インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 (妖刀)
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恐怖の再来

活動報告で申し上げた通り、投稿させていただきます。怪獣学についてはちゃんと日曜投稿いたしますのでお待ちください


この日は稀に見る大雨が降っていた。だが雨の中、ズシン、ズシン、と何かが山の中を歩く音がする。雨は土砂降りのため周りがうまく見えないほど雨が降っていたが、『ソレ』が近づいてきたとき、黒い影が山から現れた。

 

「グォォォォォォ!!!」

 

山のようにでかくて黒い体、灰色の背びれ、そして鋭い目、40年の時を超えて再び日本に現れた大怪獣ゴジラはどこを目指してるのか分からないが方角は東京を指しており、愛知県の河和港から上陸。そして市街地を破壊しながら横断、そして現在、愛知と静岡の県境の山々にて立ちふさがるもの木々を破壊しながら突き進んでいく。

そのゴジラが進んでいるところかから約2キロメートル先、IS『ラファール・リヴァイブ』を纏った女たちが森の中に隠れていた。機体色は緑の迷彩色に施しており、腕には大型ロケット弾だろうか、それを片腕に三発ずつ装備してあり、戦闘にいた女がどこかに通信している。

 

「こちら一番機、『G』を確認した。今から仕掛ける」

 

ISを纏った女はそう言って本部との通信を切る。女の後ろにはISを纏った女たち10人がおり、全員が今搭載している武器等のチェックをしていた。

 

「昔の自衛隊があのデカブツを倒したのなら私たちISでも倒せるわ。全員、武器はちゃんとチェックした?」

 

この時全員の大丈夫の声がしたため女は拳を掲げて声を上げた。それを聞いた女はニヤリと笑みを浮かべ、そしてこぶしを掲げる。

彼女たちは陸上自衛隊所属のIS乗りたちだが、上層部の警告等を無視して現在この県境の山中に来ており、現在ISに装備してる武器も無断で基地から持ってきたものばかりだ。

現在ISの立場は他の兵器より優位に立っているが、怪獣の現れたことによりその優位が揺らぎ始めようとしてたため、それを焦った女性権利団体の一部が彼女たちに命令したのだ。

 

「いいね!私たちはISを使えるエリートよ!昔の自衛隊の男たちとは違って色々なことができる!だからあのデカブツを倒すわよ!」

 

『おおー!』

 

この時だろうか、曇天の雨空が青白く光ったように感じたのは。この時全員が可笑しいと思ったが、この時センサーに高熱源が急接近していることを伝えていた。

 

「っ!?」

 

女は一気に飛び上がり、その場を離れようとしたらいきなり豪風が吹き荒れたため、きりもみ状態で吹き飛ばされ、200メートルほど吹き飛んだ後に木々に激突して何とか止まる。意識ははっきりとしていなかったが、次第に周りの光景を見たとき、意識がはっきりとしだした。

 

「な、何が……、っ……!?」

 

女はその光景を見た時、動くことができなかった。先程までいたところは木々が吹き飛ばされ、大地は何かに焼き飛ばされたかのように抉れ、マグマのようにドロドロに溶けていた。

 

「何よ…これ……」

 

「隊長、大丈夫ですか!?」

 

女は恐怖で動けなくなっていたが、先程の光から奇跡的に逃げ切ったのであろう部下が女の傍に降りる。そういえば他の隊員はどうなったのだろうか、女は部下の肩を掴んで聞くことにする。

 

「ほ、他のみんなは!?」

 

女はそう言って部下に詰め寄るが、部下は顔を伏せて

 

「残ったのは、あなたと私です……。他の隊員は全滅しました……」

 

「何……ですって……!?」

 

あの人はISさえあればゴジラは倒せると言っていた。あれは嘘だったのか?絶対防御さえあれば助かると言ってたのに、それは嘘だったのか。

彼女はこれを否定しようにも、目の前の現実がそれを否定させてくれない。

女はあまりのことにへたり込んだまま茫然としてしまう。

そして再び高熱源接近がセンサーで警告音を鳴らす。

何なのだろうか?女は顔上げたときに後悔してしまう。

女は気付いてしまった。そう、ゴジラがこっちを向いてることに。

この時ゴジラの背びれが光り、口から青白い放射熱線を放つ。熱線は大地を吹き飛ばし、そのまま女たちがいる山へと向かって行く。

 

「「あ」」

 

そして女たちは間抜けな声を最後に、熱線に飲み込まれてしまうのであった。そして熱線が収まったところには何も残っていない。そこに残ってるのは熱線で真っ赤に焼け、丸裸にされた山肌だけだ。

 

「グォォォォォォ!!!」

 

この時ゴジラの背びれに落雷が落ちて、そして背びれが青白く輝く。

ゴジラは一吠えした後に木々を踏み潰しながら進撃を再開し、北上を始めた。

 

なぜこうなったのか。何故ゴジラが復活したのか。

 

こうなってしまったのは数か月前、とある男子がIS学園に入学したときに遡るのであった……。




改めて書かせてもらいます
ここで現れたゴジラはゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOSの時に機龍と共に海に消えたゴジラです。胸にあった傷跡は残ってません。あと身長も伸びてます。



そして今日はゴジラの誕生日!ゴジラ、62歳の誕生日おめでとう!


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第1章 ~始まり~
龍の胎動


モンスターアーツの機龍、股関節が横にあんまり広がらないと思ってる妖刀です。
2016年にゴジラが日本で再び作られるってことに嬉しく思いましたが、噂ではゴジラをCGでやるそうです。日本なら着ぐるみ使った特撮やれよ!って突っ込んじゃいましたね。


では話をどうぞ。


ゴジラ上陸から2年ほど前、ここはとある研究所、白衣を着た男がいた。男は40代だろうか、それにしても黒髪に交じって白髪が多く、頬もこけている。だがそれとは反対に目はギラギラと輝いており、まるで狂気を宿してるようだった。

 

「ここに『G』のDNAを利用して作ったDNAコンピューターを組み込んでっと……。あとは……」

 

パソコンを使ってる男の近くに置いてあったのは色とりどりのコードが繋がれたそのIS……いや、コレはISと呼べるのだろうか。通常のISと違い全身装甲であり背中には放熱板のように背びれが三列でたくさん生えている。ここまでならギリギリISと呼べただろうか。だが、頭部はまるで竜のようであり、何より尻尾がある。その姿はまるで、約40年前の人なら忌み恐怖する姿を模していた。

 

「全く、ここまでするのは苦労したぜ……。なんせ自衛隊のいる基地に侵入したんだからな……」

 

男はそう言っているが、焦ってた様子もなく、どちらかというと楽しそうな感じだ。そして何かを呟きながらキーボードをすごい勢いで叩いて入力していく。

 

「まあ、まさかゴジラのDNAが保管されてる倉庫が放棄されるとは思わなかったな。女尊男卑様様ってか、くくっ……」

 

そう言って男は笑いを噛み殺す。そうでもしないとお笑いが止まらないのだろう。

IS登場後、自衛隊は女尊男卑で軍縮が行われ、権力乱用をした女が自衛隊で危険なもの等が保管されている倉庫を幾つか破棄することになったのだ。だがその中に『godzilla DNA』と書かれたケースが2つほど入っていたなど誰が思っただろうか。

そしてこのことはのちに政府で大問題となり、倉庫破棄を命令した女を速攻逮捕、そして政府は使える自衛隊隊員を使ってその倉庫を重箱の隅を楊枝でほじくる様に探したが出てこず、政府はこれが一般市民に広まれば大混乱を起こすと思ったのか、このことを秘匿するように言い渡す。

 

「政府の焦りっぷりは本当に笑ったな、くくく……」

 

男は捨てられた捨てられた倉庫にあった『ゴミ』を回収したに過ぎない。政府は本当に馬鹿だ。ここまで間抜けになってるとは一般市民も思っていないだろう。

途中で銃を持った男数人に追いかけられたが、特に問題なく逃げれた。その苦労はコレのためなら苦ではない。

 

「だがこれが作れるならそんな苦労どうってことはない」

 

男の頬は大きく上がり、狂気に染まったかのような笑みを浮かべる。

 

「この力さえあればISなんかもガラクタ同然だ。ははは、ひゃははははは!!!」

 

男が隣に置いてあったあちこちがコードまみれの全身装甲のISは何も言わず、ただそこに佇んでいたのであった。

 

「あ、後はこの前見つけた放棄されてたISコアを詰め込んでっと……」

 

そう言って男はコアを詰め込んでいくのであった。そして。

 

「完成だ」

 

そこにいたのは全身装甲で銀色、そして他のISの姿を逸脱したISであった。

 

「さーて、これを『適合者』に渡してっと……」

 

そう言って男はキーボードをすばやくたたくのであった。

そして見つけた『適合者』の写真を見て再び頬の口角が上がる。

 

「これでISの時代の終わり、再びIS誕生以前に戻る」

 

この言葉と共に部屋にあったたくさんのパソコンの画面が消えていき、男の姿は見えなくなっていく。そして最後のパソコンの画面が消えるとき、ニヤリと笑っている男の姿が見えたのを最後に部屋の中は真っ暗になって、男のすがたは見えなくなるのであった。




前回の終わり方からこの話からIS学園に入ると思いました?実際はこの次がIS学園編です。


次回は少なくとも2500文字以上はある予定なので(え、少ない?)、とりあえず待っていてください。機龍が早く出せるように頑張りますので。







そして川北監督、本当にお疲れ様でした。ご冥福を祈ります。



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始まりと再会

どうも、クリスマスが苦しみマスに変わった妖刀です。

進むペースが今までの作品より早めですが気にしないでね。


それから時がたち、ISを扱える男織斑一夏がIS学園へと入学が決まり、世の中は他のIS男子搭乗者を探すことに躍起になっていた。

その中で現在篠栗 航(ささぐり わたる)はただ、唖然としていた。

 

「なんで……、俺がISを……!?」

 

高校の受験もパスし、その後をのんびり過ごしていた航だったが、高校の男子生徒を体育館へと呼び出してIS適性検査が始まったのだ。

友人が適性なしでガッカリする中、そんな友人を笑っていた航は自分の番が来たため触れた。そしたら反応があっていきなりのことで動けなくなっていた。

そしていろいろあった後にIS学園へと入学することが決まってしまうのであった。

それから約2ヶ月後、桜の花びらが校庭をもも色に染める季節となり、男二人はIS学園へと入学するのであった。

 

 

 

 

 

 

(これはキツイな……)

 

IS学園の1年1組の教室で、航は周りにいる女子の視線に耐えられそうになくなってきていた。自身の座ってる席は一夏の左後ろ。ど真ん中で一番前の一夏と比べると比較的にマシに……ならず、視線が途切れることはない。

この時緑色の髪をした背の低い女性が何か言ってたが、それどころではないため素数を数えてその場を耐えきろうとする航。

そして一夏が自己紹介をしていたがあまりの酷さに周りはずっこけて、航は苦笑いが出る。

そして自身の番はまだのため素数を数えていた。

その時である。いきなり頭に衝撃が走ったため意識を戻した航が見たのは、黒のスーツに黒色の髪をしたきれいな女性、織斑千冬である。

 

「お前で自己紹介が詰まってるから早くしろ」

 

そう言われたため航は教壇のところに立つ。

身長は170センチ半ば、瞳の色は黒く濁った金色で、眼つきは少し鋭いが怖いってほどでもなく、どことなく優しさを感じる。髪の色は黒で大体適当に伸ばしてるって感じだろう。

体つきは割と鍛えてるのか分からないが、背筋はピンとしており、なんとなく体つきがよく見える。

 

「俺の名前は篠栗航。歳はみんなと同じ15で趣味は……」

 

そして航は自己紹介をすらすらと言っていく。そして締めらへんで、

 

「そしてここずっと悩んでることは背骨が痛い、それで大体前のめりになって授業をしてることが多いと思うけど気にしないでくれ。それだけだ」

 

そう言って航は席に戻る。

そして自身の自己紹介も終わり、そのまま順調に進む。

そして休み時間、この時一夏が航の席の近くにやってきた。

 

「久しぶりだな、航。元気にしてたか?」

 

「そっちこそ、相変わらずみたいだな」

 

そして、お互いに拳をぶつけてニッと笑う。そう、二人は昔からの友人同士なのだ。

 

「それにしても航、また背中が『アレ』なのか?」

 

一夏がそう言った時、航は溜息を吐いて苦笑いを浮かべる。

 

「あぁ……、今度の休み、ちょっといいか?」

 

「いいぜ、俺に任せろ」

 

一夏は親指を立てていい笑顔で答えた。

 

「頼む」

 

「ちょっといいか?」

 

この時女子の声がしたため振り向くと、そこにいたのは髪の毛をポニーテールにした女子がそこにいた。

 

「箒……、か……?」

 

「久しぶりだな、箒」

 

一夏は疑問気味に聞くが、航は箒と断言して答えた。

 

「久しぶりだな……っと言いたいところだが、一夏、航みたいにもうちょっとはっきりとしてくれ」

 

一夏の答え方が気に入らなかったのか、箒は少し悲しそうな顔をしていた。

 

「だってここまで綺麗になってるとは思ってなくてさ……」

 

「き、綺麗!?私が!?」

 

この時箒は、顔を真っ赤にして呆けてるかの様になっていた。

この時航は一夏の無意識の口説きに溜息を吐く。覚えてる限りでは小学生のころからこんな感じだったため、偶にこの無意識口説きで修羅場に巻き込まれるのだ。そのため一夏に口を酸っぱくして言っても結局は何も変わらないため、こういう時は逃げるに限るのだ。

そして航は席を立とうとしたら。

 

「おー、わーたんだ~」

 

「ん?」

 

いきなり懐かしい声が聞こえたため、軽く周りを見わたす。そこにいたのはダボダボの袖をした制服を着た女子がいた。

 

「お、本音か。久しぶりだな」

 

「久しぶり~。わーたんは背が伸びたね~」

 

そう言って本音はにこーっと笑みを浮かべる。

 

「わーたんは、背中大丈夫~?」

 

「今度一夏にやってもらうからそこまで我慢だ」

 

「大変だね~。私もした~い」

 

「じゃあ、一夏と頼む」

 

「わかった~」

 

そしてお互いがお互いの幼馴染と話、まあ一夏の方は箒の思考がショートしてるため話になってないが、話をしており、予鈴が鳴ったため、全員が席に戻る。

そして千冬と真耶が入ってきて授業が始まった。

 

 

 

 

 

「一夏、参考書を捨てるってなかなかのことをしたな」

 

「いや、あんなに厚いのが参考書って思うか?」

 

「まあ、そこは同感だな」

 

一夏は先程出席簿で頭を叩かれたせいか自身の机に項垂れており、航はそんな一夏の左隣に立って腕を組んだまま一夏を見ていた。

 

「航……、俺にISのこと教えて「無理、まだこっちも部分部分怪しいし」そうか……」

 

航に頼もうとしたら、すぐに断られたため再び項垂れる。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

この時聞き覚えのない女子の声がしたため二人は声のした方を振り返る。そこにいたのは金髪で髪先をクルクルに巻いた女子がいた。見た目からして英国系だろう。

だが雰囲気からしてめんどくさい系だろう、航は自身の影を薄くしてあんまり関わらない様にする。

 

「あ、あぁ、何の用だ?」

 

「何ですのその返事は!?このわたくし、セシリア・オルコットに話しかけられたことに栄光だと思わなくて!?」

 

「お、おう……」

 

その後一夏はセシリアに一方的に絡まれ、チャイムが鳴ったためセシリアが席に戻ったため、いつの間にか消えていた航を探したら、手を合わせて合掌のポーズをした航がいた。

何時の間に消えていたかに疑問を持ったが、先生が入ってきたため、とりあえず席に着いて授業の準備をする。

そして教壇のところに立ったのは織斑千冬である。殆どの生徒は千冬が教えるってことに感激し、目を輝かせていた。

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種武器の特性を説明する」

 

千冬はそう言って授業を始めようとするが、何か思いだしたかのような顔をして黒板の方を向いていた体を再び生徒の方へと向ける。

 

「ああ、そういえば今度あるクラス代表戦に出る代表者を決めないとな」

 

その後千冬はクラス代表について説明をし、そして自薦他薦誰でも構わないと言った時だ、クラスの大半が手を上げたのだ。

 

「はい、私は織斑君を推薦します!」

 

「私も織斑君を推薦します!」

 

「私も!」

 

「私は~、わーたんじゃなくて篠栗君を~推薦しま~す」

 

こうして一夏が9に対して航が1の割合で推薦にあげられていた。航はやっぱりかと思ってるのか冷静であり、一夏は自分が推薦されてると気づいていないのか、ぼーっとしている。

 

「では推薦されたのは織斑と篠栗の二人か。それではこの二人でどちらがいいか名前を上げたら手を上げろ、いいな」

 

「へっ、俺!?」

 

一夏は今頃自分が推薦されてると気づいたのか驚いた表情できょろきょろしている。

 

「お、織斑先生。俺そんなのし「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権はない。選ばれた以上覚悟しろ」マジですかー……」

 

一夏はあまりのショックにまたまた項垂れる。今日はあと何回項垂れるのだろうか、航は軽くそれが気になった。

 

「先生、そもそもさ「待ってください!納得いきませんわ!」ん?」

 

航が何か言おうとした時だった。いきなりセシリアが机を強くたたいて立ち上がったのだ。

 

「そのような選出は認められません!大体男だからってそれでクラス代表とかされたら恥さらしですわ!このわたくし、セシリア・オルコットに一年間その屈辱を味わえというのですか!」

 

そしてセシリアはいろいろ言っていたが、どんどん日本の侮辱になってきていた。

 

「そもそも日本には怪獣がたくさん来て恐ろしすぎますわ!」

 

なんかそんなことを言ってるが間違ってない。1954年に最初のゴジラが現れて倒したと思ったら、その後にたくさんの怪獣が現れたのだ。ラドン、モスラ、バラン、マグマ、ドゴラ、サンダ、ガイラ、ゲゾラ、ガニメ、カメーバ。他にもいるが記録にあるにはこれほどの怪獣が日本に現れてるのだ。それで対怪獣兵器の生産、町の被害そんなんで何回財政難が起きたことか覚えてる人はほぼいないだろう。時には東京タワーや国会議事堂も何回破壊されたことか。

 

「そもそもイギリスだって飯マズランキング何年連続1位だよ」

 

一夏がそうボソリと言った時、セシリアに聞こえていたのか、セシリアが怒りで顔を真っ赤にさせて一夏の方を向く。

 

「何ですの!?わたくしの母国を侮辱して!」

 

「そもそもそっちが日本のことを馬鹿にしてきたんだろ!確かにたくさんの怪獣が日本に現れたのは認めるけどさ!」

 

そう言ってお互いに睨みあう。

そしてセシリアは一夏の席のところまでやってきて、机に強く手の平を叩きつけた。

 

「決闘ですわ」

 

「いいぜ。な、航」

 

「え、マジで?」

 

航は唖然とした表情を浮かべていた。なんとなく予想はしていたが、まさかこういう風に巻き込まれるとは。一夏の巻き込み力は半端がなかった。

 

「マジでだ」

 

「マジかよ……」

 

航はそのまま頭を抱えて溜息を吐く。

 

「それじゃあハンデはいいか?」

 

そして一夏はハンデの話になり、セシリアが言い返した後に一夏の言った一言が教室にいた女子の大半を笑わせる原因へとなる。

 

「一夏君、何言ってるのさ」

 

「男が女より強い?それはないない」

 

「そもそも男が頑張ってもゴジラを倒せてないじゃん。ISさえあればゴジラなんてワンパンで倒せるんだから」

 

「あ?」

 

この時だった。ドスのきいた低い声。全員がビクッとなってその声のした方を向くと、そこにいたのは眉間に皺を寄せていた航であった。

航は最後に言った女子の方を向いて口を開く。

 

「おい、今なんて言った?ゴジラなんかワンパンで倒せるとか聞こえたが?」

 

女子は今の航に少しビクビクしていたが、それでも勇気を振り絞って声を出す。

 

「だ、だってそうじゃない。そもそも機龍だっけ?あんなデカブツで町もめちゃくちゃになったのよ。あんなに要領の悪い兵器を使ってたらきりがないわ!」

 

「お前、ゴジラのこと舐めてるだろ。あれをISで倒せる?馬鹿言うな。あれは完全な化け物だ。究極の、な」

 

そういう航。だが周りはそれに納得するものは全くいない。

 

「あんな動きの遅い大きなトカゲぐらい、ISで倒せないわけないですわ。究極の化け物?全く何を言ってるのかわけわかりませんわ」

 

セシリアがそう言った後にクラスの大半は笑って航を見下す。航はそのアウェイの状況下でもその状況にビビる様子がない。だが航の眉間にも深い皺が寄り始め、眼つきが鋭くなっていた。

 

「織斑先生。あなたに聞きますが、ISってそこまですごいんですか?」

 

千冬は腕を組んだまま目を瞑っていたが、閉じていた目を開けて口を開いた。

 

「そこはわからん。だが、ISでゴジラを倒せるかと言えば無理だろう」

 

千冬がそう言った時、教室は一気にざわめいた。

 

「何を驚いている。私の知り合いの60半ばにもなる自衛官だった人が言ってたが、胸が抉れて肋骨がむき出し状態でも、腹に風穴が空いていてもゴジラは死ななかったというらしいからな」

 

全員はそれに驚愕する。普通の生物なら致命傷と言える傷なのにそれでも戦えるのかと。

 

「そ、そんなのでまかせですわ!そんな生物いるわけありませんわ!」

 

セシリアはヒステリック気味にそう叫ぶ。周りもそうだそうだ!と叫ぶが、力のない叫びになっている。

その時だ。

 

「ん、もうすぐで授業が終わるな。なら来週の月曜日に第三アリーナで三人で戦ってもらうぞ。いいな」

 

千冬のその言葉で授業が終わるのであった。




この作品の資料に、ライトノベル『インフィニット・ストラトス』、『ゴジラ×メカゴジラ 超全集』を使ってます。これ、発売されたのが2003年なんだよね。この本、ゴジラの骨まで詳しく書かれてるから謎に気分が盛り上がるんだよね。


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授業 怪獣学

お久しぶりです、妖刀です。アンケート通りにこちらを先に投稿いたします。なお今回は2話連続だけど、もう残りの1話は、前投稿してた話を少し改良しただけで、解くん紅三ノ変更はあまりしておりません。

では、怪獣学、どうぞ!


それから休み時間に入り、一夏と航は周りの視線から逃げるかのように屋上へと来ていた。そして二人はそこにあったベンチに腰を掛け、途中で買った缶ジュースのプルタブを開ける。

 

「一夏」

 

「何だ?」

 

「千冬さんの知り合いって、もしかして家城さんか中條さん?」

 

「いや、違う。だけど確か機龍隊だっけ?その人と知り合いなんだとよ」

 

そう言って一夏は缶ジュースに口を付ける。

 

「ところでその家城さんと中條さんってどんな人なんだ?」

 

「ああ、機龍と関わりが深い人たちだよ。確か家城さんは機龍を直接操縦したって言ってたな」

 

「マジで!?」

 

一夏はベンチから立ち上がって驚いた表情で航の方を向く。

 

「本人が言ってたからそうなんじゃない?」

 

一夏はすげーって表情をしており、航の人脈の広さにも驚いていた。

 

「そういえばお前、ゴジラと機龍とモスラが戦ってる映像のディスクを持ってたよな。あれ、貸してくんね?」

 

「何でだ?」

 

航は片眉を上げて疑問の表情で一夏を見る。

 

「実はさ、千冬姉から『航から戦いの映像ディスクを借りてきてくれないか?』って言われてさ……」

 

「ディスクさえあればコピーのコピーでいいならできるけど。それでいいか?」

 

「うーん、あとで千冬姉に聞いてみる」

 

そしていろいろ話してるうちに時間が危うくなってきたため、二人は急ぎ足で教室へと戻るのであった。

そして次の授業にて。

 

「えっと次は……、ん?怪獣学って何だ?」

 

一夏は時間割に書かれていた怪獣学という単語に首をかしげる。

そして扉が開き、担当の先生が教室に入ってくる。

 

 

「え?」

 

この時航は入ってきた教師の顔を見て驚きの表情を浮かべる。

黒い瞳に黒髪のショートヘアーの日本人の先生教師であるから20代だろうが、パッと見10代後半に見える。そして先生は教壇の所に着くと、ぺこりとお辞儀をした。

 

「みなさんこんにちは。この怪獣学を担当する家城 燈(やしろ あかり)です。皆さんにはこの1年間、怪獣学を学んでいただきます」

 

「せんせー、なんで怪獣学とかいう学科があるんですかー?」

 

一人の生徒が挙手をして質問をする。燈は笑顔で

 

「それはですね、ゴジラが消えてすでに40年が経ちますが、決して怪獣が現れないとは限りません。怪獣が現れた場合は通常は自衛隊が担当しますが、それでも人手が足りないときはここ(IS学園)から専用機持ちもしくは、IS適性がA以上の教師、生徒が増援に向かわないといけませんので怪獣の対処法について学ぶのです。あと非戦闘民の避難等々についても学んでいきます」

 

教室にいた全員はその言葉でざわめき、教室が騒がしくなりはじめる。

 

「皆さん、ここはそれも学ぶところなんですよ?しっかりと学ばないと……、死んでも知らないよ?」

 

燈が笑顔でそう言った時、教室の温度が少し下がったような気がした。だがこの中ですごく楽しみにしてそうな顔をしている人たちがいる。航と一夏だ。二人は既にシャーペンを持っており、ノートと教科書は既に開いている。

燈はそんな二人を見たとき、少し嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「じゃあ、すぐに始めてほしそうな生徒もいるみたいだから始めましょうか」

 

そう言った後電子黒板にいろいろと画像を展開し始める燈。そこに写っていたのは古ぼけた白黒の写真が多数だが、その中で威容を放つ大きなものが画像一つ一つに写っている。

周りは夜のため真っ暗のはずだが、地から照らされる光によって夜空が照らされ、その巨体が街に浮かびあがっていた。周りにある建物よりずっと背が高く、まるでタワーが立ってるようにも見えた。だが他の画像には尻尾や背びれが写っており、そして上の方には顔が見えた。

背びれはまるでサンゴのように枝分かれしており、その太い尻尾とあしはとても力強い印象を見せつける。そしてその目は、人間を見下すかのに下を見ていた。

そして燈はそこそこの画像を出した後、生徒の方に向き直り説明を始める。

 

「これが世界で一番最初に現れた怪獣、ゴジラよ」

 

「これが……」

 

一人の生徒が言葉を漏らす。名前を知っていても皆の知っているゴジラは2003年に東京に現れた個体であり、一番最初の個体を知るものはほとんどいないのだ。一番最初の個体は2003年に現れた個体と大きさはあまり変わらないが、その生気のない目からも分かる禍々しさが出ており、何人か生徒は頬が引きつってる。

 

「現れた年は1954年で、身長50m体重約2万キロの怪獣ね。生体としておそらく夜行性。魚や牛などを食べる肉食とまでわかっているわ。

この頃はアメリカで原水爆の実験が数多行われており、ビキニ環礁のアメリカの幾多による核実験で、生まれたとも進化したともされるわ。その後ゴジラは小笠原諸島、大戸島に上陸を果たすわ」」

 

そういって燈は新たな画像を出す。そこは小笠原諸島一帯の地図であり一か所だけ赤い×印がされていた。

 

「ここが大戸島。そしてゴジラがこの近海にいたころ、色んな船が行方不明になるという事件が多発したわ。そして数日後には島に上陸、そして村を幾つも潰して回ったため巨大生物の仕業とされて、ここに当時生物学者の山根恭平博士ら一行が向かうの。そしてこれが、当時山根博士らが撮った写真よ」

 

そこに写されていたのは、山越しに顔をのぞかせるゴジラの姿であった。遠くから撮られた写真であるが、山から顔が大きく出ており、それを生で見た人は何を思ったのだろうか。

そして次の写真はゴジラが海に消えた、足跡だけの写真になってる。

 

「その後ゴジラは大戸島から消え、フリゲート艦隊による爆雷攻撃が行われるけど、ゴジラはその後も日本近海に現れてシーレーンを脅かすわ。その後ゴジラは2度東京に上陸。最初は品川を中心に街を蹂躙し、2度目は芝浦に上陸、そして新橋、銀座と移動していき、ゴジラは永田町へと入った後に国会議事堂を破壊。その後上野、浅草と移動して隅田川を南下し、東京湾に向かっていったの」

 

そう説明しながら燈は、今のその場所の写真と、当時のゴジラ上陸の際の写真を比較するように出していく。

ただこの時、何人かの生徒がこのルートに見覚えのあるのか、目を少し見開いたりしてる。

 

「そして奇しくも、このゴジラの進行ルートは1945年の東京大空襲でのB-29の進行ルートとほぼ一致していたの。右の写真が東京大空襲のもので、左がゴジラ上陸の際の写真よ」

 

そこに映し出したのは東京の上空からの写真だが、2枚とも焼け野原になった場所があまり変わらず、それに気づいた生徒たちがぞっとした顔で画像を見つめた。

一夏もその1人だ。ここまでの情報を知らなかったため、その偶然の一致に何か裏があるのではないのかと勘ぐるが、いまいちそれがわからない。というかわかっていたら今頃苦労しないだろう。

 

「そして東京湾にゴジラが消えた後、被害者は次々と増えていったわ……」

 

「え、どうしてなんです!?」

 

生徒の1人が驚きの声で聞くと、燈は重苦しい雰囲気を出しながら口を開いた。

 

「……放射能よ。ゴジラの通った後は高濃度の放射線が漂っていて、それによって二次被害が増えていったの。これによって死者の増えたことによって、おそらく3から5シーベルトは出てると思われるわ。あ、シーベルトについて軽く説明するわね」

 

その時電子黒板にいくつもの数字が出てきた。それは「日常生活における被曝量」と「健康被害をもたらす被爆量」と書かれており、日常生活で一番低いのが「胸部X線の集団検診で受ける被曝量」の0.05ミリシーベルト。そして高いのは「放射線業務従事者の年間被曝の上限」と書かれた50ミリシーベルトと書かれている。

だがこの50ミリシーベルトは健康被害をもたらす被爆量の一番低いところにも入っているのだ。そして6シーベルト以上が放射能での致死量となっている。

 

「放射能については皆もニュースとかで聞いたことあるでしょうけどこのように、放射能は微量であれば問題ないけど、多量だとどんな毒よりも恐ろしいものになるわ」

 

今まで日本は何度も放射能の被害に見舞われてきた。原爆やゴジラを初めとしたさまざまな怪獣に原発。これらの被害にあいながらも日本が何度も立ち上がり、発展を行っていった。

スクラップ&ビルド。これで日本は成り立ってるのである。

まあ先ほどの説明をさっさと電子黒板にまとめたものを生徒たちが書いてるが、その中で航と一夏が一心不乱にノートに板書していく。隣にいる女子生徒はそのシャーペンの進める速度に二度見を起こしているが、2人はそれを一切気にしない。

その間にも燈の説明は再開した。

 

「そしてゴジラによる被害が拡大する中、その状況で立ち上がったのがこの人、芹沢大助博士ね」

 

そして映し出された白黒写真には、右目を眼帯で隠す白衣を着た1人の男性が写される。

 

「彼は第二次世界大戦によって片目を失い、それによって婚約者との婚約を解消。その後は自身の研究所で、酸素に関する研究をずっとされていたと言われてるわ」

 

「先生、そんな情報どこで得たんですか?」

 

この時一夏は挙手して聞いた。一夏は実際このことを知っていたが、それは口上で聞いて知ったものであり、実際の出どこが気になったのだ。

 

「ああこれ?山根恭平博士が書いた、「芹沢大助という男」という本よ。今は絶版だけど、芹沢博士のことを書いた伝記のようなものね。ああそれと、山根博士の娘さんが芹沢博士の元婚約者よ。その娘さんのお孫さんが、私の言ってた大学で教授をしているわ。っと話がそれたわね。その後博士はゴジラを葬るために東京湾へと向かうわ」

 

そして燈が画面を操作して次の画像を出す。そこに写っていたのは、潜水服を着る芹沢大助と、もう1人の男尾形秀人の姿だ。そして芹沢大助の手には長さ40cmから50cmの物体を持っており、彼の表情はとても険しそうだ。

 

「これはゴジラを葬ることができた、オキシジェン・デストロイヤーという兵器を持った芹沢博士の写真よ。公に言うなら、これが彼の最期の写真というのかしらね」

 

「オキシジェン・デストロイヤー……?」

 

「そう。完全にどのような代物か完全にわからないけど、ただ博士の持ってた大きさ、砲弾大で東京を一瞬にして死の街にできるともいわれてる代物よ。それの使用によってゴジラは骨と化し、博士もオキシジェン・デストロイヤーの研究内容を完全に秘匿するため、ゴジラと共に海に消えていったわ。ただ……」

 

「「「「ただ?」」」」

 

「ただその後日本には幾多の怪獣が現れるわ。そして1999年、日本政府は現れる怪獣に対して対怪獣要兵器を作り上げるために、オキシジェン・デストロイヤーで骨になったゴジラの骨を千葉県房総半島沖にて回収。ただその同年、日本に2頭目のゴジラが現れたの。あ、このゴジラとその骨についてはまた別の機会にちゃんと紹介するわ……っともう時間ね。じゃあ続きはまた今度」

 

既に時間は授業の終了1分前にまでなっており、生徒の殆どがやっと終わると飽き飽きした顔をしていた。だが航と一夏はもう終わるのかと少し不満そうな顔をしており、そしてチャイムが鳴って燈は出て行く。

航はそのあとすぎに教室を出て行き、燈の所へと向かった。

 

「あら航君、どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもありませんよ。まあ、とりあえずお久しぶりです」

 

「うん、お久しぶりだね」

 

そう言って燈は笑みを浮かべる。

 

「それにしても航君、いい勉強ぶりだったね感心したよ」

 

「そりゃあ、昔っから燈さんに怪獣のことをいろいろ話してもらってたらこうなりますよ」

 

そう言ってはははと笑う航。

 

「君みたいに本気でこの授業に付き合ってくれる子だったらいいんだけど、この授業を真剣に聞いてくれる生徒、何人いたかなぁ……」

 

そう言って遠い目をする燈。

ゴジラが消え、そして生まれたこの授業は最初は自衛隊の方で行われていた。そしてISが登場してそしてIS学園でこの授業の講師をすることになって嬉しかったが、受ける生徒の態度はほとんどが最悪。まさにIS神話に酔ったともいえる女子たちだらけで、殆どが話を聞いてない。

 

「あ、去年は更識楯無ちゃんとか代表候補生でもトップクラスの子たちが真剣に聞いてたって感じだったな」

 

楯無の名前が出てきたときに片眉がピクリと上がる。そして顔を小さく縦に揺らして何か納得した表情を浮かべていた。

そして燈の話してることはどんどん愚痴になっていき、航はそれをうまく聞き流す。そして話題を変えるためにとあることを聞いてみた。

 

「そういえば茜さんは元気ですか?」

 

「おばあちゃん?元気元気、と言いたいけれど、この前ちょっと病院に入院しちゃったな」

 

それを聞いたとき航は驚愕し、そして不安そうな表情を見せる。

 

「えっ!?なら今度見舞いに行きますって伝えといてください」

 

「わかった。あ、もうすぐ次の授業が始まるから教室に戻る様に」

 

「はーい」

 

そう言って別れた後に航は教室に戻っていく。周りにはたくさんの女子がいたが、それを無視して席に着く。そして次の授業の先生が入ってきて授業が始まるのであった。




久々に怪獣学かいたわぁ……


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放課後の一幕

……怪獣学は、前の話です


一夏は一人で寮に向かっていた。先程まで航がいたが、物の取り忘れで教室へと戻り、今は適当に曲を口ずさみながら寮へと向かっている。

そして寮の中に入ったものの、周りからは好奇の視線、視線、視線。これのおかげで一夏は戦場に行ったのかと言えるほどの疲労を浮かべていた。

そして着いた1025室。疲れのせいか、ノックもせず部屋に入り込んだ一夏はベッドに倒れこむ。

 

「おぉ……、おお!?このベッドめっちゃふかふかじゃねえか!」

 

倒れこんだ一夏だが、あまりのフカフカ具合に先程の疲れが吹っ飛んだといえるほどの復活を果たす。

 

「誰かいるのか?」

 

その時。シャワー室から女子の声がした。

一夏はその声を聞いた瞬間固まる。そうだった、女子が同室だったのだ。

一夏の頬に一筋の汗が流れる。

 

(やばいやばいやばい!これって俺の終わりパターンか!?)

 

そしてシャワー室の扉が開かれる。

 

「ああ、同室者のものか。すまないな、こんな姿で。私の名は……」

 

「箒……」

 

一夏はこの時、自分の死を覚悟するのであった。

 

 

 

 

 

「あーあ、忘れ物しちまったせいで一人で向かわないといけないとか……」

 

航は先程、自分が教室に忘れ物をしたせいで一夏を先に寮へと向かわせ、そして一人寮へと向かっていた。そして一夏が寮に入ってから約10分後に寮に入り、階段を上がって自分の部屋がある階へと目指す。

それから途中で女尊男卑に染まった女子に絡まれるなどのハプニングがあったが、どうにか目的の階に到着し、自分の部屋へと目指して歩を進めるが、

 

「ん?何だあれ」

 

目の前には薄着姿の女子達がたくさんおり、自分の進む道を塞いでいた。

 

「うぉい!?」

 

その時だ、一夏の悲鳴が聞こえたのだ。

 

「おい一夏!大丈夫か!?」

 

「航か!?助けてくれ!」

 

一夏の悲鳴を聞いた航はとりあえず周りにいた女子達に通してもらえるようにしてもらった後、一夏の元へと急ぐ。

 

「一……、夏ぁ?」

 

航が見たのは穴だらけの扉に張り付く一夏の姿だった。扉に張られていた番号を見ると1025、一夏が先ほど言っていた部屋だ。それを見た途端冷静になっていく航、とりあえず何があったか聞くことにした。

 

「一夏、お前はいったい何をしたんだ?」

 

いきなり冷静になられたため、一夏はとりあえず弁明する。

 

「い、いや、同居人が箒で、それでノックせずに入ったら」

 

「オッケー、わかった。自業自得ってこと『バガンッ!』がぁ!?」

 

「航!?」

 

『きゃあ!?』

 

その時だ、いきなり扉を突き破ってきた木刀が航の眉間に直撃したのだ。航はそのまま後ろに飛ばされ、後ろにあった扉に後頭部を強打する。

 

「箒ぃ!木刀が航に直撃した!!やばいって、これ!箒!」

 

一夏は扉を強く叩き、本気とも言える叫びで箒に訴える。そして扉越しにばたばたと音が聞こえ、扉を箒が開く。

 

「なっ、わ、航!?」

 

箒が見たのは、眉間から血をダラダラ流す航の姿。制服まで赤く染まり、まさに痛ましい姿である。周りにいた女子達はあまりの姿に言葉をなくしていたが箒も例外でなく、自分のしたことに恐怖し、その場でオロオロしだす始末だ。

 

「い、一夏、ど、どう「ほう……きぃ……!」ひぃ……!?」

 

航の目は箒を睨んでいる。

 

「わ、航……」

 

航はゆっくりと起き上って箒を睨む。その眼つきは周りにいた女子達も涙目になるほどで、まともに見た箒はすぐにへたり込んだ。

その後航は首をゴキゴキと鳴らし、箒を視界から外した後、一夏の方を向く。

 

「……一夏、何か冷たいものをくれんか?」

 

「わかった」

 

一夏はそう言って部屋に急いで戻り、そして手にタオルと氷嚢を持って出てくる。それを航に渡した後、航はそれを顔の傷口にタオルを与えた後に氷嚢をその上に押し付ける。

 

「だーくそ、いてえじゃねえか……」

 

「……」

 

航はそう言って箒の方を見るが、箒は俯いて何も言わない。

 

「おい」

 

「……」

 

先程より少し威圧感を付けて呼んだが、箒の体がビクッとしただけで箒は先程と態度を変えない。その姿を見た航はイライラしだして握りこぶしを作ったが、その後に舌打ちをする。

 

「一夏、タオルは今週には返すから」

 

「お、おう」

 

そう言って自室へと足を運び始めたが、少し進んだ後に後ろを振り返って口を開く。

 

「箒、お前、ごめんなさいぐらいなんで言えないんだ?お前そんな人間だったか?」

 

そしてため息を吐き、1回睨みつけた航は自室の扉をノックして部屋に入っていくのであった。

そして残される惨状を見た人たち。誰も何も言えず、ただ、誰も動こうともしなかった。

 

「お前らそこで何をしている」

 

その時だ。全員が声のした方を見ると、そこに立っていたのはジャージ姿の千冬である。そして改めて同じことを聞くが誰も答えず、少し離れたところに空間があるとわかって、すぐにそこに進む。そしてそこで見たのは、

 

「織斑、篠ノ之、ここでいったい何があった」

 

穴の開いた1025室の扉、血で汚れた扉と床、木刀を持ったままへたり込んでいる箒、どうすればいのか分からない状況にいる一夏、それが千冬の見た状況である。

とりあえず千冬は一夏に何があったかを聞くことにする。

 

「実は……」

 

腕を組んで目を瞑って聞いていた千冬だが、そして一夏の説明が終わった後、目を開いて口も開く。

 

「航が怪我……か。あいつは怪我してもすぐ治る。だからほおっておけ」

 

その言葉に周りは絶句する。そこ答えはあまりにも無茶苦茶で、残酷ともいえる答えであった。

 

「そして篠ノ之、お前は今すぐ寮長室に来い」

 

「……はい」

 

「では解散!さっさと部屋に戻れ!」

 

箒が小さく返事をし、千冬が周りにいた生徒たちを一気に散らした後、事情聴取のために箒と一夏を連れて寮長室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

自室の扉を開いて最初に見たのは、水色の髪をした女子がベッドの上で雑誌を読んでいる姿である。頭にはヘッドフォンをしており、それで流れている曲だろうか、それを少し音量が大きめの声で口ずさみながら雑誌のページをめくっている。

 

「手をつーないだーらいいってみ……、あ」

 

「……」

 

その時気配を感じたのだろうか、女子が振り向いたときにいたのは氷嚢で傷口を抑える航。その姿はある意味奇妙にも見える状態であった。そしてお互い無言の中、最初に口を開いたのは航だ。

 

「何やってんの、刀奈姉」

 

「えっと……、歌いながら雑誌読み……?」

 

そう言って刀奈……、もといIS学園生徒会長、更識楯無はさっきの恥ずかしさをごまかすかのように笑顔で答える。そして改めて航の顔を見たとき、表情を一気に焦りへと変えていく。

 

「航!いったい何があったの!?というより後頭部からも血が出てるし!……いや、もう血が止まってるっていうか傷がふさがり始めてるわね」

 

楯無は航のとりあえず現状で確認できる傷を確認していく。そしてお互いの顔と顔が向き合う形にして、楯無は顔のを外すように指示する。

 

「ねえ、その氷嚢とタオルを外して?」

 

「……わかった」

 

そう言って航は二つを外していく。そして外した後、眉間は先程の血がべっとりと着いており、顔もあちこちを赤く染めている。楯無はそれを先程濡らしたハンカチで優しく拭き取っていき、そして傷口があるであろう眉間にこびりついた血を拭っていく。

だが

 

「いつみてもすごいわね……。傷口が殆ど癒着してきてるわ……」

 

そう、眉間にあった約2センチほどの傷口が殆ど塞がっており、残り1センチ程度しか傷口は残っていない。そのせいで血はすでに止まっており、航はとりあえず顔を汚す血を拭う。

 

「いつみても本当にすごい回復力ね」

 

「まあこれでゴジラだ化け物だ、って言われて嫌われてきたがな」

 

楯無は関心したかのように言う。だが、航がため息交じりで返した為、楯無は苦笑いを浮かべる。

 

「私は怖いって感じたこと一回もなかったけど?」

 

「そういえばそうだったな」

 

そう言ってお互いに笑いあう。

その後航は血で汚れた顔を洗うためにシャワー室に入り、楯無は航の血で汚れた制服を自身のISを部分展開してその能力で血を抜き取っていき、綺麗に真っ白な状態に戻す。なお制服に一切湿気を残さないことを忘れない。

その後楯無は暇になってしまい、航のバッグを無断で漁った時、とある道具を見つける。だが、楯無はそれを元の場所に戻す。

 

「ふー、上がった上がった」

 

航はシャワー室から上下共にグレーのスウェットで出てくる。眉間の傷口は塞がってるともいえる状態になっており、航は軽く眉間の傷口を触って状態を確認している。

 

そして改めてお互いに挨拶をする。

 

「さて、いろいろあったけど改めて久しぶりね、航」

 

「久しぶり、刀奈姉」

 

航がそう言った時、楯無は少し苦笑いを浮かべる。

 

「あー、私と二人っきりの時はいいけど、他の人がいるときは楯無って呼んで?」

 

「なら楯姉で」

 

「うーん、ならそれでいいや」

 

その後二人は色々と喋りあい、楯無特製の夕食を食べる。

食べ終わった後、航は楯無に学科の勉強の分からないところを教えてもらうことにした。

そして今は楯無に分からないところを教えてもらっていた。

 

「なるほど。じゃあ、ここの意味は?」

 

「ここ?ここは……」

 

そんな感じで教えてもらっていたら、時間はすでに午後19時半。勉強を切りのいいところで切り上げ、そして歯磨きをして、楯無は窓側のベッド、航は扉側のベッドに入る。

そしてあとは電気を消してもいいのだが、航は楯無のいる方に寝返りを打つ。

 

「刀奈姉、そういやどうして俺と同じ部屋なんだ?」

 

「駄目だった?」

 

「いや、これでいい」

 

この時首を横に振って否定する航。

 

「よかった。まあ、簡単に説明すると、ISの男子搭乗者の護衛として私が選ばれたの」

 

「本当に簡単な説明だな。まあ刀奈姉じゃなかったらこっちもきつかったかな」

 

「まあ、簪ちゃんに一回怖がられたからね……」

 

「まあ……、うん……」

 

先程より小さい声で返事をしたため、楯無はまずいと思い、話題を変えることにした。

 

「そういえばどこか部活はいるところ決めた?」

 

「部活?なんで?」

 

楯無はこの学園はどこかに絶対部活に入らなければならないことを説明し、入らなかったらどうなるかを説明する。それを聞いた航は嫌そうな声を出しており、その時を待っていたかのように楯無が本題を出す。

 

「だから、生徒会に入らない?」

 

「なぜに生徒会」

 

「だって護衛もできるし、部活にも入らなくてもいいし、クラス代表にもならくていいのよ?いいことずくめじゃない」

 

この時間が空いたため、楯無は入る様に願う。だが

 

「……考えておく」

 

そういう答えだったため、小さく溜息を吐いた。

 

「そう、なら早めの答えを待ってるわ」

 

「わかった。じゃあおやすみ」

 

「おやすみ」

 

そう言って楯無は部屋の電気を消し、二人は就寝するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜3時、学園の人工砂浜に一つの黒い影が打ちあがる。それは体長1メートルはある大きな黒いナニカ。顔の部分には2本の鋭い牙が生えており、それをチカチカと鳴らしながら、それは餌を求めて砂浜から学園へと動移しようと尻尾ともいえる部分をばねのようにして滑空しながら移動する。だが、

 

「!?」

 

それは何か気配を感じたのか、すぐさまに体を曲げ、大きく飛び上がって先程のように滑空をして海へと戻る。そしてどんどんと海に体を沈めていき、そして海に完全に姿を消した。

そして砂浜は元から何もなかったかのように波の音だけが響いている。

そして夜が明けて行くのであった。


















……うわ、めっちゃお気に入り減ったよ。まあ仕方ないか。すべて自分のせいだし。


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怪獣学 1

今回の怪獣学で紹介する怪獣は……本編見てね!


翌日、二人は7時半頃に起床し、楯無は航の眉間と後頭部にできていた傷口をチェックする。

 

「よし、しっかりと傷口は治ってるわ」

 

その後制服に着替え、二人は食堂へと向かう。ただ1年、2年、3年と食堂の場所が違うため、途中で別れる羽目になるが。

そして航は朝食の海鮮丼大盛りをもって座れる席を探していた。

 

「お、一夏のとこ誰もいないじゃん」

 

そして一人で食べている一夏を見つけ、そこへ向かう。そして軽く確認をとり、席に着いた航は、箸を持って一気に海鮮丼を口に入れていく。

 

「ん、うめえ」

 

「……なあ、航」

 

「ん?何だ?」

 

この時一夏が真剣な顔でこっちを見る。航は口に入れてたのをさっさと飲み込んだ後に一夏をしっかりと見る。

 

「昨日は本当にすまなかった」

 

一夏は頭を下げて謝る。だが航は訳が分からないという顔をしていた。昨日怪我したのは一夏のせいではなく、箒のせいだというのに。

 

「一夏、なんでお前が謝るんだ?」

 

「俺が箒を怒らせることをしてしまったせいでお前を巻き込んでしまって……」

 

そう言って一夏は頭を上げない。そんな姿を見た航は溜息を吐く。

 

「頭を上げろ」

 

「えっ」

 

「いいから」

 

そう言われたため恐る恐る頭を上げる一夏。そして見たのは少し困り顔を浮かべる航の姿である。

 

「お前はさ本当にそうやって誰でも彼でも人を庇うよな。その癖、少しは直したらどうだ?何時か痛い目見るぜ?」

 

「そ、それは「わーたん、隣いい~?」へぁ?」

 

この時間延びした声が聞こえたため、一夏は気の抜けた返事をする。そこにいたのは本音を含む1組女子達3人である。

 

「お、織斑君。篠栗君、ここの席、いいかな?」

 

「別にいいけど」

 

一夏がOKをだして女子達は席に着く。その間も航は海鮮丼をガツガツと食べており、周りを気にする様子もない。

 

「あのぉ……」

 

女子が話かけるも返事無し。もう一方が話しかけても返事無し。本音はそんな二人の肩を叩いてなぐさめていた。

そしてやっと食べ終わったのか、航はどんぶりをテーブルの上に置く。

 

「ふぅ、ごちそうさま」

 

航は飯を食べだすとそれに集中して話を全く聞かなくなることが多い。そのため、先程から本音以外の女子2人が航に話しかけるも、無視されてる状態だったため落ち込んでいた。

 

「ん?どうした?」

 

「ああ、航が無視してたからそれで落ち込んでんだよ」

 

一夏の説明でなるほどと頷く。

 

「ああ、なるほど。すまんな、話を聞かなくて」

 

その後なんだかんだあって仲良くなっていくが、航が何か思い出したかのような顔をして一夏の方を向く。

 

「一夏、そういや箒はどうなった?」

 

一夏は顔を伏せる。

 

「箒は、千冬姉にこれでもかというほど叱られて……って、航、傷は大丈夫なのか?」

 

「すでに治ってる」

 

そう言って前髪を上げて、眉間を見せる。眉間の傷はすでに無くなっており、少し傷跡が残ってる程度だ。

一夏はそれを見ると、安心したのか安堵の息を吐いていた。

 

「よかった。まあ、航のことだから大丈夫だろうって思ってたけどな」

 

「ひでえな、お前」

 

そう言ってる時にパンパンと手を叩く音がした。音源を見てみるとそこには千冬がいる。

 

「何時まで朝食を食べている!食事は迅速に効率よく取れ!遅刻したものはグラウンド10周だ!」

 

そう言ったため、周りは急いで食事をとっていく。航はさっさとどんぶりを乗せた盆を返却口に置き、教室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

そして一時限目、授業内容は怪獣学。昨日と同じ通り航と一夏は準備満タンでいつでも来い!と言うほどの気前でいるが、周りの女子はとてもやる気のなさそうだ。

そして燈が教室に入ってくる。そして始まりの号令が終わる。

 

「では前回はゴジラの説明だったから、その次の怪獣の説明をしていくわ」

 

そう言って電子黒板に現れた写真は

 

「この怪獣はラドン。身長50メートル、翼長120メートル、重さは1万5千トン。現れた年が1956年で最初に現れたところが阿蘇山付近の炭鉱地下よ」

 

その後さまざまな写真を展開していく燈。ラドンの雛の写真、その後に何か虫を食べている写真、空を飛んでる写真など様々だ。

 

「阿蘇山付近の地下で卵から生まれたラドンはその後メガヌロン、この写真で食べている虫のことね、を食べて大きく成長、そして

 

「先生、メガヌロンってどういうのですか?この写真を比較する限り5メートルはありそうなんですけど」

 

一夏が質問をする。

 

「あら、そこの質問する?まあいいや。今から簡単に説明をするから、っとその前に写真ね、はい」

 

そして電子黒板前に出された白黒写真を見た女子達は一気に顔を真っ青にする。見た目は鎧をまとった大きな芋虫にも見える。だが顔に大きな複眼が二つ、そして前足にあたる部分には大きな鋏が2対生えており、どう見ても虫とは呼びにくい姿をしていた。

 

「これがメガヌロン。大きさは全長8メートル、重さ1トン。3億年前に生息来ていたトンボの幼虫、ヤゴよ」

 

「これがトンボの幼虫!?嘘でしょ!?ヤゴの形してないじゃない!」

 

恐らく昆虫好きの女子がいたのだろう、ヤゴであることを本気で拒絶している。まあ、無理ないだろう。まあ、上から見たら芋虫に近い形だし、陸上で普通に活動してるし。

 

「まあそう思うでしょうね。で、メガヌロンは阿蘇炭鉱出現後、民家などを襲撃。人を食べるなどをしてあたりを恐怖のどん底に落としていたわ。でもそれを主食とでもいうかのようにラドンの雛はそれを食べていたの」

 

人を襲うって聞いたときに誰かがのどをごくっと鳴らす。

そして雛でどれだけでかいんだよとツッコミを入れたくなる一同だが、怪獣だからしょうがないと思って我慢する。

 

「でその後成長したラドンは飛んで行き、当時の戦闘機の攻撃で海に不時着。だけど復活して西海橋を破壊、そして福岡で大暴れした後にどことなく現れたもう一頭のラドンと共に福岡を更にめちゃくちゃにした後、どこかに消えたわ。そして当時の科学者が鳥の持つ帰巣本能で阿蘇山に向かったと言われ、当時の自衛隊はラドンを阿蘇山の火口に落とす作戦を立案。その後うまくいった作戦で、最後は二匹とも阿蘇山の溶岩にのまれて死んでいったわ」

 

そしていろいろと電子黒板に書いていき、また生徒の方を向く。

 

「この後鉱山の中を確認していき、メガヌロンは確認できた分は駆除。そして阿蘇山付近の鉱山一帯は全て閉山したわ」

 

そこまで説明して燈は軽く周りを見渡す。やっぱりだ、4分の3以上は話を聞いていない。分かっていたがこの絶望感が自分を襲う。

そしてチャイムが鳴ったため、続きはまた今度で授業はここで終了し、号令の後にトボトボと教室を出て行く。

 

(毎回のことだからわかっていたけど、やっぱり落ち込むなぁ……)

 

そして階段を下りて職員室へと向かうのであった。

 

(やっぱり燈さん悲しそうな顔してたな……)

 

航は休み時間窓の方を向いており、一夏が何か話しかけていたがほとんど聞いてなかった。

 

「航、聞いてるのか?」

 

そしてやっと気づいたのか一夏の方を向く。

 

「ん、ああ。すまん、聞いてなかった」

 

「おいおい、何だよそれ」

 

「すまんな」

 

そう言った後すぐにチャイムが鳴ったため、一夏はさっさと席に戻る。

そして授業が始まるのであった。

 

 

 

 

 

「航……、難しすぎるんだけど……」

 

「しょうがないさ、俺だってどうにか付いて行っている状況なんだから」

 

一夏は頭がオーバーヒートしたのか完全に机に突っ伏しており、完全にグロッキー状態だ。航は腕を組んだままそんな一夏を見ている。

 

「どうしてこんなに難しい単語が……」

 

そういう風に呻き声ともいえる声で言っており、あまりのグロッキー状態に航の頬は引き攣る。

その時、クラスにいる女子の大半が二人達に元へ一気に駆け寄ってきた。

 

「織斑君、篠栗君」

 

「質問いいかなー?」

 

「今日暇?後で暇?夜は暇?」

 

「harry up!」

 

いきなりの質問攻めで二人はたじたじ状態になるが、周りはそんなの関係ないとでもいうかのようにどんどん質問を吹っかけてくる。

 

「ねえねえ織斑君、千冬様って休みの時って何をしてるの?」

 

「え、案外だ「一夏、後ろ」えっ、ぶおっ!?」

 

この時一夏の頭に出席簿が叩き下ろされる。一夏はいきなりの痛みに頭を押さえて蹲り、そして何があったのかと後ろを向く。そこにいたのは出席簿を持った一夏の姉、織斑千冬である。

 

「休み時間はもう終わりだ。さっさと席に着け!」

 

そして蜘蛛の子を散らすかのように席に戻っていく女子達。航は一夏が叩かれる前にはいつの間にか席に戻っており、一夏はそんな航を恨めしそうに睨みつける。

 

「ところで織斑と篠栗、お前らのISだが準備までもう少しかかる」

 

この言葉に一夏は首を傾げ、航はピクリと片眉が上がる。

 

「織斑のは学園が用意し、篠栗のはとある企業がISを提供するそうだ」

 

一夏は何が何なのか理解しておらず、首を傾げたままだ。

 

「織斑、教科書6ページを朗読しろ」

 

千冬がそう言ったため、一夏は教科書を開いて朗読を始める。

航はそれを聞いていたが、めんどくさくなったのかそれを簡単に考えることにする。要約すると『ISコアは世界に467個しかない』、『コアは篠ノ之束にしか作れない。そして作れる本人は行方不明』『そして一夏と航は実験体』ということだ。

 

「あの、篠ノ之さんって篠ノ之博士とどういう関係で……」

 

「篠ノ之はあいつの妹だ」

 

千冬がそう言った時、教室のほぼ全員が驚きの表情を浮かべ、一気に箒の方を向いて騒ぎ出した。。

 

「篠ノ之さん、それって本当!?」

 

「凄い!このクラスに有名人の身内いるなんて!」

 

「篠ノ之さん、今度ISについて教えてよ!」

 

周りはそう言ってるが、誰も箒が握りこぶしを作ってプルプル震えてることに気付かない。

 

「あの人は関係ない!」

 

そして立ち上がって机をバンッ!と叩き、大声で叫ぶ。周りはいきなり叫ばれたため困惑しており、

 

「あの人は関係ないんだ……」

 

箒はそう言って静かに席に着いていく。一気に空気は悪くなり、千冬と一緒に来ていた真耶はオロオロとしだす。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

 

「は、はい!」

 

そして授業が始まるのであった。

 

(あれ、箒っていつの間に教室にいたんだ?)

 

航はそんなことを思っているのであった。

 

 

 

 

 

そして昼休み、ここは全学年共有の食堂。航は一夏と一緒に昼食を食べていたが、途中で席を離れて、そして戻ってきたときに箒がいつの間にか航の席を盗っているのを確認した。

一夏は一夏で航の席を箒が盗っていることに気付いておらず、箒も航がジト目で見られていることに気付いていない。

そして何時までも箒が動かないことに疲れたのか、航は一夏のいるところまで歩いていく。

 

「おーす、今戻った、って箒。何俺の座ってた席盗ってんだ」

 

「な、関係ないであろう!」

 

「いや、関係ある。そこのテーブルに置いてある飯、俺のだし」

 

そう言って航が指さしたのは、食べかけの和風ステーキ定食。和風なら女子も食べないことのないだろうが、どう見ても量が2~3人前ほどある。

 

「こ、これは私のだ!」

 

箒はそこの席を動きたくないのか苦しい言い訳をする。だがそれを聞いたとき、航の顔はニヤリを笑った。

 

「あっそ。なら頑張って食えよ~。俺はまた頼んでくるから」

 

そう言ってクルリと体を旋回させてその場を離れて行こうとする。

 

「ねえ、君たちって噂の男子搭乗者?」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

この時、いきなり聞きなれない声がしたため、航は立ち止まって声のした方を向き、一夏も声のした方を向く。

そこにいたのはリボンの色からして3年生の女子だ。彼女は一夏の方を見ており、航の方はまあ、見ておくかって感じで見ている。

 

「ねえ、二人ってISってどれくらい乗った?」

 

「俺は、大体30分ぐらいです」

 

一夏がそう言って後、航も同じくと答える。

 

「だめよ、そんなんじゃ代表候補生には勝てないわ。代表候補生って大体300時間は乗ってるのよ。だから」

 

そして3年女子はぐいっと一夏の方に寄る。

 

「私がISに着いて教えようか?あ、君もついでに教えようか?」

 

そう言って一夏にはいい笑顔を向けるが、航については見下すかのような顔だ。

 

「あ、お願い「いや、いいです」え、箒……」

 

一夏はいきなり放棄に遮られたことに戸惑う。3年の女子もいきなりのことで少しイラついたのか、目が笑っていない。

 

「あら、あなたはいきなり何なの?1年生だから教えるのはきついでしょ?」

 

「大丈夫です。私、篠ノ之束の妹ですから」

 

「えっ!?」

 

箒のカミングアウトに驚く3年生。そして無理と悟ったのか一夏の元を離れていき、どこかへ消える。

 

「一夏、何かお前、箒にISのことを教えてもらうことになったな」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

一夏はいつの間にか隣に来ていた航に肩をポンと叩かれる。

 

「そういや航は誰かにISのことを教えてもらうのか?」

 

一夏は、航が楯無に学科の方を教えてもらってるのを知らないためそう聞く。

 

「ならしょうがないわた「大丈夫だ、問題ない。すでに昨日から同室の人に教えてもらってる」何!?」

 

箒はドヤ顔で航に教えてやると言おうとしたが、まさか既にいるとは。それで顔を真っ赤にする箒。

 

「だ、だがISを使うなら体力がいる!だから今日の放課後、剣道場に来い!」

 

「マジかよ」

 

「当たり前だ!一夏もちゃんと来るんだぞ!」

 

「お、おう……」

 

それで無理やり、二人は放課後に剣道場に行くことになるのであった。

 

「あ、航。ここにいたの」

 

「あ、か……楯姉」

 

その時食堂の奥から現れたのは、昼食を食べ終わったのか、食器の乗った盆を持っている楯無である。

 

「まだ時間があるからちょっと生徒会室に来てくれない?」

 

そう言った時、航は頬をポリポリ掻いて、眉がへの字に曲がっている。

 

「あー、まだ昼めし食ってないんだ。だからちょい待っててくれない?」

 

「え、まだ食べてないの?いったい何をしてたのよ」

 

「いやー、ちょっとな」

 

そう言ってチラリと箒の方を見る。箒は航を睨みつけており、目線を外して小さく肩をすくめる。

楯無は顎に手を当てて何か考えており、そして口を開く。

 

「うーん、なら放課後は?」

 

「放課後は……、箒に剣道場に来いって言われてるから……」

 

「何か大変ね……」

 

そういうが楯無は困り顔。航はどうにかしようと、

 

「まあ、さっさと早く終わらせて生徒会室に行くから」

 

「何!?」

 

そう言って箒は立ち上がって航を先程より鋭い目で睨む。だが航もそれが気に入らないのか睨み返す。

 

「こっちにも用があるんだよだからさっさと終わらせる。だたそれだけだ。」

 

そう言って航は一夏と箒の元からさっさと離れていくのであった。

 

(うわ、航少し頭に来てるな。あいつ、本気で終わらせるつもりか……)

 

一夏はそう思いながらさらに残っている昼食をつまむのであった。

なお箒は、自分のと言い張った和風ステーキ定食をさっさと返却口に返すのであった。

 




この怪獣学、54年版ゴジラが死んで日本に合わられた怪獣の順番で出していきます。勘が鋭い人は、次の紹介する怪獣が何か分かるはずです。


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剣道場にて

どうもゴジラ超全集シリーズで『ゴジラ モスラ メカゴジラ 東京SOS』をAmazonで購入した妖刀です。これでこの小説のゴジラ側の資料がほぼそろった。


では本編、どうぞ!


それから放課後、一夏と航は剣道場におり、一夏が先に箒と試合をしていたが……、

 

「弱い!」

 

一夏は箒にボコボコまで行かなかったが、綺麗に負けていた。箒は負けてばっかの一夏を見て苛立ちが止まらない。そして竹刀の先を床に叩きつける。

 

「私が引っ越して今まで何をしていた!」

 

「家計をどうにかするためにバイトとかしてた。あと学校は皆勤賞を取ったぜ」

 

そういうが、箒はへらへらしてる一夏に対していら立ちが募る。

 

「なら家に帰った時に竹刀を素振りするぐらいの暇はあっただろう!」

 

「箒、俺が見る限りではそんな暇はなかったぜ。一夏、四六時中暇なときは生活費のために働いてるって感じだったし」

 

「航には聞いてない!一夏、竹刀を持て!その根性を叩き直してやる!」

 

そう言って箒は竹刀を構えるが、一夏は疲れ切ったのか竹刀を手放して床に尻餅をつく。箒はその姿を見てさらに苛立っていた。

 

「箒、一回落ち着けって」

 

航がそう言った時、箒は航を竹刀の切っ先を航に向けて睨みつける。

 

「ならお前の力を見てやる。竹刀を持て」

 

そういわれたため、航は竹刀を持って箒の前に立つ。自分用の胴着は来ているが防具は着ておらず、剣道場にいた女子達は騒めく。

 

「航、それは私に対する侮辱か?」

 

「俺は一夏と違って暇だらけだったからな、その分剣を握っている」

 

「ふん、そういえばお前は、昔は同じ道場でお前は一番弱かったな」

 

箒はそう言って挑発するが航は無視する。そして部長が試合開始の合図をしたとき、航は右手に竹刀を持ち、そして高く振り上げる。片手上段だ。

箒は胴ががら空きの状態である航に対して強い警戒心を持つ。

 

(何だ?誘っているのか?いまいち考えが読めない……)

 

「箒、航は昔と比べ物にならないぐらい強くなってるから気を付けろよ」

 

一夏は警告したが、箒はジリジリと航に近づいていく。その時だ。

 

「ふんっ!」

 

「なっ!?」

 

航が一歩踏み出して竹刀を振り下ろしてきたのだ。箒はかわすなりできたが勢いで竹刀で防御をしてしまう。航の振り下ろす力は尋常じゃなく、そして……、

 

「なっ……!?」

 

その力に耐えきれなくなったのか、二人の竹刀が折れる。航は力余って箒の前を空ぶる形になり、そして折れた先が地に着いて動きが止まる。

箒は目の前を通ったのでびっくりしていたが、一瞬だけ目が合った時に恐怖の表情を浮かべて後ろに跳び下がり、着地し損ねて尻餅をつく。

剣道場にいた全員は竹刀が折れるとは思わずキョトンとしている。いや、2人だけしていない人がいる。一夏と剣道場の入口にいた楯無だ。

 

「航、終わったなら早く来て」

 

「あ、わかった、楯姉」

 

『え、生徒会長!?そして楯姉!?』

 

剣道場にいた女子達は楯無がいたことに驚いたが、航が楯無のことを楯姉と呼んだことにも驚いていた。航と楯無はどんな関係なのか、女子達はそのことで話し合い始める。

その様子を楯無は楽しんでるのか、手に持ってた扇子を開いて『どんな関系かは秘密』と書かれていたため、女子達の会話はヒートアップしていく。

だが二人はそれを無視して剣道場を出て行こうとする。

 

「まだだ、私は負けてない!」

 

いきなり後ろから声がしたため二人は振り返ると、箒が新たに竹刀を持って航に切っ先を向けていた。

 

「あのさ、頼むから一回落ち着けって」

 

「知らん!もう一回勝負だ!」

 

だが箒は話を聞かない。これでは埒が明かないと困っていた二人に助け舟が出された。

 

「篠ノ之さん、それは見苦しいですよ」

 

剣道部の部長が箒の竹刀を掴み、下に押し下げる。それで箒は部長を睨みつけた。

 

「何でです、部長!」

 

「あなたは折れた竹刀が目の前を通った時、尻餅をつきましたね。確かに試合場は引き分けなんでしょうけど、あなたは後ろに下がって尻餅をついた。これの意味は分かりますね?」

 

部長は笑顔で答えるが目は笑ってない。そして反論させないって勢いで言っていくため、箒は何も反論できなくなり俯いた。

 

「うちの新入部員がすみません」

 

「すみません。俺もやりすぎました」

 

そして部長と航が謝りあってたため、楯無が間に入って終わらせる。そして航は楯無に連れられて剣道場を後にするのであった。

 

「あ、織斑君もクタクタみたいだから部屋に帰ってしっかりと休んでね」

 

その言葉を聞いた一夏は、フラフラになりながらも剣道場を後にした。

 

 

 

 

 

剣道場を後にした航と楯無は、生徒会室へと向かっていた。

 

「それにしても航って剣道くなったわね」

 

「まあ、いろいろあったし……」

 

「それもそうねぇ」

 

「だってあれ、単純に力技でねじ伏せただけだし」

 

そう言って肩をすくめるが、楯無は目をスッと細める。

 

「へぇ……、ならあの竹刀を振り下ろす瞬間に見せた殺気とも闘気ともいえる気は何だったの?どう見ても勝つ気満々だったくせに」

 

そういわれたとき、航はばれていたかと苦笑いを浮かべる。そう、航は竹刀を振り下ろしたときに、まるで人を殺すのではないかという眼つきをしていたのだ。

それがばれてしまったことに後頭部をポリポリと掻き、表情が少し暗くなる。

 

「そりゃあ……勝ちたいさ。何時までも負けっぱなしは嫌だし」

 

「なら自分が強くて勝った、それでいいじゃない。自分に自信を持ちなさい」

 

そう言って楯無はニコッっと笑う。航はそういわれたときに面打ったが、連られるようにニッと笑う。

 

「ならそれでいいか」

 

「ええ、そうよ」

 

こうして話してる間に気付けば生徒会室前に着いて中に入ったが誰もおらず、しょうがないから自室に戻って夕食の時間まで勉強を始める。

 

「そういえば航は怪獣学は大丈夫?」

 

「全く問題ない。ノート見てみる?」

 

そう言われて渡されたノートを見えると、楯無は書かれてる内容にキョトンとするのであった。

 

「は、初めて見たわ。出ていた怪獣の写真をほとんどそのままに書き写すとか……」

 

ノートには電子黒板に書かれていたことの他に出されていた怪獣の写真をそのまま書き写した絵が描かれていた。

 

「まあ、これなら怪獣学は問題ないね」

 

そして夕食の時間まで勉強をしていき、

 

「刀奈姉、そもそもここの訓練機だっけ?それで練習しなかったら俺、見事に負けるんじゃね?」

 

「あ、その点は問題ないわ。明日は訓練機を使ったISの基礎を教えていくから。あと織斑君も呼んでね。二人一気にうした方が楽だし」

 

「わかった」

 

そして夕食の時間になったため、お互いの食堂に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ここは日本のとある山奥。

 

「主任!、主任!いったいどこですか!?」

 

ここは企業『婆羅陀魏(ばらだぎ)』。周りからは婆羅陀魏社と呼ばれる倉持技研と並ぶ、いやそれ以上とも言われる日本のIS開発企業である。

なおこの会社名の由来は、昔に現れた怪獣の名前だとかなんとか。

その会社の廊下を、まだ若手ともいえるパッと見20代の日系アメリカ人研究員が走っていた。

 

「ったく、もうすぐIS学園にISを出さないといけないのに馬鹿主任はどこにいるんだよ!」

 

あちこちを走って探すがいない。だが1つ思い当たるところがあったため、そこに向けて男は走り出した。

そして男は目的地である、第5研究室と書かれている研究室の扉を開ける。通常は自動で開く扉も、ここだけ手動に切り替えられており、重さ50キロもある扉を力で無理やり開けて、そして男は体をねじ込むように入り込む。

部屋の中は真っ暗で、そして手探りで壁を触った時何かスイッチみたいのを見つけてそれを押す。そして部屋の電気がつく。

部屋の中は色々と書類などで散らかっており、その中にある机に寝そべって寝ている髪の毛に白髪が大量に混じった日本人顔の白衣を着た男がいた。

 

「やっぱりいた。主任、起きてください!」

 

そう言って男は主任と呼ばれる男を揺さぶる。

 

「ん?あぁ……。おはよう、アンダーソン君」

 

「どこのマト○ックスですか!自分の名前はアンダーソンじゃなくてワンダーソンです!」

 

「あんまり変わらんじゃん」

 

そう言って主任は立ち上がって背伸びをする。そしてワンダーソンの方を向く。

 

「で、『アレ』を搬送するわけ?」

 

「そりゃそうですよ!だから早くコンテナの方に運ぶ用意をしないと!」

 

あまりにも必死なワンダーソンの姿に、主任は溜息を吐く。

 

「わかったわかった。今から出すからちょい待っとけ」

 

そう言って主任は部屋の奥にある扉へ向かう。そしてハッチのちなりに設置されてるパスワードを入力した後、中に入り込む。そして中にあったのは、たくさんのコードに繋がれた銀色の龍であった。主任はコードの根本、台座に目的地を入力して荷物用ハッチから出て行く。そして押して数分後、搬送用コンテナの前に着いたため、主任は一息吐く。

 

「さて、これをさっさとコンテナに移すか。ワンダーソン君、手伝ってくれ」

 

そしてISをコンテナに移動させ、コンテナをトラックに詰め込む。そしてトラックを送り出した後、仕事を終えた主任とワンダーソンは研究所の廊下を歩いていた。

 

「それにしてもこの会社、すごいですよね。更識家の現当主のISを開発したり、零落白夜を再現しようと試みがあったり(まあ、結局零落白夜の再現は無理でしたけど)」

 

「当たり前だ。この会社は特生自衛隊の技術の一部が流れてきてるからな」

 

そう言って主任は笑う。

 

「ですけど、まさかDNAコンピューターの技術が流れてくるとは……。ところで『アレ』はDNAコンピューターを取り入れてるんですよね?」

 

「ああ、そうだな。だからあんなとんでもない重量でもIS相手に十分な動きを見せてくれるよ」

 

「通常のISって1トンあるかないかぐらいですけど、あれってどれぐらいでしたっけ?」

 

「大体5~6トンはあったと思う。」

 

「重!」

 

そうツッコむが、主任は何がって顔をしている。まあ、全身装甲だと重量が重くなるのは仕方ないだろう。

この時ワンダーソンは何か思い出したかのような顔をする。

 

「そういえばISの名前を聞いてません出たね。あれってなんていう名前なんですか?」

 

ワンダーソンがそう聞いたとき、主任の口角はニィって上がっていく。

 

「名前は『●●●●』、この世を変えるISだ」

 

そう言って主任は狂気に染まったかのような笑みを浮かべる。ワンダーソンはよく見る顔であっても、この時の主任に対して体が震えた。

 

 

 

 

 

龍の目覚めは近い




次回、銀龍が目覚める。





お楽しみに!


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その名は機龍

どうも、免許証と保険証をなくした妖刀です。

厄払いに行ったのにほとんど意味がなかったみたいですね。


では本編どうぞ!


それから時は経ち、今日はクラス代表決定戦当日。ピットの中で一人落ち込んでいる一夏がいた。

 

「航……、俺、お前のところで教えてもらいたかった……」

 

「一夏、ご愁傷様……」

 

完全に床に手と膝をついて落ち込んでいる一夏を、航は肩に手を置いてなぐさめている。

 

「一夏、何を落ち込んでる。学科の方も教えてやったではないか」

 

「そうかもしれないけどさ……」

 

何があったかというと、航がISを使った練習をしないかと言ったところ、箒に

 

『だめだ!一夏は私が教える!』

 

と言って話を全く聞かず、一夏の意見も一蹴していたため一夏は泣く泣く諦めて箒に教えを説いてもらっていた。だが、するのはずっと剣道で、学科の方は教えてもらってもほとんど壊滅。そんな日がずっと続いており、それに対して航は楯無にいろいろ教えてもらってたため一気に差ができてしまったのだ。

だが箒はきちんと教えたつもりになってるのか、天狗になったかのような表情をしている。

 

「そういえばお前の隣にいる女は誰だ?」

 

その時箒が航の隣にいる女性、楯無を指さして聞く。この時航の頬がひくっと動いたが、楯無は涼しい顔で自己紹介をする

 

「あら、入学式の際にしたはずだけどもう一回しておくわね。私の名前は更識楯無。IS学園の生徒会長で、航の同室相手よ。そして航の幼馴染でもあるわ」

 

そう言って楯無は中に『幼馴染』と書かれた扇子を広げる。

 

「あれ、航。幼馴染って他にいたんだ」

 

一夏は自分の知らない幼馴染が航にいたことに驚く。

 

「ほら小学校の時、俺が1週間ほどいないことが何回かあっただろ?その時に親の都合でよく会っててそれでこうなっただけ」

 

「へ~」

 

一夏はそう言って納得していた。

だがこの時、箒は楯無を睨みつけており、楯無はそんな箒を

 

「ならその幼馴染がここにいる?」

 

「あら、その言葉そのまま返すわ。私は航にISのことを教えていて、その結果をここで見に来ただけだし」

 

「それは私もだ!」

 

「ならここにいてもいいじゃない」

 

箒は言い返せないのか「ぐぬぬ」と言っており、楯無は航だけに『論破』と書かれた扇子を開いて見せ、航は苦笑いを浮かべていた。

そして

 

「織斑君、篠栗君、ISが届きました!」

 

その時少し急いだ感じで真耶が現れ、男二人はやっとか!っとそっちに顔を向ける。

そして4人はピットに移動し、そこにあったのはコンテナが1個だけであった。

 

「あれ、山田先生。コンテナが一つだけなんですが……」

 

楯無はコンテナが一つしかないことに疑問に思ってとりあえず聞く。そしてこのコンテナに入ってるのはどっちのだろうか、それが気になった。

 

「それはですね「篠栗の専用機が重すぎて、ここまで搬送するのに時間がかかってるのだ。あと10分もあればここに届くが、先に織斑に試合をしてもらう。いいな?」

 

「ではこれが織斑君のIS、『白式』です」

 

そしてコンテナから出てきたのは『白色』のISだった。その姿は

 

「これが……、俺のIS……」

 

「ではすぐに搭乗してください」

 

「えっ?」

 

一夏は白式の装甲に触れようとしたら、いきなり真耶に乗るように指示される。それに戸惑った一夏であったが、どうやら時間が押してるらしく、急いで搭乗した。

 

「あれ、この感覚……」

 

一夏は謎のなつかしさに襲われ少し戸惑うが、その戸惑いもすぐに安らぎに変わり、そしてカタパルトに足を乗せる。

 

「一夏、勝ってこい!」

 

箒は応援し、一夏は振り返らずに片手を高く振り上げる。

 

「一夏」

 

その時航が呼んだため、一夏は振り返る。航は腕を組んだまま一夏の目を真剣に見ており、一夏は小さく喉を鳴らす。

 

「勝てとは言わん。とりあえず抗ってこい」

 

そう言ってニヤリと笑う航。一夏は真剣な顔をして強く頷く。

 

「よし、行って来い!」

 

「織斑一夏、白式、行きます!」

 

そう言って一夏はカタパルトから射出されてセシリアが待つアリーナへと向かうのであった。

そしてアリーナ上空、セシリアと向き合った一夏は気付かれない程度にセシリアを睨みつける。

 

「あら、逃げずにいらっしゃったのですね」

 

余裕そうにいうセシリアに一夏は短く返事をする。その態度にイラッと来るセシリアだが、余裕の態度は崩さない。

 

「さて、あなたに最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンス?」

 

「ええ、わたくしが一方的に勝つのは自明の理。だからボロボロになってみじめな姿をさらしたくなかったらここで謝れば許してあげないこともよくってよ」

 

だが一夏はそれを鼻で笑う。それにカチンと来たのか、セシリアが噛みついてきた。

 

「何が可笑しいのですの!?」

 

「確かにボロボロでみじめな姿をさらすかもしれない。だけどな、俺はお前がゴジラを馬鹿にしたことを許せないから戦うんだ!」

 

「何故ゴジラを馬鹿にしたことに怒るのですの?」

 

「俺はな、ゴジラをザコ扱いしたことに怒ってるんだ。ゴジラがザコってことはそれに立ち向かった自衛隊を侮辱してるように感じるんだよ。俺の知り合いのゴジラを見た自衛官の人は言ったよ。『ゴジラは本当に強かった。だが俺らは市民を守るために戦ったからゴジラは海に帰ってくれた。一夏、お前も立派な自衛官になってゴジラに立ち向かえ』って。だからな、俺はゴジラを馬鹿にしたお前を許さない!」

 

何か色々と滅茶苦茶だが真剣な目で言う一夏。セシリアはその気迫に押されたのか、少し苦い顔をする。

 

「で、ですがゴジラが現れたのは今から40年前。その間に技術は革新して今やISが一番強いですわ!昔のメカゴジラだか何だか知らないモノより優れてますわ!」

 

それを聞いた一夏は俯く。そして……、

 

「……そうか、ならここで俺が勝ってゴジラが強いことを証明してやる!」

 

謎にテンションが上がってるのか、一夏はとんだ発言をする。そして近接ブレードを展開する一夏。

 

「ならそんな幻想打ち砕いて見せますわ!」

 

そう言ってスターライトmk-Ⅲの安全装置を解除するセシリア。

 

『試合開始』

 

そして開始のブザーとともに一夏はセシリアに突っ込んでいき、セシリアはそれを打ち抜くのであった。

 

 

 

 

 

一夏とセシリアが戦い始めて5分後、ついにその時がやってきた。

 

「笹栗君!やっとISがピットに到着しました!」

 

やっと来たかと思って一気に駆け寄る航。だがそれを見たとき、その歩みはゆっくりととまっていく。隣にいた楯無も航と同じ状態で、コンテナを見ていた。普通と変わらないはずなのに何か可笑しい。

 

「コンテナが……、でかい……?」

 

そう、白式が入っていたコンテナより一回り大きいのだ。コレは隣にいた楯無も少し驚いており、扇子を開いたり閉じたりしている。

 

「では、開けますね?」

 

そう言って真耶はコンテナのロックと解除しコンテナが開かれる。そして中に入っていたのは、

 

「これって……!?織斑先生!」

 

「何でこんなのが……」

 

真耶は中に入っていたものに、千冬はうまく言葉にできていない。

 

「航、これって!……航?」

 

楯無は航の方を向くが、航の口角が上がっていたことに少し戸惑う。

 

「まさかこいつとは……」

 

航は少し嬉しそうに呟いた。

銀色全身装甲のボディ、三列に並んで生えている背びれ、鋭い手足の爪に長い尻尾。極め付けはゴジラに似た頭部。その姿は恐怖、歓喜、戸惑いなどを人から呼び出す姿であった。昔の人間は知っていた機械龍、その名は

 

「機龍……」

 

航は銀色のIS、『機龍』を見て、そう呟く。

そして胸部がガパッと開き、航は中に入り込む。

 

「っ!?」

 

その時だ、とても懐かしい感覚。そう、家族と一緒にいるような感覚だ。

この感覚は何だ?何故こんな気分になる?懐かしい?訳が分からない。なぜ機龍に乗って懐かしいと思ったのだ?

まるで自分が動かして戦ってたかのような……。

いや、違う。これは機龍の中にある『ナニカ』に懐かしさを感じたのだ。

だがそれもすぐ終わる。

その時、目の前が真っ白に光り、まるで吹き飛ばされたかのような感覚が航を襲う。そして周りを見渡すと、あたり一帯は煙だらけでよく見えない。そして煙が晴れてきて、そこにいたのは黒い大きな影であった。『ソレ』は航を見下ろすと……。

 

「……る。……たる!」

 

その時、誰かが自分を読んだ気がした。声のした方を向くが誰もいない。そして影があった方を向ても何もいない。

 

「……たる!航!」

 

「はっ!?」

 

その時意識が戻される。周りを見るとISを纏った自分。そして心配そうに見つめる楯無。どうやら意識が飛ばされていたようだ。

航は楯無に何があったか問い詰められたが、うまくごまかす。

そして一夏の試合風景を眺めており、軽く指を動かす。

それにしても、さっきのは何だったのか?

考えるもも答えは出ず、その間に着々と初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)が進んで行く。その速度は異常なほど速く、あと5分あれば一次移行を行えるほどだ。

だが思考を戻して、航は動きをチェックする。

体を軽く動かし、腕を動かして掌を握ったり離したり。そして後ろを振り向いて、尻尾を動かしてみた。

 

「おお、自分の意志で動く動く」

 

尻尾をグネグネと動かし、そして初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)が完了し、機体が眩く光る。そして完了した姿は

 

「「「「えぇぇぇぇ!?」」」」

 

ピットにいた全員を驚かすのであった。

 

 

 

 

アリーナでは一次移行を済ませた一夏と、ビットが数機落とされたセシリアは接戦を繰り広げていた。

 

「くっ、ブルーティアーズ!」

 

セシリアはビット残り2機を一夏の背部に寄せてレーザーを放つ。一夏は初心者とは思えないほどの動きで回避していき、セシリアめがけて切りかかる。

 

「イ、インターセプター!」

 

セシリアは悲鳴のように叫んで、短剣であるインターセプターを展開し、雪片弐型を逸らして一気に距離を離してスターライmk-Ⅲからレーザーを数発放って一夏にダメージを与えていく。

 

(な、何なんですの!?本当に初心者ですの!?)

 

何度もひやひやさせられる場面があったため、最初より慎重になっていくセシリア。そして

 

「もらった!」

 

一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って急速接近してきたため、体を捻って雪片弐型をかわすと同時に、手に持っていたインターセプターの切っ先を一夏の眉間に向ける。

 

「やばっ!?」

 

一夏はそれを回避しようとしても速度が速すぎて回避もままならず、切っ先が当たって絶対防御が発動し、そのままシールドエネルギーがなくなる。

 

『勝者、セシリア・オルコット』

 

そして終了のブザーが鳴り、先程のギリギリの恐怖を胸に刻んでセシリアはピットに戻って行くのであった。

一夏はどうにか起き上がって、ヨタヨタした動きでピットに戻っていく。

 

「くっ……!」

 

あんなに大きなことを言ったのに勝てなかった。その悔しさで一夏は顔をゆがめる。

そしてピットに入って出迎えたのは、

 

「この負け犬」

 

「全く、もうちょっとうまくできなかったのか?」

 

厳しいことを言う幼馴染と姉であった。一夏はあまりの言い方にがくりと項垂れる。

 

「一夏、ご苦労様。初心者で代表候補生にあそこまで食いつくとはすげえよ!」

 

だが航がほめてくれたため、一夏は照れくさいのかそっぽを向く。それを見た航はニヤニヤしており、

 

「笹栗、そうやってほめ甘やかすな」

 

「そう言いわれましてもね、織斑先生。素直にすごいんですから言ったっていいでしょ」

 

そう言って航は鼻で溜息を吐き、そして両腕に着けてある銀色の手甲だが、右手で左手に着いてる手甲の表面を撫でる。

 

「あれ、そんなのお前つけてたか?」

 

一夏は出撃前には付けていなかった手甲に疑問を持った。

 

「これ?先程届いた俺のISの待機状態」

 

そして一夏は白式を待機状態にさせたら、右腕に白色のガンレットがあり、軽くそれを撫でる。

 

「では織斑君、これがISの規則の本です。ちゃんと読んでいてくださいね」

 

そう言って真耶に渡されたのは、どう見ても広辞苑レベルの厚さを誇る本であった。一夏は絶望した顔で航を見たが、航のすぐ近くにも置かれており、何ともいえない顔になっていく。

 

「次の試合は30分後だ。それまでに最終チェックをしておくように」

 

そう言って千冬はピットから出て行き、真耶もそのあとを追うように出て行くのであった。

 

 

 

 

 

そして休息時間も終わり、航は軽く背伸びをして、そして掌を開いたり閉じたりするときに手甲の金属同士が擦れあってチャリチャリと音を鳴らす。

 

「さーて、一夏。今から面白いのを見せてやる」

 

そう言ってニヤリと笑った後、ISを纏う航。

そこに現れたのは、先程と違い『身長が5メートル近くある』機龍の姿であった。初期設定の時とは違い背中にはバックユニット、両腕には0式レールガンが装備されている。展開が終了した後カメラアイが黄色く光り、血涙のように赤いラインが走った。

そして身長が大きいせいか、少し前屈みになっており、尻尾を誰にも当てない様にくねらせている。

 

「やべぇぇぇぇぇぇ!!!機龍だぁぁぁぁぁ!!!そしてでけぇぇぇぇぇ!!!!」

 

一夏は機龍を見た瞬間にテンションが最高潮になり、目がキラキラしている。そして周りをクルクル回りながら機龍を眺めており、鼻息が荒い。

 

「気持ち悪いぞ」

 

そして千冬に出席簿で叩かれその場で蹲るが、すぐに元に戻る。

 

「では篠栗、試合に出られるな?」

 

「いつでも行けますよ」

 

そう言ってカタパルトに足を乗せるが……、

 

 

ビー、ビー、ビー、

 

 

「篠栗君……、重量オーバーです……」

 

カタパルトに直結の重量計を見たら、重さが14トン。どう見ても普通のISの10倍近くまでの重さがあるからカタパルトが動かないのだ。

申し訳なさそうに言う真耶を見た航は小さく溜息を吐いて、そしてカタパルトの端まで行こうとしたときに振り返る。

 

「楯姉、行ってくる」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

楯無は笑顔で答え、航は尾を浮かべた後、ガシャン、ガシャン、と重厚な足音を響かせてカタパルトを歩いていく。

そしてカタパルトの端から見えるアリーナを見た。聞こえる声はブーイングに近い声。まだここからの姿は見えないはずだが、まあいいだろう。

 

「篠栗航、三式……いや、四式機龍、いくぞ!」

 

そう言ってカタパルトの出口から飛び降りた。




四式機龍の軽い設定

大きさ
初期設定時:3メートル
一次移行後:約5メートル

重量
初期設定時:6.5トン
一次移行後:14トン

一次移行後になぜここまで大きくなったかは今のところ不明


何話か更新した後に詳しく書きます。


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機龍の新たなる世界

眠りについた銀龍の血を継ぐ者はそこで何を見るのか


先程の戦闘が終わってそして休憩後、セシリアはアリーナの真ん中で次の試合相手、篠栗航を待っていた。

 

「いっけー、オルコットさん!」

 

「もう一人の男はボコボコにしちゃえ!」

 

観客達はそう言ってセシリアを鼓舞するが、当のセシリアはそれを聞いてて溜息を吐く。

 

(全く、応援だとしても何か嫌ですわね)

 

セシリアは応援のことは聞こえないようにして先程の試合を思い出す。あと真剣な目、何か胸がどきどきする。なぜかは分からないが悪い気はしない。

 

「ですがもう油断はできませんわね」

 

そう言って気を引き締めなおす。

その時だ。相手のカタパルトからガシャッガシャッっていう音がする。恐らくカタパルトを歩く音なのだろう。だが、なぜ歩いているのか、それがセシリアには分らなかった。カタパルトの意味が無いではないか。

そしてカタパルトの出口に、日が当たるところにまで来てその姿を見せたとき、セシリアどころか、観戦していた女子達を一気に固まらせた。

それは全体的に銀色の全身装甲で、人間に近いがとても遠い姿。その姿は怪獣学の一回目で紹介されゴジラにとても似ている。

だがゴジラとは違い、全身が機械で構成されており、そして何よりでかい。どう見てもブルーティアーズの倍近くはあるのだ。

 

「何なんですの……、あの大きさは……」

 

カタパルトを少し前屈みで出てきたこともあって前屈みをやめたらまだでかいのだろう、セシリアは緊張する。

だがセシリアは知っている。過去にイギリスで見た資料映像にいた……。

 

「たしか……、機龍と言ったかしら?」

 

セシリアはそう呟く。

 

「篠栗航、三……いや、四式機龍、行くぞ!」

 

オープンチャンネルで聞こえ、そして機龍がカタパルトの端から飛び降りる。そして地面との距離がどんどん近くなっていき、大体残り3メートルぐらいになった時に太腿部からブースターが展開され、そして急速に速度を落として大量の砂埃を巻き上げながらゆっくりと着地する。

 

 

ズゥゥン……

 

 

着地音と共に尻尾を地面にたたきつけ、航は空を見上げる。そして口部を開き、

 

『キィァァアア!!』

 

機龍が吼えた。

まるで40年の眠りから覚めたかのように、空に浮く敵を潰そうと意気込むように、機龍は吼えた。

 

「なっ……!?」

 

セシリアはなぜいきなり吼えたのかが分からない。それは観戦席にいる女子達も同じくのようで全員キョトンとしている。

そして航は機龍を歩かせ、セシリアがいるところまで進んで行く。ズシンッズシンッと音を立てて歩き、そしてセシリアの近くまで来た。

 

「待たせたな」

 

セシリアは航が地面にいるせいもあり、完全に見下した姿勢でいる。

 

「……でかいですわね」

 

この時機龍の尻尾がユラリユラリと揺れており、セシリアは少し不思議そうにそれを眺めている。

 

「こっちも驚いてる」

 

「ですが、勝つのは私ですわ」

 

そう言った後セシリアはスターライトmk-Ⅲを展開して航に標準を合わせる。

機龍はキィィと小さく鳴いており、まるで生きてるかのように尻尾を動かしている。

 

「そちらの機体はどう見ても陸戦型。ですから空中戦を主にするわたくしに勝てると思いで?」

 

このとき航はニヤリと笑う。

 

「勝てるさ。たとえオリジナルでなくても、機龍ならやれる。こいつはそういう機体だ」

 

この時試合開始のブザーが鳴った。

 

「そう……、ならその考えを壊して見せて上げますわ!」

 

そしてセシリアはスターライトmk-Ⅲの引き金を引いて、レーザーを航目掛けて走らせる。

だが航は太腿部ブースターを展開してノズルを前に向け、そして後ろに跳び下がることでレーザーを回避し、そのまま着地した際にバックユニットのブースターを使って減速をする。この時地面をガリガリと削りながら着地をし、そしてセシリアを睨みつける。

 

「全弾発射!」

 

そう指示した後、バックユニット前面部から多連装ロケット弾が12発、側面からミサイルが8発放たれ、計20発のミサイル群がセシリアめがけて飛んでいく。

ロケット弾が正面から、ミサイルが弧を描いて側面から飛んでくるためセシリアは急降下、急加速や急旋回を駆使して回避をしていき、それでもついてくるミサイル群にはスターライトmk-Ⅲで的確に貫いていった。

その時だ。

 

『キィァァアア!!』

 

機龍が再び吼えたと思った瞬間、太腿部ブースターとバックユニットのブースターに火がともり、一気にセシリアめがけて飛んだ。その速度は並のISでは出ない速度であり、一気にセシリアに肉薄する。

 

「えっ……?」

 

セシリアはいきなりのことでキョトンとする。だがそれは戦いにおいてもっとも致命傷になることだ。

 

「おらぁ!」

 

航は太腿部ブースターで右足部のブースターを前に、左足部のブースターを後ろにして旋回力を高める形にする。そして機龍の尻尾が勢いよく迫って来た為、セシリアはかわせないと悟ったのか、ミサイルビットを至近距離で放ったのだ。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

爆風を利用して距離を開けるのはいいが、近すぎたせいか爆風できりもみ状態で飛ばされ、30メートルとんだところらへんでどうにか姿勢を制御した。

ブルーティアーズも今の自爆ギリギリの攻撃でシールドエネルギーが減っており、セシリアは苦虫をかみつぶす表情を見せるが、下手に至近距離の攻撃をくらって大ダメージをくらうよりはマシだと言い聞かせ、航がいる煙が立ち込めるところを凝視する。

あの大きさだと恐らくそこまでダメージが通っていないだろう、セシリアはBTビットである『ブルーティアーズ』のレーザータイプを全機展開して警戒心を強める。

そして……。

 

『キィァァアア!!』

 

機龍の咆哮が聞こえた。

 

「……まさか、効いてませんの?」

 

セシリアは煙の中から聞こえた機龍の咆哮に恐怖を覚える。その時だ。

 

「なっ!?」

 

煙の中から再びロケット弾が20発ほど放たれ、セシリアはビットを使って迎撃するがこれが悪手だったことを後に知る。ビットを使ったせいで自身の動きもままならなくなったセシリアは、そのまま迎撃できなかったミサイル数発が直撃し、シールドエネルギーがガリガリ削られていった。

この時セシリアは爆発と爆風に大きく揺られていく。

 

「っ!?」

 

この時何かを感じたセシリアはその場を一気に離れた。そしてセシリアが先程いたところに雷が走った。この時にビットが一機、熱で足部を抉られて爆発する。

それなりに離れたはずなのに、熱でシールドエネルギーを削られたセシリアは何が起きたのか分からず一気に混乱に陥った。

 

「何なんですの、今のは!?」

 

そう叫んだ時、煙の中から現れたのは胸部にミサイルビットが直撃した後のすす汚れが付いた程度の機龍のが現れる。尻尾は怒ってるのか時折大きく揺らしており、吼えたところからその仕草はまるで生きてるかのようだ。

そして太腿部ブースターとバックユニットでブースターを吹かして一気に距離を詰め、セシリアに近接攻撃を仕掛ける。

 

「っ、させませんわ!」

 

セシリアも近づかせまいと残った3機のビットとライフルからレーザーを放つが、見た目と反して機動力が高いのか次々と回避をしていく。そして機龍の攻撃範囲に入ってしまったビットの一機が、前方宙返りで放たれた尻尾の一撃で真っ二つに折れてしまい、機龍が離れると同時に爆発する。

まさかの動きでビットを破壊されたことでセシリアは思考を一瞬だけ停止させてしまい、残ったビットの動きが止まってしまう。これを見逃す航でもなく、一機は速度を生かした動きを用いてその牙で噛み砕き、もう一機は腕部レールガンの弾が連続で直撃して墜ちる。

二つの爆発を確認したセシリアは機龍の姿を改めてみて恐怖する。その姿はまさに怪獣だ、と。

セシリアは距離を離そうとスラスターで前に吹かして距離をとるが、機龍がそれよりも速くセシリアに距離を詰める。

 

「きゃあ!?」

 

そして頭を鷲掴みにされ、そのまま投げ飛ばされたセシリアはなんとか体勢を戻そうとしたが、

 

「きゃあ!」

 

再び至近距離に持ち込まれ、体を捻って出された機龍の尻尾が腹部に直撃し、そのまま地面に叩き落とされ、叩きつけられた時の音が無情に響く。

 

(何なのですの……、あの火力と防御力は……。太刀打ちできませんわ……)

 

叩きつけられた地面の上でセシリアはあの力に恐怖しており、殆ど戦意喪失している。

ゴジラとまともに戦ったといわれる機龍がここまで強いとは。それならオリジナルの機龍の強さはどうなる?

そしたらゴジラの力は……。セシリアは顔を真っ青にした。

そのころ機龍、もとい航は上空で地に伏すセシリアを見ており、そしてPICをいったん切って急降下をしてくる機龍。そして地面に着陸するときに太腿部ブースターとバックユニットを点火させて減速をし、着地をした際に膝を曲げてショックを和らげ、そしてセシリアを睨みつける。

 

 

そして歩いて距離を詰め始めたため、セシリアは残ったスターライトmk-Ⅲの引き金に指を掛けるが、

 

(無理ですわね……)

 

諦めの表情を浮かべ、スターライトmk-Ⅲを手放す。その間も機龍のズシン、ズシン、という歩く音が自身に迫って来ている。

そして自身にその鋭い四本の爪を付けた腕が迫っており、それが自分の顔に迫ってる時である。

 

「……ま、参りましたわ……」

 

か細い声でそう言った時、自身に延ばされていた腕は動きを止め、セシリアは小さくえっと言って機龍の顔を見たが自信を睨みつけていることに変わりなく、動きが固まってしまう。

そして腕を引きもどしていき、航は後ろを向いてブースターを使って自身のピットに戻っていく。

 

『勝者、篠栗航』

 

試合終了のブザーが鳴り、セシリアはその機龍の背中を少し恐怖の混じった目で追いかけるのであった

 

 




機龍でセシリアをさっさと倒せないのは航の技量不足が原因です。元からそれなりに戦えるのならセシリアはさっさと倒せます。


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小さな目覚め

奴が目覚める


それからピットに戻って最初に見たのはキラキラした目をする一夏と、苦笑いをする楯無、そして少し厳し顔をする千冬であった。真耶と箒はすでにおらず、航は機龍を解除して待機状態の手甲にする。

そして航の前に腕を組んだままの千冬が立った。

 

「では篠栗、お前のISに制限を付ける」

 

それはいきなりのことであった。

 

「織斑先生、それはどういうことです?」

 

航がそう言った時、千冬は溜息を吐いて機龍の情報を航に見せ、それを見た航は驚愕の表情を浮かべた。

 

「これ……、本当なんですか?」

 

「使っていたお前が気付かないでどうする」

 

航が見たもの、そこに書かれていたのは機龍のスペックであった。

 

 

四式機龍

 

シールドエネルギー:67431/68000

 

特殊システム:●●●system

 

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー):●●●●●

 

そう、機龍のシールドエネルギーは通常のISの軽く20倍以上はあるのだ。打鉄で大体2500、ラファール・リヴァイブが2000、白式が2900である。これでは戦ったセシリアはいくら善戦しようとほぼ勝利はなかっただろう。

あとシールドエネルギーはISのスラスターなどを使った移動の時にも消費する。これが多いということは機動力にも余裕があるということだ。

実際のこのスペックは軍用機と同様と言っても過言ではなく、ここ(IS学園)で使うには普通に持て余してしまうほどである。

そしていくつか謎で隠されている。これは何を意味するのか分からないが、とりあえず航は溜息を吐いた。

 

「まあ、これで制限を付けるならしょうがないですよ……ガフッ」

 

この時航は口から多量の血を吐いた。べしゃべしゃと音を立てて床を汚し、来ていたISスーツも赤く染まっていく。

 

「えっ……、何コレ……」

 

吐いた本人もいきなり何が起きたのかわかっておらず、血で赤く染まった両手の平を他人事かのように眺めていた。

だが周りは航みたいにのんびりしておらず、千冬は救護班を呼び出しに行き、楯無は近くにあったベンチに航を寝かせる。だが一夏は今までこんなことがなかったせいか動きが固まっており、とりあえず二人の邪魔にならない様にしていた。

 

「えっと、俺大丈夫だから?」

 

航はそういうが顔色が一層に悪い。楯無は動こうとする航を楯無は目に見えないほどの速度で放った手刀で無理やり眠らせる。

 

「ごめんね……」

 

楯無がそう小さくつぶやいた後、救護班が入ってきたのであった。

 

 

 

 

 

そこは海がきれいな無人島。航はそこの砂浜で目を覚ます。

 

「ここはどこだ?」

 

起き上がって周りを見渡すが誰もいない。自分はさっきまでIS学園にいたのではなかったのか?だが今いるのは南国ともいえる島だ。

航は周りを歩いてみる。そして近くにあった森の中に入り込んだ。

 

「クゥ~」

 

「グルゥ……」

 

その時だ、森の奥で何かの声がした。今まで聞いたことのないような声だったから、航は声のした方へと走っていく。そして近くの草に姿を隠しながら見たのは、2頭の獣脚類の恐竜であった。

2頭とも肌は黒色の凸凹で、昔の図鑑に書かれたかの様な尻尾が地面についている。

一頭は地面から頭までの大きさは身長が12メートルぐらいだろう。鋭い歯などが見えるが割と大きいが怖いなどの恐怖は感じない。そしてもう一頭は身長が5メートルぐらいか?大きい方に甘えるかのようにすり寄っており、大きい方がその頭を舐める。

 

「何か、どこかで見たことあるな……」

 

航はそう呟き、2頭を飽きるまで見ていた。

この後、近くで始まりを示す災厄が落されるのを知らずに……。

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

航は目を覚ましして勢いよく半身を起き上がらせた。先程までピットにいたはずだが、ここは壁が白一色だ。そして自分の腕に点滴が刺されており、消毒液臭いにおいからここが病室だと判断するまで時間はかからなかった。

 

「それにしても……あの夢は何だったんだ?」

 

顎に手を当てて考えるが、結局何だったのか分からず、考えるのをやめて近くにあった窓から外の様子を見る。既に日は西に傾いており、まさに海に太陽が沈んでいるように見えた。

この時病室、もとい航がいる部屋の扉が開いた。

 

「航、起きてるかな……、あ」

 

「おっす、刀奈姉」

 

入ってきたのは更識楯無である。腕にはお見舞いの品か果物が入った籠を持っており、中には航が好きなバナナがたくさん入っていた。

 

「せ、先生ー!」

 

そのあと楯無は医者を呼びに病院の廊下を駆けていき、注意をくらうのは別の話である。

その後医者に診断された後、今日は休むように言われ、そして二人っきりの病室である。

 

「ねえ航、なんでここ(病室)にいるか分かる?」

 

「えっと……、何でだ?」

 

それを聞いた楯無は溜息を吐く。

 

「あのね、2日前のクラス代表決定戦でオルコットちゃんと戦った後にピットに戻った後に吐血をしてここに運ばれたの。そして診断結果は内臓の損傷と数か所骨折。これってどういうことか分かる?」

 

「えっと……、あ、あ!?」

 

顎に点を当てて考えていた航だが、何かに気付いたのかバッと楯無の顔を見る。

 

「生体保護機能が働いてない!」

 

「正解。普通のISだと色々な方向にかかる重力に対して保護機能がオートでかかるんだけど、機龍は元からそれが働いてないの。これは航の体が頑丈だったから助かっただけで、普通の人が乗ったら恐らく死んでるわ」

 

普通なら死んでるという言葉に冷や汗を流し、改めて自分が人外だと思い知らされる。

 

「やっぱり俺、化けもんかよ……」

 

そう言って自虐的な笑いが出てきたが、この時頭に手をポスっと置かれた。そして

 

「大丈夫、化け物だったとしても私は怖がらないから」

 

そう言って優しいを笑み浮かべて頭を撫でてきたため、顔を少し赤くして俯く航。

 

「それにしても航の回復力は凄いわね。数週間は治るのにかかる内臓も骨もすでに完治してるもん。医者が訳分からんって匙投げてたわよ」

 

この時航はとあることを思い出して顔を上げる。

 

「刀奈姉、そういや俺ってどれくらい寝てたの?」

 

「そうね……、大体2日ぐらい?」

 

「うん、俺化け物だ」

 

その後お腹が鳴ったため、楯無からお見舞いの品のバナナをほおばっていくのであった。

 

「はい、あーん」

 

この時皮をむいたバナナを楯無は航の口に向ける。航は口の中に入れていたバナナをさっさと飲み込んだ後、出されたバナナを見て楯無の方を見る。

 

「えっと刀奈姉?」

 

「あーん」

 

「え、えっと、あーん?」

 

そしてバナナにをかじる。

 

「美味しい?」

 

「うん、美味い」

 

そう言ってお互い笑いあう。そんな空間が夜まで続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは日本海溝。水深7000メートルのところに『ヤツ』はいた。

『ヤツ』はすでに錆びついた『ヤツ』に似たのを抱きしめており、時折口から気泡が漏れる。

 

「グルル……」

 

この時、何かを感じて『ヤツ』は少し目を覚ます。そして大きな体を少し揺らして上に積もった泥などを払い落としていく。

 

「グォォ……」

 

違和感を感じた。

その感覚は自分と、隣にいる『コイツ』と同じ気配を感じさせる。なぜ自分『コイツ』と同じ気配を出せるやつがいるのかそれが疑問でしかなかったが、『ヤツ』はその気配が昔のおとなしい頃の自分と重なっていたため、無害だろうと判断して再び眠りにつこうとする。

だが『コイツ』と同じ気配が自分の気配と同じところから出るのがいささか疑問だ。

だが考えるのがめんどくさくなった『ヤツ』は再び眠りにつこうとする。

その時上からカプセル状の物が幾つか落ちてくる。それが『ヤツ』の頭にコツンコツンと当たった時にイラッときたが、落ちてきたものを見てそのイラつきも消える。

そこに書かれていたもの、それは

 

『放射性物質につき、取扱注意』

 

見た目は何かのカプセルにも見えるが、ロケットノズルがついてることから核弾頭の部類だろう。なぜこんなところに来たのかは疑問だが、『ヤツ』にとっては格好の餌だ。『ヤツ』は核弾頭を掴んで中の放射性物質を吸収する。この時背びれがチカチカと青白く光り、吸い取った後の残骸をポイと捨てた後にまだ落ちてる核弾頭を掴んで行って先程の行動を繰り返す。

 

「グォォォ……」

 

嬉しそうな声を上げた後『ヤツ』は満足したのか再び眠りにつく。

見る夢は自分が自分でなかった頃のあの森の出来事。あの火に飲まれ、自分が自分でなくなる夢を見、『ヤツ』は少し苦しそうな呻き声を上げるのであった……。

 

 

 

 

 

そして深海は再び静寂に包まれる……。




実は細かい調整をしていないせいで機龍の性能がトチ狂ってたりする。



奴が目覚める、だがまた眠る


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視線

どうも、右人差し指と左親指を怪我した妖刀です。
今回の話は短いうえにそこまで進みません。


次の日、航は楯無と一緒に部屋で朝食を食べていた。

 

「あーあ、機龍があそこまでオーバースペックだったから大量に制限つけられちゃったよ。全くシールドエネルギーが元の10分の1ぐらいって……」

 

「しょうがないわよ。あそこまで性能が高すぎるとIS学園(ここ)での使用が難しくなるし。まあ機動力のリミッターはあんまりつけられてないから大丈夫でしょ?生体保護機能も機能するように設定したし。機能してるよね?」

 

そう聞かれたため航は確認するが、顔が少し青くなる。

 

「機能してない……。解除されてる……」

 

「えっ!?」

 

楯無は慌てて確認するが、設定は解除されており、この部分は一次移行後の初期設定のままだ。

 

「どういうこと!?航、何か触った?」

 

そう言って航の方を見るが、航は顔を横に振り否定する。楯無はもう一回設定してみる。すると

 

「え、勝手に外れた……?」

 

そう、僅か3秒ほどで勝手に設定が解除されたのだ。ハッキングやそんなものではない。なのに勝手に解除されたのだ。

 

「なんで……、ん?何これ」

 

楯無は設定が勝手に解除されたことに驚きを隠せなかったが、そのときいきなり言葉が表示されたのだ。楯無はその時表示された言葉に目を通す。

 

「えっと、何々?『我従ワヌ。人、全テヲ奪ッタ。家ヲ、家族ヲ、我ヲ。許サナイ。タトエ我ラノ血ヲ持トウト、人ヲ許セヌ』……何よこれ……」

 

「……機龍?」

 

航は腕に着けてある手甲を見る。銀色の何も語らない手甲だが、何か恐怖を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

航はその後楯無と一緒に学園へと向かい、そして途中で別れた後に教室に入る。この時多数から畏怖の視線を感じ、航は何かしたのかと少し首を傾げた。。

 

「航!お前大丈夫なのかよ!?」

 

「お、おう。心配かけたな」

 

航はその後教室に入ったはいいが、いきなり一夏が詰め寄ってきたためとりあえず返事をしておく。

 

「よかった、いきなり吐血するから心配したんだぜ?」

 

「いやー、あれは本気でビビった。内臓と骨がやられてたからさ。何でも肺に肋骨が刺さってたとか何とか」

 

そう言ってハハハと笑う航だが、周りは結構ドン引き状態になっている。

 

「おまっ、肺に刺さっていたのかよ。

普通それ死ぬぞ。いくら航がそう簡単に死なないとわかっていてもこっちは心配するんだけどな」

 

「あー、心配掛けてすまん」

 

航は素直に頭を下げて謝る。

だが航は簡単に死なないとは一体どういうことなのかというと中学生の時、鈴を合わせた3人で買い物にいてたら、信号無視で突っ込んできたトラックに航だけ轢き逃げされたり何だったり。他にもいろいろ航の人外伝説はあるが、それはまた別の機会に語るとしよう。

 

「それにしても俺、何か嫌われてるって感じがするのは気のせい?」

 

航は周りを見渡すが、大半の生徒が一気に目を逸らす。

 

「あー、たぶんこの前の試合が原因だと思う」

 

「なるほど」

 

今までのISの常識を覆すかのような機体、四式機龍。あれは女子達の考えを打ち砕くには十分すぎるほどの戦闘を見せつけ、代表候補生であるセシリアを一方的に倒すという戦果を見せている。

 

「そういや一夏、ここのクラス代表は誰になったんだ?」

 

「あ、何か俺になった」

 

「……は?」

 

この時航は自身の耳を疑った。一夏がクラス代表?確かにISに全く乗っていたなかったのにセシリアに肉薄した戦いを見せつけたがそれでも勝ったセシリアが代表になるだろう。

 

「いったい何があったんだ?」

 

「実は……」

 

一夏は何があったかを話すのであった。

 

 

 

 

 

それは時が2日前に上る。

試合翌日、ホームルームで一夏は電子黒板に書かれていたことに自身の目を疑っていた。

 

「ではクラス代表は織斑一夏君ですね。あ、一繋がりで縁起がいいですね」

 

真耶が嬉しそうに言うが、一夏にとっては冗談かのような出来事である。とりあえず一夏がすぐに挙手をした。

 

「先生!なんで俺がクラス代表なんですか!?俺、セシリアに負けましたよ!?」

 

「それはですね「私が辞退したからですわ!」

 

真耶が説明しようとしたとき、セシリアが言葉を遮るように答える。おかげで真耶は涙目になっているが、セシリアは気付いていない。

 

「代表候補生であるわたくしを素人である一夏さんが追いつめたため、IS技術を取り込んで行ったらどれほど強くなるか気になったから辞退したのですわ」

 

「さすがオルコットさん、わかってる!」

 

「男子がクラス代表、これは売れるわね!」

 

周りは何か言ってるが一夏にとってはどうでもいい話だ。

 

「なら航は……。あ、うん。今のは聞かなかったことにしてことにして」

 

一夏は航はどうなのかを聞こうとしたが、昨日に吐血したのを思い出してこの話題をすぐに打ち切る。なお航の話題を出したときにクラスの半分程が嫌そうな顔をしたのは気のせいだと思いたい。

 

「せんせ~、わーたんはなんでここにいないんですか~?」

 

航がいないことが気になったのか、本音が挙手して質問した。

 

「それは私が説明しよう」

 

この時教室に入ってきた千冬が説明をする。

 

「篠栗は昨日のオルコットと戦った後、吐血をして病院に緊急搬送された。あいつの使っていた機体の生体保護機能がほとんど働いていなかったことが原因とされている」

 

この時教室が一気にざわめいた。生体保護機能が働いていない。これはジェットコースターなら安全バーがまったく機能していない状態とほぼ同じだ。最悪死亡していてもおかしくない事態に一夏は席を立って千冬に詰め寄る。

 

「千冬姉!航は大丈夫なのかよ!」

 

友人が重傷を負ってパニクっていつもの呼び方になってしまったため、一夏は出席簿で頭を叩かれる。

 

「織斑先生だ。篠栗は折れた肋骨が臓器に刺さっていたが、一命をとりとめて今は安静に眠っている。護衛ここの生徒会長である更識がいるから侵入者等も大丈夫だろう」

 

「よかった……」

 

一夏は航が助かったという知らせを聞いて安心したのか自身の席にへたり込む。

 

「篠栗が戦えない。オルコットは辞退した。なら織斑、お前がクラス代表をしろ。いいな」

 

「……わかりました」

 

「ではクラス代表は織斑君で決定ですね」

 

真耶がそう言って締めくくり、周りからは拍手が送られる。一夏は気を引き締めて頑張ろうと思うのだった。

 

 

 

 

 

「とういうことがあったんだ」

 

「なるほど」

 

一夏の説明に一応納得する航。

 

「そういや俺が死にかけてその2日後にここにいるって相当可笑しい?」

 

「うん、相当可笑しい」

 

この時周りの畏怖の視線の理由がやっとわかった。昔から味わった自分を化け物を見るかのような視線と同じなのだ。中学の途中から引っ越してこの視線の感覚を一回も浴びていないため少し忘れていたがやっと思い出した。

 

「まあいいか、独りは慣れてるし」

 

「ん?何か言ったか?」

 

航はボソッと言ったが一夏に聞こえてしまったのか何でもないと返す。

 

 

そんなことを話してるうちにチャイムが鳴ったため、教室にいた全員はさっさと席に着く。そして先生たちが入ってきてホームルームが始まるのであった。




次回の話は完成してるけど、その次の話が1000文字ほど書きあがったら投稿します。楽しみにしていてください。


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怪獣学 2

どうも、毎日仕事の疲れで湯船でつい寝てしまい、そのまま毎度のように沈みかけてる妖刀です。


最初の授業は怪獣学。航と一夏はいつも通りやる気満々でシャーペンを握っている。

 

「さて今日の怪獣学はこれね」

 

燈が電子黒板を操作して映像や画像がたくさん出される。いつもはめんどくさそうな顔をしていた女子達だったが何人かの女子はその姿をまじまじと見ていた。

 

「きれい……」

 

一人の女子がそう呟く。極彩色の大きな羽、青い複眼にモフモフの毛を生やした体。昆虫の姿をしているのにその姿は美しく、まるで天女だ。

 

「これはモスラね。まあ、昭和の時代に現れた種と平成になって表れた種、それらの幼虫と共に紹介していくからそれなりに長くなるけど勘弁してね。それじゃあ最初に昭和に現れた方を紹介していこうか」

 

そして電子黒板を操作して写真をいくつか出す。全部が白黒写真で少しわかりにくいが、その中にどう見てもおかしいのがあった。

その姿はまるでとても大きな芋虫であった。それが町を破壊しながら突き進み、通った後は綺麗に均されたかのように何もない。

他の写真は東京タワーに張り付いているが、どう見ても大きさがおかしい。さっきの写真と見比べても大きくなっており、おそらく大きさが100メートルを超えてるだろう。

 

「これはモスラの幼虫ね。体長は40メートルから180メートル。体重は大きさが変わるからそこまでわかってないけど恐らく1万トンは優になるわね」

 

あまりの大きさに何も言えなくなる女子達。180メートルという大きさはあまりにも大きく、想像がしにくいだろう。

 

「大きさが実感わかなかったらいつかISに乗った時に高さ180メートルまで上がってみなさい。そしたらどれだけ大きいか分かるから」

 

そして写真を少しずつ変えてく燈。航は高速で写真を模写していっているが、少し追いつけていないのか焦りの表情が見え隠れしている。

 

「まずなんでモスラが現れたかを説明していくわね。時代は1961年。今はない国、ロリシカ国が日本と一緒にインファント島という島に調査に言った時に小美人、もとい妖精を見つけるの」

 

『妖精!?』

 

その言葉に西洋系女子達が反応する。まあ、向こうは妖精の伝説とかいろいろあるからそれに反応したのだろう。セシリアもその中の一人だ。

 

「まあ怪獣がたくさんいるんだから妖精や宇宙人が現れてもおかしくないでしょ。で、調査団の内の一人が小美人をさらって日本で見せ物にするわけ。で、その小美人を攫ったのが原因でモスラが日本に上陸したの。まあ上陸するまでに豪華客船一隻を沈めてしまったらしいけどそこまでは真相は知らないわ」

 

攫った結果怪獣を呼び寄せる、これほど恐ろしいことはないだろう。ことわざに『触らぬ神に祟りなし』というのがあるが、まさにそれを具現化させたかのようだ。

 

「で、そのあと小美人を探しに東京をあちこち走り回った後、東京タワーを真っ二つに折ってそこに繭を作るの。なおこれが東京タワーの初めて破壊された時よ。そしてこれテストに出るから忘れないように」

 

テストの単語を聞いたとき女子達はぎょっと燈を見る。燈はどうしたのって疑問の表情をしており、そのあと本気で板書をするぞ女子達がちらほら増えた。

怪獣学は普通に普通教科外の専門教科に含まれており、たいていの女子は本気で取り組んでないため大半が赤点を出すのだ。燈はこのことをわざと言わず今まで進めていた。

なおこの時、燈が黒い笑みを浮かべていたような気がするが気のせいだと思う。

 

「じゃあ続けるわね。その後繭を作ったのはいいけど、当時ロリシカ国から貸与された原子熱線砲で繭が焼かれるわ。だけどモスラは成虫に成長して繭から姿を現すの。それがこの画像ね」

 

そして出された画像に映っていたモスラはでかかった。ただでかかった。先程写っていた折れた東京タワーと比較しても東京タワーが小さく見えるほどだ。

 

「体長80メートル、翼長250メートル。今まで現れた怪獣で一番大きい怪獣よ。この100メートル超えの大きさは後先このモスラ以外にいないわ」

 

その大きさに唖然とする女子達。

 

「その後モスラは移送された小美人を連れ戻すためにロリシカ国へ向かうわ。そしてここらは情報が全くわからないけど何かがあって小美人を取り戻してインファント島に戻って行ったわ」

 

「せんせー、何でそこの情報がないんですかー?」

 

一人の女子が聞く。まあそこの部分の情報がなかったらどうしても気になるだろう。

 

「ロリシカ国が消えて情報が一気に消えたの。まるで元からそんな国がなかったかのようにね」

 

まるでそんな国がなかったかのように、この時全員は何か背筋がゾッとした感覚に襲われた。

この時航は教科書の隅に書かれていたロリシカ国の簡単な説明に目を通す。

『ロリシカ国は当時ソビエト連邦、現在ロシアの東側にあるアメリカに一番近い国でニューカークなどのアメリカに影響されたかのような名前の都市があり、当時の人口1000万人を超える国であった。モスラの来襲後に人口は激変。そして1970年、国家崩壊後にソビエト連邦に吸収される』

自業自得だな、航はそう思うのであった。

 

「さて、次は平成になって現れたモスラの方を紹介するわね」

 

燈は電子黒板を操作して昭和版モスラの画像を消した後、カラー画像で平成版モスラの画像を出していく。

 

「体長36メートル、翼長108メートルと最初に現れたのより半分以下の大きさだけど、速度はマッハ3と結構な速度で飛んでるわ。なお昭和版はどれくらいの速度が出るかわからないけど、おそらくマッハ4は出ると思うわね」

 

あの大きさでマッハ4。誰もが想像できないでおり、キョトンとした状態の生徒たちを見た燈はクスッと笑う。

 

「最初に確認されたのは2004年、アメリカ空軍のレーダーがマッハ3で日本を目指すモスラを確認してるわ。そのあと戦闘機を近くの基地から飛ばしてるんだけど機銃、ミサイル等はすべてかわされた挙句何かをしてレーダーから姿を消したわ」

 

「え、そんな大きいのがどうやってレーダーから消えるんですか?」

 

「それは電磁鱗粉という蝶や蛾のモスラ特有の鱗粉でレーダーから消えたらしいわ。この時戦闘機も鱗粉のせいで戦闘不能なったらしいし。あとこの鱗粉は攻撃にも使えるけどちょっとね……」

 

生徒の質問をサラッと返していく燈。だが最後は何か茶を濁された感じだが授業はまだ進んで行く。

 

「その後ゴジラが品川地区沿岸から東京に上陸し、三式機龍が眠っている特生自衛隊八王子駐屯地を目指し始めるの。それで当時10歳であった今の日本政府官僚の一人である中條瞬さんがモスラを呼ぶための紋章を小学校の校庭に作ったわ。それがこの映像よ」

 

そう言って一つの映像を流す。これはヘリからの撮影だろうか、高いところから撮影されておりヘリのプロペラの音が鳴り響く。ゴジラが町を破壊していく様を撮影してリポートしているときにいきなりカメラが動いて地面を映す。そこは小学校の校庭だが、机やいすを使って何か紋章みたいのが描かれており、その近くには一人の老人と子供が立っていた。

その時である。いきなり空が暗くなったかと思うと、画面が大きく揺れる。そして揺れが収まったかと思ったら、学校の屋上にモスラが滞空していたのだ。

その後ヘリはこれ以上は危ないと思ったのかゴジラのいるところから遠ざかっていく。そして映像はそこで終了した。

 

「現れたモスラは東京の空を飛行し、ゴジラに戦いを挑んだわ。最初はこの大きな羽で強風を起こしたり、体当たり攻撃なんかでゴジラを翻弄していたんだけど、だんだん押されていって、ついには最後の手段--鱗粉でゴジラを攻撃したわ。だけどその最後の手段でもある鱗粉があんまり効いてなくて、羽がボロボロになっていくの」

 

「え、どうして……」

 

「なんで羽がボロボロになって言うのか疑問に思う子がいると思うから説明するけど、そもそも蝶や蛾は鱗粉がないと空を飛べないの。だけどモスラはその鱗粉を武器に使うから、羽を羽ばたかせたときの風圧等で羽がボロボロになっていくの。そして飛ぶのも精いっぱいになってしまったモスラはゴジラに撃ち落されてほとんど飛べなくなってしまうわ。そしてゴジラにとどめを刺されようとしたとき、日本の切り札でもある三式機龍改がモスラを助けるの」

 

ここまで説明した後、燈は軽く教室を見渡す。航と一夏はいつも通り真剣に授業に取り組んでいてくれるが、やはりさっきの半分脅しを言っても真剣に取り組んでる女子生徒が少ない。ばれない様に溜息を吐いた後、燈は説明に戻るのであった。

 

「その後機龍改はゴジラと戦うんだけど、ゴジラの攻撃にどんどん追いつめられていったわ。でもその時、二匹のモスラの幼虫がやってきたの」

 

その時電子黒板にモスラの幼虫の写真が写しだされる。色は茶色で、目の色は綺麗な青色だ。大きさは昭和版に比べてとても小さいが、それでも普通に大きい。それが2匹写し出されており、他には、その2匹がゴジラによって墜落させられた成虫に寄り添う写真もある。

 

「このモスラ幼虫は小笠原諸島に卵が産えつけられていて、この戦闘中に孵化したと言われてるわ。その後普通の船なら東京小笠原諸島間は6時間から7時間は掛かるけど、この幼虫たちは生まれてすぐに2時間で東京に到着したらしいわ。これ、相当な速さよね」

 

「その後機龍改を機能停止させたゴジラに戦いを挑むのだけど、やっぱり体格の差で押されるわ。その後、吹き飛ばされたりしながらもこの時幼虫と成虫が初めて顔を合わせるんだけど、ゴジラは親と話す時間も与えず熱線ですべて吹き飛ばそうとしたわ。そのときよ、モスラ成虫は幼虫をかばって熱線を受けて死んだのは」

 

この時再び電子黒板に一つの映像が出される。

空は夜なのにあちこちで上がってる炎のせいで明るくなっており、航空機からとってるのだろうか、上空から映像が撮られている。

この時モスラ成虫は完全に飛べないのか地に這いつくばっているが、そこに幼虫2匹が寄り添っていく。

 

「チューイ」

 

「キューイ」

 

顔を合わせることができてうれしそうにしているが、その時間は長く続かない。

 

「グォォォォ!」

 

その時だ。後ろにいたゴジラの背びれが光ったのは。そして熱線が放たれた瞬間、親モスラが最後の力を振り絞って幼虫の盾になる。成虫はその後一気に体全体が燃え上がり、そして爆散した。

 

「チューイ、チュアー……。キ、キューアァ……」

 

そして声が怒りに染まったかのように重くなり、幼虫2匹の目が青から赤に変わっていく。

そしてここで映像は終了した。

 

「これは自衛隊からお借りした映像よ」

 

燈はそのあとすぐに生徒たちの反応を見たが、ほとんどがあまりの光景に茫然としている。目の前で親が殺されたのだ。その光景を見た幼虫の心境は相当の物だっただろう。それを思ったのか泣き出しそうな生徒もいる。

燈は少しはまともになったかなと思い、授業の続きを始める。

 

「そういえば今のがまともにゴジラの映像を見る子もいるでしょうね。先程の映像で後ろにいた黒くて大きいのがゴジラよ。この後幼虫たちは再起動した機龍改と共にゴジラを追い詰めていき、そして機龍改の攻撃でほとんど動けなくなったゴジラに、幼虫たちは口から出す粘着質の糸で動きを止めていくわ。その後ゴジラは完全に沈黙。機龍改がとどめを刺そうとしたんだけど機龍が暴走してゴジラと共に日本海溝へと消えて行ったわ。そしてモスラはインファント島に帰って行ったわ」

 

やっとここまで話せて疲れたのか、燈は小さくため息を吐く。あとは締めくくりだ。そう言い聞かせて燈は口を開く。

 

「あと鳳凰のモデルはモスラとも言われており、他にも狛犬、ヤマタノオロチのモデルにもなった怪獣もいるらしいわ。そう考えると、ちょっと日本人以外には分かりにくいと思うけど、古事記や日本書紀の書かれた時代にはモスラなどの怪獣が既に存在していたと考えるわね。あとそれについて書かれた伝記物があったらしいけど、今は行方不明になってるわ」

 

あの鳳凰のモデルがモスラ。それを聞いた日本人生徒は驚きの表情を見せる。

 

「さて、ここまでで質問ある人はいる?」

 

「先生、そういう情報とかってどこから仕入れてるんですか?」

 

この時一夏が挙手して質問する。周りの女子も何で女性なのにここまで情報があるの気になったのか燈の顔を見る。

 

「元は自衛隊で怪獣学の講義が行われてたからそれを取り入れたのと、私の祖母が当時ゴジラと戦った自衛官だったから祖母や祖母の知り合いとかに聞いたり、自衛隊から情報をもらったりしてまとめて授業に使うの。だから途中で情報がなかったりして授業が早く終わったりすることもあるかもしれないけど勘弁してね?さて他は?」

 

この時航が挙手した。

 

「ゴジラと機龍の説明っていつですか?」

 

「あー、そこ来ちゃう?普通だったら現れた怪獣の順番で行こうと思ってるんだけど、実際モスラの後にやってもいいのよね。そこは考えておくわ。じゃあ次誰かいる?」

 

「先生、インファント島ってどこにあるのですか?」

 

「インファント島は南太平洋のミクロネシア・カロリン諸島にあるわ」

 

そして怪獣学に関心を持った数人の生徒の質問に答えていき、そして授業は終了するのであった。

 

 




燈さんが言ってますが、怪獣学は過去の情報を基に作られてるのでいろいろ史実と異なってる部分や書かれない部分があります。あと数体怪獣の過去設定を変えたりするので、本当にその怪獣について気になったらDVDなどで見てください。


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特訓のはずが

どうも、モンスターアーツで『ガメラ1996』を買った妖刀です。しいて言うならガメラ、足があんまり可動範囲が狭いね。


授業が終わり、航は教室を出た時だった。

 

「笹栗君、ちょっと来てくれるかな?」

 

その時燈に呼ばれ、航は何かあったのかと疑問に思いながら燈の方へ向かう。

 

「家城先生、どうしました?」

 

「この前の試合みたよ。とっても良かった」

 

そして部分部分動きを注意されながらもいろいろと褒められ、嬉しそうな顔をする航。

 

「唯一つだけ気になったんだけど、なんで機龍の名前が四四式機龍じゃないの?」

 

「へっ?」

 

その時航が固まる。

 

「あれ、言ってなかったっけ?『式』が入るときはその機体が就任したとき、今で言うなら2044年だから四四式が正しいの。だから四式だと2004年に就任したってことになるわ」

 

この事実を知った航はなるほどっと頷いていた。そして頭をポリポリと掻き、苦笑い浮かべる。

 

「いや~、三の次は四だから四式でいいかなって思ってましたから」

 

「ものすごく単純ね……」

 

そう言って小さくため息を吐く。自分がそういうところを教えてなかったせいもあるが、こんな風に単純だと何とも言えないほどだ。

 

「まあ、名前はのちに変えれないこともないから変えたくなったら言ってね」

 

「え、変えれるんですか?」

 

「ええ、一回だけならISは名前変えれるの」

 

「なら考えておきますね」

 

そして燈は階段を下りていき、航はさっさと教室に戻っていく。

そして次の授業の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

その後昼休み、航は楯無と一緒に昼食を食べており、二人はスパゲッティを選び、航はカルボナーラ、楯無はミートソースを食べていた。そしていろいろ話題があって楽しそうに話していたが、楯無が少し真剣な顔をして口を開く。

 

「航、生体保護機能が使えないなら体を機龍に慣らしていくしかないから放課後第三アリーナに来て」

 

「わかったけどさ、何で機能が使えないんだ?」

 

航はカルボナーラをその後口に入れる。

 

「本当よね……」

 

楯無は今日の朝見たあの言葉を思い出す。

 

『我従ワヌ。人、全テヲ奪ッタ。家ヲ、家族ヲ、我ヲ。許サナイ。タトエ我ラノ血ヲ持トウト、人ヲ許セヌ』

 

人に対して強い恨みを持っているような感じだった。そう、まるで過去に人に迫害されたかのような。

そして一つ気になるキーワードがあった。

 

『タトエ我ラノ血ヲ持トウト』

 

(それって……、まさか、ね……)

 

楯無が思い浮かべるはG細胞。過去にオリジナルの機龍にゴジラのDNA、もといG細胞が使われてたと聞いてるため、おそらくそれがこのIS版機龍にも組み込まれており、ISコアに干渉したのではないのかと思われる。

 

(だけどG細胞はすでに20年前のテロですべて無くなってるはず……)

 

そう、約20年前に中東の国際テロリストの幾つかのグループがいきなり自衛隊駐屯所を襲ったのだ。その時に様々な怪獣の細胞が政府の指示で隠されており、それが表に出されたことで当時の内閣はズタボロ。国民は怒り心頭だったが全て今度こそ処分したということでどうにかなったらしい……。

 

(だけどG細胞は他の生物と融合したらその生物はもとの姿をあんまりとどめてないっていうし……)

 

思い出すはG細胞などを研究していたと思われる一冊の本。先代楯無こと自分の父親が手に入れた代物であったが、読んでみるとそれはひどいものであったため、あんまり思い出せないほどになっている。

 

(まさか航にG細胞が入ってるとしたら……。いや入ってたら死んじゃうはずだし……、でもあの回復力は……)

 

楯無は途中から思考の沼にドップリと浸かり……。

 

「楯姉?」

 

「ん、どうしたの?」

 

「何か考え事?」

 

この時航に呼ばれたため意識をこちらに戻した楯無は、何でもないと笑顔で返して昼食を食べていく。

 

「ちょっとそこの席、いいか?」

 

「「ん?」」

 

2人はいきなり聞こえた声の方を向くと、そこにいたのは和食セットを持った一夏と、一夏と同じのを持った何か不機嫌そうな顔をした箒がいた。別にいいと返事をした後、航のとなりに一夏、楯無の隣に箒という男女に分かれてお互いに向かい合う形になっている。

そしてお互いになって昼食をとっている。なぜ無言になったかというと、箒の『私、不機嫌です!』というオーラが話す気を削いでいくのだ。

とりあえずこの空気を打開するため、航は楯無に話題を振ることにした。

 

「そういえば楯姉」

 

「ん、何?」

 

楯無はいきなり航が話しかけてきたことの少し驚いたが、航がチラリと気まずそうな顔をした一夏を見た時に考えが一瞬で分かったのか、とりあえず話題にのることにした。

 

「怪獣学で思ったんだけどさ、ここの学園、平成のゴジラとかの映像はあるけど、昭和のゴジラ、もとい最初に現れたゴジラの映像とかってないの?」

 

一夏はこの時、自身も気になっていたのか楯無の方を見る。この時箒が一夏を睨みつけていたが、一夏は見なかったことにして楯無の答えを待つ。

 

「ああ、それね。無いことは無いけど、何でも『上から白黒と言えどもグロテスクすぎるから出せない』って家城先生が嘆いていたわ」

 

「何だよそれ」

 

航は眉間に皺を寄せて不機嫌な顔をしている。だがその時、とある仮定が思いつく。当時はヘリコプターとかなかったし、映像編集技術がそこまで発展していなかったかもしれないからそういう映像が多く入ってるかもしれないのだ。もしそういうのを普通に流せばトラウマになる生徒が続出し、怪獣学が潰される可能性があるから出せないのだろう。

怪獣学が潰されるのは確かに勘弁だ。だがそういうのを流さないと怪獣に対する危険視をする生徒が少なくなるのではないのか?

出せないなら今の技術で編集して出せばいいのだろうが何かが違う。その何かを求めるために航は考えるが……。

この時一夏も航と同じことを考えてるのか、眉間に少し皺をよせて腕を組んでいる。

 

「一夏、私はもう食べ終わったぞ。早く食べないと置いていくぞ」

 

「え、マジか。ちょい待ってくれ。早く食べるから」

 

箒に催促された一夏は急いで昼食を口に書き込んでいくが

 

「まあそう慌てないでいいじゃない。昼休みはたっぷりあるんだから」

 

「え、そうですか?なら……」

 

この時楯無が急いで昼食を食べる一夏にそう言い聞かせ、一夏は食べる速度を少し落とした。この時箒は不機嫌そうな顔で一夏を睨みつけるが、楯無に椅子に座るように言われたため、嫌々椅子に座る。

 

「そういえば織斑君。専用機貰ったけど、きちんと扱いこなせる自信ある?」

 

「えっと……、本音言うと扱いきれる自信がありません。千冬姉が使っていた暮桜みたいにブレード一本ですけど、何か牽制用でもいいので射撃武装がほしかったですね」

 

楯無は一夏が割としっかりとした性格だったことに少し驚きの表情を見せ、

 

「一夏!何を甘えたこと言ってる!男なら刀一本で勝って見せろ!」

 

この時箒が一夏に突っかかって来た為、一夏はどうにか言い返そうにも箒の気迫によって何も言えなくなってしまっている。

 

「まあまあ落ち着きなさい。なら私がブレード一本でもそれなりに勝てるように鍛えてあげるわ」

 

「本当ですか!?ならお「結構です」箒!?」

 

一夏は渡りに船だったのか嬉しそうにしてたのに、箒がいきなり訳の分からないことを言ったため、驚きの表情を浮かべたまま箒の方を見る。

 

「私が教えるからあなたの出番はありません。航でも教えていたらどうです?」

 

「おい箒、その言い方「何か言ったか?」いいえ、なんでもありません」

 

一夏は箒に言い返そうにもやはり封殺されて何も言えない。

楯無は箒の言い方にすこしイラッときたのか、目を細める。

 

「ならあなたはしっかりと教えれるの?」

 

「私、篠ノ之束の妹ですから」

 

「だから何?」

 

この時楯無がニコニコと笑顔で返してきたため、箒は今までなかった反応に戸惑い、後ろに一歩二歩下がる。そして楯無はニコニコの笑顔のままだが目が薄ら開いており、何か恐ろし妖な気配を出して口を開く。

 

「あなたが篠ノ之博士の妹とかどうでもいいの。ただきちんとISについて教えれるの?織斑君、下手に成績残せなかったらモルモットとして政府に引き取られるのよ?それを阻止できるように、私は航と一緒に教えるだけ。織斑君が代表候補生にそれなりに勝てるほどの成績を残せるまでに成長させることができるって言うならこっちは何も言わないわ」

 

楯無はそこまで行ってすっきりしたのか、ふぅ、と小さくため息を吐く。航は心の中で拍手を送っており、一夏も楯無を尊敬の目で見ている。

だが箒は俯いたままプルプルと震えており、顔を上げたときに怒りの孕んだ表情で楯無を睨みつける。

 

「ならどっちが一夏にISについて教えれるのかISで勝負だ!」

 

この時一つ上の先輩に普通にため口で話す箒に

 

「あらいいわよ。ISはこっちで用意しておくから、放課後第三アリーナに来なさい。私は待ってるわ」

 

それが挑発に感じたのか箒は楯無を睨みつけて、盆を返却口をと戻して食堂を出て行くのであった。

その光景を見ていた航は、小さくため息を吐いて楯無の方を見る。楯無は航と目が合った時、笑顔をで返したため、問題ないなと判断するのであった。

 

 

 

 

 

放課後、第三アリーナには白式を纏った一夏、打鉄を纏った箒、機龍を纏った航がいた。だがこの中に楯無がいない。箒はイライラしてるのか、展開している近接ブレードを地面に刺したり抜いたりを繰り返している。

その中一夏と航は黙秘回線(プライベート・チャンネル)で話をしていた。

 

『航、大丈夫なのか!?箒がこええよ!』

 

『楯姉、何をしてるんだ?箒のイライラの捌け口がこっちに向きそうで怖いんだが……』

 

この間にも箒は近接ブレードをザクザクと抜き刺しを繰り返しており、地面が少し掘れてるのかブレードが先程より深く埋まってる。

 

「お待たせ」

 

その時後ろから声がした。

全員が振り向くと、そこにいたのは打鉄を纏った楯無の姿であった。

 

「あれ、楯姉。専用機持ってたんじゃ?」

 

航は前に聞いた専用機を使ってないことに疑問に思う。

 

「専用機は今整備に出してるから訓練機の打鉄で来たわ。さて、篠ノ之ちゃん。あなたの決闘乗りに来たわよ。この日本国家代表、更識楯無が相手をしてあげるわ」

 

国家代表。その言葉を聞いたとき航は初耳だったのか驚きの表情を浮かべ、一夏は国家代表の意味を記憶の中から探しているのか腕を組んで上を向いてる。

 

「ならば、尋常に、勝負!」

 

箒はそう言った後、手に持ってた近接ブレードで楯無に切りかかる。

 

「な、ほう「遅いわ」へっ?」

 

一夏は箒がいきなり切りかかったことに驚いて止めようとするが、すでに楯無はブレードの軌跡かれ逸れており、ブレードは何もないところを切っていく。

 

「なっ!?だ、だが!」

 

箒はそのまま振り下ろしたブレードの刃を楯無の方に向けてそのまま切り上げるが、楯無はステップを軽く入れて箒の攻撃をのらりくらりとかわす。この後楯無にブレードを一回でも当てようとするが、それでも楯無に全てかわされるのであった。

既にこの動作が5分ほど続いており、楯無は涼しい顔をしているのに対し、箒は息が上がったのか肩を上下させている。

 

(なぜだ、なぜ当たらない!)

 

箒はひたすらブレードを振るうが当たらないことに焦り募っていく。その時だ、楯無から強い気配を感じたのは。

 

「さて、二人に教えないといけないから、ごめんけどここで終わらせちゃうね。来て、村雨」

 

楯無がそう言った後右手に展開されたのは、刃渡り2メートル半はある大型近接ブレード『村雨』であった。銀色に光り、刃紋が妖しくユラリユラリと揺れるブレード。いや、実際には日本刀、大太刀というべきだろう。楯無はそれを両手で持ち、中段の構えで箒に切っ先を向ける。

そして箒が瞬きをしたとき、

 

「はっ!」

 

「へっ……?」

 

いつの間にか刃の部分が箒に袈裟切りの形で当たっていた。

箒は何時の間に切られたのか分からないまま体が浮いてしまい、そのまま叩きつけられる。この時同時に刃が深く当たるため、地面に叩きつけられた時の衝撃と共に一気にシールドエネルギーを削り、残りが3割を切っていた。

 

「ぐぅぅ……!」

 

箒はこの時の衝撃で意識が飛んでしまいそうになるが、どうにか意識を保ち、そしてフラフラになりながらも立ち上がる。

 

「凄いわね。この一撃を浴びせて立ち上がる子、そうそういないのに」

 

この様子を楯無は笑みを浮かべていたが、箒にとってはそれが挑発にしか見えないのか再びブレードを握りなおして楯無に躍りかかる。

そして、再び剣を振るうが一撃も当らず、最終的に箒の喉元に村雨の切っ先が当てられ、

 

「参った……」

 

箒は楯無に一撃も当てることができず、降参するのであった。

 

「いい動きだったわ。怒りに我を忘れて突っ込んでたのがあれだけど、その部分をなくしたらそれなりに強くなれるわ」

 

楯無に笑顔でアドバイスされたとき、箒はいきなり何のことかと思ってブレードを構えるが、敵意がないことに戸惑いを感じ、ブレードをゆっくりとおろしていく。

 

「さて、箒ちゃんも私が教えようか?強くなれる見込みがありそうだし」

 

そういわれたとき、箒は俯いたまま何かぼそぼそと言った後、ピットへと逃げるように戻っていく。

そして箒の姿が見えなくなった後、航は楯無の所へと向かう。

 

「楯姉、なんでアドバイスとかしたのさ?」

 

「ん?だって私の一撃を耐えたから少しうれしかったのよね。だから、ついしちゃった」

 

とても楽しそうな笑みで答えられたため、小さくため息を漏らす航。そして楯無による航と一夏のIS訓練が始まった。

 

「さて最初にだけど、私はほとんど攻撃はしないから私に一撃を入れてみて」

 

「「へっ?」」

 

いきなりのことでキョトンとする二人。ハッとして二人は元に戻った後、少し抗議する。

 

「いや楯姉。さっきの試合見て思ったけどどうやって楯姉に一撃入れろっていうんだよ」

 

「そこは頑張ってみなさい」

 

「……へーい」

 

楯無の反論は許さんというかのような言葉に反論するのをやめておとなしく従うことにし、そしてどっちが先に行くか決めた後、最初に楯無に一撃を入れに行くのは

 

「俺か」

 

「お前だ」

 

航であった。

 

「決まったわね。さて、お姉さんの体、触れるかしら?」

 

体を少しくねらせて言う楯無。一瞬だけ航の指がピクリと動くが、気を引き締めるかのように尻尾を地面に叩きつける。

 

「あら、そっちはやる気満々みたいね。さて、始めましょうか。あと航は今回は急制動とか禁止ね。それで入院とかしたら目も当てられないし」

 

それに賛成して航はうなずく。

そして楯無は村雨を構え、航は0式レールガンとバックユニットの安全装置を解除する。

そしてお互いに睨みあって、航がブースターを点火して楯無目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

 

 

結果からして、航は楯無に一撃もいれることはできず、逆にカウンターの背負い投げをされて負けるということになり、一夏は雪片を受け流されてそのまま村雨で居合いを食らって負けるのであった。




機龍、本当は四四式機龍じゃないといけないのに四式機龍だよ。三の次は四だからって、航のネーミングセンスが安直すぎるよ。

もうそろそろ他の怪獣の伏線とか入れていきたいな。



誤字とかあったら『誤字ラ』が現れたと伝えてください(笑)
では感想、誤字ラの出現報告待ってます


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実習とパーティと

めっちゃ頭の中に文が思いついてガンガン書くのが進む。

やっぱり平成ガメラ三部作は面白いね。それ見ながら書いてたら早く完成した。だから更新する。


それは航と一夏がIS学園に入って間もないころの東京での出来事であった。

 

「これは……ここに捨ててもいいのかな?」

 

大きな紙袋を持った少年が住宅街をうろつき、その場に偶然あったゴミ捨て場にその紙袋を置いた。

 

「ぼくー、今日はゴミ捨て日じゃないから置いちゃダメでしょー?」

 

だが近くの住宅街にいた女性に注意を受け、渋々紙袋を回収する少年。そしてあちこちを歩き回り、捨てるのにちょうどよさそうなところがあった。

見つけたのは排水溝。少年は排水溝のふたを開け、その中に紙袋に入っていたものを流し込む。それは大きさが40センチ近くある大きな卵であった。

この卵は、少年が田舎で祖父の家に遊びに言った時、夜に近くの山の中で見つけたのだ。少年はこれに興味を持ってうまく隠しながら家に持ち帰ったのはいいが、段ボール箱で隠すも卵から出る液体で段ボール箱が使い物にならなくなり、最初は20センチだったのに40センチまで膨れ上がってきたため、怖くなった少年はこの卵を捨てることにしたのだ。

そして流し込んだ卵は排水溝をゴロンゴロンと転がって闇に消えていく。

 

「ぼ、ぼくは知らない!」

 

少年は自分のしたことに恐怖を感じ、それを振り払うようにどこかへ走り去って行ってしまった。

卵は転がっていく。向かう方角は渋谷。卵はコロコロと転がっていくのであった……。

 

 

 

 

 

楯無からの特訓を受け始めてすでに5月。怪獣学はいきなりの授業変更等でその間ずっと行われておらず、一夏と航は不満そうな顔で過ごしていた。

そして今はISの実習。1組の生徒は第三アリーナに来ており、全員ISスーツを着ている。なお教師の千冬と真耶はジャージを着ている。

このとき、生徒の前に専用機持ちの篠栗航、織斑一夏、セシリア・オルコットが立っているが、その中でほとんどが航から目を逸らしている。

 

「ねえ、何か背中盛り上がってない?」

 

「うん。なんだろう、あれ」

 

「気持ち悪いなぁ……」

 

航の背中はISスーツが体のラインを出すせいもあって不自然に盛り上がってる。背骨に沿って突起物がいくつか生えており、その左右にも小さく突起物が生えていた。まるでゴジラの背びれのようになっており、航のことをよく知ってる者以外は奇異の目で見ており、航は居心地悪そうにしている。

 

「ではIS実習を始める。全機ISを装着後高度200メートルまで上昇しろ」

 

「「はい!」」

 

千冬の指示でISを纏うが、航は拳を固く握りしめたままなぜかISを起動していなかった。それを見た一夏は何か悔しそうな顔をしており、セシリアはそんな一夏を心配そうに見ている。

 

「篠栗、さっさとISを起動しろ」

 

「……わかりました」

 

そして体が一瞬光を纏ったと思った瞬間、四式機龍が現れ、そして少し宙に浮いていたのか地に着地する。

 

『きゃぁ!?』

 

だがその重さで何人かの女子の体が浮き上がり、悲鳴が上がった。

 

『キィァァァ……』

 

目元に赤いラインを走らせた後、機龍は小さく鳴く。

 

「大きい……」

 

「これ、本当にIS……?」

 

「反則じゃない……!」

 

女子達が何か言ってるが、航はそれを無視しながらも女子達を見るが自然と見下す形になるため、その迫力からか小さい悲鳴が聞こえた。

 

「それじゃあ飛べ!」

 

千冬の指示があったため、一夏とセシリアの2人は空へと一夏は楯無からISに着いていろいろ教えてもらってるおかげで難なく空に上がることができ、一番に上空200メートルまで上がった。

 

「篠栗さっきから何をしている。さっさと飛べ」

 

「……」

 

この時太腿部ブースターが展開され、バックユニット共に点火した後、一気に空へと上がる。その速度は先程上がった白式以上の速度であり、誰もが大きさに反した速度であったことに驚いている。

 

「航、気にすんなよ」

 

「分かってる……」

 

航はいつもより低いトーンで返し、一夏は苦笑いを浮かべている。尻尾は何時みたいに動いておらず、だらりとしていて、まるで航のテンションが低いことを表しているかのようであった。

 

「航さん。その背中、何ですの……?」

 

セシリアは先程から気になっていたことを聞く。

そもそもセシリアは航に謝っていないと思われているが、航が試合後に登校した後、朝のホームルーム後に謝っていたのだ。だがあまりにも素っ気なさ過ぎる反応にショックを受けたが、自分の撒いた種だと反省して少しだけ話せるようになっていた。

 

「気にするな……」

 

「そうですか……。野暮なこと聞いてすみませんでしたわ」

 

そう言ってぺこりと頭を下げるセシリア。航はそれを一瞥した後、ここから見える海を見ていた。なぜか海が懐かしい。この感覚が好きなため航は海を見つめていた。

 

「一夏!早く下りてこぶぅ!?」

 

この時真耶からインカムを奪った箒が叫んでいたが、千冬に頭を叩かれて沈黙しており、一夏はそんな箒を見て苦笑いを浮かべ、航はジロリと箒を見た後に視線を海に戻す。

その後、千冬から高度10センチまで降りて来いという指示があったため、最初にセシリアが下りた。

 

「じゃあ、俺が先に行くぜ」

 

一夏はそう言った後それなりの速度で下りていく。そして一気に反転して足を下にした後、速度を落として行くが、楯無が教えていようとやはり素人。地面から50センチあけて止まってしまう。

 

「10センチといっただろ、馬鹿者」

 

千冬はそう毒突くいた後空を見上げたら、下りてきてる……いや、どう見ても落ちてきてる航がいた。落ちてると言ってもその速度はセシリアが下りてきてる時とあんまり変わらず、そして高度2メートルを切ったところで太腿部ブースターとバックユニットを使って減速。だが10センチはできず、ゆっくりと着地をした後に衝撃を逃がすように膝を曲げる。

 

「お前らはちゃんと10センチできないのか?馬鹿者が。……まあいい、次は武装展開だ。織斑、やってみろ」

 

「はい」

 

そして約1秒で展開する一夏。初心者にしては速く、皆が「おぉ」と言ってたが、千冬はもっと早く展開しろとダメ出しをする。まあ武装がそれだけだったら早く展開できないと致命傷になるから仕方がないが。

次はセシリア。スターライトmk-Ⅲを展開するが、銃口が航の方を向いており、航は尾の先をセシリアの延髄ギリギリまで持ってきて、まるでセシリアに突き刺そうとしていた。

その後近接武器を出すときその名前を呼んでいたが、特に悔しそうな顔はしておらず、千冬は精進するようにと言った。

次は航だが……。

 

「篠栗、何か展開しろ」

 

千冬はそういうが、航は横をキョロキョロとして再び千冬を見る。特に何も顔は変わってないが、何か困ったかのような雰囲気を出している。

 

「そう言われましても、格納領域(バススロット)にはミサイルの弾薬しか入っていませんが……」

 

「何?」

 

今の機龍は『四式機龍:重装備型』だ。そのため通常武装は全て外付けで装備しており、格納領域(バススロット)は弾薬で埋め尽くされている。何でも格納領域(バススロット)の約8割が弾薬だそうだ。

 

「まあ、一応外付けですが展開できるのはありますよ」

 

「何?ならそれを展開しろ」

 

そういわれたとき、機龍の腕に装備されている0式レールガンの2本の銃口の間から大型のナイフみたいのがが出てきた。

 

「メーサーブレード。突き刺して電流を流して相手をしびれさせる武器です」

 

そういった後にひっこめる航。その後チャイムが鳴り授業が終了するのであった。

 

 

 

 

 

『織斑君、クラス代表おめでとー!』

 

「あ、あはは……」

 

あれから現在夜7時。一年生用食堂では一夏のクラス代表決定を祝うパーティが開かれていた。斧主役でもある一夏は女子達の行動力に驚きながらもなんやかんやで楽しんでる感じだ。

 

「楽しそうだな」

 

「いやぁ、こういうのは楽しまないと損っていうからな」

 

箒にそう答え、一夏は隣にいるセシリアから紙コップにジュースを注がれる。その後箒とセシリアが何か言いあってたが一夏にとってはどうでもいい話だ。

 

「一夏、結構楽しんでるな」

 

「みたいね」

 

航は、食堂のみんなが集まってるところから少し離れたところで楯無の2人でおり、そこで一夏の様子を見ながらくつろいでいた。

この中に2年がいることが少しおかしいだろうが、そもそも2組とかも混じってるから別に殆どが気にしていないようだ。だがやはり生徒会長と一緒にいるだけあって少しチラリと見られたりしている。

 

「航はあの中に……、混じれそうもないわね。実習の時にほとんどの子から避けられてたし」

 

「え、刀奈姉授業は?」

 

「ん?その時いきなり自習になったからひっそりと抜け出したわ。まあ先生が戻ってくる前に戻ったから問題ないし」

 

「なんじゃそりゃ……」

 

楯無の抜け出したことにあきれながらも注がれたジュースを飲む航。その時楯無に頭をコツンとつつかれた。

 

「あとここでは楯姉でお願い。そして部屋で刀奈姉じゃなくて……、刀奈って呼んで?」

 

この時の女の顔にドキッとした航は顔を赤くする。それをごまかすようにジュースを飲む航がだ、楯無にばれたのか、頬を指でツンツンとつつかれる。

 

「あれ、興奮した?」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

そう言ってそっぽを向きながら頬をポリポリと掻く航。楯無はそんな航を見て、ニコッと笑った。

 

「ふふっ、可愛い」

 

そして楯無に弄られてる航だが、嫌そうな顔はしておらず、むしろ嬉しそうな顔をしている。

 

「あの、ちょっといいかな?」

 

その時声がしたため、した方を見るとそこにいたのはリボンの色からして2年生、眼鏡を掛けており、手にはカメラを持っている。

 

「あら薫子ちゃんじゃない。どうしたの?」

 

「たっちゃんが篠栗君といちゃついてるから話しかけにくいんだよね。あ、私は黛薫子。はい、名刺」

 

「は、はぁ……」

 

薫子こと、黛薫子が航に名刺を渡してきたため、それを受け取る航。とりあえず名刺を見たときに思った時思ったのは、『書き数が多いな』である。

 

「じゃあ、さっそくインタビューいいかな?っとちょっと織斑君、こっち来てもらってもいい?」

 

薫子に呼ばれた一夏は航のところに来る。そして二人同時にインタビューが始まった。

 

「じゃあ、まず織斑君に質問。クラス代表になったけど、何か一言!」

 

「えっと、頑張ります」

 

「え~、もうちょっとかっこよく言ってよ」

 

「自分、不器用で「まあいいや、ねつ造しておこうっと」って、え!?」

 

ねつ造発言に驚く一夏だが、それを置いて薫子はメモ帳に何かまとめていく。

 

「次は篠栗君に質問。機龍ってもともとゴジラ用のロボットだけど、乗った感想は?」

 

「とても感激しました。でも……生体保護機能が全く使えないから体をGに慣らすのに苦労しましたね。今は最初の頃よりマシに使えますよ」

 

フムフムと相槌を打ちながらメモをしていく薫子。そして

 

「じゃあ最後に二人に質問。ここを卒業しての将来は決めてる?」

 

その質問に俯く一夏。薫子はなんで俯いてるのか疑問に思っていたが、顔を上げたとき何か決意をしていた一夏に心を打たれる。

 

「自分は……、自衛隊に入りたいです」

 

一夏のその発言は周りの視線を集めるには十分な事であった。

 

「えっと、なんで?」

 

「昔に自衛官の人にいろいろ聞かされて入りたいって思ってたんですけど、周りが忙しくなったり、知り合いたちにやめとけって言われてたから諦めていたんです。でも」

 

この時ちらりと航を見る。

 

「でも航の機体、機龍を見たときにその思いが再燃しました。だから自衛隊に入隊したいです」

 

その顔は迷いのない顔だった。この顔にたくさんの女子が心を打たれ、箒はそんな一夏を睨みつける。

 

「じゃあ、篠栗君は?」

 

「自分は……、確かに自衛隊でしたね。元々特生自衛隊に入隊したいってのが願いでしたし。まぁ、今となっては特生自衛隊は解体されてないですけど。だから、今はこの機龍を作った会社、婆羅舵魏社が入社してみたいって感じですかね」

 

それを嘘偽りなくまとめていく薫子。そして専用機持ち(楯無を除く)で集合写真を撮ろうとしたが、気付けばクラスメイト全員が入ってるなどのハプニングがあったりしたが、なんやかんや楽しむのであった。

 

 

 

 

 

パーティが終わったのは夜10時。解散した後航と楯無は、部屋に戻ってきており、二人はすでにシャワーを浴びて今は寝間着姿であった。

 

「ふう、何か疲れた」

 

「お疲れ様。はい、お茶」

 

「ありがと」

 

部屋のベッドにうつ伏せ倒れこんでた航は、楯無にお茶を出されたため起き上がってお茶を飲む。この時楯無が自分の荷物を入れていたバックに手を突っ込んでいたが、特に気にしないでいた。

 

「航ー」

 

「何ー……」

 

その時呼ばれたため声のした方を向くとそこには、ニコニコの笑顔を浮かべる楯無がいた。まだここまではいい。どう見てもおかしいのは、右手にはサバイバルナイフと同じぐらいの大きさの刃物、左手には大きな金鑢。これでニコニコ笑顔だと普通の人だったら失神ものだろう。

だが航はすぐに察して上着を脱ぐ準備をする。

 

「航、ベッドに寝転がって背中を見せて?」

 

「あ、してくれるの?」

 

そう言って航はベッドの上にうつぶせ状態になる。そして楯無は背中を見た後、軽くうんうんと頷いていた。

 

「うん、結構伸びてるわね」

 

「そりゃあ、誰もしてくれる人いなかったしな……」

 

背中にあったのは、途中から枝分かれをしだしている『背びれ』だ。それが背骨に沿うように幾つも生えており、その両横に背中の肉を突き破ってないが背びれみたいのが確認できる。

一番高いところは大体15センチほどまで伸びており、それが首元から骨盤近くまで山なりになる様に生えている。

 

「さーて、綺麗にするから動かないでね」

 

「わかった」

 

航が返事をした後、楯無は一番長く伸びている背びれを根本から2~3センチほど残す形で刃物で一気にぶった切る。パッと見、背中の皮膚を突き破る様に生えている背びれを切り落としていくためとても痛そうに見えるが、航は全く痛そうな子をしてない。

そして、それを他の背びれにもしていき、その後は切った部分を鑢で大体低めの三角形になる様削ってに整えていく。

 

「……よしっ!はい、終わり」

 

「ありがとー」

 

お礼を言った後、立ち上がって体を捻ったりして航は鏡を使って状態を確認する。切った後は服を着てもほとんど目立たなくなったため、嬉しいのか少し笑みが浮かんでる。

 

「本当にゴジラみたいな背びれね。このトゲトゲ具合とか」

 

楯無が手に持ってる、先程切った背びれを手に取ってそう呟く。

 

「でもそれカルシウムじゃなくて、カルシウムとタンパク質を足したようなので作られてるんだよな」

 

航は楯無が持ってた背びれを取り上げて全部ゴミ箱へと捨てる。

そして航は起き上がって背伸びをする。

 

「ふう、すっきりした。刀奈姉、ありがと」

 

「刀奈」

 

「へっ?」

 

「だから刀奈って呼んで」

 

この時の楯無の顔は真剣な顔をしており、喉を鳴らした航は

 

「刀奈……姉。じゃあおやすみ!」

 

そう言ってさっさとベッドの中に入って眠る航。楯無はそんな航を頬をぷっくりと膨らませながらジト目で見た後、大きくため息を吐いてベッドに腰掛ける。

 

「航のヘタレ……」

 

そして自分のベッドに入るが、

 

「そうだ、ふふふ……」

 

楯無は航のベッドにもぐりこんでギュッと航を抱きしめて眠るのであった。

 

「お休み、航。ふふふ……」

 

 

 

 

 

パーティが終わって間もないころ、IS学園の正門に髪型をツインテールにした女子がいた。

 

「一夏、航、待ってなさい。今すぐ会いに行くから……」

 

そう言った後、受付を済ませにIS学園へと入っていくのであった。




一夏の夢は自衛隊に入隊すること。かっこいいね。

この一夏、平成ガメラの世界に迷い込んでも自衛隊の活躍に感動するんだろうな。

怪獣学がまったくないのは重要視されてない結果ですね。だから燈さん涙目。


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セカンド幼馴染登場

祝! 『ゴジラ、ギネス記録に登録』!!

