同じだよ」

 

「…そっか」

 

「明日の本戦に備えて、今日はログアウトしようか??」

 

「ああ、そうしよう」

 

俺たちは右手を振って、ウインドウを出現させた。

それから下部に表示している、《Log Out》ボタンに触れた。

俺たちは現実世界に帰還した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

《第三回バレット・オブ・バレッツ》の予選を通過し、本戦まで駒を進めた俺たちは、ログインしていた御茶ノ水の病院から自宅に戻った。

今の時刻は、夜の11時を回っている。

 

「「……た、ただいまー……」」

 

家の中は静まっていた。

家族全員が就寝しているのだろう。

俺たちは、抜足差し足で二階に上がった。

部屋に入り、ベッドに腰を掛けた。

 

「……決勝で、何かあったのか」

 

「……うん。 あのボロマントさんとボクたちは、SAOの世界で会っているよ」

 

「ッ!?……そうか。――でも、誰だか判らないよな」

 

「ううん、大体の予想は出来ているんだ。 ボロマントさんは、ボクと和人のことを知ってた。 ボクが会った《笑う棺桶》のメンバーは、圏内事件で遭遇したメンバーだけなんだ」

 

圏内事件で遭遇したメンバーは、幹部メンバーだったはずだ。

PoH、ジョニーブラック、赤目のザザ……。

本戦で、実際に言葉を交わして戦えば判るはずだ。

本戦は予選と違い、危険がある。

俺は無意識に口を開いていた。

 

「木綿季。 明日の本戦k「大丈夫だよ」」

 

『棄権してくれ』と言う言葉は、木綿季が優しく遮った。

 

「ボクは和人と一緒に戦うよ」

 

暫しの沈黙が流れた。

木綿季の瞳には、強い意志が込められていた。

 

「……わかった。――俺の傍を離れないって約束してくれ」

 

「約束するよ。 ボクは絶対に和人から離れないよ」

 

それから俺たちは、就寝の支度をしてから眠りに就いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

次の日の朝。

昼食のテーブルで、向かいに座る直葉に、最大級の笑顔と共に呼びかけられていた。

 

「お兄ちゃんっ、木綿季ちゃんっ」

 

俺と木綿季は同時に思った。

『嫌な予感がする』と。

 

俺と木綿季は箸を止め、

 

「と……突然何だよ、スグ?」

 

「ど、どうしたのスグちゃん?」

 

直葉が隣の椅子から取り上げた物を見て、俺たちの嫌な予感が的中した。

取り出した物は最大級のVRMMOゲームの情報サイト、《MMOトゥモロー》のニュースをコピーしたA4版のプリント用紙だ。

直葉はプリント用紙を突き出し、

 

「あのね、あたし今朝、ネットでこんな記事見つけたんだけどね?」

 

プリント用紙の上部には、【ガンゲイル・オンラインの最強者決定バトルロイヤル。 第三回《バレッド・オブ・バレッツ》、本大会出場プレイヤー、三十人決まる】と書いてある。

 

下部に書かれていた大会出場者名の【Fブロック一位:kirito(初)】、【Cブロック一位:yuuki(初)】の文字が、黄色のラインマーカーで印が付けられていた。

 

「へ、へえー、似たような名前が居るもんだなぁ」

 

「う、うん、似たような名前だねー」

 

直葉は顔をニコニコ微笑ませて、

 

「二人とも似たようじゃなくて、全く同じ人だよね」

 

俺たちは視線を逸らした。

 

「まぁ、うん」

 

「同じ人……なのかな」

 

直葉はニコニコ笑っているが、内心では怒っているだろう。

俺たちが勝手にALOのアバターを、GGOの世界にコンバートしたことを。

いや、コンバートして正解だったかもしれない。

銃の世界には、因縁がある《笑う棺桶》のメンバーが存在しているのだ。

 

「……二人とも、また難しい顔をしてる」

 

直葉はプリント用紙をテーブルに置き、

 

「……あのね、本当はキリト君とユウキちゃんが、ALOからGGOにコンバートしたことを知っていたの」

 

「「えっ」」

 

「だって、フレンドリストから二人の名前が消えているのに、あたしが気付かないわけがないでしょ」

 

俺と木綿季は首を縮めた。

 

「あたし、昨日の夜に二人が消えていることに気付いて、すぐにログアウトしてお兄ちゃんたちの部屋に突撃しようとしたんだ。 でも、お兄ちゃんたちが私に何の連絡も無く、ALO居なくなるなんて有り得ないもん。 事情があるんだと思ったから、ALO内で、アスナさんとランさん、ユイちゃんに聞いたんだ」

 

俺たちはALOからGGOにコンバートすることを、事前に二人と愛娘であるユイには伝えてあったのだ。

直葉は、三人からALO内で話を聞いたんだろう。

直葉は囁いた。

 

「ねぇ、二人とも何処にも行かないよね……。 嫌だよ、二人が何処かに行っちゃうなんて……」

 

「ああ、大丈夫だ。 GGOの大会イベントが終わったら、必ず帰るよ。 ALOと……この家に」

 

「約束するよ。 ボクと和人は、必ず帰るよ」

 

「……うん」

 

直葉の声は弱かった。

再び椅子に座り直した直葉の顔は、何時もの笑みが戻っていた。

 

「さぁ、冷めちゃうよ。 食べよう」

 

「「おう(うん)」」

 

必ず帰る、この家に。

 




ユウキちゃんと死銃さんが戦いましたね。
てか、名前を絞り込んだね。

和人君はやっぱり危険だと思ったから、棄権という言葉を発したということで。
ご飯の時は、木綿季ちゃんも同じことを考えていたんでしょうね(笑)
何処かでシノンの過去の話書くね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第78話≪BoB本戦開始≫

ども!!

舞翼です!!

GWばたばたしてまして、更新が遅れました。
ごめんなさいm(__)m

書き上げました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


昼食を食べてから数時間後。

俺たちは前日のようにバイクに跨って自宅を出て、御茶ノ水の総合病院がへ向かった。

バイクを停めると入院病棟三階に足を向けた。

 

指定された病室のドアをスライドさせると、病室内には安岐さんが待っていた。

文庫本に眼を落していた安岐さんは、読んでいたページを閉じて微笑んだ。

 

「いらっしゃい、桐ケ谷夫婦。 今日もよろしく!」

 

「よ、よろしく」

 

「今日もよろしくお願いします」

 

俺たちは会釈してから、病室に足を踏み入れた。

安岐さんはニコッと笑い、

 

「さ、桐ケ谷夫婦。 電極貼るから脱ごうか」

 

「「はい」」

 

「今日はすんなり脱ぐのね」

 

安岐さんは『ちぇー』と言っていたが。

ベットに横になると、電極を上半身にペタペタと貼られた。

 

「それじゃあ、今日も4~5時間位潜りっぱなしだと思うので」

 

「二人の体はじっくり、じゃなくて……しっかり見てるから、安心して行ってらっしゃい」

 

「「安岐さん!!」」

 

俺たちが言うと、安岐さんは舌をぺろっと出し、笑みを浮かべた。

それからアミュスフィアを頭に被せ、電源を入れると、スタンバイ完了を告げる電子音が響いた。

 

「木綿季。 また《向こう》で」

 

「うん。 気を付けてね」

 

「「リンク・スタート」」

 

俺たちが叫ぶと、遮断されていく五感の彼方で安岐さんの声が聞こえた。

 

「行ってらっしゃい、《英雄キリト君とお姫様》」

 

………………なぬ。

と思う間もなく、俺たちの意識は現実世界を離れ、銃の世界に誘われていった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺が降り立ったのはGGO世界の首都《SBCグロッケン》の北端、総督府タワーに近い路傍(ろぼう)の一角だった。

黄昏(たそがれ)色の空をバックに、賑やかなホロネオンの群が流れていく。

その殆どは、現実世界に実在する企業の広告だ。

それらの中でも一際目立つのは、間もなく開催される《第三回バレッド・オブ・バレッツ》大会の告知であった。

俺は息を吐きながら顔の向きを戻すと、無意識の動作で肩に掛かる髪を背中に払った。

それに気付き己の仕草にげんなりするが、アバターになれたという事で無理矢理納得する。

視線の先には、長い黒髪の少女が周りをきょろきょろ見ている。

少女は俺を見つけ、駆け寄って来た。

 

「見つけた」

 

「見つかりました」

 

すると周りから、『おい、バーサク姉妹だぜ』、『最強姉妹じゃん』、と言う声が聞こえてくる。

こう言われる理由は昨日の予選トナーメントで、対戦相手の銃から放たれる銃弾を光剣で斬りまくり、特攻して勝負を決めたことが周知にされているからだろう。

俺とユウキは顔を合わせて苦笑いをした。

 

「もう有名人だな」

 

「ボクたちの、昨日の試合が広まってるね」

 

俺たちは、総督府を目指して足を進めた。

道中を歩いている時、首にサンドカラーの長いマフラーを巻き、水色の髪をした少女を見つけた。

彼女の背後まで移動し、名前を呼んだ。

 

「よ、シノン」

 

「こんにちは、シノンさん」

 

マフラーの尻尾がぴたりと止まり、水色に髪が僅かに逆立つ様は、まさしく猫のようだ。

右足を軸にして少女は振り向き、

 

「キリトとユウキか。 今日の本戦よろしくね」

 

「よろしく」

 

俺が言うと、シノンが一人事のように、

 

「昨日の試合やっぱり決闘何か受けないで、あんたの頭を吹き飛ばせばよかったわ。 何で受けてしまったのかしら。 チャンスは一度しかなかったけど、それを不意打ちに回していれば勝てたんじゃないかしら。 でも、あの時の判断は正しかったはずよ。 いや、やっぱり間違っていたかもしれないわね……」

 

ユウキは、遠慮がちに声を掛けた。

 

「……シノンさん。 ボクたちは総督府に行くけど、一緒に行かない?」

 

シノンはハッとして、

 

「ええ、一緒に行きましょうか」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

総督府ホールの一階端末で本戦エントリーの手続きを済ませた後、総督府地下一階に設けられた酒場で時間を潰すことにした。

天井に設けられた幾つもの大型パネルモニタが、眩い原色の映像を流している。

俺たちは窓際のブース席に座り、アイスコーヒーを注文した。

金属テーブルの中央にガチャリと穴が空き、奥からコーヒーが注がれたグラスが出現した。

コーヒーを一口飲み、俺が口を開いた。

 

「本戦のバトルロイヤルって、同じマップに三十人がランダムに配置されて、出くわしたら戦って、最後の一人が優勝って事でいいんだよな?」

 

「シノンさん、レクチャーお願い出来る??」

 

シノンは呆れたように、

 

「貴方たち、運営が参加者に送ってきたメールを読んでいないの?」

 

「まぁ、読んだは読んだんだけど……」

 

正確には、一度ざっと読み流しただけだが。

ゲーム内で再度しっかり読みこんでおこうと思っていたが、その前に熟練者(ベテラン)のシノンに直接レクチャーして貰った方が早い……などとは断じて思っていないぞ。

 

「ボクたち昨日は、ちょっと時間が無くて……」

 

「もしかして、貴方たちって一緒にs……ごめんなさい、マナー違反ね」

 

「気にしてないから大丈夫だ」

 

シノンはグラスをテーブルに置き、一息吐いてから、本戦のルール説明を開始してくれた。

 

「本戦はさっきキリトが言った通りよ。 参加者三十名による同一マップでの遭遇戦。 開始位置はランダムで、どのプレイヤーとも最低千メートル離れているから、いきなり目の前に敵が立っている事はないわ。 本戦のマップは直径十キロの円形。 山、森、砂漠、川ありの複合ステージだから、装備やスターテスタイプでの一方的な有利不利は無し」

 

「ちょっと、ちょっと待て。 十キロもか!?」

 

浮遊城アインクラッドの第一層と同じサイズだ。

つまり、一万人が入ることが出来るあのフロアに、三十人が千メートルも距離を開けて配置されるということだ。

 

「……ちゃんと、遭遇出来るのか? ヘタをすると、大会時間終了まで誰とも出来わさない可能性もあるぞ……」

 

「銃で撃い合うゲームだもの、それくらいの広さは必要なのよ。 スナイパーライフルの射程は一キロ近くあるし、アサルトライフルでだって五百メートルくらいまで狙えるわ。 狭いマップに三十人も押し込めたら、開始直後から撃ち合いになって、あっという間に半分以上が死んじゃうわよ。 貴方たちは、銃弾を光剣でぶった斬りそうだけどね。――でも、キリトが言った通り、遭遇しなきゃ何も始まらないしね。 それを逆手に取って、最後の一人になるまで隠れていようって考える奴も出てくるだろうし。 だから参加者には、《サテライト・スキャン端末》っていうアイテムが自動配布されるの」

 

「何だそれは?」

 

「十五分に一回、上空を監視衛星が通過する設定よ。 その時全員の端末に、全プレイヤーの存在位置が表示されるのよ。 マップに表示されている輝点に触れれば、名前まで表示されるおまけ付き」

 

ユウキがシノンに聞いた。

 

「一箇所に隠れられる時間は、十五分が限界ってこと?」

 

「そういうことね」

 

「そんなルールがあるなら、スナイパーは不利じゃないか? 茂みに隠れてじーとして、只管(ひたすら)ライフルを構えているんだろ?」

 

俺がそう言うと、シノンは鼻を鳴らした。

 

「そうでもないわよ。 一発撃って一人殺して一キロ移動するのに、十五分もあれば十分すぎるわ。 今度こそあんたの眉間に、へカートの弾丸を撃ち込んであげるわ」

 

「さ……さいですか」

 

最後に、俺が今までの情報を纏める。

 

「つまり、試合が始まったら兎に角(とにかく)動きながら敵を見つけて倒して、最後の一人まで頑張る。 十五分ごとに全プレイヤーの現在位置が手元のマップ端末に表示されて、誰が生き残っているか判るってことか??」

 

「その理解で間違っていないわ」

 

シノンは左手首に装着した、ミリタリーウォッチを見て時刻を確認した。

俺たちもその動作に釣られて確認をする。

本戦スタートまで、残り一時間を切った所だった。

シノンは笑みを浮かべた。

 

「もうレクチャーは十分ね」

 

俺たちは頷いた。

 

「そう。 じゃあ、待機ドームに移動しましょうか。 装備の点検やウォーミングアップの時間がなくなっちゃう」

 

「「ああ(うん)」」

 

そう言ってから、俺たちは席を立ち上がった。

酒場の隅にあるエレベータまで移動し、シノンは下向きのボタンを押した。

金網がスライドし、鉄骨の箱が現れる。

それに乗り、俺が一番下のボタンを押す。

シノンが言った。

 

「二人とも最後まで生き残るのよ。 特にキリト。 あんたとはもう一度勝負したいから、私以外の奴らに撃たれたら許さないからね」

 

「わかった」

 

「むー、ボクのこと忘れてない」

 

「ユウキもことも警戒しているわ。 貴方たちは、『最強姉妹』って言われているからね。 昨日の試合だけで二つ名が付けられるなんてね」

 

二つ名を付けてくれるのはありがたい事なんだが、なんか複雑だ。

てか、セット扱いなのね。

シノンの言葉が終わると同時に、エレベータが乱暴に停止した。

俺たちは、硝煙の臭いがする控え室に踏み込んだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

控え室に入った後シノンと別れ、控え室の一番端に腰を下ろし、今後の事を話し合う。

 

「一回目のサテライト・スキャンが終わったと同時に、俺はお前を探しに行く」

 

「了解したよ。 ボクもスキャン後、キリトを探しに向かうね」

 

「合流してから、《死銃》との接触を計ろう」

 

「そうだね。 犠牲者が出る前に動かないと」

 

俺たちはシノンに、【Sterben】の事を話していない。

《笑う棺桶》残党、SAO帰還者、【Sterben】。――通称《死銃》が、現実世界で死を(もたら)すと確信が出来ないからだ。

それに《死銃》の可能性がある三人と俺は、殺し合った事があるはずだ。

だからこそ本戦フィールドでもう一度接触して、奴の正体をはっきりさせてから、この銃の世界で何をやっているかを聞き出さなければならない。

そして、昔の因縁に決着を付ける。

 

「……和人」

 

気付くと、ユウキが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「すまん。 少し考え事を」

 

「和人の考えている事が解るよ。 決着を付けようね」

 

「ああ、そうだな」

 

ユウキは、俺の手を優しく握ってくれた。

それから数分後、俺たちは立ち上がり、武装してから本戦の開始を待った。

残り時間は、後十秒。

十秒後。 俺たちの体を青い光が包み、本戦フィールドに転送した。

今、BoB本戦が始まろうとしている。

 




最強姉妹が降臨しましたね(笑)
最後のユウキちゃんの声は、周りに聞こえていなかったということで。

さて、本戦が始まりましたね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第79話≪死銃との邂逅≫

ども!!

舞翼です!!

書き上げました。

ご都合主義発動です(笑)

それではどうぞ。


細く長く息を吸い込む。

仮想の肺を満たした冷たい空気をゆっくりと吐き出しながら、ボクは耳を澄ませ集中した。

僅かな音だけど、相手の大凡(おおよそ)の位置を把握することが出来た。

 

「ボクが隠れている木の陰から、一五メートルってとこかな」

 

足音は徐々に大きくなってきている。

距離が残り三メートルになった瞬間に、光剣のスイッチを親指でスライドさせ、青色のプラズマの刃を伸ばした。

ボクは木の陰から飛び出した。

 

「さ、最強姉妹」

 

烏丸さんはサブマシンガンの《フルオート射撃》で銃弾をボクに放ってくるけど、光剣を閃光のように振り回し銃弾を叩き落としていく。

右手で光剣を振り回しながら、左手でホルスターから《FN・ファイブセブン》を抜き取る。

残りの距離は約二メートル。

 

「此処からなら、一発くらい当たるよね」

 

グリーンの着弾予測円が縮小と拡大を繰り返しながらも、無鉄砲に銃のトリガーを引く。

五発撃った内の二発が右肩と脇腹に命中した。

当たった弾は、奴の防弾装備を貫通してダメージを与えた。

HPが一割弱減少してから、一瞬よろめき動きを止めた。

その瞬間ボクは地を蹴り、ダッシュのスピードを余さず乗せた全力の突きを放ち、振動と共に青色の刃は胸板を貫いた。

烏丸さんの身体の上に【Dead】の文字が浮かび上がった。

 

「うん、光剣での戦闘に慣れてきたね」

 

ボクは光剣を左右に振り、光剣のスイッチを親指でスライドさせ、青色のプラズマの刃を収納する。

光剣を右腰のスナップリングに吊るしてから、左手に携えてるファイブセブンをホルスターに戻す。

 

「早くキリトと合流しないと」

 

――バレッド・オブ・バレッツの開始から、すでに三十分が経過した。

ボクが敗退させた敵プレイヤーは、さっきので三人目。

だけど全体で何人生き残っているのかは、十五分ごとに上空の監視衛星から送信されるデータの情報を確認しないと判らない。

ボクは《サテライト・スキャン》の受信端末を取り出し、全体マップを表示させて情報の更新を待った。

マップ展開と同時にスキャンが開始され、マップに光点が表示させた。

ボクは食い入るように画面を眺め、現在の状況を頭の中に叩き込む。

周囲一キロ圏内に存在する光点は四つだった。

一つずつ指先でタッチして、名前を確認する。

 

「一キロ圏内には居るのは……。 《Sinon》、《ペイルライダー》、《ダイン》。――《Sterben》。……あれ、Sterbenの名前が消えた……」

 

何らかの方法で隠れてたのかな……??

ボクが考えていたら衛星のスキャン時間が終了し、マップ情報がゆっくり消滅した。

 

「キリトと合流しないと」

 

ボクは都市廃墟エリアに走り出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「待て」

 

「っ……!?」

 

シノンはFN・ファイブセブンを構える俺に、左腰のホルスターからMP7を抜き斉射しようとするが、俺は静かに囁いた。

 

「待つんだ。 提案がある」

 

「……何、命乞いをしろってッ……。 この状況で提案も妥協もあり得ない!! どちらが死ぬ、それだけよ!!」

 

シノンはごく小さな声で、しかし燃え上がる殺気を込めて言い返した。

 

「撃つ気なら、何時でも撃てた!」

 

シノンは思わず口を噤む。

この距離からなら背後から銃撃するなり、光剣で斬るなり出来たのだ。

だが、俺はそうしなかった。

押し黙ってしまったシノンに、俺は囁いた

 

「今派手に撃ち合って、銃撃を向こうに聴かれたくないんだ」

 

俺の視線の先では、今まさに一つの遭遇戦が始まろうとしていた。

 

「どういう意味……」

 

「あの橋で起きる戦闘を最後まで観たい。 それまで手を出さないでくれ」

 

あの遭遇戦が終われば、Sterbenが何処からか現れるはずだ。

 

「……観て、それからどうするの? 改めて撃ち合うなんて、間抜けたこと言わないでね」

 

「状況にもよるが……俺は此処から離れる。 君を攻撃しない」

 

「私が背中から狙撃するかもよ?」

 

「それは勘弁願いたいけどな……。 もう始まる!」

 

俺は再び橋の方を見ると、左手のファイブセブンを下ろしホルスターに収めた。

これを見てシノンは呆れ、肩の力を抜いていた。

 

「……仕切り直せば、今度はちゃんと戦ってくれる?」

 

「ああ」

 

頷く俺を確認したシノンは、MP7を下ろした。

まぁ、シノンは警戒してトリガーから指を離さなかったが。

俺は力を抜き、シノンの左隣に腹這いになった。

俺はベルトのポーチから小さな双眼鏡を取り出し、眼に当てる。

シノンは俺の態度に呆れを通り越したのか、MP7を左腰のホルスターに戻した。

シノンはへカートを構え、スコープを覗き込んだ。

俺の視線の先には長橋の、こちら側のたもとに伏射姿勢を取ったダインの姿が映った。

ダインは、SG550を小揺るぎもさせず構え続けた。

流石というべきか、BoB本戦に出て来た事はある。

集中力が切れない限り、ペイルライダーもおいそれと近づくことが出来ないだろう。

 

「……あんたがそうまでして見たがっている戦闘、このままじゃ起きないかもよ。 それにダインも、何時までもああして寝転がってないだろうし。 もしあいつが立って移動しようとしたら、私その前にあんたを撃つからね」

 

「ああ、そうなったら……、いや、待った」

 

向こうの岸から、ゆらりと一人のプレイヤーが姿を現したのだ。

痩せた長身を、青白い柄の迷彩スーツに包んでいる。

黒いシールド付きのヘルメットを被っているので顔は見えない。

武装は、片手に携えている軽量な《アーマライト・AR17》のショットガンだけだ。

――間違えなく、あのプレイヤーがダインを追っていたペイルライダーだろう。

伏せるダインの両肩に緊張が走る。

張り詰めた気配が、遠く離れた俺たちの所まで伝わってきた。

対照的にペイルライダーは、ダインの構えるSG550に怖れることなく橋に近づいてくる。

シノンが呟いた。

 

「……あいつ、強い……」

 

ペイルライダーは無防備のまま、滑るように橋に足を踏み込ませた。

ダインもそれを見て、戸惑いを隠せない。

その一秒後。

アサルトライフルが火を噴いた。

ペイルライダーは発射された弾丸を、橋を支えるワイヤーロープを飛びつき回避した。

ダインは照準を合わせようとするが、伏射姿勢からの上空の射撃は狙いにくい。

ペイルライダーはワイヤーロープへ飛びつき、ロングジャンプを繰り返し、ダインの近くに着地する。

 

「STR型なのに装備重量を落として、三次元機動力をブーストしているんだわ……。 しかも、軽業スキルがかなり高い」

 

シノンの呟きと同時にダインが膝立ちになり、トリガーを引いた。

しかし、この攻撃はペイルライダーに読まれていた。

ペイルライダーはコンパクトな前転をし、放たれた銃弾を回避した。

 

「なろっ……」

 

ダインは空になったマガジンを素早く交換しようとするが、先にペイルライダーが右手に携えているアーマライトの火が吐いた。

 

ダインは二十メートルから、ショットガンの銃弾を受け大きく後ろに仰け反る。

しかし、ダインは手を止める事無くマガジンの換装を終えて、再度頬付けしようとする。

だが、二度目の轟音が響いた。

距離を詰めていたペイルライダーの一撃は、再びダインの上体を大きく仰け反らせた。

再度距離を詰め、AR17をリロードし、三度目の散弾の嵐がダインのHPを0にした。

ダインのアバターは完全に動きを止め崩れ落ち、身体の上に【Dead】の文字が浮かび出上がった。

 

「あの青い奴強いな……」

 

シノンはへカートの安全装置を解除し、短く囁いた。

 

「あいつ、撃つわよ」

 

「ああ、解った」

 

シノンがトリガーを絞ろうとした瞬間、それは起こった。

ペイルライダーの青い迷彩服の右肩に、小さな着弾エフェクトが閃き、同時に痩身が弾かれ左に倒れ込んだのだ。

 

「「あ…………!」」

 

俺とシノンは同時に小さく声を上げた。

ペイルライダーが狙撃されたのだ。

川の対岸、深い森の奥に眼を向けた。

この方向から狙撃が行われたので、俺は反射的に全集中力を聴覚に向けた。

ライフルの発砲音の方向を捉える為だ。

だが、聞こえてくる音は川のせせらぎと、風鳴りだけであった。

 

「……聞き逃した……」

 

呟いたシノンに俺が小さく応じた。

 

「いや、間違えなく何も聞こえなかった。 どういうことだ……?」

 

「考えられるのは……作動音が小さな光学ライフルか……あるいは、実弾銃ならサプレッサ付きだけど……」

 

「さ、サプ……?」

 

「減音器のことよ。 銃の先っぽに付けて発射音を抑える装置」

 

「あ、ああ……サイレンサーのことか」

 

「そうとも言うけど。 ともかく、それを付けたライフルなら相当発射音が抑えられるわ。 命中率や射程にマイナス補正がかかるし、消耗品のくせに馬鹿高いけどね」

 

「な、なるほど……」

 

俺は再びペイルライダーを見た。

だが、ペイルライダーは起き上がる気配すら見せない。

もし一撃で死亡したなら、身体の上に【Dead】の文字が浮かび上がるはずだ。

生きているのに、何で其処から逃げようとしない……?

シノンが囁いた。

 

「……そういえば、キリト。 あんたいったい何処から現れたのよ? 衛星スキャンの時には、この山の周囲には居なかったでしょ」

 

「あ、ああ、そのことか。 俺は川を泳いでいたからな」

 

「ど、どうやって……?」

 

俺は肩を竦めて答えた。

 

「装備は一旦全部外したよ。 スターテス窓から解除した武装はアイテム欄に戻るから、手で運ぶ必要が無くなるのは、《ザ・シード》規格のVRMMOの共通ルールだからな」

 

「………………」

 

シノンに驚き呆れられた。

 

「そのアバターでアンダーウェア姿を披露したら、外の中継を見ているギャラリーは大喜びだったでしょうね」

 

「外部中継ってのは、原則的に戦闘以外は映さないんだろ」

 

シノンは『フン』と鼻を鳴らした。

 

「……ともかく、川を潜っていれば《サテライト・スキャン》に補足されないってことね。 覚えとくわ。 でも、あんたはペイルライダーを追って来たんでしょ。 あいつは強いと思うけど、大した奴ではなかったみたいよ。一発大きいのを喰らっただけでビビって立てなくなるようじゃ、とてもこの先……」

 

『勝ち残れない』、と続けようとシノンの言葉を、双眼鏡を両目に付けた俺が遮った。

 

「いや……、違うようだぞ……。 よく見ろ、あいつのアバターに、妙なライトエフェクトが……」

 

シノンはスコープの倍率を上げる。

 

「あれは、電磁スタン弾よ」

 

「な、何だそれ?」

 

「名前通り、命中したあと暫く高電圧を生み出して、対象を麻痺させる特殊弾よ。 でも大口径のライフルでないと装填出来ないし、そもそも一発の値段がとんでもなく高いから、対人戦で使う人なんかいない。 パーティでもMob狩り専用の弾なのよ」

 

ペイルライダーの拘束するスパークも薄れ始めてきていた。

その時、橋を支える鉄柱の陰から黒いシルエットが姿を現した。

ボロマントが歩を進め、これまで体に隠れていた主武装が露わになった。

それは《サイレント・アサシン》。

正式名は、《アキュラシー・インターナショナル・L115A3》。

この銃は対物ライフルではなく、人間を狙撃する為に作られた銃なのだ。

撃たれた者は射手の姿を見ることなく、死に逝く間際にも銃声を聞くことない。

与えられた通り名が――≪沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)≫。

 

奴はペイルライダーに向かって近づいていく。

それから、奴はハンドガンを取り出した。

だがハンドガンでは、ペイルライダーのHPを一撃で吹き飛ばす事は不可能だ。

奴はフードに額を当ててから、胸に動かし、さらに左肩、右肩へ持っていこうとする。

いわゆる、十字を切る行為だ。

――あれは、Sterben(死銃)だ。

 

「……シノン、撃て」

 

「え? どっちを?」

 

「あのボロマントだ。 頼む早く撃ってくれ、早く!」

 

シノンはヘカートのトリガーに人差し指を移動させ、トリガーを絞った。

次いで轟音。

命中してボロマントのアバターが、吹き飛ぶと思った。

――しかし。

ボロマントは上体を大きく後ろに傾け、ヘカートの弾丸を回避したのだ。

 

「あ……あいつ、最初から気付いていた……私が此処に隠れていることに……」

 

「まさか……! 奴は一度もこっちを見ていなかったはずだ!」

 

シノンは小刻みに首を振る。

 

「あの避け方は、弾道予測線が見えていなければ絶対に不可能。 つまり、何処かの時点で私の姿を目視して、それがシステムに認識されたってこと……」

 

Sterbenはハンドガンをペイルライダーに向けると、親指でハンマーをコッキング。左手にグリップ添え、半身の状態でトリガーを引いた。

小さな閃光と、乾いた銃声の音が聞こえた。

ペイルライダーはスタンから回復し、全身をバネのように起こし、ARショットガンをボロマントの胸に突き付けた。

だが、ペイルライダーは苦しみだし、ARショットガンを地面に落とした。

ゆっくりと傾き、地面に横倒しになった。

胸の中央を掴むような仕草を見せた、その直後――。

ペイルライダーはノイズを思わせる不規則な光に包まれ、消滅した。

最後に残った光が、【DISCONNECTION】という文字を作り、溶けるように消えた。

 

「あいつ……他のプレイヤーをサーバーから落とせるの……?」

 

シノンの呟きに俺が答えた。

 

「いや、違う。 そうじゃない。そんな生温い力じゃない……」

 

「ぬるい? どこがよ、大問題でしょ。 チートもいいところだわ。 運営は何してるの……」

 

「そうじゃない。……あいつは、サーバーを落としたんじゃない。 殺したんだ。 たった今、ペイルライダーは……ペイルライダーを操っていた人間は、現実世界で死んだんだ!!」

 

「…………な…………」

 

「あいつは……、《死銃》――《デス・ガン》だ」

 

「……デス……ガン。 それって変な噂の……? 前に大会で優勝した《ゼクシード》と《薄塩たらこ》を撃って、撃たれた二人がそれっきりログインしてないっていう……」

 

「ああ、そうだ。 現実世界で二人は死んでいた。 あいつが何らかの方法で、本当にプレイヤーを殺せるのは確かだ。 俺とユウキは死銃と接触を図るため、この世界に来たんだ」

 

「でも、私には信じられない。 ゲームの中で撃たれただけで、本当に死ぬなんてこと……。 その話が真実なら、あのボロマントは自分の意志で人を殺せるんでしょ? 有り得ない……信じたくない、そんな人がGGOに……VRMMOに居るはずがない……。 私は認めたくない。 PKじゃなく、本当に人殺しをするVRMMOプレイヤーが居るなんて……」

 

「いや、居るんだよ。 あのボロマント、《死銃》は、俺の居たVRMMOで沢山の人を殺した。 相手が死ぬと解っていて剣を振り下ろしたんだ」

 

この言葉で、俺がSAO帰還者という事が知られてしまったのは確実だ。

シノンがこの言葉を受け取り、大会イベント中、安全な場所に隠れてくれれば……。

シノンは小さく息を吐き、答えた。

 

「……正直……あんたの話をすぐに信じられないけど……。 でも、全部が嘘や作り話だとは思わない」

 

「ありがとう、それだけで充分だ」

 

俺が頷いたと同時に、三回目のサテライト・スキャンが行われた。

俺は急いでマップを表示させ、光点を数えた。

まだ生き残っているプレイヤーが十七人。

死亡したプレイヤーが十一人。

合計二十八人。

 

「数が合わないぞ」

 

BoB本戦に参加している人数は三十人居たはず、回線切断で消えたペイルライダーの他に、もう一つ光点が足りない。Sterbenだ。

そいつは遠ざかっているか、それとも近づいているか解らない。

後者の場合は、奇襲という可能性も捨てきれない。

 

「それで、あんたはこれから如何するの?」

 

「ああ、死銃を追う。 これ以上誰かを、あの拳銃で撃たせるわけにはいかない」

 

「……私も一緒に行くわ。――それに、《死銃》が何処に行ったか判らないんだから、一緒に居ようが居まいが、危険度は同じでしょ」

 

確かに、シノンの言う通りなんだが……。

俺は一瞬迷ってから肩の力を抜き、

 

「……ああ、解った。 俺と行動しよう。 死銃を追うと同時に、ユウキと合流する」

 

「了解」

 

俺とシノンは、走り出した。

 




次回は、ユウキちゃんと合流ですね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第80話≪シノンの過去と黒い星≫

ども!!

舞翼です。

書きあきげました。

今回は合流ですね。

誤字脱字があったらごめんよ

それではどうぞ。


「死銃は九時のサテライト・スキャンで次のターゲットを決めるだろう。 これ以上被害者が出る前に、奴を止めたい。 アイデアを貸してくれ、シノン」

 

「……いくら妙な力があるって言っても、《死銃》は基本的には狙撃者(スナイパー)だわ。 遮蔽物(カバー)の少ないオープン・スペースは苦手のはず。 此処から北に行くと、川向こうの森もすぐに途切れる。 その先は、島中央の都市廃墟まで、ずっと見晴らしがいい野原よ」

 

「よし。 俺たちも街を目指そう」

 

「……わかった」

 

俺とシノンは川沿に鋭い視線を向けながら、都市廃墟エリアに向かった。

死銃は戦闘後、川の中を泳いで移動したと予想した俺とシノンは川沿いを進み、次のスキャンで死銃の位置を把握しようとしていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

都市廃墟エリアの一角で、俺とシノンは四度目のサテライト・スキャンを待っていた。

右手に衛星端末を握り、左腕のクロノグラフを睨む。

九時ジャストになり端末のマップ上に、光点が幾つも浮かび上がる。

 

「キリト、あんたは北側からチェックして!」

 

俺は片っ端から光点をタップし、名前を表示させる。

その中には【Sterben】の名前は見当たらなかった。

その代わりに、この廃墟エリアの中に《yuuki》の名前を見つける事が出来た。

 

「Sterbenの名前はなかったわね。 そうなると、この廃墟エリアには居ないって事になるわね」

 

「……シノンが知らない隠しシェルターで、姿を隠しているのかもしれない……。 用心しながら進もう。 このエリアには《yuuki》の名前が表示された。 まずはユウキと合流しよう」

 

「ええ、そうね。 スタジアムの方だったわね。 銃士Xも居たわ。 戦闘中かもね」

 

そうなったら銃士Xには悪いが、俺たちが共闘して倒させてもらう。

俺とシノンは全力で走った。

路上に朽ちた黄色タクシーや、大型のバスの間を縫うように北へと只管(ひたすら)走ると、行く手に巨大な円形建築物が出現した。

 

「あの建物がスタジアムだわ」

 

「……急いで合流しよう」

 

「ええ、わかったわ」

 

俺はビルの壁面の崩壊部を潜り、スタジアムに走った。

シノンはビルの壁面の崩壊部を潜る寸前、背筋に強烈な寒気を感じ振り向こうとし、それすらも出来ずに路面に倒れた。

 

「(――ッ!? 何、今の……!?)」

 

一体何が起きたのか、すぐに理解できなかった。

反射的に左手を持ち上げたら、腕の外側に激しい衝撃があった。

撃たれた、と思い咄嗟に目の前の崩壊部の陰に身を隠そうとするが、何故か足が動かなくなり、路面に棒立ちになり左に身体が傾き崩れ落ちた。

起き上がろうとするが、身体が言う事をきかない。

動かせるのは両目だけ、投げ出された左手を懸命に見下ろし、ダメージ感があった場所を確かめる。

ジャケットの袖を貫き、腕に突き刺さっていたものは、――弾というよりは、銀の針のような物体だった。

根元部分が甲高い振動音と共に青白く発光し、そこから発光した糸のようなスパークが、腕から全身に流れて込んでいく。

これはペイルライダーの動きを止めた、――電磁スタン弾。

それが今、シノンの身体の動きを止めている。

 

「(でも一体誰が、どうやって銃撃したの……??)」

 

この廃墟エリアには、《Sinon》、《kirito》、《yuuki》、《銃士X》しか表示されなかったはず……。

直後シノンの両目が捉えたのは、南に約二十メートル離れた空間に、じじっと、光の粒が幾つか流れ、空間を切り裂き何らかの影が出現した光景だ。

シノンは無言で叫んだ。

 

「(――メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)!!)」

 

装甲表面の光其の物(そのもの)を滑らせ自身の姿を不可視化する、謂わば究極の迷彩能力だ。

 

「(……キリトと私が離れた瞬間を狙ったの……)」

 

其処に現れたのは、表面がボロボロに毛羽だったマント、頭部を完全に覆うフード。

姿を現した襲撃者を、シノンは呆然と見詰めた。

あれは――《死銃》。

死銃が滑るような動きで近づいてくる。

命中したのが左腕だったので、右腕が僅かに動かせる状態だ。

副武装として腰に下げたMP7のグリップを握り、上向け、トリガーを引く事は可能かもしれない。

右手がじりじりと動き始め、指先に握り慣れたMP7のグリップが触れる。

今まで気にしなかったけど、死銃の後方の上空には、中継用のカメラが【●REC】の文字を赤く点滅させながら浮かんでいる。

死銃はカメラを確認してから、勝ち誇ったように十字ジェスチャー行為を行っている。

シノンはMP7のグリップを掌で捉えた。

後は標準して、トリガーを引くだけ。

――――だが。

死銃がマントの中から抜いた黒い拳銃が眼に入った瞬間、シノンの全身が凍り付いた。

 

「(何で……あの銃は何の変哲もないハンドガンのはず……)」

 

死銃は左手をスライドに添え、銃の左側面を晒した。

正確には、縦に滑り止めのセレーションが刻まれた金属グリップと、その中央に存在する小さな刻印が。

円の中央に、星。

黒い星。

黒星(ヘイシン)。 五四式。――あの銃(・・・)

 

力を失った右手から、最後の望みであるMP7が滑り落ちた。

死銃は、かちっ、と音を立ててハンマーを起こしてから左手でグリップを包み、狙いをシノンに照準した。

 

「黒の剣士、絶剣。 お前たちが、本物か、偽物か、これではっきりする」

 

今死銃が携えている銃は、五年前ある小さな郵便局に押し入り、お母さんを撃とうとした男が持っていた拳銃。

幼かった私が無我夢中で飛び掛かり、男に突き付け、男の命を奪った銃。

――男を殺した銃が、今私に向けられている。

 

フードの内部の暗闇が奇妙に歪み、血走った深いような眼が見える。

――あの男の眼だ。

――いたんだ。 ここにいたんだ。 この世界に潜み、隠れて、私に復讐する時を待っていたんだ。

全身の感覚が失われていた。

夕空の赤も、廃墟の灰色も消え去り、暗闇の中に二つの眼と、一つの銃口だけが見えた。

あの指が数ミリ動けば、ハンマーが撃針を叩き、銃弾が発射されるだろう。

仮想の銃弾では無く、本物の銃弾だ。

シノン/朝田詩乃の心臓を撃ち抜き、止め、殺す。

私が男にそうしたように、これは運命だ。

決して逃れる事の出来ない運命。

私は思考を閉ざし、最後の瞬間を待った。

しかし――――。

 

「ユウキッ!!」

 

「うん!!」

 

二つの影が突如姿を現した。

光剣のプラズマの刃を伸ばし、地を蹴り、ダッシュのスピードを余さず乗せた全力の突きを放つように、二人は死銃に突進した。

死銃が動きシノンの前から離れ、そしてフードの中の《あの眼》が消え、赤い光点に戻った。

二人は光剣のプラズマの刃を伸ばし、私の前に立った。

 

「まだやるか」

 

「ボクたちを撃ってもいいけど、全弾叩き落とすよ」

 

「黒の剣士、絶剣。 お前らは、絶対殺す」

 

「俺たちを殺すのは簡単じゃないぜ。 お前も知ってるだろ」

 

キリトはグレネードを転がした。

 

「チッ」

 

死銃は、傍らのビルに空いた大穴へ姿を消した。

シノンは両目を瞑った。

この距離でグレネードが炸裂したら巨大ダメージを受け、私のHPは全て削り取られ、敗退するだろう。

GGOを、いやVRMMOから引退して、現実世界で息を潜めて暮らそう。

あの男に追い付かれる時を、ただ恐れながら……。

それでいい、死銃の黒銃に撃たれるよりマシだ。

だが、シノンの予想は裏切られた。

炸裂したグレネードは、大威力のプラズマグレネードではなく、火薬やナパームでもなく――無害な煙だけを吐き出すスモークグレネードだったのだ。

キリトとユウキが、言った。

 

「まずは此処から離れるぞ」

 

「うん、わかった!!」

 

キリトは光剣を収納し、私の左腕を掴んだ。

そのまま、乱暴に引き上げられる。

背中に手の掌を当て、よろめく暇もなく、そのままへカートごと二本の腕で抱え上げられてしまう。

 

「(……もう、いいよ。 置いていって)」

 

そう思ったが、やはり言葉に出来ない。

全身。 いや、意識が完全に痺れてしまっている。

後方から放たれた銃弾を、光剣で叩き落とした音がした。

シノンは反応が出来ていなかった。

銃声が聞こえなかったという事は、あれは死銃のL115だ。

スモークグレネードの煙越しにしては狙いが正確すぎる。

つまり、死銃は追って来ているのだ。

だが、キリトは足を止める事も、シノンを降ろそうともしない。

ユウキは後ろを向きながら、光剣のプラズマ刃を伸ばし、ゆっくりと後退している。

このままだと確実に追い付かれる。

 

シノンの視線の先に映った文字列は、【Rentlal Buggy&Horse】。

無人営業のレンタル乗り物店だった。

モータープールに停めてある三輪バギーは殆どが全損状態だったが、一台だけ走れそうな奴が残っていた。

ユウキは光剣のプラブマ刃を収納して、キリトに聞いた。

 

「キリト、動かせる??」

 

「ああ、大丈夫だ。 ユウキはシノンの護衛を頼んだ!!」

 

「了解したよ!!」

 

キリトは運転席に跨りエンジンを掛け、シノンとユウキが後部座席に乗ったのを確認してから、アクセルを全開にしてバギーを走らせた。

 




シノンの過去を纏めてみました。
何処かでまた書くかもしれんが。

ほぼ感覚だけで、銃弾弾くユウキちゃんすご!!
今回はいつもより、少し短かったですね。
申し訳ないm(__)m
死銃の言葉づかいあってたかな??
あ、銃士Xは、すでにユウキちゃんが倒してましたよ。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第81話≪一発の銃弾≫

どもっ!!

舞翼です!!

頑張って書き上げました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


バギーが走ったと同時に、シノンの左腕に小さな痛みが走った。

ユウキが電磁スタン弾の銀色の針を抜いた痛みだった。

 

「あ、ありがとう」

 

「今はここから逃げ切ろうね」

 

「う、うん」

 

ユウキの声は優しかった。

アクセルを全開にして、バギーを走らせているキリトが叫んだ。

 

「シノン、君のライフルであの馬を破壊できるか!?」

 

「……え」

 

シノンは数回瞬きをした。

背後のロボットホースに振りかえり、悟った。

キリトは、ぼろマント――死銃があの馬に乗り、追ってくる事を危惧していたのだ。

シノンは頷いた。

 

「わ……解った、やってみる……」

 

シノンは震えた両手で、右肩から降ろしたへカートを構える。

照準を、約二十メートル先に佇む金属馬に向ける。

この距離なら、スコープで照準しなくても必ず命中する距離だ。

トリガーに指を掛けると、薄緑色の着弾予測円が表示され、馬の横腹にフォーカスさせる。

そのまま指に力を――……。

シノンは眼を見開いた。

トリガーが引けないのだ。

何度も人差し指に力を込めるが、込めるが、右手が撥ね返る。

 

「え……なんで……」

 

同じ動作を繰り返しても、結果は同じだ。

シノンは指先を見た。

人差し指がトリガーに触れていないのだ。

――どれほど力を込めても、その隙間は埋まらない。

トリガーを絞るより先に、死銃が金属馬に搭乗した。

 

「……引けない……なんでよ……。 トリガーが引けない……」

 

「シノンさん大丈夫だよ。――キリト! 飛ばして!」

 

「――シノン! 掴まってろよ!」

 

シノンはユウキの左腕に手を回した。

直後、バギーが弾かれたように道路に飛び出す。

トップギアに達したバギーは、廃墟エリアに甲高い轟音を響かせながら、メインストリートを疾走し始めた。

 

「(――逃げ……切れる……?)」

 

シノンは恐る恐るそう考えたが、後ろを振り返る勇気がなかった。

今になって、身体がガタガタと震えていることに気付く。

ユウキは後方を確認し、

 

「――追って来てるよ!」

 

「――わかった! 気を抜くなよ!」

 

シノンは反射的に後方を振りかった。

黒いマントを大きくはためかせ、背中にL115を背負い、両手で金属馬の手綱を握っている。

死銃は、熟達した騎手のように金属馬を走らせている。

 

「なん……で……」

 

乗れるはずかない。 金属馬は現実世界で乗馬の経験があっても、そう簡単に乗れないのだ。

しかし死銃は、路上に転がる廃車両を滑らかに迂回し、時には跳び越え、バギーと同じ速度で追いすがって来る。シノンはフードの中に闇に浮かぶ二つの赤い眼と、薄笑いをする大きな口をはっきりと見た。

 

「追いつかれる……! もっと速く……逃げて……逃げて……!」

 

シノンが悲鳴混じりの細い声で叫ぶと、キリトはさらにアクセルを踏み込んだ。

しかしその途端、バギーの後輪の片方が遮蔽物に乗り上げてグリップを失い、後部が右にスライドした。

キリトは罵り声を上げながら、ふらつく車体を制御する。

左右に蛇行したバギーは、安定を取り戻し加速を再開する。

そのタイムロスにより、死銃は確実に距離を詰めてくる。

キリトとユウキが、言った。

 

「大丈夫か!!??」

 

「大丈夫!! 加速して!!」

 

廃墟を貫くハイウェイでは、嫌がらせのように次々と障害物が現れ、バギーを疾走させるコースを限定させた。

だが、金属馬は障害物だらけの道を軽々と跳び越え、距離を詰めてくる。

ついに距離が百メートルを割った、と思われた時だった。

死銃が右手の手綱を離し、銃口をこちらに向けたのだ。

握られていた銃は、――黒いハンドガン。 ≪五四式・黒星(ヘイシン)≫。

シノンは全身を凍り付かせ、拳銃を凝視した。

奥歯が震え、かちかちと不規則な音を立てた。

シノンの右頬に、弾道予測線の真っ赤な線が表示された。

シノンは反射的に首を左に倒した。

直後、銃口がオレンジ色に発光し、かぁん、と高い衝撃音を立て、シノンの右頬から十センチほどの空間を通過した。

銃弾がバギーを追い越し前方の廃車に命中した後も、ライトエフェクトの微粒子が空間を漂い、シノンの頬に触れた。

 

「嫌ああぁぁっ!!」

 

その瞬間、シノンは恐怖に駆られ、悲鳴を上げた。

二発目がバギーのリアフェンダーに命中したらしく、固い振動が足に伝わった。

 

「やだよ……助けて……助けてよ……」

 

シノンは赤ん坊のようにぎゅっと、身体を縮めて、弱々しい言葉だけを繰り返す。

死銃はバギーに追い付いてから、確実に銃弾を命中させる作戦を切り替えたのか、銃撃は止んだものの蹄の音がじわじわと大きくなる。

ユウキがホルスターからFN・ファイブセブン抜き連射するが、死銃に上手く避けられて虚空に消えていった。

 

「……簡単にはいかないよね」

 

ユウキは冷静になり、シノンの名前を呼んだ。

 

「シノンさん!! 聞こえる!!――このままじゃ追い付かれちゃう!! 狙撃して!!」

 

「む……無理だよ……」

 

シノンは絞り出すように言ってから、首を横に振った。

右肩にはずしりと重いへカートの感触があったが、何時もなら闘志を与えてくれる質量も、今は何も伝えてこなかった。

 

「当らなくてもいいんだよ!! 牽制ができれば大丈夫!!」

 

ユウキは叫ぶが、シノンは首を横に振るだけだ。

 

「……無理……あいつは……あいつは……」

 

死銃は過去から甦ったあの男の亡霊――とシノンは確信していた。

ましてや、牽制が通用するとは思えない。

 

「その銃を貸して!! ボクが撃つ!!」

 

その言葉に、シノンの中にほんの僅か残っていた何か――恐らく、狙撃者としてのプライドの欠片。

――それにへカートは……私の分身……誰にも扱えない……。

途切れ途切れの思考が回路を流れる微弱電流のように、シノンの右手を動かした。

肩からへカートを外してからバギーの後部のロールバーに銃身を載せ、恐る恐る身体を起こして、スコープを覗き込む。

拡大倍率は限界まで下げられていたが、百メートル以下にまで迫った、死銃の駆る金属馬の影によって視界の三割以上が埋まっていた。

ピンポイントで身体の中心線を狙うため、倍率を上げようとした時シノンの手が止まった。

これ以上拡大したら、死銃のフードの中がハッキリ見えてしまう。

そう思うと指が動かせない。

シノンは右手をグリップに移動させ、狙撃体制に入った。

死銃は気付いていたが、動きを止めようとしない。

いや、停止も回避もしないつもりだ。

舐められている。 そうは気付いても、もう一度あのハンドガン――呪いの武器を取り出すのではと思うと、怒りではなく恐怖しか湧いてこない。

 

「(でも、一発、一発だけなら撃てるはず)」

 

当らなくてもいい、一発だけ。

シノンはトリガーの中に人差し指を動かして、引き金に触れようとした。

――だが。

またしても奇妙な強張りが指を襲い、動作を拒んだ。

どんなに力を入れても、トリガーに指が辿り着かない。

まるでへカートが、シノンを拒んでいるように――……。

いや、拒んでいるのはシノンの方かもしれない。

シノン/朝田詩乃が、銃を撃つ事を拒んでいるように……。

シノンは掠れた声で囁いた。

 

「撃てない……撃てないの! 指が動かない。 私……もう、戦えない」

 

「撃てるはずだよ! 戦えない人間なんて居ないんだよ! 戦うか、戦わないか、その選択があるだけ! みんな同じなんだよ!……それは、ボクたちも同じだったんだよ」

 

戦うか、戦わないの選択……。

私は戦わない選択を選ぶ。 だって、もう辛い思いをしたくない。

希望を見つける度に奪われ、壊されるのはもう嫌……。

この世界でなら強くなれると思えたのは、ただの幻想だった。

私は一生、あの男の恨みと恐怖を抱えながら、――下を向いて、身を殺して、何も見ず、何も感じず、生きていくしかないんだ…………。

その時、シノンの指を優しく何かが包んだ。

 

「ボクも一緒に撃つよ。 一回でいいよ。 一回だけ指を動かして」

 

温かい熱が染み込み、凍った指を僅かに溶かしていくのを感じた。

指先が震え――関節が軋み――トリガーの金属を捉えた。

視界にグリーンの着弾予測円が表示される。

だがそれは、死銃の身体を大きくはみ出し、不規則に脈動し、心拍が乱れ、その上バギーが激しく振動している。

 

「だ、だめ……こんなに揺れていたら、照準が……」

 

「キリト、どうにかできる!?」

 

「ああ、大丈夫だ! 五秒後に揺れが止まる。 いいか……二、一、今だ!」

 

運転席からカウントダウンが終わると同時に、バギーの揺れが止まったのだ。

バギーは何かに乗り上げ、ジャンプしたのだ。

 

「(どうして……どうして二人は、この状況で冷静な判断が下せるの……?)」

 

シノンは、すぐに自分の言葉を否定した。

 

「(ううん、冷静とか、そういうのじゃない。 この人たちは何時も全力なんだ。 自分に言い訳せず、全力を尽くして戦う事を選び続けているんだ。 それが――それこそが、この人たちの《強さ》なんだ。 私が同じ事を出来るとは到底思えない。――でも、今は――今だけは。 私に出来る事を全力でやるんだ)」

 

「シノンさん!」

 

後ろから抱き締めるような格好で、共にへカートを握るユウキの声が聞き、私は勇気を与えて貰った。

視界に表示される予測円が、収縮したのだ。

 

「(でも……この銃弾は……当らない……)」

 

シノンは初めてそう考えてながら、トリガーを絞った。

へカートは激しい轟音と、眩い発射炎をマズルから吐き出した。

不安定な体勢で狙撃した為、シノンの身体は後方に弾かれたが、ユウキが後ろからしっかり押さえこんでくれた。

ジャンプの頂点を過ぎ降下を始めたバギーの上から、シノンは両目を見開き、放たれた銃弾の行方を追った。

夕闇に螺旋の渦を穿ちながら突進するその軌道は、死神をほんの僅かに捉え損ね、右へと逸れていく。

 

「(――外した……)」

 

マガジンには弾は残っているが、もうボルトハンドルを引く気力は残っていない。

《冥界の女神》自身のプライドが完全なミスショットを拒否したのか――。

巨大な銃弾はアスファルトに空しく孔を空ける代わりに、路上に転倒するトラックの腹に食い込んだ。

 

GGOのフィールドに配置されたオブジェクトの殆どは、プレイヤーが掩体(えんたい)として利用する他に、ドラム缶や大型機械類は一定時間のダメージを与えると炎上、爆発する仕掛けが施されているのだ。

死銃がそれに気付き、道路の反対側に金属馬をジャンプさせようとした。

だが、それより一瞬早く巨大な火球が膨れ上がり、トラックと騎馬を眩いオレンジ色の光が呑み込んだ。

ジャンプを終えたバギーが着地し、激しくバウンドするのと同時に、凄まじい衝撃波がメインストリートを揺るがした。

爆発そのものはジャンプ台となったスポーツカーに遮られて見えなかったが、屹立した火柱の中に、ばらばらに千切れ飛ぶ機械馬のシルエットが確認出来た。

 

「(――――倒した……?)」

 

一瞬そう思ったが、すぐに打ち消す。

たかが爆発如きで、あの死神を殺せる訳がないのだ。

精々時間が稼げた程度だ。

でも今は、それすらも奇跡に感じられる。

キリトが必死にハンドルを操作して、横転しかけたバギーを如何にか安定させてから、再度加速する。

シノンは後部座席に座り込み夕空に立ち上がる黒煙を呆然と見詰め、これ以上は何も考えられず、疾駆するバギーの振動に身を任せた。

 




今回は逃走回でしたね。

次回は洞窟かな。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第82話≪シノンの闇≫

ども!!

舞翼です!!

今回はユウキちゃんメインかな!(^^)!

それではどうぞ。


左右を流れていくビルと廃車両の量がどんどん減り、気付くとバギーは島中央の都市廃墟を抜けて砂漠地帯に突入していた。

キリトがスピードを落として、慎重な運転で砂丘の間を進んで行く。

シノンは、左手首に着けている時計に眼をやった。

針が示す時間は、午後九時十二分。

驚いたことに、河床(かわどこ)から上がり廃墟に突入してから、約十分しか経っていない。

その僅かな時間の間に、シノンのBoB本大会――いや、GGOというゲーム其の物(そのもの)が、大きく色合いを変えてしまっていたのだ――。

背後から、キリトがユウキに話し掛けていた。

 

「なぁユウキ」

 

「どうしたのー?」

 

「いや、スタジアムのあんなに広い場所から、よく俺と合流が出来たな、と思ってな?」

 

「四回目のサテライト・スキャンの時には、ボクは中央スタジアムに居たんだよ。 戦闘準備をしながらマップを見たら、kiritoとSinonがスタジアムに向かって来てるのを確認したんだ。 銃士Xさんを一撃で倒して、すぐに合流しに向かったんだ。 その時にシノンさんが居なかったから吃驚(びっくり)したよ」

 

「お前が気付いてくれなかったら、手遅れだったかもしれないんだよな。――何で死銃の存在に気付かなかったんだ……。 あいつはさっき、シノンの近くに現れたよな。 死銃は、自分を透明化する能力でもあるのか? 橋の所でいきなり反応が消えたり、衛星に映らなかったり、その力を使ったから透明化が出来たのか?」

 

シノンは両手でへカートを抱えながら、力なく囁いた。

 

「……だぶん、≪メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)≫っていう能力。――ボス専用って言われたけど……その効果がある装備が存在しても、不思議はないわ」

 

「なるほどな」

 

「此処でなら足音に耳を澄ませば大丈夫だよ。 下は砂だから、透明になっても足音は消せないし、足跡も見えるからね」

 

俺とユウキが言ってから、バギーを停止させた。

 

「……やれやれ、こうも見晴らしがいいと、隠れようにもなぁ……」

 

この砂漠に身を隠し、安全に態勢を立て直す為には、ただの砂丘やサボテンの影に隠れるだけでは不足だ。

シノンは周りを見渡し、少し離れた場所の岩山を見つけると、そちらを指差した。

 

「……あそこ。 多分、洞窟がある」

 

ユウキが手を打った。

 

「あそこの洞窟に隠れて、衛星スキャンを回避するんだね」

 

キリトはバギーのアクセルを踏んで切り返し、シノンが指差した方向に走らせた。

数十秒で岩山に到着し、周囲を回る。

北側の側面には、ぽっかりと開いた大きな洞窟の口が見つかった。

速度を落とし、バギーごと洞窟の中に走らせる。

洞窟の中に入れてエンジンを切り、キリトとユウキはバギーから降りると、大きく伸びをした。

 

「取り敢えず、此処で次のスキャンを回避しよう。 うん、そうしよう」

 

「ボクたちの端末にも衛星の情報が来ないのかな?」

 

シノンはバギーから降りて、壁際に移動してから苦笑した。

 

「あんたたち、こんな状況でもそうして居られるなんて凄いわね。――結論から言うと、私たちの位置情報は衛星に映らないわ。 もし近くにプレイヤーが居たら、グレネードを投げ込まれて揃って爆死よ」

 

「「な、なるほど」」

 

俺とユウキはシノンの左右に座り、HPを回復させる為にベルトのポーチを探って筒状形の緊急キットを取り出すと、首筋に当て、反対側のボタンを押す。

HPを三十パーセント回復出来るが、百八十秒も掛るので戦闘中に使っても意味はない。

シノンは左手首に着けている時計を確認した。

今の時刻は九時十五分、五回目のサテライト・スキャンが行われる時間だ。

だが、この洞窟の中は衛星からの電波は届かないので、端末のマップを確認しても意味はない。

シノンは左手を降ろし、洞窟の壁際に背中を預け、呟いた。

 

「………ねぇ。 あいつ……《死銃》が、さっきの爆発で死んだ、って可能性は……?」

 

シノンの問いに、キリトが応じた。

 

「いや……、トラックが爆発する直前、金属馬から跳び下りるが見えた。 あのタイミングじゃ無傷じゃないと思うけど……あれで死んだと思えないな……」

 

あれほどの近距離爆発に巻き込まれれば、普通なら大ダメージを受けるだろう。

――普通のプレイヤーなら。

でも、死銃は普通じゃない。

シノンは『そう』だけ答えると、へカートを壁に立て掛け、両の腕で膝を抱えた。

シノンが呟いた。

 

「さっきのお礼がまだだったわね。 助けてくれてありがとう」

 

「ボクたちも、助けるのが遅くなってごめんね」

 

「ああ、怖い目に合わせて悪かった」

 

キリトとユウキは小さく頭を下げてから、言った。

 

「……俺たちは行くよ。 シノンは此処で休んでるといい。 本当はログアウトして欲しいけど……大会中は出来ないもんな……」

 

「シノンさんは此処で休んでいてね……。 ボクたちは決着を付けてくるよ……」

 

俺とユウキは上体を起こし、光剣のバッテリー残量を確認した。

 

「え、待って……。 二人は死銃と、戦う気なの……?」

 

掠れた声でシノンが言うと、小さな頷きだけが返って来た。

二人からの言葉は勝利の確信ではなく、その逆だった。

 

「ああ、あいつは強い。 黒い拳銃がなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自身の力が突き抜けている」

 

「ボクたちの力を合わせても、五分五分かもね。 これはボクたちの戦いだよ。 シノンさんを、これ以上付き合わせるわけには行かないよ」

 

最強。と言われている光剣使いの意外な言葉に、シノンは思わず光剣使いの顔を見た。

二人の瞳は、揺れているように思えた。

 

「…………二人でも、あいつが恐いの?」

 

俺とユウキは光剣を腰のスナップリングに吊ってから、苦笑した。

 

「ああ、恐いよ。 昔の俺なら、本当に死ぬ可能性があろうと戦えたかもしれない。 今は守りたいものが出来たからな。 命を軽く扱う事は出来ないさ」

 

「ボクも恐いよ。 ボクにも守りたいものがあるからね。 それを守る為に、ボクは戦うよ」

 

「守りたい、もの……?」

 

「そうだ。――俺たちには、仮想世界でも現実世界でも、守らなくちゃいけないものが沢山あるんだ」

 

シノンは、二人の言葉は人との繋がりを言っているのだろう、と感じた。

口から勝手に言葉が漏れる。

 

「……二人とも、このまま洞窟に隠れてればいいじゃない。 BoB中は自発的ログアウト不可能だけど、大会が進んで私たちが誰か一人が生き残れば、その時点で脱出出来る。 自殺して、その誰かを優勝させればいい。それで大会が終わるわ」

 

キリトとユウキは、『そういう手もあったね』と、微笑した。

だが、二人は首を横に振った。

 

「そう手もあるな。 でも、そういうわけには行かないんだ」

 

「そうだね。 これはボクたちにしか出来ない事だからね」

 

――――――やっぱり、君たちは強いよ。

守りたいものがあると言いながら、命の危険を(おか)して、あの死神に立ち向かう勇気を失っていない。

私は失おうとしているのに。

死銃に黒いハンドガンを向けられた時、完全に竦み上がった。

骨の髄まで凍り付いた。

逃走中も悲鳴を上げ、己の分身であるへカートのトリガーが引けなくなった。

氷の狙撃手シノンは、消え去る瀬戸際にいる。

このまま洞窟に隠れていたら、二度と自分の強さが信じられなくなるだろう。

そして、全ての銃弾が標的を外すだろう。

シノンは眼を逸らし、呟くように言った。

 

「……私……逃げない……」

 

「「……え?」」

 

「逃げない。 此処に隠れない。 外に出て、あの男と戦う」

 

俺は眉を寄せ、低く囁いた。

 

「だめだ、シノン。 あいつに撃たれば……本当に死ぬかもしれないんだ。 俺とユウキは、完全な接近戦タイプで防御スキルも色々あるけど、君は違う。 姿を消せるあの男に零距離から不意打ちされたら、危険は俺たちの比じゃない」

 

シノンは暫く口を閉じた後、静かに唯一の結論を口にした。

 

「死んでも構わない。……私、さっき、すごい怖かった。 死ぬのが恐ろしかった。 五年前の私よりも弱くなって……情けなく、悲鳴を上げて……。 そんなんじゃ、ダメなの。 そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだ方がいい……」

 

「……怖いのは当たり前だ。 死ぬのが怖くない奴なんて居ない」

 

「嫌なの、怖いのは。 もう怯えて生きていくのは……疲れた。――別に、貴方たちに付き合ってくれなんて言わない。 一人でも戦えるから」

 

そう言ってからシノンは腕に力を込め、立ち上がろうとした。

だが、その手をユウキが掴んだ。

 

「一人で戦って、一人で死ぬ気なの……」

 

「……そう、たぶん。 それが私の運命だったんだ……」

 

重い罪を犯したのに、シノン/朝田詩乃は裁きを受ける事はなかった。

だから、あの男が亡霊となって帰ってきたのだ。

然るべき裁きを与える為に――決定されていた運命。

 

「……離して。 私……行かないと」

 

振り解こうとした手を、ユウキは更にきつく掴んだ。

そして右手を上げ、『パァン!』と、大きな音が洞窟内に響いた。

 

俺はそれを見て驚いてしまった。

ユウキが初めて手を上げるのを見たからだ。

 

「シノンさんは間違ってる! 人が一人で死んじゃう、なんてことは有り得ないんだよ! 人が死んじゃう時は、他の誰かの居るシノンさんが死んじゃうんだよ! ボクの中のシノンさんが死んじゃうんだよ!」

 

シノンはユウキを睨み付けながら、

 

「そんなこと、頼んでない!……私は、私を誰かに預けた事なんてない!」

 

「ボクとシノンさんは関わり合っているんだよ!」

 

その瞬間、凍った心の底に押さえ付けられていたシノンの感情が、一気に膨れ上がった。

軋む程に歯を食い縛り、片手でユウキの襟首に掴みかかる。

 

「――なら、あなたが私を一生守って生きてよ!!??」

 

突然視界が歪み、頬に熱い感覚があった。

眼に涙が溢れ、滴っていることに、シノンはすぐに気付かなかった。

 

握られた手を強引に払い、シノンは固い拳を握ってユウキの胸に打ちかかる。

二度、三度、力任せにどんどんと叩き付ける。

 

「何も知らないくせに……何も出来ないくせに、勝手なこと言わないで! こ……これは私の、私だけの戦いなのよ! たとえ負けて死んでも、誰にも私を責める権利はない!! それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!? この……」

 

握り締めた手をユウキの前に突き出す。

血に塗れた拳銃のトリガーを引き、一人の命を奪った手。

火薬の微粒子が侵入して出来た、小さな汚れた手。

 

「この、ひ……人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!!??」

 

記憶の底から、詩乃を罵る幾つもの声が蘇ってくる。

他の生徒に手を触れたら、『触れんなよ人殺しが! 血が付くだろ!』と罵られ、足で蹴られ、背中を突き飛ばされた。

詩乃はあの事件以来、誰かに触れられた事がない。 一度もないのだ。

その拳を、最後にもう一度思い切り打ち付けた。

この島は全体が保護コードがないバトルフィールドで在り、恐らくユウキのHPは打擲(ちょうちゃく)のたびに極僅かに減少しているはずだが、それでも彼女は身じろぎ一つしなかった。

 

「う……うっ……」

 

抑えようもなく涙が零れ落ちる。

泣き顔が見られるのが嫌で、勢いよく俯くと、額がどすんとユウキの胸にぶつかった。

強くユウキの襟首を掴んだまま、力任せに額を押し付けて、シノンは食い縛った歯の間から嗚咽を漏らし続けた。

 

「嫌い……大嫌いよ、あんたなんか!」

 

「(これが、シノンさんの心に住み付いている闇なんだね)」

 

どんな闇かボクには解らない。

シノンさんは、この闇に苦しみ続けて来たんだね。

ボクはシノンさんを抱きしめ続けた。

 




次回はキリト君を出しますよ。

今回は出番が少なかったからね。

さて、シノンの過去が出てきましたね(笑)

ユウキちゃん、シノンにビンタしちゃいましたね(笑)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第83話≪罪の真実≫

ども!!

舞翼です!!

GGO編は書くの難しすぎだよ(^_^;)
もしかしたら、矛盾点があるかもしれん。

でも、頑張って書いたよ。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


どれくらいそのままでいたのか、わからない。

――爆発的な感情を解放させたシノンは、ユウキの胸の中に顔埋めながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「私ね……人を、殺したの」

 

シノンは、俺たちの反応を待たず言葉を続ける。

 

「ゲームの中じゃないよ。……現実世界で、ほんとうに、人を殺したんだ。 五年前、東北の小さな街で起きた郵便局の強盗事件で……。 報道では、犯人が局員の一人を拳銃で撃って、犯人は発砲した銃が爆発して死んだ。ってことになってたんだけど、実際はそうじゃないの。 その場に居た私が、強盗の拳銃を奪って、撃ち殺した」

 

「……五年前……?」

 

俺がそう言った。

五年前。――もしかしてシノンは、俺たちと余り歳が変わらない少女なのかもしれない。

 

「私は十一歳だった……。 もしかしたら、子供だからそんなことが出来たのかもね。 歯を二本折って、両手を捻挫して、背中の打撲と、右肩を脱臼したけど、それ以外に怪我はなかった。 身体の傷はすぐに治ったけど……治らないものがあった」

 

俺は、それが心の傷だと悟った。

 

「私、それからずっと、銃を見ると吐いたり倒れたりしちゃうんだ。 テレビや、漫画とかでも……手で、ピストルの真似をされるだけでも駄目。 銃を見ると……目の前に、殺した時のあの男の顔が浮かんできて……怖いの。 すごく、怖い。――でもこの世界では大丈夫だった。 発作が起きないだけじゃなく……幾つかの銃は好きになれたんだ……。 でもさっき、死銃に襲われた時、発作が起きそうになって……。 いつの間にか《シノン》じゃなくて、現実の私に戻っていた……。 だから、だから私は、あいつと戦わないと駄目なの。 あいつと戦って、勝たないと……《シノン》が居なくなっちゃう。……死銃と戦わないで逃げちゃったら、私は前より弱くなっちゃう。 もう、普通に暮らせなくなっちゃう。 だから……だから」

 

シノンはこの闇を一人で抱え続けて来たのか。

俺がゆっくり口を開いた。

 

「俺も人を、殺したことがある」

 

「え……?」

 

シノンは勢いよく、ユウキの胸から顔を上げた。

俺は殺した時の光景を思い出し、身体を震わせた。

ユウキが右手を優しく握ってくれたので、何とか震えを止める事に成功した。

 

「……俺たちは、あのぼろマント……死銃と、他のゲームで顔見知りだったんだ。――そのゲームの名前は、《ソードアート・オンライン》。 聞いたこと……あるか?」

 

シノンは、ゆっくり首を縦に振った。

鉄橋エリアで死銃の事を話した時、俺たちがこのゲームの中に居た事を、確信したはずだ。

 

「ネット用語で言えば……《SAO帰還者》って奴だ。 そしてあの死銃も。 俺はあいつと、互いに命を奪い合って、本気で戦った事がある。――そしてあの男は、《ラフィン・コフィン》っていう名前のレッドギルドに所属していた。 ラフィン・コフィンは、殺しを最大の快楽とする集団だったんだ。 保護フィールドがないダンジョンで、金やアイテムを奪って、容赦なく殺したんだ。 もちろんプレイヤーたちは、最大限の警戒をしていた。 だが奴等は、次々に新たな手口を編み出して、殺しを続けた。 犠牲者は減ることがなかった……」

 

シノンは口を閉ざして、俺の言葉に耳を傾けていた。

 

「だから……大規模な討伐隊が組まれて、無力化して牢獄に送る作戦が決行されたんだ。……その作戦には俺も加わった」

 

俺はユウキを一瞥してから、

 

「……その作戦には、ユウキに黙って参加したんだ。――最悪の事態を想定してたから。 討伐隊は奇襲かけた。 でも……何処からか作戦の内容が漏れていたんだ。 奴等は罠を張って、待ち構えていたんだ。……それでも、如何にか態勢を立て直したんだけど、すごい混戦になって……。 俺はその中で、二人の命を奪ったんだ……。 一人は胸に剣を突き刺し、一人は首を刎ねてHPを吹き飛ばした。 今でも思うんだよ。 あの時、他の道が残されていたんじゃないかって」

 

シノンは上体を起こし、俺の両の肩掴み、掠れた声で語り掛けた。

 

「……私、あなたのしたことには、何も言えない。 言う資格もない。 だから、本当はこんなこと聞く権利もないけど……。 でも、お願い、一つだけ教えて。 あなたは、その記憶を……どうやって乗り越えたの? どうやって、過去に勝ったの? なんで今、そんなに強く居られるの……?」

 

シノンは強くなる為に、銃の世界に身を投じたのか……。

俺は首を左右に振った。

 

「……乗り越えてないよ」

 

「え……」

 

「人の命を奪った事を忘れる、なんて事は不可能なんだ。 俺の前で、死んで逝った人たちの声や顔は……一生忘れることは出来ない」

 

シノンは呆然と呟いた。

 

「じゃあ……ど……どうすればいいの……。 わ……私……」

 

それは、シノンには恐ろしい宣告になっただろう。

必死に乗り越えようとしていたものが、一生消し去る事が出来ないなんて。

 

「でもな、シノン。 それは正しい事なんだよ。 この手で彼らを斬った……殺した意味、その重要さを、受け止め、考えていくんだ。 今の俺たちに、出来る事で償うしかないんだ……」

 

シノンは、呟いた。

 

「……え、俺たち?」

 

これまでの話を静かに聞いていた、ユウキが口を開いた。

 

「そうだよ、ボクも一緒にキリトの十字架を背負ってるんだよ。 ボクは一生キリトの隣を歩いて行くからね。 罪を受け止めて、その罪と向き合い、戦っていくしかないんだよ」

 

「……受け止め……考え……向き合う。……私……私には、そんなこと出来ない……」

 

シノンは、再びユウキに肩口に寄り掛かった。

そして、呟いた。

 

「……《死銃》……」

 

「「え?」」

 

「じゃあ、あのぼろマントの中に居るのは、実在する、本物の人間なのね」

 

シノンの問いに、俺が答えた。

 

「ああ、そうさ。 あいつ元《ラフィン・コフィン》の幹部プレイヤー、それは間違いない。 SAO時代の名前が判れば、現実世界での本名や住所だって突き止められるはずだ」

 

あのぼろマントの中は、シノン/朝田詩乃に裁きを与える為に、甦った亡霊ではなかったということだ。

 

「じゃああいつは、SAO時代の事が忘れることが出来なくて、またPKしたくなってGGOに来た……ってこと?」

 

ユウキが口を開いた。

 

「理由は解らないけど、ボクたちが考えないといけない事は、どうやって殺害してるかだね。 本人に直接聞くのが一番早いんだけど……そう簡単に教えてくれるとは思わないしね」

 

「でも、どうやって殺すことが出来るの……? アミュスフィアは、初代ナーヴギア、だっけ? あれとは違って、危険な電磁波は出せない設計なんでしょう?」

 

「そのはずなんだけど。……ボクたちに依頼をした人の話によれば、ゼクシードさんと薄塩たらこさんの死因は、脳損傷じゃなくて心不全なんだよ」

 

俺は考え込んだ。

 

「……あのぼろマントが、どうやって殺人をしてるか見当もつかない。 仮想世界で銃撃するだけで、生身のプレイヤーの心臓を止める方法なんて存在しない、と思いたいけど……いや、待てよ。 何か妙だ」

 

ユウキの声が届いた。

 

「何が妙なの?」

 

「さっきの廃墟で、死銃は何で俺をあの黒い拳銃じゃなく、わざわざライフルに持ち替えて撃ったんだ? 距離は十分近かったし、攻撃力だって、拳銃の方が上だったはずだ。俺はライフルの弾を回避することが出来なかった。 あの黒い拳銃で、俺を撃っていれば殺せたはずだ……」

 

自分が本当に死んでいた可能性を、冷静に検証する剛胆さに少々呆れながら、シノンは自分の考えを述べた。

 

「十字を切る暇がなかったから……とか? あ、あの黒い拳銃≪五四式・黒星(ヘイシン)≫って言うだけど……。 あれを撃つ時は、必ず十字を切る行為をすると決めてるか。 それか、十字を切らないと殺せないとか……?」

 

「バギーで逃げている時、死銃さんは十字を切っていたかな??」

 

「死銃は十字を切る行為をしないで、連射してた気がするな。 死銃は、なんでシノンだけを黒い拳銃で撃ったんだ……??」

 

「死銃さんは、あの拳銃でボクたちを撃てない理由があったの?」

 

黒い拳銃で撃てる相手と、撃てない相手が決まっているのか?

ターゲットを決めているっていうことなのか?

 

「そう言われれば、あの鉄橋エリアでも妙だったわ。 あいつ、ペイルライダーは黒星で撃ったのに、すぐ傍らで無抵抗に倒れていたダインは撃たなかった」

 

「あの時点で、彼は死んでいただろ」

 

「死んだって言ってもHPがゼロになって動けなくなっただけで、アバターは残ってたし、本人の意識もまだ接続してたわよ。 ゲーム枠を超える力があるなら、HPの有無なんて関係なさそうじゃない?」

 

「つまり、死銃さんはターゲットを選んでいる」

 

ユウキも、俺と同じ考えに辿り着いたようだった。

俺はシノンに聞いた。

 

「シノン。 君とペイルライダーと、ゼクシードと薄塩たらこの共通点ってあるか? 取り敢えず答えられる範囲でいい、答えてくれ」

 

シノンは顎に手を当てて考え始めた。

 

「単に強さとか、ランキングってことなのか……?」

 

「ペイルライダーは確かに強かったけど、前の大会は出ていないのよ。 BoBのランキングで言えばダインの方が上だわ。 ゼクシードは前優勝者で、薄塩たらこは五位か六位だったけど、最大級のスコードロンのリーダーだったはずよ」

 

「じゃあ、装備とかスターテスとかなのかな?」

 

「装備は全員バラバラよ。――共通点とは言えないけど……。 全員強引に括れば、《AGI特化ビルド》、ってことになるかな」

 

それから俺たちは色々な仮説を立ててみるが、これと言った有力なものが出てくる事がなかった。

 

「シノンは、さっき俺が挙げたプレイヤーとは話した事があるか?」

 

「うん、あるけど。 ほんのちょっと話しただけだよ。 たらことは、前の大会が終わって、総督府の一階ホールに戻った時、賞品に何を貰うかとか喋ったんだけど……世間話程度よ」

 

「そういや、賞品ってなに貰えるんだ?」

 

まさかこんな質問が正解に導くとは、俺は思ってもいなかった。

 

「あー、選択式よ。 順位に応じていろいろ選べるんだけど。――銃とか、防具とか……街で売ってない髪染めとか、服とかね。 あとは、銃のモデルガンとか」

 

「モデルガン?……ってことは、ゲーム内じゃなくて、リアルで実際に貰えるのか?」

 

「うん。 国際郵便でね。結構送料かかるよあれ」

 

俺は宙を見上げながら、言った。

 

「――俺がGGOのアカウント作ったのは最近なんだけど、リアル情報は、メールアドレスと性別と年齢くらいしか要求されなかったぞ。 住所はどうやって……?」

 

「あんた忘れたの?BoB予選にエントリーした時、リアルの住所氏名を書く欄があったでしょ」

 

ユウキが不意に声を上げた。

 

「ちょっと待って! もしかしてさっき挙げた四人は、住所氏名を書いたの!?」

 

「……ええ、そうだけど」

 

俺も頭をフル回転させた。

 

――リアルで貰える賞品。

――総督府の端末に住所氏名の記入。

――メタマテリアル光歪曲迷彩で姿を消せる。

――被害者は一人暮らし。

――心不全。

 

「……そういう……ことか」

 

俺の声はひび割れていた。

 

「何……何よ、二人してどうしたの!?」

 

「死銃は……二人居るんだ。 一人目……あのぼろマントがアバターが、ゲーム内でターゲットを撃つ。 同時に、現実世界のターゲットの部屋に侵入した二人目が、無抵抗で横たわるプレイヤーを殺す」

 

シノンは暫し放心した後、首を何度も左右に振った。

 

「でも……だって……そんなの、無理よ。 どうやって現実の家を……」

 

「総督府だよ。 あそこの端末で、住所氏名を入手したんだよ。 メタマテリアル光歪曲迷彩で姿を消してね……」

 

ユウキの言葉を聞いたシノンは、小刻みに首を左右に振った。

 

「……現実世界で住所が判ったとしても……忍び込むのに……鍵はどうするの……家の人とかは……?」

 

「ゼクシードとたらこは二人とも一人暮らしで……家は古いアパートだった。 ドアの電子錠も、セキュリティの甘い初期型だったはずだ。 標的はGGOにダイブしているから、身体は完全に無意識状態なんだ。 多少侵入に手間取っても、気付かれる心配はない……。 侵入した後、何かの薬品を注射……したんだろうな……」

 

「……ゼクシードさんとたらこさんは、発見が遅れて身体の腐敗が進んでいたんだよ。 それにVRMMOで、心臓発作で亡くなるケースは少なくないんだ。 何も食べず、寝ているだけだからね……。 部屋も荒れてなくて、お金が盗られていなかったら、自然に亡くなったと思われる確率が高い、と思うよ……。 薬品を注射されたなんて、最初からそのつもりで調べないと、判らないしね……」

 

「…………そんな…………」

 

シノンは両手でユウキのジャケットを握り、いやいやをする子供のように頭を振った。

ここまで用意周到な準備をして、人を殺す――。

そのような行為に及ぶ人間の心は、完全に理解の埒外(らちがい)だっただろう。

俺は彼女に、確認しなければならない事があった。

 

「シノン。――君は、一人暮らしか?」

 

「う……うん」

 

「鍵は……それと、ドアのチェーンは?」

 

「一応、電波ロックだけじゃなくてシリンダー錠も掛けてあるけど……。 鍵そのものは、家も初期型の電子錠……。 チェーンは……」

 

シノンは眉を寄せ、懸命にダイブ前の記憶探る。

 

「……してない、かもしれない」

 

「そうか。――シノン、いいか。 落ちついて聞いてくれ」

 

シノンの顔には、恐怖が色濃く浮かんでいた。

この事を、彼女に告げる事はしない方がいいのかもしれない。

――だが、今告げねばならない。

 

「廃墟スタジアム近くで、死銃は、麻痺した君をあの黒い拳銃で撃とうとした。 いや、実際に撃った。 それはつまり……準備が完了しているということだ。――今この瞬間に、現実世界の君の部屋に死銃の共犯者が侵入して、大会の中継画面で、君が黒い拳銃で撃たれるのを待っている――という可能性がある」

 

告げられた言葉が、シノンの意識に浸透するには長い時間が掛った。

――その言葉を理解した瞬間。

 

「嫌……いや……いやよ……そんなの……」

 

不意に、喉の奥が塞がる感覚と共に、シノンは呼吸が出来なくなった。

背筋を反らせ、空気を求めて喘ぐ。

ユウキ彼女を力一杯抱きしめ、シノンの耳元で叫ぶようにして声を掛けた。

 

「ダメだよシノンさん!! 自動切断でのログアウトは危険すぎるよ!! 頑張って……気持ちを落ち着かせて、今は大丈夫だから、危険はないから!!」

 

「……あ……あっ……」

 

シノンは闇雲に手を動かし、声の主に縋り付く(すがりつく)

その身体に腕を回し、無我夢中で抱き付く。

ユウキは、シノンの耳に優しく囁きかけた。

 

「死銃さんの黒い拳銃……《黒星》に撃たれるまで、侵入者は何もする事が出来ない。 それが、死銃さんたちの定めた制約。 でも、自動ログアウトして、死銃さんの顔を見ちゃうと逆に危険だよ。 だから、今は落ち着いて」

 

「でも……でも、怖い……怖いよ……」

 

シノンは子供のように訴えながら、ユウキの胸に顔を埋めた。

ユウキは彼女の頭を撫でながら、『大丈夫、大丈夫』と安心させるように囁き続けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

シノンの身体の震えが治まったのを感じたユウキが、シノンに訊ねた。

 

「落ち着いた?」

 

シノンは深く息を吐き、瞼を閉じてから、呟いた。

 

「うん、ありがとう。――これからどうすればいいのか、教えて」

 

思ったよりも、しっかりした声が返ってきた。

ユウキはシノンの髪を撫でるのを止め、即座に答えた。

 

「死銃さんを倒すんだよ。 そうすれば、現実世界でシノンさんを狙う共犯者は、何も出来ないはず。――と言っても、シノンさんは此処で待機していてね。 ボクたちが戦うよ。 あの銃を使っても、ボクたちを殺すことは不可能だからね」

 

「本当に……大丈夫なの?」

 

俺はユウキの隣に移動し、答えた。

 

「ああ、大丈夫だ。 俺たちはエントリーの時に名前も住所も書いていないし、そもそも俺たちは自宅からダイブしているわけじゃないんだ。 すぐ近くに人も居るしな。 だから大丈夫だ。 ゲームに則って奴を倒すだけだ」

 

「でも……死銃は≪黒星(ヘイシン)≫抜きでも、かなりの腕だわ。 回避力だけでも、貴方たちと同等かもしれない」

 

「確かに、絶対の自信があるわけじゃない……。 でもな、俺には隣で戦ってくれる人が居るから大丈夫だ」

 

「ボクとキリトは、愛の力でどんな困難も乗り越えて来たからね」

 

シノンは苦笑した。

 

「こんな時もそんな事が言えるなんてね。 やっぱりあんたたちは凄いわ。――私も戦う。 死銃の隙を狙って牽制は出来るかもしれない」

 

俺たちが言葉を発しようとしたが、シノンが遮った。

 

「今回の発言は自暴自棄になっていない。 それに此処にも隠れて居られないしね。 私たちが洞窟に隠れてることに、他のプレイヤーも気付いてる。 何時グレネードで攻撃されてもおかしくない。 むしろ、三十分近くも無事だったのはかなり運がよかったわ」

 

俺とユウキは頷いた。

 

「じゃあこうしよう。 次のスキャンで、俺たちがわざとマップに位置を表示させて、死銃をおびき出す。 その隙を狙ってシノンは狙撃してくれ」

 

「ボクたちが囮になるよ」

 

「…………自分たちが囮になって観測手(スポッター)をやるのね」

 

俺たちの戦闘スタイルでは、これが最善な作戦かもしれない。

俺たちは頷き合った。

 

次のサテライト・スキャンまで残り三分だ。

 




矛盾点なかったかな……。
無いことを祈ろう。

今回でシノンの過去が露わになりましたね。

さて、次回は死銃との戦い?なのかな。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第84話≪シノンの覚悟≫

ども!!

舞翼です!!

書き上げました。
今回は、シノンがメインですね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


シノンを洞窟に残して外に出た俺たちは、この世界の夜空を見上げながら、サテライト・スキャンの時を待った。

数秒後、マップ中央に幾つかの光点が浮かび上がった。

 

「……これは……」

 

俺は呟いてしまった。

画面上に表示された光点の殆どが、死亡を意味するグレーで塗り潰されていたからだ。

《死銃――Sterben》は光歪曲迷彩でスキャンを回避しているとして、俺たち以外に砂漠地帯に表示されている光点は一つ。

指先で触れると、表示された名前は《闇風》だ。

マップを広域に広げると、都市廃墟エリアにも光点が二つされたが、直後暗転し、グレーに変わった。

 

「……どうなってるんだ?」

 

「多分、衛星スキャンが開始されるまで、二人とも相手の場所を知らなかったんだよ。 スキャン後初めて、例えば壁一枚隔てた隣の部屋に居ることを知って、お互いに驚いて、グレネードを投げた、ってことじゃないかな」

 

「そりゃ……南無」

 

大会終盤まで勝ち残ってきた猛者たちとしては、不本意な幕切れだろう。

これで、三十人から開始されたバトルロイヤルの生き残りは五人。

≪kirito≫、≪yuuki≫、≪Sinon≫、≪Sterben(死銃)≫、≪闇風≫、と言う事になる。

最後に、全体に散らばる光点と暗点の合計数を数え、俺は低く声漏らした。

 

「……おかしいぞ」

 

「何がおかしいの?」

 

「光点の数だよ。 生存が三、死亡が二十三。 此処に映っていない、シノンと死銃、回線切断で消えたペイルライダーを足しても、二十九人だ。 何処かに隠れて居る?――何らかの理由で回線切断をし、姿を消した、ということか……?」

 

ユウキが口籠った。

 

「……可能性としてはゼロじゃないと思うけど……」

 

「どんな?」

 

「死銃さんが二人組じゃないって事だよ」

 

「ッ!?」

 

死銃の実行犯が複数居るなら、その一人がシノンの部屋に潜んでいて、別の構成員が動いている可能性があるかもしれないのだ。

《ラフィン・コフィン》の残党は、少なくとも十人以上居るのだ。

だが、奴らが集団で動いているとは考えにくい……。

 

「……シノンさんが居る洞窟へ戻ろうよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

洞窟に戻ると、シノンはバギーを隠した最奥部ではなく、角を少し曲がった辺りでライフルを肩に掛けて待っていた。

 

「どうだった!? 状況は!?」

 

顔の両サイドで結わえた水色のショートヘアを揺らし、急き込んで訊ねてくるシノンに、簡潔かつ丁寧に説明を試みる。

 

「スキャンの最中にも二人相討ちで退場して、残りは恐らく五人だ。 俺、ユウキ、シノン、闇風、画面に映らない《死銃》。 闇風は、此処から六キロ南西。 死銃もこの砂漠の何処かに居るはずだ。 グレーの点が幾つもあったから、死銃は俺たちを捜しならがら、片端から倒したのかもな。――人数のことなんだが。 もしかしたらもう一人、……回線切断をされた可能性が高い」

 

シノンは眼を見開き、首を左右に振った。

 

「………………まさか、死銃があれからまた、誰か殺したっていうの?――で、でも、そんなの不可能よ! だって、共犯者は私を狙ってるはずでしょ?」

 

ユウキが口籠りながら、

 

「……シノンさん聞いて。 もし、もしだよ。……死銃さんの共犯者が、一人じゃなかったら。 複数の実行部隊が居たら……」

 

「そ、そんな……。 こんなに恐ろしい犯罪に、三人以上が関わっているって言うの……?」

 

「……元《ラフィン・コフィン》の生還者は、少なくても十人以上いるんだ。 その人たちは、半年近くも同じ牢獄エリアに閉じ込められていた。……連絡手段を相談したり、この事件の計画を練る時間があったのかもしれないんだ。 十人全員が共犯者さんだと思わないけど。…………共犯者さんが一人だけと言う根拠もないんだ」

 

重い沈黙が暫し続いた。

その沈黙を、俺が破った。

 

「……もしかしたら、闇風も死銃のターゲットになっている可能性もあるんじゃないか……」

 

「ボクが死銃さんの注意を引くから、キリトは闇風さんを倒して」

 

俺は反論しようと思ったが、ユウキの強い瞳を見て、頷いた。

 

「闇風は、私が相手をする」

 

そう口にしたシノンの声音は、過去の亡霊に怯える少女ではなく、《氷の狙撃手》のものだった。

俺とユウキは頷いた。

 

「…………わかった、それで行こう。 シノンは闇風を倒してくれ」

 

「ボクたちは、死銃さんの相手をするね。 シノンさんは此処から出たら、狙撃出来そうな位置についてね」

 

「ええ、わかったわ」

 

「よし! 行こう!」

 

俺たちは拳をこつんと、打ち付けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

暗視モードに変更したへカートⅡのスコープを、シノンは右眼で覗き込んだ。

広大な砂漠には、今の所動く物は見当たらない。

だが、闇風と死銃は確実に接近している

シノンが狙撃位置に選んだ場所は、隠れていた洞窟がある、低い岩山の山頂だった。

地上からは見つかり難いが、移動出来るルートが一つしかない。

もし接近されれば、退避出来ずに撃たれる可能性がある。

でも今は、ネガティブな想像は捨て去る時。

心をフラットに保ちながら、そっとライフルを右に旋回させると、約百メートル離れた砂丘の天辺に、ひっそりと立つ二つの人影があった。

時折吹き抜ける風が、背中まで伸びる長い黒髪を揺らす姿は、銃を帯びた兵士と言うよりも、幻想的に佇む妖精の剣士のように見えた。

 

「(二人は、妖精の世界から銃の世界に来たんだっけ? 私も、妖精の世界に行ってみようかな?)」

 

シノンは大きく息を吐き、集中力を高めてから、ライフルの向きを戻した。

シノンの役割は、二人に最大限の集中力を与え、背後に接近する闇風を排除することだ。

前優勝者、ゼクシードが居ないこの大会では、誰もが優勝候補筆頭と認める相手を、一撃で沈めなければならない。

……今の私に、出来るだろうか?

シノンは、忍び寄ろうとする迷いや怖れを、懸命に振り払った。

今まで、GGOのシノンと、現実世界の朝田詩乃を、心の何処かで別の存在と区別していたのかもしれない。

強いシノンと、弱い詩乃。

そんな風に考えてしまったから、廃墟エリアではミスショットをしてしまったのだ。

シノンの中にも詩乃は居る。 詩乃の中にもシノンは居るのだ。――どちらも同じ《自分》。

――私はこの一弾を、詩乃として撃つ。 五年前の事件の時、そうしたように。

過去と向き合い、罪を見詰め直す。

そこから始め、歩き出さないといけないんだ。

 

シノンの右眼がスコープの彼方に、高速で移動する影を捉えた。 《闇風》だ。

トリガーに指を添える。

狙撃のチャンスは一度しかない。

もし外せば、闇風が二人に強襲するだろう。

死銃はその混乱に乗じて、シノンに接近し、もう一度黒星(ヘイシン)を向け発砲する。

シノンが黒星に撃たれれば、共犯者が詩乃の心臓に薬液を注射し、心臓を止める。

――この一弾には、詩乃の命が掛っているのだ。

しかし、心の中は不思議と静かだった。

へカートⅡ。 数多の戦場を共に駆け抜けてきた、無二の分身。――《冥府の女神》。

 

「(……お願い。 弱い私に、力を貸して。 ここからもう一度立って、歩き出す為の力を)」

 

遂にスコープに闇風を捉えた。

――速い!!

闇色の風と言うべき強烈な移動速度で、二人の背後に接近していた。

恐らく、二人も闇風の接近に気付いているはず。

だけど二人は前だけを見据え、闇風が迫ってくる方向には眼を向けていない。

これは、私を信頼してくれている証。

私はその信頼に、精一杯答えたい。

闇風は二人を狙う瞬間に、一度制止するはず。

思考を完全に止め、全存在がへカートと一体化し、集中力を極限まで高める。

視界に映し出されたのは、疾駆するターゲットと、その心臓を追い続ける十字のレティクルのみ。

その状態で、どれだけの時間が経過したのかさえ解らなかった。

そして、その瞬間が訪れた。

視界の端を、白い光が右下から左上へと横切った。

銃弾。――へカートのものではない。

死銃が放った銃弾だ。

それをキリトが回避し、西側から接近する闇風の元に届いたのだ。

闇風も、突如銃弾が飛来するとは予想出来ていなかった為、その場で身を屈めて制動をかけ、次いで岩陰へと方向転換しようとした。

これが、最初で最後のチャンスだ。

 

「(……今だ!!)」

 

指がトリガーを引き始める。

視界に薄緑色の《着弾予測円》が表示され、それが一瞬で極小のドットまで縮小し、胸の中央をポイントさせる。

 

トリガーを完全に絞り、巨大な50BMG弾の装薬がチャンバー内で炸裂、弾頭を瞬時に超音速まで加速させ、――撃ち出した。

 

へカートのマズルフラッシュに気付いた闇風の両眼と、シノンの右の瞳が、スコープ越しに衝突する。

驚きと悔しさ、それに確かな賞賛の色を見た気がした。

直後。 闇風の胸に、眩いライトエフェクトが弾けた。

アバターは数メートル以上吹き飛ばされ、砂の上を数度転がり、腹部に【DEAD】の文字が回転を始めようとした時には、シノンはへカートごと身体の向きを百八十度変えた。

 

其処には、さっきの銃弾を躱したキリトが一直線に疾駆する姿が映った。

次いで、ユウキの行く先でオレンジ色の光が瞬いた。

二人は飛来した銃弾を光剣で弾き飛ばし、回避を繰り返して、視線の先に映っていると思われる死銃に接近している。

接近するのは、距離が縮まるほど困難を極める。

 

シノンはスコープの暗視モードを切ると、同時に倍率を限界まで上げ、銃弾の発射位置を捉えた。

――大きなサボテンの下。 布地の下から突き出す特徴的な減音器の付いた銃、《サイレント・アサシン》。

そして其処には、死銃の姿。

その姿を見た途端、湧き上がろうとする恐怖に、シノンは右眼を見開いたまま抗った。

 

「(……お前は亡霊じゃない。 《ソードアート・オンライン》の中で沢山の人を殺し、現実世界に戻って来ても、こんな恐ろしい計画を企む精神の持ち主であっても、生きて呼吸し、心臓を脈打たせてる人間だ――)」

 

――戦える。

死銃に十字レティクルを合わせ、トリガーを絞る。

瞬間、死銃の頭がピクリと動いた。

恐らく、闇風を銃撃した場所から、予測線を見たのだ。

だが、これで条件は対等だ。さぁ――。

 

「(勝負!!)」

 

死銃がサイレント・アサシンを動かし、シノンに銃口を向けたと同時に、シノンは予測円の収束を待たず、トリガーを引いた。

轟音と同時に、死銃のライフルも小さな火炎を迸らせた。

シノンはスコープから顔を離し、肉眼で飛来する銃弾を確かめる。 瞬間――。

くわぁん! と甲高い衝撃音を響かせ、へカートに装着した大型スコープが、跡形もなく吹き飛んだ。

右眼を付けたままだったら即死していただろう。

銃弾はシノンの右肩を掠り、背後へと消えた。

へカートから放たれた50BMG弾は、狙いを僅かに逸らし、銃のレシーバーへと命中した。

直後、銃の中心部がポリゴンの欠片となって吹き飛び、銃のパーツがばらばらと砂に落下する。

この瞬間、死銃が携えてたサイレント・アサシンは、破壊された。

この世界では稀少かつ高性能な銃の最期に、シノンは弔いの言葉を呟いた。

 

「(…………ごめんね)」

 

スコープが破壊されてしまった今、もう遠距離狙撃は出来ない。

 

「あとは任せたわよ。 二人とも」

 

シノンは、二人の光剣使いに囁きかけた。

 




次回は死銃と対決?かな。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第85話≪幻影の一弾≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、ご都合主義発動したね(笑)

それではどうぞ。


シノンによる銃撃は二回あった。

一度目は、俺たちの後方に接近していた闇風を狙ったもの。

二度目は、俺たちの視線の先にいる、――死銃を狙った一撃だ。

これによって、死銃が携えていた《サイレント・アサシン》は破壊されたが、俺とユウキは警戒を解くことなく、死銃と一定の距離を保っていた。

俺とユウキは距離を詰め、単発重攻撃ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

あの世界で、そして新たに実施された妖精の世界で、俺たちが得意としている技だ。

この銃の世界ではシステムアシストは無いが、ステータスによって高められたスピードと共に放たれた一撃だ。

 

だが死銃は、タイミングを合わせたかのように、後方に跳び退き回避した。

瞬時に後方にジャンプしようとしたが、死銃が携えている刺剣(エストック)が襲う。

 

「ぐッ……!?」

 

「きゃ……!?」

 

身体全体から、血飛沫のようなダメージエフェクトが撒き散らされる。

俺とユウキは、後方に着地した。

五メートル程離れた場所に立つボロマント。――《死銃》は、右手にぶら下げた黒光りする刺剣の尖端を、まるで何かの拍子を取るかのように、ゆらゆらと動かしている。

奴はこの体勢から、ノーモーションで突き攻撃を繰り出してくる。

あの世界で、《ラフィン・コフィン》を討伐する為に乗り込んだ洞窟で、俺は同じ光景を眼にしていた。

奴は、今のように赤い眼を光らせていた。

珍しい武器を使う奴だと感じた。

あの時言えなかったことを、一年の時を経て、俺は口にした。

 

「……珍しい武器だな。というより……、GGOの中に金属剣があるなんて、聞いたことないぞ」

 

次いでユウキも言葉を発した。

 

「ボクも聞いたことないよ。……《赤目のザザ》さん」

 

正体を見破られて動揺するかと思ったが、死銃。――いや、赤目のザザはしゅうしゅうと掠れた笑いを漏らしだけだった。

続けて、切れ切れの声。

 

「お前たちと、したことが、不勉強だったな、黒の剣士、絶剣。 《ナイフ作製》スキルの、上位派生、《銃剣作製》スキルで、作れる。 長さや、重さは、このへんが、限界だが」

 

「……なら、俺の好みの剣は作れそうにないな」

 

「……ボクとキリトは、重い剣が主武装だったからね」

 

そう応じると、再び笑いの声。

 

「相変わらず、お前たちは、STR要求の、高い剣が、好みなのか。 なら、そんなオモチャは、さぞかし、不本意、だろう」

 

すると、俺とユウキの右手に握られている《カゲミツ》と《ムラサメ》は、オモチャ呼ばわりされたのが不満だったようで、ばちばちっと、細いスパークを散らした。

俺とユウキは二つの光剣に代わって、代弁する。

 

「そう腐したもんじゃないさ。 一度こういう剣を使ってみたいと思っていたしな」

 

「ボクもこういう剣を使ってみたかったしね。 それに、君のHPを吹き飛ばせるしね」

 

「ク、ク、ク。 威勢が、いいな。 出来るのか、お前たちに」

 

フードの奥で、赤い眼光が不規則に瞬く。

スカルフェイス状に造形された金属マスクが、気のせいかニヤリと嗤う。

 

「黒の剣士、絶剣。 お前たちは、現実世界の、腐った空気を、吸い過ぎた。 さっきの、なまくらな、《ヴォーパル・ストライク》を、昔のお前たちが見たら、失望するぞ」

 

「…………よく喋るな。 でもお前も同じだろう。 それともお前はまだ、《ラフィン・コフィン》のメンバーで居るつもりなのか?」

 

「…………ザザさん、《ラフィン・コフィン》は壊滅したんだよ?」

 

しゅうしゅうと、死銃は軋むような呼吸音を漏らす。

 

「……オレと、お前たちは、違う。 オレは、本物の、殺人者(レッド)。 お前たちは、平凡な、人間だ。 黒の剣士、お前は、恐怖に駆られて、ただ生き残るために、殺した、臆病者だ」

 

こいつは、俺がラフコフのメンバーを殺す場面を見ていたのか……。

 

「……ああ、そうだな。 臆病者かもな。 俺は大きな罪を背負った。 そしてその罪は、一生消すことが出来ない」

 

「だからその罪を、ボクも一緒に背負う事に決めたんだよ。 キリトの背中を少しでも軽くする為に」

 

しゅうしゅうと音を立てながら、笑い声が聞こえた。

 

「お前たちは、相棒、だったな。 黒の剣士の、戦意喪失を、狙ったんだが、失敗、したようだ。 だが、黒の剣士。 お前は、ここでオレに倒され、無様に転がり、絶剣が倒される姿と、――あの女が殺される姿を、ただ見ている以外には……、何も、出来ない」

 

「そんな事は絶対にさせないさ。 お前は、此処で俺たちに倒されるんだ」

 

「いつまで、そんな事が、言ってられる、かな」

 

バネ仕掛けの人形のように唐突な動きで、死銃は右手のエストックを突き出した。

正確に心臓を狙って伸びてくるその針を、俺は無意識の内に光剣で迎撃したが、ライフルの銃弾すら切り裂いた刃を、エストックが擦り抜けてきた。

だが、ダメージを受ける直前に、ユウキが突き出してきた刃と衝突し、金属音が響いた。

 

「なんだ、その、ナイフは?」

 

「これはボクが作ったナイフだよ。 ボクも《ナイフ作製》スキルを取っていたんだ。 熟練度が低いから、この小さなナイフが限界だけどね」

 

エストックを受け止めた後、俺とユウキは二、三歩バックジャンプをし、死銃と距離を取った。

 

「絶剣。 そのナイフでは、一度防ぐのが、限界だ」

 

死銃の言う通り、ユウキが左手に携えていた小さなナイフは、ポリゴン片になって地面に落下した。

 

「……ク、ク。 そんなもので、この武器と、張り合おうなんて、考えない方が、いいぞ。 こいつの、素材は、このゲームで手に入る、最高級の金属、だ。 宇宙戦艦の、装甲板、なんだそうだ。 クク、ク」

 

死銃はマントを大きく(なび)かせながら、一直線に突っ込んで来た。

これまで見せなかった連続の突き、スラント系上位ソードスキル、《スター・スプラッシュ》計八連撃――。

剣によるパリィが封じられた。

そして足元が砂地ゆえにステップもままならない俺とユウキの全身を、鋭利な針が次々貫いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「(キリト、ユウキ!!)」

 

砂丘の上で死銃と交戦している二人が、約一メートル後方に吹き飛ばされていた。

死銃の剣捌きは、シノンの眼から見ても凄まじいものだった。

この攻撃でHPを全損してしまったのでは、と息を詰めるが、二人は砂漠を一度蹴って後方に宙返りし、大きく距離を取っていた。

しかし、死銃には仕切り直すつもりはないの為、幽鬼のようにマントを靡かせながら間合いを詰める。

そんな光景を見て、シノンはトリガーに指を掛ける衝動を、必死になって堪えていた。

スコープさえ無事なら、狙撃で二人の支援が出来たが、この距離を肉眼では予測円を収束出来ない。

闇雲に撃てば、最悪二人のどちらかに当ってしまう可能性がある。

今の自分が、何も出来ないことが悔しかった。

二人は、私以上の苦悩を抱え、それを受け止めて、前に進んでいる。

二人が強いわけじゃない。

キリトはユウキの為に、ユウキはキリトの為に強くあろうとしている。

私も二人のように強くなれるだろうか……?――私も強くなれる。 強く在ろうと思うことが出来る。

その為にも、この事を気付かせてくれた二人の力になりたい。

――何か、私に出来ることが何かないか。 岩山を降り、接近するのは逆効果だ。 得策ではない。 だが、スコープなしでの狙撃はただのギャンブル。

サイドアームのMP7では、射程が足りない。 何か……、何かないの……。 二人を支援する手段が……。

――ある。 たった一つ、今のシノンが行える攻撃が。

何処まで効果があるかは判らないけれど、――でも、やってみる価値はある。

大きく息を吸い、ぐっと奥歯を噛み締めて、シノンは彼方の戦場を見据えた。

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

赤目のザザ。こいつは強い。

スピード、バランス、そしてタイミング。

全てが完成されている。

つまり、この男はラフコフが壊滅させた攻略組――恐らく俺への復讐心をエネルギーに、技を磨いた。 何千回、――何万回、同じ動作を繰り返したんだろう。 エストックという武器から繰り出す技を、身体に焼き付けるように。

俺たちは負けても、現実の身体に一筋の傷も受けないだろう。

しかし、後方で待機しているシノンが、あの黒い銃に撃たれれば、死銃の共犯者が現実のシノンを手に掛ける。

それは、絶対に阻止しなければならない。

一瞬、ほんの一瞬でいい。

このラッシュを、一瞬だけブレイク出来れば。

重い単発攻撃をクリティカルヒットさせれば、死銃のHPを吹き飛ばせる確信がある。

だが、光剣のエネルギーブレードは、死銃のエストックが擦り抜けてしまう。

どうする。 どうすれば――。

直後、チャンスは訪れた。

俺たちの後方から飛来した一条の赤いラインが、死銃の中央を音もなく突き刺した。

実弾、――ではなく。 照準予測線。シノンだ。 彼女による予測線そのものによる攻撃。

彼女が、その経験と閃き、そして闘志のあらん限りを注ぎ込んで放ったラストアタック。

――幻影の一弾(ファントム・バレット)

死銃は突然の攻撃で、本能的に大きく後ろに跳んだ。

シノンが危険を犯してまで撃つはずがないと気付いたが、身体が勝手に幻影の弾に反応し、回避行動を取った。

これがラストチャンス。

もう二度と予測線のフェイントは通用しない。

しかし、《光歪曲迷彩》の効果で、奴の姿が消えていく。

足跡が残るので見失いはしないが、光剣を正確にクリティカルポイントへと叩き込む為の狙いが付けられない。 死銃のHPを吹きと飛ばす強力な一撃が。

だが、その時だった。

――システム外スキル、《接続》が起こったのは。

 

『ボクの光剣を投げるよ。 受け取って』

 

『ああ、わかった』

 

ユウキが振り抜いた右手から、金属の筒がくるくる回転しながら、俺に向かって飛んでくる。

そして、それは俺の左手に吸い込まれた。

親指でスイッチをスライドさせ、《ムラサメ・斬》から青色に輝くプラズマの刃が伸長し、右手に携えていた《カゲミツ》と合わせて《二刀流》のスタイルとなった。

 

「う……おおおお――――ッ!!」

 

咆哮と踏み込み。 一度強く捻った全身を、弾丸のように螺旋回転させつつ突進し、揺らめくシルエットの輪郭に向け、左手を大きく振り出す。

宙に斜めラインを描いて飛翔した光の刃が、不可視の何かに命中し、激しくスパークを散らし、隠れた死銃を引きずり出す。

時計回りに旋転する身体の慣性と、重量を余さず乗せた右手の光剣を、左上から叩き付けた。

二刀流重突進技、《ダブル・サーキュラー》。

エネルギー刃は、死銃の右肩口を深々と切り裂き、そのまま胴を斜めに断ち切り、左脇腹から抜けた。

分断されたアバターと引き千切られたぼろマント、そして青白い炎が、満月の中をゆっくりと舞う。

俺は、死銃から少し離れた場所に着地した。

僅かに遅れて、細い金属針が――エストックが砂の上に突き刺さった。

膝を突いた俺の耳が、ごく僅かな囁き声を捉えた。

 

「…………まだ、終わら……ない。 終わらせ……ない。 あの人が……お前たちを……」

 

この言葉を最後に、死銃のアバターから、【DEAD】のタグが浮き上がった。

死銃は、完全に活動を停止させた。

俺はゆっくり身体を起こし、横たわる死銃の死体を見下ろした。

 

「いや……、終わりだ、ザザ。 共犯者もすぐに割り出される。 《ラフィン・コフィン》の殺人は、これで完全に終わったんだ」

 

身を翻し、ユウキの元に向かった。

 

「ありがとう。 助かったよ」

 

「どう致しまして。 これで終わったね」

 

「ああ、完全に終わったな」

 

「シノンさんの所に向かおうか??」

 

「そうだな。 全て終わった事を伝えないとな」

 

俺とユウキは満身創痍の身体で、砂漠を西に歩き始めた。

何百歩、何百メートル進んだだろうか。

そこには、スコープの失われた大型ライフルを抱えた狙撃手の少女が、穏やかに微笑みながら立っていた。

 




死銃の言葉づかい難しい^^;
ユウキちゃんが、サポートに回ったね。
戦闘が、これしか書くことが出来なかったんだけど^^;
文才が欲しいですね。

てか、ユウキちゃん。 何時の間に《ナイフ作製》スキル取ってたんだ!?
それに、二人の主武装が重い剣だった(笑)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!







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第86話≪BoB本戦終了≫

ども!!

舞翼です!!

初めて投稿が、一週間も空きました。
すいませんm(__)m
まぁ、でも、書き上げました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


俺とユウキは砂漠の上をゆっくり歩き、シノンと合流をした。

俺とユウキは光剣をスナップリングに吊るすと、拳を握り、真っ直ぐ突き出した。

シノンも右拳を持ち上げて、こつんと拳をぶつけた。

俺とユウキは拳を降ろし、短く呟いた。

 

「……終わったな」

 

「……うん、全て終わったね」

 

そう言ってから、真っ直ぐ頭上を振り仰いだ。

釣られて、シノンも視線を上げる。

いつの間にか大きく雲が切れ、その向こうで、満天の星々が光を振り撒いていた。

俺たちは暫し言葉を失い、透き通るような夜空を彩る様々なスぺクタルの光たちと、その間を川のように流れる、宇宙船の残骸の煌めきに見いった。

やがて、シノンが言った。

 

「……そろそろ、大会も終わらせないとね。 ギャラリーが怒ってるだろうし」

 

「……ああ、そうだな。 そういえば、中継されてたんだっけ」

 

夜空のあちこちでは、中継カメラたちが、心なしか苛立ったようにRECマークを点滅させていた。

ユウキが、静かに口を開いた。

 

「……この大会の危険は去ったよ。 死銃さんが倒れた今、シノンさんを狙っていた共犯者さんも姿を消していると思う。 死銃さんたちは、自分たちが決めた制約を破らないはず。……でも、ログアウト直後は気を付けてね」

 

「……でも、どうすればいいの? 警察に通報しても、何て説明したらいいの……?」

 

確かに、VRMMOの中と外で同時殺人を企んでいる人たちが居ます。 なんて言っても、信じてもらえない。

ユウキが思い出したように、

 

「ボクたちの依頼人に頼めばいいんだよ」

 

「なるほどな。 俺たちの依頼主は一応公務員だから、奴に動いてもらう手もあるけど……。 まさか、此処で君の住所や名前は聞けないし……」

 

VRMMOの中で、誰かのリアル情報を訊ねる、などは重大なマナー違反だ。

だがシノンは、一瞬考えただけで頷いた。

 

「いいわ。 教える」

 

「え……、でも……」

 

「何だかもう、今更って感じがするもの。 私……自分から、昔の事件のことを誰かに話したの、初めてだったから……」

 

俺とユウキは眼を見張ったが、小さく頷き返した。

 

「それもそうだね」

 

「ああ、そうだな」

 

シノンはヘカートを肩に掛けると、一歩踏み出して、誰にも聞こえないボリュームで囁いた。

 

「私の名前は、――朝田詩乃。 住所は東京都文京区湯島四丁目……」

 

アパート名と部屋番号まで言い終えた瞬間、俺とユウキは驚いたように囁き返した。

 

「湯島!? 驚いたな……」

 

「ボクたちが今ダイブしてるのは、千代田区の御茶ノ水なんだよ!」

 

「え……、ええ!? 眼と鼻の先じゃない」

 

これにはシノンも驚いていた。

シノンの自宅と病院までの距離は、大通りを二つ挟んだけだ。

 

「これなら、ボクたちが駆け付けた方が早いかもよ……」

 

「確かにそうだな……」

 

「え……、き……」

 

俺たちの提案に、シノンは何か言いかけたが、軽く咳払いをして言い直した。

 

「う、ううん、大丈夫。 近くに、信用できる友達が住んでるから……。 それにその人、お医者さんの子だから、いざってお世話になれるし」

 

俺とユウキは、真剣な顔で言い返した。

 

「おい、それはあんま洒落にならないぞ。 俺たちがログアウトしたら、すぐに依頼人に連絡して、警察に状況を説明させるよ。 どんなに遅くても十五分……。 いや、十分でパトカーが行けるようにしてもらうから」

 

「シノンさん。 もしもがあるかも知れないから。 だから、ボクたちか警察さんたちが来るまで、ドアにチェーンロックも掛けて、絶対に鍵を開けないで。 もしかしたら、近くに共犯者さんが潜伏してる可能性も捨てきれないから」

 

「ええ、わかったわ。 二人か警察が来るまで、部屋の中で待ってる。――ところで、私にだけ個人情報を開示させて終わり?」

 

ちょっと不機嫌そうに睨むシノンに、俺は慌てて自己紹介をした。

 

「え、あ、ご……ごめん。 俺の名前は桐ケ谷和人。 ダイブしているのは御茶ノ水だけど、家は埼玉県川越市」

 

「ボクの名前は紺野木綿季。 お家は、……和人の家に住んでるよ」

 

「ふぅーん。……やっぱり、一緒に住んでるんだ」

 

え、何でだ。

シノンの不機嫌オーラが増したぞ……。

ユウキが、『やっぱりこうなったね。 和人のバカ』、と小声で言っていた。

俺はこの空気から逃げる為に、『さて、』と語調を変えた。

 

「……ログアウトするには、BoBを決着させないとな。 どうやって決着をつける?」

 

「シノンさんのやり方で決着をつけようよ」

 

シノンは俺とユウキを一瞥してから、

 

「あんたたち、全身ボロボロじゃないの。 そんな人に勝っても全然自慢にならないわ。 次のBoB本大会まで、勝負は預けておいてあげる。 ユウキとも勝負したいしね」

 

俺とユウキは苦笑した。

 

「それって、第四回があるまで元のゲームに再コンバートするなって意味?」

 

「シノンさん、負けず嫌いなんだね」

 

「なっ!?」

 

シノンは、小さく声を上げた。

シノンは気を取り直して、

 

「……そ、それじゃあ、そろそろBoBの大会を終わらせよう」

 

「でもどうやって? バトルロイヤルだから、俺たちのHPが全損しないと、勝者は決まらないだろう」

 

ユウキが声を上げた。

 

「あ!! 《お土産グレネード》を使うんだね」

 

「流石ユウキ。 そう。 お土産グレネードよ」

 

「オミヤゲグレネード? なんだ、それ」

 

「負けそうな人が、巻き添え狙いで死に際にグレネードを転がすこと。――ん、ほら、これあげる」

 

シノンはポーチに手をやり、取り出したグレネードを、俺が反射的に差し出した右手に乗せた。 次いで、突き出た雷管のタイマーノブを、きりきりと五秒間ほど捻る。

俺の腕が、ユウキとシノンにホールドされ、動きを封じられた。

 

「……え、マジで」

 

タイマーがゼロになり、俺たちのアバター間に強烈な光が包み込んだ。

 

試合時間、二時間四分三十七秒。

第三回バレッド・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル、終了。

リザルト――【Sinon】、【yuuki】、【kiroto】。 同時優勝。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

東京都千代田区御茶ノ水の病院のベットの上で、俺は眼を覚ました

重たい身体を起こすと、万が一に備えてモニタリングしていた安岐さんの姿があった。

 

「おかえりなさい、和人君。 まずは、お水を飲んで水分補給をしなさい」

 

差し出された紙コップを受け取り、喉を潤す。

俺は喉が潤った所で、現状の報告をしようとした。

菊岡に連絡し、警察の手配などを頼もうとした。

それを話そうと口を開けたが、安岐さんが手一つで防いだ。

 

「和人君が言おうとしている事は、先に帰って来た木綿季ちゃんから聞いたわ。 今、彼女が菊岡さんと連絡を取ってるわ」

 

今まで気付かなかったが、木綿季が少し離れた所で、誰かと話していた。

その通話も終わり、木綿季がこちらを振り向いた。

 

「和人! 急いでシノン(詩乃)さんの部屋に向かうよ! すぐに支度して」

 

「了解だ!」

 

「ごめんなさい、安岐さん。 今、ボクたちは急いでるんです!」

 

「ええ、事情は理解できないけど、大事な事なのね。 わかったわ」

 

安岐さんは親指をぐっと立ててくれた。

俺たち支度してから一礼し、急いで病室を出る。

俺は下に降りるエレベータの中で、シノンのアパートまでのナビ情報を表示させた。

 

「よし! 急いでここに向かうぞ!」

 

「うん!」

 

病院を出た俺たちは、急いでバイクが止めてある駐輪場に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

BoB本大会の戦場となった弧島《ISLラグナロク》から転送され、待機エリアに戻されたシノンは、眼前に浮かぶリザルト表とログアウトまでのカウントダウンを眺めていた。

大会は終了したが、《死銃事件》そのものは終わっていない。

詩乃の近くには、まだ共犯者が潜んでいる可能性があるからだ。

キリトとユウキは、すぐに警察が向かうように手配してくれると言っていたが、最低でも十分は掛かるだろう。

もしかしたら、新川君がお祝いに来てくれるかもしれない。

でもユウキからは、『部屋の鍵は絶対に開けないで』、って言われている。

 

「(私が信用してる、新川君なら大丈夫よね)」

 

カウントダウンは数字を減らしていき、遂にログアウトまで十秒を切った。

最後にもう一度リザルト画面を見詰め、数字がゼロになるのを待った。

 

一瞬の浮遊感覚が過ぎ去った後、《シノン》は《詩乃》となり、自室のベット上に一人横たわっていた。

いや――ひとり、とはまだ限らない。 すぐに眼を開けちゃダメ、動くのもダメ、と自分に言い聞かせる。

身動き一つせず、瞼を閉じたまま、詩乃は周囲の気配を探った。

まず、自分の呼吸音と心臓の鼓動の音。

低く唸っているのは、部屋の空気を緩めるエアコンと加湿器の音。

部屋の外から響いてくる自動車の走行音に、同じアパートの何処かで部屋で鳴っている、ステレオのウォーファー。

――それ以外に異質な音はしない。 部屋の中には詩乃以外、誰もいない。

詩乃はゆっくりと瞼を開き、上体を起こし、アミュスフィアを頭から外し、部屋の中を見渡す。

詩乃の眼に映るのは、数時間前にフルダイブした時のまま、のように思えた。

ゆっくりと立ち上がり、足音を殺しながら壁際まで歩き、照明のスイッチを入れた。

眩い光が部屋に溢れ、キッチンの向こう側にある玄関まで照らす。

詩乃の眼に見える範囲では、異常はない。

だけど、狭い1Kのアパートでも、姿を隠せる場所は沢山ある。

詩乃は一息吐くと、壁一枚に隔てた場所。 ユニットバスの気配を探った。

爪先立ちになってキッチンへ向かい、万が一の為に包丁を手に取った。

冷汗で濡れた左手で、ドアノブを握り、大きく息を吸って、包丁を握っていた手で明りのスイッチを入れざま、一気にドアを引き開けた。

詩乃は無言で内部を凝視してから、呟いた。

 

「……馬ッ鹿みたい」

 

詩乃はキッチンに向かい包丁をまな板に置くと、身体を半回転し、壁に背中を預け、ずるずると座り込んだ。

部屋には誰も居なかった。 侵入された形跡もすらも、見当たらなかった。

もちろん、電子ロックを破って入り込んで来た死銃の共犯者が、部屋の中で携帯端末を利用してGGOの中継動画を視聴し、死銃の敗北と同時に立ち去った。――という可能性はまだある。

それであるなら、共犯者はこのアパート付近にいるはず。

引き返してくる可能性がゼロでない以上、ドアにチェーン掛けて、二人の到着を待っていた方がいいのかもしれない。

 

「(私の罪を聞いてくれて、その闇を振り払ってくれた、二人の剣士。――キリト、ユウキ。 現実世界で会って、話してみたい)」

 

ゆっくり立ち上がりドアにチェーンを掛けてから、再びキッチンまで移動し、浄水器から出る水をグラスに注いで、一気に飲み干し、喉を潤す。

更にもう一杯注ぎ足そう、としたその時――。

“キンコーン”、と玄関のチャイムが鳴り響いた。

詩乃は反射的に身体を竦ませ、ドアを凝視した。

今にも、勝手にロックが回転し始めるのではないか、と思うと息が詰まる。

二人が警察を連れて来た、と思って時計を見るが、ログアウトした時間を考えると早すぎる。

――二人じゃなかったら、其処に立っているのは誰?

