ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結) (ホイコーロー)
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ソードアート・オンライン《三人の勇者》(凍結)
出会い


初投稿。
どうかお手柔らかに。



場所はとあるアパート。

押入れと大量の参考書が詰まった本棚のある部屋以外には、小さな台所と便所があるだけの一室。

 

(やっとこの時が来た…!)

 

そこでは短く刈り上げた黒髪に、年の割には無邪気な表情を携える一人の大学生、《皆藤(かいどう)(あきら)》という青年が喜びに身体を震わせていた。

彼の手の中にはヘルメットのような形をした機械が収まっている。

 

(βテスト以来、あの世界を何度夢に思い描いてきたことか…。それにしても買いに行った時のあの行列はハンパなかった。優先購入チケットがなかったら絶対に買えなかったね。)

 

その機械の名前は《ナーヴギア》。

これを使うと、脳に直接電子化された五感情報を与えて仮想空間を形成することで目や耳などの感覚器官を介さずに、まるで自分の体そのもので動き回っているかのような体験をすることができる。

 

今年2022年に”とあるゲーム”と同時発売された。

 

そのゲームとは《ソードアート・オンライン》、通称SAO。

世界初の、上記のフルダイブ技術を用いたVRMMORPGであり、発売が決まった当初から日本だけでなく世界中でも注目を集めていた。

 

そんな中、わずか1000人にのみ許された試行運営に参加してからというもの、彼はその魅力にすっかり取り憑かれてしまっているのである。

 

(あいつとの待ち合わせもあるし、そろそろ準備しないとな。)

 

 

 

 

 

 

 

そしてここにもSAOを待ちわびた者が二人。

 

「お兄ちゃん、五時間だよ、絶対五時間たったら交代だからね!そもそも、それ手に入れたの小町なんだよ!本当なら小町が先なんだからね!!」

 

「あぁ、分かってる。本当に感謝してる。俺の妹は幸運の女神様だな。それよりお前は友達との約束があるんだろ?早く行ってこいって。」

(ぼっち万歳、リア充ざまぁ。)

 

「あ!今なんかバカにしたでしょ!小町的にポイント超低いよ!」

 

「なんで分かるんだよ…。」

 

《比企谷八幡》とその妹の《比企谷小町》はβテストこそ外れたものの、小町が商店街のクジでSAO同梱版のナーヴギアを手に入れることに成功していた。

普通に買えば12万8000円もする上、その人気ゆえにネットなどで見れば倍の値段でも手に入れることは出来ないのだから、確かに女神といっても過言ではないかもしれない。

しかしSAO開始時にその女神様は家にいないため、しぶしぶ兄に先を譲ったのである。

 

(そろそろだしキャリブレーションだけでも済ませておくか。アバターはどうすっかな…さすがにリアルと全く同じなのはまずいか?…まぁ、いいか。トイレも済ませておかないとな。)

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、《桐ヶ谷和人》もナーヴギアを手にベッドに横になる。

 

 

 

 

 

 

 

そして彼らは

 

「「「リンクスタート!」」」

 

仮想世界へとダイブした。

 

 

 

 

 

 

 

「ついに!俺は戻ってきたああアアァァァ!!!」

 

そこには両手でガッツポーズを決める一人の青年。

周囲の視線が一斉に彼へと集まるがそんなのは気にしない。

待ちに待ったこの瞬間、今はじけないでどうしろと言うのか。

 

(さっそく一狩り!と行きたいが…約束があるからな。確か待ち合わせ場所は一番でかい木の根元だったか。まだ遅れてるわけじゃないし、適当に見て回っちまおう。)

 

 

落ち着いて見ると、開始直後だというのにかなりの人数がログインしているようだ。

そしてやはりというか、ゲームの特性上、女性よりも男性プレイヤーの方が圧倒的に多いはずなのに同じぐらい…むしろ女性の方が多いようにも見える。おまけに誰も彼もが美男美女ときた。

 

(ま、これもSAOの醍醐味の一つだな。俺の方がおかしいんだろう。)

 

彼自身はというと、βテスト時には多少は見た目を変えたものの、違和感があったので今はリアルとほぼ同じ容姿にしている。

それでも人並み以上にイケメンなので周りとさして変わりはしないが。

 

 

しばらく歩いていると一際浮いているプレイヤーを見つけた。

いや、”沈んでいる”とでも言った方がいいのか…目元がすごい。目つきが悪いとか、くまが出来ているわけでもないのにどことなく負のオーラが漂っている。

どう見ても理想を形にしたようには到底見えない。

興味がわいたので話しかけようと手を挙げて合図すると、

 

「おい、そこのおm「すいません急いでいるので。」

 

ものすごい勢いで逃げられてしまった。

 

(なんだありゃ!?つれない奴だなぁ…ってやっべ!)

 

ふと時計をみると約束の時間をすでに過ぎていた。

 

 

〜10分後〜

 

「遅い。」

 

「悪かったよ。ちょっと面白い奴を見つけてな。」

(逃げられちまったけど。)

 

「哲はホントに…。それより見た目そのままじゃないか。」

 

「こっちの方がしっくりくるんだよ。それとリアルを持ち出すのはマナー違反だろ?ここでの俺の名前は《カイト》だ。早く行こうぜ、《()()()》。」

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、比企谷八幡こと《ハチマン》はフィールドに出てエネミーを狩り始めていた。

考えるのも面倒だったのでプレイヤー名も外見もリアルと全く一緒にしている。

 

そして一つ、狩りをしていて気付いたことがあった。

彼にはどうも《ソードスキル》というものが合わないらしい。

出せることには出せる(どころかかなり早い段階で習得した)のだが、体が勝手に引っ張られるような感覚にどうも落ち着かない。

どこぞのバンダナのおっさんが聞いたら怒り狂うかもしれない贅沢な悩みである。

 

(どうしたもんか…。)

 

そこで彼はあることを思いつく。

 

 

 

 

ハチマンは今、森の中にいた。

 

「おらよっと。」

 

目の前にいたエネミーがポリゴンとなって消滅していく。

 

(まぁまぁだな。しばらくはこれでやっていくか。)

 

結果は上々。思いついたやり方が実戦でも通用することに満足げなハチマン。

 

(そろそろ小町と約束した時間か。早めにログアウトしてしまおう…ってあれ?)

 

しかし彼はある異変に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「~ハックション!!」

 

「うおっ。大丈夫か、クライン。」

 

「あぁ、なんか突然、鼻が痒くなってな。」

 

カイトたちはフィールドに出て狩りをしようとしたところでSAO初心者の《クライン》にレクチャーを頼まれたので、肩慣らしを兼ねて簡単な場所で狩りをしていた。

 

「それにしてもよ、確かにこれはハマるぜ。サンキューな、キリトにカイト。」

 

「いや、今教えたのは初歩の初歩だ。細かいシステムとかは体験して慣れるのが一番だから、早いうちにいろいろ試してみるといい。」

 

「了ー解ッ!」

 

 

その後も段階を踏みながら狩りをしていた三人。

クラインが一旦リアルに戻るらしいのでフレンド登録だけ済まして別れようとするが、ログアウトボタンがないことが発覚し三人で頭を悩ませていた。

 

『リンゴーン、リンゴーン』

 

その時、大きな鐘の音がアインクラッド中に響き渡った。

 

 

 

 

『ごきげんよう、SAOプレイヤー諸君。私はこのゲームの GM (ゲームマスター)、《茅場晶彦》だ。どうだろう、私の世界は気に入っていただけただろうか?』

 

次の瞬間カイトたちは広場へと転送されていた。いや、彼らだけでなくログインしている全プレイヤーが集められているらしい。

普通に考えればGMによる粋なイベント。

しかしそこで起こった出来事は想像を絶するものだった。

 

 

 

 

「なんだって!!??」

 

プレイヤーたちがゲームの中に閉じ込められてしまったのである。

しかもここでの”死”は現実世界での死を意味するという。

プレゼントだという《手鏡》を取り出すとカイトの目の前にはよく見知った《桐ヶ谷和人》と、野武士のような外見になったクラインがいた。カイトはもとから《皆藤哲》の姿なので変化はなかったが、次々と周囲の美男美女が冴えない男たちへと姿を変えてゆく。

 

「カイト、これって…。」

 

「ああ、早いとこ先に進むべきだな。」

 

βテスターであるキリトとカイトはこれから起こることを理解し、クラインを連れて街の外に出ようとする。しかし…

 

「すまねぇ…俺はダメだ。仲間もいっしょに来てるはずなんだよ。あいつら、俺がいなきゃ右も左もわからねぇような奴らなんだ、見捨てては行けねぇ。」

 

「で、でも!「やめろ、キリト。」え?」

 

「こいつはこいつでやらなきゃいけねぇことがあるんだ。一旦落ち着け。別に今すぐ死ぬ、って決まったわけじゃあないだろ。」

 

「…わかった。死ぬなよ、クライン。」

 

「そんなつもりはさらさらねーよ!!お前らこそ絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!!」

 

 

 

 

そしてクラインと別れた後、街の外に出ようとした二人。

 

「ちょ、ちょっとそこの二人、俺も一緒に行っていいか?」

 

するとそこで、”死んだ魚のような眼をした男”に声をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

(これは…マズイな。)

 

ハチマンはいたって冷静だった。

現状、打開策があるかと言えば、そういうわけではない。

 

(落ち着け、よく考えろ…。)

 

しかしもちろん諦めるわけにもいかなかった。

彼にも帰る場所、帰らなければいけない場所がある。

 

(恐らくここにいる連中はすぐに混乱状態になる。このままここにいたらこっちまで巻き込まれるな。あのGMが言っていたことが本当かどうかはまだ分からないが…どっちにしろ生き残るためにはいかに早く次の段階に足を進めるかがカギだ。だが、だからと言って俺にはこの街から安全に抜け出せるほどの知識はない…くそっ!!一体どうする…。)

 

諦めかけたその時、視線の端に広場の外へと向かう影をとらえる。

 

(あいつは確か、昼間俺に話しかけようとしてきた奴。あいつもリアルと同じ姿だったのか………これが最善策か…。)

 

そしてハチマンは意を決してその二人組に声をかけた。

 

 

 

 



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四人目の勇者?

ヒッキーがマジで「お前誰?」っていうレベルでキャラ崩壊しとる…。



三人は森の中を走っていた。

 

「昼間見かけた奴があそこで話しかけてきたのにはかなり驚いたぞ。」

 

「まぁ…なりふり構ってられる状況じゃなかったしな。」

 

(話には聞いてたけど…確かにすごい目だな。まるで目が腐っt「俺の目は腐ってなんかないからな、キリト。」!?)

 

思考を読まれてキリトは表情が固まっている。

ハチマンからすればいつものことなので別に気にはしない。

 

(おいおい、マジか。ゲームの中だとだいぶ普通に話せるんじゃないか、俺。まさかここが俺の生きる道!?……なんかそれ、逆にショックだ…。)

 

とはいえ、もし全く面識がなければハチマンは二人に声をかけることはなかっただろう。この緊急時にカイトを見つけたことはハチマンにとって不幸中の幸いだった。

 

「それにしても二人ともβテスターだったとはな。(これが一石二鳥ってやつか?…どっちかっていうと、棚から牡丹餅って感じだな。)」

 

「いや、こっちこそハチマンみたいな上手い奴が加わってくれて助かった。正直、二人だと不安だったからな。さっきの戦闘だって一人で終わらせちまったじゃねぇか。」

 

「しかもソードスキルを使わずにそれだけできるんだから…本当に驚いたよ。」

 

そう、キリトの言う通り、ハチマンは今のレベルで取得できる二つのスキルに《隠蔽》と《索敵》を選択している。これではソードスキルを発動する事は出来ない。本来それはこのSAOにおいて致命的ともいえることだった。

 

「その方がやりやすかったんだから、しょうがないだろ。まだ俺に必殺技なんてモノは必要ないってことだ、っと。また来たみたいだ。」

 

索敵スキルを発動させていた彼はいち早く敵に気付き、一人で大丈夫だと判断すると先行して隠蔽スキルを発動させながら近づく。ステータスも《敏捷》に多めに振っているらしく、敵に気付かれる頃には既に初撃を加えてしまっている。

しかし、もちろんソードスキルは使っていないのでそれだけでは倒せない。

 

(何度見てもあっぱれとしか言いようがないな、あれは。)

 

むしろ彼の本領はここからなのだ。

一撃を加えた後、距離をとって相手の動きをよく()()。その僅かな動きも見逃さず、敵が行動をする時には彼はすでにその先をいっていた。

そして敵の隙をついてダメージを与えていく。

数回の斬り合いの後、エネミーはポリゴンとなって消滅した。

言葉にするのは簡単だが、それをこの短期間で習得し、実行するには相応の覚悟や能力が必要だ。ちょっとしたミスが命取りになる。

しかしハチマンはそれをいとも簡単にやってのける。それもものすごい早さで。

つまり彼はその場の状況整理とそれに基づく駆け引きが非常に上手いのだ。無謀とも思える踏み込みも冷静な判断によるもので、戦闘時間を下手に伸ばすよりも遥かに安全な戦法である。

 

「で、この後はどうするんだ。」

 

「あぁ、この先の村で《森の秘薬》っていうクエストを受けよう。それをクリアすれば《アニール》っていう種類の強力な武器が手に入る。」

 

「まあ、βテストと変わりがなければ、の話だがな。」

 

「「……。」」

 

「二人とも、気をつけろよ。これからは情報の真偽は命に直結する。まずは全てを疑え。しばらく”安心”なんてモノは…手にはいらねぇぞ。」

 

「言われなくとも。」

 

「そしてキリト。」

 

「?」

 

「あまり気にしすぎるな。誰にだってできないことはある。しかも今の俺たちは弱い。誰かを守りたいなら…力をつけろ。」

 

「!!…分かってる…。」

 

 

 

 

そして目的の村に到着し、装備を整えた三人はクエストを受けて森の中へと進んだ。

 

「《花付き》を探すんだ。逆に《実付き》を見つけたら気をつけろ、絶対に手は出すな。」

 

「了解…《実付き》ってあれのことか?」

 

「何!?あれは…《花付き》じゃないか!驚かすなよ…。それにしてもラッキーだぜ!アタリを初っ端から見つけるとは。」

 

「よし、じゃあこれで一つ目だな。作戦はさっき話した通りでいこう。」

 

このクエストの標的の《リトルネペント》は群れで動くので、まずはキリトとカイトが突っ込み《リトルネペント》からのヘイトを集め、その隙にハチマンが隠蔽スキルを使いながら《花付き》に近づいて仕留めることにしていた。

今回は三人とも無傷で終わらせることが出来た。

 

「なんだ、案外すぐに終わるんじゃないか?」

 

「おい、やめろ!変なフラグを建てるんじゃない!」

 

「え?」

 

 

〜約一時間後〜

 

「やってくれたな、キリト…。」

 

「いやいや、俺のせいじゃないだろ!さっきも言ってたじゃないか!βテストの時より出現率が下がってるのかもしれないだろ!?」

 

「いや、お前が悪い。」

 

「二人して!?」

 

キリトが見事にフラグを建ててしまったからなのか、二匹目の《花付き》が現れなかった。

がっくりと肩を落とすキリト。カイトはそれを見て笑っているが、ハチマンの目は半分本気だったのに二人は気付かない。

そんなやりとりをしているとそこに、

 

「あ、あのぉ…皆さん、《花付き》を探してる方々ですか?」

 

一人の少年が話しかけてきた。

 

 

「そうだが。何か用か?」

 

「よければ僕も混ぜてほしいな…なんて…。」

 

「あぁ別に構わ「「ちょっと待て!」」うぉッ!?」

 

「どうして俺たちだったんだ?その情報を知ってるってことはお前もβテスターなんだろ。(俺と違って)別に一人でも出来るはずだ。」

 

「さっき皆さんが戦ってるところを見たんです。そしたらすごい強くて。それにあの茅場って人が言うにはここで死んだら本当に死んじゃうみたいだし、一人だと不安じゃないですか…。だから皆さんだって三人で行動してるんでしょ?」

 

彼の言い分は至極まっとうなもので、自分も人のことが言えないハチマンとしては一人で決断を出すことはできないと判断する。

 

「(どうする。)」

 

「(別にいいだろ。何か心配でもあるのか?)」

 

「(まあ、こっちは三人であいつは一人。いざってなってもどうにかなるしな。)」

 

「…もう一つ。そっちから頼んできたんだ、お前の分は最後で、明日の朝までに見つからなかったら諦めろ。それでも構わないな。」

 

「はい!もちろんです!」

 

「…カイトはどうだ。」

 

「あぁ、俺もそれだけ聞ければ十分だ。」

 

「と、いうことは…?」

 

「いいぜ、入れてやるよ。」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

そして《コペル》を加えた四人で狩りを再開した。

 

 

〜さらに約二時間後〜

 

「出ませんね…。」

 

いまだに二匹目の《実付き》が現れる気配が全くない。

さすがに四人の表情に焦りが見えてきた。

 

「あぁ、そうだな、ってどうして二人して俺の方を見るんだ!さっきからずっと視線が痛いんですけど!?全く…俺のせいじゃないだろうってのに…ん?」

 

その時キリトが《リトルネペント》の群れを見つける。

 

「おい、あれって《花付き》じゃないか!?」

 

そこには確かに《花付き》の姿が。しかも、

 

「二体!?」

 

「こりゃあ、スーパーラッキーだぜ!これで少なくとも俺たちの分は確保できる!あ、今回は別にコペルは参加しなくていいぞ。そこら辺で待っとけ。」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ、はじめと同じ方法で「ちょっと待て。」どうした?」

 

しかしハチマンが気付く。

 

「あれ、《実付き》じゃないか…?」

 

「「!!??」」

 

 

「どうする…?」

 

「やることは変わらない。ただ、《実付き》を抑える役目が必要だな。キリト、頼めるか?」

 

「問題ない。じゃあハチマンが《花付き》を、カイトがその他をってことで行くか。」

 

「オッケー!」「了解。」

 

それぞれの役割を決め、駆け出していく。

 

キリトは実を傷つけないようにしっかり《実付き》をコントロールし、カイトも十体近い《リトルネペント》を器用にあしらっている。

その働きに応えようと、ハチマンは今までより遥かに早い時間で二体の《花付き》を処理した。

 

「なんだ、思ったより簡単じゃないか。」

 

「お前はまたそうすぐ油断して…。」

 

「まぁまぁ、確かに上手くいったんだし後はコペルの分を見つけるだけなんだから、ってあいつはどこいった?」

 

「!!??」

 

