覇種の使い魔~輝輝臨臨~ (豚煮込みうどん)
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輝輝臨臨

初めまして、豚煮込みうどんと申します。SS書くのにゼロ使ってほんとネタ出しやすいですよね~(出すとは言ってない)
UNKNOWNことラ・ロたんとどっちで書こうか迷いましたがこいつ等の方が気楽に書けそうだったのでこいつ等にしました。
それではよろしくお願いします。


~sideキュルケ~

 

「う、嘘でしょう…何よ…何なのよこいつ等は?」

 

私は夢でも見ているのだろうか?

 

たった今目の前で起きた現実の光景を見上げる私は唯々、いつものフォン・ツェルプストーとしての自分を忘れた唯の小娘と化していた…

 

今日、私はトリステイン魔法学園の使い魔召喚の儀式において虎の様な立派な体躯を持つサラマンダーというまさに火の系統、それもトライアングルの称号を持つ私には相応しい大当たりと言える使い魔を引き当て従わせる事に成功した。

 

 

「…………不明」

 

 

そして、同じくトライアングルクラスの私の親友でありクラスの中でも最高のメイジであるタバサなどは何と風龍の幼体を呼び出した。これはまさに他の生徒と比べれば別格と言えるだろう。

はっきり言えば彼女の呼び出した風龍、シルフィードがいなければ私のフレイムこそが最高の大当たりと自信を持って断言出来た程だ。

 

 

混乱したせいか…話が少々それたけども、私が見上げているのはまさにその使い魔召喚の儀で呼び出された2匹の怪物だ。

 

そう、本来1匹のはずである呼び出される使い魔…それが2匹。それが小さな小鳥やもっと大した事の無い使い魔ならばそりゃあ驚きもすれば珍しがるでしょうけども一応その事態に対しては納得も出来る。

 

でも冗談じゃ無い…今私達に影を落としている2つの巨体はたった一体で既に私が知り得る全ての生物を超越している様に思える。私だけじゃ無い、隣に立つタバサの珍しく強張った表情を見ればあらゆる知識に精通している彼女も知り得ぬ程の怪物なのだ。それが2体って…反則でしょう?

 

 

 

私がその理解不能な化け物(モンスター)に感じたのは紛れも無く『覇』であり、そして…

  

 

 

 

それらを呼び出したのは私の同級生、魔法成功率「0」落ちこぼれの大貴族、クラス一番の問題児。私のライバル…

 

 

そう、彼女の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。その二つ名を『ゼロのルイズ』

 

 

しかし彼女の二つ名は近い内に変わるだろう…これは予想じゃあ無い、揺るぎない確信だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~sideルイズ~

 

「私ルイズ・フランソワーズは心から願う、この宇宙の何処かに居る強く、美しく、気高き我が使い魔よ!!我が声と導きに答え、私の前にその姿を現しなさい!!」

 

そう言って私は2度目の詠唱を唱え終えて杖に全ての魔力を込めて振り下ろした。一度目?一度目は…その…練習というか…何も起きなかったわ…

いつも起きる爆発も起きずに完全な失敗…改めて考えてみたらそんな形の失敗は初めてだったけれどもそんな事を深く考えて等居られない。何故なら使い魔召喚に失敗すればそれ即ち、前代未聞の魔法学園落第という不名誉を得る事になるのだから。

 

 

「お~い、また失敗なんじゃ無いのか~?」

それは詠唱を終えた私を呷る様なクラスメイトのヤジに悔しさを堪えていた瞬間だった。

 

 

「来たっ!!」

 

何かが私の琴線に触れたのか?直感がそれを告げた瞬間に目の前の芝生の広場に突然開いた3メイル程の銀の穴。

確かな手応えとクラスメートの響めき…ついつい振り返り、さぞ驚いて居るであろうあのキュルケの顔を見たくもあったがその気持ちをぐっと堪えて召喚のゲートを私は注視する。

すると突然ゲートに変化が現れた。普通ゲートは完成したならばそのまま使い魔を外に導き、消滅する物であるが私の作り出したゲートはその口径を突然10倍近くに広げ、広場の芝生を塗りつぶしたのだ。

 

「ぬぅっこれは?下がりなさいミスヴァリエール、恐らく使い魔はかなりの巨体であると予想されますぞ。」

「は、はいっ。」(嘘っ?この大きさもしかしてドラゴンの成体?!こんなサイズのドラゴンって言ったらエルダークラスじゃない!!やったわ私!!流石は私!!

お父様、お母様、ルイズはやりました!!ふふふふふ、まさにこの私に相応しいわ。あぁ、始祖ブリミルよ私は今日程貴方に感謝した日はございませんわ!!)

 

引率であるコルベール先生の注意の喚起とさらに大きくなるクラスメートの響めきに私の中に歓喜と期待が大きく膨れあがるのを感じる。

 

そして、遂にゲートに更なる変化が現れた。

 

まず感じたのは急激な肌寒さ、次いでバチリバチリと空気が弾ける様な独特な音。そしてようやく現れたのは金と銀の閃光。二色の閃光がまるで私達の目を焼かんとばかりにゲートから吹き出す様に溢れ出た瞬間、遂にゲートからそれは飛び出してきた。

勢いのまま数10メイル上空に飛び出したのはまるで絡み合っているかの様な光を反射させて輝く金色と銀色の巨体だった。

 

「うおおおおぉぉー、何だアレ!!?」

「でかいぞ!!」

「ミス・ヴァリエール下がりなさい。」

「2匹いるように見えるぞ!!!?」

 

 

呆然としてしまった私を他所に、私を背に庇う様に瞬時に動いたコルベール先生とクラスメートの悲鳴と歓声が周囲に響き渡る。

 

(コルベール先生、ありがたいですが…眩しいです!!)

 

上空に飛び上がった私の使い魔達の身体が反射した太陽の光がもう一つの反射を持って予想外の方向から私を襲った…だけど今はそれすらもすこし心地よく感じる程私は高揚しているのだろう…

 

 

 

(キタキタキタキタキタキタキターーーーーーー!!!!来たわよ私の使い魔!!)

 

 

 

一拍の間、猛吹雪と落雷の雨と共に、地面に叩き付けられる様に私の目の前に呼び出された私の使い魔は、とても大きな身体を持った二足歩行する2匹の巨大な魚?でありその鱗は黄金と白銀で眩い程に彩られていた。

 

 

 

 




短いか?

二匹の魚と、一人の女が、銀河の闇を星となって流れた。
一瞬のその光の中に、人々が見た物は、金、力、運命。
いま全てが終わり、駆け抜ける悲しみ。
いま全てが始まり、きらめきの中に望みが生まれる。

次回『契約』

遙かな時に全てを掛けて。


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異世界際のガノスさん

ちょっとずつでも一話一話を長くしたい。
そしてこれを読んでMHFをやってみようと思う人が増えたらいいなと思ってる。(震え声)


それは見上げる様な巨体だった…長く教員をしているコルベールですら今回の様なケースは初めてであった。

それは1匹だけというルールすらもねじ曲げていた。メイジの実力を見たければ使い魔を見ろ。と言う格言があるが一体これが使い魔だと言うならばルイズ・フランソワーズが落ちこぼれ等と誰が思うだろう。

 

 

 

 

それはまさに魚だった……

 

 

 

 

 

今はようやく落ち着いて居るが、あれから二匹の使い魔はしばらく揃って地面の上で「ビタンビタン」と撥ねていた。とは言え撥ねているだけでその巨体、頭の先から尾先まで30メイルはあるであろう巨大な魚×2の跳躍によって地面は陥没と隆起を起こす。それに加え、ゲートから飛び出した際に起きていた先住魔法なのか周囲への敵対行動なのかどういう意図で起こしていたのか全くもって不明な轟雷を伴った猛吹雪、それらのせいで広場の大地は凍り付き、焼け落ちるという不思議な惨状を晒していた。

 

 

「ミス・ヴァリエール…コントラクトサーヴァントを。」

「ミスタ……この場合、どっちとすればよろしいのでしょうか?」

 

 

「……ここは……チャンスが2回あると思えば良いんじゃ無いでしょうか…ハハハ」

 

(わけが分からないわ。)

 

誰も彼もが呆然と目の前の非現実的な現実を見上げる最中、いち早く正気を取り戻したコルベールがルイズに使い魔契約の執行を促し、ルイズの尤もな疑問に目を逸らしながら答えたコルベールは思わず乾いた笑いを溢す。

ルイズの疑問の答えはコルベールとてむしろ知りたい側なのだから。

 

「とにかく。あの二匹の使い魔、今はどういう分けか大人しく周囲の様子を覗っているだけのようです…召喚された使い魔は基本的に召喚者に敵意を持っていないはずです。口元までは私がレビテーションでお運びしますのでくれぐれも気をつけて下さい。」

 

コルベールの言う通り、今は二匹の使い魔は器用にと言うよりは当然の如く腹びれが進化した様に見えるその2本の足で立って落ち着いた様子で周囲をキョロキョロと見回していた。

ルイズはコルベールの言葉に従う様に先ずはどちらかと言えば近くに居た金色の魚の足下まで駆け寄る。

同時、金の魚も足下に駆け寄ってくるピンクブロンドの髪の小柄な少女を見つけてその視線が明確な意思によって固定される。

かなりの遠巻きからクラスメートが不安げに見守る中、ルイズは改めて己の使い魔の姿を見上げて思う…

 

 

(でかい…でかすぎるわ……と言うかこいつの牙なんてまるで竜じゃない…人なんて一口で飲み込んじゃいそう。それにしても先生が言ってた様にさっきから暴れたりする気配が無いけど、もしかして意外と大人しいのかしら?)

 

思案するルイズの身体が宙に浮き、主従の距離が徐々に近づいていく。

 

ここではっきりと言えばルイズの考えは間違っている。この二匹の魚は別に大人しく等決して無いのだ。この二匹が本気で暴れたりすればこの周囲はまさにアビ叫喚の地獄絵図である。

 

 

 

 

 (便宜上)彼等の正式名称はそれぞれ黄金の魚竜が『ゴルガノス』白銀の魚竜が『アルガノス』と呼ばれ、溶岩竜『ヴォルガノス』を祖とする(そもそもヴォルガノスの祖が彼等である可能性もあるが。)ルイズ達の住まうハルケギニアとは異なる異世界のモンスターである。

 

その世界では人々の中には驚異的身体能力とアタリハンテイカ学なる若干怪しげな世界法則をもってモンスターをハンティングするモンスターハンターなる職業の者達が多数存在している。

そしてそんなハンターや多種多様なモンスターが跋扈する世界で人々が作り上げたハンター協会によって、彼等はその驚異性によって最上位のハンターのみが立ち向かう事を許される存在、『覇種』と言うカテゴリーに据えられたモンスターであった。その桁違いとも言える危険度から、現在覇種認定を受けたモンスターは他には僅か5種であり今後増える事は無いだろうと思われる。

 

この覇種の更に上にG級モンスター等も存在するがそれらは実際にはハンター側にある種の制約が加わる事によって相対的に狩猟が困難となる部分があるのだ。故に純粋な生物的強さで言えばまさに彼等ゴルガノスアルガノスは覇という名を冠するのに何ら恥じる事の無い存在と言える。

 

つまり魔法が使えるとはいえ一人間であるルイズが近づいてこようと彼等は別に警戒なんぞ必要無いのである。何せ彼等はハンターがよっぽどのんびりしていなければ斬りかかられてようやく戦闘態勢に入る様な可愛い所がある。

人は子猫がヨチヨチと歩いてきて警戒するだろうか?爪を立てられでもしなければ敵対はすまい。つまりはそういう事なのだ。

 

 

 

 

~ルイズside~

 

「さて…行くわよ、我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!!」

 

ちょっとだけファーストキスが魚?というのに抵抗がある気もするけどそれ以上に私はこの幻獣達が自分の使い魔になるという事で喜びでどうにかなってしまいそうだった。

それでもあれだけ連日練習し続けた契約の為の呪文は淀みなく口から流れ、正直自分でも抱いていた「危険なのでは無いか?」という周囲からの心配も何かも全て無視するかの様に契約の口づけはあっさりと交わされた。

予想通りというか何というか冷たい金属質な感触と若干のぬめりの様な嫌な感触。油でも塗られた彫像の様だった。こうして私のファーストキスは無事この黄金の魚?に捧げられた。

それもこれも金色の方の子が全くと言って良い程警戒をしていなかったからだけども。

 

「良い子ね…」

 

そうして見てみれば金色の子の胸にその巨体から見ればあまりにちっぽけと言える様なルーンが刻まれたのが私にははっきりと確認できた。思わず頬が緩んでしまい、そうして改めてみればさっきまで何とも思っていなかったのになんとこの使い魔は愛くるしい外見なのだろうと思えてきてしまう。

 

 

我ながら現金だ。

 

(だめだめ、駄目よルイズ、私にはまだ契約をしないといけない使い魔が居るのよ、気を引き締めないと………そうよ…私にはもう一匹も使い魔が居るのよ!!それもこんな立派な子がね!!)

 

気を引き締めた直後に頬が緩み、こちらを興味深げに見ているクラスメート達とその使い魔達に思わずドヤ顔をさらしてしまった私は慌てて己を律して視線を銀色の子へと向け直した。

 

目の前を羽ばたいていた蝶々を鼻先に(鼻無いけど)止めてこっちを眺めていた銀色の子、よく見ればこっちも可愛い顔をしていたりする。それにその眩いばかりの身体が観察の為に近寄ってきたコルベール先生をより一層眩しくしてしまっている…全く、お茶目さんだわ。

 

「ん?おや、これは?…ミス・ヴァリエール、そちらの未契約の筈の個体よく見れば既に胸にルーンが刻まれておりますぞ?見た事の無いルーン…しかし両方とも全く同じルーンですな。」

いつの間にやら手にしたメモに書き写したルーンを見比べて先生が唸る、私も直ぐに確認したけど確かに二匹とも同一箇所に全く同じルーンが刻まれている。

 

「もしかして片方と契約した時点で両方とも使い魔になったんですかね?」

 

「確証は無いが恐らくそういう事だろう…なにせ前例が無いからね、この様な事は…。何にせよ使い魔召喚の儀式は無事に完了だ。ひとまずおめでとうミス・ヴァリエール。」

 

コルベール先生がそう言って私の肩をポンと優しく叩いてくれた。

不覚にも実技で褒められた事の無かった私は思わず緩んだ涙腺に思わず力を込めてしまう。今日はまさしく私にとって最良の日と言えるだろう。

 

 

(さっそくこの子達に名前を付けてあげなくちゃね。ゴールドとシルバー…は安直かしらね?うーんどんなのが良いかしらね…?)

私の前に並んで立つ二匹の使い魔に思いを馳せながら緩む頬と涙腺に力を入れる私の隣でコルベール先生が不意に真剣な口調で私に声を掛けてきた。

 

「それにしてもこれからが大変ですぞ、ミス・ヴァリエール。」

「ふぇ?何がですか?」

 

「これ程巨大な使い魔、しかしその成体は完全に不明、それもそれが二匹。食事と世話をする環境…まぁ君の場合は幸いにも実家がかの公爵家だきちんと報告をすれば少食事位は何とかなるやも知れんが。私の様な貧乏貴族であったならばこれ程の使い魔だ、喜びながらも自らの甲斐性の無さに頭を抱えて居る所だよ。はっははは」

 

 

先生の言葉に私の顔を思わず冷や汗が流れ落ちていった。

 

私はこれからこの子達の世話をしなくてはならないのだ…何を食べるのかしら?普通の食事量じゃ無いのは見れば分かる。それこそ毎日牛1頭ずつで済めば良い方だと思う。

どう見ても陸上生物じゃ無い。だってエラが付いてるもの…魚っぽい割に普通に地面を歩いてるけどこの子達が自由に泳げて生活できる湖なんてラグドリアン湖しか思いつかないわ。

そもそも海で生きてたとしたらほんとどうしよう…

 

 

「さしあたっては…この広場、どうにかしなくてはいけませんな…」

 

 

そう言って荒れ果てた大地と凍り付いて焼け焦げた芝生を見て、気が抜けた様に笑ったコルベール先生の頭は金と銀の光を反射して私の目を焼いたのだった。




次で命名。ギーシュと決闘?残念ですが彼はSRが300に到達している様にはみえないからねぇ…
後、USUGEMANの方達ごめんなさい

『アビ叫喚』アビオルグという本家のイビルジョーに似たモンスターが二匹同時に出てくるクエストで良く見られる光景。恐ろしいのは討伐目標が1体の筈のクエストなのに平然と二匹並んでうろうろしている事があるという事である。二乙の後でパーティー四人纏めて打ち上げ花火にされて幻の6乙というのは良く聞く話。


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今週は報酬ブーストたっぽりエキュー祭り

モンハンとゼロの使い魔コラボしませんかねぇ?まどマぎやISがいけたんだからいけるやろ?(確信)




~ルイズside~

 

あの後、すぐにコルベール先生は学院長の所に私の使い魔に対する対処と報告に行ってしまった。

何かあっても不味い為、私はこの二匹の使い魔を放り出してついて行く訳にも行かないので何をするという訳でも無いけどただ使い魔の事を観察している。

他のクラスメートの殆ど全員は既にそれぞれ使い魔を従えて学院に戻っている。

普段ならこういう時には私が魔法で空を飛ぶ事が出来ない事を口々に馬鹿にしてくる彼等も何も言ってくる事は無かったし、チラチラとこっちを覗いながら私の使い魔達から逃げ去っていく様でちょっとだけ胸がすく思いだったのは内緒だ。

 

「で…あんた達は戻んないわけ?」

 

私はその場でくるりと振り返るとさっきから私の後ろで一緒にこの子達を眺めていたキュルケとタバサに声をかけた。

二人とも確かに良い使い魔を呼んだみたいだけど私には及ばない…きっと羨ましいんだわ。

 

「いくらあなたの使い魔だって言ってもゼロのルイズ一人残したって何かあったらどうしようも無いでしょう?はっきり聞くけどあなたアレを御せるの?」

 

私の考えとは裏腹にそう言ってキュルケが高慢ちきな態度で赤い髪を掻き上げながらサラマンダーの顎をなで上げる…その相変わらず私を馬鹿にした態度にムッとなった私はついいつもの調子で口を開いていた。

果たしてこの私にあれ程の使い魔達を御す事が出来るのか?冷静になった今だから抱いている当然の疑問を胸の中に押し込めながら。

 

「出来るに決まっているでしょう!!この子達を呼び出したのは私よ!!見ていなさい……『シル』『ゴル』伏せっ!!」

 

名は体を表すという格言に従って私は結局はこの子達にそれぞれ銀と金の名前を冠させる事にしていた、シルバーとゴールドから取った愛称だ。

咄嗟に名前を呼びつけて半ば怒鳴る様に出した命令はまるで犬にする様な命令で、それを隣でキュルケに笑いながら指摘された事に私は思わず羞恥に顔を赤くしてしまったけど、私の不安なんてまるで無かった様にシル、ゴルはその場で足を折って器用に地に伏せって見せた。

その事実で私は思わず満面の笑みでキュルケの顔を見返してやった。案の定目を丸くして驚いて居るキュルケに私は満足するとそのまま自分の可愛い使い魔に駆け寄った。

 

「どうっ?」

 

キュルケの悔しそうな表情に満足しながら私は二匹の頭をよしよしと撫で回してやる、感触としてシルの方はまるで氷の様に冷たくゴルの方はピリピリと静電気が手の平を時々流れている。

口元からチラリと覗く鋭い黒い牙、この子達は驚く程大人しいけど一体何を食べてこんなに大きくなったんだろう?

 

「暴れないで大人しくしててね~、良い子にしてたら明日にはきっとご飯あげるからね~」

 

きっと私の属性はさっきから何も言わずに観察を続けているタバサと同じで『風』と『水』なのだろうと思う。ゴルの方は雷を纏っているというのは明白だし雷を操るのは風の属性以外にあり得ない。シルの方は氷を操っているように感じる。そうじゃないならこの冷たさや現象は説明できない。それに二匹とも魚っぽいもの。魚と言えば水、まさか火龍山脈の溶岩の中を魚が泳いでいる何て馬鹿な話はないでしょうし。

実は長年爆発から関連づけて『火』なんじゃ無いかなと思っていたけどそれは勘違いみたい、よく考えたらキュルケの奴と同属性って嫌だし。

 

(それにしても可愛いわ…ウヘヘヘヘ…)

 

と…

 

 

「えぇぇぇ~~~~~~っ!??ちょっ嘘でしょっ!!?」

 

「本当。」

 

 

(ハッ!!)

 

ちょっと思考がトリップしていた私の頭がキュルケの驚愕の叫びで現実に呼び戻された。

見ればちんちくりんのタバサが手の平台の大きさのゴルの鱗を持ってキュルケと話をしていてキュルケの手がプルプル震えている。

 

「ちょっとタバサ!あんた私の使い魔の鱗剥がしたの!?何してんのよ!!」

「落ちていたのを拾った。」

 

私の憤慨にタバサは首を振って簡潔に答えながら鱗を私に返してくれる。ん…意外と重いわね。

この子はいつもこんな感じだ、こんなだから普段キュルケ以外とまともに会話しているのを見た事が無い。その会話すらキュルケの奴が一方的に喋っているだけだけど…

 

「そんな事より、ルイズ!!あんたの使い魔一体どうなってんのよっ!!??」

 

「え、何っ?」

 

とっ、いきなり血相を変えたキュルケが私の両肩を強く掴んで詰め寄ってくる。

とっさの事にたじろいだ私に構う事の無いキュルケ。

 

「何?じゃ無いわよ!!あんた分かってないの!?その鱗はね「純金…」

 

「……え…」

 

キュルケの言葉を遮ったタバサの言葉に私の思考は一瞬止まってしまった…

 

「正確に言えば高純度の黄金、それもスクウェアメイジが作る金より上質と思われる。」

「は?…え?」

 

タバサの淡々とした説明で私は手にした一枚の鱗に視線を落とす…隣でキュルケが何か騒ぎながらぎらついた視線を私の使い魔達に向けているけど…

私が手にしている鱗はヒレ辺りのなのか、小さい方だけど胴回りの鱗なんて優に私達の頭位の大きさがある。

 

「まさに生きた財宝…」

 

硬直してしまった身体をぎこちなく動かして私はタバサとキュルケが見つめる二匹に視線を向ける…

ギラギラと輝くこの子達…よく見れば薄い鱗が時々剥離して宙を舞う事で光を反射している、そのせいかしら?何だか視界がぼやけて白む…

 

 

「ねぇ、ルイズ…私達って親友よね?」

「…友達」

 

「…ふざけん…な…」

 

 

魔法を成功させたせいで精神力が尽きたのか色んな意味でのショックが原因なのか…わざとらしい二人からの猫なで声に辛うじて悪態を吐きながら私は意識を手放した……

 

 

 

 

 

 

~コルベールside~

 

「ふむ、今年はまたどえらいのが呼び出されたのぅ…一言で表するならばまさしく化け物じゃのう…わしもかつては若い時にワイバーンを魔法で退けた事もあるが…例え片割れだけだとしてもまともに立ち向こうてあれはどうにか出来るとは思えんわい。お主もそう思うじゃろうミスタ・コッパゲール?」

 

「コルベールです!!しかしですな、学院長…」

 

「分かっておるわ、君の言いたい事なぞ。いくら使い魔が驚異的であろうと我等教師の生徒に対する接し方を変えるなどと言う事はない。我等の務めは生徒達を正しい方向へと導く事じゃて…」

 

ミス・ヴァリエールの召喚した規格外の使い魔について私が報告と対応の相談にこのトリステイン魔法学院の最高責任者オールドオスマンの部屋を訪ねた時には既に遠視の鏡で事態を把握しておられたのだろうか、学院長は私の伝えたい事を把握し、教育者として欲しかった答えを直ぐに指し示してくれた。

 

普段秘書であるミス・ロングビルにセクハラをして仕置きを受けて喜んでいるだけでなく教師としてのそのあり方はやはりこの人が素晴らしい人物なのだと再認識させてくれる。

 

 

「しかし…現実的な問題としてあの使い魔の住み処をどうにかせねばならんのぅ…厩舎になぞ到底収まらんぞ。仮にあれの寝床となる設備でも拵えよう物ならどれくらいの金を動かす事になるやら…」

 

とは言え、現実的な問題に目を向けた途端パイプを口に付けて学院長は盛大に溜息を漏らす。それはそうだろう…私でも簡単に想像が付くのは目玉が飛び出す様な恐ろしい金額だ。

私と学院長の視線は揃って隣の机で何やら計算を行っているミス・ロングビルへと向いていた。それにしても今日も美しい…

 

「ふぅ…ざっと計算してみましたが恐らくはこれ位の金額が必要かと思われます。」

 

言って差し出された書面を見て私は思わずうなり声を上げてしまった…それは学院長も同じであった。

 

 

「随分と安くつくのう?わしの見積もりじゃったら後2桁は0が足りんぞ?ミス・ロングビル?」

 

「錬金で穴を掘って柵と堀で周囲を囲う形で済ませれば水を張る事も考えてそう高位のメイジの力も要りませんわ。生徒の中から土と水のメイジ数名を実技講習とでも伝えて納得出来るだけのご褒美を与えれば十分かと。」

 

「ふむふむ、成る程な。」

 

 

(ミス・ヴァリエール、こちらでも最大限の助力はさせて頂きます。ですから貴女も頑張ってあの使い魔達を従えてみせてくだされ。)

 

 

 

 

 

~ルイズside~

 

私が再び目を覚ましたの学院内の医務室であれから数時間立っているらしく外はもうすっかり夜だった…

私が起きた事で慌てて駆け寄ってきた医務室にいたメイドの一人が言うには私を運んで来たのは案の定キュルケとタバサらしい。

案の上というかちゃっかりゴルの鱗はタバサが持って行ったらしい。全く油断も隙も無い…

 

(あの子本当に落ちてた鱗を拾ったんでしょうね?)

 

私がそんな事を考えながらちょっと難しい顔をしていたせいだろうかまるで怯えているような様子でさっきの黒髪のメイドが私に声をかけてくる。

 

「あの、ミス・ヴァリエールあちらの広場にいる大きなお魚がミス・ヴァリエールの使い魔というのは本当なのでしょうか?」

 

そう言ったメイドの視線の先、窓から見える広場に私の二匹の使い魔は広場中央の噴水を互いの間に挟むようにして無防備に寝転がっていた。

それにしてもただそこにいるだけで月明かりと松明の明かりを照り返してこれでもかと自己主張している所が主の私にはちょっと微笑ましい。

それでも誰もあの子達に近づくような真似をしないのは恐ろしいからだというのは私だって理解出来た。きっとこのメイドも同じだろう。

 

「本当よ。あぁみえてとっても大人しい良い子なんだから…タブン。」

 

「多分!?今小さく多分って仰いましたよね!?」

 

ヒ~ンと声に出して胸の前に両手を寄せて嘆くメイド…何がとは言わないが私には無い物を持つこいつがちょっと妬ましい。

とは言え今日の私は史上かつて無い程に機嫌がいい。笑って許してあげようと思う。

それに丁度いいしこのメイドにお願いしておこう。

 

 

「あ、所であんた名前は何?」

 

「はぁ、シエスタと申します。」

 

首を傾げて不思議そうにシエスタが答える。言外に何故メイド風情に名を訪ねられるのか?と言いたげに…

 

 

「それじゃあシエスタ、明日の朝朝食を支度しておいて貰えるかしら?」

 

「朝食ですか?それは食堂では無くミス・ヴァリエールのお部屋に持って来いという事で?」

 

ベッドから降りてマントを羽織る私に確認をするような質問。一流のメイドならば貴族の要望をしっかりと察して欲しい。

 

「違うわ。私の使い魔の食事よ。変な物与えられても困るし私も立ち会うから明日の朝、あの広場に集合。」

 

そう言った瞬間、メイドの顔が青くなる。全く失礼な反応だ。

 

「え、あの、ミス私がですか?」

 

「あんた以外誰がいるって言うのよ、それじゃあ頼んだわよシエスタ。」

 

そう言って私は医務室の扉を開けて自分の部屋に戻る為に歩き始めた。まだシエスタは大分混乱している様だったけどもっとしっかりして欲しい。

 

 

それにしても今日は本当に素晴らしい1日だったわ。

 

(そうだわ、部屋に戻ったら早速小姉様やお父様達に手紙を送ろうっと…)

 

きっとこれからはこんな毎日が続くんだろうと思うと私の歩調は自然と軽くなった。

 

 

 

 

 

 

それにしても魚なのに陸上で眠りこけてシャボン玉みたいな物を頭の上に出しているだなんて我が使い魔ながら本当に不思議な生き物だわ…

 




名前結局アルゴルにしようと思ったんですけどシルゴルにしました。
作中明記する機会無いかもですけどゴルガノスの方が『ゴールス・ラ・ヴァリエール』
アルガノスの方が『シルバ・ラ・ヴァリエール』として戸籍表登録が行われました。

ていうかほんとあいつ等は何食べるんだ?


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豚は出荷よ~  優秀なるカプ畜達

感想お気に入り登録ありがとうございます。自分にとってはまさに「元気のみなもと」でございます。……まぁ使わずにアイテムBOXで死蔵させてるわけですけどもね(ゲス顔)


~シエスタside~

 

 

おとうさん、おかあさん、お元気でしょうか?今私はとっても大変な事になっています。

 

 

昨晩偶然私がお世話をさせて頂いたミス・ヴァリエールに突然言い渡されたご命令に従って私は今、そのミス・ヴァリエールとその使い魔さん達のいらっしゃる学院内の広場に来ています。

 

件の使い魔はその日のうちに使用人達の間ですっかり話題になっていました…

 

「金と銀の鱗を纏った巨大な飛竜だった。」とか

「人語を解して、食事は処女の乙女を好む。」だとか

「実は胴体はムキムキマッチョな兄貴体型が真の姿」何て物も…

 

基本的には貴族様の使い魔のお世話も使用人の仕事ではありますから、それらの噂も馬鹿には出来なかったりする。案外ちゃんと仕入れておかないと経験上意外な所で困ったりもする事があるからだ。

例えば嫌いな物を食事に与えようとして主人の不興ををかって仕置きを受けた使用人の話なんて有り触れているんだから。

 

噂の中で一番私が気になったのは処女の乙女を食べるという物…

わざわざミス・ヴァリエールが食事を用意しろと言っていたのはまさかそういう意味だったのだろうか?

確かに私はまだ処女だけれどもだからといって…そう思うと私はもう気が気でない…

 

 

 

 

~ルイズside~

 

(大丈夫かしら?このメイド…)

 

私は朝一番、清々しい目覚めと共に私の可愛い使い魔が眠っていた広場へと早速足を運んだ。

広場には昨日命令しておいた通りシエスタが既に居り、その後ろには色んな食べ物が積まれた荷車もある。

 

で、肝心のシエスタは涙目で大きなバケツ一杯に詰まった飼い葉を持ってシルゴルを前にオロオロとしていた。

 

「ご苦労様、ちゃんと朝ご飯の支度してくれたみたいね。」

 

「は、はいぃぃっ!」

 

「どうしたのよ一体…少しは落ち着きなさい。採って食われる訳じゃあるまいし。」

 

「えっ?」

 

 

私が声をかけた事にこっちが驚く位に反応したシエスタを私が嗜めているとシルゴルも目を覚ましたのか立ち上がって、伸びでもするかのような動きをして大きく欠伸をして見せた。

そしてゴルは噴水に顔を突っ込んで水をえらい勢いで飲み始める。

 

 

「さて、昨日はああ言ったけど私もこの子達が何を食べるのか実は良く分かってないのよね。シエスタ、取り敢えずこっちのシルに色々あげてみましょう。」

 

「あ、畏まりました。」

 

何だか若干落ち着きを取り戻したシエスタが私の命令通り、手にした飼い葉をおっかなびっくりといった感じでシルの目の前に積み上げてみる。

 

慌てて駆け足で私の傍まで戻ってきシエスタと一緒に私は飼い葉を前にしたシルの動向を固唾を飲んで見守る。

 

そして意外な結果が直ぐに現れた。

 

 

 

「…食べてる」

 

「ですね…」

 

私もまさか飼い葉なんて食べるとは思っていなかったけど普通にシルは食べてしまった…地面ごとだけど。

 

「つ、次よ、シエスタ。」

 

「はい」

 

続いて積み上げたのは林檎やベリーなんかの果物と野菜類と一般的な穀物飼料、はっきり言えば飼い葉を食べるならコレも食べるだろうという私達の予想は外れる事も無く、シルはまたしても地面ごと一口で豪快に食べてしまった。

 

「NEXT!!」

 

「YAH!」

 

続いて取り出されたのは魚が入ったバケツ。それをシエスタが持ってシルに近寄るとシルが口を開いたのでそのまま流し込むように食べさせてみた。

ここまで来たら当たり前だけど咀嚼する事も無く口に入った魚達はどうなっているのか想像も出来ない魔法の胃袋に直行だ…

 

何だかシエスタも私もちょっと楽しくなってきた。

 

 

 

「シエスタ、次よ!!」

 

「豚は出荷よ!!」

 

『らんらん』とネームプレートを付けられた豚がシエスタに引きずられてシルの前に連れ出された…流石に私もちょっと可哀想に思えた。

 

と言うかシエスタというか使用人連中はカプ畜に名前を付けているのかしら?

 

 

これまたあっさりとシルは豚をその口の中に納めて今度は流石に何回か咀嚼をしていた。

その度に何かが潰れる様な音と豚の悲鳴が聞こえたけど私は気にしない事にした。心なしかシルも満足しているように見える。

 

 

「結局、好き嫌い無く何でも食べるみたいね…」

 

「私こんなに雑食な使い魔見た事ありません」

 

「それを言うならもう何もかもこの子達は規格外よ。」

「フフ…ですね!」

 

問題の一つが解決して気分が良かった私の冗談にシエスタは朗らかな微笑みで答えてくれる。

これからこの子達の世話にはこのシエスタを専属に付けようそうしよう。

 

「それじゃあゴルにもご飯あげなきゃ……ね……」

 

そんな事を考えながら私は噴水の所にいたゴルに視線を向け、次の瞬間思わず唖然としてしまった…

 

 

 

 

何故か?

 

 

 

私の目の前でゴルはあろう事か噴水の中央に佇む水の女神像(もう土台しか無いけど)をボリボリとむさぼっていたからだ…

 

 

 

 

***

 

 

 

 

結局あの後、二匹はよく食べた。

シエスタが用意した食料全てをあっという間に食べ尽くして分かった事だけれど、一応二匹とも好物と言えるのは肉みたいだった。

実験と称して色々な餌を並べて見せたら案の上一番に食いつかれたのはらんらん二号だった。

足りない分は女神像の辛うじて残っていた部分で補った…決して証拠の隠滅なんかでは無い。無いったら無い!!

 

最終的にはシエスタも私の使い魔達の愛らしさを理解したらしく撫でる事を許した時はキャーキャーはしゃいでいた。理解者が出来てちょっと嬉しい。

 

そうそう、食事を終えて片付けをしているとシルゴルの金銀の鱗を数枚拾ったので

銀の鱗を今日の礼にと一枚シエスタにあげた。

 

「家宝にさせて頂きます!!」

 

とシエスタは言っていたけど実際問題この鱗どれ位の価値があるのかしら?

 

 

私は懐にしまった重たい鱗に思いを馳せながら今朝のやり取りを思い返して教室までの廊下を歩く。

通り過ぎる最中、すれ違う他の生徒の傍らには小型の物は使い魔が寄り添っていた。

カラス、蛇、フクロウ、カエル、犬、猫、アヒルそれぞれの使い魔達が常に傍に居るというのはちょっと羨ましい。

 

 

(フフフッ、持てる者故の贅沢な悩み。…と言った所かしら?)

 

 

今の私には他人の使い魔が可愛く見えて仕方がないのだ。

 

「何一人でニヤついてるのよ頭でも打ったの?ルイズ。」

 

そんな愉悦タイムを邪魔してくれたのは偶然教室前で出くわしたキュルケ、おまけのタバサだった。

 

「失礼ね、朝から良い気分だったのにあんたのせいで台無しよ…」

 

「それだけ憎まれ口叩けるんならもう平気みたいね?昨日は突然倒れたから私達は本当良い迷惑だったんだから。」

 

「…不器用」

 

「うぐ」

 

タバサの声は聞き取れなかったけどキュルケの言葉に私は昨日の失態を思い出して私の言葉が詰まる。癪だけどキュルケに借りが出来てしまっているんだった…

何とか話題を変えようとした時思い出した。そうだ。タバサだ。

 

「そう言えばタバサ!!あんたゴルの鱗持ってったでしょう?返しなさい!!」

 

「もう無い。使った」

 

顔色一つ変えずにこの子はなんと言う事を平然と言うのかしら…

 

「何に」

 

「使い魔の餌代」

 

嘘だ、だって明らかにいっつも本を読んでるこの子が今読んでる本が新品だもの。

 

「まぁまぁ、ルイズ倒れたあんたを運んでくれたのはタバサなのよ?魚の鱗の一枚で怒らないでいいじゃない。」

 

「な?あんたさっきまで自分が運んでやったみたいな態度だったじゃない!?ふざけないでよ、色々モヤモヤ考えて損したわ全く。」

 

「あら私は私が運んだ。だなんて一言も言ってないわよ~~勝手に勘違いしたのは貴女じゃない。」

 

本当この女むかつく!!

 

でもそういう事情があるのなら私も一つ落としどころを見つけられる。

私が改めてタバサに向き直ったらタバサは相変わらず視線を本に固定したままだ。全くこの子は一体何なんだ…

 

「そういう訳なら、タバサの鱗の件はチャラってことで良いわ。でもいい?今後勝手に鱗を持って行ったら怒るからね、後絶対にはぎ取ったりしない事、良いわね?」

 

「………」

 

無言で頷かれた…本当何なのこの子

と思っていたら突然タバサが何かをズイッと差し出してきた。なんだろう?

 

「…交換」

 

私に手渡されたのは金貨位の大きさの鮮やかな青色の一枚の鱗

コレがタバサの使い魔の鱗なのは見れば分かるけど…タバサ?その差し出されたままの手の平は何?