立ち尽くしていると、再びチャイムが鳴った

詩乃は息を殺して、足音を立てないようにドアに歩み寄った。

すると、聞き慣れた声がした。

 

「朝田さん、居る? 僕だよ、朝田さん!」

 

詩乃は肩の力を抜いた。

サンダルを踏み石代わりにドアに顔を近づけ、念の為にレンズを覗く。

魚眼効果で歪んだ廊下に立っているのは、詩乃の同級生――元クラスメイトにして、詩乃をGGOに誘った新川恭二だった。

 

「新川くん……?」

 

インターホン越しに呼び掛けると、すぐに躊躇いがちな声が返る。

 

「あの……、どうしても、優勝のお祝いが言いたくて……。 これ、コンビニで悪いけど、買ってきたんだ」

 

その言葉にもう一度レンズを覗くと、恭二は小箱を掲げて見せた。

 

「は……、早いね、ずいぶん」

 

思わずそう声に出してしまう。 待機空間での待ち時間を入れても、大会が終わって五分弱。

もしかしたら、自宅ではなく近所の公園辺りで中継を見ていて、決着してすぐにコンビニ経由で駆け付けたのかもしれない。

ほっと息を付きながら、ドアのチェーンを外し、ロックノブに手を伸ばす。

 

「ちょっと待って、今開けるね」

 

と言いつつ、ふと自分の身体を見下ろすと、上はだぶっとしたトレーナー、下は素足にショートパンツという格好であったが、まぁいいか、と肩を竦めて詩乃は、ドアノブを九十度回転させた。

ドアを押し開けると、そこには、はにかんだような笑みを浮かべた新川恭二が立っていた。

 

ジーンズの上に、ボア付きのミリタリージャケットという重装備だが、外はそれでも足りなそうな程の冷たさであった。

 

「うわ、凄く寒いね。 早く入って」

 

「う、うん。 お邪魔します」

 

恭二はぺこりと首を縮めると、玄関に足を踏み入れた。

 




何かALOより終わるのが早くなりそうな……。

まぁ、それは置いといて、遂にBoB大会が終わりましたね。
あ、電極は病室を出るときに、すでに外してたという事で。
あと、キリト君は、ユウキちゃん一筋なので心配無用です(笑)
そして、詩乃さん。
やばいよやばいよ……。

あれは、次回になりそうです。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第87話≪終幕≫

ども!!

舞翼です!!

今回はあれですね(笑)
頑張って書きました!!

誤字脱字があったごめんよ。

それではどうぞ。


「……な、なによ。……部屋が寒くなっちゃうから、早く上がってドア閉めて。 あ、鍵もかけてね」

 

恭二の視線に気恥ずかしさを覚え、詩乃は照れ隠しに捲し立てると、振り向いて部屋に向かった。 がちん、とドアをロックする金属音が背後で響いた。

部屋に戻った詩乃は、テーブルからリモコンを拾い上げ、暖房を強くした。

エアコンから温かい空気が噴き出して、寒気を追い払っていく。

勢い良くベットに腰掛け、見上げると、恭二は所在なさそうに入り口に立っていた。

 

「どこでも、そのへんに座って。 あ、何か飲む?」

 

「う、ううん、お構いなく」

 

「疲れてるから、そんな事言うと本当に何も出ないよ」

 

冗談で言うと、恭二も微かな笑みを浮かべ、ケーキの小箱をテーブルの上に置いて、傍らのクッションに腰を降ろした。

 

「……ごめんね朝田さん、急に押しかけて。 でも……、さっきも言ったけど、少しでも早くお祝いを言いたくて」

 

子供のように膝を抱えて、上目遣いに詩乃を見上げてくる。

 

「あの……、GGO優勝、本当におめでとう。 凄いよ、朝田さん……、シノン。 とうとう、GGO最強ガンナーになっちゃったね。 でも……、僕にはわかってたよ。 朝田さんなら、何時かそうなるって。 朝田さんには、誰も持ってない、本当の強さがあるんだから」

 

「……ありがと。 でも、優勝って言っても一位タイだし……。 それに、中継見てたなら気付いたと思うけど、今回の大会では、ちょっと色々なことがあって……。 もしかしたら、大会そのものが無効扱いになるかもしれない……」

 

「え……?」

 

「あのね……、ええと……」

 

首を傾げる恭二に、《死銃》の事をどう説明していいか、詩乃は迷った。

理論を立てて話せる程に詩乃も事件の詳細を知っているわけではないし、それに今となっては、まるであの事件の出来事自体が幻だったような気すらしていた。

あと十分もすれば警察も来る。

恭二に説明をするのはその時でもいい。

詩乃はそう考え、話題を変えた。

 

「ううん……、何でもない。 ちょっと変なプレイヤーが居たってだけ。 それにしても君。 私の家に来るのずいぶん早かったね。 まだ、大会が終わって五分くらいだったのに」

 

「あ、その……実は、近くまで来て、携帯で中継を見ていたんだ。 すぐに、おめでとうが言えるように」

 

慌てたようにそう言う恭二に、詩乃は小さく微笑んだ。

 

「そうじゃないかと思ってた。 寒いのに、風引いちゃうよ。 やっぱり、お茶淹れたほうがいいかな」

 

しかし、恭二は首を振って詩乃を止めた。

その顔から笑みが薄れ、変わりに切羽詰まったような表情が浮かぶのを見て、詩乃は眼をぱちくりと瞬きした。

 

「あの……、朝田さん……」

 

「な、なに?」

 

「中継で……砂漠の、洞窟の中が映っていたんだけど……」

 

「あ……あの、あれは……」

 

今まで忘れていたが、ユウキに抱きしめられ、散々泣いたり喚いたりしてしまったのだった。

あのシーンを恭二が見ていたと言う事になる。

あれは迂闊とか言いようがない。

気恥ずかしさで俯いた詩乃に向かって、恭二が言葉を発した。

てっきり関係を聞かれると思ったが、その内容は詩乃の予想を大きく裏切るものだった。

 

「あれは……、あいつらに脅されたんだよね? 何か弱みを握られて、仕方なくあんなことをしたんだよね?」

 

「は、はあ?」

 

詩乃は唖然として、顔を上げた。

奇妙な光を両目に浮かべ、恭二は中腰になって身を乗り出していた。

 

「脅迫されて、あいつらの戦ってる相手を狙撃までさせられて……。 でも、最後はあいつらを油断させて、グレネードに巻き込んで倒したよね。 だけど……、それだけじゃ足りないよ……。 もっと、思い知らせてやらないと……」

 

詩乃は絶句してから、懸命に言葉を探した。

 

「あのね……。 脅迫とか、そういうのじゃないの。 大会中に、あんなことをしてたのは不謹慎だと思うけど……。 私、ダイブ中に、例の発作が起きそうになって……。 それで取り乱して、キリトとユウキ……。 あいつらに当たっちゃってさ」

 

恭二は眼を見開き、無言で詩乃の言葉を聞いている。

 

「……あいつら、ムカつく奴等だけど、でもね、私の闇を振り払ってくれたの。 それに、子供みたいにすごい泣いちゃって……、恥ずかしいよね」

 

「……でも朝田さんは……あいつらのこと……、何とも思ってないんだよね?」

 

「え……?」

 

詩乃には、恭二が言っている事の意味が理解できなかった。

 

「朝田さん、僕に言ったよね。 待ってて、って」

 

確かに大会前、近所の公園で《待ってて》と言った。

それは、何時か自分を縛るものを乗り越えてみせる、という意味で言ったのだ。

それが出来た時、ようやく普通の女の子に戻れるのだ、と。

 

膝立ちになり、身を乗り出す恭二の両眼に、何処か張り詰めた光が滲む。

 

「言ったよね。 待ってれば、いつか僕のものになってくれるって。 だから……、だから僕……」

 

「……新川くん……」

 

「言ってよ。 あいつらのことは、何でもないって。 嫌いだって」

 

「ど……どうしたのよ。……急に……」

 

「あ……朝田さんは優勝したんだから、もう充分強くなれたよ。 もう、発作なんか起きない。 あんな奴ら、必要ないんだ。 僕が、ずっと一緒にいてあげる。 僕がずっと……、一生、君を守ってあげるから」

 

呟きながら、恭二は立ち上がり、そのままふらりと二歩、三歩、詩乃に歩みより、――突然両手を広げると、容赦のない強さで詩乃を抱き竦めた。

 

「ッ……!?」

 

詩乃は驚愕し、全身を竦ませた。

 

「……しん……かわ……くん……」

 

詩乃は、圧力のせいで息が詰まった。

恭二は腕の力を緩めることなく、ベットに押し倒そうと、体重を預けてくる。

 

「朝田さん……。 好きだよ。 愛してる。 僕の朝田さん。……シノン」

 

恭二の声は、愛の告白には程遠く、寧ろ呪詛のように部屋に響いた。

 

「や……め……っ……!」

 

詩乃必死に両手をベットに突っ張り、身体を支えた。

脚に力を込め、右肩で恭二の胸に押し当て――。

 

「……やめてッ!!」

 

如何にか恭二の身体を押し返すことに成功した。

たたらを踏んだ恭二は、床のクッションに脚を取られ、尻餅を付いた。

弾みでテーブルからケーキの小箱が落下し、湿った音を立てる。

恭二はそれすらに眼を向けず、詩乃を凝視し続けた。

丸く見開かれた眼から、光が薄れ、――激しく痙攣し始めた唇から、虚ろな声が漏れた。

 

「だめだよ、朝田さん。 朝田さんは、僕を裏切っちゃだめだ。 僕だけが朝田さんを助けてあげられるのに」

 

「……し、新川くん……」

 

詩乃は呆然と呟いた。

恭二は、ベットに腰掛けたまま動けない詩乃の前に立ち、無言で見下ろしていた。

詩乃の中には、衝撃を上回る恐怖が滲み出した。

 

恭二は荒い息を吐き、ジャケットに右手を差し込み、何かを握った。

右手の手の中にあった物は、全体のは二十センチほど、クリーム色のプラスチックで出来ている。

詩乃の眼に入った物は、薬品が入った注射器だ。

先端には、細い孔が空いていた。

恭二の人差し指に添えている緑色のボタンを押したら、針が飛び出す仕組みになっているのだろう。

恭二はそれを握った右手をのろりと動かすと、先端を無造作に詩乃の首筋に押し当てた。

氷のような冷たい感触に、全身が総毛だった。

 

「しん……かわ……くん……」

 

「動いちゃだめだよ、朝田さん。 声も出しちゃいけない。……これはね、無針高圧注射器、って言うんだ。 中身は、《サクシニルコリン》っていう薬。 これが身体に入ると、筋肉が動かなくなってね、すぐに肺と心臓が止まっちゃうんだよ」

 

詩乃は、必死に頭を働かせた。

つまり恭二は、詩乃を殺す、と言っているのだ。

言う事を聞かなければ、注射器から薬液を注入し、詩乃の心臓を止めると。

詩乃は、逆光でせいでよく見えない恭二の顔を、呆然と見つめた。

幼さを残す、丸みを帯びた顎が僅かに動き、抑揚のない声が流れた。

 

「大丈夫だよ、朝田さん、怖がらなくていいよ。 これから僕たちは……、一つになるんだ。 僕が、出会ってからずーっと貯めてきた気持ちを、いま朝田さんに全部あげる。 そうっと、優しく注射してあげるから……。 だから、何にも痛いことなんてないよ。 心配しなくていいんだ。 僕に、任せてくれればいい」

 

言葉の意味は、詩乃には理解することが出来なかった。

だが、注射器。 心臓。 その二つの言葉を……、ごく最近聞いた。

――GGOというVRMMOの中で。

月夜の砂漠、小さな洞窟の中で、少年と少女が言ったはずだ。

《ゼクシード》と《薄塩たらこ》は、何らかの薬品を注射されて心臓が止まり、死んだと。

詩乃は掠れた声で聞いた。

 

「じゃあ……、君が……君が、もう一人の《死銃》なの?」

 

首筋に当てられた注射器が、びくりと動いた。

恭二の顔には、笑みが浮かんでいた。

 

「……へぇ、凄いね。 さすが朝田さんだ……。 《死銃》の秘密を見破ったんだね。 そうだよ、僕が《死銃》の片手だよ。と言っても、今回のBoBの前までは、僕が《ステルベン》を動かしていたんだけどね。 グロッケンの酒場でゼクシードを撃った時の動画、見てくれたら嬉しいな。 でも今日だけは、僕の現実側の役をやらせてもらったんだ。 朝田さんを、他の奴に触らせる訳にはいかないもんね。 幾ら兄弟って言ってもね」

 

詩乃は身体を強張らせた。

 

「き……きょう……だい? 昔SAOで殺人ギルドに入っていたっていうのは……、君の……お兄さん、なの?」

 

恭二の眼が驚きに見開かれた。

 

「へぇ、そんなことまで知ってるんだ。 大会中に、ショウイチ兄さんがそこまで喋ったのか。 ひょっとしたら、兄さんも朝田さんのことを気に入ったのかもね。 でも安心して、朝田さんは誰にも触れさせないから。 ほんとうは……今日、朝田さんにこれを注射するのはやめよう、って思っていたんだよ。 朝田さんが、僕のものになってくれたらね」

 

再び、恭二の眼が虚ろになった。

 

「……朝田さん、君は騙されているんだよ。 あいつらが何を言ったか知らないけど、すぐに僕が追い出してあげる。 忘れさせてあげるからね」

 

恭二は注射器を押し付けたまま、左手で詩乃の右肩を強く掴み、力任せにシーツの上に押し倒すと、自身もベットに乗り、詩乃の太腿に跨る。

その間も、うわ言のように呟き続けていた。

 

「……安心して、朝田さんを独りにしないから。 僕もすぐに行くよ。 二人でさ、GGOみたいな……。 ううん、もっとファンタジーっぽい奴でもいいや。 そういう世界に生まれ変わってさ、一緒に暮らそうよ。 一緒に冒険して……、子供作ってさ、楽しいよ、きっと」

 

完全に常軌を逸した恭二の言葉を聞きながら、詩乃は麻痺した思考の一部で、二つの事だけを考えていた。

――もうすぐ、二人が警察を連れてくる。 だから、何か喋り続けなければ。

詩乃は、完全に乾ききった舌を如何にか動かした。

 

「でも……、パートナーの君が居なくなったら、お兄さん困るよ……。 そ……それに、私、向こうで《死銃》に撃たれなかった。 なのに死んだら、せっかく《死銃》の伝説を、みんな疑うよ」

 

恭二は右手の注射器を、トレーナーの襟から覗いた詩乃の鎖骨に押し当てながら、引き攣るような笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だよ。 今日はターゲットが三人もいたからさ。 兄さんが、実行役をもうひとり連れて来たんだ。 SAO時代のギルドメンバーなんだって、これからは、その人が僕の変わりになればいい。 それに……、朝田さんを、《ゼクシード》や《たらこ》みたいなクズと一緒にするわけないじゃない。 朝田さんは、死銃じゃなく、この僕のものだよ。 朝田さんが……旅立ったら、どこか遠い……人の居ない、山の中とかに運んでさ、そこで僕もすぐに追いかけるよ。 だから、途中で待っててね」

 

恭二の左手が、トレーナの上から詩乃の腹部に触れた。

二、三度指先を下ろしてから、次第に掌全体で撫で擦り始める。

嫌悪と恐怖に肌が粟立つのを感じながら、詩乃は懸命に語り続けていた。

急に動いたり、大きな声を出せば、恭二は躊躇わずに注射器のボタンを押すだろう。

彼の声には、そう確信させるだけの何かがある。

詩乃は、そっと極力穏やかに言葉を発した。

 

「……じゃ、……じゃあ……君はまだ、現実世界で、その注射器を使ったことはないんだね……? なら、まだ……まだ、間に合うよ。 やり直せるよ。 だめだよ、死のうなんて思ったら……」

 

「……僕には、現実世界なんてどうでもいいよ。 さぁ、僕と一つになろう、朝田さん」

 

虚ろな声と共に左手が動き、詩乃の頬を撫で、髪に指を絡める。

 

「ああ……朝田さん……。 きれいだ……凄くきれいだよ……。 朝田さん……僕の、朝田さん……。 ずっと、好きだったんだよ……。 学校で……朝田さんの、あの事件の話を……聞いた時から……ずっと……」

 

「……え……」

 

詩乃は眼を見開いた。

 

「そ……それって……どういう……」

 

「好きだった……。 憧れていたんだ……。 ずっと……」

 

「……じゃあ……君は……」

 

そんな、まさか、と心の中で呟きながら、詩乃は消え入るような声で訊ねた。

 

「君は……あの事件のことを知ったから……。 私に、声を掛けたの……?」

 

「もちろん、そうだよ。 本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子なんて、日本中探しても朝田さんしか居ないよ。 ほんと凄いよ。 言ったでしょ、朝田さんには本物の力がある、って。 だから僕は、《死銃》の伝説を作る武器に《五四式・黒星》を選んだんだ。 朝田さんは、僕の憧れなんだ。 愛してる……愛してるよ。……誰よりも……」

 

「……そん……な……」

 

詩乃は眼前に居る少年は、肉親を除いて唯一心を許せる存在だと信じていたのに……。

――ごめんね。 キリト、ユウキ。 せっかく助けてもらったのに……。 無駄にしちゃって、ごめんね……。

二人は、ログアウトしたら警察を寄越すように手配すると言っていた。

あれから何分経ったのか分からないが、どうやら間に合わなかったようだ。

二人は、私が殺されたことを知ったら、どう感じるのだろう。 それだけが少し気がかりだった……。

二人の光剣使いは、依頼人への連絡を済ませて、それで終わりにするだろうか?

もしかしたら、詩乃のアパートへ急行しようとするのではないか?

もし、どちらか二人が、新川恭二に鉢合わせしたら、恭二はどうするであろうか? 逃げるか、諦めるか……。 それとも、手に持った注射器を向けるのだろうか。

このことは、十分に考えられることであった。

私が此処で死ぬのは、定められた運命として受け入れる。

しかし、二人を巻き添えにするのは――それは、別の問題だ。

 

「(……でも、どうにもならないよ……)」

 

横たわって手足を縮め、眼と耳を塞いだ詩乃が呟く。

だが、その傍らに跪き、細い肩に手を置きながら、サンドイエローのマフラーを巻いたシノンが囁きかける。

『……私たちは今までずっと、自分しか見てこなかった。 自分の為にしか戦わなかった。 ――もう遅いかもしれないけど、せめて最後に一度だけ、誰かの為に戦おうよ』。

詩乃は恐る恐る手を伸ばし、シノンが差し出してくれた手を取った。

シノンはにこりと笑うと、詩乃を助け起こした。

色の薄い唇が動き、短く、ハッキリとした言葉が響いた。

『さぁ、行こう』。

二人は闇の底を蹴り、水面に揺れる光を目指して上昇し始めた。

 

詩乃は現実世界と再接続を果たした。

恭二は注射器を詩乃の首に押し当てたまま、上半身からトレーナーを引き抜こうとしていた。

しかし片手では上手くいかず、顔に苛立ちが見える。

布地をぐいぐいと引っ張り始める。

詩乃はその動きに合わせて、身体を左に傾けた。

途端、ずるりと注射器の先端が滑り、詩乃の身体から離れて、シーツの上に突き刺さった。

その瞬間を逃さず、詩乃は左手で注射器のシリンダーを部を強く握り、同時に恭二の顎を強く突き上げた。

ぐぅ、と声を発して、恭二は仰け反った。

詩乃を押さえ付けていた重さが消えた。

詩乃は、突き刺さった注射器のグリップを必死に引っ張った。

このチャンスにこれを奪えなければ、望みは潰える。

だが、利き手でグリップを握る恭二と、滑りやすい左手で握る詩乃との綱引きは、いかにも分が悪かった。

体勢を立て直した恭二は、強引に右手を引っ張りながら寄声を上げつつ、左手を振り回した。

 

「っ……!!」

 

その拳が、強く詩乃の右肩を打った。

左手からずるっと注射器が抜けると同時に、詩乃はベットの上から転がり落ちて、背中を強く打った。

背中を強く打った為、詩乃は息を詰まらせ、空気を喘いだ。

恭二も、ベットの上で突き上げられた顎を押さえていたが、すぐに顔を上げると詩乃を凝視した。

恭二の口から、掠れた声が漏れた。

 

「なんで……?」

 

信じられない、と言わんばかりに、左右に首を振る。

 

「なんで、こんなことするの……? 朝田さんには、僕しかいないんだよ。 朝田さんのことを理解してあげられるのは、僕だけなんだよ」

 

それを聞いて詩乃は、恭二に助けられた日々を思い出していた。

学校帰りに同級生に待ち伏せされ、金銭を要求されそうになった時、通りかかった恭二が助けてくれた。

だがそれは、偶然ではなかったのだ。

恐らく恭二は、詩乃の下校する後を付け、帰宅するのを見届け、その後家に帰ってGGOにログインし、シノンを待っていたのだ。

妄執――としか言いようがない。

強張った唇を動かして、詩乃は言った。

 

「……新川くん……。 私は、辛いことを経験したけど……。 それでも、この世界が好き。 これからは、もっと好きになれると思う。 だから……、君とは一緒には、行けない」

 

立ち上がろうとして右手を床に突くと、それ指先が何か重く、冷たい物に触れた。

詩乃は瞬時にその正体を察した。

現実世界における、全ての恐怖の象徴。

第二回BoBの参加費として、送られてきたモデルガン――《プロキシオンSL》。

手探りでグリップを握ると、ゆっくり黒いハンドガンを持ち上げ、銃口を恭二に照準した。

だが、グリップを握っている右手の感覚が鈍くなり、痺れが腕を這い登ってくる。

これは発作の前兆だ。

今すぐ、右手に握る黒星をを投げ捨て、逃げ出したい。

でも、ここで逃げてしまったら、何もかもが無駄になる。

命と同時に、同じくらい大切なものを無くしてしまう。

――これは詩乃の、発作の恐怖と戦いだ。

詩乃は軋む程に奥歯を噛み締め、親指でハンマーを起こした。

ベットの上で膝立ちになった恭二は、向けられた《プロキシオンSL》を凝視しながら、僅かに後退った。

怯みのせいか、激しく瞬きを繰り返す。

 

「……何のつもりなの、朝田さん。 それは……それは、モデルガンじゃないか。 そんなもので、僕を止められると思うの?」

 

詩乃は左手をデスクの縁にかけ、ふらつく脚に力を込めて立ち上がりながら、答えた。

 

「君は、言ったよね。 私には本当の力がある、って。 拳銃で誰かを撃ったことのある女の子なんか他にいない、って」

 

恭二は顔を強張らせながら、更に退がる。

 

「だから、これはモデルガンじゃない。 トリガーを引けば実弾が出て、君を殺す」

 

詩乃は恭二に照準を合わせたまま、じりじりと足を動かし、床を横切ってキッチンに向かう。

 

「ぼ……僕を……ぼくを、ころす……? 朝田さんが、ぼくを……ころす……?」

 

「そう。 次の世界に行くのは、君ひとりだけ」

 

「やだ……嫌だ……。 そんなの……嫌だ……」

 

恭二はの眼から、意志の色が抜け落ちた。

ぼんやりとした顔で宙を見詰めながら、ぺたんとベットの上に、正座をするように座り込む。

詩乃は、そのままゆっくり移動を続け、キッチンへと踏み込んだ。

視界から恭二の姿が消えた途端、詩乃は床を蹴り、ドアへと走った。

だが、踏んだマットが勢い良く滑り、詩乃は体勢を崩した。

バランスを取ろうと振り回した右手からモデルガンが飛んで、シンクの中に落下して、派手な音を立てた。

如何にか倒れるのは堪えたものの、左膝を打ち付け、激痛が走った。

それでも、一杯に身体を伸ばし、右手でドアノブを握った。

しかし、ドアは開かなかった。

ロックノブが横に倒れているのに気付き、歯噛みしながら、それを垂直に戻す。

カチリと解除音が指先に伝わったのと、ほぼ同時に――。

右足を、冷たい手がぐっと握った。

 

「ッ!?」

 

振り向くと、四つん這いになった恭二が、魂の抜け落ちた顔のまま、両手で詩乃の足を捕えていた。

幸いなことに、注射器は見当たらなかった。

振り解こうと足を動かしながら、詩乃は必死に手を伸ばし、ドアを開けようとした。

だが、それを掴むことは叶わなかった。

恭二が凄まじい力で、詩乃の足を引っ張ったのだ。

数センチも引き込まれたが、詩乃は左手で(かまち)の段差を掴み、必死に抵抗した。

恭二の力は常軌を逸していた。

強引に引き摺られ、詩乃は勢い良くキッチンの奥に引き戻された。

恭二の身体が圧し掛かってきた。

右手を握り、再び顎を狙って突き上げたが、僅かに掠った所を恭二の左手に掴まれた。

 

「アサダサンアサダサンアサダサン」

 

その奇妙な声が、詩乃の名前だと気付くのには、暫くかかった。

唇の端から白く泡立った唾液を垂らし、両眼の焦点を失った恭二の顔が、ゆっくり降りてくる。

口が大きく開き剥き出された上下の歯が、詩乃の肌を噛み裂こうとするように、近づいて来る。

左手で退けようとするが、その手首も捕えられてしまう。

両手をがっちり押さえつけられ、動きを封じられてしまった。

あと少し恭二の顔が近づいたら、首筋に噛みつこうと、詩乃は口許を緊張させた。――その瞬間。

冷たい空気が、詩乃の頬を撫でた。

恭二が顔を見上げ、後方を見やった。

その眼と口が、ぽかんと丸く広がった。

と思った瞬間、開いたドアから疾風のように走り込んできた誰かが、恭二の顔面に膝を思い切りめり込ませた。

奥に転がり込んだ恭二と、その闖入者(ちんにゅうしゃ)を、詩乃は唖然として見詰めた。

やや長めの黒い髪。 同じく黒のライダージャケット。 咄嗟に、アパートの他の部屋の住人と思ったが、男――というより少年が僅かに振り返り、叫んだ時、詩乃は少年の正体を悟った。

 

「シノン!! 逃げるんだ!!」

 

「キリ……」

 

呆然と呟いてから、詩乃は慌てて身体を起こした。素早く立ち上がろうとしたが、脚が言う事を聞かない。

すると、後ろから詩乃の身体を引っ張り上げた人物が居た。

詩乃は後ろを見た。

そこには、とても美しい少女が立っていた。

 

「シノンさん。 歩ける!!??」

 

「……ユウキ」

 

二人は、お茶の水のダイブ場所から、此処までやって来たのだ。

 

「お前……おまえらだなぁぁああ!! 僕の朝田さんに近づくなああぁぁああッ!!」

 

恭二が獣のようにこちらに突進してきたが、キリトが拳のカウンターを合わせ、恭二の右頬にめり込ませた。

恭二は後方に倒れ落ち、意識を失った。

キリトは大きく息を吐き、

 

「シノン、大丈夫か? 歩けるか?」

 

「ええ、大丈夫」

 

「もうすぐ、警察さんも到着する頃だと思うよ」

 

「二人とも、来てくれて……ありがとう」

 

詩乃はゆっくりと歩き始めた。

それと同時に、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。




キリト君のカウンターが決まったー!!
うん、痛そうだね(笑)

次回でGGOは終わりかな(多分)
あと、今後のことについてアンケートとってるので、よろしくです(^^♪

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第88話≪守れた命≫

どもっ!!

舞翼です!!

はい、アンケート結果が出ました。
3のキャリバー書いて、後日談ですね(^^♪

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。



秋葉原 某所。

 

あの事件の後、警察が到着してすぐに、新川恭二は逮捕された。

それから数時間後、新川昌一、金本敦が逮捕された。

俺と木綿季と詩乃は、御茶ノ水の病院で検査を受けてから、軽い事情聴取を受けた。

その日はそのまま病院で一泊した後、早朝に覆面パトカーでそれぞれの家に送ってもらった。

 

翌々日。

学校が終わった放課後に、学校終わりの詩乃を連れ立って、秋葉原のとある喫茶店に訪れていた。

俺たちの眼の前の席には、眼鏡をかけたスーツ姿の役人、菊岡誠二郎が座っている。

菊岡は、スーツの内ポケットから黒革のケースを取り出し、一枚抜いた名刺を差し出した。

 

「はじめまして。 僕は総務省総合通信基盤局の菊岡と言います」

 

穏やかなテノールで名乗られ、詩乃も慌てて名刺を受取り、会釈を返す。

 

「は、はじめまして。 朝田……詩乃です」

 

言った途端、菊岡は口許を引き締め、ぐいっと頭を下げた。

 

「この度は、こちらの不手際で朝田さんを危険に晒してしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

「い……いえ、そんな」

 

慌てて、詩乃は頭を下げ返した。

菊岡はニッコリ笑い、

 

「それじゃあ、全容解明には至っていないんだけど……。 判った範囲で今回の事件を説明するね」

 

「……菊岡さん。 事件の説明してくれるのはありがたいんだけど……」

 

木綿季が一言文句を言おうとした所で、先程注文した物がやってきた。

 

「お待たせいたしましたー♪ご主人さま♡お嬢様♡」

 

フリフリのエプロンドレスに身を包んだ女の子が、注文した物をテーブルに並べた後、笑顔で戻っていった。

女の子を見送った後、木綿季が文句を口にした。

 

「……菊岡さん。……何で事件の説明をする場所が、メイドカフェ(・・・・・・)なんですかッ!!」

 

「……私も思っていたわ」

 

「……ああ、俺もだ」

 

「え? だって、三人共この後も用事があるんだよね? なら、なるべく近くの秋葉原を選んだんだけど……。 それに、ほら。 一度こういう店も体験したかったからさ。 さ、君たちも食べなよ」

 

笑顔でそう言いながら、眼の前に置かれた、プリンアラモードにスプーンを立てる。

 

「なぁ、普通の喫茶店にする選択肢はなかったのか?」

 

「ずっと前から、入ってみたかったんだよメイドカフェ」

 

菊岡はニコニコ笑いながら、プリンを口に運んでいる。

 

「……詩乃さん、警察に通報しようか。 公務員が女子高生をナンパしてますって」

 

「通報よりも、ツイッターに書き込んだ方がいいかしれないわ」

 

「うわぁーッ! そ、それだけは勘弁してっ!?」

 

慌てた様子で、木綿季と詩乃を止めに入った菊岡は、それでも最後のプリンの一欠片を食べた後、居住まいを正した。

俺は、恐る恐る聞いた。

 

「……それには、俺は入ってないよな」

 

「大丈夫。 和人は入っていないから」

 

「そうね。 命の恩人だもの」

 

「そ、そうか。 よかった」

 

菊岡は咳払いし、

 

「――話す内容があれだからね……。 少しでも気分を上げようと思ってさ」

 

「そういう事にしといてあげるよ」

 

木綿季の言葉を聞き、ホッと安堵の息を漏らした菊岡は、傍らに置いてあったビジネスバッグからタブレッドを取り出して、話始めた。

――三人の死銃について。

 

まず判った事は、GGOの中で死銃を操っていたのは、SAO時代は《赤目のザザ》だったプレイヤー、名前は新川昌一。

新川昌一は、新川恭二の実の兄であった。

そして、彼ら兄弟と組んでいた共犯者、金本敦。

SAO時代の名前は、《ジョニー・ブラック》。

《ラフィン・コフィン》では、ザザとコンビを組んでいた毒ナイフ使いだ。

金本がどの段階で計画に加担したかは、現在事情聴取しているらしい。

少なくても、最初の二件の殺人は新川兄弟の犯行らしい。

ゲームの中を恭二が、現実世界は昌一が担当していたらしい。

そして、今回の死銃のターゲットだったのは、《ゼクシード》、《薄塩たらこ》、《ペイルライダー》、《ギャレット》、《シノン》。

 

「……あの」

 

詩乃は、この問いを聞かずにはいられなかった。

 

「新川君……。 恭二君は、これからどうなるんですか……?」

 

菊岡は指先で眼鏡を押し上げながら、

 

「昌一は十九歳、恭二は十六歳なので、少年法による審判を受けることになるわけだが……。 四人も亡くなっている大事件だからね。……彼らの言動を見る限りでは、医療少年院へ収容される可能性が高いと、僕はそう思う」

 

「そう……ですか」

 

詩乃はポツリと呟き、俯いた。

詩乃は数秒間何かを考えた後、顔を上げ、正面から菊岡を見る。

 

「あの……恭二君との面会は出来ますか?」

 

「すぐには無理ですが、面会は可能ですね」

 

「そうですか。――私、彼に会いに行きます。 会って、私が今まで何を考えてきたか……。 今、何を考えているか、話したい」

 

その言葉に、菊岡は本心からと見える微笑を浮かべると、言った。

 

「あなたは強い人だ。 ぜひ、そうしてください。 今後の日程の詳細は、後ほどメールで送ります」

 

それから別の用事があると言う事で、店を出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

菊岡と別れた後、ノストラジックな下町の風景が広がる、御徒町の路地を右左に分け入り、やがて一軒の小さな店の前に到着した。

黒光りする木造の建物は無愛想で、そこが喫茶店だと示しているのは、ドアの上に掲げられた、二つサイコロを組み合わせた意匠の金属板だけだ。

そこには、≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫という文字が打ち抜かれている。

無愛想なドアに掛けられたプレートは、《CLOSED》側になっている。

 

「……ここ?」

 

「「ああ(うん)」」

 

俺は、躊躇いなくドアを押し開けた。

“かららん”、という軽やかな鐘の音に共に開いたドアを支えながら、木綿季、詩乃と続いた。

店内は、スローテンポなジャズミュージックが流れている。

 

「いらっしゃい」

 

そう言ったのは、カウンターの向こうに立つ、チョコレート色の肌の巨漢だった。

戦歴の兵士といった感じの相貌とつるつるの頭は迫力があるが、真っ白いシャツの襟元に結んだ小さな蝶ネクタイがユーモラスさを添えている。

店内には、学校の制服を着た、二人の女の子がカウンターのスツールに座っていた。

彼女たちのブレザーが、二人の制服と同じ色に、詩乃は気付いた。

 

「二人とも、おそーい」

 

「明日奈さん。 いじけないの」

 

そう言ったのは、栗色の長い髪を背中ほどまでに伸ばした女の子と、長い黒髪を背中ほどまでに伸ばした女の子だ。

 

「悪い悪い。 クリスハイトの話が長くてさ」

 

二人はすとんと床に降りて、慣れた様子で割って入った。

 

「それより、早く紹介してよ。 和人君、木綿季ちゃん」

 

「あ、ああ……そうだった」

 

詩乃は俺に背中を押され、店の中央まで進み出た。

 

「ボクが紹介するね。 こちら、ガンゲイル・オンライン三代目チャンピオン、シノンこと朝田詩乃さん」

 

「や、やめてよ。 木綿季」

 

思わぬ紹介の仕方をされ、小声で抗議するが、木綿季は笑いながら言葉を続けた。

栗色の、長い髪を揺らす女の子を示し、

 

「こっちの女の子が、ボクの唯一無二の親友、結城明日奈」

 

「はじめまして、結城明日奈です。 よろしくね」

 

明日奈は微笑みながら、詩乃に軽く会釈をした。

木綿季は、もう一方の女の子に左手を向ける。

 

「それでこっちの女の子が、ボクの姉ちゃん。 紺野藍子」

 

「はじめまして、紺野藍子です。 よろしくお願いします」

 

藍子も微笑みながら、詩乃に会釈をした。

木綿季はカウンター奥のマスターに左手を向けた。

 

「で、マスターのエギルさん」

 

エギルはにやりと笑みを浮かべると、分厚い胸板に右手を当て、言った。

 

「はじめまして、アンドリュー・ギルバート・ミルズです。 今後ともよろしく」

 

詩乃はぺこりと頭を下げた。

 

「さ、座ろうぜ」

 

俺は六人掛けのテーブルに歩み寄ると、椅子を引いた。

詩乃と木綿季、明日奈と藍子が椅子に座るのを待って、エギルに向かって指を鳴らす。

 

「エギル、俺はジンジャーエール」

 

「あ、ボクも」

 

「あ……じゃあ、私も」

 

「明日奈さんと私は、お冷で」

 

注文が終わった後、俺は椅子に腰を下ろした。

 

「それじゃ、あの日何があったのかを、明日奈と藍子に簡単に説明するよ」

 

BoB本大会での出来事プラス、菊岡に聞かされた事件の概要を話終えるのに、ダイジェスト版でも十分以上要した。

 

「――と、まぁ、まだマスコミ発表前なんで、実名とか細部は伏せたけど、そういうことがあったわけなのでした」

 

話を締めくくると、俺は力尽きたように椅子に沈み込み、二杯目のジンジャーエールを飲み干した。

藍子と明日奈が身体を乗り上げ、

 

「……和人さんのバカ!」

 

「……木綿季ちゃんのバカ!」

 

と言い、額に軽くデコピンした。

 

「なんで、私たちに相談してくれなかったんですか」

 

「そうだよ、私たちも力になれたのに。 抱え込むのは、和人君と木綿季ちゃんの悪い癖だよ」

 

「「……ごめんなさい」」

 

俺と木綿季は、顔を俯けた。

 

「今度からは相談してくださいね」

 

「絶対だからね。 いい?」

 

「「……わかった」」

 

明日奈と藍子は椅子に座り直し、俺と木綿季は顔を上げた。

 

「あの……朝田さん」

 

「は、はい」

 

「私がこんなこと言うのは変かもしれないけど……。 ごめんなさい、怖い目に遭わせてしまって」

 

「いえ……そんな」

 

詩乃は明日奈の言葉を聞き、急いで首を左右に振り、ゆっくり答えた。

 

「今回の事件は、たぶん、私が呼び寄せてしまったものでもあるんです。 私の性格とか、プレイスタイルとか……過去とかが。 そのせいで、私、大会中にパニックを起こしてしまって……木綿季に落ち着かせてもらったんです」

 

「あの時の木綿季は、お姉さんしてましたね」

 

「うん、私も見たよ」

 

明日奈と藍子は、ばっちり洞窟シーン見ていたらしい。

 

「ともあれ、女の子のVRMMOプレイヤーとリアルで知り合えたことは、嬉しいですね。 これからよろしくお願いします」

 

「そうですね。 色々、GGOの話とかも聞きたいな。 友達になってくださいね、朝田さん」

 

明日奈と藍子は穏やかな笑みを見せると、テーブルの上に、手を差し出した。 白く、柔らかそうな手を見て――突如、詩乃は竦んだ。

友達、という言葉に胸が()み落ちた途端、そこから焼け付くような渇望が湧き上がるのを、詩乃は感じた。 同時に、鋭い痛みを伴う不安も。

ともだち。 あの事件以来、何度も望み、裏切られ、そして二度と求めないと、心の底に己への(いまし)めを刻み込んだもの。

友達になりたい。 そう言ってくれた明日奈と藍子という、深い慈愛を感じさせる少女の手を取り、その温かさを感じてみたい。

一緒に遊んだり、他愛も無いことを長話ししたり、普通の女の子がするような事をしてみたい。

しかし、そうなれば、何時か彼女達も知るだろう。

詩乃がかつて人を殺したことに、詩乃の手が、染み付いた血に汚れていることに。

その時、彼女達の瞳に浮かぶであろう嫌悪の色が恐ろしい。

人に触れることは――自分には許されない行為なのだ。 恐らく、永遠に。

詩乃の右手は、テーブルの下で固く凍り付いたまま、動くことはしなかった。

二人の少女が首を僅かに傾げるのを見て、詩乃は眼を伏せた。

このまま帰ろう、そう思った。

友達になって、というその言葉の温かさだけでも、暫くは詩乃の胸を温めてくれるだろう。

ごめんなさい、と言おうとしたその時――。

 

「詩乃さん」

 

微かな囁きが、怯え、縮こまった詩乃の意識を揺らした。

ぴくりと身体を震わせて、詩乃は左隣に座る木綿季を見た。

視線が合うと、彼女は小さく頷いた。

大丈夫だよ、とその眼が言っていた。促されるように、再び二人の少女に視線を向ける。

二人の少女は微笑みを消すことなく、手を差し出し続けている。

詩乃の腕は、鉛が括り付けたかのように重かった。

それでも詩乃はその枷に抗い、ゆっくり、ゆっくりと右手を持ち上げた。

二人の少女が差し出す手までの距離は、途方もなく長かった。

近づくにつれ、空気の壁が、詩乃差し出す右手を跳ね返そうとしているように感じた。

次の瞬間、詩乃右手は、明日奈と藍子の手に包まれていた。

 

「あ…………」

 

詩乃は意識せず、微かな吐息を漏らした。

何という温かさだろうか。 人の手というものが、これほどに魂を揺さぶる感触を持っていることを、詩乃は忘れていた。

何秒、何十秒、そのままでいただろうか。

明日奈は言葉を探すように、ゆっくり喋り始めた。

 

「……あのね、朝田さん……詩乃さん。 今日、この店に来てもらったのには、もう一つ理由があるの、もしかしたら詩乃さんは不愉快に感じたり……怒ったりするかもしれないと思ったけど、私たちは、どうしてもあなたに伝えたいことがあるんです」

 

「伝えたいこと? 私が、怒る……?」

 

言葉の意味が解らず聞き返すと、詩乃の右隣に座る俺が、どこか張り詰めた声を出した。

 

「……シノン。 まず、君に謝らなければならない」

 

俺は深く頭を下げてから、漆黒の瞳でじっと詩乃を凝視した。

 

「……俺、君の昔の事件のこと、明日奈と藍子に話した。 どうしても、彼女たちの協力が必要だったんだ」

 

「えっ……?」

 

俺の言葉の後半は、詩乃の意識に届かなかった。

――知っている!? あの郵便局の事件のことを……十一歳の詩乃が何をしたかを、明日奈と藍子は知っている!?

詩乃は全身の力を使い、握られてる右手を引き抜こうとした。

だが、明日奈と藍子は、詩乃の右手を握り続けた。

少女たちの瞳が、表情が、そして伝わる体温が、詩乃に何かを語りかけていた。

だが――何を? この手が拭えない血で汚れていると知った上で、何を伝えることがあるというのか?

 

「詩乃さん。 実は、私と木綿季と明日奈さんと和人さんは、昨日学校を休んで、……市に行ってきたんです」

 

藍子の口から発せられた地名は、間違えなく、詩乃が中学卒業まで暮らしていた街の名前だ。

 

「な、なんで……そんな……ことを……」

 

詩乃は、何度も首を左右に振った。

木綿季が静かに口を開いた。

 

「それはね、詩乃さん。 詩乃さんが会うべき人に会っていない、聞くべき言葉を聞いていないからだよ。 もしかしたら、詩乃さんを傷つけるかもしれない。 でもボクは、どうしてもそのままにしておけなかったんだ。 だから、新聞社のデータベースで事件のことを調べて、直接郵便局まで行って、お願いしてきたんだ。 ある人の連絡先を教えて欲しい、って」

 

「会うべき……ひと……聞くべきことば……?」

 

呆然と繰り返す詩乃の両隣、そこに座っていた俺と木綿季が立ち上がり、店の奥に見えるドアへ歩いて行った。

《PRIVATE》の札が下がるドアが開けられると、その奥から、三十代くらいの女性と、まだ小学生に入る前だと思われる女の子が歩み出て来た。

顔と雰囲気がよく似ている、きっと親子なのだろう。

でも、詩乃の戸惑いは深まるばかりだ。

なぜなら、親子が誰なのか。 詩乃には解らなかったからだ。

女性は、呆然と座ったままの詩乃を見ると、何故か泣き笑いを思わせる表情を浮かべて、深々と一礼した。

隣の女の子もぺこりと頭を下げる。

その後、俺と木綿季に促され、親子は詩乃の座るテーブルの前までやってきた。

明日奈と藍子が椅子から立ち上がり、詩乃の正面に女性を、その隣に女の子を掛けさせる。

カウンターの奥から、今まで沈黙を守っていたエギルが静かにやって来て、二人に飲み物を出した。

こうして間近で見ても、やはり誰だか解らない。

なぜ木綿季は、この親子が《会うべき人》だと言ったのだろうか?

いや、どこか記憶のずっと深い所で、何かが引っかかる気がした。

すると、女性が深々と一礼した。

続けて、微かに震えを帯びた声で名乗る。

 

「はじめまして。 朝田……詩乃さん、ですね? 私は、大澤祥恵(おおさわ さちえ)と申します。 この子は瑞恵(みずえ)、四歳です」

 

名前にも、やはり聞き覚えがなかった。

挨拶を返すことが出来ず、ただ眼を見開き続ける詩乃に向かって、祥恵という母親は大きく一度息を吸ってから、はっきりした声で言った。

 

「……私が東京に越してきたのは、この子が産まれてからです。 それまでは、……市で働いていました。 職場は……町三丁目郵便局です」

 

「あ…………」

 

詩乃の唇から、微かな声が漏れた。

それは――その郵便局は、五年前の事件があった、小さな町の郵便局。

彼女は事件当時、郵便局で働いていた職員の一人だ。

つまり、俺と木綿季、明日奈と藍子は、昨日学校を休んであの郵便局に行った。

そして、既に職を辞し、東京に引っ越していたこの女性の現住所を調べ、連絡し、今日この場で詩乃と引き合わせた。

詩乃はそこまでは理解できた。 しかし最大の疑問は残っている。

なぜ? なぜ木綿季たちは、学校を休んでまでそんなことを?

 

「……ごめんなさい。 ごめんなさいね、詩乃さん。 私……もっと早く、あなたにお会いしなきゃいけなかったのに……。 あの事件のこと、忘れたくて……夫が転勤になったことをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって……。 あなたが、ずっと苦しんでいることは、少し想像すれば解ったことなのに……謝罪も……お礼すら言わずに……」

 

涙を流す母親を心配するように、隣に座っていた瑞恵という名の女の子が、祥恵を見上げる。

祥恵は、そんな娘の三つ編みにした頭をそっと撫でながら続ける。

 

「……あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。 だから、詩乃さん、あなたは私だけでなく……この子の命も救ってくれたの。 本当に……本当に、ありがとう。 ありがとう……」

 

「…………命を…………救った?」

 

詩乃は、その二つの言葉を、ただ繰り返した。

あの郵便局で、十一歳の詩乃は拳銃の引き金を引き、一つの命を奪った。

それだけが、詩乃のしたことだった。

今までずっと、そう思ってきた。

でも――――、でも。 今、眼前の女性は、確かに言った。

救った、と。

すると、瑞恵が椅子から飛び降り、とことこテーブルを回り込んで歩いてくる。

瑞恵は、幼稚園らしいブラウスの上からかけたポシェット手をやり、ごそごそと何かを引っ張り出した。

不器用な手で広げられ、詩乃に差し出された画用紙には、クレヨンで絵が描かれていた。

中央に、髪の長い女性の顔。 ニコニコと笑うそれは、母親の祥恵だ。

右側に、三つ編みの女の子。 自分自身。

ということは、左側の眼鏡をかけた男性は、父親に違いない。

そして一番上に、覚えたばかりなのだろう平仮名で、《しのおねえさんへ》と記されていた。

詩乃は、瑞恵から差し出された絵を両の手で受け取ると、瑞恵はたどたどしい声で、でもはっきりと言った。

 

「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」

 

その言葉を聞いた途端、詩乃の瞳から大粒の涙が零れ出した。

大きな画用紙を持ったまま、ただぽろぽろと涙を零し続ける右手を。

火薬の微粒子によって作られた黒子(ほくろ)が残る、まさにその場所を――。

小さな、柔らかい手が、最初は恐る恐る、しかしすぐにしっかりと握った。

過去を全てを、受け入れられるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。

これからも苦しんだり、悩んだりするだろう。

それでも、歩き続けることは出来るはずだと、その確信がある。

なぜなら、繋がれた右手も、頬を流れる涙も、こんなにも温かいのだから。

 

~GGO編 完結~




今回は、明日奈さんと藍子さんを出しました~。
GGOに入ってから出ていなかったからね。
あと、死銃の三人は逮捕されましたよ。

さて、GGOが完結しました(^^♪
読者の皆さんが観覧してくれたおかげです!!

次回はキャリバー編ですね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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キャリバー編
第89話≪聖剣を求めて≫


ども!!

舞翼です!!

キャリバー編に入りましたね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


木綿季の部屋のベットの上で、桐ケ谷和人は眠っていた。

なぜ、此処で寝てるかというと、夜中に布団の中に入り込んだからだ。

 

「和人~、朝だよ」

 

部屋をノックして入って来た人物は、俺の将来の奥さん、紺野木綿季だ。

木綿季は、俺のすぐ傍に腰を下ろした。

 

「もう、和人は。 また布団の中に入り込んでくるんだから」

 

俺は眼を擦りながら、

 

「俺、昨日は木綿季と寝たくて」

 

「この頃、一緒に寝てるよね?」

 

「……うん」

 

木綿季の部屋が建て上がってからも、俺は毎日のように木綿季と寝ている。

最初の頃は一人で寝れたんだが、数日離れただけで、木綿季の温もりが恋しくなってしまったのだ。

 

「……木綿季、膝枕」

 

「はいはい、おいで」

 

木綿季は膝を“ぽんぽん”と叩き、俺を促す。

うつ伏せで寝ていた俺は、ほふく前進で木綿季にすり寄りよってから仰向けになり、後頭部を木綿季の太股に乗せた。

木綿季はニッコリ笑い、俺の頭を撫でてくれる。

 

「……木綿季。 大好きだよ」

 

「ボクも大好きだよ」

 

木綿季の顔がゆっくりと下りてくる。

唇と唇が触れ合おうとしたその時、部屋の扉が勢いよく開かれ、一人の少女が部屋に侵入してきた。

その人物は、漆黒の黒い髪をショートに整えてる少女、桐ケ谷直葉だ。

直葉は、俺と木綿季を見て数歩あとずさった。

 

「…………もしかして、お邪魔だったかな」

 

俺は木綿季の太股からむくりと起き上がり、言った。

 

「いや、大丈夫だ。 何時でも出来るしな」

 

「気にしないで、スグちゃん」

 

俺は直葉に聞いた。

 

「で、どうしたんだ? そんなに慌てて?」

 

「あ、そうだった!! お兄ちゃん、これ見て」

 

という声と共に、直葉が差し出してきた薄型のタブレット端末を受け取り、俺は寝ぼけた眼でボーっと眺めた。

表示されているのは、国内最大のVRMMORPG情報サイト《MMOトゥモロー》のニュース記事だった。 真っ先に記事内のスクリーンショットを見ると、風景写真が写った。

俺は記事のリード文を読み始める。

直後、俺は衝撃に見舞われ声を上げてしまった。

 

「な……なにィ!!」

 

【最強の伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》、ついに発見される!】。

 

記事には、そのように記載されていたのだ。

俺は食い入るように本文を読み進めながら、長く唸った。

 

「うぅ――――――ん……。 とうとう見つかっちまったかぁ……」

 

木綿季は首を傾げながら聞いてきた。

 

「もしかして、黄金の剣のこと?」

 

「そうなんだよ……」

 

《聖剣エクスキャリバー》。

それはALOに於いて、サラマンダーのユージーン将軍が持つ、《魔剣グラム》を超えると言われる唯一の武器だ。

しかしその存在は長いこと、公式サイトの武器紹介ページ最下部に小さな記述と写真で確認出来るだけで、入手方法は知られていなかった。

いや、正確には知ってるプレイヤーが四人だけいた。

俺とユウキ、リーファとユイだ。

だが既に、大規模ギルドが《聖剣エクスキャリバー》入手の為、動き出しているという情報もあった。

俺は腕を組み、再び唸った。

 

「うむむ……」

 

「でも、どうやって見つけたんだろね?」

 

「だよな。 ヨツンヘイムは飛行不可だし、聖剣エクスキャリバーは飛ばないきゃ見えない高さにあったはずだぞ」

 

俺は木綿季の問いに考え込んだ。

一年前、シルフ領を出て中都アルンを目指そうとした俺、ユウキ、リーファ、ユイは、世界樹が見えてきたところで、巨大ミミズモンスターに呑まれ、消化管経由で闇と氷の世界ヨツンヘイムへと投げ出された。

到底勝てない邪神級モンスターがうようよするフィールドを、何とか地上への階段まで辿り着くべく移動していた俺たちは、不思議な光景に出くわした。

四本腕の人型邪神が、水母(くらげ)型邪神を攻撃していたのだ。

リーファに、「いじめられてるほうを助けて!」のお願いに賛同した俺とユウキは、人型邪神を誘導し、水中戦に移行させて水母型邪神に倒してもらった。

俺が《トンキー》と名付けたそいつは、《羽化》してから俺たちを背中に乗せて飛び、地上に繋がる天蓋の通路まで運んでくれたんだが、――その途中で、俺たちは見たのだ。

天蓋の中心から、世界樹の根っこに包まれてぶら下がる逆ピラミッド状の巨大ダンジョンと、その最下部でクリスタルに封印されて輝く黄金の長剣を。

俺と同時に記憶を甦らせていた直葉は、微笑みながら言った。

 

「お兄ちゃん、あの時すっごい迷ったでしょ。 トンキーに乗ったまま地上に戻るか、ダンジョンに飛び移ってエクスキャリバーを取りに行くか」

 

「そ……そりゃまぁ、迷ったけどさ……。 でも敢えて言わせてもらえば、あそこで迷わない奴は、ネットゲーマとは認められない!」

 

「和人。 その台詞はカッコよくないよ」

 

木綿季にそう言われ、俺は肩を落とした。

 

「……欲しいな、最強の剣」

 

「ボクは協力するよ。 約束だしね」

 

「木綿季~~」

 

俺は木綿季に抱き付いた。

 

「和人は甘えん坊さんなんだから」

 

直葉が『んんッ』と咳払いし、

 

「それでどうしようか?」

 

俺は抱擁を解いてから、身体を前へ向き直し、言葉を発した。

 

「スグは、今日暇か?」

 

「…………まぁ、部活はもう休みだけど」

 

よし!とばかりに、左掌に右拳を打ち付ける。

俺は早口に攻略の方針を捲し立てる。

 

「確か、トンキーに乗れる上限は九人だったな。 てことは俺とユウキ、ラン、アスナ、スグ、クライン、リズ、シリカ……あと一人か。 エギルは店あるしなぁ……クリスハイトは頼りないし、レコンはシルフ領にいるだろうし……」

 

「……シノンさん誘ってみたら」

 

「おお、それだ!」

 

俺は傍らに置いてあった携帯端末と取り出すと、電話帳をスクロールさせた。

今月の上旬、俺と木綿季はとある事件に巻き込まれてGGO――、《ガンゲイル・オンライン》にキャラクターをコンバートさせ、そこでシノンいうプレイヤーと知り合った。

事件解決後、シノンはアスナやラン、リズとも友達になり、彼女たちに誘われてALOに新キャラクターを作ったのだ。

まだ作成してから二週間しか経っていないキャラだが、シノンのセンスなら、もう高難度ダンジョンでも充分立ち回れるはずだ。

俺は最大速でメールを打った。

 

「じゃあ、朝ごはんにしようか」

 

そう言って部屋から出て行った直葉の足取りが、どこか弾むようなのは気のせいではあるまい。

恐らくあいつも、なんだかんだと言いながら、最初にニュースを見た時からその気だったのだろう。

仲間たちと異世界に飛び込み、困難かつスリリングなクエストに挑む。

それ以上に楽しいことなど、そうそうあろうはずもない。

シノンを含めた六人に誘いのメールを送信し終えると、俺は木綿季に話し掛けた。

 

「さ、俺たちも下に行こうぜ」

 

「うん、そうだね」

 

俺と木綿季は立ち上がり、直葉を手伝う為にキッチンへと急いだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

待ち合わせ場所となった、イグドラシル・シティ大通りに看板を出す《リズベット武具店》の工房では、鍛冶妖精族(レプラコーン)の店主が皆の武器を順に回転砥石に当てている。

大がかりなクエストの前には、装備の耐久度をMAXまで回復させておくのが常識だ。

クエストの途中で武器が壊れたりしたら、シャレにならない。

壁際のベンチで胡座(あぐら)をかき、《景気づけ》という理由で朝から酒瓶を傾けていたクラインに、ふわふわした水色の小竜を頭に乗せた猫妖精族(ケットシー)の獣使いシリカが訊ねた。

 

「クラインさんは、もうお正月休みですか?」

 

「おう、昨日っからな。 働きたくても、この時期は荷が入ってこねーからよ。 社長のヤロー、年末年始に一週間も休みがあるから、ウチは超ホワイト企業だとか自慢しやがってさ!」

 

クラインは、これでも小規模な輸入商社に勤める歴とした会社員だ。

何時もブツクサ社長の悪口を言っているが、SAOに二年間囚われた彼の面倒をきちんと見、生還後も即座に仕事に復帰出来たのだから、実際はいい会社なのだろう。

壁際に寄り掛りそんなことを考えていたら、当のクラインがじろっと俺を見て言った。

 

「キリの字よ、もし今日ウマいこと《エクスキャリバー》が取れたら、今度オレ様のために《霊刀カグツチ》取りに行くの手伝えよ」

 

「えぇー……あのダンジョンくそ暑ぃじゃん……」

 

「それを言うなら、今日行くヨツンヘイムはくそ寒ぃだろうが!」

 

低レベルな言い合いをしていると、左隣からぼそっと一言。

 

「あ、じゃあ私もアレ欲しい。 《光弓シェキナー》」

 

ウグッ、と言葉に詰まりつつそちらを見やる。

壁に背中を預け、腕組みをして立つのは、水色の短い髪からシャープな形の三角耳を生やしたケットシーの女性プレイヤー、シノンだ。

 

「き、キャラ作って二週間で、もう伝説武器を御所望ですか」

 

シノンは細長い尻尾をひゅんと動かして答えた。

 

「リズが造ってくれた弓も素敵だけどさ、できればもう少し射程が……」

 

すると、工房奥の作業台で、まさにその弓の弦を張り替えていたリズベットが振り向き、苦笑いしながら言った。

 

「あのねぇ、この世界の弓ってのは、せいぜい槍以上、魔法以下の距離で使う武器なんだよ! モンスターを百メートル離れたところから狙おうなんて、普通しないの!」

 

それに対してシノンは肩を竦め、澄ました微笑を浮かべる。

 

「欲を言えば、その倍の射程は欲しいとこね」

 

彼女の本拠GGOでは、実に二千メートルに達する超ロングレンジ狙撃を得意と知っている俺は、引き攣った笑みを作った。

本当にそんな弓をゲットされたら、エリア縛り無しのデュエルでは、剣の真合いに持ち込む前に、矢でハリネズミにされてENDだ。

と思っていると、俺の右にある工房の扉が勢いよく開いた。

 

「帰ったよー!」、「ただいま帰りました」、「お待たせ!」、「たっだいまー!」

 

声の主は、ポーション類の買い出しに行っていたユウキとラン、アスナとリーファだ。

市場から此処まで、ブツ(アイテム)をアイテム欄に収納しないで運んで来たらしく、四人のバスケットから色とりどりの小瓶や木の実が部屋の中央のテーブルに積み上げられていく。

 

ユウキの肩からぱたぱたと飛びたった小妖精――ナビゲーション・ピクシーのユイが、俺の頭の上にちょこんと座った。

俺の髪は長いことつんつん逆立てていたが、ユイの要請によって髪を下ろしている。

理由は、《座りにくい》、からだそうだ。

俺の頭上の上で、ユイは鈴の音のような声ではきはきと言った。

 

「買い物ついでにちょっと情報収集してきたんですが、まだあの空中ダンジョンまで到達出来たプレイヤー、またはパーティーは存在しないようです。 パパ」

 

「へぇ……。 じゃあ、なんで《エクスキャリバー》のある場所が解ったんだろ」

 

「それがどうやら、私たちが発見したトンキーさんのクエストとは別種のクエストが見つかったようなのです。 そのクエストの報酬としてNPCが提示したのがエクスキャリバーだった、ということらしいです」

 

ポーション類を整理していたアスナが、青いロングヘアを揺らして振り向くと、小さく顔を(しか)めて頷いた。

 

「しかもどうやらソレ、あんま平和なクエじゃなさそうなの。 お使いや護衛系じゃなくて、スロータ系。おかげで今、ヨツンヘイムはPOPの取り合いで殺伐としてるって」

 

「……そりゃ、確かに穏やかじゃないな……」

 

虐殺(スロータ)系とはその名が示す通り、《○○というモンスターを○匹倒せ》とか《○○というモンスターが落とすアイテムを○個集めろ》とかいう類のクエストだ。

必然、指定された種類のモンスターを片端から狩りまくるので、同じクエストを受けているパーティーが狭いエリアで重なると、POP、つまりモンスターの再湧出を奪い合って場がギスギスしてしまうのだ。

ユウキが心配そうに、言った。

 

「トンキーさん、大丈夫かな……」

 

「あいつなら大丈夫さ」

 

俺は前に居るユウキを抱き締め、頭を優しく撫でた。

 

「……うん、そうだよね」

 

これを見ていたランとアスナが言葉を発した。

 

「キリトさんとユウキは、ラブラブですね」

 

「リーファちゃんが言うには、現実世界でもこうらしいですよ」

 

リズベットとシノンとリーファは右手を額に当て、シリカは顔を真っ赤にし、クラインは「リア充爆発しろッ!」と叫んでいた。

シノンが気持ちを切り替え、冷静な声で言葉を発した。

 

「――ま、行ってみれば解るわよ、きっと」

 

工房の奥でリズベットが叫んだ。

 

「よーっし! 全武器フル回復したわよ!」

 

「「「「「おつかれさま」」」」」

 

労いの言葉を皆で唱和し、輝きを取り戻したそれそれぞれの愛剣、愛刀、愛弓を受け取り装備する。

次にテーブルで、アスナが持ち前の作戦指揮能力で九分割したポーション類を貰い、腰のポーチに収納。

準備が完了した所で、俺はぐるりと皆を見回し、『ごほん』と咳払いしてから言った。

 

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう! このお礼はいつか必ず返す! 精神的に。それじゃあ――いっちょ、頑張ろう!」

 

「「「「「お――!」」」」」

 

俺はくるりと振り向き工房の扉を開けると、イグシティの真下、アルン市街から闇と氷の世界ヨツンヘイムに繋がる秘密トンネル目指して、大きく踏み出した。

 




呼び方がごちゃごちゃになった気が、気のせいであって欲しい(>_<)
あと和人くん。羨ましすぎだよ。
うん、羨ましい。

てか、和人くんと木綿季ちゃんはラブラブやね(笑)
皆と装備と容姿は、アニメALOの、装備と容姿を想い浮かべてくれたら嬉しいです。
アスナさんの装備は、マザロザの表紙を想い浮かべてくれたら嬉しいです。
ランさんの容姿と装備は、皆さんのご想像で(笑)
髪は長い黒髪で、武器は片手剣で。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第90話≪湖の女王≫

ども!!

ちょいキツの言葉を貰い、心が折れそうな舞翼です!!(空元気)

まぁ、でも、気合で書きました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。






トンキーの背に乗って移動を始めた俺たち。 そんな中、リズベットが言葉を漏らした。

 

「……ねぇ、これ、落っこちたらどうなるの?」

 

「飛べないからな。 間違えなくお陀仏だろうな」

 

ヨツンヘイムでは原則的にどの種族も飛行不可能であり、また高所落下ダメージが適用されるのだ。

スキル値などにもよるが、ダメージは十メートル程度から発生し、三十メートルを超えると確実に死亡だ。

俺の隣に座るユウキが、言った。

 

「でもでも、ボクとキリトは、昔アインクラッドの外周の柱から次の層に登ろうとして、落っこちたよね」

 

「どっちが早く登れるか競争してたんだよな」

 

リズベットが右手を額に当て、

 

「あんたたちは、何やってのよ……」

 

「いや、あの時は遊び心で。 転移結晶を使うのが後一秒遅かったら、生命の碑の名前に横線が引かれたな」

 

俺は頬をポリポリ掻いた。

次いでユウキが言葉を発した。

 

「だね~」

 

「……あんたたちって、本当に……」

 

「キリトさん、ユウキ。 後でお仕置きです」

 

「私も混ざるからね」

 

ランとアスナに笑顔で言われたが、眼が笑っていなかった……。

 

「「……はい」」

 

「…………高い所から落ちるなら、猫科動物の方が向いているんじゃないかな」

 

俺がそう言うと、猫科二人がぶんぶんと首を左右に振った。

そんなやり取りをしている間にも、トンキーは四対八枚の翼をゆっくり羽ばたかせ、空中を進んで行く。

目指す場所は、氷の空中ダンジョンの入り口だ。

このまま安全運転でお願いします。と願った瞬間だった。

トンキーが急降下ダイブしたのだ。

 

「「うわあああぁぁぁあああ!?」」

 

俺とクラインの太い絶叫。

 

「「「「「「きゃあああぁぁぁあああ!?」」」」」」

 

女性陣の甲高い声。

 

「やっほ―――――う!」

 

《スピード・ホリック》ことリーファは、とても気持ち良さそうにしていた。

皆は広い背中に密生する毛を両手で掴み、襲ってくる風圧に必死に耐える。

殆んど垂直の急降下で、下の地面にみるみる近づく。

トンキーは巨大な大穴《ボイド》の南の縁に来ると、急ブレーキを掛け、五十メートル上空で緩やかな水平巡航に入った。

その時、トンキーの頭を乗り上げるよう身体を伸ばしていたリーファが、声を上げた。

 

「み、みんな、あれ見て!」

 

言われるまま、全員一斉にリーファが指差した方向を凝視した。

俺たちはそれを見て驚愕した。

 

「どういうことなんだ?」

 

「なんで人型邪神さんが、プレイヤーさんたちと一緒に居るの?」

 

ユウキの言う通りなのだ。 攻撃しているのは、三十人を超える種族混合部隊のレイドパーティー。 これだけを見れば《邪神狩りパーティー》と言える。

だが、人型邪神もプレイヤーと一緒に、像水母邪神を攻撃していたのだ。

像水母邪神を倒し終えた後、両者は戦闘にならず、連れ立って移動を始めたのだ。

 

「あれは……どうなってるの? あの人型邪神を、誰かがテイムしたの?」

 

アスナの問いにユイが答えた。

 

「そんな、有り得ません。 邪神級モンスターのテイム成功率は、最大スキル値に専用装備でブーストしても不可能です!」

 

クラインが、逆立った髪をかき混ぜて唸った。

 

「あれは、なんつぅか……便乗してるようにしか見えねぇぜ。 人型邪神が像水母邪神を攻撃している所に乗っかって、追い打ちを掛けているみてぇな……」

 

「でも、そんなに都合良く憎悪値(ヘイト)を管理できるものかしら」

 

と、シノンが冷静にコメントする。 確かにシノンの言う通りだ。

邪神の行動パターンからして、接近して魔法スキルなどを連発すれば、人型邪神のターゲットはプレイヤー側に移動してもいいはずだ。

しかも大規模レイドパーティーの幾つかが、人型邪神と行動しているのが窺える。ということは……。

 

「……もしかして、さっき上でアスナが言っていた。 ヨツンヘイムで新しく見つかった虐殺(スロータ)系クエストじゃないか……。 《聖剣エクスキャリバー》を入手するには、人型邪神と協力して、動物型邪神を殲滅する……みたいな……」

 

俺が呟くと、それを聞いていた八人が揃って息を吸い込む。

恐らく、それに間違えない。 クエスト進行中なら、特定のモンスターと共闘状態になることがままあるのだ。

だがそうなると、そのクエストの報酬が《聖剣エクスキャリバー》だというのは、いったいどういう理屈なのだろうか。

あの剣は、人型邪神の本拠地である空中ダンジョンに封印されているのであって、つまり人型邪神を倒さなければ入手出来ない代物のはずだ。

そこまで考えていた俺は妙な気配を感じ、後ろを振り向いた。

俺に釣られて他のメンバーも後ろを振り向く。

トンキーの背中の一番後ろ、誰も座っていないあたりに光の粒が音も無く漂い、凝縮し、一つの人影を作り出したのだ。

ローブ風の長い衣装、背中から足許まで流れる波打つ金髪、三メートルを超える背丈、優雅かつ超然とした美貌の女性だった。

 

「私は、《湖の女王》ウルズ」

 

金髪のお姉さんは、続けて俺たちに呼びかけた。

 

「我らが眷属と絆を結びし妖精たちよ。 そなたらに、私と二人の妹から一つの請願(せいがん)があります。 どうかこの国を、《霜の巨人族》の攻撃から救って欲しい」

 

「へ~、君って長女なんだ」

 

「「「「「「「「って、そこ(ですか)(かよ)!!」」」」」」」」

 

他のメンバーは、ユウキに突っ込んでしまった。

 

「えへへ~」

 

ユウキは、俺たちの突っ込みを見て笑っていたが。

するとユイが俺の左肩に乗り、可愛らしい囁き声。

 

「パパ、あれ人はNPCです。 でも、少し妙です。 通常のNPCのように、固定応答ルーチンによって喋っていません。 コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しています」

 

「……つまり、AI化されているってことか?」

 

「流石パパです」

 

俺は彼女の言葉に耳を傾けた。

NPC――《湖の女王ウルズ》は、真珠色に煌く右手を広大な地下世界に向けると、言った。

 

「かつてこの《ヨツンヘイム》は、そのたたちの《アルヴヘイム》と同じように、世界樹イグドラシルの恩寵(おんちょう)を受け、美しい水と緑に覆われていました。 我々《丘の巨人族》とその眷属たる獣たちが、穏やかに暮らしていたのです」

 

その言葉と同時に、周囲の雪と氷に覆われたフィールドの光景が、音もなく揺れ、薄れる。

二重写しのように現れたのは、ウルズの言葉通りに草木と花々、そして清らかな水に溢れた世界だ。

女王ウルズの背後に存在する底無しの大穴《グレートボイド》も、本来は煌く透明な水を満たした広大な湖であり、天蓋からぶら下がっているだけの世界樹の根は、太く寄り集まって湖にまで達して全方向に広がっていた。

水面から盛り上がる太い根の上には、丸太で組まれた町が存在しており、その風景は地上の《中都アルン》ととても良く似ていた。

ウルズが右手を下ろすと、幻の風景も消え去った。 彼女はどこか悲しそうな表情を浮かべ、口を開いた。

 

「――ヨツンヘイムの更に下層には、氷の国《ニブルヘイム》が存在します。 彼の地を支配する巨人族の王《スリゥム》は、ある時オオカミに姿を変えてこの国に忍び込み、鍛冶の神ヴェルンドが鍛えた《全ての鉄と木を断つ剣》エクスキャリバーを、世界の中心たる《ウルズの湖》に投げ入れました。剣は世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間、ヨツンヘイムからイグドラシルの恩寵は失われました」

 

ウルズが左手を持ち上げる。 再び幻視のスクリーンが映し出され、その圧倒的な光景に、俺たちは声も無く見入った。

巨大な湖――《ウルズの湖》の全面に伸びていた世界樹の根が、のたうち、浮き上がり、天蓋の方へ縮小していく。 そして根の上に築かれた町々は、崩壊していく。

同時にあらゆる木の葉は落ち、草は枯れ、光が薄れる。 川は凍り付き、雪が降り、吹雪が荒れ狂う。 《ウルズの湖》を満たしていた膨大な水も一瞬で凍り付き、巨大な氷の塊となったそれを、世界樹の根を包みながら上空へ引き上げていく。 世界樹の根には巨大な氷塊がその半ばまで天蓋に突き刺さる。 その氷塊こそが、現在ヨツンヘイムの上空に偉容(いよう)に構える《氷の逆ピラミッド》のことだろう。 氷塊の最下端、氷柱のように鋭く尖った先に黄金の光が見える。 霜の巨人の王スリュムが投げ込み、《世界樹》と《ヨツンヘイム》という二つの世界を切り離したという剣、聖剣エクスキャリバーに間違えない。

ウルズが左手を下ろすと、幻のスクリーンは消え去った。

 

「王スリュムの配下《霜の巨人族》は、ニブヘイムからヨツンヘイムへと攻め込み、多くの砦や城を築いて、我々《丘の巨人族》を捕え幽閉しました。 王は(かつ)て《ウルズの泉》だった大氷塊に居城《スリュムヘイム》を築き、この地を支配したのです。 私と二人の妹は、凍り付いたとある泉の底に逃げ延びましたが、最早かつての力はありません。 それに霜の巨人たちは、それに飽き足らず、この地に今も生き延びる我らが眷属の獣たちを皆殺しにしようとしています。 そうすれば、私の力は完全に消滅し、スリュムヘイムを上層のアルヴヘイムにまで浮き上がらせることが出来るからです」

 

これを聞いていたクラインが、憤慨したように叫んだ。

 

「な……なにィ! ンなことしたら、アルンの街が壊れちまうだろうが!」

 

ウルズはその言葉に頷いた。

 

「彼等の目的は、アルヴヘイムを氷雪で閉ざし、世界樹イグドラシルの梢に攻め込み、其処に実るという《黄金林檎》を手に入れることです」

 

「ああ、確か天辺近くには、有り得ないくらいの強い大型鷲ネームドモンスターに守られて近づけないエリアがあるな。 もしかしたら、其処に黄金林檎があるのかもな。 でも、良い所まで行ったんだよな~」

 

「そうだね~、あと鷲さんを二匹倒せば、そのエリアに入れたんだけどね~」

 

「一瞬の油断が命取りになったんだよな」

 

「そうだ。 もう一回挑戦しようか!」

 

「おお、それいいな!」

 

俺とユウキの言葉を聞いて、他のメンバーは口をポカンと開けていた。

まぁそうなるのも仕方が無い。 そのエリアに入ろうとする奴は、自殺願望者だけだからな。

俺とユウキの会話を終わったのを確認してから、ウルズは続きを話した。

 

「我ら眷属たちをなかなか滅ぼせないことに苛立ったスリィムと雪巨人の将軍たちは、遂にそなたたち妖精の力をも利用し始めました。 エクスキャリバーを報酬に与えると誘いかけ、眷属狩りを尽くさせようとしているのです。 しかし、スリィムがかの剣を余人に与えることなど有り得ません。 スリュムヘイムからエクスキャリバーが失われる時、再びイグドラシルの恩寵はこの地に戻り、あの城は溶け落ちてしまうのですから」

 

「え……じゃ、じゃあ、エクスキャリバーが報酬っていうのは、全部嘘だってこと!?」

 

リズベットが女王に問うた。

 

「恐らく、鍛冶の神ヴェルンドがかの剣を鍛えた時出来た失敗作、見た目はエクスキャリバーにそっくりな、《偽剣カリバーン》を与えるつもりなのでしょう。 充分に強力ですが、真の力は持たない剣を」

 

「王様がそんなことするなんて、ずるい……」

 

リーファが呆然と呟く。

 

「ですが、配下の殆んどを、巧言(こうげん)によって集められた妖精の戦士たちに協力させるため、スリュムヘイムから地上に降ろしたのです。 今、あの城の護りは嘗てないほど薄くなっています 。妖精たちよ、スリュムヘイムに侵入し、エクスキャリバーを《要の台座》より引き抜いて下さい」

 

このクエストの《女王の請願》の目的は、エクスキャリバーの奪還か。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「……なんだか、凄いことになってきましたね……」

 

「……まったくだ」

 

《湖の女王ウルズ》が金色に光る水滴に溶けて消滅し、再び上昇を始めたトンキーの背中の上で、ランの呟きに応じていた。

続いて思考を立て直したらしいシノンが、水色の尻尾を振り動かしながら言った。

 

「これって、普通のクエスト……なのよね? でもその割には、話が大がかりすぎるっていうか……動物系の邪神が全滅したら、今度は地上にまで霜巨人に占領される、とか言ってなかった?」

 

俺とユウキは腕を組みながら、

 

「「……言ってた(な)(ね)」」

 

「でも運営側が、アップデートの告知もなくそこまでするかな? 他のMMOでも、《街をボスが襲撃イベント》くらいならよくあるけど、普通は最低でも一週間前には予告があるよなぁ……」

 

俺の問いに、全員が首を縦に振っている。

すると、俺の左肩に乗っていたユイが飛び立ち中央でホバリングしながら、皆に聞こえるボリュームで言葉を発した。

 

「これは推測なんですが……。 この《アルヴヘイム・オンライン》は、他の《ザ・シード》規格VRMMOとは大きく異なる点が一つあります。 それは、ゲームを動かしている《カーディナル・システム》が機能縮小版ではなく、旧《ソードアート・オンライン》に使われていたフルスペック版の複製ということです」

 

俺は思ったことを口にした。

 

「《クエスト自動生成機能》か!?」

 

「流石パパです。 本来カーディナル・システムには、シュリンク版では削られている機能が幾つかありました。 その一つが先程パパが言った、《クエスト自動生成機能》です。 ネットワークを介して、世界各地の伝説や伝承を収集し、それらを固有名詞やストーリー・パターンを利用・翻案してクエストを無限にジェネレートし続けるのです」

 

「てぇこたあ、オレたちがアインクラッドで散々パシられたあのクエは、全部システム様が自動で作っていたってことかよ」

 

「……どおりで多すぎると思ったのよ。 75層時点で、情報屋のクエスト・データベースに載っているだけでも一万個は軽く超えていたもの……」

 

「だからですか。 意味が解らないクエストが沢山ありましたからね」

 

クラインは肩を落とし、アスナは呆れを見せ、ランは納得していた。

こう言い合っていると、旧アインクラッド愚痴大会になってしまうので、咳払いして話を戻す。

 

「ってことは、ユイ。 このクエストも、カーディナル・システムが自動生成したものなのか?」

 

「先程のNPCの挙動(きょどう)からして、その可能性が高いです。 もしかしたら、運営側の何らかの操作によって、今まで停止していた自動クエスト・ジェネレーターが起動したのかもしれません。 だとすれば、ストーリーの展開しだいでは、あの氷のダンジョンが地上の《アルヴヘイム》まで浮上し、アルンが崩壊、周囲フィールドに邪神級モンスターがポップするようになる……いえ……もしかすると……」

 

ユイは、何かを怖れるような表情で囁いた。

 

「……私がアーカイブしているデータによれば、該当クエスト及びALOそのものの原形となっている北欧神話には、《最終戦争》も含まれるのです。 ヨツンヘイムやニブルヘイムから霜の巨人族が侵攻してくるだけでなく、更にその下層にある、《ムスペルヘイム》という灼熱の世界から炎の巨人族までもが現れ、世界樹の全てを焼き尽くす……という……」

 

「…………そうか、≪神々の黄昏(ラグナロク)≫か」

 

「そ、そんな……幾らなんでも、ゲームシステムが、自分の管理しているマップを丸ごと崩壊させるようなことが出来るはずが……!」

 

「「可能(だ)(です)」」

 

妖精の世界の崩壊。 その説明を受けたリーファが否定しようとするが、俺とユイがさらに否定した。

他の全員も驚愕している。

 

「……オリジナルのカーディナル・システムには、ワールドマップを全て破壊し尽くす権限があります」

 

「旧カーディナルの最終任務は、浮遊城アインクラッドを崩壊させることだったからな」

 

今度こそ、誰も言葉を発することは無かった。

口を開いたのは、シノンだった。

 

「もし、仮にその《ラグナロク》が本当に起きても、運営側が望まない展開なら、サーバーを巻き戻すことは可能じゃないの?」

 

「お……おお、そうか、そりゃそうだよな」

 

クラインがうんうんと頷いた。

だがユイは首を左右に振り、それを否定した。

運営サイドが手動で全データのバックアップを取り、物理的に分割されたメディアに保管していれば可能だが、カーディナルの自動バックアップ機能を使用していればそれは不可能だと言った。

GMに連絡を取ろうにも年末の日曜日の午前中は、人力サポート時間外だ。

俺は息を吐き、上空を振り仰いだ。

すると、氷の巨大ピラミッドは眼と鼻の先にまで接近している。

 

「黄金の剣を手に入れてラグナロクを止めれば、何の問題もないよ」

 

「ま、そうだな」

 

俺はユウキの問いに頷いた。

 

「そうだね。 クリアしちゃえばいいことだし」

 

「そうですね」

 

「そうね」

 

「ですね」

 

アスナとランの言葉に、シノンとリーファが続いた。

 

「はぁ~、あんたらは楽観的なんだから」

 

「それが皆さんのいい所ですから」

 

リズベットが大きく息を吐き、シリカがニコニコ笑いながら言っていた。

クラインがニヤリと笑い、言った。

 

「オッシャ、今年最後の大クエストだ! ばしーんと決めて、明日のMトモに載ったろうぜ!」

 

リーファがトンキーの頭を撫でながら、言った。

 

「待っていてね、トンキー。 絶対、あなたの国を取り戻してあげるからね」

 

リーファが、右手にぶら下げた大きなメダリオンを高くかざした

《湖の女王ウルズ》から与えられたそれは、綺麗にカットされた巨大な宝石が嵌め込まれている。 しかし今、カット面の六割以上が漆黒の闇に沈み、輝きを失い掛けている。

この石が暗黒に染まる時、地上の動物型邪神は全て狩り尽くされ、ウルズの力も完全に消滅する。 その時こそ、《霜の巨人の王スリュム》のアルヴヘイムの侵攻が開始されるのだ。

俺はウインドウを開くとロングソードを交差して吊った。 他の皆も各自の武器を装備する。

トンキーはピラミッドを横切り、上部の入り口に身体を横付けし、俺たちは扉の前に降り立った。

そして扉がゆっくりと開く。

前衛に俺とユウキ、クライン。 中衛にリズとリーファ、ラン。 後衛にアスナとシノン、シリカというフォーメーション。

ユイが俺の胸ポケットに入ったのを確認してから、俺たちは氷の床を蹴り飛ばして、巨城《スリュムヘイム》へと突入した。

 




今回は、説明会でしたね。
特に変わったとこは無しですね。

さて、次回からはダンジョン攻略ですね。
まぁ、モチベが持てばいいんですが……。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第91話≪新たな技術≫

ども!!

心が折れそうでも投稿する舞翼です!!
まぁ、うん、気合で頑張ったよ……。
作者は強い!!(自分で言うのもなんだが……)

まぁ、作者の愚痴はこれくらいにして。

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


氷の居城《スリィムヘイム》に突入してから、既に二十分が経過している。

《湖の女王ウルズ》が言っていた通り、ダンジョン内の敵影(てきえい)は相当に手薄くなっており、通路での雑魚Mob(モンスター)とのエンカウントはほぼゼロ。

フロアの中ボスも半分は不在だ。

現在俺たちは、第一層のボスであり、圧倒的攻撃力を持つ、右手にハンマーを持つ単眼巨人(サイクロプス)型ボスと交戦中だ。

 

「ぼるぉぉぉぉ!!」

 

「俺とリズでハンマーを弾く。 奴が仰け反ったら、皆で攻撃してくれ!!」

 

全員が俺の指示に頷いた。

指示が終わったと同時に、単眼巨人はハンマーを振り下ろしてきた。

俺とリズは奴のハンマーに対し、二刀のロングソードとメイスを衝突させ、それを弾く。

お互い仰け反る体勢になるが、ユウキとラン、リーファ、クラインが斬り込み、アスナとシリカは、支援魔法で全員のスターテスアップと回復。 シノンは弓を使用し援護射撃だ。

 

「ぼるぉぉぉぉ!!」

 

単眼巨人は野太い声を上げ、ハンマーを頭上に掲げる。

すると部屋全体に冷気が漂い、部屋の天井に氷柱(つらら)が形成される。

 

「来るぞ!」

 

奴がハンマーを振り下ろすと、氷柱が降り注いでくる。

俺とユウキ、ラン、クライン、アスナは、天井から降り注いでくる氷柱を弾きながら、単眼巨人に突進し、他のメンバーは回避行動を取る。

突進した五人は、無防備状態になった単眼巨人に様々なソードスキルを繰り出す。

 

「はああぁぁああ!」

 

最後に、ユウキが繰り出した単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》を受け、ポリゴン片へ爆散させた。

 

「やった♪」

 

それから全員でハイタッチを交わした。

 

「よし、次行こうか!」

 

第一層のボスを倒し回復を終えた後、第二層を駆け抜けて、再びボス部屋まで辿り着き、ボス部屋の中へ入った。

其処で俺たちを待ち受けていたのは、牛頭人身(ミノタウロス)型の大型邪神、二体だった。

右が全身黒色、左が金色、武器は双方共巨大なバトルアックス。

 

「うわ~、大きいね」

 

「……だな」

 

俺は金色の、ユウキ黒色のミノタウロスに突進し、攻撃を撃ち込む。

だが、金色のミノタウロスHPは、数ドットしか削れなかったのだ。

 

「なッ!?」

 

「……まじかよ。 キリトの攻撃が全然効いてないぞ!?」

 

俺とクラインは驚愕した。

一方、ユウキが攻撃した黒色のミノタウロスには、ダメージが通っていた。

これを見ていたユイが、大きな声で叫んだ。

 

「パパ、ママ。 どうやら金色のミノタウロスは《物理耐性》が、黒色のミノタウロスは《魔法耐性》が異常な高さで設定がされているようです!」

 

「「……なるほど(な)(ね)」」

 

俺とユウキは後方に飛び、元居た場所へ着地した。

金ミノは、巨大なバトルアックスを振り上げた。

 

「これは……ヤバくないかな……」

 

「ああ、ヤバいな……」

 

俺はユウキの問いに頷いた。

 

「衝撃波攻撃二秒前! 一、ゼロ!」

 

俺の頭に乗るユイが、小さな身体から精一杯の大声を振り絞る。

カウントに合わせて、前衛、中衛、後衛の九人が左右に大きく飛ぶ。

その間隙(かんげき)を、轟然(ごうぜん)と振り下ろされた斧の刃と、其処から生まれたショックウェーブが一直線に駆け向け、背後の壁を激しく叩く。

 

「キリトくん。 黒いのを倒してから、金色をじっくり攻めた方がいいかも!」

 

「よし! 黒色を集中攻撃だ!」

 

俺たちアスナの提案を受け入れ、黒ミノに集中攻撃を掛けるが、黒ミノのHPが減ると、金ミノが乱入して守りに来るのだ。

その間に黒ミノは後方で身体を丸め、瞑想をしてHPを回復させてしまう。

ならば、黒ミノが瞑想している間に、金ミノを集中攻撃で片付けようと考えたのだが、余りにも物理耐性が高くてHPがろくに削れない。

当然此方のHPも、範囲攻撃のスプラッシュ・ダメージでがりがり持って行かれて、アスナとラン二人のヒールでは、長時間支えきれないのは明白だ。

 

「キリトくん、今のペースだと、あと百五十秒でMPが切れる!」

 

「私も、アスナさんと同じです!」

 

こういう耐久戦で、ヒーラのMPが尽きれば、待っているのはパーティーの壊滅――すなわち《ワイプ》だ。 誰か一人でも生き残れば、残り火(リメインライト)を一つずつ回収して蘇生させることも不可能ではないが、手間と時間が掛かる。 そして全滅すれば、央都アルンのセーブポイントから出直しになる。 問題は、それをしている時間が残されているかどうかだが――。

俺の懸念を読んだかのように、右隣でリーファが囁いた。

 

「メダリオン、もう七割以上黒くなってる。 《死に戻り》している時間はなさそう」

 

「……解った」

 

頷き、大きく息を吸った。

此処が《旧アンクラッド》なら、撤退の指示を出している所だ。

あの世界では、《可能性に賭ける》などという真似は許されなかった。

しかし今のALOは、デスゲームではない。 だからこそ、可能性に賭ける事が出来る。

そこには、自分と仲間の力を信じる、という要素も含まれるはずだ。

 

「全員、金色にソードスキルの集中攻撃を仕掛けるぞ!!」

 

ALOに導入された《ソードスキル》。 そこに追加されたのが、《属性ダメージの追加》だ。

現在の上級ソードスキルには、“地”、“水”、“火”、“風”、“雷”、“闇”、“聖”の魔法属性を備えている。

そしてその魔法ダメージが、金色ミノタウロスに(とお)るはずだ。

だが、連撃数が多いソードスキルは、技後の硬直時間が長い。

其処に巨大バトルアックスが直撃すれば、HPが丸ごと持って行かれ、即死だ。

しかし皆は、それを理解したうえで、頷いた。

 

「うっしゃァ! そのひと言を待ってたぜ、キリの字!」

 

右翼で、クラインが愛刀を大上段に据えた。

左に飛んだリーファも、長剣を腰溜めに構える。

俺の背後で、ランが片手剣を、アスナが細剣を、リズがメイスを、シリカがダガーを、シノンは弓を構えた。

隣に居るユウキが、小声で囁いた。

 

「キリト、あれ使うの?」

 

「ああ、使うぞ。 お前はどうするんだ?」

 

「ボクも使うよ」

 

「了解」

 

俺はユウキとの会話を終えてから、指示を出した。

 

「シリカ、カウントゼロで《泡》を頼む!――二、一、ゼロ!」

 

俺の指示で、シリカが叫んだ。

 

「ピナ、《バブルブレス》!」

 

ピナは、いっぱいに開いた口から虹色の泡を発射した。

宙を滑った泡が、大技を繰り出そうとしていた金ミノの鼻先で弾けた。

魔法耐性の弱い金ミノは、ほんの一秒程であったが、幻惑に囚われ動きを止めた。

 

「今だ!」

 

クラインの持つ刀は炎に包まれ、リーファが持つ長剣からは疾風が巻き起こり、ランの持つ片手剣からは聖の光が、アスナが持つ細剣は氷を纏い、シリカが持つダガーは水飛沫を散らした、五人の剣が金ミノを切り刻み、リズが持つメイスが雷光を放ちながら唸り、抉る。

シノンは、弱点と思われる氷結属性の氷矢を後方から放ち、急所の鼻の頭を正確に貫く。

 

「う……おおッ!」

 

まずは高速五連突きから斬り下ろし、斬り上げ、そして上段斬り。 片手剣八連撃ソードスキル、《ハウリング・オクターブ》。 属性は物理四割、炎六割。

最後の上段斬りを放つ直前、右手で放ったソードスキルへのイメージをカットし、即座に命令を左手に集中させ、新たなソードスキルを放つ。

大型モンスターに有効な三連撃攻撃、《サベージ・フルクラム》。 物理五割、氷五割。

スキルが続いたことにより、右手で放ったソードスキル後に課される遅延時間(ディレイ)を、左の剣のソードスキルが上書きし、連続でスキルを放つことが出来る。

左手が止めの一撃を決める寸前、再びイメージカットを行い、バックモーションの少ない垂直斬りから、上下のコンビネーション、そして全力の上段斬り。 高速四連撃、《バーチカル・スクエア》。 物理四割、風六割。

《バーチカル・スクエア》を出始めた所で、皆のスキルディレイが終了し、新たなスキルを放つ。

四撃目の上段斬りが入る直前、またイメージカットを行い、左手に新たなスキルを発動させる。 単発重攻撃、《ヴォーパル・ストライク》。 物理三割、炎三割、闇四割の攻撃を金ミノに命中させ、巨体を激しくノックバックさせる。

クラインたちの二回目のソードスキルも終了している。 今度こそ俺のアバターも長いスキルディレイに固められる。

金色ミノタウロスのHPゲージは、僅か二パーセントを残して停止した。

 

「ユウキ! 止めだ!」

 

「はああぁぁああ!」

 

俺の後方からユウキが駆け抜け、右手に握られた片手剣が、眼にも止まらぬ速度で突き込まれる。 OSS《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃。 物理六割、闇四割。

この攻撃を受け、金色ミノタウロスのHPゲージはゼロになり、ポリゴン片へと爆散させた。

その彼方で、瞑想を続けていた黒色ミノタウロスが驚くように硬直した。

ディレイの硬直が解けた九人の視線が一斉に向けられた。 武器にライトエフェクトが纏う。

 

「よーし、牛野郎。 そこで正座だ」

 

クラインが言い放ち、黒色ミノタウロスに突撃した。 クラインに続き、俺たちも突撃を開始した。 その間、黒色ミノタウロスが怯えた悲鳴を上げたいたような気がするが……。 まぁ気にすることはない……。

巨体をポリゴン片に爆散させた後、俺とユウキに視線が向けられた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

物理耐性の低い黒色ミノタウロスを倒し終え、戦闘が一段落した所で、クラインが俺とユウキに詰め寄った。

 

「キリの字! オメェ何だよさっきのは!?」

 

その言葉が、俺が使用した、片手剣二刀装備によるソードスキル連携攻撃を指している事は明らかだったが、技の仕組みを一から説明するのは大変面倒なので、面倒くさそうな顔を作ってから言う。

 

「……言わなきゃだめか」

 

「ったりめぇだ! 見たことねぇぞあんなの!」

 

俺は、やむなく簡潔に答えた。

 

「システム外スキルだよ。 剣技連携(スキルコネクト)

 

「ンじゃ、最後ユウキちゃんが放ったあれは、何なんだ」

 

「ボクのは、OSS《マザーズ・ロザリオ》だね」

 

おー、という声がリーファ、リズ、シリカ、シノンの口から流れると、不意にアスナとランが右のこめかみに指先を当てて唸った。

 

「う……なんかわたし今、すごいデジャブったよ……」

 

「ええ……わたしもです……」

 

「気のせいだ」

 

「そうそう。 気のせいだよ」

 

俺とユウキは肩を竦め、ランとアスナの問いに答えた。

俺が声を発した。

 

「さぁ、のんびり話している余裕はないぜ。 リーファ、残り時間はどれくらいだ?」

 

リーファは左腰の鞘に長剣を音高く収め、首に下げたメダリオンを持ち上げた。

離れた位置からも、嵌め込まれた宝石がどんどん光を失っているのが見て取れる。

 

「……今のペースのままだと、一時間あっても二時間はなさそう。 急いだ方がいいかも」

 

「そうか、わかった。――ユイ、このダンジョンは全四層構造だったよな?」

 

俺の問いに、小妖精ははきはきと応じた。

 

「はいです。 三層の面積は二層の七割程度、四層のほとんどはボス部屋だけです」

 

「そうか」

 

左手を伸ばして、ユイの頭を優しく撫でながら、俺は状況を整理した。

今頃、遥か下方のヨツンヘイムフィールドでは、《霜の巨人族》側のクエストを受けたプレイヤーたちの動物型邪神狩りの勢いを増しているはずだ。 クエスト側に参加する人数は、増えこそはするが、減りはしないだろう。 残り時間は、一時間あるかどうかと見積もっておくべきだ。 ラスボス――、《王スリュム》との戦闘に三十分掛ると予想すると、三十分で三層、四層を突破しなければならない。

此処からは、時間との勝負になる。

四層のボス部屋まで辿り着いても、この九人だけで《王スリュム》に立ち向かうしかないのだ。

リズベットが俺の背中を叩き、叫んだ。

 

「……こうなったら、邪神の王様だかなんだか知らないけど、当って《砕く》だけよ!」

 

俺を含むメンバーも頷いた。

 

「よし、全員、HPMPは全快したな。 それじゃ、三層はさくさくっと片付けようぜ!」

 

「それじゃあ、レッツゴー♪」

 

ユウキの掛け声と同時に、九人は床を蹴ると、第三層に続く階段目掛けて走り始めた。




今回のお話は、キリト君の剣技連携とユウキちゃんのOSS《マザーズ・ロザリオ》でしたね。
今回は、ご都合主義満載やで~。
あと、バーチカル・スクエアの割合と、第一層のボスの戦いは、オリジナルですよ~。
キリト君とユウキちゃん、チートだよね(笑)

次の投稿も頑張る。うん、頑張る……。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第92話≪女神フレイヤと巨人王スリュム≫

ども!!

心が折れずに済んだ舞翼です!!

今回は、あの話ですね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


逆ピラミッドになっている為、三層は上層のフロアに比べ狭く、通路も細く入り組んでいる。

普通に攻略しようと思ったら道に迷い右往左往(うおうさおう)したが、ここはユイの力を借り、地図データに指示に従って先へ進む。

途中で立ちはだかるギミック類も、ユイの指示に従い次々に解除し、全速力で駆け抜けて行く。

二回の中ボス戦を挟んでも、俺たちは僅か十八分で第三層ボス部屋まで到達した。

ボス部屋で俺たちを待ち受けていたのは、上層のサイクロプスやミノタウロスの二倍近い体躯(たいく)、しかも左右に十本もの足を生やした、大変気色悪いムカデ型巨人だった。

 

「しャああぁぁああ!」

 

「よし! 俺とユウキでタゲを取る! 皆は、足を一本ずつ集中して攻撃してくれ!」

 

俺の言葉と同時に、それぞれが行動を開始する。

その攻撃は天上知らずで凄まじく、直撃を受ければ大ダメージだ。

横目で見やると、彼女と視線が交錯した。

彼女の眼はこう言っていた。

 

『――ボクたちなら、この攻撃を捌くことが出来るよ!』

 

『――ああ、そうだな。 頑張ろうな』

 

視線でそう言うと、彼女は微笑み返してくれた。

俺は俄然やる気が増し、負ける気がしなくなった。

俺とユウキが攻撃を捌いている中で、クライン、ラン、アスナ、リズ、シリカ、リーファ、シノンが、奴の足一本に集中攻撃を仕掛けていた。

その時、クラインが放った一撃により、奴の足が吹き飛んだ。

 

「よし、いいぞ! 今吹き飛ばした片側から足を破壊するんだ! そうすればバランスを崩すはずだ!」

 

俺の言葉にクラインたちは頷き、攻撃を続けた。 俺とユウキは攻撃を捌きながら、タゲを取り続けた。

七分経過した頃、片側の足を全て破壊したことで、ボスがバランスを崩し、真横に倒れた。

その隙に、全員のソードスキルを叩き込み、全ての足を破壊した。

最後は動けなくなった所を、俺の剣技連携(スキルコネクト)を含む多重ソードスキルで仕留め、ポリゴン片へ爆散させた。

 

「みんな、お疲れ」

 

俺がそう言ってから、お馴染みのハイタッチをする。

それから、HPMPを全快にした後、第四層に踏み込んだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ボス部屋の通路に踏み込んだ俺たちの眼前に――判断に迷う一つの光景が出現した。

 

「助けて……」

 

通路の壁際に、細長い氷柱で作られた檻の向こうに、一つの人影があった。

身長はアスナとほぼ同じ位で、粉雪のように白い肌と長く流れる深いブラウン・ゴールドの髪、漆黒の瞳、身体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸は、……この場に居る女性全員を圧倒している。 俺は、胸の大きさなんてどうでもいいが。

 

「お願い……。 私を……ここから、出して…………」

 

ふらり、と氷の檻に吸い寄せられた刀使いの、後ろ頭から垂れるバンダナの尻尾を、俺はがしっと掴み、引き戻した。

 

「罠だ」

 

「罠だね」

 

「罠ですね」

 

「罠だよ」

 

俺、ユウキ、ラン、アスナと続いた。

ぴくんと背中を伸ばして振り向いたクラインは、実に微妙な表情で頭を掻いた。

 

「お……おう……罠、だよな。……罠、かな?」

 

往生際の悪い刀使いに、俺は小声で「ユイ?」と訊ねる。 頭上の小妖精から、即時の応答。

 

「NPCです。 ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。――ですが、一点だけ違いが。 この人は、HPゲージがイネーブルです」

 

Enable(イネーブル)、即ち《有効化されている》ということだ。

通常、クエストの登場NPCはHPゲージが無効化されており、ダメージは受けない。

例外が、護衛クエストの対象となっているか、あるいは――。

 

「罠よ」

 

「罠だね」

 

「罠ですね」

 

「罠だと思う」

 

シノン、リズ、シリカ、リーファと続いた。

そう。 罠の可能性もあるのだ。 俺たちの背中から奇襲、或いは何処かに誘導など。

眉を八の字に寄せ、眼を見開き、口をすぼめるという複雑怪奇な表情で固まるクラインをの肩を叩き、俺は早口に言った。

 

「もちろん、罠じゃないかもしれないけど、今はトライ&エラーをしている余裕はないんだ。 一秒も早く、スリュムの所まで辿り着かないと」

 

「お……おう、うむ、まぁ、そうだよな、うん」

 

クラインは小刻みに頷き、氷の檻から視線を外した。

俺たちが、奥に見える階段に向かって数歩走った時、再び背後から声がした。

 

「……お願い……誰か…………」

 

その時、綺麗に揃っていた足音の一つが、乱れ、氷の床に擦れた。

振り向くと、クラインが両手を握り締め、深く顔を俯けて立ち止まっていた。

 

「……罠だよな。 罠だ、解ってる――でも、罠でもよ。 罠だと解っていてもよ……」

 

俺は頭をガシガシと掻きながら、

 

「……あーも、解った、解った。 助けようか。 それに、助けないで後悔するより、助けて後悔するがいいもんな」

 

「…………今度は、ボクがデジャブった気がするんだけど」

 

「気のせいだろ」

 

俺とユウキの言葉を聞いていたクラインは、がばっと顔を上げた。

 

「そうかそうか。 じゃあ、俺が助けてくるわァ」

 

勢いよく振り向き、氷の檻にどたどたと駆け戻って行くクラインの背中を、他のメンバーは追い掛けた。

両手で上体を持ち上げる囚われの女性に向かって、クラインは「今助けてやっかんな!」と叫ぶと、左腰の愛刀の柄を握り、居合い系ソードスキル《ツジカゼ》を放ち、氷柱の檻を横一線に薙いだ。

更にクラインが持つ刀が閃き、両手足を束縛する氷の鎖が断たれると、美女は力なく顔を上げて囁いた。

 

「……ありがとう、妖精の剣士様」

 

「立てるかい? 怪我ァねぇか?」

 

しゃがみ込み、右手を差し出すクラインは、もう完全に《入り込んで》いる。

まぁ、VRMMOのクエスト進行中なのだから、ストーリに没入するのは正しい態度だ。

俺も、女王ウルズの要請に従って巨人王スリュムの野望を打ち砕く、という目的を全力で遂行中なのだから、ここでクラインに一歩引くような態度を取るのは間違っている。 間違っているが、しかし、何と言うか――。

 

「ええ……、大丈夫です」

 

頷き、立ち上がった金髪美女は、しかしすぐに軽くよろけた。 その背中を一応紳士的手つきで支え、クラインは更に訊ねた。

 

「出口までちょっと遠いけど、一人で帰れるかい、姉さん?」

 

「…………」

 

その問いに対し、金髪美女は眼を伏せて考え込んだ。

カーディナル・システムが備えてる《自動応答言語化モジュール・エンジン》とは、簡単に言えば、プレイヤーにAと言われたらBと答える、というパターンリストの超複雑な奴だ。

高度な予測機能や学習機能を備え、それに接続したNPCは、プレイヤーとかなり自然な会話、もちろん擬似的なものだが。

そのモジュールが更に幾つかのブレイクスルーを起こし、遂に人間的な《感情》や、限りなく《知性》に近い振る舞いまでもを得たのが、俺の頭の上に乗っている小妖精ユイというわけだが、自動応答NPCのそれは現状、ユイの域には遠く及んでいない。

固定応答NPCの、何を言われても決まった台詞だけを繰り返す様と比べれば雲泥の差だが、それでもプレイヤーの言葉を認識出来ない場合が多々あり、その場合はプレイヤー側が《正しい問いかけ》を模索しなければならない。

今回の、金髪美女の沈黙もそういうことだろうと俺は思ったのだが、金髪美女は顔を上げ、クラインの問いに答えた。

 

「……私は、このまま城から逃げ出すわけにはいかないのです。 巨人の王スリュムに盗まれた、一族の宝物を取り戻すため城に忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり捕らえられてしまいました。 宝を取り返さずして戻ることはできません。 どうか、私を一緒にスリュムの部屋へ連れていってくれませんか」

 

クラインは威勢良く宣言した。

 

「おっしゃ、引き受けたぜ姉さん! 袖すり合うも一蓮托生(いちれんたくしょう)、一緒にスリュムのヤローをブッチめようぜ!」

 

「ありがとうございます、剣士様!」

 

金髪美女がクラインの左腕に、むぎゅっとしがみつくと同時に、パーティーリーダーである俺の視界に、NPCの加入を認めるかどうかのダイアログウィンドウが表示された。

 

「おい、クライン。 ユイに妙なことわざを聞かせるなよな!」

 

「クラインさん。 ユイちゃんに変な言葉を教えないでね!」

 

俺とユウキがそう言ってから、イエスボタンを押す。

視界左上から下に並ぶ、仲間たちのHP/MPゲージの末尾に、十人目の【Freyja(フレイヤ)】のゲージが追加される。

俺はリーファが持つメダリオンを一瞥すると、宝石は九割以上が闇に染まりつつある。

残り時間は、三十分あるかどうかだ。

俺とユウキが、口を開く。

 

「ダンジョンの構造からして、あの階段を下りたら多分すぐラスボスの部屋だ。 今までのボスより更に強いだろうけど、あとは小細工抜きでぶつかってみるしかない。 序盤は、攻撃パターンを掴めるまで防御主体、反撃のタイミングは指示する。 ボスの攻撃パターンの変化は、黄色と赤ゲージへの突入で変わるだろうから、注意してくれ」

 

「みんな、これが最後の戦いだよ!! 気合いを入れていこうね!!」

 

「「「「「「「「お――!」」」」」」」」

 

俺たちは、右手を上に突き上げた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

階段を下りた先には、二匹の狼が彫り込まれた分厚い氷の扉が立ちはだかっていた。

この扉の奥が、《霜の巨人王スリィム》の玉座の間だろう。

扉は、俺たちが五メートル内に踏み込んだ途端、自動的に左右に開き、奥から冷気の風が吹き寄せてくる。

 

「アスナ、頼む」

 

「うん」

 

俺の問いに頷いたアスナは、全員に支援魔法を張り直し(リバブ)し始めると、先程パーティーに加わったフレイヤがそれに参加し、全員のHPを大幅ブーストするという未知の魔法を掛けてくれた。

全員で頷き交わし、ボス部屋に一気に駆け込む。

内部は、横方向にも縦方向にも、途轍もなく巨大な空間になっていた。

壁や床は、これまでと同じ青い氷。 同じく氷の燭台に、青紫色の炎が不気味に揺れ、遥か高い天井にも同色のシャンデリアが並ぶ。 しかし俺たちの眼を真っ先に奪ったのは、左右から奥へと連なる、無数の眩い反射光だった。

黄金。 その中には、剣、鎧、盾、彫像から家具まで、ありとあらゆる種類の黄金製オブジェクトが、無数に積み重なっている。

ユウキとアスナ、ランとリズ、リーファが周りを見渡し、言った。

 

「う~、眼がちかちかする……」

 

「凄い数の財宝ね」

 

「幾らあるんでしょうか?」

 

「…………総額、何ユルドだろ……」

 

「億万長者もビックリですよ!」

 

そんな風に話している五人に対し、残りの四人は部屋の奥を見据えた。

次の瞬間、広間の奥の暗がりから、地面が震えるような重低声が聞こえてきた。

 

「……小虫が飛んでおる」

 

地響きをたてながら、此方に近づいて来るのは、巨大な影だ。

その影は、通常の邪神や、この城で戦ってきたボス邪神の倍を優に超える大きさであり、脚は巨木のように太く、肌の色は鉛のような鈍い青。

両腕両足には、巨大な獣から剥いだ黒褐色の毛皮を巻き、腰回りには小舟ほどの板金鎧。

上半身は裸で筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)であり、胸には青い髭が垂れ、額に乗る黄金の冠と、瞳は寒々とした青。

いままで戦ってきたボスの中でも、最大級の大きさだ。

 

「ふっ、ふっ……アルヴヘイムの羽虫どもが、ウルズに(そそのか)されてこんな所まで潜り込んだか。 どうだ、いと小さき者どもよ。 あの女の居所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ()れてやるぞ、ンンー?」

 

今の台詞からして、コイツこそが《霜の巨人王スリュム》であるのは最早間違いなかった。

大巨人に向かって、真っ先に言葉を返したのはクラインと俺とユウキだ。

 

「……へっ、武士は食わねど高笑いってなァ! オレ様がそんな安っぽい誘いにホイホイ引っかかって堪るかよォ!」

 

「お前を倒して、ヨツンヘイムを元に戻す!」

 

「君は、今日ここで倒されるんだよ!」

 

言葉が終わると同時に、全員が武器を抜き放ち、構える。

奴は、俺たちを遥か高みから睨め付けた後、先程パーティに加わったフレイヤに眼を向けた。

 

「……ほう、ほう。 そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。 檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心が付いたのかな、ンン?」

 

クラインが半ば裏返った叫びを漏らす。

 

「は、ハナヨメだぁ!?」

 

「そうとも。 その娘は、我が嫁としてこの城に輿入(こしい)れたのよ。 だが、宴の前の晩に、儂の宝物庫を嗅ぎ回ろうとしたのでな。 仕置きに水の獄へ繋いでおいたのだ、ふっ、ふっ」

 

やや、状況が複雑になってきたので、脳裏で整理してみる。

フレイヤという名の金髪美女は、先程『一族から盗まれた宝を取り戻す為にこの城に忍び込んだ』と言っていた。

だが、考えてみれば、空中に浮かぶスリュムヘイム城の一箇所しかない入り口をすり抜けるのは困難だ。

そこで、スリュムの花嫁になると偽って堂々と城の門を潜り、夜中に玉座の間に侵入、宝を奪還しようとした。 そこで門番に発見され、牢屋で鎖に繋がれてしまった――という設定なのか?

そもそも、フレイヤの《一族》とはアルヴヘイムの妖精九種類の内どれなのか?

奪われた宝とは何なのか?と内心で考えていたら、リーファが、俺の服の袖をくいくいと引っ張る。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。 あたし、この展開に覚えがあるような……。 スリュムとフレイヤ……盗まれた宝……あれは、ええと、確か……」

 

しかし、リーファが記憶再生に成功するより早く、後ろでフレイヤが毅然と叫んだ。

 

「誰がお前の妻になど! かくなる上は、剣士様たちとお前を倒し、奪われた宝を取り戻すまで!」

 

「ぬっ、ふっ、ふっ、威勢の良いことよ。 さすがは、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。 しかし、気高き花ほど手折る時は興深いというもの……小虫どもを捻りつぶしたあと、念入りに愛でてくれようぞ、ぬっふふふふ……」

 

クエストとはいえ、こんな下劣な言葉使いは不愉快になる。

 

「…………弱い犬ほどよく吠える」

 

「…………負け犬の遠吠えだね」

 

俺とユウキの言葉を聞いた皆は、ぐっと親指を立てた。

 

「こ、小虫風情が! 儂になんて言葉を!――まぁよい、ヨツンヘイムが儂の物となる前祝に、まずは貴様らから平らげてくれようぞ……」

 

ずしん、とスリュムが一歩踏み出した瞬間、俺の視界右上に、長大なHPゲージが三段積に重なって表示された。

スリュムの見た目からして、相当なステータスが設定されているはずだ。

HPゲージが見えない、新生アインクラッドのボスたちと比べれば、ペース配分が掴めるからまだマシだが。

 

「――来るぞ! ユイの指示をよく聞いて、序盤はひたすら回避!」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

皆が俺の言葉に答えた直後、スリュムが巨大な右拳を天井近くまで高々と持ち上げ、猛然と振り下ろした。

俺たちと、霜の巨人王スリュムとの戦闘が開始された。




無理やり感があったかな。
うん、無い事を祈ろう。

第三層のボス戦もオリジナルですよ。
アニメを参考にしました~。(なんか、スカルリーパー戦みたくなったが)
さて、この小説の本編もラストスパートですね(^^♪
一応、後日談までの流れは出来ています。
まあ、この先どうなるかわかりませんが。
あと、気になったことが活動報告に書いてありますので、暇があったらご覧ください(^◇^)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第93話≪神の協力、打倒スリュム≫

ども!!

舞翼です!!

いや~、北欧神話って難しいね(^_^;)
ちゃんと調べて書いたけど大丈夫かな?
ご都合主義満載やで~。

誤字脱字があったごめんよ。

それではどうぞ。


王スリュムの序盤攻撃パターンは、左右の拳によるパンチ撃ち下ろし、右足による三連続踏み付け、直線軌道ブレス、そして床から氷のドワーフ兵を十二体生成することだ。

厄介だったのはドワーフ生成だったが、それはパーティーの最後方、シノンの弓による驚異の精密射撃によって、瞬く間に片付けてくれた。

後の直接攻撃は、タイミングさえ見切れば完全回避が可能で、ユイのカウント指示に助けられつつも、前衛の六人はぎりぎりで直撃を避け続けた。

前衛の六人は一瞬のタイミングを逃さず、ソードスキルを撃ち込むも、大きなダメージが与えられない。

そんな戦況で心強いのが、フレイヤの操る雷系攻撃魔法だ。

フレイヤが操る紫の稲妻が降り注ぐたび、スリュムのHPは確実に削られていった。

十分以上経過した頃、最初のHPゲージが消え、巨人王スリュムが大きな咆哮を轟かせた。

 

「ぬおおぉぉおお!!」

 

「パターン変わるぞ! 注意しろ!」

 

叫んだ俺の耳に、隣で剣を構えるリーファの切迫した声が届いた。

 

「まずいよ、お兄ちゃん。 もう、メダリオンの光が三つしか残ってない。 多分あと十五分ない」

 

「……そうか、解った」

 

スリュムのHPゲージは残り二本。

一つ削る時間十五分も掛かってしまったという事は、十五分以内に全てのHPゲージを削り切ることは、相当に困難を極める。

この相手に、剣技連携(スキルコネクト)によるゴリ押しは恐らく通じない。

モンスターにディレイ――すなわち行動遅延(のけぞり)を引き起こすには、《一撃の重い、しかも連続した大ダメージ》が必要になる。

例えソードスキルを四連続繋げても、HPの全体量を考えれば、大ダメージと言えるほどのゲージを奪うのは不可能だ。

俺の一瞬の焦りを見透かしたように、スリュムが両胸を大きく膨らませるように、大量の空気を吸い込んだ。

これは、広範囲攻撃だ!

回避するには、風魔法で吸引力を中和しなければならない。

同じことを考えたリーファが、左手をかざし、スペル詠唱を始める。

しかしこの攻撃は、敵のモーションを見た瞬間に詠唱しなければ間に合わない。

 

「みんな、防御態勢!」

 

俺の声に、リーファがスペル詠唱を中断して両腕を身体の前でクロスし、身を屈めた。

その瞬間――。

 

「ん、ばああぁぁああ」

 

スリュムの口から直線ブレスとは異なる、広範囲に膨らむダイヤモンドダストが放たれた。

その結果、俺、ユウキ、クライン、リーファ、リズ、シリカのアバターの下半身が凍結され、完全に身動きを封じられた。

前方で身体を起こしたスリュムが、巨大な右脚を持ち上げた。

 

「ぬうぅぅーん!」

 

太い雄叫びと共に床を猛然とストンプを行い、其処から生まれた衝撃波が、動けない俺たちを大きく吹き飛ばし、思い切り床に叩き付ける。

この攻撃により、六人のHPが約八割削られた。

HPを削られた直後、柔らかな水色の光が降り注ぎ、傷を癒してくれる。

アスナとランで、高位全体回復スペルを二重で使用してくれたようだ。

先読みして使用したのだろう、絶妙なタイミングだ。

しかし、ALOの大型回復呪文の大部分が時間継続回復(ヒール・オーバー・タイム)、即ち《何秒間で何ポイント回復する》というタイプだ。

二重に掛けて貰っているので、通常の回復よりは速いが、失われたHPゲージを即座に取り戻してくれる訳ではない。

ようやく立ち上がった俺たちを追い打ちするべく、スリュムが前進する。

長いあご髭が垂れるその喉元に――いきなり赤々と燃え盛る火矢が立て続けに突き刺さり、盛大に爆発した。

シノンの両手長弓系ソードスキル、《エクスプロード・アロー》だ。 物理一割、炎九割の属性ダメージが霜の巨人王の弱点を突き、HPゲージを奪い去る。

 

「むぬうぅん!」

 

スリュムが怒りの声を上げ、ターゲットをシノンに変える。

俺たちが態勢を立て直す時間を稼ぐ為、シノンは決死の囮役を買って出たのだ。

 

「シノン、三十秒頼む!」

 

「ええ、わかったわ」

 

俺たちは、その間に赤い液体の入ったポーションを口に流し込み、HPの回復速度を速めさせる。

シノンはGGOの経験を生かして、スリュムの猛攻を躱し続けている。

俺たちのHPが全快になった所で、声を掛けようとした、その時――。

不意に傍らから声がして、俺はぎょっと眼を向けた。

立っていたのは、十人目のパーティーメンバー――フレイヤだった。

 

「このままでは、スリュムを倒すことは叶いません。 望みはただ一つ、この部屋のどこかに埋もれているはずの、我が一族の秘宝だけです。 あれを取り戻せば、私の真の力も蘇り、スリュムを退けられましょう」

 

「し、真の力!?」

 

「そ、そんなのがあるの!?」

 

俺とユウキは声を上げてしまった。

このまま持久戦を続ければ、クエストの時間切れになってしまう可能性が高い。

ならば、この可能性に(すが)ってみるべきだ。

ユウキも同じことを考えたのか、頷いた。

 

「解った。 宝物ってどんなのだ?」

 

フレイヤは両手に三十センチ程の幅に広げて見せた。

 

「これくらいの大きさの、黄金の金槌です」

 

「……は? か、カナヅチ?」

 

「金槌です」

 

ユウキが小さな声で、

 

「ボクの予想だと、フレイヤさんの正体はあの人かもしれない……」

 

「だ、誰だ?」

 

俺がユウキに聞き返した。 その時、王座の間右後方の壁際まで追い詰められたシノンが、スリュムの殴りつけ攻撃のスプラッシュ・ダメージを浴び、HPゲージが二割近く削られた。

 

「四人とも、先に援護に行ってくれ! 俺とユウキもすぐに合流する!」

 

「おうともさ!」

 

クラインは一声叫ぶと、雄叫びを上げながら駆け出した。

他のメンバーもクラインに続き、援護に向かう。

集団戦闘のサウンドエフェクトを聞きながら、俺はぐるりと広大な玉座の間を見回した。

青い氷の壁際には、黄金が幾重にも積み上がっている。

あの中から、たった一つの金槌を探し出すことなんて出来るのか……。

 

「……ユイ」

 

「だめです、パパ。 マップデータにはキーアイテム位置の記述はありません。 おそらく、部屋に入った時点でランダム配置されたようです!」

 

「そうか……うう……~~ん……!」

 

すると、隣で立っていたユウキが言葉を発した。

 

「キリト、雷系のスキルを使うんだよ!」

 

「か、かみ……?」

 

一瞬唖然と眼を見開いたが、俺は右手の剣を大きく振りかぶった。

 

「……せああっ!」

 

気合いに乗せて、思いっきり床を蹴り飛ばし、空中で前方宙返り、同時に逆手に持ち替えた剣を、真下に向けて身体ごと突き下ろす。 片手剣重範囲攻撃、《ライトニング・フォール》。物理三割、雷撃七割。

この攻撃によって周囲に雷鳴が轟き、突き刺さった剣を中心に青紫色のスパークが全方位に駆け抜ける。

俺は身体を起こし、周囲を見渡す。

 

「あれか!?」

 

「多分、あれがフレイヤさんが言っていた金槌だよ!」

 

黄金の山の奥深くで、先程生み出した雷に呼応したかのように、紫の雷光が小さく瞬いた。

俺とユウキは、そこに駆け寄る。

 

「キリト、この黄金を吹き飛ばして。金槌はここから動かないはずだから」

 

「おう、了解した」

 

俺は二刀流OSS、《エンド・リボルバー》計二連撃。物理五割、風五割の範囲攻撃で黄金が一斉に吹き飛び、一つだけ吹き飛ばない黄金(金槌)を発見した。

 

「おもっ!!」

 

持ち上げて解った事だが、この金槌はかなりの重さで設定されている。

ユウキは、重い金槌であることが何で解ったんだ?

俺は気合いで持ち上げ、振り向くと、この金槌を求めていた人物に投げ渡す。

 

「フレイヤさん、これを!」

 

金髪美女は細い右手をかざすと、俺が投げた激重金槌を見事に受け止めた。

直後、長いウェーブヘアが流れ、露わになった白い背中が小刻みに震える。

……え、もしかして違った? なんかマズイもの渡しちゃった……?