一番早く気付いたのはまたしてもハチマンだった。

コペルは《実付き》へと剣を振りかぶっていたのだ。

 

「やめろ!!」

 

「…ごめん。」

 

そして《実》が破裂した。

 

 

既にコペルの姿はそこにはなく、すぐに大量の《リトルネペント》が方々から集まってくる。

 

「くそッ!初めからこれが狙いだったのか!」

 

「落ち着け、キリト。慌てると出来るもんも出来なくなっちまう…ハチマン、どうかしたか。」

 

(軽く50は超えてるな…。一人ノルマ20。まあ、俺たちならできなくはない、とその前に。)

 

次の瞬間二人の前からハチマンが消え、

 

「ぐぎゃ!」

 

コペルを脇に抱えて木の陰から出てきた。

 

「お前!よくも!「落ち着けって。」でも!」

 

「こいつを逃すわけにも行かなかったが、とりあえずは目の前の問題だろ。

一人ノルマ20。いけるな?」

 

「ハッ!当然!」「…分かった。」

 

そして呆然とするコペルを置いて三人は《リトルネペント》の大群へと向かっていった。

 

 

 

 

「死ぬかと思った…。」

 

見ればキリトのHPは危険を表す赤色。しかしなんとかやり遂げた。カイトとハチマンも無事なようだ、というか二人とも赤色にもなっていない。

 

「さて、それじゃあ、お話を聞こうか、コペル君?」

 

コペルはハッとしたように顔を上げるが時既に遅し。三方を三人に囲まれてしまっていた。

 

「話なんて聞く必要ない。こんだけのことをしたんだ、それなりの覚悟があってのことだろ。」

 

ハチマンがそう言って剣を振りかぶる。

 

「待ってくれ。」

 

しかし、それをカイトが阻止した。

 

「なんだよ。まさかこいつをこのまま見逃すって言うんじゃないだろうな。」

 

「まさか。ただ、()()はダメだ。プレイヤーを攻撃したりするとペナルティが発生するんだよ。こんなことでわざわざデメリットを負う必要はない。だからこそ、こいつもこんな回りくどい方法をとったわけだし、なぁ、コペル君?他人を蹴落としてでも生き残ろうとするその根性は悪くはないが相手が悪かったな。」

 

「じゃあ、どうするっていうんだ?」

 

するとカイトは笑みを浮かべ、キリトとハチマンに嫌な予感が走る。

 

「コペル、お前のその腐った根性、俺が叩き直してやるよ!!」

 

 

 

 




・クエスト《森の秘薬》で片手剣以外の武器も手に入ることにしました。
・スキルスロットはLv.1、Lv.2、Lv.6、Lv12、Lv20になったところで一つずつ、それ以降はレベルが10上がるごとに一つずつ増えていくことにします。
〈例1〉Lv.8…3個
〈例2〉Lv.57…8個


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第一層攻略〜前夜〜

このデスゲームが開始してから一か月が経った。

さすがにここまでくると外部からの救出をあきらめたのか、いままでくすぶっていたプレイヤーたちが一斉にゲーム攻略へと動き出していた。

だがそれは同時に大量の初心者の誕生でもある。

プレイヤーの死亡数は格段に増えてしまった。

これまでで約2000人のプレイヤーが死亡。

しかし、いまだに第一層のボス部屋さえ発見されていない…。

 

 

 

 

 

 

 

カイトたちは今日、初のボス攻略会議が開かれるという《トールバーナ》にやってきていた。

そこには彼ら以外にも40人強のプレイヤーが集まっている。

 

「誰かがボス部屋でも見つけたんでしょうかね、()()。」

 

「まあ、そんなとこだろうな。どっちにしろこういう場が開かれるってだけでも今はありがたい。正直に言うと思ってたよりは少なかったけどな。」

 

「それより俺にはお前が俺らと一緒にここにいるってことがあり得ないけど、()()()。」

 

そこにはカイトたちをMPKしようとしたコペルの姿があった。

 

 

あの後、カイトは二人の反対も全く聞かず、勝手にコペルを同行させることを決定してしまった。これにはコペル本人もビックリ仰天である。

逃げ出そうとしたことも一度や二度ではない。

しかしその度にカイトに連れ戻されるため、数日でおとなしくなった。

そしてカイトは宣言どおりコペルを一人前に、どころかこうして攻略会議に参加できるようなトッププレイヤーの一人として育て上げてしまったのである。

ちなみにコペルがカイトのことを師匠と呼んでいるのは自主的にであり、決してカイトが強制しているわけではないといっておく。

 

 

「ハチマンはコペルが来てからずっと機嫌悪いよな。」

 

「はあ?絶対お前らの方がおかしいだろ。だってこいつは俺らの事を殺そうとしたんだぞ。」

 

「もういいじゃないか、あれ以来ホントに更生したんだから。お前は気にしすぎ「いえ、しょうがないんです。僕はあの時決して許されないことをしてしまったんですから。」コペル…。」

 

「僕はあの時殺されても文句は言えなかったんです、許してほしいだなんて言えません。だからこそ!これからは攻略に精一杯貢献していってみせます!」

 

「おう、その意気だぜ!」

 

(あの時こいつらに声をかけたのは早計だったかも…。)

 

ここだけの話、ハチマン自身もしばらくしたら二人とは別行動するものだと思っていた。しかしそれを切り出そうとするとその度にカイトがさりげなく別の話にすり替えてしまうのだ。

今では彼もコペル同様に諦めている。

 

「まあ、精々頑張れ。」

 

 

 

 

 

そして第一層のボス攻略会議が始まった。

《ディアベル》と名乗ったプレイヤーが広場の中央で話し始める。どうやら彼のパーティがボス部屋を見つけたらしい。それをネタにそこにいるプレイヤーのやる気を盛り上げていく。

 

「上手いな。」

 

「あぁ。」

(あいつ、葉山にめちゃくちゃ似てるな…。あいつはこれだけの人数を、それも今日初めて出会ったばかりの連中を焚きつけてるんだからその練度は比べ物にならないけどな。)

 

 

彼の演説も佳境に入ってきた頃、突然ギザギザ頭のプレイヤーが飛び出してきた。

《キバオウ》と名乗ったそいつはどうやら初心者を見捨てて保身に走ったβテスターを批判しているらしい。プレイヤー間に不穏な空気が流れ始める。

それに対しキリトは青い顔をしているのが見てとれるが、その隣でカイトは怒りを露わにし、ハチマンは無言でキバオウを睨んでいる。

コペルは二人が何かするんじゃないかと気が気じゃなかったが、その前に一人の黒人の大男が抗議に入った。

《エギル》と名乗ったそいつは懐から一冊の本を取り出す。それは《始まりの街》で無料配布された《攻略本》だった。彼はそれがβテスターたちによって作られたものであると説明する。

つまり情報は誰にでも等しく公開されていて、多くのプレイヤーの死をβテスターに押し付けるのは間違っていると反論する。

おかげでなんとかその場は治まった。

 

 

「じゃあとりあえず何人かでパーティを作ってみてくれ。」

 

(予想はしてたが…どの世界でも班分けからは逃れられない運命なのか…。)

 

ハチマンはかつてのトラウマを頭に過ぎりながら、カイトたちと共に行動していたことに今更ながら感謝する。

 

「四人もいればパーティとしては別に問題ないだろ…ってカイト、そいつは誰だ?」

 

「紹介するぜ、アスナさんだ!」

 

「…よろしく。」

 

「お、おぅ、よろしく…ってそうじゃねぇよ。なに勝手に連れてきてんだよ。」

(これ以上面倒を増やすな!しかも女かよ、このリア充が!)

 

「え、だってまだパーティ組めてないみたいだったから…。」

 

(しかもぼっちかよおおオォォォ!?)

 

「僕はコペルです。」

 

「え、えーと、キリトだ、よろしく。」

 

(くっ、こいつはコミュ障の癖に一丁前に勇気だけはありやがる…。)

 

「そう…。あなたは?」

 

「ひゃ、ヒャチマン…です…。」

(…死にたい…。)

 

「…プッ…。」

 

「!?こ、こいつ「よ、よろしくな!」…よろしく…。」

(絶対に許さないリストに追加決定~。)

 

《アスナ》が仲間(?)になった。

 

 

 

 

アスナはぼっちなだけってパーティを組む上で必要な知識がごっそり抜けていた。

初めは連れてきたカイト本人でもハズレだったかと考えていたが、それは杞憂に終わる。

アスナの実力は予想以上だったのだ。これならボス戦でも全く問題ないだろう。

しかし、アスナの戦い方には一つ、決して見逃せない問題があった。

 

「あの~、アスナさん?今まで、ずっとそんな風に戦ってたんですか…?」

 

「そうよ。それが何か?」

 

「いや、何かって…アスナは生き残りたくはないのか…?」

 

キリトがそう言うのも無理はない。

アスナの戦い方には鬼気迫るものがあり、自分の身の安全を顧みているようには見えなかったのだ。今まで無事だったことが信じられないほどに。

 

「…そんなの、遅いか早いかだけの違いじゃない。どうせ、誰も生き残れやしないわ。だったら私は…少しでも…「そんなことねぇ!!」…?」

 

「いつか…いつか俺たちの手でこのデスゲームを終わらせる、絶対にだ!俺はその日まで、できる限り多くの人に生き残っててほしい。もちろん、アスナ、お前にもだ。だからもう…二度とそんなことは言わないでくれ、頼むから…。」

 

カイトの口調は、それこそ、アスナの戦い以上に必死なものだった。

 

「…何を根拠にそう思うのよ、あなたは。」

 

「それを今度のボス戦で見せてやる。このゲームはいつか絶対に俺たちの手でクリアできるんだって証拠をな。」

 

「そう…分かったわ。その時には考え直してあげる。」

 

二人のやりとりを聞いて、安心した様子のコペルとは違い、キリトは複雑な表情を浮かべていた。

 

(こいつら…マジかよ…。)

 

唯一、ハチマンだけが四人についていけていなかったのは想像に難くないだろう。

 

 

 

 

その日はパーティの連携とボス部屋の確認だけで終わった。

 

「はあ~!つっかれた!」

 

「こんなにフィールドに出ずっぱりだったのは久しぶりでしたね。」

 

「それにしてもハチ君ってほどんどソードスキル使わないんだね。驚いちゃった。」

 

「使わないんじゃなくて使えないんだよ。俺からしてみればあんたのソードスキルの方があり得ねぇよ。なんだよあれ、ほとんどビームじゃねぇか。それとハチ君って呼ぶのはやめてくれ。」

(俺がエリートボッチじゃなかったら過ちを犯してるところだぞ。)

 

「だってハチマン君って呼びにくいじゃない。それともヒャチマン君のほうがいいかしら?」

 

「ハチ君でお願いします。」

 

アスナの絶対に許さないリストでのランクが急上昇する。

女とは末恐ろしくたくましい生き物である。

 

「でも今日は本当に疲れた。」

 

「こんな日にはとっとと家に帰って風呂に入るのが一番だよな!!」

 

カイトがそう言った途端、アスナの表情が激変した。

 

 

 

 

カイトたちは自分たちのホームへと戻ってきていた。

 

「こ、これはどういうことだってばよ…。」

 

「安心しろ、ハチ。俺も全くわからん。」

 

なぜか()()()()()()()、だが。

 

もちろんお持ち帰りされたわけではなく、カイトたちのホームに風呂があることを聞いたアスナが無理やり押しかけてきたのだ。

 

「おい、なにさりげなくお前もあだ名で呼んでるんだよ。」

 

「別にいいだろ、そのくらい。どうせ本名じゃないんだから。」

 

「…はぁ、わかったよ、もう好きに呼べ。」

 

ハチマンとしては『一緒に戦う』以上の関係は御免なのだが、本名を知られるよりはマシである。

 

「それにしても、アスナさんってすごい美人さんですよね。あんな綺麗な人、リアルでもなかなかお目にかかれないですよ。」

 

「あぁ、もし他のプレイヤーたちが知ったら大変なことになりそうだな。」

 

「さらに言うとそんなのが俺たちの家に風呂に入りに来てる、なんて知れたら一体俺たちはどうなるんだろうな。」

 

「そんなの、俺たちが誰かに話しでもしない限りバレるわけないだろ。」

 

「「「(!!)」」」

 

キリトがそう言った途端、三人に緊張が走る。

 

「(カイト、これは…。)」

 

「(あぁ、何か起きるな。)」

 

「(ですね。)」

 

カイトたちはキリトのフラグを建設、回収する運命力が並々ではないことをこの一ヶ月間で嫌という程に知っていた。

 

『コンコン』

 

「「「(き、きた!)」」」

 

そして次の瞬間、何者かがドアをノックした。

しかし予想していた三人は示し合わせたように行動している。カイトはノックの音がしたドアへ、コペルはさりげなく風呂場への道をふさげる場所へ、ハチマンは証拠隠滅へと向かった。キリトだけが突然のことに動けないでいる。

 

「おいおい、こんな時間に一体どちら様…ってアルゴじゃねぇか。どうしたよ?」

(よりにもよって()()アルゴかよ。確かにここを知ってるのはこいつくらいなもんだが。)

 

「アァ、男だけだとさびしいだろうからオネーサンが餞別を持ってきてやったんダ。」

 

そこにいたのはSAOの情報屋の一人、《アルゴ》というプレイヤーだった。

頬に描かれている髭から《鼠のアルゴ》の異名を持ち、売れるなら自分のステータスをも売るとまで言われているSAOでも屈指の情報屋。

その人脈は侮れないもので、最も弱みを握られたくないプレイヤーでもある。

実は彼女もβテスターで、カイトとキリトはその頃からの付き合いだった。

 

「お!サンキュー!ありがたく受け取っておくぜ。」

 

「ちょっと上がらせてもらうゾ。」

 

「(!?)いや、やめといたほうがいいんじゃないか?だってほら、男所帯に女一人っていうのは何かと危ないだろ?」

 

「にゃハハハ!今さらすぎるダロ!…カッちゃん、何か隠してないカ?」

 

「(!!??)」

 

今のカイトの動作のどこからそんな気配を感じ取ったのか。

さすがはSAO随一の情報屋と言われるだけはある。

それと、アルゴは誰にでも変なあだ名をつけることでも有名である。

 

「そんなことないって。な、俺らも今日は疲れてるんだよ。また今度にしようぜ。」

 

「…分かったヨ。精々ボス戦、頑張るこったナ」

 

「(よ、よし。)おぅ、じゃあn「とでも言うと思ったカ!」んな!?」

 

そう言うとカイトの防御を突破し部屋へと侵入する。

しかしそこにはきっちり”整理整頓”された部屋があるだけの()()()()()

 

驚くべきはアルゴの洞察力。

彼女はカイト、ハチマン、コペルの陣形を見てある程度の目星をつける。

さらに決定的だったのはキリトの不用意な視線だった。

行く手を阻むコペルをものともせず、一直線に風呂場へと向かう。

 

コペルの名誉のために言っておくと彼女は《敏捷》極振りの、カイトたちにも引けを取らないトッププレイヤーの一人だったりする。

 

「このアルゴ様に隠し事をしようだなんて100万年早いヨ!!」

 

そう言ってドアを勢いよく開けると次の瞬間、

 

「!?きゃ、きゃああアァァァ!!!!」

 

青いエフェクトに包まれた洗面器がアルゴの顔面に直撃した。

 

 

「ヒドイ目にあったヨ…。」

 

「いや、自業自得じゃね?」

 

「アスナがいるならそう言ってくれりゃ良かったじゃないカ。」

 

「だってお前、絶対ネタにするだろ。」

 

「当たり前ダ。」

 

「「「反省しろ!!!」」」

 

「ところで…あんたたち、まさか見てないでしょうね?」

 

「「見てない見てない。」」「………。」

 

二人は否定するものの、コペルが顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 

次の瞬間、今度は三人の顔面に衝撃が走った。

 

え?ハチマン?

彼ならもちろんアルゴと入れ替わりに外へと逃げて行きましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、何度目かの攻略会議でボスへの対策やプレイヤーの配置などを考え、その翌日にボス部屋へと挑戦することが決まった。

その晩の事。

 

「いよいよ明日だ、明日ですべてが決まる。」

 

「心配しすぎですよ、師匠。これだけお膳立てしたんですから、負けるはず無いです!」

 

「いや、そういうことじゃない、明日がいかに重要かって話だろ。もしこれで失敗でもしてみろ、『攻略出来ない』って意識が高まって一気に攻略が遠のく。明日の勝敗は俺たちだけじゃなくて残された8000人のプレイヤーの命運も握ってる。」

 

「ハチの言うとおりだ。俺たちは明日、絶対に負けるわけにはいかない。だからこそ、各々覚悟をきめておいてくれ。」

 

カイトの発言で険しい表情になる三人。

現実のことでも頭をよぎっているのだろう。

 

「…悪い、明日に備えて早めに寝るわ。」

 

それを見てカイトは足早に立ち去って行ってしまった。

 

「?どうかしたんでしょうかね、師匠。キリトさん、何か知ってますか?」

 

「知ってないことないんだが…本人が話してないのに俺が話すわけにはいかないな。」

 

キリトの発言を最後に、各々自分の寝床へ向かった。

 

(小町…絶対に生きて帰ってみせるからな。)

 

 

 

 




なんかカイトがあからさまに挙動不審な回でした。


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祈り

 

少女は部屋の前にいる。

そこは見慣れたはずの部屋。いつもどおりの部屋。少女の兄の部屋。

昨日までは何もおかしいことなんてなかった。

しかしベッドに横たわっている少女の兄、《比企谷八幡》はまだ目覚めない。

 

「五時間だけって言ったのに…この嘘吐きの…ごみいちゃんめ…。」

 

 

 

 

 

 

 

SAOが配信を開始してから一週間がたった。

今でもテレビは《SAO事件》の話で持ちきりである。

ナーヴギアを安全に取り外す方法が各地で模索されているようだが、いまだ解決のかの字も見つかっていないようだ。一歩間違えれば命に直結するのだから迂闊に手が出せない。

そして《茅場晶彦》の行方も見つかっていない。

 

 

 

 

ただいま、お兄ちゃん。

今日ね、久しぶりに学校に行ってきたんだよ。

お父さんとお母さんはまだ行かなくていいって言ってくれたんだけど、あんまり休みすぎると友達にも心配かけちゃうしね。

 

あれから雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは毎日お兄ちゃんに会いに来てくれてるよ。

本当にいい人たちだと思う。お姉ちゃんとしてはバッチリだよ!