凄いね、ついにあのゴジラがギネス認定されるんだから。次のギネス最新版は買わないと損しそう。

あとお気に入り500突破、やったね!


朝6時半。航は何か柔らかいものを掴んで目を覚ます。

 

(何だ……、この柔らかいのは……)

 

半球状の形をしてるッぽいが、その感触は今まで触ったことのない感覚であり、それをモニモニと揉みながら航はまどろんでいる。

 

(やわらけぇ……。これは、夢……か?)

 

こんなにやわらかいものを触ったことがない。航はこれが夢だと判断しようとするが、ここまで思考がはっきりしていると現実のようにも感じる。

 

(さてとりあえず動いてみるか……、あれ?体が動かねえ……。なんでだ?そして息苦しいし)

 

航は体を動かそうとするが、何かに拘束されたかのように動かない。だが、その自分を拘束するものが、とても暖かく柔らかいのだ。そもそも目の前が真っ暗だ。

とりあえず目の前を覆っているものを触ってみる。

 

(あれ、これさっき触ったような……)

 

「ふぅ、っ……ん……!」

 

「え゛!?」

 

この時航は冷や汗を掻き始める。この時自身を拘束するものの力が少し強まるが、これは人の力だ。同室相手は楯無。

これでいまの状況がはっきりとし始める。楯無が自分を抱きしめてるのだ。ていうことはこの顔にあたっているのも、さっき触っていたのも……。

 

「わた……る……。そこは……」

 

この時顔を上げると、そこにあったのは楯無の顔。そう、航は楯無の胸に顔が埋まっていたのだ。それを自覚した航の顔は一気に真っ赤になっていき……。

 

「うわぁぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

この時自分が触っていたことに驚き後ろに跳び下がる航。楯無はいきなり拘束が解かれたことに驚いていたが、

 

「うわぁ!!??」

 

「航!?」

 

 

ゴスッ!

 

 

「うぉ、うごぉぉ……!」

 

航はそのままベッドから落ち、頭を強打して蹲るのであった。

楯無は急いで航を介抱し、冷蔵庫から氷嚢を持ってき、患部に当てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

朝7時、航は疲れた顔をして朝食を食べていた。

 

「航、そんな顔しないの。いいじゃない。こんな可愛い子が抱き付いてたんだから」

 

楯無はそう言いながら笑顔で卵焼きを焼くが、航は何も言う気力がないのか黙々と朝食を食べる。

 

(ちょっとやりすぎたかな……。航、自分が化け物って思ってるからこういうことされるの苦手だし……。でも、まさかあそこまで触ってくるとはね……)

 

楯無は少し考えた後、次第とニヤニヤとし始め、焼きあがった卵焼きを皿に並べる。そして航の前に置くと、航はそれを箸でつまんで食べ、

 

「美味いや……」

 

そのつぶやきが聞こえた楯無はクスッと笑う。その顔はとてもうれしそうであり、楯無も一緒に朝食を食べ始めるのであった。

 

 

 

 

 

「おっす航……、っておま、何だその疲れた顔は」

 

一夏は教室に入ってきた航を見て驚きとあきれた表情を浮かべる。航は目が半開きという感じになっており、口も少し開いたまんま。それで猫背になっているからとても疲れ切ったかのような感じになっているのだ。

 

「おはよ……一夏……。いや、いろいろあってな……」

 

「そ、そうか。何があったか言わなくていいぜ」

 

「すまんな……」

 

そしてフラフラと歩いて席に着き、すぐに項垂れる。周りは背中が普通に戻っていることに少し驚いていたが、それでも向けるは奇異の視線。

逆に一夏には昨日のこともあって期待や熱い視線を送る。だが一夏は全く気付いておらず、何か視線が多くなったな程度しか考えてなかった。

 

「ねえねえ織斑くん。今日2組に転入生が入ってきたんだって」

 

その時だ。一夏に女子が話しかけてきた。その内容に一夏は眉を顰める。

 

「転入生?この季節にか?」

 

「うん。何でも中国の代表候補生らしいよ」

 

「中国、か……」

 

この時一夏は、何か懐かしそうな眼をしており、箒とセシリアは何か感づいたのか一気に一夏に詰め寄る。

 

「一夏さん!それより代表戦の方、だいじょうぶですの!?」

 

「一夏、そんなことよりISの方は大丈夫なのか!?」

 

「それなりに出来てるから。だから本番でへましない様にするさ」

 

こんな風に詰め寄るため、一夏はアハハと笑って場をごまかす。まあ、楯無にISの教官をやってもらってるから、代表決定戦の時よりはずいぶん成長している。当時それに満足していた一夏であったが、楯無がその慢心をバリバリ砕いたりしてるため、今となっては慢心はあんまりしない様になっている。

 

「勝ってね!織斑君!」

 

「デザートのフリーパスが待ってるから!」

 

「でも専用機持ってるのは1組と4組だけだし、余裕だね!」

 

そう言って盛り上がる女子達だが、この時開いた扉に音に反応してほぼ全員がそっちの方を見る。

 

「その情報、もう古いよ」

 

そこにいたのは身長が150ぐらいでツインテールにした髪の毛を持ってる女子であった。腕を組んでおり、仁王立ちをしてるが、何か似合わない。そんな感じだったが、彼女はそれに気づいていないようだ。

 

「鈴……、お前、鈴なのか?」

 

「久しぶり、一夏。あと航も……、って航、どうしたの?」

 

鈴が見たのはぐったりとしている航の姿。

 

「あぁ、鈴、久しぶりだな……」

 

「えらいテンション低いわね……」

 

「いや、男ならうれしいことが起きたんだけど、ちょっとな……」

 

そう言って外に目線を逸らして小さくハハハと笑う航。それを見た鈴は首を傾げるが、まあ男冥利に尽きることならいいのだろう。一夏の方に視線を戻す。

 

「一夏、夢は追いかけてる?」

 

「ああ、昨日から追いかけなおすことにした」

 

「そう。なら頑張りなさい。応援してるから」

 

そう言って笑顔を一夏に向ける。

 

(何だあの女は!一夏の自衛隊に入りたいっていうことを知ってるのか!?そもそも一夏は篠ノ之神社に来てもらう予定だ!だから自衛隊に入られたら困るのに!)

 

(何ですのあの女性は!一夏さんと異様に仲がいいってどういうことですの!?しかも夢の応援ってどこの青春ものですの!?)

 

箒とセシリアは一夏を頬を膨らませて睨みつけているが、その一夏は全く気付いていない。それどころか、鈴との話に夢中になっていた。

 

「じゃあ一夏。1998年に、アメリカに現れた大きいトカ「ジラ」……正解。やっぱり一夏にはかなわないわ。航がもっとすごいんだろうけど」

 

一夏の即答っぷりに軽く呆れる鈴。だがそれ以上に航がすごいことを思い出す。だが笑みがこぼれており、ここだけとても楽しそうな空間になっている。

だがそんな時間もすぐに終わる。

 

「きゃう!?」

 

いきなり鈴の頭に物理的な衝撃が走る。いったい何かと思って睨みつけてやろうと思っていた鈴だが、その考えはすぐに吹き飛ぶことになる。

 

「ち、千冬さん……きゃう!?」

 

この時先程と同じ出席簿で叩かれ悲鳴を上げる鈴。

 

「織斑先生だ。すでにホームルームの時間だから教室に戻れ」

 

「は、はい!」

 

そして鈴は急ぎ足で2組に戻るのであった。

 

「へー、鈴が転入生だったのか……。知らなかったな」

 

「一夏!あいつは何者だ!?」

 

「一夏さん!あのお方は何者ですの!?」

 

箒とセシリアは一夏に詰め寄るが、今の時間はホームルームだ。そうなると……。

 

「お前ら……、席に着け!」

 

「「きゃあ!?」」

 

箒とセシリアの頭に出席簿が叩きつけられる。そしてフラフラになって戻っていく二人。なお一夏は席に最初っから着いていたから叩かれることはなかった。

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

 

「あなたのせいですわ!」

 

「何がだよ」

 

昼休み、一夏はいつもの二人に詰め寄られていた。一夏は濡れ衣ていうこともあって軽く呆れており、それに気づいていない二人はいろいろ言ってくる。

そもそも二人が一夏と鈴の関係を考えていて、そこから一夏と結婚するという妄想をしていたが故に教師の話を聞いておらず、何回も怒られていたのだが。

 

「一夏、飯食い行こうぜ」

 

「わかった」

 

いつの間にか回復している航に声かけられ、立ち上がる一夏。そして二人が教室を出て行ってしまったため、セシリアと箒はそのあとを付いて行く。

そして食堂に着いたとき、目に入ったのは……。

 

「一夏、航、待ってたわよ!」

 

「やっほー、航。待ってたわよ」

 

そこにいたのは鈴と楯無であった。二人は他の人の邪魔にならないところに立っており、温かく二人を歓迎する。

そして全員は食券を買ってカウンターで昼食を受け取る。その後全員が座れる席に着き、最初に口を開いたのは一夏だ。

 

「それにしても鈴、久しぶりだな。向こうでも元気にしてたか?向こうでも大丈夫だったか?」

 

「一夏、いろいろ聞きすぎ。まあ、私が日本にいたときにいろいろあったから心配だったんでしょ?」

 

「あ、あぁ」

 

「なら心配しないでよ。生まれた国なんだからそれなりに大丈夫なんだから」

 

そう言って笑顔を見せる鈴。航と楯無も楽しそうに会話をしており、このメンバーの中で箒とセシリアは不機嫌そうな顔をしており、ついに箒が一夏に聞く。

 

「一夏、そもそもこの女とはどういう関係なのだ!?」

 

「鈴?鈴は幼馴染だ」

 

「何?」

 

箒は一夏の言葉に疑問を持つ。幼馴染は自分ではないのか?それが頭の中でぐるぐるとまわるのだ。

 

「あ、そういえば言ってなかったな。箒はファースト幼馴染で、鈴はセカンド幼馴染。なお航は男の幼馴染だ」

 

「何だよその分け方」

 

航は軽く呆れながらツッコむ。まあこんな分け方聞いたことないから、ツッコみたくなるのも無理ないだろう。

だが一夏は何かおかしいのか?ていう感じに顔を傾げており、航は一夏だからしょうがないと脳内で片づけるのであった。

 

「しっかりと紹介してなかったから紹介するよ箒。こっちは俺のセカンド幼馴染の鳳鈴音」

 

「よろしくね、箒さん」

 

「よろしくな鈴さん」

 

この時、二人の間に火花が散ったように見えたが、一夏が幻覚だろうと片づけて次の紹介に移ろうとするが。

 

「わたくしがイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

 

「誰?」

 

「なっ!?わたくしを知らないですの!?」

 

「だって、他の代表候補生とか覚えてたら多すぎてキリがないし」

 

「なっ、ぁ……」

 

腰に手を当てて自己紹介するセシリアであったが、鈴の切り替えしにより見事に撃沈し、食堂の隅っこで落ち込んでしまう。全員は手を合わせてセシリアに合掌した後、再び話題に戻る。

 

「そういえば鈴ちゃんにちゃんと紹介してないから自己紹介するわ。私の名前は更識楯無。IS学園の生徒会長で、航の幼馴染であり同室相手でもあるわ。2年生だけど気にしないでね」

 

「え、同室相手!?そして2年生!?」

 

鈴は色々と驚くが、取とりあえず深呼吸をして落ち着く。そして落ち着きを取り戻し、楯無に幾つか質問をしていく。それに楯無はすらすらと答えていき、周りもへーってなっている。

その後一夏にISについて教えようかと言う鈴だが、楯無が師事してくれてることを伝えると、おとなしく引き下がる。

 

 

 

 

 

そしていろいろ話してる間に昼休みも終わろうとし、全員は解散して教室に戻っていく。この時航と一夏が異様に上機嫌だったが、その理由は明白だ。

なぜなら

 

次の授業は……怪獣学だ。




うん、実際に可愛い女性が自分に抱き付いて寝ていたら、驚いてベッドから落ちても無理ないんだと思うんだ。
これで驚かなかったら日常茶飯事すぎて慣れてしまったのか、ホモなのか考えてしまうし。


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怪獣学 3

今回の怪獣学は短いです。


昼休みが終わり、航と一夏はシャーペンとノートと教科書を準備して、いつでもできるような状態になっており、テンションが高ぶっている。

そしてチャイムが鳴って入ってきた先生は……。

 

「みんな、久しぶりね」

 

「「おっしゃあ!」」

 

この時男二人の歓声にビビる1組生徒全員。入ってきたのは家城燈先生。怪獣学があることが確定したのだ。

燈は男二人が歓声を上げてハイタッチをしてるのを見て、自分の授業を受けたがってる人がいると改めて確認し、笑みがこぼれる。女子達はそんな男たちを見て軽く引いてるが、二人にとってはどうでもいい話しだ。

 

「さて二人とも落ち着いて、皆があきれてるから」

 

「「あ」」

 

周りを見ると、あきれ返った目、うるさそうにしてる目、そんな視線が多数あったため航と一夏は大人しくなるのだった。

 

「さて、今日の怪獣学は……。っと……、これか」

 

何か探ってたようだが、それが見つかったのか電子黒板に画像が張り出される。

白黒画像だが、割と鮮明に映っている。

 

 

「これはバランよ。現れたのは1958年。これより後のモスラを紹介しちゃったけど、初代ゴジラ、ラドン、モスラの順番で説明するのが私のやり方だから気にしないで。後言っておくけど、この怪獣は情報が少ないからもしかしたらもういったい怪獣の説明をするかもしれないけど気にしないでね」

 

『えー』

 

女子達のブーイングが出たが、それを気にしてたらキリがないと知っている燈は、さっさと説明に入ることにした。

 

「さて、この怪獣はバラン。体長50メートル。この怪獣はとある県……、わかってるのは東北地方ってぐらいね。そのどこかにある湖から現れるんだけど……。情報が少なすぎて嫌なのよね、ここら辺は……」

 

何か普通に愚痴っていたような気がするが、気にしないでおこうとクラス全員は心に思うのであった。

 

「……ま、いいわ。その後バランは近くにあった集落を破壊。そして東京を目指すんだけど」

 

「先生、なんで怪獣たちは東京を目指すのですか?」

 

その時一人の生徒から質問があった。確かに今まで大体の怪獣は日本、しかも東京を目指してることが多いのだ。

これが気になってしまい、全員が燈の顔を見る。

 

「うーん、なんでだろ。正直この話題は今までたくさん議論されてきたけど、分からないのが結果だからね……。唯一分かるのは、2004年に現れたゴジラだと、自衛隊八王子駐屯地に眠る機龍を目指してたぐらいだし……」

 

燈が分からないとなると、もうわからない。そのためこの話題はすぐに打ち切られ、授業に戻ることになった。

 

「その後バランは東京湾から現れて、羽田空港を襲撃し、都心を目指すんだけど、当時の自衛隊の動きがよかったのかほとんど被害は出ていないらしいわ。そして生物的特徴でもある、『光るものを口にする』を逆手に取って、照明弾と一緒に爆弾を飲み込んで倒されてるわね」

 

怪獣でも倒せないことはない、それが何人かの女子達を増長させることになる。

 

「ほら!こんなのでも倒せるならISでも怪獣倒せるでしょ!」

 

「言っておくけど、この時の爆弾。うわさでは威力は核より低くても、相当の破壊力はあったそうよ。爆発場所が海だったからよかったものの、陸上だったら相当の被害は出ていたそうね。まあ、噂ではゴジラには核爆弾さえも効かないらしいけど」

 

普通に可笑しい発言をする女子を牽制する燈。その時の淡々とした態度は、何か恐怖感があって、何人かの女子はぶるっと体を震わせる。

 

「そしてこのバランはとある集落では、『婆羅陀魏山神』と呼ばれていて、いわゆる神として祀られていたの。その名残かわからないけど、今日本で名を馳せて来ている会社の名前が『婆羅陀魏』だったわね。この会社は今の日本国家代表であって、ここの生徒会長でもある更識楯無さんの専用機を作ったとこでも知られてるわ」

 

怪獣を神と崇める。そういうことがあるのかと感心する生徒もいれば、恐ろしいと嫌悪する生徒もいる。

この時、授業の残り時間はまだ半分残っている。

 

「さて、思った通りに時間が空いてしまったから、次の怪獣を説明するわ」

 

そして燈はバランの画像を消していき、次に新たな怪獣の画像を出すが、3枚だけしかなかった。しかもその姿は……。

 

「セイウチ……?」

 

誰かがそう呟く。大きな牙、海獣特有のフォルム。目は白黒のせいで何色かわからないが、一色である可能性が高い。

 

「これはマグマよ。体長50メートル。出現地は南極よ。そしてセイウチに似てるから哺乳類と思われがちだけど、マグマは見た目と反して爬虫類に分類されるからそこ間違えない様に」

 

その言葉で教室に衝撃が走る。教室内は一気にざわつくが、燈はさっさと静めて授業に戻る。

 

「さて、このマグマは資料が先程のバランより少ないわ。とりあえずわかってるのは、現れた年は1962年。当時南極で何かがあると言われてた時代に、探検隊が南極へ向かうの。そしてジェットパイプと呼ばれるよく分からないけど、熱で氷を融かす機械を使っていたら融けた氷の中からマグマが現れて、探検隊の半分以上が死傷したらしいわ。まあ、ろくに怪獣用の装備もしてなかったのが原因らしいけど」

 

こんなでかい怪獣に蹂躙されたとなるとトラウマものだろう。まともな子たちはそう思い体をブルっと震わせる。

 

「その後探検家の生き残りが残した資料には、『氷の中に何かがある。私は見た。それを奴ら(マグマ)が守ってる』って書かれてたわ」

 

「先生、奴らってことは数体いたってことですか!?」

 

「分からない。だけど可能性は否定できないわ」

 

生徒の質問に少し困った顔で答える燈。だが気になることがあったのか、航は挙手する。

 

「先生。『残した資料には』の所で気になったんですが、もしかしてその資料、見たことあるんですか?」

 

「あるわ」

 

その一言で再び教室は騒めく。

 

「自衛隊から資料としてオリジナルを渡されたから、それをコピーしてここの資料として持ってきてるの」

 

そう言った時、チャイムが鳴り、授業終了を知らせる。航と一夏はいつも通りのもう終わるのかと残念そうな表情を浮かべている。

 

「ここで終わるけど、この2体はテストには出ないから」

 

そう言って燈は教室から出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

それから放課後、航と一夏は何時ものように、楯無に師事してもらっていた。

 

「ほら、一夏君!そこ隙がありすぎ!」

 

「へっ、うわぁ!?」

 

「航も!」

 

「うぉ!?」

 

楯無は一瞬にして一夏の横腹にブレードを当てて吹き飛ばし、航には顔面にブレードを突き立ててバランスを崩させようとするが、

 

「させるか!」

 

今までなら簡単に倒されていたであろう攻撃を、航は体の重心を前に向けてブレードを体で受け止めるようにする。そして楯無の腕を素早くつかもうとするが、楯無はすぐに後ろに下がって右手にガトリングを展開。そして引き金を引いて航のシールドエネルギーをガリガリ削る。

 

「おらぁ!」

 

だが一夏が後ろから迫ってきており、雪片弐型を振り下ろそうとするが、

 

「甘いわ」

 

楯無は左手にブレードを展開。そして冷静に受け流し、鳩尾に柄頭を強打させる。

 

「ぐぅ!?……くそ、シールドエネルギーが……」

 

白式のシールドエネルギーは模擬戦で決めていた数値を下回ったため、戦闘不能扱いになり、一夏は地面に降りて航と楯無の残りの試合を観戦する。

 

「機龍!」

 

『キィァァアア!!』

 

航はこの状況を打破するためにバックユニットからミサイルを放ち、誘導弾は急旋回して楯無に迫る。だがしかし楯無は。

 

「おっと、危ないわね」

 

軽く言ってブレードで切り落としたり、ステップをかけてひょいひょいかわしたりする。だが航にとってガトリングの雨が止まったため、ブースターを一気に吹かして楯無に迫り、両腕の腕部レールガンを連射。

幾つか地面に当たって煙が立ち込め始めたため、航は楯無の姿が見えなくなったことにより警戒してその場に止まる。

 

「……どこだ?」

 

煙が立ち込めるところを警戒してみていたが

 

「ここよ」

 

「っ!?」

 

気付けば楯無は自分の真ん前。だが大きさが災いして死角に入っていたのだ。ハイパーセンサーを使えばよかったのだろうが、素人特有の目を使った索敵をしたせいでこういうことになったのだ。

 

「おしまい」

 

そして楯無が両腕に展開したのはガトリング。そして同時に放たれた弾は一気にシールドエネルギーを削り、数値が下回ったため模擬戦は終了するのであった。

 

「楯姉……」

 

「どうしたの?」

 

「それ本当に打鉄?スペックがいろいろおかしく感じるんだけど……」

 

楯無が使っていたISは打鉄。IS学園の訓練機である機体である。それで大型ISである機龍を倒す。一見したらおかしすぎることなのだ。

 

「そりゃあ、性能を限界まで引き出してるからね。この機体、近接戦専用に特化してる部分があるからそこをうまく生かせばこういうことができるわけ。わかった?」

 

「うん……」

 

「じゃあ、二人の悪かったところを言っていくから。まず航から。航は……」

 

そして航と一夏に悪いところの指摘とアドバイスをしていき、二人はそれをしっかりと聞いていく。その後休憩を10分取り、その間にISにシールドエネルギーを補給しておく。そして再び楯無VS航&一夏の試合が始まろうとした時だった。

 

「ちょっといいでしょうか」

 

「「「ん?」」」

 

その時だ。声のした方を向くと、そこにいたのは専用機であるブルーティアーズを纏ったセシリアと、打鉄を纏った箒がいたのだ。二人は少し不機嫌そうな顔をしており、3人は首をかしげている。

 

「どうしたんだ?二人ここに来て」

 

「どうしたもこうしたもありませんわ!」

 

「うおっ!?」

 

いきなり怒鳴られたためびっくりする一夏。その後ろにいる航と楯無も少しびっくりしており、とりあえず何事かと見てみる。

 

「何でわたくしたちとISの練習をしませんの!?」

 

「だって、日本国家代表の人が教えてくれるって言ったらそっちに向かうだろ、普通」

 

一夏の正論に一瞬言葉が詰まるセシリアだが、ここで引き下がれないのか楯無に食い掛かる。

 

「どうしてわたくしたちに一夏さんと練習させませんの!?」

 

要するに好きな人と練習をしたい。それだけなのだろう。楯無はすぐに察したが、どうしてもそうできない理由があるため、眉をハの字に曲げる。

 

「普通ならそうなんだろうけど……、この二人にはそういう時間が少ないからねぇ」

 

「どういうことですの!?」

 

「だって、世界で2人の男性搭乗者よ?もし成果を残せなかったらどうする?最悪IS学園に1年もいられずに消える可能性があるのよ?それこそこういうイベントで大きな戦果を見せないといけないの。分かった?」

 

この時セシリアは楯無の目を見てわかった。楯無には一夏に対して色目は一切持ってなく、弟子を見るような目で見ていることを。

 

「……分かりましたわ。ですが一夏さんと一回模擬戦を申し込みますわ!ほら箒さんも!」

 

「わ、私もか!?」

 

箒はいきなりの指名に戸惑い、そのまま前に引きずり出されセシリアの隣に並ぶ。一夏は雪片二型を握るが、2対1となるとどうしても不利だ。楯無はここで下手なことをやられるのを避けたかったため、航を一夏の方に組み込んで急遽タッグマッチをすることになった。

 

(まあ、時々別の相手をするのもいいでしょ)

 

楯無はそういうことを思いながら、4人を見ているのであった。




バランとマグマ、覚えてる人いますか?特にマグマの方を。
なお世界設定破綻を防ぐために、マグマみたいにねつ造設定する怪獣が多数います。だって、マグマの元ネタである妖星ゴラスを見たらわかる通り、ねぇ……?


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タッグ戦と酢豚と

どうも、仕事疲れで毎度湯船で寝てしまって沈みかけている妖刀です。それで毎度舟が沈没する夢を見て……全く休めない。

では最新話、どうぞ。


ここは第三アリーナ。そこには一夏、航、箒、セシリアの4人がおり、全員が自分の得物を構えている。航は遠距離用の武器の安全装置を解除してるだけだが。

男対女の形で並んでいる4人。その間には火花のようなものが散っており、まさに一触即発ともいえる空気であった。

 

『一夏、俺が下がってオルコット狙うから、箒をタイマンで潰せ。その後セシリアのシールドエネルギーが残っていたら仕留めても構わん』

 

『わかった』

 

『じゃあ俺が先制攻撃を仕掛けるから……』

 

『航。俺、セシリアとタイマンをしたい』

 

『はぁ?まあいいわ。なら……』

 

『箒さん。恐らく一夏さん達は近接、中距離で別れさせてくるつもりですわ。ですから二人で一夏さんを倒して、そのあと航さんに仕掛けますわ。(一夏さんはたぶん倒せるのでしょうけど、航さんは見込みが……』

 

『……?まあわかった。要は常に2対1を作るってことであろう?』

 

『そうですわ』

 

お互いのチームは黙秘回線(プライベート・チャンネル)で作戦会議をし、そして決まってお互いに向き合う。

この試合で審判をするのは楯無。いつもの雰囲気はどこかに行き、キリっとした雰囲気を纏っている。

 

「では今から織斑、篠栗対篠ノ之、オルコットによるタッグマッチを始める。……はじめ!」

 

そして楯無の掛け声と共に始まった試合。先制攻撃制したのはセシリアであった。

 

「初めいただきますわ!」

 

一夏にロックを向けてスターライトm-3でレーザーを放つが、その間に航が入り込み一夏の盾になる。その行動にセシリアと箒は盾になるという予想外の行動に驚いて動きを止めてしまう。

そのときだ。機龍の口が開き、口内が一瞬光ったかと思うと、そこから雷かと思える光線が放たれたのだ。

2連装メーサー砲。機龍の口内に仕込まれた兵装だ。

 

「箒さん」

 

「あ、あぁ!」

 

光線は二人の元へ走り、二人はとっさの判断で避けるがセシリアはBTビット2機使用不可にされ、箒は反応に遅れたせいでシールドエネルギーが大きく削られる。

 

「一夏、いまだ!」

 

「おう!」

 

そして航の後ろにいた一夏はセシリアの元へ向かう。箒はまさかの行動に驚いたが、セシリアの元へと向かわせない様にしようとしたが、

 

「くぅぅ!?」

 

だがいきなり地面に叩きつけられたのだ。地面にたたき伏せられながらも見たのは、自分に背中を見せている航の姿。だがそれで分かってしまったのだ。尻尾で叩きつけられたのだと。

だがそれで負けるだけの箒ではなく、すぐに抜け出して近接ブレードを展開。そして装甲の貼られていない黒い部分、関節部分目掛けて切りかかる。

だが航もそう簡単にやられるわけでもなく、体を回して尻尾を箒の横腹に当てようとする。箒はブレードで受け止めるが、力負けして一気に吹き飛ばされ、そのまま機龍の爪をを使った追撃によりシールドエネルギーが一気に削られ、規定値以下になったため戦闘不能になる。

 

「くそっ!」

 

箒は地面を殴って航を睨みつけるが、航はそれを無視して一夏とセシリアが戦っている上空を見つめる。箒は悔しそうな顔をするが、航が一切動かないことに疑問を持ち始める。

 

「航、一夏の援護に向かわないのか?」

 

「別に。一夏が代表候補生であるオルコットにどれくらい食らいつけるか見てるだけだ」

 

全身装甲のため航の目は分からないが、その目は真剣なものなのだろう。箒は何も言えず、ただ一夏とセシリアが戦っている空を見つめるのであった。

 

 

 

 

 

(くっ……!前戦った時でもヒヤッと来たのにここまで強くなってるとは思いませんでしたわ……!)

 

セシリアは先程の2連装メーサー砲でBTビットが2機使用不可にされながらも、一夏と空中で奮戦していた。

セシリアはビットを飛ばしながら一夏を近づけないようにしているが、それでも一夏は嫌っていうほど突っ込んでくる。いや、ただ突っ込んでくるわけではないのだ。

 

「おらおらおらぁ!」

 

「くっ!」

 

一夏は手に持ってる楯無から借りたマシンガンの弾をばら撒いてビットに牽制を掛ける。だがマガジンは今付いてる分しかないため、少し慎重になりながらもばら撒いていた。

だがそう簡単には当たらず、ついに。

 

「しまった、弾が!」

 

引き金を引いても弾は出ず、ついに弾切れを起こし、セシリアはそれを勝機と見たのかビットとスターライトmk-3のロックを一夏に向ける。そして、

一夏が目の前から消えた。

 

「なっ!?どこに行きましたの!?」

 

セシリアはいきなりのことでターゲットスコープから目を離し、周りを見渡す。その時自分にいきなり影ができたことに疑問に思い、上を向くと、そこには雪片弐型を振りかぶって自身目掛けて突っ込んでくる一夏の姿であった。

 

「ここだぁ!」

 

一夏がいたのは真上。ちょうど太陽と重なるところである。それでハイパーセンサーがあっても少しのタイムラグで反応に遅れてしまい。

 

「……負けましたわ」

 

そして一夏が初めて代表候補生に勝利した瞬間であった。

 

 

 

 

 

その後時間が時間だったため、全員は解散し一夏と航が更衣室に入った時であった。

 

「一夏、航、お疲れ!」

 

「お、鈴か」

 

一夏は鈴がなんで更衣室にいるのか気になったが、まあ飲み物を渡してくれたため、そのことはすぐに空の彼方へと消えていく。

 

「それにしても鈴。ここ男子更衣室なんだから少しは考えろよな」

 

「別にいいじゃない。私は一夏に会いに来ただけだし。あ、それと航。はい、お茶」

 

「サンキュー」

 

航は鈴の行動にあきれるが、お茶をもらったため、それに口を付ける。そして3人は中学の時の話で盛り上がり始め、気付けば最近のことの愚痴に変わっていた。

 

「だってさ、周りの女子達の視線が痛いんだよ?初めての実習で道を塞がれて二人仲良く遅れるし。それで千冬姉から叩かれるし……」

 

「一夏、本当に大変みたいね……。そういう航は?」

 

「俺?ここに入って初日に眉間から血が流れた」

 

それを聞いた鈴はキョトンとする。そして目をぱちぱちと瞬きし、プルプルと震える指で航を差す。

 

「えっと……、何があったの?」

 

「いや~、一夏が木刀で貫かれそうになってて、それに俺が巻き込まれたって訳。まあ、いつもみたいにすぐに傷塞がったけどな。おまけに謝ってもらってないし」

 

そう言って笑い飛ばすが、鈴は俯いてプルプルと震えている。一夏と航は何事かと思い聞こうとするが、

 

「一夏!あんたの同室相手、女子だったわね!」

 

「お、おう。さっき戦ってた「篠ノ之箒ね!」そ、そうだ」

 

何か怒ってるらしく、一夏は驚きの表情を隠せない。航はなぜ鈴がここまで怒ってるのか見当がついたが、ここまで鈴が怒るとなると、やはり箒の行動は相当不味かったみたいだ。まあ『箒』から『篠ノ之さん』に呼び方を変えようとしている航からしたら半分どうでもいいが。

 

「一夏!大体航が頑丈だからって、怪我した後に箒を叱ったの!?」

 

「い、いや」

 

「「はぁ!?」」

 

ここで航と鈴の声がユニゾンする。怒ってないって……。

 

「一夏」

 

「は、はい」

 

この時の鈴の声は、何か恐怖がある感じだった。言葉にするのも難しいほどの感覚に一夏は戸惑い、その時鈴に手首を掴まれる。

 

「一夏。さっさと同室相手を変えましょ。怪我させておいて一切謝らないヤツは男女関係なしに危険な奴よ」

 

「ちょ、鈴。待ってくれ」

 

「何よ、早くしないと」

 

「いや、着替えさせてくれ」

 

現在一夏と航の姿はISスーツだ。そのため、外に出るには制服に着替えなければならず、それに気づいてなかった鈴は顔を真っ赤にする。

 

「ご、ごめん。外で待ってるから」

 

そう言って鈴は急ぎ足で更衣室を出て行くのであった。

 

「……一夏、さっさと着替えるぞ」

 

「お、おう」

 

そして二人はさっさと着替えて鈴と合流するのであった。

 

 

 

 

 

「というわけだから替わって」

 

「だが断る!」

 

「何ですって!?」

 

「なんだと!?」

 

「おいおい二人とも……」

 

ここは一夏の部屋の前。そこで鈴と箒が口喧嘩をしていた。一夏はその二人を止めようとするが、航にやめておけと制されたため、おとなしく二人を見守ることにする。

 

「だってそんなに暴力を振るうのは一夏が嫌いだからなんでしょ?なら私が変われば問題ないじゃない。それとも別の理由?」

 

「一夏のことは嫌いじゃない!」

 

「ならなんで暴力振るうの?航にも怪我させたらしいから、そんな危険人物一緒に住ませる危険だと思うんだけど」

 

「誰が危険だ!」

 

「「お前だ」」

 

この時鈴と航がハモって箒を指さす。箒は顔を真っ赤にして、鈴にどこかから出したのかわからないが、竹刀を一気に振り下ろすが、

 

「あぶないわね。あんた、そうやって暴力振るうわけ?」

 

鈴は右手にISを部分展開しており、それで受け止めていたのだ。そして鋭い目つきで箒を睨み、箒はビビったのか、数歩後ろに下がる。

まさか鈴がIS、しかも専用機を持ってるとは思わなかったのか、箒は悔しそうな顔をしており、航と一夏は驚いた表情を浮かべていた。

 

「へー、鈴。お前専用機持ちか」

 

「そうよ。名前は甲龍(シェンロン)。近接型の機体よ」

 

へー、という二人。だが箒の言葉で鈴と再び言い合いになってしまい、その後寮の見回りでやってきた千冬によって二人とも出席簿で頭を叩かれるのであった。

その結果、1週間後ほどに部屋替えをするからそれまで我慢しろとのことだった。鈴はそのことに抗議するも、結局は何も変わら無いことに悔しそうな顔をしており、対照的に箒はご満悦な顔をしている。

 

「すまない、鳳。できるだけ早くしてやるから我慢してくれ」

 

この時、まさか千冬に謝られるという展開に鈴は驚きを隠せず、まあこうされたら仕方がないと思ったのか、鈴は引き下がる。

そして千冬が寮の見回りで消え、箒も部屋に戻ったため、一夏は部屋に戻ろうとするが、

 

「待って、一夏」

 

「どうした、鈴?」

 

この時の鈴は、さっきみたいに威勢のいい姿ではなく、もじもじとしている普通の女の子みたいになっており、一夏はいったい何のか首を傾げている。

 

「あのね、中学2年の、あの約束覚えてる?」

 

「約束?……ああ、あれか」

 

「覚えてるの!?」

 

鈴が思い出すは引越しをする数日前の誰もいない教室でのこと。その時言った酢豚のを覚えてる。てことは……。

 

「鈴、俺の夢が叶うまで……、待っててくれないか?」

 

一夏が答えた。あの朴念仁で唐変木の一夏が答えた。

この時鈴の顔は真っ赤に染まっており、頭から湯気が出ている。そして何かあうあう言っているため、一夏は苦笑いを浮かべながら頬をポリポリと掻いており、その光景を見ていた航は

 

「帰ろ。何かむかつく」

 

その一言を残して部屋へと帰るのであった。

 

 

 

 

クラス代表リーグマッチ。観戦席は満席になっており、航は席を取ることができなかったのか、観戦席後ろの壁に寄りかかっている。

一夏は選手のため、控室で待機しており、楯無はこの間にポップコーンとかを買いに行っている。

その時だ。アリーナの真ん中に設置されてる電光板に対戦票表が出されたのだ。

 

「お、一夏の相手は……。お、おう……」

 

航は微妙な反応をしてしまうが無理はない。だって対戦表に出されていたのは……

 

 

第一試合

  一組代表:織斑一夏 VS 二組代表:鳳鈴音




一夏はとあることがあって鈴の好きという気持ちに気付いただけです。だから結局他の人に対しては鈍感のままです。

次回はクラス対抗戦。楯無に鍛えられた一夏の実力とは?


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クラス対抗戦

さて始まりましたクラス対抗戦。楯無に鍛えられた一夏はどのような動きをするのか?


今日はクラス代表リーグマッチ、もといクラス対抗戦が開催されており、現在第一試合が始まろうとしていた。

そしてアリーナの真ん中にいるのは一夏と鈴。二人はお互いの得物を構え、そして目をそらさず、お互いの顔を見合っている。

だが鈴の頬は少し赤く、まだ一週間前のことを引きずってるようだが、それでもしっかりとした眼つきだ。

 

「鈴。俺が今まで楯無さんに教えてもらってた分、ここで見せてやるぜ」

 

「な、なら来なさい。私が強いってこと教えてあげる!」

 

そしてお互いに獰猛な笑みを浮かべはじめ、試合開始のブザーが鳴った時、一夏は鈴の懐に一瞬で入り込んだ。

 

「なっ……うぐっ!?」

 

鈴は一夏がいきなり大技を見せてきたことに驚いて動きを止めてしまい、横薙ぎをまともにくらって吹き飛ばされる。

鈴はそれなりに吹き飛ばされながらも、すぐに体勢を立て直して双天牙月を改めて構えなおす。

 

「驚いたわ。一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使うなんて」

 

「どうだ!楯無さんに教えてもらったんだ!」

 

「へぇ……。あの人がねぇ……」

 

鈴は観戦席をちらりと見、一夏の方にすぐ視線を戻す。

 

「……まあいいわ。一夏、まさかそれだけで終わりって訳ないでしょうね?」

 

「当たり前だ」

 

そして一夏は雪片弐型を構えて鈴目掛けて再び突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「一夏、いきなり瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ったな」

 

「ええ、本当ね」

 

ここは観戦席の後ろ側。席を取れなかった航は、楯無と一緒に立ち見しながら一夏と鈴の試合を観戦していた。

 

「一夏君は確かに最初の頃よりは強くなってるけど……」

 

この時楯無が見たのは、雪片弐型を双天牙月でうまく受け流しながら、口元がニヤリとしている鈴の姿であった。

 

「何か隠してるわね……」

 

「まあ、楯姉が鍛えたなら大丈夫でしょ」

 

そう言って二人は試合の状況を見守るのであった。

 

 

 

 

 

先程まで余裕そうな顔をしていた鈴だが、一夏の攻撃の手が緩まないことに少し焦りを感じ始めていた。

 

(ちょ、ここまで攻撃の手が緩まないってどういうこと!?)

 

一夏は先程から雪片二型を振るっており、ここまで連続で振るえば疲労がたまって動きが鈍くなるどころか、動きが鋭く、速くなってきているのだ。

そのため、左に薙いだ雪片弐型が気付けば返し刃で自分に迫ってきてるというのが多々あり、第三世代兵装である龍砲を使おうとしても、それすらも考える暇もなくなってしまうのだ。

 

(このっ……!)

 

だが努力で代表候補生になった鈴にとっては、才能と努力でここまで伸びた一夏は半分天敵のようなもの。そのため鍔迫り合いになった時、鈴は思いっきり叫び声をあげるとともに力技で一夏を押し返す。

 

「うおっ!?」

 

一夏はまさか片腕の力で押し返されるとは思っておらず、10メートルほど吹き飛ばされた後雪片二型を構えなおす。

その時だ。自分の顔の横に双天牙月の刃がギリギリまで迫っていたのは。

 

「うおっ!?」

 

一夏はどうにかかわそうとするも、反応が遅かったせいもあり、シールドエネルギーが削られる。

一体何があったのか。その時一夏は、鈴が双天牙月を両方とも持っていないことに気付く。

一体どこに行ったのか。だが、それはすぐわかることになる。

 

「なっ、ブーメランかよ!」

 

それは柄を連結した双天牙月である。

鈴は双天牙月は柄同士を連結させ、それを投げることでブーメランのように使っており、それが一夏の方に飛んでいたのだ。

鈴は飛んでいた双天牙月を回収し、そして柄を分離して両手に持った後。

 

「行くわよ!代表候補生の力見せてやるわ!」

 

そして鈴は二刀流を駆使した怒涛のラッシュを見せ始める。一夏は何とか回避していくが相手は二刀流。鈴の勢いがすごいためか一夏は先程の勢いはどこに行ったのか押され始める。

右に回避したと思ったら下から切り上げがすぐに来、振り下ろしを回避したと持ったら左から剣戟が来る。一夏は二刀流の対処法を習って無いから先程みたいにごり押しして封殺してたものはよかったものの、こうなったらジリ貧だ。

一夏は一旦距離をとって体勢を立て直そうとするが

 

「させないわよ!」

 

「ぐぅ!?」

 

その時だ。鈴のISの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の一部が開き、いきなり一夏の横腹に強い衝撃が走ったのだ。一夏はバランスを崩して鈴に無防備な姿を見せてしまい。

 

「もらった!」

 

鈴は勢いよく回し蹴りを放って一夏の横腹に直撃させる。そして蹴りを向けた方向は地面。そのため一夏は地面に向けて勢いよく落下しているが、どうにか地面に叩きつけられる前に体勢を立て直す。

 

「いてて……、それにしても鈴から離れたときにくらった『アレ』。いったい何なんだ……?」

 

一夏は先程の見えない攻撃について考えるが、それが何なのかわならず、首をかしげてしまう。

 

「何ぼさっとしてるの!」

 

「っ!」

 

一夏はいきなりの叫び声に反応したのかその場を一気に離れる。そしたら、一夏が先程いたところがいきなり爆ぜた。

 

「なっ!?」

 

その時だ。センサーから銃で狙われているという警告アラームが鳴り響く。一夏はでたらめと言える動きで動き回り、先程いた場所に何かが着弾しており、見えない攻撃に一夏は恐怖するが何かネタがあるはずだと鈴の機体をくまなく見る。

一番怪しいのは肩から見える非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)。あのスパイクが生えている奴の一部が開いたときに衝撃を食らったため、恐らくそれなのだろう。

そのを見た鈴がニヤリと笑う。

 

「どお!甲龍の第三世代兵装『龍砲』は!弾がまったく見えないでしょ!」

 

鈴は楽しそうな笑みを浮かべているが、一夏は全くかのように冷や汗を掻きながら回避を続けている。

『龍砲』

一夏はいまいちどういう原理で見えない弾を出してるか分からないが、とりあえず回避を続けた。

 

 

 

「楯姉。一夏、思い切り押されてるな」

 

「まあ、相手は代表候補生だからそう簡単に倒せる相手じゃないからね」

 

そう言って楯無は扇子を開き、そこには『経験の差』と書かれている。航は、時折楯無が扇子を開いてこういった文字を出すが、すぐに文字が変わったりするため、いったいどういう原理で出しているのかたまにに気になったりしていた。

 

「お、一夏君。弾が見えてないのに回避が上手くなってきたね」

 

「そうだけど……、あの弾って何?」

 

「あれ?中国が作った第三世代兵装『龍砲』。圧力を操作して空間自体に圧力をかけ……、まあ衝撃砲っていうんだけど、分からなかったら砲身が透明の空気砲と思っといて」

 

説明が難しくなりそうだったため、楯無はとても簡単な説明をし、航はなるほどと頷いている。そしてアリーナの方に目線を戻すと、一夏が龍砲をほぼ回避してるためか、鈴が苦そうな顔をしている。

 

「見えない弾をあそこまでかわせるって俺にはできんな」

 

「航の場合、衝撃砲放っても機体がひるまないから突撃されるのかオチなんだけどね。私みたいにそういうのに対するカウンター技持ってないとタックルからの、そのまま掴んで地面に叩きつけられたら一気に終わるし」

 

そしてアリーナを見ると、当たらないからか、いら立ちが募ってると思われる鈴と、冷静に状況を見ていると思われる一夏がいた。

 

 

 

 

 

「いい加減に、当たりなさいよ!」

 

鈴は龍砲を連射するが一夏に当たらないことに焦燥感に駆られる。この状態で連射してもパターンが単調のため、一夏は回避を繰り返し鈴に切りかかろうとするが、どうしても双天牙月でふさがれる

そして

 

「負けてたまるかぁ!」

 

一夏は零落白夜を起動。そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って一気に踏み込もうとするが、

 

 

ドォォォォォン!!!

 

 

いきなりアリーナのシールドが何かにぶち抜かれ、そのまま一夏と鈴の間に轟音と共に落ちた。

 

 

 

 

 

 

ここはとある小島。その地下深くにとある空間があり、その中に一人の女がいた。顔は整っており、スタイルも素晴らしいほどの体型だ。だが来ている服装が不思議の国のアリスをモチーフにしたかのような奇抜なファッションであり、頭には機械チックなうさ耳を装備している。

その女性は、ISを作り、そして現在身を潜めている大天災、篠ノ之束だ。

彼女は現在、IS学園のクラス対抗戦を監視カメラをハッキングして見ており、その表情は非常に楽しそうな感じだ。

 

「おー、いっくん頑張ってるねー。さすがちーちゃんの弟だなー」

 

束はそう言ってニコニコ顔で映像を見ているが、途中で一夏が押され始めたとき、少し不機嫌そうな顔になり始める。

そして束は近くにあるコンソールを扱い、右に表示された画面には空を高速移動する二つの黒い機体、ゴーレムが映し出される。ゴーレムは束が設定した目的地、IS学園目掛けてステルス状態で移動しており、束はそれを楽しそうに見つめている。

 

「さーて、あそこに入ったらいっくんの力試しと……」

 

束はコンソールを弄り、別の画像をだす。そこに映っていたのは男だった。

 

「……この機龍に乗ってるヤツを消さないとな~」

 

そこに映っていたのは、航であった。彼を映してる時の束の表情は、まるで能面を張り付けたかのように無表情で、とても冷たい目をしている。

そして無人機のカメラにはIS学園の姿が見え始め、束は笑うように口元をゆがめる。

そして無人機のカメラは、IS学園全体を映していた。真下には一夏たちがいるアリーナ。

そして無人機の右手にある発射口らしきものが光り始め……。

 

「消えろ、災いを起こす化け物」

 

感情のこもってない言葉と共に、発射口から極太のビームが放たれた。

 




次回は無人機戦。いったい何が起きることやら……。


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実力

どうも、最近疲れ気味の妖刀です。やっと最新話更新できる。


ではどうぞ!


「うおぉ!?」

 

「きゃあ!?」

 

いきなりのことであった。一夏たちはアリーナのシールドを突き破ってきた光の雨に驚いて後ろに下がる。そして合流した後に再び轟音が起きて、二人は自分の得物を構えていつでも反応できるようにする。

そして落ちてきたときに起きた砂煙が晴れ、中から現れてきたのは2機の黒いISだった。

 

「何よ……、あれ……」

 

鈴はその姿に言葉を失ってしまう。

その姿は人のようだが人とはかけ離れているのだ。両機とも大きさは3メートルほどで、一機は両碗部には五連装チェーンソーが装備されており、それがマニピュレーターのように開いたり閉じたりしており、もう一機は腕が丸くなっており、そこの掌部とも呼べる部分に銃口が取り付けられている。パッと見では前衛用と後衛用と呼べる二機である。

二機は二人の方を見ており、前衛型は挑発するかのように刃を少し回転させ、後衛型は二人に銃口を向ける。

 

『織斑、鳳、もうすぐ制圧部隊がそちらに向かう。だからピットに退避しろ』

 

その時千冬から回線がつながるが、二人は動かなかった。いや、動けなかったと言った方が正しいだろう。

 

「織斑先生、ここで下手に退避すると観戦席に被害が届くかもしれません。だから制圧部隊が来るまでここで足止めをさせてください」

 

鈴がそう言った後、管制室で何か話し合う声が聞こえ、千冬が答えた。

 

『……わかった。10分……いや5分で突入するからそれまで持ちこたえてくれ、いいな』

 

「「了解!」」

 

そして通信を切り、二人は隣同士でゴーレムたちに向けて得物を構える。

 

 

「一夏、あくまで私たちは足止め。だからそこまで攻撃を加えなくていいわ」

 

「わかった」

 

その時、後衛型からビームが放たれ、二人は観戦席に向かわれない様に一夏は前衛型、鈴は後衛型を相手するのであった。

 

 

 

 

 

『きゃぁぁ!?』

 

いきなりの衝撃で、観戦席から沢山の悲鳴が上がる。いきなり何が起きたのか訳が分からず、分かるのはシールドを何かが突き破ってきたぐらいだ。

 

「楯姉!いったい何が!?」

 

「分からないわ。だけど、これはやばいってことね」

 

その時だ。

 

「なっ、遮断シールドが発動してる!?」

 

いきなりのことであった。観戦席は遮断シールドでおおわれ、中が真っ暗になり非常灯の赤色が中を照らす。女子達はパニック状態になって通路を繋ぐゲートへと向かうが、扉が開かないことにパニック状態をさらに引き起こす原因となる。

 

「皆静かに!」

 

この時全員がビクッとなって声のした方を向く。そこにいたのは、焦った様子も微塵に見せない更識楯無の姿だった。

全員は泣きそうな顔で楯無を見る。

 

「私がここにいる限り皆に危害を与えさえることなんてさせないわ。だから安心して。私が守って見せるから」

 

そう言ってほほ笑む楯無。彼女のその姿は不安に駆られていた女子達の心に光を灯すかのようで、先程までパニック状態になってた女子達が動きを止める。

 

「あと過去に日本を守った龍がいるからね」

 

そう言って楯無が振り向いた先には航の姿。航は俺!?っていうかのように驚いた顔で自身に指さしており、楯無はそうよ、と言うかのように頷く。

航はキョロキョロと周りを見渡すが、周りからは助けてというかのような視線だらけで、小さくため息を吐いた後、航は覚悟を決めて

 

「わかった」

 

と一言言った。それで頷く楯無。

 

「さーて先生たちの方に連絡を入れてみないとね」

 

そして回線をつなぐ先は管制室。

 

「こちら更識です。管制室、だれか応えてください」

 

『こちら千冬だ。どうした、更識』

 

繋がったことに安堵の息を吐く楯無。そして顔を引き締めて本題に入ることにする。

 

「織斑先生、現在状況を教えてください」

 

 

 

 

 

ここは管制室。そこでは教師陣が忙しそうにしており、その中でも燈は教師陣に細かい指示を出しており、千冬は現在観戦席にいる専用機持ち達に回線などを繋いで指示をしている。

実際燈は侵入者が入ってきたときの指示はとても上手く、千冬はそこまでできないため、自分のカリスマ性を生かして生徒たちを安心させたりするのが仕事だ。

 

「頑張ってくれ一夏、鈴……」

 

千冬は先程指示を出したが、片方は素人、もう片方は代表候補生。鈴がどれくらい一夏のフォローができるかわからないし、どれくらい持つのかもわからないため、不安だったが顔に出さないようにしている。その時真耶から声をかけられる。

 

「織斑先生。やはり何者かによってハッキングされており、教師陣が扉を破っていいかと要請が来ています」

 

「だが行けるのか?ピットの扉は灰色の鱗殻(グレー・スケール)でも耐えるほどの代物だぞ?」

 

その時だ。スピーカーから楯無の声がしたのだ。

 

『こちら更識です。管制室、誰か応えてください』

 

「こちら千冬だ。どうした、更識」

 

千冬は近くにあったマイクから応える。向こう側で安どのため息があったことから色々と大変だったようだ。

 

『織斑先生、現在の状況を教えてください』

 

「現在アリーナ内に所属不明機が二機侵入。織斑たちが足止めをしており……。おっと、更識。そこの近くに通路のある扉があって閉まっていたら壊して構わん。他の専用機持ちが扉を破壊して避難誘導を始めた。お前は破壊後避難誘導を優先してくれ、いいな」

 

『了解』

 

そして回線は切れ、千冬は溜息を吐きたかったが、他の専用機持ちから避難状況報告が来るため、それに対応するのに忙しなく指示を飛ばすのであった。

 

 

 

 

 

「よし、許可が取れたわ。みんな、ここから10メートルぐらい離れて」

 

楯無はそう言った後周りにいた女子達を下がらせる。そして手に持ってた扇子が輝き始め……。

 

「来て、蒼龍」

 

そして楯無は一瞬だけ眩しく光り、光が収まった時、そこにいたのは深層の蒼色と淡い蒼色の装甲をもつISだった。

 

「機龍……?」

 

航はそう呟く。

腕の装甲は機龍に近く、爪もIS特有の形ではなく五本指ながら機龍のもので、装甲の量は他のISに比べて少ないが、あちこちが機龍に酷似している。

そして頭部にポニーテールみたいに機龍の尾に似たのが装備されており、それが時折自分の意志でも持ってるのかというかのような動きを見せるのだ。

他には非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に青く、透明な結晶体がある。

 

「じゃあみんなさっきより離れててね……」

 

そして楯無が展開したのは、大型近接ブレード『村雨』であった。楯無はそれの柄を片手で持った後、切っ先を扉にチョンと当てたとき、扉から冷気が放たれ始めた。

その後楯無は腕を引いた後、突きの体勢になり。

 

「はあ!」

 

村雨で一気に突きを放ち、扉が粉々に砕け散ったのだ。

その場にいた全員は金属製の扉が粉々に砕けたことに驚いていたが、今が非常事態ってことを思い出して楯無指示のもと、避難を開始する。

この時航は扉から一番遠い、アリーナ側に立っており、そこでシャッターを破ってゴーレムが入ってこないか見張りをしている。

そしてここの人数が多すぎて、こけて踏まれたりしたせいで怪我を負った子を運んだりしてるうちに5分は経ってしまったが、避難が順調に進んでおり、残り1割も切ったほどになった時だ。

 

「お姉ちゃん」

 

「ん?」

 

自分とは違って内側に跳ねた水色の髪。顔には眼鏡型の液晶ディスプレーを掛けている。そこにいたのは自分の愛する妹、更識簪だ。その隣には本音もおり、二人は手をつないだまま楯無のとこに来ていた。

 

「お嬢様~頑張ってくださ~い」

 

「お姉ちゃん……、頑張ってね」

 

「任せなさい。私はIS学園最強なんだから♪」

 

そう言って笑みを浮かべる楯無。その光景を航は微笑ましく見ていた

 

「あ」

 

その時簪と目が合ったが、さっと目を逸らされ、苦笑いを浮かべる。まだあの事を引きずってるのか……。

航にとっては過ぎたことだからどうでもいいのに、こうなってると苦笑いが出てしまって仕方がないのだ。

そして簪は楯無と何か話した後、通路の方に向かおうとしたが

 

 

ドォォォォォン!!

 

『!?』

 

シャッターを突き破って無人機、ゴーレム近接型が侵入してきたのだ。

いったい何があったのか。それは数分前に遡る。

 

 

 

 

数分前、アリーナ内では、一夏と鈴がゴーレムたちを観戦席に向かわせないように奮戦していたが、二人とも近接型ゆえ、ゴーレムたち相手に苦戦を強いられていた。

 

「くっ!戦いづれぇ……!」

 

「当たりなさいよ……!」

 

一夏は近接型ゴーレムの腕から出される攻撃をずっと回避を繰り返していた。近接型ゴーレムの腕は五連チェーンソーのため、起動しているせいで雪片で受けたら一気に持ってかれるか砕け散ってしまうのだ。先程もそれでチェーンに引っかかって持っていかれそうになっており、まともに攻撃を繰り出せぬまま焦燥感を募らせる。

鈴は龍砲を使って遠距離型ゴーレムに攻撃を仕掛けるが、ずっと回避されて、そしてお返しと言わんばかりに撃たれたビームを回避していく。

お互いに射撃戦をしているようだが、鈴の使う龍砲は中距離用。遠距離用のビームを使うゴーレムには距離が大きすぎ、威力減衰をどうしても起こしてしまう。

二人はお互いに攻めることができず、救援が来るまでの5分が30分にも1時間にも感じた。

だが、その時二人に通信が入ったのだ。

 

『織斑君!鳳さん!聞こえますか!』

 

「「家城先生!」」

 

通信から聞こえたのは燈の声。二人はやっと5分経ったのかと安堵しようとしたが、ゴーレムたちの攻撃でする暇が無くなる。

だが、この通信が入るってことは救援が駆けつけてくれるってことだ。一夏は無意識ながら口元に小さく笑みを浮かべており、チェーンソー部分にあたって火花が散りながらも、渾身の一撃で近接型ゴーレムを地面近くまで吹き飛ばす。

そして

 

 

ガキンッ!バキッ!ガキャガッ!……バガガガァァァン!!!!

 

『はぁぁぁああああ!!』

 

固く閉ざされたピットのゲートが、両腕に灰色の鱗殻(グレー・スケール)を装備した教師たちのISによって破壊される。そして教師たちは灰色の鱗殻(グレー・スケール)をパージし、アサルトライフル、対戦車用無反動砲などを展開し、アリーナ内部へと突入をし、ゴーレムたちを睨みつける。

教師たちの編成はラファール・リヴァイブが4機、打鉄が3機の7機による混合編成。

 

「さ、二人ともご苦労様でした。あとは私たちがしますから下がってください」

 

その内の一人が優しい笑みを浮かべながら二人に下がるよう呼びかける。二人はやっと出番が終わったと安心しきった顔をしており、扉がぶち抜かれたピットの中へと逃げるように戻っていく。教師たちはそれを確認した後、教師たちは一気に無人機たちへと攻撃を開始した。

まずラファールリヴァイブに乗った教師たちがアサルトライフルで牽制し、近接型ゴーレムの動きを着々と封じる。そのとき上空にいた遠距離型ゴーレムがビームを連射してきたが、それを難なくかわしながら近接型ゴーレムの動きを封じていくラファールリヴァイブに乗った教師たち。

 

「こっちも忘れんじゃないわよ!」

 

『!?』

 

その時、遠距離型ゴーレムの両腕と片足にいきなり何かが巻き付いて来たのだ。遠距離型ゴーレムは首を動かして何が巻き付いたかを確認すると、そこには打鉄を纏った教師たちが右手首近くから放った、先がアンカーのようになってるワイヤーが巻き付いていたのだ。

遠距離型ゴーレムは力任せに腕を動かそうとするが、殆どびくともせず、そして

 

「「「はぁぁぁ!!」」」

 

『!?』

 

教師たちは打鉄3機の重さを利用してPICを切り、4機一緒に地面に落ち始めたが、地面スレスレのところでPICを起動。そしてゴーレムだけを地面に叩きつけ、左手首近くからもアンカー付きのワイヤーを放ってゴーレムの動きを絡め封じていき、ついにゴーレムは動くことができなくなってしまった。

 

「どう?対巨大生物用に作られた特製ワイヤーの固さは?そう簡単にちぎれないでしょ」

 

一人の教師がそう言う中、両腕に装備されたビーム発射口は他の教師に灰色の鱗殻(グレー・スケール)で潰され使うこともままならず、完全に捕まった状態になっている。

 

『こちらα。所属不明機を捕獲したわ。そっちは?』

 

『こちらβ。もうすぐ終わるわ。っと、終わり!』

 

この時近接型ゴーレムと戦っていた教師たちは、既にワイヤーでグルグル巻きにして捕まえており、胴体もそうだが、10枚あったチェーンソー部分は砕かれたりと殆どが使い物にならなくなっている。

教師たちはやっと終わったと安堵して、全員武装を格納していたが、この時近接型ゴーレムのカメラアイは赤く光ったのに誰も気づいていない。カメラアイの一つが見つめる先は遠距離型ゴーレム、そして他のカメラアイが見つめるは、シャッターの向こうにいる航であった。




原作でもツッコミ入れたかったけど、何故無人機とか侵入したときに教師が働かない!

あと近接型ゴーレムの腕はグラインドブレードみたいのが両腕に付いてると考えてください。
そして教師たちが使ったISにはグフカスタムのヒートロッド(電気流れないけど)が両腕に装備されてる状態です。


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激突

やっと原作1巻目の話がおわる……、ふぅ……。


「もー!何なのさ、あの女達は!」」

 

束はゴーレム二機が、IS学園教師たちによって沈黙させられたことにいら立ちを隠せないでいた。怒りに任せて散らばっていた資料等をあちこちに投げ、頭を強く掻き毟っている。

 

「もぉぉぉ!!ぁぁぁぁぁ!!!」

 

完全に頭に血が上っており、まさにトチ狂ってる状態である。その状態は5分ほど続き、いきなりぱったり止んだ。その時の顔は、誰かが見たら恐怖で顔を真っ青にするかのような気持ち悪い笑みを浮かべており、口は三日月のように口角が上がってる。

 

「そうだ。あれを使えばいいんだ」

 

束はさっさと先程の席に着き、キーボードを高速でタイピングする。色々な画面が現れるがそれを流すかのように処理をしていき、束は最終項目までたどり着く。

 

「これ使うと箒ちゃんやちーちゃんやいっくんに危害を与えそうになるから使いたくなかったけど、あの化け物を倒すためならしょうがないや」

 

そして最終項目の承認のところを押し。

 

「ゴーレム!起動ぉぉぉぉぉ!!」

 

そして画面は真っ赤に染まるのであった。

 

 

 

 

 

 

ゴーレムたちを縛り上げた後、教師たちは一安心からか武器を格納している。

 

「ふう、終わったわね」

 

「本当。全く生徒たちの晴れ舞台なのにこういうトラブルは勘弁だわ」

 

「あーあ、この後の処理が面倒ね……」

 

「まあそうだけど、その前にやることがあるでしょ?」

 

「そうね」

 

そして全員は縛り上げられたゴーレムたちを見る。

遠距離型は完全に沈黙しており、近距離型もカメラアイが動く程度で体を動かすかのように見えない。この時全員はあとはISを剥いで、中の人を捕まえれば終わりと思っていた。

だが

 

「ちょ、こいつ動き出した!?」

 

「え!?」

 

近接型ゴーレムが暴れ出したのだ。ワイヤーで縛ってあるとはいっても、その暴れ方は尋常ではなく教師たちはいったん離れていつでも鎮圧できるように武器の選択を始める。

その時だ。近接型ゴーレムの壊れたチェーンソー部分がパージされ、いきなり眩しい閃光が教師たちの目を襲う。普段ならハイパーセンサーが処理して効かないはずなのに、この時は効いたことに戸惑う教師たち。

この時ワイヤーが千切られる音がした。そしてチェーンソーの動く音がする。

そして閃光が収まり、恐る恐る目を開くとそこにいたのは近距離型ゴーレムであった。だが腕は先程現れてモノとは違い、チェーンソーが3本になっており、背中のスラスターが多く増設されている。

チェーンソーは刃の数が減ったとはいえ、長さが先程の倍近くある。

カメラアイも先程とは違て赤く光っており、先程とは全く違う雰囲気をさらけ出す。

 

「ちょ、さっきよりやばいような……」

 

一人が呟く。だが千切られたなら再び捕えるまで。全員がワイヤーをいつでも使えるようにし、一人がバズーカを展開して狙い撃つが、それを振り向きざまに切り裂いて、瞬時加速(イグニッション・ブースト)ともいえる速度で遠距離型ゴーレムの元へ立つ。

この時全員が振出しに戻る、いや、さらにやばくなる思われた時だった。

近接型ゴーレムは片手を高く振り上げた後、チェーンソーを起動し、そのまま遠距離型ゴーレムの胸の部分を串刺しにして、そのまま手首を回して粉々にしたのだ。

 

『なっ!?』

 

いきなりのことで固まる教師たち。何人かは中の人が死んだと思って顔を逸らしており、残りは武器を構えている。

この時とある教師は気付いた。あれ、血が出てない……、と。それに疑問に思った教師の一人は黙秘回線(プライベート・チャンネル)を使って他の教師に伝え、全員でガトリングを展開する。

 

「撃てぇ!」

 

一人の合図とともに全員は引き金を引き、放たれた弾幕はゴーレムへと向かって行く。だがゴーレムは両手にある3本指ともいえる状態のチェーンソーを大きく開き、手首ともいえる部分を回転さえてその弾幕を防ぎ、そのまま教師たちに向かって突進を繰り出す。

教師たちはまさか突っ込んでくるとは思わず、油断したせいで回避の遅れた教師の一人が巻き込まれ、一気にシールドエネルギーが削られて戦闘不能になってしまう。

 

「しまっ……!?」

 

教師の一人は戦闘不能になった教師の下へと向かい、その穴を埋めるかのように他の教師たちはガトリングでの弾幕を絶やさない。

 

「こいつ!さっきのは手を抜いてたってこと!?」

 

「ならさっさと潰すだけ!」

 

教師たちはそう言って攻撃を再開するが、ゴーレムはそれを次々と回避をしていき、そして恐れていたことが起きる。

ガトリングはいきなり弾を排出しなくなり、空撃ちの音が空しく響く。そう、弾切れだ。他の射撃武器も先程の戦いで弾切れを起こしており、残りは近接武器しかない。

ゴーレムは一気に方向転換して、観戦席の方へ高速で移動し始めたのだ。教師たちは装備を変更して追撃するが、やはり先程より機動力が上がってるのか、ゴーレムはほとんど攻撃を躱し、そしてチェーンソーを起動させた後、右腕の手首を回転させてシールドを突き破ったのだ。

 

「しまっ、あそこにはまだ避難が遅れている生徒が!」

 

教師たちは急いで突き破られたとこから突入をする。

そして中で見たのは、

 

「ぐおぉぉ……!」

 

機龍の両手でチェーンソーを受けている航の姿だった。

 

 

 

 

時は観戦席にゴーレムが現れたまで戻る。

 

『きゃぁぁぁ!?』

 

観戦席で逃げ遅れた生徒たちの悲鳴が一気に木霊する。シャッターを打ち破って現れたのは近接型ゴーレムだった。ゴーレムは偶然ながら誰もいないところに着地し、一瞬だけカメラアイを動かした後、目の前にいる航にロックし、カメラアイを一瞬だけ光らせる。

航はいきなりのことでびっくりしてしまい、その場に尻餅をついてしまう。そしてゴーレムが両腕を引いて3枚のチェーンソーを二つ、ドリルみたいに回転をし始める。

 

「航!」

 

楯無は通路入口から航のところまで飛ぼうとするが間に合わない。航も手で顔を覆って、誰もが万事休すと思った時だ。

 

「っ!」

 

「……え?機龍?」

 

航は何時の間にか機龍を展開しており、両腕で両方のチェーンソーを受け止めているのだ。この時回転してる刃によって火花が散っているが、

 

 

この時航の目の前にとあるメッセージが表示される。

 

『勝手ニ死ンデモラッテハ困ル。貴様ガイナイト我、動ケヌ』

 

機龍に助けられた。どちらかというと自分に利用価値のあるかのような言い方だが、今はどうでもいい。

 

「行くよ!機龍!」

 

太腿部のブースターを使いたいが、航の後ろにはへたり込んだままの女子達がいるから使うことができない。だがゴーレムはスラスターをフルスロットルで使ってくるから困る。その時だ。

 

「航!任せなさい!」

 

「楯姉!」

 

楯無は村雨をゴーレムの横っ腹に直撃させて一気に誰もいない観戦席の方へと吹き飛ばす。この時教師たちも観戦席に入ってきたため、教師に避難誘導を任せ、二人ゴーレム討伐へと移るのであった。

 

「更識さん!本当に大丈夫なの!?」

 

教師の一人がそう叫ぶが、楯無は振り返ってピースをするだけ。だが教師達は知ってる。この時は楯無が絶対勝利するの時のポーズだと。

ゴーレムは吹き飛ばされたところから瓦礫を落としながら立ち上がり、航に再びロックオンを向けるがいきなり何かにそれを塞がれる。

 

「無視しないでね♪」

 

可愛く言う楯無だが、手に持ってる大型ランス『蒼流旋』をすばやく突き出す。まさに俊足ともいえる速度だが、ゴーレムはそれをすばやく回避する。だが楯無の顔がニコニコだったことに疑問を思がもう遅い。

ゴーレムの動きがいきなり止まったのだ。

 

「!?」

 

「はい、掛かった」

 

ゴーレムはいきなり自分が動けなくなりことに戸惑う。周りもいきなり無人機が動きを止めたことに驚きを隠せず、唯一笑みを浮かべているのは楯無だけだ。

この時航は楯無の足から、何か水みたいのがゴーレムの方につながっていることに気付く。この時ゴーレムの四肢に何かが巻き付いてるのが航のハイパーセンサーが捉える。

そして楯無は蒼流旋を構え、

 

「さて、皆を不安にさせた代償は高くつくわよ?」

 

そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に加速して、ランスの切っ先がゴーレムにあたろうとした瞬間に拘束を解いてシールドに激突させ、アリーナ内へと送り返す。

ゴーレムは後ろが空いたため、スラスターを器用に使ってランスから逃れるが楯無が目の前から消えたことに驚く。

 

「はぁぁっ!!」

 

楯無は体を前に一回転させ、そのままゴーレムの頭部に踵落としを綺麗に決める。ゴーレムはそのまま地面に落ちていき、叩きつけられる前にスラスターを使って軟着陸をする。このとき目の前に航がいたためチェーンソーを前面に突き出し、そして航目掛けて突っ込んだ。

だが航も太腿部ブースターを展開、そしてゴーレム目掛けて一気に突っ込む。

そして二機はアリーナの中心で激突する。

だが考えてほしい。14トンの金属の塊と3~4トンの前者より脆い金属の塊。この二つがぶつかればどうなるか……。

この時ゴーレムの装甲全体に一気に罅が入り、チェーンソーの刃も砕け、カメラアイが衝撃で粉々に砕け散る。破片を散らしながら吹き飛ばされたゴーレムは体制を立て直そうとサブスラスターを使おうとするが、

 

「させるか!」

 

航は一気にゴーレムに近づいて、二の腕をガッシリと掴む。そしてアリーナの壁に向かって一機に突っ込み始めたのだ。ゴーレムは引きはがそうとチェーンソーを機龍に当てるが、速度が落ちるはずもなく、そして。

 

「おぉぉらぁぁぁぁ!!!」

 

そのままゴーレムを壁に激突させる。衝撃で腕はもげ、装甲は粉々になる。だが勢いはそこで収まらず、壁に約1メートルほどの穴をあけた後にようやく停止する。

そして穴から機龍が出てきた後、穴の中に残っていたのは粉々になったゴーレムのISコアとボディの残骸だけであった。

 

 

 

 

 

その後ゴーレムの残骸は教師たちによって回収され、生徒たちには緘口令がひかれる。なお、教師たちは錬度不足で鍛えなおすそうだ。

航たちも事情聴取を約30分ほどしたのち、全員解放されて今は4人で寮に向かってる途中だった。

 

「あーあ、機龍でのタックルするの禁止されちまったよ……」

 

航は教師に近接攻撃幾つか制限され、軽く不貞腐れていた。楯無はにが笑いを浮かべ、そんな航の頭を優しく撫でる。

 

「しょうがないわよ。14トンの塊がISに突撃するだけでスクラップになっちゃうし。絶対防御があっても助かると言いにくいからね」

 

「そうだけどさー」

 

「そういえば一夏。部屋はどうなったの?」

 

この時鈴が部屋の問題子のとこを思い出し、一夏の方を見る。

 

「部屋?ああ、航と一緒の部屋になるってさ」

 

「マジかよ」

 

初耳だったのか、航は驚いた顔で一夏を見る。一夏はどうしたんだ?と首を傾げており、その後楯無の方を見るが、困り顔を浮かべている。

 

「楯姉、これってマジ?」

 

「うん……」

 

申し訳なさそうな顔をする楯無。彼女もこのことを残念に思っており、航は楯無に何か言おうとしたがすぐにやめる。

 

「わかった。じゃあ一夏、これからよろしく」

 

「おう!」

 

そしてお互いに握手をし、そして寮に着く。その後箒はいつの間にか引っ越していたのか部屋には荷物がなく、元から荷物の少なかった航は楯無に別れを告げて部屋に向かおうとするが……。

 

「あの、刀奈姉?」

 

「んー、何?」

 

「何で俺、後ろから抱き付かれてるの?」

 

ベッドに腰掛けていた時、楯無が後ろから首に手を回して抱き付いてきたのだ。いきなりのことで少し驚いたが、女性特有なのかわからないが甘い匂いが航の鼻腔をくすぐる。

 

「嫌?」

 

「いや、めっちゃ柔らかい感覚がしてうれしい・・・・・・ハッ!?」

 

「……航、むっつりスケベだね」

 

「いや、その……」

 

この時航は顔を真っ赤にする。後ろにいるからわからないが、楯無はにやにやと笑ってるのだろう。だが確かめようがないため、航は抵抗は一切せずそのままでいた。

そして30分ほど抱き付かれていただろうか。お互い無言だったが安心できる心地よい感覚でいるため、いきなり離れられた時に寂しい感覚が航を襲う。

 

「……よし、航に3日分抱き付いたわ。でも……」

 

この時航が寂しそうな眼をしていたため、楯無は航の頭をなでる。

 

「航、今度部屋に行くからそのときね」

 

「……わかった」

 

そして荷物をまとめたバッグを持って部屋を出て行く航。楯無はそれを見送った後、つまらなさそうに小さくため息を吐いて、自分も荷物をまとめて2年生寮へと向かうのであった。

 

その後航は途中で若干顔の赤い箒とすれ違い、これからの部屋になる1025室に入り、一夏といろいろしゃべりあう。そして就寝時間になったため、さっさと眠るのであった。

 

 

 

 

 

「うきぃぃぃぃいぃ!!!ゴーレムが負けたあぁぁぁぁ!!!」

 

ここは束の研究室。結局ゴーレムが負けたことにいら立ってる束は、あちこちに物を投げていた。それで者が散乱しており、掃除ロボットが忙しそうに動いている。

 

「にゃぁっぁぁぁあっぁ!!!……ふぅ。やっぱり5連装チェーンソーなんかしてるのはだめだね、次」

 

そして席に着き、これからする予定の資料をあさる束。そこに書かれていたのに『DT計画』と書かれていたのがあったが、束はそれをゴミ箱に捨てる。

 

「あーあ。ゴーレムもダメだし、前にディメンション・タイドは宇宙に打ち上げたはいいけど一発の試射で壊れて大気圏で燃え尽きちゃったし、ダメだなー私」

 

四肢を投げ出し、だらんとした束は暗い天井を見上げる。

 

「次はどうしようかなー。どうやってあのゴジラモドキを消そうかなー」

 

この時ニヤリと笑っていた束だが、それは本人も気づいていないのであった……。




次話から最新章に入ります。お楽しみに


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第2章 ~超翔竜~
路地裏


彼らが生まれて見たもの。それは狭い空と薄汚れた世界だった。


欲しい、空が。欲しい、場所が。


そして彼らは動き出す。自分たちの場所を手に入れるために。


これはクラス代表リーグ戦が行われてる日と大体同じ時の出来事である。

 

ここは夜の渋谷。若者があふれる街である。そこの路地裏で、2人の男が3人の女に絡まれていた。男達の見た目は20代半ばだろう。片方は髪型がアフロで、もう一人はスポーツ刈りの髪型だ。

女たちの見た目は全員20前半であるが、なぜか老けて見える。

 

「おら、早く金出せよ」

 

「そうしねえと強姦されたと叫ぶぞ!」

 

「ま、待ってください!出しますから……!」

 

今の世の中そう叫ばれると無実でもすぐに捕まる。そして男は財布から金を出し、女に渡す。だが女は男の腹に蹴りを入れる。鳩尾に入ったのか、男はのたうち回り、女たちは下種な笑いを上げる。

 

「ひゃはは、こりゃいいや」

 

「そういえばストレス溜まってんだよね。だからサンドバッグになってよ」

 

「答えは聞いてないわ。じゃあ始めましょうか」

 

そして女たちは男に蹴りを入れ始める。男達は体を丸めて防御の体勢に変えるが、それでも痛いものは痛い。小さく呻き声を上げる男の姿を見てさらにゲスイ笑みを浮かべる女たち。

ここは路地裏。男の悲鳴は表を歩く人たちには聞こえず、ただひたすら蹴られたり殴られたりしている。

だが、

 

「キィィ……」

 

「カラララ」

 

「ギギィ……」

 

何か聞こえた。アフロヘアの男の耳にははっきりと聞こえた。幻聴ではない。そう、何かの鳴き声が聞こえたのだ。

だが女たちには聞こえておらず、男達への攻撃を緩めない。

 

「今の声何だよ?」

 

「はぁ!?いきなりどうした!ついに耳が狂ったか?」

 

男たちは女たちに気付かれない様にひそひそ話をし、そしてスポーツ刈りの男が上を向くことになった。

 

「今の声は……、ひぃ!?」

 

男は気力を振り絞って顔を上にあげるが、そこにいたのを見て悲鳴を上げる。女たちは男のとった行動が気がかりなのか一緒に上を向くが……。

 

「何よ、何もいないじゃない」

 

「まさかそうやって逃げようってわけ?」

 

「いい度胸ね。ならがひぃ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

女の一人がいきなりこけたかと思うと、闇に引きずられていったのだ。全員はいきなり何が起こったのか分からなかったが、闇に消えた女の声が聞こえた。

 

「いやっ!来ないで!やめ、やめて……ぎっぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」

 

肉の引きちぎる音や骨を砕く音が聞こえる。女の悲鳴が消えた後、何かが近づく音がする。女たちは既に男なんか思考の外であり、音のした方を見ている。そして路地裏を照らす電灯にその姿が映った時。

 

「「きゃぁぁぁあぁ!?」」

 

「「うわぁぁ!?」」

 

女二人は悲鳴を上げて路地裏のどこかへ消える。男はいきなりの悲鳴に驚いてしまうが、目の前にいる大きな化け物がこっち向けて走ってきたため、急いで起き上がって走り出した。

 

「おい、どっちが表だ!」

 

「確かこっちで合ってるはず!」

 

向かう先は表道。そこまでくれば恐らくもう来ないはず。それだけを考えて男達は走る。この道は迷路みたいになっているため、道に迷いかけるが、途中で自分を蹴っていた女たちの悲鳴と肉を食いちぎる音がしたが気にする暇もない。そしてもうすぐそこを2回曲がったら表道だ。

 

「よし!これで逃げ切ったら……あぁ……!」

 

「うそ……だろ……?」

 

目の前にいるはその怪物。体長は2~3メートル。姿はトンボの幼虫であるヤゴに酷似しており、体のカラーはダークグリーンがベースだろうか。黒のラインの引かれた緑色の複眼が怪しく光る。

男達は後ろに数歩下がって、すぐに後ろを向いて別ルートを探そうとするが、目の前にその怪物が2匹、目の前に降りてきたのだ。

 

「はは……、アハハハハハ……」

 

アフロヘアの男は漏らしたのか、股間を濡らしへたり込んでしまう。そして涙を流しながら壊れたように笑い声を出しており、路地裏から見える狭い夜空を見上げる。

 

「これが占い1位の結果かよ……」

 

「お、おい。諦めんなよ!」

 

スポーツ刈りの男は励ますが、状況はそれを許さない。

 

「キァァ……」

 

「カカカカ」

 

「ギリリィ……、カラララ……」

 

側頭部を前脚でつかまれ、嫌でも怪物と向き合う形になってしまったアフロヘアの男。そして男が生涯の最後に見たのは怪物……『メガヌロン』の血に汚れた口の中であった。

 

「嫌だ……。死にたくない……。うわぁ……、誰かぁ……あ゛あ゛あ゛!!!??」

 

「う、うわぁぁっ!?」

 

 

バキッ、グチャ、ミチッ、ブチブチ、ゴクン

 

 

そこに響くはメガヌロンたちが男を食らう音。骨を砕く音。その音も、男の悲鳴も、表には聞こえず、ただ路地裏に響き続ける。そして食べながらメガヌロンたちは路地裏に消えていく。そこに残ったのは男が着ていた、今はズタズタの衣服。あとは男の血でできた血の海だ。

メガヌロンがそっちに夢中になってるうちに、スポーツ刈りの男は急いで表道へと抜け出す。

近くに警察署があったはずだ。男は記憶を頼りに気力を振り絞って警察署へと駆けていくのであった。

メガヌロン達はその姿を複眼ではっきりととらえるが、追いかけようとしない。

 

まだ足りない。まだ食べないと……。

 

メガヌロンは空腹を満たそうと路地裏で食料を探す。だが決して表には出ない。出たら食料を探すどころではないからだ。

 

 

 

 

 

「本当なんです!信じてください!」

 

「嘘ね。その目は嘘を言ってるわ」

 

「ならその場所に行ってみればわかりますから!」

 

スポーツ刈りの男はあの後、偶然近くにあった交番に飛び込んでそこにいた小太りの婦警に事情を話したが、全く信じてもらえず困り果てていた。

 

「だから信じてくださいって!本当に友人が殺されたんですから!」

 

「そう言って路地裏に連れて行っていけないことするんでしょ!なら逮捕ね!」

 

「はぁ!?」

 

男はいきなりのことで唖然とするが、婦警の手には手錠が握られている。どうみても捕まえる気満々だったため、男はもう信用ならんと交番を抜け出す。

 

「ふん!これだから男は信用ならないのよ!」

 

「今巡回戻ってきました~」

 

婦警がそう威張ってる時にも見た目が20行ってるか分からないぐらいの童顔の婦警が入ってくる。小太りの婦警はすぐに笑みを浮かべてお茶を出す。

 

「お疲れ様。どうだった?外は」

 

「うーん。特に何とも。そういえばさっき、この交番から男が怒り心頭って顔で出て行きましたがいったい何があったんですか?」

 

小太りの婦警は溜息混じりでそのことについて話すと、童顔の婦警は驚いた表所を浮かべる。

 

「えっ!?なんで見に行かないんですか!?」

 

「だって男なんか信じられないし」

 

「……まあ本部の方に連絡は入れておきますね」

 

「そうしといて」

 

そして小太りの婦警は交番の奥に消えていく。童顔の婦警は本部の方に連絡を入れるが、『そんなのいるわけないだろ』と一蹴されてしまい、しょんぼりと落ち込むのであった。

 

 

 

 

先程交番を抜け出したはいいが、男は夜の渋谷をとぼとぼと歩きながら帰路についていた。

 

「あーあ。全くなんで誰も信じてくれないんだ……」

 

男はスマホで他の友人にも先程のことを話したが、『そんなのデマだな』と一蹴されており、溜息をもらしていた。

それにしてもさっきの怪物は何なのだろうか?男は友人の食われる姿を思い出して吐き気が催すが、何とか堪えて先程の怪物について考える。

まるでトンボの幼虫の『ヤゴ』に似た姿をしていたが、ヤゴは水棲昆虫のはずだ。だがそれが陸上にいるとなると、男はとあることが思いついて冷や汗が流れ始める。

 

「まさか……脱皮するのか……?……いや、ねえな」

 

嫌な予感を振り払うように頭を横に振るう。そして15分歩いたぐらいで、自分の住んでいるアパートに到着し、部屋の鍵を開けようとするが。

 

「まさか……、中にいないよな……?」

 

先程の恐怖からドアノブを握る手が硬直する。そして恐る恐るドアノブを捻り、そしてゆっくりと部屋に入って電気をつける。

 

「……いなかったか」

 

そして男はさっさと眠る準備をし、そしてベッドに入って電気を消す。

 

「さーて、寝るか」

 

男は布団に入って目覚ましをセットして眠る。

この時、部屋の窓を開けており、時折風が入り込んでカーテンが揺れ動くが。

 

「カララ……」

 

そこに何かいたような気がするのは気のせいだろうか?

 

 

 

 

 

「はーあ、疲れたー」

 

時間は夜の11時。童顔の婦警は今日の仕事を終え、私服姿になって帰路についてる途中であった。道は人盛りがあり、若者たちが盛り上がっているが……。

その時通り道に路地裏へと続く道を見つける。その道は街灯が20メートルに一本立ってるか立ってないかていえるほど暗く、そして気味の悪いところだ。

 

「そういえば……、ここら辺だったけ?男が殺されたってのは……」

 

女はその路地裏が気になったのか、その横道へと入り込む。

 

 

 

 

 

そして女は、一生路地裏から帰ってこなかった。




どうも、妖刀です。ついに新章突入!




感想、評価、誤字ラ出現報告よろしくお願いします!


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怪獣学 4

燈「皆待った?今日は怪獣学だから楽しんで行ってね」


一夏と航が同室になって時が経ち、今は5月最後の日。一時限目が怪獣学だったため、航と一夏はいつも通りハイテンションだった。だが周りはそんなの関係なく、燈が来た後もなめてんのかまだ喋ってばっかりだ。

燈は手を叩いて、皆の意識をそっちに向ける。

 

「はーい、皆静かに。今日の怪獣学はこの怪獣2体よ」

 

そして電子黒板に表示されたのは数枚の写真だ。両方とも白黒でわかりにくく、一枚は胴体が異常に長く、顔がはっきりとわかりにくいが、東洋の龍と言うべきだろうか。それに近い顔つきをしている。

もう一枚は町を遠くから撮った写真だが、どう見てもおかしいのが写ってる。見た目は体が細長いクラゲだろうか。だが大きさが異常にでかく、写真から判断して体長が50メートルぐらいあるのだ。それが町の上に浮いてるのなら相当な恐怖だろう。

 

「今日の怪獣学はマンダとドゴラよ。なおこの体が長いのがマンダで、クラゲみたいのがドゴラよ」

 

こんなのが昔いたのか、まともに取り組んでる子たちは驚きの表情を隠せない。

 

「この2体は情報が少ないからもう一緒にやることになったけど、テストには出ないからね。まずはマンダからよ」

 

そして燈は電子黒板を操作……しなかった。いつもなら様々な写真が出てくるはずなのに、全くでないことに周りがざわつき始める。

 

「ごめんね。マンダの画像、ほとんどないの」

 

「「え~」」

 

この時航と一夏のが残念そうな声を上げる。だが燈が申し訳なさそうな顔をしているため、これ以上何も言わなかった。

 

「まあつづけるわ。マンダ。体長約200メートル。現れた場所は日本海沖。現れたのは1963年で、被害は漁船から豪華客船20隻が沈没。死者行方不明者が数百人出るという被害を出してるわ」

 

船に乗っていた人たちはどういう気分だっただろうか。それを考えようとする生徒もいたが、怖いのか、体を震わせる。

 

「その後自衛隊がマンダを倒そうとするんだけど、結局倒せないまま数十年姿を消すわ」

 

 

 

「そしてその時から52年経った2015年、当時尖閣諸島で日本と中国が睨みあっていたんだけど、とあることがあって中国がいきなり尖閣諸島いらないって言い出したの」

 

「マンダ・・・・・ですか?」

 

「正解。それがその映像よ」

 

燈は電子黒板を操作して映像を再生する。

カメラに映っていたのはたくさんの船が現れている海域だ。聞こえる言葉から日本の船なのだろう。

中国漁船と何かしているが、遠くから撮られてるせいでよくわからない。この映像で映ってる中国漁船は、軽く見積もって50隻近く。カメラが動いて移された日本の海上自衛隊の船は約10隻ほど。

この時、中国漁船から何か放たれた。それは日本の船の近くに落ちて大きな水柱を上げ、日本人の悲鳴と怒声が響く。

中国漁船が砲弾を放ったのだ。一体どうやって積んでるのか謎だが、それが数隻の漁船から放たれ、あちこちに水柱が上がるのだ。

日本の船はいい加減危ないと思ったのは引き始め、そして中国漁船がいるところから約500メートルほど離れた時だ。

 

 

ボンッ!

 

 

いきなり数隻の中国漁船が空に打ち上げられたのだ。打ち上げられた高さは、約40メートル。そのまま漁船は水面に叩きつけられて粉々に砕ける。

それが数回続いた後、中国漁船は逃げるかのように尖閣諸島から離れていく。

そして日本の船からは違う先程と悲鳴と、何かを無線で急ぎながら言ってるような声が聞こえる。

そして、ここで映像は終了した。

 

「これはマンダと思われる、怪獣らしきものが襲撃したときの映像よ。この後日本は特生自衛隊を派遣。そして中国が日本に尖閣諸島がいらないと言って、何か気付けば日中関係は回復へと向かって行ったわ」

 

そんなことがあったのか。生徒たちは歴史の授業で、この部分が小、中学の時からぼかされていた理由が分かってすっきりた顔をしている。

 

「じゃあ次の怪獣、ドゴラを紹介するわ」

 

そして電子黒板を操作してドゴラの画像を出す。

 

「ドゴラ。体長不明。これは大きさが1メートルだったり50メートルだったりと変わったりしてたから不明になてるわ。なおこの画像だとクラゲみたいだけど、実際はちゃんとした形を持ってないと言われてるの。なんでもアメーバに近いとか」

 

アメーバということは決まった形のない生物となる。それが宙に浮いてるって一体どういうことなのか、何人かの生徒はそれが気になっていた。

 

「何人かの生徒も気になってるようだけど、何でドゴラが浮いてるかは今も不明よ。まあ話に戻るけど、現れた年は1964年。当時ドゴラが現れたころ宝石店でダイヤなどが盗まれる事件が多く多発したわ。その原因はまさかのドゴラで、何でも炭素類を吸収することによって形をはっきりさせるの。そのため、炭鉱の石炭や、文房具屋の鉛筆、シャーペン類も被害になってるわ」

 

ダイヤモンドを盗むって……。何人かの女子はあまりにも勿体ないと思う。

 

「その後大きくなったドゴラを対空砲などで攻撃するんだけど、ほとんど効果がなくて炭素系の被害は大きくなってく一方。だけどジバチの毒が効くと判明して、すぐに実行。そしてドゴラは体が結晶化して倒されるわ。これはジバチの毒が有効だったからどうになかったものの、そうでなかったら炭素系の被害は相当だったでしょうね。火力発電所も襲われる可能性もあっただろうし」

 

その時だ、再びチャイムが鳴り、授業が終了する。

 

「そうそう、今度テストあるけど赤点取らないでね?補習があるから。あと今回の怪獣もテストで出ないから」

 

そう言って燈は教室を後にするのであった。この時教室の半分ほどの女子達が冷や汗を流してたが航にはどうでもいい話だ。

そして時は経ち昼休み。

昼食をさっさと食べた二人は教室に戻って鈴も混じって勉強会を行っていた。だが……、

 

「いや、鈴。ちょいお前のやり方じゃ分からんわ……」

 

「どういう意味よ!」

 

「すまん、俺も同感だ……」

 

「え、い、一夏まで!?」

 

完全に落ち込む鈴。何があったかというと、三人で勉強会をすることになったのだが、この中で一番頭のいい鈴に教えてもらうことになったはいい。だが、鈴の教え方がひどすぎて全くできないという状況なのだ。

そして一夏にダメ出しされたため完全に落ち込んでしまったため、昼休みの勉強会は完全につぶれ、放課後。

 

「で、私を頼りに来たってこと?」

 

「「お願いします助けてください」」

 

勉強を教えてもらおうと、航と一夏は楯無に頭を下げている。楯無は顎に手を当てて何か考えてるような感じだったが、

 

「わかったわ。なら今から生徒会室に行くから、そこで教えるから付いてきて」

 

「「はーい」」

 

そして楯無に付いて行くこと約5分。着いた先は生徒会室だが、航と一夏はすでに疲れ切った様子だ。

 

「どうしたの?そんなんじゃこの先やっていけないよ?」

 

「いや、生徒会長は最強なのはわかったけどさ、なんで俺ら……いや、俺まで巻き込まれるんだ?」

 

「そういや航、何か楯無さんを狙ってる女子に袋叩きにされそうになってたよな。なんでだ?」

 

一夏は首をかしげるが、そんな一夏を見て溜息を吐く二人。本人が嫌がるため言わなかったが、千冬の弟だから狙われなかったのだろう。だが航はそういうのがないため、狙われる可能性が高いのだ。

楯無に守ってもらった航だが、何か心にモヤモヤが残る。結局それがあんまりわからないままであったが。

そして楯無が扉を開いて中に入る。二人も付いて行って中に入ったとき、目に留まったのはソファーで寝ている本音と、本音と同じ髪色をした眼鏡をかけた女子生徒が書類を処理している姿であった。

その女子は楯無が入ってきたのに気付き、仕事を中断して立ち上がって綺麗にお辞儀をする。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「だから虚ちゃん。お嬢様はやめてって言ってるでしょ?」

 

「それは失礼しました」

 

そして笑いあう二人。二人はこのやり取りをよくするため笑いで済ませるが、一夏は何のことか付いて行けずポカンとしており、航は特に表情は普通のままだ。

とりあえず航は久しぶりに会う虚に挨拶をする。

 

「虚姉さん久しぶり」

 

「久しぶり、航くん」

 

笑みを浮かべる虚。その優しい笑みに航も自然と笑みが浮かぶ。だが、その光景を面白くなさそうに見ているのが一人いた。

 

「航~、何いい感じになってんのよ~」

 

「え、ちょ楯姉。いたたた!!」

 

「私を放っておくなんてひどいわね~」

 

「痛い痛い!」

 

航は不機嫌そうな顔をした楯無に、拳をこめかみに両側から当てられてグリグリされる。その痛みに耐えきれず楯無の攻撃から逃れようとするも、楯無は航に軽く付いて行って一向に離れる気配がない。

 

「わかったわかった!今度で遊びに連れていくから!」

 

「へっ!?」

 

いきなりのことで動きを止める楯無。航はその間に楯無のグリグリ攻撃から抜け出し、痛むこめかみを押さえつける。

こめかみの痛みを抑えながらも楯無の方を見ると、何かモジモジしてる楯無。

 

「えっと……それってデート?」

 

「あ、うん……。多分そうだと、思う」

 

何か意識をしたのか顔を赤くする航。顔を背けて頬をポリポリ掻いてるあたり自分で言っておいて恥ずかしいのだろう。

 

「あのー、二人とも。イチャイチャするのはいいですが、織斑君が置いてきぼりですよ」

 

「「あ」」

 

虚の指摘で現実に戻る二人。一夏は二人に付いて行けないのか、虚に出されたお客様用のケーキをいつの間にか起きた本音と一緒に食べていた。

そして気を取り直して航と一夏に勉強を教えていく楯無。途中から虚も混じって、二人ともわかりやすい教え方だからなのかさっさと進んで行く。

なお、その間も本音はケーキを食べていた。

 

 

 

 

 

それから数日後、中間テストを迎える。

航と一夏は楯無に教えてもらっていたが、やはりそれでも苦戦を強いられており、通常科目と他の専門教科で知能を大きく使っている。

だがテスト内容の怪獣学では……。

 

((いける!!))

 

二人は他の教科のテストの時と別人かのように問題をすらすらと解いていき、開始20分ですべての空白欄を埋め尽くしている。

なお、周りの女子達は怪獣学に手間取ってるのか、半分以上は頭を抱えている。だが二人にとってはどうでもいい話であった。

 

 

 

 

 

それからさらに数日後。テストの結果発表の日である。

生徒にはテスト用紙が返って来、喜ぶ者、落ち込む者と様々だが、航と一夏は点数が普通ともいえるため、特に反応はなかった。

なお航と一夏は普通教科と専門教科は平均点より少し下(赤点は普通に免れた)である。

そして二人が一番自信のある怪獣学。クラスの大半は落ち込んでる様子だが、二人の結果は……。

 

「「おっし!!」」

 

そしてハイタッチをする二人。その後左拳、右拳をの順番にお互いに軽くぶつけて、最後に同時に頭突きをする。いきなり鈍い音が教室に響き、その行動に目を点にする女子達。

二人のとった行動は、昔から同点だったときにとる行動であり、お互いの返却された解答用紙には100点と書かれていた。

 

「よし、やったな一夏!」

 

「おう!得意な教科はこうじゃないとな!」

 

「だな!」

 

こうして赤点を一個も取らず、普通に過ごした二人は数日後に遊びに行く約束をするのであった。

なお別の教室、4組では。

 

「よし、100点取った……。お姉ちゃんに見せに行こうっと。褒めてくれるかな……?」

 

簪も100点をたたき出していたのであった。その顔は満面の笑みであり、周りの女子達は何か嫉妬してるのであった。

 




ねつ造設定怪獣2体による怪獣学でした。

では、次回をお楽しみに!

※感想欄で実際の政治の部分~っていう感想が来たので、島の名前は一部変更しました。


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五反田食堂

何時なったら怪獣出るのかって?メガヌロンがまた出演するから待っててね。

では本編をどうぞ!


中間テストが終わって数日後の6月上旬に、航は一夏に誘われて航は五反田弾のところに訪れていた。久々に会った時に軽く拳をぶつけて笑いあっていた二人だが、一夏に早く行こうと催促されたため弾の部屋へと向かう。

そして今は弾の部屋にあるゲームをしていたが……。

 

「うぉ、弾お前俺がこんなゲーム苦手なの知ってるだろ!」

 

「知らねえなぁ!おら、トドメだ!」

 

「甘い!格闘カウンター!」

 

「ダニィ!?」

 

「おらおらおらぁ!」

 

そしてコンボが決まって弾のキャラクターの体力が0になり、航の勝利で終わる。弾は仰向けに倒れて、溜息を洩らした。

 

「そういやお前がそのキャラ得意なの忘れてたわ……」

 

「でもこっちもやばかったぜ。もうすぐ死ぬかと思ったし」

 

現在してるゲームはISVS(インフィニット・ストラトス・ヴァーサス・スカイ)。今話題のISのゲームで、最新バージョンの日本代表が楯無そっくりだったため、航はそれを使っていたのだ。

 

「航、どう見ても日本代表の顔と機体が楯無さんに似てるから強いんだろ」

 

「あ、ばれた?」

 

ニシシと笑う航。このゲームの日本代表は2種類あるが、万能な黒髪の方に比べて水色髪の方は性能が極端に低い。だが、航にとっては楯無にしか見えないからこっちの方を使うらしい。

 

「ん?楯無さんって誰なんだ?」

 

弾は聞きなれない名前に耳を傾け、一気に起き上がって一夏の方を見る。

 

「ああ、俺の幼馴染。写真見る?」

 

この時一夏ではなく航が話してきたため、そっちかい!って思いながらも航がスマホで撮った写真を見る。そこに写っていたのはISスーツを着た航の腕に抱き付くISスーツの楯無の姿である。その状況に頬を赤くして驚いてる航が何か可愛く見えてしまう。

 

「航!お前何可愛い子に腕組まれてんだよ!羨ましすぎだろ!」

 

「いや、いいじゃねえか別に!」

 

肩を掴まれガクガクと揺さぶられる航だが、弾の額に掌を当てて力技で剥がしてく。まあその後ゲームを再開して3人は楽しんでいたが……。

この時、いきなり扉が開かれた。

 

「おにぃ!何時まで遊んでるの!お爺ちゃんが……って一夏さん!?」

 

入ってきたのは弾と同じ赤色の髪の毛をした少女。いつもの格好なのか、ラフな服装でいるため客である男二人は少しびっくりしており、少女の方も客がいることにびっくりしていた。

 

「蘭!お客さんが来てるって言っ「おにぃ!何で一夏さんが来てるって伝えてないの!?」お、おう……」

 

その後蘭は勢いよく部屋を出て行き、自室に入り込む。その後バタンバタンと騒がしい音がしたが、男たちは特に気にせず、昼食を食べるために弾の家の一階で営業している『五反田食堂』へと向かった。

 

「おう、ガキども。よく来たな」

 

「お久しぶりです、厳さん」

 

一夏が返事した男性、五反田厳は歳が80を超えるのに筋肉マッチョの老人だ。今も中華鍋を片手で扱いながら他の料理も作っている。とりあえず航と一夏は注文をした後、弾の座ってるテーブル席へと向かう。そして昼食である業火鉄板炒めが来た為食べようとしたとき。

その時食堂の扉が開いたため、弾が立ち上がる。

 

「いらっしゃいませ……って鈴か」

 

「何よ。私で悪い?」

 

入ってきたのは鈴。弾の反応に頭に来たのか不機嫌な様子だ。だが一夏を見るとその不機嫌な顔もすぐに潜めて、一夏の前に座る。

 

「一夏さん、待たせまし……た……」

 

この時二階からワンピース姿に着替えた蘭が下りてきたが、鈴を見たときに動きが止まる。弾も航もコレはやばいと判断し、航は盆を持ってカウンター席に逃げようとしたが、下手に動けば厳のオタマアタックが額に直撃する。

そのため逃げれないと判断した航と弾はせめて気付かれない様に、隣のテーブル席へと盆を持って移動する。幸い気付かれなかったのか、安心して安堵の息を吐き、取り合えず修羅場になりそうな一夏たちを観察するのであった。

 

「久しぶりね、蘭。前見た時よりは大きくなった?」

 

「久しぶりです、鈴さん。そうですね、鈴さんよりは胸、大きくなりましたよ?」

 

「へー、そうなんだ」

 

二人はニコニコ笑顔で話し合ってるが、お互い目が笑ってない。一夏はとりあえず訳分からんこの空気をどうにかしようと航たちの方を向くが、航と弾は一気に目を逸らす。

一夏はあまりの状態に涙目になったため、小さくため息を吐いた航は別の話題を出して女二人の話題を逸らすことにする。

 

「そういや鈴。お前中間テストの怪獣学、何点だった?」

 

この話題をしたとき鈴は溜息を吐く。まるで最初から結果が分かってるかのように。その溜息に首をかしげる蘭だが、鈴にとってはどうでもいいことだ。

 

「81点。あんたたちはどうせ100点でしょ?」

 

「「正解!」」

 

同時に親指を立てていい笑顔をする二人。鈴は二人を殴りたいと一瞬思ったが、そこはグッとこらえる。その時鈴はクラスで起きたとあることを二人に話した。

 

「そういえばさ、テストの怪獣学だけど……。赤点取ってる人多くなかった?」

 

「そういや多かったな。航、どれぐらいが赤「クラスの5分の3だな」だそうだ」

 

「そう……。私のクラスだけじゃないのね」

 

鈴は何か安心したかのような表情をする。まあクラス代表で、自分のクラスの点数が悪いと何か言われるという噂が多数あったため、他のクラスも同じ状況だとわかって安心したのだろう。

 

「あの~」

 

「「「ん?」」」

 

3人は何かと思って声のした方を見ると、そこには蘭が控えめに手を上げており、弾も声は出さなかったが手を上げている。

 

「どうしたんだ?2人とも」

 

「怪獣学って何ですか……?」

 

それもそうだ。他の学校では一切行われておらず、自衛隊でもするところが減ってきた講義のため、知る人はあんまりいないだろう。

それに納得した3人であるが、この時鈴と一夏が航の方を向く。

 

「俺?」

 

「「うん」」

 

どうやら航に説明させようとしてるようだ。しょうがないと溜息を吐き、スマホを出そうとしたらオタマが顔に直撃した。

 

「食事中に携帯なんか出すんじゃねえ」

 

「……すみません」

 

マナーに厳しい人である厳にオタマを投げられおとなしく謝る航。そしてさっさと昼食を食べ終わって、改めてスマホを出して、前に撮影した自分のノートの一部を二人に見せる。すると、二人の顔は驚愕の表情へと染まっていく。

 

「え、IS学園ってこういうのもするんですか!?」

 

「へ~面白そうだな」

 

蘭は驚き、弾は興味津々に画像を見る。そんな2人とお喋りに更けるが、この時蘭は、一夏が楽しそうに話してるのを見て、一夏と一緒のところに行ってみたいと思い、とある決心をする。

 

「決めました!私、IS学園を受験します!」

 

その言葉は一夏たち3人だけでなく、来ていたお客さんもキョトンとした表情になっている。その状況で一番最初に戻ったのは、兄である弾だった。

 

「ちょ、蘭!おま、自分が何言ってんのかわかってんのか!?」

 

「おにぃは黙ってて!一夏さん、学園に入ったらその時は指導よろしくお願いしますね?」

 

笑顔でそう言う蘭だが、一夏は苦い顔をしており、鈴は俯いてプルプル震えている。航は呆れたのか、溜息を吐いて天井に視線を向ける。

その中、弾は蘭の説得をするが蘭は首を縦に振らず、弾はとても困った表情を浮かべる。

 

「弾。蘭が決めたことなんだから蘭の好きなようにさせろ」

 

「だけどよ爺ちゃん……」

 

弾は祖父の言葉に音量が小さくなっていく弾。その間にも適性がAだの言う蘭。それを見た一夏は何とかしようとした時だ。鈴が立ち上がって、蘭の目をしっかりと見る。その眼力にビクッとなる蘭。

言った何なのだろうか。誰もがそう思った時、鈴は口を開く。

 

「蘭、あんたは覚悟があるの?」

 

「え、な、何の覚悟ですか?」

 

「だからIS学園に入る覚悟よ」

 

この時の鈴の目は真剣なものであり、それを見た蘭は冷や汗を掻きながらたじろぐ。

 

「確かにあんたは成績もいいだろうし、適正もAと中々ない人材よ。だけどあそこはIS、兵器を扱うところなの」

 

「へ、兵器って……。ISはスポーツでしょ?」

 

「航のIS、機龍だけどそれでもスポーツって言える?私、何回か戦ったけど本気で死ぬかと思ったわよ」

 

模擬戦のことを思い出したのか、顔を青くしてブルっと震える鈴。思い出すのはミサイルの嵐と、硬い装甲によって放たれるカウンター。双天牙月が防がれたときに何回死を覚悟したか……。

とりあえず顔を横に振って先程のを記憶の片隅に戻し、蘭の方を再び向く。

 

「で、蘭は覚悟あるの?」

 

「私は……」

 

鈴の迫力に縮こまる蘭。その様子を見た厳は厨房を出、間に入って仲裁に入る。

 

「まあまあ落ち着け。まさかゴジラと戦うわけじゃあるまいし。蘭が入っても「ありますよ」何?」

 

厳は声のした方、航の方を向く。いきなり言われたため睨みつける厳だが、航の眼つきはそれに劣らない鋭い目つきだ。

 

「……どういうことだ」

 

厳の言葉は先程より重厚感があり、周りにいた人たちはあまりの迫力に息をのむ。

 

「もともと怪獣学は日本に怪獣が現れたときに対処できるように行われてる授業です。あと自衛隊が怪獣を相手にしてる時、数が足りなかったらこのIS学園から専用機持ち、適正が高い生徒が前線へと送り出されます」

 

「何……だと……?」

 

この時厳の眉間に皺が深く刻まれ、周りは普段見見せない大将の姿にビビり始める。だが航はビビってる様子を見せず、厳の目をしっかりと見る。

 

「厳さん。あなたって確か、被害者世代でしたよね?ならゴジラのことは……」

 

この時厳が俯いて震えてることに誰もが気付く。顔は真っ青になっており、冷や汗はダラダラ掻いている。まるで何か恐怖におびえてるようだ。

 

「おじい、ちゃん……?」

 

蘭は震えてる厳に近寄って顔を覗き込むが、その表情は恐怖に染まっており、今まで見たことない祖父の顔に戸惑いを隠せない蘭。この時二人は目が合う。

 

「蘭……、頼むからIS学園の受験はやめてくれ……。お願いだ……」

 

この時厳から放たれた声は弱弱しく、蘭も、弾も一夏も、鈴も、航も、客たちも驚きの表情を浮かべる。

 

「え、でも……」

 

「頼む。ゴジラと相見えると生きて帰れる可能性がないんだ……!だから……!」

 

「大丈夫だよ。だってISはゴジラより強「それは違う!」ひっ!?お、おじいちゃん……?」

 

いきなり怒鳴られたことにびっくりする蘭。厳は怒鳴ったため肩を上下させながら息しており、疲れたのか近くのいすに座り込む。

 

「いきなり怒鳴ってすまなかった。でもな、蘭。ゴジラはISとかで倒せない。これだけは分かってくれ」

 

「爺ちゃん。もしかして、ゴジラ見たことあるのか?」

 

この時弾の質問に、無言でうなずく厳。

 

「爺ちゃん。いったいゴジラを見た時、何があったんだ?」

 

そして厳は口を開いて話し始める。自分が見たことを、鮮明に。




恐怖は何時まで経っても忘れられない。

次回は厳さんが見たゴジラ襲来の話です。


では感想、評価、誤字羅(『ら』をカタカナから漢字に変えた)出現報告待ってます!


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昔話

どうも、最近風邪気味の妖刀です。季節の変わり目は風邪をひきやすいので皆さん気を付けてくださいね。じゃないと自分みたいに痰が出たときに、血で真っ赤に染まってるかもしれないので

では本編どうぞ!


周りが静かになる中、厳は語り始める。

 

「そう、あれは儂がまだ40手前ぐらいの時だ。あのときは確か……、時は今から41年前。2003年まで遡るな。

当時39ぐらいだった儂は、友人に呼ばれて品川の方に来たのはいいが、飲酒運転による交通事故で轢かれてしまい近くの病院で入院していたんだ。

あの日はうんざりしたよ。友人に呆られ、妻に心配かけてしまったことを思い出して項垂れるし……。

儂は先程の憂鬱を忘れようと新聞を開くんだが、そこに書かれているのは『ゴジラ出現!』『機龍暴走!』『五十嵐内閣解散か!?』などと書かれてて、この内容にもうんざりした。どこの新聞も似たようなものばかりで読みがいがなく、仕方がなく新聞をとじて窓の外を見るけど時間がまだ夕方だったか?それで外見ても特に何もないし。

その後暇になりながらも気づけば夜。その時奴は来たんだ」

 

厳はあのときの光景を思い出す。炎で赤く染まった空。崩れゆく建物。その奥に見える山のごとくでかい黒い影。あの恐怖は今になっても忘れられない。

 

「奴は、ゴジラは後に聞いた話だと東京湾から侵入。途中で自衛隊が住民、病院に退去命令だしてたらしいが儂はそれに気づかず、病室でのんびりしていた。それに気付かない儂もあほだったな。

おかげでゴジラの歩く振動でやばいって判断したときは本当に怖かった。だって窓からゴジラが肉眼で見えるんだぞ?

傷はそこまで深くなかったから軽く走る分は問題なかったから、ギリギリの速度で急いで病院の玄関まで走っていたら、隣に子供を抱えた看護婦さんがいて、肩を貸してもらって玄関を出たんだ。そしたら目の前、距離にして1キロもなかったと思う。ゴジラが立っていたんだ。ヤツは口が青白く輝き始めて、熱線を放とうとしていて、儂は近くにいた自衛隊に庇われながら伏せたんだ。あの時は本気で死ぬかと思ったさ。どう見ても逃げられない距離だったからな」

 

ここまで語って一息吐く厳。そして立ち上がって厨房に戻った後、手に水の入ったコップをもって戻ってきた。

この時、自分の手が震えてることに気付き苦笑いが浮かぶ。

ああ、やっぱり今も怖いんだな……、と。

 

「爺ちゃん。無理しないでくれよ。手が震えてるぜ?」

 

「わかってる」

 

孫に心配されながらも語ることだけはやめてはならない。これは自分ができる、最大のことだと思ってるからだ。

そして厳は語るのを再開する。

 

「ヤツは熱線を放とうとしたが、いきなり何かに吹き飛ばされて儂の視界から消える。代わりに立っていたのは、三式機龍。そう、使用停止が言い渡されたはずの三式機龍だったんだ。

あの時理解したよ。子供がなぜ大きなロボットをかっこいいって思うか、儂はしっかりと理解した。

その後近くにいた自衛官の男が車に乗せて避難所まで移動してくれたのはいいが、いきなり地響きで目の前の道が瓦礫でふさがれ、避難所に行けなくなったんだ。

その後自衛官の男は看護師を背負い、儂は一緒にいた子供を背負って、自分の足で避難所へと向かったよ。揺れる地響き。ゴジラの鳴き声。倒壊する建物。いつ儂たちが死んでもおかしくなかった。

だがな、やはり何事もなく着くことはなかった。弾、儂の背中の傷覚えているか?」

 

「ああ、覚えているけど……」

 

弾が思い出すは、小さいころに祖父と風呂に入った時のことだ。厳の背中は大小さまざまな傷跡があり、まるで戦場にいたのではないか?と思ったほどだったという。

 

「あれはその避難しているときに負った傷だ。ゴジラの咆哮や地響きで割れたガラスや瓦礫が儂らの上に降ってきてな、儂は子供を庇い、背中にいくつもの瓦礫が降り注ぐ。それで血塗れになりながらも避難所を目指した。あの時の子供の『おじちゃん、大丈夫?』って言葉は今も覚えてる。

その後、なんとか避難所に着いた儂はそこで治療された後、完全に疲れて壁に寄りかかっていたな。それから1時間か2時間たったぐらいか?いきなり避難所が停電を起こしたんだ。当然周りは大パニック。自衛官の人たちが落ち着いてください!って言ってたが、あんまり効果なかっただろう。

儂はその後痛みをこらえながら避難所の3階まで上って、窓から外の景色を見るとあたり一帯が大停電を起こしていたんだ。その中でやはり聞こえる奴の咆哮。

それにおびえながら避難所の布団に包まっていたら、気付けば朝になっていて、ゴジラの姿はどこにもなかった。

明るくなって見た街の景色は、酷かった。嵐が通り過ぎたと言っても過言ではないほどにな。殆どが倒壊しており、更地ともいえる状態だった。中には自衛隊の粉々に吹き飛んだ戦車とかがあったな。

その後儂は実家、もとい五反田食堂近くの病院に搬送され、恐怖のせいで精神的に病んで約10月後に退院したってわけだ。まあ、その間に妻に心配されて、怒られたりしたがな。

儂はもう、こんな体験はしたくない……。あんなのはもうこりごりだ……」

 

そう言った後、手に持ってたコップに入ってた水を一気に飲み、息を吐く。顔は疲れ切った表情を浮かべており、周りはそんな厳を心配そうに見つめる。

そして厳は、締めくくるかのように笑みを浮かべた。

 

「さて、俺が体験した話はここまでだ。どうだったか?まあ、感想は言わなくてもいいが」

 

そう言って厨房に戻っていく厳。五反田食堂は、この時全員何も喋らずにいた。ただ、全員俯いており、とても暗かった。

 

「……蘭。あんたの爺ちゃんがこんな怖い思いしてるのに、よくあんな事言えたわね」

 

「……はい」

 

俯いた状態の蘭は、蚊の鳴くような声で返事をし、鈴は小さくため息を漏らす。

やっぱり一夏目当てでそういうのを考えてなかったか。予想はできていたからそこまで大きなため息が出なかったが、やっぱりかとなってしまう。

その後この場にいる人は殆どしゃべることなく、IS学園3人組は五反田食堂を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

あれから五反田食堂を出た3人は帰路についていた。

航に特に別状はなかったためよかったのだが、何か喋りずらい空気だ。

航はこの空気が疲れたのか、それとも楯無に会いたいからなのか分からないが、さっさと帰る手段を使うことにする。

 

「……二人とも。俺、先戻るから」

 

「どうしたんだ?」

 

「ちょいっと用事を思い出した」

 

そして航が走って先に駅に向かってしまったため、一夏と鈴の二人っきりになる。いきなり何なのだろうか?そう思う二人だが、鈴はとあることが思いつく。

まさか、二人っきりで頑張れと!?

それを意識しだしたら最後。鈴の顔は赤くなり、一夏はまあいいか、と頭をポリポリ掻く。

そして二人ならんで駅に向けて歩き出すが……、結局会話はない。

 

「……なあ、鈴」

 

「……な、何?」

 

一夏が話しかけてきたため、少しびっくりしながらも対応する鈴。いったい何を言うのだろうか。

 

「厳さんの話。初めて聞いた。俺、葉山さんから機龍隊、特生自衛隊の話を聞いたけどさ、一般人からの話は聞いたことなかったんだ」

 

「私も。厳さんがあんなに震えるところも初めて見たし、相当怖い思いしたんだと思う」

 

「だからさ。そんな人がいなくなるように、俺、頑張るよ。弾が言ってた通り、今の自衛隊は腐ってるかもしれない。だからさ、それを俺は変えていきたい」

 

拳を固く握り、凛々しい顔で言う一夏。そんな一夏を鈴は微笑みを浮かべる。

 

「なら、それを実現するために力を付けないとね」

 

「ああ、わかってる。これからもよろしくな」

 

「任せなさい!」

 

そう言って胸を張る鈴。胸は小さいが、その姿に安心を覚えた一夏は、とあることを思い出した。

 

「あ~。そういや一つ思い出したんだけどさ……。いや、これって言ってもいいのかな……?」

 

いきなり話題が変わり、一夏の態度でモヤモヤする鈴。先程と態度が変わりすぎて、少し眉間に皺が寄ってきてる。

 

「何よ。言いたいことははっきりと言いなさい」

 

「だよな……。たださ、航は悪くないんだ。俺が悪いんだからな?」

 

「だから何よ」

 

鈴は一夏の思い切らない行動に少しイライラし始める。

そして一夏は意を決したのか、頭を下げる。

 

「鈴!すまん!お前の約束、教えてもらったの航なんだ!」

 

それを聞いた鈴は黙っていたが、そして呆れたかのように溜息を吐く。

 

「……やっぱりね。一夏が気付くのが可笑しいって思ってたし」

 

「えっ……?」

 

そう言われて驚く一夏。怒らないのか?

恐る恐る顔を上げると、ケラケラ笑う鈴の姿が映る。

 

「怒らないのか?」

 

「誰が怒るもんですか。一夏が自分の気持ちに応えてくれるだけで、そんなことどうでもいいわよ」

 

「そう、か……。ならよかった」

 

そして二人は様々なことを話しながら、気付けばカラオケに寄っており、2時間ほど歌いまくったそうだ。

 

 

 

 

 

場所は変わってここは婆羅陀魏社。そこで社員たちはいい加減に疲れ果てていた。

 

「主任!いい加減にしてください!何が本物の機龍の0式レールガンを四式機龍に装備させるですか!」

 

「そんなもん簡単にいけるだろ!クアッドファランクスの機龍装備化計画はうまくいったじゃねえか!」

 

「あれは機龍の重量とパワーのおかげで装備のめどが立っただけです!それとこれは別!どう見たって反動で機龍が吹き飛ぶでしょ!」

 

部下が持ってたのは『機龍火力増強計画』と書かれた書類の束だ。中に書かれているのは火力増加についてなんのその。だがその中にどう見てもおかしいのがいくつか入ってる。

 

『クアッドファランクスver機龍』『正式型0式レールガン バックユニット装備仕様』

 

『クアッドファランクスver機龍』は、四式機龍の0式レールガンが装備されてる前腕部に、高火力を誇るクアッドファランクスの砲身4つを片腕2つに分けた仕様だ。機龍の重量によってアンカーなどを使わずに使用可能であり、今までできなかった旋回、移動などが理論上可能である。

『正式型0式レールガン バックユニット装備仕様』は、バックユニット搭載部に3式機龍が使用した0式レールガンを装備させようというものである。理論上は連射が可能であり、火力も今までのISを突き放すものだ。

 

「本気でアホか!」

 

書かれていることがめちゃくちゃであり、子供が描く絵空事のようである。だがそれを、この主任は実行しようとしてるのだ。いや、すでにクアッドファランクスの方は完成しており、今ではコンテナの方に梱包されてる途中である。

部下たちはクアッドファランクスのことはあきらめて、とりあえずレールガンの方を開発中止させようとするが主任が一歩も引かない。むしろ勝手に完成に近づき始めているのだ。

 

「主任!そんなの装備したら機龍も篠栗君も壊れてしまいます!」

 

「あぁ!?んなもん壊れねえよ!そんなんで壊れるなら機龍は作ってないし、篠栗は……特別だからな。あいつはそう簡単に死にはせんさ」

 

一瞬の間に部下たち全員が眉間に皺を寄せる。航は特別……いったいどういう意味なのだろうか?気になって仕方がないが、主任が天井を見上げながら狂気に染まった笑いをしているため誰も話しかけることができない、いやしたがらないのだ。

その間にも0式レールガンは完成していく。もう誰にも止められない。

 

「もうそろそろ完成だ……」

 

その中で主任はそう呟くのであった。

 

 

 

 

一足先に部屋に戻った航は、ただベッドの上で横たわっていた。

 

「っ……、あぁ、頭がいてぇ……」

 

眉間に小さく皺をよせ、体を小さく動かす航。体は怠く、頭もいたい。もうそうなら寝るしかないだろう。

航は布団の中に入るのも怠かったせいか、布団の上でぐったりとしている。そして睡魔に襲われ、眠りにつくのもそこまで遅くなかった、

その時、航は不思議な夢を見る。

 

その光景は地獄絵図だった。大地は焼かれ、植物は消し飛び、生き物たちはいない。

あたり一帯は薄い霧に包まれ、その中を航は一人歩いている。歩くたびに、ガラス状にまでなった地面の割れる音が響き、そして立ち止まった後何かに気付いた。

この光景、見たことがある!

そう、前に機龍に乗った時に見た島と形が似てるのだ。航はもしかしたらと思い、あの恐竜たちがいた場所へと向かう。

そしてたどり着いたとき、そこにいたのは横たわる恐竜と、大きさが異常に大きくなった恐竜だった者の姿だった。

大きさは50メートルぐらいだろうか。皮膚は焼きただれ、大きな背びれが骨のようになってたくさん生えている。目は虚ろになっておりながらも恐竜の方を見つめている。

そして腰を大きく曲げて横たわる恐竜に顔を寄せ、生きててほしいと願うかのように小さく鳴いていた。

 

「グルォォォ……グォォ……」

 

だが恐竜の方は何も答えない。ただ横たわるだけで、ピクリともしないのだ。鼻先で揺すったりするが反応がない。

そして大きな恐竜だった者は顔を空に向ける。その目は憎悪に染まっており、少し潤んでいる。

 

「グオォァァァァアァァ!!!!!」

 

恐竜だった者……ゴジラが吼えた。

いきなりの大声にびっくりして耳を塞ぐ航は、そんなゴジラをただ見つめている。

ゴジラはその怒りを、悲しみを、様々な感情を空に向けて吼えた。何回も吼え続けるがそう長く続かず、声はどんどん小さくなっていき、目には涙のようなのが見え、頬を滴る。

 

「ゴアァァ……アァ……」

 

力なく吼えるゴジラ。まるで泣いてるのだろうか。ただただ、力なく吼え続けた。

その後、吼えるのをやめたゴジラは海へと向かい、そして体を海の中に消していく。その時だ。

 

「コァァ……」

 

恐竜が最後の力を振り絞るかのように小さく鳴いたのだ。手を海の方に伸ばし、待ってとでも言ってるのか?

 

「待ってくれ!こいつ、まだ生きてるぞ!」

 

そう叫ぶがゴジラは気付かずに海へと消えていき。そして海中に姿を消してしまった。

航はその恐竜に寄り添って触ろうとするが

 

「えっ……」

 

触った瞬間に透けて触れないのだ。どうにかして助けたいけど触れない。その焦燥感が航を蝕む。

 

「頼む……!こいつは、こいつは助けさせてくれ……!」

 

なぜ助けたいのかわからない。だが、そうでもしないと体が痛むのだ。焼けるかのように、刺されるかのように。その痛みから逃れたいがためにしようとするが触れない。

 

「なん……で、だよ……!」

 

何もできない自分にイラつく。そう思ってた時だ。恐竜と目が合ったのだ。自分が分かるのか?少し戸惑いながらも目をそらさず、お互いに見つめ合う。

 

「クォォ……」

 

小さく鳴いた後、何かの意志を航に伝えようとしており、航はそれを読み取ろうとする。

 

「ん?」

 

その時だ。何かに呼ばれた気がした。

 

 

 

 

 

「おい、航、起きろよ」

 

「ん、あぁ……。一夏、か」

 

航は一夏に起こされ、とりあえず体を起き上がらせる。今さっき見てた夢は何だったのか?航は頭の中でそのことについて考えるが、一向に答えは出ない。

 

「やっと起きたか。もう6時だから食堂開いてるし行こうぜ」

 

「ん、わかった」

 

航は夢の中のことは後回しにして、男二人で食堂に向かうのであった。

まあ、その食堂で航は楯無に会い、一夏を置いて二人で食べるのであった。なお一夏はとある3人と一緒に食べたのであったとさ。

 




厳さんが見たもの、それは死と隣り合わせの世界。
あと機龍に不明なユニットが接続されそうです。




では感想、評価、誤字羅出現報告、どしどし待ってます!


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デート 1

どうも、久々の2連休に喜びを隠せない妖刀です。今回はオリジナル回なので頭をひねりましたが完成しました。

では本編どうぞ。


時は6月成上旬。航はこの前楯無に約束した通りデートのため、待ち合わせ場所のモノレール乗り場の入口に立っていたが……。

 

「うん……。ファッションセンスがないってこういう時苦労するんだな……」

 

航の服装は黒のTシャツの上に緑色の迷彩色のパーカー。下にはジーンズで、靴はスニーカーという地味ともいえるファッションだった。あと手には機龍の待機状態である銀色の手甲がされてる。一夏でさえまともなファッションだというのに、自分の適当さと言ったら……。航は溜息をもらす。

こういうとこを適当に過ごしてきた自分を恨むが何も始まらない。現在の時間は9時54分。楯無と約束した時間は10時のため、航はいろんな不安(主に服装)に駆られている。

 

「航ー、待った~?」

 

その時だ。待ち合わせ人の声がしたため、超えのした方を向くと、学園の正門からちゃんと服を着こなした楯無が現れる。まあ、国家代表だからなのか、サングラスをしていたが。

航は自分の惨めさに打ちひしがれながらも、笑顔で迎えるが……。

 

「航……」

 

「うん……」

 

「ファッションを少し覚えようか」

 

「……うん」

 

可愛らしい笑顔のはずなのに有無言わせぬ迫力におとなしく返事をする航。

 

「大丈夫よ。私がちゃんと教えるからね♪」

 

人差し指をピンと立て、笑顔で言う楯無。その時とあることを思いだし、それを航に伝える。本人にとっては結構重要なことを。

 

「後ね。今日は知り合いがいない限り、刀奈って呼ぶこと。いいね?」

 

「え、いきなりそう言われても……」

 

「そもそもなんで私の名前をちゃんと呼ばないの?嫌なの?」

 

悲しそうな顔で見つめてくるため、航はそれを否定するかのように顔を横に振って、手も横に振る。

 

「なら何で?」

 

「いや、その……。ちゃんとよぶのが何か恥ずかしいから……。ほら、俺。刀奈姉って呼んでたからね。ね?」

 

目を逸らして頬をポリポリ掻く航。その姿を見た楯無は腰に手を当て溜息を吐く。

こんなことで言わなかったのか……。呆れた刀奈はそれを矯正しようと、ビシッと航に人刺し指を向ける。

 

「いい!彼女の名前ぐらいはっきりと言いなさい!ほら言ってみる!」

 

「へっ?いきなり「早く!」は、はい!」

 

いきなりのことでそう返事したものの、呼びなれてないため、いまいち言うことができない。

そのため……。

 

「か、刀……奈」

 

「声が小さい!」

 

「刀……奈」

 

「もっとはっきり!」

 

「か、刀奈!」

 

「あと一息!」

 

「刀奈!」

 

「うん!それで完璧♪」

 

そして航の右手を自分の左手とつないで、上機嫌の楯無……、いや刀奈。航はデートする前にすでに疲れ果てており、そんな状態の航を見た楯無は首をかしげる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない。そういや買い物行くと言ってもどこにするか決めてないんだよね」

 

「大丈夫よ。私が決めてるから」

 

「す、すまん」

 

「べつにいいよ。じゃあ行こうか!」

 

そして航の手を引いてモノレール乗り場へと向かう刀奈。やっぱり航とのデートが嬉しいのか、顔はとてもうれしそうな表情を浮かべているのがまる分かりだ。

そしてモノレールに乗ったはいいが、この車両には誰もおらず、移動中暇だったから二人はいろいろしゃべっていた。

 

「そういやこの前弾……、まあ友人のとこ行ったんだけどさ。そこ食堂なんだけど、そこの店主である厳さんがゴジラを見たときの話をしてくれたんだよね」

 

「やっぱりゴジラ世代の人っていたんだ。ねえ、どういう話だったの?」

 

ゴジラ世代とは今から40年前のゴジラ襲撃の際の被害者たちがいる世代である。今で言うなら40代後半からがゴジラ世代ともいえるだろう。

 

「それは……」

 

それをこと細かく刀奈に説明する航。それを刀奈は真剣に聞いており、そうしてる間に気付けばすでにモノレールは駅についていた。二人は急いで降りて、その後改札駅までその話をする。

そして改札駅を出ると同じに話が終わり、バス停のベンチに座った後、刀奈は真剣な顔のまま口を開く。

 

「やっぱり私のおじいちゃんも同じ感じだったな……。おじいちゃん、ゴジラの話はしたがらなかったもん」

 

「やっぱり記憶から呼び起こすのって怖いのかな……」

 

「そりゃ怖いわよ。自分が死ぬかと思ったトラウマなんかすぐ記憶から消した方がいいだろうし」

 

「だよなぁ……」

 

そう話してる間にバスが来た為、二人は乗って後ろの二人乗りの席に着く。この時楯無が窓側で、航が通路側だ。

先程の空気を払拭するかのように刀奈が航の肩に頭を乗せ、

 

「航。今からどこに行くか分かる?」

 

「いや、わからんな……」

 

まあ航はこっち方面はいかないから仕方がないか。

刀奈はふふふと笑っており、航はそんな彼女を見て首を傾げる。だが、刀奈の体臭だろうか、いい匂いが鼻腔をくすぐり、どうでもいいやと思うのであった。

そして10分後、バス停を降りたところは

 

「ここ、秋葉原だよね?」

 

「うん、秋葉だよ♪」

 

そう、若者が多く集まる街、秋葉原だ。周りはたくさんの建物で囲まれており、航は始めてくるところなのかあちこちをキョロキョロを見まわしている。

 

「初めて来た?」

 

「初めてきた。何ここ、楽しそう」

 

航は来たことない街というのもあって目を輝かせており、刀奈はそんな航を微笑ましい顔で見ている。こうのんびりしてるのもいいが、刀奈は自分が行きたいとこを現在地から照らし合わせ、最短距離のルートを思い出す。

 

「じゃあ行こうか」

 

「うん、わかった」

 

「じゃあ、えい♪」

 

そして航に腕組みをして体を寄せる刀奈。いきなりのことで顔を赤くしてる航だがこんなのも悪くない。刀奈も頬を赤く染めてるため、やっぱりこれがいいなと思う。

おまけに周りはカップルが割といたため、こういう風にしておくのがいいだろうと判断するのであった。

 

「そういやどこに行くんだ?」

 

「こっちよ」

 

そして刀奈に道案内され、歩くこと約10分。着いたところは『ホビーショップAKIBA』という店だった。

 

「おもちゃ屋?」

 

「うん。買いたいのがあるの。いい?」

 

「いいけど「じゃあ行こう!」うお!?そう引っ張るな!」

 

腕組み状態のため、いきなり引っ張られてこけそうになる航だが、どうにか刀に付いて行って店の中に入る。中に入ると、そこにはたくさんの模型が置いてあり、航は感嘆の声を上げる。

目に映るのだけでもプラモデル、フィギュアなどがたくさん見えるのだ。

 

「どう?航、こういうとこ好きでしょ?」

 

「めっちゃいい。刀奈、よくこんなとこ知ってたな」

 

「前に簪ちゃんに教えてもらってね」

 

「なるほど。簪ならこういうとこ知ってそうだしな」

 

「でしょ?じゃあ中見て行こ?」

 

「おう!」

 

そして一緒に中を見ていく二人。その光景は周りからしたら、可愛い彼女と二人で見ているのだから自分が悲しいのだろう。二人の周りからどんどん独り身の男が離れていく。

 

「あ、見てこれ。可愛い!」

 

「刀奈!これみろよ!」

 

「それも可愛い!航ー。こっち来てー!」

 

「おー、わかった!」

 

様々な商品を見て回っており、それを手に取って買うか買わないか話し合う二人。その姿は本当に楽しそうで、お互い笑いあってる。

その時、航がとある商品を見つけて手に取った。

 

「あ、刀奈。これ……」

 

「ん、何?あ、ちょ、それ……」

 

航が手に持ってるもの。それはIS搭乗者とそのISを1/12スケールでフィギュア化したものだ。そしてその搭乗者とは……。

 

「まさか刀奈がフィギュア化してるとは……。でもすげえ!武器やバックユニット……って重装備型も出来んのかよ!」

 

そう、1/12蒼龍装着版更識楯無の可動フィギュアなのだ。箱で中身が分からないが、日本の誇る技術なら相当いい完成度なのだろう。

箱をクルクルと回して書かれてるのを見た後、航はそれをわきに挟みこむ。

 

「ちょっと、航。何買おうとしてるの!」

 

「いや、何か欲しくなった」

 

顔を真っ赤にして怒る刀奈。まあ自分がフィギュア化したのを、好きな人が目の前で買おうとしてるなら誰でも止めようとするだろう。

その箱を奪い取ろうと手を伸ばす刀奈だが、航が臨機応変に動いて死守するため奪い取ることができない。

そんな刀奈の姿を航はニヤニヤと見ており、ムカッと来たのか更識流武術の歩法を用いて航の意識の外から箱を奪い取る。

 

「え、えっ!?」

 

いきなり箱が消えたと錯覚して驚く航。あちこちをキョロキョロして刀奈の方を向くと、箱がそっちに移ってることに目を点にしており、刀奈は自分のフィギュアの箱を元の商品棚に戻す。

 

「航。私がダメって言ったらダメ。分かった?」

 

優しい笑みを浮かべているが、全く目が笑ってない。若干を流しながらわかったと返事をした後、刀奈の顔はいつもの優しい顔に戻る。

そして航はあの商品がほしかったのか若干残念そうな顔をしていたが他の商品を見ていくことにした。

 

「本物がいるのに本人のフィギュア買おうとか……。航の好みのコスプレぐらい……」

 

「えっ!?」

 

刀奈がいきなりとんでもないことを言ったような……。

航は驚いて刀奈の方を向くと、少し顔を赤くした刀奈と目が合い、お互いにごまかすように笑いあう。

そんなことがあったが、現在いるとこはプラモコーナー。いろんなプラモデルがあるため、二人はいろいろ見ていたが、航はとんでもないものを見つけてしまい、目を大きく見開く。

 

「刀奈!すごいのがあった!」

 

「何~?……って嘘ぉ!」

 

刀奈もそのプラモデルを見て驚きを隠せない。

なんせ、ショーケースの中で売られてるプラモデルが『1/50スケール 90式メーサー殺獣光線車』と『1/90スケール AC-3しらさぎ』だ。航はその2つの存在感に目を奪われ、目を子供のようにきらきらと輝かせている。

何か子供みたいで可愛いと思っているのか、刀奈はそんな航を後ろから微笑ましく見ている。その時刀奈はショーケースの下を見てとあることに気付く。

 

「ん?航。そのショーケースの下。2機の箱があるよ?」

 

「え?……おお!」

 

下を見ると2機の箱がたくさん積んであり、航はさらに目を輝かせる。もう雰囲気が子供だ。

この時航が自分の財布の中身を確認してる限り、おそらく欲しいのだろう。だがデートでこれを買うとなると空気が読めない。ならどうする。

 

「じゃあ買っちゃう?私もこれ、買いたいし」

 

「え、刀奈プラモ作るの!?」

 

航は驚きの表情をを浮かべ、振り向くとそこには腰に手を当て、ドヤ顔の刀奈がいた。

 

「当たり前よ。簪ちゃんにプラモ製作のテクニック等々を教えてもらったんだから作れるわ」

 

そして刀奈はしらさぎの箱を手に取る。縦60センチ、横40センチと大型であり、刀奈は両手で抱える。だが前がうまく見えず、若干足取りが不安だ。

航は刀奈から箱を取り上げ、右肩で担ぐ。刀奈はいきなり箱を取り上げられたことに驚いたが、持ってくれることを嬉しく思い、

 

「何か不安だから俺が持つ。あと、メーサー車の方を俺の左肩の方に持ってきてくれない?」

 

「うん、わかった」

 

そしてメーサー車の箱を左肩に載せ、一緒にレジに向かう。

そして値段を見たとき、航の目が一瞬だけ見開く。

 

「2点で値段が46,320円です」

 

高い。予想通りだが高すぎる。

だが払えないってわけでもなく、自分の財布から5万円を出そうとする航。だが刀奈に止められ、自分も出すって言いだしたのだ。それに少し渋る航だったが

 

「だってこの値段だと航に負担が大きすぎるでしょ?私も出さないと航、いろいろときつそうだし」

 

「ん、ありがと」

 

そして二人で払い、商品は航が持つ。刀奈は自分で持つと言ってたが、航はこれを譲らない。仕方がないと刀奈はあきらめ、そして『ホビーショップAKIBA』を後にした二人は町中を少しぶらついていた。

 

「もうそろそろ昼か。刀奈、どこかで昼食取る?」

 

「そうね。でも……どこにしよう?」

 

困った顔で首を傾げる刀奈。いろんな店があるせいで昼食をとるところが決められず、時間は12時半となってしまう。

 

「そういや、簪ときたときは何食べたんだ?」

 

この時頬を赤くして目を背ける刀奈。

 

「あ、えっと……。その、メイド喫茶に行ってね……」

 

「なるほど、理解した」

 

恐らく恥ずかしかったのだろう。航は刀奈がそういうところが苦手ってことがわかり、頭の中からそういうのを除外する。

だが、どこかで食べないと腹が減る。

その時、航の目にファミレスが入り込んできたのだ。

 

「刀奈、ファミレスでいいか?」

 

「あ、私ファミレス行ったと来ないから行ってみたかったの!」

 

この時目を輝かせる刀奈。航はまさかの反応で驚きを隠せない。

 

「え、マジで?」

 

「だって、私の家。あれだから……」

 

「あぁ……、なるほど。そういえばお前、お嬢様だったな」

 

「ねえ!行ってみようよ!」

 

「わかったわかった。だからそう引っ張るな」

 

刀奈に引っ張られながら、航は自然と笑みを浮かべているのであった。




航の服装、リアルに自分の服装です。ファッションセンスがないって実際に結構つらいですね。


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デート 2

休みに久々に外で遊んだ妖刀です。こんな日も悪くないね。

さて、今回の話はデートの続き。どんな風かな。


では本編どうぞ!


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

 

「2名です」

 

「お席は禁煙席の方でいいですね?」

 

「はい」

 

「ではお席へどうぞ」

 

ウェイトレスに案内されて席に着く2人。刀奈は始めてはいるファミレスに興味津々ながら、目をキョロキョロと動かす程度でいつもみたいに冷静にいる。

 

「じゃあ何食べる?」

 

そして航がメニュー表を広げたとき、刀奈の目が輝いてるように見えた。

 

「こんなにメニューあるんだ。すごいなぁ……」

 

ページをめくって様々な顔を見せる刀奈。航はすでに食べたいものは決めてるが、こんな彼女の顔を見てるのが楽しいのか、笑みを浮かべたままだ。

 

「ん、どうしたの?」

 

「いや、こんな風な反応を見せる刀奈が可愛いくてな」

 

「っ……!?な、何言ってるの!?」

 

「いや、思ったことを言っただけ」

 

「っ~~~!!!」

 

刀奈の顔は一気に真っ赤になり、声になってない声を上げている。まさか航からこんな言葉が出るとは思ってなかったらしく、いきなりの不意打ちに顔を赤くするしかなかった刀奈は、これをごまかそうとメニュー表を航に向けた。

 

「航!何食べるか決めた!?」

 

「お、おう……。俺は和風ステーキセットのごはん大盛りとドリンクバーだな。刀奈は?」

 

「私は、えっと……。あ、このおろしハンバーグセットっていうのにしようかな」

 

「分かった」

 

そして席にあるインターホンを押してウェイトレスを読んだ後、この2つドリンクバーを注文する。ウェイトレスはその注文を復唱したあと厨房の方へと消え、

 

「じゃあ飲み物取ってくるね。航は何がいい?」

 

「オレンジジュースで」

 

「わかった」

 

そして席を立ち、ドリンクバーのエリアへと向かう刀奈。この間、航はスマホを弄って今日のニュースを見ていた。

 

(ふーん、こんなのが……ん?)

 

この時とあるニュースに目が留まる。

 

『渋谷にて行方不明者多数』

 

たしかこの後に向かう場所の名前だったため、航はそれに目を通そうとした時だ。右手にオレンジジュース、左手にコーラを持った刀奈が戻ってきた。

 

「おまたせ。はい、オレンジジュース」

 

「お、サンキュ」

 

両方のジュースにはストローが刺しており、それに口を付けて飲む二人。

 

「そういえば航って炭酸系飲まないの?」

 

この時航が一気に目を逸らす。それに冷や汗が流れており、刀奈は察した。『あ、飲めないんだ』と。

 

そして二人でいろいろ話してる時に、ついに昼食である和風ステーキセットとおろしハンバーグセットがやってきた。鉄板の熱でいい音を立てており、香ばしい匂いが二人の食欲を掻きたてる。航はすでに腹が減りすぎてるのか、口が三日月のように口角が上がっており、刀奈はそんな航を見て軽く呆れる。

 

 

「「いただきます」」

 

そして二人は口にお肉を運び、そして……。

 

「「ん~、美味しい!」」

 

二人はたまらなさそうに笑みを浮かべており、航はさっさと口に切ったステーキ肉を入れていく。楯無もゆっくりながらもハンバーグを口の中に入れていき、舌鼓を打つ。

 

「こんなに美味しいんだ、知らなかったな」

 

「安くて美味いのがファミレスのいいところだからな」

 

そして仲良く話しながら食べていく2人。その時、刀奈はナイフで切ったハンバーグの一部を航の口に向ける。

 

「はい、あーん」

 

「あ、あーん」

 

そして航の口の中に入れ、航はそれをモゴモゴと食べる。

 

「どう?」

 

「ん、うまい」

 

「ふふ♪」

 

そして航が逆に『はい、あーん』をして刀奈の顔を真っ赤にさせるなどのことをするのであった。

 

 

 

 

 

そして2人はファミレスを出た後電車に乗って移動した先は、電気関係の店が多い秋葉原と変わって衣服系の店が多い都市。二人は駅から出てすぐ目の前に、ハチ公の銅像があったため記念写真を撮った後に、航は晴れ晴れとした空を見上げる。

 

「ここが渋谷か……」

 

そう、現在2人は渋谷に来ており、軽く周りをを見渡す。やっぱりカップルが多く、刀奈が航の腕に自信の腕をからめる。なお、秋葉原で買ったプラモ2つは機龍の格納領域(バススロット)に格納済みだ。

 

「さ、航の服買いに行こう♪」

 

そして刀奈に引っ張られる形で歩き出す航。時折躓いてしまうが、どうにか倒れないようにして速足の刀奈に付いて行く。いつも大股のゆっくりで歩く航にとっては速足で歩くのは若干辛いが、まあ刀奈が笑顔ならそれでいいのだろう。

そして移動すること10分。まあまあ歩き、たどり着いたところは最近小さく話題のメンズファッションの店だ。

2人で中に入った時男性の客がたくさんいたが、刀奈を見るなり眼つきが一気に変わる。それはまるで得物を見るかのような粘っこい視線であり、刀奈はそれを感じ取るなり若干嫌そうな顔を浮かべる。

こんな顔を浮かべてるにもかかわらず、男たちは刀奈の体を舐めるかのように見るため、

 

「航、店変えようか」

 

「ああ、そうだな」

 

そして後ろを振り返って店を出ようとした時だ。

 

「へい彼女、ここにどういう用かい?」

 

おそらくここの店の店員なのだろう。髪は金髪にしてあり、耳にはたくさんのピアスを開けている。いわゆるチャラ男ってやつだ。

この時刀奈は笑顔なのだが、目がどう見ても笑ってない。刀奈から出る冷たい雰囲気に航は冷や汗を流しており、ただ、その光景を見てるだけだった。

 

「ここで彼氏の服を買おうかなって思ったんですが」

 

「彼氏ねぇ……。もしかして隣の?」

 

「はい、そうですが?」

 

そして店員は航をじーっと見るが、ニヤッと笑いを浮かべ、

 

「こんな男に似合う服なんかな「そうですか。航、行こうか」え、ちょ」

 

店員の言葉を最後まで聞かず、航の手首を掴んで扉へと向かう刀奈。店員はいきなり出ていかれそうになったため止めようとするが、

 

「こんな客への態度が悪い店なんか一生来たくないので」

 

のその一言を残して出て行く二人。

店員はナンパしようとしたのに失敗したことに落ち込んでいたが、後ろからの大量の殺気に気付く。そしてゆっくりと後ろを振り返ると、

 

「おい!もうちょいまともなナンパしろよ!」

 

「こんなんだから彼女ができないんだろうが!」

 

そして野次が飛び交う中、一人の客がとあることに気付く。

 

「そういえば、あの女の子。ISで日本代表の更識楯無じゃなかった?」

 

『えっ?』

 

この時全員の動きが止まる。あの珍しい髪の色にあのスタイル。もしそうなのだとしたら彼氏がいるとなると、とんだ情報だ。男たちに衝撃が走る。

 

「この情報ってどれぐらいで売れる?」

 

「さあ、だがすごい情報だと思うぜ」

 

「だな」

 

そんなことを話しているが、正直金にもならないことを知らない男たちであった。

 

 

 

 

 

あれから2人はあちこちのファッション系の店に行くが、店員の態度が悪いか、女尊男卑に染まった女子に絡まれて選ぶ気を無くすなどのトラブルが連続で続き、いい加減に疲れたため偶然あった公園に寄ることにしていた。

 

「あーあ。雑誌に載ってる店って大体が外れって言うけど本当ね~」

 

この時刀奈は公園のベンチに腰を掛けて、そうぼやいていた。最初に寄ったあの店、あんな店員がいるとは知らなかったが、本当にあの態度は頭にくる。まあ他にもいろいろ言ってくる人がいたため、そっちの方にも頭に来てるが。

そして無意識に首元に掛けてある紐に手を伸ばす。その紐を伝って胸元に手が届いたとき、服の中に隠れていた黒色に近い勾玉を引っ張り出して、指でその形をなぞるかのようにゆっくりと触る。一見ツヤがないように見えて、触ると傷がどこにも入ってないのかとても艶やかな触り心地だ。

時折、琥珀色に僅かながら輝くこの勾玉。

この時、近くでアイスを買いに行ってた航が両手にアイスクリームをもって戻ってきたが、刀奈は勾玉を触ったまま航を迎える。

 

「おまたせー。はい、アイスクリーム。バニラでいいんだよね?」

 

「うん、ありがと♪」

 

刀奈は右手でアイスクリームを受け取り、それを舌でなめる。なお航はチョコレート味を選んでおり、それを舐めているのであった。

そして時折交換するなどして食べていたが、航が刀奈の手に持ってる勾玉が気になって仕方がない。

 

「ん、その首にかけてるのってペンダントか何かか?」

 

「うーん。これはね更識家代々伝わる勾玉かな。あと最強のお守り言われてるわね」

 

刀奈は紐をもって勾玉を持ち上げる。黒色ともいえる勾玉は太陽の光を浴びてきらりと光り、そのツヤなどに航は軽く驚きの表情を浮かべる。

 

「触っていいか?」

 

「うん、いいよ」

 

そして航は勾玉に右手を伸ばし……。その時、勾玉が琥珀色に一瞬だけ強く輝いたと思ったら、強い衝撃と共に航の手が弾かれたのだ。

 

「っ!?」

 

「航!?」

 

航はいきなりの衝撃で驚きの表情を隠せず、刀奈もいきなりのことであったが被害のあった航の手の平を見る。

すると手の平の中指と薬指の間から手首に向けて大きく裂けており、血が止まることなく零れている。

いきなり何があったのか分からない。だが分かることは、お守りともいえる勾玉が航を敵と判断したってことだ。

 

「っ……いってえなぁ」

 

航は痛みで顔を歪めながらも手の平を開いたり閉じたりしている。すでに血は止まったのか赤い滴が滴らなくなっていたが、刀奈は自分のハンカチを近くにあった蛇口から出る水で濡らし、傷口らへんを優しく拭うが傷がふさがり始めていることに安堵の表情を浮かべる。

 

「航、大丈夫?」

 

「一応な。傷は塞がり始めてるけどさ、いきなり何があったんだ?」

 

「……わかんない。でもごめん、航を怪我させちゃって……」

 

刀奈はか細い声で謝る。自分のせいで航を怪我させたせいで目には涙が溜まっており、体も少し震えている。

この時、航の左手が上がったため刀奈は目を瞑って叩かれることに備えるが。

この時、航は刀奈の頭に手をやり優しく撫でる。頭に手を乗せたときビクッと一瞬だけ震えてたが、撫でることで安心感を与える。

 

「わた……る?」

 

「べつにいいさ。安易に触りたいって言った俺が悪いし」

 

「でも……」

 

この時の航の顔を見たとき、刀奈は航が全く怒ってないことに安心感を感じながらも罪悪感が残ってしまい俯いてしまう。それを見た航は自分の頭をガシガシ掻いて、そして刀奈を抱きしめた。

 

「え、航!?」

 

いきなりの事で顔を真っ赤にする刀奈。この時見えた航の横顔は真っ赤ながら、自分を安心させようとしていたため、そのまま航の方に手を回す。

そして5分ほど抱き合っただろうか。刀奈は先程の暗い表情は消えており、いつもの明るい表情だ。

 

「じゃあデートの続きしようか」

 

「うん!」

 

そして笑顔を見せる刀奈。そして2人は手を繋いで買い物を再開するのであったが

 

「っとその前に血を洗い流さないとな」

 

航はずっと付けてた機龍の待機状態である手甲を外して懐へと入れて手を洗うのであった。

 

 

 

 

 

その後刀奈は航と一緒に普通の服屋である『ユニクロン』へと足を運んで、そこで航の服を数着買ったが……。

 

「さて、いろいろあってここで買ったけど……」

 

「ん、どうした?」

 

首をかしげる航に何もないと言って、買い物の時のことを思い出す。

刀奈は、まさか航がファッションが似合わない男だと気づかなかったことに溜息をもらす。今時のファッション、カジュアルな感じ、明るい感じといろいろ試してみたが、まさかTシャツとジーンズのコンボが一番似合うとは……。

その後まさかの地味系ばかり買うことになり、航のコーディネートができなかったことに落ち込む刀奈。

 

「まさか前に一夏に言われた、『航は地味系が似合うな』が本当だったとはな……」

 

航は軽く驚きの表情を浮かべたまま、両手に自分の服が入った袋を持った状態で渋谷の街を歩いている。

とりあえず落ち込んでる刀奈をどう機嫌とるか……。それを考えてる時だった。

 

「あ、航。あそこ寄っていい?」

 

刀奈が指さしたところは『ホビーショップSIBUYA』。まさかのホビーショップだったが、まあ機嫌が直るならそれでいいのだろうと、航はOKを出してそのまま中に入っていくのであった。




リア充爆発しろとかリア充もげろっていうけど、実際にいきなり起きたら言ったの後悔するよね。

え、この後書き本編と何か関係あるのかって?さあ?どうだか?


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デートの終わりは突然に

皆さんお久しぶりです。精神的に参ってましたが、回復したので再び連載を再開します。

では本編どうぞ!