俺の耳が、フレイヤの囁き声を捉えた。

 

「………………ぎる………………」

 

ぱりっ、と空中に細いスパーク瞬く。

 

「……なぎる……みなぎるぞ…………」

 

なんだか、金髪美女から妙な言葉が発せられているぞ……。

今までの艶やかなハスキーボイスが低くひび割れ、()れているようだ。

スパークは激しさを増し、ゴールデンブラウンの髪がふわりと浮き上がり、純白の薄いドレスの裾が勢いよく翻る。

 

「みな……ぎるうぅぅぉぉおおオオオオオオ――――――!!」

 

雄叫びを上げ、全身に雷を纏い、白いドレスを粉々に引き千切られ、消滅した。

その姿はみるみる巨大化していき、顔の輪郭もゴツゴツに変化して、金褐色の長い髭まで生えている。

右手に握られた金槌もまた、持ち主に合わせて巨大化し、外見は四十代のナイスミドルという感じだ。

 

「「オッ…………オッサンじゃん!!??」」

 

俺とクラインの絶叫が部屋の中に響き、反響した。

ユウキを除く他の女性陣は、口をポカンと開けてしまっていた。

 

「オオオ……オオオオオ―――――ッッ!!」

 

巨大なおっさんは、広間中にぴりぴりと震わせる重低音の咆哮を放つと、動きを止めているスリュム向けて、分厚い革のブーツに包まれた右脚を踏み出した。

Freyja(フレイヤ)】と表示されていたはずの部分は、何時の間にか【Thor(トール)】に変化していた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

北欧神話に於いて、主神オーディンや外道神ロキと並んで――有名な《雷神トール》。

その北欧神話の《スリュムの歌》というエピソードの中で、ミョルニルという金槌が巨人の王スリュムに盗まれてしまい、ミョルニルの還元を条件に、女神フレイヤとの結婚を条件に突き付ける。

その際トールは、女神フレイヤに変装してスリュムの花嫁になると偽り、見事ミョルニルを奪い返し、スリュムを殴り殺したとある。

 

「卑劣な巨人めが、我が宝であるミョルニルを盗んだ報い、今こそ(あがな)ってもらおうぞ」

 

「小汚い神め、よくも儂をたばかってくれたな! その首切り落として、アースガルズに送り返してくれようぞ!」

 

雷神トールは、右手に握ったミョルニルを振りかざして突き進み、対する霜の巨人スリュムは、右手に氷の戦斧を造り出した。

互いの武器を轟然と撃ち合わせたインパクトで、城全体を揺るがす。

 

「トールがタゲを取ってる間に、全員で総攻撃をしかけるぞ! ソードスキルも遠慮なく使ってくれ!」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

そして九人は一気に床を蹴り、三連撃以上のソードスキルを次々スリュムの両脚に叩き込んだ。

 

「ぐ……ぬむッ……!」

 

堪らず唸り声を漏らしたスリュムが、ぐらりと身体を揺らし、遂に左膝を着いた。

王冠の周囲を、きらきらと黄色いライトエフェクトが回転している。 スタン状態だ。

 

「ここだっ……!――行くぞッ! ユウキ!」

 

「了解ッ!――トールさんも行くよッ!」

 

「うむ! 誇り高い妖精の剣士たちよ!」

 

雷神トールが差し出した右掌を踏み台に大きく飛んでから、俺は二刀流OSS、《ジ・イクリプス》計二十七撃。物理四割、炎三割、闇三割を叩き込み、ユウキは片手剣OSS、《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃。物理六割、闇四割を叩き込む。 この攻撃によって、巨人スリュムのHPゲージが三パーセントを切った。

 

「ぬうゥン! 地の底に還るがよい、巨人の王!」

 

止めに雷神トールがミョルニルをスリュムの頭に叩き付け、王冠が砕けて吹き飛び、地響きを立てて仰向けに倒れ込んだ。

 

「ぬっ、ふっふっふっ……。 今は勝ち誇るがよい、小虫どもよ。 だがな……アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ……彼奴らこそが真の、しん」

 

スリュムが全て言い終わる前に、雷神トールの強烈なストンプが炸裂し、氷結しつつあったスリュムの巨体を踏み抜いた。

凄まじいエンドフレイムが巻き起こり、霜の巨人王は無数の氷片となって爆散した。

 

「…………やれやれ、礼を言うぞ、妖精の剣士たちよ。 これで余も、宝を奪われた恥辱(ちじょく)をそそぐことができた――どれ、褒美をやらねばな」

 

左手を持ち上げ、右手に握るミョルニルの柄に触れると、嵌まっていた宝石の一つが外れ、それは光を放って俺の前に寄ってくると、人間サイズのハンマーへと変形する。

 

「《雷槌(らいつい)ミョルニル》、正しき戦のために使うがよい。では――さらばだ」

 

雷神トールは白い稲妻を発生させ、俺たちが反射的に眼を瞑った間に姿を消していた。

受け取った雷槌ミョルニルをストレージに収め、スリュムからドロップしたアイテム郡は、パーティーの一時的(テンボラリ)ストレージに自動格納されていく。

 

「…………ふぅ……」

 

「……お、終わったね……」

 

「……ああ、終わったな」

 

俺とユウキは、剣を鞘に収めた。

霜の巨人王スリュムと戦闘は、俺たちの勝利で幕を下ろした。

 




遂にスリュムを撃破しましたね。
最後のコンビネーション技って、オーバキルじゃね(笑)
《ジ・イクリプス》などの属性などは、オリジナルですよ~。

てか、ユウキちゃん。物知りだね。
まぁ、北欧神話の金槌と言えば、雷神トールしか思い浮かばんが(作者だけかも)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第94話≪聖剣エクスキャリバー≫

ども!!

舞翼です!!

眼を擦りながら書き上げたよ。
さて、小説の本編も、ラストスパートですね(^_^)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


俺は小さく息を吐くと、クラインの隣に歩み寄り、肩に手を置いて言った。

 

「その、なんだ。 ドンマイ」

 

クラインは(すす)り泣いていた。

 

「フ、フレイヤさんが、オッサンに変わっちまったよ……」

 

ユウキもクラインの肩に手を置いて、言った。

 

「大丈夫だよ。 クラインさんにもいい人が見つかるよ」

 

「グハッ!」

 

クラインは座り込み、「どうせオレなんて」、と言いながら、床にのの字を書き始めた。

 

「ユウキさん、それ止めの言葉だから」

 

こいつの場合、無意識に言ったと思うが。

俺の言葉を聞いて、首を傾げているしな。

 

「この雷槌(らいつい)ミョルニルは、リズにやるか。 みんなはそれでいいか?」

 

「うん、それでいいと思うよ」

 

リーファの言葉に、皆頷いた。

俺はリズの前まで行き、アイテムストレージから雷槌ミョルニルを取り出し、リズに手渡した。

 

「みんな、ありがとう!」

 

その瞬間――。

スリュムヘイム城の床が激しく震えた。

 

「「「「「「「きゃああっ!」」」」」」」

 

女性陣が悲鳴を上げた。

シノンが尻尾をS字に曲げながら叫ぶ。

 

「う……動いてる!? いえ、浮いている……!」

 

居城スリュムヘイムが、左右に震えながら、少しずつ上昇しているようだ。

その時、首から下げたメダリオンを覗き込んだリーファが、甲高い声を上げた。

 

「お……お兄ちゃん! クエスト! まだ続いてる!」

 

「な……なにィ!?」

 

立ち上がり喚くクライン。

霜の巨人族の首領スリュムが死んだからには、当然クエストも完了したはず――。

その時、ユウキが声を上げた。

 

「聖剣を引き抜かないと!」

 

ユウキの言う通りだ。

俺たちにこのクエストを依頼した《湖の王女ウルズ》は、スリムヘイムに侵入し、聖剣エクスキャリバーを台座から引き抜いてくれ、と言っていたはずだ。

 

「さ、最後の光が点滅してるよ!」

 

リーファの悲鳴にも似た声に、ユイが鋭く反応した。

 

「パパ、ママ。 王座の後ろに下り階段が生成されています! 恐らく、その先には――」

 

「聖剣エクスキャリバーの台座か!」

 

「みんな、行こう!」

 

俺とユウキの言葉を合図に、全員が床を蹴り、走り出した。

裏に回り込むと、氷の床に下向きの小さな階段が口を開けていた。

仲間たちが追ってくる足音を聞きながら、薄暗い入り口に飛び込み、螺旋階段を駆け下りる。

その時、背後からリーファが声を掛けてきた。

 

「……あのね、お兄ちゃん。 あたしおぼろげにしか覚えてないんだけど……たしか、本物の北欧神話では、スリュムヘイム城の主はスリュムじゃないの」

 

その言葉に、俺の隣を走っているユウキが答えた。

 

「《スィアチ》のことだね。 スリュムヘイム城の主はスィアチのことだよ。 黄金林檎を狙っているのも、実際はスリュムじゃなくて、スィアチだったね。 ボクも今思い出したんだけど」

 

「いま検索を掛けてわかったことですが、今回の虐殺(スローター)クエストを依頼しているのは、ヨツンヘイム最大城に配置されたNPCの《大公スィアチ》のようです」

 

ユウキの説明に続き、俺の頭上に座っている小妖精ユイが、外部ネット検索の成果を教えてくれた。

このままスリュムヘイムがアルンまで浮上すれば、上の玉座の間には、そのスィアチがラスボスとして君臨することになるのだろう。

 

「……つまり、後釜は最初から用意されていたってことか……。 それにしても、ユウキは神話に詳しいんだな」

 

「本棚にあった北欧神話の本を読んでたからね」

 

「なるほどな」

 

その時、ユイが叫んだ。

 

「――――――パパ、五秒後に出口です!」

 

「了解!」

 

ユイの言葉に答え、速度を上げて螺旋階段を下り、視界に入った明るい光目掛けて飛び込んだ。

そこは、ピラミッドを上下に重ねた形にくり抜いた空間、言うならば《玄室》だ。

壁は薄く、氷を透かせてヨツンヘイム全体が一望できる。

真円形のフロアの中央に、五〇センチ程の氷の立方体が鎮座しており、その内部には世界樹のものと思われる、細く柔らかそうな根があるのだが、しかしそれは黄金の剣によって綺麗に切断されている。

切断しているのは、微細なルーン文字が刻み込まれた薄き鋭利な刃――黄金の剣だ。

黄金の輝きを纏い垂直に伸びる長剣、精緻(せいち)な形状のナックルガードと、細い黒革を編み込んだ握り(ヒルト)柄頭(ボメル)には大きな虹色の宝石が輝いている。

俺はこれと同じ剣を、かつて一度見た。 いや握ったことがある。

ALOを己の野望の道具としていた男が、俺を切る為にGM権限で生成しようとした剣。

俺が代わりにジェネレートし、決着を付ける為に投げ与えた剣だ。

あの時俺は、世界最強の剣をたった一言のコマンドで作りだしたしまったことに、強い嫌悪の念を抱いた。

何時か正当な手段で入手に挑まなければ、この借りは返さないと感じた。

そして、ようやくその時が来たのだ。

 

「聖剣エクスキャリバー……」

 

俺は無意識に呟いていた。

俺は一歩踏み出し、両手で《聖剣エクスキャリバー》の柄を握った。

 

「ッ!!」

 

ありったけの力を込め、剣を台座から引き抜こうとするが、剣は城全体と一体化ようにびくともしない。

 

「く……ぬ……っ!!」

 

更に力を込めて引き抜こうとするが、結果は同じだ。

SAOやGGOと違い、ALOでは筋力や敏捷力などの数値は表示されない。

しかし、実際はシステム上で数値化されているので、つまり《隠しパラメータ》ということになる。

その時、俺の手が優しく包まれた。

 

「ボクも一緒に抜くよ!」

 

「おう、頼んだ!」

 

「ボクたちの共同作業だね!」

 

「お、おう。 そ、そうだな」

 

この会話を聞いた途端、後方からは溜息を吐く気配が。

てか、誤解を招く言葉だな。

俺とユウキは、『せーの』、と声を合わせて聖剣を引き抜く!

同時に、足許の台座から強烈な光が迸り、視界を金色染め上げた。

次いで、何かが壊れる破砕音(はさいおん)が発生し、手に剣の重さが一気に伝わってきた。

 

「「ぬ、抜けた……」」

 

皆が歓声を上げようとした、その時――。

氷の台座から解放された世界樹の小さな木の根が、空中に浮き上がり、育ち始めたのだ。

断ち切られていた上部の切断面からも新たな根が伸び、垂直に駆け上り、螺旋階段を粉砕してきた根と絡まり、結合した。

直後――。

凄まじい衝撃波が、スリュムヘイム城を呑み込んだ。

 

「おわっ……こ……壊れっ……!」

 

クラインが叫び、全員が片膝を突いたと同時に、周囲の壁に無数のひび割れが走り、分厚い氷の壁が次々に分離し、遥か真下の《グレートボイド》目掛けて崩壊していく。

 

「さて、どうしようか?」

 

「う~ん、どうしようか?」

 

「「「「「「「二人とも落ち着きすぎ(だ)(よ)(です)!!」」」」」」」

 

「流石パパとママです~」

 

俺とユウキは、他の七人から盛大に突っ込まれた。

ユイは感心していたが。

 

「よ、よおォし……こうなりゃ、クライン様のオリンピック級ハイジャンプを見せるっきゃねェな!」

 

がばっと立ち上がったクラインが、直径僅か六メートル程の円盤の上で精一杯の助走をし――。

 

「バカ、や、やめなさ……」

 

リズが止める間もなく、華麗な背面跳びを見せた。

当然、根っこまで手が届くはずもなく、急な放物線を描き、フロアの中心にずしーんと墜落した。

途端、そのショックのせいで周囲の壁に一気にひび割れが走り、玄室の最下部、つまり俺たちが居る場所が本体から切り離された。

 

「く……クラインさんの、ばかーっ!」

 

絶叫マシンが苦手のシリカの本気の罵倒の尾を引きながら、俺たちを乗せた円盤は自由落下に突入した。

周囲では、俺たちと同時に崩れ落ちた巨大な氷塊が互いに激突し、小さな塊へと分解いき、真下を見れば、千メートル、いや八百メートルまで近づいているヨツンヘイムの大地には、黒々と《グレートボイド》が口を開けている。

当然ながら、九人と一人(ユイ)が乗る円盤は、その中央目掛けて落ちている。

 

「いや~、落ちてるな。 そう言えば、ユウキって絶叫マシンが好きなんだっけ?」

 

「よく覚えてたね。ボクは絶叫マシンが大好き! これってスリルがあって楽しいね!」

 

「俺はお前と居られれば、何処でも楽しいけどな」

 

「えへへ~、照れちゃうな」

 

因みに、俺は聖剣エクスキャリバーを抱えながら胡座(あぐら)をかき、ユウキは体育座りをしている。

俺は気になったことがあったので、前で必死に円盤に掴まっているリーファに訊ねた。

 

「そういえば、虐殺(スローター)クエストはどうなったんだ?」

 

リーファは、自身の首に掛かっているメダリオンを見た。

 

「あ……ま、間に合ったよお兄ちゃん! まだ光が一個だけ残ってる! よ、よかったぁ……!」

 

不意にユウキが声を上げた。

 

「リーファちゃん、口笛吹いて!」

 

「その手があったか!」

 

ここに居る全員も気付いただろう、トンキーの背中に乗り移り、この円盤の上から脱出しようと考えている事に。

リーファが口笛を吹くと、ヨツンヘイムの大地に響いた。

口笛が吹き終わっても何の反応もない。と思ったその時――。

“くおおぉぉ――……ん”、という遠い鳴き声が届いた。

周囲を取り巻く氷塊の彼方、南の空に、魚のような流線型の身体と、四対八枚の翼――。

 

「トンキ――――ッ! こっちこっち――っ!」

 

リーファが此方に来るように手招きをし、他の女性陣も手を振っていた。

周囲には無数の氷塊が降り注いでいるせいで、トンキーの身体が横付け出来ずに、五メートルほどの間隙を開けてホバリングした。

それから順番に、リーファ、シリカ、リズ、アスナ、シノン、ラン、ユウキ、とトンキーの背中に降りて行く。

やや強張った顔でこちらを振り向くクラインに、俺は「お先にどうぞ」と手を振った。

 

「オッシャ、魅せたるぜ、オレ様の華麗な……」

 

そう言いながら、タイミングを計るその背中を思い切りどつく。

ジタバタの助走からのジャンプは、やや飛距離が足らないような気がしたが、トンキーが伸ばした鼻でくるりと空中キャッチ。

 

「お、おわあああ!? ここ怖ェええええ!?」

 

喚く声を無視して、俺は前を向き、短い助走に入ろうとした所で、一つの事実に気付いた。

――《聖剣エクスキャリバー》を抱えたままでは、とても五メートルは跳べない。

 

「ま、いいか」

 

俺は聖剣の柄を握り、真横に投げ捨てた。

投げ飛ばした聖剣エクスキャリバーは、その重さの割には、ゆっくりと大穴目掛けて落下していく。

それを見てから、俺は軽く助走し、トンキーの背中に跳んだ。

俺の肩を、隣にやってきたユウキがぽんと叩いた。

 

「よかったの?」

 

「別にいいさ。 全員でクリアすることの方が大事だからな」

 

「また、いつか取りに行こうよ」

 

「わたしが、バッチリ座標固定します!」

 

ユウキの言葉に、ユイがそう続いた。

 

「ああ、そうだな。 ニブルヘイムのどこかで、きっと待っていてくれるさ」

 

だが、一人だけ諦めて居ない人物が、俺の前に進み出た。 水色髪のケットシーだった。

左手で肩から長弓なロングボウを下ろし、右手で銀色の細い矢をつがえる。

 

「――二百メートルか」

 

シノンはスペルを詠唱し、矢は白い光に包まれた。

俺たちが見守る眼前で、シノンは弓を引き絞り、下方で落下する聖剣エクスキャリバーの更に下方に向け矢を放ち、矢は銀色のラインを引きながら駆け抜けた。

このスキルは、弓使い専用の種族共通スペル、矢に強い伸縮性・粘着性を持つ糸を付与し、手の届かないオブジェクトを引っ張り寄せる魔法、《リトリーブ・アロー》だ。

糸の矢が軌道を歪める上にホーミング性ゼロなので、普通は近距離でしか当らない。

シノンの意図を悟りながらも、俺は内心で「幾ら何でも」と呟いた。

だが、飛翔する銀色の矢は、引き合うかのように近づいて、たぁん!と音を立てて衝突した。

 

「よっ!」

 

シノンが、右手から伸びる魔法の糸を思いっきり引っ張った。

すると黄金の剣は減速し、上昇を開始した。

みるみる長細くなり、剣の姿へと変わり、シノンの腕の中に納まった。

 

「うわ、重……」

 

「「「「「「「「「し……し……し……」」」」」」」」」

 

八人とユイの声が、完全に同期した。

 

「「「「「「「「「シノンさん、マジかっけぇ――――――!!」」」」」」」」」

 

全員の賞賛に、三角耳をぴこぴこ動かして応えたシノンは、最後に俺を見た。

 

「キリト、受け取って」

 

「え! いいのか!?」

 

俺にエクスキャリバーを渡してくるシノン。

正直、欲しくないと言えば嘘になるが。

 

「ええ、私の命を救ってくれた件と、大澤さんに会わせてくれたお礼よ。 受け取って」

 

「ああ、大切に使わせてもらうよ。 ありがとう」

 

このような言葉を貰い、受け取らない方が失礼と言うものだ。

俺はシノンからエクスキャリバーを受け取り、腕の中に抱えた。

 

「くおぉぉ――ん……!」

 

トンキーが長く鳴き声を放ち、八枚の翼を強く打ち鳴らして上昇を始める。

釣られるように上空を見ると、ヨツンヘイムの天蓋中央に深々と突き刺さっていたスリュムヘイム城が、遂に丸ごと落下を始めたのだ。

氷の巨城は轟音を響かせながら墜落していき、風圧に耐えかねて崩壊も激しさを増す。

 

「…………あのダンジョン、あたしたちが一回冒険しただけで無くなっちゃうんだね……」

 

リズが小さく呟き、隣のシリカが、ピナをぎゅうと抱きしめながら相槌(あいづち)を打つ。

 

「ちょっと、もったいないですよね。 行ってない部屋とかいっぱいあったのに……」

 

「マップ踏破率は、37.2%でした」

 

俺の頭の上に乗ったユイも、残念そうな声で補足する。

 

「ゼイタクな話だよなァ。――でも、ま、楽しかったぜオレは」

 

両手をばしっと腰に当て、クラインが深く頷いた。

 

「俺も楽しかったさ。みんなはどうだ?」

 

「ボクは楽しかったよ!」

 

「ええ、私もです」

 

「私も楽しかったよ」

 

俺の言葉に、ユウキ、ラン、アスナと続き、他の女性陣も「楽しかった!」と続いた。

 

「みなさん、見てください!」

 

ユイが大きな声で叫び、スリュムヘイムが落下した、真下の大穴《グレードボイド》を指差した。

巨大な大空洞の奥から、青く揺れ、輝きを放ちながら、透き通るような水が大量に溢れ、大穴を水で満たした。

 

「あ……上!」

 

シノンが、さっと右手を上げた。

反射的に振り仰ぎ、上空を見てみると、天蓋近くまで萎縮していた世界樹の根が、スリュムヘイムが消滅したことで解放され、生き物のように大きく揺れ動きながら太さを増し、グレードボイドを満たした清らかな泉に根を下ろし、大波を立て放射線状に広がり、広大な水面を編み目のように覆い、先端は岸にまで達した。

泉に根が下ろされたことで、その根からは小さな若芽が息吹き、大木が立ち上がり、黄緑色の葉を次々に広げた。

これまでヨツンヘイム全体を吹き荒れていた、凍るような木枯らしは止み、暖かな春のそよ風が吹き渡る。

天蓋は、ずっとおぼろげに灯っていただけの水晶群が、小さな太陽のような強い白光を振り撒いている。

風と陽光にひと撫でされた大地の根雪や、小川を分厚く覆う氷が溶け、その下から現れた大地からは新緑が芽吹き、木は生い茂り、川がせせらぎ音を奏でる。

 

「くおおぉぉぉ――――ん…………」

 

突然トンキーが八枚の翼と広い耳、更に鼻いっぱいに持ち上げ、高らかな遠吠えを響かせた。

数秒後、世界の各所から、“おぉーん”、“くおおぉーん”、という返事が返ってくる。

泉の中に囚われていたと思われる、トンキーの仲間たちだ。

それだけではなく、多脚のワニのような奴、頭が二つあるヒョウのような奴、多種多様な動物型邪神たちが地面や水面から止めなく出現し、フィールドを闊歩(かっぽ)し始めた。

ヨツンヘイムが、かつての姿を取り戻したのだ。

 

「……よかった。 よかったね、トンキー。 ほら、友達がいっぱいいるよ。 あそこも……あそこにも、あんなに沢山……」

 

トンキーの背中に座り込んだリーファが嬉し涙を零しながら、トンキーの頭を優しく撫でていた。

シリカがリーファを抱くようにして、同じようにしゃくりを上げ始め、アスナとラン、リズも目許を拭い、腕組みしたクラインが顔を隠すようにソッポを向き、シノンも何度も瞬きを繰り返す。

ユウキも目許に涙を浮かべながら、座っている俺の肩に頭を乗せて、この美しい光景に見入っていた。

俺も胸に込み上げてくるものがあった。

最後に、俺の頭から飛び立ったユイが、ユウキの肩に着地すると髪に顔を埋めた。

あいつは最近、俺に泣き顔を見せるのを嫌がるのだ。

まったく、どこで学習したんだか……。

と、その時、声が聞こえた。

 

「見事に、成し遂げてくれましたね」

 

トンキーの頭の向こうに、金色の光に包まれた人影が浮いている、《湖の女王ウルズ》だった。

前回と違い、今回は実体化している。

隠れていたという泉から脱出出来たのだろう。

 

「《全ての鉄と木を斬る剣》エクスキャリバーが取り除かれたことにより、イグドラシルから断たれた《霊根》は母の元に還りました。 樹の恩寵(おんちょう)は再び大地に満ち、ヨツンヘイムはかつての姿を取り戻しました。 これも全て、そなたたちのお陰です」

 

「いや、トールの助けがなかったら、スリュムは倒せなかったよ」

 

俺の言葉に、ウルズはそっと頷いた。

 

「かの雷神の力は、私も感じました。 ですが……気をつけなさい、妖精たちよ。 彼らアース神族は、霜の巨人の敵ですが、決してそなたらの味方ではない……」

 

「あの……スリュム本人もそんなこと言っていましたが、それは、どういう……?」

 

涙を拭いて立ち上がったリーファが訊ねた。

しかし、その曖昧な質問はカーディナルの自動応答エンジンに認識されなかったのか、ウルズは無言のまま僅かに高度を上げた。

 

「――私の妹たちからも、そなたらに礼があるそうです」

 

その言葉と共に、ウルズの右側が水面のように揺れ、人影が一つ現れた。

身長は姉よりやや小さく、髪は短めの金髪で、深い長衣を着た、《優美》な顔立ちの女性だ。

 

「私の名は、《ベルザンディ》。 ありがとう、妖精の剣士たち。 もう一度、緑のヨツンヘイムを見られるなんて、ああ、夢のよう」

 

甘い声でそう囁きかけると、ベルザンディはふわりと右手を振り、俺たちの眼の前に大量のアイテムやらユルドが出現し、テンポラリ・ストレージに消えていった。

九人パーティーなら容量にかなりの余裕があるはずだが、スリュムとの戦いで相当埋まっているので、そろそろ上限が気になってくる。

今度はウルズの左側につむじ風が巻き起こり、鎧兜姿でヘルメッドの左右とブーツの側面から長い翼が伸び、金髪は細く束ねられ、美しくも勇ましい顔の左右で揺れている。

身長は、俺たちと同じ妖精サイズだ。

 

「我が名は《スクルド》! 礼を言おう、戦士たちよ!」

 

凛と張った声で短く叫び、スクルドも大きく右手をかざし、報酬アイテムの滝。

視界右側のメッセージエリアに、容量注意の警告が点滅された。

妹が左右に退くと、ウルズが一歩進み出た。

 

「私からは、その剣を授けましょう。 しかし、決して《ウルズの泉》には投げ込まぬように」

 

「了解した」

 

これまで俺が両手で抱えていた聖剣エクスキャリバーは、俺のアイテムストレージに格納された。

 

「よかったね。 キリト」

 

「おう、ありがとな」

 

俺とユウキの会話が終わった後、三人の女神たちは距離を取り、声を揃えて言った。

 

「「「ありがとう、妖精たち。 また会いましょう」」」

 

視界中央にクエストクリアを告げるメッセージが表示されると、三人の女神は身を翻し、飛びさろうとした。

その直前、どたたっと前に飛び出したクラインが叫んだ。

 

「すっ、すすスクルドさん。 連絡先をぉぉ!」

 

――NPCがメルアドなんてくれるわけないだろ!!

俺は突っ込んでいいか判らずフリーズしていると、スクルドさんはくるりと振り向き、気のせいか面白がるような表情を作り、もう一度手を振った。

直後、スクルドさんは消滅し、あとには沈黙と微風だけが残された。

やがて、リズが小刻みに首を振りながら囁いた。

 

「クライン。 あたし今、あんたのこと、心の底から尊敬している」

 

同感だった、まったく同感だった。

ともあれ、二〇二五年十二月二十八日の朝に始まった俺たちの大冒険は、こうして終わりを向かえた。

 

「よし! この後、打ち上げ兼忘年会でもやらないか?」

 

「「「「「「「「賛成!!」」」」」」」」

 

みんなが真っ直ぐ、右手を上げた。

取り敢えず、今後の予定が決まった。




遂に聖剣エクスキャリバーを入手しましたね。
キャリバー編もあと一話かな(予定)

あと、階段は二人が走れる幅だったということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第95話≪今年最後の打ち上げ、忘年会≫

ども!!

舞翼です!!

いや~、今回は早く投稿できました(^◇^)
今回は短めですね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


ALOで聖剣エクスキャリバーを入手した後、世界樹に続く螺旋階段に送ってくれたトンキーに手を振って別れ、央都アルンまでの長い螺旋階段を駆け上がり、それから新生アイングラッドの第22層の《森の家》で全員ログアウトした。

俺はリアルに戻ったあとエギルに連絡を取り、午後三時に≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫で打ち上げ兼忘年会を開きたいと伝えた所、即OK貰えたので、参加する全員にOKだというメールを送った。

俺は必要な道具類をハードケースに詰め、外に出た。

 

「「「遅い~」」」

 

「ごめんごめん」

 

俺に尖らせて抗議してきた人物は、木綿季と藍子、直葉だ。

今日は人数が多いという事で、電車で都内を目指す事にした。

 

「じゃあ、行くか」

 

それから四人は横一列になり、目的地に歩き出した。

歩いている途中で、直葉が藍子に問いかけた。

 

「そういえば、藍子さんとお兄ちゃんって、どういう出会い方をしたんですか」

 

藍子は記憶を遡るように、顎に右手を当てた。

 

「そうですね、木綿季の紹介で出会いましたね。 あの時の和人さん、言葉が物凄い詰まってましたよ」

 

「ね~、あの時の和人は、コミュ障を発動させていたからね」

 

木綿季と藍子は、微笑みながら答えていた。

俺は顔を少し赤く染めた。

 

「あの時は緊張しててな……。――それに、二人には感謝してるよ。 あの時から、俺を支えてくれて」

 

「どういたしまして、和人」

 

「どういたしまして、和人さん」

 

それから四人は駅へ向かった。

埼玉県川越市からエギルの店がある御徒町まで、急行を使えば一時間も掛からない。

午後二時過ぎに《Dicey Cafe》のドアを開けた時、先に到着していたのは家が近場の詩乃だけだった。

忙しく料理の仕込みをしている店主に挨拶をしてから、運んできたハードケースから、四つのレンズ可動式カメラと制御用ノート型PCを取り出す。

 

木綿季と藍子、直葉にも手伝って貰ってカメラを店内四ヵ所に設置する。

市販のマイク内臓ウェブカメラを、大容量バッテリーを駆動及び無線接続できるように改造したものだ。

カメラをノートPCで認識し、動作確認を取ってから、川越の自宅にあるハイスペック据え置き機にインターネット経由で接続し、小型ヘッドセットを装着する。

 

「……なに、それ?」

 

眉を寄せる詩乃に、俺は笑みを浮かべた。

俺は此処に居ない、ユイに話し掛けた。

 

「見てからのお楽しみだ。 どうだ、ユイ?」

 

『……見えます。 ちゃんと見えるし、聞こえます、パパ』

 

俺のイヤホンと、PCのスピーカーからユイの可憐な声が響く。

 

「OK、ゆっくり移動してみてくれ」

 

『ハイ♪』

 

返事に続いて、一番近くのカメラの小口径レンズが動き始める。

現在ユイは、この《Dicey Cafe》のリアルタイム映像を疑似3D化した空間で、小妖精のように飛翔していると感じているはずだ。

だが、画質や応答性が低い。 その辺が今後の課題になるだろう。

 

「……なるほど、つまりあのカメラとマイクは、ユイちゃんの端末……感覚器ってことね」

 

詩乃の言葉に、俺ではなく直葉が頷く。

 

「ええ。 お兄ちゃん、学校でメカ……メカトニ……」

 

「メカトロ二クスですよ。 直葉さん」

 

と、藍子が答えた。

 

「そのコースを選択してて、授業の課題で作ってるんですけど、完全にユイちゃんのためですよねー」

 

『がんがん注文してます!』

 

あはは、と笑い合う四人に、俺はジンジャエールを啜りながら反論する。

 

「そ、それだけじゃないぞ! カメラをもっと小型化して、肩とか頭に装着できるようになれば、どこでも連れて行けるし……。 でもまぁ、俺の目標はもっと先にあるけど」

 

「和人は、ユイちゃんを現実世界に展開しようと考えているんでしょ?」

 

木綿季の問いに、俺は頷いた。

 

「だな。 ユイを現実世界に展開して、三人で暮らすのが今の目標だからな。 絶対に展開をして見せるさ」

 

「……あんたって、筋金入りの親バカね」

 

「木綿季も親バカですよ」

 

「お兄ちゃんと木綿季ちゃんは、ユイちゃんのこと物凄く可愛がってますからね」

 

詩乃、藍子、直葉と続いた。

そうこうしていると、明日奈、遼太郎(クライン)、里香&珪子の順でメンバーが集まり、二つのテーブルをくっつけた後、エギルが持ってきた料理を運ぶのを手伝い、卓上に料理と飲み物が並べられ、最後に、見事な照りを纏ったスペアリブの大皿が出てくると、全員で店主に拍手。

それから全員が席に着き、飲み物が注がれたグラスを片手で掲げ――。

 

「祝、《聖剣エクスキャリバー》と《雷槌ミョルニル》ゲット! お疲れ、二〇二五年!――乾杯!」

 

「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」

 

という俺の省力気味の音頭に、全員が大きく唱和した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

談笑しながら、左隣に座る木綿季がしみじみ言葉にした。

 

「この一年は、色んな事があったね……」

 

「確かにな。 約一年前にSAOをクリアして、ALOから藍子と明日奈の救出、それから数か月後に死銃事件、今回の聖剣エクスキャリバーの入手。 うん、濃い一年だったな。 不躾だが、SAO事件や死銃事件があったから、木綿季や皆と出会えたんだよな」

 

皆もうんうん、と頷いていた。

 

「まぁ、辛いこともあったが、凄く充実した一年だったよ」

 

「ボクに取っては、これからの人生を決める一年だったよ」

 

「……そういえば、思っていたことがあるんだけど」

 

右隣に座る詩乃がそう呟いたのは、一時間半かけてテーブルのご馳走があらかた片付いた頃だった。

 

「どうして《エクスキャリバー》なの? 大抵は《カリバー》でしょ。 《エクスカリバー》」

 

「詩乃さん。 その手の小説とか読むんですか?」

 

詩乃の向かいに座っていた珪子が訊ねると、詩乃は照れ臭そうに笑った。

 

「中学の頃は、図書館のヌシだったから。 アーサー王伝説の本も何冊か読んだけど、訳は全部《カリバー》だった気がするなぁ」

 

「うぅーん、それはもう、ALOにあのアイテムを設定したデザイナーの趣味というか気まぐれというか……」

 

情諸のない俺の反応に、藍子の左隣に座る明日奈が苦笑いをした。

 

「たしか、大本の伝説ではもっと色々名前があるのよね。 さっきクエストじゃ偽物扱いされてたけど、《カリバーン》もその一つじゃなかったかしら」

 

明日奈の説明に、俺の向かいに座る藍子が答えた。

 

「あの剣には色々な呼び方がありますよ。 基本的には“エクスカリバー”。 ALOで使われていたのが“エクスキャリバー”。 スィアチが偽のクエストで与えようとした“カリバーン”、または“キャリバーン”。 主な所では、“カレドヴルフ”、“カリブルヌス”、“カリボール”、“コルブランド”、“エスカリボール”等がありますね」

 

「藍子さんって、神話に詳しんですね」

 

珪子は、藍子が次々上げた例に驚いていた。

まぁ、他の皆も似たようなものだが。

すると、再び詩乃が口を開いた。

 

「まぁ、別に大したことじゃないんだけど……《キャリバー》って言うと、私には別の意味に聞こえるから、ちょっと気になっただけ」

 

俺が詩乃に聞いた。

 

「へぇ、意味ってどんなのがあるんだ?」

 

「銃の口径のこと、英語で《キャリバー》って言うのよ。 例えば、私のヘカートⅡは50口径で《フィフティ・キャリバー》。 エクスキャリバーとは綴りは違うと思うけどね」

 

一瞬口を閉じた詩乃は、ちらりと俺を見てから続けた。

 

「……あとは、そこから転じて、《人の器》って意味もある。 《a man of highcaliber》で《器の大きい人》とか《能力が高い人》」

 

と、話を聞いていた皆の視線が、俺に集中した。

 

「え、なんだ」

 

「ってことは、エクスキャリバーの持ち主はデッカイ器がないとダメってことよね。 なんか噂で、最近どこかの誰かさんが、短期のアルバイトでどーんと稼いだって聞いたんだけど」

 

里香にそう言われ、俺は肩を落とした。

 

「はぁ、ここは俺が持つよ」

 

総務省の菊岡から、《死銃事件》の調査協力費が振り込まれたのは、まさに昨日のことだ。

しかし、すでにそれを当てにして、ユイの据え置き機パワーアップ用のパーツを色々――あと直葉のナノカーボン竹刀も発注済みで、残高は早速かなり寂しいことになっている。

 

「お、キリの字太っ腹じゃねか!」

 

本日の支払いを請け負うと、クラインが乗り気で言い、他の皆からは盛大な拍手と口笛が響いた。

手を挙げてそれに応えながら、俺は内心で考えていた。

SAO、ALO、GGO三世界での経験を通して、人の器なるものについて何かを学んだとすれば、それは《一人では何も背負えないはしない》ということだけだ。

どの世界でも、俺は何度も挫けそうになりながら、多くの人に助けられて如何にか歩き続けられたに過ぎない。

愛する人がいて、家族がいて、心を支えてくれる仲間がいる。

今日の突発的冒険の展開こそ、まさにその象徴的だったのではないか。

だからきっと、俺の――いや皆の《キャリバー》とは、仲間全員で手を繋いでいっぱいに輪を作った、その内径を指すのだ。

聖剣エクスキャリバーは、仲間たちの為に使おう、俺は心にそう決めた。

 

「よし! じゃあ、もう一回乾杯をするか!」

 

俺の二度目の乾杯の声に、皆も片手にグラスを掲げ、軽くぶつけ合った。

 

 

キャリバー編 ~完結~




今回の話でこの小説の本編が完結しました!!
これまで、この小説を読んでくれた読書の皆さまのおかげです!!
ありがとうございます!!
後、この小説の明日奈さん親子は仲違いはしてませんよ(^O^)

さて、本編は終わりましたが、これから後日談に入ります(^O^)/
まだ続きますが、これからもこの小説、『ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~』をよろしくお願いします!!

活動報告のアンケート?してます(^_^)/

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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後日談 大学編
第96話≪君と送る年、迎える年≫


ども!!

舞翼です!!

後日談、第一弾始まります!!
今回は、キャリバー編の続きですね。

誤字脱字がごめんよ。

それではどうぞ


今は、2025年12月31日21時。

年越しまで、あと三時間だ。

 

「お兄ちゃんー! 木綿季ちゃんー! 年越し蕎麦(そば)食べよー!」

 

直葉の言葉に、木綿季が応じた。

 

「今行くよー! スグちゃんー!」

 

「じゃあ、下に行くか」

 

「うん、行こっか!」

 

俺と木綿季は座っているベットの上から腰を上げ、手を繋いでから、一階の居間に向かう為歩き出した。

 

「和人と年を越すのも、今年で三回目だね♪」

 

「そうだな。 SAOの中では、お前と一緒に年を越したな。 確か、12月31日は攻略を休みにして、年越しのカウントダウンをしたよな」

 

「覚えててくれたんだ!」

 

木綿季は、とても嬉しそうな顔をして俺の顔を見た。

 

「まぁな。 俺が攻略に行こうって言ったら、『今日は攻略休もうよ~』、ってメチャクチャ甘えたよな」

 

「うん……。 ねぇ、和人」

 

「……いいぞ」

 

俺と木綿季がキスをしようとしたその時、再び直葉の声が届いた。

 

「お兄ちゃんー! 木綿季ちゃんー! 何やってるのー? 早く年越し蕎麦を食べようよーっ!」

 

俺と木綿季は苦笑いをしてから階段を下り、直葉が待つ居間へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

居間で待っていた人物は直葉だけではなく、母の翠と、父の峰高も居たのだ。

峰高は、今日の為に海外から帰国したらしい。

木綿季は、峰高と数える程しか会って居ないが、人懐っこく明るい性格もあり、最初に会った時に打ち解けていた。

今の峰高は、木綿季を娘のように可愛がっているのだ。

 

「久しぶり、お義父」

 

木綿季は、峰高にぺこりと頭を下げてから、ニッコリと笑った。

 

「木綿季、久しぶり。 和人との新婚生活は楽しいか?」

 

「うん、とっても楽しいよ!」

 

「いや、まだ結婚はしてないから。 大雑把に言えば、新婚生活になるけどさ」

 

「早く年越し蕎麦を食べようよ」

 

そう直葉に言われ、俺と木綿季は用意されていた席に座り、それから翠が音頭を取り、年越し蕎麦を食べ始めた。

それから交互に入浴をしようとした時、木綿季が、『和人。一緒に入ろうか!』、というダイナマイト級の爆弾を落としていったが。

一緒には入ってないぞ! いや、入りたかったけどさ。

ともあれ、“約束の時刻”が近づいてきた。

 

「そろそろ時間だな」

 

「あ、そうだね」

 

「お義母さん、お義父さん。これから予定があるから……その」

 

「あ、そうだったわね。 ALOで年越しのイベントがあるんでしょ。 私と峰高さんは、夫婦水入らずで年を越させて貰うわ。 三人とも行ってらっしゃい」

 

「そうだな、三人とも行ってきなさい。 皆が待っているんだろ」

 

翠と峰高は、俺たちがALOにログインするのを、即OKしてくれた。

 

「私たちも来年からALO始めようかしら?」

 

「それもいいな。 和人と木綿季の子供、ユイちゃんに会ってみたいしな」

 

「ユイは可愛いぞ。 自慢の娘だ!」

 

「うんうん、ユイちゃんは世界一可愛い、ボクと和人の子供だよ!」

 

最早、俺と木綿季の会話は、親バカの域に達していた。

まぁ、解っていた事なんだが。

 

「お義母の種族は、ボクと同じ闇妖精族(インプ)がいいかな~」

 

「父さんは、影妖精族(スプリガン)がいいかもな」

 

俺たちの会話に、直葉が遠慮がちに入ってきた。

 

「……お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 時間が……」

 

「「ハッ! そうだった!」」

 

それから、俺と木綿季と直葉は急いで居間から出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

廊下を数歩歩いた時、直葉がわざとらしい咳払いをした。

 

「うおっほん!」

 

「「スグ(ちゃん)?」」

 

「えっと……今日は大晦日だし……、二人は一緒にダイブしてもいいんじゃないかなー、とか思ったり」

 

これは直葉の気遣いなのか、それとも細やかなプレゼントなのか。

どちらにせよ、有り難いには事には変わりないので、俺と木綿季は笑顔で礼を述べた。

 

「ありがとな、スグ。 お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「ありがとね、スグちゃん」

 

今日は時間が無いから、あれ(・・)をするのは後になるな。

 

「……和人、今何を考えたかここで言ってあげようか」

 

「丁重にお断りします」

 

俺がそういうと、木綿季が俺の耳元で囁いた。

 

「時間があったらね」

 

「りょ、了解です」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

~第22層、森の家ログハウス~

 

「パパ、ママ、おかえりなさいです♪」

 

「ただいま、ユイ」

 

「ただいま、ユイちゃん。 待ったかな?」

 

「全然待ってないですよ。 パパ、ママ」

 

新生アンクラッド第22層、《森の家》にログインした俺とユウキは、愛娘のユイの頭を優しく撫で、ユイは眼を細めて気持ち良さそうにしてくれた。

 

それから、アスナ、ラン、リズ、シリカ、シノン、リーファ、クライン、エギル、レコンと、続々とログハウスにログインした。

青と黒のロングヘアを揺らしながら、アスナとランがこちらに歩み寄ってきた。

 

「こんばんは。 ユイちゃん」

 

「こんばんは。 今日のお祭りが楽しみだね、ユイちゃん」

 

ランに続き、アスナが言った。

二人も俺たちと同じく、ユイを溺愛しているのだ。

 

「ねぇねぇ、アスナさん。 こんばんはです♪」

 

「ユイちゃん、今日は楽しみましょうね」

 

「楽しもうね、ユイちゃん」

 

「はいです!」

 

そうこうしてると、リズが今後の予定を聞いた。

 

「今から、お祭り兼年越しのカウントダウンよね?」

 

リズの問いに答えたのは、ソファーの上に座り、ピナをもふもふしているシリカだった。

 

「そうですよ。 前の忘年会でキリトさんが言っていたじゃないですか」

 

「あれ、そうだっけ。――今日のイベントで、私に運命の出会いがあるかも」

 

シノンがリズの顔の前で、右手を左右に軽く振った。

 

「ダメだわ。 自分の世界に入っちゃってるわね」

 

と言い、軽く息を吐いた。

後方ではレコンが、「リーファちゃん、一緒にお祭り周ろうよ」と言い、リーファが、「嫌よ。 一人で周りなさい、私は皆と周るんだから」、と言っていたが。

 

この状況を見ていたクラインは、

 

「……ちきしょう、リア充共めェ」

 

「オレが思うに、お前のそういう所が原因じゃないのか?」

 

と、エギルがクラインに突っ込んでいたが。

それから全員はログハウス出て、庭で大きく翅を震わせて、お祭り兼カウントダウンが行われる、アルンまで飛翔を開始した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

アルンの広場には、全ての妖精たちが、普段以上に賑わっていた。

俺たちは世界樹の木の根元に着陸し、周りを見渡した。

 

「すごいです!! お店屋さんがあんなにあります!! パパ、ママ!!」

 

ユイは、初めて見る光景に興奮気味だ。

因みに、ユイの姿は小妖精の姿ではなく、白いワンピースに上着を羽織った少女の姿だ。

 

「よし! 時間まで、自由行動にしようか」

 

俺の言葉に、皆が笑顔で頷いた。

 

「じゃあ、ここで一度解散!」

 

ユウキの言葉で、皆は行きたい場所へ向かった。

 

「ボクたちも行こうか」

 

「おう、行くか」

 

「はいです!」

 

俺とユウキは、ユイが真ん中になるように手を繋いで、屋台へ向けて歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

最初に向かった屋台は、わたあめ屋だった。

ユイはわたあめを買い、ぱくぱくと食べていた。

ユイが右手で持っていたわたあめ棒を、俺の口許まで持ってきた。

 

「パパ、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

俺は大きく口を開けて、ふわふわの部分にかぶり付いた。

 

「うん、旨いな。 ここまで味を再現するとは。 正直驚いたよ」

 

今食べたわたあめは、現実世界の味と遜色がなかったのだ。

ユウキが頬を少し膨らませた。

 

「ずるい。 ボクにもやってよ」

 

「ママには、パパが“あ~ん”をしてください」

 

「え、俺か」

 

「はいです!」

 

俺は、ユイからわたあめ棒を右手で受け取り、それをユウキの口許まで持っていった。

 

「ほら、ユウキ。 あ~ん」

 

「あ~ん」

 

ユウキは、ふわふわにかぶり付いた。

すると周りから、『あれって、最強夫婦じゃないか』、『黒の剣士と絶剣だぜ』、『二人の間に子供が居るっていう噂、本当だったんだ』、等々の声が上がってきた。

俺とユウキは顔を見合わせてから、苦笑いをした。

 

「ボクたちって、ここまで有名だったんだ」

 

「有名すぎないか……」

 

「流石、私のパパとママです!」

 

ユイはこの声を聞いて、とても喜んでいた。

それからは、金魚掬いや射的、輪投げなど、沢山の屋台を周り、一生の思い出を作った。

今年の残り時間が三十分といった所で、俺たちは集合場所の世界樹の木の根元へ戻った。

集合場所の世界樹の木の根元には、既に全員が集合していた。

 

「みんな、お待たせ」

 

「集合時間ぴったりだな」

 

「みなさん、お待たせしました~」

 

ユウキに続いて、俺とユイだ。

それから皆は、《その時》が来るまで軽く談笑をした。

新年まで残り五分といった所で、世界樹の巨大な幹にスクリーン映像が展開され、イベントの主催者のGMが映し出された。

 

『アルヴヘイム・オンラインをプレイしている皆様こんばんはー。 新年まであと数分となりましたね。 今年も皆さんお疲れ様でした。 おっと、残り30秒で新年ですよ! それじゃあ皆さん、カントダウンを開始しましょうか。 せーの!』

 

「「「「「5」」」」」

 

「「「「「4」」」」」

 

「「「「「3」」」」」

 

「「「「「2」」」」」

 

「「「「「1」」」」」

 

「「「「「明けましておめでとうございます!!!!!」」」」」

 

俺たちは全員揃って、新年の2026年1月1日を無事に迎えることが出来た。

全員で新年の挨拶を交わすと、第22層のログハウスに戻り、ログアウトした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

賑やかなイベントを終えた翌朝――2026年1月1日。

俺はベットから起き上がり、大きな欠伸をしてから、大きな伸びをした。

 

「ふぁ~……」

 

眼を覚ましてすぐに、木綿季に新年(現実世界)初の挨拶をしよう思い隣を見たんだが、木綿季は既に起きたのか、隣はもぬけの空だった。

俺はスウェットの服装まま階段を下りダイニング足を向けると、ダイニングには峰高が居た。

 

「おはよう、父さん。 明けましておめでとう」

 

「明けましておめでとう、和人。 食事は居間で摂るから、顔を洗ったら来なさい」

 

「おう」

 

峰高はそう言い残して、居間へ行ってしまった。

俺は顔を洗い、眠気が完全に取れていない状態で居間へ向かった。

だが、居間に入った瞬間、俺の眠気は一気に覚めた。

 

『「「(和人)(お兄ちゃん)(パパ)、明けましておめでとうございます!!」」』

 

そこには花柄の振袖を身に纏った木綿季と直葉、タブレットの中で花柄の振袖を身に纏っているユイが姿勢を正して座っていた。

俺は一定の距離を取った後正座し、三人に向き合って今年最初の挨拶を交わす。

 

「木綿季、スグ、ユイ、明けましておめでとうございます」

 

それから、遅れてやって来た翠にも挨拶をした。

皆で軽く談笑した後、桐ケ谷家族は集合写真を撮ることになったので、俺と峰高は(はかま)に、翠は振袖に着替え、中庭に集合した。

 

「よし! 撮るぞ、準備はいいか?」

 

『「「「おう(はい)」」」』

 

配置は左から、翠、直葉、木綿季&ユイ、俺、峰高だ。

峰高は、カメラの自動シャッターを回し、俺の隣に立った。

その直後、シャッターが切られた。

 

「OKだ。 じゃあ、皆で雑煮を食べるか」

 

翠と峰高と直葉は、家の中へ戻っていった。

中庭に残されたのは、俺と木綿季、ユイになった。

 

「木綿季、ユイ。 今年もよろしくな」

 

「うん、ボクの方こそよろしくね」

 

『パパ、ママ。 今年もよろしくお願いします』

 

こうして、俺たちの新たな年が始まった。




まだ7月(リアルで)なのに、お正月ネタだよ\(◎o◎)/
うん、早すぎるね(笑)
でもまぁ、今後が書きやすくなったかも。
そして、爆弾発言が多々出ましたね。てか、あれってなんのことなんだ!?
お祭りは、ロストソングを参考にしました~。

木綿季ちゃんと峰高さんは、GGOとキャリバーの間の時間に会ってますよ。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第97話≪夏休みとピクニック!≫

ども!!

現在一波乱させている舞翼です!!(内容は活動報告で)
そして、そんな中での投稿です。(←おい!)
作者は強い!!嘘です。メンタル豆腐以下です……。

この話は、あれから約一年半後ですね。
てか、細かく書けないだけなんですが……。
文才が欲しい!!
前置きは、これくらいにして。
後日談第二弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


二〇二七年八月。

新生アインクラッド第22層、《森の家》ログハウス。

ログハウスには、夏休みの課題を終わらせる為、高校生メンバーが全員集合していた。

計画をしっかりと立てているらしいアスナとラン、シノンは順調に課題をこなしていた。

残りのメンバーは、俺、ユウキ、リーファ、リズ、シリカだ。

 

「キリトさんユウキ、リーファさん。 早く課題を終わらせましょうね」

 

「ランさんや。 桐ケ谷家には、宿題に手を付けると眠くなるという呪いが発動するんです」

 

「ボクは眠いよ――」

 

「私も眠いです。 今日はここまでにしませんか?」

 

ランは溜息を吐き、

 

「確かに三人とも眠そうですね。 ――夜更かししてゲームをしていたからですよね?」

 

「「「ギクッ!!」」」

 

俺とユウキとリーファは、些細な反論を試みた。

 

「いや、その、ランさんや。 昨日のクエストで……」

 

「そのクエストは、三人参加が絶対条件だったので……」

 

「ボ、ボクの剣を作るには、クエストで貰える鉱石がどうしても必要で……」

 

昨日のALOのクエストでは、どうしても手に入れたい、カブレライト鉱石が報酬だったのだ。

その鉱石は、ユウキがアインクラッドで使用していた黒紫剣を作るのに、必要な素材だったのだ。

ランは再び溜息を吐いた。

 

「はぁ、解りました。 私が三人の勉強を見ます」

 

「ランは、桐ケ谷家の保護者的立ち位置に就いているわね」

 

と、シノンが言った。

その時、テーブルの椅子の上でホロキーボードを叩いていたシリカが、ランに訊ねた。

 

「ランさん。 ここ解りますか?」

 

ランはシリカの所まで行き、

 

「これは、これを代入すれば解けますよ」

 

「ほ、本当だ! ありがとうございます!」

 

「頑張ってくださいね」

 

シリカの隣で課題を進めていたリズが、向かいで課題を進めていたアスナに聞いた。

 

「アスナ、ここはどうやるんだっけ?」

 

「ん? ここはこの式を使ってこうすれば……」

 

「ああ、なるほど~。 やっぱ、持つべきものは友だね」

 

リズとシリカは、アスナとランに教えて貰い、順調に課題を進めていった。

 

「……俺たちも気合を入れて課題に取り組むか」

 

「「うん」」

 

「パパ、ママ、皆さん。 がんばってください!」

 

俺の昼寝用に購入した揺り椅子の上に座っていたユイが、皆に声援を送る。

それから約数時間、課題を進めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「お、終わった……」

 

「ボ、ボクも終わったよ……」

 

「わ、私も終わった……」

 

俺に続き、ユウキとリーファが言った。

リズとシリカも、テーブルの上に突っ伏していた。

二人共課題が終わり、力尽きたのだろう。

 

「お疲れ様でした」

 

「お疲れ、みんな」

 

「自業自得よ。 計画立てて取り組めば、予定通り終わっていたのに」

 

アスナとランはこの状況を見て微笑み、シノンは呆れていた。

ランがポンと手を打ち、

 

「お茶でも淹れましょう」

 

そう言ってから、ランはウィンドウを操作し、タップするとお茶が自然と注がれるマグカップを人数分用意した。

その間に広げられていたウィンドウに、各自課題を保存してから閉じられた。

それから皆でソファーの上に座り、休憩タイムに入った。

向かいに座っていたシリカが、口を開いた。

 

「そういえばキリトさん、ユウキさんのご両親と会ったことはあるんですか?」

 

「一回だけ会ったことがあるな。 会ったと言っても、数分間だけだからな。 今度、ちゃんと挨拶に行かないと」

 

「ボクをくださいって?」

 

「そうなるな。 まぁ、ユウキは既に俺の奥さんだけどな」

 

「キリトは、ボクの旦那さんだね♪」

 

リズが一度お茶を啜ってから、

 

「甘いわ。 アスナ、ブラックコーヒって無かったっけ?」

 

「残念だけど、ALOにはまだ実装されてないの。――キリトくんとユウキちゃんを見てると、何だか和むのよね」

 

「そうですね。 私は、妹が幸せそうで嬉しいですね」

 

「私もお兄ちゃんが幸せそうで嬉しいです。 でも、もうちょっと抑えてくれないかな」

 

「もしかして、家でもこんな感じなの?」

 

アスナに言葉に続いて、ラン、リーファ、シノンだ。

それからリーファは、シノンの問いに頷いた。

 

「ええ、そうなんですよ。 お家では……これ以上ですね。 あ、あと一回だけ私が呼んでも、出てこなかった時がありましたね」

 

リーファがそう口にすると、全員(リーファを除く)がにやにや笑っていた。

 

「リーファ。 あんたその年で、叔母さんになっちゃうかもね」

 

リズがそう言うと、リーファが顔を引き攣らせていたが。

叔母さんと言うワードは、女子が言われたくないランキング第一位かもしれないな。

 

「ふふ、大丈夫ですよリーファさん。 そうなれば、私も伯母さんですから」

 

「私は、ユウキちゃんの子供見てみたいな~」

 

「絶対に可愛いですよ!」

 

「ママが子供を授かったら、私はお姉さんです!」

 

上から順に、ラン、アスナ、シリカ、ユイだ。

 

「解った。 みんな、俺とユウキの子供が見たいのか。――よし、今まで以上に頑張るぞ……ハッ!」

 

俺は咄嗟に口に手を当てたが、時すでに遅し。

みんなの顔が真っ赤になっていた。

俺は機械人形のように首を動かし、隣に座るユウキを見た。

ユウキはジト目で俺を見てきたが、小さく溜息を一つ吐いてから、何時の可愛らしい表情に戻った。

 

「みんなが思っている以上に、ボクとキリトの子供は早く見られるかもね♪」

 

「そういうことだ」

 

俺とユウキは、堂々と宣言をした。

それから軽く談笑した後、勉強会はお開きになった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

所変わって、桐ケ谷家二階、木綿季の部屋。

俺は仰向けになり、木綿季の膝に頭を乗せていた。

膝枕って奴だ。

 

「和人。 夏休みの課題、お疲れ様」

 

と言う、木綿季の声が頭上から降ってきた。

 

「木綿季もお疲れ。 残りの五日はゆっくり出来るな」

 

「そうだ! 今度の日曜日にデートしようか?」

 

「ユイを連れてピクニックに行くか!」

 

「今度の日曜日は、ピクニックに決定~! ボク、気合を入れてお弁当を作るね!――はい、膝枕タイム終わり!」

 

「え~……もう少しいいだろ?」

 

俺は言葉で抵抗するものの、大人しく起き上がった。

木綿季は風呂に入る為、着替えの準備をしていた。

 

「ほら。 和人も一緒にお風呂に入るんだから、部屋から着替え取ってこないと」

 

「え……うん……わかった」

 

俺は流れに任せて立ち上がり、木綿季の部屋から出てから、自室から取ってきた着替え一式を片手に持ち、階段を下りた。

階段を下りた所で木綿季と合流をして、一緒に風呂場へ向かった。

結果、俺と木綿季は一緒に風呂に入り、就寝出来る支度を整えてから、木綿季の部屋のベッドの上で眠りに就いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

それから約束の日曜日。

今日は家族三人で、ピクニックに行く日だ。

 

「おかえりです。 パパ、ママ」

 

「ただいま。 ユイ」

 

「ただいま。 ユイちゃん」

 

アインクラッド第22層にある我が家へ戻ると、留守番をしていたユイが俺とユウキを出迎えてくれた。

俺たちは家族は、第22層フィールドへ向かう準備をした。

その場所はモンスターがPOPしない場所なので、武装は必要最低限の物だけ装備し、残りの武装はアイテムストレージに格納した。

俺は相変わらず黒いパンツに黒いシャツという、黒ずくめ装備。

ユウキは、薄く紫色が施されているワンピース。

ユイは、白いワンピースだ。

ログハウスを出ると、俺とユウキがユイの両側に立ち、ユイと手を繋いで、湖に続く道をゆっくり歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「わぁ! 綺麗な所だね」

 

「まぁな。 俺とユイで頑張って見つけたんだよな」

 

「はいです!」

 

目的地の湖は、日の光を受けてキラキラと輝いていた。

その水面をから、時折魚がぴょんと跳ね、上空を見上げると、鳥が自由に飛び回っていた。

ユイはキラキラした眼で、両隣にいる俺たちに言った。

 

「パパ、ママ。 お魚がジャンプしました!! 鳥さんもたくさん飛んでます!!」

 

俺とユウキは微笑みながら、ユイの言葉に応じた。

 

「そうだな。 鳥がたくさん飛んでるな」

 

「うん、元気がいいお魚さんだね」

 

俺とユウキとユイで湖の浅い部分に入り、水遊びをし、親子水入らずの時間を過ごした。

遊んだ後は、お待ちかねのお弁当タイムだ。

俺たちは湖近くの芝生座り、食事を摂ることにした。

 

「この景色の中での弁当は格別だぞ!」

 

「ママが作ったお弁当、楽しみです!」

 

ユウキは、俺とユイを見て微笑んだ。

 

「それじゃあ、お弁当を食べよっか」

 

「「おう(はいです)!」」

 

ユウキはアイテムストレージからランチボックスを取り出し、開いた。

其処には、色とりどりのサンドイッチが並べられていた。

ミックスサンドやツナサンド、タマゴサンドなど、片手で食べられるものだ。

 

「二人とも何にする?」

 

「私はタマゴサンドが食べたいです!」

 

「俺はミックスサンドかな」

 

そう言うと、ユウキはリクエストしたサンドを手渡してくれた。

 

「「いただきまーす!!」」

 

パクリと食べれば、レタスのシャキシャキ感やふっくらとしたパンが絡み合い、絶妙な味が口の中に広がる。

 

「旨いよ。 ユウキ」

 

「流石ママです♪」

 

「たくさんあるから、どんどん食べてね♪」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

弁当を完食した俺たちは、湖近くの芝生で川の字になり一休み。

時より吹く風が、頬を撫でてとても気持ちいい。

 

「……気持ちいい、風だな」

 

「ボクとキリトが、第59層の芝生で一緒に寝たのを思い出したよ」

 

「熟睡するから吃驚(びっくり)したぞ」

 

「えへへ~」

 

「パパとママは、早くからラブラブだったんですね」

 

そうユイに言われ、俺とユウキは少しだけ照れ臭くなった。

 

「それに気付くのに約一年掛かっちゃったんだけどな」

 

「ボクとキリトは、第1層からずっとコンビを組んでいたからね。 一緒に居ることが当たり前になっちゃったんだよね」

 

俺とユウキはそう言うと苦笑い。

隣を見てみると、ユイが眼をしょぼしょぼさせていた。

 

「そろそろ帰ろうか。 ユイ、おいで」

 

俺は立ち上がってから、ユイに背を向けて屈み、ユイは少し恥ずかしそうにしておぶさってきた。

ユイが落ちないように、両手でしっかりと支えてから立ち上がる。

 

「パパの背中……温かいです……」

 

それから暫くすると、すやすやと寝息を立てて眠ってしまった。

ユウキも俺の隣に立ち、ユイの寝顔を愛おしそうに見つめた。

 

「ユイちゃん、ぐっすり寝てるね」

 

「ずっとはしゃいでたから、疲れたんだな。――帰ろうか。 俺たちの家へ」

 

「うん! 帰ろう!」

 

俺はユイを右手で支え、左手でユウキと手を繋ぎ、二人並んで我が家へ帰った。

こうして、夏休みが幕を閉じた。




夏休みが終わりましたね。
次の話も、一応考えているんですが、やっぱり考えた事を文章にするのって難しいですね(>_<)

今回も爆弾発言が多々出たね(笑)
そして鉱石は、あれのネタです(笑)
まぁ、今回しか使わないのでタグにはつけないですね(^◇^)

最後に、この作品は削除しませんよ(^O^)/
消さなくていいんじゃね。という声があったので。
まぁ、また何かあったら愚痴ると思いますが……。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第98話≪両親顔合わせ≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、和人君が行おうとした挨拶が、顔合わせになっちゃいましたね(笑)
てか、今回の話は、書いてて頭がこんがらがったよ……。
まぁ、調べて書いたが……不安だ。
後、今後についてアンケート取ってるので、気軽にご覧ください。(内容は活動報告で)

今回の話は、半年後ですね。
では、後日談第三弾、いってみようー(^_^)/

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


年を越した、二〇二八年二月

世間はいわゆる、《冬休み》の最中だ。

だが、桐ケ谷和人は一ドットも休めていなかった。

初めて、桐ケ谷家と紺野家の顔合わせが行われるからだ。

 

「……ここ」

 

そう呟いた直葉は、呆然と視線を眼の前の建物を見上げた。

直葉に釣られて視線を上げると、都内でも有数の高級ホテルであった。

 

「……でかいな」

 

一学生である俺と直葉は、かなり緊張していた。

峰高と翠は流石と言うべきか、大人の振る舞いをしている。

因みに、全員がフォーマルな服装で、峰高は黒い袴姿で、翠は振袖姿。

俺はスーツ姿で、直葉はグリーンのドレスを身に纏った姿だ。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

「行きましょうか」

 

翠と峰高に促され、ホテルの玄関を潜り、待ち合わせ場所であるホテルのロビーへ向かった。

ホテルのロビーには、既に紺野家が揃っていた。

紺野家も全員がフォーマルな服装で、雄介は灰色の袴姿で、春香は振袖姿。

藍子はブルーのドレス姿で、木綿季は派手すぎない紫色のドレス姿だ。

二人共肩が出てしまうデザインなので、ストールを羽織っている。

俺はがちがちに緊張していて、顔が硬くなっていた。

それに気付いた木綿季が、ゆっくりと俺の隣まで歩み寄って来た。

 

「緊張しすぎだよ。 和人」

 

そう言ってから、苦笑い。

 

「まぁ、うん、そうなんだけど……。 木綿季って、ドレスを着るのは初めてなのか?」

 

「そうだね。 ドレスって動きにくいよ」

 

「それにしても、お前のドレス姿は新鮮だな。 うん、メッチャ綺麗だよ。 お姫様」

 

「和人もスーツ姿は新鮮だよ。 王子様」

 

峰高と翠が雄介と春香に挨拶を交わしている間、藍子も俺と木綿季の元まで歩み寄って来た。

 

「こんばんは、和人さん」

 

「こんばんは、藍子。 ドレス似合ってるぞ」

 

「ふふ、ありがとうございます。 これを聞いても動じない木綿季は凄いですね」

 

「そうなのか? 俺にはよく分からんが」

 

俺は首を傾げた。

木綿季と話して直葉も、藍子を正面から見た。

 

「藍子さん。 私が言うのはおかしいかもしれませんが、凄い綺麗ですよ!」

 

「ありがとうございます。 直葉さんも綺麗ですよ」

 

四人で話している内に、何時の間にか緊張が解れていた。

軽く談笑していたら、両親たちの話が終わったようで、移動するぞ、と声を掛けられた。

四人は返事をし、移動を開始した。

 

ホテルのエレベータへ乗ると、最上階まで移動し、高級レストランの入り口を潜った。

奥には予約していた丸テーブルと椅子が八脚、片側四脚が桐ケ谷家の席ということだろう。

右側上座から、峰高、翠、俺、直葉が座り、左側の上座から、雄介、春香、木綿季、藍子と着席した。

着席すると、早速料理が運ばれてきた。

料理は、やけに紅白(・・)を彩った物が多い。

 

「峰高さん。 こちらの好みで日本酒にしてますが、ワインの方がよろしかったでしょうか?」

 

「いえいえ、海外ではビールやワインしか手に入らないので、日本酒の味が懐かしくて、つい進んでしまいますよ」

 

「そうですか。 それはよかった」

 

峰高と雄介の会話に、翠と春香も入り、スムーズに会話を進めていた。

二人に合わせて話に入っていけるのは、流石大人だと感じさせられる。

直葉と藍子も軽い談笑をしながら、食事を続けていた。

俺は気になったことを、木綿季に聞いてみた。

 

「木綿季。 何で紅白の料理がこんなにあるんだろうな?」

 

「う~ん。 おめでたいことでもあったのかな?」

 

そんな中、次に運ばれてきた料理は赤飯だった。

俺と木綿季と直葉は疑問符を浮かべ、藍子は、そういうことね、と納得していた。

藍子が、三人の疑問に答えてくれた。

 

「今日の料理は、祝いの席で食べる料理ですね。 ――その中には、結納もありましたね」

 

峰高が口を開いた。

 

「まだ二人は学生だし、仲人も結納品もない状態だからな。 だから、こうして両家が顔合わせをする。という機会を取ったんだ」

 

それを聞いて、俺たち三人は納得した。

でも、結納は早すぎる気が……。

 

「そう言えば、和人と木綿季は、籍を入れられる年齢だよな」

 

俺の歳は十九歳。 木綿季の歳は十八歳だ。

籍を入れられる年齢には達していた。

未成年が籍を入れるには、両親たちの承認が必要になるが。

 

「ん、ああ。 そうだけど」

 

すると、翠がバック中から一枚の紙を取り出し、俺に手渡してきた。

 

「和人。 これを受け取って」

 

俺はそれを受け取り、木綿季にも見えるように広げる。

 

「「婚姻届……」」

 

そう。 俺に手渡された用紙は婚姻届だったのだ。

承認欄には両親たちの名前が記入、印鑑も既に押されてあった。

つまり、この場は両家の顔合わせの場と、俺と木綿季の婚姻承認の場でもあったのだ。

これに気付いた直葉は、隣でとても喜んでいた。

 

「あとは、和人君と木綿季の名前を記入し、印鑑押して市役所に届け出れば、正式な夫婦だ」

 

「ここで記入してもいいわよ」

 

「もちろん、ここで記入します」

 

「ボクもここで書くよ」

 

雄介さんは俺に、春香さんは木綿季にボールペンを手渡した。

俺と木綿季は婚姻届の記入欄に、名前を記入した。

 

「明日、木綿季と一緒に婚姻届を市役所に提出してきます」

 

「そうだね。 一緒に行こっか」

 

峰高が手を打ち、

 

「そうだ。 二人で住めるマンションを借りるか?」

 

「そうですね。 早く子供の顔が見たいですからね。 名前は、和人君と木綿季に決めて貰いましょう」

 

「どんな子が生まれるのかしら、和人君と木綿季の子供だもの、絶対に可愛いわ」

 

「そうね。 二人の子供だもの、眼は和人に似て漆黒の瞳で、性格は木綿季ちゃんに似て明るい子かしら」

 

雄介に続いて、春香、翠だ。

両親は、既にこれから先の事を話し合っていた。

早い、早すぎるよ。

 

「これ、どうしようか……」

 

「ボクたちが止めるのは、不可能じゃないかな……」

 

「何時間続くのかしら……」

 

「一時間以上は続くかと、私の予想ですが……」

 

上から順に、俺、木綿季、藍子、直葉だ。

それから四人は、大きな溜息を吐いた。

直葉の予想は当たり、約一時間はこの状況が続いたのであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

食事が終わり、ロビーに集合した桐ケ谷家と紺野家。

 

「皆さんで写真を撮りませんか?」

 

と、雄介が提案してきた。

この提案を両家とも賛成し、写真を撮る広間で、撮影をすることになった。

数分歩いた所で、目的の広場へ到着し、カメラマンの指示に従い、整列した。

前の長椅子に紺野家が座り、後ろに桐ケ谷家が背筋を伸ばして立つという配置だ。

 

「それでは撮りますよ。 ハイチーズ」

 

フラッシュの光が瞬き、紺野家と桐ケ谷家の集合写真が撮られた。

それから、俺と木綿季のツーショット写真も撮り終えた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「峰高さん。 今日はありがとうございました」

 

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 

紺野家と桐ケ谷家は、ぺこりと頭を下げた。

春香が木綿季に聞いた。

 

「木綿季。 これからどうするの?」

 

「ボクは、和人たちと一緒に帰りたいな」

 

「そう。 わかったわ。――峰高さん、翠さん、直葉ちゃん、和人君。 これからも木綿季をよろしくお願いします」

 

再び紺野家は頭を下げた。

 

「木綿季は、桐ケ谷家の家族の一員だと私は思っています」

 

「そうですね。 私は、娘のように可愛がっていますよ」

 

「はい。 木綿季ちゃんは、私のお姉ちゃんです」

 

「ええ、木綿季は絶対に幸せにします」

 

峰高に続き、翠、直葉、俺だ。

木綿季はこれを聞いて、目許に涙を浮かべていた。

それから、車で桐ケ谷家に帰った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

埼玉県川越市にある桐ケ谷家、一階の和室。

そこに置かれたベット上で、俺と木綿季は横になっていた。

 

「――……づ、疲れた~~」

 

「ボクも疲れたかも。 ドレスなんて初めて着たしね。 肩が重いや」

 

今の俺と木綿季の格好は、スウェット姿だ。

この姿が、俺と木綿季の部屋着だ。

 

「明日からボクと和人は、正式な夫婦だね♪」

 

「まぁ、書類上になるけどな」

 

「和人。 浮気はしちゃダメだからね」

 

「浮気なんか絶対しないぞ。 それに、俺のパートナーは木綿季しか居ない。 俺は、木綿季を愛しているしな」

 

ちょっと、重い愛かも。

俺って、独占欲強すぎじゃないか……。

 

「和人。 今重い愛って考えたでしょ」

 

「まぁ、うん。 そうだな」

 

「ボクは、その愛を受け止めるよ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「任せて♪――もう眠れる支度も出来ているし、今日はここで添い寝をしようか」

 

「お前、ここで寝る気満々だっただろう。――俺の理性が持てば大丈夫だと思うが……」

 

「えへへ。 ばれちゃった」

 

もし俺の理性が吹き飛んだら、やばい……。

今日は両親も居て、しかも起きているかもしれないので、流石にマズイような気が……。

などと考えていたが、俺の胸に顔を埋めた木綿季が、スヤスヤと寝息を立て眠っていた。

俺は小さく溜息を一つ吐いてから、自分と木綿季に毛布をかけた。

 

「……まぁ、何とかなるか」

 

それから、俺も眠りに就いた。

こうして、桐ケ谷家と紺野家の顔合わせという、一大イベントが幕を閉じた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

翌日。

俺たちは必要な書類を纏めて、翠の車に乗せてもらい、市役所へ向かった。

数分後。 目的の市役所へ着き、車から降りた俺と木綿季は、市役所の入り口まで歩き、市役所の入り口を潜った。

婚姻を申請する窓口まで行き、そこで婚姻する為に必要な書類を提出した。

 

『ここの記入欄に、印鑑を宜しいでしょうか?』

 

「「わかりました」」

 

二人は、必要な場所に印鑑を押した。

 

『これで手続きは終了です。 お二方、おめでとうございます』

 

「「ありがとうございます」」

 

そう言ってから、俺と木綿季はぺこりと頭を下げた。

手続きが終わり、市役所から出た。

 

「これで、正式に桐ケ谷木綿季だな。――頑張らないとなぁ」

 

「和人は、今でも十分過ぎる程頑張っているよ」

 

「いや、まだまだ足りないよ……。 木綿季を養えるほどの力はないからさ」

 

「当然だよ。 ボクたちは、まだ学生なんだから。――まだ、お義母さんとお義父の力を借りるしかないよ。 ボクたちが大人になったら、少しずつ恩返しをしていこう」

 

「ああ、そうだな。 まだ時間はあるんだ。 ゆっくり大人になって力を付けていくよ」

 

俺の言葉を聞き、木綿季は微笑んだ。

 

「ボクも、しっかりとした母親になれるように頑張るよ」

 

「ああ、これからもよろしくな。 木綿季」

 

「ボクの方こそよろしくね。 和人♪」

 

こうして、俺と木綿季は婚約者から夫婦になった。

新しい人生は、まだ始まったばかりだ。

 




今回の話で正式に夫婦になりましたね\(^o^)/
てか、婚姻届の書類とか記入欄とか、書いててほぼ解らんかったぞ(汗)
ほぼ勘やね(席の座り方も、一応調べたが)(笑)
あ、木綿季ちゃんは、一度帰ってから合流したということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!



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第99話≪大学生活と入学式≫

ども!!

舞翼です!!
アンケートが3しかなかったのにビックリしました\(◎o◎)/!
結果は3に決定です!!

いや~、大学生活の描写って難いですな~。
てか、解らんことだらけだぜ。
ぐだぐだになっていないか……不安だ。

今回の話は、約二ヶ月後位かな。
さて、後日談第四弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


二〇二八年四月。

今日は、俺と木綿季の大学の入学式だ。

玄関から、二階で着替えている木綿季に呼びかけた。

 

「木綿季ー、先に行っちゃうぞー」

 

「待ってよー、和人ー」

 

木綿季はぱたぱたと階段を駆け下り、俺が待つ玄関までやって来た。

俺と木綿季の服装はスーツ姿。

翠、直葉は玄関で見送りだ。

 

「行ってらっしゃい。 今日は、引越し屋さんが荷物をマンションに届けてくれる日だからね」

 

「行ってらっしゃい。 東大生(・・・)

 

「おう。 行ってきます」

 

「行ってきます。 お義母さん、スグちゃん」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

二人は東京大学へ向かう為、電車を乗り継ぎ、目的地へ急いだ。

大学の入り口前には、『ご入学おめでとうございます』、と大きな看板が掲げられていていて、キャンパス内は、新入生の活気で満ちていた。

 

「うわ~、凄いね」

 

「確かに」

 

入学式に出席する為、俺と木綿季は体育館に足を進めた。

体育館は、新入生が着席出来るように椅子が並べて在った。

当然俺は、木綿季の隣に座ったが。

それから校長先生の、長い、長~い式辞が始まった。

 

『新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。 東京大学は全学を挙げて皆様を歓迎いたします。 そして、ご両親、ご家族の方々に心からお慶びを申し上げます。……etc』

 

校長先生は式辞を読み終えると、壇上から降りた。

入学式も順調に進み、

 

「これで入学式を終えます。生徒皆さんは、ゆっくりと退席してください」

 

と、司会進行が言い、入学式が終えた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺と木綿季はキャンパスに在るベンチに座り、大きく伸びをした。

 

「いや~、終わった終わった」

 

「だね~、入学式の話を聞くのって、疲れるよね」

 

「これで俺たちは、大学生だな。――今日は入学式だけだし、帰るか?」

 

「そうしよっか。――そういえば、和人は何学部にするの?」

 

俺は腕を組んだ。

 

「う~ん、工学部でVRの研究をしたいかもな。木綿季はどうするんだ」

 

木綿季は右手人差し指を顎に当て、うーん、と考える仕草を取った。

その仕草が様になっていて、物凄く可愛い。

 

「ボクは経済で、和人を支えるよ」

 

「おし! 学部は決まったな。 俺たちの関係って、ばれるよな……」

 

「うん、絶対にばれるね」

 

俺と木綿季の左手薬指には、結婚指輪が嵌められている。

 

「満面の笑みで言わなくても……。 まぁ、その時はその時だな」

 

「そうだね。 帰って、引越しの整理しようか」

 

「おう!」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

マンションの二階、二〇一(2LDK)号室は、俺と木綿季の新しい新居だ。

マンションの中には多くの段ボールが置いてあり、引越し屋の姿は見当たらなかった。

俺たちは、それを確認してから部屋の中へ足を踏み入れた。

寝室になる部屋とリビングは比較的大きく、収納も充実していて、玄関から部屋の中は見えなくなっており、トイレと風呂場は別々になっている、キッチンのスペースも十分取れており、ベランダから光が差し込むようになっていた。

 

「うむ。 いい部屋じゃないか」

 

「子供が出来ても心配いらないね♪」

 

「木綿季さんや、それはちょっと早いかも……」

 

「そ、そうだね」

 

二人で部屋の中を一通り見周り、部屋着に着替えてから、荷物整理が始まった。

必要な物しか持ってきていないので、早く終わると思うが。

 

「寝室にベットが置いてあるよ。 引っ越し屋さんが、気を効かせてくれたのかな」

 

「寝室があったら、真ん中の壁際に置いといてくださいって、俺が頼んどいたからな」

 

「流石和人♪」

 

木綿季は微笑んでくれた。

木綿季の笑顔を見ていたら、何でも出来ちゃう気がするんだよな。

 

「この鏡台はどうする?」

 

「う~ん。 これは寝室の左下の壁際だね」

 

「了解。――チェスト二つは何処に置こうか?」

 

「じゃあ、それは鏡台の隣で」

 

俺は、木綿季に頼まれた場所に大きな荷物を配置した。

家の中は、かなりスペースが余っていた。

 

「こうして見ると、2LDKって広いね」

 

「確かに。 でもまぁ、狭いよりは広い方がいいからな」

 

「そうだね♪――あとは、食器とかの小物だね」

 

「おう!」

 

それからキッチンに足を進め、食器棚を開き、小物を収納し、歯ブラシ等も洗面台へ置き、小物荷物の配置が終了した。

俺はPC等々の配線を終わらせ、リビングで仰向けに寝転がった。

 

「終わったぞ~。 木綿季さん、膝枕をお願いします」

 

下着(俺のも)等々をチェストの中にしまっていた木綿季はリビングまで足を運び、俺の隣に腰を下ろした。

俺は木綿季の傍まで擦りよってから、後頭部を膝へ乗せた。

 

「気持ちいいっす。 木綿季さん」

 

「どういたしまして♪」

 

「明日から学校か~。 どんな授業をするんだろうな」

 

「う~ん、学科が違うから解らないかもだけど。 東大の授業だから、難しいかも」

 

「ですよねぇ~。 でも頑張るさ。 VRの事を沢山勉強して、何年掛かるか分からないけど、ユイを現実世界に展開してみせる!」

 

「楽しみにしてるね♪」

 

その時、“ピーンポーン”と、聞き慣れたチャイムが響いた。

 

「誰だろう? 何処かの営業さんかな」

 

「俺が見てくるよ」

 

俺はむくりと上体を起こしてから立ち上がり、玄関へ向かった。

其処で待っていたのは、俺がよく知る人物だった。

 

「こんにちは、和人君」

 

「こんにちは、和人さん」

 

玄関に立っていた人物は、明日奈(・・・)藍子(・・)だったのだ。

何で二人がいるんだ。と疑問に思っていたら、二人が疑問に答えてくれた。

 

「実は、私たち東大生なんですよ」

 

「私と藍子さんは、和人君と木綿季ちゃんにばれないように勉強して、こっそり合格したんだよ。 入学式は、二人から遠い場所に座っていたよ」

 

「……マジか。 でも、二人と一緒に居られるのは心強いな。――取り敢えず、上がってくれ」

 

「誰~?」

 

木綿季も俺が話している人物が気になり、玄関までやって来た。

 

「何で、姉ちゃんと明日奈が居るの!? 学校はどうしたの!?」

 

木綿季は二人を見て、吃驚(びっくり)していた。

 

「二人は東大生らしい。 俺たちと一緒だ。 今日も二人で出席していたらしいぞ」

 

「また二人と居られるんだ。 嬉しいな。――二人共、上がってよ」

 

「……デジャブったな」

 

明日奈と藍子は玄関で靴を脱ぎ、

 

「「おじゃします~」」

 

と言い、廊下に足を踏み入れた。

明日奈と藍子は、俺と木綿季に促させ、リビングまで移動し腰を下ろした。

明日奈と藍子が呟いた。

 

「ここが、和人君と木綿季ちゃんの愛の巣なのね」

 

「明日奈さん。 数日後にはなってますよ」

 

「――藍子さんの言う通りです」

 

俺がそういうと、隣に座っていた木綿季が顔を真っ赤にしていた。

多分、あっち(・・・)を考えたんだろうな。

 

「俺たち四人の付き合いは、約五年位か?」

 

「それ位かもね。 ボクたち四人は、SAOが始まってすぐに知り合ったからね」

 

「そうかも」

 

「私は、約半年後位ですけどね」

 

俺に続いて、木綿季、明日奈、藍子だ。

俺が口を開いた。

 

「藍子もそんなに変わらんぞ。 今思えば、四人とも二つ名持ちだったな」

 

「だね~。 和人が《黒の剣士》、ボクが《絶剣》、明日奈が《閃光》、姉ちゃんが《剣舞姫》、だったね」

 

「今でも言われているけどね」

 

「ですね。 ALOでも、この二つ名が付けられていますからね」

 

そう言ってから、俺たちは顔を見合わせ笑い合った。

SAOは辛いこともあったが、出会いや別れを通して、精神的に強くなれたと思う。

 

「もうこんな時間ですね」

 

「あ、本当だ」

 

明日奈と藍子が部屋へ来てから、約四時間は話し込んでいたのだ。

四人で話していると、時間を忘れてしまう。

明日奈と藍子は立ち上がり、玄関へ向かった。

 

「じゃあ、私たちはお暇しますね」

 

「また学校でね。 和人君、木綿季ちゃん」

 

「おう。 また明日」

 

「また明日。 明日奈、姉ちゃん」

 

四人は手を振り、玄関で別れ、俺がドアを閉め、再びリビングへ戻った。

それから、リビング中央にテーブルと椅子を組み立てた。

 

「じゃあ、ご飯にしようか」

 

「おう! 木綿季が作る料理は一級品しかないからな」

 

「もう! 和人は」

 

木綿季は、頬をぷくっと膨らませた。

木綿季はキッチンに移動し、俺はテーブルの椅子に座り、料理が出てくるのを待った。

 

「できたよ~」

 

木綿季は出来た料理を、テーブルの上へ置いた。

白いご飯に秋刀魚の塩焼き、切り干し大根に豆腐とわかめの味噌汁。

豪華な和食だった。

 

「旨そうだな」

 

「ありがとね、和人♪」

 

木綿季をテーブルの席に着き、合掌してから、食事を摂った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

再び合掌して、食事タイムが終了した。

木綿季は空になった皿をキッチンに持っていき、洗い物を始めた。

 

「よし! あれをしよう」

 

俺は段ボールから必要な物を取り出し、作業に取り掛かった。

数分後。 洗い物が終わった木綿季が、テーブルの椅子へ座った。

俺もそれに倣った。

 

「あのパソコンを見てくれ」

 

リビングの壁際の左上、パソコン机の卓上に設置してあるパソコンを指差した。

木綿季はデスクトップに眼を向けた。

 

「ユイ、出てきてくれ」

 

俺の声に反応して、自動的にパソコンが立ち上がり、そこには愛娘ユイの顔があった。

 

『パパ、ママ。 お引越しの整理お疲れ様です!』

 

「このパソコンは、俺と木綿季の音声で起動するようになっている。 声を掛ければ、何時でもユイに会えるぞ」

 

『パパが、私を自由に顕現出来るようにしてくれたんです。 パパかママが、私のことを呼んでくれれば、何時でも会えます!』

 

「和人、ありがとう。 大好きだよ」

 

「おう!」

 

木綿季はニッコリと微笑み、俺の唇にキスをしてくれた。

俺は突然の出来事に顔を赤く染めたが、すぐに自分を立て直した。

 

「さて、明日の準備をするか。 木綿季、明日必要な物ってなんだっけ?」

 

「明日必要な物は、筆記用具と大学のパンフレッド、今日配られたプリント位かな」

 

「了解した」

 

「明日の準備をしたら、今日は早く寝ようか?」

 

『パパとママは、一緒にお風呂に入るんですか?』

 

愛娘の不意打ちに、俺と木綿季は顔を真っ赤に染め上げてしまう。

てか、誰に吹き込まれたんだ。

 

「……今日は一緒に入ろうか。 お水は節約しないとね……」

 

「……そ、そうだな。 水の節約は大事だ……。――ユイ、また明日」

 

『はいです!』

 

ユイは、ALOのログハウスへ帰った。

俺と木綿季は明日必要な物を用意してから、風呂へ入り、就寝出来る支度をした。

それから寝室のベットで横になり、身体の上に毛布をかけた。

 

「もしかしたら、学部によって棟が違うかもな」

 

「あ、そっか。 でも、帰りは一緒に帰ろうね」

 

「もちろんだ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

翌日。

四人は、大ホールにやって来ていた。

ここで学科の選択をするからだ。

俺と木綿季と明日奈と藍子は、中央の長テーブルの椅子に着席している。

 

「それでは、工学部、科学部、国際学部、経済学部、経営学部、どれか一つの学部に決めて貰います。 お渡した用紙に名前と、希望する学部を記入してください。 記入してから用紙を机の上へ裏返しにして、静かに退出してください。 学部の発表は、お昼過ぎに掲示板に貼り出されますので、ご確認をお願いします。 以上です」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「俺は、工学部にするわ」

 

「ボクは、経済学部にする」

 

「私は、科学部かな」

 

「私は、経営学部ですね」

 

上から順に、俺、木綿季、明日奈、藍子だ。

四人とも、綺麗に別れたな。

藍子が口を開いた。

 

「カフェテリアで時間を潰しましょう」

 

「「「賛成ー」」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「凄い数の食券だな」

 

食券の数は軽く五十はあったのだ。

さすが、国立の大学だ。

 

「う~ん、何にしようか迷っちゃうな」

 

「さすが、東大って感じだね」

 

「国立の大学ですからね」

 

四人は二階の窓際に席を取り、軽い昼食を摂ることにした。

正方形のテーブルの椅子に、俺が明日奈と向き合うように、木綿季が藍子と向き合う形で着席した。

 

「なぁ、俺と木綿季の関係が知られたらどうなると思う?」

 

「それ、ボクも気になっているんだ」

 

明日奈と藍子は、マドレーヌを一口食べ飲み込んでから言葉を発した。

 

「一年生の間で、話題になるかも」

 

「私も、明日奈さんと同じですね」

 

もしばれたら、色々大変かもしれん。

因みに、藍子と明日奈は、俺の親友に当たる。

 

「そろそろ掲示板を見に行くか?」

 

「「「うん」」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

四人は現在掲示板前まで来ていた。

 

「え~と、あったあった」

 

「ボクもあった」

 

「みんな、希望通りの学科だね」

 

「ですね」

 

俺に続いて、木綿季、明日奈、藍子だ。

今日は学科を確認して、講義を聞いたら終了になる。

 

「一度ここで解散しようか。――そうだ、今日は四人で帰らない」

 

「俺はOKだ」

 

「私はOKだよ」

 

「私もOKです」

 

それから四人は別々の棟へ行き、講義を聞いてから、集合場所の掲示板前へ再び集まった。

 

「よし! 帰ろうか」

 

「「「うん」」」

 

四人は横一列になり、家を目指した。

そんな中、明日奈が口を開いた。

 

「みんな、講義どうだった? 私は難しく感じたけど」

 

「俺も難しく感じたな~。 工学って難いわ」

 

「ボクもかな。 経済の流れがあんなに細かいなんてね」

 

「ええ、私もです。 お金の流れがああいう風に循環してるなんて」

 

四人とも最初の説明だけで、大学の勉強は、高校の勉強より難しいと痛感していた。

授業の組み方などを話し合っていたら、あっという間に俺と木綿季が住むマンションに到着してしまった。

 

「じゃあ、俺と木綿季はここで。 二人共気を付けて帰れよ」

 

「うん、二人共気を付けてね」

 

「わかった、気を付けて帰るね」

 

「ええ、解りました」

 

四人は「また明日」と言い、手を振って別れた。

俺たちの大学生活は、まだ始まったばかりだ。

 




四人とも東大生だぜ!!(笑)
四人ともメッチャ頭いいね。遅れを取り戻すどころか、その先にいってるね(笑)

てか、皆を少しずつ大人に変化させるのは、難いですね。
大学編は、何処まで続くんだだろうか?う~ん、解らん。

明日奈さんと藍子さんには、家の場所は教えといたということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第100話≪リフレッシュとレジャープール≫

ども!!

舞翼です!!

ま、まさかの100話ですね!!
作者吃驚だ\(◎o◎)/

今回の話は甘々だね。いや、激甘かも。
口から砂糖が出そうになったよ(笑)(←作者だけかもしれんが)
書いててブラックコーヒーが必須だったね(笑)
読者の皆さんもブラックコーヒーの用意を(^O^)

今回の話は、大学が始まってから、約四か月位ですね。
さて、後日談第五弾行ってみよー(^_^)/

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


二〇二八年八月。

現在、東京大学は夏休みに突入していた。

リビングの中央に設けられている、テーブルの椅子へ腰を下ろして向い合せに座り、テーブルの上へ置いたノートパソコンのデスクトップに映る文字列を見ながら、キーボードを叩いている桐ケ谷和人と桐ケ谷木綿季の姿がある。

二人は最後のキーを叩き、夏休みの課題を終わらせた。

 

「お、終わった。 夏休みに入って、数週間で課題を終わらせる事が出来たよ」

 

「俺も終わったぞ。 疲れた~~」

 

それから俺と木綿季は、大きな伸びをした。

木綿季の胸が強調されてしまい、俺は目線を外してしまった。

俺は気持ちを落ち着かせ、再び木綿季を正面から見た。

 

「今から、近くのレジャープールに行かないか? 最近は何処にも行ってなかったし」

 

「ナイスアイディアだね! リフレッシュも兼ねて、行こうか」

 

「おう! それじゃあ、準備をするか」

 

「OK♪」

 

課題をパソコンに保存した後、木綿季は弁当を作り始めた。

俺は逸早く寝室へ行き、プールに必要な物の準備をしてから玄関の前で待つことにした。

それから数分後。 準備が終わった木綿季が、寝室から玄関までやって来た。

それにしても、随分時間が掛かったな?

 

「結構時間が掛かったな、どうかしたのか?」

 

そう聞くと、木綿季は頬を朱色に染めた。

 

「……見せたい人が居るんだから、選ぶのにも時間が掛かるよ……」

 

「(甘い声+上目遣いは反則だ……。 俺の理性が吹き飛ぶぞ……。 まぁ、吹き飛んだ事は何回かあるけど)」

 

二人は、この短時間で甘々の空間を作り出していて、木綿季は俺の腕にしがみ付いていた。

もし、周りに人が居たら、その人たちは近くの壁を叩くか、悶々としていたかもしれない。

 

「よし! じゃあ、行こうか」

 

「OK」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

電車を乗り継ぎ、目的地を目指した。

目的地のレジャープールへ到着し、周りを見渡してみると、客の活気で満ちていた。

入り口付近だけで、軽く100人は居る。

 

「凄い数のお客さんだね」

 

「家族連れが多いかもな」

 

入場券を買い、二人は入場口を潜り足を進めた。

眼前には、温水プールや流れるプール、ウォータースライダーなどが見て取れた。

 

「こんなに広いとは……」

 

「広いね~」

 

「ま、取り敢えず着替えるか。 水着に着替えたら此処に集合な」

 

「OK♪」

 

プールの前で別れると、俺はロッカールームへ入り、ロッカーの中に荷物と服を投げ込み、水着へ着替えた。

水着は、無難な黒色のサーフパンツだ。

上に黒いパーカーを羽織って、ロッカーを施錠してから、集合場所へ向かった。

集合場所には、上に水色のパーカーを羽織った木綿季の姿があった。

長い黒髪は、リボンで止めているのではなく、お団子状に纏められていた。

水着は、パーカーを羽織っているのでよく分からないが。

 

「ボクの方が早かったね。って、どうしたの和人?」

 

「いや、その、見たことがない姿だから。 新鮮というか。 可愛いというか。 見入ってしまったというか……。って、俺は何言ってだ」

 

俺は顔を真っ赤に染め上げてしまう。

まぁ、単なる自爆だ。

木綿季はニッコリと笑い、

 

「ありがとう。 和人も似合っているよ」

 

「お、おう」

 

俺は完全に取り乱していた。

俺は右手を差し出し、木綿季も俺の右手を握り返し、歩き出した。

 

「さて、遊ぶか」

 

「遊ぼう」

 

俺と木綿季はパーカーを脱いだ。

木綿季の水着は、黒いビキニ姿だった。

出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。

これは破壊力抜群だ。

 

「和人。 最初にあれやろうよ!」

 

木綿季が指差した先にあったのは、巨大な滑り台だった。

あれは、このレジャープールの目玉、ウォータースライダーだ。

 

「い、いきなりウォータースライダーっすか……」

 

「だめ?」

 

可愛く首を傾げられて、NOと言える男子は居ないだろう。

もちろん俺の答えは、

 

「OKだ。 じゃあ、行くか」

 

「行こ行こ」

 

木綿季は、子供のようにはしゃいでいた。

まぁ、そこも可愛いんだけどな。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ウォータースライダーは、レジャープールの目玉でもあるので、そこそこ列が出来ていた。

列は二列出来ており、一つが一般、もう一つがカップル専用らしい。

当然、カップル専用の列に並んだが。

そうこうしている内に、俺たちの順番が回って来た。

 

「ここから見ると、意外に高いね」

 

「まぁ、大丈夫だろう。 俺も一緒に滑るし。 もちろん、お前を抱き締めてな」

 

準備地点へ座り、俺は木綿季を後ろから抱き締めた。

 

「よし。 行くぞ」

 

「うん」

 

俺は前に少しだけ滑り込んだ。

そして、スタートした。

 

『ざあああぁぁぁあああ』

 

と、水飛沫が舞い。

 

「わあああぁぁぁあああ」

 

「きゃあああぁぁぁあああ」

 

と、俺と木綿季は声を上げていた。

それから数秒後。

二人の身体は滑り台から投げ出さられ 、“どぼん!”、とプールの中へ着水した。

 

「「ぷは!」」

 

俺と木綿季は、プールの中から顔を出した。

少しだけプールの水が鼻に入った……。

 

「……和人。 どさくさに紛れて、ボクの胸を触ったでしょ?」

 

俺は、木綿季の胸を鷲掴みしてしまったのだ。

木綿季の胸はメチャクチャ柔らかく、弾力があった。

 

「……はい」

 

「まぁいいけどさ。 ボクは和人のものだしね♪」

 

「そうだけど……。――じゃあ、俺は木綿季のものだな」

 

「そうだね♪」

 

周りが、顔を赤く染めていた気がするが……。 気のせいだろう。

それからは、流れるプールや温水プールなどへ入り、楽しい時間を過ごした。

因みに、ウォータースライダーには、五回乗りました……。

 

俺と木綿季はプールから上がりパーカーを羽織り、プールから少し離れた所で、体育座りをした。

 

「楽しかったな」

 

「うん、とっても楽しかったよ。 いい思い出をありがとね、和人。 これからも一杯思い出を作ろうね」

 

「そうだな。 これからも、一緒に思い出を作っていこうな……」

 

キスをしようとした所で気付いた。

此処には、多くの人が居る事に。

 

「……あ、あははは」

 

「……こ、此処ではマズイな。――家に帰ったらしようか」

 

「そ、そうしようか。――じゃあ、外の日陰のベンチでお昼にしようか」

 

「おう!」

 

俺は着替える為にロッカルームへ向かい、施錠したロッカーを開け、荷物を取り私服へ着替えた。

荷物を持ってからロッカールームから出て、木綿季の元へ急いだ。

木綿季は集合場所で俺を待っていた。

 

「お待たせ。 行こうか」

 

「うん、行こう」

 

俺と木綿季は腕を組んで、レジャープールを後にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

所変わって、近隣公園の日陰のベンチ。

俺と木綿季はこのベンチに腰を下ろしている。

 

「じゃあ、ご飯にしようか」

 

「おう。 木綿季が作る飯は美味いからな。 何が出てくるか楽しみだ」

 

木綿季は抱えていたトートバッグから弁当箱を取り出し、膝の上に置いてから蓋を開けた。

 

「今日のご飯は、おにぎりだよ。 ごめんね。簡単な物で」

 

野沢葉とジャコのおにぎり、枝豆と干し海老おにぎり、おかかとひじきのおにぎりだ。

簡単な物と言っていたが、俺には手が込んでいるように見えるぞ。

 

「いや、普通のおにぎりより手が込んでいる思うし、見た目も良いし、美味そうだ。 流石俺の奥さんだ」

 

「ありがと、和人。 どうぞ召し上がれ」

 

俺は一つのおにぎりを手に取り、口を大きく開け一口で食べた。

木綿季はそれを見て微笑んだ。

 

「ん? どうひぃたんだ」

 

「ボクはね。 和人が美味しくご飯を食べてくれるだけで、幸せなんだよ」

 

俺はご飯をしっかり噛んで飲み込んでから、言葉を発した。

 

「そ……そうなのか。――俺も何時もこんなに美味い物を食わせて貰って、幸せだって思っているよ。 ありがとな」

 

「ううん、ボクの方こそありがとう。――何か照れくさいね」

 

「まぁ、少しな」

 

木綿季が俺の口許に唇を近づけた。

俺は突然の事で動きを止めてしまった。

 

「ご飯がついてたよ。 ボクが食べちゃったけどね♪」

 

俺は完熟トマトのように顔を赤くした。

 

「(周りに人が居て助かった……。 此処に誰も居なかったら、押し倒していたかもしれん……。 多分、いや、絶対に)」

 

俺たちの身体からは、桃色のオーラを物凄く醸し出していたと思う。

周りの人たちは、壁を叩いていたからな。

俺はおにぎりをもう一つ、木綿季も一つ食べ、軽い談笑をしてから、マンションへ帰宅する事にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「「ただいま~」」

 

俺と木綿季は、マンションに入ってからドアを閉め、玄関で靴を脱ぎ、リビングへ向かった。

リビングの中央に設けられているテーブルの椅子に、向い合せになるように腰を下ろした。

木綿季が口を開いた。

 

「和人」

 

「そうだな」

 

俺と木綿季は顔を近づけ、優しく触れ合うキスをした。

俺は椅子を引いて立ち上がり、自分の部屋へ向かった。

まぁ、木綿季と共有している部屋なので、自分の部屋とは言わないが。

俺はテーブルの引き出しから目的の物を取り出して、再びリビングへ戻った。

それから木綿季の隣まで歩き、手を開いてとジェスチャーし、木綿季が開いた手の中にある物を渡した。

 

「……これは?」

 

「それは合鍵だよ。 今まで俺しか持っていなかっただろ。 一緒に住んで居るんだから、木綿季が鍵を持ってないのは変だと思ってな。 鍵屋にこれと同じのをもう一つ作ってくれって、頼んどいたんだ。 で、昨日出来上がったって連絡を受けたから、今日、木綿季が朝食を作っている時に家からこっそり抜け出して、鍵を取りに行ったんだ」

 

「ありがとう、和人」

 

木綿季は、俺に抱き付いてきた。

俺は笑みを浮かべながら、木綿季の頭を優しく撫でてあげた。

数秒後、木綿季は俺から離れ、俺を見上げた。

 

「大事にするね。――和人。 愛してるよ」

 

「ああ、俺も愛してるよ。 木綿季」

 

俺は木綿季と同じ目線になり、長いキスをした。

俺たちの思い出が、今日もう一つ増えた。




木綿季ちゃん絶対可愛いですね!!
和人くんリア充やね(笑)

周りの人たちは、爆発しろと思っているのかな……。
さて、今回は東大の夏休みでしたね。
てか、夏休みネタ多いね(^◇^)

“背中のあれ”は次回の夏休みで(笑)
そうそう。二人の関係は、“まだ”ばれてませんよヽ(^o^)丿
次回は、大学ネタを考えています(^O^)/

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第101話≪親友と居酒屋≫

ども!!

サブタイトルのネタ切れを起こしそうな舞翼です!!

え~、投稿が遅れてすいませんm(__)m
ネタが全く思い付かなくて……。(スランプって奴なのか?)
だから、今回の投稿は何時もより不安……、超不安だ……。
でも、頑張って書きました!!

今回の話は糖分低めですね。
前回は激甘だったので。

さて、後日談第六弾行ってみようー(^_^)/
今回の話は、あれから二か月後やね。

誤字脱字があったらごめんよ
それではどうぞ。



二〇二八年十月

俺と木綿季と明日奈と藍子は、統計学の講義を受ける為、大ホールの入り口までやって来ていた。

統計学の授業は全学科共通の授業なので、四人一緒に受けられるのだ。

 

「さて、何処に座ろうか?」

 

「何時もの場所でいいと思うよ」

 

俺の問いに応じたのは、明日奈だった。

何時もの場所というのは、四人が最初に座った、中央の長テーブルの椅子の事を指している。

その席は、いつの間にか俺たち専用になっているらしい。

 

「ボクは和人の隣だからね」

 

「はいはい、解ってますよ。 木綿季」

 

「んじゃ、行くか」

 

そう言ってから、俺は大ホールの扉を押し開けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

大ホールの中には、かなりの生徒が集まって居た。

ホールに入った途端、周りの眼が四人に集中した。

『姫と王子が来たぜ』、『ホントだー。 やっぱり絵になるわー』、とか声が聞こえてきた。

俺は工学部の王子様と周りから言われているらしい。

うん、マジで止めてほしい……。 恥ずかしすぎる。

で、木綿季と明日奈と藍子は、それぞれの学科で姫と呼ばれているらしい。

三人も俺と同じ感想だ。

 

「最初よりは耐性が付いたけど……」

 

「恥ずかしいよね……」

 

「同じく」

 

「私もです」

 

上から順に、俺、木綿季、明日奈、藍子だ。

俺たちは注目される中、中央の長テーブルの椅子に着席した。

数分後。 統計学の教授が入って来た。

 

「これから講義を始めます。 それではテキストの105ページを開いてください。 今日の講義は……」

 

それから統計学の授業が開始した。

俺たちはテキストを開き、ペンを動かし始めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「……づ、疲れた~~」

 

「……ボ、ボクも疲れた~~」

 

「二人共お疲れさま」

 

「統計学は、共通講義の中でも一番難しいですからね。 放課後になりましたが、カフェテリアの二階に行きませんか?」

 

俺に続いて、木綿季、明日奈、藍子だ。

カフェテリア二階の窓際席も、四人専用の席らしいのだ。

これは、全学年のお許しが出ているらしい。

なんでかって? それは、俺たちも解らないんだ。

気付いたらそうなっていた。 大ホールの席もそうなんだが。

 

「んじゃ、行きますか」

 

四人は、教材をバックの中に仕舞ってから立ち上がり、カフェテリアへ足を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

所変わって、カフェテリア二階の窓際の席。

四人は、この席でお茶をしている。

藍子が口を開いた。

 

「放課後になっても、生徒は居ますね」

 

「確かにな」

 

周りを見渡して見ると、少数の生徒が談笑しながら、お茶をしていた。

ミルクティーを一口飲んだ明日奈が、俺と木綿季に聞いてきた。

 

「和人君と木綿季ちゃんは、夏休みにどこか行ったの?」

 

「ああ、この近くのレジャ―プールに行ったぞ」

 

「ウォータースライダー。 楽しかったな~」

 

「今度の夏休みに、私も行こうかな」

 

「私もお供しますよ。 明日奈さん」

 

「ナンパには気を付けろよ。 明日奈と藍子はモデル並みに可愛いんだからな」

 

この言葉を聞いた木綿季が、俺の袖をくいくいと引っ張り「ボクは」と首を傾げて聞いてきたので、俺は「世界一可愛い」と答えた。 木綿季はそれを聞いて、顔を赤くしていたが。

マンションの中だったら、完璧に抱き付いていたな。 良く耐えた、俺の理性。

 

それから俺たちは、夏休みで経験したことを話した。

明日奈と藍子は、ネズミの国へ行ったらしい。

今度、二人きりで行こうかな?

俺はふと思ったことを口にした。

 

「そういえば、俺と木綿季って結婚式を挙げていないよな?」

 

「確かにそうだね。 籍は入れてるけど。――ウエディングドレス着てみたいな~」

 

「大学を卒業するまでには、結婚式を挙げたいな。 と言うとこは、冬休みか?」

 

「何処で挙げるかも決めないとね♪」

 

「和人さん、木綿季。 声が大きいですよ」

 

「二人の関係がばれちゃうよ」

 

藍子と明日奈から指摘を受け、俺は周りを見渡した。

二階に生徒は見当たらなかったので、大丈夫な……はずだ。

まぁ、ばれたらばれたでしょうがないけど。

俺はポンと手を叩き、

 

「よし! これから飲みに行くか」

 

「和人の奢りでね♪」

 

「……マジですか」

 

「だめ」

 

う、そこで可愛く首を傾げるのは反則ですよ。 木綿季さん。

俺は大きな溜息を吐き、

 

「はぁ、解った解った」

 

これを聞いた明日奈と藍子は、ガッツポーズをしていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

某居酒屋。

居酒屋の扉の前に、四人はやって来ていた。

 

「じゃあ、行くか」

 

俺は扉をスライドさせ、店内に足を踏み入れた。

後ろ三人も俺に続く。

 

「いらっしゃい。 おっ、東大四人組みじゃねぇか」

 

今挨拶をした人物は、ここの居酒屋の店長。 青木蓮さんだ。

俺と木綿季と明日奈と藍子は顔見知りでもある。

 

「蓮さん。 何時もの席空いてるかな?」

 

木綿季が聞いた何時もの席とは、居酒屋の奥にある約五人が入れる座敷部屋のことだ。

 

「空いてるぞ」

 

それから、四人は奥の座敷に足を進めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

座敷に到着し、長方形のテーブルに俺と明日奈、木綿季と藍子が向かい合うように座った。

 

「取り敢えず、何か頼むか」

 

「じゃあ、いつもの奴で」

 

「私もそれで」

 

「私もそれで大丈夫です」

 

俺に続いて、木綿季、明日奈、藍子だ。

俺は定員を呼び止め、注文品を頼んだ。

 

「ビール一つとカシスオレンジ三つ。お願いします」

 

「かしこまりました」

 

定員は注文品のメモを取ってから、退席した。

俺が木綿季に言った。

 

「お前はそんなに飲むなよ。 酒弱いんだから」

 

「解ってるよ♪」

 

木綿季はチューハイ二缶で完全に酔ってしまう。

因みに、俺と明日奈と藍子は酒に強い。

 

「そういえば、和人君と木綿季ちゃんと藍子さんは、ALO統一デュエルトーナメントへ出るの?」

 

「私は出ようと思ってますよ」

 

「俺も出るかな」

 

「和人が出るなら、ボクも出る」

 

ALO統一デュエルトーナメントは、今回で二回目になる。

一回目は、引越しの準備や木綿季とこれからの事を話し合う為、参加が出来なかったのだ。

明日奈と藍子も、大学生活の準備でバタバタしていて出ていないが。

 

「木綿季。 このトーナメントでどっちが強いか、決めるか」

 

「OKだよ。 和人はボクに当たるまで負けないでね」

 

俺と木綿季の勝敗は、一勝一敗だ。

これはデュエル勝負の結果だ。

 

「それまでは負けないさ。 でも、木綿季に勝つ自信があんまないんだよ」

 

「何で」

 

木綿季は首を傾げた。

 

「俺の片手剣OSS《メテオ・レイン》計十一連撃を、《マザーズ・ロザリオ》で全て防いだろ。 で、負けたからだ」

 

俺のOSS技後の硬直時間は、木綿季のOSSより長い。

それがばれていたらしく、硬直後を狙われて負けた。

 

「でも、一回目はそのOSSが防げなくて、ボクが負けたよ」

 

「八連撃目までは防いでいたくせに……」

 

「ば、ばれたての……。でも、和人が二刀流を使えば、ボクはすぐにやられちゃうよ」

 

「二刀流は、対人戦では使わないな。 二刀流を使うのはボス戦だけだな」

 

二刀流を対人戦で使ったら、最早チートだ。

俺は二刀流の剣技をOSSという形で、全て再現に成功しているのだ。

明日奈がパンパンと手を叩いた。

 

「さ、飲もうか」

 

四人はグラスをかちんと合わせ、呷った。

 

「うん、旨い」

 

「ここのお酒は美味しいよね」

 

「うんうん、コンビニのお酒より美味しいね」

 

「ふふ、そうですね」

 

明日は休日なので、俺と明日奈と藍子は結構飲んだ。

木綿季は、二杯目からは烏龍茶に切り替えていたが。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

「あ、もうこんな時間だよ」

 

と、明日奈が言ったので、俺は腕時計を見た。

確認すると、約三時間は話し込んでいた。

 

「じゃあ、そろそろお開きにしようか」

 

俺は皆の了解を得てから、会計を済ませ、外へ出た。

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

「そういえば、明日奈と藍子って一緒に暮らしているんだろ」

 

俺の問いに答えてくれたのは、明日奈だった。

 

「そうだよー。 一緒に暮らし始めたのは、約二か月前くらいかな」

 

「約二か月前と言う事は、夏休みの前半くらいか?」

 

「たぶん、それくらいですね」

 

何処にあるマンションか藍子に聞いてみたら、俺と木綿季のマンションと約五分位の距離に在るらしい。

木綿季が、「そうだ!」と言い、

 

「じゃあ、今度遊びにいくね。 和人もだけど」

 

「いや、俺はいいよ。 三人で話す事とかもあるだろ。 ガールズトークって奴だな。――じゃあ、帰るか」

 

四人は横一列になり、話ながら帰路に着いた。

それから数分後。 俺と木綿季が住むマンションに到着した。

 

「じゃあ、俺と木綿季はここで」

 

「明日奈、姉ちゃん。 また明日」

 

明日奈と藍子は「また明日」と手を振り、帰宅する為歩き出した。

 

「俺たちも部屋に行くか」

 

「だね」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺はマンションの扉を開き、木綿季と一緒に玄関に入った。

玄関で靴を脱ぎ部屋に入った木綿季は、リビングのあるソファーにダイブした。

 

「このソファー、柔らかくて気持ちいいよ~」

 

木綿季は、ソファーにスリスリしていた。

俺はソファーの空いている場所へ座った。

 

「ここで寝るなよ。 風邪引いちゃうかもしれないし。 ほら。 お風呂に入ってきなさい」

 

「和人。 ボクのお母さんみたいだね」

 

「お母さんじゃないぞ。 旦那さんだ」

 

我ながら、恥ずかしいセリフだな……。

木綿季は、ソファーから上体を起こした。

 

「じゃあ、一緒にお風呂に入ろうよ」

 

「え、まぁ、いいぞ」

 

少し言葉に詰まってしまった。

俺と木綿季は、数え切れないほど一緒に入っている。

 

「寝室に着替えを取りに行くか」

 

「おー」

 

そう言ってから俺と木綿季は立ち上がり、寝室へ向かった。




やばい、マンネリ化してるかも(汗)!!
大丈夫なはずだ(多分……)
書いててそう思ってしまった。

てか、和人くん。片手剣のOSS(計十一連撃)を作っていたのね(笑)
そして、木綿季ちゃん。それの八連撃防ぐとか凄くね!!
まぁ、和人くんも八連撃なら防ぐことは出来ますよ。それ以降は解りませんが。
あ、二刀流を使ったら、無双ですね(笑)
でも、木綿季ちゃんだったら、結構いけるかもですね。
最後に、これはハーレムじゃないよ。明日奈さんと藍子さんは、和人君の親友だよ(←ここ重要)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第102話≪純白の花嫁≫

ども!!

舞翼です!!

すいません。更新遅れました。
暑さにやられましたね……。皆さん熱中症には気をつけて(>_<)
まぁ、リアルでごたごたしてたのもあるんですが。

あと、ネタが無くなってきたぜ(汗)
大学生活が後三年あるって事は、10~12話ってことやね。
ヤバいぜ……。でも頑張って10~12話書くぜ。
大人になってからも書くよ。
今回の投稿も不安だ。

前置きはこれくらいにして。
今回の話は、あれから四ヶ月後やね。
話は微甘やね。
それでは、後日談第七弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があってたらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇二九年二月

現在東京大学も冬休みに入り、冬休みの課題を終わらせた俺と木綿季は、リビング中央に設置されているソファーへ腰を下ろしていた。

 

「木綿季が隣に居るだけで落ち着くわ」

 

「ボクも同じだよ。 ボクも和人が隣に居るだけで落ち着くんだ」

 

それから数分間。 無言のまま時が経過していった。

その時、テーブルの上に置いてあった、俺のスマホから着信音が流れた。

俺は手を伸ばしスマホを手に取ってから、液晶画面に表示された名前を確認した。

 

「父さんからだ」

 

そう。 電話の主は父の峰高だったのだ。

俺は通話ボタンをタップし、電話に出た。

 

「もしもし、どうしたんだ」

 

『和人か。 えーとだな。 和人と木綿季の結婚式を教会で挙げたいと考えているんだ。 何処の教会で挙げるか、パンフレッドも取り寄せてるんだ』

 

「え、まじで」

 

『マジだ。 金のことなら気にするな。 桐ケ谷家と紺野家の奢りだ。 どうだ?』

 

俺は隣に座っている木綿季を見た。

スピーカー越しに聞いていた木綿季は、満面の笑みで頷いてくれた。

俺も頷き、

 

「お言葉に甘えさせて貰うよ。 パンフッドは俺と木綿季で見に行くわ」

 

『居間にパンフレッド置いとくな』

 

「了解」

 

と返事し、通話を切った。

俺はスマホをテーブルの上へ置いた。

 

「父さんノリノリだったな。 パンフレッドも取り寄せてるし」

 

「こんなに早く結婚式が挙げられるなんてね。 ボク驚きだよ」

 

「まぁ確かにな。 結婚式の話をしたのが去年の十月だったからな」

 

「……ボクたち、凄く愛されてるね」

 

「だな。 俺たちは、それに見合った恩返しをしないとな」

 

「うん。 和人、ボクの手を握って」

 

木綿季は頬を少し朱色に染めた。

俺は右手を木綿季の左手の上へ重ね、指を絡ませた。

 

「場所はどんな所がいい?」

 

「えっと、湖が見える場所があればいいな~」

 

「よし! じゃあ、明日確認してみるか」

 

「OK♪」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

翌日。

俺と木綿季は、埼玉県川越市にある実家にやって来ていた。

俺は右手人差し指を突出し、インターホンを押した。

“ピーンポーン”、と聞き慣れたチャイムの音が鳴り、リビングから一人の人物がスリッパをパタパタと鳴らしながら、『はーい。 どちら様でしょうか?』、と言い玄関の扉に手を掛け、引き開けた。

玄関から顔を出した人物は妹の直葉だった。

 

「お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 久しぶり~」

 

「おう、久しぶりだな。 スグ」

 

「久しぶり、スグちゃん」

 

俺と木綿季は、直葉に促されて玄関に入ってから靴を脱ぎ、居間へ移動した。

居間に用意されていた座布団に正座して座り、俺はテーブルの上に置いてあるパンフレッドを手に取り、パラパラとパンフレッドを捲っていたら、眼に留まる教会を発見した。

 

「おお~、此処いいかもな」

 

俺は写真に写っている教会を木綿季に見せた。

 

「湖が見える教会……。 此処がいいかも♪」

 

湖が見える教会は、東京から少し離れた千葉寄りに点在していた。

結婚式を挙げる場所はこの教会で決まりだ。

 

「あ、ウエディングドレスのパンフレッドも置いてあるよ。 お義父さんが気を効かせてくれたのかな」

 

そう言ってから木綿季は、テーブルの上に置いてあったパンフレッドを取り、パラパラと捲り始めた。

 

「これがいいかも」

 

木綿季が指差したウエディングドレスは、肩紐がなく、体型を選ばず着ることが出来、背中を美しく見せるベアトップのウエディングドレスだった。

 

「それで、肩にケープを、頭にウエディングヴェールをかける感じかな」

 

「良いんじゃないか。 うん、良いと思うぞ。 じゃあ、日時は二週間後で。 時間は14時頃がいいな」

 

俺の向かいに座っていた直葉が、口を開いた。

 

「私、カメラでばっちり撮るから期待しててね」

 

「おう、頼んだ」

 

「お願いね。 スグちゃん」

 

俺と木綿季の言葉を聞いた直葉は右手で拳を作り、『まっかせなさい』と言い、自分の胸をトンを叩いた。

木綿季が口を開いた。

 

「決まった事を、両親に伝えようか?」

 

「そうだな。 俺は桐ケ谷家の両親に、木綿季は紺野家の両親に電話しようか」

 

「OK」

 

俺と木綿季はスマホをポケットから取り出し、両親に電話をし、日時と時間を伝えた。

桐ケ谷家と紺野家のOKが出たので、日時は二週間後、時間は14時頃、湖が見える教会で結婚式を挙げることになった。

俺と木綿季は、スマホをポケットに仕舞った。

 

「呼ぶメンバーは、明日奈、藍子、里香、珪子、詩乃、直葉、遼太郎(クライン)、エギルかな」

 

「みんな来てくれたら嬉しいね」

 

「だな。――よし! 色々決まった事だし。 帰るか」

 

「了解♪」

 

すると、直葉がにやにや笑いながら、

 

「お兄ちゃんと木綿季ちゃんのマンションは、愛の巣になっているのかな?」

 

俺と木綿季の顔が完熟トマトのように真っ赤に染まったが、自分を立て直してから口を開いた。

 

「まぁ、うん、スグの言う通りだな」

 

「そうだね」

 

俺と木綿季の言葉に、今度は直葉が顔を赤く染めた。

何を考えたかは想像がつくが。

俺と木綿季は立ち上がり、玄関へ向かい、玄関で靴を履いてから扉を引き開けた。

 

「じゃあ、二週間後」

 

「またね。 スグちゃん」

 

玄関まで送りに来ていた直葉が、言った。

 

「うん、またね。 お兄ちゃん、木綿季ちゃん。 楽しみにしてるね」

 

俺と木綿季は手を上げてから玄関を出て、扉を閉めてから、腕を組んでマンションへ歩き出した。

まぁ、木綿季が俺の腕に抱き付いてきたんだが。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦

 

二週間後。

湖付近の教会。

 

「か、和人君。 に、似合ってるよ。」

 

「……そんなに笑わなくてもいいだろ。 明日奈」

 

一室の《新郎控室》に椅子に座る俺を見て、口許に手を当てて笑った人物は、俺の前に立つ親友明日奈だった。

彼女の服装は、赤いドレスを身に纏い、肩にはストールを羽織っている。

 

「やっぱり、キリの字は黒色しか似合わねェな」

 

そう口にしたのは、明日奈の隣に立つ腐れ縁の男、遼太郎だ。

遼太郎もきっちりとした黒色のスーツを身に纏っている。

そして俺は、白色のタキシード姿だ。

 

「しっかし、レンタルは便利だな。 二人はレンタルか?」

 

「いや、オレは会社に通う時のスーツだ」

 

「私は成人式の時に着たドレスだよ。 振袖もあるけどね。 木綿季ちゃんと藍子さんも持っていると思うけど」

 

その時だった。

“コンコン”と控え室のドアをノックする音が聞こえてきた。

『こちらの準備が整いました。 そちらはどうでしょうか?』、と言った人物は、結婚式をサポートするスタッフだ。

俺は返事を返した。

 

「はい、出来ました」

 

「それでは式場に入場をお願いします」

 

スタッフの人がそう言うと、扉から離れて行く音が聞こえてきた。

 

「キリの字も大人になりやがッたな。 前のキリの字ならガチガチに緊張してたのになァ」

 

いや、めっちゃ緊張してますよ。

単にポーカーフェイスのスキルが上がっただけでね……。

明日奈の顔を見たら、クスクスと笑っていた。

 

「和人君。 そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。 リラックスリラックス」

 

「流石親友の明日奈だな。 やっぱりばれてたか」

 

「ばれるに決まっているでしょ。 ほぼ毎日顔を合わせているんだから」

 

俺は大きく息を吐いた。

 

「さて、行こうか」

 

俺がそう言うと遼太郎と明日奈は、列席する為に先に式場へ向かい、俺は二人の姿が見えなくなった所で式場へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

所変わって《新婦控室》。

ここでは木綿季が純白のウエディングドレスを身を纏っていた。

 

「う~ん、どうかな。 姉ちゃん、スグちゃん」

 

「木綿季。 とても似合っているわよ。 流石私の妹ね」

 

「木綿季ちゃん、可愛いよ。 お兄ちゃんが羨ましいな」

 

藍子と直葉の言う通りだった。

木綿季は、純白のウエディングドレスに負けない位美しい。

藍子はブルーのドレスを、直葉はグリーン色のドレスを身に纏い、肩にはストールを羽織っている。

 

「あとは、肩にケープを、頭にウエディングベールをかければOKだね」

 

そう言ってから木綿季は、肩にケープを、頭にウエディングベールをかけた。

 

「私もとうとう叔母さんになっちゃうよ」

 

「直葉さん。 私も伯母さんになりますよ」

 

「二人がおばさんになるのは、ボクと和人に子供が出来てからなんだけど」

 

不意に“コンコン”と新婦控室がノックされた。

『新郎さまの準備が整いました。 新婦さまも準備をお願いします。』

 

「わかりましたー」

 

と、木綿季が返事を返した。

 

「じゃあ、私は先に行ってますね」

 

直葉はそう言い列席する為、新婦控室を出て式場へ向かった。

木綿季と藍子も少しの間を置いてから、新婦控室を出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

教会の中央には紅い絨毯でバージンロードが伸び、その両端に列席に、紺野家、桐ケ谷家、直葉、明日奈、詩乃、里香、珪子、遼太郎、エギルが並んでいた。

俺は花嫁の木綿季を待っているのだが、緊張のせいで頭がパンクしそうだ。

結婚式定番の音楽が流れると、閉じられた正面の扉が開かれ、新婦の木綿季が姿を現し、ゆっくりとブルーのドレスを身に纏った藍子と腕を組んでこちらへ歩いてくる。

――木綿季の姿と一目見た感想は、純白の天使だった。

言い過ぎかもしれないが、俺が最初に見た時の感想なのだからしかたがない。

壇上の前で、木綿季の腕を組み解いた藍子が、「頑張って下さいね」と言葉を掛けてから列席へ戻った。

木綿季は、一歩踏み出し壇上へ上がった。

 

「どうかな、和人」

 

「いや、うん。 マジで似合ってる。 メチャクチャ可愛いぞ」

 

木綿季はウエディングベールの奥で微笑んだ。

 

「和人も似合っているよ。 和人が白色を着ると新鮮だね」

 

「ん、そうかな。 俺としては黒色がいいな。 やっぱり」

 

木綿季といつも通りの会話をしていたら、いつの間にか緊張が解れていた。

牧師さんが、「んんっ」と咳払いをした所で俺と木綿季は、「ハッ!」とした。

それから、俺と木綿季は気持ちを切り替えた。

 

「汝和人は、この女木綿季を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「……誓います」

 

「汝木綿季、この男和人を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「……はい。誓います」

 

「では、指輪の交換を」

 

「木綿季。 左手を」

 

俺はそう言って、木綿季の左手薬指に新しい指輪を嵌めた。

 

「和人も」

 

木綿季はそう言って、俺の左手薬指に新しい指輪を嵌めた。

 

「では、誓いのキスを」

 

「「――(えッ!?)」」

 

いや、映画やドラマではあったけど、まさか現実でもあるとは。

俺と木綿季は、顔を真っ赤にしていた。

 

「(……木綿季さん。 どうしようか?)」

 

「(……え、うん。 覚悟を決めようか)」

 

「(……ふぅ、了解した)」

 

俺は木綿季の顔を覆うウエディングベールをそっと持ち上げてから、木綿季の頭の後ろへ流し、肩にそっと手を添えた。

 

「木綿季。 幸せにするな」

 

「うん、よろしくね」

 

木綿季はそっと瞳を閉じた。

俺はゆっくり顔を近づけて、愛を誓った。

ゆっくりと離れると、木綿季は微笑んでくれた。

 

「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。 神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事あたわず」

 

その後教会の外へ出ると列席した皆から祝福を受け、列席した女性陣が並ぶ前で、木綿季がブーケトスを行った。

高々と舞ったブーケは、木綿季の姉。 藍子の手の中に吸い込まれるよう納まった。

それから全員の集合写真と、俺と木綿季のツーショット写真を撮り、結婚式の幕が閉じた。




今回の話は和人君と木綿季ちゃんの結婚式やね。
やっぱり沢山の人を動かすのは難い。

てか、結婚式の進め方なんてさっぱりだったよ。
これも婚姻届と同じ、ほぼ勘だぜ。(調べて書いたけど……)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第103話≪進級祝いと飲み会≫

ども!!