他にも、材木座さんと戸塚さん、それに雪ノ下さんのお姉さん、学校の後輩さん、先生さんもほとんど毎日来てくれてる。クラスの人達も何人か来てくれたよ。

後輩さんが来た時なんかすごい大変だった。いきなり号泣してお兄ちゃんに抱きついちゃったんだから。他の人達が止めてなかったら何してたかわからない勢いだったよ。由比ヶ浜さんが「ずるいっ!」って叫んでたのにはちょっと笑っちゃったな。

その後みんな一人だけで来て抱きついてたのはここだけの秘密だからね。

戸塚さんのあれは男同士の友情ってやつ…だよね?

 

それにしても、なんだ、お兄ちゃん、モテモテだね!

しかもみんな揃って美人さんだなんて…!

あ、でも小町のお姉ちゃんにするなら戸塚さんはダメだよ。それだとお兄ちゃんだし。

くれぐれも背後から包丁でグサッ!、なんてことにはならないように気をつけてね。

 

もちろんだけど、みんなお兄ちゃんの事すごい心配してるよ。

起きたら大変なことになりそうだね。

 

お母さんなんかほとんどつきっきりで看病してくれてるんだよ。

お父さんも毎日一回は様子を見に来てる。

もしかして気づいてるかな?そうだとちょっと恥ずかしいかな…。

 

そういえば、家族がいない人から病院に移ってたんだけど、やっとお兄ちゃんを受け入れる番がきたって連絡があったから明後日辺りには病院に移動できるみたいだよ。

お母さんはちょっと寂しそうだったけど、ちゃんとしたところにいてくれた方が安心できるもんね。みんなにも話してあるからきっとむこうでも寂しくないと思うよ。

逆にうるさくなっちゃわないか心配なくらい。

 

あ、でも大丈夫かも。

雪下さんのおうちの人たちのおかげでね、お兄ちゃんは特別に個室にしてもらえたんだよ!

本当に感謝しなくちゃね。

小町も出来る限り会いにいくから。

 

お兄ちゃんは今何してるんだろう?

きっとお兄ちゃんの事だから敵にも無視されてるかも。

もしかして戻ってくるためにすごい頑張ってくれてたりして。

彼女さんが出来てるかも!…それはないかな。

でもあんまり無理しちゃだめだからね。

 

こんなにかわいい妹に心配されるなんて幸せ者だね!

でも、そろそろ小町ポイントが底をつきそうだよ?

早くしないとどんどん借金がたまっていっちゃうよ。

 

だから

 

だからね

 

早く

 

早く戻ってきてよ、お兄ちゃん…。

 

 

 

 



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第一層攻略〜決戦〜

・パーティとレイドの上限を増やします。
・レベルアップした際にステータスを振り分けるパラメーターは《筋力》《敏捷》《感覚》の三つということにします。
《感覚》は上げるほど眼が良くなったりします。他はそのまんまです。



ついにボス攻略の日がやってきた。

集まったプレイヤーは51名、5〜7人×9パーティ。

総指揮はディアベルが務め、ボスを狙うチームとその取り巻きを抑えるチームに分かれた。

カイトたちは腕利きが多そうだということで、取り巻きを抑えるチームの指揮を任されることになっている。

ここでカイトたちの戦力を軽く記しておく。

 

 

プレイヤー名:カイト

レベル:14

スキル:《槍》《隠蔽》《武器防御》《投剣》

ステータス:《敏捷》先行、次点で《筋力》

戦闘スタイル:簡単に言うと”器用”の一言に尽きる。敵の攻撃に当たらないことを第一とし、隙間隙間に中ぐらいの攻撃で相手のHPを削っていく。難点としてはどうしても戦闘時間が延びてしまうこと。逆に足止めや、多対一の状況が非常に得意。

 

プレイヤー名:ハチマン

レベル:14

スキル:《索敵》《隠蔽》《料理》《短剣》

ステータス:《敏捷》《感覚》特化

戦闘スタイル:先に述べたように非常にセンスのいい戦い方をする。”早く終わらせること”を目標とし、リスクに見合うと判断すれば危険な橋も平気で渡る。ようやくソードスキルを手に入れ、難点だった火力不足が少し解決。最低限のリスクで最大限のリターンを得る。(それなんてチート?)

 

プレイヤー名:キリト

レベル:13

スキル:《片手剣》《索敵》《武器防御》《戦闘時回復》

ステータス:《筋力》先行、次点で《敏捷》

戦闘スタイル:一撃のダメージ量で言うならトップ。相手の攻撃を受けてもそれ以上のダメージを与えればいいという所謂「肉を切らせて骨を断つ」戦法。それほど器用な戦い方はできず、多対一は苦手だが、相手が強いほどその真骨頂は発揮される。

 

プレイヤー名:コペル

レベル:11

スキル:《片手剣》《隠蔽》《盾》

ステータス:《筋力》《敏捷》先行

戦闘スタイル:とにかくよく動く。ヒットアンドアウェイを狙うが、状況判断がお粗末なので、攻撃には当たりがち。パーティ内ではヘイトを集める役として貢献。

 

プレイヤー名:アスナ

レベル:13

スキル:《細剣》《索敵》《投剣》《武器防御》

ステータス:《敏捷》先行、次点で《感覚》

戦闘スタイル:強い。一撃の威力も高く、しかも疾い。しかしどこかで戦闘を恐れている面があり、早めに終わらせようと焦りがち。それでも強い。

 

 

アスナの戦闘スタイルが適当に見えるのはきっと気のせい。

 

 

 

 

 

 

 

カイトたちはボス部屋の前までやってきていた。

ここに来るまでは可能な限りエネミーとエンカウントしないように動き、さらに先頭をパーティごとに交代しながら慎重に進んでいたので全員がほぼ万全の状態でたどりつくことが出来た。

今、中央でディアベルが仲間たちの士気を高めている。

 

(ご苦労なことで。)

 

もちろんハチマンは参加していないが。

 

 

気持ちを整えたところで、ディアベルの合図と共にボス部屋の中へと侵入する。

四分の一ほど進むと何かの鳴き声がこだました。

そして一体の巨大なエネミーと、それを取り巻くように数体の中型のエネミーが出現する。

 

《イルファング・ザ・コボルド・ロード》《ルイン・コボルド・センチネル》

 

名前からしてでかいほうがボスで間違いない。

 

「全員、突撃ーー!!」

 

そして彼らの初の決戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「キリト、スイッチ!」

 

「はああぁッ!」

 

キリトが《レイジスパイク》を叩き込むとエネミーはポリゴンとなって消滅した。

 

「よし、他のところが片付き次第、俺たちもボス組に合流するぞ。」

 

「でも別に僕たちいらないんじゃないですか、もう。」

 

見るとボスの体力も残りわずかだった。

 

「じゃあ帰っていいか?」

 

「「ダメに決まってる[だろ/でしょ]!!」」

 

「じょ、冗談だって…。」

 

ハチマンのふざけた発言にキリトとアスナが同時に突っ込む。

もちろん半分以上本気だったのだが。

 

「でもホントに俺たちの出番は無さそうだなぁ。お、情報によればそろそろじゃないか?」

 

ボスに挑むと決まった後に更新された攻略本によれば、《イルファング・ザ・コボルド・ロード》はHPが減ると武器を曲刀カテゴリーの《タルアール》に持ち替えるらしい。

すると予想通りにボスは今までと違う動きをする。

その瞬間、

 

「全員下がれ!俺が出る!!」

 

ディアベルが叫び、本当に他の全員は下がってしまった。

 

「「「「「は?」」」」」

 

本来ならあり得ない指示。

この場面、様子を見つつ全員で畳みかけるのが普通だろう。

 

ボスに一人で向かっていくディアベル。

ボスがそれにこたえるように新しい武器を取り出した。

 

「(!?)」

 

それを見てキリトが異変に気づく。

 

「ディアベル、ダメだ!お前も下がれ!!」

 

ボスがとりだした武器は明らかに情報のものとは異なっていた。

しかしその声もむなしく、すでにソードスキルを発動させていたディアベルはボスへと突っ込み、ボスの太刀筋のもとに跳ね返されてしまう。

 

そして

 

ボスの攻撃がディアベルに直撃した。

 

刻が止まったようだった。

 

 

 

 

(何が起こった?)

 

キリトがディアベルのもとへ走る。

 

(何だこれは?)

 

ボス組は茫然と立ちすくんでいる。

 

(このままじゃダメだ、このままじゃ…。)

 

キリトはディアベルにポーションを差し出すがディアベルはなぜかそれを拒否し、

ポリゴンになって消えていった。

 

(みんな、死ぬ……?)

 

次の瞬間、カイトは一人でボスへと走っていた。

 

 

 

 

「うおおおオオォォ!!!」

 

がむしゃらに槍をふるい、ダメージを与えていく。

 

全くカイトらしくない攻撃、明らかに冷静さを欠いている。

 

それで倒せるほどボスは甘くはない。

 

トドメにソードスキルを放とうとするもあっさり跳ね返されてしまう。

 

それによって生じる硬直。

 

ボスはその隙を見逃さない。

 

そこに刀を振り下ろす。

 

(やっべ…)

 

カイトは自分がディアベルと同じ運命をたどるのだと直感した。

 

 

 

 

 

 

 

「師匠ッ!!!」

 

しかしその運命(ばしょ)にいたのは

 

コペルだった。

 

 

 

 



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第一層攻略〜決着〜

コペル視点から開始です。



(師匠ッ!?)

 

ディアベルさんが死んでしまったのを見て、突然師匠がボスへと向かっていった。

ボスに攻撃を繰り出しているけれど、何だか様子がおかしい。いつもの師匠だったらあんなことしない。

 

(嫌な予感がする…師匠が危ないッ!)

 

そう思って、すぐに僕もボスに向かって走り出した。

 

(間に合え…!)

 

やっぱりかなり無茶だったらしく、もう少しで追いつきそうになったところで師匠の攻撃がボスにはじかれてしまう。

さらにボスが刀を振りかぶった。

そこにさっきのディアベルさんの吹き飛ぶ姿が重なる。

 

 

「師匠ッ!!!」

 

 

僕は手を思いっきり伸ばして、師匠を突き飛ばした。

 

次の瞬間、すごい衝撃が体を襲ってボスが目の前から遠ざかっていく。

そして僕の体は地面に叩きつけられる。

 

(体が、動かない。し、師匠は…?)

 

なんとか首を動かすと、尻餅をつきながらこっちを見つめる師匠がいた。

ダメージはくらってなさそうだ。

 

「グオオォォ!!」

 

しかし、ボスが無情にも再び刀を振り下ろすのが見える。

師匠はまだ硬直が残っているのか、まだ動くことが出来てない。

でも僕には不安の気持ちはなかった。

 

「カイト君!」「カイト!」

 

だってそこには僕なんかよりもずっと強い剣士が三人もいたんだから。

 

アスナさんとキリトさんがボスの攻撃をはじいて、

最後にハチさんがボスにソードスキルでトドメを刺す。

 

そして《イルファング・ザ・コボルド・ロード》は消滅して、

『Congratulations!!』という文字が虚空に映し出された。

 

(さすがです、皆さん…。)

 

僕はと言えば、もうHPが0になる寸前だった。

 

「コペルッ!!」

 

再び師匠に目を向けると、立ち上がってこっちに走り寄ってくるのが見える。

 

(良かった、師匠は無事なんだ…。)

 

不思議と目から涙は流れない。

前の僕だったらこんなことするなんて、ありえなかった。

でも、もちろん後悔なんかしていない。

 

(最後に師匠の役に立てて良かったです。)

「どうか、生き…て…。」

 

声を振り絞った僕の言葉はもしかしたら聞こえなかったかもしれない。

でも、大丈夫だと思う。

 

(だって師匠は僕の師匠なんだから。)

 

きっとこのゲームを終わらせてくれる。

 

次の瞬間、視界が真っ暗になって、

僕の意識は闇に沈んでいった。

 

こうして僕らの初めての決戦、僕の最後の決戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「このバカ野郎がッ!!」

 

ハチマンの放ったそれは誰に向けて放たれた言葉だったのだろうか。

 

不可解な指示を出して単独特攻をしたディアベルか

一瞬で無能と化したボス組か

一人で突っ込んでいったカイトか

カイトをかばって攻撃を受けたコペルか

それとも、すぐに動くことのできなかった自分自身か

 

どれにせよ、もうなにも戻りはしない。

 

二人のプレイヤーが死んだという事実に誰も言葉を発することが出来ない。

 

そんな静寂を切り裂いたのはキバオウの予想外の言葉だった。

 

「なんでや!なんでディアベルはんを見殺しにしたンや!!」

 

 

キバオウは怒りをむき出しにしてキリトに詰め寄る。

彼が言うことにはキリトがボスの情報を一人占めし、結果ディアベルが死んだということらしい。明らかにβテスターへの偏見のまじった発言だった。

初めはキバオウ一人が喚いているだけだと思っていたが、徐々に後ろの方からもキリトを攻め立てるような声が聞こえてくるようになっていった。

 

(なんだ、これは。)

 

ハチマンは考える。

 

(いや、()()()()()は今までだってわかってたことじゃないか。別に今に始まったことじゃない…。)

 

カイトはコペルの死に呆然とし、キリトも急な出来事に動けないでいる。

その傍らでアスナが怒りを露わにしていた。

 

「ふざけないでッ!!こっちだってコペル君が…パーティメンバーが一人死んでるのに…どうしてそんなことが言えるの!!?」

 

「そんなん知らんわ!!そこに膝まづいてる奴が暴走したせいやろが!!」

 

キバオウは茫然と座り込むカイトを指さす。

 

(はは、あいつだって死んだのはお前らのせいだろうに…。)

「茶番だな…。」

 

「なんやと!!」

 

「茶番だって言ったんだよ、間抜け。」

 

「[ハチ/ハチ君]……?」

 

キリトとアスナはハチマンの発言の意図がつかめていない。

そんなのはお構いなしに、ハチマンは”最善策”へとたどり着くと、キバオウに向かっていく。

 

「何が茶番やて!?」

 

「じゃあ聞くが、あいつが死んだときお前らは何してたんだ?」

 

「は?そりゃお前、ディアベルはんの指示で待機「アホか。」

 

「あそこは相手の出方を見るのが普通だ、そうだろ?それを全員下がらせてたった一人で特攻?あり得ねぇだろ。奴はLAボーナスに欲をかいて死んだんだよ。キリトのせいでも何でもねぇ。」

 

「…LAボーナス?なんやそれは?」

 

「ん?知らないのか?(そういえば俺もキリト達に聞くまで知らなかったな……ははっ、そういうことか。こりゃ好都合だ。)…なら教えてやるよ。各層のラスボスはな、倒すと必ず強力なアイテムをドロップするんだよ。でも手に出来るのはラストアタックをきめた一人だけ。そのせいでプレイヤー間に軋轢が出来ることがあるから、攻略本には載せてなかったんだろうな。」

 

「それがどうしたっていうんや。」

 

「まだ分かんねえのか?あいつ、ディアベルはLAボーナスを狙ってたんだぞ?俺だって情報通の知り合いから聞くまで知らなかったのに。どうして奴はそのことを知っていた?」

 

「は?ま、まさか…。」

 

「そうだ、ディアベルはβテスターだったんだよ。どうだ?お前の慕ってたリーダーがお前の大ッ嫌いなβテスターだった気分は。」

 

「う、うるさいッ!!」

 

怒りで頭に血が上ったキバオウはソードスキルを発動させてハチマンへと斬りかかる。

なんてことのない単調な攻撃。

ハチマンなら問題なく回避できたはずだった。

 

しかしハチマンは不敵な笑みを浮かべると

 

その攻撃を避けずに受けた。

 

 

瞬間、《犯罪禁止コード》が働き、キバオウの頭上のカーソルがグリーンからオレンジに変わる。

 

「つまりは、だ。この世界に存在するのは”善い奴”と”悪い奴”だけ。βテスターなんて関係ない。βテスターでも善い奴だっているんだよ。…そして、その逆の、俺みたいな奴とかもなッ!!」

 

そう叫ぶとハチマンはキバオウを斬りつけた。

 

キバオウは《犯罪者》なのでハチマンのカーソルはグリーンのままである。

そのままハチマンは攻撃の手を緩めず、キバオウの反撃も悉くはじき返す。

見る見るうちにキバオウのHPは残りわずかとなる。

 

それでもハチマンは剣を振り上げた。

 

「死ね。」「やめろぉ!!」

 

ハチマンがトドメを刺そうとした時、キリトが止めに入ったことで剣がはじかれ、ハチマンの体が押し戻される。

キリトの後ろをみるとアスナが急いでポーションをキバオウに使っていた。

 

(ホントにお前はお人好しだ、キリト…。)

「……もううんざりだぜ、てめぇら。せいぜい俺の足を引っ張らないように強くなってくれよ?」

 

そして、ハチマンはウィンドウを操作してLAボーナスの黒いコートを身に纏った。まるでLAボーナスを取れてラッキーだったとでもいうかのように。

 

「ハチ!!」

 

「…なんだ、カイト。」

 

いつの間にかカイトが立ち上がり、去ったいくハチマンはの背中に声を投げかける。

 

「すまねぇ…。」

 

「……俺は何もしてない。」

 

そう言い残し、ハチマンはボス部屋の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、第一層に残る全プレイヤーたちに”第一層攻略”という情報が知れわたった。

 

ボスにとどめを刺した《勇者》と、犠牲になった者を侮辱した《裏切り者》の名前と共に。

 

 

 

 

 

 

 

「コペル…絶対、絶対に生き残ってみせるから…そこから見ててくれ。」

 

そういってカイトはコペルの使っていた剣と盾を地面に突き立てる。

アスナがその横に花を添えた。

 

「すまない…俺たちの反応が遅れたばかりに…。」

 

「そんなことねぇよ!!俺が一人で突っ込んだのがいけなかったんだ。」

 

「そういえば、一体あのときはどうしたの?すごく取り乱してたけど…。」

 

「…そうだな、もうあんなことにならないためにも話しておくべきか。」

 

「いいのか?」

 

「隠してもしょうがないしな…。なあ、アスナ、数年前にアメリカへの飛行機を狙ったでっかいテロがあったことは知ってるか?」

 

「え、えぇ。被害がすごかったからよく覚えてる。それがどうかしたの?」

 

「…その飛行機に乗ってたんだよ。」

 

「え?」

 

「俺もその飛行機に乗ってたんだ。俺はあの事件の数少ない生き残りなんだよ。」

 

「ええ!?」

 

「俺の家族も乗ってはいたんだがな…戻ってこれたのは俺だけだった。その後、親父の知り合いだったキリトの両親にかくまってもらってこいつと知り合ったってわけ。高校を出てからは一人暮らしするようになったけどな。」