 

 

「今度は…銀がいい…」

 

「あげないわよ…」

 

私はこんな澄んだ瞳であこぎな事を言ってのける人物を知らない。

 




タバサェ…何故か守銭奴チックに…
そして竜といえばホルクも雑食だし超雑食性にしました。何処ぞの「サラマンダーよりはやーい」世界だと毒だろうが武具だろうがアレだろうが竜は食べてるし(白目)

そしてらん豚の悲鳴は運営には届く事は無いのであった…


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メインターゲット 使い魔の鱗×2の納品(前編)

クエスト失敗条件 パーティーメンバーいずれかの死亡



チリリ~ン♪     パ~プ~~♪  ♪ ♪


~ルイズside~

 

「はぁ…」

 

溜息が零れる…

 

私は今たった一人で教室の片付けをさせられている…慣れてもいるし自業自得と言えばそうなのだけれどやっぱり気持ちが落ち込むのはどうしようもない。

 

使い魔の召喚でまさに大成功と言える成果を収めた私は意気揚々と授業を受け、今日の授業で『錬金』の魔法の実演に指名を受けた。

 

自信があった。

 

失敗の爆発を恐れて私を止めようとする周囲の反対を押し切ったその時の私の精神は未だかつて無い程漲っていたしむしろ失敗するなどと微塵も思っていなかったわ。

 

でも残念ながら結局私の錬金は今まで通り、目の前の石を望んだ金属に変える事無く、私の根拠の無い自信と共に派手に爆発して粉々に砕けて消えた。

 

大体クラスメート達は私がこの失敗魔法を披露すると口々に私を悪し様に馬鹿にするけど今回は私の使い魔についても言ってきた。

 

 

見栄えと図体ばかりの張りぼて使い魔、家柄とプライドだけは使い魔と揃いだ、等と…

解っている…この世界で魔法が使えない貴族ほど哀れな者もそういないだろう…

何故ならそれは始祖ブリミルの加護を与えられなかったと言う事に他ならないんだから…

 

 

(やめよう…)

 

私はこのネガティブな思考を切り替えるように深呼吸を一度する。こういう切り替えが上手くなってしまったのも微妙に嫌だ…

再び気落ちしそうになりつつも意識を懐の重みに向ける。其処にあるのは私の使い魔が夢などでは無いと言う確かな証明

 

「そうよ、魔法は未だに成功しなくても私はシルとゴルを呼び出したのよ。きっとこれからなんだから!」

 

そうして再び教室の片付けに励みだした私に穏やかな女性の声がかけられた。

 

 

 

 

「ミス・ヴァリエール、少しよろしいでしょうか?」

 

「ミス・ロングビル?何かご用でしょうか?」

 

私に歩み寄ってくる学院長の秘書、ミス・ロングビル落ち着いた印象の大人の女性…

 

「はい、早い内にご相談させて貰うべきかと思いまして声を掛けさせて頂きました。

お話というのは貴女の使い魔のことですわ。」

 

「あの子達の?」

 

片付けの手を止めた私はミス・ロングビルに向きなおる。まぁあの子達に関する事だとは予想は出来ていたけど一体何だろうか…

 

「はい、あの二頭に関しましては残念ですが現在学院にある施設では到底管理が不可能です。しかし生徒の使い魔の世話のサポートもまたこの学院の務めです。という訳であらたにその為の設備を整えようかと思います。」

 

そう言って手渡されたのはその新しい設備の概要と思われる物におおよそ必要となるであろう金額の試算が纏められた羊皮紙だった。

私がそれを読み進めているとミス・ロングビルは話を進める。

 

「勿論学院長には話が通っておりますし私としても最大限思考した物がその仕様です。が、なにぶん大掛かりな話です。はっきりと言えばヴァリエール家からの援助無く行えるとは言えません。急な話ですが捨て置く訳にもいきませんのでどうするかを近日中に決めて下さい。」

 

 

つまりは早速あの子達の事で学費に追加が出たと言う事だ…まぁこの旨はまた実家に手紙と一緒に送って相談してみよう。

 

「ありがとうございます、ミス・ロングビル」

 

「いえいえ、これも私の仕事です。あなたも大変でしょうけど頑張って下さいね。」

 

私が礼をするとミス・ロングビルもそれに答えて忙しいのだろう、すぐに教室を出て行ってしまった。

持って来られたお話は確かに頭が痛くなるような内容ではあったけど仕方が無い。むしろ本来なら感謝をするべき何だろう。

 

取り敢えずは目の前の片付けだ…

 

(がんばろ…)

 

 

私がその手の中にある書類の中に女神像の修繕費という項目を発見したのは大分後の事だった。

 

_________

 

 

 

私が片付けを終えたのは昼食が終わり丁度庭園でのティータイムの時間に差し掛かっていた頃合いだった。

私は適当なテーブルに腰掛けてケーキの配膳をしていたメイドに声を掛ける。

しっとりと艶やかな光沢を放つケーキを前に私のお腹がキューと泣く、やっぱり疲れた身体には甘い物が必要だわ。

 

うん、おいしい。

 

私がケーキを食べ始めた辺りだろうか?何だか騒がしかった男子連中の一団がどうも興奮した様子で走っていくのが見えた。

全く、呆れたものだわ。

 

と、去って行く男子連中が離れた辺りにシエスタの姿を発見した。シエスタも私に気が付いたのか…ん?何かえらい慌ててこっちに来たけどどうしたのかしら?

 

 

「も、申し訳ありません!ミス・ヴァリエール…私のせいで大変な事に。」

 

目の前までやって来たシエスタの突然の謝罪に私は思わず首を捻ってしまう。一体この娘はどうしたのだろうか…

 

「このままじゃ…どうなっちゃうのか私にはわかりません~!!」

 

またしても要領の得ない事を言ってシエスタが泣き崩れる。なんだか大変そうに見えるけどしっかりして欲しい。

 

取り敢えず私はシエスタを宥めて話を聞く事にした。

 

 

 

 

 

~ギーシュside~

 

 

全く昨日といい今日といい本当に驚かされる日が続くもんだ。

昨日の事と言えば当然あのゼロのルイズが呼び出した巨大な二匹の魚の事だけど今日驚かされたのはさっきのメイドとのやり取りで発覚した衝撃の事実のことだ。

 

____それは数分前

 

 

ぼくは今日もいつもの様に仲の良いクラスメート達とテーブルを囲って優雅なティータイムとしゃれ込んでいたのだ。

 

会話の話題は互いの呼び出した使い魔の自慢であったり、気になるレディの事であったり、まぁ女性を楽しませる事が務めである薔薇の僕もこの気心の知れた学友達の前では一人の男だ。

そして当然の会話の流れというか昨日ゼロのルイズが呼び出した使い魔が話題に上がってきた。

 

皆、あれをどう思うか?

 

率直な意見を言えば僕はあれが恐ろしかった…だって常識じゃ考えられないだろう?

あれだけのサイズなどゴーレムで作れば間違いなくトライアングルでも腕利きじゃないと無理だ…それに昨日の吹雪と雷がアレが引き起こした物ならば想像しただけで恐怖で手にしたカップが震える。

それと同時に今日の彼女の失敗魔法を見て思ったのがやっぱりゼロのルイズが呼び出した使い魔だ。

実際には大した事も無い図体だけの魚なんじゃないのか?と言う事だ。

 

他の同席者の意見も殆ど同じ、いや、むしろ僕と違って恐ろしい等という感想は一切上がらなかった。

勿論、僕もそんな感想は口には出してない。ここでそんな事を口走ったら良い笑いものだ。「臆病風に吹かれてやがる」ってね。僕の家は軍人の家系、そんな事言わせもしなければ思わせてもやる物か!

 

 

結局、満場一致で所詮は見かけ倒しだと話がつきみんなで大笑いしていた所に黒髪のメイドがハーブティーのお替わりと焼き菓子を持ってきた。

少しだけ前屈みになった彼女の中々に大きな胸に視線が行ってしまった僕だったが、彼女のポケットから不意に何かが転がって地面に落ちたのを僕は気が付いて拾い上げるとついつい声を掛けてしまった。

決して頭を下げてスカートを覗こうとする口実にしたわけじゃあないぞ。僕は紳士だからね。

 

「おいメイドの君、何か落としたぞ。…これは…鱗か?しかしこれは…」

 

「あ、申し訳ありませんありがとうございます。貴族様。」

 

慌てて僕から鱗を受け取ったメイドが深々と頭を下げると学友達がまた女を口説いてるだの囃したてる。ひがむなひがむな…

 

「何、気をつけたまえ。所でその鱗はどうしたのかね?」

 

「今朝方ミス・ヴァリエールから頂戴致しました。一緒に使い魔に食事を与えた際にその礼だと言って剥がれ落ちていた物を一枚。危うく落として気が付かない所でした。ありがとうございます。…」

 

その言葉に周りの奴らはその鱗の大きさに物珍しいと興味を少し持ったみたいだけどその程度だ。だけど僕の中の驚愕はそんな物じゃあ無かった。

 

そりゃあそうだろう?僕は土のメイジ、触れた物がどんな金属なのかなんてすぐに解る。

 

「君、今の話は本当かい?」

 

「はい。」

 

僕は絶句した…その話が本当ならば…

 

 

「…その話が本当ならばゼロのルイズが召喚したあの魚の化け物…少なくとも銀色の方…アレの鱗が全て白銀だっていうのか…?」

 

僕の独白に周りの奴らも目の色を変える。だってそうだろう?もしそうならもう一匹は黄金だと言う事じゃあないか…

 

 

 

 

____

 

 

 

戸惑うメイドに興奮さめやらんままに僕たちは問い詰めた…

 

聞けば実際にあの使い魔は大食らいで雑食であるが非常に大人しくこちらの言葉も何となくは理解しているらしく何と頭を撫で回すことも容易く行えたと言うでは無いか。

 

誰が一番に駆けだしたのかは解らない…もしかしたらほぼ全員同時だったのかも知れない…

 

それでも勢いの付いた僕たちが目指したのはあの使い魔が我が物顔で昨晩から転がっているヴェストリの広場だ。

 

 

自慢じゃあ無いが僕の家は結構高い家柄だ。でも貧乏だ。

 

 

 

 

な~に、ちょっと魚の鱗を数枚頂いて来るだけさ。楽勝楽勝…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く…誰だよ、ゼロのルイズの使い魔なんだから大した事無いだろうなんて言い出した奴は…

 

 

 




全滅必至である(;_;)

ギーシュの決闘は無いと言ったな?アレは嘘だ。(筋肉)


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メインターゲット 使い魔の鱗×2の納品(後編)

今朝久しぶりにプリキュア見ました。次はどんなプリキュアが始まるんだろう?
『ダークソウルプリキュア』なんてどうかなと思った私は人間性が溢れているんだと思います。




~ギーシュside~

 

ヴェストリの広場に辿り着いた僕たちの目の前には全高10メイル、全長30メイルを超える例の使い魔二匹のその迷惑と言えそうな程眩い異常な様相が飛び込んできた。

 

「ゴクリンコ…」

 

 

誰のとは言えない、もしかしたら全員の唾をのんだ音だったのかも知れない…

兎にも角にも、使い魔の巨大魚は日向ぼっこでもしているのだろうか?大人しく呆然と突っ立って周囲を見回している。あのメイドが言っていたように実際は大人しいというのは満更でも無い情報だったのだろう。

 

「おい、鱗はおちてそうか?」

 

「いや…無さそうだよ。今朝ヴァリエールが拾い集めたって言ってたからな。」

 

僕達は広場の隅にはえている植え込みに身を隠しながら、ギムリとレイナールが小声でやり取りを交わす。ちなみにここに居るのはもう一人、マリコルヌだ。

 

「それじゃあ仕方ないか…剥がすしか無いな。」

 

「どうやってだい?直接行くなんて流石に僕はごめんだよ。」

 

「少しは考えろよマリコルヌ。エアハンマーでも一発叩き込んでやれば鱗位剥がれ落ちるだろう。」

 

「成る程、ちょっと乱暴ではあるけど…それを僕がゴーレムで回収すれば安全だし確実だろうね。うん、良い案だ。」

 

頭脳派のレイナールらしい意見だと僕は感心しながら作戦の詰めに自分のゴーレムを提示する。

皆、作戦が出来上がった事で満足げな表情で頷いてみせる。

 

「何だかワクワクしてきたね。」

 

間の抜けたマリコルヌの台詞にみんなの緊張が和らいだ。

 

「そうだね。」

 

僕も実は少し不安はあるけれどそれ以上に今はワクワクしている。

巨大なモンスターからお宝を手に入れようだなんてまるで謡い伝えられた冒険譚の一節みたいじゃあないか。

もちろんコレはばれたら不味い行いだというのは理解している。

仮に僕の可愛いヴェルダンデにエアハンマーなんてぶつけられたら僕は例え相手が魔法衛士隊隊長でも構わず報いを受けさせるだろう。

 

それでも僕たちはぶっちゃけ小遣いが欲しいのだ。

 

「それじゃあ、レイナールとマリコルヌがそろぞれエアハンマー使って、ギーシュがゴーレムで回収。俺は見張りとサポートに付くぜ。言って置くが報酬は山分けだからな!」

 

ギムリが言って立ち上がった。自分だけ魔法使わないのかという不満はちょっとあったけどしょうが無い。火の魔法の出番は今回はなさそうだしね。

 

 

 

「OK、行くぞ『エアハンマー』!!」

「出でよ、僕のワルキューレ!」

 

タイミングを合わせた二つの風のハンマーがそれぞれ二匹の使い魔の胴体に向けて放たれたのを確認して僕もすぐに十八番のクリエイトゴーレムの呪文で青銅の騎士乙女ワルキューレを二体作成する。

 

次の瞬間、完全な不意を突く形でエアハンマーの直撃を受けた二匹の怪物は僅かにその身体をしならせるも、何事も無かったかのように不動の姿勢を保ったままだった。

 

「嘘だろ?」

 

呆然とした様子で零れ落ちたレイナールのその呟きから察するに結構本気で放った魔法だったのだろう…

ダメージを与えたのかと言う話であればきっとまるで効いちゃあいないだろう。

それでも確かに二人のエアハンマーは鱗を散らせる程度の効果を発揮していた様で太陽光を反射する極薄の鏡の様な物がヒラリヒラリと宙を舞う。

 

となれば後は僕の出番だろう。

 

「行け!!」

 

薔薇の杖を振るい2体のワルキューレをそれぞれ金と銀の怪物に向けて疾走させた。

三歩、ワルキューレが踏み出した辺りでだろうか?ターゲットがワルキューレに気が付いたようで1メイル程その場で跳躍を行う。

まるで…いや、まさしくあれがこの生物の威嚇なのだろう。

 

その圧倒的重量から引き起こされた振動でワルキューレの足が一瞬止まった。

 

そこからが早かった…

一瞬で僕のワルキューレに向かって銀色の化け物が腹ばいの姿勢でまるで滑る様に突進を仕掛けてきたのだ。

 

 

「まずいっ!みんな逃げるぞ!!」

 

警戒をしていたギムリの咄嗟の喚起と腕を引かれる感触…

大型の船舶にも匹敵するような巨体の突進は僕のワルキューレをまるで犬の糞の様に

挽きつぶして僕達の脇を抜けるとそのまま学院の外壁へと突っ込んだ。

 

一瞬、訳が分からなかった僕ではあるけれど今はギムリに感謝している…

固定化がかけられた石造りの城壁に巨大な穴を開けた化け物の突進の痕は何が起きたのか完全に凍り付いていた…

 

これはとても不味い事になった。どんな奴でも理解出来る、僕らが好奇心で踏んだのはまさに竜の尾だ…

誰が実は大した事無い図体だけの使い魔だなんて言い出したんだろう…そんな事を言い出した奴の口に土をねじ込んでやりたいくらいだ。

 

少々現実逃避してしまっていた僕だったがこの危機的状況は僕達を決して逃がしてはくれはしない。

 

「っ!!うわぁぁぁぁあああ!!

 

視界に映り込んだ黄金の閃光、それが何か判断する間もなく僕は恥も外聞も無く叫び声を上げながらベッドに飛び込むように地面を蹴って夢中で跳んでいた。

瞬間、すぐ後ろで空気が弾けるような独特の音と激しい閃光。

振り返ると其処には三人の戦友が身体から煙を上げながらピクリともしないで倒れ伏している。

 

「あ…あぁ…」

 

腰が抜けたままズリズリと後ずさる…情けない?いいやこうなって当たり前だ!!なんなんだこの化け物は!!

 

混乱で頭が真っ白な僕の絶体絶命の危機は続いていた。

 

地響きと共に影が僕の身体を包むと同時背筋を冷たい物が走る…冷や汗なんかじゃあ無い、確かな冷気を伴った恐怖が…

震えながらぎこちなく振り返った僕の目の前で銀色の化け物が今まさにその巨大な口を開いていた。

 

 

 

(僕は死ぬのか?)

 

 

何への問いかけなのか…到底良い回答なんて期待できない、それは確信にも似た疑問だった。

 

 

 

 

~ルイズside~

 

「ロック!!」

 

詠唱なんか何でも良かった、とにかく早く…今だけはこのどんな魔法でも爆発失敗する私の魔法に助けられた。

 

爆発が起きた…

それは今まさにギーシュに噛みつこうとしていたシルの目の前、いや最早口の中といえるような場所で、たまらずシルもたたらを踏んで後ろに下がる…

 

ギーシュの大馬鹿はこっちに気が付かないまま何が起きたのか解らないって感じで固まっている。そのあまりに間抜けな姿に私は思わず歯が砕けてしまいそうな程、奥噛みしていた。

でも今はそれは後回しだ。私はそのまま大きく息を吸い込むとお腹の底から声を張り上げる!!

 

「ゴル!!シル!!伏せっ!!」

 

私の命令に二匹はビクンと反応してその場で伏せって大人しくなった。その表情からは何も読み取る事が出来ない…それでもパスの影響なのか、特に爆発魔法を受けてしまったシルからは不満げな雰囲気を感じたのは気のせいじゃあ無いだろう。

 

 

私はシエスタの下手くそな状況説明からこいつ等4バカが何を考えたのか直ぐに察する事が出来た…

 

シルゴルの鱗の価値を知ったんだからそりゃあ欲しくなるだろう。

 

だから慌てて追いかけてきた、私の可愛い使い魔に手を出そうだなんて許せる物かという憤りを抱えたまま…

だけど、現場に辿り着いた私は血の気がさぁっと引くのを感じると共に杖を抜いてシルとギーシュの間に無我夢中で飛び込んでいた…

 

ギーシュの命を救う事が出来た…他三人も火傷を負って昏睡しているようだがそれは良い。間に合って良かったと心の底から思うわ!!

だが私が杖を向けたのはよりにもよって自分の使い魔だ。私は例えるのも難しいが敢えて例えるならばまるで自分の身を切るような心の痛みを感じた。それもこれもここに居るバカ共のせいだ。

 

 

私がギーシュを睨み付けるとギーシュはばつが悪そうに顔を背けて視線を逸らす。これだけでこの状況を招いたの原因がこいつ等にあるという事を私は確信した。

 

「ミス・ヴァリエール!!」

 

私を追いかけてきたシエスタとこの騒動を聞きつけたのだろうかミスタ・コルベールが駆けつける。

 

「シエスタ、そっちの三人を医務室に運ぶように手配して頂戴。ゴルの電撃を浴びて火傷してるわ。」

 

「は、はい!」

 

私は冷えきった頭でシエスタに命令するとギーシュの胸ぐらを掴んで顔を寄せた。

 

「ギーシュ!!正直に答えなさい、貴方達私の使い魔の鱗を狙って手を出したわね?」

 

自分でもこんな冷淡な声が出た事に正直驚く…

 

「っ、う…」

 

視線を何度も泳がせたギーシュは観念したように歯切れの悪い声を漏らすと首を縦に振った。

 

 

「……何となく事情は察せれたよ。しかし困ったね…使い魔が暴れて生徒に怪我人がでた上に外壁もああだ。」

 

ミスタ・コルベールの視線の先には大穴が空いた外壁。

 

「しかしどうやら非はミスタ・グラモン達にあるようだ…」

 

続けて項垂れるギーシュ…他人の使い魔に私利私欲から攻撃を加えたのだ、これは実際かなり重い処分が妥当だろうと思う。

 

私は正直揺れていた。

 

こいつ等のした事は許しがたいしそのせいで怪我をした事も自業自得だ。

それでもシルゴルの事で浮かれてしまっていた私にも落ち度は無かっただろうか?

父上や母上は仰っていた、貴族の魔法、ヴァリエールという家、大きな力とは責任が伴うのだ。

私はシルゴルという強大すぎる使い魔の力に対する責任を少しでも意識していただろうか?最初にミスタ・コルベールにも指摘されていたではないか…

 

今回はコレで済んだ。しかし次は?

私は彼等を御せれていると言えるのだろうか?

 

 

「はぁ…」

 

私は溜息を吐いて胸元の鱗を取りだした。

 

「ミスタ・コルベール、今回の件使い魔の監督の行き届いていなかった私にも責がございます。無論、彼等を庇い立てする気もございませんがそれでも彼等は既に手痛い教訓を受けたかと存じます。どうかご容赦を…

故に城壁の修繕に関しましてはこちらの我が使い魔の黄金と白銀の鱗にて賠償させて頂けませんでしょうか?」

 

「しかしミス・ヴァリエールそれは…」

 

「お願いします…」

 

渋い顔を浮かべたミスタ・コルベールだったけれどしばらくして諦めたように私の手から鱗を受け取ってくれた。

こういうこちらの意を汲んでくれるのがこの先生の良い所だ。

 

「とは言え、ミス・ヴァリエールには厳重注意、ミスタ・グラモン達には追って厳しい沙汰がある事を理解しておいて下さい。…やれやれ」

 

そう溜息を漏らしてミスタ・コルベールがその頭頂部を手の平でペチペチ叩きながら踵を返す。

 

「す、すまなかったよルイズ…」

 

「怒りと呆れが一周してもう逆に冷静になっちゃったわ…はぁ全く…」

 

溢れる溜息…昨日までMAXだった私の幸福が漏れ出ていく。

私はそのままギーシュを無視してシルの元まで歩み寄る。何も考えていないようなその愛嬌のある顔、その先端に小さな擦過傷。

 

「ごめんねシル、でもいい?人を襲ったら駄目よ。他の使い魔もよ。」

 

そのまま頭をしばらく撫でていると何となく不機嫌だったシルの機嫌も良くなって来た気がした。

 

「…良い子ね。」

 

それと同時に今度は撫でて貰えなかったゴルの機嫌が悪くなっているような…と思っていたらゴルはピョンと跳びはねたかと思うと一瞬の内にそのまま固い地面をまるで泳ぐように砕いて地面に潜行してしまった。

驚きに固まった私を他所に続いてシルも同じように地面に潜ると暫く地面がグラグラと揺れそれは徐々に治まった。

 

 

 

「…君の使い魔は一体何の系統なのだろうね…」

 

「火じゃあ無い事だけは確かよ…」

 

呆然としたギーシュの言葉に私も無意識に答える…

私の使い魔とその受難の生活はまだまだきっと始まったばかりなのだろう。

 




納品完了。後10秒で街に戻ります。


そして完結!!


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魚竜生態調査報告書

前回の後書きで完結完結だと言ったな。      あれは嘘だ。(筋肉)

今回から数多くの作品をエタらせる事に定評のあるフ~ケ編に入ります。

巨大ゴーレム対アルガノス&ゴルガノス!!果たして二匹に勝ち目はあるのだろうか?負けるなルイズ、そしてアルゴルよ!!トリステインの平和は君達にかかっている!!(迫真)


~ルイズside~

 

例の騒ぎの後で私は学院長室であの4バカから正式に謝罪を受けた。

彼等は恩赦を与えるという形で揃って謹慎一週間、私は今回の様な事が起きないようにと厳重注意を口頭で受けた。

まぁギーシュ以外の3人は謹慎と言っても自室と医務室のベッドで大人しくしていなければいけないんだろうけど。

 

ギーシュ達は金に目が眩んで他人の使い魔に手を出した事を心底恥じていたし二度と私をゼロとは呼ばないと誓ってくれた…何せギーシュに至っては私の魔法のお陰で命を救ったんだもの…

だから全員の頬を一発ずつ叩いた後で水に流してあげようと冗談交じりに言ってやった。

 

「次に私をゼロと呼んだらあんた達を私の使い魔の口に放り込むからね。」と…

四人のその時の表情は改めて書き綴るような物じゃあないだろう。

 

その日の夕食の時間にオールドオスマンは今回の件を重く見て食堂で全生徒に私の使い魔の事を発表した…

勿論私の使い魔の鱗、それが一枚一枚が財宝に匹敵する価値である事、つまりそれは黙って鱗を手に入れようとする事はヴァリエール家の財産に手を付ける事であると言う事だと…

また、不必要な刺激を与え、暴れさせた場合に起こりうる被害の事、そしてそれを私がきちんと管理、制御が出来ていると言う事。

異例の事態と言う事で、それはきちんと学園のルールとして広められ、私の召喚二日目は慌ただしくも騒々しく終わったのだった…

 

 

お陰でその瞬間から私を見る周囲の目は変わってしまったけれど。

_____

 

 

「おはようございます。ミスヴァリエール」

 

「えぇ、おはようシエスタ」

 

昨日と同じくヴェストリの広場で私はシエスタと合流した。目的は当然シルゴルの朝の餌やりとスキンシップだ。

 

「おはようございます、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。」

 

「おはよう。」

 

「………」

 

「シエスタ、こいつ等に挨拶は良いのよ!金の匂いに釣られてやって来たおまけなんだから!!」

 

何故か付いて来たキュルケとタバサの二人、それぞれの使い魔もおまけに付いている。

それにしてもこの二人くらいだろう…私に向かって朝一番に「鱗頂戴。」なんて言ってきた奴は。思わずずっこけて壁に頭を打ち付けた…

牛からミルクを絞っているわけじゃあないのよ!!

 

無視を決め込んだ私の後ろを付いて来た二人はまるで了承を得た、と言わんばかりの雰囲気だけどまともに相手をしていたら時間の無駄だろうしキュルケはまだしもタバサに関しては追い払う自信が無い。

 

「ねぇ、ルイズあの使い魔達はどこにいるの?見当たらないじゃない。」

 

キョロキョロと周囲を見回したキュルケの質問に私はふんっと鼻を鳴らす。

 

「あんな事があったんだから用心して隠れてるのよ。見てなさい、シル、ゴルご飯の時間よ!!」

 

私は得意げに言って大きな声で二匹を呼んで手の平を打ち鳴らした。因みに隠れているのは事実だけどそれはあの子達が勝手に土に潜っているだけだったりする。

 

間を置かずに僅かに地面が揺れる。

その場の全員が驚いた様子な事に私が満足していると揺れは更に大きくなり、次の瞬間眼前に金銀財宝の山が現れた。

 

「…驚いた…魚かと思ってたけどモグラだったのね。」

 

「失礼な事言わないで、れっきとした魚よ!!」

 

「魚は…歩かない…」

 

キュルケの失礼な物言いに食って掛かった私にタバサから鋭い指摘がかかった…それは実は私も思っていた事なのよね…

 

地面からひょっこり上半身だけを覗かせた二匹は私達の姿を認めて勢いよく地面から飛び出した…

同時に起きる地響きと舞い散る鱗。

 

 

「きゃあああぁぁぁぁーーーー!!!タバサ!!今よ!!」

 

キュルケの絶叫にも似た歓声に合わせてタバサが杖を振るうと魔法で吹き抜けた風が金銀の鱗を私達の目の前にあっという間に積み上げたのだった。 

黄金の小山に目の色を輝かせるキュルケと満足そうなドヤ顔のタバサ…こいつ等は何を考えているのか…私は目を閉じてプルプルと無意識に震える拳に力を込めた。

 

「…言って置くけど…あげないからね。」

 

『えっ!?』

 

何を驚いているのかこいつ等は…私は頭痛を感じる。

 

「………」

 

私がそういうと何を思ったのか暫く思案顔だったタバサはおもむろに自分の使い魔の風龍の元に歩み寄り、そして…

 

「キュィィィィッ!」

 

おもむろにその子の鱗を無理矢理むしり取った。痛そうなその姿は可哀想を通り越して哀れだ…

 

「ちょっ、コラッーーーーー!?」

 

思わず両手を振り上げてしかりつけるように怒鳴った私にタバサは案の上そのまま無表情で青い鱗を差し出した。

 

「交換…」

 

「しないわよっ!!」

 

 

その後、全く同じ様なやり取りがキュルケとも行われ、「じゃあ…」といってまた風竜に枚数の問題じゃないというのに近づいていったタバサに根負けして(というよりはシルフィードに同情して)私は鱗を二人に一枚ずつ渡す事になってしまった…

手元に残ったのは赤と青の二色の鱗、シエスタは「私には差し出す鱗がございません…」と言っていたけどそもそも私は鱗が欲しい訳じゃ無いってーの…

 

そんないろいろ妙なやり取りがあって時間がかかってしまったけれどあれから二匹は昨日と同じ様な食事をとってゴロリと横になったので私は持ってきておいたノートとペンを鞄から取り出した。

 

「あら、それはなんですか?ミス・ヴァリエール」

 

「あの子達の生態を書き留めておこうと思ってね。ほら、なにせ解らない事ばっかりでしょう?」

 

「確かにそうですね…」

 

因みにキュルケとタバサはシルゴルに触れてみたいといってあの子達の所に行ってしまった。あ、べたべた触るな!指紋が付いちゃうでしょうが!!

 

「貴女も何かあの子達の事で気が付いた事は無いかしら?どんな事でも良いわ。」

 

「ん~…そうですね~」

 

 

結局私達二人は碌に目新しい発見も無く、うんうんと頭を暫く捻っていた。

 

 

 

 

 

~ロングビルside~

 

 

まず、私は実は怪盗だ。

 

通り名は「土くれのフーケ」この学院で秘書なんて仕事をしているけどそれは学院の宝物庫に眠るお宝「破壊の杖」を盗み出す為に潜入しているのだ。

 

毎日あのスケベじじぃのセクハラに耐えながら有能な美人秘書を演じている私だけど先日驚く事が起きた…

 

生徒の一人が呼び出した巨大な二頭の使い魔。色々常識外れではあったけど情報としてはそれはまだ可愛い物だった。

昨日起きた騒動、馬鹿馬鹿しい…世間知らずの貴族のお坊ちゃま連中らしい騒動だと思いながらその報告に私も立ち会い、その発端である例の巨大な鱗とやらをハゲから手渡されて実際に触った。

 

衝撃が走ったね…

 

魚の鱗一枚…されど魚の鱗一枚だ。

 

これを好事家に見せたらどれ程の値が付くだろうか?少なくとも学院秘書の月の給金なんて小遣いになるんじゃあないだろうか…

その話題が出た時には思わず地の部分がちょっと出そうになったけどじじいもハゲも気づかなかったようだ。

 

幸い私は望まずとも既にあの使い魔についてヴァリエールのお嬢ちゃんと渡りが付いている。

上手く立ち回れば定期的にあの鱗を私の懐に収めるというのも不可能じゃあないはずだ。

それにいざとなれば私のゴーレムでぶちのめしてごっそり鱗を頂くという手もある。

いや、むしろそのどちらかなんて言わずにいっそ怪盗フーケの襲撃も行った上で施設管理者として合法的に鱗を頂く…と言うのもあり得なくは…

 

ククク…ハーハッハッハッ!!まさに想像するだけで笑いが止まらないわ。

そんな訳で既に今の私は破壊の杖なんて眼中に無かったりする。

 

朝一番の最低限の業務をこなし、そして今、私は意気揚々とヴェストリの広場を目指す。敵を知り、己を知れば何とやら…怪盗家業で一番大事なのは下調べだ。

 

 

 

「あら、おはようございます、ミス・ヴァリエール授業の時間に遅れてしまいますわよ。」

 

 

私はいつもの猫かぶりのロングビルとして努めてヴェストリの広場に立つヴァリエールに声をかけた。

 

 

待ってておくれ、ティファニア…

 

 

 

 

~ルイズside~

 

ミス・ロングビルが広場にいらっしゃったのは私の調査報告書の1ページ目がようやく埋まった頃だった。

 

「生態報告書ですか?」

 

「はい、私の使い魔は古今一切の情報がございません。ですので先ずは理解する事から始めるべきかと思いまして…」

 

「それは勤勉な貴女らしい素晴らしい事ですわ、ミス・ヴァリエール差し出がましいかも知れませんが私も貴女と使い魔の事について何か出来ぬかと思っておりましたので…よろしければ見せて頂いても?」

 

そう言ってきたミス・ロングビルに私は迷い無くノートを差し出した。

 

書かれている事は今の時点ではっきりしている事、思いついた事、つまり…

 

 

『使い魔との五感共有が理由は解らないが行えない。』

 

『食事は雑食、有機物でも無機物でも構わないようだけど肉が好き。』

 

『身体の構造は魚に酷似しているがヒレが変化した足で安定した陸上生活が可能、また土中に潜る事も可能でむしろ泳げるのを検証する必要がある。』

 

『鱗に関しては大きさ厚み、共に各所で異なるが材質は全て高純度で遙かに強靱な金と銀で構成されている。』

 

『基本的には大人しいが攻撃を受けた際は反撃を行う。尚戦闘能力と探知能力は非常に高い。』

 

『使い魔の刻印から二匹が個々の意思を持ちながら同一の魂を共有している可能性。』

 

『ドットのエアハンマー程度ではビクともしない強靱な防御力。』

 

 

その他にも細かい事は書いているけど主な事はそんな物だ。それを暫く読んでいたミス・ロングビルだったけど読み終えたのか、満足そうな表情でノートを返してくれた。

 

「素晴らしいですわ。ミス・ヴァリエール、この調子でよろしければ判明した事があれば随時報告して下さいね。」

 

本当に良い人だわ、ミス・ロングビル…

 

「あぁ、それと使い魔の鱗ですが…日中は貴女も傍には居れないでしょうし、私が使用人達に命じて回収してお預かりしておきましょう。勿論、高価な代物ですので帳簿もきちんと付けておきますわ。」

 

あぁ…ミス・ロングビルまじ敏腕秘書…

 

「ありがとうございます、何から何まで申し訳ありません。」

 

「いえいえ、フフフ…乗りかかった船、いえ宝船ですからね。私に出来る事であれば全力でお手伝いしますので何かあれば何でも言って下さいね。取り計らいますので。では失礼」

 

一礼して去って行くミス・ロングビルに私も一礼を返す…

そういえばもうそろそろ行かないと授業に遅れちゃうわね。

 

「シエスタ、それじゃあ後お願いね。キュルケ、タバサ、今朝取れた鱗を部屋に運ぶからちょっと手伝って頂戴。」

 

「畏まりました。」

 

「嫌よ~めんどくさい。」

 

「………」

 

「良いから手伝いなさい、今日は量が多いから大変なのよ!!」

 

 

 

 

さぁ、今日も一日の始まりね…

 




特に無いわよ(´・ω・`)


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エキューチケット(鱗)

私の小説にはフロンティアハンターの方やネ実民じゃ無いと解らない部分が多々ありますそんな訳でちょっとした解説を気が向いたら後書きにちょっとしたさわりの部分を書く事にします。違うよって所があったら違うよって教えて下さい。


~ルイズside~

 

今日は使い魔召喚の儀式を終えて初めて迎える虚無の日だ。

 

「今日も一日良い子にしててね、ゴルシル。それじゃあシエスタ後はよろしく、何かあればきっとミス・ロングビルが力になってくれるはずよ。」

 

日課である朝のスキンシップと餌やりを終えた私はちょっと名残惜しいながらも二匹に触れていた手をそっと放してシエスタに告げる。

 

「畏まりました。」

 

「こっちも準備出来てるわよ-。」

 

恭しいシエスタのお辞儀を受けながら振り返ると其処には翼を広げたシルフィードとその背に乗るタバサとキュルケ

 

「その子はタバサの使い魔でしょう、あんたが偉そうにするんじゃあないわよキュルケ。」

 

「あら、タバサを説得してシルフィードでトリスタニアに連れて行って貰えるように取りはからったのは私よ?」

 

「だからって腹立つ物は腹立つのよ。」

 

言いながら私はシルフィードの背に乗って「今日はお願いね。」と労うように一声かけてその背中を撫でる。

 

「キュイッ!」

 

その姿からは意外な程の可愛らしい鳴き声で答えてシルフィードの身体が一気に空へと飛翔した。

空を飛べない私と使い魔には実は憧れていた空の旅…私は寡黙な最近出来た友人(仮)に感謝した。

 

「ごめんね、タバサわざわざ付き合って貰っちゃって。」

 

そもそも今日私が王都トリスタニアに向かうのは昨日キュルケから提案があったからだ。

一度シルゴルの鱗を王都の宝飾店に持ち込んで鑑定して貰わないか?と…

 

私自身いずれはと思ってはいたけど急ぐつもりも無かった。けど、鱗の価値がはっきり解れば施設の建造やあの膨大な食事量についての問題が解決するかもしれない。なら早い方が良いだろう。

それについては居合わせたミス・ロングビルも賛成だと仰ってくれた。

 

 

「別にいい…」

 

話がそれたが、さっきの通り話が進んでキュルケがさっきから本に視線を落とし続けているタバサのシルフィードで移動を提案し、今に至るのだ。馬と風竜じゃあ速度が違うから随分と楽になった。

今日の予定については無償の友情に本当に感謝しないといけない。

 

「私も…欲しい本があるから…」

 

そう言って今日初めてタバサは私の目をじっと見つめる…無償の友情に感謝だ。

 

「欲しい本がある…」

 

ねぇ、タバサ…何で二回言ったの?私解らないわ?

 

それからじっと黙って私を見つめる眼鏡越しの澄んだ瞳。この子は口数は少ないけれど誰よりも雄弁で力強い意思を伝える術を持っている。

 

「…はぁ、解ったわよ…」

 

私の負けだ。まぁシルフィードを出してくれている以上は正統な報酬とも言えるかしらね…

 

「ねぇルイズ、私新しいドレスが欲しいんだけど。」

 

「自分で買え!!」

 

 

_________

 

 

王都トリスタニアに着いた私達は何よりも先ずは一番に宝飾店に足を運んだ。

信用が出来ると言う事でトリステイン一の看板を掲げている以上、勿論私も母様に連れられ幼い頃から何度も来た事があるしキュルケも馴染みの店だ。

 

「ようこそいらっしゃいました、ヴァリエール様、ツェルプストー様、そして…」

 

「えぇ、ちょっと用があって寄らせて頂いたわ。鑑定して貰いたい品があるの。彼女はタバサ。」

 

声をかけてきた男性スタッフの視線での催促にタバサを紹介し、簡潔に用件を伝える。

それが当たり前でもあるし必要な事ではあるのだろうが用件も無しにフラフラとこの手の店に入ったらセールストークでかなり時間を取られてしまう、しかもそれを躱す為には優雅に断りつつも決してお金が無いと言う訳では無いという見栄も張らなくちゃあいけない。

何故ならそれが出来なければ貴族としての力を示す事すら難しいからだ。結局世の中お金なのだ。

 

 

「左様ですか。それではこちらに、直ぐに担当者を連れて参ります。」

 

「えぇ、よろしくね。キュルケとタバサは店の中見て回ってて。」

 

「え~…」

 

「言っておくけどこれはヴァリエールとしての用件よ。商談に他家が入り込む余地は無いわ。」

 

「…ちぇっ」

 

二人を納得させて私が商談室のソファーに座らされるとそう時間をおかずに壮年の男性が現れた。モノクル状のルーペに腰の杖、彼が鑑定士、つまりは土のメイジだ。

定型通りの堅い挨拶を交わして私は早速懐から金銀二枚の鱗をテーブルに差し出した。

今日持ってきたのは両方とも中くらいのサイズ(それでも何とか懐に納めるのがギリギリの大きさだ。)でお揃いとして扱える様な物を選んで来た。こういう宝飾関係は総じて双子石なんて呼ばれてセットになっていたりするとその価値を大きく跳ね上げる物なのだ。

 

「それでは失礼。」

 

ドキドキしながら私は鑑定士が鱗を手にして細かく観察している様子を伺った。

古いアクセサリーなんかを手放す時なんかも今まで家臣に渡して終わりだったから実はこんな交渉は初めてなのだ。

 

「…拝見致しましたが、この品は素晴らしいの一言ですな。

まずこの金と銀の質で御座いますが他に類を見ぬ程最上級で御座います。次に形状に関しても鱗という一見無粋に見える形ですが、まるで生きた魚から朝方剥ぎ取ったかの様な力強さを彷彿とさせる、その様はある種芸術的で御座います。」

 

短いながらも予想していた以上の高い評価に私が内心驚いた。

 

「それでは?」

 

鑑定士は私の問いに頷いて言った…

 

「是非とも買い取らせて頂きたい、これ程の品そうそうお目にはかかれませぬ。金額はこんな物で如何で御座いましょう?」

 

「えっ、こんなにっ!?」

 

提示された金額はたった二枚で三千エキュー。私は思わず声を出す。別に実家であればこんな金額は大した事無かったのにこれは純然たる私のお金、想像を超えた価値が私の使い魔の鱗につけられてしまった…

 

(い…言えないわ、とてもじゃ無いけど。そうそうお目にかかれないどころか既に小麦袋一杯に詰まった状態で部屋の隅に転がしてあるだなんて…)

 

私は冷や汗が流れるままに俯いてしまった…当たり前だ。昨日キュルケには否定の言葉を言ったけどこっちは鱗集めなんて牛の乳搾りみたいなものだもの…

そんな私の暗い表情に鑑定士は何を勘違いしたのかさらに爆弾を投入する。

 

「やはりお安すぎましたかな?ならばもう五百上乗せ…「三千で構いません!!」」

 

私は慌てて鑑定士の言葉を遮った。十分だからっ!!十分過ぎる位だから!!

私のその言葉に鑑定士は目を丸くすると何かを察した様にニヒルなダンディースマイルを口元に溢す。

 

「…おやおや、これはヴァリエール様には大きな借りを作ってしまいましたかな?成る程…これはもしかしたら私は安く見積もり過ぎて一本とられたかも知れませんな。ハッハッハッ。」

 

(何言っちゃてんのこの人~~~~!!!!!)