舞翼です!!

更新が遅くなってすいませんm(__)m
でも頑張って書いたで(^O^)
今回の話は、激甘?かな(笑)
最近、甘い話が多いよね。

今回の話は、あれから二カ月後やね。
さて、後日談第八弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇二九年四月

東大生の俺、木綿季、明日奈、藍子は無事必修科目と自由科目の必要単位を習得したので、東大二年生として、無事春を迎える事が出来た。

そして今日、進級祝いも兼ねて桐ケ谷家で飲み会が行われるのだ。

 

「「「「こんばんはー」」」」

 

今挨拶をしたのは、東大四人組みだ。

四人は玄関で靴を脱ぎ、居間へ移動し、居間へ設けられた長方形のテーブル片側に東大生四人と直葉が、もう片側に、紺野家、桐ケ谷家両親が座った。

テーブルの上には数々の料理が並べられ、俺の眼前にはビールジョッキが、明日奈と木綿季と藍子と直葉の眼前には、ピンク色のカクテルが注がれてたグラスが置かれている。

 

「さて、今夜は皆で飲もうか」

 

そう言ったのは、峰高だ。

今日は峰高に声を掛けられて、此処に居る皆が集まったのだ。

峰高が言葉を続ける。

 

「全員が二十歳になって、酒が飲めるようになったんだ。 オレは此処に居るメンバーと酒を飲むことが夢だったんだ」

 

すると、明日奈がおずおずと手を上げた。

 

「な、なんで私が居るんでしょうか……?」

 

「それは、明日奈さんは和人たちの親友に決まっているじゃない。 ここに居るのは当然のことよ」

 

そう言ったのは、俺の母親の翠だった。

それを聞いた紺野家両親と、峰高は頷いていた。

 

「さぁ、お料理を食べましょうか」

 

「オレが音頭を取らせて貰いますね」

 

雄介が片手でグラスを掲げ、全員がそれに倣う。

 

「それじゃあ、皆の二十歳を祝ってカンパーイ」

 

「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」

 

全員が酒を一口飲み、談笑しながら食事タイムへ突入した。

三十分位経った時に、隣に座る明日奈が俺の肩を軽く突いた。

俺が振り向くと、明日奈は小さな声で言った。

 

「そういえば、木綿季ちゃんってお酒弱かったよね。 直葉ちゃんはわからないけど」

 

明日奈にそう言われて、隣に座る木綿季を見た。

木綿季はカクテル二杯目に突入しようとしていた。

俺は右手で額を押えた。

 

「木綿季の奴、ほろ酔いだな……」

 

木綿季は酔うと口が軽くなり、今まで以上に甘えてくるのだ。

マンションの中で良いが、此処には両親と直葉も居るのだ。

明日奈と藍子は、この状態の木綿季を見ているから大丈夫なんだが……。

木綿季は、俺の袖をくいくいと引っ張った。

 

「ねぇねぇ、和人」

 

「お、おう、どうした」

 

「えへへ~、呼んだだけ」

 

「そ、そうか」

 

これを見た春香が、にやにや笑いながら木綿季に聞いた。

嫌な予感がする……。

 

「木綿季。 新婚生活は楽しい?」

 

「楽しいよ~。 和人はいつもボクに優しくしてくれるんだ。 ボクの自慢の旦那さんだよ。 でもねでもね、ボクは心配なんだよ。 和人が大学の女の子にフラグ建てているかもしれないから。 前見ちゃったんだよね。 女の子と歩いている所をさ」

 

全員の視線が俺に集まった。

俺は身の危険を感じ、少し身構えてしまった。

それから俺は、木綿季の方向に顔を向けた。

 

「ま、待て待て待て。 あれは前に説明したぞ。 実験チームメンバーなんだって。 ほら、フラグ建てるとかそういうのは無いって。 うん、絶対」

 

俺の答えを聞いた木綿季は、ムスッと不機嫌そうな表情に変わった。

え、俺間違った答えを返したの……。

 

「ホントかな~。 あやしいな~」

 

「マジで何もないぞ。 お願い、信じて!」

 

木綿季は悪戯っ子の笑みを零した。

それを見て、俺は冷や汗をかいた。

 

「じゃあ、ボクのお願い聞いてくれる。 あ、そういえばボク、和人が何でもしてくれる約束二つ、まだ使っていなかったんだよね」

 

「お、おう。 そ、そういえばそうだな。 出来る範囲でお願いを聞く約束をしたな」

 

「じゃあ、ボクのことを抱き寄せて♪」

 

……え、マジで。 此処には、皆が勢揃いしているんだぞ……。

メチャクチャ恥ずかしいんですけど。

俺は大きく息を吐き、覚悟を決めた。

 

「ほら、木綿季」

 

木綿季の右肩に右手を優しく乗せ、俺の方へ抱き寄せた。

これを見ていた直葉は顔を真っ赤に染め、両家の両親はうんうんと頷いていた。

 

「和人。――大好きだよ」

 

「ああ、俺もだよ」

 

翠が両手を顔へ向けてパタパタしていた。

 

「いやー、熱いわね。 和人と木綿季ちゃんはこんなにもラブラブなのね」

 

「いやはや、ここまでとはな。 孫の顔は早く見られるかもな。 でも、二人にはユイちゃんが居るんだったな」

 

「確か、和人君と木綿季の子供でしたよね」

 

「和人君と木綿季は、お父さん、お母さんだな」

 

峰高に続いて、春香、雄介だ。

これを聞いた木綿季が、携帯端末をポケットから取り出した。

何であるんだ?と疑問に思っていたら、ここに来る前に木綿季が、「ユイちゃんも一緒」、と言い、家族の飲み会に連れて来たんだったな。

 

「ユイちゃん。 聞こえる」

 

すると携帯端末から凛とした声が聞こえてきた。

 

『聞こえますよ、ママ。 皆さんこんばんわです!』

 

「初めましてだね、ユイちゃん。 木綿季の母親、紺野春香です」

 

「オレは木綿季の父親、紺野雄介だ」

 

「初めましてだな、和人の父親の桐ケ谷峰高だ」

 

「私は和人の母親、桐ケ谷翠よ」

 

ユイは元気良く、俺たちの両親に挨拶をした。

 

『はじめまして、ユイです。 よろしくです!』

 

ここからは見えないが、ユイは礼儀正しくぺこりと頭を下げている。

流石自慢の愛娘だ。

 

「ユイちゃんは、ボクと和人の自慢の子供なんだよ。 ユイちゃんの為に早く子供を作らないと」

 

「早くないか。 まだ俺たちは学生だぞ。 大学を卒業してからでも遅くないと思うが、卒業までは我慢しよう。 うん、そうしよう」

 

「でもでも、愛はちょうだいね」

 

「おう、任せろ」

 

俺と木綿季は、もう二人の世界に入ってしまっていた。

こうなってしまったら、周りの事など気にならなくなってしまうのだ。

明日奈と藍子は、「またか」と言ってから溜息を吐き、両家の両親は再度頷き、直葉は先程より顔を真っ赤に染めていた。

すると、愛娘のユイが爆弾を投下した。

 

『パパとママは、いつも一緒にお風呂に入っているんですよね』

 

「ゆ、ユイちゃん」

 

ユイはしゅんとした声漏らした。

俺はすかさずフォローにまわる。

 

「いや、ユイは事実を言っただけだ。 俺と木綿季はいつも一緒に入っているからな。 うん、水の節約だ」

 

「そ、そうだったね」

 

どうやら、木綿季は酔いが醒めてきたようだった。

てか、俺と木綿季の日常が筒抜けになっていないか……?

まぁ、自爆した所も多々あるが……。

俺は再び顔を前に向けた。

 

「そういえば、和人君と木綿季ちゃんの関係を隠すのはそろそろ限界かもね」

 

「ばれてもいいと思っているぞ。 俺と木綿季は結婚しているのは事実だしな。 でもまぁ、一年隠せたのは、持ったほうじゃないか」

 

「そうだね。 学生結婚してるのって、ボクと和人だけなのかな?」

 

この問いには藍子が答えた。

 

「ええ、和人さんと木綿季だけだと思いますよ。 それに、学生結婚は今では珍しいですからね」

 

「私も良い人見付けないとな~」

 

直葉がそう言うと、峰高が腕を組んだ。

 

「直葉は、オレが認めた相手じゃないと嫁にはやらんぞ」

 

それを聞いて、雄介も腕を組んだ。

 

「ええ、そうですね。 藍子、彼氏が出来たら紹介しろよ。 オレが認めないと嫁には出さないからな」

 

それを聞いていた皆の心の声が重なった。

 

「「「「「「『(お、親バカ(だ)(です)!!)』」」」」」」

 

「そういえば、明日奈の家はどうなんだ?」

 

俺がそう言うと、明日奈はげんなりとした。

え、何で?

 

「父さんが凄くてね。 『オレが認めた相手じゃないと、明日奈は嫁にやらん』って。 私、恋愛できるのかな……」

 

明日奈は、大きく息を吐いた。

 

「明日奈さん。 お互い頑張りましょうね」

 

「私も頑張ります」

 

そう言ったのは、藍子と直葉だった。

こちらも、大きく息を吐いていた。

三人共、前途多難だな。

それからは、ユイも含めて談笑しながら飲み会が続いた。

俺の肩に頭を乗せていた木綿季が、眼をしょぼしょぼさせていた。

 

「木綿季。 大丈夫か?」

 

『ママ。 大丈夫ですか?』

 

「……う、うん。……だ、大丈夫……だよ」

 

翠が「そうだわ」、と言い手を打った。

 

「今日は四人共泊まっていきなさい」

 

「え、でも私、着替えがないですよ」

 

「明日奈さんの着替えは藍子のを使っていいわよ。 家がお隣だし、私が取ってくるわ」

 

そう言ってから、春香は居間から出て玄関に向かい、靴を履いてから玄関の扉を開け、自宅へ向かった。

峰高が膝をポンと叩いた。

 

「今日はここでお開きにするか。 直葉は藍子と明日奈さんを部屋へ案内して、和人も木綿季を連れて部屋へ行きなさい。 ユイも遅いからそろそろ戻りなさい」

 

「片付けは私たちでやっておくわ」

 

俺、明日奈、藍子、直葉は立ち上がり、力の入っていない木綿季は、俺が抱きかかえた。

 

『パパ、ママ、みなさん。 おやすみなさいです』

 

ユイはそう言ってから、《森の家》ログハウスへ戻った。

 

「じゃあ、私たちもお先に。 明日奈さん、藍子さん。 こっちです」

 

「ええ、行きましょうか。 明日奈さん」

 

「そうですね」

 

直葉の先導の元、三人は一階にある客間へ向かった。

 

「じゃあ、俺もお先に」

 

俺も階段を上がり、二階へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

木綿季をベッドの上へ寝かせると、俺は傍らに腰を掛けた。

 

「なんだか、凄く疲れた気がするな。 まぁ、楽しかったけど」

 

俺が一人で呟いていたら、横になった木綿季が俺の袖をギュと掴んできた。

俺は木綿季に眼を向けた。

 

「どうしたんだ? 気分が悪いなら水を持ってくるぞ」

 

「ううん、大丈夫だよ。 今、こうしてたいだけ」

 

「そうか。 膝枕してあげるから、もっとこっちへおいで」

 

木綿季は俺にすり寄って、膝の上へ後頭部を乗せた。

 

「いつもと立場が逆転したね」

 

「まぁそうだな。 いつもは、俺がして貰ってるからな。――木綿季。 寝ちゃっていいぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

そう言ってから、木綿季は瞳をそっと閉じた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

その翌日。

東大四人組みは、玄関前にいた。

 

「それじゃあ、俺たちは帰るな」

 

「スグちゃん、またね」

 

「昨日は楽しかったです。 ありがとうございました」

 

「暇ができたら、遊びに行きますね」

 

俺と木綿季は手を上げ、明日奈と藍子は綺麗にお辞儀をした。

それから俺が玄関の扉を引き開け外へ出て、三人も俺の後に続いた。

 

「う、うう。 頭痛いや」

 

「ほら、おんぶしてやる」

 

俺は木綿季に背を向けて屈み、木綿季はそれを見ておぶさってきた。

木綿季が落ちないように、両手でしっかり支えてから立ち上がった。

 

「よし。 帰るか」

 

それから四人は、玄関の門を潜った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「じゃあ、私と藍子さんはここで」

 

「和人さん。 木綿季をお願いします」

 

「おう、任せとけ」

 

「またね。 明日奈、姉ちゃん」

 

俺は明日奈たちと別れてから、マンションへ歩き出した。

こうして、家族+親友の飲み会が幕を閉じた。




今回は皆(家族+親友)の飲み会の話だったね。
てか、皆の歳が曖昧なんだよね……(汗)

次回の話は未定っす……(汗)
ちょいとシリアス(真面目)な話でも入れようかな?とか一応考えてはいるんすけど。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第104話≪海の日と海水浴≫

ども!!

舞翼です!!
今回は真面目な話を書くって言ったが、あれは嘘だ。
今回の話は、激激激激激激甘だぞ\(゜ロ\)(/ロ゜)/
書いてて砂糖吐きそうだったね。うん、まじで。
ブラックコーヒーが必須だったね。

今回はあれから、三ヶ月後やね。
さて、後日談第九弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇二九年。七月。

電車を乗り継いで目的の場所へ徒歩で移動しながら、少し大きめのバックを持ち、隣で楽し気にスキップしている木綿季が呟いた。

 

「はやく着かないかな♪」

 

木綿季がこんなにはしゃぐのも無理もない。

今日は、前々から約束をしていた海へ遊びに行くからだ。

 

「お前、今日を楽しみにしてたからな。 それに今日は海の日だしな」

 

「うん!」

 

そう言ってから木綿季は、俺の左腕にぎゅっと抱き付いてきた。

木綿季さん。 柔らかいものが当たってますよ……。

 

「あの……木綿季さん……。 柔らかいものが……」

 

「うん、ボクの胸だね♪」

 

「……そうなんだけど。 今の木綿季って薄着だろ。 だから、その……」

 

木綿季は、胸を押し付けるようにしてきた。

……ここで理性が吹き飛ぶのはやばい。

 

「頑張って耐えてね。 和人♪」

 

「お前、いつから小悪魔になったんだ」

 

「女の子は男の子を誘惑する時は、小悪魔にもなるんだよ♪」

 

俺は大きく息を吐いた。

これは、反動が大きいだろうな……。

 

「頑張って耐えるよ……。 でも、その後が大変になるぞ」

 

「全然OKだよ♪」

 

そうこうしている内に、目的地の海へ到着した。

俺と木綿季は砂浜まで移動し、大きく息を吸った。

 

「潮の香りが凄いねぇ!」

 

「だな。 天気も快晴だし、今日は楽しもうか」

 

「うん。 じゃあ、着替えに行こうよ」

 

「おう」

 

そう言ってから、二人は管理センターへと歩いて行った。

その間も、木綿季は俺の左腕に抱き付いていたが。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺は木綿季より早く着替え、管理センターでパラソルの番号を聞いて、木綿季を待つことにした。

 

「和人。 お待たせ」

 

木綿季はパーカーを羽織り、腰には薄い水色のバレオを巻いて、片手でトートバックを持って入り口から出てきた。

 

「おう、やっぱりパーカを羽織っていたか」

 

「和人。 ボクの水着姿を早く見たいの?」

 

「まぁ、うん、そうかも」

 

木綿季はそれを聞いて、うっすらと頬を赤く染めた。

 

「そっか……。 去年とは違う水着だから、期待しててね……」

 

「そ、そうなのか。 期待してます……。 よ、よし! パラソルの番号もわかったし。 行こうか」

 

「おー!」

 

俺がそう言ったら、木綿季が再び俺の左腕に抱き付いてきた。

周囲からの温かい視線が凄いな。 もう慣れたけど。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たちが借りたパラソルの位置は浜辺から少し離れた場所に位置していたため、恋人同士には打ってつけの場所だった。

いや、恋人じゃなくて、俺たちは夫婦だったな。

木綿季は荷物を置くとトートバックの中からレジャーシートを取り出し、砂の上へ広げ、俺はパラソルを開いた。

パラソルは傘と同じ要領の物であり、砂の上にパラソルの根元を押し込む穴がぽっかりと開いているので、そこにパラソルの根元を押し込んだ。

それから俺は、シートの上へ座った。 木綿季もそれに倣った。

 

「これでOKだな。 結構狭いな」

 

「そうかも。 でも、寄り添えば問題ないよ」

 

それから木綿季は、パーカーを脱いだ。

木綿季は頬を赤く染めると、俺に聞いてきた。

 

「どうかな?」

 

その水着は白色のビキニであった。

木綿季の白色のビキニ姿は、とても新鮮だ。

 

「え、いや、その、似合ってるぞ。 凄い可愛いよ」

 

「やった♪ 去年は黒色だったからね。 その反対の白色に挑戦してようと思って、これにしたんだ」

 

木綿季は頬を赤く染めると言った。

 

「あのね、えーと、その……。 日焼け止め……塗ってくれないかな?」

 

「ん、ああ、いいけど。 どこに?」

 

「……前は水着に着替えた時に塗ってあるから……背中に、お願いしたいんだけど……」

 

「え、うん、そうだよな。 背中だよな。 どこに塗るって言ったら背中だよな。 ははは、何で解らなかったんだろうな。 俺ってバカだよな……」

 

木綿季は首を傾げた。

 

「和人。 大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だ。 うん、大丈夫だ。……じゃあ、そこに横になってください」

 

木綿季はシートの端側で俯せになった。

 

「う、うん。 お願いします……」

 

ヤバいヤバいヤバい。

俺の理性持てよ。 頼むから持ってくれよ……。

サンオイルを取ると、両手に伸ばしながら、木綿季の背中に手を滑らせた。

手が触れた瞬間、木綿季がビクッと反応した。

 

「えっ……と。 もしかして、変な所触っちゃった……?」

 

「だ、大丈夫だよ。 ちょっと、くすぐったいだけだから」

 

「お、おう。 じゃあ、続けるぞ」

 

俺は再び、木綿季の背中に手を滑らせる。

 

「ん……あん……そこ、ボクだめだよ……」

 

「ちょ……ちょ、木綿季さん。 声が……声が……」

 

「え、うん。 無意識に声が漏れちゃんだ。 ボク、なにか変だったかな?」

 

「いや、変じゃないけど。 俺が変な気分になっちゃうっていうか……意識しちゃうっていうか……」

 

「変な気分って……。――和人のエッチ!」

 

「いや、しょうがないだろ。 可愛い奥さんなんだぞ。 だから、その、えーと、声を我慢してくれれば」

 

「無理だよ~。 無意識に漏れちゃうんだもん」

 

二人が居るパラソルの中は、ピンク色のオーラで包まれていたらしい。

その証拠に、近くの壁を叩いている客が居たらしい。

 

それから泳いだり、レンタルしたボールでビーチバレーをしたりと、沢山遊んだ。

時間が正午を過ぎた位にパラソルへ戻り、昼食を摂ることにした。

 

「結構遊んだな」

 

「楽しかったね。 ボクたちの思い出がまた増えたね♪」

 

シートの上へ座り、俺と木綿季がそう呟いた。

木綿季はトートバックの中から、ランチボックス取り出した。

それをシートも上へ置き、ランチボックスを開いた。

ランチボックスの中には、色とりどりのサンドイッチが並べられていた。

ミックスサンドにツナサンド、タマゴサンドにシャキシャキのレタスサンドだ。

 

「ん、これはなにサンドだ?」

 

俺は、ナプキンでしっかりと巻かれたサンドを指差した。

 

「あ、これはね。 豚トロサンドだよ。 これも新しい挑戦なんだよ」

 

「食べていいか?」

 

「その前に、これで手を拭いてね」

 

木綿季から渡された物は、使い捨てのおしぼりだった。

俺はそれを手に取り、綺麗に手を拭き、サンドイッチを手に取った。

 

「じゃあ、いただきます」

 

「はい、召し上がれ」

 

俺は大きく口を開け、豚トロが入ったサンドイッチにかぶり付いた。

パンと豚トロが絡み合い、口の中で絶妙なハーモニーを奏でた。

 

「これ旨いよ! 隠し味に塩コショオが効いてて、良い味を出してるよ!」

 

「気付いてくれたんだ!?」

 

「おう、やっぱり木綿季が作ってくれる料理は旨いな。 秘訣でもあるのか?」

 

木綿季は右手人差し指を顎に当てて、「う~ん」と考えた。

 

「秘訣か解らないけど。 和人がボクの作った料理を食べて、幸せになれますように、って愛情を込めているよ。 いつも美味しく食べてくれてありがとね」

 

そう言ってから木綿季は、ニッコリと笑った。

俺はそれを見て、ドキッとした。

 

「そ、そうか。 いつも旨い料理をありがとうございます」

 

「どういたしまして。 和人も、ボクに愛情をいっぱいくれてありがとね。 それじゃあ、食べようか」

 

「おう」

 

それから二人は、何時ものように談笑をしながら、昼食を摂った。

その間も甘々な空間だったのは、二人は知る由もなかった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

昼食後。 二人は肩をぴったりと寄せ合って、海を眺めていた。

 

「綺麗だな」

 

「うん、綺麗だね」

 

「木綿季は、海より綺麗だぞ」

 

「そ、そうかな。嬉しいな」

 

俺と木綿季は顔を見合わせた。

それから俺は、木綿季の唇に自分の唇を重ね、 短いキスをした。

幸い、この付近にはお客がもう居ないようなので、見られることはなかった。

 

「もう、和人はいきなりなんだから」

 

「いや、そういう雰囲気かなと思ってな。 嫌だったか?」

 

「その言い方はずるいよ。 ボクが嫌がるはずがないのに……」

 

「う、ごめんなさい」

 

俺はしょんぼりとしてしまった。

木綿季はもじもじしながら口を開いた。

 

「……和人。 お家でたくさんしていいから、だから元気だして」

 

「お、おう」

 

再び二人は前を向き、海を眺めた。

それから少しして、俺が口を開いた。

 

「もう一つ、行きたい場所があるんだ」

 

「どこどこ」

 

「ん、まぁ、お楽しみということで。 よし、そろそろ上がるか」

 

「そうだね。 そろそろ午後4時だしね」

 

俺と木綿季は立ち上がり、俺はパラソルを引き抜いてから折り畳み、肩に担いだ。

木綿季はシートを折畳んでから、トートバックの中へしまった。

 

「じゃあ、行くか」

 

「だね」

 

そう言ってから、二人は管理センターへ歩き出した。

 

「木綿季はシャワー浴びてきていいぞ。 俺はパラソルを返却してくるよ。 海の家前に集合でいいか?」

 

「ん、了解」

 

木綿季はそう言うと、一足先にシャワー室へ向かった。

俺は管理センターの返却窓口へ行き、そこでパラソルを返却してから、シャワー室へ向かった。

二人は汗と砂を綺麗に流し、更衣室で私服に着替え、海の家前へ集合した。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うん、行こう」

 

そう言ってから、木綿季は俺の左腕に抱き付いてきた。

俺も自然に頭を撫でていたが。

俺が向かった先は、夕日が沈んでいくが望める丘の上だった。

 

「夕日が綺麗だね」

 

「この場所は、実験チームのメンバーの一人から教えて貰ったんだよ」

 

「今度は子供たちと一緒に来たいね。 和人は、何人子供が欲しい?」

 

「一人……。 いや、二人だな。 まぁ、大学を卒業してからだけどな」

 

「そっか。 ボク、頑張るね」

 

「おう、頼んだ。 それじゃあ、帰るか」

 

「うん、帰ろっか」

 

こうして二人は、帰路に着いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

木綿季がマンションの鍵を開け、扉を引き開け、俺と木綿季はマンションの玄関で靴を脱いでから、リビング中央に設けられているソファーの上へ座った。

 

「ふぅ、遊んだな」

 

「うん、今日はとても楽しかったよ。 ありがとね、和人」

 

「なぁ、木綿季」

 

「うん、いいよ……」

 

俺は立ち上がり、木綿季を横抱きにしてから、寝室へ消えていった。

今日の出来事は、思い出の一ページに刻まれた。

 




今回の話は、海でしたね。
まぁ、海水浴のことはウル覚えなので、間違っていたらご容赦を。
和人君、完璧にリア充やね(笑)
爆発しちゃえ☆
てか、これってR15で大丈夫だよね……?
まずかったら教えて下さい。

またまた次回の話は未定っす……。
ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第105話≪ALO統一デュエルトーナメント 東≫

ども!!

舞翼です!!

投稿が遅れて申し訳ないm(__)m
ここの所忙しくて……。
今回は、ALO内部ですね。
日常が多かったからね。

今回は、ご都合主義満載かも……。
てか、戦闘描写難すぎだよ(>_<)
今回の話は、あれから二カ月やね。
では、後日談第十弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇二九年。九月。

俺と木綿季はリビング中央に設けられている、テーブルの椅子に座り話をしていた。

 

「さて、今日はALO統一デュエルトーナメントだな」

 

「そうだね。 確か、15時に世界樹の根に集合だっけ?」

 

「だな。 今の時間が14時だから、そろそろ行くか」

 

俺と木綿季は立ち上がり、寝室へ足を向けた。

枕の横にはアミュスフィアが二つ置かれている。

俺たちはベットに横になった後、枕の上に後頭部を乗せてから、アミュスフィアを頭に装着し、妖精の世界へダイブする魔法の言葉を発する。

 

「「リンク・スタート」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たちは、セーブポイントである第二十二層《森の家》ログハウスへログインした。

ログハウス中央に設けられているソファーには、愛娘のユイが座っていた。

ユイは俺たちを見ると笑みを浮かべて立ち上がり、俺の胸の中へ飛び込んで来たので、しっかりと受け止める。

 

「パパ、ママ。 おかえりです!」

 

「ユイちゃんただいま~」

 

「おう、ただいま」

 

そう言ってから、俺とユウキはユイの頭を優しく撫でた。

ユイは眼を細め、気持ちよさそうにしていた。

 

「じゃあ、集合場所へ行くか」

 

「うん、行こうか」

 

「はいです!」

 

俺とユウキは手を止めてから、ユイと共に庭まで移動し、翅を大きく震わせ上昇を開始する。

ユイも小妖精の姿になり、俺の頭上へ乗る。

それを確認してから、飛翔を開始した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

アルヴヘイムの象徴である世界樹。

世界樹の根へ降り立ち、正面見据えた所に、巨大な闘技場が出現していた。

そして今日、その闘技場では――《ALO統一デュエルトーナメント》が開催される。

 

「よし。 集合時間ピッタリだな。 あれ、クラインたちの姿が見当たらんぞ」

 

「本当だ。 どうしたんだろうね?」

 

「どうしたんでしょうか?」

 

と、俺たち家族は疑問を口にした。

その疑問に答えてくれたのは、青と黒の長い髪を揺らしながらこちらに歩いて来た、水妖精族(ウンディーネ)のアスナとランだった。

 

「キリト君、ユウキちゃん、ユイちゃん、こんにちは。 えっとね、クラインさんたちは大会が待ちきれなくて、先に行っちゃったよ」

 

「それと、席を確保しとくそうですよ」

 

俺は頷いた。

 

「なるほどな」

 

「ボクたちも行こうか?」

 

「はいです!」

 

ユイは、俺の頭上で翅を羽ばたかせてから空中をぱたぱたと移動し、くるんと一回転したかと思うと、本来の姿に戻って着地した。

それを確認した後、左側からアスナ、ラン、ユウキ、ユイ、俺の順になり歩き出した。

もちろん、ユイは俺とユウキと手を繋いでいる。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「おーい、こっちこっちー!!」

 

闘技場の最前列に座っていたリズが、俺たちに気付き手を振っていた。

俺が手を振りかえしてから階段を下り、確保して貰った席へ座る。

後ろに付いてきた四人も俺に倣う。

眼前には、広大なフィールドが広がっていた。

 

「で、もう始まったのか?」

 

俺の問いに答えたのは、後ろに座るクラインだ。

 

「今からだぜェ、キリの字よ」

 

このALO統一デュエルトナーメントは、東と西ブロックに別れていて、そのブロック優勝者が戦い、ALO最強プレイヤーを決めるようになっている。

正面に設置されている巨大スクリーンに眼をやると、東と西ブロックのトーナメント表が映し出された。

 

「えっと、俺は東ブロックだな」

 

「ボクは西ブロックだね」

 

「私も西ブロックだね」

 

「私は東ブロックですね」

 

「私も西ブロックです」

 

「オレ様は、東ブロックだ」

 

俺に続いて、ユウキ、アスナ、ラン、リーファ、クラインだ。

リズとシリカとシノンは参加しないらしい。 何でと聞くと、リズは、『あんたら化け物には勝てないわ』。 シリカは、『私は戦うより、観戦がいいです』。 シノンは、『あんたたちに勝てる見込みはないから観戦するわ』、だそうだ。

 

「さて、俺たちは移動するか。 ユイは、良い子で待っているんだぞ」

 

「はいです!」

 

俺たちは立ち上がり、それぞれの控え室へ向かった。

それから、ブロック事に試合が始まった。

試合形式はこのようになっている。

試合の制限時間が十分で、勝敗はHP全損か相手のリザイン、タイムアップになると双プレイヤーの最終HPが多い方が勝者になる。

ブロックの優勝者同士の試合になると、無制限時間へ変更ということだ。

四人は、一、二、三回戦と勝ち進み、決勝まで駒を進めた。

因みに、ランはクラインを、ユウキはユージーン将軍を、アスナはリーファを、俺はシンを撃破した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

東ブロックの決勝戦のカードは、《黒の剣士キリト》vs《剣舞姫のラン》だ。

俺が控え室を出ると同時刻に、ランも控室から出てきて中央まで移動を開始し、俺とランは闘技場中央で歩を止めた。

 

「キリトさんと戦うのは、初めてですね」

 

「ああ、そうだな。 良い試合をしよう」

 

俺は背に装備している鞘から漆黒の片手剣を抜剣し、ランも腰に装備した鞘から純白の片手剣を抜剣する。

ランは左手でウインドウを呼び出すと、視界にシステムメッセージを表示させデュエル申請を行うと、俺の視界にシステムメッセージが出現した。

【Ranから 1vs1 デュエルを申し込まれました。 受諾しますか?】

発光する文字の下に、Yes/Noのボタンといくつかのオプションが表示され、《完全決着モード》に選択してからOKボタンにタッチする。

それから、俺とランは武器を構えた。――俺とランの間に緊張が走る。

カウントがゼロになり、【DUEL!!】の文字が飛散したと同時に俺は地を蹴り、垂直に剣を振り下ろす。が、ランも剣を垂直に振り下ろし、二つの剣が交差し、高い金属音を響かせ火花を散らした。

今の一撃で武器破壊(アームブラスト)を狙ったのだが、失敗に終わってしまった。

鍔競り合いをし、火花を散らしながら、俺はランに話し掛けた。

 

「あの攻撃に反応出来るとは予想外だったよ。 一撃で決めようと思ったんだけどな」

 

「ふふ、私はユウキの姉なんですよ。 簡単には負けませんよ」

 

二人は剣を弾いてから、一定の距離を取った。

ランは凛とした声で詠唱し、空中に氷の矢を形成させる。

手を振り下ろすと、氷の矢は俺に向かって飛来してくる。

俺は片手剣ソードスキル《デッドリー・シンズ》計七連撃を繰り出し、魔法破壊(スペルブラスト)を成功させる。

砕けた氷が空中を舞い、次第に消滅していく。

 

「やっぱり魔法は効きませんか」

 

「いや、大きい魔法なら効果があると思うぞ。 アブソリュート・ゼロとか」

 

アブソリュート・ゼロは、全体効果を持つ氷属性の最上位魔法だ。

だが、

 

「あれは、詠唱時間が長いですから、詠唱中にやられちゃいますよ」

 

「まぁ確かに。 てか、翅は使わないのか?」

 

「ええ、空中戦より地上戦の方好きですから」

 

「俺も地上戦の方が良いしな。 じゃあ、翅なしで戦うか」

 

「良いですよ」

 

そう言ってから、俺とランはロケットブースターのように同時に飛び出す。

二人は交差し、場所を入れ替わるように着地した。

HPを確認してみると、二人のHPは二割程度減少していた。

身体を見てみると、胸の辺りが赤いエフェクト散らしていた。

ランも同様だった。

これは、二人が交差した瞬間に振るった剣の掠り傷だ。

その後も縦横無尽に高速で動き回り、互いにHPを削りながら剣を打ち合う。

高い金属音が響き渡り、会場を震わせる。

これにより、観客の歓声もこれまで以上に増していった。

互いの剣が激しくぶつかり合い、再び鍔競り合いとなる。

 

「ランさん、強すぎるよ。 流石ユウキの姉だな」

 

「ふふ、それはキリトさんも同じでしょ」

 

剣を弾いてから突進し、上段の片手剣突進技、《ソニックリープ》を放つ。

同じくランも《ソニックリープ》を放ち、寸分の狂いもなく相殺させた。

だが、俺は剣技連携(スキルコネクト)を使用し、片手剣ソードスキル《スラント》の斜め斬りへ繋げ、ランが右手に持つ純白の片手剣を撥ね上げた。

 

「(――今だ!!)」

 

俺は一瞬の隙を狙い、片手剣OSS《メテオ・レイン》計十一連撃へ繋げた。

剣が純白の燐光を纏い、縦横無尽に剣が振るわれる。

ランも、無理やりソードスキルを放ち迎撃に移った。

片手剣OSS《夢幻闘舞》計五連撃を放ち、《メテオ・レイン》の五連撃を防いでから、片手剣OSS《桜華狂桜》計六連撃を放った。

俺は眼を見開いた。

 

「(――剣技連携(・・・・)じゃんか!!??)」

 

ランは十連撃まで防いでいたが、最後の一撃は俺の頬を掠め、虚空へ放たれた。

俺の最後の一撃がランの左肩へ直撃し、ランは地面にぺたりと座り込んだ。

視界には、デュエルの終了を告げるメッセージが表示された。 タイムアップって奴だ。

俺のHPはイエローゾーンで止まっており、ランのHPはレッドゾーンで止まっていた。

次いで、視界上へ勝者を告げるウインドウが表示された。 【Winner kirito】と。

俺はランの左手を軽く握り、引き上げた。

 

「お疲れ」

 

「ええ、お疲れさまです。 負けちゃいました」

 

ランは舌をぺろっと出した。

それからランは腰を下ろし、地面から片手剣を拾い上げてから腰を上げ、左右に数回振ってから腰に装備している鞘に納めた。

俺も剣を左右に振ってから、背に装備して鞘に納めた。

次いで、凄い歓声が沸き上がった。

 

「さて、皆の所へ戻るか」

 

「ええ、そうですね」

 

俺とランは、それぞれの控え室へ戻ってから、皆が居る場所へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「戻りました」

 

「戻ったぞ」

 

ユイが、俺とランを見て、

 

「おかえりです、パパ、ねぇねぇ」

 

「おう、ただいま。 ユイ」

 

「ユイちゃん、ただいま」

 

そう言ってから、俺とランは最前列の指定席へと座った。

すると、俺の隣に座るリズが話し掛けてきた。

 

「さっきの試合を見たけどさ、あんたら化け物よね。 私、半分くらいしか見えてなかったわよ」

 

俺はリズの方向を向いた。

 

「化け物とは失敬な。 ランもそう思うよな」

 

「まぁそうなんですけど、否定できない自分も居るんですよね……」

 

俺の後ろに座っていたクラインが口を開いた。

 

「オレも攻略組だったが、あそこまでは速く動けねェぞ」

 

「ていうか。 アスナとユウキも、キリトたちと同じレベルなんでしょ。 あんたらの反応速度どうなっているのよ」

 

クラインとリズの問いに四人は、「さぁ」と、声を揃えて言った。

リーファとシノンとシリカは、苦笑いだ。

 

「次は、アスナとユウキの試合ね。 どうなるか楽しみだわ」

 

「親友同士の戦い。 確かに楽しみね」

 

「アスナさんとユウキさんの戦いですか……。 どうなるんでしょうか」

 

「私、早く見たいです」

 

「ママ、アスナさん。 頑張ってください!」

 

シノンに続いて、リズ、シリカ、リーファ、ユイだ。

それを聞いてから、アスナとユウキは席から立ち上がった。

 

「じゃあ、ボクたちは控室へ行ってくるね。――ユイちゃん、行ってくるね」

 

「みんな、またあとで」

 

といい、ユウキとアスナは西ブロックの控室へ向かった。

ALO統一デュエルトーナメント西ブロック決勝のカードは、《絶剣ユウキ》vs《閃光のアスナ》だ。




ら、らんちゃんヤバすぎだよ。
剣技連携を取得して、OSSを二つ作って、メテオ・レインを十連撃まで止めるなんて。
まぁ、アスナさんとユウキちゃんの見せ場も作りますけどね(^O^)
あ、らんちゃんの最後の一撃は、無理やり放ったつけがまわったてことで。
うん、ご都合主義やね(笑)
次回は、《絶剣vs閃光》を考えています。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第106話≪ALO統一デュエルトーナメント 西≫

ども!!

舞翼です!!
戦闘描写に手間取り、投稿が遅れましたm(__)m
てか、戦闘描写難しすぎだよ(>_<)
今回もご都合主義が満載です!!

さて、今回は《絶剣vs閃光》です。
それでは、後日談第11弾いってみよー(^o^)/

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


大歓声が響く中、控え室から出てきて、闘技場の真ん中で脚を止めた《絶剣ユウキ》と《閃光のアスナ》。

互いに手を差し出して、握手をする。

 

「よろしくね! アスナ。 良い試合をしようね♪」

 

「うん、よろしく。 ユウキちゃんとデュエルするのは、二回目だね」

 

「そうだね。 えっと確か、第56層ボス戦会議で揉めた時だね」

 

そう。 ボクとアスナは、第56層ボス戦の作戦会議で、血盟騎士団の案を採用するか、ソロプレイヤーの案を採用するかで揉めた時に一度デュエルをした事があるのだ。

血盟騎士団からはアスナが、ソロプレイヤーからはボクが代表として戦い、勝利した方の案を採用する事になったのだ。

結果は、ボクの勝利でソロプレイヤーの案が通ったのだ。

 

「それでどうしようか?――どういう形式で戦う?」

 

握手を解いた後、ボクは腰に下げた剣の柄を右手で軽く叩いた。

 

「ボクはこれだけで戦いたいかも。――どうかな?」

 

「私も剣だけでいいよ。 それに、魔法を使った所で、魔法破壊(スペルブラスト)されちゃうからね」

 

ボクもキリトと同じく、こちらに飛んでくる魔法の破壊が可能なのだ。

 

「――じゃあ、魔法なし、翅なしの地上戦。 あ、ジャンプはありで。 これでどうかな?」

 

ボクは首を傾げてアスナに聞いてみた。

すると、アスナは笑顔で答えてくれた。

 

「うん、それでOKだよ。――デュエル申請するね」

 

アスナが左手で手を振り下ろし、視界にウインドウを出してから、デュエル申請をすると、ボクの視界に【Asunaから 1vs1 デュエルを申し込まれました。 受諾しますか?】と表示される。

ボクは《完全決着モード》に設定してからOKボタンをタッチし、ボクとアスナは翅を使い一定の距離を取る。

ボクはコウモリの翼に似た形状の翅を畳み、そして消していった。

同時にアスナも両の肩甲骨いっぱいに狭めて、翅消去のアクション・コマンドを入力し、背中でちりりんと微かな音がして、自身の翅を消えた事を知らせる。

ボクたちの頭上に、デュエル開始のカウントダウンが表示され、ボクとアスナは右手で剣の柄を握り、勢い良く抜剣した。

ボクは片手剣を中段に構え、アスナは右手を体側に引き付け、細剣をほぼ垂直に構える。

ボクたちは集中力を高める事で、周りの歓声が徐々に遠ざかっていく。

それが完全に消えた所で、【DUEL!!】の文字が飛散したと同時にアスナは地を蹴り駆け出した。

アスナは細剣を真っ直ぐ突き出し、神速と言うべき突きを二発繰り出した。

一発目を通常に放ち、二発目はタイミングをずらして放った。ということは、一発目を避けると、二発目の回避は実質不可能。

アスナの思惑通り、ボクは一発目の突き攻撃を、身体を右にずらして回避する。

二発目の剣先ボクの胸元へ吸い込まれていくけど、その直前に右手を煙るように動かして、二発目の軌道を微妙にずらし、鎧を掠める程度に留めた。

アスナはすぐに細剣を引き戻し、二、三歩バックステップをし、ボクから距離を取った。

アスナは追撃することなく、再び細剣を構えて仕切り直した。

 

「あ、あぶなかった。 ぎりぎりでパリィ出来たよ……。 やっぱり、アスナの剣は速いよ」

 

「ゆ、ユウキちゃん。 今の攻撃、よくパリィ出来たね……。 凄いよ」

 

アスナの言う通り、先程の攻撃は、並のプレイヤーでは躱ことが不可能な攻撃だったのだ。

そして、自分に向かって飛んでくる突き攻撃の軌道というのは、小さな点でしかないのだ。

 

「ありがと、アスナ♪――じゃあ、再開しようか?」

 

「うん。 それじゃあ、行くよ!」

 

ボクとアスナは同時に地を蹴り、神速で攻撃を繰り出す。

繰り出される剣がぶつかり合い、高い金属音を響かせ、会場を沸かせる。

ボクもアスナも、システム外スキル先読み(・・・)を使用し、凄まじい攻防戦へとなった。

時折掠める剣でじりじりとHPが削られていくけど、クリーンヒットは一度もない。

凄まじいスピードで切り返し、次々に撃ち込んでいく。

ボクが振り下ろした剣が細剣とぶつかり、鍔競り合いとなり、火花を散らした。

鍔競り合いをしながら、ボクは笑顔でアスナに話し掛けた。

 

「こんなに嬉々とするデュエルは久しぶりだよ!!」

 

「私もだよ。 ここまで熱くなったデュエルは、SAO以来かな」

 

ボクとアスナは、久しぶりの強者の戦いに心が躍っていた。

アスナは一瞬の隙を付き、通常攻撃では無く、細剣ソードスキル《カドラプル・ペイン》計四連撃を繰り出した。

通常攻撃ではダメージを与えられないと考えたからだろう。

そして、そのソードスキルは稲妻のようにボクに迫ってくる。

この攻撃は、先読みを使用しても避けられず、パリィも間に合わない攻撃だ。

なのでボクは、先読みの()を予想し、剣を衝突させ、突き攻撃を弾き軌道をずらす。

鎧に掠りはしたが、アスナが放つソードスキルは、一撃もボクにクリーンヒットする事はなかった。

ソードスキルには技後の硬直時間が設定されているので、硬直後が絶好のチャンスとなる。

ボクは後方に数歩バックステップをし、突進を開始した。

 

「(今ならカウンターで、ソードスキルが入るはず!)」

 

ボクは片手剣OSS、《メテオ・ストライク》計五連撃を繰り出した。

回避が不可能な直突きがアスナの左肩を捉えて、そのまま斜め右下へと放たれる。

全ての攻撃が綺麗に入り、アスナのHPバーを黄色まで減少させる。

アスナは、「次は私の番だね」、と眼で語りかけながら、細剣OSS《スターリィ・ティアー》計五連撃を放つ。

アスナの細剣はボクを捉え、小さな星型の頂点を辿りながら、五発の突き技が黒いアーマーを貫いていく。

この攻撃を受けて、ボクのHPも黄色まで減少させる。

五連撃のソードスキルの交換がし終わり、一瞬の静寂が訪れた。

ボクは大きく息を吐き、次のソードスキルを放った。

ボクは片手剣OSS、《エンド・オブ・ハート》三連斬+七連直突きの計十連撃を放つ。

アスナは三連斬を紙一重で回避し、渾身の突き攻撃、細剣OSS《スター・メモリー》計七連撃を放ち迎撃に入った。

赤と青の閃光が眩く交錯し、最後の攻撃がボクは右肩に、アスナは左肩にクリーンヒットとなり、数メートル吹き飛ばされた。

これにより、ボクとアスナのHPは残り二割程度しかない。

硬直時間が解除され、再びボクは片手剣を中段に構え、アスナは右手を体側に引き付け、細剣をほぼ垂直に構えた。

観客の歓声も、ぴたりとやんでいた。

緊張が走る中、ボクとアスナは同時に駆け出した。

 

「はああぁぁああ!!」

 

「やああぁぁああ!!」

 

防御、回避は捨て去り、すれ違う瞬間に剣が交錯し、互いに場所を変わるように停止した。

刹那、アスナの身体が青いリメインライトに包まれ、ボクの頭上に【Winner yuuki】とウインドウが表示された。

 

「か、勝った……」

 

これを見ていた観客が沸いた。

ボクの残りのHPは数ドットしか残っていなかった。

ボクは、数回左右に剣を振ってから腰に装備している鞘に剣を納め、青いリメインライトの前まで移動し、アイテムストレージから世界樹の雫を取り出し、左手でビンの蓋を抜き振りかけた。

青いリメインライトは、徐々に人型を取り戻していく。

それから、アスナは大きく伸びをした。

 

「負けちゃったか……。 でも、楽しかったね」

 

「うん、楽しかった!」

 

アスナはアイテムストレージから回復結晶を取り出し、「ヒール」と叫び結晶を使用し、ボクのHPを全快にしてくれた。

 

「ありがと、アスナ」

 

「どういたしまして。 それじゃあ、みんなの所に戻ろうか?」

 

アスナはニッコリと笑ってくれた。

アスナの笑顔は、春の陽だまりみたいだよ。

 

「うん、戻ろう」

 

ボクとアスナは観客に手を振ってから、それぞれ控え室へ戻り、皆が待つ場所へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「戻りました」

 

「戻ったよー」

 

ユウキとアスナは、それぞれの指定席へ座った。

リズが後ろに身体を向けた。

 

「……解っていたことだけど、あんたらの試合、最早次元が違うわね。 てか、三位決定戦はやらないんでしょ?」

 

「ああ、今大会はやらないそうだ。 アスナとランは、今大会のベスト4だな」

 

「ありがと。 キリト君」

 

「ありがとうございます。 キリトさん」

 

リズが呆れたように言った。

 

「今回のトーナメントレベルは異常よ……。 前大会の優勝者ユージーン将軍、二位のシン、三位のクライン、四位のリーファが全員予選落ちだもの……。 あんたらの二つ名は、ALO内じゃ知らない人は居ないからね。 まぁ、この結果は妥当ちゃ妥当だけどさ。――これで決勝戦のカードが揃ったのね」

 

屋台で買ったと思われるビールを一口飲んでから、クラインが言葉を発した。

 

「キリの字とユウキちゃんは、攻略組のトップスリーに入るプレイヤーだからな。 これは、すげぇデュエルになるぜェ」

 

俺とユウキはクラインの言う通り、攻略組一、二、三位を争うプレイヤーだったのだ。

そして、もう一人のプレイヤーはヒースクリフのことだ。

 

「んじゃ、そろそろ行こうかな」

 

「ボクも一緒に行くよ」

 

そう言ってから、俺とユウキは席から立ち上がった。

 

「お兄ちゃん、お義姉ちゃん。 頑張って!!」

 

「キリトさん、ユウキさん。 頑張って下さい!!」

 

「二人共頑張ってね」

 

「応援してるよ。 キリト君、ユウキちゃん」

 

「頑張って下さいね。 キリトさん、ユウキ」

 

「良い勝負を期待してるぜぇ」

 

「応援してるわよ」

 

「パパ、ママ。 頑張って下さい!!」

 

上から順に、リーファ、シリカ、シノン、アスナ、ラン、クライン、リズ、ユイだ。

会場も、今まで以上に盛り上がっていた。

 

「ああ、任せろ」

 

「うん、良い勝負をするね。 みんな期待しててね」

 

それから、俺とユウキは歩き出し、階段を上り決勝となる会場を目指した。

それぞれの控室に別れる際に、俺がユウキに話し掛けた。

 

「ユウキ。 これで勝負が決まるな」

 

「そうだね。 ボクたちは、一勝一敗だからね」

 

「おう、良い試合をしような」

 

「うん!」

 

それから、俺とユウキは手を振り、それぞれの控室に入って行った。

決勝戦のカードは、《黒の剣士キリト》vs《絶剣ユウキ》だ。




ふ、二人とも先読みとかチートやん(笑)
それにユウキちゃん。回避不可能な突き攻撃をパリィするとか……。
凄すぎでしょ!!
てか、キリトくんとランちゃんもそうだけど、OSSのオンパレードやね(笑)
あと、今回のデュエルは、マザロザのデュエルを参考にしました~。
さて、次回は、《黒の剣士vs絶剣》ですね。
あ、SAOの時のアスナさんは攻略の鬼ではなかったですよ。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!



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第107話≪ALO統一デュエルトーナメント 決勝≫

ども!!

舞翼です!!
今回も投稿が遅くなって申し訳ないm(__)m
戦闘描写が難しすぎて……。
アドバイスも参考にしてみました。(ちゃんと出来てるか不安だが)
そして、お気に入り1000件までいきました。読者の皆さま、ありがとうございます!!

今回のお話は、《黒の剣士VS絶剣》ですね。
さてさて、どういう結果になったのでしょうか。
それでは、後日談第12弾いってみよー(^O^)/

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


俺とユウキが控え室から出た途端、観客からの歓声が大気を震わせた。

その轟音の中、《黒の剣士キリト》と《絶剣ユウキ》は、一歩一歩と闘技場中央へ歩み寄る。

俺たちは中央で止まり、言葉を交わす。

 

「歓声が凄いね~」

 

「ああ、決勝戦だからな。 今まで以上に盛り上がっているな。――形式はどうする?」

 

「えっと。 魔法なし、翅なし、ジャンプありの地上戦がいいな」

 

「おう、それでいいぞ」

 

「じゃあ、デュエル申請するね」

 

ユウキは左手を振り、視界にウインドウを出してからデュエル申請をした。

俺の眼の前に、【yuukiから 1vs1 デュエルを申し込まれました。 受諾しますか?】、とデュエル申請のウインドウが表示され、《完全決着モード》に設定してからOKボタンをタッチした。

すると、闘技場中央上にデュエル開始を告げるカウントダウンが表示される。

俺とユウキは数歩バックステップをし、一定の距離を取る。

残り時間は50秒。

二人は右手で剣の柄を握り、ゆっくりと鞘から放剣した。

ユウキは剣を中段に構える。

俺はどう構えるか悩んだが、俺もユウキと同じく中段に構えた。

静まりかえった会場に、緊張が走る。

【DUEL!!】の文字が飛散したと同時に、俺とユウキは地を蹴り駈け出し、

 

 

 

――――消えた(・・・)

 

 

 

俺は激突する寸前、右手で構えていた剣を斬り上げ先制攻撃を放った。

それをユウキは身体を左にずらし回避する。

これは俺の狙い通りで、斬り上げた剣を上へ投げと飛ばした(・・・・・・・・・・・)

これは、ユウキも予想外の攻撃だった為、眼を見開いていた。

俺の右手が黄色いライトエフェクトに包まれ、右掌をユウキの左胸を押すようにヒットさせた。

後ろに押された事により、ユウキが体勢を崩した。

まだ俺の攻撃は終わっていない。

上空から落ちてくる剣を右手で握り、剣を振り下ろす。

――――体術と片手剣スキルの複合技、《メテオ・ブレイク》だ。

振り下ろした剣は、ユウキの左肩に吸い込まれていく。

この大技が入れば、かなりのHPを削れるはずだ。

だが、ユウキが剣を斬り上げ、――――寸前に軌道をずらされた(・・・・・・・・)

俺の剣はユウキの左肩を掠り、剣を地面に叩き付け、凄まじい砂埃が舞った。

複合技の《メテオ・ブレイク》は大技の為、普通の硬直時間より長い。

 

ユウキは身体を沈ませ剣を引き絞ってから、黒紫剣にオレンジ色のライトエフェクトを纏わせ、システムアシストの推進力に乗って前方に跳び出し、片手剣OSS単発重攻撃《デットリー・ストライク》を繰り出した。

この攻撃は《ヴォーパル・ストライク》の改良版で、威力が1.5倍増している。

ユウキが放つ攻撃は、俺の胸に吸い込まれ、HPががくんと約四割削られた。

俺は後方へ吹き飛ばされたが、硬直時間が解除された瞬間に地を蹴り、ユウキの懐に潜り込んでから片手剣OSS《エターナル・ブレイク》計十連撃を放った。

 

高速連撃攻撃で、ユウキの小さな身体が切り裂かれていく。

ユウキは硬直時間が解け、残りの四連撃は片手剣ソードスキル、《バーチカル・スクエア》を繰り出し、相殺させた。

二人はソードスキル後の硬直時間が科せられる。

そして、二人の硬直時間はほぼ同時に解けた。

俺とユウキは剣を垂直に振り下ろし、鍔競り合いとなった。

ユウキのテンションは、最高潮に達していた。

 

「凄いよ!! 今の攻撃は初めて見たよ!!」

 

「ああ、あのソードスキルは切り札の一つだ」

 

HPを確認してみると、俺のHPが約六割、ユウキのHP約七割だった。

そして、観客も大盛り上がりだった。

『おい、今何が起こったんだ』、『てか、決勝戦の試合はレベルが高くないか!?』、『閃光と剣舞姫の試合凄かったしな!』、『流石、黒の剣士と絶剣だな!』、等々の声が観客席から聞こえてきていた。

 

「な、何か照れるな……」

 

「だ、だね……」

 

この言葉を交わした後、剣を弾き、二、三歩バックステップをして距離を取り、最初の攻防戦が終了した。

両者は追撃することはなく、再び剣を構え直した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

リズは、闘技上の上空の巨大スクリーンの映像を見ながら呟いた。

 

「…………ねぇ、あんたらは、今の攻防戦が見えた……? 私は、半分も見えなかったけど……」

 

「ええ、見えましたよ。 キリトさんの最初の攻撃は予想外でしたね」

 

「まさか、剣を投げて複合技を発動させるなんて」

 

「でも、ユウキはあれを防ぎましたね。 それに、キリトさんのあのソードスキルは初めて見ました」

 

「ですね。 あの攻撃は初見だったのに、残りの四連撃を防ぐユウキちゃんは凄いです」

 

リズは、ランとアスナの会話に顔を引き攣られていた。

シリカとシノンとリーファも、「へ、へ~、そんなことが……」と言い、ユイは、「流石、私のパパとママです!」、と言って胸を張っていた。

 

「お、オレは、半分くらいしか見えなかったぜぇ……」

 

元SAO攻略組のクラインも、半分しか見えなかったらしい。

それほどまでに、二人の反応速度は凄まじいものだったのだろう。

ラン、アスナ、ユイ、リズ、シノン、シリカ、リーファ、クラインは再び大型スクリーンに眼を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺とユウキは同時に地を蹴り、神速の撃ち合いになった。

撃ち出す連撃は、防ぎ、防がれを繰り返す。

加速世界(・・・・)という世界に入り込み、誰の干渉も受け付けない世界となった。

――次にどのような攻撃がくるのか、どのような軌道で打ち出されるかが手に取るように解る。

互いに隙は、もう見せなくなっていた。

――だが、剣先が掠り、HPが少しずつ削られていく。

そして、俺とユウキの左肩には片手剣の剣先が突き刺さり、反射的にそれを弾き一定の距離を取った。

俺の残りHPは約三割、ユウキの残りHPは約四割。

 

俺とユウキは大きく息を吐き、眼を閉じてからすぐに開いた。

そして、同時に駆け出しながらソードスキルを発動させる。

俺は片手剣OSS《妖星乱舞》計十一連撃を繰り出し、ユウキは片手剣OSS《マザーズ・ロザリオ》を放った。

俺の放ったソードスキルは、《マザーズ・ロザリオ》に酷似している為、軌道がほぼ同じなのだ。

右肩、右腕、右脇、右腰、右脚、左脚、左腰、左脇、左腕、左肩、胴体中央の順で、円を描くように星のように交錯し、ぶつけ合う。

このソードスキルは、《マザーズ・ロザリオ》より硬直時間が短い、全ての攻撃を掠る程度に出来れば、俺の勝利となる。

そして俺は、掠りはしたが、全ての攻撃を防ぐ事に成功した。

――――だが、ユウキが持つ黒紫剣にはまだ、紫色のライトエフェクトが纏っていた。

 

「(なるほど、そういうことか。 流石だよお前は)」

 

そう。 ユウキは《マザーズ・ロザリオ》を昇華させていたのだ。――――計十二(・・・)連撃に。

そして、その幻の十二連撃目が俺の胸に吸い込まれ、俺はリメインライトとなった。

突きを放った体勢でユウキの勝利を示す、【Winner yuuki】というウインドウがユウキの頭上に表示された。

ユウキは構えを解いてから、パタパタと俺のリメインライトに駆け寄り、蘇生スペルの詠唱を始めた。

詠唱が終わり、数秒経った所で人型を取りも戻していく。

俺は、座った状態で蘇生が完了した。

 

「楽しかったよ! キリト、ありがとね!」

 

ユウキが差し出した手を握り、引かれて俺は立ち上がった。

ユウキは右手に握っていた剣を左右に数回振り、腰に装備している鞘に納めた。

 

「おう、俺も楽しかったぞ。 ありがとな。 良い思い出になったよ」

 

「うん、ボクも良い思い出になったよ!」

 

「――負けたよ。 あれは、予想外だったな」

 

「えへへ~、今日の為に、特訓してたんだ。 キリトこそ、あのソードスキルは今回の為に作ったんでしょ?」

 

「まぁな。 あのソードスキルは、《マザーズ・ロザリオ》にほぼ近い形になったけどな。 まぁ、参考にしたのが《マザーズ・ロザリオ》だったからな。――――ユウキ、優勝おめでとう」

 

俺はユウキの頭を撫でてあげた。

ユウキは、顔を少しだけ赤く染めた。

 

「うん、ありがと。 キリト、この映像は、大型スクリーンに映し出されちゃうんだけど……」

 

大型スクリーンには、この映像が大きく表示されていた。

 

「――なぬ!!?? まぁいいか。 俺たちの関係は、皆に知られている事だしな」

 

「う~ん、前にもこんな事があったような??」

 

「あ~、多分。 高校の時だな」

 

「あ、ベンチでご飯を食べて居る時だね」

 

「だな。――さて、そろそろ戻るか」

 

「ん、了解♪」

 

俺は手を解いてから、俺とユウキは観客席に手を振った。

それからそれぞれの控え室に戻ってから、廊下で合流し、皆が待つ場所へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

決勝戦の激戦から数分が経ったが、今も観客席はお祭り騒ぎだった。

そして此処は、屋台で買ったと思われる、飲み物や食べ物を口に運び盛り上がっていた。

 

「戻ったぞー」

 

「戻ったよー」

 

「お帰りなさい。 パパ、ママ」

 

ユイは、此方を向いて言ってくれた。

 

「おう、ただいま」

 

「ユイちゃん、ただいま~」

 

それから、俺とユウキは指定席に座った。

 

「いや~、負けた負けた。 やっぱりユウキは強かったな」

 

「いや、でもあんたも凄かったと思うわよ……。 私は、あんまり見る事が出来なかったけどさ」

 

と、此方を振り向いたリズに言われた。

てか、見る事が出来なかった。 何で?

俺の心を読んだかのように、リズが言った。

 

「あんたらの戦いの次元が違うのよ。 いや、ホント、まじで」

 

ランとアスナとユイ以外は、首を縦に振っていた。

 

「え、そうなのか。 ランとアスナは見えたよな?」

 

俺はランとアスナに問いかけた。

 

「ええ、見えましたよ。 最初の攻防は驚きました」

 

「途中から、舞を舞っているようにも見えたな~」

 

「でしょでしょ、楽しかったな~」

 

ユウキは、先の試合を思い返すように言っていた。

俺もユウキに続いて、先の試合を思い出した。

今日の全試合は、ALO中、いや、《ザ・シード連結帯》として、彼方まで広がるだろう。

――――《ALO統一デュエルトーナメント優勝者、絶剣ユウキ》とも。

 

「優勝はユウキだ。 おめでとう」

 

「ありがとう」

 

他の皆も、「おめでとう」、と称賛の言葉を贈った。

《ALO統一デュエルトーナメント》の結果は、優勝者《絶剣ユウキ》、準優勝者《黒の剣士キリト》、ベスト4は《閃光のアスナ》、《剣舞姫のラン》となった。




デュエルトーナメントの優勝者は、《絶剣ユウキ》でしたね。
決勝のデュエルは、チートが満載でしたな(笑)
てか、最初の攻防戦からヤバいね(ランちゃんとアスナさんもだけど)
皆の反応速度はどうなっているだろうか?

なんか、終わらせ方が無理やり感が否めない……。
ごめんなさい!!

そして、次回の話は未定なんす(汗)
ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第108話≪花火大会とボス戦≫

ども!!

舞翼です!!

え~、初めて更新がこんなに遅れました。
ごめんなさい!!m(__)m

書く題名などはあるんですが、内容が思いつかなくて……。
でもまぁ、書き上げました(^◇^)
前置きはこれ位にして、それでは、後日談第13弾いってみよー(^o^)/

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


これから行われるのは、ALO統一デュエルトーナメント終了後に開催される花火大会だ。

そしてその花火が、アルンの上空に綺麗な花を咲かせるのだ。

今、俺たちは世界樹の根元に集合していた。

俺が周りを見渡し言った。

 

「じゃあ、ユイ、ユウキ。 行こうか」

 

「OK♪」

 

するとユイは笑みを浮かべながら、

 

「えっと、今日はパパとママだけで周って大丈夫です。 私は、リーファさん達と周ります。 今のパパとママの邪魔をしたら、怒られちゃいます!」

 

ユウキは顔を朱色に染め、俺は取り乱してしまった。

 

「ぁ……う……」

 

「そそ、そうか。――じゃあ、行こうか、ユウキ」

 

「う、うん……」

 

それから、俺とユウキは皆に手を振り歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

今、俺とユウキはアルンに中央に点在する噴水広場に居た。

 

「ボクは浴衣に着替えてくるから、三十分後に此処に集合でいいかな?」

 

「まぁ、うん、いいけど。 このままじゃダメなのか?」

 

「もう、キリトは乙女心を解っていないんだから。 ボクが今日の為に新調した浴衣を見て貰いたいからだよ……。 い、言わせないでよ……」

 

そう言ってから、ユウキは顔を真っ赤に染めた。

俺も釣られて、顔を赤くしてしまう。

 

「りょ、了解……。――じゃあ、此処に三十分後な」

 

「ん、わかった」

 

こうして、俺とユウキは一度二手に別れる事になった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺は時間を潰す為、屋台を周っていた。

俺が眼に留まった屋台は、かき氷を売っている屋台だ。

 

「取り敢えず、かき氷を二つ買っていくか」

 

俺はかき氷を買う為、屋台の前まで行った。

 

「へいらっしゃい!!」

 

屋台の前まで行くと、親仁のNPCが元気よく迎えてくれた。

 

「かき氷を二人分頼む」

 

「ありがとうごぜいやす!!」

 

(ユルド)を払い、二人分のかき氷を受け取った。

一つはブルーハワイ味、もう一つはメロン味だ。

時間を見ると、あと五分で待ち合わせの時間なので、歩みのスピードを少しだけ上げ、噴水広場へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

其処で眼にしたのは、二人の男にナンパされているユウキの姿だった。

こういうイベントでは、ナンパは珍しくないのだ。

まぁ、ユウキは平然な顔をしているが。

 

「(はぁ~、俺の奥さんに手を出すとか……。 ここが圏外なら、剣で斬り刻んじゃう所だったな)」

 

俺はかき氷を持ったまま近づき、一人のナンパ男の頭にメロン味のかき氷をかけた。

うん、滅茶苦茶冷たそうだな。

 

「おい、冷てぇじゃねぇか!!」

 

男は振り向き、こちらを見てきた。

もう一人の男もそれに倣った。

男たちは俺を睨むように見てきたが、その顔を徐々に青くしていく。

 

「くく、黒の剣士!!??」

 

「じゃ、じゃあ、この女の子は、ぜぜ、絶剣なのか!!??」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「「す、すいませんでした!!!!!」」

 

男たち深く頭を下げ、敏捷力をMAXにして駆け出し、人混みの中にとけ込んでいった。

それを確認してから、俺はユウキの隣まで移動した。

 

「キリト、助けてくれてありがと♪」

 

「俺が助けなくても、如何にかなったと思うけどさ」

 

ユウキは俺と同じく、体術スキルを身に付けているのだ。

なので剣が無くても、あの程度の連中なら撃退出来たはずなのだ。

 

「ん~、そうだけど。 やっぱり、大好きな人に助けて貰いたかったから」

 

「そ、そうか。 でも、何事も無くて良かったよ」

 

会ってから数秒で、俺たちの周りには、甘い固有結界が展開されていた。

うん、周りのプレイヤーは、砂糖を吐きそうになっているな。

 

「で、どうかな。 ボクの浴衣姿は?」

 

ユウキはその場でくるっと一回転し、首を傾げた。

ユウキが身に纏っている浴衣は、綺麗な花柄が刺繍(ししゅう)された浴衣だった。

 

「うん、メッチャ可愛い。 誰にも見せたくないレベルだぞ」

 

「ありがと♪」

 

「よし、じゃあ、行くか」

 

「うん、行こっか」

 

俺がユウキの手を引き向かった先は、俺とユイで見つけた秘密の場所で、花火が良く見渡せる。

この場所は、世界樹から少し離れているので、とても静かだ。

俺とユウキは、その一角にあるベンチに腰を掛け、先程買ってきたブルーハワイ味のかき氷を食べていた。

もちろんストローは一つしかないので、必然的に間接キスになるが。

 

「美味しいね」

 

「ああ、夜風に当たりながら食べるのは、最高だな」

 

「それに、隣に最愛の人が居るからね」

 

「だな。 ずっと一緒に居ような」

 

「もちろんだよ♪」

 

その時、

 

――――ドーーーーンッ!!

 

と、大きな音を立て、アルンの空に綺麗な花を咲かせた。

一発目に大きな花火が上がると、それに続いて、青や緑、赤に黄色、紫と、鮮やかな色の花火が次々と打ち上げられる。

そしてその花火は、アルンの夜空を輝かせた。

 

「綺麗だね~」

 

「ああ」

 

それから数分間、二人は花火に見入っていた。

俺がゆっくり口を開いた。

 

「今年の花火大会は、行けなかったからな」

 

「現実の世界の花火大会の事だね」

 

その日は結婚式のお礼周りに行っていたので、花火大会へ行くことが出来なかったのだ。

 

「ああ」

 

「う~ん、じゃあさ、来年は行こうよ」

 

「おう、来年が楽しみだな。――ユウキ、後ろを向いてくれないか?」

 

「う、うん。 いいけど」

 

俺は左手を振り、アイテムウインドウを視界に表示させ、アイテムストレージから目的の物を取り出し、それをユウキの髪につけ、シャランと鈴の音が鳴った。

ユウキは俺の方に身体を向け、正面から俺を見た。

 

「これはプレゼントの簪だ。 優勝おめでとう」

 

「……ありがと。 これは一生大切にするね」

 

「一生って、大袈裟だな」

 

「ううん、大袈裟じゃないよ。 和人から貰った物全部、ボクの宝物だから」

 

二人は顔を朱色に染めながら、短く、触れ合うキスをした。

二人は顔を離し微笑してから、再び前に眼をやり、花火に見入った。

最後の花火が打ち上がり、夜空に花を咲かせ、花火大会が終了した。

 

「終わったな……」

 

「うん、終わったね……」

 

「じゃあ、戻るか」

 

「うん!」

 

俺たちは漆黒の翅を広げ、我が家に飛翔を開始した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

第二十二層、《森の家》ログハウス。

花火大会が終了し、アルヴヘイムは静かな夜へと戻っていた。

そんな中、星が綺麗に輝いている。

俺とユウキは庭に着陸して翅を畳んで消してから、歩み始め、俺が玄関のドアノブを捻り扉を開けた。

 

「「ただいま~」」

 

「パパ、ママ。 お帰りです!」

 

俺たちを迎えてくれたのは、我が愛娘のユイであった。

それから、俺が玄関のドアを閉めた。

ログハウスに集合していたメンバーは、アスナ、ラン、リズ、シノン、リーファであった。

クラインは明日の仕事の為、シリカは明日が早い為、俺たちより早くログアウトをしたらしい。

長い黒髪を揺らしながら、水妖精族(ウンディーネ)が話し掛けてきた。

 

「キリトさん、ユウキ、おかえりなさい。 クラインさんとシリカちゃんから伝言を預かっていますよ」

 

「おう、聞かせてくれ」

 

「えっとですね。 『また、イベントなどがあったら誘ってくれ』、『また誘ってください』、だそうです」

 

「おう、了解した。 後でメールでも送っておくわ」

 

ソファーに座っていたリズが口を開いた。

 

「……あぁーあ、お祭りも終わっちゃたわねー。 明日から暫くIN出来そうにないし……。 やっぱり、大学は大変だわ……」

 

「でも、良い息抜きにはなったんじゃないかしら」

 

「リズさん。 お互い頑張りましょう」

 

シノンに続いて、リーファだ。

リズが呟いた。

 

「そういえば、あんた等のデュエル大会のお祝いをして無いわよね?」

 

「別にやらなくても構わないが……」

 

「だね」

 

「ですね」

 

「そうですね」

 

上から、俺、ユウキ、アスナ、ランだ。

すると、シノンとリーファが言葉を発した。

 

「いや、やりましょう。 お祝いパーティー」

 

「そうですね。 やりましょう」

 

それから話は盛り上がり、お祝いパーティーが開催される事になった。

少し時間が経った頃、俺の隣に座っていたユウキが爆弾発言をした。

 

「ねぇねぇ、このまま皆でボス攻略をしない?」

 

「「「「「「「えっ!!??」」」」」」」

 

「剣士の碑に、皆の名前を残さない?」

 

ユウキが言う《剣士の碑》とは、新生アインクラッド第一層に存在している碑の事だ。

その《剣士の碑》は、各フロアボスを倒した者の名前が刻み込まれる。

碑には四十九人全員の名前を刻み込む事は出来ず、ボスに止めを刺した者の名前が刻まれるのだ。

だが、一パーティーで攻略すれば、全員の名前を刻み込む事が出来る。

ユウキが言っている事は、今の人数でボスを倒し、七人の名前を刻もうと言っているのだ。

 

「あんた……マジで言ってるの……」

 

俺の向かいに座っているリズが顔を引き攣らせ、リズの両側に座っているリーファとシノンも顔を引き攣らせていた

だが、ユウキに隣に座っているアスナと、その隣に座っているランを見てみると、笑みを浮かべていた。

うん、二人はやる気満々だな。

 

「ま、まぁ、此処には、トーナメントの優勝者からベスト4が揃って居るんだから、出来ない事は無いんじゃないか?」

 

すると、リズが呆れたように言った。

 

「……あんたら四人は、チートの塊みたいなもんだしね」

 

まぁうん。 自分で言うのも何だが、俺たちはチートの塊かもしれない。

俺たち四人は、チート級のシステム外スキルや、OSSを持っているのだ。

 

「いや、でも、ボスの一撃を貰ったら、結構なダメージを受けるぞ」

 

「でもあんた等は、それを躱すんでしょ」

 

「まぁ、そうかもだけどさ……」

 

俺たち四人は、ボスの攻撃を完全に躱すことが出来るかもしれないが、精神力、集中力が削られる。

ボス戦で、精神力、集中力が切れると、命取りになるのだ。

 

「やってみようか」

 

「そうですね」

 

「ものは試しだよ」

 

アスナ、ラン、ユウキがそう言うと、リズを大きな溜息を吐き、リーファとシノンは頷いた。

俺は両の手を打ち付けた。

 

「よし!! 決まりだな。 確か、第27層のボスになるな。 こいつは、俺たち七人で倒すぞ!!」

 

「「「「「「「おー!!」」」」」」」

 

それから七人と一人(ユイ)は立ち上がり、それぞれが戦闘服と武器を装備した。

俺は左手を振り、アイテムウインドウを視界に表示させてから、アイテムストレージからもう一つのロングソード《聖剣エクスキャリバー》を取り出し、剣を交差するように背に装備した。

それから全員は庭に出て、それぞれの翅を展開させてから、第27層迷宮区を目指し飛翔を開始した。

ユイも小妖精の姿になり、俺の肩にちょこんと座っている。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「見えたよ、迷宮区!」

 

眼を凝らすと、連なる岩山の向こうに一際巨大な塔が見えてきた。

円筒形のそれは地上から上層部まで真っ直ぐ伸び、迷宮区の入り口は、塔の下部に黒々と開いていた。

暫くホバリングし、モンスターが居ないのを確認してから、迷宮区入り口前に着陸した。

それから七人は巨大な塔を見上げ、大きく息を吐いた。

 

「さて、どういうフォーメーションで進もうか?」

 

「そうだね。 キリト君とユウキちゃんとランさんが前衛で、私とリズが中衛、リーファちゃんとシノのんは後衛で。 シンプルだけど、これが一番適任だと思うしね」

 

俺たちは、アスナの提案に頷いた。

 

「よし! さくっと攻略しますか」

 

六人は、腰や背に装備している鞘から音高く得物を抜剣し、アスナは世界樹の杖を掲げ幾つもの支援スペルを詠唱し、七人の身体にライトエフェクトが纏い、視界の左上、HPバーの下に複数のスターテスアップのアイコンが点滅する。

続けて俺が、全員に暗視魔法を掛け、視界を明るくする。

準備が完了した所で、迷宮区に足を踏み入れた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「……これって、私たち必要だったのかな……。 私たち、ただ歩いているだけなんだけど……」

 

と、リーファがそう呟いた。 こう思っているのは、リズとシノンも同様だった。

最初アスナは距離を稼いで攻撃を繰り出していたのだが、『私も戦いたい』と言い、前衛に参加したのだ。

これにより二組のペアが出来、POPしたモンスターがバッサバッサと斬り倒されていくのだ。 まさに無双状態だ。

最早この四人に掛かれば、迷宮区のモンスターは紙切れに等しいだろう。

この四人は、――アイテムを一つも使っていないのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

三時間掛かると予想したボス部屋前まで、僅か一時間程度で到着したのだった。

 

「久しぶりの戦闘は楽しかったな~」

 

「だな」

 

「私も楽しかったですね」

 

「うん、良い連携が取れていたと思うよ」

 

ユウキに続いて、俺、ラン、アスナだ。

そしてこの四人は、疲れを見せていない(・・・・・・・・・)

 

「さてと、ボスを拝みに行きますか」

 

「ここのボスをこの七人で倒しちゃおー」

 

「頑張りましょう」

 

「ええ、そうですね」

 

俺は扉に手を掛け、二枚の扉の片方を押し開けていく。

ごろごろと雷鳴に近い音をフロア全体に響かせながら、扉が開き始めた。

内部は完全な闇――。

時間を置いて、ボス部屋の左右が無数の青い炎が灯り、ボス部屋内部を明るくする。

 

「よし!! 行くぞ!!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

俺の掛け声と共に、ボス部屋に突入した。

ボス部屋は完全な円形で、床面は磨かれた黒い石敷、広さも相当なものであった。

そして、一番奥に次の層に続く扉が見える。

全員は、各自の武器を構えた。

――次の瞬間、部屋の中央に巨大なポリゴンの塊が集まり、ボスの形を形成し、最後に“ぱしゃーん”と無数のポリゴン片を撒き散らして、ボスが実体化した。

ボスモンスターは、身の丈が四メートルあろうかという黒い巨人だ。

筋骨の逞しい胴体から二つの頭と四本の腕を生やし、それぞれの手に凶悪なフォルムの鈍器を握っている。

巨人が一歩踏み出すと、地震のような揺れがフロア全体を震わせた。

赤く光る四つの眼で、全員を一瞥した後、野太い咆哮を放った。

巨人は上側の二本の腕を振り上げ、振り下ろす。

 

「全員、回避だ!!」

 

全員は左右に別れるように、ハンマーを回避した。

そのハンマーは鈍い音を立て、床に打ち付けられる――。

新生アインクラッドのボスモンスターのHPゲージは表示されない為、残りHPはボスの挙動から推測するしかない。

 

「ユイ。 ボスの挙動は任せた!」

 

「了解です! パパ」

 

そう言ってから、ユイは後方のシノンの肩に移動した。

俺はそれを確認してから、全員に指示を出す。

 

「よし!! 俺とユウキとランとアスナで攻め込む。 リズとリーファは隙が出来たら攻撃してくれ。 シノンは後方から支援攻撃だ!!」

 

俺たちのメンバーには、壁役(タンク)となるプレイヤーが居ないので、必然的に全ての攻撃を回避することが必須条件になる。

本来なら、前衛に立つプレイヤーは長くても五分で交替するのがセオリーだ。

だが、前衛に立てるのは、俺、ユウキ、ラン、アスナだけだ。

二人交替でスイッチも出来るが、普段より早く、精神力、集中力が削られていくので、時間は掛けられない。

なのでスイッチはせず、継続的にダメージを与えるしかない。

 

四人は、振り下ろされたハンマーや鎖を紙一重で躱し、それをかい潜って的確に攻撃を与えていくが、床から飛び散った破片でHPがじりじりと削られていく。

時には、アスナかランがHP回復やスターテスUPへ回り、三人の支援をする。

アスナが振るった細剣が、ボスにダメージを与えた時、――ボスが大きく隙を見せ、ユイが大きく叫んだ。

 

「ボスのHPゲージは、残り一段と半分だと思います!!」

 

「俺たちのOSSを仕掛けるぞ!! リズとリーファも大きい攻撃だ。 シノンは支援攻撃を継続!!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

俺は二刀流OSS《スターバースト・ストリーム》計十六連撃を繰り出し、ランは片手剣OSS《夢幻闘舞》計五連撃を放ち、剣技連携を使用し、片手剣OSS《桜華狂桜》計六連撃に繋げ放つ。 アスナは、細剣OSS《スター・メモリー》計七連撃を繰り出した。 そしてユウキは、片手剣OSS、《エンド・オブ・ハート》三連斬+七連直突きの計十連撃を放つ。

リーファとリズも、最上位ソードスキルを繰り出す。 シノンも後方から弓で支援攻撃。

鋭い剣先がクリティカル・ポイントを攻撃するたび、ボスは悲鳴じみた絶叫を上げていた。

そして全員の攻撃が終わると、ボスは全身を凍らせ、黒光りする巨人の肌に無数の白い亀裂が発生し、ひび割れ、硝子のように無数のポリゴン片となって爆散した。

俺とユウキとランとアスナ以外のメンバーは、尻餅を突いてしまった。

――体力と精神力に限界が来たのだろう。

 

「わ、私、もう無理……」

 

「ええ、私もです……」

 

「私もだわ……」

 

リズに続いて、リーファ、シノンだ。

俺はこれでボス戦が終了したと思ったが――――ボス戦はまだ終わっていなかったのだ。

前方に無数のポリゴン片の塊が凝縮し、形作ったのだ。

このボスは、黒い巨人ボスを倒した数秒後に実体化するらしい。

ボスの名は、≪The Dionaea muscipula≫(ディオナラ・ムスキプラ)だ。

 

「……ハエトリグサ、か。――こうなったら、俺たち四人で倒すぞ!! アスナ、ラン。 あれ(・・)を使うしかないぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

俺とユウキは突撃を開始し、ボスに攻撃を仕掛けた。

アスナとランは視界にスキルウインドウを表示させ、スキルの変更を完了させてから、OKボタンにタッチしウインドウを消し、走り出した。

 

「「二人共、スイッチ!!」」

 

ランとアスナは振り下ろされた太い(つた)を回避し、俺とユウキと入れ変わり、アスナは流星剣上位剣技《流星神秘》計八連撃の高速突き攻撃を放ち、ランは疾風剣上位剣技《疾風迅雷》発動させ、雷風を纏った剣で高速九連撃を繰り出した。 これを受けて、ボスがノックバックした。

流星剣と疾風剣は二人のユニークスキル(・・・・・・・)であり、流星剣は全プレーヤーを凌ぐ剣の速度(・・・・)の持ち主に、疾風剣は全プレーヤーを凌ぐスピード(・・・・)を持つ者に与えられるのだ。

ボスは体勢を立て直し、勢いよく蔦を振り下ろしたが、俺とユウキが二人の前に立ち、ユウキは剣を横にして、俺は剣をクロスさせて頭上に掲げ受け止め、“がきーッん”という音がフロア内に響き渡った。

アスナとランの硬直が解けたのを確認してから、俺とユウキは蔦を弾いた反動と共に後退した。 アスナとランもそれに倣う。

俺はボスから距離を取り、腰に装備したベルトから三本のピックを同時に抜き、投剣スキル《シングルシュート》を発動させ、ボスの意識を三人から逸らす。

その隙に三人はボスにダメージを与える。

このように四人はスイッチし、後方に下がった者が回復や、ボスにデバフを掛けるというようになっていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

戦闘が開始してから、十分が経過していた。

ボスのHPゲージも二段を切り、残り一段と半分になっているはずだ。

たった四人でここまで削れるとは、破格のペースだ。

そして、デバフのアイコンも凄い事になっていた。

《ATK、DFE低下》、《クリティカル率低下》、《毒》、《凍傷》、《麻痺》、《衰弱》、等々。

一般プレイヤーでは、ここまでのデバフを掛ける事は不可能だろう。

何故なら、魔法を詠唱している途中で、攻撃を受け死んでしまう事が多々あるからだ。

だが、四人の連携は完璧なので、後方に居るプレイヤーには攻撃が届かない様に、攻撃を弾くなり、ボスの意識を逸らしたりしているのだ。

最早四人は、誰がどのような攻撃を仕掛けるか、誰が支援に回るのかなどは、声を掛けず解るのだ。 まさに以心伝心だ。

これは、強い絆から生まれた信頼からだろう。

そして、ボスが悲鳴に近い声を上げ、行動を停止させた。

 

「今だ!! 全ての蔦を斬り落とせ!!」

 

俺の掛け声と共に、四人が凄まじい速度で動き、蔦を斬り落としていく。

残りの攻撃オプションは、噛み付きだけだ。

――だが、俺の予想は外れた。

ボスのHPゲージが残り一段を切ったのか、今までと違う挙動を見せたのだ。

ボスは大きく息を吸い、大量の花粉に似たものを吐き出したのだ。

 

「(――これを喰らったらやばい……)」

 

それが、四人に迫ってくる。

四人は危険を察知し、敏捷力を最大にして振り切った。

 

「どうしよう……。 近づけないよ……」

 

ユウキの言う通り、近づくことが難しくなってしまった。

だが、ボスのHPゲージは一段を切っているはずだ。

――ならば、

 

「花粉効果の時間が過ぎたら、俺たちのOSSと最上位剣技を仕掛けるぞ」

 

「ええ、私はそれに賛成です」

 

「私もよ。 それに、これ以上は私たちが持たないかも」

 

確かに、アスナの言う通り、四人の精神力は限界に近い。

――これで、決めるしかない。

 

俺とユウキは走り出してから高く跳び、宙高く滞空したまま、俺は二刀流OSS《ジ・イクリプス》計二十七連撃を繰り出し、ユウキは片手剣OSS、《マザーズ・ロザリオ》計十二連撃を放った。

空中でソードスキルを放った場合、例えそこが飛行不可エリア内だとしても、技が出終わるまで使用者が落下することはない。

アスナとランも走り出し、アスナは流星剣最上剣技《流星神技》計九連撃を放ち、ランは疾風剣最上位剣技《疾風乱舞》計十連撃を放った。

 

「「「「はああぁぁああ!!」」」」

 

黄色、緑、紫、オレンジと、様々な光が交錯し、ボスを切り刻み、抉る。

ボスは、高速連撃、突き攻撃を受け、悲鳴にも似た声を漏らしていた。

そして最後の攻撃が、ボスの弱点と思われる場所に深く突き刺さり、暫しの時間を置いてから、刀身中央からひび割れ、ポリゴン片となり爆散した。

俺とユウキは着地してから床に尻餅を突き、アスナとランはその場に座り込んだ。

円周部から、ドーム内部を薄闇に照らしていた青い火が一瞬激しく揺れてから、橙色へと変わった。

同時にボス部屋全体が明るい照明に満たされ、漂っていた妖気の残滓を追い払った。

“ガチャリ”と音を立て、正面奥の、次の層に繋がる扉の鍵が外れた。

これを確認したら、疲れがドット押し寄せてきた。

 

「……め、メッチャ……疲れた……き、きつかったな……」

 

「……はぁはぁ……づ、疲れた……」

 

「……で、ですね。……き、きつかったです……」

 

「……し、暫くは……ぼ、ボス戦やりたくないな……」

 

そのまま数分休んでから、四人は立ち上がった。

話していると、リズとリーファとシノンが、俺たち四人の元までやって来た。

 

「遂にやっちゃったわね。 これであんたら四人は、今以上に有名になるわよ。 ユニークスキルの事もあるしね」

 

リズは、俺たち四人に労いの言葉をくれた。

すると、リーファがはっとしてから、眼を輝かせた。

 

「え、え、あれって、ユニークスキルなの」

 

「はぁ~、私は、もう何も言わないわ……」

 

シノンは大きな溜息を吐いた。

リーファがその場でぴょんぴょん飛び跳ね、言葉を発した。

 

「お兄ちゃん、お義姉ちゃん。 《剣士の碑》を見に行こうよ!!」

 

シノンもポンと手を打ち、

 

「そうね。 名前が刻まれているか、確認に行きましょうか」

 

そう。 この七人でボスを撃破したという事は、七人の名前が《剣士の碑》に刻み込まれているはずだ。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

俺が次の層をアクティベートしてから、この層の転移門から第一層の《はじまりの街》に転移した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

巨大な王宮に背を向け、花壇の間を縫うように歩くと、すぐ前方に四角い《黒鉄宮》が姿を現した。

そこは、新生アインクラッドで有名な観光スポットの為、初心者からベテランプレイヤーが出入りしていた。

高いメインゲートを潜り、建物の内部に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。

そのまま前進し、奥の大広間の《剣士の碑》がある場所へ向かった。

その大広間の中央には、巨大な横長の黒い碑が鎮座してる。

七人は、黒光りする碑に眼を向ける。

 

「お、あったぞ」

 

「あ、本当だ」

 

「あったね」

 

「ですね」

 

「本当に私の名前があったわ」

 

「私もです」

 

「ええ、そうね」

 

上から、俺、ユウキ、アスナ、ラン、リズ、リーファ、シノンだ。

黒光りする碑の中央、【Braves of 27th floor】の下に、アルファベットで七人の名前が刻み込まれていた。

こうして、俺たちの祭り兼ボス戦は、終わりを迎えた――。




書きたいことを書いていたら、文字数が増えすぎてしまった……(汗)
分けようと思ったんだが、そのまま投稿しちゃいました☆
皆、キリト君とユウキちゃんのデートには、突っ込まなくなっちゃいましたね。
まぁ、二人はいつでもラブラブですから、皆、なれちゃったんでしょうね(笑)

え~、ボス戦が淡々進んで気がするが……、大目にみてっちょ☆
このボス戦で思う所があるかも知れませんが、ご都合主義ということで。
今回の話で、アスナさんとらんちゃんのユニークスキルが出ましたな。
キリト君は二刀流、ユウキちゃんは黒燐剣、アスナさんは流星剣、らんちゃんは疾風剣ですな。
まぁ、キリト君とユウキちゃんはOSSとして再現しましたが。

らんちゃんとアスナさんの全プレイヤーを凌ぐとありましたが、キリト君とユウキちゃんは、例外ですね(笑)もちろん、アスナさんはらんちゃんのスピードについていけますし、らんちゃんもアスナさんの剣にはついていけますよ。この二人も例外っすね(笑)
じゃあ、何で例外が居るのにユニークスキルが持てたんだ!?って言いたくなりますが、ええ、二人にも持たせたかったんです……。矛盾があるんですが、そこは暗黙の了解でおねぇげぇしやす……。キリト君とユウキちゃんは、OSSで完成させたユニークスキルがありますからね(^O^)

てか、凄すぎだよね。
ボスを四人で倒しちゃったよ!!最早、チートのチートやん(笑)
でも、リズもリーファもシノンも頑張ったんだよ。
それと、ユイちゃんは最後までいましたよ~。言葉は発さなかったが。

そして、お知らせです(^O^)
この小説のリメイク版を出そうと思っているんですよね~。(まだ、考え中の段階ですが)。

次回の話は、まぁ、一応考えているんですが、不定期になるかも(>_<)
でも、早く投稿できるように頑張ります!!
それでは、ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第109話≪初めての喧嘩とお月見≫

どもっ!!

舞翼です!!

え~、お待たせして申し訳ない(汗)
てか、二作品の連投はキツイね(^_^;)

今回は、少し短いかも。
それでは、後日談第14弾いってみよー(^o^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


《ALO統一デュエルトーナメント》が終了した数日後。

桐ケ谷和人は、可愛い奥さん桐ケ谷木綿季の前で正座しながら、問い詰められていた。

 

「ねぇ和人。 昨日、ALOの世界樹付近で、女の子と一緒に居たのを見たんだけど……あれは何かな……」

 

俺は昨日、女性プレイヤーに案内とレクチャーを頼まれたのだ。

 

「……いや、あれは初心者の女の子に武器や防具などの店を教えてあげたんだ……。 後、レクチャーしてくださいってお願いされたから、レクチャーもしてあげたな……」

 

何故か、背筋に冷汗が一筋流れ出た。

何にも悪いことは……してないはずだ。

 

「じゃあ、何でその女の子は腕に抱き付いていたのかな?」

 

木綿季さん。 顔は笑っているけど、眼が笑っていないよ……。

やばい……メチャクチャ怖いです……。

俺は些細な反論を実行する事にした。

 

「……えっとな。 あれは、女の子が勝手にしたことで……俺は悪くない……はずです」

 

木綿季の気迫に飲まれて、最後は敬語になってしまった。

……木綿季の背後から、黒いオーラが見えるよ……。

第六感が緊急警報を鳴らしているが、俺はこの場から逃げるスキルは持ち合わせていない。

 

「ふ~ん、和人は、満更でもなさそうにしてたよね」

 

「……いや、えっと……それくらい……」

 

後半に言った、『それくらい』がトリガーになってしまった。

 

「今それくらいって言ったよね……。……――和人のバカ―――――ッッ!!」

 

木綿季は右手を振りかぶり、渾身の力で俺の頬に手の平を打ち付けた。

俗にいう、ビンタって言う奴だ。

“パチーン”と高い効果音が、マンション内に響き渡った。

そして、木綿季はマンションから出て行ってしまった。

 

「え……これって家出なのか……」

 

俺は数分間フリーズしたまま、動くことが出来なかった。

木綿季に嫌われたら、俺、立ち直れないぞ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

明日奈と藍子が住むマンションへ、木綿季は身を寄せていた。

落ち着いてから、先程の喧嘩内容を話した。

 

「なるほど。 木綿季ちゃんが怒るのは無理もないよ」

 

「で、今はどんな状況なのかしら?」

 

藍子にそう聞かれ、木綿季は答えた。

 

「うん、電話は着信拒否にしてるし、メールもシカトしてる……」

 

「あちゃ~、和人君、そうとう参ってるよ」

 

「ですね。 初めてじゃないですか、夫婦喧嘩は?」

 

藍子の言う通り、和人と木綿季は付き合いだしてから約七年、喧嘩をした事が一度もないのだ。

 

「和人君は乙女心が解っていないからね。 木綿季ちゃんを惚れさせたのが不思議になってきちゃったよ」

 

そう。 和人はVRの研究や、機械のプログラミングなどはとても詳しいのに、女の子の気持ちなどには疎いのだ。

 

「木綿季は、和人さんと離れるのは辛くないの?」

 

「辛いかな……。 戻って、和人に謝りたいよ。 でも、和人に拒絶されたら、ボク立ち直れないよ」

 

「ふふ、大丈夫よ。 和人さんは、木綿季を求めているわよ」

 

「そうそう。 和人君は、木綿季ちゃんの事を思ってるよ」

 

明日奈と藍子の言う通り、和人は木綿季の事を世界一愛しているのだ。

 

「うん、ちゃんと謝って仲直りするよ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

所変わって、エギルが経営する≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫。

俺は革張りのスツールへ座り、酒が入ったタンブラーを呷っていた。

 

「エギル、もう一杯くれ……」

 

俺はそう言うと、手に持っていたタンブラーをカウンターに“ドン”と音を立てて置いた。

 

「おいおい、流石に飲み過ぎだぞ。 ユウキちゃんと喧嘩でもしたのか?」

 

「…………ああ、電話もメールもダメなんだ……」

 

「なるほどなぁ。 こりゃ、そうとうきてるな」

 

俺の周りは負のオーラに包まれ、空気が重くなっているのだ。

その時だった、メールの着信音が鳴ったのだ。

俺は瞬時にスマホを取り出し、メールを確認した。

メールの内容はこうだ。

 

『和人、今から会いたいよ。 先にマンションへ帰ってるね。 木綿季より』

 

俺はこれを見て、一瞬で酔いが覚めた。

秒速という速度で支度し、カウンターに代金を置いた。

 

「エギル。 金はここに置いとくからな」

 

「おう、ちゃんと仲直りしろよ」

 

それから扉を押し開け、店を出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

急いでマンションへ戻りリビングへ走ると、そこにはテーブルの椅子へ座り、木綿季が顔を俯かせて待っていた。

木綿季の傍まで行き、話し掛けようとしたその時、木綿季が顔を上げて同時に言葉を発した。

 

「「あの……」」

 

暫しの沈黙が流れ漆黒の瞳がぶつかり、俺が先に口を開いた。

 

「ごめんな……。 俺、無神経だったな……。 本当にごめんな……」

 

「……ううん、ボクの方こそごめんね。 力一杯ひっぱたいちゃって……」

 

「いや、いいんだ。 木綿季が嫉妬した記念として受け取っておくよ」

 

「もう、和人は」

 

「これで仲直りか? あ、それと俺の腕に抱き付けるのは、木綿季だけだ。 今決めた」

 

「これで仲直りだね。 和人の腕に抱き付けるのは、ボクだけだね」

 

「おう。――木綿季、見せたいものがあるんだ。 一緒に外に出てくれないか?」

 

「う、うん。 いいけど」

 

木綿季は立ち上がり、玄関に向かった。

俺も木綿季を追うように歩き出す。

俺と木綿季は玄関で靴に履き替え、俺が扉のドアノブを捻り、押し開けた。

それから階段を下り、駐車場へ向かった。

 

「ほら」

 

そこで二人が見た物は、綺麗な満月だった。

 

「わぁ、綺麗だね」

 

「さっきの帰りに見たんだ。――これを木綿季と一緒に見たくてな」

 

「そっか、ありがとね。 和人」

 

「こんなのお安い御用だ」

 

それから俺と木綿季は、綺麗な満月を見入った。

数分経過した頃、木綿季が言葉を発した。

 

「ちょっと早いけど。 お月見をしようよ。 ここから数分歩いた所に神社があるんだ」

 

「おう、いいぞ。 団子をマンションから持っていくか」

 

俺は木綿季の手を引きマンションの扉の前へ移動すると、繋いだ手を解いてから、俺がマンションへ入り、キッチンへ設置してある冷蔵庫から月見用の団子を取り出して、玄関へ向かい靴に履き替え、ドアノブを捻り扉を押し開け、外で待っていた木綿季と合流をした。

 

「んじゃ、行くか」

 

「ん、了解♪」

 

俺と木綿季は、目的地へ向かって歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

幻想的に光る満月を背に、二人は神社へと続く長い階段を登っていた。

そして、頂上へ到着した。

 

「ふう、着いたな」

 

「だね。 結構長い階段だったね」

 

「だな」

 

二人は身体を反転させ、階段へ腰を下ろした。

二人の間には、マンションから持参した月見用の団子が置かれ、団子を食べながら満月に見入っていた。

団子が全て無くなったのを確認してから、木綿季が言葉を発した。

 

月が綺麗だね(・・・・・)

 

「そうだな」

 

木綿季は、月が綺麗だね。の意味を知っていたのだろうか?

……聞いてみるか。

 

「木綿季、月が綺麗だね。って意味知っているか?」

 

「う~ん、わからないかも」

 

「えっとな、――I love youっていう意味なんだ」

 

すると、木綿季は右手人差し指を顎に当てた。

 

「――ボクは和人を愛してるから、間違ったことは言ってないよ」

 

「そうだな。――俺も木綿季を愛してるよ」

 

俺と木綿季は顔を少しだけ赤くした。

 

「ちょっとだけ恥ずかしいね」

 

「まぁそうだな。 ちょっとだけな」

 

二人は再び満月に眼を向けた。

それから数分後、木綿季が膝をパンパンと叩いた。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろっか?」

 

「おう、了解した」

 

俺はゴミ袋を持ってから立ち上がり、木綿季も俺に倣うように立ち上がった。

 

「んじゃ、帰るか」

 

「OK」

 

二人は長い階段を下り、帰路に着いた。

帰宅するその間も、二人の手はしっかりと繋がれていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

マンションの扉を押し開けて、中に入って扉をしっかり締めてから、俺が鍵を掛けた。

 

「「ただいま~」」

 

俺と木綿季は靴を脱ぎ、リビングへ向かって歩き始めた。

俺はリビング中央まで移動し、そこに腰を下ろす。

 

「木綿季、おいで」

 

木綿季は俺の隣に腰を下ろした。

因みに、二人共正座だ。

俺はポンポンと膝を叩いた。

 

「もしかして、膝枕してくれるの?」

 

「おう、最近はして貰ってばかりだったからな」

 

「じゃあ、お邪魔します」

 

木綿季はその場で横になり、俺の傍まですり寄って来て、膝に後頭部を乗せた。

俺は、木綿季の長い黒髪を優しく撫でるように触った。

木綿季の黒髪は、とてもサラサラしていた。

 

「和人の膝枕、気持ちいよ」

 

「そ、そうか」

 

「うん、これはボクだけの特権だね」

 

木綿季の両の手が俺の頬に差し伸べられ、優しい笑みが向けられた。

俺はこの笑顔を守りたいと思った。――そして、一生隣にいて欲しい。

 

「どうしたの和人。 考え込んでるようだけど?」

 

「……木綿季には、一生俺の隣にいて欲しいと思ってな」

 

「ボクは和人から離れるつもりはないよ。 最後の一瞬までね」

 

木綿季は差し伸べていた手を解き、優しく微笑んだ。

俺は優しく頭を撫でた。

 

「これからもよろしくな」

 

「うん、任せて」

 

――この時俺は誓った、最後の一瞬まで君と生きると。




今回の話は、初めての夫婦喧嘩でしたね。
和人君は、黒の剣士で有名ですからね~(笑)
後、お月見ですか。(お月見の日にちは曖昧だが)
途中から糖分多かったね~。お月見でのあの言葉も出ましたしね(笑)

次回の話は考えていますが、またまた不定期になるかもです(>_<)
さてさて、『ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~リメイク版』も投稿していますので、よろしくお願いします!!

それでは、ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!


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第110話≪バレンタインとユイの想い≫

ども!!

舞翼です!!

ネタがすぐに思い浮かんだので、早く投稿が出来ました(^O^)
今回の話の前半は、激甘ですね。
後半は、オリキャラが登場しますよ~。
てか、後日談は春夏秋冬で進んでますね~。今気付いたぜ。

それでは、後日談第15弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。




二〇三〇年。二月十四日。

――今日はバレンタインデーだ。

キッチンのテーブルの上には、各種調理道具とチョコが並べられ、最愛の人がエプロンを身に付けキッチンへ立ち、手作りチョコを作ってくれている。

俺は、リビングに設置してあるテーブルの椅子へ座りながら、料理をしている奥さんを眺めていた。

木綿季は完成したチョコを皿の上へ乗せ、両の手で皿を持ちながらリビングへ移動し、テーブルの上へ置いた。

 

「和人。 ハッピーバレンタイン!」

 

「ありがとな。――おお~、旨そうだな!」

 

「ありがと♪ これはね、トリュフだよ」

 

「こ、これは絶対旨いぞ!!」

 

俺の視線は、皿の上に乗ったトリュフに釘付けになっていた。

綺麗に形作られ、丹精が込められている。

――店に出せるレベルだ。

 

「た、食べていいか?」

 

「いいよ。 召し上がれ」

 

木綿季は優しく微笑み、向かいの椅子へ座った。

 

「い、いただきます」

 

トリュフを一掴みし、口の中に放り込んだ。

すると、口一杯にほろ苦い甘さが広がった。

――あまりの旨さに、俺は夢中に手を動かし、トリュフを頬張った。

向かいへ座る木綿季は、微笑みながら俺を眺めていた。

 

「どうかな? 美味しい?」

 

俺は無言で首を縦に振った。

リスのように頬を膨らませているので、言葉が出せないのだ。

俺は数秒掛けて、トリュフを飲み込んだ。

 

「お、美味しいです……」

 

「よかった~、味は確かめたんだけど、ちょっとだけ不安だったんだ」

 

「いや、メチャクチャ旨かったぞ。 それに出来たてを食べられるとか、最高だよ」

 

「そ、そう。 嬉しいな」

 

「てか、木綿季は食べないのか?」

 

俺がそう言うと、木綿季は暫し考え込んでから、頬を赤く染め上目遣いで俺を見てきた。

 

「え、えっとね。 和人がボクに食べさせてくれるなら……ダメかな」

 

「お、おう、いいぞ」

 

俺はトリュフを片手で一掴みし、木綿季の口許まで持っていく。

 

「あ、あ~ん」

 

木綿季は、トリュフを持った指ごとパクリと食べてしまった。

俺は予想外の事で、顔をカーッと赤く染めた。

俺は、指をゆっくりと抜いた。

 

「(こ、これは心臓に悪いぞ……)」

 

心臓の鼓動が“ドクドク”早くなっていて、音が聴こえてきそうだ。

俺の理性は一瞬ぶっ飛びそうになるが、寸前の所で抑える。

 

「た、確か、ALOでユイが待ってるんだっけか?」

 

「う、うん。 ぼ、ボクはお皿を流しに持っていくから、先にINしてて大丈夫だよ」

 

「お、おう、了解した」

 

俺は椅子から立ち上がり、寝室へ向かった。

寝室のドアを潜りベットの横まで移動した俺は、ベットの上へ横になると、傍らに置いてあるアミュスフィアを頭に被り、妖精の世界へ飛び込む言葉を発した。

 

「リンク・スタート」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

第二十二層《森の家》ログハウス。

部屋の中央に降り立った俺の胸に飛び込んで来たのは、愛娘のユイだ。

 

「パパ! ハッピーバレンタインです!」

 

ユイから、ハート形のチョコレートを受け取った俺は、ユイの頭を撫でながら感謝の言葉を贈った。

 

「ありがとな、ユイ」

 

「えへへー、実は、ママと一緒に作ったんですよ。 パパ、食べてみて下さい」

 

「おう、頂くわ」

 

俺は撫でている手を解いてから、ユイから受け取ったハート型チョコレートを一口齧りした。

口の中で溶けたチョコレートは、現実世界の味と遜色がなかった。

 

「どうですか?」

 

ユイが首を傾げて聞いてきた。

 

「うん、旨いよ。 良く出来てるぞ」

 

俺の言葉にユイは、ぱっと表情を輝かせた。

 

「わあぁ、やりました。 ママ、やったーです!!」

 

後ろを振り向いてみると、ユウキがログインしていたのだ。

ユイはユウキも元へ駆けて行き、ユウキはそれを優しく抱き止める。

 

「やったね、ユイちゃん」

 

「はいです!」

 

ユイは成功した事に喜び、ユウキにギュっと抱き付いた。

すると、ユイが顔を覗かせた。

 

「えっと、ママはパパにチョコをあげたんですか?」

 

ユイの不意打ち?により、俺とユウキは先程の事を思い出してしまい、完熟トマトのように顔を赤くしてしまった。

 

「う、うん。 ママはパパにチョコをあげたよ」

 

「お、おう。 ちゃんと貰ったから大丈夫だぞ。 ユイ」

 

ユイはユウキの腕の中から離れ、数歩後方へ移動してから、俺とユウキを交互に見た。

 

「これは、何かありましたね。――パパとママのラブラブな話、聞きたいです」

 

「ま、まぁ、俺はいいけど……。 ユウキは?」

 

「う、うん。 ボクもいいよ」

 

それから、俺とユウキは先程あった事をユイに話してあげた。

すると、ユイはこう言った。

 

「パパとママは、いつもラブラブなんですね。 私も、その場に居たかったです」

 

ユイの声は少しずつ、小さくなっていった。

それを見て、俺が言葉を発した。

 

「ユイも、現実世界で一緒に暮らせるようになるぞ。 研究が上手くいけば、ユイを現実世界に顕現する事が可能になるんだ」

 

「それが成功すれば、ママとショッピングやお料理ができるようになるよ」

 

俺とユウキがそう言うと、ユイにはとても嬉しそうにしていた。

この情報は、ユイには最高のプレゼントだったのだろう。

 

「本当ですかッ!!」

 

「ああ、本当だぞ。 だから、もう少し待っててくれるか?」

 

「それまでにママは、ユイちゃんのお部屋とか、生活用具を用意しとくね」

 

「はい!!――パパ、ママ。 ありがとうございます」

 

ユイはその場で涙を流していた。

ユウキは、ユイも元までゆっくりと近づき、包み込むように優しく抱きしめた。

 

「んじゃ、俺とユウキはログアウトしても大丈夫か?」

 

「大丈夫? ユイちゃん、寂しくない?」

 

ユイは顔を上げ、笑みを浮かべた。

 

「はい、大丈夫です。――私、待ってます。 パパとママと暮らせるのを」

 

「おう、任せろ。 絶対に成功させるからな」

 

「うん、一緒に暮らそうね」

 

そう言ってから、ユウキは抱擁を解き、左手を振りメインメニュー・ウインドウを開き、一番下に表示させている《Log Out》へ指を動かした。

俺もユウキに倣って《Log Out》ボタンまで指を動かす。

 

「じゃあ、パパとママは現実世界へ帰るな」

 

「ユイちゃん、またね」

 

「はい」

 

俺とユウキはユイを見てから微笑みかけ、《Log Out》ボタンへタップし、現実世界へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

それから数ヵ月後。

俺は大学のVR研究室に徹夜をして籠っていた。 既に朝日が見える時刻だ。

俺が実験室に籠っている理由は、――ユイを顕現出来る装置の完成まで、後少しだからだ。

そして最後のピースが嵌まり、――完成した。

 

「カズ。 完成したな……。 これを完成させる事は、カズの夢でもあったんだろ?」

 

今声を掛けた人物は、俺が一年時に知り合った友人だ。

彼の名前は、如月悠(きさらぎ ゆう)

悠とは一緒の学部であり、同じ実験チームのメンバーである。

 

「……ああ。 取り敢えず、教授を呼んで来てくれないか。 俺はここから動けん」

 

それから数分後、VR研究を取り仕切る教授が実験室へやって来た。

 

「桐ケ谷君。 如月君から聞いたんだが、完成したのかい?」

 

「はい。――最初に俺が出した条件を覚えてますか?」

 

「これを世間に出す前に、桐ケ谷君が一度だけ私用で使用をする事だったな。 覚えているとも」

 

「じゃあ……」

 

「うむ。 使ってくれたまえ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺は現実世界にユイを顕現する為の機具などを設置し、端末からユイに話し掛けた。

 

「ユイ。 起きてるか?」

 

すると、ユイは欠伸をしながら返事をしてくれた。

 

『おはようございます、パパ』

 

「――今からユイを、現実世界へ顕現させるからな」

 

ユイは俺の言葉に凄く驚いていた。

 

『ほ、本当ですかッ!!??』

 

「ああ、――それじゃあ、いくぞ」

 

『はい! お願いします!』

 

俺は装置を起動させた。

すると、装置の中のカプセルが白く輝き、人型を形作った。

其処には、黒髪のロングヘアーを自然に流し、白いロングのワンピースを着た少女が立っていた。

ユイは俺の顔を見てから、カプセルの扉を開け、俺の胸の中へ飛び込んで来た。

俺は体勢を崩しそうになるが、足に力を込めて体勢を立て直した。

 

「パパ、パパ。 会いたかったです」

 

「おう、俺もだ」

 

俺はユイの腰に手を回し、ポンポンと背を優しく叩いた。

悠がおずおずと声を掛けてきた。

 

「か、カズ。 パパって?」

 

「ああ、ユイは俺の子供だ。 ちなみに、母親は木綿季だ。 経済学の“姫”の方が解りやすいか?」

 

みんな知っていると思うが、と付け足した。

俺と木綿季の噂話が確信した次の日には、二年の間には既に広まっていたのだ。

それから数日で、大学全体に広まってしまったのだ。

……恐るべし、大学の情報網。

 

「教授。 この事は内密でお願いします」

 

「そうだな」

 

「悠もいいか?」

 

「了解だ。――まさか子持ちだとは、これがバレたら色々大変になるもんな」

 

「じゃあ、俺は帰ります。 この装置は、教授と悠に任せます。 何かあったら、何時でも呼んでください」

 

俺はユイとの抱擁を解き、手を繋いでから、俺とユイは扉に向かい歩き出した。

そして俺が扉を開け、外へ出てから扉を閉めた。

 

「よし、帰るか。 俺たちの家へ」

 

「はい! パパとママのお家にお邪魔するの、楽しみです!」

 

数分歩き、マンションへ到着した。

階段を上り、二〇一号室の扉の前に立ち、鍵を開けてからドアノブを捻り押し開けた。

ユイも入ったのを確認してから、扉を閉めた。

 

「「ただいま(です!)」」

 

「おかえりなさい」

 

リビングからパタパタと歩きながら、木綿季が迎えてくれた。

木綿季は、俺の隣に居る少女を見て眼を見開いた。

 

「も、もしかして……ユイちゃん」

 

「はい! ユイです。 ママ」

 

「ユイちゃん!!」

 

木綿季は、ユイを抱きしめた。

 

「和人、成功したんだね」

 

「ああ。――取り敢えず、リビングへ行こうぜ」

 

俺は靴を脱いで、リビングへ向かう。

木綿季も抱擁を解いてから、ユイと一緒にリビングへ向かった。

テーブルの椅子にはユイが木綿季の隣へ座り、俺は木綿季と向かい合わせになるように着席した。

ユイは、リビング内をぐるりと見ていた。

 

「どうだ、ユイ。 ここが俺と木綿季が一緒に暮らしている場所だ」

 

「とても綺麗な所ですね。 私も、今日からここに住めるんですね」

 

「そうだよ。 ユイちゃんの部屋と生活用具も揃えてあるからね。 足りないも物があったら、ママとショッピングしようね」

 

「はいです!」

 

「よし、今日からユイは、桐ケ谷優衣だ。 どうだ?」

 

「……桐ケ谷……優衣……。 今日から私は、桐ケ谷優衣です!!」

 

「おう、よろしくな。 優衣」

 

「これからよろしくね。 優衣ちゃん」

 

「パパ、ママ。 これからよろしくお願いします」

 

優衣はぺこりと頭を下げた。

――この日は、思い出の一ページに刻まれた。




遂にユイちゃんが現実世界に登場です!
てか、話がぶっ飛びすぎたかな……(汗)
大学二年で装置を完成させるとか、凄すぎでしょ!
まあ、チームなので四人体制ですが。
完成まで残っていたのは、悠君だけだったんでしょうね。
これのレポート見た教授が、作ってくれって頼み、チームを作って作製してたんでしょうね。で、条件を付けたと。
そして、二人の関係はもうばれてましたね(笑)
ユイちゃんの名前は結衣か優衣で悩みましたが、優衣にさせていただきました。

後日談のクオリティが落ちてきているような……。
大丈夫であって欲しい(>_<)
さてさて、リメイク版も執筆しなければ。

それでは、ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!



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第111話≪ホワイトデーとお花見≫

ども!!

舞翼です!!