 

「そ、そうだったんだ…。」

 

「だからさ、なんていうか…目の前で何もしないで人が死んでいくのが耐えられなかったんだな。全く…情けない話だ、っておい!どうしてお前が泣いてんだよ!?」

 

「な、泣いてなんてないわよ!!」

 

「そこ別に強がらなくてもいいだろ…。」

 

会った時とはまるで別人のようである。

 

「そういや、アスナ、これからは生きていくために努力する気になったか?」

 

「…正直、まだ自分が最後まで生き残れるとは思わないわ。でも…コペルくんみたいな…生きるために必死になる人たちのために、私なんかでもできることがあるのならこれからも頑張ろうとは思った、かな。」

 

「そうか、そりゃ良かった!それにしてもハチの奴……」

 

「許せないな。」「心配だな…。」「許せないわね。」

 

「フレンドも解除しやがったし、今度会ったらただじゃおかねぇ。」

 

「え、そんな感じ?心配してるとかじゃないの?」

 

「まあ、心配だけどよ。あいつは強いぜ。隠蔽スキルも相当なものだし、こうなった以上、そう下手なことはしないだろ。だからあいつの足を引っ張らないためにも強くなんねぇとな。」

 

「ああ!」「そうね。」

 

 

 

 




ダメだ…書きたいことが全然書けない…。
文才なさすぎて泣ける。

次回、カイトの過去を書きます。


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《皆藤哲》

 

俺はとある建物の前に立っている。

音を立てないように、ゆーっくりと扉を開けて侵入。

そして人影を見つけると背後から近づき…

 

「ただいまっ!」

 

「うわッ!?」

 

襲い(?)かかった。

 

 

「全く…どうしてそう毎回毎回こっそり帰ってくるのかな〜?」

 

「ソンナコトナイデスヨ?」

 

「よく言うわね、ホントに…。」

 

彼女の名前は《皆藤真菜(まな)》。俺、皆藤哲の母親だ。

初めは別に脅かすつもりで静かに帰ってきていたわけじゃなかったんだが、あまりに面白い反応をするので最近はちょっとした趣味になっている。

 

「二人は寝てんの?」

 

「えぇ、さっき寝たばっかり。あんまり今寝られちゃうと夜が大変なんだけどね。」

 

二人というのは俺の妹《(あんず)》と弟《(すすむ)》。先月に一歳になったばかりの双子だ。

 

「じゃあ起こしてこようか?」

 

「やめてよ!せっかく寝たんだから。今のうちに洗濯物たたんじゃわないと。」

 

「冗談だって。ちょっと手伝うよ。」

 

「ほんと?ならお願いしちゃおっかな。」

 

「オッケー。」

 

「あ、そういえば今度の旅行、二週間後に決まったわよ。」

 

「おぉ!マジで!」

 

「ちゃんと予定たててから行かないとね。」

 

今度、進と杏が生まれたお祝いでアメリカまで旅行に行くことになってる。

海外旅行なんて、普通なら行けないんだけど、学校が一週間後から夏休みなので俺も行ける。ちなみに中1。

でも、今考えても本当にすごいと思う。だって母さんも父さんも40超えてるんだから。頑張ったというか、運が良かったというか?

まあ、だからこそのお祝いでもあるのだろう。

 

(うんうん、楽しみだねぇ。)

 

「じゃあ、これお願い。」

 

「え、いや、ちょっと多すぎじゃ…」

 

「私は買い物行ってくるから。よろしくねー。」

 

「そんな理不尽な…。」

 

 

 

 

 

 

 

〜二週間後〜

 

旅行当日。

俺たちは父親の《皆藤(まなぶ)》を加えた五人で空港にやってきていた。

 

「アメリカはなぁ、父さんと母さんの出会った場所なんだぞ。」

 

「それ何回目だよ…父さん…。」

 

「ねぇ、せっかくだから写真撮ってもらわない?」

 

「まだ日本ですけど!?」

 

「まぁまぁ。あ、すいませーん。」

 

(はは、やっと旅行って感じになってきたな。)

 

そして俺は手の中に進を抱いて写真を撮る。

 

この時はまだ知らなかった。

それがみんなでの最後の思い出になってしまうなんて。

 

 

 

 

注意事項のアナウンスが流れ、飛行機が離陸する。

父さんと母さんは隣の席だけど、俺だけはちょっと離れたところだった。

 

(かなりの長旅だし、今の内にしっかり体力を温存しとかないとな。)

 

そして、俺は目を閉じて眠りについた。

 

 

 

 

どのくらい時間が経ったのか。

 

「い、いやーー!!」

 

俺は突然、誰かの悲鳴に叩き起こされた。

今の声は女性だろうか。

 

(何だ…?)

 

周囲を見回して状況を確かめようとする。

しかし、その瞬間、

 

(!?)

 

俺の体をとてつもない衝撃が襲った。

 

 

 

 

目が覚めた時、そこは俺がさっきまでいた場所でなかった。

 

(何が起こった…?)

 

思考は遅いし、全身は悲鳴を上げている。

 

「…誰か……ないか……。」

 

遠くで誰かが叫んでいる。

いや、叫んでいるのは分かるが、よく聞こえていなかった。

 

「…たら手を…げて……。」

 

(手をあげればいいのか…?)

 

「!待っ………頑張れ!。」

 

(頑張れ…?何をだよ………)

 

そして俺の意識は再び深く沈んだ。

 

 

 

 

次に起きたのは真っ白な場所だった。

 

(頭、というか全身が痛ぇ……。ここは…?)

 

「せ、先生ーー!!」

 

声のした方を見ると、看護師の格好をした女性がまるでオバケでも見たかのような表情をして部屋から走り去っていくところだった。

 

(病院、か…?)

 

 

少しすると医者らしき人がやってきた。

 

「気がついたのか。」

 

「(あんた、誰だよ…。)」「私はきみの担当医の《林田(はやしだ)》だ。」

 

「(ここはどこだ…。)」「ここは病院だよ、日本のね。ちょっと質問してもいいかな?」

 

俺はかすかに頷く。やはり頭がひどく痛い。

 

「君の名前は?」「皆藤哲…。」

 

「年は?」「12…じゃなくて13…。」

 

「趣味は何?」「神話とか…昔話の勉強…。」

 

「へぇ!それはなかなか面白そうだね。そうか…うん、一先ずは大丈夫そうだ。辛いのにいろいろ聞いてすまなかったね、よく休みなさい。」

 

(何が大丈夫なんだよ。…まぁ、寝るか…。)

 

俺は訳も分からないまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

あの日、俺は飛行機事故に巻き込まれたらしい。いや、事故じゃなくて事件、所謂テロだった。

日本にではなくアメリカに対するものだったらしい。

 

乗員乗客のほとんどが死亡。

 

俺の家族も

 

みんな死んでしまった。

 

 

 

 

それからしばらくはヒドイものだった。

食事もろくにのどを通さず、人が見舞いに来ても誰にも会わなかった。テレビの取材が来たと聞いた時なんかには怒り狂って、怒鳴り散らしてしまった。これはさすがに反省したが。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして体だけはすっかり回復した俺は、病院の中を歩き回るのが日課になっていた。

特に足を運んだのは小児病棟。

そこには元気そうに見えても、実際は体を病魔に侵され、余命いくばくもない子供たちがいた。

 

そこで俺はいろんな人たち、子供たちと触れて、徐々に精神も回復していった。

 

 

 

 

確かに世界は俺にやさしくなかった。

 

でもたくさんの人達が俺にやさしさを教えてくれたんだ。

 

だから、俺も誰かの為にやさしくありたいと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

(ここが桐ヶ谷さんの家か。)

 

無事に退院できた俺は、これから住む家へと送ってもらった。

桐ヶ谷さんは父さんの同級生で親友だった人だ。以前から何度か一緒に食事をしたこともあったし、俺が入院してた時にお見舞いに来てくれていたのもこの人たちだったらしい。

 

なんで身内でもない赤の他人に、と思うかもしれないが、俺の両親とも兄弟はおらず、祖父母もすでに天寿を全うしていたので、ここに引き取ってもらうことになったのだ。

 

つまりまぁ、

俺は〈天涯孤独〉ってやつになったわけだ。

 

 

呼び鈴を押すと中からドタバタと音が聞こえる。

 

(そんなに焦らなくていいのに。)

 

桐ヶ谷さん夫婦が出迎えてくれた。

 

「えーと、皆藤哲です。これからよろしくお願い…します…。」

 

その後ろに二人の子供を見つける。

彼らの子供、兄の《桐ヶ谷和人》と、妹の《桐ヶ谷直葉》。

俺はそこに()()()()の面影を重ねてみてしまった。

 

(進に……杏……)

 

俺は思わずこみ上げてくるものに耐えきれず、その場に崩れ落ちてしまう。

 

桐ヶ谷さんたちがおもいっきり抱きしめてくる。

 

「哲くん…大変だったね…本当によく頑張ったね…。」

 

そしてその時、あの日以来、

 

俺は、初めて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

「今までホントにお世話になりました!」

 

「こっちこそお前がしっかり育ってくれて本当に良かったよ。」

 

「子供たちの面倒も見てくれてねぇ。」

 

あれから約五年後、大学生となったことで俺は家を発つことにした。

あの事件がきっかけで医者を志した俺は医学部に入った。それまで面倒を見てくれたこの人たちにはいくら感謝してもしきれない。

 

「じゃあな、哲!」

 

(こいつはいつから俺を呼び捨てで呼ぶようになったんだ…。)

「あぁ、またな和人。直葉は?」

 

「ふふっ。ちょっと待っててね。」

 

お袋が直葉を連れてくる。

ちなみに、ごちゃ混ぜにならないように俺は桐ヶ谷さんたちを親父、お袋と呼んでいる。

 

「どうした、直葉。見送りぐらいしてくれよ。」

 

「…ほんとに行っちゃうの…?」

 

(どうしてそんな泣きそうなんだ…。)

 

いつのまにか他の三人はいなくなってるし。

 

「大丈夫だって!またすぐに会いに来るよ。」

 

「…ほんと?」

 

「ああ!約束する!」

 

「分かった…。じゃあ、最後に」

 

(な、何なんだ、一体。)

 

「握手。」

 

「へ?」

 

「だから、最後に握手して。」

 

「お、おう。」

(そんなんでいいのか?)

 

そう言って、手を差し出してくる直葉。

しかし拍子抜けしてしまった俺は

 

「きゃあ!?」

 

直葉を抱き上げた。

 

「ちょ、ちょっと!おろして!!」

 

「ああ、すまんすまん。思わずな。」

 

おろすと、ものすごい勢いで走り去って行ってしまった。

 

(ちょっとショックだなぁ…。)

 

その姿を見送ると、いなくなっていた三人が戻ってきた。

 

「お別れの挨拶も済んだみたいだし、そろそろ行くか?」

 

「はい。それじゃあ!」

 

そして俺は桐ヶ谷家に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

親父、お袋、必ず和人を二人のもとに帰してみせる。

 

それが俺が二人に出来る一番の恩返しだと思うから。

 

 

 

 



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《月夜の黒猫団》

今回、ちょっとオリ設定入ります。ホントにたいしたことありませんが。


SAOには《攻略組》と呼ばれるプレイヤー集団が存在する。

その中でも現在、最強と呼ばれるプレイヤーは片手で足りるほどしかいない。

彼らは全プレイヤーから尊敬と畏怖をもって《色》を与えられ、

それに由来する二つ名を持っている…。

 

 

 

 

 

 

 

~第11層~

 

「おらよっと。」

 

ハチマンが短剣を振り下ろすとあっという間にエネミーは消滅した。

さすがにもうソードスキルへの違和感はなくなっているらしい。

 

「よっわ…。」

 

現在の最前線は第23層。

攻略組である彼にとってこの程度なら目をつぶっていても倒せるレベルだった。

ハチマンがこんな下層にいるのはとあるアイテムを手に入れるためなのだが、彼がそれで何をしようとしているのかは今は置いておこう。

 

 

今彼が使っている主な装備は短剣と《アリアドネの糸》という防具。

とあるボスのLAボーナスで手に入れたものだった。

 

《ジ・アラクネ・クイーン》

”虫の巣窟”とも言われた第20層のボスで、今のところ最も攻略が難航した、蜘蛛の胴体に人間の女性の頭がひっついたような外見の化物。

第20層全体に言えることだが、昆虫系のエネミーは他のエネミーに比べて攻撃力は劣るものの防御力は比べ物にならないほど高かった。

さらにこいつが厄介だったのは、盾役が追いつかないほどの俊敏な動きに、こちらのステータスを低下させる糸をはいてくること。

長期戦になればどんどん不利になるのに、あまりの早さと硬さから早期決着は不可能だった。

そのおかげで攻略するのに通常の3倍以上の時間がかかってしまった。

不幸中の幸いというか、犠牲がいなかったのはその攻撃力の低さのおかげだろう。

 

そいつからドロップしたのがこの《アリアドネの糸》。

カテゴリーは防具ということになってはいるが、その真価は別のところで発揮される。

それは()()()()()取り付けることが出来るのだ。

しかも勝手にひっつくのでなく、使用者の任意で自由に取り外しができる。

射程もかなり長い。

武器につけておけば手繰り寄せることが出来るし、高いところによじ登ることもできる。

蜘蛛からドロップしただけあってなかなか頑丈だ。

ハチマンの《筋力》の低さから使っていた《短剣》《投剣》との相性も良く、好んで使っている。

今や彼の代名詞のようにもなっていた。

 

 

彼の現状について長々と説明してしまったが、言いたいのはつまり、

 

この時この場所に偶然彼がいた、ということ。

 

「きゃああ!」

 

「!?い、今のって…いや、きっと幻聴「い、いや!来ないで!」…はぁ…。」

 

索敵スキルを使うと少し先で五人のプレイヤーが中型のエネミー三体に襲われているのが分かる。

 

「メンドクセェ…。」

 

 

「どうもありがとうございました!」

 

「別に大したことじゃない。これからは気をつけろ。」

 

ハチマンはエネミーを倒すと、そのまますぐにその場から立ち去ろうとした。

しかしそうは問屋がおろさないのが世の常。

 

「待ってください!!」

 

「…なんだ。」

 

「あ、あの!つかぬことをお伺いしますが、あなたのレベルは…?」

 

さっきの戦闘を見て気になったらしい。

別に嘘をつく理由もないので正直に答える。

 

「…43だが。」

 

「「「「「よ、よんじゅう…!!??」」」」」

 

その途端、なにやら肩を組んでひそひそ声で話し始める5人。

 

(とっとと退散して方がよさそうだな。)

「それじゃあ「あ、あの!!」…それじゃあこれで「待ってください!!」なんだよ…。」

 

「ぼ、僕たちを、《月夜の黒猫団》を特訓してください!」

 

「…は?」

 

 

 

 

「おりゃ!!」

 

トドメにソードスキルを放つとエネミーはポリゴンとなって消滅した。

 

「ど、どうでしたか…?」

 

ハチマンはまだ彼ら《ケイタ》《テツオ》《ササマル》《ダッカー》《サチ》の五人、《月夜の黒猫団》と一緒にいた。

聞くところによると、彼らはいつかは攻略組に参加したいと考えているらしく、そのためにハチマンにあのような無茶なお願いをして来たらしい。

もちろん初めは何を頼まれても断るつもりだったのだが、彼が探していたアイテムを彼らがいくらか持っていることが判明。それを条件に少し様子を見ることになった。

 

「あー、まぁ、よくやってる方じゃねぇか?」

 

「ほ、ホントですか「だが。」?」

 

「攻略に参加するってんなら話は別だ。それこそ話にならないレベルで、な。」

 

「そ、そうですよね…。具体的にはどの辺が…?」

 

「レベルが低い、戦術が拙い、連携がなってない、と全部上げてたらきりがねぇな。」

 

「そんなにダメでしたか…。」

 

予想以上のダメ出しっぷりにショックを隠せない様子のメンバー。

 

「まあこんなのはこれからどうにでもなることだ。そんなに気落ちする必要はない。」

 

「ありがとうございま「ただし一つを除いてな。」え?」

 

(こいつら表情コロコロ変えすぎだろ…。)

「一つだけ、時間をかけても今のままやってたらどうにもならないことがある。それ自体は簡単なことだが、今すぐにでも改善するべきだな。」

 

「はい!どうすればいいですか?」

 

「そこの…さ、サチ。」(言えた…。)

 

「は、はいッ!」

 

「…お前は向いてない。これ以降、戦闘には参加するな。」

 

「え?」「「「「は?」」」」

 

「な、何言ってるんですか、これまで一緒に戦ってきた仲間ですよ…?そんなの出来ないに決まってるじゃないですか。」

 

「別にギルドから抜けろって言ってるわけじゃない。ただ戦闘には出るな。このまま一緒に戦えば必ずチームの足を引っ張る、というかそんなの本人が一番よくわかってるはずだが。」

 

「そ、そんな…。」

 

「後、すまないが俺には誰かを特訓してやれるような器用さはない。」

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

「だがまあ安心しろ。俺の知り合いでそいうのが大ッ好きな奴がいるから。」

 

そういってハチマンはとあるプレイヤーへとメッセージを送った。

 

 

~十数分後~

 

「で、俺たちが来たと分かった途端にハチの奴はどっか行っちまった、と…。」

 

「そうです。」

 

「「(あ、あんの野郎~~!!!)」」

 

そこにやってきたのはカイトとキリトだった。

 

 

ハチマンはカイトたちから再三送られてくるフレンド申請をけり続けているので、直接ではなく、便宜上唯一フレンド登録しているアルゴに連絡を取ってもらったのだ。

()()()()()()()

カイトからしてみればそんなことは初めてだったので、よほどの緊急事態なのかと思い、わざわざキリトにも連絡を取って急いで駆け付けたのだ。

結局まんまと嵌められてしまったわけだが。

 

 

「………”黒いコートを羽織った剣士”に”青い全身タイツの槍使い”………。」

 

何かに勘ずいたらしいテツオが呟く。

 

「ん?どうした?」

 

「もしかして…お二人は《(カラーズ)》の《黒》と《青》のお二人だったりしません…よね…。」

 

「おまえ、そんなわけないだr「ああ、そうだが。」…今、なんと…?」

 

「だから、こいつが《黒》で俺が《青》だって。」

 

「「「「「えええぇぇ!!??」」」」」

 

色で判別するだけあってその外見は非常にわかりやすいものだった。カイトなんかはえらく気に入って、わざと全身を青に染めているきらいすらある。

その姿はまるでケルト神話の犬の兄k…ゲフンゲフン。

 