それから『ホビーショップSIBUYA』を満喫した後、時間は午後5時。空が夕暮れで赤く染まる中、2人は渋谷駅の前にあったベンチに腰掛けており、今日のデートについて振り返っていた。

 

「今日は楽しかったね」

 

「ああ、そうだな。あちこち回ったし、いろいろ買ったし」

 

そう言って手に持ってる格納領域(バススロット)に閉まってる分以外の荷物を軽く持ち上げる。主に先程買った服や、日用品。そして、重要人物保護プログラムによって離れ離れになった家族への軽いお土産だ。

 

「ねえ、おばさまたちの分、もうこっちの格納領域(バススロット)に入れておく?そっちのほうが楽だろうし」

 

「じゃあ頼む」

 

そして航は家族へのお土産を刀奈に渡し、刀奈はそれを格納領域(バススロット)へと入れる。

それを終えた後、二人はいろんなことをしゃべっていたが……。

 

「それにしても、航に抱きしめられるの……、ちょっとびっくりしちゃった。航があんなに積極的だったの知らなかったな」

 

「っ!?そ、それは、刀奈をお、落ち着かせるためだ。べ、別に嫌らしい気持があってしたわけじゃないぞ!?」

 

顔を真っ赤にしながら弁解する航を見ながら、刀奈はクスクス笑う。先程までの冷静な感じな雰囲気とはまた違いすぎる雰囲気に笑いが止まらないのだ。その後、航の必死の弁論に刀奈は、だた笑っていた。

 

「……だから、って何笑ってんだよ!」

 

刀奈は笑みを浮かべながら「ゴメンゴメン」と言い、軽くわたるの肩によっかかる。

 

「ふふふ、だって航面白いんだもん。そういう反応私、好きよ?」

 

「お、おう」

 

刀奈が真剣そうな表情で言うもんだから頬を赤くして航はそっぽをむいてしまい、いや、よく見たら耳まで赤くなっており、刀奈は航の可愛い反応に

 

そしてベンチに置いてる航の右手に自分の左手を重ね合わせ、航の指を自分の指を絡める。その後刀奈は距離を詰め、航に密着するような形になった。なおこの時に自分の胸が航の腕に当たる様にするのを忘れてはならない。

 

「か、刀奈?」

 

「航……」

 

この時刀奈の顔を見ようと視線を合わせたとき、航の心に何かが響くかのような感覚が走る。潤んだ瞳、ハリと潤いのある唇。頬は赤く紅潮しているため、いつもより色っぽく見えてしまった航は喉をゴクリと鳴らす。

その時、刀奈は目を閉じて、唇を少し突き出す。

 

(こ、これって……)

 

航は顔を赤くしたが、刀奈も耳が真っ赤になってる。これで引くのは簡単だがそれでは男が廃る。

航はゴクリと息をのみ、目を瞑ってる刀奈を見つめる。そして航は唇を刀奈の唇へと近づけ、そして合わさる……という時だった。

 

「あ、ちょ、ちょっと待って」

 

「へっ?」

 

いきなり刀奈にストップをかけられキョトンとする航。とりあえず一回離れてみたとき、刀奈は先程みたいに顔は赤いままだが、どうもあちこちキョロキョロと見て挙動不審だ。あと手は先程まで航の手を結んでたのに、今は自分の股のところに置いてある。

 

「わ、航。ちょっと待ってて。すぐに終わるから」

 

そして焦った表情で駅内へと速足で向かう刀奈。いきなりのことで目を点にする航であったが、いい雰囲気だったのにって思ったのか残念疎な表情を浮かべる。

そして刀奈が駅の中へ消え、航は暇つぶしにスマホを開いて軽く時間つぶししてる時だった。

 

「ちょっといい?」

 

「はい?」

 

スマホから目線を外して声のした方を向くと、そこにいたのは20代で髪の色が黒、茶、金という女性3人だった。航は今時の女性がいきなり話しかけてきたことに警戒をし、若干身構える動作に入る。この時の彼女たちの表情は異様と言えるほどのニコニコの笑顔で、とてもと言えるほどの狂気を感じる。

 

「あなた、篠栗航君?」

 

「そうだとしたら、何なんですか?」

 

「じゃあ死んで」

 

その時だ、航の胸部に銃口が向けられたのは。そして茶髪の女は引き金を引き、銃声が駅前で大きく響きわたる。

 

「がっ!?」

 

弾は航の胸部に直撃し、スローモーションになったかのように航はゆっくりと倒れ、地面に転がる。

 

『きゃぁぁぁ!』

 

『うわぁぁぁ!』

 

それを見ていた周りにいた人たちの悲鳴が一気に響き、あたり一帯は一気に阿鼻叫喚へと化すが、女たちはそんなのを気にしてないかと思えるほど冷静な表情であり、そして狂気に染まったかのような笑みを浮かべはじめる。

 

「これでいいわね」

 

「ええ」

 

「さて、これで団体の命令通りIS男子搭乗者は殺したわ。さっさと撤収するわよ」

 

「「了解」」

 

そう、この女たちは女性権利団体に所属しているのだ。

そして女達が航から背を向けてその場を去ろうとした時だ、航がジリ、ジリ、と仰向けの状態で動いていたのは。

 

「ん?」

 

女の一人が何か変な音がすることに気付き、後ろを振り返ると同時に航の動きは止まる。そして視線を戻して歩き出すと航が動き出し、再び視線を戻すと航の動きが止まる。

そして視線を外したかのように見せて一気に振り返ると、ゆっくり動いてる航と目が合い……。

 

「こいつ、生きてるぞ!」

 

「やべっ!」

 

航は一気に起き上がって、女たちに背を向けて一目散に走り出す。先程銃を持ってた女以外にもう2人は銃を取り出し、航目掛けて撃ってきたのだ。だが素人なのか、殆ど航に当たらずせいぜい頬などを掠める程度。

そして航は人ごみを見つけ、その中に入り込む。航が走りながら人ごみに入り込んだため怒声が起きるが、航はそれを気にする暇はない。

女たちは人ごみの中で銃を撃つもんだから、関係ない人たちが撃たれてしまい、あちこちで悲鳴が上がる。その光景はまるで無差別殺傷事件ともいえる光景で、まさに地獄絵図だ。

 

「俺が、何をしたっていうんだよ!」

 

航はその中をひたすら走っており、誰かとぶつかろうともそれを気にしてる暇はない。ただ、後ろから聞こえる銃声から逃げるだけだった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。疲れた……」

 

あれからどれくらい走っただろうか。航は完全に息を切らしており、壁に寄りかかって肩を上下させながら呼吸をする。

現在いるところはどこかの路地裏の入口から入って10メートルほどで、表は悲鳴とパトカーのサイレンが鳴り響いてやまない。結局先程の女達が何者かわからなかったが、とりあえず撒いたことに安心をし、一息を着く。

その時だ、自分のスマホから着信音が鳴ったのは。

 

「っ、まさか!」

 

航は急いでポケットからスマホを取り出して画面を見ると、『刀奈』と書かれた通話待機画面になってたのだ。恐らく駅前におらず、さらに警察とかが動いてるから電話をかけてきたのだろう。だが今は、まさに蜘蛛の糸を見つけたかのような安心感があり、

 

『航!いったいどこなの!?駅前にはいないし近くの道路には怪我人と警察がたくさんだし!』

 

刀奈の言葉には不安や焦りなどが感じられ、航は何か言おうにも現状が大事だ。そのため助けを呼ぶことにする。

 

「か、刀奈、聞いてくれ!何かいきなり20代の女たちに銃を向けられていきなり撃たれたんだ!機龍を懐にしまってたから偶然助かったけどさ。とりあえず助けてくれ!」

 

『っ!?わ、わかったわ。現在地は……あ、蒼龍を使って機龍の場所を探知すればいいから……。よし、場所は分かったわ。とりあえず現状そこを動かないで。いい?』

 

「わかった。けど「見つけたわよ!」げっ!?」

 

その時だ。先程の女たちが路地裏の入口に銃を持って立っていたのだ。航はジリジリと足を動かして後ろに下がり、女たちは距離を詰めるように歩み寄る。

 

『航!?どうしたの!?』

 

「刀奈、早急に来て。現状命的にやばい」

 

『え、どういう「じゃあ切るから」ちょ、待ちなさ』

 

そして航は通話終了を押し、そしてスマホをポケットへと入れ込む。普通なら通話中に襲い掛かるものだろうが、何かしらの余裕だろうか、普通に会話する時間を待つなどの訳の分からない行動を見せてるのだ。

だが、今はそれをしてくれてありがたい。航は助けを呼んだため、先程より少し冷静な態度で女たちを睨みつける。

 

「で、話は終わったかしら?まあ、答えは聞いてないけど」

 

真ん中に立ってた茶髪の女は、銃を航に向け、そして微笑みかける。普通にきれいな微笑みだが、銃があるため普通に狂気の笑みに見える。航は機龍を展開しようとしたが、決められたところ以外での使用は禁じられていることを思い出し、一瞬だけ纏おうとして出した量子を消してジリジリと後ろへ下がる。

 

「さて、さっさと死んでくれない?じゃないとこちが困るから」

 

「どう困るんだよ」

 

「だって男がIS使えると今の地位が消えちゃうかもしれないし。だから死んでもらった方が都合がいいの」

 

「じゃあ一夏はどうなる?」

 

「彼は千冬様の弟だから手は出さないわ。手を出したら上に消されかねないし」

 

そう言ってワザとらしく震える女。この時他の女たちも銃を構えてきたため航はゆっくりと気付かれない様に後ろに下がり、どこかのレストランのゴミ捨て用のだろうポリバケツがあったため、その縁を気付かれない様に掴む。それなりに重かったが、持ち上げられない重さではない。

女たちはそれに気づいておらず、そして引き金に指を掛ける。そして

 

「じゃあもう死んでね」

 

「だが断る!おらぁ!」

 

「「「キャア!?」」」

 

 

航は後ろにあったポリバケツに、力一杯こめて女たちの方へ向けて投げる。ポリバケツは生ごみなどの中身をまき散らしながら女たちの方へ飛び、女たちはいきなりのことで驚いてしまい、明後日の方向に銃を乱射してしまう。

その隙に航は一気に振り返って路地裏の奥深くへと走り込み、どうにか冷静になった女達はそのあとを追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

ここは航と女たちが入り込んだ路地裏のずっと奥。そこはコンクリートに囲まれた小さな広場のようだ。その中心にいかにも壊れて使えない噴水を出す装置があるが、なぜかありえない量で水が噴き出ている。

そこに7体、その拭き出す水を浴びる黒い影、メガヌロンが蠢いていた。7体のメガヌロンはお互いに顔を合わせ、何か話し合ってるようにも見える。

 

 

「キィィ」 ー餌が来たー

 

 

「カカ、キキキ」 ー数は?ー

 

 

「キリリリ、カカ」  ー4体だー

 

 

「キィァ、クララ」 ーどうする?-

 

 

「ギィァ、キリリ」 ー喰らうぞ、王を進化させる力を得るためにー

 

 

『キリリィィ』 ーわかったー

 

 

「キガガ、ギリ」 ーところで餌が通る道はー

 

 

「ガガガ」 ー水で溢れさせたー

 

 

「カッカッカ」 ーならばいいー

 

 

そして奴らは動き出す。あるものは壁を勢いよく登り、あるものは近くのマンホールの蓋を破壊して下水溝へと入り込む。

目指すは入り込んでこの迷路に迷う人間たちのいるところへ。

そして闇の中に、緑色の目が溶けていくのであった。

 

 

 

 

そのころ刀奈は、航が入り込んだ路地裏の入口目指して全速力で走っていた。周りは救急車やパトカーがたくさんおり、途中途中で従者の者を見つけたため、彼らに現場のことを任せて自分は航を探しにひたすら走っていた。

 

「くっ、私の失態ね。まさかこんなところでテロ紛いなことするなんて……!」

 

女性権利団体。まさか男1人のためにここまでしてくるとは思ってなかった刀奈にとっては寝耳に水な出来事であり、ここまで被害を大きくしてくれることにいら立ちを感じる。

そう思ってる間に目的地が見え、刀奈は足を止める。

 

「ここね……」

 

そして航が入り込んだ路地裏の入口に立った刀奈は機龍の現在地を見て、軽くため息を漏らす。

 

「ここ、確か怪物が出るんだっけ……。いくら楯無と言ってもこういうの苦手なのに……」

 

現時間は午後5時半。日は傾き、空が茜色に染まってるせいで路地裏に出来る影の陰影が道への空間への入口に見せる。

刀奈はそう呟きながらも、この路地裏へと入り込むのであった。




そして始まる生きるための戦い。


生き残るのは、誰だ。


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狩る者と狩られる者

路地裏であなたの悲鳴は誰にも聞こえない……。


航は狭い路地裏をひたすら走っていた。なぜなら……。

 

「はっ、はっ、はっ。くそ……!いつまでついてくるんだよ……!」

 

「こ、このっ、はぁ、はぁ、ま、待ちなさい!」

 

「嫌だ、ね!」

 

後ろから拳銃を持った女たち3人が追いかけてくるため、航はそれから逃げるためにひたすら走っていたのだ。女たちの狙いが悪いのか銃弾は全く航に当たらないが、時折頬を掠めるなどして全く気が抜けない状況である。それと曲がり角の多さが命中率の低下を招いてるのだろう。

航は曲がり角を曲がるときに、壁を走るかのように無理やり曲がって速度を落とさないようにしており、女たちとの距離を開けていく。

そして女たちが曲がり角を曲がる前に、T字路を勢いよく曲がって先にあった中身が空のポリバケツの中に入り込んで、そこでやり過ごすことにする。

そしてすぐに女たちがやってきて、航は息を殺してポリバケツの隙間から女たちを見る。彼女たちは憤りの表情や焦りの表情を見せており、航はただ、息をのむだけであった。

 

「くそ、どこに行ったの!?」

 

金髪の女はイライラしてるのか壁を殴り、近くにいた黒髪の女がそれを慰める。

 

「二手に分かれてるわね。じゃあ私はこっち行くからあなたたちはあっちに行って」

 

「わかったわ」

 

そして女たちは二手に分かれる。そして航のいる方に二人来た為、航はやばいと思い蓋を閉じてポリバケツの中で息を殺す。

カッ、カッ、カッ、とハイヒールの歩く音が隣で聞こえ、そして隣らへんで音が止まった時に航は冷や汗が止まらず、わずかに体が震えてる。

 

(頼む、気付かないでくれ……!)

 

そう祈りながら待ってると、またハイヒールの歩く音がし、そして離れて行ったため航は安堵の息を吐き、恐る恐るポリバケツから出る。

 

「ふぅ、やっと撒いたか……」

 

カポンと軽い音を立てながら蓋を閉じ、疲れでぺたりと尻餅をつき航は溜息を吐く。そして帰ろうとしてT字路のところに立つが、とあることに気付いてしまう。それは……。

 

「あれ、そもそもここ、どこだ……?」

 

周りを見渡したらコンクリートでできた迷路状に入り組んだ道。おまけに日が大きく傾いてしまってほぼ真っ暗に近く、まともに道が分からない。そのためまともに進むこともできず、途方に暮れる航は思い出したかのようにスマホをり出して、刀奈に電話を掛ける。そして待機音が1~2回なって刀奈が出る

 

「刀奈、ここ『航。大丈夫!?すごい勢いであちこちに進んでたけど!』う、うん大丈夫。何とか撒いたから」

 

しゃべり方が若干違うような気がするが仕方がない。先程まで命を狙われていたのだ。その恐怖で変わっても無理ないだろう。だが、航の声を聞いた後、安心したかのように安堵の息を吐き、そして冷静になる。

 

『よかった……。えっと、現在地は……ここね。そこで待ってて。というより近くにある何かで身を隠してて。いいね?』

 

「う、うん。わかった」

 

『じゃあ電話は……切る?』

 

「……怖いけど、我慢するよ」

 

「そう……。じゃあ早く迎えに行くからね」

 

そして電話は切られ、航はやはり切らない方がよかったかと後悔し、俯いてしまう。だがこうしてる間にも女たちが戻ってくるかもしれない。それを思い出した航はもう一回ポリバケツの中へと入り込む。だが先程みたいに完全に蓋を閉じるのではなく、少し蓋をずらして外が見えるようにしてるが。

 

(めっちゃこえぇよ……。早く刀奈来てくれ……『ガラン!』っ!)

 

その時だ。奥の方から音がしたため、航は音のした方に視線を向ける。ちょうどこの場所は街灯が路地を照らすため、丁度何が来るか分かるのだ。

航は耳を凝らしてその音を聞いていたがとある疑問が浮く。そう、足音が重く、そして多すぎるのだ。

 

(何だ、この足音の数は……?)

 

そして足音が近くなり、路地を照らす電灯にその姿が映し出される。

体長が約3メートルと大柄で、ダークグリーンに近い外皮。前肢の他に6本の脚が生えており、普通の昆虫みたいな特徴が逸脱している。眼の色は緑であるが黒の線で区切られており、複眼に見えなくもない。メガヌロンだ。

航はメガヌロンを見た瞬間、体が一気に膠着して息を殺してるしかできない

 

「カララァ……キキキ」

 

メガヌロンは首を横に振って周りを見渡すかのようにゆっくりと歩く。時折前肢を使って物を探ったりしており、それで出てきたネズミなどを一瞬で捕まえ、そして食べる。

その時だ。航の入ってるポリバケツの横を通り過ぎるかと思った時、いきなり動きを止めポリバケツの方を向いたのだ。

 

(っ!?)

 

今少しでも動くと絶対バレる。そのため動けない航は、ただメガヌロンをポリバケツの隙間から息を殺して見てるしかできない。

そしてどれぐらい時間が経っただろうか。いや、実際は10秒ほどかもれないし1分かもしれない。だが、航にとっては今までで一番時間が長く感じ、恐怖したときだ。

その時だ。メガヌロンはポリバケツから目線を逸らし、そして街灯の光が届かない闇へと消えるのであった。

それを確認した航は安堵の息を吐き、ポリバケツの中で尻餅をつく。

 

「た、助かった……」

 

さっきの緊張で中が蒸したため航はポリバケツのふたを開け、中の換気をしようとする。

その時、いきなり頭の上に何か冷たい液体が降ってきたため、航は何かと思って頭を触る。液体は何かねば付いており、そして少し臭い。

いったい何なのだろうか。それが降ってきた原因である上を向くと……。

 

「キシシッ」

 

「えっ……」

 

 

 

 

 

「ったく、いったいあの男どこに行ったのよ……」

 

「まーまー落ち着きなよ。そうカリカリしたって見つからないんだからさ」

 

その頃、先程別れた女たちはこの少し狭い路地裏をライト灯で照らしながら歩いていたが、航が見つからず暗い道をずっと歩いてたせいか金髪の女はイライラしだし、道束にあった空き缶を思い切り蹴り飛ばす。黒髪の女はそれをのほほんとなぐさめるもほとんど効果がなく、金髪の女は黒髪の女にただ怒鳴り散らすだけだ。

そして二人はあちこち歩き回るが、航が見つからないことにいい加減疲れてきており、とりあえず戻ろうってことで来た道を引き返すのだが……。

 

「あれ、この道さっき通ったような……」

 

「はぁ!?どういう事だよ!」

 

「いや、だからこの張り紙が」

 

そう言って黒髪の女は壁に貼られた古びた張り紙を指さす。これは戻ろうと言った時に見た張り紙と同じものであり、イライラしてた金髪の女がそれを見たときに納得した顔を浮かべる。

 

「あ、確かにこれ見たな……。じゃあこっち行ってみるか?」

 

「じゃあ行ってみようか」

 

そして女たちは先程とは別の通路に向かい、そして歩くこと約5分。その時だ。

 

「きゃっ、冷たっ!?」

 

「ん、どうしたの?」

 

金髪の女の首の後ろに何かがかかり、びっくりしたのか若干高い悲鳴を上げる。

 

「いや、いきなり首に何かが落ちてきてな。いったい何なん……だ……」

 

金髪の女は何があるのか気になったのか上を向いてライトも向けるが、その時動きが固まり、顔は真っ青になっていく。

 

「ん?どうした……の……」

 

黒髪の女は金髪の女が何を見たのか気になったのか上を向くが、一気に顔は真っ青になり、絶望に一気に染まる。

いったい何を見たのかというと……。

 

「キチチチチ」

 

メガヌロンだ。

 

「カカカカ」

 

しかも2体もおり、壁に引っ付いたまま女二人を見下ろしてる。しかもライトで一部しか照らされてないということもあって全容が見えず、まともに見えるのは怪しく光る緑色の複眼と鋭い美玖色であることを示す牙ぐらいだ。

口からは涎らしき者が垂れており、それが金髪の女にかかったのだろう。そして2体は女達を見定めかのように首を動かして、威嚇するかのように小さく鳴いたりしてる。

 

「キチ、キキキ」

 

「カッカッカ」

 

「「い、いやぁぁぁぁ!!!」」

 

その異形な姿を目撃した女達は、絶叫という名の悲鳴と共にライトを投げ捨てて一気に逃げ出す。だがそれを逃がすメガヌロンでもなく、1体は地面に降り、もう1体は壁に引っ付いたまま女達目掛けて走り出したのだ。

その速度は陸上アスリート選手ばりに速く、女達との距離を着々と詰めていくが女たちもそう簡単に捕まろうとはせず、カーブのところでスピードを極力落とさない様にして一気に曲がったりするなどを繰り返す。

だがそれに負けるメガヌロンでもなく、女達がした曲がり方を真似るかのように角を曲がり、距離を詰めようとする。

その時だ。いきなり現れた水深の深い水たまりに足を取られ、いきなり二人がほぼ同時に転けたのは

 

「「きゃあ!?」」

 

大きな水しぶきを上げて転ける二人。いきなり何が起きたのかわからずパニックになりかけたが、とりあえず水深がそこまで深くないせいか足がつくことを確認し、息を吸おうと立ち上がる。水深は約80センチほどで、渋谷にこんなのがあったのか?と思う女達だったが、とりあえず呼吸が先だということで息を吸う。

 

「けほっ、けほっ、いきなり何なのよ!」

 

「あぁ、びっくりし……た……ぁ」

 

「どうしたのよ……。ひぃっ!?……って、まさか……」

 

金髪の女の首筋にに何か生暖かい風が吹き抜ける。

嘘だと思いたい。そう思って後ろを振り向こうとするも、体が恐怖で動かないせいで振り向けない。そして目に涙が浮かべ始め、黒髪の女に恐怖で震えてる手を伸ばす。

 

「たす、けて……」

 

「……ごめん!囮になって!」

 

「はぁ!?」

 

その時だ。黒髪の女は持ってた拳銃を金髪の女の腹に向けて銃弾を放つ。銃弾は見事に金髪の女の腹へと刺さり、金髪の女はいきなりの痛みと共に少し蹲り傷口を手で押さえる。

 

「いきなり何を「キリリリ!」ぎゃあ!?」

 

その時だ。1体のメガヌロンが金髪の女の右肩に勢いよく噛みついてきたのだ。顎の力は異常なほど強く、一気に肩の骨を砕いてそのまま右腕ごと肩から引きちぎる。

 

「ぎゃぁっぁっぁぁ!!!???がぼっ!?げぼっ、ごぼぁ……」

 

大量の血がこぼれ、水たまりを赤く染めていく。金髪の女は痛みに悲鳴を上げ、そして足がもつれたのか再び水の中に溺れるかのように沈んでいく。

 

「カカッ!」

 

もう1体も食べようと水溜まりに入り込み、金髪の女の首元に噛みついて胴と頭を食いちぎるかのように切り離す。この時すでに金髪の女は絶命しており、悲鳴を一切あげない。水たまりはどんどん赤く染まっていき、まるで血の池地獄ともいえる姿に変わり果てている。

黒髪の女はその隙に急いで水たまりから出て、再び真っ暗の路地裏を駆けだした。

 

「はぁ、はぁ、やばい、逃げないと」

 

黒髪の女はそう言うが、先程逃げたときに体力を多く消費し、服が水を吸って重くなってるせいもあって動きにくい。だが逃げないとメガヌロンに殺されてしまうため、無我夢中で真っ暗な路地裏をひたすら走り抜けていく。

だが

 

「嘘……。ここもあの水たまりみたいに……!?」

 

そう、先程金髪の女を殺した場所みたいに水深が深い水たまりがあるのだ。しかもよく見たら中心のところで水が噴き出てるのか、水面が不自然に盛り上がってる。

 

「もしかしたらここにもいるの……?なら……」

 

そして黒髪の女は振り返って別のルートを探すことにする。そして水たまりを背に向けて歩き出す。そして直径1メートル半と大きなマンホールを踏み越えた時だ。

いきなりマンホールの蓋が轟音と共に飛び、女はいきなり何かと思って振り向くがそのにいたのはメガヌロンだ

。しかもマンホールが小さかったのか、地面もといコンクリートを砕いて無理やり地上に姿を現し、前脚で女の足首をガッシリと掴み、

 

「キカカカカ!!」

 

「嘘っ!?……きゃあ!?」

 

女はそのまま水たまりに引きずり込まれるが、一応水深は深くないため、もう一本の足でどうにか立っている状況だ。

 

「やめ、がぼっ、苦し、い!助け、て!」

 

その時だ、。いきなり捕まれた方の方の足に今まで感じたことのない激痛が走り、それでもう一方の足が浮いてしまって一気に水中に引きずり込まれてしまい、息苦しい中どうにかもがいて水中から出ようとするが。

 

「ごぶっ!?」

 

その時だ。メガヌロンは牙を女の腹に深々と突き刺し、水中を多量の血で赤く染めながらその顎で一気に腹を食い破り、内臓を咀嚼する。

 

「が、ぼ……」

 

最後まで助けを求めるかのように手を伸ばしていたが、ついに力尽きたのか水底に手が落ちていく。そしてをそれを喰らう蟲が1体。水中にはただ、肉をちぎる音と、骨を砕く音が響き続ける。

 

「キッキッキッ」

 

そしてメガヌロンは真っ赤に染まった水中から出て、再びコンクリートを砕きながらマンホールの中へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

「もう、ここまで航を追いかける女ってしつこすぎるでしょ……!」

 

その頃刀奈は蒼龍に受信される航の位置情報を頼りに、日が落ちてそれなりに暗い路地裏をひたすら走り抜けていた。途中で行き止まりにあたってしまったりしてたが、そこは持ち前の身体能力で壁をよじ登って反対側の通路へと下り、デート用に買った服が汚れてしまっていたが、それより航の方が大事のため、ひたすら走っていた。

だがその足取りも街灯に照らされている場所で止まってしまう。

 

「何よこれ……!?」

 

刀奈の目の前に広がるのは大きく広がる水たまり。だが、どう見ても水深が深いし、何より真っ赤だ。そしてとある液体特有の臭いがしたため、刀奈は若干眉間に皺を寄せる。

 

「この臭い……まさか、血!?」

 

いったいここで何があったのか。そう思って首を動かして周りを見渡す。

その時浅くなってるところで人の手らしきものを見つけ、それを拾い上げる刀奈。それは水を吸っていて膨れ上がっているが男性の左手であり、肘から先しかなく、血は全て出てしまったのか肌は蒼白だ。

いったい何が起きたのか……。

 

「まさか……航!?」

 

刀奈の中にとてつもない不安がよぎる。ここで何があったのかわからない。だが、航の身に何か起きてるのではないのか?

刀奈はこの左手を地面に置き、またここに来れるようにマーカーを配置して、航のいるところに向けて再び走り出す。航の方もあちこちに走っているらしいが、先程より速度が遅い。

 

(航……!)

 

不安がどんどん膨れ上がる。航の無事を祈る刀奈だが、今の状況では気休めにしかならない。

そして走り続けること約5分。やっと航がいるところまで距離を詰めることができたが、航の動きが完全に止まっているため、猛ダッシュでストレートの道を駆け抜ける。

 

「航!」

 

そして最後の角をまがった時、刀奈が見たのは

 

「キカカカカ」

 

「チリリリ」

 

「痛い、よ……。たす……け、て」

 

体のあちこちから多量の血を流して横たわる航と、それを食らおうと首元に牙を突き立てようとするメガヌロンが1体、あと周りに刀奈を威嚇する10体近くいるメガヌロン姿があった。




航にいったい何があったのか。そしてそれを見た刀奈は……。







では感想と誤字羅出現報告どしどし待ってます!



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狩る者と狩られる者 2

前回の話、航に何があったのかの話です。ではどうぞ。


あれから遡ること約10分前。女性権利団体の女達を撒いたあと、巨大昆虫であるメガヌロンも撒き、航は安心してポリバケツから出た時だ。いきなり、上から液体がふってきたため、航何かと思って上を向くとそこにいたのは。

 

「キシシッ」

 

「えっ……」

 

下を向いてる体長2メートルほどのメガヌロンがいた。航のいるところから約4メートルほど上の壁に引っ付いており、ただその光る緑色の複眼で航を見つめている。

お互いに見つめ合うかのようにいるが、別に恋人とかではない。唯そこにあるのは、喰うもの(メガヌロン)喰われるもの()の2つだけだ。

お互い顔を見合ったまま、航はひっそりとポリバケツから出て、メガヌロンは一歩脚を前に出す。航が後ろに一歩下がれば、メガヌロンが脚を二歩前に進む、もとい壁を降りていく。だがその間も一切複眼を航からそらさず見ており、航の頬に汗が一筋流れる。

 

「カラララ……」

 

メガヌロンは前脚を顔の高さまで振り上げてじわじわと壁を降りていき、航は一歩一歩後ろに下がる。

そして、

 

「キシャー!」

 

「うぉぉ!?」

 

その時、メガヌロンは跳躍して航へと躍りかかり、航は一気に振り返って脱兎のごとく逃げ出す。振り返った時にバランスを崩して初速が遅い航だが、この時反応が更に遅かったら完全にメガヌロンにつかまっており、まさに危機一髪と言える光景だ。

 

「カカカ!!」

 

捕まえ損ねたことを怒ったのか、メガヌロンは大声で鳴き、地面に着いてる6つの脚を使って高速で航へと迫る。だが航もそう簡単に捕まる訳もなく、こIS学園に入ってから鍛えられたこの体を駆使して全速力で逃げる……が。

 

(ちょ、全く距離が離れてねえ!?)

 

そう、50メートル走6秒33という記録を持ってるのに、普通にその速度に着いてきてるのだ。どう見ても速く走れる体型ではないのに、航に普通についてきてるのだ。

 

「ひぃ!?」

 

その時、メガヌロンは跳躍して航の真上まで飛び上がる。航は走って回避は間に合わないと思ったのか、横に転がってぎりぎりで回避する。無理やりの回避で壁に体をぶつけて痛みが走るが、着地したメガヌロンに睨まれた際に、急いで立ち上がって再び走って逃げ出す。

 

「キキキ」

 

逃げ惑う航を見て、まるで笑うかのように声を上げるメガヌロン。そして自身も走り出して航を追いかける。

航との距離は20メートルは離れてたのに、一気に距離を詰め、それを見た航は絶望に染まった表情を浮かべるが、メガヌロンからしたらどうでもいいことだ。

こうやって走って逃げてる航だが、専用機である機龍を持ってるのに何故使わないのだろうか?使って戦うなり空へ逃げるなりできるのだが、どうしてもできない理由がある。それは

 

「やばい、誰か……!」

 

なぜなら恐怖で逃げることが精一杯の余り、自分のISのことを頭の中から忘れてしまってるのだ。いくらISを使いこなそうと、目の前の恐怖に素人がまともな判断ができるわけがない。おまけにISは思考制御。そのため航は機龍を使ってない、いや、使えないのだ。

そのため必死に逃げる航。だがメガヌロンは、それを嘲笑うかのように一気に加速し、そして航の背中に頭突きをかます。

 

「がはっ!?」

 

いきなりの激痛と共に吹き飛ばされ、そして壁に激突した航は痛みと共に蹲るが、その奥からゆっくりと笑うかのように声を上げるメガヌロンが近づいてくるため、痛みをこらえながら再び走り出す。

 

「くそ……、が……ぁ!」

 

苦痛で顔を歪めながらも航は走るが、メガヌロンが再び高速で頭突きをしてきたため、体を逸らして躱そうとしたが間に合わず横腹から再び壁に叩きつけられ、その衝撃か肺から息を吐き出すと当時に口からの血が飛び散ると同時に、肋骨から何かが折れる嫌な音が響いた。

 

「がっ、ぁ……!」

 

余りの衝撃と痛みで意識が飛びそうになるが、食べられるという恐怖で無理やり意識を保たせ、航は足が震えながらもどうにか立ち上がる。口からは血が零れているが、航はそれを腕で拭ってメガヌロンを睨みつける。

 

「カルルルル……カッカッカッ」

 

首を傾げるかのようにして航を見るメガヌロンは、まだ立ち上がることが嬉しいのか笑い声に似た声を上げる。そして頭を下げて尻尾にあたる部分を上げ、そして

 

「っ!?」

 

航は野生の勘というだろうか。それを頼りに動いた瞬間、凄い轟音と共に先程までいた壁にメガヌロンの頭が刺さっていた。

 

「っ!?……!」

 

メガヌロンは何か言ってるようだが、顔が壁に突っ込んでるせいで何も聞こえず、ただ脚をばたつかせている。

 

「今のうちに……!」

 

航は痛む横腹を押さえながら、壁伝いに遅いながらも走って逃げる。そして航が近くの角を曲がって少し経った時だ。

 

「キキキ!!」

 

ボコッ!と大きな音を立てて壁が砕け、頭にコンクリート片を乗せたメガヌロンは臭いを頼りに航のとこへと走り出す。そして航を見つけて、再び弄ぼうとした時だった。

 

「ぐおっ!?」

 

航はいきなり上からの衝撃に耐えられずうつぶせの状態になる。いったい何あったのかと思って振り返ると、先程とは違うメガヌロンが移動用の前脚で航が逃げ出さない様に押さえつけてるのだ。その力は異常で、骨がミキミキと悲鳴を上げており、いつ折れてもおかしくない。ただでさえ先程骨がやられたというのに、これ以上やられたらどうなるか。その時だ

 

「ガラララ……」

 

「ひぃ……!?」

 

メガヌロンは口にある鋭い牙を、航の首筋へ持ってきたのだ。涎でヌラリと光ってる牙はナイフのように鋭く、な何か小さい穴が数か所空いている。その時だ、その小さい穴から紫というか青紫色の液体が滴りだしたのは。

 

「い、嫌だ……。やめてくれ……!」

 

航はもがいてここから抜け出そうとするが、それ以上に力を掛けてメガヌロンは航を押さえつけて、絶対に逃げないようにする。

そして牙を航の首元に刺そうとした時だ。

 

「キキキ」

 

「カララ?」

 

何かの声がしたためメガヌロンは上を向くと、先程壁に突っ込んだメガヌロンが3メートル上の壁に引っ付いており、航の上に載ってるメガヌロンが手招きをする。だが壁に引っ付いてるほうは動こうとせず、小さく唸っているばかりだ。

 

「ガガガ……!」

 

「キキ?」

 

「ガア!」

 

「ギガ!?」

 

その時だ。壁に引っ付いてたメガヌロンが、航を押さえつけていたメガヌロンの首に飛び降りて噛みついたのだ。噛まれた方はいきなり何なのか理解できてなかったが、外皮が砕ける音と、途轍もない痛みを感じ、振りほどこうと体を大きく震わせる。

だが噛みついた方はそう簡単にはがれず、前腕の鋏状ともいえる爪を背中に突き刺し、緑色の体液が航に掛かっているがそんなのお構いなしだ。

 

「ギィィ!」

 

「ガァァァ!!」

 

そして振り払うことができたメガヌロンはいきなり襲われた怒りからか、襲ってきた方のメガヌロンの横腹に頭突きを食らわせ、壁に激突させる。

 

「何が何だか知らないが……、今がチャンス、か……!」

 

航はメガヌロンの脚がどけられたことと、共食いに夢中でこっちに気付いてないことをチャンスに逃げだそうと力を振り絞って立ち上がるが、

 

 

グチッ

 

 

「がっ……あっ!?」

 

いきなり体に太い杭みたいのが打ち込まれたかのような激痛が走る。そして口から多量の血を吐き、そして膝を着く。

いきなり何があったのか、航には理解できなかった。ただ痛みの根源は背中寄りの右横腹。

 

「いったい何だ……よ……」

 

航は痛みで意識を失いそうになるが、逆に痛みで意識を失えないことにもどかしさを感じながら頑張って後ろを振り向くと、

 

「なんで……もう一体、増えてん、だよ……!がはっ!?」

 

「ジジジジ、ギギ」

 

そう、先程共食い同前のことをしていたメガヌロンの他にもう一体メガヌロンが潜んでいたのだ。いったいどこに潜んでいたのかは分からない。だが、漁夫の利を得るかのように航にその鋭い牙を突き立て、横腹の肉を食い千切らんとする勢いで切り裂く。

そして血がバケツから水を撒いたかのように散らばり、コンクリートの地面を赤く染め上げる。

 

「がぁぁぁぁぁ!!??」

 

痛みで地面をのたうち回り、航は傷口を手の平で押さえて止めようとするが、傷口が大きすぎるため血が溢れだして止まらない。

その周りをメガヌロンが動かずに見ており、航は血が多量に抜けて意識が朦朧としだす。

 

「見つけた……わ……」

 

その時、航の声を聞いてか先程の茶髪の女が銃を構えて現れるが、目の前の惨状を見て固まってしまう。3体のメガヌロンに血塗れの航。どう見ても今来てもいい空間ではない。女の額からは滝のように汗が流れており、目が挙動不審になってる。

 

「えっと、間違えがふっ」

 

その時、女の鳩尾らへんからいきなり突起物が生え、女の口から大量に血が噴き出す。女はいきなり何があったのか理解してない、いや、理解したくないのか額から冷や汗が滝のように出ている。

 

「えっ、一体何が」

 

「キリリ……」

 

女の後ろにはメガヌロンが2体おり、前脚の長い爪を槍のように使って女の胸部を貫いたのだ。

 

「ごぱっ」

 

そして爪を引っこ抜かれて滝のように血を流しながら倒れる女。そしてその女を踏みつけて、メガヌロンがここに5体揃う。

 

「カラララ」

 

「キッキッキッ」

 

「ガラララァ」

 

「ガガァ……」

 

「ギ、ギギィ……」

 

そのとき、先程まで共食いをしあってたメガヌロン2体が力尽きたのか地に伏せる。お互いに顔は抉れ、脚は数本無くなっており、固くてひび割れた体から体液をダラダラと流している。

だがそんなのは関係ないと言わんばかりに残ったメガヌロン3体の内1体は、ほぼ虫の息ともいえる航へとゆっくりと近づき、そして鉄の臭いに近い異臭のする口をガパッと開いて航の顔へと近づき、航を食らおうとする。

だが

 

「まだ、死んで……たま……る、か、ぁ!」

 

航は最後の気力を振り絞り、迫りくるメガヌロンの口をガッシリと掴んで受け止めてどうにか押し上げようとする。だがその間にも腹部から血が止まることなく流れ続け、顔は苦悶の表情が浮かび、

 

(まだ刀奈といろんなことしてないのに……こんなとこで死ぬのか?)

 

「……いやだ。嫌だ。嫌だ!」

 

航はそう叫んで力一杯メガヌロンを押し返そうとするが、血を多く流しすぎたのか力が抜け始める。

 

『情けない。なら体を……』

 

(えっ)

 

何の声だったのだろうか。重くてとても響く声だった。そして意識が何かに奪われる。

 

「あっ……、がぁ……ごぁぁぁァァァアあアあ!!!」

 

「ギィア!?」

 

その時、航の瞳が点になるほど一気に小さくなり、咆哮ともいえる叫び声をあげると同時にメガヌロンの顎を力任せに引き裂く。

痛みに耐えれずメガヌロンは航から離れようとするが、その首を航はがっしりと捕まえ、そしてどこにそんな力があるのかと言える力でメガヌロンの首を絞め始める。

 

「ギィィィィ!!!!???」

 

「ゴァァぁあぁぁア!!!」

 

そして、メガヌロンの首は固い外皮と共に砕け散った。頭は明後日の方向へ飛んでいき、体液があちこちに飛散する。航の顔にも大量に降り注ぐが、そんなの関係とばかりにもう1体のメガヌロンを睨みつけた。

 

「ギィ、ギギギギ……」

 

「ガァぁァ……。っ、あ、あれ……?」

 

航は我に返ったかのように動きを止め、周りを見渡す。目の前にあるのは首がないメガヌロンの死骸。そして奥に二体のメガヌロン。いったい何があったのか記憶にない。

そして残ったメガヌロン達はあまりの光景に驚いたのか、一歩一歩後ろへと下がり始める。

 

「今、だ。逃げな……い、と……」

 

航はメガヌロンの死骸から抜け出し、傷口を抑えながら走って逃げ出そうとするがいきなりその場に倒れこんだ。

 

「あれ……」

 

走ろうとするがまともに走れない。一歩踏み出そうとするたびすぐにフラフラになって倒れこんでしまう。一体なんで動けないのか。変な笑いが出てきてしまい、航は涙を流し始めた。

 

「おいおい、どうなってるんだよ……動けよ……。たのむ、動いてくれよ、俺の体……!俺、まだ死にたくねえよ……!」

 

涙声になりながら叫ぶが、体は全く動かない。先程から血を流しすぎたための貧血と、メガヌロンの牙から出る毒によって体のコントロールが効かないのだ。そのため体が痺れたかのように動けなくなり、血が抜けすぎたせいか航の意識は朦朧とし始め、そして地に横倒しに倒れてしまう。

その時、航の肋骨をメガヌロンの前腕の鋭い爪が貫いた。

 

「がぁ……!?あああああ!!!!」

 

激痛に苦しむ航。だが体を動かす気力もなく、ただ貫かれた痛みに悲鳴を上げるしかできない。

 

「キキキ、カカッカカッカカ」

 

笑い声のような声を上げ、航の頭を脚でガッシリと押さえつけるメガヌロン。そして何ともいえない奇声ともいえる声を上げた時だ。

 

「キキキ」

 

「カカッ」

 

どこにいたのだろうか、街灯の当たってない影から大小様々なメガヌロンが現れ、その数は恐らく10体ほどが航を押さえてるメガヌロンの近くへと寄ってきたのだ。

そして全員は見定めるかのように航を見ており、何体かが前腕の爪を軽く航に突き刺す。

 

「が、ぁ……」

 

刺されたり切り裂かれたりしてるが、航はすでに悲鳴を上げる気力がないのか、呻き声に近い声しか上げない。だがメガヌロンは弄ぶかのような追撃はやめず、執拗に航の体に傷をつけていく。

余りの痛みに意識がついに失われようとした。

 

「航!」

 

その時だ、刀奈の声が聞こえたのは。何とか顔を動かすと、そこには息が上がりながらも航の方を見ている刀奈がいた。だがその顔は絶望に染まった顔のような表情を浮かべており、動けない状況でもある。だが航は、口をもぞもぞと動かす。

 

「痛い、よ……。たす……け、て」

 

航は力を振り絞って蚊の鳴くような声で助けを求めた。




ISの致命的な弱点がここに露出。そして助けに来た刀奈は航を助けることができるのか。そしてこの路地裏からの脱出はできるのか!

次回へ続く!


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脱出

ジュラシックパーク見てると、ここのメガヌロンと小型獣脚類のヴェロキラプトル(だったっけ?)が何か似てきた。


さて久々の最新話をどうぞ!


「痛い、よ……。たす……け、て」

 

その言葉は刀奈を再起動させるには十分な言葉だった。ハッとした表情を浮かべた刀奈は蒼流旋を展開し切っ先を地面に突き刺す。

すると刀奈の周りに水が集まり始める。いや、水を生成してるというのだろうか。そしてその水が血の色というかのように赤く染まり、刀奈の指と連動するかのように水がユラリと動いた。そして腕を上げると同時に水も盛り上がり、指先をメガヌロンに向けた時だ。

勢いよくメガヌロンに向かってた水、アクアナノマシンは得当たるの居るメガヌロンの足元に向かって一気に広く広がったあと、その場から一気に分裂しながらメガヌロンの柔らかいと思われる腹側へと向かい、そして一瞬にして凍りながらメガヌロンへと大量に突き刺さり、そのまま背中を氷柱となったアクアナノマシンが貫いた。

 

「キギィ!?」

 

メガヌロンは体を剣山で貫かれたかのように体中が穴だらけになっており、そのまま上へと押し上げられる。この時まだ息があったのか足などがピクピクと動いていたが、そのまま動かなくなりそして体全体が凍り始める。

その後血を流しながら倒れてる航を凍ってないアクアナノマシン優しく包み、衝撃を与えない様にすばやく刀奈の元へと手繰り寄せる。

そして航を自分の胸元に持ってきた後、強すぎない様に彼を抱きしめた。

 

「か……た、……」

 

「航、ごめんね……。痛かったよね。ごめんね……」

 

謝りながらポロポロと涙を流す刀奈。航はもう話す気力がなくなったのか、小さく口を動かすだけだ。。服が血で汚れるが構わない。ただそれを抱きしめる刀奈。

この時メガヌロンが襲ってきそうなものだが、いきなり仲間が穴だらけにされたとあってか警戒しており、威嚇音を出しながら刀奈がいるところから半径10メートルほど全部離れている。

この機を逃さず刀奈は抱きしめるのをやめて、ボロボロの上着をアクアナノマシンで切り刻んで航の現状を確認する。横腹に何かで大きく切り裂かれた傷と、右肺の部分に穴が開いている。他にもあちこちに傷があり、そこらから血が止まることなく流れている。

 

「航、痛むけど我慢して!」

 

「っ……!ぁ……!が、ぁっ!」

 

刀奈はアクアナノマシンを使って体の大きな傷、右胸と横腹を止血するが、その痛みからか航は悲鳴を上げ、刀奈の右腕の二の腕をガッシリと掴む。その力は異常に強く爪も立っており、刀奈の二の腕の骨がミチミチと軋み爪の刺さってる部分から血が流れるが、航の今味わってる痛みに比べればマシだとそう言い聞かせて傷口の止血をしていく。

 

「っ……!ぁ……」

 

だが航は痛みに耐えきれなったのか、気絶をしてしまう。だが痛みをずっと感じるよりはマシのため、刀奈は安堵の息を吐くが血を多量に流しすぎたため長居はできない。

 

「さて、あの虫たちをどう調理してあげようかな……?」

 

刀奈は無表情ながら怒りが強くにじんでおり、そして蒼龍を完全展開して航を左手で抱え、そしてハイパーセンサーを使って周りを見渡すが……。

 

「っ、ハイパーセンサーで反応しない……?あの体、生身でステルス性があるのかしら……?」

 

そう、ハイパーセンサーで影等は確認できても、どこに何体いるかが把握できないのだ。唯聞こえるのは、威嚇する大量のメガヌロンの声だけ。

街灯に影や姿が映ってる時はハイパーセンサーが捉えるが、光の当たらないところになると『目標LOST』と表示され、刀奈は右手に持ってる蒼流旋を固く握る。

 

(ハイパーセンサーは全く意味がない……。敵の数は未知数。航は重傷。さて、どうやってここから逃げ出そうかしら?)

 

一瞬上空に逃げるという手が思いついたが、上からもメガヌロンの声が聞こえるため、飛んだ時に一気に跳び付かれるという状態になったら終わりだ。重量で飛べなくなる可能性もあるし、何より航が死んでしまう可能性が高い。

その時だ、おそらく死んでたであろう街灯に明かりが灯り、チカチカとなりながら奥の道を照らす。この時ハイパーセンサーが捉えたものを見て、刀奈は冷や汗をドッと流す。

 

「嘘……。今、30体近くいなかった……!?」

 

先程よりたくさん増えている。しかもこれで真正面の道にいた数であって、真後ろの道に何体いるか把握できてない。そのため先程の怒りより一気に焦りが勝り始める。

 

「ぅ……ぁ……」

 

この時航が苦悶の声を上げる。刀奈は傷を覆ったアクアナノマシンはリミッター解除で赤くなってるが、そのほかに赤黒い液体が多量に混じってることを気付き、本気でやばいためここを抜け出すための最短ルートを算出する。

 

「キキキ」

 

だがいい加減メガヌロンたちが距離を詰め始めたため、刀奈は串刺しで冷凍状態になってたメガヌロンを蒼流旋で叩いて砕き、その砕いたときの音でビビらせて下がらせる。

そして蒼流旋に装備されているガトリングが火を噴いた。

 

『!?』

 

メガヌロンたちはその攻撃を避けようとするが、数が多すぎたことが災いしたのか、前にいたメガヌロン数体に当たっていく。だが外皮の硬さが予想以上に硬く、弾はほぼ弾かれてしまう。せいぜい効いたのは、関節に刺さったり、1メートル半以下の個体がハチの巣になった程度だろう。

 

『ギギガイギアイギアョ!!!』

 

もう数が多すぎて何て鳴いてるのか分からないが、怒ってることは確実だろう。だが航を傷つけられたせいで刀奈も怒っており、殲滅させたいとは思うがこの数だ。どこかのアニメみたいに一騎当千ができるはずもなく、空に向けて急いで逃げ出そうとするが、

 

「ギギィ!」

 

「嘘っ!?」

 

後ろのマンホールの蓋が大きく吹っ飛び、中から2メートル弱ほどの大きさのメガヌロンが出てきたのだ。刀奈はいきなりの不意打ちに対応できなかったため、蒼流の後ろに爪を引っかけてそのまま蒼龍の背中に飛び乗り、そして爪や牙を使って刀奈を攻撃する。

 

「きゃあ!」

 

攻撃はシールドで阻まれるが、いつまでも憑りつかれていたら機動力も遅くなるし、いつシールドエネルギーが無くなってもおかしくない。

 

「っ……、この!離れな、さい!」

 

刀奈はアクアナノマシンを使って無理やり引きはがし、そのまま壁に叩きつける。この時にアクアナノマシンの一部を氷柱化させて叩きつけると同時にメガヌロンの腹部を串刺しにして仕留める。

だが今の攻撃で飛行機能の一部が破壊されてしまい、上空の高速移動が出来なくなってしまう。ISにはPICが付いてるが、推進機構とは別物のため飛行機能を破壊されたとなると移動は地上に限られる。

そのためホバーの真似事するかのように高速移動をする後ろにはメガヌロンが多数いたが、蒼流旋のガトリングの弾をばら撒いていく。牽制程度でしかないが、無いよりはマシだ。

刀奈は逃げながらガトリングを連射するのであった。

 

 

 

 

 

それから極力ルートに沿って移動をつづけた刀奈は一回立ち止まって後ろを振り向く。メガヌロンたちの足音は聞こえず、ただシンとしていた。

 

「一応撒いたわね……。さて、もうすぐ出口だから……」

 

 

この時刀奈は自分のスマホをISで繋いで、近くにいる従家の者に急遽迎えに来るように言い渡す。

 

『分かりました。では○○のところですね?』

 

「ええ、お願い」

 

そして通信を切り、目線を航の元へと下ろす。肌の色は出血多量が原因で青白くなっており、呼吸が通常通りではない。

 

「航、もうすぐだから我慢して」

 

「ガァ!」

 

「きゃあ!?」

 

その時だ。刀奈が通ろうといた道の壁にひびが入ったかと思うと、大きな音を立てて砕け、中からメガヌロンが現れる。だがさっきいたメガヌロンと違い、大きさが一回りは軽く大きいのだ。体長3メートル。航が最初に見たメガヌロンだ。メガヌロンは頭を低くして両腕を高く上げており、威嚇音を出している。

 

「ガガガガ……」

 

「さっきのよりでかいわね……。でも1体なら」

 

蒼流旋を構える刀奈だが、なぜ1体しかいないことに疑問に思う。先程みたいに軍勢のごとくいるのではないのか?

そう考えると何かがおかしい。刀奈は蒼流旋を何時でも突き刺せるように構えてるが……。

この時、肩に何かが落ちてきて、それを見た刀奈は顔を真っ青にする。

 

「カカカ」

 

「きゃあぁぁ!?」

 

肩には大きさが50センチのメガヌロンが乗っており、刀奈は一気にそれを振り払い、そのまま地面に叩きつける。

だが何かが足に当たったことをISが知らせる。何が当たったのかが気になったのか、刀奈は視線を下に向けたらそこにあったのは……。

 

『キキキ』

 

「な、何よこの数は!?」

 

そう足元には体長が先程の小型のメガヌロンが少なくとも30体はおり、それが刀奈の足元に群がってるのだ。しかも足を上ってくるとあってとても気持ち悪い。

 

「は、離れなさい!」

 

そしてメガヌロンが足をよじ登ってくるとあって、刀奈は必死に振り払うがそれでも上ってくる小型メガヌロン。

業を煮やしたのか刀奈はアクアナノマシンを自分にまとわせようとするが

 

「っ!?」

 

いきなり嫌な予感がした刀奈は、まだ使えるスラスターを利用して無理やりその場を離れる。それが幸いだったのか引っ付いてたメガヌロンが剥がれ、そして先程いたところにメガヌロンが頭突きをしてきたのだ。

そして壁を陥没させながらも、ゆっくりと引き抜いて刀奈の方を向くメガヌロン。足元には踏み潰されたメガヌロンがたくさんいるがお構いなしだ。

それを見た刀奈は冷やせを流しており、蒼流旋を構えたまま若干ながら口元が笑ってる。いや、引き攣った笑いになっている。

 

「こんなの喰らったら下手したら大ダメージじゃない……!」

 

「カラララ……!」

 

メガヌロンは再び頭突きの姿勢になり、刀奈は蒼流旋を突きの構えに取る。このとき航を左腕で抱えてるから片腕だけになってしまうが、それでも力強い構えを取った。

そして

 

「ガガァ!」

 

メガヌロンは神速ともいえる速度で頭突きを放ち、刀奈は蒼流旋の切っ先をメガヌロンの頭部の甲皮に直撃させるが、頭部には一切ひびが入らず、ガリガリ音を立てながらも突きに耐えていたのだ。刀奈もメガヌロンの頭突きによく耐えられたのだが、後ろに2メートルほど押されている。この時苦悶の表情を浮かべているが、メガヌロンにとっては関係ない話だ。

お互い一歩も譲らず、メガヌロンが脚に力を入れ一気に押そうとしたときだ、刀奈に笑みが浮かんだのは。

 

「……甘いわね」

 

その時、刀奈の口角が上がり、蒼流旋を格納して体を逸らす。すると、支えを失ったメガヌロンは勢いよく壁に突っ込み、壁に大穴を開けるが痛みを感じていないのかそのまま顔を引っこ抜く。そして見たのは勢いよく自分から逃げ出す刀奈の姿だった。

 

「あなたと相手してる暇はないの。じゃあさようなら」

 

「ギギッ、ンギギギイ!!!」

 

メガヌロンはそのまま去っていく刀奈を追いかけようとしたが、足元にあった赤色の水たまりに気付かなかった。そして走り出そうとしたら、赤色の水たまりから氷柱が数本伸びてメガヌロンを貫く。そしてそのまま体を持ち上げられたメガヌロンは脚を動かすがまったく前に進まない。

いきなり何があったのか分からないのか、首を動かして状況を確認しようとする。だが動かないことに大きな違和感を覚える。

そしてメガヌロンは気付く。自分が串刺しになってることに。

 

「ガ、ァギ……キリリ……ィ!」

 

そして今更ながら遅れて断末魔を上げ、口からゴパッと体液を大量に吐き出して動きを止める。

 

「キィ……キ、キィ……」

 

そして小さく鳴いた後、目に光が無くなるのであった。

 

 

 

 

 

「楯無様!こっちです!」

 

「ありがとう!早く病院へ!」

 

「わかってます!」

 

あれから急いで路地裏を抜け出し、そこにいたのは無精ひげを蓄えた20代後半の男、従家である霧島家の長男、霧島大輔がいた。彼の車であるワゴン車に刀奈はISを一瞬で解いて航を抱きかかえた後、そのままワゴン車に飛び込むのように乗り込む。

このころには航の目は虚ろになってきており、刀奈はそんな航を見て体が小刻みに震え始めている。時折「航、大丈夫よね……?」や「お願い、神様……」とつぶやいており、ただ航の右手を両手で包むかのように握っていた。

この時傷口を覆っているアクアナノマシンはすでに全て赤黒くなっており、肌は逆に青白い。

この様子を見ていた大輔は刀から楯無の威厳がまったくないことに軽く呆れていたが、自分も似たようなことがあればああなるかも、と思いそして車のエンジンを始動させる。

 

「では飛ばしますよ」

 

大輔は車を法定速度以上に飛ばし、叔父のいる病院へと急ぐ。途中からパトカーに追われているがお構いなしだ。どうせ家の力でねじ伏せればいいと考えてる大輔は時速100キロで飛ばし、約10分後には目的の病院へと着き、そしてすでに待機していた救急隊員によってストレッチャーに乗せ換えられ、そのまま病院の中へと消えていく。

この時刀奈も付いて行くが、ここでいなくなったら出血多量で死んでしまうため、付いて行くのであった。

そして病院の前でただ大輔だけが残っており、胸ポケットから煙草を出して口にくわえて火をつける。

 

「こんなんだが、まあいいか。それにしても刀奈ちゃん、何であんな男がいいのかな~?」

 

そして月明かりが照らす夜空に向けて煙を吐き、つぶやきと共に煙が空に溶けるのだった。




さてようやく逃げ切った刀奈と航。果たして航の生死や如何に!?


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思惑

1週間更新は結構きつくなってきたが、それでもやらなければならないんだ!ストックが亡くなって焦ってきてるけどね。

では本編どうぞ。


「いいか!絶対に死なすなよ!」

 

「更識さん、いいですね?」

 

「はい」

 

あれから集中治療室に運ばれた航は上半身半裸で手術台へと乗せられており、今、刀奈が航の傷口を覆っているアクアナノマシンを取り除こうとしてるところだ。この時、少しでもミスれば航の助かる確率が一気に下がるため刀奈は気が抜けず、IS男性搭乗者を手術する医者たちも気が抜けない状況だ。

そして一瞬の空白の間、

 

「行きます」

 

刀奈は展開していたアクアナノマシンを取り除き、傷口から多量の血が溢れだす。いくら輸血はしているとはいえ、この出血だと体力が尽きて死んでしまう。そもそもあのとき襲われて、今に至るまでの間に体力が尽きててもおかしくないが、航は限界まで頑張ったのだろう。そして血が出ながらも医者たちは手術を開始する。

 

(航をお願いします……)

 

祈るかのように心で呟いた後、刀奈はぺこりとお辞儀をして手術室を出て行くのであった。

 

 

 

 

その後、刀奈は大輔にIS学園へと向けて送られていたが、車内で一切口を開かず、ただ暗い高速道路からの景色を眺めていた。

 

「楯無様、お気を落とさずに」

 

「あなたに何が分かるのよ」

 

ただ不愛想に答える刀奈に対して溜息が漏れる大輔。

 

 

「大丈夫ですよ、楯無様。彼はこんなんじゃ死ななないって知ってるでしょ?」

 

「そうだけど……」

 

「なら信じて待ってやりましょう。それがあなたのできることです」

 

「……そうね。なら私は待つわ」

 

それを聞いた大輔は笑みがこぼれる。

 

「その意気ですよ、楯無様」

 

「……ありがと」

 

だが刀奈は気付いてなかった。大輔の目が全く笑っておらず、そして口角がニィ、と上がってることに。

そしてワゴン車はIS学園のある神奈川県へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「ただいま、虚」

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

あれから時間は過ぎ、現在は夜9時。普通なら寮に戻っている時間だが、刀奈、もとい楯無は生徒会室へと足を運んでいた。

理由は航と一旦別れた後に起きた無差別殺傷事件のことについてと、そしてメガヌロンについての処置である。あれは更識ではもうどうすることもできず、自衛隊の力が必須だろう。そのための資料政策と、とある人に連絡を入れないといけないため、刀奈は部屋にあるパソコンを起動するが。

 

「お嬢様、ちょっといいでしょうか」

 

「どうしたの?」

 

この時虚がいきなり話しかけてきたため、楯無は手を動かすのをやめて虚の方を向く。だが虚は時折目線を逸らすなどをしており、楯無は何なのかと首をかしげる。

 

「お嬢様。とても悪い知らせがございます」

 

「……どういうこと?」

 

この時空気が張り詰め、虚はコクッと息を飲むが、ここで臆せば駄目だと思い、話題に入ることにする。

 

「詳しくはこれに書かれております」

 

そして虚が出したのは一通の封筒だ。だが封がされてるところにとある印がされており、それを見た楯無の眼つきが鋭くなる。

 

「これ、政府からのね。いったい何が……」

 

そして封筒の封を切り、中身を取り出して

 

「虚。これ、わかってて私に渡したの……?」

 

「はい。ですが」

 

「わかってる。別に貴女は何も悪くないわ」

 

この時の楯無の声はとても冷たいものであり、虚は冷や汗が流ながらも楯無から目線を逸らさない様にする。逸らせばどうなるかわからない。そう思えるほど楯無からは冷たい、恐ろしいオーラが出ているのだ。

そして楯無は誰かに電話を掛けるのか、立ち上がってスマホを取り出すが、この時封筒に入っていて紙が1枚、下に舞い落ちる。

そこに書かれていたのは、

 

 

篠栗航、その家族を抹殺せよ

 

 

これを見て冷静でいられるほど刀奈は人間ができていない。そもそもなぜ航とその家族なのだろうか?

刀奈はスマホの電話帳欄で『父親』と書かれたアドレスを選び、そして通話のボタンを押す。そして数コールの後、聞きなれた男の声が受話器から聞こえる。

 

『どうした、刀奈』

 

「お父さん、政府からの読んだ?」

 

『ああ、あれか。読んだが……政府はいったい何を考えてるんだ?ついに団体にでも乗っ取られたのか?』

 

そう言って受話器越しにため息が漏れるのが聞こえる。

団体ってのは女性権利団体のことだ。最近の政府は団体によって傀儡となってきており、いろいろとめちゃくちゃな条例が案として出されてきている。だがほぼ却下されており、最近いろいろと可笑しくなり始めている組織だ。

 

『まあこんなのは気にするな。航の方はお前に任せているし、篠栗家の方はこっちが見ている。だから大丈夫だ、問題ない』

 

そう言って軽い笑い声が聞こえるが、どうも不安が脳裏によぎってしまう。何故だろうかと思い、刀奈はとあることを聞く。

 

「ところで・・・・・どこの家が護るの?」

 

『ん?霧島家だが?』

 

「……そう。分かったわ。じゃあ切るね」

 

『ああ、じゃあおやすみ」

 

「うん、おやすみなさい」

 

そして通話を終了して、思い溜息を吐く楯無。霧島家でいいのだろうか?と思うが、あの家は前から色々と護衛任務をこなしてるだけあって信頼もある。だからこそだが、どうも大輔のことで気にかかるのだ。

 

(あの男、私を舐めるようにみていたのは気のせい……?)

 

病院から出て、すぐ近くに大輔はいたが、自分を見るなり少しニヤついていたのだ。

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫よ……。ところで虚ちゃん、霧島家についてどう思う?」

 

いきなり何なのだろうかと首をかしげる虚。だが楯無が真剣な表情を

 

「霧島家ですか?あの家は代々布仏にならぶ更識家の従家として動いており、現当主である隼人さんは更識家前当主である北斗様の一番の友人でございますが……」

 

「じゃあ次期当主のことは?」

 

本当に何だろうかと疑心の目で楯無を見つめる虚。だが真剣な目であることに変わりがないため、とりあえず彼について思うことを楯無に話す。

 

「大輔さんですか?彼は小さい頃はよく遊んでくれましたし、私はいい人と思うのですが……ただ、偶に気がかりなころがあるのですよね」

 

「気がかりな事って?」

 

「偶にジロジロと見てるような……」

 

「やっぱり……」

 

楯無が顎に手を当てて何かぶつぶつ言ってることに少し不安を感じ始め、

 

「お嬢様?」

 

「あ、んん。何でもないの。さて、資料も出来たし、瞬さんに言わなくちゃね」

 

瞬とは現在政府にいる役人であり、本名は中條瞬。40年前にモスラを東京に呼んだこのとある人物だ。

刀奈はその人物に電話を掛けようと、スマホに手を伸ばして番号を打とうとする。

 

「今の時間、大丈夫なのでしょうか?」

 

虚は部屋に備え付けられている時計を見る。時間は夜9時半を指しており、今かけても迷惑だろう。

 

「まあ、確かに。でも、今少しだけ残ってる特生自衛隊をまともに動かせるのってあの人しかいないのよ」

 

刀奈はそう言って小さくため息を吐く。

特生自衛隊。

過去にゴジラが殺された後、たくさん現れるようになった怪獣を相手にする組織だ。1966年に結成され、その後90年代までメーサー車などを用いて様々な怪獣を相手に勝ち星を奪ってきている。

その後1998年に現れたゴジラに大敗するが3式機龍を開発、そしてゴジラ相手に2度も引き分けている組織である。

だがこれも過去の話。

現在ISが最高の兵器と言われるようになって、自衛隊は大半が解散し、特生自衛隊もその煽りを受けていた。全盛期では隊員1000人以上だったのが、現在は100あっていいとこというほどに落ち込んでおり、さらに現在も隊員が減りつつある状況だ。

で完全に解散をしない様に食い止めているのが中條瞬であるのだ。

楯無は瞬へと電話を掛ける。そして数コールの後、優しい声の男性が出る。

 

『どうしたのかね、更識君。こんな時間に』

 

「こんな夜分にすみません、中條さん」

 

『いや、別に構わんよ。で私に電話を掛けるってことは……生物関連か?』

 

「はい。今からパソコンでその資料を送るので目を通してもらえませんか?」

 

そして先程まとめた資料を送る楯無。

 

『ん?わかった。えっと……。これは……、ふむ。……わかった。明日にでも動かせる隊を作っておく』

 

「本当にすみません。こんな事態になってしまって」

 

『別にいいさ。こっちは対生物が相手だからね』

 

軽い笑い声が聞こえ、楯無も小さく笑う。

 

『じゃあこっちはやっておくからそっちも頑張ってくれ。ではな』

 

「はい、失礼します」

 

そしてツー、ツーと音が鳴り、スマホをテーブルの上に置く。そして小さく息を吐き、楯無は近くにあったソファーに腰を下ろす。

 

「これでいいんだけど、やっぱり不安が残るのはなんでだろう……?」

 

不安そうな表情を浮かべる楯無の前に、一つ紅茶が出される。顔を上げると、そこには優しいほほえみを浮かべながら楯無の方を見る虚の姿であった。それに口を少しつけて飲む楯無。

 

「大丈夫ですよ。あの人はちゃんと期待に応えてくれる御方でしょ?それにそんなにくよくよしてたら航君に何も言えませんよ?」

 

「うん、そうね……。よし!なら他の仕事もさっさと終わらせるわよ!あと織斑先生にこのこと「織斑先生はもう寝てますよ」……なら明日の朝一に伝えるわよ」

 

そうして気合を入れなおした楯無は、今残ってる仕事を30分もしないうちに終わらせるのであったとさ。

 

 

 

 

 

現在夜10時。誰もいない職員室では家城燈が自身のパソコンの前で腕を組んで、小さく唸っていた。画面には様々なことが書かれており、その中でメガヌロンの写真が大きく張り出されている。

 

「更識さんがこんなに資料をくれたけど、どうまとめようかしら……。彼女視点で逃走劇の映像までくれるとは思わなかったけど、これ、編集もしないといけないし……」

 

9時過ぎに楯無が職員室に現れたことに驚いたが、この資料にはさらに驚かされた。

今度の授業はフランケンシュタインだったが、今回の事件はしっかりと一番優先で授業に取り入れないといけない。ただでさえこの学園から被害者がいるため、これ以上増やさないために様々なことをまとめるが……。

 

「そもそも1メートル半以上の大きさで外皮の強度が異常に固いってどういうことよ。これ、仕留めるのグレースケールでも使わないといけないの?あとハイパーセンサーで探索しにくいって……、完全に忍者じゃない」

 

カタカタとキーボードを打った後、少し手を止めて大きくため息を吐く。すでに職員室には彼女以外に誰もいないから溜息を吐いたが、何か空しさが残るため、再びキーボードを打ち始める。

 

「さて、更識さんの蒼流旋はガトリングが牽制用だから弾かれた可能性があるし、もしかしたら口径が大きいのだと希望はあるかも。でもね……」

 

そして再生した動画は、蒼流旋に真正面からぶつかっても拮抗しているメガヌロンの姿だ。楯無の突きは渾身ともいえるものだが、それを耐えきるメガヌロンの姿を注目していた燈はその場面で映像をストップさせる。

 

「これ、最悪なパターンでしょ。腹側が柔らかいと言っても、潜り込む前にやられかねないし。更識さんみたいな地中から攻撃できる武装……は無いか。ISってそもそも空中で戦うものだし。まあ対戦車ライフルとかあったら楽だね。逃げられそうだけど。あと一応はライフルとかでどれぐらいダメージが与えられるか知りたいわね……」

 

そしてカタカタとキーボードを打っていき、とある画像をたくさん出す。それは今回出現したメガヌロンに酷似しており、大きいもので50センチほどだ。

 

「それにしても……。まさか中国、ドイツからこれと同一の形をした化石が発掘されてるなんてね。検索サイト『グーグレ』でも普通にそう言う画像がたくさんあるし。まあ古代生物図鑑にも載ってるのは完全に見落としていたわ。あとはこれらね……」

 

そして別のページを開くとそこに書かれていたのは翼長2メートルほどの大きなトンボの化石と、それよりもずっと大きい全長10メートルほどの先程のトンボに酷似した生物の化石だ。前者は大きいトンボって感じだが、後者は顔が爬虫類とトンボの顔を足して2で割ったかのような顔つきだ。いや、トンボの割合が大きいだろう。

それを見た燈は小さくため息を漏らす。

 

「メガニューラにメガギラス、ねぇ……」

 

そして作業は夜明けまで続くのであった……。




さて、ついに航の手術が開始されました。
そして政府の思惑とは?


では次回に続く。


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2人の転入生

さて最近部屋の掃除をした妖刀です。ゴキブリの死骸が1つも出なかったよ。やったね!


では本編どうぞ


あれから連休は終わり、一夏は教室で朝のホームルームを待ちながら箒、鈴、セシリアの自分あわせて4人で今回の休み、何をしていたかを話し合っていた。

 

「でさ、一夏がこの後ガンダム……だっけ?その曲を歌ってたんだどさ~」

 

「いや、別にあれ歌ってもいいじゃねえか。あれの主人公、俺と声が似てるんだぞ」

 

「一夏さんみたいにイケメンなのでしょうね」

 

「え、俺がイケメン?はは、そりゃないだろ」

 

(((うわ~、全く気付いてないわ~)))

 

教室にいた女子達も一夏の言葉に固まっており、先程まで話していた、箒たちも軽く呆れかえっている。一夏は周りの反応が不思議に思ったのか首を傾げており、ある意味平常運転だ。

 

「それにしても航、来るの遅いな。食堂にも顔出さなかったし」

 

「どうせ寝坊でもしているのだろう。全く」

 

「まあまあ箒さん、そう言っても結局何なのかわかりませんから、そう言わなくてもいいんじゃないんですの?」

 

まあそうだがと渋る箒。その様子を苦笑いで見ていた一夏は、自分の方に数人女子が寄ってくることに気付く。

 

「ねえねえ織斑君!織斑君の使ってるISスーツってどこの?見たことのないやつだけど!」

 

「え、いきなり何なんだ?」

 

「実はね……」

 

それで一夏はこの経緯の説明を聞き、

 

「なるほどな。ああ、俺のは何でも特注品らしい。男のスーツがないからどっかのラボが作ったって。たしか……イングリット社のストレートアームズモデルってことだそうだ」

 

「へ~」

 

それを聞いた女子達は納得したのかうんうんと頷く。一夏はまあ言えたことからなのかほっとした表情を浮かべている。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、搭乗者の動きを……」

 

この時いつの間にか教室にやってきた真耶がISスーツの説明をし、その後生徒たちに弄られるところを見て何か和んでいた一同だったが、チャイムが鳴ったため鈴は急いで2組へ戻り、1組も一斉に席に着く。そして千冬が入ってくるのを待つが……。

入ってこない。いつもならチャイムが鳴ってすぐに千冬が入ってくるはずだが、入ってこないのだ。それ生徒全員が疑問に持ち、少し騒めき始める。

 

「はーい、静かにしてください!織斑先生は急な会議で遅れてきます!……ふぅ。さて今日のホームルームですが、皆さんにいい知らせです。転入生が2人入ってきます!」

 

『ええ!?』

 

いきなりのことで声を上げる生徒たち。そして教室の扉が開き、中に入ってきたのはズボンをはいた金髪の男子生徒と銀髪の女子生徒だった。

 

「え、男……?」

 

この時一人がそう呟く。

背は160もなく、体格もすらりとしている。髪はまあまあ長くて後ろで束ねており、顔は中立的ていうだろうか。

 

「シャルル・デュノアです。自分と同じ境遇の男子がいると聞いてやってきました。いろいろ拙いところもありますが、これから1年間よろしくお願いします」

 

そして綺麗にお辞儀をしたあと、教室はシンとしており、ダメだったかな?とシャルルは首をかしげるが……、それは突然のことだ。

 

「きゃぁぁぁぁあ!!!!」

 

いきなりの黄色い悲鳴で耳を塞ぐシャルル。なお一夏はすでに耳栓をしており、またか、という表情を浮かべている。

 

「3人目の男子来たぁぁぁ!!」

 

「来た!これで勝てるわ!」

 

「これでデュノア君×織斑君、いや……」

 

何かいろいろ言ってるが、シャルルは理解していないのか首をかしげる。一夏はとりあえず先程より音量が小さくなったかを確認し、恐る恐る耳栓を取る。どうやら声は先程より小さくなってるおかげか、安堵の息を吐く一夏。

 

「みなさーん。まだ自己紹介は終わってませんからねー!」

 

そう言って周りの視線を再び教卓の方へと向け、シャルルの隣に立っている銀髪の女子へと視線を向ける。身長は低いが眼帯をしており、少し近寄りがたい雰囲気をさらしだしている女子は、鋭い目つきで教室を見渡した後、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。日本には怪獣が現れると聞いてやってきた。以上だ」

 

「えっ」

 

真耶が小さく驚きの声を漏らす。一夏よりマシだろうが、さすがに短い。それでまだ何かないか聞こうとすると、ラウラが先程みたいに鋭い目つきで睨みつけてくるため、真耶は怖くてすくんでしまったのかもうこれ以上何も言わない。

その時ラウラは一夏の元へ歩き、そして一瞥した後に見下した目で一夏を見る。

 

「はっ、お前が教官の弟か。こんなのがあの人の弟とは情けないな」

 

「何だと?」

 

会うたびいきなり鼻で笑われ、眉間に皺を寄せてラウラを睨みつける一夏。だが全く怖くないのか、ラウラは再び鼻で笑い、真耶に言われた席に着く。シャルルもすでに席に着いており、ホームルームは再開される。

 

「ったくいきなり何なんだよ……」

 

一夏はそう呟き、小さくため息を漏らす。あの言い方からして千冬の知り合いと察した一夏は、何か嫌な予感を関したのか体をブルリと震わせる。

 

「せんせー、そういえば篠栗君がいないんですけどー」

 

その時一人の女子が気付いたことを話す。現在朝8時37分。すでにホームルームがあってるとあって遅刻は確定している。今までこんなことがなかったため聞いたのだろう。

 

「そういえば私も聞いてないですね……。誰か聞いてませんか?」

 

そう言って真耶が周りを見渡すが、だれも知らないのか全員が少し眉をひそめており、それを知った真耶は困り顔を浮かべる。

さてどうしようかと思った時、教室の扉が開いた。黒のスーツにキリっとした表情。織斑千冬だ。

 

「諸君おはよう」

 

そして千冬が遅れながら入ってきて、全員がきちんと挨拶を返す。そして教卓のとこに来た千冬はいつも通りながらも少し苦い顔をしており、全員がいったい何なのだろうかと少し疑問に思ってると、何か決したのか千冬が覚悟を決めたかのような表情で口を開く。

 

「さて、先程までいい知らせで舞い上がってたみたいだが、とても悪い知らせがある。まずは篠栗が生死不明の重傷を負った」

 

それを聞いた生徒たちは一気にざわめく。この時一夏は驚きの表情ととに千冬に掴みかかって聞こうとするが、頭を出席簿で叩かれて沈黙する。そして席に戻る一夏。

 

「だまれ。そしてその犯人……もとい原因がわかった。……怪獣と思われる巨大生物が渋谷に出現した」

 

先程よりざわめきが大きくなった。この40年間、守られていた怪獣からの平和がついに破られるのだ。

そして続けるかのように千冬は口を開く。

 

「現在家城先生が手に入れた情報を元に生体、弱点等を探ってる。あと自衛隊の方も住民の避難を主にし、巨大生物の殲滅を視野に活動を開始するそうだ。なおここ(IS学園)からの増援を出す予定は今のところはない」

 

そういえば燈がそんなことを言ってたことを思い出す生徒たち。あのことは冗談と思ってたのか、ほとんどの生徒たちが顔を真っ青にしており、からだがカタカタ震えてる。

一夏は、少し体が震えていることに気付き、

 

「さて、話が長くなったな。この後は2組との合同授業があるからすぐに着替えて第二グラウンドに来るように。あと織斑、デュノアを更衣室まで案内しろ。以上だ」

 

そして教室を出て行く千冬と真耶。周りは先程の報告に戸惑いを隠せないままで、ざわざわとうるさい。男はさっさと更衣室へと移動しなければならないが、一夏は先程の報告を聞いていまだ呆けたままだ。

 

「あの、お、織斑君!」

 

「ん?あぁ。えっと」

 

この時、一夏はいきなり話しかけられたことで再起動し、超えのした方を向くと、そこにいたのは若干困り顔を浮かべてるシャルルであった。

 

「あ、うん。僕の名前はシャルル・デュノア。でさ、早く案内してくれないと、周りが……ね?」

 

シャルルがチラリと横を見ると、すでに女子が着替え始めようとしており、一夏はやばいと思って急いでシャルルを連れて教室を飛び出す。

そして手をつないだまま走ってるためシャルルの頬は赤くなっており、一夏は何で赤いんだと思いながらも走るのをやめない。

 

「えっとなんでいきなり走るの?」

 

「今それは後だ。……来たぞ!」

 

『待ってー!織斑くーん!デュノアくーん!』

 

「いぃ!?何あれ!?」

 

後ろからは大量の女子の群れ。それを見たシャルルはそのあまりの多さに驚き、足がもつれて倒れそうになるが、一夏に支えられて再び走り出す。シャルルは一夏の走る速さに追いつけてないのか、途中でこけそうになるもなんとか付いて行く。

そして女子達との距離はどんどん広がっていく。

 

「あーん、二人とも待って~」

 

「はぁはぁ、あれが男での友情ね」

 

「いいわいいわ、筆が進むわ!」

 

何か危ない人たちがいるも、とりあえず更衣室が見えたため残りラストスパートを全速力で駆け、飛び込むかのように入る2人。肩を上下させながらも時間は授業開始の15分前で、十分時間がある。

とりあえず息を整えた2人は改めて自己紹介することにした。

 

「改めて俺が織斑一夏だ。一夏と呼んでくれ」

 

「僕はシャルル・デュノア。シャルルでいいよ」

 

「そうか。ならシャルル、これから男子3人、よろしくな」

 

「うん♪……うん?男子3人?」

 

この時シャルルは航のことをすっかり忘れており、3人という言葉に首をかしげる。

 

「まあ今はここにいないけど、航がいるんだけどな……。いったいアイツに何があったんだ……?」

 

一夏は腕を組んだまま何かぶつぶつ言っており、シャルルはそれを聞こうと耳を立てるが、いまいち聞こえない。だがそんなことをしてる間に時間が過ぎ、いい加減に着替えないとやばい時間だ。シャルルはそのことを一夏に少し焦りながら伝え、そして着替え始めるが。

 

「あのね、僕が着替えるときは後ろを向いたままでいてほしいんだ」

 

「へ?なんでだ?」

 

「いや、そのね。ぼ、僕にもいろいろあるんだよ!」

 

顔を赤くして言うシャルルに疑問を持つ一夏だが、まあ仕方ないかと思い、とりあえずお互い背中合わせで着替えることにする。

そしていつもながら着替えにくいと思いながらもせっせと着替え、そして向こうも終わっただろうと思って振り向くと、そこには今終わった仕草をするシャルルがいた。

 

「ちょうど着替え終わったか?」

 

「うん」

 

「そうか。……ん?そういやシャルルのISスーツ、着やすそう形だな」

 

「これ?デュノア社のオリジナルでなんだ。ベースはファランクスなんだけど、殆どフルオーダー品かな」

 

「へ~。ん、デュノア?そういやシャルルの名字って……」

 

「うん。僕の父親が経営してる会社なんだ」

 

社長息子かと軽く驚く一夏。だがシャルルの表情が若干暗いことに気付き、このことはもう触れない方がいいなと思ってどう話題を振ろうか考えていた時だ。

 

「ってやべえ!もうこんな時間じゃねえか!シャルル!急ぐぞ!」

 

「う、うん!」

 

時計の針が授業開始5分前を指してたことに気付いた一夏は、さっさとシャルルを連れて目的の第二グラウンドへと向けて走るのであった。

 

 

 

 

 

そのころ、ここは国会議事堂の会議室。ここに10数名の政府の役人たちがそろっており、男女で別れた席でお互いに意見がぶつかり合っていた。

 

「だから何で普通科なんかとの混合編成で出ないといけないのよ!」

 

「言っただろ!相手は数が分からん以上にISでも不安が残る!だからこっちも数を増やしてカバーするって言ってんだろうが!」

 

「そんなの必要ないって言ってるでしょ!」

 

「ちゃんと話は聞け!この資料は読んだのか!?」

 

お互いに意見がぶつかりあっているが、女達は男たちの意見に首を縦に振らない。

ここにいる女達は大半が女性権利団体に所属しており、おかげで意見が一致せず、常に平行状態となっており、この時奥にいた白髪交じりの少し細めの男性が小さくため息を漏らす。

 

「はぁ……。そんな下らんプライドとか疲れるな……」

 

「あぁ?何か言った?」

 

この時奥にいた男性、中條瞬はメンチを切ってきた30代半ばの女に対して軽く睨み返す。

 

「だから下らんプライドが疲れると言ったんだ」

 

「それはどういうことだ!?」

 

全く理解してない女たちに対して瞬は手元にあった資料を手に取り、

 

「現在IS男子搭乗者の片割れである篠栗航が意識不明の重傷を負っており、日本国家代表である更識楯無がその怪獣、もとい巨大生物に対して攻撃を加えるも場所の関係上有効打を与えることができず「そもそもそんなので怪我するぐらいならさっさと殺」すみませんがだまってください。っとどこまで読んだかな。えーと」

 

その後最初の方で配られた資料の内容を淡々と言い、男女構わず訳のわからんことを言ってくる輩を一喝して読み進める。

 

「……というわけです。分かりましたか?」

 

そして会議室は誰も何も言わない。女達は何考えてるのか分かんないが、男の方も何考えてるのかは分からない。

ただ、瞬には両方が何かよからぬことを考えてるのであないかと勘ぐってしまう。それほど静かで、自分を全員が見つめているのだ。

だが終わる予定の時間になってしまい、一斉に座っていたのが腰を上げて出て行く。そして誰もいなくなった会議室で瞬は一人席に着いてる。

 

「これでは埒が明かんな。さて、どうしたものか……。こっちの権限で特自を動かせないことはないが、団体の連中が何言ってくるやら……」




今まで書いた小説でも未開の地に入り込みました。自分の書いてるやつで金銀コンビが出てくるのこれが初めてですね。
あとラウラだけど、軍人なら怪獣に少しは興味を持ちます……よね?


では感想、誤字羅出現報告待ってます。


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授業とお昼と影

昨日熊本で開催されてる特撮博物館に行ってきました妖刀です。もう感想はすごく感動したの一言ですよ。とりあえずこれのことを語っていたら長すぎるのでまた今度ですがとりあえず本物のジェットジャガーの頭があるのは驚いた。

では本編どうぞ!


「遅いぞ、織斑、デュノア」

 

「「す、すみません!」」

 

一夏たちは息が上がりながらもあれから急いで走ったが、授業がすでに始まっており、全員が2人の方を見ているため遅れたことが恥ずかしいのか二人とも顔が赤い。

周りはこれでくすくす笑っており、すこし居心地悪いが自分の座るところに座り、教員たちの説明を聞くことにする。

この時、一夏は肩を軽く叩かれ、そして振り向くとそこには鈴がいた。鈴は若干不機嫌そうな顔をしており、一夏は苦笑いを浮かべたままだ。

 

「ねえ、なんでこんなに遅れたのよ」

 

「いや、シャルルが来て女子達に追いかけられたのと、着替え戸惑っただけだ」

 

「それにしては遅いじゃない」

 

「女子達に追われたら結構体力消費するんだからな?」

 

その後「ふ~ん」と言われて、そっぽを向かれた一夏は軽くため息を漏らす。そもそもあの数で追われる時の精神的恐怖はすさまじく、アレに捕まるとどうなるか分かったもんじゃない。

そして再び溜息を吐くと、今度は心配そうな表情のセシリアが詰め寄ってくる。

 

「一夏さん、大丈夫ですの?」

 

「まあ大丈夫だよ。そう言ってくれるセシリアは優しいなぁ」

 

「あらやだ。もう一夏さんったら」

 

セシリアは頬を赤くして、体をくねくねとさせてるが、一夏はなんでこうなったのか見当もつかないため首を傾げてる。

 

「さて、本日から格闘および、射撃を含む実戦訓練を始める」

 

この時千冬の声がしたため会話を中断し、一夏たちは声のした方を向く。この時1組と2組の2つのクラスの生徒がいるため、奥まで声を届かせるつもりなのか、いつもより少し声が大きい。

だがいったい何をするのだろうか。それが分からないため、周りは少し騒めく。

 

「黙れ。まあ今日は戦闘の実演をしてもらう。オルコット、凰、前に出ろ」

 

「え、なんで私!?」

 

「わたくしですの!?」

 

「出ろ」

 

「「はい……」」

 

千冬の若干ドスのきいた声で動かし、そして不満そうな顔で出る2人。なぜ自分たちなのか、それを聞くと

 

「専用機持ちの方がさっさとはじめられるからな」

 

確かにそうだが、何かが不満なのか二人からはやる気を感じず、千冬は小さくため息を吐いた後、2人の耳に小さくつぶやく。

 

「一夏にいいところ見せられるぞ」

 

「よし!ならばやってやろうじゃないの!」

 

「ここは代表候補生の出番ですわね!」

 

いきなりのテンションが上がったことに、目を点にする生徒たち。

 

「で、誰が相手なの?別にセシリア相手でも構わないけど」

 

「あら、別に貴女でもいいですのよ?」

 

「待て2人とも。お前らの相手は……来たか」

 

この時上空から空気を切り裂く音が聞こえ、全員は空を見上げるとそこには、モスグリーンのラファールリヴァイブが地表目掛けて来ている。そして地表に近くなると体を反転させて勢いを殺し、足をゆっくり地面に着けて着地をする。

だがこの時全員は搭乗者の顔を見るなり、驚きの表情を浮かべてその人物の名前を叫ぶかのように呼ぶ。

 

『山田先生!?』

 

「ん、皆さんどうしました?」

 

そう。ラファールリヴァイブに乗っていたのは、1組副担任である山田真耶なのだ。全員はまさかの搭乗者に驚きの表情のまま固まっており、困った表情を浮かべた真耶が千冬の方を向くと、小さくため息を吐いて千冬は出席簿を叩いて全員の意識をこちらに向ける。

 

「では2人には山田先生を相手にしてもらう」

 

「「へっ?」」

 

この時2人はまさかのことに固まる。いや、他の生徒たちも固まっており、ほとんどがキョトンとした表情を浮かべてる者しかいない。

まあ今までの真耶の行動を顧みると、どうしても強いようには見えないため、どうしても戸惑いが生まれてしまう。

だが千冬はそれを読んでたのか口元はニヤリと笑っており、誰もこのことに気付いていない。

 

「まあそうやっていろいろ言ってろ。こう見えても山田先生は日本の代表候補生だったんだ。だからお前ら2人ぐらいなら簡単にいなせる」

 

そう言われて頭に来たのか、セシリアはムスッとした表情を浮かべるが、鈴は真耶を見て若干警戒をしている。まあ、無人機が襲来したときの教員の対応を近くで見たとあって、真耶も例外ではないのだろうと考えてるのだ。

真耶は2人の表情を見たとき、若干顔を青くして千冬の方を涙目で向く。

 

「ちょ、織斑先生。そう煽ったら……」

 

「実際は大丈夫なのだろ?」

 

「いや、その……」

 

こう話してる間に生徒たちはすでに大きく離れており、鈴は青龍刀の柄同士を繋いで片手でぐるぐる回しており、セシリアはスターライトmk-Ⅲを構えて2人ともすでに戦闘体勢が整っている。

 

「いや、その、2人とも……?」

 

「先生早く始めましょう」

 

「そうしないと時間の無駄ですわ」

 

「……わかりました。では始めましょうか」

 

諦めたのか真耶はため息を漏らして、真剣な表情で2人を見る。今まで見たことない顔に鈴とセシリアは少し驚きの表情を見せるが、こちらもお互い真剣な表情で自分の得物を構える。

真耶は右手にサブマシンガン、左手にはアサルトライフルを展開する。

 

「では、始め!」

 

そして千冬の掛け声と共に鈴とセシリアは一気に上空へと上がり、それを確認した真耶は少し遅れて上空へと飛び立つ。そしてセシリアはスターライトmk-3で真耶に牽制を掛けながら、ずっと練習してできるようになったビットの同時使用で真耶に攻撃を仕掛けるが、真耶はそれを最小限の動きで回避し、ライフルを撃って自分の動いてほしい方向へと誘導する。

その時、鈴が青龍刀を投げてきたため真耶はサブマシンガンの弾を連続で当てて勢いを殺し、薬指と小指の間に持ってた柄付きハンドグレネードを鈴目掛けて投げる。

 

「そんなの利かないわよ!」

 

鈴は龍砲でハンドグレネードを弾き飛ばし、そして龍砲を連射して行くが真耶には1発も当らない。セシリアもビットを飛ばすが全く当たらず、お互いにイライラが募り始める。真耶は攻撃を一切掠らせずにこちらを的確に攻撃してくるため、いい加減に頭に来た鈴は、青龍刀の柄を分離させて二刀流にする。

 

「あーもう!いい加減に当たりなさいよ!」

 

「あ、鈴さん!?」

 

鈴は青龍刀を両手に構えて真耶に突っ込み、そして二刀流を駆使して切りかかるが全く当たらず、時折近接ブレードを使って受け流していく真耶。

その光景は下の安全なところにいる生徒たちを驚かせるには十分な事だった。

 

「さてこうしてる間だが、シャルル、山田先生が使ってる機体の説明をしろ」

 

「あ、はい」

 

空中の戦闘を見ながら、シャルルは機体解説を始める。

 

「山田先生が使ってるのはデュノア社開発の『ラファールリヴァイブ』です。第二世代後期の機体ですが、その機体スペックは初期世代第三世代型にも劣らず、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です」

 

「いや、もういいぞ。上ももうそろそろ終わりそうだしな」

 

千冬がそう言った後、上では真耶優勢で事が進んでいた。二人の様子は息が上がっており、肩を上下にしながら呼吸をしている。

 

「くっ!教師ってここまで強いの!?」

 

「ここまで当たらないとなると……!」

 

2人は先程から近接、遠距離からの攻撃を仕掛けるも真耶に全く当たらずにイライラも溜まっており、攻撃がドンドン雑になっていく。だがそれを見逃す真耶でなく、グレネードを数発放って爆風も利用して動かしたい方向へ2人を動かす。その結果

 

「鈴さん!?」

 

「嘘っ!?」

 

お互いの機体がぶつかってしまい、動きを止めてしまう2人。そこに真耶はグレネードを射出し、近接信管で起爆しようとした時だ。

 

「セシリア!回避を!」

 

「え、ええ!」

 

そして起爆するギリギリでスラスターを吹かして別方向に逃げる2人。だが真耶はそれを予想してたのか、とあることを2人の近くに仕掛けており……。

 

「えっ」

 

「嘘……」

 

どっちがどっちを言ったかわからない。ただ二人は目の前には、いつの間にか投げられていたハンドグレネードをただ見てるだけだ。

恐らく逃げる方向を予想して投げたのだろう。だがそれが絶対その方向に行くとは限らない。だが真耶はそれを見事に当てており、セシリアと鈴はただそれに驚きを隠せず、一瞬の刹那、真耶の顔を見る。

その眼は真剣そのものであり、舐めかかった自分たちとは全く違うものであった。

そして2か所が爆発し、その煙から2人が墜ちてくる。その後墜落してISを解除した後に二人はとても落ち込んでるのか、俯いたままだ。まあ、いつもの真耶を思い浮かべて舐めかかった結果がこれだから無理ないだろう。

 

「これで諸君も教員の実力を理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」

 

『は、はい!』

 

その後生徒たちを訓練機に乗せて歩かせるという授業があり、専用機持ちを班長に別れろと千冬は言うが、生徒は男子搭乗者である一夏とシャルルの所へと大勢が集まったため、教員たちは溜息を吐いて千冬が一喝し生徒たちを分けさせる。

その後生徒の1人がISを立たせた状態で下りてしまい、一夏がお姫様抱っこでコックピットまで運んだせいで一夏の班の他の子たちが立たせたまま下りるというハプニングが起きたが、他は特にどうということはなく授業は終わるのであった。

 

 

 

 

そして昼休み。学園の屋上には一夏、箒、鈴、セシリア、シャルルの5人がおり、それぞれが手に弁当を、いや、シャルルは購買で買ったパン類を数個持っている。

 

「あはは、僕がここに来てもよかったのかなぁ……?」

 

「仕方がないことですわ。さすがにあれを見たらこっちも同情してしまいますし」

 

一体何があったのかというと、。今から約10分ほど前、一夏の周りには箒、鈴、セシリアがおり、全員が手に弁当箱を持って睨みあっていたのだ。

 

「一夏は私と昼食を食べるのだ!」

 

「何言ってるの。私の酢豚を食べさせるのよ」

 

「いいえ。私の作ったサンドイッチを食べさせてあげるのですわ」

 

「「「ぐぎぎぎ……」」」

 

完全に睨みあい状態になっており、一夏はこの状況をどう打破しようか考える。

とりあえず変な事言うとボコボコにされるってのは航からの忠告で覚えている。だがこの状況で何か言わないとどう見てもやばい雰囲気だ。

 

「「「一夏(さん)!誰と食べたい(ですの)!?」」」

 

「え、えっと……。と、とりあえず一回ここ離れようぜ。周りが迷惑してるみたいだしさ」

 

周りにいる女子達はいつもの光景を呆れたかのような目で見ており、通路の場所を取りすぎてるせいか通る生徒が嫌そうな顔をする。それに気づいた3人はとりあえずどこに移動するか話し合い、そこに一夏を連れて行こうとするが、この時大量の足音が聞こえる。

 

「ちょ、ちょっとまってくれるかなぁ!?」

 

「うおっ、誰だ!?……何だ、シャルルか……」

 

いきなり声がしたため一夏たちは驚いて周りを見渡すと、目の前の曲がり角から現れたのは額に汗を浮かべ、肩を上下させて息をしてるシャルルだ。彼は何かに追われてるのか、顔を次第にきょろきょろと動かしており、安心したのか安堵の息を吐く。

だがいったい何があったのか、少し不安になった一夏はシャルルの顔を見るが、シャルルは大丈夫という表情を見せる。だが一夏はとりあえず何があったのか聞きだすことにする。

 

「いったい何があったんだ?」

 

「いや、ちょっと『デュノア君はどこー!!??』やばい、来た!ちょっと隠れさせて!」

 

「え、ちょ!?」

 

シャルルはごめんと一言謝って女子3人の後ろに隠れる。背丈が箒より低いせいもあってか後ろに入れば全くわからず、せいぜい鈴のいるところからのぞかれたら一巻の終わりというところか。

その時、奥の方から大量の女子達が現れる。彼女たちの目はギンギンと血走っており、もう獲物を追う獣というほどだろう。あまりの光景にドン引きする一同だが、それをかまわず、一人の女子が一夏に血眼で詰め寄る。

 

「ねえ、デュノア君見なかった?ハァハァ」

 

「た、確かそこの階段を下に行ったような……」

 

「そう、わかったわ。皆!下に行くわよ!」

 

『おー!!』

 

そしてドドドと足音を立てながら階段を勢いよく下りていく女子達。そして足音がドンドンと遠くなり、そして足音が完全に聞こえなくなるとシャルルは安心しきった表情で出てくる。

あんなのに追われてたのか……。全員はシャルルに同情のまなざしを送り、シャルルは「え、どうしたの?」と困惑しきった表情で一夏たちを見る。

この時4人はシャルルが手にパン類を持ってることに気付き、とりあえずどうするか4人お互いに顔を見合い、結果的に。

 

「なあ、俺らと屋上で食うか?」

 

この一言で5人で屋上で食べることになったのだ。

そして5人は自分の持ってる弁当類を食べだすのだが、とりあえず話題が何もないから全員無言で食べてるため、何か話題がほしいのだが何もない。一夏は何を話すか考えてたが、この時シャルルが口を開いた。

 

「そういえば篠栗君ってどういう人物なの?」

 

「あ~、航は普段は優しいけど人外?あと怒らせると本気で怖いわね」

 

「鈴それ本人の前で言うなよ。怒られるから」

 

「わかってるわよ」

 

「「人外?」」

 

この時シャルルとセシリアが首を傾げる。箒は航のことは一応知ってるからなるほどとうなずいており、一夏と鈴はその説明をする。

 

「まあ俺らが中学の頃だったんだけど、あの時は航が本気でキレた時だったな……」

 

「あれは凄かったわね。航、数階上から落とされた机が頭に直撃してたもん。あれの重さって確か20キロぐらいだったかしら?」

 

「「「直撃!?」」」

 

全員が大声で驚く。まあそんなのを聞いて驚かない人はそうそういない。だが話はまだ始まったばっかりなのだ。

鈴は先程より喋り方のトーンを落として再開する。

 

「普通なら死んでてもおかしくないんだけど、航はこの後立ち上がったのよね。頭から大量に血を流しながら。そして数分後に教室に入ってきたのよ」

 

「その後は机を落とした首謀犯を顔の骨格が変わるんじゃないのかってほどに殴ってたんだ。あのときの犯人、もとい男女混じった数人は血祭りにあげられてたな」

 

この時周りから「ひぃ……!?」という声が聞こえたが、一夏は一拍おいて話すのを再開する。ただ先程と違って表情はとても険しく、聞いてる全員が心配そうにするほどだ。

 

「ただ俺は見たんだよ。あの時の航の顔を……。箒、三白眼って知ってるか?」

 

「わ、私か?え、えっと……確か瞳が普通の人より小さいんだったか?」

 

「正解。それでキレたときの航の目、ほぼ白目だったんだ。いや、厳密に言うと極端な三白眼で、瞳が点でしかなかったんだよ」

 

「もうあれは遠目で見ると白目状態にしか見えなかったわ」

 

思い出したのか体をブルリと震わす鈴。一夏も若干顔が青くなっており、それを見たセシリア、箒は訳が分からず困惑する。

 

「え、えっと、篠栗君って怖いの……?」

 

シャルルは先程聞いたことのせいか、恐る恐る一夏に聞くが、一夏は首を横に振って苦笑いを浮かべる。シャルルは首を回して他の人の表情を見るが鈴は一夏と似たような表情で、箒は全く知らないのか、自分と同じく首を傾げたままだ。セシリアはそもそも航と出会ったのは学園が最初だから全く知らないため、首を横に振って不定する。

 

「いや、基本的には優しいからな。小中学校の時は普通に勉強で分からんとこ教えてくれたりしてくれたし。あと俺と鈴と航、他に数人混じってよく遊んだしなというより、そうなった原因はとある子を庇った結果だしな」

 

「へ~」と少し驚いた表情でいうシャルル。一夏と鈴の言葉からして、決して悪い人物ではないと思えてきたが、ただ

 

「あと航には禁句ワードがあるからそれを言ったらキレかねないから注意したほうがいいわよ」

 

いきなり何を言い出すのか。聞いてた一夏以外はそう言う顔をするが、鈴の表情は真剣そのもので、とりあえず聞くことにする。それは数個しかなかったが、聞いた箒が若干驚いた顔をしており、

 

「鈴。そいつってもしかしてだが「言わないの」わ、わかった……」

 

いまいち納得いかないと顔をしかめる箒だが、この時授業開始前の余鈴が鳴ったため、5人は急いで教室へと戻るのであった。だが、シャルルは途中で立ち止まり、窓から外を見ながら誰に言ってるのか分からないが、口を小さく動かす。

 

「どうしよう……。お父さんが言ってた対象がいないんだけど……。まあ、とりあえず白式の情報を手に入れないと……。」

 

「シャルル!早くしないと遅れるぞ!」

 

「う、うん!今行く!」

 

そしてシャルルは一夏たちを追いかけるのであった。




山田先生からISに乗った時のドジ要素を引っこ抜きました。そもそもISのメッカである日本の代表候補生をしてるのに、ドジでいなければならないのか。それが俺には分からない。



あと更新が2週間に1回になりそう……。だけど書くのはやめませんからね。


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怪獣学 5

お久しぶりです。今書いてる章の次の章の資料をそれなりに集め出した妖刀です。それにしてもゴジラのサウンドトラックっていいですね。聞いてて気分が高まる。Amazonで新品を手に入れたからそれ絵気分がさらに上がってるし。

っと話がそれましたね。では本編どうぞ!


昼休みが終わり、現在午後1時。教室は昼休みの感覚が抜けきってないのか、あちこちで話し合ってる女子達がいる。何か時折一夏たちの方をチラリと見て、その後何か話し合ってるがよくわからない。

その時教室の扉が開いたため、女子達は一瞬で静かになり、授業の準備をする。

そして入ってきたのは家城燈である。

 

「さて、授業始めるわよ……。ふぁ……、眠っ……」

 

小さく欠伸をする燈はそういって瞼を擦る。この時数人の女子が彼女の目元に隈ができてることに気付く。一体遅い時間まで何をしていたのだろうか。

 

「せんせー、やる気あるんですかー?」

 

「わかってるわよ……、さて」

 

そして先程までののんびりした雰囲気をまるでなかったかのように、とても真剣な表情で生徒たちを見つめる。きなり空気がピリピリしだしたことに生徒たちは戸惑いの表情を浮かべている。

その中、燈はただ真剣な表情を崩さずに口を開く。

 

「さて、今日の怪獣学はフランケンシュタインだったんだけど、予定を変更して別の生物よ。後これからするのはテストにはもちろん出るし、ちゃんと受けておかないと自身の生死にかかわることでもあるから、きちんと受けておくように」

 

まるで千冬のような相手に反論させないような口調。いつもの優しい雰囲気の燈はそこにはおらず、いるのは何時になく真剣な家城燈だ。何人かの女子が何か反論しようとしたが、彼女のいつになく鋭い目線で強制的に黙らされ、ただ口がもごもご動くだけであった。

 

 

 

「さて、今日の朝聞いた通り渋谷に巨大生物が出現。そして篠栗君が重傷を負ったわ。私はその巨大生物と交戦した更識楯無さんからその時の映像データと相手の強度が大まかにまとめられた数値のデータをもらって、今回の資料を作成したのよ。……まあ、こんな前話は置いといて、と」

 

この時燈は手元のキーボードとカーソルを扱い、電子黒板にとある画像を幾つも出す。だが今までと違って背景が暗くてわかりにくいうえに、若干ブレがある写真ばかりだ。写真から出は分かりにくいが、黒くてヌメリとした光沢ある体。それに反するかのように目の部分が緑色に輝いており、近くにある鋭い牙がその生物の凶悪さを引き出しており、何人もの生徒がブルリと体を震わせる。

だがブルリと体を震わせるのはこれだけではない。4対8本の脚が生えており、一番前にある前肢は先が鋏、いや槍状になっており、それが壁に刺さってる画像もある。

 

 

「この生物はメガヌロン。前にラドンの時にも説明したけど……覚えてる子はいるのかしら?とりあえず覚えてる人は手を上げて?」

 

この時手を上げたのは一夏、本音、静寐、などの少数だ。燈はあまりの少なさに軽くため息を漏らすが、普通に予想は出来てたため、

 

「……まあいいわ。このメガヌロンは元々古生代、石炭紀に生息してたものと同一と考えられるわ。この時の大きさは大きいので50センチ。小さいのが20センチとバラバラね。で、これが当時の化石よ。これはドイツで発見されたものね」

 

この時灰色に近い土らしきものに、大きなヤゴの化石が映っている。その化石の隣に男性が立っており、大きさからして昆虫としては大型ともいえるだろう。この画像を見て、少し驚いたかのような表情を浮かべてる女子達が多数だが、この中でラウラが一番驚きの表情を示している。

 

「ふむ、我が国にこんなのがあったとは知らなかった……」

 

どうやら博物館とかに行ったことがないのか、とても関心のある目でその写真を見ており、周りはそんなラウラを不思議そうな目で見ている。

 

 

「先生。実際50センチなら襲われてもIS持ってる篠栗君なら大丈夫じゃないんですか?」

 

「違うよ。あの男が弱いから襲われるのよ」

 

「本当に男は弱いわね」

 

「まあ私たちがISを使えばどうにもなるけどね」

 

『キャハハハ』

 

そう言って一部の女子が騒ぎ出し、周りにいた女子達が嫌悪丸出しの目でその女子達を見ており、異様に重い空気になり始める。実際一夏も馬鹿にしてる女子達の方を眉間に皺を寄せているし、本音なんかいつもニコニコ笑顔のはずなのに全く目が笑ってない。それに気づいた本音の友人たちはうっすら冷や汗を流しており、そして本音が何か言おうと口を開きかけたとき、燈がつよく教卓の上を平手で叩いたのだ。

いきなり音が鳴ったため、体をビクッ!と震わせる女子達。一夏も例外でなく、体を振るわせた後に何だ何だ?と周りをキョロキョロと見渡すほどだ。

 

「ねえ、今は授業中だから静かにしてくれない?それともIS纏って渋谷のメガヌロンが出現したエリアに置いてけぼりにされたい?」

 

ただ抑揚のない、恐怖さえ感じさせるような声が無音の教室で響く。今までの授業は真耶みたいな雰囲気だったりしてたのが、今はその雰囲気さえ感じさせず、ただ騒いでた女子達を冷たい目で見ている。睨まないだけマシなのだろうが、女子達にはそう思える余裕がないのか体をカタカタ震わせている。

 

「ねえ、どっちにする?貴女たちがこの2択を選んでもいいのよ?選ばないなら私が選ぶけ「し、静かにしますから!」そう、ならすぐにその口を閉じなさい!」

 

燈が少し怒鳴るかのように言うと、生徒たちは一気に静かになり、周りを軽く見渡した後に燈は小さくため息を吐いた。

 

「……さて授業に戻るけど、メガヌロンは大きさによって体の強度が異なり、小型の1メートル半までは牽制用の射撃武器で潰せるけど、2メートルから牽制用が効かなくなり、今のところ最大体長3メートルの物が確認されており、ISの近接攻撃も防ぐほどの防御力を持ってるわ。特に一番固いのが頭部よ」

 

燈はカーソルを操って電子黒板に動画の画面を出す。

それは先程見た写真の時と同じで周りは暗く、ISを使ってるのだろうか、移動がとても素早い。道は細く、入り組んでいるため右に曲がったと思ったらすぐに左に曲がったりと、恐らく目線がカメラの映ってるところなのだろう。画面酔いをしそうな勢いだ。

その時画面が一時停止して、燈が電子黒板の前に立つ。

 

「これは更識さんからい頂いたメガヌロン交戦したときの映像よ。編集は一応してるけど、気分が悪くなったら席をはずしてもいいわ」

 

燈はそう言って電子黒板から離れた後、画面の方に顔を向けるのであった。

映像は再び再生される。

先程みたいに高速で移動してるが、時折心配そうに抱きかかえている航の方へと視線を映しているのがよくわかる。航は先程からぐったりした様子で、顔は青白くなっており、ところどころ血で顔を汚している。

それを見た女子達は小さく悲鳴を上げるが、これはまだ序章だ。

 

『ギギィ!』

 

『くっ!邪魔よ!』

 

この時マンホールから現れたメガヌロンは、蒼流旋によって下あごから頭部をくし刺しにさた後、そのまま穂先を捻って頭を千切り捨てられる。これで返り血を浴びる楯無だが、どちらかというと航に返り血がつかないようにし、そのまま次の曲がり角を曲がる。そして約10メートルほどストレートの道だったため、そこを駆け抜けようとしたら自分がいる約4メートル先の壁にひびが入って砕けるとともに、体長3メートルのメガヌロンが現れた。

その時、楯無が不意に目線を自分の肩に向けると、そこには体長約50センチのメガヌロンが引っ付いており、楯無はそれを振り払うが、足元に大量にいることに気付くなり顔が真っ青になる。

 

『ひぃ!?』

 

大量にメガヌロンが足元に引っ付いてるところを見た生徒たちは一気に顔を真っ青にし、何人かが口元を抑えて教室を出て行く。恐らく大量のメガヌロンを見て気持ち悪くなったのだろう。一夏も実際顔が青くなり始めてるが、最後まで見たいのか、足を抓って我慢しながら映像から目を離さない。

そのころ楯無は蒼流旋を構え、そのまま突撃をするが、メガヌロンも突撃をして頭で蒼流旋を受け止める。それと同時に力技で楯無を後ろに下がらせた。

 

「うそ……」

 

誰が言ったのかわからないが、生徒の一人がそう呟く。まあ無理もないだろう。ISが巨大な虫に力勝負で負けてるのだから。

そしてメガヌロンは力の入れすぎで壁に突っ込んでしまい、その間に楯無は一気に逃げ出す。そして振り返ったころには3メートルのメガヌロンは腹側から氷柱で貫かれて息絶え、そして路地裏から出るところで映像が終わった。

映像が終わったこの時には、生徒の数は半分ほど消えており、帰ってきた生徒は若干げっそりとしている。なお一夏は顔がもう真っ青だ。近くにいたシャルルが「大丈夫」と聞くと、「大丈夫だ、問題ない」と返すため、心配そうな顔を浮かべたままシャルルは燈の方を向く。

 

(おいおい、シャルルはこんなの見て大丈夫なのかよ・・・・・)

 

この時一夏はシャルルが普通に映像を見てるのに、顔色を全く変えないことの驚きを隠せない。

 

 

「さて、この5分ほどの映像だったけど……結構な人数が減ったわね。まあ無理ないわ。私も初めて見たときは似たような感じだったし。さて、この映像で分かった通り、メガヌロンは群れを成して行動し、この様に大型の個体はISの攻撃を受け止め、しかも押し返してくほどの力を持ってるわ。明確な弱点と言ったら腹側の外皮がそこまで硬くないということと関節部が割と脆いというところね。そしてこの生物にはISに対して恐ろしい能力を持ってるわ。それがこの映像よ」

 

燈はカーソルを扱って先程とは別の映像を2つ出す。前者は普通にアリーナで撮影されたもので、後者は、先程の映像と同じところで撮影されたものだろう、とても暗くてただぽつぽつとある街灯がそのくらい路地裏を少し照らしているだけだ。

そして前者の映像が再生される。操縦者は誰かわからないが教員の内の誰かだろう、ハイパーセンサーで様々な情報が取り入れられ、それを利用して的確に処理をしていく。実に普遍的な戦い方だ。だがこれがいったい何なのだろうか、生徒たちは首を傾げる。

 

「今のは私のISを使った時の映像ね。基本的に私はマニュアルで操作してるけど、ハイパーセンサーが様々な事の処理をしてたわね?次はそれを踏まえたうえで見てみなさい。で、これが問題の映像よ」

 

そして燈は後者のメガヌロンと遭遇したときの映像を再生する。映像は先程から暗く、ただ至近距離になってメガヌロンが見える程度だ。しかも先程と違ってハイパーセンサーが知らせていたアラームなども一切鳴っておらず、楯無はまるで自分の勘に頼るかのように動いているのだ。

 

「あとISを扱ったことがあんまりないだろうから言うけど、ISのハイパーサンサーは夜でも周りを昼のように見せる能力があるの。でもこれはそうではないわ。どういうことか分かる?」

 

燈が行ったことが理解できてなかったのか多数の生徒が首を傾げるが、一番最初に一夏を除く専用機持ちたちが意味を理解して顔を青ざめさせる。その後生徒たちも理解し始めたのか、どんどん顔が真っ青になっていき、燈はそれを見渡した後に口を開く。

何が言われるのか。生徒たちは事実びくびくしながらそれを聞くしかない。

 

「理解したようね。実際に更識さんは自分の肉眼や勘などを頼りにこのメガヌロンを捌いているの。これは国家代表とはいえ、実際には難しいことだわ。しかも手負いの篠栗君を抱えてるとなるとその難易度はさらに上がり、二人ともメガヌロンに食べられてもおかしくなかったの。それで『キーン、コーン、カーン、コーン』あ、チャイムが鳴ったわね。今日の怪獣学はここで終わり。次回は普通のに戻るか、これ(メガヌロン)の続きをするか未定だけど、予習復習はちゃんとしておくように。後、まだ戻ってきてない生徒たちにノートを見せるなりなんなりしておいてね」

 

そう言った後燈は教室から出て行く。そして謎の重圧から解放された中で一番最初に動いたのは一夏だった。

 

「やばっ・・・・・!?」

 

「一夏、どうしたのだ!?」

 

いきなり顔を真っ青にした一夏が教室を急いで出て行くため、箒は驚くが一夏に声をかける。だがそれが聞こえてないのか聞けてもそれどころじゃないのか分からないが、一夏はすでに教室の外で、箒が外に出たころにはすでに姿が見えなかった。

箒はどうしようか悩んでる時、隣に心配そうな顔を浮かべてるシャルルが立つ。いきなり何なのだろうか?箒は少し眉間に皺を寄せる。

 

「篠ノ之さん。僕が見てくるから」

 

「む……。な、なら頼むぞ」

 

「任せて」

 

どうやら一夏の心配してくれるのだろう。相手が女子なら警戒したが、男子なら問題ないなと判断した箒は、シャルルに一夏の様子を探らせることにするのであった。

 

 

 

 

 

その頃、一夏は猛ダッシュで教室を抜け出し、遠くになるが数少ない男子トイレに駆け込む。そして便器に顔を向けて下を向くと、胃がモゾモゾとした感覚がすると同時に吐瀉物を吐き出し、ただ来道悪さが無くなるまで吐き続ける。

 

「ぁぁ……。くそ……」

 

とりあえずいったん吐くものは吐いて出ないため、一夏はげっそりとした顔で洗面所で手と顔を洗い、顔を拭かぬまま目の前にある鏡を見るなり溜息を吐いた。

思い出すはあの映像。ただ最初は興味で映像を見てたのに、あのメガヌロンが大量に引っ付いてるところで顔が青ざめ、喉がすっぱくなる感覚に襲われた。だがそれを下に無理矢理押し戻して映像を見続けたが、途中からめまいが起きるし、吐きたい気持ちでいっぱいになってしまい、途中から授業に付いていけてない。

 

「はぁ……。ここまできついとは思わなかった。だけど航と楯無さんはあれを生で見たんだよな……」

 

そう、あの2人は生で見て、それで似てて帰って来てるのだ。自分は自衛隊に入りたいと言っていたが、こんなのと戦うとなると気が持つのか……。ただ一夏は洗面所で項垂れるしかなかった。

 

「一夏、大丈夫……?」

 

「ん……?何だ、シャルルか……」

 

その時声をした方を向くと、そこには新亜ぴそうな顔をしたシャルルが立っており、一夏は少しきついながらも心配を掛けない様に無理やり笑みを浮かべる。

 

「クラスのみんなが心配してたよ?」

 

「あぁ……あともう少ししたら戻る。だから待っててくれるか?」

 

「うん、わかった」

 

そしてシャルルが出て行ったのを確認した後、一夏は口を濯ぐなどをして出来るだけ臭いを消し、シャルルの元へと向かう。

 

「そういやシャルルってあの映像見たとき気持ち悪くならなかったか?」

 

「えっ?あ、ん。僕はそういう系のゲームをしてるから大丈夫だったよ」

 

「え、そんなので大丈夫なのかよ!?」

 

「う、うん」

 

この時シャルルは少し困ったかのような笑みを浮かべるが、一夏はそんなのを気にせずただ驚くだけだ。そして教室に戻った後、いろんな女子達に心配されたが「大丈夫だ」と返して席に着き、そして次の授業に備えるのであった。

そして次の授業が始まるのであった。




すでに被害者は出た。もう前みたいに生徒たちの勝手にさせるわけにはいかない。これ以上被害者を出さないために。


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一夏の特訓と結果

どうも、妖刀です。ずいぶん先になると思うけど、新たに別の小説を出そうと思う。


では本編どうぞ


IS学園で授業が終わり放課後。IS学園の第3アリーナでは生徒たちが訓練機などを使って特訓などをしており、大いににぎわっていた。そのアリーナの真ん中、そこではいつものように一夏と楯無の両名がISを展開しており、お互いに得物を握って模擬戦を行っている。

一夏は雪片弐型を中段で構えて、約10メートル離れた楯無を見るが、いつもみたいに蒼流旋を構えておらず、両肩から機龍のバックユニットに似た武装が装備されており、一夏にはロックオンの警告が多数なっていた。

 

「さて、一夏君。今日も始めるわよ」

 

「はい、お願いします」

 

いつも通りの返事のはずだが楯無は何か違和感を感じる。まあ気のせいだろうと思って楯無はバックユニットから誘導弾を左右合わせて6発放って弧を描くように一夏へと迫る。まあ特訓ということで誘導が甘く設定されているが。

一夏はスラスターを使って回避するが、ミサイルはそのまま旋回をして一夏を追いかけるため、一夏は前に習った切払いでミサイルを1~2つ切り裂き、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って楯無に突撃するが、彼女は蒼流旋を展開して雪片弐型を受け止める。だが、威力がいつもより低く、なぜかすぐに思い当った楯無は溜息を吐く。

 

「どうしたの一夏君。いつもみたいに気迫がないわよ」

 

「楯無さん、聞きたいことがあるんですがいいですか?」

 

「……何なの?」

 

この時楯無はいったん攻撃をやめ、ロックオンを解除して安全装置を起動させてバックユニットが暴発しない様にする。

一夏は時落ち目を逸らしながらであるがあることが気になってた。

 

「楯無さん、あの、航は……」

 

この時一瞬だけ楯無は顔を苦痛にゆがめるが、一夏がそれに気づかないことに感謝しながらも楯無は淡々とした表情で言う

 

「彼は今緊急手術中よ。一夏君、今は特訓の途中だからそれは後回しにして頂戴」

 

「……!?楯無さん!貴女は航のことが心配じゃないんですか!?」

 

そっけない返事に一夏は頭に来たのか叫ぶが、楯無の表情は全く変わらない。彼を見捨てたのか?一夏にはもうそう言う風にしか彼女が見えなかった。

 

「一夏君。私は彼を信じてるからこうやって集中できてるの。それぐらいできないと彼の幼馴染失格だわ」

 

そういった楯無の顔は穏やかな表情であり、一夏は驚きの表情と共に、彼女の考えにも驚く。

確かに彼は不死身とも思えるほどの回復力の持ち主だ。だが今回は今までと違って生物に襲われ、致命傷を負ったと聞いたのだ。それで航といえどもどうなるか分からないのに、楯無があそこまではっきりと凛とした表情で言うと……。

一夏は自分が友人を信じてないことを恥ずかしく思ったのか俯く。だがこの時いきなり衝撃が走り、気が緩んでた一夏はそのまま地面に叩きつけられた。グワングワンする頭を抱えながらも上を向くと、そこには蒼流旋を掘り下ろした姿でいる楯無の姿だ。恐らく蒼流旋で突かれたのだろうか、ただ彼女は先程の笑みを消し、真剣な表情で一夏を見下し、蒼流旋の穂先を一夏に向けた。

 

「いったい何なんですか!?」

 

「たしか貴方は将来自衛隊に入りたいって言ってたわね。こんなので上の空だと自衛隊に入るなんて夢のまたの夢よ」

 

「い、いったい何を……」

 

「私はね、もう航みたいに怪我人とか出てほしくないの。だからしっかりと集中して」

 

この時一夏は楯無が少し悲しそうな表情をしてるのに気付き、一夏は真剣な顔をして雪片を握りなおす。それを見た楯無は少し嬉しそうな顔をしてバックユニットの安全装置を解除する。

 

「よし、ちゃんと始めましょうか」

 

「はい!お願いします!」

 

「じゃあ、今からこの攻撃を回避していってね♪」

 

「えっ……」

 

その時一夏は多重にロックオンされていることに気付く。それは先程のミサイルの時の比ではなく、その2~3倍はある。

 

「では行くわよ……」

 

「ちょ、まって、それは、うわぁぁぁ!!??」

 

その後一夏はミサイルを切払いをしながらも最終的に墜落するのであった。

 

 

 

 

 

「まあ前よりは強くなってるわね。射撃系にもそれなりに対応できてるようだし」

 

「それはそうと、このミサイルの嵐はきついですよ……」

 

「今日はこれがメニューでしょ?}

 

「そうですけど……」

 

一夏は白式を纏ったまま地面に大の字で寝っ転がった状態で、頭もと立ってる楯無の方を見る。彼女も蒼龍を纏たままで一夏の顔を覗き込んでおり、汗だくの一夏と比べて全く汗をかいていなかった。

 

「さて、次は「あの……、ちょっといいですか?」ん?あら、貴方は」

 

その時楯無の背中の方から声がしたため振り返ると、そこにいたのはISにのったシャルルがいた。ISは訓練機でおなじみのラファールリヴァイブだが、色はオレンジ色で、部分部分が訓練機のラファールと違っていてさらに高機動になってるように見える。

 

「初めまして。知ってると思いますが3人目の男子搭乗者のシャルル・デュノアです」

 

「初めまして。この学園で生徒会長をしてる更識楯無よ。よろしくね、デュノア君。ところで何の用かな?」

 

「えぇっと、一夏と一回模擬戦がしたくて……。いいですか?」

 

「別に私は構わないわ。一夏君、どうする?」

 

寝転がっていた一夏はゆっくりと体を起こして立ち上がる。疲れはすでにとれたのか、もう息は整っており、そして格納してた雪片を再び展開する。

 

「決定ね。なら今から一夏君対デュノア「シャルルでいいですよ」あら、そう。なら一夏君対シャルル君の試合を開始ね。ただし制限時間は20分。それ以上はアリーナが閉まるから無理ね。わかった?」」

 

「「はい!」」

 

そう言って楯無は先程まで離れていたが、また近寄ってきた生徒たちをさがらせ、模擬戦を開始させようとした。だがこの時、一部の生徒がいきなりざわめきだすため楯無はその方向を見ると、そこには黒いISがこちらに向かっていた。

 

「ねえ、ちょっとアレ」

 

「嘘、ドイツの第三世代機じゃない」

 

「まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」

 

一体何なのだろうか?楯無は少し警戒していると、そのISはゆっくりと一夏たちの方へ近づき、それに気づく一夏。そこにいたのは黒いIS『シュヴァルツァ・レーゲン』を纏ったラウラ・ボーデヴィッヒである。

彼女は一夏たちを見るなり小さく鼻で笑ったため、一夏はイラッときたのか眉間に皺を寄せる。

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

「どうして今鼻で笑った」

 

一夏はラウラを睨みつけるが、彼女はただ見下すかのような目で一夏を見た後に再び鼻で笑う。しかも先程みたいに小さくではないので、一夏の眉間に刻まれている皺が深くなる。

 

「どうということはない。ただ噂ではここにメカゴジラと一緒に訓練している輩がいると聞いてやってきたのだが、どうやら……見込み違いだったようだな」

 

そして見下すかのように笑うラウラ。いきなりやってくるなりいきなり見下して笑う彼女に対して、一夏は雪片弐型の柄を強く握るが、決して倒そうとは考えていない。相手は専用機かつ初見の相手だ。下手に戦うとどうなるか分からないため、楯無に前言われたとおり様子見をする。

ラウラは一夏たちに挑発を掛けていたが、全く仕掛けてこないことに

 

「正直私はメカゴジラと戦ってみたかったのだが、いないのだとつまらないな。まともに戦える相手は……「私がいるわよ」ほぅ……」

 

この時ラウラが見たのは少し笑みを浮かべて腕組みをしている楯無だ。しかも腕組みのせいで胸が押し上げられ、それで強調された胸が謎の存在感を出している。

おまけに一夏もチラ見でそっちを見ており、シャルルがジト目で一夏を見ていた。その時一夏は一瞬ながら楯無に睨まれたことに気付き、何事もなかった顔の様に目を逸らす。ただ一瞬だが殺気に触れてしまった一夏は、気付かぬうちに全身から冷や汗を掻いていた。

 

「確かキサマは生徒会長の更識楯無だったか?なぜこんな弱い奴にISのことを教える?」

 

「こっちのもいろいろ事情があるのよ。それに誰だって最初はISに乗っても弱いものよ。貴女だってそうだったでしょ?」

 

この時ラウラの表情は一気に険しいものへとなり、楯無はあれ?何か地雷でも踏んだのだろうかと少し首を傾げる。

 

「……ない」

 

「え」

 

「私はISで弱くない!」

 

そしてラウラはプラズマブレードを展開し、楯無へと斬りにかかる。高速移動で一気に楯無へと近づき、そしてプラズマブレードを展開した右腕を振り上げて下ろす。この時楯無は腕組みをしたままで動かない。誰もが危ないと思った時、不可解なことが起こった。

 

「なっ!?AICだと!?」

 

プラズマブレードは刃が楯無に届く10センチほど上で止まっており、それと同時にラウラの動きも止まっている。彼女は体を動かそうとするも全く動かず、レールカノンも砲口が楯無の方を向いてなかったせいで標準も付けることもままならず、ただ隻眼であるが赤い瞳が楯無を睨みつける。

 

「いいえ、全く違うわ。答えはコレよ」

 

「これは、水か!?」

 

ラウラの動きを止めていたもの。それは大量の水が蜘蛛の巣みたいな形状に形成されており、そこに突っ込んだら裏の動きを止めていたのだ。

 

「違うわ。これは私のISに仕込まれてるアクアナノマシンよ。固体、液体、気体と好きな状態に変化させて攻撃防御と様々な戦法に使える優れものよ」

 

「それはロシアの技術だったであろう!」

 

「婆羅陀魏社は様々な世界のIS技術を持った企業よ。これぐらいのことは朝飯前らしいわ」

 

ラウラはもがいてこの水で出来た蜘蛛の巣から逃れようと四肢を動かしてもがくが、更に網はラウラの四肢をからめとり、もう完全に指一つ動けない。

 

「ここから放せ!」

 

「貴女が攻撃する意思をなくしてくれたら放してあげるわ」

 

「くっ……!……わかった」

 

ラウラはロックオンを楯無から外し、レールカノンの安全装置を起動させる。そしてプラズマブレードも格納して

攻撃意思がないと

 

「分かってくれる子は私は好きよ?」

 

「気持ち悪い」

 

その一言を吐いてラウラはピットの中へと戻っていく。何かショックを受けた楯無だが、その後姿を見届けた後に一夏の方を向くがどうも一夏の様子がおかしい。頬を赤くして、目があった時にすぐに目を逸らすのだ。楯無は私が何かしたのだろうか?と首を傾げる。思いつくのは一夏が自分が腕組みをしてた時にチラチラ見てた程度。

 

(もしかして……)

 

この時何か思いついたのか、一夏がこんなことをしてる理由を知らないふりをして聞くことにする楯無。

 

「一夏君、どうしたの?」

 

「いや、その」

 

「一夏は楯無さんの腕組みの時に興奮してしまったようで……」

 

「ちょ、シャルル!?」

 

一夏は顔を真っ赤にして否定するかのように腕をブンブン振るが、本人が気づいてるため、全くの無意味だ。楯無はわざと恥ずかしそうに胸を隠して

 

「一夏君のエッチ。航に言いつけてやるわ」

 

「それだけは勘弁!」

 

この時一夏は腰から90°の角度で頭を下げる。それを見た楯無はクスクスと笑い、一夏は呆けた顔で楯無の方を見る。

 

「ふふっ冗談よ。だけどもし触ったならISを纏た状態仰向けに倒して、逃げられないようにした後に蒼流旋でひたすら顔のとこをずっと本気で連続で突くからね。いい?」

 

笑顔を浮かべる楯無。だが目がまったく笑ってないことに一夏は恐怖を覚え、ただコクコクとうなずくだけだ。

その後改めてシャルルと模擬戦をしようとする一夏だが、監視している教師がマイク越しでもうすぐ閉館時間だから出て行くようにと催促され、模擬戦をまた今度に持ち越しとなる。

そして3人もピットに戻っていき、更衣室近くで楯無と別れた後一夏とシャルルは着替えており、10分後にはお互い着替え終わっていたが、一夏はどうしても気になることがあるため、シャルルがいる壁越しのロッカーへと向かう。この時シャルルは少しびっくりした表情を浮かべていたが。

 

「シャルル、どうして着替える時にそう体を見せない様にしてるんだ?」

 

「あ、あのね、それは誰にも言いたくないんだ。ただ、僕の体……」

 

この時シャルルは暗い表情を浮かべていたため、地雷を踏んだ一夏はやばいと思ってすぐに謝る。シャルルは「いいよ」と言うものの、顔には寂しい笑みが浮かんでおり、一夏はこの状況をどうしようかと首をひねる。

 

「あ、シャルル。そういえば日本でなんか興味あることってあるか?」

 

「え、興味?えっとね……あ、僕抹茶を飲んでみたい!」

 

「抹茶か……わかった。明日飲ませてやるから待っててくれ」

 

「うん!」

 

シャルルが笑顔を浮かべたため、一夏は一安心と安堵の息を吐く。とりあえずどうにか乗り切った……。この時一夏が何かせわしく表情を変えているため、シャルルは「変なの」と小さくつぶやき、そして二人は寮へと戻っていくのであった。

 

「何とかばれずに済んだ……」

 

シャルルはそう呟くが、一夏には聞こえていないのであった。

 

 

 

 

 

場所は変わり、ここは女子更衣室。一夏たちが更衣室で着替えてる時、楯無も着替えており、すでに制服に着替え終わったのだが、彼女は外に出ようとはせず、ただ着替えを置いてあったロッカーの後ろにあるベンチに腰かけていた。

この時の楯無の顔は先程とは打って変わってとても暗く、生き生きとした様子がまったく見られない。そしてベンチの後ろの方に手を着いて天井を見上げる。

 

「はぁ……何か疲れちゃった……。どうしてだろう……」

 

楯無はそう問いかけるが、誰も答えてくれる人はいない。ただため息が出ては俯き、また天井を見ては溜息を吐く。そんなことをしてる間に無駄に時間は過ぎるが、楯無はなぜ自分がこんな風になってるのか自問自答を繰り返すばかりだ。

 

「……航、早く帰ってきて。私、寂しい……」

 

ボソリと本音が漏れる。その一言はとても小さく、蚊の鳴くような小さく震えてる声であった。

そして再び溜息を吐いた後、ベンチから立ち上がって更衣室を出ようとした時だ。スマホから着信音が鳴ったため、楯無はバックの中に入れてたスマホを取り出して画面を写す。

 

「ん、電話?相手は……。……!?」

 

着信相手は大輔の叔父、霧島健二だ。彼は航の手術での担当のため電話に出るというとは一切なかった。こうやって着信してきたってことはおそらく航の手術が終わったのだろう。楯無はマシンガントークみたいにいろいろ聞こうとしたが、一旦落着いて冷静を装って電話に出る。

 

「はい、こちら楯無です」

 

『おお、嬢ちゃんか。健二だ。どういう用件で電話したのかわかってるな?』

 

電話からは少しドスのきいたかのような声が聞こえる。

 

「……はい。あの、おじさん。航は、ど、どうなったんですか……?」

 

心を落ち着けようとするも彼女の声は震えてしまい、それが向こうに伝わってしまう。楯無は

 

『……手術は成功した』

 

「え、本当で『だがこれを聞いても恨まないでくれ。これ以上は無理だった』えっ……?一体何が」

 

聞くな。電話を切れ。心はそう自分に呼びかけるも、楯無は止めることができなかった。たとえ後悔するとしても、

 

『確かに手術は成功した。だがな、-------』

 

「そん、な……」

 

楯無はそれを聞いたとき、スマホを手から離してしまい、カチャンと地面に落ちる音がするも、持っていた時の姿で固まったままだ。スマホからは健二の声がわずかながら聞こえるが、楯無にとってはすでにどうでもいいこと。糸の切れたマリオネットの如く楯無は崩れおち、ただその場で茫然としたままだ。

 

「うそ……航、が……。そん、な、ぁ……。航……うぅ……」

 

そして声を殺しながら、楯無は涙を流すのであった。




楯無は何を知ってしまったのか。


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思い

実際は昨日更新予定だったんだけど、いろいろあって更新できませんでした。すみません。


ここは東京のとある病院。そこで手術を終えた霧島健二は白衣に着替えたとに楯無に電話をしていたのだが、ガチャンと電話が墜ちる音と共に楯無の嗚咽が聞こえたため、彼は小さく肩を落としておとなしく通話終了ボタンを押す。

ツー、ツー、と終了音がなった後、彼はポケットにスマートフォンをいれる。

 

「流石に無理はない、か……。まあ彼の現状を聞いて、泣くのも無理なかろうな……。それにしても、いったい何に襲われたらあのような傷になるんだ?まるで杭を打たれたかのような傷だらけだったぞ」

 

思い出すは手術中の航の体。あちこちが杭のようなもので穿られたかのような傷があり、彼の尋常じゃない再生力でも回復しきれてないことから手術と並行で医療用ナノマシンを使うが、こちらの効果が全くないため医療用ナノマシンを一切用いない緊急手術となる。だがこれで焦ることでもなく、健二はまるで想定していたかのように自分の腕での手術を続ける。その後手術は順調に進み、半日以上は掛かったがどうにか手術は終了した。

だが、彼にはどうしても気になってしまうことがある。それは縫合は医療用ナノマシン抜きで行ったが、その後傷が癒着する可能性があるのか?という問題だ。手術していて分かったが、細胞が途中で壊死していってるのが目に見えて分かったのだ。それでも全力を尽くしたが、あとは航の回復力と精神力が頼みだ。

 

「すまない……。私にはもうここまでしかできないんだ……」

 

誰に言ったのかわからないが、健二はそう呟くことしかできなかった。

だが彼は気付いていない。航に起きている、本当の異変を。

 

 

 

 

 

ここはIS学園。放課後、航の状況を知った楯無は独り泣いた後に、仕事があることを思い出して生徒会室へと向かっていた。途中で生徒たちとすれ違ってもいつも通りの笑顔で答え、そして少し速足で生徒会室へと向かう。これを見た生徒は何か可笑しいと首を傾げるが、何が可笑しいのかよくわからず、結局は頭の隅へと追いやるのであった。

そして速足で歩くこと約5分。ついに生徒会室へと着き、そして扉を開くとそこにはいつも通り書類をさっさと捌く虚がいた。本音はおそらく簪の方にでも行ってるのかここにはおらず、現在生徒会室は2人しかいない。

 

「会長、ご苦労様です。それにしてもアリーナで何かあったみたいですが……」

 

「転入生のラウラ・ボーデヴィッヒちゃんがちょっと騒ぎ過ぎただけよ。まあおとなしくさせたから問題ないわ」

 

そう言ってふふんと胸を張り、扇子を開いて『無問題』と書かれている面を見せる。だが虚はそれをスルーするため、少し涙目になってしまう。

 

「まあ大変でしたね。そして会長、書類が溜まってるので仕事をしてください」

 

「はぁ……わかってるわよ。全くトーナメントが来月に迫ってるのに、今頃転入生とか来るから仕事が多くなって嫌になっちゃうわ」

 

そう愚痴をこぼしながらもその間に書類に目を通していく楯無。そして判が必要なのには判を押していき、虚も同様にさっさと仕事を済ませてく。はたから見たら手が4本あるかのように見えるほどに速く、最初見た時は山積みの書類も1時間ほどですべて捌き終わり、今となっては虚の入れたお茶を啜ってる楯無がいた。

 

「ん~、虚ちゃんの入れるお茶はやっぱりおいしいわね」

 

「お嬢様」

 

「ん、どうしたの?」

 

いきなり呼ばれたためそっちの方を向くと、虚は

 

「健二様から聞きましたが、航君……」

 

「……えぇ、わかってるわ」

 

この時の楯無の表情は暗く、それでも無理やり笑顔を作ってどうにかごまかそうとするが、虚にはバレバレらしく、溜息を吐かれる。

 

「失礼なことを聞きますが、もしかして航君のを聞いて……」

 

「な、何のことよ。私、泣いてなんかないんだからね!」

 

「誰も泣いてるとか言ってませんが……」

 

「あっ……」

 

顔を真っ赤にして否定するが、まさか鎌を掛けられてうっかり自爆してしまう。それでさらに顔を悪くする楯無だが、そしてコクりと頷く。そして航のことを思い出したのか、ぽろぽろと涙が出始める。それを腕でこすってごまかす楯無。

 

「お嬢様……」

 

「……私が泣くなんて当主失格ね」

 

「いいえ、人を思って流す涙なら別です。それさえできなかったらもう人ではありません」

 

「えっ……」

 

その時の虚の顔は母親の様に優しく、まるで母親のような雰囲気を出してる。

 

「お嬢様。今は楯無じゃなくてもいいんです。だから泣いても誰も何も言いません」

 

「ありがと……。なら、少しだけ泣いててもいいかな……」

 

そして生徒会室では楯無のすすり泣く声がし、虚は誰も入って来ない様に扉のロックを掛けるのであった。

 

 

 

 

 

場所が変わり、ここは東京にある病院。

手術が終わった後、航は一人部屋の病室で寝かされていた。手術が終わってまだ間もないせいもあるが意識は戻っておらず、ただ部屋には航の呼吸音と心電図モニターの規則的な音が響いてるだけだ。

現在時間は18時50分。面会時間等はすべて終了しており、今は病院には医者と病人しかいない。偶に業者の人がいる程度か。だがその時だ。病室の扉が開いたため医者が入ってきたと思うとそこには、白衣は白衣だが肌は浅黒く、髪は黒色でボサボサなのを後ろで一つに束ねている。顎からは無精ひげが生えており、隈のできた目元とは反対に目はギラギラと輝いてる。

婆羅陀魏社、主任だ。

 

「おー、君が篠栗航君か~。なるほどなるほど、確かにこれはひどい傷だな」

 

航を見つけるなり病院服を無理矢理脱がせて、体についてる手術痕をまじまじと見る主任。その顔はまるで、おもちゃを見る子供の様にキラキラとした目が、年齢的な顔と不釣り合いなほどに輝いている。

 

「主任、何してるんですか。そもそも今回は面談は禁止のはずですよね?というより時間は終わってますし」

 

「まあまあいいじゃん、ワンダーソン君。別に俺は何もしないんだからさ~」

 

主任はヘラヘラと笑いながらも、航が寝ているベッドの隣に置かれている待機状態の機龍を見る。白銀色の手甲は何も言わず、鈍い光を輝かせているだけだ。それを手に取った主任の口角は吊り上がり、それに何やら懐からノートパソコンみたいのを取り出して、それに繋がれていたコードを待機状態の機龍へと突き刺していく。そしてキーボードをカチャカチャとタイピングしていたが……。

 

「ふんふん……。ん?ちっ……!」

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「いや、何でもない。ただの見間違いだった」

 

ワンダーソンはいったい何なんだと気になって仕方ないが、こういう時は主任が全く話してくれないためとても困る。まあ毎度のことだから一応大丈夫だろうと思い、特にすることがないから窓から外の景色を見ることにした。

その間にも主任はキーボードを操作してるが、先程より顔は険しくなっており、時折眉間がぴくぴく動いている。

 

(おいおい……もう少しは言うこと聞けよ……。無駄に自我が芽生え始めやがって……!)

 

そう思いながらキーボードを操作してあちこち書き換えるも、すぐに元に戻される。主任は普通の人間ではできないほどのタイピング速度だが、機龍はそれを軽々と上回っており、書き換えた2秒後にはすでに元に戻されている。

その時だ。主任の使っていたノートパソコンらしき物の画面がフリーズしたと思ったら黒と赤の絵の具を水にたらして少し混ぜたかのような画面に変わったのだ。いきなりのことで指の動きが止まる主任。そして画面が真っ暗になり、そこに白で文字が浮かび始める。

 

『貴様ハ何者ダ。ナゼ我ノ頭ヲ掻キ回ス』

 

「おぉ、やっと自我が問いかけてきたか」

 

少し嬉しそうに言った後にタイピングをしてそれに答える。

 

『俺がお前を作ったからだ。俺にはそういう権限がある』

 

そして1秒でタイピングされたかのように文字が出てくる。

 

『……ソウカ。ワカッタ』

 

そして画面は最初の画面に戻っており、やっと言うこと聞いたとニヤァと笑みが浮かんで書き換えようとした時だった。待機状態の機龍に繋いでたコードがショートしたのか、いきなり紫電が走ってパソコンにたどり着くなり、画面がいきなりひび割れた。

 

「うおっ!?」

 

いきなり割れたことに驚く主任。その音に驚いたワンダーソンも駆け寄り、「大丈夫ですか!?」と心配そうな声を掛けるが、「大丈夫大丈夫」と軽い言い方で返されたため、軽く呆れてしまう。顔に液晶がいくつか刺さってるのに。

主任はそれを自分の手で引っこ抜いていき、顔から多量の血が流れているにもかかわらず、いつも通りのふざけた笑みを浮かべている。

 

「さて、いったい何でこうなったんだ?……まあいいや。ワンダーソン君。篠栗航君がIS学園に搬送されたらその時は俺の方に連絡頂戴ね~」

 

「あ、主任!」

 

そして主任は病室から出て行き、ワンダーソンもそれについていく。そして病室には2人が入ってくる前の静けさと、壊れたノートパソコンらしきものの割れた液晶が下に散らばってるだけであった。

 

 

 

あれから病院を後にし、主任はワンダーソンの運転で婆羅陀魏社へと帰路についていた。後ろの席に着いてる主任だったが、先程浮かべていた笑い顔は全くなく、ただ窓から外の景色を見ているだけであった。

 

(さて、やっと王と会うことができたが……。本当にあんな小僧が我らが王となるのか……?)

 

 

 

この時、主任のスマホから一通の電話がかかってきたため、主任は画面を見る。そこに書かれていたのは『A』と書かれており、軽くため息を漏らした後に電話に出る。

 

「こちらサーシスだがどうした?」

 

『サーシスさん!姫が俺らを食わせろって迫ってきて……ひぃ!来たァァア!!??』

 

後ろからばたばたと走る音と断末魔が聞こえ、とりあえず今の状況を把握した主任、サーシスは軽くため息を漏らす。

 

「あー、俺が戻ってきたら枯葉剤を撒くからそれまで耐えろ。というよりお前喰われろ。女に喰われるなら本望だろ?」

 

『なっ!?何を言って……ちょ触手が足に!?うわぁっぁ!!??バキッ、グリャァ、グチッ……ツー、ツー、ツー』

 

「あーあ、食われちまった。ったく、あのわがままお姫様はもう少し我慢を覚えてくれねえかな?信者と餌を集めるこっちの身にもなってくれよ……」

 

ボソッと主任はつぶやき、スマホをポケットにいれた後、再び外の景色を見るのであった。

 

「主任、誰からの電話でしたか?」

 

「あー、友人から薔薇をうまく育てたいんだけどどうしたらいい?っていうやつだった」

 

「へー、普通に剪定すればいいのに」

 

「だよな~」

 

いつものふざけた感じで答えた後、二人で笑いながら会社へと戻っていくのであった。

 

「でも大丈夫なんですか?メガヌロンの毒って細胞等の結合阻止と細胞破壊ですよね?普通なら助かりませんよ?」

 

「問題ない問題ない。あんなのあのガキには唐辛子を食べた程度でしかないしさ~」

 

「それってどういうーー」

 

「知らん!というより俺に聞くな!」

 

「は、はい!」




次回はIS学園の出の出来事です。お楽しみに。

では誤字羅出現報告、感想を待ってます。


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正体

明日外での用があるので今日更新します。


ラウラが襲撃してきた後日に一夏の特訓をしていたが特に問題は起きず、あれから約1週間。

今は放課後。楯無と虚はとある床の入り口前におり、楯無は

 

「お嬢様、少し落ち着いてください」

 

「でも……」

 

「わかっていますが、今は落ち着いてください。分かってくれますか?」

 

「わかったわよ……」

 

そう、航がIS学園敷設の病院へと搬送されるのだ。楯無はあの事件から1週間会えないせいで、一夏との特訓の時に時折上の空になってしまっていたりと仕事等に支障が出ていたのだ。そのため毎度ながら虚に注意されながら仕事等を進めるが、やっぱり上の空になってしまい、虚も諦め顔になったりと色々起きていたのだ。

 

「あ、来た」

 

その時学園と日本本土を結ぶ地下通路から、1台の救急車が入ってくる。これはIS学園に配備されてる救急車なので入ることが許されており、そして病院の前に止まった後、後部扉が開いて、ストレッチャーに乗ってる航が出てくる。今は麻酔で完全に眠っており、目を覚ます気配はない。

その後航は5階の奥にある個室へと搬送され、楯無たちは搬送された10分後に病室へと入り込む。中は白一色で基調されており、その中にベッドと医療機器がいくつかある程度だ。そのベッドの上で航は死んだかのように眠っており、楯無はその頬を優しく撫でる。

 

「航……」

 

好きな人が目の前にいて触れられるのに、心にぽっかりと穴が開いたかのように感じることができない楯無。ただ彼に触れて、その体温を確かめる程度しかできなかった。

 

(お嬢様……)

 

虚は目を伏すと同時に、航に対する憤りを感じていた。確かに楯無があのとき離れてなければ、こういうことにはならなかったのかもしれない。それでも女性を泣かせる男は最低であり、絶対あってはいけないことだ。

だからって航に怒るというのは筋違いもいいとこで、とりあえず今は航に対する怒りを思考の奥隅へと追いやるのであった。

その時病室の扉が開き、2人はそっちに顔を向けると、そこには黒のスーツを着たくせ毛の髪を後ろにまとめた無精ひげの男がいた。

その顔を見たとき、楯無は目を細めて若干眉間に皺を寄せる。

 

「っと、ここに移されたか。おお、楯無ちゃん。元気だったかい?」

 

「……何の用です、主任さん。ここは関係者立ち入り禁止のはずですよ」

 

楯無は鋭く主任を睨みつけるが、彼は飄々と受け流し、チラリと航を見て後に楯無の方を見る

 

「そう怖い顔しないでくれよ。既に許可は取ってあるんだからさ。あぁそうそう、これを機龍に装備させるからさ、一旦機龍を預かるね」

 

「……何なんです、これは?」

 

「何って機龍の追加装備だよ。クアッドファランクスにレールガン。あの機体なら扱いきれるでしょ」

 

楯無は資料のページを1枚1枚めくっていくが、そのたびに表情が険しくなっていき、途中で資料を閉じて主任を先程以上の眼つきで睨みつけ、同時に殺気を出す。普通の人ならビビッて動けなくなるほどの迫力だが、主任は何事もないかのように首をコキコキと鳴らし、いつも通りのへらへらとした笑みを浮かべる。

 

「そう睨まなくてもいいでしょ。機龍用に開発したんだから。まあ機龍は持っていくから」

 

「あ、ちょ、待ちなさい!」

 

主任は航の手から外されていた機龍を取ってそのまま病室を出て行く。楯無は急いでそのあとを追いかけるが、病室を出た後にはすでに主任はおらず、入る前に閉まっていた窓が開いていおり、そこからカーテンが風にあおられてユラユラと揺れているだけだった。

 

「くっ、逃げられたわ……」

 

「お嬢様。機龍に仕掛けていた発信機ですが、完全に婆羅陀魏の方へ向かっております」

 

「……わかったわ。航には使わない様に言っておかないとね」

 

そして楯無は航の頭を優しく撫でる。

 

「……またね、航。時間に余裕があったらまた来るから」

 

そう言って微笑んだ後、2人は病室を後にするのであった。

なおその3日後にちゃんと機龍が航の元へと帰ってきたのは余談である。

 

 

 

 

 

「ま、待て、シャルル。話せばわかる!」

 

「私だってわかってるよ?一夏。でもね、今バレるのは拙いんだ。だから私の隠れ蓑になってくれない?」

 

「え、「じゃないと撃つよ?」わ、わかったから。でもなんでこういうことを!」

 

現在、一夏は全裸のシャルルに馬乗りになった状態で額に拳銃を押し当てられた状態になっていた。今一夏の目の前には全裸で、まあまあ大きめの乳房が見えるが、現状で興奮することできず、ただ額から冷や汗が一筋流れるだけだ。

なぜこうなったのか、それは今から10分ほど前まで遡る。

 

 

 

 

 

ラウラの襲撃から1週間半。今日も一夏はシャルルと一緒に楯無の特訓を受けていたが、時折楯無が上の空になったりと色々あったりでそこまで特訓をせず、残って一人で自己鍛錬をした後に制服に着替えて自分の寮の部屋へと戻っている途中だった。

 

「ふぅ……今日も疲れた。それにしても楯無さん、なんであんなに上の空だったんだ?」

 

この時まだ航がIS学園敷設病院へと搬送されたことを知らない一夏は、楯無が航の安否を気にしてることを知らず、ただ腕を組んで首を捻るだけだ。そして歩くこと約3分。一夏は自分とシャルルの部屋である1025室の前へと来ていた。そして手に鍵をもってドアノブに手を掛けると、ガチャリと扉が開いたためシャルルが先に返ってきてることに気付き、中に入るとシャルルがいないがシャワー室から音がする事に気付いたため荷物を自分のベッドの近くに置いてベッドに腰掛けて一息吐くが、この時とあることを思い出してすぐに立ち上がる。

 

「そういえばシャワー室、ボディーソープが切れてるんだった。シャルルは予備の場所を知らないだろうから渡さないと」

 

そう言う傍からすぐに予備のボディーソープを取り出して、シャワー室の扉をノックなしで開けると、そこにいたのは……。

 

「えっ、い、一夏……!?」

 

「シ、シャルル、なの……か?」

 

そこにいたのは、いつも通りの金色の髪を持った中性的な声を持つ第3の男子搭乗者男子搭乗者であるシャルル・デュノアだが、一夏は目線を首から下におろすとそこには、手に余るほどではないにしろ、それなりに大きなお椀型の胸があり、さらに下に目線を下ろすと男にあるはずの物がない。

この時一夏は気付いた。彼、いや彼女は女性なのだと。

だがこの時シャルルが勢いよく突っ込んできて、そのままタックルされた後に一夏は背中から床に叩きつけられ、衝撃で息を肺からすべて絞り出してむせる。

 

「げほっ……い、いったい何なん……だ……」

 

一夏が見たのは自分に馬乗りになって、額に拳銃の銃口を向けるシャルル。

 

「えっと、シャルル、さん……?」

 

「あーあ、私の裸見られちゃった。責任とってもらわないとなー」

 

この時のシャルルの目は今まで見た優しい目つきではなく、ただ一夏をゴミとして見下す濁った目だ。余りの変わりように戸惑う一夏。だがシャルルは口元をニヤァと寒気さえ感じさせる笑みを浮かべ、銃口をゴリゴリと一夏の額に押し当てる。

 

「い、痛い痛い!」

 

「そんなの知らないよ。ねえ一夏、どういう風に死にたい?そのまま撃たれたい?首絞められたい?それとも……あ、白式使おうとしたら即殺すから」

 

「っ……!?」

 

既に考えてることが言われ、体が硬直する一夏。若干量子を帯びていた白式から輝きが消え、シャルルは一夏の腕に付けてた白式を奪い取って……。

 

「一夏、どうしたい?」

 

シャルルは覗き込むかのように一夏の顔を見る。その淀んだ深淵のような瞳が一夏を見据える。

そして冒頭へと戻るのであった。

 

 

 

「なんでこういうことをするのかって?そりゃあ社長……、父親からの命令だもん」

 

「な、何ていう父親だよ!」

 

「知らないよ。でも命令なんだから仕方ないんだよ。今まで様々な命令があったけど、人を殺すのって結構楽しいよね。それに「シャルル」からさ……何だよ」

 

シャルルはめんどくさそうに一夏を見る。一夏は先程から銃口を向けられたままだが、恐怖感を抑えて口を開く。

 

「そ、そもそも目的、もとい命令って何だよ!」

 

「ああ、それね。父親からされた命令は、『IS男子搭乗者の細胞採取』、そして『四式機龍のデータを採取』だね」

 

「そ、そんなことしたら」

 

「だからばれない様に君には口を瞑ってもらうんだ。いい?しゃべったらどうなるか……」

 

一夏はコクコクと頷くしかできなかった。そして天使のような笑みを浮かべるシャルル。

 

「そうそう、物わかりのいい子は嫌いじゃないよ?」

 

その時だ。扉からノックされる音がし、2人は瞬時に扉の方を向く。いったい誰が来たのか、シャルルは場合によってはとそちらに銃を向ける。

 

「一夏~。夕食食べたー?」

 

声からして鈴とわかり、一夏にここから去ってもらえるように説得するように言う。それを聞いた一夏は若干震えながらもうなずいた。

 

「り、鈴か。まだ食べてな、ないけどー?」

 

「……?まあいいわ。なら食べに行きましょー?すぐに出てこないと扉開けるわよー」

 

「しゃ、シャルル」

 

「ちっ……なら行ってもいいよ。ただし、私のことを話したら」

 

「わ、わかってるから」

 

そして一夏は軽く用意をして部屋を出て行く。そして一夏は部屋のカギをして、鈴と一緒に食堂へと向かって行く。

 

「ねえ一夏、部屋で何かあったわけ?」

 

「えっ?なんでだ?」

 

この時体をビクリを震わせ、額に一筋の汗が流れる。

 

「だって顔真っ青だし」

 

「き、気のせいだと思うけど」

 

「……まあいいわ。いつか話してよね。相談にはちゃんと乗ってあげるから」

 

「鈴……」

 

その一言に心を揺らがされた一夏は、全てを話してしまいたかった。叫びたかった、『助けてくれ』と。だが、そうすれば下手すれば鈴にも被害が届くかもしれない。そのため言葉を喉元で止めて、一夏は食堂へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

一夏が出て行ったあと、シャルルは私服を着て自分の親指の爪を噛んでいた。最初はばれたときは泣き脅しで同情させて作戦を円滑に行う予定であった。だが、ついいつもの癖で一夏を脅してしまい、これからの作戦が動きにくくなることに腹を立て、手に持ってる白式を壁に叩きつけようとした。だが一旦我慢して、目的の一つでもある『男子搭乗者の専用機のデータ採取』を行うためバックの中からPCと何やら怪しい道具を取り出す。

 

「これをここに繋いで……よし、採取開始」

 

そしてカタカタとキーボードをタイピングした後にEnterを押してデータ採取を開始する。それから約5分、情報を採り続けてから画面上に『終了』と出たため、シャルルはコードを白式から外して一夏のベッドの上に放り投げる。それからシャルルは1人で食堂へと向かい、一夏とはすれ違う形で夕食を食べるのであった。

 

「部屋に戻りたくねぇな……」

 

一夏は先程の出来事もあって部屋にはまだシャルルがいると思っており、重い足取りで部屋へと向かっていく。もう銃口で脅されるのは勘弁であり、どうやってあの状況を打破するか……。まあ考えるだけで無駄であり、結局は溜息を吐くしかない。

そして部屋に着いた後、鍵を開けて恐る恐る入り込むと……。

 

「あれ、シャルルがいない……。よかった……。もう寝よ……」

 

安堵の息とともに一夏はベッドに倒れてすぐに眠りにつく。だがこれはただの現実逃避でしかないのだった……。




常に殺されかねない状態となった一夏。彼のこれからの行方は!?


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作戦開始

久々に奴らの登場です。


では本編どうぞ!