マジ、遅くなってすいまそん(>_<)
内容が思いつかなくてですね……。
はい、すいません言い訳っすね……。
今回は、冬、春と二つ書いちゃいました。

それでは、後日談第16弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三〇年。 三月十四日。

三月十四日。 つまり、バレタインデーでチョコを貰った男性が、お返しする大切な日だ。

その当日俺は、各種道具と必要な材料をキッチンのテーブルの上へ置き、愛娘優衣と共に一緒にキッチンへ立っていた。

なぜ優衣が居るかというと、優衣も手伝ってくれると言ってくれたからだ。

俺は料理をした事がなかったので、優衣と一緒に作れることは心強い。

 

「パパ、そこにココアパウダーを振りかけてください」

 

「お、おう」

 

俺が眼の前には、出来たてのチョコレートケーキが置いてある。

俺はストレーナー(粉ふるい)の中にココアパウダーを入れ、ケーキの上に万弁なく振りかけてから、ケーキを切り分けた。

 

「か、完成したぞ」

 

「はい。 ママがこれを見たら、とても喜んでくれると思います♪」

 

「そうだな。 アイツに喜んで貰いたいな」

 

「大丈夫です! パパの自信作ですから」

 

その時、聞き慣れたチャイムが鳴り、“がちゃ”と扉を開く音が聞こえてきた。

恐らく、木綿季が大学の講義を終え、帰宅したんだろう。

 

「あ、ママが帰ってきました!」

 

優衣はパタパタと駆けて、玄関へ向かった。

 

『ママ、お帰りなさい!』

 

『優衣ちゃん、ただいま。 そういえばメールの内容で、プレゼントがあるって書いてあったけど?』

 

『はい! パパがリビングで待ってます!』

 

と、言う会話が玄関から聴こえてきた。

てゆうか優衣さん。 木綿季に言ってたのか。

何か、ハードルが上がった気がするが……。

木綿季は自室に荷物を置いてから、優衣と一緒にリビングへ向かった。

 

「和人、ただいま」

 

「おう、お帰り。――じゃあ、早速」

 

俺は立ち上がり、キッチンテーブルに置いた大きな皿を両手で持ち、リビング中央に設けられているテーブルの上へ置き、木綿季と優衣に座るように促した。

木綿季と優衣は、テーブルの片側の席へ腰を掛けた。

俺も向き合うように腰を下ろす。

俺は蓋の取っ手を握ってから、持ち上げた。

ケーキを見た木綿季は、感嘆な声を上げた。

 

「わあ~、凄いよ」

 

「ま、まあ、優衣と一緒に作ったんだ。 てか、上手く出来てて良かったよ」

 

「はいです! 私とパパの愛情がいっぱい詰まっています。 ママ、食べてみてください」

 

「うん、ありがとう。 ボク、嬉しいよ♪」

 

木綿季は、眼の前に置かれてフォークでケーキをひと刺しし、パクリと食べた。

ケーキを飲み込んでから、口を開いた。

 

「うん! 美味しいよ。 和人も一口食べなよ」

 

「おう」

 

だが、フォークが一つしかなかった。

俺はフォークを取りに行く為、椅子から立ち上がろうとしたら、優衣が話しかけてきた。

 

「パパ。 フォークなら、ママのがありますよ」

 

「あ、確かに。――じゃあ、木綿季」

 

「う、うん。 わかった」

 

木綿季はフォークでケーキをひと刺し、俺の口元に運んだ。

 

「か、和人。 あ、あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

俺はケーキをパクリと食べた。

 

「う、うん。 旨いぞ」

 

「よ、よかった」

 

これを見ていた優衣が呟いた。

 

「今度わ、私もです!」

 

「いいよ。 優衣ちゃん、あ~ん」

 

木綿季がケーキをひと刺ししてから、優衣の口元に運び、優衣はパクリと食べた。

数秒間掛けて、優衣はケーキを飲み込んだ。

 

「パパ、とても美味しいです♪」

 

「おう、サンキューな」

 

それから、俺たち家族はケーキを食べさせあった。

やはり、少しだけ恥ずかしかったが。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

今、俺たち家族は、リビングに備え付けられているソファーの上で一休みしていた。

因みに、席は優衣を真ん中にして、その隣に俺と木綿季が座っている。

 

「そういえば、ALO内でいい所見つけたんだよ。 四月になったら、そこでお花見をしないか?」

 

俺が第二十二層をふらふら散歩していたら、小さな脇道を見つけたのだ。

それは俺の好奇心を刺激し、わくわくしながらその道を数分歩くと、大樹が鎮座していたのだ。

それは紛れもなく、桜の木だった。

その時の桜の木は満開には至っていなかったが、四月になれば満開になるだろう。

そしてこの時、此処で、家族三人でお花見をようと決めたのだ。

俺は場所を覚え、踵を返してその場を後にしたのだ。

すると、優衣が首を傾げた。

 

「ママ、お花見ってなんですか?」

 

木綿季は微笑んでから、言葉を紡いだ。

 

「優衣ちゃん、お花見っていうのはね。 桜が咲く木の下で、皆とお弁当を食べたり遊んだりすることだよ」

 

「まあ、簡単に言えばピクニックだな」

 

「そうなんですか!! 私、お花見したいです!!」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

二〇三〇年 四月。

今、俺たち家族は手を繋ぎながら、第二十二層にある小さな脇道を目指し、歩みを進めている。

もちろん、俺とユウキは、ユイの両側に立ち、優しく手を繋いでいる。

歩を進めている最中も、小鳥の(さえず)りや、草木から野生のウサギやらリスが姿を見せている。

 

「パパ、ママ。 見てください。 ウサギさんとリスさんです」

 

俺とユウキは、笑顔で頷いた。

 

「そうだね。 可愛いね」

 

「そうだな。 此処は、自然に囲まれた森の中だからな。 動物たちがすごしやすいのかもな」

 

それから数分歩き、目的の場所へ到着した。

俺たち家族の眼の前には、桜を満開に咲かせた木が鎮座していた。

これを見たユイとユウキは、歓声を上げた。

 

「「わあ………!!」」

 

「……凄いな。 俺の想像以上だ」

 

時折暖かい風が吹き、桜の花弁(はなびら)が舞い上がる。

それは、とても神秘的だ。

ユイはぴょんぴょんと跳ね、繋いだ手を離し、桜の木の前まで走り出した。

 

「ユイが喜んでくれて、何よりだな」

 

「そうだね。 ユイちゃん楽しそうだね」

 

「だな」

 

「ボクたちも行こうか」

 

「おう」

 

ユイが此方振り向き、大きく手を振った。

 

「パパ、ママ。 早く早く!」

 

「今行くよ」

 

「今行くぞ」

 

俺とユウキは桜の木の下まで歩き、ユウキがアイテムストレージからレジャーシートを取り出し、シートを広げた。

俺とユウキはシートの上に座り、ユイの姿を眺めていた。

ユイは、桜の花弁を掴もうと、何度も空に手を伸ばしていた。

ふわふわと軌道を変える桜の花弁を取るのは難しく、桜の木の下を走り回っていた。

それから数分後。

遊び終えたユイが此方にやって来て、シートの上へ座った。

 

「見てください! 桜の花弁がこんなに採れました!」

 

ユイが広げた手の中には、沢山の花弁があった。

 

「この花弁は、何かに使えないでしょうか?」

 

ユウキが暫し考えてから、頷いた。

 

「うん、桜の塩漬けを作れるよ。 それを作ってから、ドーナツやケーキの中に混ぜてみようか。 桜の香りがして、きっと美味しいよ。 ユイちゃんもママと一緒に作ろうか?」

 

「はい! ママとお料理したいです!」

 

俺は、『料理』と言うワードに喰い付いた。

 

「じゃ、じゃあ、出来たら俺も食べていいか!?」

 

「もう、キリトは食いしん坊なんだから」

 

「パパは、食いしん坊さんです」

 

「おう、食いしん坊だぞ」

 

暫し沈黙してから、家族三人は声を上げて笑った。

ユウキは、持参したバスケットから大きな弁当箱を取り出した。

 

「それじゃあ、お昼にしようか?」

 

「「おう(はい)!」」

 

ユウキは弁当箱の蓋を取った。

中には、タラコおにぎりや梅おにぎり、しその葉おにぎり、ツナおにぎりと色々なバリエーションのおにぎりが並んでいた。

俺とユイは、一つのおにぎりを手に取った。

 

「「いただきま~す!!」」

 

パクリと食べた感想は、メチャクチャ旨かった。

余りの旨さに、俺は数秒で食べ終わってしまった。

 

「旨い。 うん、メッチャ旨い」

 

「ママのお弁当は世界一です!!」

 

「二人とも、ありがと♪ たくさんあるから、どんどん食べてね」

 

それから親子三人で談笑しながら、昼食を摂った。

食後は、ユイを真ん中にして、川の字で一休み。

仰向けになりながら桜の舞を眺めていたら、小さな寝息が聴こえてきた。

 

「ユイ、寝ちゃったな」

 

「たぶん、遊び疲れたんだよ」

 

「そうだな」

 

ユウキは上体を起こし、アイテムストレージからタオルケットを取り出し、ユイの体の上にかけてあげた。

俺も上体を起こし、桜の木に寄り掛かった。

弁当箱を片し終えたユウキが何かを思い付いたように、俺に前まで移動してから、足を開いてとジェスチャーをする。

俺は素直に足を開く。

 

「えい」

 

「おふ」

 

ユウキは、俺の胸の中に体重を預けてきた。

俺はユウキの腰に手を回し、包み込むように抱き締めた。

 

「キリト、ありがとね。 綺麗な桜を見せてくれて」

 

「ああ。 現実世界では、場所取りとか色々大変になったかもしれないしな」

 

「うん、こんなにゆっくりできるなんて最高だよ」

 

「だな。 ユイもあんなに喜んでくれたしな」

 

それから暫しの沈黙が流れたが、嫌な気はしなかった。

ユウキも同じ事を考えているのかもしれない。

この沈黙を、ユウキが破った。

 

「思い出すね」

 

「ああ、そうだな」

 

そう。 SAOの中にも桜の木が存在したのだ。

俺とユウキはその下に寝転がり、桜が舞うのを眺めていた事がある。

まあ、その時もユウキは熟睡してしまったんだが。

 

「そういえば、この時もお前は寝ちゃったんだよな」

 

「うん。 でも、キリトが守ってくれるって信じてたからね」

 

「俺のことを信頼してくれていたんだな」

 

「うん、そうだよ。 ボクの全てを任せることが出来たんだよ」

 

「まあ、俺もそうだったけどさ。――SAOでは辛いことが一杯あったけどさ、これから歩む道を見付ける事が出来たよな」

 

SAOを通して俺は、様々な出会いや別れを得て、成長をする事が出来た。

SAOとの出会いは、もしかしたら、運命だったのかもしれない。

……いや、それは無いか。

 

「そうだね」

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

「ん、了解」

 

俺が抱擁を解くと、ユウキは立ち上がった。

俺もゆっくり立ち上がり、ユイの前まで移動してから屈み、ユイを起こさないようにおんぶをした。

ユウキも帰り支度を完了させ、俺の隣までやって来た。

両の手でユイをしっかり支え、第二十二層の我が家に歩き出した。

我が家に帰ってから、俺たち家族は現実世界へ戻った。

――こうして、家族で最初のお花見が終了した。




え~、どうやって優衣ちゃんはALOにログインしたんだろうか?
書いててやっちまった。と思いましたね。
まあ、優衣ちゃんはALOに意識を飛ばさせる的な感じ……。
うん、無理があるかな……。
それに、現実世界の物が食べられちゃう(笑)
やっぱり、これも無理があるかも……。
ここら辺は、眼を瞑ってっちょ(>_<)

砂糖どっさりやね(笑)
てか、ホワイトデーってこれでよかったのかな。たぶん大丈夫……なはずだ。
後、SAOで桜の木を見た時系列は、圏内事件前ですね。
桜の花弁は、バスケットの中に仕舞ったということで。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第112話≪新婚旅行≫

ども!!

舞翼です!!

更新が遅くなって申し訳ないm(__)m
リメイク版と同時進行はきついっすね(^_^;)

話がごっちゃになるぜ。(一回だけ言ったことがあるが)。
てか、GGOの話数を越したね(笑)
実は、こんなに後日談が書けるとは思っていなかったっす(笑)
まあ、後、4~5話と、大人バージョンも書く?予定ですが。

で、今回の話は激甘?だぜ\(゜ロ\)(/ロ゜)/
前書きはこれくらいにして、後日談第17弾いってみよー(^O^)/
それではどうぞ。




二〇三〇年。 八月。

新幹線を降り、駅を出てから数分歩き、俺は隣を歩く木綿季に訊ねた。

因みに、俺は大きなボストンバックを左肩から下げている。

 

「えーと、この道で間違ってないんだよな?」

 

「うん♪ 間違ってないよ。 初めてだよね。 和人と遠出でお泊りするのは」

 

「まぁ、そうだな。 でも、何時も一緒に寝てるし、変わらないような」

 

木綿季は、頬をぷくーと膨らませた。

 

「もう、和人は。 新婚旅行なんだから、そんなこと言わないの」

 

「そ、そういうもんか……」

 

「そういうものなの!」

 

そう。 木綿季が言うように、俺たちは新婚旅行で京都を訪れている。

まあ、京都に是非とも行って見たいと言う、木綿季のおねだりもあったんだが。

俺は、ふと気になった事を木綿季に聞いた。

 

「なぁ、木綿季。 俺たちは京都に一泊しかしないだろ。 こんなに大量に何が入っているんだ?」

 

俺は着替え一式しかボストンバックの中に入れてない。

なので、こんなにバックが重くなるはずがないのだ。

 

「うーん、これでも少なくした方なんだけど。 えーとね、着替えを三着分持ってきたんだ。 汗を掻いたら取り替える用と、明日の着替えと、……えーと、和人は今日の夜、狼さんになるかもしれないでしょ。 だから、汚さないように……。 か、和人のエッチ!」

 

「あ……ああ、なるほど。……まあ、何と言うか。 頑張らせていただきますって言うか、我慢できない気もするが……。 でも、夜は浴衣だと思うんだが」

 

「あ、ははは。 そ、そうだったね……」

 

「ま、まぁ、取り敢えず、先を急ごうぜ」

 

「う、うん。 そうだね」

 

二人は、朝から桃色のオーラを撒き散らしながら、腕を組んで目的地の旅館へ歩いて行った。

軒先には、『夢草園』と書かれた大きな看板が掲げられていた。

この旅館は自然に囲まれており、由緒ある旅館だ。

 

「わぁ~、綺麗な所だね」

 

「だな。 んじゃ、行こうぜ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

旅館の玄関に赴くと、女将さんが俺たちを出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ、お待ちしおりました。 本日ご予約をされました桐ケ谷様ですね。 私は、ここの女将の松永凛(まつなが りん)と申します」

 

女将さんは綺麗にお辞儀をしてから、俺たちを部屋に案内してくれた。

部屋は和室で、居心地良さが感じられた。

 

「ここが、桐ケ谷様がご宿泊になられるお部屋でございます。 では、お食事の時間になりましたらお呼び致しますので、それまでごゆりと」

 

そう言い、女将さんは部屋を後にした。

木綿季は窓を開けて、外を見た。

 

「自然が凄いよ!」

 

俺は背後から木綿季の腰に手を回し、外を見た。

 

「そうだな」

 

「うん、今から結構時間あるけど、どうしよっか?」

 

「京都に来たんだし、観光しに行くか」

 

「ん、了解」

 

俺たちは女将さんに一声掛けてから、旅館の外へ出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たちが最初に向かった場所は、清水寺だ。

取ってに手を掛けながら、木綿季が感嘆の声を上げた。

 

「わあ~、凄い高いね」

 

俺も木綿季の隣まで歩み寄り、

 

「お前、落っこちるなよ」

 

「大丈夫だよ」

 

木綿季は、眼を輝かせながら景色に見入っていた。

俺はその横顔を見ながら、微笑んだ。

 

「(こんなに可愛い子が、ALO最強剣士なんだよな。 何か、信じられん)」

 

木綿季は、俺の袖をくいくいと引っ張り、言った。

 

「和人、違う所にも行こうよ」

 

「おう、行こうか」

 

木綿季は、俺の腕に抱き付いて来た。

てか、木綿季は薄着だから、あれ(・・)がダイレクトに当るんだよな。

俺の理性よ、耐えるんだ。

 

「それで、どこに行くの?」

 

清水寺を後にし、数分歩いた時、木綿季が俺に聞いてきた。

 

「金閣寺に行こうと思ってるぞ。 知ってるか? 金閣寺は鹿苑寺(ろくおんじ)とも呼ばれてるんだぞ」

 

「それならボク知ってたよ。 銀閣寺は慈照寺(じしょうじ)とも呼ばれてるんだよね」

 

「なぬ!? 何故それを知っている?」

 

「今日の為に色々調べたからね。 和人も、京都の観光本を見ながら色々勉強したんでしょ」

 

俺は木綿季に驚いて欲しくて、本屋で京都観光の本を買い、それと睨めっこしていたのだ。

木綿季がそれを知っているということは、何処かでバレた事になる。

てか何処でバレたんだ。 やばい、メッチャ恥ずかしい。

 

「嬉しいよ。 ボクは、和人に愛されてるね」

 

「俺は、お前の事を誰よりも愛してるぞ。 うん、それは間違いないな」

 

「ボクも和人の事が大好きだよ」

 

二人の世界に突入しかけた所で気付いた。

此処が、大通りだということに。

うん、此処では話題を逸らすか。

 

「そういえば、優衣も連れて来たかったな」

 

優衣に、一緒に行こうと言ったら、こう答えたのだ。

『私は、お留守番してます。 お土産楽しみにしてます♪』と。

 

「優衣ちゃん、ボクたちに気を効かせたのかな? ボクと和人を、二人っきりにする為に」

 

「う~ん、そうなのかな? でもまぁ、優衣がこの時間を作ってくれたんだな」

 

「だね。 今日は楽しもうか」

 

「そうだな」

 

そこからは、金閣寺、銀閣寺、嵐山と京都の名所を回った。

旅館に戻ろうとした時、大通りで、着物をレンタル出来る店を発見した。

因みに、撮影可能だそうだ。

 

「あそこで写真を撮ろうよ。 (はかま)はあるかな?」

 

「え? 俺も着替えるのか?」

 

「もちろんだよ。 着物を着たボクと、袴を着た和人で写真を撮るの」

 

「まぁ、俺は構わないが」

 

「じゃあ、行こっか」

 

俺たちは手を繋ぎ、レンタル店目指し歩き出した。

中に入ると、女性店員が元気良く迎えてくれた。

店の中を見周り、試着する着物・袴を決めた。

 

「ボクは、これにするね」

 

木綿季が手に取ったのは、紫を基調にした着物で、アジサイの花が刺繍されていた。 俺は黒色の袴だ。

てか、木綿季は紫が良く似合う。

木綿季は店員を呼び、

 

「これでお願いします。 じゃあ、和人、ボクは着替えてくるね」

 

「それでは、此方に」

 

そう言われ、店員と共に試着室へ消えて行った。

 

「さて、俺も着替えるか」

 

俺は黒色の袴を手に持ち、試着室で着替えた。

待合室で数分待っていたら、木綿季が着付けを終え、此方にやって来た。

俺は眼を奪われた。

顔は薄く化粧が施されており、長い黒髪は後頭部で纏められ、簪で止められていた。

 

「ど、どうかな?」

 

「いや、えっと……」

 

「や、やっぱり変だよね」

 

木綿季が顔を俯けそうになったので、俺はすかさずフォローに回った。

 

「いや、変じゃない。 可愛い、可愛いすぎる。 抱き締めたいレベルだぞ。 まあ、それは俺だけの特権だがな。 俺の理性が崩壊しそう。 うん」

 

ん、俺、暴走してないか……?

恥ずかしい言葉を連呼した気がするんだが……、気のせいだよな?

木綿季の顔を見たら、ブレスに炙れらたかのように、真っ赤に染まっていた。

てか、周りからの温かい視線が凄い……。

 

「う、うん。 あ、ありがとう。 和人も似合ってるよ」

 

「お、おう、ありがとな。 よ、よし、写真を撮るか。――すいません、写真撮影をお願いします!」

 

すると、奥から店員の声が聞こえてきた。

 

「はい、少々お待ち下さい」

 

数分待っていたら、カメラを下げた店員が此方にやって来て、店員先頭の下、撮影室へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

今俺たちは、撮影室で肩を寄り添ってる。

 

「あ、それで大丈夫です。 それでは、はい、チーズ」

 

シャッターの光が瞬き、写真撮影が終了した。

 

「これで撮影は終了です。 帰りに写真を差し上げますので、少々お待ち下さい」

 

そう言い、店員は奥の部屋に入って行った。

 

「俺たちも戻るか」

 

「うん、そうだね」

 

俺は手を差し出し、木綿季はその手を優しく握り返してくれた。

それから別々の試着室へ入り、私服に着替えた。

 

「じゃあ、旅館に帰るか」

 

「OK」

 

帰りに写真を貰い、俺たち旅館へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

部屋に戻った所で、俺たちは浴衣を手に取った。

そう。 温泉に入る為だ。

 

「此処には混浴があるらしんだが、どうする?」

 

「う~ん、……折角だし、一緒に入ろうよ」

 

「了解だ」

 

俺たちは部屋から出て、露天風呂へ向かった。

脱衣所で服を脱ぎ、まあ、一応タオルをつけ露天風呂へ。

因みに、脱衣所は、男性と女性で別れていた。

露天風呂では、木綿季がお湯に浸かっていた。

俺もお湯に浸かり、木綿季の隣まで移動した。

 

「綺麗だね」

 

「だな」

 

此処から見える景色は、とても神秘的だった。

 

「来て良かったな」

 

「……うん」

 

木綿季は肩を寄せた。

俺は木綿季の腰に手を回し、しっかり支える。

数分後、露天風呂から上がり、脱衣所で浴衣に着替え部屋に戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

部屋で一休みしていたら、部屋の(ふすま)がスライドした。

そこから顔を覗かせたのは、女将さんだった。

 

「夕食の時間になりましたので、これからお料理をお持ちしますが、よろしいでしょうか?」

 

「あ、はい。 大丈夫です。 木綿季もいいよな?」

 

「うん、いいよ」

 

「それでは、お料理をお持ち致します。 少々お待ちくださいませ」

 

そう言い、女将さんは襖を閉め、部屋を後にした。

運ばれた料理は、四季折々(しきおりおり)をふんだんに盛り込んだ料理だった。

木綿季は、テーブルの上に置かれた料理の中から、マグロの刺身を箸で取り、

 

「和人、あーん」

 

「お、おう。 あーん」

 

俺は、口元に運ばれた刺身を食べた。

刺身を飲み込んでから、言葉を発した。

 

「脂が乗ってて旨いな」

 

「ぼ、ボクにも頂戴」

 

俺は刺身を箸で取り、

 

「ほら、あーん」

 

「あーん」

 

木綿季はパクリと食べてから、もぐもぐと噛んで飲み込んだ。

 

「うん、美味しいね」

 

「だな」

 

それから俺たちは、料理を口に運んだ。

まぁ、時には食べさせあったが。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

料理を食べ終えた所で女将さんが料理を下げ、「ごゆっくり」と言い、部屋を後にした。

それからテーブルを退かし、布団を敷き、横になった。

もちろん、布団は一枚しか敷いていない。

 

「今日は、楽しかったな。 てか、新婚旅行をして正解だったな」

 

「うん、とっても楽しかったよ」

 

俺は上体を起こした。

 

「さて、これからどうする?」

 

木綿季も上体を起こし、もじもじした。

 

「……えっと、ボクを食べていいよ」

 

俺は顔を赤くした。

 

「……も、もうちょと時間が経ってから、頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「う、うん、いいよ。 そ、そうだ! 今日は満月だし、月を見よう。 この部屋の窓から見渡せるんだよ」

 

「お、おう、いいぞ」

 

俺は立ち上がり、電気を消してから窓を開け、月を眺めた。

時折吹く風が、頬を撫でる。

 

「今度は、家族で来ようね」

 

「ああ、そうだな。――木綿季、愛してるよ」

 

「……うん、ボクも愛してるよ」

 

月明かりが差し込む中、二人の影が一つになり、暫くの間離れる事はなかった。




うん、和人くん羨ましすぎ。木綿季ちゃんと一緒にお風呂とか。
てか、これってR15で大丈夫だよね?
多分大丈夫だと思うが……。

次は、リメイクを執筆しなければ。
この小説は完結させるのでご安心を。
まあ、何時になるか分からんが。
後、優衣ちゃんに、お土産は買いましたよ。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!
あ、感想が沢山あればテンションupです|^・ω・)/


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第113話≪優衣の一日≫

ども!!

舞翼です!!

今回はリクエストの中にあったものを書いてみました。
まあ、タイトル通りなんですが。
上手く書けてるかな(震え声)
でも、頑張って書きましたよ♪
オリキャラ登場っす!!

それでは、後日談第18弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三一年。 二月。

 

私の一日は、ママが朝ご飯を作っている音で起床し、始まります。

大きくうーんと体を伸ばしてからベットから降り立ち、リビングに移動すると、ママが私に微笑みかけてくれます。

 

「優衣ちゃん、おはよう。 朝ご飯できたよ。 あ、そうだ。 和人を起こさないと」

 

「いえ、私がパパを起こしてきます。 昨日もパパは遅かったですね」

 

パパが遅く帰ってくるのには理由があります。

パパは、様々な大学から引っ張りダコになっており、それも有名な大学で、東京大学、早稲田大学、慶応大学、明治大学からです。

しかも、そのまま引き抜きをして、助手にしようという話もあるんです。

 

「じゃあ、お願いね」

 

「はい、任せてください」

 

私はリビングを出て、パパが眠っている寝室まで移動してから、パパの傍へ行き、体を優しく揺すります。

すると、パパはゆっくりと瞼を開け、私に微笑んでくれました。

 

「パパ、起きてください。 朝ですよ」

 

「おはよう。 もう朝か」

 

パパは上体を起こし、大きく伸びをします。

何時も遅くまでお疲れ様です。 パパ。

 

「そういえば、優衣も学校だろ?」

 

「はい!」

 

私は中学校に通っているのです。

最初はお金が心配でしたが、パパが見せてくれた通帳を見て、眼を丸くしました。

かなりの金額が振り込まれていたのです。

たぶんこれは、装置を作った報酬でしょう。 0の数がいっぱいありました。

 

「さて、行くか」

 

「はいです!」

 

パパはベットから降り立ち、リビング兼ダイニングまで足を運びます。

テーブルの上には様々なお料理が並んでいました。

ママお料理は、世界一です。

私とパパとママは指定された椅子へ座り、手を合わせます。

 

「いただきます」

 

ママが音頭をとり、パパと私もそれに続きます。

 

「「いただきます!」」

 

朝食と摂り、私はパパに聞いてみました。

 

「パパは、今日も遅いんですか?」

 

「いや、今日は大学(東京)の教授の所だ」

 

ママが心配そうに声を掛けます。

私も心配そうにパパを見ました。

 

「和人、無理はしないでね……。 無理だと思ったら断ってもいいんでしょ」

 

「パパ、頑張りすぎは、お体に良くないです……」

 

「そうだな、二人ともありがとな。 無理がない程度に頑張るさ。……将来は、何処かの大学の助手になろうかな」

 

パパは知らないのです。

先程挙げた大学が、パパを喉から手が出るほど欲しいということに。

 

「それじゃあ、先に行ってるな」

 

パパはそう言うと立ち上がり、自室兼寝室に入ってから教材を手に取り、玄関に向かいました。

パパの声が、玄間から届いてきました。

 

『行ってきまーす』

 

「「行ってらっしゃーい」」

 

私とママは、声を合わせて答えました。

それから、テーブルの上の食器を流しに持っていき、ママと洗い物をします。

数分かけて食器を洗い、学校に行く支度をしました。

これが、私たち家族の朝の光景です。

 

『優衣ちゃん、行くよー』

 

玄関にいるママからそう言われ、カバンを持ち、廊下をパタパタと歩き、ママの元へ急ぎました。

 

「ママ。 お待たせしました」

 

「じゃあ、今日も途中まで一緒に行こうね」

 

そうなのです。 ママが東京大学に行く途中に、私の通う中学校があるのです。

なので、何時もママとは、途中まで一緒に登校しているのです。

玄関を出てママが鍵を閉めてから、階段を下り、歩道を歩きます。

因みに、私もマンションの鍵を持ってます。

 

「優衣ちゃん、中学校は楽しい?」

 

ママにそう聞かれ、私は元気良く返答しました。

 

「はい! とても楽しいです! 皆さん、とても優しいです」

 

「うんうん、それを聞けて、ママは安心したよ」

 

大通りを左折し、校門の近くまで到着しました。

何時もこの道で、ママと別れます。

 

「じゃあ、またお家でね」

 

「ママ、行ってきます」

 

ママは、私が校門を潜り後ろ姿が見えなくなるまで、微笑みながら何時も見ていてくれます。

私は、パパとママの子供で幸せ者です。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

下駄箱でシューズに履き替え教室の扉を潜ると、私の親友が歩み寄り、挨拶をしてくれました。

私の親友、九条美咲(くじょう みさき)さんです。

この子は、クラスのムードメーカーであり、そして、私の初めての友達でもあるのです。

仲良くなり少し経った後、私は美咲さんに打ち明けました。

自分はAIであり、作られた存在だと。

そしたら美咲さんは、こう言ったのです。

 

『私は、優衣と友達でいたいな。 だって優衣は優衣なんでしょ。 笑ったり泣いたり出来るんだから、皆と何にも変わらないよ。……えーと、うーん、上手く言葉に出来ないや。 でも、私は一生優衣の味方だよ。 うん、これだけは断言できるね』

 

私は大粒の涙を流し、美咲さんの胸に飛び込みました。

美咲さんは、私が落ち着くまで頭を撫でてくれました。

これが、私と美咲さんが親友になった経緯です。

 

「優衣。 おは~」

 

「美咲さん、おはようございます」

 

私はぺこりと頭を下げます。

 

「優衣~、数学がまったく分からないよ」

 

「はいはい、一緒に勉強しましょうね。 美咲さんは、数学以外は80点越えをしてるんですよね?」

 

「まあ、うん。 数学だけが赤点に近いんだ。 てか、優衣はクラス一位なんだからね。 全教科が90点越えって、どんだけよ……」

 

「不正行為はしてないですよ。 わからない所は、パパとママに聞いてますから」

 

「そういえばさ。 優衣のお父さんって、有名教授と握手をして、雑誌に載ってた人でしょ?」

 

そうなのです。

パパが公に顔を出したら、一躍有名人になったのです。

この学校にも、パパとVR研究をしたいという先生が沢山いるのです。

 

そしてママは、カリスマ主婦と言う奴でしょうか。 主婦と言っても、大学生なのですが。

ママが趣味で始めたブログが、もの凄いアクセス数になっていて、ランキングでは常に五位以内には入っているのです。

その時、ホームルームを知らせる、『キーン、コーン、カーン、コーン』と鐘が鳴りました。

 

「やば、ホームルームが始まる。 じゃあ、優衣。 今度数学教えてね」

 

「任せてください」

 

私と美咲さんは、決められた席に着席しました。

先生がドアをスライドさせ、教壇へ上がり出席簿を捲り、

 

「よし、出席を取るぞー、荒川」

 

「はい!」

 

「石崎」

 

「はい!」

 

このようにして、出席が取り終わりました。

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

そして、四時限目のホームルームの時間です。

教壇に立った先生が言いました。

 

「あ~、来週の音楽祭なんだが。 誰か演奏してくれる奴はいないか?」

 

隣の席に座っていた美咲さんから、肘でつんつんされました。

 

「(優衣ってさ、ピアノ弾けたよね?)」

 

「(弾けますけど……。 でも、一人だと……)」

 

「(了解了解♪ じゃあ、私と一緒にやらない? 私、バイオリン弾けるんだ。 一緒にコラボすればOKだよ♪)」

 

「(……わかりました。 一緒にやりましょうか)」

 

「(じゃあ、ガンバロー)」

 

「(お、オー)」

 

美咲さんは挙手をしました。

すると、視線が集中します。

 

「先生ー、私と優衣でやりますー。 私がバイオリンで、優衣がピアノなんですけど、それでもいいですかー?」

 

「お、構わん構わん。 楽器はこっちでも貸出できるから、その時は先生に一声かけろよ。 よし、今から自習な。 先生はこの事を校長に伝えてくるから。 あ、そういえば、曲名は『翼をください』だからな」

 

そう言って先生は、教室から出て行ってしまいました。

美咲さんが、此方に体を向けて話し掛けてきました。

 

「翼をください、か。 小さい時沢山弾いたから、楽譜見ないでもいけるよ」

 

「私も大丈夫です。 この曲は、最初にパパとママが教えてくれた曲です」

 

「よし、いっちょ頑張ろうか」

 

「美咲さん。 パパみたいです」

 

私と美咲さんは、顔を見合わせて笑い合いました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

私と美咲さんは、音楽祭に向けて練習をしました。

そして今日、私のパパとママに聞いてもらう日です。

そして此処は、この日の為に、パパが予約しといてくれた防音された音楽ルームです。

 

「君が、九条美咲さんだね。 優衣が何時もお世話になってるよ。 俺の名前は桐ケ谷和人だ。 よろしくな」

 

「ボクの名前は桐ケ谷木綿季だよ。 何時もありがとね」

 

椅子に座っているパパとママは、壇上に立っている美咲さんに微笑みました。

 

「ひゃ、ひゃい!? こ、こちらこそ、優衣にはお世話になってるです」

 

美咲さん。 緊張しすぎて言葉がおかしくなってますよ。

パパとママは、これを見て苦笑してました。

 

「そう畏まらなくていいぞ」

 

「もっと気軽に話していいからね。――それじゃあ、聞かせて貰おうかな」

 

「は、はい! じゃあ、優衣。 いくよ」

 

美咲さんは真剣な顔つきになり、私を見ました。

私は頷いてから、ピアノの鍵盤に指を添えます。

 

「三、二、一、はい」

 

美咲さんの掛け声と同時に演奏を始め、強弱をつけながらリズムを取り、部屋の中に軽やかなハーモニーが響き渡ります。

弾き終わり、私は立ち上がり、美咲さんと一緒に礼をしました。

私と美咲さんは安堵の溜息を同時に吐き、そして、演奏を眼を閉じて聞いていたパパとママが口を開きました。

 

「……これは、金を取れるレベルの演奏だぞ」

 

「うんうん、これなら、成功間違いなしだね♪」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます! パパ、ママ」

 

再び私と美咲さんは、ぺこりと頭を下げました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

そして本番当日です。

私と美咲さんはステージの横に立っています。

 

「う~、もっと早く言って欲しかったな……」

 

私と美咲さんが他の皆とステージに上がろうとしたら、ステージ横に来い、というジャスチャーがあったのです。

そこで聞いた内容は、ピアノ、バイオリン演奏者は、マイクで名前を呼ばれたらステージ中央まで行ってくださいだそうです。

 

「ぜ、全校生徒に名前聞かれるよね……。 ど、どうしよう」

 

「ここまできたら、覚悟を決めましょう」

 

「そ、そうね」

 

『それでは、演奏者を紹介します。 ピアノ演奏者、2年C組、桐ケ谷優衣さん。 そして、バイオリン演奏者、2年C組、九条美咲さんです。』

 

私と美咲さんはステージ中央に移動し、一礼しました。

私は椅子に座り鍵盤に指を添え、私の左前に立った美咲さんはバイオリンを肩に乗せました。

 

『それでは、2年C組の演奏です。 曲名は“翼をください”。』

 

指揮者が頷くと、私と美咲さんも頷き返します。

聴衆が静まり返り、それを合図に指揮者が指揮棒を振ると、前奏が始まりました。

会場は、私たちの演奏に聴きいっていました。

そして演奏が終わり、ステージ前で一列に並ぶと、全員で一礼をしました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

全学年の演奏が終わり、私たちは学年事に整列をしました。

そして、これから優勝発表があります。

 

『音楽祭の優勝学年は……、3年B組です』

 

これを聞いた美咲さんはしょんぼりしちゃいました。

私も優勝したかったです……。

 

「残念だね……。 あんなに練習したのに……」

 

「で、でも、いい思い出になりましたね」

 

これで発表が終わりだと思ったんですが、まだ終わっていなかったんです。

 

『続いて、最優秀演奏者の発表です。 お、これは前代未聞ですね。 優秀賞が二人います。――2年C組、桐ケ谷優衣さん。 同じくC組、九条美咲さん。 壇上にお上がりください』

 

美咲さんは、これを聞いて数秒間フリーズしていました。

私もビックリです!

 

「ちょ、ちょ、私たちが優秀賞だってよ……」

 

「はい! 練習頑張りましたから、それが報われたんです」

 

私と美咲さんは壇上に上がるように促されて、壇上に上がりました。

校長先生が賞状を取り、

 

『2年C組、九条美咲。 貴殿は、音楽祭の最優秀演奏者とここに称する。』

 

「あ、ありがとうございます」

 

美咲さんは、賞状を両の手を使ってしっかりと受け取りました。

 

『2年C組、桐ケ谷優衣。 貴殿を、音楽祭の最優秀演奏者とここに称する。』

 

「ありがとうございます」

 

私と美咲さんは一礼をしてから回れ右をし、横の階段から降り元の列に戻りました。

こうして、私たちの音楽祭の幕が閉じました。

そして今は、放課後です。

 

「今日は、お祝いしよう」

 

「場所はどうしますか?」

 

「優衣の家に行きたい!」

 

「いいですよ。 パパとママも会いたがっていましたよ」

 

私たちは椅子から立ち上がり、机の横に吊り下げられているバックを手に持ち、下駄箱から靴に履き替え校門を出ました。

歩道を数分歩き、マンションが見えてきました。

 

「あのマンションですよ」

 

「ほへ~」

 

と、美咲さんは感嘆の声を上げていました。

私が住むマンションは、簡単に言えば、中の上です。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

「行こう行こう」

 

階段を上がり、二〇一号室のドアノブを捻り引き開けます。

玄関に入り、

 

「ただいま帰りました」

 

「お、おじゃましま~す」

 

私たちは靴を脱ぎ、廊下を歩きリビングを目指します。

リビングに入った時、

 

「優衣、おめでとう」

 

「優衣ちゃん、おめでとう」

 

クラッカーを鳴らした、パパとママがお祝いをしてくれたのです。

 

「美咲さんもいらっしゃい。 一緒にお祝いしようか」

 

「うんうん、美咲ちゃんの分もあるからね」

 

「は、はい。 あ、ありがとうございます」

 

「私たちは、手を洗ってきますね」

 

そう言い、私と美咲さんは洗面所へ行き、手を綺麗に洗いました。

それからリビングに兼ダイニングへ向かいます。

 

「じゃあ、優衣と美咲さんは、そこの椅子な」

 

パパに促され、私と美咲さんは椅子へ座ります。

私の眼の前には、美味しそうな料理が沢山並んでいます。

 

「それじゃあ、いただきましょうか。――いただきます」

 

「「「いただきます!!」」」

 

ママが音頭を取り、私たちは手を合わせてから箸を持ち、料理を口に運びます。

隣に座る美咲さんが、両の手を頬に添えていました。

 

「これ、凄く美味しいよ。 家のお母さんの料理の3倍は美味しいね」

 

「そ、そうかな。 ボクのお料理って、そんなに美味しいのかな?」

 

これに真っ先に答えたのは、パパでした。

 

「旨い、そこら辺にあるレストランより旨いぞ。 俺が保証する」

 

「ふふ、ありがとう、和人」

 

美咲さんが小さく呟きました。

 

「(優衣のお父さんとお母さんは、何時もラブラブなの?)」

 

「(そうですよ。 何時もラブラブです)」

 

数時間経ち、お料理が粗方無くなった所で、美咲さんが爆弾発言をしてしまいました。

 

「そういえば、優衣って音楽祭の後、告白されたんでしょ?」

 

「ええ、まあ」

 

これに真っ先に喰いついたのはパパでした。

 

「……な、なに~! こ、告白されたのか……、よし、今からそいつをALOに連れて来い。 俺のスターバースト・ストリームで細切れにしてやる。 てか、木綿季は知ってたのか?」

 

「まあ、うん。 優衣ちゃんに相談されてたから、えっと、これで10人目かな」

 

「……え、まじ。 何で俺に教えてくれなかったのさ」

 

「だって、和人は優衣ちゃんを溺愛してるでしょ。 こうなるのは眼に見えてたからだよ」

 

「……まあ、うん。 そうかも知れんが……」

 

「でも、大丈夫。 優衣ちゃんの理想は高いから」

 

「……理想?」

 

パパは腕組みをして考え込んでしまいました。

これを見て、ママは苦笑いをしてました。

 

「和人は、相変わらず唐変木なんだから」

 

美咲さんが、遠慮がちに呟きました。

 

「(わ、私、余計な事を言ったのかな……?)」

 

「(いえ、大丈夫ですよ)」

 

それからは、美咲さんと一緒に学校行事や友達の事を、パパとママに話しました。

食事会がお開きになり、パパとママと私で美咲さんをお家まで送り、優衣の一日が終了しました――。




今回は、優衣ちゃん視点で書いてみました。
音楽祭の進行等が間違っていたら、ご容赦を(^_^;)
それと、音楽祭のトップバッターは、優衣ちゃんのクラスでした。
後、桐ケ谷夫妻は、音楽祭を見に来てましたよ(笑)

そして、優衣ちゃんの親友も出ましたね。
今後、出せるか分からないが。
因みに、中学の制服は、セーラー服ですよ。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第114話≪クジラの噂と水遊び≫

ども!!

舞翼です!!

更新がメッチャ遅れて申し訳ないm(__)m
遅いロスト・ソングハマりをしてしまいまして。(リメイク版でも書いたが)
ええ、それで筆が進みませんでした(^_^;)
てか、マザロザ熟練度上がらなすぎ。
それはさておき、書きあげました。

今回は、Extra Editionを書いてみました。
此処では、皆、大学生ですよ~。
それでは、後日談19弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三一年。 四月。

 

アインクラッド第二十二層《森の家》ログハウス。

今日は、大学出された課題しかないという事で、ALO内でノンビリしようと決めた日だ。

俺とユウキは課題をこなし、ユイはご機嫌な様子で、ソファーの真ん中に座り本を読んでいた。

俺はウインドウを叩く手を休め、ユイに聞いた。

 

「ユイ、何の本読んでるだ?」

 

「はい、パパ。 これは動物の絵本です」

 

ユイが見せてくれたページは、クジラの説明が描かれたページだった。

 

「パパ、ママ。 クジラさんは、イルカさんより大きんでしょうか?」

 

「デカいぞ」

 

「そうだね。 大きいクジラさんなら、全長何十メートル位だからね」

 

これを聞いたユイは、眼を輝かせた。

 

「じゃ、じゃあ、トンキーさんより大きいんでしょうか!?」

 

「そうだぞ。――ユイはクジラが見たいのか……。 う~む、でもどうするか」

 

「そうだね。 どうしようか……」

 

俺とユウキは、ユイに絶対クジラを見せてやりたいと、あらゆる可能性を考慮していた。

もし、ここにシノンかリズ居たら、呆れたように、「親バカだわ」と言うだろう。

逆に親友二人なら、一緒に考え込んでいただろう。

何せ、アスナとランも、ユイの事をとても可愛がっているからな。

俺はハッと思い出した。

 

「そういえば、シルフ領の南の海で受けられるクエストで、クジラが出るっていう噂を小耳に挟んだことがあるな」

 

「あ、それならボクも聞いたことがある。 神殿のクエストだっけ?」

 

俺とユウキの言葉を聞いたユイは、興奮しながら声を上げた。

 

「ほ、本当ですか!? わ、私、クジラさんを見てみたいです!」

 

「よし! じゃあ、来週の休みに行こうか」

 

俺がそう言うと、ユイが言い淀んだ。

 

「で、でも、実験とか大丈夫でしょうか……」

 

「もし言われても、何が何でも休む」

 

「ボクも休むよ」

 

ユウキも、経済学教授の助手として動いてる時が偶にあるのだ。

なので時々、教授からお呼びがかかる事があるのだ。

 

「あ、でも、スグ水苦手だ。 大丈夫かな……」

 

「それなら大丈夫。 アスナと姉ちゃんと一緒に特訓して、高校の終わりには、水を克服したよ」

 

「お、流石俺の親友だな。 スグに克服させるなんて」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

アルヴヘイム、シルフ領南沖《トゥーレ島》。

この島の砂浜で、パラソルとデッキチェアを並べ、俺とクラインは、黒色のサーフパンツの水着姿で横になっていた。

そして、女性陣は海で水遊びをしていた。

うん、此処からの景色は眼福だ。

 

「こんな日が訪れるとはなァ。 神様に感謝だぜェ。――キリの字は見慣れていると思うけどな」

 

クラインの後半の言葉に棘あったのは気のせいか?

てか、気のせいであってくれ。

 

「いや、見慣れてはいないぞ。 アスナたちの水着姿は初めて見たな」

 

「じゃあ、ユウキちゃんの水着姿はあんのか?」

 

「うん、まあ」

 

「オレも彼女が欲しいぜ」

 

「クラインも、その下心を無くせばモテると思うぞ」

 

「これは治さねぇぞ。 治しちまうと、オレ様じゃなくなっちまうからな。――そういえばキリの字よ。 ユイちゃんを現実世界に顕現することに成功したそうじゃねぇか。――茅場晶彦に次ぐ天才、って言われてるらしな」

 

そう。 俺が雑誌に載った時の見出しに、『茅場晶彦に次ぐ天才!!』、と大きく書かれていたのだ。

まあ、色々と複雑だが。

 

「まあ、そうだな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「うりゃうりゃー!」

 

そう言いながら、もの凄い勢いでシリカに水をかけているリズは、ボーダーのビキニにデニムのホットパンツ言う姿だ。

リズに水をかけられているシリカは、白いフリルでツーピースの水着を身に纏っている。

 

「負けませんよ。……ピナ、ウォータブレス!――発射ー!」

 

「きゅるる!」

 

シリカの指示を受けたピナが、海水をごくごくと飲んで、リズに標準を合わせて発射した。

それに続いて、ワンピース水着で、頭は麦わら帽子を被っているユイが追撃を開始した。

 

「リズさん、とりゃー」

 

「わっぷ……」

 

放たれた水がリズの顔面に直撃し、リズは情けない声を漏らした。

だが、水遊びをしている三人は、とても楽しそうだ。

この光景を見ていたシノンが呆れていた。

そして、シノンの水着姿は、黒一色ではなく、所々に水色のチェック柄があしらわれているビキニ水着だ。

 

「何やってんだか……」

 

「でも、海と言ったら、水遊びはお約束だからね」

 

そう言ったのは、白に赤い縁取りがされたビキニで、腰に白いバレオを巻いているアスナだ。

 

「くらえ、シノのん」

 

アスナはシノンに向かって、顔面目掛けて水をかけた。

 

「な、何するのよ。 アスナ。――この、お返しよ」

 

そう言って、シノンもアスナ目掛けて水をかけた。

これはあれだ。 シノンの負けず嫌いが発動しました。

そして、これを見ていたユウキが参戦した。

ユウキも、紫を基調にしたビキニスタイルで、水着の色に合うバレオを腰に巻いている。

 

「ボクも参加する。――おりゃ!」

 

「こ、この、やったな」

 

「ユウキちゃんもくらえー」

 

その様子を眺めていたランとリーファは、笑顔で微笑んでいた。

ランは青に白の縁取りで、リーファは白に黄緑色で縁取りされたビキニスタイルだ。

そして、腰には水着の色とマッチするバレオを巻いている。

 

「楽しそうですね。 ランさんは、いいんですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。 ところで、水は怖くないですか?」

 

「大丈夫です。 アスナさんとランさんの特訓のおかげです」

 

「ふふ、そうですか」

 

「はい! 今日のクエスト頑張りましょう! ちょっとだけ、私たちも遊びませんか?」

 

「いいですよ」

 

ランとリーファも、水遊びを始めたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「――さて、行こうか。 そろそろ時間だし」

 

俺は上体を起こし、水辺で遊んでいる女性陣に声を掛けた。

 

「お~い! そろそろ出発するぞー!」

 

俺の声を聞いた女性陣は、手を止めて此方を振り向いた。

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

此方に歩いてくる女性陣を見詰めながら、クラインは鼻を伸ばしていた。

海から上がった女性陣は一度立ち止まると、左手を振りストレージを表示させウインドウをタップし、武装姿になった。

 

「……へ?」

 

今、素っ頓狂な声を上げた人物はクラインだった。

まあ、コイツの事だから、水着姿で狩りをすると思ったのだろう。

 

「あのー……みなさん? クエストは、そのお姿で……?」

 

「当たり前でしょ。 狩りをするんだから」

 

「水着でダンジョンは、有り得ないでしょ」

 

リズとシノンにそう言われ、クラインはがっくり肩を落とした。

 

「そ、そんなー……」

 

そう言いながらも立ち上がり、クラインも武装した。

俺とエギルもそれに倣った。

それから女性陣と合流し、俺が口を開いた。

 

「今日は集まってくれてサンキューな。 それじゃあ、いっちょ頑張ろうか!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

女性陣の掛け声に合わせ、男性陣も片手を掲げた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

《トゥーレ島》から飛び立ち南に向かって飛翔していくと、周囲は、一面海で広がっていた。

俺は左手を振ってウインドウを開き、マップを表示させ、噂のクエストの場所の位置を確認した。

 

「この辺のはずなんだが……」

 

「あ、あそこじゃないかな」

 

ユウキが指を差したその先には、海中の下、神殿へ繋がる洞窟があった。

 

「あそこがダンジョンの入り口か……。 よし! じゃあ、行こうか。――んじゃ、アスナ、ラン、頼むわ」

 

アスナとランは頷くと詠唱し、水妖精族(ウンディーネ)が取得可能な《ウォーター・ブレッシング》をパーティー全体にかけた。

これにより、水中でも活動可能になるのだ。

その他の支援魔法もかけ終えた。

HPバーの下のアイコンを確認してから、全員は頷き、翅を畳み海面目掛けて降下をしていく。

水を掻き分けながら進むと、神殿の入り口に、クエストを開始させるNPCの人影が見えてきた。

 

「あのNPCに話し掛けたら、クエスト開始か……」

 

「海の中で困ってる人とくりゃあ、人魚と相場が決まってるぜェ! マーメードのお嬢さんー! 今助けに行きますよー!」

 

そう言うと、クラインは神殿前へ猛スピードで向かっていく。

クラインを除く俺たちは、呆れながらその後ろ姿を追った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

神殿の前に到着した俺たちは、NPCの元まで歩み寄った。

NPCのおじいさんを見て、クラインはあんぐりと口を開けていた。

うん、マーメードのお嬢さんじゃなかったね。

 

「おお、妖精たちよ。 この老いぼれを助けてくれるのか」

 

パーティーのリーダーである俺の眼の前に、システムウインドウが表示された。

表示されたYesボタンをタップすれば、このクエスト、《深海の略奪者》が開始される。

そして、おじいさんの名前は《Nerakk》だ。

これを見たリーファが、口を開いた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。 この名前、私、見覚えがあるような……」

 

「えっと、ネラックと読むのでしょうか?」

 

「なんか、珍しい名前ですね。 もしかして、他に読み方があったりするんでしょうか?」

 

ランに続いて、アスナだ。

老人の話によると、古い友人へのお土産である真珠を盗賊たちに奪われてしまったので、その真珠を取り返して欲しいという事だ。

俺もこの老人の名前に違和感を覚えたが、このクエストで、ユイが見たがっているクジラが出てくるかもしれないので、ここで断る訳にはいかない。

俺は申し出を受ける為、口を開いた。

 

「分かりました、任せて下さい。 絶対に取り返して見せます」

 

「おお、ありがたやありがたや……。 よろしく頼みました。 妖精たちよ……」

 

ウインドウのYesボタンをタップし、クエストの受注を完了した俺たちは、神殿内での編成や注意等を確認した後、神殿の入り口に足を踏み入れた。

――前衛は、俺、ユウキ、アスナ、ランなので、無双しないか心配だ……。




え~、優衣ちゃんはALOにどうやってログインしたのだろうか。(前にも書いたが)
原作の変更点は、直葉が泳げるということですね。
因みに、冬休みの最終日に、桐ケ谷家族は水族館に行ってます(^^♪
後、パーティーは二つに分けてますよ~。(メインリーダーはキリト君ですね)
さて、クエストの続きとリメイクも執筆しなければ。
筆が進めばいいんですが……。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第115話≪海の王と妖精たち≫

ども!!

最近愚痴をこぼした舞翼です!!

今回は、一週間以内に投稿が出来ました。
うむ。更新ペースを戻さないと。(リメイク版も)
てか、こんな時間に書いてたから、メッチャ不安っす(^_^;)
うん、まじで……。

このお話で、深海の略奪者のクエストは終了ですね。
それでは、後日談第20弾いってみよ(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。



俺、ユウキ、ラン、アスナの前衛プレイヤーを先頭にして神殿内部を進んで行く。

すると、俺の隣まで歩いて来たクラインが声をかけてきた。

 

「キリの字よ。 本当にクジラが現れるんだろうな? 巨大クラゲとかクリオネだったら、洒落にならねェぞ」

 

この言葉を聞き、後方をちらりと見てみると、ピナの背に乗ってるユイは、とても楽しそうにしていた。

確かに、クジラじゃなかったら洒落にならない。

 

「ま、まあ、大丈夫だろ。 信憑性が高かったからな」

 

「ま、お前がそういうなら大丈夫だな」

 

クラインには言ってないが、俺はクラインの事を兄貴分だと思っているのだ。

まあ、口が裂けても、本人には言わないけど。

その時。 ユウキ、アスナ、ランが立ち止った。

だが、俺とクラインは《それ》に気付かず進んでいく。

ランが慌てて声をかけるが、既に手遅れだった。

 

「キリトさん、クラインさん。 そ、それ以上歩いたら」

 

「「おわあ!!??」」

 

水中の中で落とし穴に落ちた為、俺とクラインはゆっくりと落下していき、落下したのと同時に大渦が巻き起るが、俺とクラインは必死に泳ぎ、落とし穴から脱出した。

俺とクラインは、息を荒げていた。

 

「……見えてる落とし穴に引っかかる奴がいるかよ」

 

「……あんたら、本当に攻略組だったの?」

 

エギルとリズが、呆れたようにそう言ったのだった。

 

「ま、まあ、キリトさんとクラインさんは、笑いを取る為に落っこちたんですよ」

 

「ええ、そうね。 確かに面白かったわ」

 

シリカに続いて、シノンだ。

二人は、フォローしているつもりなんだろうが、フォローになっていないのは気のせいか……。

そして、ユウキ、アスナ、ラン、リーファは、お腹を抱えて笑いを我慢していた。

その時、落とし穴から何かが飛び出してきた。

 

「な、何だ。 クジラか!?」

 

「いや、違うだろ……」

 

現れたのは、古代魚のようなモンスターだ。

名前は、《Armachthys》。 その頭部は、骨の鎧を纏っている。

古代魚は、俺に向かって突進を開始した。

俺はすぐさま二刀を抜き、二刀流防御スキル《クロス・ブロック》で受け止め、凄まじい衝撃音が神殿内部に響いた。

 

「俺がタゲを取るから、皆は側面から攻撃してくれ!」

 

「オレもタゲを取るぜェ。 後は頼んだぜ!」

 

俺とクラインの言葉を聞き、俺とクラインを除く全員が古代魚の側面に攻撃を仕掛ける。

其処は、骨の鎧に覆われていなかった為、攻撃が通った。

シリカとシノンは後方に下がり支援魔法をかけ、ユウキ、ラン、アスナ、リズ、リーファ、エギルが攻撃を与えるが、古代魚は、これ以上攻撃を喰らうまいと、もの凄いスピードで動き、体を高速回転させ渦を発生させるが、ユウキ、ラン、アスナが斬撃を飛ばし、これを相殺した。

俺が言えた事ではないが、相変わらずの規格外ぶりである。

これを見ていた(俺以外)は、口をポカンと開けていた。

 

俺は、古代魚が停止した瞬間を狙い、二刀流OSS《ジ・イクリプス》計27連撃を放った。

オレンジ色の閃光が瞬き、高速連撃で古代魚を切り刻む。

そして、最後の一撃が頭部の鎧を貫き、残りのHPを全損させた古代魚は、ポリゴン体を四散させていった。

ポリゴンの欠片が完全に消滅したのを確認すると、俺は剣を鞘に納めた。

 

「ふぅ、終わったな」

 

周りを見渡して見ると、他もメンバーも武器を納めていた。

 

「なんか、弱かったね」

 

「ええ、そうですね。 歯応えがありませんでした」

 

「ですね。 弱かったです」

 

ユウキに続いて、ラン、アスナだ。

まあ、古代魚は中ボスクラスだったんだが。

その後も、エビやカニといったモンスターと戦闘を繰り返し、神殿の最奥で真珠を手に入れた俺たちは、神殿前まで戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「結局、最後まで出てこなかったな、クジラ……。てか、エビやカニは、暫くの間は見たくねぇな」

 

と、クラインが階段に腰をかけながらそう呟いた。

小妖精姿でピナの背中に乗っていたユイは、終始楽しそうにしていたが、俺はクジラを見せてやりたかった……。

俺は真珠を両の手で持ち、老人に渡そうとした――。

 

「真珠を取り返してきました」

 

その時、ユウキがポツリと呟いた。

 

「ねぇ、このクエストって《深海の略奪者》だよね。 でも、盗賊が出てこなかったよ。 略奪者って誰のことかな?」

 

「キリトさん待ってください! それは真珠じゃないかもしれません!」

 

「キリト君、それ貸して」

 

これを聞いたランが叫び、アスナが俺の手から真珠を奪い取った。

俺は二人の行動の意味が分からず、頭の中は疑問符だらけだ。

アスナは、真珠を海面から僅かに届いている太陽の光に透かして見た。

透かした内部は、

 

「やっぱり真珠じゃないわ。 これは――卵よ!」

 

合点がいったシノンが、どういう事か説明してくれた。

 

「つまり、こういうことね。 あの最奥は祭壇ではなく、何かの《巣》って言うことよ。 それで、私たちが、このクエストの《略奪者》ってことよ」

 

「さぁ、それを渡すのだ」

 

ゆっくりと歩み寄る老人からは、先程とは打って変わり、プレッシャーを感じさせた。

恐らく、この老人は、俺たちがこれ()の受け渡しを拒否してると思ったのだろう。

 

「――渡さぬとなれば……仕方が無い!」

 

長い眉に隠れていた眼が怪しく光ると、老人の髪が触手、いや、足に変化していった。

そうして現れたのは、巨大なタコだ。

老人の頭上に表記されていた《Nerakk》が点滅すると、正しい名が表示された。

――《Kraken the Abyss Lord》。

そして、HPバーは七本だ。

 

「クラーケン!? 神話に出てくる、海の魔物!?」

 

俺がそう呟いた。

そしてアスナは、シノンに卵を手渡した。

 

「よくやってくれたぞ、妖精たちよ。 儂を拒む神殿から、よくぞ御子(みこ)の卵を持ち出してくれたのぉ! さぁ、それを、儂に捧げよ!!」

 

「誰がお前なんかに渡すか! この卵は、神殿に戻すから無理だ!」

 

「そうそう、おじさんにはあげないよ!」

 

「そうだわ。 あなたなんかに渡さないわ!」

 

「欲しいなら、力ずくで奪いなさい!」

 

俺、ユウキ、ラン、アスナが拒絶すると、戦闘体勢に入った。

 

「愚かな羽虫共よ! ならば、深海の藻屑となるが良い!!」

 

クラーケンはそう言うと、足を振り上げて、俺たちに振り下ろしてきた。

それを全員は左右に別れ回避し、リーファ、シリカ、リズが支援魔法をかけ、俺、ユウキ、アスナ、ラン、クライン、エギルでソードスキルを発動させ攻撃した。

だが、その傷は瞬時に再生されてしまう。

そして、無数の足による攻撃で吹き飛ばされてしまう。

因みに、シノンは、卵を守るように抱き抱えている。

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

卵を抱えているシノンはアスナが受け止めたが、俺とユウキとランとアスナ以外のメンバーは、神殿前に倒れ伏せてしまった。

俺たち四人を除く、他のメンバーのHPは、一撃受けただけで半分以上が削られた。

俺たち四人だけで相手に出来るが、《ウォーター・ブレッシング》の効果がそろそろ限界に近いので、水中活動が余り出来ない。

これは、本格的にまずい。

 

「パパ……あのタコさんのスターテスが高すぎます。 アインクラッドのフロアボスを上回る数値です。 パパたちなら相手にできると思いますが……。 皆さんが……」

 

「……ああ、分かってる」

 

俺が逡巡した時に見せた隙を逃さず、クラーケンは巨大な足を、俺の頭上にを振り下ろそうとしていた。

この攻撃は、回避が間に合わない。

俺は二刀を交差させ防御の姿勢を取ったが、この攻撃の前では紙切れに等しいだろう。

だが、傷が浅いユウキ、ラン、アスナが横一列になり、剣を横にして掲げた。

その時、

 

――ズガァァン!!

 

と、大きな衝撃音と共に、両者の間に巨大な三叉槍(さんさそう)が突き立てられた。

四人は、僅かに出来た隙に後方へ下がった。

上を見上げると、クラーケンと同じ大きさの人物が降下するのが見えた。

その人物は、前方、――俺たちを守るように降り立ったのだ。

またHPも、クラーケンと同じように複数並べられていた。

表示された名は、《Leviathan the Sea Lord》。

 

「こ、今度は、リヴァイアサンかよ」

 

俺は呆然と呟いた。

他のメンバーも、リヴァイアサンの登場に眼を丸くしていた。

 

「久しいな、古き友よ……。相変わらず、悪巧みばかりしてるようだな」

 

「そういう貴様こそ……アース神族の手先に甘んじてるつもりだぁ? 誇りを失った貴様に言われる筋合いはないわ! 海の王よ!」

 

「我は王であることに満足している。……それにここは、我の庭。 それを知りながらも、我に戦いを挑むか? 深淵の王よ?」

 

クラーケンは逡巡すると、後退し始めた。

 

「……今は引こう。 しかし友よ! 儂わ諦めんぞ! いつか御子の力を儂の物とし、忌々しい神どもに一泡吹かせるまでぇぇ!」

 

クラーケンはそい言いながら、海中深くへ潜って行った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「申し訳ありませんでした。 《海の王》。 知らなかったとはいえ、御子の卵を神殿から持ち出してしまい……」

 

俺はそう言うと、膝を付け、リヴァイアサンにシノンから受け取った卵を差し出した。

 

「いや、いいのだ。 古き友の非礼を詫びよう。 その卵は、いずれ海と空を支配するお方の物。 新たな場所へ移さなければならないゆえ、返してもらおう」

 

リヴァイアサンが卵を取ると、卵が光を放ち、消えた。

そして、俺の眼の前に、クエストクリアの【Congratulations!】の文字が浮かび上がった。

ユウキが、俺の袖をくいくい、と引っ張った。

 

「ボク、おじさんとタコさんの会話、全然分からなかったよ。 キリトは分かった?」

 

「いや、俺もさっぱりだ」

 

俺が、「お前らは分かったか?」と言うと、全員が首を左右に振った。

まあ、神話に詳しいランとリーファが分からない時点で、俺たちが分かる訳ないが。

リヴァイアサンは短く、「今は、それでよい」、と呟くだけだった。

 

「そなたらの国まで送ってやろう。 妖精たちよ」

 

すると、リヴァイアサンの後ろから、大きな影が迫ってきた。

再びクラーケンが来たと思い身構えたが、そうではなかった。

俺たちは、コイツの背中に乗った。

水飛沫を巻き上げながら、海上に姿を現したクジラの背に俺たちは乗っていた。

このクジラは、全長が数十メートルあった。

まさか、こんなに大きいクジラだとは、少し予想外だった。

 

「わぁ、クジラさん、とってもとっても大きいですー!!」

 

クジラの背に乗ったユイは、とても嬉しそうだった。

ユイは先頭に立ち、両手を広げ潮風を感じていた。

因みに、ユイは小妖精の姿ではなく、少女の姿だ。

 

「良かったね。 ユイちゃんが喜んでくれて」

 

「ああ、本当だな」

 

ユウキは俺の肩に頭を預け、夕焼け空を見いっていた。

こうして、――《深海の略奪者》クエストの幕が閉じた。




Extra Editionが終了しましたね。
てか、もう大学四年まで書いてたんだね。
オイラ、ビックリだ\(◎o◎)/!
アスナさんたちの斬撃は、ソードスキルじゃありませんよ。
剣を振って放った斬撃ですね。これは、キリト君も出来ますよ~。
うん、チートやね。クラーケンの攻撃に対しても、傷が浅いですしね(笑)
後、クジラの背に乗っている(ユイちゃん以外)は座っていますよー。

大学編も残すところ、後2~3話ですな。
これが終わったら、大人バージョンですね(^^♪
少し早いですが、ゴットファザー(名づけ親)のアンケートを取りたいと思っています。
まあ、作者が決めても良いんですが、結局、ネットで調べた名前になってしまうと思ったからです……。
皆さんのお力を借りたいと思い、アンケートを取ることにしました(詳細は活動報告で)♪

次回は、大学ネタを考えています。
まあ、予告としては、和人君がメインになりますな。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第116話≪二人の天才≫

ども!!

舞翼です!!

まさか、こんなに早く投稿出来るとは……。
自分でも驚きました。
今回の話は、筆が思うように進みまして(笑)

今回は、完璧なオリジナル回ですね。
予告した通り、和人君がメインですね。
なので、優衣ちゃんと、木綿季ちゃんが少ししか出てこないですね……。m(__)m
てか、この話は、考えながら書きましたね。
うん、メッチャ難しかった……。難しかったです。(大事なことなので、二回言いました)

そしてそして、“歌姫”が登場しますよ(*>ω<*)
それでは、後日談第21弾いってみよ(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三一年。 八月。

現在東京大学は夏休みの真っ最中であるが、俺、桐ケ谷和人は大学のVR研究室にいた。

だが、俺は一人ではない。

同じ天才と呼ばれた人と共に研究をしてるからだ。

その名は、――天才科学者、七色(・・)アルシャービン(・・・・・・・)博士。

日本に帰国した彼女を、東京大学が勝ち取ったのだ。

 

「和人君。 また、キャパシティがオーバーしたわ」

 

「え、またか……。これで数十回目だぞ……」

 

「数十回じゃなくて、二十六回よ」

 

そう。俺と七色博士は、仮想空間に、医療機器をシュミレートさせる実験を行っているのだ。

 

「……かれこれ、数日は研究室に籠ってるよな。……木綿季が凄く心配してるかも……」

 

闇妖精族(インプ)の女の子だっけ?」

 

「まあな。 それと、俺の奥さんだ」

 

「じゃあ、奥さんを安心させる為に、切りが良い所まで完成させましょ」

 

「だな。 これが完成すれば、医療がかなり楽になる」

 

「そうね。 頑張りましょう」

 

俺と七色博士は、コンピュータに複雑な文字列を入力していく。

また、茅場晶彦が残した《ザ・シード》も取り入れている。

 

そして、俺、七色博士、茅場晶彦の元恋人である神代凛子博士。

三人で、メディキュボイドを完成させた。

メディキュボイドは医療用フルダイブマシンで、体を動かせない人でも社会交流が出来るのだ。

超高密度信号素子の基礎設計を提供した人物は神代博士であり、茅場晶彦の研究資料を元に設計をしたのは、俺と七色博士だが。

まあ、メディキュボイドの技術を更に研究して、今の実験を行ってるんだが。

だが、残念な事に、メディキュボイドが普及し、この技術を、兵器の開発、実験、戦争の訓練など、軍事産業に使われているのだ。

 

――俺と七色博士は、真剣な表情になり作業を始めた。

数時間経過した頃、俺はキーボードを叩く手を止め、七色博士に聞いた。

 

「なあ、七色博士?」

 

俺が話し掛けると、七色博士はキーボードを叩く手を休めた。

 

「和人君、前から博士は付けなくていいって、言ってるじゃない」

 

「……じゃあ、七色。 ここ数日研究室に籠りっぱなしだろ。 木綿季が作ったメシを食ってみないか?」

 

「とても魅力的なお誘いなんだけど。 私、メディキュボイドの先の開発を任せれてるから、それも考えなくちゃならないの。 だから、また今度にするわ。――今日も、研究室でお泊りね」

 

「……はあ、分かった。 俺も研究室に泊るよ」

 

「そう。 感謝するわ」

 

「木綿季にメールを送らないとな……」

 

俺はこう打った。

『木綿季、すまん。 今日も帰れそうにない……。 ちびっ子天才が我がまま言ってな。 この埋め合わせはする。 精神的に。』

それから数分後。

俺のスマホから着信音が流れた。 メールだ。

差し出し人は、木綿季だった。 内容はこうだ。

『うん、分かったよ♪ 今度、その天才さんと一緒にご飯しようね。 もちろん、優衣ちゃんも一緒だよ。』

俺はスマホをポケットに仕舞い、七色に声を掛けた。

因みに、現在の時刻は、16時だ。

 

「大丈夫だ。――じゃあ、学食行こうぜ。 後一時間で閉まっちゃうけど」

 

「ええ、そうね」

 

俺と七色は椅子から立ち上がり、学食を目指して歩き始めた。

学食で注文した料理は、ベーグルサンドだ。

俺と七色は向かい合わせになるように、窓際の指定席へ座った。

七色は片手にサンドを持ち、資料に眼を通していた。

 

「はあ、飯の時くらい、頭を休めろよ……」

 

「いえ、休めないわ。 もう少しで出そうなのよ……。 和人君、何か案は無いかしら?」

 

「……取り敢えず、最初のマシンから言ってみるか。 え~と、設置型マシンでコントローラーを操作して遊ぶゲームが第一世代型で、ヘッドギア型のナーヴギア、アミュスフィアが第二世代だろ。 で、医療で使えるメディキュボイドが第三世代だ。 世代が進むに連れ、簡略化され、性能が上がってるな」

 

俺がそう言うと、七色が声を上げた。

 

「そ、そうよ。 簡略化と性能よ。 何でこんなに簡単な事に気付かなかったのかしら……」

 

「は? どういう事だ?」

 

「チップよ。 持ち運びが出来るチップ。 そのチップに大容量のデータが入るの。 それプラス、それを持って仮想コマンドを唱えればダイブが可能なの! チップが、何かに入ればいいんだけど……」

 

俺は一拍置いて、言葉を発した。

 

「……いや、それは不可能じゃないか……」

 

「ふふん、ここに居るのを誰だと思ってるの。 最年少の天才、七色・アルシャービンよ。――でも、私一人じゃ限界があると思うの。 和人君も協力してください!」

 

七色は椅子から立ち上がり、俺に向かって深くお辞儀をした。

彼女は、今言った事を実現しようとしてるのだ。

 

「……まあ、俺は手伝ってやっても良いが、てか俺、既に手伝ってないか……。 でも、木綿季のOKがないとなぁ……。 電話をかけてみるよ。 ダメだったら、諦めてくれ」

 

「そ、それでいいわ」

 

俺は椅子から立ち上がり、壁際まで移動してから、木綿季のスマホに電話をかけた。

聞き慣れた着信音が鳴り、三コールした後、優しい美声が俺の耳に届いた。

 

『もしもし。和人、どうかしたの?』

 

「おう、すまんな。 行き成り電話しちゃって」

 

『全然構わないよ』

 

「えっとな、ちびっ子天才が、今凄い発言をしたんだ。 で、それには俺の協力がないと、実現不可能らしい。 簡単に言えば、今以上に難しい事をするってことだ」

 

『えっと、ボクはいいけど、優衣ちゃんが寂しくなっちゃうよ……』

 

「可能の限り時間を作るが、どうだ?」

 

優衣は、この電話を聞いていたらしく、木綿季と変わった。

 

『パパ、私です。 優衣です。――パパ。 私は大丈夫です。 でも、時々帰って来てくださいね。 私、ママと待っていますから。 パパ、再び世間を騒がせちゃってください!』

 

「おう、了解した。 じゃあ、ちびっ子天才にOKって伝えるわ」

 

『はい、ママに変わりますね』

 

優衣は、スマホを木綿季に手渡した。

 

『じゃあ、和人。 七色博士と世間を騒がせちゃってね♪』

 

「おう、それじゃあ、またな」

 

『うん、またね』

 

こうして通話が切れた。

俺はスマホをポケットに仕舞い、七色が座るテーブルの椅子へ腰をかけた。

七色は、顔をぐいっと近づけた。

 

「ど、どうだったの?」

 

「ああ、OKだそうだ。――だが、一つだけ条件がある。 俺たち家族の時間を作る事だ。 最低でも、一日一時間は欲しいな」

 

「それなら大丈夫だわ。 じゃあ、これからよろしくね。 和人君」

 

「ああ、よろしくな」

 

俺と七色は立ち上がり、再びVR研究室に足を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

研究室の扉の前に立ち、俺と七色を待っていた人物が居た。

それは、意外な人だった。

その人物は、神代凛子だった。

何故いるんだ?と疑問に思っていたら、それに答えてくれた。

 

「先程、東京理科大学で講義が終わってね、ついでに寄ったのよ」

 

凛子は、メディキュボイドの基礎設計者ということで、研究者のパスを持ち、VR研究が行なわれている練に入る事が可能なのだ。

俺と七色も練に入る時、研究者パスをスライドさせる必要があるのだ。

 

「ええ、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです。凛子博士」

 

凛子は微笑むと、本題に入った。

 

「――ところで、研究と開発は順調?」

 

「研究の方は手詰まりですね……。 データがキャパシティ内に納まらなくて。 開発の方は、先程、道筋が見えたところです」

 

「そう。 私が言えた事じゃないけど、第四世代の開発、頑張って。――研究の方は助言が出来ると思うから、ちょっと見せてくれないかしら? 第三者の意見を聞いてみない?」

 

俺と七色は頷き、俺たちはVR研究室の扉を潜った。

俺が促したテーブル上には、先程、データを入力したノートパソコンが開いて置いてある。

凛子は椅子に座ってからマウスを握り、画面をスクロールする。

一通り見終わったところで、口を開いた。

 

「……ここまで出来るなんて、――君たちは天性の天才だと思うわ。 私じゃ、ここまで複雑なプログラムは組めないわよ……」

 

「で、何か不要な点は見つかったでしょうか」

 

と、俺が凛子に聞いた。

 

「う~ん、そうね。 ここのデータなんだけどね。 他のに比べると、少しだけ大きくないかな? あ、でも、真に受けないでね」

 

その先を、俺と七色は見いった。

確かに、凛子が指を差した場所のデータの容量は、他のデータと僅かながら、大きかった。

 

「ん? これを削れば、キャパシティ内に納まるんじゃないか……。 オーバーしたのも、僅かな数字だけだったし……」

 

「そうね。 すぐに取りかってみましょ、和人君」

 

俺と七色は、凛子が居るのにも関わらず、どうやってこのデータを削るかの議論をした。

 

「ここは、データを縮小して、小さくした方がいいな」

 

「凝縮するのよ。 同じ事だと思うけど、全然違うわ」

 

「いや、でも、ここを縮小した方が、後々組み直す時にいいと思うが……」

 

「いえ、凝縮した方がいいわ。 後の事は、その時に考えればいいでしょ?」

 

「いや、でもな……」

 

「じゃあ、どちらも試してみましょ。 それでどうかしら?」

 

「了解だ。 じゃあ、やりますか」

 

こうなると、俺と七色は周りが見えなくなるのだ。

凛子は、二人を見て笑みを浮かべていた。

 

「……この子たちの将来が凄く楽しみだわ。 この二人なら、あの人(晶彦さん)を超える事も不可能じゃない気がするわ。 いや、もう超えてるかしら」

 

俺と七色は、研究、開発に取り掛かった――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

それから数ヶ月後、――研究と開発が完了した。

研究の方は、仮想空間を作り、その仮想空間に、現実の医療機器と遜色ない装置を設置する事に成功した。

これで、医療技術は格段に上がるだろう。

 

開発の方は、チップでは無く、首の後ろに巻き付ける《ニューロリンカー》という物だ。

この技術が取り入れられるようになれば、《ニューロリンカー》を首の後ろに巻き付け、ダイブコマンドを唱えるだけでダイブが可能になるし、データの保存も可能になるのだ。

まあ、でも、今の技術では《ニューロリンカー》が作れないので仮説だけだ。

俺と七色は会見が終わり、疲れ切っていた。

 

「も、もう無理……。 研究、開発が成功したから即会見とか、ありえん……。 てか、“茅場晶彦を超える天才二人組!!”って。……はあ、有名になりすぎたな」

 

「え、ええ、私も同意するわ……」

 

研究と発明の成果を会見で告げた俺と七色は、歴史に刻まれる人物になったのだった。

こうして、俺と七色の研究、開発に終止符が打たれた――。




出しちゃいました、七色博士(笑)
ロスト・ソングのセブンですね。
そして今回は、AWの要素も取り入れてみました。
まあ、今の段階では、開発の仮説が限界なんス(苦笑)
で、二人は初めてテレビ出演しましたね。(此処では、二人とも雑誌で取り上げられただけなんで)

メディキュボイドも完成させてますし。
てか、仮想空間に医療機器をシュミレートしちゃいましたし。
和人君と七色ちゃんは、研究パートナー的な感じっスね。
まあ、保護者?的な感じもしますが……。

リメイク版は執筆中なので、暫しお待ちを。
後、アンケートを取っているので、時間があればご覧になってくださいm(__)m

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第117話≪聖なる夜に≫

ども!!

舞翼です!!

前は申し訳なかったっス……。一時的に非公開にしてしまいm(__)m
今後は……大丈夫だと思います(多分)。
まあ、これは置いといて。

皆さま、メリークリスマス!!
今回は予定通り、クリスマスに投稿しましたです。
てか、その日に投稿したかったのが本音ですね。書き終わったのを投稿しないのは、うずうずするというか……なんというか。
まあ、これも置いといて。

それでは、後日談第22弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三一年。 十二月。

 

俺と七色博士が有名になった数日間は、助手の勧誘が本格的になり、テレビに引っ張りだこになったりと、凄まじい時間だった。

……うん、色々大変だったな。 特に、マスコミが凄かった。

 

――閑話休題。

 

今日は、12月25日。 聖なる夜の――クリスマスだ。

そして、アインクラッド第二十二層《森の家》ログハウスには、参加メンバーが集合していた。

メンバーは、俺、ユウキ、ユイ、アスナ、ラン、リズ、リーファ、シリカ、シノン、エギル、クライン、総勢十一人だ。

クラインはニヤリと笑い、

 

「おう、キリの字。 おめェ、今じゃ有名人だな」

 

「ま、まあな。 俺もあそこまで有名になるとは、予想外だったんだよ」

 

近寄って来たエギルが、言った。

 

「七色・アルシャービン博士だっけか? もう一人の、天才の名前は」

 

「てかよお、何でキリの字の周りには、美少女が集まるんだ?」

 

「いや、それは、俺に聞かれても……」

 

そう。七色も美少女の類に入るのだ。

エギルが頷き、

 

「そりゃ、キリトの人徳じゃねぇか」

 

「ほらー、男子共ー、出来たわよー」

 

リズにそう言われ、男性陣はテーブル前まで歩き出した。

そして、テーブルの上には、女性陣が腕を振るった料理が沢山並べられていた。

アスナが此方を振り向いた。

 

「じゃあ、キリト君が乾杯の音頭を取ってね」

 

俺は一声入れると、用意されていたグラスを掲げた。

 

「――皆さん、乾杯ー! そして、メリークリスマス!」

 

「「「「「カンパイー!!」」」」」

 

全員は、グラスをカチンと打ち付け合った。

赤ワインに似た何かを一気に飲み干した男性陣は、皿の上に乗った料理を結構な速度で食べ始めた。

特に、クラインが凄い……。

 

「ちょ、クライン。 それ、俺のチキンだぞ!」

 

「キリの字が採るのが遅ぇんだ。 いただきやーす」

 

クラインは、パクリとローストチキンを食べてしまった。

皿の上を見たら、あと一切れチキンが残っていた。

俺はそれを手に取り、

 

「お、最後の一切れ、貰い」

 

「おい、キリト。 オレが楽しみしてた肉を」

 

どうやら、エギルも狙ってたらしい。

これを見ていた、リズとリーファと声を上げた。

 

「ちょっとちょっと、食べるの早すぎよ。 私たちの分が無くなっちゃうじゃない」

 

「リズさんの言う通りだよ。 お兄ちゃんたち、食べるの早すぎだよ」

 

シノンは呆れたように、

 

「もう、ホントに男子は落ち着きがないんだから」

 

小さなクリスマスツリーの横に立っているシリカは、相棒のピナにローストハムを差し出し、それをピナはもぐもぐ食べていた。

 

「ピナ。 おいしい?」

 

「きゅ、きゅるる!」

 

「おいしいだそうです」

 

ユイはピナの背に乗り、もふもふしていた。

因みに、ユイは小妖精の姿だ。

 

「ふふ、キリトさんたち、楽しそうですね」

 

「ええ、そうですね。 それにしても、仲良いですよね」

 

「うんうん。 キリトたちが楽しそうで良かったよ」

 

上から、ラン、アスナ、ユウキである。

三人は、男性陣を見ながら、笑みを零していた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「キリの字よ。 オレに女の子を紹介してくれよ。 キリの字の知り合いに居るだろ? てかよお、シリカとリズベットとは何処で知り合ったんだ。 二人とも中層プレイヤーだったんだろ。 後、シノンさんだな」

 

「あ、ああ。 シリカとは、オレンジを潰しに行く途中で、たまたま助けたのが切っ掛けだな。 その時、相棒のピナが死んじゃってな、ピナを生き返らせる為に、ユウキと一緒に思い出の丘に行ってあげたんだ」

 

「ほうほう、――それで、リズベットとは?」

 

「リズとは、ユウキの紹介で出会ったな。 強い剣を作る素材集めで、俺とユウキは竜の巣に落ちたんだよなー」

 

「それで、シノンさんとは?」

 

「う“ それも聞くのか……。 シノンとは、ガンゲイル・オンラインのゲームの中だ。 始めたばかりだったから、まったく道が分からなくてな。 その時、女の子と偽って道案内して貰ったんだ。 ちなみに、ユウキは俺の姉設定だった」

 

クラインは、羨望の眼差しで俺を見てきた。

 

「……キリの字よ。 何で、お前はそんなに女の子と出会いがあるんだ?――キリの字と、同じような事をすればいいのか?」

 

これを聞いていたエギルが、言葉を発した。

 

「……おめぇさんがキリトと同じ事をやっても、ダメだと思うがな……」

 

「う、うっせええぇぇー!! んなことわかってらー!!」

 

うん、これ以上クラインの心を荒れさせる訳にはいかない。

てか、クライン、酒飲んでないよな……。

 

「さ、さて、クリスマスパーティーなんだし、楽しもうぜ」

 

俺は無理やり話を切り上げようとしたが、クラインが許さなかった。

 

「なあ、キリの字よ。 今度の休日、渋谷でナンパしに行かねぇか? エギルの旦那もどうだァ?」

 

「ちょと待て! オレを巻き込むんじゃねぇ!――これが女性陣の耳に入ったらどうすんだ? てか、オレは既婚者だ」

 

エギルの後半の言葉は、声を小さくして言った。

そして俺も反論する。 色んな意味で怖いからだ。

 

「お、俺には実験があるし、それに、ユウキたち以外の女は無理だ。 諦めてくれ」

 

「うわああぁぁー!! なんでオレだけ出会いがねぇんだああぁぁー!! なんで、世界は平等じゃねぇんだああぁぁー!!」

 

「ちょ、クライン、声がデカイ」

 

背部が、ぞくッ、としたので、俺はお恐るお恐る後方を振り向いた。

振り返ると、俺の親友と奥さんが立っていた。

 

「ふふ、どういうことですかね」

 

「ですね、私も知りたいかな」

 

「ボクも知りたいな」

 

俺とエギルは両手を突き出し、勢いよく左右に振った。

 

「ちょ、ちょっと待て! お、俺は、無実だ!」

 

「そ、そうだ。 オレは悪くないぞ!」

 

「お、オレ様が悪いのか!?」

 

「「「問答無用!!」」」

 

「「「ぎゃぁああ!!」」」

 

とまぁ、このように時間が経過していった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺は一休みする為、少し離れた揺り椅子の上へ座っていた。

俺に気付いたユウキが、輪の中から抜けて、隣に座った。

 

「今日は、パーティーをして正解だったね。 さっきは、ごめんね」

 

「いや、いいんだ。 あれは、ああゆうノリだったしな」

 

「うん、ありがと」

 

俺の腕に、柔らかな感触が伝わってきた。

そう、ユウキが俺の腕に抱き付き、頭を肩に預けてきた。

俺は空いている手で、ユウキの頭の上にぽんと置いた。

 

「ボクね。 この仕草好きなんだ」

 

「そっか」

 

二人の周りには、甘い固有結界が展開していた。

この後、リズからお叱りがあったのは、言うまでもない。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

皆がログアウトした後、残ったのは、俺、ユウキ、アスナ、ランだ。

俺はソファーに座り、ユウキたちは食器などの後片付けをしている。

 

「今日は楽しかったですね」

 

「ええ、そうですね。 それに、みんな集まってくれて良かったです」

 

「ボクも楽しかったよ」

 

「ああ、そうだな」

 

後片付けが終わった三人も、ソファーに腰掛け、数分談笑をした。

それから、俺たちもお開きという形になった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

そして、現実世界に戻った夜21時過ぎ。

俺、木綿季、優衣は、リビング兼ダイニングの椅子に座っていた。

そして、これから行われるのは、――プレゼント交換タイムだ。

 

「和人と交換するプレゼントは、優衣ちゃんと一緒に選んだんだ」

 

「はいです! パパ、受け取ってください」

 

俺は、優衣からプレゼントを受け取った。

 

「開けていいか」

 

二人が頷いたのを確認してから、丁寧にラッピングを剥がした。

ラッピングされた箱を開けてみると、

 

「手帳と万年筆か。 有り難く使わせて貰うよ。――次は、俺の番か」

 

俺は用意していたラッピングされた木箱をテーブルの上へ置いた。

優衣と木綿季は、壊れ物を扱うように、やさしく手に取った。

 

「パパ、開けてもいいですか?」

 

「ボクもいいかな?」

 

「ああ、いいぞ」

 

優衣と木綿季は、綺麗にラッピングを解いていく。

そして、箱の蓋をゆっくりと開けた。

 

「わあ、お月さまのネックレスです」

 

と、優衣は感嘆な声を上げた。

そう。 優衣にプレゼントしたのは、小さな月の形が象られたネックレスだ。

 

「ボクは、何かな。――和人、これって……」

 

俺が木綿季にプレゼントしたネックレスは、旧アインクラッドで、木綿季がネックレスとして首に下げていた、《ユイの心》に酷似しているのだ。

 

「和人、ありがと……。 大事にするね」

 

「ああ、気に行って貰えて何よりだ」

 

この二つのネックレスは、俺がアクセサリーショップに赴いた時、一目見て「これだ!」と思ったものだ。

すると、優衣が咳払いをし、

 

「優衣は、これから学校の宿題に取り組むので、お部屋に行ってますね」

 

恐らく、優衣の気遣いだろう。

俺と木綿季が、二人きりになるように。

優衣は立ち上がり、敬礼のポーズをして、自室へ戻って行った。

 

「優衣ちゃん、気を遣ってくれたのかな?」

 

「ああ、そうかもしれん。 最近、二人の時間が無かったからじゃないのか?」

 

「な、なるほど」

 

木綿季は、「そうだ!」と呟いた。

 

「ボク、お手洗いに行ってくるね」

 

木綿季は椅子から立ち上がり、手洗い場へ向かった。

それから数分後。

 

「じゃ~ん。 どうかな?」

 

リビングに入って来た木綿季は、黒髪の上に赤い小さな三角帽子がちょこんと乗せ、肩をむき出しにして赤い服を身に纏い、白い綿毛の赤いスカート履いた姿だった。

――サンタコスチュームって奴だ。

 

「……ど、どうかな。 に、似合うかな……?」

 

木綿季が首を傾げた事によって、帽子先端に付いている白いボンボンが左右に揺れた。

 

「……あ、ああ。メッチャ似合ってるぞ」

 

木綿季が、「よ、よかった~」と呟くと、再び椅子に腰を下ろした。

 

「その服どうしたんだ?」

 

「えっとね。 翠さんが、この服着てみない?って提案してくれてね。 折角だから、着てみたんだ」

 

「お袋、ナイスだ。……そうじゃなくて、寒くないか? 部屋の中だとはいえ、結構薄着だからな。 うん、ちょっと暖房入れるな」

 

俺はリモコンを操作し、暖房をかけた。

 

「あ、ありがと」

 

俺と木綿季は立ち上がり、暖房の風が当るソファーの上へ座った。

座ると、木綿季は何時ものように、俺の肩に頭をコテンと乗せてきた。

 

「ボクたちの思い出がまた増えたね」

 

「ああ、そうだな。 皆、楽しそうだったからな。 てか、クラインが凄かった」

 

「ふふ、そうだね」

 

「よし、今日は俺が膝枕をしてあげよう」

 

「え、いいの?」

 

木綿季は俺の肩から頭を上げ、首を傾げた。

 

「おう、いいぞ」

 

「じゃ、じゃあ、お邪魔しまーす」

 

木綿季は横になり、俺の膝の上へ後頭部を乗せた。

俺は彼女を見てこう思った。

――これからも守っていく、そして、何時までも笑顔でいて欲しい。

――君の手は、絶対に離さないと。

 

「ふふ、和人の思っていること、ボクにも分かるよ」

 

「うぅ、なんか恥ずかしいな」

 

木綿季は、クスクスと小さな笑い声を上げた。

 

「――ボクも、君の手を離さないよ」

 

「ああ、俺もだ」

 

今年のクリスマスは、最高の日として記憶に残り続ける事になる――。




木綿季ちゃんのサンタ姿、メッチャ可愛いと思いまする!!
てか、クライン。ナンパはいかんよ。うん、絶対。
後、チキン以外の料理は残っていましたよー。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
知らんうちに、ALO編の話数を越してたぜ(驚愕)
後、双子の名前、決定しました。


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第118話≪家族と初詣≫

ども!!

舞翼です!!

皆さん、Happy new year。
更新が遅くなって申し訳ないm(__)m
クリスマスの話と、リメイク版を投稿したら、燃え尽きてしまって(汗)
なので、今回の投稿、メッチャ不安っす(^_^;)

今回の話は、タイトル通りですね。
それでは、後日談第23弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


今日の日付は、二〇三二年。一月一日。

世間で言うお正月だ。

 

――閑話休題。

 

俺は一人で、リビング兼ダイニングの椅子に座っていた。

何故かと言うと、木綿季と優衣が振袖の着付けの為、寝室に居るからだ。

因みに、リビングの扉は閉じられている。

その時、コンコンと扉がノックされた。

 

『パパ、入ってもいいでしょうか?』

 

声の主は、我が最愛の愛娘の優衣だ。

 

「おう、いいぞ」

 

扉が押し開けられ、優衣がリビングへ入って来た。

優衣もじもじしながら、

 

「……パパ、どうでしょうか? 似合いますか?」

 

優衣姿は、白い生地に、様々な花が刺繍されている振袖姿であった。

 

「似合ってるぞ。――こりゃ、優衣に告白する男共がいるはずだ」

 

まあ、俺が認めないと、優衣は嫁に出さんけどな。

俺って、親バカなのか?

 

『和人~、ボクも入るよ~』

 

そう言って入って来たのは、俺の愛しの妻の木綿季だ。

木綿季の姿は、色違いの紫色だった。

そして、木綿季と優衣の長い黒髪は、ストレートに流れていた。

 

「……いや、うん。 似合ってるぞ。 独り占めしたいレベルだ」

 

「も、もう、和人は。――そうだ! まだ残ってる振袖があるから、あとで着てあげるよ」

 

「お、おう。 楽しみにしてる」

 

いや、まあ、あれだな。

俺の理性が吹き飛ばないか、不安だな。

すると、優衣が、

 

「パパとママは、ラブラブですね♪」

 

優衣の不意打ち?により、俺と木綿季は頬を朱色に染めてしまう。

 

「ま、まあな」

 

「う、うん。 ボクと和人はラブラブだよ」

 

「さ、さて、実家に挨拶にしに行くか」

 

そう。 今日は、実家で挨拶を済ませてから、明治神宮で参拝をする予定なのだ。

俺は立ち上がり、玄関を目指し歩き出した。

その後ろに、木綿季、優衣と続いた。

俺は靴を履き、木綿季と優衣は下駄を履くと、俺が玄関の扉を押し開けた。

木綿季と優衣が外に出たのを確認してからドアを閉め、鍵を掛けた。

俺たち三人は階段を下り、桐ケ谷家へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たち家族は、桐ケ谷家の庭を歩きながら玄関へ向かい、備え付けられているインターフォンを押すと、聞き慣れた“ピンポーン”という音が桐ケ谷家に響き渡った。

キッチンで料理を用意していた直葉が、エプロンをしたまま玄関へ向かい、扉を開け、ひょっこりと顔を出した。

 

「お兄ちゃん、お義姉ちゃん、久しぶりだね。 ささ、お父さんとお母さんがお待ちかねだよ」

 

直葉は、優衣に視線を移した。

 

「初めまして、桐ケ谷優衣です。 えっと、直葉叔母さん?」

 

と、優衣はペコリと頭を下げた。

 

「ぐはッ!……わ、私が、お、叔母さん」

 

直葉は、がっくりと肩を落としていた。

 

「じゃ、じゃあ、藍子さんは」

 

「藍子さんですか?」

 

優衣は暫し思案顔をした。

恐らく、藍子=ラン、と結び付かなかったのだろう。

 

「あ、ねぇねぇのことですね。 藍子さんは、私のねぇねぇです」

 

「そ、そうなんだ。 ま、まあ、とりあえず、上がってよ」

 

玄関の扉を潜り、靴を脱ぎ、両親が居る歩みを進めた。

テーブルの片側に座っていた父さんと母さんは、俺たちにもう片側に座るように促した。

テーブルの上に乗られているおせち料理は、紅白の蒲鉾、黄色の栗きんとん、伊達巻、かずのこ、黒豆の甘煮、昆布巻などが、色鮮やかに盛られていた。

 

「親父、これ」

 

俺は隣に置いていた、金箔入りの四合瓶の日本酒をテーブルの上へ置いた。

 

「お、和人。 気が利くな」

 

「まあ、俺は飲まんけど、この後、神社に行く予定があるからな」

 

「なら、夜一緒に飲もうか。 いいだろ?」

 

峰高は、パンと膝を叩いた。

 

「雄介さんも呼んで、三人で飲もうか」

 

「え、まじで」

 

「参拝した後に、予定でもあるのか?」

 

「いや、参拝の後は、家族で過ごそうと思ってるからな」

 

その時、隣に座っていた木綿季と優衣が、俺の袖をくいくいっと引っ張った。

 

「和人、お義父さんとお酒飲んできていいよ」

 

「はい。 私は、ママとショッピングをしてきます」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて。という事だ。 参拝が終わったら、またお邪魔するわ」

 

峰高は嬉しそうに、

 

「そうかそうか」

 

いや、どんだけ俺たちと飲みたかったんだよ。

まあ、気持ちは分からんでもないが。

 

「さて、新年初の挨拶をしようか」

 

峰高がそう言い、全員は一歩引いた。

 

「「「「「あけまして、おめでとうございます!!」」」」」

 

全員は、ペコリと頭を下げた。

ここだけの話、マスコミが俺の実家の場所を突き止め、取材に来たらしい。

父さんと母さんは追い出すんじゃなくて、ノリノリで取材を受けたらしいが。

 

「和人。 今じゃ有名人だな。 パパラッチとか寄ってきそうだが?」

 

「いや、今は落ち着いたから大丈夫だ」

 

実家の場所はバレてしまったが、マンションの場所はバレ無かった。

まあ、俺が菊岡に頼んだからなんだが。

 

「ボクは、女の子が寄りつかないか心配だけど」

 

「心配するな。 俺が愛すると決めた人は、木綿季だけだからな」

 

木綿季は頬を真っ赤に染めた。

 

「も、もう、和人は。 ここには、みんな居るんだよ」

 

「いや、事実だからな。 俺は、木綿季の手を離さないって決めてるしな」

 

「和人……」

 

俺と木綿季は新年早々、甘々な空間を形成していた。

 

「早く孫の顔が見たいわね」

 

「うむ。 そうだな」

 

「うん、私も早く見たい」

 

「そうしたら、私、お姉さんです」

 

上から、翠、峰高、直葉、優衣だ。

大学を卒業したら、子供を、と考えてはいるが。

 

「さっき聞きそびれちゃったんだけど、ユイちゃんよね?」

 

「はい、桐ケ谷優衣です! えっと、翠おばあちゃん?」

 

「あらやだ、翠おばあちゃんなんて」

 

そう言っている翠の顔は、緩んでいた。

すると、峰高が、

 

「優衣ちゃん、私は?」

 

「えっと、峰高おじいちゃん」

 

同じく、峰高の頬も緩んでいた。

二人がこうなるのも仕方ないと思うが。

 

「さて、オレは優衣ちゃんに渡す物があるんだ」

 

「そうだったわ」

 

翠と峰高は立ち上がり、自室へ向かった。

数分後に戻ってきた翠と峰高の手には、ぽち袋が握られていた。

 

「優衣ちゃん、お年玉だ」

 

「私からもよ」

 

優衣は両の手を差し出し、ぽち袋を受け取った。

俺と木綿季と直葉も懐からぽち袋を取り出し、優衣に渡した。

 

「俺からもだ」

 

「ボクからも」

 

「私からもだよ」

 

「み、皆さん。 ありがとうございます」

 

それから数時間談笑し、写真撮影する事になった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「じゃあ、和人と峰高さんは袴に着替えてきてください。 私も、振袖に着替えてくるわ」

 

そう言って、翠は立ち上がり自室へ向かった。

 

「じゃあ、私も着替えてくるな」

 

「じゃあ、俺も」

 

俺と峰高も立ち上がり、自室へ向かった。

 

「ボクと優衣ちゃんとスグちゃんは、先に庭に行ってるね」

 

「おう」

 

俺は階段を上がり、自室へ向かい、袴に着替えた。

因みに、色は黒だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺、翠、峰高が着替え終わり、庭に桐ケ谷家族が集まった。

 

「じゃあ、撮るぞー」

 

峰高がカメラの自動シャッターを回し、此方にやって来た。

左から、峰高、俺、優衣、木綿季、直葉、翠と並んでいる。

数秒後、シャッターが切られ、写真撮影が終了した。

 

「俺たちは神社に行くんだが、お袋たちはどうする?」

 

「そうねぇ、私たちは後で行くわ。 だから、和人たちだけで行ってらっしゃい」

 

「わかった。 じゃあ、行くか」

 

「「うん(はいです!)」」

 

俺、木綿季、優衣は、「またね」と声をかけ、桐ケ谷家の門を潜った。

俺たちは車に乗り、明治神宮に向かった。

神社は、沢山の人で賑わっていた。

俺と木綿季は、優衣を真ん中にして歩きだし、本堂へ参る道を進んで行く。

 

「わあー、人がいっぱいです」

 

「だな。 よし、並ぶか」

 

「だね。 行こう」

 

そして、長い長い参拝の列に並んだ。

うん、マジで長い……。

数分後。

 

「あ、ボクたちの順番が回ってきたよ」

 

「おう。――優衣、お賽銭だ」

 

俺はそう言い、財布の中から取り出した五円玉を、優衣が広げた手の中に落した。

 

「パパ、ありがとうございます」

 

「これは、木綿季の分だ」

 

五円玉をもう一枚財布から取り出し、木綿季に手渡した。

 

「和人、ありがと」

 

俺、木綿季、優衣は賽銭箱にお金を投げ入れ、鐘を鳴らして、身体の前で両の手を合わせた。

 

「(――俺たち家族が、何時までも笑顔で居られますように)」

 

「(――ボクたち家族が、健康でありますように)」

 

「(――みなさんと、いつまでも一緒に居られますように)」

 

俺たちは、パンパンと手を叩いた。

参拝を終えると、おみくじの列に並んだ。

そして、俺たちの順番だ。

 

「すいません。 おみくじ三つ」

 

俺は巫女さんに言い、おみくじを一枚取った。

俺に続いて、木綿季、優衣とおみくじを取る。

少し離れた所で、俺たちはおみくじを開いた。

 

「お、大吉だ」

 

「あ、ボクも大吉」

 

「わ、私もです!」

 

いや、まあ、うん。 家族全員が大吉って凄くね。

もしかして、明日奈と藍子も大吉だったりして。

……それは無いか。

 

「実は、俺からプレゼントがあるんだ」

 

本堂に向かう道中、二人に似合う簪を見付けたのだ。

俺は、少しの間別行動を取り、それを購入してきたのだ。

俺が懐から取り出した簪を見た優衣と木綿季は、

 

「わあ、とっても綺麗です」

 

「和人、ありがと」

 

俺は微笑みながら、簪を二人の髪に差し込んだ。

木綿季と優衣が簪に触れると、リンと音が鳴った。

 

「二人とも、似合ってるぞ」

 

「ありがと。 和人」

 

「パパ、ありがとうございます!」

 

その時、

 

「和人君、木綿季ちゃん、優衣ちゃん。 こんにちは」

 

「和人さんたちも、お参りに来てたんですね」

 

そう言ったのは、俺の親友、明日奈と藍子だった。

二人共、振袖姿だ。

 

「おう、明けましておめでとう」

 

「明日奈、姉ちゃん。 あけましておめでとう」

 

「明日奈さん、ねぇねぇ、あけましておめでとうございます」

 

「あけましておめでとう。 今年もよろしくね」

 

「明けましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします」

 

そう言って、五人はぺこりと頭を下げた。

因みに、上から、俺、木綿季、優衣、明日奈、藍子だ。

 

「よし、ここは二人に任せていいか? 親父が、まだかまだか、って待ってるかもしれん」

 

てか、絶対来てくれよ、とも言ってたな。

 

「うん、ボクと優衣ちゃんは、明日奈と姉ちゃんと一緒に行動するよ」

 

「はい、なので、心配しなくても大丈夫です」

 

「おう、了解した。 じゃあ、行ってくる。――明日奈、藍子、後は任せた」

 

「任せて下さい」

 

「うん、任せて」

 

上から、木綿季、優衣、俺、藍子、明日奈だ。

俺は手を振ってからその場を後にし、再び桐ケ谷家に戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

桐ケ谷家に戻った俺を迎えてくれたのは、直葉だった。

そして直葉も、木綿季たちと合流するらしい。

 

「お兄ちゃん、頑張って」

 

「え、何を」

 

「うん、色々だよ」

 

振袖に着替えた直葉は、玄関を出て、待ち合わせ場所へ向かった。

俺は玄関に入り、下駄を脱いでから、居間へ向かった。

其処で見たのは、結構な量の日本酒を飲んでいた、峰高と雄介だった。

 

「(うん、スグが言ってた、『頑張って』の意味が分かった)」

 

「おい、和人。 飲むぞー」

 

「和人君も座りなさい」

 

そう言った峰高と雄介は、ほろ酔い状態だ。

酒の強い二人が酔うのは早くないか?と思ったのだが、俺が持ってきた日本酒の度数は、意外に高かったのだ。

俺は峰高と雄介が向い合わせになるように座り、

 

「二人共、酔ってる?」

 

「いやいやいや、酔ってないぞ」

 

「そうだぞ、和人君」

 

「(いや、どう見ても酔ってるでしょ)」

 

俺は大きく溜息を吐いた。

この後、木綿季と優衣の事を中心に聞かれたのは、別のお話。




女性陣の振袖姿、メッチャ可愛いと思いまする。
新年早々、甘々な二人だぜ。
そして和人君、メッチャ絡まれたんだろうな~(笑)
後、簪の先端は、キャップで止めて有りましたよ~。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
次回から、大人編に行こうかな、と思っていたり。
でも、後一話何か書くかも。
てか、子供の名前決まってるのにね(^_^;)
さて、今年も『ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~』をよろしくお願いします!!
リメイク版もよろしくね(^O^)


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第119話≪食事会と今後の将来≫

ども!!

舞翼です!!

すっっっっっませんでした――――!!m(__)m(ダイナミック土下座)
えー、すいません。出来心で他の作品を書いていたら嵌ってしまってですね。はい。
こちらを二ヶ月近く放置してしまいました<(_ _)>
こちらの作品が久しぶりの投稿になるので、メチャクチャ不安です……(>_<)
話の内容の食い違いがなければいいのですが……。
てか、沢山の人を動かすのは難いっスね。

えー、今回はですね。大学編最後を書かせてもらいました。
それでは、後日談第24弾いってみよー(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三二年。 三月。

俺たち夫婦は、優衣を真ん中にして、歩道を歩いていた。

もちろん、優衣の手を繋いでだ。

今日は、≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫で大きな食事会が行われるのだ。

参加メンバーは、ALOで過ごしている、いつものメンバーだ。

 

「今日は、久しぶりにみんなに会えるね」

 

笑顔でそう言ったのは、俺の愛しの奥さん、桐ケ谷木綿季だ。

木綿季が左手に下げているトートバックの中には、今日の為に作ったものが入っているらしい。

 

「ところで、その中には何が入っているんだ?」

 

「今日の朝早起きして、ママと一緒にお料理を作ったんです。――皆さん、喜んでくれるでしょうか?」

 

「大丈夫。 優衣ちゃんとママが一緒に作った料理だもん。 みんな、喜んでくれるよ」

 

木綿季は、優衣に笑顔で笑いかけた。

優衣もつられるように、笑顔になった。

 

「うむ。 優衣と木綿季が作ったんだ。 三ツ星シェフより旨いのは、間違えないな」

 

こう言い、うんうんと頷く俺。

優衣も最近になって、木綿季と一緒に料理をする機会が多くなった。

何でも、将来困らないように。ということだ。 流石、自慢の愛娘だ

……待て、将来困らないように。ということは、……男か?

それはないはずだ。 優衣はガードが堅いはずだし。 いや、でも確か、優衣はもてるんだったよな。 その中に、優衣が選んだ男がいたら……。

いや、いやいやいや、優衣まだ中学生なんだ。 そんなのは早すぎる。 あ、でも、俺と木綿季が愛し合ったのは高校生からだしな。……中学生でも早くはないのか? いやいやいや、――。

 

「――和人。 おーい、和人」

 

木綿季に呼ばれ、俺は意識を浮上させた。

 

「お、おう。 どうした」

 

「うん、なんか百面相してたからさ」

 

「パパ、考えごとですか?」

 

何て答えようか迷っていたら、木綿季が、ふふ、と笑った。

 

「もう、優衣ちゃんのことでしょ」

 

「もしかして、私がお料理しだしたことに関係しているんでしょうか?」

 

二人にそう言われ、俺は、うっ、と喉を詰まらせた。

 

「まあ、うん、なんだ。 優衣が、何で料理をし出したか気になってな。 もしかしたら、とか思ったり……」

 

「大丈夫ですよ、パパ。 お付き合いは、高校に入るまで待ちます」

 

俺は安堵の息を吐いた。

 

「そ、そうか。 よかった。――優衣は、俺が認めた奴じゃないと嫁に出さんからな。 あと、俺にデュエルでも勝てたらな」

 

俺がこう言うと、木綿季が息を吐いた。

 

「デュエルでも勝てたらって、そんな人いるのかなー。 和人は、ALOで無敗なのに」

 

俺は首を左右に振った。

 

「いやいや、木綿季はトーナメントで、俺に勝っただろ」

 

「でもでも、SAOでのデュエルを通算すると、ボクと和人は引きわけだよ」

 

そう。 俺は、木綿季とSAOでデュエルをしたことがあるのだ。

あの時は、二刀を抜くフェイントで、一撃入れた形になったが。

 

「そうだな。 SAOでのデュエルは、半端なく緊張感があったよな」

 

「そうだねー。 SAOでは色々な出会いや別れがあったよね。 優衣ちゃんにも会えたしね」

 

木綿季は、優衣の頭をくしゃくしゃと撫でた。

優衣は、子猫のように目を細めた。

 

「ママの手、とても温かいです」

 

俺は、優衣の頬をぷにぷにした。

 

「パパ、くすぐったいです」

 

そう言い、優衣は笑みを零した。

こう話している内に、目的の場所である建物が見えてきた。

 

「そう言えば、七色博士も来るんだっけ?」

 

今日はいつものメンバーの中に、七色も入っているのだ。

そして七色も、セブンと言うアバターでログハウスに度々訪れているのだ。

ちなみに、種族は音楽妖精族(プーカ)だ。

 

「そうだな。 俺が昨日誘ったら、すぐにOKの返事がきたぞ。 もし仕事や取材が入っても、全部キャンセルするとまで言ってたな」

 

俺の言葉を聞き、木綿季が苦笑した。

 

「そうなんだ。 でも、嬉しいな。 ここまで楽しみしてくれるなんて」

 

「パパ、ママ。 私、七色博士と現実世界で会うの初めてです」

 

「ママも現実世界で会うのは初めてなんだよ」

 

「着いたぞ」

 

俺がそう言うと、眼先には目的の場所である≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫の建物の姿が目に入った。

店のドアには、《本日貸切》という文字の木札かけられていた。

木綿季と優衣を見てからドアを押し開けると、備え付けのベルが、カランカラン、と音を立て店内に響いた。

メンバーを確認した所、俺たちが最後のようだ。

カウンターで料理の準備をしていたエギルが、ニヤリと笑いこちらを見た。

 

「いらっしゃい、桐ケ谷夫婦。 それと、久しぶりだな」

 

「久しぶりだな、エギル。 最近は時間が合わなくて、会う機会がなかったからな」

 

エギルは手際よく料理を盛りつけながら、

 

「そりゃしかたねぇさ。 オレには店があるし、キリトには実験があるんだからな。 それより、皆さんお待ちかねだぞ」

 

木綿季と優衣は、エギルに挨拶をしてからテーブル前まで移動する。

俺も二人の後ろを追うように、歩いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

テーブルの前まで移動すると、

 

「和人君こんにちは」

 

と、前に進み出たのは、七色だった。

俺は片手を上げた。

 

「おう、七色か。 あ、そう言えば、昨日の報告書あれで良かったか?」

 

七色は唇を尖らせた。

 

「和人君。 今日は皆でお食事会なんだから、仕事の話は無しよ」

 

俺は頬を掻いた。

 

「すまんすまん。 紹介するな。 奥さんの桐ケ谷木綿季、我が愛娘の桐ケ谷優衣だ」

 

木綿季と優衣は、前に出た。

 

「初めまして、桐ケ谷木綿季です。 旦那の和人がいつもお世話になっています」

 

「は、初めまして、桐ケ谷優衣です。 よ、よろしくお願いします!」

 

木綿季と優衣はそう言い、ペコリと頭を下げた。

七色は片手を振った。

 

「木綿季ちゃんも優衣ちゃんも堅苦しいのは無しよ。 この中じゃ、私は新参者なんだから。 木綿季ちゃんに限っては年上なんだから」

 

木綿季は頷いた。

 

「じゃあボクは、七色ちゃんって呼ぶね。 これからよろしくね」

 

「わ、私はこのままで」

 

挨拶が終わったのを確認してから、俺の親友が近づいてきた。

 

「こんにちは、和人君、木綿季ちゃん、優衣ちゃん」

 

「こんにちは、和人さん、優衣ちゃん。 一昨日ぶりですね」

 

「おう」

 

「明日奈さん、ねぇねぇ。 こんにちはです」

 

明日奈と藍子がこう言うと、俺は片手を上げ、優衣はペコリと頭を下げた。

木綿季は頬を膨らませていたが。

 

「姉ちゃん、ボクは」

 

「ふふ、ごめんなさい。 木綿季は昨日ぶりね」

 

東大組がこう話していたら、里香、直葉、珪子、詩乃が此方にやって来た。

てか、腐れ縁の遼太郎(クライン)はどうしたんだろうか? 奥のテーブルを見てみたら、トレイに乗った山盛りの料理を口に運んでいた。

……うん、遼太郎さんは相変わらずっすね。

 

「ほら、今年初のお食事会を初めr……」

 

里香の言葉が止まった理由は、木綿季の隣にいる優衣を見たからだった。

里香は目を丸くした。 それは珪子、詩乃も例外ではなかった。

 

「え、ユイちゃん。 ALOのユイちゃんよね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そ、そう言えば、そうよね」

 

直葉の解説が入った。

 

「お兄ちゃん、ユイちゃんを現実世界に顕現することに成功したんですよ。 非公開でその装置の量産しようと思ってるらしんですが……」

 

直葉の言葉を、七色が引き継いだ。

 

「そうなんだけどね。 装置の量産化の目途は立っていないわ。 私も頑張れば作れると思うけど、和人君が作った物には遠く及ばないと思うわ。 顕現できるのは、出来ても植物だけね。 和人君と協力して作るなら、話は違ってくるでしょうけど」

 

「セブンちゃんとキリの字が協力すれば、何でも作れちまうんじゃねェか。 なんつたって、茅場晶彦を超える天才と、ロシアの天才科学者なんだからよォ。 まァ、茅場晶彦を超える天才二人組、とも言ってる奴もいるらしいけどナ」

 

そう言ったのは、トレイに料理を乗せた遼太郎だ。

遼太郎が言ったように、俺と七色が協力すれば、作れない物はないと雑誌では取り上げられていたのだ。 今月の雑誌には、“茅場晶彦を超える天才二人組の言葉!!”何ていうのが取り上げられていたが。

 

「でも、木綿季ちゃんのブログも凄いわよね。 ランキングでは、常にトップ五位入りだもの。 お気に入り登録者数はそろそろ二万にいきそうだったわね。 たしか、森の家へようこそってブログだっけ」

 

「そうだったと思います。 私も見てますよ。 ホント、参考になりますね。 あのブログは」

 

明日奈と藍子にそう言われ、木綿季は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。

森の家にようこそのブログに書かれているは、俺と優衣に作ったお弁当の写真と、木綿季行きつけのショッピングセンターやケーキ屋さん。 他にも、節約術などが書かれている。

 

「私もお気に入りに登録してあるわ。 あの節約術はホント助かるわね」

 

「私もです。 前日の食材を使った、お弁当の作り方はホント助かりますね。 あれで食材を捨てることはありませんしね」

 

「お買い物も安く済みますしね」

 

「やっぱり、Y・Kのハンドルネームは木綿季だったのね。 てか、あんたは、大学生にしてカリスマ主婦ね」

 

詩乃に続いて、珪子、直葉、里香だ。

まさか、身近に登録者がいるとは……。 まあ、一万越えのお気に入り登録者がいれば当然なのかもしれないが。

 

「な、なんか、恥ずかしいね。 和人の気持ちが解ったような気がするよ」

 

「そ、そうか。 まあ、これは慣れだな、慣れ」

 

「パパとママは、自慢の夫婦です」

 

優衣にもそう言われ、俺も恥ずかしくなってきてしまった。

俺はワザとらしく咳払いをし、

 

「さて、立ち話もこれ位にして、皆で食事にしようぜ」

 

俺がそう言うと、エギルが作っていた料理を運ぶのを手伝い、卓上にコップに飲み物を注ぎ、最後に出てきた、照り焼きを纏ったローストチキン置いてから全員は席についた。

全員が目の前に置かれた飲み物が注がれたグラスを掲げた――。

 

「じゃあ、俺が音頭をとるな。――今日は皆忙しい中集まってくれてサンキューな。 それでは、乾杯!」

 

「「「「「「「「「「乾杯――!」」」」」」」」」」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

それから談笑しながら料理を食べた。

七色も現実世界の顔合わせで最初はぎこちなかったが、時間が経過するにつれ、それも解消していた。

俺がポツリと呟いた。

 

「そろそろ、俺たちも東大卒業だな」

 

「そうだねー。 姉ちゃんと明日奈はどうするの?」

 

「私と明日奈さんは、東大教授の助手をしようと思っていますよ。 私と明日奈さんは、経営学の教授と、科学部の教授を目指そうと思っていますから。 なので卒業したら、その担当の教授の助手につくと思います」

 

「随分前から声はかかってたんだけどね」

 

明日奈と藍子は、それぞれの学科でトップの成績を残しているのだ。

教授から声がかかるのは、当然のことだった。

木綿季も経済学でトップの成績を残し、教授の手伝いを偶にしているが――。

 

「木綿季ちゃんは、どうするの?」

 

「ボクの将来の予定は決まってるから大丈夫だよ」

 

「え、それは何かしら?」

 

明日奈と藍子にこう言われ、木綿季は唇に人差し指を当て、こう答えた。

 

「うん、専業主婦だよ。 時間が空いたら副業もしようと思ってるかな」

 

明日奈と藍子は、この言葉の意味をすぐに理解したそうだ。

つまり、――赤ちゃんを育てるということだ。

 

「和人君はどうするの? どこでも行けちゃう気もするけど」

 

「七色さんもどうするんですか?」

 

明日奈と藍子にそう言われ、七色は考え込み、俺は腕を組んだ。

 

「まあ、どこでも行けっるちゃ行けるんだよな。 東京大学を始め、他の有名大学からも、有名企業からも声がかかってるからな。 でもなあー、なんかしっくりこなんだよな」

 

俺がこうぼやいていると、七色が閃いたように、

 

「ねぇ、和人君。 私今思い付いたんだけど。 私と会社を作るのはどうかしら。 何にも縛られずに仕事ができると思うから、和人君も力を活かせるだろうし、私も和人君と仕事をして力をつけることができるわ。 何より、第四世代の研究を続けることができるわ。 《ニューロリンカー》はまだ仮設の段階だから」

 

俺は頷いた。

 

「なるほど。 仮設でも、微妙なズレが出たらまた組み直さないといけないからな。 それに、《ニューロリンカー》の設計をできるのは、俺と七色しかいないからな」

 

「そういうこと。 《ニューロリンカー》は、私と和人君、二人が揃わないと完成しない物だしね。 あ、資本金のことなら心配ないわよ。 研究機材諸々を揃えても、お釣りがくる金額は持ってるからね」

 

俺がどうしようか考えていたら、木綿季の手が俺の肩に置かれた。

 

「和人の自由にしていいんだよ」

 

俺は木綿季の手に、自身の手を重ねた。

 

「……よし、七色。 大学を卒業したら、会社を(おこ)そう。 研究者も、少しずつ採用すればいいしな。 俺も資本金少し出すよ」

 

「お金のことなら気にしないで。 てか、茅場晶彦を超える人材を引き抜くんですもの、これくらいのことは当然よ」

 

俺は言葉を失った。 会社の資本金、研究機材の諸々を合わせたら、二億近くかかってしまうだろう。

 

「……俺にそこまでの価値があるのか?」

 

「あるに決まってるじゃない。 第四世代の開発も、和人君がいないと完成しないもの。 私一人の力では限界があるしね。 和人君は、研究者を少しずつ採用って言ったけど、たぶん、世界中から応募がくると思うわよ。 天才科学者と、茅場を超える天才と仕事ができるんですもの」

 

俺は両膝を叩いた。

 

「よし、俺は七色の会社に一生住すること誓うよ。――じゃあ、卒業したらよろしくな、七色」

 

「ええ、よろしくね。 和人君」

 

俺と七色は硬く握手を交わした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「なんか、凄い話をしてたわね」

 

「私、初めて見たわ、億のお金が動くところ」

 

「私たちは、世界を変える凄い人と一緒にいるですね」

 

「私たちにとってお兄ちゃんは、雲の上の存在ですね」

 

詩乃に続いて、里香、珪子、直葉だ。

すると優衣が、

 

「私のパパですから」

 

と言い、優衣は胸を張った。

遼太郎が口に含んだ料理を飲み込んでから、

 

「やっぱ、キリの字はスゲーよな。 まァ、SAO時代からそう思ってたけどよォ」

 

「でもよぉ、キリトはそんなの気にしないで接して欲しいと思ってるはずだ」

 

エギルがそう言い、ここにいるメンバーは頷いた。

優衣も、パパもそう望んでいると思います。と言っていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

料理も食べ終わり、空いた食器を女性陣が下げ、俺と遼太郎はテーブルの上をテーブルクロスで拭いた。

拭き終わり椅子に座りながら談笑してると、女性陣が洗い物を終わらせ、こちらに戻ってきた。 食器等の片付けは、エギルがやるそうだ。

 

「さて、俺たちは一足先に御暇するな」

 

「うん、今日は楽しかったよ。 またやろうね」

 

「今日は楽しいお時間をありがとうございました」

 

そう言って、俺たち家族はドアの前まで移動した。

 

「それじゃあ、また」

 

俺がそう言いドアを押し開ける。

木綿季と優衣も、お別れの言葉と手を振ってから、ドアを潜り外へ出た。

俺たち家族は、歩道を歩きながら帰路についていた。 帰りも、優衣を真ん中にして手を繋いでだ。

歩道を歩き、電車を数本乗りついでマンションへ戻った。

マンションの鍵を開け、玄関に我先にと入った優衣は、

 

「優衣はこれから、今日撮った写真の整理をしますから、自室へ行ってますね」

 

優衣はそう言い、自室へ向かった。

扉を閉め、俺と木綿季は靴を脱いでリビングまで歩き、リビング備え付けられているソファーへ腰を下ろした。

 

「また、優衣ちゃん気を遣ってくれたのかな?」

 

「たぶん、そうかもな。 ホント、自慢の愛娘だよ。 今度何処かに連れて行ってあげようか。 今までの疲れを癒す為にもな」

 

「ボクは、和人のそういう所大好きだよ」

 

木綿季は、俺の肩に頭をコテンと乗せた。

 

「ボクが和人の好きな所は、まだまだあるけど」

 

俺は木綿季の身体を抱き寄せた。

 

「俺は、木綿季の全部が大好きだぞ。 俺はお前を愛してるからな」

 

「ボクも君を愛してるよ」

 

暫しの沈黙が流れた。

この沈黙を、木綿季が破った。

 

「そう言えば、和人は二人子供が欲しいんだよね」

 

「ん、ああ。 男の子と女の子、二人欲しいな。 でも、会社が軌道に乗るまではおあずけかも」

 

「そっかー、そろそろ良い時期だと思ったんだけどね」

 

木綿季が言う良い時期とは、子供を作る時期と言うことだろう。

 

「ま、会社の軌道も早く乗ると思うしな。 俺と七色がいるんだし。 だから、それも遠くない未来だな」

 

「そうだね。 色々と頑張ろうね」

 

「ああ、そうだな」

 

俺と木綿季は、顔を見合わせ向き合った。

そのまま顔が近づき、唇と唇が重なった。 とても長いキスだった。

 

「さて、風呂にするか」

 

「今日は二人で入る?」

 

「うーん……うん。 そうするか。 優衣には何て説明しようか?」

 

俺は少し考えたが、了承した。

まあ、最近は二人で入らなかったのもあったのだが。

 

「ボクから言っておくから大丈夫。 優衣ちゃんは、『妹ができるんですか』、って言って喜ぶと思うよ」

 

「それはまだ先になるなー」

 

「ふふ、そうだね」

 

まあ、こうして今日の食事会が終わりを告げるのだった。

俺と木綿季の間に子供が生まれるのも、そう遠くない未来になるのだった――。




またまた出しちゃいました、七色博士(笑)
AWネタもですね(笑)
さて、今回の話のメインは東大組になりましたね。

そして、和人君たちの今後の将来が決定しました。
てか、七色博士と和人君が立ち上げる会社は、すぐにうなぎ昇りになると思うが。

後、木綿季ちゃんと優衣ちゃんが作った料理はアップルパイですよー。
これは皆で美味しく食べました。
描写に書けづ申し訳ないm(__)m

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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後日談 大人 or 子供編
第120話≪新たな生活と子供たち≫


ども!!

舞翼です!!