「そ、そんなに驚くことか?」

 

「そりゃあ《虹》って言ったら攻略組の中でも最強の、全プレイヤーの憧れですし!」

 

「そ、そうか、照れるな…。でもさっきまでハチと一緒だったんだろ?」

 

「それはどういう…?」

 

「まあ、確かにハチは見た目だけじゃわかりにくいかも。あいつも《虹》の一人、《銀》だぞ?」

 

「「「「「え、えええぇぇぇ!!??」」」」」

 

この日何度目かの悲鳴が森に響き渡った。

 

 

「で、結局俺たちはどうして呼ばれたんだ?」

 

「あ、それはですね、かくかくしかじかというわけでして。」

 

「それで伝わるわけn「なるほどな。」マジで!?」

 

「でも、一度見ない限りにはわかんねぇな。ちょっとやってみせてくれるか?」

 

 

 

 

「サチ!さがって!!」

 

「うん!」

 

サチが敵の攻撃をはじいて後衛と交代する。

《スイッチ》と呼ばれるパーティ戦の基本的な連携だ。しかし、

 

「うわッ!?」

 

うまくいかずに敵の反撃を許してしまう。

ササマルが敵の攻撃をくらいそうになった時、

 

「はい、そこまで~。」

 

カイトが敵の攻撃を跳ね返してキリトがトドメをさす。

お手本のようなスイッチだった。

 

「でもまだ終わってなかったですけど…。」

 

「いや、もう大体分かった。」

 

「確かにこれは…ハチマンの言いたいことも一理あると俺は思うよ。サチ、君はもう戦闘に参加しないほうがいい。だって怖がってるじゃないか。」

 

「で、でも!みんなの役に立ちたい…し…。」

 

「だから言ってるだろ?戦闘はダメ。ありがたいことにSAOには他にもたくさんできることはあるだろ。どうしても出来ないことの一つや二つ、誰にだってあるって。気にすんな。」

 

「…わ、わかりました…。適材適所…ってことですね…。」

 

「そうそう!」

 

「それじゃあ、僕たちは?四人だとかなりきついんですけど…。」

 

「そのために俺たちが呼ばれたんじゃないのか?」

 

「そんくらいどうにでもしてやるよ!もどったら早速さっきの戦闘を踏まえて反省会だな。攻略組に参加したいんだったら容赦はしないからな、覚悟しとけよ!!」

 

「「「「よ、よろしくお願いします!!」」」」

 

「サチ、君も自分に何ができるかよく考えておいてくれ。」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「ばらしちゃったのかよ…。」

 

「いいじゃないか、別に隠す理由もないんだし。」

 

キリトはとある喫茶店でハチマンと話していた。

またしてもアルゴの仲介で。

 

「お前らは気に入ってるから別にいいだろうが。俺はずっとやめろって言ってんのに一向に収まる気配がない…。」

 

 

銀色の狼(シルフ)

それがハチマンの二つ名だった。

誰よりも速く、獰猛に敵へと向かっていくその姿と、狼のそれのように見えなくもない彼の目つきから付けられたものである。銀色は、まあ、彼のイメージだったのだろう。

しかしハチマンはその名前で呼ばれるのを異様に嫌がっている。

ちなみに他の二つ名持ちは

キリト《黒の剣士(ブラッキー)》、アスナ《紅い閃光(ルビア)》、カイト《蒼い貴公子(ブルース)

といった感じである。

偶然にも、いや必然だったのかもしれないが、第一層の()()パーティの面子は全員もれなく二つ名持ちとなっていた。

 

 

「で、結局あいつは裏方に徹することに決まった、と。当然だな。」

 

あの後二人は彼らに出来る限りのアドバイスをした。

その上、カイトはしばらく《月夜の黒猫団》で活動するらしい。

コペルの事があるとはいえ、その面倒見の良さは半端じゃない。

 

「お前なぁ…、もうちょっと愛想よくならないのか?」

 

「何言ってる、充分友好的だろ。むしろこんなに人にやさしくしたのは生まれて初めてだ。」

 

「ま、マジか…。」

 

「エリートボッチなめんな。」




苦渋の決断でしたが、サチイベはこんな感じになっちゃいました。ホントすいません。


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第25層攻略

 

カイトたちが《月夜の黒猫団》と出会ってから約一ヶ月、すでに第23・24層が攻略されている。

現在攻略に参加している主なギルドは三つ。

 

《アインクラッド解放隊(ALS)》

キバオウが立ち上げたギルド。《DKB》と共に攻略組の二大巨頭を成す。

 

《ドラゴンナイツ・ブリゲード(DKB)》

今は亡きディアベルの派閥を中心に結成されたギルド。リーダーは《リンド》というプレイヤーで、その特徴からハチマンをよく思っていないプレーヤーが多い。

 

《星空の騎士団(SSK)》

キリトとカイトが立ち上げたギルドで、規模は10人ほど。下層からの依頼などに応じたりもしていて便利屋のような一面もある。

 

クラインもギルドを立ち上げてはいるようだが、仲間のレベルアップに時間がかかっているらしくまだ攻略には参加していなかった。

他のメンバーはソロや、何度かに一度しか参加できないような小規模のギルドで、ハチマンやアスナはこの部類に入る。

 

 

 

 

今、彼ら攻略組は第25層のボス部屋の前にいた。

カイト、キリト、アスナは今回は同じパーティを組んでいる。

 

「サチちゃんたちはまだ合流できてないんだね。」

 

「いや、そりゃーお前、つい一ヶ月前までスイッチもろくにできなかったんだから流石に無理だろ。少なくともあと三ヶ月くらいは鍛えねぇとな。」

 

「大変ね…。そういえばハチ君は?まだ姿が見えないんだけど。」

 

「多分またどこかで道草でも食ってるんだと思う。」

 

「ボス戦に遅刻するだなんて…許せないわね…。」

 

「「(こっわ…。)」」

 

「何か?」

 

「「いえ、何でも。」」

 

 

 

 

ボス部屋に突入する直前、カイトが《ALS》のパーティへと向かっていった。

 

「よぉ、キバオウ。」

 

「なんや、どうかしたんか。」

 

「まぁな。…もうラストにあんまり無茶な特攻をするのはやめとけ。」

 

ここ何度か、《ALS》はボスの体力が減ってくると明らかにLAボーナス狙いの特攻を仕掛けていた。その中心となっていたのがキバオウである。

ハチマンが第20層でLAボーナスをとったことがキッカケだろう。第一層からずっとキバオウはハチマンを忌み嫌い、彼が力をつけることを全く良しとしていないのだ。

 

「なんやと、文句あんのか?」

 

「大アリだね。何に焦ってるのかは知らねぇが、あれじゃいずれ犠牲が出る。」

 

「そんな憶測あてになるかぁ!まだ出てないんやから問題ないってことやろ!」

 

「…忠告はしたからな。」

 

 

 

 

「よし、みんな!行くぞぉ!」

 

リンドの合図で一行は部屋の中へと入っていった。

 

 

部屋に入るとすぐに、最奥に何かが鎮座しているのが見える。

そのまま20歩ほど進むとその頭上に名前が表示された。

 

《ザ・タグウェル・ガルガンチュア》

頭部が二つある巨人が今回のボスだった。取り巻きのエネミーなどはいない。

偵察の時点で判明していたことだが、HPが今までよりも圧倒的に多い。

 

と、突然こちらにものすごい勢いで走ってきた。

 

「構えろぉ!!」

 

その手にはいつの間にか棍棒を握っていて、それを前衛のプレイヤーに振りかぶる。

そこまではよくあること。

 

「なっ!?」

 

しかしその威力が普通でなかった。

前衛数人が吹っ飛び、陣形が崩れそうになる。

 

カイトが前に出ようとするとその横を何かが走り過ぎていってボスの顔面に斬りかかった。

 

「悪い、遅くなった。」

 

「ハチ!!」

 

 

ハチマンの攻撃でボスに隙ができ、なんとか陣形を立て直すことができた。

 

「それにしても今のはなんだ、ありえねぇだろ。」

 

「あぁ、ちょっと本腰入れないとヤバイな。」

 

「ちょっと!ハチ君!どうして遅れたの!」

 

「アスナ、それは後にしてくれないか…。」

 

 

 

 

それからはお互いに一歩も譲らぬ持久戦だった、いや、消耗戦と言った方が正しいかもしれない。プレイヤーたちはボスの動きに翻弄されて決定打を見出せずにいたのだ。

犠牲者は既に六人、ボスのHPはようやく半分、といったところだった。

すると突然ボスが叫んだかと思うと壁際へと走って行き、

 

「松明を喰った!?」

 

「おいおい…そうくるのかよ。」

 

それが意味するところはつまり

 

炎攻撃(ブレス)だあぁ!!」

 

ここに来て予想外の特殊攻撃。それぞれ急いで火に耐性のある防具やアイテムを使うが、数人が対応に遅れてしまった。彼らは炎に包まれると跡形もなくいなくなっていた。

その光景に多くのプレイヤーが恐怖に顔を歪ませる。

 

しかし一部の者たちは違う反応を見せる。

 

「カイト君、これって…。」

 

「あぁ、チャンスだな。」

 

今まで苦戦していたのはボスの通常スペックが悉くプレイヤーたちのそれを凌駕していて、一振りの攻撃でもダメージが大きかったから。

 

でも今のは違う。

大きな攻撃には必ず予備動作が存在し、放った後も膠着が起こる。

それはまさに決定打を与える”チャンス”だった。

 

「お前ら!気合入れろおォ!!」

 

カイトの喝で陣形をとり、再びボスへと立ち向かう。

 

 

 

 

攻撃パターンを完全につかみ、ブレスによる隙も狙いながらHPを削っていった。

 

そしてHPバーが残り一本になった時。

ボスが後ろに下がり、二本目の棍棒を取り出した。

誰もが武器が二つになる、と予想した次の瞬間、

 

「はぁ!!??」

 

そいつはそれを自分のわき腹に突き刺した。

一気に残りHPが四分の一ほどになる。

さらにそれはそのまま体の中へと取り込まれていった。

 

(なんだ、一体なにが起こる?)

 

誰一人として理解が追いついていなかった。

 

そんなのはお構いなしと言うようにボスが断末魔のようにも聞こえる叫び声を上げると

 

「…マジかよ……。」

 

棍棒を突き刺した場所から一本ずつ腕が出現した。つまり腕は合計四本。

新しく生えた腕二本には二振りの片手剣が握られている。

それはその巨人が扱うにはあまりに細く、漆黒に輝いていた、迂闊にもキリトが魅入ってしまうほどに美しく。

 

「キリト!来るぞ!」

 

「あ、あぁ。すまん。」

 

そして最初に部屋に入ってきた時のようにこちらへと走ってくる。

 

「ビ、ビビるなぁぁ!!あともう少しやないか!かかれぇ!!」

 

「ま、待て!」

 

それを《ALS》のパーティが迎え撃つが、

ボスの攻撃の前になぎ払われてしまう。

 

さらなる追撃によって多くのプレイヤーの命が刈り取られていった。

 

「くっそがぁ!!」「うおオォォ!!」

 

カイトとキリトが二人がかりで攻撃をはじく。

 

「「スイッチ!!」」

 

トドメとばかりにハチマンとアスナがソードスキルを発動させる

 

がわずかに足りない。

 

間髪なく、身動きが取れない二人に槍が振り下ろされる。

 

「くッ!」

 

しかし、なんとかカイトが勢いを殺して致命傷を避けることができた。

 

「これで…終わりだ!!!」

 

そしてキリトがソードスキルを叩き込むと

 

ボスはポリゴンとなって消滅した。

 

 

 

 

結局、最初の6名、ブレスによる5名、最後の攻撃パターンの変化による14名、合計で25名が犠牲(うち17名が《ALS》のプレイヤー)となる、これまでに類をみない凄惨な結果を残して第25層の攻略は終了した。

 

 

 

 




某黒い剣が、早々に登場しました。でも軽く流しすぎて、描写も酷すぎて気づいてない人がほとんどでしょうが…。


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《血盟騎士団》

 

先の第25層ボス部屋攻略により、攻略組は多大な被害、特に大役を担っていた《ALS》が壊滅的な被害を受けたことで攻略が一時的に停止していた。

《ALS》は今回の事で方針を大きく転換。下層で大きな影響力をもっていた、《シンカー》というプレイヤーが率いるギルド《MTD》と合併し、《アインクラッド解放軍(ALF)》となった。今後は中下層の治安維持に回るという。

《DKB》もまた、力を蓄え直すために一時撤退。名前も《聖龍連合(DDA)》と改めた。

《SSK》は比較的被害は少なかったものの、やはり状況が整うまでは中下層の育成、治安維持に力を入れるようだ。

しかしあれから一カ月がたった今でも、攻略組はその穴を埋めることが出来ず、第26層のマッピングも意欲のある一部のプレイヤーが行うのみである。

そんな中、ある者が攻略会議を開くという情報がプレイヤーたちにもたらされた。

 

 

 

「誰なんだろうな、今回部屋を見つけたのは。」

 

カイトとキリトは会議場所に指定された講堂にやってきていた。

そこには既に十数人のプレイヤーが集まっている。各ギルドから情報をもって帰るためだけに来ているプレイヤーがほとんどだ。カイトたちもそうである。

ハチマンの姿も端っこの方に見受けられた。

 

「それがさ、俺もアルゴに聞いてみたんだけど本人から口止めされてるらしくて教えてくれなかったんだよ。」

「はぁ?なんじゃそりゃ。新規参入の奴ってことか?」

 

そんな話をしていると部屋の扉が勢いよく開けられた。

入ってきたのは見たことのない、赤と白を基調とした装備を身につけたプレイヤーたちだった。

()()()()()()()()()

 

「「ア、アスナ!?」」

 

その面々の中にアスナがいたのだ。

知り合いが突然、正体不明のメンバーと同じような服装をしていたのだから、驚くなという方が無理があるだろう。

アスナはその実力と容姿もあって攻略組でも特に目立つ存在だったので、カイトたち以外もあっけにとられている者がほとんどだ。

その様子を横目に、その者たちの先頭にいたプレイヤーが既に壇上に上がり、その口を開いた。

 

「私の名前は《ヒースクリフ》。突然だが、ここにギルド《血盟騎士団(KoB)》の結成、そして《KoB》の攻略組への参加を宣言する。」

 

 

 

(確かに新規の奴だろうとは思ってたが、こんな形で来るか。しかもアスナを引っ張りだすとは…あいつ、なかなか考えてるな。)

 

周りの面々も次第に状況を飲み込んできたらしい。

それに伴って様々な声が聞こえてくる。

 

『(おい、あのヒースクリフとかいう奴、信用できるのか…?)』

『(それは分かんないが…《紅の閃光》がいるぞ。強さは確かだと思うが。)』

『(いや、それにしたって…。)』

 

プレイヤーたちは決断できずにいた。

二つ名持ちのアスナがいたことは確かに大きいが、決定打には欠けているらしい。

ハチマンはそれを見て怒りを見せるでもなく、落胆したような、しょうがないと納得したような表情を見せた。

彼はかつて部活動でこういった場面に多々出くわしている。所謂、十八番というやつだ。既に第一層でもその実力は遺憾なく発揮されたことは記憶に新しい。

もたれていた壁から離れて、頭の中で段取りを組み立てながら壇上へと向かう。

 

「おい、おm「ちょっと待てよ!!」

 

しかしその計画は一人の青年によって頓挫せられてしまった。

 

 

 

(へぇ…。なかなか面白いことになってきたじゃねぇか。つまりアスナも《KoB》とやらのメンバーになったってことだよな?)

 

それでも次第にプレイヤーたちに疑念が渦巻いていく。

 

(うーん、ビミョーな感じだなぁ…ん?)

 

カイトは壇上へと歩いていくハチマンを見つける。

彼はハチマンがこういう時にどういった手段を取るかということを知っている。

 

(おいおい、あいつまさか……。それはさせるわけにはいかねぇよなぁ!)