「ったく、権利団体の女性陣はどこまで我らを邪魔するんだか……。おかげで隊の配備とか大きな遅れが出てしまったではないか……」

 

自室で瞬は煙草を吸いながら小さくため息を漏らす。思い出すは最初以降の会議で女性権利団体所属の女性自衛官や政治家がいろいろ野次を飛ばし、時には裏工作をされて隊員が集まらなくなるなどのことが起き、ついにはあれから1週間は経ってしまったのだ。

それが原因で何人の犠牲者が出たのか分からない。報道局の方にこのことをニュースで取り上げるように言っても、全くニュースには出ず、新聞にも掲載されない。

今の人間はここまで怪獣の恐怖を知らないのか……。そのことを悲しく思うが、あの女性陣にとってはどうでもいいことなのだろう。

 

「まあそこそこの隊員を用意できたし、何とかISも3機用意できた。開発陣がああいう武器を作ってくれたから少しはどうにかなるだろう……。本音はあと1機はISが用意できたからよかったが、パイロットが……」

 

そう使える4機分の内3機分のIS搭乗者は用意できたが、あと1人見つかってないのだ。

この時瞬の頭の中にIS学園が思いつくが、流石にあそこは駄目だと首を横に振る。生徒を現場に連れていくなど言語道断であり、家城燈は戦闘より諜報向けでそこまで戦えない。他の教員で怪獣の脅威を分かってくれる織斑千冬は、恐怖を知ってる分協力してくれるだろうが、そもそも自衛隊側が学園の力を借りないって約束してるから、借りるというのはしたくない。

だがどうするか……。瞬は再びため息を漏らす。

 

「一応立候補はいたが……こやつらは使いたくないんだよな……」

 

瞬はパソコンで隊員の明記の欄をスライドさせて下ろしていくと、その中でいくつか赤の枠で囲まれている隊員がいる。

これらは権利団体の派閥に入ってる隊員で、いろいろと男性隊員と問題を起こしており、それでブラックリストとしてこうやった赤枠で囲まれているのだ。その数はざっと30人。

なぜこんなにいるのにクビとかにならないのかというと、女性権利団体が裏でいろいろしてるせいでこちらからはもう手出しができない状態へとなっており、流石の瞬も諦めてしまってるのだ。

そして3度目のため息を漏らした後、瞬は窓の方へと歩み寄って、すでに暗くなった空を見上げる。

 

「さて、作戦まであと4日……。予定より結構遅れてしまったが、これでやっと住民の避難と蟲の駆除が行える。これで邪魔が何もなければいいが……」

 

 

 

 

 

そして時は経ち4日後。

午前7時半、八王子駐屯所から自衛隊の幌付きトラック数台に通信指揮車、さらには装甲車数台が渋谷に向けて動き出す。

ここ最近見なくなった光景に周りの住民は驚きを隠せず、家のかなにいた人は外に出てくるわ、マンションから見下ろすわと少し騒ぎになっていた。

そして『自衛隊を解体しろ』と書かれたのぼりを掲げる女性陣がたくさん現れるが、警官等に止められ車両の邪魔にならない様にする。

 

「ったく。これから何しに行くのかわかってるんだろうか?」

 

「わかってないでしょうね。一応この前ニュースで流れてたけど視てた人がどれぐらいいたか……」

 

先頭車両の指揮車に乗ってる鷹月仁(たかつきじん)一尉と運転席に座ってる烏丸晃(からすまあきら)准尉はその光景にため息を漏らす。2日前に渋谷で起きている怪奇事件を解決するために自衛隊が出ると19時のニュースで一斉報道されていたが、大半の人は見ていないのだろう。

スイッチを入れていたのだろう、通信機越しに他の車両からのため息が聞こえたが、2人はそれを聞かなかったことにする。

そして空気が悪くなったため、話題を変えることにする。

 

「そういえば仁さんの娘さんってIS学園にいるんでしたっけ?」

 

「ああ、そうだが」

 

「お子さん育てるのって大変ですよね?仁さん、前に降格させられて……」

 

「ああ。まあ子供1人育てるのには問題なかったがな」

 

「でもIS学園って確か、こっちの人手が足らないときに……」

 

「だから俺らが頑張って、IS学園から徴兵とかしないようにしないとな」

 

「ですね」

 

お互いに軽く笑いあい、自衛隊の車両は渋谷へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

午前8時20分。車両は渋谷へと着き、現場である渋谷一帯を封鎖してもらってる警察官に封鎖用テープを外して車両を通してもらうようにする。

なぜ渋谷一帯を封鎖してるのかというと、今回の作戦にISを使うために民間人のけがを未然に防ぐため、住民には全員避難してもらい、自衛隊が問題なく動けるようにしてるのだ。

そして現場に着いた後、隊員はそこにテントを張って指揮所などをテキパキと作り上げていく。

その後自身の使う武器の簡易チェック。ISの方も自身の使う武器を展開して問題ないかをチェックしていくが……。

 

「なぜ貴様がそこにいる!今回の編隊に組み込まれてないはずだ!」

 

「はあ!?こっちは組み込まれてると上の方から聞いてきたんです!」

 

何かあったのだろうか。全員は目を動かして声のした方を向くと、そこには仁二尉と1人ISパイロットがもめており、女性隊員のIS乗りたちはその女の顔を見るなり少し嫌そうな顔をして、再び作業を再開する。

何故嫌そうな顔をしたかと言うと、前に瞬が見ていたブラックリスト隊員の1人である綺羅星里奈(きらぼし りな)1曹がいたのだ。

実際彼女のIS技術は十分高く、日本代表候補生でいたのだが、女性権利団体の方から自衛隊に着けと命令された後に現在の1曹の地位にいる。なおこの地位につけたのは裏でいろいろやったからだそうだ。

 

「そもそもなんで私を入れてくれなかったんですか!立候補したんですよ!?」

 

「今まで何回問題を起こしたと思っている!?というよりどうやってここに来た!?」

 

その後2人はずっと言い合いとなっていたが、他の隊員に宥められてとりあえず今は準備の方を優先することに。だがその間にも奥に引っ込められた里奈に対して警戒を緩めず、先程までピリピリしてた雰囲気にさらに別のピリピリとした雰囲気が充満するのであった。

そして現在午前8時30分。路地裏へと続く道数か所に隊員歩兵4名IS持ち1名ずつと歩兵5名ずつが立っており、誰も経ってないとこの入口には電線が4m上まで張られており、完全にそこから出入りできない様にされている。

男性隊員こと歩兵達の武装は、89式5.56mm機銃、高粘度のトリモチ弾と催涙弾を撃ち分け可能なグレネードランチャー。そして対メガヌロン用に開発された特殊武器等だ。なおグレネードランチャーは、アメリカから今回の件で輸入したものである

そして女性隊員のISは全機ともに緑系の迷彩塗装を施したラファールリヴァイブで、格納領域(バススロット)にはアサルトライフル、サブマシンガン、そして火炎放射器にハンドグレネードに近接ブレードだが、この近接ブレードには対メガヌロン用の特殊装備を搭載されている。

 

「全員センサーに問題はないな?」

 

『はい』

 

センサーとは対メガヌロン用に作られたハイパーセンサーモドキのことで、前に楯無がISのハイパーセンサーで見れないと言ってたため、どういうことか解析をしていくと赤外線を完全に遮断し、体温もほとんど出ないために、どう対処するかにおいて開発されたものである。まあハイパーセンサーの強化等が主だが、開発部が4日は徹夜した物のため、性能は期待できるだろう。

そして午前9時。ついに作戦開始時間となり、各所から隊員が突入を開始する。道が狭いため、主に男性隊員が前で、後ろはISがいるのがこの時の基本的な編成だ。

途中開始から約20分。東から入った班はメガヌロンが現れないことにおかしいと警戒しながら、歩を歩めていく。

 

「ったく、ISでも倒せなかった相手を……。まあやるしかないか」

 

「そうだな。たとえ周りから何言われようと、市民を護るのが自衛隊の役目だからな」

 

「私語を慎め。秋椿、奴らは見えるか?」

 

「まだ姿は確認できていません。ただセンサーには反応はなく、今のところは大丈夫かと」

 

まだあどけなさの残る黒髪の女性隊員秋椿 凛(あきつばき りん)1士は、実戦がはじめてなせいか少し落ち着かない雰囲気で周りを見回しており、他の隊員の不安を若干煽ってしまっている。

それは不味いと、この中で一番身長も階級の高い木島 現(きじま うつつ)1曹は声をかけて彼女を落ち着かせることにする。

 

「そう焦るな。奴らはまだ現れん」

 

「で、ですが……!」

 

「そのセンサーがそう伝えてるんだろ?少しは自分の使ってるISを信じてみろ」

 

「は……、はい!」

 

割と簡単に通じたな、と誰にも気付かれない程度に苦笑いを浮かべる現は、実際はそうではないと知っているためわずかに冷や汗を流す。

 

「前の角から10m先に反応!こちらに向かってきています!」

 

「全員打ち方用意!」

 

そして全員が武器を構え、

 

「た、助けてくれぇ!」

 

角から現れたのは、ボロボロのスーツを着た30代の男性サラリーマンで、顔や手から血を流しながら自衛隊の方へとよろよろで寄っていく。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「た、助けてくれぇ……。もうこんなとこ嫌だぁ……」

 

「大丈夫です。私たちが助けに着ましたから」

 

「そ、そうか……よかった……」

 

そして極度の緊張が解けたのか、サラリーマンはそのまま気を失ってしまい、膝を着いてうつ伏せに倒れそうになったところを隊員の抱えられて、そのまま背負われる形となる。

 

「よし、このまま一回本部に戻るぞ。人を抱えたままだと何か有事が起きた際に不利になる」

 

「「「はっ!」」」

 

だがこの時もう一つ反応が入り、それを詮索したら一直線にこちらに向かってきてることを知る。しかも壁を高速で突き抜けるかのような反応。これは……。

 

「木島さん!地下からこちらに迫ってきてます!」

 

「なっ!?……健二!マンホールから離れろ!」

 

「えっ、うおぉ!?」

 

その時梅宮 健二(うめみや けんじ)2士が立っていたマンホールの蓋が吹き飛び、同時に吹き飛んだ健二はそのまま壁に頭を叩きつけられてしまう。

 

「健二くん!」

 

焦った凛は急いで彼の元に寄るがこの時彼は完全に気を失っており、ヘルメットをかぶってなかったら恐らく即死だっただろう。

そして原因であるマンホールのとこを向くが、それを見たとき凛の顔は真っ青に染まる。

 

「ギキィィ!」

 

そこにいたのはメガヌロンの2m級で、砕いたマンホールの穴から上半身を出した状態で姿を現しているのだ。そして穴の外に足を掛けて下半身も露わにしていく。

先程まで食べていたのだろう。この時メガヌロンの口からは何か人の手らしきものが見え、それを見てしまった隊員たちは全員顔をしかめる。

そしてこちらをジロリと見た後、腹部先端から水を噴射して一気にこちら側へと襲い掛かってきた。

 

「させない!」

 

この時凛が近接ブレードを展開。そして突っ込んできたメガヌロンをどうにか受け止めるが、突進の威力が高いせいか後ろに約3mほど押し下げられる。

 

「秋椿!」

 

「行ってください!私が足止めしておきますから!」

 

「くっ……!わかった。だが必ず帰って来い!いいな!」

 

「はい!」

 

その返事の後、怪我人であるサラリーマンと気絶した健二を連れた隊員たちが逃げていくのをハイパーセンサー越しに確認して、そして全力をこのブレードに押し当て、メガヌロンを一歩一歩ながら後ろへと押し戻す。

地面に爪を立てて押し戻そうとするメガヌロンだが、ガリガリと空しく後ろに押し戻される音が路地裏に響き渡る。

元々剣術使いの家に生まれた凛にとってはこのような状況何回か経験してるため、このような芸当ができ、そして。

 

「はぁぁ!」

 

凛は左手にグレネードランチャーを展開。そして地面に向けて弾を放ち、地面にあたった弾はその中から大量の煙を拭き出す。それはそこの路地裏一帯を覆い尽くすほどであり、それを放った後凛は一気に後ろへと後退して煙の中へと消える。

 

「ギィィ!!!???」

 

この時メガヌロンはあまりの目の痛み、呼吸器官からくる激痛等に悶えていた。その痛みに逃げようと下水道に逃げようとしても前が見えず、ただよろよろと壁にぶつかるばかり。突進しようとしても脚に力が入らない。

 

「ガッ……ガッ……キィィ……」

 

そしてメガヌロンは完全に気を失うのであった。

 

 

 

 

 

その時煙の中から人影が見え、そしてメガヌロンの首関節に大型の刃物、近接ブレードが突き刺さり、そしてグチィという音と共に首が斬り落とされる。

そうした張本人、秋椿凛は急いで催涙弾が作り出す煙から抜け出す。

 

「ふぅ、どうにかなったわ。さて急がないと……!」

 

そして先に行かせた隊員の元へと急いで飛んでいく凛。道のりは先程と同じ道。そうでもしないとここはすぐに迷うのだ。右左と角を最小限の動きで曲がり、

 

 

この時割と近くのところから発砲音が聞こえた。音的に89式5.56mm機銃、恐らくこの近くにいる隊員のだろう。

だがこの近くの隊員で自分のとこかもしれないと判断した凛は、急いで狭い路地裏を駆け抜ける。そして発砲音がしたと思われる場所にきて凛は見た。

 

「ふぅ、どうにかなった……。お、そっちは仕留めたか?」

 

「ギイィィィイイ!!!」

 

凛が見たもの。それは、壁にトリモチ弾で完全に動きが絡め取られて動けなくなってるメガヌロンと、

 

首を必死に動かして抜け出そうとするも全く動けない様はまさに滑稽であり、凛は火炎放射器を展開してメガヌロンを焼却する。

 

「ギィィィィィ!!」

 

断末魔を上げるメガヌロン。首を動かしてひたすらもがくが、結局は先程と変わらず、そのまま暴れる力を失って焼死するのであった

そして再び本部目掛けて移動を開始する班であったが、この時センサーに異常な反応が示される。それを知った凛は顔を真っ青にさせる。

 

「何よ……これ……!」

 

この時センサーに30……いや、40を超える無数の反応が示される。

 

「どうした!?」

 

「メガヌロンの数が40……いえ、50ーー」

 

「ちぃ!急ぐぞ!」

 

そして全員が急いで路地裏を抜け出し、そして見たのはビル群にメガヌロンがうじゃうじゃと蠢く光景だった。

下には普通科隊員が機銃を撃ち、上空ではISが火炎放射器などを駆使してメガヌロンの大群に攻撃を仕掛けていた。

 

「何だよこれは!」

 

その光景はまさに地獄絵図。犠牲者がどれほど出てるか分からないが、あまりの窮地に足がすくみそうになる。

だが逃げるわけにもいかず、全員は武器を取って構えるが……。

いきなり地響きが起き、全員がバランスを崩しそうになる。そして収まったと思ったら、再び地響きが起きた。

 

「コレは地震じゃないぞ!」

 

その時目の前のアスファルトに大きな罅が入る。

この時1人の隊員は気付いた。地面から何かが掘って移動してると。それも途轍もない大きさで。

嘘だ、嘘だと言ってくれ……。そう願うも、無情にも真実が目の前へと表す。

 

「ギィィアァァァォォォォ!!」

 

目の前に広がる道路を砕き、地中から現れたのは、10mをも軽く超す15m級という巨大なメガヌロンだった……。




突如アスファルトを砕き現れた巨大メガヌロン。自衛隊はこれをどう対処するのか!?

お楽しみに!




では誤字羅出現報告(なければいが)と感想をどしどし待ってます!


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怪獣学 6

久しぶりの怪獣学です。


ここはIS学園。朝、食堂で一夏はシャルルと一緒に朝食をとっていた。

シャルルの正体がばれてすでに1週4日。一夏は毎日味わうシャルルのプレッシャーからか、前より少し痩せ細っていた。

 

「一夏、これもおいしいね」

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

「どうしたの?顔色が悪いけど……」

 

この時シャルルが一夏の顔を覗き込むが、この時一夏にはシャルルが般若の顔で「何でもないよな?」と言ってるかのように睨みつけるため、一夏は冷や汗を流しながらも何事もなかったかのような顔を無理やり作り出す。

 

「だ、大丈夫だ、問題ない」

 

「そう、ならよかった♪」

 

そしていつものように天使の笑みを浮かべるシャルル。だが目が笑ってないせいもあって一夏は小さく悲鳴を上げそうになるが、これでもしバレたら自分が殺されるという恐怖でどうにか声を殺す。

この時のシャルルが目が笑ってないことに気付いてない女子達は、何か「はぅ……」等と言って顔を頬を真っ赤にしてぱたりと倒れ込んだりしてるが、当の2人にとってはどうでもよく、むしろシャルルはそんな女子達をゴミでも見るかのような目で見下していた。

 

「あ、いたいた。ねえ一夏!一緒に食べましょ!」

 

「ん?あぁ、鈴、か。それに箒、セシリアも」

 

この時奥から声がしたため一夏は振り返ると、そこには盆を持った鈴、箒、セシリアの3人がおり、一緒に食べようと近寄ってきたのだ。この時一夏はチラリとシャルルの方を向くと、シャルルが3人にばれないような睨みで一夏を睨みつけていた。それを小さくうなずいた後、一夏は3人の方を向き直す。

 

「あぁ、うん……。ごめん、シャルルと食べたいんだが……」

 

「あんたねぇ、前もそう言ってたじゃない。何時なったら私たちと食べるのよ?」

 

「そ、それは……」

 

一夏は鈴の指摘にキョロキョロと目を泳がし、オドオドとした仕草をするため、いつものハキハキとした一夏じゃないことに呆れた鈴は溜息を吐く。

 

「はぁ……もういいわ。箒、セシリア、別のとこで食べましょ。あいつ、それがいいみたいだし」

 

「だ、だが鈴……」

 

この時箒が何か言いたげだったが、鈴に無理やり引っ張られる形でその場を後にすることとなり、セシリアはチラリと2人を一瞥した後、鈴たちに付いて行く。

 

「り、鈴……」

 

一夏は遠くにな晴れていく3人に手を伸ばそうとしたが、この時に背中からの殺気を感じ、すぐに振り返る。こそには殺すと言わんばかりの目で睨みつけるシャルルが、フォークに刺していたウィンナーをグチャと潰している光景であった。

 

「ねえ一夏」

 

「っ!?」

 

ああ、またか……。

この後何が起きるか分かった一夏の目に、生気が無くなるのであった……。

 

 

 

 

 

「ったく、何なのよ!一夏はシャルルとばっかりご飯食べて!」

 

朝食食べ終わった後、鈴は浅野一夏の行動思い出してイライラしていた。ここ最近一夏にずっと断られてばかりで、「後日埋め合わせするから」と言うも、全くその気配がなく、一夏のあの態度が気に喰わないとただイライラするばかりだ。

だけどいったい何故ああなったのか……。ただ今までの一夏と比べてあまりの変わりように首を傾げる鈴。

一番思いつくのはシャルル・デュノアだが、どういう関係なのだろうか。まさかいけない関係とか……。

それを否定するかのように顔をぶんぶんと横に振る鈴。そして溜息を吐いた時だった。

 

「あ~いたいた~」

 

「ん?」

 

この時後ろの方から間延びした声が聞こえたため、何だろうと振り返ると、ダボダボとした袖に間延びした言い方を持つ少女、布仏本音が鈴の元へと走ってる……のだろうか?とりあえず鈴の元へと向かっていた。

 

「もうリンリン探したんだよ~?」

 

「リンリン言うな!……えっと確か布仏本音だっけ?いったい何の用なのよ?」

 

一体何か話しかけられる事でもしたのだろうか?本音がニコニコとしているため、鈴は少し身構える。

 

「あのね~おりむーが今ピンチだから助けてあげて~」

 

「……は?どういうこと……」

 

一夏がピンチ?鈴はいきなりの告白に目が点になってしまう。

 

「今は時間がないから~、昼休みに生徒会室に来てね~」

 

「あ、ちょ、待ちなさい!」

 

本音を追うとした鈴だったが、朝のホームルームが始まる余鈴がなったため、渋々諦めて自分の教室へと向かうことにするのであった。

 

「一夏がピンチってどういう事よ……」

 

そのつぶやきは誰にも聞こえることなく、消えるのであった……。

その後のホームルーム。1組ではいつも通り生徒たちがそろっていたが、この時真耶が少し嬉しそうな顔をしていることに大体の生徒が首を傾げている。

何か美味しいものでも食べたのだろうか……。そんなことを考えてる生徒が大体であったが……。

 

「えー、今日はいい知らせがあります。篠栗君が一命をとりとめて、現在IS学園併設の病室に運ばれています。だからお見舞いに行く人は、私たち教師に許可を取っていってくださいね」

 

「マジで!?」

 

この時一夏は航が助かったことに安心したことと、すでに学園の病院に搬送されていたことに驚きを隠せないでいた。先程まで死んだ魚のような目をしていたのに対して、今はしっかりとキラキラとした生きてる目をしている。

この時千冬は大声出すなと注意しようと思ったが、流石に酷かと思い、出席簿をひっこめる。

なお、その後はいつも通りのホームルームが続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日の怪獣学は前回の続き、メガヌロンね」

 

ここは一組。現在授業は怪獣学であり、燈が教卓の上に教材をすでに載せている。

 

「まあ今日の授業はテレビを見てもらうわ」

 

何故に?と生徒たちは疑問を浮かべた表情で燈を見るが、燈は現在電子黒板の設定で生徒たちから目を離している。

 

「……っと、後はパスワードを入力してと……よし。今から映すわよ」

 

そして電子黒板に映し出されたのは、ヘリコプターからの映像だろうか、都会の上空を空撮されてる風景だった。

これがいったい何なのだろうか。生徒の一人が挙手する。

 

「先生。これって今回の授業と何の意味があるんですか?」

 

「これ?今からメガヌロンがいる渋谷に自衛隊が駆除に向かうのよ。それも途中CM抜きの生放送をね」

 

「マジかよ……」

 

「あとこれ、他の教室も全員見てるから」

 

まさかの生放送、しかも全学年が見てるということにに目を点にする生徒たち。だがそんな生徒達をよそに、空撮カメラは周り続け、市街地に隊員とISが集まってるが映される。

そしてヘリに一緒に搭乗してる女性アナウンサーが何か言ってる。

 

『現在午前8時50分。現在渋谷の街はいつも通りのにぎやかさは消え、とても閑散としており、自衛隊はISを4機も使うという大規模作戦を実行しようとしています!そもそも虫を駆除するのにISを使用するとか男の考えていることはまったくわけがわかりません!』

 

「「「「「……」」」」」

 

このアナウンサーはおそらくメガヌロンのことを余り知らないのであろう。ゆえにこのような発言をするのだろうが、1組はこの発言に引き攣った笑いを浮かべている。

その後アナウンサーがなんかいろいろ言っており、今回の作戦指揮官がこのクラスの鷹月静寐の父親だったりで周りが驚いていたが、そんなのは過ぎて現在9時となる。

自衛隊の作戦開始時間だ。

 

『現在午前9時。ついに自衛隊が渋谷の路地裏へと入っていきます。この渋谷一帯はすでに警察官によって封鎖されており、私たち取材班はこれを独占取材ーー」

 

そう言ってる間にもカメラはアナウンサーをさっさと画面から追いやって、上空からの渋谷の光景を映し出す。

まあ今入ったばかりともあって特に発砲音も聞こえず、何を写してるんだと思えるほどに特に何もなかった。ただ、いつも人がたくさんいてにぎやかなはずの渋谷に誰もいないことが不気味であった。

 

『ちょっと私を映しなさいよ!』

 

その時アナウンサーの怒り気味の声が聞こえ、カメラがそちらに向けると、そこには歳不相応の頬を膨らませて『私、怒ってます』という痛い行動をとるアナウンサーの姿が映し出される。

これには視聴者も白い目でそれを見ており、そしてゴホンとアナウンサーが咳ばらいをした後、アナウンスに入ろうとしたが何かあったのか、ディレクターらしき男と言い合ってるようだ。

 

『え?自衛隊が無許可だから下がれってうるさい?そんなの女の言うことが聞けないのか?と言って黙らせておきなさい!……ゴホン、え~、現在ーー』

 

「ちょ、無許可なのかよ……」

 

この時教室に一夏の声が響く。燈が「ははは……」と苦笑いを浮かべており、生徒たちもあまりの横暴な態度に溜息しか出ない。

 

 

 

そして約10分ほど、ヘリは作戦範囲の空域を旋回するように飛び回る。

この時偶然ビルの屋上にメガヌロンがビルのフロアに向けて穴を掘ってるところを偶然カメラは捉えた。

 

『見てください!あれが今回の駆除目標の虫です……ってあんなにでかいの!?』

 

そこに映っていたのは2m級のメガヌロンだ。近くにある給水塔を比較するとそれなりに大きいことがわかる。

穴を掘っていたメガヌロンはヘリのローターの騒音に気付いたのか、穴掘りをやめて顔をヘリの方へと向ける。

 

『キシィィィィ!!!』

 

その時だ、威嚇するかのように両腕を高く振り上げてヘリコプターを睨みつける。

するとどうだ。地表ではマンホールの蓋が吹き飛ぶと同時に、ゴキブリの如く大量のメガヌロンが湧きだしたではないか。

それと同時に路地裏でも発砲音がほぼ一斉にし始め、場所場所によっては白煙でそのエリアが全く見えなくなってたりと、状況が分からない方向へと向かって行く。

 

『な、何なのよ……いったい何なのよ!?』

 

いきなりのことで狼狽するアナウンサー。だがそんな状況でもカメラマンはカメラを回すことをやめず、本部の方に取り残されていたのか、救助される人々が10名ほど集まり始める。

そして本部にもメガヌロンが10数匹湧き、残ってる隊員がそれに応戦を始める。

そしてどうやら本部に1機ISが残されていたのか、それがマシンガン等で近づいてくるメガヌロンに攻撃を仕掛けるが、どうやらメガヌロン用の装備をしていないのか、ドンドンとジリ貧になっていく。

 

「そんな、ISが……!?」

 

この様子が信じられないのか、生徒の数人は絶望に染まった顔をしているが、他の生徒はこんなに大量のメガヌロンを見て、それに対して絶望の表情を浮かべているのだろう。

だがその時、路地裏から抜けてきたIS数機が戻ってきて、どうやらメガヌロン用の装備をしているのか、それで2m級のはどんどん仕留めはじめたのだ。

実際普通科の隊員もそれに負けておらず、特殊武装等で次々と仕留めていく。パンッパンッ、と銃声が響く中、いきなり地響きが起きたのか隊員はバランスを崩し、メガヌロンも動きを止める。

ヘリコプターから空撮してるおかげで自身の被害はなかったが、いったい何があったのか……。カメラマンが注意深く周りを見渡していると。

 

『ギィィアァァァォォォォ!!』

 

本部近くのアスファルトを砕き、大きな地響きを起こしながら現れたのは、体長15mほどある超大型メガヌロンだった。

 

『きゃあああああ!!』

 

この時アナウンサーの悲鳴が響く。

IS学園生徒たちは映像をただ茫然とした表情で見ていた。これは現実なのか?もしかしたら特撮などではないのか?と頭の中で否定するも、やはりこれが現実とわかってるのか、誰も何も言わない。

 

「な、何よ、これ……。ここまで大きくなるの……!?」

 

その中燈は虫でありながら、ここまで大きくなるメガヌロンに驚きを隠せないでいた。そもそも今の世の中、昆虫を2mにすることが難しい理由は古生代は酸素濃度が今より濃く、なおかつ地球の引力が今より低かったと言われているが、その中で2mになるだけでもすごいのに、それの5倍もある大きさとなるとどういう体の構造になっているのか気になってしまう。

そんなことを考えてる時だ。再び先程と似た轟音が響き、カメラが音のなった方を向けると、そこには先程現れた巨大メガヌロンまではいかないが、10m級と言うべきだろうか、もう1体の大型メガヌロンが渋谷駅方面からアスファルトを砕いて地表に出現したのだ。

 

『ギィィィィィアアアア!!!』

 

そして大きいせいか速度が落ちているが、それでも時速40kmは出ているのではないのかという速度で自衛隊がいる本部の方へと向かってきている。

この時、本部の方に向かってきている巨大メガヌロンの頭の上には3m級のメガヌロンが乗っておりそれがヘリの方に頭を向けており、ヘリも何か危ないと思ったのか、高度を上げ始める。だが、10m級も3m級もヘリから目線を逸らさない。

 

『あの虫は何をしようというのでしょうか。頭を項垂れさせて、その上にいる小さい方が必死にしがみついてるようにも……、ん?よく見たら大きい方の背中に1匹小さいのが引っ付いてるーー』

 

その時、カメラは10m級が勢いよく頭を振り上げ、そして3m級のメガヌロンがヘリに向けて投げ飛ばされる光景を捉えていた。そして大きく揺れるヘリコプター。そしてヘリコプター内は悲鳴が響き渡り、開いてるドアからいくつか機材が落ちる。

 

『いったい何が……きゃあああ!!』

 

カメラマンはいったい何があったのかそっちにカメラを向けると、そこにはヘリのドアからメガヌロンが入り込もうとしてる姿であった。

 

「「「「きゃああああああ!!!!」」」」

 

メガヌロンのドアップ。これだけで生徒たちから大音量の悲鳴が上がる。ある者は掌で顔を覆ってみない様にしたり、ある者は驚いて後ろにのけ反り、そのまま椅子から落ちるもの。

その中で一夏は完全に動きが止まっていた。ドアップの時に悲鳴が出せず、ただ恐怖で動きが止まっていたのだ。

その間にも映像では悲鳴と断末魔が響き、そしてメガヌロンがヘリのパイロットの頭を食いちぎる。

余りのショッキングな光景に何名か気絶し、もう泣き出しそうな生徒が多数いる。

すでにカメラマンもやられたのか、カメラは床に投げ出され、そして外の方を映しているが、目の前の光景がぐるぐると回っており、恐らく操縦不能で墜落しようとしてるのだろう。そして地表近くになったアラームが聞こえる中、ただ恐らく生き残ってたアナウンサーの悲鳴が聞こえ、そして一瞬大きな音がすると同時に、画面がブラックアウトした。

 

「あ、墜ちた」

 

誰が言ったかわからないが、テレビ局のヘリが撃墜されたのだ。しかも飛べないはずの虫によって。

この時教室にいた全員はあまりの出来事に放心。

その時、燈のスマホからバイブが鳴ったため誰かチラ見してみると、燈は目を見開き、そして一回教室を出て電話に出る。

 

「はい、家城です。……はい。……っ!?」

 

この時燈の顔はどんどん真っ青になっていく。そしてスマホでの通話を終えた後、再び教室に戻って焦ってる表情で生徒たちの方を向く。

 

「皆、今から自習ね!」

 

そして燈は急ぎ足で教室を出ていく。何があったのか、それは教室にいる生徒たちでは考える気力もないのであった……。




始まるは蹂躙。その時、人は何を見るのか。


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メガヌロン

シルバーウィークのため、来週も更新するよ!



では最新話どうぞ!


巨大メガヌロンが現れたとき、現場にいる自衛官。そして少し離れた場所で現場を封鎖している警官たちの動きが止まった。そこ光景は今まで見たことで一番の異質であり、現実とは全く離れた感覚がしたからだ。

先程まで戦っていた2~3m級のメガヌロンでも現実離れしているのに、それよりずっと大きいとなると……。

その時15m級メガヌロンが吼え、その衝撃で近くにあった建物のガラスが割れて破片が地面に落ちる。

この時いきなりの咆哮に対応が遅れた隊員が耳を押さえて蹲る。

 

「おい!、どうした!?」

 

他の兵士が声を掛けるが、言葉が聞こえてないのか、困惑の表情を浮かべる耳を押さえたままの隊員。

 

「お前、鼓膜が……!?」

 

これではいい的だと判断し、その隊員をほろ付きトラックの荷台に入れた後、近くにいたメガヌロンの口の中に銃弾を叩き込み、1体見事に殺すとこに成功する。

この時再び地響きが起き、「何が起きるんだ!」そう叫び、周りにいる隊員たちも警戒力を一層強くする。

 

『渋谷駅方面に大型メガヌロンが出現!』

 

この時通信からとんでもないことが知らされる。それを聞いた隊員は顔を真っ青にしながらも、気が動転しない様に叫んで気を持たせる。

 

「なっ!?あんなのがもう1体!?どうなってんだよ!渋谷は!」

 

その間にもメガヌロンたちが迫ってきており、その隊員は機銃をもって近づいてくるメガヌロンにありったけの銃弾を浴びせるが、その硬い外皮によって銃弾が弾かれ、メガヌロンが1歩1歩ゆっくりと近づいてくる。

 

「ギギッ、ガァァ!」

 

「このくそッたれがぁぁぁああ!」

 

そしてメガヌロンが隊員にとびかかり、迫りくる銃弾をものともせずにそのまま隊員に覆い被さり、その大きな口でその顔を食い破ろうとするのだが、自分の腹に拳銃の銃口が向けられてるのを知りもしなかった。

 

「これで死ねええ!!」

 

そして引き金を何回も引き、パンッパンッと乾いた音と共に銃弾がメガヌロンの柔らかい腹部の外皮を貫き、そのまま手に持ってた機銃でメガヌロンの複眼を片方破壊する。

 

「ギ、ギギィ!!」

 

だがそれでまだ死なぬメガヌロンは、ただでは死なぬと隊員の顔に前肢の爪を突き立て、そのまま目を抉り、そして痛みで銃を手放した隊員を喰い殺そうと牙を喉元に突き立てるが。

 

「させない!」

 

そこにIS『打鉄』が放ったライフルが残った複眼を破壊し、その痛みに顔を天に向けるメガヌロン。そしてむき出しの下顎に銃弾が数発叩き込まれ、その命が断たれるのであった。

そして負傷した隊員を先程負傷者を入れた幌付きトラックの荷台に乗せる。

 

「皆!この虫の目を狙って!そしたら動きを鈍らせることができるわ!」

 

「すでにやってるよ!」

 

この時打鉄に載ってたパイロットがそう言って自衛隊全ての無線に知らせるが、返ってきたのは既に分かってるという怒声に似た叫びだった。通信相手も余裕がないのだろう、バラララと機銃の連射する音が聞こえそして向こう側から一方的に通信を切られる。

 

「ったく、あと何体いるのよ!」

 

一方的に切られてたことに普通なら何か思うだろうが、今はそんな余裕がまったくない。下手に気を抜けば一瞬で群がられて殺されてしまうという恐怖が彼女に引き金をずっと引かせているのだった。

この時自衛隊の損害は実際3割。普通科の被害は多々である中ISは全機とも無事だが、パイロットにはすでに疲労の顔が見え隠れしており、最初は命中率90%ほどだったその腕も、60~70%まで落ち込んでいる。

その中でも隊員はひたすら銃弾を叩き込み、メガヌロンをできるだけ殺していくのであった。

 

 

 

 

 

その中、里奈1曹は全く経験がないからか、先程からメガヌロン1体も殺せておらず、その見た目の気持ち悪さからか、引き気味にただ銃弾を垂れ流してるだけで、周りに迷惑しかかけていなかった。

そのため「後ろに下がってろ!」「邪魔だ!どけ!」等と言われる始末で、全くの役立たずと化していた。

 

「このっ、くぅ!なんで死なないのよ!」

 

ひたすらアサルトライフルで銃撃してるものの、弾はそのまま外皮に突き刺さったりするものの、致命傷に至らず、メガヌロンが跳びかかってきたりしてそれを飛んで回避を繰り返すが、周りみたいにさっさと殺せないことに焦燥が募っていた。

そもそも彼女の武装はISでの戦いでは使えるが、対メガヌロンではそこまで力を発揮するわけではなく、今の状況みたいにせいぜい外皮に突き刺さる程度なのだ。まあそこを連続で狙って体内に無理やり叩き込むという強引な技もあるが、彼女の腕前ではそんなのは無理だろう。

その間にもアサルトライフルからサブマシンガンに変更してひたすら撃ち続けるが、アサルトライフルよりも威力が低いサブマシンガンでは外皮さえも傷つけることが出来ず、ただ無駄弾を履き続けてるだけだったが、弾が2m級メガヌロンの複眼を砕き、頭の中を銃弾が蹂躙することによって神経経路がちぎれ、メガヌロンの動きが止まる。

 

「へっ……?」

 

この時メガヌロンの動きが止まったことに目を点にする里奈1曹。その後近づいて近接ブレードでツンツンと突くが、反応がないことに嬉しいのか顔がニヤニヤし始める。

 

「よし、仕留めーー」

 

「「「あんたはいい加減に引きこもってろ!邪魔!」」」

 

「えっ……?」

 

この時満場一致ともいえる周りの言葉に固まる里奈1曹。

実際彼女がやっと1体仕留めてる間に周りは6~7体は仕留めており、おまけに彼女が仕留める分のメガヌロンが周りに分配されることで大きな負担を与えているのだ。

それで彼女の余りにも能天気な行動。これに頭に来た近くの隊員たちは彼女を睨みつけるようにして、先程の叫び声をあげ、彼女に面食らわせたのだ。

 

「え、私が邪魔……?嘘ーー」

 

ドォォォォォン!

 

「な、何なの!?」

 

里奈は先程の言葉に茫然としていたが、いきなりの爆発音によって正気をとりもどし、周りを見渡す。するとビルの向こう側で黒煙が上がっており、いったい何があったのか飛び立ってみると、そこには墜落したと思われるヘリコプターの破片が辺り一帯に散乱しており、その中で人体の一部らしきものと、落ちたときの衝撃でバラバラになったと思われるメガヌロンの死骸が散らばっていた。

里奈は炎上する肉の臭いと燃料の臭いに顔をしかめ、この時空を見上げると、そこには15m級メガヌロンが里奈の方をしっかりとその複眼で捉えていたのだ。

 

「ギィィィィイイイイァァァァァァアアア!!!!!!」

 

そして大型メガヌロンは威嚇するかのように吼え、里奈目掛けてその大顎を地へと突き立てる。見た目に反して素早いその動きにどうにか反応し、里奈はその場を急速離脱をし、そのまま顎が地面を抉り、ヘリコプターの残骸を空へと散らす。

 

「何よこの速度!?でたらめじゃない!……まあいいわ。その大きさなら攻撃当て放題だし」

 

そしてバズーカを展開し、そのままメガヌロンに近づいて至近距離で複眼を狙い、引き金を引く。そして放たれた弾は煙を尾に引きながらメガヌロンの複眼へと向かい、そのまま直撃し爆発を起こす。

 

「ギィィィィアアア!」

 

「こんな大きな的だとねぇ!」

 

そして2発、3発と連続で引き金を引き、メガヌロンの複眼の部分で爆発が連続して起き、煙がメガヌロンの顔を覆っていく。

 

「やったわ!」

 

自分の勝利を確信し、銃口を下に下げてニヤリと笑みを浮かべる里奈。だがこの時通信が入り、上空で浮いたままそれに出る。

 

「はい、何でしょうか」

 

『里奈1曹!何処に行ってた!早く帰ってこい!……このっ、来るぁぁぁぁあああ!!死ねぇぇぇええええ!!』

 

その時本部から帰還命令が入ったが何が起きてるのか、ただ断末魔と銃声が聞こえ、そしてメガヌロンの声が聞こえた。

そう、本部のテントはすでに壊れており、ただ仁一尉は機銃で迫りくるメガヌロンを相手しながら必死に通信してるのだ。

 

『くそが!……何!?……分かった。1曹、もう渋谷は撤退する。戦闘ヘリ等の要請が却下された今、すでに戦える戦力が少ない。そのためーー』

 

「ギィァァァアアアア!!!」

 

『っ!?くそっ!1曹、そいつの足止めできるか!?』

 

「ふふっ、任せてください。なぜなら私、さきほ……ど……」

 

『……?おい!どうした!答えろ、1曹!』

 

里奈はその光景に絶望していた。

 

「う……そ……」

 

何故なら、10m級は複眼に亀裂があまり入っておらず、更に3m級メガヌロンが多数湧いてきたのだから。その絶望的な光景に完全に立ちすくんでしまい、もう泣きそうな声が震えてる状態で通信を行う。

 

「鷹月さん!無理です!た、たた助けてください!」

 

『お、おい!ならすぐに帰って来、うぉぉ!?』

 

「えっ……鷹月さん……?」

 

彼の悲鳴と共に通信は途切れ、完全に孤立したと錯覚する里奈。

その時、ビルの陰に隠れていた1体が彼女に跳び付き、油断していたせいで取りつかれ、他に数体が跳び付いてきたせいでバランスを崩し、そして地面に叩きつけられる。

この時武装を展開しようとしたが、手の部分に噛みつかれてるせいで武装展開ができず、そして彼女に群がってる数体がその牙を彼女に突き立てはじめたのだ。

 

「嫌ああああ!!!誰か!誰か助けてぇぇぇええええ!!」

 

彼女は通信で他のISに助けを求めるも、実際向こうも数に押されてるせいで動けず、彼女を助ける暇もない。その間にも彼女に群がったメガヌロンはその牙をシールドエネルギーが切れるまで突き立て続ける。ガンッガンッと鈍い音がしつつもエネルギーは削れていき、そして2桁を切ったところでもう彼女は助からないと悟ったのか、涙を流しながら笑い始める。

 

「ははっ、ははは……。もう助からないの……?いやぁ……だ」

 

そしてエネルギーは尽き、ついにISは防御能力を失い、空腹に飢えた牙が彼女の皮膚に突き刺さり、そして彼女はその激痛によって断末魔を上げながら、バラバラになってメガヌロンの胃の中に収まるのであった。

なお、彼女が纏っていたISが見つかったのはこれから約2週間から3週間後のことである。

 

 

 

 

 

15m級メガヌロンは地面に穴を掘り続けていた。

先程地表に現れた際、周りが何かしてくるかと思ったが、己より小さいのが動きを止めてるおかげで再び穴を掘ることにし、地下鉄を潰し、その下にある洪水が起きたときに使われる地下貯水槽を破壊し、さらにその下。

目指すは地下水脈。それを掘り起こすことによってこのエリアを水没させ、そして自分たちの住みやすい場所とし、安全に脱皮して成虫になれるようにしなければならない。

それが王になるための前座作りであるのだ。

その鋭い嗅覚を駆使し、どんどんと地面を掘り進むこと地下300m。地下は最初と比べて湿気が多くなり、体についてる泥がそれによって流される。

その目的の場所はもうすぐそこ。

一心不乱に15m級メガヌロンは穴を掘り続けた。

 

 

 

 

 

その頃“元”本部があった場所では、今戦える隊員が負傷兵を乗せたトラックをこの戦闘エリアから逃がすためにメガヌロンの足止め作業を行っていた。大体の路地裏へと続く道はトリモチ弾で時間稼ぎとなっており、もう被害の量的に全滅に近い状況となってる自衛隊は、もう隊員の士気もどうにか気力で保ってるという状況だ。

 

「くそっ!まだ高校生になったばかりの娘がいるんだぞ!こんなところで死んでたまるか!今度美味しい料理店に行く約束してるのにさぁ!」

 

メガヌロンとの戦闘で顔に爪による切り傷を負った仁は、すでに機銃の弾切れを起こしており、手榴弾さえも使い果たした今、それでも負傷兵を逃がすため、ISパイロットから予備の近接ブレードをもらい、それを己の筋力を駆使してその刃を振るっていた。

近接ブレードの重さは約20キロ。成人男性でも振るうのが難しい近接ブレードを何とか刃だけメガヌロンに充てることに成功している。

普通ではこれで殺せるはずもなく、すぐに返り討ちに遭うのだろう。だが仁は、刃を当てた瞬間に柄に備え付けられているトリガーを引いた。

 

「ピギィィィ!?」

 

この時メガヌロンの体がビクリと天を仰ぎ、そして体を痙攣させ、その後口から涎をダラダラ流した状態で地面にはいつくばる。

そう、この近接ブレードには引き金を引くと刃に大量の電圧が掛かり、触れた相手の神経の大半を焼き、そして身動きを取れなくなるという装備がなされているのだ。

実際これは水陸両用であるメガヌロンにとても有効な手であり、常に体が湿ってるメガヌロンだとよく体内を電気が巡るのだ。

そして近接ブレードの重さで腕が悲鳴を上げ、ブレードの切っ先が地に付き、肩で息をしながら次のメガヌロンを切ろうとするが、IS達がそれを自分の近接ブレードで焼き殺し、そして仁含む男性隊員系5名を護るかのような陣形を取り始める。

その時、上から独特のローター音が聞こえ、上を振り向くとそこには自衛隊の多用途ヘリがこちらに向けて降りてきていたのだ。

一体どうやってきたのだろうか。誰が連絡したのだろうか、それが気になって仕方ない仁。

 

「私が連絡しました。」

 

そう言うは凛。実際装甲車も数台潰され、トラックもないとなると

実際戦闘ヘリを要請した時、それに出たのが女性自衛官だったため拒否されたが、女性が要請から上手く行ったのだろう。その後凛達ISパイロットに抱えられてヘリの中に入れられ、そして勢いよく高度を上げ始める。

そして最後まで残った隊員と見るはあちこちのビルにメガヌロンがうようよ動き回ってる渋谷の光景だ。

作戦失敗。

これで今後の自衛隊がどうなるのか実際目に見えてるが、今となってはどうすることもできない。

ただその悔しさが心の中で暴れるが……。

 

「ん?……な、何よあれ!?」

 

この時ヘリを護衛するように配置されてたISのパイロットがとある異変に気付いた。10m級メガヌロンと8m級メガヌロンが消えており、そして再び地響きが起きてるのか、その振動で建物のガラスが落ち、いくつか建物が崩れ落ちたのだ。

そして

 

「「「「きゃああ!!??」」」」

 

「「「「うおおお!!??」」」」

 

アスファルトを吹き飛ばし、大きな水柱が間欠泉の様に勢いよく拭き出したのだ。その高さは約20mほどで、しかもそれが2つ、3つとその数がドンドン増えていき、ありえない速度で渋谷を水没さえていくのだ。

 

「なんだよこれ……」

 

仁はあまりの光景に言葉を失う。渋谷はもう10か所に上る水柱によって相当な速さで沈んでいく。その光景はまるで津波にのまれゆく街のようで、残っていた車などが大量の水によって流されていく。

 

「ギィィィィアアアア!!!」

 

「ギギァァァアアアア!!」

 

ただ沈みゆく渋谷で夕日が、ビルの上に登って吼える巨大メガヌロン2体を照らし続けるのであった。まるでその勝利を喜ぶかのように……。




ついに渋谷戦は自衛隊の敗北で終わってしまった。そして沈む渋谷。これからどうなってしまうのか!





……次回予告なんて慣れないことするんじゃないな。




では感想等待ってます!


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反撃の狼煙と裏切り

最近Twitterを始めた(と言っても数週間前)妖刀です。あれ、やっぱりやり方があまり分かんないや。
そして最近金曜ロードショーでGODZILLA(2014)が放映されましたが、カットが多数過ぎてちょっと……ってなってしまいました。まあゴジラの戦闘シーンが明るくなってて、とても見やすかったのは十分評価できますが。


さて、話がずれましたが、本編をどうぞ!


あの授業後、多数の気絶者などが出るなどの事件が起きたせいで、IS学園はまさかの半ドンで終わり、残っていた生徒たちも若干フラフラながら大体が寮へと戻っていく。

その中凰鈴音は、朝布仏本音に言われたとおり生徒会室へと向かっていた。顔色は朝の時より若干悪いが、それより一夏のことが気になっており、とりあえず手に持ってた牛乳を一気に飲み干して生徒会室へと歩を進める。

 

「失礼します」

 

ノックをした後、中に入る鈴。

 

「あら、いらっしゃい。待ってたわよ凰鈴音ちゃん♪」

 

「どうも……」

 

生徒会室にいたのは会長席に座ってる生徒会長である更識楯無、書記の布仏虚、その妹である布仏本音だった。

鈴は来客用の席に座り、それに向かい合うように楯無が座った後、虚がお茶を出してきたためそれに口を付けてそれを少し飲み、湯呑を机の上に置く。そして鈴は本題を聞くことにする。

 

「楯無さん。一夏が危ないって聞いたんですけど、一体どういうことなんですか?」

 

本人は気付いていないかもしれないが、この時の声はまるでキレてるかのようにドスが入っており、虚と本音は苦笑いを浮かべている。

 

「まあ教えてもいいんだけど、これだけ約束して」

 

「何です?」

 

「決して他の人に言わないこと。そして決して攻撃的にならないこと。そして一夏君の心身的なフォローをすること」

 

「……思ったんですが、なんで私なんです?他に箒とかいるでしょうに」

 

「それは彼女とかだと即行動に移して、一夏君に危害が及ぶと判断したのに対して、貴女ならそれが起きる可能性が低いと判断したのと……」

 

この時楯無が鈴の隣に座り、そして口を耳に近づけ……。

 

「好きな人の助けになりたいでしょ?」

 

「っ~!!」

 

この時鈴の顔は一気に赤くなり、まるで頭から湯気が出てるかのような雰囲気さえ出してる。それを見て笑みを浮かべる楯無。

 

「そ、そそそそれは」

 

「間違ってない、でしょ?」

 

「……は、はい」

 

そして顔を赤くしたまま俯く鈴。それをニヤニヤと見てる生徒会3人。この後復活した鈴が暴れてすぐに楯無に征されるが、それはまた別の話であった。

 

 

 

 

 

その後気を取り直して真剣な顔をする楯無。鈴ももうただ事ではないと気を引き締める

 

「さて、本題に入るわ。本音ちゃんに一夏君が危ないって聞いたわよね?」

 

「はい……」

 

「簡潔に言うと、今、一夏君はシャルル君、いや、シャルルちゃんって言った方がいいかしら?」

 

「え、どういう……」

 

鈴はいきなりのことで動きが止まってしまう。ちゃん付け?君じゃなくて……。

いきなり楯無が変なことを言うため

 

この時鈴は気付いてしまった。

 

「気付いたようね。そう、シャルル・デュノアは女よ」

 

「っ……!?」

 

鈴は予想してたことが当たったが、あまりの衝撃的な告白に固まってしまう。

今思い浮かべれば、身長が低く、少しなで肩気味で髪を結んでるのはすべてフランスの男性特有のことだと思っていたが、それを全て女性だからという理由に当てはめると納得いく。

 

「なら一夏はそれを知ってて……。どうして一夏は……!」

 

「だから一夏君は脅されてるの。『このことを誰かに言えば殺す』って」

 

「そんな……!」

 

「でも心当たりはない?一夏君が何か伝えたかったとか」

 

「え心当たりって……ぁ」

 

この時鈴は約1週間前の夜、一夏を夕食に誘った際に何かキョロキョロと挙動不審になってることを思い出したのだ。その日を境にシャルルと関わることが多くなり、自分たちとの接触が少なくなった。

そして日に日に一夏の食が細くなって行くのも知っていたし、それを心配して自分が何かご飯を作ろうとしても、シャルルがやんわりと断って『僕が食べさせておくよ』と言ってたから引き下がっていた。

そして今日みたに2人はよく一緒に行動するようになり、そして自分たちとこ行動を疎かにするように……。

こんなに不審な点があったのに何故気づかなかったのか。鈴は間抜けな自分に苛立ち、拳を強く握りしめ、その力が強すぎたせいか、爪が食い込んでる部分から血が流れ始める。

それに気づいた楯無は急いで鈴の手の力を緩めさせ、そして傷を確認。深くはないが、このままにしておくと傷跡が残り、女性としての欠点がついてしまう。

 

「ちょ、虚ちゃん!救急箱持っーー」

 

「すでに用意をしております」

 

流石従者もといメイドといったところか。その後消毒液を付けた綿を患部に当て、そしてガーゼをした後に包帯を巻いていく楯無。テキパキとした速さで済ませていく中、鈴は俯いたまま、うわ言かのように何か言ってる。

 

「私は……一夏に、一方的に……」

 

「そのことは彼に会った時に謝れいいわ。きちんと誠意をもって謝ればちゃんと許してくれるわ」

 

「でも……」

 

「そう言うトラブルはよくあるものでしょ。はい、おしまい」

 

そして鈴の手に包帯を巻いて処置を終わらせる楯無。

その後鈴は、虚から濡れたお手拭きを渡され、血で汚れた手を綺麗にしていく。

 

「……楯無さん。私、気になったんですが、なんでい、一夏がシャルルの裸を見たと知ってるんです、か……?」

 

「あぁ、それね?彼には悪いけど、シャルル君が転入して来たときに部屋に盗聴器仕込んでたの。だから彼がラッキースケベで彼女の裸を見た後、あとは押し倒されたみたいでその後銃を突き付けられたわ。そして、あとは彼女の操り人形」

 

「あんの馬鹿……、何やってんのよ……」

 

鈴は一夏のスキルを思い出し、あまりの馬鹿っぷりに頭を抱えて溜息を吐く。

 

「流石にこれは私も溜息しか出ないわ……。さて、話しに戻るけど、とりあえず一夏君をお願いね。あとシャルルちゃんが話しかけてきても気づかれないようにね。難しいと思うけど、お願い」

 

そう言って頭を下げる楯無。鈴はまさか生徒会長が頭を下げたことに驚いたが、自分にしかできないことなんだと思い。

 

「わ、わかりました!私に任せてください!」

 

「ならおねがいね」

 

その後、生徒会室で昼食をいただき、鈴は生徒会室を後にするのであった。

その後、生徒会室では本音が食後のケーキを食べてる時、虚が心配そうな顔で楯無に詰め寄ってた。

 

「会長、彼女で大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よ。好きな人を助けたいってときの力は凄いんだから」

 

「は、はぁ……」

 

どうもかみ合わない会話。だけど何か考えてるのか、楯無がとても自信に満ちた顔をしており、虚は少し不安そうな顔で彼女を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

鈴が生徒会を訪れた日から2日後、現在午後3時。

場所は変わり、とある家にて。

 

「航、大丈夫なのかしらねぇ」

 

「まあ俺の息子だ。問題ないさ。それに更識のお嬢ちゃんもいることだしな」

 

「それもそうね。ねえあなた、夕飯何にする?」

 

「んー、月夜がすぐ作れるやつでいいよ」

 

ここはとある一軒家。そこに住んでる航の父である篠栗 北斗(ささぐり ほくと)とその妻である篠栗 月夜(ささぐり つくよ)は居間でのんびりとお茶を飲んでいた。

篠栗家は自営業なのだが、今日は早く店仕舞いをして航の親は家でのんびりしていた。

この時チャイムの音が鳴ったため、月夜は軽く返事をした後パタパタと玄関へと速足で向かう。そして玄関のカギを開け、扉を開いた先にはIS学園の制服に茶色のブーツを履いた更識楯無が立っていた。

 

「あら、刀奈ちゃんじゃない。どうしたの?」

 

「おばさん、こんにちは。実は航が取ってきてほしいものがあるって言われたので」

 

「でも今日は授業じゃないの?」

 

「今日は学校が速く終わってしまったので……」

 

そう言ってニコッと笑みを浮かべる楯無。だが月夜はこの時の楯無に何か違和感を感じたが、気のせいだろうと流す。

 

「あらそう。なら上がって。お昼食べた?」

 

「いえ、まだですかが……」

 

「なら食べて行って。あなた~、刀奈ちゃんがやってきたわ~」

 

「おー、そうかー」

 

居間の方から声が聞こえ、そして「お邪魔します」と言って家に上がる楯無。汗かいていたのか彼女はハンカチで汗をぬぐい、そして居間へと続く通路を月夜と共に歩いているときだ。

 

「そういえば航元気?」

 

「はい、とても元気にしてますよ。どうしたんですか?」

 

「いやねぇ、だってあの子最近電話してくれないし。だから少し不安に思ってね」

 

「大丈夫ですよ。私たち更識が守ってますから」

 

「ふぅん……。ねぇ、貴女、本当に刀奈ちゃん?」

 

「えっ……いきなりどうしたんですか?」

 

この時二人の足は止まり、楯無は前を歩いていた月夜の背中を驚いた顔で見てる。そして振り返った月夜の表情を見たとき、楯無は彼女があまりにも無表情であることに恐怖を感じた。

 

「つ、月夜おばさん……?」

 

「だって貴女から危ない雰囲気が漂ってるもの。確かに対暗部用暗部なんだろうけど、私たちに会うときはそんな雰囲気出さないのよ?それに私のこと、“月夜おばさん”じゃなくて“お義母さま”って呼ぶのよ?あの子は」

 

「それは……」

 

「だから聞くわ。貴女……、だれ?」

 

この時楯無は俯き、目元が髪の毛の陰になって見えない。ただ何かボソボソとつぶやいており、どう見ても危ないと判断した月夜は夫のいる居間へと逃げようとするのだが……。

 

「逃がさない」

 

「へっ、きゃあ!」

 

この時月夜は一瞬足首を掴まれたかと思うと、そのまま引っ張られて倒れてしまい、その時に額を強打して痛みに悶える中、背中に何か重いものが乗ってきたため首を動かして振り向くと、そこには刃渡り20センチ弱の刃物を持った楯無が背中にのしかかって来たのだ。

 

「さて、予定が少し狂ったけど、予定通り死んでもらいますよ」

 

「ひっ……!?い、いやぁぁぁ!!!」

 

そして凶刃が振り下ろされた。切っ先は月夜の首を斬り、頸動脈が切れたせいもあって大量の血が壁に噴きかかる。月夜はまだこの時痛みで意識が消えそうになりながらも体をバタバタと暴れるようにもがき抜け出そうとするが、彼女の力のせいか、それとも大量に血が抜けたせいか分からないが上手く力が入らず、そして背中にいくつもの激痛を感じ、意識を永遠の闇に沈ませるのであった。

 

「よし、まず1人……あとは」

 

そう言って月夜だった物から腰をどかし、立ち上がる楯無。この時もうすぐそこが居間だったのであろうか、妻の悲鳴を聞いてそこの戸から北斗が出てきた。

 

「月夜、どうし……楯無!貴様、月夜をぉ!」

 

完全に血に汚れたボロ雑巾と化した月夜を見て完全に激昂したのか、楯無を射殺さんとする眼つきで拳を握り、そして神速の速さで懐に入り込んで彼女の肋骨に骨を砕くのではないかと思えるほどのフックを叩き込もうとする。だが彼女はそれを体を捩じってするりと躱し、そして捩じった時の遠心力でそのまま後ろ回し蹴りを北斗のこめかみに叩きつけた。

それでよろめく北斗。そして体勢を立て直そうとしたときには腹に刃物が刺さっており、痛みで後ろにのけ反るが楯無がそのまま踏み込んで刃物を深々と刺してくるため、そのまま壁に叩きつけられ、刃物は腹を貫通。そして北斗を壁に縫い付ける形となる。

そして楯無は縫い付けられながらも、殴ってこようとする北斗の攻撃を払い、手の届かない距離まで離れる。

 

「き、貴様……いったい何者だ……!?」

 

「……」

 

楯無は何も答えず、氷のように冷たい目で北斗を睨むだけ。

その間にも北斗はどうにかしてこの刃物を抜こうとするが、どうやら刃に返しみたいのがついてるらしく、柄をもって引き抜こうにも全く壁から刃が抜けない。

そして楯無の袖の中から再びナイフが現れ、それを逆手に持って北斗の首筋に刃を当てる。そして皮が切れて一筋の血が流れ始まる。

 

「さよなら」

 

そして頸動脈を切り、血が噴水化の様に出て壁を赤く染め上げる。

その時、縁側のガラスが割れ、そこに現れたのは更識から篠栗家の監視、護衛を任された永田 神弘(ながた かみひろ)だった。彼の服装は作戦時に着る戦闘着だったが、すでに何者かと戦ったのか、あちこちがボロボロだ。

 

「北斗様!大じ……た、楯無様!?いったい何を!?」

 

「ちっ、邪魔者ね……」

 

楯無は神弘を見るなり完全にぐったりとした北斗から刃を放し、そして床を強く踏みしめて一気に驚いた表情のままの神弘の懐へと入り込む。そしてナイフを鳩尾に突き立てようとするが、神弘はすぐに気を引き締め素手でナイフの峰を掴んでそのまま取り上げ、そして楯無に回し蹴りを放つ。

だが、楯無はその足に乗って飛ばされるかのように後ろへと下がり、そしてナイフを構えなおし、そしていつでも襲える体勢で神弘を睨みつける。

 

「楯無様!貴女はいったい何をしてるのですか!このお方たちは護衛対象のはずでしょ!」

 

「……」

 

「た、楯無、様……?」

 

「……私の姿を見たからには死んでもらうわ」

 

「なっ!?」

 

訳が分からない。だが神弘は自分に向けて突っ込んでくる楯無をどうにかしないと自分が殺される。

実際逃げるという手もあるのだが、背を向ければ最悪背中から撃たれる可能性もある。だからと言って真正面から戦っても勝てる可能性が低い。

そう考えてる間にも楯無がナイフを投げ、それを体を右に逸らして躱したときに右拳が顔面に迫ってきてたためわざと額で受け、跳ね返った衝撃で楯無が顔をゆがめる。

そのスキに己の拳を楯無に叩き込もうとするが、楯無はそれをヒラリと躱し、それどころかカウンターにフライングニールキックに近い後ろ回し蹴りを放ち、それをのけ反るかかのように躱すが、楯無のもう一方の足が跳ね上がり、まさかの2段蹴りに対応できなかった神弘はそれを顔面に直撃をもらってしまう。

 

「がぁっ!」

 

そして骨が折れて血が止まらない鼻を押さえ、そして前を見るとそこにはニィ……と狂気の笑みを浮かべ神弘を見る楯無がいた。

そして彼女は一瞬にして神弘の右腕を掴んで後ろに回り込み、完全に腕の関節の極まった状態でそのまま自分の肩に肘が来る形へとなる。そして半ば力任せに彼を背負い投げるが、この時強い力が掛かったことで肘関節から骨の折れる音が響く。

完全に投げられ頭が下向きになった神弘はそのまま頭が床に叩きつけられるかと思い、もう一方の腕で防御しようとするが、その前に首に楯無のローキックが決まり、ゴキリッと鈍い音が響いてそのまま仰向けの状態で倒れる。

 

「さて、おしまい」

 

彼女は制服が少し血に汚れてるが、そんなのを気にしてないかの様子で玄関へと向かって行く。

だがこの時彼女は気付いてなかった。北斗が自分に向かってきてることに。その手には彼に刺さっていた返し付きのナイフが握られており、彼の目は獣の様にギョロリとした目で彼女を見ている。

 

「がぁぁぁああ!」

 

「っ!?」

 

彼女はその声に驚いて振り向くが、北斗は手に持ってた彼女のナイフを彼女の腹に突き立て、そしてしてやったりとニヤリとした笑みを浮かべ、彼は力尽きたかのようにうつ伏せに倒れる。

 

「くっ、ぅ……!」

 

まさかの不意打ちにナイフが刺さった腹を押さえる。そしてナイフの柄をもって力技で抜こうとするが、返しが邪魔して上手く抜けない。

その痛みに小さい悲鳴が上がるが、それでも無理やり引き抜いた後にナイフを捨て、そして制服のポケットに手を入れた際に自分の血で汚れたハンカチを捨てた後に何か注射みたいのを取り出し、ハンカチを捨てた後にそれを患部に射すと彼女の荒い息は落ち着いたものへと変わった。

そしてこの血で真っ赤になった制服をどうにかするため、部屋を物色。そして春香の服を見つけ、それを制服の上から着てごまかした後、篠栗家を逃げるかのように出て行き、近くにあった黒のワゴン車に乗り込み、車はどこかへと向けて走り出すのであった。

 




航がこれを知るとき、いったい何が起きるのか。それは、誰にもわからない……。

ただわかるのは絶望への一歩を、踏み出したということだけだった……。


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目覚め

最近『モンスタ娘のいる日常』を出ている分全巻そろえた妖刀です。ラク姉さんめっちゃ好みだなぁ。


午後4時、楯無はほぼ毎日欠かさず行っている航のお見舞いへと訪れていた。

手にはお見舞いの品である果物を果物かごに入れたものを持っており、そして航の病室がある5階へとエレベーターで上がり、そして病院の奥にある個室の扉を開ける前に深呼吸をし、そしえてタッチ式の自動扉を開ける。

 

「航~今日もやってきたよ~」

 

笑みを浮かべながらテンション高めに言って、病室のベッドに寝ている航に近づく楯無。だがその笑みも、航の寝顔を見たときに少し悲しそうな表情へと変化し、そして近くにあった簡易椅子に座り、眠ったままの航の頬をや足く撫でる。

ただピッピッと心電図が響くこの部屋で、ただ体温で温かい頬を撫で続けるが、彼は何も反応を示さずにただゆっくりと呼吸をしてるだけ。

楯無はただ、小さくため息を漏らすだけであった……。

 

 

 

 

目を覚ましたとき、航は海の中に沈んでいた。

 

「がぼぼぼb……あれ、息できるし喋れる……。てかなんで海の中?」

 

いきなりのことで慌てたが、呼吸ができると分かるや否や、一気に落ち着きを取り戻して、とりあえず周りを見渡す。

ただ周りに見えるのは真っ青の海とその下のあるごつごつとした岩だらけの海底。そして自分がいるところは上を見るに水深約40mぐらいだろう。昔海もぐったりするのが好きだったから、大体わかるのだ。

だがなぜ自分は水中にいるのか分からず首を傾げると、この時下の方から気泡が上がる。それも1つ2つではなくコポコポと大量に。いったい何があるのかと思い下を見ると、それを見た航は驚きの表情を浮かべた。

 

「ご、ゴジラ!?」

 

「グルォォォ……」

 

そう、水深80~100のところにゴジラがいたのだ。ゴジラは休んでるらしく、体を丸めて、時折岩に肌をこすりつけていた。

この時興味からか、航はゴジラのいる所へと下りていき、近くにあった岩の裏に隠れてその姿をマジマジと見る。

その時だ。まるで自分と目が合ったような気がしたのは。

 

「っ……!」

 

その虚ろな目は憎悪に塗れており、時折疲れを感じさせる眼でもある。だがその眼に見られても航は恐怖を感じなかった。

その時上から潜水士が下りてきた。潜水士は2人で、片方は何か手に持っており、2人はワタルはいる岩陰とは違う岩陰に隠れ、ゴジラに気付かれない様に忍び寄っていくのだ。

この時ゴジラは全く気付いておらず、航がいる岩陰へと近づいていく。

いったいあれが何なのか分からないが、航にはとても怖いものに感じる。それは全てを無に帰す恐ろしいもの。

何故それがわかるのかわからないが、ただそれが怖かった航はゴジラを逃がそうとゴジラに近づくが。

その時『ソレ』は起動した。

『ソレ』から出た大量の水泡はそのまま水面へと向かうが、その途中にあった魚や海藻類が水へと化す。

いったい何が起きてるのか。航の頭では理解することができず、ただその光景を見てるだかでった。

 

「グィォォォ!?」

 

「ゴジラ!?」

 

この時ゴジラは苦しいのか、体が海底に倒れ、岸壁に体を何回もぶつける。その時に大きな地響きが起きて落石などが起きるが、『ソレ』を使ってる潜水士のところには関係なく、その時1人の潜水士が水面へと登って行った。

 

「ギュワァァァァアアアア!!!」

 

ゴジラは『ソレ』によって苦しんだ。

その断末魔は海水を大きく振動させ、数か所で落石が起きる。航の上にも岩が落ちてきたため、急いでその場から退避し、少し登ったらゴジラは苦しみからか急いで水面へと昇っていく。

そして海面に顔をだし、目の前に映る船を射殺さんとするほどの目で睨み、最期となるであろう声を上げる。

 

「グォォァァァァアアアアアア!!!!!」

 

そして断末魔を上げた。その後力尽きたゴジラはそのまま海底へと沈んでいく。そして海底に落ち、泥を巻き上げた後に小さく鳴き、ゴジラは完全に力尽きた。

そしてその巨体が溶けだし、航はあることを思い出した。それは子供がまだ生きてるということを。

だがすでに遅い。巨体はすでに骨と化し、そして骨は海流にのまれどこかへと流れていく。

手に『ソレ』を持ってた人もすでに溶けており、今となってはここは死の海域でしかない。

魚も、海藻も、行きとし生きるもの全てを殺し、海は静かになった。

 

「だれか……いないのか?」

 

航は静かになった死の海を移動し続ける。あまりにも静かすぎる光景に恐怖し、体の体温が奪われていくのか震えが止まらない。

 

「な、何だよ……寒い……」

 

そして目の前は真っ暗に染まっていく。意識はあるのに。

だがこの時気付いたのだ。自分の意識が無くなるのではなくて、イカ墨をばら撒かれたかのように黒く染まっていくのだ、と。

そしてすべてが黒く染まり、航はその場をクルリと見渡す。360°全てが真っ暗ながら、自分の姿がはっきりと見えることに疑問を持ちながらも、いったい何が起きたのか考えることにした。

 

『憎イ。憎イ……』

 

その時声がした。幾つもの声が割れ、それが折り重なった重い声。

それは闇だった。白濁色の2つの光を放つ、全てを飲み込む深い闇。触れてしまえばその深淵へと引きずり込まれ、永遠に帰ってこれない。

 

『家族殺シタ。人間、全テ殺シタ』

 

その闇から血の色のような赤い口内が見え、血で汚れた牙が見え隠れする。

 

『全テガ憎イ。何モ、カモ……』

 

「何だよ、こいつ……」

 

航はその闇を怖いながらも見つめる。その時だ目が合ったように感じたのは。

 

『貴様モ全テ失ウ。家族モ女モ、全テ』

 

「どういうことだ!」

 

奴は自分が見えるのか?だが今となってはこの死の海域にいるのは自分とこの『闇』だけだ。

 

『人間ハ愚カダ。己ガ行ッタ事ガ全テ撥ネ返ル。貴様モ我ト同ジニナル。タダ、何モ守レズ、己ヲ呪イ、全テヲ無二帰ス力ヲ欲スル』

 

「俺はあいつを、刀奈を護るんだ!」

 

『己ガ弱イノニ、ドウ護ル?タダ借リタダケノ紛イ物ヲマトモニ乗リコナセズ、タダ迷惑ヲカケテルダケノ分際デ。ダカラ護レズ、力ヲ欲スル。ソレガ貴様ダ』

 

「違う!俺はそんなのいらない!」

 

『ダハハハハ!』

 

「っ……!?な、何が可笑しい!」

 

航は『闇』が笑うときに感じた憎悪に恐怖した。まるでたくさんの人が蠢くかのような、タールみたいなどろりとした感覚に。

 

『モウ呪イハ引キ継ガレタ。全テヲ失ッタ貴様ハ最期、泣キナガラ無二還ル。モウ戻レナイ。時ハ動キ出シタ。人間ガアノ炎ヲ手二入レタトキカラ』

 

そう言って闇は収束し始める。周りが真っ暗でもその形がはっきり見え、闇は龍の形を模し始めた。だがその姿は東洋の青龍のような細長い体ではなく、がっしりとした四肢に大きな体。そしてヘラジカの角の様な背びれに白濁色の目。

その姿はゴジラに酷似していた。だが大きさがどう見てもおかしく、約100mぐらいあるようにも見える。

 

「ぅ……あ……」

 

航はその大きさに恐怖した。逃げようにも体が動かず、航はその大きな手に捕まってしまい、そしてその『化け物』の口元に運ばれ、そして大きな口が開く。

この時ワタルは自覚した。自分は食われるのか、と。

“いやだ”や“助けて”と声に出そうにも声が出ない。まるで何かによって喉を潰されたかのように。

そして闇が自分の体に絡み始め……。

 

『……る』

 

その時声がした。自分がよく聞く声を。いったいどこから聞こえるのか……。

 

『……たる!』

 

その時闇に光が差した。そして光を浴びた化け物はその部分が崩壊する。そして指した光から1つの手が差し伸べられた。

 

『航!』

 

自分を呼ぶその声は刀奈に似てた。

航はそれを無我夢中で掴む。その時冷え切った体に温かい体温が伝わる。その暖かさで体は動き始め、縋るかのように手を逃げる力を強める。

 

『コレハ始マリダ。覚エテオケ』

 

それを最後に闇はニヤリと口角を上げ、霧散した。そして航はそのまま引っ張られ……。

 

 

 

 

 

 

楯無は航の頭をさすっているとき、航から小さく呻き声が上がったため、手の動きが止まる。

 

「ぅ……ぁ……」

 

航の顔はドンドンと蒼白になり始め、ドンドン汗をかき始めた。

 

「わ、航!?」

 

今までそんなことがなかったため、楯無は航の手を掴み、それを自分の胸元に寄せる。これで何かできるというわけでもない。だが、もしかしたら……。

楯無は一応のため、ナースコールを押し、1~2分後に医者が現れ、航が呻き声を上げてることに驚きを隠せなった。彼の症状はメガヌロンの毒による肉体の腐敗と壊死。これが肺近くまで達していることから、最悪意識が戻らないという可能性が高かったのだ。

だがこうやって魘されるとなると、恐らく痛みが原因と思われるが……。

 

「……け、て……」

 

「「「!?」」」

 

この時航の口から蚊の鳴くような音でだが、声を出したのだ。

 

「航!」

 

楯無は航の手を握る力を強くする。

その時、楯無が首にかけている勾玉が輝き始め、その暖かさが2人を包み込む。

だが……。

 

「あ……が、ぁ……!」

 

航は何か苦しいのか楯無の手を振りほどき、行きができてないのか自分の喉を押さえ、そして口から一筋の血が流れる。

そして航が横向きになった際、背中がモゾモゾと動いたのを楯無は見た。そしてゆっくりと延びていた背びれが今まで見たことない速度で生え始め、30秒経つ頃には大きいので30センチの背びれが3列に背骨に沿って幾つも生えて来たのだ。

そして航は横向きになった際にやっと落ち着いたのか、寝息もおとなしいものとなる。

 

「……ん……」

 

そして航の瞼がゆっくりと開き、その瞳が楯無を見つめた。

 

「ぅ……あ……、かた、な……?」

 

「わか、るの……?」

 

「ここ、は……」

 

この時楯無の目には涙が溜まっており、そして航を強く抱きしめる。

 

「航……よかった……。本当によかった……!」

 

その痛みに航は顔を一瞬しかめるが、ただなぜ彼女が泣いてるのかが分からず、少し困惑する。

ただ、彼女に抱きしめられるは悪くなく、そこ感触をもう少し味わうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

場所が代わり、ここはフランス、デュノア社。

その社長室へ向かう廊下で男は前を進む女に抗議の声を上げていた。

 

「マーサ!これはどういうことだ!?」

 

「どういうことってこういうことよ。あの娘をこの会社で生き残れるようにしただけ。それが何か?」

 

この黒いスーツを着た男はデュノア社社長、カークス・デュノア。顎髭が少し伸びた肌の色が少し黒い40代の男である。

そしてカークスが話しかけてる赤いスーツを着た相手は、彼の妻であるマーサ・デュノア。ブロントの髪に、赤いルージュが塗られた唇。そしてメイクのせいか、見た目は30代前半に見える。

この時カークスがギャンギャンといろいろ言うためマーサはため息を漏らした。

 

「もううるさいわねぇ……。いったい何なのよ……」

 

「だ、か、ら!何故あの歳でここまでの身体能力になる!」

 

彼が見せた資料には、シャルロットデュノアと書かれた少女の身体能力だ。そしてもう一枚はこの年の少女の身体能力。それを見比べると、シャルロットの身体能力や反応能力は場合によっては国家代表にも匹敵するものであり、歳不相応の能力へと化していた。

 

「それはあの子の努力結果でしょ。それぐらいわからないの?」

 

「……っ!なら……、なぜあの子から私の記憶を消した!」

 

「……何のこと?」

 

この時マーサの歩みが止まる。

 

「言い方が悪かったな。何故あの子が私を敵視する?私はあの子をしっかり育ててきたのだぞ。シャルロットが笑顔でいられるように!」

 

「……ちっ」

 

「何だその態度『パンッ!』ぐぁぁ!き、貴様ぁ……!」

 

その時マーサの手には拳銃が握られており、その銃口から放たれた弾は彼の腹部を貫いていた。そしてカークスの腹部は服越しに赤く染まり、彼は痛みからか両膝を着き、マーサを忌まわし気に睨みつける。

だが、マーサは逆にカークスを見下すかのように睨みつけており、その口には不気味な笑みが浮かんでいる。

 

「貴方は私に従っておけばいいの。私は彼女に男は敵、と教えただけ。だってそうじゃない。今の世の中男は唯のゴキブリみたいな害虫じゃない。……確かに貴方は私を不自由させることなかったわ。だけどそれだけじゃ物足りないの。そもそも貴方、私のこと嫌いだったの?」

 

「当たり前だ!私は元々お前と結婚する気などなかった!私が愛したのはケィラだ!だから彼女との間に子供を作りその子をシャルロットと名づけた!これで私はケィラと結婚できてればすべて丸まっていたのをお前は壊しーー」

 

「黙りなさい!」

 

「ぐぅぅ……!」

 

そして再び銃弾が2発放たれ、それが足の甲を2か所貫く。それの痛みで完全に床に倒れ、痛む足を手で押さえており、冷や汗を流しながらも先程より鋭い眼つきでマーサを睨みつける。

 

「権力を欲して何が悪いの!?それが人間の欲じゃない!愛とかそんなの人間が作り出した妄想の粘膜でしかないわ!」

 

「うるさいぞ、父の妾の娘が!」

 

「-ーーっ!」

 

その時マーサは拳銃の引き金を何回も引いた。

この一言だけは言われたくなかった。母親が妾であるが、自分は全く不幸にならずに生きてきた。昔は目の前にいる腹違いの兄とは仲が良くなかったが、お金の荒使いをしても全く何も文句は言われなかったし言わせなかった。

姪を利用して何が悪い。しっかりと管理できてない兄が悪いんだ。

そして拳銃から弾が出なくなるまで引き金を引いた後、そこに残っていたのは己を睨みつけながら死んだカークスの遺体だった。

そしてマーサは携帯を出した後、

 

「ええ、私よ。社長は事故で死んだわ。……えぇ、だから私が今から社長。これを全社員に伝えておきなさい」

 

そして通話終了ボタンを押した後、再び別の番号に電話を掛ける。

そして出た相手は……。

 

『何でしょうか、お母さん』

 

「シャルロット、指令を出すわ。内容はーー」




ついに目覚めた航だが、彼には帰るべき場所を失っていた。それを知った時、航は何を思うのか。


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怪獣王

この時が来てしまった……。


あれから航が意識を取り戻したことが学園中に一斉に広まった。だが見舞いに来る人はこの1週間で一夏、鈴、箒、セシリア、本音、虚の6人に、千冬と真耶の教師2人。そして新たに表れたシャルル・デュノアの存在に驚きを隠せない航だったが、向こうも航の背中から生えてる背びれに驚きを隠せずにいたが。

まあそれ以外が全く現れないことでとても暇になっており、現在午後5時。前に一夏が持ってきた雑誌を暇潰しに読んでいた。ただ背びれが生えたままのため、胡坐をかいたままの姿であったが。

 

「てか刀奈も最近来ないし……。凄い暇すぎる……」

 

そう、1週間前から刀奈が現れないのだ。自分が意識を取り戻したとき「毎日お見舞いに来るから」と言っていたのに一切現れず、とても暇で暇で仕方ない。

まあ恐らく生徒会の仕事がたくさんあるのだろう。そのため退院したらすぐに会いに行こう。

航はそう意気込むのであった。

その時、扉がノックされた。

 

「失礼します」

 

「あ、たしか……シャルル・デュノア、だった、か?」

 

「うん、合ってるよ」

 

そう言って彼は笑みを浮かべ、手に持ってた見舞いの品である模型誌を航に渡す。なおこれは今月号で、前に一夏が持ってきたのは先月号だ。

なお個室である病室には指揮車だけが完成している『1/50スケール 90式メーサー殺獣光線車』が棚に置いてあり、メーサー部は下のタンクの部分が少し完成してる程度だ。

 

「ねえ、そういえば航の機体って4式機龍って言うんだっけ?」

 

「ん?俺、俺の専用機のこと言ったっけ?」

 

「えっと、この前一夏が教えてくれたの。『航の機体は4式機龍と言って、恐ろしいほどの硬さを持つ機体だ』ってね」

 

「ふーん。まあそれで合ってるな」

 

「なるほど……」

 

この時シャルルは何か書いてるかのようにも見えたが、航は戦うときの対策か?と思って見なかったことにしておく。

 

「そういえば一夏は?」

 

「一夏は、何か鈴が引っ張ってどこかへ連れ去られたからどこにいるか……」

 

鈴はいったい何をしてるのだろうか?だが一夏のために何かしてるのだろう。なんとなくそう思った航はこのことを頭の隅へ追いやって、その後適当にいろいろ話し合ってる時だった。

航は不意に立ち上がり、床に置いてあったスリッパを履いて病室を出て行こうとするため、シャルルは首を傾げた。

 

「あー、すまん。ちょいトイレ行ってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

そして病室を出てトイレへと向かう航。扉が閉まった後、シャルルは航がペットボトルに入ってる飲みかけのジュースを見つけた。そして……。

 

「今戻ったぞー」

 

「お帰り」

 

あれから5分ほど経って航は病室へと戻り、そしてベッドに腰掛けて、そして近くに置いたままのスポーツ飲料『バニシング・ウルティメイト』の蓋を開け、そしてグビグビと飲み干し、近くにあったゴミ箱の中に投げ込む。

その時だ。航は視界がグラリと歪むのに強い違和感を感じ、バランスを崩してそのままベッドから落ちそうになった。

 

「航、大丈夫!?」

 

だがシャルルによってベッドから落ちない様にされ、半ばうつ伏せ状態となる。

いったい何が起きたのか。航は混濁する意識の中で四肢に力を入れ、目をギョロリと動かしてゴミ箱の方を見る。思い当たるは先程飲んだスポーツ飲料。

しかしそれなら、最初蓋を開けて飲んだときにすでにこうなってるはず。だが状態の今の航の頭で考えれるのはそれぐらいだ。だが一体いつ……。

この時、航の脳内に一つの仮定が上がる。それは自分がトイレに行ったときに何か仕込まれ……」

航は気付いた。そしてギョロリとした目でシャルルを睨みつける。

 

「お前が、か……!」

 

「何のことかな?」

 

この時シャルルはニコニコと笑みを浮かべているが、目は全く笑っておらず、むしろ冷たい目で航を見ている。

 

「お前は、一体……」

 

航はシャルルに手を伸ばすが、シャルルはそれを払い、そして小さく口角を上げる。

 

「お休み、航。いい夢を……」

 

「き……さ……」

 

そして航の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

「やっと眠ってくれた。さて、航の機体は手に付けたままか。外さなきゃね」

 

シャルルは航の両手に付けられている機龍の待機状態の手甲を外し、そして前に一夏にしたように機龍の中にある『男子搭乗者の専用機のデータ採取』を行う。

だが前回と違い、今度は自身のISを介した採取で、手にラファールリヴァイブカスタムの待機状態である橙色のペンダントに2本のコードを刺し、そして反対側にあるワニ口クリップを待機状態の機龍に挟み、そして空間投影ディスプレイを操作することで前より円滑に手に入れることができるのだ。

 

「さて、これでダウンロードすれば、と」

 

シャルルは空間投影されたキーボードを打ち、そして前に一夏の時みたいに準備を済ませる。そしてEnterを押し、データ採取を始める。

だがその速度は白式の時に比べて60%減で遅く、その遅さにシャルルはイライラを募らせる。誰が来るか分からない中、シャルルはキーボードを叩いて極力早くするようにするが、それでも先程より15%早くなったぐらいだ。

 

 

 

誰が我ノ邪魔ヲスる

 

 

 

「よし、あともう少しだ……」

 

現在採取は90%を超えており、そして95、96、97とカウントダウンかの様に数字は刻まれていく。

そしてダウンロードが100%に行こうとした時だ。いきなりシステムがエラーを起こし、ダウンロードを強制終了させられる。

 

「な、なにが起きたの!?」

 

いきなりのアクシデントに戸惑うシャルル。そしてキーボードをタイピングするがエラーという文字しか表記せず、強制終了させようとコードに手を掛けた時だ。

投影されていたディスプレイが真っ黒に染まり、シャルルは戸惑いを覚えながらも手を止め、画面を見る。

 

『怒り』『絶望』『ビキニ環礁』『破壊』『同族』『孤独』『恐怖』『神』

 

「何、これ……」

 

いきなり浮かび上がった文字の羅列。それはいったい何を意味するのか、それは誰にもわからない。ただ乱雑に画面に映っては消え、そしてまた別の文字が映ってを繰り返すだけ。

すると画面から文字が消え、そして再び漆黒を映す。

先程のはいったい何だったのか……。シャルルはとても怖く感じ、急いでコードを引っこ抜こうとした。だがワニ口クリップがなぜか外れず、そのことにパニックになり始めるシャルル。

だがこの時、再び画面に文字が浮かんだ。だが先程と違うことが起きてた。

 

『核』『力』『脅威』

 

文字と共に映るは原子爆弾が起爆し、大きなキノコ雲ができる光景。場所は海のため、恐らく海上での実験映像なのだろう。すると再び画面が変わる。

 

『ゴジラ』『ゴジラ』『ゴジラ』『呉爾羅』『呉爾羅』『呉爾羅』『呉爾羅』『呉爾羅』

 

「ゴジ、ラ……」

 

画面が真っ赤に染まり、黒い文字でこの名が連続で出た。

何故この名が出てきたのか、シャルルには分からない。ただ額に冷や汗が一筋流れ、謎の恐怖に何も言えなくなってしまう。

そして、新たに文字が浮かんだ。

 

『目覚め』

 

この時、機龍とラファールリヴァイブカスタムを繋いでる2本のコードに赤い紫電が走り、ラファールリヴァイブカスタムの待機状態であるペンダントに、一筋の亀裂が走った。

 

「っ!り、リヴァイブ!?」

 

この時びっくりして後ろに下がると、ワニ口クリップが機龍から外れたため、シャルルはラファールリヴァイブカスタムの損害状況確認と作戦変更、そしてこの恐怖から逃げるために病室を飛び出した。

いったい何が起きたのか、なぜリヴァイブが壊れたのか、今のシャルルには理解することができず、ただ廊下を走り抜け、そしてエレベーターの前に来てから下に降りるボタンを押す。

 

「……っ、遅い!」

 

シャルルは何かからの恐怖から逃れようとするかのように、その場を後にし、そして近くにあった階段を使って5階から1階まで一気に駆け下り、そして1階ロビーを歩いて抜けて病院玄関を出た時だ。

 

「あ~、シャルルンだ~」

 

「あらシャルル、お見舞いでもしてたの?」

 

そこにいたのは布仏本音と凰鈴音。彼女たちは見舞いにでも来たのだろうか、そのため出ようとしたシャルルと偶然鉢合わせする。

 

「う、うん。そうなんだ。でももう用が終わったから、ここを後にしようと……」

 

そう言って彼女たちの横をすり抜けるシャルル。

 

「待ちなさい」

 

その声にシャルルは立ち止まり、そして振り向く。声をかけたの鈴で、彼女は腕組みをしてシャルルを見ていた。

 

「ど、どうしたの?鈴」

 

「あんたのIS、ひびが入ってるけど何かあったの?」

 

しまった。シャルルは服の内側に待機状態のISを隠しておくのを忘れていたため、それがばれてしまったのだ。

だが彼は少し顔が引きつりながらも笑みを浮かべる。

 

「これ?ちょっとね……」

 

「普通そんな風になることって、そうそうないんだけど。ねえ本音、こういう風になることってあるの?」

 

「んーとねー。ISの待機状態はタングステンとまではいかないけどー、結構硬いんだよー」

 

ふーんと小さく言ってシャルルを見る鈴。

 

「あ、僕、用があるから行かなくちゃ。じゃあまたね」

 

そう言って振り返り、急ぎ足でその場を去っていくシャルル。それを2人は怪しそうに見つめるのであった。

2人は彼のやろうとしてることを知ってる。だから、あの亀裂がいったい何なのか気になって仕方ない。

そしてシャルルが見えなくなった後……。

 

「……リンリン、何か胸騒ぎがする……」

 

「あ、そうだった。航!」

 

それを思い出した2人は急いで病室へ向かうが、そこにはぐっすりと眠ってる航がいたため、安堵の息をも出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは日本海溝の水深5000m付近。そこに1体の怪獣が水中を泳いでいた。

体は蛇のように長く、体色は濃い緑。そして全身に鱗がびっしりと並んでおり、顔は東洋の龍みたいに角が生え、そして髭を2本1対で生やしていた。そもそも体は蛇のようにと言ったが、実際は手足も生えており、東洋の青龍そのものともいえるだろう。

その怪獣の名はマンダ。2015年、尖閣諸島にて大量の船を沈めた張本人いや、張本獣だろうか?……まあ正体である。

あのときからマンダは生息地を尖閣諸島付近から太平洋へと移し、そこでずっと過ごしてきた。その後は小笠原海溝へと移り、そして現在は日本海溝でいい住処を探しそしてドンドン水深を5000から6000、そして7000へと移り、ついに最深部へと到着する。

その日の光さえも差さぬ暗い闇を泳ぐマンダ。だが奴のは瞼とは違う膜を目に当てることで、真っ暗闇でも昼の様に見ることができるのだ。

これは後に現れる怪獣も似たようなものを持ってたりするが、また別の機会にでも話そう。

そして深海をどれぐらい進んだだろうか。U字に近いV字の様になってる最低部を泳ぎ続けていたせいもあって、時折落石もあり、それで何回か潰されそうになるも潜り抜ける。

 

「ブグルルルゥ……」

 

いい加減にいいとこはないのだろうか……。首を動かして周りを見渡すが、どうもしっくりくるところがなく、とりあえず体をうねらせるのをやめ、底に足を付ける。

そして疲れた体を休ませるため、底に頭から尾の先まで付けていき……。

 

「グォォォォ……」

 

いきなり響く謎の音にマンダは頭をもたげ、その場を見渡した際に地響きが起き、急いで浮上する。するとすれ違うかのように落石が起き、先程までいたところが完全に埋もれてしまう。

一足遅ければ完全に埋もれており、恐らく己の巨体でもそう簡単に動くことは出来ないのだろう。それほどの大きな岩が降り注いでいたのだ。

だがいったい何があったのか。マンダは先程の大きな音のした方を首を忙しく動かして見渡すが一切分からない。

その時だ、自分の尻尾の方で再びその音がしたのだ。

マンダは急旋回して音のした方へと向かう。そして道中何回か音がしたが、これは怪獣、自分たちと同類の出す声だとわかり、先程より慎重な動きとなって音、いや声のした方へと向かう。

 

「ブグルルルゥ……」

 

そこは大穴だった。最深部でありながら大きく切り立った崖の様になっており、そこから200mほど下に底がある。

いったい何がいるのか、マンダはその深海でもはっきりと見える眼で見渡すと、そこには黒い肌に大きな背びれを生やした巨大な龍がいた。

ゴジラだ。

そしてその隣には何か分からないが茶色のゴジラと同型の“ナニカ”があり、ゴジラはそれに寄り添うかのように眠っていた。

そして崖の上から下に寝そべっているゴジラを見るマンダ。あの地帯は高温の海底火山も活発になっており、マンダからしたらとても良物件ともいえる場所であった。

この場所がほしい。あの邪魔者を消したい。どうやって消す……。

現在マンダの思考はそんなので埋まっており、舌をぺろりと出して自身の口回りを舐る。

それから1時間ほど経っただろうか。マンダはどう倒すか決めたのか、体を浮かせ、首から先を崖から出してゴジラを見る。その時だ。

 

「グォォォォ……」

 

この時ゴジラが不意に立ち上がり、気付かれたと思ったマンダは崖から飛び出した。

 

「グリィャァァァアアアア!!」

 

「!?」

 

マンダは崖上からゴジラ目掛けて高速で近づき、そしてまだ寝ぼけてるのか、動きが遅いゴジラに体当たりをぶつける。それで大きく体を傾け、岸壁に体をぶつけるゴジラ。

この時岸壁からの落石がゴジラに降り注ぎ、そしてゴジラの目がゆったりしたものから鋭く、見るものを射殺さんという眼つきへと変貌する。

 

「グルル……グォォォォオオオオ!!!」

 

この時ゴジラは寝ぼけを吹き飛ばすかのように大きく吼え、海中を大きく地震でも起こしたかのように響かせる。

その迫力に怯んだマンダは、体勢を立て直すためにゴジラがいるところから100mほど高いとこへと浮上し、ゴジラの頭上をクルクルを円を描くように回る。

 

「グルルルゥ……」

 

それを見上げるゴジラ。ゴジラには水中を自在に泳げるほどの潜水能力等を身に着けている。だが、相手は自身みたいに水陸両用ではなく完全に水中用。ゆえに泳いで戦おうにも相手の土俵では不利だ。

その間にもマンダは自身に体当たりを仕掛け、時にはその長い尻尾で叩いてくるため、ゴジラは体を大きく揺るがせる。

まだ完全に体が起ききったわけでないため、ただ唸るだけで反撃に出ようとしないゴジラ。その間にもマンダは体当たりを仕掛け、嘲笑うかのように尻尾で叩いて離れ……れなかった。

 

「グリィャァ!?」

 

体がピンと伸び、その反動が激痛となって体を走る。いったい何があったのか、マンダは尻尾の方を見ると、そこにはマンダの尻尾に自分の尻尾を絡めて捉えると奇抜な捕まえ方をするゴジラがいた。

 

「ォォォォ……グォォォオオオオアアアア!!!!」

 

そして体を回して力任せに引っ張り、マンダは全長250mもある体が引き戻されてそのまま岩壁に叩きつけられる。

今まで感じたことない衝撃に目を回しかけるマンダだが、この時自身の体を一気に曲げて、ゴジラへと突進をしようとし、虚を突かれたゴジラは一瞬動きが止まってしまう。そしてマンダが突進を決めたかと思われたがマンダの頭部はゴジラの脇腹をすり抜け、そして体をゴジラを中心に一気に巻き上げていく。

そして体に合ったスキマを埋めるかのように、一気にゴジラをその長い胴体で縛り上げた。

 

「グゥゥオオ!?」

 

いきなりの縛り上げに驚き、声を上げるゴジラ。そしてとあることに気付いた、この束縛から逃れることができない、と。

体をゴジラに巻き付けたマンダは本気で力を込め、ゴジラをぎちぎちと締め上げる。ゴジラが力ずくで引きはがそうとするがそれで剥がれるマンダでなく、さらに力を込めてゴジラの尻尾以外は完全に身動きが取れず、さらにゴジラの首を締め上げる。

それでもがき苦しむゴジラ。尻尾を使ってマンダを叩くも、自身を尻尾で叩くということをあまりしなかったゴジラは、力をうまく込めることができずマンダに悲鳴を上げさせれるだけの一撃を与えることができない。

その時ゴジラはバランスを崩し海底に倒れ、マンダはこれを勝機と見たのか、ニヤリと口角をあげ、ゴジラの顔を見る。

その時だ。ゴジラの背びれがチカチカと蒼白い光を断続的に光らせ、次の瞬間ゴジラの体全体が青白く光り、大地震が起きたのではないかという衝撃が海中に木霊する。

 

「ゴァァァァ……ガァァァァアアアア!!!」

 

「グビィャ!?」

 

マンダの体はバラバラに吹き飛び、四散した長い動体が赤い血を海中に溶かしながら海底へと沈む。

体内放射だ。

マンダはガチガチに締め上げていたせいでその衝撃からの逃げどころがなく、その結果、体がバラバラになったのだ。

 

「グリャァァァァ……」

 

頭から50m弱の引っ付いていたが、すでに虫の息。ゴジラはそれを一瞥した後背びれを蒼白く光らせ始め、そして口からも青白い光が漏れ始める。

そして、ゴジラの口から青白い武力の光が放たれ、それをもろに浴びたマンダは水中で大爆発を起こした。

 

「ゴァァァァァアアアアア!!!」

 

勝利したことにゴジラは吼え、水中を大きく揺るがせる。

そしてゴジラは海中を見渡した後、尾をうねらせて海中を泳ぎ出した。

眠っていた分失った自身の核エネルギーを補給するために。そして、あの時感じた自分と“ヤツ”の気配を持つ何かを探すために……。

ゴボボと口から空気が漏れながら、ゴジラは海中を進み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ついに、“怪獣王”が40年ぶりに動き出した。

 

 

そしてこの後、幾多の原子力潜水艦が消息不明となるのだが、それをゴジラが原因だと人間が知るのはまだ後のことであった。




ついにゴジラが動き出した。





えー、そしてですが、とある発表があるので、感想を書き込んだ後らへんに活動報告を見てください。


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待ち焦がれ

新年あけましておめでとうございます。今年も『インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍』をよろしくお願いします。

では新年最初の更新をどうぞ!


メガヌロンにより渋谷が水没してから1週間たち、あのショックを受けながらも教室はその事件の前の雰囲気を取り戻しつつある、とある日のことであった。

 

「鷹月さん、大丈夫?目に隈ができてるけど……」

 

「ん……、大丈夫、よ……」

 

「いや、とても大丈夫そうに見えないんだけど」

 

「ははは……心配してくれてありがと、谷本さん……」

 

彼女は友人である谷本癒子に笑みを浮かべるが、癒子からすればとても痛々しいほどに無理してるようにしか見えず、困り顔を浮かべる。

そしてなんか話しかけようとした時だ。

 

 

キーン、コーン、カーン、コーン

 

 

「あ、チャイムが鳴ったから、また後でね……」

 

「鷹月さん……」

 

そして彼女、鷹月静寐は自分の席に戻り、次の授業の準備をするのであった。

 

 

 

 

 

鷹月静寐はこの数日間まともに寝ることができなかった。おかげで目の下にはメイクでどうにか隠そうとしても出てしまってる隈があり、そして話すときも常に上の空。それが原因で周りからとても心配されることが多くなってきている。

なぜこうなったのかというと全ては1週間と1日前の夜に遡る。

それはあの事件の前日、父である仁から『仕事が終わって丁度休みが重なったら、美味しいものでも食べに行こうか』と電話越しに言われたのだ。

いきなり何言ってるのだろうかと、いきなり死亡フラグめいたものを言って何かの悪ふざけかと思っていた。だが厳しいが優しい、片親でありながら自分をしっかり育ててくれたそんなふざけることを言うのが苦手なことは知っている。

静寐は何か不安を抱えながらもその日は眠りにつき、そして次の日の怪獣学でのことであった。

 

『今回の作戦にて隊長は鷹月仁一尉、そしてーーー』

 

「なんでお父さんが!?」

 

「え、どうしたの?」

 

静寐の声に全員が彼女の方を見る。

授業にて渋谷での生中継による映像が出されていたが、そこで彼女からしても何か苛立ちを感じるアナウンサーの口から仁の名前が出されたのだ。

 

「た、鷹月さんどうしたの……?」

 

「先生。さっき出た鷹月仁は、私のお父さんなんです」

 

「え、本当に?」

 

これに周りが一気にざわめき出す。

まさか自分の父がこのような作戦に参加しているとは思わず、この時とある不安がよぎってしまう。

 

『仕事が終わって丁度休みが重なったら、美味しいものでも食べに行こうか』

 

まさか父はこの作戦があるから、あんなこと言ったのではないのか?

そのため体が震えだす静寐。

 

「で、でも今の私では向こうに何か言うこともできないわ……。だからお父さんを見守ってあげましょ?それが貴女に出来る唯一のことだから、ね……?」

 

「先生……」

 

そしておとなしく席に着き、授業は再開される。

その後は上空からの映像中継で、渋谷上空を映される。それから10分ほど経った後、屋上にいたメガヌロンを撮影し、そしてそのメガヌロンが鳴くくのを皮切りに所々で発砲音が鳴りだした。

それからどれぐらいたっただろうか、司令部はすでにメガヌロンだらけになっており、そして撮影しているヘリもメガヌロンによって墜落。

 

「あぁ!」

 

そしてブラックアウトする画面。

静寐はこの後の情報が分からなくなったことに恐れを抱いた。そして授業もいきなり自習となり、生徒の大半がトイレに向かうなり、保健室に向かうなりと大惨事となるが、静寐は、それより自分の父の無事を祈った。

そして翌日、食堂に備え付けのテレビを見て、彼女はテレビを見て絶望した。

 

『謎の昆虫が現れて数時間後、現在渋谷は完全に水没しておりーー』

 

ただペタリと床にへたり込む静寐。この時に手に持ってた盆を落として朝食をこぼしてしまうが、彼女にとっては些細なことでしかない。周りにいた女子達はそんな彼女を奇異な目で見ているが、クラスメイトの子数人が急いで駆けつける。

その後は朝食を食べる気力もなく、そのまま授業を受けるが頭に内容が入らず、千冬の授業時間でもボーっとしたままだ。

 

「鷹月。……鷹月!……返事をしろ!」

 

その光景に業を煮やした千冬は出席簿で彼女の頭を叩く。すると静寐がまさか泣き出し、それで思いっきりうろたえる千冬。

その後彼女は早退をし、寮の自室のベッドに横に倒れるが、ただ不安が彼女の胸をかき乱す。

 

「父さん……」

 

あれから父は無事に帰れたのだろうか……。だが電話をかけても一切出ず、メッセージを残しながらも何回も掛けるも、父、仁は一切返信をすることはなかった……。

 

 

 

 

 

あの放送事故の後、燈は上層部から大目玉を喰らい、怪獣学を中止。そして他の先生の手伝いということを最近行っていた。

周りの教師から「生徒に精神的ショックを与えた駄教師」として白い目で見られながらも、自衛隊から送られてきたメガヌロンの情報をまとめていた。

いつもは眼鏡をかけていないが、今回は珍しくしており、彼女の手は忙しそうにパソコンのキーボードを叩いている。

 

「……ふぅ。大体こんなものかしら。えっと……」

 

彼女は今書いた分の資料に目を通す。

 

『メガヌロン。体長50センチから10mまで多種多様。見た目はトンボの幼虫であるヤゴに酷似しており、過去には1956年、熊本県阿蘇にて亜種と思われる個体が確認されている。

その歴史はとても古く、古生代の石炭紀やペルム紀の地層から出土。中国、ドイツで化石が発見されており、その成虫であるメガニューラは中国で一か所に大量に発見されている。しかも驚くことに、中生代のジュラ紀や白亜紀の地層からも発見されており、それらはまだ調査中。

 

メガヌロンは湿ったころに住み、歩行するときに足音を立てず、尚且つ壁や天井を移動ができ、そして下水道も移動が可能のため、探す際には相当な警戒をしなければならない。

そして他のメガヌロンとコミュニケーションが取れるらしく、中生代にいたラプトルみたいな集団行動による狩りも行えるとの報告もあり。そのため、戦闘を行う際は必ず集団で。孤立した場合、ISでもないと逃げれる確率が極端に低くなるため、それだけは避けたい。

 

メガヌロンの体はタングステンまでとはいかないものの硬い外皮があり、特に頭部に至っては灰色の鱗殻(グレー・スケール)をも耐えるという報告もある。なお複眼に対しては普通の機銃で破壊が可能で、視力を奪った後に柔らかい関節部を破壊するのが効果的である。

ISに限ってはハイパーセンサーを騙す天然のジャミングを行えるため、専用のセンサーを使わなければならず、そして生息場所が路地裏などのISの最大の長所である“機動性”を活かすにま難しい場所にいるため、マシンガン等で牽制をし、通電性近接ブレード等で仕留めるのが効果的である。ただし己も濡れている場合は感電する可能性があるため注意。

他にはナパーム(焼夷弾)等で焼くことが可能だが、市街地で使うのは推奨できないため、広場などでグレネードを使用するのがいいだろう

 

そして最も恐ろしいのはその機動力や爪でもなく、牙から出る毒で、その効果は神経毒、出血毒を足したものに近く、尚且つ細胞の破壊などを行うため、血清を使っても回復の見込みは低いだろう。

それによって、IS男子搭乗者の片割れである篠栗航は瀕死の重傷、そして手術後も意識が戻らず、現在意識不明のまま病室に安置されている。』

 

 

ここまで書き終わり、一息吐く燈。肩も凝ってるせいもあり、首を動かすとゴキゴキと音が鳴った。

 

「さて……とりあえずこれでひとまず完成ね……。はぁ……地味に疲れた。コーヒーでも飲もうかしら」

 

長時間パソコンの前にいたせいか目頭を揉み、そして立ち上がろうとした時だ。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、山田先生……」

 

そこには山田真耶が立っており、彼女は燈の席にコーヒーの入ったカップを置く。

 

「お疲れ様です、家城先生」

 

真耶は周りの教員と違って、いつも通りの幼く見える笑みを浮かべる真耶。だが燈からしたらその笑みが何か救いに見えて、そして自然と笑みが浮かび始める。

 

「すみません、わざわざ持ってきていただいて……」

 

いえいえ。いつも忙しそうにしてるのに私はこれぐらいしかできませんから……。そして家城先生も大丈夫ですか?」

 

「え、何がですか?」

 

「っ……!先生、最近眠れてないそうですね」

 

「あぁ……大丈夫よ。別に仕事に支障は出てないし」

 

「ですけど……」

 

「どうしたの?」

 

この時燈は気付いていないが、彼女は最近眠れておらず、化粧でごまかしているものの、目元にはクマができているのだ。だが働きぶりがいつも通りのため、歩いてる時にいくらかふらついてる時が起きてるのだ。そのため何回か階段から転げ落ちそうになったりとしてるが、彼女はそれを全く意識していない。

そのため燈は真耶の言う言葉の意味がまったく分からず、首を傾げる。

 

「あのですね……。最近、先生が恐らく寝不足のためか、何回か階段から落ちそうになってるのを周りが目撃していうんです。何回かありませんでした?生徒から手を掴まれたということが」

 

「えっと……あぁー、たぶんあったかも」

 

「たぶんって……」

 

「ごめんね、あまり覚えてないのよ。今のこれが忙しいから」

 

余りにも適当な返事に困り顔を浮かべる真耶。いったい何が彼女をここまで動かすのか……それが気になるが、真耶はそれと同様に何か怖いという感情を持つ。

実際先程、パソコンとにらみ合いしてる時はその迫力と気迫で近づくことができず、手にコーヒーカップを持ったまま彼女の近くにいたままだったのだ。それでやっと彼女が休憩に入ったから話しかけることができた。

そして真耶は意を結して彼女に話掛ける。

 

「……家城先生。何でそこまでして頑張れるのですか?」

 

「いきなりどうしたの?」

 

「だって普通の教師だとそこまで頑張ったりなんてできませんよ……。さっきまでの貴女の表情が怖かったですし……」

 

少し怯えの表情を浮かべて意気消沈する真耶を見て、燈は小さく微笑みを浮かべ、そして口を開く。

 

「山田先生。少し私に付いて来てくれませんか?」

 

「え、あ、はい」

 

そういって燈は立ち上がり、職員室を後にする。真耶はその後を付いて行き、そして歩くこと約10分弱。階段を上がり、扉をくぐって出たところは学園の屋上だった。

 

「ここは屋上ですよね。なぜここに?」

 

「よし、誰もいないわね……。まあ誰にも聞かれたくないからですかね」

 

「は、はぁ……」

 

そして真耶はベンチに腰掛け、燈は屋上のフェンスに肘をかける。

いったい何を話すのか。真耶の頬を一筋の汗が滴る。

 

「真耶ちゃん、私の祖母のこと知ってるよね?」

 

真耶ちゃん。彼女が仕事モードでなく、燈としての状態を表してる時だ。

 

「あ、はい。たしか機龍隊のお方でしたよね?」

 

「ええ、そうよ。まあ正確に言うなら特生自衛隊で機龍隊所属だったんだけどね。それで私の祖母、家城茜は2003年、三式機龍で中破しながらもゴジラを退けた後、街の復興のために避難地域へと赴いたわ。そこはまさに地獄絵図……いや、避難は大体終了したいたから怪我人や死者は少なかったらしいわ」

 

「え、私が聞いたのは市民の死者、けが人はいなかったって……」

 

「そんなの新聞書いてる人が勝手に書いたことよ。そこで祖母は瓦礫の下に埋もれた人を助けたり、逃げずにゴジラに近づいて死んだ市民が撮った映像とかを押収したりしてたらしいわ。

そしてある日、食料や水などの物資を運ぶ任務で避難場所となってる体育館などに行くと、そこはたくさんの人がいたらしいの。その大半はゴジラに怯え、そして還らぬ人を悲しんだりする人たちがたくさん。その中にはゴジラ襲撃で怪我した人もいたって言ってたわ」

 

静かに言う燈に頷いて相づちを打つ真耶。

 

「その中、とある夫婦にお婆ちゃんは会ったの」

 

「とある夫婦……?」

 

「えぇ……。自衛隊に所属していた息子をゴジラによってその命を奪われた夫婦が」

 

「でも、それは……」

 

「ええ、わかってるわ。その夫婦も息子が死んだことに悲しんでいたけど、自衛隊には全くの怒りを持ってなかったらしいの。その時おばあちゃんはその夫婦から『息子は……自衛隊に入った息子は役に立ちましたか?』って」

 

「……っ」

 

「お婆ちゃんはその隊員が誰かわからなかった。だけど悲しみを重ねさせないために「もちろんです」と答えたって。……で、ここから本題だけど、私、その夫婦に会ったの」

 

「えっ!?」

 

「そして言われたの。『もうこの悲しみを繰り返させないために、怪獣の怖さを子供たちに教えてやってください。今の世の中はその恐怖を忘れてしまっている』って……だから、よ」

 

そこまで言ってすっきりしたのか、燈は真耶の方を向くと、そこには涙をボロボロ流して、鼻水をすすっている真耶がいた。

 

「うぅ~……」

 

「ちょ、真耶ちゃん何泣いてるの!?」

 

「だって~、こんなに泣ける話とは思いませんでしたもん~」

 

そして燈から渡されたポケットティッシュで鼻をかむ真耶。そんな姿を見てた燈は苦笑いを浮かべる。

 

「感動するかどうかはいいんだけど、ここまでされたらやるしかないって思うでしょ?」

 

「はい、たしかにこれはそうなってしまいますね」

 

「だからよ。正直不謹慎ってわかってるけど、あのメガヌロンがしたのは周りにショックを与えてくれるからとてもよかったわ。まあこんな風に授業停止されるのは予想してたとは言え、減給は少し予想外だったけど。さて、私の話はおしまい」

 

「え、でも」

 

「あ、それとこのことは誰にも言わないで。どうせ誰も同情しないし、馬鹿にしてくる人ばっかりだろうから」

 

「そんなわけありません!」

 

「えっ、いきなりどうしたの!?」

 

いきなり大声を上げたため、燈は驚くと、真耶は怒ってるかのような表情を見せる。

 

「そんな立派なことをするのにそんな風に馬鹿にする人がいるなら私がしっかりとその人に対して怒りますよ!」

 

「あー、ありがと。まあこれは秘密にしといて。いい?」

 

「……わかりました」

 

「今度こそ私の話は終わり。じゃあ職員室に戻りましょうか」

 

「あ、はい……それと燈さん。ちゃんと睡眠はとってください。じゃないと有事の時に動けなくリなりますよ」

 

「あはは……善処します」

 

そして歩き出す2人。だが燈はその場に立ち止まる。

屋上の1人残った燈。そして

 

「……さすがにこれが轡木理事長だとは言えないしね。あの2人から口止めされてるし」

 

小さくつぶやいた言葉。それは風の音とともに消え去ったのだった。




戦地に赴いたまま帰ってこない。それで待ち続けるとはどれほどつらいものなのか……。



では感想、誤字羅報告待ってます。あと同時にもう2つ作品を更新しているので~♪



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疑心暗鬼

どうも、散々な成人式を迎えた妖刀です。お酒を飲んでも一切酔うことができませんでした。



まあ、最新話をどうぞ。


フランス、デュノア社。そこの社長室で、現社長であるマーサ・デュノアは現在通信を開いており、その相手に激高していた。

 

「何失敗してるのよ!この馬鹿が!」

 

『申し訳ありません……。ですがーー』

 

「言い訳なんて聞きたくないわ!いい、わかってる!?これで失敗すればこの会社は潰れるの!貴女がここの社運を握ってるのよ!?」

 

『はい……それは、承知しております』

 

「なら何で失敗したの?」

 

この時、通信相手であるシャルル・デュノアは小さく奥歯からギリリと音を鳴らす。あんなこと言っても信じてもらえるのだろうか?だが言わなければ、さらに暴言が降り注ぐ。

言って降り注ぐのと言わずに降り注ぐ。どちらがマシなのだろうか。そしてシャルルがとった応えは……。

 

『それは……篠栗航のIS、『四式機龍』の情報をハッキング途中に四式機龍が逆にハッキングを独自に行い、それにより中継に使ったラファール・リヴァイブ・カスタムが内外ともに損傷。そしてーーー』

 

「何してるのよ!この間抜け!」

 

マーサは余りの報告に檄を飛ばし、机に手を強く叩きつける。自分が作り上げたこの娘がここまでダメだったことに強い苛立ちを感じ、頭を強く掻き、そして頭を抱えた。

そして一方的に通信を切り、そして椅子に力なく突っ伏す。

 

「ったく、何してんのよあの小娘は……!」

 

元から気が短い性格からなのか、彼女はただイライラが募りギリギリと歯を鳴らす。

ただでさえカークスを殺したときから彼を慕っていた男性社員が1/3ほどがいきなり反旗を起こし、その際に起きた社内暴動をISを使って強制的に鎮圧。

その後残った男性社員は何も言わずに黙々と仕事をこなしていくが、前より確実に開発班の動きが慢性となっている。

そのせいで最近は10円禿げが出来てきたりと体に影響が出てきており、若い男性社員に襲い掛かってペットにしたりとそれで発散してきた。

だがその矢先にこの報告。だがこれで中止となったらいろいろと不味い。そのためとりあえず冷静になって、次はどうするか考えることにした。

 

『お悩みの様ね、マーサ』

 

その時、いきなり通信が入る。そして相手が映る画面には自分以上に美しいブロントの髪に紅い瞳の美しい女性が映っていた。画面に映ってる彼女は赤のドレスを着てるのか、肩が見えている。

 

「何の用よ、スコール」

 

そう呼ばれてスコール、スコール・ミューゼルはフフッと小さく笑う。その妖艶さは男なら簡単に堕ちていただろうが、マーサからしたらただの挑発行為にしか見えない。

 

「まあそんな怖い顔しないの。私たち、肌を重ねあった仲じゃない」

 

「……いきなり何?」

 

「聞いてたわよ?娘さん、失敗したんですって?」

 

「……何で知ってるのよ」

 

この時マーサの声はドスが入ったかの様に低かったが、スコールは飄々とした感じに話す。

 

「え、だって通信開いたけど貴女が気付かないから丸聞こえだったもの。これで聞くなと言われる方が酷よ」

 

「なっ!?何時の間に繋いでいたのよ!?そしてあんなの娘じゃないの知ってるでしょ」

 

「まあね」

 

「で、要件は?」

 

マーサは先程の叫び声で疲れたのか、少し小さい声で言い、それをスコールは笑みを浮かべて返す。

 

「ねぇ、こっちで作り上げた物を使ってみない?」

 

「作り上げたもの……?」

 

「えぇ。今そっちにデータを送るわ」

 

そしてパソコンにEメールが入る。それを開き、マーサは中身を見ると驚きの表情を浮かべた。

そして驚きの表情は口角が上がっていき、ドンドンと笑い声が上がってくる。

 

「どう?」

 

「ふふふ……有効に使わせてもらうわ」

 

「そう、ありがとうね。じゃあ今から送っておくから。届ける相手はシャルロット……じゃなくてシャルル・デュノア宛でいいの?」

 

「えぇ、お願い。あ、それと使い方説明書も付けておいて」

 

「わかったわ。じゃあ2日後にデュノア社から届く様にしておくから」

 

「わかったわ」

 

「じゃあ幸運を祈るわ」

 

その言葉を最後に通信は切られ、画面は真っ黒となる。

そしてマーサは再びシャルルに通信を繋いだ。

 

「貴女にとあるものを送っておくわ。それを有効活用して彼のデータ、いや、彼の機体ごと捕まえて来なさい。詳しいことは送られたものと一緒に入れてるからそれで確認しておきなさい」

 

『え、ちょ』

 

「いいわね?コレは命令よ?」

 

『……はい、わかりました』

 

そしてマーサは通信を切った。これでどうにかなる。失敗したら最悪あの娘を切り捨てればいい。そう考えながら、彼女はストレス発散にペットがいる部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、本当に何も考えてないわね、あのお馬鹿さん(マーサ・デュノア)は」

 

スコール・ミューゼルは小さく笑うかのようにして、その後に部下にその“ブツ”を出すように命令を出す。

 

「こんなおいしい話に簡単にかかるとは思わなかったわ。まぁ、いいテストケースにはなるかしらね?」

 

そう言って、彼女は今いる部屋の椅子から立ち上がる。

そして扉のドアノブに手を掛けて。

 

「さて、何人が犠牲になるのかしらね」

 

そう呟くとともに部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

病室で航はベッドに腰掛けて暇を持て余してるのか、両手に握力30kg用ハンドクリッパーを握って緩めてを繰り返しており、ただスプリング部がギチッギチッという音を病室に響かせている。

体がほぼ回復したとはいえまだ検査入院に近い形になっており、すでに『1/50スケール 90式メーサー殺獣光線車』もメーサー部も組み終わってすべてを完成させてしまい、ただ暇で暇で仕方ないのだ。

 

「148、149、150……終わり!」

 

そしてハンドクリッパーを手放し、そのままベッドに倒れ込む。その顔はとてもつまらなさそうにため息を漏らしている。なぜこうなってるのかというと……。

 

「前に鈴と本音が来たのに、なんで刀奈が来ないんだよ……」

 

そう、楯無もとい刀奈がいまだ見舞いに来ないのだ。ただでさえ助けてもらった時のお礼を目を覚ました際に言いそびれたおかげで未だ言えておらず、若干モヤモヤした気分でいるのだ。

そのモヤモヤした気分を解消しようといろいろしているのだが、どうしても晴れないため、早く来てもらってお礼を言いたいのだ。ならば電話などで呼ぶなりすればいいのだろうが、いくら電話をかけても彼女は忙しいのか一切出ることなく、メールを送っても返信がないため、おかげで余計にモヤモヤする。

 

「メールぐらいは返信してよ……もう……」

 

ため息とともに言葉を漏らす航。特に苛立ちは感じなくても、何かあったのかと不安を感じてしまい、前に本音っちが見舞いに来た際に「楯無は元気か?」とつい聞いてしまったぐらいだ。その時は「会長は元気だよ~」返されたが、なぜか不安が拭いきれない。

そうやって考えが堂々巡りしてるときに扉がノックされたため、返事してから中に入ってきたのは、個々の病院の看護師であった。

 

「篠栗さーん。お手紙が来てますよー」

 

「手紙?誰からだ?」

 

看護師が持ってきたのはA4ほどの大きさがある茶封筒であり、航はそれを受け取って軽く持ち上げてみる。

 

「差出人は……日本政府……?どういうことだ……?」

 

「では私はこれで」

 

そして看護師は出て行き、病室には手に封筒をもって首をかしげる航だけがいた。

厚さは1センチほど、重さはスマートフォン2つ分ほどの重さだ。そして封筒を振ってみたらたくさんの紙が入ってる時の特有の音がし、相当なプリント類が入ってることがわかる。

 

「耳を当てても爆弾の入ってるような音がしないし……。何か重要な書類、だよな……たぶん」

 

そして恐る恐る裏にされてる封を解いていく。

中に入っていたのは、たくさんの写真だ。

 

「何だこれ?……まあ見ていってみるか」

 

航は何の写真なのか気になり、一枚一枚見ていく。

その写真には楯無が写っていた。

その次の写真にも楯無が写っており、彼女が自分の家の前に立ってる姿が写っている。

 

「ん?何時の間に俺の家に……?」

 

そして次の写真をめくる航。

そこには彼女が家の中に入り込む姿が撮影されており、その次は母と楯無が一緒に縁側を歩いてる姿が写っている。この写真達にはいったい何の意味があるのか?航はただそんなことを気にしながら次をめくる。

そこに写っていたのは、楯無がナイフのようなもので母に馬乗りになって突き刺す写真であった。

 

「えっ……?」

 

航の写真をめくる手が止まる。コレはいったい何なんだ。何で刀奈が母をを殺そうとしてる。どういうことだ。訳が分からない。

頭の中はこの時から思考がぐちゃぐちゃになり始め、半ば考えることができない状態へとなっていく。そして手が震えながらも、航は次の写真を恐る恐るめくる。

そこに写っていたのは父と対峙する楯無の姿。そして何枚にも分けられて2人の戦う姿が撮影されており、そして彼女に刺殺された姿もしっかりと撮影されていた。

だが航はそこまで見ずに、写真が彼の手から零れ落ち、ベッドの上に散乱する。

 

嘘だ……。嘘、だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。嘘だ!

 

この時、彼の目は焦点があっておらず、口元が震え歯からカチカチと音が鳴る。全身からはベッタリと気持ち悪いほどの汗がでており、体が恐怖で震えだしてる。

 

「そ、そうだ……こんなの嘘だ……。刀奈がこんなこと……だから……!」

 

航は否定した。彼女がこんなことするわけないと。刀奈は2人に護衛を付けてくれると。だがその護衛の姿が写った写真は1枚も無く、まるでその言葉は嘘であったかのように感じた。

これが嘘だと思いたい。だから藁にも縋る思いで封筒に手を伸ばす。すると……。

 

「な……てが、み……?」

 

その時封筒から1文の手紙が零れ落ちた。航はをそれ手に取り、震える手で折られた紙を開いていく。

 

「な、なにが書かれ……っ!?」

 

その内容を読んだ航は絶句した。内容は簡潔に言うと「政府から更識に下した命令であり、彼女はそれを実行。さらに彼女は信頼を盾に自分を殺そうとしてる」と。

 

「俺が……殺され……!?」

 

手からは手紙が零れ落ち、航の体は大きく震えあがる。それを押さえようと自分を抱きしめるように手を回すが、それでも震えは止まらない。

 

「俺……死にたく……」

 

その時、コンコンと扉がノックされる音がしたため、航は急いで資料を布団の中へと隠してそして震える声で返事をする。

 

「だ、誰です?」

 

「私。刀奈よ」

 

そして自動ドアが開いた先に立っていたのは更識楯無、もとい更識刀奈。先程の資料に書かれいた、数週間前に自分の両親を殺した……かもしれない人物だ。

航は彼女の目的がいったい何なのか分からず、無意識にながら僅かに身構える。

だが彼女は部屋に入るなり、少しモジモジとして航から目を逸らす。まるで何かについて後ろめいてるようで……。

 

「か、刀奈。いったい何の用……だ?」

 

「その……航……」

 

それで何か言おうにも顔を逸らしたりするため、航は無意識にイライラが募ってしまう。あの資料が来る前であったらこんなの気にしなかったであろう。だが、どうしてもあの資料のことが脳裏にちらついてしまい、航の顔はドンドン眉間に皺が寄って怒りの形相へと変貌していく。

 

「だから何の用だって言ってるんだよ!」

 

「っ!?わ、航!?」

 

「あっ!ご、ごめん!なんかいきなり怒鳴ってしまった……」

 

航はいきなり怒鳴ったことに落ち込んでしまい顔を俯けるが、刀奈が優しく彼を抱きしめる。

あぁ、いつもの刀奈だ……。大丈夫だ、だから疑ったことを謝り、助けてくれたことのお礼を言おう。

航は安心して彼女の腰に手を回して抱きしめようとする。

 

「私もごめん……。航にこんな目にあわせてしまうなんて……。私だってこういう事にはしたくなかったの。でも、ごめんね……」

 

この時航は目を見開き彼女の腰に回そうとした手の動きが石になるかのように止まった。

今、何て言ったのか……?こういうこと……?彼女は俺を……?

 

嘘だ……

 

嘘だ……

 

嘘だ!

 

航は頭の中でそのことを否定するも、あの資料の血に染まった彼女の姿が思い浮かべてしまう。

その時だ。

 

 

ーー彼女が私たちを殺したのよーー

 

 

いきなり声がした。

その声は母親の声にとても似ていた。だがとても冷たく、まるで吹雪の中にいるかのような冷たさ。

 

本当なのか……?

 

ーーえぇ、本当よ。だから彼女を信じちゃダメ。貴方も殺されるわーー

 

 

今彼には彼女の顔が見えないが、彼女はいったいどんな表情をしてるのか。悲しんでるのか、嗤っているのか、ただその恐怖が体中を走り、両手で力一杯彼女を自身から引きはがした。

 

「きゃあ!……航、どうしたの?顔色が悪いわよ?」

 

「な、何でもない!で、用件って何なんだ!」

 

とても荒い言い方。航の顔が真っ青であることに一体どうしたのかと刀奈は不安げな表情を浮かべるが、航からしたらそれが演技にしか見えず、警戒力をじわじわと上げていくだけである。

航の言い方にムスッとしながらも、刀奈は今回話すべき重要な要件を話す。

 

「え、えぇ。それで用件なんだけど、今から一週間後にこの病室から別の病室へと移ってもらうの」

 

「……それだけか?」

 

「……実は、シャルル・デュノアがその日に襲撃を掛けてくる可能性が高いことが予測されたから、この部屋に罠を仕掛けて待ち受けるの。だから航は安全な場所に移動してもらうってわけ」

 

「そう……わかった……」

 

航がとても抑揚のない声で答えるため、刀奈は心配そうに彼に声を掛けた。

 

「航、本当にどうしたの?さっきから様子がおかしいよ?私でよかったら相談に乗るから」

 

彼女の声は心の底からとても心配そうにした声であったが、それは航の逆鱗に触れるだけでしかなかった。

 

「五月蠅い!俺は忙しいんだ!出て行ってくれ!」

 

この怒鳴り声を上げた後、正気に戻った顔に戻り刀奈の顔を見る。彼女の目からは涙が零れ落ちそうになっており、それを悟らせまいと言わんばかりに我慢しており、体もプルプルとわずかに震えているのだ。

 

「う、うん、ごめんね。忙し時にいきなり押しかけて……。わ、私すぐに出て行くから……!」

 

そして刀奈が逃げるかのように病室を出て行った。それで声をかけることができずに見送るしかできなかった航は、フラリとベッドに倒れるかのように腰かけ、そして頭が項垂れてそれを両手で支える。

 

「なんでこうなったんだよ……!俺は……俺は、刀奈を信じられないのかよ……!?誰か、教えてくれ……!」

 

蚊の鳴くような声で、航は悲痛な叫び声をあげた。

 

 

 

 

 

それは暗い空間であった。そこには全身黒ずくめの、顔に仮面をつけた人たちがいた。からだのフォルムからして女性なのだろう。彼女たちはその暗い空間で仮面から見える1つ目をギョロリとのぞかせていた。

 

「社長からの命令だ。龍を得た娘を回収しろとのことよ」

 

「それは何時なんです?」

 

「1週間後の日本時間午前0時にIS学園よ」

 

「「「「了解」」」」

 

そして彼女たちは再び闇へと消えゆくのだった……。




二人の仲は狂いだす。これは誰が悪いのか。そして二人はどうなるのか……。


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月下の龍

どうも、お気に入り登録数が10件も減って驚きを隠せなかった妖刀です。いったい何がダメだったのか?楯無アンチと見られた?それともシャルロットの扱い?うーん、わかんね。
ただ自分は楯無さん、もとい刀奈が一番好きだから本音したくはないが、後のことでいろいろあるし……。

そしてSHモンスターアーツでGMKゴジラが予約開始されましたね。自分はもちろんすでに予約済みです。早く来ないかな♪




では最新話をどうぞ。


夜11時56分。三日月が地を照らす中、シャルルは航が入院している病院の前に立っていた。

 

「作戦は今日……。今度は成功しないと……!」

 

あの失敗以降、シャルルはそのことを一夏に怒鳴り散らそうにもそれではモヤモヤが取れず、おまけに義母にも通信機越しに怒鳴られ、そのストレスは最頂点に達しようとしていた。

そして周りの女子、まあ少数だが、彼女たちから不審な目で見られるようになり、それもストレスの原因となる。

だがそれも今日で終わりだ。

 

「さっさと終わらせたい……」

 

今回の作戦内容は篠栗航の誘拐だ。なぜこうなったかが分からないが上には上の理由があるのだろう。彼女はそれに従う歯車でしかない。

そしてこれが終われば自由だと言われているが、こんなことをしておいて自由など本当にあり得るのか?

彼女はそんなことを一寸ばかり考えるが、そんなのは後回しだと切り捨てた。

 

「さて、始めますか……」

 

病院玄関は厳重に閉められており、そう簡単に入ることができない。だが職員がでる裏口はどうだろうか?

シャルルは病院外にある監視カメラをハッキングして自分の姿が見えないようにしながら裏口へと進んで行く。

監視カメラの数は外にあるので20。全ての監視カメラが死角ができない様に作られているため、その内シャルルが通るルートの7つそれら全てをハッキングによって解除する。

そして誰にも見つからない様に進んで行き……。

 

「よし、ここは鍵1つだ。これぐらい……、よし……!」

 

ピッキングをして20秒で鍵を解除し、中に入り込むシャルル。

この時、病院の監視カメラとは違うカメラが、シャルルを捉えていたことに、彼女は知らない……。

 

 

 

 

病院に侵入し、通路途中の監視カメラをハッキングで無力化して行きながらシャルルは病院全エリアを結ぶ階段へとたどり着く。

 

「ここまでは順調だ……。さて、階段を使って彼のいる病室まで向かわなくちゃ……」

 

いつどこに罠が仕掛けられていてもおかしくない。シャルルはISのハイパーセンサーだけを起動して周りに何もないかを確認しながら階段を1歩1歩上っていく。

航がいる病室は5階の奥の部屋。そこまで道のりは長いが、これで焦れば己の負けとなる。そのためシャルルは急ぎたい気持ちを押さえながら、病室へと進んで行く。

 

(おかしい……。ナースステーションに誰かいてもおかしくないのに、誰もいない……どういう事……?)

 

3階、階段近くにはナースステーションがあり、そこには終日看護婦がいる。そのためいつも通りそこは電気がついているのだが、中には誰もいなかったのだ。

病室の見回りに行ってるのか?もしそうなのだとしたら地味に難易度が上がる。腰に付けてる刃渡り20センチのナイフの柄に軽く手を当て、シャルルはナースステーションを後に……

 

 

コツン……コツン……

 

 

「誰!?」

 

小さな物音にシャルルは振り向いて身構える。だが何も音がしない。

何かの聞き間違いだろうか……。シャルルはこの3階を後にするのだった。

 

 

 

 

 

それから順調に階段を上がり、ついに5階へとたどり着く。だがここからが正念場だ。

シャルルは足音を一切立てずにハイパーセンサーで周りを確認しながら進んで行く。

そんなことしながら現在午前0時37分。

恐らく作戦通りならもうそろそろフランスからの特殊部隊が到着するころだ。自分の左手に付けてる腕時計を確認し、そして病室の前にたどり着いたため、手動になった扉をゆっくり開け、中をのぞき込む。そこでは病室のベッドが盛り上がっており、そこから寝息が聞こえる。後頭部しか見えないが熟睡してるのだろう。

 

(よし……寝てる。だけど気付かれたら不味いから……)

 

シャルルが格納領域(バススロット)から取り出したのは手榴弾らしきものだったが、これは中身が火薬でなく催眠ガスに近い効能のガスが入り込んでいる。プラスチック製のピンを抜くと、中に入ってる水と固形物が化合してガスを発生するため、空港とかの検査で引っかからないということらしい。

そしてピンを抜いて病室に転がす。そして白い煙が立ちこみ始めるが、ハッキングのため煙探知機は作動しない。

そして5分ほど待って窓を自動でオープンに設定し、煙が去った後、シャルルは縄を麻袋を展開する。そして寝てる航を捕縛しようと手を触れた時だ。

航がいきなり振り返った。

 

「っ……!?人形!?」

 

シャルルは行きなりのことで固まってしまう。彼、いや彼を模した人形の顔には『おバカさん♪バーカ♡』と煽りたっぷりに書かれていた。

次の瞬間、シャルルはいきなり足が持ち上がったと思うと、気づけば網に捕まっており、そのまま宙づりになったおかげでうまく身動きが取れない。

その時シャルルは苦痛と焦りの表情を見せる。

 

「くっ、罠か!」

 

「あらら、こんな簡単な罠にかかるなんてね」

 

「更識……楯無……!」

 

その時天井の一部が落ち、そこから1人の女子が下り立った。

そこに立っていたのは、ISスーツ姿の更識楯無だった。

シャルルは怒りの形相で楯無を睨みつけるが、楯無はそれを受け流すかのように見返し、小さく笑う。

 

「ふふっ、どうだったかしら?最初からはめられていた気持ちは。罠がなかったから楽だったでしょ?」

 

「何で貴様が!」

 

「当たり前よ。私の家は対暗部用暗部。まあ……カウンター部隊ってとこかしら。まあ貴女みたいなのを捕まえるのが仕事なのよ」

 

そして手に持ってた扇子を広げ『現当主』と言う文字を見せ、シャルルは眉間に皺を深く刻む。

 

「そもそも貴女のやってること、最初っから筒抜けなのよ?一夏君を脅したときとか全て、ね」

 

「な、何でそのこと……」

 

「はぁ……。貴女、盗聴器がつけられてることぐらい気づきなさいよ」

 

「なっ!?」

 

楯無はあまりの間抜けさに呆れ、シャルルはそんなことに気付かなかった驚きと、そして間抜けな自分に対する怒りをあらわにした。そしてこの捕縛してる板から抜け出そうともがくが、裏が鉄板で仕込まれてるためそう簡単に抜け出せない。

その時、半開きの扉が開き、そこからISスーツ姿の鈴が勢いよく入ってきた。

 

「楯無さん!」

 

「えぇ。証拠もしっかりと出来たし、あとはフランス政府に突き出すだけね」

 

「なっ、なんで鈴が……なるほど、一夏の敵討ちってわけ?」

 

最初は驚いてたシャルルだったが、途中からニヤニヤとした笑みを浮かべてきたため、それが気に入らなかった鈴は鋭い目つきでシャルルを見返す。

 

「なら何だって言うのよ」

 

「すごいね、わざわざ好きな人のためにそんなことできるって」

 

「だ、だだ、誰が好きな人よ!私は……その……」

 

先程まで怒っていた鈴だが、級にモジモジし始め、顔を赤くして俯く。

楯無はこんな状況下でモジモジしてる鈴にため息を漏らし、キッとした表情でシャルルを見つめ、扇子の先を彼女に向けた。

 

「まあそんなことは置いといて、シャルル……いや、シャルロットデュノア。貴女をーーー」

 

「断らせてもらう!」

 

「「きゃあ!?」」

 

そのときシャルル……いやシャルロットは専用機である『ラファール・リヴァイブ・カスタム』を展開し、網を強制的に破壊、そして壁に向かって突進し、大穴を開けて隣の病室へと転がり込み、そしてまた壁に穴をあけて逃げ出したのだ。

 

「こんな狭いとこでISを使うなんて!」

 

シャルロットの扱い方に驚きを隠せないが、最悪の事態を感じた楯無は『蒼龍』を展開。そしてシャルロットが通った通路を追いかけるかのように進んで行く。その後ろには鈴も『甲龍』を展開して付いてくる。

そしてシャルロットを追いかけるが、彼女は2人に向けてマシンガンをで弾幕を張って近づかせない様にしてくる。

そのまま突き進んでいくと、6つ先の病室の床に3階まで通じる大穴が置いており、そこを下りてまた進む。

そして彼女たちが見たものは……。

 

「くそっ……離、せ……!」

 

「五月蠅いなぁ……。おとなしく捕まってよ」

 

航の首を右手1本で掴んで持ち上げてるシャルロットの姿があった。

 

まさかこの場所、航の避難場所を見つけるとは……。

彼女の首の掴み方は巧妙で、少しでも指を動かせば骨が折れるようになっており、下手な衝撃も与えられない。そのためナノマシンによる奇襲も成功率がとても低く、攻撃できない。だが逆にシャルロットも何かすれば2人を激高させて潰される可能性も高いから動けない。

お互い膠着状態へと陥った。

 

 

 

 

 

航は意識が若干薄れていくなか焦っていた。今日の昼ごろ、楯無から「仕掛けるから部屋の場所変更ね」と言われ、それで3階の病室へと移り変わって、そして病室で『四式機龍』の待機状態である手甲を付けて供えていた。

そして今夜、5階の方で何か大きな音が聞こえたため、「始まったか……」と小さくつぶやく。

それから何分経っただろうか。いきなり轟音が近くで響き、そして身構えるや否や、ISを纏ったシャルロットが自室の自分の向かい壁を打ち破って表れたのだ。

 

「なぁ……!?」

 

飛んできた瓦礫から身を庇うために腕をクロスさせて防いだが、これが悪手だった。この時完全に視界がふさがってしまうため、シャルロットからしたら良い的となり、そしてシャルロットが体を反転させると当時に航の首を右手で掴み、そして持ち上げる。

 

「き、機りゅーーー」

 

「させないよ!」

 

その時量子を纏い始めてた航の胸部に“ナニカ”を張り付ける。すると航の体大きく電流が流れたかのようにのけ反る。それと同時に量子が消え、電流が消えると航は力尽きたかのように四肢をだらんとしている。

 

「な……何をしやがった……!」

 

「ん?剥離剤(リムーバー)を使っただけだけど?」

 

剥離剤(リムーバー)。それがマーサから送られた奥の手ともいえる代物だ。

性能はISを搭乗者から強制分離するものであり、最初はカプセルに入ってるが、それを相手に張り付けると中に入ってる機械によって強力な電流が流れ、搭乗者とISとの繋がり(リンク)を一時的に破壊するのだ。だがこの一時的が強力なものであり、待機状態のなったISを取り上げてしまえばもうそのISの搭乗者は使えなくなるのだ。

だが剥離剤(リムーバー)はまだ世界的にも試作段階でしかできない。いったいどこから調達したのか……。

そして今、シャルロットの手には機龍である手甲が握られている。

 

「くそっ……離、せ……!」

 

「五月蠅いなぁ……。おとなしく捕まってよ」

 

航は首を絞めつける手の力が強まることで意識を手放しそうになる。

 

「航!」

 

その時楯無と鈴が現れた。

 

「あ、来ちゃったんだ。でもこれ以上来てみなよ。彼の首、へし折れるよ?」

 

そして先程の場面へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

「デュノア……!やっと本性を現したと思ったら……、ここまで過激だったとはな……!」

 

「それは向こうの2人に言ってね。君がおとなしく捕まってくれれば、こう手荒なことはしなかったんだから」

 

もう言ってることが支離滅裂だ。航にはそうしか感じられなかった。

今動けるのは自分の手だ。実際彼女は航に強い気概は与えることができない。だからと言って首を掴まれたままのため、いつかは意識が落ちる。

 

「こい、つ……放し、やが、れ……!」

 

「あーそんなに暴れない方がいいよ。首が折れちゃうかもしれないでしょ?」

 

航は両手を使って首を掴んでる手を放そうともがくが、シャルロットは興味なさそうな目で航を見返す。そして少し手に力を入れ、航をさっさと落とそうとするが、航は気力だけで意識を保ってるという状況だ。

 

「あ……が、ぁ……!」

 

苦しいためか、航が呻き声を上げる。

 

 

誰ガ傷ツケル

 

 

その時、剥離剤(リムーバー)で剥がされ、いまはシャルロットの手の平に握られている手甲の装甲の装甲が軋む。

 

 

オォン……

 

 

「な、何の、音……!?」

 

それは獣の呻き声のように聞こえた。だが、それにしても重圧が重すぎる。

この時シャルロットは自分の手を見る。すると、手甲、『四式機龍』の待機状態の手甲から紅い怪しいオーラが出始めてるのだ。

 

「な、なによこれ……!」

 

 

航、傷ツケタ

 

同族ニ傷ツケタ

 

敵ハ滅ボス

 

 

その時だ。シャルルはいきなり機体から警告音(アラート)が鳴ったため、機体を見るとそこには、シールドエネルギーが1割がっつりと奪われてることが表示される。

いったい何があったのか調べたがすぐわかった。機龍だ。

手甲からは紅い紫電が走り、それが航を掴んでいる右手に強いショックを与え、ワタルの首から手を放す。そのまま航は床に落ち、首を押さえつけられていたおかげで咳をするが、よろよろになりながらもその場を離れようとするが、足に力が入らない。

 

「このぉ!」

 

シャルロットは急いで機龍を投げだすかのように手放し、銀色の手甲は床に叩きつけられる。そして跳ねるようにして手甲は転がり、それが航の手元へ動きを止める。

航はそれを素早くつかむと、両手に装着し、そして叫んだ。

 

「来い、機龍!」

 

 

オォン……!

 

 

同時になる呻き声。

その時、オーラの大きさが大きくなり、そして紅蓮の光が爆発した。

 

「「「きゃあ!?」」」

 

楯無、鈴、シャルロットはいきなりの光に手で顔を覆う。それは光のはずなのに、まるで嵐のど真ん中に放り込まれたかのような感覚が襲い掛かる。

その時聞こえたのは床が崩落する音、バリバリと雷が走る音などが聞こえる。

そして光が収まり、3人は恐る恐る顔を覆っていた手を下すと、そこには下半身が床を貫き、頭部が若干天井を崩している。四式機龍がいた。

機龍の大きさは6m。普通ISは大きくても3mほどで、現在機龍以外のISで膝を若干曲げているほどのため、機龍は規格外の大きさゆえにこういう若干間抜けな感じの姿になるのだが……誰も、何も言えなかった。いや、言える空気ではなかったのだ。

 

「わた……る……?」

 

機龍の目が赤い。

楯無は何か嫌な予感が胸中で膨れ上がってくるため、恐る恐る彼に声をかけてみるが、一切反応が返ってこない。

 

 

GOZILLAsystem起動します。最終安全装置解除。ロック部からのシールドエネルギー充填。満タンまで10、9、8……。

 

 

不快な機械ボイスだった。

それと同時に、楯無はとても強い恐怖を感じた。そこに航がいるはずなのにそこにいない。目の前にいる“ソレ”はいったい何なのか……。楯無は手を伸ばす。

 

「わた……」

 

その時、だ。

 

「キィィァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

機龍が吼えた。

シールドで保護されてるのを忘れてしまうほどの大音量に全員が耳を塞ぐ。

そして機龍の右腕が横薙ぎに振るわれ、病室の機材を吹き飛ばしながらシャルロットへと迫る。シャルロットは逃げようとしたが、先程の咆哮で体が竦んでるのか動くことができず、シールドを急いで展開して防御する。

だがそんなのでどうにかできるというわけでもなく、そのまま吹き飛ばされて壁を突き破って外に飛び出す。

 

「くぅっ!」

 

シャルロットは姿勢制御しようとするが、スラスターがさっきの衝撃で一時的ながら使用不可となり、そのまま地面へと叩きつけられる。

何時攻撃を仕掛けられてもおかしくない。シャルロットは急いで立ち上がり、そして病院の大穴の開い壁を見る。

 

「……いな、い!?」

 

「グォォ……」

 

声が聞こえた。いったいどこから……。

そして顔を上にあげる。

奴は屋上にいた。

その尾はいつもみたいな動きでなく、滑らかに生物的に。指は動きを確かめるかのようにゆっくりと握り締めたり放したりを繰り返す。

月の光で装甲の影が黒く染まり、紅い2つの無機質な光がシャルロットを見下す。その威圧から機龍がとても大きく見え、シャルロットは立ち竦んでしまった。

 

「ぅ……ぁ……」

 

シャルロットが見たもの。まるでその姿は……

 

「グォォ…………キィィァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

月下に吼える黒い龍だった……。




悲しみの龍は吼える。何処にも味方がいないことに。

そして龍ただ動くもの全てを敵と見ることにした。


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暴走

どうも、ゴジコレにはまっている妖刀です。バーニングゴジラがなかなか出てこなくて苦笑いが出てきます。


さて前の話でついに赤い眼の機龍が現れました。今回は機龍がどう動くのか、お楽しみに


では本編どうぞ!


「キィィ……キィィァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

機龍が吼えた。その声は今まで通りの機械的な声ではない。もっとこう……そうだ、ゴジラだ。まるでゴジラの意志が憑りついたかの様になり、声に機龍の声ではないものが混じっている。

その佇まいは今までの機龍のような勇ましいものではなく、尾は意味もなくユラユラと揺れ、手は小指から順に握ったり放したりを繰り返す。

そして最も特徴的なのは赤く染まった目だ。その目は自我を持たぬ紅い2つの光となっており、夜においてその無機質な狂気の光が3人を見下す。

だが皮肉なものだ。その自我の無い様に見える姿が、自我という名の本能を宿してる姿だなんだということを。

 

 

 

 

 

楯無はいきなりのことで驚きを隠せずにいた。シャルロットの病室内でのISの展開、隠していたはずの航を一回で見つけてそのまま人質にしたこともそうだ。

実際あの時はとても動揺したが、楯無の勘で逆に煽ってみたらどうなるかと思ったのだ。そして勘は的中。まさかの楯無の口から出た「航を殺してみなさい」発言にシャルロットは大きく動揺を隠せない。

その隙に楯無は床にばら撒いたアクアナノマシンでシャルロットを拘束。そして航の救出を目論んでいたが、そこでまさか航が楯無の言葉で大きく傷つき、そのまま機龍を展開したのだ。

だが機龍の展開がいつもと違い、とても禍々しく、楯無の感じたことのない恐怖に進むことも逃げることもできなかった。

そして現れた機龍はいつもと違いカメラアイの色が赤かった。これは楯無も瞳が赤だが、彼女のはルビー色の美しいのに対し、機龍は血の色とでも言わんばかりに真っ赤だ。

この時彼女は航に通信を繋ぐも拒否され、そしていきなりの腕による薙ぎ払いで3人まとめて外にはじき出されたのだ。

そして現在。

 

「機龍の目が赤い……」

 

機龍が周りを首を動かしてみてる間、楯無は蒼流旋を構えたまま四方八方に散らばったアクアナノマシンを回収している。

幸いにもシャルロットも逃げておらず、目が回っているのか木にぶつかったまま指1本も動いていない。だが問題は鈴だ。

現在鈴は先程の衝撃で本人の意識はあるものの、青龍刀2本は刀身の途中から粉々に砕け、甲龍のPICが不調で中破のまま墜落。おかげで自分を守ってくれる鎧はあっても飛ぶことができないという状況だ。ISはPICが無ければそれはただの重い鎧と化す。だからといってこの現状でISを解除して助かるとは言えない。

そのため、彼女の元へ寄って急いで安全圏へと運ばないといけないが、今はナノマシンの回収が先だ。これで攻撃を仕掛けられたら薄い防御力が今は紙装甲なのだから、へたに喰らうだけで大惨事だ。

 

「まさか暴走とはね……冗談じゃないわよ……!」

 

この時楯無は目の赤い機龍を見て呟いた。

もしそうだとしたら、機龍はこの後確実に暴れ出す。不意打ちとは言え、自分を含む3機のISを病院の外に弾き飛ばすだけのパワーを持った機体だ。そしておそらく……。

 

「先程のあれが本当なら、機龍はリミッター無しの完全体。一応前に対峙したことはあるけど……」

 

思い浮かぶは機龍が展開された後に聞こえた女性のボイスに近い音。それが最終安全装置の解除と言っており、そしてリミッターの強制解除。それ故にあれだけのパワーを出せるのだろう。そして病院の屋根をいともたやすく突き破り、屋上で自分たちを見下すとは……。

楯無は小さく歯噛みした。

幸いにも今は、機龍は首を動かして周りを見ているだけだ。すでにナノマシンの回収を終えた楯無は機龍がこちらに視界を向ける前に鈴の元へと下り、彼女の元へと寄る。

 

「鈴ちゃん、大丈夫!?」

 

「な、何とか……。甲龍が守ってくれましたから……。でもアレって……」

 

「えぇ……機龍が暴走を始めたわ」

 

「えっ……!?」

 

鈴は昔、一夏たちと一緒にそう言う映像を一緒に見ていたから機龍が暴走をした時の映像を見たことがあるのだ。そのため暴走機がどれほど恐ろしいかを知っているが、実際に見るのでは迫力が桁違いであった。

その時、機龍が一瞬だけで他を見たが、彼女は機龍と目があったような気がした。その時感じた赤く冷たい目は今年感じた中でも上位の恐怖となるだろう。

そして機龍の太腿部ブースターが展開され、轟音を響かせながらその巨体を浮かし、屋上に張られていた金網を足の爪で引き裂きながら前進をし、ブースターを切ってそのまま急降下。そして地面にあと5mを切ったところで先程の轟音以上の推力でブースターを使用し、ゆっくりと着地した。

そして目の前にいる3人を睨みつけ、うるさいほどの声での咆哮を上げ空気を震わせた。

 

「キィィァァアアアアア゛ア゛ア゛!!!!」

 

「くっ!私が足止めするから鈴ちゃんは逃げて!」

 

「は、はい!」

 

刀奈はバックユニットこと重装型パックを展開。刀奈の頭を囲うようにコの字になってる藍色のバックユニットは刀奈のハイパーセンサーにリンクされて目標を四式機龍と認識。そして使うミサイルを装填させていつでも使用可能にする。

そして蒼流のバックユニットの側面部からミサイルが放たれ、弧を描きながら機龍へと迫った。

 

 

 

 

 

「くそっ……あの小娘はいったい何をしているんだ!」

 

「あーもう通信に出ない!わけわかんないし!」

 

ここはIS学園のモノレールがある駅から反対側の海岸。昼だと綺麗な海岸が見ることができるこの場だが、今この場には海上には黒色の船が1隻に、黒色のウエットスーツみたいのを着た女性たちが数人おり、彼女たちは手にサブマシンガンなどを持っており、その内1人が何か無線みたいのをもってぎゃあぎゃあ喚いていた。

彼女達はデュノア社現社長こと、マーサ・デュノアが送り込んだ部隊「ノワール」。現在彼女たちは今回の目標であるシャルロット・デュノアの回収のために、フランスからわざわざ日本のIS学園までやってきたのだ。

そして指定時間の日本時間の0時45分を過ぎても一切現れず、それどころか通信不通な状態なのだ。そのためこちらから通信を送るも、シャルロットが一切反応しないため隊員に苛立ちは浮かび始めているというわけだ。

 

「ったく……誰か偵察にでも行きなさいよ!」

 

「なら手伝おうか?」

 

「む、頼む……ん?」

 

その時誰が話しかけてきたのか?と思い振り向くと、その顔を見たとたんに彼女は顔色が真っ青に変貌していく。

 

「き、貴様らは……!?」

 

「さて、おとなしく捕まってもらうぞ」

 

そこにいたのは織斑千冬を筆頭にした教師たち5人がいた。彼女たちは全員学園のISを装備しており、千冬は近接ブレードの切っ先をノワールの方に向けている。

いったいなぜ教師たちがいるのか理解できないノワールの隊員たち。全員驚愕と戸惑いを隠せず、じりじりと後退を始めるが、教師たちは距離を付けず離さずで近づき、ゆっくりと彼女たちを囲んでいく。

 

「なんでわかったという顔してるな。簡単なことだ。シャルロットデュノアに盗聴器を付けていた、ただそれだけのことだ」

 

「なっ!?……くそっ、あの小娘めぇ……!」

 

こうとなっては退却が一番なのだろう。だがすでに遅く、彼女たちの周りには武装を展開した教師たちがすでに自分たちを囲んでいるのだ。現在彼女たちのはISが3機。他は武器は持っていても防弾使用のスーツを着た隊員たちだけだ。

そのためこちらも武装を展開してお互い一触即発という雰囲気を纏っており、動くことができない。

さてどうしたものかと思う中、この沈黙を破ることが起きた。

 

 

ドドドドォォォン!!!!

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

それはとても大きな爆発音であった。いったい何が起きたのかわからない面々を放っておくかのように、立て続けに何回も爆発音が響き、病院側の空が赤色に染め上げられる。

千冬はいったい何が起きたのか分からなかったが、思い当たるは楯無たちが戦闘を開始したということだけだ。だが、それにしては爆発物が多い。楯無の使うバックユニットはそういうものが多いが、今までここまでの爆発力を見せたたことはない。だとすると一番に思い当たるのは……。

 

「まさか篠栗……機龍か!?」

 

その時だ。今までの中で一番大きい爆発が起き、病院の一角が吹き飛ぶ。そこのあたり一帯は舞い上がった煙によって覆われ、その中で銃撃音なども聞こえ、何か金属をはじいてる音も時折響く。

だがその時、その中でとても鈍く、重い打撃音が響く。するとどうだ、煙の中から2つの影が現れた。

 

「くぅぅ……!!」

 

「キィィァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

そして煙を引き裂いて現れたのは、両腕に武装を展開したシャルロットと高速で迫る四式機龍の姿であった。

 

 

 

 

 

この時シャルロットはその性能に戦慄を覚えていた。

 

「くぅ……速すぎる……!だけどそれだとパイロットが……!」

 

機龍は最悪自分なら目がレッドアウトでもしかねないほどの急加速、急停止、急旋回を繰り返しながら自身に迫ってくるのだ。

そもそもいきなりこうなったのは先程、更識楯無がバックユニットから放ったミサイル群が機龍の前で爆発。その時に正気に戻ったシャルロットだったが、この時ハイパーセンサーに砂嵐が走り、いきなりの不調ながらも応急に処置して元の状態に戻した。

だがその時、煙の中から何かとても速いものが近づいてくると勘ともいえる感覚が彼女の中をめぐり、シャルロットはその場をスラスターで急速旋回と急速後退で離れる。すると先程いたところにたくさんの弾が刺さったのだ。

ロックオンもしていないためアラームが表示もされなかった状況で、よく躱せたなと心の奥で自分をほめるが、いったい何が放ってきたのか。

その時、目の前にある炎の中でユラリと影が見えた。だがその大きさが今まで見たISとかの比じゃない大きさ、ハイパーセンサーには6mという規格外の数値が表記されているのだから。

そして目の前にいたのは紅蓮の炎を切り裂きながら重い足音を響かせて自身に近づいて来る機龍の姿だった。

 

「え、なんで……」

 

シャルロットはISの反応を最小限にしていたのにバレたことに動揺を隠せない。

そう、楯無が放ったのは唯のミサイルではなく、アクアナノマシンを詰めたチャフだったのだ。そのため機龍は一時的に目標を見失い、怒り狂ったかのように吼えながらあちこちに0式レールガンを連射。その際に楯無は鈴を抱えて彼女が安全と思える場所まで避難したのだ。

そう、シャルロットはそのための囮にされたのだ。

 

「キィィァ゛……」

 

「逃がしては、くれないみたいだね……」

 

そしてシャルロットは右手に腕部固定のシールド付きのガトリング、左手にバズーカを展開。そして長筒ともいえるバズーカの後ろ半分を肩に載せ、シャルロットはガトリングの銃口を機龍に向ける。そして引き金に指をかけ、いつでも撃てるようにする。

だがその時、20にも迫るロックオンの警告音(アラート)が一斉に響き、指がピクリと反応した。その出元はすべて機龍から出ており、彼女はやばいと感じ急いで逃げようとしたが……。

 

「キィィァァァアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

咆哮と共にバックユニットからロケット弾が12発、側面からミサイルが8発放たれ、高速でシャルロットの元へと向かう。だが彼女は冷静にガトリングから弾を吐きミサイルを冷静に落としていく。その後もミサイルは連射され続け、そして煙が2機を包むように煙を充満させ始める。

シャルロットは機龍がすばやく動いてることを想定してガトリングから大量の弾を四方八方にばら撒く。すると、金属同士のぶつかって弾く音が聞こえ、その場所と想定される場所にバズーカを放ち、大きな爆炎が起きた。

だが機龍は全ブースターを起動。そしてその時に起きた爆炎を切り裂くようにシャルロット目掛けて一直線に突っ込む。

 

「なっ!?は、速いーーー」

 

「ギィィァァァアア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

シャルロットは急いでガトリングのシールド部を前に構えてそのまま衝撃に備えるが、ぶつかった瞬間金属同士が当たっと思えないほどの轟音が響き、力負けしたシャルロットはそのまま煙の外へと吹き飛ばされる。

そして舞い上がってる煙から弾き飛ばされるように外に出たシャルロットだが、スラスターを操作して体勢を立て直す。

だが機龍も先程の衝撃で勢いが大きく落ちるも、再びブースターを点火して大出力で彼女の元へ腕を振りかざして鋭い爪を立てる。そしてシャルロットの顔めがけてその爪は素早く突き出されるが彼女はバズーカを瞬時に格納、そして左手には刃の厚い超振動ブレードが1振り握られており、それによって体勢を変えるとともにその突きを刃に沿って躱す。

だがその勢いによって刃こぼれが一気に生じ、機龍から一時離れたときに見た刃はもう途中亀裂が入るほどにまでボロボロになっていた。

 

「何なのさ、この威力……!1回でも喰らったら……っ!?」

 

その時いつの間にか近づいた機龍からの切り裂かんとする右フックをシャルロットは体を瞬時にのけ反らせて躱し、そのまま反動を付けてジャンプした後にブレードを機龍の目に突き立てる。

それによってカメラアイを保護していたバイザー部ともいえるものが砕け、それと同時にボロボロになったブレードも砕けるが、シャルロットはそのままブレードを中にあった血の色の様に赤く染まった内部カメラアイに強打させた。

 

「ギィィァ゛ア゛ア゛!!??ギァァァァアアアアア!!!!」

 

機龍は身体にダメージが入ったことに驚きを隠せず、ブースターを前に吹かしてシャルロットから距離を取る。

 

「そう簡単にはやられないよ!」

 

シャルロットはもう一本ブレードを展開すると同時に不敵な笑みを浮かべて、機龍は小さく唸るだけでその場から動かない。

 

(そのまま動かないで……)

 

シャルロットは先程の咄嗟に出た攻撃で機龍が動かないのに小さく安堵しながらも、今の状況勝てる見込みが低いため逃げたいという衝動に駆られるが、下手に動けば再び襲ってくる可能性が高いと判断し、恐る恐る後ろに下がっていく……かのように見えた。

だがシャルロットは逃げるどころか逆にスラスターを後ろに吹かすようにし、右手には大口径の重マシンガン、左腕には身長大の大きさもある十字架が装備される。だがその十字架の普通なら下側になる部分の先に、とても太い釘の先端が取り付けられてる謎の装備を展開したのだ。

まるでパイルバンカーのようだが、デュノア社には灰色の鱗殻(グレー・スケール)というラファールリヴァイブに取り付けやすく、瞬時に高威力をたたき出す武器があるのだ。

それに対してこの武器は灰色の鱗殻(グレー・スケール)をおもちゃに見せてしまうほどの威圧感をさらけ出してるのだ。名は死への墓標(デッド・グレイブ)。今は無き企業が作り出した、超高威力を目指した大型パイルバンカーである。

 

(これがあればさすがに機龍も……!)