今回の話から大人編ですな。
いやー、時間がかかって申し訳ない。新作を書いたり、最近忙しかったりでm(__)m

それでは、後日談第25弾いってみよ(^O^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇三七年。 八月。

 

俺と七色が立ち上げた会社は、現在は15人程度の従業員で会社を経営している。

本当は、50人採用して研究をしようとしたのだが、七色と相談した結果、少人数で研究した方が捗るという意見になったからだ。

そして今現在俺は、研究資料を纏めていた。

 

「カズ。 ニューロリンカーの設計、一応数値内に収めたけど、これでいいか?」

 

俺は渡された資料に目を通す。 今俺に話しかけたのは、如月悠。

俺が東京大学で同じチームだった奴だ。 こいつは俺が採用した。

悠とは大学時代から馬が合ったので、壁を作ることなく、接することが出来ると思ったからだ。

 

「おう、これでいいぞ。 明後日研究してみよう。 上手くいけば七色会長に報告しよう」

 

悠は苦笑した。

 

「カズ。 七色さん怒るぞ」

 

「いや、あれは怒ったとは言わないぞ」

 

七色は会長と言うと唇を尖らせるのだ。

どうやら七色は、自身も平社員と同じ立ち位置で仕事をしたいらしい。 七色にとって、会長の肩書きは邪魔なものらしい。

ちなみに、俺は社長だ。

その時、隣のドアがノックされて、今話題にしていた人物が研究室に入ってきた。

 

「……はあ、今月で面接者何人目よ。 もう数えてないわ」

 

「約50人だな。 まあ、俺で殆んど落とすんだけど。 それでも数が尋常じゃないからな」

 

この会社の面接者は、世界中から集まるのだ。

なので、書類選考から辛口に設定されている。 最終面接までこぎつけるのはほんの一部の人間だけだ。 そして、論理的で先の読める奴が多い。 簡単に言えば、エリート中のエリートだ。

ちなみに、所持してる資格も凄い。

 

「日本だけの求人にするか? 今の社員も日本人しかいないし」

 

この会社では、一番に人間関係を重視する。

コミュニケーションが取れないと、会社全体に影響が出るからだ。

 

「そうね。 そうしましょうか。 面接の時間を割くことが出来れば、研究をする時間が増えるわ」

 

悠は安堵の息を吐いた。

 

「……よかった、オレは早く採ってもらって」

 

「そうか。 悠なら、今受けても最終まで行ってたと思うぞ」

 

「そうね。 あとは、私と和人君の審議にかけられてたわね」

 

会社を設立した時、悠が面接に訪れた時は本当に驚いた。

まあ、俺と七色が大物になっていた為、面接でメチャクチャ緊張していたが。

 

「じゃあ、私は求人の設定を変えてから上がるわ。 和人君と悠君は上がりでしょ?」

 

七色はそう言い、椅子に座ってからノートパソコンを開いた。

 

「おう、俺は上がりだな。 家でチビたちが待ってる」

 

「オレも上がりです。 研究資料が出来たので、明日取りかかってみます」

 

「そう。 お疲れ様」

 

俺に続いて、悠、七色だ。

俺は鞄を持ち、会社を出てから帰路についた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

マンションの階段を上がり、我が家である二〇一号室の扉を開ける。

玄関から見ても、リビングは活気があふれていた。

 

「今帰ったぞ」

 

俺がそう言うと、チビたちがリビングの扉を開け、ひょっこりと顔を出す。

男の子の名前は、桐ケ谷和真(きりがや かずま)。 女の子の名前は、桐ケ谷紗季(きりがや さき)だ。 二人は、二卵性の双子だ。

 

「パパ、お帰り」

 

「パパ、お帰りなさい」

 

「今帰ったぞ。 和真、紗季」

 

二人のおチビは、俺の手を握ってリビングに連行する。

その間、俺は苦笑するだけだ。 誰に似てこんなに元気な子が生まれたんだか。

リビングに入ると、料理を作ってる桐ケ谷木綿季の姿が映る。

木綿季は、俺を見てニッコリと笑った。

 

「和人、お帰り。 お仕事お疲れ様」

 

「おう、ただいま。 今日も疲れた」

 

「今日も面接者たくさん来たの?」

 

「結構来たぞ。 若い歳で面接官をやるなんてな。 ところで、今日の料理はなんだ?」

 

「今日は、ビーフシチューに白いご飯、サラダだよ」

 

これを聞いた、おチビたちがテーブルの周りをぐるぐる回った。

ビーフシチューは、和真と紗季の好物でもあるのだ。

双子というのもあり、和真と紗季の好き嫌いがとても似ている。

 

「わあーい、ママのシチューだ!」

 

「ママのシチューは世界一!」

 

「和くんも、紗季ちゃんも走らない」

 

優衣が注意して、二人は走るのをやめた。

流石、おチビの姉である。

 

「パパも甘やかしすぎです。 ご飯の躾けはしっかりしないと」

 

「……あい。 了解しました」

 

今では、優衣に頭が上がらない俺である。

優衣も大学生になり、新たな生活をすごしている。 優衣は、木綿季に似てとても美少女だ。

身長も伸び、女性としての貫禄も出ていた。

流石、自慢の愛娘である。

 

「パパ。 おかわりしていいかな」

 

「あー、紗季はずるい。 オレもおかわりしたい」

 

「してもいいけど、まずは椅子に座ろうな」

 

「「はーい」」

 

椅子は指定席が設けられている。

俺の隣に木綿季、向かいに、和真、優衣、紗季だ。

 

「できたよー。 さあ、いただきますしようか」

 

全員の目の前に、出来たての白いご飯とビーフシチューが置かれた。

ちなみに、運んだのは優衣と木綿季だ。

俺たち家族は手を合わせた。

 

「いただきます」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

木綿季が音頭をとり、それに俺、優衣、和真、紗季が声を合わせた。

とまあ、このようにして夕食の時間が始まった。

 

「おかわり」

 

「私もおかわり」

 

「おいおい、早く食べ過ぎると消化に悪いぞ」

 

俺がそう言うが、おチビたちは聞く耳持たずだ。

 

「パパ、私は成長期なの。 たくさん食べないと」

 

「そんなこと言って、紗季はオレよりチビなんだから」

 

「ムキー、カズ兄のバカ!」

 

「はいはい、ケンカしないで食べましょうね」

 

「「はあーい」」

 

優衣とおチビたちのやり取りを見ながら、木綿季は微笑んでいた。

つられて、俺も笑みを零した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

食後、おチビたちは優衣の部屋で遊んでおり、リビングには俺と木綿季だけだ。

木綿季は、俺の膝の上にちょこんと座り、俺は抱きしめる形でお腹に手を回している。

 

「和人は、おチビちゃんたちに甘すぎだよ」

 

木綿季の指摘に、俺は、うっ、と言葉を詰まらせた。

 

「た、たしかに、自身でもそう思ってる」

 

「もうっ」

 

木綿季はぷんぷんと怒った。

だが、とても可愛らしいので、愛おしく思うだけだ。

俺は、木綿季が逃げられないように腕に力を込めた。 それを、木綿季は拒まず受け入れてくれる。

 

「そういえば、明日はみんなでALOだっけ?」

 

「そうだよ。 お休みもらえた?」

 

「おう、七色に話したら、速攻で休みの許可が下りたぞ。 楽しんでこいだって。 まあ、会社もうなぎ昇りしたからなー」

 

そう。 俺と七色が会社を立ち上げて半年で、求人の殺到がもの凄かったのだ。

マスコミからも、『必見! 天才二人組の会社!』という記事も出たほどだ。

うん、少しの間は大人しくして欲しかった。

 

「さて、風呂に入るか。 今日はどうする?」

 

木綿季は唇に人差し指を当て、うーん、と考え込んだ。

 

「優衣ちゃんがおチビちゃんと入るらしいから、和人は久しぶりにボクと入ろうか」

 

「確かに久しぶりだな。 数ヵ月ぶりか?」

 

「そうかも。 最近は、おチビちゃんたちと入ってたから」

 

「なるほどな。 てか俺、優衣に『パパは部屋に入って来ないでください』とか言われたら、口から魂が抜けただろうな」

 

木綿季は俺の言葉を聞き、クスクスと笑った。

まあ、実際あったら、ありえない話じゃなかった気がするが。

 

「それはありえないから大丈夫だよ」

 

「そだな」

 

俺と木綿季は立ち上がり、風呂に入る支度をしてから、一緒に湯船に浸かった。

それから各寝室で眠りに就いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

アインクラッド第二十二層《森の家》ログハウス。

 

「さて、今日は皆でアルンに行こうか」

 

「「「「おー」」」」

 

四人は声を合わせて手を上げた。

カズマは俺と同じ影妖精族(スプリガン)であり、サキはユウキと同じ闇妖精族(インプ)である。

髪や顔立ちなどは現実世界のものと遜色ない感じであり、二人の瞳からはやんちゃさを覗かせている。

 

「オレ、コントローラなしで飛べるようになったんだよ」

 

「私も私も!」

 

「でもカズ君、サキちゃん。 ロケットのように飛び出さないでね」

 

「ロケットのように?」

 

カズマは首を傾げた。

その意味が解る俺は、背から冷汗を流した。

 

「……は、はは、ユウキは何言ってるんだろうな」

 

だが、俺のごまかしは意味がないものになる。

 

「サキ、その話知ってるよ。 パパが翅を制御できなくて飛び回った話でしょ、直葉叔母さんから聞いたよ」

 

「(スグ――! おチビちゃんに何教えてんの。 笑いのネタにされたら……俺、泣いちゃうよ)」

 

俺は心の中で叫んだ。

確かにあれは、自身でもみっともない姿だったと思う。 今ではいい思い出だけど。

俺は気持ちを切り替えた。

 

「さて、アルンまで飛ぶか。 ユウキは後方から、ユイは隣から見てやってくれ。 先頭は俺が飛ぶよ」

 

「OK」

 

「お手伝いします」

 

「「よろしくお願いします」」

 

こうして俺たち家族は、アルンの世界樹根元へ向けて、ゆっくり飛翔を開始した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「じゃあ、俺とユウキ飲み物買ってくるから、大人しくしてるんだぞ」

 

「いい子で待っててね」

 

ユイが胸をポンと叩いた。

 

「はい、大丈夫です。ユイがついてますんで」

 

「ちゃんと大人しくしてまーす」

 

「してまーす」

 

俺とユウキは飲み物を買うため、近場の屋台や向かった。

飲み物を五つ買い、おチビとユイのいる場所へ戻るが、そこでは小競り合いが勃発していた。

その円の中心にいるのは、我が愛しの双子。和真と紗季であった。

俺とユウキの到着に気づいたユイが、この小競り合いが起きた経緯を教えてくれた。

何でも、其処らにいるチンピラが、《黒の剣士》と《絶剣》。《閃光》と《剣舞姫》を名乗っていたらしい。 和真と紗季は本人たちを知っているので、父と母、母の姉に父の親友を侮辱され、腹が立ってしまったらしいのだ。

《黒の剣士》、《絶剣》、《閃光》、《剣舞姫》はALOに伝説を残したプレイヤーだ。

だが、ログインすることが少なくなったので、もう引退したのでは、という憶測が広まっていたのだ。 そんな訳で、本人がいないことを利用し、伝説となったプレイヤーの二つ名を騙っているということらしい。 俺や木綿季、明日奈や藍子は二つ名には興味がないので、勝手に騙ればいいという考えなんだが、和真と紗季は、俺たち四人の正義感を強く持ってしまったらしい。

 

「おじさんたち、勝手にその名を語らないでよ!」

 

「そうだよ。 黒の剣士たちは、おじさんには遠く及ばないよ!」

 

カズマとサキの体は、少し震えが混じっていた。

立っているだけでも精一杯なんだろう。

 

「何だ、何言ってるんだお前ら」

 

「なあ、お嬢ちゃんたち、大人の話に首を突っ込むなよ。 痛い目見るぞ」

 

「そうだぞ、ガキ」

 

「オレが黒の剣士だぞ」

 

この言葉に、カズマとサキは力を振り絞って反論する。

 

「オレは知ってる。 黒の剣士がこんな奴じゃないって、もっとカッコイイ人だって」

 

「私も、絶剣がどんな人か知ってる。 とても優しい人だもん。 《閃光》や《剣舞姫》があなたたちなんてありえない!」

 

「生意気なガキだな。――お前ら」

 

「「「ウス!」」」

 

火妖精族(サラマンダー)たちが、得物を抜剣する。

それに呼応して、影妖精族(スプリガン)闇妖精族(インプ)も剣を抜いた。

 

「ごめんね、カズ兄。 私の短気に巻き込んじゃって」

 

「ぷっ。 それ、ママの言葉みたい」

 

「そ、そうかな」

 

「まあ、オレも頑張るよ。 平凡な小学生だけどね」

 

「ふふ、それ、パパの言葉みたい」

 

カズマとサキは、片手剣を中段に構えた。

 

「へー、お前ら兄弟なのか。 珍しいな、兄弟でALOなんて。 大人の怖さ骨の髄まで教えてやるよ」

 

「(パパとの練習では、フットワークが8割できたんだ。 デュエルでもそれをやればいいだけだ)」

 

「(ママの教え、しっかりと出すよ)」

 

ギャラリーからは、『子供相手にみっともねーぞ』、『子供二人に大人四人とか恥ずかしくねぇのか』、『あの子たち可愛そう……』と野次が飛んでいた。

火妖精族(サラマンダー)たちと、カズマとサキの間合いが徐々に詰まっていく。

二人が相手の懐に飛び込もうとしたその時――。 ポンと二人の肩に手が置かれた。

 

「子供相手に見苦しいな。 ALO内の奴は、こんなにマナーが悪くなったのかよ」

 

「うーん、たしかに。 GM大丈夫かな?」

 

その人物は、漆黒のロングコートに、背には漆黒の片手剣。黒い瞳を持つ影妖精族(スプリガン)だ。

もう一人は、紫色を基調にしたロングコートに、胸にアーマーを身に付け、腰には黒を基調とした片手剣を下げている闇妖精族(インプ)だ。

カズマとサキは、振り返ってその人物の名を呼んだ。

 

「「パパ、ママ!」」

 

カズマとサキの背後が、優しく抱き寄せられた。

黒い長い髪を靡かせた若い女性。 カズマとサキの姉であるユイだ。

 

「もう大丈夫だよ。 パパとママが来たからね」

 

「「ユイ姉!」」

 

「何だ、テメェらは!?」

 

「やるのか!」

 

男たちは、俺とユウキを見て喚き散らした。

 

「カズマとサキには、良い技を見せてやる」

 

「これができるようになるには、かなりの時間がかかると思うけどね」

 

「「はい(うん)!!」」

 

剣を抜き中段に構えた俺とユウキは、一歩踏み込み、

 

――消えた。

 

男たちの後方で止まった時、男たちの武器がへし折れ、ポリゴン片の青い残滓が空を舞っていた。

剣を失ってへたり込む男たちを見て、ギャラリーから声が上がった。

『おい、今の見えたか!?』、『オレは見えなかったぞ。 てか、武器破壊なんか狙えんのかよ!?』、『あれって人間技かよ』、『オレ、あの人見たことあるぞ!?』

 

「てめぇ、何もんだ?」

 

「俺の名はキリト、《黒の剣士》や《ブラッキー先生》とも呼ばれているが」

 

「ボクはユウキだよ。 《絶剣》とも呼ばれてるね」

 

「ほ、本物!?」

 

俺とユウキは、半眼で、殺気を四人の男に放ち、俺はドスの聞いた声で言う。

 

「……てめぇら、次は高くつくぞ。 いいな……」

 

「……君たち、次は嫌でもデュエルを申し込むよ。……嫌なら、その名はもう語らないことだね」

 

「ひ、ヒィ――! ごめんなさい――!」

 

「待ってください、兄貴――!」

 

男たちは脱兎の如くこの場から立ち去った。

これを見ていたギャラリーたちは呆然とするだけだ。 あの一部始終は、本人たちしか分らないようになっていたらしい。

 

「カズマとサキも良く頑張ったぞ。 悪いことを悪いと言える勇気。 大切な物を守るという意思、お前たちは強くなる」

 

「でも、考えなしに突っ込むのはどうなのかな」

 

「はい、感心しませんね」

 

俺の言葉で、ぱあー、と笑顔が輝いたが、ユウキとユイの言葉を聞いて、どよーん、と肩を落とした。

 

「まあまあ、二人の勇気は褒めるべきだろ」

 

「もう、キリトはおチビちゃんたちに甘いんだから」

 

「そうですよ、パパ」

 

俺は言葉に詰まりそうになったが、んん、と咳払いをした。

 

「さて、帰るか。 我が家に」

 

「「「「はい(うん)!」」」」

 

五人は、我が家に向かって飛翔を開始した。

その後、カズマとサキが武器破壊(アームブラスト)を猛練習したのは別のお話――。

 




和人君と木綿季ちゃんの子供が登場しましたね。
名前も皆様の意見を参考にさせていただきました。協力感謝です<m(__)m>
さて、大人編はいつまで続くのだろうか?未定何すよね(^_^;)

話が数年飛んですんません。出産もろもろは、書くことを断念してしまいました。てか、書けなかったです。すんません(-_-;)
途中で、現実世界の名前になってるのはわざとっス。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第121話≪バーベキューと小さな花火大会≫

ども!!

舞翼です!!

今回はお食事会やで☆
楽しんでいただけたら幸いです(^^♪

では、後日談第26弾いってみよー(^o^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇四〇年。 八月。

本日から三連休なので、俺たち家族は千葉にある稲毛海浜公園にまで車で行き、バーベキューに来ていた。

数件コテージも近くに新しく建築されたらしいので、俺は事前に予約し、このコテージを1日借りることにした。

ちなみに、俺も連休を取っている。 連休が終わったら、溜まりに溜まった仕事がお待ちしてると思うが……。 まあ何とかなるだろう。

連休のせいか、海浜公園を訪れる客は結構な数だ。

車を駐車場に止め、荷物等を持ってから皆で移動し、コテージの中に荷物を置き、俺と和真はバーベキューの指定場所へ行き準備をする。

 

「さて、火をおこすか」

 

「りょうかいしました!」

 

和真は、びしっと敬礼のポーズをとる。

木綿季と紗季と優衣は、食材を取って来てから合流するそうだ。

木炭諸々は、コンロの横に置かれていた。

まずは、着火剤をコンロの下に置き、円錐形のように木炭を並べていく。 小さな木炭をライターで着火させてから、下に敷いた着火剤上に乗せ点火させる。 周りの木炭も徐々に着火していったので、火おこしは完了だ。

 

「(少しだけ、団扇で煽るか)」

 

俺は和真に団扇を渡した。

 

「和真。 団扇で煽っていいぞ。 でも、強く煽りすぎるなよ。 危ないからな」

 

「わかった」

 

数分空気を送り、和真が網を置き準備完了だ。

それから数分後。 木綿季と紗季と優衣が、食材を大きなトレイに乗せてこちらに来た。 それをアウトドアチェアのテーブルの上へ置いた。

その数センチ横に、コンロが置いてある。

 

「さあ、食べようぜ」

 

そう言って俺は、テーブルに置かれたトレイを持ち、牛肉等々を焼いていく。

ちなみに、トレイは三つある。 肉類と魚介類、野菜類だ。

 

「パパ、紗季も焼きたい」

 

「オレもオレも」

 

俺は苦笑しながら、トレイを渡す。

俺が肉類で、おチビたちが野菜類と魚介類のトレイだ。

 

「優衣は、紗季のことを見ててくれないか。 火は危ないからな。 俺は和真を見てるから」

 

「了解です!」

 

紗季と和真は、トングを使いながら食材を焼いていく。

木綿季はアウトドアチェアに座り、紙皿や紙コップ、割り箸など、ドリンクなどを用意していた。

数分間焼き、食事の準備が整った。

各自の紙皿には、自身の好きなタレをかけ、紙コップにはドリンクが注がれている。

焼き上がった物を乗せ、全員が椅子に座り合掌する。

 

「いただきます」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

木綿季の音頭を取り、俺、和真、紗季、優衣がそれに続く。

まあ、おチビたちがどんどん肉を奪い合っていたが。 さすが成長期である。

俺と木綿季と優衣は、それを見ながら笑みを零す。

 

「すごい食欲ですね」

 

「まあ確かに」

 

「紗季ちゃんと和真君は、たくさん食べて大きくならないとね」

 

優衣に続いて、俺、木綿季である。

焼いてきた食材が紙皿の上からなくなり、おチビたちは再びコンロで肉類を焼く。

 

「あー、それオレの肉だよ!」

 

「これは紗季のお肉だよ!」

 

てか、がつがつ食い過ぎだ。 おチビたちよ。

談笑しながらバーベキューを楽しみ、食事の時間が過ぎていった。

食事が終わった所で、参照したゴミ袋で、ゴミ類を分別して袋に入れていく。

うむ。 使ったあとは、綺麗にするのがマナーだからな。

 

食事が終わってから、借りたコテージの中で、五人で川の字になって一休み。

数分経過した頃、静かな寝息が聞こえてきた。

真ん中で横になっていた、和真、紗季が眠ってしまったのだ。

俺と木綿季と優衣は、むくりと上体を起こした。

 

「寝ちゃったな」

 

「きっと、お腹一杯になったんだよ」

 

「ぐっすり寝てますね」

 

俺に続いて、木綿季、優衣である。

俺は立ち上がった。

 

「さて、俺は食後の散歩に行ってくるな」

 

「ぼ、ボクも行く」

 

木綿季も立ち上がる。

優衣は、左右に首を振るだけだ。

 

「私はここでカズ君と紗季ちゃんを見てますので、私はまたの機会で」

 

「お、おう。 そうか」

 

「じ、じゃあ、ボクと和人で散歩に行ってくるね」

 

このようなイベントで二人きりは久しぶりだ。

俺と木綿季はコテージを出、海岸沿いに沿って歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「久しぶりだな。 二人きりになるのは」

 

「だね。 いつもは、おチビちゃんたちがいるからね」

 

時刻は夕方になり、綺麗な夕焼け空が見える時間帯だ。

俺と木綿季は、海を見ながら浜辺側の階段に腰を下ろした。

 

「綺麗だな……」

 

「だね」

 

暫くの沈黙が二人を包む。

だが、心地よい沈黙であった。 周囲も静かであり、時より吹く風が心地良かった。

俺と肩と、木綿季の肩は自然に寄り添いあった。

それから数分間、肩を寄り添い合いながら、夕焼け空を見いっていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

コテージに戻ると、すでに紗季と和真は起きており、姉の優衣とトランプをして遊んでいた。

おチビたちと優衣は、こちらを振り向いた。

 

「パパ、ママ。 おかえりなさい」

 

「かえりなさーい」

 

「パパ、ママ。 お帰りなさい。 紗季ちゃんもカズ君も、静かにしてましたよ」

 

俺は紗季に歩み寄り、頭をくしゃくしゃと撫でた。

紗季は、目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 

「そうか。 よく出来たな」

 

「パパ! 私は、もう小学3年生だよ」

 

紗季は、ぷんぷんと怒るだけだ。

この仕草は、木綿季が甘える時の仕草にとても似ていた。

すると、和真が俺の袖をクイクイと引いた。

 

「パパ、さっき近場のお店で花火が売ってたんだ。 海辺で花火しようよ!」

 

俺は顎に手を当てた。

 

「俺は大丈夫だ。 紗季たちは?」

 

「紗季は賛成ー」

 

「ボクもOKだよ」

 

「私も大丈夫です!」

 

とまあ、満場一致で小さな花火大会を開くことになったのだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

コテージを出てから、和真が言っていた花火屋で花火を買ってから、先程、俺たち夫婦が訪れていた海辺へ移動した。

 

「花火っ花火っ!」

 

「紗季走るなって、転ぶぞ」

 

和真が言った途端、紗季は海辺で転んでしまった。 和真は右手の掌を顔に当てた。

まあ、転んだ場所が砂の上なので、痛くはないだろう。

 

「ほらみろ、転んだだろ」

 

紗季は砂を叩いて立ち上がった。

 

「べーだ。 カズ兄、つかまえてみろー」

 

今の紗季の行動は、世間一般で言う、あっかんべーって奴だ。

 

「こ、この、つかまえてやる……」

 

和真も紗季の挑発?を受けて走り出した。

これを見ていた優衣も、慌てて二人のあとを追う。

 

「ふたりとも走らないの」

 

「きゃー、優衣姉も参戦だ」

 

「ちょ、待ちあがれ。 紗季」

 

俺と木綿季はこの光景を見て、微笑むだけだ。

また、二人の手が自然と触れ合い、ゆっくり繋いだ。

 

「ふふ、楽しそうだね」

 

「だな。 来てよかったな。 最近は、どこにも連れて行ってあげられなかったからな」

 

数メートル離れた所から、紗季の声が届いた。

 

「パパー、ママも一緒に遊ぼうよ」

 

俺と木綿季は顔を見合わせる。

 

「どうする?」

 

「ボクたちも混ざろっか?」

 

「そうすっか」

 

俺と木綿季は手を解いてから、三人を追いかける為走り出す。

月明かりの下で行われる、家族での追いかけっこは、一生の思い出になるのだった。

追いかけっこが終わると同時に、家族五人は砂浜に仰向けになって倒れた。

 

「ぱ、パパとママ。 早すぎ……」

 

「さ、紗季。 疲れたよ……」

 

「俺はまだ現役だからな、簡単には負けないさ」

 

「うん、ママもかな」

 

「もう、パパとママは、手加減というものをしてください」

 

優衣にそう突っ込まれ、うっ、と言葉を詰まらせてしまった。

俺も木綿季も、勝負ごとになってしまったら、手加減が出来なくなってしまうことが多々あるのだ。

それで、内心申し訳ない気持ちになってしまうのだが。

俺は上体を起こした。

 

「さて、花火するか」

 

「「賛成~!」」

 

俺の言葉に賛同してから、和真と紗季は立ち上がり、階段に置いてある水の入ったバケツと、手さげ袋に入った花火を持って来た。

これに応じるように、俺、木綿季、優衣も立ち上がった。

袋を開け、全員が、手持ちススキ花火の竹の棒部分を持ち、俺が先端にある花弁状の部分をライターで着火させる。

着火し、ススキの穂のような花火が前方に吹き出した。 この火を預けるように、和真や紗季、木綿季に優衣の花火の着火部分に火をつけた。

 

「わあー、綺麗だね」

 

紗季が感嘆の声を上げる。

和真が花火を見ながら、

 

「オレのは緑色」

 

「わ、私のは赤だね。――パパたちは何色!?」

 

「パパのは、オレンジかな」

 

「ママは、紫かな」

 

「私はピンク色ですよ」

 

それからは様々な花火で遊んだ、手持ちのスパーク花火や、手持ちの筒花火、ネズミ花火などだ。 紗季と和真は、ススキ花火を振り回して円を描いていたが。 まあ、本当は危ないんだけどな。

そして最後に締めの線香花火だ。 誰が最後まで火持ちをするか勝負したりした。

結果は、紗季が一番だったが。 線香花火の火の玉を一つに合わせて、どれだけ大きくなるとかもしていたが。

全員の最後の花火が終わり――。

 

「終わったな」

 

「終わったね」

 

「終わりました」

 

「終わっちゃったね」

 

「うん、終わった」

 

俺に続いて、木綿季、優衣、紗季、和真だ。

全ての花火をバケツに入れたのを確認してから、星空の下、俺たち家族はコテージへ戻った。 現在の時刻は、午後7:30だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「忘れ物はないか?」

 

「オレは大丈夫」

 

「大丈夫でーす」

 

と、和真と紗季は、ほぼ同時に言う。

優衣もバックの中を確認した。

 

「優衣も大丈夫です」

 

「ボクもOKだよ」

 

全員の確認が取れた所で、部屋を出てから扉の鍵を閉め、管理室まで鍵を返しにいく。

それから駐車場に移動し、車に乗った。

助手席には木綿季が座り、後部座席は優衣を真ん中にして、和真と紗季が座る。

帰るまでの数分間は後方から話声が聞こえていたが、

 

「寝ちゃったね」

 

「だな。 いっぱい遊んだからな」

 

バックミラーで後方を見ると、優衣の肩に頭を預け、和真と紗季がぐっすり眠っていた。

マンションの駐車場に到着すると優衣は眼を覚ましたが、和真と紗季はまだぐっすりだった。

俺が和真をおんぶし、木綿季が紗季おんぶをした。 優衣は、和真と紗季の荷物を持った。

 

「行くか」

 

「だね」

 

「帰りましょう」

 

俺、木綿季、優衣が言い、マンションの階段を上り、我が家である二〇一号室へ帰った。

今日という日は、家族全員の心に残る日になったのだった――。




バーべキューがどんな感じなのか曖昧なので、もしかしたら何か間違ってるかもです。
その辺は目をつぶってチョ(>_<)
リクエストがあったら、活動報告に書いちゃってください(*^_^*)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第122話≪結婚記念日≫

ども!!

舞翼です!!

今回はリクものを書いてみました。
楽しんで頂けたら幸いです(^^♪

では、後日談第27弾いってみよー(^o^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇四二年。 二月。

現在、和真と紗季は、優衣の自室であることを話合っていた。

 

「パーティーかな?……やっぱり、もっと大きい方がいいかな?」

 

「豪華ディナーが良いと思うな」

 

和真と紗季は、腕を組んで考え込むだけだ。

そう。 和人と木綿季の結婚記念日に、催し物をしようと考えているのだ。

其処に助け船を出したのは、姉の優衣であった。

優衣は、主に和真と紗季に任せ、助言に回ろうと決めている。

 

「カズ君、紗季ちゃん。 頼りになる人が居るじゃないですか」

 

その人物とは、剣の世界で共に戦い、共に笑い合った親友たちだ。

和真と紗季は、数秒考え込んだ。

 

「……藍姉!」

 

「……明日奈!」

 

「そうです。 ねぇねぇと明日奈さんに聞けば、良い助言が聞けると思いますよ」

 

紗季と和真は「たしかに」と頷いた。

そうと解れば、行動するのみだ。

 

「あ、でも。 藍姉って何処に住んでるんだろ?」

 

「紗季も、明日奈が住んでる場所、わからないや……」

 

優衣が、右胸をポンと叩いた。

 

「姉の私に任せなさい」

 

「「お~」」

 

紗季と和真は、パチパチと拍手をした。

三人は助言を貰いに行く為支度をし、優衣の先頭の元、明日奈と藍子が住むマンションへ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

明日奈と藍子が住む場所は、自身のマンションから徒歩で五分ほど歩いた所にある。

其処は、オートセキュリティが完備されたマンションだ。

優衣がマンションの玄関で、明日奈たちが住む部屋番号に電話をした。

 

『はーい、どちらさまですか?』

 

この穏やかな声は、明日奈だ。

 

「こんにちは、明日奈さん。 桐ケ谷優衣です。 カズ君と紗季ちゃんも居ますよ」

 

『今日はどうかしたの?――今、ロックを解除するね』

 

明日奈がそう言い終わると、入口のドアが、ガッチャ、と音を立て開かれた。

 

「明日奈さん。 ねぇねぇは居ますか?」

 

『藍子さんも、今日はお休みだよ。 今日は代わりの講師が授業してるみたい』

 

優衣たちは、安堵の息を吐いた。

 

「詳しい話は、お部屋でしますね」

 

『わかったわ』

 

優衣、和真、紗季はドアを潜り、エントランスに備え付けられているエレベータを使用し、明日奈と藍子が暮らしている三〇二号室を目指す。

エレベータを下り、三〇二号室のインターホンを鳴らすと、扉が、ガッチャ、と開かれる。

ひょこっと、明日奈が顔を覗かせた。

 

「久しぶりだね、優衣ちゃん。 和真君と紗季ちゃんもいらっしゃい」

 

「お久しぶりです、明日奈さん」

 

「こんにちは、明日奈さん」

 

「にちわー、明日奈」

 

優衣に続いて、和真、紗季だ。

明日奈は、ニッコリと笑った。 まるで、太陽の陽だまりのように。

 

「とりあえず、上がって。 藍子さんも中で待ってるから」

 

「「「おじゃまします!」」」

 

優衣、和真、紗季はそう言い、玄関で靴を脱いでから、リビング兼ダイニングに足を向けた。

リビングでは、藍子がお菓子の準備をしていた。

 

「いらっしゃい。 まずは座って」

 

優衣たちは、藍子に促され席に着く。

紗季の目線は、テーブルに中央に置かれた、クッキーが入った受け皿に向けられていた。

藍子と明日奈は苦笑した。

 

「いいわよ。 食べても」

 

「和真君と、優衣ちゃんもどうぞ」

 

紗季は目を輝かせ、クッキーに手を伸ばし口に運ぶ。

紗季は眼を細めた。

 

「おひしー」

 

優衣と和真も、クッキーを手に取り口に運ぶ。

 

「うん、市販のお菓子より美味しい」

 

「これは、ねぇねぇと明日奈さんの手作りですか?」

 

藍子は頷いた。

 

「そうよ。 私と明日奈さんが考えた、オリジナルクッキーよ」

 

「考え中のレシピもあるけどね」

 

優衣が、「そうでした。」と言い本題を口にする。

 

「――カズ君、紗季ちゃん」

 

「えっとね。 一週間後に、パパとママの結婚記念日があるんだ」

 

「私とカズ兄は、その日に何かお祝いがしたいな~、って」

 

明日奈と藍子は、なるほど、と相槌を打つ。

 

「和人君と木綿季ちゃんは、大喜び間違えなしね」

 

「和人さんは、大喜びして、その場で踊り出しちゃいますね」

 

明日奈と藍子は苦笑する。

その光景が、目に見えるように想像できるからだ。 和人は、誰もが認める親バカなのだから。

 

「何かあるかな?」

 

「何がいいかな?」

 

和真と紗季は、そう聞いた。

 

「自宅パーティーでもいいと思うよ」

 

「そうね。 和人さんと木綿季は、気持ちが籠ったプレゼントなら、小さなことでも喜ぶと思うわよ」

 

和真と紗季は、あれ?と首を傾げた。

二人が思っていたのは、高級レストランでお食事がいいのかな?と思っていたのだ。

 

「で、でも、紗季はケーキとか作れないよ……」

 

「そこは、私と明日奈さんに任せなさい」

 

「そうだね。 私と藍子さんも、その日絶対に休みを取るから大丈夫よ。 一緒にケーキを作りましょう」

 

実は、藍子と明日奈の有給休暇は、かなり溜まっているのだ。

二人は優秀な教授なので、休みを取れないと言うこともあるんだが。 また、二人の授業は生徒に解り易く、評価が高いのだ。

 

「じゃあ、オレは飾り着けかな」

 

「それなら、優衣も手伝いますよ」

 

「じゃあ、この事は秘密にしとくんだよ」

 

「いいですね」

 

「「は~い」」

 

こうして、一週間後に行われるパーティーの計画が練られたのだった。

お暇した優衣たち一行は、スーパーマーケットに寄った。 どのような事柄にも対応出来るように、優衣は軍資金を持ってきていたのだ。

ちなみにだが、優衣の貯金はかなり貯まってる。 中古車を二台買える金額と言っておこう。

パーティーに必要な物を購入し、手を繋いでスーパーマーケットを出、帰宅した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

――結婚記念日当日。

壁の周りには、折り紙で作られた輪つなぎが飾られていて、天井には、折り紙を三角形に切って、鮮やかな飾り付けがされてる。

 

「出来たよ。 優衣姉」

 

「そうですね。 あとは、食器関連ですね」

 

「りょうかいです!」

 

和真と優衣はキッチンに向かい、引き出しからフォークと受け皿を人数分手に取り、それぞれの席の眼前に置いていく。

このようにして、飾りつけ等が終了したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「紗季ちゃんは、泡立て器でボールの中の卵をかき回して」

 

「らじゃ」

 

そう言い、紗季は泡立て器を使って卵をほぐしていく。 途中でグラニュー糖を加え、約70度の湯煎をかけながら、色が白っぽくなるまでかき回わす。

湯煎を取り外してから、再びかき回し、徐々に生地がもっちりしていく。

 

「じゃあ、これも入れてかき回してください」

 

「はーい」

 

藍子がボールの中に入れたのは、電子レンジで溶かしたバターだ。

また、ふるいを、トントンと叩き薄力粉を加えていく。

かき回すと、先程より、もっちりと生地が変わっていく。

 

「それじゃあ、これに生地を注いでいこうか」

 

明日奈が用意したのは、ケーキ型のステンレスだ。

余りが残らないように、ヘラを使って型の中に生地を注いでいく。

 

「できたよ。 明日奈」

 

「じゃあ、それをオーブンに入れようか」

 

紗季はそっとステンレスの両端を持ち、オーブンの中に入れる。

扉を閉め、温度を約180度に設定し、約25分間温めていく。

 

「紗季ちゃんは、ケーキの焼き加減を見ててね」

 

「わかった」

 

この時間を利用し、明日奈が生クリームを泡立て、藍子はパレットナイフなど、最後に必要な道具を用意していく。

約25分が経過し、ケーキが焼き上がった。 それを、藍子がオーブンからゆっくり取り出す。

テーブルの上に置き、最後の仕上げに取り掛かる。

紗季が生クリームをパレットナイフで塗っていき、飾りつけとして、その上にイチゴを円状に乗せていく。 最後に、明日奈がチョコレートプレートを乗せた。

 

「完成! パパとママ、喜んでくれるかな?」

 

「ええ、それはもちろん」

 

「そうですね」

 

ケーキを落とさないように、リビングに備え付けられているテーブルの上に置いた。

とまあ、このようにして、準備がちゃくちゃくと進められていったのだ。

そして、約束の午後7:00。 和人と木綿季が帰宅した。 この時間に帰って来てと、紗季と和真が頼んだからだ。

リビングに入った和人と木綿季に向けて、クラッカーが鳴らされた。

 

「えっと、何だこれ?」

 

「今日、何かの行事あったけ?」

 

和人と木綿季は、疑問符を浮かべるだけだ。

 

「今日は、パパとママの結婚記念日でしょ」

 

「私とカズ兄で、パーティーを考えてみました」

 

そう言って、和真と紗季は笑った。

和人と木綿季は目を丸くした。 おチビたちが、結婚記念日を知っていたとは思わなかったからだ。

 

「お、おう。 ありがとな」

 

「う、うん。 完全に忘れてたよ」

 

そう。 和人は仕事が忙しく、木綿季は家事や副業などに携わっているので、完全に忘れていたのだ。

 

「てか、明日奈と藍子も居るのか」

 

「そうですよ。 和真くんと紗季ちゃんが、私たちに相談に来たんです」

 

「それで、お手伝いしようってことになってね」

 

「な、なるほど」

 

和人と木綿季は、和真と紗季に袖をクイクイと引かれ、席に着くように促された。

それから、全員が席に着いた。

席に着いてから、藍子がケーキを包丁で切り分け、それぞれの受け皿に取り分けていく。

ドリンク等も用意され、準備完了だ。

 

「このケーキは、紗季が作ったのか?」

 

「とってもいい出来だよ。 美味しそう」

 

「藍姉と明日奈に協力してもらったんだよ」

 

「飾り付け等は、オレと優衣姉だよ」

 

それから眼前に置かれたフォークを手にし、パーティーが開始された。

紗季が作ったケーキは、店で売っている物と遜色はなかった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

数分経過した頃、和真と紗季は立ち上がり、自室へ向かった。

プレゼントを取りに行く為だ。

それを手に持って、再び席に着席する。

 

「パパ、いつもありがとう。 これ、オレからのプレゼント」

 

そう言って、和真はプレゼントを手渡す。

 

「開けていいか?」

 

「いいよ」

 

和人が四角い箱を開けると、其処には腕時計が飾られていた。

無難な、SEIKOの腕時計だ。

 

「おお、腕時計か。 明日からは、これをつけていくよ」

 

「うん! ありがとう!」

 

和真は笑みを零した。

 

「次は、紗季だね。――紗季は、料理道具一式だよ。 優衣姉と一緒に選んだんだ」

 

そのプレゼント箱を、木綿季に手渡した。

 

「ありがと、紗季ちゃん」

 

明日奈と藍子は、体を小さくした。

 

「私と藍子さんは、何の準備も出来なかったんだ」

 

「はい、すいません。 仕事が忙しくて」

 

和人と木綿季は、首を左右に振った。

 

「いや、明日奈と藍子には、いつも感謝で一杯だよ」

 

「そうだね。 ボクと和人が今こうして居れるのも、明日奈と姉ちゃんのおかげだもん」

 

「そうだな。――あの世界からも脱出出来たのは、二人の力があったからこそだからな」

 

そう。 SAOは、和人だけでクリアしたわけではないのだ。

その後ろには、背中を支えてくれた人たちが居たからこそなのだ。

 

「そ、そうですか。 何か照れますね」

 

「そ、そうですね」

 

紗季はぷくっと頬を膨らませ、和真は興味心身で耳を傾けていた。

 

「むー、ずるい。 私もその話聞きたい」

 

「オレも聞きたい」

 

「そうだな。 紗季と和真には、来るべき日が来たら話すよ」

 

「うん、そうだね。 ママたちがSAOで何をやってたかをね。 それには、まだ心が追いつかないかもしれないんだ」

 

和真が頷いた。

 

「わかった。 それまで待つよ。 あ、二刀流のことは絶対教えてね」

 

「私は、黒麟剣のことね」

 

和人と木綿季は苦笑した。

まだ一度しか見せていないOSSだが、二人の興味を引くには十分だったらしい。

 

「そういえば、藍姉と明日奈さんもユニークスキル持ってるんだよね?」

 

「紗季、知ってるよ。 流星剣と疾風剣でしょ」

 

藍子と明日奈も、第35層のボス戦で一度解放しただけで、それ以降は封印してる。 ALOでのユニークスキルの所持者は、藍子と明日奈だけなのだ。

 

「そうですよ。 私が、疾風剣を所持してますよ」

 

「私は、流星剣になるね」

 

「あと、優衣姉との出会い方も聞きたい」

 

「紗季も聞きたい」

 

優衣は、頬を僅かに赤く染めた。

 

「そ、そうですか。 ちょっと恥ずかしいですね」

 

「ま、それは今後のお楽しみだ。 さ、食事の続きしようぜ」

 

その後は、談笑しながら楽しい時間を過ごした。

――今日という結婚記念日は、和人と木綿季の胸に刻まれる日になったのだ。




いや~、和人君と木綿季ちゃん幸せ者ですな~。
そして、藍子さんと明日奈さんは、東京大学の教授になってますね(^O^)
30歳代で教授とか凄すぎだね(笑)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第123話≪音楽祭と二つの楽器≫

ども!!

舞翼です!!

今回の話は長くなりそうなので、二つか三つにわける予定っす。
なので、ちょっとしたタイトル詐欺になりそうっす(^_^;)
この話は、和真君がメインですね。

楽しんでくれたら幸いっス。

誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


二〇四五年。 七月。

和真は、玄関前で紗季の事を呼んでいた。

 

「おーい、紗季。 先に学校行っちゃうぞー」

 

『ま、待ってよ。 カズ兄!』

 

パタパタと廊下を走って来たのは、セーラ服を身に纏った紗季だ。

和真と紗季は、中学生2年になったばかりだ。

紗季は、玄関で靴に履き替えた。

 

「カズ兄。 行こう」

 

和真は、息を吐いた。

 

「お前なァ……。 まあいいや」

 

和真と紗季は立ち上がり、リビングに向かって声をかけた。

 

「ママ、行ってきます!」

 

「ママー、行ってくるねー」

 

数秒後、リビングから、木綿季の声が届いた。

 

『車に気をつけるんだよ。 学校では、みんなと仲良くね!』

 

「「はーい」」

 

そう返事をしてから、和真と紗季はマンションを出た。

二人は、いつも一緒に登校している。 とても仲の良い双子である。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

和真と紗季は、通学路を歩きながら学校の行事について話していた。

 

「そういえば、二週間後に音楽祭があるよな。 オレらのクラスって、ピアノ弾ける奴居たっけ?」

 

「カズ兄、ピアノ弾けたよね?」

 

和真は苦笑した。

 

「弾けるけど、男子のピアノはあれじゃん」

 

「そうかな。――紗季は、みんなの前で演奏できるレベルになってないんだよね」

 

「そうか? 一回聞いたことあるけど、結構レベルが高かったと思うぞ」

 

紗季は首を振った。

 

「まだダメ。 優衣姉を超えるくらいにならないと」

 

和真は、右掌を額に当てた。

 

「お前の理想高すぎ。 優衣姉を超えるっていうことは、音楽の先生より上手くなるってことだぞ」

 

「ん、そうだよ」

 

話していたら、学校の校門が見えてきた。

和真と紗季は校門を潜り、昇降口で上履きに履き替えてから、自身の教室2年C組へ向かった。

和真が教室に入ると、悪友の神崎裕也(かんざき ゆうや)が肩に手を回してきた。

 

「今日も紗季ちゃんと登校か。 羨ましいな、この野郎」

 

「紗季は、オレの妹だから」

 

ちなみに、紗季はもの凄くモテる。

告白された回数は、二桁に突入してるらしい。

 

「(パパがこれを知ったら、どうなっちゃうんだろ?)」

 

和人がこれを知ったら、親バカが発動することは間違いないだろう。

 

「つか、和真。 お前モテるよな? お前なら、誰とでも付き合える気がする」

 

和真も父親に似て、可愛いイケメン?なのだ。

女子の中では、カッコいい男子ランキング上位に入っている。 もちろん、男子はこのことを知らない。

 

「知らん。――オレはお互いのことを、ちゃんと知ってからじゃないと付き合わない」

 

「へー、お前って一途なタイプなのな」

 

「かもな」

 

その時、担任の佐々木先生が出席簿を持って教室に入って来た。

 

「はいはい、席に着けお前ら。 出席を取るぞ。 あと、連絡事項もあるからな」

 

そう言って、佐々木先生は教壇に上がり、机に出席簿を置く。

 

「やべ。 和真、また休み時間な」

 

「おう」

 

と言っても、裕也の席は和真の隣なんだが。

予鈴が鳴り、SHRが始まった。

 

「じゃあ、出席を取るぞ。――荒井」

 

「ほーい」

 

「ちゃんと返事しろ。――伊東」

 

「はい!」

 

「うん、良い返事だ。――内田」

 

「あいよ」

 

とまあ、このように出席が取り終わった。

そして、連絡事項に入った。

 

「今週末に、音楽祭が開催される。 でだ、誰か演奏してくれないか。 男女から一人づつ選出してくれだそうだ。……あ、桐ケ谷双子はどっちかにしてくれ。 二人が一緒に出たら、確実にお前らが優勝になっちまうからな」

 

クラスメイト全員が、うんうんと頷いていた。

和真と紗季がコラボした時、クラスメイトの度肝を抜いたことがあるのだ。

数分経過しても、手を上げる者は居なかった。

 

「(えー、これって決まるまで終わらないの)」

 

『和真君が演奏してる姿見てみたい』、の視線が凄い。 主に、女子からだが。

和真は大きく息を吐き、手を上げた。

 

「……じゃあ、オレやりますよ。 ピアノですけど」

 

和真がそう言うと、一斉に拍手が鳴った。

 

「よし! 男子は、桐ケ谷和真で決定だな。 残るは女子だが……」

 

すると、おずおずと、一人の女子が手を上げた。

この子の名前は永瀬葵(ながせ あおい)。 クラスでは、とても大人しい子でもある。 実は、男子受けも良かったりする。

 

「お、永瀬か。 お前は何ができるんだ?」

 

「え、えっと、……ば、バイオリンが、ひ、弾けます」

 

佐々木先生は、うんうん、と頷いた。

 

「そうかそうか、バイオリンか。 いいんじゃないか。 異論がある奴は挙手してくれ」

 

挙手の代わりに、拍手が鳴った。

 

「よし、これで決定だ。 男子からは、桐ケ谷和真。 女子からは、永瀬葵だ。 曲は『明日へ』だ。 練習頑張れよ。 先生は応援してる」

 

先生は、『今から自習だ!』と言い、教室から出て行った。

それに応じて、裕也が、和真の方に体を向ける。

 

「オレが思った通り、和真は演奏者になったな」

 

裕也は、は、は、はと笑うだけだ。

 

「……お前、人ごとだからって」

 

「おうおう、いいじゃんか。 隠れキャラの永瀬ちゃんとだぞ。 あの噛み具合がいい、いいね」

 

和真は、はあー、と溜息を吐くだけだ。

和真は永瀬葵の席まで行き、『今日の放課後練習な』と言い、席に着いた。

その時、女子からの黄色い声が凄かったが、和真はそれをシャットアウトしたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

時は経過し放課後。

和真は音楽室の鍵を借り、ピアノの前の席に座り、アンジェラ・アキ。 手紙~拝啓十五の君へ~を弾いていた。

その間も、葵の姿は見えなかった。 演奏が終わると同時に、小さく拍手しながら葵が姿を現した。

 

「き、桐ケ谷君。 じょ、上手だね」

 

「まあな。 猛練習したからな。――今度は、永瀬が弾いてくれよ。 オレだけは不公平だろ」

 

葵は、ぼん、と顔を赤くした。

 

「え、え、私が、ムリムリムリ」

 

葵は、両の手を突き出し、思い切り左右に振った。

だが、和真はそんなのお構いなしに、立て掛けてあるバイオリンを葵に渡す。

 

「ひ、弾かないとダメかな……」

 

「おう、それから練習だな」

 

「う、うん。 わかったよ。 わ、私が、最初に弾けるようになった曲で」

 

葵は、半分諦めモードだった。

和真に抵抗しても、無意味と悟ったのだ。

葵はバイオリンを肩に乗せ、深呼吸をしてから、右手に持ってる弓を弦の上に置いた。

 

「い、いきます」

 

葵が奏でるハーモニーを聞きながら、和真は眼をつぶっていた。 そして、心地良い気分にもなった。 まさに、コンクールなどで聞く演奏だった。

 

「わ、私が最初に覚えた曲。 Supercellの、君の知らない物語だよ。――き、桐ケ谷君」

 

「わ、悪い。 寝そうだった」

 

和真は頬を掻いた。

この仕草は、父、和人の仕草そのものだった。

 

「……やっぱり、下手だったかな」

 

「いや、その逆だから。 永瀬、バイオリン上手いんだな。 ちょっと意外かも」

 

「い、意外!?」

 

和真は、慌ててフォローに回った。

 

「う、うん。 良い意味でだよ。 ほ、本当だよ」

 

「わ、私も、桐ケ谷君がピアノ上手くて意外かな。 女の子が得意とする楽器なのに」

 

和真はこれを聞いて、どよーんと肩を落とした。

 

「ふ、ふん。 どうせオレは女顔ですよ。 やっぱりピアノが弾けちゃうと、女子力が上がっちゃうのかな……。 パパの苦労が解ってきたかも。 も、もしかして、これで弄られちゃうのかな……」

 

「き、桐ケ谷君。 しっかりして、私が悪かったから。 もう、女の子みたいって言わないから」

 

「……永瀬さんよ。 それ、地雷踏んでるから」

 

「ご、ごめん」

 

葵は、しゅん、とした。 和真はそれを見て、声を上げて笑った。

 

「ん、んん。 笑った笑った」

 

「き、桐ケ谷君。 どうしたの?」

 

「いやー、永瀬にもそんな一面があるなんてな。 お、面白かった。……ぷぷっ」

 

「ちょ、笑わないでよ」

 

「それに、最初より距離が縮んだな」

 

葵は、ハッとした。

たしかに最初は、オドオドしながら、距離を取っていたのかもしれない。

 

「そ、そうかも。 私、凄く人見知りだからさ。 初対面の人には、壁みたいの造っちゃうんだ」

 

「そうなのかー。 だから一人で居る時が多いんだな。……ん、今度、紗季に話しかけてみ。 あいつなら大丈夫だ。 何せ、本人に天然が入ってるしな」

 

「き、桐ケ谷さんと」

 

「おう、桐ケ谷さんだ。 てか、桐ケ谷君と桐ケ谷さんってゴッチャにならないか?」

 

和真の言う通り、桐ケ谷さんと言ったら、和真と紗季が反応しそうだ。

和真は、『それじゃあ』と言い、言葉を続ける。

 

「オレのことは、和真でいいぞ」

 

葵は目を丸くし、顔をトマトのように真っ赤に染めた。

 

「え、え、名前で!?」

 

「おう、名前だ。 オレも、葵って呼ぶから。……あれ、ダメだった」

 

和真は首を傾げた。

 

「だ、ダメじゃないけど、いきなり呼び捨てはハードルが高いといいますか……。 『く、君』づけでもいいですか」

 

「呼び捨てでいいんだけど……。 ま、それは慣れだな、慣れ」

 

「そ、そうだね。――えっと、和真、君」

 

「ん、よく出来たぞ。 葵」

 

葵は、再び顔を真っ赤にした。

 

「うー、は、恥ずかしいね」

 

「そうか。 本来なら恥ずかしいだろうけど、オレは、恥ずかしいのに慣れちゃったって言えばいいのかな?」

 

和真の言ってることは、桐ケ谷夫婦のことである。

二人をいつも見てる和真は、免疫?がついたのかもしれない。

葵が、おずおずと話しかけきた。

 

「あ、あのさ。 和真君」

 

「どったの?」

 

「今日は練習お休みして、お話しない?」

 

「オレも同じこと考えてた。――練習は明日からにするか。 今日はお互いを知るってことで」

 

葵は、満面の笑みで頷いた。

それを見た和真も、笑みを浮かべた。

 

「和真君って、趣味とかあるの?」

 

「……お見合いで、話題を必死に作る男の言葉だな」

 

「じゅ、純粋に知りたくて」

 

「そだな。 オレの趣味は、ALOだな」

 

和真は即答した。

和真は、二刀流の猛練習中でもある。 まあ、父のようにはいかないんだが。

葵は、目を丸くした。

 

「わ、私もALOが趣味なんだ」

 

「ほう。 種族は」

 

水妖精族(ウンディーネ)だよ。 主に、回復(ヒール)担当かな」

 

和真は、顔をグイッと近づけた。

 

「ま、まじか。 今度狩り行こうぜ。 いやー、オレも紗季も、魔法は得意じゃなくてね。 やっぱ、接近戦でしょ!」

 

「か、和真君って、脳筋プレイヤーなの」

 

和真は、ムッ、とした。

 

「いや、脳筋じゃないぞ。 ちゃんと魔法も使うし、……目暗ましとか暗視魔法とか」

 

「……うん、そうだね」

 

「おい、残念そうな目で見るな。――そんなわけで、回復(ヒール)してくれる人がパーティーに加わって欲しんだよ」

 

「わかった。 じゃあ、和真君のパーティーにお邪魔するね」

 

和真は、ガッツポーズをした。

 

「っし、これで接近戦が楽になるぜ。 てか、葵の副武装ってなんだ?」

 

細剣(レイピア)だけど」

 

葵は、可愛く首を傾げる。

だが、和真は顔を引き攣らせていた。

 

「そ、そうか。……バーサクヒーラー二代目になるかもな」

 

後半の言葉は、葵に聞こえないように呟いた。

 

「噂で聞いたんだけど、和真君のお父さんとお母さんって、“黒の剣士”、“絶剣”なの?」

 

「リアル割れしちゃったか。――そうだよ。 オレの両親が、“黒の剣士”、“絶剣”だよ。 パパとママの親友は、“閃光”、“剣舞姫”でもある」

 

「へー、和真君って、伝説のプレイヤーと知り合いなんだね。 “閃光”と“剣舞姫”ってどんな人なの?」

 

「二人とも、メッチャ優しいよ。 今度会ってみなよ。 第二十二層ログハウスに居るかもよ」

 

明日奈と藍子も、大学の教授の仕事で忙しいので、休日にならないと会えないかもしれないが。

こう話し込んでいたら、学校最後の予鈴が鳴ってしまった。

 

「終わっちゃったな」

 

「……うん、終わっちゃたね」

 

葵は、とても残念そうにしていた。

もっと話したかったんだろう。 葵にとっては、壁を造ることなく、接することが出来る友達なのだから。

 

「残念そうにするなって。 あ、そうだ。 葵、スマホ出して」

 

「う、うん」

 

葵は、バックの中からスマートフォンを取り出し、和真に手渡す。 和真はスマホの画面をスライドさせ、何かの作業をしていた。 作業が終わり、葵にスマホを返した。

 

「オレの連絡先を電話帳に入れといたから、いつでも連絡してくれ」

 

「…………え、えッッ――――!」

 

葵は声を上げた。

それはそうだろう。 和真の連絡先は、一年女子にとって、喉から手が出るほどの代物なのだ。 それに和真はガードが固いので、そう簡単に連絡先を教えようとしないのだ。

 

「あれ、そんなに嫌だった」

 

葵は、ぶんぶんと、勢いよく首を左右に振る。

 

「え、えっと、私なんかがいいのかなって」

 

「おう、構わないぞ。 葵と話すのは楽しいしな。 連絡待ってるよ」

 

葵の心は、和真に掴まれそうになったが、葵の抵抗が勝ったのだった。

 

「……和真君、それって素だよね」

 

和真は、何言ってるんだ。と言いたげに首を傾げた。

 

「和真君、将来苦労しそう」

 

「そうか。 オレは正直に生きてるだけだぞ。 てか、そろそろ帰らないと。 送るよ」

 

「ひ、一人で大丈夫だよ」

 

だが、葵の言葉は一刀両断される。

 

「ダメだ。 送らせてくれ。 17時以降に女の子が一人は危ないだろ」

 

和真の真剣な顔つきに、葵は折れたのだった。

父、和人に言われているのだ。 『17時以降になったら女の子を一人にしちゃいけない。 何があっても、和真が守ってやれ』と。

 

「う、うん。 お言葉に甘えるね」

 

「おう、任せろ」

 

そう言って、和真と葵は職員室に音楽室の鍵を返しに行き、夕焼け空の中、二人一緒に下校したのだった。




和真君と紗季ちゃんモテますなー。
和真君。和人君の遺伝子を受け継いでますな。うん、将来大変そうだぜ。
スマホ等は、OKな学校なんス。授業中見つかったら没収ですけど。

で、女子で楽器を弾けるのは、紗季ちゃんと葵ちゃんしかいなかったんす。
まあ、紗季ちゃんが出れないんで、自動的に葵ちゃんになるんス。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第124話≪和真と葵≫

ども!!

舞翼です!!

この話は、前回の続きっス。
一先ず、この話は終わりましたです。
てか、ちょい甘かも☆
こんなに早く投稿できるとは、作者頑張った(^O^)

それでは、後日談28弾いってみよー(^o^)/
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。


葵を家の近くまで送り、和真はマンションの二〇一号室の扉を開け、玄関で靴を脱いでからリビングにへ向かった。

 

「ただいま」

 

「お、和真。 今日は遅かったんだな」

 

そう言ったのは、ソファーの片側に座り、日経新聞を読んでいる和人だった。

研究が終わり、早く帰宅出来たらしい。

 

「ま、まあね。 ちょっと色々あって」

 

「ほう。……女の子か?」

 

和真は、ギクッ!とした。 こうも簡単にバレると思ってなかったのだ。

――和人は、自身のことには鈍感だが、他人の変化には鋭いのだ。

 

「ぱ、パパの教訓を守っただけだよ」

 

この教訓は男の約束なので、木綿季たちには知られてないのだ。

ちなみに、木綿季たちは買い出しに行ってるので、自宅には男子だけだ。

 

「そうか。 その子は、大切にしなさい」

 

「わ、わかってるよ」

 

和真にとっては、葵が初めて出来た女友達なのだ。 和人はこの事を知って、今の言葉を投げかけたのだ。

和真は、和人と向かい合わせになるように片側のソファーに腰を下ろし、和人は新聞をテーブルの上へ置いた。

 

「それで、どんな子なんだ?」

 

和真は、葵とのやり取りを思い出しながら呟く。

 

「うーん、ドジっ子かな」

 

「なるほど。――俺の予想だと、和真はこの子を放っておけなくなるな」

 

和真は腕を組んだ。

 

「そうなのかなー。 まだ、よく解らないや」

 

「そうか。 でも、悔いの残らないようにな」

 

「うん、わかった」

 

和真は立ち上がり、自室へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

和真はベットに腰をかけ、右手に持ってるスマートフォンの画面をスクロールさせ、今日登録した人物に電話をかける。

三秒ほどコールが鳴ってから、通話が繋がった。

 

『も、もしもし。 か、和真君』

 

葵は、電話越しだというのに、声が上ずっていた。

和真は苦笑してから、話し始めた。

 

「ごめんな。 いきなり電話かけちゃって」

 

『だ、大丈夫だよ。 どうしたの?』

 

「途中で別れたからさ、無事到着できたか不安でな」

 

『う、うん。 心配してくれてありがとう』

 

「……今度から家まで送る。 てか、朝も迎えに行く」

 

『か、和真君に迷惑かけちゃうよ』

 

「いや、問題ないぞ。 紗季も、明日から友達と登校するらしいし」

 

数秒間の沈黙が流れた。

 

『あ、明日からよろしくお願いします』

 

葵は、電話越しに、綺麗なお辞儀をしていた。

 

「おう、よろしくな。――あと、練習頑張ろうな」

 

『頑張って、優勝しようね』

 

「そだな。 優勝しような。――んじゃ、また明日」

 

『うん、また明日』

 

和真はスマートフォンを耳から離し、通話終了ボタンをタップした。 和真はスマートフォンを隣に置いてから、ベットに仰向けになった。

 

「……とんでもないこと言ったような気がするが、気のせいだよな?」

 

友人たちが居たら、『言ったね』と声を合わせて言うだろう。

その時、リビングから、木綿季の声が届いた。

 

『カズ君。 ご飯の用意ができたよー』

 

「わかった」

 

和真は上体を起こしベットから下り、みんなが待っているリビングへ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

翌日。

和真は、昨日葵と別れた場所に立っていた。

待ち合わせ場所はどうする?となった時、この場所に決まったからだ。

和真が空を見上げていたら、トテトテと足音が聞こえてきた。 前を見ると、小走りをしてる葵の姿が映った。

 

「ご、ごめん。 待たせちゃたかな?」

 

「時間通りだぞ。 オレが、五分前行動をしてるだけだ」

 

「そ、そっか。 よかった」

 

葵は、安堵の息を吐いた。

二人は学校に向かう為歩き出した。 もちろん、和真が車道側を歩き、葵の小さな歩幅と合わせる。

 

「そ、そういえばね。 演奏の途中にアレンジを加えようと思って、昨日考えてきたんだ」

 

和真は、感嘆な声を上げた。

 

「ほー、それはまた。 今日の練習で聞かせてくれよ」

 

「も、もちろんだよ。 楽しみしててね」

 

「おう、楽しみにしてるよ」

 

話していたら、あっという間に学校に着いてしまった。

和真と葵は、昇降口で上履きに履き替え、1年C組に向かった。

教室に入り、和真は自身の席へ着席した。

その時、興味心身というように、裕也が聞いてくる。

 

「和真。 何で、永瀬と一緒に登校してるんだ?」

 

「まああれだ。 昨日、電話してたらこうなった」

 

和真の言葉を聞き、裕也は口をあんぐりと開けた。

 

「ちょ、ちょと待て。 永瀬は、和真の連絡先知ってるのか?」

 

「まあな。 葵なら心配いらないし」

 

裕也は、目を見開く。

 

「待て待て待て。 永瀬を名前呼びなのか!?」

 

教室内も静まり返り、和真の言葉に耳を傾けていた。

 

「演奏では、距離感が重要になってくるんだよ。 苗字よりも名前のほうが親近感を覚えるから、連携が取りやすいだろ」

 

「な、なるほど。 納得だわ」

 

その時、

 

『私も名前で呼ばれたい』

 

『いいなー、私も、桐ケ谷君の連絡先欲しいわ』

 

『私も、何か演奏できるようになっておけば良かった』

 

等の声が耳に届いたが、和真は聞こえない振りをする。

女子が、チラチラ、と和真を見たので、和真は机の上で腕を組み、狸寝入りに入ったのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

放課後になり、和真と葵は練習の為音楽室にいた。 そして二人は、『明日へ』の演奏の練習をしていた。

 

「和真君。 そこで高い音出せるかな?」

 

演奏を止め、葵が和真に聞いた。

そう。 葵が考えたオリジナルを加えているのだ。

 

「ん、大丈夫だ」

 

「じゃあ、ここからもう一回」

 

「おう」

 

二人は、軽やかなハーモニーを奏でていく。

 

「うし、今ので形になってきたな」

 

「だね。 あとは、この楽譜通りに練習あるのみだね」

 

「よっしゃ、もう一回いってみるか」

 

「OK。 それじゃあ、3、2、1――はい」

 

数分間は、軽やかな音色が音楽室に響いたのだった。

和真と葵は、演奏が終わり大きく息を吐いた。

 

「これなら優勝狙えるかもな」

 

「だけど、練習は怠ったらダメだよ」

 

「わかってます。 教官」

 

「教官じゃないから」

 

葵は、頬をぷくっと膨らませた。

 

「オレに指示を出してた時の葵は、教官みたいだったぞ」

 

葵はおどおどした。

 

「そ、そうかな」

 

「うん、そうだ。――葵は、距離感なくなったな」

 

「そうかも。 でも、他の男子はまだ難しいかな」

 

「ま、ゆっくりやって行こうぜ。 オレは、お前の傍にいるからさ」

 

葵は、完熟トマトのように顔を真っ赤にした。 頭上から煙が上がりそうだ。

和真は気づいてるのだろうか。 今の言葉が、プロポーズ紛いの言葉だと。

おそらく、無意識だと思うが。

 

「今日はこれくらいにするか?」

 

「そ、そうだね。 帰ろっか。――あ、あの、和真君」

 

和真は鞄を肩にかけてから、葵を見た。

 

「どったの?」

 

「え、えっと、登校のことなんだけど……。 それって、いつまで有効、なのかな?」

 

葵が言いたいことは、いつまで一緒に登下校してくれるの?と言う質問なんだろう。

和真とお喋りしながらの登校は、とても楽しかったのだ。 なので、今の質問をこの場の勢いで聞いてしまったのだ。

和真は、思案顔をした。

 

「そのことか」

 

葵は息を飲んだ。

そして、次の言葉を待つ。

 

「葵が決めていいぞ」

 

「た、例えば、今から一年間とか言っても? た、例えばだよ」

 

「そんなに焦らなくても。――まあそうだな。 卒業までの期間ならいいぞ」

 

という事は、今から卒業までは大丈夫と言うことになる。

 

「そ、それでお願いしてもいいかな……?」

 

「了解だ。 じゃあ、中学を卒業するまでな」

 

和真は、軽い口調で答える。

 

「ほ、ホントにいいの?」

 

葵は、まだ半信半疑だった。

だが、次の言葉で確信に変わった。

 

「いいぞ。 葵と居ると楽しいしな」

 

「……こ、これからもよろしくお願いします」

 

「おう、よろしくな」

 

音楽室の鍵を職員室に返し、二人は一緒に下校したのだった。

和真は、葵のことを家まで送ってから帰路に着いた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

――音楽祭当日。

和真と葵は、ステージ横に立っていた。

演奏者はマイクで呼ばれてから、ステージに立ってください。ということらしい。

 

「聞いてない、聞いてないよ。 私、極度の人見知りなんだよ。 何で演奏者は、名指しで呼ばれるの。 どうしよう、大丈夫かな。 う~、逃げ出したいよ~」

 

葵は、絶賛混乱中であった。

聞かされたのが30分前なので、こうなるのも仕方ないと思うが。

 

「演奏に入っちゃえば、回りの事は気にならなくなるから」

 

「で、でも……」

 

葵は、上目遣い+涙目で和真の顔を見上げた。 葵は、誰も認める美少女だ。

これには、鈍感な和真も息を飲んだ。

 

「んん、大丈夫だ。……たぶん」

 

「う~、どうしよう。 演奏失敗したらどうしよう」

 

「(……試してみるか)」

 

それは、和人が木綿季に行なってる行動だ。

これは、一か八かの賭けだ。

 

「落ち着きなさい」

 

そう言い、和真は葵の頭を優しく、ポンポンと叩いた。

葵は、びくッとしたが、落ち着きを取り戻していった。

 

「葵は一生懸命練習したんだ。 きっと上手くいくよ。 オレが保証する」

 

「ほ、ホントに?」

 

「ああ、ホントだ。 もしミスがあっても、オレがカバーするから」

 

「か、和真君を信じるよ」

 

和真は、ほっと息を吐いた。 和真の言うように、葵は自宅でも練習してたのだ。 なので、この音楽祭は成功させたい。

 

『それでは、2年C組の演奏者を発表します。 バイオリン演奏者、永瀬葵さん』

 

「わ、私、頑張る」

 

和真は苦笑してから、葵の肩を優しくポンッと叩いた。

 

「ほら、肩がガチガチだぞ。 リラックスしなさい」

 

葵は、フー、と息を吐いた。

 

「よし、行ってくるね」

 

葵は、ゆっくりステージ左側に向かって歩き出した。

まだ緊張が残っているが、あれなら大丈夫だろう。

 

『続いて、ピアノ演奏者、桐ケ谷和真さん』

 

和真は深呼吸し、ステージ左側へ向かった。 和真と葵は一礼し、和真はピアノ前の椅子に、葵は肩にバイオリンを乗せた。

 

『それでは、2年C組の演奏です。 曲名は“明日へ”です』

 

和真と葵は視線を交わした。

 

「(それじゃあ、いっちょやるか)」

 

「(うん、頑張ろうね)」

 

指揮者が指揮棒を振り、同時にピアノとバイオリンがハーモニーを奏でた。

二人の演奏は、大きな会場で聞くコンクール並みの演奏だった。

演奏が終わり、2年C組の全員が一礼し、和真と葵の音楽祭が終了した。

演奏が全て終了し、全学年は一列に並び、結果発表の時間になった。

 

『総合優勝は――2年B組です!』

 

2年B組の列から、ワーと歓声が上がる。

 

『代表者、壇上にお願いします』

 

2年B組の代表者が壇上に上がる。

 

『次に、演奏者部門優秀賞を発表したいと思います。 この集計結果は凄かった。 投票数半分以上を占めてました。 優勝者は――2年C組、桐ケ谷和真さん。 同じく、永瀬葵さんです』

 

和真の前に立っていた葵が、ぴょんぴょんと飛び跳ね、和真に抱きついた。

 

「やった、やったよ!」

 

和真は、葵を引き離した。

 

「わ、わかったから。 離れなさい。 何とは言わないが、当たってるから」

 

「きゃ、和真君のエッチ!」

 

「……おい、テンション上がりすぎだろ。 てか、キャラ崩壊してるぞ」

 

「そ、そうだね」

 

和真がそう言うと、葵は平静を取り戻した。

 

「ったく。――行くぞ」

 

「りょ、りょうかいです!」

 

和真と葵は、壇上に上がった。

3人は一礼し、まずは2年B組の代表者が前に出た。

校長が賞状を取り、

 

『2年B組。 貴殿のクラスは、最優秀クラスに称する。 おめでとう』

 

代表者は両の手で表彰状を受け取ってから、校長先生に一礼し、元の場所へ戻った。

次に、葵が校長先生の前に立った。

校長先生は、賞状を取り、

 

『2年C組、永瀬葵。 貴殿を、最優秀演奏者に称する。 おめでとう』

 

葵は両手で表彰状を受け取ってから、校長先生に一礼し、元の場所へ戻った。

最後に、和真だ。

校長先生は、賞状を取り、

 

『2年C組、桐ケ谷和真。 貴殿を、最優秀演奏者に称する。 おめでとう』

 

和真は両手で表彰状受け取ってから、校長先生に一礼し、元の場所へ戻った。

3人は回れ右をして、壇上から下りていった。

こうして、音楽祭の幕が閉じたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

そして放課後。

 

「和真君、お祝いしよう」

 

「え、まじで」

 

「うん、まじで。――コンビニのアイスでいいよ。 和真君の奢りで」

 

「はあ~、わかったよ」

 

和真は立ち上がり、机の横にぶら下げてる鞄を肩にかけた。

ちなみに、葵は帰る支度が済んでいる。

昇降口で靴に履き替え、学校を出た。

学校付近にあるコンビニより、ちょっと贅沢なアイスを買い、公園にある日蔭のベンチへ座った。

和真と葵はアイスを食べながら、

 

「演奏者で優勝したな」

 

「うん。 私はわかってたけど、一生懸命練習したからね」

 

「そうだけど。 ステージに行くまでのお前、凄かったぞ」

 

葵は、頬を朱色に染めた。

 

「あ、あれは忘れて」

 

「それは無理だな。 うん、無理だ」

 

和真は、うんうん、と頷いた。

 

「も、もう。 和真君のバカ」

 

「え、何でオレ怒られたの? 理不尽すぎない」

 

アイスを完食し、二人は楽しそうに話しながら帰路に着いたのだった。

和真と葵には、二人で優勝を掴んだ祭りになったのだった――。




うん、和真君と葵ちゃんラブラブだね。
この二人も、桐ケ谷夫婦に負けてないぜ。(多分だが)
音楽祭に間違えがあったらご容赦を(表彰式とか……)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
リクがあったら(活動報告)に書いちゃってください(*^_^*)


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第125話≪想いの再確認≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、久々の桐ケ谷夫婦登場です(^O^)
甘く出来たか不安です。もしかしたら、微甘かも。

それでは、後日談29弾いってみましょー(^^♪
では、投稿です。本編をどうぞ。


二〇四五年。 八月。

 

俺、桐ケ谷和人は公園のベンチで、奥さんの桐ケ谷木綿季の到着を待っていた。

今日は、久しぶりに夫婦でのデートなのだ。

ちなみに俺の服装は、黒いVネックTシャツの上にテーラードジャケット、紺色のスラックスにレザーシューズといったコーディネートだ。

 

「うーん、木綿季とのデートはいつ以来だろうか」

 

公園のベンチに座っていた俺は無意識に呟いていた。

俺は研究などで忙しく、木綿季は家事全般に携わっているので、お互いに時間が作れなかったのだ。

俺の方は、七色が気を利かせてくれたのか、『和人君は頑張りすぎよ。 明日はお休みしなさい。 会長命令よ』と言われ、木綿季の方も、『ママは、お休みしてください。 明日は、優衣が家事全般を引き受けます』と言われたそうだ。

とまあ、偶然二人の休みが重なったので、明日デートをしようということになったのだ。

 

「お待たせ」

 

俺が左方向を振り向くと、長い黒髪は綺麗に流され、花柄が施されてる白いワンピースに、スニーカという清楚なコーディネートの木綿季の姿が映った。肩には茶色のショルダーバックがかけられている。

 

「どうかな?」

 

そう言い、木綿季は首を傾げた。

 

「お、おう。 似合ってるぞ。 流石、俺の奥さんだ」

 

うむ。 現役の大学生に負けないくらい可愛い。

 

「か、和人も似合ってるよ」

 

「そ、そうか。 サンキューな」

 

俺は口籠りながら答える。

 

「久しぶりのデートは、何か照れくさいね」

 

「おチビたちが生まれてから、こういう機会がなかったからな」

 

「だね。 今日は楽しもうか」

 

「そだな。 それじゃあ、何処行く?」

 

唐突に決まったデートなので、デートプランは一切立ててなかったのだ。

なので、行きあたりバッタリのデートになってしまったが。

木綿季は唇に人差し指を当て、うーん、と考える仕草をとった。 その仕草は、誰もが認める可愛さだ。

 

「東京スカイツリーに行きたい」

 

「おう、了解だ。――夜になったら夜景でも見るか? ちょっと、ベタだけどな」

 

「OKだよ。 七階では、プラネタリウムが見れるらしいよ」

 

「ほう。 それは初耳だな」

 

俺と木綿季はベンチから立ち上がり、東京スカイツリーへ向かう為歩き出した。

東京メトロ半蔵門線へ乗り、押上駅で下り、目的地へ徒歩で向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺たちは扉を潜りってからエントランスへ向かい、案内図を見ていた。

 

「うーん、まずはプラネタリウム見よっか?」

 

「おう、それでいいぞ」

 

七階に向かう為、エレベータへ乗り込んだ。

エレベータの中も凄かった。 内部は美しい装飾が施されており、俺も木綿季も、その美しさに見いっていた。

おそらく、乗っているお客さんを退屈にさせないように。という試みだろう。

七階に到着し、受付をしてからドームを潜る。

其処は既に、青くライトアップされた夢空間だった。 これを隣で見ていた木綿季は、うわー、綺麗。と感嘆な声を上げていたが。

ドアを開け、近場の椅子に座ってから椅子を倒して上空を見上げた。

ちなみに、俺と木綿季が座っているのは、カップルシートだ。

 

「星がいっぱいだよ。 綺麗だなー」

 

俺は、木綿季の顔を見た。

 

「ああ、本当に綺麗だ……」

 

「う~、和人のバカ」

 

「悪い悪い」

 

俺は苦笑した。 久しぶりに頬を朱色に染めた木綿季は、とても新鮮だった。

そして二人は、手を繋ぎながら空を見続けていた。 一時間の上映を終え、俺たちは再び七階のロビーへ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「綺麗だったねー」

 

「だな。 東京の空では、滅多に見れないからな」

 

「これからどうしよっか?」

 

木綿季は首を傾げ、俺は腕を組んだ。

 

「うーん、メシにするか。 タワーに入る前に、ソバ屋を見つけたんだよ」

 

俺が見つけたソバ屋は、スカイツリーから徒歩二分の場所にある。

木綿季は頷いた。

 

「ん、和人が見つけたお店に行こうか」

 

「んじゃ、行こうぜ」

 

俺は木綿季の手を引きながら、エレベータに乗り込み、一階のエントランスへ向かった。

スカイツリーの出口を潜り、目的のソバ屋へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺が店の玄関を、ガラガラガラと開け店内に足を踏み込む。 俺の後に続くように木綿季も店内に足を踏み入れる。

 

「へいらっしゃい!」

 

「大人二人で」

 

俺がそう言うと、店主は疑問符を浮かべた。

 

「ん? 大学生じゃないのか?」

 

これには、俺と木綿季は苦笑した。

俺は頬を掻きながら、

 

「これでも、社会人なんですよ」

 

「ボクは、専業主婦ですよ」

 

「ほ~ッ、若いね二人とも。 オレの嫁さんなんか……」

 

すると、店の奥から人影が見えた。

 

「……わたしが何だって」

 

「お、おまえさん来てたのか……」

 

「そうね。 あとで話し合いましょ」

 

肩に手を置かれ、店主はガクっと肩を落とした。

 

「あ、ああ……そうだな……」

 

お嫁さんは咳払いをし、

 

「さ、何を頼む。 オススメは、タワー天丼よ」

 

「じゃあ、それ二つで」

 

俺がそう言うと、店主さんが立ち直った。

 

「結構ボリュームあるけど、大丈夫か。 お嬢ちゃんは、あの量を食べられないと思うが」

 

「そんなに量があるんですか?」

 

俺の言葉に、店主さんがフンスと胸を張った。

 

「そりゃあるとも。 力士が、これだけで腹が一杯になるだろうな」

 

木綿季は、クイクイと俺の袖を引っ張った。

 

「和人、タワー丼を一緒に食べようよ」

 

「そだな。 じゃあ、それを一つお願いします」

 

「あいよ。――おまえ、座敷にお通ししてくれ」

 

「じゃあ、此方に」

 

俺たちは、お姉さんの後ろについて行く。

案内されたのは、一番奥の座敷部屋だった。 障子を開けると、庭の木々が見渡せる場所だ。

お姉さんが部屋の襖を引き開け、促されるように、俺と木綿季は靴を脱いでから座布団の上へ座った。

 

「お料理が出来たらお持ちしますね」

 

「よろしくねー、お姉さん」

 

木綿季の言葉を聞き、お姉さんは口許に片手を当てながら、クスクスと笑った。

無意識だと思うが、木綿季さん、策士すぎる……。

 

「あら、お上手ね。 サービスしちゃおうかしら」

 

「ホント? じゃあ、お願い」

 

「亭主にお願いしとくわ」

 

お姉さんは、ふふ、と笑みを零してからこの場を後にした。

数分後。 注文したタワー天丼が届けられた。

それを見て、俺と木綿季は目を丸くした。 取り敢えず、高いのだ。 どんぶりの上には大きなかき揚が乗っており、更にかき揚の上にエビ天が四つ立てて乗っており、東京スカイツリーが再現されていたのだ。

本当は、エビ天は三つのはずだが、サービスで四つになったらしい。

 

「ボクは、エビ天だけでお腹いっぱいになっちゃいそう」

 

「たしかに。 てか、これ全部食えるかな? 完食できるか心配になってきちゃったぞ」

 

俺と木綿季は、手を合わせた。

 

「「いただきます」」

 

俺は、眼前に置いてあった割り箸を割り、エビ天を掴んでから口に運んだ。

うむ。 身も詰まっていて、回りの衣がカリカリで旨い。

 

「木綿季。 美味いか?」

 

「うん、美味しい。 ボクも、この天丼が作れるようにレシピを考えるよ」

 

『明日奈と姉ちゃんも一緒にね』と、最後に付け加えた。

通常サイズで頼むぞ。 ここまで大きいと、一人で食べられるか怪しい。

木綿季は受け皿に乗った、食べかけのエビ天を割り箸で掴み、俺の口許に運んだ。

 

「和人、あーん」

 

俺もそれに応じるように、大きく口を開ける。

 

「あーん」

 

エビ天をよく噛み飲みこんだ。

木綿季は、美味しい?と首を傾げた。 俺は顔をほっこりさせた。

 

「旨い。 倍旨くなった」

 

「も、もう。 和人は」

 

木綿季は、頬を桜色に染めた。

俺も自身のエビ天を割り箸で掴み、木綿季の口許に持っていく。

 

「木綿季。 あーん」

 

「あーん」

 

木綿季は、口に運んだエビ天をモグモグと食べた。

ごっくん。と飲みこんで口を開く。

 

「うん、和人の気持ちが籠ってて美味しいよ」

 

そう言い、木綿季はニッコリと笑った。

俺はそれを見て、ドキッ!と心を掴まれそうになる。 てか、もう掴まれてるんだけどな。

 

「そ、そうか。 よ、良かった」

 

「うん」

 

それから俺たちは、美味しく天丼を頂いた。

完食できるか不安だったが、全部食べることができた。 はい、お腹一杯です。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「和人。 ボク、展望台に登ってみたいな」

 

「いいぞ。 そろそろ行こうか?」

 

俺と木綿季は座敷を出てから靴を履き、会計場所へ向かった。

会計をし、

 

「ごちそうさまでした」

 

「天丼、美味しかったです」

 

と、店主とお姉さんに向かってお礼をした。

店主は片手を上げ、お姉さんは一礼した。 それから、再びスカイツリーへ足を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

スカイツリー内部に入り、エレベータを使用し展望台を目指す。

展望台に到着し、エレベータから下りて、展望デッキから外の景色を眺めた。

 

「わあ~、凄いね」

 

「此処より上があるそうだが、行ってみるか?」

 

「行く行く」

 

俺と木綿季は、最上階へ向かう為のチケットを購入し再びエレベータに乗る。

数秒で、日本の頂点へ到着した。

木綿季が最初に目をつけたのは、ガラス床だった。 木綿季は小走りでガラス床の上に立った。

 

「す、凄いよ。 空を飛んでるみたい」

 

俺もガラス床の上まで移動する。

 

「たしかに、人が豆粒のようだな」

 

大半の人はここに立つと怖がるのだが、俺と木綿季は高い所が好きなのだ。

木綿季が言うように、空を飛んでるようだ。

其れからガラス張りの回廊通路を歩いた。 これは、空中を散歩してるようで開放感があった。 木綿季は外を眺めながら、ほへ~、と声を上げていた。

空をバックにし、ツーショット写真を撮ってもらってから、おチビたちにお土産を買う為、二階のお土産売り場へ移動した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「う~ん、何がいいかな?」

 

「これなんかどうだ?」

 

俺が手に取ったのは、限定スカイツリーのキーホルダーだ。

値段もそこそこするが、俺には軍資金がたんまりあるので問題ない。

 

「それいいかも。 流石和人」

 

「おう、褒め称えよ」

 

「じゃあ、大好きな旦那さん。 いつもありがとう」

 

と言い、木綿季は微笑んだ。

 

「お、おう。 こちらこそ、いつもありがとうございます」

 

二人を包む桃色空間は、周りから見ても凄かった。

その証拠に、壁を叩く人がいたらしい。

 

「あとは、東京バナ奈ツリーのクッキーを買っていこうか」

 

「だな。 和真と紗季も喜ぶはずだ」

 

東京バナ奈ツリーのクッキーは、このスカイツリーの限定商品でもある。

試食を食べた感想は、とろけるような口どけであり、味わい深くとても美味しかった。 選んだ商品購入し、片手に荷物を持ち、木綿季の手を優しく握りエレベータの乗り、東京スカイツリーを後にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

時刻は、十九時。

東京スカイツリーがライトアップされる時間だ。 十間橋から見るスカイツリーは絶景だった。――最後にこの場所でツーショットの記念写真を撮った。

 

「さ、帰ろうか。 俺たちの我が家へ」

 

「帰ろう。 今日は楽しかった」

 

「俺も楽しかった。 明日から、お互い頑張ろうな。 これからもよろしくな」

 

「こちらこそよろしくね。 大好きだよ、和人」

 

「俺も大好きだぞ。 木綿季」

 

星空の下、二人は優しく手を繋ぎながら、そして幸せそうに帰路に着いた。

こうして、桐ケ谷夫婦のデートは一生の思い出となった――。




はい、桐ケ谷夫婦のデートを書いてみました。
その名も、東京スカイツリーデートです。内容は、ほぼ作者の妄想ですね。
うむ。木綿季ちゃんの白いワンピース姿可愛いんだろうな~。和人君、羨ましいゾ。
甘く出来たか不安ですね(-_-;)
てか、他の作品も執筆しなければ(^_^;)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
この小説では、大学生は子供っス。
大人は、20歳になってからですな。


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第126話≪体育祭と三つの色≫

ども!!

舞翼です!!

今回はリクを書いてみました\(^o^)/
初めて紗季ちゃん視点を書いてみましたです。はい、難しかったです。難しかった。(大事なことなので二回言いましたよ)
今回の投稿は、不安っスね(^_^;)

では、後日談第30弾いってみよ(@^^)/
それでは、本編をどうぞ。


二〇四五年。 十月。

 

私の名前は、桐ケ谷紗季。

まずは、私の仲の良い子を紹介します。 その名も、新沢愛華(しんざわ あいか)ちゃん!

愛華ちゃんは、私の親友と呼べる間柄の子で、カズ兄が葵ちゃんと登校するように、私は愛華ちゃんと登校してまーす。

カズ兄と葵ちゃんですが、とても仲が良いです。 えーと、『もう付き合っちゃえよ!』って感じかな。 桃色空間と言えばいいんでしょうか。 それが凄いですね。

 

閑話休題

 

私が待ち合わせの場所で、ローファのつま先を、地面にトントンと叩いていたら愛華ちゃんが手を振りながらやってきました。

 

「紗季。 お待たせ」

 

「おはー、愛華ちゃん」

 

愛華ちゃんは、はあはあ、と息を吐いていました。

愛華ちゃんは低血圧なので、朝が辛いそうです。……まあ、私も弱いんですが。

そ、そう。 私は、ママが起こしてくれるのです。 自慢のママです!

ママは、お料理も上手だし、裁縫とかも出来るし、私もママみたいな女の子にn、……はッ、いけませんいけません。 私の自慢話が始まってしまうところでした。

 

「紗季ー」

 

愛華ちゃんが、私をジト目で見てきます。

 

「ご、ごめん」

 

「まあいいけどさ。 そういえば、明日は体育祭だっけ?」

 

「うん。 愛華ちゃんは、なに団?」

 

「えーと、烈火団だよ」

 

そう言い、愛華ちゃんは鞄を肩に担ぎ直した。

そう。 体育祭には、烈火団()黄輝団()龍球団()があるんだ。

団決めは、ほぼランダムで決定されるので、自分が何処の団に入るか解らなかったのですよ。 ちなみに、私も烈火団です。

 

「やった。 私も、愛華ちゃんと同じだよ。 あ、そうそう。 カズ兄と葵ちゃんも烈火団らしいよ」

 

「紗季と一緒で良かったー。 他の女子と話す時には、無意識に気を遣っちゃうから。 てか、烈火団強くね。 和真君と葵ちゃん、運動神経いいよね?」

 

「カズ兄が運動神経良いのは知ってたけど、葵ちゃんも良かったとは、予想外だったよ」

 

普段の葵ちゃんは、可愛いドジっ子だからね。

体育での、葵ちゃんの器械体操は凄かった。 クラス全員が目を丸くしてたからね。

そうこうしていたら、学校に到着した。

校門で先生に朝の挨拶をし、昇降口で上履きに履き替え、私の教室である2年C組に愛華ちゃんと一緒に向かう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「おはよー、桐ケ谷さん。 新沢さん」

 

私と愛華ちゃんに、女子生徒が挨拶をしてきた。

何故か知らないけど、私と愛華ちゃんは、このクラスのムードメーカーになってるらしい。

てか、いつなったのよ。 私、聞いてない! 取り敢えず、挨拶をしとこう。

 

「おはー」

 

「おはよー」

 

愛華ちゃんも、片手を上げて挨拶をした。

席に座り、隣の席に座った愛華ちゃんと話をしていたら、担任の先生が教室の扉を開け、教壇に立った。

 

「1限目のHRの時間は体育祭の練習に使うから、朝のSHRが終わったら、グラウンド集合な。 いいか?」

 

「「「「はーい」」」」」

 

クラス全員は、声を合わせて返事を返した。

それから出席を取り、男女で別れて運動着に着替え、グラウンドに向かった。

まあ、着替え中に私と葵ちゃんは、愛華ちゃんに弄られたけど……。 何があったかは、読者の皆様のご想像にお任せしまーす。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

グラウンドに向かい、リレーの練習をする者、器械体操の練習をするもの、二人三脚の練習をする者に別れた。

もちろん、私、愛華ちゃん、カズ兄、葵ちゃんは、クラス代表のリレーの練習。

クラスで対抗する競技だけど、練習では、二チームに別れての練習です。

白チームは、カズ兄と葵ちゃんが、赤チームには、私と愛華ちゃん。 ちなみに、アンカーは私とカズ兄。 第四走者は、葵ちゃんと愛華ちゃんです。

私は、隣に座るカズ兄に話しかけた。

 

「そういえば、カズ兄」

 

「どしたー?」

 

「えっと、カズ兄って何の種目出るんだっけ?」

 

カズ兄は思案顔をし、指で出る競技を数えた。

 

「クラス代表のリレーに騎馬戦、棒倒しに二人三脚。 あとは、障害物競争に綱引きだったかな」

 

「お、多いね。 私は、綱引きとパン食い競争、女子の騎馬戦に、クラス代表のリレーだけだよ」

 

「一人が出る競技は、三つか四つだからな」

 

うん。 それだけカズ兄が期待されてるんだ。

妹して、鼻が高い! ちなみに、カズ兄の二人三脚のパートナーは、葵ちゃん。

男女のペアだったから、こうなるは必然だったかもしれないけど。 カズ兄と葵ちゃんのペアは、練習でもずっと一位。……どれだけ息が合ってるのよ、二人とも。

 

「そろそろ、私たちの出番だね。 葵」

 

「今日こそ負けないからね」

 

今そう言ったのは、愛華ちゃんと葵ちゃんだ。 二人の勝敗は、今の所二勝二敗。

愛華ちゃんと葵ちゃんの50メートルのタイムは、7秒台。 私とカズ兄は6秒台。

第3走者がほぼ同時に、葵ちゃんと愛華ちゃんにバトンを渡した。

二人の走りは、『中学生じゃないだろ』っていう速さかな。 あ、葵ちゃんの速度が微妙に落ちた。 愛華ちゃんが何か言ったのかな? 例えば、カズ兄関係の事で、……うん、有り得るね。

愛華ちゃんが私にバトンを渡し、私はカズ兄より速くスタートするが、葵ちゃんからバトンを受け取ったカズ兄が、すぐ隣を走っていた。 くー、カズ兄速いよ! 私がカズ兄に勝ったことは、まだ一度もない。 だけど、今日は勝たせて貰うよ。――これでも食らえ。

 

「カズ、兄。 葵ちゃんとは、どうなの?」

 

カズ兄はきょとん顔をし、僅かに取り乱した。

 

「……何、言って、んだ。 変わったことは、ないぞ」

 

流石カズ兄。 まだ速度は落ちないね。

なら、――もう一撃。

 

「今度、デートでも、しなよ。葵ちゃん、喜ぶ、よ」

 

「なッ! そ、それは……」

 

よし、カズ兄の速度が微妙に落ちた。

――今だ!

私は今出せる全速力を出して、カズ兄を微妙に引き離した。

其れをキープして、ゴールテープを切った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「ず、ずるいぞ。精神攻撃なんて」

 

「えへへ、カズ兄に勝ちたくて」

 

私はカズ兄を正面から見て、ぺこりと頭を下げた。

カズ兄は、溜息を一つ吐いた。

 

「ったく」

 

私は小声でカズ兄に話しかける。

 

「カズ兄。 葵ちゃんとは、今後どうするの?」

 

カズ兄は空を一度見上げてから、再び前を見た。

 

「まじでどうすっかな。 でもまあ、あいつと居る時は、心地良いっていうか、楽しいっていうか、飽きないっていうか、そんな感じ。 オレって、結構な奥手かもな」

 

「パパも奥手だったらしいよ。 でも、無意識に本音を零しちゃったらしいけど」

 

「オレも、本音を無意識に零しそうだな」

 

カズ兄は腕を組んだ。

てか、この二人は周りから見ると、もうあれ何だけどね。 葵ちゃんも、カズ兄と同じ気持ちだと思うし。 え、何で解るかって? 女の勘ですよ。

まあ、ここは取り敢えず、

 

「体育祭が終わったら、デートしなよ。 これで万事解決かもよ」

 

「そうなのか? でも、受けてくれるかわからんぞ」

 

「いや、そこは確実に大丈夫だから。 紗季が保証するよ。 デートじゃなくて、どっか行こうって誘ってみなよ」

 

「うーん、わかった。 じゃあ、今から行ってくるわ。 善は急げってな」

 

そう言って、カズ兄は葵ちゃんの元へ向かった。

すると、にょきっと背後から、愛華ちゃんが姿を現した。

 

「聞いてたよ」

 

「あれ? 私とカズ兄は、周りに聞こえないボリュームで話したんだけど」

 

「あれだよ。 私の耳は地獄耳(笑)なのさ」

 

いやいや、(笑)ってなんなのさ。

まあいいけど。 てか、気にしたら負けな気がする。

 

「ま、お似合いの二人でもあるわよね」

 

「紗季、恋のキューピットみたいだね」

 

カズ兄、紗季が出来るのはここまでだよ。

あとは頑張ってね。 良い報告待ってるよー。

 

「上手いこというね~。 紗季さんや」

 

「でしょ」

 

愛華ちゃんと話していたら、『練習を終わるぞー』と先生から言われたので、集合場所へ向かった。 さ、体育祭頑張るぞ!

日直が授業終了の号令をかけ、一限目の授業が終了した。 私たちは教室に戻り、制服に着替えた。 そして今日は、各授業で中間テスト返しの日でもある。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

授業が終わり放課後。

これから、恒例の対決が始まります。 その名も、テストの点数勝負ですよ。

勝負する人物は、私と愛華ちゃん、カズ兄に葵ちゃんです。

さあ、まずは数学からです。

 

「いっせーのーで」

 

私の掛け声と同時に、答案用紙を見せ合います。

えーと、カズ兄は96点。 葵ちゃんは93点。 愛華ちゃんは87点。 私は85点。

う、またビリですよ……。 そ、そう。 みんな頭良すぎなんです。 特に、カズ兄と葵ちゃん。 この二人は、学年5位以内に入っている。 私と愛華ちゃんは、8~15位の間かな。 いつか、みんなのこと抜いてあげるんだから。

……これって、一生出来ないフラグにならないよね……。

それから、全部の回答を見せ合った。 カズ兄と葵ちゃんの平均点数は90点台。 私と愛華ちゃんは、80点台だった。 4人の順位は、カズ兄、葵ちゃん、愛華ちゃん、私だった。 う~、総合得点でもビリだったよ。 く、悔しい!

カズ兄が、鞄の中に答案用紙を仕舞いながら、

 

「明日の体育祭、紗季たちはどうするんだ?」

 

体育祭の開始花火が打ち上がるのは、午前6時。

おそらく、カズ兄が言いたいことは、花火が上がる前に学校に来るのか?ということだと思う。

 

「うん、紗季と愛華ちゃんは、午前6時前に学校にくる予定かな。――カズ兄は?」

 

「ん、ああ。 オレと葵は、午前5時に来る予定だぞ」

 

「は、はや!」

 

私は声を上げてしまいました。

いやだって、午前5時って、先生たち居るのかな?

 

「学校に先生が居なかったらどうするの?」

 

「そうだな。 学校が開くまで、葵と雑談かな。――葵も、それでいいだろ?」

 

カズ兄が、葵ちゃんの方向に振り向いた。

葵ちゃんも、それに笑顔で答える。 いや~、やっぱり二人は甘いよ。 他の人が見たら、口から砂糖を吐きそうだね。

 

「ん、それでいいよ。 こんなに早く学校に行くのは、わくわくするよ」

 

「明日は、午前4時30頃に迎えに行くわ。 準備しとけよ」

 

「りょうかいです!」

 

惚気を聞いてるような。 気のせいかな?

すると、愛華ちゃんが私の近くに歩み寄り、小さく呟いた。

 

「(何で、これで付き合ってなんだろうね)」

 

「(んー、カズ兄と葵ちゃんの距離間は、これが普通なのかも)」

 

「(あー、それわかる気がする。 体育祭で、二人がどうなるかも楽しみである)」

 

そう言い、愛華ちゃんはニヤリと笑った。

私も、何かのアクションがあったら良いと思うけど。 さっきの、デートの話を抜きにしてだよ。

あ、そうそう。 話は変わるけど、愛華ちゃんもALOをプレイしてる。 種族は水妖精族(ウンディーネ)で片手剣士らしい。 葵ちゃんもプレイしてるらしいし、今度みんなでクエストに行きたいかも。

 

「さて、そろそろ帰ろうぜ」

 

そう言って、カズ兄は椅子から立ち上がった。

私たちは床に置いてあった、自身の鞄を肩にかけた。 私と愛華ちゃんも、途中までカズ兄と葵ちゃんと一緒に帰っている。

それから、カズ兄を先頭に教室を出て行く。

学校を出、途中の通学路で、カズ兄と葵ちゃんと別れた。

 

「明日の体育祭、楽しみだね」

 

「だね。 てか、カズ兄と葵ちゃんが、二人三脚で無双する気がする」

 

愛華ちゃんは、ふふ、と笑った。

たぶん、二人が無双してる場面が想像できちゃったんだろうな。 もちろん、私もだよ。

そうそう。 愛華ちゃんのお家は、私のマンションから、徒歩で約3分歩いた場所にあるんだよ。 最初知った時は驚いたな~。

 

「じゃあ、わたしはここで。 明日は、午前5時30分に待ち合わせで」

 

「OK。 ここに午前5時30分ね。 またね」

 

私は、手を振り愛華ちゃんと別れた。

明日は、楽しみにしてた体育祭本番だ――。




上手く書けたか不安っス……。紗季ちゃんのキャラが違ったらどうしよう。
てか、女の子視点は、難しすぎるぜ。そして、紗季ちゃんの親友の登場っす。
紗季ちゃんたち、50メートル鬼速い。7、8秒台とか中学生レベルじゃないよ(笑)
勉強も、この4人はチートかもですね。
和真君が《黒の剣士》、紗季ちゃんが《絶剣》、葵ちゃんが《閃光》、愛華ちゃんが《剣舞姫》の名を受け継ぎそうですぜ(^o^)丿

さて、次回は体育祭になりそうです。
まだ、誰視点で書くかは決めてませんが。3人称になるのかな?わからんとです(^_^;)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第127話≪勝利と二人の想い≫

ども!!

舞翼です!!

え~、今回は予定通り体育祭ですね☆
競技がごっちゃになってるような。違いがあったらご容赦を(>_<)
視点変更があるので、これもご容赦を(>_<)
てか、これSAOの小説だよね……。まあ、それは置いといて。

それでは、後日談31弾いってみましょー(@^^)/
本編をどうぞ。


――体育祭当日。

オレは、午前4時に目を覚ましてから、ベットから下りたち洗面所へ向かう。 オレの家族は就寝中だ。 顔を洗い歯を磨いてから洗面所を出る。

鞄を肩にかけてから、抜き足差し足で玄関に向かい、靴に履き替えてから扉を開ける。

静かに扉を閉め、鍵をかけてマンションの階段を下りた。

 

「ふぅ、皆を起こさずに出られた。――さて、葵を迎えに行くか」

 

いつもの道を通り、葵の家を目指して歩き出した。 家の前まで到着したら、元気いっぱいに手を振る葵の姿が映った。 オレは片手を上げ、葵に歩み寄る。

 

「おはよう。 よく起きられたな」

 

「えっへん。 私は、やればできる子なのだ」

 

と言い、葵は胸を張った。

オレは、よしよしと、葵の頭を撫でてあげた。 当の葵は、気持ち良さそうに目を細めていたが。

 

「そろそろ行こうか」

 

「OKだよ。 楽しい体育祭にしようね。 私の競技は、応援よろしく!」

 

オレは苦笑した。

 

「わかってるよ。 ちゃんと応援するから。――オレも頼んだぞ」

 

「もちのろんだよ。 頑張って応援します!」

 

「おう」

 

そう言いながら、オレと葵は、通学路を歩き出した。 午前5時前なので、まだ薄暗い。

学校の校門を潜り、グラウンドへ向かう。 体育の先生は準備等があった為、午前4時30分頃に学校に来てたらしい。

オレと葵は、グランドの中央に座り、顔を見上げ光ってる星を眺めた。

 

「こんなにも早く、和真君と一緒に星が見られるとは」

 

「ん、そうなのか?」

 

葵は笑みを零しながら、

 

「ですです。 修学旅行になるかな、って思ったから」

 

「オレと葵が同じ班は決定なのな。 それに、旅館を抜け出す前提ですか」

 

葵はきょとん顔をした。

……まあうん。 天然も混じっているので、メチャクチャ可愛いです。

 

「あれ、嫌だったかな?」

 

「いや、バレなければ問題ないだろ」

 

「じゃ、約束ね」

 

「おう、約束だ」

 

オレと葵は、小指で指切りげんまんをした。

その時、体育の先生から『桐ケ谷と永瀬。 よければ、体育祭の準備手伝ってくれるか? 今、人手が居なくてな』と言われたのだった。

 

「「りょうかいでーす」」

 

そう返事をし、先生の元へ歩み寄った。

先生から言われた作業は、薄くなった白線をラインカーで上乗せする事と、各所にカラーコーンの設置などだった。

作業が終わり、時刻は午前6時になる。 グランドの真ん中に花火が設置され、担当の人の手によって、体育祭開始の花火が打ち上げられたのだった。

これが合図になるように、徐々に生徒が姿を現した。

あ、そうだった。 体育祭のスローガンは『疾風迅雷。 今、この瞬間を全力で挑戦し』だ。

ちょっと中二病臭いが、オレらは中学生なので問題ないだろう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

準備等が終了し、体育祭の開会式が行われた。

各団の選手が、各々の場所で整列し、来賓や校長先生の話を聞く。 そして、体育祭と言えば選手宣誓だ。

てか、オレが代表だった……。

オレは列から離れ、来賓を見上げる壇上へ登った。

暫しの静寂が流れる。 オレは息を吐き、右手を掲げた。

 

「宣誓、我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、この青空の下、最後まであきらめない心を持って、正々堂々と戦うことを誓います。 2045年。 10月15日。 選手代表、桐ケ谷和真」

 

拍手が巻き起こり、オレは一礼してから元の列へ戻った。

開会式が終わり、各選手が各団の控えテントへ向かう。 その間挿入歌として、LiSA、crossing fieldが流れた。

最初の競技は、各団の代表選手が組み体操だ。 各団とも、凄く練習したんだと思う。

完成のクオリティがかなり高い。

組み体操が終わり、次の競技は綱引きだ。

 

「いっちょやりますか」

 

「そうだね。 頑張ろう!」

 

「うおッ! 葵か」

 

後方を振り向くと、額の少し上、赤いハチマキを巻いた葵の姿が目に入った。

てか、いつの間に移動したんだ? 全然気付かなかったぜ。

ま、一緒に行くか。

 

「さて、行こうぜ」

 

「うん、行こっか」

 

烈火団は綱の脇に座り、力を入れずに綱を握る。

ちなみに、最初の対戦団は龍球団だ。 審判が、――スタートピストルで“パンッ!”と開始の音が響いた。

直後、グッ、と綱を引く力が込められる。 つか、メッチャ重いです。

 

「……お、重い」

 

隣で綱を引いていた葵が、

 

「ほら、和真君。 力を入れて」

 

「お、おう」

 

そして、対戦が終了した。 結果は――烈火団の勝利だ。

続いて黄輝団とも対戦したが、これも勝利を収めた。 総合結果は、烈火団の全勝利で終わった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

次の競技は障害物+借り物競争だ。

オレの順番になり、Light My Fire。 KOTOKOの音楽を背にトップで飛び出す。

一本橋や網を掻い潜り、着ぐるみを着て次の場所へと目指す。 この間も、オレは一位をキープしてる。

そして、借り物の札の場所まで来た。

オレは真ん中に置いてあった札を取り、中身を見る。

 

『気になってる、女の子。』

 

…………は? はああァァああ――――!

いや、意味が解らん。 え、何なのこれ。 てか、誰が用意したんだよ! 周りの人の札には、『クラスの女の子』とあった。

あ、聞いたことがあった。 借り物競走一レースに1枚だけ当たりがあるって。

オレは、はあ~、と盛大に溜息を吐いた。

 

「後で何とでもなるか」

 

オレは、団の控え室まで走り、その人の名前を呼ぶ。

 

「おーい、葵。 走るから来てくれ」

 

「え、え、わたし?」

 

「おう、おまえだ。 早くしないと、抜かれちゃうぞ」

 

「う、うん。 わかった」

 

オレは葵の手を優しく握り、グランドのコースに戻るが、どうやら最下位になってしまったらしい。 だが、オレたちの足を舐めてもらっては困る。

二人は全力で走り、前のランナーを抜いてから、堂々の一位になったのだった。

手を膝に、はあはあ、と息を吐いていたら、葵がオレに言う。

 

「そういえば、和真君。 借り物には何て書いてあったの? えーと、わたしを貸し出す内容だったとか?」

 

え、何でわかったの。

やっぱり、女の子の勘は怖えーな。 まじで。

 

「いや、まー、あれだ。 えーと……」

 

オレは観念し、借り物の札を渡した。

それを見て、誰もが解るように、葵の顔が真っ赤に染まる。

 

「まああれだ。 これは、オレらのペースでやっていこうぜ」

 

「う、うん。 わたしも、それに賛成かな」

 

総合結果としては、障害物+借り物競争は二位だった。

まあ、最下位にならなかっただけ良しとしよう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

次は、私たち女子の騎馬戦です。

騎馬の上に乗るのは、もちろん私、桐ケ谷紗季ですよ。

騎馬を作る人は、愛華ちゃんを筆頭にした子たちです。 さー、頑張りますよ。

控室を出てから整列し、グランド中央まで集まった。 それから、各団で騎馬を作っていく。

全員が作り終わり、スタートピストルが、“パンッ”と鳴った。 そして、リライト、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの音楽と共に騎馬戦が開始された。

私たちは、各団の騎馬を次々に崩していく。

 

「よし、残り一つ」

 

龍球団の子とハチマキの取り合いになるが、中々決着がつかない。

 

「ふ、こんなこともあろうかと、私が秘策を用意しといたんだよ」

 

おお、流石愛華ちゃん。 頼りになるー。

だが、次に取った愛華ちゃんの行動は、まじか。というものだった。

 

「龍球団のみんな、この青空の下隕石が降ってるよ!」

 

「「「「「へ?」」」」」

 

龍球団のみんなは、愛華ちゃんの指差した方向に目をやった。

そして、一瞬の隙ができる。

 

「紗季。 今だよ!」

 

「OK!」

 

この隙に、私が騎馬の子のハチマキを取り、この勝負は、烈火団が一位になったのだった。

実は今の作戦、愛華ちゃんと葵ちゃんが考えた作戦らしんだ。

何かないかな?と相談したところ、今の案が採用されたらしい。 何て言うか、凄い簡素な作戦だったね。 うん。

さて、この騎馬戦が終わった所で、昼食時間に入ります。

パパとママが見に来ると言っていたので、何処か開いている席を確保してるはずです。 たしか、愛華ちゃんと葵ちゃんの両親も一緒だとか。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

紗季が、パパとママを探していたらすぐに見つかりました。

大学生で通ることが出来る、美男美女が目に入ったからです。 これは、完全にパパとママですよ。

其処には既に、カズ兄がランチシートの上に座っていた。 ご飯を食べていないということは、紗季たちを待っててくれたんだろうな。

大塚愛、プラネタリウムを聞きながら、昼食になりました。

 

「これが、ママが作ったお弁当だよ」

 

ママが、三段お弁当を、一段ずつ分けてくれました。

何と言っても、お弁当が豪華です。

のり巻きおにぎりの段に、色とりどりのオカズの段。 デザートの段。 やっぱり、ママは凄いです。 こんなにも、美味しいお弁当が作れるなんて。

その証拠に、愛華ちゃんと、葵ちゃんのママが、私のママにこう言います。

 

「桐ケ谷さん。 今度、このお弁当のレシピ教えてください」

 

「こ、これ、余り物を使っているんですよね。 どうやって有効活用したんですか?」

 

「え、えっと、これはですね――」

 

何て言うか、私のママは凄すぎます!

ママのブログは、お母さんたちに有名ですからね。

 

「じゃあ、俺たちで頂きましょうか」

 

「ええ、女房も当分戻ってきませんし」

 

「うちの母親もですよ」

 

パパに続いて、愛華ちゃん、葵ちゃんのパパが言いました。

全員が手を合わせ、おにぎりを一口。

 

「ちょ、紗季のお母さんのお弁当、美味しすぎだよ。 店で出せるレベルかも」

 

「ホント美味しいよ。 将来、わたしもこんな風に作れるようになりたいな」

 

これは、愛華ちゃんと葵ちゃんの感想です。

えへへ、何か、紗季が嬉しくなっちゃいました。

 

「そういえば、和真。 ここに居る全員は、クラス対抗リレーに出るのか?」

 

「そだよ。 愛華、葵、紗季、オレの順で走るよ」

 

パパは、体育祭プログラム用紙に目を落とした。

 

「たしか、この二人三脚もだよな」

 

パパがこう言ったら、カズ兄は、ゲホゲホとむせた。

それから、んん、咳払いをした。

 

「後は、リレーと二人三脚だけだよ」

 

「誰と走るんだ。 男女のペアだろ?」

 

これには、パパたちが耳を傾けてますよ。

カズ兄は、えーと、と口籠ります。

 

「……葵と走るよ」

 

「ほう。 なるほどなるほど」

 

「さっきの借り物競走見てたよ。 いやー、二人は速かったね。 最下位から一位になるなんて」

 

「今後とも、葵を任せるよ。 和真君なら安心だ。 てか、将来貰ってあげてくれ」

 

カズ兄は、お弁当を一通り食べ終わると、

 

「も、もう行く。 次の競技の準備をしないと」

 

みんなの目には明らかでした。 カズ兄の頬はうっすらと赤く染まっていました。

まあ、葵ちゃんの顔は真っ赤になっていましたが。

さてさて、愛華ちゃんと葵ちゃんが、お弁当食べ終えました。

 

「じゃあ、お母さん。 行ってくるねー」

 

「行ってきます」

 

「ママ、行ってくるねー」

 

そう言い、紗季たちも団の控室へ向かいました。

次の競技は、二人三脚です。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

二人三脚のメンバーが出揃い、各団ごとにスタート地点に着きます。

ちなみに、カズ兄たちはアンカーです。

スタートしました。 烈火団は最下位です。 徐々に離されて行ってますね。 これは、厳しい展開かもです。

第四走者が戻って来ました。 差は、結構開いてます。

カズ兄が、肩に赤い大きいハチマキを肩にかけ、スタートしました。

……うん、速い。 二人は速すぎます。 もう、他の団と並びました。 四分の三地点でスパートをかけます。 いやー、これは無双です。 他の団をかなり離しましたから。

 

「……紗季。 見てた?」

 

「うん、見てた。 カズ兄と葵ちゃんペア、速すぎだよ」

 

「あれは、無双だったね」

 

「だね」

 

烈火団が一位になり、二人三脚は終了しました。

そして最後に、クラス対抗リレーです。

私と愛華ちゃんも、選出メンバーの所へ向かいます。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ。 ぶっちぎりの一位だったね」

 

「おう、サンキューな」

 

「次は、最後のクラスリレーだね」

 

オレが周りを見ると、すでに選出メンバーは出揃っていた。

第一走者がスタートラインにつき、――クラス対抗リレーが始まった。

愛華の走りに、他のクラスの奴らがついてきてる。 何て言うか、粘りが凄い。

第三、第四走者で勝ち越すも、差は余り縮まっていなかった。

 

「か、和真君」

 

オレは、葵からバトンを受け取り、地面を蹴ってスピードに乗るが、その隣をB組の奴が走っていた。

 

「(まじかよ……。 コイツ、メッチャ速い)」

 

四分の三まで来ても、差は僅かしかない。

もしかしたら負ける可能性も。――その時。

 

『和真君、頑張って!』

 

「(葵さん。 頑張りやす……)」

 

オレは、足をフル回転させ、かなりの差をつけゴールテープを切った。

コースの外へ倒れ、仰向けになり、額に手を当てながら荒く息を吐く。

 

「……はあはあ。 まじ、キツイ」

 

「お疲れ様」

 

手をどけると、微笑んだ葵の顔を映った。

オレは、自力で立ち上がった。

 

「いやー、きつかった。 B組の奴が速いなんて聞いてないぞ」

 

「あの人、今日の為の秘密兵器だったらしいよ。 和真君に勝つために隠してたんじゃないかな?」

 

「自分で言うのも何だが、それ。 ありえるな。――話は変わるが、どっか行くの水族館でいいか? すまんが、これ位しか思いつかなくてな」

 

「う、うん。 だ、大丈夫です」

 

「何で敬語?」

 

すると、紗季の声が届いてきた。

 

「カズ兄、葵ちゃん。 並ぶよー」

 

「「おう(はい)」」

 

整列をし、クラス対抗レースが終了した。

結果は、2年C組の優賞だ。 クラス対抗レースが終わり、閉会式となった。

最優秀選手の発表もあるらしい。

烈火団、黄輝団、龍球団の各員が整列した。

来賓などの閉会の言葉が終わり、校長先生から団優勝が発表される。

 

「各選手の皆さま、お疲れ様でした。 それでは、優勝団を発表したいと思います。 優勝は――烈火団です!」

 

その時、団全体から、ワー、と歓声が上がる。

中には、涙を流す者をいた。

 

「そして、最優秀選手を発表したいと思います。 最優秀選手は――2年C組、桐ケ谷和真さんです!」

 

一斉に、オレに視線が注がれた。

まあ、最優秀選手と言われても、実感がないんだが。

団長とオレは促されるように、壇上に上がる。

 

「優勝、烈火団。貴殿の団は、最優秀成績を収めたことを、これに称する。おめでとう」

 

団長は、賞状を両手で持ち一礼をしてから元の場所へ戻った。

オレは、校長の前に出た。

 

「最優秀選手、桐ケ谷和真。 貴殿は、この体育祭で選手一の成績を収めたことを、ここに称する。 おめでとう」

 

オレは、賞状を両手で持ち一礼してから、元の位置に戻り、団長と回れ右をしてみんなを見ながら両手を掲げる。 歓声と拍手が同時に流れる。

それから、壇上から降り、元の位置へ戻った。

閉会の言葉を終え、体育祭が終了した。

ちなみに、オレの両親の姿はなかった。 表彰式を見てから、帰ってしまったのだろう。

K-ON、Don't Say Lazyを聞きながら解散になった。 片づけ等を手伝ってから、SHRをし、帰る支度を済ませる。

 

「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ。 道草はするなよ」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

各自が教室から出て行く。

 

「オレと葵は帰るが、紗季たちはどうする?」

 

「今日は日直だから、戸締りをしなきゃいけないんだよ」

 

「わたしは、それのつき添いかな」

 

「なるほど。 じゃあ、葵、帰るか?」

 

「OK」

 

オレは立ち上がり、葵と一緒に教室を出る。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

学校を出、いつもの通学路を歩く。

 

「最優秀選手おめでとう。 和真君」

 

葵が賛辞の言葉をくれる。

 

「実感がないんだよな。 ただ、一生懸命競技をしてただけだからなー」

 

「わたしは、そういう一生懸命な君が好きだよ」

 

「ああ、そうだな…………へ?」

 

葵は、あたふたした。

オレは、咳払いをしてから、

 

「オレも、誰よりも葵が好きだぞ。 お、そろそろ着くな。 明日は、ゆっくり休めよ。 折角の振り替え休日なんだから」

 

言葉が終わると同時に、葵の家の前に到着した。

 

「か、和真君。 す、好きだよ。 じ、じゃあ、また火曜日に」

 

そう言い、葵は早足で家の庭に入って行く。

 

「いつも通り迎えに行くからな」

 

遠くからだが、『お願いします』と聞こえてきた。

オレは苦笑してから、踵を返し帰路についた。

こうして、初めての体育祭に終止符が打たれたのだった――。




音楽等は、自分が好きなモノ出しましたね。
和真君もちゃんと応援してますよー。
てか、体育祭には、ムカデ競走とか応援戦とかあるんですが……。
棒倒しもちゃんとやりましたよ。
クラス対抗の表彰もされてますよ。長くなりそうだったので、キンクリしました(笑)

父親に弄られてしまう和真君(笑)
てか、和真君のスペック高すぎだね(笑)葵ちゃんにも言えることですが。
そして、今後の予定も決めてるお二人でもありますな(^O^)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第128話≪水族館と初めてのデート≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、書きたい話を書きましたです。
和真君と葵ちゃんのデート?風景ですね。まあ、二人はまだ付き合ってないのでデートといえるかわかりませんが。
てか、タイトル詐欺じゃね。的な感じですね(笑)つか、連投が出来ちゃいました(笑)
頑張って甘く書いたつもりです。
上手く書けただろうか?ちょい、不安ですね(^_^;)

では、後日談第32弾いってみよー(^O^)
それでは、本編をどうぞ。




二〇四六年。 一月。

 

現在オレは、東京駅付近で、ある人物と待ち合わせをしていた。

そう。 今日は、葵と遊びに行く日だ。 まあ、無難の水族館になったんだが。

オレの上は黒のシャツにミリタリージャケットを羽織り、下はスキニーパンツにレザーシューズといったコーディネイトだ。

 

「お、こっちこっち」

 

葵が、オレを見つけて手を上げながら、歩み寄ってきた

黒を基調にしたミニワンピースの上に、もこもこのコートを羽織り、茶色いショートブーツといったコーディネイトだ。

少し長めの黒髪は、サイドポニーにしていた。

まじで可愛いです。 破壊力がありすぎ。

 

「ど、どうかな? 今日の為に気合を入れてきました!」

 

「お、おう。 似合ってるぞ。 可愛いよ。 てか、この辺の水族館って言ったら、サンシャイン水族館しか思いつかなかったんだが、それでいいか?」

 

葵は、笑顔で頷いた。

 

「全然OKだよ。 一度行ってみたかたんだ。 その水族館」

 

「そうなのか。 じゃあ、行くか」

 

すると、葵が右手をゆっくりと前に出した。

こういうことに疎いオレでも、これは解るぞ。 手を繋げってことだな。

 

「はいはい。 了解しました、お嬢様」

 

オレは、優しく葵の手を握った。

 

「ん、よろしい」

 

手を繋いで駅内部に入り、Suikaをタッチし、山手線の電車に乗り込み池袋駅を目指す。

その間も、オレたちの手は、しっかりと握られていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

駅に到着し、徒歩で約7分あるいた所で、サンシャイン水族館の入口が見えてきた。

受付で子供二人分の入場料を払って、水族館へ入った。

入ってすぐ眼の前に見えたのは、魚たちが楽しく泳ぐ大水槽だ。 この大水槽のコンセプトは『天空のオアシス』らしい。

 

「か、和真君、凄いよ」

 

葵に手を引かれて、オレも水槽前に移動する。

 

「ちょ、引っ張るなって」

 

「うわ~、綺麗だね~」

 

葵は、感嘆な声を上げ、水槽を見いっていた。

その時、一匹の海水魚がオレの目に入った。 オレンジ色の体に、白い模様が入った魚だ。

オレは、その海水魚を指差す。

 

「葵。 あの海水魚、おまえに似てるな」

 

「え、そうかな。 可愛いお魚だからいいけど。 和真君は、あれに似てるね」

 

葵が指差したのは、砂の中に隠れてるウツボだ。

オレは、葵の頭をぐりぐりする。

 

「おい、ウツボはないぞ。 ウツボは。 せめて、古代魚のアロワナとかをだな」

 

「ご、ごめんって。 冗談がすぎました」

 

葵は、舌をぺろっと出すだけだ。

オレは、まあいいか。と言いながら息を吐いた。

近くにいるお客さんに、水槽をバックにした記念写真をお願いする。 その時に『彼女さんとですか?』と聞かれ、『いずれですね』と答えた。

写真を撮り終え、案内図を見ながら、

 

「何だ、このクラゲトンネルって?」

 

「トンネルの中に、クラゲさんが居るのかな。 う~ん、いまいち想像ができないな」

 

「取り敢えず、行ってみるか」

 

案内図の隣に置いてあったパンプレットを参照しながら、クラゲトンネルの場所を目指す。

目的の場所に到着し、トンネルの中に入ってみた。

 

「あれだな。 刺されそうで怖いな」

 

「そうかな。 わたしは、海の中を泳いでるみたい」

 

葵は、周りをグルッと見渡した。

 

「いやいや、クラゲと海なんて、刺されちゃうから」

 

「も、もう。 和真君は夢がないんだから」

 

「ま、まあ、男子は現実を見ちゃうんだよ」

 

オレは、はは、と空笑いをするだけだ。

葵は、頬をぷくっと膨らませていたが、オレが膨らんだ頬の両端を人差し指で押して、ぷしゅーと音を出しながら縮める。それから、お互い笑い合った。

クラゲトンネルを数分楽しんだ所で、近場ベンチに座りながら、次に何処に行くか話合った。

 

「ねえねえ、この自然景色ゾーンって何かな?」

 

「人工で作った自然が見れるんだろうな。 てか、ちっこい熱帯魚が居そうだな」

 

「ほ、ホント!?」

 

葵は、顔をグイッと近づける。

あれだ。 オレが約10センチほど顔が近づけば、キスができてしまう距離だ。

 

「あ、葵。 近いから」

 

「へ?……ご、ごめん」

 

葵は顔を離してから、顔を俯けてしまった。

おそらく、羞恥で顔が完熟トマトのように真っ赤になってるはずだ。

 

「ま、行ってみるか」

 

「そ、そうだね」

 

オレは立ち上がり、葵の目の前に右手を差し出す。

葵はおどおどしながら、オレの手を握り立ち上がった。

 

「あ、ありがとう。 か、和真君。 大好きだよ」

 

「はいはい、オレも大好きですよ」

 

オレは、軽い口調でそう言う。

葵さんは、それがお気に召さなかったのか、ムッとした。

 

「和真君」

 

「悪かったって。 オレも大好きだよ。 世界で一番な」

 

「う、うん」

 

いやいや、恥ずかしがるんだったら言わせなければいいのに。

オレと葵の手はしっかり握られ、自然景色ゾーンへ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

目的の場所にあったのは、緑に囲まれた大きな水槽だった。

よく見ると、水草から小さな気泡が浮かび上がっている。 おそらく、光合成で発生した酸素だ。 中にいるエビや熱帯魚は、この酸素の循環によって生息できているのだろう。

 

「和真君。 こんなに小さなお魚だよ!」

 

「水族館だからな。 そりゃいるだろ」

 

「も、もう、またそんなこと言って」

 

「悪い悪い。 此処でしか見れない魚もいるしな」

 

それから、自然豊かな各水槽を見た。

今の時刻は、正午を回った頃だ。

オレは、葵に話しかけた。

 

「葵、メシはどうしようか?」

 

葵は、左手に持っていたトートバックを持ちあげた。

 

「じゃーん。 これに入ってますよ」

 

「ん? これ、朝から持ってたな」

 

「この中には、お弁当が入ってます。 自由スペースがあったから、そこで食べようよ。 あと、お弁当の出来には期待しないで」

 

「おお、弁当か。 早く食おうぜ」

 

オレと葵は、自然景色ゾーンを後にし、自由スペースへ向かい歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

オレと葵は、向かい合わせになるように椅子へ座った。

葵が、トートバックをテーブルの上に置き、中から弁当箱を二つ取り出す。 大きめな黒い弁当箱が、オレのらしい。

早速、オレは弁当箱を開けた。

白いご飯に、卵焼き、唐揚げに、ポテトサラダ。

 

「た、卵焼きとか、形が崩れてごめんね。 まだ、上手く作れなくて。 全部、レシピ通り作ったんだけど」

 

「上手く出来てると思うぞ」

 

「そ、そうかな」

 

「ま、練習あるのみだ。……オレが言えることじゃないけど。――んじゃ、いただきます」

 

オレは箸を持ち、卵焼きを一口。

良く味わってから、飲みこんだ。 葵は、緊張した面持ちで、オレの言葉を待ってる。

 

「うん、旨いぞ。 卵焼きの甘さ加減とか、オレの超好のみだよ」

 

オレの言葉を聞き、葵の顔がパーと輝く。

 

「よ、よかった。 ちょっと不安だったんだ」

 

「いやいや、旨いぞ」

 

オレはそう言いながら、箸を進めた。

数分もしない内に、弁当は空になった。 うん、旨かったです。

 

「今度お出かけした時、また作ってきてもいいかな?」

 

と、上目遣いで聞いてきた。

ここで断れる男子はいないだろう。 てか、オレは絶対に断らないが。

 

「OKだぞ」

 

葵は、小さくガッツポーズをした。

 

「やった。 それまでに、お料理のレベルを上げとかなきゃ」

 

「楽しみにしてるよ。――次は屋上に行きたいんだが、いいか?」

 

葵は、弁当箱をトートバックに片してから、

 

「OKだよ。 それじゃあ、屋上に行こう」

 

「おう」

 

オレと葵は立ち上がり、屋上へ足を向ける。

そう。 屋上には、サンシャイン水族館の目玉といえるものがあるのだ。 その名は、『アクアリング』だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

屋上に到着し、葵は空を見上げた。

其処に見えるのは、ドーナツ状になった巨大な水槽の中をアシカたちが泳いでいるのだ。

下から見ると、アシカたちが空を泳いでいるようにも見える。

 

「す、凄い。 アシカさんたちが空を飛んでるようだよ。 和真君は知ってたの?」

 

「いいや、知らなかったぞ。 パンフレットを見た時、一番最初に目に止まった場所だった」

 

それから手を繋ぎながら、リングの下を歩いた。

いや、まあ、何と言うか。 凄いの一言だ。

アシカの空中散歩を堪能してから、水族館の醍醐味のイルカショーだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

開演前に、前の席に座りショーの時間まで雑談をした。

ショーが始まり、係員の人の合図でイルカが飛んだり、輪の中を潜ったりする。

舞ってくる水飛沫は、配られたシートでガードする。 まあ、ちょっとだけかかってしまうが。

 

『それでは、観客の皆さまから、この子に餌をあげて貰います。 えーと、――前のカップル二人にお願いしたいと思います』

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

オレは、自身に指を差す。

 

「オレたちのことか?」

 

「た、たぶん、そうじゃないかな」

 

「なら行こうか。 ほい、お手をどうぞ。 お姫様」

 

「も、もう」

 

葵は、オレが差し出した手を握った。

立ち上がり、 関係者の入口に入り壇上に上がった。

 

「それでは、この魚を投げ入れて貰えますか?」

 

係員さんがそう言い、オレが魚の入ったバケツを受け取る。

腕捲りをしてから、葵が魚の一匹を掴み、

 

「えい!」

 

と、水槽の中に投げ入れる。

それに呼応するように、イルカが盛大なジャンプを決めた。

 

「やった、成功だよ」

 

「おう、やったな」

 

「お二方、ご協力ありがとうございました」

 

係員さんが、オレが持っていたバケツを受け取った。

 

「いえいえ、良い思い出になりました」

 

「ありがとうございました」

 

オレと葵は、係員専用の出口を出て先程の席へ戻った。

ショーを全て見てから、水族館の締めとなるお土産売り場に向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

お土産広場の周りを物色していた葵が、オレを呼んだ。

 

「和真君。 ちょっと来て」

 

「おう、今行くぞ」

 

オレは、葵の元へ歩み寄った。

葵が見てるのは、アクセサリーの欄だった。

 

「イルカとヒトデの、ペアネックレスだよ」

 

其処には、小さなイルカとヒトデを象った物が、チェーンに嵌っていた。

 

「えっと、わたしがイルカで、和真君がヒトデでどうかな?」

 

「いいんじゃないか。 うん、いいと思うぞ。 でも、学校にはつけてけないよな」

 

葵は、えへへ、と笑うだけだ。

なるほど。 バレなければ大丈夫ってことですか。

 

「ま、バレたら共犯者だな」

 

「そうかも」

 

オレと葵は、苦笑するだけだ。

早速、そのネックレスを手に取り、会計へ向かう。

オレが会計をし、お土産広場から出た。

 

「あ、あの。 お金」

 

「いいっていいって、オレからの奢りだ。 受け取ってくれ」

 

葵は、顔を俯けた。

 

「あ、ありがとう。 一つお願いしていいかな?」

 

「いいぞ。 オレができる範囲だけど」

 

葵は、覚悟を決めたかのように顔を上げた。

右手には、先程購入したネックレスが握られている。

 

「えっと、首につけて欲しいな」

 

「そんなことか。 ネックレスを貸して」

 

オレは、葵からイルカのネックレスを受け取ってから、後方に回り、それを首につけてあげた。

 

「ほい、できたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「いや、なんで敬語? まあいいけど」

 

そう言いながら、オレも、自身のネックレスを首にかけた。

買い物も終わり、退場する為ゲートを潜り、水族館の外に出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「いやー、遊んだ遊んだ」

 

外に出たオレは、んーと伸びをした。

 

「ん、わたしも楽しかった」

 

葵は、先程購入したネックレスを弄りながら言う。

どうやら、葵の中では、あのネックレスは宝物になったらしい。

 

「また、行こうね」

 

「そだな。 また来ような」

 

時刻は、夕焼けが見える時間帯だ。

 

「んじゃ、帰るか」

 

「そうだね。 帰ろうか」

 

夕焼けの空の下、二人の手は、優しく繋がれていた――。




いやー、まじで羨ましいお出かけですな。
書いてて思った。お前ら、バカップルじゃね。って感じですね。
ちなみにですが、このことは、愛華ちゃんと紗季ちゃんは把握済みですね(笑)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
リクも書いちゃってOKですよー。(活動報告に)


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第129話≪教授たちの日常≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、リク回ですね。初めての試みもしてみました。初めての視点ですからね。上手く書けたかな……。メッチャ不安やで(^_^;)

今回は、桐ケ谷家族が登場しません。申し訳ないです<m(__)m>
タイトル詐欺やね……ははは(-_-;)
楽しんでくれたら幸いです。
てか、後日談だけで、SAO編の話数を超えるかもですね(白目)

では、後日談第33弾いってみよ(^o^)/
本編をどうぞ。


二〇四六年。 四月。

 

私は、教授室の椅子に座り、デスクに広げられた書類にペンを走らせていた。

最後の文を書き終わり、最後にトン、とペンを叩く。

 

「終わった」

 

書類整理が終わり、私は伸びをした。

伸びをすると、椅子の背もたれが、ぐい、と傾く。 私が天井を見上げてると、コンコンと扉がノックされた。

 

「どうぞ」

 

私がそう言うと、一人の女子生徒。 望月加奈(もちづき かな)ちゃんが教材を持ちながら扉を開けた。

この子は、科学を専行してる生徒。ということは、質問かな?