 

 

結局私はキュルケ達には五百で売れたと言って金貨で五百を受け取って残りをこっそり手形に交換して貰った…だってこれは拙すぎるもの…

 

「ね、ねぇ…ルイズ顔色が悪そうだけど大丈夫?」

 

「平気よ、ちょっと疲れただけだわ。」

 

珍しいキュルケの心配の声に私は精一杯の虚勢で応える…

持ちえる者故の贅沢な悩みと言われるだろうけど、どんな悩みでも悩みは悩みだ。

 

「取り敢えずそろそろお昼時だわ、何処かで食事にしましょう、勿論ルイズの奢りで!!」

 

「え?えぇ、そうね何が良いかしら?」

 

キュルケの提案にすっかり思考が沈んでいた私はハッとなる。

気分的にはさっぱりした物と甘いクックベリーパイが良いだろう。

 

「ハシバミ…」

 

「貴女本当にあれ好きねぇ。」

 

「私が出すんだから私が店を決めるわよ。取り敢えずハシバミは却下ね。」

 

だから私は切り替えた。別に騙して得たお金じゃあ無いんだしもう考えても仕方が無い以上このお金は精々有効に使う事にしましょう。そうしましょう。

 

 

…だから私は気が付かなかった…この時には既に私の様子が何処かおかしい事に不信感を覚えたキュルケの勘の鋭さを。

 

 

 

そして…

 

 

 

私が魔法学院を離れていた間にシルとゴルによって学園がえらい事になっているという事を…

 




『らんらん』=カプ畜である。またそれらを可愛く表現した結果豚さんになった。らん豚と呼ばれる事もある。

『カプ畜』=運営にお金を納め生活をさせて貰っているどこぞの企業が飼育する家畜達の通称。優秀な者になるとエリートなどとも賞される。

『たっぽり』=たっぷりの意、毎週行われる定期イベントの一つなのだがみんなたっぽりと呼ぶ


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引退する奴は何も言わずに黙って消えていく法則

ヒャッハーーーーーー、良い子にしてたかお前達!!うどんサンタさんからSSのプレゼントだ。このやろー!!


これは酷いフ~ケ編。

破壊の杖なんて最初からいらんかったんや!!

それとクリスマスなんて行事もいらんかったんや!!


~otherside~

 

 

それはルイズ達がトリスタニアに出かけていた間に起きた。時の頃は太陽が傾き始めた辺り、つまりは15時頃だろうか。

 

 

 

ここでハルケギニアに召喚されたゴルガノス、アルガノスの一日を簡単に紹介しておく。

 

朝一番に起床、朝食はその段階で既に用意されており量も十分、また周囲に危険も無い為非常に落ち着いた食事をとる事が出来る。

それと同時に好意を寄せ、また寄せられている小さな人間のご主人様と細心の注意を払ってコミュニケーションを行う。

 

それ以降は基本的に広場でゆっくりと過ごす事になる。暴れてはいけない。人と使い魔は食べてはいけない。そういう事を御主人であるルイズに命じられている以上は二匹は素直にそれに従っていた。

だから周囲から時々感じる視線や時折遠巻きながら近づいてくる人間達にも極力反応を示さない。

 

太陽が少し傾き始めた頃、朝ご飯を用意してくれるシエスタが再び二匹の元を訪ねてくる。

少し遅めの昼食と少し早めの夜ご飯の時間だ、二匹の食事は基本的に日に二回用意される。

 

そうして二度目の食事を終える頃になるとご主人様も授業が終わり、直ぐに二匹の元に走ってくる。

 

二匹はご主人様が大好きだ、理由は良く分からないが大好きなのだ。

そんな御主人と一緒に日が沈むまでの時間を過ごし、外敵のいない、危険の無い安心の環境で二匹は朝まで眠りにつく…

 

こうして二匹の日常は基本的に何も無ければ過ぎていくのである。

 

 

しかし、今日。

よりにもよってルイズ不在のタイミングで事件は起きた。

 

二匹の生活にもっとも足りていない物、それは『ストレス解消の為の運動』だった。

 

 

 

~シエスタside~

 

 

「ゴルちゃーん、シルちゃーんご飯ですよー。」

 

私は先日からミス・ヴァリエールから仰せつかっている二匹の使い魔の午後の食事を用意してカウベルを鳴らした。

間を置かずに地面が割れて二匹とも元気よく私の前にやってきてくれる。最初は恐ろしかったけどそんな気持ちは初日で無くなってしまい私達はもうお友達。

こんな事を思うのは不敬かも知れないけどあの小さなミス・ヴァリエールに良く懐き甘え、しかられて項垂れている姿はギャップもあって可愛らしかった。

 

「それでごめんね、今日のご飯なんだけど牛が一頭と豚が一頭しか貰えなかったの…」

学院には他にも沢山の使い魔もいるから与えられる食事もいくらでもって訳にはいかないし、しょうがないからお肉に関してはこれで持ってきた。

 

「しかし、改めて恐ろしい食事量ですね…これが呼び出したのが裕福なミス・ヴァリエールで無く鱗も普通の物であったなら間違いなく主人は破産ですわね。」

 

「そうですね。」

 

今日は学院側の責任者と言う事でミス・ロングビルも私と一緒にゴルちゃんシルちゃんのお世話をしてくれている。

この人も最初は怖がっていたけどもうある程度慣れたみたい。

 

荷車の食料を下ろして牛と豚を放すと私達はミス・ロングビルの発案で一応用心の為に二匹から距離をとって離れておく。今日はミス・ヴァリエールがいないから万が一があっても困るから。

実際、動物は食事中というのは気が立っていたりする事があって迂闊に刺激を与えるのは良くないことだと村でも教わった。

 

 

 

そして、ゴルちゃんが牛に齧り付こうとした瞬間…その巨体が突き飛ばされた…

 

 

「え?」

 

私の視線が横倒しになってしまったゴルちゃんから唐突なタックルを横から決めて牛を掻っ攫う様に一飲みにしてしまったシルちゃんに移動し、またゴルちゃんに向かう。

 

「これって…まさか…」

 

ミス・ロングビルは焦った様な表情で呟いた…私にもこの後何が起きるのか何となくは解る。

 

数回地面で跳ねて立ち上がったゴルちゃんはゆっくりと歩いて牛を咀嚼しているシルちゃんの脇に移動する。

 

(まさかそんな恐ろしい事…しませんよね?)

 

私の願いは全く届く事無く、案の上ゴルちゃんのタックルが今度はシルちゃんを突き飛ばす。

 

「…逃げましょう、シエスタさん!!」

 

ミス・ロングビルが声を上げた瞬間、シルちゃんも再び立ち上がり二匹の使い魔は牙を剥いた頭を低く下げて尾を天に突き上げたポーズで向かい合う。

 

「で、でも!!」

 

何とかしなくっちゃ!!そう思う事は出来ても何も出来ない、だってそもそも世界が違うとしか言いようが無い。

私の弟たちも小さい頃に自分のお肉の方が小さいと駄々をこねて喧嘩をしていた…その時はどうしたか?その時は確か私が自分のお肉を弟たちに分けてあげてその後でお母さんが二人を叱っていたっけ…

 

この場合はお肉が足りないのか…今あるお肉と言えば…

 

 

 

(私??)

 

 

イヤイヤイヤイヤイヤ無理無理無理ーーーーーーーーっ!!!!!!!

 

 

__________

 

 

~ロングビルside~

 

不味いなんてもんじゃない事になったわ!!

 

肉の取り合いで喧嘩なんてそんなの孤児院に残してきた子供達じゃあるまいに!!全く忌々しい。

放っておく訳にも行かず隣で混乱してるシエスタの手を掴んで私は杖を抜いた。とばっちりが来る前にフライで一気に脱出だ。

 

…そう思って魔力を杖に込めていたんだけどそのとばっちりが飛んで来たのは私が思うよりも圧倒的に早かったらしくてね…

 

互いを威嚇しあった使い魔達は雷と吹雪を纏って突然絡み合う様に地面を這いずり始めた…

(何を始めたんだ?)

 

一瞬の思考の間に状況が一気に変わる。

 

勿論悪い方にだ…

 

「嘘でしょっおぉぉ!?」

「キャアッァァ!!」

 

あろう事か大回転を始めていた二匹だったがシルの方がその遠心力に耐えきれず、その場で発生していた全ての力を受けて吹っ飛んで来やがった。

 

 

あぁ、そうさ!!私達の方に向かってね!!ちくしょうっ!!!

 

 

(フライで跳ぶ?間に合わない!!錬金で穴掘って逃げる?無理だあの乱流で死ぬ!!)

一瞬の間の思考、走馬燈って言うのかしら死ぬって思った瞬間の私の精神はかつて無い程に研ぎ澄まされてそれだけの事を判断していた…と思う。

 

だったらこれしか無い!!私が最も得意で二つ名の由来!!

 

「ゴーレム!!」

 

必死に叫んだ私の目の前で地面が隆起して20メイル程の不格好な腕を生やしただけの土の山が完成した時にはシルはもう地面を抉りながら直前にまで突っ込んで来ていた。

 

全ての精神力を振り絞った私はゴーレム操作と同時に腕の強度を出来るだけ上げる事を必死でイメージする。

一瞬で作り上げたゴーレムは私の全力から比べればお粗末な物だった。この段階でもう受け止めるなんて事が不可能なのは誰が見ても明らかだっただろう…

 

「いなせっ!!」

 

だから私はゴーレムに叫び、命じた!その鉄の両腕でシルを受け流せと…

 

 

衝突…

 

 

その衝撃にゴーレムの両腕が根元からもぎ取られ吹き飛び、その半身が凍り付きながら爆散する。まるで新型の大砲の直撃でも受けた様なその衝撃は私に例えようも無い恐怖を与えた…

正直死んだと思った…

シルの突進の軌道がずれたのはほんの1メイル程でしか無く、しかしその1メイルは明らかに私とシエスタの生死を分ける1メイルだった…

 

全身に浴びる事となった冷たい土砂に震えが止まらない…だけどこれは生きている事の証明だ…

 

 

私は生き残った!!

 

 

途端に襲いかかってきた疲労に耐えながら見ればシルは平然と立ち上がり、ゴルの脇を抜けて餌の山に向かいゴルもまた何事も無かったかの様に巻き添えで既に死んでいた豚に食らいつくと残った餌に向かう…

その様子からさっきの地獄の様な光景があの二匹には遊びの様な物だったと言う事が嫌になる程伝わってきて私は本当にやるせない気持ちになった…

 

 

そして精神力を使い果たした私はそのまま意識を失ってしまったのだった…

 

 

__________

 

 

「誠に申し訳ありませんでした…」

 

医務室で目を覚ました私が最初に目にしたのは床に平伏して私に謝罪するヴァリエールのお嬢ちゃんだった…

 

話を聞けばあの後直ぐにトリスタニアから学院に到着したらしく事の顛末を聞いてせめてもの誠意を見せる為、私の看病を続けていたらしい。

同時にあの使い魔達に罰を与えようとしたらしいのだが何をしても堪える様子が無く

それについても謝られた。(食事抜きは暴れる危険があるので却下)

 

私が内心どう今回の件の報復をしてやろうかと考えているとベッドカーテンをくぐり、オールドオスマンが現れた。何しに来やがったくそじじぃ…

 

「ほっほっほ、目が覚めたかね?ミス・ロングビル、今回の事故の件本当についとらんかったのう。しかし幸いな事に君もメイドのシエスタ君も無事じゃったし学院にも大きな被害は無かった。」

 

「えぇ、全くですわ。」

(じゃねぇ!!こっちは本当に死ぬ所だったのよ!)

 

「それにしても君の咄嗟の魔法は見事じゃった。」

 

「ありがとうございます。」

(当たり前でしょうが、こっちは怪盗フーケよ。おちおち死んでたまるかってーのよ!)

 

「ラインの魔法とは思えんかったわい…トライアングルでもあれだけの御技そう出来る者はおるまいて。」

 

「ブホッ!!」

 

「おやおや、大丈夫かね?」

 

盛大にむせた私の身体に触ろうとじじいが腕を伸ばす。止めろ、セクハラで訴えるよ?

それにしても参ったわ…私は学院に入る際に土のラインだと申告していた。あの咄嗟のゴーレムの魔法はどう言いつくろってもラインじゃすまない。

 

(迂闊だった!!)

 

このじじいはもしかしたら私の正体に気が付いていて揺さぶっているんじゃないかという気分になってくる…

歯噛みしながら私は思わずこの事態の元凶、ヴァリエールのお嬢ちゃんを睨み付ける…

当の本人は私の視線の意味なんかに気づかずに小首を傾げてる、くっそーーーー!!

 

「それでじゃのうミス・ロングビル、ものは相談なんじゃが…」

 

(来たっ…さぁ何を要求してくるつもりよ?)

 

私は警戒を強める…今杖は持っていないけど隣のテーブルの上に置かれてある。それに素早くヴァリエールのお嬢ちゃんを人質に取れればまだ逃亡は出来るはずだわ!!

 

「お主、あのゴーレムで使い魔のストレス解消をしてやるつもりは無いかの?」

 

「はい?」

 

「あれだけの生き物じゃ、運動させようにもまともに運動させるのが難しい。その点、お主のゴーレムなら打って付けじゃ。わしの見立てじゃとお主のゴーレム作成の腕はかの怪盗フーケにも匹敵するじゃろう…」

 

やっぱこのじじい見抜いてやがる…くそ、くそ、くそ!!

 

「無論、ただでは無いミス・ヴァリエール。使い魔の鱗一枚にざっと1000エキューの価値が付いたそうじゃな?報酬を支払えん訳ではあるまい、どうする?」

 

(なん…だ…と…)

 

「それはこちらからお願いしたい程ですわ。勿論、今回の件でかけたご迷惑の分、色をつけさせて頂きます。」

 

 

 

 

頭を下げるヴァリエールのお嬢ちゃんとこっちを見るしてやったりというドヤ顔のじじい…

 

えっと…つまり…どういう事かしら?

 

 

 

 

_________

 

その日、怪盗フーケはこの世界から消えた…

 

全くリスク無く簡単に大金が毎日手に入るんだから怪盗なんてやっていられない。

貴族への復讐?そんな事よりがっぽり稼いでティファ達と安全な土地買って生きていく方が私は大事なんだよ!!ハッハーーーー!!

 




ちなみにフーケ姉さんとシエスタはおしっこ漏らしました。
これを描写しちゃうと文章量が倍以上になる恐れがあるのでカカカット!!

サンタさん、感想と評価が欲しいです。


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今回は山無し落ち無しなちょっと短い日常回で御座います。

昨日は更新できなかったのはクリスマスだからお泊まり旅行してたからです。


そう、一人でね!!!


~ルイズside~

 

春の使い魔召喚から凡そ1週間がたったその日、日の出と共にフクロウ便が私の部屋に訪れて一通の手紙を届けてくれた。

 

『ルイズへ

 

 久しぶりね、まずはおめでとう。春の使い魔召喚に成功したそうね?昔から失敗ばかりだった貴女がついに魔法を成功させたという事を家族全員とても嬉しく思うわ。

 

でも、手紙に書かれた呼び出した使い魔に関しての事だけど正直に言えばお父様お母様もとても困惑しているわ。

30メイル級の全身黄金と白銀を纏った魚が2匹。

私もこんな事は思いたくなかったけどはっきり言ってとても信じられないわ!!モモロ…いえ、カトレアは手紙の内容そのまま鵜呑みにしていたみたいだけど。

 

とにかく、実家からは私が一度アカデミーから様子を見に行って来いと言われたから近い内に魔法学院に顔を出すと思うわ。

久しぶりに会えるだろう事と遂に使える様になったという貴女の魔法を見る事が出来る事を楽しみにしているわ。

 

 

エレオノールより』

 

 

久しぶりに届いた家族からの手紙に私が思ったのはただ一つ…

 

(やばい!!)

 

 

召喚魔法の成功で魔法の才能が遂に開花したと思った私は浮かれたままに実家に送った手紙には遂に水と風の系統に目覚めた…ととれる様な文面を書いてしまった。

 

未だ、私の魔法は爆発しか起こさない…

 

_________

 

 

「何か浮かない表情ねルイズ。」

 

「そ、そんな事無いわよ。」

 

 

私が先日届いた手紙についてどうした物かと思案していると目の前でシルゴルの鱗の選別を手伝ってくれているモンモランシーの声に咄嗟に応える。

 

そう、一週間だ。一週間もあれば私の部屋に無造作に詰め込んで置いてあった鱗袋がいい加減邪魔にもなってくる。既に3袋が一杯になっている…

そんな状況がキュルケに見つかって馬鹿にするでも無く本気で怒られて、それがまたミス・ロングビルに伝わってまたしてもお叱りを受けて鱗の整頓をするはめになってしまった。

そこでミス・ロングビルには大きさ、傷の有無、形、それらをそれぞれきちんと分けて管理するようにと指導を受けた。

 

とは言え扱う物が黄金の類いである以上、平民の使用人連中だと善し悪しがよく分からないから選別が出来ない。そこでどこで聞きつけたのか…もの凄い勢いで手伝いに名乗りを上げたのがクラスメートのモンモランシーだった。

 

正直助かった。頼りのミス・ロングビルは本業が忙しく(こっちの方が稼げるのにとぼやいていたけど…)キュルケは後数日に迫った使い魔品評会に向けて使い魔の訓練で忙しいからと断られた。

タバサは数日前から使い魔共々見ていない。キュルケが言うにはあの子が突然何処かに行ってまた数日たってふらっと戻って来る事はたまにある事らしい。

その点、モンモランシーの使い魔は小さなカエルであり発表会でも大した事をするつもりが無いらしい。要は暇なのね。

 

 

「品評会の事かしら?」

 

モンモランシーがルーペで鱗を鑑定しながら私に問い掛ける。

 

「当然と言えば当然だけど前代未聞よね、学院側から発表会で極力お披露目だけに押さえて派手な事をしない様にだなんて注意されるだなんて。」

 

そうなのだ…私の使い魔に派手に芸をさせるのは危険だと先生達が判断してしまい私は訓練の必要が無くなってしまったのだ。

 

「うん、でもしょうが無いわよ。それについてはもう納得してるわ。」

 

何せ当日はアンリエッタ姫殿下も来賓としていらっしゃる事になっている…もし万が一この間の様な大暴れをあの子達がしてしまったら手に負えない。教師陣はそう判断した。

 

傷が付いてしまっている鱗を足下の木箱に放って私は一つ小さく息を吐く…

 

私が抱えて居る目下の悩みは私の実姉エレオノール姉様が近い内に私を訪ねてくる事だ。勿論大切な肉親ですもの、嫌では決して無いしむしろ私の立派な使い魔達を早く見せてあげたいくらいだ…

それでも厳しくて意地悪なエレオノール姉様に魔法が未だに使えない事を告白しなければいけないのは憂鬱だわ。

 

 

 

 

 

 

~モンモランシーside~

 

私は今いわゆるアルバイトをしている。

 

最近は誰もそう呼ばなくなっているけどゼロのルイズと呼ばれていた彼女の部屋の片付け。

そう言えばまるで使用人がする様な雑用だ。

それでもこの雑用が耳に入った時クラスで誰よりも先んじて一番に立候補したのは私だった。卑しいと思われるかも知れないけど支払われるであろう報酬を前に迷いは無かった。

 

その雑用はまさに至福の雑用だった…その筈だった…

 

ルイズの話によれば状態の悪い鱗は纏め、また火のメイジの手伝いを募り鋳造加工してインゴットにするらしい。

当然そんな事をすればこの鱗の芸術的価値なんかは失われるし手間と出費がかかるだけ、だから何故そんなわざわざ損をする様な真似をするのか訪ねたら驚くべき答えが返ってきたわ。

 

「価値が付きすぎて逆に使えないからよ。」

 

何なのよそのふざけた理由は…

 

私の家はトリステインの中でも所謂名門だった、国内の貴族にモンモランシの名を出せばどの貴族からも驚嘆が返って来たのは数年前。

今はお父様のやらかした大ポカのせいで「あぁ、あのモンモランシか…」といった感じに鼻で笑う様なリアクションすら珍しくない、落ち目の赤貧貴族…それが我がモンモランシ家だ。

 

 

彼女の使い魔で記憶に新しいのはギーシュとその他3名の起こした事件、あれと学院長からの御触れでルイズを見る周囲の目がすっかり変わってしまった…

大体が今まで散々馬鹿にしていたのに急に取り入ろうとする貴族、嫉妬と妬みからより馬鹿にして嫌悪する様になった貴族のどちらかだ。

 

情けないけどどちらかといえば私も圧倒的多数派の前者だ。

 

それについてもルイズに思い切って作業の手慰みに聞いてみたら彼女はちょっと困った様に笑ってこう言った…

 

「仕方ないわよ、それも貴族の責任だと思うもの…」

 

少なからず人付き合いって言うものにはどこかで打算はあるし大人になったら社交界での腹芸なんて出来ない方が悪い位だと彼女は続ける。

 

だからかしらね?最近になってルイズとキュルケの距離がぐっと縮まったのは…敵対する家同士、取り入るつもり無く今まで通り明け透けに接するからこそ皮肉な事にキュルケが一番ルイズの傍に近づいた…

 

今日、一緒に雑務をこなしながら彼女は私に一度も笑顔を向けてない。何かに悩んでいる様にどこか渋面のままだ…

 

「品評会の事かしら?当然と言えば当然だけど前代未聞よね、学院側から発表会で極力お披露目だけに押さえて派手な事をしない様にだなんて注意されるだなんて。」

 

 

きっと彼女の悩みは違うだろうなと思いながらわざとらしく問い掛ける私はルーペでまるで彼女から目を逸らす様に美しい白銀を覗き込む…

 

返って来たのは動揺の籠もった生返事…私はそれ以上は口を開かなかった…

 

凄まじい価値の鱗…それをルイズは憂鬱な溜息混じりでまるでその手の中から無価値なゴミの様に木箱に放る…

 

その姿を哀れむ資格は私には無い…

 

 

 

~ルイズside~

 

何とか日が暮れる前に作業が終わった私達だったけどモンモランシーが意外な事を申し出てくれた。

何と手伝いのお礼として鱗を渡そうとしたらモンモランシーはそれを拒否して今度の虚無の曜日にでもトリスタニアでデザートを奢ってくれればそれで良いと言い出した。

 

いいのかしら?

 

それにしてもちょっと金銭感覚が麻痺して来ている自分が恐ろしいわ…

これを定期的にしないといけないと思うともう纏めて全部問答無用で加工処分で良いんじゃないかしらと思えてくる…

 

まぁ、取り敢えず今日も無事に一つの問題が解決したわ。

 

 

この翌日、エレオノール姉様がこの魔法学院に到着するという事を私はまだ知らなかった…




『モモロウ』 広場にてG級クエストの受付をしている貴族っぽいお嬢さんの通称。投票の結果与えられた正式名称はカトレアと言う名前だがみんなからはモモロウと呼ばれている。おぱんちゅ天使でもある。

モンモンは迷いながらもお金より友情をとる事にしたみたいです。
ルイズの中で貨幣価値が絶賛大暴落。


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突然の襲撃

話が(原作的意味で)中々進展しませんな。それでもここでエレ姉やんには学院を訪れておいて欲しかったのよ。




~エレオノールside~

 

「ようやく到着ね。全く…長い馬車移動だったわ。」

私は馬車のステップを踏んで石畳の上に降り立つと聳え立つ学舎を懐かしい想いと共に見上げた。

直ぐにでも今回学院を訪れた目的を果たしたかったけれどまずは学院長の下を訪ねてご挨拶をしなければ…

 

「さぁ待ってなさい、チビルイズ。」

 

この忙しい姉の手をわざわざ煩わせたんだからそれ相応の成果はしっかり見せて貰うわよ…

私の口角は自然とつり上がる…油断してると柄にも無く喜びが顔に出てしまいそうだわ。

立派に成長したであろう私の可愛い不出来な妹に久しぶりに会えるんだから嬉しくてたまらない。

 

私は一度深呼吸をして呼吸を整えると微笑みを消して、ヴァリエール家長女としての厳しくも気品ある美しい表情を作った。

 

ルイズが私の笑顔を怖がってるのがちょっとショックなのは内緒だ…

 

 

 

~ルイズside~

 

「っ…!??!」

 

遠くから微かに聞こえた馬車の車輪の廻るガラガラという音に私が不意な危機感を感じて思わず身を竦ませ震えたのは日課の餌やりを終えて教室に向かっている最中の事だった…

 

その謎の感覚の答えは直ぐに分かったわ。

 

授業の合間に使用人の一人が恐る恐るといった様子で私に連絡を伝えに来た。いわく私の実家から家人が来ていて午前の授業が終了しだい学院長室を訪ねる様にと言う事だそうだ。

 

(ついに来てしまったのね…この時が…)

 

私は杖を握り込んだ己の手を見つめる…分かってはいた事だけど逃げ出したくなる。だってエレオノール姉様は意地悪だもの…

 

 

_________

 

 

「失礼致します。」

 

私が入室すると其処には既にエレオノール姉様がいらしていた、何故かもの凄く不機嫌な表情で…

 

「お久しぶりで御座います、エレオノール姉様。」

 

「久しぶりねおチビ、まずは謝っておく事があるのでは無くて?」

 

挨拶を交わしながら私に歩み寄ってきた姉様が私の両頬をむにっと摘んで力を入れて引っ張る。痛い痛い!やっぱり姉様は意地悪だわ。

 

「な、何の話でふか??」

 

「既にオールドオスマンからもそちらのミス・ロングビルからも聞いたわよ。貴女系統に目覚めただなんて話は出鱈目で魔法がまだ成功しないらしいじゃないの!!」

 

「げっ…」

 

私の一番恐れていたお話の流れがお会いした直後に流れて来た…姉様の両の手の力が更に強まって私の頬をグイグイ引っ張る。痛い痛い!千切れてしまいます!!

 

「まぁ、姉妹でのスキンシップはその辺にして置くが良かろう、それにエレオノール君、君の妹君の系統が風か水じゃと予測したのはさっきも言ったがわし等教師でもあるのじゃ。」

 

(オールドオスマン、ナイスフォローです!!)

 

オールドオスマンのフォローに感謝した私だったけど姉様の頬を抓る力は些かも緩んでくれない。

 

「それで魔法が上達しないのはこの子が至らないからですわ!!それにその事を正直に手紙で伝えなかったのは事実!これは当然の罰です!」

 

 

結局私はそのままの状態で暫く姉様のお叱りを受ける事になった。でもお叱りだった筈のお話の内容が婚約者の男性への愚痴だったりアカデミーでの上司への文句だったり…それって私絶対関係ありませんよね?

 

 

 

~エレオノールside~

 

おチビへのお仕置きを終えて私達は早速ルイズの使い魔が眠っている広場へと学院長の秘書であるロングビルの先導で向かっていた。

関係ないけど彼女も私と同年代で未婚らしい、かなりの美人で器量も良さそうなのに…

本当にトリステインの貴族は女を見る目が無いから困るわ。まぁ、仕事が出来る上に美しい女というのは男性を立てるというのがどうしても難しくなってしまうししょうが無い部分があるのよね!!

聞けば実は彼女も土のトライアングルで普段ルイズが大分世話になっているそうだし平民だって言う事を除けば共通点が多いし良い友人になれるかも知れない…時間があれば少し話をしてみようと思う。

 

「異常はありません。」

 

「そうですか、ご苦労様です。」

 

話が脱線してしまったけど衛兵とのやり取りを交わし、直ぐに私達が連れてこられたのは学院のすぐ脇に広がる平野だった。

かなりの広範囲にわたって柵がこさえられており、各所に『立ち入りを禁ずる!禁を犯せば命の保証無し』と物騒な注意書きが施されていた。

おまけにかなりしっかりとした衛兵が常駐しているらしき小屋まで設置されている…その仰々しさに私は理解がまだ追いついていなかった。

 

 

「ここが私の使い魔の今の居住区です。」

 

「数日前までヴェストリの広場にて生活させていたのですが様々な理由で現在は学院外に住まわせております。」

 

ルイズの説明にロングビルが補足をしてくれる。でも私には二人の言葉の意味が分からなかった。

 

「ちょっとお待ちなさい、ルイズの使い魔は巨大な魚と聞いているわ。ここには水場など無いし第一肝心の使い魔がいないじゃない?もしかして私をからかっているのかしら?」

 

その当然の私の疑問に応えたのはニヤニヤとした笑顔のオールドオスマンだった。

 

「うむ、実に君の言う通りじゃがアレ等は些か規格外でな…我等の常識を持ってではとてもじゃあ無いが計る事ができんのじゃ。まぁ、こればっかりは実際に目にするべきじゃろうな。どれ、ミス・ヴァリエールや、君の姉君の度肝を抜いて差し上げなさい。」

 

要領を得ない私を置いてオールドオスマンはルイズにそう言うと視線を何も無い…いや、やたらと荒らされた地面に視線を向ける。

 

「分かりましたわ。それでは…ゴル!!シル!!出てらっしゃい!!」

 

ルイズが声を張り上げて使い魔らしき名を呼ぶ。その横顔は私が見た事も無い位に自信に満ちあふれていて…もしその時私に余裕があったのならば深く記憶に留めようとしただろう…

 

私の思考が停止したのは地面の震動を感知した次の瞬間だったわ…

 

 

堅い筈の大地をまるで沼の中でも泳ぐ様に突き破って現れた黄金と白銀の巨大な魚。

凡そ10メイル程の距離を取っていることでようやくその全貌が覗える程度という桁外れの巨体は話には聞いていたが何処か信じれていなかった様相そのままだった…

 

「黄金の方がゴルで白銀の方がシルです。彼等は大地を泳ぎ、陸を闊歩する魚です。またその食性は雑食そのものであらゆる物を食します。」

 

唖然としている私への淡々としたロングビルの解説が耳を素通りしていく。

 

「初めてこやつらを目にした人間はみんな同じ反応をしよるわい。まぁミス・ヴァリエールに対して極めて従順じゃからそう警戒はせんでも良いわい。」

 

「如何ですかエレオノール姉様?私の使い魔は。」

 

褒めて下さい。と全身で伝えている様にルイズが私に振り返って両手を広げる。私としての本心は今すぐにでもルイズを抱き上げてその母様譲りの桃色の髪を撫で回したかったけれど…

どうやら私はこの妹に筋金入りに素直になれないらしくて不覚にも私は研究者として詰めよってしまった。

 

「おチビ!!何なのこいつ等はっ!??」

 

「きゃっ、ちょ…痛いです姉様!」

 

思わず肩に手を置いて詰めよった私の手に力が入る…

 

「いけません、伏せて下さい!!ミス・エレオノール!!」

 

ロングビルの声が響いた次の瞬間、土が脈動して一気に巨大なゴーレムへと姿を変えると凄まじい衝突音が頭上から響いてきた…

 

「もう持ちません、ミス・ヴァリエール早くとめて下さい!!」

 

「止めなさいあんた達!!」

 

見れば今は動きを止めている様だけど銀の個体は巨大な二つのアースハンドに胴を掴まれ、金の個体は四つ足の巨大なゴーレムに組み付かれていた。

両方に共通しているのはゴーレムもアースハンドも深く亀裂が走っており今にも崩れそうな事だ。

 

「この人は私の姉様よ、悪い人じゃあないの!!」

 

ルイズの言葉で私は状況に気づいた…突然現れた見ず知らずの人間が主人に掴み掛かったせいで使い魔が怯えた主人を守ろうと動こうとしたんだわ…

 

「ふう、肝が冷えたわい…しかし迂闊じゃったのう、こやつ等の前でミス・ヴァリエールを刺激してはならんという事を伝えておらんかったわい。」

 

一気に精神力を使った様子のオールドオスマンとロングビルが疲労した表情で私にじっとりとした視線を送る…

 

「す…すいません。」

 

私は腰が抜けたまま謝罪を行うと今はルイズに叱られている二匹の使い魔を改めて見上げた…

 

 

_________

 

「アカデミーで研究を行う必要がありますわ。」

 

あれから通された応接室で私はオールドオスマンとルイズに研究者としての率直な意見を伝える。

 

「そんな!!姉様は私から使い魔を取り上げるつもりなの?酷いわ!!」

 

すかさず返って来た妹の悲痛な訴えに努めて冷静な態度を保ちながら私は茶を口に運ぶ。

 

「まぁまぁ…落ち着きなさいミス・ヴァリエール、エレオノール君も誤解を与える様な言い方は感心せんの。」

 

やっぱりオールドオスマンは分かっていらっしゃる…

オールドオスマンの言葉でルイズも落ち着いた様で何よりね。

 

「誰も使い魔を研究用に連れて行こうなんてしないわよ。第一そんな事を無理にしようとして暴れられでもしたら道中でもアカデミーでも死人の山が出来上がるだけだもの。

あの使い魔、貴女以外の命令には従わないんでしょ?」

 

「えぇ、まぁ…」

 

さっきの件の後に聞いたらトライアングルクラスの対攻城戦用巨大ゴーレムでようやく遊び相手が勤まるだなんてとんでもない化け物よ。

仮に預けられてもこっちが困るもの。

 

「アカデミーには研究用に鱗や牙とか…そうね、体液なんかを提供して貰えれば十分よ。それとも貴女が学院を2,3年お休みして使い魔と同行してくれる?そうすればもっと詳しく調査が出来るわ…解剖とかね。」

 

「フム、前向きに検討してはどうじゃ?将来的にそちらの道に進むというのであれば多少の期間ならば採り計れるかもしれんぞミス・ヴァリエール。」

 

必死の形相で首を横に振るルイズを横目に笑って仰るオールドオスマンの言葉に私も微笑みを返す。

 

「非道いですわ。姉様もオールドオスマンも…」

 

「冗談よルイズ、それと品評会にもお邪魔させて貰うつもりだから数日は此方にお世話になるからね、使い魔の研究と一緒に貴女の魔法の特訓をしてあげるわ。まさか嫌とは言わないわよね?」

 

「えっ!?」

 

私がなるべく優しい笑顔で告げたその時のルイズの本当に嫌そうな表情に、私は情けと容赦はすまいと固く心に決めた。

 

 

 

 

(それにしてもとんでも無い使い魔を呼び出した物ね…大きすぎる力は例えそれがどんな形の物でも混乱を招くというけれど…

アレを狙って間違いなく色んな思惑が動くでしょうし…

とにかく何があっても私達家族であの子を守らなければいけないわ…)




『突然の襲撃』Fで極稀に起きる乱入クエストの名称。発生時にモンスターアイコンを赤い爪が引き裂くという演出の後ハンターが確定で身を竦ませる。尚発生率は1/1000という噂。

『エキューチケット(鱗)』Fの世界ではポルタチケット(各色)と呼ばれる。色によってお値段が変わる所謂金券。


マチ姉(え?何でミス・エレオノールは同年代で私が独身だって聞いた途端こんなに対応が優しくなったの?私は結婚出来ないんじゃなくて結婚しないのよ?一緒にされたら困るわ…)
みたいな事がきっとあったと想う。




次回は品評会です。


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飼育したモンスターと闘技場で共闘?有りましたねそんなコンテンツ

今回モブキャラですが初のオリキャラが出て来ます。でもあまり気にしないでもらえると嬉しいです。
それとほんSSは原作基準のバックストーリーに関しては描写をかなり省いています。手紙の件?ワルドって誰だ?ってなる様な読者様はwikiか他の作品読む事をお勧めします。

次回からアルビオン辺に突入!!しないんだなぁこれが…


~アプリアside~

 

私の名前は『アプリア・リア・パリア』

家格としてはぎりぎり中流といった感じのパリア家の長女で上に3つ離れた兄が居る。

まぁ何処にでも居る様な平凡な外見で茶色の髪に眼鏡と基本的に地味である私だけれど魔法に関しては結構自信があったりする。

同じクラスのタバサは別として私は水のライン、これは十分優秀な方だしなんとこの春に私が呼び出したのは2メイル程のマッドリザードと呼ばれる大型の水辺に生息するつぶらな瞳の竜の様でカエルの様なトカゲで名前は『ドドンガ』。

 

そんな私の二つ名は「濁流」。

 

今日は魔法学院の春の行事の一つである使い魔品評会の日で私の使い魔は頑張れば十分賞を狙える使い魔なのだけれど…

 

「大丈夫アプリア?」

 

「…やばいかもしれないです…」

 

「ちょっと、ステージで逆流は洒落にならないわよ!!」

 

同じ水メイジで割と仲の良いモンモランシーの心配の声に私が辛うじて応えると近くに居たキュルケが慌てて失礼な事を言う…とは言っても事実洒落にならないですけど。

 

そう、私は極度のあがり症で、しかも嘔吐癖があるのだ…大勢の視線を浴びながらステージの上で華麗に振る舞わないといけない…想像しただけで…

最近だとフリッグの舞踏会で気になる男子にダンスに誘われて踊っている最中にやらかした…

 

 

そんな私のあだ名は『逆流』。そんなだから私はルイズのゼロって二つ名を笑えない。

 

 

結局、王女殿下が来賓で来られているステージの上で私の出し物は辛うじての自己紹介の後でまさしく読んで字の如くの出し物となってしまい、そのままドドンガの口に咥えられて早々の退場という人生の汚点となってしまった…

 

 

~ルイズside~

 

(アプリアェ…)

 

私は控えの隅で横になって寝かされているクラスメートに同情の視線を向ける。

アプリアと私とタバサは男子共が言うには残念美少女3人集らしい。私は魔法の腕、タバサは性格、アプリアはこれが原因で嫁にはちょっと…といった話らしい。

 

品評会は今のところ順調でタバサのシルフィードが頭一つ抜けて高評価だ。

アプリアのお陰でみんな「アレより非道い出し物は無い。」という自信から良い感じに緊張がとれてるらしい。

 

まぁ私には関係の無い話だわ…既に何をシルゴルにさせるかは決めてあるし私の大賞はもう確定している様な物だもの。これはもうクラスメート全員が認めている事…

 

(さぁ、次は私達の出番よ…)

 

私は控えエリアからカーテンを潜ると特設のステージの中心に向かって背筋を伸ばしたまま真っ直ぐに一人で歩みでた。私の隣には頼りになる可愛い使い魔の姿は無い…

 

 

 

~アンリエッタside~

 

難しく日々変化する国際情勢、その中で決定した私のゲルマニア皇帝との政略結婚、陰鬱とした日々にも私は王女として努めていたけれど今日は違った…

魔法学院への使い魔品評会の来賓としての歓待。魔法学院には私の最愛の友人ルイズが居る。

久しぶりに顔を合わせる事が出来ると想うと私の心は幼かった頃に様に純粋な喜びで満たされた。そして今、ルイズがステージに姿を現したのを私は宛がわれた席から眺める。

 

でもその自信に満ちたその表情とは裏腹に彼女の隣に使い魔の姿も影も見当たらなかった…そう言えば彼女は魔法が苦手だった…もしや使い魔の召喚に失敗してしまったのでしょうか?

それでもこの様な場に堂々と姿を晒さなければならないとは何たる不幸…

 

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。私が呼び出したハルケギニア全土を持っても最も美しく、最も強き、最高を自負致します我が使い魔を紹介致します。皆様、視線を後方へとお願い致します。」

 

そんな風に私が内心で嘆いているとルイズは堂々とした姿のまま、朗々と良い上げると杖を抜いて正面を指し示した。

 

「大きく出ましたな。」「ほぉ、あれがヴァリエールの…」等の声が各所から聞こえる中で釣られて会場の全員が振り返る様に視線を広場へと向ける。すると其処には二匹の豚が杭に縛り付けられていた…まさかアレがルイズの言う最高の使い魔?

 

「殿下、騒ぎとなるやも知れませんがどうかご安心下され。」

 

「騒ぎですか?」

 

隣にいらっしゃるオールドオスマン卿の言葉に私が聞き返した次の瞬間でした。

 

一瞬の地響きと共に黄金と白銀がそれぞれ豚を一飲みにしてついでとばかりに空へと舞い上がるとそのまま乱暴な着地をして地面を砕いてしまった…

 

聞こえるのはそれらの轟音と男性の驚愕の怒声と女性の絹を裂く様な悲鳴…そしてオールドオスマン卿の押し殺した愉快そうな笑い声。

 

私がその光景に驚愕したまま口元を両手で押さえていると周囲が途端に騒然とし始めると同時に私の護衛達が私の周りを囲う。

 

「どうか皆様落ち着いて下さい、アレこそが我が使い魔ゴールスとシルバで御座います。」

 

ステージから聞こえる凛としたルイズの声…私の友人は暫く見ない間になんと立派になっていた事か…

 

「要らぬ混乱をお招きして申し訳ありません。シル、ゴル、もう良いわ下がりなさい!!」

 

その一言で巨大な使い魔二匹が現れたときのように大地を砕いて地に潜る。私はその光景をまるで信じられないと見ていたし周りの衛士達も呆然と口を開いたままです…

 

周囲の混乱がある程度落ち着いた時、既にルイズは誰も見ていない中で優雅な一礼をとってステージからは退出してしまっていました…

 

 

今年の使い魔品評会の最優秀賞に彼女とその使い魔が満場一致で選ばれたのは当たり前の事でした。

 

____

 

 

~ルイズside~

 

やった…

 

自信はあったけれど実際に姫様から最優秀賞の受賞の際にお褒めの言葉を頂いた時はまさに感無量だったわ…

それに姫様の護衛としていらっしゃっていた魔法衛士隊の隊長としてワルド様からも賞賛を受けてしまった。小さな頃の約束だけど私の婚約者で憧れの人。

今夜はとっておきのワインで祝杯を挙げなくっちゃ!!