 

シャルロットは杭の当てる場所をシーリング部が見える腹部にロックオン。いつでも使えるように安全装置も外す。

そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)で懐に入り込んで仕留めようとした時だった。

 

「キィィィァァァァ……」

 

いきなり機龍が口を開き、小さいながらも息を吐くように鳴く。いったい何をする気なのだろうか、シャルロットは十字架のを盾の様にして身構える。

その時だ、機龍の背中にパチっバチッと紫電が走ったのだ。

 

「何をする気……?」

 

これ以上何かされては不味い。シャルロットは一気に機龍に近づいて仕掛けようとした。だが。

 

それは閃光だった。

 

機龍の口が眩しく光ると同時に稲妻のような閃光が走る。それは雷の形をした暴力の塊という名のメーサーであり、地面を切り裂くように走った後を熱で融かしたかのような赤いマグマ状の物へと変化させ、そのままシャルロットの元へと向かう。

 

「っ!」

 

これは野生の勘だった。シャルロットは瞬時加速(イグニッション・ブースト)でその場を離れるが、微かに掠めた装甲は真っ赤になったかと思った瞬間電子レンジにかけた卵の様に破裂。その時の溶けた装甲によって自身のシールドエネルギーが大きく削れ、焦ったシャルロットはそこの装甲をパージした。

 

「今のは!?」

 

そう焦る間にも機龍の口からはメーサーが放たれ、空間を切り裂いたメーサーは空気中の水分を加熱、それにより多量の水蒸気を生み出すことになり、瞬時にしてシャルロットの視界を蒸気が包む。だが瞬時にカメラはその状態に適応し、機龍からロックオンを外さない様にする。

そのためか彼女はメーサーを当たらないように躱していくが、ハイパーセンサーでしか感知できないような拡散したメーサーによって装甲が炙られ、部分部分水膨れになったかのように膨れ上がる。だが機体が異常を示すほどのダメージでもないと判断したシャルロットは、死への墓標(デッド・グレイブ)を盾にするように構えて右手の重マシンガンを出して弾を吐き出しながら機龍へと近づく。

それに気づいた機龍はメーサーを放つのをやめ、まるで待ち構えてるかのように手を少し広げ、腕部レールガンを放つ。だがその弾は死への墓標(デッド・グレイブ)で弾かれ、シャルロットは急速に機龍へと近づいていく。

だが彼女は気付いていなかった。ラファール・リヴァイブ・カスタムはダメージによる損傷報告を出さなかったのではなく、出す機能がすでに破裂して壊れてるということを。

 

「はぁぁぁぁあぁああああああ!!」

 

シャルロットはそのまま死への墓標(デッド・グレイブ)を盾にしたまま機龍と激突。だが空中とは言え一方的な質量の差で彼女が押し戻され、そのまま機龍が掌を開いてシャルロットの顔に右手を伸ばす。だが彼女は体を捻ってそれを躱し、さらに右手にあった重マシンガンを格納し、機龍の右手より下へもぐりこんだ後、死への墓標(デッド・グレイブ)の杭先を胸部に当てて引き金を引いた。

 

「キィィィァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

その衝撃で大きくのけ反る機龍。シャルロットは機龍に反撃のチャンスを与えない様にシャルロットは離れずに再び引き金を引く。すると十字架の重なり合ってる部分から大型の薬莢が排出され、それと同時にガズン!という重い音が響く。そして再び引き金を引くと薬莢排出と同時に杭が射出され、それを3、4、5発と放っていく。

して弾数1を残して9回放ったシャルロットは動きを止めて顔を上げると、そこにはカメラアイの光を失い、項垂れるように動きを止めた機龍の姿があった。

 

「これでやった、の……?」

 

シャルロットは機龍が動かないのことに驚きを隠せなかったが死への墓標(デッド・グレイブ)が連続使用によるオーバーヒートでいきなり火を噴き始めたため、彼女はそれを機龍の方に向けてパージする。

そして機龍に当たった瞬間大爆発を起こし、その後煙が周りに建ちこめる。

 

「よし、これで……!」

 

そしてシャルロットは機龍にとどめを刺そうと、もう1機の死への墓標《デッド・グレイブ》を展開して強く握りしめる。

だが彼女は忘れていた。相手は“人間”ではなく、“怪獣”であることを。

そして煙を切り裂き、機龍の尻尾がシャルロットを横薙ぎに吹き飛ばした。

 

「がっ……」

 

メキメキと骨が悲鳴を上げる音がし、その時シャルロットは横腹に体を真っ二つにするのではないかという衝撃を受け、そのまま木々をへし折りながら病院の1階の壁に激突。木々によって速度が落とされたせいもあり、壁には大きな罅が彼女を中心に走り、パラパラと部分部分が崩れ落ちる。

 

「ぁ……が……」

 

シャルロットは呻き声にもなってない呻き声を上げながらも無理やり自分の意識を保ち、ふらふらと立ち上がる。

そして宙に浮き、恐らく集合してるであろうデュノア社の回収部隊の元へと逃げようとする。だが……。

 

「キィイイイア゛ア゛ア゛……」

 

「ひぃ……!」

 

聞こえるは自分の息の根を止めようとするものの声。シャルロットは急いでここから逃げようとするも、先程の衝撃でPICが大きく不調。スラスターも半分以上が死んでおり、逃げるにはとても遅い速度しか出せなかった。

 

「そ、そうだ。武器を!」

 

思い出したかのように格納領域(バススロット)から武器を取り出そうとするが、いくら頭でイメージしても、声に出して展開しようとしてもラファールの手に武器が握られることがない。今のラファール・リヴァイブ・カスタムは機龍との戦闘によって大きく損壊。電子板関係もほとんどが損傷してることもあって、まともに四肢に向けての伝達が行えてないのだ。

それを知らないシャルロットは強い絶望に襲われ、冷や汗を大量に流し始める。

これはやばい。逃げないと死ぬ。

その時、後ろからシャルロットの首を片手で掴むものがいた。この時視界に写ったのは銀色の装甲。四式機龍だ。

シャルロットは機龍に首を掴まれ、気道がふさがれたことにより強い苦しみを感じ、必死にもがき始める。

 

「やめ……。苦し、い……」

 

だが機龍はその手を緩めることなく、ただ赤く光る眼を彼女に向ける。

その時、機龍の背びれからバリバリと紫電が走り始め、不規則的に背びれが発光しだしたのだ。いったい何をする気なのだろうか、シャルロットはどうにか逃げようとしても、機龍のその馬鹿力から逃げ出せるはずもなく、無意味にもがくかのように体を動かしていた。

そして、衝撃が走った。

それは比喩的なものではない。その衝撃によって下にあった木々は吹き飛び、真下にあったものはまるで溶けるかのように消滅し、シャルロットの纏っていたラファール・リヴァイブ・カスタムのシールドエネルギーが一気に削られていく。

これはゴジラの使う体内放射のように見えたが違う。それらの影響は、そこまで遠くない海岸にいた教師たちとノワールの面々に大きく作用していた。

その影響によりISはいきなりの機能停止。おまけに格納も出来ないことによってISを纏っているもの達はいきなりの荷重によって地面に縫い付けられるかのように伏せる。

機龍が放ったもの。それは体内放射なんかではない。範囲内の機械を狂わせ、最悪機能停止にまで追い込む電気による破壊の衝撃。

 

電磁パルスだ。

 

それによって近くにあった病院、学生寮は停電を起こし、遠くから阿鼻叫喚の声が聞こえるが機龍からしたらどうでもいい話。ただ機龍の目的は、電磁パルスを使った際に手から弾き飛ばされた女を殺すことだけであった。

 

 

 

 

 

「ぅ……あ……。ここ、は……?」

 

シャルロットはラファール・リヴァイブ・カスタムの絶対防御によって護られ、機龍の放った電磁パルスにも、地に落ちたときの衝撃からもなんとか無事でいられた。

 

「ここは……どこ……?」

 

だが彼女の様子がおかしい。先程の覇気は全く感じられず、まるでただの少女の様に見えた。そう、先程の電磁パルスによって彼女を動かしていた洗脳が解け、今の彼女は洗脳される前のシャルロット・デュノアとなっているのだ。

 

「体が重い……あれ、なんで私、ISを……?私の適性Dなのに……」

 

彼女は今の状況が分かってないのか、ラファール・リヴァイブ・カスタムを脱ごうとし、その重さから脱げないことに苛立ちを感じていた。

だがこの時、自分の体がとても痛むことに気付く。いったいなぜなのか……。顔を頑張って動かし、痛む場所を見た彼女は一瞬で顔が真っ青になり、冷や汗がドンドン垂れてくる。現在彼女の左の二の腕が青黒く変色しており、動かすたびに激痛が走るのだ。骨折だ。それにからだあちこちが焦げ、自分の肉体から焼けたとても臭い肉の臭いがする。

 

「嫌ぁぁぁああああ!」

 

痛みで悲鳴を上げるシャルロット。だが悲鳴の振動によって激痛が走り、悲鳴すら上げる余裕をなくし、ただ涙目になりながら周りを見渡す。

ただ見えるのは自分を中心に物が吹き飛び、木々がなぎ倒されている。遠くには何か建物が見えるが、今の時間帯ゆえか電気は点いておらず、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がっていた。

だがその時、何かとても重い足音が聞こえ、彼女は恐怖を感じたのか息を殺す。ズン……ズン……と響くその足音は、まるで怪獣の足音のように聞こえ、シャルロットは涙を流しながらそれが行き過ぎるのを待ったが、どうしても自分の方に近づいてるようにしか聞こえない。

そして木々をへし折る音と共に自分の前に現れたのは、白銀の装甲に赤い無機質な光を放つ目。口からは小さく唸り声を上げており、長く太い尾が重々しい音を響かせ地面に叩きつけられる。

その正体、四式機龍はシャルロットを見つけると空を見上げ、大きな咆哮を上げる

 

 

「キィィァァァアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

「っ……!」

 

その音量によって片耳の鼓膜が破れながらもシャルロットは耳を塞ぎ、目を固く閉じて咆哮が止まるのを待つ。だが割と早く止まったため、恐る恐る手を放して目を開くと、機龍がシャルロットを見下すかのように見ていたのだ。

 

「ひぃ……ぁ……!」

 

そのただ見られるだけなのに恐怖を感じたシャルロットは歯をガチガチと鳴らしながら、小さい悲鳴を上げる。

そして機龍は自分の足を上げて彼女目掛けてその足を振り下ろすが、それを見たシャルロットには無意識に『逃げろ!』と脳内が知らせ、痛みで小さく悲鳴を上げながらも無理矢理体を動かし、横に転がった。

すると1秒も経ってないだろう、先程シャルロットがいたところに機龍が轟音と共に足の裏でそこを踏みつけていたのだ。

 

「い、嫌ぁ……!死にたくない!」

 

シャルロットは急いで逃げ出した。だが国家代表レベルの実力であった洗脳状態とは違い、今はまともにISを使えぬただの女子。

まともに使えぬISを纏った状態となるとその速度は亀より遅く、機龍はそれをジロリと見た後、脚で彼女を蹴り上げ、小さい断末魔を上げたシャルロットを木に叩きつける。

そしてズン……ズン……と重い足音を響かせ、機龍がシャルロットに近づき、彼女の前に立った後、小さく体を身震いさせる。

 

「キィィィァア゛ア゛ア゛……!」

 

「ひぃ……!」

 

そして機龍の尻尾が持ち上がり……。

 

 

 

 

 

彼女の悲鳴が夜の森に響き渡ると同時に、4トンも重量がある尻尾が強く叩きつけられる音が響いた。




機械の龍は突き進む。それは何のため、誰のため、それは誰にもわからない……。


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圧倒的な力

どうも、最近艦これを始めた妖刀です。現在2ー4に挑戦中ですが、敵が強すぎるのと羅針盤に嫌われてうまくいきません。


まあそれは置いといて、では本編どうぞ!


夜12時を過ぎたころ、学生寮はすでに消灯時間を過ぎ、そこにいる生徒たちはすでに徹夜で勉強してる子以外は全員眠りについていた。

 

ドォォォン……

 

それはいきなりの轟音であった。轟音が響いた側のガラスがビリビリと揺れ、それによって何人か生徒が目を覚ましたりする。

それに気づいた最初の生徒はいったい何事かと部屋の照明を点けてカーテンを開いて外を見る。だが彼女がいる部屋からはその轟音の響いた方角は真逆。向かいの部屋からじゃないとわからない。いや、場所的にわかるかも若干不明だ。

それに気づいた人物の1人であるラウラ・ボーデヴィッヒは、跳ね上がるかのように起き上がり、寝間着がない故全裸のまま近くに置いてあった護身用の拳銃を手に取り、ベッドの下に急いで伏せる。

いったいどこから物音、爆発音に近い音がするのか。どうやら寮内で起きたことではないと判断したラウラは、近くに置いてあった自分用のグレーのISスーツを身にまとい、そして壁に掛けていたバッグを瞬時に取った後にそこから出したのは双眼鏡のようなものだったが、これは軍で支給されている暗視スコープであった。そして彼女は左目に付けてる眼帯に手を掛ける。

 

「これは使いたくなかったが……!」

 

彼女は少し嫌な顔しながらも眼帯を取り、その場に投げ捨てる。取った後閉じていた左目を開けると、そこには金色に光る瞳があったのだ。

ヴォーダン・オージェ。それは彼女の所属する『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊員全員の瞳に移植されてる疑似ハイパー・センサーともいえる代物で、脳への視覚信号の伝達速度の飛躍的な高速化と、超高速戦闘下での動体反射を向上させた代物である。

ラウラはカーテンの隙間からスコープを忍ばせ、そこから轟音が起きたと思われる方角、病院がある方に向ける。

そして彼女が見たのは、数キロ先の病院側で起きているISでの戦闘場面だった。

 

「あれはシャルル・デュノアか。ん?よく見たら何か違う……?」

 

普通ならハイパーセンサーでも使わないと分からないほどの速度だが、己の左目がそれの代わりとなって視覚の補助をしてくれるため、高速で動く彼を追い回し、そして1分もしないうちにシャルルに感じた違和感をラウラははっきりと気付くことができた。

 

「あいつ、女か!?」

 

そう、前に見たときにはなかった胸元の大きな膨らみ。それは女性特有のものであるため、ラウラは彼が書類偽造などをしてこの学園に入ったことに気付いたのだ。目的はおそらく男子搭乗者のどちらかに近づきハニートラップなどを起こすことと判断したため、平たく言えばテロリストと考えたラウラはISを展開しようと暗視コープを下ろそうとした。

だがその時、スコープの視界に機龍が入り込んでその身が固まってしまう。

機龍はどうやら吼えながらミサイルを放っており、時折シャルルに近づきながら腕部に搭載されている0式レールガンを放っており、ミサイル幾つか明後日の方向へと飛んで行っていた。

いったい何があって戦っているのかわからないが、ラウラは何か嫌な予感を感じ太腿に待機状態で付けている『シュヴァルツェア・レーゲン』に手を伸ばしたときだった。“ソレ”が近づいてきたのに気付いたのは。

 

「しまっ……!」

 

それは機龍の放ったミサイルの一発であり、流れ弾となって寮の近くに着弾して爆発が起きる。それによって出た爆風が近くのガラスを砕き、そして一緒に跳んだ土やミサイル辺も一緒にガラスを砕く。おかげで中にいた生徒が怪我をしたり、鼓膜が破れたりと被害が出始め、寮の電気が一斉につき始める。

ラウラの部屋もガラスが砕けたが、とっさの判断によってガラス片などによる怪我は無く、衝撃による誤作動か分からないがスプリンクラーが作動してびしょぬれになったラウラは、寮の廊下などでない声などが聞こえ、もしかしたらと思い急いで扉を開く。

そこにはいきなりの爆発にびっくりして飛び出した生徒たちが多数で、中には怪我人がおり、その状況下によってパニック状態になった生徒も多数となっていた。

それに気づいた上級生などがどうにかしようとするが、周りの声がうるさ過ぎて声が奥まで響ききらない。その対応に苛立ちを感じたラウラは、大声でそこにいる生徒たちを黙らせる。

 

「静かにしろ!」

 

その大きな声は廊下の奥まで響いたのかわからないが、一気に生徒たちが静かになる。そしてラウラは一息ついた後、先程よりは小さいものの、大きな声を周りに響かせる。

 

「健全なものは負傷者を抱えてこの場から離れろ!動けるもので上級生のところにもこのことをできるなら連絡!そして専用機持ちはISを展開し、飛んでくる流れ弾などを破壊するようにしろ!」

 

15歳とは言えども彼女は軍人。正直この言葉で周りの生徒がまともに動いてくれる確証はなかった。だがその時のラウラの気迫が偶然ながらも千冬と似てたのか、生徒たちは嗚咽が混じっていながらも行動を開始する。

その行動を見届けたラウラは割れてない無事な窓を開け、そこから飛び降りると同時にシュヴァルツェア・レーゲンを展開。そしてこちらに流れ弾が来ない様に警戒し始めたとき、左手に白いナニカが空を走り抜けるのを見つけた。

 

「なっ!?あいつ何をしている!?」

 

ラウラが見たのはISを纏って機龍が暴れているところへ向かう一夏の姿であった。いったい彼が何をするか知らないが、下手に刺激してこちらに向かわれるのも厄介なため、ラウラは急いで一夏を捕獲しに追いかける。

だが白式は高機動型なだけあってこちらの速度がなかなか追いつけず、仕方なく肩に搭載されているレールカノンを一夏に標準を向ける。

だがその時だ。機龍がいる方面から眩しい閃光と共に、機体が大きく不調を訴えたのは。

 

「なっ、電磁パルスだと!?」

 

いきなりの不調によりシュヴァルツェア・レーゲンのスラスターの出力が下がり始め、不時着するラウラ。機体が軍で支給されたためだったのか電磁パルスによる被害は少なく、すぐに復旧させたラウラは再びスラスターを吹かす。

この時恐らく一夏も墜落しただろうと思い、回収に向かおうとするがハイパーセンサーが捉えたのは零落白夜で電磁パルスを無理やり突破したであろう白式の姿があったのだ。それにはラウラも驚きが隠せず、先程の不調で空いた間を埋めようとするが白式の機動性の高さのせいでいまいち埋まらない。

 

「織斑!戻って来い!」

 

ラウラは一般回線(オープン・チャンネル)で一夏に呼びかけるが、一夏は全く速度落とす様子を見せず、聞こえたも無視してるのかそれとも、先程の電磁パルスのせいで届いてないのか分からず、ただスラスターを吹かして白式を追いかける。

その時だ。機龍が戦ってるところで何かが地面に叩きつけられ、大きく煙を舞い上げたのは。だがそれによって一夏の動きが止まり、ラウラは急いで彼の肩を掴む。

 

「織斑!貴様自分が何してるのかわかってるのか!?」

 

「お前、ラウラ、か?てか左目……」

 

一夏はラウラが眼帯してないことに気付いたが、彼女はそんなこと今は関係ないと言わんばかりに声を荒げる。

 

「何、気付いてなかったのか!?そもそも貴様、なぜあのところに向かおうとした!……織斑、お前は何を焦っている……?」

 

この時ラウラは一夏が何か焦ってるかのようにそわそわしており、雪片を握る手に力が強く入ってることがわかる。

 

「知らねえよ!勝手に機体が反応して……!気付けばこうなってたんだ!」

 

一夏が少し泣きそうな声で訴え掛けてきたため少し顔をしかめるラウラだが、どうせ尋問は後で出来ると思い、とりあえず連れて戻ろうとしようとした。

 

「キィィァァァアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

「「っ!?」」

 

だがその時、一夏が進もうとした方向で大きな咆哮が起き、2人の体が石の様に固まる。そして2人目掛けて多重ロックオンが掛かり、2人は本能的にその場を離れると、そこには多量のミサイルが降り注いだのだ。

だがロックオンが甘かったのか2人を追いかけるということはなく、そのまま地面に落ちて連鎖的に爆発を起こし、爆風に煽られながらも2人は飛んできた方向を見る。

 

「航……!」

 

「あれが、機龍か……!」

 

そこにいたのは片方のバイザーを砕かれながらも目を赤く光らせ、横腹に傷を負っている四式機龍の姿であった。機龍はズン……ズン……と歩いて2人に近づいており、小さく唸り声を上げている。

 

「航!俺だ、一夏だ!話を聞いてくれ!」

 

この時機龍の脚の動きが止まり、一夏は少し安堵した表情を浮かべたが、機龍が腕をゆっくりと上げ、腕部レールガンを一夏に向け、そして弾を放った。

 

「わた―――」

 

「逃げろ!」

 

ラウラはワイヤーブレードを伸ばして一夏の腕に巻き付け、そして投げ飛ばすように無理やり腕部レールガンからの攻撃を回避させる。

いつものラウラなら一夏のことなんか無視して、機龍に攻撃を仕掛けていただろう。だがこの時だけは違った。

ただ軍人としての勘が告げていた。“コイツ”はやばい、と。

機龍からは背筋に氷柱を差し込まれたと思うほどの殺気が漏れ出しており、ラウラは無意識にレールカノンのロックオンを機龍に向け、そしていつでも放てるようにしている。

それに反応した機龍がラウラの方に顔を向け、そして威嚇するかのように大きく吼えた。

 

「キィィァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

そして機龍が2人目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

 

 

機龍は苛立ちを感じていた。ただでさえ搭乗者が怒りと憎悪で飲まれたため、この中に眠る“彼女”を無理やり飲み込み、そして“我”の意志で動いていた。

昔は持たなかったこの機動力。腕試しに先程の金髪のIS乗りと戦い、とどめを刺そうと思ったが腹部の損傷でコントロールを一時的に失いながらも、結果的に朱色のISを潰したが。

そして今、機龍は己の搭乗者の友人だと思う男と、誰かわからんオッドアイの女を相手にしていた。彼らは男が突撃、女が援護という戦法で仕掛けてくるため、シールドエネルギーが勝手に減ってが回避しながらも自由になった反動からか、こちらの遊ぶ程度の攻撃を繰り出すと躱していく。

そしてこの遊びも飽き、この五月蠅い蠅2体をいい加減に沈めることにした。

 

 

 

 

 

それは圧倒的であった。その白銀の装甲はシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンさえも弾き、白式の零落白夜さえも寄せ付けない。

それに自慢の機動力と爪を使った切り裂きなどが2人を襲い、シールドエネルギーを削る。

それに対して対峙していたIS、白式とシュヴァルツェア・レーゲンの装甲はすでにボロボロになっており、機龍の圧倒的な強さに対して2人の戦意がへし折れそうになっていた。

 

「くそっ……!零落白夜が全く効かねぇ……。装甲が硬すぎる……!」

 

一夏は何回も零落白夜を当てた。前に楯無に教えてもらった、機龍の柔らかい部分でもある関節部目掛けて刃を振るうが、機龍は零落白夜を危険とでも思ったのか、当たる前に白銀の装甲部に当てるように防御をし、致命傷にもなるダメージが一切入らない。

 

「……貴様ぁ!私で遊んでるというのか!」

 

ラウラは怒りをあらわにした。だが無理もないだろう。

シュヴァルツェア・レーゲンの切り札ともいえるA・I・C(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を使うも、最初は動きを止めることができても無茶苦茶とも言える馬鹿力でその拘束を解き、再び攻撃を仕掛けてくるのだ。そして対策と言わんばかりにバックユニットからミサイルを放ちながら機龍が腕部レールガンを放ってくる。

ワイヤーブレードも機龍相手では重量の差で逆に振り回され、プラズマ手刀も今いる中で一番攻撃範囲が小さい武器のため下手に使えず、ラウラの攻撃はほぼ機龍には効かないともいえる状況だ。

一体どうするか……ラウラは苛立ちながらも、攻撃手段を考える。だがその時。

 

「何……?」

 

この時一夏は、機龍が身を屈ませたため一瞬何をする気だと動きを止めて身構えてしまう。

だがこの時一夏は気付いていなかった。いや、気付けなかったというべきだろうか。機龍がロックオンを使わず、カメラでの目視ともいえる状態で一夏を見ていたのを。

そのため、白式が警告音を発してなかったのが命取りだったのだと。

 

「こいついったい……っ!?織斑、そこをどけ!」

 

「えっ?」

 

ラウラは機龍が最初何をするか分からなかったが、ブースター部の熱量が上昇してることに気付き、そして叫ぶも一夏は何のことか全く気付いておらず、一瞬呆けた顔を見せる。

だがそれが命取りであった。機龍はブースターを吹かし、そのまま一夏の元へと突っ込む。その速度は白式に劣るとはいえ、重量10トン以上もある金属の塊だ。

 

「ぐぅぅうううう!」

 

一夏は咄嗟に雪片弐型の刃を両手で持つように支え、機龍を真正面から受ける。だがそれで止まるはずもなく一夏は後ろに飛ばされ、そのまま機龍が急停止して一夏はそのまま木々をへし折りながら吹き飛ばされ、止まったころにはシールドエネルギーが残っていても搭乗者の意識が朦朧としており、まともに戦うことができない。

 

「わた……る……」

 

一夏はぼやける視界の中、手を機龍の方に伸ばす。

そして機龍は一夏に向かって潰そうとするが、そのとき顔の側面で爆発が起きた。ラウラがレールカノンの弾を当てたのだ。

 

「キィィァァァアア゛ア゛ア゛!」

 

機龍は一夏への興味を無くし、そのままラウラの元へと向かう。ラウラは上空に飛翔してレールカノンを放ち、機龍を一夏から離すように誘導するが、この時機龍が先程レベルの速度でラウラに突っ込んできたのだ。

まさかこの速度で突っ込んでくるとは思わず、焦ってレールカノンを放つが機龍はそれをわざと受けて、そのまま直進する。

 

「ちぃ!」

 

ラウラはそのまま当たるというギリギリのところで身体を捻って躱し、すれ違った後にレールカノンを放とうと思い、ラウラはすれ違ってすぐに振り向いてレールカノンを機龍に向けた。だが彼女はそれを見た瞬間、動きを止めてしまう。

 

「なっ……」

 

彼女が見たもの。それは、機龍がすでに急旋回でラウラの方を向き、そのまま尻尾がラウラの腹目掛けて降られていたということだ。そしてラウラはそのまま腹部に機龍の高速で振られた尻尾が直撃し、隕石の如く地面に叩きつけられた。

機龍の尻尾は4トン以上もの重さもあり、IS1機分も軽くある鞭はISを砕くには十分すぎる破壊力を持っている。

いくら絶対防御に護られるとはいえ、ラウラは肋骨に罅が入り、地面に叩きつけられた時の衝撃でシュヴァルツェア・レーゲンの機体装甲全体に罅が入り、スラスターも使用不可になる。

地面に大きなクレーターを作ったラウラは赤と金のオッドアイで忌まわし気に機龍を睨みつける。

 

「くそが……!勝てない……!」

 

ラウラはとても弱い自分を呪った。もっと力があれば……。負けないほどの力が……!

その時だ、ラウラにだけ何かコンピューターで構成された声が耳に響いたのだ。

 

 

ダメージレベルDを確認

 

セーフティ解除。活動限界時間まで使用のためパイロットの保護。Valkyrie Trace System、起動します。

 

 

「な、なにが……!っ……!ああああああああ!!!」

 

その時、ボロボロになったシュヴァルツェア・レーゲンから黒いオーラが出たと思うと、ヘドロの様にどろどろとした黒い物質がラウラごとシュヴァルツェア・レーゲンを覆っていく。この時ラウラは逃げ出そうともがくように手を動かすが、黒いドロドロはそれを無視するかのように全体を覆っていき、そして全体を覆ったと思うと、その形が変貌していく。

下半身はドロドロのままだが、手には黒い雪片。そしてポタッポタッと黒い液体が滴るも長い髪を形し始め、その姿はまるで、織斑千冬にとても酷似していた。

 

 

 

 

 

この時IS学園の海に小さき影が無数迫っていた。

それは、前にもIS学園の海岸に現れたものであったが、今回はそれが多数いたのだ。

“奴ら”は知っていた。あと数か月もしないうちに、“奴”が日本に現れるのを。




夜は明けず、戦いは終わらない。


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VTシステム

どうも、艦これで大型建造を1回してみて資源が枯渇寸前の妖刀です。できるようになったから、つい勢いで2回大和レシピでしてみた結果まだ持ってない伊勢型姉妹が出てきました。とりあえず今は資源調達が最優先状態です。
あと同時に艦これの単発作品を出したのでそちらも閲覧どうぞ。





まあいろいろと話がそれましたがでは本編、どうぞ!※すみません、今日は少し短いです。


Valkyrie Trace System

 

それは、VTシステムと呼ばれる過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムのことである。

その中には優勝者でありラウラの教官でもあった織斑千冬のデータももちろん入っており、データは恐らくラウラの感情の中にあるものをくみ取り、その姿になったのであろう。

そして黒いドロドロによる整形が終わり、シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラ・ボーデヴィッヒをコアにし、その全高3mにも及ぶ巨体を動かしていた。

雪片にも似たブレードを右手に握り、体の部分部分に現れている穴からブシュゥと汚い排気音が鳴り、頭に当たる部分に赤い光が一つ現れ、それが機龍をジッと見つめていた。

 

 

 

 

「キィィァ……」

 

機龍はシュヴァルツェア・レーゲンがいきなり変化したことに驚きを隠せなかった。警戒してるのか1歩2歩下がり、指を若干握ったり放したりしている。

前の前にいたシュヴァルツェア・レーゲンだった物はただ人の姿を模した黒い塊となっており、右手にある漆黒の刃の切っ先がガリガリと地面を削っている。

いったい何がしたいのか……。だが機龍は目の前にいる邪魔な黒いやつを潰せばいいと思い、バックユニットからミサイルを20発一気に放つ

。それらは弧を描いて左右からシュヴァルツェア・レーゲンに迫り、一斉に当たって起爆するだろうと思った瞬間だ。

シュヴァルツェア・レーゲンは手に持っていた雪片モドキで、ミサイルを一瞬にして切り落としたのだ。斬りどころがよかったのかミサイルは起爆せず、ただシュヴァルツェア・レーゲンの周りに無残に転がっていた。

 

「!?」

 

それには機龍も驚きを隠せず、僅かに身じろぎするがシュヴァルツェア・レーゲンがそれ以上行動を起こさないことに気付く。

だがこちらの攻撃が軽く塞がれたことに苛立ちを感じ、機龍は口を開いて口内の奥に見える2連メーサー砲からメーサーを放ちながらミサイルを放ち、大きく足音を立てながらシュヴァルツェア・レーゲンに近づく。

実際GOZILLAsystemによってシールドエネルギーが勝手に減っていってる今、先程のブーストの使用によってそれなりに減ったこともあり、今度の邪魔するやつが足の遅いように見えることから攻撃を躱すときに使う程度で使うことにした。

そしてメーサー、ミサイル、0式レールガンとこれらを連続で放って攻撃しているが、シュヴァルツェア・レーゲンが雪片モドキで受け流す、切り裂く、最小限の動きで躱すなどを行っており、機龍はその中近づいて行ってそして、距離が5mを切ったところでブースターを使ってタックルを仕掛けた。

だがシュヴァルツェア・レーゲンはそれを難なく躱すどころか、雪片モドキを横腹に突き立ててきたのだ。刃先は黒いシーリングのような部分に突き刺さろうとするが、表面をかすめに火花を立てながら受け流される。

そして機龍は鋭い爪をシュヴァルツェア・レーゲンに突き立てようと、右腕を高く上げて振り下すが、その攻撃も軽く横に動くように回避される。だが機龍はブースターを使って無理やり体をひねり、長い尾をシュヴァルツェア・レーゲンめがけて横に振った。

その攻撃をシュヴァルツェア・レーゲンは現在スラスターによる空中回避が行うことができず、まともに受けるようになって、いや、雪片モドキで受けるが、その4トンにも及びさらに遠心力が乗った尾の攻撃をまともに受けきれるわけがなくそのまま吹き飛ばされる。

シュヴァルツェア・レーゲンは大きく吹き飛ばされ、背中からたたきつけられるも勢い余って何回転も転がり、そして雪片モドキを持ってない左手を地面に突き刺してアンカーのようにして止まる。

 

「……!」

 

そして立ち上がった時に雪片モドキの刀身に亀裂が入り、ガラスが割れるかのような音とともに雪片モドキは砕けた。実際機龍の尻尾での一撃をまともに食らっておいて、これだけの被害で済ませたとだけあって相当な強度なのだろう。

そしてシュヴァルツェア・レーゲンは折れた部分から新たに雪片モドキを生成し始めるが、それより早く機龍が強く踏み込み右手を爪を立てたままフック気味に放つ。だがシュヴァルツェア・レーゲンもそう簡単に食らうわけもなく、しゃがんで回避した後腕そのもの(・・・・・)を雪片モドキの刀身にして足の股関節部を狙って刃を横薙ぎする。

だが機龍もそれがわかっていたのか、右足を持ち上げるとシュヴァルツェア・レーゲンめがけて前蹴りを放つ。結果まともに蹴りを浴びたシュヴァルツェア・レーゲンは装甲に弱くしか雪片モドキを当てることしかできず、そのまま後ろの弾き飛ばされてしまう。そして雪片モドキを地面に刺して無理やり止まろうとしたシュヴァルツェア・レーゲンが見たものは、己めがけて突っ込んでくる機龍の姿だった。

そのとき左手にも雪片モドキを出して防御しようとするが、機龍は右手を突き出してそれを砕く。

そのとき、機龍の腕に装備されている0式レールガンに付いてる2本の銃身が縮み、さらにその間から1振りのナイフのようなものが現れたのだ。機龍はそれをシュヴァルツェア・レーゲンの胸部に突き刺し、そして片腕の力だけでそれを持ち上げたのだ。

シュヴァルツェア・レーゲンは刺されたナイフであるメーサーブレード抜こうと両手を雪片モドキにして切ろうとし、肩口に現れたレールカノンを機龍めがけて撃つが一切効果はなく、ただ小さく機龍は唸る。

その時だ、いきなり電撃が走ったのだ。その最初の一撃によりシュヴァルツェア・レーゲンを覆っていたドロドロが反応し、一瞬雲丹になったのではないかというほどに全体的にとげとげしくなる。だがそれもすぐに収まりつつあるも、シュヴァルツェア・レーゲンは必死に離れようと手足をもがくように動かすが、そのとても強い電圧によってシールドエネルギーがどんどん削られていく。

その時だ、シュヴァルツェア・レーゲンを覆っていたドロドロの形状が崩れ始めたのだ。それを見るや機龍は、シュヴァルツェア・レーゲンをたたきつけるかのように投げ飛ばし、そのまま木々にぶつかって地面に落ちる。

そしてシュヴァルツェア・レーゲンを覆っていた黒いドロドロは形を保つことができなくなったのか、ゲル状だったのが液体状へと変化し、ラウラ・ボーデヴィッヒが姿を現し始める。だがその姿はおおわれる前とは違い全裸になっており、機能停止したシュヴァルツェア・レーゲンから投げ出されるようにして横たわっていた。

 

「ぅ……ぁ……」

 

意識がわずかにあるのか、ラウラは機龍に向けて手を伸ばす。だが動かせるほどの体力がほぼなく、結果パタリと地面に手を沈めるのだった。

 

「キィィァァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!!!」

 

そして勝利したことにより機龍は空に向けて吼えるのだった……。

 

 

 

 

 

機龍によって戦闘不能になった一夏は、その機龍が無双する様を見続け、とても恐怖した。昔聞いた暴走しいる機龍は、その振る舞いがゴジラのような動きとなり、その圧倒的な火力で街を焼き払うといわれている。

だが目に映るは(機龍)何だ。己の使える機動力を使い、そして持っている火力を相手に叩き込み、そして大きな巨体を生かした近接攻撃で相手を沈めていく。

その姿はゴジラのように感じるも、全くの別物という違和感を感じさせる。

だがそれを確かめようにも、今の一夏は先ほどの一撃でISも肉体も無事でも、叩きつけられた衝撃からかそれとも恐怖からかわからないが体が動かない。

そもそもなぜ白式が勝手に展開、そして機龍めがけて突っ込んだのかがいまだわからず、巻き込まれた形に近い一夏はこの状況をどうにかしようと音をたてないように動こうとする。

だがその時、機龍が一夏のほうを向いたのだ。

 

「っ……!?」

 

その無機質な赤い目に一夏は体を動かすことができなくなる。頭の中で「動け!」と叫んでも、体が動かない。

そして機龍は重い足音を立てながら一夏に近づく。距離は30mで、そこまで遠くない。一夏は逃げようとしたが機龍の迫力に押されてるのか、蛇に睨まれた蛙のようになって動けない。

その間にも機龍は重い足音を立てながら一夏めがけて歩いて近づいてきており、一夏はその時の影といい迫力といい、まるで本物のゴジラを目の前にしている気分だった。そして機龍は口を開き……。

その時だ。空から何かが一直線に落ち、そして機龍と一夏の間に刺さる。いきなりのことで機龍の動きが止まり一夏も何事かと目を剥くが、そこに刺さっていたものが何か知り一夏はすぐに空を見上げた。

そこにいたのは深層の蒼色と淡い蒼色の装甲を持ち、周りに両肩近くの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)であるアクアクリスタルから生成したナノマシンを、ドレスのような形で纏わせている機龍に似たISがいた。

 

「た、楯無、さん……!」

 

そこにいたのは蒼龍を纏った更識楯無であった。彼女は機龍が進行を停止した後にゆっくりと地面に向けて降り、そして地面に突き刺さった蒼流旋を片手で引き抜き、刃の反対側にある石突を地面に立て、そして顔だけ一夏のほうを向けてやさしそうな笑みを浮かべる。

 

「ごめんね、いきなりの電磁パルスで来るのが遅れちゃった。でももう安心して、一夏君」

 

「で、ですが……」

 

「大丈夫よ。私が、彼を止めるから」

 

そして右手に蒼流旋、左手に大型近接ブレード『村雨』を展開し、村雨の切っ先を機龍に向ける。ただ機龍は小さく唸るだけで、まるで様子を窺うかのような仕草をとる。

 

「来なさい航!私が相手してあげるわ!」

 

「キィィァァ゛ァ゛……」

 

機龍は強い苛立ちを感じた。それは自分の意志ではなく、中にいる人間の意志が流れ込んでるのだろう。その強い怒りや憎悪は機龍の動力になるわけでもないが、その感情は後に大きなものとなることを知ってるため、放置する。

だが今は少しだけ、この感情に身を任せることにした。

 

「キィィァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

そして機龍は楯無めがけてブースターを吹かし、突っ込んだ。

 

 

 

 

 

その頃IS学園近海。海上に浮かんでるノワールの使っていた船、もとい小型のボートの周りにそれらは集まっていた。

その滑りのある黒緑の長い体の上半分を水面から出し、IS学園をヘルメットのように丸くなってる頭と思われる部分で見ており、水中にも潜んでる仲間にそれらを知らせる。

するとどうだ。水中にいた奴らはボートの側面に取り付き、白いドロドロとした液体を出しながら登って言った挙句、ボートの中へと入りこんだのだ。そして2匹、3匹と入っていき、それらはボートの中にある部屋のような部分へと入っていき、その姿を暗ませる。

そして最初に見ていた生物はキチキチと笑うように声を上げた後、水中へと姿を消すのだった。




月は照らす、1組の男女の喧嘩を。それはただ悲しいものだが、止めれるものはどこにもいなかった。
ただ月は、その戦いを見守ることしかできなかった。


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届かぬ声

機龍がシャルロットと闘っている……いや、蹂躙し終わり、今は一夏とラウラの2人と闘っている時だった。楯無は鈴を連れてそれなりに離れた繁みに隠れたはいいが、機龍のはなった電磁パルスによって2人のISが機能停止、そのため楯無は急いで蒼龍の復旧に手を休ませずに励んでいた。

 

「楯無さん、大丈夫なんですか……?」

 

「何が?」

 

「その……鬼気迫るかのような顔をしているから……」

 

「別に問題ないわ。さて、さっさと蒼龍を直すわよ」

 

楯無は航が暴れている原因を薄々と何かわかり始めていた。一番思い当たるはシャルロットを動揺させるときに言った「まあいいわ。なら彼の首折ってみなさい」「別に貴方の勝手にしなさい。私は貴女を捕まえるだけだから」。この言葉たちが航の心を大きく傷つけたのではないのかと思ったのだ。

もしそうならば、自分の足で彼の元へと向かい、しっかりと謝らなければならない。ただそのことを頭の中で反芻しながら楯無は急いで蒼龍の応急措置を済ませていく。

その時だ、離れた場所2回、3回と轟音が響き、2人は何が起きたのかとその方向を向く。おそらく機龍が何かしたのだろう。そのため急いで修理を終わらせ、楯無は蒼龍を一回待機状態にする。そして。

 

「おいで、蒼龍!」

 

一瞬の輝きのうちにISを量子変換して纏い、そしてスラスターに光がともり始める。

 

「じゃあ航を止めに行ってくるわ」

 

そしてスラスターを一気に吹かして楯無はその場を後にした。

 

「航をお願いします……」

 

鈴は飛んでいく楯無に向けて、聞こえてないだろうがそうつぶやくのだった……。

 

 

 

 

 

楯無は飛んで1分ちょいでたどり着いたのはいいが、上空で見たのはすでに戦闘不能になったラウラ・ボーデヴィッヒに、動けないのだろうかその場に倒れたままの一夏。そしてその一夏に向けて移動している機龍の姿があったのだ。

あたり一帯は地面が剥げ、木々もボロボロ。その中でただ上空から見る限りほぼ無傷の機龍を見た瞬間、楯無は冷や汗が一筋流れる。だがこの時楯無は一夏に向けて機龍が動いてることを思い出し、その進行を止めようと右手に蒼流旋を展開。そして一夏と機龍の間めがけて投擲するように投げた。

すると機龍の動きが止まり、その機龍が自分めがけて上を向く。それと同様に一夏も上を向いたため、楯無は地面に向けて降りていき、そして一夏の前に立ち蒼流旋を抜いて機龍の前に立ちふさがるようにする。

 

「た、楯無さん……!」

 

楯無は一夏に呼ばれたため振り返るとそこには機龍にやられたのだろう、装甲がボロボロで戦闘不能に近い一夏がいたのだ。そして少し離れたとこに裸で寝転がってるラウラがいる。

そして楯無は小さく笑みを浮かべて彼を安心させる。

 

「ごめんね、いきなりの電磁パルスで来るのが遅れちゃった。でももう安心して、一夏君」

 

「で、ですが……」

 

「大丈夫よ。私が、彼を止めるから」

 

そう、そうしないと彼は止まらない。自分がやってしまった罰なのだから。それを自分が責任とらないと……。

そして楯無は右手に蒼流旋、左手に村雨を構えて村雨の切っ先を気流に向ける。実際専用機持ちを3人もほぼ無傷で下してきたのだ。生半可な気持ちだと国家代表だろうとすぐにやられかねない。

 

「来なさい航!私が相手してあげるわ!」

 

「キィィァァ゛ァ゛……」

 

この時機龍は小さくうなり、赤く輝く目が一層強く輝かせたように感じる。そして太腿部ブースターを展開し。

 

「キィィァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

そして機龍は楯無めがけてブースターを吹かし、突っ込んだ。その勢いはまさに弾丸ともいうほどの速さであり、下手なパイロットだったら反応できずにそのまま突っ込まれて一撃で戦闘不能になるだろう。

だが楯無はそれを的確に回避し、そして上空へと上がり両手をたたいて機龍にこちらへの興味を強く惹かせる。それに反応した機龍もブースターを吹かして楯無めがけて上空へと飛び上がり、それを見た楯無は一夏たちに影響が出ない場所を探すためにその場を離れる。そしてついていく機龍。

 

「楯無さん!……くそ!動いてくれ、白式!」

 

一夏はうんともすんとも言わない白式に苛立ちを感じた。確かに役に立つとは言えない。だが囮とかそんなにも自分は使えたはずだ、だがこの体たらくは何だ。ラウラの時も全くかのように自分がお荷物のように感じた。それを抗おうとしたらこの様だ。

 

「くそ……何が自衛隊になるだ……、何が護るだ……。ちくしょう……!」

 

一夏はただ自分の無力さに打ちひしがれていたのだった……。

 

 

 

 

 

「よし、ついてきてるわね……」

 

楯無は後ろに機龍がいるのを確認しながら追いつかれないように蒼流旋の大口径に改造したガトリング部から弾を大量に吐き出す。なぜこのような行動をとったのかというと、あの場所で戦えば一夏とラウラに被害が及ぶと考えたのだ。そのため楯無は飛ぶ。

だが機龍もそれで終わるはずもなく、バックユニットからミサイルを飛ばしたのだが、楯無はそれをばれるロールで回避したりアクアナノマシンを利用したチャフを使うことによってそれらをすべて回避していってるのだ。

そしてたどり着いたところは千冬たちがいる海岸からそれなりに離れた海岸、砂場の上だ。楯無は底が見えるとすぐに降下し、機龍の方を向くように反転した後に砂場に足を付けて着地する。機龍もそれに気づいたのか、楯無から少し離れたところに重さのため10数メートル砂を削りながら着地を果たす。

 

「よく私から離れようとしなかったわね、航」

 

楯無はそういって話しかけるが、機龍はそれを無視するように重い足音を立て、そして尾をユラユラと揺らす。

だがそのとき時楯無は両手に持っていた得物を下し、戦意はないというかのようにしたため、機龍は若干首を傾げた。

 

「ねえ、航……話を聞いてほしいの……。あのね……」

 

「キィィァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!!!」

 

威嚇するように吼える機龍。それは楯無のことばなんぞ聞きたくないとでも言わんばかりであり、そのため楯無は少し悲しそうな顔で目を伏せる。わかってる、自分が悪いのだから……。

 

「ねぇ……私の話、聞いてくれないの……?」

 

悲しそうな声で言う楯無だが、機龍はそれを無視するかのようにバックユニットのミサイル全ての目標を楯無に向けており、彼女にはその警告音が鳴り響く。

 

「航……」

 

そして機龍から多量のミサイルが飛ばされ、椀部の0式レールガンから多量の弾が放たれる。楯無はそれをアクアナノマシンで作った氷の盾によってレールガンのの攻撃を防ぎ、飛んでくるミサイルは蒼流旋のガトリングで撃ち落としたり躱したりして、ダメージを最小限にしていく。

この時機龍は楯無に攻撃が全く当たらないのことに苛立ちを感じたのか、機龍はブースターを使って無理やり足を砂場から持ち上げ、そしてホバーであるかのようにして楯無めがけて突っ込みその鋭い爪をたたきこもうとする。

だが楯無は後ろにスラスターを吹かして蒼流旋で爪を受け流すかのように躱す。そして機龍の懐に入り込んで左手に持っていた村雨を機龍の脇腹に叩き込むが、金属と金属のぶつかり合う音を立てて村雨はその硬い装甲によって受け止められる。

機龍は自分の脚が届く範囲のため前蹴りで楯無を吹き飛ばそうとするが、それに気づいた彼女は一気に後ろに下がってその攻撃を躱し、バックユニットを展開してそこからミサイルを20発同時に放ち、その弾道は機龍目がけて放たれていた。

 

「キィィァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ!!」

 

機龍はその攻撃が自分に効かないと知っているが、その量と鬱陶しさに苛立ちを感じ0式レールガンをばらまくように放ち、こちらもバックユニットからミサイルを放つ。その大きさは楯無の放つものより3倍近くの大きさがあり、破壊力も3倍となる。そのためぶつかり合ったミサイルは大きな火球となり、あたり一帯がまるで太陽が上がったかのように明るく照らされた。

 

「はぁぁ!」

 

その中楯無は蒼龍が持つパワーに物言わせ、刃渡り2メートル半はある大剣村雨を投擲するかのように機龍めがけて投げたのだ。実際蒼龍は全身装甲じゃない機龍ともいえる代物でパワーは並大抵のISを凌駕するほどのため、このような芸当ができるのだ。

そして飛ばされた村雨は目の前に広がる火球の中を切り裂くかのように突き進み、そして機龍が気づいたころには切っ先がどうしても躱せずに激突するほどの近さであった。そのため機龍はとっさに右手を盾にするように構え、そのまま村雨は右手につけられている0式レールガンに直撃し、そのまま機構を抉るかのようにして弾き飛ばされる。

おそらく中に仕込まれていたメーサーブレードのおかげで椀部に重大なダメージを与えるほどでもなかったのだろうが、そのメーサーブレードも大きくひび割れ0式レールガンそのものに重大な大ダメージを与えていた。

 

「キィィァ゛ァ゛……」

 

そして機龍は楯無をにらみつけた後右腕の使い物にならなくなった0式レールガンをパージし、そして機龍は吼えるかのように口から2連メーサー砲を放ち、そして同時にミサイルを放った。そして爆発の後に残った煙の中を通じ、それは楯無のもとへと向かう。

楯無はそれがハイパーセンサーで感知できたが、体がそれよりも早く反応しており、彼女は機龍めがけてメーサーとミサイルが飛んでくる煙の中へと自ら突っ込んだ。

そして急旋回を行って楯無に迫るミサイル。そして直撃していき勢いの落ちる楯無に正面からメーサーが迫り、そして楯無を切り裂いた。

 

「っ、ぁ……!」

 

そしてさらに迫ったミサイルが楯無に迫り、爆発による大きな紅蓮の花が夜空を明るく染め上げた。その中で響いた楯無の悲鳴。

終わった……。機龍は小さく鳴き声を上げ、そして海風が吹いて煙が一気に引くと、そこには爆発で抉れた大地があったが、そこには楯無の姿がなかった。

 

「キィァァ!?」

 

「こっちよ!」

 

「ッ!?」

 

そのとき機龍の右後ろから村雨を構えた楯無が高速で迫ってきたのだ。だが機龍はそれを冷静に尻尾を大きく振って村雨を上段で構えていた楯無の横腹に引き千切らんとするのではないのかと言えるほどの強烈な一撃を当てるが……。

 

「キィァ!?」

 

楯無が真っ二つになったかと思うと、彼女の口がニヤッと笑いそして色がなくなってただの水のようになったのだ。そして村雨も地面に突き刺さり、機龍は何が起きたのか全く理解できてない状況と化す。

だがそのとき、機龍のセンサーにいきなり反応が現れ、その方向、左後ろを顔が先に向くとそこには蒼流旋を構えた楯無がいたのだ。楯無はそのまま蒼流旋を左腕の0式レールガンに直撃させ、そして発射不能にするかのように機構を抉り取る。

 

「キィィァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

機龍は尻尾を振って楯無に当てようとするが、彼女は後ろに下がってそのまま村雨を左手で取って、そして機龍からいったん距離をとる。この時機龍が怒って攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、先ほどの衝撃でか彼女を警戒しており、攻撃を仕掛けてこない。

楯無が使ったのは水分身。蒼龍に使われているアクアナノマシンを使って、センサーが誤認するほどの自分の姿そっくりの分身を作り上げ、それで攻撃してたのだ。そのため最初にメーサーによって切り裂かれたのも、先ほどしっぽによって胴体真っ二つになったのも全て、この分身で作った偽物なのである。

航と模擬戦などをしてる時には一切使ってなかったため、機龍にはその情報が一切なかったのだ。そのためこのように2度も騙され、両腕の0式レールガンを破壊されたのだった。

 

(この攻撃が上手くいくとは思わなかったわ……。これで機龍の射撃武器は口の中のメーサーと背中のバックユニットだけ。だけど油断は禁物ね……!)

 

楯無は蒼流旋と村雨の刃にアクアナノマシンを纏わせて武器の攻撃力を上げ、いつでも仕掛けれるようにする。

 

 

パージします

 

 

そのときあの時の不快な女性の機械的声が響く。機龍が一体何をする気なのか楯無は身構えると、機龍のバックユニットからガチャっと何かの接続が解除される音がした。すると機龍のバックユニットが解除され、そのまま砂の上に転げ落ちたのだ。

楯無はこれが一体何を意味するのか最初は分からなかったが、記憶を探るととんでもないことを思い出し、顔を青くし始める。0式レールガンやバックユニットを付けた機龍は重武装形態。ならその武装を取り除いたら……。

 

「キィィァァァ」

 

この時機龍が嗤ったような気がした。機械だからそんなわけがないと何とでも言えるだろうが、楯無にはそんな気がしたのだ。それは今まで“更識楯無”として携わってきた、裏の仕事で見てきた人間が浮かべる笑みに感覚が似てるのだ。

そして機龍の脚部ブースターが展開、そしてバックユニットの下に隠されていた背部ブースターにも火が入り、そのまま目標めがけて突っ込もうという態勢をとる。

そして楯無は身にまとっているナノマシンを自分の前に集めて防御態勢をとるが……。

 

「えっ……?」

 

その速度は大きさと重量を無視したものであった。10m以上は離れていた距離は一瞬にして詰められ、楯無の目の前には機龍の横に高速で振られた尻尾が迫って来てたのだ。

 

「くぅぅぅ!!」

 

楯無は蒼流旋を両手で持って防御するが、あまりにも重い一撃に無理やり体を浮かされ、そして20m以上は後ろに跳ね飛ばされる。いや、後ろに飛んだといってもいいだろうか。

 

(後ろに逃げてなかったらやられていた……!)

 

楯無のとっさの機転によりダメージは抑えられ、蒼流旋にも大きなへこみなどはできていない。4式機龍の装甲と同じ金属を使っているため早々壊れるということはないが、だからって油断していたら壊されかねないため楯無は慎重に扱う。

 

「キィィァァァア゛ア゛ア゛ァァ!」

 

機龍はブースターを再び起動させ、先ほどと同じように神速ともいえる速度で楯無に迫る。楯無はそれを回避しようとするもどうしても逃げ切ることができず、機龍の攻撃をぎりぎりで躱すのが精いっぱいだ。

途中から蒼流旋や村雨で無理やり軌道をずらしたりと防御も精一杯になっており、いきなり機龍が後ろに瞬時に回り込んだりといつやられてもおかしくない状況となっている。攻撃は鋭い爪で切り裂く、前蹴り、尻尾、口部の2連装メーサー砲と少ない部類だが、それに見た目とは段違いの機動力を使うことによって手数を増やしている。

しかも一撃一撃がとても重いため掠めるだけでもダメージが比較的大きくなっており、楯無ほどの技量でなかったら一撃もらった後にすぐに畳みかけられて今頃はボロ雑巾以上にボロボロになってたであろう。

だが連続で躱しているとそのプレッシャーや体力的問題で動きが鈍るため、楯無はどうしてもその焦りからか無意識ながらも動きが少しずつ乱雑になり始めており、それによってさらに防御が危うくなってきていた。

だがそのとき、機龍の尻尾による跳ね上げで防御に使っていた蒼流旋が弾き飛ばされ、そして機龍が踏み込んで放った前蹴りが楯無を直撃する。彼女は両手をクロスさせてとっさに防御するが、その重い一撃でシールドエネルギーを大幅に削られ、そして大きく吹き飛ばされた。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

そして楯無は大きく飛ばされた後に背中から倒れ、そこに機龍がメーサーを放って追い打ちをかける。だが楯無は急いで立ち上がりそれをなんとかぎりぎりで回避し、そしてすぐに村雨を展開してそれを機龍向けて投擲する。だが機龍はそれを躱すことなんぞせず、その場で半回転して尻尾で村雨をはじくかのように当て、そして村雨が粉々に砕けて足場にその破片が降り注ぐ。

 

(今よ!)

 

その時だ、いきなり足場の砂が爆発したかと思ったら、その砂が機龍に絡みついてきたのだ。いきなりのことで動揺を隠せず動きが止まる機龍。だがその隙を縫うかのように砂が、いや、アクアナノマシンが浸透した砂が強く機龍に絡みついていく。

だがいつの間にこんなのを楯無は仕掛けたのだろうと思うがトリックは簡単だ。このアクアナノマシンは先ほど水分身で使用したものであり、それを回収せずに地中に忍ばせていたのだ。そして任意によりそれを起動させ、機龍の動きをからめとったのだ。

 

「キィィァァ゛ァ゛!!!」

 

機龍は絡みついたアクアナノマシンを引きはがそうと暴れるが、ロシアが作ったアクアナノマシンよりも強力なのを婆羅陀魏製のを使用してるためそう簡単にはがれない。だからと言ってそのまま放置するわけにもいかず、今にも拘束を引き千切りそうな勢いで暴れるため楯無は、今しかないと機龍の後ろに回って直接通信できるようにする。そして声をかける。航に届くように。彼に聞こえるように。

 

「航!私の話を聞いて!」

 

 

――うるさい――

 

 

「私は彼方を」

 

 

――黙れ!――

 

 

機龍はその巨体を震わせて楯無を振り落とそうとするが、彼女も必死に離れまいとがっしりと機龍の首をつかむ。拘束の千切れたため自由になった腕の可動範囲もしっぽの可動範囲もそこまでどうしても届かず、機龍は勢いよく砂の上に倒れるも、それでも楯無が頑として離れない。

そして機龍は体内放射、もとい電磁パルスで楯無を吹き飛ばそうと背びれをチカチカと点灯させる。

 

「おねがい、航……。話を、聞いて……」

 

楯無の泣きそうな声。それを聞いた機龍は背びれの点滅が止まり、動きを止めた。そしてぽつぽつと楯無が彼に思いを伝える。

 

「……あの時はあんな風に心のないようなことを言って本当にごめんなさい……。シャルロット・デュノアを動揺させるために言ったのに、それが貴方を傷つけてしまうなんて私の考えが浅はかだったわ……。私は……貴方が好きなの……。だから航……お願い、もうやめて……」

 

その消えてしまいそうな声。それは彼女の本心であり、彼に向けた願いである。

そのとき機龍の目から赤い光が消え、ちぎろうともがいていた手足などの動きも止まり、楯無は安どの息を吐く。

さて、どうやって航を引っ張り出すか、楯無はそう考えていた時だった。

 

 

――好きなら何で俺の家族を殺した――

 

 

そのとき、機龍の目に赤い光が灯った。

 

「えっ……」

 

そして機龍の背びれが連続発行を繰り返し、そして楯無に強い衝撃が走った。それはシャルロットの洗脳を解くと同時に、様々な電子関係を破壊する衝撃波。

体内放射、もとい電磁パルスが放たれた。

その威力はシャルロット戦で使った時とはずっと低いが、自身の体にまとわりついたものを強制的にはがすには十分な威力だ。そのためアクアナノマシンは一瞬にして機能停止。そして蒼龍もそのせいによって機能停止まではいかなくても電子系統に大ダメージをくらい、機能停止目前までやられてしまう。

そのためパワーが入らず機龍から落ちていくため、楯無はそれでもすがろうとするがどう捨てもISの重量ですることができない。

そして機龍に捕まれ、そのまま楯無は遠くに投げ飛ばされた。

 

 

 

 

 

投げ飛ばされた楯無は、ただあのときに聞こえた声が頭の中で何度も響いていた。

 

「それって……どういうこと……」

 

それは航の声だった。彼の声が強い怒りとともに聞こえたのだ。

彼女にはその言葉の意味が理解できなかった。

 

――好きなら何で俺の家族を殺した――

 

それが本当なら航の両親である北斗と月夜は殺されたということになる。そして航の言い方からするに、まるで楯無が殺したとでも言いたげだ。

だが彼女は学園で2年生になってから航の家には1回も行ってない。そのため彼の言ってることがどうも信じられなかった。

だが……。そうだ、数日前に航が刀奈を強く拒絶したときがあった。もしかして、航はその時から……。

そんな呆然としている楯無めがけて、機龍が重い足音ともに距離を詰めていっていた。

 

 

 

 

 

現在蒼龍は先ほどくらった電磁パルスが最初のものと判断していたため、すでにできていた修復プログラムで早急に中の修復を始めている。だが、それでも機龍がここまで来るまでに応急措置が完了しない。このままでは放心状態の楯無が機龍の攻撃ですぐにやられ、そして蒼龍が強制解除されて最悪彼女が殺されてしまう。

蒼龍は初めて感じた、この自分に似た機体から感じる強い殺意に。それはISネットワークで話題になったゴジラというものにとても酷似しており、生みの親の篠ノ之束がそれを忌々しげに見ていたのは記憶にある。

ただ蒼龍は機龍に向けてあることを感じた。それは今の表に出ている機龍の人格以外に、何か別のものがあることを……。

そのとき、応急措置は完了した。あとは楯無が正気に戻ることだけだ。

 

 

 

 

 

機龍は中の人間の苛立ちのせいか、己に対しての疲労となってエネルギーを最初より多く消費してきていた。

リミッター解除したために増えたシールドエネルギーが、最初は10万を超えるほどだったのに対して今はすでに4桁ほどしかない。馬鹿みたいにエネルギーを食うためさっさと終わらせたい機龍は、脚部ブースターを右足のは前に、左足のは後ろにしてそしてそのまま回転をし、遠心力によってとても破壊力のある鞭と化した尻尾が楯無めがけて振われた。

だがそのとき、機能停止していたアクアナノマシンが赤く染まり始め、そして動かないはずなのにそれらは機龍めがけて高速で迫り、そして楯無にあたろうとした機龍の尻尾を体が何メートルも横に飛ばされながらもダメージがあまり入らなかった。

 

「航……教えてよ。私が何をしたのかを……」

 

楯無は航の言ってることが本当かわからない。だけどその真実を突き止めないと、これが嘘なのか本当なのかが分からないままいるのはとても辛いことだ。

ただ彼女はその真実を突き止めるために、彼女は真剣な目で機龍を見つめる。

そして機体はリミッター解除である赤いアクアナノマシンが出ており、電磁パルスで散ったナノマシンも回収した楯無は一度吹き飛ばされながらもその後なんとか回収した蒼流旋展開する。そして赤のアクアナノマシンを纏わせ、楯無は機龍……いや航を止めるために突っ込んだ。

 

 

 

 

 

その戦いは熾烈であった。パワー、装甲の強度、速度とあらゆる点を圧倒する機龍を楯無は己の感、経験などを生かして受け止めれる攻撃は受け止め、そして武装は蒼流旋1振りだけながらもアクアナノマシンでの支援を使ってどうにか同等に持ち込んでいる。

 

「はぁ!」

 

尻尾による薙ぎ払いを躱した楯無は、地面に伸ばしたナノマシンを機龍に向けて氷柱のようにして伸ばす。機龍はブースターを使って回避するも、別の場所に仕込んであったナノマシンが作動してそこからも氷柱が伸び、それが機龍に直撃する。その攻撃は機龍にはそこまでダメージは入らなくても、関節部ばかり狙ってくるためどうしても動きが鈍くなってしまう。

 

「キィィァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!!!」

 

機龍はその苛立ちからメーサーを乱雑に放ち、楯無はそれを躱していく。これはどうしても防御ができないため、1撃でもくらうと大ダメージで戦闘不能になってしまう。

そして機龍はブースターを使わず走るかのようにして楯無に接近。その鋭い爪を横に2度振い、その後に体を一回転させて尻尾を振う。

楯無はそれを本当に髪の毛1本の差で躱し、腹部に蒼流旋の切っ先を叩き込む。だが機龍はそれを払うかのように右手を楯無めがけて振り下ろし、彼女はそれをバックステップで躱す。

 

「あとどれぐらいしたら止まるのよ……!」

 

楯無は奮闘していた。だがどうしてもシールドエネルギーの量に差が出てしまう。実際機龍のシールドエネルギーの量はまだ4桁後半もあるが楯無はすでに3桁台に入っている。いや、6桁もある今の機龍のシールドエネルギーを残り4桁まで持っていたのはすごいことだ。だが大半が、GOZILLAsystemによる異常なほどのエネルギー消費が原因であるが。

そのため機龍はさっさと決着を付けたく思うが、蒼流の高い回避力がそれを阻止しており、苛立ちが機龍の中に募っていくばかりだ。

その蒼龍もアクアナノマシンが途中から制御不能で散ってきており、楯無を守る盾としての役割がほぼ薄れていた。だが彼女はそれを無視して機龍に肉薄して近接攻撃を何回も仕掛け、そして楯無が機龍の口内めがけて蒼流旋を突っ込ませようとする。

 

「そこよ!」

 

だが楯無は自分が体力があまりないことを忘れていた。そのため体の勢いがガクンと落ち、不意に体のバランスが崩れてしまう。

それを見落とす機龍でもなく、機龍は彼女にブースターを使って急接近し、そのまま前蹴りを1撃くらわす。

 

「しまっ……。ぐぅぅ!!」

 

その一撃が絶対防御を引き起こさせてシールドエネルギーの残量を一気に2桁まで削り、そして吹き飛ばされた楯無は海の浅瀬に背中からたたきつけられる。そして急に海水が口のに入ろうとしたため急いで立ち上がるが、体が全体的に悲鳴を上げ始め、立てなくなったのか楯無は蒼流旋の切っ先を砂に刺して片膝立ちになってしまう。

 

(無理……、強すぎるわよ……!)

 

息を荒くして楯無は機龍を睨みつける。だが機龍はそれを冷たい目とでも言わんばかりのカメラアイで見返し、楯無は小さく舌打ちをする。

 

「航……。なんでここまで……!彼方、自分が何をしてるのか分かってるの……!?答えなさい!篠栗航!」

 

その時だ、機龍の胸部が開いたのだ。そこに見えるのは臼砲にも見える一つの砲門らしきもの。楯無はをそれを見たとき、冷や汗がたくさん出た。

 

「うそ……でしょ……。まさか……あれが使えるの……!?」

 

楯無はこのことについて1つだけ思い当たりがあった。それは今から40年以上も前に開発された、自衛隊が持ってた中で最強レベルといっても過言ではないほどの威力を持つ兵器が。

そして開いた3枚の胸部を構成していた装甲の端からエネルギーが中心に向けて流れ始める。そして訪問の前に白色に近い光球らしきものができ始める。だがそれはとても冷たく、周りの空気がその冷たさに凝結し、機龍の装甲表面に水滴ができ始めてるほどだ。

 

 

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)、強制発動。絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)、スタンバイ。

 

 

そして光弾はどんどんと大きくなっていく。狙いはどう見ても楯無。

 

「逃げない、と……!」

 

楯無は蒼流旋を杖にしてそこから逃げようとするが、肋骨に激痛が走ったため小さい悲鳴とともに動きが急激に鈍ってしまう。

機龍はそんな楯無に無情にもロックオンを掛け、そして己の中の残ったシールドエネルギーの大半を引き換えに光球を大きくしていき……。

 

 

 

そして絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)が放たれた。




水面に写る月は砕け散る。


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暴走の終わりと

月は見ていた。その戦いの結末を。ただ答えのない戦いを見続けた。


機龍が1回目の電磁パルスを放ち、あちこちで電子関係を不調にしてる頃。織斑千冬率いる教員班は目の前にいるデュノア社の特殊部隊『ノワール』のISに乗っている者ともどもにいきなりのISの機能停止に驚きを隠せず、お互いがお互いこの状況でどうするか混乱の極みにたしようとしていた。

ノワールのISを纏っていない隊員がISをせめて仰向けにさせようとしてるが、その重量に女性とはいえ何人もが力を入れても起き上がる気配はない。

だがその中、1人だけ人間をやめるのではないかと思えるほどの馬鹿力を発揮しているのがいた。織斑千冬だ。

 

「ぬぅぅぅぅ……!!」

 

ISは訓練機、量産型でも1トンはある。それを纏ったまま近接ブレードを杖に、無理やり立ち上がろうとしてるのだ。その光景に敵も味方も完全にくぎ付けになっており、体を心配した真耶は声を荒げて千冬を止めようとした。

 

「織斑先生!そんな無茶したら体が!」

 

「こんなの問題ない!」

 

そしてブレードの支えがありながらも千冬は立ち上がり、その鬼を射殺すのではないかというような目つきでノワールをにらみつける。

 

「貴様らぁ……よくもこっちのISを使い物にならなくしてくれたな……!」

 

「い、いや、待ちなさいよ!こっちだって動かなくなってるのよ!?」

 

ノワールのリーダー格の女はそう狼狽しながら言うが、そんなの千冬からしたら試作機が暴発して仲間を巻き込んだだけという解釈にしかならず、彼女は足腰に力を入れてブレードを地面から抜き、そしてノワール相手に中段で構えた。

だがその装甲の重さ、バランスの悪さを自分の筋力などで補うもそれには限度がある。それを無視して千冬は動こうとしたが筋肉が大きく軋み、バランスを崩してブレードを地面に刺すことでどうにか保つ。

 

「織斑先生!」

 

「くぅぅ……強制解除!」

 

その言葉とともに千冬が纏っていた打鉄の装甲が弾けるかのように外され、そして弾ける装甲とともに千冬はISの下半身ブロックから飛ぶように外し、着地すると同時にその下半身ブロックが倒れる。そして砂浜に立っているのは打鉄を解除し、ISスーツを着た織斑千冬であった。

その右手には打鉄の時に持っていた近接ブレードを握っており、峰の部分を肩に当てて片手でそれを支えており、その無防備な姿でありながらも気迫でそれをカバーしている。

 

「さて、言わせて貰うが今ここで大人しく降伏するなら、それ相応の待遇で迎えてやろう。だが、もし何か攻撃をしてくるのならこれで殴ってでも貴様らを捕まえるぞ。さてどうする?」

 

そういって千冬は肩にかけていたブレードを刃から地面にたたきつけ、氷のような冷たい目でノワールの面々を睨みつける。その迫力にノワールの面々はもちろん、彼女の後ろにいた教師陣もその迫力に固唾を飲みこむ。

 

「さて、どうする?」

 

千冬の獣のような獰猛な笑みがノワールたちの動きをからめとる中、隊員のリーダーと周りの隊員が何かアイサインを行い、そして千冬の方を向く。

 

「答えはこうだ!」

 

そしてノワールのリーダーは、いつの間にか手に握っていた円筒状の物の頭についてるスイッチを押し、そして地面にたたきつける。するとそこから大量の煙幕が噴出し、そして教師、ノワールの面々を覆うほどの空間を作り出す。

この時千冬は何か毒物が含まれているのではないかと警戒したが、どうやら毒はないらしく、そのままブレードを強く握りしめて先ほどまでノワールの面々がいたところへと突っ込み、そしてブレードを振り下ろす。だが切り下ろしたところは何もなく、ただ波の音が聞こえるだけだ。

そのとき少し強めの風が吹いて煙幕をさらっていく。そしてそこにはノワールの面々がいない。どうやら海に逃げたのだろう。

 

「くそっ……逃げられたか……。……ん?」

 

この時、千冬はノワールがいたところに彼女らが使っていたISが3機転がっていた。2機はパイロットがすでにいなかったが1機だけ逃げるのが遅れたのだろう。おそらくあの短時間で強制解除することができず、そしてあまりの重さのために見捨てられたのだろう。両手のISのパーツを解除することはできているが、胴体や下半身に纏われているISが重りとなって動くことができない。

その中、ISを強制解除が終えた教師たちは寝転がったままの置いてけぼりをくらったノワールの隊員のもとへと寄り、そして千冬が近接ブレードの切っ先を彼女の頭頂部へと向ける。

 

「さて、貴様はどうする?」

 

「あのー。こ、降伏します……」

 

そして重さで寝転がったままの彼女はひきつった顔で両手を上げて、降伏のポーズをするのだった。

 

 

 

 

 

その氷の光弾は海を切り裂き、何キロと通って海を凍らせた。その一撃は海面から頭を出していたその生物さえも瞬時に凍らし、そしてその生物は自身が凍ったことも知らずにこの世を去っていく。

そして波の揺れとともに、光弾でできた氷の道は凍り付いた生物共々砕け散るのであった……。

 

 

 

 

 

その時楯無は、自分の目の前にできてる光弾が、己を殺すではないのかと恐怖していた。そこには40年前に、ゴジラに重傷を負わせるほどの破壊力を示した武器があるのだから。

そして自分めがけて放たれた光弾に目をつぶる楯無。この時悲鳴を上げなかったがもう上げる余裕がないのか、ただ強く目を固く閉ざすだけ。

だがしかし……。

 

「えっ……」

 

楯無は驚きを隠せなかった。機龍が絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)を使い、後ろにある海を射程範囲の分だけ瞬時に凍らした。

だが、楯無にあたることがなかったのだ。光弾は機龍から放たれると同時に、足元を凍らせながら楯無のもとに迫る。だがその軌道は右に逸れ、蒼流の装甲の一部もとい非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)のアクアクリスタルを完全に凍り付かせながら、そのまま楯無の後ろの方へと海を凍らせながら飛んでいく。

そして数キロ凍らせ、何か変なのも巻き込んだりしてるが、それでも自分に被害が少ないことに強い疑問を持ってしまう。40年前のものはビルのような大きなものも瞬時に全体を凍らせ、そして分子レベルにまで崩壊してしまうものだ。

それが大きさが小さくなったとはいえ大の破壊力を誇るにもかかわらず、楯無にはISの損傷ぐらいしかダメージがない。絶対防御が働いたから助かったと思われるが、それでもいろいろとおかしいのだ。

だがこのとき楯無は気づいていなかった。首元に下げている勾玉が緋色に輝いてることに。

 

「キィィァァ゛……!?」

 

機龍は己を疑った。なぜ外したのか、ちゃんと標的にロックオンを掛けていたはず。だが現実は攻撃は外れており、楯無には凍傷の傷さえもない。

だが機龍は見誤ってた。現在右カメラアイが損傷しており、それが原因で標的との座標がわずかにずれたということを。楯無はシャルロットが行った行為によって助かったということになるのだが、誰もこのことを知ることはないだろう。

だが機龍はそんなのは思いつかず、ただ何かによって横に引っ張られたという感覚だけが残っていた。

 

「キィィァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ!」

 

機龍は楯無を潰そうと一歩踏み出すが、この時強い違和感を感じた。まるで足に大きな鉛を仕込まれたかのような重い足取り。だが機体には大きな異常は見られず、いったい何が己の体に起きているのか詳しく調べていくうちに、一つの結論にたどり着く。

この時機龍は気づいてしまったのだ、己のエネルギーがもう少ししかないのを。

絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)は元々、全エネルギーの4割近くを消費して放つ一撃必殺ともいえる代物であり、機龍はそれに無理やり近づけようと残っていたエネルギーの8割から9割のエネルギーを、この一撃で使い果たしたため、動きが慢性になり始めてるのだ。

 

「キィィ、ァァ゛ァ゛……」

 

機龍は納得いかなかった。ここまで暴れ続け、中の人間である航をここまでしたのに、最後は燃料切れ。

だが、思う存分暴れられて満足してるという気持ちもあり、そして再び“呉璽羅の自我”を外に出す方法も分かった。

そして機龍はふらつく足取りで楯無に近づく。すると楯無は足元がふらつきながらも蒼流旋を構え、まだ戦えるとでも言わんばかりに機龍をにらみつける。だが彼女の武装はこの蒼流旋だけで、バックユニットも弾切れをすでに起こしており、ナノマシンもほとんど機能していない。

 

「キィィ……」

 

そのなか機龍は鉛のように重い足で踏ん張り、そして尻尾を強く地面にたたきつける。

そして機龍は天に向けて大きく吠えた。

 

「キィィィァァァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ!!!!!!」

 

「っ……!」

 

鼓膜を破壊するのではないかというほどの大音量で、機龍は吼える。

この咆哮を最後に機龍は前に項垂れ、カメラアイから赤い光が消え、その動きを停止した。

 

「とま、った……?やっと終わったのね……」

 

楯無も体の限界を迎えていたのか、糸が切れたかのようにその場に倒れてしまう。

 

「航……教えて……。お願いよ……」

 

そして楯無は意識を失ってしまう。

その後お互いのISは強制解放され、数分後千冬たちがその場に駆けつけてき、楯無は病院の使えるエリアに運ばれ、航は病院の中でも犯罪者などを幽閉するエリアへと入れられてしまうのだった……。

 

 

 

 

 

ここはIS学園から10数キロ離れた海域。そこに1つのボートが波を蹴るかのように高速で進んでいた。このボートにはIS学園から逃げ出したノワールの隊員が乗っており、その中で隊員たち全員は完全に疲れ果てていた。

ボートは自動操縦となっており、だれも操縦席にいない。

 

「織斑千冬、化け物過ぎるでしょあれ……」

 

「ですね……」

 

「あ、そういえば隊長。ISを3機、IS学園に置いてきてしまいましたが……」

 

「仕方ないわ。まああの女社長には、痛い目にあってもらいましょうかね」

 

「は、はぁ……」

 

この女はいったい何を考えてるのか、隊員たちはそう考えるが全く答えは出ないため、あきらめて海を見る。まだ時間は日本時間で午前3時になってない程度で、空は星空のためそこそこ明るいが、基本的に暗いことに変わりはない。

この後彼女らはさらに10キロ近く進んで、フランスに戻るための大型の船に乗り移る予定であったが、作戦が失敗も大失敗であったために戻るのが億劫になり、これからどうするかを軽く考えていた。

このくらい空気の中、ノワールの隊長格である金髪の女性、リーアが軽く手をたたいて全員の意識をそちらに向けさせる。

 

「この際は仕方ないわ。とりあえず今は母艦に戻りましょ。そのあとはそのあとで考えればいいし。とりあえず今はこの疲れを飛ばすために何か飲みましょう」

 

「なら私が中の冷蔵庫から飲み物持ってきますよ」

 

「お願いね」

 

そしてオレンジ色の髪をした女性がボートの中へと入る。そして入ったすぐのところに大きさが50センチ前後の小さい冷蔵庫が設置されており、その中に飲み物がいくつも入っていた。

 

「んっと、隊長はシャンパンで、ミーナはノンアルコール。ネオンは……ん?なんだこれ」

 

そのときオレンジ色の髪の女性、カミーユは冷蔵庫の中を照らす光で、床に何か白い液体みたいのがついていることに気付く。そして手にペンライトを持って照らすと、それはそこまで強い異臭はないものの、触ってみたらとても粘り気のあるものであり、いったい何なのか気味悪く感じた。

 

「さっさとここから出ようっと」

 

そして飲み物類を取ったカミーユが立ち上がった時、頭に何かがぶつかった感覚したため痛みでうずくまる。

 

「いった~。もう何なのよ……あれ?なんかさっきより天井が低い……」

 

この時強い違和感を感じた。先h度まで少し頭を下げる程度でどうにかなる高さだったのに、中腰よし少し上げたぐらいで何かが頭に当たる。

 

「チチチ……」

 

カミーユは強い悪寒を感じた。それは冷蔵庫の冷気とかではない、明らかな殺意を向けらえたときに近い悪寒。何もない、そうであってくれ……。そう願いながら彼女は恐る恐る天井にペンライトの光を当てると……。

そこには巨大な生物がいた。

 

「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」

 

そして悲鳴ととともに中から逃げ出すカミーユ。周りもいったい何なのかと思って目を剥くが、そのとき中から何やら蠢く黒い影が見え、周りは顔を青くし始める。

そしてボトン!と大きな音を立てると共にその生物は船の中から現れた。体長1m前後。緑いろのでこぼこした表面を持ち、大きく膨らんでるのが頭なのだろうか、そこから尾にかけて下り坂のようになっている。そして口と思われる牙が2本1対出ており、その横には脚らしきものが3対6本生えていた。

 

「な、何よこれ……」

 

その生物は牙をカチカチとならしながら彼女たちにじわりじわりと近づいてきており、リーアは懐から拳銃を出してこの生物がいつ襲ってきてもいいように安全装置を外す。

 

「チチッ!」

 

その時だ、生物は尻尾みたいになってる先端部で床を強くたたいて飛び上がる。それに驚いたリーアは何発か銃で撃つも、銃弾は貫通しつつも生物は彼女の上にのしかかる。

 

「ひぃ!」

 

あまりの気持ち悪さに動きが止まるリーア。移動する際に出る白い液体のヌメリが、余計に彼女の思考を停止させており、生物は口らしき牙を彼女の首筋に当てて突き刺そうとするが、我に返った隊員が生物の横腹を思いっきり蹴飛ばし、生物はそのまま海へと落ちる。

 

「隊長!大丈夫ですか!?」

 

「ぁ……こ、ここは!?あの生物は!?」

 

我に返った隊長があたり一帯を見渡す姿を見て、隊員たちは安心したのか安堵の息を漏らす。

 

「よかった……。もうあれはいませんよ。海に叩き落しました」

 

「そう……よかった……」

 

だがそのとき、ボートのエンジンから変な音が聞こえたのだ。ゴリン、ガリッ、っと。そしてエンジンが停止したのかボートの移動速度は急激に落ち始め、100mも進まないうちに完全に動きが停止してしまう。

 

「ちょ、何が起きたの!?」

 

「わ、わかりません!ちょっとエンジンを見てきまs」

 

その時だ、エンジンを見てくるといった隊員が見たのは、先ほどの船の中へと通じる扉から、5匹ぐらい先ほどの生物が沸いて出てきたのだ。それに気づいた隊員も先ほどより顔を真っ青にしており。

 

『い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

彼女たちの悲鳴とともに飛び跳ねて襲い掛かる生物たち。彼女たちは懐にあった拳銃で撃つも全く効果がなく、次々と押し倒されていき、そして首元にその鋭い牙を深々と突き刺されてしまう。

あまりの激痛に意識が一瞬で失う者、抵抗しようともがくが次第に力を失っていき、ミイラのようになっていく者と様々だ。

その中でカミーユは、運転席の物陰に身をかがめて隠れていた。

 

「誰か……助けて……!」

 

仲間が次々と倒れていく中、彼女はただ恐怖で失禁しながらも、場所がばれないように悲鳴を押し殺していた。だが体の震えは止まらず、涙も止まらない。それで目を固く瞑っており、彼女は自分は石だと言い聞かせてこのばかりっさい動かずにいた。

 

(あれ、物音が止んだ……?)

 

この時カミーユはいきなり音が消えたことに強い疑惑が沸き、恐る恐る目を開ける。現在時間は、日本時間で午前4時。あれから1時間はこの場にい続けた彼女は、体がガタガタと震えながらも早く朝が来ないかと思いながら、その場に居続けた。だが、ズズッ、ズズッ、と思い何かが這いずり回るかのような物音がし、カミーユが声を押し殺して物陰から外をのぞく。

 

「っ……!」

 

そこにいたの例の生物だ。生物はこの一瞬で彼女がいることが分かったのか、先ほどよりもはやい速度でカミーユがいる運転席へと近づいていく。

 

「チチチ……」

 

そして生物“ショッキラス”は彼女がいるところに跳びかかった。

 

「ひぃ……!?いやぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

ここは静かな海。その悲鳴は、誰にも聞こえなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは日本最南端、沖乃鳥島沖の海溝。そこの光さえも届かぬ水深何千メートルという海底に、“それら”はいた。“それら”は泥や砂に埋もれ、そこら中にたくさんいびつな板をたくさん張り付けたかのようなの山となって多数存在しており、息をしている者は一切いない。

いや、息をしてなくても無理はないだろう。ここはその環境に適した生物以外を生かすことのない死の世界。そしてここら一体にある“それら”はすでに最初から息絶えていた。

だが最近息絶えたのではない。ずっと昔、それも何千年、いや何万年前かもしれない。だが“それらの骨や甲羅”は今もなお、この海底に存在し続けた。

そもそもこのたくさんの“それら”は5年から10年ほど前に起きた地震によって、上に被っていた砂や泥が落ちて地中から現れたのだ。おかげで数か月はここら一帯は砂や泥でまともに視界が聞かない状態となっていたのだが。

だが人間たちはこのことに気付いていない。ISが生まれて海洋、海底調査などの予算もISなどに一気に奪われたため、このようなものがあることを知らないのだ。

そしてこの大量の“それら”が眠る場所を、知っている人たちはこう呼んだ、“墓場”と。

だがその“それら”の中に、何やら1つだけ何やら岩礁のようになっているものが1つだけあった。

 

 

 

 

 

“彼”は夢を見ていた。万を超える凶鳥を相手にしてた不思議な夢を。

腹部は風穴が開いており、片手は己の技で焼き落としたため無く、それでも戦い続ける“彼”。そのおぼろげな記憶から見た夢は、まるで悪夢のように感じる。

ただ何のために戦ったのか覚えていない……。ただ、何か声を聴いたぐらいだ。

このとき、何か声が聞こえた。女の子の鳴き声だ。ただ“彼”は動く気になれず、小さく口から泡を漏らす。

懐かしい声だ……。どこで聞いたのだろうか……。

そして“彼”は、再び長い眠りについたのだった……。

 

 

 

 

ここは暗い深海。そこに大きく力強い鼓動が一つ、鳴り響いたのだった……。




えー、これで機龍暴走の回は終了です。なんかスッキリしない終わり方かもしれませんが、自分は何も後悔していません。

そしてずっと前から海に待機していたショッキラスの登場です。なおもっと前にちょくちょく出てたのに、やっと出番が着たおかげではしゃぎすぎましたね。まあ放置ですが。

あと最後のは、ね……?



なお来週も同じ時間に更新するので、お楽しみに!


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明暗

今回から、少しオカルトチックなのが入ります。


一夏が目を覚ました時、目に映ったのは真っ白な天井だった。

 

「俺の知らない天井だ……。ってここどこだよ!」

 

一夏は勢いよくからだを起き上がらせようとするが、この時いきなり体全体に激痛が走ったため、一夏は再びそこに倒れてしまう。あまりの激痛に体がプルプル震えていたが、それなりに慣れたのか一夏は痛みのせいか冷静になり、改めて今いる部屋を見渡す。

そこは壁も天井もすべて白で基調されており、ただ自分がいるベッドの周りには病院などでよく見る棚とテレビが備え付けられており、そして近くに点滴のパックとそれをつりさげてる金属の棒があった。

 

「あれ、これって点滴だよな……いったいどこに……あっ」

 

このとき一夏は自分の手に点滴がされていることに気付く。そして自分の姿も病院服となっていることに気付いた一夏は、ここが航が前入院してる学園敷設の病院なのだとわかり、とりあえず今の現状がどうなってるのかとても知りたかった。

あれから機龍は、航はどうなってしまったのか。あの時一緒に戦ってくれたラウラ・ボーデヴィッヒはどうなったのか。彼にとってはいろいろと大事なことばかりである。

現在彼のいるベッドのすぐ近くには外を覗くことができる窓があり、一夏は頑張って半身を起き上がらせようとするが、痛みのせいで冷や汗が流れ始め、顔はとても引き攣ってしまっている。

 

「ぐぉぉ……体全体に響く……!」

 

「ったく、その状態で動こうとすると体に響くぞ」

 

そのとき、ふいに女性の声が聞こえたため、一夏は声の下法に首を向ける。そこにいたのは銀色の髪に黒の眼帯を付けた、病院服を着た少女だった。

 

「お、お前は……」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。別にラウラでかまわん」

 

そう言ってラウラは、病室のドアの近くにあった簡易椅子を手に取って一夏のもとへ行き、そして彼のいるベッドの近くに椅子を置いて彼女はその上に座る。

いったい何の用なのか。一夏は少し彼女を警戒していたが、そのときラウラはふいに口を開く。

 

「織斑、1つ聞きたい」

 

「な、なんだ?」

 

「あの時、本当に機体が勝手に動いたのか?」

 

ラウラが言ってるのは一夏が勝手に機龍がいる場所に向けて飛んだ時のことだ。あの時一夏は白式を止めようと必死だったのをはっきりと覚えており、一夏ははっきりとした声で答えた。

 

「あぁ、本当だ」

 

「……そうか。嘘言ってるのなら一発殴ってやろうと思ったが、その目つきは本当のようだし勘弁してやろう」

 

その顔をじっと見つめていたラウラに冷や汗をかいていた一夏だが、彼女は小さく笑った後にその顔の距離を離した。

何かえらいラフな言い方のラウラに強い違和感を感じた一夏はなぜこうなったのか少し気になるも、これは聞かない方がいいなと心の中にしまう。

 

「あ、それと俺のことは織斑って呼ぶより一夏と呼んでくれ。千冬姉と被ってしまうしな」

 

「むっ、そうか。ならこれからよろしく頼むぞ、一夏」

 

そういって手を差し出してきたラウラ。一夏はこれが何なのかすぐに察し、こちらも手を差し出して握手をする。

その後は割と仲良くなった一夏とラウラはいろいろと話し合っていたが、この時一夏はラウラに強い違和感を感じたのだ。それはまさに、外国人が「日本には今も侍と忍者がいる」という時の感覚に似ており、恐る恐るながらそれらの知識はどこで得たのか聞いてみると。

 

「ん?部下が貸してくれた漫画というもので学んだが……」

 

「なるほど、それか……」

 

一夏は頭を軽く抱え、ラウラはそれの何がおかしいのかと言わんばかりに首をかしげる。一夏は小さくため息を漏らすと、何がおかしいのか、だいたいであるが説明を始めた。

それらを聞いていったラウラは驚愕とショックが大きいのか完全に頭を抱えており、暗い雰囲気を漂わせている。

その時だ、病室の扉が開き、中に入ってきたのは制服を着た鈴だった。彼女は手にお見舞いの品が入ってる籠を持っており、それのせいで前が見えてないのか少し足取りが不安定だ。

そして彼女は籠を近くにあった簡易椅子に置き、一夏の方を向く。

 

「一夏ー、起きて……ってなんであんたがいるのよ!」

 

「んっ?なんだ、鳳鈴音か」

 

「何よその言い方」

 

「り、鈴、元気そうだな」

 

鈴がラウラに向けて睨んでいるため、一夏はこの空気をどうにかしようととりあえず鈴に話しかける。だがこれが功を制したのか、先ほどまで目つきが少し悪かった鈴の雰囲気ががらりと変わり、満面の笑みを一夏に向けた。

あまりの変わりように一夏は少し顔が引きつった笑みになっており、ラウラもキョトンとした表情になっている。

 

「にしても一夏が無事でよかったわ。病院に運ばれたって聞いた時は居ても立ってもいられなかったわよ。他には怪我した生徒がたくさんいたし。にしてもあんたも割と元気みたいね」

 

「当たり前だ。軍人ぐらいならこれぐらいの怪我とか何ともない」

 

今の一夏の姿を見て安堵した鈴は、割とぴんぴんしてるラウラを見てそう言い放つが、そういうラウラはどや顔で真っ平らな胸を張って言い放つ。実際は彼女の中に投与されている、治癒型ナノマシンが作用してここまでの回復力を見せてるのだが、それでも彼女は1日で全快になるほどの回復力を見せており、医者たちは驚きを隠せなったそうだ。

 

「すげえな……。てかあれから何日たったんだ?すでに外は夕日が差し掛かってるけど……」

 

「ん?だいたい3日ほどだな」

 

「おかげですごかったのよ?箒やセシリアが様子を見させろって迫ってきて……」

 

鈴はそのときの状況を話していく……。

 

 

 

 

 

「だからなぜそれができない!」

 

「そうですわ!おまけになぜ鈴さんだけが見舞いに行ってもいいんですの!?」

 

あの暴走事件から次の日の放課後、箒とセシリアは病院のロビーで鈴に向かって大声を上げて反論していた。けが人があまりいないとはいえここは病院、鈴は「静かにしなさいよ!」と一喝したため2人はさらに声を荒げそうになったが、ここが病院ということを思い出し、周りからの視線に気づいたのか一気に静かになる。

鈴は小さくため息を吐いた後に、2人を連れていったん病院の外へと連れていく。今は静かになっても、再び声を荒げる可能性があるため鈴はこういう処置を取ったのだ。そして病院の玄関口からでてすぐ左に曲がると、そこからは前の機龍暴走によって崩れた病院の一角が見えた。現在は下に落ちた瓦礫は撤去され、崩壊した壁などはブルーシートなどで被われているが、その傷跡はとても痛々しく残っている。

今ここで大声を出しても誰も気にしないため、その場で話し合うことにする。

この時箒とセシリアは一夏のことを心配しており、彼の様子が気になっていたのだ。だが……。

 

「なんで入れてくれない!航がつけた傷がそんなにひどいのか!?」

 

「そんなんじゃないわよ!てかISには絶対防御があるのよ、だからそこまで怪我はしてないって言ってるじゃない!」

 

「なら入れてくれてもいいではないか!そんなに私を入れるのは嫌か!」

 

「違うって言ってるでしょうが!一夏の意識が戻ったらちゃんと言うって何回説明したらわかるのよ!」

 

その後ほぼ繰り返しに近い言い合いをしている2人。

だが途中から航への悪口が混じりはじめ、さすがにおかしいと思い始めたセシリアが制止させようとするが箒は完全にヒートアップしており、セシリアの言葉が聞こえていない。おかげ売り言葉に買い言葉と言わんばかりに言い争いになり始めた。

 

「あれが航の本性だろ!あの背びれ、前々から思っていたがゴジラそっくりではないか!」

 

「あんた……それ、本気で言ってるの?」

 

この時のトーンダウンした鈴は、先ほどとは全く違う雰囲気のためセシリアはいきなりの変わりように息をのむ。だが箒は先ほどと変わらず激情したままで、彼女の変化に全く気付いていない。

 

「うるさいぞ貧乳!」

 

「何ですってぇ!?なによこの牛女!」

 

「なんだと!?」

 

そして箒と鈴の言い争いはヒートアップしていく。もう途中からセシリアが間に入っても2人を止めようとするが、完全にのけ者にされていて困り果ててしまう。

 

「なぜお前はあやつを庇う!なにも得がないだろ!」

 

「そもそもなんで航が一夏を意味もなく傷つけてると勝手に決めつけてるのよ!あいつ、馬鹿力だけど相当なことがない限り相手を傷つけないのよ!?おまけに仲がいい一夏を傷つける理由なんて無いじゃない!」

 

「だがあいつが傷つけたに変わりはないだろ!」

 

「そもそもあんた、なんでそんなに航を嫌悪してるのよ!」

 

「そ、それは……」

 

「箒、さん……?」

 

先ほどの勢いはどこに行ったのか、箒の態度が急変してオドオドしたものへと変貌する。いきなりの変化に隣にいたセシリアは驚きを隠せず、鈴もこの状況には眉をひそめた。

 

「わ、私にもわからない……。昔は全く思わなかったのに、今となっては航に対してそういう感情ばかり……。なんだこの感覚は……?訳が分からない……。気持ち悪いぞ……」

 

そしてぺたりと座り込む箒。その顔は先ほどまで真っ赤だったのに対し、今は逆に真っ青になっている。いきなりの変化に鈴とセシリアは戸惑いを隠せず、とりあえず彼女を自室に連れていくことにした。

それから今日まで、箒は学園を休んだのだそうだ……。

 

 

 

 

 

「箒……どうしちまったんだ……?」

 

「私だって知りたいわよ。さっきまで顔真っ赤にして怒ってたくせに、今度はいきなり顔が真っ青。もう信号とでもいえるほどだったわ」

 

一夏は鈴から聞いた箒の様子に強い不信感を持った。いくら暴力を振るうとはいえ、昔はこんなことを全く言わなかった、良く言えばまっすぐな子だった。それが一夏の持っていた箒の印象だ。

だが今聞いた箒の姿は真逆ともいえる、実際彼女が嫌うタイプの人間になっているのだ。いったい何があったのか、自分と離れている間にいったい何が……。

 

「俺、退院したらちょっと箒と話してみる」

 

「なっ、本気なの!?」

 

「俺に確執する理由があるなら俺が聞かないとダメだ。まあ、さすがに箒も俺を殺す勢いで木刀を振るわないだろうから、大丈夫だろ」

 

そう言ってあっけらかんと笑う一夏。だが鈴はそんな一夏に難色を見せており、少し顔を顰めている。だが一夏はそれに一切気づいておらず、ただ「まあ、大丈夫だろ」と言う。

その後、いろいろと3人で下らないことを話しながら時間が過ぎていくのだった。

そして少し長居しすぎたのか鈴は病室を去り、今は一夏とラウラだけがいる。そしてラウラも自分の病室に戻ろうと一夏のいる病室を去るために扉を開けるが、そのときラウラは一夏の方を無理向く。

 

「一夏、そういえば航といったな、あのメカゴジラ……機龍のパイロットは」

 

「あ、あぁ、そうだけど」

 

「言っておく。あいつ、自分の居場所を壊そうとしているぞ」

 

「は……?」

 

いきなり言われて理解ができなかった。そしてどういうことか聞き返そうとしたが、気づけばラウラはすでに病室から去っており、ただ一夏は目が点になったまま扉を見続けた。

 

「どういう、ことだ……?」

 

ただ一夏はそうつぶやくことしかできなかった。

 

 

 

 

 

あの日、VTシステムに呑まれたラウラはただ、あの戦いを見てるしかできなかった。自身の体の自由は聞かず、ただVTシステムに呑まれたシュヴァルツェア・レーゲンと、目を真っ赤にさせた機龍がぶつかり合う。

ただラウラはそれを止める術も持たず、2機がぶつかり合う様を見ておくしかできなかった。だがその時だ、機龍がめーさーブレードをこちらに突き立て、電撃が来ると同時にVTシステムは機能停止。そしてシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーが一瞬ともいえる勢いで無くなったが、これは絶対防御が発動した結果なのだろう。

そして機体が消えてラウラは強制的に外に排出される。はずだった……。

 

「こ、これは……!?」

 

それは不思議な空間であった。上も下もない、ただ何もない空間。これはいったい何なのか、ラウラは四肢をもがいてみると、宇宙のように回転することもなく、思うとおりに体が動くため少し動揺を隠せない。

だが彼女は頭の中でこれが何なのか考えてるうちに、とある答えにたどり着いた。それはISによる共振現象のようなものだ。これは稀にながら起きる現象であり、それによってお互いの心が見えるという作用が確認されているという。

だがなぜそれが起きたかわからない。よりによって相手は機龍のパイロットとは……。

しかしラウラは、航がどういう人間か気になったのか、接触を試みようとする。

そして彼の中を見た。

それはどす黒い闇だった。触れるだけですべてを飲み込まんとする深い闇。

ラウラはいきなり重い感覚に体が沈みそうになるが、どうにか彼、航を探してみる。すると、どこからか声がしたためラウラは、その声が聞こえた方向に移動する、すると……。

 

「子供……か?」

 

そこにいたのは1人の子供、男の子だった。彼はワンワンと大粒の涙を流しながら泣いており、時折何か言葉を発している。

 

 

父さん母さんはどこに行ったの?なんで死んだの?誰か教えてよ……

 

 

「な、なんだこれは……」

 

とても悲痛な叫び声だった。何で少年が泣いてるのかわからない。

だが一つ思ったことがある

 

「こいつが、篠栗航、か……?」

 

その時だ、黒い着物を着た黒髪の女性が、少年を後ろから抱きしめるかのようにしてきたのだ。それは泣いてる子供をあやす母親のように見えたが、ラウラはその黒い女性からとてつもないほどの嫌悪感を感じたのだ。この暗い闇よりも強い嫌悪感を放つ女性は、いったい何者なのか……。

その時だ。女性はチロチロと流い舌を少年の首筋に這いずらせ、恍惚の表情を見せる。

 

「航ぅ……あんたの親は私よぉ……?あの2人はあのお嬢ちゃんが殺したのよぉ……?」

 

ねっとりとした話かた。

強い嫌悪感を感じたラウラはつい彼女に声かけてしまう。

 

「貴様、何者だ……!」

 

「おやおや、私の前に立って無事にいられる魂は初めて見たわぁ……」

 

そのとき女性はラウラのことに今気づいたのか、少年を抱きしめたままラウラの方を向く。だがこの時、ラウラは女性の顔を見たとき、強い嫌悪感を感じたのか顔を顰める。

なぜなら、黒い女性の目が、完全な白目だからだ。そして肌も蝋人形のように白く、まるで生気がないようにも感じる。そして背中も不自然な盛り上がり方をしており、人間とは思えない異様な雰囲気を放っている。

ラウラはいつでも反撃できるように構えるが……。

 

「ふふふっ。あんたのようなガキ、この私には敵わんよ。あのお嬢ちゃんの持つ“アレ”だけは嫌いだけどねぇ……」

 

彼女の言うお嬢ちゃんとはいったい何者なのか……。ただラウラはファイティングポーズを決めたまま、この場から動くことができない。それを見て興味を失ったのか、黒い女性は少年を胸元に抱き寄せ、そしてやさしく少年の頭をなでる。

 

「まぁ今は、私の機嫌がいいからここから去りなさい……。じゃないと……」

 

「っ……!」

 

それは強い殺気であった。あの機龍以上の殺気。それに怯えてしまったラウラは、急いでこの場から逃げようとする。

 

「それと1つ教えてあげるわぁ。この子、これから独りぼっちになるからねぇ?」

 

それと同時に、ラウラはこの場所からの意識が吹き飛ぶのだった。

そして彼女はIS学園の病院で目を覚まし、千冬からVTシステムのことを聞かれ、その後に一夏に会いに行くのだった。

 

 

 

 

 

ここは地下隔離病棟。IS学園でもしテロリストなどが現れ、捕獲するも重症などを負っていたら治療されそしてこの病棟に移される。基本的には一般病棟と変わらないが、壁には自傷行為防止用のクッションが敷き詰められており、場合によっては麻酔ガスが噴霧されるときがある。

その中の一室、航はただ壁を見つめていた。その眼は完全に濁りきっており、瞳もいまだ小さくなったままだ。上半身は何も着ておらず、時折背びれが擦れあってギチギチと音を鳴らしているが、今の彼にそんなことはただどうでもいいという思考すらしない。

機龍はすでに学園側に回収され、そこから強制解除の後に即集中治療室に運び込まれた航だったが、肉体的にほぼ傷もなく、レントゲンを撮るも骨折した箇所が見られなかった。ただ、骨折してからそれが完治した後なら多数あったが。

その後はこの暴走の主犯でもあるためこの部屋に入れこまれ、そしてずっと壁を見つめ続けていた。この用意された部屋にはテレビがあるがそれを一切つけることなく、航は抜け殻のようになっているのだった。

これから数日間ここで過ごすことになるが、何もなければ早くとも5日後には出れるが、今の彼にはここで何かするという意欲も見せず、ただ不気味なほど動かない。

この部屋に備え付けられている時計の動く音だけがこの空間に響いていた……。




さっさと原作2巻目を終わらせないといけない(実はまだ2巻中盤)けど、いろいろ積めないといけないという事実。さて、どうしようか……。

てかこの作品、もしかしたら全部で300話は行きそう……。まあそのときは、最後まで応援よろしくお願いします。


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軋み

最近銀龍の執筆が進まなくなってきてる妖刀です。一応書き貯めあるけど、それが尽きる前に書きあがるのか……。

まあ本編どうぞ!


機龍暴走事件から数日後。

ここはIS学園敷設の病院。ピッピッと心電図の音が響く中、そこの一室にシャルロット・デュノアは眠っていた。頭には幾重にも包帯が巻かれ、口には呼吸器を付けられている。そして体は布団に隠れているが、彼女の骨の大半が複雑骨折を引き起こしており、その影響でいまだ意識が戻らない。

あの時機龍の尻尾によってつぶされたシャルロットは、絶対防御がぎりぎりで働いたがそれでも足りず、全身を強く打ってしまう。そのせいで回復したとしても、最低半身不随は免れない状態となっていた。まあ緊急手術の時にわかったのが、肺と心臓に折れた肋骨が深く刺さっていて、そのため意識が戻っても大きな後遺症を残すだろうと判断されているが……。

 

 

 

 

 

 

その病室の中、楯無と千冬と真耶はピクリとも動かないシャルロットをただ見ていた。

 

「まさかデュノアから洗脳用ナノマシンが検出されるとはな……」

 

「はい。ですが、彼女のしたことは」

 

「わかってる」

 

千冬は自分がこのことを見抜けなかったことの怒りと弟が簡単にハニートラップにかかったことに対する呆れを感じていた。そして学園の備品等々の破壊などもしてくれたせいで教師たちの休み時間が一気に削られていくのだ。

なお今回の件によって、IS学園に置かれているISは全機、電磁パルスによる危害を極力軽くするための処理が行われることになる。

そしてこの後、シャルロット・デュノアはここで治療された後、フランス政府からのお迎えが来てそのままフランスへと強制送還される。その後は向こうで今回の件の裁判が行われるだろう。死人は出てないとしても、世界に2人しかいないIS男子搭乗者の両方に危害を加えてるのだ。いくら洗脳されていたとはいえ、安い判決では済まないだろう。

 

「それにしても更識、体は大丈夫なのか?」

 

「はい、蒼龍が護ってくれましたから……」

 

現在蒼龍や機龍は開発元である婆羅陀魏社へと運ばれており、蒼龍はダメージレベルC+のためオーバーホール。機龍は今回の暴走の原因を探り、それを厳重にロックすることによってこれ以降起こさないようにするのだそうだ。なおお互いの壊れた武装類はこの時に補充され、数日後に蒼龍は楯無のもとへ。機龍は学園へと送られる。

 

「そうか。……そういえば更識、篠栗の様子は見に行ったか?」

 

「いえ、まだですが」

 

抑揚のない返事。まるで他人事でも言わんばかりの言い方に、千冬の目元がピクリと動くが彼女の顔は先ほどと変わらないシャルロットを見たままの状態だ。

 

「あいつとお前は仲がいいと聞いてたから、すぐに行くと―――」

 

「そういえば弟さんとボーデヴィッヒちゃん、あまり怪我がないみたいなのですぐに退院できるみたいですね」

 

「あ、あぁ。遅くとも来週までには学園に復帰できる。ただISは修理のため予備パーツがあれば早いが、なかったら数週間待たないといけないがな」

 

いきなり話題を逸らされた。いきなりの変更に隣で聞き耳立てていた真耶も困惑の表情を浮かべており、千冬は少し驚いた表情を見せるが、楯無は先ほどと変わらない涼しい表情だ。

千冬は少し話題を戻そうと口を開こうとした。だが……。

 

「そういえばもう来月には学年別トーナメントがありますが、あれって普通に開催できるんですか?この前は乱入者が入り込んで中止になりましたが」

 

「そこは2人でタッグを組んで戦ってもらう。……あまりやりたくないが、場合によっては私たちが鎮圧に向かうまでに多くとも4人のIS乗りに相手してもらう」

 

「……そうですか」

 

千冬は、楯無が何か無理やり話題をそらさせようと必死になってることをひしひしと感じるが、その根拠がないため無理やり詰め寄ることができない。

その後、彼女からこの学園の警備の見直しや外からの勢力からに対する防御案などを提案していくが、千冬はそれを生返事で答えており、そのたび楯無がジッと彼女を睨みつける。こちらも睨み返すが、楯無はそれでひるむ様子も見せず、どちらとなく舌打ちをしてお互いの話し合いは続く。

そして一通りそのことが終わり、この病室を楯無は出ていくため扉を開けて出ていこうとしたが。

 

「更識、お前は篠栗のことどう思っている」

 

いきなり話しかけられたため振り返る楯無。だが千冬は彼女の方を向いておらず、先ほどと変わらずにシャルロットの方を見てるだけだ。

 

「どう、とは……?」

 

「先ほどの会話の時と言い、いきなり話題を変えただろ。お前らの中に何があった?確かに篠栗は機龍の暴走でお前に手を掛けたが……」

 

「いえ、これは男女関係での縺れなので、そちらに話すことはありません」

 

「……そうか。わざわざ止めてすまなかったな。言ってもいいぞ」

 

「では失礼します」

 

そして楯無は病室から出ていき、扉が閉じると同時に千冬はため息を漏らす。

なぜあそこまで、航のことを聞きたがらないのか不思議で仕方ないが、彼女にも彼女なりの何かがあるのだろう。千冬はそう判断し、この病室を真耶と一緒に後にした。

そして帰り道、千冬は手に持ってた電子パッドに目を通す。

それは婆羅陀魏社から送られてきた機龍の情報であった。そこに書かれていたのは、暴走前と暴走後の機体の変化についてである。

 

 

身長が5mから6mに変化しており、重量は14.5トンと0.5トン増加。

シールドエネルギーにの上限ついては最大上限が14万と、暴走前の約2倍と膨れ上がっている。

そして一番の重要点は暴走前には不明であったシステムについて判明。だがどういう者かは要検証しなければならず、細かいところは不明。

 

 

千冬はその情報に目を疑った。シールドエネルギーが6桁というのは軍用機となってる機体でも一握りでしかなく、そのうちの1機が生徒が使っていた機体。

今後様々なリミッターが施されると聞いてるが、正直ただ不安しかない。そのため航にはこれから機龍を没収、そして学園の訓練機を渡すことになるだろう。

そして千冬は資料を読んでいて、1つだけ気になるものがあった。それは機龍の単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)に使われた絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)。それに使われている人工ダイヤモンドについてだ。

これは前に燈から、「国家予算をたくさん使うから修復されなかった」と聞いていたが、それが使われているとなると、どれほどの開発予算をこの機龍に使われたのか……。

 

「あとで婆羅陀魏社に聞いてみるか……」

 

千冬はそうつぶやくのだった。

だが婆羅陀魏社の主任の馬鹿にしたような説明の仕方にイラついた千冬が、電話をガチャ切りしてしまうのは余談である。

 

 

 

 

 

「航……何で……」

 

病院を出て、楯無は近くにあったベンチに腰掛けていた。あいにく今日の空模様は曇りで、どんよりした雲が空を覆い尽くしてる。それはまるで楯無の心の中を現してるようで、現在彼女は頭を完全に抱えたままとなってる。

 

「なんで航の北斗さんと月夜さんが……!」

 

そう、航が言ったあの言葉、「何で俺の家族を殺した」の意味が最初は理解できなかった。彼の言い方は、まるで更識楯無が航の両親を殺したといっても過言ではない言い方であり、2人が死んだということが信じ切れず、楯無は暴走事件の翌日に航の実家に電話を入れるが留守電になるため、彼女は自分の実家に電話を掛けたのだ。

そして楯無の父親が「すでに死んでいる……。しかも犯人はお前かもしれない……」と言われ、頭が真っ白になったのだ。

そして後日、暴走事件のあった最初の現場である、病室のベッドの中から1つの茶色の封筒を発見し、楯無はそれを恐る恐る開いて中を見る。すると、ただ口を手で覆うことしかできなかった。

そこに映るは“自分のそっくりさん”が航の両親を殺しているのだ。なぜこんなことを……。ただそんな思考しかできず、それと同時になぜ航が自分を敵視する理由が判明する。

こんなのを送られてくれば誰だってそうなる。むろん、相手が自分の好きな相手だったとしてもだ。

そして彼女は改めて実家に連絡を入れ、そのことについて話し合うことになり楯無は今度、一回実家に帰ることになったのだ。むろんこの時は学園は休むことになるが、仕方ないだろう。

ただ楯無は、この悲しみや怒りをどこに向ければいいのかわからなかった……。

 

 

 

 

 

あれから1週間チョイ経ち、ここは1年1組の教室。そこには、いつもの女子生徒たちがいたが、全員そこにいなかった。一夏、ラウラ、シャルル、箒、静寐の席には誰もおらず、ただ誰もそのことについて触れるものはいなかった。

現在クラス代表は臨時でセシリアが行っているが、まだ数日しかたってないせいか仕事もあまりない。

あの日1組にも怪我人は出たが、かすり傷などの全員軽傷で済んでおり、そのせいか心にも深い傷を負わずに済んだのだ。

そして数週間後には学年別トーナメント、もとい学年別タッグトーナメントが控えてるのだが、いまいち彼女たちにそのやる気というのが見えない。

それは新聞部が発行したとある学園新聞が原因だ。

 

 

機龍、大暴走。篠栗航は悪魔だ!

 

 

この新聞には、そのときの写真がカラーで貼られており、それが学園の生徒の大体が読んでしまってるのだ。

現在生徒会もこれを書いた犯人を捜しているが、未だに犯人は見つからず、現在こう着状態となってるのだ。

なお新聞部はこの件について、『私たちは何も知らない。誰かが書いたんだ』と主張。結果犯人がわからないため、新聞部には1か月の活動停止処分が下される。

これで一夏たちがいない原因を知った生徒たちは、その怒りを航がいる席へとむける。まあ仕方ないだろう。新聞の情報が明らかに航を乏しめるものであったが、怪我人とかがすでに出てるのだ。その怒りをどこに向ける?答えはこうやって彼のいる席を睨みつけることしかできないのだ。ここで机を壊すなどしたら、学園の備品を壊したということになり、その人が対象者となるためだれも壊そうという考えのものはいない。

そのとき、教室の前の扉が開き、そこから入ってきたのは織斑一夏であった。彼は数日前には退院しており、すでに修理の終わった白式が倉持技研から渡されたため、こうやって学園に堂々と復帰することができたのだ。

そして彼の入った後からはラウラ・ボーデヴィッヒも一緒に入ってきたため、とても暗い雰囲気だったクラスの生徒たちの顔に光が灯り始める。

 

「一夏さん!」

 

その中で1番抜けをしたのはセシリアだった。彼女は一夏のもとに一目散に向かうと、彼の胸に飛び込んだのだ。いきなりの行動に目を点にする一夏。だがセシリアはすでに目が潤んでおり、今にも泣きだしそうな顔をだった。

 

「お、おう、セシリア。元気そうだな……」

 

「一夏さん!体は大丈夫ですの!?」

 

一夏はこの数日間教室にいなかったため、心配してるのだろうと判断し、笑みを浮かべて元気だということを示す。

だがそれを皮切りに、周りにいた生徒たちが一気に2人の友へと詰め寄ってきたのだ。

 

『織斑君!』

 

『ボーデヴィッヒさん!』

 

あまりの光景にお互い引き攣った笑みを浮かべており、そして周りがいろいろ言ってきて聖徳太子でもない2人は、それに振り回されることとなる。

 

「織斑君、大丈夫?」

 

「ケガない!?」

 

「全く篠栗君ひどいよね!」

 

「うんうん。織斑君に大けがを負わせるんだもん!」

 

「あんなの世界の悪よ!排除しないと!」

 

「そうだそうだ!」

 

この時、一夏は強い疑問を感じた。航がとても悪く言われてることに。

この時一夏はそのことについて聞こうと、周りに言った女子たちに距離を取ってもらうように言うが、彼女たちはそんなことを聞かずにお構いなしに2人に詰め寄る。

それにいい加減に困り果てるが、それに気づいたのかラウラが大声を上げた。

 

「ちょっと待て!」

 

その声は大きな声で女子たちの動きを止め、全員はラウラの方を見る。

 

「一夏が何かお前らに聞きたいことがあるみたいだ」

 

そして女子たちはいっせいに一夏の方を向くため、その迫力に少し驚いた一夏は少し口がごもってしまうが、けついしたのか真剣な表情となって口を開く。

 

「なあ、何で航が悪いんだ?あいつは機体の暴走にやられた被害者なんだぞ?」

 

『えっ……?』

 

一夏の発言に固まる女子たち。その顔は、とても信じられないといわんばかりに驚いており、逆に一夏もそれに困惑を隠せない。

 

「お、織斑君。それ、本気で言ってるの……?」

 

「お、おう。だってそうだろ。俺は、あいつが先に攻撃を仕掛けてくることはないと知ってる。だからきっと航の身に何かがったんだ」

 

「……なんでそう言い切れるの」

 

一人の女子が一夏を、ごみでも見るかのような目でにらみつける。だが一夏はそれにひるむことなく、真剣な目で見つめ返す。

 

「俺があいつの友人だからだよ。それ以外に何かあるか?」

 

女子たちは何か言い返そうとした。だが一夏はその反論を許さないとでも言いたげな真剣な、千冬に似た目つきで女子たちに反論させないようにする。そのため言葉が詰まったクラスの女子たちは、同時になったチャイムと共に少しずつであるが自分の席に戻っていくのだった。

ただ、一夏に対して怪訝な視線を送りながらであるが。

 

 

 

 

 

航はただ、壁を見続ける。その目つきも前からずっと変わらず、時折教師の誰かがドアについてる格子越しに中を見るが、不気味なほど静かにしていた。

だが背中は前とは違い、無理やり切り落とされたのか切り口が荒いが背びれが無くなっている。

ただ時折、その口は何かつぶやくように動くまるで「助けてよ、誰か……」と言ってるかのように見えた……。




ふぅ、今年の福岡は6/15日にアクロス福岡で『特撮 meets Classics 伊福部昭の世界 ~ゴジラVSオーケストラ~』があって、7/15~8/31まで福岡美術館で『ゴジラ展』があり、割と今年の福岡はゴジラ尽くしでうれしいです。
あとSHモンスターアーツでも、GMKゴジラ、初代ゴジラが出ますし。
そして今年の7/29にシン・ゴジラが上映。これほどうれしいことはない……!


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動き出す世界

あー、さっさと超翔竜編後半でもある3巻目に入りたい。でも書いててやっぱり情報量が多すぎる、さてどうするか……。



では本編どうぞ!


そこはとても暗い空間であった。全体はコンクリートで覆われ、天井には今は使われていない電灯が6つほど付いている。

この空間はとても血生臭く、床にたくさんの人間の死体が転がっていた。だがそれらは、一部がワニにでも食いちぎられたかと言わんばかりに部分部分が欠損しており、その欠損部分に何やら植物の根らしきものが近くまで伸びていた。

それらをたどっていくと、そこにあったのは巨大なバラだった。

床からの大きさは6m強。だが花はまだ咲いておらず、蕾のまま。だがその蕾の中には何やら口のようなものが見え、その口には鋭い牙が生えそろっている。

そして花のつぼみから下、茎は床に向かうほどに直径は緩やかにながら太くなっていっており、途中には何やら内部、もとい黄色いなにかが見えるが、そこからは人間の、女性の上半身が生えていた。

服は何も着ていないためそれなりに膨らみのある乳房などは丸出し。肌は植物のせいか若干緑色となっており、その髪の色は深い緑色となっている。その顔つきは女性というには少し幼く感じ、どちらかというと少女と言えるだろう。そして血よりも紅く、虚ろなその瞳はただ何もない壁を見つめ続ける。

 

「姫、ご飯の時間でございます」

 

その時、薔薇がある場所から20m離れたところにあるこの空間の壁。そしてそこに取り付けられている扉から1人の茶髪の男性が、手にトレイらしきものを持って現れたのだ。そのトレイには何やら人間の食べれそうな食べ物が載せられており、男性は足元に散らばっている死体や根を踏まないように注意しながら薔薇、もとい彼女に近づいた。

だがこの時、男性は彼女が自分の方を向いていないことに気付く。

 

「どうかされましたか?」

 

「……航が呼ンデる。行カナくちャ」

 

その声はまるでとても綺麗な、見た目に不相応なほど澄んだ女性の声だった。

薔薇は床に這っている蔦を使い、重い音を立てながら壁の方へと移動を始める。普通の植物なら絶対あり得ないことだが、この薔薇は普通ではなかった。

 

「姫!いけません!貴女はこの場にいないと―――」

 

「邪魔」

 

男性は彼女を止めようとしたが、いつの間にか近くにあった、するどい牙がある顎のついた蔦が迫ってきており、そのまま男性の肩甲骨から上を食いちぎる。そして顎から食いちぎった分を吐き出し、大量の血を噴出しながら男性だったものはその場に倒れ、そこに新たな血の池を作る。

 

「航……私がいるカラ……。彼方は私ダケのもノ……」

 

その虚ろな目は何を映しているのかわからないが、ただわかるのは、ろくでもないということだけだ。

そのとき、天井につけられていたスピーカーからノイズの音が聞こえ、そして男性の声が「あー、あー、」と聞こえたため彼女は忌まわし気にそちらの方を向いた。

 

『姫、勝手に出ていこうとするのは困るんだが』

 

「……何よ、ソれノ何が悪いの?」

 

『そんなわがままお姫様には、躾が必要だな』

 

その言葉とともに、天井から何か液体が降り注いだ。それは薔薇の表面に付くと同時に白い煙を上げ始め、彼女は痛がるかのようにうずくまる。

 

「ぎゃあああああアアアア゛ァ!!!!!」

 

それは先ほどの可愛らしい声とは大違いの断末魔だった。なぜなら、今降り注いでるのは専用の除草剤なのだから。だがそれだと枯れてしまうのではないかと思われるが、この薔薇はそう簡単に枯れたりはしない。

だが彼女の動きを制限するには十分な代物だ。

 

「痛い痛いイタい痛イ!」

 

『止めてほしかったら動くのをやめろ』

 

「わかった、ワかッタから!もう止めて!お願い!」

 

そしてぴたりと止む除草剤の雨。そこに残ったのは除草剤によってボロボロになった花弁と、ずたずたになった茎に引っ付いたままの彼女の姿だ。

 

「ぅ……ぅ……」

 

痛みのせいかまともに言葉も話せず、ただ彼女は痛みに苦しむばかり。だが声はそんなのは知らないといわんばかりに、事をすらすらと話していく。

 

『貴女はここのシンボルのようなものなのですから、逃げられては困ります。そして彼についてですが、すでにこちらに戻ってこれるように手は打ってありますので、おとなしくお待ちください』

 

そしてブツンッという音とともにスピーカーから音が消え、そこに再び静寂が戻る。

その中、彼女は口から血がこぼれながらも、まるで呪詛のように言葉を発し続ける。

 

「航……痛いよ……。なんで来ないの……?助けてよ……」

 

彼女の蚊の鳴くような悲しい声は、この空間に溶けていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

同時刻、ここは太平洋。その中でアメリカのバージニア級原子力潜水艦『バーミンガム』は、現在任務を終えてハワイ基地からアメリカに向けて進路を取っていた。

今の世の中女尊男卑。そのため陸軍や空軍は軍縮軍縮を半強制的に行われていたが、海軍だけはその惨状から免れることができた。答えは簡単だ。ISなんかで海を支配することは到底不可能と言われてるからだ。

そのため上の口うるさい政治家も何も言うことができず、ただギャーギャーいう女尊男卑に染まった人間しかいないのだった。

そのバーミンガムの艦橋(ブリッジ)で、艦長を務めている男、サウス・ハミルトン中佐はただ自分の席である艦長席に座り、目を瞑っているだけであった。

その長方形ともいえる顔の骨格に、金髪の角刈り頭。そして目元には縦一閃の傷跡があることから歴戦の勇士漂う雰囲気をさらしだしており、身長190近くもある身長のせいで、ただならぬ威圧感をさらしだしている。

ただそのせいもあって、周りにいる兵士たちは堅苦しい空気の中黙々と作業する部下たちも、さすがに疲労が見え隠れしている。

そのため、空気を少し変えようとして……。

 

「そういや中佐、娘さんがIS学園に入ったんですって?」

 

鋭い目つきで部下をにらみつけるサウス。それで息をのむ部下たちだったが、サウスの目じりがおちて二へラ~とした緩み切った表情になる。

 

「おお!聞いてくれよぉ!愛しいティナが自分の夢を叶えるために海を渡って日本に行ってるんだぜぇ?ったくあのモンスター塗れの国に行かせたくないのに、「お父さん嫌い!」って言われたくないから行かせるしかないだろ?そしてだな―――」

 

彼、見た目に反してすごい親バカなのである。おかげで今はなしてる間も喜怒哀楽がひょいひょい変わっていき、聞いた部下、もとい副長であるニック・オービタルも見た目から反して面白いサウスに、少し笑いがこみ上げる。

 

「なんだ、俺の何がおかしいんだ?」

 

「いえ、艦長みたいな家族持ちがうらやましくて……。俺、帰ったら彼女にプロポーズするんです」

 

「おお、そうか!ならば結果が良かったらお祝いしてやらないとな!帰ったら頑張ってこいよ!」

 

「は、はい!」

 

檄を飛ばしてもらうとは思ってなかったのか、少し上ずった返事をするニック。それを皮切りに周りにいた兵士たちもゲラゲラと笑い出し、先ほどの重苦しい雰囲気と打って変わってとても楽しそうな雰囲気を出していた。

 

「やっぱ艦長の親バカっぷりは面白いですよ。その顔で喜怒哀楽がいろいろ変わりますし」

 

「なんだとこのヤロウ!ぶっ飛ばしてやる!」

 

そう言いながらも笑い飛ばすサウス。実際彼はそういいつつも部下が優秀なためか殴った回数も指で数える程度でしかない。そのため

 

「さて、あと1日あればアメリカに着くから全員気を引き締めろよ!」

 

『了解!』

 

そして全員が改めて気を引き締めた時だ。ソナーを担当しているマリク・ドレッドノードが、頭につけていたヘッドホンから異音がなっているのに気づき、すぐにサウスに知らせる。

 

「ソナーに反応!距離、1000!推定速度は40ノット!」

 

「何!?」

 

マリクの声は艦内放送で他のエリアにいる隊員たちにも響き、それはどよめきとなって広がる。

現在45ノットも出せる船はほぼ無く、あっても水上を走る船だ。そのため潜水艦となると、、そんな船が一切ないことをサウスは知っている。マリクの間違いだといいたいが、彼の耳に間違いは一切なく、ただこちらに向けて距離が縮まっていることを伝える。

 

「……我が国にそんな潜水艦ありましたっけ……?」

 

「いや、ないな……あったら俺ら海軍が知ってるはずだ……。発令所、艦長。魚雷管制員を配置につけろ」

 

ちんちんと速度速度通信機が鳴り、艦内に制動がかかり始める。

 

「目標、増速!以前こちらめがけてい移動しています!」

 

明らかに狙いはこのバーミンガムだ。そのため逃げるためにこちらの速度を上げるが……。

 

「目標さらに増速!推定速度60ノット!距離70!」

 

ここまで迫っていたのか。サウスは驚愕を隠せないが、館内放送に向けて叫ぶように伝える。

 

「総員、対ショック用意!」

 

そして衝撃が走った。それで艦長席から投げ出されそうになるサウスだったが、どうにか握力で肘置きから手放すことなかったため、どうにか怪我せずに済んだ。

 

「隔壁損傷!魚雷管制装置も作動しません!」

 

メキメキと金属がつぶれる音が艦橋にも響き渡る中、サウスはこれがどこの船からの攻撃かを考える。

だがそう裕著な時間はなく、今も船の損傷率は上がっており……。

 

「機関、停止しました……」

 

その絶望に染まった声が響き渡る。もうこの船は水面に向かって上がる術をなくし、沈んでいくしかないのだ。

 

「ゴァァァァァァアアアアアア!!!!」

 

船内に大きな音が響き渡る。それは獣のような声であった。だがこんな海中にそんなのいるわけが……あった。

 

「まさか……くそっ!これが奴の餌だということを忘れてた!」

 

「か、艦長!?」

 

「総員、この船を捨てる!脱出ポッドへと向かえ!」

 

サウスはそう叫ぶが、隊員はとても暗い表情だ。

 

「艦長……すでにそのエリアは水没しました……」

 

「何……!?なら救難信号だ!すぐにしろ!」

 

そういうが、もう家に帰る術がない。それを知った瞬間、サウスは絶望に染まった表情を浮かべる。

そして水圧も高くなってきたのか、環境の隔壁も凹み始めたため部下たちはどうするんだといわんばかりに、サウスの方を見つめる。そういうサウスもここで死ぬ気は全くなく、最期になるであろう指示をする。

 

「お前ら―――」

 

サウスが何か言おうとした時だ、隔壁が水圧に耐えられなくなったのか、艦橋にも海水が浸水し始める。そのとき弾けたボルトがニックの頭を貫き、彼は何が起きたかを知る前に絶命。それを引き金に他の隊員たちもここから逃げ出そうとするが、住居ドックに続く扉を開けたとたん大量の海水が流れ込んできたのだ。

 

「うわぁ!?」

 

それによって先ほどより浸水率が大幅に上がり、艦橋もすでに水没寸前。その中サウスはズボンのポケットに入れていた写真を取り出し、それを見つめる。それは彼が数年前に撮った、家族との写真。そこには可愛い笑顔を浮かべる10歳ほどの女の子とその女の子の頭をなでるサウス。そしてそれを見て笑みを浮かべるサウスの奥さんと思われる女性の姿があった。

 

「ティナ……サラ……すまない……。俺はもう、家に帰れそうに―――」

 

そして海水に飲み込まれたサウスは、意識を永遠に失うのだった。ただ手に握りしめた写真だけは、最期まで手放すことなく……。

 

 

 

 

 

「グルルル……」

 

現在ゴジラは何十年も眠り続けた分のエネルギーを吸収するため、付近にいた原潜に手あたり次第襲い掛かっていた。中には魚雷をぶつけてくる船もいたが、ゴジラはあまり痛みを感じないどころか、逆に怒らせる原因となってしまい、そのまま轟沈させられて中の原子力、もとい核エネルギーを吸収していってるのだ。

今回沈めたバーミンガムもその中の1つであり、ゴジラはエネルギーをおいしくいただいている。この40年眠り続けてきたせいか、身長も60mから71mと大きく成長しており、今となっては昔使えなかった体内放射も使えるのだ。

そして今、爪を立ててしがみついてるバーミンガムから大きく空気が漏れ出し、そのまま深淵へと落ちていく。それと同時に小爆発も起きているが、ゴジラからしたら痛いと感じることもなく、ギチギチと握力を強めたりして船体を締め上げる。

その時だ、ゴジラは何か感じたのかバーミンガムから離れ、そのまま海面の方、上を見上げた。

 

「グォォォ……?」

 

それは昔の自分を見たようだった。親を殺され、嘆き、怒りに震えるあの日を。人間を死ぬほど憎んだあの日を。

ゴジラはそれが何なのかとても気になった。これは同族がいることと取ってもいいのか、それとも……。

だがゴジラは今は回復を優先する。会いに行きたくなったら会いに行けばいい。同族なら今は動かぬ親にうれしい報告ができる。

少し期待を膨らませて、ゴジラは次の原潜を襲うために移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ここは東京渋谷。現在メガヌロンによって水深20mは水没しきったこの都市で、メガヌロン達はその時を待っていた。

体も前より一回りは大きくなっており、四肢もがっちりとした体形になっている。だが今彼らは全く動かず、死んでるようにも見えるのだ。

そのとき奴らは感じた。とてもつもない脅威が迫ってきているのを。そのため早々と脱皮しなければならないが、早くともあと1週間はないとそのときになれない。ただじっと動かず、脱皮のための準備を進めるのだった。

 

超翔竜を完成させないといけない……。

 

目的はただそれだけ。そのためにメガヌロン達は待ち続けた……。

 

 

 

 

 

ここは太平洋、インファント島。現在どこの国の領にもできないこの島の奥、そこにある大きな山の中にある遺跡の跡に2匹の巨蛾はいた。

片や翼長100m。羽の模様は黒や黄色やオレンジといった鮮やかな模様となっており、体のいたるところに柔らかそうな体毛を生やしており、蒼いサファイヤのような眼で少し慎重そうに周りを見渡している。

そしてもう一方、遺跡跡の神殿の祭壇のようになってるところに居座っている同じ羽の模様を持つ翼長109mの巨蛾、モスラはゆっくりと羽を羽ばたかせていた。

この2匹は40年前、東京の品川地区にて現れた双子のモスラの幼虫が成長した姿であり、その姉の方である祭壇に居座ったモスラは現在あることをしようと羽をゆっくりと動かしていたのだ。

その時だ、羽から何やら光の粒子の様なものが漏れ始めたのだ。それは神殿の下に舞い降りていき、そして神殿の前に集まり始めて何やら丸いものを形とっていく。

そしてそこにできたのは、水色と白の2色で彩られた大きな卵だった。そう、これはモスラの産卵。そのため彼女は、誰にも邪魔されないこの場で卵を産んだのだ。

彼女はなんとなく感じ取っていた。この数か月後に何万と人が死ぬ大きな災いが来ることを。そして、それに備えて次の世代を残しておくことを。




てかリアルどうしよう。次とその次の話までしか書き貯めがない。その次と次の次は書いてる途中だし。学校中間テスト近いし。


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トーナメント前の日

お久しぶりです。どうにか復活を果たした妖刀です。ついにシン・ゴジラが公開されました。みなさんは見にいきましたか?(シン・ゴジラの感想等は厳禁。ネタバレされて怒る人がいかねないので)

では本編をどうぞ!


「ではもうそろそろ学年別タッグトーナメントの時期です。みなさんは自分のパートナーを見つけましたか?決めた方から私か織斑先生にその用紙を渡してくださいね」

 

ある日の朝のホームルーム。真耶は笑みを浮かべてそう言うも、クラスがとても静かなことに若干不気味に感じながらも、それを顔に出さないように気を配っていた。この日、数日ぶりに箒が復帰して登校しているが、それでも雰囲気がとても重い。

こうなったのは数日前、朝のホームルームにて千冬がシャルロット、もといシャルルが実家でとある事態が起きたという建て前で学園にいられなくなったということにより、クラスの大半が強いショックを受けたためだ。

ただこれが原因変わらないが、周りが一夏に対しての扱いが若干雑になってきており、うわさに聞くと航に対しては大きく敵視しているということになってるという。真耶も千冬も犯人不明の学園新聞をすでに読んでいたため、これについての火消しに回っているが、どうしても噂というものは厄介だ。

今となっては航がシャルルを追い出したということにまで発展しており、もうシャルルは偽名で実はスパイでしたと事実を流してやろうかと思ったほどだ。だがそうするとほかのフランスの生徒にも飛び火をしてしまうため、本当に最終手段でしかない。

 

「そういえば篠栗が学年別タッグトーナメントまでに復学する。そのときは皆で迎えてやってくれ」

 

「はい」

 

千冬がそういうが全員無反応。いや、一夏だけが返事をした。

そんなことを考えながらも真耶はいつも通りのホームルームを進めていく。

 

「では今日も学園生活を送ってください」

 

そういって教室を出ていくのだった。

 

 

 

 

 

そしてホームルームも終わり、一夏はタッグトーナメントで誰と組むかを考えていた。一番は機龍戦で一緒に組んだラウラが有力だろうが、現在彼女の機体はまだ修理が終わっていない。まあ代表候補生なら訓練機でも十分なほどの戦いぶりを見せるだろうが、いまいち話しかける気になれない。

そして箒に話しかけようにも、彼女は何か思い悩んでるのか、話しかけられる雰囲気ではない。

 

「あと残ってるのは鈴とセシリアか……」

 

とりあえず、どっちかと組めるか聞きに行くことにした。ただほかの生徒と組むという手もあるが、現在一夏は半ば女子たちと対立しつつあるという現状になっている。

原因はこの前の航の擁護。それが原因で女子たちに話しかけても無視されたりすることが多くなっており、現状クラスの半分は一夏のことを無視してるという状態だ。まあ航に限ってはクラスの大半が敵に回ってると言っても過言ではない状態であるが。

そんな状況下、堂々と動ける一夏の胆の据わりっぷりがすごいのか鈍感なのかわからないが、彼は2組へと足を運ぶのだった。なお後ろの方で、一夏に話しかけたくても、周りの女子たちがいろいろ話してきて動けなくなってるセシリアがいるが、それは余談である。

そして2組に向かった後鈴を呼び、今回の件について話すが……。

 

「うーん、組みたいのは私もそうなんだけどさ……。私たちが組むと近接と近接になって、遠距離系に対して弱くなっちゃうのよね。だからさ、ごめんけど別のこと組んでくれない?ほら、なんだっけ?えっと……クラスに専用機持ちの子いなかった?遠距離系の」

 

「セシリアのことか?」

 

「そう!その子に組んでいいか聞いてみなさいよ」

 

「おう!分かった!アドバイスありがとよ!」

 

そして一夏は急いで自分の教室へと戻っていくのだった。

 

「ふぅ、少しは一夏の味方を増やしてやらないとね。これだから女尊男卑はめんどくさいのよ」

 

一夏を見送った後、鈴はそう一人つぶやくのだった。

 

 

 

 

 

「セシリア!俺とタッグトーナメント組んでくれないか!?」

 

「えっ!?わたくしと!?」

 

セシリアは一夏が教室に戻ってくるなり、いきなりタッグ申請してきたことに驚きを隠せなかった。確かに一夏と組みたかったし、こうやって彼から頼んできたのは願ったり叶ったりだが、いきなり一夏がこう来たことに強い疑問を持った。

 

「その、一夏さん、なぜわたくしに……?」

 

「あー……その、あれだ。俺近距離型だし、セシリアは遠距離型だろ?だからさ……」

 

セシリアはジト目で一夏を見つめており、そんな一夏は「ははは……」と笑みを浮かべながら、わずかながら額に汗が流れる。だがセシリアは小さくため息を漏らして、ジト目をやめた。

 

「それならかまいませんが一夏さん、体はもう大丈夫ですの?」

 

「おう!すでに治ったぜ」

 

「なら白式は?」

 

「あー、うん。まだ戻ってきてない」

 

それを聞いたセシリアは困った表情を浮かべ、そして申し訳なさそうな表情で口を開いた。

 

「あのですね、一夏さん。専用機持ちで今、その機体がないとなるとおそらく出れる可能性がとても低いですわ……」

 

「なっ、それってどういうことだよ!?」

 

「これは言いたくないのですが……。一夏さん、今この世の中に出回っているISコアっていくつあるか知っていますか?」

 

「えっと……。500、ぐらいだった、か……?」

 

「厳密にいうと683個ですわ。そのうちの60個近くは日本にあり、そしてそのうちの30個はIS学園にありますわ。そして現在の学園の全生徒数は、約30人5クラスが3つで約450人。そして専用機持ちが現在私たちを入れて9人。そのため残った生徒たちはこの30機を抽選で勝ち抜いてやっと使えますの。いや、先生方が使われてる機体もあるから、厳密には残り20機強って所ですわ」

 

「なっ、そんなに少ないのかよ……」

 

「えぇ。ですから、一応先生方に出れるか聞いてくださいまし。それで問題ないならそのときはお願いしますわ」

 

そういって微笑みを浮かべるセシリア。

 

「おう!なら今から聞いて―――」

 

だがそのとき、授業開始前のチャイムが鳴ったため、一夏は渋々自分の席に戻っていく。セシリアはそれを見送った後、小さくため息を漏らした。

 

(一夏さん、えらいやる気でしたわね。でも私を選んでくれてとてもうれしいですわ!)

 

表情が大きく緩み、ニヤニヤとしているセシリア。周りはそれに若干引きながらも授業の準備をしていた。

そのとき教室の扉が開き、そして入ってきたのは織斑千冬。そのためセシリアも先ほどの緩み切った表情からいつもの表情へと戻り、早急に教科書等を出す。

そして授業開始の令の後、いつもなら授業がさっさと始まるが、千冬はいつもより重苦しい雰囲気を漂わせながら教卓に立っている。

 

「諸君、今日はとある知らせがある」

 

この重い雰囲気に誰かが息を飲む。

 

「まずは前の何者かによる、機龍の暴走について知ってるものが殆どだろう。そして篠栗は機体の負荷に耐えられず入院、機龍は没収となっている」

 

「そして昨日、篠栗が退院し、停学処分が下された。期間は学年別タッグトーナメントが始まる前日までで……」

 

それにより一気にざわめく女子たち。一夏はそれに喜びの表情を浮かべるが、あの時の暴走のことがあってか、若干複雑な気分となる。

 

「あの先生。なんでいきなりこんなことを……?」

 

一人の生徒が挙手して千冬に聞く。だが千冬はその生徒にじろりと睨み、そして視線を全員に再び向ける。なお先ほど睨まれた女子は、その眼力からか憧れの天元突破でか知らないが失神してる。

この時千冬は目を伏せており、その後彼女は何も言わずに「授業を始める」と言い、無理やりながら授業を開始した。生徒たちは何か言いたげだったが、千冬の一睨みで沈黙する。

 

 

 

 

 

そしてお昼。一夏は食堂に1人向かっており、そしていつも通りの定食を頼み、そして盆を持って座れる席を探す。だがほとんどが満席となっており、一夏は少し困り顔を浮かべながら奥へと進んでいくと、そこには篠ノ之箒がおり、彼女のいる席には他にはだれもいないため相席させてもらいことにした。

箒は少し目を伏せながらであるが彼を向かいの席に座らせ、そして黙々と食事を再開する。

 

「なあ、箒。ちょっといいか?」

 

「……なんだ」

 

「いや、ほら……、最近休んでただろ?だからそのことが心配だったから」

 

「ただの風邪だ。……心配かけた」

 

「別に。ただ幼なじみなんだから心配するだろ」

 

この時箒はそれがうれしかったのか、小さく笑みを浮かべて一夏の方に初めて視線を向ける。だがその顔は疲れ切ったかのような感じになっており、寝不足なのか少しクマができている。

 

「箒、大丈夫か?眠れてるか?」

 

「あ、いや、……最近、妙な夢を見て、な……」

 

そして再び目を伏せる箒。一夏はどんなのか聞こうとしたが、これで聞いたとしてどうすればいいのか分からず、少し口ごもってしまう。

 

『お昼のニュースです。まず最初に数日前、ある家にて男女1名ずつの死体が発見されました。殺されたのは篠栗北斗と篠栗月夜の2名で、彼らは現在IS男子搭乗者の片割れである篠栗航の両親であり、体に多数の刺し傷や切り傷など―――」

 

この時、食堂の空気が固まった。それは食堂に備え付けられている大型テレビで放送されていたニュースでのことであった。その後も女性ニュースキャスターが内容をスラスラと読み上げるが、一夏はそのことが全く耳に入らず、ただ航の両親が殺されたことが脳内で何回も繰り返される。

 

(どういうことだ……?航の両親が死んだ……?えっ……)

 

一夏は理解したくなった。箒もあまりの内容に驚愕の表情を浮かべている。2人は実際航の家で何回もお世話になってるのだ。そのため彼の両親、特に織斑姉弟はよく彼らの世話になっていたのだ。

そして篠ノ之流以外に、当時彼が住んでいた家には道場があったため、よく稽古とかを付けてもらっていたのだ。そのため一夏にとっては、ある意味自分の親のようにも感じていたのだ。

だがそんな2人が死んだ……。

 

「ざまぁないわね」

 

そのときだ。食堂の真ん中にいた3年の女子が言い放つ。完全に静まり返っていた食堂の中では、その声がよく響き、周りの生徒が彼女の方に一斉に顔を向けた。

 

「どういうことだよ……」

 

それと同時に一夏の声が響く。その声はいつも通りの明るい雰囲気ではなく、とても重い、怒りに震える声であった。だが女子生徒は三日月のように口角をゆがませ、一夏を見下すかのようにその口を開く。

まるで楽しそうに、嬉しそうに。

 

「あら、聞こえなかったのかしら?ざまあないって言ったのよ。だってISを使える男子を産んだのよ?それなら二度と産んでもらわないように死んでないとね」

 

典型的な女尊男卑に染まった女性。いや、その中でも過激な方というべきか。彼女はニヤニヤとしながらそう言い放つ。

 

「ちょっと静香、そんなこと言っちゃ……」

 

だが友人らしき子らの忠告を無視し彼女、静香はそんなの知らんと言わんばかりに完全に男性を見下す言葉をツラツラと言いあげていく。それによって周りにいた女子たちも彼女に厳しい目線を向けるが、やはり賛同してるのか、一部の女子たちがその言葉にうなずいている。

それをおとなしく聞いていた一夏だが、拳は強く握りしめ、さらにその手が怒りで震えている。うつむいて前髪で顔が見えないが、相当怒ってるのだろう。

 

「なんであんたはそういうことを言えるんだよ!」

 

「あんたには何も関係ないでしょ!」

 

「あるに決まってんだろ!俺や千冬姉は航のお父さんお母さんに何回も世話になってたんだぞ!俺からしたら親が亡くなったに変わりはないんだよ!それよりも航は自分の両親が殺されたんだぞ!それで怒れずにいられるか!」

 

それによって一気に生徒たちがざわめいた。

 

「何の騒ぎだ」

 

「あ、千冬姉!」

 

だがこの時、千冬は一夏に出席簿による一撃をくらわす。

 

「織斑先生と言え。で、何の騒ぎだ、これは」

 

「お、織斑先生!俺は彼女を許せません!航の両親が殺されてそれを馬鹿にされて!」

 

「……篠ノ之、それは本当か」

 

「っ……!は、はい!私は聞いていました」

 

箒はいきなり聞かれたことに驚きを隠せなかったが、どうにか答えたため千冬が視線を彼女から逸らす。そして千冬は鋭い目つきで静香をにらみつけた。

 

「溝口、今からお前に聞かないといけないことがある。私についてこい」

 

「っ……!あんたのせいでぇ!」

 

静香は完全に罰が与えられると察したのだろう。怒りの形相で一夏の方を向き、そして不意打ち同然に殴り掛かった。一夏はその反応に遅れてしまい急いで両手をクロスさせて防ごうとするが間に合わず、そのまま殴られると思い、強く目をつぶる。

だがそのとき、千冬が瞬時に手を伸ばして静香の襟をつかんで手元に引っ張ったため、拳が一夏の顔に届くことなくバランスを崩す。

 

「私は来いといったんだ。それ以上罪を重ねるか?では織斑と篠ノ之、お前らにも放課後に聞きたいことがあるから、放課後職員室に来るように。わかったな?」

 

「「は、はい!」」

 

これは私情なのかもしれない。だが千冬はそれを許すわけにはいかなかった。そして静香の制服の襟を掴み、引きずるようにして食堂から連れ出す。それをただ茫然と見届けていた一同であったが、箒は思い出したかのように一夏の安否を心配する。

 

「い、一夏!大丈夫か!?」

 

「お、おう……なんとか」

 

そして騒ぎが終息したのか、話まりの生徒が元の場所に戻っていく。

一夏は、航がこのこと知ってるのか気になって仕方ない。だがあの時の暴走が、これが原因だとしたら……。ただ不安でしかなかった。

 

 

 

 

 

ここは東京都にある八王子駐屯所。現在そこの懲罰房に鷹月仁()()はいた。スポーツ刈りだった髪はぼさぼさとなり、顎や鼻の下の髭は数日間も剃ってないのか髭も伸びっぱなし。おかげで前見せたたくましい風貌も今となってはその面影を感じきれないほどとなっている。

なぜここにいるのかというと、前にあったメガヌロンを駆除する『渋谷作戦』の失敗による責任を取らされていたのだ。だがパッと見2階級降格と懲罰房に入れられるのでは罪が軽く見えるだろう。

しかし、実際は懲戒処分で免職を最初は言い渡されていたのだ。隊員1名、しかもISを持っている隊員を亡くし、そして渋谷の水没。実際これだけで十分懲戒処分になるが、なぜ彼がそうならずに済んでいるのかというと、現防衛大臣の中條瞬がいろいろと手を尽くして、ここまでに抑えることができたのだ。

だが仁が指揮を失敗して、結果的に渋谷を水没させたということにあまり変わりはない。

それに目を付けた上の人間、政治家たちは彼を潰すことにしたのだ。これを起点に自衛隊を潰せれば、ISの知名度はさらに上がり、日本からは軍人が消えるという考えを持っており、今の渋谷の真の現状については全く耳を傾けない。

それについては防衛省で防衛大臣をしている中條瞬が警鐘を鳴らすが、他の政治家は馬の耳に念仏と言わんばかりに無視し、それどころか瞬をクビにさせようとしてるのだ。

さて話がそれてしまったが、仁は現在1階級降格。そして減給と1か月停職処分を下されている。だが今彼の中に思い浮かべてることは愛娘の静寐のことであり、ここを出た後にどうやって娘に連絡するかを考えていた。

現在仁は、娘との通話手段であるスマートフォンを同じ部署の女性隊員にニヤニヤ顔で“うっかり”壊されてしまったことによって、連絡する術を持たないのだ。実際電話番号等も全てスマートフォンに入れてたため知らず、IS学園に連絡を入れてみても「自衛隊なんか知るか!この屑軍隊!」という女性教員の暴言と共にガチャ切りされるため、自分の安否を娘に知らせることができない。

実際のところ、仁の娘である静寐は幼いころに母を亡くしており、男手1つで育てられたため半ばファザコンとなっており、こうやって連絡が入らないことにとても不安を感じているとわかっている仁は、手紙とかにしてでも娘に連絡を入れたかった。

 

「ったく……本気でどうにかならないかな……」

 

ただ今は、とりあえずここから出してもらうのを待つしかなかった……。

 

 

 

 

 

そのころ、ここは婆羅陀魏社。現在ここでは、機龍の暴走によって損傷した蒼龍の修復作業と、その原因である機龍に二度と暴走が起きないように設定を組み替えたりする作業などが行われていた。

その中に白衣を着た黒髪の男、主任がおり、彼は機龍の足元で機体を見上げていた。

 

「いやー。まさかこんなに早く絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)が使えるようになるとはなぁ……。ただ、威力が低いな」

 

手元のファイルに挟まれていた紙に書かれていたのは『-162℃』。絶対零度と呼ぶには、温度が軽く100℃も高すぎて名前負けしてるのだ。おそらく原因は機体の大きさそのものとシールドエネルギーの残量。これらの問題を解決すれば、-240℃は出せたと考えられる。

主任はこの問題を、今の大きさのままどう解決するか考えており、手元にあるタブレットに何やら計算式等を事細かに書き始めていた。

そのとき、1人の研究員が彼のもとに立ち寄る。

 

「主任、蒼龍の修復は終わり、現在は機龍の修復作業に移らせてますが……」

 

「あ~、それでいいよ。で、蒼龍はさっさと送り返しておいてね」

 

「はい、わかりました。そして主任、一つ聞きたいことが……」

 

「何だね、ワンダースワン君」

 

「だから私の名前はワンダーソンです!てかなんなんですか、そのネーミング!」

 

「ん?2000年初期に流行った携帯ゲーム機のことさ。知ってる?」

 

「いや、知りません。そして話題をそらさないでください!」

 

そういってカンカンに怒るワンダーソンだが、主任はケラケラ笑っている。

 

「はっはっは。まあいいじゃんいいじゃん。で、話したいことって?」

 

いきなり素に戻るため、ワンダーソンはそれなりに慣れていてもペースを乱されてしまい、少しイラッと来てしまう。だが上司を怒れるはずもないワンダーソンは、今のことは無視して本題に入ることにした。

 

「その、機龍の胸部についてですが……」

 

「ん?あぁ、あれね。あれは私の知り合いに出資者がいてねぇ、その人が大半の資金を出してくれたんだよねえ。おかげで人工ダイヤモンドがすぐに開発ができたし、本当にいいことづくめだよぉ!」

 

そういってケラケラ笑う主任。だがワンダーソンはその出資者について気になった。

機龍に使われた人工ダイヤモンドは、通常の人工ダイヤモンドと違って恐ろしく高価で、そして相当な技術がないと作れない代物だ。そのため40年前の三式機龍には相当大きな人工ダイヤモンドが使用されたが、それは国家予算を大きく傾けるものであり、翌年のゴジラ襲撃の際には人工ダイヤモンドの開発が間に合わず、三連ハイパーメーサーを代わりに装備したほどだ。

そして今回の四式機龍に使われている人工ダイヤモンド。それは3式のより1/6ほどの大きさになるだろうが、それでもこの会社にある金すべてを集めても足りないほどの予算を要する代物であり、その分をどこで補ったのか……。この開発班で一番の責任者は主任だ。というより絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)の装備を提案したのも主任のため、社長がそのとき言った「予算問題」を軽々とクリアし、開発に乗り切ったのだ。

そして恐る恐る、ワンダーソンは口にした。

 

「その、出資者ってのは……?」

 

「んん?聞いちゃう?聞いちゃう?」

 

いきなり顔を近づけてくる主任。ワンダーソンはいきなりの行動に驚き、尻もちをついてしまう。

 

「まあ聞かない方がいいと思うよ。消されたくなかったらね……」

 

そういってニヤァ……と口角を上げて笑みを浮かべる主任。その三日月のようになった口にたいして目が全く笑っておらず、ワンダーソンは強い寒気に襲われた。

その間にも機龍は修復作業が進められていく。




原作よりISコアの数を増やしました。実際銀龍本編で原作と同じ数とは言ってないから問題ないよね?(言ってたらごめんなさい)


次の更新は2週間後の日曜、8月14日の予定です。お楽しみに!


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脱皮

どうも、シン・ゴジラを3回見てきた(2D、4DX、IMAX)妖刀です。本当に面白い作品って何回も見たくなるもんなんですね。
あと福岡市美術館にてゴジラ展を見てきました。まさかの怪獣たちがいて驚きの連続でした。


では最新話、どうぞ!


メガヌロンの手によって渋谷が水没し、すでに1か月。渋谷は現在、底から高さ20mほど水没し、すでに水面からは底が見えない。

その元渋谷駅前を自衛隊の小型ボートが進んでいた。そのボートには89式5.56mm小銃を持った男性自衛官が2人と、89式5.56mm小銃を持った女性自衛官1人が乗っており、彼らは周りを少し驚いた様に眺めている。

 

「ここまで変わるとはなぁ……」

 

「本当ですね。てかここら辺にハチ公像があるんでしたっけ?」

 

「えぇ。にしても私が戦った時と大きく変わり過ぎよ……」

 

そういう彼女、秋椿凛1士は小さくため息を漏らしながら空を見上げた。あの渋谷での出来事の後、上官である鷹月仁元一尉が捕まり、そして彼の隊は解散。その後仲間たちとはバラバラになり、そして別の隊に配属されたのだった。まあ、前の隊で同じだった梅宮健二2士と木島現1士が一緒だったが。

そして現在は任務でこの渋谷に来ている。その任務とは、『渋谷の現状を報告するとともに、逃げ遅れた人がいないかの確認』というものである。それに選ばれたのは凛と現と健二の3人であり、彼らは現在ボートでここにいるというわけだ。

 

「てか作戦開始前に避難誘導とかしたんでしょ?それで残ってるとかないでしょ」

 

「ところがね、割といたりするのよ。すでに亡くなった姿で……」

 

「え゛っ……いや、冗談、ですよね……?」

 

健二は少し顔を青くして凛に尋ねる。

 

「まあ噂ではそういうものだし。とりあえずどこか止まれるところ探して調べてみましょうか」

 

「お、おう……あ、あれは止まれるんじゃないか?」

 

そこにあったのはとあるマンションで、そこの階段のところにボートを止めれそうな場所があったのだ。とりあえずしらみつぶしに、そこのマンションにボートを停留させて入ってみた。

 

「うわぁ……ずっと整備されてないせいで苔とか生えてますよ……」

 

「ここから毎日釣りできて楽しそうだな」

 

「メガヌロンが釣れなければ、ですけどね」

 

「だよなぁ……」

 

現は冗談を飛ばしたつもりだが、凛の対応に少し落ち込む。だがパッと見ではそんな様子を見せず、機銃をしっかりと構えている。いつメガヌロンが出てくるのか分からないのだ、そうなっても仕方ないだろう。

そしてマンションを進んでいくが何も現れず、ただ時折鍵が壊れたのか扉が開いたままの部屋が点々としている。

 

パリィン!