 

それを彼が黙って見過ごすわけがないのだ。例え、誰に頼まれなくとも、お節介と言われても動く。その行動力こそが彼の性質とも言うものなのだろう。

 

「ちょっと待てよ!!」

 

 

 

ハチマンが呆気にとられるのも気にせず、カイトは一気にジャンプしてヒースクリフへと詰め寄った。

 

「そんなのおいそれと『ハイ、そうですか。』って言えるわけねぇだろ。」

「ほう、つまり私のことが信用できないと?」

「ああ、そうだな。お前だって予想はしてたんだろ?そのためにメンバーにアスナを引きこみ、そして手土産に今回のボスに関する情報を、ってとこか。」

「そういうことだ。それでは足りないと言うのかね?」

「足りないね。」

「では何があれば足りるのか、教えてもらえるかな。」

「そもそもそんな保証はいらねぇよ。俺らが求めてんのはお前自身の強さそのものだ。」

「なるほど…。それでは、君は私にどうしろと?」

「簡単なことだ。俺と決闘して証明すれば「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」…アスナか。」

「そんなの私聞いてないわ!」

「そりゃー、今決まったんだからな。」

「あなたがするくらいなら私が団長と決闘します!!」

「あのなぁ…それこそダメに決まってんだろ…。お前はそいつの身内なんだからな。それじゃあ、そういうことで。いいよな、ヒースクリフ。」

「ああ、もちろんだ。」

 

 

 

「おい、どういうことだよ。」

「ん?どうしたよハチ。」

「どうしたもこうしたもない。明らかに俺の邪魔しただろ。」

 

ハチマンがカイトの行動の意図を悟っていないわけではない。ただ、それはカイトが彼の行動を先読みしたということであり、つまりハチマンの性質を理解されたということである。

それをハチマンがよく思うはずはなかった。

 

「そんなことか。お前のやり方は第一層で嫌という程知ったからな、今度は俺がやり返してやったってわけ。お前としては仕事が減ってよかっただろ?それにあいつの実力を俺自身の手で試してみたいってのも半分あるしな。」

「…そうかよ。それよりもあれ、後悔すんなよ。」

「…ん?」

「カイト…。」「どういうことかちゃんと説明してくれるかしら…?」

 

ハチマンが指差した先には素敵な笑顔のキリトとアスナがいた。

 

 

 

攻略組一行は大きな広場に移動してきている。

そこではヒースクリフとカイトが対峙するように立ち、その周りを他のメンバーが取り囲むような形になっていた。

どこから嗅ぎつけたのか、サチやクライン、アルゴといった攻略組でない者たちもいる。

 

「用意はいいな、ヒースクリフ。」

「いつでもどうぞ。」

 

カイトが対戦を申し込み、ヒースクリフが承諾。

ルールは《初撃決着モード》、先に有効打を与えた方の勝ちだ。

カウントダウンが始まると周囲が静寂に包まれる。

15秒が過ぎたあたりでカイトは槍を、ヒースクリフは巨大な盾と長剣をそれぞれ取り出す。

そして、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

「イヤー、なかなかの見ものだったナ。」

「うん。私、カイトさんの本気って初めて見たよ。やっぱり凄いね。」

「惚れ直したか?」

「うん、かっこよか…って何言わすのぉ!!」「ぐッは!」

「「「「(アホめ…。)」」」」

 

サチに吹っ飛ばされるハチマンを尻目にアルゴ、クライン、キリト、アスナの四人は先ほどの戦闘を思い出していた。

 

 

 

やはり先に仕掛けたのはカイトだった。

一気に距離を詰めて槍を、盾を持っていないヒースクリフの右側へと振りかぶる。

ヒースクリフもそれを読んでいて、前に出つつ左手の盾で攻撃を防ぐ。

そのまますれ違い際に剣を突き出すが、カイトもすんでのところで躱す。

普通ならこれだけでも決着がつくようなレベルの攻防。

それからは守りのヒースクリフ、攻めのカイトという予想通りの展開。だが、隙のないヒースクリフにカイトは攻めあぐねていた。

ついに痺れを切らし、勝負を仕掛ける。

左右のフェイントを混ぜつつ駆けて近づき、接近戦に持ち込んだ。

しかしそれはヒースクリフの狙いでもあるのだ、腰を据えて迎え撃つ。

そして10分にも及ぶ斬り合いの後。

相手を斬り伏せたのはヒースクリフだった。

 

 

 

「あぁ!クッソ!マジで悔しい!!」

「まぁまぁ、いいじゃないの。結果的にカイト君の株も上がったんだし。」

「そうだよ。もしハチがやってたらワザと自分を落として相手を上げる、なんてことをしかねなかったんだから。なぁ?」

「しょ、しょんなことないでしゅよ?」

「いや、絶対ウソだろ…。」

「それにしても、あのヒースクリフって奴、本気のカイトをあそこまで「まだまだ本気じゃなかったもんね!!」…もういいだろ…。だからよ、あそこまでカイトを手玉にとるたぁな。相当な実力者じゃねぇか。」

「アァ、オレっちも知らなかっタ。」

「アルゴでも知らなかったのかよ。アスナは何か知ってるんじゃねぇのか?」

「いえ、私もよくは知らないの。ただ、強さは本物だし、このまま攻略を止めておくわけにもいかないと思ったから誘いに応じただけ。」

「確かにこれで攻略は再開できそうだな。」

「小耳にはさんだ程度ダガ、《DDA》も戻ってくるらしいゾ。」

「ホントにアルゴさんは情報が早いですよね…。」

「でも素性が分からない以上、まだ信用は出来ないだろ。」

「ハチはまたそんなことを…。その通りではあるんだけど。」

「まぁまぁ!とりあえず喜んどきゃいいじゃねぇか!」

 

 

 

そして次の日に再び攻略会議が行われ、五日後にボス部屋に挑戦することが決まった。

 

 

 

 

 

カイトたちは今、第26層のボス部屋にいた。

 

「な、なんだよ、あれ。」

「マジか…。」

 

第25層のこともあり、ボス部屋に突入する前、攻略組は今までにないほどの緊張感に包まれていた。ハチマンでさえ遅刻していなかった。

初めて攻略に参加するプレイヤーが多かった、というのもあっただろう。クラインたちのギルド、《風林火山(WWFM)》もその中の一つだった。

だからこそ、目の前の光景が信じられなかったのだ。

 

そこには巨大な盾と長剣を手にボスと一対一でやり合うプレイヤー、ヒースクリフの姿があった。

 

「一体誰だ、『素性がわからない限り信用できない。』とか言ってたのは。」

「お前だろ、ハチ…。」

 

確かに第25層が異常だったのは分かる。

それでも第24層より強敵なのには違いないのだ、『苦戦は避けられないであろう。』という嫌な予感は誰の心の中にもあったこと。

しかし、そんなのはお構いなしに、大方の予想を覆して戦況が進んでいく。

 

そしてヒースクリフ率いる《KoB》を中心にボスへの攻撃を続け、そのHPを削りきった。

 

結果、犠牲者は0。

 

しかも、今までで最短のボス戦となり、《KoB》とヒースクリフの名は〈最強〉の称号と共にアインクラッド中へと広まることとなった。

 

 

 

 




書き方安定しなくてすいません…。いずれ統一しますので。


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《神隠し》

オリ展開入ります。


約半年前に《KoB》を迎えた攻略組は第49層へと突入、つまり現在、攻略は一週間に一層ほどのペースで進んでいた。

結局、第25層のボスがなぜあれほど規格外に強かったのかは謎のままだが、一つの有力な説としてはやはり『全体の四分の一だったから』というものがある。

そうなると当然、第50・第75層もボスは強いだろうという予測が立ち、そこに近づいていく度に攻略組の緊張感は増していった。

 

ちなみに、すでに《月夜の黒猫団》は攻略組への参加を果たしている。さらに彼らはカイトの提案で《SSK》と合併し、《星月夜の騎士団(SNK)》として活動していた。

現時点でその規模は30人ほどまで増え、文句無しにトップギルドの一つとして君臨している。

 

第50層ボス戦に対する不安は計り知れないものではあったものの、攻略自体は何の問題もなく進んでいた。

 

しかし、つい三日前、最前線だった第49層も突破され、いよいよ問題の第50層へと彼らが足を踏み入れた時、ある事件が起こった。いや、そもそもそれは事件か事故かも分からないような不可解な出来事。実態は全く掴めないのに、明らかに”何か”が起こっていた。

 

       《神隠し》

 

プレイヤーたちが次々と行方をくらませていったのだ。原因は不明、連絡も一切つかないというおまけつきで。

剣の世界というだけあって、他のRPGに比べて魔法などといったファンタジー色が薄かったSAOにおいてそれはまさに不気味だった。

消えたプレイヤーたちは皆、攻略組の高レベルプレイヤーであり、しかも”消えた”のであって”死亡した”のではないというのも奇妙だった。

しかし消えた”後に”死亡したプレイヤーが確認されており、彼らはただ身動きが取れないというわけでもないことは明らかで、今もなお危険にさらされているらしい。

 

これにより攻略は一時中断を余儀なくされた。解決しない限り、プレイヤーたちは正体不明の不安にさらされ続けることになる上に、主に最前線で戦っていた強者たちがその対象なのだ。既に結構な戦力が欠けていて、攻略にも支障が出てきているのだからどうしようもない。

 

そして解決に乗り出したところで一般のプレイヤーたちにも協力を仰いだのだが、やはりというか、恐怖から有志はなかなか集まらなかった。

仕方なく攻略組総出で解決にあたることになり、調査チームが組まれ、キリトやカイトはもちろん、あのハチマンですら参加していた。

しかしそこに〈アスナ〉の姿はなかった。

 

 

 

「カイトさん、今回の事どう思いますか?」

「と、言われてもなー、情報が少なすぎるんだよなー…。会議でも言ってたが、連絡が取れないってのがバグじゃなくシステム上成り立ってるんなら、イベントとかに巻き込まれたってのが有力だろ。」

 

カイトは《SNK》のサチ、ケイタ、ササマルと行動を共にしていた。

その性質上、『攻略組のプレイヤーは常に三人以上のパーティで行動する』ということが先日に開かれた《神隠し》調査会議で取り決められ、おそらく唯一の手がかりである第50層を中心に捜索が行われている。

 

「早く手がかりだけでも見つけねぇと。」

「はい。」

「…カイトさん、あの人、NPCですよね?」

 

テツオが指さす先には”いかにも”といった感じの老人が一人、岩に座ってうなだれている。

頭上にカーソルがないのでNPCだろう。

 

「どうします?」

 

カイトの言ったことが正解ならば、それに巻き込まれるためのフラグが当然存在する。まだ調査は始まったばかりで、今はそれを探していふ段階だった。

 

「…声をかけてみる。もし俺に何かあったら本部に伝えてくれ。」

「そ、そんなの危険じゃないですか!一旦、戻りましょうよ!」

「さっきも言っただろ?すでに死亡も確認されてるんだ。悠長にはしてられない。」

 

カイトは真剣そのものだ。今回のことに一番精力的に動いているのは間違いなくカイトだろう。

サチの懇願も聞かずに、カイトはその老人に声をかけた。

 

「おい、爺さん。具合でも悪いのか。」

『ワシは大丈夫なんじゃが、ワシの村に怪物が現れての…助けてはくれまいか…?』

(来た…。)

 

余談だが、SAOはNPCの発言が豊富であるのも一つの大きな特徴だった。

 

老人が口を閉じると、カイトの視界に『Yes』『No』という二つの選択肢が出現した。

カイトは迷わず『Yes』を選択する。すると、何らかのクエストが発生したことを表す《!》のアイコンがNPCの頭上に現れた。

 

『おお!それでは早速案内するぞ!』

 

突然老人はカイトの腕をつかみ歩き出す。

 

「ハァッ!?」(なんつー力だ、このじいさん!)

 

抵抗するも、そのまま引きずられてしまう。武器もいつの間にか収納され、斬り離すことも出来ない。

カイトが残りの三人の方をみると、金縛りにあっているかのように固まってしまっていた。

 

(マジか…。)「おい!頼んだぞ!!」

 

そしてカイトは森の奥へと消えていった。

 

 

 

(ウソ…、カイトさんが連れて行かれた…?)

 

そういう仕様だったのか…私は全く身動きできなかった。何もできなかった。

 

「お、追いかけないと!!」

「ちょっと待て!それじゃあパーティごとに動いてる意味がなくなるだろ、カイトさんにも言われたとおり今のことを本部に伝えに行くんだよ!」

「じゃあカイトさんを見捨てるっていうの!?」

「ちがう!追いかけたところで何も出来ないよ!」

「そんなの分からないじゃない!!早く、早く助けに「落ちつけよ、二人とも…。」でも!」

「落ち着けって!」

「落ち着いてどうするの!?」

「カイトさんを助けるに決まってる。……ササマル、これを使ってお前だけで先にもどってくれ。」

 

そういってケイタが取り出したのは転移結晶だった。

確かに、ササマル一人だけでは私たちが来た道を戻ることは出来ない。

 

「え、じゃあ二人は…?」

「さっきの老人に声をかけてみようと思う。」

「だ、ダメだって!死ぬかもしれないんだぞ!?」

「でもサチは何を言っても戻らないだろうし。それなら二人の方がいい、頼む。」

「け、ケイタ…。」

「…分かった。くれぐれも無茶はしないでくれよ、二人とも…。転移!アルゲード!」

 

そういってササマルは戻っていった。

 

「あ、ありがとう、ケイタ。」

「俺だってカイトさんを一刻も早く助けたいからな。」

 

ケイタは照れ臭そうに笑っていた。

 

 

すぐにさっきの老人が戻ってきた。

そして初めと同じように岩に座ってうなだれる。

 

「(フー…)お、おじいさん、どうかしたんですか?」

 

声が震えていた。

もしかしたらこれから死ぬかもしれないんだ、当然だろう。

でも、起こったのは予想外の事態だった。

 

『ちょっと気分が悪くての…この薬草を取ってきてはくれんか?』

「え?」(さ、さっきと違う!?)

 

私の目の前にクエストの内容と、『Yes』『No』の選択肢が表示される。

 

「ちょ、ちょっと!あなたの村は…、怪物はどうしたの!?」

 

老人に詰め寄ったけど、もちろん反応はない。

 

「ウソ…ウソウソ…。ねえ!ウソだって言ってよ!!」

「落ち着け、サチ!」

「だって!!」

「…俺がやってみる。」

 

そういって試してみるけど、やっぱりカイトさんとは違う内容だった。

 

「ど、どうして…。」

「たぶん何か条件があるんだ、カイトさんにあって俺たちにない何かが…。」

「そんな…じゃあ、どうしたら…。」

「戻ろう。」

「え?」

「戻ってこのことをみんなに伝えるんだ。少しでも多くのことを。」

「そう…うん…そうだね!戻ろう!」

 

そして私たちは駆け出した、カイトさんを一刻も早く助けるために。

 

 

 

 



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霧と怪物

話書くのって難しい…ていうかハチマンのキャラがマジでわからんww


ーーーカイトたちが老人と出会う約一時間前、第49層でのこと。

 

「どうして俺がこんなことをしなきゃいけないのか…。」

 

俺、ハチマンは今回起こった《神隠し》の調査をしていた。

本来なら他人に任せて狸寝入りするのがエリートぼっちたる俺のやり方なのだが、ここまで攻略が滞ってはどうにもならん。今回は働いてやることにしたのだ。

なぜか()()()ですけどね。

いやもちろん、俺も初めはパーティで行動してたよ?だが、そのメンバーの隙を突いて隠蔽スキルを使いながら逃げてきたのである。

『さすがヒッキー!』とか思ってるそこのお前、俺の名誉のために理由を説明しておこう。

現在、調査のほとんどは第50層で行われているが、《神隠し》が第50層で起きているという保証はどこにもない。それならば当然、第50層以外の場所でも調査すべきだが、今回パーティを組んだ奴らが調査に対して全く意欲的でなかった。

俺は攻略を再開するためにとっととこの奇怪な事件を解決したいのだから()()()()()一人で行動することにしたのだ。決して見も知らぬ他人と行動するのが苦痛だったわけではない。断じてだ。

 

(……やっぱり、班分けなんてろくなもんじゃない。)

 

 

ーーーちなみに、キリトはハチマンと組もうとしていたが、意外と人望があるらしく他のプレイヤーからの誘いを受けていた。断ってしまえばいいのにそれが出来ないのがキリトである。それも人望がある一つの理由に違いなかった。

 

 

そうして、とりあえずここ第49層に来て片っぱしからNPCに声をかけていた。

 

(ん?こんな洞窟、前にもあったか?)

 

すると、見覚えのない洞窟の前へとたどり着いたのである。ここは前にも来たことがあるはずだが、洞窟なんてものがあった覚えはないし、そういった噂も聞いたことはない。

さらに近づいてみると洞窟の前には老婆がいた。

 

(怪しいよな……。)

 

そこで一応、パーティメンバーに連絡をしておいた。

本当ならあいつらなんかではなく、情報屋のアルゴ辺りの方が信用は出来るのだが、そのアルゴ本人が《神隠し》に遭っていて連絡が付かないのだから仕方がない。あいつがいれば俺が出しゃばるようなこともなかっただろうに…。

とりあえず声をかけてみる。

 

「どうかしたのか。」

『ワタシの孫が洞窟の中に入ったきり戻って来ないのよ…。探してきてくれないかね?』

 

目の前に『Yes』『No』の選択肢が現れ、迷わず『Yes』を選択する。

 

『そうかいそうかい。ささ、こっちじゃよ。』

(は?イヤイヤイヤイヤ。)

 

突然、腕を掴まれて洞窟の中へと連れて行かれてしまった。

入口では老婆がこちらを向いて立っているのが見える。

確認してみると、やはり既に外部との連絡は取れないようになっていた。

 

(なんだ、あの怪力…。絶対自分で行けるだろ…。)

 

そんなことを毒づきながらも先へと進む。

 

(暗いな…何も見えん。《暗視》も効かないのか。)

 

ますます《神隠し》っぽい状況になってきた。

そのまま歩いていくと洞窟の奥に出口があるのが見えてくる。

そこから外に出ると…

 

「…何も見えん。」

 

辺り一面がめちゃくちゃ濃い霧に覆われていた。はっきり言って、視界は洞窟の中と全く変わらない。

しばらく歩いても全く晴れる気配はない。

これなら周りに誰かいても気づかないだろう。

 

(おいおい、ホントに何だ、これ。子供を探すどころじゃないだろ…ん?)

 

すると遠くの方から、『オバァチャーン、オバァチャーン!!』という子供の声が聞こえてきた。明らかにターゲットの子供の声じゃないか?

攻略組のプレイヤーが苦戦するにしては簡単すぎる。

 

(これは…あっちの方からか。《神隠し》とは関係なかったか…?)

 

そう思いながら声のする方へと向かうが、

 

「ぐはッ!?」

 

いきなり何かに突き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ…!」(なるほど…確かにこりゃあ”怪物”だね。まさか()()()()と戦うハメになるとは…。)

 

俺は老人に連れ去られた後、とある集落へとたどり着いていた。

そこは《クリスタル無効化エリア》で転移結晶も使えなければ、フレンドに連絡を取ることも、周囲の森に入ってもいつの間にか戻ってきてしまう、完全に外と遮断された場所だった。

周囲に行方が分からなくなったプレイヤーの気配はなかったが、状況的に考えてこのクエストが《神隠し》の正体に間違いない。俺しかいないってことは、たぶんここは《インスタンスマップ》ってやつなのだろう。

とりあえず周囲を歩き回っていると、”怪物”らしきものを発見したので、とりあえず交戦を始めていた。

 

《ザ・メタモン》

初めに見つけたときにはただの銀色の液体だったのだが、エンカウントした瞬間、激しくうごめいたかと思うと俺と全く同じ姿に変化したのだ。

 

(姿形はともかく、戦術とか動きまで全く一緒かよ…。)

 

こっちが相手に向かって槍をつけばむこうも同じことをノータイムで返す。それを避ければむこうも避ける。ダメージをくらって(回復結晶が使えないので)ポーションを使えばむこうも使う。何もしなければ何もしてこない…。

 

(埒があかん…こんな戦いは初めてだ。)

 

一進一退どころではない。まるでこいつと二人三脚でもしているかのような感覚。

 

(でも何か、何かが引っかかる…。)

 

攻撃していた手を一旦止める。

 

(そうだ…それじゃあ相手が追いつかないほどの速さで走れば…?そういうこともありえるんじゃないのか?)

 

当たり前だ、こいつは俺じゃないんだから。

 

(恐らく、俺の思考がナーヴギアを通してこの世界のこの体に反映されるのと同じ経緯でこいつも動いてる。それでもその過程には違いがあるはずだろ。だったら俺の思考がこいつに反映される前に俺がこいつを倒す…。)

 

矛盾はない。

 

(しかし、可能なのか…?)

 

先程から、俺とこいつの動きにそんなラグは感じられない。

それに、失敗すれば同じダメージを俺自身も負うことになる。

その先に待ち受けるのは…。

       《死》

 

(じゃあ、助けを待つか…?)