 

私が浮かれたままワインの栓を開けた時、私の部屋をノックの音が叩く…誰だろう?

キュルケならノックしないしタバサはもう寝てる時間だと思うしエレオノール姉様かミス・ロングビルかしら?と思いながら私が扉を開くと其処には黒いローブで身体を覆った学院の制服姿のアンリエッタ姫様が立っていた。

 

無言で部屋に入った姫様は杖を抜いて探知のルーンを唱えて監視の目を疑う。それだけでこの突然の訪問がお忍びなのだとはっきり分かった。

 

「ひ、姫殿下いけません斯様な下撰な場へ…」

 

「顔を上げて下さいルイズ、友人に会いに来たというのにその様な態度をとられては私は泣いてしまいます。貴女は私から最愛の友人を取り上げるつもり?」

 

慌てて跪いた私にローブを脱いだ姫様が勢いよく抱擁してくる。柔らかくて良い匂いだった。

 

「…そう仰られては仕方有りません、それにしても相変わらず無茶をなさいますね姫様。まさかその様な恰好でいらっしゃるとは…」

 

「似合っているかしら?晩餐の席でオールドオスマン卿に用立てて頂いたのよ。」

 

「まぁ、姫様ったらいけない方ですわ!」

 

はにかむ様に笑った姫様、幼い頃私も一緒に隠れたりお城の中で遊んだ物だ…

そうして私と姫様はお互い幼かった頃の思い出話に暫く華を咲かせ、話の内容は私の使い魔シルゴルの事へと移っていった。

 

「まぁ、では石像まで食べてしまいますの?」

 

「はい、あの時は振り返った瞬間私も驚いてしまいましたわ。」

 

と、不意に会話の最中で姫様の表情が曇る…

 

「貴女が羨ましいですわ、ルイズ…」

 

「姫様、もしや何かお悩みが?」

 

 

________

 

~アンリエッタside~

 

「姫様、もしや何かお悩みが?」

 

私の内なる悩みを察してくれたのかルイズが私に問い掛ける。やはり友情とは素晴らしい…私が結婚とウェールズ様に宛てた手紙の件をどうするべきか相談しようとした次の瞬間でした。

 

「おチビ!!おチビ~!!」

 

女性の声と共にドアに乱暴にノックが繰り返される…完全に酔っ払った誰かがルイズの部屋を訪ねて来たのね…タイミングが悪い。でも何処かで聞いた事がある声の様な…

ふと、見ればルイズの顔色が悪い…心当たりがあるのかしら?まぁお客様には悪いけど居留守を使わせて貰いましょう。

 

「ん?鍵なんかかけて…生意気な、アンロック!!」

 

「ちょっと、駄目ですってミス・エレオノール!!」

 

聞こえてきたそのやり取りに私達が驚いて居る間もなく扉を開けてやってこられたのはルイズの姉君であるエレオノール様と何故かオスマン卿の秘書の女性…

二人とも飲んでいらっしゃるのか顔が赤いけどエレオノール様に至っては完全に目が据わってる…

 

「姉様!?」

 

「すいません、ミス・ヴァリエール。貴女のお祝いを兼ねて二人で飲んでいたんですが止めたんですけどどうしても直接褒めてやるんだって言って聞かなくて…」

 

「よーしよし、今日はおめでとう良くやったわ!!流石私のルイズね~~アハハハハ。あら、良いワインあるじゃない。」

 

私の事を全く気にする事も無くルイズに抱きついた後でテーブルの上のワインをラッパ飲み…そしてまた全力のハグ。

私が知っているエレオノール様と全然違う、完全に酔っ払ってらっしゃる…

 

「…!??」

 

あ、秘書の方が私の正体に気が付いたっぽい…そりゃあ今日学院に来た時一度お会いしてますものね。

 

「ほら!!ミス・エレオノールいい加減離れて!!ミス・ヴァリエールの友人がいらしゃってるんですから部屋に帰りますよ!!」

 

どうやら私の事は気が付かなかった事にしてくれるらしい。その方が私も助かりますけども…

で、エレオノール様を羽交い締めにしてルイズから引きはがす…

でもそのせいで今度はエレオノール様が此方に気が付いたみたいで私の顔を覗き込む…お酒臭いです…

 

「あら、貴女ルイズの友達?…何か何処かで見た顔ねぇ…」

 

えぇそれは小さな頃から何度もお会いした事ありますもの…

 

「まぁ良いわ~、ほら貴女も飲みなさい!!ルイズのお祝いよ!!」

 

そう言ってグラスにワインを注いで私に押しつけるエレオノール様。溢れてます、溢れてますから!!

秘書の方は手の平で両目を押さえて天を仰いでいらっしゃる…完全に諦めてしまって…何で貴女まで新しくワイン開けてらっしゃるのかしら?やけ酒ですか…そうですか。

 

 

 

そのまま私と魂が抜けてしまった様なルイズはエレオノール様が酔い潰れてしまうまで、如何に結婚という風習が無用であるかと男性の愚かしさなどをこんこんと聞かされる羽目になりました…

 

 

 

結局もう悩みなんて相談できなかった私は半ば吹っ切れ、魔法衛士隊隊長であるワルド子爵にアルビオンの手紙の件を解決する様に命じた…

 

 

その結果が何をもたらすか何も理解しないまま…

 

ただそれについて何が悪いかと問えば私はこう断言する…

 

 

「お酒が悪い。」

 




オリジナルモブのゲロ子ちゃんのモデルは呑竜パリアプリアです。攻撃手段が主に胃液やゲロというアレなモンスターでぶっちゃけ弱種族。
それでもパリアプリアも覇種認定を受けておりましてとても愛嬌のある可愛い顔をしたモンスターでした。


姫様の恋する乙女思考がエレ姉様の生々しい話のせいで壊れちゃった…


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外典 『久遠に刻まれし悠久の凶禍』

アルビオン編(絶望)
今回はルイズが別の覇種(厳密には至天ですが)モンスターを呼び出したお話を外伝として書かせて貰いました。
色々アンチ色が強い作品になりましたけどこれを読んで本編の平和さを噛みしめて下さい。

この飛竜、足踏みに巻き込まれただけで最前線ハンターの方が虫の様に殺される世界です。勿論私は倒せません。

ちょっと誤字修正ついでに描写変更


「あなたが…私の使い魔…」

 

 

春の使い魔召喚の儀式でルイズが呼び出したのは巨大な一匹の黒いワイバーンだった。

 

一般的に竜とワイバーンではワイバーンの方が一段格が落ちるとされている、が、その様相は先に召喚されていたタバサの風竜シルフィードの偉相を完全に霞ませていた…

 

黒曜石の様に艶やかな光を帯びる漆黒の鱗は見る物全てに根源的恐怖をもたらす。

また、その黒鱗は全身を汲まなく覆っているが身体の各所にはまるで鮮血の様な赤が目を引いている…

 

その赤が怪しく煌めくのは脚爪、翼爪、そして尾から伸びる棘であり、そのそれぞれが独特の湾曲をしており、その全ての進化へのベクトルは全て獲物を切り裂き抹殺する為だと雄弁に主張していた。

 

太く長く逞しい尾はハルケギニアに存在するあらゆる竜種とは違った特徴を持っていた…普通竜の尾は根元が太く先端に行く程細くなりその様は騎士の持つ突撃槍、ランスの様な物が一般的だがルイズの呼び出した漆黒のワイバーンは違う…

太いのだ…明らかに先端が。そして尾の先端、そこから伸びる大剣の様な赤い針と沢山のかぎ爪…

 

 

翼長は20メイル、前腕が進化した両翼は力強く、翼膜も例外なく漆黒で微かに色合いの違いから紋様の様な柄が確認出来る。

全長もほぼ同じ20メイル級で一般的な火竜と比べても一回りは大きい。その上に何よりも周囲を恐れ、竦み上がらせたのはその紅蓮の炎よりも赤く、ルビーよりも美しい…どういう環境に生息すればそうなるのか?と言う程の死を意識させる血の色をした紅玉の赤眼だった…

 

 

言い表すならば正に『禍禍しい』の一言に尽きる…

 

 

ルイズはその漆黒の飛竜にこれでもかという程に愛情を注いだ。

 

だが、それに反して飛竜はまるで飼い慣らされる事を拒む様に学院の周囲を縄張りとして生活を始めた。

そうして時折巨大な黒い影が学院の上空を飛行する事になる。

多くの使い魔がメイジに仕え、人と共に生きる様になってもやはり其処は動物、やはり危険察知能力が高いのかその日以来あらゆる飛行生物がその影を怯える様に滅多に空を高くは舞う事は無くなった。

 

幸いにも飛竜は人を襲う事は無かったがその代わりルイズの元には黒い恐ろしいワイバーンに牧場が襲撃され家畜が食われた。といった噂が入ってきてその度に手痛い出費と当該地域の貴族への謝罪で苦労をさせられた…

仮に討伐隊なんて編成されたら大変な事になってしまう…勿論それは討伐隊の被害的な意味でだ。

 

そんなある日事件が起きた。

 

とある日の深夜の時間、怪盗フーケが魔法学院に破壊の杖を盗み出そうと30メイルはあろうかという巨大な土のゴーレムで襲撃をかけたのだがルイズのワイバーンがそれを縄張りへの侵入者と判断したらしく学院の中央塔、その先端に降り立つと威嚇の為に魂すら凍てつく様なおぞましい咆哮を上げた。

 

その瞬間、目を覚まさなかった学院の生徒は一人も居ない。

 

目撃者の衛兵曰くその瞬間、月をシルエットに赤いオーラの様な物が確かに飛竜を包んだらしく、またその真下に位置する学院長室にいたオールドオスマンは塔そのものが確かに震え上がるのを感じたという。

 

明確な敵意を持っての飛竜の飛翔…その結果が何をもたらしたかと言えば惨状としか言えない…上空からの砲弾の様な火炎のブレスが放たれゴーレムに着弾すると冗談の様な爆発と共に青と紫という色合いをした異界の炎が大地を焦がし尽くしたのだ。

 

この時点でゴーレムの肩に陣取っていたフーケは灰燼となり、ゴーレムも魔法の補助を失い崩れ去るのみとなったのだが飛竜は続けざまさらにゴーレムへと滑空し襲いかかるとその両足で容易くゴーレムを踏み砕いてしまった。

いとも容易く行われた蹂躙劇、まるでそのカーテンコールの様に飛竜は再び咆哮し大地を踏み締める…

 

その夜、安眠する事が出来た人間は学院には居なかった。

 

 

_____

 

 

時は過ぎ、あっという間に噂は風に乗ってアンリエッタの耳にも届く事になる。

尾ひれが付き腹ひれが付き、しかし本当の意味でその黒き飛竜の真の恐ろしさなど全

く伝わる事は無く…何せそれは主人であるルイズですら計る事が出来ないのだから…

 

学院を訪れたアンリエッタは一つの頼み事をルイズに託す…

それは即ちレコンキスタとの戦争で風前の灯火となったアルビオン王家への密書の回収。

 

そしてルイズは愚かにもこれを引き受けた…黒き翼があれば何処まででも飛べる。それは慢心と揺るぎなき事実。

 

翌朝同行者として待っていたのはかつての婚約者ワルド、ルイズとワルドは飛竜の翼を借りて一気にアルビオンのニューカッスル城へと飛んだ。

 

ワルドは現役の魔法衛士隊グリフォン隊の隊長を務め上げる風のスクウェアメイジ。自他共に認めるトリステイン国内におけるメイジの最高峰。

そんなワルドは乗りこなせぬ幻獣無しという自負を持っていたがルイズの飛竜だけは乗りこなす自信が全く持つ事が出来なかった。まるで乗り手を殺す為に背中の甲殻に生え揃ったとしか思えない毒針の剣山を前にすればルイズの使い魔で無ければ誰もが絶対にお断りだろう…

 

そんな黒き飛竜はレコンキスタが支配するアルビオンの空を大胆にも戦列艦の間をくぐり抜けて飛んだ。

 

大砲も龍騎士も歯牙にもかけず戦場の空を王として欲するままに支配した…

大砲など当たらぬ、届かぬ。杖を抜き、風竜火竜を駆る蛮勇の勇者は尽く切り裂き焼き尽くした。

 

ルイズは初めて見る戦場…否、使い魔による一方的な蹂躙の光景に泣いた…泣いて使い魔に懇願した…戦うな、逃げよと…これ以上殺さないでくれと…

 

果たして敵から逃げ切ったのか敵に逃げられたのか、追う者と追われる者の境界が入れ替わった時、気が付けばルイズ達はニューカッスル城で滅びの時を待つアルビオン王家に迎え入れられていた…

 

亡国の最後の晩餐、優雅で悲しいその時間に打ちひしがれた心のままにルイズは一人己の使い魔の元に向かう。

夜の闇より尚暗い、己の使い魔が天を仰ぎ、遠くアルビオンの空を王家から奪った敵を唯々睨む…

 

 

翌朝ルイズは最終決戦の前に礼拝堂で最後の祈りを捧げるアルビオン皇太子ウェールズから密書を受け取り筋違いな事と知りながらも申し出た。

 

「お望みとあらば我が使い魔の力を持ってレコンキスタの艦隊全てを焼き尽くせましょう。」

 

ルイズの言葉にウェールズが応えようとした瞬間だった。

 

「そんな事をさせる訳にはいかないよ。君の使い魔、たった一匹の力でレコンキスタは壊滅の憂き目にあうだろう。」

 

言ってワルドの鋭い閃光の突きがウェールズの心臓を貫く…

 

あっさりと崩れ落ちたウェールズ…ルイズはその時になって初めてワルドが裏切り者でレコンキスタに与していた事を悟った…

気づく事等出来はしない。何故ならここに辿り着くまでが余りに短い旅路だったのだから…

 

「君を討てばあの飛竜を操る者は居ない…残念だよルイズ。君があの様なモンスター等呼び出しさえしなければ!」

 

「ワル…ド…」

 

返し様、ワルドの魔法が今度はルイズに襲いかかる…絶体絶命のこの場面に颯爽と駆けつける様な英雄はこの物語には居はしない…

無慈悲な風の刃はルイズの胸をいとも容易く貫いた…口元から一筋の血が流れ落ち、その瞳から輝きが失われる。

ワルドはルイズの亡骸の血を綺麗に拭き取りその瞼を閉じさせて遺体を整えるとウェールズの密書を回収する…

苦しむ間も無くルイズの命を絶ったのはワルドなりの元婚約者の少女に与えられる最後の慈悲だった。

 

「ルイズ…許してくれとは言わない…」

 

己の外道振りに自嘲の笑いをワルドは浮かべて今度はウェールズを討った証として御印を回収しようとした…しかし次の瞬間、突然の襲撃にワルドは全力で警戒の態勢へと移った。

 

 

アルビオン脱出の為に礼拝堂の外に待機していたルイズの使い魔、黒き飛竜が礼拝堂の天井を破壊して目の前に舞い降りてきたのだ。

 

「まさか主人の仇を討ちに来たとでも言うのか…!?」

 

本来連れ添った年月の短い使い魔の多くは使い魔契約が消えれば野生に帰る者が殆どだ。

特に竜種等の気位の高い生物はその傾向が高い…それがワルドのこんな危険な賭に出た事の勝算だったのだ。

 

しかし、飛竜はワルドに襲いかかる事は無かった…

 

飛竜の取った行動は唯一つ。

 

ルイズの遺体を食ったのだ…

 

まるでその姿を焼き付けるようにしばし眺め、咀嚼は行わず、まるで飲み込むかの様に飛竜はルイズを食らう…ワルドはしばし呆然とその光景を見つめていた…

 

(この竜はもしやルイズを憎んでいたのか?)

 

そして主人を己の血肉とした飛竜は一瞬青いオーラを纏ったかと思うと咆哮と共に翼を広げてワルドの目の前から上空へと一気に飛翔して消えた。

 

(どうやら去った様だな…少なくともアレが次に現れた場所がどうなるか検討も付かんが最早レコンキスタにとっての驚異とはなるまい。)

 

そう判断したワルドであったが次の瞬間、全身を怖気が走った…

風のスクウェアだからこそより繊細に解る風の流れ。まるで悪い夢の様な大嵐、風が悲鳴をあげているかの様なそれが突然礼拝堂を包んだと思った瞬間、一気に礼拝堂の屋根とガラス、果ては外壁までもが高く黒い風と共に空へと舞上げられたのだ!!

 

何が起きた!?等と考える間も無く、ワルドは本能的に必至に地面にしがみつくと風の魔法で何とか自身の身体を地面に縛り付ける…

そして一瞬の凪の様な無風の後、地面に叩き付けられて砕け散る礼拝堂であった物。

凄まじい粉塵と地響きにこのままでは危険と判断したワルドが頭を起こし視界前に向けた瞬間、それは再び礼拝堂に降り立った…

 

神をも恐れぬと言わんばかりに唯一礼拝堂の中で原型を留めていたブリミルの聖像を踏み砕き、舞い降りたのは漆黒の飛竜。

 

しかしその姿はさっき見た物よりも更に禍禍しくおぞましい物へと変貌を遂げていた…

 

目の錯覚などでは無い、はっきり視認出来る程の全身を覆って揺らめく赤と黒のオーラ、血の様な赤だった身体の各部の爪や棘は全て燃えさかるマグマの様な脈動を浮かべ、黒一色だった翼膜までもが紅蓮に染まっている。

鋭く怪しげな牙が並ぶ口からは呼吸に合わせて常に赤い炎が漏れだし、かつて紅玉の様であった瞳は隈取の如く赤く染まり最早生物の瞳には見えなかった。

 

 

目が合った…

 

そう理解した瞬間、知らず知らずワルドの奥歯がカチカチと音を立てて鳴っていた。

過去に命の危険くらい何度も感じた事はあったしその全てを己の力でくぐり抜けてきた。しかし恐怖で泣いた事など一度も無かった…しかし今は身体の震えと恐怖からの涙が止まらないのだ…

 

目の前の飛竜は明らかに自分の知っている恐怖とは違う。希望がまるで見え無い絶対の死という絶望の具現…

 

ゆっくりと飛竜が片足を振り上げ…叩き付ける…それだけで地面が砕け散る…

 

それが唯飛竜が走り出す為の助走の第一歩だと知った時にはワルドの肉体は瓦礫の染みの一つとなっていた…

 

 

『絶望の黒龍』

 

突如現れ、そう呼ばれた一匹のワイバーンによってニューカッスル上空に集まっていたアルビオン艦隊はその全てが轟沈した。

ブレスの一発、羽ばたきで巻き起こされた乱流、脚部を使った滑空からの突進、それら全てがとてもでは無いが戦艦の装甲程度で耐えれる物では無かった…無論、そこにはレキシントンも含まれる。

 

また、打ち上げられたブレスは天に昇るとまるで罪深き者に与える裁きの雷の様に人々に降り注いだ。

逃げ去ろうと走る馬上のメイジを背後から貫く赤い爪の弾丸…流れ出た毒が肉を腐らせ骨をも溶かす。

薙ぎ払われた光線のような灼熱のブレスが撫でた大地は溶解し何も残す事は無い。

 

焼ける焼ける焼け落ちる…王軍もレコンキスタも関係無い。

それこそが慈悲と言わんばかりに死が降り注ぐ…

 

空を見上げる全ての人間に等しく黒き風を纏った嘆きが襲いかかる…地に蹲った全ての人間に大地を砕く絶望が襲いかかる…

 

たった半日の時間でレコンキスタ空軍とアルビオン王家は灰燼となって世界から抹消された。

 

 

憤怒と慟哭の咆哮が白の国を焼き続ける…

 

________

 

 

ルイズが魔法学院を発ち消息を絶ってから凡そ一月が経った。

 

レコンキスタは神聖アルビオン共和国と名を変える事は無く、またトリステインに侵略戦争を仕掛けてくる事も無かった。

 

当然だ。アルビオンという国そのものがもう存在していないからだ。

 

 

「…生存者は無しですか…」

 

「はい、各国合同調査隊も帰還したのは一割にも満たなかったそうで御座います。報告書はこちらに…」

 

沈痛な表情でマザリーニから手渡された資料を読んだアンリエッタはその絶望の文字列から震えながらも目を逸らす事が出来なかった…何故ならそれは己の浅慮が招いた悲劇なのだから…

友人は帰って来なかった…果たしてアルビオンで何が起きたのか?死人に口なし。真実を知るもの語る者は一人として居はしない。

 

それでも確実に言えるのはルイズが生きていたならばきっとあの飛竜はもう止まっているだろうと言う事だ。

 

アンリエッタは声を漏らさず涙を流した。

 

 

_________

 

 

ハルケギニア全土でこの度とある御触れが出された。「アルビオン、取り分けニューカッスルへ立ち入る事を禁ずる」と。

 

ニューカッスル城跡地、其処には最早瓦礫と死しか存在しない。

 

曇天の空、そんな中を黒い一匹のワイバーンがゆっくりと滑空し着地する…

そこはかつては敬虔なブリミル教徒によって祈りが捧げられていた建物だった。

 

その身体には多くの傷が刻まれている。弓矢で射られた物、火と雷で焼かれた物、大砲で撃たれた物、風の刃で切られた物…様々だったがそれ以上の比べものにもならない大勢の血がこの一匹のワイバーンによって流された。

 

このワイバーンの名は後生には決して伝わる事は無かった…その伝説はただ畏怖を込めて『飛竜』とだけ伝えられる。

 

 

 

 

 

その伝説が生まれた年、アルビオンに春を迎えた命は無い…




『UNKNOWN』 読んで字の如く、今回呼び出されたモンスターの名称である。外見はリオレイアに酷似しており通称黒レイアとも呼ばれる。F最強モンスターは何か?という話が出た際にはまず間違いなく推薦される基地外モンスである。


ガリアもロマリアも襲撃させようかとも思いましたけど攻め込む理由も無いし私も無意味に殺したい訳じゃ無いのでやめました。


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それぞれのマイミッション

今回もオリジナルモブが出しゃばってます。戦争が起きるのは確定しちゃいましたけどこれから一気に話を進めたいようなのんびりしたい様な。

みなさん今年最後の更新です。皆様良いお年を!!

ちょっと修正しました。
エミットの名前を「カナリア」から『ジーエフ』に変更。


トリステイン王国にアルビオン王国の敗北の報が届いたのはアンリエッタが魔法学院を訪れてから凡そ6日の後の事である。

 

ワルド子爵の裏切りによるウェールズ皇太子の暗殺、そこからのニューカッスルにおける最終決戦と王家の玉砕。

 

その凶報を伝えたのはその現場に居たアルビオン王国魔法衛士隊の王族近衛兵である女性隊員、『エミット・ジーエフ・ド・ラ・ギュロス』

アルビオンの名家ド・ラ・ギュロス家の女性騎士であり風のスクウェアであり二つ名『冥雷』を持つメイジだった。

 

エミットは幼い頃に落雷に打たれて瀕死に陥って以来、雷を操る魔法を類を見ない程の早さで極めた才女であり、何よりも優秀な軍人だった。

そんな彼女は決戦の前夜、ウェールズの身辺に偶然居合わせることとなったその場でワルドと闘い、偏在を破り尚且つワルドに重傷を負わせ、件の手紙を取り返し撤退に追い込むもその結果としてウェールズを守る事は叶わなかった…

 

エミットが直ぐにアルビオン国王ジェームスにその旨を報告すれば彼女に与えられたのは使い魔と共にトリステインへと亡命し、レコンキスタの目的と次はトリステインが狙われるであろう事を綴った新書を届けよという命令。

これが王とアルビオンという国から賜る最後の命令と理解し、国と共に果てるという誓いを己の身体と共にニューカッスルの断崖絶壁から投げ打ってエミットが口笛を吹く。

 

 

彼女の使い魔、大いなる白の翼サンダーバードがアルビオンの死を超えてトリステインの空を舞う…

 

 

_______

 

~ヴァリエール公爵side~

 

アルビオン王家の陥落の報を聞き、対策の為の相談に王城に来て鳥の骨に話を聞いてみればなんと言う事か…わしが後見人を務めていたワルドが裏切り者であった等…

 

「それでわしを呼びつけたのはもしやとは思うが我がヴァリエールに疑いを持っての事か?」

 

睨み付けるのはテーブルを挟んで対面に腰掛ける痩せぎすの男、トリステインの内政に血肉を捧げ、搾り取られた鳥の骨…

 

「ご冗談を良い召されるな。私はヴァリエール公がレコンキスタに通じておるとは思っておりません。こう言っては何ですが我々は互いに中々相成れぬ仲ですがそれも互いにトリステインを思うが故にこそ。

国内で最も信頼が出来る貴族は皮肉ですが政敵とも言える貴方なのです。」

 

鳥の骨、いやマザリーニ枢機卿がほとほと疲れ切った表情で本音を吐露する。

 

「ふん…世辞はいい、それはお互い様というモノでもあるしな。それで用件はなんだ?わしも忙しい、最近は国内も国外もきな臭いからな。」

 

用件は多々あるであろう事はいやでも分かる…神聖アルビオン帝国と名を変えたレコンキスタは一方的に我がトリステインに不可侵条約を押しつけてきた。

これを自国の防衛強化に当てられる時間と捉え、ありがたいと受け取るかレコンキスタの進行の準備を許す危険な時間と捉えるか…それは国家の有力貴族達の間で大きく揺れている。

しかし、レコンキスタが掲げる旗は「聖地の奪還と王家の打倒」いずれトリステインにその杖を向ける事は明らかであるし時間が経てば経つ程内部の裏切り者の動きを許す事となる…

 

「今一番の危惧はいずれ攻め込んで来るであろう敵を前に近く完全に結ばれるゲルマニアとの同盟を盾に安穏としている事だと私は考えます。然るに戦の備えは急務で御座います。」

 

「ふむ…通りだ。」

 

「そこでヴァリエール家からの国庫へ贈与して頂いた金に戦費として手を付けさせて頂きたい。無論国内の財源も放出し、戦後にはその功労に見合った報いを約束しよう。勿論殿下もご納得しておられます。」

 

鳥の骨の言う金とは我がヴァリエールの納めている税の事では無いだろう。例の金か…

 

「あの金で何をする?」

 

「まずは戦列艦の購入と傭兵の流出を防ぐ為に囲い込みを、その為にも兵糧の確保を行いまする。」

 

私と同じでこの鳥の骨も既に戦端がいずれ切られるだろうと睨んでいるか…わしはアルビオンに攻め入るというのであれば反対するが国土を守る闘いであるならば全力で支持してやろう。

 

「私は構わん、元々アレはルイズが作り出した金だからな。ルイズ自ら国の為に使って貰う為姫殿下個人に献上したのだ。」

 

「流石ですな…『無限財公爵』、さぞクルデンホルフ公国には疎ましく思われているでしょう。」

 

「下品な呼び方をしてくれるなマザリーニ殿。貴公までルイズの使い魔のあの二匹に金の価値しか見いだせて居らぬ愚昧な輩と同列か?」

 

態とらしい言葉に態とらしい返しの応酬、これこそトリステイン流の相手の真意を探る腹芸だろう…全く持って愉快で腹立たしい。

 

「失敬…しかしお忘れか?私もあの使い魔を使い魔品評会にてこの目でしかと見ております。アレが財貨に見える様な曇った眼ではこの魑魅魍魎が跋扈する王宮では生きておれませんよ。」

 

そう言えばこいつはわしより早くわしの可愛いルイズの使い魔を直接目にしていたのか…あれ?なんか腹が立ってきたぞ…

 

「まぁ良い、軍備の増強の件承知した。戦列艦はグラモン卿、兵糧はグランドプレ卿辺りと密に話を付けるが良かろう。ただし!!奴等は信用は置けても浪費家の大馬鹿だ、その点だけはしっかりと気をつける様にくれぐれも頼みましたぞ!!」

 

鳥の骨はわしがそう言うと満足そうに頷いた。

 

わしが無限財公爵等と揶揄される様になったのはルイズの使い魔の噂が王宮へと大量の…正に山の様な金と銀と共に送り届けられた事からだった…

正直財務官連中には悪いと思ったが急激とさえ言える勢いで潤った国庫に国中の貴族は驚いただろう…何をしてその様な財を築いたと多くの人間に問われ、すり寄られた…

 

それが二度目になった時、わしの耳に入ったのは誰が呼んだかヴァリエールの無限財という不愉快なあだ名であった。

 

 

 

__________

 

 

…時は遡り

 

 

~ルイズside~

 

姫様が魔法学園から去った日、あの夜の出来事は無事に無かった事になったわ…とは言っても正直私もよく覚えていないのだけど。

姫様も私もかなり飲まされて、起きた時にはエレオノール姉様に抱きしめられてベッドに寝ていた…翌朝ミス・ロングビルにかなり睨まれたけど鱗を渡すと大分機嫌を直してくれて良かった。

 

あれから直ぐに学院の隅の方にミスタ・コルベールとミス・ロングビルそれとエレオノール姉様監修の元に火と土のメイジ式溶鉱炉が設置された。

 

実際魔法による冶金技術の習得に有用だと言う事で学院内でも完全にその存在が認められる事になった。

 

「こうなると鱗と違って価値が解りやすい分、壮観だね…」

 

「私もうヴァリエール家に使用人として仕えようかしら…」

 

その近くに建造された固定化が厳重にかけられた倉庫の中で片付けをしながらギーシュとモンモランシーが堆く積み上げられた金と銀のインゴッドの山を見上げる…手を動かせと言うのに…

 

「雇っても良いけど給金は上がらないわよ。」

 

「ケチ臭っ!?」

 

「一体私にどれだけそういう話が来てると思ってるのよ!!」

 

そうなのだ…改めて語るまでも無いけど私に雇って欲しいと言い出す使用人や(シエスタ経由で)やたらしつこく茶会に誘う女子生徒、果ては交際を迫ってくる男子生徒は日増しに増えてくるばかりだ。

 

「この前の先輩なんていきなり『貴女の事、噂には聞いていましてよ。私達きっとお友達になれますわ!!』何て言って目の色が完全にエキュー色になってるし…

ラブレター書いて寄越してきた男なんて私のむ、む、む、胸が小さくて可憐だ。とか書いてたりするのよ…魔法の腕は褒めようが無いのは解るけどほんと、死にたいのかしら!!?」

 

私の憤慨した様子を眺めていた二人が顔を見合わせる。

 

「…だったら僕達が近づくのは良いのかい?こう言っては何だけど僕は前科持ちだよ。」

 

「言って置くけど私もお金で苦労してるからね、正直あなたの事を当てにしてるのよ。」

 

意地の悪そうな顔で言ってくれるわこのバカップル…

 

「だからこき使ってるんでしょ、精々私のご機嫌を伺ってればいいんだわ。」

 

私はついつい憎まれ口を叩いてそっぽを向く。

 

「あら、残念…私は純粋に友達に付き合ってるだけなのに。心外だわ。」

 

「全くだね、僕のモンモランシー。僕らの友人は薄情だね。」

 

解ってる…見れば分かる、どういう意図で私に近づいて来てるかなんて。二人の目はだって私の事をちゃんと見てくれているもの。

ミス・ロングビルなんてエレオノール姉様の影響なのか私を見る目が姉様に似てきてる…今思えば最初なんてもっと殺伐としてたと思うのに。

 

「いいから、ほらもう終わったんだから行くわよ二人とも!!」

 

二人の態とらしい言葉に何だか手玉に取られている様なむず痒い感覚を覚えた私は溜まらず多分赤いだろう顔を見られない様に俯かせて怒鳴ると倉庫を飛び出した…

 

 

私の周りでは色々あるけれどシルとゴルは今日も元気だ。




『冥雷龍ドラギュロス』覇種の一体で龍属性の黒い雷を操るHR帯での化け物の一角。覇種と幻個体は戦闘中一度絶命した後、元気百倍で大暴れするという特徴がある。副翼尾が空を飛ぶ時非常に美しいが非常に鬱陶しい!!

わかりにくいかもですがルイズsideだけが前回からの直接の時間の流れです。なんでそんな書き方したのかって?さぁなんでだろう?


ワルド「くらえー、ライトニングクラウドー」
ウェールズ「ぐあぁぁやられたー」

エミット「雑兵め貴様ごときの雷がこの冥雷に通じると思うな!!本物の雷の魔法という物を見せてやる!!」
ワ(嘘っ、この人雷効いてない…)ジョバァー

みたいな闘いがきっとあったと思うんだ…


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トリステインキャラバンの開拓遊び

新年明けましておめでとう御座います。なんか年末から投稿始めて結構勢いよくお気に入りとか増えてるしランキングにも乗ってたりで嬉しいなぁ。
よかったらポルタ餅どうぞ。(´・ω・`)つO

早い所就職せにゃならんね。それまでに完結もさせないといけないし彼女も作らなきゃ。あ、後天廊登って新しい武器や防具に秘伝珠も作らないと…忙しい忙しい。(暇人)


~ルイズside~

 

「しかし、本当に良かったのかね?ミス・ヴァリエール」

 

「手元にあっても仕方がありませんもの。それに私はトリステインの貴族、延いては王族の従僕ですわ。それならば私の使い魔の力の一端を姫殿下に捧げるのは当然です。」

 

「うむ、立派な事じゃ。しかし些か勿体無いのぉと思うとは…わしもまだまだじゃと言う事かの?」

 

私はオールドオスマンと他数名の人間と共にシルゴルの鱗を錬成し直した大量のインゴットを積んだ馬車群が大勢の護衛と共に王都へと向かう姿を学舎から眺めていた。

 

正直、私はその光景を見送りながら清々しい気持ちだった。

あの大金は多少の苦労はあったけれどもはっきり言って湧いて来たお金だ、きっと姫様がこの国の為にお役立てくれる筈だ。

ようやく持てあましていた肩の荷が一つ下りたと実感する。

 

「あ~あ…ほんと勿体無い、あれだけのお金があればゲルマニアだったら平民だって大貴族の仲間入りよ。」

 

「キュルケ、私はそういう考えは好きじゃないわ。貴族はお金なんかで成り上がる物じゃあないの、貴族を貴族たらしめているのは、誇り高い高潔な魂と「魔法が使えるかどうかって言うならルイズはアウトじゃない。」」

 

良い事言ってた私の言葉に被せてモンモランシーが失礼な事を言ってくる。何?私が支払ったバイト代が少ないって話まだ引きずってるのかしらこのデコっぱちは?ケーキ太りそうな位の量を奢ってあげたじゃない?

 

「…仮にお金が貴族の証明の一つなら貴女の所もアウトじゃない。」

 

「グッ…言うじゃない。」

 

「そういう話だったら魔法の実力も財力もある私が最も貴族らしいって事かしらね?あら、御機嫌よう似非貴族のミス・ヴァリエールとミス・モンモランシー、オホホホホ!!」

 

『あんたには品性が無いでしょうが!!』

 

私とモンモランシーの声が重なってキュルケを批難する。最近付き合いも多くなってきてるけどキュルケにでかい顔されるのはやっぱりむかつく。

 

「ハァ…しかしこれで鱗の処理に関しても決定し、シルゴルの飼育環境も安定したと言えます。ようやく肩の荷が一つ降りたと言った所でしょうか。」

 

「そうですね、後は10日ごとにでも王城へと納めていけば…ご迷惑をお掛けします。」

 

ミス・ロングビルが随分疲れた表情で溜息を溢す。僅かにでもシルゴルを止める事を

出来るのは彼女のゴーレムだけだしインゴット倉庫の警備の調整、溶鉱炉の管理、ありとあらゆる事を秘書業の合間にこなしてくれている。

聞けばここ数日3時間寝れればマシな状態だったらしい。モンモランシーは作った元気の出るポーションが売れる売れると喜んでいるけど本当に頭が下がってしまう。

 

「取り敢えずは次は外部からの貴女への接触について警戒を強めないといけませんね。間違いなく良からぬ事を考える大人が現れるでしょうから。」

 

「君の様にかの?」

 

「フン!!」

 

「ぐおぉぉ!!」

 

何かをオールドオスマンが小さく呟いたと思ったらミス・ロングビルが思いっきりその足を踏みつけた…きっとまたセクハラを受けたんだろう。

 

「何から何まで本当にありがとうございます。」

 

「エル…いえミス・エレオノールからもくれぐれもと貴女の事を頼まれていますし。私としてもそういう心配が無くならない限り満足に睡眠がとれませんからね。」

 

事務的な冷たい言い方で私を気遣ってくれるミス・ロングビルの姿がエレオノール姉様に似ていて頼もしくありながらちょっと面白い。

 

 

 

 

「ミス・ヴァリエール!!大変ですーーーー!!」

 

そんなちょっとした時間を過ごしていた時シエスタの悲鳴の様な声が上空から聞こえてきた。

見上げればタバサのシルフィードが学院の外側からこっちに向かってきながらその背の上で立ち上がったシエスタが両手を振って此方に気づいて欲しそうにアピールしている。

 

「どうしたの?」

 

降り立ったタバサとシエスタ。焦り顔のシエスタと相変わらず無表情なタバサ、でも本を読んでない事から結構余裕が無さそうな感じがするわ。

正直予想が付くけども一応聞いておく。

 

「シルちゃんとゴルちゃんが喧嘩を始めちゃいました。」

 

それを聞いた全員が手の平で顔を覆う…あの二匹は私が叱り付ければその場は納まるけど二匹でちょくちょく大暴れをする。どうも有って無いような縄張り争いと言う名前の兄弟喧嘩をしてるらしい。

 

ミス・ロングビルのゴーレムは…そうですか。無理ですか。私が視線を動かした時には既に無言で手で×の字を作って首を横に振っている。まぁ最近大分無理して貰っているし仕方が無い。

 

取り敢えず私が行って喧嘩を止めさせないと…ストレスの発散については後で考えよう。

 

「タバサでもやっぱりどうにもならない?」

 

「無理。死ぬ。」

 

私がシエスタを下ろしてシルフィードの背中によじ登っている間に行われたキュルケの問い掛けにキッパリハッキリ即答するタバサ。と言うかキュルケも普通に同乗してるけど付いてくるのかしら。

 

「あら、モンモランシーは行かないの?」

 

「行く訳無いでしょうが!!」

 

「大暴れの後は鱗、沢山落ちてるわよ。」

 

「………行かない…」

 

おい、キュルケ勝手な事言わないで!!こら、モンモランシーその間は何よ?

 

「アホな事言ってないで!!タバサ、飛ばして頂戴。」

 

シルフィードが羽ばたいてシルゴルの元に向かって飛翔する。あの子達が今どこで何しているかなんて自慢じゃないけどちょっと視界が開ければ直ぐに解るわ。

 

だって其処でだけ明らかに雷光轟く猛吹雪の天変地異の地獄絵図になっちゃってるんだもの…

 

ほんと自慢にならない…

 

___________

 

 

「散歩ですか?」

 

二匹の大暴れを何とか止めて仲直りをさせた私はまたオールドオスマンに呼び出されていた。もうこうやって呼び出しを受けるのにすっかり慣れてしまった自分が怖い。

 

あの子達はどれだけきつく言い聞かせても三日経って私が傍に居ないとたまに喧嘩をする事がある。どっちが勝利を勝ち取るかは五分五分だけど責任は十割私に掛かってくる。

それでも可愛く思えて仕方ない私はもう駄目かも知れない…

 

「そうじゃ、普通の使い魔で例えれば君の使い魔は檻に入れっぱなしの状態みたいなものじゃから一度散歩にでも連れて行った方がええじゃろ。そうでもせにゃあミス・ヴァリエールが離れると翌日にでも暴れかねん。ミス・ロングビルにも休みを与えねばならんしの。」

 

「私としては秘書業を辞めさせて頂ければ話が早いのですが、残念ながらオールドオスマンには弱みを握られていますのでそうも行かないんですよ。」

 

今回シルゴルが出した被害は外周壁の大穴、直してくれたのは勿論ミス・ロングビルである。

 

「オールドオスマン…貴方という人は…」

 

「いやいや、そんな事実は無いぞい!!悪い冗談は勘弁しておくれミス・ロングビルや、とにかくそういう訳でな、コルベール君を付けるから友人とあの使い魔で一緒に遠乗りでもしてくると良い。」

 

本気で言ってるのかしら?