 

「「「っ!」」」

 

それは目の前にある部屋からであった。まるでガラスの割れる音であり、何が起きたのか今いるところでは若干わからない。

しかも壊れ方が外から突進でもしたかのようになっており、彼らはそれを警戒して健二が中をのぞき込む。現は周りの警戒を怠らずやっており、そして3人は慎重にその部屋に入り込む。

その部屋は完全に荒れており、窓ガラスはほとんどが割れてボロボロのカーテンから光が漏れ出している。キッチンも何かが大きく切り裂いたかの跡を残し、冷蔵庫は扉が吹き飛ばされて、中にある食べ物が何者かに食われている。そして残った食べ物には虫が集っており、コバエが飛んでる。

そして奥にあるリビングでは、腐敗した死体があった。

 

「現さん、これは……」

 

「あぁ……。おそらくここの住人か。パッと見だと女性だが、上半身が無いとなるとなぁ……」

 

そこにあったのは人の死体であった。スカートをはいてることから女性である可能性が高いが、上半身は何かに食いちぎられたのかと言わんばかりに無くなっており、残った下半身もずっと放置されてたせいか腐敗しており、ただスカートだけが女性と仮定するだけの材料でしかない。

その臭いに顔を顰める3人。この女性?が誰かを断定するためのものがあるのかと凛が勝手に近くにあったバッグを探ると、そこから警察手帳が出てきた。

 

「現さん、健二君。この人、すぐそこの渋谷交番の婦警さんよ。ほら、前に1人行方不明になったっていうニュースがあった」

 

「あー、何かありましたね。てかなんで警察の人がここで死んでるんですか……」

 

「勧告を無視してたか、それ以前に死んでいたか、って……ぇ」

 

健二は少し冷や汗を流しながら凛の方を向くと、そこには確信めいた表情をする凛がいる。

 

「間違いないわ、メガヌr」

 

「キシャアアアア!」

 

その時だ、ボロボロのカーテンが盛り上がったかと思うと、そこから体長2mほどのメガヌロンが現れたのだ。健二と現は機銃を構え複眼にめがけて撃ち、そのまま複眼を破壊する。するとメガヌロンはいきなり目の前が見えなくなったことに驚いたのか、その場でもがくかのように暴れだす。

 

「伏せて!」

 

凛はそういうと同時に右手が光り、右手には迷彩色のラファールリヴァイブの椀部が展開される。そして同時に展開された灰色の鱗殻(グレー・スケール)をメガヌロンの眉間に見事に当て、衝撃でメガヌロンは窓の外に吹き飛ばされてそのまま下に落ちる。

 

「……さすが凛さん。IS使える人連れて来て正解だった」

 

「ここは危ないから逃げましょ」

 

「あ、あぁ、そうだな。ボートの場所まで引こう」

 

現がそういうと同時に3人はこの部屋から出て、ボートのあった場所まで移動する。だが先ほどとは違って扉1つ1つを警戒しており、問題ないと判断するとさっさと次の扉の近くまで移動を繰り返す。

そして警戒をしながらも、時間をあまりかけないようにした3人はさっさとボートに乗り込み、この場を後にする。だがこのマンションの裏がどうなってるのか気になってしまった。

あの時は、路地裏などにしかいなかったメガヌロンが完全に外に出ているのだ。

 

「健二君。ごめんけどこのマンションの裏に回ってくれる?」

 

「えっ、マジですか……さっき出てきたんだかどう見ても……」

 

「裏に数匹引っ付いてると……」

 

「たぶんね」

 

「……だーもう!分かりましたよ!」

 

ボートは目の前にあるマンションの裏へと進んでいく。もしかしてを予想して凛と現は機銃を構え、そして近くにあった十字路を2回曲がり、そこにあったのは……」

 

「ギギッ」

 

「チチチ」

 

「カカカ」

 

マンションの壁にびっしりとメガヌロンが張り付いていた。その数は何十、いや100体はいるのだろうか。ただ不気味な鳴き声を上げながら、何かを待ってるようにその場に佇んでいる。

3人はいったい何なのかと思って機銃をメガヌロンに向ける。これで引き金を引きたいところだが、それが原因で一斉に襲われたら元も子もない。そのため慎重に近づくと……。

だがそのとき、パキパキ、ピキッ、という何かが割れていく音が鳴り響く。その音はほぼ一斉に鳴り響き、何かと目を凝らす3人。そして3人の目に映ったのは、脱皮をしようと背中が割れていくメガヌロン達の姿であった。

 

「こいつら、成虫になる気だ!」

 

「撃ち落とせ!」

 

現の言葉と同時に機銃の引き金に指をかけ、そのまま引く3人。そして放たれた弾丸は3、4発脱皮中のメガヌロンの背中に当たると、そのまま壁から剥がれて水中に没していく。昆虫は脱皮したての体などはとても柔らかく、そのため豆鉄砲にしか感じない89式5.56mm小銃でも倒していけるのだろう。

そして1発も漏らすことなく当て続ける3人だが、その数が多すぎるためか先にマガジンの弾切れを起こし、すぐに新しいのを装填する。そして引き金を引いていくが……。

 

「あぁもう!ISを使わせてもらいますよ!」

 

あまりの数に業を煮やしたのか凛が自衛隊使用ともいえる迷彩色のラファールリヴァイブを展開し、その右手には、ISに装備できるように改造された、対戦車ヘリの3銃身20ミリ機関砲を展開。ミニガンのように両手持ちになったそれを、目の前にいるメガヌロンの壁に標準を向けて引き金を引く。

マンションの壁を舐めるかのように弾は当たっていき、あまりの弾速と弾数に張り付いていたメガヌロンがボトボトと落ちていく。脱皮中は完全に無防備のため20ミリ機関砲の一撃が致命傷となり、脱皮すらする時間もない。だからと言って攻撃しようにも脱皮の準備が終えたため動けず、現と健二が持つ89式5.56mm小銃でも落とされていき、瞬く間にそのマンションに張り付いていたメガヌロンが断末魔を上げながら殲滅していく。

そしてカラララ……と弾を吐き終えた3銃身20ミリ機関砲はただ回転し続け、そこに残ったのは弾痕が大量に残ったマンションの壁と、それに張り付く千切れ残ったメガヌロンの脚あった。

 

「さすがIS、と言ったところか……。見事に殲滅して見せたな……」

 

現はこの結果に驚きながらも満足げに言い、健二もこのことに目をぱちくりさせながらもうなずく。だが数が圧倒的に足りない。そのため一時凛を近くに呼び戻し、そしてこのこと浸水してない場所に立てた拠点に向けて発信するが、電波障害が起きてるのかノイズ塗れで通信がつながらない。

 

「どういうことだ……?」

 

「分かりません。ですが、ここはいったん下がりましょう」

 

凛の提案により拠点に戻る3人。だが途中、つないだままの無線から大音量のノイズが流れ出した。まるでそこに、何かあることを示すかのように……。

その途中、彼らはとんでもないものを発見してしまう。

 

「なっ……!?」

 

「なんだこの数は……!?」

 

そこで見たのは、いくつものビルに張り付くメガヌロンの大群であった。その数は軽く100、いや、もしかしたら200も超えるかもしれない。それらは微動だせず、ただビルとビルの間を進むボートとISをじっと見ていた。

3人はあまりの光景に完全に固まっており、ただ茫然とメガヌロンがいるビル群を見続ける。だがそんな中、パキパキとメガヌロン達の背びれが割れ出したのだ。

 

「っ!?」

 

ついにここでも脱皮が始まったため、3人はすぐに武器を構えて発砲する。特に3銃身20ミリ機関砲がメガヌロン達を落としていくが、その数があまりにも多すぎて処理が間に合わない。その間にも無事なのが脱皮を果たし、体を硬化させようと羽を伸ばし始める。

だがそうさせまいと機銃を撃つ3人。それによって羽が千切れて飛べずに落ちるものや複眼を潰されたり柔らかい状態の体をハチの巣にされて落ちるのが続出する。

だが、どうしても間に合わないのだ。

脱皮したメガヌロンは成虫と化し、その黒い背中に薄茶の胴体、長い腹の先には3本の針がある。そして大きな羽を羽ばたかせ始めた“メガニューラ”の大群は、次々と脱皮した抜け殻から脚を放し空へと飛び始める。

 

「ダメ!間に合わない!」

 

凛の悲鳴と共にメガニューラはいっせいに飛び立ち、そして凛めがけて一斉に突っ込んできたのだ。それに驚いた彼女だが、すぐに3銃身機関砲を使って対抗するが、最初はどうにか拮抗していたもののあまりの数に押されてしまいそのまま大群に呑まれ、そして水面にたたきつけられる。

 

「凛!ってやべっ……!?」

 

そして健二が見たのは自分たちに向けて迫ってくるメガニューラの大群だ。そして機銃と通信装置を船内に捨て、健二と現は水面に急いで飛び込む。そのとき体に装備していたものの重量で沈みそうになるも、訓練していたおかげか溺れずに済み、顔だけを水面から出して空を見上げた。

それは太陽が隠れると言わんばかりにメガニューラの大群が移動し、それらは南に向けて大移動を始めた。

 

「いたたた……。現さん!健二君!大丈夫!?」

 

そのとき、水面に叩きつけられて水没してた凛が顔だけ出して彼らに近づく。

 

「一応、な……」

 

「水に飛び込んで助かった……」

 

そしてメガニューラの大群は彼らの上を通り過ぎ、そのまま太平洋へと出た。

メガニューラは気づいたのだ。はるか海の向こうにいる、動くとても大きなエネルギー反応を。その200にもなるメガニューラたちは群をなし、そのエネルギーの塊へと一直線に向かっていく。ずっとずっと先へ。

そしてメガニューラの大群が目にしたのは、海面に背びれをわずかながら出してる、ゴジラの姿であった。

 

 

 

 

そして次の日のことだった。新聞、テレビのニュースで空を覆い尽くすほどのトンボが報道されたのは。



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怪獣王対軍団蜻蛉

前回の投稿でいろいろとトラブルが起き、読者側に迷惑おかけしたことを心からお詫び申し上げます。
あと読み返してたら、ビキニ環礁の場所がどう見ても大西洋な感じだったのでそこら辺を修正いたしました。


では久々のゴジラの登場です。本編、どうぞ。


そのトンボの群れは、渋谷区を抜け出し目黒、大田区方面の上空を駆け抜けていく。その光景を地にいた人々はただ茫然とし、あるものはスマートフォンで動画や写真を撮り、あるものはあまりの異様さに悲鳴を上げる。

そしてこの日、とあるビルの屋上で男をカツアゲしていた男上司たちが偶然メガニューラの進行方向にいたため、そのまま頭だけ齧られて屋上に血の池を作りながら飛んでいく。

その後メガニューラは東京湾へと飛び出し、そのまま太平洋へと向かっていく。この時の数は総数200ほどで群を成し、マッハ1にも及ぶ速度でその目標がいる場所へと飛んでいく。

そこにいる高エネルギー体へと向けて……。

 

 

 

 

 

ここは太平洋。そこの海面から山々が連なる、大きな壁が浮上した。滝が落ちるかのような大きな音をたて、山々は持ち上がり、黒い影がその下から現れる。

大きな水しぶきを上げ、そこから現れたのは黒く大きな体を持つ大怪獣、ゴジラだった。

 

「グルルゥゥ……」

 

何十年ぶりの海の向こうだろうか、ゴジラは小さく唸って空を見上げる。まさに快晴ともいえる空にまぶしい太陽のおかげでゴジラは少し目を細め、何十年ぶりに体に日光の光を当てる。

背びれがバチバチと青白く光り、日に当たらなかったため白くなっていた背びれが灰色に染まり始める。いや、濡れていたためその光の反射で白く見えていたのが、乾燥して元の色に戻ったのだ。だが再び移動するのか、ゴジラは再び水面に体をたたきつけて潜行し始める。

その時だ。

 

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!

 

 

それは水中にまで聞こえた。

いったい何の音だろうか。水中にいるため遠くの音がよく聞き取れるが、そのノイズにしか感じないほどの騒音だ。

まるでたくさんの羽音のようにも聞こえるが、それにしても音が多すぎる。一体何なのか、ゴジラは音が聞こえる方とは真逆、太平洋へとむけて移動を始める。だが音は一向に収まらず、むしろ近づいてきてると判断できた。

その時、背中に痛みが走る。それも1つではなく10、20、いやそれ以上にだ。

ゴジラはいったい何なのかと驚き、急速浮上をして水中から大飛沫を上げながら顔を出した。そしてゴジラが見たもの、それは空を覆い尽くす大量のトンボの群れであった。

 

「チチ、チチチチ」

 

1匹のトンボが上げた鳴き声は、まるで指令が伝播するかのように広がり、周りにいたトンボも同じ声を上げていく。その五月蝿さにイラついたゴジラは背びれを青白く光らせ、そして口からも光が漏れる。

だがその時、大量のトンボ“メガニューラ”が一斉にゴジラめがけて突っ込んできたのだ。その行動に驚きながらもゴジラは口から青白い放射熱戦を吐き、真正面から迫りくるメガニューラを一斉に焼き払っていく。だがその数はあまりにも多く、正面以外に側面や背面などからも襲い掛かってきたため、ゴジラの体はすぐにメガニューラに覆われていき、その姿もまともに見えなくなっていった。

ゴジラの体に張り付いたメガニューラたちは、その尻尾の先にある鋭い3本針のうち、中央の長めの針をゴジラの皮膚に突き立てる。そして根元まで深々と刺した後、その尻尾にもわかるほどに何やらカラメル色の液体が胴の方に流れていく様子がはっきりと映る。

 

「グルルゥ……!」

 

ゴジラは体に纏わりつくメガニューラを鬱陶しく思い、それを吹き飛ばそうと背びれをチカチカと不均一に光らせ始める。そして体が青白く光り始め……なかった。

 

「グォォ……!?」

 

ゴジラはまさかの事態に困惑した。体内放射を使おうとしたとき、一気に体から力が据われる感覚に襲われたのだ。それが一体何なのか、その目で見渡すと……。すぐに判明した。メガニューラだ。

そう、メガニューラは尻尾の針からゴジラのエネルギーを吸ってるのだ。そのため体内放射を使う分のエネルギーを吸うことで攻撃手段を封じたのだ。

それにゴジラは困惑したがすぐに何するか考え付いたため、小さく唸ってその身を海中に完全に沈めていく。そして勢いよく水深が深い所へと潜っていく。だがそれでもメガニューラは引き剥がれず、がっしりと尻尾を刺したままだ。

その時、ゴジラが自身の体をスクリューのように何回も捻る。その遠心力は壮大なもので、メガニューラは無理やりゴジラの皮膚から引き剥がされ、そのまま水深100m弱の水中に漂うことに。メガニューラは尻尾を忙しく動かして水面へと向かうが、この時複眼が後ろを捉えた。ゴジラから青白い光が発してるのを。

 

「グォォァァァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

その時ゴジラが吼え、そして水中にいるメガニューラたちは、この後襲い掛かるエネルギーによって体を木っ端微塵にされてしまった。

そして水中で起きたゴジラの体内放射による大爆発は、海面に高さ100mは及ぶ大きな水柱を作り上げた。その衝撃は水中にいたメガニューラだけで出ではなく、空中にいたメガニューラにまで衝撃波を伝えたため、同時にこの海域にいたメガニューラの大半がこれによって一気に半数以上が衝撃波などで死滅した。

残った10匹にもならぬメガニューラは困惑した。数で圧倒していた自分たちがたった1体の獣にここまでされるなんて。この数ではエネルギーを吸えるだけ吸っても、王に与えるための栄養としてはあまりにも少なさすぎる。そしてゴジラも水中に潜られたため自身の適正では潜れても追いかけることはできない。

メガニューラたちはそのまま引き返そうとした。

その時、水中から再びゴジラが現れた。その目は先ほどの鬱陶しさが無くなったからか眉間に刻まれていた深い皺は無くなっており、ただまだ鬱陶し気に空を見上げる。そこにいた残りのメガニューラはゴジラを見たとき、本能かわからないが、「こいつはやばい」と判断した。そしてマッハ1にもなるその速度で逃げ出そうとするが……。

この時ゴジラの背びれが光り始め、口内も青白く輝き始める。そしてゴジラが口を開いた瞬間、青白い光、“放射熱戦”がメガニューラめがけて手放たれた。

それによって最初の1匹が一瞬で燃え上がる。他のメガニューラはとっさに反応して一気にばらけて逃げ出したが、ゴジラはそのまま首を動かして熱線であたり一帯を薙ぎ払い始めたため、残りもそのまま焼き払われ、燃える残骸が海へと落ちていく。

 

「グルルゥ……」

 

周りを見渡し、数匹逃げられたがメガニューラが全滅したことを確認したゴジラは小さく唸り声を上げる。あちこちに刺さった傷もすでにすべて治っており、今となっては無傷も同然だ。

ゴジラは今まで吸ったエネルギーが無駄になったと怒りながら、再び原潜を襲うことにした。そして水中を進み続けること数時間。1隻の原潜が視界に入り、ゴジラはそれを襲うことにした。

それにより再び原潜が行方不明になる事件が多発し始め、後に日本から調査船が派遣されることとなるが、それはまた後の話である……。

 

 

 

 

 

その内容はすでに学園のテレビでもニュースとして流れていた。丁度夕食時だった生徒たちは食堂についてるテレビに全員が注目していた。

 

『~そのため市民の皆さんは用のない時に外へ出るのはご遠慮ください』

 

「これ、メガニューラじゃね?」

 

その時食堂で一人男の声が響く。一夏だ。現在なんか最近周りの女子たちから少し冷遇されてるためか、基本的に箒、セシリア、鈴、ラウラと一緒に行動することが多くなった彼だが、いきなり声を上げたため箒たちは驚きの顔を向ける。

それと同時に全員は一斉に一夏の方を向いたため、彼はビクリと驚きを見せるがなぜこう向かれたのかすぐ把握したのか、少し苦笑いを浮かべながら頬を掻いてる。

 

「一夏、メガニューラってたしか、おおむかし生き物図鑑に載ってたトンボのことだよね?」

 

「あぁ、そうだな……って鈴、よく覚えてたな」

 

「だって飽きるほどあんたがいろいろ言ってくるから覚えた……じゃなくて、あれって本当にメガニューラなの?」

 

「かもしれない、の可能性が高いけどな。でもあんなに大きなトンボ、今の地球じゃ作れないし。あれって地球の酸素濃度が今より濃ゆかったからあそこまで大きくなるんだろ?前に読んだ本だとどこかの研究所が、たしか30センチほどの大きなトンボを作り上げたっていうぐらいだし」

 

結構博識なことに周りが関心の声を上げる。好きなことだから覚えた知識。こういう時にしか使えないが周りには大きな情報となる。

 

「ね~ね~、ほかにどんな情報があるの~?」

 

この時本音が一夏に問いかける。これを皮切りに一夏に向けて様々な質問を周りにいた女子たちが問いかけ始めたのだ。それの対応に追われる一夏だが、周りが話しかけるようになってくれたのか少しうれしそうだった。

 

 

 

 

 

そのころ職員室でも、一夏たちが見ていた映像が流れていた。

 

「あれってメガニューラじゃない……。てことはもう脱皮したの!?」

 

職員室にいた燈はその内容に驚き、座っていた席から急いで立ち上がり、備え付けのテレビの方へと寄る。彼女の目に映るのは東京湾へと向かうメガニューラの群れが映る映像。そしてすぐにニュースキャスターの姿に映像は変わるが、燈は次の話題に入るまで画面の前にいた。

 

「あの、家城先生……メガニューラって……?」

 

彼女の言葉が聞こえてたのだろう、教師の1人が彼女に近づく。

 

「今から3億5920万年前から2億9900万年ほど前の石炭紀に生息していた、簡単に言えばとても大きなトンボね。ただ大きさから換算して、速度はマッハ1になると考えられてるわ」

 

ここでもメガニューラの説明がされる。

 

「さすが専門学だから強いわね」

 

「てかマッハ1とか早すぎない……?」

 

「ISで一応振り切れるけどあの数でこられたら平気でいられるかしら……?」

 

周りの教師たちがそのことについて話し合い始める。空飛ぶ相手だと、ISが相手としてぶつけられる可能性が高いのだ。もしかしたら自衛隊以外に自分たちも出ないといけない。

前の襲撃以降練度を上げることになったため前より強くなった彼女たちであったが、流石に不安がよぎるのか苦い顔をしている。

その中で燈は何やら問い詰めたかのような顔で何かぶつぶつ呟いていた。

 

「いや、まさか……でも……さすがに、ない、よね……」

 

「ど、どうしたの……?」

 

燈がぶつぶつと何か言ってるのが気になったのか、数学担当教員、大和 実里(だいわ みのり)は少し不審げに燈の顔を覗き込む。それに気づいた燈は「大丈夫」と言ってるが、その目は少し泳いでいる。それがいったい何なのかとても気になってしまい、彼女は燈が折れるまでそのことについて聞いてみた。

最初は知らないふりをしていた燈だったが、その強い押しに負けたのか渋々ながらもそのことを話す。

 

「その、たぶん無いと良いなっていう願いなんだけど、メガギラスが出そうなのよね……」

 

燈が自身のパソコンを弄り、そして見せたのは1つの化石であった。体長約15m。爬虫類のような顔に蟹のような鋏を持つ前脚。そして3対6本の足を持ち、その体調に及ぶ大きな羽4枚を持っており、さらには長い尻尾を持つトンボと呼ぶには禍々しい姿をしていた。

 

「これって?」

 

「メガギラス。最近巷で話題になってるメガヌロン、メガニューラの親玉のようなものよ」

 

「親玉って?」

 

「敵の総大将のようなものってことよ」

 

この時金髪のアメリカ人教師のアリスが隣にいた教師に聞いていたが、燈はそれをスルーして話を続ける。

 

「この化石を発掘されたのは面白いことに中生代中期から後期にかけて。この時期にメガヌロンの化石は発掘されてないけど、メガニューラは石炭紀の地層と白亜紀の地層の両方から発掘されてるの。実際は相当長く生きた種なんでしょうね」

 

そう説明しながら次々とメガニューラやメガギラスの化石の画像を展開する燈。周りの教師もそれにくぎ付けに飼っており、彼女の周りに人だかりができている。

 

「これは何の集まりだ?」

 

その時人盛りの向こうから凛々しい声が聞こえた。そしてモーゼの十戒のごとくそこに1本道ができ、その延長線上にいたのは織斑千冬である。

 

「あ、織斑先生……。じゃなくて思い出しました!織斑先生……もしかしたら、私たち教員組も招集かかる可能性が高いです……」

 

「何……?」

 

いきなり言われた言葉に眉を顰める千冬。その一言で一斉にざわめき始める教師たち。

 

「それはどういうことだ?」

 

「正直メガヌロンは場合によっては、最悪街を潰せば進行は一応止められるんです。ただメガニューラとなると移動手段が飛行になるため、行動範囲に制限が消えるんです。そしてもし今いる、普通のトンボ同様の挙動ができるとしたら……。ただ可能性としてはメガニューラはメガヌロンより外皮が硬くない可能性が高いです。理由は空を飛ぶためとなるとその分機動性等々を考えないといけないため、無駄に硬い鎧より素早く動いて回避重視にする方が効率的ですしね。まあここまでは半ば私考えのようなものです。もし攻めてきたりしたのなら、マシンガンみたいな弾幕を張れるものがイイかと」

 

ここまで考えをまとめることができるのかと、周りの教師たちはお驚きを隠せなかった。その中千冬は燈の元へと近づき、彼女の肩に手を置く。

 

「家城先生。私が怪獣学を再びできるように上に言いつけてきます」

 

「え?」

 

「当たり前です。確かにこの学園にはそういうのを嫌う人が多数いますが、そういう情報は私たちではしっかりと伝えることができません」

 

「本当ですか!?それならお願いします!」

 

燈はまた復帰できることがうれしいのか大きな声で返事する。それにはんのうして遠巻きにいる教師の何人かが彼女をにらみつけるが、それを察知した千冬が睨み返して沈黙させた。

そして千冬も仕事に戻ろうとしたが、この時燈が口を開く。

 

「そういえばまだこっちには来てませんけど、学年別タッグトーナメントとか警備、大丈夫なんですか?」

 

燈は今度あるイベントについて疑問を持った。

このIS学園は、神奈川県横浜市の三笠公園から東北に3キロ離れた場所に、IS乗りを育成するための教育機関として人工島に作られている。近くには過去にゴジラによって壊滅状態になった八景島があり、結構見晴らしのいい場所でもある。そのためこのメガニューラが場合によっては双眼鏡などを使えば確認できないこともない。

それを思い出し、顔を青ざめ始めた教師たちは、一斉に動き出していろいろと確認を取り始める。燈もその中に交わり、主に警備用のISをどう配備するかの検討案を出していく。

こうしてる真にもトーナメントの日まであともう少し。果たしこんなので大丈夫なのだろうか……。

 

 

 

 

 

放課後、学園の第3アリーナでは、もうすぐ始まるトーナメントに向けての練習を励む生徒たちが多数いた。その中で1年の専用機たちも集まっており、お互いのタッグで組んで最終調整等に入っている。

その中に交じるように2人の訓練機持ちの生徒がいた。一夏と箒である。

まだお互いにペアが決まっておらず、仕方ないため軽く試合をしていたはずなのだが……。

 

「い、一夏、落ち着け!」

 

「ぉあああ!」

 

それは鬼気迫る迫力であった。お互い打鉄でありながらも一夏は積極的に攻撃を仕掛けており、箒が離れようとしてもその距離を無理やり詰めて切りかかる。その連撃に箒はどうにか受け流す程度の動きができず、攻撃するタイミングを掴めずにいた。

 

「うわー、一夏すごいやる気ね」

 

「ふむ、さすが教官の弟だ」

 

鈴とラウラはその一夏の気迫に感心している。だがセシリアは眉をハの字に曲げており、少し残念そうな顔をしていた。

 

「一夏さんと組めなかったのは残念ですわ……」

 

「まぁそれは分かるわ。……正直それで少し安心してるけど」

 

「何か言いまして?」

 

「べっつにー」

 

セシリアから睨まれた鈴は飄々とそれ受け流す。

 

「それにしても一夏は残念だったな……。白式がないばかりに……」

 

「そうね……」

 

彼女たちは少し同情が混じった視線で、一夏を見た。

 

 

 

 

 

一夏は苛立ちを隠せなかった。

答えは簡単だ。白式が修理中のため、学年別タッグトーナメントに出場することができないことに。

聞きに行ったのは数日前のことだ。職員室に訪れた一夏は福担任である真耶に専用機じゃなくてもトーナメントに出れるかを聞きに行ったのだ。それで真耶が確認に行ってる間偶然現れた姉である千冬にも聞いたところ、「それはできない」と言われたのだ。

彼は強いショックを受けたがそれでも食い下がり、出たいという強い意志を彼女に見せる。途中戻ってきた真耶もどうにかしようとしたが、千冬が悔しそうな声で「すまない……。私ではどうしようにもできないのだ……」と言われたためおとなしく引き下がった。

だが、これを偶然どこかのクラスの生徒が聞いたのか、他の女子生徒がチョクチョク彼を馬鹿にしてくるようになったのだ。一夏は普段はそう簡単に自分のことで怒ったりはしない。実際仲の良い女子生徒たちが彼をかばったりするが、問題解決の糸口は一切見えないのだ。

これは自分が航に無理やり挑んだ結果だと知っている。正直コレが八つ当たりと理解している。

だが正直許せなかったのだ、自分がうぬぼれていたことを。慢心はすでに楯無との模擬戦で砕かれていたと思っていた。だが奥底にはその慢心があり、それが原因になったのだと一夏は自覚している。

ただ強くならないといけない。だがその焦りが、一夏の動きを大振りにさせたりする。

 

「っ、ここだ!」

 

「しまっ……!?」

 

そのとき、箒が一瞬の隙を見つけたのか、逆袈裟で切り上げる。一夏はそれを近接ブレードで防御しようとしたが、当たり所が悪かったのか箒が狙っていたのか分からないがブレードが弾き飛ばされ、両手ががら空きとなってしまう。

そして箒は一夏の首筋に近接ブレードの刃を軽く当て、一夏は降参の意志を示した。

 

「一夏、いら立つ気持ちはよくわかる。だが……」

 

「わかってるよ……。だけど……!」

 

一夏は叫ぶかのように言う。箒も困り顔を浮かべており、チラチラと鈴たちの方を見る。だが彼女たちは目で「頑張れ」と返すため、箒はオロオロしながらも一夏に声かけた。

 

「一夏、今そう焦っても何も変わらんぞ。今はその気持ちを糧に強くなることが先決だ」

 

「……そう、だな」

 

箒は前と比べて別人と言わんばかりに、落ち着きを見せている。そのためか一夏は先ほどよりは落ち着きを見せ始め、そして深呼吸をした後に雪片二型を強く握りなおす。

そしてほぼ同時にスラスターを吹かし箒の近接ブレードと一夏の近接ブレードの刃がぶつかって火花を上げた。

 

 

 

 

 

そして数日後、学年別タッグトーナメントが開催される。




その、すみません。ゴジラが体内放射を覚えたことでメガニューラの退治が結構楽になってしまい、さっさと戦闘シーンが終わってしまいしました……。予定ではあと1000文字は足されるはずだったのですが、気づけば……。
次のゴジラの登場は、予定通りなら原作3巻目のとあるイベントで出ると思います。そちらの方ではもっとまともな戦闘になる予定です。

そして書いてて思うのが、GODZILLA2014張りに怪獣の出番少ないなぁ……。まあ、どうにか改善する予定です。


まあ次回はようやく学年別タッグトーナメント。はたしてどうなるやら……。


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学年別トーナメント

メリークリスマス(棒読み)


では本編どうぞ


今日は学年別タッグトーナメント当日。この日、生徒の人数的問題でアリーナは複数使われて大会は行われる。

その中で一夏は、小さくため息を漏らしながらこれから映されようとしているトーナメント表を見ていた。

 

「白式、戻ってきたけど相方はランダムか……」

 

そう、一夏は白式が帰ってこない場合は大会の出場はできなかったのだが、急きょ戻ってきたため大会に出ることになったのだ。だがすでに相方を決める期限は過ぎており、他の専用機持ちもすでに相方を持っている。そのため一夏は即席で相方を決めるくじに頼ることになったのだ。

 

「それは無理ありませんわ。一夏さんの白式が戻ってきたのは一昨日のため、実際はトーナメントにも出れないはずだったんですわよ?」

 

「だけど、航が出れないから急きょ出るようになって」

 

「一夏、練習をしていないが大丈夫か?」

 

ラウラの言葉に小さくため息を漏らす一夏。これは完全な死亡フラグだ、そう言い聞かせて割と生存フラグになったりするかもしれない言葉を言い放つ。

 

「大丈夫じゃない、問題だ」

 

「そういう返しができるってことは問題ないわね」

 

「いや、鈴!問題しかないから!」

 

珍しく大声を上げる一夏。

実際一夏は不安なのだ。あの時、航の親のことを馬鹿にした女子生徒に反論したが、あの日以降周りの女子たちからの目が、自分を敵視するものに変わりつつあることに。

分かっていたはずだ。ここはIS学園で、女尊男卑に染まった人が沢山いるということを。いくら鈍感な一夏でも、流石に味方がいないとここで3年間まともに過ごせるわけがない。その矢先でこの出来事のため、一夏はあの時反論したことに反省はしたが後悔はしていなかった。

 

「っと、どうやら出るみたいだぞ」

 

ラウラの言葉と共に皆がトーナメント表へと顔を向ける。そこに映っていた名前に呆然とする。

 

「なんで、だ…?」

 

「うそ……」

 

周りもその名前に驚きを隠せない。なぜなら、そこに書かれていたのは「篠栗航」文字が書かれいたのだから。

 

 

 

 

 

学年別タッグトーナメントで一夏は、この状況に困惑を隠せなかった。相手は一夏に顔を向けず、それどころか完全に背中しか見せていない。その相手とは……。

 

「航、久しぶりだな……」

 

「……」

 

そう、まさかのパートナーが航だったのだ。確かに前に千冬がトーナメントまでに復学すると言っていたが、それが今日、しかもこの時とは思わず、実際一夏も戸惑ってしまう。

そしてトーナメントのパートナー申請をしてない一夏は自動的に抽選機によって相手を選ぶのだが、それで今日戻ったばかりの航。しかも機体は四式機龍ではなく打鉄だ。

そして現在、2人は男子専用更衣室にいる。だがその空気は鉛のように重く、どう話しかけようにも、鋭く細くなった瞳が一夏を無言で見つめるだけだ。

 

「あれ、航。背中……」

 

このとき一夏は気づいた。航の背中を見た際に、無理やり背びれを切り落とされた痕があるのを。だがその大きさが今までと違って大きくなってるため、若干不気味にも感じる。

 

「なあ、航。この前ニュースになってたけど、北斗さんと月夜さん……」

 

「……ぁ゛」

 

この時、初めて航から一夏に目を合わせる。だがその鋭く白目に近い睨みは一夏の行動を制限するには十分であり、ただ一夏は息を飲む。

 

「ま、まあ、トーナメントのでコンビになったから、よろしく……」

 

その寂れた背中を見る一夏。だがこの時、航が小さくうなずいてくれたため、一夏は少し安心を覚えた。

一夏は機龍の暴走で、周りがボロボロになったことに怒りを忘れたわけではない。だからと言って航にその件で怒鳴り散らしても意味がないと知っており、とりあえずこの状況でも少しずつコミュニケーションを取っていくことにしたのだ。

そしてアリーナの方では、これから試合が始まるという挨拶等々が行われており、観客たちもそれをワイワイガヤガヤと騒がしくしながらも聞いている。

 

「航、もうそろそろ試合始まるみたいだぜ。ここにモニターあるから一緒に見ないか?」

 

一夏はそう話しかけるも航は無視する。そのため苦笑いを浮かべ、諦めた一夏はモニターからアリーナの様子を見ることにした。

なお一夏・航ペアが出るのは第0回戦である。これは一夏たちの復活で人数の都合上どうやってシードを付けるか悩んでた教員たちが、急きょ作ったものであり、おかげで一夏たちはこれに勝ってやっと1回戦ということになる。

そしてこの学年別タッグトーナメント、専用機持ちが例年に比べて多いためかレギュレーションが組み込まれており、そのおかげで学生は専用機持ち同士、代表候補生同士で組むことが禁止になっている。そのためセシリアは箒と、鈴は同じクラスの子と、ラウラは同じ学年のドイツの子と組んでいた。

なお一夏と航だが、本来専用機持ち同士になるかもしれないが現在航の機龍は使用停止。そして戦いで注目を集めるためという目的もあって、上層部の方で男同士で組むように仕込まれていたのだ。だが本人たちはそのことを知らないため、上の方だけの秘密となっている。

そのころアリーナの方では第一回戦の試合がとても盛り上がっている。1年生の試合であるが専用機持ちが学年の中で一番多く、おかげで様々な専用機が見れるため盛り上がりが異常なのだ。

そして一夏・航ペアの番が来た。一夏は白式を展開してカタパルトからさっさと射出。航も打鉄を纏ってカタパルトから射出される。

そして白式は空中で浮遊するが、航の打鉄はそのまま地に落ちてガリガリと地面を削りながら着地する。その様子を見ていた観客たちは大きくブーイングを上げ、御来賓の企業の人たちは何かひそひそと話し合ってる。

その中一夏たちの対戦相手の金髪と茶髪の女子たちは航の行動に眉を顰め、ヤジを飛ばすかのような物言いで挑発するが……

 

「貴方みたいな人間は本当に屑よ。だからさっさと倒してあげるわ。あんなでかい人形がないと弱いでしょうし、誤れば許してあげないこともないわ」

 

「本当に人間の屑ね。そんなんだから貴方、家族が死ぬのよ。お分かり?」

 

そういってニヤニヤと笑みを浮かべる2人。それに航が反応するかと思ったが、一夏が先に反応した。

 

「おい!何言ってるんだ!航、気にすんな…、航……?」

 

一夏は、自分を無視する航に苦笑いを浮かべそうになるが、彼の顔を見たとき少し表情が凍り付いた。

航は顔の表情を一切変えず、ただ物を見るような眼で彼女たちを見ている。

 

「ひっ……」

 

「なによ、その目……」

 

それは鋭く、虚ろな目だった。まるで深い深淵のような、のぞき込もうとすればそのまま飲み込む虚無。その眼力にビビったのか2人は少し体を震わせ、手に持っていたライフルが震える。

 

『それでは、試合開始!』

 

アナウンスと共に試合開始のブザーが鳴る。

それと同時に航はスラスターを吹かして一直線に女子がいる方向へと飛び始めた。

 

「天音!いくよ!」

 

「うん!」

 

彼女たちの作戦は、相手は近接装備しか持っていないため、中遠距離で攻撃をして仕留めるという単純なものだ。

そして天音と呼ばれた女子は手に持っていたライフルを航に向けて標準を向け、そのまま引き金を引いた。そしてパン!と銃声が響く。

銃弾はそのまま航に直撃しようとしたが、航がそのまま急な角度での方向転換を行ったためそのまま躱される。

 

「嘘っ!?」

 

「ミーナ!止めちゃダメ!」

 

ミーナと呼ばれた金髪の女子は驚きの表情から気を引き締める。それで引き金を引き続けて2人は航めがけて銃弾を撃ち続けた。

 

「航!?」

 

一夏は航が真正面から突っ込んでいったのに驚きを隠せなかった。いくら打鉄が防御が硬く、近接重視の機体とは言え、無理やり突っ込めばそのまま銃弾の雨にさらされて負けるのがオチだ。そして航は無理やり体をひねるなどをして回避を行っているがそれもいつまで持つかわからない。

そのため一夏も雪片二型展開、そしてスラスターを吹かしてミーナと天音の間を無理やりすり抜け、そしてミーナめがけて雪片二型を振り下ろした。

 

「きゃあ!」

 

いきなり一夏が現れたように感じたミーナはそのまま地面に叩き落され、そのまま一夏は追撃のため地面へと向かう。いきなりのことで驚きながらも反応した天音は一夏めがけてアサルトライフルを撃とうとしたが。

 

 

「……葵」

 

「えっ……?」

 

天音の後ろには航がいた。彼の両手に近接ブレードが2本展開されており、そのまま右手に握っていたブレードで袈裟斬りをしようと振り下ろす。だが天音は急いで近接ブレードを呼び出して展開。そして両手で持ってそれを受け止めると、横腹に強い衝撃が走った。

航が横腹にミドルキックを食らわせたのだ。

 

「きゃあ!?」

 

そして吹き飛ばされた天音が次に見たものは、その顔を手で鷲掴みにしようとする航の姿であった。それを脳が認識する前には顔面をアイアンクローのごとく鷲掴みされ、そして航がスラスターを吹かすことによって勢い良く地面にたたきつけられ、大きく粉塵が舞い上がった。

このとき絶対防御が働いたため体にダメージはほとんどなかったが、たたきつけられた時の衝撃でラファール・リヴァイブのシールドエネルギーを大きく消費し、それと同時に意識が吹き飛びそうになる天音だったが残った意識を集中して手に握ってる近接ブレードを航の首に叩き付けた。

そのため頭がガクンと落ち、彼女の顔を掴んでいた手の握力が緩んだため天音は上手く気絶したと思った。だがその時、うつむいていた航が顔を上げる。その彼の目を見た天音は、とてつもない恐怖を感じた。

そして、航が手に持ってたブレードを、天音に振り落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

ここは学園から北側の海岸上空。そこに2機の教員用ISを纏った黒髪と茶髪のIS学園教員が海の方を見ながら何やら通信を開いている。

 

「こちら一番機。学園上空、異常なし」

 

『こちら学園、あと30分で交代だ。それまで頑張ってくれ』

 

そして通信が切れる。現在彼女たちがしてるのは、前の学園への襲撃があったため、次それが起きないようにするための防衛だ。東西南北4方角に2機ずつISが配備されており、武装は前の無人機戦の事も考えており、取り回しの良い強力な武器やワイヤーを格納領域(バススロット)に装備していた。

なおISが2機ずつなのは、下手に多く出すと周りからの顰蹙を買うということでこうなったらしい。

それを知ってる教員たちはため息を漏らしながらも警備をしている。

 

「あともう少しで交代よ」

 

「はーい。それにしてもトーナメント、私も見たかったなぁ……あの男子たちの見たかったし。」

 

現在彼女たちの通信にはアリーナ内の情報等が流れてきており、その中に試合の実況なども混じってるのだ。そのため結構重要ながらも暇なこの任務の時間を潰すため、護衛をしてる間このお通信を開きっぱなしにしてたのだ。

 

「あ、そういえば男子チームも勝ったね。まあお互い近接が得意だから分断と奇襲を上手くすれば勝てるって思っていたし」

 

どうやら一夏たちが勝ったらしく、教員の1人が少しうれしそうな声を上げる。反対側の方角の教員の悔しそうな声が通信に流れてしまうが、まあ誰もそのことは聞かなかったことにしていた。

 

「よく病み上がりからここまでできるよね……。ねえ、男って皆こんないきものかな?」

 

「さあ?」

 

彼女たちは男性経験がないため、一夏たちがその男性の基準となってしまう。

その時、他の教師から無駄口叩くなと注意をくらう。即通信ができるように通信は開きっぱなしになってるため、この会話すべて丸聞こえなのだ。

仕方ないためほかの話題に変える2人だったが……。

 

「あの大きなトンボ……名前忘れちゃった。あれが来たりして―」

 

「まっさかー」

 

「さて、今日の試合もあともう少し。それまで気を引き締めましょ」

 

そういってお互い笑い合う。そう、ここを攻めても意味がない。前に飛んで行ったトンボは南へと下っていってた。そのため、もし攻めてくるなら南側の可能性が高い。その時は燈に教えてもらった方法で落とせばいいだけだ。

 

「虫が苦手とか言ってられないじゃない……!」

 

彼女はそうつぶやいた。

その時、ISの音響センサーにとあるノイズのようなものが走った。

 

 

……ブブブブブ

 

 

「何、これ……。ねえ、今何か」

 

「ええ、聞こえたわ。故障、かしら……?」

 

そのノイズのような音はどんどんと大きくなり始めたため、何かが近づいてきてると判断した彼女たちは、東、南、西の方向にいる教師たちに警戒を強めるように言う。

それは突然のことであった。

 

「何よ……、あれ……!?」

 

ハイパーセンサーに映ったのは、はるか遠く、東京都方面から向かって生きている黒い靄のようなものであった。それが近づくにつれてどんどんと鮮明になっていき、彼女たちはそれの正体がわかったとき驚愕の表情を浮かべた。

 

「総員、武器を展開!お客さんが来たわ!」

 

彼女の声とに反応し西、南、東に配備されていた教員たちは即座に射撃武器、しかも弾幕が張れるものを展開し、お客さん(メガニューラ)に銃口を向ける。本音はメガニューラがこちらを無視してどこかへ飛んでいってくれたらうれしいが、実際はそうならず攻撃しようと尻尾を曲げてきたのだ。

 

「総員、撃てぇ!」

 

そして引き金が引かれ、学園のすぐの海上では戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

更識楯無は、現在学園に向けて帰路をたどっていた。そして学園行きのモノレールの車内、誰も乗っていない中彼女は、小さくため息をつきながら家での出来事を思い返す。

まず最初に見たのは、楯無の父から渡された資料だった。それには様々な紙媒体と数枚の写真だ。そこに映されていたのは航の両親と、自分が送り出した篠栗家護衛の部下の変わり果てた写真だったが、暗部としての仕事に慣れていた楯無は眉一つ動かさず、どちらかというと怒りの混じっていた表情でそれらに目を通した。

むろん、自分の偽物の写真にもだ。

その後は家での尋問が始まる。楯無はその日の自分がした出来事をすべて包み隠さずに話し、アリバイとして虚に電話をして証言をしてもらい、何より写真に写っていた自分らしき女が刺された写真の刺された箇所を母に見てもらうことで今自分ができる分のアリバイを証明し、その後は遺体が除かれた航の家に行って証拠見聞。

その時偽物が刺されたと思われる刃物を縁側の下で発見し、それをDNA鑑定にまわした後は他の証拠となりそうなものを見つけていき、その後は偽物に彼の両親を殺すように指示した可能性の高い日本政府に大きく探りを入れることにする。

だがここまでの急務のストレスにより疲れが大きく出たため家で数日の療養を取っていたのだ。

その後彼女は現在、学園に向けて移動していたというわけである。

 

「あの女、いったい何者なのよ……。どうして私に化けたのかしら。更識の名を落とすため?航の中を引き裂……かれちゃったな……絶対許さないわ。見つけたら死なない程度に殺してやる」

 

さらりと言う楯無だが、その目には光が宿っていない。

 

「あ、そういえば今日は……」

 

楯無は今日は学年別タッグトーナメントの1年生の部の日だったことを思い出し、一夏がどれほど強くなったのかが気になるのと、航が出るのか少し不安に思っていた。もし出ているのだとしたら、機龍は手元にないはず。それでどう戦うのか……。

とても不安で仕方ない楯無だったが、その時モノレールが急ブレーキをかけたため椅子から飛ばされるが、空中で1回転して見事に着地を決める。その間も大きな金属音をたてながらモノレールはブレーキをかけ、楯無はいったい何があったのかと急いで先頭車両に向けて走り抜けていく。

学園息のモノレールは基本的に無人運転のため相当ながない限り止まることは無い。だが途中で急ブレーキをかけたということは道の先に何かがあったということであり、さっさとたどり着いた楯無が見たものは、学園に向けて大きなトンボが飛んでいく光景だった。

 

「あれってこの前テレビに映ってたトンボ!?名前は……えっと、メガニューラ?」

 

これじゃ航に笑われるなって心で思うも、彼女はその光景に驚きを隠せずにいた。数は約30ほど。だがその大きさは遠くながらもとても大きく、体長大きい個体で4mはあるのではないかと思われる。それらが集まってる場所は丁度トーナメントが行われているアリーナ。楯無は現状を聞こうと千冬に電話をかけようとスマホに手を伸ばした。

その時、大きな羽ばたき音がしたため右の方向を向くと、そこには今にもモノレールの側面に突っ込んできそうなメガニューラの姿があった。

 

「え、嘘」

 

そしてメガニューラは楯無がいる車両側面部めがけて突っ込んだ。




始まるは悲劇か惨劇か。


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メガニューラ

皆さま、遅れながら新年あけましておめでとうございます。今年もインフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍をよろしくお願いします。


えー、年末年始は広島で、「大ゴジラ特撮王国 HIROSHIMA」を見て来ました。写真は自身のツイッターに上げてますが、他にもあの怪獣たちの着ぐるみもあり、とても興奮が抑えられない状況でしたね。おかげで「ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ」も購入してしまいましたし(肩がもげるかと思った)。




えー、そんなこんなで、銀龍最新話、どうぞ!


ここは第3アリーナ。そのの中では第1回戦の7試合目入っており、アリーナではいまだ白熱とした試合を繰り広げられている。

セシリアは結果一緒に組むことになった女子と一緒に現在試合を行っており、すでに開いて1機を戦闘不能にして残り1機を倒そう相方と一緒に相手のシールドエネルギーを削り、そして勢いよく吹き飛ばされた相手の女子が見たのは、自分に向けて迫るラウラの姿だった。

 

「もらった!」

 

「しまっ!?」

 

そしてラウラがトドメにレールカノンを放とうとした。

 

 

ビィィィィ!!!!!!!

 

 

だがその時、アリーナ全体に響き渡るほどのアラートが鳴り、試合中の生徒含めて全員が動きを止める。

 

「え、何……?」

 

「これってどういうこと?」

 

「わかんないよ!?」

 

いきなりのことでざわめき始める生徒たち。これは御来賓の方々も例外ではなく、いったい何があったのかと近くにいた教員に説明を求める。それに困惑する教員たちだが、その時スピーカーから

 

『いきなりながら失礼します。このIS学園めがけて巨大トンボの群れが向かってきております。現在外の護衛中の教員たちが足止めをしておりますが、いつ中に侵入されるかわからないため、至急ご来賓の方々と生徒たちは近くの教員の指示に従って避難をしてください』

 

いきなりの説明に困惑する生徒たち。だがその時、アリーナの上空に1匹のトンボの姿が映った。翼長が5mほどで、それがどんどんアリーナの上空、生徒たちの目に着く場所へと集まってきてるのだ。その数は30とそこまで多くないようにも見えるが、実際の大きさもあってかそれの倍はいるようにも見えてしまうのだ。

 

「きゃあああああ!」

 

「何よこれ!」

 

あたり一帯は阿鼻叫喚。メガニューラが飛んできたことにより観戦席にいた生徒たちや、貴賓席にいた企業等の人たちもそれに驚きを隠せず、あまりの光景に悲鳴などを上げて急いで通路に向けて逃げようとしている。

ただ今回は前の無人機襲来の時とは違い通路が勝手に封鎖されるということはなく、まだ観戦席用のシールドは無事だ。ただ今は多くがパニックになった生徒たちを正気に戻しつつも動ける教師たちが彼女たちに避難誘導をしていく。

正直教師たちもこの光景に目を疑ったが、前に燈がいろいろ言ってたことを思い出して、少しでも平常心を保とうとする。正直自分たちがパニクったら生徒たちはどうなるか目に見えるため、どうにか理性を集合させて避難誘導していく。

その時、メガニューラはアリーナ上空のエネルギーシールドに張り付き始め、尻尾の先についてる針を天井の代わりをしてるエネルギーシールドに突き立てる。するとどうだ、刺さった部分のエネルギーが消滅し始め、そこからメガニューラが侵入してくるではないか。他のメガニューラも同じことを始めてドンドン穴が開き、そこからメガニューラが侵入していく。

 

「エミィ!お前は戦闘不能になった生徒を連れて引き下がれ!私が時間を稼ぐ!」

 

エミィと呼ばれたラウラの相方の生徒は驚いた顔でラウラの方を見た。ラウラはすでにレールカノンの安全装置を外しており、いつでもメガニューラめがけて打てるようになってるのだ。

 

「でもボーデヴィッヒさん!」

 

「いいから早くしろ!」

 

軍人に本気で怒鳴られたらどれだけ怖いか。エミィは引き攣った顔で縦にうなずくしかできない。

それを確認したラウラは少し穏やかな表情に戻って彼女に語り掛ける。

 

「大丈夫だ、後でちゃんと追いつく」

 

「ほ、本当ね?なら任せたわ」

 

そしてエミィは戦闘不能になった生徒を抱えてピットめがけて動き出す。

 

「チチチ!」

 

その様子を見て他メガニューラのうちの1体が彼女たちめがけて飛んだのだ。その速度はあまりにも早く、エミィたちも反応しきれてない。そのため襲われてしまうのだろうと思った。

その時、シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンから放たれた弾がメガニューラの頭に直撃し、頭がはじけると同時にその体が地面に叩き付けられる。

 

「行けぇ!」

 

その言葉で正気に戻ったエミィたちは、急いでピットに向かう。

そしてハイパーセンサーで、彼女たちがピットに戻るのを確認するラウラ。だが彼女は、正直この状況をどうするか、大いに悩んでいた。ラウラの機体、シュヴァルツェア・レーゲンの射撃武器は肩についてるレールカノンが1つだけ。他にはワイヤーブレードと両腕に装備されてるプラズマ手刀。実際近接機とお言える機体だから多数の相手には分が悪いのだ。

 

「さて、どうするか……」

 

先ほどの攻撃によってメガニューラたちが大きく警戒しだし、己も空に浮いてる中1体のメガニューラが突っ込んできた。

 

「はぁ!」

 

それにいち早く反応したラウラは左の掌をかざすと、突っ込んできたメガニューラの動きが止まる。いきなり動きが止まったことにメガニューラは奇声を上げて鳴くが、ラウラはそれを知らんとばかりにプラズマ手刀で頭を切り裂く。熱によって傷がふさがり体液を吹き出すことなく絶命したメガニューラを放っておいてラウラは次の目標めがけてレールカノンを撃とうとした。

その時、どこからか飛んできたレーザーがメガニューラ数匹を打ち抜く。それによって飛んでいたメガニューラが一気に離れ、ラウラは攻撃のあった方を向いた。

 

「この攻撃、セシリアか!」

 

「ラウラさん!」

 

そこに現れたのはブルーティアーズを纏ったセシリアだった。彼女のビットは多数の相手を攻撃するときにこそ輝くため、レーザーを撃って牽制をしていく。

だがメガニューラもバカではない。最初は撃ち落とされていたものの気づけば攻撃をロー回転で躱すなりしてそして幼虫譲りの堅い頭で頭突きを食らわせてくるのだ。正直これをまともに食らえばいくらISと言えども1tもある塊によって吹き飛ばされるのだからただでは済まない。ただ失敗して壁に突っ込んだメガニューラは、そのまま首が折れて痙攣しながら絶命してたりしてるが。

 

「ところで教員たちはどうしてる」

 

「大体は観客席にいた生徒たちの避難誘導をしていますわ。あと外にもISを纏った先生たちがいたはずなのですが……」

 

そういって上空に空いた穴を見るセシリア。そこからはメガニューラがいまだ侵入してきており、そこめがけてセシリアは弾を撃つが、破れたシールド部分が干渉してるのかレーザーが最後まで届かない。そして入ってきたメガニューラがそのまま地面すれすれまで急降下したり、シールドに沿って高速で飛んだりとしている。

その数に舌打ちを打つラウラ。だがその時、ラウラの通信に千冬の声が聞こえた。

 

『ボーデヴィッヒ!聞こえるか!』

 

「きょ、教官!?」

 

『教官ではない……まあ今は置いておくが、現在メガニューラが学園を侵攻してきている。そちらの様子はどうなってる!』

 

「はっ!現在セシリアとともにシールドを突破した虫を迎撃しておりますが、数が20はいると思われ……」

 

『わかった。ちょっとまってろ……オルコット。聞こえるな?』

 

「は、はい!」

 

いきなりの千冬に通信をつなげられたことに驚くセシリア。

 

『現在第1、2、3アリーナにトンボが襲来しており、各アリーナにいる教員、専用機持ちがそれの対処に当たっている。お前らのところにももうそろそろ山田先生たちが来る頃……来たか』

 

千冬のその言葉と共にがら空きになってるピットからISを纏った山田真耶と2人の教員が出てきたのだ。彼女たちは手に持ってるマシンガンの弾をばらまいてメガニューラを牽制し、真耶と共にラウラたちの元へと寄る。

 

「2人とも、大丈夫ですか!」

 

「は、はい!というかこれで足りますの……?」

 

「それはそうですが、実際外アリーナ外にもいるため、人員をそちらにも割いていますし……」

 

「なら自衛隊は使え……ここは治外法権だったな」

 

「はい。そのため職員も日本政府にその申請を早急に行ってるのです、が!」

 

その時メガニューラが突っ込んできたため、真耶はすぐに反応してスナイパーライフルを展開。そして銃口を即時にメガニューラに向けて弾を撃ったら、右複眼を破壊してメガニューラが悲鳴を上げて墜落する。そして真耶は、悲鳴を上げてるメガニューラに弾を数発叩き込んで、動きを停止させる。

その即時の反応に呆気にとられる面々。

 

「……先生、その反応速度はいったいどこで……?」

 

「私、サバイバルゲームがとても大好きなんですよ♪」

 

その言葉にその場にいた全員は目を点にするのだった。

 

 

 

 

 

箒は次一夏が出場する第1アリーナに来てから、のんびりとほかの女子たちによる試合を見ていた。すでに自分の出る試合は勝利を決めており、その後は相方と一緒にこのアリーナに来ており、現在隣に座ってる相方こと、有澤光と次の作戦会議や雑談をしていた。

 

「いけ!そこそこ!あ、終わった」

 

有澤は今あっている試合の応援とかをしており、それを箒は上の空と言わんばかりの雰囲気で試合風景を見ている。

 

「次は織斑君たちとの勝負だね」

 

「あぁ、そうだな……」

 

箒のテンションの低い返事に光は小さくため息を漏らす。1回戦を勝って以降なんかこの調子で、いまいち会話が盛り上がらない。

一体何なのか、光は顎に手を当てて考える。思いつくのは、次の対戦相手が学園で2人しかいない男子搭乗者ということぐらい。

それでなんとなく思いついたことを聞いてみた。

 

「ねえ、篠ノ之さんって織斑君のこと好きなの?」

 

「な、ななな!?」

 

いきなりの話題に顔を真っ赤にして狼狽する箒。周りの生徒もその話題に反応し、一気に顔を2人の方へとむける。それに驚く2人だが、光は箒の反応に手ごたえを感じたのか、少しニヤッと笑う。

 

「ねー、どうなのー?織斑君が好きなのー?それとも篠栗君ー?」

 

「ち、違う!」

 

箒の否定により生徒たちは興味を無くしたのか、観戦の方に戻る。

 

「なーんだ、詰まんないのー」

 

「べ、別にそんなわけでは…!だが私は一夏のが……」

 

「ほうほう?なら篠栗君は?」

 

「あいつはただの幼なじみだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「ニュースで見た通りあいつ、家族が……」

 

「あっ……」

 

思い出すは前に食堂のテレビで流れた航両親が殺されたという内容。それに同情するもの、歓喜するものと様々な反応が見られたがとてもいい気分ではない物であるというのは確かなものだ。

箒も航の両親がどういう人物だったかしっかりと覚えている。ただ彼の父親と自分の父親がとても仲が良かったのも覚えているが、なぜあそこまで仲が良かったのかいまいちわからないまま今に至っている。

 

「篠ノ之さん、優しいんだね」

 

「な、な、何を言ってる!わ、私は別にあやつのことなど……」

 

そう否定の言葉を言おうとした時だ。

その時、いきなり警報が鳴り、地響きのような振動が鳴り響く。

 

「な、何!?」

 

それにいきなりパニックになり始める生徒たち。またこの前みたいなことが起きるのか?そう思った矢先、アリーナのシールド天井部に複数の影が見えた。

遠目でそれが箒に一体何なのか最初は分からず、最初はこの前の乱入者が沢山来たのかと思った。だがアリーナのシールドを分解するように穴をあけ、入ってきたのはメガニューラの群生だった。

いきなりの虫の大群が入ったことに悲鳴を上げる女子たち。それはむろん箒も一緒で、その大きさにびっくりしてしまい尻もちをついてしまう。

 

「な、なんだあれは……!?」

 

メガニューラはアリーナの中を飛び回り中にいた生徒4人に向けて襲い掛かる。足でISを持ち上げようとするがISの重さでそれがかなわず、ただ尻尾の針を彼女たちめがけて突き立てようとしてるが、彼女たちからしたらシールドで守られてるとは言え、巨大な昆虫が手に触れられる距離にまでいて自分を喰わんとばかりに襲い掛かってきてるのだ。さすがにこれには悲鳴を上げることしかできず、万事休すかと思われた。

その時ピットから2つの影が飛び出してきた。一夏と航だ。彼らは武器が近接武器しかないが、アリーナで先ほど試合の終わった生徒たちがパニックを起こしており、それを逃がすために動いた様だ。

一夏たちはどうやら戦ってた女子たちから射撃武器をもらい、マシンガンをもらった一夏はその引き金を引く。まともに射撃訓練をしてないためあらぬ方向に飛んでいくが、それがメガニューラ達に警戒の態勢を作らせ、動きをけん制するには十分だ。おかげで女子たちに引っ付いていたメガニューラたちも剥がれ、彼女たちを逃がそうとする。

その時、航がメガニューラの群れの中に突っ込んだ。そして手に持ってた武器の引き金を引くや、弾が少し進んだと思ったら大爆発を起こし火の玉になったメガニューラた多数落ちていく。

 

「一夏!」

 

箒は叫ぶがその声はシールドに阻まれ聞こえない。どうにか応援だけでもしたいと考えを巡らせるが、丁度目の前のシールドに燃え盛るメガニューラが激突したことによって悲鳴を上げ、竦みあがってしまった。

 

「早く!焦らないで!」

 

その時箒の耳に避難誘導する教員の声が聞こえた。有澤が「早く逃げよう!」って言って彼女の手を引く。だが箒は踏みとどまって一夏の方を見た。

 

「一夏たちが戦ってるのに、私は無力だ……!」

 

箒は悔しそうな顔で血が出るのではないかというほどの力で、己の拳を握る。ただ彼女は、アリーナ内で戦う一夏たちを見ることしかできず、そして有澤に引っ張られて避難する生徒たちの波に飲み込まれていった。




うーん、軍勢系は書くのがとても難しい。


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激戦のアリーナ

どうも、履歴書が終わったけどテストの追試が待っていて若干ブルーな妖刀です。

さて、今回の話はメガニューラが現れたIS学園。その中航は……。



では本編どうぞ!


時は少し戻り第1アリーナ。ここでもいきなりのメガニューラに大混乱を引き起こしており、次の試合のためピット内で待機していた男2人、特にただ専用機持ちの一夏は女子たちがメガニューラに襲われてるのを目撃し、真っ先に白式を展開。そしてピットから飛び出した。

だが一夏は目の前の景色に絶句してしまう。

 

「なんだよ……、これ……!」

 

ただ一夏の手も震えていた。この前の無人機の時とは大きく違う、たくさんのメガニューラが空を飛ぶ空間。まるで大昔にタイムスリップしたのではないかと錯覚を受けるが、嫌でもISのアラートが反応して自分を現実に引き戻す。

 

「いやぁ!」

 

「誰か助けてぇ!」

 

この時一夏はアリーナ内で戦ってた4人、先ほどの試合をしていた子たちを群れの中から見つける。1人はどうにかしようと近接ブレードを振っているが、後ろからメガニューラに飛びつかれた挙句、その勢いで一斉に群がられ、手足をバタバタともがくがメガニューラたちの猛攻は収まらない。

もう泣き声まで上げているため

 

「やめろぉぉぉ!」

 

一夏は一目散にそこに雪片二型を構えて突っ込んだ。メガニューラは一夏に気付いたのか、一斉に彼女たちから離れ、切っ先は空を切る。

そして上空で渦を巻くかのようにメガニューラの大群は飛び、一夏たちはそれを見上げていた。

 

「早く逃げるんだ!」

 

「で、でもぉ……早苗が……」

 

早苗と呼ばれる女の子は完全に失神しており、装着しているラファール・リヴァイブが重りとなってしまっている。他の子も恐怖で怯えてしまい、足がすくんでしまっていた。

本音、一夏もその気持ちはよくわかるし、今すぐにでも逃げ出したい。

 

「なあ、何か射撃武器持ってないか?」

 

「あ、うん、これなら……」

 

女子の1人がサブマシンガンを展開し、それを一夏に手渡す。使用承諾の方法は分かってるらしく、一夏が撃っても問題ないようになっていた。

 

「よし。なら俺らが奴らの気をそらすから、その隙に逃げてくれ。できるか?」

 

「た、たぶん…」

 

その時だ。メガニューラの群れの中に紅蓮の花が咲いた。何なのかと見上げると、そこにはグレネードランチャーを片手に持つ航が単身、メガニューラの群れの中に突っ込んだのだ。

 

 

 

 

 

航にとってこのトンボは敵だ。自分を大きく傷つけた敵。ゆえにどこからかわからないが、グツグツとマグマのように怒りが湧いてくる。

そして左手には格納領域(バススロット)からグレネードランチャーを展開。航は怒りに任せて引き金を引き、その熱と爆風でメガニューラを焼き払い、バランスを崩したメガニューラにめがけて突貫。そして右手に持つ近接ブレードでその胴と胸を、もしくは羽等を切り裂いて地に落とす。

 

「ああああああ!!!!!」

 

気持ち悪いほど体が反応する。真後ろにいたメガニューラにも反応でき、ブレードで切り裂き、グレネードで焼き払う。簡単なことに見えるが、高速で動く相手にこれをするのはじっさい難しい。だが彼はそれができていた。

まるで自分が破壊を楽しんでるような気分がした。だけど止められない。止まらない。

航はグレネードの弾が切れるとすぐにメガニューラのうちの1体にめがけて投げる。むろん一瞬で躱されるが、その空いた手には近接ブレードが握られており、即行メガニューラめがけて斬りにかかった。

だがこれがいけなかった。メガニューラたちはその動きが先ほどより俊敏になり、航に一撃離脱の戦法で突進、尻尾の針を突き立てるなどを行い始めたのだ。いや、これは先ほどから行っていたが、範囲攻撃ができるグレネードが無くなったことによってその動きが活発になったのだ。

 

 

 

 

 

メガニューラたちはエネルギーとなるものなら、ゴジラのようなリスクが伴うものではなく、人間のような小さな生物でも問題ないのだ。だが彼らも驚いたのは、機械のエネルギーすらも吸った分の1割をエネルギーに変換することができるという突然変異が起きていたのだ。これは、こっちに来る際に通った異次元空間の影響なのだろうか。これは誰にもわからない。そもそも彼らには知能というものはほとんどないのが当たり前だ。だが彼らは幼虫の頃から知能を持ち、集団で狩りを行うなどという行動を行った。

そしてその知能は、成虫になって大きく落ちるも、それでもそれなりの知能を持ち合わせていた。

そして奴らは、学園の上空を飛び回る。生徒たちは、その中怯えて隠れていた。

 

 

 

 

 

「ぁぁぁああ!!!」

 

航はボロボロになっても剣を振るのをやめなかった。見渡す限りのメガニューラに翻弄され、一夏の白式のように高機動でもなく、機龍ほどの防御力を持たない打鉄だが、それでもISの中で防御力があるため航は戦闘不能にならない。

だがグレネードも弾切れで本体を捨てた。残りの武器は両手に持ってる近接ブレード2振りだけ。だが彼の眼には諦めというものが見えない。むしろ、まだ戦うという意思も見えている。

だがこの状況ではそれはただの意地にしかならず、航は剣を振い続ける。だがしかし……。

 

「しまっ……!」

 

航は4体のメガニューラに憑りつかれ、バランスを崩して地面に落ちる。一夏は航に飛びついたメガニューラを払おうとしたが、自分の周りにいる奴らの相手をするのが精いっぱいで、まともにその場から動けない。そしてその鋭い牙によってバリヤーによって拒まれるも噛まれたり、尻尾の針がエネルギーを吸い取り始めてすごい勢いで無くなっていくのを見ていた航は、恐怖を感じた。

 

「いやだ……!」

 

思い出すは渋谷の路地裏の記憶。またあの恐怖が繰り返される。それを知った航の目は、どんどん瞳が小さくなっていく。

そして無理やり立ち上がろうと四肢に力を入れる。だがメガニューラたちが関節に思いっきり尻尾で殴ってきたリで上手く立ち上がれない。

 

「がぁ…っが…!」

 

だがそれでも立ち上がろうとした時だ。上の方、上空から機銃掃射の音がした。

 

「航!」

 

航に飛びついていたメガニューラは背中から一瞬にしてハチの巣になり、絶命してそのまま地面に墜落する。

この声は……。一番その声を知ってる航は空を見上げる。するとそこにいたのは航が知ってる蒼色の装甲を持つ空色の髪を持つ彼女ことIS学園生徒会長、更識楯無が蒼龍を纏っていたのだ。

 

 

 

 

 

楯無は小さく冷や汗をかいていた。モノレールに乗っていてメガニューラが突っ込んできた際、即座に蒼龍を展開。そして同時に展開した蒼流旋につけられているガトリングの銃弾を、メガニューラに浴びせて墜落させたのだ。その後はボロボロになったモノレール側面もとい搭乗用扉を蹴破って、そのまま学園へと向かったのだ。

道中自分に向けて突っ込んでくるメガニューラも、回避と同時に蒼流旋や村雨などで胴を切り裂いたり叩いて外皮を砕いて戦闘不能にさせながら学園へと向かったのだ。そしてアリーナ外にいた教師たちと合流し、彼女たちの命令ですぐにアリーナの中へとメガニューラが作り出した通路から入り込んだのだ。

そして今、まだ人的被害が出てないことに安堵しながらも空を覆い尽くすメガニューラの群れに眉をしかめる。

 

「改めてみたけど、何よこの量。昔見た田舎でも赤とんぼはこんなにいなかったわよ」

 

冗談を飛ばす楯無だが、その顔は真剣そのものだ。機龍によって中破した蒼龍が復活しての初戦闘がこれになることにわずかながら残念に思いながらも急いで航の姿を探す。すると彼女の目に映ったのはただがむしゃらに剣を振り続け、メガニューラの数の暴力によって傷ついていく航の姿だった。

 

「航!」

 

ただ彼女は無我夢中だった。とっさに蒼流旋のガトリングを使って航の周りにいたメガニューラを追い払い、そしてすぐに航の元へ駆けつけた。

航はボロボロのせいで完全にへたり込んでおり、肩を上下させながら息をしている。

 

「もう、何無茶してるの!まともに中距離用の武器もないのに!」

 

「……っ」

 

航は刀奈を睨むが、それに構ってる暇はないと言わんばかりに刀奈はその睨みに臆せず返す。

 

「航、もし私に何か言いたいことがあっても今はこれらが先よ」

 

周りを見るとメガニューラがすでに取り囲まんと言わんばかりに飛び交っており、教師たちが乗るISも総動員してこの状況の打開するためにひたすら弾幕を張っている。彼は完全に周りを見ていなかったため、今の状況を改めて確認し、自分が1人突っ走って勝手にボロボロになってることを知った。

一夏も、鈴も、セシリアも、ISに乗ってる面々はお互いチームワークを駆使してメガニューラを撃墜していっており、その中で航だけが誰とも協力せずにただ潰していっていた。だがその結果として、メガニューラをよく引き付けつつも一番ダメージを多くくらっているという状況だ。

そのため刀奈が、蒼流旋のガトリングで航の周りにいるメガニューラを一掃し、約3mほどの距離まで近づく。この時航は目をわずかに細め、その鋭い眼で刀奈をにらみつける。

 

「ねえ、これが終わったら一回話し合いましょ。だから今回は協力して」

 

刀奈はそういうが、航はまるで聞いてないかのような顔だ。

航は彼女を一瞥すると、それを無視するかのようにボロボロの体に鞭打って立ち上がる。

 

「航…」

 

彼女の願うような、悲痛な声。この時、航のとても小さくなった瞳がわずか揺れ、小さく口を開いた。

 

「……分かった」

 

小さくそう返事すると、彼は喉からわずかながら唸り声を上げる。そして両手で近接ブレードを強く握り、そして背中を楯無に預けた。

 

「航、行ける?」

 

「問題、ない!」

 

その言葉を聞いて、まともに返事をしてくれたことを嬉しく思いながらも楯無は、アクアナノマシンを蒼流旋と村雨に纏わせる。

 

「航、無茶しても援護するから。だから好きに暴れて」

 

「わかった」

 

そして航は楯無の援護をもらいながら、メガニューラの大群へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

それからどれだけ潰して回っただろうか。楯無の蒼流旋の弾もすでに弾切れを起こしており、ただアクアナノマシンで牽制をしたり、時には氷柱のようにして飛ばしており、何本かそれが大地に刺さっており、何本か上部が霧のようになりながら溶けている。

航も楯無に背中を預けたままどうにかメガニューラを切り潰していた。だが、最初の頃のように自由な立ち回りでメガニューラを潰せ、それに集中しようとしたメガニューラを楯無が潰すという形になってたりする。

 

『会長、アリーナの避難が終わりました』

 

そのとき虚からの通信が入った。それで瞬時に周りをハイパーセンサーで見渡すと、観戦席には生徒はおらず、観戦席に侵入したと思われるメガニューラを退治したIS展開中の教員が別の場所に移動を開始してる程度だ。

 

「わかったわ。航!一夏君!今すぐピットに戻って!」

 

「で、でも「いいから早く戻る!」は、はい!」

 

一夏は楯無の迫力に負け急いでピットに戻る。航はまだ戦おうとするが、この時楯無が彼の手を引いて無理やりピットに詰め込む。航はバランスを崩してピットに転げるように入り込むが、別に怒ってるという顔でもない。

そして楯無がアクアナノマシンで、3人がぎりぎり隠れきれるほどの氷の分厚い壁を作り出す。楯無が何をするのか一瞬考えた2人だが、特訓の時にしてきたアレをしてくるとわかるや否や、すぐに隠れる。

 

清き熱情(クリア・パッション)

 

そして楯無が指をぱちんと鳴らした。

すると、アリーナの中で爆発が起きたかと思うと紅蓮の炎に飲まれ、中にいたメガニューラたちが悲鳴を上げながら一斉に燃え上がり、そのまま地面に落ちていく。

清き熱情(クリア・パッション)。これは楯無の機体、蒼龍のアクアクリスタルから出るナノマシンを霧状にして空気中にばら撒き、そのナノマシンを発熱、そして水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす技だ。

これによって生じる熱や衝撃で相手を攻撃するのだが、楯無は蒼龍のナノマシンの8割を使用しており、アリーナ内を完全に爆破範囲にしており、残ったナノマシンで氷の壁を作って自分たち3人を守る盾にしたのだ。

正直楯無も大量のナノマシンを使った清き熱情(クリア・パッション)を使ったことないため初めての試みだったが、ここまでの破壊力による恐怖とメガニューラを一掃できたことによる安心が同時に来ており、安堵の息を吐く。

その時だ。ガシャン!という大きな音と共に、航があおむけに倒れたのだ。本人は何が起きたのか全く理解しておらず、目をぱちくりと開いている。

それは周りも同じで、もしかしたら彼の体に何か異常でも起きたのか、あのメガニューラに何かされたのかと思い警戒する。

 

「疲れた……。助かったんだ……」

 

だが航はすぐに気づいた。その時の安堵感で体の力が抜けたのだ。そして打鉄が彼の体から解除され、彼は冷たい床に身を倒す。

そのとき楯無は蒼龍を解除した後航を抱き上げ、そして強く抱きしめた。

 

「航、よかった、無事で…。もう、心配したんだから……!」

 

「ぅ、ぁ……」

 

楯無は航を抱きしめる力を強める。

航は小さく声を上げるだけで何もしようとしない。この時彼の手が彼女を抱きしめようとしてたが、何かに止められるように動きが止まり、そしてだらりと床に投げ出される。

この光景に一夏はうんうん、と腕を組んで頷いておりただ2人を見守っていた。

航はただ、このやさしい温もりに素直に甘えたかった……。

 

 

 

 

あれからそこそこ時間が経ち、楯無は航を解放して再び蒼龍を纏っている。そう、まだ脅威は終わっていないのだ。

 

「航、いい?1週間後よ。1週間後のいつでもいいわ。生徒会室に来てね」

 

楯無はそういうと、アリーナの天井の穴の開いた部分から出ていき、他のメガニューラ退治の援護に向かっていった。

航はその後ろ姿を見て、一歩踏み出すがそこで歩みを止めてしまう。そしてただ彼女が去っていくのを見ているだけであった。

 

「航…。なあ、楯無さんとの間に何があったんだよ。……俺に相談とかできないのか?」

 

「……なあ、俺は誰を信じればいいんだ?」

 

「えっ……」

 

「父さんも母さんも殺された。次殺されるのは俺だ。俺は…、俺はいったい誰を信じればいいんだ?誰も教えてくれない……」

 

その声は恐怖で震えていた。それもそうだ。航の両親は楯無と思われる女に殺されたのだ。これで犯人が楯無であればまだいい。

だが、もし偽物だとしたらどうするのか。あの時の画像では、女はIS学園の制服を持っていた。そして楯無そっくりに化けているとしたら、もしかしたらIS学園に姿をひそめてるかもしれないのだ。

航は怖いのだ。

確かに一夏なら味方なのだろう。だが、それが決して安全や安心につながるとは言い切れない。もしかしたらその相手に、一夏が自分を差し出すのかもしれない。

航は疑心暗鬼に陥っていた。自分の友人すらも信じ切れない。そんな自分に吐き気を感じていた。

そして航は怖くなってしまい、打鉄を脱ぎ捨ててこの場を後にしようとピットから出ようとする。

 

「ちょ、落ち着けよ…、な?」

 

一夏派戸惑いを隠せなかった。一夏には家族は千冬以外いない。それにその千冬は世界最強ともいえる女性のため、そう簡単に襲われないだろうと確信していた。それに航も々男子搭乗者で、自分の友人だから問題ない。

だからだ。航の気持ちに完全に気づけてないのは。一夏の親のようにいきなり消えたのではない。殺されたのだから。

 

「航、待てよ!」

 

一夏は白式を解除して航の肩を掴む。そして航がそれを振り払おうと手を動かした時だ。航派急にバランスを崩し、膝をついてしまう。

 

「お、おい、大丈夫か!?」

 

この時航の顔を見た際、彼が異様なほどに汗をかいてるのに今気づいた。息も荒く、焦点もあってない。そして小さくうめき声をあげておりどう見ても異常だと判断した一夏は、ピット内にあった1つの内線電話を見つける。これならすぐに救護班が駆けつけてくれるはずだと一夏は判断したが、先ほどの清き熱情(クリア・パッション)の衝撃波で壊れてしまっているのか、ボタンを押しとも何も言わない。

 

「うそだろ…!?どうしたら……そうだ!」

 

1つ1つアリーナの近くには簡易医務室が必ずある。そこに駆け込めばもしかしたら連絡が取れるかもしれない。だが使えない可能性もある……。

一夏は使えることを祈りながら航をおんぶし、少し急ぎ足で医務室を目指し始めた。




航の本音、それは不安、悲しみ……。誰がそれに触れる?誰がそれを癒す?



では、次回をお楽しみに……。


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蜻蛉が過ぎし日

お久しぶりです。再試も終わり、今月にとある自動車関係の入社試験を控えている妖刀です。
気休め程度に太宰府天満宮に行っておみくじ引いたら、大吉で「問題ない、就職も上手く行く。ただし調子乗ったり慢心してたらどうなっても知らないよ?(だいたいこんな感じ)」と書いてあったので、現在面接練習などもありますが、入社試験の勉強を頑張ってます。



では本編どうぞ!


あれから学園のISの大半を使いメガニューラをどうにか撃退した。だが学園の窓に突っ込んだり、アリーナを荒らしたりと損害が大きく、学園では1週間の臨時休校が言い渡される。

そしてメガニューラの襲撃によって壊れたモノレールも1日で修理もとい整備されてた車体と取り換えられ、これで外に自由に行き来できるようになった。

だが生徒たちはこれで外に遊びに行こうとも思わない。だいたいは使えるアリーナで特訓をしたり、寮の自室に閉じこもって何かしていたり、部活動に励んだりと勤しんでる。

彼女たちは別に学園外に興味ばないというわけではない。だが生徒たちは学園の外に出ようとしない。

なぜならテレビのニュースで、メガニューラが日本各地に現れ、それによって市民の大半も非常食などを一斉に買ったことで物資不足なども起き、外で買いたいものがほとんどないし、市街地も店の大体が臨時閉店してしまったりと行く場所もないのだ。せいぜい水族館とかだろうが、そこまで外を歩く気になれないのだ。

実際この光景は国民は最初はあまりの光景に信じられなかったが、自分の街の上空にもメガニューラの確認がされるや否や、すぐに家に引き返したり、学校が臨時休校になったりと大変なことになっている。

まあ、そんな状況下でも会社を休めずに大人しく出社するサラリーマンやOLはとても大変なものだが、自分所に被害は出てないと判断してるのか、割と他人ごとに感じてる人が多数だったという。

 

 

 

 

 

そしてここは学園の生徒会室。メガニューラ襲来から数日たった今も彼女たち、楯無と虚は書類の整理に追われており、淡々と仕事をこなしていた。

 

「お嬢様、少し休みになられた方が……」

 

「大丈夫よ。それに、まだ仕事は残ってるし」

 

そういって楯無が指さすとそこには、まさに束ともいえる大量の書類が山になっていたのだ。これらは今回の被害についてのであり、元は教師たちがするのがコッチにも流れ込んできてるのだ。

 

「そうですが……。なら、航君のお見舞いとかはどうですか?」

 

「それは午後に行く予定よ。だから今はもう少しでも書類を片付けましょ」

 

そして楯無は再び手を動かして書類の多山を崩しにかかった。

 

「それにしても学園も静かになったわね……」

 

「仕方ないですよ。あんなに大きなトンボに襲われるとかトラウマものですし。それで何名自主退学したか知ってますか?」

 

「32名でしょ?まああれを見て逃げたくなるのはよくわかるわ」

 

そう、メガニューラが現れたせいで現在学園では3年生が4名、2年生が10名、1年生が18名が自主退学したのだ。だがこれはだれも止めなかったし、地元に戻ってもこの件がニュースになったため、あまり攻められることはないだろうとは思う。

そして楯無が口を閉ざして書類をさばいていく。いつもはこちらがその立場のため、会話が止まってしまうことに虚は若干戸惑いを感じてしまう。虚には、楯無が無理してるように見えた。

 

 

 

 

あれから書類処理にけりをつけた楯無は1人、学園内の病院へと足を運んでいた。そして向かう先の病室には「篠栗航」と書かれており、彼女はその病室の扉を開く。

そこにいたのはうつ伏せ姿で寝ている航の姿であった。現在彼は上半身は何も着ておらず、下半身には病院服を履いてるだけだ。

現在彼の背中には背びれのようなものが5センチほどの大きさで生えてきている。

 

「航……」

 

楯無はゆっくりと彼の頬を触れる。何日ぶりに彼に触れたのだろうか、それがわからないほどに彼と長く離れていたような気がする。

実際彼女はここまで彼に嫌われた原因は分かっている。男子搭乗者ゆえに身内が狙われるとわかっていたから、更識から護衛を出していたのに自分の偽物に殺されたことと、シャルル・デュノアに彼が狙われた際に彼を安心させる言葉を言うことができなかったことだ。

彼女だって不安な状況で同じ状況になったら彼と同じことをするのかもしれないと思っている。

だからって彼女は彼のやったことを全て赦すというわけではない。だけど今はそんなことより、目を覚ました彼と少しでもいいからお話がしたかった。

 

「ねえ、航。貴方の本音を教えて……。貴方は私のこと、嫌いになったの?私は貴方のこと、まだ大好きだよ?」

 

独りごとのように楯無は呟く。ただ航は何も言わず眠ってるがこの時、ピクリと指が動いたような気がした……。

そして楯無は病室から出ていく。ずっといるのも迷惑だろうし、おとなしく目覚めてくれるのを祈りながら扉を閉める。

それから1回に向かうため、エレベーターのボタンを押そうとしたら同時に扉が開き、中から出てきたのは驚いた表情を浮かべた一夏がいた。

通路に一夏がコッチに向かってるため、恐らく見舞いなのだろう。

楯無は笑顔で手を振って、一夏はそれに反応して頭を下げる。

 

「航のお見舞い?」

 

「あ、はい。航、どうでした?」

 

それで楯無は困り顔で首を横に振る。それで一夏は小さく肩を落とす。

その後、一夏も航の見舞いをした後、楯無と共に病院を後にし、お互い寮に向かっていたが、この時不意に一夏が口を開く。

 

「あの、楯無さん……1つ聞きたいことがるんです」

 

「どうしたの?」

 

「その、楯無さんって航のこと好きなんですよね?」

 

「そうよ」

 

「なら……」

 

一夏が何言おうとしたのか分からない。だけどそれを聞いた楯無は笑みを浮かべて答えた

 

「私ね、約束したの。あの子の分まで航を愛するって。だから、私は航を裏切らない。それだけよ」

 

楯無は優しく笑顔を見せる。だけど一夏は少し顔を曇らせて俯いている。

 

「楯無さん、あの子って……日輪(ひのわ)のこと、ですよね?」

 

「……そうよ。そういえば、あの子って中学までは一夏君とも顔を合わせていたわね」

 

「は、はい。航にべったりだったのが記憶に残ってて……」

 

一夏は中学での航の周りを思い出す。記憶にあるのは、黒髪の天真爛漫という言葉が似合う女の子の姿だ。

 

「あはは、まあ日輪は航のこと大好きだったし」

 

懐かしい、そう思わせるような楯無の表情には少し寂しげな雰囲気を醸し出している。

 

「そういえば楯無さんと日輪ってどういう関係だったんですか?」

 

「そうねぇ。言ってしまえば、どっちが先に航の恋人になれるか争ってた関係かしら」

 

そういって楯無は、少し嬉しそうな、そして少し寂しそうな顔で笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

ここは陸上自衛隊八王子駐屯所。そこで刑期を終え、懲罰房を出た鷹月仁は、テレビでの光景に呆然としていた。

 

「嘘だろ……。なんだよこれ……!」

 

画面に映るのは大量のメガニューラが飛んでる姿であり、それがIS学園に群がっている姿であった。あそこには愛娘がいる。それを思い出し一気に冷や汗が流れ出す。

現在自衛隊はこれに対処するため、日本各地の駐屯所にいる陸上自衛隊と航空自衛隊が協力してメガニューラの掃討を主にしており、主に高エネルギーの出る場所、そして人が沢山集まる市街地などに群がるため、住民には建物から出ないように呼びかけており、そして陸自ではISによってメガニューラを引き付け、その後に87式自走高射機関砲の発展型とも改装型ともいわれる19式自走高射機関砲などが、多数のメガニューラを落として行ったりしている。

だがその総数は300とも言われ、「全て駆逐出来ないこともないが、とても難しい」と言われており、完全に手を焼いていた。

そして未確認ながら、ゴジラが現れたという民間情報が複数あり、現在政府でもこれについてどうするか話し合われていた。ただいまだ被害は確認できず、未確認情報のため現在は海上保安庁の巡視船が日本海で監視をおこなっている。

 

「お、おい…、俺のいない間にそんなことになってたのかよ!」

 

「あ、あぁ。そうだ」

 

あれから仁は目の前にいる黒髪の眼鏡をかけた男、同僚こと柳田 長門(やなぎだ ながと)二尉に現状、もとい現在自衛隊がメガニューラ掃討に動いてることの事情を聴かされて驚きを隠せなかった。実際空飛ぶ敵ならISを使えばどうにかなると思っていたが、いくらISの数が少ないとはいえ、場合によっては集団で群がられて撃沈させられることもあるというのだ。

そしてメガニューラの生態についても驚きを隠せなかった。幼虫のメガヌロンは一応……とても大きな肉食昆虫だったが、メガニューラは肉食だけでなく尻尾の先でエネルギーも吸うという特異的特徴があるからだ。

正直歩兵だけでどうにかなるのか?と思ってしまうが、羽を当てきったらすぐに墜落させられるからきついが、今のところ死者などは出てないという。

ならけが人は出たのか?と聞くと、長門は目をそらし、仁は「まじかよ……」と小さくつぶやいた。

 

「あと仁。お前は立花1等陸佐のとこに転属だとよ」

 

「なっ、おやっさんところかよ……。うわー、あの人苦手なんだよなぁ」

 

仁がいうおやっさんというのは立花 翔像(たちばな しょうぞう)一佐のことであり、元は仁も彼の部隊所属だったのだ。なお海上自衛隊に兄の立花泰三将補がいるらしい。

 

「まあ、頑張れよ。いいじゃないか。何やかんやお前世話になってんだし」

 

そういって陣の肩をポンと叩いて長門は去っていく。

そしてぽつんと残された仁は食堂に向かい、定食の載った盆をもらって近くの席に座ろうと歩いていた時だ。何者かに肩を掴まれ慣性の力で定食をこぼしそうになり、誰だと思って振り向くと一気に顔が引きつった。

 

「た、立花1等陸佐……!」

 

そこにいたのは手に食べ物をのせた盆を持ち、40代ほどの黒い髪をオールバックにした左ほおから顎にかけて一筋の傷跡がある男が立っていた。立花翔像三佐である。

翔像はジロリと見てくるため、仁は若干身構えるが、その時彼はニッと笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだな、仁。渋谷作戦の時はご苦労だった」

 

「あ、はい、どうも……」

 

翔像が手を出してきたため、仁も手を出して握手をする。その後席に隣同士で着き、そしてお互いの昼食を食べ始める。そしてお互い終始無言で食事をしていたのだが、翔像が手を止めた。

 

「仁、話は聞いたがお前、無茶しすぎだ。初めて聞いたぞ、ISの剣を振り回すバカは」

 

「おやっさんだってあの状況だとああなると思いますよ?。背水の陣もいいとこでしたよ、あれ」

 

仁は思い出すと、わざとと言わんばかりに体を振わせ、どれだけ怖かったかを伝える。それで翔像は笑い、仁の頭をガシガシと荒く撫でる。それで頭が振り回されるかのようになってる仁は「やめてくれ~!」と叫びながらどうにか止めようと頑張ったが結果振りほどけずにダウンした。

 

「いやー、やりすぎた。すまんすまん」

 

「勘弁願いますよ……。これ、結構酔うんすから……」

 

まだ頭がフラフラする仁は、「あっはっは」と笑う翔像を見て小さいため息を吐く。仁はこんなノリの翔像が苦手で、どうにかしてこの状態を打開しようと別の話題を振った。

 

「そういえばおやっさんの息子さんは元気なんですか?」

 

「ああ、群像か。この前中学生になってだな……」

 

そして翔像による息子自慢が始まった。

翔像は親バカだ。だがそのおかげか、父子家庭である仁のことをよく心配してくれたりしたのだ。静寐の小学校で授業参観があるときは、仁に「娘が待ってんだろ。行って来い」と休暇をくれたり、割とそういう方で助けてもらったりしてる。

仁はそんな翔像の息子自慢の話を聞き流しながら、自分の愛娘の安否を心配するのだった。

 

 

 

 

 

目が覚めた航は、たばボーっと病室の壁を見ていた。

 

「俺、どうすればいいんだろうな……」

 

楯無たちが去って数時間後、航は意識を取り戻した。だがこの後何かしようと思いつくわけでもなく、ただ壁を眺めているだけだ。ただ手のひらを握ったり放したりしてるぐらいで、他に行動を起こそうとする気配は一切ない。

 

「刀奈は、俺と何を話したいんだ?」

 

彼女はあの時自分を助けてくれた。だから自分のことを思ってると思いたい。だけど航の中では何か黒くドロドロした感情が蠢き、その考えがグチャグチャになっていく。

彼はただ彼女を信じたい。だけど真実がわからなくてどうしようにもなく、定期検診に来る看護師が来るまで、航は思考の海に浸かっていた。

そして翌日。学園では放課後ともいえる時間に航の退院が決定し、航は学園の制服に着替えた後ボチボチとした足取りで寮へと足を運ぶのであった。

そして寮に入るが、時間的に夕食のためか、生徒の姿はほぼ見られない。見られても、航の姿を見てひそひそと話すか、自分の部屋に戻っていったりしてるが、航に乗ってはただの他人事でしかないと判断して無視してる。

そして地下に続く階段を見つけ、そこから降りようとした時だ。

 

「航、ちょっといい……?」

 

誰か女子に話しかけられたため航は振り返る。普段ならもうこういうのは無視してしまうんだろうが、聞き覚えのある声のため振り返った。

そこにいたのは水色の髪に眼鏡をかけた女子、更識刀奈の妹こと更識簪がいた。

 

「簪、か」

 

「うん……。お、お久しぶり、だね」

 

「…だな」

 

航はジロリと簪を見ながら振り向いたままの態勢から体を反転させて彼女と向かい合う。簪は何かもじもじとしてるが、航はただそれをじっと見ているだけで何も言ってこない。

 

「航…あの、その……」

 

「……何が言いたいんだ。俺は疲れてんだ」

 

そして航は視線を簪から話そうとする。

簪は航が怖かったのだろうが、何か覚悟したかの様な表情になり、彼女は口を開く。

 

「わ、航。お姉ちゃんは何もしてないよ……!」

 

その言葉に航の眉がピクリと動く。そしてジロリと簪を見たため簪は少し肩を震わせた。

 

「お、お姉ちゃんは航のこと大好きだもん…。だから貴方が傷つくようなことは、しないと思う……」

 

簪は彼の目を直視できないのか、少しきょろきょろと少し不安げな雰囲気で話す。まあ、彼からしたら、簪の話し方は昔からこんな感じだったからあまり気にしてないが。

 

「そのこと、誰から聞いた」

 

航の目が細くなる。それにビクッと肩を震わせる簪。

 

「ほ、本音が…言った」

 

「……そうか」

 

航は小さくため息を吐いて肩を落とす。握りこぶしも解かれてだらりとしており、簪は航が自分に危害を与えないのだろうと判断し、少し笑みを浮かべた。

ただ航の目つきはあまり変わってないため少し怖く、簪は眉をへの字に曲げる。

 

「航、北斗さんたちが亡くなって辛いのはわかるけど…少し怖い、よ……?」

 

航は口を開かず、彼女から目をそらす。それにムッとした簪は、色々と彼に質問を始めた。それらを無視する航だが、流石にしつこいと思ったのか眉間に少し皺が寄り始める。

 

「航、答えて…。貴方は、本当にお姉ちゃんを殺そうとした、の……?」

 

その言葉により、一層眉間の皺が深く刻まれる。簪は先ほどよりさらにびくびくしながらも、航に対して質問を投げかける。

 

「航…、暴れたり無視したりするのって寂しいからなんだよね……?だから貴方は―――」

 

「んなもんわかってるよ!少し黙れ!」

 

「ひっ…!ご、ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

航のいきなり上げた怒鳴り声にびっくりし、両手で頭を守るかのように簪はうずくまって少し涙声で航に謝りだす。航もさすがにハッとしたのか、優しそうな表情を見せて、彼女の頭をなでようと手を伸ばす。

 

「簪、ごめんな…?つい怒鳴ってしまった……」

 

「い、いやぁ!」

 

だがその手は彼女の平手で弾かれ、簪は航に背を向けて逃げ出しまう。航は追いかけようとしたが、彼女が泣いてるのを見て立ち止まり、逃げていく簪を見ることしかできなかった。

 

「かんざ…し……」

 

航はただ廊下で、ポツンと独りになってしまった。

 

「俺、何してんだろうな……」。

 

彼は、寂しそうにそうつぶやくことしかできなかった。




さて、今回の話はここまで。


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うぅ……春休みが潰える(´;ω;`)

では本編どうぞ……


簪を泣かせてしまい、気分が完全に落ちきった航は、自分の部屋もとい懲罰室へと重い足取りで来てた。

現在の部屋は、寮の地下にある懲罰室だ。部屋の中は勉強用の机と簡易ベッドがあり、壁中には自傷防止用のマットが全体に張り付けられている。そして部屋の奥の扉を開けるとそこにはシャワールームがあり、ホテルみたいにトイレも一緒に取り付けられている。

服を脱いだ航はそこで汗を流し、そして10分もしないうちにシャワールームから出てタオルで体を拭く。その時、洗面所に今の自分の姿が写った。

前より痩せ、髪もぼさぼさ。目元には隈ができており、まさに不健康ともいえる姿だ。航はそんな自身の姿にあまり驚いていないようだが、自分が写ってる鏡に手を伸ばし、そして表面に触れる。

 

「……ってるよ」

 

その時、航は強い力で鏡を叩いた。その顔はからは強い怒りが漏れており、血を流さんと言わんばかりに強い力で握りこぶしを作っている。

 

「俺だってわかってるよ!こうやって無視したって!暴れたって!何したって、解決に向かわないことぐらい!」

 

そういって鏡を殴るかのように叩きまくる航。強化ガラスを使われた鏡のためそう簡単に割れないが、先ほどから叩かれた衝撃で少し振動しており、金具もカチャカチャと揺れている。

 

「俺だって!俺だって刀奈が犯人じゃないって思いたいよ!でもどうすればいいんだよ……。もう…父さんも、母さんもいないんだよ!何で俺の周りから人が消えていくんだよ……!」

 

本当は刀奈を信じたい。だが、もしそうだとしたら誰が犯人かわからず、誰も信用できない。その疑心暗鬼が航の心を蝕み、全方向に向けて敵意を向けてしまう。これでは解決に向かわないことぐらいわかってるが、それ以外が思いつくほど航は大人ではないのだ。

ただ力任せに鏡を叩く航。その顔は泣きそうながら強い怒りや後悔を感じ取られ、ギリっと歯を擦らせる、。

その後、彼は濡れた髪をタオルで拭うが洗面台の鏡に映る自分の姿は、入学した頃のような自信の欠片も見えない、ただ暗い顔が映るのだった。

 

 

 

 

 

それから数日後、学園はこの前のメガニューラ騒動もあったが少しずつ平穏を取り戻しており、生徒たちもいつも通りに活発な動きになってきていた。授業もすでに再開され始め、生徒も一部除いて全員教室で授業を受けている。

噂だと怪獣学が今月か来月に再開するらしいが、いつかは未定であり、正直生徒の中にはあのトンボの正体が何なのか知りたいという子も多数いた。

そして現在放課後、生徒会室では楯無と虚が今日の会談の準備をしていた。生徒会室を掃除し、ほこりが無いようにする。

 

「航来るのですか……?」

 

「ええ、絶対に来るわ」

 

生徒会室にて楯無は不安そうにする虚に向けて笑みを浮かべ、扇子を開く。そこには「無問題」と書かれており、何がここまで彼女を自身付けるのか虚は疑問に思う。

その時扉がノックされる音が鳴り、刀奈はすぐに背筋を伸ばしていつでも迎えれるようにする。そして「どうぞ」と言って扉が開かされる。そしてそこには……。

 

「航……」

 

そこにいたのは、両隣を教員によって固められた航の姿があった。というか手錠がされており、その鎖がじゃらりと重い音を鳴らす。そして片方の教員に背中を強く押されてよろめくが、どうにか転ばずに数歩進んで立ち止まる。航は教員をにらみつけるが立場上わかっているのか、小さく舌打ちをしてゆっくりと楯無の元へ歩く。

 

「では先生たちはここから出て行ってください」

 

その時、教員2人から強い殺気が楯無に向けられた。だが楯無にとってはあくびが出る程度でしかなく、ただつまらなさそうに小さくため息を吐く。

 

「これは私たちの『家』、そして私たち2人の間に関する問題です。それに関与する権限はありません。それに、織斑先生からも許可はいただいてます」

 

納得いかないのか教員2人は楯無をにらみつけるが、千冬の名が出たためしかめっ面をしながら生徒会室から出て行った。そして扉が大きな音を立てて閉じるのを確認した後、楯無は虚の方を向いた。

 

「虚、お願い」

 

「はい。じゃあ航君、その手錠外しましょうか」

 

そして虚がいつ出したのか手錠の鍵、カードを出して手錠に当てると機械音が鳴ると同時に手錠が床に落ちる。航は自由になった手を動かし、手首を回したりこぶしを握ったり開いたりを数回繰り返した後、2人に連れられて生徒会室の奥にある応接室へと入る。そこには監視カメラもない部屋になっており、テーブルと向かい合うように椅子が2つ置いてある。

そして楯無が椅子に座ると、それに向かい合うように机を挟んで航も座る。そして虚が2人の前に紅茶の入ったカップを出した。そして虚は楯無の隣に置いた自分用の紅茶のある場所に座る。

 

「航、来てくれてありがとう。って言っても無理やり連れられてきたようなものね。まあ、ここでは貴方の聞きたいことを全部答えるつもりよ」

 

先ほどまで少し笑みを浮かべていた顔は真剣なものになり、空気が固まったかのように重くなる。航が最初に何を言うのか、楯無の頬を小さく汗が一筋流れる。

そして1分経っただろうか、ついに航の口が動いた。

 

「……俺の両親は本当に死んだのか?」

 

やはりと言わんばかりに楯無が小さく俯く。

航の顔は俯いたままでよく見えないが、小さく体が震えている。彼だってこのことを聞くのは怖いのだ。そのため楯無はあまり間を開けずに彼の顔を見ながら答える。

 

「……そうよ。月夜さんは胸を何度も刺され、北斗さんも同じように刺されて死亡。使われたと思う刃物は現場で押収したわ」

 

「なら葬式は…」

 

「ごめんなさい。こちらで秘密裏に行われたわ…」

 

恐らく政府の手が忍び寄ってたのだろう。これ以上航の心を壊さないためにも、彼の両親の葬儀は密かに行われ、墓も政府が知らない更識所有の墓地に置かれている。航だけじゃない、楯無だって心身共に疲れているのだ。

だけど航がいまだ自分を警戒しており、流石に疲れも相まって楯無は大胆な行動に出た。彼女はテーブルに1振りの匕首を出し、航の手に届く距離に置いたのだ。

 

「航。私を信じ切れないならそれで私を刺しなさい。貴方にはその権利があるわ」

 

「お嬢様、いったい何を……!?」

 

「虚は静かにしてて。更識家は貴方の両親を護ると約束しておきながら無残に殺され、さらに私にそっくりの人間が貴方を疑心暗鬼にしてる。ゆえに航は私の言葉も誰の言葉も信じれない。そうでしょ?」

 

それを聞いたとき、航は小さく縦にうなずいた。流石に虚も楯無の行動に動揺し、お互いの顔をきょろきょろと見てる。航はそれにゆっくりと手を伸ばすが、指先が触れようとしたときにピクリと止まり、航は匕首を楯無の方にスッと押すようにして返し、首を横に振る。

それを見た虚は安心し、匕首を取り上げようとするが、楯無が制して結局そのに置かれたままになり、そして航がポツリポツリと言葉を漏らすように楯無に質問をする。

まずは両親が殺害された日。そしてその日に楯無が何処で何をしていたか。そのようなことを航は1つ1つ質問していった。

なお言ってることが間違ってない様に、その日の出来事を虚に証言してもらったり、自身が出せる分の証拠をすべて彼に見せていく。ただそれによってなのか、少しずつであるが、航の声が小さくなっていく。

そして彼の体が少しずつであるが震え出し、落ち着こうと思い、紅茶の入ってるマグカップに手を伸ばすが、カチャカチャと手の震えでティーカップが震えていた。

 

「…航、分かってるけど少し落ち着きましょ……?そのままじゃ貴方が……!」

 

「……いや、だ。大丈夫だから……」

 

胃がきりきり痛む。動悸が激しい。

航は自身の体に起きてる苦しさに何とか耐えているが、それでも止まるわけにはいかなかった。ただ知りたかったのだ。

だが楯無たちからしたら、とても無茶してるようにしか見えず、どうしても彼をいったん休ませたくても、航が歯を食いしばりながら話すため答えることしかできない。彼女たちはそんな自分を恨んだ。

そして航が次の質問をする。

 

「俺を、殺そうとしてるのは、本当に政府なのか……?」

 

「…そうよ。航が渋谷で襲われて数日後、日本政府から航を殺すように指示が来たわ。それがこれよ」

 

そして楯無は後ろに手を伸ばしてそれに気づいた虚が前に渡された書類を楯無に渡す。そしてそれを航の前で見せると、航は大きく目を見開く。それもそうだ。今が女尊男卑とはいえ、国は国民を守る義務があるはずなのに、その国民を殺せといってくるのだ。

 

「航。私もこれは目を疑ったわ。だけど私はこの命令を無視して、航を護ろうって思ってたの。世界に2人しかいない男子搭乗者を殺すなんてデメリットが大きすぎるし、そして何より、私が好きな人を殺すなんて絶対したくないもの」

 

ニコッと笑みを浮かべる楯無。それに見惚れてたのか航がポーっとしてるが、すぐに気を取り直して先ほどの暗い顔に戻る。楯無はそれに小さく苦笑を浮かべるが、仕方ないと思ったのか真剣な顔に戻った。

 

「じゃあ、次の質問は?」

 

「……これを撮影したのは誰なん、だ?」

 

航は指さしたのは、最初彼に届けられた両親を殺した写真を収められた封筒。そこには10枚は入ってる航の両親殺害の一部始終が収められていた。そして航は見ていないが、DVD-Rが1枚入っており、その内容を楯無は1人で見たが、怒りで握りこぶしから血が滴るものであった。

 

「日本政府が取り付けたものではないことは分かってるわ。ただ言えるのは、私の従家が取り付けたということだけよ」

 

「……どういう意味だ」

 

「更識だって一枚岩ではないわ。従家とはいえ、主の首を狙う家が多数いることは分かってる。今私の首を狙ってるのは藤堂、斎藤、黒城ってところかしら」

 

これらの名は更識の従家であり、戦闘部隊の筆頭ともいえる家だ。だが先代楯無との仲が悪く、刀奈が楯無を襲名した後もこの仲の悪さは未だ続いてしまっている。実際楯無は今代からどうにか仲を取り戻そうとしたが、逆に首を狙われたため、その代の当主をすべて打ち首。そして次代が当主として付くことになるが、その面子も楯無のことを恨んでいた。

 

「彼らの狙いは私の失脚と、航をこの世界から引きずり落とすことってところかしら。彼らはおそらく、航の持ってた機龍に着目したのだと思う。だから北斗さんたちを殺して、その犯人を私に仕立て上げることによって、航に私を殺させる。それによって航は人殺しとして処分され、私がいなくなることで彼らは上に上がる。ただ彼らも予想外だったでしょうね、こうやって私が生きてることに」

 

そういってクスクス笑う楯無だが、流石に今の場を思い出したのかすぐに真剣な顔に戻る。このとき、航はただうつむいたままで表情が見えないため、流石に不味いと思ったのか楯無はこのことについて何か言おうとしたが、航の口がもごもごと動く。

 

「なら……なん……」

 

「えっ……」

 

「なら俺がしたのは何だったんだよ!?」

 

この時、航は机を強くたたいて立ち上がった。その時の振動で航の近くにあったティーカップが倒れて中身がこぼれてしまうが、誰もそれを気にしてない。

航はフゥー、フゥーと息を荒くして楯無をにらみつける。そして落ち着いたのか息を整え、航はゆっくりと椅子に腰かけて頭を抱えながら俯く。そして小さな声で話し始めた。

 

「シャルルデュノアを潰し、何かいた銀髪を叩き伏せ、刀奈を殺そうと……。教えてくれよ刀奈姉!俺は…俺はどうしたらよかったんだ……!教えてくれよ……」

 

そして彼の目から涙がこぼれだす。

もうどうすればいいのわからない。だけど彼は叫ばずにいられなかった。怒りや悲しみが混じった声は少しずつ小さくなっていき、少しずつ嗚咽の混じった弱弱しい物へと変わっていく。

ただ楯無はこの時、彼の言葉に気になったことがあり、身を少し乗り出す。

 

「えっ、あの暴走航意識あったの!?」

 

それに小さくうなずく航。そして小さな声で言う。

 

「あぁそうだよ……。俺は、怖かったんだ、よ……。殺される、殺されるって……。あの時、刀奈姉が助けてくれると思、ったのに……」

 

航は思い出す。あの時、ただでさえ殺される恐怖におびえ、さらにISで首を絞められて怖かったのに、刀奈がまるで自分を見捨てるかのような言葉を投げられ、まるで足元に穴ができて落ちるかのような感覚に陥ったことを。そして目の前が真っ赤に染まったかと思えば、気づけば自身が暴れていた。

ただその時の感覚は恐ろしいほど体に馴染んでると思えてしまい、今になってそれがとても強い恐怖と化した。まるで怪獣のようではないかと。

それからだろうか。航は周りが怖くなったのは。機龍が没収されてもひと暴れすればすべてを壊せるような気になってしまい、彼は周りに無関心を決め込もうとした。だが一夏も鈴も話しかけてくる。

航は恐怖した。殺そうとした自分が怖くないのかと。航には分からなかった。そこまでしてなんで自分に構うのか。

そして自分がどうしたいのか……。それすらも分からなかった。

 

「―――俺は……俺は、ぁ……!」

 

航はそれを知らないうちに言葉として漏らしていた。ただ少し嗚咽交じりで少しわかりにくいが、強い怒りや悲しみが混じり、虚は彼から目をそらすが、楯無はそうでなかった。ただ、航の方を見つめていた。

その時だ。楯無は席を立ち机に沿うようにして航の方へと向かう。そして航の席の隣に座り、彼の方に少しずつ詰め寄る。航は何を思ったのかそのまま後ろの後ずさるが、ひじ掛けにあたってしまい、それ以上下がれなくなる。

そして楯無が彼に向けて手を伸ばし、航は怖がる子どものようにしゃがむかのように頭を腕で覆おうとするが……。

楯無の手は航の首を周り、航は楯無に抱きしめられた。

 

「えっ……?」

 

自分が思ってたこととは違い、航は震える声を絞り出す。そして彼女の顔は彼の横に来て見えないが、彼女の体は少し震えていた。

 

「それは…私が悪かったわ。あの時貴方のケアを怠ってシャルル、いや、シャルロット・デュノアを捕まえることだけを考えていたから…、ごめんなさい……。怖かったんだよね…寂しかったんだよね……。ごめんね……ごめんね……」

 

楯無…いや、刀奈は謝りたかった。彼に向けてちゃんと謝罪したかった。せめて早く気づけていたら、言葉1つ足りていたら、こうならなかったのかもしれない。だけどそれすらできず、航を深く傷つけてしまった。

このチャンスを逃したくない。航を抱きしめる力が少し強くなる。

刀奈はそのまま回してた右手を彼の頭の方に伸ばし、優しく撫でる。それで彼の体がビクリと震えるが、それも次第に収まるが、航はこの状況でもびくびくしてるのか、彼女の後ろに周ろうとしてた手がビクリと止まる。

 

「……なんで?怒ってない、の……?」

 

「私は怒ってないからね。だから怖がらないでいいのよ。貴方の感情をそのまま出してもいいの……」

 

それはとても優しい声だった。まるで母親のような、心が安らぐ優しい声。それはさび付いた航の心の中にまで染みわたり、少しずつ彼の心にしみわたる。

航は今なら言えるかもしれないと思った。“助けて”と。彼は苦しんだ。誰かに救いを求めたくても、それができなかった。でも、もしかしたら彼女が助けてくれるかもしれない。そして言葉にしようとするが、それはのどに詰まってしまう。

刀奈はそれに気づいたのか、小さく微笑みを浮かべた。

 

「大丈夫、今は私たちしかいないから」

 

そしてちらりと虚の方を見る刀奈。それに気づいた虚はそそくさと部屋から出て行って気づかれないような小さな音で扉を閉じる。そして部屋には航と刀奈だけになる。

 

「ぅ…ぁ……ぁぁぁ、あああ……!」

 

我慢できなくなったのか、ついに航は泣き出した。これまでの辛い感情を吐き出すかのように、まるで子供のように。ただただ泣きじゃくり、縋るかのように刀奈を抱きしめる。

 

「助、けてよぉ……!もう、こんな辛いの、やだ、ぁ………。もう…やだよぉ…!なんで…なんで俺のそばから大切な人が、消えて、いくのさぁ……!」

 

「大丈夫よ。私はずっとあなたのそばにいるからね…」

 

ポンポンと背中をさする刀奈。その姿は泣きじゃくる我が子をあやす母親の様だ。

誰か言ってただろうか。人を愛するというのは、その相手の痛みも受け止めて初めて愛するということを。刀奈は誓った。彼のそばにいよう。彼を泣かせない様にしよう、と。

 

 

 

 

今、2人に向けて何か言う者は誰もいない。

ただ窓から指す夕日が、優しく2人を照らしていた。




全部壊れてしまうような、か弱い絆じゃないだろう。


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復帰

さて、久々にシリアスじゃない話です。すごい感覚が上手くつかめない(´・ω・`)


では本編どうぞ


あれから2日ほど経った。学園ではとある噂が生徒たちに流れていた。それは1年1組でも流れており、朝のHR前ながらも生徒たちは、そのことで話題になっていた。

 

「え、篠栗君学園に復帰するの?」

 

「みたいよ。嫌だわぁ、女性に暴力ふるう男なんて」

 

「そうよそうよ。そんな野蛮な人間とか人間じゃないわ」

 

そんな悪口が飛ぶ中、一夏は腕を組んで窓に背を預けて空を見上げていた。そして小さくため息をついたり、頭を掻いたりしてまたため息を吐く。

この様子を見ていた箒やセシリアは彼に話しかけようとするも、何か躊躇ってるのか話す言葉がない。それを見ていたラウラは2人の様子に首をかしげており、とりあえず原因である一夏の元へと寄る。

 

「一夏、ちょっといいか」

 

「ああ、ラウラか」

 

「いったい何を悩んでるんだ?」

 

「あー、航の事なんだが……」

 

「メカゴ…いや、機龍のパイロットか。彼がどうしたんだ?」

 

前に一夏の前で、機龍のことをメカゴジラと言った際に口を酸っぱくして「メカゴジラじゃなくて機龍だ」と言われたため、もうこれ以上言われるのは勘弁なのかさすがに機龍と呼んでいた。ラウラはどっちでもいいような気がしたが、これも日本のこだわりなんだろうと判断し、今はそうしている。

 

「それなんだけどさ…航、復帰するらしくてな」

 

「それは噂なのだろう?まあ、学生なら学業に復帰しなければならないが」

 

「だよなー。でも航からしたらこの教室、すごい居心地悪そうでな……」

 

周りを見渡すと噂してる女子ばかり。だがその内容が一夏の耳にも聞こえ、少しうんざり気味になっていたのだ。今の一夏にはこれをどうするか考えても思い浮かばず、これなら来ない方がいいんじゃないかと思うほどにうるさい。

 

「ふむ…私には家族というものがないから分からないが、隊から人が消えていくのは寂しく感じる。それがまだ別の隊に異動や自分から辞めるならともかく、負傷などで消えていくのは心に来てしまうな。自分が弱かったからこうなったのではないか、と」

 

何かとんでもない発言を聞いたような気がしたが、一夏は聞かなかったことにしてラウラの言葉を聞いていた。

自分が弱くて、それで誰かを失ったら……。一夏は自分が弱いことを知っている。そのため、毎日専用機の内の誰かと一緒に練習したり、勉強とかを行っている。だがいまいち結果に出ないため少し悩んでいた。

 

「……」

 

「……!」

 

「ん?なんだ?」

 

何か廊下が少し騒がしく感じ、なんだと思って視線をラウラから外す。一体何なのだろうと思い、一夏は背中を上げて動こうとした。

この時、教室の扉が開いて中に人が入ってきた。だが生徒はその()()()を見たとき、驚きの表情を浮かべてる子が多数だった。

 

「わた、る……?」

 

そこにいたのは航だった。学年別タッグトーナメントで見られたぼさぼさに長い髪もバッサリと切られ、いつもの短い髪にまとめ上げられてる。航が自分の席に着いたため一夏は彼に話しかけようとしたとき、ホームルーム前の呼び鈴が鳴ったため、急いで席に着く。そして1分後に千冬と真耶が教室に入ってきた。

 

「今日から篠栗が復帰する。彼も病み上がりだからあまり無茶させるな。いいな!」

 

『はい!』

 

千冬の鶴の一声で返事する生徒たち。そしてホームルームも終わり、そのまま授業が開始された。

 

 

 

 

 

それから昼休み。航の周りには女子たちがひそひそと何か話しており、すごい居心地悪そうにしている。そして航が動き出そうとした時に、一夏も急いで立ち上がって彼の元へと駆け、そして肩に手をかけた。

 

「航、屋上まで来てもらってもいいか」

 

「…わかった」

 

そして一夏に連れられて屋上に向かう航。道中一夏を見つけて話しかけようとした女子がちらほらいたが、航の姿を見て一気に引き返したため、すぐ屋上に着く。現在屋上は誰も使っていないため2人だけしかおらず、2人はフェンスから外を見ている。

 

「やっと復帰したんだな、おめでとう」

 

「ああ、ありがと」

 

「「……」」

 

両者の間に沈黙が流れる。お互い、どう話しかければいいのか悩んでいた。下手なこと言って地雷を踏み抜かないか警戒する一夏。どう謝ればいいか悩む航。

それから1分も立ってないだろうが、2人にはそれが長く感じ……。そして航はため息を吐いて、一夏の方を向いた。

 

「……一夏」

 

「なんだ?」

 

「すまなかった」

 

「……」

 

航は頭を下げた。一夏は予想してたのか、特に表情を変えず、航を見てる。

 

「記憶がおぼろげだけど、一夏たちにもひどいことをしたのは覚えてる。だから別に許してくれとは言わない。だからこのまま絶縁してくれても構わない。本当に、すまなかった……」

 

「そう。それなら……」

 

その時、一夏が航を殴った。拳は頬に見事に入り、航はそのまま吹き飛ばされて尻もちをつく。口を切ったのか校内で鉄の味がし、航は一夏を見ると彼の顔は怒ったかのような表情だ。

 

「俺はこれで手打ちだ。それで許してやるよ」

 

そして一夏は笑みを浮かべて航に手を伸ばす。キョトンとしていた航だが、二って笑うと、彼の手を取って立ち上がった。

こいつが友人でよかった。航は心の底から思った。

 

「ああ、すまんな。ありがとう」

 

航が立ち上がった後、近くにあったベンチに腰掛ける一夏。隣に航も座り、そこから学園を眺める。

 

「まー、誰だって身内に手を出されたら怒るし、心がめちゃくちゃになるよな。俺も千冬姉が同じことになったらそうなるかもしれないし」

 

一夏は唯一身内が千冬しかいない。万が一にでも彼女に何かあれば、航と同じ行動をとってたかもしれない。さすがにないと思いたいが、人間何が起きるかわからないのだ。

 

「一夏……。俺ら、もっと強くならないとな。誰か大切な人を護れるほど強く」

 

「ああ、そうだな……」

 

自分の弱さで誰かを悲しませたり迷惑かけるのは勘弁だ。これは2人に共通することであるため、航と一夏はお互いの握りこぶしを軽くぶつける。そしてなぜかは分からないが、2人は軽く笑った。

それから何分語っただろうか、2人はそこそこいろんな話をしている。

 

「そういえばこの前楯無さんと話し合ったらしいけど、どうだったんだ?」

 

「どうしてそれを?」

 

「昨日楯無さんがうれしそうに話してくれたから」

 

なんとなく想像ついたのか、小さく笑みを浮かべる航。

 

「ああ。俺、独りになったかと思ったけど、案外そうじゃなかったな。一夏たちもいるし」

 

「当たり前だ。仲間を放っておいたり見捨てるほど俺は薄情ものじゃないぜ」

 

「あと、かた…楯無がずっと俺のそばにいてくれるって。俺を独りにしないって言ってくれた」

 

一夏のような友人関係とかではない。だからって父母のような家族でもない。自分のことを思ってくれる特別な人。今は彼女が一番自分を癒してくれる。

一夏は、人を好きになるというのはここまで人間変化するのかと思い、少し羨ましく感じた。鈴のことはlikeとloveが丁度半分程度で、これがloveに傾いたらこうなるのか、と。

その時、ガチャリと屋上の扉が開く音がしたため、航と一夏はとびらのほうを向く。

 

「航ー、お・ま・た・せ♪」

 

そこにいたのは、そこそこ大きな弁当箱を持った楯無の姿であった。一夏は航がここに来た理由、そして楯無がここにいる理由が分からず、首をかしげてしまうがそれを見た楯無がクスクスと笑っていた。

 

「あら、一夏君。お昼はどうしたの?」

 

「これから食堂で食べようかと…楯無さんは?」

 

「表向きは航の監視という名目で、一緒に昼食を食べるのよ」

 

そして扇子を広げ「愛妻弁当」という文字を見せる。

現在航は監視付きで学園内をぶらつける。監視役に教員をいちいちつける余裕学園になく、一番彼を鎮圧できる生徒として更識楯無を選んだのだ。まあ楯無からしたら棚から牡丹餅で、それを喜んで引き受けたという。そして現在、こうやってお昼を共にするわけだ。

 

「じゃあ、俺は食堂行くから」

 

空気を呼んだのか分からないが、一夏が屋上を後にしたため、現在ここには航と刀奈しかいない。そして2人はベンチに腰掛けて、刀奈が弁当箱の包みを取ると、そこには重箱ほどではないが3段重ねの大きな弁当箱が入っていた。

 

「あれ、刀奈の分は?」

 

「これを一緒に食べるのよ。だから大きいのにしたの」

 

「大きいのって…」

 

「もしかして、作りすぎちゃった……?」

 

「大丈夫だからな!?食べれないことないから!い、いただきます!」

 

そして最初目についたおにぎりに手を伸ばして食べようとしたが、この時時刀奈が卵焼きを箸でつまんで航の口に近づけた。

 

「はい、あーん」

 

航は口を開いて食べようとしたが、近くに来たときナニを思ったのか口を閉じてしまった。理由を察した刀奈は頬を膨らませて不満げな顔をする。

 

「もう、毒とか入れてないわよ?ほら」

 

そういって刀奈はつまんでいた卵焼きを自分で食べて美味しそうな顔をしたため、航がゴクリと喉を鳴らした。

 

「ね、わかったでしょ?だから、はい、あーん」

 

今度は何も抵抗せずに食べる航。

 

「ん、美味しい」

 

「ふふっ」

 

嬉しそうな航の顔を見て笑みがこぼれる刀奈。久しぶり彼の笑顔を見れてよかったのか、刀奈は次々と航に弁当の中身を食べさせていく。そのため、3段重ねのうち2段はほとんど航の腹の中に納まったが、流石に短時間に突っ込まれたことあってか航は少し苦しそうにしてる。

だがその美味しさゆえに食べることをやめず、最後の1段は刀奈と一緒に食べたが、結果満腹で動けなくなったという。

 

 

 

 

 

「―――ということがあってだな」

 

現在一夏は食堂に来ており、そこで箒、セシリア、鈴、ラウラの自分あわせて5人で食事をとっていた。

 

「まあ、よかったんじゃない?さすがに私も航のあの姿は見るのはつらかったし」

 

「家族を失うのは辛いことだからよくわかりますわ……」

 

「そうか…航が……」

 

安堵する者、落ち込む者、考え込む者と三者三様だが、全員航のことを思ってくれて一夏は安堵した。鈴はともかく、箒とセシリアに若干の不安が残ってたため、この反応に安心を覚えた。とりあえず航の敵ではない、と。

ただこのとき、少し雰囲気が暗くなった感覚がしたので、一夏は話題を変えるが、これがいけなかった。

 

「それにしても楯無さんの料理おいしそうだったなー。航、食べさせてもらってたし」

 

この時、3人がピクリと反応した。それにより箸の動きも止まり、一夏hあ不思議そうに3人を見ていたが……。この時だ。バンッ!という机をたたく音と共に箒が立ち上がったのだ。

 

「い、いい、一夏!明日、私が一夏の分の昼食を作ってくるから!屋上で待ってろ!」

 

「お、おう……」

 

「なっ、それなら私もよ!美味しい酢豚作ってあげるんだから」

 

「それならわたくしもですわ!」

 

「「それはやめて」」

 

「な、なんでですのー!?」

 

箒の言葉に反応したのか、鈴とセシリアも何か燃え出した。その迫力に生返事しかできない一夏は、ただ言い争う3人を見てることしかできなかった。

 

「一夏よ、なんか大変そうだな」

 

「そう言ってくれるラウラは優しいよ」

 

そしてラウラの頭をなでる一夏だが、ラウラは少し首をかしげて一夏を見つめていた。そして千冬が注意しに来るまで2人は、昼飯を食べながら3人の喧嘩を見ているのだった。

なお連帯責任で、3人含めて一夏たちも出席簿で頭を叩かれたのは、また余談である。

 

 

 

 

 

それから時間は経ち放課後。航は刀奈が迎えに来るとか言われてたため教室に残っていたが、メールでちょっと来れないと書かれたため、小さくため息を吐いて寮へと向かう。

 

「あ、篠栗君残っていたのですね」

 

「あれ、山田先生?」

 

その時、教室に副担任である山田真耶が来たため、手持ちかばんを机の上に置いて彼女の方を向く。

 

「あの、何の用ですか?」

 

「はい、篠栗君の部屋の鍵を渡そうと」

 

「え、部屋ってこれじゃ?」

 

そういって彼は懲罰室の鍵を見せる。

 

「今日の朝までそうでしたが、今日から再びちゃんとした部屋での生活を送ってもらうため、新たな部屋の鍵を渡しに来ました。はい、どうぞ」

 

そう言われて航は鍵をもらう。番号は1023と前住んでいた部屋の番号であり、

 

「なら前住んでた部屋の荷物は…」

 

「それなら既に新しい部屋に移しました」

 

「ああ、それならありがとうございます」

 

「それじゃあ、道草を食べずに部屋に戻ってくださいね」

 

「はーい、じゃあ先生さよならー」

 

「はい、さようなら」

 

笑顔で小さく手を振って見送る真耶。そして航が見えなくなるまで見送った後、小さくため息を吐いて安心した表情を浮かべていた。

彼女は安心していた。両親を失って壊れた彼がどうなってしまうのか、それを教員である自分がどうにかできるのか。だが彼は今は安定しており、今まで感じていた不安がどこかに行ったが、真耶はこのまま航に身内が死んだ悲しみをちゃんと超えれるように祈った。

 

 

 

 

 

航はあれから寮へと向かい、久々に寮の2階から上へと続く階段を上って前まで使っていた部屋へと向かう。約1か月の間だったが、何かすごく懐かしく感じ、そして着いたため扉を開くと……。

 

「おかえりなさい。ごはんにしますか?お風呂にしますか?それともわ・た・し?」

 

航は扉を勢い良く閉めた。そして鍵の番号と部屋の番号を確認する。

 

「え?……え?what?」

 

何か言葉が英語になるほどの衝撃だった。

彼が見たのはどう見ても刀奈だ。服装は見間違いでなければエプロンをしていた。だが、一番の問題はエプロンの下に何も来てないように見えたのだ。

いわゆる、裸エプロンというやつだが、航は現実か夢なのかわからなったが、これではらちが明かないと、もう一度ドアノブに手をかけて扉を開けると……。

 

「おかえりなさい。私にしますか?私にしますか?それとも、わ・た・し?」

 

変わっていなかった。むしろ先ほどより選択肢が減っており、完全に彼女以外選べなくなってしまっている。刀奈はこれにどう反応するのか楽しみで、少しニヤニヤしているが、この時彼女は、自分の想像と超えた行動を、彼がとるとは予想打しなかった。

そのとき、航が抱き着いてきたのだ。

 

「え、えええぇぇ!?わ、航!?」

 

いきなり抱き着かれたことに驚き、顔を真っ赤にする刀奈。航は彼女のわきから手を回して抱き着き、顔を彼女の胸にうずめている。刀奈は驚いてはいるがこれを一切引き剥がそうとはせず、ただオロオロしていた。

 

「何か安心する……お願い、もう少しこのままでいさせて」

 

「あっ、うん……」

 

「ありがと…。あったかい……」

 

それにハッとしたのか、刀奈は突っぱねるわけでもなく、彼の要求に応える。ただ扉が開きっぱなしだったため、それだけは閉じて、その後刀奈はベッドに腰掛け、航は膝立ちの状態で刀奈に抱き着いている。

航はまだ完全に治ってない。それにずっと懲罰室で独りぼっちだったせいでもあるのだろう、人肌が恋しいのか、彼女のぬくもりが欲しいのか分からない。だけどこれが安心するため抱き着いてた。

刀奈は微笑みを浮かべてそんな航の頭をなでており、約10分はこの状態でい続けた。そしてスッキリして航は刀奈から離れたが……。

 

「すっきりした?」

 

「うん……そうだけど……」

 

航は今頃になって刀奈の姿に赤面していた。ただ顔を知らしても、チラチラと刀奈の方を見ている。それを見た刀奈はくすくすと笑い、エプロンの裾を指でつまんで少しずつ上げていく。目をそらそうとしてもくぎ付けの航。そして……。

 

「残念、水着を着ていましたー」

 

くるりと回って背中から水色のビキニを着た姿を見せる刀奈。航はそれに安心感と残念感を同時に感じ、流石にこのことを言葉にできなかったため、とりあえず脱力した笑いを浮かべた。

その後刀奈は脱衣室に向かって2分後には部屋着なのだろう、Tシャツにスパッツを履いた姿で出てきた。そして2人はお互いのベッドに腰掛けており、ベッドとベッドの間にある仕切り越しに話している。

 

「てかなんで刀奈がこの部屋に?というか鍵は……」

 

「言ったでしょ?監視役で一緒にいるって。だからこうして同室になったの。わかった?」

 

「お、おう。じゃあ、またよろしく」

 

「うん、よろしくね」

 

刀奈は笑顔を浮かべる。そして彼の笑顔を見たいため、彼女は夕食を始めた。

 

 

 

 

 

それから夕食も食べ、お互い風呂も済ませて現在夜10時半。窓側のベッドに、2人は寝間着姿で腰かけていろいろ話をしていた。だが航が割と疲れてるのか、少し頭がフラフラとしている。まあ、彼もこれまでいろいろあったのだ。それの疲れが一気に出てきたりすることもあるのだろう。

 

「航、もしかして眠い?」

 

「んー…かもしれない」

 

「まあ、無理せずにもう寝ましょうか。無理は体に毒よ」

 

「わかった…それじゃおやすみ……」

 

そして航は欠伸しながら、今据わっているベッドにもぐりこもうとしたが、この時自分の背中側で、刀奈がニヤニヤしてるのを航は知らないままベッドに横になり、眠りについた。




さて、ようやく航も学園に復帰しました。これから彼はどう学園で動くのか……。


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怪獣学 7

初めましての人は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。妖刀です。
就活やテスト、その他諸々合って更新が大幅に遅れてしまって申し訳ありません。これからも更新は超不安定ですが銀龍のことよろしくお願いします。



では本編どうぞ!


現在午前6時。目覚まし時計のならぬ部屋の中で、航は何かの圧迫感を感じ身じろぎをする。それは顔に2つの柔らかい何かが押し付けられているが、呼吸は問題なくできている。そして何より安心感を感じたが、流石に圧迫感の理由が知りたくなったため、重い瞼を開けると、目の前には肌色が広がっていた。

一体何なのかわからなかったが、頭の方に何か風が通るような感覚がし、その方に顔を上げる。

 

「ん……、刀、奈……?」

 

若干寝ぼけた状態だが、彼の視界には眠った刀奈の顔が見え、そして腰らへんにも何かが回されてる感覚がしたため、現在自分が彼女に抱き枕にされていることに気付いた。この時自分の手が刀奈の腰の方に回されているが、当の本人はそれに気づいておらず、ただふわふわとした頭で現状をなんとなく把握する。

だが彼は、これで驚いて逃げ出したりすることはなく、まだこの柔らかさとまどろみを堪能したくなり、刀奈が何で一緒のベッドにいるのかも、それら考えをすべて放棄し睡魔に誘われて再び眠りに就くことにした。

 

「ん、寝よ……」

 

そして航はその2つの柔らかい物、寝間着がはだけ、むき出しになってしまってる刀奈の乳房に再び顔をうずめて眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

そして現在朝7時。あれから刀奈が目覚ましの音で目を覚ますが、今の現状に赤面していた。

 

「わ、航…!どうしよう…離れない……」

 

刀は昨日、航が寝た後に前みたいないたずらをしようと航のベッドにもぐりこみ、そして彼と向かい合うように眠りについた。だがこの時はまだ服もはだけておらず、それに手も軽く彼に回していただけだったのだ。だが起きてみたら、服ははだけて航がそこに顔をうずめてるし、彼の手が自分に回されてがっちりと抱き着かれており、完全に動けなくなってしまっている。

刀奈だって生娘だ。たまにきわどい姿をして誘惑するも、内心はすごい恥ずかしくして顔から火が出てしまいそうになるほどであり、実際このいたずらも結構恥ずかしかったりするのだ。

実際今も、こうやって素肌に顔を埋められてることもすごい恥ずかしく、引き剥がそうとしたら抱き着いてる彼の手が強くなってさらに肌が密着する。刀奈はフリーになってる両手で航の頭を軽くたたいて起こそうとするが、彼はなかなか起きずに気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 

「航、起きてー。あーもう、お願いよー」

 

ご飯もすでに炊きあがっており、朝食の準備はすぐにできる。だけどこれでは動けないため、業を煮やした刀奈は力技で航を引きはがすことを決行した。女性とはいえ、更識当主とあって割と力があり、刀奈は少しずつ航を自分から引き剥がしていく。

だがそれによって睡眠を阻害されたためか、航の瞼がゆっくりと開き始めたのだ。刀奈は安心したのかいつもの笑みを浮かべた。

 

「航、おはよう。あのね、ちょっと離れてくれない?ね?」

 

「え……あっ……」

 

航は今の状況を理解し、顔が真っ赤になってしまう。そして跳ねるかのように刀奈から離れようとしたが、刀奈が彼の服を掴んでしまっていたため一緒にベッドから落ちてしまった。

 

「うわあ!?」

 

「きゃあ!」

 

「いてて…刀奈、大丈夫、か……?」

 

この時、航が刀奈をかばうかのように下敷きになったため、自分がいたおかげで刀奈に怪我が無いことに安心する。だが手に何か柔らかい物の感覚がした。その気持ちよさにモニモニと触る航は、自分の手が何を触っているかを見てみたら……。

 

「ん…わた、るぅ……そこ、は…」

 

航の手は刀奈の豊満な胸をわしづかみしており、無意識にモニュモニュと揉んでしまっている。その柔らかさは航の雄の本能を刺激したのか、刀奈は腰の部分に何か硬いものが当たる感覚がした。

 

「ご、ごめん!」

 

航自分がしてることに気付き急いで彼女から離れる。胸元は完全にはだけて丸見えになっており、それがでつい目をそらす航だが、チラッと刀奈の方を見ると、彼女は胸元を隠してジト目で彼をにらみつけていた。

そして航は、逃げるかのように急いで立ち上がり、そして制服を持って脱衣所へと入り込む。それをずっと見てた刀奈は小さくため息を吐き、残念そうに肩を落とした。

 

「もう……」

 

(もっと揉んでもいいのに……)

 

彼が元気になるなら問題ないと思っていたが、まさかの服ははだけるわ胸揉まれるわとハプニング塗れで朝から疲れてしまった。だけど前にも似たようなことがあったのを思い出し、クスッと笑う。

その後刀奈は不思議と機嫌がよくなり、自分も着替えて、着替え終わった航と一緒に用意した朝食を食べるのであった。

 

 

 

 

 

「あ゛ー……」

 

「航、なんかえらい疲れてないか?」

 

「いやー、いろいろあって疲れた。楯無姉が同室になって何か疲れた」

 

「え、同室?」

 

「監視役としてそうなったんだとさ」

 

「なんかいろいろ大変そうだな」

 

「まあな。ただ、懲罰室にずっといるよりはマシだ。寂しくない」

 

航は小さく笑う。これまでのあの怖い表情は完全に陰にひそめ、優しい雰囲気の航になったおかげか、少しずつであるが彼に話しかける女子も少しずつ増えてきた。だがそんな女子はかなり少数で、一番まともに話かけるのは本音、ラウラ、箒、鈴ぐらいだ。

まあラウラは、改めてまともに初めて彼と話すことになったが、第1印象は本当に彼があの機龍のパイロットか?と思ったが、握手したときの肉体に感覚でそこそこ強いことは分かったらしい。

そのとき、予備チャイムが鳴って教室で立っていた生徒たちがさっさと自分の席に戻っていく。そして1分もしないうちに教室の前の扉が開き、そこに1人の教員が入る。

 

「はーい、皆久しぶりね」

 

そこに現れたのは燈だった。久しぶりの怪獣学のためか、少しうれしそうな笑みを浮かべており、軽く手を振って中に入る。そして教卓に立つと、先ほどの嬉しそうな顔はすぐに真剣な表情へと変化し、それによって生徒たちの反応も真剣なものとなる。

 

「さて、久しぶりの怪獣学だけど、みんなは前した内容は覚えてる?」

 

それでいくらか目をそらす生徒たちがいたため、小さくため息を吐く燈。

 

「まあ、そこはちゃんと復習しておくように。じゃあ、今日の怪獣学は最近出てきたコレ、メガニューラね」

 

そして電子黒板に表示されたのは、この前の学年別タッグトーナメントに現れた巨大トンボ、メガニューラの姿であった。空を飛んでる写真はいくつかブレているが、そうでない写真、何か台に置かれたメガニューラの写真も多数あった。

 

「さて、今回現れたこのメガニューラだけど、前に説明したメガヌロンが脱皮した姿よ。平均体長が4m、平均翼長3mと凶暴な大型肉食昆虫で、この前の襲撃の映像を見る限り、速度はマッハ1を出せるわ。メガニューラの出現場所は東京渋谷…いや、今は渋谷湖ね。あそこに潜んでると言われるメガヌロンの群が一斉に脱皮。そしてエネルギー源を求めて今回のIS学園に現れたわけよ」

 

燈は電子黒板の画像を次々と出して、渋谷のビルに張り付いたメガヌロンの抜け殻の写真等を生徒たちに見せていく。その中には回収されたのか、間近で撮られたのか、抜け殻が大きく写った画像もあった。

 

「さて、メガニューラの武器は鋭い牙、大きな前脚。そして長い腹…いや尻尾って言った方がわかりやすいわね。鋭い牙や長い前脚はメガヌロンの時と同様に危険だけど、この尻尾は先に3本の針が付いていて、左右の張りは得物をしびれさせる毒針。そして真ん中の針は対象物の体液、エネルギーを吸う能力を持ってるわ。そしてこのエネルギーを吸う能力、普段なら生物に刺して吸うんでしょうけど、今回のメガニューラはとても特殊で、ISのエネルギーやアリーナのシールドを吸ってたわ。石炭紀の生物がこんな能力を持つなんてとても異常よ」

 

そう。燈はメガニューラが、なんでこんな固体になったのか調べていたのだが、手がかりはあまりつかめていなかった。知り合いに手伝ってもらいながら、これまで以上に難しくなる資料作りもどうにかなり、こうやって現在、使用してる。

そして次は羽の画像が出された。画像の羽は付け根から切り落とされたのかきれいな形を保っており、そして写真の中にはその羽を立てて隣に燈が立ってる写真もあった。だがその羽の大きさは5m近くはあり、燈が子供に見えるほどに大きい。

 

「そして次は羽ね。メガニューラの羽はトンボと同じで4枚付いており、強度は羽の付け根から1m付近は3ミリの鉄板ほどの強度を有しており、先の部分は1ミリ鉄板ほどの強度になってるわ。だけどISの持つ武器…威力の低いライフルでも、これぐらいは簡単に破壊できるわ」

 

ここまで細かい内容になると生徒たちも必死にノートに板書したり真剣に話を聞いてたりする。実際次からの対処につながるのなら、聞いて損はしないはずだ。

だがこの時、1人の生徒がとあることに気付いて手を挙げた。

 

「先生。この写真ってどこで撮ってきたんですか?どう見ても何かの台に載せられてるみたいなんですが……」

 

それに何人かの生徒がうなずく。それもそのはずだ。最初の画像のときから、IS学園上空を撮ったであろう写真がいくつかあるが、それ以上にどこかの施設で撮られたであろうメガニューラの写真が多数あるのだから。それも切断面は見えてないが足だけの写真や、先ほどの羽の写真と多々ある。

それにメガヌロンの完全な姿の標本とも言える物の写真も多数あり、いったいどこでこんなのが置いてあるのか気になってしまう生徒が多々いた。

 

「ん、これ?とある研究所でメガニューラ等の解剖があったから、その時に撮ってきたの。自衛隊のお偉いさんとかも来てて私びっくりしたわ。解剖中の写真もいくつかあるけど、気分悪くするかもしれないから流石に今回は見せないわ。見たいという希望のある生徒だけ、後で私のところに来てね」

 

一体どんなとこなのかと気になる生徒もいたが、それを見たいとなると話は別だ。解剖となるとグロテスクなのが満載なため気分を悪くするのは必至だろう。だが燈はそうなる可能性があると思いながらも施設に行ったのだ。この情報を生徒たちに伝えるために。

 

「まあ、メガニューラを見たときの対処法は、何か建物、出来ればコンクリート製の物があればそこに逃げ込むことね。ISがあったらそれを使うのはあまりよろしくないわ。その時の弾数や体力を考えて殺しきれるっていうならあともかく、それを見誤れば群がられてそのままおしまい。だから使うにしても、逃げるために使いなさい。単独で立ち向かうなんて自殺行為すぎるわ。この前の襲撃は各アリーナにISが数機あったし、教員の働きもあってどうにかなったけど、また現れた際に再び上手く行くとは限らないの」

 

生徒たちが前より真剣に聞いているため、燈は少しうれしく思った。まあ、この前の事件があってからその対処とかを聞けるなら十分に損はないだろうし、命が助かるなら誰でも聴くだろう。そして燈は次のことについて話す。

 

「そしてもし戦うとなった場合は、胴体じゃなく羽を狙いなさい。羽は細い胴体より当てやすいし、なにより4枚あるから、1枚でも壊したらあとは簡単に落とせるわ。ただ普通のトンボ同様読めない飛び方をするから、弾幕を貼った方が対処しやすいわ。たださっき言った通り、弾幕を貼る場合は弾数と要相談よ。もしくは近づいてきた際に近接ブレードでカウンターを仕掛けるという方法もあるけど、これはあまりお勧めしないわ。織斑先生みたいな近接戦闘技術があるならともかく、下手に仕掛けた場合、こちらがダメージを負う場合があるから要注意よ。そしてメガニューラの頭部はメガヌロンほどじゃないとはいえ硬いから、突っ込んできたからって下手に近接攻撃を仕掛けないように」

 

「先生。そもそもメガニューラってなんで群れで行動するんですか?動物の群れで行動する理由って生存率を上げるためですよね?」

 

この時一夏が手を上げて質問する。

 

「いいとこ突いたわね。さて、ならこの話もしとかないとね。皆は前の渋谷での事件を覚えてる?」

 

それで生徒全員がうなずいたため話を続ける。

 

「なら話が早いわ。まずメガニューラは自分たちのなわばりを作るため、メガヌロンの時に渋谷を水没。おかげであそこ一帯は交通的にもいろいろとマヒを起こしたわ。それによって彼らは好き勝手に増殖。そしてメガニューラの登場。メガニューラたちは最近は見なくなったらしいけど、前まで群れを成して飛んでいたわ。まあ群れを成すのは生存性を上げるための行動よ。そのメガニューラの敵になるものは多数あるわ。大昔なら翼竜といった空を飛ぶ大型生物生物。現代なら対空機銃、戦闘機、ISなどと言った空を飛ぶために邪魔なものが。そしてもしもの可能性として、ゴジラ。それら外敵からメガヌロンを守るため、元々メガニューラは戦闘能力を持つようになったの。ただそれでも危機感を感じたからか、1匹のメガヌロンから自分たちのリーダーとなる生物を作り出すのよ。それがこれ。メガギラスよ」

 

そして燈は今までの画像の上から1枚の大きな画像を展開する。その画像は化石の画像であるが、その大きさが今まで見たものでも一番男規格外に大きい。そして姿はぱっと見メガニューラに似てるが、大きな1対の鋏と巨大な4枚の翼。そして尻尾の先の鋭い針が3本見える。

 

「この化石で翼長20m。全長が12.5mととても大型で、おそらくメガギラスを使って大型の外敵の排除。そしてなわばりの大型化などを行ったとされているわ」

 

「なら、ゴジラより強いんですか…?そのメガギラスって……」

 

その質問に首を横に振る燈。だがその顔は険しく、生徒たちも誰かが息を飲む。

 

「そこは分からないわ。ただメガギラスはその大きさから大型肉食恐竜にも襲い掛かるほど凶暴で、化石になってるメガヌロン、メガニューラより今回の個体がとても大型であるということはメガギラスも大型になっててもおかしくないのよ。それこそ全長50mの個体になってもおかしくないわ」

 

それを聞いて驚く生徒たち。それもそうだ。こんな大型となると、巨大昆虫ではなく、完全に怪獣とも呼べる大きさだからだ。さらにメガニューラより早く飛ぶとしたら、被害は相当なものになるだろう。

 

「ならすぐにその大きいメガヌロン倒さないと……!」

 

「私だってそれは思うけど、そこは自衛隊に任せるしかないのよ……。それにこれはまだ仮定でしかななくて、現在自衛隊が無人潜水艇で渋谷湖底を調べてるからその結果次第としか言えないわ」

 

空気が重苦しいものになる。遠くの、まるで対岸の火事のようにも感じるが、脅威はすぐそこにまで迫っているという感覚が、彼女たちにのしかかってきた、

その時だ。燈がペラペラ話してる間に時間が経っていたのか、授業終了のチャイムがなる。そして終わりの号令をした後に燈は出て行き、教室は重苦しい空気のままであった。

 

「怪獣学でこんなに重苦しかったっけ…」

 

航は一人そうつぶやくが無理はないだろう。彼が入院してる間にこう変わってしまったのだから、復帰し里に楽しみにしてた怪獣学が重いものとなると誰が思うのだろうか。

だがこれが原因でか、教室にいた女子たちの半分以上から一斉に睨みつけられてしまう。まあ半分理由は彼にあるようなものだっが、それをあまり自覚してなかった航は困惑の表情と共にわずかに身じろぎをする。

流石に一夏も同声をかければいいのか悩み、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは渋谷。地下水脈を破壊されて水没して以降、今となっては渋谷湖とも呼ばれる状態となっていた。

水中では、まだ大きくないメガヌロンが何体か泳いでおり、そして今も脱皮をしてメガニューラになっていく個体もいる。

だがそんな渋谷湖の湖底では、とある変化が起きようとしていた。

 

 

 

ヤツはその時を待っていた。強くなるため、大きくなるために脱皮を何度も繰り返し、そして今では、細い脚ではこの巨体を水上では動かすことができないほどに大きくなっていた。

だがヤツはそれで満足しないのか、大きくなった牙を小さく鳴らし、時折その頭を水面に向けて上げ、何かを待っているかのような仕草をとる。

その時、水面に何かが飛び込んできた。それは2つ、3つと増え始め、それは必死に泳いでそこを目指し、そしてヤツの背中に張り付いた。そして尻尾の先の針をヤツの体に刺し、そしてヤツに向けて自分のエネルギーを注いでいく。だがそれは自身の命を削る行為であるが、それらはそれを気にすることなく、ひたすら注いでいった。

その後エネルギーを注いで死に、プカプカと水面に向けて浮かんでいくメガニューラを見たヤツは、まだ足りないと小さく体をうごめかせる。

そしてヤツ、今となってはとても大きくなった巨大メガヌロンは、最後の脱皮に向けて体を休ませるのだった。巨大な翼を生やすために。この空を制するために。

ただただ、メガヌロンは待ち続けるのだった……。

 




そういえば原作のメガニューラって翼長だけで5mはあるから、右の羽から左の羽の端を計ったら胴も入るから11mはぐらいは軽くあるんですよね。
あれ、イメージよりめっちゃでかくね……?


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レゾナンス

6月中に上げようとしたけど間に合わなくて申し訳なく思ってる妖刀です。

とりあえず車の免許で大型一種と大型特殊を取らないといけなくなったのでいろいろ大忙しです。


では本編どうぞ!


ここは関東圏にあるとあるホテル。その部屋の一つに1組の男女がいた。女は男の股に顔をうずめて何かしてるようで、椅子に座っている男はそれを見てニタァと口角を上げている。

 

「ん……っ……」

 

女は顔を動かしていたが、何かあったのかその動きが止まり、そして股から顔を上げて、その蕩けきった顔を男に見せた。

男は満足したのか、本題に入ることにした。

 

「さて、今回の相手はこいつだ」

 

男は手に持ってた写真を女の足元に落とす。女はそれを拾って確認すると、わずかに目を見開いて男の顔を見た。

 

「旦那様…。彼は()()だったのでは?」

 

女は首をかしげて男を見つめるが、男は表情を変えずに女が持ってる写真に目をやる。そこに写っていたのは航の姿だ。女はこの写真を首をかしげながら見ており、男は近くに置いてた煙草に火を付けて吸い出す。

 

「両親を殺せば覚醒すると思ったが、ダメだったみたいでな。だから上の奴らはこいつを切ろうという考えらしい」

 

女は興味なさそうな感じで、すでに写真から目を話して股の方に顔を戻してる。男もそのことを気にしてないのか、女のやることをただニタニタと見つめている。

 

「まあ、政府からの彼の殺害命令はまだ撤回されてないんだ。それならさっさと始めてしまう方がいいだろ?」

 

「それで、私の出番ということですか」

 

「ああ、頼むぞ」

 

「はい、わかりました、だい―――」

 

「今はここで言うな。誰が聞いてるのか分からねえんだから」

 

「はい、旦那様」

 

男はニヤニヤと笑みを浮かべて女を見る。水色の髪に赤い瞳を持つ彼女は、ジッと虚ろな眼で男を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

さて時間も場所も少し飛び、現在IS学園では、とあることで話題になっていた。まあ主に話題になってたのは1年だけだが、正直教員たちの中でも若干話題になっている。

 

「ねえ、臨海学校になに水着着ていく?」

 

「うーん、まだ決めてないなー」

 

「なら今度レゾナンスで買いに行こうよ」

 

「えー、外行くのー?」

 

「大丈夫大丈夫、最近出てないらしいし?」

 

「うん、なら行こうか!」

 

廊下でそんな話題をする女子たちの横を通り過ぎる千冬は、正直今回の臨海学校が不安で仕方なかった。

 

(政府はいったい何を考えている…?)

 

臨海学校はIS学園で1年生が行う行事であり、主にISの試験運転や学園ではできないことなどを学ぶのが主なことだ。まあ、1日目は海に入れるから生徒たちも何着るか悩んだり楽しそうにしてるが。

だが今回はそうとはいかない。なぜなら前のトーナメントに現れたメガニューラの件があるからだ。IS学園襲撃以降メガニューラの姿が関東圏では渋谷でしか見られないと言われているが、今回の臨海学校でISを多数使用するとなると、ISのエネルギーに反応してこちらに来られかねない。

そのため今年は中止にしようという案が教員会議で上がっていたが、政府から絶対にするようにという通達が来たため、仕方なくする羽目になったのだ。

 

(というか政府も襲撃やあちこちを飛んでる件を知ってるはずだ。だがなんで……?)