 

「どうしたの? 何かわからない所でもあった?」

 

「は、はい。 研究が上手くいかなくて。 この公式ですけど、何処か間違っているのでしょうか?」

 

「ちょっと見てみるから。 ソファーに座ってていいわよ」

 

加奈ちゃんは、備え付けられているソファーに腰を下ろした。 前のガラステーブルの上に公式のページを開く。

私は書類を片してから、椅子から立ち上がり、彼女と向かえ合わせになるようにソファーに座る。

置かれたノートを手に取り、独自で開発された公式を見る。

 

「そうね。 ここに、ニッケルを加えてみたらどうかしら? そうすれば、元素たちも上手く循環すると思うわ。 他は良いと思うわ。 このまま続けてみなさい」

 

私は、公式を指しながら言う。

加奈ちゃんは目をパチクリさせながら、公式を見ていた。 おそらく、この中にニッケルを付け加えてらどうなるかを考え込んでると思う。

そして、頷いてから顔を上げた。

 

「た、確かに。 これなら上手く出来そうです。 ありがとうございます。――――明日奈教授」

 

「頑張ってね」

 

私は、ニッコリと微笑んであげた。

何故か知らないけど、科学を専攻してる子たちには、結城の苗字じゃなくて名前の明日奈で呼ばれてるのよね。

 

「あ、あの。 話は変わるんですが、明日奈教授は、何でそんなに美人なんですか?」

 

この手の質問は、一日一回はされる。 特にこれと言った秘訣はないのだけれど。

最近では、『明日奈教授は、大学生でも通りますよ』と言われたわ。

これには、私は苦笑するかなかったけど。

ちなみ、藍子さんも同じことを言われた事があるらしい。

 

「そ、そうかしら」

 

「明日奈教授。 ライトブラウンの瞳に、栗色のロングヘアーに三つ編み、整った容姿ですよ」

 

と、力説させてしまった。

やっぱり、この手の事は女の子の特権ね。

 

「そんなに褒めても何も出ないわよ」

 

「も、もちろんです。――こ、今度、どんな化粧水を使ってるか教えてください」

 

「ふふ、わかったわ。 じゃあ、今度の講義の時にね」

 

加奈ちゃんは立ち上がり、扉の前で私に振り向いてから「失礼しました」と言い教授室から出て行った。

私は、ポケットに入っているスマートフォンを取り出し、画面をタッチしてLINEを開く。

其処には、一通のメッセージが来ていた。 差出人は、紺野藍子とあった。

 

『明日奈さん。 いつもの場所にいますね』

 

「藍子さん。 もう、書類を終わらせたんだ」

 

私は立ち上がり、ロッカーに入ったショルダーバックを肩にかけ、廊下に出た。

部屋の鍵を閉めてからエレベータに乗り一階へ向かう。

一階の入り口ドアを潜り、待ち合わせ場所、桜の木の下へ急いだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

桜の木の下では、肩にバックをかけ、桜を見てる藍子さんの姿が目に映った。

その姿は、誰もが見いってしまう光景だった。 その証拠に、帰宅する生徒たちは一時的に足を止めている。

 

「(藍子さん。 『もう、30代で伯母さんです』とか言ってるけど、全然そうは見えないですよ)」

 

私は、パタパタと早足で藍子さんの元へ向かう。

藍子さんは、私に気づき微笑んでくれた。

 

「す、すいません。 書類に手間取ってしまいまして」

 

「いえ、全然大丈夫ですよ。 経営より、科学のテストを作る方が難しいんですから」

 

「あ、ありがとございます。 そ、それと、すいません」

 

私は、ぺこりと頭を下げた。

藍子さんは右手掌を口許に当て、クスクス、と笑った。

 

「変な明日奈さん」

 

「も、もう。 かわかわないでくださいよ」

 

私は、ぷんぷんと頬を膨らませる。

この年齢で、どうかと思うけど……。

 

「ふふ、ごめんなさい。 それじゃあ、帰りましょうか」

 

「ええ、帰りましょう」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

帰り道の途中で、私たちは去年行われた体育祭の話題で盛り上がっていた。

 

「紗季ちゃんたち、とても嬉しそうでしたね」

 

「たしか、紗季ちゃんのお友達の、永瀬葵ちゃんと新沢愛華ちゃんも居ましたね」

 

一度勉強を教えに貰いに来た時、勉強の休憩中にこの話題が挙がったの。

途中からガールズトークになって、二人三脚の話から、和真君と葵ちゃん関係の話になっんだっけ。

 

「葵ちゃんは、紗季ちゃんと愛華ちゃんの質問攻めに合っていましたけどね」

 

「そうですね」

 

私と藍子さんは苦笑した。

葵ちゃんには、恥ずかしい質問が沢山あったと思うわ。 『何処が好きになったの?』『出会った時の第一印象は?』『今度のデートのコーディネート考えてあげる』とかだったわね。

 

「それにしても、和真君は将来一緒になる人を見つけたんですね」

 

「そうですね。 和真君も和人さんに似て、一途ですからね」

 

……うぅ~。 こうゆう話をすると、心に若干だけどダメージが。

私は恋人すら居ないのに。 婚期逃がしちゃったのかなぁ……。

 

「藍子さん。 この話は止めにしましょう。 私の心に若干ですがダメージが……」

 

「そうですね。 わたしも僅かに悲しくなってきた所です……」

 

私は、30代の未婚ですよ~だ!って、誰に言ってるんだろ?

楽しく雑談していたら、私たちが住むマンションに到着した。 入り口のドアにカードキーをスライドさせると、ドアが開く。

私と藍子さんはドアを潜り、エントランスのエレベータを使用し、三〇二号室を目指す。

バックから鍵を取り出し、ドアの鍵を開け、玄関で靴を脱ぎ、部屋に入ると自室へ向かう。 自室と言っても、藍子さんと共有してる部屋なんだけどね。

私と藍子さんは、部屋着に着替え各々のベットに腰を下ろした。

 

「今日は、ALOにみんな集合でしたっけ?」

 

私が言うみんなとは、私、藍子さん、和人君、木綿季ちゃん、和真君、紗季ちゃん、葵ちゃん、愛華ちゃんのことね。

 

「そうですね。 集合したメンバーでクエスト予定ですね。――早めにINしましょうか?」

 

「りょうかいです」

 

私と藍子さんはベットに横になり、指定位置に立て掛けてあるアミュスフィアを頭に装着し、電源を入れる。 信号の点滅が大きくなり、妖精の世界に飛び立つ準備が整った。

私は息を吐いてから、魔法の言葉を紡いだ。

 

「リンク・スタート」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

アインクラッド第二十二層《森の家》ログハウスに降り立つと、其処には、水妖精族(ウンディーネ)たちが目に映った。

茶色と黒色の長い髪を揺らしてソファーに座っている、アイカちゃんと、アオイちゃんだった。

二人は私たちに気づいて、ソファーから立ち上がり歩み寄って来た。

 

「明日奈さん、藍子さん。こんにちは」

 

そう言って、アオイちゃんはぺこりと頭を下げた。

すると、アイカちゃんが、裏手優しく叩いた。

 

「バカ、ココは仮想世界。 リアルネームはマナー違反よ」

 

「あ、そうでした……。 ごめんなさい」

 

私とランさん、クスッと笑った。

 

「このログハウス内なら大丈夫よ。って、言っても。 私はココでもリアルネームなんだけどね」

 

「ココの皆さんは、顔見知りですから大丈夫ですよ」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

アオイちゃんは、ニコニコ笑いながらこう答えてくれた。

……あぁ~、うん。 カズマ君が、アオイちゃんに心を掴まれた一端を見た気がするわ。

ランさんがポンと手を当てた。

 

「先程LINEで確認したんですけど、キリトさんたち、少し時間がかかるそうです。 時間潰しに、私たちでイグドラシル・シティに行きましょう」

 

「「「賛成~」」」

 

と、満場一致で予定が決まったのだった。

ログハウスから出て、妖精の青い翅を展開させる。 水妖精族(ウンディーネ)たちは、横一列になってゆっくり飛翔した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

世界樹の根元に着陸し、私は周りを見渡した。

其処で、一つの物が目に入った。 そのデジタル液晶では、『今だけ、着せ替え人形!』とあったのだ。

……えっと、嫌な予感がするのは気のせいかな……。

 

「アスナさん、あそこ入ってみませんか? 是非とも、着せ替え人形に」

 

「え、ホント。 アスナさんが、色々な服着てくれるの!? わたし、見てみたいな~」

 

「えっと、えっと。 今後の参考にしたいので、わたしも見たいな~って」

 

ランさん、アイカちゃん、アオイちゃんの順ね。

……やっぱり、嫌な予感は当たるものね。

 

「(……反論しても、勝てないわよね)」

 

私は、がっくりと肩を落とした。私たち一行は、そのお店目指して歩いて行く。 もちろん、私が先頭でね。

店内に足を踏み入れると、NPCが『いらっしゃいませ。 着せ替えの館へ。 どうぞごゆっくり』と挨拶をくれた。

周りを見渡すと、様々な衣服が目に止まる。 その中で一際目を引いたのは、メイド服だった。

 

「(うぅ~、あれだけは止して欲しいな……)」

 

「ささ、アスナさん。 試着室にどうぞ」

 

ランさん。 やっぱり、ユウキちゃんのお姉さんですね。 そういう無邪気な所そっくりです。

私は、重い足取りで試着室に入る。

……よし! ココまで来たなら、覚悟を決めよう!

 

「アスナさん、最初はこれでお願いします」

 

アイカちゃんが持ってきた衣服は、黒のVネックに灰色のスーツに高めのヒール。 何故かわからないけど、黒縁伊達メガネもあった。

 

「お姉さん、キャリアウーマンが見たいです」

 

「う、うん。 わかったよ」

 

試着室のカーテンを閉め、ウインドウを開き、全装備を解除して下着姿になる。

衣服にタップし、渡された衣服を着用した。 最後にメガネをかける。

一呼吸置いてから、カーテンを開けた。

 

「ど、どうかな」

 

「やっぱり似合いますね。 アスナさんのスーツ姿」

 

ランさんは、私を見てニコニコ笑ってくれた。

 

「か、カッコいい……。 アスナさん、カッコいいです!」

 

「わ、わたしも、アスナさんのように着られるようになるかな」

 

アイカちゃんのテンションは上がり、アオイちゃんには見詰められていました。

こんな風に見られるのは、少し恥ずかしいかも……。

 

「次はわたしです。 これをお願いします。 あと、このピンクの伊達メガネも」

 

アオイちゃんに渡されたのは、赤いチャイナ服と、ピンク色を縁取った伊達メガネだった。

足のラインにも切れ目が入っていて、『相手に見せつける』感じになっている。

 

「りょ、りょうかいです」

 

私はカーテンを閉め、服装を解除してから、チャイナ服に着替える。

最後に、伊達メガネは少し落とすようにしてかけた。

カーテンを開けたら、ランさんは少し驚き、アイカちゃんとアオイちゃんは目を見開いていた。

 

「アスナさん。 これで街を歩いたら、男性プレイヤーの目は釘付けになりますよ。 凄く似合ってます」

 

「や、やばいって! そう思わない、アオイ?」

 

「う、うん。 わたしが男の子だったら、落ちてるかも」

 

「じゃあ、最後に私ですね」

 

……私の嫌な予感が的中してしまった。

ランさんが手に持っていたのは、メイド服と猫耳だった。

うぅ~、ランさん。 容赦ないですよ……。

 

「それじゃあ、お願いします」

 

「わ、わかりました」

 

再びカーテンを閉め、装備を解除する。 フリフリのメイド服に着替え猫耳をつけた。

着替えが終わった所で、カーテンを開けた。

ランさんは、やっぱり可愛いわ。という表情で、 アオイちゃんとアイカちゃんは目を輝かせていた。

 

「す、凄い可愛い」

 

「か、カズマ君の前で、わたしが着たらどうなるのかな?」

 

「顔を真っ赤にして、大喜びだと思う。 これ絶対」

 

「そ、そうかな。 今度試してみようかな……」

 

「ふふ、アスナさん。 ミスコンに出場したら、優勝できますよ」

 

「ぜ、絶対に出ませんからね!」

 

私は顔を真っ赤に染め、カーテンを閉め衣服を解除してから、戦闘装備に戻した。

カーテンを開け、試着室から出た。

 

「つ、疲れました。 お人形さんになった気分です……」

 

私は、肩を落としていた。

 

「お疲れ様でした」

 

「凄い可愛かったです」

 

「こ、今後の参考になりました」

 

ランさん、アイカちゃん、アオイちゃんの順で言います。

恥ずかしかったですが、楽しかったです。

これが、クエスト前に起きた、結城明日奈の出来事でした――。




はい、初めての明日奈さん視点でした。
いや、まじで難しかったです(^_^;)口調とか大丈夫だったかな……。
てか、明日奈さんの着せ替え人形とか、超見て――――!!(願望)っといけないいけない。取り乱してしまいました。

今後もリクを参考に致します。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
子供たちもリアルネームですが、そこは突っ込まんといてください<m(__)m>
てか、キリ×ユウ成分がないのは気のせいか……(ノ;´・ω)ノ


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第130話≪託された未来≫

ども!!

舞翼です!!

えー、更新が遅れて申し訳ないですm(__)m
他の小説の投稿や、色々ありましてですね(空笑い)

久しぶりの投稿になるので、不安です(>_<)
ま、まあ、書きあげました。

では、本編をどうぞ。




俺たち家族が、第二十二層《森の家》ログハウスにログインしたと同時に、アスナたちがログハウスの扉を開け帰って来た。

何故か、アスナがげんなりしていたが。

ちなみに、カズマとサキは、アオイとアイカの元へ向かい話している。

 

「悪い、遅くなった。 てか、アスナ。 疲れた感じだけど、どうした?」

 

「……ちょっと、お人形さんになってきたわ」

 

お人形さんの言葉で、俺は思い出した。

今週のMMOトゥモローによると、イグドラシル・シティに、着せ替えの館がオープンされたらしい。

おそらく、其処でアスナは着せ替え人形になったのだろう。

 

「あ、着せ替えの館でしょ。 ボクも、アスナをお人形さんにしたかったな」

 

「ふふ、可愛かったですよ。 ミスコン優勝ですね」

 

ランがそう言うと、アスナは顔を赤く染め、恥ずかしそうに言う。

 

「……メイド服は、もう着ませんからね」

 

いや、アスナさん。 それ地雷の言葉ですよ。

だってほら、ユウキが目を輝かせてるから。

 

「ボクも見たいな。 アスナのメイド服」

 

ユウキは、甘い声+上目遣いでアスナを見る。

この姿を見ると、俺はユウキの頼みは何でも聞いてしまうのだ。

 

「……こ、今度行こうね」

 

――これは、女子も例外ではない。

アスナの言葉を聞き、ユウキは嬉しそうだ。 これを見たアスナは苦笑していたが。

何と言うか、ユウキの笑顔を見たら大抵の事は許せてしまうのだ。 流石、我が奥さんだ。

俺は、さて、と言い話を切り替える。

 

「今日のクエストは、難易度がかなり高いんだろ?」

 

「そうですね。 過去最高の難易度かもしれません。――旧約聖書の【ヨブ記】に記されている、バハムートを相手にするんですから」

 

そのバハムートが現れる洞窟が、世界樹から少し離れた所に見つかったのだ。

 

「RPGでよく見る竜だよな」

 

「皆さん間違えがちですけど、バハムートは魚の怪獣なんですよ。 ALOでは、竜で構成されてますね」

 

「え、まじ。 ずっと竜だと思ってたぞ。 てか、ユウキとアスナは知ってたのか?」

 

「「もちろん」」

 

ユウキとアスナは同時に頷いた。

今思えば、三人は神話に詳しいんだった。 この事は、知っていて当然だったのかもしれない。

 

「そ、そうか。――メインは、俺たち四人でいくか。 子供たちには、まだ荷が重いかもしれん」

 

「そうね。 前衛は私たち四人が担当して、後衛、サポート+攻撃は子供たちに任せましょうか」

 

「でもでも、途中までのModは子供たちに任せようよ」

 

「それがいいかもしれません」

 

俺、アスナ、ユウキ、ランの順である。

今回の戦闘では出し惜しみは無しだ。 俺たち四人の、OSS、ユニークスキルの解放が必須になるのは間違えないのだから。

てか、俺たちで、また武勇伝を作りそうな気がするのは気のせいだろうか。

 

「ユイ、頼りにしてるぞ」

 

俺の肩に乗るユイは立ち上がり、敬礼のポーズを取った。

 

「攻撃パターンなどは任せてください!」

 

ユウキは、ユイの額を優しく突いた。

 

「ママたちも頼りにしてるよ」

 

「はいです!」

 

俺は確認を取る。

 

「さて、武器もアイテムも昨日の内に準備OKだな」

 

「ええ、準備OKよ」

 

「わたしも大丈夫です」

 

「ボクもOKだよ」

 

俺は頷き、子供たちを呼ぶ。

 

「カズマ、サキ、アオイ、アイカ。 準備は出来たか?」

 

「「「「OK!(はい!)(大丈夫です!)」」」」

 

子供たちもメニュー・ウインドウを開き最終確認をしていたらしい。

うむ。 最終確認は、生死を分けると言っても過言ではないからな。

 

――閑話休題。

 

俺たちは円陣を組むように集まり、真ん中で手を重ねた。

そして、俺が口を開く。

 

「これから最難易度クエストに挑む。 相手は、聖書に登場するバハムートだ」

 

俺は、周りをグルリと見渡した。

各々は、深く頷いていた。 覚悟が決まった表情だ。

 

「今日のMトモに載ってやろうぜ。 バハムートを撃破したパーティーってな。――いくぞ!」

 

「「「「「「「お――!!」」」」」」」

 

俺たち全員は、一斉に手を下ろした。

これで、クエスト前の気合注入は完了だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

妖精たちログハウスを出、庭で翅を広げ、世界樹目指し翅を羽ばたかせ飛翔を開始した。

 

――閑話休題。

 

数分間飛翔し、世界樹の根元に着陸し、北側の森中に入って行く。

この森の何処かに、奴の根城に通じる洞窟が存在する。

時にModがPOPするが、前衛の子供たちの連携でバッサバッサ斬り裂き、淡い残滓に変えていった。

いや、何と言うか、完璧なタイミングでの連携だ。

カズマは完璧な剣。 サキは空前絶後の剣。 アオイは閃光の剣。 アイカは演舞な剣。 俺たち四人の分身を見てるみたいだった。

 

「カズマは将来、魔法破壊(スペル・ブラスト)できるんじゃないか、あの完璧な剣技なら」

 

「SAO時代の、ボクたちを見てるようだね」

 

「わたしたちも負けてませんよ」

 

「そうですね。 わたしたちは、まだ現役ですから」

 

俺に続いて、ユウキ、アスナ、ランである

アスナとランは負けず嫌いなのだ。

最初は、おっとりとした性格からは考えられなかったが。

 

――閑話休題。

 

森に入り、約四十分が経過しようとしてる。

 

「それにしても、見つかってもいい頃合いじゃないか」

 

「そうだね。 どんな洞窟なんだろ?」

 

「怪獣の洞窟ですから、ゴツゴツした感じかと」

 

「わたしも、ランさんと同じかな」

 

俺たち四人は、各々の感想を述べた。

その時、先頭を歩いていたカズマが声を上げた。

 

「こ、此処だよ。 この洞窟だよ」

 

その洞窟とは、周りがゴツゴツしており、ぽっかりと空洞が出来てるだけだった。

こう言ったら何だが、何処にでもあるような感じだ。

 

「んじゃ、暗視魔法をかけるな」

 

俺はスペルを詠唱し、暗視魔法を全員に付与させた。

此れで、暗闇の中でも行動が可能だ。 其れから、大人から洞窟に足を踏み入れて行く。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

外から差し込む光も薄れ、徐々に暗闇が広がっていく。 また、洞窟内は徐々に広がっていった。

俺は足を止め、全員が揃った所で口を開く。

 

「ふぅ、結構奥まで来たな」

 

「何か、出そうだね。 お化けとか」

 

「ゆ、ユウキちゃん。……そ、それを言っちゃダメだよぉ~」

 

今、声を上げたのはアスナだ。

そう言えば、アスナはアストラス系がダメだったんだっけ。 悪魔は大丈夫なのにお化けはダメとか、不思議だ。

 

「アスナさん。 此処には皆いますから、大丈夫ですよ」

 

「そ、そうですよね。……だ、大丈夫です」

 

いや、まあ、アスナはランの袖をぎゅっと握っているんだが。

説得力が無いです、アスナさん。

 

「ぱ、パパ。 あそこ見て!」

 

サキが指指した場所に、俺たちは目を向けた。

其処には、一人の老人が佇んでいた。 あの老人は、NPCか?

 

「ユイ」

 

「はい、パパ。 あのお爺さんはNPCで間違いはないようです。 おそらく、ボスに挑戦するクエストフラグかもしれません」

 

「い、一応、編成をしときましょうか。 ボス部屋も近いと思うから」

 

「「「「「「「了解(です)(だ)」」」」」」」

 

アスナの指示に従い、前衛に、俺、ユウキ、ラン、アスナ。 中衛に、カズマ、サキ。 後衛に、アオイ、アイカという編成が完了した。

俺はメニュー・ウインドウを開き、聖剣エクスキャリバーの鞘を背に装備する。 二刀流の封印解除だ。

ユウキも黒麟剣のOSSの封印を解き、アスナとランも、メニュー・ウインドウのスキル欄を流星剣と疾風剣に変更。 二人も、ユニークスキルの解禁だ。

 

「さて、爺さんの元へ行ってみるか」

 

皆が頷いたのを確認してから、俺は爺さんの前まで歩み寄った。

近づくに連れ、爺さんのシルエットが明確に見えてくる。 爺さんは、最早骸骨に近かった。

 

「なんつーNPCだよ。 怖ぇぞ」

 

女性陣は顔を逸らした。 爺さんを見てるのは、俺とカズマだけだ。

俺は深呼吸をしてから、

 

「お爺さん、何かあったんですか?」

 

俺がそう言うと、骸骨の爺さんの頭の上に『!』のマークが点滅した、クエスト開始の合図だ。

 

「我の話を聞いてくれるのか、妖精の剣士よ」

 

「ええ、話して下さい」

 

「そうか、ならば聞いてくれ。――神を食らう暴竜が蘇ったが、私たち村人は、暴竜をこの部屋の奥に封印する事ができた。 だが、封印が弱まり、奴が目を覚ましたのだ。 時期に封印も完全に解け、この世界を襲うだろう。 妖精の剣士たち、貴殿たちで暴竜を討伐し、世界を救って欲しい」

 

暴竜とは、バハムートの事を指しているのは間違いない。

だが、世界を襲うとはどうゆうことだ。

 

「ユイ、この世界を襲うって有り得ることなのか?」

 

「……先程、データベースを参照しましたが、骸骨のお爺さんが言ってる事は、本当の事です」

 

「バハムートが解き放たれたら、ALOが焼き尽くされるってことか?」

 

「……はい、この世界が灼熱の地獄になってしまいます」

 

先程の質問は冗談半分にしてみたが、まさか本当になるとは。

これは、ガーディナルが聖書を元にした、《クエスト自動生成機能》なのか?

 

「聖剣エクスキャリバー奪還での《女王の請願》のクエストの≪神々の黄昏(ラグナロク)≫と言い、旧聖書のバハムートと言い、世界規模なクエストだな。 それに、失敗できないオマケ付きかよ」

 

「わたし、ALOがなくなってしまうのは嫌です」

 

「だ、大丈夫よ。 そいつを倒せばいいんだから」

 

不安そうに、アオイとアイカは言っていたが、

 

「ふ、ふ、ふ。 わたしたちに不可能はない」

 

「まったく、サキは楽観的だな。 ま、オレもそう思ってるけど」

 

サキとカズマは平常運転だった。

流石、俺とユウキの血を引く子たちだ。 一瞬も臆する事はないとは。

 

「そいつを倒せばいい話だ」

 

「そうそう。 ボクたちが揃えば、サキちゃんの言うように不可能はないからね」

 

「確かにそうですね。 絶対無理って言われたきた物を、成し遂げてきましたしね」

 

「また、伝説を作っちゃいます」

 

まあ、俺たち四人も平常運転だったが。

てか、失敗の可能性は考慮してないし。

 

――閑話休題。

 

俺は、骸骨爺さんに話しかけた。

 

「分かりました。 俺たちで、その暴竜を討伐し、世界を救ってみせます」

 

「お、おお、本当ですか!」

 

「ええ、任せてください」

 

骸骨爺さんは頭を下げた。

 

「妖精の剣士たち、世界の未来を託しました」

 

どうやらこれで、クエストの受注の完了らしい。

周りを警戒しながら歩を進めると、それらしい扉が見えてきた。

指定された扉は、地獄の門のようにも見えた。

俺は周囲を見渡してから、

 

「皆、しつこいかもしれないけど、もう一度最終確認をしてくれ。 このクエストでALOの未来が決まる」

 

全員はメニュー・ウインドウを開き、HP、MP、装備武器などの最終確認を行った。

 

「敵は、聖書に出てくるバハムートだ。 一撃必殺があると見て戦った方がいい。 また、通常攻撃でもまともに食らえば、HPの約7割持って逝かれると想定しとくんだ」

 

俺が背から二刀を放剣すると、各々も得物を抜剣した。

 

「――準備はいいか」

 

全員が頷いたのを確認してから、剣を握っている左手を鉄扉にかけ力を込めた。

この動作により、雷鳴のようにゆっくりと扉が開いていく。

部屋に足を踏み入れると、扉がゆっくりと閉じていく。 如何やら、逃げ道は封鎖されたらしい。

部屋の一番奥、其処には、翼を広げ、凶悪な牙を剥き出しにした竜が目に映った。――暴竜、バハムートだ。 そして、HPは四本現れた。

強さで言うと、フロアボス以上と見て間違えないだろう。

こうして開始された、討伐クエスト。 その名も、《神々の暴竜》――。




FFネタですね。まあ、某アニメのネタでもありますが。
てか、このクエストに8人で挑むとか、ハンパないですね(笑)
まあ、チート4人が居るので無理ではないと思いますが。

バハムート。激強なんだろうなー(遠い目)
次回は、作者が苦手な戦闘回ですね。いやー、チート(OSS、ソードスキル、魔法)をメッチャ出したいですな。何たって、相手もほぼチートに近いですから(笑)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記
パーティーは7人から8人に変更してやす。



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第131話≪神々の暴竜≫

ども!!

舞翼です!!

一週間以内に投稿できました。作者、頑張った!
今回は、バハムートと対決ですね。いやー、戦闘回は難しいですな。
まあ、その戦闘も、チートが満載なんだが。てか、ご都合主義満載です。うん、まじで。しょっぱなからチートだからね(笑)

それでは、本編をどうぞ。


奴は、俺たちを見て、もの凄い咆哮を放った。 その咆哮は、空気をピリピリと震わせるほどだ。

咆哮だけで、ダメージを食らいそうになるレベルだ。

だが、仕掛けてくる様子はない。

 

「皆、散開だ!」

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

俺たちは奴と一定の距離を取り、編成を崩さないように散らばった。

奴の攻撃力は未知数だ。 何もせずに突っ込むのは得策ではない。

 

「(……さて、どうするか)」

 

ちなみに、後衛からの支援魔法で、全てのステータスアップは完了してる。

その時、左方向から、アスナとランの声が届いた。

 

「わたしたちで、バハムートの足場を固めます」

 

「アイカちゃん、アオイちゃん。 準備して」

 

「「はい!」」

 

へ? いつの間に魔法の打ち合わせをしたんだ? まあ、四人で出かけた時だと思うが。

水妖精族(ウンディーネ)たちの詠唱が開始された。 この氷結魔法は、足止めには打ってつけだ。

――そして、最後の詠唱が完了した。

 

「「「「――ダイヤモンドダスト!」」」」

 

奴目掛けて吹雪が吹き荒れ、足場を固めたのだ。

 

「よし、俺たちも行くぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

少し予定とは違ったが、この形で良かったのかもしれない。

カズマとサキも、前衛に出たくてうずうずしてたし。

 

「グオォォォオオ!」

 

奴は、凍らされた足場から抜け出そうとしているが、バハムートは身動きが取れそうにない。

流石、最強を誇る水妖精族(ウンディーネ)の魔法だ。 魔法の威力が桁違いだ。

其処に、二人の背中を追う、アオイとアイカの魔法をプラスしてるので、ちょっとやそっとの事では身動きが取れないはずだ。

俺とカズマが左翼に、サキとユウキが右翼に回り込み、高速の四連撃を放つ。

 

「「「「はああぁぁぁ!」」」」

 

奴の両足に切り傷が刻まれたが、HPは僅かにしか削れてない。

俺たちは後方に跳び、剣を構え直した。 それと同時に、奴の怪力で足場の氷が砕けた。

 

「まじか、全然削れてないぞ」

 

「パパ、バハムートの耐久力が異常に設定されています。 通常攻撃では、厳しいかもしれません」

 

俺の胸ポケットに隠れたユイが、ひょこっと顔を出し助言をくれた。

 

「……てことは、ソードスキルしかないのか」

 

「いえ、属性を付与した剣、魔法なら通るはずです」

 

「なるほどな」

 

それなら、今のままのフォーメーションが適切だ。

その時、奴が俺とカズマ目掛けて、踏みつけのモーションを取った。

 

「カズマ!」

 

「わかってる!」

 

俺とカズマは、別れるように左右に跳んだ。

その踏みつけは、地響きを立て空振りに終わった。 あれをまともに食らったら、お陀仏かもしれない。

てか、俺たちもチートだが、こいつもチートだろ。

 

――閑話休題。

 

水妖精族(ウンディーネ)たちが、デバフをバハムートにかけた。 バハムートは、《ATK、DFE、クリティカル低下》、《毒》、《衰弱》のアイコンが点滅した。

 

「グオオォォォ!」

 

奴は、野太い咆哮を上げる。

 

「みなさん、あれ(・・)いきます!」

 

「ソードスキルの準備をしてください!」

 

アオイとアイカの声が、俺たち六人の耳に届く。

大人四人も、子供たちとの連携は可能だ。 なので、あれの意味を即座に理解した。

 

「了解した。――皆、大技いくぞ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

俺たち六人の剣は、ライトエフェクト+追加属性を纏った。

それと同時に、

 

「「――スリーピング・クラウド!」」

 

この魔法は、対象の周りに紫色の霧を生み出し、眠りに誘う魔法だ。

ユウキは、OSS単発重攻撃《デットリー・ストライク》を放ち、ランは片手剣OSS《ファントム・レイブ》計六撃を放った。 カズマは、片手剣ソードスキル《ノヴァ・アセンション》計十連撃を放ち、サキは、片手剣ソードスキル《カーネージ・アライアンス》計六連撃を放つ。 俺は二刀流ソードスキル《ナイトメア・レイン》計十六連撃を放ち、アスナは細剣ソードスキル《オーバー・ラジェーション》計十連撃を放った。

様々なライトエフェクトが迸り、奴を切り刻んだ。

 

「グオォォオオオ!!」

 

バハムートは、苦悶の咆哮を上げた。

ソードスキル後の硬直時間が与えられるが、アオイとアイカの背後に光の球体が造られ、奴の顔目掛けて放たれる。それは奴の目の前で弾けた。

これによって、奴は目を擦る動作をする。

 

「今だ! 跳べ!」

 

六人は後方に跳び、仕切り直す。

だが、これを意味無くする攻撃が放たれる。 バハムートは首をS字に曲げ、ブレスを吐く動作をしたのだ。

これは全体攻撃だ。 距離を取っても意味がない。

――だが、

 

「「「「アイス・ウォール!」」」」

 

アオイとアイカの魔法で、氷の壁を形造った。

アスナとランも詠唱し、氷の壁を四重にした。

俺たち攻撃特化は、今の内に僅かに減ったHPを回復結晶で全快にさせる。

バハムートはブレスを吐いたが、その攻撃は氷の壁が阻んだ。

 

「よし、俺たちでまた突っ込むから、アオイとアイカはエンチャントを頼んだ!」

 

「「りょうかいです!」」

 

氷の壁が解けたと同時に、俺たち六人は、三対三でバハムート左右に回り込むように突進を開始した。

その間、体が淡い光に包まれ、全てのスターテスのアップが完了した。

俺たちは、寸分狂わないタイミングでスイッチし、物理攻撃に加え、魔法を付与した攻撃。 後方からは、フリージング・アローで支援攻撃だ。

 

「「「はああぁぁああ!」」」

 

「「「せえぇぇええあ!」」」

 

その時、背筋に悪寒が走った。

――何かくる!

 

「キリトさん、三時の方向です!」

 

「ユウキさん、カズマくん避けて!」

 

俺とユウキとカズマは足を屈め、凶悪な横殴りを回避した。 あれはおそらく、爪の追加ダメージもあると見ていい。

このままだと、奴が流れに乗ってしまう。 俺はスペルを詠唱し、目暗ましの魔法を放つ。

これは、対ユージーン戦で使用した魔法だ。

俺たち六人は、暗闇の中に飛び込み魔法を付与した斬撃を繰り出し、再び後方に跳んだ。

所謂、ヒット&アウェイだ。

それにしても、精神力がガリガリ削られる。

 

「グアアァァアア!」

 

奴が咆哮を上げると、それに気圧されるように黒霧が晴れていく。

だが、奴の鱗には殺傷が見られ、HPが目に見えるように減少していた。

そして戦闘時間は、二十分を経過しようとしていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「……こいつ、まじでチートがかってないか?」

 

「やっと一本だもんね」

 

「聖書に記されてる怪獣は、強いわね」

 

「倒すのに、何時間かかるんでしょうか?」

 

俺、ユウキ、アスナ、ランの順である。

てか、ランさん。 何時間って決定事項なのね。 まあ、俺も同感だけど。

その時、おずおずとアオイが話しかけてきた。

 

「わ、わたしとアイカちゃんの合成魔法で、短時間ですが、バハムートの動きを封じることが出来るかもしれません」

 

「か、完成したの!?」

 

このように、サキが興奮したように問いかける。

アイカが、唇に人差し指を当てながら答えた。

 

「まだ、完全に完成はしてないんだ。 上手くいくかは、五分五分かも」

 

どうやらこれは、アオイとアイカが趣味で始めたオリジナル魔法らしい。

魔法の効果は、雷属性(雷撃)と麻痺らしんだが、麻痺になり動きを封じられるかわからない。ということだ。

あと一つオリジナル魔法があるらしいが。

 

「いや、やってみる価値はあるぞ。 大きな変化が欲しい」

 

「で、ですが。 詠唱にはかなりの時間を有します」

 

「つ、通常魔法の倍はかかります」

 

アオイとアイカがこう言うが、俺は首を左右に振った。

 

「大丈夫だ。 詠唱完了までの時間は、俺たちで稼ぐ」

 

俺は、胸ポケットに隠れたユイに話しかける。

 

「ユイ。 詠唱が完了したら、声をお願いできるか?」

 

「りょうかいです!」

 

ユイは飛び立ち、敬礼のポーズを取った。

そしてそのまま、アオイの背にちょこんと座った。

 

「――アスナとランは、二人の護衛を任せた。 もし、二人が標的にされそうになったら、言い方は悪いが、囮役を頼んだ」

 

「りょうかいしたわ」

 

「ええ、任せてください」

 

俺は頷き、覚えたての魔法の詠唱を開始する。

この魔法は、炎系統の捕縛を目的とした魔法だ。 俺は左手を突きだし――。

 

「クリムゾン・チェイン」

 

紅蓮の鎖が、バハムートを拘束した。

 

「よし、いくぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

俺を先頭にし、ユウキ、カズマ、サキが続く。

俺が斬りかかり、スイッチしてユウキが、カズマが、サキが続く連携を見せた。

バハムートのヘイト値も、俺たちに向けられている。

 

「パパ!」

 

ユイの声が、俺の耳に届いた。

詠唱が完了した合図だ。 俺たち家族は後方へ跳び、魔法に巻き込まれない位置まで移動した。

何でも、広範囲魔法らしい。

 

「「ジャッチメント・ブラスト!」」

 

奴の頭上に暗雲が立ち込め、雷撃が襲った。

なんつー規模の雷だよ。 水妖精族(ウンディーネ)たちの魔法は、アスナとランの魔法と肩を並べられるほどだ。

 

「グオォォォオォオッ!」

 

バハムートは、苦悶の声を上げていた。

この雷攻撃でHPが削れ、バハムートのHPの右側のゲージに黄色いアイコンが出た。

これは、《麻痺状態》だ。 どうやら、賭けには成功したらしい。

 

「アスナとランは、カズマとサキと連携して攻撃してくれ! アオイとアイカは、皆が退避した後に、オリジナルの魔法をぶっぱなしてやれ」

 

俺の指示で、各々が動き出した。

 

「ユウキ。 あれをやるぞ!」

 

「りょうかい!」

 

俺は二刀流ソードスキル《インフェルノ・レイド》計九連撃から、剣技連携(スキルコネクト)を使用し《カウントレス・スパイク》計四連撃に繋げる。 そしてここから、二刀流OSS《スターバースト・ストリーム》計十六連撃に繋げた。 剣技が終了し、硬直時間を課せられるが、まだ連撃は終了していない。

後方から跳んできたユウキが、黒麟剣OSS《ブラック・スパイラル》計二連撃を放った後に、剣技連携(スキルコネクト)を行使して、片手剣ソードスキル《スター・Q・プロミネンス》計六連撃に繋げ、片手剣OSS《エンド・オブ・ハート》三連斬+七連直突きを放ったからだ。

合計、四十七連撃だ。

周りを見渡すと、他の全員も大技を連発していた。 その証拠に、バハムートのHPが大幅に減っていく。

硬直が解け後方に跳ぶと、アオイとアイカの背後から無数の火球が放たれた。

おそらく、オリジナル魔法《クリムゾン・ロスト》だ。

 

「グオオォォォオ!!」

 

奴のHPゲージが二本目に突入し、動きが変化した。

――今まで使っていなかった尻尾を、カズマとサキ目掛けて振り下ろしたのだ。

俺たちは咄嗟に移動し、カズマとサキの前に立ち、振り下ろされた尾を剣で受け止めたが、徐々に膝が折れていく。 また、HPもじわじわと削られていく。

 

「(……なんつー重さだよ)」

 

STRにほぼ振り分けてる俺がこうなのだから、スピードタイプの三人は俺よりきつい筈だ。

だが、バハムートがノックバックをしたのだ。 その隙に、俺たち四人は後方に跳んだ。

何があったのかを確認すると、剣を振り下ろした子供たちが映った。

剣は魔法の光が包んでいた。 そう。 魔法を付与した斬撃(・・・・・・・・・)を飛ばしたのだ。

ちなみに、俺たち大人組も出来る。

また、俺たちが淡い光に包まれた。 これは、高位全体回復スペルだ。 ランとアスナ、アイカとアオイが四重にかけてくれたので、回復速度が通常の倍以上だ。

約三十秒で、HPが全快した。

 

「……やっと二本目が削れたな。――ん?」

 

俺がバハムートの腹部に目を凝らすと、古傷のような物が浮かんでいた。 だが、戦闘開始時には無かった。

――俺の勘が正しければ、

 

「皆、バハムートの腹部を見てくれ」

 

全員が、そこに目を凝らした。

データを参照したユイが、口を開く。

 

「あれは、骸骨のお爺さんがつけた古傷らしいです。 おそらく、あそこを重点的に攻撃すれば」

 

皆は、なるほど。と頷いた。

ユイの言う通り、あそこが弱点になりうる場所だ。

だが、その確証が得られない。……いや、ある。 子供たちと力を合わせれば可能だ。

 

皆の斬撃(・・・・)を、あそこ目掛けて放つ」

 

俺の言葉に、全員が首肯した。

各々の剣に魔法が付与され、準備が完了した。

 

「「はあぁァァああ!」」

 

「「「「やあぁぁァア!」」」」

 

各々は剣を振り下ろし、魔法を付与した斬撃を放った。

途中で斬撃が交わり、魔法が混じり合った一つの斬撃に変わりバハムートを襲う。

 

「グオオォォオォオ!!」

 

古傷に斬撃が直撃し、バハムートは咆哮を上げた。

どうやら、古傷の場所が弱点と見て間違えはないらしい。

 

「あそこが弱点で間違えない。 あそこを重点的に狙うぞ」

 

俺は全員が頷いたのを確認してから、

 

「よし。 俺とユウキ、カズマとサキで先行するから、その後方を、ランとアスナに頼みたい。 アオイとアイカは、脈動回復魔法と軌道阻害魔法も使いながら、支援攻撃を頼んだ。――いくぞ!」

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

俺たちが奴に向かって走り出す。

奴は横殴りしてくるが、それは俺たちの頭上に放たれ空を斬っていた。 アオイとアイカの軌道阻害魔法だ。 イレギュラーな攻撃以外は、全て見切ったといっても過言ではないし、背中を任せられるパートナーがいる。 なので、突撃した六人には一切の躊躇いがなかった。

突撃した六人は、絶えまない剣技でバハムートを斬り刻む。

気迫に満ちた動きに、バハムートが翻弄され、徐々に動きが鈍くなっていった。

時には、致命的な攻撃が放たれるが、攻撃は寸前で軌道を変え、空を斬る。

アオイとアイカの支援魔法のタイミングも完璧だった。 また、地面から剥ぎとれた破片でダメージを食らうが、脈動回復魔法で減った直後に回復している。

そして、――奴のHPが残り一本に突入した。

 

「皆、警戒するんだ。 何か違うアクションを起こすはずだ!」

 

六人は距離を取り、バハムートの出方を伺った。

 

「グオォォオオオ!!」

 

奴が、天井を見上げるように咆哮を上げると、部屋の中が怜気に包まれた。

俺はこの攻撃を知っている。 氷の居城《スリィムヘイム》の第一層のボスと同じ攻撃だ。

 

「これは氷柱攻撃だ。 カズマとサキは、アオイとアイカを守れ! 俺たちは、攻撃を継続する」

 

カズマとサキが、アオイとアイカの所に到着と同時に氷柱が天井から降ってきた。 カズマとサキは、頭上に降ってきた氷柱を剣で砕き、二人を守る。

だが俺たち四人は、二人一組になり、氷柱を弾く者と攻撃する者に別れ、攻撃を再開させる。 剣技の応酬で、HPを削っていく。

 

「グオオォオォォ!!」

 

奴はこれが予想外だったのか、驚いたような咆哮を上げた。

また奴は、首をS字に曲げようとする。

 

「パパ、火球攻撃です!」

 

そう。 ユイの言う通り火球攻撃なんだが、先程に比べ、火球の大きさも質量も桁違いだ。

俺たち四人を先に殲滅しようと考えたのだろう。

だが、俺たち四人は、避けるのではなく横一列に並んだ。

そして剣を振り上げ、

 

「「わたしたちを」」

 

「ボクたちを」

 

「舐めんじゃねぇ!」

 

火球が放たれたと同時に、剣を振り下ろした。

そして、眼前に迫ってきた火球が左右に割れた。 いや、――斬撃で斬り裂いたのだ(・・・・・・・)

その斬撃は、奴の顔面に直撃し、

 

「グォアアァァア!!!!!」

 

と、苦悶の声を上げた。

また、目を閉じているので、攻撃が出来ないでいる。

その時、ユイが飛び立ち、

 

「カズ君、サキちゃん、アオイちゃん、アイカちゃん。 今です!」

 

「「「「OK!(了解!)(はい!)」」」

 

どうやら、魔法の詠唱を完了させていたらしい。

――これは、カズマたちが考案した魔法だ。 発動には、四人揃うのが必須条件らしい。

 

「「「「――エンド・オブ・ヴァーミリオン」」」」

 

と言い、カズマたちは膝を屈め、左手掌を床につけた。

バハムートの頭上に紅蓮の隕石が構築され、その隕石がバハムートの頭上に落下し炸裂した。

――HPは残り半分だ。

 

「最後は、俺たちで決めるぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

俺は走りながら二刀流OSS《ジ・イクリプス》計二十七連撃を、ユウキは片手剣OSS《マザーズ・ロザリオ》計十二連撃を繰り出した。

アスナは右から回り込むように、細剣OSS《スターライト・スプラッシュ》計十一連撃を放つ。 ランは左から回り込むように、片手剣OSS《エターナル・ストーム》計十三連撃を放った。

 

「「「「はあぁァああ!」」」」

 

この絶えまない剣技が、バハムートの弱点である古傷を斬り刻む。

バハムートは、これまで以上に苦悶な咆哮を上げていた。 反撃しようにも、体が動かすことが出来ないのだ。

俺たち四人の剣技が終了したと同時に、バハムートの体がひび割れ、爆散し、ポリゴン片の残滓が舞った。

そして、成功を知らせるCongratulatious!の文字が部屋の中央に浮かび上がった。

――暴竜との戦いに終止符が打たれたのだ。

 

「……お、終わった」

 

と言い、俺は尻もちをついた。

両手で握っていた剣も、落としてしまい甲高い音が響いた。

ユウキたちも、女の子座りをしながら、両肩を揺らしていた。

バハムートを倒しても、まだやることがある。

 

「骸骨の爺さんに、報告しに行かないと」

 

俺は剣を握りってから立ち上がり、剣を鞘戻した。

ユウキたちも、手を取り合い立ち上がっていた。

とまあ、全員はボス部屋を出て、骸骨爺さんの元へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

爺さんの元へ行き、俺が爺さんに話かける。

 

「お爺さん。 先程、暴竜を討伐してきました」

 

「お、おお、ありがとうございます! これで、この世界が救われました」

 

俺は心の中で安堵した。――ALO崩壊は回避出来た。

この言葉を最後にして骸骨の爺さんは姿を消した。代わりに俺の目の前に、Quest Clear! Congratulatious!の文字が浮かんだ。

 

「ふぅ、終わった。 疲れたー」

 

「それにしても、ボクたちチートがかってたね」

 

「そ、それって、オレたちも!?」

 

今声を上げたのはカズマだ。

てか、斬撃を飛ばせる時点で、カズマとサキ、アオイとアイカはチートがかってるぞ。

まあ、俺とユウキ、アスナとランは、チートに磨きがかかっていたが。

 

「ま、安心しろ。 カズマたちがチートでも、その上には、俺たちがいるから」

 

「どんなフォローだよ。 父さん」

 

「あれだあれ」

 

「いやいや、あれじゃわからないよ」

 

父親と息子の漫才を見ていた女性陣は、声を上げて笑った。

俺は咳払いをし、

 

「ログハウスに戻って打ち上げでもするか?」

 

「「「「「「「賛成!」」」」」」」

 

このようにして、過去最高難易度クエスト、《神々の暴竜》が終了した――。




お読みいただきありがとうございますm(__)m

まずね。葵ちゃんと愛華ちゃんの基本スペック高すぎ。和真君と紗季ちゃんにも言えることだけど。

いや、それにね。キリト君とユウキちゃんの47蓮撃とか、チートに磨きがかかってるでしょ(^_^;)
魔法のぶっぱハンパないね……。

てか、ユウキちゃんも剣技連携使えたのね。まあ、アスナさんたちはシステム外スキルの先読みが使えますが、ランちゃんは、トーナメント後に覚えましたです。
描写されてませんが、ユニークスキルも使っておりやす。
てか、斬撃も放てちゃうしね。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第132話≪班決めと事前準備≫

ども!!

舞翼です!!

あれですね。大人編に入ってから、メインが子供たち(和真君と葵ちゃん)になってますね(;^ω^)
な、何かタイトル詐欺やね……ははは(-_-;)
ともあれ、書きあげました。
今回の話は、ちょいと長くなりそうですな。分割して投稿になりそうです。
ちょいと甘く書いてみました。上手く書けたな?

それでは、後日談第34弾いってみよー(^o^)/
本編をどうぞ。


二〇四六年。 六月。

 

オレはいつものように、葵と登校していた。

クラスの皆も、オレと葵が一緒に登校するのが当たり前になってるらしい。

一度だけ、葵が風邪で休んだ事があるんだが、其の時女子からの質問攻めが凄かった。

いや、まあ、まだ付き合ってないんだよ。 何かおかしくね。

ともあれ、今月末に行われる行事の話をしていた。

 

「和真君、一緒の班になろうね」

 

オレは苦笑した。

 

「わかってるって、前からの約束だからな。 てか、他のメンバーはどうする? 確か、五人体勢だろ」

 

葵は唇に人差し指を当て、うーん、と手を当てた。

 

「紗季ちゃんに愛華ちゃん……神崎君、かな」

 

「……最後、渋ったな」

 

葵は、しゅんとするだけだ。

 

「え、いや、……うん」

 

「なるほど。 まだ、男慣れしてないのか」

 

葵は、ゆっくり頷いた。

 

「か、和真君は大好きな人だから、例外だよ。 な、仲良く話せる男の子は、和真君だけでいいとも思ってるけど」

 

「おう、とても光栄なことだな」

 

そう言って、オレは、葵の頭をくしゃくしゃ撫でてあげた。 葵も嫌がることなく、受け入れてくれる。 『も、もう、髪型が崩れちゃうよ。 バカ』とも言っていたが。

 

「楽しみだよ、修学旅行。 京都だっけ?」

 

「そだな。 自由時間は二人で回るか? うちの父さんと母さんも、新婚旅行は京都だったらしいけど」

 

「そうなんだ。 わ、わたしたちも、そうなりたいね」

 

「へ?」

 

オレは、声が裏返ってしまった。

まああれだ。 葵の中では、すでに将来が決定してるらしい。 てか、オレら中学生。 色々と早いような……。

葵は、先程の言葉を振り返り、顔を真っ赤に染めた。

 

「え、えっと、……今のは、ち、違うの」

 

「お、落ち着け。 今のは忘れるから」

 

まあ、100%無理だが。

 

「そ、そうしてくれると、た、助かります」

 

話していたら、学校の校門前に到着した。

校門前で先生に挨拶をしてから、昇降口で上履きに履き替え、自身の教室へ向かう。

教室の前の扉を開け、オレは葵に、じゃあまた。と言ってから席に着いた。

オレが席に着くのを待ち構えたように、隣に座るオレの悪友、神崎裕也が椅子に座りながら此方に体を向けた。 また、上体を前に倒し前傾姿勢だ。

 

「和真。 修学旅行の班決めに、オレを入れてくれないか? 後一人足りないんだろ?」

 

何と言うか、コイツ必死過ぎないか?

紗季と愛華はこのクラスのムードメーカーで人気があるし、葵は誰もが認める美少女だから仕方ないと思うけど。

ちなみに、紗季と愛華のガードは、以前のオレより固い。 連絡先を知っているのも、限られた女子と、オレだけだ。

まあ、葵に手を出そうとした男子は、オレが締めるけど。……付き合ってないのに、オレ独占欲強くないか。

ともあれ、一限目のSR時間になり、担任教師が教室に教材を持って入ってくる。

壇上に上がり、

 

「一限目のSRの時間を使って、修学旅行の班決めをするぞ」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

クラスのほぼ女子が返事をする。

 

「それじゃ、班決め開始」

 

各々は席を立ち、班を決めていく。

オレは、紗季と愛華、葵の元へ行く。 その間、後ろに着いて来た裕也は、メッチャ緊張していたが。

 

「か、和真。 お前、何で平然と居られるんだよ」

 

「友達……。 いや、妹と親友たちだからな」

 

「いやいや、わたしは親友の枠でいいと思うけど、葵は恋人じゃないかな。 てか、クラス全員が、そういう認識だから」

 

今そう言ったのは、親友の愛華だ。

此れを聞いた裕也はオレをジト目で見、愛華は、違うのと首を傾げ、妹の紗季は、うんうんと頷き、葵は、頬を少しだけ桜色に染めていた。

 

「そ、そうなのか。 てか、まだ付き合ってないけど」

 

「もう、じれったい。 修学旅行中に付き合っちゃいなさいよ。 いい?」

 

「「は、はい」」

 

愛華に気圧され、頷く事しか出来ないオレと葵。

そんな中、徐々に班が決まっていった。

このクラスは、全員で40人。ということは、8班できるという計算だ。

班が決まった所で、壇上の先生が、パンパンと両手を叩く。

 

「よし。 班が決まった所で、各自席に着けー」

 

がっくりと肩を落としてる裕也を連れ、自身の席に戻るオレ。

てか、話せなかったからって、そんなに落ち込むなよ。

ともあれ、こうして今月末の行事、修学旅行の班が決まった。 其れから、修学旅行のしおり、緊急連絡先の配布、お金は幾らまで。という連絡事項があった。 また、お菓子は500円までらしい。

まあ、こうして一限目が終了した。 休み時間になり、オレは葵の席まで歩み寄った。

葵もオレに気づき、体を此方に向け、笑みを浮かべながらオレを見た。

 

「和真君、どうしたの?」

 

葵は首を傾げた。

オレは、提案だけど。と前置きをし、

 

「修学旅行で必要な物、買いに行くか?」

 

「あ、そうだね。 今日の放課後行こうか」

 

「そだな。 一度帰ってから、迎えに行くよ」

 

「だ、大丈夫だよ」

 

オレは、葵の額を小突いた。

 

「いいんだよ。 いつもそうだろ」

 

「う、うん。 お、お願いします」

 

あれだ。――男子からの嫉妬の眼差しが凄い。 女子からは、温かい視線だが。

まあ、教室内で、甘い空間を作ったオレが悪いんだけど。

その時、休み時間を終える、チャイムが鳴った。

 

「んじゃ、またな」

 

「うん、また」

 

とまあ、このようにして、オレの放課後の予定が決定した。

各授業を受け、時間が経過し、放課後となった。

オレと葵は一度帰り、着替えてから買い物に行くことになった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

オレは、Vネックの黒シャツに黒アンクルパンツ、黒のバレエシューズ、水族館で購入したヒトデのネックレスといった真っ黒装備で、葵の家へ向かっていた。

 

「おーい、和真君」

 

家の庭を出て、ぶんぶんと手を振っている、葵の姿が映った。

また、葵も、紺色のヨークギャザーシャツに紺色のテーパーイージパンツ、赤いチェクのシャツを腰に巻いている。 首には、オレと対になるイルカのネックレスが掛けられている。 長い黒髪は、ゆるふわストレートに流れていた。

オレは葵に歩み寄り、片手を上げた。

 

「悪い、待たせたか?」

 

「ううん、待ってないよ。 わたしが先に出て来ただけだよ」

 

葵は笑顔で答えた。

 

「そか、よかった。 大人っぽくて似合ってるぞ」

 

「ん、ありがとう。 和真君もかっこいいよ」

 

「おう、サンキューな」

 

「行こっか。――ん」

 

オレは苦笑してから、葵の手を優しく握った。

対する葵も、優しく握り返してくれた。

 

「行くか」

 

「うん! 楽しみだね」

 

オレと葵は、東京駅付近にあるショッピングモール目指して歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「うわ~、大きいねー」

 

葵はショッピングモールに入り、感嘆な声を上げた。

まあ確かに、都内では1、2位を争うショッピングモールなので、かなりの大きさだ。

本屋やフードコート、レディースやメンズ服、ショッピングセンターなどがあり、とても魅力的だ。

 

「葵。 目的を忘れたらダメだぞ」

 

「わ、わかってます。 修学旅行の買い物だよね。……う~、デートがよかったよ」

 

目的を見失いそうになったね、葵さんや。

てか、後半の言葉も聞こえてるぞ。

 

「いや、二人で出かけてるんだから、デートじゃないのか?」

 

これを聞いた葵の顔が、見る見る紅潮した。

 

「き、聞こえてたの」

 

「うん、ばっちりな」

 

「うぅ~。 は、恥ずかしい」

 

葵は、若干涙目だ。

てか、コイツはどんな表情をしても可愛い。 いや、既に分かってたことか。

 

「買い物が終わったら、店を見て回るか?」

 

「い、いいの?」

 

「いいぞ。 あ、でも、荷物は程々にしてくれ」

 

「だ、大丈夫だよ。 お店を見るだけだから」

 

「ホントか? まあいいけど」

 

オレと葵はエレベータに乗り込み、三階にある雑貨屋に向かう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

向かった雑貨屋は、昔の雰囲気が出てる店だ。 なので、落ち着いて買い物ができる。

葵は籠を持ち、必要な物を入れていく。

手鏡に絆創膏、リップクリーム、トランプ等だ。

ちなみに、お菓子も500円分購入した。

 

「よし、これでOKかな。 和真君の分も入れたからね」

 

「助かる。 葵は、できる女の子だな」

 

「へっへー、女の子は、家庭的じゃないと。 将来の為にもね」

 

「なるほど」

 

其れからレジに並び会計を済ませる。

もちろん、お金はオレ持ちだ。 荷物持ちもオレだけどな。

まあ、重い物を持たせて、葵に負担をかけさせたくない事もあるけど。

その時だった。 一つの店が、葵の目に止まったのだった。 その店とは――――指輪店だ。

 

「ね、ねぇ、和真君。 あそこ行ってみない」

 

「いいけど。 オレらには、まだ早くないか?」

 

「いいからいいから」

 

「まあ、葵が見たいならいいけど」

 

そう言いながら、オレと葵は指輪店に入った。

店内は広々としており、様々な指輪が陳列されていた。 高い物では、30万という代物も置いてある。 店の奥には、まだ高そうな代物がありそうだが。

店内を回っていたら、葵が一点を見ていた。 其処に目を落とすと、シンプルなシルバーのペアリングだった。

値段は、3万円だ。 オレの軍資金は7万円。 購入出来る金額だ。 まあ、中学生が持つ金額ではないと思うが。

 

「欲しいのか?」

 

「……欲しいかな」

 

どうやら葵は、無意識に呟いたらしい。

 

「ん、わかった。――すいませんー」

 

オレは、店員を呼んだ。

 

「か、和真君。 わたしは、見てるだけでも大丈夫」

 

「でも、欲しんだろ? てか、時既に遅しだ」

 

そう。 女性の店員が、此方に来ていたのだ。

店員が口を開く。

 

「いらっしゃいませ。 お決まりでしょうか?」

 

オレは人差し指で、ペアリングを指した。

 

「このペアリングが欲しいですけど」

 

「かしこまりました。――イニシャルなどは、どう致しますか?」

 

「彫り込みが出来るんですか?」

 

「ええ、当店では出来ますよ」

 

女性店員が鍵を開け、ペアリングを取り出し、ジュエリートレイの上に乗せた。

オレは、葵に声をかけた。

 

「どうする?」

 

「えっと、えっと」

 

どうやら、まだ混乱してるらしい。

葵は一度深呼吸をしてから、口を開いた。

 

「で、できれば、欲しいです」

 

店員は頷き、

 

「では、彫り込みをしますね。 どのように彫り込みますか?」

 

「そうですね。 K、AとA、Kでお願します」

 

「かしこまりました。 少々お待ち下さい」

 

ジュエリートレイに乗せたペアリングを、店の奥に持って行った。

店の奥に、その専用の機械があるのだろう。

 

「か、和真君~」

 

葵は、若干涙目だ。

 

「どったの? あ、ペアリングのことね」

 

「う、うん」

 

「ま、金のことなら気にするな。 ペアリングも、学校に嵌めていかなければ大丈夫だ。 日頃の感謝の気持ちだと思って、受け取ってくれ」

 

「あ、ありがとう」

 

こう話していたら、ジュエリートレイにペアリングを乗せた店員が戻ってきた。

どうやら、作業が終了したらしい。

 

「此方でよろしいでしょうか?」

 

オレと葵は、トレイに乗ったペアリングの内側を見た。

内側には、K、AとA、Kと刻まれていた。

 

「ええ、大丈夫です。 葵もこれでいいか?」

 

「だ、大丈夫です」

 

「此方に」

 

オレは、店員の後を追い、受け渡しの椅子に座る。

隣に、葵も着席した。

 

「其れでは、此方になります」

 

オレと葵はペアリングを受け取り、オレは葵の左手人差し指に、葵はオレの左手人差し指にペアリングを嵌めた。

女性店員は微笑んだ。 何故か、異様に恥ずかしくなるんですが。

 

「では、お値段が3万円になります」

 

オレは財布から、3万円を取り出し店員に渡した。

これで会計は完了だ。

 

「確かに、丁度頂きました」

 

店員が立ち上がり、オレ、葵と続く。

店員が小さく頭を下げ、

 

「当店のご利用ありがとうございました。 またのお越しをお待ちしております」

 

オレと葵も小さく頭を下げ、店を後にした。

店を出た葵の横顔を見ると、僅かに赤く染まっていた。

 

「どうした?……やっぱり、嫌だったとか」

 

「そ、そんなことないよ! と、とても嬉しいです。――ありがとう、和真君。 一生大切にするね」

 

その笑顔は、誰もが見惚れる笑顔だった。

 

「そ、そうか。 オレも大切にするな」

 

「あ、あの、修学旅行に持っていってもいいかな?」

 

「構わないぞ。 先生と生徒にバレないようにな」

 

「だ、大丈夫だよ。 ネックレスもバレてないしね」

 

まあ、紗季と愛華にはバレてるが。

この二人には、隠し事は難しいと思う。

 

「和真君。 プリクラ撮ろうよ」

 

「ん、ああ、いいけど」

 

オレと葵は、ペアリングを嵌めたまま、エレベータに乗り込み1階のゲームセンターに向かった。

ゲームセンターの中に入り、奥に進むと、『プリクラコーナー』という垂れ幕が掲げられた扉があった。 扉を潜り足を踏み入れると、様々なプリクラの機械が目に入った。

 

「沢山ありすぎて、どれが良いか解らないんだけど」

 

「それは任せて」

 

葵は、オレの手を優しく握り、選んだプリクラ機内部に入っていく。

お金を入れ、背景などを選択し、写真撮影になった。 どうやら、撮り直し機能もあるらしい。

 

「えいっ」

 

「うおっ」

 

葵は、オレの腕に抱き付いてきた。

また、女の子を特有の膨らみが、ほぼダイレクトに当たる。――だが、オレは理性の化け物なので大丈夫なはずだ。

 

「あ、葵さん。 近くないですか?」

 

「近づかないと、フレームに入らないもんっ」

 

葵は、ぷんぷんと怒るだけだ。

まあ、わざとだと思うけど。

3、2、1、0とカウントダウンがされ、シャッターが切られた。 どうやら、上手く撮れたようだ。 てか、撮り直しとなると、オレの理性がガリガリ削られるので、ヤバかったと思う。

最後に、葵がらくがきをし、外に出た。

出来たプリクラを見ると、2人はハートに囲まれ、その上には『ずっと一緒』の文字が書かれていた。

オレは出来たてのプリクラを見ながら、

 

「写真の中で一番恥ずかしかったかもな、プリクラは」

 

「そうかも。 ほぼ密閉空間だから」

 

プリクラを切りとり、バックの見えない所に貼った。

葵もオレと同様だ。

 

「さて、プリクラも撮ったことだし、帰るか」

 

「そうだね。 帰ろっか」

 

オレと葵はショッピングモールを出、葵の家を目指して歩き出す。

既に、空も夕焼けが照らしていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

葵の家まで到着し、オレは言葉をかける。

 

「ペアリングはバレないように」

 

「ん、わかってるよ。 でも、お母さんたちにはバレちゃいそう」

 

葵の話によると、母と父には、隠し事は不可能らしい。

まあ、オレもそうなんだが。

 

「オレもだ。 たぶん、紗季と愛華にもバレるな」

 

「紗季ちゃんと愛華ちゃんなら、大丈夫だよ」

 

「だな。 てか、隠すのが無理そうだ。 この二人は、エスパーだな」

 

「そうかも」

 

オレと葵は、顔を見合わせ笑い合った。

やはり、コイツと居ると楽しい。 いつまでも一緒に居たい気分だ。

 

「明日は寝坊するなよ」

 

「も、もう、それは言ったら、メっだよ」

 

オレは苦笑した。

 

「悪い悪い、――んじゃ、またな」

 

「ん、また」

 

オレは手を振ってから、踵を返し帰路に着いた。

また葵は、オレの後ろ姿が見えなくなるまで、見送ってくれた――。




和真君と葵ちゃんの修学旅行の班決め+デート?ですね。
ええ、ペアリングとネックレス、それにプリクラですよ。羨ましいィー(血涙)
お菓子は500円まで(笑)小学生かッ!(←乗り突っ込み)
和真君。リア充やね☆
あ、ショッピングモールも、雑貨屋以外も回りましたです。服屋とか本屋ですね。

てか、大人編に入り、和人君と木綿季ちゃんが、和真君と葵ちゃんにシフトした感じです。
いやまあ、和人君と木綿季ちゃんの話を、ほぼ書いてしまったというのもあるんだが。

次回は修学旅行(京都)になりそうです。
ちなみに、皆は学年が上がっても、クラスは同じですよ。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第133話≪思い出の修学旅行≫

ども!!

舞翼です!!

今回は修学旅行ですね。いやー、以外に筆が進みました。
てか、激甘ですね。作者、何度も砂糖を吐きそうになりました。ブラック必須ですね(確信)
話が吹っ飛びすぎてるかも……(^_^;)

そして、葵ちゃんのお母さん、いいキャラしてるぜ。
では、投稿です。
本編をどうぞ。


――修学旅行当日。

オレは、少し大きめのボストンバックを肩にかけ、葵の家の前に到着していた。

その時、永瀬舞(ながせまい)さん――葵の母親とバッタリ会ったのだ。

 

「あら、和真君。 葵なら、もうすぐ来るはずよ」

 

「りょ、了解です」

 

……両親との邂逅は緊張するし、嫌な予感がするんだが。

そして、――その予感は的中する事になる。

 

「ねぇ、和真君。 あの娘のどこがいいのかしら? 和真君なら、もっといい子をゲット出来るはずよ」

 

ドストレートなボールを投げましたね。 葵のお母さん。

てか、答えるのがメチャクチャ恥ずかしい質問です。

 

「……そうですね。 葵と居ると安心しますし、いつまでも一緒に居たい。 また、暖かな気持ちにさせてくれるような子です」

 

オレは一拍置き、

 

「――オレにとっての葵は、かけがえのない、大切な存在です。 心から大好きって言える女の子ですね。……こんな感じで、どうでしょう?」

 

舞さんは目を閉じ、ふむふむと頷いていた。

数秒後、目を開き、ポンと手を打った。

 

「和真君」

 

「は、はい」

 

反射的に声を上げた為、声が裏返ってしまった。

何たる不覚……。

 

「将来、葵と結婚したいかしら?」

 

え? 結婚?

 

「しょ、将来的には、一緒になれたなと」

 

「そう。 実は、うちのお父さん、和真君ならOKらしいのよ」

 

ん? んん? 話が読めなくなってきたぞ。

え、何、どゆこと?

 

「えーと、何がOKなんでしょうか?」

 

「もう、とぼけちゃって。 結婚よ、結婚」

 

オレは、右掌を額を当てた。

てか、話が吹っ飛びすぎて、処理が追いつかない。

 

「お、オレたちは、まだ付き合ってないんですよ」

 

「そんなのキンクリよ、キンクリ。 ペアリングまであるんだから、もう付き合ってるも同然よ。 ネックレスもあったわね」

 

オレは盛大に混乱し、取り乱した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。 う、うちの両親のOKが出てませんよ?」

 

「木綿季さんは、わたしから。 和人さんは、お父さんから。 話を途中まで通してあるから、心配しなくていいわよ♪」

 

う、うちの両親を名前呼びですか。

でも確か、父さんは体育祭の時にOKを出してそうだし、母さんはママさん会でOKを出してそうだし。

え、何これ。 外堀は埋められてた? あとは、舞さんのOKだけだった……とか?

その時、パタパタと足音を立てながら、セーラ服姿の葵が姿を現した。

肩には、大きめのボストンバックがかけてある。

 

「和真君、おはよう。 お母さん、どうしたの?」

 

「葵。 これからお母さんが言う事に、正直に答えてね」

 

舞さんは真面目な顔になり、問いかける。

 

「う、うん」

 

「葵は将来、和真君と結婚したい?」

 

葵は僅かに頬を赤く染め、俯いてしまった。

顔を上げ、赤みを帯びながらも、小さく頷いた。

 

「し、したいかな。 将来的にはだよ」

 

「うんうん。 あとは葵のOKだけだったのよ。 これで決まりね」

 

「ちょ、お母さん。 話が見えないよ」

 

どうやら、葵も混乱し出したらしい。

まあ、行き成りそんなこと聞かれたら、誰でもそうなると思うけど。

 

「晴れて、和真君と葵は婚約者になりました。 パチパチパチ」

 

「え? ちょっと待って。 婚約者? 嬉しいけど、そうじゃなくて」

 

オレは、舞さんを止められそうになかった。

てか、丸め込まれそうだ。

 

「あら。 葵は、和真君が婚約者なのが嫌なのかしら?」

 

「ぜ、全然OKだよ。 じゃなくて、か、和真君は、だ、大丈夫なの?」

 

「……話が吹っ飛びすぎて処理が追いつかないけど、婚約の件はOKだぞ」

 

こうして、トントン拍子に話は進められ、オレと葵は婚約者になったのだった。

何と言うか、中学生にして婚約者とか、何かスケールがデカイな。

俺は深呼吸をし、

 

「改めてよろしくな」

 

「う、うん。 こちらこそ」

 

葵は庭を出、オレの横に立った。

移動の準備完了だ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「お母さん、行ってくるね」

 

「二人とも、車には気をつけるのよ」

 

舞さんは、ニコニコしながら送り出してくれた。

オレと葵は踵を返し、優しく手を握り、目的の東京駅目指して歩みを始めた。

その間、他愛もない話をしながら、笑い合った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

オレと葵は、全学年の集合場所である東京駅のある一角に腰を下ろしていた。

それから各クラス事に新幹線切符が配られた。

オレは切符を見、何号車で、何処の席かを確認した。

 

「えー、5号車の3番、B席か。――葵はどうだ?」

 

オレは、隣に居る聞いた。

 

「わたしは、5号車の3番、A席だよ。 やった。 和真君と隣で、窓際の席だよ」

 

葵は、心底嬉しそうだ。

つか、此れだけ人数が居て隣の席とか、凄くね。

その時、担任の先生が、

 

「移動するぞ」

 

と言い、クラス全員の先頭の元、乗車する新幹線の場所まで移動し、新幹線内の清掃が終わったのを確認してから、3年C組が5号車に乗車していく。

各自席に着き数分が経った頃、新幹線が動き始め、窓を見てる葵が目を輝かせていた。

どうしたんだ?と思い、窓の外を見ると、快晴の空の下、日本最高の山である富士山が目に映った。

 

「か、和真君。 富士山だよ! 綺麗だな~」

 

葵は鞄からデジカメを取り出し、窓の外に映る富士山をシャッターに収めていた。

オレは葵を見ながら、いや、と言い、

 

「お前の方が綺麗だよ。 葵」

 

葵はこれを聞き、徐々に顔を紅潮させていく。

頭上からは、煙が出そうだ。

 

「ふ、不意打ち禁止だよ」

 

「そうか? ホントのこと言っただけだぞ」

 

オレは、何で?と首を傾げるだけだ。

うん、正直な感想を言っただけだぞ。

 

「わたしは、そんな君が大好きだよ」

 

オレも僅かに顔を赤くする。

 

「お、お前の方こそ不意打ちじゃないか」

 

「へっへー、お返しだよ」

 

オレは息を吐き、葵の頭を優しくグリグリした。

葵は涙目でオレを見て、

 

「和真君のバカ」

 

「すまんすまん、ついな」

 

葵は、オレの右手を両手で優しく包み込んだ。

 

「でも、許すよ」

 

「そ、そか」

 

顔は体を移動させ、葵の顔と至近距離に近づき、二人が入った写真を取った。

もちろん葵は、右手でピースのポーズを取ってだ。

席に着いていたら、オレの右側に体が預けられた。 どうやら、葵が寝てしまったらしい。

オレは、可愛い寝息をする葵を見ながら、

 

「まったく、無防備すぎるぞ」

 

葵の前髪を左右に分けていると、ん、と葵が呟く。

 

「でも、オレの事を信じてくれてるんだろうな」

 

オレもコイツには、全てを任せる事が出来る。

まあ、全ては言いすぎかもしれないが、オレも葵を信じてるって事だ。

其れから数時間後、新幹線が京都駅に到着した。

着いたぞー、と言いながら、葵を優しく起こす。

 

「着いたの?」

 

「おう、着いたぞ。 あと、寝顔可愛かったぞ」

 

葵は頬を赤くした。

 

「み、見たの?」

 

「ばっちりな」

 

「うぅ~、恥ずかしいよ」

 

「ま、気にするな」

 

「わ、わたしは、気にするよぉ」

 

まったく、コイツは可愛いすぎる。

オレは葵の手を優しく握りながら、席を立つ。 新幹線を下り、荷物が運ばれた場所まで移動し、ボストンバックを肩にかけた。

其れから、駅のロータリーに止められたバスに乗り込み、最初の観光場所へ移動した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

最初の観光地は、清水寺だ。

オレはバスを下り、自然の空気を吸い込んだ。

 

「和真君」

 

隣を見ると、ニッコリと笑った葵の姿がある。

 

「おう、どうかしたか?」

 

「ううん、ただ呼んだだけだよ」

 

「なんじゃそりゃ。 まあ、悪い気はしないけど」

 

其れから、ガイドさん先頭の元、清水寺の歴史、創建伝承など説明していく。

だがその時、隣を歩いていた葵が、オレの袖をクイクイと掴んだ。

葵は小声で、

 

「和真君。 抜け出して、二人で見ない?」

 

「置いていかれる危険があるぞ」

 

「そこは大丈夫。 紗季ちゃんと愛華ちゃんに報告済みだから。 案内が終わるころに、メールがくるから。 その時に合流すればOKだよ」

 

「な、なるほど。 用意周到だな」

 

オレと葵はバレないように、クラスの集団から抜けて行く。

まあ、何人かにバレたが、『あの二人か』で済ませるはずなので、問題なしだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

清水寺の柵から見る景色は絶景だった。

オレは葵をバックにし写真を撮る。 またカメラを観光客に渡し、ツーショット写真も撮った。

 

「何度見ても、高いねー」

 

「絶景だしな」

 

オレと葵は、この絶景を見いった。

また、大好きな人と見る景色は、とても心地良くもあった。

その時、葵のスマホが震えた。 そう。 紗季と愛華の合図だ。

 

「そろそろ行こうか。 和真君」

 

「だな。 早く合流しないと」

 

オレと葵は、急いで合流場所まで移動し、自然を装いクラスの中に溶け込んだ。

この時、紗季と愛華に弄られたのは、言うまでもない。

だが、二人には感謝しっぱなしだ。 この二人が、妹と親友で本当に良かったと、心底思った。

再びバスに乗り込み、次の場所へと移動する。

次の観光地は、北野天満宮だ。 此処は、学問向上で有名な観光地だが、オレたち4人に必要あるのだろうか?

まあ、紗季と愛華は、中央に設置してある窯から出る煙を、頭に当ててるが。

 

「和真君はいかないの?」

 

「いや、ぶっちゃけ、必要ないしな」

 

オレの全教科は、90点超えだ。

なので、学問に関しては心配いらないのだ。 まあ、葵も同様だが。

最後に、晴明神社で参拝をし、集団行動は終了した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

再びバスで移動したのは、お世話になる旅館。 『湯島屋』だ。

玄関を潜りロビーに入ると、女将さんが挨拶をくれた。

 

「本日は、湯島屋をご利用頂きありがとうございます。 女将の、築島綾と申します。 どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

ぺこりと頭を下げる女将さん。

 

「既にお部屋の用意は出来ています」

 

3年C組は、男女20人なので、男女10人部屋が4つとなる。

部屋に移動し、自由行動となった。

オレはラフな恰好に着替え、葵と待ち合わせの場所であるロビーに急いだ。 ロビーに到着すると、此方もラフな恰好の葵の姿が映った。

 

「あ、和真君」

 

「悪い、少し遅れた」

 

「大丈夫だよ。 行こうか」

 

「そだな」

 

オレと葵は旅館出、最初の目的地である金閣寺を目指した。

数分バスに揺られ、目的地に到着した。

立て札の通路を通り、金閣寺が目近で見れる場所まで移動した。

 

「わあ、ピカピカだね。 金閣寺」

 

「そだな。 まあ、正確には鹿苑寺(ろくおんじ)だが」

 

まあ、葵も知ってる知識でもあるが。

 

「も、もう。 そんなこと言わない。 金閣寺でいいの」

 

「すまんすまん。 ついな」

 

観光客にお願いをし、思い出になるツーショット写真を撮った。

其れから金を鳴らし、お賽銭を入れてお願い事をした。

再びバスに乗って移動し、葵が行きたいと言っていた観光地へ移動した。

 

その場所とは――地主神社である。 此処は、縁結びの神様で有名な地でもあるのだ。

いや、まあ、縁結びしなくても、もう結ばれてるんだが。

周りを回っていると、買い物を終えた葵が戻って来た。 その手には、縁結びのお守りと、恋の石があった。

 

「縁結びのお守り必要だったか? もう、結ばれてると思うんだが」

 

「そ、そうなんだけど、やっぱり、形だけね」

 

なるほど。 オレらの関係を、其れで誤魔化すって事か。

中々の策士です、葵さん。

神社を出、徒歩で歩いていたら、和菓子作りが体験出来る店を発見した。

 

「やってみるか?」

 

「そうだね。 なんか、おもしろそうだし」

 

オレと葵が店に入ると、奥から職人さんがやって来た。

 

「お、手作り体験かい」

 

「はい、出来ますか?」

 

「おうよ」

 

職人さんは、こっちに来いとジャスチャーをした。

どうやら、店の奥が作業場らしい。

指定された席に座り、職人さんから渡された生地を、専用の棒で象っていく。 オレが象るのは、紅葉の葉だ。

繊細な作業で集中力をかなり使ったが、中々完成度が高い物が完成した。

隣で作業していた葵が象ったのは、桜の花弁だ。

 

「ほぉー。 二人は初めてか? かなりクオリティが高い」

 

「「ま、まあ」」

 

オレと葵は小さく頷く。

職人さんに、食べてみ。と言われ自身が作った作品を試食した。 和菓子は口の中で、絶妙なハーモニーを奏でた。

 

「う、旨いな」

 

「う、うん。 美味しい」

 

職人さんは此れを聞き、そうだろ。そうだろ。と笑っていたが。

中々、個性的なおじさんだ。

 

「それにしても――坊主とお譲ちゃんは、カップルかい」

 

「ま、まあ。 そうですね」

 

此れには、オレが答える。

どうやら、この店の和菓子体験は、カップルが訪れる率が高いそうだ。

ともあれ、こうして和菓子体験が終了した。

お礼を言い、ぺこりと頭を下げてから店を出た。 あとは、旅館に帰るだけだ。

 

「葵。 夜、抜け出すんだっけ」

 

「うん、前からの約束だから」

 

「その時に、ペアリングをしてきてくれ」

 

「ん、りょうかい」

 

オレと葵はバスに乗り、バス停で降りてから、徒歩で旅館に戻った。

部屋に戻ると、男子が風呂の準備をしていた。 どうやら、夜食の前に風呂らしい。

オレも準備をし男湯へ向かう。

男子たちは、覗く、覗かないとも言っていたが。 オレも誘われたが、丁重にお断りした。 てか、完璧な遮断がされているので、まず無理らしいが。

脱衣所で浴衣に着替え、大部屋に移動し、夜食を摂り、今日の感想等を言う行事をこなす。

其れが終わり、オレは席を立った。

 

「ふぅ、戻るか」

 

夜食を摂った所で、自身の部屋に戻る。

部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。 旅館の人たちが敷いてくれたのだろう。

明日の準備等をし、皆と枕投げをしていたら消灯時間になった。

皆が寝た所で、オレは抜き足差し足で部屋を出る。

ロビーに降りると、ソファにー座っている葵の姿があった。

 

「すまん、遅れた。 行こうか」

 

「ん、りょうかい」

 

葵は立ち上がり、オレと並んでから旅館を出る。

今、オレと葵が居る場所は、旅館の少し外れにある自然豊かな場所だ。

其処で、オレは足を崩しながら、葵は体育座りをしながら自然()を見ていた。 暫しの沈黙があったが、オレが先に口を開く。

 

「今日は楽しかったな」

 

「うん、思い出に残る修学旅行になったよ」

 

「葵。 こっちを見てくれ」

 

オレと葵は、座りながら見詰め合う形になる。

オレは、深呼吸をしてから、

 

「葵。 オレは、お前が大好きだ。 付き合ってください」

 

「――不束者ですが、よろしくお願いします」

 

そして、2人の影が一つになった。

初めてのキスである。 キスを終えた二人は苦笑した。

 

「なんか、順番が逆だったね」

 

「そうだな。 てか、付き合っても、特に変化はないような気が」

 

「かも。 今までが付き合ってる感じだったから」

 

「これからもよろしくな。 葵」

 

「うん、こちらこそよろしくお願いします」

 

こうして、オレと葵は付き合う事になった。

そして、この修学旅行は、一生の思い出になる行事になったのだった――。




いや、まあ、うん。
中学生にして婚約者。つか、和真君と葵ちゃんラブラブすぎるぜ。
砂糖、ドバッーやね(笑)
やっと付き合ったぜ。お二人さん。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第134話≪初めての女子会≫

ども!!

舞翼です!!

まず最初に、これってソードアート・オンライン?だよね。いや、ソードアートしてないし、今回の話では、SAOの主要キャラ出ませんし。てか、恋愛小説になってるような……。ま、まさかね。←いやいや、作者気づくの遅くない?(by第二の舞翼)

すまんな。第二の舞翼よ(-_-;)
でも、ソードアート・オンラインですよ!(グッと拳を握る)
とまあ、一人二役は置いといて。

書きあげましたよ。
今回は、紗季ちゃんのターンですね。
それでは、後日談第35弾いってみよー(^o^)/
本編をどうぞ。




二〇四七年。 八月。

 

私、桐ケ谷紗季は、白いワンピースに淡い水色のパンプス、白いショルダーバックというコーディネートで、二人の親友と公園ベンチで待ち合わせをしていまーす。

今日は三人で集まって女子会を開催するのですよ。

 

「紗季。 お待たせー」

 

パタパタと走りながら、愛華ちゃんが到着したようです。

愛華ちゃんは、ノースリーブニットに白いボトム、腰にチェクシャツを巻き、私と同じく白いショルダーを肩にかけていました。

ザ・夏、という服装。 さてさて、葵ちゃんのコーディネートも気になるなー。

 

「紗季。 何ニヤニヤしてるの?」

 

おっと、顔に出てたようですね。

変に思われてないよね?……うん、大丈夫なはず。 根拠はないけど。

その時、葵ちゃんも待ち合わせ場所に到着した。

葵ちゃんのコーディネートは、黒色のリブキャミソールロングワンピースに、肩には茶色のショルダーバック。 もちろん、首にはイルカのネックレスを下げ、左手人差し指にはペアリングを嵌めてますよ。

ふ、二人とも可愛すぎ。……うぅ~。 悲しくなってきた。

 

「紗季。 あんたは、特別な男子以外は、すぐに落とせるわよ」

 

「紗季ちゃんは、学年一可愛いって言われてるんだよ」

 

「そ、そうかな」

 

愛華ちゃんと葵ちゃんは、うんうんと頷きました。

学年一とは知らなかった。 えへへ、ちょっと照れるね。

 

「んじゃ、みんな揃った所で、女子会といきますか」

 

「東京ディズニーランドだよね。 わたし、今日がとっても楽しみだったんだ」

 

「わたしもだよ。 初めてだよね。 三人で女子会」

 

愛華ちゃん、葵ちゃん、私の順で言います。

その時、愛華ちゃんが、首を傾げて葵ちゃんに言いました。

 

「葵。 和真君は?」

 

「和真君なら、和人さんのお手伝いだよ。 何でも、和人さんの背中を支えてあげたいらしいよ」

 

「カズ兄がそんなこと……。 わたしには、そんなこと一言も言わなかったのに」

 

もう、カズ兄は水臭いなー。

私にも教えてくれてもいいのに。 私は、頬を膨らませた。

葵ちゃんが苦笑しながら、

 

「きっと和真君は、紗季ちゃんに言うのが恥ずかしかったんだよ」

 

「そうなのかな~?」

 

おそらく、男の子にしか解らない事柄かもしれない。

カズ兄に、根掘り葉掘り聞くのは無粋ってことだね。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「「OK」」

 

私たちは横一列になり、公園から出て、東京駅へ歩み始めた。

その間も、女の子トークで盛り上がったよ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

東京駅に到着し、京成線ホームへ向かい、Suikaをタッチし改札を潜り、エスカレーターを下り一番線で電車を待ちました。

電車が到着し、私たちは電車に乗り込み、目的の駅である舞浜駅をまで電車に揺られます。

舞浜駅に到着した電車から下り、階段を上がってから、南口の改札にSuikaをタッチさせ駅を出ます。さてさて、もう少しでディズニーランドですよ。

数分歩くと、遠目から東京ディズニーランドの入口が見えてきました。

入口に入り、受付で子供料金の入場を払いゲートを潜ると、目の前に聳え立つお城、周りは綺麗な花の花壇に囲まれた、ネズミの国が広がっていました。

 

「わあ、やっぱり人気だね。 ディズニーランド」

 

葵ちゃんが、周りを見渡しながら言います。

葵ちゃんの言う通り、休日のディズニーランドは人がいっぱい。

 

「わ、わたし、スプラッシュ・マウンテンに乗りたい」

 

私は内心で、ギク!としました。

高いのは苦手じゃないんだけど、急降下するものは……ちょっと。って感じなんですよ。

ビクついてる私を見て、愛華ちゃんがニヤリと笑みを浮かべる。 うぅ~、嫌な予感が……。

 

「紗季ちゃん。 怖いのかな」

 

「そ、そんなことないもん!」

 

少し裏返った声でいいます。

はい、これが私の限界でした……。

 

「じゃあ、レッツゴー!」

 

「おー!」

 

「お、おー!」

 

おわかりの通り、一番最後が私ですね。

さて、桐ケ谷紗季。 踏ん張り所だよ。 いやいや、何にだよ。

……やばいです。 一人で乗り突っ込みとか。 とほほって感じですね♪

ともあれ、目的地まで歩き列に並びました。 待ち時間は、約10分らしいです。

この10分は、私が覚悟を決める時間です。

さあ、私たちの順番が回ってきました。 丸太ボートに乗り、安全バーを下ろします。 これで落ちる心配はありませんね☆

丸太ボートが『南部の唄』の世界を巡り、そして遂にその時が来ます。

 

「「「きゃああああぁぁぁ!!」」」

 

突然丸太ボートが、滝壺に45度のダイビング。

バシャンと水飛沫が巻き起こり、ボートが停止します。

 

「い、いきなりはダメだよ~」

 

「それが、このアトラクションの醍醐味じゃん。 ふ、ふ、ふ。 葵、ビックサンダー・マウンテンにも乗る?」

 

「うんうん、楽しそうだね」

 

愛華ちゃんと葵ちゃんが、冗談交じりでそう言います。

いや、ちょっと休憩させて……。 紗季の体力が持たないよ。

ボートから下り、アトラクション施設から出ると、ベンチに座り一休憩。 横になり、葵ちゃんに膝枕をしてもらってる状態です。 うぅ~、我ながら情けない……。 ちなみに、愛華ちゃんは、飲み物を買いに外していますよー。

 

「どう? 少しは楽になったかな?」

 

「う、うん。 もう大丈夫だよ」

 

私は上体を上げました。

私が復活してすぐに、愛華ちゃんが戻って来た。

首には、ポップコーンが入った、ネズミケースのかけ紐下げられ、使い捨て紙お盆には三つの350mlカップ、ネズミの国の定番のお菓子チェロスが乗せてある。 それにしても、買い込んで来たねー。

 

「お、紗季。 もう大丈夫なの?」

 

「う、うん。 心配かけちゃったね」

 

「いいのいいの。 最後にビックサンダー・マウンテンにも乗るから」

 

私は顔を強張らせた。

 

「え、ホントに? 冗談じゃなかったの?」

 

「本当だよ~。 だよね、葵?」

 

葵ちゃんも、ニッコリ笑い首肯しました。

今に限っては、二人とも、あ、悪魔です……。

 

「……うん、頑張る」

 

「うんうん、介抱してあげるから、葵が」

 

「わ、わたし?」

 

葵ちゃんが声を上げる。

 

「う、うん。構わないけど」

 

このようにして、ビックサンダー・マウンテン後の介抱が葵ちゃんに決定した。

私と葵ちゃんは、愛華ちゃんから飲み物とチェロス、ポップコーンを受け取った。

ポップコーンは後で食べる為、かけ紐を首にかけ、飲み物を飲んでから立ち上がり、歩きながらチェロスを口に運ぶ。

 

「ディズニーランドの定番は、やっぱりチェロスだね」

 

「ディズニーランドに来たら、絶対に食べなくちゃいけないものだね」

 

「もう、紗季ちゃん。 それ、何か使命感ぽいよ」

 

葵ちゃんに突っ込まれ、私は、えへへと笑った。

次に向かったのは、ホーンテッド・マンション。 これには、葵ちゃんが顔を強張らせていた。

今日初めて知ったんだけど、葵ちゃんはお化けがダメみたいなんですよ。

列に並んですぐに、アトラクションに入る事が出来ました。 まずは通路を通り、エレベータに乗って移動するんですが、その途中で肖像化が動いたり、突然ピアノが鳴ったりしたんです。 そんな中で葵ちゃんは、私の右腕に抱きついていました。

怖がる葵ちゃんは、小動物みたいで可愛いです。 てか、愛華ちゃんに苦手な物はあるのだろうか? ここまでのアトラクションは平気みたいだし。

ともあれ、係員さんの先頭の元、ボックス席に乗り込みました。 どうやら、ここからが本番らしいです。

幽霊のお墓を見ながら、席がゆっくり動き始めました。

一番凄かったのが、鏡に私たちの顔と幽霊が映るんですけど、その時の葵ちゃんは、目をぎゅっと瞑り、私に抱きついた事です。

アトラクションが終わり、葵ちゃんがふらふらと立ち上がりました。

 

「こ、怖かったよ」

 

「私は平気だったよ」

 

軽やかに立ち上がった愛華ちゃんは、まだまだ怖くても行けるね。と言う感じで笑った。 まあ、シーの方のアトラクション。 タワー・オブ・テラーは危なかったかもしれないけど。

アトラクションを出た私たちは、イッツ・スモール・ワールドのアトラクションに乗ることになった。

すぐに入る事が出来、ボートに乗りメロディーにのせた世界の旅は、ほのぼのしていて休憩にはもってこいでした。

それから、ディズニーランドでお馴染のカリブの海賊。 『パイレーツ・オブ・カリビアン』の世界の冒険。 まあ、これも急降下があったけど、スプラッシュ程ではなかったので問題はなかったです! 夕方6時になったのでディナーを摂り、夜8時から開催されるエレクトリカル・パレード。

 

「紗季。 ここが良いよ」

 

「紗季ちゃん。 こっちこっち」

 

「りょうかい」

 

パレードと言えば場所取りですよ。

その為に早めに夜食を済ませんだけど。 楽しみだな~、エレクトリカル・パレード。

時間になり、お馴染の音楽と共にパレードが始まった。

光と音楽に包まれてディズニーのスターたちが輝く、夢いっぱいのエレクトリカル・パレードが、ディズニーパークの夜を彩る。

ふと思ったんだけど、この電気代って何処からきてるんだろ? 結構な額になるはず……。

私は頭を振った。 いやいや、何考えてんのさ。 今は楽しまないと!

 

「わあ、綺麗だね」

 

「これぞ。 ディズニーって感じ」

 

「それに、愛華ちゃんと紗季ちゃんと一緒に来たからかな、楽しさが倍だよ」

 

私も二人と居ると、どんな所でも楽しい。 それが、夢の国となれば尚更だね。

 

「うりうり、良いこと言ってくれるじゃないか、葵。 お姉さん感激だぞ」

 

愛華ちゃんが、葵ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「も、もう。 私の方が年上だよ」

 

葵ちゃん。 突っ込む所そこなんだ。

まあ、この中での最年少は私なんだけど。

エレクトリカル・パレードが終了し、最後はお馴染のお土産選び!

広場まで歩き、ずらりと並ぶお土産店の一つのドアを潜ります。 お店の中には、様々なお土産が並んでいました。

ぬいぐるみや文房具、アクセサリーの類、お菓子など。

 

「じゃあ、各自解散して、時間になったらここに集合ってどう?」

 

「「賛成ー」」

 

私と葵ちゃんは、愛華ちゃんの案に頷く。

さて、お土産選び開始です。

私が最初に目をつけたのは、くまのプーさんの絵本クッキー。

 

「パパとママ、カズ兄が喜びそうだね。 よし、購入決定!」

 

次に目を映ったのは、ミッキーとミニーのお揃いマグカップ。

これは、パパとママにぴったり。 籠に入れ、最後にカズ兄のお土産です。

私は首を傾げた。 カズ兄には、紗季のお土産は必要なのかな? 葵ちゃんのお土産があるし。 でもでも、せっかくだから。

カズ兄には、ディズニーキャラクターの文具を選んだ。

こうしてお土産選びが終了しました。 あ、私自身のお土産は、ネズミさんのマグカップだよ。

レジで会計をし、商品が入った袋を持ち、集合場所へ急いだ。

集合場所には、既に愛華ちゃんと葵ちゃんの姿があった。

 

「お待たせー」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「りょうかい」

 

私、愛華ちゃん、葵ちゃんの順で言います。

お土産屋を出てから、ゲートを潜り、ディズニーランドを後にしました。

外に出た所で、私たちはベンチに腰を下ろしました。

 

「そういえば、愛華ちゃんと葵ちゃんは、何を買ったの?」

 

「わたしは、家族にお菓子のお土産と、わたし自身が使うマグカップかな」

 

そう愛華ちゃんが言い、

 

「わたしも家族にお土産と、お揃いのキーホルダーかな」

 

と、葵ちゃん。

 

「わたしも家族にお土産と、カズ兄に文具、わたし自身はマグカップかな」

 

今日は本当に楽しかった。

また、このメンバーで来たいと思った。 今度は、ディズニーシーに行きたいかも。

 

「帰ろっか」

 

私の号令で、愛華ちゃんと葵ちゃんが立ち上がる。

 

「また来ようね」

 

「今度は、シーかな」

 

どうやら、葵ちゃんと愛華ちゃんも、私と同じことを思ってくれたらしい。

何か、嬉しいな。

私たちは、舞浜駅に向かい歩き出した。

こうして、私たち三人の初めての女子会。 思い出に残る女子会が幕を閉じた――。




はい、ネズミの国の話でしたね。
女の子視点で書くのは、やっぱ難しいですね(汗)口調とか大丈夫かな?心配ですな。
てか、オリキャラしか出てないという。いや、この章に入ってから殆どですな。ええ、キリ×ユウのネタがですね(震え声)
てか、SAO編超えそうやね(二度目)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記。
描写にはありませんが、ビックサンダー・マウンテンにも乗りましたよー。


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第135話≪思い出の下準備≫

まず最初に、すんませんでしたっっッッ――――!!!!!(ダイナミック土下座)
ええ、作者の都合で非公開は、まじで申し訳ないです。<m(__)m>
また、お言葉をくれた皆様に感謝です。本当にありがとうございます!!心が強く持てました。
さて、謝罪はここまでに致します。では、いつもの挨拶を。

ども!!

舞翼です!!

今回は、体育祭に対なす行事を書きました。
これも、ちょい長になりそうですな。分けて投稿になるかもです。

では、投稿です。
本編をどうぞ。



二〇四七年。 十月。

 

現在、3年C組は、今週末に開催される文化祭の出し物について、HRの時間を使用し意見を出し合っていた。

 

「やっぱり、文化祭と言えばお化け屋敷でしょ」

 

「いやいや、 男子の心を惹くメイド喫茶がいいと思う」

 

「クラスで劇がいいと思うなー」

 

「皆で屋台を出そうよ」

 

クラスメイトたちが意見を出し合うが、一向に決定する気配がない。

意見が出し終わった所で、クラスメイトたちの視線が、オレ、葵、紗季、愛華に向けられた。

どうやら、オレたちが良いと思った案を採用するらしい。

てか、何でオレたち?という疑問も浮上してくるが、頼られてる。という事で納得しておこう。 うん、そうしよう。

オレたちは一ヵ所に集まり、何の案が良いかを意見交換をする。

 

「文化祭でメジャーなのはお化け屋敷だけど。 男子に需要があるのは、メイド喫茶だよな。……でもなあ、葵のメイド姿は誰にも見せたくない。 独り占めしたいです」

 

「も、もう、バカ。 あとで着てあげるけど……」

 

葵は顔を紅潮させ、俯いてしまった。

オレは葵と付き合い始めたので、学校でもオープンになったのだ。 まあ、紗季と愛華には溜息を吐かれてしまうが。

葵は平静を取り戻し、顔を上げた。

 

「劇と屋台は、雨が降ったら中止になっちゃうかもしれないし。 和真君が出した、この二つのどちらかだと思う」

 

「紗季は、お化け屋敷がやりたいな。 個人的な意見になっちゃうけど」

 

「わたしも、文化祭と言えば、お化け屋敷だと思う。 一、二年生の時は、劇と屋台だったしね」

 

愛華が言うように、オレたちは一学年から三学年まで、同じクラスである。

また、一学年の時の文化祭の出し物は屋台であり、二学年の時は劇であった。

 

「オレもお化け屋敷に賛成だ。 んじゃ、此れで決定だな。――おーい、決まったぞー」

 

クラスメイト全員は、オレの言葉を待つ。

オレは、一呼吸置き口を開く。

 

「オレたちの審議の結果は、お化け屋敷だ。 此れなら、クラス皆で一致団結して製作できるし、文化祭では、一般の方を含め需要もある。 どうだ?」

 

クラスメイトたちも、オレの言葉に頷いていた。

委員長が、黒板に『3年C組の出し物は、お化け屋敷に決定』と記載し、此れからの準備等の話し合いになった。

お化け屋敷は《廃校》をモチーフにし、入口から出口まで歩くタイプだ。

お化け屋敷のテーマは『廃校の最恐迷宮』。 お化け屋敷製作に必要な材料は、視聴覚室の遮光カーテン。 大型の段ボール。 マネキン。 リアルホラーマスク。 血みどろの白衣。 長髪のカツラ等だ。

まあ、これは大まかに出た物なので、作業の最中に必要になった物は、その都度購入するとなった。

放課後に、街の大型ショッピングモールや、コンビニ等で段ボールを入手する事になった。

もちろん、段ボールを取りに行くのは、オレたち四人である。

各自作業分担が決まった所で、六限目のHRの時間が終了した。 放課後になり、オレたちは教室を出、昇降口で靴に履き替えてから学校の校門を潜った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「かなり怖いお化け屋敷を造ろうぜ。 10人が、10人怖かったって言える感じの。 やるからには、完璧な物を造ろうぜ」

 

「「「おー!」」」

 

オレがそう言うと、紗季たちは右手を挙げて答えてくれる。

そうこうしていたら、目的のショッピングセンターの裏に到着した。 どうやら、此処がショッピングセンターの廃棄場らしい。

学校から連絡が合ったのか、担当の係員が、オレたちを見て休憩所から出て来た。

係員は、オレたちまで歩み寄った。

 

「いらっしゃい、学校の先生から話は聞いてるよ。 文化祭に必要な段ボールでしょ?――ついてきて」

 

係員さんの後を追うと、其処には大量に段ボールの山が広がっていた。

この量なら、作業中に足りなくなるという事態は避けられる。

ちなみに、オレは荷台を引いてきている。

 

「それじゃあ、頂いていきます」

 

オレの掛け声によって、紗季たちが段ボールを荷台に積み込んでいく。

荷台が山盛りになった所で、オレたちは手を止めてから、作業をしている係員さんに声をかける。

 

「ありがとうございました。 また、よろしくお願いします!」

 

ぺこりと頭を下げるオレたち。

このようにして、オレたちは学校に戻ったのだった。

その間、紗季が『カズ兄。 紗季、荷台に乗りたい』と言い、荷台に乗せたあげたが。

まああれだ。 アレがアレだったぞ。 いやいや、アレってなんだよ。

とまあ、乗り突っ込みはこの辺にして、校門を潜り、段ボールを持ってから教室を目指す。

教室を扉を潜ると、各自が聴覚室、美術室から、必要な物を借りてきていた。

 

「き、桐ケ谷君。 リーダー役やってくれないかな?」

 

「へ?」

 

オレは、豆鉄砲を受けた顔になってしまった。

 

「実は、このクラスを纏め上がるのは、桐ケ谷君しかいなくて……」

 

オレは深い溜息を吐いた。

 

「了解した。 リーダー役やるよ」

 

リーダー役を引き受ける代わりに、サポートに葵を。という条件も出したが。

これは予想してた通り、要求がすんなりと通った。

 

「――で、予算はどうなってるんだ?」

 

「う、うん」

 

女の子が広げた用紙には、各クラスの予算が羅列してあった。

3年C組は必要経費を購入しても、まだ資金が残る計算だった。

 

「ふむ。 予算内に納まるから心配ないと思うぞ。 作業に戻って大丈夫だ」

 

「りょうかい。 桐ケ谷君、お願いね」

 

そう言って、女の子は作業に戻った。

その時、ポンと肩に手が置かれた。 オレが大好きな女の子、――葵だ。

 

「和真君、頑張って! わたしも、サポートするね」

 

「おう、頼りにしてるぞ」

 

オレは、葵の頭をポンポンと撫でる。

葵は、『みんなの前だよ。……恥ずかしいよ』とも言っていたが。

 

「んじゃ、わたしと紗季も、担当の場所へ向かうね。 行こうか、紗季」

 

「OK。 わたしたちは、製作と案内役だね」

 

紗季と愛華がそう言い、担当の場所へ移動した。

オレと葵も作業場に移動し、コースの構造、出口の設定、屋敷内の盛り上げ方、相手を怖がらせ方などを考えていく。

 

「まずは、コース設定、驚ろかせ方だな」

 

お化け屋敷のコースには、M型を採用する事にした。

M型とは、教室をアルファベットのMのような構造にしてジグザグのコースを作る事であり、また、教室の広さを最大限利用し、入場者が屋敷内を長い時間楽しめる。というメリットがあるが、デメリットとして、お化け役の隠れるスペースが作り辛いという事だ。

まあ、デメリットの方は何とかなるだろう。

仕掛けの方も、常時、突然、操作を取り入れる事にした。 簡単に言えば、驚かせ方の全て取り入れたという事だ。

具体的には、マネキンを入り口に置いたり、途中でテレビが突然点灯、動かない日本人形の遠隔操作だ。

オレが周りを見渡すと、窓には段ボールが敷き詰められ、その上に被せるように遮断カーテンを前にかけていた。 此れなら、教室の電気を消せば、教室内が『漆黒の闇』に変わるはずだ。

 

「何か、クオリティが高いお化け屋敷が完成しそうだな」

 

オレが葵を見ると、若干だが体を震わせていた。

おそらく、葵の中では空想のお化け屋敷が完成し、仮体験までしたのだろう。

てか、凄い妄想力です。 葵さん。

 

「葵さんー。 大丈夫か?」

 

「う、うん。 何とか」

 

「まったく、オレが傍に居るぞ」

 

そう言って、葵の右手を、オレ右手がそっと触れ合う。

その時、作業中の紗季と愛華が此方にやって来た。 何か、先生に頼まれたらしい。

 

「カズ兄。 学年の一つがライブをやる事になったらしいんだ」

 

紗季の話によると、一学年から一組だけ、ライブを披露して欲しいらしい。

だが、この学年でギターやベース、ドラムが出来る人がいないらしい。 其処で、オレたちに白羽の矢が立った。という事だ。

 

「ボーカルは葵ね。 此れは、決定事項だから」

 

「うんうん。 カラオケ行った時の葵ちゃんの声、凛として凄い綺麗だったからね」

 

「オレも、ボーカルには葵で賛成だな。 てか、オレらの中では、葵が適任だ」

 

オレたち三人は、うんうんと頷く。

 

「え、え、わたしがみんなの前で歌う……。 無理だよぉ~、わたし人見知りで」

 

葵は、あたふたする。

 

「紗季たちもフォローするから」

 

「中学最後の文化祭だし、やってみようよ」

 

葵は暫し沈黙してから、口を開く。

 

「うぅ~、わかった……。 頑張る」

 

こうして、ボーカルが葵に決まったのだった。

オレは、さて、と前置きをしてから、

 

「オレらは、何の楽器を演奏するのか決まってるのか?」

 

「うん。 紗季がギターで、愛華ちゃんがドラム。 カズ兄はベース。って感じ何だけど、どうかな?」

 

オレは頷いた。

 

「ふむ。 其れでいいんじゃないか。 てか、何の曲を演奏するんだ? 曲の選曲は結構重要になるぞ」

 

愛華の話によると、今現在で三つの選曲が決まってるらしい。

其れは、ゴールデンボンバーの女々しくて。 XJapanの紅。 Supercrllの君の知らない物語。だそうだ。

まあ確かに、盛り上がり系の中に、バラード系があるのはいいと思う。

 

「全四曲らしいから。 残りの一曲は、練習中に決めよう」

 

「紅と女々しくては、声が出せるか心配かも」

 

葵が言うように、女の子に、二つの曲の中盤は厳しいかも知れない。

だが、

 

「大丈夫だ。 この二曲には、オレも参加するから。 そだな、コラボって感じだ」

 

「う、うん。 それなら心配ないかな」

 

葵は、ゆっくり頷いてくれた。

オレは、うし!とばかりに、左掌に右拳を打ち付ける。

 

「んじゃ、切りの良い所で上がって練習だな。 いや、待て。 音楽スタジオとか如何するんだ?」

 

「ふ、ふ、ふ。 そこは、わたしにお任せあれだよ」

 

愛華の話によると、親戚が音楽スタジオの経営をしてるらしい。

先程電話をかけ、スタジオを確保したそうだ。 恐れ入ります、愛華さん。

お化け屋敷を切りの良い所まで完成させ、オレは今後の方針を副リーダーに伝えてから教室を出て、昇降口で靴に履き替え、都内の音楽スタジオに向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

愛華が予約したスタジオは広々した場所であり練習には最適だ。 楽器等の全てが揃っている。

また、楽器の貸し出しもしてくれるらしい。 店長さん。 無料で貸し出しとか、太っ腹です。

早速、演奏の準備に取り掛かかる。

試しに一通り弾いてみたが、腕は鈍ってなかった。

どうやら、皆の準備が完了したらしい。

 

「んじゃ、最初は、女々しくてからな」

 

「「「OK」」」

 

オレの合図で曲が開始された。

練習でこんなに盛り上がるとは予想外だ。 恥ずかしがり屋の葵も『入り込んでる』ので、本番でも周りは気にせず歌えそうだ。

其れから、紅、君の知らない物語も演奏した。 本番までには間に合いそうな感じだ。

ちなみに、最後の一曲は、千本桜に決定した。

 

「さて、最後にもう一回合わせるか。 其れで、今日の練習は終わりにしよう」

 

「「「りょうかい」」」

 

オレの合図で演奏が始まり、また、コラボ出来る場面では、オレと紗季は積極的に声を出す。

全曲の演奏が終わり、この日の練習は終わりを告げた。

オレたち最後の文化祭。悔いが残らないように、全力で楽しもう――。




愛華ちゃん、顔が広い。
ライブ等も、もっと時間がかかるはずなんだが、ここはご都合主義の発動ですな。
和真君たち、メチャクチャ楽しそうだぜ!

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第136話≪思い出に残る文化祭≫

ども!!

舞翼です!!

投稿が遅れて申し訳ない(*- -)(*_ _)他の小説の投稿や、最近忙しくて……。
でも、空いた時間で書き上げました。
今回の話で文化祭は終了ですね。和真君たちの中学生活もこれで終了かな(多分だが)
てか、今後の後日談では、ソードアートしないかもですね……。(ま、前にも言った気が)(((;゚Д゚)))(震え声)

で、では、投稿です。
本編をどうぞ。


――文化祭当日。

3年C組が、クラスで決めたTシャツに袖を通し、お化け屋敷の最終確認を行っていた。

教室側の壁際には、血が滴るように紅いペンキで『廃校の最恐迷宮』と書いた黒い大弾幕張りつけた。

待っているお客さんには、恐怖のテレビを見てもらい、完全な闇になった教室でお化け屋敷がスタート。

初盤では、目の前に大量のマネキンが鎮座し、中盤でお化け役が驚かせる。 お化け役の衣装は、血みどろの白衣に、長い髪を前に垂らし顔を見えなくしてる。 某映画で言う『リング』のような感じであり、その人が僅かに追いかけるようになってる。

終盤では、日本人形を遠隔操作で動かして恐怖を煽り、窓が叩かれる音を聞き終了となる。

かなりクオリティが高いお化け屋敷に仕上がった。

……オレと葵も仕上がりを確認する為に一度体験したのだが、葵の悲鳴と震えが凄かった。

いやまあ、オレも怖かった。 マジで怖かった。 大事な事なので2回言ったぞ。

ちなみに、紗季と愛華も入った。 二人も悲鳴が凄かった。 出口に出た瞬間、へたり込んでたし。

 

「女子は団体で入った方がいいな。 一人で入ると、色々な意味でヤバいかも」

 

「う、うん。 女の子一人で入ったら、最悪の場合、気絶しちゃうかも……」

 

葵は、ぶるっと肩を震わせた。

おそらく、お化け屋敷のトラウマが蘇ったのだろう。

オレと葵がそう言うと、クラスの全員が頷いた。 また、話し合いによって、男子は一人でもOK。 女子は三人で、男女ペアならOKという事になった。

また、壇上から下りたオレと葵は、皆にタイムスケジュール表を配った。

午前の部、午後の部の空欄に、名前を入れるようになっている。 これを頼りに、自由時間や昼食をとってもらう。

 

「各係の人は話しあって、午前の部と午後の部を決めてくれ。 んじゃ、始めてくれ」

 

「開会式までの時間が迫ってるから、パパっと決めてね」

 

オレと葵そう言うと、各部署の人が一つに集まり、タイムスケジュールを決めていく。

 

「ああ、そうだった。 オレと葵でお化け屋敷を仕切るから、皆は楽しんでくれ。 最後の文化祭なんだしな」

 

「お化け屋敷のことは、和真君とわたしに任せて」

 

タイムスケジュールが決定したのを確認し、オレと葵が口を開く。

 

「開会式が始まるな。 皆、体育館に行こうか」

 

「みんな、楽しい文化祭にしよう!」

 

オレと葵が先頭になりクラスを出ると、それに続くようにクラスメイトも教室を出、体育館を目指す。

さあ、これから文化祭の始まりだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

体育館に到着し、各クラス事に整列してから数分後、開会式が行われ文化祭が開始された。

生徒は各クラスに戻り、自由時間を取る者と午前の部に分かれ、午前の部の人たちは出し物の衣装を羽織ったり、案内係に就くなどに別れた。

開始から数分後、女子五人が挑戦する事になった。 怖い話で恐怖を刷り込んでから、お化け屋敷の内部に入り込む。――数秒後、『きゃあああぁぁぁッッ!』と言う悲鳴が届いた。

教室内部の隠し部屋の椅子に座りながら、オレは呟く。

 

「よし、客受けはいいぞ」

 

「大丈夫かな? 女の子だけでは、かなり怖いから……」

 

隣に座る葵は、心配そうに呟く。

 

「大丈夫なはずだ。 作り物だし、団体で入ってるんだ」

 

3年C組のお化け屋敷を誰かが口コミしたのか、数十分で長蛇の列が出来たのだった。

いや、こんなに大盛況になるなんて、予想外すぎる……。

お化け役もかなり疲れるはずだ。 だが、お化け役のローテーションにはまだ時間がかかる。

オレは、スポーツドリンクを右手に持って立ち上がり、

 

「葵。 オレは水分を渡してくる。 それまで、ここは頼んだ」

 

「りょうかい」

 

オレは、隙を狙ってお化け役の元へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

お化け役の元へ向かったオレは、迫力ありすぎだな。マジで怖い。と思っていたのだった。

今は、そんなこと言ってる暇はない。 オレは小さな声で呼びかけた。

 

「き、桐ケ谷か?」

 

「そうだ。 荒谷、喉を潤して、もうちょっと頑張ってくれ。 あとちょと交代だから」

 

「お、おう。 外はどんな感じだ?」

 

「客受けは上々だ。 出口で、腰を抜かした人も居たぞ」

 

荒谷は、オレが差し出したスポーツドリンクを受け取った。

 

「桐ケ谷、サンキューな。 んじゃ、頑張るとしますか」

 

「頼んだぞ」

 

オレは、早足で隠れ部屋への席へ戻った。

 

「おかえり、どうだった?」

 

「まだ大丈夫そうだったな。 次の交代まではいけるはずだ」

 

交代の時間になり、葵がテーブルに置いたトランシーバーを手に取り、音声スイッチを入れる。

また、お化け役もすぐに交代出来るように待機。

 

「荒谷君、聞こえる」

 

『永瀬か』

 

「そう、交代の時間になったの。 青樹くんがそっちに行くから、素早く交代してね。 今なら、お客さんの隙をつけるから」

 

『了解』

 

それを聞き、葵はトランシーバーの音声機能をカットした。

オレは隣に立ったお化け役に、右手に持ったスポーツドリンクを渡す。

 

「お客の数が増して、動く量が多くなる。 汗も掻くはずだ。 小まめに水分補給をして、脱水症状には気をつけるんだぞ。 交代になったら、トランシーバーで声を送る」

 

「了解だ」

 

お化け役は、素早く動き隠し部屋から出た。

数分して、荒谷が戻って来た。 その表情はとても満足そうだ。 お化け役が成功して満足。と言った所だろう。

 

「お疲れ。 休憩したら、もう一回頼むぞ。 それまで一時間位あるから、好きな所を見て回って来ていいぞ。 だが、五分前には戻って来てくれ」

 

「わかった。 五分前には戻る」

 

そう言って、荒谷は衣装を脱いでから、隠し扉から外に出た。

オレは外の状況を見ながら、

 

「受け付けが二人じゃ回らないかもな。 ヘルプっ居るよな?」

 

「うん、大丈夫。 この時間から入る子もいるから。――案内役はどうかな?」

 

「そこは大丈夫だ。 紗季と愛華がフル稼働中だ」

 

紗季と愛華の動きはきびきびしていて、二人一役的な感じだ。

受付も子も合流し、三人になった。 これならスムーズに運ぶ事が出来るはずだ。

 

「さてと、オレらも気合を入れて取り組みますか」

 

「だね。 頑張ろう!」

 

再びオレたちは、全体確認に就いた。

また、お化け役が二度交代した所で昼食時間になった。 昼食の一時間は、クラス全体の出し物は一時休憩になるのである。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「つ、疲れた」

 

オレは、テーブルに突っ伏していた。

 

「はいはい、午後も頑張ろうね」

 

そんなオレ見て、葵は笑みを零しながら、オレの頭を撫でてくれた。 いや、何と言うか。 気持ちよくて眠たくなるんですが。

オレはむくりと上体を起こし、

 

「そうだな。 あと、ライブには間に合うらしいぞ」

 

「沢山練習したからね。 少しだけ楽しみかな。 でも、上手く歌えるかな……」

 

「ま、オレも楽しみではあるな。 最高のライブをしようぜ。 歌の方は、オレたちもフォローするから心配するな。 てか、『入り込めれば』問題ないさ。 さて、飯にしようぜ」

 

「りょうかいです」

 

配られた弁当を開き、割り箸を割ってから手を合わせ、料理を口に運ぶ。

味わってから飲み込み、オレは唸った。

 

「う――んっ。 やっぱ、葵の弁当の方が旨いな。 てか、徐々に上手くなってきてるのは気のせいか?」

 

葵は、若干頬を赤く染め、

 

「えへへ、そうかな。 でも、料理の研究はしてるんだよ。 和真君には、美味しい物を食べて欲しいから。 しょ、将来一緒に暮らす為にも、ね」

 

オレは腕を組みながら

 

「葵は、同棲まで考えてるのか。 うちの両親の所のマンションでも借りるか? 大学は東大で」

 

「ふふ、和人さんと木綿季さんの背中を追う形になるね。 そういえば、和真君は和人さんのお仕事を手伝ってるみたいだけど」

 

葵は、不思議そうにオレを見た。

オレは、そのことか。と言ってから、

 

「オレは将来、父さんの仕事の手伝いをしたいと思ってるんだ。 もちろん、面接もちゃんと受けるぞ。 正式な就活生としてな。 落とされても、空いた時間に手伝いはするって決めてるんだ。 それが、オレの親孝行になると思うからな。 まあ、母さんは紗季に任せるけど。 意外にオレも、将来設計が出来てんのな」

 

今思った。 現在進行形で文化祭の最中じゃん。

何で、将来の話をしてるんだろうか? でもまあ、聞かれても問題ないから構わないけど。

弁当を食べ終えて作業に戻ろうとした時、副リーダー二人が部屋の中に入って来たのだった。

はて、何の用だようか?作業の変更を伝えに来たとか?