 

「とは言え、目的地と経路は此方で決めさせて貰ったがの…」

 

 

 

_____________

 

 

「それでラグドリアン湖まで遠乗りしようって話なのね、私は構わないわよ。私が居ればモンモランシ領じゃあ何も不自由無いでしょうし。」

 

「女性だけというのも何かと不便もあるだろう。僕も同行させてもらおうか。」

 

「行く行く、授業堂々と休める上面白そうじゃない。タバサも勿論行くでしょう?」

 

「………」

 

「私は遠慮させて貰います。長時間馬に乗るのも風竜に乗るのもちょっと…」

 

上から順にモンモランシー、ギーシュ、キュルケ、タバサ、アプリアの私が遠乗りの件を話した事に対しての返答だ。タバサは無言で手でエキューマークを作ったと言う事はシルフィードも出してくれると言う事だろう。

 

後は道中の私達の世話係にシエスタが、引率にミスタ・コルベールが同行してくれる事になっている。

 

「それにしてもオールドオスマンも思い切った事をするわね~、この地図だとラグドリアン湖に付くまでに獣や亜人の縄張りの森を3つも抜ける事になってるわよ?」

 

「えっ?何よそれ、危ないじゃない!!もっと安全な道行く訳にはいかない訳?」

 

キュルケが地図を眺めながら言った事に反応したのはモンモランシー、私もそう思っていた。でもそこはオールドオスマンとミス・ロングビル、抜け目が無いと言うかちゃっかりしてるというか…

 

「あの子達連れて街道進む訳には行かないし、森を抜けるのにもちゃんと理由があるのよ。」

 

「安心したまえモンモランシー、僕が一緒なんだ危険は無いよ。それでルイズ理由って何だい?」

 

「ギーシュ…」

 

バカップルめ…

 

「食料確保の為よ。シルとゴルの。」

 

全員嫌そうに顔をしかめる…良いじゃないの、誰も損はしないでしょ!!オーク鬼とか以外は…

 

「それともう一つ、あの子達が森を抜ければ上手くすればそれだけで亜人の居ない急増の街道の基礎が出来るわ。真っ直ぐ強引に進むだけで森が開拓出来れば隣領同士が潤うでしょうし誰にも文句は言われないでしょう。」

 

まぁ、私と使い魔に文句言える人が居たら逆に凄いけど。建前上は学院側の地域への貢献活動とするらしい。全く、物は言い様ね…

 

 

そういう訳で私達は翌日シルゴルを引き連れて楽しい楽しいピクニックに出かける事となったのだった。

 

 




惚れ薬でのラグドリアン湖と宝探しイベント一気に消化するわよー。

偶然一緒に居たから声をかけられたのに乗り物酔いのせいで仲間外れのアプリアェ…








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水サーバー運営からの大事なお知らせ

昨日更新待ってた人いたらごめんなさい。別に絶対に毎日更新するって気は無いので其処の所よろしくです。

明日から大体の人が仕事再開でしょうか?私は長い長い無職休暇なのでまだまだ元気です。


~ギーシュside~

 

ルイズの誘いに乗った僕達一行だったけれどその道程は常識的に考えたら余りに困難な道のりだった。

それでも僕達にはその常識を打ち破るモノがある。

 

「ここから真っ直ぐに直進すれば高低差も少なくなだらかな道で森を抜けられそうですな。しかし森では何が起こるか解りません、くれぐれも皆さん気を引き締め無理はしない様に、よろしいですな。」

 

引率のミスタ・コルベールが馬上で地図を眺めた後でラグドリアン湖のある南東の方角を指し示す、その先には深い森が広がっていた。本来はこの深く茂った森を迂回する街道、もしくは浅い林の中を抜けて旅は行われる物だ。

 

先ずは空を高速で飛べるシルフィードが先導し、上空から森を確認する。万が一進路状に障害物や人工物があった時に知らせたりする役目だ。

続いてゴルとシルが基本的には併走する事になりその後ろをミスタ・コルベールが馬で追う形になる。馬を操る事が恐らく一番大変であろうという事から率先して引き受けたミスタ・コルベール。だけどこの役目は時々僕が交代するだろう…

 

 

「それじゃあシル、ゴル、シルフィードを真っ直ぐ追いかけて頂戴。」

 

ルイズが使い魔の白銀の魚シルの首元の上に備え付けられたゆったりとした特製の鞍の上から指示を出す。

僕も前方に向かって真っ直ぐ飛行を始めたシルフィードを遠い目で眺める。

 

 

そう…ゴルの上から…

 

 

 

僕が背を預けるのはルイズの物と同じ、電気を通さない木材と皮で特別に仕立てられたかなりゆったりとした鞍ではあるけれど…ゴルの電撃の威力を目の当たりにした事のある人間としては正直言ってかなり怖い。

しかも一歩一歩がかなり大きいから普通に歩かれるとそれだけでかなり揺れるし立ち上がっている状態だとかなり視界が高い。なにより手綱は付いているけどまず間違いなく制御不可能なこの乗り物…

普段は押さえられているけど冷気を纏うシルに関しては防寒対策をしておけばこの季節ならば騎乗するのもむしろ快適な位だろう。でもゴルが纏うのは電流だ…

 

 

「私はシルに乗ってみるけど誰かゴルに乗ってみる?」

 

さっき行われたルイズの問いには誰も答えずに女性陣は無言でシルフィードの背に乗り込み始める。

僕もタバサのシルフィードに乗りたかったので近寄った瞬間「男子禁制」との一言で拒否されてしまった。

 

「ミスタ・コルベール!!」

 

「さぁ、マレンゴ号長い旅になるだろう、よろしく頼むよ。」

 

僕がシルフィードにかまけている間にちゃっかり馬を撫でながら確保していらっしゃる…

 

「良かったわねギーシュ、私のゴルの背中に乗れるだなんてもの凄い名誉な事よ。」

 

(あぁ、命掛かってるからね、死んだら名誉の戦死としてくれ…)

 

「もしかしなくてもこの世で最も高価な乗り物よね、其処だけは羨ましいわ…」

 

(そうかも知れないけど僕からすれば安全なシルフィードの背中の方が羨ましいよ。)

 

「私ギーシュがその子を乗りこなしてる姿が見たいわー。」

 

(モンモランシー、その言葉はせめて僕を見ながら言ってくれ。)

 

「私は乗りたくない。」

 

(珍しいな、同感だよタバサ。)

 

「ミスタ・グラモン申し訳ありません。」

 

(それでも立候補はしないんだねシエスタ君。)

 

「それでは出発ですな。」

 

(おいハゲ、あんた後で絶対交代だからな!!)

 

 

~ルイズside~

 

予想は出来ていたけどこれはかなり無茶な旅だわ…私の使い魔は本当に無茶をする。

 

シルゴルが這いずりで前進するとそれだけで細い木であればまるで私達が雑草を踏み分けるみたいにへし折られて地均しされていく。太い木も余程の大木じゃなければ体当たりや噛みつきでへし折れちゃうし。

障害物だらけの森の中を直進しているのに整地済みの様な道を走る後方の馬を引き剥がしかねないスピードでこの子達は進んでいる。

 

進路上のオーク鬼の集落にぶち当たったのはついさっき。

群れて逃げる彼等をシルとゴルが追いかけて挟み撃ちにして近い奴からかぶりつく。

破れかぶれのオークの怪力で振るわれた棍棒が二匹を叩いたりしたけれど余りの頑強さに棍棒が弾かれるわ砕けるわで見ていて正直可哀想な位だった。それでもオーク鬼が人里に近づいたら人は住みかを追われるし食べられてしまう事もある、必要な事だわ。

 

 

「ギーシュ、所でどうだったかしら?ゴルの乗り心地は。」

 

最初は完全に怯えちゃっていたギーシュだったけど3時間近くもゴルに乗っていたお陰でいまじゃすっかり慣れていた。

そんな私達は最初の森を抜けて丘に囲まれた平野で最初の休憩を挟んでいる。

 

「全く問題ないね、滑って進んでいる間は揺れだって少ないし何より爽快だよ。黄金の船で森という海原を開拓しているんだと思うと何だか胸が躍るね。」

 

興奮した様子でギーシュが大げさに言ってるけど私としても一安心だ。ここで私がゴルに乗るというのに痺れるだなんて言われたら嫌だもの…

シルの機嫌は良いけどギーシュを乗せていたゴルはちょっと不満そうだから拗ねてしまわないようにご機嫌を取らないといけない…

 

「次私がシルに乗ってみるわ。安全みたいだし、勿論良いわよねルイズ。」

 

「まぁ良いわよ。」

 

フライでシルの鞍にキュルケが飛び乗って私もレビテーションの補助を受けてゴルの鞍に腰を落とす。

 

このままのペースで行けばきっと日が暮れる前にはモンモランシ領にたどり着けるでしょう。

 

 

__________

 

大体旅は予定通りといった所で私達は今夜モンモランシ家のお屋敷に宿泊させて貰う事になったわ。

 

シルとゴルを紹介した時はかなり驚かされたけど、お近づきの印と宿泊のお礼として今夜落ちるであろう鱗の譲渡を約束してモンモランシーが今日あった切り開いた森の話をした時は大騒ぎになりそうだったけど…

何にせよこれでモンモランシ家がヴァリエール家に少しでも友好的になってくれれば嬉しく思う。

 

私達側としては突然の訪問に恐縮ではあったけどモンモランシ家としても碌な持て成しが出来ないと言う事が実に申し訳ないと随分と気を使わせてしまった。

まぁ一流の貴族宅だとお客が来たらそれ即ち晩餐会という流れが殆どだけど今回は逆にその方がゆっくり出来るから助かったって言うのが本音だ。

 

_______

 

「わぁっ素敵ですね、ミス・ヴァリエール。」

 

「確かにね、天気も良いしピクニック日和だわ。」

 

翌朝到着したラグドリアン湖はトリステインとガリアのオルレアン公領を対岸に持つがその対岸が見えない程巨大な湖で国内有数の景観地、私も昔王族の園遊会に招かれて訪れた事がある。そこで姫様の影武者をさせられた事は思い出深い。

 

「ピクニックと呼ぶには些か波乱な道程でしたがな。無事たどり着けて何よりです。」

各々がラグドリアン湖の景観を眺めて感想を漏らす。

ところが湖畔に近づいた辺りでモンモランシーが私達に制止の声をかけた。

 

「ちょっと待って、おかしいわ…水位が異常に上がってる…少なくとも私が学院に入学する前はこんな事になってなかったわ。」

 

見てみれば確かに…水面から民家の屋根が見えている部分がある。

 

「増水の要因は水の精霊?」

 

「かも知れないわね…うちはもう正式な交渉役じゃないからよっぽどじゃ無いと手が打てないけど、新しい交渉役は何してるのかしら。」

 

珍しく水面上昇現象に食いついたタバサ…もしかしたら実家とかがラグドリアン湖に面していたりするのかしら?

 

「ふーん…興味はあるけど。でもまぁ今回の目的には関係無いわね。」

 

そう、今回目的地をラグドリアン湖に定めた理由の一つがシルとゴルが水中に入ると一体どうなるのかと言う事を一度調べてみる為ということもあって此処まで来たんだから。

 

「ほら、シル、ゴル泳いで来て良いわよ!!」

 

私達の目の前でまるで競争するように飛び出した二匹が這いずって勢いよく水面に衝突をすると水のしぶきが壁のように広がってまるで船の進水式みたいな光景となった。

まるでスコールの様に降り注ぐ水しぶきに全身を濡らしながらその光景を見ていた私達は思わず互いに顔を見合わせて笑ってしまう。

 

「やはり魚ですからな、泳げて当然という訳ですか。」

 

私とコルベール先生はタバサからシルフィードを借りて上空から水中に消えた二匹の姿を探す。他のメンバーは浅瀬で遊んでいたり本を読んでいたり。

まぁ探すとは言ってもその姿はよっぽど深く潜られない限りは一目で分かるし、魚や氷が所々で浮いているからどこに居るかは解りやすい。

 

「陸、土中、水中と、空以外を支配出来るとは改めて恐ろしい生命ですな、これは生息するだけで生態系が崩れるという物です。」

 

「でもほんとこの子達って元々どんな所で生活していたんでしょうね…」

 

私は相も変わらず未だに殆ど解っていない己の使い魔の事に思わず首を捻る。取り敢えず生態報告書には今回の旅での事をしっかり書き記さないと…

 

「…此処まで来ると何処に、では無く、何処ででも生活が出来るのでは無いでしょうか?さしずめ次に目指すならばあの火山が立ち並ぶ火竜山脈辺りですかな?」

 

笑ってミスタ・コルベールが言うけれど本当にそんな気さえしてくる。

 

しばらくの間、水面から飛び出した後に深く潜水したりお互いにぶつかり合ったり何かをしたり気持ちよさそうに遊ぶシルとゴルの姿を私が眺めていたら不意にゆったりと飛んでいたシルフィードが羽ばたいてタバサ達がいる岸へと勢いよく向かい始めた。

 

 

 

「あ、戻ってきたわねちょっと大変よ。」

 

「何か問題ですかな?ミス・モンモランシ」

 

慌てた様子のみんなを代表してモンモランシーが話題を切り出す。

 

「水の精霊様があんたの使い魔の事でお話があるって出て来てるのよ!!ほら後ろ!!」

 

私が振り返ると何やら不自然な輝きを放って水面が人の形に盛り上がっている。だからタバサがシルフィードを呼び戻したという訳だ。

 

「水の精霊よ、この者があの二匹の主人であります。」

 

モンモランシーが私の背中をぐいぐい押して水の精霊の前に突き出す。

流石に私も本物の精霊を目の当たりにするのは始めてなので怖いから止めて欲しい。

 

「単なる者よ、そなたが我が内で暴れておる今代のリーヴスラシルの主か?」

 

「リーヴ…スラシル…?」

 

全員が固唾を飲んで見守る中、思いかけず水の精霊が私に問い掛けたその言葉に、私は呆然としながらオウム返しな返答を返す事しか出来なかった…

 

それでも私の胸の中にはその『リーヴスラシル』という初めて耳にした言葉が不思議な程にストンと、まるで其処に納まるのが自然だという様に染み込んでいた…

 

この後、動乱の中で私は知る事になる…私の運命を…私が何故この二匹の使い魔を召喚できたのかを…

 




今回リーヴスラシルの名前がハッキリ出ましたけど二匹のルーンの位置やゲーム内でのあの行動の特性を考えて解る人はもう予想付いてたんじゃないかなと思います。
原作の設定上その役割は不明ですがそのルーンが示すのは『生命』

ちょっと調べたらこの時代って森の開拓や金鉱脈の発掘ってほんと一大事業でもの凄い大変な事だったと思います。掘削だって簡単だし思った以上にアルゴルは富をもたらしそうですね。
マレンゴとはナポレオンの愛馬の名前です


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あ~ぃパンパン。あ~ぃ、あ~ぃ。(ヨシェナベ出来ました。)

まず今回すいません、ぶっちゃけ話の構成が上手く出来ませんでした。もういっそばっさりカットも考えた程に…


~ルイズside~

 

私達に動揺が広がる

 

「どういう意味なの…リーヴスラシルって…?」

 

水の精霊が語った謎の言葉…今代のと精霊が言ったという事はもしかしてシルとゴルを過去に使い魔とした人物と水の精霊は出会っているのかしら?

いえ、それは考えられないわ…自慢じゃ無いけどこの二匹が過去ハルケギニアに居てずっと生きていたとするなら確実に伝承や物語に綴られている筈だもの、賭けてもいい。

 

「リーヴスラシルはリーヴスラシルだ。それが何かは我も知らぬ、単なる者よ。」

 

肝心な所が解らないですって?だったらこっちを混乱させるような事を言わないで頂戴!

それにしてもシルとゴル自身を指してないならもしかして使い魔のルーンの名前を指しているの?私もミスタ・コルベールも調べ尽くしたけど解らなかったルーンの正体。

 

「我が貴様に要求したいのはリーヴスラシルをこの湖から連れ出す事だ。アレは我の手に負える生命では無い故、我が体内へは受け入れられぬ。」

 

水の精霊のその言葉に全員が驚いた。

それはそうでしょう?だって水こそが万物共通の生命の源、それを司る水の精霊が匙を投げるだなんて聞いた事が無いわ。

 

「水の精霊よ、何故我が使い魔にはあなたの加護が与えられぬのか教えて頂戴。水辺に拠る者を拒むのは慈悲深いあなたの言葉とは思えませぬ。」

 

私の問いにまるで応えるのを渋るように水の精霊は身体を震わせるようにした後でさっきよりも重く響くような声色で応えた…

 

「理(ことわり)が違うからだ。」

 

「理?」

 

「そう理だ、今代のリーヴスラシルはこの世の理の外に生きる存在。かつてのリーヴスラシルでありガンダールヴであった我が友とは違う。故に我は異物を排したいのだ単なる者よ。」

 

つまりシルとゴルは他の生き物とは格が違いすぎて精霊の力が届かないのね…そう言われれば思い当たる事が一つある。

普通竜なんかの幻獣は精霊の加護、精霊魔法の一種で飛んだりするし亜人が使う精霊魔法は様々な自然現象を強力に引き起こす…例を挙げるならギーシュの使い魔のジャイアントモールが土の中を馬並みのスピードで移動できるのも精霊の加護の一旦だ。

そしてそれの発動には口語や鳴き声での精霊との交信が絶対条件でシルとゴルは雷や氷を纏う時、一切そんなそぶりを見せた事が無い。

 

「取り敢えず話は分かったわ…シル、ゴル!水の精霊が迷惑してるらしいから上がって来なさい!!」

 

私の声が届いたのか程なくして二匹の巨体が水面から勢いよく飛び出して陸上に打ち上がる。巻き起こされた高波に巻き込まれて精霊の姿が消えてしまったけど大丈夫なのかしら?

 

「感謝しよう単なる者よ。我が望みに応えたお前は我に何か望むか?」

 

何事も無かった様に再び姿を現した水の精霊からの申し出に全員がまたしても驚かされる事になった。それにしてもいきなりそんな事を言われても困ってしまう。

 

「…ねぇルイズ、厚かましい話だけど増水の事お願いできないかしら?放って置いていい問題じゃ無さそうだわ。」

 

考え込んでいる私にモンモランシーが小さな声で耳打ちをしてきた。成る程、確かにこの現象を放って置いたままだといずれ不味い事になるかも知れないし…

全員の顔を見回すとそれで良いといった感じに頷いている。

 

「では、水の精霊よこのラグドリアン湖の増水を止めて頂く事は出来ますか?近隣の民草も私の友人も困っております。」

 

「断る、単なる者よ。」

 

願いを聞いてやると言った癖に即答で断るなんて…私は思わず額に青筋が浮かびそうになった。

 

「…それは何故で御座いましょう?」

 

「以前、人間の一団がここで我が守りし秘宝アンドバリの指輪を深き水底から盗み出した。我は今それを取り戻すべく世を水で満たしているのだ。指輪が我が元に戻れば水位は戻そう。」

 

「なっ!?」

 

絶句してしまった…凄まじく気の長い話ではあるけど指輪一つの為に世界が水没しようとしているだなんて。

何気に指輪を返却しないとトリステインどころかハルケギニアの危機だわ。

 

「その指輪、我々で取り戻すことを約束すれば水を引く事は出来ますか?」

 

「ふむ、良いだろう…リーヴスラシルの主である貴様ならば我が悲願を託しても良いと我は考える…我が秘宝を持ち去りし人間の名はクロムウェル、そう呼称されていた。」

 

「クロムウェルって確かアルビオンの貴族派の頭領の名前じゃない?オリバークロムウェル、私聞いた事あるもの…」

 

キュルケの言葉に嫌な予感がピンピンしてくる。そいつがアンドバリの指輪を持っているんだとしたら取り返すのは簡単な事じゃあ無い。

 

「そなたが存命の内は我も大人しく待つ事とする。それでは頼んだぞ。」

 

そうして言いたい事だけさっさと告げて水の精霊が再び水中に消えていった…

誰も何も言えず、岸に残された私達の間には沈黙が満ちている…

 

改めて考えると結局の所は私は厄介事を水の精霊に押しつけられてしまったのだ。

アンドバリの指輪の奪還とリーヴスラシルという名前についての謎という…

 

 

_______

 

翌日、当初の予定を変更して私達はモンモランシ領から進路を西に取って進んでいた。

 

私としては学院に戻ってリーヴスラシルについて調べたいという気持ちがあったけれどそうも行かない理由が一つ出来てしまったのだ。

その理由というのが昨夜モンモランシ領に近隣から届けられた訴えで、何処かから現れたミノタウロスの出現によって縄張りを追われていたたオーク鬼の群れが西から流れて来てそれが発見されたという訴えだった。

それを捨て置けないというミスタ・コルベールとモンモランシーのご両親の前で恰好を付けたいギーシュが討伐を提案してキュルケとタバサもついでだからと賛同する。

 

正直言って私達が関わるような事じゃないと思うのが普通なんでしょうけど生憎な事に私達にとっては最早オーク鬼なんて餌同然だ。

 

それでも昨日のラグドリアン湖で精霊に頼まれた指輪の件を王宮にはいち早く伝える必要があった為、モンモランシーは王家へのモンモランシ家の勅使として今朝別れて別行動という事となった。

 

それが今朝起きた事の大体のあらましだ。

 

 

 

 

「タルブ村?」

 

野営の焚き火を囲って休息をする私達にシエスタが何だか野性味溢れる味の野菜と肉のスープを差し出す。うん、こういうのもたまには悪くない。

 

「はい、私の故郷でしてこのまま行けば明日の昼には恐らくその付近に辿り着くかと思います。」

 

結局今日は殆ど一日が移動に費やされた。特筆する事など途中で話になっていたオークの群れをシルフィードが発見したのでシルゴルが通りすがりに襲った位だ。

 

「へ~どうせ明日も進みながらのミノタウロス探しなんだし。そこに拠ってから学院に帰りましょうよ。」

 

「タルブ村か、ワインの産地として確か有名だったね。旅の土産に丁度良い。」

 

「ふむ、タルブと言えば噂ですが人を乗せて空を飛ぶマジックアイテムの乗り物の噂がありましたな?確か風石を用いる必要が無いとか…」

 

風石を使わないで空を飛ぶマジックアイテム?ミスタ・コルベールの言っているそれが何なのかは分からないけどそんな物が有る訳が無い。空船だって風石があって初めて飛ぶ事が出来るなんて事は子供だって知っているわ。

 

「あ、はい有りますよ。元々は油を燃やして飛ぶんですがその油がタルブじゃ貴重で今は私の実家の倉庫に仕舞われてます。でもそうですね…ミスタ・コルベールとミス・ツェルプストーのお力があれば我々全員乗せて十分飛べるんじゃないでしょうか?」

 

私が半信半疑でいた所に意外な事にシエスタはミスタ・コルベールの与太話を肯定した。

 

「わざわざ火の力で飛ぶの?なんか胡散臭いわね…」

 

「ほう、興味深いね。つまりは風でもフライなどでなく、火の力で空を飛ぶのかね?成る程もしかしたらタルブ村に私が目指す物の一つの形があるのかも知れないな。いやこれは楽しみだ。」

 

二人とも驚いているけどキュルケとミスタ・コルベールの反応はそれぞれちょっと違う、と言うかミスタ・コルベールの反応がいやに過剰でちょっと引く。

良い先生なんだけど授業中によく分からない物を持ってきたり何かの研究のし過ぎでお金が無かったり禿げてたり、駄目な所も結構多かったりする…だからミス・ロングビルに振られるのに…

 

 

そんな訳で私達は明日の予定を話し合ったりシエスタからタルブの話やミスタ・コルベールから山や森の中でのサバイバルの技術の話を聞いたりしながらいつの間にか深い眠りについていた…それは火の番を買って出てくれたミスタ・コルベールも同じだった…

 

私達は正直油断していた、余りにシルとゴルが頼もしすぎたから…

ここがもう凶暴で恐ろしいミノタウロスの縄張りだと言う事をもっと認識しておかなければいけなかった。

 

いつの間にか私達を襲っていたスリープクラウドの呪文には結局夜が明けるまで誰も気が付く事は無かった…

 

 




『あ~ぃry』広場で弁当を作ってくれる食材屋のババアの鳴き声。グルメなプロハンの間では貴重な食材を使った秘伝飯以外を食す事は軽蔑の対象となる事がある。若い頃はきっと村で一番の美人とか自称しそうなそんな感じの外見。

喰う者と喰われる者、そのおこぼれを狙う者。
牙が無くては生きてはゆかれぬ深き森
あらゆる倫理が意味をなさぬ森
ここはハルケギニアが産み落としたトリステインの魔性の森
果たして人は何処まで行けば『人間』でなくなるのか…

次回『人を辞めた者』

タバサの飲むハシバミ茶は苦い…


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その称号は『課金獣』

今回はタバサの冒険のエピソードの一つを強引にねじ込みました。
タバサの活躍?知らんなぁ…




ラルカスというメイジが居た。

 

優秀な水のメイジであった彼はとある日、近隣の村を襲い子供を攫って食らうミノタウロスの討伐を請け負った。

 

洞窟に潜むミノタウロス、勇敢であり老練なラルカスは一計を成してそれを討伐する為に洞窟に火を放って煙を送り込むとミノタウロスの呼吸を封じる事で窒息死させたのだった。

 

最早拠る年波に己の力を十全に振るう事はもう出来ぬ…今回請け負った仕事は自分の憂愁を飾るのに相応しい仕事であった。傷一つ無い眠っているようなミノタウロスの死体を前にしてそんなラルカスはそう思いながら引退を決意する…

 

しかしその瞬間、彼の天才的な頭脳に一つ悪魔的な閃きがよぎった。

 

(脳死を迎えたこのミノタウロスに私の脳を移し替えればどうなるか?)

 

ラルカスは直ぐさまその考えを実行に移した…結果は成功を納める事になり、そうして生まれたのは一頭のラルカスという名の水の系統魔法を操るミノタウロスだった。

 

しかし所詮はミノタウロスの肉体では人の世では生きていく事も出来ず、ラルカスは水魔法の研究を行いながら孤独に山で生きていた。

しかしそんな歪な存在がいつまでもそんな事をしていられる訳も無く、ある日ラルカスは意識を失い次に目が覚めた時には目の前に食い散らかされた子供の骨が転がっていた…

 

その現象が起きる度、ラルカスは人里から離れるように逃げ出した。

しかしそれが何度か続いた時ラルカスは完全に悟った…己の精神がいつの間にかミノタウロスへと近づき…否すでに自分が完全にミノタウロスになっているのだと。

 

不意に自分がラルカスという人間であった事をラルカスは思い出す事はあったが最早自分の中の獣は彼を完全に塗りつぶそうとしていた。

 

 

ラルカスは薄れる理性の中で自問する、己が一体いつから『人間』で無くなってしまったのか?

 

 

 

そうして今夜己の縄張りで発見した獲物を前に息を潜めて彼は杖として契約の施された手斧を振り上げる。

スリープクラウドの青白い霧がルイズ達を襲ったのはラルカスの仕業であった。

 

 

 

_____

 

 

パチリ…パチリ…と音を立て、焚き火が音を立てて燃え上がっては崩れ落ちる。

その周囲で4人の少女と二人の男が深く眠っていた。

ラルカスは風下からフゴフゴと彼等に近づきながら鼻を鳴らす。食するならば幼い少女が最も旨い、これだけ居るなら男は不要とばかりに御馳走を前に意気揚々と暗闇から歩み出す。

 

しかしラルカスが横倒しに倒れている木を跨いだ瞬間、異変が起きた。

 

地面に亀裂が走ったと思った瞬間、巨大な顎が地面から飛び出したかと思うとラルカスに襲いかかったのだ。

 

「グモオォォォオオオッ!!!」

 

ラルカスの身長は凡そ3メイル、上半身だけを地面から出したまま丸呑みにしようとその巨体に食らいついたのはルイズの黄金の使い魔ゴル、ラルカスは飲み込まれまいと辛うじてその上顎をその馬鹿げた怪力を誇る腕と斧で支え、蹄の足は牙と牙の間でしっかりと体躯を支えている。

 

血走った目、吹き出す鼻血、全身の縄のように太い血管が千切れそうな程に力むラルカスだがそれは辛うじてゴルの口が閉じようとしているのを僅かに遅らせる事で精々だ。

魔法を使おうにも最早そんな余裕は全くなかった。詠唱の為に口を開いた瞬間、その僅かな脱力が間違いなく即、死に繋がる。

 

そんな状態で地面から飛び出したゴルが次に取った行動はラルカスにとって正に悪夢でしか無かった…

 

「…ヴォ!!!!???」

 

再びの跳躍の後、ラルカスの背後には地面が迫る。ゴルはあろう事かそのまま地面への潜行に及んだのだ。

当然ラルカスの全身に強い衝撃が掛かった。その瞬間を耐え凌ぐ事等出来ようも無く、落着と同時にゴルの断頭台のような顎がいとも容易く閉じられた…

 

 

もしもラルカスが普通のミノタウロスであったなら今夜、森を訪れていたこの厄災に気が付き住み処の洞穴で震えていれば良かった。そうすれば明日の朝日だけは拝めたのだから。しかし不幸な事にラルカスは辛うじて『人間』だった。

人間のラルカスが森の異変を感じていた間に眠っていたミノタウロスのラルカスは近づいてはならない危険を知る事が出来なかったのだ。そして獲物を前に森の中での圧倒的強者であったミノタウロスにこそ慢心があったのだ。

 

 

夜闇の中の一瞬の出来事…それは誰知る事無く終わりを迎えていた。

 

______

 

~ルイズside~

 

森での野営っていうのは初めてじゃあ無いけどやっぱり馴れない物ね…かなりぐっすり寝てしまったって感覚はあるけど身体の節々が痛い。使用人が居たならばマッサージを頼みたい気分だわ。

起き抜けの私の周りで未だにぐーすか寝てるキュルケ以外のメンバーが朝食の支度やキャンプの片付けをしている。シルとゴルもまだ土の中に居る。

 

私がタバサが魔法で出してくれた水で顔を洗っているとミスタ・コルベールから眠気が吹き飛ぶ驚くべき事が伝えられた…

 

私達の野営地、その直ぐ側で真新しいミノタウロスの物らしき足跡と僅かな血痕が見つかったらしいのだ…もし寝ている間に襲撃されていたと思うとゾッとする。

 

「直ぐに捜索して退治しましょう。近くに潜んでいるかも知れないんですよね?」

 

「必要無い。」

私が直ぐに杖を抜いて周囲を警戒しているとタバサが何故かその必要性を否定する。それにどうもミスタ・コルベールの表情が微妙だ。

 

 

「ミス・ヴァリエール…ミノタウロスの足跡は何故か血痕の傍で途中で完全に途切れてまして…その脇には我々には見慣れた大穴が崩れたような痕跡がありました。何が言いたいかは聡い貴女なら判りますね?」

 

「あ…」

 

私はその状況説明で昨夜何が起きたのかを全て察した…はっきり言えるのは私の使い魔のどちらかは朝食が不要だろうという事だ。

 

___________

 

 

ついでにミノタウロスの森を開拓した私達は予定通りシエスタの故郷タルブ村に到着した。森を抜けてからはシルゴルは基本的に地中を進んで私達一行はシルフィードに乗って移動している。今更な気もするけど不要な騒ぎは起こさない方がいいだろう。

 

 

「タルブ村は如何ですか?」

 

私達がタルブの村長のお宅に邪魔して食事を取りながら名産のワインを飲んでいるとシエスタが黒髪の男性を連れてきた。

 

「初めまして貴族様、私の娘のシエスタがお世話になっております。」

 

どうやらシエスタのお父さんだったみたい、まぁ黒髪っていうのはトリステインじゃ他に居ない位に珍しい髪色だから判りやすくもあるか…

私達が簡単に名乗り終えると早速ミスタ・コルベールが空を飛ぶマジックアイテムに付いてグイグイ問い詰め始めた。

まぁ私は興味が無いからワインを飲みながら話を聞き流していたんだけど、やっぱり他の3人も同じ感じだった。

 

それでも話が進んで私達は全員シエスタの実家の倉庫に向かう羽目に…

 

シエスタ親子の手で何の変哲も無い大きめな納屋の中にあった木箱から引き出されたのは籠、巨大なランプの様な道具、そして尋常な大きさじゃあ無い巨大で丈夫そうな袋だった。

 

「これは…成る程、素晴らしい!!」

 

私達生徒が首を捻っているとそれを一目見た瞬間ミスタ・コルベールの表情が変わった。

 

「ミスタこれの何が素晴らしいのですか?火を用いてこれが空を飛ぶなど信じられないですね。」

 

溜息混じりなキュルケの意見、私も同意見だわ。

 

「ミス・ツェルプストー、これは、これならば飛べますぞ。何故この様な単純な物を私は思いつく事が出来なかったのか…!!」

 

苦悩しながら心底嬉しそうなミスタ・コルベールは興奮の余り頭を掻き毟っている。完全に自殺行為である。

 

その後、ミスタ・コルベールの熱弁で何がどうなってこれが飛ぶのか、それを私達は教えられた…火で熱された空気が上空に昇ろうとする力、それを袋に集める事で人や籠を空に持ち上げようというのだ…

火のメイジ以外に操れないと思っていた私だけどランプの様な道具に油を注ぎ火を灯らせればそれだけで飛べるそうだ。

私はそれを聞いて実際にそれが空へと飛び上がるのを見た瞬間に理解した…風石も竜も大規模な造船技術もいらない。この方法は確かに革命的で面白い!!

 

 

この探査気球と呼ばれる物はどうやらタルブの平原に事故で不時着したシエスタの祖父が持ち込んで来たそうだ…シエスタの祖父以外にも1名の男とネコの使い魔が乗っていたらしいのだけれどその人は重傷を負っていてタルブに付いた時には残念ながらもう亡くなっていたそうだ。

 

その後そのシエスタの祖父、ギウラスと名乗った男は様々な知識をタルブにもたらし、特にその狩猟技術は凄まじくタルブでは伝説的猟師となった。そして最終的にはタルブに家庭を持ってその骨をこの村に埋めたらしい。

特にタルブの猟で使われる落とし穴は爆薬とネットを使って瞬間的に尚且つ静かに仕掛ける事が出来るまるでマジックアイテムの様な出来でこれもミスタ・コルベールだけじゃなくてギーシュにお国柄もあってキュルケまで興味を大いに引きつけていた。

 

この探査気球はミスタ・コルベールが研究の為に鱗で私が立て替える事で買い取り、いつかこれを基礎にした大型探査船を作りたいと張り切っている。

 

 

 

こうして私達のシルゴルのストレス解消の為のお散歩は様々な右位曲折を経て終わりを迎えて魔法学院への帰路につく事になったのだけれど…

 

学院に戻った私が耳にしたのはアルビオン陥落の悲報だった…

 

 

静かに戦争の足音が近づいている事を私はまだ知らない。




『ギウラス』お馴染み我等がプロデューサー杉浦、畏敬の念を込めてハンター達からは課金獣ギウラスと呼ばれ、過去とあるイベントの際には実際にハンター達に襲いかかったがその翌週にはG1ショックという虚無魔法を発動させた愛すべき憎い男。


ラルカス「俺は人間をやめるぞぉ!!」
ゴル 「じゃあ食べてもおk?」


かつてあの重々しい歌に送られた戦士達
故国を守り誇りと共に散ったロイヤルナイツその成れの果て
無数の亡者達のぎらつく欲望に晒されて、戦場に駆り立てられる戦士達
魂無き走狗共が再び地獄へと向かう。

次回「暗躍」

水の指輪の輝きに熱い視線が突き刺さる…


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緊急アルビオン迎撃戦 主杖使い魔有り 弁当無しココ!@3

そろそろ第一期終わりそうです。かなり駆け足してますがご容赦下さい。最近ハチャメチャしてないからな…
それと外伝向けアンケートを実施してます。詳しくは活動報告で。

尚、次回予告は次回の内容と違う場合が多々あります。ご理解下さい。



ここはアルビオンのロンディニウム、その酒場の一角で腰に杖を差した一人の貴族の男が酒を呷っていた。

全身に癒えたばかりの火傷後を残してグラスを傾けている男の名前はワルド、かつてトリステインの魔法衛士隊隊長だった男でアルビオン貴族派つまりはレコンキスタへと繋がり国を裏切った男だった。

 

「…虚無とは一体何なのだ…」

 

男の口から溢れたのは先日自分が目にした光景に対する疑問、ウェールズを討ち取った功績からワルドは先日皇帝へと即位したオリヴァークロムウェルと共にニューカッスル跡地の探索を行った。

そこで目にしたのはウェールズを含む多くの死者を蘇生させ己の配下に加えるというクロムウェルの虚無の魔法。

 

ワルドはその御技を目にした時恐ろしいと感じた…同時に抱いたのはどうしようも無い忌避感だった。

 

「よぉ『閃光』の、随分浮かねぇ顔してるじゃあねぇか。」

 

そんなワルドの座るテーブルの向かいに一人の男が無遠慮に腰掛ける。逞しい体躯に赤茶けた髪、片眼を眼帯で覆った空賊の頭といった感じの様相の男だった。

 

「『砂喰い』か…傭兵風情がこの私に何の用だ?」

 

砂喰いと呼ばれた男に興味を持つ事も無くワルドはもう一口酒を呷る。逆に砂喰いもその不遜な態度にかみ殺すような笑いを浮かべるだけで特に気にした様子も無い。

 

「いや、何トリステインの事で面白い噂を耳にしてな。もとトリステイン貴族のあんたに話を聞いて確かめようって話さ。」

 

「ほう…どんな噂だ?」

 

砂喰いの口がニィっと面白そうに歪む…

 

「下の傭兵連中が言うにはトリステインが戦争に備えて傭兵を囲い込んだり兵糧や火薬をかき集めたり、やたらと金が動いてるそうだがその金の出元がちょっと面白そうなんだわ…」

 

「その動き位は知っておるわ、その為の例の作戦であろう。」

 

「まぁ聞けよ、あんた聞いた事があるかい?無限財公爵ヴァリエールってお人が国がひっくり返る様な金を国庫に納めたそうだぜ…」

 

ワルドの眉がピクリと動く、ヴァリエール家と言えば自分にとって大恩ある存在であった。国を捨てる事を選んだ今でも良くしてくれた彼家には捨てたはずの良心が少々申し訳ないと思っている。

 

「じゃあそんな大金どうやって出したかって話だが…噂じゃあ金の卵を産む鶏を手に入れたんだとよ。眉唾話にも程がある…笑えるだろう?」

 

ワルドはその一言にピンと来た。一目しか見る事は叶わなかったがルイズが呼び出した二頭の使い魔…あれが直ぐに脳裏に浮かんで思わず笑いが込み上げる。

 

「ククク、金の卵を産む鶏か…噂というのは尾ひれ羽ひれが付いて大きくなる物が相場だがまさかそれが逆にもぎ取られて小さくなるとはね。砂喰い、その噂鶏じゃあなくて土中を泳ぐ不思議な魚だ。それも特別巨大なね。」

 

「ほう…おもしれぇ、実在するのか…あんたに聞いて噂の真偽を確かめたかったんだが聞いてみて正解だったな。それじゃあそいつを捕まえりゃ大金持ち確定だな。」

 

「フッ悪い事は言わん、狙おうというなら辞めておけ、あれは人が立ち向かっていい生物では無い。」

 

ワルドの冷静な助言を砂食いはフンと鼻で笑うと可笑しそうに笑った。

 

「随分と臆病風を吹かすな、流石は風のスクウェアだ恐れ入る。」

 

次の瞬間、ワルドのレイピア状の杖が砂食いの喉元に突きつけられた。正に閃光の二つ名に相応しい早業。しかし砂食いの表情は些かも変わる事は無く、未だにニヤリと口元を歪めたままだった。

 

「この私を舐めるなよ!金で誰にでも尻尾を振るような卑しい傭兵風情が。」

 

「そっちこそ侮って欲しくないな…金さえ貰えりゃ傭兵は雇い主を裏切らないぜ。」

 

ワルドと向き合うこの男、名はオーディー性は無い、その二つ名は『砂食い』

 

レコンキスタ軍陸戦隊筆頭戦力バトラス傭兵団という大勢のメイジを擁する傭兵団の頭であり、土のスクウェアメイジだった…

 

 

 

 

 

~ルイズside~

 

学院に戻った私を待っていたのはアルビオンの凶報と凡そ一月後に控えた姫様とゲルマニア皇帝との婚姻の際の祝詞の歌い手に任ずるという王宮からの命令だった。

 

「何故わたくしが?」

 

「君はアンリエッタ姫殿下にとっての唯一無二の友人であり、王家の血を宿す者じゃ。不思議は無い。それに最近の君は献金の件でも水の精霊の件でも王宮でも噂になっておるからの。」

 

そう問うた私に返ってきたのはオールドオスマンの言葉と白紙の始祖の祈祷書だった。

 

それからの日々はとても長くて短かった。

 

「完成よ、え~『火は空に登って中々降りてこないワールドツアーするな。

水はすぐエリア移動するしアタリハンテイが理不尽だ。

風は使いどころが微妙だ、もうちょっと属性値高くして。

土はジャガイモ。』

どうかしら?」

 

「全く持って駄目駄目です!!」

 

残念な事に私には素晴らしい祝詞を作るような才能が無く、出来上がった物を誰かにチェックして貰う度にその都度溜息と共に駄目出しを頂く日々が続いていた。

 

シルとゴルについては遠乗りでは無いけど定期的に日帰りで散歩に連れ出している。

それとインゴットの作成も相変わらずのスピードで作られてもうかなりの量のお金が王宮に送られた筈である。

それがどういう風に使われているのか私は知らないけどお父様から先日届いた手紙には少々のお叱りと沢山のお褒めの言葉、それと財源は国の為に大いに役立てるという旨が書かれていた事がとても嬉しかった。

 

そんなある日、遂に私は祝詞読みのお役目の為、王宮からの迎えに従って登城する事になってしまった…祝詞?勿論完成しているわ、やっぱり困ってる時に助けてくれるのが友達ってものだわ。

 

シルゴルは学院に大人しく待機させている…流石に王都へ連れて行くのは危なすぎるし…それと呼び出したばっかりの虚無の曜日みたいな事にならないようにかなり強く言い聞かせてあるからきっと大丈夫だと思う。

 

うん、大丈夫な筈…よね?