 

それも一つの選択肢ではある。

 

(そういえばサチたちはちゃんと助けを呼びに行ってくれただろうか。)

 

……まさか。

 

(…まさかここに来てたりは…しないだろうな…。)

 

いや、俺があそこまで念を押したんだ、戻ってるはず。

 

(でもあいつらは三人…誰かが戻って、残りでここに来れば助けは呼べる…。)

 

そんな…嘘だろ…?

 

(あいつらのことだ、そうする可能性が高い…。迂闊だった…!)

 

どうする!

 

(決まってる!!)

 

倒す!!

 

(倒して俺が戻る!)

 

覚悟を決め、槍を手に再びヤツへと向かう。

 

(考えろ!!こいつが追いつかないくらい速く!!)

 

どんどん攻撃を繰り出す。

 

(まだだ、まだ足りない!)

 

それでも次第に双方のHPは減っていく。

徐々に思考が体を追い抜くような感覚。

 

(倒す!!!)

 

そして俺は槍を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

(一体何なんだ、こいつらは。)

 

あれから一時間ほどがたっただろうか。

俺はまだ濃い霧の中に囚われていた。

さっきから攻撃してくるのは明らかにエネミー。しかも攻撃からして一匹ではない、二匹いる。

しかし姿が見えない、音も聞こえない、匂いももちろんない。どんなに五感に訴えかけても、捕捉することができなかった。

 

(いや、触ることはできるか、相手が攻撃してきているんだからな。)

 

それでも捕捉できないことにはこちらからは攻撃できない。ただ、幸いなことに一定以上退けば攻撃はしてこないようだった。進んでは攻撃され、退きながら《戦闘時回復》を使って回復し、さらに進む。

しかし何度やっても結果は同じだった。子供までたどり着くまでHPがもちそうにない。

 

(倒すしか…ないのか。)

 

視えない敵を?

 

(それとも救助を待つか?)

 

もうここに来て一時間は経ってる。そんなのアテにならないし、事態が一刻を争うのは明白。外へと情報が届かないならなおさら期待はできない。

 

(戻らなきゃいけない、俺自身の手で。)

 

そう覚悟を決めて歩を進める。

 

「ぐッ!」

 

やはり視えない。

 

(集中しろ!)

 

二つの方向から攻撃が来る。避けることは考えない。

 

(ぼっちは気配に敏感なんだ…。)「ナメんなッ!」

 

そして俺の剣は二匹のエネミーをほぼ同時に斬り裂いた。

 

 

 

 




活動報告書きました。
かなり重要なことを書いたので、もしこの作品の存続を気にしてくださる方がいれば読んでもらったほうがいいと思います。
先に言っておきますが…本当に申し訳ないです。


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深まる謎

 

「死ぬかと思った…。」

 

ハチマンのHPはレッドゾーンぎりぎりである。

彼がイベントボス《ゴースト・ジ・アイズ》を倒すと辺りの霧は晴れていった。もっとも、霧が晴れて名前を確認する前に消えてしまっていたので、彼には相手の名前も姿さえもわからない状態だったわけだが。

そして視界が広がり、彼の目の前に現れたのはターゲットの子供と、

 

「は?」

「ハチ君…?」「ハチ坊…。」

 

行方不明だった二人のプレイヤー、アスナとアルゴだった。

 

(そういえばこいつらもいなくなってたんだっけか。同じところに閉じ込められてたのか。それにしても…二人だけ?どういうことだ?まさか他の奴らはもう手遅れ…)「は、ハチ君ーーー!!!」「ぐはぁッ!?」

 

突然アスナがハチマンに勢いよく抱きついた。

 

「お、おま…何を……。」

 

ハチマンは文句を言おうと口を開いたが、そのまま固まってしまう。

 

「ウッ…ヒッグ…」

 

アスナは泣いていた。

その後ろで、アルゴもアスナほどではないが尻もちをついて動けないでいる。

 

(はぁ…メンドウな…。)

 

ハチマンはそれを見て何も言えなくなってしまったのだ。

ぼっちは一般人よりも空気が読めるのだ。ただ、気にしないというだけ「うるせぇ。」

 

 

 

『おばあちゃーん!!』『瑠璃子!!』

「感動の再会ダナ。」

「そ、そうね…。」「……。」

 

ハチマンは落ち着きを取り戻した二人と子供を連れて洞窟の中から脱出した。

アルゴは早々に自力での脱出を諦めてじっとしていたが、死にかけるまで孤軍奮闘していた二人は目の前の光景にイマイチ納得できていないらしい。

それと結局、二人以外のプレイヤーは見つからなかった。

 

『旅のお方…本当に!どうもありがとうございました!これは、ほんの気持ち程度ですが…どうか受け取って下さい。』

 

クエストをクリアしたのはハチマンだけなので二人には何の反応も見せない。

 

(集団で挑んで一人でもクリアしたらオッケーだったのか…)「ってはぁ!?」

 

ハチマンの手の中には本当に”気持ち程度”のコル(SAOでの通貨)が握られていた。

 

「ちょ!あれだけ苦労してこれだけとか…!!」

「まあまあ、いいじゃないカ。」「……。」

「代わりに今度ハチ坊が困った時には言いナ、オレっちに出来ることなら手助けしてやるヨ。」

「…!」

「お、マジか。それは心強いな。」

「なんてったっテ、命の恩人なんだからナ。それくらいはさせてくレ。」

「おう、その時はよろしく頼m「わ、私も!!」うおッ!?」

 

突然アスナが声を上げた。なんだか先程から様子がおかしい。

 

「わ、私も、その…あの…、h…」(ハチ君に何かあったら…。)

「な、なんだ…。」

「h…ふ、フレンドになってあげる!」(私のバカ~~~!!!)

「は?」

「だから、フレンドになってあげるって言ってんの!光栄に思いなさい!!」

「い、いや、別にいいって。そんな無理強いしねぇから。」

「なッ!?私とフレンドになるのが嫌だっていうの!?」

「そういうわけじゃねぇけど…。」

「だったらなりなさい!」

「は、ハイ…。」(訳がわからん…。)

「そうよ、初めからそう言えばいいのよ。」(け、結果オーライかしら…?)

(これはまさカ…思いがけず面白い情報を手に入れたナ。)

 

三人はそれぞれ別々のことを考えていた。

 

「おーい!」

 

そんな時、森からハチマンの(元)パーティメンバーたちが出てきた。

 

 

 

 

 

「で、そっちの方はカイトが解決した、と。」

「そういうわけ。いやーお前もお手柄じゃないか、ハチ!」

 

ハチマンのパーティメンバー二人と合流した三人は、事情を話したのちに第50層にある《神隠し》調査本部まで戻ってきていた。

そこには今まで行方不明だった者たちも含めた攻略組のメンバーがほとんど勢ぞろいしている。

 

カイトもあの決死の戦いをなんとか制して、クエストに囚われていたプレイヤーたちを解放することに成功していた。ハチマンの時と同じように一人がクリアすればよかったらしい。

ちなみに、カイトが得た報酬も”気持ち程度”だったという。

 

「というかさ、俺はハチがいなくなったって聞いたときにはてっきりどっかで狸寝入りでもしてるのかと思ったけどな。」

「まあ、お前らだけで解決できるか怪しいところだったからな。」

「またお前はそんなことを…。いなくなった奴らが心配だったんだろ?隠すことねぇって。それにしても《神隠し》が二箇所で起こってたなんてよく気づいたよな、ハチ。」

「いや、もしかしたらそんな可能性もあるんじゃないかって思っただけだ。それと言っておくが、俺はただ攻略が進まないのが見過ごせなかったからであって…「それでもお前のおかげで二人が助かったんだからよ、もっと誇れって!」………。」

「ねぇ、ちょっと分からないことがあるんだけど。どうしてカイト君の方にはそんなにたくさんの人達がいたのに、こっちにはハチ君を合わせても三人しかいなかったの?」

「ああ、それはだな、ケイタとサチから聞いたんだが、俺の方のクエストを受けるには何らかの条件を達成してないとダメだったらしい。たぶんレベルかステータスに制限があったんだな。お前ら三人に共通することと言えば…。」

「《敏捷》か《感覚》にステータスを多めに振ってる、だな。」

「ああ!なるほど!それで今回は攻略組ばかりが被害にあったんだ。」

「でも、これで《神隠し》も解決したし。遅れた分、頑張らないとな。」

 

キリトの言葉に攻略への意欲を取り戻すプレイヤーたち。

しかしそんな中、カイトとハチマンの二人だけは浮かない顔をしていた。

 

(このクエストは明らかに普通じゃなかった。難易度といい、報酬といい。受けるための条件も厳しすぎる。何かしらの意図があったんじゃないのか…?一体何を考えている、茅場晶彦…。)

 

一方、湧き立つプレイヤーたちにまじって”SAO最強の男”が二人を面白いものでも見つけたかのように見ていたことには誰も気が付いていなかった。

 

 

 

 




アスナについては…吊り橋効果ってやつですかね(´ω`;)


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第50層攻略

読んで思ったけど…自分で書いといてなんだけど…展開急すぎて笑えない(笑


カイトとハチマンの活躍により《神隠し》を解決した攻略組は、少しの犠牲を出してしまったものの、なんとか攻略に復帰することができた。

そして、ついに第50層ボス部屋が発見され、会議が開かれた。

 

 

「ボスの名前は《ザ・ヴァジラ・カーキナス》。腕が六本もある仏像のようなヤツだ。それと、第25層と同様、HPがとんでもなく多かったらしい…。」

 

リンドの発言を聞いたプレイヤーたちに動揺が走る。

”第25層の悲劇の再来”

そんな言葉が頭をよぎっているのだろう。

その様子を見てヒースクリフが立ち上がった。

 

「諸君、怖気付くな。我々は何のためにここまで強くなったのか、思い出せ。負けるはずがないだろう?それに今回は…”私”がいる。」

 

”SAO最強の男”の言葉。

それは恐怖に押しつぶされそうになったプレイヤーを勇気付けるのにも十分すぎるものだった。

そして漸く攻略会議が始まる。

 

 

(《ヴァジラ》…《カーキナス》…?)

 

中央では《KoB》の副団長であるアスナと《DDA》のリーダーであるリンドを中心に今回のボスへの対策がなされていた。カイトも《SSK》のリーダーとして一応参加はしているが、作戦に口出しをすることはあまりない。

ちなみに、ハチマンはいつも端っこの方で大人しくしていて、ヒースクリフに至っては参加しないこともしばしばだった。

そのカイトが急に口を開いた。

 

「ちょっといいか。」

「どうかしたの、カイトk…さん。」

 

さすがにこういう場で君付けはヤバイだろう、主にカイトの身が。

 

「あぁ…この《ヴァジラ》って金剛杵のことだよな。」

「コンゴウショ…?なんだい、それは。」

「簡単に言えばなー…仏教とかで使われる道具のことだな。で、俺が言いたいのはこいつが元はインドの神話上の武器を擬えてるってこと。」

「え、それってつまり…。」

「今回のボスはその武器を使ってくる可能性が高い。その武器ってのは槍、それも雷を操るっていう厄介なやつでな…。正直、そんなの想像もしたくねぇ…。」

「なるほど、それじゃあ各自、麻痺に耐性のあるアイテムを用意しておいたほうがいいね。」

「あ、それと。」

「まだ何かあるの?」

「ある。もう一つのこの《カーキナス》。ちょっと捩ってはあるが、ギリシャ神話に出てくる《カルキノス》っていう化け蟹のことだと思う。」

「「ギリシャ神話!?」」

「日本でも化け蟹が僧侶にすり替わって人を殴って殺すっていう話もあるし、一説にはそいつが死んだ時に千手観音像がその死体から出てきた、なんてのもある程だ。今回のボスの姿って千手観音っぽくないか?」

「た、確かに。腕が六本だったし、足と合わせて計八本…蟹っていうのも納得できる。」

「しかも、そのカルキノスを倒したのは金剛杵の一つ、独鈷杵だっていうオマケ付き。ここまでくるとあっぱれだな。」

「じゃあ水の攻撃も警戒しないといけないのかしら…。」

「憶測だから分からんが、しておいて損はないだろ。」

「なるほど…これは分かってるのと分かってないのとでは雲泥の差だね。」

「それにしても頭いいのね、カイトさん…。」

「昔からこの手の話が好きでな。大したことじゃないって。」

「いえ、知ってるだけじゃ今みたいなのを思いつくことはできないわ。」

「うーん、まぁ一応、~大学の医学部だからな。」

「え、あの!?すごい、日本でもトップのところじゃない!!」

「え、あー、まー、そう…だな。」

「すごい、ホントに驚いた!頭いいとは思ったけどそれほどだったなんて…「えーと、そろそろ会議に戻ってもいいかな、アスナさん…?」……え?あ、ご、ごめんなさい…。」

 

会議中だったことを思い出し、アスナが顔を真っ赤にして俯いてしまう。

それを見た男性プレイヤーたちは新たな決意を胸にするのだった。先程の脱線も決して無駄ではなかったわけである。

 

「今の話をまとめると、今回のボスは六本腕の仏像。武器は独鈷杵という雷を操る槍で、特殊攻撃に水を警戒。話を聞く限り、素手での攻撃にもかなり気をつけたほうがいいね。もしかしたら腕が六本以上に増えることもあるかもしれないか。」

 

名前と姿形だけからここまでの情報が推測できたのは攻略組にとって嬉しい誤算だった。ヒースクリフの言葉も相まって、プレイヤーたちの表情が見るからに明るくなる。

その後、今回のボスの手数の多さから盾役の負担が増えそうだということで今まで以上に綿密な連携も考えられた。

 

『これだけ対策しておけばあの様な悲劇になるはずがないだろう。』誰もがそう思った。

しかしこの後、彼らは再び思い知らされることになったのだ、このデスゲームの恐ろしさを。

 

 

 

 

 

確かに《ザ・ヴァジラ・カーキナス》のメインウェポンは独鈷杵だったし、特殊攻撃も水を使ったものだった。HPが多いことも事前にわかってはいたし、手数が多いことも予想されていた。

 

しかし、プレイヤーたちに突きつけられたのは

どうしても越えることのできない圧倒的な

文字どおりの”レベル”の差。

 

その壁の前にはどんな対策も無に帰してしまう。その程度は第25層の時の比ではなかった。

多くのプレイヤーがその巨大すぎる敵の力を前にして恐怖に慄き、転移結晶で戦線を離脱するプレイヤーさえいた。そのせいで、せっかく考案した連携も途中から保つことが出来なかった。いや、被害そのものは第25層の時の方がひどかったのだ。それを考えれば対策はかなりの効果を発揮していたのかもしれない。

 

それでも戦線は崩壊、プレイヤーたちの戦意も失われ、”敗北”の二文字がよぎった時、

一人のプレイヤーが暴れまわるボスの前へと立ちはだかった。

 

”SAO最強の男”、ヒースクリフ。

 

その光景は彼がその称号を手にした第26層の戦いを彷彿とさせた。

だが、あの時とはまるで状況が違うのだ。相手にするのは間違いなく今までで最強の敵。頼りに出来る仲間もおらず、完全に一人の戦い。

誰もが最悪の結果を予感した。

しかし、彼はまたもや常人の理解の先をいくのだった。

 

”ユニークスキル《神聖剣》”

 

それは今まで誰も目にしたことのない、未知の剣。

変幻自在の剣筋は、攻略組10人以上がかかっても太刀打ちできなかった六本腕によるボスの攻撃を完璧に捌き、さらに反撃までしてみせたのだ。

 

言葉を口にせずとも、確かに彼の背中は語っていた。『”私”がいる。』と。

 

そしてヒースクリフに続くようにプレイヤーたちの目に生気が宿り、勢いを取り戻した攻略組は、《ザ・ヴァジラ・カーキナス》を撃退した。

LAを決めたのはカイトだった。

 

 

 

結果、第25層ほどではないにしろ被害を多大に受けた攻略組は再び攻略を一時中断。復帰の目安を二週間後として休息に入った。

これが2023年12月11日のこと。

 

 

 

 

 

その二日後、12月13日。

 

「よお、アルゴ。どうしたよ、お前の方から呼び出すなんて珍しい。」

「カッちゃんに伝えておきたい情報があってナ。その前に一つ聞いておきたいことがあル。」

 

カイトはアルゴに呼び出されて街の中の路地裏に来ていた。周りに人の気配はない、

 

「なんだよ。」

「…第一層ボス戦。」

「ん?」

「カッちゃんは攻略組の一人として参加シ、勝利シタ。その時のパーティメンバーはキー坊、アーちゃん、ハチ坊…ずいぶんと豪華なメンバーだナ。そしてもう一人、そのパーティには盾と片手剣を携えたプレイヤーが居たナ。」

「……てめぇ、何が言いたい。」

「戦い方がお粗末で、カッちゃんに仕込まれてなかったらすぐに死んでいたような奴ダ。カッちゃんのことを”師匠”として慕っていタ。オレっちももちろん会ったこともあル。そいつの名前は《コペル》。無残にも初めてのボス戦で犠牲になッタ…。」

「おい、マジでふざけんなよ、いくらお前でも言って良いことと悪いことが「もし。」は?」

「もし、ダ。もし、コペルを生き返らせる方法があるとしたら…カッちゃんはどうすル?」

 

 

 

 



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可能性

 

(なん…だと…?)

「再来週の12月25日、クリスマスの日に発生するイベントのボスが蘇生アイテムをドロップするっていう情報をこの間ゲットしたんダ。場所は…」

 

俺の耳に、もはやアルゴの言葉は届いていなかった。

 

(コペルを…生き返らせる…?そんなことが可能なのか?確かに、茅場はHPが全損したら現実で死亡するとは言っていたが、俺たちプレイヤーにそれを確かめる方法はない…。「カッ………。」まだ生きたままどこかに囚われている可能性も否定できない。あり得るのか、そんなことが…)「カッちゃん!!」「うおッ!?」

 

アルゴの声で意識を現実に連れ戻される。

 

「何をぼーっとしているんダヨ、カッちゃんらしくもナイ。」

「す、すまん…。」

「まァ、無理もないカ。もう一度言うゾ?時間は12月24日から25日に変わる午前0時。場所はまだはっきりとは分からないガ、とある大きなモミの木の前ダ。」

「茅場からのクリスマスプレゼント、ってか。」

「どうすル、行くのカ?」

「当たり前だ。教えてくれてサンキューな。いくら払えばいい?」

「…御代はいらないヨ。」

「へ?」

「情報料は今回はいらなイ。カッちゃんには何度も助けてもらってるからナ、これはオレっちからの日頃のお礼ってやつダ。」

(あのアルゴが?)「お、お前…熱でもあるんじゃないか…?」

「にゃハハハ!まあ、当然そうなるだろうナ。でも本当だゾ。」

「…すまねぇ。この恩はいつか必ず返す。」

「そんなの別にいいッテ!でもナ、このイベント、ライバルは多いゾ、精々頑張りナ。」

 

そう言うと、アルゴは走り去って行った。

 

 

 

 

俺はその日からレベル上げに没頭した。恐らく、今のレベルでは全く足りない。SAOに今まで存在しなかった蘇生アイテムだ、それをドロップするのだから、半端な強さではないことは容易に想像できる。

キリトたちに頼めばそりゃあ手を貸してくれるだろう。でもこれはあの時の俺の罪過だ。あいつらを巻き込みたくはない。

毎日、適当な理由をつけては一人で行ける中でもなるべく効率のいい狩場に張り付く。

そんなことを何回か繰り返した日のことだった。

 

 

(誰かにつけられてる?)