 

「午後の役は、オレたちが引き受けるよ」

 

「桐ケ谷君と、永瀬さんも、一緒に文化祭を回りたいはずでしょ。 校内デートしてきていいわよ」

 

3年生の全クラスには、オレと葵が付き合ってる事が知られてるらしい。 学年公認カップルと言う事にもなる。

 

「んじゃ、お言葉に甘えるな。 葵も良いよな?」

 

「もちろんだよ。 和真君の隣には、わたしが居ないとね」

 

オレは葵の言葉を聞き、苦笑するだけだ。

 

「そうだな。 オレの隣に葵が居るのは、決定事項だからな」

 

副リーダーたちは、オレと葵を見て溜息を吐いた。

 

「さっきの弁当は足りなかったけど、今ので満腹になったわ」

 

「私もごちそうさま。 早く行った行った」

 

副リーダーたちに、しっしっとされ、オレと葵は部屋を後にし、昇降口で靴に履き替え外へ出たのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

校内に出て向かった先は、3年B組が開いていた飲料店だった。

どうやら、此処にはホット関連も売っているらしい。

此処でオレは、ホットコーヒーとホットミルクティーを購入した。ミルクティーを葵に渡し、オレと葵は花壇の石段に腰をかけた。

プルタブを開け、コーヒーを一口飲み息を吐く。 隣に腰を下ろした葵も、ミルクティーをちびちび飲んでいた。

オレは空を見上げながら、

 

「何かいいな。 こういうの」

 

「うん。 何か落ち着くね」

 

オレたちの周りには、二人だけの空間が形成されていた。

誰にも邪魔されない空間だ。

 

「……和真君。 大好きだよ」

 

「ああ、そうだな」

 

オレは何かに気づき、我に戻った。

 

「…………此処が学校って忘れそうになった。 あ、あぶねー」

 

「わ、わたしもだよ。 わたしたちがのんびりしてる時の空間だったから。 つ、つい」

 

「以後気をつけようぜ。――それより、葵は回りたい所はあるか?」

 

葵は思案顔をした。

唇に人差し指を当て、

 

「うーん、特には。――さっきも言ったけど、わたしは和真君が隣に居てくれるだけでいいんだ」

 

照れ隠しに、オレは頭を掻いた。

 

「オレもそうだけどな。お前が隣に居てくれるだけで、辛いことでも頑張れるんだぞ。 まあ、簡潔に言うとだ。――オレは、葵が世界一大好きってことだ」

 

そう言い、オレは葵の額を小突いた。

また、葵は幸せそうに微笑んだのだった。

 

「そろそろ時間だし、体育館に向かうか」

 

「OK」

 

オレと葵はそう言い、歩幅を合わせ歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

体育館に入ると、配置の準備が始まっていた。

演奏順では、3年C組が最後に執りになってるらしい。

いや、何で最後なの、凄いプレッシャーなんですが。

また、1学年の2学年の演奏が終わり、3学年、オレたちの番である。 オレは急いで壇上に上がり、手伝いに向かう。 配置を完了させ、自身が演奏する楽器を手に取った。 アンプ等の準備も完了だ。

ベースを下げたオレが、口を開く。

 

「練習といきますか。 んじゃ、千本桜から」

 

「「「OK」」」

 

愛華が鉢でリズムを取り、全員の演奏が始まった。

体育館にリズミカルな音楽が響き、この音楽を耳にした観客たちが、徐々に体育館に集まって来たのだ。――さっきは全然だったのに、何で急に人が集まったの? 意味がわからん……。

 

「(か、和真君……。 こんなに人が来るなんて聞いてないよ……)」

 

「(い、いや。 オレも予想外なんだよ……。 こんなに来るなんて……)」

 

「(大丈夫だって。 紗季たちなら成功間違えなしだよ)」

 

「(おー! 言うね、紗季。 まあでも、ここまで来たらやるしかないしょ)」

 

「(てか、ライブの最初って、自己紹介をするような……。 そんなもの考えてないぞ……)」

 

いや、マジで。 自己紹介なんてどんな風にすればいいんだ。

さっぱりわからん。

そして、運命の時間がやって来た。

 

「皆ー! 3年C組のライブに来てくれてありがとう! わたしたちのバンド名は、KKNS」

 

それって、オレらの名字の頭文字。 愛華さんや、ちょいと安直すぎない。

まあ、思いつかなかったオレが言えた事じゃないけど。

 

「ごめんね、皆! 数週間前に結成したバンドだから、話せる事がないの。 だから名前だけで許して! じゃあ、紹介するね!――学校一の可愛イケメン、ベースの桐ケ谷和真」

 

ぺこりと頭を下げるオレ。

そうすると、観客が盛り上がった。……いや、盛り上がる要素何処にあったの? てか、愛華さんや、可愛イケメンってなんやねん。

 

「ギターの桐ケ谷紗季。 紗季は、和真の双子の妹でもあるんだ!」

 

「桐ケ谷紗季です。 よろしく!」

 

盛り上がる観客。

だから、何でやねん……。

 

「クラスの可愛いドジっ子、永瀬葵! 葵には、彼氏がいるから告白はしない方がいいね! 玉砕してヘコムだけだぞ~」

 

「よ、よろしくお願いします。 な、永瀬葵です」

 

盛り上がる観客。

いや、だから……もう突っ込むのは止めにしよう。

 

「最後にわたし、ピチピチの中学生、新沢愛華でーす! あ、そうそう。 紗季とわたしに告白しても、お眼鏡に叶わなかったらバッサリするんで、そこんところよろしく~。 とまあ、こんな感じで自己紹介は終了だね。 んじゃ、曲に行ってみようか」

 

愛華から、視線が皆に送られる。

 

「(皆、千本桜から女々しくて、紅で行こう。 徐々に盛り上げていく感じで)」

 

「(了解。 最後に締めのバラードって感じか?)」

 

「(紗季もそれに賛成かな。 途中に入れるより、最後の方が締まるしね)」

 

「(わ、わたしもOKだよ。 声が出るように頑張るね!)」

 

方針が決まった所で、全員が頷いた。

愛華が鉢でリズムを取り、――演奏が始まった。 観客はかなりの盛り上がりを見せ、それに後押しされるように、オレたちも俄然やる気が湧いてくる。

盛り上がりを見せた所で、最後のクールダウンに、君の知らない物語だ。 他の歌も凄かったが、バラードでの葵の美声は、観客に感銘を受けさせるようだった。

 

「これで、KKNSを終わります。 ありがとうございました!」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

愛華が最初に言い、それに続いて、オレと紗季、葵が頭を下げた。

すると観客から、

 

『アンコールはないのか! もっと聞きたいぞ!』

 

『もう一曲くらい頼むよ!』

 

と言われ、オレたちは困惑気味だ。

いやまあ、保険で“僕らだけの歌”があるが。

 

「(和真君、やろうか)」

 

「(……了解した)」

 

「(紗季もOK)」

 

「(わ、わたしもです)」

 

全員の了承が出た所で、アンコールだ。

愛華が息を吸い込み、

 

「アンコールいきます! 僕らだけの歌!」

 

『わあああぁぁぁあああ!!』と凄い歓声だ。

演奏が始まり、観客もオレたちも最高潮だ。 演奏が終わり礼をして、弾幕が垂れ、今度こそオレたちの思い出に残る文化祭が終了した。

文化祭の結果は、クラス審査とライブが優勝したのだった。 また、オレたち四人で打ち上げに行ったのは、別のお話――。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
和真君たちが作ったお化け屋敷、絶対に怖い……。うん、怖いはずだね(;^ω^)
ライブ等は、勘も混ざっているのでご容赦を……。てか、愛華ちゃん、いいキャラしてるぜ。即興の自己紹介は凄い(*‘ω‘ *)
次回は、優衣ちゃんの大学生活が書きたいですな(予定ですが)
やっぱ、ソードアートしませんな(^_^;)

追記。
後日談をシリーズ化しようと思ってる今日この頃。
でもシリーズ化すると、完結が見えなくなっちゃうんですよね。ははは( ̄▽ ̄;)


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第137話≪優衣の大学生活≫

ども!!

舞翼です!!

今回は、久しぶりに優衣ちゃんのターンですね。
上手く書けてたか不安ですね……(^_^;)てか、女の子視点は難しいです……。
美咲ちゃん、いいキャラしてるぜ。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


私、桐ケ谷優衣は、大学二年生です。

もちろん、入学した学校は東京大学です。 この大学は、パパとママの母校でもあります。

ちなみに、専攻学科は科学部です。 また、一緒に入学した九条美咲ちゃんも同じ学科です。

今は食堂の二階。 カフェテラスでお勉強タイム。

 

「優衣~、この問題が解んないよ。 てか、このプリント難しすぎだよ」

 

正面に座った美咲ちゃんがテーブルに突っ伏して、私にそう言う。

この問題を作成したのは、明日奈教授でもあります。 明日奈さんは、この大学で知らない人はいません。 私のねぇねぇにも言える事ですが、全校生徒からの人気が凄まじいです。

 

「えっと、ここはを硝酸銀だと思いますよ」

 

上体を上げ、問題を見る美咲ちゃん。

 

「あ、ホントだ。 流石優衣」

 

「褒めても何も出ませんよ。――まあ確かに、明日奈さんが作成する問題は難しいですけど」

 

他の科学の先生もいますが、明日奈さんが作成する問題は化学の先生の中で一番難しいと思います。 復習をしとかないと、解けないレベルと言った所でしょうか。

ペンを回しながら、美咲ちゃんが口を開きます。

 

「そういえば、優衣と明日奈教授って知り合いなんでしょ?」

 

「そうですよ。 昔からの付き合いですね。 最近は、大学でしか会ってませんけど」

 

そう、私と美咲ちゃんは二人暮らしを始めたのです。 そのマンションは、完全なオートロック完備。 最初は、近場にあるアパートにしようとしましたが、これにはパパが猛反対。 オートロック完備のマンションが、パパの絶対条件でした。 家賃も、かなりの額になると思うんですが……。 ですが、パパが言うには『それなら問題ない。 金の事は気にしなくていいぞ。 優衣と美咲ちゃんの安全が第一だ。』とパパが言っていました。 優衣の自慢のパパです!

 

「何か羨ましいかも。 てか、大学生になれば出会いの一つはあると思ったんだけどな。 やっぱり、淡い期待だった……」

 

そう言い、項垂れる美咲ちゃん。

でも、私が思うには、美咲ちゃんは明日奈さんたちに劣らない美少女です。 なので、話かけるのが難しいだけ。だと思うんですが。

 

「ですが、わたしにも出会いはないです」

 

「それは、優衣が綺麗過ぎて話かけられないだけだよ。 優衣は、学年一の美少女かもしれないんだから」

 

と、その時。 次の授業の予鈴がなりました。

あれ、次は選択物理の授業だったような気がします……。

 

「み、美咲ちゃん。 わたしの記憶が確かなら、次って物理の授業ですよね」

 

若干顔を青くした美咲ちゃん。

 

「そ、そうだよ。 次は、選択物理の授業だよ。 あの授業、出席制だから休めない……」

 

「……休む前提ですか」

 

私は苦笑するだけです。 と言っても、美咲ちゃんはしっかり各授業に出てます。

もちろん、私もしっかり出てますよ。

私と美咲ちゃんは、課題等をバックの中に仕舞い二号館のホールへ急ぎます。

ホール前に到着した私たちは、扉を僅かに開け、中の様子を覗き込みます。

美咲ちゃんが小声で、

 

「抜き足差し足で入れば、バレないよね?」

 

「おそらく、大丈夫かと」

 

私と美咲ちゃんは、大ホールの後方の扉を静かに開き、物理の教授に見つからないように席に着席しました。

美咲ちゃんがひそひそ声で、

 

「何とかバレなかったね」

 

「はい、よかったです。冷や冷やものでしたよ」

 

「ごめんごめん、以後気を付けます」

 

美咲ちゃんは、舌をペロッと出しました。

 

「もう、しっかりしてくださいね」

 

「はーい」

 

その直後に、出席表が配られました。

出席表に名前を書き込み、長テーブルの端に置き、それを教授が回収していきます。

回収が終わり、教授が教壇に立つとマイクを持ちながら、

 

『では、教材の120ページの続きをします。』

 

私たちは教材の120ページを開き、教授がホログラムに映す重要点をノートに書き込きこみます。

講義が終わり、私は大きく伸びをしました。

 

「難しかったですね」

 

「うぅ、ホントに難しかった……。 優衣」

 

美咲ちゃんは、子猫のように私を見ます。

 

「しょうがないですね。 一緒に勉強しましょうか」

 

私は、美咲ちゃんに弱いんでしょうか?

出来る範囲なら、何でも聞いちゃう気がしますね。

 

「これで物理のテストはクリアだ」

 

「もう、上手いんですから」

 

「優衣、帰る前にショッピング行かない?」

 

私たちが行くショッピングモールは、和真君と葵ちゃんが訪れた所です。

何と言っても、お店の数が多いです。 主婦の方、大学生にも非常な人気な所でもあります。

 

「いいですよ。 帰るついでに寄りましょうか」

 

「そうと決まれば、レッツゴーだよ!」

 

「み、美咲ちゃん。 まだ、ホールの中ですよ」

 

「あ……えへへ、やっちゃった。 でもでも、細かいことは気にしない気にしない」

 

細かい事なんでしょうか。

結構な人に、私たちの予定が聞かれてしまったような気が……。 あれ、私も言ってしまった気が……。――私は内気な性格なので、美咲ちゃんには助けられてばかりです。 いつもありがとうございます。 美咲ちゃん。

バックに教材を仕舞い、ホールを出て、大学のキャンパスを後にしました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

二重ドアを潜り、ショッピングモールに入った私たち。 中に入ると、心地い怜風が汗を引いてくれます。

 

「優衣。 これ着て」

 

美咲ちゃんが私に手渡したのは、薄いパーカーと言えばいいのでしょか?

確かにこれを着ても、暑くはないですが。

 

「大学とかでは汗をかかないから大丈夫だけど。 外に出たら汗をかいちゃうでしょ。……えっと、その下着がね……」

 

確かに美咲ちゃんの言う通り、背部が少しだけ透けてますね。

 

「なるほど。 透けちゃうんですね」

 

「え、まさかのマジ返し。 恥ずかしがると思ったんだけど」

 

いやいや、恥ずかしいですよ……。

パパのポーカーフェイスの真似です。 上手く出来たようです。

パーカーを羽織る私と美咲ちゃん。

 

「これでOKですか?」

 

「OKOK。 ショッピングに行こうか」

 

私と美咲ちゃんが最初に向かったのは、レディース店です。

服が沢山あって、どれにしようか迷ってしまいます。

 

「優衣、これ着てみて」

 

美咲ちゃんが手に取ったのは、シンプルサマーワンピースですね。 色は藍色です。

大人の女性が着る。って感じがします。

 

「似合うでしょうか?」

 

「似合う。 絶対に似合うって!」

 

「じゃあ、着てみますね」

 

そう言いながら、私は試着室の中に入り、手渡されたワンピースに着替えます。

鏡で自身の姿を見たんですが、いまいち自分に合ってるか分かりません。

カーテンを開け、パイプ椅子に座っている美咲ちゃんに聞いてみます。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

美咲ちゃんは硬直してしまいました。

そ、そんなに似合ってないんでしょうか。 や、やっぱり、大人の服です。 わ、私には早すぎました。

 

「み、美咲ちゃん?」

 

「あ、ごめん」

 

硬直から解けた美咲ちゃん。

 

「へ、変ですよね」

 

「いやいや、似合いすぎって言えばいいのかな。 大抵の男子はすぐに落ちるね。 わたし、色んな意味で心配になってきちゃったよ。――つ、次はこれ」

 

手渡されたのは、レディースの黒色のVネックTシャツにストレートデニムです。 着せ替え人形になった気分ですね。 明日奈さんも、このような感じだったんでしょうか?

私はこの服装に着替え、再びカーテンを開きます。

 

「し、試着してみました」

 

「ほへ~。 メッチャ似合ってる。 優衣に合わない服とかあるのかな? わたしが男子だったら、結婚してるレベルだよ」

 

「お、大げさですよ」

 

「もう、優衣は自分に自信を持たないと」

 

「そ、そうでしょうか。 こ、今度は、美咲ちゃんがお人形さんに」

 

「や、やっぱりそうなる」

 

言葉に詰まる美咲ちゃん。

如何にか逃げようとする美咲ちゃんですが、私は逃がしませんよ。

 

「ですです。 わたし、見たいです!」

 

私は笑みを浮かべます。

 

「うっ、笑みは反則だよぉ。 断るにも、断れないもん。……よし、やってやろうじゃないか」

 

「それじゃあ、わたしが似合いそうな服を選びますね」

 

それからは、大学生二人によるプチファッションショーが開かれていました。

何故か、周りから視線を集めてしまいましたが……。 何ででしょうか?

試着した服の一つを購入した私たちは、夕食を取る為、パスタ店に入りました。

ちなみに、私と美咲ちゃん購入した服は、サマーワンピースです。 美咲ちゃんとお揃いですよー。

 

「うわー、結構混んでるね」

 

美咲ちゃんの言う通り、パスタ店は大変混雑していました。

今日は土曜日なので、学生さんが多いのでしょうか?

 

「いらっしゃいませ、二名様でしょうか」

 

「はい、二人です」

 

店員さんの言葉に私が応じます。 店員さんの案内で、残っていた奥の席に案内されました。

店員さんは、メニューを手渡してから戻りました。

 

「優衣は、何を食べる」

 

メニューを見終わり、美咲ちゃんに手渡します。

 

「そうですね。 カルボナーラにします」

 

「うーん。 じゃあ私は、クリームパスタにしようかな」

 

注文をし、数十分経過した事にパスタが届きました。

私たちは手を合わせ、パスタを一口。

 

「美味しいです」

 

「うんうん、何ともクリームの絶妙さが。 あ、カルボナーラも食べたい。 一口ちょうだい」

 

「いいですよ。わたしもクリームパスタが食べたいです」

 

次の美咲ちゃんの言葉で、私は僅かに取り乱します。

 

「あ、じゃあ、食べさせてあげるよ。 優衣もやってね」

 

「へ? いや、それは女の子同士でやるものでは」

 

こ、これでは、俗に言う、百合百合になってしまいます。 ど、どうしよう。

ですが、友情や強い絆を示すものでもあったはずです。 なら、問題なしですね。

 

「はい、あーん」

 

「あ、あーん」

 

……食べましたが、いまいち味が分かりませんでした。

次は私の番です。

 

「じゃ、じゃあ、あーん」

 

「ん、あーん」

 

モグモグと食べた美咲ちゃん。

 

「うん、美味しい」

 

美咲ちゃんは味が分かったようです。

ともあれ、このようにしてパスタを完食しました。

会計をして、私たちはパスタ店から出ました。 最後に、締めのソフトクリームを購入し、ショッピングモールを後にしました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ソフトクリームを食べながら帰路につく私たち。

口を開いたのは、美咲ちゃんでした。

ちなみに、右手には、購入した服が入ってる袋が下げられています。

 

「今日は楽しかったね」

 

「ホントに楽しかったです。 また、行きましょうね」

 

「もちろんだよ。 今度は、優衣のリクエストに答えよう」

 

「わかりました。 考えときますね」

 

私が微笑むと、美咲ちゃんも頬笑み返してくれました。――今日はホントに楽しかったです。 こんなに楽しい生活が送れるのも皆さんのお陰です。

そう、SAOから助けてくれたパパたち。 そして、私の真実を知っても手を取ってくれた美咲ちゃん。

私は幸せ者です。 これからもよろしくお願いします。 これが、とある優衣の日常でした――。




やっべー、この輪の中にメチャクチャ入りたいですねッ。
優衣ちゃんも美咲ちゃんも、絶対に美少女ですよ。
さて、今後も頑張って執筆します。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第138話≪桐ケ谷家の一日≫

ども!!

舞翼です!!

今回の話で、えっ、何か違くね。的な部分が出てきたらごめんなさい(*- -)(*_ _)
一生懸命書きました。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


二〇五〇年。 十一月。

 

現在、俺と和真は、とある場所へと赴いていた。

 

「おはようございます。 IDパスの提示を宜しいでしょうか?」

 

入り口に立つ警備員にそう言われ、俺は首に下げたIDパスを警備員に見せる。

背部をついて来た和真も、自身の身分を証明するものを提示した。

それを見て、警備員は頷いた。

 

「確かに確認しました。 どうぞお入りください」

 

そう言われ、二重ドアを潜りロビーへ入る。

此処は、俺と七色が経営する会社だ。 以前から和真は、手伝いとして度々訪れているのだ。

 

「やっぱ、慣れない」

 

和真が言ってる事は、警備員に身分証を提示する事だろう。

まあ確かに、身分を証明できなければ、最悪、牢獄に連行される怖れもあるしな。

 

「ほら、行くぞ」

 

「わ、わかった」

 

俺と和真は、ロビーの左側に備え付けられたエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。

エレベーターを降りてから数分歩き、正面ドアを押し開ける。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「皆、おはよう」

 

「「「「「おはようございます。 桐ケ谷社長!」」」」」

 

社員全員が挨拶をしてくれる。

嬉しいんだが……。 やはり、社長呼びは慣れないものだ。

 

「きょ、今日もよろしくお願いします! 精一杯、お手伝いさせて戴きます」

 

和真は、些細な仕事も真剣に取り組むので社員受けが良い。

『将来が楽しみだわ』と言う社員もいるのだ。

和真が将来、この会社で働きたいとしたら、しっかりと大学を出て、必要な資格を習得して貰い、俺と七色の面接も受けて貰う。 親のコネで入社は有り得ないのだ。 それは、和真も重々承知してるはずだが。

その時、書類を持った人物が奥の部屋から姿を現す。

 

「和人君、おはよう。 和真君も、今日もよろしくね」

 

「おはよう。 七色」

 

俺は片手を上げて挨拶をするが、和真は体を硬直させている。 やはり、トップからの挨拶は緊張するのだろう。

 

「お、おはようございます。 きょ、今日もよろしくお願いします!」

 

和真が深くお辞儀をすると、七色は苦笑した。

まあ確かに、緊張するのは頷ける。 天才科学者、七色・アルシャービンの貫禄はかなりのものだ。 緊張するな。という方が難しいかもしれない。

 

「和真君は、前と同じように書類の整理をして頂戴」

 

硬直しながら和真は頷き、その場へ移動した。

そんな和真を見ながら、俺と七色は苦笑。

 

「さて、わたしたちも研究に移りましょうか」

 

「そうだな」

 

ニューロリンカーは、未だに量産の目途が立っていない。

設計図も、未だに俺たち以外は解析不可能。 簡略化されていない為、他会社に提供できないのだ。

俺と七色は白衣を羽織り、研究室のドアを潜る。 また、研究は三人で行っている。 俺と七色、悠だ。

 

「おはよう。 カズ」

 

研究に取り掛かっている悠が、俺に挨拶をくれる。

 

「おう、おはよう」

 

俺も片手を上げ、それに応える。

悠の隣まで移動し、テーブルに広げられた設計図を見る。

 

「やっぱ、簡略化は難しいか?」

 

「現段階では難しいかもな」

 

設計図を見ながら悠が呟く。

 

「わたしたちの腕の見せ所。ってなるわね」

 

七色が、必要な書類をテーブルの上に置きながら言う。

俺は一息吐き、

 

「さて、始めようか」

 

悠と七色は頷き、俺と七色は機器に手をつけ、悠は再びテーブルに置かれた書類に目を落とした。

数時間が経過した頃、一時休憩を取る事になった。

その時、ドアがノックされ、僅かに扉が開き和真の顔が映る。

 

「お茶が入りました」

 

「おう、今行く。――悠と七色も行くか」

 

俺、悠、七色と順で立ち上がり、研究室を出て、休憩室へ移動した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

休憩室に入り、白衣をハンガーにかけてからソファーに腰を下ろすと、和真が三人分のお茶を持ってきてくれた。

それを各々の眼前に置き、一礼してから退出する。

俺はお茶を一口飲み、

 

「ふぅ、疲れた」

 

「和人君、おじさん見たいよ」

 

七色にそう言われ、俺は肩を落としてしまった。

いやまあ、もう、いい歳だけどさ。

俺たちが一笑した所で、顔を引き締める。

 

「難しいな。 内部研究者を増やすか?」

 

「って言っても、カズ。 ニューロリンカーを解析できるのは、七色さんとオレだけだぞ」

 

「だよな。 今から教えるのは、時間がかかりすぎる」

 

「わたしたちが頑張らないと」

 

七色の言う通りである。

俺は膝を叩いて立ち上がった。

 

「よし! もう一頑張りしますか!」

 

「だな」

 

「ええ」

 

七色と悠も立ち上がり、俺たちはハンガーにかけた白衣を羽織り、休憩室を出て、研究室に戻った。

この後も俺たちは、設計図の簡略化を試行錯誤したが、やはり手詰まりに終わってしまった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺は自身の椅子に座り、帰宅の準備を始めていた。

また社員は、定時になると帰宅。となっている。 基本、社員は残業を行わないのだ。

まあ、俺たちは例外だが。

 

「和真、そろそろ帰るぞ」

 

「わ、わかった。 五分で支度する」

 

そう言って、和真は帰宅の準備に取り掛かる。

準備が整い、俺と和真は扉の前まで移動し、

 

「んじゃ、先に上がる。 お疲れ」

 

「今日はありがとうございました。 お先に失礼しまします」

 

「お疲れ。 気をつけてな」

 

「和人君、和真君。 また明日」

 

悠と七色から挨拶を貰ってから、俺と和真は扉を出てエレベーターに乗り、加速度を殆ど感じさせないまま一階ロビーに到着した。

エレベーターを降りて二重ドアを潜り、会社を後にした。

マンションへ帰路に着いてる時、隣を歩く和真に声を掛ける。

 

「んで、どうだ? 手伝いは慣れてきたか?」

 

「まあなんとか。 まだ、父さんの背中に全然追いついてないけど……」

 

俺は、和真の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「まあ頑張れ。――俺に追いつくって事は、日本トップの開発研究者にならないといけないんだぞ」

 

自惚れかもしれないが、俺、七色、悠は、日本トップクラスの開発研究者と言っても過言ではない。

信頼と信用も凄いが、それと同時に――――重圧も圧し掛かるのだ。

ともあれ、

 

「和真は、将来の就職先をどうするか?とか決まっているのか?」

 

「父さんの会社に就職したいと思ってる。 他の、就職希望先は考えてないかな」

 

「わかってるとは思うが、親のコネで入社はないぞ。 書類選考から面接まで、希望者と同様に扱う。 私情は一切挟まないからな」

 

「それは解ってる。 しっかりと父さんの背中を追いかけるよ。 専門の勉強もちゃんとする。――期待して待ってて。 オレの夢は、父さんたちと一緒にあの研究室で働く事だから」

 

俺、今にも泣きそう……。

最高の親孝行だと思う。

 

「そうか……。 かなり険しい道だと思うが、頑張れよ」

 

和真は深く頷いた。

とまあ、真面目な話はこの変にして、

 

「それで、葵ちゃんとはどうなんだ?」

 

これを聞いた和真は、明後日の方向に顔を向けた。 かなりの動揺が見て取れる。

ちなみに、和真は高校三年生だ。

 

「ふ、普通だよ。 特に変わった事はないかな」

 

「ほう。 孫の顔も早く見れるって事か」

 

俺と木綿季はSAOで結ばれ、大学卒業後に身籠った。という例もある。

和真は顔を真っ赤に染めた。

 

「ちょ、父さん」

 

「悪い悪い、冗談だ。 和真と葵ちゃんは、自分たちのペースがあるだろ。 急ぎ過ぎる事はない」

 

「あれ、でも。 父さんと母さんは……」

 

「俺と木綿季のことか。 そうだな、俺たちは高校生の時から同棲してたしな。 その時から、“好き”じゃなくて“愛”だったからな。 そこが違うんだろうな」

 

「な、なるほど。 勉強になります」

 

俺は苦笑した。

 

「そう言えば、葵ちゃんも東大志望なんだろ?」

 

「オレと紗季、葵と愛華は、東大が第一志望かな。 模試もA判定だし、全員入学は大丈夫だと思う」

 

……俺たちの周りって、皆、東京大学だよね。

優衣と美咲ちゃん、それに子供たちまでとは……。

話をしていたらマンション前に到着した。 マンションも設備も拡張され、完全なオートロックに変更。 エントランスも備え付けられたのだ。 自動ドアを潜り、鞄から鍵を取り出し、専用の場所に鍵を差し込み右に捻ると、内部に設けられているドアが開いた。

エントランスに備え付けられたエレベーター乗り、二階を目指す。 目的の階に到着し、エレベーターから降りてから我が家(二〇一)へ向かい、チャイムを鳴らす。 聞きなれた音が鳴り、僅かに開いたドアから、紗季が可愛らしい顔を覗かせた。

 

「パパ、カズ兄。 お帰り」

 

にっこり笑った顔は、木綿季にそっくりだ。

紗季は、スリッパをパタパタと鳴らしリビングへ向かい、俺と和真も玄関に入り、靴を脱いでからリビングへ向かう。 リビングからは、薄紫色のエプロンをかけた木綿季が、俺を出迎えてくれた。

 

「おかえり、和人。 ご飯できてるよ」

 

木綿季はそう言って、上着と鞄を受け取ってくれた。

 

「いつもすまんな」

 

「も、もう。 それは言わない約束でしょっ」

 

「あ、そうだったな」

 

俺たち夫婦は、誰の目から見てもおしどり夫婦だ。

ともあれ、俺はテーブルの椅子へ座り、コップに注がれたビールを一口。

 

「……生き返るわ」

 

その時、料理をテーブルに置いた紗季が、

 

「……パパ、ジジくさいよ」

 

七色にも言われ、紗季にも言われてしまった……。

……結構くるものがあります。

しゅんとした俺と見た紗季は、苦笑した。

 

「パパ、ごめんって。 今度、紗季が何か作ってあげるから」

 

勢いよく顔を上げる俺。

 

「ほ、本当か!?」

 

「ホントホント。 楽しみにしてて」

 

「お、おう」

 

ご機嫌になった俺を見た和真は、深く息を吐いた。

 

「……父さん。 紗季に弱すぎだよ」

 

「そ、そんなことはないと思うが……」

 

その時、片付けが終わった木綿季がリビングに入って来た。

 

「和人は、紗季ちゃんも溺愛してるからね。 彼氏ができたらどうなっちゃうんだろ?」

 

「なッ!? か、彼氏だとッ!――紗季。 彼氏が……い、いたりするのか?」

 

も、もしいるなら。 俺と、長~いお話(・・)をしなければ。

俺が認めんと、紗季は嫁に出さん!

 

「大丈夫だって、パパ。 わたしのお眼鏡に適う人がいないもん」

 

「そ、そうか」

 

俺はホッと息を吐いた。

 

「さ、ご飯にしようか」

 

木綿季がそう言い、紗季と一緒に料理をテーブルに運ぶ。

運ばれた料理は、酢豚に麻婆豆腐、エビチリに八宝菜、白いご飯だ。――とても旨そうな中華料理である。

皆が座り、用意が整った所で手を合わせる。

 

「いただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

木綿季の音頭に続いて、俺と子供たちが続く。

とまあ、このように食事を摂り、和真と紗季は自室へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺と木綿季も、ソファーに座り食後の休憩。

 

「そうなんだ。 皆、東京大学志望なんてね」

 

「俺もビックリしたな。 まあ、全員合格するだろ」

 

木綿季は頷いた。

 

「だね。 そろそろお風呂に入る? もちろん、ボクと一緒に」

 

「そだな。 行くか」

 

ソファーから立ち上がり、俺たちは自室へ向かった。

これが、桐ケ谷家のとある一日だ――。




桐ケ谷家の一日を書いてみました。
まあ、和人君がほぼメインになってしまいましたが。てか、皆大人になってきたぜ。
つか、周りがほぼ全員東大って、凄すぎだね(笑)
ちなみに、現在普及してるニューロリンカーは、和人君と七色、悠君が創り、世に出した物だけですね。
会社にも研究者はいますが、出来るのはサポートまでです( ̄▽ ̄)

和人君の親バカも書いてみました。
木綿季ちゃんも久しぶりに登場ですね。そろそろ完結?が見えてきたのかな?

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第139話≪家族旅行≫

ども!!

舞翼です!!

気合いで書きあげました。……いやまあ、ネタが尽きてきたからね(-_-;)
今回は、久しぶりに和人君と木綿季ちゃんがメインですね。

てか、君の名は。の映画は最高だね( `・ω・´)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


二〇五一年。 六月。

 

現在、俺たち家族と子供たちの親友の愛華ちゃんは、成田空港に赴いていた。 そう、今日から家族旅行なのである。

旅行先は、一泊二日の北海道である。

俺たちは、ターンテーブルにキャリーバックを預け、小物の荷物を持ち、係員にチケットを見せタームミナルを通り飛行機の内部へ乗り込む。 ちなみに、俺の席の番号はk-2席だ。 もちろん、k-1は木綿季だ。

 

「楽しみだね、家族旅行」

 

「まあな。 最近出かけてなかったしな」

 

数分経過した頃、CAさんの指示に従ってシートベルトを締める。

僅かな重力がかかり、飛行機は離陸を開始した。 事務的アナウンスが流れ、それを追いかけるように、英語で同じ内容が繰り返される。

飛行機が水平になった所で、俺は隣に座る木綿季を見る。

 

「んで、最初は何処に行くんだっけ?」

 

木綿季は、ぷんぷんと怒った。歳を――。と言いたい所だが、現役の大学生に負けない位可愛いのだ。 流石、我が奥さんである。

てか、本人たちはどうか知らないが、明日奈と藍子も大学生で十分通じる容姿だ。

 

「も、もう、昨日話し合ったでしょ。 最初は、釧路(くしろ)市の釧路湿原に行こうって」

 

「……あ、そうだった。 ヤバいな。 ボケが始まってるかも」

 

木綿季は首を傾げた。

 

「そんなことないと思うよ。 和人がボケちゃったら、日本の未来はどうなっちゃうのさ」

 

俺がボケたら、ニューロリンカーの設計等が遅れ、技術進歩が延滞するのは確かだが。

数時間飛行し、窓を開け見た光景は、広大な畑。 間を埋めるように茂る緑の木々。 偶に、真っ直ぐ伸びた道路が見える。

まだ、空港らしきものは見当たらない。

そんな事を思っていたら、機長からアナウンスがあり、徐々に高度を下げていった。 完全に停止し、新千歳空港へ着陸すると、到着を告げるアナウンスが流れる。

俺はシートベルトを外し、大きく伸びをした。

 

「ずっと座ってるのは疲れたわ」

 

「ボクも疲れた……。 歳かな?」

 

そんな事を言いながら、俺たちは席を立ち上がった。

飛行機はターミナルへの接続が完了しているので、前から順番に空港内に移動する。 ともあれ、北海道の地を踏んだと言う訳だ。

 

「パパ、ママ。 こっちこっちー!」

 

ターンテーブル付近で、我が娘の紗季がブンブンと手を振っていた。

まあ、隣に立つ愛華ちゃんが、紗季の額を人差し指で小突いたが。

 

「あんたは、いつも元気いっぱいね」

 

「うぅ。 つい癖で……」

 

「ま、それが紗季の良い所なんだけどね」

 

「えへへ、ありがとう」

 

あれだ。 紗季と愛華ちゃんにかかれば、大抵の男子は落とせると思う。

ザ・唐変朴の俺が言うのだから間違えない。

まあ、男子と付き合う事になっても、俺と、重要なお話が待ってるけど。

 

「父さん、俺たちはOKだよ」

 

「和人さんも木綿季さんも、早く行きましょう」

 

ともあれ、和真と葵ちゃんも合流した。

それから、俺と木綿季も荷物をターンテーブルから取り、空港のロビーを出たのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

子供たちと俺たちは、駅のホームを目指し電車に三十分ほど揺られ、札幌駅へ到着した。

途中の田畑の広がる牧歌的な光景とうって変わり、駅の周囲は建物が立ち並ぶ。 ここだけ見れば、東京駅とは然程変わらないのだ。

 

「夕食の十九時頃にホテルで合流にするか。 場所は解るよな?」

 

俺がそう言うと、パンフレッドを開いた子供たちは、一点の場所に指を差した。

『札幌グランドホテル』。 此処が、俺たちが泊まるホテルの名前である。

 

「OKだ。 んじゃ、時間まで自由行動にするか」

 

とまあ、全員が同意した所で、今から自由行動となったのだった。 ちなみに、大人ペアと子供たちペアに分かれた。

 

「行こっか、和人」

 

「だな」

 

俺たち夫婦は、まずホテルに行き、荷物を部屋に置く事になった。

駅を出て、歩道を通り目的地を目指す。 その間、所々に青々と茂る芝生の帯。 噴水や彫刻が点在し、色鮮やかなパンジーが咲いていた。

どうやら其処は、駅に隣接する公園らしく、噴水の縁に座り読書をする者、近場の店で購入した弁当を食べる者など、穏やかな時間を過ごしていた。

 

「やっぱ、東京とは全然違うな」

 

「だね。 自然も一杯で、雰囲気も空気も、東京とは全然違うかも」

 

数分歩いた所で、ホテルの二十扉前に到着した。

扉を潜りロビーに入ると、鍵を受け取る為受付を目指す。 予約等の確認を取ってから鍵を受け取り、エレベーターを上がり指定された部屋へ向かう。 ちなみに、部屋番号は九〇一号室だ。

部屋はダブルルームだが、木綿季と二人で使用するには十分すぎる位だ。 部屋に入り、ベットの横に荷物を置く。

 

「……写真で見たのと比べると、大分デカクないか?」

 

「う、うん。 かなり大きいかも」

 

だよな。と同意し、俺たちは釧路市の釧路湿原に行く準備をする。

準備が整った所で、部屋を出て鍵閉める。 ちなみに、このホテルもオートロック完備らしい。 てか、殆んどのホテルはオートロック完備なんだが。

ともあれ、エレベーターに乗りロビーへ向かい、扉を潜って外に出て、再び札幌駅へ向かう。 改札を潜り、電車に乗り目的地である釧路駅へ向かう事になった。

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

釧路駅へ到着し、改札を出てから、釧路湿原へ向かう交通初段を用いて目指した。

釧路湿原に到着すると、観光客等がちらほら見受けられた。 てか、釧路湿原を一言で表すと、京都の清水寺のような感じである。

ちなみに、俺たちは手摺に手をかけ、緑を見渡している。

 

「にしても、凄ぇ光景だな」

 

「うんうん! 来て良かったよっ!」

 

木綿季は、かなりテンションが上がってるらしい。

まあ、ずっと時間が合わなくて、二人で出掛ける。と言うのも随分となかったから、当然と言えば当然だ。

てか、俺もそうなんだし。 恥ずかしいので、顔には出さんが。

 

それから、観光客に頼んで、ツーショット写真を撮ってもらった。

このようにして釧路湿原を後にした俺たちだが、駅への帰り道で、木造で昔ながらの店を目にしたのだ。

北海道でよく目にするガラス店である。

 

「行ってみるか?」

 

「うん、行ってみようか」

 

そう言って、俺たち夫婦はお店の扉を潜り店内に足を踏み入れた。

木造造りの店内には、所狭しとガラス製品が並べられていた。 コップやワイングラス、ダンブラーや水差しのようなもの、動物を象った置物などもある。

赤、青、緑、紫、黄色と、色鮮やかであった。

 

「……綺麗だね」

 

グラデーションのかかった水色グラスを手に取り、木綿季はそう呟いた。

 

「ああ、東京じゃお目にかかれないな。 これは」

 

「どうですか。 当店自慢の一品なんですよ」

 

そう話しかけて来たのは、五十代前半のお爺さんだ。

長年の職人。と言う感じがする。

 

「あ、はい。 とても綺麗ですね」

 

「ほっほっほ。 それはありがとうございます」

 

俺がそう言うと、お爺さんは笑うだけだ。 何とも愉快なお爺さんである。

 

「それにしても、君たちはカップルかい?」

 

……うん、やっぱりそう見えるんだね。

まあ、このやり取りにはもう慣れたけど。

 

「夫婦ですね。 今日は家族旅行で北海道に来てるんです」

 

「ちなみに、ボクたちは三十代ですよ」

 

お爺さんは目を丸くした。

 

「いやはや、これは失礼」

 

ぺこりと頭を下げるお爺さん。

 

「いえいえ、もう慣れましたよ」

 

「今日もあったしね」

 

そう言って、俺と木綿季は笑った。

すると、お爺さんは右手を顎に当てた。

 

「ふむ。 思い出に一品プレゼントしようかね。 やはり、ペアグラスがいいかね?」

 

「「へ?」」

 

俺と木綿季は同時に声を上げた。 いやまあ、お言葉に甘えさせてもらったが。

店内を見て回り、俺たちが選んだグラスは、俺は青色のグラス。 木綿季は紫色のグラスだ。

それを袋に入れてもらい、

 

「大事に使わせてもらいます」

 

「お爺さん、ありがとう」

 

玄関前でそう言って、俺と木綿季は頭を下げた。

此れを見たお爺さんは、愉快に笑ってくれた。

再び頭を下げてから、俺と木綿季はガラス店を後にしたのだった。 その間、俺たちの胸の中には、プレゼントしてくれたグラスが大事に抱えられていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

現在の時刻は夜の十八時を回る頃。 その間に、俺たちはバスや電車等を乗り継ぎ、最後の目的地に到着した。

其処は、函館山の展望台の駐車場付近である。 階段を幾つか上がると、完全に遮蔽物が消え夜景がライトアップされていた。

 

「噂には聞いてたけど……」

 

「……うん、凄い綺麗」

 

俺と木綿季は感嘆な声を上げた。

展望台から見る函館の街は、とても幻想的である。 観光客も来ているのか、あちらこちらから感動な声も上がっていた。

奥を見てみると、見知った人影が四つ映った。

 

「皆、考える事は同じかもな」

 

どうやら、木綿季も気づいたらしい。

そう。 その四つの人影とは、和真、紗季、葵ちゃん、愛華ちゃんの者だったのだ。

 

「ふふ、そうだね」

 

その後は、和真たちと合流し、一緒にホテルに帰るとなった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ホテルに到着し、一階のバイキングを皆で食事を摂った後、各自風呂に入って就寝。と言う事になった。

ちなみに、このホテルには混浴があったらしいので、俺たち夫婦は一緒に入ったが。

んで、俺が外で涼もうと思っていたら、和真とバッタリ会ったのだ。

ロビーに備え付けられてる自動販売機からブラックコーヒーの缶を二本購入し、

 

「ほれ」

 

その一本を、来客用ソファーに腰を下ろしている和真に渡した。 俺も向かいのソファーに腰を下ろし、向かい合わせに座る。

俺はプルタブを開け、コーヒーを一口飲んでから、前のテーブルに缶を置いた。

 

「和真が相談とは珍しいな。 どうかしたのか?」

 

和真はモゴモゴして、中々口を開こうとしない。

 

「いや、あの、えっと」

 

「お前にしては、歯切れが悪いな。 葵ちゃんのことか?」

 

俺がそう言うと、和真は顔を赤くした。

どうやら、図星が的中したらしい。 流石、自分以外には鋭い俺である。

和真も、意を決したらしい。

 

「オレって、葵と親公認の婚約者だよね」

 

「そうだな。……ああ、なるほど。 婚約者でも、プロポーズはしてないと」

 

再び和真は口を閉ざしてしまった。

又しても、図星を的中したらしい。

 

「……どうすればいいかな? 父さんのアドバイスが欲しくて。 指輪とかも用意してないし……」

 

俺は、テーブルに置いたコーヒーを一口してから口を開く。

 

「うーん。 まずは指輪とかは関係なく、自身の想いをぶつける事。 あとそうだな。 飾り付ける必要はないぞ、自然体が重要だ。……アドバイスになるか解らんけど。 てか、俺と木綿季の場合はほぼ逆だったからな」

 

「……逆?」

 

和真が首を傾げる。

 

「前に話しただろ。“好き”じゃなくて“愛”って。 俺たちは愛から始まったから、ほぼ逆って事だ。 その時から、俺たちは自然体だったぞ」

 

まあ、合ってるか解らんが。

てか、俺の偏見かもしれんしな。

 

「……自然体でいつも通りに、か」

 

「まあそうだ。 苦労も修業のうちと思って頑張りたまえ、若者よ」

 

うん、クラインの言葉っぽいな。 多分だけど。

 

「ありがとう、父さん。 頑張ってみるよ」

 

「その息だ。 さて、そろそろ寝るか」

 

このようにして、父親と息子の相談が終了したのだった。

俺はそのまま和真と分かれ、エレベーターに乗り、九〇一号室へ戻ったのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

俺が部屋に戻ると、寝巻を着た木綿季が椅子に座り、備え付けつけられている鏡を見ながら黒髪をとかしていた。

 

「カズ君とお話だったの?」

 

「まあな。 葵ちゃんの事だ」

 

木綿季は、うんうん。と頷いた。

 

「なるほどね。 プロポーズ関連かな」

 

「そんな所だ。 アドバイスを求められたが、今一出来たかわからん」

 

木綿季は苦笑した。

 

「ボクたちは、トントン拍子だったからね」

 

「だな」

 

大学生にほぼ入りたてで籍を入れ、その直後に同棲だ。

世間一般では、かなり早い方だと思う。

 

「あ、そう言えばね。 紗季ちゃんと愛華ちゃんは、二人暮らしをしたいんだって。 どう思う?」

 

「いいんじゃないか。 大学付近のマンションで、オートロック完備なら心配いらないしな。 和真と葵ちゃんもか?」

 

俺の予想では、まだ先になると思う。

二人とも、かなりの奥手なのだ。

 

「それはまだかな。 葵ちゃんは、『色々と覚悟をしないといけませんから』とも言ってたしね」

 

「なるほど……。 うん、察したぞ」

 

「ふふ、鈍感さんが察せるなんてね。 偉い偉い」

 

「……いや、まあ、経験上」

 

俺も木綿季と暮らし始めて数ヵ月が経過した頃、色々タガが外れてしまったので。 はい……。

葵ちゃんの『覚悟』は解るんですよ。

 

「うん、あの頃は色々と大変だったかも」

 

「……うぅ。 申し訳ないです。 あの頃は、色々と制御が効かなくて……」

 

ちなみに、今は完全に制御可能だ。

何がって。 それは内緒だ。

 

「そろそろ寝ようか。 明日は早いからね」

 

「おう、そうだな」

 

ベットに横になる俺たち夫婦。

もちろん、同じベットだ。 毛布を上にかけ、向き合う形を取った。

 

「今日の為に、有給休暇をとってありがとうね、和人」

 

「ま、愛する妻の為だ。 出来る範囲なら、叶えてあげたいからな」

 

「ありがとう、和人。 愛してるよ」

 

「俺も愛してる。 これからも宜しくな、木綿季」

 

誓いの言葉を口にした後で、俺と木綿季あどけないキスをし、眠りに就いたのだった。

北海道家族旅行は、こうして終わりを迎えた――。




いまだに大学生に間違われる桐ケ谷夫婦(笑)
何というか、凄いっス。
ちなみに、愛華ちゃんは家族同然ですね。大の親友ですし(^O^)
後、子供たちは東大に合格してますよ。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記。
北海道の地理には詳しくないので、そこら辺は突っ込まんといてください(^_^;)
優衣ちゃんは大学諸々で、参加出来なかったんス。

再び追記。
後日談=アリシなので、其処はご了承くださいです<m(__)m>


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第140話≪プロポーズ≫

ども!!

舞翼です!!

早めに更新出来てよかったです(^O^)
甘く書いたつもりだけど、甘く書けたかな。甘々を意識して書きました!

では、投稿です。
本編をどうぞ。


オレと葵が付き合って、今日で五年だ。

そう、今日は記念日として葵とデートする事になっているのだ。 待ち合わせ場所は近場の公園だ。

 

オレは、公園に備え付けられているベンチの上に座っている。

オレの服装は、VネックにTシャツに、黒いデニム、黒いスニーカ。 父さんと同じ真っ黒装備である。

 

「あ、和真君。 待ったかな?」

 

首を小さく傾げ、葵がそう聞いてくる。

葵は、白いワンピースに黒いタイツと言った清楚系だ。 いつもは流している黒髪も、シュシュで纏められサイドポニーであり、肩にはブラウンのショルダーバックが下げられている。

 

「いや、待ってないぞ」

 

「ど、どうかな? 最初のデート時みたいにしたんだけど」

 

「似合ってるぞ。 可愛いな」

 

オレは立ち上がり右手掌を、葵の頭にポンと乗せた。

 

「えへへ、ありがとう」

 

葵は、甘えるように微笑んだ。

最初の頃は、顔を真っ赤にしたオレと葵だが、今では慣れたやり取りである。

 

「んじゃ、行こうか」

 

「うんっ!」

 

オレと葵の手は自然と握られた。

ちなみに、恋人繋ぎだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

東京駅に到着したオレと葵は目的地に向かう為、改札でSuikaをタッチさせ駅内へ入り電車に乗り込む。 品川駅へ到着し、品川駅を背にして左側の横断歩道を渡りながら、アクアパーク品川へ到着した。 二十扉を潜り、受付で大人二枚の入場券を購入し内部へ足を踏み入れた。

内部に入りオレたちを待っていたのは、虹色に輝く魚群と水槽に投射された美しい映像。 そして、洗練されたアートフラワーがコラボレーションした、アクアパークを象徴するウェルカムスペースだ。

 

「凄いな」

 

「そうだね」

 

オレと葵は、若干薄暗くなったウェルカムスペースを見渡しながら、そう呟く。 受付で貰ったパンフレッドを開くと、葵が一点の場所を指差した。 ジュリーフィッシュランブルと言う場所だ。

そこは、時間や季節ごとに変わる音と光で演出された、幅9m、奥行35mという大空間で、神秘的な世界を体感出来るらしい。 オレは片膝を突き、左手掌を前に差し出すように出す。

 

「どうぞ、お姫様」

 

「あ、ありがとう。 かz……じゃなくて、王子様。――うぅ、やっぱり恥かしいかも……」

 

葵は、オレの左手掌を優しく握ってくれた。 肌と肌が触れ合い、オレたちの温もりを感じた。 オレの目の前には、大好きな人がいるのだ。 オレは立ち上がり苦笑した。

 

「悪い悪い。 ついな」

 

葵は頬を赤く染めながら、

 

「ば、バカ」

 

「可愛く罵倒されても怖くないぞ。 やっぱ、葵は可愛いわ」

 

「……んん、和真君はカッコいいよ」

 

どうやら、葵の反撃らしい。

でもまあ、オレには効かないんだが。

 

「おう、サンキューな」

 

「……やっぱり勝てなかったよ」

 

葵はしゅんとした。

 

「いや、何にだよ」

 

「い、色々だよっ」

 

そう言いながら、オレと葵はジュリーフィッシュランブルへ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ジュリーフィシュランブルは、内部が僅かに暗く、音と光の織りなす癒しの空間だ。 天井部にも様々な色で彩られた提灯が下げられている。 その光景は、とても神秘的だ。 様々な場所に備え付けられた円形の水槽の中では、ふわふわとクラゲが泳いでいる。

また、水槽の色も、赤や青、オレンジや黄色と、様々な色で輝いていた。

 

「……これは凄ぇな」

 

「……うん。 とっても神秘的だよ」

 

オレと葵は感嘆な声を上げた。 想像してた光景より、迫力があった。

 

「……でも、クラゲが多すぎなような。 刺されちゃうよ」

 

「ま、またそんなこと言う。 わたし、デジャブったよ」

 

確かに、このやり取りは、シャンサイン水族館であったのだ。

あの時も、クラゲの数が多かったのを覚えてるぞ。

 

「す、すまん」

 

「もう、しょうがない旦那さんなんだから」

 

「……いや、まだ旦那じゃないぞ。 将来的にはそうだけど」

 

「…………あ」

 

葵の顔が徐々に紅潮していく。 煙が上がりそうだ。

どうやら、無意識に口にしたらしい。

 

「い、今のは聞かなかったことでお願いします」

 

ぺこりと頭を下げる葵。

 

「まあいいけど。 嫁さんや」

 

「も、もう。 バカっ」

 

そう言ってから、オレと葵はジュリーフィシュランブル内部の周囲を回った。

その間葵は、わあっ。と声を上げていた。

ジュリーフィシュランブルを見終わり、次に向かった場所は、アトリウムエリアだ。 ここは、水槽と花をスタイリッシュに配置したようなエリアである。 魚たちとアートフラワーが織りなす、色鮮やかな空間がとても綺麗である。

 

「ここも綺麗だな」

 

「そうだね。 様々なお魚が泳いでる」

 

オレたちは、このエリアを堪能してから、設けられているカフェへ移動した。

そのカフェ内部も、ブラックライトに照らされ、作り物のサンゴが放つ光によって創り出される幻想的な雰囲気だ。 カフェラテとキャラルラテ購入したオレは、葵の座るテーブルまで移動し、向かい合わせになるように腰を下ろした。

 

「凄いね」

 

葵は周りを見渡しながら、そう呟く。

 

「そうだな」

 

オレはカフェラテを飲みながら、そう呟いた。

飲み物を半分飲んだ所で、葵が口を開く。

 

「和真君。 わたし、カフェラテを飲みたいかも。 いいかな?」

 

「いいけど。 キャラメルラテと交換するか?」

 

「それでOKだよ」

 

そう言ってから、互いのラテを交換し、一口した。

 

「わかってたけど、キャラメルは甘いな」

 

「カフェラテは、わたしには苦いかも」

 

「そうか? オレには甘く感じるけど。 今度から、ブラック固定にしよう」

 

「げっ、あれ苦くて飲めないよ」

 

葵は舌を、ぺろっと出した。

一度、葵もブラックコーヒーを飲んだ事があるのだが、苦くて途中で飲むのに断念したのだ。

 

「お子ちゃまだな、葵は」

 

「ぶーだっ。 わたしはお子ちゃまですよ」

 

葵は頬を膨らませた。

怒っているらしいが、オレは愛らしく想うだけだ。

 

「そう怒るなって。 オレが悪かったから。 わかった、一つだけ何でも聞いてやる」

 

「ホント? 約束だからね」

 

「……際どいのは無しだからな」

 

念の為、釘を刺しておく。

まじ……。って事にならないようにだ。

 

「わかってるって。 安心して」

 

「頼むぞ。 んじゃ、二階に行こうか」

 

「りょうかいです!」

 

オレたちは立ち上がり、ゴミ等を片してから二階へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

階段で二階に上がり最初に赴いた場所は、リトルパラダイスである。

ここには、色とりどりの熱帯魚やサメたちの水槽、テーマに合わせて水槽が変わり、九個の水槽群ゾーンだ。

 

「凄い! 水槽がこんなに大きいよ!」

 

「まあそうだな」

 

ちなみに今見てる水槽は、サメの水槽である。 てか、一緒に泳いでる小魚は食われないのだろうか?

正直なオレの疑問である。

 

「サメさん、大きいね。 食べられちゃいそう」

 

「サメは、扱いを間違えたら危険だしな。 まあでも、カッコいいけど。 海の王者?だしな」

 

「ふふ、そこは曖昧なんだね」

 

「ま、まあな。 海の知識はあんまないからな」

 

ともあれ、一通り見た所で、次の場所へと移動したオレたちだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

次に訪れた場所は、天窓からの自然光が差し込む、長さ約20メートルの海中トンネルだ。 ドワーフソーフィッシュを始め、ナンヨウマンタ、それぞれの形や模様をした、約10種のエイたちが泳いでいる。 まさに、海に入ってる感覚である。

 

「……何か、襲われそうで怖いわ。 まあでも、凄いの一言だな」

 

「そうだね」

 

そう言いながら、オレと葵は海中トンネルを歩いて行く。 時折、マンタやエイが頭上を通り、ちょっと怖かったけど……。

トンネルを出た所で、オレは息を吐いた。

 

「結構回ったな。 あと行きたい所あるか?」

 

「んとね。 フレンドリースクエアに行ってみたいかも。 写真も撮れるらしいよ」

 

「ほう。 何か興味が出てきたわ」

 

「じゃあ、行こうか」

 

葵に手を引かれるオレ。

 

「ちょ、待てって。 急がなくても、居なくならないと思うぞ」

 

「いいの。 早く行こう」

 

ともあれ、屋上に向かったオレたちであった。

屋上に向かうと、そこにはアシカやオットセイ、ペンギンなどがパフォーマンスを繰り広げていた。

 

「……頭良すぎだろ。 ペンギンたちよ」

 

これが、オレの第一声だった。

葵は苦笑し、

 

「イルカやシャチもだよ」

 

と、突っ込みをもらったオレだった。

パフォーマンスが終わり、触れ合いの時間になった。 葵は、ペンギンたちに歩み寄りじゃれあっていた。

何と言うか、このような姿を見るのは久しぶりなので、とても新鮮である。

オレは、スマホを撮影モードに切り替えた。

 

「葵。 こっち向いてくれ」

 

カシャ。と音が鳴り、撮影完了だ。

オレは画像を見ながら、

 

「うん、良く撮れてる」

 

葵も画像を見ながら、

 

「バッチリだね。 和真君、今度はアシカさんね」

 

「おう」

 

このように、オレと葵の写真撮影が開始されたのだった。

ツーショット写真も欲しかったので、観光客にお願いして、数枚撮って貰った。 葵は、この写真を待ち受けにするらしい。 見られたら恥ずかしくないのだろうか? オレの待ち受けなんか、彗星の画像だし。

最後は、ザ・スタジアムでイルカショーだ。

このイルカショーは、360度から見る事が出来るスタジアムであり、直径約25mの円形プール。

さまざまな模様のウォーターカーテンや照明などで彩られるのだ。

ショーを見ながら、オレが呟いた。

 

「他の水族館とは別格だわ」

 

「そうかも」

 

オレと葵は、終始イルカショーを見いっていた。

イルカショーが終了し、最後は締めのお土産選びである。 再び一階に移動し、売店へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

売店には、イルカやアシカのぬいぐるみ。 イルカやヒトデのネックレス、文具や食べ物と、様々な物が置かれていた。

 

「このイルカのぬいぐるみ、アクアパーク限定だって」

 

葵が手に取ったぬいぐるみは、胸の中に収まる大きさといった所か。

 

「うし、それ買うか」

 

「いいの?」

 

「いいぞ。 にしても、大学生になっても、ぬいぐるみが好きだとは」

 

葵は、むっとした。

 

「みんな好きだもんっ」

 

「はいはい、わかってるって」

 

そう言って、会計に向かうオレたち。

代金を払い、売店を出て、出口を潜り水族館から出た。 だが、オレにはこれから――――最大のイベントが待っているのだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

現在の時刻は、夜の19時だ。

そして今いる場所は、晴海臨界公園の水辺のテラスである。 オレと葵は、手摺に握りながら海を見ている。

 

「(……メッチャ緊張するんですが。 父さん、良く平気だったな。 凄いわ……)」

 

そう。 これこそが最大のイベント――――プロポーズである。

ちなみに、指輪も用意してある。 手伝いで貰った給料を使用し、購入したのだ。

オレは深く息を吐き、

 

「……葵、大事な話があるんだが」

 

「ん、どうしたの?」

 

向かい合わせになる、オレと葵。

 

「……えっとな」

 

……やっべ、緊張で言葉が続かないッ。

オレは意を決し、右手でポケットから小さな紫色の箱を取り出す。 それを前に出し頭を下げる。

 

「……ずっと好きでした。 結婚してくだしゃい(・・・)

 

………………………………………………………あー、やっちまった。 あそこで噛むとか、どんだけだよッ! マジでありえないぞ、オレ。 何だよ、しゃいって。 さいだろうが……。 ほら、葵もクスクス笑ってるじゃん。 やべー、死にたい……。

 

「ふふ、わたしでよければお願いします」

 

そう言って、指輪を受け取ってくれる葵。

 

「嵌めてくれる?」

 

葵は箱から指輪を取り出し、オレに渡してくれる。

オレは左手薬指に、指輪を嵌めた。

 

「似合ってるよ、幸せにする」

 

「うん、お願いね」

 

そして、二つの影が一つになった。

二人の影は、ライトアップされた輝きに照らされていた――。




甘く書けただろうか?今一わからん。これは置いといて。
和真君。ついに、プロポーズしましたね。……最後の最後で失敗しちゃいましたけど(笑)
帰りに、葵ちゃんに弄られたんでしょうね(笑)

和真君と葵ちゃんはゴールイン?ですね。やったね☆
水族館等は、ズレがあったらごめんなさいです<m(__)m>

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記。
書いててSAO編超えるんじゃね。と思ったのですが、ほぼネタ切れです……。次回の更新は遅れるかも……。




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第141話≪温泉旅行≫

ども!!

舞翼です!!

いやー、更新が早く出来ちゃいました。ネタがすぐに思いつきまして(笑)
今回は、キリ×ユウで書きましたよ。頑張って書きました。
ちなみに、この話を書いてる時、作者はブラック必須したね。読者の方によっては、必要になるかも(笑)

では、投稿です。
本編をどうぞ。



二〇五二年。 九月。

 

「二人で旅行も久しぶりだな」

 

「だね。 皆、大人になっちゃったから」

 

子供たちは、ほぼ大人と言っていい。

子供たちは大学に入学し、俺たちから巣立って行ったのだ。……ちょっと寂しい気持ちもあるけど。

そして今俺たち夫婦は、箱根湯本に訪れている。 一泊二日の温泉旅行である。

周りを見渡すと、歴史ある建物や雰囲気がある。

小さな路地に入ると、そこには、紅葉の木が俺たちを歓迎してくれるかのように鎮座している。

 

「この場所、夜になったらライトアップされるらしいぞ。 夜になったらまた来るか?」

 

「その案に賛成だね」

 

木綿季は、綺麗だろうなー。と言いながら周りをぐるりと見渡した。

好奇心旺盛な所は、昔も今も変わらない。 ま、そこも可愛いだけど。

ボストンバックの紐を肩にかけた俺たちは、まずは荷物を置く為、本日泊まる旅館へ向かった。

もちろん、俺は木綿季の歩調に合わせてだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

到着した旅館の周りも、自然が溢れていた。

うむ。 マイナスイオンが凄い気がするぞ。 取り敢えず、旅館の玄関を開けると、女将さんが俺たちの到着を待っていたように姿を現す。

 

「いらっしゃいませ。 湯原四季へようこそ」

 

そう言って、ぺこりと頭を下げる女将さん。

 

「えっと、一泊の予約をした桐ケ谷ですけど」

 

「桐ケ谷さまですね。 たしかに請け賜っております。 それではお部屋にご案内します」

 

女将さんの後を追い、階段を上がってから予約した部屋へ向かった。

また、旅館の造りも昔ながらを醸し出してる。

 

「こちらのお部屋になります。 鍵はカード式になっておりますので、外出の際はフロントにお預けください。 お夕食は17時から18時の間にお申し付けください。 では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

 

丁寧にお辞儀をして、女将さんは襖を静かに閉めた。

二人になった所で、部屋を見渡し一息ついた。 窓から見える景色は緑豊かで、凄いの一言だ。 つか、この旅館には、混浴露天風呂があるらしい。 ほぼ使用するお客は居ないらしいが。

 

「……京都も凄かったけど、こっちも凄いよ」

 

そう言って、木綿季は窓を開けた。 前に乗り出すように外の景色を見入っていた。

俺は、危ないぞ。と言い、木綿季を支えるように腰に手を回してから、外の景色を見る。 時折、心地良い風が俺たちの頬を撫でる。

 

「……気持ちいね」

 

「そうだな」

 

顔を合わせあどけないキスをしてから、木綿季が窓を閉め、部屋の左にある襖を開けた。

中には布団一式が二つだ。

ちなみ、この部屋の床は畳みである。

 

「布団で寝るの、久しぶりじゃないか?」

 

「そうかも。 いつもベットだからね。 お布団で寝るのは、新婚旅行以来かな?」

 

「かもな。 ま、取り敢えず座ろうぜ」

 

そう言って、中央に設けられたテーブルの椅子に座る俺たち。 ポットのお湯は既に沸かれていて、後は急須に茶葉を入れ湯呑みに注ぐだけだ。

ちなみに、俺と木綿季は向かい合わせになるように座っている。

 

「はい、和人」

 

「おう、サンキュー」

 

俺はお茶を一口飲み、息を吐いた。

 

「何かなごむわ」

 

「和人、おやじくさいよ。 ぼ、ボクにとっては、カッコいいけど……」

 

「お、おう。 木綿季も俺にとっては可愛い奥さんだ」

 

俺たちは、ぷっ。と笑い合った。

 

「最初の頃は、恥ずかしさで顔が真っ赤だったかもな」

 

「そうだね。 うん、絶対」

 

俺は、木綿季の手を包み込むように優しく握った。 細くて、とても綺麗な指だ。――俺が辛い時、苦しい時、いつも彼女の手が支えてくれたのだ。 SAO開始時から、現在に至るまでだ。

 

「ん? どうしたの?」

 

木綿季は首を小さく傾げ、そう聞いた。

 

「いや、木綿季に沢山助けてもらったのを思い返してな」

 

木綿季は頭を振った。

 

「ううん、ボクも和人には助けてもらってたんだよ。 和人は気づいてないかもだけど。 ボクも、子供たちもここまで来れたのは、和人が居てくれたからなんだよ。 いつもありがとう」

 

「……そうか。 俺こそ、いつもありがとう。 大好きだぞ、木綿季。 愛してる」

 

「ボクも、永久に愛してるよ」

 

二人の空間へ入りそうになったが、ここに来た趣旨は温泉旅行である。

ならば、観光しなければもったいなのだ。 二人の世界を創るのは、いつでも出来るのだから。 かけ時計を見ると、まだ14時だ。 夕食の時間まで、後3時間ある。

 

「んじゃ、観光しますか。 家に帰れば、いつでも出来るしな」

 

「ふふ、そうだね」

 

俺たちは立ち上がり、必要な物をバックに入れてから部屋を出て鍵を閉めた。それから、一階に下りてフロントに鍵を預け、自動ドアを潜り旅館を後にした。

自然に溢れた路地を通り向かった先は、玉簾の瀧だ。 細かく美しい水が流れ落ちてる。

それを手摺に手をかけながら、俺は木綿季と見ていた。

 

「なんつーか。 綺麗な場所が、今もあるとはな」

 

「そうかも。 今はかなり時代が進んで、自然が少なくなってきたから。 でも、北海道はまだあったね」

 

「そうだな」

 

この場所を写真に収めてから、次の観光場所へ向かう。

ここは、木綿季の強い希望で向かった場所だ。 そう、足湯だ。 まあ確かに、温泉巡りと言えば、足湯は必須なのかもしれない。

俺たちは、靴、靴下を脱ぎ、木製の縁に座りながら、両足を温泉の中へ浸けていた。 何と言うか、疲れが吹っ飛ぶほど気持ちいです。

 

「何か落ち着くわ」

 

「気持ちいねー」

 

「そういえば、和真も正式な婚約者になったなら、葵ちゃんと同棲すればいいのにな」

 

そう。 和真、大学付近のマンションの1kを借り、そこで一人暮らしをしている。 葵ちゃんと同棲するのは、二十歳を超えてかららしい。 それまで、料理スキルを上げると言う事だ。

葵ちゃんは、実家から。という事だ。 まあ、和真が迎えに行ってるらしいが。

 

「北海道で言ったけど、本人たちの覚悟とか、その他諸々があるんだろうね。 ボクは、ずっと昔からできてたから」

 

「やっぱそこだよな。 俺たちが例外だったのかなぁ」

 

「みんなより早かったのは、確実だと思うよ」

 

「まあ、それには同意する」

 

木綿季が湯船から片足を上げた。 それによって、水滴が滴り落ちる。

それにしても、白くて綺麗な足である。 顔も可愛いし、スタイルもいいので、三十代とは思えないと言うのが俺の感想だ。

 

「もう、見すぎだよ。 バカっ」

 

……視線に気づかれた。 女性はこう言うのには過敏って言うけど、その通りなのかもしれない。

 

「いや、いつも見てるだろ?」

 

「そうだっけ? 最近はお風呂に一緒に入ってないよ?」

 

「……まあ、俺の脳内保存って考えてくれ」

 

「ふーん、なるほど。 和人はいつもそんな事考えてるんだ」

 

悪戯な笑みを浮かべながら、俺の顔を見る木綿季。

俺は僅かに取り乱した。

 

「ちょ、違う。…………いや、違わないけど」

 

……うん、最後に同意しちゃったよ。 俺のバカ野郎。

そんな俺を見た木綿季は苦笑した。

 

「気にしなくていいよ。 夫婦なんだから」

 

「盛大な配慮、ありがとうございます。 つか、周りのお客が居なくなってるんだが、何で?」

 

そう、数人居たお客の姿がないのだ。

違う観光場所へ行ったのだろうか?

 

「うーん、何でだろ。 わかんないや」

 

首を傾げる俺と木綿季。

ともあれ、足湯を堪能した所で程良い時間になり、旅館に戻った俺たちであった。 その間、俺の左腕に木綿季は抱き付いていたけど。

未だに、二つの膨らみを押し当てられるのには慣れない俺だった。 その辺は、俺の鋼の理性で何とかなった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

旅館へ戻り、フロントで部屋の鍵を受け取ってから予約した部屋に戻った。

時刻は17時半。 夕食には丁度いい時間体である。 フロントに電話をして、食事の件を伝えた。 数分後、女将さんと従業員さんがお盆に乗せ、四季折々をふんだんに使用した料理が運ばれた。

向かい合わせにテーブルの椅子に座り、手を合わせてテーブル上の料理に手をつける。 うん、味が染み込んでて、どの料理も旨い。

 

「和人。 あーん」

 

木綿季が箸で掴み、俺の口許に持ってきた料理は、しゃぶしゃぶの豚肉だ。

ちなみに、ゴマダレが染み込ませている。

 

「お、おう。 あーん」

 

豚肉を食べ、もぐもぐと食べる俺。

 

「どう、美味しい?」

 

俺は豚肉を飲み込んでから、

 

「ああ、旨い。 旨さが倍増でもある」

 

何でかって、木綿季が食べされてくれたからである。

ともあれ、次は俺の番だ。

俺もしゃぶしゃぶの豚肉を箸で挟んで、木綿季の口許へ持っていく。

 

「あーん」

 

「あーん。……ん」

 

もぐもぐと食べ、豚肉を飲み込んで、木綿季が口を開く。

 

「うん、美味しいよ。 和人の味がする」

 

俺は苦笑した。

 

「俺の味って、どんな味だよ。 てか、エロい響きだぞ」

 

「ぼ、ボクが、え、エロい。……そうかもしれないけど」

 

「認めちゃうのかよ!」

 

「和人、ナイス突っ込みだよ」

 

どうやら、先程のは漫才の一種だったらしい。 何と言うか、俺の心臓にあまり宜しくないかと……。

ともあれ、時には食べさせ会いながら、美味しく料理を頂きました。 食べた後は露天風呂。と行きたい所だが、まだ見てない場所があるのだ。

食後の休憩を挟んでから、その場へ向かう為旅館を出た。

そう、夜になったらライトアップされる紅葉に囲まれた場所だ。 小さな路地に入り周りを見渡すと、時折吹く風によって、紅葉の葉がゆらゆらと舞っていく。 俺たちはこの光景に目を奪われた。 紅葉の葉が光に照らされ、綺麗に輝いていたのだ。

 

「……凄いわ」

 

「……うん、とても幻想的だよ」

 

思わず、隣に立つ木綿季の手を繋いでしまう。 木綿季も握る力を若干強めた。

暫し景色を眺めてから、手を繋ぎながら旅館へ戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「えっと、バスタオルは……」

 

「あ、浴衣もあったよ」

 

旅館に戻って来た俺たちは、必要な物を用意しながら、風呂の準備を進めた。

んで、もちろん混浴だ。

用意が完了した所で、温泉へ向かう。 どうやら、脱衣所は男女分かれているらしい。 とまあ、脱衣所で衣服を脱ぎ、タオルを巻いて扉を開け、混浴風呂へ足を進める俺。 てか、思ってたより広いわ。

 

一先ず背中合わせになって、体を洗う。 まあ、別に背中合わせじゃなくてもよかったんだけど。

体を洗い終わった所で、脇の石段の縁へ置く。 それからお湯に浸かった。 あー、いい湯だな。……やべっ。 今のオッサンぽい発言かも……。

 

「和人、横に入るよ」

 

「いいぞ」

 

木綿季は、俺の左側に浸かった。 木綿季が浸かり、僅かにお湯が湯船から溢れる。

空を見上げると、星が輝いていた。

 

「東京では見れないな」

 

「だね」

 

穏やかな時間が流れる。 その間、肌と肌が触れ合い、お互いの体温を感じる。 つか、木綿季さん。 くっつきすぎじゃないですか?

 

「あ、和人。 変な所触ったらダメだよ」

 

「大丈夫だ。 そこら辺は弁えてるから。 てか、フラグはやめなさい」

 

「ふふ、そうだね」

 

そう言って、木綿季は俺肩にコテンと肩を乗せた。

まあそれはいいんだが、胸が見えるようで見えない感じになっているのだ……。

 

「……お前、わざとだろ」 

 

「あれ、バレちゃった」

 

「まったく、最初の頃の俺だったら、完璧に襲ってたわ」

 

「うん、完璧に狼さんになってたね」

 

それから数分間お湯に浸かり、それぞれの脱衣所で浴衣に着替え風呂場から出た。

僅かに、理性がガリガリ削られたのは秘密である。 途中で木綿季と合流し、一緒に部屋に戻った。 部屋に戻り、押入れから布団を取り出し、床に敷く俺たち。

毛布も上に乗せ、就寝の準備の完了である。

 

「疲れたわ、寝るか」

 

「食べてくれないの?」

 

「流石にここでは、な」

 

「それは残念」

 

軽い口調だな、木綿季さんや。

まあそう言う事なので、俺は電気を消した。 寝るんだが、木綿季が俺の布団に潜り込むのはなぜ?

まあいいけど。

 

「やっぱり、一緒に寝た方が落ち着くかも」

 

「俺も否定はしない」

 

そう言ってから、俺たちは密着した。 数分が経過し、規則正しい寝息が聞こえてくる。 どうやら、木綿季は寝てしまったようだ。

 

「おやすみ、木綿季」

 

俺も木綿季と向かい合わせになり、眠りに就いた。

こうして、俺たち夫婦の温泉旅行がの幕が閉じた――。




うん、和人君の鋼の理性は凄っスね(笑)やっぱり、夫婦だから?今一わからん。
つか、作者をこれを書いてて、恥ずかしかったです(/ω\)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記。
考えても話題が思いつかん……。つまりですね。ネタ切れを起こしました(-_-;)
よければ、活動報告に案を書いちゃってください。


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第142話≪ホワイトクリスマス≫

ども!!

舞翼です!!

投稿が遅くなって申し訳ないです(-_-;)
違う作品に浮気したり、活動報告見て今後どうするか考えたり、他の作品も投稿しなくちゃって焦ったり……。まあいろいろですね。

……え、何でクリスマスに投稿できるかって?舞翼はボッチクリスマスだからですよ(血涙)
てか、久しぶりの投稿なので、何か不安っス……。

さ、さて、気を取り直して、本編をどうぞ。


 二〇五三年。 十二月二十五日。

 今日はキリストの誕生日であり、世間一般でいうクリスマスだ。 そして今日、俺たち夫婦は、東京の穴場スポットにあるイルミネーションを見に来ていた。

 イルミネーションは、紫、オレンジ、青、緑と、光が放たれ、とても幻想的だ。

 

「わあ~、綺麗だねぇ~」

 

「そだな。綺麗だ」

 

 俺たちは沈黙し、数秒間この光景に見入った。

 うむ。 目を奪われる綺麗さだ。

 

「そういえば、ここはどうやって見つけたの?」

 

「ん、ああ。七色と悠が情報源だ」

 

 良い場所(穴場)はないか?と相談した所、七色たちは揃ってこの公園と言ったのだ。

 ともあれ、俺たちは近場のベンチに腰を下ろした。

 

「やっぱり、冬の風は冷たいね。――えいっ」

 

 俺の右腕に抱き付く木綿季。

 女の子特有の膨らみが当たるが、平常心平常心。

 

「……ゆ、木綿季さん。 あ、当たってますよ」

 

 つい、敬語になってしまう俺。 てか、世間一般の男子はこうなりますって。……いや、ないか。

 木綿季は、悪戯っぽく笑った。

 

「当ててるんだよ、和人♪」

 

「そ、そうか。……まああれだ。 このまま続けたら、今日の夜は大変だと思うが」

 

「OKOK。 バッチこいだよ」

 

 俺は、木綿季の頭に右手掌を乗せた。

 

「……バカ。 女の子がそんな言葉を使ったらいかんぞ」

 

「てへへ。 つい」

 

「ったく」

 

 そのまま、木綿季の頭をぐりぐりする俺。

 周りを見渡すと、カップルがちらほらと窺える。 どうやら、デートスポットにもなってるらしい。 ホントに穴場なの?と言う疑問が浮上してくるが、一旦それは置いておこう。

 ともあれ、今は――、

 

「木綿季、実はだな」

 

「んー、どうしたの?」

 

「まあうん。 これからのプランが一切ないんだわ。……すまん」

 

 申し訳なさそうな俺を見ながら、木綿季は、クスクスと笑った。

 

「いいっていいって。 ボクは、和人とこうして居られるだけで満足だから」

 

 やばい、かなり嬉しい言葉です。

 まあでも、俺も木綿季と一緒に居られれば、特にこれと言った要望はないんだが。 そう、木綿季が隣に居てくれることが重要なのだ。

 俺たち空を見上げ、冬の空で輝きを放っている星を見ていたら、白い綿菓子に似たものが頬に当たった。 それは俺の体温により、溶けていく。

 

「雪か」

 

「ホワイトクリスマスだよ」

 

 そう言って、木綿季は無邪気に笑った。

 それから木綿季は、マフラーで口元を覆うようにした。 俺たちはベンチから立ち上がり、即興で決めた丸の内へ行くことにしたのだった。

 また、徒歩で移動してる時も、周囲はクリスマス一色だった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 丸の内に到着し、一番最初に目に止まった店はスイーツ店。 俗に言う、ケーキ屋さんだ。 木綿季と話し合い、スイーツ店へ行くことに決まった。

 店内に入ると、カランカランと、ドアベルが鳴り、店の奥から店員がショーケースの前までやって来た。

 

「木綿季はなにを食べるんだ?」

 

 木綿季は、ショーケースの中に入っている様々な種類のケーキを見ながら、

 

「うーん、モンブランにしようかな」

 

「んじゃ、俺はミルクレープにするか」

 

 注文し、店員が専用のトングでケーキを取り、取り皿の上に乗せ、ショーケースの上に乗せた。 注文したケーキたちは、通常のケーキと比べると値段が高い。 いやまあ、俺にとっては微々たるものなんだが。

 会計をし、店内のテーブル席の上にケーキが乗った取り皿を置き、俺たちは向かい合わせになるように着席した。

 

「「いただきます」」

 

 フォークを持ちながら合掌し、ケーキを一口サイズに切り込んでから、ケーキにフォークを突き刺し口に運ぶ。 ミルクレープは、クレープとクリーム、様々な果実がマッチし、口の中で蕩ける旨さだ。 これならば、値段が高いのにも納得である。

 

「和人、一口頂戴♪」

 

「いいぞ」

 

 俺は一口サイズにミルクレープ切ってから、それをフォークで刺して、それを木綿季の口元まで運ぶ。

 

「木綿季、あーんだ」

 

「あーん」

 

 俺が運んだケーキをもぐもぐと食べ、ごっくんと飲み込んだ。

 

「どうだ?」

 

「美味しいよ。 普通とは、一味違う感じかなぁ」

 

 大人になると味覚が過敏になると言うが、本当のことなのかもしれない。 いやね、俺は迷信だと思ってたんだよ。

 木綿季は悪戯な笑みを浮かべながら、

 

「和人、間接キスだね♪」

 

 高校時代の俺だったら、かなり取り乱していただろう。 だがまあ、今は夫婦だ。 これ以上の――――、いや、やっぱりこれ以上言うのは止そう……。

 

「まあそうだな。 間接キスだ」

 

 木綿季は、頬を膨らませた。

 

「ぶぅ~、もっと動揺してくれてもいいのにっ。 あの頃(SAO時代)に戻った感じでさ」

 

「あの頃ねぇ。 つか、あの頃(SAO時代)の俺って、かなりのコミュ症で、人見知りだったよな……」

 

「うん、そうだよ」

 

 そ、即答ですか。 ちょっと傷つく……。

 でもまあ、この頃から木綿季は俺の隣に居てくれて、支えてくれたのだ。 木綿季には、感謝で一杯だ。 で、この後に、俺を支えてくれる人が増えたんだよなぁ。――俺の親友、紺野藍子と結城明日奈だ。

 そう、SAOがクリアできたのは、三人が支えてくれたからだ。

 まあ、思いに耽るのはこの辺にして、

 

「……あの頃は、木綿季の仲介が必要な時が多々あったしな」

 

「そうだね。 今じゃ、良い思い出だよ」

 

「そうだな。 てか、今後どうする? 帰るか?」

 

「うーん……そうだ! 夜景デートしようよ!」

 

 まあ確かに、イルミネーションじゃ物足りない気もしていた。

 だからまあ、木綿季の提案に賛成だ。

 

「ちょっと歩くけど、横浜みなとみらいに行くか」

 

 木綿季は微笑みながら、

 

「夜景デートの鉄板だね」

 

「ま、まあ、俺にそういうのを期待しちゃいかんよ」

 

「いえいえ、構いませんよ。 旦那さま」

 

 ……木綿季の真面目口調は、違和感しかないです。

 でもまあ、ここは俺も乗ろう。

 

「ありがとうございます。 お嬢様、愛してます」

 

 あ、あれれ。 なんか余計な事を言ったような……。

 

「ふふ、ボクも愛してるよ」

 

 このままだと二人の世界に突入してしまうので、俺は咳払いをした。 てか、公共の場だし。

 

「さ、さて。 早くケーキを食べちゃおうぜ」

 

「そうだね。 あ、食べさせてくれるの?」

 

「ま、まあ、木綿季が望むなら」

 

 高校時代の俺だったら、悶え死にそうになっていたと思う。 これ、結構マジで。

 

「じゃあお願いね。 ボクも、あーんしてあげる」

 

「お、おう」

 

 そういうことなので、俺たちは食べさせ合いながらケーキを間食した。

 それから店を出て、横浜みなとみらいへ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 俺と木綿季は横浜みなとみらいに到着し、汽車道を散歩しながら夜景を眺めている。ビルや観覧車の明かりと、街灯が湖を照らし、通路の脇では、オレンジ色の光が照らしている。

 

「凄いね。 なんか、別の世界に来たみたい」

 

「いや、別の世界は言いすぎだろ。 まあ、普段は見られない光景だけど」

 

 この場所は、現実世界から切り離されたようだ。……あれ、俺も言いすぎなような気がするが……。 まあ、気にしたら負けである。

 汽車道を通り抜けると、銀河パークに辿り着く。 公園のイルミネーションも凄かったが、銀河パークも負けていない。

 

「うし、写真撮るか」

 

 ちなみに、スマホでだ。

 スマホで、カップルでの写真撮影は二十代までだと世間で思われてるらしいが、俺は三十代もいけると思っていたりする。

 俺がスマホをポケットから取り出し、ライトアップされたクリスマスツリーを背にする俺たち。

 

「和人。 もっと寄って寄って」

 

「お、おう」

 

 俺と木綿季の距離は、頬と頬が触れ合う距離だ。

 なんで女の子は、こんなにも甘い香りがするのだろうか? 不思議でならない。 てか、俺の理性がガリガリ削られていく。

 ともあれ、写真撮影が終わりました。

 撮った写真を一言で表すと、仲良しカップルといった所だ。

 

「和人、あとでボクのスマホにも送ってね」

 

「了解だ」

 

 写真を撮り終えてから俺たちは歩き出し、銀河パークを後にした。

 夜景デートの締めは、観覧車だ。 俺と木綿季は販売機でチケットを買い、係員にチケット渡し、ゲートを潜る。 それから、観覧車の管理をしてる係員の指示に従い観覧車へ乗り込む。 観覧車が徐々に昇って行くと、東京地区の夜景が見渡せる。

 

「……凄ぇな」

 

 見下ろして見る夜景は、先程とは違う綺麗さと言えばいいのか。 そんな感じだ。

 

「うん、凄い綺麗だよ!」

 

 木綿季のテンションもかなり上がっている。

 やっぱりあれだな。 俺は木綿季の笑顔を見るだけで、幸せな気持ちになる。

 

「どうしたの、和人。 さっきからボクのこと見てるけど」

 

「いや、楽しそうだなと思ってな」

 

「そりゃもちろん。 でね、ボクがこんなにも楽しめるのはね、和人が隣にいてくれるからなんだよ」

 

 かなり嬉しんですが。 今すぐ抱きつきたいレベルだ。 まあでも、観覧車が揺れちゃうので、危ないからできないけど。

 一周した所で、俺たちは観覧車から下りた。

 

「さて、帰るか」

 

「そうだね。 帰ろう」

 

 そう言ってから、俺たちは帰路に着いた。

 かなり楽しいデートになったのは間違えなかった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 マンションに到着すると、木綿季は一目散にマンションの中に入って行った。

 俺は、どうしたんだ?と思いながら首を傾げてから、玄関で靴を脱いでリビングへ向かう。

 

「じゃ~ん。 メリークリスマス!」

 

 木綿季の恰好は、黒髪の上に赤い小さな三角帽子がちょこんと乗せ、肩をむき出しにして赤い服を身に纏い、白い綿毛の赤いスカート履いた姿だった。――サンタコスチュームだ。

 この衣装どっかで見たことが……――思い出した。 大学の時代に、お袋が木綿季に挙げたコスチュームだ。 てか、大学時代のコスチュームに袖が通るとか、木綿季のスタイルの良さが窺える。

 

「おう、メリークリスマス」

 

「ちぇ~、反応が淡白すぎるよ、和人」

 

「いやまあ、もう十年以上も一緒にいるし、あとアレだしな」

 

「まあそうだけど」

 

 木綿季は、アレの意味が解ったらしい。 まあ、言葉にするのは恥ずかしいやつだ。

 それから、ソファーに座る俺と木綿季。 マンションの中は寒くはないが、俺は木綿季の肩にブランケットをかけた。

 

「楽しかったなぁ。 また、デートしようね」

 

「そうだな。 これからもずっとな」

 

 俺たちの距離が徐々に縮まり、唇と唇が重なった。 これが、俺たち夫婦のホワイトクリスマスだ――。




この小説が始まって、もう二年が経つんすね。月日が流れるの早ぇー。
この小説も、次で完結にしようかなぁ。とも考えているんですよね。で、次話を書き始めてたり(笑)

てか、桐ケ谷夫婦のクリスマス。羨ましいです。
若干、前と被ってしまったのは、申し訳ない……。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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第143話≪大晦日とお正月≫

新年をボッチで迎えた舞翼です。……うん、言ってたら悲しくなってきた(涙)

      ――閑話休題。

    ☆Happy new year!☆

皆さま、あけましておめでとうございます!!(*`・ω・)
新年初の投稿です(*^_^*)

頑張って書きました。
それではどうぞ。


 二〇五三年。 十二月三十一日。

 

 俺は袴姿で、リビングで木綿季を待っていた。

 今の時刻は、夜の二十二時。 年越しまで、後二時間だ。

 俺がコーヒーを飲んでいたら、着物に着替えた木綿季がリビングの扉を開け、部屋に入って来た。

 

「じゃーん、どうかな?」

 

 木綿季はその場で一回転した。

 木綿季の着物は、紫を基調にし、所々に菫の花が所々にあしらってある。

 

「そうだな。 世界で一番可愛いぞ」

 

 木綿季は苦笑し、

 

「お世辞でも嬉しいよ」

 

 いやまあ、お世辞ではないんだが。俺が見た、ありのまま感想である。

 紗季と並んで歩いても、姉妹と間違えられるレベルと言っておこう。

 

「和人も、袴姿凄い似合ってるよ」

 

「お、おう。 サンキュー」

 

 あれだ。 木綿季に言ってもらえるとかなり嬉しい。

 俺って俗に言う、チョロイン?……いや、ないか。

 

 ――閑話休題。

 

 俺はコーヒーを全て飲み、コップをテーブルに置いてから、車の鍵を取り立ち上がった。

 

「んじゃ、行きますか」

 

「りょうかい」

 

 俺と木綿季はリビングを出て、玄関で靴に履き替え、外に出て扉を閉めた。 階段を下り、駐車場へ向かい車に乗り込む。 目的地は、東京大神宮だ。

 車に乗り込み数分走らせると、東京大神宮に到着し、係員の指示に従い駐車所へ車を止め車から降りた。

 

「かなり賑わってるな」

 

「さすが、大晦日って言ったところかな」

 

 東京大神宮はかなりの人で賑わっている。

 

「時間まで、デートしよっか?」

 

「いいぞ」

 

 俺たちは駐車場を後にし、本堂沿いの道を歩いて行く。

 道を歩いていると、甘酒を販売してる露店を発見した。木綿季の希望もあり、露店で甘酒を購入。

 

「温まるわ」

 

「だねー」

 

 甘酒を飲んだ俺たちはかなり和んでいた。

 頬を撫でる風が心地良い。 甘酒を全て飲み、紙コップをゴミ箱中に捨て再び本堂を目指す。 本堂に近づくに連れ人混みが増えていくので、俺と木綿季の手は自然と繋がれた。 肌と肌が触れ合い、お互いの温かさや気持が流れてくるようだ。

 

「かなりの人だな」

 

「神社でのカウントダウンは、大晦日の醍醐味だからね」

 

「確かに」

 

 ちなみに、東大四人組と、優衣と美咲ちゃんも東京大神宮に来てるらしい。

 あいつらのことだ。 既に本堂付近でカウントダウン待ちをしているのだろう。 それにしても、着物と袴の参拝者もかなり居る。

 とまあ、俺は木綿季と談笑しながら本堂の鐘の元までやって来て、カウントダウンを心待ちにしていた。

 その間も、人混みに流されないように、俺たちの手は繋がれていた。 なぜ女の子の手は、こんなにも柔らかいのだろうか? いやまあ、今更な感想なんだが……。

 カウントダウンが迫り、客のボルテージが徐々に上がっていくのを感じる。

 そして――、

 

「「「「「5」」」」」

 

「「「「「4」」」」」

 

「「「「「3」」」」」

 

「「「「「2」」」」」

 

「「「「「1」」」」」

 

「「「「「0」」」」」

 

 カウントがゼロになり、『あけましておめでとうございます!』と言うお客の歓声と、本堂の中央からの大きな垂れ幕が下げられ、そこには、新年を祝う言葉が書かれていた。

 除夜の鐘の音を木綿季と一緒に鳴らしてから、段差を下りお互いに向き直った。

 

「あけましておめでとう。 今年もよろしくな、木綿季」

 

「あけましておめでとう。 ボクの方こそよろしくね、和人」

 

 新年初の挨拶をしてから、俺たちは本堂の正面に備え付けられた賽銭箱の前まで歩み寄る。

 俺は懐に入れた財布から100円玉を二枚取り出し、その一枚を木綿季に手渡す。

 

「木綿季。 お賽銭だ」

 

「ありがと、和人」

 

「おう」

 

 俺と木綿季は、100円玉を賽銭箱の中に投げ込み目を瞑り合掌する。

 

「(――ずっと、木綿季と一緒にいられますように)」

 

「(――ずっと、和人と一緒にいられますように)」

 

 参拝を終え、手を繋いでから本堂を後にする。 その間の俺たちの距離は、肩と肩が触れ合うまで寄り添っていた。

 誰の目から見ても、おしどり夫婦である。

 

「和人は何てお願いしたの?」

 

「たぶん、木綿季と同じだな」

 

 木綿季は苦笑し、

 

「ボクたち、似た者同士だね」

 

 まあ確かに、俺と木綿季の想いは似た者同士と言っても過言ではないと思う。

 ――俺たちは離れることなく、ずっと一緒だと言うこと。 それが、俺の望みでもあり、木綿季の望みでもあるのだ。

 

「そうだ! お家に飾る、お正月飾りを買っていこうよ」

 

「そうだな。 たしか、本堂に行く途中にあったはずだ」

 

 そういうことなので、目的地である正月飾りが販売してる露店へ向かった。

 露店には、松竹飾りや注連飾り、鏡餅や輪飾り、餅花や破魔矢など。 新年を迎えるにあたって、様々な正月飾りが鎮座していた。

 

「注連飾りと餅花でいいかな?」

 

 そう言って、木綿季は俺を見た。

 ちなみに、注連飾りは玄関に飾るものであり、餅花は神棚に飾られるものだ。

 

「おう、それでいいと思うぞ」

 

「りょうかい♪」

 

 木綿季は注連飾りと餅花を手に取り、店員に呼びかける。

 俺が代金を払い、貰った袋の中に購入したものを入れた。 これで神様を迎える準備が完了だ。

 来た道を戻り、駐車場へ向かった。 車の鍵を開け、運転席に俺、助手席に木綿季が乗り込む。 エンジンをかけると、俺の右手と木綿季の左手が重なり、手が方向を変えて指と指が絡まって、恋人繋ぎとなった。

 

「初めてだな。 年越しを神社でするの」

 

「そうだよ。 それにしても、みんな大きくなったよね」

 

「そうだな。 和真と紗季が小さかった頃が、昨日のように思い出せるよ」

 

 そう言って、俺は苦笑した。

 小さい頃の紗季と和真が、俺の後ろを一生懸命ついて来るのを鮮明に思い出したからだ。

 

「カズ君も、数年後には結婚かなー」

 

「俺の予想だと、大学を卒業してからだと思うぞ」

 

 俺たちは大学に在学中だったが。 それで、木綿季が子供を身籠ったのが、大学を卒業して一ヵ月程度経過したからだ。 俺の記憶が正しければ、これで合ってるはずだ。

 

「ボクと和人が、お爺さんとお婆さんになるのは、まだまだってことだね」

 

「そだな。 親父が言ってた、孫の顔が早く見たい。って言葉が、今になって解ってきたような気もする」

 

「ふふ、そうだね。 紗季ちゃんのお眼鏡に叶う人はできるかな? 紗季ちゃんの理想像、かなり高いからなぁ。 たぶんだけど、愛華ちゃんも高い気がする」

 

 おそらく、紗季と愛華ちゃんの基準は、優しく、面倒見が良くて、家族を第一に考え大切にしてくれる。 そんな男性だろう。 まあ、他にも沢山あると思うけど。

 木綿季はクスクスと笑って、

 

「和人って、愛華ちゃんも娘のように可愛がってるよね。 愛華ちゃんの父さんとも仲がとっても良いし」

 

 俺と愛華ちゃんの父親は、さしで飲みに行く仲だ。 かなり仲が良いと言ってもいい。

 だからまあ、愛華ちゃんも娘のように思っちゃうのかもしれないが。……いやまあ、多分だが。

 

「ま、まあ、愛華ちゃんに彼氏ができても、面接があるらしい」

 

 紗季も例には洩れず、彼氏ができたら俺と面接と言うことになってる。

 俺が認めないと、彼氏としては公認できん。……はあ、かなりの親バカになってるな。 まあでも、紗季が一生を共にしたい。という人なら、無理に引き止める。ということはしないが。……なんか、矛盾してるような気もするが、気のせいだろう。 うん、気のせいだ。

 

「お手柔らかにしてあげてね。 相手の子が委縮しちゃうかも」

 

「大丈夫だ」

 

 木綿季は、ホントに解ってるのかな。と言い、息を吐いた。

 いやまあ、善処しますよ。 木綿季さん。

 

「明日、実家に挨拶しに行くんだっけ?」

 

「そうだな。 てか、親父と雄介さんが、酒を酌み交わそうって言ってたわ。 明日はたぶん、昼間から飲むかも」

 

「お酒は、ほどほどにするんだよ」

 

 そう言って、木綿季は心配そうに俺を覗き込む。

 まあ確かに。酒の飲みすぎは、アルコール中毒になるかもしれんしな。 気をつけないと。

 

「了解だ。 心配してくれてサンキューな」

 

「そりゃもちろん。和人はボクの旦那さんだもん」

 

「木綿季は、俺のかけがえのない奥さんだ。――――愛してる」

 

「――ボクも愛してるよ、和人」

 

 お互いの顔が近づき、唇と唇が優しく重なった。

 唇が離れると、俺と木綿季は笑い合った。

 

「新年初のキスだね。 どうだった?」

 

 どうだった?とは、キスの感想だろうか?

 俺の感想を述べるとしよう。

 

「いつも通り柔らかかった」

 

「ふふ、そっか」

 

 昔の俺だったら、あの空気に流され木綿季を襲っていただろう。……まあうん、確実に。

 ともあれ、俺は車を走らせマンションへ帰宅した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 マンションに帰り、共同の部屋で着替えると、俺と木綿季はリビングに備え付けられているソファーに座った。

 余談だが、昔俺は、着替えてる途中でタガが外れ、木綿季を襲ったことがあります……。って、俺は何言ってんだろうか……。

 

「木綿季は、明日も神社に行くのか?」

 

「そだよ。明日奈と姉ちゃんとかな」

 

 実は、明日奈と藍子も桐ケ谷家の実家に新年の挨拶。ということになっているのだ。

 明日奈は、俺たちの大切な親友として、藍子は紺野家を代表して。と意味合いもあるらしい。 俺たち四人は、固い絆で結ばれているので、離れ離れに。ということは絶対にないだろう。――これは、断言できる。

 

「不躾になっちゃうけどさ。 SAO事件があったからこそ、木綿季と藍子、明日奈に出会うことができたんだよな」

 

「そうだね。 そこに関しては、茅場さんに感謝かな。 年越しちゃったけどさ、お蕎麦食べる?」

 

「俺はいいけど。 木綿季はいいのか? 太るぞ」

 

「……和人~」

 

 木綿季は、ジト目と言うやつで俺を見てきた。

 ……今のは、女性に言ったらいけないランキング上位に入る言葉だ。 木綿季の不機嫌オーラが凄い……。

 

「……ごめんなさい。 口が滑りました」

 

「もうっ、しょうがないんだから。 じゃあ、ん」

 

 木綿季は目を瞑り、俺に顔を向けた。 俺は木綿季と優しいキスをしながら、そのまま深くまで舌を絡ませる。 俺たちは数秒間深いキスをした。

 キスを終えると、深いキスの余韻が、つーと伸びた。

 

「……色んな意味で、これ以上は拙い」

 

 耐性がついたとはいえ、これ以上は押さえが利かなくなる……。

 てか、俺も木綿季も、頬が僅かに紅潮してる。

 

「そ、そうだね。 つ、続きは後日にしようか」

 

「ん、それがいいな」

 

 木綿季は、よし!と言ってから立ち上がり、台所に向かった。 年越し蕎麦は作る為だ。

 年越してるじゃんかよ。って言う突っ込みはしないでくれ。

 ともあれ、年越し蕎麦ができあがり、台所付近のテーブルの上に置かれた。

 俺はソファーから立ち上がり、テーブルの椅子に座った。 台所から出てきた木綿季も向かいの椅子に座り、箸を持ち、『いただきます』と合掌してから、眼前に置かれた蕎麦を箸で持ち、口に運ぶ。

 やはり、木綿季が作る料理は旨い。 和食、洋食、中華と、全て完璧と言っても過言ではない。 流石、カリスマ主婦だ。

 

「どうかな?」

 

「世界一旨いよ」

 

「ふふ、和人はいつも同じこと言ってるね」

 

 そう言って、木綿季は微笑んだ。

 

「木綿季の料理に勝てる人いるのか?」

 

「姉ちゃんと明日奈が協力したら、勝てないかも」

 

 ということは、一対一ならば互角。と言うことだ。

 料理に目がない俺は、三人の料理を食べ比べたいという気持ちもあったりする。

 ともあれ、俺は、美味しくお蕎麦を頂きました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 翌日。

 俺は袴に、木綿季は着物を着て、桐ケ谷家を訪れていた。

 玄関を開けると、既に子供たちと、明日奈と藍子が勢揃いしていた。 どうやら、俺たちが最後になったらしい。

 俺と木綿季は玄関を上がり、居間へ向かう。 障子をスライドさせ、中に入ると皆に見えるように正座をして綺麗にお辞儀をした。

 

「「あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします」」

 

 皆から、『こちらこそ、今年もよろしくお願いします』と言う言葉を貰って、新年初の挨拶が終了した。

 それからは、男性組と女性組に分かれて、談笑が開始される。

 

「和人くん、飲みなさい」

 

 そう言って、雄介が一升瓶から俺のグラスに日本酒を注ぎ、俺の眼前にグラスを置いた。

 ちなみに、峰高と雄介とは向かい合わせに座り、二人のグラスにも日本酒が注がれている。

 それから乾杯をし、三人は日本酒を一口飲む。

 

「いや~、旨い!」

 

「新年に飲む酒は格別です!」

 

 峰高が言い、雄介がそう言った。

 てか、かなりテンションが高い……。 もう酔ってるよね。という感じにも見えてしまう。

 

「そういえば和人。 第四世代はどうなんだ?」

 

 峰高が言いたいのは、ニューロリンカーの簡略化は順調なのか?と言うことだろう。

 

「当初よりは、かなり進歩したよ。 ほぼ完成と言ってもいいな」

 

「日本の中心。と言ってもいいからね。 和人くんは」

 

 雄介はがそう言う。

 コミュ症でインドアな俺が、第四世代の開発に携わるなんて考えもしなかったし。

 SAOもそうだが、東京大学に入学してから、俺の人生が大きく変わったと言っても過言ではない。

 

「俺もこうなるとは予想外だったし。 七色との出会いが、一番大きかったかもな」

 

 第四世代と、メディキュボイド開発に携わる切っ掛けを作ってくれたのは、七色なのだ。

 これがあったからこそ、茅場明彦の恋人、神代凛子にも会うこともできたのだ。

 

「オレにとっては、自慢の息子だ。 和人は」

 

「やめてくれよ、親父。 恥ずかしいじゃんか」

 

 父親にこう言われるのは嬉しいが、恥ずかしさの方が大きい。

 褒められるのに慣れてない。と言うこともあると思うが。

 とまあ、俺に関することを切り上げると、やはりと言うべきか、女性陣の話題となった。

 

「最近、直葉の帰りが遅くてな」

 

 峰高が言うには、直葉はいつも決まった時間に帰宅していたが、最近は帰宅する時間が若干だが遅いらしい。

 俺が思うに――、

 

「たぶんだけど、彼氏じゃないか」

 

 俺が軽い口調でそう言うと、峰高は、なッ!と声を上げた。

 

「い、いやいや、直葉に彼氏なんて認めんぞ」

 

 いやまあ、逆の立場になると、俺も峰高と同じ反応をすると思うが。

 雄介に藍子のことを聞くと、『嫁に出て欲しいが、オレが認めないとなぁ。』と思案顔をしていた。……うん、藍子は結婚できるか心配になってきた俺だった。 明日奈も同様である。

 藍子と明日奈は彼氏を作ろうと思えば、すぐに作れると思うけど。 でもまあ、一生を共にする人だ。 軽い気持ちで作るのは良くない。

 こう話していると、東大組と木綿季たちが東京大神宮に行くことになった。

 

「じゃあ、行ってくるね。 お父さん、和人」

 

「気をつけてな」

 

「楽しんでこいよ」

 

「俺たちも後から行くわ」

 

 木綿季が代表して言うと、峰高、雄介、俺が言う。

 ――親父、雄介さん。 今年も、木綿季共々よろしくお願いします。 固い事はこれ位にして、俺は注がれた日本酒を口にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ボクは、明日奈と姉ちゃんと東京大神宮にやって来た。

 子供たちと優衣ちゃんたち、ボクたちと分かれたんだ。 ボクは紫色の着物で、姉ちゃんは水色の着物。 明日奈は赤色の着物かな。 ボクたちの着物には、紫陽花やコスモスなどの花があしらってある。

 ちなみに、ボクの着物は昨日着たやつとは違うよ~。

 

「木綿季ちゃんは、昨日、和人くんと年越しに行ったんだっけ?」

 

 ボクの隣を歩く明日奈がそう言った。

 ボクは頷き、

 

「うん。 楽しかったなぁ~」

 

 ボクは子供のように微笑んだ。

 そんなボクを見た姉ちゃんが、楽しそうに微笑んだ。

 

「今日はわたしたちで楽しみましょうか」

 

「「賛成~♪」」

 

 ボクたちは、とても仲が良い姉と親友だね。

 それから楽しく談笑しながら、ボクたちは本堂へ向かった。 途中、大学の時の知り合いなどに会って、新年の挨拶もしたけど。

 本堂に到着し、ボクたちは懐からお賽銭を取り出す。

 ボクたちは、お賽銭をお賽銭箱に投げ入れ、目を瞑り合掌した。

 ちなみにボクのお願いは、和人も合わせて、この四人で仲良くいれますように。かな。 たぶんだけど、明日奈と姉ちゃんの願いの中にも、これが含まれてるはず。

 ボクたちは本堂を後にして、おみくじを買ってから、おみくじを結ぶ場所へやって来た。

 それから、ボクたちはおみくじを開いた。

 

「中吉だ。 えーと、一年間健康です。 だって」

 

「わたしは、大吉。……出会いがあるって書いてあるけど、ホントかなぁ」

 

「わたしも大吉で、明日奈さんと同じですね。 神社のおみくじって、ホントに当たるでしょうか?……わたし、一生出会いがない気がするのは気のせいでしょうか……」

 

 明日奈と姉ちゃんは、深く溜息を吐く。溜息ばかりしたら、幸せが逃げちゃうよ。

 でもでも、明日奈と姉ちゃんは、美人だし性格も良いし、何事にも全力で取り組む。――そう、ボクの自慢でもあるんだ。

 明日奈と姉ちゃんには言ったことはないけど、ボクは二人の背中を目標にしてたんだ。 明日奈と姉ちゃんが、『同年代じゃなくて、年下なのかなぁ……』『そうなんでしょうか……』と呟いていたけど、ボクは聞いてないふりをしたよ。 これには突っ込んだらいけないって、ボクの第六感が告げてるからね。

 おみくじを専用の木に結んでから、ボクたちは同じお守りを購入した。 何でも、このお守りのテーマは“絆”らしい。

 

「あと、和人の分も買わないと」

 

「そうね」

 

「そうですね」

 

 そう言って、ボクたちは笑い合った。 和人も入れ、ボクたち四人はずっと一緒だもんね。

 それからボクたちは、露店でバナナチョコとリンゴ飴を購入して、食べ歩きをした。参拝を終えたボクたちは、和人たちと合流する為、桐ケ谷家に戻る。……お父さんたち、酔い潰れてないか心配かも……。

 これからボクたちの新年の始まりだ。――今年もよろしくね。姉ちゃん、明日奈♪




これで一応、~黒の剣士と絶剣~は完結ですね。
……何か、無理やり感が否めないが……(-_-;)
まあでも、番外編が思い付いたら投稿するかも。

ではでは、皆さま良いお年を(^O^)
感想、評価、よろしくお願いします<( ̄∇ ̄)ゞ


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単発シリーズ
第144話≪単発、オーディナル・スケール≫


久しぶりにOSを見て、単発ものを書いて見ました。
いやー、小説って書くのは難しい。ちなみに作者は劇場版しか観覧してないです。……小説も読みたかった。


 Ordinal Scale。――通称OSは、VRのような完全な仮想化とは違い、フルダイブ機能を排除した変わりに、AR(拡張現実)機能を最大限に広げた最新機器。現実世界を舞台にして遊べるゲームの事を差す。他にも、天気予報や店舗のクーポンの特典、健康管理など様々なサービスを備わっているハードだ。そんな事もあってか、目も前に座る少女たちは、店舗の特典を得る為にゲームに必死である。

 

「やり!クーポンゲット!タダでケーキが頼めるー♪」

 

「うぅ……。私はダメでした……」

 

 ゲームを行っていたのは、俺と同じ高校に通っている少女。リズベットこと篠崎里香。シリカこと綾野珪子である。その二人を挟むように、結城明日奈、紺野藍子だ。

 

「二枚特典だし、一枚上げるわよ。あんたもタダで頼みなさいな」

 

 と言って、里香は珪子の端末にクーポンを送る。どうやら、里香と珪子が頼んだのはチーズケーキらしい。

 

「てか、あんたらはケーキ食べないの?」

 

 そう、俺たちに問う里香。

 

「私はお腹がすいていないから大丈夫だよ。カロリー高いものは今控えてるんだ」

 

「私は、今ダイエット中で」

 

「ボクもダイエット中、かな」

 

 上から、明日奈、藍子、木綿季である。……てか、三人ともダイエット中なのね。そして、うぅ……。と声を上げる珪子と里香。

 

「……あんたら、私が目を逸らそうとしてる事を言わないで……」

 

「……つい、食べてしまうんです……き、キリトさんは食べないんですか!?」

 

 珪子の問いに、俺は首を振る。

 

「いや、俺はいいよ。今は腹が減ってないしな」

 

 ちなみに、俺は余りオーグマーの機能を使っていない。使っているとしても、メールや天気予報、日付の確認位だ。でもまあ、オーグマーのお陰で、仮想世界のいるユイと一緒に居る事ができるので、そこは重宝している。

 

「そういえば、今日ボスイベントがあるらしいけど、あんたらは参加するの?私は今日用事があって参加できないんだけどさ」

 

「私も、今日は塾があるので見送りですね、残念です」

 

「俺は気が向いたらだな」

 

 俺は頭を振った。そして俺にはこの理由が強い――それは、VRゲームに対する想いが詰まってるから。だと思っている。

 ともあれ、木綿季たちは――、

 

「私も同じく……気が向いたらかなぁ。私は、現実より仮想の戦闘って感じだから」

 

「ボクも明日奈と以下同文」

 

「私もですかね」

 

 どうやら、里香と珪子は不参加であり、俺、明日奈、木綿季、藍子は気が向いたらしい。やっぱり、戦闘の本場と言ったら仮想世界。という事かも知れない。いや、多分、知らんけど。

 ちなみに、OSの戦闘は、接近、遠隔、支援タイプの三種類の中から武器を選択し、生身の体を動かし、運動能力に左右される。上位にランクインしたプレイヤーには、ゲームの枠を超えて、協賛企業からサービスも受ける事もできる為、VRゲームと比べても多彩と言える。

 

「まあ、あんたらの気持ちも解らなくはないわ。私たちの出会いは、仮想世界。だもんね」

 

「私たちもこう集まれるのも、それがあってからこそ。ですから」

 

 やはり、里香と珪子も思う所があるらしい。

 確かに、SAOを通して、辛いことや悲しいこと、出会いや別れ、楽しいことなどがあった。それは俺たちの大切な思い出でもあるのだ。

 それにしても、ユナのライブチケットが学校全員に配布されたのは意外だった。あれ、オークションに出品すれば、かなりの額になるよな……。まあ売らないけどさ。

 ともあれ、レストランを出た所でお開きになり各自は帰路に着いたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~桐ケ谷家、和人の部屋~

 

「和人の部屋は、シンプルすぎるね。今度ボクたちで改装しようか」

 

 ベットに座り、机の椅子に座る俺に木綿季がそう言う。

 

「いや、このままでいいよ。部屋に余計なものは要らないしな。てか、木綿季も人のこと言えないだろ」

 

 木綿季の部屋も、壁を紫色に基調にしただけで、余計な物が置いてなくシンプルである。まあ色変えの時に、明日奈や俺、藍子は駆り出されたけど。

 ちなみに、藍子の部屋は青。明日奈はピンクを基調にした感じである。

 

「それより、今日のボスイベントどうしよっか?ボクはどっちでもいいよ」

 

「うーん。仮想と現実の戦闘の違いに興味があるし、参加してみるか」

 

 そう。俺は、その部分がどうなるのか気になってもいる。

 

「じゃあ、姉ちゃんと明日奈も誘って四人で参加しよっか」

 

「了解だ」

 

 てか、現実世界でも俺たちが無双。ってことはないよな。何か、コツを掴んだら適応しそうで怖くもある。

 ともあれ、俺は明日奈に、木綿季は藍子にメッセージを送った。数分後の返信は『りょうかい。じゃあ現地集合で』ということだ。

 それから数時間(ボスの告知)後、準備をし、飯を食った所で倉庫に仕舞ったバイクに乗って現地へ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 秋葉原UDX到着し、バイクから降りヘルメッドを外してからヘルメッド指定位置にかけ周りを見渡すとかなりの人で賑わっていた。30分前にボス出現の告知だったのに、かなり集まった方だと思う。

 

「かなり人がいるね」

 

「それだけ、OSのユーザーが多いってことかもな。さて、明日奈と藍子はどこだ?」

 

 視線を動かしていると俺を見つけたのか、手を振って明日奈たちが近づいて来てくれた。

 

「こんばんは。和人君、木綿季ちゃん」

 

「こんばんは。和人さん」

 

「おう。明日奈、藍子」

 

「木綿季もこんばんは?」

 

 藍子さん、何故疑問形?

 まあ姉妹だし、挨拶は不要って感じだけどさ。

 

「それにしても、藍子と明日奈は一緒に居た感じなのか?」

 

「そうですね。レストランで別れてからもずっと一緒にいました」

 

 まあ確かに、明日奈と藍子は、高校を卒業したら一緒に暮らすのが決まってる仲でもある。俺と木綿季も一緒に暮らす感じだけど。

 それにしても、両親の許可がすんなり通ったので拍子抜けでもあった。かなりの確率で反対されると思っていたしね。

 

「んじゃ、やりますか」

 

 俺たちは筒状の棒を持ち、

 

「「「「――オーディナル・スケール起動」」」」

 

 俺は白地を基調に黒ライン、木綿季は紫地を基調に黒ライン、明日奈は白地を基調に赤色ライン、藍子は白地を基調に青ラインが入った戦闘ユニフォームだ。

 ちなみに、木綿季と藍子、俺は片手剣であり、明日奈は細剣である。

 

「へぇ、こんな感じになんのか」

 

 でもなんつーか、しっくりこない感じである。

 

「結構リアルに再現されてるね。でもなぁ――」

 

「うん。私も血盟騎士団か、ALOのユニフォームが合ってる感じかなぁ」

 

「私も皆さんと同感ですね」

 

 そして、21時丁度になり、秋葉原UDXの景色が変わった。ボスの出現時間である。

 ボス戦が始まると同時に、階段上にユナが登場し歌を歌い、各プレイヤーにボーナスが与えられていく。

 

「か、和人君。あのボス……」

 

 明日奈の問いに俺は頷いた。

 

「……ああ、旧SAOの第10層ボスモンスター、カガチ・ザ・サムライロードだ。でもなんで、旧SAOのボスが出現するんだ?ALOでも、第10層のボスは奴じゃなかった筈だ」

 

「誰かが、SAOサーバーをスキャニングした線が怪しいかも」

 

「でも、何故でしょうか?」

 

 だが、この場で議論しても情報が少なくて何とも言えない。

 

「とりあえず今はボスを倒そう。それよりも、俺たちには壁役(タンク)がいない。壁役(タンク)に指示を出せば壁は可能だと思うが、恐らく俺たちの連携にはついてこれないと思うから四人で突っ込むぞ」

 

「「「りょうかい!」」」

 

 俺たちは走り出し、カガチ・ザ・サムライロード元へ向かった。てか、現実と仮想の戦闘では、若干だがラグがある感じだ。状況から察っするに、ソードスキルも使用不可能だろう。

 前方では、ボスに向かったプレイヤーが吹き飛ばされている。確かに、ボスも行動パターンを見極めないとこうなるのは必然なのかも知れないけど。

 

「ボスの行動パターンは旧SAOと同じだ。あの時の連携で行くぞ!」

 

「「「りょうかい!」」」

 

 俺は滑り込むようにして、ボスの両足を斬りつけると、ボスは体勢を崩し両膝を突けた。

 だが、両膝を突けても刀を振り斬撃を放つ。

 

「はぁあ!」

 

 木綿季は斬撃の正面に立ち、斬撃を斬り払い後方に押されるが、

 

「明日奈、姉ちゃん!」

 

「「りょうかい!」」

 

 明日奈と藍子はボスを斬りつけこの場から離脱、ボスは咆哮を上げHPを減少させる。

 頭を狙って攻撃をしたので、ボスはスタン状態だ。

 

「この場にいる全員でフルアタック!斬撃がきても横薙ぎだけだ、正確に避けろ!」

 

 おう!とプレイヤーたちが声を上げ、各々が攻撃を加えていく。

 

「和人君。ナイス指示だよ」

 

 隣に立つ明日奈がそう言う。

 

「旧SAOの第一層以来だね」

 

 次いで、合流した木綿季が言う。

 

「まあ、あの時は咄嗟に指示を出した感じでしたが」

 

 そして、隣に立つ藍子である。……てか、俺の評価が低いのは気のせいのはず。

 まあ、コミュ症の俺だしなぁ……。

 

「よし!今度のALOでのボス戦の指揮は、和人君に一任しようかな」

 

「ちょ、ちょっと待って明日奈さん。コミュ症の俺には荷が重すぎます……」

 

「大丈夫大丈夫。元血盟騎士団副団長として、私がしっかり教えてあげるから」

 

 ……つーことは、《閃光様》の一面が出るのね……。俺、スパルタでトラウマにならないよね、大丈夫だよね?まああれだ、腹を括れ。ということだろう。

 

「……了解だ。《閃光様》の教えに従います、はい」

 

 つーか、ボスが立ち上がるような雰囲気だ。

 やはり、HPが減る事の火事場の馬鹿力というものがあるのだろう。

 

「さて、俺たちで止めを刺すか」

 

「……何か、ボスのLA狙いだろ。って感じですね」

 

「でもまあ、あの感じゃボスが立ち上がりますし、仕方ないですよ」

 

「そうそう、仕方ないよ」

 

 うん、俺もそんな感じがする。この際気にしないけどさ。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 明日奈たちは頷き、剣を構え走り出す俺たち。そして俺と木綿季、藍子は、旧SAOの単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》を模倣し、ジェットエンジンめいた金属質のサウンドのようにボスを突き抜け、明日奈は、細剣を中段にして突きを入れ、中段の突きを三連続させた後、一転して斬り払い攻撃を往復。斜めに撥ね上がった剣先が上段に二度の突きを叩き込む。旧SAOでの細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》計八連撃だ。

 直後、ボスは膨大な光の欠片となって四散した。一瞬遅れて巨大な破砕音が轟き、空気が震えた。

 

「模倣は可能だったね」

 

「体に沁みついてる動きですもんね」

 

「私は、スター・スプラッシュの模倣は半信半疑だけどできちゃったよ」

 

「できる可能性はあったしな。流石にソードスキルは使えないけど」

 

 そう言ってから、剣を鞘に収める俺たち。

 ちなみに今回の戦闘で、頭上に記されているランキング順位が100上がった。ボスを倒すと、結構上がるような仕様なのかも知れない。

 

「さて、帰るか」

 

「「「はーい」」」

 

 俺たちはオーグマーを外し、帰路に着く。

 ちなみに、ユナの加護?的なものもらったのだった。




戦闘があっさり終わった気がするが、ご都合主義展開ということで。ではでは(^_^)/~


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