______

 

 

私が王宮に到着して早速アンリエッタ姫殿下にご挨拶をと思っていたのだけれど何故か王宮内がやたら慌ただしい、仕方が無いので私に宛がわれた王宮の一室でひたすらに祝詞の読み上げの練習をしていた私に王宮の使用人がとんでも無い情報を私に伝えにやって来た…

 

「結婚式が中止ですって!?」

 

「左様で御座います、現在我が国はアルビオンからの奇襲を受けており戦端が既に切られております。その為この度のお輿入れも無期限の延期にと…」

 

「姫様は?今どちらへ!!」

 

私は腰掛けていた椅子から立ち上がると使用人の男に詰め寄る。

 

「はっ、アンリエッタ姫殿下は御自ら軍を率いて出陣なされたとの事で御座います。」

 

頭の中で血が上がったり下がったりで思わず立ちくらみが起きそうになったけれど今はそれどころじゃあ無い。私は考えるよりも早く部屋から飛び出していた。

 

「お待ち下さいヴァリエール様!!」

 

使用人の男が呼び止めるけどそんな物に構ってなんて居られない。

 

「馬を貸して頂戴!!主が戦場に赴こうとしているのよ、臣下が続かぬ道理は無いわ!!」

 

程無くして私は足となる一頭の馬を確保する事に成功した。緊急事態故王家の馬も余裕があるとは思えなかったけれど馬や幻獣なんかの兵力がここ最近異様に強化されたらしく退役したばかりの馬が都合良く空いていた。

 

私は鞭を振り上げて馬の手綱を力いっぱいに引くと馬と共に駆けだした。目指すは…

 

「さぁ、行くわよ!!タルブ平原に!!」

 

 

_________

 

 

~エミットside~

 

待ちに待った時が訪れた…

 

「ゲスが…貴様等が誉れ高きアルビオン空軍を名乗るな!!」

 

あの日、私は屈辱と共にアルビオンを脱出して使い魔ベルと共にトリステインに落ち延びた。トリステインへの亡命を受け入れられた私に待っていたのは堕落したトリステイン貴族と弛んだ衛士達からの侮蔑と嘲笑の視線だった。

それでも構わなかった、何故ならレコンキスタ共と戦える、その願いさえ叶うのであればその他の事等どうでも良かったからだ。

 

そして今日、私の目の前には卑怯にも不可侵条約を小賢しい言い掛かりで一方的に破棄したアルビオンの軍勢がトリステインに牙を剥いた。

 

トリステイン軍は虚を突かれた形である以上、はっきり言って戦力が乏しい。私が亡命して以来急速に軍備の増強に備えて来たが今回の様な奇襲ではその力も十全には振るえない…特に航空戦力という一点でその差は歴然だ。

 

既にトリステインの旗艦メルカトールを筆頭に多くの船が先の奇襲の際に轟沈しているし強力な新型砲を備えたレキシントン号のせいで制空権が完全に奪われている。

 

「行くぞベル!!」

 

私はトリステインの空軍の客将として躊躇う事無く使い魔の背に乗って一番槍となった。

アルビオンの船から龍騎士が躍り出る。かつての同輩が駆る火竜だ、私は知っている。その背に乗る同輩は3ヶ月前に私の目の前で敵に討たれて死んだ筈だ。覚えているよ未熟だが良い奴だった。

 

「ライトニングクラウド!!」

 

ベルが羽ばたく度に放出される電気を嫌って火竜の動きが鈍った瞬間にせめてもの冥福の祈りを込めた私の赤い稲妻が騎士を焼いた。

 

 

『冥雷』忌み嫌われた二つ名だったが冥府から蘇った者達を再び葬り去る私にこれ程相応しい二つ名は無いだろう。

 

「…眠れ、安らかに。」

 

再び前を見れば目の前にはかつての仲間達が立ちふさがる…

そのどれもが目の前、ないしは伝達で死んだと聞いていた者達だった。

 

(良いだろう…全員冥府に叩き戻してやる!!)

 

そしてその最奥、其処にはこちらを見る黒い風竜の背に乗ったワルドの姿があった…その姿を見つけた瞬間、ぞわりと自らの放つ殺気で身の毛が総毛立つ。

 

「そして殿下の仇、貴様は殺す!確実にだ!!」

 

 

エミット・ジーエフ・ド・ラ・ギュロスは今日この戦場で命を燃やし尽くすつもりだった…

 




『ベル』  エミットの使い魔、人一人なら余裕で乗せて飛べるサンダーバード。外見はちっさめなベルキュロス。でも乗ってる人間は普通は感電する。
『オーディー』 オディバトラスっぽい人。ジャガイモ大好き。

眩き獣が走る、跳ぶ、吠える。
大砲が唸り、魔法が弾ける。
鉄の牙が地獄の釜をこじ開ける。
土煙の向こうに待ち受ける、揺らめく影は何だ。
いま、解き明かされる、レコンキスタの謀略。
いま、その正体を見せる巨体の謎。

次回「逆襲」

ルイズ、牙城を撃て。


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緊急アルビオン迎撃戦 主杖使い魔有り 弁当無しココ!@2

今回で終わらせようかと思ったけどやっぱり分けました。どうせ次回がやりたい放題だから今回はシリアヌスオンリー
ワルドじゃシルゴル相手に相性悪すぎてどうにもならないよー。
もう完全にオーディーさんは眼帯付けたooのサーシェスですね。

よろしければ外伝アンケの方もお願いします。

英語間違えてたので修正



「ハァッ…ハァッ…」

 

呼吸を荒げながら馬の手綱を駆り、丘を越え森を抜けて、ルイズはようやくタルブの平原を一望できる小高い丘に辿り着いた。

 

「…これが…戦争…」

 

目の前で繰り広げられるトリステイン軍とアルビオン軍の戦い、遠く見えるタルブの村の方角からは火の手が上がっているのか黒煙が空へと登っている…

村からだけじゃ無い、戦場のあちらこちらから火の手が上がり土の巨人達がまるで死神の列を成すように進み、其処に突撃していく無力な兵士達…

 

それら全てをまるで嘲笑うかのように上空から見下ろすアルビオンの戦列艦。

 

(行かないと…姫様の元に!!)

 

しかしルイズの胸の中にはその一念で一杯だった。己に何が出来るのか?等は一切考えない愚直なまでの前進。

 

逃げない事こそが貴族なのであり、ルイズ・フランソワーズは貴族なのだ、どうしようも無い程に誇り高い貴族…

 

その強い信念が初めて見る戦場という恐怖に止まり掛けた足を突き動かす。

 

 

 

 

~アンリエッタside~

 

アルビオン軍の奇襲の報を受け、会議場で踊るばかりの諸侯に見切りを付けて戦装束に袖を通して戦場へと駆けだした私でしたがやはり…話として聞く物と自分の肌で感じる物は大きく異なるのだと今さらながら痛感しています。

 

「戦況はどの様になっていますか?」

 

「…厳しゅう御座います。地上では我が方が優勢、しかし制空権を押さえられているのが…ガリアから購入しました戦艦かゲルマニアの援軍が間に合えっていればまた状況も違ったでしょうが…」

 

共に本陣に立ちながら傍に控えたマザリーニの苦々しそうな言葉に戦況が芳しくないと言う事が伝わってくる…私には手にした杖を強く握りしめる事しか出来ない。

 

「せめて後5日…いや、斯様な卑怯な奸計でさえなければ十分に押し返せそうなものを…我が国の軍備増強を警戒してこの様な蛮行に及んだというのであれば何という皮肉だ…」

 

マザリーニが言っているのはルイズが送ってくれた義勇金の事ね…確かにトリステインが急速に力を付けた事で彼等アルビオンが焦りを覚え形振り構わぬ卑怯な手に出たという事もあるかも知れないけれど…

アレは私の友人が示してくれた友情と忠義の形…私は国を率いる王族としては未熟ではあるけれどそれを理由に逃げる事はもう許されない。

 

「成る程…つまり。」

 

だからこそ私は振るえる手に力を込めて、引き攣る頬で微笑んで。

 

「この戦端さえ凌げれば、トリステインは彼の賊国に勝てると言う事ですわね?」

 

精一杯に明るく言って笑うのよ。

 

「昔、貴方に授業で教わりましたわね…王族の将としての戦場での仕事は堂々と座って笑顔で自軍の勝利を信じる事だと…」

 

一瞬キョトンとしたマザリーニ枢機卿の顔が私の言った言葉を理解して笑った…

 

「皆の物!!此度の戦にはアンリエッタ王女殿下自ら御出陣されておるのだ、始祖の加護、王家の加護は我等にある、より一層奮起せよ!!」

 

年甲斐も無く大声を張り上げたせいで喉を痛めたのかしら喉をさすりながら再び私を見上げて意地悪そうに笑う枢機卿…

 

「伝令!敵左翼で行使された土の魔法で戦場一帯が砂漠化、騎馬隊歩兵隊が飲み込まれ相当の被害が出ました。」

 

本陣に飛び込んで来た物見の兵からのその報告に将兵の間が騒然となった…

 

 

 

~オーディーside~

 

(こりゃあ楽勝だなぁ。)

 

「それにしても見当たりませんねぇ団長。」

 

最前線で歩兵隊や騎馬隊同士がご苦労な事にぶつかり合いを始めたのを後方から眺めながらさっきからヴァリエール家とやらの旗印を部下共に命令して探してるんだが忌々しい事にさっぱり見当らねぇ…

 

「うるせぇ、口動かす前に仕事こなせぇ…」

 

椅子に座ったまま最前線に送ったゴーレムを操ってる部下のサルモスの後頭部をブーツで蹴る。

 

光栄にも我等がバトラス傭兵団が偉大なるクロムウェル皇帝陛下から下された命令はアルビオンの非メイジの部隊を指揮してトリステインの左翼を攻め落とす事…なんだがはっきり言って楽勝だ。

そもそも戦闘が始まる前の段階で部隊の展開が終わってる上に制空権とってるこっちに勝てると思ってるのかね?トリステインは。

 

ちょっと気になるのはお空の上でワルドの部隊相手に大暴れしてる…アレは『冥雷』か?生きてたのか?まぁあの調子で魔法使ってれば直ぐに精神切れで墜ちるわな。

 

そんな訳で俺の目的はこの間耳にした噂、ヴァリエールの黄金魚とやらだ。ヴァリエール軍の人間が居ればそいつをとっ捕まえて拷問していろいろ吐かせてこの仕事が終わったらちょろっと頂戴しに行きたいんだが…見当らねぇ!!

 

「やっぱり来てないんですよ。ゲルマニアとの国境側らしいですからね、真逆ですよ真逆。」

 

「うるせぇよ。」

 

と、そうこうしてたら前線で赤色の狼煙が上がった。どうやら準備が整った様だ…ヴァリエールの無限財の情報は手に入らなかったがしょうがねぇ。

赤い狼煙はつまり前線のトリステインの歩兵の主力連中が大体一カ所に集まったという合図だ。

 

「それにしても本当にいいんですか?絶対味方巻き込みますよ?」

 

「あ?そうかお前知らないんだったな…最前線の囮の連中な、殆どが皇帝様の虚無魔法で蘇ったゾンビなんだとよ。」

 

「…マジですか?ていうか殆どって事はそうじゃないのもいるんですよね?」

 

ひよっこの癖にいちいち細かい事を気にして五月蠅い奴だ…どうせ前線の歩兵なんざ殆ど死ぬんだ。俺の魔法に巻き込まれて死のうが敵に殺されようが大して変わらん。

むしろしっかり囮になってくれりゃあよっぽど犬死によりは上等だろう?

 

この前ワルドの奴から皇帝が死者を蘇らせていたなんて話を聞いた時は本当に笑った。何が虚無だ、何が皇帝だ、ペテンの匂いがプンプンしやがるぜ。

 

腰掛けていた椅子から立ち上がると俺は杖を地面に突き立てる。

 

「『アントリオン』」

 

地面を半径1リーグの級の巨大流砂に変える要はまぁ派手な錬金だ…俺の砂食いって二つ名はこれから来てる。

見てみれば範囲内に居た人間は全員砂に身体を取られて徐々に沈んで行ってやがる。

で、それで終わるのは魔法が使えない平民の皆様で魔法が使える貴族様はどうするか?そりゃあ慌ててフライで脱出するわな。

 

「やれ。」

 

俺の命令で射撃体勢に入っていた鉄砲隊と弓隊、メイジ隊が一斉に攻撃を放つ。フライを使ってるせいで魔法が使えない空中で面白いように撃たれて落ちて砂に飲まれていく貴族共…

 

ん?足下が砂になったせいでこっちも進めないって?

 

だったらこうしよう…

 

 

「それじゃあ、お休みトリステインの皆さん。『錬金』」

 

砂を錬金して土に戻してはい、お終い。皆殺しならこいつに限る…

 

「大分精神力を使った、俺は後方に下がって休むぞ。お前らは戦果あげてこい!!」

 

『オオオォォォッ!!』

 

盛り上がってるねぇ…

 

 

 

 

~ルイズside~

 

 

そこかしこに負傷した兵が呻き声を上げながら治療を待って倒れているし私よりも小さな丁稚らしき男の子が必至な形相で書簡を持って駆けて行く。

砲弾を積んだ荷車が行ったと思えば矢で射られたのか血を流す兵士が荷車で戻ってきた…

 

「姫様は何処へ居られるか!?」

 

本陣にようやく到着した私は姫様を探して人が混み合う天幕の間を姫様を探して走る道中、宮廷貴族を見つけた私は怒鳴りつける様に問いただしていた。

 

制空権を取られてる上に前線が崩れたお陰でトリステイン軍全体が混乱を始めている。その貴族も切羽詰まっていたのだろうか一際高い天幕の方向を指し示すと直ぐに馬に跨がると兵を率いて走って行ってしまった。

 

 

「姫様っ!!」

 

「ルイズッ!?何故貴女が此処に!?」

 

私が姫様の天幕の前に駆けつけると姫様は丁度ユニコーンに騎乗している所だった。そのお姿はいつもの美しいドレスでは無くて白百合の意匠が刻まれた戦装束…

 

「前線に赴かれるのですか?」

 

声が震えた…

 

「…前線が崩れ始めたそうです…士気の高揚の為には私も本陣に引きこもって居られません。ルイズ…貴女は何故来たのですか?」

 

「不祥の身なれどこのルイズ・フランソワーズ、王家の従僕にして姫様の親友…姫殿下が戦場に赴くならば戦場に、それが例え竜のアギトの中とて躊躇いはありませぬ、許されるならば御身の御側に仕えたく思います。」

 

不安げな、それでも強く自分を律する様な姫様を前に私はいつの間にか無意識に片膝をついて臣下の礼をとっていた…

 

 

 

 

 

 

 

「誰か馬を持てっ!!」

 

頭を垂れたままの私の耳に姫様の声が響く…

 

「顔を上げて下さいルイズ・フランソワーズ、私は今まるで万の援軍を得た気分です。始祖に感謝しなくてはなりません、私に貴女という友人を与えて下さった事に。」

 

姫様が微笑みながら私の手を取ると兵士に引かれて一匹の馬が私の隣にやって来た。

 

「この戦に敗れればトリステインの国土があの無法者共に荒らされます、各員此処が正念場です奮闘せよ!!」

 

『オォォォッ!!トリステイン万歳!!アンリエッタ姫殿下万歳っ!!』

 

姫様の関の声に続いて無数の兵が轟きの声を上げると改めて進軍を開始する。

その先の大地には左翼から食い破られ、後退を余儀なくされたトリステインの歩兵部隊とそれに迫るアルビオンの部隊

その上空には一進一退の竜騎士隊と決死の闘いに挑むトリステイン空軍と圧倒的な巨体でそれを迎え撃つ敵旗艦レキシントン号

 

 

それは決して負けられない絶望との闘いで…

 

砲撃が…

 

行軍が…

 

戦場の空気が…

 

その全てが大地を揺らす…

 

 

その揺れが私達の足下で最高潮の達した時…

 

 

足下から現れたのはあの春の使い魔召喚の儀式の日と同じように地面から天に昇る金と銀の輝きだった…

 

 

 




『オディバトラス』アカムトルム、ウカムルバスと同骨格を持つ砂漠の飛竜。最初は撃退、ランク上がって討伐、更にその上に覇種と一粒で三度おいしいモンスター。
砂漠の砂を爆発させたり砂のバズーカ撃ったりジャガイモ掘ったりで砂遊びの鬼、尚全モンスターの中で武器の生産に最もお金を要求する事からかなりお金に汚いと思われる。
『アントリオン』=蟻地獄

みなさんお待ちかね!
亡者を率いて国民を襲うアルビオン帝国
それを操るクロムウェルに闘いを挑む為、ルイズの参戦が始まります。
しかし、その途中で出会ったメイジによってルイズはとんでも無いピンチに巻き込まれてしまうのです。

魔法召喚伝V・ルイズ『墜とせ!戦艦レキシントン』にレディ・ゴー!


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緊急アルビオン迎撃戦 主杖使い魔有り 弁当無しココ!@1

間が空きましてごめんなさい。ずっと他の人の作品読んでました。試しに書いてみた第三者視点が今回長めです。

しかし頭の中に出来上がってるイメージを文章として出力するのって難しいですね。


~コルベールside~

 

ミス・ヴァリエールが呼び出した二頭の使い魔…

私は既に何度も何度もその異常とも言える存在の事を調べる為に学院の図書館、その最奥、学院の許可を得た者しか閲覧できないフェニアのライブラリーであらゆる資料に目を通していました。

成果は?と問われれば情けない事ではあるけれど私には頭を掻いて笑って誤魔化す事以外に出来ませんな。何せ一切の情報、それこそ使い魔のルーンについてすら何も判明させる事が出来なかったのですから…

 

「…ふぅ…なんと言う事だ…」

 

そして先日ミス・ヴァリエール達を連れて立ち寄る事と成ったラグドリアン湖で私は望外の福音と巡り会っていた。つまり水の精霊との邂逅…

 

水の精霊はかの使い魔を前にしてこう言っていた。『リーヴスラシル』、そして『かつてはガンダールブであった』と…

リーヴスラシルという言葉が一体何なのか?という調査を終えても特に成果を上げる事が出来なかった私が次に探したのは当然の如くガンダールブという存在について。

 

「…ガンダールブ…神の左手、始祖の使い魔…」

 

そうして辿り着いたのはどれ程の古い物かも分からない古代ルーン語で書かれた始祖の使い魔について記された魔法書、辛うじて翻訳出来た一文には確かにガンダールブの文字。

始祖の四人の使い魔、その一角と記されたガンダールブ、その力はあらゆる武具を使いこなして千の兵を薙ぎ払う無双の守り手…使い魔のルーンの図と共にそう記されていた。

 

ではリーヴスラシルとは何なのか?私が読み解いたその書物ではその核心には届く事が出来なかった…なにせ殆どの事がまるで語る事すら憚られると言った具合に記されてはいなかったのだから…

 

…それでも

 

「神の心臓…か」

 

書に書かれていたリーヴスラシルのルーンの意味を紐解いて得られたのはその曖昧な言葉のみ…

 

流石に始祖ブリミルも思わず溜息を溢した私を責めはすまい。何せ私が辿り着いたのはミス・ヴァリエールの使い魔が始祖の使い魔の一角であるという可能性なのだから…

 

(む…)

ふと恐ろしい想像が脳裏を過ぎる…

 

この世界で始祖とは絶対だ。その始祖の使い魔であろう存在、今でさえその鱗には恐ろしい価値があった…それも唯の貴金属としてだけでだ…そこにもし仮に、万が一この事実が誰かに知られ始祖ブリミルの使いというハルケギニアでも絶対と言えるブランドが付加されたとしたら……

 

これ以上考えるのは止めよう…そんな恐ろしい事が世間に、否教会に伝わればどんな事になるかは私には想像できないししたくない。

このままこのことはミス・ヴァリエールだけとの秘密にするべきだろう。

もし万が一、いや億が一にでもあの使い魔達が戦場なんかで圧倒的な武勲を上げでもして救国の英雄としてそのままなし崩し的に神格化されたり、あまつさえそのルーンの秘密をロマリア等に察せられる等と言う事はあり得ないはずなのだから…

 

「うむ…少し気分を落ち着かせる為にも何か飲みますかな。」

 

一人呟いてカップに注がれた紅茶を口に含む…その瞬間、誰かの慌てて走る足音が図書館に近づいてきた。ここはやはり教師として一言注意をしなければなるまい。

 

そう思って紅茶を口に含んだまま立ち上がろうとした瞬間、私の前に飛び出してきたのは慌てた様子のメイドのシエスタ君だった

 

「ミ、ミスタ・コルベール大変です!!」

 

何をそんなに慌てる事がありましょうか?先ずは落ち着かせて話を…そう思った私にシエスタ君はとんでも無い報告をもたらした…

 

「シルちゃんとゴルちゃんが…脱走しました!!!」

 

ブバッ!!!

 

思わず始祖の使い魔の書に思い切り紅茶を吹き出した私を始祖は…いやこの場合学院長は果たして許してくれるだろうか?

 

 

__________

 

 

「これは…」

 

見上げるその巨体にアンリエッタが思わず口から溢したその言葉は、実際にはその光景を目にしたこの戦場に居る殆ど全ての人間と同じだった

 

大地を食い破り天へと躍り出た二匹の巨大魚が巻き起こした動揺は凄まじく、必勝の流れに乗った神聖アルビオン帝国の蹂躙の為の進撃が一瞬で停止する。

無論、混乱を来したのはアルビオン側だけでは無くトリステイン軍も一様にその足を止めている。目の前に現れた怪物がどの様な存在か等、この戦場に立つ人間の中に知るものなど殆ど居ないのだから。

 

そんな中でルイズは…

 

 

「……シル…ゴル…」

 

主の力と成るべく現れた使い魔達の偉相に自然と溢れる微笑みを止められなかった。

 

己の主の国に攻め込み、あまつさえその刃を向けた愚か者、それは即ちシルゴルにとっては自分達の縄張りに入り込み、群れて襲いかかって来たかつてのハンターと同じだ。

しかし今は自分達の主君はルイズ、ならばどうするか?聞くしか無かろう?

そして、堂々たる姿で立ち上がった二匹の使い魔の視線がルイズを捕らえ、雄弁に語る。

 

『命令を!!』

『主の縄張りを守る許可を!!』

 

『闘いをっ!!』

 

 

と…

 

「ルイズ?」

 

一瞬時が止まった戦場で俯いたルイズの直ぐ隣でアンリエッタがルイズに問い掛ける。目の前の怪物がルイズの使い魔である事を知っているのはここでは極少数、その一人がアンリエッタだったからだ。

次の瞬間、勢いよく顔を上げたルイズの視線が真っ直ぐにアンリエッタに突き刺さる。それは強い覚悟を秘めた正に貴き者、貴族の瞳だった。

 

「姫様、忠勇なる我が使い魔の力をお見せ致します!!…行きなさい、あんた達!!今!この場所!アルビオンの軍勢に対してのみ、『闘う』事を許すわ!!」

 

ルイズの言葉にアンリエッタが頷くと同時、ルイズは杖を振り上げてレキシントン号、延いてはアルビオンの軍勢を指し示すと遂にシルゴルにその命令を下した。

 

次の瞬間、どこからともなく響いた角笛の音色に互いの軍勢が混乱からの硬直から解き放たれた。

 

同時アルビオン軍の最前線、正に槍衾と言える様なランスを持った突撃兵の隊列の突進と後方からは弓矢が飛来する。

本来ならばここでトリステイン軍も歩兵による進撃が行われるべきであったがそれが行われる必要は既に無くなってしまっていた。

それは何故かと言えばシルとゴルがその場半径で言えば100メイル程を互いが互いを追い回すように這いずり始めたからだ。徐々にアルビオン軍方面へと移動するように。

互いが放つ雷と氷のエネルギー…それが高速で絡み合い、瞬時に成長し、圧倒的に暴走するとあっという間に巨大な竜巻が生まれ、それが無慈悲にアルビオン軍に向かって放たれる。

 

「逃げろぉ!!!!」

「後退だ!!」

「ば、化け物ぉ!!」

 

矢の雨も魔法も悲鳴諸共尽く産み出された乱流に飲みこまれ、鉄壁の壁と表せた筈の槍を構えた騎士達が上空に巻き上げられた瞬間その身体は驚異的な風の勢いによって無残にもバラバラに引きちぎられた…

シルが司る冷気によってその血しぶきは一瞬で凍結し、ゴルが司る雷撃は遠く離れて辛うじて難を逃れたと思っていた兵士達に降り注いでいる。

それはアルビオン軍にとっては正に一方的な阿鼻叫喚の地獄絵図だろう…しかしそれはさっきまで一方的とも言える砲撃によってトリステイン側が味わっていた事でもあるのだ。

 

「何という…」

 

しばらくの間の蹂躙の後ようやく嵐が収まった時、トリステイン軍の前に広がっていた光景にマザリーニは絶句しながら身体の震えを押さえる事が出来なかった…それは多くの将兵も同じであった。

 

「進言致します殿下!先程の一撃で敵中央が崩れ浮き足立っております。この期に隊の総力で中央を突破するべきかと!」

 

一人の将官貴族がアンリエッタに進言する。

 

「それではこちらの両翼が危険では無いか!?脇腹を突かれる。ここは一度退くべき所ぞ!」

 

かと思えば別の将官が別の作戦を持ち上げた…が、ここで声をあげたのは以外にもルイズだった。

 

「恐れながら、両翼は我が使い魔にお任せを!」

 

「ルイズ…良いのですか?」

 

ルイズの進言に一瞬の迷いを見せたアンリエッタではあったがルイズは力強く頷いた。その様にアンリエッタの周囲の将官達も響めきながらもそれぞれ周囲に命令を下して戦力を集め始める。

その間にもシルとゴルは戦場を這いずり廻りながら、あるいは潜行しながら、それぞれ片っ端からアルビオンの歩兵連隊達を蹂躙している。

 

「シル、ゴル!あんた達はそのまま敵の両翼の部隊に廻って!!敵が逃げるなら追わなくて良いからね!」

 

「ミス・ヴァリエール、よろしいか?こちらの左翼側に恐ろしく腕の立つ敵メイジがいるようです。」

 

「大丈夫です、我が使い魔は無敵ですから!!」

 

___________

 

~ボーウッドside~

 

「砲撃手、両翼のあの魚の化け物に砲撃を集中させろ地上の戦線の再構築の援護だ!!操舵手、高度を下げすぎるな!先程の大嵐直撃すればこのレキシントンとて墜ちるぞ!!」

 

王家への反乱からこの度の遠征、上に従いながら此処まで来てしまった…

与えられてしまったアルビオンの象徴ロイヤルソブリン号の…いや、今はレキシントン号か…その艦長という名誉も最早虚しいものだ。それでも私は軍人として部下達の為にも戦わなければならない。

 

多くの艦や竜騎兵に被害を出しながらもようやく冥雷を退け、空はもとより地上でも流れを掴んだ。と思ったら突如トリステインの戦列に現れた二匹の魚の怪物、上空からでも一目で理解出来るその異常性にはまるでこれが罪深い我々に与えられた始祖の裁きなのではと錯覚しそうだった。

 

「報告します!現在地上の戦線は混乱状態、既に勝手に撤退すら始めている部隊まで出ております。」

「判った。一刻も早くアレを止めるぞ!!」

 

物見兵からの報告…見れば分かる。何せこちらの新型の大砲があの化け物には通用していないのだ…30メイルの巨体でありながら馬以上の早さで進み、ゴーレムすら足止めにならない上、地中すら進むせいで地理的遮蔽物の一切を無視するわ、運良く命中した大砲でも一時怯ませることが精々でとてもでは無いが致命傷にはほど遠い。

既に派遣した竜騎士隊も吐き出された雷球状のブレスで墜とされた。そんな怪物が這いずり廻る地上は非道い光景が広がっている…

 

「艦長、何をしている!はやくあの化け物を仕留めんか!!」

 

「はっ!只今我等の総力を持って当たっております、どうかご安心を!」

 

「アレをどうにかすれば我等の勝ちなのだ!くれぐれもよいな!?」

 

溢れそうな溜息を堪えながら、同乗しているアルビオンの議員閣下からの突き上げを適当にやり過ごして深く帽子を被り直す…

 

(…これは我々の負けだな…)

 

右翼に展開するバトラス傭兵団からの砲撃要請の狼煙を確認しながら私はせめてこの負け戦の撤退の支援をする為に部下に指示を廻した。

 




次回でタルブ戦が終えられると良いなぁ…前回も同じ様な事書いてたような気が…



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緊急アルビオン迎撃戦 主杖使い魔有り 弁当無しココ!@〆

あぁ^~魚がピョンピョンするんじゃぁ^~
アルビオン迎撃戦がようやく終わったよー。それと就職活動が終わったので2月入ったら間違いなく更新速度が落ちます。


 

「来やがったか!!」

 

前線から距離をとっていたオーディーが部下のサルモスの作り出したゴーレムの肩の上から戦場を見渡しながら嬉しくて仕方が無いといったどう猛な笑みを浮かべる。それも当然だろう、なにせオーディーが心底望んでいたターゲットが目の前に現れたのだから。

その視界の先では武勲を立てる為に突撃していたアルビオンの軍勢が、無論バトラス傭兵団の団員も数多く含まれている、それらがゴルの黄金の巨体に蹂躙されている光景が広がっていた。

 

「ハハハハッ!おいサルモス、俺がもう一度アントリオンでアレの動きを止めてやる。砲撃要請の狼煙を上げろ!!」

 

「し、正気っすか?俺達も逃げないとやばいですって!!」

 

ご機嫌で自分のゴーレムの肩から飛び降りたオーディーを見下ろしながら慌ててサルモスが進言するも、オーディーの機嫌の上昇は止まらない。何かと便利に使われることの多いサルモスはいつもこうだと内心で嘆きと愚痴をこぼす。

 

「正気で戦争が出来るかよ。それとありったけの火の秘薬を詰めた樽を馬車に積めて突撃させる用に馬のゴーレムの準備をしておけ!!」

 

それだけ言ってあっという間に喜色満面なオーディーは馬に跨がるとゴルが暴れ回っている前線に進んでいった。

 

「アレが無限財か、良いじゃねぇか、運が向いてきた!アレを仕留めてバラせば一生遊んで暮らせるぜ!!」

 

ゴルの姿を見てちりぢりに逃げようとする歩兵達が尾に薙ぎ払われて吹き飛ぶ、渾身の風の刃を杖に纏わせて特攻を仕掛けたメイジは接触と同時に昏睡し、岩すら溶解させる必滅の火球は多少の効果を与えるだけで虚しく胡散する。

正に鎧袖一触のその光景を見て、ワルドがかつて抱いて語った人が立ち向かって良い相手では無いという言葉、オーディーはその時はそれを鼻で笑ったが今は成る程仕方が無い。と思っていた…しかし最後に勝つのは自分だ!

周囲を見上げればサルモスに命じた狼煙が上がり、艦砲がこちらを覗っているのがオーディーには判った。

 

「巻き込まれる馬鹿は自分を恨めよ!飲み込めっ『アントリオン』!!」

 

大暴れするゴルの周囲で倒れ伏す味方諸共に流砂が発生する。その流砂の大きさ自体は一度目と比べるまでもなく小規模ではあったが込められた魔力は決して劣ってはいない。砂上の者を飲み込む速度、深さ、そういった物が段違いだった。それは元々敵のアジトや建物を沈める為に作られた魔法だからだ。

それがゴルの足下で作り出されればどうなるか?当然その凄まじい自重でゴルの下半身が砂に飲まれて胸びれより上だけが地上に露出する。少なくない味方をも飲み込んで…

 

「クソがっ暴れるなよ…化け物が『錬金』!!」

 

続けてオーディーが唱えたのは錬金の魔法、これも一度目よりも強く、固くを意識した強力な錬金だった。欲を言えばオーディーは更に地面に固定化をかけたかったが流石にそれをするには精神力が足りないという自覚があった。

しかしそれでもゴルを拘束できるのは極短時間である。そもそも固い地面を泳ぐように移動するのはヴォルガノス類として当然の能力、今僅かにでも動きを止めていられるのは不意を打った事と岩盤を砕く頭部を旨く外に露出させる事が出来ているからだった。

当然ゴルはこの状況を抜け出す為に身体全体を上下左右にブンブンと振り回して脱出を計る。時間にして10秒程で限界を迎えた地面が砕けてその巨体が拘束から解き放たれようとしている…

再び錬金で地面の拘束を強めているオーディーにとってもこれは賭けだった。全てが上手くいって運が良ければといった様な…

しかし、天はオーディーに味方した。示し合わせていたとはいえゴルが地上に再び飛び出したまさに絶妙なタイミングで届いたレキシントン、その他の艦から放たれた大砲の雨がゴルの元に降り注ぎ、同時にサルモス以下に命じていた火の秘薬を詰め込んだ馬車がゴーレムに引かれゴルに猛スピードで特攻を仕掛けたのである。

 

「ぬ…うおぉぉぉっ!!」

 

大爆発に合わせてハリウッドダイブで地面に伏せって身を守るオーディー、その背に爆発で起きた熱風と吹き飛んで来た瓦礫が襲いかかる。

それを何とかやり過ごした後に目に映り込んだのは背びれと頭部に大きくダメージを負い、他にも各所に傷が刻まれ、もはや瀕死なのだろう力無くその場で跳ねる事しか出来なくなっているゴルの姿だった。

 

「フフフ……フハハ…ハーーーーーハッハッハッハッ!!!!!!!」

 

両手を広げて天を仰いだオーディーが腹の底から歓喜の笑いを放った。

 

それも仕方が無いだろう、何故なら彼の目の前には爆発で巻き上げられた大量の黄金の鱗がヒラヒラと舞い落ちてきているのだから。そのギリギリの大勝利を祝福するような黄金のシャワーの前に辛うじて生き残っていたアルビオンの人間も沸き上がった。

 

『ウオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

その様子は空から見守っていたレキシントンにも歓声があがり、すっかり落ち込んでいた士気もまるでひっくり返したかのように一気に爆発した。

 

「見たか!バトラス傭兵団が怪物殺しを成し遂げたぞ!!皆の物続け、やりようによってはもう一匹のあの怪物も仕留められるのだ!!左翼を中心に前線を再構築、押し上げよ!敵本陣の守りは今は薄いぞ!」

 

流石にその光景には戦に消極的であったサー・ヘンリー・ボーウッドもこの期は逃せぬとばかりに興奮を隠す事無くやつぎはやに指令を飛ばす。人格等は最悪なのを知ってはいたがそれでもオーディーがもたらした戦果は正に値千金の英雄の物であったからだ。

 

 

しかし…

 

 

 

その希望の後に訪れたのは絶望でしか無かった…

 

 

 

 

 

 

 

突如、地面が震動した瞬間、ゴルの巨体が盛大に上空に突き上げられた。

 

『は???』

 

それは地上も艦上も関係無く、現実を認めたくなかった全てのアルビオン兵の声であった。

ひょっこりと表するしか無い様子で地上に姿を現したのはシル、右翼側を襲っていたにも関わらずこっちに現れたのは彼等アルガノス、ゴルガノスとしての習性故の事だった。

 

その原理こそ判明はしていないが彼等には特殊な習性がある。それは『モンスター版根性』と呼ばれる物と『心臓マッサージ』と呼ばれハンター達から最も恐れられている物である。

まず彼等は互いに別々の生命体でありながらそれを共有している節がある。彼等を殺すには両方を完全に打ち倒した後で改めて止めを刺す必要がある。それがどういう事かと言えばつまり両方の個体を同時に瀕死に追い込まない限り彼等は死なないのだ。

 

そしてどちらかが力尽き、満足に動く事が出来なくなった場合相方に対して乱暴すぎるとも言える地面からの頭突きによってどういう理屈か再び力を取り戻して大暴れを再開させるのだ…

無論、その永久機関じみた行動も限りがある…連続して心臓マッサージを行えば行う程蘇生を受けた個体は復活した後の体力が極端に減少するのである。

 

 

 

通常は…

 

 

 

「総員、退艦せよっ!!」

 

シルによって上空に打ち上げられたゴルの巨体がどうなったかと言えばそれは不運にも砲撃の為に接近していたアルビオンの戦艦に向かって文字通り飛んでいたのだ…

勢いに任せ、まるでB級の巨大モンスターパニック映画のお約束の如く、その巨大な顎が戦艦の胴体を食い破る。無論、船が轟沈したのは必然だ。

その身体にはあれだけの攻撃を一身に受けていたにも関わらず殆ど傷の無い美しさを放っていた。

その光景にアルビオン軍の戦艦のクルー達は顔を青ざめさせる…今までシルゴルの攻撃は上空にいる自分達には決して届かないだろうというある種の安心感があったのだがそれがいとも容易く覆されてしまったのだから。

 

 

『神の心臓リーヴスラシル』

二匹に与えられたルーンは二匹の習性を最大限……否、必要以上に発揮させていた。

なにせ通常は僅かに体力を回復させるそれが流石に伝説と謡われる始祖のルーンの力を得たせいで『完全回復』という悪夢に昇華されているのだから!