 

別に、誰かが同じ狩場に来るのはおかしいことじゃない。そういう時には、いつもちょっと距離をとってから狩りを再開するのだが、そいつは明らかに俺のことを追ってきていた。

 

(速いな…ていうかこれって…。)

 

その速さに覚えがあった俺は追手の正体に感づき、立ち止まる。

 

「よお、キリト。どうかしたか?」

「…何してるんだよ、カイト。」

 

追っ手の正体はキリトだった。

 

「何って、言っただろ?ここで俺の欲しいアイテムがドロップするんだよ。協力してもらうほどのことじゃないし、先に戻ってろって。」

「…アルゴから聞いた。『カイトがとあるイベントに一人で参加するつもりらしいゾ。』って。」

(アルゴが!?余計なことを…。)

 

もちろん、アルゴは無駄に情報を漏らしたりはしない。あいつなりに考えた結果なんだろう。

 

「その内容も聞いた…。どうして、どうして俺に相談してくれなかったんだよ!!」

「…聞いたならわかるだろ。俺はどうしてもそいつを手に入れたい。それにあいつが死んだのは俺の責任だ、一人で片をつけなきゃいけねぇ。」

「まだそんなこというのかよ!?ふざけるなよ!!俺だって一緒に戦ってたんだ、あいつを…コぺルを助けたい気持ちは同じじゃないか!!」

「…。」

「それに…俺たち、”兄弟”だろ…。」

「!?」

「もっと頼ってくれよ…。それに…もしそれで啓が死んだら…俺はどうすればいいんだよ…。」

 

キリトは泣いていた。

それは悲しみか、怒りか、それとも悔しさからなのか、俺には分からなかった。

 

(俺は、何を考えていたんだ。)

 

しかし、これだけは分かる。

 

(罪過…?責任…?)

 

俺が間違っている。

 

(こんなのただの我儘じゃないか…。”弟”がこんな風に考えていたとも知らずに…)「すまなった、和人。」

「啓…。」

「俺が、どうかしてたみたいだ。こんな兄貴でも、許してくれるか。」

「ははっ、もともと怒ってなんか、ないさ。」

「そうか…。じゃあ一緒に戦ってくれるか?」

「当たり前だろ。ていうかその言葉を待ってたんだよ。」

(はっ、本当に生意気な奴…。)

 

 

 

 

その後、俺たちはしばらく狩りを続け、ある程度成果が出た時点でホームへと帰っていた。

 

「そういえばハチとアスナにも話しとかないとな。」

「あ、確かに。アスナなんか、話してなかったことが後で知れたらどうなるかわからないし…。」

 

ただ、参加出来るかはかなり怪しいところだ。

アスナはギルドを離れられる状況じゃないし、ハチはまあ、期待できない。

そうなると、二人だけでやることになるのだろうか。

ならば、その前にキリトに話しておくべきことがある。

 

「実はな、キリト…。」「カイト、言っておきたいことが…。」

 

言葉が重なってしまった。

 

「お、すまん、キリトから話していいぞ。」

「ああ。ボス戦の前に話しておきたい。俺のスキル……”ユニークスキル”について。」

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

キリトとカイトが和解した次の日。

 

「えぇ、私もそれ聞いたわ。もちろん手伝ってあげたいのは山々なんだけど…ちょっと難しいかも。でも《KoB》は総意では参加しないって決まったから安心して。」

「やっぱそうだよなー。まぁ、俺たちでなんとか頑張るよ。」

「ハチはどうだ?」

「俺も忙しいから無理だ。」

「「「(ソロのくせに何が忙しいんだか…。)」」」

 

ハチマンは嘘をついているということを隠そうともしていなかった。しかし、どうしても参加して欲しいわけでもないのであまり深くは追求しない。それに二人で倒す算段も付いていて、むしろその方が都合がいい理由もある。

 

「そうか、いきなり呼び出してすまなかったな。」.

「いえ、こっちこそ協力してあげられなくてごめんなさい。」

「頑張れよ。」

「「あぁ。」」

 

 

 

 

「今回はサンキューな、アルゴ。」

 

四人が会合した数時間後、ハチマンは今度はアルゴと会っていた。

 

「別にいいッテ。他ならぬハチ坊からの頼みダ。でも…本当にこれで良かったのカ?」

「ん?何がだ。」

「だから…オレっちに蘇生アイテムの情報を流したのがハチ坊だってことをカッちゃんたちに伝えなくて良かったのカってことダ。」

 

そう、アルゴの言う通り、この情報のソースはハチマン。《神隠し》の調査をしていた時に第49層でNPCから聞いたのが始まりだ。

つまり、ハチマンはカイトたちがそのイベントに参加するということを、彼らから聞く前どころか、一番初めから知っていたのだ。

 

「別にいいんだよ。ああいうタイプは恩を売っておくと後々がしつこい。『あの時の恩を返すから~。』ってな。それに、最終的に情報を集めて形にしたのはお前だろ。俺がしたことなんてほとんどない。」

「イヤ、そんな訳ないダロ!オレっちに『他の奴らに情報を流さないでくれ。』なんて頼んでおいてサ。それもカイトたちがアイテムをGETする確率を少しでも上げるためなんダロ?」

 

もちろん、《神隠し》のことで恩があるからこそ受けた依頼だった。

 

「俺がそんなお人好しに見えるか?それは蘇生アイテムなんかのせいで攻略組内で衝突が起こるのを未然に防ぐためだ、別にあいつらのためじゃない。」

「ハチ坊…。分かったヨ。そういうことにしておク。」

「おう、頼む。」

 

そう言うと背を向けて歩き去っていくハチマン。それを見てアルゴも帰っていく。

 

(ハチ坊…それでいいんダナ、本当ニ。それなら、せめてオイラだけでも本当のことヲ…)「そういえば。」「ワォッ!?」

「なんつー声上げるんだよ…。そういえば聞きたいことがあるの忘れてたわ。」

「な、なんダヨ。」

「お前のホームってどこなんだ?」

「ヘ?オレっちのホームは…ってそんなの言うかヨ!?情報屋が簡単に情報を売らないことはハチ坊も知ってるじゃないカ!」

「なら、見返りとして俺のホームの情報を売る。それでどうだ。」

「フム?……いいダロウ。交渉成立ダ。それにしても何でそんなものヲ?」

「まあ、予防線、だな。」

「?」

 

 

 

 




活動報告にも書きましたが、この作品は「未完」になることが現在確定していてですね…とりあえず次の話で最後になります。
中途半端もいいとこですが、どうかご理解よろしくお願いします。


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三人の勇者

それでは最終話、どうぞ。


 

「この日がついに来たな…。覚悟はいいか、キリト。」

「当たり前だ。」

 

12月24日。カイトとキリトは第35層の森の中にいた。

二人はあの後もアルゴの協力のもと情報収集を続け、この層にある巨大なモミの木がイベント発生の場所だということを突き止めていた。

時刻は午後11時35分。後25分でイベントボスが現れるはずである。

 

「でも、それよりも…。」

「あぁ、分かってるって。」

 

しかし、その前にやらなければいけないことがあることに二人は気付いていた。

 

「おい!そこにいる奴ら!出てこいよ!」

「…なんだ、バレてたのか。」

 

そう言って出てきたのはクライン、そしてクライン率いる《WWFM》の面々だった。

 

「どうして俺たちを尾行するようなことしたんだ、クライン。」

「……じゃあ言わせてもらうけどな、たった二人で勝てるのかよ。俺たちみんなで挑んでさあ…LAボーナスはトドメ刺した奴の物!それでいいじゃねぇか!」

「それじゃダメなんだよ!!」

「カイト…。」

「それじゃ……あいつは生き返らねぇだろ。もしこのまま回れ右してくれないなら、ボスよりも先にお前達を倒さなきゃいけないことになる。」

 

そう言って、カイトとキリト、そして《WWFM》が臨戦態勢に入ろうとしたその瞬間。

数人のプレイヤーたちが森の中から出てきた。

 

「はあ…お前もつけられたんだな、クライン。」

 

それは攻略組の一つ、《DDA》のメンバーだった。

彼ら《DDA》は元は真っ当な攻略組だったのだが、最近はレアアイテムのためなら汚いこともする、なかなかにゲスなギルドと化しているらしい。

今回もそのつもりなのだろう。

 

「はあぁ…。全くどいつもこいつもよぉ…。キリト!カイト!ここは俺たちに任せて先に行け!」

「え、でも、クライン、それじゃあ…。」

「いいんだよ!この程度ならどうにでもなる!とっとと追いついてやるから、先に行けって!」

「…サンキューな、クライン。」

 

そしてクラインたちを置いて二人はイベントへと向かう。

 

 

 

 

 

《DDA》が二人の前に現れた頃、とある階層の森の中。

 

「ハッ、ハッ!」(全ク、しつこい連中だネ。)

 

フードをかぶった小柄なプレイヤー、アルゴは何者かに追われていた。

彼女はその職業柄上、人から怨みを買うこともしばしばであり、追われる状況にも慣れてはいる。だが、今回に限っては相手が悪かった。

 

「(どうしたものカ…)っト。」

「おい!《鼠》!今からでも遅くはない。早く情報を渡せ!」

 

今、アルゴを追いかけているのは、カイトたちと同じく《DDA》だった。

アルゴはハチマンの要求で情報をキリトとカイト以外には情報を渡しすぎないようにしていた。もちろん、相手にはそのことがバレないように注意していたのだが、あるはずみで《DDA》に知られてしまったらしく、そのせいで情報を全て渡すように要求されているのだ。

そして、さすがは攻略組といったところか、いくら逃げても回り込まれて待ち伏せされてしまう。

 

「オレっち、しつこい男は嫌いなんだヨネ。悪いケド、あんた達みたいなのに渡す情報は持ち合わせてないヨ。帰ってくれないカナ。」

「こいつ…ふざけやがって!」

 

どうやら今ので《DDA》の逆鱗に触れてしまったらしい。怒り狂ったプレイヤーが武器を構えて襲いかかってくる。

アルゴもトッププレイヤーの一人であるが、これだけの人数の攻略組を相手にしたことはなく、隙を見て逃げようとするもなかなかできない。

 

(ハア…オイラも焼きが回ったネ…。別にあの程度の口約束、頑固に守る必要もないだろうニ。()()()が絡むト、どうも調子が狂うヨ。)

 

剣が振り上げられるのを見て、アルゴは自分の死を悟り目を閉じる。

 

『キィンッ!』

 

しかし次の瞬間に聞こえたのは身体が斬られた音ではなく、金属がぶつかり合うような音だった。

 

(な、何が起こッタ…?)

 

アルゴが恐る恐る目を開けると…

 

「ハチ坊…。」

「やっと追いついた…。お前速すぎだろ。お陰で一回見失っちまったじゃんか。」

 

そこには”忙しい”はずのハチマンが立っていた。

 

 

 

 

 

カイトとキリトはクラインたちと別れた後、ボスと遭遇、交戦を始めていた。

 

《背教者ニコラス》

二人が戦っているイベント《赤鼻のトナカイ》のボス。

蓄えられた長く白い髭と、白と赤を基調とした服装こそ確かにサンタクロースのようではあるが、その四肢は異様に長く、皮膚は枯れてまるでゾンビのようでもある。

 

「やっぱりなかなか強いな。」

「あぁ、もし一人できてたらヤバかったかも。」

 

そして予想通り、第35層で起こっているイベントのボスとは思えないほどの強さだった。

 

「…でも、もうやっちゃっていいんじゃないか?」

「そうだな。クラインたちも心配だし、とっとと決めちまうか。」

 

雄叫びをあげる《背教者ニコラス》。他人がそれを見たならば、顔を青くするのは確実だろう。

しかし二人に怯えの表情はなかった。

 

 

 

 

 

「ど、どうしてここニ…?」

「まあ、もしかしたらこういうこともあるんじゃないかと思ってな…お前の周囲を探ってたんだよ。そしたらなんかこいつらが怪しい動きしてたから張ってたんだ。先に言っとくがこれは決してストーカーなどではなく…「ハチ坊!後ろ!」っとアッブねぇ!」

 

後ろから斬りかかってきたのを寸でのところで避ける。

 

「どうしてお前がここにいる!《銀色の狼》!」

「だから、その名前で呼ぶんじゃねぇよ!(恥ずかしいだろが。)理由はさっき言った通りだが?何か問題でもあったか。」

「だから、お前には関係ないのになぜわざわざそんなことをしたのかと聞いている!」

(ッチ、メンドクセ…。)「そりゃー、お前らに情報渡すなってこいつに言ったのは俺だからな。」

「なっ!?」

「こうなることぐらい予想はつく。アルゴに何かあったら困るだろ。と、いうことで、今日のところはお帰り願えませんかね?」

「ちょっと強いからって調子に乗りやがって!獲物が一匹増えただけだ!やっちまえ!」

「わーお、見事な小物感…。ならしょうがないな。そっちがそのつもりならそれ相応の「ハチ坊…。」ん、どうした。」

「逃げないのカ…?」

 

腐っても相手は攻略にも参加するトッププレイヤーたちだ。いくら《銀色の狼》とは言え、これだけの人数を相手にするならば普通に考えて勝機はない。

 

「問題ない。それよりそこから動くなよ、巻き添えくらっても知らないからな。」

「エ…?」

「何をごちゃごちゃとお!」

 

アルゴを背に、ハチマンは向かってくる敵へと立ち向かう。

 

 

 

 

 

そして彼らは告げる。

 

「ボス相手に使うのは初めてだからな、いい練習台だ。」

 

「あまり時間がねぇ、格の違いってやつを見せてやる…なあ、サンタさんよ。」

 

「教えてやるよ、一体どっちが狩る側なのかってことをな。」

 

 

「「「ユニークスキル」」」

 

 

(キリト)「《二刀流》」

 

(カイト)「《肉体操作(メタモルフォーゼ)》」

 

(ハチマン)「《弓》」

 

ここに三人の勇者が誕生した。

 

 

 




…なんだか下手な打ち切り漫画みたいになってしまいました^_^;
それではご愛読(?)ありがとうございました。また会う日まで〜。


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新たな旅路
プロローグ


リメイク版を連載開始いたします!
それに伴い、この小説をお気に入りに登録している皆さんへの告知も兼ねて、こっちでも1話だけ更新します。
内容はほぼ皆無なので、これを読まずにリメイク版へと飛んでいただいて構いません。

それでは、どうぞ。


『なあ、なんか言ったらどうなんだ、ヒ××××フ……いや……、××晶×さんよ!』

 

『……まさかこんなに早く正体を曝すことになるとは思わなかったよ。見事だ、カ××君。』

 

 どこの決闘場だろうか。薄暗く、やけに広い場所に鎧や剣で武装した人々が立ちすくんでいる。中にはひどく傷つき、立つことさえままならない者もいるようだ。

 そして、その中にいる一人の青年が、彼らに取り囲まれるように凛とたたずむ者に向かって叫び声を上げている。

 

『黙れ! お前のせいで何千人の命が奪われたと思ってるんだ! さんざん人の命を弄んでおいて、そんな口をきくな!』

 

『私は彼らを殺したかったわけではないよ、×リ×君。むしろ、その逆だ。彼らには、少しでも長くこの世界で生き延びてほしい、私はそう願っていた。』

 

『だったら、仮にそうだとして、だ。そいつらを殺したのはこの世界に住むモンスターだろ。モンスターは自分の意思はおろか、命さえプログラムに規定された、ただの人形。そいつらが犯した罪の責任を、どうしてその製作者が被らないで済むと思える。』

 

『子供の罪をその親が清算しなければいけないというのは、些か古い考えだとは思わないか? ハ×××君。』

 

 さらに、先ほどの青年よりも四、五歳ほど年下であろうか、二人の少年が怒りを露わにして詰め寄る。

 それでもなお、その者は、やはり凛とたたずむままだった。

 

『やめろ、二人とも。……どうやら何を言っても無駄なようだな。』

 

『そうとも、ここで私に届く力たり得るものは、ただ一つのみだ。』

 

 そう言って二人は互いに剣を抜く。

 そこにはわずかながらの逡巡もなく、あるのは絶対に負けないという覚悟と必ず勝つという決意。

 そして、音もなく決戦の火蓋が……

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・

 

 

 

「……ら! 哲ってば! もう起きなよ!」

 

「うーん? あと五分だけ……。」

 

「起きろ!」

 

「ぐぇ!?」

 

 少女のエルボーが見事ボディーにクリーンヒット!

 

「……あ、あれ? ここは?」

 

「なーに寝ぼけてんの! 今日は大事な用事があるんでしょ。早くちゃんと起きなよー。」

 

 時刻は朝の八時三十分を過ぎようとしている。

 おそらく一般的な大学の授業開始時刻は九時ごろであろう。

 もし一限目があるとすれば

 

「や、やっべエエェェェ!!」

 

 もれなく遅刻である。

 

 そして、支度もほどほどに大学へと向かう青年。

 

「(なーんか変な夢を見たような気がすんなぁ……? ま、いいや!

 そんなことより! 今日はついに待ち焦がれたあの日! 講義なんかとっとと終わらせねぇと!)」

 

 どんなに急いても講義が早く終わるわけではないだろうが、その青年はとても胸躍っているようだった。

 

 今日の日付は11月6日。とあるゲームのサービスが開始される日である。

 

 

 

 

 そして彼らは

 

 その運命を、歩み始める。

 

 

 

 




この話をもってこの小説は完結です。
今後は、同タイトルのリメイク版でお会いできたらと思います。

読んでいただき、ありがとうございました!!


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