 

自身がIS学園の教員でなかったら、おそらくその政府の人間に一発拳を入れてただろう。

こう腑に落ちない、そんなモヤモヤを抱えて千冬は職員室を目指す。

そしてたどり着いて扉を開けると、今日が休日のためか職員が少ない中、真耶が仕事をしてるのが目についた。

 

「あ、織斑先生おはようございます」

 

「ああ、おはよう。ところで山田先生、今日外出届を出した生徒は何人いましたか?」

 

「えっとですね……。ああ、今日は7人が外出届出してますね」

 

「その名前は?」

 

「えっと、1年1組の専用機持ち全員と篠ノ之さん、2組の鳳さん。あと2年の更識楯無さんですね」

 

どういう組み合わせになるかすぐに察した千冬は、小さくため息を漏らす。

 

「専用機持ちたちか……。まあ、一夏は代表候補生がいるし、航は更識がいるから大丈夫…か?」

 

一夏は大丈夫だろうとなんとなく思う千冬だが、正直航の方が若干不安に感じていた。なんせ彼、前に外出してあんなトラブルに巻き込まれたのだから……。

 

 

 

 

 

千冬たちがそう話してる頃、ショッピングモールレゾナンスに向けて男子1人女子4人の5人組が移動していた。

 

「本当にあちこち休業中ですのね。これレゾナンスという店は開いていますの?」

 

「ネットで見てみたらまだ開いてるらしいけど。だけどこれはなぁ…」

 

セシリアと一夏はシャッターをあちこち下ろされた街を見て、驚きを隠せなかった。彼らが今通ってる通りは、いつもなら割と人がにぎわう通りなのだが、この前の事件で店を閉めてしまうところが多数増えたのだ。まあ、安定して開いてると言えばコンビニとかそういうのだろう。

 

「こう、にぎわってたはずなのに静かになると不気味に感じるな……」

 

「ふむ、これがいわゆるゴーストタウンというやつか」

 

ラウラの言葉に違うと突っ込む一同。

そんな風ににぎわう中、ただ鈴は落ち込んだ様子でため息を吐く。

 

「あーあ、なんでこうなるのよ…。一夏だけを誘ったはずなのに……」

 

鈴は最初、一夏だけに「水着を買いに行こう」と勇気を出して一夏を誘い、そしてOKをもらった。だが不幸にも近くにセシリアがおり、それを聞いたセシリア、箒が割って入って付いてきてるのだ。

なおラウラがいる理由は、彼女は水着を持ってないため、それをどうしようと思ってたセシリアがこれを理由に彼らについていこうとしてこうなったという。

なお現在時刻は9時50分。まだ開店には少し早いが、こう話しながら歩いていれば着くころには開店時間を過ぎてるだろうと思い、和気あいあいと話していく。そして着いたころにはすでにレゾナンスは開店しており、5人はそのまま店に入って目的のものを買いに行くのであった。

 

 

 

 

 

「いやー、買った買った」

 

「水着か…初めて買うな」

 

(い、一夏にあの水着姿を……)

 

「一夏さん、その少し持ちましょうか?」

 

「んー、ああ問題ないよ。セシリアものんびりしておけよ」

 

5人は買い終わり、現在一夏は4人の買った荷物を持つ荷持ち係になっている。セシリアは量がそこそこある荷物を持ってる一夏を心配したが、彼は問題ないと笑顔で返す。まあ彼からしたら軽い男の強がりのようなものだが、セシリアは媚びてる男性に少し見えたんだろう、少し頬を膨らませる。

ただ一夏はここまで荷物が増えると思っておらず、若干手がプルプル震えていたりする。まあ、主な目的は水着を買うことだったため、そこまで荷物がないのが幸いであるが。実際ほかのも買うとなったら一夏も少しは反応が変わっただろう。

 

「でもさ、こう買い物も終わってこれからどうするんだ?」

 

そう。現在まだ11時頃で、昼食時というには少し早すぎる。そのため何か暇つぶしになるかと思い、あちこち店を周っていた。ただ一夏は女性は本当にあちこちを周っていくのかと軽く驚き、荷物が増えない様に、と心の中で祈りながら彼女たちについていく。

そんな時だ。一夏はとあるものを見つけた。

 

「おっ、あれって航と楯無さん?」

 

「「「「え?」」」」

 

一夏が指さした方向には、黒髪の青年と水色髪の女性の姿があり、女性は男性用の水着を持つと青年の腰元に当てたりしている。どうやらどんな水着が合うか見てるようだ。2人の顔は楽しそうにしており、遠くからでもその様子がうかがえる。

 

「おーい、わたふぅ!?」

 

この時一夏は2人に声かけようとしたが、すぐに箒に口を押えられ、そして箒、鈴、セシリアに引っ張られて物陰に隠れた。ラウラはいきなりの行動で少し戸惑ったが、すぐに一夏たちに習って物陰に隠れる。

 

「ちょ、いきなりなんだよ!?」

 

「一夏、こういう時は見て見ぬふりをするのが人というものだ」

 

「そうよ。人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られるっていうし」

 

「お、おう。わかった……」

 

箒と鈴の力説、もとい有無を言わせないような眼力で見られた一夏はただ生返事でうなずくことしかできない。ラウラもなぜかを聞こうとしたが、この時の彼女たちの迫力に押されたのか、口を閉じてただ物陰から2人を見ていた。

だがしかし、無理やり物陰に引っ張ったため、彼が持っていた荷物が崩れしまいそこそこ大きな物音を立ててしまう。

 

「あ、やべっ」

 

「ちょっと、何してるのよ!」

 

「いきなりお前らが引っ張るからだろ」

 

そして始まる一夏と鈴の口喧嘩。それを止めようとする3人だが、お構いなしに声が大きくなっていく一夏と鈴。仕方ないので無理やりでも止めようと箒とラウラが拳に力を入れた時だ。

 

「お前ら、何してるんだ?」

 

「「「「「あっ」」」」」

 

彼らの前にいたのは、呆れた顔をしてる航と楯無の姿であった。

 

 

 

 

 

航たちに見つかった一夏たちは、あれからお昼時のためレゾナンスのフードコートで昼食を取り、軽い休憩と雑談をしていた。

 

「ISの格納領域(バススロット)に荷物を放り込むって考えもしなかったわ。あーあ、なんか一夏に荷持ちしてもらってた私たちがあほらしいじゃない」

 

「だがこれで一夏の持つ分がほぼなくなったじゃないか」

 

「そういうあんたのは一夏のに入れてるじゃない」

 

「し、仕方ないだろ!私は専用機とか持ってないのだから……」

 

鈴の言葉に落ち込む箒。鈴に対してラウラとセシリアのじーっと見る目が刺さり、鈴はアワアワとしながら箒を慰めている。

そんな2人を尻目に一夏は航の方を見る。航の方も荷物はすでに格納済みで、ほぼ手ぶら状態だ。

 

「航も水着を買いに来たのか?」

 

「まあ、そんなところだな」

 

「ふーん。なら航たちはこの後どうするんだ?俺たちと付いてくるか?」

 

笑顔で言う一夏だが、その後ろでは4人が首を必死に横に振っており、断ってもらおうと必死になってる。その姿に笑いが出そうになった航だが、小さくため息を吐いて肩を落とした。

 

「すまん。この後野暮用があって無理だ」

 

「野暮用?」

 

「墓参りだよ。葬式には出れなかったからそれぐらいはな」

 

「あっ……」

 

実際航たちの今日の目的は墓参りであり、水着云々はただのおまけでしかない。

一夏たちは何か慰めの言葉でも言おうとしたが、航が寂しそうな笑みを浮かべてるため言葉にすることができない。むしろ言ってしまうと、何か悪いことが起きそうな気がして言うことができないのだ。

重苦しくなった空気の中、一夏は意を決して

 

「わ、航!……俺も、墓参りに―――」

 

「あー、ごめんね。そうしてくれるのは嬉しいけど、航のご両親の墓は更識家所有の墓地にあるからそう簡単に行けないのよ」

 

「え、どうして…」

 

いきなり楯無に止められてことに困惑する一夏。彼女に喰いかかろうとしたが、楯無がとても申し訳なさそうな顔をしてるため、とりあえず話を聞くことにする。

 

「正直彼のご両親をちゃんと墓に入れることすらとても苦労したわ。ISを使える男子を産んだ両親なら、ね?」

 

一夏はこの言葉に最初は理解できなかったが、少しずつ理解して言葉を失った。もしISを使える理由が遺伝子的なものなのだとしたら、両親の遺体を解剖してそれを調べていけばいいのだから。

楯無はそれを阻止したくていろいろ手を尽くした。だがある日、調べていたらとあることに気付いてしまい、その手を使った時に彼らの遺体を政府や研究所に引き渡すことなく、無事彼らを火葬して墓に入れることができたのだ。

ことことはすでに航に伝えられている。だが楯無は調べていた中身については彼に言えずにいた。ただ、彼には両親は無事、墓に入れられたことしか伝えていない。だが正直、あれはいまだに楯無自身も事実を受け止められずにいた。

楯無はこの重い空気をどうにかしようとチラッとスマートフォンを開いたとき、時間になってることに気付いた。

 

「航、もうそろそろ時間よ」

 

「ん?ああ、わかった」

 

「え、時間?」

 

「ああ、今から墓参りに行くから。じゃあ、また学校でな」

 

航は席を立ち、そのまま楯無についていく。そして近くのエスカレーターから降りて行ったのを一夏たちはただ見てることしかできなかった。

 

 

 

 

 

あれから航は更識所有の車に乗り、政府からの電話で遅れて乗った刀奈と一緒に自分の両親がいる墓へと向かっていた。

 

「航様、大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですが」

 

「だ、大丈夫です……」

 

運転手の霧島大輔は少し顔が青い航を見て声をかけるが、航は少し苦しそうな笑みを浮かべて手元にあった水の入ったペットボトルを飲む。

航は怖かった。これから両親の墓参りに行くことが。自分のせいで死んでしまった、自分が殺したと言っても過言ではない両親に会いに行くのが怖かった。

その手は少し震えており、時折手のひらを握ったり放したりしてたりと落ち着きがない。それもそうだ。

航は親の墓に行くのが怖かった。親は自分を恨んでるのは無いのだろうか。こんな親不孝な息子が行くのは間違ってるのでないのだろうか。そう考えてしまい、航は体を震わす。

その時だ。刀奈はそんな震えてる航の手を握って、体を密着させる。

 

「大丈夫。北斗さんも月夜さんも怒ってないから」

 

「……だけど」

 

「ただちゃんと現状報告とさよならはいいましょ?じゃないと2人がずっと航を心配したままだから」

 

「……わかってる。けど…けど……」

 

「お嬢様、航様。もうそろそろお着きになります」

 

大輔は2人の姿をチラッとミラーで見た後、そう言うのであった。

 

 

 

 

 

車で移動すること2時間少し。高速道路も使わずに来たため、県をまたいでそこそこの距離があったが、無事に更識所有の墓地へとたどり着いた。

時間もすでに15時近くになっており、日も少し傾いてきてる。

 

「じゃあ、私たちは行ってくるから待ってて」

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

刀奈は大輔を墓地の入り口付近の駐車場で待つように指示した後、航を連れて、彼の両親の墓がある場所へと向かっていた。

お供えの花はすでに買っており、今は航の手に握られている。だが航の足取りは重く、歩き始めたときと比べて結構遅いペースになっており、刀奈は少し不安げだ。

 

「ねえ、今日はもう止めとく?航、辛そうだよ?」

 

「……いや、行く」

 

「そう…無理しないでね?」

 

そして遅いペースながらも2人は航の両親の墓の前に着いた。

航は小さく息を飲み、そして墓と向き合う。

 

「……父さん、母さん。いろいろあったけどさ、やっとここに来れたよ。学校ではさ、色々あったけど皆とはそこそこ仲良くなれてる。そしてさ―――」

 

航はこれまでいろいろあったことを話していく。最初は顔は少し悲しそうな笑顔だったが、それも少しずつ曇っていく。

その後航の体は小さく震え出し、声も少しずつ小さく震え出した。

 

「そしてさ……ごめんなさい。俺が、俺がISを動かしたせいでこうなって……」

 

そして航は絵からぽろぽろと涙を流し始める。

ただ刀奈は何も言わず、ただ泣いてる航を見つめていた。

 

 

 

 

 

そして墓参りも終わり、2人はIS学園に戻るため車に向けて歩いていた。

ただ航の顔は行きがけの時より明るくなっており、少しは元気になったようだ。

 

「航、もういいのね?」

 

「ああ。俺は、頑張って生きるよ。誰かが邪魔しても、俺は絶対」

 

「そう……。なら頑張らなくちゃね」

 

その後特に会話もなく、駐車場へと向かうが航はチラチラと刀奈を見る。その不審な動きに刀奈は首をかしげるが、特に問題ないと判断してるのか、声をかけたりはしない。

その時、航の足が止まった。刀奈は何で止まったのか不思議に思い、少し首をかしげる。

 

「航、どうしたの?」

 

「あのさ。聞きたいことがあるんだ」

 

「ん?おねーさんに何でも聞いてみなさい。答えてあげるわ」

 

そういって彼女は胸を張る。それを見て航は小さく苦笑いを浮かべたあと、少し目を細め、そして口を開いた。

 

「なら聞くよ。……なあ、あんたはいったい誰なんだ?」

 

航は、目の前にいた刀奈にそう聞いた。




チラリと目を覚ます音がする。

“ソレ”は、何も言わずに見ていた。

男の中にある“感情”の小さな牙を。

それを見たとき、“ソレ”は小さく嗤った。


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ニセ彼女

この前大特の免許の検定が受かった妖刀です。次は大型Ⅰ種を獲るよていです。

では本編どうぞ


「なあ、あんたはいったい誰なんだ?」

 

航はただ刀奈に向けてそういった。

その言葉が理解できないのか、彼女は冷や汗を流しながら、困惑した顔で彼の方を見る。

 

「航、何言ってるのよ。私よ?更識かた―――」」

 

「違う。お前は刀奈じゃない」

 

航の断言にピタリと止まる刀奈。顔も一瞬能面のようになったが、すぐに先ほどの困惑した顔に戻る。航は一瞬目を細めるが、それでも彼女をにらみつけている。

だが刀奈はいきなり偽物認定されたためか、流石に怒った顔になって大声を上げた。

 

「な、なら航!どこに私じゃないって証拠があるのよ!?」

 

「証拠?なら聞くよ。中学の頃にした、3人の夢ってなんだ?」

 

「えっ……3人……?」

 

刀奈は驚きと困惑が混じった顔をしているが、航は追撃を止めずに彼女に話しかけていく。

 

「そうだよ。俺と刀奈と日輪で話した、夢だよ」

 

航はジロリと刀奈を睨む。刀奈は何か言おうと口をアワアワとしていたが、諦めたのか俯いて髪の隙間から赤い瞳を航に向けている。

 

「……ねえ。いつから気づいてたのかしら?」

 

この時、彼女の気配がドロリとした、それも殺意に似たモノに変わり、航は一歩後ろに下がっていつでも逃げれる用意をする。実際彼女との距離は5mとそこそこあるが、もし刀奈と身体能力が変わらないとしたら、一瞬にして詰められるだろう。

だが航は逃げようとせず、彼女が何者なのか知りたかった。ただ、胸の奥でザワリとナニカがうごめく感覚を感じながら。

 

「……俺にもわからん。ただ違うとわかっただけだ。そして教えろ。お前はいったい何者なんだ?」

 

女は何も答えず、俯いたままで何かぼそぼそと呟いていた。だがその口元はニヤニヤと笑っており、とても不気味な運息をさらしだしている。

そのとき、女の体がフルフルと震え出した。

 

「ふふっ。ふふふ。あははははははは!」

 

彼女は壊れたかのように笑い出した。あまりに可笑しいのかおなかを抱えて笑っており、そして30秒ほど笑った後、ニタァと笑みを浮かべた彼女がワタルをジロリと見つめる。

 

「貴方、こういうのは鈍感で気づかないと思ってたのに早く気づいてたのね。最っ高だわ!」

 

女は狂おしそうな目で航を見ている。刀奈の顔をしてるため航はそれが不快に感じ、眉間にしわを寄せる。

その時だ。女はどこから出したのか、両手にナイフが1本ずつ握られていた。

 

「さて、貴方が聞きたいのは自分の両親を殺したのは誰かってことね?答えは私。ふふ、どんな気持ちかしら。自分の好きな相手の姿をしたヤツに殺された気持ちは。そしてそんな殺した犯人と一緒に君と来たことに両親はどう思うのかしらね?」

 

女はケラケラと笑いながら航を見る。そして彼女は航の両親を殺すときの楽しさ、親の絶望したときの顔、そんなのを楽しそうにペラペラとしゃべりだした。

挑発だとわかってる。乗ってはダメだ。そんなことは頭では理解しても航の顔は驚き、怒り、悲しみそんなものが混ざったかのような顔をしており、女はその顔を見て愉悦に浸っていた。

 

「なっ……ぁ……!?」

 

航は怒りを抑えられずにいた。こんな奴に両親が殺されたのかと。ただ怒りが、憎悪が彼の中を駆け巡る。

この時、彼の中でナニカが口を開き、その鋭い牙が見える口がニタァと笑う感覚がした。そしてナニカは呟いた。“解き放て、その激情を”と。

航の指がピクリと動く。それと同時に背中にある背びれが少しずつ大きくなり始めてた。

 

「じゃあ、サヨナラよ!」

 

女は姿勢を低くして、一瞬で航の懐へと詰め寄り、そして両手に持ってるナイフを突きつけようとした。だがしかし、彼女が勢いよく突き立てたと思った先には、すでに航はいなかった。

 

「へっ?」

 

一体どこに消えたのか。そう思った刹那、自分の頭上が少し影を差したため上を向くと、そこには大きく跳躍して、右足で踵落としを女にくらわせようとする航の姿があったのだ。

女はとっさに反応して自身の腕をクロスさせて踵落としを受ける。だがその瞬間、同時に振り上げていたもう一方の足、左足がワンテンポ遅れて彼女の前腕部に直撃させる。

 

「ぐぅ……!?」

 

この一撃が重かったのか、女は膝を落として威力を逃がそうとしたが、それでも鈍い痛みが腕に残る。そして航は地に手を着いた後すぐに後ろにジャンプして着地する。そしてゆらりとゆっくり立ち上がり、その目が女をにらみつけたとき、女は驚きと畏怖の顔になった。

この時女が見たモノ。それは、ほぼ白目になった目でギョロリと女を見ている航だったのだから。白紙に墨汁を一滴落としたかのような瞳は、殺意だけで女をしっかりと見ていた。

 

「アァァァ……ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

「速いっ!?」

 

航は吼え、地面を蹴って一瞬で手が届く距離にまで迫る。そして右腕を引いて開いた手、掌底を女に叩き込もうとしたのだが、女は後ろに下がることでどうにかこの一撃をくらわずに済んだ。だがしかし、航はさらに一歩踏み込み、無理やり一撃をぶつけてきた。

骨が軋み、女は肺から息を絞り出す。まるで鈍器で殴られたかのような衝撃に女は驚きを隠せなかった。だが最初に後ろの下がってたおかげでそのまま吹き飛ばされるが、数メートル後ろで着地をする。だが予想以上の力で殴られたため、女は片膝をついた。

 

「何で…!?貴方、一般人じゃ…!?いや、そうだった…。忘れてたわ、貴方が化け物ってことを」

 

女は小さく歯噛み、あの男が航がどんな人間か言ってたかを思い出す。正直こういう一般社会に紛れ込んでたせいで、弱いと慢心していた自分にイラついたが、今はその慢心も消して航を殺すことだけに専念する。

そして航が突っ込んできた。その動きは獣のように素早く、そして荒々しい。

その動きに翻弄されながらも女はナイフを使って斬りかかるが、航の回避の速度が速いのか若干掠めるばかりでいまいち有効な1撃が決まらない。だがこれは航も同じであり、航の拳や蹴りは回避されるか受け流されるばかりだ。だが時折被害無視の一撃を決めてくるため、女の方が若干不利になってきている。

今はとりあえず航の攻撃を躱し、防御を繰り返しており、彼の攻撃に隙ができるのを待った。そして航が右ハイキックから流れるように左後ろ回し蹴りを浴びせ、そのまま拳を叩き込もうとした時だ。

女は口から何か出し、それを目に当てたことで航の動きが鈍らせたのだ。

 

「そこよ!」

 

女は手に持ってたナイフを投げ、それは航の左腕と腹部に刺さった。それで動きが止まり、女は航にハイキックをし、航の首に直撃させる。だがしかし、航は足を開いて無理やりそれを受け止めたのだ。

 

「かた、い…!」

 

女は石でも蹴ったかのような衝撃に顔を歪め、そして距離をとろうとバックステップで後ろに下がる。だが想像以上にいたかったのか、動きは少し鈍くなって動きが少し重い。

 

「オァッ!」

 

だが航は体に2か所刺さっているナイフを抜き、そして女の方へと勢いよく投げたのだ。

 

「なっ!?」

 

女もそれは予想外だったのか、反応に遅れてしまって肩を大きき切り裂いて血が舞った。それで女は肩で息をしているが、それは航も同じ。いやむしろ向こうが重傷のはずなのだろう…だが、現実は違った。

航は血が少し噴出したにもかかわらず、それを無視して女に襲い掛かったのだ。さすがの女も反応しきれず、そのまま首側面に回し蹴りをまともにくらい、吹き飛ばされる。

 

「ったく…もっと血が出てきたじゃない…!」

 

女は首元を触り、自分が血を流してることを知る。そして握りこぶしを作り、航めがけてその拳フックのようにして振りぬいたが空ぶり、航は女の脇を抜けて後ろに回り込もうとしたが……。

 

「っ!?」

 

「かかった」

 

航は首に何かが当たったと思った頃には遅く、女の首元からワイヤーが出ており、それが航の首を1週回ってから絞めているのだ。先ほど首元を触った際に引き出したのだろう、女は即ワイヤーを巻き取り、航と背中合わせになるようにして彼の首を絞める。こうすれば航の手は女をはがそうにも力が上手く入れれないが、女はワイヤーを引っ張ればいいだけなので一気に形勢逆転する。

 

「グッ…!が……!?」

 

「さあ、首が絞められて殺される気持ちはどんな気持ちかな?まあ、貴方もご両親のところに送ってあげるから安心してね。いや、あれは両親じゃないわね…まあ、どうでもいいけど」

 

ワイヤーで首が絞められ、意識が朦朧とし始める中、航はこの苦しさで自分の意識を取り戻し始めてた。

 

(死ぬ…俺は、死ぬ…の……?)

 

苦しい。助けてほしい。

ただそれだけだった。怒っても、悲しんでも、憎んでも、この偽物は殺せない。それだけ強いのだから。

航はただ平和に暮らしたかっただけなのになんでこうなったのか。

いろいろ変えれたはずなのに、この女のせいでいろいろ壊れてしまった。刀奈との仲もめちゃくちゃになった。

航はこの女をどうしても……ただ両親の仇を討ちたかった。

 

 

――もっと暴れようよ――

 

 

誰の声かわからない。ただ懐かしい感覚が彼の中を突き抜ける。

この瞬間、航の瞳は点どころか消え、胸の中にある怒りを吐き出すかのように吼えた。

 

「ぁぁぁ……がァァァぁぁあアアアアア!!!!!!」

 

「何っ!?」

 

航が首絞められた状態でも吼えて引き剥がそうと無理やり動き出したため、ワイヤーを手繰り寄せようと手に力を入れる。だがその時、航の右手が彼女のの半分を覆った。そして人差し指が女の左目の上に来る。

 

「うそっ……!あああああ!!!」

 

その瞬間、女は航に左目を潰されてしまい、手の力が緩んでしまう。そして航は体を跳ね、女から素早く離れる。ワイヤーの押し付けられていた部分からはうっすらと血が流れており、まるで血のネックレスをしてるようにも見える。

女は痛みからか自分の目を手で押さえており、片膝をついたまま右目で忌まわしそうに航をにらみつける。

 

「許さない……女の目を潰すなんて許さないわ!」

 

そして女は立ち上がり、落ちてたナイフを拾い、構えて航めがけて突っ込んだ。むろん航もそれに迎え撃つかのように爪を立てて突っ込む。そして女はナイフを航の顔めがけて投げるが、彼は躱すとかそういう行動をせず、ただ自分の左手のひらで受け、貫通しながらも悲鳴1つも上げず女の顔に右掌打を叩き込み、そしてそのまま体重を乗せて女を地面に叩き付けた。だがそこで終わらず、航はジャンプして右膝を女の顔に捉えていた。このまま叩き付けられたら女は地面と膝の挟み撃ちにより最悪死ぬだろう。だが航はそんなのを気にせず、そのまま叩き落そうする。

だが女はそれにすぐに気づき、航の右腕を掴んで無理やり横にずらし、そして即顔も動かしたおかげで膝が彼女の顔をかすめただけで済んだ。

そして女はすぐに体を起き上がらせてナイフを再び出して航の顔めがけて刺そうとした。だがそれに気づいた航はすぐに身を後ろに逸らした後、そして彼女の手首を右手で掴み、そして左手のひらを女の肘に押し当てて、そのまま勢いよく投げた。すると逆間接に極まってしまい、女の腕から骨が折れる音がする。だがそのまま投げ落とされ、女は頭から地面に叩き落された。

だがしかし、女は叩き落される瞬間に空いてる方の手に持ってたナイフで、航の足の腱を斬ったのだ。それで航も倒れる。

そして女はフラフラながらも立ち上がり、立ち上がれない航に再び取り出したナイフで刺そうとしたが…。

だがその時、女の目はギョロリと右を向き、そして即立ち止まって後ろのバック転を数回する。だがそれと同時に3発の銃弾の音が響く。

何があったのか。音のなった方を向くと、航は目を大きく見開いた。

そこにいたのは、ISスーツを着てハンドガンを構えている更識刀奈がいたのだから。




間に合った刀奈。ただ彼女が見たのは満身創痍の航と、自分の偽物が航を殺そうとしてる姿だった。
そして刀奈は“楯無”の名のもとに女を始末することにする。



次回、“更識楯無”

お楽しみに!


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更識楯無

最近長崎の方に旅行に行った妖刀です。中華街、色々美味しかったです。

では最新話どうぞ


刀奈はレゾナンスから少し離れた路地裏から蒼龍を纏って飛び立ち、航がいる墓地へと超高速で向かっていた。

 

「ったく!私を足止めなんて姑息な真似を…!」

 

刀奈は航を先に車に乗せた後、“政府”から電話が鳴ったためあまり聞かれたら不味いため、車から少し離れてそれに出た。すると『ジャマ』という機械的なボイスで一言流れ、それと同時に4人の黒づくめに襲われたのだ。結果的に全員を戦闘不能にした。だが4人の戦闘力はそこそこ高かったため、この戦闘が終わったころには偽物が航と一緒に車に乗ってすでに行ってしまってたのだ。

現在ISは市街地で使用するのは禁止だ。そのため刀奈は、ステルス状態かつアクアナノマシンでの応用で背景に姿を溶け込ませてるため、現在ISを使用してることはほぼばれてないだろう。

 

「航、無事でいて…!」

 

刀奈はさらに無理やり速度を上げ、20分もしないうちに目手にの墓地にたどり着いた。そして蒼龍を格納し、ISスーツ姿になる。

 

「お墓は…あっちね!」

 

刀奈は格納領域(バススロット) から拳銃を1つ展開し、航の両親の墓のある方へと向かう。その道中、何かがぶつかる音がしたため立ち止まると…。

 

『がァァァぁぁあアアアアア!!!!!!』

 

「この声、航!?」

 

刀奈は急いで声のしたへ方と急ぐ。木々をかき分け、草むらの葉で足の皮一枚を切ってしまう時もあったが、そんなことは気にせずただ急いだ。

間に合うために。これ以上彼を泣かせないようにするために。

そしてかき分けた後、抜けた先には自分そっくりの女が航めがけて、ナイフを突き刺そうとしてる姿が見えた。

状況を一瞬で把握した刀奈は、偽物めがけて拳銃の引き金を3回引く。だが女はそれに即気づき、航の鳩尾を蹴ってバック転を数回繰り返して回避するした。

そして女が離れた隙に航の元へ寄る刀奈。だが彼の姿を見たとき、彼女は絶句してしまった。だがそれでも航が動こうとするため、刀奈は必死に彼を止める。

 

「航!それ以上動いちゃダメ!血が出ちゃう!」

 

「殺す。殺す。父さんと母さンの仇、コロす。コロス…!」

 

刀奈は彼にしがみついて必死に止めようとするが、航は半ば自我を失ってただ目的のために動こうともがいている。その力はとても強く、刀奈が少しでも力を抜こうものならすぐに振りほどかれ、そのまま偽物を殺しに動かねない。

偽物を処理するのは裏の人間の仕事であり、まだそこまで踏み込んでない彼のすることではない。刀奈は独善と分かってても、彼に人殺しをしてほしくなかった。

それに今の航は満身創痍だ。体数か所にナイフが刺さったせいであちこちから血を流し、体を酷使したから骨も悲鳴を上げてる。

 

「もウ…失いたクナイ。俺の傍かラ、人が消えるのは嫌だ……」

 

航は無理やり体を動かそうとする。

だがその時、刀奈が航の頭を優しく抱きしめた。

 

「大丈夫。私は死なないから。だからそこで待ってて」

 

「ウ……ぁ…刀、奈……」

 

航はの瞳が大きくなっていく。そして木に寄りかかって腰をつき、そのまま横になった。そして刀奈は蒼龍のナノマシンで傷口の部分を覆って、これ以上血を流さないようにする。そして刀奈は女をにらみつけた。

 

「あら、えらい大人しく従ったわね」

 

「そうね。航の心に余裕ができたからかもしれないわ。それに本物の私を見て安心したんでしょうね」

 

「だとしても、安い愛ね。まるで劇を見てるみたい」

 

女はケラケラと笑い声を出すが、息は荒く、各所から出る出血のせいで少し顔も青い。だがその時、女がどこからか液体の入った注射器を取り出し、それを首筋の部分に刺す。そして中身を流し込んで注射器を捨てた後、女は不敵な笑みを浮かべた。だがその瞬間苦悶の表情を浮かべ、地に突っ伏す。

 

「あれは…ナノマシンね」

 

女は悲鳴を上げていたが、それもいきなり止まり、そしてふらりと立ち上がった。先ほどまでの余裕のなさそうな表情は消え、何やら自信がありそうな顔になっている。そして潰されているため瞑っていた左目が開かれ、そこには無傷、いや修復が終わった目が2人を見ていた。

 

「ふぅ…。さすがに目を潰されたのは痛かったわ。だけど残念。私、直ぐにそういうの治せるの。だからいくら傷つけても無駄よ。まあ、貴方の父親にお腹刺されたときはさすがに死ぬかと思ったけどね」

 

女は右手で腹部をさすりながら左手にナイフを出す。何本持ってるのか分からないが、まだ彼女の雰囲気からしてまだ余裕があるのだろう。

 

「さて、貴女にはいろいろ聞きたいことがあるの。大人しく捕まってくれない?」

 

「嫌だ。と言ったら?」

 

「そうねぇ。実力行使ってところかしら?」

 

「なら、嫌よ!」

 

そう言うと同時に、女は勢いよくナイフを投げる。それは拳銃に刺さり、刀奈は即行拳銃を捨ててナイフを構えたまま突っ込んでくる女に対して構えを取った。

そして刀奈は躱そうとせず、冷静に女のナイフを持ってる手を上方へと受け流し、そして一歩踏み込んで女の懐に入り込んだ瞬間、女の鳩尾に肘を突きあげるかのように叩き込んだ。

 

「がっ、ぁ……!」

 

ビキッという音が鳴る。女は少し吹き飛び、そしてその場に崩れるかのように倒れた。

刀奈が使ったのは更識流古武術。その中でも殺の型であり、殺傷力の高いものを使ったのだ。だがもとは力が強い、主に男が使うもので作られてるのか、刀奈みたいな女がしてもいまいち殺すまではいかずに致命傷を与える程度になってしまったりする。まあ、今回は死なれたら困るから、動けない状態になって助かったが。

そして刀奈は女の顔の隣に立ち、冷たい目で見下す。

 

「さて、まだ死んでないんでしょ?貴女にはいろいろ聞きたいことがあるのよ。だからここで死んでもらっては困るわ」

 

「まだよ……!私は負けて……!」

 

「いい加減にして頂戴?それ以上痛めつけられたいの?」

 

楯無は右足で女の右手を押さえつけ、そして左手を掴んでそのままアームロックをかける。そしてギリギリと力を込めていき、女は小さく悲鳴を上げる。

 

「っ……痛いわ、ねぇ!」

 

女は足元の砂利を掴み、それを刀奈の顔めがけて投げた。

 

「小賢しい手を…!」

 

だが力が緩み、この瞬間に女は急いで刀奈から離れ、そしてあの注射器を取り出す。そしてすぐに首元に刺して激痛に耐えながら刀奈を見据える。

それを見た刀奈は呆れた顔をしており、それに対して女はにやりと口角を上げた。

 

「さて、第2ラウンドといこうかしら」

 

「……急所をやられたのにまだ元気ね」

 

「当たり前よ。私は不死身なの」

 

女は口元に伝っていた血を手の甲で拭う。既に彼女の傷は塞がっており、既に臨戦態勢に入ってる。それを見た刀奈はため息を吐いて、そしてスゥと細めた目で女を見た。

 

「そう。なら更識家17代目当主、更識楯無が相手してあげるわ」

 

そう名乗りを上げた刀奈…いや、楯無は勢いよく女の懐に入り込もうとする。だが女もすぐに反応してナイフを振って追い払おうとしたが、このとき楯無が口から何か出した。

女はこの技を知ってた。そのため目に入らない様に顔を動かして避けるが、頬にあたったと思った瞬間、鮮血が舞った。

 

「なっ!?」

 

「誰も唾しか吐かないとは言ってないわよ」

 

女は航の動きを鈍くするため、彼の目に唾を吹いた。そのため彼の動きは鈍ったが、楯無が口から出したのは唾ではなく、奥歯の大きさもない小さな礫だ。それが女の頬を切り裂いたのだ。

女はどこにそんな物があるのかと考えたが、自分の足元にある砂利道に目が行った。

 

「正解だけど遅いわ!」

 

楯無はそのまま女を押し返してローキック、ハイキック、パンチなどを使って女に反撃の隙を与えないようにする。女はその間ひたすら防御するしかなく、楯無の素早い動きをにどうにかついていこうとしてるのが精一杯だ。

楯無の攻撃は素早いくせに意外と重く、骨が軋んだりするほどで、女はどうにか受け止めた際はわざと飛んで衝撃を逃がしたりしてる。だがその時、楯無はそのまま追撃に入ろうして懐に入ろうとしたら女がすでにナイフを構えており、そしてそのまま横に振ってきたのだ。

女はこの状態なら絶対当たると確信し、手に肉の食い込む感覚を待っていたが、そんな感覚は一切来ずにただ目の前から楯無が消えたのに驚いた。そして鳩尾に重い一撃が入り、吹き飛ばされると同時に下を見ると、そこには仰向けに倒れ込むようにして片手で逆立ちになり、下から真っ直ぐ突き上げる楯無がいた。

さっきより骨の強度が脆い。おかしいと思いながら女は着地すると同時に急いで楯無から距離を取って、そして注射器を取り出す。

 

「やば、い。回復しないと……!」

 

だがその時、女の背中に激痛が走った。それによって容器を落とし、粉々に割れる。女は痛みと落としたショックによる悲鳴を上げた。

 

「あああああ!」

 

「やら、せるか……!」

 

彼女の後ろには航は息を荒くしながらも立っており、そして左手に刺さってたナイフを自分で抜き、女に向けて投げたのだ。そして女は殺意を込めた目で航を見た。

 

「貴様あああああ!」

 

そして女は即航に対して距離を詰め、そして顔めがけてナイフを突きつけるが、切っ先が頬をかすめただけで、そして航の右掌打が女の顔を捉えた。

女は気づかなかった。後ろから楯無が迫ってきて、そして膝が後頭部を狙ってることに。

そして航の右掌打が顔面に、楯無の跳び膝蹴りが後頭部に極まる形となり、2人による一撃で鼻や口から血を出しながら女は崩れて地に伏す。

だが航も無理をしたせいで膝をつき、そして倒れそうになったところを楯無が支えてくれたことで、どうにか倒れずに済んだ。

 

「仇、とった……。やっと……」

 

「航…ごめんね……。私がちゃんとできなかったからこんなことになって……ごめんね……」

 

航の口は小さく笑みを浮かべており、乾いた、そして泣きだしそうな笑いが漏れていた。ギュッと優しく抱きしめる刀奈。彼が壊れてしまいそうで、それが怖くて…。ただ刀奈は彼を抱きしめることしかできなかった。

そのとき刀奈の後ろで、女がむくりと起き上がった。だが顔は血まみれで、目も片目だけがギョロリと大きく開いており、息もとても荒い。

 

「キサマだけでもぉぉぉぉ!!!!」

 

「やらせるわけないでしょ」

 

「なっ!?」

 

女は走って刀奈を刺そうとしたが、直ぐに気づかれて躱されてしまう。女はとっさに手を引こうとしたが時すでに遅し。

刀奈は女の手首を右手で掴み、そして少しねじって彼女と背中合わせになる。そしてそのまま女の腕を肩に持ってきて、逆間接に極まった女の肘を砕きながら背負い投げをする。

 

「ひぃ…!?」

 

「逝ね」

 

そして女は真っ逆さまになり、そのまま頭から地に叩き落されると思った瞬間、刀奈は女の頭部にローキックを叩き込んだのだ。ビキィという骨が折れたであろう音と共に女は地に崩れ、蹴られた衝撃か地に落ちた衝撃かわからないが、悪鬼よりひどい顔になっていた。

女は()()()()()()()()()()()、刀奈が自分を見下してるのに恐怖を感じ、失禁してしまう。刀奈はそれを見ても眉一つ動かさず、蒼龍のアクアナノマシンで女を縛り上げていく。だが締め付けるときの力が結構強く、肋骨が数本折れてしまったが誤差の範囲内なのだろう。

刀奈はイラついていた。自分と同じ顔が航を傷つけ、彼の両親を殺したことを。おかげで自分の名も傷つけられ、あちこちから疑心の目。

そして刀奈は女の顔を指さし、指示を受けたナノマシンは顔まで迫る。そして彼女の顔に少しずつへばりつき、万力をも思わせる力で、女の顔を締め上げ始めたのだ。

 

「……!?……!」

 

女は鼻と口が塞がれて、ただ声にならない断末魔を上げることしかできない。そして呼吸もできないため、顔の色がどんどん土気色に変わっていく。骨が折れるのが先か、窒息するのが先か。ただ刀奈と航は氷のような眼でそれを見ていた。

そして何か折れる音がした。女の目はグルンと上を向いて、そのままピクリとも動かなくなる。

 

「……死んだ?」

 

「たぶんね。ただナノマシンの打ち過ぎだとそう簡単に死なないのよ。いや、死ねないというべきかしら」

 

「ならトドメを……」

 

「だめよ。生きてるのなら、首謀者が誰か吐かせるわ。航。憎いだろうし、殺したいんでしょうけど、今は耐えて。じゃないと首謀者がまた貴方を狙ってくるわ」

 

「わかった、よ……」

 

航は小さく答えた後、そのままパタリと横に倒れた。刀奈は急いで彼の元に寄る。彼の体には多数の刃物による刺し傷が出来ており、刀奈が止血する前には多量の血を流し過ぎたのだ。そのため顔もすこし青白く、息も深い。

刀奈は急いで家の者が近い病院へと電話をし、即行緊急手術ができるように手配する。そして彼を送った霧島駐車場に車を止めているはずだから、急いで駐車場に向かう。

 

「あった……!」

 

そこには黒色の車があり、刀奈は急いで運転席の方へと向かうと……。

 

「霧島!……霧島、どこに行ったの!?」

 

車はすでにもぬけの空。近くに公衆トイレやコンビニもなく、そして電話をかけても出ず、まさかの任務を放棄してどこかに消えたことに刀奈は驚きを隠せなかった。

まさか自分の家臣に裏切られるとは思わなかった刀奈だが、車のトランクに置いてあった救急セットを取り出し、その中に入ってた注射型の鎮痛剤を航に打った。

それで航の顔から苦痛が消えるが、顔色が不味いのは変わらない。刀奈は意を決して、蒼龍を展開し、航をアクアナノマシンで覆って飛翔した。

 

「かた、な……」

 

「航、死んじゃ嫌よ!」

 

ルールとか決まり事とか、そんなの関係ない。ただ航を助けたい。それだけの心で刀奈は手配先の病院へと飛んでいった。




偽楯無、実際めっちゃ強いです。ただ航が想像以上に彼女にダメージを与えたのと、いくらナノマシンで回復してもダメージが抜けなかったので結果的にやられました。
無傷状態で楯無さん(本物)と戦うと、たぶん本物の楯無さんでも相当やばい状況に持ってかれた可能性があります。




さてさて、次回は久しぶりの怪獣たちの登場です。お楽しみに。


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脱皮

どうも、艦これの夏イベでヒーヒー言ってる妖刀です。
後段作戦、何なんだあのカオスは……。(旗風カワイイヤッター)

では本編どうぞ!


ここは中央太平洋。そこの水深1000mのところでゴジラは力を蓄え、そして眠りについていた。だがある日、ゴジラの元にとある感覚が走り、そして目を覚ます。

 

「グォォォ?」

 

それは、殺意と憎悪の混じった感覚だった。だがゴジラからしたら、とても懐かしい感覚だった。自分の親が殺されたときのあの感覚、あの時の記憶がよみがえり、少しイラつきに変わったゴジラは小さく唸り声を上げた。

だが不意に、どこから来たのか気になってしまった。自分の同族はもういない。すでに独りぼっちのゴジラは同族がいるのかと僅かに期待したが、この気配に若干人間に似た気配が混じってるのに気づき、少し嫌悪感をを感じる。

 

 

――また人間が我々の同族に何か手を出したのか――

 

 

機械の体にされた親を思い出す。人間の勝手で化け物にされ、そして人間の勝手で殺された。それどころか人間は、自分たちの勝手で親の遺骨を引き上げた挙句、自分を殺すための道具として使ったのだ。

それでひどい目にあわされた。

痛かった。辛かった。

親の感覚がする機械のゴジラにゴジラはひたすら傷つけられた。呼びかけても親はうんともすんとも言わない。結果的に冷たい、痛い攻撃でゴジラは悲しみに暮れながら海に消えていった。

それから1年の時間をかけて傷の大体を癒し、今度こそ取り返すために日本に上陸した。人間の攻撃は脆弱で、自分を止めれるほどの威力もない。それで骨がある場所を目指して移動をしていたら、モスラがゴジラを止めるために立ちふさがったのだ。

 

 

――止めてください!そうやって憎しみを増やすのですか?――

 

 

――親を、家族が俺を殺す道具にした人間を護ることに何の意味がある!そこをどけ!――

 

 

モスラの言うことを突っぱね、そのまま己の力でねじ伏せる。そしてとどめを刺そうとした時だ。そう、親の骨がやってきたのだ。

そしてゴジラは骨を取り返そうと、そして前のリベンジを果たそうと戦った。だがしかし、モスラの幼虫が邪魔をしてきて集中できない。イラついたゴジラは幼虫を焼き払おうとしたとき、成虫が2匹をかばって死んだ。

そして幼虫が怒りの形相でゴジラを睨みつけてきたとき、ゴジラはその姿がなんとなく昔の自分に見えてしまった。

だが引くわけにもいかない。最初から出てこなければやられなかった。ただそれだけだ。正直胸の傷も痛み出すため、さっさと終わらせたかったのだが……。

結果、無理だった。腹に穴を穿たれ、胸の傷にも攻撃してきて、そしてモスラの糸によって行動不能にさせられる。

 

 

――助けて――

 

 

あの時、そうつぶやいたのか覚えてないが、小さく口が動いた。

その時だろうか。何十年前に感じてた、あの懐かしい感覚があったのは。その後彼女に抱きしめられ、そのまま日本を離れていき、そして2体は海に飛び込んだ。

海底へ没してく中、あの時“ごめんなさい”と言われた。何で彼女が謝るのか。悪いのは人間ではないか。ただゴジラは理解できなかった。だが、“ただいま”の言葉を聞いたとき、ゴジラは小さく“おかえりなさい”とつぶやいた。そして痛みや疲れで、ゴジラは永い眠りについたのだ。

 

 

 

ゆっくりと瞼を開くゴジラ。そしてその眼つきは鋭い物へと変わっていく。

 

「グルルゥ……」

 

またあの悲しみを繰り返すのか。ゴジラは怒りを隠せなかった。そしてゆっくりと立ち上がり、背びれがチカチカと光らせ、地面に向けて熱線を吐く。

 

「グルォォォオオオオ!!!!!」

 

力は十分に貯まった。十分に動けると判断したのか、尻尾を大きく振りながら大きく吼えるゴジラ。

そして海底を強く蹴り、そのまま尻尾を強く振り、それを推進力にして移動する。

ついにゴジラは動き出した。目指すは日本。この気になるモノの答えを知りに、50ノットの速度で動き出した。

 

 

 

 

 

 

ここは東京渋谷。その渋谷湖湖底では、大型化したメガヌロンにとある変化が起きようとしていた。

 

「ギッ……ギィ……」

 

時折背中を震わせ、顎を小さく動かしながら苦しそうな声を上げている。

先ほどまでメガニューラからのエネルギー提供を受けており、周りにはメガニューラの死骸が漂っている。そのため()()()()()をするための体力にも問題ない。

メガヌロンは背中に意識を集中させ、背を震わせるように体を蠢かす。

 

 

ビチンッ

 

 

水中に何かが裂ける音が響き渡る。これでメガヌロンの体がビクンと反応した後、動かなくなった。いや、背中を中心に若干動いている。

そしてメガヌロンの背中に何か、背びれのようなものが見えてきた。

そうだ。最後の脱皮が始まったのだ。

 

「ギッ、キィィ……」

 

脱皮というのは命がけだ。これが失敗すればこれまでの努力は無に帰るどころか、己の命を落とす羽目になる。そのためメガヌロンは成虫になるため、慎重に古い体から新しい体を引っ張り出していく。その亀裂は背中から頭の方にまで走り、ゆっくりと体が出始めた。

その時だ。赤い複眼が幼虫の体から覗かせたのだ。ビキビキと言う音と共に新しい体を少しずつ引っ張り出し、そしてメガヌロンの時とは違う、鋭い顎をのぞかせた成虫は空を見上げた。

 

「キュアァァァァァァ!!」

 

この時、超翔竜(メガギラス)の産声が水中にこだました。

 

 

 

 

渋谷のビルの屋上にて陸上自衛隊がテントを立てて臨時の司令部を作り、そこから渋谷湖の調査を行っていた。

ある日の夜、その司令部にて、私服姿の男、工藤元は隊員に言われた言葉にキョトンとしていた。

 

「はー?壊れたー?」

 

「はい……」

 

「まー、わかった。2号機あるからそっち使って。じゃあ1号機は修理するから」

 

「おねがいします」

 

隊員から渡されたエイの様な赤い機体をもらった、元はテントの中に戻って早速修理を始める。

 

「どーいうことだー?早々壊れない様に作ったんだぞ?」

 

そして赤いエイのような機体ことSGSのカバーを外し、内部の基盤とかを外に引っ張り出す。基盤は何かによってあちこち亀裂が入っており、配線もズタズタになってしまっていた。おかげで、慎重に引っ張り出さないとすぐに崩れてしまいそうだ。

 

「おいおい、どうなってんだこれ…。まるで何かにかき乱されたみてえじゃねえか……」

 

さすがにこれをすぐに元の状態に戻すのはほぼ不可のため、大人しく予備の基盤等々を出して、SGSの中にとり付けていく。他に悪い部分を調べていくとモーターなどもおかしいため、結果的に外装以外、ほとんど総取り換えになりそうだ。

 

「いったい水の中で何があったんだ?外装に傷がないからメガヌロンに襲われたとかじゃないはずだけど……」

 

何が原因なのかわからないため、腕を組んで首をかしげる元。

そんな時だ。

 

「おい。この機器、調子悪いぞ?」

 

「はぁ?待て待て、最近入ったばかりの奴がもう調子悪いわけないだろ」

 

「なら見てくれ」

 

何か周りの危機の調子もおかしい。これらの症状が出始めたのは今日の昼過ぎからで、修理できる分はしていってるが、それでもいまいち調子が直らないのが多数だ。

おかげで仕事もままならず、無駄に時間を浪費してしまうためどうにかしたいと思ってるが……。

その時だ。計器の1つが、何か異常な反応を出し始めたのだ。

 

「おい!あそこを探照灯で照らしてくれ!」

 

隊員の声により、設置されてた3つの探照灯が、ビルの目の前に広がる渋谷湖を照らし出す。そこには無風のため波紋がほとんどなかったのに近くに見える建物、渋谷109の近くで大きく波紋が出てるのだ。

 

「工藤さんは早く下がってください。後は私たちが」

 

「あっはい」

 

流石に指示に従って大人しく逃げようとする元。だがその時、大きく水から何かが出る音がしたため、立ち止まって後ろを振り向くと、そこには巨大な蜻蛉、いや、超翔竜がいた。

 

「チュィィァァアアアアア!!!!!」

 

「こいつが、メガギラス……」

 

体の色は紫で、翼長70mはあろう巨大な翼が4枚生えている。前腕には巨大な鋏が1対生えており、残りの脚は3対生えている。そして長い腹、もとい尻尾の先には鋭く長い針が3本生えており、まさに巨大なメガニューラのように思えたが、顔は全く違った。

まるで爬虫類のような顔つきにも見えるが、少し平たい、若干人間っぽさもある。そして口には鋭い牙が多数生えそろっており、赤い複眼が2つ、暗闇でも浮かび上がるように輝いていた。

メガギラスは周りを確認するかのように緩やかに旋回しながら飛び、そして渋谷109の屋上に脚を下す。

 

「チリリィ……」

 

メガギラスは翼をゆっくりと上下にはばたかせ始めるが飛ぶ気配がない。だが羽ばたく速度がどんどん早くなり、ついには残像が見えるほどになり始めた。するとどうだ。キィィィィンという音が耳を切り裂こうと言わんばかりに鳴り響き、元や自衛隊の隊員たちに襲い掛かったのだ。

 

「高周波だっ!」

 

鼓膜を一瞬で破りそうな音が耳を襲い、彼らはとっさに耳をふさいだ。だがその衝撃はとても大きく、頭が大きく揺さぶられたのではないかと思うほどだった。おまけにこの高周波によって、周り建物のガラスも一斉に割れて降り注ぎ、電子機器類が一発で壊れ、この基地周辺が一斉に暗くなる。

 

「チュィィァァアアアアア!!!!!」

 

そのとき、メガギラスが吼えた。そして暗闇の中、ついにその巨体を空中に上げ、翼を高速で羽ばたかせ始める。そしてメガギラスは元たちがいる方向へと瞬間移動と思わせるあのような飛行をし、その衝撃波で周りの建物が崩れ始めたのだ。

それは元たちの場所も例外でなく、彼らは建物が崩れていく中、必死に走って逃げる。だがその姿も、瓦礫によって舞い上がる土埃によって見えなくなっていき、ただ夜闇に建物が崩れる音だけが響き続けた。

 

 

 

後日、工藤元の他、自衛隊員5名が重傷ながらも救助された。彼らの口からは「メガギラスが……」とうわごとのように言っていたという。




このメガギラスは生頼範義さんのポスター版がイメージです。


そしてゴジラについてですが、これは完全な自己解釈のため「何言ってるんだ?」とか「お前の考えは絶対違う!」とか言わないでいてくれると助かります。
なお自己解釈は他いくつか案がありましたが、結果的にこれになりました。


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臨海学校

お久しぶりです。学校の実力テストだのいろいろあって執筆がまともに出来なかった妖刀です。
とりあえず昨日、「特撮のDNA展」に行って来て、様々な東宝怪獣の写真を撮ってきました。何がいたかは全部は言えませんが、ゴジラ(1999)もいましたし、一部ゴジラの皮膚を実際に触れるコーナーもありましたので、ゴジラ好きならとても楽しめるものでした。



そしてこれからも投稿が遅れる可能性が大ですが、銀龍の応援をよろしくお願いします。

では、本編どうぞ


「海だぁ!」

 

トンネルを抜けた先で、一人の生徒が声を上げる。

臨海学校初日、天候は恵まれて快晴。バスから見える日の光を反射する海を見て生徒たちは、先ほどからテンションが高まってきている。

 

「おー、やっぱり海は良いなぁ」

 

「う、うむ。そうだな」

 

バスの中の一番後ろで一夏の隣にいるのは箒だ。だが箒は、一夏が隣にいるせいか緊張しており、声を上ずってしまってる。そんな箒を見て一夏は首をかしげるが、まあ、あまり気にしないことにした。というか、先ほどからセシリアの視線がとても痛いのだ。そしてラウラもこちらを見ているが、どちらかというと興味のような視線のため、まだ安心できる。

その中、航はバスの一番後ろの右側の窓側の席に座っており、小さく寝息を立てていた。

あの事件の後、刀奈に病院に連れていかれ、緊急手術を行われようとしたが()()だったため、2日ほどの検査入院をし、そしてIS学園へと戻ったのだ。まあ、学園ではいろいろ聞かれるわ大変だったが、担任の方にはすでに連絡が入ってたのか、千冬の一声でその騒動はすぐ収まった。

その後、航は軋む体に少し無茶を言わせてバスに乗り、そして現在、眠りについてるのだ。

そして彼の隣には本音がおり、航が最初寄りかかるかのように寝てしまってたが、別に不快に思っておらず、むしろそのまま膝枕に持って行って寝かせていた。

そして千冬がもうすぐ旅館に着くことを知らせると、航の頬をプニプニと突くように起こす。

 

「わーたん、起きてー」

 

「ん…あぁ……」

 

「ねーねー、もうすぐ着くよー」

 

「ぁ、あぁ、わかった。起きるから……って本音、なんで膝枕?」

 

「ん~なんとなく~?」

 

航は顔の横に本音の見た目に反した乳房が乗っかってることに気付き、顔を少し赤くする。そして起き上がる頃、バスは目的の旅館である花月荘へとたどり着くのであった。

 

 

 

 

 

そして生徒たちはそれぞれの部屋に向かい、そして水着に着替えて海で遊んでいた。一夏も例外でなく、すでに水着に着替えて海に向かうが、砂浜が熱されたおかげで、彼は急いで走っていた。

 

「あちちっ!海へ急がないと!」

 

一夏は砂浜を走り、一目散に海へと向かう。そして波打ち際にたどり着き、足に波がかかり、一夏はいい笑顔で何か1人頷いてる。

 

「やっぱり砂浜はこう暑くないとな」

 

とりあえず足を冷やし、一夏はそのまま泳ぐ前に準備体操を始める。背筋を伸ばしたりいろいろしていたが……。

 

「い・ち・かー!」

 

「うおっ!?」

 

背中の方から強い衝撃が走る。それで倒れそうになる一夏だが、意地でもどうにか堪え、そしてなにが当たったのか、顔を動かすとそこには、特徴的なツインテールの女の子の姿が見えた。

 

「いてててて…鈴か」

 

一夏が目をやると、そこにはカラーがオレンジと白のストライプになった、スポーティなタンキタイプの水着を着てる鈴がいた。

鈴は目をキラキラ輝かせて一夏を見ており、一夏はどう反応すればいいのか少し困ってしまう。

 

「り、鈴、どうした?」

 

「どう!私の水着姿、可愛いでしょ!」

 

「とりあえず背中から降りてくれ。じゃないと見えねえから」

 

「嫌よ。このまま一夏は私の監視塔になって」

 

「ちょ、監視塔ってなんだよ!」

 

一夏がそういうが、鈴はお構いなしにそのまま一夏の背中をよじ登り、一夏に肩車をしてもらう。

 

「おー、高ーい」

 

「結局見えねえじゃねえか…」

 

「べ、別にいいのよ」

 

そういって鈴はそっぽを向く。それが見えた一夏は小さくため息を吐き、とりあえずどうしようかと思いながら、腰までの深さまで来た時だ。

 

「お前ら、何してるのだ?」

 

声のした方を向くと、そこには髪を1対のサイドアップテールにした黒の水着を着てるラウラがいた。

 

「おお、ラウラか。可愛い水着してるな」

 

「か、カワイイ、だと…?」

 

「おう」

 

それを聞いたラウラは顔を真っ赤にするが、鈴の方は不満げな顔をしており、そして一夏のこめかみに鈴が拳をグリグリと押し付けた。

 

「いでででで。鈴、何すんだよ!」

 

「別に」

 

不機嫌そうにそっぽを向く鈴。まあ、これを見たラウラは平常心を取り戻し、先ほどの質問を繰り返した。

 

「で、何をしてるんだ?」

 

「肩車よ。いいでしょ、周りがよく見えるわ」

 

鈴はドヤ顔で答える。実際周りにいる生徒たちは少し羨ましそうな目で見ており、鈴はその優越感に浸っている。

 

「肩車?ほう、つまり鈴は性器を一夏のうなじにこすりつけてるということか」

 

その指摘に鈴の顔はどんどん赤くなっていき、そしてじたばたと暴れ出した。

 

「はにゃあああ!!!」

 

「ちょ、暴れんな、うおっ!?」

 

鈴が暴れた結果、一夏はバランスを崩してしまい、2人そろって海に倒れる。そして海面から、ずぶ濡れの2人が出て来て、ラウラの方を見ていた。

 

「「ラウラ~?」」

 

「す、すまなかった……」

 

それを見たラウラは、おとなしく謝るのであった。

 

 

 

 

 

その後、一夏たち3人は他の女子たちがビーチバレーしてるということで、そっちの方に参加して楽しん出たりしていた。

だがずっとやってるとさすがに疲れ、流石に熱さに慣れた砂浜に腰を下ろす。

 

「あー、流石にあれだけボールを打ってると手が痛くなるな…」

 

「一夏―。私とあのブイまで競泳しましょー!」

 

「さて、泳ぐとするか」

 

鈴に呼ばれたため、「どっこいしょ」と掛け声をして一夏が立ち上がった時、彼は後ろに1人の女子がいるのに気づかなかった。そしてその女子生徒から声を掛けられる。

 

「い、一夏。ちょっといいか…?」

 

「おお、箒、やっときた、か……」

 

その姿を見たとき、一夏は言葉を失った。なぜなら声の主、篠ノ之箒は白のビキニを着ており、その豊満な乳が大きく主張をしている。だがそれより、きれいな箒の姿に見惚れていたのだから。

 

「ど、どうだ…。私に似合う、か?」

 

「お、おう。とても綺麗だぜ」

 

「き、綺麗だと!?」

 

それを聞いた箒は顔を真っ赤にする。だがこの時、一夏の視線が箒の胸の方に行っており、それに気づいた箒は胸を抱きかかえて隠すようなしぐさをし、頬を赤くして一夏の方をチラチラとみていた。

 

「あ、あまり見るな…。照れるだろうが……」

 

箒はもじもじとしており、普段見せない仕草のせいか、それとも肌を大きく露出させてるせいかわからないが、一夏の頬は赤くなっており、箒と目が合った時、お互い同時に目をそらした。

その時、鈴が一夏の腹に思いっきり平手打ちをした。パァンととてもいい音が響き、一夏のお腹には見事なもみじ模様ができる。

 

「うぐっ!?何すんだよ!」

 

「鈴!貴様、一夏を―――」

 

「そんなにでかいのがいいわけ?!」

 

鈴が怖かった。反論しようとした一夏が、一瞬で口を閉ざすぐらいに怖かった。

それを見た箒も口を閉ざすが、鈴の目は完全に箒に狙いを付けていた。それに気づいた箒は、急いで逃げ出そうとしたが……。

 

「逃がすわけないでしょー!」

 

「ちょ、待て…ひゃあ!」

 

鈴は一瞬で箒の後ろの回り込み、その豊満な胸を乱暴に揉み、箒は顔を真っ赤にして鈴を引きはがそうとした。だが鈴の力は見た目より強く、そう簡単にはがれてくれない。その間にもずっと揉まれ続け、箒の口から小さく嬌声が漏れる。

 

「これでしょ!これで一夏を誘惑してんでしょ!よこしなさい!私にー!」

 

「り、鈴…!まって、くれ…ひゃあ!そんなに揉んだら……!」

 

箒が体をクネクネさせており、それを鈴が揉んでる。それを見ていて一夏は顔を真っ赤にし、大人しく海へと逃げた。

そのとき、遠くでパラソルを立て、一夏にサンオイルを塗ってもらおうと思ってたセシリアが箒と鈴の姿に気づき、急いで彼女たちの元へと寄った。

 

「り、鈴さん!そんなにしたら箒さんが」

 

「お前もデカ乳か!」

 

「きゃあ!鈴さん!お止めください!」

 

止めに入ろうとしたセシリアの胸が視界に入り、鈴は次の目標をセシリアと定め、ビクンビクンとしてる箒を放ってセシリアの胸を乱暴に揉みだした。

周りの生徒もそれを見て顔を真っ赤にしており、結果的に水着姿の千冬にげんこつをくらって、強制停止させられるのであった。

そんなこんながありながら、冷静に戻った鈴は一夏がいないことに気付いた。周りの面子も遅くながらもそれに気づき、声を上げて一夏の名を呼んだ。

 

「一夏―!どこに行ったのよー!」

 

「一夏―!どこだー!」

 

「一夏さーん!」

 

そう呼ぶが一夏は一切姿を見せず、生徒たちはとても不安げな表情を浮かべていた。それは副担任の真耶も例外でなく、ただ千冬はため息を吐いて頭を抱えていた。

だがその時だ。

 

「獲ったどー!」

 

海面からサザエを高く掲げる一夏が出てきたのだ。それを見てキョトンとする一同だが、それに気づかぬ一夏は顔を出したまま、スイスイと泳いで浜辺に戻ってくる。そして海から出てきた一夏の手にはサザエやハマグリがいくつも抱きかかえており、そんな一夏はとても満足げな顔をしていた。

 

「ただいまー。見てくれ、こんなにたくさん取れたんだ、いでっ!?」

 

「馬鹿者。周りを心配させるな」

 

一夏は周りを見渡すと、いろいろ心配そうな目で見てくる生徒、そして今にも怒り出しそうな箒たちなどがいたため「ごめん」と謝り、とりあえず近くにあったバケツに獲ったものを入れる。

 

「一夏は潜水得意なのか」

 

バケツの中を覗いたラウラがそう言う。

 

「まーな。ただ俺のはまだまだな方だ。連続で10分とか潜れないしな」

 

「何?そんな奴がいるのか」

 

「航だよ。あいつ、肺活量がすごいから10分は軽く潜るぞ。中学生のときさ、それで伊勢エビ捕まえてきたのはさすがにビビった」

 

笑いながらそう言うが、それを聞いたラウラ以外の周りは軽くドン引きしている。

まあそんなこともありながら、一夏は再び女子たちと遊びに戻る。

だがそんな時だ。

 

「ん、今のって……」

 

一夏は遠くの大きな石の上にいる兎耳を付けた女性の姿を一瞬見たが、すぐ消えてしまったため気のせいだと思い、また遊ぶのだった。

 

 

 

 

 

一夏たちが外で楽しんでる間、航は自室で仰向けに倒れて天井を見ていた。別に水着を忘れたわけではない。だが航は、ただ外で遊ぶ気になれず、冷房の効いた部屋の中1人になっていた。

その時、扉のノックする音が聞こえ、航は起き上がって扉を開ける。するとそこには制服姿の簪が立っていた。彼女は周りをきょろきょろとみており、まるであまり見られたくないかのような仕草をとっていた。

 

「簪……?」

 

「ちょっと、いいかな……?」

 

「あぁ、入ってもいいぞ」

 

簪を招き入れ、航と簪はお互い向き合うように座る。そして航は彼女に部屋に備え付けのお茶を入れて渡した。

 

「まあ、粗茶だけど」

 

「あ、ありがとう」

 

そして何しに来たのか話すかと思えば、簪は口を開かない。少しオロオロした感じの仕草でちょいちょい航を見てたりする。

どうすればいいのか悩んだ航だが、不意にこの前のことを思い出し、そのことで頭を下げた・

 

「簪、この前は怒鳴ってすまなかった」

 

「んん、私もあの時いろいろ聞いてきてごめんなさい……」

 

この後お互い謝りあってたが、不意にどちらかが笑いだし、結果的にお互い水に流すことになった。まあこれが要因かわからないが、簪の中の緊張がほぐれたのか、やっと彼女がちゃんと口を開いた。

 

「あのね、お姉ちゃんから航が襲われて怪我したたって聞いて…」

 

「あー、お見舞いか?まあ、ありがと」

 

「う、うん……。それで、傷は…?」

 

「あぁ。見てみるか?」

 

そういって航は左手の甲を簪に見せる。そこにはナイフが刺さった痕が残っており、ひっくり返した手の平にも貫かれた痕がある。だが傷跡は既に、数年前に怪我したかのようなほぼ分かりにくいものになっており、パッと見では見分けつかない。

 

「本当に、怪我したの……?」

 

「したんだが、さっさと治った。まあ、おかげで死なずに済んだがな」

 

「まるでウルヴァリンみたいだね」

 

「ん?たしか…金属の爪を生やすアメリカのヒーローだっけ?」

 

「うん、そうだよ」

 

そして楽しそうにそのことを話し始める簪。彼女はヒーロー番組とか見てるため、アメリカのヒーローものも好きなのだろう。彼女が楽しそうに話しているため、航は相槌を打ったりしながら彼女の話を聞き続ける。まあ彼女の話を聞くのは面白く、航も楽しそうに会話をしていた。

そんな時、簪は航が少し不思議そうに自分を見てることに気付いた。そのことについて聞いてみたら、航は少し苦笑いを浮かべた。

 

「ん、あぁ…。簪が、こう話しかけてきたのが久々だからな。こう、嫌われてんじゃねえのかなって思っててさ」

 

「そ、それは……」

 

彼女はそのことを自覚してたのか、小さく目をそらしてしまう。

 

「なあ、簪。お前は俺のこと嫌いか?」

 

「……わかんない」

 

「そうか……」

 

「理由、聞かないんだね」

 

「なんとなく想像は付く。俺はヒーローとは違って女々しくて弱い男だからな。そんな男を好きになるなんてもう楯無ぐらいしかいないだろ」

 

航はそんな自虐に乾いた笑いを浮かべる。それを見た簪は、すこし不機嫌そうな顔を浮かべてジト目で航をにらむ。

 

「……ねえ、どうして弱いって思ったの?航、強いのに」

 

「俺は弱いよ。IS学園に入ってから楯無に頼ってばかりだ。それに、父さん母さんが殺された後、俺、楯無を……」

 

「たしか、お姉ちゃんの偽物がおじさんとおばさんを……」

 

「知ってたのか」

 

「うん…お姉ちゃんが教えてくれた……それで、お姉ちゃんが航に殺されそうになったのも……」

 

ドンドン声の大きさが小さくなっていく。それもそうだ。目の前にいるのが実姉を殺そうとした男が座ってるのだから。おまけに少しずつ挙動不審になり始め、体も震えている。

 

「そうか。…簪、もうこの部屋を出た方がいい。俺と一緒にいたら辛いだろ」

 

「それは……ごめんね。もう少し落ち着いたら、また……」

 

そして簪はトボトボと部屋を出ていくことにした。そして扉を開け、簪は最後に彼と目をわせた。

 

「航。お姉ちゃんのこと、信じてあげてね…」

 

そういってパタンと扉を閉じる。ただ彼はそれを見送った後、ぱたりと畳の床に倒れ、横になって小さくため息を吐く。

 

「刀奈のことを、か……」

 

そして同室の相手こと山田真耶が帰ってくるまで、彼は眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

航と別れた後、あれから簪は暗そうな表情のまま歩いており、自室を目指す。

 

「……昔は好きだったんだよ、航。でも…壊れたときから怖くなって逃げちゃったし。私には…それでもお姉ちゃんの様に付き添うなんて無理だよ……」

 

そう呟いた言葉は誰にも聞かれることなく、簪は小さくため息を吐いて自分の部屋に戻るのだった。

ただ航の心居続ける彼女を恨み、そんな航を愛する自分の姉を羨んだ。




航にとって彼女はいったい何なのか…。




そして銀龍、次回を今月中に出せたらいいなぁ・・・


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臨海学校の夜

お久しぶりです。教習とか実力テストとか実力テストとか実力テストとかで忙しくて書く暇があまりなかった妖刀です。
最近、ゴジラ新作の予告2弾目で興奮が隠せません。アニメゴジラ三部作、どういう風になるのか楽しみでたまりませんね。なおTwitterで「あんなのゴジラじゃない!」とか言ってる人が多々いますが、あれをゴジラじゃないって言ったら、今までの“彼ら”はいったいどうなるんだと・・・・。


っと愚痴が過ぎましたね。さて、最新話をどうぞ!


夕食も食べ終わり、すでに現在7時半。航は1人、旅館の大浴場を目指して浴衣姿で手にタオルを持って自室を出る。

だがその時、隣を見るとそこには箒、セシリア、鈴の3人が何やら聞き耳を立てており、それを見た航は軽く呆れた顔をして4人に声をかけた。

 

「お前ら、何してるんだ?」

 

「わ、航!お願い今は静かにして!」

 

航の隣の部屋は一夏と千冬が同室しているが、それで何かあったのだろうか。航は少し襖に耳を当てる。

なお航の同室相手は真耶である。

 

「千冬姉、ここがいい?」

 

「あっ…一夏ぁ…。駄目だ…それ以上は…!」

 

「そういわずにさ、もっと気持ちよくしてあげるね」

 

「あぁん!」

 

嬌声が聞こえ、それを聞いたとき航の目はジト目になった。そしてそのまま3人の方を見る。

 

「……俺、風呂入ってくるわ」

 

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

鈴がそう返事した後、航の疲れ切った顔をしながらその場を離れていった。だがその時、4人が体重をかけすぎたせいか襖が外れてしまい、そのまま部屋の方に倒れしまう。そして3人が部屋の中で見たもの、それは一夏が千冬にマッサージをしてる所であった。

 

「お前ら、何をしている」

 

「あ、あははは…こんにちは織斑先生…」

 

「さ、さようなら織斑先生!」

 

脱兎のごとく逃げだそうとしたが、瞬時に千冬によって捕まるのであった。

 

 

 

 

 

箒たちと別れた後、航は旅館の大浴場の中にいた。

この大浴場はIS学園の大浴場張りに広く、さまざまな種類の風呂がある。航はその中の一番大きいところに入っており、段差になってる部分に背中を預けている。

 

「おー、めっちゃ広いじゃねえか!」

 

その時、後ろの方から声がした。そしてかけ湯の音が何度かし、ペタペタと足音が航の方へと近づく。

 

「お、航!」

 

「一夏、か」

 

声に反応して振り返ると、そこにはタオルを肩に掛けた裸の一夏がおり、そして一夏はそのまま湯船につかり、航の近くに座る。

 

「あ゛ぁ~、こういうでっかい風呂はいいなぁ~。すげー気持ちいい」

 

「だな……」

 

風呂が気持ちいいのか、お互い小さくため息を吐く。

 

「そういえばさっきお前の部屋の前通ったが、いったい何してたんだ?」

 

「あー、千冬姉をあの時マッサージしててさ、そのあとセシリアにもマッサージしたんだよ。そしたらすごい気持ち良さそうにしてた。そういえば航、お前にもしてやろうか?」

 

「あー。最近あちこち痛むし、明日のISの可動試験云々が終わったらその後頼む」

 

「任せとけ。で、どこら辺が痛いんだ?」

 

「背骨らへんと足だな。後は……いや、これは別物だからいいや」

 

「別物?」

 

「少し、な……。さすがに何回も刺されたら嫌でも痛みは続く」

 

それを聞いた一夏は少しばつが悪そうな顔をする。

航の腕など見える部分以外の皮膚には、いくつか消えずに残った傷痕が体に痛々しそうに残っており、それを見た一夏は小さく息をのむ。そしてなぜか自分も同じ目に遭ったらどうなるかを考えたが、最悪な未来が見えたため顔を振ってその考えをさっさと止めることにする。

そしてお互い、風呂に入ったはいいが特に話そうと思う話題もなく、ただ時間が過ぎていくだけで、これではのぼせてしまいそうになってる。そのため、航はあることを一夏に聞くことにした。

 

「なあ一夏。お前さ、自分の家族…もとい千冬さんが何者かに襲われて死ぬ…まで行かなくても重傷負わされたらどうする?」

 

「んな!?何言ってんだよ!そんなの犯人を見つけ出して」

 

いきなりの質問でびっくりするが、憤慨した要するで堪えようとする一夏を航は制する。

 

「まあ待て。これにはまだ続きがある。そしてその犯人がIS学園の制服をしていた、という情報が手に入ったら?」

 

「っ!?それは……その……」

 

先ほどまで怒髪天だった一夏がどんどん意気消沈していく。それもそのはずだ。自分がいる場所がIS学園。その中の誰かが犯人となるため、完全に疑心暗鬼に陥るのは間違いない。実際航が通った道なのだから。

だがこれのおかげでお互いの空気が暗くなり、会話も止まってしまう。さすがに不味かったかと航は思ったが、一夏の口が僅かに動いた。

 

「……それでも」

 

「ん?」

 

「それでも、俺は犯人を見つけ出す。少しでも可能性があるなら、俺は見つけて、そしてなんでそうしたのか聞きたいいんだ」

 

「なら、それで結果敵対されたら?」

 

「その時は……倒す。じゃないと、また誰かが傷つくかもしれない。だから……!」

 

気づけば一夏は立ち上がってそんなこと言ってることに気付き、恥ずかしそうにゆっくりと湯船に身を沈める。それを航はキョトンとみていたため、余計に恥ずかしさが襲い掛かる。

そしてチラッと航を見たとき、彼の肩がプルプル震えてることに気付いた。

 

「わ、航…?」

 

「……ぷっ、くっ…あははははは!」

 

「な、何がおかしいんだよ!」

 

航が笑いながら水面を叩くため、一夏は先ほどの恥ずかしさ相まって顔を真っ赤にして怒る。ひーひー言いながらも航はどうにか笑いを止めようとするが、思い出し笑いからか、再び笑い出した。

その後、一夏にお湯をぶっかけられたため、仕返しにかけ返すと、そのまま掛け合いに発展した。

そして5分ほど掛け合った後、流石に疲れて再び湯船につかる2人。

 

「航…さすがに笑われるのは恥ずかしいぜ……」

 

「いやーすまんすまん。ホント一夏は一夏だ。そのまっすぐの態度、とてもうらやましいわ」

 

ただ怒りと憎悪をまき散らした自分とは違う。

航はそんな一夏がうらやましく感じると同時に、心の奥にザワリとする何かを感じたが、気のせいだと思い、このことは考えないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

一夏が風呂に向かった頃、一夏と千冬の部屋には先ほど部屋に倒れてきた女子たち+αが正座して千冬と向き合っていた。

 

「あ、あのー……」

 

「どうした、オルコット。そんなに縮こまって」

 

「そういわれましても……」

 

今までちゃんと向かい合って話すことがなかったのか、セシリアは結構恐縮しており、それと同様他の子たちも恐縮してしまってる。

だがその時、小さくであるが1人の女子が手を挙げた。

 

「あの、いいですか…?」

 

「ん?更識、お前もどうした?」

 

「織斑先生…何で私が……?」

 

そう、なぜか簪も呼ばれており、彼女も座布団の上で正座をしている。そして他の4人は簪とまともに会うのは初めてみたいで、他人ともいえる生徒がいることに少し居心地の悪さを感じた。

 

「まあ、あれだ。篠栗のことで少し聞きたいことがあってだな」

 

「はぁ…でもそれなら、同じクラスの本音に聞いた方が…」

 

「布仏は私が来る前に逃げて……まあいいじゃないか。ほれお前ら、ここにジュースがあるから好きに取ってもいいぞ」

 

そういって千冬は部屋に備え付けの冷蔵庫からジュース缶を5つ出す。

 

「い、いただきます…」

 

そして5人が缶に口付けたとき、ニヤリと千冬が笑った。

 

「飲んだな?」

 

「は、はい、そうですが…」

 

「ま、まさかこの中に何か入れて…」

 

「失礼なこと言うな馬鹿め。なに、ちょっとした口封じだ」

 

そういって千冬が冷蔵庫から取り出したものは缶ビールだ。それを千冬は嬉しそうに開けると、ゴクゴクと飲んでいく

 

「くー!生き返るぅ。さて、おつまみを一夏に作らせておくべきだったが、仕方ない、我慢するか」

 

そして二口目もおいしそうに飲む千冬を見て5人はポカンとしており、特にラウラは何度も瞬きして、まるで信じられないと言わんばかりの顔になっている。

 

「おかしな顔をするなよ。私だって人間だ。酒ぐらい飲むさ。それともオイルとか飲むロボットとでも思ったか?」

 

「い、いえ、そういうわけでは…」

 

「ないですけど…」

 

「今、仕事中じゃ…」

 

「そう堅いこというな。だからお前らに口止めとして渡しただろ?」

 

「あっ」

 

5人は自分の手元にある飲み物に目を落とす。流石にこうとなっては何も言えない。

 

「さて、前座はこれぐらいでいいだろう。そろそろ肝心の話をするか」

 

そういって2本目のビールのプルタブを開け、グビっと飲む千冬。

 

「お前ら、あいつらのどこがいいんだ?」

 

それを聞いたとき、箒、鈴、セシリアの3人は顔を真っ赤にし、ラウラと簪は小さく首をかしげた。それを見た千冬はクックックと笑っており、再びビールを飲む。

 

「わ、私は別に一夏の剣道の腕が落ちてるのが腹立たしいだけで…」

 

「わたくしは一夏さんにもっとクラス代表としてしっかりしてもらいたくて…」

 

「私は幼なじみなだけで…」

 

「ふむ、ならそれを一夏に伝えておくか」

 

「「「言わなくていいです!」」」

 

3人は同時に言うと、弄るのが楽しいのか千冬が笑いだした。それで3人がキョトンとした顔になるが、千冬は笑いを止めることができず、少し経ってやっと落ち着いた。

 

「いやー、すまんな。で、実際はどんなとこなんだ?そうだな…じゃあ最初は篠ノ之。言ってもらおうか」

 

「え、私!?えーと、まぁ、一夏の優しいとこですね。昔、虐められてた時に一夏に助けてもらって…それで…」

 

「あー、私も助けてもらったことあるわ。ホント一夏、ああいう風に優しいから、ねぇ?」

 

「まあそうだな。だが一夏は誰にも優しいぞ?…というか、最近一夏が怒ってるところを見た記憶がないんだが」

 

千冬が小さく首をかしげてることに、苦笑いを浮かべる一同。そして再び飲んで、さっさと次に移ることにする。

 

「さて、オルコットはどういうとこなんだ?」

 

「わたくしは…まっすぐなところ、ですわ。あの代表決めの時と言い、決定戦の時と言い、一夏さんは意見を曲げずにまっすぐと言ってきましたから……。それにあの後も強くなろうと努力する姿を見て惚れましたわ」

 

「ふむ…まあ、アイツは頑固だからな。あまりのことがないと意見は変えんぞ」

 

「今の世の中でそうやって意思を変えない男性はステキでありますわ」

 

「ふむ。まあ、そういうことにしといてやろう。さて鳳の番だが、一夏のどういうことがいいんだ?」

 

「私は…箒みたいに一夏に助けられたからってのもあるけど、一夏が私の告白に答えてくれたってのもあるかな」

 

「「何っ!?」」

 

千冬と箒が驚きと共に同時に立ち上がる。セシリアも鈴に対して驚きの表情を隠せず、完全に目を見開いていた。

鈴は「あっ」って顔をしてるが、時すでに遅し。その瞬間、箒が鈴の肩をがっしり掴んで一気に詰め寄った。

 

「どういうことだ!朴念仁の一夏が答えるなんて!答えろ、鈴!」

 

「一夏本人だって知らなかったのよ!ただあいつが航に聞いて、それで返事したの!そもそもそういうならさっさとアンタも告白すればよかったじゃない!」

 

「うっ、それは……」

 

その反撃に箒の握力は緩み、サッサと鈴も抜け出す。流石に痛かったのか軽く肩を回し、大きくため息を吐いた。それで肩をビクリとする箒。

 

「まったく、いきなり掴みかかるのは予想してなかったわ」

 

「その、すまない……。ついカッとなって……」

 

「まあ私もこんなこと言われた同じことするかもしれないし、別にどうこう言うつもりもないわ。ただ言わせてほしいけど、まだ一夏とは恋人関係にまでなれてないのよね……。とりあえず答えてくれたってところだし」

 

「そ、そうか…ならまだチャンスはあるということか…!」

 

それを聞いて安堵する3名。そして仕切り直して、次の人に聞くことにした。

 

「じゃあボーデヴィッヒ。貴様は?」

 

「私、ですか……。まあ、一夏とは最初は…印象悪くしてしまいましたが、機龍暴走の際にそんなの関係なく、私と手を組んでくれたときですかね」

 

「えっ、ラウラも機龍と……!?」

 

「まあ、暴走してたからすぐにやられたがな。というか鈴も相手したのか」

 

「ええ。ただ1撃で戦闘不能にさせられたけどね……。絶対防御無かったらたぶんここにいなかったわ」

 

それを聞いたとき「うえぇ」となる一同。だが千冬は不意に酔いがさめ、内心奥歯を噛み潰した。彼女の中に、機龍によって重傷を負ったシャルロット・デュノアを思い出したからだ。彼女は電磁パルスでISを無力されて潰された。だがこのことは学園でも一部の者しか知らぬ極秘情報。実際彼女の処遇は今も揉めており、いまだ学園の病院で眠りについている。

このことを忘れ、再び酔おうと思い、千冬はビールをのプルタブを開けた。

そして次に簪に聞こうとしたら、先に鈴が口開いた。

 

「えっと、更識簪って言ったよね?アンタも一夏のことが……?」

 

「それはない。だって……」

 

そういった時、4人が一斉に簪をにらみつける。いきなり睨みつけられたおかげで簪はびっくりしてしまい、委縮してしまう。それを見た千冬はため息を吐いて彼女の擁護に入ることにした。

 

「お前らそう怒るな。更識の機体は織斑の専用機開発で凍結されててだな……」

 

簪の専用機である打鉄弐式は、元は倉持技研が開発してた機体だったが、一夏という男性搭乗者が見つかり、彼の姉の機体を作った会社である倉持技研が担当することになったのだ。だがそれにより、打鉄弐式に担当してた開発者までもが白式開発に奪われ、結果的に機体の開発は凍結。そして簪がムキになって1人で作ると言って今に至るのだ。

それを聞いたとき、怒ってる様子の4人は一気に申し訳なさそうな顔になる。

 

「え、そうだったの?その、ごめん……」

 

「……べつにいい。もう完成の目途は立ったから」

 

それを聞いたとき千冬は眉をひそめた。

 

「ほう、1人で出来たのか?」

 

「私1人じゃ……。だけどお姉ちゃんの会社が手伝うって言ってきて……。私は断ったけど、その……」

 

「買収された、と」

 

コクリとうなずく簪。

あの時簪は姉である楯無にこのことを言ったら、彼女はすごいびっくりしており、婆羅陀魏社の独断で動いたことが判明した。それを聞いた楯無は直接婆羅陀魏社に向かったが、主任にヘラヘラとした顔でのらりくらりと躱され、そして倉持からも所有権を得たと伝えられ、結果的に機体はここの所属となったのだ。

なおこの後、楯無にめっちゃ謝られ、とても申し訳ない気持ちになったという。

 

「だけど、遅くとも夏休み前までにはできるって……」

 

「そ、そうか。良かったな。……さて、更識。お前は篠栗のことはどう思ってる?」

 

「……昔は好きでした。けど今は……私にもわかりません。彼が怖くて、逃げましたから……」

 

そう言って目を伏す簪。

彼が怖い。それは航が機龍に乗って暴走した際に誰もが抱いた感情だ。だがそれは仕方ないことだ、と彼女たちは言うが簪は困り顔を浮かべたままだ。

 

「それに航は今、お姉ちゃんがいますし……。私はお姉ちゃんみたいに、航の怖いとこ含めて愛せそうに無いですから……」

 

そう言って簪は寂しそうな笑みを浮かべる。だが千冬はため息を吐き、

 

「はぁ……馬鹿者。それなら何で今日、篠栗に会いに行った?」

 

「っ……!?見てたん、ですか……?」

 

千冬の言葉に驚きを隠せない簪。それは周りもで、全員が千冬の方を見てる。

 

「私も海に行こうと思ったが、その時にな。まあ、そうやって心配するなら嫌いではないってことだ。ただもう少し篠栗と話すことだな。姉の方に頼んでみろ、場所は設けてくれると思うぞ」

 

「……はい、頑張ってみます」

 

コクリとうなずく簪。

酔ってるはずなのに、割とちゃんとアドバイスすることに驚く簪除く4人だが、それに気づいた千冬はジト目で4人を見つめる。

 

「さて、お前らも織斑と仲良くなりたかったらもっと話すことだな。そうすれば……」

 

『もしかしてくれるんですか!』

 

「だめだ。あいつがいなくなったらどう生活すればいいのかわからん」

 

「えー……」

 

千冬の言葉に呆れぎみに困惑する一同。千冬は自分が何言ったのか思い出し、一気に顔を赤くして「い、今のは忘れろ!」と叫ぶのであった。




一夏と簪が仲良くなるフラグが折れたような気がするけど気にしない。全ては婆羅陀魏社が縦横無尽に動くのが悪いんだ。というか主任が自由奔放すぎるのがいけないんだ。
まあ、専用機が完成するから問題ないよね・・・ないよね?



さて、次回予告(仮)
臨海学校2日目、生徒たちは授業の一環で外に出ていた。そしてそこに迫る狂気の兎と破壊の天使。果たして彼らはどうやってこれらに立ち向かうのか。

次回、「紅椿」(予定)

お楽しみに!


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紅椿

お久しぶりです。ゴジラ怪獣惑星を公開初日に見に行った妖刀です。最初あの姿、ギャレゴジかな?って思ってたけど、やっぱりアニゴジもちゃんとしたゴジラでしたね。



さてさて、本編どうぞ


臨海学校2日目。今日は本来の目的である、各種装備試験運用とデータ取りが行われる。なお専用機持ちはその追加装備が多く、午前から行われても夕暮れまで行われたりため、とても大変らしい。

なお現在、生徒たちは旅館から離れたIS試験用のビーチに来ており、四方を切り立った崖に囲まれている。まあ、ちゃんと出入り口はあるから問題ないが、ここを閉じれば周りからは撮影などがされないため、彼女たちのプライバシーや専用機の情報が漏れないと言ったメリットがあるという、らしい。

 

「……時間までに全員そろったな。さて、各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは各専用パーツのテストだ。迅速に行え」

 

はーい、と返事する生徒たち。現在ここには1年の生徒が全員並んでいるため、とても壮観な光景だ。まあそんな彼女たちも千冬の鶴の一声で一斉に動き出し、一夏たちは専用機組で固まって動いていた。なお航は今は専用機が打鉄だが、一応専用機持ちってことで一夏たちと行動している。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい?」

 

千冬に呼ばれ、箒は首をかしげて千冬の元へ向かう。

 

「あの、どうしたんですか?」

 

「言ってなかったな。お前には専用―――」

 

「ちーーーちゃーーーーーーん!!!!」

 

その時だ。ズドドドドと何か砂煙を巻き上げながらこちらに向けて向かってきてるのがあるのだ。それが何なのかわからないが、千冬は頭を抱えてため息を吐き、箒は少し顔を青くして2、3歩下がる。

そして姿が見えてきたとき、生徒たちはその異様な姿に目を疑った。不思議な国のアリスの様なドレスに、機械で出来た兎の耳を付けた、紫色の髪をした女性がすごい勢いでこちらに向かってきてるのだから。

そんな女性が一目散に千冬めがけて突っ込んでくる。生徒たちは危ないと思ったが、千冬のストレートが女性の顔面を完全にとらえたのだ。おかげでそのまま直撃し、女性は「げひょう!?」というなぞの悲鳴を上げ、そのまま地面に倒れる。

 

「何の様だ、束」

 

「えへへ~、来ちゃった~」

 

そういう女性、束は子供の様な笑みを浮かべて千冬に近寄る。だがそれを見ていた周りは、千冬の言葉に反応し、彼女がいったい何者かわかったのか、一気にざわめきだす。

 

「束……え、篠ノ之束博士……!?」

 

「え、うそ……、本物!?」

 

「束。周りが困惑してるから自己紹介しろ」

 

「はーい。篠ノ之束だよー。これでいい?」

 

「はぁ……お前は……」

 

あまりの自己紹介に頭を抱える千冬。

彼女の名前は篠ノ之束。ISを作り出した人間であり、織斑姉弟の幼馴染でもある。

そんな束は周りの事なんぞ興味なさげにしており、ただ周りを少し見渡す。すると彼女の妹である箒が目に入り、地を蹴って一気に彼女の元へと駆け寄った。

 

「箒ちゃーん!元気にしてたー!?ほらー、仲良しのハグしようよーハグハグ―」

 

「いい加減にしてください!」

 

「げふっ!うぅ……まさか柄頭で殴ってくるなんて……」

 

束は一の間にか握ってた箒の刀の柄頭で顎を殴られたが、割とピンピンとしており、痛みを感じてるようにも見えない。

殴られた勢いで吹き飛ばされた際に着いた砂を払い、さっさと自分の目的に移ろうとする束。

 

「ねえねえ箒ちゃん。今日は箒ちゃんに渡したいものが……おやぁ?」

 

この時束は箒の近くに立っていた航が目に入り、ニヤァと口角が上がる。それに気づいた航は少し目を細めるが、束はそんなこと気にせず彼の元へと近寄った。

 

「わーくん久しぶりだねぇ。元気にしてた?」

 

束が航に笑みを向けるが、その目は全く笑っておらず、むしろ何か品定めしてるかのような、まるで蛇二睨みつけられたかのような感覚が航に襲い掛かる。それに冷や汗がドバっと出る航だが、どうにか表情を変えずに彼女に向き合った。

 

「一応、元気ですよ」

 

「へーそうなんだー。えーっと、日輪だっけ?あの子が消えて陰鬱としてたのにねー」

 

それを聞いたとき、航の眉がピクリと動いた。自然体だった手も指がゆっくりと握りこぶしを作り出し、ギョロリとした目で束をにらみつける。

周りも航の雰囲気が一気に変わったことにざわめきだすが、その中でも一夏と鈴、箒が一気に顔を真っ青にする。

そうだ。束は自ら航の地雷を踏み抜きに行ったのだ。

 

「ねー、あの子に会いたいと思わない?」

 

「…どういう意味です?」

 

それを聞いたとき、束は演技みたいな大きなため息を吐いて、やれやれと首を横に振る。

 

「だーかーらー、私があの子の居場所知ってるって言ってるの。Do you understand?」

 

航の瞳が小さくなり四白眼になっていく。それを見た束は口元がニタァと口角が上がった。

周りは何が起きるのか遠くから見ていたが、一夏、箒、鈴はこれを聞いてただオロオロするばかりだ。

 

「…それを言って何するつもりだ?俺に…教えてくれるのか……?」

 

「はぁ?私が居場所教えると思ったー?残念でしたー。そんなわけないじゃんバーカバーカ。そんな頭だから親も殺されるんだよー」

 

そう笑顔で言い切る。

この時、空気が凍り付いたような気がした。千冬は束を竦めようとしたが、その瞬間だった。

航は一瞬にして束に接近し、大きく開いた手を彼女の顔めがけて突き出したのだ。そう、着きだしたのだ。

だがそれは見えないナニカによって阻まれ、航の手は束にあと5センチというところまで止まってしまい、バシバシと紫電が散り、それが航の肌に小さく傷を作っていく。

それを見た束は小さくため息を吐いて肩を落とす。そして落胆した目で航を見つめた。

 

「そんなちっぽけな攻撃で私に届くわけないじゃん。知性を捨てた獣なんかミジンコより怖くないっての」

 

笑みを浮かべたままだが、その目の奥にギョロリと狂気を孕んだ眼が航をにらみつける。そしてどこからとなく展開したサブアームが航の頭を掴み、そのまま彼を持ち上げた。そしてアームの先に付いてるマニピュレータが、ギチギチと航の頭を締め上げる。

航の断末魔が響くがそれでも力を緩める気のない束。それを見た千冬は出席簿を束の後頭部に向け、そして殺気を乗せた声で彼女に声をかけた。

 

「束、やめろ。それ以上するなら貴様を」

 

「もー、わかってるよちーちゃん」

 

束はニコニコと笑顔で千冬の方を向き、ヒラヒラと手を振る。そして再び航の方を向いて顔を彼の方に近づけた。

 

「私にこのこと吐かせたいならもっと知能を付けてきな。出来そこないが」

 

そしてサブアームを高く伸ばし、そのまま勢いよく海に向けて航を投げ飛ばした。40m近く飛ばされた航は、海面で何度かバウンドした後、そのまま大きな水柱を上げ、沈む。

先ほどの光景を見た生徒たちはあまりにも残虐な姿に一気に顔を青くし、何人か小さく悲鳴を上げる。だが束はそんなことを気にせずニコニコと笑顔を浮かべたままだが、この時千冬が出席簿で束に振りかかる。だがそれはすんなりと躱され、束は一瞬で3m近く距離をとった。

 

「もー。ちーちゃんったら、いきなり何なのさ」

 

「束、これはどういうつもりだ」

 

「そ、そうです、姉さん。なんでいきなり航を―――」

 

この時束は、見つけた箒めがけて一直線に突っ込んだ抱きしめる。箒もいきなりの事で対応し切れず、妹以上に大きな胸を箒の顔に押し付ける。

 

「い、いい加減にしてください!」

 

「げふぅ!?」

 

箒のボディーブローで変な悲鳴を上げた束は、鳩尾を抑えながらよろよろと離れ、プルプルと震えている。箒もいきなりの事で自身の体を抱きしめて束をにらみつけていた。

 

「それよりも姉さん!なんで航にあんなことを」

 

「あんなこと?あんなことってどういうことかなー?そもそも箒ちゃんアレの事嫌いじゃなかったのー?心配するなんておかしいなー」

 

「そ、そんなわけ…」

 

「おかしくないのかなー?ねぇ?箒ちゃん?」

 

箒の肩を持ち、ニタニタと笑みを浮かべた顔を箒の顔に近づける束。その不気味な、とても恐ろしい表情に箒は泣き出しそうな表情を浮かべ、引き剥がそうとするが、先ほどより強い力で拘束されており、逃げることができずに小さい悲鳴を上げることしかできなくなってる。

 

「だあぁぁ!クソが!」

 

だがその時、航が怒りの形相でザバザバと音を立てながら砂浜に戻ってくる。

 

「航、大丈夫か!?」

 

「問題ない!それにそこそこ頭も冷えた!」

 

そうは言うが鋭い目つきで束を見つめる航。一夏はこの状態をどうにかしたいと思ったが、野生の勘が働いたのか、間に入って止めようとするのをやめる。

 

「いっくん、いい勘だね。流石に間に入られたら私怒ってたかなー」

 

笑顔を浮かべているが目が笑っておらず、それに気づいた一夏は背筋に氷柱が刺されたかのような悪寒に襲われた。

束はそのまま2人に興味を無くしたのか、箒の方を向いて彼女の元へと再び寄る箒はそれが怖いのか、1歩2歩下がるが、束は彼女の手を掴んで一気に引き寄せる。

 

「箒ちゃん、私ね、箒ちゃんにプレゼントがあるんだー」

 

「プレ、ゼント……?」

 

一体何を言ってるのか。そう思ってた時に束がパチンと指を鳴らす。すると何かが高速でこの場に落ちてきたのだ。それに気づいた生徒たちは一斉にその場から逃げ出す。そしてズドンッ!と言う大きな音と共にその物体は砂浜に刺さり、砂塵が舞い上がり、それが去った後に現れたのは銀色のひし形の物体だった。

だがそれは束が何かしたのかホログラムの様に上の方から消え去っていく。

そして中から出てきたのは“紅”だった。

 

「じゃじゃーん。第4世代IS“紅椿”だよ!」

 

束がそういった時、周りが一斉にざわめいた。

第4世代IS。それはまだISの開発陣がたどり着いていない境地。現在ISは最新でも第3世代が主流であり、第4世代はどうやるのかコンセプトすら立っていなかったのだ。それを篠ノ之束はさっさと開発し、この場で出したのだ。これがどういうことを意味するか分かってるのかどうか分からないが、束はただこの場でニコニコとしている。

 

「箒ちゃん。これをプレゼントするね」

 

「え、何で…私に…?」

 

「何でって何で?受け取らないの?」

 

「だって私はISを頼んだりは……」

 

「そんなこと言わずにさ。ね?」

 

束は酷く困惑している箒のことなんか知らず、無理やりでも箒に紅椿を押し付けようとする。だが箒が受け取らないことにイラつきだしたのか、少し言葉が強くなってきていたが、それでも無理やり押さえつけて極力優しい言い方で話す。

 

「箒ちゃん。あのトンボが出てきたときに自身が無力って思ったことないの?」

 

「そ、それは……」

 

箒は束から目をそらした。学年別タッグトーナメントの時、箒は一夏たちが戦う中、自分は何もできずに逃げることしかできないことをとても恨んだ。自分に専用機があれば一夏の援護ができたかもしれない。

そのため箒は今日まで、訓練機を借りては自主練や一夏たちと模擬戦をしたりしており、メキメキと実力をつけ始めていたのだ。おかげで訓練機ながら実力は一般の生徒たちでは太刀打ちするのが難しいほどに強いものになっていたのだ。

そして現在、さらに力を付けるための道具である“専用機”が目の前にある。これを手に入れれば一夏と肩を並べられる。箒は紅椿に手を伸ばし……ひっこめた。

 

「姉さん!わ、私は専用機とかなくても強くなるつもりです!だからそう押し付けられても、困ります……」

 

箒の言った言葉に束は驚いていた。まさかいらないと言われたため、軽くどうしようかと思ったが、()()()()()()()()()のためにも、これを使ってもらわないといけない。そのため彼女は箒の元に近づき、耳元に口を近づけた。

 

「ふーん。そうなんだー。ならば……」

 

 

嫌でも使わざるを得ない様にしてあげる

 

 

「えっ……」

 

箒はこの時、束が人間ではないように感じた。束の浮かべる笑みが、昔読んだ怖い本に出てくるナニカに重なり、一気に鳥肌が立ったのだ。

一体何をする気なのか。それを聞こうとしたら、真耶が焦った表情でこちらに走ってきたのだ。

 

「た、たた、大変です~!」

 

途中こけそうになってるが、それでもどうにかバランスをとってここまで走る。

 

「山田先生、何があったんです?」

 

「はぁはぁ……これを見てください」

 

そういって千冬に投影ディスプレイを渡し、千冬が内容を見た時、顔が一気に険しい物へと変わっていく。

 

「特A級……!?これはどういうことだ……!」

 

「それで専用機持ち達に、と……」

 

「そうか……全員聞け!今回の作業は急遽中止!総員すぐに旅館に戻り部屋に待機だ!」

 

千冬がそういうと、生徒たちが一気にざわめきだした。彼女たちからしたら言った否何が起きたのか分からないし、千冬もその詳細を教えないため、一気に不安になってしまうのだ。おかげで移動ももたつき、千冬はイライラしたのか一喝した。

 

「さっさとしろ!以後、許可なく部屋を出た者は身柄を我々で拘束する。いいな!」

 

『はっはい!』

 

千冬の怒号に一斉に返事してさっさと向かう生徒たち。

 

「そして専用機持ちは私に着いてこい!……篠ノ之もだ!」

 

千冬がそう言う中、ただ束はニタァと笑みを浮かべていた。




姿を現れた篠ノ之束。彼女の目的は。そして千冬が受け取った物とは。次回に続く。


では感想、誤字羅出現報告(こっちは少ない方がいいな)待ってます


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2つの出撃

あけましておめでとうございます。今年も銀龍をよろしくお願いします

では最新話どうぞ!


旅館の一番奥の宴会用の大座敷「風花の間」では、今回来ている専用機持ち全員と教師陣が集められていた。

証明を落とした暗い室内に、大型の空間投影ディスプレイが情報を開示する。

 

「では。現状を説明する。2時間前、ハワイ沖でハワイ沖で可動試験にあったアメリカ・イスラエルの共同開発の第三世代型軍用IS、「銀の福音(シルベリオ・ゴスペル)」が暴走。監視空域より離脱したとの知らせがあった」

 

それを聞いた一夏、箒、航は驚きの表情を浮かべてており、困惑の表情で周りを見渡す。だがセシリア、鈴、ラウラは厳しい表情を浮かべており、先ほどの雰囲気とは全く違うものになっていた。

そう、彼女たちは代表候補生だ。こういう、もしもの場合もあると前から教えられており、そのため今回のような事態が起きても冷静でいられるのだ。特にラウラのまなざしはとても鋭いものとなっている。

 

「その後衛星による追跡の結果、福音はここから4キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして今から50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。既に現在、海域はすでに海上自衛隊によって封鎖されており、教員は学園の訓練機を使用して空域の閉鎖を行う。よって……、本作戦の要は専用機たちに担当してもらう」

 

「んな……!?」

 

そんなの無茶苦茶だ。一夏と航は心の中で意見が一致した。それに軍用ISとかアラスカ条約真向否定の物も出てきており、頭がパンクしそうになる。

 

「それでは作戦会議を始める。意見のある者は挙手するように」

 

「はい」

 

早速最初に挙手したのはセシリアだ。

 

「目標ISの詳細スペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは二か国の最重要軍事機密だ。もし他言するようなことがあれば、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視を付けられる」

 

「了解いたしました」

 

完全に一夏たちを置いてきぼりのまま、代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータををもとに相談を始める。

これがいったい何なのか分かりにくかったが、周りの話を聞く限り、ブルー・ティアーズの様なオールレンジ攻撃をでき、攻撃と機動性を特化させた面制圧機体、というのがとりあえず分かった。他には特殊武装というのがあり、それに格闘性能がとても未知数、というらしい。

どうにかついていけてる航と一夏だが、それに対してもう場違い感満載の箒はすごい挙動不審だ。まあ、本音男子陣もどうにかやせ我慢してそれを見せないようにしてるだけだが。

だがこの中、航は銀の福音のデータを見て思った。四式機龍とどっちが強いんだろう、と。

 

「あの…織斑先生、この機体に偵察は出来ないのですか?」

 

簪はそう聞くが、千冬は首を横に振る。

 

「無理だな。この機体は今も超音速で移動を続けている。アプローチは1回が限界だろう」

 

「ということは一撃必殺の攻撃力を持った機体で仕掛けるしかありませんね……

 

真耶がそういった時、相談をしていた全員が一夏を見た。

 

「えっ……?」

 

「一夏、あんたの零落白夜でおとすのよ」

 

「それしかありませんわ。ですがどうやって―――」

 

「一夏を現場空域まで運ぶか、だな」

 

「ちょ、待ってくれよ!俺が行くのか!?」

 

「「「当然」」」

 

3人の声が重なる。

 

「織斑。これは実戦だ。もし覚悟がないのなら無理強いはしない」

 

「そ、それは……」

 

一夏はそのまま目を伏してしまう。言おうにも実戦という恐怖で口ごもってしまい、それを見た千冬はため息を吐いた。

 

「しかたない。この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体どれだ?」

 

「それならわたくしのブルー。ティアーズが。丁度イギリスから強襲用パッケージ『ストライク・ガンナー』が来ていますし、超高感度センサーも付いています」

 

「ふむ、それなら適任だな……」

 

そういった時、千冬は航の方を向いた。航はいったい何をする気かと少し身構えるが、彼女がいつの間にか持ってたソレを見た時、目を大きく見開く。

 

「それから篠栗。お前に、これを渡す」

 

「え、これは……」

 

「それが使えるお前がこの中で一番の最高戦力だ。使いこなせるな?」

 

「っ……!はい、わかりました。やってみせます」

 

千冬から銀色の手甲1組を渡され、航はそれを両手に付ける。久々の感覚だが割とすぐに手に馴染み、軽く掌を握ったり放したりして確認してる。

 

「機龍……」

 

そう、航の専用機である四式機龍が戻って来たのだ。並のISなら相手できるこれなら銀の福音を相手するのに申し分ないだろう。

だがこの時、手甲の装甲の隙間から赤いラインが淡く光るのに航は気づいた。

そして航は気づいたのだ。あぁ、こいつも戦いたいのだ、と。

 

「篠栗の機体にはシールドエネルギーの制限を外してある。だからそのシールドエネルギーの量なら、いくら被弾しても早々エネルギーが尽きることはない」

 

「……俺に拒否権はありますか?」

 

「それは……すまない。この作戦の要となるからそれはできない」

 

「……わかりました。なら、させてもらいます」

 

そういうが航は千冬をにらみつけており、千冬もそんな彼の目線を逸らす。だが何度か瞬きした後、千冬は先ほどの真剣な顔に戻る。

 

「そうか。なら篠栗は先行して福音に奇襲をかけろ。そしてオルコットはその援護に―――」

 

「ちょーっと待ったー!」

 

この時、どこからか束の声がしたのだ。すると天井の一部が開き、そこから束が顔を覗かせる。そしてそのまま出て来てから見事な着地を見せ、千冬の方に寄る。

 

「……何の用だ。下らん事なら出て行ってもらうぞ」

 

「まってよちーちゃん!こういう時こそ紅椿の出番なんだよ!」

 

「何……?」

 

「おぉう、そんなに睨みつけないでよー。この紅椿、展開装甲を使えば…ほい!」

 

束は千冬に自分の空間投影ディスプレイを見せる。それを見た千冬は最初怪訝な顔をしていたが、それは次第に驚きに変わり、束にその目を向ける。

 

「こんなのでき―――」

 

「ノンノン出来ちゃうんだな、それが。だっていっくんの白式にも使われてるんだもん」

 

「何!?……まさか、雪片二型か!」

 

「せいかーい。ちーちゃんやっぱり鋭いねぇ。あれに試験的に展開装甲を使ってるけど、問題ないから紅椿にも本格的に搭載したんだよ」

 

それを聞いたとき、一斉に一夏の方を見る。一夏もいきなりの事で驚きを隠せず、流石に束に効くことにした。

 

「ちょ、それってどういうことですか?」

 

「うーん、だからいっくんの白式は3.5世代ってことなんだよ。すごいでしょー」

 

何も悪気が無さそうな声。たしかにすごいが、それを全身に配備するってどれほどのものになるのか、いまいちパッと分からない。

 

「だが束。ちゃんとしたものを見せてもらわないと、さすがに信じることはできない」

 

「そうだねぇ。見せたいけど、箒ちゃんが乗ってくれないんだもん」

 

「ちっ……!」

 

千冬はそこまで箒推しの束にイラつきを隠せない。流石に気づいてる箒もそれには困惑を隠せず、オロオロとするばかりだ。

だがこの時、束はいきなり一夏の方を向き、そして彼の手を握る。

 

「ねえ、いっくん。いっくんは逃げるの?このままじゃあの機体が沢山の人に危害を与えるんだよ?いっくんは人を護りたいんじゃないの?」

 

「そ、それは……」

 

「ここで逃げると一生後悔しちゃうよ?」

 

一夏は俯いており、小さく体が震えている。周りは少し不安げに見ていたが、顔を上げた一夏の表情は、先ほどの不安そうなものが一切なくなり、むしろ決意を固めたようだ。

 

「やります!俺、この作戦に参加します!」

 

「うんうん、その調子。これこそいっくんだね」

 

それを見てニコニコとする束。そして彼女は箒の方にも向いた。

 

「箒ちゃん、紅椿に乗ろうよ」

 

「で、ですが私は……」

 

だが束はそんな彼女を紅椿に乗せようと、いろいろと説得を試みる。

 

「箒ちゃん。これに乗って戦わないといっくんが傷ついちゃうんだよ?いいの?」

 

「そ、それは……」

 

「箒!俺は大丈夫だから、だから無理するな!」

 

一夏は箒にこの作戦に参加してほしくなかった。素人が考えてもコレに箒は危険すぎる。初めて乗る専用機でこんな大事件。これを自分と箒で解決しようとかどこのアニメだ、そんなツッコミが出てしまいそうになる。

だがそれを言おうとしたとき、束から氷の様な睨みが飛び、口にすることができなくなってしまうのだ。

 

「私は……紅椿に、乗ります!」

 

「箒……」

 

「うんうん。さすが私の妹だね、箒ちゃん。束さんはとても嬉しいよー」

 

箒の決意に束は喜び、一夏は誰にも気づかれない様に落ち込んだ。

 

 

 

 

 

あれから彼らは再び移動し、場所は最初いた浜辺だ。ここには一夏、箒、千冬、束、航がいた。

 

「すまんな……直掩につけなかった」

 

「気にすんなよ。千冬姉からああ言われたらどうしようにもできないし」

 

「だがなぁ……」

 

作戦会議後、千冬から言われたのは「この作戦は織斑と篠ノ之の2名で行う」という物であった。それに断固抗議した航たちだったが、千冬が俯いて「これは、命令なのだ……!」って悔しそうに言うには何も言えず、ただ悔しさを感じるしかない。

そう、命令だ。恐らく上の方からの圧力があり、この2名になったのだろう。

航は小さく肩を落としながら、紅椿に乗ろうとする箒を見ていた。

 

「じゃあ箒ちゃん、紅椿に乗って?」

 

「わ、わかった……」

 

束に手を取られてそのまま乗り込む箒。乗り心地は最適化(パーソナライズ)が済んでないから、打鉄に近い感覚と思い込んでたが、気持ち悪いほどに最初から体にとても馴染む。

そして自分から空に飛び、だいたい50m前後で滞空すると、束の声が届いた。

 

「じゃあ装備説明するね。右のが雨月で左のが空裂ね。武器特性のデータを送るよん」

 

そういわれてデータを受け取った箒は、この2刀を抜刀して

 

「じゃあ、軽く動作確認ねー」

 

そういって束は浮遊する鉄板を数枚展開。それを放棄に向けて飛ばした。

 

「はぁっ!」

 

箒が空裂を振うと、エネルギーの刃が飛び、鉄板を易々と切り裂く。そして次に飛んでくる鉄板に雨月を突くように払うと、こちらも光弾となって鉄板を切り裂いた。

 

「すごい……これが紅椿……。これならいける!」

 

「ふふーん。箒ちゃん、気に入ってくれた?」

 

「そ、それは……。っ!?」

 

この時、箒は強いめまいや吐き気に襲われた。まるで脳みそを掻き回されるかのような、グチャグチャにされるかのような感覚。おかげで体の四肢が硬直し、そのまま大きく体を傾けてしまう。

 

「やばい!来い、白式!」

 

そういって白式を展開する一夏。そしてさっさと飛んで箒を受け止めた。

 

「箒、大丈夫か!?」

 

「あ、あぁ……すまない。少し興奮しすぎたみたいだ」

 

「そんなにか?」

 

「あぁ、これはすごいぞ。これが姉さんの作った傑作……!」

 

使う気はないと言った先ほどとは違う雰囲気。一夏は箒に何か違和感を感じたが、それが何なのかわからず、少し首をかしげる。

だがまるで、子供が新しいおもちゃを手に入れたかのような雰囲気の箒にわずかながら警戒感を抱き、一夏はこの後嫌な予感が起きそうな気がした。

 

『織斑先生、箒ですごい不安なんですけど……』

 

『……それは分かってる。その時は無茶かもしれないが織斑がフォローしてくれ。ちゃんとそのための物を送る』

 

『そのための……それって』

 

「一夏、何話してるんだ?」

 

千冬と通話してる時、箒がいきなり話しかけてきた。おかげで一夏は変な声を上げて驚くが、何でもないと誤魔化す。

 

「なあ箒。俺、これで無事に帰ってこれたら宝くじ買うわ」

 

「ふふ、何言ってるのだ。さあ、さっさと乗れ」

 

「お、おう」

 

一夏は箒の背中に乗り、彼女の肩に手を伸ばす。

箒はとても機嫌がよかった。好きな異性がこんなに密着することに。そしてこんなに強い機体を()()()()()から貰い、そして早速その力を使う機会があることに。

 

『2人とも、問題ないな?』

 

「ああ、問題ないぜ」

 

「こっちも問題ありません」

 

『そうか。それならもう時間だから出てもらう。だが危ないと思ったら本気でここに戻って来い。いいな?』

 

「「はい!」」

 

そして紅椿のスタスターに火が灯り、出力が上がる甲高い音が響き始める。

 

「篠ノ之箒、紅椿、行くぞ!」

 

「織斑一夏、白式、行きます!」

 

するとどうだ。まるでロケットを打ち上げたかと言わんばかりに一気に機体が飛び出したのだ。その速度に驚く航と千冬だが、束はニコニコとしたままだ。

 

「さー、これから箒ちゃんといっ君がすごいところを見せちゃうんだから―!」

 

束は笑顔でそう言ってるが、千冬はただ航の隣に向かい、そして彼に顔を近づけ、小さく空間ディスプレイを展開し、彼に見せる。

 

「篠栗、今から10分後にこの場所に向かえ」

 

束の言ってることを無視し、千冬が空間ディスプレイで指した場所は、まさかの福音がいる戦闘空域だった。それを知ったとき航は驚いた顔を彼女に向けたが、千冬はニヒルに笑い、彼の肩に手を置いた。

 

「お前の機体、機龍の試運転をしていないのもつまらないだろう?だから行ってからデータを取って来い。そして道中()()()()()がいるなら、それすらも倒してしまえ。いいな?」

 

「はい、わかりました!」

 

力強い返事。それを聞いた千冬は小さく笑う。

 

「よし、それならいつでも出れるように最終チェックしておけ」

 

それを聞くや否や早速作業にかかる航。千冬はただ、手元にある時間を見ていた。

 

「ねえちーちゃん。いったい何をしたのかな?」

 

「べつに。ただ篠栗の機体の運用試験をするだけだ」

 

「へー、そうなんだー……」

 

この時千冬は見ていなかったが、束が鬼のような形相で千冬をにらみつけていた。

 

 

 

 

 

 

「時間か」

 

10分経ち、千冬はただそう一言呟く。航はすでに作業を終えており、いつでも出れる状態になっていた。

そして航は自分の道手の甲に手をの伸ばし、その名を呼ぶ。

 

「来い、機龍」

 

そういうと手甲から赤い紫電が走り、彼を中心に風が吹き、砂嵐の様になる。そして風が収まり、砂煙が無くなったとき、そこには銀色の装甲を持つ龍がいた。

 

「キァァァァアアアアア!!!!!」

 

四式機龍は空に吼え、大腿部スラスターを展開。そして各スラスターの出力が高まっていく。

 

「篠栗航、四式機龍、行くぞ」

 

地を蹴り、スラスターを大噴射させて一気に飛び立つ機龍。その姿はみるみる見えなくなっていき、20秒も経たないうちにほぼ姿が見えなくなってしまった。

千冬はそれを見送った後、その場を後にするかのように歩き出す。

 

「ふっ、愚弟を頼むぞ。さて、私は……」

 

千冬は気になることが多数あった。これまでの不自然な出来事。そして先ほどまでいた束がいきなり消えたこと。それを明らかにするため、早々と作戦室へと向かうのであった。

 

 

 

 

上空700m。空を切り裂きながら機龍は、先行した2人に少し劣る程度の速度で空を飛んでいた。ただその中、航はずっと不思議な音を聞き続けていた。この音は航が出撃し、少し経って機龍から発せられている。まるで誰かを呼ぶかのような、そんな音がずっと航に聞こえる。

 

 

オォン……オォン……クォォン……

 

 

まるで何かの鳴き声の様にも聞こえ、それはとても優しく、温かさを感じる不思議な音。何でこんな気分になるのか分からないが、航はただ、その声を聴きながらこの空を飛び続けていた。

だがこの声のおかげで緊張がほぐれ、出撃の際に浮かべてい硬い表情も少しはマシになってる。

 

「機龍、お前は誰を呼んでるんだ?」

 

機龍は何も答えず、ただこの()()()()続けていた。

このとき、航は自分の進む先に何かがあるのを発見した。それをハイパーセンサーで拡大すると、そこにいたのは前に見た黒い機体と似た機体が3機いたのだ。だが前のに比べ大きさが4mと大型になっており、何より1機だけ、両腕の肘から先が鋭く、まるでドリルの様になっている。

航は何か嫌な予感がしたが、こんなのに構ってる暇なんてなく、さっさとこの場を通り過ぎようとする。だがしかし、2機の黒い機体が両腕からエネルギー弾を何発も放ってきたのだ。

 

「ちぃ!」

 

航は即座に反応し、一気に高度を落として海に向けて逃げる。黒い機体たちも反応し、機龍めがけてこちらも海面に向けて急降下する。

 

「こっちの方が速いんだ。そう簡単に……!」

 

機龍はバックユニット両側面から多目的誘導弾を計8発放つ。そのまま黒い機体めがけてミサイルは白い煙を尾に引いて向かっており、近接信管で起爆すると思われた。

だがその瞬間、黒い機体は自らミサイルの方向に向けて突っ込んだのだ。そして当たると思った瞬間、黒い機体はそこに残像を残してミサイルを突っ切ったのだ。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)か!」

 

機龍のスタスターを再加速させる航。

だが黒い機体は一瞬で機龍の横に並び、3m離れた先で己の両手の掌底を接続。そして向けられた掌から紫電を走らせる。

 

(まずい!)

 

その掌の部分に高エネルギー反応を見た航は、即座に機龍をその前転させ、開いた距離を無理やり尻尾で埋める。届いた尻尾は黒い機体の腕に直撃し、その目標が上空に逸れたと思った。だが……。

 

「もう1機、間に合わねえ……!」

 

機龍の後ろの回り込んでいた機体が、先ほどの機体と同じ腕の状態をしていたのだ。その機体は既に発射可能状態なのだろう、砲口には熱で陽炎が浮かんでいた。

 

「くそが……!」

 

そして紅蓮の光の本流が放たれ、それが機龍を飲み込み、その中で大きな爆発が1つ輝いた。




誰かに呼ばれた気がした。
それに気づいた黒い龍は、声のする方へ己の巨体を動かしだす。
奴が動き出したことを人類は知らない。
それは、天災も知るよしのないことであった。







というわけで、久しぶりの機龍登場です。
感想等々待ってます。
次回をお楽しみに!


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黒き者と銀の天使

どうも。妖刀です。久々に割と早く完成したので投稿します。

いきなりですが、皆さんは平成モゲラことMOGERAの正式名称を言えますか?自分は未だうろ覚えです。まあ、ゴジラアイランドに出てきたスペースゴジラよりはマシなんでしょうけど……。


まあそんなこんなで本編どうぞ!


手から放たれた光線が消えた時、そこに機龍はいなかった。破壊できたのか。そう思い彼らは赤いモノアイが周りを見渡す。

 

 

ザザッ……ザザッ……

 

 

「……!?」

 

だがその時、3機はカメラアイにいきなりノイズが走った。それに戸惑いを隠せないのか、せわしなくカメラアイを動かす。一体何があったのか、それが彼らには分らなかった。だがしかし、倒したと思い、あまり気にしない様にする。

しかしそれを、彼らは慢心と気づくには遅かった。

そう、後ろに銀色の巨体がいるのに気づかなかったのだ。

ソレは椀部レールガンの砲身を縮め、そこからメーサーブレードを出してそれを黒い機体の背中に思いっきり突き刺した。

 

「……!」

 

黒い機体の背部にはメーサーブレードが深く突き刺さっており、メキメキと無理やり押し込まれていく音が今も響く。

 

「キィィィァァァァァ……」

 

黒い機体の後ろにはバックユニットを失った機龍がおり、黄色のカメラアイが黒い機体を睨みつけていた。

航はあの時、とっさに機龍のバックユニットを切り離し、高機動形態になって光線を逃れていたのだ。そして取り残されたバックユニットは爆発。その際に、いつの間にか装填されていたチャフ入りミサイルも爆発し、あたり一帯にこのチャフがばら撒かれたのだ。

このチャフは刀奈が使ったものに近い、暴走した機龍が周りを見失うほどの強力なもの。それをここらで使われて、黒い機体たちは完全に目を奪われたも同然であった。

だがこれは自分にも効くもので、現在航は意図的ではないとはいえ、自ら撒いたチャフで周りが見えてない。だが機龍は()()()()()()おり、その情報を航の視覚情報に流し込む。それで航は強い吐き気を感じたが、完全に視えるため今はこれを頼りに黒い機体めがけて突っ込み、そして左椀部のメーサーブレードを突き刺したというわけだ。

 

「……!……!」

 

背中から刺された黒い機体は逃れようともがくが、機龍が右手でその肩を掴み、左腕を上に振り上げると、メーサーブレードが金属を切り裂く音を立てながら黒い機体の背中から後頭部を切り上げた。

それにより黒い機体のカメラアイの光が無くなり、もがいていた腕もだらりと下がる。興味を無くした機龍はそれの掴んでいた肩を握りつぶし、そして海に投げ捨て、残り2体の黒い機体を睨みつけた。

2機の黒い機体はまだカメラアイが回復しておらず、せわしなくカメラアイが無造作に動いており、追撃を駆けるなら今しかないだろう。

機龍はもう一方の光線を放つ黒い機体めがけて突っ込むが、その時、残ってた腕の鋭い機体がこちらを向いたのだ。そしてその鋭い腕が輝き始め、そこからメーサーの様な光線が機龍めがけて放たれた。

だがそれにいち早く反応し、機龍はすぐにその場から離脱してとりあえず椀部レールガンを連射し、大砲は使わせないように牽制する。

 

「あの機体も遠距離系持ってるのかよ。これじゃこの黒いの潰してもこの場から逃げれないってことか……」

 

航はさっさとこの場から離脱し、一夏たちの元へと向かいたかった。だがこの黒い機体たちが邪魔するというのならば、すべて撃破するしか進むべき道は無い。それに、チャフを巻いても既に対応されてるということは、嫌でも戦闘するしか方法はないが。

ただ航はイラついた。仲間の援護に向かうのをここまで邪魔する奴らに。機龍もそれに反応し、小さく唸り声を上げる。そして黒い機体をにらみつけ、大きく叫んだ。

 

「邪魔だぁ!どけぇえええええ!!!!」

 

「キィィァァアアアア!!!!」

 

それに呼応した機龍の目が輝き、吼える。そしてスラスターの光が爆発したかのように輝き、大砲持ちの方めがけて突っ込む。大砲型もそれに反応し、両手から光弾を連射するが、機龍はそれを躱そうとせず、わざと受けながら直進する。

光弾は直撃するも、堅牢な装甲にダメージをあまり与えれないことを知り、大砲型は再び腕を連結し、高出力の光線を放つ。

光線が機龍を飲み込んだように見えたが、機龍は瞬間移動と言わんばかりの速度で大砲型の後ろに回り込み、そして大砲型の両二の腕を掴み……。

 

「ぶっ壊れろぉ!」

 

力任せに引っ張られたおかげで、両腕が肩から引き千切れ、大砲型は逃げようと海面めがけて背中のスラスターを吹かす。だが機龍がそれを逃がさず、即座に追いかけ、後ろからその首を掴む。大砲型は逃げようとスラスターを吹かすも、邪魔と思われたのか、機龍が空いてる片手でスラスターを切り裂いて破壊。

 

「っ!」

 

その時、腕の鋭い黒い機体から光線が放たれたため、即座に手に持ってた黒い機体を盾にし、最後の目標である腕の鋭い奴めがけて突っ込んだ。光線を放つ黒い機体だが、それらのほとんどを大破した黒い機体で受け止められ、全くダメージにもなってない。それでどんどん距離を詰められ、機龍が空いてる腕からメーサーブレードを展開。そのまま突き刺そうとした。

その時、黒い機体の鋭い腕が真ん中から真っ二つに割れ、そこから1本ずつミサイルが回転しながら飛んできたのだ。それも手に持ってた黒い機体で受けるが、ミサイルは黒い機体に深々と突き刺さり、機龍を飲み込まんと言わんばかりの大爆発を起こしたのだ。

 

「キィァァアアア!!」

 

その爆炎に飲み込まれながらも、機龍は椀部レールガンを連射し、黒い機体のカメラアイを破壊する。そして至近距離から体を回転させ、尻尾で相手の胴を薙ぎ払ったのだ。その衝撃で黒い機体の左腕が吹き飛び、相手は錐揉み状態で飛ばされる。

だがしかし、右手から再び先ほどのミサイルが放たれ、それが機龍の顔面に直撃して大爆発を起こした。

 

「キィィァアアア……」

 

機龍の右カメラアイは損傷し、中のカメラレンズが丸見えだ。だがそれでも戦闘には一応支障はなく、まだ十分に戦える。

だが煙が晴れたころには敵の姿が無く、恐らく水中に逃げ込んだのだろう。

それを逃がさんと大腿部スラスターを展開させるが、航は元々の任務を思い出し、その場に踏みとどまった。

 

「クソがぁあああああ!!!」

 

「キィィィァァァアアアアアア!!!!!」

 

怒りを天に向けて吼え、機龍の背びれに紫電が走る。

自分の中にあるナニカが納得いかないと叫ぶ。それは航も同感で、やっぱり追ってしまおうかと思ってしまう。

だがそのとき、音響センサーがとある音を拾った。それは爆音だ。しかも1つ2つではなく、連鎖的に起きる大爆発。いったい何なのか思ったが、嫌な予感がした航は即座に元の進路に戻り、背部と大腿部スラスターで高速で進む。

そして10分も経たないうちに目的の場所に着いたが、それはもう酷いものであった。足元にある小島は割れ、海も荒れている。そして彼は見てしまった。

 

「一夏ぁ……一夏ぁ……!」

 

血に汚れ、ボロボロになった一夏を抱きしめ、涙で顔を濡らす箒。それを見た航は目をそらしそうになるが、彼は空にいる機体に目を向ける。

 

「La……♪」

 

そんな彼らを見下す銀の福音(シルベリオ・ゴスペル)は、楽しそうな音を上げ、白銀の羽をユラリと動かした。

 

 

 

 

 

航が出撃して間もないころ、一夏と箒は福音討伐に向けて超高速で飛んでいた。

 

「なあ、箒。何で専用機なんか貰ったんだ?お前、専用機なんかなくても強くなる、って言ってたのに」

 

「いきなり何を言うかと思えば……。姉さんが作ってくれた機体だぞ。これほど最高なものは無い」

 

「ん……?」

 

「どうした?」

 

「いや、何でもない……」

 

「ふふ、変な一夏だな。まあ、大船に乗った気でいろ」

 

そんな一夏を見て笑う箒。だが一夏は、そんな箒に怪訝な目を向けてしまう。束と会った最初の箒はまだ慎重だったが、今の箒はまるで大胆。別の人格になったのではないのかと思うほどだった。

だがそれを聞く勇気もなく、一夏はただそんな箒に向けて、申し訳なく思うも、警戒を続けていた。

 

『織斑君、篠ノ之さん、聞こえますか?』

 

その時、作戦室にいる真耶から通信が入った。

 

『現在、篠栗君も機龍を装備してそちらに向かっています。ですので―――』

 

真耶からの説明を聞き、一夏は航が来ることをとても嬉しく思った。あの機体ならどうにかできる。それだけの期待を機龍は持っている。

だがそれを聞いてる時、箒が俯いてるのを一夏は知らなかった。

 

「箒、航もこちらに向かってるって。これならまだ……箒?」

 

一夏は箒が俯いてるのに気づいた。一体何なのか、一夏は不安に思ったが、箒の目が怒気を孕んでることに気付くのは遅すぎた。

 

「……らん」

 

「えっ?」

 

「あいつからの援護なんかいらん!私たちで銀の福音(シルベリオ・ゴスペル)を倒すんだ!」

 

「ほ、箒……!?」

 

箒はとても怒っていた。なんで怒ってるのか理解できず、一夏はただただ困惑することしかできない。だがこれ以上、航の話題を出すのは不味いと思い、一夏はどうにか話題を変えようと脳をフル回転させる。

だがそうしてる間にも目標との距離は着々と縮まっていき、ついに福音の姿をハイパーセンサーがとらえるほどにまでなった。

資料で見たとはいえ、銀の福音(シルベリオ・ゴスペル)はその名の通り、全身銀色をしており、そして頭からは巨大な羽が1対生えていた。

その巨大な羽はスラスター兼広範囲射撃武器となっているという。

 

(資料には他方位同時射撃って書いてたけど、いったいどんなのなんだ?機龍とかのミサイルの嵐をイメージすればいいのか?)

 

そう思ってたが、すでに時間は無い。分からなければ自分の目で確かめるだけだ、と一夏は意気込む。

 

「一夏、行くぞ。目標との接触は10秒後だ」

 

「ああ、頼む!」

 

ギチッと雪片二型の柄を強く握りしめ、いつでも零落白夜を使えるようにしておく。そして瞬時加速を使い、それと同時に零落白夜を起動。そのまま銀の福音を切り裂こうとした

 

「敵機確認。迎撃モードに移行。銀の鐘(シルバー・ベル)を起動します」

 

「なっ!?」

 

一般回線(オープン・チャンネル)から聞こえたのは、抑揚のない機械音声。嫌な予感がする、と一夏は思ったが、それはすぐに現実のものとなる。

銀の福音は刃が当たる直前に体を回転させて躱し、そして翼に付いてる多数のスラスターを使って2人から一気に距離を開けた。

 

「なっ、あの翼でこんなに!?」

 

銀の福音の翼は他の多方向推進装置(マルチスラスター)と違い、圧倒的高出力を誇り、さらにはこれで置いて精密な加速や機動を描くことができるのだ。そしてその速度は、前に暴走した機龍をほうふつさせる速度であり、一夏は一筋の冷や汗を流す。

 

「箒!援護頼む!」

 

「任せろ!」

 

下手に時間をかければこちらが圧倒的不利になる。一夏は再び箒に背中を預け、再び銀の福音へと斬りかかる。だがしかし、銀の福音は2人の攻撃を流水に投げれる木の葉のごとく躱し続け、有効な一撃をいまだに決めれずにいた。

一夏はまだ完全に零落白を使いこなせてるわけではない。そのためずっと連続で使い続けてしまい、減っていくシールドエネルギーを気にしてしまい、大振りの一振りをしてしまう。それを見逃す福音でもなく、翼のスラスター部の近くが開き、そして翼を一夏に向けて前に迫り出す。

 

「なん……っ!?」

 

一夏と箒が見たのは砲口だった。福音が翼に積んでる42の砲口は全て一夏の方を向き、そこから光の雨と言わんばかりの大量のエネルギー弾が吐き出され、それに2人は飲み込まれた。

 

「うおおおお!?」

 

一夏は送られてくる情報を頼りに必死に回避行動を続けるが、それでも間に合わずに何発も弾をくらってしまう。しかもその弾は、着弾すると同時に起爆し、その爆圧でもシールドエネルギーを削ってきたのだ。

それでもどうにか一夏は雨の中かから抜け出した一夏は、どうにか先に抜けきった箒と合流して息を整える。

 

「箒、左右から攻めるぞ。左は頼んだ!」

 

「了解した!」

 

2人は弾幕を回避しながらも銀の福音との距離を少しずつ詰めるが、攻撃が一切当たらない。それだけあのスタスターは見た目に反して相当な性能なのだろう。

 

「La……♪」

 

そのとき銀の福音は羽を大きく開き、その場で1回転しながら弾幕をばら撒く。完全な面攻撃に2人は驚いたが、先ほどよりは弾幕が薄くなるため、間を潜り抜けながらチャンスをうかがう。

 

「一夏!私が動きを止める!」

 

「わかった!」

 

箒は福音の前に躍り出てて、展開装甲によって機動力を向上させて、弾幕の中を潜り抜けていく。流石に不味いと思ったのか、福音は羽を箒に向けて前面展開し、そこからエネルギー弾を一斉射した。

 

「そこだ!」

 

箒は目の前に放たれた弾幕に対し、空裂と雨月を振るい、エネルギーの刃をぶつけたことにより大爆発が起きる。そして箒は炎を突っ切り、福音の目の前に現れた。

 

「はぁぁぁ!」

 

箒は銀の福音の懐に入り、空裂で右切り上げをする。だが銀の福音は箒の攻撃を躱し、そして箒を囮に後ろに回り込んでいた一夏の横薙ぎも掠りもせずに躱しきった。

 

「2人同時の攻撃を……!?」

 

これすらも躱すのか。一夏がそう思った時、首に衝撃が走った。

銀の福音は一夏の首を掴み、そして鳩尾に拳を一回叩き込んだ後、一夏こと体を回転させ、そのまま海に向けて叩き落した。

 

「うわああああ!」

 

しかし一夏はスラスター制御で体勢を立て直したおかげで海に落ちず、そして空にいる銀の福音を睨みつける。

 

「くそっ……!え、船……!?」

 

一夏は自分たちの戦ってる下に、船がいることに今さら気づいた。恐らく密漁船なのだろうが、このまま巻き込んでしまうのはとても気分が悪い。そのためさっさと逃げてもらうためにも声を上げたが、それを一夏はすぐに後悔する。

 

「おい!早くここから……っ!?なんだよこれ……!」

 

船にいたのは人間ではなかった。いや、人間もいたが、すでに死に絶えており、ミイラの様な姿になっている。それを見た一夏は一気に吐き気がし、そしてそのまま嘔吐してしまう。

そのとき、死骸の隣にあった緑色の物が動いたが、一夏はそれに気づいていない。そして緑の物体が尻尾で床を叩き、一夏めがけて一気に飛びついた。

 

「うわああああ!?」

 

「キチチチチチ」

 

一夏は緑の物体“ショッキラス”に驚き、一瞬パニックになってしまう。ショッキラスはそのまま鋭い牙を一夏に刺そうとしたが、ISのシールドがそれを防ぎ、逆に牙が1本折れたことに驚いたショッキラスは、意地でももう1本を刺そうと何回も攻撃してくる。一夏は振りほどこうとその場で暴れまわるが、ふいに操縦を誤り、そのまま海に落ちてしまう。

 

「しまっ……くそ、離れろぉおおお!」

 

一夏は力を振り絞り、無理やりショッキラスを引きはがした後、雪片二型で真っ二つに切り裂いた。死骸はそのまま海の深くへ沈んでいき、一夏はそのまま海上に上がろうとしたとき、船の底にショッキラスが何匹もへばりついてるのに気づく。

 

「っ……!!!!」

 

悲鳴すらも忘れ、一心不乱で海上に逃げる一夏。寸のところでショッキラスにへばりつかれるのは免れたが、上空から銀の鐘の光弾が降り注ぎ、それが一夏に襲い掛かる

 

「うわああああああ!」

 

光弾の雨はそのまま船すらも粉々に破壊し、白式のシールドエネルギーもごっそりと奪い取る。いや、零落白夜も使ってたこともあり、もうエネルギーは限界となってしまい、零落白夜があと1回使えるか使えないかぎりぎりにまでなってしまう。

 

「一夏!」

 

箒は空裂と雨月からエネルギー波を放ち、福音はそれに気づいて攻撃を中断。そして彼女から距離を取り、その間に箒は一夏の元へと近寄る。一夏のシールドエネルギーはもう少なく、零落白夜も使える回数が3回歩かないかだ。

 

「航……いつ来るんだよ……!」

 

一夏は航が早く来るのを待っていた。あれがあれば一発逆転が可能だろうと思っており、そのためにもこのエネルギーを節約しなければならない。逃げれば銀の福音がどこ行くかわからないため、一夏はこの場から逃げることはできなかった。

さっさと切り倒したいがそれができない。だから我慢の強いられる戦いだったが、いい加減我慢できないのか、箒がスラスターを吹かし、福音目がけて飛んだ。

 

「こんな奴!この紅椿の錆びにしてくれる!」

 

「待て、箒!箒ぃ!」

 

箒は一夏の制止を振り切り、銀の福音めがけて突っ込んで空裂、雨月を振う。だが銀の福音はその刃を数mmって言うスキマだけを残しながら躱し、そのまま放たれるエネルギー刃もスイスイと躱していく。

 

「なぜだ!なぜ当たらない!こんなに近いはずなのに!」

 

箒は焦っていた。こんな高性能機を使って仕留められないことに。一夏にカッコいいとこ見せれないことに。そして、航が来てしまうことに。ひたすら2振りを振うが、銀の福音には一切当たらず、それどころか見切られてしまい、腹に思いっきり蹴りを入れられそのまま吹き飛ばされる。

 

「くっ!……しまっ」

 

箒が見たのは、銀の福音から放たれた弾幕の雨だ。万事休す、そう思い、目を閉じようとしたら……。

 

「箒ぃ!」

 

「えっ……?」

 

一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、箒と銀の福音の間に入り、とっさに箒をかばった。福音の弾幕が雨の様に降り注ぎ、白式のシールドエネルギーを削り落とす。それでも銀の鐘は終わらず、一夏の体にも光弾が当たる。だが一夏はそれでも逃げず、絶対防御がきれても箒をかばい続けた。

そして弾幕が消え、箒は恐る恐る目を開ける。すると目の前にいたのは、あちこちから血を流し、それでも箒をかばい続けた一夏がいた。もう彼の眼には光が無く、今にも倒れてしまいそうになってるが、それでも一夏は立ち続けた。

 

「いち、か……?」

 

「ほう……き……。ぶ、じ……」

 

一夏は小さく笑った。箒が怪我してない。それだけでも良かった。そしてボロボロの手で彼女に触れようと手を伸ばす。

だがしかし、白式が限界を超えたのか強制的に格納され、飛ぶ力を失った一夏は、そのまま海に向けて落っこちる。それを箒は急いで抱きかかえるが、紅椿の装甲に一夏の血が滴り、紅に赤が混じる。

 

「一夏……頼む、目を開けてくれ……。一夏ぁ……一夏ぁ……!」

 

自分のせいだ。自分が……。箒はただ己の行いを悔やんだ。だがそれで一夏が目覚めるわけでもなく、むしろピンチの状態にあることに変わりはない。

その時、紅椿が新たなISの反応を拾い、その方向を向く。するとそこには四式機龍がいた。

今更何のために来たのか。箒の中には憎悪の炎が燃え上がり始めていた。




この時、日本の海は大きく荒れるだろう。だがそれは更なる大波へと変貌するのを誰も知らない……


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銀対銀

どうも、アオシマの機龍の最新情報が入り、気分が舞い上がってる妖刀です。早く発売してほしいですね。航専用機龍もとい四式機龍に改造して早く作りたいものです

では本編どうぞ!


航はただその天使を見ていた。善悪関係なく撃ち落とす無慈悲な天使。その天使は綺麗な電子の声を上げ、物珍しそうに航を、機龍を見ていた。

福音がなぜこちらに追撃をしてこないか航は疑問に思ったが、とりあえず今は都合がいいと思い、急いで一夏と箒の元へと向かう。

 

「箒!何をしている!早く一夏を連れて……っ!」

 

だが箒が空裂の切っ先を機龍に向け、それに言葉が詰まってしまい、航はありえないと言わんばかりの顔で箒を見る。そんな箒は、怒りの形相で睨みつけており、滴る涙が一夏の頬を濡らす。

 

「貴様が!キサマがいるから一夏が……!」

 

「何を言ってる!そんなこと言うならさっさと旅館に逃げろ!じゃねえと一夏が死ぬぞ!?」

 

「貴様は疫病神だ!それで一夏がこんなに……。疫病神はここで退治してやる!」

 

どう見ても箒がおかしい。そう航は実感した。

箒はここ最近落ち着きを見せ、航に対しても割と普通の感じになってたのに、今に限っては更にトチ狂ったと言わんばかりの状態だ。なんでこうなったのか全く分からないが、ただ不意に、あの兎が笑ってるのが脳裏に浮かんだ。

 

「箒、落ち着け。今こうやって争っても無意味だ。俺が殿するからこの場からすぐに逃げるんだ」

 

「うるさい。うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!貴様が私に指図するなぁ!」

 

箒はそのまま空裂を横薙ぎに振い、機龍の腹部を切り裂く。腹部装甲が受け止めるかと思われたが、あまりの切れ味に腹部装甲すら切り裂き、紫電が走る。

箒は自分のしたことに気付いたのか、ハッと顔が青ざめる。そのとき、機龍の手が空裂を握る手を掴み、銀色の顔を箒の顔へと近づけた。

 

「俺が怒る前にさっさと帰れ。じゃないと沈めるぞ」

 

「っ……!」

 

機龍のむき出しのカメラアイがギョロリと箒をにらみつける。それに臆した箒は小さく悲鳴を上げ、一夏を抱えたまま旅館方面へと逃げ出した。

それを逃さんと銀の福音は動き出そうとしたが、航は逃げる箒を見たまま、右の腕部レールガンを福音に向けて連射し、こちらに注意を引くように牽制する。

それに反応した福音は、機龍の方を危険と認めたのか、機龍を見たまま羽を大きく広げ始めた。

 

「誰が言ったかな。世界の終焉は天使がラッパを吹いたときって」

 

「La?」

 

航の独り言に首をかしげる福音。だがしかし、機龍がこちらを見た時にゾクリと何かわからぬ感覚が走り、何時でも戦えるようにする。

これは危険だ。さっさと倒せ。そう自分の中が叫び、警戒レベルを上げた。

 

「警戒レベルA。迎撃モードに移行。銀の鐘(シルバー・ベル)、稼働開始」

 

そのボイスが合図となり、銀の福音はその場から砲口を出そうと羽を広げ……れなかった。

なんせ瞬時加速(イグニッション・ブースト)で機龍が、一瞬にしてその間合いを詰め、そしてメーサーブレードで切りつけようとして来てるのだから。

 

「La……!」

 

銀の福音は体を半回転させたところで即座に全スラスターを起動。それで瞬時に距離を開け、そのまま体を1回転させる。それによって一気に砲口を広げ、そのまま一気に光弾を放った。

 

「キィィァァアアアア!!!!」

 

機龍はそのまま銀の福音の元へと向かい、その弾幕の雨の中に突っ込む。装甲に着弾するたびに爆発を起こすが、関係ないと言わんばかりに進むのをやめない。

 

「La……!」

 

銀の福音もこんな突撃をしてくる相手は初めてなのだろう。だがしかし、それで焦る様子は見せず、機龍から一定の距離を取りながら光弾を放つのをやめない。

機龍からの腕部レールガンの攻撃も来るが、それはめったに届かないから問題なく、一方的に攻撃を行っている銀の福音は慢心してるからか、機龍の口部から放たれたメーサーに気付くのが遅れてしまい、スラスターを1つ、潰されてしまった。

 

「くそ、外した!」

 

この弾幕の中放つのは賭けだったが、航は口部メーサー砲を使い、福音に仕掛けたのだ。弾幕を切り裂く稲妻は銀の福音からしたら脅威になり、さらに警戒レベルが上がって弾幕量も増える。まるで先ほどのが小雨に感じるほどであり、それが機龍のシールドエネルギーを削る。そして腕部レールガンの銃口もその爆発で歪み、弾が明後日の方向に飛ぶようになってしまったが、十分に盾になるのを知ってるから、そのまま突撃する。

航は待っていた。細かい軌道で動いてばかりでそのエネルギーが貯まりにくく、一気に仕掛ける糸口が見えない。おかげでメーサーが空を切り裂くばかりで、近接戦に入り込めない。だがそのエネルギーも貯まり、これからやることに歯を食いしばりながらもスラスターにエネルギーを集中させ、そして光が爆発した。

骨が軋む音がしながらも、機龍が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で無理やり銀の福音の背中に回り込み、そしてその巨大な羽を片方がっしりと掴んだ。

 

「La……!?」

 

「その翼、いただくぞ!」

 

福音の片羽を力任せにもぎ取る機龍。そして機龍は体をひねり、巨大な尾を銀の福音の背中に叩き付け、海に向けて叩き落す。だが銀の福音もスラスターが片方無くなったからって動けなくなったわけではなく、水面ギリギリで姿勢制御を行い、大きな水しぶきをあげながらも水面を高速で進み、残った砲口を機龍に向けて放つ。

機龍も複雑な軌道でそれを躱しながら近づいていき、口部から再びメーサーを放ち、複数あるスラスターのうち1つを壊すことで、銀の福音がバランスを崩して水面に何度も叩き付けられる。

高機動型になった機龍ならどうにか追いつけないことはない。それは航に勝利を導くだけの力があった。

 

「これでぇぇええええ!」

 

航はそのまま銀の福音に向けて急降下を行い、とどめを刺そうとした。だがしかし、黒いナニカが自分に向けて超高速で突撃し、そのままぶつかってきたのだ。おかげで機龍の軌道は反れ、水面に突撃しそうになったのをどうにか姿勢制御して抑え込む。

そして航は何がぶつかってきたのか見た時、つい舌打ちが出てしまった。

 

「またお前かよ……!」

 

そこにいたのは右腕を失った黒い機体だった。だが今の突撃もあって左側面装甲がボコボコにへこんでおり、火花も散ってしまってる。

だが黒い機体はそのまま腕部からメーサーを放ってきたため反復横飛びするかのように躱し、お返しと言わんばかりにレールガンを連射する。

 

「何なんだよお前は!」

 

そう叫んでも向こうは答えず、ただ攻撃を繰り返すばかりだ。正直これを無視して銀の福音を仕留めたいが、この機体が邪魔するため、さっさと片付けようと航は機龍を突撃させる。

だが黒い機体はまるで流れる水のように攻撃を躱し、残った左腕で巧みに攻撃を行い、航を苛立たせていく。

機龍は格闘性能が高いが、弱点がある。それは、攻撃の際の隙が大きいことだ。実際楯無はそれで機龍の攻撃をかいくぐり、何度も攻撃を浴びせることに成功している。そして現在も、黒い機体は片腕ながらも、隙を見つけてはチクチクとエネルギーシールドを貫通する攻撃を繰り返しており、装甲に直接ダメージを与えている。

おかげで予想以上にシールドエネルギーが削られ、さっさと片付けないとやばいって判断した航は、あまりやりたくない急制動を駆使し、複雑な軌道をとって黒い機体に近づく。黒い機体も腕からメーサーを放つが当たらず、機龍が近づいてきて、尻尾をふるったため、しゃがむようにして躱す。

 

「まだだぁ!」

 

だが連続で振るわれた尾は黒い機体の頭に当たり、頭部が粉々に吹き飛ばした。

だが黒い機体が放った“スパイラルグレネードミサイル”は、紅椿によって切り裂かれた腹部に直撃。そのまま傷口を抉って、大爆発を起こした。

 

「キィィァァアアアアアア!!!?」

 

機龍は自分が損害を受け、大きな悲鳴を上げる。その巨体がぐらつき、黒い機体はもう1度、ミサイルを叩き込もうと放つが、それを機龍は腕部レールガンで受け止め、そのまま盾にした。

だがしかし、ミサイルはそのまま逸れ、右腕の肩関節に突き刺さりってそのまま爆発したのだ。だがその煙の中、機龍は右手の指ををすぼめ、腰のひねりを活かして一気に貫手を行う。すると金属を引き裂く音どころではない、ひしゃげ、砕け散る音と共に黒い奴の胸部装甲を貫き、その手には黒い機体のコアが握られている。

だが機龍は万力の様に力をこめ、コアを握りしめる。おかげでコアに亀裂が入り、そのまま力を入れればコアも粉々に砕けるだろう。

だがしかし、黒い機体は空いた片腕で機龍を抱きしめ、使える全スラスターを高出力で使用。それにより、機龍と黒い機体は海に向けて真っ逆さまに落ちて行った。

 

「こいつ……!?」

 

黒い機体のナニかのエネルギー反応が増大していくたびに、航は黒い機体が何しようかすぐに察し、逃げ出そうともがくが時すでに遅く、勢いよく2機とも海に叩き付けられてしまう。

その衝撃に意識が飛びそうになる航だが、拘束が少し解けたから逃げようとしたが、黒い機体の装甲のつなぎ目から赤い光が漏れ始め……。

そして海面に大きな水柱が立ちあがった。それを見た銀の福音は砲門を全て機龍の落ちたところへ向け、そのまま一斉射を行う。それによって先ほどのより巨大な水柱が上がり、その後のさっさと逃げるようにその場から離れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてその場に再び水柱が立った。だがその中にいたのは、先ほどの黒い機体からの攻撃を受けた機龍であった。

銀色の装甲は黒ずみ、部分部分損傷で火花が散ってる。それに最後の福音の一斉射であちこちの装甲も歪み、背びれも何枚か飛んでる。だがその黄色いカメラアイは戦闘の意志を失っておらず、いまだ輝き続けている。

即座に周りを探索する機龍だが、銀の福音がいないと知るやすぐに、近くの小島に降り立つ。

 

「くっそ、が……!」

 

あの黒い機体さえいなければ上手くいけばもう片翼ももげたかもしれない。だが今となってはそれは分からず、とりあえず航は機龍の状態を確認することにした。

機龍は腹部の損傷、右カメラアイの損傷が大きく見られるが、それと同様に新たな損傷が見つかった。

 

「右手が……」

 

先ほどの自爆により機龍の右腕は不調になったのか、関節部や装甲の隙間から火花が散る。そしてシールドエネルギー残量を見るとすでに半分まで減っており、どこに逃げたのか分からぬまま動き続けたら、もしも付けたとしてもエネルギー切れで負けるかもしれない。

 

「さて、どうするかな、っ……!?」

 

福音を再び追うか、それとも1回戻るか。航は体を動かそうとしたとき、途轍もない痛みが体に走った。それでバランスを崩し、機龍がそのまま倒れそうになるが、どうにか一歩前に踏み出すことで堪え、激痛の走る右腕に目をやる。

何で痛いのか全く分からず、航はおとなしく帰還を選ぶのであった。

 

 

 

 

 

あれからどうにか帰還した航は、医務室で治療を終え、右手を吊るしたまま怒りの形相で、旅館内を早足で進んでいた。そして丁度、角を曲がったときに千冬とばったり会う。

 

「篠栗、腕は大丈夫なのか?」

 

「織斑先生、箒はどこにいますか?」

 

「篠ノ之か?あいつは今自室に……」

 

「そうですか。なら失礼しました」

 

「待て。その前に報告をだな」

 

「それなら機龍の戦闘情報でも抜き取って見ておいてください。俺はあいつに用があるので」

 

そう言って千冬に待機状態の機龍を渡し、そしてさっさと箒のいる部屋へと向かう。場所はここからそこまで遠い場所でもなく、歩いて2分もかからない場所だ。

箒のいる部屋を見つけた航は、即座に彼女の部屋のドアをノックした。

 

「入るぞ」

 

すると扉が開き、そこから出てきたのは同級生の鷹月静寐だった。

 

「あ、篠栗君……えっと、篠ノ之さん、に?」

 

「そうだ。今無理なら可能な時間を聞きたいが」

 

「ちょ、ちょっと待ってて。部屋をきれいにするから」

 

そう言って部屋の中に消え、パタパタと物を片付ける音が響く。大体1分経ったぐらいで、再びドアが開かれ、少しオロオロした静寐がまた顔を出した。

 

「あの、どうぞ……」

 

「あー鷹月さん。結構大声上げるかもしれないから、他の子がいる部屋に逃げた方がいいよ?」

 

「あ、うん。大丈夫。耳塞いでるか……」

 

それでは少し困るんだけどな。航は小さく思った。今から話す内容が内容だから、正直部屋を離れてもらうのがうれしいが、仕方ないが今は彼女を信じることにして航は部屋の中に入る。

 

「見つけたぞ」

 

「航……」

 

航がみたのは、体育座りのまま虚ろな目をしてる箒の姿であった。だがそれを見た航は怒りを感じ、彼女の前に立ったと思ったら、そのまま胡坐をかいて彼女と向き合う。

 

「援護に来た……と言っても遅れてきたが、仲間に攻撃するなんてどういう了見だ?」

 

「それは……お前が邪魔しに来たからだ」

 

箒はそのまま虚ろな目を逸らす。そしてぼそぼそと、その続きを言い始めた

 

「お前が来なければ、一夏は慢心しなかった。機龍の力はすごい。だからこそ、一夏は機龍頼みになって、本気を出せてなかったんだ。貴様さえいなければ、一夏はアレを倒せてたんだ……」

 

「ならお前は援護してないってことか?」

 

「紅椿は強い……だけど、一夏に華を持たせたかったから、本気出さずに……(ドンッ!)ひぃ!?」

 

航は手を出さない様に我慢していた。だがしかし、箒の今の態度や言動にとても頭に来てしまい、つい彼女の顔の横の壁を殴ってしまった。そしてズイっと自分の顔を箒の顔に近づける。

 

「ようするに一夏を見殺しにしたってことか?」

 

「違う!」

 

箒はそのまま立ち上がり、キッと航をにらみつける。だが航の目も瞳が小さくなった状態で睨み返しており、ゆっくりと立ち上がって箒と目を合わせる。

航は今にも手を出したいぐらい箒に対して苛立っていた。正直キレて殴ってしまう方が楽なのだろうが、他に人がいるとなるとそうはいかず、強く握りこぶしを作って堪える。

だが航はあることを思い出した。そう、箒がおかしいってことを。彼女、もしかしたら偽物じゃないのかと。

 

「なあ。お前、本当に箒か?」

 

「えっ……?」

 

航は箒から、刀奈の偽物に近い感覚を感じた。もし偽物だとしたら、束が彼女に紅椿を渡す理由が見つからない。だがしかし、ここまでおかしいと流石にそう勘ぐってしまうのだ。

 

「箒。いったい何があったんだ。そもそもお前、束さんの事をどう思ってるんだ?」

 

「私が姉さんのことを?それは……。っ……!?」

 

その時、箒の瞳が揺れた。そして不安げな、悲しそうな表情を浮かべ始めたのだ。まるで苦しそうな顔になり、そのまま膝を着く。

箒は自分の頭の中が、グチャグチャに掻き乱される感覚に陥ってしまい、強い吐き気を感じた。まるで自分の中に何かがいるような、この自分が自分じゃないような……。

それを見た航はさすがに驚き、彼女を安心させようと近寄る。

 

「お、おい箒、大丈夫か!?」

 

「……さい」

 

「えっ」

 

「うるさい……。うるさい……!黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れぇ!」

 

どこから出したのか、箒の手には木刀が握られており、それを航の頭に振り下ろす。そのまま頭に当たり、航はフラフラと1、2歩下がるが、ギョロリとした目が箒をにらみつけた。

 

「貴様が私を狂わせる!キサマさえいなければ!」

 

悲鳴のような箒の声は教員たちの元まで届き、そして勢いよく扉を開けた千冬が部屋に入って来た。そして何があったのかすぐに察し、即座に航を救護室まで行くように言う。

そして航は静寐に「怖がらせたな。すまん」と言って部屋を出ていき、少しふらつく足でこの場を後にした。

 

「鷹月、仲の良い子の部屋に避難していろ。ただしここであったことは誰にも言うな。いいな?」

 

「は、はい!」

 

静寐は怖かった。いったい何がったのか分からないが、箒がとても不気味で、そしていつ自分に暴力が振るわれるかわからない。

それにあの木刀で航の頭から血が出てるのも目撃し、それが決め手になったのか、千冬の指示に従って静寐は本音がいる部屋へと逃げ出す。

そしてこの部屋には千冬と箒しかおらず、千冬は箒を立たせ、自分と嫌でも向き合わせるようにした。

 

「篠ノ之。貴様、自分が何したのか分かってるのか?」

 

「航が悪いんです……。私が一夏のために……」

 

千冬は箒を本気で殴ろうと思ってしまってたのか、自分の右手が握りこぶしを作ってたことに気付く。だがここで殴っても一夏の状態は変わらない。

ただ言えるのは、紅椿を持って以来、箒がおかしくなったということは良く判る。そのため紅椿を回収して解析しなければならない。専用機持ちが1人減るが、やむを得ないと思うことにした。これ以上、現場を乱されても困るのだから。

 

「篠ノ之、紅椿をこちらに渡せ。今の貴様に使わせるわけにはいかない」

 

「で、ですが……」

 

「もう一度言う。渡せ」

 

「っ……!はい……」

 

千冬の眼力に屈し、待機状態の紅椿を外そうとする箒だが、この時とある異変に気付いた。

 

「織斑先生。その、紅椿が外れません……」

 

「何?」

 

怪訝な顔で見るが、箒は泣き出しそうな顔をしており、嘘とは思えなさそうだった。それで千冬も彼女の腕に着いてる赤色の紐を取ろうとするが、まるでどこかの呪いの装備と言わんばかりに外れず、ついには千冬の腕力を駆使したが、箒が「痛い痛い!」と言い出す始末だ。

いったいなぜなのかと考えたが、彼女の脳内で篠ノ之束が高らかに笑う姿が思い浮かび、それで一気に怒りが沸き起こる。

 

「くそ、あの馬鹿が……!篠ノ之、この部屋で待機してろ!」

 

そういってさっさと部屋を出ていく千冬。目的は篠ノ之束を見つけ出し、そして彼女から紅椿を外させることだった。




おー、良い戦闘データが取れたな。よし、それならあそこまで頼む。えっ、どこに行くのかって?そりゃあ機龍の元にだよ。それにアレも完成したしな。それを届けに行くのもあるし、損傷の応急処置もだな。
何?あの場所は立ち入り禁止?あ、そうなんだ。で?それが何か問題?ワンダーソン君に書類の整理を押し付……頼んだんだから、流石に手ぶらで帰るのは不味いでしょ。だからちょっとお手伝いをね、ハハハッ!!


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主任襲来

どうも。リアルの方も結構忙しくなってきた妖刀です。まあ、そうは言っても割と頑張れてるので問題ないですけどね。

今回はまあ、タイトル通りの事です。では本編どうぞ!