 

「…逃げるぞっ!!撤収だ!!」

 

顔を青ざめさせたのはなにも戦艦クルーだけでは無い…むしろ地上の部隊の方が深刻だ。それはそうだろう、さっきのオーディーの奇策で上げた戦果によって下がったトリステインの士気が再びうなぎ登り、加えて当然の如く落下してきたゴルがシルと合流する。

ならば、もう一度アントリオンと砲撃でとは行かない。奇策は所詮奇策、何度も行える物でも無ければ例えそれが実行され成果を出したとしてもそれこそ次の瞬間には徒労と化すのがついさっき目の前でこれ以上無いと言う程に証明されてしまったのだ。

撤収を決断したオーディーとバトラス傭兵団の動きは素早かった…足下の黄金の鱗を回収すると迷う事も振り返る事もせず一目散に逃走を開始した。

 

「逃げる敵は追わなくて良い。」

知るよしは無いがそう厳命されていたシルゴルを前にその素早い判断は正しく、再び二頭が巻き起こした巨大な大嵐が残存していたアルビオン軍を薙ぎ払ったのはその直後であった…

 

既に弾薬が尽き、士気を完全に折られたレキシントン号から白旗が上がったのはそれから3隻の戦艦が爆散した直後だった。

____________

 

~ルイズside~

 

『トリステイン万歳!トリステイン万歳!我等が守護獣ゴールス万歳!シルバ万歳!!』

 

戦場一帯から響き渡る熱に浮かされた兵士達の唱和、自分でも信じられない戦果だった…

 

「ルイズ、貴女の使い魔は素晴らしいわ…勿論それもそれを御する貴女あってのことですが。私は生まれて初めて奇跡という物をこの目で見ました。トリステインは守られたのです!」

 

「姫様…私…私…」

 

涙と嗚咽混じりで言葉に詰まるルイズへユニコーンの馬上から飛び降りたアンリエッタが熱い抱擁を行い、その功績を純粋に讃える。

 

「貴女は紛う事なき英雄です!!」

 

その時、アンリエッタと抱擁を交わしていたルイズは気が付いてしまった、見えてしまった。こちらに向かって飛来する一本の矢。それはひどくゆっくりにも見えたが誰もが反応できなかった…それが描く放物線の最終地点は間違いなくアンリエッタの背中であることをルイズは直感で確信する…

 

「姫様っ!!!…!!!」

 

咄嗟に…そう咄嗟にアンリエッタの身体を突き飛ばしたルイズであったがその代償に己の左胸を貫くように矢が突き刺さる。

 

「ルイズっ!?ルイズゥゥッッ!!」

 

響くアンリエッタの悲鳴が薄れ行く意識のルイズに最後の言葉として届く。

最後の抵抗を行っていたアルビオンの奇襲部隊、その一兵が苦し紛れに放った出鱈目の矢がいとも容易く一人の少女の命を奪った…

 

希望から絶望に叩き落とされたのは何もアルビオン軍だけでは無かった…

 

 

トリステインとアルビオンによるタルブ戦役は幕を閉じた。




この魚達やりたい放題である。




再生の為の停戦。(圧倒的力で)
破壊の為の建設。(有り余る金の力で)
歴史の果てから、連綿と続くこの愚かな行為。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、営みは絶える事無く続き、また誰かが呟く。
たまには散財も悪くない。

次回『終戦』

神もピリオドを打たない。


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輝輝《零》臨臨

何名かの方からルイズの生死について心配の声が上がってましたが今回でルイズをわざわざ殺した理由も描いてます。
ようこそルイズさんアタリハンテイ力学の世界へ!!


それと外伝ではゼルレウス召喚を書いてみようかと思います。アンケご協力ありがとうございました!!


~ルイズside~

 

「ふぎゃっ!!」

 

ベッドから落ちたのかしら突然の衝撃に襲われて、おもわずぐっすり眠っていた私も目を覚ます…

寝覚めは自分でも驚く位に最悪で寝過ぎたみたいに身体がだるい。

瞼の向こうからうっすら感じる周囲の明るさからもう日が昇ってるのを感じると言う事は完全に今日は寝坊で遅刻かしら…

 

「ルイズッ!!」

 

起き抜けでボンヤリしていた私に今度は耳元から声をかけられると同時に体当たりじみた衝撃が襲いかかる。その下手人が姫様である事に気が付いたころにはようやく私の意識も覚醒を始めたのだった…

 

「ルイズルイズ、ルイズ・フランソワーズ!」

 

目を開いて最初に見たのは私の身体を掻き抱いた姫様のお顔で、その表情は血で汚れて涙でくしゃくしゃになっている。

その背後からは私を見下ろすようにして見守ってくれている可愛い私の使い魔達…そして私達を囲うように見守っている戦装束を纏った沢山のトリステインの貴族達。

 

「姫…様?」

 

『ウォオオオオォォォッ!!!』

 

辛うじて私が口を開くとさっきの戦場の中で上がっていたような歓喜の轟きが私の鼓膜を揺さぶった…

 

そうだ、思い出した…あの瞬間、私は姫様を庇って矢に射貫かれて…

 

「ルイズ!!あぁ、奇跡です!始祖ブリミルが与えたもうた貴女の使い魔は私達に何度奇跡をもたらしてくれるのかしら!?あの使い魔達こそ始祖の遣わした者に違い有りません!!」

 

「姫様…一体何が…?」

 

周囲の状況をまるで理解出来ていなかった私に喜びのあまりの興奮で話すどころじゃあ無くなってる姫様。そんな状況で私の前に歩み出て来たのはマザリーニ枢機卿だった。

 

「失礼、ミス・ヴァリエール貴女は姫様を庇い矢を受けた事で致命傷を負い…まぁ、残念な事に死亡したのです。」

 

「えっ?!」

 

枢機卿のお言葉に私の顔が混乱で引き攣った…確かにあの瞬間、矢を受けた事は覚えているけど私は今生きている…生きてるわよね?

 

「コホン…その後直ぐに姫殿下自ら治癒の魔法を施し、他にも総出で蘇生を試みたのですが成果は出ず諦めかけた時に…奇跡が起きたのです!!」

 

クワッっといったえらく力の入った表情で語る枢機卿だった、まるで私だけじゃ無いその場に居る全ての人に語っているみたいな力の入り具合。

 

「我々の力が及ばず貴女の死が確定したと思われたのはついさっき、その瞬間信じられない事ですが貴女の使い魔が地面から飛び出して貴女を突き上げたのです!

そして余りの事態に私が思わず顔を覆っている間、空に打ち上げられた貴女が地面に叩き付けられた瞬間、なんと貴女は傷を負うどころか息を吹き返したのです!!奇跡ですよ奇跡!!」

 

枢機卿の説明を引き継いだ姫様の言葉に私は思わず咄嗟に自分の左胸をまさぐった。

 

(無いっ!?)

 

胸がじゃあ無い、私にだって胸は有る!…そう、私を貫いた矢傷が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。服には穴が空いてるしかなり血が出たのか着ていた白いシャツは左胸を中心に血まみれで肌に張り付いているからあれが幻だった何て事も無いはずだし…

 

そうして改めて勝利の喧噪に湧く周囲から視線をシルとゴルに向ける…相変わらず感情の読み取りにくい愛らしい瞳が私を覗き込んでいて、その時私は誰に聴かされたという訳で無くて魂で理解した。いえ、本能的にと言った方がきっと正しいんだと思う…

魚が泳ぐのも、鳥が飛ぶのも、人が誰かを愛するのも、私達が命を共有しているのだと言う事も…教わらなくてもそれは本能的に自然と自分の中に宿る理だ。それがシルとゴル自身の力なのか『リーヴスラシル』の力なのかは判らないけれど…

 

それでもジワジワと湧いてくる確かな実感がある…

以前、水の精霊がシルゴルをこの世界の理の外の存在だと言っていた…そして私自身もどういう因果か一度死を迎えて彼等と命を共有した事でそのハルケギニアの理から外れてしまったのだという実感が。

 

そうじゃ無いなら私の身体は地面に叩き付けられた瞬間潰れたトマトみたいになっている筈だ…

 

「ルイズッ、貴女と貴女の使い魔のお陰でトリステインは救われました、本当に…本当にありがとうございます!!」

 

もう一度姫様がお召し物が血に汚れる事等構わずに私を強く抱きしめ、枢機卿を始め将官の人達が戦闘の後処理を始める為に慌ただしく動きながらも私達に惜しみない称賛の声をかけてくれる…

 

 

私はかつては普通に魔法が使える、自分に胸を張れる立派な貴族になるのが夢だった…

それが何の因果か望外の使い魔に恵まれ、無能、ゼロ、そう蔑まれ続けていたのに走っていて気が付いたら英雄…

手放しで喜びたい反面で思う所は沢山ある…直接手を汚した訳では無いけれど私達、延いては私自身きっと沢山の敵を殺した筈だし、決してそれをしっかり覚悟して戦場に立った訳じゃあ無い。

今更ながらその事実が重く胸にのし掛かる…それでもこれが、これこそが私が手に入れた物が伴う重みという物なのだろう。

 

 

 

 

最早見る影も無く荒れ果てたタルブ平原を前に、私はそんな複雑な思いと共に私達が勝ち取ったトリステインの未来に今は喜びながら…姫様と互いの身体を抱き合いながら涙が涸れるまで…泣いた。

 

 

___________

 

 

奇跡の戦勝を成し遂げたトリステインの凱旋パレードは凄まじく王都だけで無く国中が湧いて盛り上がったそうだ。それに合わせて姫様も正式に女王へと即位をする事となった。

 

また、トリステインの危機に援軍を寄越す事が出来なかったゲルマニアと独力で国難を乗り切ったトリステインだ、当然の如く今回の姫様の婚姻による同盟は条件の見直しとなった。

それにしても厄介なのは元々ゲルマニアにもトリステインの国境近くには私とシルゴルの噂は届いていたらしい…けど今回の件でより詳細な情報が皇帝の耳にまで入ったらしくその辺りで興味を持たれたらしく外交ルートを通じてかなり食いつかれているらしい。近い内に直接会う事になりそうだ…

 

それとガリアからも今回の件で造船に風石等の輸出にかなり大きな動きが出たようでトリステインは相当の戦力の増強になるそうだ。

何でそんな重要な話が私の耳にまで入ってきたかと言えばそれらの件に関しての支払いが殆ど私が受け持つ事になっているからだ…

 

私はパレードには参加しなかった…いつの間にやらトリステイン王国の守護聖獣として認定を受けていたシルゴルが王都の中に大きさ的に入れなかったし私としても正直遠慮したかった。

 

____

 

 

「シル、ゴル。お待たせ。」 

 

私の呼びかけに応じて青々とした芝生に横たえていたその巨体を二匹はゆっくりと持ち上げた…

雲一つ無い晴れ渡った空の下、吹き抜ける爽やかな風…

あの闘いの後で沢山のメイジの手で労いの意味を込められて丹念に磨き上げられた二匹の身体には一切の傷も汚れも存在しない。

 

劇的なタルブ戦役の勝利、その立役者として祭り上げられながらもあれからようやく戻って来れた学院敷地の外に作られた二匹の縄張りにシエスタを伴って改めて私がやって来たのは王宮からのシルゴルへの報償、その一部が届いたからだった。

 

山のような肉、穀物、肉、肉、魚、肉、肉、魚、肉、肉。

 

その総量はシエスタ曰くタルブ村だったら数年は何も心配なく暮らしていける量だとかで。

タルブと言えば領主のタルブ伯が戦死したらしくその一帯は王家直轄領となりその復興も直に進むらしい、私に今回の報奨として譲渡の話も上がったけれどそれは流石に私の方から辞退させて貰った。

 

 

姫…今は女王陛下が言うには残念な事だけど近い内にまたアルビオンと決着を付ける為にも戦争自体は続くらしい…様々な動きがある以上はっきりした事は分からないけれど…

それでも私達が勝ち取った一時の平和はまさに貴重な黄金の時間なんだろう…

 

 

「さぁ、ご飯の時間よ!!」

 

 

だから今だけは私は私の可愛い使い魔達を精々可愛がる事にしましょうか。




まるで最終回みたいだなー(棒)

これで第一部が完結と言う事で、きりの良い所まで書けましたしお気に入りも1000件突破で当初自分の中にあった目標をばっちり達成出来て嬉しく思います!!拙い作品ですが読んで下さった方々には格別な感謝を。


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覇種の使い魔G 

新章始まったり続編でたら取り敢えず『G』って付けとけばいいよってミヤーシタが言ってた。(ハナホジー)
今回はルイズにとって平和?な話
ゼル編は超ウルトラゆっくり待ってて下さいね。

コブラ装備一式実装はよ。


~ルイズside~

 

「虚無ですか?…私が?」

 

タルブでの闘いを終えてから数日、ようやく普段の生活(結構変化してるけど…)を取り戻した私がミスタ・コルベールとオールドオスマンからの呼び出しを受けたのはある日の突然だった。

 

「はい、私がフェニアのライブラリーで探し出した水の精霊の言った『リーヴスラシル』と『ガンダールブ』、その文献から導き出されたのは貴女の系統…もしくは潜在的な素質そういった物が虚無へと繋がっているという事です。」

 

「その文献はわしも確認したがコルベール君の考えに間違いは無かろう…君の才を今まで見いだせず辛い思いをさせてきた事を教師陣を代表してここで謝らせてくれ。ミス・ヴァリエール申し訳なかった。」

 

オールドオスマンに頭を下げられた事も驚く事だったけど、それよりも前に伝えられた私が虚無の担い手だって話…そんな馬鹿なって思うけど二人の目は冗談言ってるとは全然思えない。

 

「え?あの…」

 

「突然の話で混乱しているのはよく分かる…そしてこれからのなん話じゃが、少々不味い事になりそうなんじゃよ。」

 

頭が真っ白なままの私に構わずオールドオスマンが疲れた様子で話を進める…

 

「先日の件が無ければこの件は一先ず我々3人の内で話を納めて置いて期を見て王宮なり教会なりに伝えるべきと思っておったんじゃが…タルブ戦役のお陰で君の使い魔が始祖の御使いじゃと噂されとるんじゃよ。知っとるかね?」

 

知ってます…何せその流れで今トリステイン王城の屋根の上にはシルゴルの石像が向かい合う形で建築されてるんだから…

 

「で、じゃ…そんな君の使い魔の存在を知った教会が動かぬ訳が無い。そこで厄介なのがその噂がまさに真実である事なのじゃ、つまり君が望む望まぬ関わらず教会に祭り上げられる事になるじゃろう。」

 

「でも、あの子達が始祖の使い魔と同じルーンを持っていたからと言って私が虚無であるとは…」

「違うのかね?」

 

オールドオスマンのその返しに私は言葉を飲み込んでしまう…実際私にも分かっているのだ。

あの日以来私は何かを掴んだらしくコモンマジックが成功するようになって失敗魔法だった爆発もおぼろげではあるけれど意識的なコントロールが出来るようになってきた…

 

「…その沈黙こそが肯定じゃな。戸惑うのも分かるが我々も戸惑っておるしこの問題にどう対処すべきなのか分からんと言うのが正直な所じゃ。それでも何があろうと君がわしらにとって可愛い生徒である事には変わりは無い、いついかなる時でも君の味方であるという事だけは胸に留めておいて欲しい。」

 

そう話を締めくくったオールドオスマンとミスタ・コルベールは力になれ無い事を改めて謝ってきたけれど私は二人のその気持ちだけで十分だったし何より理解者、味方がいるという事で私の心はとても救われていた。

 

 

____________

 

「ルイズ、お久しぶりですね。」

 

今日私は王城にやって来ている…理由は言わずもながら先日の戦絡みの事である。あの時は色々ばたばたとして殆ど話が纏まらないまま私が学院に帰った事もあって今日は正式な登城要請あっての話だった。

ちなみに2匹は学院で留守番をしている…今まで一度もきちんと留守番を完遂した事が無い気がするけど今日はきっと大丈夫だろう…きっと大丈夫…

 

「お久しぶりで御座います陛下。」

 

「ルイズ、堅苦しいのはよして頂戴、貴女にだけは私は今まで通りに呼んで貰いたいのよ。」

 

困ったような表情で私にそう言った姫様、実際周囲から女王陛下と呼ばれ始めたのは最近だから馴れてないというのもあるんだろう。

 

「それでは失礼を致しまして、姫様の召喚により参りました。何かご用でしょうか?」

 

「えぇ、先日の件本当にありがとうございました。今日貴女を呼び出したのは貴女に恩賞をと…いえ、友人である貴女にこの様な姑息な駆け引きは逆に失礼ですね…率直に言いましょう。

貴女に確認をしておかねばならない事があります、貴女と貴女の使い魔達、彼等を今後のアルビオンに対するトリステインの戦力として捉えてもよろしいかしら?無論、財源としても武力としてもです…

あれから武官を中心とした方達やゲルマニアの方達と今後について話しましたがやはり全ての話は恥ずかしい話ですが貴方達の力ありきで進みました。」

 

姫様は王座に座ったまま顔を俯かせて杖の柄を強く握って言葉を紡ぐ…

 

「ミス・ヴァリエール、誤解をしないで頂きたいのですが陛下は貴女を戦争に巻き込むのを最後まで反対されておりました…しかし陛下お一人の意思を通し貴女を守り切るには…失礼ながら貴女はトリステインに希望を照らしすぎた。」

 

姫様を庇うような物言いでマザリーニ枢機卿も沈痛な表情を私に向けてくれる…それだけで私にはこの二人も私の事を真剣に案じているのだと感じれた。

 

「ルイズ、私を恨んでくれても構いません。しかしそれでも今トリステインには貴女の力が必要なのです。」

 

再び姫様が私を真っ直ぐに見つめる。その瞳はどこまでも強く真っ直ぐでだからこそ不安を無理矢理に押さえ込んでいるように見えた。

私自身先日オールドオスマンから話を聞いた時からこういう事になるかもと覚悟はしていた…だから私はそれを安心させられればと軽く笑って応える。

 

「勿論です姫様、ルイズ・フランソワーズは姫様の友達で王家の従僕。まして今は我がトリステインの国難、我が使い魔も虚無の系統もその為に始祖ブリミルが与え賜た物、断る理由など何処にありましょうか?」

 

「あぁ…ルイズ。貴女という人は…」

 

感極まった姫様は玉座から立ち上がると私に駆け寄って私を抱きしめる。基本的に会う度に交わされるやり取りだけどこれは私だけの役得だ。

 

「…ミス・ヴァリエール…君は今虚無の系統と言ったかね?」

 

と、そんな感動の場面に水を差したのは固まった表情で問い掛けて来たマザリーニ枢機卿。

 

「はい、つい先日発覚したのですが我が使い魔に与えられたルーンこそは始祖の使い魔の一角『リーヴスラシル』、故に私の系統も虚無、もしくはそれに連なる物であるかとオールドオスマンより伝えられました。王宮にはそのお話は…」

 

そこまで口に出して先日の学院長室での話を思い出す…この件はどちらかと言えば学院長達は隠しておこうという方針だったような…私はてっきり姫様や枢機卿辺りには話が伝わっててこういう話になってたのだと思い込んでいた。

 

「…聞いておりませんな…まぁ隠そうとするのも当然か。それよりもミス・ヴァリエールこそが本当の虚無?…そうなるとアンドバリの指輪で虚無を語るクロムウェルが…いや…しかし…それでは…だが…しかし…」

 

驚いたと思ったらなにかブツブツと呟きながら枢機卿は熟考の姿勢に入ってしまった。ミスタ・コルベール然りエレオノール姉様然りでああいう人は一度深く思考を巡らせると暫く帰って来なかったりする。

 

「陛下、申し訳御座いませんが考えを纏める為に少し執務室の方に下がらせて頂きます。」

 

「構いません、そもそも我々の友情を確かめる席に端からあなたが同席している事が無粋なのだと気が付いて欲しかったですわ。」

 

「…これは失礼を…それではこの邪魔者は失礼致します。」

 

相変わらず枢機卿に対してだけは口が厳しい姫様…それを気にした様子も無く枢機卿が謁見の間から退室する…

残っているのは私と姫様。それとずっと玉座の右後方に姿勢良く無言で立ち続けている兜で顔を隠した女の近衛兵だけ…

 

「陛下、私も席を外した方がよろしいでしょうか?」

 

その女性が姫様に問い掛ける。イメージ通り格好いいという雰囲気の似合うハスキーな声…

 

「いいえ、構いませんわエミット。貴女をルイズに紹介するのも今日の用件の一つですからね。」

 

「私にですか?」

 

「えぇ、貴女の今後を思えば優秀で信頼の置ける護衛を付けようと思うのは当然、以前のワルドの件があって人選は慎重にならざるを得ませんでしたが彼女なら大丈夫だと判断しました。以降は常に貴女の傍で貴女を守り続ける騎士となるでしょう。」

 

ようやく私から離れた姫様に代わってエミットと呼ばれた女性が私の目の前にやってくるとその兜を頭からゆっくりと持ち上げて素顔を晒した。

兜から零れ落ちたのは長く固そうな艶の無い雪のような白髪、琥珀をそのまま詰め込んだ様な美しい瞳…何より目を引くのは顔に走る雷の様な火傷の痕。年はミス・ロングビルと同じ位かしら?

 

「アルビオン王国が滅びた日、私の密書を狙った裏切り者のワルドを退け最初のトリステインの危機を救い、レコンキスタの野望とジェームズ王の最後の手紙を届けてくれたのが彼女で先日も戦場に現れたワルドが率いる竜騎士隊を蹴散らし尚且つ船を1隻墜としています。

本来なら我が国の魔法衛士隊の一翼を担って貰いたかったのですが本人にその意思が無かったので貴女に付ける人材とさせて貰いました。」

 

魔法衛士隊の隊長だったワルドを少なくとも二回も倒してるって…無茶苦茶強い人なんじゃ…

 

「エミット・ジーエフ・ド・ラ・ギュロスと申します。アルビオンから亡命致しまして爵位も家名も一度失っておりますので唯のエミットとお呼び下されば結構です。一応先日のタルブ戦役の功績からシュバリエを拝命致しました。」

 

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール…です…」

 

鷹みたいに鋭い目に気圧されて私の言葉尻がつい弱くなる…怖い。

 

「先日のタルブ戦、アルビオンの人間だった私にとってはあそここそが死に場所と強く心に決めていたのですが…何処かの誰かのお陰でトリステインが勝ち、死に場所を逃してしまいまして…そんな訳でご恩を返す意味も込めてルイズ様にお仕えさせて頂きます。」

 

「あっ、はい…よろしくお願いしますミス・エミット。」(そんな事言いながら人殺せそうな視線を向けないで!!怖い!!)

 

「ミスは必要ありません、エミットで結構です。」

 

ばっさりと強くそう言い切ったエミットに私は又しても得体の知れぬ苦手意識を抱いてしまう。

 

「それじゃあエミット、ルイズの事をよろしくね。ルイズ、エミットはアルビオンでも最高峰の風のスクウェアメイジです、上手くやって下さいね。」

 

そう言って必要以上に朗らかに微笑んだ姫様…風のスクウェアとはまた…そこまで考えて私は自分の中にある苦手意識の根幹に気が付いてしまった…雰囲気がカリンモードのお母様に似ているのだ。とっても…

この感じもしかして自分の近衛になる予定だったエミットが怖くて私に押しつけたとかじゃ…

 

「改めて、よろしくお願いしますルイズ様。」

 




ゴ~ルガ~♪フフフフーン♪
ア~ルガ~♪フフフフーン♪

  ~中略~

許される~♪筈も無い~♪ルイーズさんラーブー♪




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募集してないのにパーティーに入ってくる系地雷が増えてたけど又最近減った気がする件

みなさんお久しぶりです。明日から仕事なのに今週のFはイベント盛りだくさんでますます執筆出来なくて困ってるうどん(肉)です。
今後がくっと更新速度落ちますが勘弁してください。

シルゴルの巣を今後『領域』と呼称します。


~ルイズside~

 

「ロマリアからの使者ですか?」

 

姫様からエミットを預けられてから3日、その案件を持ってきたのはミス・ロングビルだった。

因みにエミットがミス・ロングビルに会った時は知り合いだったらしくマチルダと呼んでいた…詳しくは聞いていないけど色々あるのかも知れない。

 

「はい、シルとゴルの噂を聞いたロマリアからの調査団という話です。先触れが来たのがつい先程ですので直に到着するかと。

一応例のルーンの件はまだ伝わってはいないと思いますがトリステイン国内ではあの子達は始祖ブリミルが遣わした神獣扱いですからね、表向きにはそれに相応しいかどうかの認定という話ですが。

正直色々ときな臭い気がします…最低でも教会として認定するから寄付金を納めろといった要求もあるかも知れません。」

 

ミス・ロングビルがうんざりした表情で話す内容を聞いて私も思わず苦笑いを浮かべてしまう。

本意では無かったけれど私はもうトリステイン有数の個人資産家だ。故にスパルタ的に財政について知識を叩き込まれた…その中には賄賂や裏金といった知識も当然含まれていた、というよりも私がそう言った物に知らず知らず利用されない為にと言う事でそう言った事が中心だった。

その中でみんなが口を揃えて語っていたのが『光の国』と呼ばれるブリミル教の総本山のロマリア、そこの神官達のがめつさだった。ブリミルの威光を盾にされ異端の烙印を受ければ例えそれが王族とてハルケギニアでは生きてはいけない。

そんなある種の特権階級の人間が得るお金こそがなんやかんや理由を付けて貴族から徴収する寄付金なのだからミス・ロングビルの言った不安も当然だ。

 

「とはいえ、現在貴女達は正式にトリステイン王国から保護対象とされていますからそう無体な真似はされないと思いますけどね。」

 

「分かりました。」

 

今更だけど当たり前の如くミス・ロングビルも私が虚無だという事を知っていたりする。

 

 

その後暫くが経って昼を廻った頃、神官服を纏った一団が学院の職員の先導を受けて『領域』にやって来た。

 

「おぉっこれは素晴らしい。」

「何という神々しさだ…これは一考せねばなるまい。」

 

シルとゴルの姿を見て全員が驚きの声を上げる。

と、そんな中一団の先頭に一匹の白い風竜がふわりと舞い降りる。シルフィードよりも一回り大きい身体、一目で良い竜なんだと分かる…まぁ私の使い魔を前にしたら霞むけど。

そんな事を考えていると風竜の背中から一人の若い男が颯爽と飛び降りてきた。白い風竜に倣った礼装風の白い神官服、美麗な雰囲気を醸し出す金髪に甘いマスクはギーシュと一緒だけれどより洗練された感じ…一言で言えばイケメンだわ。

今日の話を聞いて見学に来ていた私の友人達の中から黄色い声が上がる…勿論その中には色ボケキュルケが入っていたんだけど…モンモランシー貴女は彼氏が隣に居るのにそれで良いの?

 

「初めまして、ミス・ヴァリエール…僕の名前はジュリオ、ジュリオ・チェザーレこの視察団の代表をヴィットーリオ猊下より任命された神官です。始祖に感謝しなくてはいけませんね、貴女の様な美しい女性に出会わせて下さった奇跡に。」

 

そう言っていきなり私の手に唇を落としてきたジュリオの手を思わず振り解く。

 

「わ、私は手を許した覚えは無いわっ!!」

 

「これは失礼。」

 

態とらしい位に笑って謝罪の為に腰を折るジュリオ。改めて見れば彼の切れ長の目は左右で色が違う月目で又それが彼の怪しげな魅力を引き立てていた。

 

「ジュリオ殿、この領域で不用意にミス・ヴァリエールを刺激しないで頂けますか?最悪の場合死者が複数出る事となりますので。」

 

私の傍に控えるエミットの言葉に周りのこっち側の全員がうんうんと深く頷く。私としてはこんな嫌な一体感を発揮して貰いたくない。

 

「それは君が杖を抜く…という訳では無さそうだね…」

 

言葉の途中で何かに気が付いてジュリオが表情を引き攣らせたので振り返ると私の直ぐ後ろで立ち上がったシルが珍しく牙を剥いてジュリオに威嚇していた。

きっと私の手にキスをしたジュリオに嫉妬したんだろう…可愛い奴め!!

でもそれに慌てているのは後ろの神官団の方達だけでもう表情を引き締めてジュリオ自身は落ち着いた様子でシルの事を真っ直ぐに見つめる。

そのままジュリオは暫くシルを観察するように視線を向けていたけれど満足したようにようやく視線を私に戻した。

 

「いやはや君の使い魔は凄いね、僕も何度か我が使い魔こそ始祖の御使いだと声高に叫ぶメイジとその使い魔を見てきたけど君の使い魔は格が違う…彼等の様な偽物じゃあ無い。本物だよ。」

 

ジュリオのその言葉に一斉に周りがざわめく、彼の言葉をそのまま受け取るならロマリアとしてシルゴルを始祖の使いと認定するという事なのだから…

 

「ジュリオ殿、そんな勝手に決めて良い事ではありませんぞ!!それもそんなあっさりと!?」

 

「この件については僕は猊下から直々に全権を預かってるんだけど?それとも君は納得出来ない?」

 

自分より明らかに年上の神官の言葉にそうあっさりと切り返すジュリオ、その内容からも神官が何も言い返せず引っ込んだ所から彼が普通の立場の人間じゃ無い事が覗えた…

 

「とは言え、あくまでも僕がこの場で認められるのは精々神獣認定位かな?それ以上ってなるとトリステイン国内だけじゃ無くてブリミル教全体に対する貢献次第って所だろうね?」

 

そう言ってバツが悪そうに軽く笑いながらこっそり私に見える様にエキューマークを指で作って見せるジュリオ…

 

(やっぱりそうなるのね…)

 

とはいえ予想は出来ていた事なので私も苦笑いで了承の意を伝える。ぶっちゃけてしまえば私としては認定なんてされなくても構わない。そもそもこの件もロマリアから言い出してきた話だと言う事を思えば私がお布施をする必要が無いはずだし。

まぁそれでも幾らかは献金しないと無用なトラブルが起きそうだし…ほんと困った物だわ…

 

 

 

~ジュリオside~

 

この話が僕の所に来たのは数日前、僕の主人…ロマリアの教皇にして虚無の担い手ヴィットーリオ様からだった。

僕の右手に宿るルーン『ヴィンダールブ』こそは始祖の使い魔の一角、あらゆる獣を使役する神の笛…その力を持って最近噂のトリステインの守護獣を見聞せよと言う事らしい。

 

 

そして今日、愛竜アズーロと幾人かの神官と共にトリステイン魔法学院を訪れ噂のミス・ヴァリエールにご挨拶をしたのだけれど…

 

 

「それは君が杖を抜く…」

 

護衛と思わしき女性の冷たい声、それだけで肝が冷やしながら必至で軽口を返そうとしてその背後の光景に一瞬喉が詰まった…

 

(何という使い魔だ…)

 

実際さっきまで伏せっているその巨体は見ていたし話にも聞いていたけれど…さっきのあの手への口づけ…まぁ多少驚かせたし無礼だったかも知れないけれど…その次の瞬間、銀の個体から僕へとぶつけられた敵意、僕の身体が竦まず体裁を何とか保てたのは本当に運が良かった。

 

同時に手袋に隠したヴィンダールブのルーンを発動させる。このルーンの力ならば本来なら例えそれが他人の使い魔でも一時的に使役する事が出来る。

例外としては韻竜の様な極めて高い知能や理性を持つ生物くらいだ。けれど目の前の使い魔シルがそれに該当するとは思えない…ルーンの効果を乗せた視線を合わせてじっくりと観察する…

 

(効果無し…か…)

 

こちらの様子を警戒しながら伺っていたミス・ヴァリエールへ視線を向ける…事前調査では魔法が失敗ばかりするという話だったけれど…これはもう間違いなく彼女がトリステインの虚無だという事を示している。

 

「いやはや君の使い魔は凄いね、僕も何度か我が使い魔こそ始祖の御使いだと声高に叫ぶメイジとその使い魔を見てきたけど君の使い魔は格が違う…彼等の様な偽物じゃあ無い。本物だよ。」

 

そう…始祖の使い魔ヴィンダールブの力を受け付けもせず、胸に刻まれているルーンは僕のヴィンダールブと同系統の形。状況から考えるに間違いなく彼等は『リーヴスラシル』

その使い魔がなぜか2匹であるとか色々気になる部分があるけれども基本的にロマリアにさえリーヴスラシルの伝承が残ってない以上は分からない…

 

僕の発言で周囲が騒がしくなると同時に半ば強引に付いて来た神官の一人が声を上げるけど気にしない。訳にも行かない…面倒だけどヴィットーリオ様の周りの枢機卿何かの口を塞ぐには必要な働きもある。

 

「とは言え、あくまでも僕がこの場で認められるのは精々神獣認定位かな?それ以上ってなるとトリステイン国内だけじゃ無くてブリミル教全体に対する貢献次第って所だろうね?」

 

自嘲気味に寄付金の催促をミス・ヴァリエールに行う。

 

(うわぁ…嫌そうな顔されたなぁ…まぁ当然か。)

 

僕も何かあったら神の威光を盾に寄付金をせびる今のロマリアに思う所はあるけれど今は許して欲しいと思う…

 

 

____________

 

「お帰りなさいジュリオ、どうでした?」

 

「はい、恐らく間違いなく彼女こそ虚無の担い手、そしてその使い魔はリーヴスラシルです。」

 

ロマリアに戻った僕を政務室で迎えたヴィットーリオ様へ報告を行うとヴィットーリオ様は満足そうに笑いながら頷いた。

 

「成る程。成る程。…そうなるとやはり神聖アルビオン帝国対トリステインとゲルマニア連合軍の闘いは一気に流れを変える事になりそうですね。」

 

「しかし、ミス・ヴァリエール自身は虚無魔法に目覚めた様子はありませんでしたけどね…」

 

僕のその意見にヴィットーリオ様はまたしても可笑しそうに笑う…

 

「フフフ…それはあまり関係ありませんよ。思い切った手を打ちましたよトリステインは…いやここはマザリーニ枢機卿はと言った方が正しいでしょうかね?」

 

そう言って机から取り出されたトリステインからの正式な書状、その内容を読み返しヴィットーリオ様は笑った。

 

 

 




この小説読んでモンハンフロンティア始めてみようかなって思った人、今ならポータブルセカンド位のプレイ内容は無料だよ。神ゲだからやってみよう。
G級に上がって気が付いたらその評価がクソゲに変わってるけどそこからが本番なんだ!!

それと分かってるだろうけど地雷行為は簡便な!

最も危険な罠、それは『地雷』
募集に乗じて仕掛けられたPTの闇に眠る殺し屋。
それは突然に剥ぎ取りを始め、ハットトリックを決めて来る。
メゼポルタは巨大な街
そこかしこで、ハチミツ欲しがる新人が目を覚ます。
次回『罠』
うどんも巨大な核地雷。
自爆、誘爆、ご用心!!


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外伝~烈種の冒険~天空の閃槍者

ゼル呼んだよ(棒)誰が呼ぶかなんて話はしてなかったからいいよね?
私は書く時は流れが頭に出来たら一気に書き上げてるので期間が空くとどうしても書くのが難しくなりますね。

内容と後書きをちょっと編集


その年、その運命の日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラヴァリエールは己の生涯の伴侶となる一人の使い魔を召喚したのだった。

 

 

「いてて…ん?…此処は一体何処だよ?」

 

ルイズの召喚に応じたのは盾と剣を持った一人の少年、ハルケギニアでは見る事の無い様な徹底的な機能性を求めた装束、それは『狩人』の世界に足を踏み入れしルーキーに与えられる『希望』。

それはホープシリーズと呼ばれる異世界の装備だ。

 

彼の名は『サイト』

 

元の世界で在籍するハンター協会、その教官からようやく一人前になったと認められ初めての独力での狩りへの出発の際、銀色の光というエラーによって何の因果か突然異世界に召喚された。

彼の視界に飛び込んで来たのは密林でも砂漠でも無ければ雪山でも無いレンガ造りの要塞じみた建築物に囲まれた平原という未知のフィールド、そして自らをサイト、つまりは自分の主人と名乗る桃色髪の美少女…

 

そして…

 

 

 

「ゼル…レウス…だと…?」

 

 

 

短い青色の髪の少女の傍に大人しく寄り添い、付き従っている白い鱗と甲殻を纏い全身にサファイアの様に青い結晶を纏った、サイトの世界に存在する神格化すらされている異形の飛竜…

 

それは通称『輝界竜』『白き天空の王者』『黒き飛竜と対を成す者』数多の二つ名を持つ正真正銘のモンスター

 

 

 

その年、トリステイン魔法学院には伝説として語り継がれる二つの使い魔が世界の壁を越えて現れたのだった…

 

 

__________

 

 

タバサは自分の呼び出した使い魔を一目見た時に確信していた。

 

(強い…否、強すぎる…)

 

一般的な風竜、火竜を一回り以上大きくした様な全長、前腕が進化した翼を持つ事から基本的に高い知能を持つ竜種(ドラゴン)では無くその亜種、いわゆる飛竜(ワイバーン)である事は察っする事が出来たがそれでも自分の使い魔のような飛竜をタバサは知らなかった。

全身を覆う白と青の美しいコントラストに対してルビーの様な赤い瞳は暗闇では残光を引きそうな輝きを放ち、青い結晶の爪は常に自分では理解出来ない何かが常に流動している。

 

「ちょっとタバサ!貴女の使い魔凄いじゃ無いっ、こんなに立派で美しいワイバーン私見た事無いわ!!」

 

手放しで自分の使い魔を褒めるキュルケにタバサはいつも通りの無表情を通すが内心では色々と思う所が多かった。

仮にではあるが、いっそ召喚されたのが風韻竜等であったなら普通の風竜としてその素性を隠す事である程度目立つ事を防げただろうかこの竜は大きすぎるその存在感を誤魔化しようが無い…

 

「名前は何にするの?もう決めた?」

 

「………」

 

キュルケの問いにタバサは無言で首を振る、そもこのワイバーンがどんな竜なのか分からない以上は良い名前など付けようが無い…まぁ自分の真の名前を捨てて生きているタバサにとって使い魔に良い名前を考えるというのも皮肉な話ではあったが…

 

 

 

「ゼル…レウス…だと?」

 

そんな中、ふと聞き慣れない少年の声が聞こえたタバサは何の気なしに声のした方へと視線を向けるとそこにはルイズの呼び出した使い魔らしき少年がいた。

召喚からの何が起きたのか分からないという呆然とした表情とは裏腹に、明確な驚異に対する脅えの視線は真っ直ぐタバサの使い魔に向けられている…そこに込められているのは既知の視線でもあった。

 

(ヴァリエールが呼び出した彼は…私の使い魔の事を知っている?)

 

 

これがタバサがルイズとその使い魔サイトに興味を抱いた最初の瞬間であった…

 

 

その後サイトを通じてタバサは己の使い魔がどんな存在かを聞き学び知っていった。

 

「火竜を狩った事があると言ったけど貴方はゼルに勝てる?」

 

それを通じてタバサがサイトに文字の読み書きを教えたり、病に伏せる自身の母の助けにならぬか?と異世界の薬等の知識の教えを請うたり…タバサには珍しく少ないながらも他人との交流を持ち始めるのだった。

 

「無茶言うな、凄腕のハンターが集まってようやく戦えるってモンスターなんだぜ。俺みたいな駆け出しハンターなんかじゃ死にに行くようなもんさ。」

 

これには偏に純朴で穏やかな性格でありながら、ルーキーではあるもののハンターとして命がけの極限の環境を何度も生き抜き闘ってきたサイトとタバサの相性が良かったと言うのもある。

 

 

その後、タバサはルイズとサイトを中心とした運命の歯車に巻き込まれるように使い魔『ゼル』と共に数多の事件に巻き込まれていく事になる。

彼等を救った事も、逆に救われた事も何度もあった…背中を預け己の命運を託すに値する友人を確かに得たタバサ。

 

フーケ事件…アルビオン事件…水の精霊事件…上げていけばキリが無いし、又タバサ自身周囲の友人達に知られる事無くゼルと共に母国ガリアから下される任務をその類い希な力と知恵でこなしていた。

凡そ1年にも満たないその短い期間はまさに濃密な時間であり、幾ら感情を殺して生きる事を誓ってきたタバサにとってもその胸に宿る者は確かにあった…

 

 

 

そんなタバサの元にある日ガリア王家からの使者、憎き父の仇にして母の心を壊し、あまつさえ人質とするジョセフ、その使い魔シェフィールドに言い渡された命令…それはサイトを足止めし虚無の担い手となったルイズの誘拐を援護せよという非情な物だった…

 

友情と恋心、母親との天秤に悩みに悩むタバサであったが母を救う為に友へと杖を向ける事を選んだ…選んだのだが…

 

 

「行くぜ!ゼルゥッ!!」

 

千人斬り、神の左手…あらゆる戦場をルイズを守る為に戦い続け、生き抜き強くなったサイト自身とガンダールブの力と神剣デルフリンガー、対する揺れ惑うタバサの心を映し出すようにまるで本来の力を発揮する事の無いゼルレウス…

その情けないゼルの闘い振りはギルドから弱個体と烙印を押されてしまうかのような物であった。

 

烈昂の気合いと共に繰り出されたサイトの斬撃がゼルの尾を一閃して半ばから斬り飛ばす…

 

結局迷いを抱いたままだったタバサとゼルレウスはルイズとサイトの必至の説得を前に任務の失敗と同時にその放棄を決める…

そうなれば何よりオルレアンの屋敷に眠る母をガリアの…ひいてはジョセフの魔の手から守らなくてはならない…

 

そして迷いを振り切った小さな主を背に乗せたゼルレウスは尾の損失などまるで無かったかのように空の王者として威風堂々と雲を切り裂いて空を駆けるのであった。

 

 

 

_______________

 

 

 

先程までは小雨が降り続ける曇天の空であったがゼルが雲を切り裂きオルレアンに舞い降りた事で雨雲は霧散し、切れ間から覗いた眩い太陽の光が雨に濡れた荒れ果てたオルレアンの庭園を明るく照らす…

 

其処には一人の人物がタバサ達を待っていたかのようにひっそりと佇んでいた。

 

「ほう…それが音に聞こえし『光の竜』か…成る程確かに、しかし解せないな?その竜、何故風の精霊の加護を持たぬ?」

 

「母様は何処!?」

 

母が眠る筈のオルレアンの屋敷の庭先でタバサを待っていたのは母でも無ければ執事でも無い、帽子を目深に被った長身細身の美男、ジョセフの側近である男、その正体はエルフ、ビダーシャルだった。

普段のタバサからは考えられないような激昂した怒声での問い掛けに一切の感情を表す事も無くエルフの男ビダーシャルは視線をゼルレウスに向けたまま応える。

 

「お前の母は今頃は東のアーハンブラ砦だ。そして私はそこにお前も連れて行けとジョセフに言われている。大人しく付いて来て貰えると…」

 

そこまで言ってビダーシャルの言葉は遮られた…タバサのありったけの精神力の込められたアイスストームが襲いかかったからだ。

しかし…

 

「…やはりこうなったか、こうなれば多少手荒く行くしかあるまい。」

 

「っ!!?」

 

タバサの魔法が強力であればある程、皮肉な事にタバサを襲った反撃も又強烈であった。

ビダーシャルが纏っているのは精霊魔法『カウンター』あらゆる攻撃を反射させる恐ろしい魔法。

その効果によってあっという間に進行方向を変えた氷の嵐に巻き込まれ、軽いタバサの身体が吹き飛ばされて背を強かに打ち付けたのは己の使い魔ゼルレウスの体だった…

 

グルル…と喉を鳴らし、血を流し身体を凍てつかせ倒れ伏した主人の顔をゼルが優しく舐め上げる。ただしその赤い瞳の視線は主を傷付けたビダーシャルを睨み付けたままだ。

ゼルレウスはタバサを優しくその場に置いて守るように前に出る…

 

「獣風情が手向かうか?私は争いを好まぬのだが…仕方あるまい。」

 

精霊の加護を持たぬ者など幾ら竜種であろうとエルフにとっては獣と同じだ。何ら驚異では無い。

ゼルレウスの敵意を受け、呆れながらもビダーシャルが何やら呪文を紡ぐと庭の木々が鋭い槍に石畳は石つぶてとなってゼルレウスに襲いかかる…が、木や石程度ではどれだけ鋭かろうがゼルレウスに傷を付けるなど出来よう筈も無い。これが一般的な竜種であったならば多少はダメージにもなっただろうが…

 

同時、ゼルレウスは踏み込みと共に一瞬にして中空に舞い上がると脚爪でビダーシャルを引き裂くように急降下を行った。それこそサイトと闘った時の様な府抜けた攻撃では無い、着地点そのものを容易く砕くような威力。

 

「ゼル駄目!!」

 

「無駄だ…」

 

タバサの悲鳴にも似た声とビダーシャルの嘲りの声と同時にゼルの青い脚爪が粉微塵に砕け散り足回りの皮膚が裂ける…

ビダーシャルのカウンターの効果がそのままゼルレウスに襲いかかったのだ…

それでもゼルの攻撃は止まらず今度はその鋭く強靱な顎がビダーシャルに襲いかかり…牙が肉を裂こうかというその寸前で再び砕け散るゼルレウスの牙、同時にやはり頭部へもカウンターのダメージが襲いかかったのか鱗が砕け血が噴き出す。

 

「…恐ろしい破壊力だな…だからこそ己を痛めつけるだけだというのが分からぬのか?」 

 

今度は薙ぎ払うように吐き出された極光とも呼べる火と雷の性質を持つ熱閃のブレスさえもカウンターによって反射されゼルレウスの甲殻を焼き、それならばと繰り出された馬鹿げた破壊力の突進さえもカウンターの前にはただただ無意味だった…

 

「…もういい…もう止めて…ゼル…」

 

牙は砕け、爪も折れ、尾を失い、まさに満身創痍のこの状況。杖を支えに何とか立ち上がろうとしているタバサにとっても己の相棒のその姿はまるで我が身を引き裂く様でとても黙って耐えれるようなモノでは無かった…

 

(化け物か…)

 

一方相対しているビダーシャルはその場から一歩も動いていない。まさに圧倒的優位であったが内心ではゼルレウスの持つその攻撃能力に内心で焦り、舌を巻いていた。

そもそも一撃一撃が桁外れの破壊力であるからこそゼルレウスの強靱な肉体にダメージが通るのだ…その威力は未だかつて破られた事の無いビダーシャルのカウンターでも油断は出来ない、仮にもう一歩、否半歩踏み込まれればそれはもう危険な領域だ。

 

(なによりあのワイバーンは何故一向に諦め様としない?あれだけの傷を負えば無駄と分かるはずだろうに…)

 

ビダーシャルの焦りは己が傷つく事を全く躊躇う事無く攻撃を続けるというゼルレウスの行動から不信感から徐々に大きくなる…何かが告げるのだ、このままでは不味いと…

 

 

再度の突進によって遂に翼爪までもが砕け散った事でここに来てダメージの蓄積が祟ったのか遂に足下がふらつき、倒れそうになったゼルレウスであったが何とか再び足を踏ん張り戦闘態勢を維持する…

全身の傷口から血と青い光の粒子を吹き出すその様は痛々しい事この上なかった…がその瞳は未だ輝きを衰えさせる事無くビダーシャルを捕らえて離さない。

 

「もう止めて!!無理だから!あなたは逃げて!!ゼル!!」

 

再び立ち上がったタバサのその声にゼルレウスはチラリと視線を送るとまるで何も心配するなと言うかの如く僅かに口元を歪ませた。笑ったのだ、確かに竜が。

 

その次の瞬間だった…

 

「何!?」

 

翼を広げ、天に向かって咆哮を上げたゼルの全身から強烈な閃光が迸る!

ビダーシャルが驚愕の声を上げたのも仕方が無い、目が眩む様な閃光の中でゼルレウスの砕けた爪、牙、欠けていた甲殻その全てが光の中、一瞬で再生を果たしていたのだ…

傷こそ癒えてはいない、しかしただ再生しただけで無く欠損した各部位、その全てがより強く、長く、固く…挙げ句切断されて欠損していた筈の尾の部分は、それを補うように断面から血しぶきの様に吹き出す青白い閃光がまるで尾を模すように存在していた。

 

この異世界の飛竜であるゼルレウスというモンスターには一つ、他のモンスターとは隔絶した特徴を持っている…それこそが『適応変化』である。

要は傷を負えばそれに対応した肉質を得、圧倒的防御能力と外敵に対する最適な攻撃手段を得るのである。

これらについての再生と形態変化はゼルレウスの生態としては当然の事ではあったのだが皮肉な事にタバサに召喚されてから今まで、ハルケギニアでゼルレウスにまともにダメージを与える事が出来るような外敵がいなかった以上その力が生かされなかったのは仕方が無かったのだ…

 

『グォォオオオオッ!!!』

 

ここからが本番だと言わんばかりのゼルレウスの強烈な咆哮にタバサもビダーシャルも思わず咄嗟に耳を塞いでしまう。如何にカウンターとて音を反射する様な代物では無いのだ。

そしてその瞬間に勝負が決まったのは仕方が無い、本来ゼルレウスなどの大型モンスターと闘うならば耳栓が必須なのだ。少なくともサイトならばそう理解している。

 

ゼルレウスが羽ばたいて宙に浮いた瞬間、掬い上げるように振るわれた尾…同時、その射線上にあった全てが超圧縮されプラズマ化する程の超高熱の体液に薙ぎ払われる…

そんな物を反射など出来よう筈も無く、否、本来であれば可能だったかも知れないが『カウンター』への『適応変化』を果たしたゼルレウスの前にそれは余りにも無力で、地面の膨張と爆発と共にいとも容易くビダーシャルの身体が消し炭となって消し飛ぶ…

 

タバサにしてみれば思わず耳と目を塞いでいて目を再び開いた時には全て終わっていた…

 

いや…なにも終わって等いない…

 

 

「アーハンブラ砦…そこに母様が…」

 

 

タバサの闘いは今ようやく本当の意味で始まったのだ。

 

__________

 

 

この後、運命に翻弄された人形の名を持つ薄幸の少女タバサは友人達の協力を経て数多くの困難を乗り越えて行く事となる…それはまぁまた別の話ではあるが…

 

その隣には生涯を通し、虚無の守り手として後世ハルケギニアに語り継がれる最強の戦士と共にその盟友、最強の飛竜として語り継がれる事になる『烈種』の使い魔が傍に控えていた…

 




『ゼルレウス』 塔の最上層に生息するリオレウス系統の飛竜。最大の特徴は全身の白い甲殻と青い結晶、ダメージを蓄積させるとその内容に応じて肉質や行動パターンを変質させる。レーザーやビーム弾を発射したりと機械的な動きを見せる為メカレウス等と揶揄される事も。
武器属性は『光』火と雷の複合属性である。

スキル『ガンダールブ』
豪放+3、一閃+3、真打+3、剣術+2、業物+2、武器裁き、ランナー、絆、生命力+3、ブチギレ、の複合スキル。但しその他のスキルを発動させる事は不可能。

ゼルの尻尾はサイトが加工してランスとして使う事になりましたとさ。



ジョセフ「この無敵戦艦シャルル号に勝てるかな~?」

ゼル「下からドーーーン!!!!」


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クビコロコロ

お久しぶりです。今回は一切ルイズ出ません。アンアン話です。というかこの話で殆どアルビオン戦争終わった感じがします。ぶっちゃけまともに戦争するよりはロマリア買収してしまったほうがらしいかなと思って・・・

尚うどんはインフルBにかかったもよう。


~アンリエッタside~

 

「陛下!これは一体どういう事ですかな、虚無を語るばかりか…これ程の強権を断行なさるなど!!」

 

そう言って議席から声高に声を上げたのは高等法院長のリッシュモン卿、私が幼い頃からトリステインの重鎮の一角として国政に携わってきた男。

今日この日、王城の一室である大会議室にてトリステイン中の名だたる大貴族や各要職に就いている者を集めて会議が行われている。

会議と言っても明確な議題があると言うよりは私とマザリーニ、そしてルイズの父親という最大の理由からヴァリエール公とで行ったとある策における事後報告の様な物ではありますが。

 

「どういう事も何もありません、既にロマリアには書簡を送りロマリアからも…正確には教皇猊下殿から色好い返答を頂いています。確かにこれ程の案件を内密に進めた事に不満を抱く諸侯もおありでしょうがそれはそれ程の案件であったからでもあります。」

 

そう、それはルイズが虚無であるという事が判明した後でマザリーニから持ちかけられたアルビオンに対する策の話。至極単純な話結局はこの戦争の根幹もブリミル教にある、それならばブリミル教の総本山ロマリアを巻き込んで味方に付ければ良いのだと…

トリステインとしてロマリアに、もっと正式に言えばヴィットーリオ殿に送った書簡に書かれたのは…

 

『ルイズがまだ覚醒はしていないが虚無の系統の後継者である事。』

 

『呼び出された使い魔がリーヴスラシルという始祖の使い魔の一角である事』

 

『ロマリアが仮にそれを認めずともトリステインは独自にそれを正式に認め、保護するものである事。』

 

『アルビオン皇帝オリヴァー・クロムウェルが扱うと言われている虚無が水の精霊から盗み出したアンドバリの指輪の効果である事』

 

 

『また彼の人物は虚無を語りブリミルの名を汚し、始祖の血に刃を向けた背教者であり、トリステインの女王として破門認定を申請する事。』

 

『又、それらを認めて貰えるならば始祖の使い魔の恩恵がロマリアにも降り注ぐであろう事。』

 

『アンドバリの指輪の力で各国の上層部に少なくないクロムウェルの傀儡が存在している可能性が高く、この件を強く反対する人物は操られている可能性を考えて欲しい事。』

 

『これらについてはラグドリアン湖の水の精霊からもたらされた情報である以上、その信憑性は限りなく高い物であるという事。』

 

これを読まれになったヴィットーリオ殿から直ぐに返って来たのはそれらをお認めになるという此方が驚く程に色好い返事でした。

但しその条件の一端としていずれルイズには虚無の後継者としてその習得の為にロマリアに巫女として留学して貰い、その使い魔の強大な力でいずれ聖地の奪還、つまりは聖戦の際に尽力して貰うという事。

 

これらの密約は直ぐに公爵を通してルイズへと伝わり、ルイズからもその旨の了承を受け取る事が出来た…まぁ私達としてはルイズをロマリアに譲るつもりはありませんからその辺はいずれ…

 

 

 

 

「しかし虚無の名を語るというのは大変な事で御座います、周辺諸国が黙ってはいますまい!」

 

リッシュモン卿の腹心であるアーランド卿も今回の件に関する不平の声を上げる。まぁその意見は十分予想出来てはいました…が

 

「それを言うならば既にレコンキスタという前例がある以上は問題無いでしょう…加えてあちらは偽物、こちらは本物です。」

 

「それが本当だというのが」

 

「貴公は水の精霊が嘘、憶測を語るとお思いか?」

 

アーランド卿の言葉を遮りながらはっきりと言って差し上げると流石に言葉に詰まって押し黙る…水の精霊の言葉とはもうそれだけで絶対の真実に違いないのですから。

 

「しかし、真実だからといってそれが必ずしも国として正しいという訳では御座いますまい。今回の件はお若い陛下の勇み足…いや暴走ですな。特に皇帝への破門要求等最たる物、これではアルビオンとの関係が悪化するばかり、加えて先程申した様に周辺国とも摩擦が生じるでしょう。大方マザリーニ殿の案に乗せられたと言った所でしょうが姫様にはまだ政治は早いのではありませんかな?」

 

リッシュモン卿のその言葉に頷いたり、賛同の声を上げる貴族も多数いる…まぁ確かに一理あるのでしょう。しかしそんな彼等に一喝を与えて下さる人物が私の隣にはいる。

 

「無礼者!!陛下に対して何たる口の利き方だ!既に陛下は正式な女王、それを未熟な小娘扱いとは何事だ!」

 

マザリーニの一喝に会議室が静まり返る…そしてその言葉が染み渡ったのを確認する様に周囲を見回してマザリーニは続ける。

 

「リッシュモン殿、確かに草案こそ私が出したがそれ等をよりトリステインの為に纏め上げられたのもまた陛下なのだ。」

 

「しかし…」

 

まだ何かを言いつのろうとしたリッシュモン卿に私は…

 

「リッシュモン卿、貴方は先程から周辺諸国、取り分けレコンキスタへの配慮とやらに随分こだわりますね?彼等は我々に杖を向ける敵なのですよ?それも卑怯にも人々を操るわ騙し討ち、挙げ句始祖の名を騙る…何処かに一片の配慮をする余地があるのですか?

 

それとも…もしかしたら貴方は操られているのかもしれませんね。」

 

私の発言に会場中がザワリと騒ぎ出す。

 

「確かにトリステインの利を考えれば良い策ではありますな。そしてリッシュモン殿の発言は明らかにそれを阻害しようという意図がありましたが…」

 

誰かの呟く様な言葉に会場中の視線がリッシュモン卿に殺到する。

 

「私としても本意ではありませんが…リッシュモン卿、一度貴方の身の潔白を証明して頂けますか?」

 

「私をお疑いですか!?…長くトリステインに仕えてきてこれ程の屈辱は初めてですぞ!!」

 

顔を赤くして怒りを露わにするリッシュモン卿、そしてそれに賛同するか諫めようとする周囲…

 

「エミットも申していましたがレコンキスタの最も恐ろしいのは裏切る筈の無い人物を次々と裏切らせる事です。ワルドの前例がある以上、私としても忠臣の誉れ高い貴方を疑う事はまさに断腸の思い…逆に言えば私はそれだけ貴方に信を置いているのです。」

 

「ぐ…そこまで仰られてお断りする事は出来ますまい…」

 

苦々しい表情でそう仰るリッシュモン卿。

 

「では、銃士隊に屋敷の捜査に向かわせます。捜査が完了するまでは申し訳ありませんがリッシュモン卿には城に滞在して頂きます。」

 

「は?私が操られていないかだと言うのに何故屋敷にまで…?」

 

明らかな動揺を隠す事も出来ずに立ち上がったリッシュモン卿…

 

「貴方は先程『身の潔白の証明』をして貰う事に納得して下さいましたよね?まさか今更それを断ると?」

 

勿論私だって知っている…大抵の貴族には知られたら困る隠し事の一つ二つ位は必ずある物でしょう。今回の件もリッシュモン卿がここまでアルビオンへの配慮とやらを訴えたからこそでもあります。

そんな調子でリッシュモン卿に退席して頂くと何名かのリッシュモン卿の所謂派閥

の貴族が顔色を青くしていますが…まぁ色々とあるのでしょう…色々と。

 

 

「ところでヴァリエール公爵殿、虚無に目覚められたのは三女殿とお聞きしましたが一つお伺いしたい。」

 

ここで今まで沈黙を貫いていたヴァリエール公に一人の貴族が問い掛ける。それはグラモン元帥だった。

 

「何かな?」

 

「公爵家は始祖の血を引く名家、其処に加えて今回の件です。もし仮に公爵家に叛意があればそれは最早国が割れる事態となりましょう。故にその辺りを今この場で聞かせて頂きたい。」

 

無礼な。普段の公爵ならば、相手が互いをよく知るグラモン元帥でなければそう激昂していても可笑しくない質問にヴァリエール公爵は余裕の笑みを浮かべて応える。

 

「我がヴァリエール家は王家へ忠誠を誓っている。叛意等持とう筈も無い。娘のルイズにしてもそれは同じだ。むしろ陛下には虚無が忠誠を誓う程の人物であると周辺に知らしめれば箔が付くと喜んでいる位だ。」

 

「それは重畳ですな。」

 

そのどこか演技じみたやり取りの後に各諸侯へのある程度の細かい説明で今回の説明は閉幕となった…リッシュモン卿の事もあってかあれから異を唱える者が極端に減った事が大きかったのかも知れない。

 

 

この数日の後、予想通りというか何というか…リッシュモンが関わった犯罪の証拠が出るわ出るわでマザリーニと一緒に頭を痛める事になってしまった。

レコンキスタへの内通以外にも国内での汚職や癒着、加えて何でもルイズの使い魔のお陰で色々と大損をしていたらしくその復讐にルイズにも手を出す事を画策していたらしい…

 

呆れて物も言えない…

 

まぁ取り敢えず死刑の執行はアニエスにお願いしましょう。

 




『コロコロ』 新モンスターのヴァルサブロスのキャッチフレーズで丸いサボテンを転がす事の意。持ってるだけでえぐいスリップダメージが入るがそれをヴァルサブロスに奪われたらそれはそれで大変な事になる。



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ネコタクの降車の時の荒さは異常。

お久しぶりです。今回はほのぼの?日常回です。

更新遅くてほんま申し訳ない。


それはある日の出来事…

 

それぞれの日常にしてそれぞれの非日常の幕間。

 

 

~キュルケside~

 

「へー、中々…思い付きで言ってみたけど見た感じ、結構良い感じじゃ無い。」

 

「当然よ、当たり前でしょ。今流行のモデルの最新型の馬車よ。」

 

私の前で胸を張るルイズ、今私達の目の前には大型の馬車の架台が鎮座している。架台からは長くて太くて丈夫なロープが6本伸びている。それが伸びている先には当然の如く存在しているルイズの使い魔、ゴルの姿があった。因みにシルは領域のど真ん中で相変わらずボーっとしてる…

私の隣にはいつもの如くタバサが居る。とは言ってもいつもの如く本を読んでるけど…

 

「でもゴルとシルの引く馬車…この場合魚車かしら?って自分で言うのも何だけどグッドアイディアでしょ?ラグドリアンに行った時の鞍だとどうしても一人乗りですものね。」

 

そう、この魚車というアイディアを出したのは他でも無い私で適当な架台(とは言ってもかなり質の良い物だけど)を手配して今日それを試してみようという話なのだ。

 

「まぁね、あれはあれで乗ってて楽しかったけど流石にアレは優雅とは言えないものね。取り敢えず動かしてみましょう。」

 

そう言ってルイズが自ら御者席に乗り込んで手綱を握る。

 

「お待ち下さい、ルイズ様。わざわざ貴女が手綱を握らずとも他の者に任せればよろしいではありませんか。」

 

最近ルイズのお付きになったミス・エミットが不服というよりは心配そうに声をかけるけどルイズは苦笑いを浮かべながら首を横に振るう。

 

「この子達の手綱なんて他に誰が握れるって言うのよ。そりゃあ今は居ないけどこの子達に馴れてるシエスタなんかは任せられるかも知れないけどいきなりは無茶ってものよ。それとも貴女がやる?」

 

「無論私としては望む所ですがそれは先程ルイズ様が拒否なされたではありませんか…」

 

「だって貴女、馬乗るの滅茶苦茶下手じゃ無い…」

 

「………」

 

ルイズの言葉にミス・エミットが難しい顔で黙り込むのを私は内心笑いを堪えながら横目で眺める。雷の魔法に特化しているこの人は驚くべき事に何もしていなくても微力な雷を纏っているそうだ。でもその影響で基本的に動物に嫌われているらしく、馬に乗れないそうでその事で時々へこんでいるらしい。ミス・ロングビルの話だと昔ネコを撫でようとして引っかかれてマジ泣きしたらしい…

 

「まぁまぁ、ミス・エミット、実際の所ミス・ヴァリエールは乗馬の腕も優れていますし以前にも彼等を乗りこなしています。それにおいそれと虚無の使い魔の手綱を握る事が出来る人間は居ませんぞ。である以上他に選択肢が無いというのも事実です。」

 

立ち会いのミスタ・コルベールの言う通り、私達が前にシルゴルの背中に乗っていた時と今じゃあ立場がすっかり変わっているのよね。

今じゃあ始祖の使い魔と言う事で鱗の値段も高騰しまくっていて鱗を使った装飾品をはじめとした品々は各国でとんでも無い値段が付きつつあるらしい。鋳造加工して作られた金、銀食器なんかは特に人気で私もお父様から何とか手に入らないかって聞かれた位だし…

最高級品だけれどワイングラス一個で5000エキューって食器フルセットで揃えられる値段じゃ無いわよ…

 

私の思考が逸れている間になんやかんやでルイズが手綱を引いて声を上げるとゆっくりと立ち上がったゴルが一歩一歩、歩を進めて魚車がそれにあわせて前進していく。思わずそれを眺めているその場の全員から驚嘆の声が漏れる。

ルイズも予想していたよりも良い手応えを感じているのかしら、御者台で両手を振り上げ、足を伸ばして全身で喜びを表しているわ。

 

「よーし、良い子ね。それじゃあもうちょっとスピード出してみましょうか!」

 

馬が歩いてるのとそう大差ない速度で進んでいた魚車だったけどルイズがそう声を上げて手綱を振り上げた瞬間だったわ…

 

先に言い訳をさせて貰えば私は悪くない!私はあくまでアイディアを出しただけであって架台を用意したのはルイズだし、それをしっかり補強したり細かい道具を調整したのはミスタ・コルベールだし、更に言うなら肝心のゴルを操ってるのはルイズ本人なんだから…私は悪くない。

 

ルイズの指示通りに速度を上げようとしたゴルだったけれど、そもそもゴルが速度を上げるとなると当然歩きじゃあ無くなる訳ね。

腹這いの体勢で体を素早くくねらせて、全速力の馬以上の速度で地面を滑る様にゴルの体が地面を進む…当然ロープで繋がれたルイズの乗る架台を引きずって。

 

「…!!ちょっ…ゴル、ストップストップよ!!」

 

その速度たるや…ルイズの想像以上だったんでしょうね…慌てたルイズの命令にその場で即座に停止したゴルは本当に主人の命令に忠実な使い魔の鏡だとは私も思う…思うけども…

 

 

『あ…』

 

全員の唖然とした声が咄嗟に口から溢れる…

 

急停止したゴルに向かって一直線にしかも高速で突っ込む架台…さらに運が悪い事に地面から飛び出していた大きめな石に丁度車輪の一つが乗り上げる…

するとどうなるか?当然魚車そのものが一瞬の内に大砲の弾と化して錐揉み状になりながらゴルの体、具体的に言えば尾ひれの辺りに突っ込んでいく。

 

当然その場に居た私達メイジは一斉に杖を手にしてレビテーションなりの魔法を使おうとしたのだけれど…まぁ幾らこの場に居るのがトライアングルとスクウェアの凄腕ばっかりでも無理なものは無理な訳で…間に合う訳が無い。

 

 

『ガッシャアァァァンッッ!!!!!!!』

 

派手な音を響かせてゴルの尻尾に突っ込んだ魚車のボディが粉々に砕け散りながらバラバラと落ちていく、巨大な車輪が回転しながら地面に落ちるとそのまま慣性に従って転がっていく…

 

『ルイズ(様)!!』

 

私達が目を見開いて唖然としている中で破片と共に中空に放り出されたルイズは自分でも状況が分かっていないんでしょう…目をパチクリさせながらそのまま10メイル以上前方に投げ出されると無防備な体勢のまま地面に叩き付けられる。

それで止まる事も無く、一度跳ね3メイル程吹き飛ぶと更に2メイル程転がってそのまま俯せで倒れたままピクリとも動かない…

 

それを見ていた私の全身から血の気が一気に引いた…まるで体が凍り付いた様に動かなかった私の直ぐ横でタバサ、ミスタ・コルベール、ミス・エミットの三人が殆ど同時にルイズの元に駆けだしていた…

それを見て私も半ば反射的に僅かに振るえている足を無理矢理に動かしてルイズが倒れている傍に駆けだしていた…咄嗟の事だけど私はここで動き出せた自分を褒めてあげたい。そうできていなかったら恐らく私は自分自身を許す事が出来なかったでしょう…

 

 

 

「ルイズ様!!」

 

流石というか何というか一番にルイズの元に辿り着いたミス・エミットがルイズに声をかけた瞬間、私は又しても目を見開いて驚かされる事になったわ。

 

「!??」

 

だって普通に考えて死んでもおかしくない勢いで吹き飛んだルイズがまるで何でも無い様に普通に起き上がって来たのだから…実際遠目から見たら全然怪我も見当たらないし骨が折れてるなんて事も無い…

 

「あ~…びっくりした…これは正直失敗だったわね。やっぱりキュルケのアイディアは駄目ね。」

 

服に付いた土汚れを手で払い落としながら立ち上がったルイズはそのままゴルに近寄ると突き出した指をブンブン振りながらゴルにさっきの事を叱り付けているけど剰りの事に頭の中が真っ白になっている私の耳にはその内容が入ってくる事は一切無かったわ。

 

「ちょっとルイズ!貴女平気なの!?あんな勢いで叩き付けられたのよ!?」

 

私の問い掛けにゴルを叱っていたルイズが私に振り返る…その不思議そうな表情の姿はやっぱり少し土に汚れているだけだった…

 

「大げさねぇ。」

 

「大げさな訳ないでしょう!!!馬車が粉々よ!!私は!あんたが死んじゃった…かと…」

 

「えっ?」

 

そこまで私が口にしてルイズも自分が乗っていた魚車の成れの果てを見て絶句している…私としてもルイズの気がそっちに向いてくれて助かった…今私の喉はどうしようも無く熱くて頬が引き攣っている…つまり泣きそうだからである。

 

「ミス・ヴァリエール…体に異常はありませんか?念のため直ぐに医務室に向かいましょう。」

 

「え?あ…はぁ…きゃっ、ちょっとエミット!?」

 

ミスタ・コルベールの言葉に戸惑っている様なルイズをミス・エミットが無言で後ろから担ぎ上げて学院の方に向かってずんずんと進んでいく…

 

何にせよルイズが無事で良かった…

 

「………」

 

ふと隣を見ればタバサが難しい表情で何かを考えている。

 

「どうしたのタバサ?」

 

「…明らかに異常」

 

ルイズの事でしょうけどある意味で今回の件で私はあの子が『虚無』の担い手なんだと言う事の一端を見た気がした…コモンマジックこそ使える様になったみたいだけど虚無らしい魔法が使えないルイズ。さっきの奇跡みたいな光景はタバサにしても色々思う所があるんでしょう…

 

「…そう言えばタルブ戦役以来なのよね…」

 

思わず口をついて出た言葉…より正確に言えば『ルイズが一度死んでから』だけど私はそれは正直言葉にはしたくない…

 

 

「…虚無って一体何なのかしらね?」

 

私の空に投げかけた様な問い掛けに、勿論私の無口な親友は応えてはくれなかったけど多分タバサなりに私と同じ事を考えているんだろうなと思った。

 

 

 

 

-------------

 

この数日後、様々な検査が行われルイズの身体について驚くべき事実が発覚するのだった…

 

 

 

余談だけどルイズとミスタ・コルベールの手によって魚車は改良に改良が加えられて実用化が図られたのだけど…正直私は乗りたいとは思わない。

 

 




アタリハンテイ力学的に崩れる瓦礫に巻き込まれたらダメージを受ける可能性も微レ存ですがその辺はガバガバ設定で行かせて下さい。


魔法学院での旅が終わる。
振り返れば遠ざかる緑の地獄。
友よさらば、薄れ行く意識の底に、仁王立つ母は修羅像、耳に残る叫喚、目に焼き付く風。
実家への帰宅が始まる。帰宅と呼ぶにはあまりに厳しく、あまりに怖い。
過去(トラウマ)に向かってのオデュッセイ。

次回『暗転』

ルイズは実家に向かう。


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引退ハンター特有のふらっと里帰り

俺はハンターを止めたぞジョジョーーーーーーっ!!!!


そんな訳で久しぶりにログインした記念に久々の更新をば。

かつてのギルドは残滓を残すのみ、かつての武具は最早時代遅れの遺物となり、私のPSはかつて恐れられた地雷ハンターの如くなり。


ならば私は敢えて言おう




「ハチミツ下さい」


と 


それはコルベールを中心にルイズ達がシルゴルが引く馬車(魚車)の繰り返されるトライアンドエラーによる整備と改良を施し、遂に実用段階に持ち込めた後のある日の事だった。

 

「…おチビ、貴女いい加減そろそろ一度実家に帰るわよ。」

 

時は秋を迎え学園は長期休暇に入ろうとしていた。

因みにアルビオンとトリステインの戦争はロマリアからのクロムウェル一派に対する破門通牒によって逆徒レコンキスタ対トリステイン、ゲルマニア、ガリア、ロマリアという様相へと既に変化していた。無論各国にそれぞれ思惑がある以上対外的にはであるがと注釈させてもらうが…

 

故に真綿で首を絞める様にレコンキスタを責め立てている現状、現在のトリステイン魔法学園は徴兵なども無く実に平和な物である。

そんな中、再び学園へと何の前触れも無く多数の家臣団を引き連れて訪れたエレオノールが腕を組んだまま不機嫌そうにシルゴルと戯れていたルイズをじっとりと睨み付けながらそう告げた。

 

「え?実家にですか?」

 

 

「そうよ、貴女手紙ではやり取りはしてても未だに春の使い魔召喚以来領地に戻ってなければお父様達に会ってもいないじゃない。いい加減私の帰省に会わせて連れ帰れって私に手紙が来たのよ。まぁ、呼び出した使い魔が使い魔だったから容易に学園を離れられないっていう事情は私にも分かるしほら例の…虚無の件とかもあって色々難しかったんでしょうけどそれでもそろそろ無理って訳じゃあ無いでしょう?」

 

エレオノールの言葉にルイズは顎に手を当てて暫く考え込むがどうするかは直ぐに決まった。

もう二匹の使い魔達の存在は世間に広く知れ渡っているし二匹を伴った旅もラグドリアン湖の一件で経験済みである。

第一そもそも実家に帰ることを拒む理由も無ければエレオノールがわざわざ旅支度を調えてルイズを捕まえに来ているのだからそこから逃げることは出来ないのであった。

 

 

「分かりました。ゴル、シル、準備が整い次第出掛ける…いえ、凱旋するわよ、我が麗しのヴァリエール領へ!!」

 

 

懐かしき故郷、覗うことが叶わぬままその方角へと視線を向けながらルイズは自信に満ちあふれた笑みを溢した。

 

 

 

ルイズside

 

 

ヴァリエール領までの街道を大勢の人馬が進む、一糸乱れぬ大地を踏みならす靴と蹄そして車輪の音がひたすらに続く。

 

それと一際大きなのっしのっしとお腹に響く地響きのような音が二つ。

 

その集団の丁度中心を進むのはシルとゴルが引く改良に改良を重ねた私の魚車、因みに御者を務めるのは姉様に半ば拉致同然に連れてこられたガチガチに緊張しているシエスタだったりする。実際既に二匹と私の専属的立場にいつの間にか定着したシエスタが居ないと私も困るし。

御者に関しては我こそはって立候補してきたベテランの御者が何人かいたけれど彼等が私の使い魔を御することは確実に不可能なのはわかりきっている。私以外だとシエスタでさえ毎日のスキンシップがあって尚且つ私が二匹の近くにいてようやくなんだから絶対無理だわ。風竜、火竜を乗りこなした経験があるという話なんて正直だからどうしたのよって話だわ…

 

 

そんな私は今ヴァリエール家へ向かう魚車の中で向かい合わせに座ったエレオノール姉様と色々な話を交わしている。

その主な内容は当たり前の事だけどシルゴルの事、そしてあの時から私の身体に起きた変化について…

 

「つまり明確な敵意、ないしは傷付けようという意思が伴わない現象では貴女が傷を負うことは無いと?」

 

「はい。様々な実験を行った結果恐らくはそうとしか…これはオールド・オスマンもミスタ・コルベールも同じ見解です。ですから痛みは無いんでしゅが…ひょっ…とねえしゃま…」

 

私の身体に起きた変化の内容を聞いたエレオノール姉様はいつもの様に一頻り私の頬をグイグイと抓ってから溜息を一つ漏らすと額に手を当てて眉間に皺を寄せる。

 

「ハァ…なんかもう色々アレだけどそういう物だと割り切らないといけないのよね…それにしても安全度は高いんでしょうけどこれまた微妙な条件ね。本当に危険な状況だと意味が無いだなんて。」

 

エレオノール姉様の言葉に私も思わず苦笑いが溢れる。それもこれも私の秘密を知っている人達が口を揃えて同じ様な感想を漏らすから。

実際学園の塔から飛び降りても無傷だった私だけどみんなに色々手伝ってもらって発覚した『相手側の敵意の有無』という簡単な条件で普通に傷を負ってしまうのだ。

本当に危険な敵との戦いにおいて本当に全く役に立たないなんて我がことながら意味が分からない不死身っぷりだわ。

まぁそれでも秘薬や薬草を使った際の回復効果が尋常じゃない効果を発揮する様になったのはありがたいし…最悪死んでもシルかゴルがいる限り多分私は生き返れると思う。

 

まぁそれは試したくはないけど・・・

 

 

「えーと、それと身に付ける物の重さを感じなくなったのね?これもまた微妙な条件ね。」

 

「正確に言えば両手で物を持つと途端にそれを重いと感じます。それが例え空の籠でも水で満たされた甕でも同じ様な重さだと感じます。」

 

私の注釈にエレオノール姉様は今度は両手で頭を挟むと呻き声を上げながら俯いてしまった。

分かります…だって同じ様な反応をみんなしてきたんですもの。我が身の事ながら本当に意味が分からない…

それでも「………いっそ解剖…」だの物騒な事をブツブツ呟くのは辞めて頂けますか姉様?

 

 

「何にせよエレオノール様、何が起ころうとルイズ様は私が命に替えましても御守り致しますのでどうかご安心を。」

 

私の隣に座るエミットがいつもの様に生真面目な声色で静かにそういう。因みに私の護衛である彼女は今は従者の一人として同行している。

 

「えぇ、頼むわねエミット。」

 

この短い時間ですっかり憔悴してしまったエレオノール姉様が力無く顔を持ち上げる。

 

まぁ他にもやたらと食事量が増えた事やスピードがやたらと速くなったんだけどタバサよりちょっと多く食べて食べ終わるのが早いだけだから普通よね?と言うか普通の筈だわ!!

あの時のタバサの絶望に打ちひしがれた様な私を見るあの表情は今でも忘れられない…

 

 

そんなこんなでヴァリエール領までの道中の私はエレオノール姉様からの質問攻めに会い続けたわけだけど道中思いも拠らぬタイミングで私は嬉しい再会をすることになった。

 

 

「ルイズ!!」

 

「小姉様っ!!」

 

ヴァリエール領のとある村落で歓迎を受けて出発した私達だったけれども偶然にもラ・フォンティーヌから実家に向かっていた小姉様が私達の魚車を発見したらしく私達の元に駆けつけてくれたのだ。

久しぶりに会う小姉様は私を強く抱きしめてくれ、私も嬉しくてつい小姉様の胸に顔を埋める様に抱きつく。家族の中でもこんな事が出来るのは小姉様だけ。お母様もエレオノール姉様も残念な事に私も、物理的に不可能なのだから…

 

「手紙や噂では知っていたけれど貴女の使い魔は凄いのね。遠くからでも一目見て直ぐに分かったわ。」

 

小姉様は私を抱きしめたままおかしそうに柔らかく笑う。私が大好きな小姉様の笑顔だわ。

 

「はいっ、自慢の使い魔です!!」

 

「…おチビ、随分私とカトレアでは再会の時のリアクションが違うわね?カトレアも、嬉しいのは分かるけどそれ位にして離れなさい。はしたないわよ。」

 

「はーい、エレオノール姉様。」

 

拗ねた様なエレオノール姉様の態度に対して茶化した様に子供みたいな返事をして私を解放した小姉様は扉を軽く開いて走る魚車からひょいと半身を乗り出すとずんずんと歩を進めるゴルとシルを不思議そうに暫く見つめる。

 

「ねぇ…カトレアから見てあの使い魔はどう?率直な意見が聞きたいわ。」

 

そういえば昔から身体が弱かった小姉様は昔からその慰みの一環に沢山の動物を飼っていてその動物たちの言葉が分かるというか意思の疎通が出来るんだったわね…

 

「小姉様、もしかしてシルとゴルが何を考えているかとか分かるんですか?」

 

もしそうであればそれは素敵なことだと…そう問うた私に対して小姉様はゆっくりと首を横に振りながらその視線はずっと二匹に向けられたまま私に静かに応える。

 

「…うーん…なんて言えば良いのかしらね?あくまで私の感覚に過ぎないんだけど純粋過ぎるというか眩しすぎるかしら?…残念だけど私にはルイズの使い魔の事はよく分からないわ。きっとあの子達の事を本当の意味で分かってあげられるのはこの世界中で貴女だけ、きっととても良い子達よ大切にしてあげなさいね。」

 

 

小姉様のその言葉に釣られる様に私も視線を規則的にゆっくりと身体を揺らして魚車を引く二匹の後ろ姿に向ける。

 

「はい!」

 

何処かから私の声に応えてやって来た黙して騙らぬ太陽の光を反射する二匹の使い魔の向こう側にはもう懐かしい私の実家の姿が徐々に見え始めていた。




やったぜ!      投稿者:変態糞うどん

昨日の8月15日いつものレスタ笛使いとワシG級ハンター大剣使いとパートナーのNPC片手剣使いで県北にある塔の土手の下で盛り合ったぜ。
今日は明日が休み何で道具屋で罠と樽爆弾を買ってから滅多に人が来ない所なんで、そこでしこたま毒飯を食らってからやりはじめたんや。

3人で生焼け肉舐めあいながらバケツ頭だけになり持ってきた元気のみなもとを5回ずついれあった。
しばらくしたら、ランゴスタにさされてヒクヒクしてくるし、リオレウスが上空をぐるぐるしている。レスタの嬢ちゃんに笛を吹かせながらパートナーにローキック決めてたら、先にリオレウスが落とし穴にドバーっと落ちたンや。もう顔中、閃光まみれや、3人で武器を出したり爆弾を置きまくったり、溜め3でかちあげてぶっとばしたりした。ああ~たまらねえぜ。

しばらくやりまくってからまた麻痺拘束しあうともう気が狂う程気持ちええんじゃ。





俺は一体何を書いていたんだ(錯乱


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