あれから千冬は旅館の中や周りを探索、そして電話も何回もかけたが、束を一切見つけることはできなかった。そして現在は作戦司令部にて、1本の電話とやり取りをしていた。

 

「……はい。はい。分かりました。では失礼します」

 

スマホを切り、千冬はため息を吐くと、そのまま近くにあった椅子に腰かける。

 

「海自が現在福音の探索をしてる。そして我々には待機命令、か……」

 

「仕方ありませんよ。織斑君は一命をとりとめたとはいえ、重傷を負ってますし。篠ノ之さんはそれで病んでしまって戦闘不能。篠栗君も右腕の負傷ですからね。だから今はおとなしくしてもらってますし」

 

同じく司令部にいた真耶が千冬にコーヒーを渡す。一応専用機たちにも待機命令を出しているが、一夏の事を思ってる者たちがいつ暴走するか分からない。

そして千冬は、手元にあった資料を手に取りペラペラとめくる。そこには航が戦った黒い機体の情報が書かれており、その内容にため息しか出ない。

 

「それにしても、福音より厄介そうなのがこの黒い機体、か……。常にエネルギーシールドを突破する、零落白夜に近いものを使ってるとなると……」

 

「でもそれは篠栗君がすべて撃破したんじゃ」

 

「だといいがな。あの3機で終わりって気がしなくてな……」

 

無駄に硬い機龍にあそこまで手傷を負わせた集団だ。あまりにも危険すぎて警戒を疎かに出来ない。だからといって銀の福音の方も警戒しなければならず、なんでこうなったと頭を悩ませる。

だが問題はこれだけではない。

 

「それに米海軍の空母サラトガだったか。わざわざそこの艦長が尻拭いとして手伝いたいという知らせがあった。これはどうするか……」

 

「え、艦長さんからですか?」

 

「ああ。ダグラス・ゴードンと名乗っていた。正直政府を通してからと言いたいが、最初から握りつぶされるのが分かってたみたいだな。ゆえに直で言ってきた」

 

米国の介入。とても厄介極まりない事態だが、元は向こうが起こしたことなのだから、さっさとどうにかしろ、と言いたくなる。

だがそれを政府に行ってもだんまりのため、まだこのゴードンという男の方が信用できそうに感じた。

 

 

バラララララララララ

 

 

「ん?ヘリの音、か?」

 

不意にヘリコプターの音が耳に入り、千冬は顔を上げる。その音は最初は遠かったが、どんどん近づくにつれとても大きなものとなる。いったいどこを通ってるのかと思い、真耶が窓から外を見ると、驚きの顔に変わった。

 

「お、織斑先生!あれを!」

 

「なっ、これは……!」

 

真耶に呼ばれ、一緒に外を見る千冬。

そこに飛んでいたのは米軍の戦闘ヘリ、アパッチだった。だがその機体の横には横向きの獣の絵が描かれており、これが婆羅陀魏社所有の物であることは明確だった。

 

 

 

 

 

 

アパッチの前部コックピットにはこの機体のパイロットが乗っているが、後部コックピットには白衣を着た男、主任が乗っていた。

 

「主任、着きましたよ。って本当に来てよかったんですか?俺、逮捕されませんよね?」

 

「んー?知らね。まあ、どうにか頑張って。それにしてもここがその旅館か。じゃあ、行ってくるねー」

 

「え、どういう―――」

 

「しゅわっち」

 

「ちょ、主任んんんんん!?」

 

主任はコックピットハッチを開けると、電車を降りるかごとくそのままヘリから飛び降りる。それを見た操縦者は驚きを隠せず、そして彼が見たのは、10mほどの高さから飛び降りる主任の姿であった。

誰もが不味い、と思っただろう。だが主任は空中で姿勢を整え、ズンッ!という大きな音を立てながらも、ターミネーターが現れたときの様な姿で着地し、ゆっくりと立ち上がる。

 

「俺の名はアイアンマンだ……なんてな。ぎゃはははは!」

 

旅館の玄関前で笑う主任だが、すでに彼の周りには教員たちが取り囲んでおり、そんな中から千冬が現れ、主任を射殺さんと言わんばかりに睨みつける。

 

「何の用です。婆羅陀魏社開発部部長、亜龍・サーシス」

 

「おー千冬ちゃん、久しぶりだね。まあ、まともに顔を合わせるのは初めてだけどな!」

 

「……ここは関係者以外立ち入り禁止のため、さっさとこの場から去ってください。じゃないと貴方を拘束しなければなりません」

 

「ほー、束ちゃんを通しといて俺はダメってのは酷いなー」

 

「っ……!?何の事ですか」

 

「千冬ちゃん、仲間はずれはよくないなぁ、オレも入れてくれないと」

 

ケラケラと笑う主任だが、その鋭い目がジッと千冬を見ており、冷や汗が一筋垂れる。とても不気味な雰囲気の主任に千冬は諦めたかのようにため息を吐く。

 

「で、何の用なんですか?」

 

「まあ簡単なことさ。その前に、この近くにヘリ止めるとこない?帰りもあれ乗って帰るから」

 

「……向こうの浜辺に止めといてください」

 

主任はさっさと指示し、ヘリをそちらに飛ばす。やっと空になにもなくなったところで千冬は何の用かちゃんと聞こうとしたら、先に向こうがそれについて聞いてきた。

 

「そしてだけどさー、篠栗航はいる?」

 

「……何するつもりですか」

 

「そうか、いるんだな。なら失礼するぞ」

 

主任はずかずかと旅館の中に入ろうとするため、千冬は即座に彼の前に立って止める。

 

「サーシス!貴様、何をする気だ!」

 

「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」

 

「それなら私に付いてきてください!勝手に歩かれると困ります」

 

「いいじゃーん。こんな美人に案内されるとかオジサン嬉しいねー」

 

「……ではどうぞ」

 

額に青筋を立てながらも、千冬は主任を航の元へと案内する。一応監視として真耶も一緒に連れて行き、そしてたどり着いた彼の部屋を開ける。そこには頭に包帯を巻いた航がおり、彼は独りで外を眺めていた。

 

「ハハハッ見てたよルーキー。中々やるじゃない?」

 

「……あの、どちらさま?」

 

「俺は婆羅陀魏社主任、亜龍・サーシスだ。君の機体の設計開発を担当している。まぁ主任と呼んでくれ」

 

「は、はぁ……」

 

いきなりのフランクな態度に困惑を隠せない航。だが主任はそんなことを気にせず、ズイズイと詰め寄るため、千冬に怒鳴られて、何とか距離を開けて話すことになった。

まあそんな中、主任は即決に言う。

 

「さてさて航君。さっそく機龍を見せてくれないか?損傷してるらしいからな」

 

「どこでそんなことを?」

 

「それは企業秘密だ……って君も怪我してるじゃないか」

 

「あぁ、これですか」

 

航は包帯を巻かれてる右手を軽く動かす。だがすぐに顔を顰め、元の位置に戻した。

それを見た主任は、彼の手を取り、そのまま包帯を巻かれてる部分を握った。

 

「がぅ……!?」

 

いきなり患部を触られ、航は声にならない悲鳴を上げる。それでバッと後ろに下がる航。

 

「ふーん、亀裂骨折ってところか。それに肋骨も僅かだが折れてるな」

 

「何?」

 

「イテテ……なんでそこまで……」

 

「んー?そりゃあな」

 

主任は白衣の中から1本の注射を取り出し、それを航の右腕に刺して液を注入する。いきなりの事で驚いてたが、割と針が太かったのか、後から痛みが一気に来て航は床をのたうち回る。

 

「っ……!……っ!」

 

「そのナノマシンが効くのに10分ほど時間いるからー」

 

主任は何事もなかったかのように話し、航は床に倒れたまま息を荒くして、主任の方を睨みつけていた。だがそれを見た主任は、にやりと笑みを浮かべる。

 

「ほー、いい顔するじゃん。それぐらいの気迫がないと機龍に選ばれないからな」

 

「サーシス!」

 

「別に毒じゃないよー。それに天使を狩らないといけないだろ?その体じゃ不都合だと思ってねー」

 

ケラケラと笑う主任を射殺さんとにらみつける千冬。あまりの迫力に、一緒に来てた真耶は小さく悲鳴を上げるが、主任は眉一つ動かさずに笑ってる。

 

「あ゛っ……くそ、が……」

 

「おー、もう喋れるほどまで回復したのか」

 

航はフラフラながらも立ち上がり、肩で息をしながら主任をにらみつける。だが主任はそれに臆するどころか、むしろ興味津々に航を見ていた。

そんな航は先ほどまで痛かった右腕に痛みが無いことに気付き、ギプス等々を取ってみる。すると腕は問題なく動き、そして肋骨の痛みもすでに消え去っていた。

それを見て満足したのか、主任は本題に取り掛かることにした。

 

「さてさて、機龍の修理に取り掛かりたいけど、今どこにある?」

 

「む、それなら私が持ってるが」

 

「あっそう。千冬ちゃん、さっさと機龍頂戴。すぐに修理を終わらせるから」

 

「何?この場所で修理とか―――」

 

「できちゃうんだなーそれが。まあ、この旅館の中じゃ無理だけどね。どこか広いところない?」

 

「それなら少し歩いたところに砂浜が」

 

「ならそこ行こうか」

 

主任は即座にドアを開け、部屋を出て行こうとする。だが不意に立ち止まり、再び顔を覗かせた。

 

「ああ、それと更識簪ちゃんも呼んで」

 

「えっ?」

 

何で彼女も呼ぶのか、千冬には理解ができなかったが、大人しく真耶に呼びに行かせるのであった。

 

 

 

 

 

あれから場所は変わり、航たちは最初出撃した砂浜に来ていた。主任は現在、展開された機龍を見て、ニヤニヤと感慨深そうにしている。

 

「おー、ここまで機龍を傷つけるのがいるとはなー。まあいいや、さっさと修理―っと」

 

そして主任は白衣の中からなにやら黒いボールの様なものを出し、逸れに着いてたスイッチを押すとそこには空間投影ディスプレイが表示され、そしてボールの一部からアダプタ付きのコードが出てきた。

そして、主任は機龍の脚部にあったハッチを開け、そこに刺し込む。その後空間投影ディスプレイに何か打ち込むと、するとどうだ。機龍の損傷した部分の装甲が勝手に外れ、中の電子機器やコード類が自分から動き始めたではないか。

 

「うーん、修復パッケージ。初使用だけどいい感じに動くねー。後はこの短時間でもう1戦できる分は修復ってところかなー?」

 

「あの、主任……私を呼んだ理由は……?」

 

「あー、そうだった。簪ちゃん、次は君に用だけど」

 

主任は球体から手を放すが、落ちることなく勝手に浮遊しており、そして主任が白衣から出したのは、クリスタルの付いた指輪だった。

 

「打鉄弐式。完成したので届けですよーっと」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

それを受け取り、右手中指にはめる簪。未完成の時のくすんだ鈍色ではなく、完全に完成したことにより輝きが生まれて綺麗な色になっている。

そして空間投影ディスプレイでスペックをを確認したとき、簪は目を大きく開いて、驚きを隠せなかった。

 

「何これ……すごい……」

 

「ハハハッ、気に入ったかな?じゃあ、装備の試験もいっちゃうからそれじゃあIS展開してねー」

 

「来て、打鉄弐式……」

 

そして簪は専用機である打鉄弐式を展開する。その姿は彼女が思い浮かべてた時と変わらないが、ただ気になるのは第3世代兵装“山嵐”が予定してたのより少し大型化してるのと、格納領域(バススロット)に表示されてるパッケージ“壁灼(へきしゃ)”の文字だった。

 

「あー。あー。聞こえるかな?じゃあ、軽く機体の試験をするよ。ぽぇーっと」

 

主任は別の黒いボールを取り出して、それを飛んでる簪に向けて投げると、数枚の鋼の板になって飛んでいく。簪は背中に装備されてる2門の連装粒子砲“春雷”を前面に展開。そして板に照準を向ける。

 

「春雷だが、これまでの連射型以外に、拡散、それとチャージによる照射が可能になってる。試してみてー」

 

それを聞いた簪は、1枚目の板を普通の連射で撃ち抜き、2枚目は近づいて拡散粒子砲にして蜂の巣に。3枚目は片方を10%だけチャージし、そのまま薙ぎ払うように放つ。

 

「すごい……」

 

驚きを隠せない簪。それと対照に主任はニッコリと笑っており、とても満足気だった。

 

「よーし、春雷は良い調子だな。じゃあ、もうちょっと遊ぼう……と言いたいけど、機龍の大体が仕上がったから終りだ」

 

「えー……」

 

不満げに降りる簪だが、自分の機体が完成したことに内心とても喜んでおり、まあ仕方ないと納得して降りる。そして降りてきたとき、簪は機龍を見て軽く驚いた。

 

「ホントに直ってる……」

 

機龍は砕けていた装甲が全て地面に落ち、新たな装甲が展開されて元の姿に戻っている。これならすぐに戦うことならできるだろう。だが主任はそれで満足せず、この機体にもう一工夫を加えていく。

 

「さて、ここからは俺からの餞別だ。機龍に高機動型パック“ガルーダ”をなぁ」

 

そういって主任はUSBメモリみたいなのを取り出し、それを先ほどの修理パッケージで使っていた黒いボールみたいなのに突き刺す。すると、空間投影でキーボードが展開され、それを主任はピアニストと言わんばかりの速度で

打って色々入力していく。

 

「んー。やっぱりもう少し完成を待つべきだったかな?まあ、仕方ないよねー。簪ちゃん、たしか君ってプログラミング得意だっけ?」

 

「えっ……?い、一応……」

 

「じゃあ手伝ってよ」

 

「えっでも……」

 

困り顔を浮かべ難色を示す簪。それで察したのか、主任はケラケラと笑う。

 

「ん?別にデータ盗ろうとどうでもいいよ。機龍も弐式もどうせ社内品だしね。というか弐式にも機龍のデータ使ってるしねー」

 

「でも……」

 

だがその時、何やら戦闘機が飛ぶ音に近い音がする。だがこの音を彼らはよく聞いたことがあり、もしやと思い空を見上げる。すると、4つの影が、高速で空を駆け抜ける。

そう、それらはISで、臨海学校にいる専用機持ち達が飛んでいたのだ。彼女たちはそのまま海の方へ駆け抜け、すぐに見えなくなっていく。

 

「なっ、あいつら、どこに行く気だ!」

 

その時、真耶の端末にとある情報が入り、それを見た真耶は顔を真っ青にする。

 

「お、織斑先生!大変です!専用機持ちの生徒たちが!織斑君の仇を取りに……!」

 

「既に分かってる!サーシス、更識、機龍をさっさと仕上げろ!あの馬鹿どもを追いかけさせる!」

 

「は、はい!」

 

「りょーかい」

 

そうは言うが、中のプログラムが結構複雑で、出来ないことはないがとても遅れてしまう。このままではまずいと焦ってしまうが、1回でもミスすればやばい。おかげで簪は若干涙目になるが……。この時、航が彼女の肩に手を置いた。

 

「簪。俺はお前を信頼してる。だから頼んだぞ」

 

「航……わかった!」

 

それで手の動く速度が前より早くなり、それを見た主任は小さく口笛を鳴らし、こちらも速度が上がる。

航はこの間に少し席をはずし、そしてスマートフォンを取り出した。

 

 

 

 

 

『航、どうしたの?いきなり電話なんかかけて来て』

 

「あー、アレだ。刀奈の声が聞きたくなってな」

 

『ふふ、変なの』

 

クスクス笑う刀奈の声を聴き、安心する航。だが当初の目的である、彼女からの応援をもらおうにも、どうやって話せばいいのか分からず、つい黙り込んでしまう。

それから10秒は黙ったのだろう。航は刀奈のため息から、つい彼女が少し困り顔を浮かべてるのが想像できた。

 

『航』

 

「ん、何?」

 

『本当は怖いんでしょ?』

 

「っ……!?」

 

航の驚きを感じたのか、刀奈からやっぱりと言わんばかりのため息を吐く音が聞こえる。

 

『大まかなことは知ってるわよ。それに黒い機体の事も。機龍が学園から持ち出された時点でなんとなく察してたわ』

 

いきなり先手を打たれ、言葉に詰まってしまう。だけどここで強がる勇気もなく、航は大人しく頷いてしまう。それでどういえばいいのか分からなくなり、航は項垂れてしまう。だがしかし、電話の向こうで、刀奈が小さく笑ってるのに気づいた。

 

『ふふ、何か昔の航思い出しちゃう』

 

「昔……?」

 

『えぇ。私と簪ちゃんと日輪が一緒にクマに襲われたとき、航が助けてくれた時のことを。航、強がって見せたけど、あの後泣いてたよね』

 

「あー、あの時か。でもアレ、俺がしたのは時間稼ぎだけだしさ。実際に倒したのは俺たちを探しに来た大人たちだろ?」

 

『でもカッコよかったよ。私、それで貴方のことが初めて好きって思ったんだから』

 

「んん、何か照れるな……」

 

頬をポリポリと掻く航。それが伝わったのか、刀奈はクスクスと笑っていた。

 

『だからね。航なら今回の事件は問題ないわ』

 

「えっ……」

 

『航。貴方はちゃんとできる子ってのは知ってるんだから。私が保証するわ』

 

「刀奈……」

 

『だから存分に暴れてきなさい。貴方のその力は、壊すためじゃなくて護るためにあるというのを。それを相手に見せつけてくるのよ』

 

彼女の優しくも、意思のこもった強い声。それを聞いたとき、航の中の不安が消えていき、意志を示すかのようにグッと握りこぶしを作る。

 

「……ありがと」

 

『ふふっ、どういたしまして♪』

 

彼女と話してると緊張がほぐれ、おかげで航は小さい笑みを浮かべており、とあるお願いを彼女に言ってみた。

 

「なあ、刀奈。これが終わったらさ、どこか気持ちのいい温泉のある場所に行きたい」

 

『航……お姉さんに任せなさい。疲れが吹き飛ぶとても良い所を探しておくわ。だから、ちゃんと帰って来て』

 

先ほどとは違う、震えた声が航に聞こえ、航は決意した。ちゃんと彼女に「ただいま」を言おう、と。これを言うまでくたばるつもりは無い、と。

 

「ああ、わかってる。だから俺、頑張ってくるよ」

 

『ええ、待ってるわ』

 

「じゃあ、またな」

 

『うん、またね』

 

それで通話は終わる。もうこれで怖くない。航は決意を固めた顔で、機龍がいる砂浜へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

そして航が戻ってきたころ、もう作業は終盤に入っていた。主任がキーボードを打ち終わると、機龍の目がチカチカと光り、ダウンロード完了の文字が出る。

 

「よし、完成だ。航君。一回格納してまた展開してくれ」

 

「わかった」

 

そして機龍を格納し、待機状態にする。

 

「来い!機龍!」

 

ピカッと光ってなる轟音。そして砂塵中から現れた機龍は、右肩の形状が少し変わり、銀色になったバックユニットと腕部レールガンを装備していたが、それ以外に腹部に追加装甲、そして大きな装備を背中に装備していた。

 

「これは……?」

 

「それが今回の高機動型パッケージ“ガルーダ”だ。元々はただの無人戦闘機だったが、つい機龍が目に入って作った結果、完成したわけだ。装備は2門の高出力メーサー砲。ぶっちゃけ機龍の口部メーサーの倍の威力は持ってる」

 

そう説明する主任だが、先ほどのふざけた雰囲気は消え、割と真剣にしている。簪はそれで少し眉間にしわを寄せるが、仕方なくそれを諦める。

まあそんなこともありながらも説明が進む。

 

「あと腹部だが、損傷の修理が間に合わないから、増加装甲と追加装備を入れさせてもらった。そのためエネルギーシールドの張り方も少し変えてるがな。さてガルーダを装備した機龍だが、そうだな……スーパーメカゴジラと言うべきかな?」

 

「スーパー……よし、機龍、行くぞ」

 

「あの……私、高機動パッケージを持って……」

 

簪は恐る恐る手を上げる。だが主任は問題ないと言わんばかりに何か手に持ってるスイッチを押す。すると、ガルーダの背面にグリップが2個出てきた。そして機龍が前のめりになり、簪がそこに乗って、背中のグリップを握る。

その時、千冬からの通信が入る。

 

「さていきなりで済まないが、さっさとあの馬鹿どもを捕まえに行ってもらう。ただ場合によっては……」

 

「簪、それでも大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫……」

 

「よし、それなら行って来い」

 

そして機龍の脚部スラスター、バックユニット、カルーダのそれぞれの出力が高まり、何時でも出れるようになる。

 

「篠栗航、四式機龍」

 

「更識簪、打鉄弐式」

 

「「行くぞ!(行きます!)」」

 

轟音を響かせ、2機のISは大空へと飛び出す。そのまま超高速で飛んでいき、もう姿が見えなくなっていく。

それを主任は、ニタァと笑みを浮かべながら見送っていた。

 

「さぁて、見せてみな。お前の本当の力をさ」

 

主任は簪を見ていない。ただ航を見てそうつぶやいた。




俺は後悔した。
あの時は行けると思ってたんだ。銀の福音を倒して、そして刀奈の元に帰ろうと。だから後悔する。
あの時、彼女に好きとか愛してるだの臭いセリフ一言でも言っておけばよかったと。もう帰れないかもしれないから。
誰がこんなことを予想したか。
時間が戻せるなら、あの時の俺に聞きたい。

独りで戦い、そして死ぬ覚悟があるのか、と。


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戦空

どうも、艦これで無事冬イベを突破した妖刀です。今回のイベント、悪くなかったけど1つだけ不満がありました。E-7の1本目ゲージ、ボスには陸攻が二式大艇前提って……。
まあ、アイオワも手に入れることができたし、そこら辺は満足でした。

っと逸れましたね。さてさて今回の銀龍は簪を背負って出撃した航。飛ぶ先にいったい何があるのか。

では本編どうぞ!




あれから飛んだ機龍は超高速で進むが、それに簪が付いていけてないのか、少し苦しそうな顔をしている。

 

「速、い……!」

 

「少し速度落とそうか?」

 

「いや、大丈夫……。航、急いで……!」

 

轟っ!と音を響かせ、機龍は加速する。重装型でありながら、高機動型と同様の加速力を出せるため、これまでと感覚が大きく違うことに戸惑いを覚えたが、それ用のプログラムが組まれてるのか、割と安定した姿勢を保てる。

 

「それにしても右手も少し変わったけど……」

 

「3式機龍みたいなドリル、入ってないね……」

 

「応急処置のようなものだし、仕方ないさ」

 

そう。機龍の右腕は先ほどの損傷により、主任の手によって若干形状が変化したのだ。だがしかし、形状が変わったのは主に右肩で、それは3式機龍改の物に酷似してるが、肘から先は元のままのため腕が変形したりはしない。

少し残念に思ったが、もうそろそろ作戦空域に入るため気を引き締める。

 

「航、これが終わったら……」

 

「えっ」

 

「んん、何でもない。さあ、行こ……?」

 

何が言いたかったのか。航は少し気になったが、これが終わればその時に聞けばいいと思い、気を引き締め直して治そうとしたとき、光弾の雨が2人に向けて降り注がれた。

 

「うおっ!?」

 

「きゃあ!」

 

航は即座に急制動を行い、その雨をやり過ごす。簪がそれに振り回されたが、どうにか落とされずに済み、一体何があったのかその方向を向くと、約3km先の光景に航は絶句した。

 

「おいおい、何だよこれ……」

 

「キィイァァァアアアアッ!!!!!」

 

彼らが見たもの。それは二次移行(セカンド・シフト)を果たした銀の福音と、その超火力に圧倒され、ボロボロになってる専用機持ち達の姿であった。

 

「簪、行くぞ!」

 

「うん……!」

 

轟っ!と音を響かせ、2機は銀の福音の元へと駆け、2機同時によるミサイルの雨を銀の福音めがけて放った。

 

 

 

 

 

時は戻って箒と話した千冬が去ったころ。箒は再び部屋の片隅にうずくまる。だがしかし、再び扉をノックする音がしたが、箒はそれを無視するようにうずくまる。ノックは何回も行われるが、ついに扉の開かれる音がし、誰が来たのかと思って顔を上げると、そこにいたのは目の前で腕を組んで経っている鈴の姿だった。

 

「入るわよ」

 

「鈴……」

 

「あんた、いつまでうずくまってるつもりなのよ。行くわよ」

 

「行くってどこに……」

 

「どこにって、そりゃあ福音のところによ」

 

「なっ……!?」

 

鈴が何言ってるのか分からなかった。最新鋭の機体2つ使って倒せない敵を倒しに行くのかと、彼女が正気なのか疑ってしまった。

 

「何驚いてるのよ。私、セシリア、ラウラはすでに同意済みよ。あとはアンタが来れば専用機が4機。これで中破の福音を仕留めきれるわ」

 

「中破……?」

 

「航が片翼もぎ取ったそうよ。その代わり片腕やられてたけど」

 

「航が……」

 

先ほどまであれほど憎悪があったのに、今は不思議なほどその感覚が無い。箒はそのことに困惑しながらも、ただ今の自分が嫌に感じていた。

 

「私は……行きたくない……」

 

「なっ!?どういう意味よ!」

 

鈴は箒が賛成しないことに驚きを隠せず、うずくまる箒にどういうことかと怒鳴り返すと、箒がぼそぼそと話し始めた。

 

「紅椿に乗れば私は狂う……。もう、怖いんだ……!」

 

箒は覚えていた。紅椿に乗って以来、傲慢と入れるほどに自信が増大し、そして援護に来た航を傷つけ、さらに彼に怪我を負わせたことを。まるで自分が自分でないような気持ち悪い感覚に、箒は自分の手の震えが止まらない。

 

パァン!

 

鈴が箒の頬を打ち、箒は驚いた顔で鈴を見つめる。

 

「うじうじしてんじゃないわよ!泣いてたら一夏が治るの!?」

 

「治るわけないだろう!そもそもそんなことがしたいなら勝手にしろ!私は……」

 

「箒。あんた、それで納得してるの?アンタ、自分のやったことぐらいケリつけなさいよ」

 

「……」

 

「はぁ……。あっそう、わかったわ」

 

膝をを抱いて俯く箒を見て、鈴は冷めた目で見降ろす。

その時、パァンと勢いよく扉が開く音がし、ラウラが中に入って来た。

 

「福音の場所を見つけたぞ。ここから40キロ先の沖合上空に目標を見つけた。手痛くやられてるからか光学迷彩まで使える状況じゃないようだ」

 

「そう、分かったわ。じゃあ行きましょ」

 

箒に興味を無くした鈴は彼女に背を向けて部屋を後にしようとする。ラウラはそれでいいのか聞いたが、鈴が諦めたように首を横に振る。

 

「ホント、大変な姉を持ったことだけは同情するわ」

 

そして扉を閉じ、2人はその場を離れていくがその時、箒が勢いよく扉を開けて、彼女たちを追いかけた。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「何?もうそんなに時間が無いんだけど」

 

めんどくさそうに言う鈴だが、箒の目を見た時、小さく笑みを浮かべた。彼女の目が先ほどと違うのだから。

 

「わ、私を……」

 

 

 

 

 

 

海上200m。そこで制止していた銀の福音は、膝を抱くように身を丸め、頭から伸びている片翼で、体を包んでいる。片翼になったことによって変化したバランスを調整し、何時でも動けるようにする。

 

「……?」

 

だが銀の福音は何かを感じたのか、ゆっくりと顔を上げる。そのとき、その顔めがけて超音速で放たれた弾が直撃。そのまま大爆発を起こした。

 

「初弾命中!そのまま続けて砲撃を行う」

 

5キロ離れた場所から砲撃を行ってるラウラは、砲戦パッケージ“パンツァ―・カノニーア”を装備したシュヴァルツェア・レーゲンを駆り、2発3発と砲弾を当てていく。だがしかし、銀の福音も即座に起動して上下左右と複雑な軌道を描きながらラウラの元へと駆ける。

その距離が500mを切り、もうラウラに手が届くと思われた時だ。上空から放たれたレーザーが銀の福音の背中に直撃し、そのままバランスを崩す。

 

「油断大敵ですわよ!」

 

はるか上空400mにいるセシリアは、高機動パッケージ“ストライク・ガンナー”を駆使し、射点を素早く変えながら狙撃し、的確に関節部などに攻撃を行う。その隙にラウラも場所を移動しながら砲撃し、着々とダメージを与えていく。

 

「目標変更」

 

銀の福音は、空からチマチマと攻撃してくるセシリアに照準を定め、高速でそちらに向かう。ラウラの砲撃を躱しながらだが的確に距離を詰める。しかし、それらを拒むものが現れた。

 

「私たちが!」

 

「いるぞ!」

 

光学迷彩を解き、挟み込むように現れる箒と鈴。双天牙月と空裂が同時に振われるが、銀の福音はその場で体を倒して無理やり躱し、そのまま海面に向けて飛ぶ。だが羽を広げ、3人巻込める形で弾をばら撒き、足の遅いと思われるラウラめがけて再び飛ぼうとした。

 

「させませんわ!」

 

だが一足先にセシリアがそれを拒み、それに続くように箒と鈴が飛ぶ。そして足の速い紅椿が二振りの刀を振るい、攻撃を仕掛ける。前の時とは違って振りに鋭さがあり、銀の福音も躱すのが精いっぱいな状況だが、一瞬の隙を見つけて腹に蹴りを浴びせて無理やり距離を開ける。だがしかし、それは箒の作戦だった。なんせ後ろががら空きなのだから。

そして後ろに回り込んでいた鈴は、福音めがけて双天牙月を振り下ろす。

 

「もらったわ!」

 

「近接防御。“スライサー”展開」

 

そのとき、銀の福音の両手に大型のコンバットナイフが展開され、振り下ろされた双天牙月をナイフをクロスさせて受け止める。大きな火花が散ったが、パワータイプかつ大型ブレードの攻撃を、ナイフで受け止められたことを驚く鈴。

 

ヒィィン……

 

「っ!?」

 

その時、双天牙月の刀身にナイフが食い込み始め、そのままナイフをひねって一部を削り取る。流石にそれを見せ焦ったが、鈴は即座に崩山を起動させる。

 

「このぉぉぉ!」

 

そして至近距離からのパッケージ“崩山”から放たれた衝撃砲を銀の福音にぶつけ、ひるんだすきに鈴は福音から離れる。そして改めて刀身を見たら、ナイフの当たってた部分だけが見事に削られ、あまり下手なことに仕えなくなってしまってる。

 

「あれが福音の近接……。地味にめんどくさいわね」

 

近接コンバットナイフ“スライサー”。これは刀身が超振動を起こすことによって切れ味を上げるが、軍用機とあって、その振動数はとても高く、下手なブレードとかなら一発で切れるほどだ。

銀の福音は一夏と箒の2人の時は使うまでもないと判断し、機龍の時は大きすぎて下手に使えば折れかねないと判断し使わなかった。だがしかし、この4人なら問題ないと判断し、使うことにしたのだ。

 

「こいつ、私と一夏が仕掛けたときは手を抜いてたっていうのか……!?」

 

「だがその余裕もないということだ!一気に仕掛けるぞ!」

 

怒りの形相になる箒だが、ラウラの掛け声とともに鈴と2方向から近接攻撃を仕掛ける。そして離れるとすぐにセシリアの狙撃とラウラの砲撃が入り、片翼の銀の福音は光弾を四方八方にばらまくが、どうしてもカバーできない部分が出来てしまい、そこに箒が両手で突きの体勢を作り、そのまま突っ込む。

 

「もらったぁぁあああ!」

 

箒はその片翼を雨月で貫き、手放すとそのまま腕を頸に回して銀の首を福音を締め上げる。

絶対防御は面白いもので、身体に重大なダメージがある場合発動するが、締め上げると言った技には発動しないのだ。技の見た目とかもあって普通では使われない絞め技だが、今回ではとても使え、そのため引き剥がそうともがく銀の福音だが、箒は意地でも離そうとしない。

 

「La……!!」

 

「落ちろぉ……!」

 

とても乱雑に、急加速や急制動を行って振り払おうとする銀の福音。他のメンバーはそれを狙おうにも、箒がいるため誤射を恐れて撃つことができず、それに業を煮やした箒が叫んだ。

 

「私のことは構うな!そのまま撃てぇ!」

 

「~~~!後で文句は言わないでくださいまし!」

 

そしてセシリア、ラウラが箒ごと銀の福音に向けて攻撃を始める。だがしかし福音もそれが分かってたのか、何発か当たると、すぐに箒を盾にするように動き出し、ラウラの放った弾が箒に直撃すると、そのまま首から手を離してしまう。

 

「くぅぅ!まだだぁ!」

 

しかし箒は刺さったままの雨月を掴み、そのまま羽を切り裂く。おかげで1/3ほどの羽が斬りおとされ、攻撃手段と速度を大きく失った銀の福音は、まともに残った武装がスライサーと、10もない僅かに残ってる砲口だけになってしまったため、一気に後ろに距離を開ける。

いくら軍用機とは言え、専用機4機を相手するとなっては多勢に無勢だろう。だがそんな思考をしてる間に居合いの姿勢で箒が再び近づき、そのまま銀の福音の右腰から左肩へと斬りあげられる。

 

「逃がさんぞ!一夏の仇だぁ!」

 

そして箒はほぼゼロ距離から空裂を袈裟斬りの要領で振り、エネルギー刃を減衰が起きない状態で直撃させる。スライサーで防御するも、威力を殺しきれないためにそのまま後ろに弾き飛ばされた。

 

「こっちを忘れるんじゃないわよ!」

 

「La……!?」

 

だがしかし、すでに後ろには鈴が待ち構えており、青龍刀による連撃をくらってからそのまま崩山を至近距離で当てる。だがこの瞬間、セシリアとラウラも同時に弾を直撃させており、その場で大爆発が起きた。

 

「La……」

 

そして煙の中から、銀の福音が力なく落ちて行き、そのまま海へと没した。

 

「やった、か?」

 

「そうみたい、ですわね」

 

先ほどまであった大きな反応は消え、銀の福音を倒したという結果がそこに残った。それを面々は完全に理解できてなかったが、分かるや、それは大きな歓声へと変わった。

それぞれ喜びの声を上げる面々。その中、鈴は箒の元へと寄った。

 

「何よ箒。ちゃんとやればできるじゃない」

 

「う、うむ。そうだな……」

 

「……あとで一夏や航に謝っときなさいよ?」

 

「ああ、わかってる……」

 

「まあ、ちゃんと謝ればあの2人は赦してくれるから」

 

そう言ってニカっと笑う鈴。それにつられて箒も小さく笑みを浮かべた。

これで終わった。あとは搭乗者を回収して帰投すればいい。そうすればすべて終わりだ。

そう、そう思ってたのだ。

そのときだった。海中にて高エネルギー反応が発生し、それを感知した専用機たちはいっせいに足元の海を見た。

 

「この反応……。まさか、二次移行(セカンド・シフト)だと!?」

 

そして、海が爆ぜた。

再び姿を銀の福音の姿はまるで天使の様だった。エネルギーで作られた巨大な翼は、見る物全てを魅了するほどであったが、装甲の隙間から白い蒸気のようなものを噴き出し、彼女たちからしたらそれは悪魔の翼のように感じた。

 

「キュイァァァアアアア!!!」

 

「っ!全員、散開しろ!これは不味い!」

 

その言葉で一斉に動き出す一同。銀の福音は軽く周りを見渡すが、最初に目を付けたのは箒だった。そして音を置いていくほどの速度で動き出し、一瞬で箒の武器が届くほどの間合いに入り込んできた。

 

「なっ……!?」

 

「ヴァリアブル・スライサー、起動」

 

銀の福音がスライサーを振るった時、その刀身が崩れたかと思うと、そのまま何メートルも伸び、光の様になった刃が箒の足元を狙う。

 

「箒!避けろ!」

 

「っ!?」

 

ラウラの声に気付き箒はすぐに上に上がるが、間に合わなかった左足が巻き込まれ、機体の脛の途中から下が丸ごと斬り落とされた。

 

「あああぁぁっ……!」

 

箒は悲鳴を上げ、錐揉み状態で墜ちていく。そのまま水面に着水すると思われたが、どうにか姿勢制御を行い、箒は水面ギリギリで体勢を保てた。そして同時に斬られた足を確認すると、刃は足の裏ギリギリを通り、どうにか生身が斬りおとされずに済み、安堵の息を吐く。

 

「あ、足が……ある……よかった、あった……」

 

だがしかし無傷とはいかず、足の裏の皮がズタズタになってしまっている。その痛みが今になって走り、箒の顔が苦痛に歪んだ。

だがしかし、警告音が鳴ったため空を見上げると、そこには光の豪雨が待ち受けていた。

 

「なっ……!?」

 

箒は急いでその場を離れようとしたが、面制圧によって一瞬で墜落し、そのまま海に叩き付けられる。

 

「箒!」

 

「気を付けろ!その刃、触れたら死ぬぞ!」

 

箒は心配する彼女らに向けて、目一杯の声で叫んだ。だがしかし、銀の福音は、弾幕を使って専用機たちの攻撃するタイミングを潰し、そして音速で突っ込んでヴァリアブル・スライサーを振ってくる。

 

「こいつ!何が遠距離型よ!バリバリに近接可能な万能型じゃない!」

 

「鈴さん!援護しますわ!」

 

鈴が押され、セシリアは即座に引き金を引くが、弾が当たる前には銀の福音は照準から消え、そしてセシリアの真正面に現れる。

 

「はやっ……きゃああああ!」

 

それに反応しきれなかったセシリアは、そのまま片手で首を掴まれ、一気に絞め上げられる。どうにか離れようともがくセシリアだが、万力のような力には全くの非力だった。まるで先ほどの絞められたことの仕返しの様だが、相手が誰とか全く気にせず、ただ敵を殺すと言わんばかりだ。

 

「やめ……て……」

 

そしてグルンと目が上を向き、必死に掴んでいた手はだらりと垂れ下がる。

 

「「その手を離せ!」」

 

その時、上空から鈴が双天牙月を振り下ろし、下の方からラウラが2門のレールカノンから弾を放つ。だがしかし、砲撃は片翼で受け止め、鈴には半ば意識を失ったセシリアを投げつける。おかげで躱すことができず、まともにぶつかった鈴が次に見たのは、自分に向けて放たれた光の豪雨だった。

 

「きゃあああああ!!!!」

 

まともに浴び、連鎖的な爆発によって巨大爆炎と爆風に晒された鈴とセシリアは、そのまま海へと落ちていく。

そして銀の福音は、次の目標をラウラに定めた。

翼を大きく広げたかと思うと、そこから光の雨がラウラ目掛けて降り注ぐ。ラウラは逃げようとしたが、機体の重さと弾幕の広さがあって逃げられず、とっさの判断で前面にある2枚の物理シールドを展開した。

 

「くぅ……!あああ!!」

 

光の雨に押しつぶされ、2枚の物理シールドが砕け散る。ラウラはそのまま弾を浴び続け止んだ頃には、ラウラがいた小島が消滅し、ラウラもともに海に没していた。

 

「ギュアァァアアアアアア!!!!」

 

銀の福音は吼え、そしてあたりを見渡す。ただそこにはほぼ戦闘不能になったと思われる専用機たちが死屍累々としており、興味を失った銀の福音は、大きな翼を広げ、どこかに飛び立とうと強く羽ばたかせる。

 

「ま…待て……!」

 

「キィィ?」

 

だがそのとき、海の方から視線を感じて見下ろすと、そこにはようやく動けるようになった箒がおり、彼女は殺さんと言わんばかりの目で銀の福音を睨みつける。

 

「ギュィィァ……」

 

それを見た銀の福音は嗤ったかのような声を上げ、そのまま箒めがけて瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込んだ。

 

 

 

 

 

それからどれだけ甚振られただろう。雨月も半ば切り裂かれ、空裂もヴァリアブル・スライサーによって刀身に亀裂が入る。そして銀の福音本体から噴き出してる白い蒸気に触れれば装甲がボロボロになり、刀身が1度も通らない。ただただ自分の手がふさがれ、気づけば詰みと言える状態になっていた。

だがしかし箒は諦めず、残った空裂を横薙ぎに振るが、銀の福音はそれを難なく躱し、そしてヴァリアブル・スライサーが振られ、それが空裂も切り裂く。

 

「しまっ……!」

 

「ギュァァァアアアア!!!!」

 

そしてそのまま、箒めがけてヴァリアブル・スライサーが振り下ろされた。間に合わないと察した箒は目をつぶり、ただ彼女の瞼の裏には、好きな男性の姿が思い浮かんだ。

 

(あぁ、もう一度一夏に会いたかった……)

 

もう間に合わない。ただ彼女は運命を受け入れようとしたが……。

 

「キィ……!」

 

その時、銀の福音めがけて大量のミサイルが飛んできたのだ。これが自分に向けられたものだと察した銀の福音は即座にその場を離れる。そしてそれは、箒に1発も当たることなくすり抜け、近接信管で逃げた銀の福音の周りで大量に起爆して、爆圧で身動きが取れないようにしていく。

そして箒の隣を、銀色の龍が駆け抜けた。

 

「機龍……!」

 

銀の福音の速度に劣らぬ速さで駆ける機龍は、腕部レールガンを連射し、とりあえず彼女たちの元から離す。そして再びロケット弾とミサイルを放ち、銀の福音も光弾を放ってお互いの間にたくさんの爆発の光がきらめいた。

それに見とれていたとき、機龍が突撃する前から切り離されていた簪が、ボロボロになった箒の元へと現れた。

 

「篠ノ之さん、大丈夫?」

 

「たしか、更識だったな。一応大丈夫だ。だが他の皆が……」

 

「なら今は航に任せて、皆を回収しないと」

 

「ま、待て!アレは第1形態とは違う!油断したら機龍だって……!」

 

「大丈夫。航は負けないから」

 

それを聞いてキョトンとする箒。そして簪に押されて、そのまま墜落したメンバーを回収に向かうことに。

そして簪はチラッと機龍を見た。

銀色同士がぶつかり合う空。だがその戦いは、優雅とは程遠く、龍と堕天使が争い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

――あれ。ここってどこだ?俺は銀の……あれ…俺、何してたんだっけ?――

 

一夏は空を見上げた後、周りを見渡す。波一つもない鏡のように澄んだ水の上に立ってることに疑問を持ったが、それも自然と消え、ただ目的もなく歩いていく。

 

―――ラララ…ララ……―――

 

――声?――

 

どこからするんだろう。歩き続けた一夏は声のした方へと向かう。

するとそこにいたのは白いワンピースを着た女の子だった。女の子は楽しそうに歌いながら回っており、不思議な感じがしたが、何か楽しそうな雰囲気を出していた。

ただ一夏は近くにあった流木に腰を下ろし、踊ってる彼女をただ眺めていた。

 

――俺、何か忘れてる気がするけど、何だっけ。まあ、今はここでのんびりするか――

 

一夏は少女を眺めながら、今持ってる考えを放棄しようとした。だがそのとき、後ろから金属同士がこすれる音がし、そちらの方を向く。するとそこには、自分と同じぐらいの背をした鎧がいた。

ただ背丈や後ろから流れてる髪から女性と判断したが、一夏は何も疑問に思わず彼女を見つめる。その時、彼女の口が動いた。

 

―――貴方は、力を欲しますか?―――




彼はどんな顔をしてるのだろう。楽しんでるのだろうか。怒ってるのだろうか。
ただ彼の背中は、私たちを助けてくれた時と重なって見えた。
航、負けないよね?私、お姉ちゃんに不幸な知らせは届けたくないんだから。


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増援

お久しぶりです。約4か月ぶりの更新になります。

ここまで遅くなった理由は、機龍と福音の戦闘のイメージが難しくていろいろ話の展開が決まらなってしまい、途中若干投げ出してました。だけどアニゴジ見てから、また掻き出した結果、どうにか完成いたしました。
あと何か感覚がつかめないため、文字数が9000文字超えてしまいましたが、読んでいってください。




※注意。決戦機動増殖都市のネタバレのようなものがあります


海上から300mも上空。そこでは2つの銀がお互いの制空権を取り合っていた。

片方は光の翼をもち、そこから光の豪雨を降らせる天使。そしてもう片方は、背中のバックユニットから大量のミサイルを放つ銀龍。お互い一歩も譲らず、弾幕合戦になっているが、機龍が少し劣勢に立たされていた。

 

「なんだよこの弾幕……!」

 

バックユニットからミサイルをばら撒くが、銀の福音はそれをエネルギー弾で落としていき、最後まで届くのは数発だ。だがそれらも落され、結果的には攻撃がほぼ届いてないということになる。

そしてお返しに出される弾幕の豪雨を縫いながら、機龍は口部メーサーと背部の2連メーサーを使い、その弾幕を起爆させて誘爆によって大量の花火に変えていく。

だがその爆炎の中を縫い、瞬時に機龍の目の前に現れた銀の福音は、翼を大きく振るって弾幕をほぼゼロ距離で浴びせる。

 

「しまっ!?」

 

機龍はそのまま弾幕の雨に晒され、そのまま後方に吹き飛ばされる。

 

「うわぁぁ!……あれ?」

 

強い衝撃を受けたが、航はとある違和感に気付いた。そしてすぐに体勢を立て直し、再び銀の福音めがけて高機動で突っ込む。

 

「キアァ!」

 

何度来ても同じと言わんばかりに、銀の福音は翼を振るい、光弾の豪雨を機龍めがけて放つ。それをもろに浴びる機龍だったが、その速力は遅くなるものの、どうも何かおかしい。前ならその爆発で大きくよろめいていたが、強化されてる弾を食らってもその爆発であまりよろめいたりしなくなってるのだ。

いや、それ以前に装甲に触れた分のエネルギー弾が起爆してないのだ。よろめいてる理由は、それ以外で誘爆した弾の衝撃であり、それ以外ではあまり効いてないようにも見える。

銀の福音は最初は理解できなかったが、流石に不味いと思ったのか即座に撃つのをやめて後ろに下がる。だがしかし、機龍は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、一気に距離を詰める。その速度はこれまでの比じゃなく、銀の福音ですら反応が遅れたほどであった。

そのまま鋭い右手の爪を立て、装甲をそのまま切り裂く。そして前蹴りをして突き飛ばした後、ガルーダからのメーサーとバックユニットからのミサイルを斉射し、その炎と爆風が銀の福音を飲み込む。

 

「これで少しはダメージが……」

 

そして煙が晴れた時、そこにいたのは自身を包むように翼をたたんだ銀の福音の姿であった。だが装甲のあちこちが焼き焦げ、削れたのか翼も先ほどより小さい。

だがしかし、航はこの時強い殺気を感じ、一瞬たじろいでしまう。その時だ。銀の福音のカメラアイが輝いたのは。

 

「キィァアアアアアア!!!!ギュァアアアアアア!!!!」

 

銀の福音が急に吼え、両腕にヴァリアブル・スライサーを展開して突っ込んできた。機龍はアレが危ないものだと判断し、極力近距離戦に持ち込ませないように下がりながらミサイルやメーサーで攻撃を仕掛ける。だがしかし、銀の福音の超音速では捉えるのがとても難しく、機龍の速度を持ってもすでに追いつかれそうになっていた。

 

「クソ、が!」

 

流石に不味いと思い、瞬時に振り返った機龍が右手を振りかぶると、銀の福音もそれに反応して即座にヴァリアブル・スライサーを構える。そして機龍が右手を大きく振るうと同時に後ろに回り込んだが、尻尾が即座に反応して銀の福音の腹部を捉え、そのまま薙ぎ払う。

それによって吹き飛ばされた銀の福音は、即座に体勢を立て直すが次に見たのは、自身に向けて至近距離で腕部レールガンを向ける機龍の姿であった。

機龍からしたら牽制用でも、並のISからしたら軽い重火器クラスの威力を誇るソレを向けられ、銀の福音は急いでその場を離れようと翼を広げる。だがしかし、機龍は思い切り腕を振りかぶり、腕を振るうと同時にメーサーブレードを展開し、それと同時にメーサーブレードが放たれた。

射出されたブレードは、そのまま銀の福音の右脚部に突き刺さり、腕部レールガンとブレードをつなぐワイヤーによって銀の福音はそれ以上逃げることができなくなったのだ。

 

「捕まえたぁ!」

 

そして腕部レールガンを通してメーサーブレードに大電流走り、そのまま銀の福音にダメージを与える。それで悲鳴を上げる銀の福音。逃げようとするが、ブレードについてる“返し”が中の機器にがっしり食い込み、あとは機龍の逆噴射で完全に綱引きになってるのだ。

銀の福音はワイヤーを切ろうとヴァリアブル・スライサーを展開するが、その時、機龍の目が強く光り、電流がさらに強くなる。

その瞬間だった。恐らくショートを起こしたのだろうか、刺さっていた銀の福音の右脚部に火花が走ったと思ったら、そのまま爆発したのだ。爆発によって錐揉み状態で吹き飛ぶ銀の福音。吹き飛ぶ中、ソレは目にしたのは、自分目掛けて突っ込んでくる機龍の姿であった。

 

「ギュィィアアアア!!!」

 

銀の福音は至近距離になったとき、ほぼ接射とも言える距離で銀の鐘(シルバー・ベル)を使用。それによって光弾が全て機龍にの目の前で起爆し、自分もまきこむ大爆発を起こした。おかげで自身にもダメージが入ったが、機龍はそれ以上にダメージが入り、両腕の腕部レールガンは銃身が大きくねじ曲がり、右腕からは先の戦闘のダメージの蓄積か、紫電が走ってた。

 

「さすがにこれ以上は不味い、か……」

 

航は右腕の警告音に小さく舌打ちをする。そしていい加減ケリを付けようと、腹部の砲をいつでも使えるようにし、自分より下にいる銀の福音目掛けて一気に突っ込もうとした。

だがしかし、機龍の背中が爆ぜた。

 

「っ……!?」

 

背中に落ちた沢山の爆発。その衝撃に意識が飛びそうになるが、航はどうにか堪え、意識をカメラアイに向ける。そこには3つの黒い影が海面に向かって落ちていく姿だったが、海面で即座に方向転換し、羽を畳んで瞬時加速(イグニッション・ブースト)に劣らぬ速度で即座に機龍がいる場所より高い場所へと飛ぶ。

機龍は空を見た。逆光で姿が良く見えないが、何かがいることが分かり、カメラの精度を上げるとその姿を見た航は言葉を漏らす。

 

「鳥……?」

 

それは黒い姿だった。銀の福音が持つ翼に劣らぬ大きな翼を持っており、そこから赤いスラスター炎が見える。そして両手には大型のライフルらしきものを2丁持っており、それが機龍に銃口を向けていた。

 

「―――」

 

「―――」

 

「―――」

 

2つの赤く光る眼がジロリと機龍を見つめる。そして3機はそのまま他の専用機持ち達のいる方を向いた。そこには簪によって回収された箒たちがおり、奴らが彼女たちを見てることに気付いてない。

 

「簪!パッケージを開いていつでも戦えるようにしろ!」

 

「えっ」

 

「早くしろ!」

 

「う、うん……!」

 

いきなりの怒鳴り声にびっくりしたが、それに従う簪。そして打鉄二式の追加パッケージ“壁灼”を展開する。それは打鉄二式の周りに4枚のIS大もある大型物理シールドが展開され、見た目的に防御パッケージであることがわかる。

その時、簪は自分の前で何か光ったように見えて、即座にシールドを構える。すると、音速を超えた弾がシールドに直撃し、爆発したのだ。

 

「きゃあ!」

 

その衝撃に悲鳴を上げる簪。その衝撃に盾が1枚弾かれるが、簪はすぐに前面に張りなおす。

 

「レールガンか!」

 

ラウラはそれが何なのか気づくが、300m近く離れた距離をゆっくり移動してるとはいえピンポイントで狙える精密度に流石に驚いた。

 

「それ以上やらせるか!」

 

機龍のバックユニットから大量のミサイルが放たれ、銀の福音と黒い機体たちへと向かう。だがそれらは銀の福音の攻撃で全て撃ち落とされるが、中に入っていた煙幕が作動し、あたり一帯を煙で覆い尽くす。だがそれを合図に、機龍がいた場所目掛け大量の弾が降り注いだ。

機龍はそれにいち早く反応し、下にいる彼女たちに当たらないようにするため、煙幕の中へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「航……」

 

簪は、1人で立ち向かう航を見て、ナニカ嫌な不安が先ほどから脳裏によぎっていた。たしかに機龍は改装も終え、とても強いだろう。だがしかし、新たに加わった黒い機体からは、銀の福音とは違う雰囲気が出ており、それが何か不安にさせるのだ。

援護に行けるのなら今すぐに行きたい。だがしかし、いつアレがこちらに仕掛けてくるか。もしそうなれば他の皆の盾になれるのは自分しかいないため、簪は打鉄弐式を手に入れても、何もできない自分を恨んだ。

 

「航、お願いだから無事に帰って来て……」

 

その時だ。爆発音が響き、空を覆っていた煙が吹き飛んだ。簪ハイパーセンサーを使い、何があったかを見ると、そこには4機からの攻撃に晒されながらも、突っ込むことを止めない機龍の姿があった。

 

 

 

 

 

煙幕はすでに晴れ、機龍は銀の福音と黒い機体“ヴァルチャー”たちの猛攻にどうにかしのいでいた。

 

「4体1は、流石にきつい……!」

 

航は1対多の経験がほぼ無く、おまけに相手の機体スペックから考えてとても窮地に立たされていることに間違いない。だが今は、機龍の性能に無茶言わせ、この状況を打破するしかなかった。

だがしかし、銀の福音の銀の鐘(シルバー・ベル)はともかく、ヴァルチャーの実弾が直撃するたびにダメージを受ける。いくら重装甲とは言え、3機からの断続的な鉄の雨には焦りが湧いてくる。

機龍は背中はガルーダによって守られたため、実際の所背面は無傷に近いが、今となっては過去の話。銀の福音の近距離起爆による爆風と衝撃波、ヴァルチャーからのレールガンの雨に断続的にダメージをくらい、今ではバックユニットの左側も攻撃不能に陥ってしまっていた。

だがこちらも攻撃の手を緩めるわけにはいかない。弾はまだ格納領域(バススロット)に大量に入ってるためばら撒けるため牽制になるが、それでもきついのだ。

そしてレールガンの弾幕を縫って銀の福音が近づき、ヴァリアブル・スライサーで斬り裂こうとして来るが、そこは尻尾でカウンターを仕掛けてるが、これもどれほどまで持つか。だがこうしてる間にもヴァルチャーが簪たちの方に向かおうとするため、それを阻止しようと瞬時加速(イグニッション・ブースト)で回り込み、そのまま尻尾を振るうが瞬間の所で躱される。

 

「貴様らはいったい何者なんだよ!こうやって、福音の味方してさぁ!」

 

だがヴァルチャーたちは何も答えず、ただレールガンの弾が答えと言わんばかりに放つ。それで航の瞳孔が細くなった。

 

「邪魔だぁああ!」

 

「キァァァアアアアア!!!!」

 

航に応えるように機龍が吼え、ミサイルとレールガンを斉射する。それを難なく躱す4機だが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で機龍が1機のヴァルチャーに肉薄し、使える方の腕部レールガンを一斉に放った。それは多量に当たるが、お返しと言わんばかりにレールガンを放ってきたため、機龍は一旦離れる。

だがこの時、ヴァルチャーから多数の煙が上がり、小爆発を起こしたのだ。普通ならエネルギーバリアで守られてるはずなのだが、この現象はどういうことか。そしてカメラアイをそこに集中させると、弾で装甲が抉れ、穿られてることに気付き、どうやら機体がまともに守られてないことに気づく。

それに気づいたが、どうやって仕掛けるか。その攻め手に欠けていた。

 

「くそっ!……これは」

 

航は機龍からとある指示を出され、とあるミサイルを4機に目掛けて放った。それを撃ち落とす4機だが、その時だった。閃光があたり一帯を照らしたのだ。それによって全員は一瞬ながら目がやられ、攻撃を止めてしまう。

航はその瞬間を逃さず、そして機龍の両腕に装備されてた腕部レールガンを格納し、新たな装備を展開した。

それは7連砲身の大型ガトリングであり、それを片腕に2つずつ装備していた。大型ISである機龍に見劣りしない4門のガトリング砲の姿を現し、表示されたその装備の名を航は呟いた。

 

「クアッド・ファランクス……」

 

元はラファール・リヴァイブの追加装備だったのだが、それを機龍の装備に転用したのだ。元は25mmだったのだが、それを改装し、35mmにまで大型化を図ったのだという。

そのためクアッドファランクス“改”は、機龍の腕に装備しても見劣りしないほどの大型化を果たしており、それを見たヴァルチャーは狼狽え、一斉に散開して様子をうかがい始めた。

 

「これは……そうか。なら……行くよ、機龍!」

 

機龍の目が光り、だらりと下がっていた腕が上がる。そしてスラスターに光が灯ると、その重量物を手に付けたまま、今ままでと劣らぬ速度で飛翔した。

それに反応し、4機は一斉に機龍に向けて射撃を開始する。機龍はそれを細かい動きで躱していき、銀の福音目掛けて突っ込み、そして4門の火砲が火を噴いた。

その弾幕量に驚き、急いで回避を行うが、どこに逃げるか分かっていたのか、片腕の2門が逃げる方向にすでに向けられており、大量の弾を銀の福音はまともに浴びる羽目になった。いくら軍用機とは言え、この弾幕をまともに浴びれば無傷でいられるはずもなく、シールドエネルギーをガリガリ削る。

それを見て機龍は尻尾を叩きつけようと近づくが、ヴァルチャー2機がそうさせまいと高速で2機の間に入り込み、レールガンの一斉射を行ってきたため、急停止と共にヴァルチャーに向けてガトリングの弾を吐く。レールガンに威力は劣るだろうが、圧倒的弾幕で押し通すため、福音含めた3機が弾に飲まれそうになり離脱しようと一気に散開する。

だが機龍はそのまま銀の福音の元へと駆け、それを追いかけるかのようにヴァルチャー3機が機龍の後ろを駆ける。

 

「行け、ガルーダ!」

 

その時だ。バックユニットに付けられていた鳥が空を舞う。ガルーダはそのまま銀の福音の元へとメーサーを放ちながら向かい、切り離した機龍は急な速度の低下と同時に後方に向かって体を回し、そのまま後ろから向かってくるヴァルチャーたちにガトリングの雨を降らせ、装甲を削っていく。

いきなりのことで怯むヴァルチャー。そのときだった。機龍が1機のヴァルチャー目掛けて突っ込み、そのままヴァルチャーを掴もうとしてきたのだ。

それに気づいたが、逃げるには距離が近すぎると判断したヴァルチャーは、ゼロ距離でレールガンを連射し、その爆炎が機龍を包み込む。だがしかし、炎を切り裂き、機龍の左手がヴァルチャーの首を掴んだ。それにもがくが、鬱陶しいと思った機龍は、腹部の装甲を開き、そこにエネルギーを集中させる。

一体何なのかと思っていたが、察するやまたレールガンを乱射するヴァルチャー。他のヴァルチャーもそれに応え放つが、爆発の中から現れた機龍の目は赤く見えた。

 

「消えろ」

 

機龍の腹部から放たれたエネルギー弾、プラズマ・グレネイドはそのままヴァルチャーのに直撃。自身を守るエネルギーバリアを持たないヴァルチャーの胸部を飲み込み、そのままかき消したのだ。ヴァルチャーは機能停止し、バラバラになった残った部品が銀色の液体を散らしながら海に落ちて行く。

そしてギョロリと2機のヴァルチャーに顔を向けると、2機はまるで()()()()()()()()()()()()ビビったかのような仕草を見せていた。だがしかし、それもすぐに収まり、2機のヴァルチャーはレールガンを連射しながら機龍めがけて突っ込む。

だがそれにすぐ反応し、クアッド・ファランクスの銃口を2機に向け、そのまま4門の暴力が2機へと襲い掛かる。下手に食らえば一瞬で蜂の巣になるため、二手に分かれて機龍の攻撃から逃れようとする。

機龍も下手に2機狙わず、近い方に照準を合わせ、4門向ける。それによって遅れた1機が脚部を撃ち抜かれ、煙を上げながら速度を落としていく。

それを仕留めようと機龍は一気に近づき、そして体を縦に回転させて高速で尻尾を頭から叩き付け、装甲の破砕音と一緒にそのまま海に叩き落し、海面に大きな水柱が上がった。

 

「次!」

 

残るは1機。ヴァルチャーは発狂したかのように弾幕を張るが、機龍は被害無視でそのまま突っ込む。だがその時だ。

突如センサーにダメージ警告が入った。いったい何なのかと思ったが、空を見上げたときに原因が分かった。

 

「ガルーダ!?」

 

ガルーダは銀の福音の弾幕によってスラスター部から黒い煙を吐き、装甲のつなぎ目から火を噴き始める。そして黒煙を上げたまま空高くへと上がり、そのまま機首を下に向け、銀の福音目掛けて急降下を始める。逃がさないようにメーサーを連射し、意地でも突っ込もうとするのを見て、銀の福音は銀の鐘(シルバー・ベル)をガルーダに向けて放った。

だがしかし、ガルーダは弾幕をくらって火を噴いても止まらず、そのまま銀の福音の元へと向かう。このままでは避け切れないと判断した銀の福音は、とっさに翼で自分を護るように包み、そこにガルーダが激突する。その白い装甲が大きくひしゃげ、炎が走った瞬間だった。

大爆発を起こし、その炎に焼かれる銀の福音はそのまま衝撃で飛ばされる。それをチャンスと見た航は、即座に銀の福音目掛けて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って突っ込んだ。

 

「もらったぁ!」

 

ガギンと指を鳴らし、クアッド・ファランクスを格納してそのまま大きく指を開き、銀の福音へと向かう機龍。近接攻撃なら確実なダメージが入し、しかもこの鋭い爪からの攻撃なら一気にシールドエネルギーを持って行けるだろうと思った。

お互いの距離は15mも切った。あと1秒も有れば爪は届くだろう。

その瞬間、銀の福音と機龍の間にヴァルチャーが割り込んできたのだ。

機龍の右腕は大きな破砕音を立てながら、ヴァルチャーの横腹を大きくえぐり取るが、軌道を逸らされたため機龍の手は銀の福音にただ突進し、弾き飛ばすだけで終わってしまう。

 

「くそが!」

 

頭に来たため、そのままヴァルチャーを捨てようとしたが、その時ヴァルチャーが機龍の体を掴んできたのだ。邪魔だと言わんばかりに振り払おうとする機龍。だがしかし航は、ヴァルチャーから出る声を聴いてしまった。

 

「……ケテ」

 

「えっ……?」

 

「タス……ケテ」

 

航は戸惑った。このヴァルチャーが微かな声で助けを求めていることに。だがこれは機械だけのはず。だからこれはまやかしだと。

その時、壊れた腹部から胸部に向かって亀裂が走る。そのまま亀裂は頭部にも向けて走り、一部装甲が砕けて剥がれた際、そこから肌色と銀色が混じった肌が見えた。そして更に砕けて、()()()も見えた。

女は泣いていた。銀色の涙を流して。

航はゾッとした。これはどういうことだと。これは無人機ではないのかと。

機龍の手を見た。そこには銀色の液体が手に滴り、海にこぼれていくのを。

 

「俺は、何を……」

 

先ほどまで煮えたぎっていた血が一気に引いてくのを実感した。それで機龍の動きが止まってしまうがそれがいけなかった。手にかかった銀色液体は機龍の腕部装甲の隙間に入り込み、そして機龍からたくさんのエラーを航の方に伝えだしたのだ。

 

「な、何なんだよこれ!」

 

「タスケ……死にタク、ナ……」

 

液体が侵蝕してくる。それを知った航は即座に左腕に腕部レールガンを展開。そしてメーサーブレードを出すと、そのまま己の右ひじ関節に突き刺し、抉るように捻って右腕を切り離そうとするが、無駄に頑丈な機体のため、そう簡単に上手くいかない。

ジワジワと侵蝕が続き、もう肘近くまで来ている。だがしかし、航はこの状況を怖がっていた。もうどうすればいいのか分からない。思考停止一歩手前まで来てる航は、もう動くことすら考えがまとまらなかった。

だがその時、彼の目にとある文字が浮かび上がるのが見えた。そして、機龍の目が赤く染まる。

 

「機龍!お前、いったい何を」

 

その瞬間、右ひじ関節に刺さっていた刃が爆ぜた。それによって右腕の骨格部が折れ、ミキミキ音を立てながら右ひじから引き千切れていく。

 

「キィァァアアアアアア!!!」

 

「ぁ……」

 

機龍の右腕と共に、女の目から光が消えてそのまま海に落ちていく。だがしかし両腕からレールガンを捨てた、先ほど足に損傷をくらった1機がそれを下の方で救い上げ、そのまま逃走していく。

悲鳴か歓声か分からないがそれを見た機龍が吼え、目が元の黄色に戻る。

我に返った航は、今のが何だったのか機龍から出された情報を読んだ。

 

「爆裂ブレード……こんな機能あったんだ……」

 

メーサーブレードに隠された機能、爆裂ブレード。相手に突き刺した後、起爆させて大ダメージを与えるという装備だが、それを機龍が自身の右腕を破壊するために使用したのだ。だがそれにより完全に右腕は使用不可能。

 

「そうだ、銀の福音は……!」

 

即座に索敵に入る航。だがそれは、太陽の中から現れた。

 

「ぐぅぅぅ!!!!!」

 

直上からまさかの特効。機龍より装甲が薄いのに、瞬時加速(イグニッション・ブースト)紛いな速度で突っ込んできたのだ。それによって銀の福音の装甲も大きくへこむが、バックユニットのミサイル部が完全に逝き、衝撃で航の意識が一瞬途切れそうになる。だがどうにか堪え、銀の福音の方を向いた瞬間、その刃が迫ってくるのに気づくのは遅すぎた。

 

「キュィィィアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

「しまっ……!」

 

ヴァリアブル・スライサーが、機龍の胸部から腹部にかけて深く斬り裂く。ただでさえダメージを重ねてたため、ショートとか起こした電装品が爆発し、機龍の胸部で爆発が起きた。

 

「ああぁぁぁあああ!!!!!」

 

それどころか切っ先は航にも到達し、大量の血が機器を染めあげ、断末魔を上げる。意識が飛びそうになる中、航が見たのは、頭部に高エネルギー反応を見せる銀の福音の姿であった。

 

「がっ……ぁ゛……!?」

 

気持ち悪いほどの拒絶する。まるで見たことがあるような、感じたことがあるような、とても酷い感覚だった。そして本能と言わんばかりに銀の福音から離れようとするが、少し距離が近すぎた。

そして銀の福音が嗤ったような気がした。

 

「―――――・―――――・レイ、発射」

 

その破壊の衝撃が機龍に襲い掛かる。だが航は墜ちていく機龍の制御に意識を伸ばし、錐揉み状態で落ちる機龍は最後の力を振り絞るかのように、態勢を整え、腹部の砲を露出させた。

 

「プラズマ、グレネイドぉ……!!」

 

腹部から放たれたエネルギー弾がソレにぶつかると、ぐにゃりとエネルギー弾が歪み、爆発する。だがソレは機龍に襲い掛かろうとするため、逆に海に逃げる機龍。だがしかし、威力が低くなったとはいえ正面から浴びてしまい、あちこちの装甲が砕け始めた。

航は忌まわし気に銀の福音を睨み、そして手を伸ばす。

 

「くそ、が……」

 

体が焼けるように痛い。苦しい。この感覚、いったいどこで……。

そのまま航の意識は闇へと落ち、機龍は海へ没した。




胸部損傷
右腕部損傷
装甲他部損傷
単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)、使用停止推奨
使用すれば、場合によっては修復不可になります
コレに変わる単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を制作せよ
コア・ネットワークより打鉄弐式から情報取得
荷電粒子砲の情報開示
荷電粒子砲、威力が低いため改修案を求む
改修案アップデート
GODZILLAsystem使用を含める
名前を荷電粒子砲から高加速荷電粒子ビームに変更
error error error
情報が足りないため単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)は制作出来ません
error error error
情報収集をお願いします
error error error
情報収集をお願いします
error error error
情報収集をお願いします
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現墜落地点、位置情報確認
高放射線反応確認
情報アップデートしました


現在、機龍のいる場所は―――――


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再戦

どうも、夏の仕事は辛いと思う妖刀です。やっと最新話が完成したため、更新することにしました。

そういえばここ最近ではハリウッドゴジラの予告に、アニゴジの予告とゴジラ関連でもいろいろ大きな動きが見えてきましたね。どれも見に行きたいものです。




というわけで本編どうぞ!
え、怪獣はまだかって?その、もう少しお待ちください……。



追記
部分部分描写がおかしかったため、変更いたしました。


「航!」

 

機龍が海に落ちた時、簪は急いで彼の元に向かおうとした。だがしかし、その時彼女の目の前を大量の弾幕が遮る。銀の福音はジロリと簪たちの方を見ており、先ほどの攻撃を受けて中破は確実にしてるとは言え、禍々しい雰囲気を出していた。

 

「キィィ……」

 

その口は怒りに歪んでいた。二次移行したとはいえ、もうこのありさま。そして銀の福音は目の前にいる5人に狙いを定めた。

その殺気に5人は警戒し、己の得物をいつでも使えるように構える。

それと同時に銀の福音が銀の鐘(シルバー・ベル)をばら撒いた。

 

 

 

 

 

白い騎士が言ったことに一夏は首をかしげていた

 

「力……?」

 

いきなり何を言ってるのだろうか、それに何の力だ、と。

 

「力を欲しますか?何のために……」

 

「何の、ため……」

 

一夏は思い出す。自分が無力だったことを。それで何もできず、足を引っ張ってしまってしまい……。

その悔しさ、怒りを込め、グッと一夏は拳に力を込めた。

 

「俺は……。守りたいんだ。この理不尽から友人、いや、仲間を」

 

もうあんな思いは嫌だ。一夏はそれを繰り返さないために、力を欲した。

 

「守る、ですか……本当にできると思うのですか?」

 

「やる。やってみせる」

 

決意のこもった眼差し。それに騎士は小さく驚いていたが、ふふっと小さく笑みを浮かべる。

 

「貴方ならそういうと思ってましたよ」

 

「えっ……」

 

「だったら、行かなきゃね」

 

すると、先ほど歌ってた女の子が近くにおり、一夏の手を引っぱる。何か懐かしい感覚。これはいったい何なのか分からなかったが、一夏は彼女に身をゆだね、歩き出す。

その時、大きな振動がこの場を揺らし、一夏は急いでしゃがむが、女の子がこけそうになったため、急いで抱きかかえた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……」

 

女の子は頬を赤らめていたが、一夏はそんなのに気付かず、一体何があったのか気になった。

ただ騎士の方がソレに気付いてるのか、顔は見えなくても口がキュッと閉まってる。

 

「何だったんだ……?」

 

一夏の疑問に、すぐに駆けてきた騎士が答えた。

 

「そうですね……銀の龍が魔獣を呼ぼうとしてます。その前に、早く……」

 

「銀の龍って……」

 

彼女たちの静かな焦りが伝わったのか、一夏は意識を集中させようとする。だがその時、ふいに気になったことがあったため、彼女の方を向く。

 

「なあ、そういえばアンタたちって名前、なんていうんだ?」

 

それを聞いたとき、彼女たちは小さく微笑んだ。

 

「私たちは――――」

 

 

 

 

 

簪は、一定距離を保ちながら銀の福音と戦っていた。いや、防戦を強いられていた。

壁灼の装甲は、機龍に使われているものと同様なのか、翼の光弾を吸収しており、そのエネルギーを春雷に回して撃ち返しているが、複雑な軌道を描いて薙ぎ払いを躱す。

そして銀の福音が砲から放つ光線は、至近距離ならとても危ないが、距離を取れば一気に拡散するため簪はその距離を維持しつつ、どうにか他の専用機持ちの援護もあって寄せ付けないようにしていた。

その中、箒の紅椿は着水するのをどうにか防いでる状態で、機能の4割は停止していたのだ。

 

「くそっ!動け!」

 

箒がガンッと装甲を殴るが、紅椿は何も言わない。空では他の専用機持ち達が銀の福音に攻撃を仕掛けているが、防戦一杯でまともに攻撃が銀の福音に入っていない。

箒はそれを見てるだけの状態が嫌だった。また守られて何もできずにやられていくのを見てるのが。

 

「頼む、動いてくれ……紅椿……!」

 

再び空を見上げると、セシリアが光弾に飲まれそのまま爆発の中に飲み込まれていく姿が見えた。それを援護しようと他の専用機持ち達が動くが、銀の福音はそれをあざ笑うかの様に彼女たちに攻撃を加えていく。

それを見た箒は、叫ぶかのように声を上げ、装甲を目いっぱいの力で殴りつける。

 

「私は!こんなところで怖気づいてるわけにはいかないんだ!だから紅椿!私に力を貸せ!」

 

 

――ナノメタル起動します。状態、復元選択――

 

 

その時だった。斬られた断面から違和感を感じたのは。

 

「なん、だこれは……」

 

箒は驚きを隠せなかった。斬りおとされた片足、砕け散った2振りのブレードが元の姿に……いや、中から再構築されて再生していたのだ。

急な高エネルギー反応に全員が箒の方を見たが、それを目の当たりにした他の面子も驚きを隠せず、銀の福音ですら足を止めたほどだった。

小さくパキパキと音を立てながら、3Dプリンターで出力されるかのように各部が直っていき、気づけば斬り落とされた脚部も折れた刃も綺麗な姿で復活していた。

 

「これは……まあいい。紅椿、行くぞ!」

 

翼から赤い光が放たれ、音を置いて紅椿は飛び立つ。その神速のまま刃は、銀の福音の喉元へと向けられた。

 

 

 

 

 

航は1人、不思議な場所……いや、見覚えのある場所にいた。

 

「ここ、は……俺の家……?」

 

そう、航はなぜか自分の家の和室の居間にいるのだ。周りを見渡すが、たしかに自分の家であり、なんでこんなところにいるのかすごい疑問に思ってしまう。

先ほどまで彼は機龍に乗って戦っており、そして重傷を負って墜ちた、はずだったのだ。

 

「あらぁ。ここに来たのね」

 

「誰……え」

 

そのとき、後ろから声がしたため、航は瞬時に後ろを向いて身構える。そこにいたのは女で、黒い着物を着ており、腰まで届きそうな黒い髪から覗く、死人を思わせる白い肌。そしてハイライトのない黒い目が彼を見据えていた。

だがその姿を見た時、航はありえないと言わんばかりの表情を浮かべた。

そう、数年前。航の前から消えた彼女がいたのだから。

 

「日輪……?」

 

日輪と呼ばれた彼女はクスクスと、優しく、とても寒気のする笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、違うわぁ。ただ貴方が望むものが、姿になってるだけよぉ」

 

「アンタはいったい……」

 

そう聞くと女はニタァと口角を上げ、ヒタッ、ヒタッ、と足音を上げながら航に近づき、そしてお互いの胸が当たるまでの距離まで近づく。

 

「私は機龍のコアの意志、って言いたいけど厳密には違うわぁ。そうねぇ。言うなら私は貴方、かしらぁ?」

 

「お、れ……?」

 

「そうよぉ?貴方の中にある怒り、絶望、悲しみ、それらから私は作られてるのよぉ。ねぇ、貴方に聞くわぁ。貴方は力が欲しぃ?」

 

「力……?」

 

「貴方、負けたままでいいのぉ?このままじゃ彼女たち、死んじゃうわよぉ?それにねぇ……」

 

女はズイっと自分の顔を航の顔に近づける。フワッと懐かしい香りが匂い、航はそれに浸りたかったが女はニタァと笑みを浮かべてるが、その目は笑ってない事に気付き、背筋が凍る。

 

「私、あの天使のことがとても許せないのぉ。あの力を使って、傲慢に振る舞う様はとても虫唾が走るわぁ」

 

彼女の目にははっきりと怒りと憎悪が見えた。そして女は右手で彼の頬に触れた。

 

「貴方には分からなくても、肉体は覚えてるのよぉ?ほら、思い出しなさい?貴方の中にある細胞の記憶をぉ」

 

その瞬間、彼女の黒目の部分がキュッと小さくなる。

 

「ぐっ……!?がぁ……!?」

 

この時、航の頭の中に大量の情報が流れ込んできた。

 

焼けた街の中、“自分”は歩いていた。口から炎を吐き、足元にあるものを踏みつぶし、あるもの全てを蹂躙していく。ただ頭の中にあるのは復讐の2文字だけだった。

その後も街を破壊し続けるが、中にあるのは不満しかなく、疲れ果てた“自分”はそのまま海へと戻っていく。

そして海で休んでる時だった。海中に2人の人間を見つけた。たかが2人で何ができると思っていたら、片方はそのまま海面へと上がっていくが、残った片方が手に持ってたナニカを起動させたのだ。

体に激痛が走った。これが何なのかわからないが、逃げなくちゃと思って海面に上がるが、体が言うことを聞かなくなり、断末魔を上げながらまた沈む。

そして体が崩れ、血すらも消えていく中、その目は殺意に満ちたものになりながら、宙を睨みつける。

“アァ、許サナイ。人間、許サナイ……”

ただそのことを思いながら、体が消えていった……。

 

「なん、だよ…これ……俺、は……」

 

流れた光景を見た航は跪き、恐怖からか己の体を抱きしめ震えた。だが女はそんな彼を優しく抱きしめ、そのぬくもりを伝える。

 

「わかったでしょぉ?だからあの天使はソレと同じ力を持ってるのぉ。だから滅ぼさなくちゃいけないわよねぇ?」

 

そして女は震えてる航の耳元に顔を近づけ、ニタァと笑みを浮かべた口を動かす。

 

「航ぅ、改めて聞くわぁ。貴方は力が欲しいぃ?」

 

「俺、は……」

 

答えを聞いた女は、三日月のように口に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

銀の福音は、最優先攻撃目標を箒に定めていた。先ほどから刃を、翼を破壊しても、その場から装甲が直り始めているのだ。おかげで彼女の攻撃の手が減らず、それにイラついたため、翼を大きく動かして弾幕を一転集中で箒に向ける。

 

「甘い!」

 

だが箒は空裂を振り、光弾にぶつけて相殺する。先ほどとは違うその力に内心歓喜するが、今の一夏の現状を思い出し、すぐに頭を冷やす。

そして銀の福音が箒に夢中になってる間に、セシリア、ラウラ、簪が中距離から遠距離にかけて攻撃を行い、鈴が唐突な奇襲を何度も仕掛ける。

先ほどよりコンビネーションが統率されており、銀の福音は苛立ちを募らす。そしてその目は、この中で一番攻撃されたくないものがどれなのか探り、それが簪なのだと知る。

先ほどから簪が、中破してる機体の壁となって動いており、攻撃を防御しながら銀の福音の苛立ちを掻き立てるのだ。それを攻撃しに行こうにも先ほどから箒が離れないため、業を煮やした銀の福音は神速で振られた横薙ぎを後ろにとっさに下がって躱す。

だがこの時、“兎”の声がかすかに聞こえた。それと同時に、あるものが動き出す。

 

 

ミクロオキシゲン、作動シマス

 

 

「ギ、ギギギ、La……!」

 

銀の福音の耳に聞こえた声。それを聞き、顔は空を見上げ、痙攣したかのように体がガチガチと震えだす。

一体何があったのか。箒は一目散に離れ、他の専用機たちと合流する。病的にガタガタ震えてる姿を見て、何事かと

 

「い、いったい何が起きたのですの!?」

 

「わかんないわよ!箒、アンタ余計なことしたでしょ!」

 

「私は何もしてないぞ!」

 

鈴の決めつけに怒声を上げる箒。ギャーギャーと言ってる間にも銀の福音は震え続け、そして装甲の隙間という隙間から、白い蒸気を沢山噴き出した。

それで喧嘩は止め、警戒心を強める5人。そして煙の中から出て来たソレを見たとき、全員が言葉を失った。

それは、天使というより悪魔だった。

先ほどまで生えていた翼は蝙蝠のような鋭いものに変化しており、顔も銀に覆われ、頭部にも鬣らしきものが生え始め、さらに角が1本生えていた。

残ってる左脚部は、ISでは珍しい大型脚部クロ―らしきものが確認でき、さらには先が二股に別れた尻尾らしきものも見られる。

そして関節各部からギチギチと不気味な音を鳴らしており、そしてあちこちから白い蒸気が漏れ出していた。

 

「何ですの、あれ……」

 

「天使というより、悪魔の方がお似合いね……」

 

もう銀色の天使というより破壊者(デストロイア)と言える姿。それに誰もが苦言を漏らすも、誰一人逃げようとしなかった。いや、逃げれる状態ではなかった。

 

「キィィァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛アアアアア!!!」

 

銀の福音が吼えた。それと同時に、翼から放たれた光弾の雨が彼女たちに襲い掛かる。

各自回避行動に入るが、この中で一番足の遅いラウラは、最低限の動きで回避を務めるが、光弾が一発当たると、そこの部分を分解するかのようにしていってるのに気づいた。

 

「何なんだこれは!各自、この弾に一発でも触れるな!触れる物を分解していってるぞ!」

 

ラウラの声を聞き、防御より回避に専念する彼女たち。だがしかし、濃密すぎる雨に次々と被弾していく5人。盾に徹してた打鉄弐式の壁灼もこれは防御できず、どんどんボロボロになっていく。

おかげで絶対防御が発動するぎりぎりまで追い詰められ、それに焦った箒が銀の福音目掛けて突っ込んだ。

 

「このぉぉぉ!」

 

箒は弾幕を潜り抜け、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って銀の福音の懐に入り込み、空裂を居合いの要領で振るった。

 

「La……♪」

 

久々に聞いた声。それと同時に、箒の居合いを瞬時に躱した銀の福音は、返し刃と言わんばかりに両腕のと両足の爪で紅椿の両手と両足を一気に砕いたのだ。

 

「なっ……!?」

 

あまりの速さに言葉を失う箒。だがそんなのを関係ないとばかりに銀の福音は、彼女の腹に脚部クローを食いこませるように蹴りを箒にくらわす。

 

「ぐぅぅ!!」

 

そのまま吹き飛ばされる箒。そして光弾を放とうとした銀の福音目掛け、多数のミサイルが迫って来た。それを見て回避し、飛んできた場所である簪に目を付けると、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で迫った。

それは瞬間移動の様であった。

一瞬で簪の前に現れた銀の福音は、その爪を簪に突き立てようとする。それに驚いた簪は春雷を放つが、それをほぼゼロ距離で易々と躱し、その勢いを乗せて思いっきり蹴りを放つ。簪は急いで壁灼を前面に展開するが、脚部クロ―が壁灼に食い込み、宙がえりの要領で1枚無理やり奪い、開いた穴目掛けて頭部の角から発せられたヴァリアブル・スライサーを突き立てようとする。

 

「いやぁ!」

 

簪は悲鳴と共に長刀“夢現”を展開。そして柄尻の部分を持って思いっきり胸部目掛けて突きを放つ。それに素早く反応し、銀の福音は刃が届く前に離れ、爪が食い込んで壊れたシールドをそのまま簪目掛けて投げつけ、その上から分解の力を持つ銀の鐘(シルバー・ベル)を叩き込んだ。

 

「きゃああ!!」

 

シールド内部の機構が誘爆し、それと光弾に巻き込まれる簪。おかげで先ほどまで無傷に近かった機体も今では周りと遜色ないほどの損傷具合になってしまっていた。

そして銀の福音はそのままヴァリアブル・スライサーを展開し、簪にとどめを刺そうとする。

 

「させるか!」

 

その時、下から近接ブレードが1本飛んできた。それを斬り裂き、下を見てみるとそこには、右腕だけ修復させ、ブレードを投げた箒がいたのだ。

いい加減に五月蝿いと思ったのか、簪から箒に狙いを変える銀の福音。ウィングスラスターが無事のためそのまま展開装甲で距離を稼ごうとする箒だが、脚部もなくて速度が遅くなり、どうしても追いつかれてしまいそうになる。

他の専用機たちが援護に向かおうとするが、それに反応した銀の福音による光弾の雨が降り注ぎ、どうしても援護に向かうことができない。

そして銀の福音の尻尾が高速で動く箒を捉えた。しかもいきなり首を掴まれたため、一瞬意識が飛ぶ箒。そして無理やり手繰り寄せられ、鋭い腕の爪が腹に何度も叩き込まれる。

まるでこれまでの仕返しの様にも感じ、達磨状態に近い箒は、ただ声を上げるだけしかできない。

 

「ギュァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛……」

 

そして頭部からヴァリアブル・スライサーが発せられ、その刃がゆっくりと箒の顔へと近づいてくる。体の痛みで逃げる気力も失い、ただ箒はそれを見ることしかできなかった。

 

「一夏……」

 

諦めたかのように、箒は小さく好きな彼の名を呟き、目を閉じる。そして刃が全てを斬り裂こうとしたときだ。

 

「うおおおお!!」

 

白が1つ、空を駆け抜けた。その刃は銀の福音を狙い、銀の福音は箒を手放して瞬時に後ろに下がる。

空に投げ出された箒。いったい何があったのかと思ったが、彼女は、誰かにその身を受け止められた。

 

「えっ……?」

 

ゆっくりと目を開ける。箒の目に移った者。それは、愛しい人の姿であった。

 

「俺の仲間は、誰一人やらせねえ!」

 

そう、そこにいたのは新たな剣を持つ一夏の姿だった。

 

『一夏(さん)!?』

 

「いち、か……」

 

全員が驚いた。あの重傷を負った一夏がこの場にいるのだ。

そして銀の福音は一夏を警戒し離れ、逆に専用機たちが一夏の元へと駆ける。

 

「一夏、大丈夫なの!?」

 

「一夏さん!お身体が!」

 

彼を心配する面々。だが一夏はニカっと笑みを浮かべ、体の傷が治ってることを見せる。それによって喜ぶ者、涙を浮かべる者と様々おり、心配かけたと一夏は小さく頭を下げた。

だがこの時、箒が一番最初にソレに気付いた。

 

「一夏、その……その姿は?」

 

この時、改めて全員が一夏の白式が大きく変わってることに気付く。

背中の2枚だったウィングスラスターは前より大型化しており、4枚に増えている。

左腕も大型のクロ―のようになってるが、爪は機龍と同じ4本になっており、そして最大の特徴は、雪片弐型に似た大太刀の姿であった。大きさは刃だけで3m近くはあり、さらに1m少しはある長い柄。そして柄と鍔の間には、何やらブロックが重なった弾倉らしきものが見える。

 

「これか?白式が俺に新しい力をくれたんだ」

 

嬉しそうな声で言う一夏。その姿にラウラと簪を除いた3人が熱い息を漏らすが、ジワジワと鈴とセシリアの顔が不機嫌になり始め、一夏はどうしたんだと首をかしげる。

 

「それにしても一夏さん。いつまで箒さんを抱いていますの?」

 

セシリアがジト目で睨みつけてる。だがしかし、まだ紅椿は損傷が回復していない。そのため鈴が一夏の代わりに箒を後ろから抱き上げ、そのまま紅椿が直るのを待つ。それにより箒は不機嫌そうな顔をしたが、抵抗できないのが分かってるのかしぶしぶ諦めた。

だがその時、銀の福音が咆哮を上げ、翼を大きく広げた。どう見てもまた仕掛けてくるつもりなのだろう。彼女たちは、半壊したりしてる得物を構えるが、この時、一夏が彼女たちの前に立ったのだ。

 

「今度は勝たせてもらうぞ!銀の福音(シルベリオ・ゴスペル)!」

 

そんな武器を右手だけで持ち、雪片弐型に似た大型ブレード“雪片撃貫(ゆきひらうちぬき)”の切っ先を突きつける一夏。

それに反応した銀の福音は、悲鳴のような咆哮を上げ、翼を大きく羽ばたかせて光弾の雨を専用機たち目掛けて降らせた。

それに反応した他の専用機たちは一斉に散り始めるが、一夏は逃げるどころか、真正面から銀の福音目掛けて突っ込んだのだ。それに驚く一同だったが、白式は前より機動力が上がったのか、高速で雨の中を潜り抜ける。

だがそれは予想してたのか、銀の福音は頭部にエネルギーを貯め、そのまま一夏めがけて光線を放った。

 

「一夏!」

 

箒は叫ぶ。だがもう遅く、光線は放たれ、そのまま一夏の元へと向かう。

その時、雪片撃貫からガシャリと言う音が鳴り、弾倉の1つが宙を舞う。すると刀身が割れ、そこから零落白夜が出て来て、そのまま光弾を真っ二つに斬り裂いたのだ。

 

「!?」

 

銀の福音は驚きを隠せなかった。分子と分子の間に入り込み、破壊するモノを混ぜた技を目の前にいる男が破ったことに。

そして一夏はそのまま銀の福音の懐に入り込み、雪片撃貫を横薙ぎに振う。大太刀となった雪片の射程に反応が遅れた銀の福音は攻撃をもろに受けそうになるが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って一瞬で30m後ろに下がる。

 

「コレが新しい白式、白式・薄明(はくめい)だ!」

 

白式の二次移行(セカンド・シフト)形態である白式・薄明。太陽の光を浴びるその白い装甲は、とても眩しく見えた。

 

 

 

 

 

ここは海面80m下。天を突くかのように連なる3列の山脈のような岩礁の間、機龍は挟まるように倒れていた。

右腕は失い、胸部から腹部にかけてできた大きな傷はとても痛々しく、もう動かなさそうな雰囲気を漂わせていた。

 

――システムエラー。システムエラー。GODZILLAsystem、起動します――

 

だがその時、光を失った目が赤く輝いた。口からゴポリと気泡が漏れ、そのままユラリと立ち上がる。

彼は空を見上げる。そこにいる憎き敵を。

 

「キィィ……ギィィィァァァ……!」

 

背びれがバシバシと光り、装甲の隙間から一瞬燈光が漏れる。

機龍は空に吼え、それに呼応するかのように岩礁も青白く光る。

目指すはこの空。そこにいる敵を睨みつけ、機龍はもう一度吼えた。

 

 

 

 

 

機龍は気づいていなかった。その連なる岩礁の先端で、その頭から覗く片目が機龍を見ていたことを。その目は機龍の姿を見ると驚くかのように大きく開いたが、見定めるかのように目を細めていくのであった。




白式・薄明

白式の第二形態であり、大型化スラスターと大太刀と化した雪片撃貫と左手に大型のクローが付いた籠手を装備している。
詳しい説明は後にキャラ、機体設定の話で閲覧可能のため秘匿とする。




というわけで、紅椿のナノメタル使用、銀の福音にミクロオキシゲン使用、そして白式の2次形態移行というお話でした。

ちなみに銀の福音はほぼ某VSシリーズのラスボスの姿になってるのを想像してください。(銀色だけど)



では感想等々、待ってマース。


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折れぬ白と燃え上がる銀

えー、まず謝罪を。ほんと更新を怠り、ずっと楽しみにしてた皆さまを待たせてしまってホントすみませんでした!理由としては急な執筆能力の消失とやる気の消失と艦これが楽しすぎたのとその他いろいろありますが、ほんと申し訳ないです!
とりあえず次話は来月中に上げれるようにはしていきたいと思います。

さて、最新話をどうぞ。


銀の福音は逃げ出したかった。海の中に“ソレ”がいるから、出来るだけ遠くへ逃げたかった。だが命令が最優先され逃げることができない。もうパイロットも自身から出る“毒”のおかげで虫の息に近い。

早く、早く自分を倒してほしかった。目の前の男はそれを叶えてくれるのだろうか。

この最後の思考も消えていく。再び理性を失った銀の福音は、目の前にいる男目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

 

 

これは機龍が再起動する少し前のことである。

箒を銀の福音から救い出し、そして対峙する一夏だが、前に見た姿と全く違うのを見て、警戒するかのように柄を強く握りしめる。

 

(なんだよあれ……!あれが俺と同じ二次移行した機体だって言うのかよ……!)

 

一夏は内心焦っていた。まだ慣れない機体に()()()()()()()()()()()()()()()()

そして銀の福音に刃は当たらなかったが、ソレから出てる蒸気が刃をボロボロにするのだ。今は刃こぼれ程度で済んでいるが、あまり下手に打ち合えないことがわかり、ギリッと小さく歯噛みする。

その時、目の前から銀の福音が消えた。

 

「っ!」

 

一夏はとっさに雪片撃貫を構えるが、そこに強い衝撃が走り、そのまま後ろに弾き飛ばされる。

 

「ギィィ……」

 

3本の爪がギチチと鳴る。どうやらあの手で突きを行ったのだろう。だが見えないほどの速度で放たれれば、下手な弾丸よりずっと強い。

そしてふたたび銀の福音が消えた。ふたたび前から来ると思われたが、その攻撃は真横から飛んできた。

 

「うおっ!?」

 

一夏はとっさに体をひねり、爪が横腹を掠めながらもどうにか躱す。瞬時加速は下手に無理矢理曲がれば骨折しかねないほどの代物だ。いったいどうやって横に来たのか、それが分からない一夏は焦ってしまう。

 

「一夏!よく見ろ!ヤツは停止してそれで曲がってる!」

 

「はぁ!?」

 

下を見ると、眼帯を外したラウラからの指示が飛んでくる。一体どういうことなのか。そして再び仕掛けてきた銀の福音の攻撃をかわすと、一夏は必死に目で追いかける。すると一瞬。そう、一瞬だが銀の福音は足を止めて、方向転換を行っているのだ。

これによって鋭角な軌道も描け、不意打ちに近い攻撃が行えるのだろう。個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)似てるが、その逸脱した動きに一夏も動きを止めてしまう。

ハイパーセンサーが全方位を映すが、ソレを追うには一夏の反応では追いつけず、一瞬見えた影を追って前に出た。

 

「そのまま前に出ろ!」

 

ラウラの声がした。体が勝手に反応し、そのまま前に出たら、まるで背部を抉ろうとせんばかりに銀の福音が真下からの攻撃を行ってたのだ。だがどうにか寸のところで躱すことができた一夏だが、その顔は冷や汗にまみれていた。そして再びラウラの声が響く。

 

「いいか!私が指示するからそれに従え!」

 

「お、おう!」

 

ひたすらラウラの指示を聞き、極力回避に徹する一夏。どれも寸のところの回避になるためとても危ないが、どうにか有効打はくらっておらず、それにイラつく銀の福音の攻撃も激しくなっていく。

ラウラのヴォーダン・オージェはどうにか動きを捉え、一夏に伝えるが更に速度が上がっていくため、脳が締め付けられるかのような苦しさを味わいながらも、どうにか一夏に指示を伝える。

だがそれも長くは持たず……。その時、自分の左目の視界が真っ赤に染まるのが見えた。

 

「くそっ……!」

 

「ボーデヴィッヒさん……!?」

 

能力の限界を超え、血管が切れたのだ。その激痛が走り、ラウラは左目をかばってしまい、それに気づいた簪が急いで彼女のそばに寄る。他のメンバーもそれに気づき、焦りを見せるがラウラは咄嗟に右手を伸ばして制する。

だがその声は一夏の方にも届いてしまい、振り向くとハイパーセンサーが目から血を流してるラウラの姿を映してしまう。

 

「ラウ―――」

 

「一夏っ!私のことは気にするなっ!」

 

「だけど……」

 

「来るぞ!2秒後に後ろだ!」

 

「っ……!くっそぉ!そこだぁ!」

 

「ッ!?」

 

彼女の叫び。一夏はとっさに振り返り、何もない空間を突いた、かのように見えた。だがその刃は銀の福音の翼を深々と貫いており、そのままお互いの体が接触する。銀の福音から漏れ出してるミクロオキシゲンの影響でシールドエネルギー等が削れていくが、一夏は離れようとせず、柄を強く握った。

 

「はじけろ、白式!」

 

薬莢が3つ飛ぶ。すると刃と峰から一気にエネルギーの刃が噴き出し、その大きな片翼を粉微塵に消し飛ばしたのだ。

 

「gyaaaaaaaaaaa!!!!!!」

 

悲鳴を上げ、長い尾を咄嗟に股下から伸ばし、そのまま一夏の首を掴む。いきなりの後ろから掴まれたため、一夏は驚き、そのまま引き剥がすように一夏を尻尾の力だけで投げた。

そして銀の福音は片翼を振るい、光弾の雨を降らせる。一夏はその機動力を生かして雨の中を縫うが、銀の福音が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って光弾の中に入り込み、一夏の逃げる先を先読みして蹴りを放ってきたのだ。

 

「なっ!?」

 

急いで雪片撃貫を盾にし、蹴りを無理矢理受け流す一夏。だがその衝撃は凄まじく、そのまま一夏も明後日の方向に弾き飛ばされてしまう。それを見逃すはずもなく、銀の福音はそのまま一夏を追いかけ追撃を行う。

 

「うおおおおおお!?」

 

だが一夏は体を無理矢理ひねり、その攻撃をかわして距離をとるが、すでに生えた2枚の翼から放たれる豪雨に飲み込まれた。

 

「ぐうううう!!!」

 

急速旋回や複雑な軌道をとって躱していくが、圧倒的弾幕に不利に立たされる。

負けるわけにはいかない。負ければ彼女たちが襲われる。一夏は失うのが怖かった。だからこそ、この新たな刃で倒さなければならない。

これが焦りや不安なのはわかってた。だが一夏は歯を食いしばり、躱しきれないものは刀身を横にして受け流し、そして雪片撃貫から薬莢が2つ飛ぶ。

 

「零落、白夜ぁっ!」

 

斬撃として零落白夜を飛ばす。それにより一気に道ができたため、一夏は左腕に装備してある多機能武装腕「那由多」を前に突き出し、4本の爪を大きく開く。掌には砲口が覗いており、紫電が走ったと思ったら青白い光線がそこから放たれた。それを翼で弾こうとする銀の福音だが、翼に接触したと思ったら大爆発を起こしたのだ。

 

「ギュァア!?」

 

まるで銀の鐘(シルバー・ベル)の様だ、と思ったがその考えはすぐに捨てる。どちらにしろ回避をすれば問題ない。そう判断した銀の福音はジグザグと高速移動を繰り返しながら一夏に近づく。一夏も再び光線を放つが、その照射は易々と躱され、接近を許してしまう。

 

「まだだぁ!」

 

だが諦めずふたたび光線を放たれ、それを即座に躱そうする銀の福音。だがしかし放たれた光線はすぐに拡散し、目の前に壁を作り上げたのだ。それにより方向転換のため一瞬止まるが、放たれた光線が壁を貫き、そのまま銀の福音に直撃させた。

 

「ギュアァァアアア!!!!」

 

その激痛に悲鳴を上げ、一夏から離れようとするが、このチャンスを逃がすまいと一夏は踏み込み、零落白夜を起動させたまま瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に突っ込んだ。

 

「ギィィ……!」

 

反応に遅れ、小さく唸り声を上げる銀の福音。

そして一夏は懐に入り込み、雪片撃貫を高々と振り上げる。この距離なら射撃武器も使えないはず。そう思い、振り下ろして唐竹割を行おうとした。だがしかし、銀の福音の頭部から発せられたヴァリアブル・スライサーが伸び、顔を上げるようにして雪片撃貫の斬撃を受け止めたのだ。

 

「なん……だと……!?」

 

切り裂けぬ物は無い、と思ってたがゆえにショックを受ける一夏。だがしかし、それで悲観する暇もなく、全スラスターを使って押しつぶそうとするが、それに劣らぬ推進力で押し返す銀の福音。

分解による破壊とエネルギー系の消滅の相殺によって起きるつばぜり合いにより、爆ぜたエネルギーの余波でお互いが吹き飛ばされた。

 

「負けて、負けてたまるか!!!!」

 

だが一夏はすぐに体勢を立て直し、そのまま銀の福音目掛けて突っ込み剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

彼女たちはただ空を見上げていた。一夏が独りで戦っている。なのに、自分たちは何もできず、ただ指を咥えてることしかできない。その悔しさに強い怒りを感じていた。紅椿はもうそろそろナノメタルで復活するだろうが、他のメンバーはそうはいかない。

箒も同じ気持ちだった。アレは一夏や自分だけの力ではどうしようにもできない。皆の力がいる、と。だがどうすればいい。

 

(教えてくれ、紅椿。私はどうすればいい……。私は……)

 

ギチッと拳を握りしめる音が響く。

だがその時、紅椿からある表示が映った

 

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)“絢爛舞踏” 発動』

 

「えっ……」

 

その時、紅椿が金色に染まりだしたのだ。それに戸惑う箒だが、それは周りも同じことだ。

 

「な、何なのよいったい!」

 

鈴は悲鳴のように叫ぶ。箒もいきなりの事で混乱しているが、紅椿の装甲の回復速度が大きく上がったのだ。そしてそれだけではない。

ソレに一番最初気付いたのは、セシリアだった。

 

「鈴さん!?甲龍が……!」

 

「えっ?……えぇ!?」

 

鈴は中破した甲龍の装甲が回復し始めてるのに気づいたのだ。それどころか箒を中心として彼女たちの専用機の装甲や武器が修理されていってるのだ。

色は青みのかかった銀だが、とりあえず飛行ユニットと手に持ってた武器等はその形を取り戻していき、それと同時にシールドエネルギーも回復していく。

 

「すごい……これが紅椿の……」

 

箒は金色に染まったら紅椿を見る、空を見上げると、白と銀が線を結ぶかのように何度も接し、金属のぶつかる音と爆発音が響く。

 

「一夏……!」

 

仲間の機体を直しながら、箒は彼の名を呟いた。

 

 

 

 

 

「いい加減、倒れろよっ……!」

 

あれから薬莢をすべて排出したため、次のマガジンを装填する一夏。そして零落白夜を起動させて斬りかかるが、動きに慣れたのか銀の福音の動きが少しずつ最小限なものに変わっていく。

それにたいして一夏の雪片撃貫は太刀から野太刀になってるため、それに慣れない一夏は動きが次第に大振りになり、隙が出来始めた。おまけに燃費も零落白夜が別稼働とはいえ前より悪くなっており、更に与えられるダメージもあってシールドエネルギーがどんどん減っていく。

そして一夏が袈裟斬りしようとした時だ。銀の福音がカウンターの様に尻尾を顔面に突き付けてきたのだ。それをとっさに躱す一夏だが、そのまま首に巻き付き、体を1回転させてそのまま投げ飛ばされる。

 

「くっ……うっ……!?」

 

頭がフラフラとしながらも目を開くと、そこには自分目掛けて突っ込んで来る銀の福音の姿だった。その距離は雪片撃貫で対処するには距離が短く、その爪が一夏を捉えようとした。

 

「まだ、だぁ!」

 

だがその突きを那由多で無理やり受け止める一夏。火花が散り、そのまま押されるが、スラスターの輝きが強くなり、押し返そうと拮抗する。

だがしかし、お互い引けないと判断し、頭部に光線のエネルギーを貯める銀の福音。一夏もそれに気づいたのだが、完全に引けない状態になってることに気付いた。

 

「うぉぉおおおおおお!!!!」

 

叫び声とともに那由多から放たれた光線は、銀の福音の右腕の装甲を消し飛ばす。それによって照準がずれ、銀の福音が放とうとした光線は空を切る。

 

「ギィィィ!!!!……ガァァァ!!!!」

 

「っ!?」

 

だがしかし、銀の福音は損傷を無視し、無理やり踏み込んで来たどころか、のっぺらぼう面を付けたかのような顔に亀裂が入り、大きく開く。その中には形の不揃いなたくさんの牙が生えており、そのまま一夏の肩口に思いっきり噛みつき、もがく一夏を逃がさんと使える左手で一夏の右腕を掴んだ。

 

「こっの、離せっ!!!」

 

悲鳴を上げながら那由多を側頭部に向け、そのまま接射で光線を放つ一夏。だが煙の中から出て来た顔は無傷に近く、()()()()()()が一夏を睨みつけた。

体のいたるところから噴き出す蒸気が白式を痛みつけ、鋭い牙が一夏にダメージを与える。そして口内が紫に光り始める。何かわからない一夏だが、どう見てもやばいと判断して那由多のクローで顔を殴りつけるそれによって大きく装甲をへこませたり吹き飛ばすが、それも見る見るうちに修復していくのだ。

そして銀の福音がニヤリと嗤った。その時だ。

 

「ッ!」

 

銀の福音は口を離してからとっさに一夏から離れ、そのまま回避行動をとり始める。すると先ほどまでいた場所にレーザーや実弾と言った弾幕が空に向けて通り過ぎたのだ。

 

「一夏!」

 

「箒……?」

 

彼が見たのは、装甲のいたるところを修復させ、彼の元へと駆けつける4人の少女の姿だった。その装甲は直ってはいるが、紅椿以外の装甲は壊れてた部分が青みのかかった銀の装甲色になっており、応急手当とも言える状態に見える。

 

「お前ら、何で……」

 

「馬鹿者。お前ひとりだけで無茶をするな!」

 

「そうよ!見てるこっちがひやひやするんだから!」

 

「一夏さん!無茶しないでください!私たちが援護しますわ!」

 

「さあ、仕切り直しと行こうじゃないか!」

 

箒が、鈴が、セシリアが、ラウラが、みんなが力を貸してくれる。その嬉しさに一夏は俯き、自分の独りよがりに情けなく感じていた。

 

「一夏。これを受け取れ」

 

「えっ?……えっ!?」

 

そのとき、箒が一夏を抱きしめたのだ。それで驚いた一夏が顔を上げようとするが、彼女の手が一夏の頭を回りこみ、そのまま優しく撫で上げる。

この行動に他のメンバーは声を上げるが、箒はそれを無視して一夏に語り掛ける。

 

「一夏、無茶するな。お前が頑張るのは嬉しいが、それで怪我したら元も子もないのだぞ?」

 

「箒……」

 

暖かいぬくもり。一夏は頭の血が引いていく感覚がし、少しずつ冷静になっていく。

その時、紅椿が再び金色に輝き始め、一夏はそれに驚くが、その柔らかい光に警戒心を無くしていく。そして一夏はあることに気付いた。

白式のシールドエネルギーが回復し始め、そしてダメージを受けた装甲が直っていき、また戦えるほどにまで戻っていくのだ。

 

「これは……?」

 

「紅椿の力だ。これでもう問題ないだろう」

 

そしてシールドエネルギーはほぼ全開になり、一夏は確認するように手を動かしたりする。

 

「一夏、そう気を張るな。お前のおかげでまたみんな戦えるだけの時間が稼げたんだ。だから、今度は勝つぞ」

 

「何を思ってるかは知らないがアイツを倒すぞ」

 

「私たちの力、思い知らせてやりましょ!」

 

「一夏さん、行きましょう!」

 

皆が俺に力を……。

まだ俺たちは負けてない。それが分かって、一夏は深呼吸をする。

 

「そうか……そうだよな……」

 

顔を上げ、雪片撃貫を強く握りしめる一夏。その時だ。機体の各所が輝きだしたのだ

 

『那由多、スラスター、制限解除。再起動します』

 

「えっ……」

 

するとどうだ。輝きが収まり、そこにあったのは那由多の形状が少し変わり、背中のウィングスラスターも大きく広がった白式・薄明の姿があったのだ。

 

「皆、待たせて済まなかったな。これで、やっと本調子だ」

 

「一夏、さっきのはまだ未完全だったのか?」

 

「まあ、そうだな。ただ皆が傷つくのを見て居られなくて……」

 

それであんな無茶したのかと呆れる彼女たち。だが、それでも一夏の思いは分かった。敵討ちとは言え自分たちがやられてはいけないのだ。さすがに自分たちも無茶したなと反省しながらも、気を引き締めて己の得物を構え直す。

 

「じゃあ皆!アレ(銀の福音)を止めるぞ!」

 

コクリとうなずいて分かったと返事する面々。そしてそれぞれのスタスターの輝きが強くなり……。

だがその時、巨大な反応が海中から発した。

 

『!?』

 

一体何なのか。だがその答えはすぐ現れた。海面から1筋の稲妻が走り、銀の福音の装甲を斬り裂く。完全に意識の外だったため躱し損ね、羽の一部が霧散する。

いきなりの一撃に驚いた銀の福音はとっさにその場を離れるが、海面から稲妻が幾重も放たれ、それを縫うかのように躱していく。そしてお返しに光弾を海に叩き込んでいくつもの水柱を立て、光線を海に叩き込んでこれまで一番の水柱を立てた銀の福音は、その海面を見つめる。

 

「まだだ……」

 

「一夏……?」

 

鈴は小さくつぶやいた一夏をみつめる。一夏の口角は上がっており、嬉しそうな、だが少し怖い笑みになっている。

 

「俺もお前もまだ負けてない!そうだろ!航!」

 

その時、名を叫ばれたソレは一夏たちの後ろに水柱を立て、その中から吼えた。

 

「キィィァァァアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

ビリビリと響く声。それに一瞬顔をしかめるが、一夏のその顔はとても嬉しそうなものだった。

 

「航!……わた、る?」

 

声を上げる一夏だが、その機体の姿を見たとき、言葉を失ってしまう。

 

「ゥゥゥ……」

 

多量の廃熱と一緒に唸り声を上げる機龍。

それはこれまでの機龍とは大きく違った。亀裂の入った部分に赤い光を走らせながら装甲がところどころ紅く輝き、大量の蒸気を噴き上げる。そして部分部分融解気味の背びれに紫電を走らせ、その赤色の眼が敵を睨みつけた。

 

「ギィィィァァァグォォァァアアアアアアア!!!」

 

「ギィァ……ギュァァァァアアアア!!!!」

 

4式機龍(ゴジラ)の咆哮に銀の福音(デストロイア)は答える。

赤く染まろうとする空。その下で最後の戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。




次回、福音戦最終回!(の予定)


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氷結

この前更識楯無 猫Ver.を買った妖刀です。楯無さん、すげー可愛い。やべえよ(語彙力消失)

さて活動報告に書いた通り、そのような中身にしてきましたので是非読んでいってください。


「航……航!聞こえてるのか!」

 

一夏はただ不安で仕方なかった。目の前に現れた援軍に喜ぶはずだったのに、その紅蓮の龍の姿を見てどうすればいいのか分からなくなったのだ。

その空気は他のメンバーにも伝わっており、それぞれ得物を構えるがそのまま様子を見る。

だがこのとき、ラウラが一番最初に異変に気付いた。

 

「空気中の温度が上がってる……?」

 

夏の空とは言え、空気中温度が60度を軽く超えており、その発信源が機龍であることを指示していた。

 

「機体がオーバーロード起こして熱暴走してるのか……」

 

ラウラは冷静な解析。だがそれを聞いた一夏は詰め寄るように声を上げる。

 

「ま、待てよ!そしたら中にいる航は!?」

 

「わからん……。ISの特性上パイロットは守るが、あの状態では長く持たんぞ……」

 

すでに機体表面温度は2000℃を超しており、まるでもがき苦しむように吼える機龍。このままではまずいと一夏が機龍に手を伸ばそうとした時だった。

バシバシと背びれが光り、、口から閃光が放たれたかのように見えた。それはメーサーだったが、その威力は大きく跳ね上がっており、それに驚いた銀の福音はとっさに躱す。だがしかし、暴発したかのようにメーサーが2度3度と放たれるため、その格段に上がった威力も相まって回避に徹することしかできない銀の福音。

そして直撃すると思われたとき、とっさに翼で守るが、そのまま貫通して本体に直撃させたのだ。それによって銀の福音は大きな悲鳴を上げた。

 

「なんだよあの威力……」

 

「すごいぞ一夏。あの口部メーサー、前に観測したときより40%は威力が上がっている」

 

ラウラがそう言うが、一夏はただ茫然と期中を見てるだけでまともに返事できていない。その間にも追い打ちにメーサーを撃つ機龍だが、銀の福音はとっさに躱すとそのまま頭部にエネルギーを貯め、光線を放ってきた。だがそれは容易く躱し、そしてスラスターを展開し、銀の福音の元へと向かった。

 

「キィォァギァアアアアア!!!!!」

 

機龍はそのまま銀の福音の顔面を掴もうとするが、それに反応して一瞬で機龍の後ろに回り込もうとした。だがしかし、機龍はそれを読んでいたかのように尻尾で薙ぎ払い、そして振り向いて再びメーサーで狙い撃つ。

銀の福音はそれを躱して光弾の雨を降らせる。それをモロに浴びてしまう機龍だが、その爆炎に飲まれながらも装甲が少し削れるも効かんと言わんばかりに吼えて、煙に包まれていく。

そして煙を斬り裂き、そこから出てきたのは火を噴いたまま突っ込んで来るバックユニットだった。

 

「ッ!?」

 

それに驚いた銀の福音だが、突如目の前でバックユニットが起爆したためその爆発に飲み込まれ、後ろについてきていた機龍に気付けず、そのまま腹に尻尾による叩き落としをモロに浴びて海面に向けて落ちていった。

それを少し離れたところで見ていた一夏たち。機龍の暴れる姿を見てただ恐怖も抱き、一夏の感情を表すかのように白式の広がった翼も閉ざされている。

 

「冗談じゃねえよ……また暴走してるのかよ!」

 

「暴走!?あれが……!?」

 

「何ということなのですわ……」

 

一夏の声に驚く箒とセシリア。機龍のその姿は人が入ってるとは思えないほど力の限り暴れ、そして柔軟な動きを見せていた。お互いの光線が飛び、近づけばその力を振るって大きく火花を散らし、お互い一歩も譲らぬ状態となっていた。

 

「ギィァァアアアアア!!!!」

 

「ギュァァアアアア!!!」

 

正に潰しあいと言わんばかりの戦い。銀の福音の蒸気が機龍の装甲を溶かそうとするが、機龍の熱がそれらを焼き飛ばし、むしろ銀の福音を蒸し焼きにせんと言わんばかりにがっしりと掴んで、そのまま片手で握り潰そうとする。それにすぐ気づいた銀の福音は即座に顔面に光弾を叩き込み、それえよろめいた隙に胸部の傷口にふたたび光線を吐こうとした。

だがしかし顔面を掴まれることで阻まれてしまい、そのまま投げ飛ばされるがすぐに姿勢を整え、無理矢理光線を放つ。

お互い一進一退の攻防を続けているが、時折機龍の動きが鈍ってその時に大きな反撃をくらっており、機龍だけでは倒せないというのが見て分かる。

そのため機龍と連携したら銀の福音を倒せる可能性が大きく上がるが、あの暴走した状態の機龍をどうやって説得するか……。

 

「ねえ、私が航の説得をしてみる……」

 

「えっ……!?」

 

その時、前に出たのは簪だったのだ。全員が驚いていたが、だが不意に一夏はじぶんも行けるのではないかと思ったため、それに並ぼうとする。

 

「それなら俺も」

 

「貴方より航を説得する術は持ってるつもり」

 

恐らく自分より、彼のことはよく見てきたのであろう簪の言葉に閉口してしまう一夏。そのため完全に説得は彼女にゆだね、一夏はそのための援護に回ることを決める。

 

「だが更識、あれに入るのは無謀ではないのか?」

 

「それは……」

 

ラウラの言う通りだと思った。怪獣同士の戦いといっても過言ではないあの2機の戦い。その渦中に入るのは自殺行為すぎる。

だがここで流れを変えなければ勝てるものも勝てない。危険は承知の上で問題ないと言い放つ。だが単身で突っ込むのは無謀なため、みんなの援護が絶対必要であることも伝え、それを承知した全員は快く受けてくれた。

見上げるは銀の龍のいる場所。

 

「更識さん。本当に成功するんだな?」

 

「……たぶん。でも、やってみる……!」

 

「分かった。それじゃあ行くぞ!」

 

一夏の掛け声と共に専用機たちは頷き、2機のいる場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

アツイ。アツイ。アツイ。アツイ。

機龍()はただ熱にもがき苦しんでいた。灼熱の炎に身を投じたような自身を焼くほどの熱。だがその中にいながらも彼は倒すべき敵しか見ていなかった。

航は力を欲した。仲間を守るために。弱い自分を許せなかったのだ。

ゆえに海に没した機龍もそれに応えたのか、海底にあった()()()()()()()()()()()()()()からエネルギーを吸い、機龍のボディが徐々に赤く染まり始め……いや、まるで亀裂が走るかのように赤い紋が浮かび始めたのだ。だがその力は有り余ってしまい、装甲の各所が融解せんとばかりに赤く発光。その熱によって機体が灼熱地獄と化してるのだ。

今はパイロットの保護機能でどうにかなっていても、いずれ彼も焼き尽くされてしまうのだろう。だが今はそんなことは頭の片隅にしかなく、ただ目の前の敵に向けて殺意を叩き込む。

尻尾が直撃してメキメキと音を立てるが、先ほどよりいまいち手応えがない。それに苛立ちを感じながらも更に追撃する。

いや、たしかに機龍の一撃一撃は重く、それによって機体の各所が大きくゆがんでいる。だがしかし、航は()()が機龍でないのを忘れ、それによって感覚を誤認しているのだ。ゆえに力を大きく出せる。だがしかし、それは肉体の限界を忘れてしまっていた。

 

「っ……!?」

 

その時だった。中にいた航が血を吐いたのだ。高機動によるGで体に過負荷がかかり、それで内臓を大きく損傷してしまったのだろう。それに視界も過負荷で潰され、それによって機龍の動きが鈍ってしまい、その隙をついた銀の福音はヴァリアブル・スライサーを展開してそのまま袈裟切りしようと刃を振り下ろすが、本能で察してどうにか首を掴むことで刃が深くささるのを回避する。だが銀の福音もスラスターを大きく開いて力の限り押し付けてくるのだ。

ギチギチと銀の福音の首を絞め上げる機龍。だがヴァリアブル・スライサーの刃先がゆっくりと装甲を分解していき、このままでは斬りおとされてしまう。

 

「ギィィィァァァ……!」

 

その時、機龍の背びれからバリバリと赤い紫電が走り始め、不規則的に背びれが発光しだしたのだ。銀の福音はただ機龍が大量のエネルギーを貯めてることに気付き、無理矢理振りほどいてに逃げようとするが……。

空に紅蓮の太陽が咲いた。

前に行った電磁パルスとは違う、体内放射と言わんばかりに起きた大爆発に、その熱と衝撃をモロに浴びた銀の福音の装甲は大きく歪みなら爛れ、羽も消し飛ばされる。そして途中から手放されたためそのまま大きく吹き飛ばされた銀の福音は自身から大量のシステムエラーが出てるのを無視しながら、どうにか姿勢を正す。

 

「ギィ……ァァ……!」

 

一体何が起きたのかわからない。だがこの痛みによって強い怒りを露わにし、()()()()を行った機龍を見つけた。機龍はこれを行ったことによってシステムのいくつかがダウンしており、完全に無防備になってしまっている。

そんな機龍を見つけ、ヴァリアブル・スライサーで斬りかかろうとした。だがその時。

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

2つの銀の間に1つの白が駆け抜ける。そして駆け抜けた白、一夏の手から発せられる光の刃が銀の福音目掛けて振るわれた。

いきなり間に入られた銀の福音は驚きのあまり反応が遅れ、まともに斬られてしまったように見えたが、即座にい一夏の腹を蹴ることによって咄嗟に距離をとったことで斬られたとしても浅い傷で済んだ。だがしかし、援護に来るにしてもいきなり間に入り込むという無謀なやり方に流石に警戒したのか、少し離れるが2機を巻き込む勢いで翼を広げて仕掛けようとする。

 

「させるか!」

 

「させないわよ!」

 

その時、上下から箒と鈴がそれを拒むようにお互いの得物で斬りつけてきたのだ。それでバランスを崩し、そこからセシリア、ラウラからの援護射撃が入る。

 

「更識さん!航を頼む!」

 

「ここは私たちに任せろ!」

 

「簪!箒はそう言うけど私たちだとあまり持たないわ!だからさっさと航を正気に戻してきなさい!」

 

それで銀の福音を喰いとめに向かう一夏と彼女たち。それを見送ると簪は機龍と向き合う。

 

「ギィィァァァ……」

 

機龍はそれを見るなり唸り声をあげ、ギョロリとその赤い目で簪を睨みつけた。先ほどの攻撃に苛立ってるのが分かり、その迫力で心臓か掴まれたかのような感覚に陥る簪だが、それでも意を決して口を開く。

 

「ねえ、航。話を聞いて……」

 

睨みつけるのを止めない機龍。その時、簪の頬を何かが掠めた。最初は何かわからなかったが、簪はそれが尻尾の先であったのを知ると、顔が強張る。

次、何を言えば攻撃されてしまうのか。それで口を閉ざしてしまいそうになるが、それでも簪は止まらない。

 

「お願い、聞いて。銀の福音を倒すには貴方の力が必要なの……」

 

だがしかし龍はいうこと聞かず、簪に攻撃を仕掛けようとする。だがそれをどうにか回避しながらもどうにかその足にしがみつき、振りほどかれないようにする。

 

「ねえ、航なの!?ゴジラなの!?どうして私を攻撃するの!教えてよ!そのままじゃ航壊れちゃうよ……。日輪みたいにいなくなって、刀奈お姉ちゃんを一人にしちゃうの?ねえ、もう一度教えてよ……。どうして力を欲したの?」

 

(ひの、わ……?かた、な……?)

 

その名を聞いたとき、機龍()の眼が揺らいだ。そして機龍が暴れるのを止め、顔を伸ばして簪の方に近づき、赤い双眸がジッと簪を見つめる。

 

「お願い、航……力を貸して……」

 

もう泣きそうな声。この時、彼の眼に光が1つ灯った。

 

 

 

 

 

簪が航に説得してる頃、一夏たちはそこより上空で銀の福音と闘っていた。だがまともに戦えてるのは一夏と箒だけで、それ以外は機体がどうにか戦えるって状態であって、後ろからの援護しか出来てない。

だがそれでも的確な攻撃が銀の福音に刺さり、そこに一夏たちの一撃離脱の攻撃が当たることにより、怒りも相まってからか少しずつ動きが単調になっていく。

 

「ギュアァァアアア!!!!」

 

銀の福音は吼え、光線を薙ぎ払うように放つ。だがそれを軽々と躱した一夏は一気に懐に入り込み、雪片撃貫で斬りつける。だが一夏の間合いは銀の福音の間合いのため、即座に腕部に頭部のより弱いがヴァリアブル・スライサーを展開して斬り裂いた。

だがしかし、銀の福音が見たのは残像で、既に後ろに回り込んだ一夏は再び横薙ぎに斬る。それに合わせるように箒が雨月と空裂でエネルギーの斬撃を飛ばして当て、それに続くようにセシリアとラウラが射撃を当てていく。

 

「ギュアァァアア!!」

 

だがしかし、それで優先事項を変えたのか、一夏の腹に蹴りを食らわせた後、即座にセシリアとラウラがいる方へと向かう。その速度にどうにか回避するも、脚部装甲を大きくえぐられるセシリアと砲塔を砕かれるラウラ。お互い上下に分かれたが、銀の福音が狙い定めたのは、ラウラだった。

 

「行かせないわよ!」

 

だがその間に入り込んだのは鈴で、鋭い爪の突きを双天牙月2本を重ねて受ける。だがその衝撃は大きく、1撃で亀裂が入り、そのまま尻尾による一撃で砕けてしまう。そして鈴が見たのは自分の顔めがけて指を大きく開く銀の福音の姿だった。

 

「させるかぁ!」

 

そのとき那由多のクロー部が射出され、そのまま銀の福音の足を掴む。それによって攻撃が空ぶった銀の福音に、クロー部とつながってるワイヤーを一気に巻き取りながら近づいた一夏は、そのまま零落白夜を発動させて横薙ぎに斬りかかる。だがしかしそれを手の平から展開させたヴァリアブル・スライサーで受け止めると、吹き飛んだ右腕装甲を回復させて一夏の首を掴む。

箒は一夏が掴まれた瞬間に背中から斬りにかかり、それを尻尾が阻むが関節部に刃が入り込んだことで折れてしまうが、そのままもう一方で背中に切り傷を入れる。それで一夏を手放して箒の方を向こうとしたが、それをさせまいと一夏が銀の福音の顔面を掴んでゼロ距離から光線を放って化物の顔を吹き飛ばし、その顔を初めて見た。

 

「っ……!?」

 

そして中にいたのはまるで死んだ、虚ろな目をしたパイロットの顔が見えたのだ。それにゾッとした一夏だが、顔の装甲がすぐに修復されると、そのままお返しと言わんばかりに一夏に向けて光線を放ったため、即座に離れた一夏。箒も同時に離れて2機で挟み込むように立ち回る。

その時だった。銀の福音の装甲各所に亀裂が入り始めたのだ。どうやらもう機体も限界に近いらしく、そこを自己修復しようとしても、また別の個所に亀裂が走っていく。

 

「銀の福音が自壊を始めた!ここで一気に仕留めるぞ!」

 

ラウラがそう叫んだため一夏と箒が左右からお互いの得物を構えて突っ込む。

 

「ギュァァアアアア!!!!!」

 

だがしかし、銀の福音が吼え、羽で自身を護るかのように折りたたんだと思ったら、一気に開くと同時に光線の雨を降り注がせてきたのだ。

それに飲み込まれていく面々。一夏はギリギリで零落白夜の斬撃を放って相殺したためまだ戦えるが、他のメンバーは満身創痍に違いはなかった。特に箒は距離が近かったのもあり、紅椿が一気にボロボロになる。

だがそれでも銀の福音は再び光線と弾幕を混ぜた豪雨を降らせ、それは簪たちの元にも伸びる。

 

「更識さん!あぶねえ!」

 

「えっ」

 

その視界に映ったのは大量の弾幕だった。

機龍はモロに浴び、簪はとっさに壁灼を前に展開したすぐに砕け、そのまま弾幕に晒され、それと同時に武装やスラスター類に損傷が入る。

 

「きゃあ!」

 

それによって一気に無防備なる簪。一夏は箒たちの方を助けるのが手いっぱいで、こちらに余裕を割くこともできず、ただ手を伸ばせど見てるだけしかできない。

そして追撃するかのように放たれた光線は、そのまま簪目掛けて伸びていく。

簪は恐怖した。目の前に死の光が迫ってる。逃げようにも動けず、浴びるしかない選択肢に絶望した。そして助けを求め叫んだ。昔、自分を助けてくれたヒーロー()の名を。

 

「いやぁ!助けて、航!」

 

「ッ……!」

 

放たれた光線は簪に直撃するとき、1つの影が彼女の前に立つ。

 

「えっ……?」

 

簪は恐る恐る目を開くと、機龍が簪の前に出て来て簪をかばうように光線をくらったのだ。だがしかし、くらったように見えたのだが、機龍を囲むかのようにエネルギーの球が光線を吸い始めたのだ。

それらは吸収された後、機龍の背びれがバシバシ光る。

 

「わた、る……」

 

「待たせた、な……簪」

 

ノイズで一部聞こえないが、確かに聞こえた。

目も赤く、機体も紅蓮の紅に見えるが、それでも航が戻って来た。それだけが嬉しくて簪はボロボロと涙があふれてきてしまう。

 

「簪の声は良く聞こえたよ。俺は怪獣じゃない、人間だ。だから戻ってこれた。ありがとな、簪」

 

「うん……うん……」

 

「ねえ、航。教えて……?なんで力を欲したの……?」

 

「俺は守りたかったんだ。手の届く範囲でいいから、これ以上大切なものを失いたくないんだ……。だからごめんな、怖がらせて……」

 

その時だ。空で爆発が起きた。まだ一夏たちが戦ってる。航はあの化け物と戦うために、スラスターに火を灯す。

 

「航!」

 

「ん?」

 

「い、いってらっしゃい……!」

 

「ああ、行ってくる」

 

そのとき、彼が小さく笑った気がした。そして航は一夏のいるところへと向かった。

 

 

 

 

 

 

航が戻ってきたことにより、形勢が再び大きく変わり始めた。既にまともに戦えるのは一夏だけであったが、航の機龍が一夏の盾となり、一夏の雪片が機龍の矛になる。

紅蓮の龍の放つメーサーが脅威とみなしてるのか回避する銀の福音だが、その回避先に一夏が回り込むことで確実に攻撃を当てて行っていた。だがしかし、カートリッジが無いため無条件に零落白夜を出せないため、通常の零落白夜を使おうとするが、この時零落白夜が発動しないことに気付いた一夏は大きく焦ってしまう。

その隙を突かれて、銀の福音が突っ込んできたのに反応が遅れた一夏は、機龍に護られることでどうにか危機を脱したが、決定的な一撃が無いことにどうすればいいのか。

ただお互い、銀の福音の自壊を勧めんとばかりに攻撃を与えていく。

 

「一夏、援護頼めるか?」

 

「航……?」

 

その時、機龍の胸部の板が開き始め、そこにエネルギーが集中し始めた。それを見た一夏は、それが何なのか一発で分かり、ニッと笑みが浮かび上がる。

 

「分かった。俺が銀の福音を止める!だから航、絶対当てろよ!」

 

それは銀の福音にも分かった。あれは不味いものだと狙いを機龍に向けるが、それを拒むかのように一夏が銀の福音の前に躍り出る。

 

「やらせないと言ってるだろ!」

 

そして一夏が雪片撃貫で斬りかかるが銀の福音も馬鹿ではなく、とっさに尻尾の先で手を掴んで無理やり投げ、そのまま光弾を放つ。

だが翼を開いて瞬時に銀の福音の後ろに回り込み、雪片を振り上げるが、それを分かってるかのように尻尾で受け止め、そして返し刃に弾幕を放つ。

銀の福音も装甲があちこち亀裂が入ってもう壊れそうなのに、まだまだ戦えると言わんばかりに暴力を周りにまき散らし続けた。

後もう少し、もう少しで仕留めれる。なのに零落白夜が使えないため、このままじゃ皆を守れない……。一夏は己の無力を呪い、グッと柄を握りしめる。

するとその時、雪片撃貫がポウっと少し輝き始めたのだ。これがなんなのかわからないだがしかし、白式が力を貸してくれるならそれに頼る。一夏は躊躇しなかった。

 

「白式!俺の心が分かるなら、俺に力を貸してくれ!」

 

その時、那由多からケーブルのようなものが伸び、それが雪片撃貫の柄に刺さっていく。するとどうだ。雪片撃貫の刀身が割れ、そこから光があふれ出したのだ。まるで零落白夜が発動したときに似ていたが、そこから現れたものを見たとき、ただ目を大きく見開いていた。

 

「なんだよこれは……!」

 

雪片撃貫から出て来た光の刃は5mにもなり、その強大な雪片にただ驚きを隠せない。

その時、モニターに表示されていた零落白夜の文字の上に新たな名が刻まれる。

 

「天羽々斬 ……?」

 

これが新たな刃の名前。姉とは違う自分だけの力。その姿に驚いていた一夏だったが、頭の中に流れてくるその使い方に、その顔は少し安堵のものに変わり、そして真剣な顔に変わった。

 

「……わかった、行くぞ白式!」

 

一夏は柄を強く握り、背中の翼から真白い光の翼を生やして、銀の福音の元目掛けて突っ込んだ。

銀の福音は光弾の雨をこれでもかという勢いで放つ。だが一夏はその中を縫うように抜け、着々と距離を詰めていく。

だがしかし、その弾幕が厚いため躱すのも難しくなり、どうしても直撃すると思われた際、赤い閃光が目の前の光弾を斬り裂き、そのまま爆発させる。

 

「こっちを無視するとはいい度胸だな!」

 

「私たちが道を開けるわ!一夏はそのまま向かって!」

 

箒が、鈴が、セシリアが、ラウラがボロボロになりながらも道を作ってくれる。一夏はそれを彼女たちを信じ、一直線に銀の福音の元へと向かった。

次々とかき消されて行き、その中を駆ける白の騎士も銀の龍も不味いと判断する銀の福音。そして反転して、この海域を離脱せんと動き出したのだ。その間も弾幕を巻いてかく乱しようとするが、彼女たちの援護射撃によって次々と落とされ、その中を白い閃光が駆け抜ける。

全スラスターが一斉に輝き、瞬時加速(イグニッション・ブースト)をも超える速度で銀の福音の元へと向かう一夏。そしてお互いの射程圏内に入るとすぐに雪片撃貫を振り下ろした。

 

「もらった!」

 

だがその黄色の眼光はしっかりと一夏を捉えており、即座に反転してこちらに突っ込んで来る一夏めがけ、銀の福音はヴァリアブル・スライサーを即座に展開し、そのまま振りあげ、そして雪片撃貫がヴァリアブル・スライサーに接触した。

その力は強く、押し負けてしまいそうになる一夏。だがしかし、彼は負けるわけにはいかなかった。ここにいるみんなのため、そして自分のためにも。

 

「負けて、負けてたまるか!もっとだ!もっと俺に力をよこせ!白式ぃ!」

 

その時、呼びかけに呼応するかのように刃が大きくなり始めたのだ。それによってヴァリアブル・スライサーが光に飲まれ始め、徐々に一夏が押し始める。

 

「おおぉぉぉ!」

 

一夏の叫び声とともに天羽々斬が狂気の刃を斬り捨て、そのまま光の刃が銀の福音の肩口から脇腹まで袈裟切りで切り裂く。

 

「ギュァァアアアア!!!!」

 

「これで、終わりだぁぁ!!!

 

断末魔を上げる銀の福音。そして一夏がそのまま逆切り上げを行うと、光の刃は体を貫きながら同時に尻尾と翼も斬りおとし、それによって緑色の液体が噴き出す。

 

「ギ、ァァア……」

 

もう戦う手段はほぼ残っておらず、ただ小さく断末魔を上げるしかできない銀の福音。だがしかし、それでも戦う意思が止まらないのか、意地でも装甲を直そうとするが再生しないことに今気づいた。

だがしかし、もう時間稼ぎは終わった。そう、この間にもゆっくりと機龍は移動しており、ソレの射程圏内に銀の福音を捉えていたのだから。

 

「……!」

 

銀の福音はそれに気づいた。だがしかし、もう逃げるための翼は折られ、耐えるための装甲もズタズタ。もう逃げることも戦うこともできない。ただ自身(デストロイア)を殺す-200℃以上の弾丸はこちらに向けられており、ロックオンによる警告音が鳴り響く。

 

「やれ!航!」

 

「これで終わりだ!銀の福音(シルベリオ・ゴスペル)!!」

 

「ギァァアアアアア!!」

 

航の声と共に機龍が叫び、胸部からアブソリュート・ゼロが放たれ、そのまま銀の福音の元へと向かう。

 

「ギュァァアアアア!!!!」

 

最期の力を振り絞るように銀の福音はオキシジェン・デストロイヤー・レイを放つ。だがしかし、それはアブソリュート・ゼロに当たるとすぐに霧散し、その光景を大きく見開くのを最期に放たれたアブソリュート・ゼロは銀の福音を飲み込み、そのまま下の海面すら凍らせた。

 

「終わった……?」

 

誰がそうつぶやいたか。その時、氷に亀裂が入り全員が再び臨戦態勢に入る。だがしかし、そこから出てきたのは眠りに着いてる女性がだった。そして女性はそのまま海に向けて落ち、海面に叩き付けられる……というタイミングで、どうにか一番最初に反応した鈴が抱き留めていた。

 

「あっぶな……。この人が銀の福音のパイロットね」

 

鈴が見たのはあの時天羽々斬が銀の福音を貫いていたが、それによる外傷は一切なく、着てるISスーツが×の字に斬り裂かれてその裸体が見えてしまってるという銀の福音のパイロット。ただ肌がズタズタになっており、ISスーツ下の肌もボロボロで見るのも少し辛いほどだった。

流石にこの姿を一夏に見せるわけにもいかず、このまま鈴は彼女の肌を見せないように一夏除く女子たちを呼んで壁になってもらいながら一夏に近づく。

 

「なあ、これって終わったんだよな……」

 

「ええ、そうよ」

 

「ということは……」

 

「作戦、成功よ!」

 

鈴の声を皮切りに一斉に歓声があがった。それと同時に機龍の真っ赤に染まった装甲も次第に色が落ち始め、大量の排熱を出しながら元の銀色に戻っていく。

 

「やっと終わった~……って全員、無事か!?」

 

一夏がそういうが、周りはジト目で一夏の方を見ていた。

 

「そういう一夏の方こそどうなのだ!」

 

「そうよ!そもそもアンタ大怪我してたじゃない!」

 

「え、俺?なんか治った」

 

ケロッとした顔で言うが、それが余計に火をつけたのか周りが詰め寄ってくる。それの対応に困ってた一夏だが、ラウラの眼のことを思い出した。

 

「というかラウラ!お前目から血が出てるんだから無茶しちゃダメだろ!」

 

「ふ、ふふ……流石に無茶してしまったようだ……。さすがにこれは、帰って治療が必要だな……っ!」

 

流石に痛むのか左目を抑えつける。どうにかして応急処置をしようとした時だ。箒が髪を縛っていたリボンをほどき、それを使って出血を抑え込む。

 

「箒、それではお前のリボンが……」

 

「それよりも止血だ。……よし、これでいいか」

 

ギリギリ長さが足りたが不格好な眼帯になる。それに申し訳なさそうに笑う箒だったが、さすがに髪を纏めていたものが無くなるのは少し違和感を感じてしまう。

だがその時、一夏があることを思い出して箒に声をかけた。

 

「あ、箒。渡したいものがあるんだ」

 

「えっ」

 

そして一夏が渡したのは白のリボンだった。

 

「ハッピーバースデー、箒」

 

「い、一夏……この、ばかものぉ……」

 

ぽろぽろと泣き出す箒。

死ぬかもしれないと怖かったのだ。それを今までどうにかして堪えてたのだが、一夏のプレゼントによって緊張の糸が解けてしまい、そのまま泣き出してしまったのだ。

一夏はいきなり泣き出す箒にオロオロとし、どうにか泣き止まそうといろいろし始める。だがその姿がおかしいのか、次第に笑い出す箒。それにつられて周りも笑いだす。

そして周りに笑顔が戻ったため、やっと平穏に戻るんだと安心する一夏。だが不意に、こんなにうれしいことなのに航が一切何も言わないことに疑問に思った。

その時だ。機龍の胸部のアブソリュート・ゼロ発射口と背面の背びれが爆発したのだ。その衝撃でカメラアイがチカチカと点滅し、糸が切れたかのように機龍が海へと向けて落ちていく。

 

「キィ、ァァ……」

 

「航!」

 

急いで機龍の元へと向かい、その体を支えようとする簪。だがその重量ゆえに下降は止まらず、ぐんぐんと海面が近くなっていく。一夏も急いで機龍を捕まえてどうにか海面に落ちるのだけは阻止した。

 

「おい航!大丈夫かよ!」

 

一夏が装甲をゴンゴンと叩いて聞くが、一向に返事が返ってこない。これはとても不味いのではと思ってすぐに旅館に戻ることを提案した一夏。それに全員が賛成してスラスターに光が灯り始める。

その時、胸部ユニットが開き、そこから航の姿が見えたため急いで覗きこむが……。改めてその姿を見たとき、誰もが息をのんだ。

中は完全に血で真っ赤に染まっており、そこにいる航の眼に光が無く、ただダラリと糸の切れた操り人形のようになっていた。

 

「航!返事しろ!」

 

「これ、早く戻らないと航が……!」

 

この中で一番重傷、としかいえないその姿。それもそのはずだ。触れるものすべて分解する刃に斬り裂かれ、さらには熱暴走で焼かれていたのだ。それでも航はまだ息しており、確かに生きてることを示している。

 

「ぁぁ、痛い、なぁ……」

 

「航!」

 

航が生きてることに安堵するが、油断はできない。急いで戻ろうという一夏に賛同し、機龍を揺らさぬよう支えながら、全員は旅館を目指し始める。

 

「航、死なないよね……私、お姉ちゃんに何ていえば……」

 

「大丈夫、だ……俺が死ぬわけ……っ!」

 

泣き出しそうな簪を慰めるように、少し無理しながらも笑みを浮かべて返す鬼一だが、彼はソレに気付いた。

ソレは機龍のハイパーセンサーが何かに対して反応しており、警告音を鳴らしながらロックオンマーカーをその方向に向けて伸ばす。それはすぐに近くにいた一夏にも伝わり、一夏も同じ方を向く。

 

「一体何なんだよ……おい、何だよアレ」

 

一夏がそういうと全員が一夏の言う方向を向く。

そして彼らは見た。超音速でこちらに向けて飛ぶ竜の姿を。

紫を基調としたその巨体。1対の大きな鋏を持つ前腕を持ち、4枚の巨大な羽に、先が3本の棘に分かれた長い尾。まるで鎧兜をかぶったかの様な顔からは鋭い牙が多数見えており、大きなオレンジ色の複眼が獲物を見つけ、そしてニタァと口角が上がった。

 

「キュィィィ!!!!!」

 

甲高い叫び声をあげ、その()()ははるか後ろを飛ぶ軍勢を呼び、その姿もハイパーセンサーで映されると、全員が真っ青な顔になっていく。

 

「メガニューラ……しかもあんなにたくさん……!?」

 

ハイパーセンサーには、100近くになるメガニューラの大群がこちら目掛けて飛んできてるのを示しており、普通ならだれもがこの場から逃げ出そうとするのだろう。だがしかし、全員が現実の物とは思えないのか、誰もがその足を止めてソレを見ている。

そしてその中一夏は、目の前にいる怪獣の名をぽつりとつぶやいた。

 

「あれが怪獣、メガギラス……」

 

超翔竜(メガギラス)は大きく吼え、一夏たちがいる場所目掛けて侵攻を開始した。




ついに現れた怪獣メガギラス。満身創痍のメンバーしかいない専用機たちは無事に帰ることができるのか!
次回、「超翔竜」(仮)
満をして待て!



というわけで次回予告をしました。では次回をお楽しみに・・・なるかな


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超翔竜

令和最初の投稿となります。ホントは平成の間に出したかったけど、いろいろ詰まって今になってしまいました。


では本編どうぞ。


ただメガギラスからしたら目の前にいるのは羽虫にしか見えなかった。だがそこからあふれ出るエネルギーを見たとき、それを摂取したいと考えてしまう。

テリトリーを増やすには外敵を駆除しなければならない。前与えられたエネルギーの記憶から覚えてる目の前の羽虫は、群を作るには邪魔なモノだと判断し、外敵駆除と共にエネルギー接種の餌としてとらえた。

そう、目の前に映る7つのISがだった。

 

 

 

 

 

「だめだ。通信がつながらない。恐らくはあの……メガギラスが出してる高周波らしきものが通信を阻害してるみたいだ。……それに早く逃げないと、パイロットも不味いぞ」

 

ラウラは諦めながらそう言う。

距離は約1キロ。だがお互い高機動と言えるため、この距離はほんの数秒で一気に縮まるだろう。

その間にも箒がナノメタルを使って他のメンバーの機体を応急処置で直していくが、先ほどより損傷が激しいため、前よりさらに性能が低下するだろう。

 

「む、紅椿の動きが少し悪くなってきたな……。もしかしてナノメタルを使いすぎたのか?」

 

「箒、それ以上は止めておけ。それで逃げる足を失われるのは困る」

 

刃が形状維持するのが少し難しくなり、ラウラからのストップが入る。

そうしてる間にも、先に修復してもらった鈴は、ハイパーセンサーで今いる敵の数を探り当てていた。

 

「出たわ。メガニューラが96。メガギラスが1よ」

 

7対97。

いくらISとはいえこの戦力比を相手するのはとても楽じゃない。それにメガギラス1体でどれだけの戦力差ができるのかすら分からないのだ。

ましては、一夏の白式薄明と修復の終えた箒の紅椿が小破。それ以外は中破以上という損傷で、この数を相手にまず逃げ切れるかすらも分からなかった。

だが鈴の手には眠ったままの銀の福音のパイロットがいるため、最低でも彼女を第一に逃がさなければならない。そのためにも甲龍はスラスター関連が優先的に直されており、鈴がパイロットと共に逃げる役に当てられる。

 

「鈴。お前は先に逃げてくれ」

 

「一夏……」

 

「大丈夫だ、俺たちも後で追いつく。だから……」

 

その時だ。メガギラスの翼が、先ほどより少しずつ速く羽ばたき始めたのだ。それは次第に早くなり、より強力な波となって一夏たちに襲い掛かる。

 

「ぐ、う……!?」

 

まるで頭の中を掻き回されたかのような感覚だった。ISのバリアも貫通し、絶対防御があろうと関係なしに与えてくる攻撃に、全員が一斉に耳をふさぐ。だがISもすぐに解析して聴覚フィルタを展開。それによって高周波は大体をカット。だが銀の福音のパイロットにはそれが無いため耳から血が出てしまっていた。

 

「鈴!逃げろ!」

 

「…分かったわ。私、待ってるからね!」

 

そのまま海域を離脱する鈴。それを見逃さんとメガギラスが高周波を出すのを止め、その場で大きく吼えた。

 

「キュィィイイイイ!!!!」

 

それを合図に、メガギラスの周りに跳んでいたメガニューラが、彼ら方目掛けて飛んでくる。マッハ1という速度で飛んでくる大群の姿を見ると、全員が息をのむがそれでも恐怖から逃げず、己の得物を構えた。

 

「来るぞ……!」

 

その言葉より早くメガニューラの大群が押し寄せて来た。動けるものは射撃兵装を展開して機敏に動き、そうでないものは射撃兵装を展開して同じ状態のもので集まり、背中合わせで弾幕を張る。

だがメガニューラたちはそれが狙いだったのか、そのまま彼らの周りに滞空し、一撃離脱を駆使しながら攻撃を仕掛けてきたのだ。

それぞれの火力を合わせれば寄せ付けないだけの弾幕を張ることができたが、メガニューラの機動性はとても高く、なおかつ防御力もそこそこあるため少しの被弾じゃ動きが止まらない。

 

「羽を狙え!そうすれば嫌でも落ちる!」

 

「さっきからやってますわ!」

 

前と違ってメガニューラがより的確な回避行動をとってるのだ。そのため攻撃が軽度でしか当たらず、いまいち致命傷を与えることができない。

だがそれだけではなく、ある問題が起きていたのだ。

 

「機体が重い、ですわ……!」

 

「どういう、こと……!」

 

そう、機体が重く感じるのだ。先ほどの戦後まではまだ動けてたはずなのに、まるで鉛を付けたかのようにズンと重く感じるのだ。

一体何があったのか。簪は即座に打鉄弐式に起きてる異常をチェックする。するとあることが1つ分かった。

 

「あの高周波で機体にダメージが……!」

 

そうだ。メガギラスの出した超高周波は、人体だけでなく機械に対しても深いダメージを与えてきたのだ。先ほどより機体が重く感じ、それによって照準を向けてもすぐに外れてしまう。

だが代表候補生である彼女たちはカンを頼りに照準の修正を行い、少しずつながら当てていく。

 

「うおぉぉ!」

 

その中一夏は高速で近づき、雪片撃貫を思いっきり振り上げるなどして回避される前にメガニューラの胴や羽を斬り落としていく。だがしかしメガニューラはしつこく付きまとい、次々と尻尾の針をこちらに向けて攻撃してくる。

ただその中で航は機龍のパワーを使い、しつこく付きまとうメガニューラの顔や羽を握りつぶしていく。下手に高火力の武器を使うより、選ぶ必要が無い敵相手なら機龍を動かすだけで攻撃が当たるのだ。

その時、メガニューラが一斉に離れたのだ。いったい何が起きたのかと思った時、メガギラスが高速でこちらに向けて突っ込んできたのだ。

 

「嘘だろ!?」

 

「全員、散れ……きゃぁぁ!!!」

 

正に神速。声を出すころには遅く、マッハ4による巨体の突撃は途轍もない衝撃波を生み出し、直接当たらなかったのに体がバラバラになるのではないかという衝撃をまともに浴びてしまう。

おかげでほとんどの機体はあちこちに亀裂が入り、機動性も一気に落ちてしまっていた。

 

「キュィィィ!」

 

だがメガギラスはそんな彼らを無視し、一直線にある場所を目指す。それは銀の福音のパイロットを抱えた鈴のところで、それを追いかけようとした一夏だったが、メガニューラが邪魔をしてきて進むことができない。

 

「鈴!逃げろ!りぃぃん!」

 

「嘘……!?」

 

一夏の通信が届きそのまま後ろを確認した鈴は、すごい速度でメガギラスが迫ってきてるのを目にしてしまう。全速力で逃げてるはずなのに見る見るうちに距離は詰められ、その口が大きく開かれて今にも自分たちを喰わんとする。

 

「ここで終わるわけにはいかないのよ!」

 

だが鈴はとっさに振り返り、双天牙月を連結した状態で展開。そのままメガギラスの口内目掛けて投げたのだ。

投げられた双天牙月はメガギラスに当たる、と思われていた。だがしかしそのまま何もない空間を空ぶっていく。

 

「えっ……?」

 

目の前からメガギラスが消えた。あまりにも非常識な現象に鈴は一瞬思考停止してしまう。

そして気づくには遅すぎたのだ。自分の上にメガギラスが回り込んでることに。そのままメガギラスは鈴目掛けて襲い掛かるがその時、複眼に向けた大量の弾が着弾したのだ。それによってメガギラスは悲鳴を上げ、その場で落ちるかのようにのたうち回る。

咄嗟に躱した鈴だったが、一体何があったのかと目で追いかける。それはメガギラスに張り付いていたソレが答えだった。

 

「航!?」

 

「やらせるか!」

 

航はメガギラスが突っ込んできた際、無理やりその表面にしがみつき、意識が飛びそうになりながらもそのまま首元まで接近して機体の各所から射出されたワイヤーで飛ばされないように固定していたのだ。

そして機龍の左腕には大型の連装ガトリングである、クアッド・ファランクス改が展開されており、今は片腕しかないためその分弾幕量が減るが、それでも威力と弾幕を見たらメガニューラ相手には申し分ないだろう。それを全弾複眼に当てられたのだからどれだけダメージが入ったか分からないが、少なくともその動きを止めることには成功した。

 

「鈴、行け!」

 

「ありがと!」

 

そして再び逃げ出す鈴。それをメガギラスは追おうとするが、また複眼を狙われてそちらに意識が削がれる。

航は高火力のクアッドファランクスを用いても牽制程度にならないのは予想していたが、生物の弱点である眼を撃たれても、驚いてるようだがあまりダメージが無いようにも見えるのだ。

流石に不味いと1回離れようとしたが……。

 

「キュィィィ!」

 

メガギラスはとっさに体をひねって回転することで無理やり機龍を引きはがす。そして右前脚の鋏をそのまま叩き付けようと振り下ろすが、とっさに機龍も体をひねって火花を散らしながらその表面を転げるようにして回避した。

 

「ぐっ、ぅ……!」

 

紙一重で躱したため苦悶の声が漏れるが、また飛びついて攻撃すればいい。そう思っていたのだ。だがしかし、航が見たのは自分を喰わんと大きく開かれた口であり、それに気づいたころには逃げることはできなかった。

 

「しまっ……!」

 

勢いよく閉ざされる口。とっさの判断か本能か食われないように前歯の部分に足と手を掛けるが、機龍とは比にならないほどの力で口を閉じようとするのだ。

 

「ぐぅ……お……!」

 

今使える力を使って堪えるが、急に口が開いたかと思ったら再び勢いよく閉じてくるため、その衝撃でシールドエネルギーががくんと減る。

チャンスはピンチであるがピンチはチャンスでもある。現在航はメガギラスの口内が丸見えなため、お返しと言わんばかりにその口の中にメーサーを放ったのだ。

 

「ヂァァ!!!」

 

体の中を焼かれた痛みに驚き、機龍を吐き捨てると、鋏で思いっきり海に向けて叩き落す。そのまま一気に距離を取って再び滞空するメガギラスだったが、即座に反転してそのまま一夏たちがいる方へと向かう。

 

「待て、よ!」

 

航は海面に叩き付けられたが、とっさに姿勢を整えて海を割るような勢いで飛び、全速力でメガギラスを追いかけた。

 

 

 

 

 

箒は頭に走る頭痛を噛み殺しながら剣を振っていた。先ほどの高周波やメガギラスの突撃をくらってから、この痛みがずっと走ってるのだ。

まるで金づちで殴られてるかのような痛みに悲鳴を上げたくなるが、ここで倒れるわけにはいかないと顔を横に振って意識を正す。だがしかしそれが隙となり、メガニューラの攻撃に晒されてしまい、即座に空裂を振って斬り捨てるも猛攻は止まらない。

 

「はぁ……はぁ……あとどれぐらいいるんだ……!」

 

「まだたくさんいますわ……!」

 

「くそっ、多すぎる!」

 

そうは言ってもまだまだメガニューラの攻撃は止まらず、箒の絢爛舞踏も発動が安定しなくなってきている。正直ここらで逃げ出したいのが本音だが、周りは逃がす気がないため意地でも戦わねばならない。

その時1つの通信が入った。

 

『メガギラスがそっちに戻ってくる!』

 

声が聞こえたとき、メガギラスがこちらに向かってるのが見えた。

2度目の突撃。航の声が届いたのもあって全員回避に成功し、むしろ反応に遅れたメガニューラが数体巻き込まれたのもあって、少しながら穴ができる。

だがそれは油断でもあった。メガギラスは再び瞬時に方向を変えると、その巨大な鋏が紅椿を捕らえたのだ。一瞬の光景だったため固まってしまう面々だが、一夏はすぐに回復し、急いで放棄を追いかける。

 

「きゃぁぁ!」

 

「箒!くそ、箒を放せ!」

 

高速で振りまわされ、グロッキーになる箒。一夏は追いかけ、箒を捕らえた鋏の付け根を雪片撃貫で刺そうとするが、その硬い外皮を貫けず、焦りが募ってしまう。おまけにこの瞬間も、もう一方の鋏が一夏を捕らえようと動いており、躱そうものなら再び距離を開けられるため何度も二重瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)を使わざるを得ない状況へと陥る。

 

「くそっ!あの大きさであの動き反則だろ!」

 

こうしてる間にも鋏の力が強くなり、箒の悲鳴が響く。絶対防御も発動しており、シールドエネルギーが急速に減っているため時間が無い。

意を決して一夏は天羽々斬を発動させ、同時に二重瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)を使ってそのまま一気に箒のいる前腕へと向けて突っ込み、雪片撃貫を鋏目掛けて振り下ろす。

 

「箒を離せぇぇ!」

 

天羽々斬が鋏の節に食い込む。そのまま一気に下まで斬ったことにより、斬りおとすことはできなかったが節からの出血と共に鋏から解放された箒が海に投げ出されるが、それを一夏がとっさに追いかけて抱き留めることに成功した。

 

「箒、大丈夫か!?」

 

「い、いいい、一夏!わ、私は大丈夫だから!」

 

一夏の顔が近いため顔が真っ赤になる箒は、とっさに彼から離れて再び刀を構える。だがメガギラスは距離をとるや、再び翼を細かく動かし超高周波を起こしたのだ。

それと同時にメガニューラもこちらに飛ばし、再び大群に襲われる一夏たち。

 

「ぐっ……!」

 

強い耳鳴りに襲われるがISの保護効果もあって耳鳴り程度で済んでおり、どうにか迎撃を行う。だがしかし、その中で箒だけが様子がおかしい。まるで頭が割れるような痛みに彼女は襲われていた。

 

「あっ……あ、ぁ……」

 

頭の中がグチャグチャにされる。いったいこの気持ち悪さは何なのか。

その時、頭の中に見たことないのにすでに見たような映像が流れる。

 

 

―このナノマシンを入れたら箒ちゃんは私の思うがまま―

 

 

―ふふっこれなら箒ちゃん、いっくんを独り占めできるよ―

 

 

―あとは紅椿にナノメタルを仕込んで―

 

 

これはいったい何なのか。なんで姉の姿が脳裏をよぎるのか。まるで閉ざされていた扉からたくさんの情報が流れ出すかのような感覚。頭が焼き切れそうな状態になった箒は悲鳴を上げた。

それに全員が振り向き、一夏が急いで駆け寄った。

 

「箒!おい、どうしたんだよ!」

 

箒の様子がおかしい。そう気づいたころには遅かった。

 

「いち、助け、あた、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

 

箒の断末魔が響く。それと同時に紅椿に異変が現れた。その紅の装甲に亀裂が入り、そこから青鋼色の液体が漏れ出してくる。ナノメタルだ。

箒の焦点はあっておらず、手に握っていた空裂と雨月がぐずぐずに崩れる。だがそんなの関係なしにメガニューラが数体箒めがけて突っ込んだが、漏れ出したナノメタルが動き出し、それが一瞬で槍のように整形されて近くを飛んでいたメガニューラを貫く。

 

「チ、ヂ……」

 

断末魔も上げることすらできないメガニューラ。だが異変はすぐに起きた。貫かれた部分から蒼鋼色に変化していき、そのまま全身がそのようになるや、メガニューラが飲み込まれていくかのように形を失っていく。

 

「なんだよこれ……!」

 

その光景に言葉を失う一夏。紅椿は少しずつ形が変わってきており、ゆっくりと箒を包み込まんと動き出していた。メガニューラたちもそれを見たのか、先ほどより攻撃の勢いがグッと落ちるがそれでも激しいことに変わりがない。だがその時、1筋の雷光がメガニューラを数匹斬り裂いた。

 

「航!」

 

そこに現れたのは先ほどまでメガギラスと戦闘をしていた航だった。先ほどの一撃で機龍に大きな損傷があったのか、あちこちから火花が散っている。

 

「間に合……なんだよそれ……!」

 

「航!箒がなんか……どうすればいいんだよ!」

 

悲鳴のように一夏が言う。だがその時箒が右手に持ってる刀で一夏を斬りつけてきたのだ。とっさに踏み込みそのまま那由多で彼女の腕を掴むが、その力は尋常じゃなくそして左手に持ってる刀で一夏を横薙ぎに斬ろうとするが力が制御で来てないのか刀がボロボロと崩れる

 

「箒、止めろ!いったいどうしたんだよ!箒!」

 

一夏の声も空しく、ただ箒は再び刀身を作って横薙ぎに振ろうとしたとき隣から飛んできた“尻尾”によって阻まれ、そのまま箒は弾き飛ばされる。

 

「航……!」

 

そう、航が機龍の尾で箒を薙いだのだ。迷ってる暇はなかった。だが航は今の箒を見てすごいゾワゾワする、強い嫌悪感を覚えていた。これがいったい何なのか分からないが、今の箒は銀の福音張りに危険なモノになり替わろうとしてるのだけはよくわかったのだ。

 

「一夏、箒を斬れ!」

 

「はぁ!?」

 

いったい何を言ってるかと言わんばかりに航に目を剥く一夏。

航も余裕がないのだ。ただでさえ体はいつ動かなくなってもおかしくない中、さらにメガギラスの軍団に暴走してる箒。この状態では一番に箒を抑えるのが先決なのだ。

だがこうしてる間に箒は近くにいるメガニューラを襲い、吸収していく。そして少しずつ紅椿がぶくぶくと膨れ上がっていっており、光の消えた彼女の眼がメガギラスを捉え、スラスターに光が灯る。

 

「天羽々斬だ!じゃないと箒が死ぬぞ!」

 

迷ってる暇はなかった。このままでは自分も殺される。そう判断した一夏は即座に天羽々斬を発動し、高々と箒に向けてに振り上げる。

 

「箒、ごめん……!」

 

そしてその刃を振り下ろした一夏。箒は刀で防ごうとするも光の刃はそのまま刀を切り抜けて箒を斬り裂き、一瞬にして紅椿の機能を停止させる。それによって空に投げ出された箒だったが、即座に一夏が右手で抱き留めることで落ちることは阻止された。

 

「箒!箒!返事しろ!」

 

「いち、か……」

 

そのまま箒は意識を失う。苦しかっただろう。箒の鼻や耳からは血が流れており、涙も少し赤く染まっていた。

 

「なんでだよ……なんで箒が……!」

 

そのまま怒りの形相となり、那由多から光線をメガニューラの大群に向けて薙ぎ払う。それに何体か飲み込み、再び放ってまた何体も飲み込んでいく。

 

「馬鹿ッ!?無駄にエネルギーを使うな!」

 

ラウラの制止も空しく、一夏派那由多を照射、連射を繰り返す。だがメガニューラも慣れて来たのか次第に当たらなくなっていき、そして。

 

「しまった、エネルギーが……!」

 

怒りに任せた連射により一気にシールドエネルギーが無くなり、レッドゾーンを示すアラートが鳴り響く。だが箒はもう戦闘不能になっており、シールドエネルギーを回復させる手立てがない。

独立稼働の零落白夜は使えるが、これもマガジンが残り少ないため攻撃の手段は限られてくる。だがそれでも一夏派雪片撃貫を強く握りしめ、零落白夜を発動させようとする。

 

「一夏、皆を連れて逃げろ」

 

「航……!?」

 

その時、航が彼の前に立って制したのだ。だが彼の言ったことが信じられないのか、一夏は驚きを隠せていないが次第にその顔は険しくなる。

 

「それはどういう意味だよ航!」

 

「皆の機体の性能が一気に落ちてる。だから、その影響を受けてない俺がやるしかねえ、だろ……。それに一夏、箒を抱きかかえたままどうする気だ?だから一夏、皆を連れて行け……。ここは俺が食い止める、から……」

 

体が再び痛み出してるのか小さく苦悶の声になってる航。一夏はそれが気に入らず、声を荒げる。

 

「バカ言え!なんで俺がお前を置いて行かないといけないんだよ!もうお前も機龍もボロボロじゃないか……。そんなので勝てるわけねえだろ!それなら俺も」

 

「エネルギーがあまりない機体、で何ができるんだ……」

 

「航、それは本気で言ってるのか……!?」

 

「……」

 

ただ航は何も言わずただメガギラスたちと睨み合いを続けている。そしてスラスターに光が灯り、奴らの中に飛び込もうと姿勢を少しかがめる。

 

「航……」

 

その時、航は声をかけてき方に目線を向ける。そこには簪が機龍の指をギュッと握りしめており、それを見た航は少し困ったような笑みが浮かび上がる。

 

「航……ダメだよ……。お願いだから……」

 

泣きそうな声。それもそうだ。こんな死にに行く行為を誰が喜んで見送れるものか。

 

「大丈夫だ。前にもあっただろ、こういうこと。だからちゃんと帰ってくるよ、俺は」

 

だが簪はそれでも手を放そうとしない。だがそうしてる間にも警戒を強めていたメガギラスが吼え、再びメガニューラ達が動き出す。

 

「……簪。かt……楯無に伝えといてくれ。帰るのが遅れる。帰ってきたらお前のご飯が食べたい、って」

 

「っ……!」

 

簪は昔の航を思い出すと同時に、彼の嫌いだったところも思い出してしまう。あの時もそうだった。自分を逃がすために、航が独り残ったときのことを……。

グッと拳に力が入り、それでも彼を連れ戻そうと声を上げようとした、ときだった。

 

「航!」

 

「織斑、くん……」

 

簪は一夏が止めてくれるのではないか、そう一筋の願いを託すが、彼の言ったことは彼女の願ってたこととは真逆なことであった。

 

「本気でやるのか?」

 

「……あぁ、もちろんだ」

 

一夏ははギリッと歯を軋ませ、そのまま少しずつ彼から出ていた殺気が収まっていく。彼の力になれない。それが一夏はただ悔しかった。ただこれだけは良いだろう。一夏はそう思って口を開く。

 

「……航っ!そういうならホントに戻って来いよ!じゃねえと俺が殴りに行くからな!」

 

「わかってるよ、それぐらい……」

 

一夏の檄を受けて小さく笑みを浮かべる航。それが伝わったのか、一夏は悔しそうにしながらも航に背を向けた。

 

「……皆、行くぞ」

 

そう言って海域を離脱しようとするが、簪は嫌だと首を横に振る。

 

「でも、航が……!」

 

「更識さん、アイツの決意を無駄にしてやらないでくれ……頼む……!」

 

振り返って航を見る簪。その背中はあの時と重なるが、強い不安が彼女の脳裏によぎる。だが、それでも航を信じるしかない。涙をぬぐい、一夏たちに続いて簪も海域を離脱し始めた。

 

「あぁ、こえぇな……。カッコつけたくせに、今になって怖くなってきやがった……。死にたくねえよ……」

 

皆を見送り、誰にも聞こえない声でそうつぶやく航。彼だって怖いのだ。いくら機龍であろうとも、中破でありながら更にこの戦力差。

帰れるわけがない。心の中で本心はそうつぶやく。

不意に戦う前より体が軽いと航は思った。そこそこ血が抜けたせいか頭が冴えてるような気分になり、航は聞こえてるか分からない機龍に語り掛ける。

 

「機龍……俺は怖いよ。体もあまり動かないのにこんな無茶してさ……笑いたいのに笑えないや。逃げるチャンスはあるけど、正直これじゃ“間に合う”か分かんないな……。それが出来なかったらここで死ぬのかな……?でもさ……そういうわけにはいかないんだ」

 

航は目を閉じ、水色髪の彼女の後姿が思い浮かぶ。それに手を伸ばすと彼女は振り返り、小さく笑みを浮かべ……。

機龍の背びれに紫電が走る。それに呼応するように機体温度が少しずつ上がり始め、廃熱ダクトから大量の蒸気を噴き出す。

 

「帰るんだよ、俺は……。もう一度刀奈を抱きしめるんだよ……!だから、死ぬわけにはいかねえんだ!機龍!もう一度だ!もう一度俺に力を貸せ!」

 

“GOZILLAsystem stand by”

 

航の叫びに応えるかのように女性のボイスが聞こえた時、機龍の焼け爛れた背びれから稲妻が空に向けて放たれた。

そして機龍の目は真っ赤に染まり、機体機体温度も上昇。その熱に顔をしかめる航だがそれと同時に小さく獣のような笑みが浮かんでいた。

 

「キィィァァァアア……ギィァァア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

ビリビリと響く咆哮。それに反応したメガニューラは、進行方向を完全に機龍の元へと向ける。

 

「行くよ、機龍!」

 

スラスターから赤い光を吐き、加速をかけた機龍()はメガニューラの大群の中に突っ込んだ。




正直メガギラスの超高周波はどこまでの機械を狂わすかってのは悩みましたが、ISのシールドによってそこそこ拒まれるがやっぱり効くという感じにしました。
なおメガギラスにクアッドファランクス当ててますが、人間で言うならゴーグル越しにモデルガンから目を撃たれてる感覚です。ええ、ほぼ効いてません。

というかメガギラスは熱攻撃以外なら物理攻撃にも強いと思うんですよね。ただよく斬られるけど。




では次回をお楽しみに


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