転生者はとあるキャラの姉 (白燕狭由那)
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胎動
プロローグ~終わりと始まり~


ハガレンの転生モノ始めます。

感想、評価ドシドシ送ってください。

転生モノは初めてですので意見がありましたらどうぞ。


ふと気がつくと、私は水の中に漂っていた。

水槽の中とかポッドの中ではなく、例えるなら海。

確かFate/EXTRAの最後で主人公がムーンセルに分解される場面がこんな感じだったなと考えていると、

 

『気がつきましたか?』

 

目の前に女の人がいた。ええと、こういう状態で登場するということは。

 

「あ、はい。あの、貴女は神様ですか?」

 

『――はい。私―わたくし―は一般的に神と呼ばれています。名は、――――と言います』

 

やはり。それに私も知っている名前であった。ということは。

 

「私、死んだんですね」

現状を受け入れた今なら、思い出せる。私は死んだんだ。ただし、小説とかでよくある交通事故とかではなく病気で。それでも私の家系って女性は長生きだから、天寿なんだろうけど。

 

『はい。貴女は寿命を全うしてあの世―此処―に来ました。ですが………』

 

ん?なんか私悪いことしたっけ?心当たりは…………なくはないけど。まだ親元にいた頃は結構反抗していたし。

 

『とある世界で摂理に反することが行われようとされているのでそれをどうにか止めなければならなくなったのです。それで……』

「私が選ばれた、ということですか」

 

 

なるほどね。私は若い頃そういった小説をよく読んでいたから何となく察しはついた。でもなぁ、そういう小説の原作リリカルなのは系が多かった。何故かそういうのに限って転生者も結構多かったから、変に絡まれるのいやだなぁ……でもまぁ、神様のお願いだし、引き受けますか。

 

 

「分かりました。それで、どの世界に行くんでしょうか?」

『はい。アメストリスという国がある世界で、ホムンクルスという者達の陰謀を止めて欲しいのです』

 

 

アメストリス、ホムンクルス………って“鋼の錬金術師”か!!私も好きで読んでいたが、ヒューズ中佐が死ぬ回だけはどうしても見れなかったし、その後の回も見れなかった。話の展開はファンブックとかクロニクルで補ったけど。

ハガレンの世界なら転生者とかあんまりいないだろうね。うん、それならうまくやっていけるかも。

 

 

『あちらの世界に行っても不自由の無いよう、特典もお付けします。ご自由に意見を申して下さい』

 

 

ふむ。特典ね……メリットデメリットあるからよく考えないと………。

 

 

 

まず“無限の剣製”と“王の財宝”は外しておこう。

理由?

無限の剣製は投影魔術を極め、尊い夢‐正義の味方‐を目指したエミヤの心を現わしたものだから、私のようなやつが安易に使ってはいけないと思っている。

 

王の財宝は担い手ではないから真名解放は出来ても使いこなすことは出来ない。宝具を射出しても、あの大総統に掴まれたら終わりだ。

 

だとすると、とりあえずベターに“魔術師としての資質と才能と知識”だね。錬金術師相手に戦うことも前提に考えて。あの遠坂時臣も、凡才というハンデを並以上の努力で研鑽したというのだから、私も積み重ねなくては。

 

そういえばアルが物を食べれないのが可哀相だったな……“蒼崎橙子の人形作製に関するスキル”もお願いしようか。あの世界だから封印指定とかは無いはずだし。

 

今まで出て来たのが型月の特典だから他の作品のも………あ、これはどうだろう。“Dies irae”のベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンと櫻井螢の聖遺物、戦雷の聖剣と緋々色金。二人の創造がかっこよくて好きになったのだが、これを扱うには強い渇望が必要だ。ベアトリスの場合は「戦場を照らす光になりたい」、螢の場合は「情熱を永遠に燃やし続けていたい」というものだ。どっちもかっこいいのだが、炎系なら焔の錬金術師、増田ひd……じゃなかった、ロイ・マスタングがいるから雷を選ぼう。それに、

(あの世界で生きる人達に、光を届けたい)

イシュヴァールでの戦い。そこでの彼等の眼に映っていたは絶望。そんな彼等に道を失わないように導きたい。きっと、“彼女”もそう思うから。

 

 

特典を決めた私は神様に伝えた。一応、戦雷の聖剣について聞いてみると、『永劫破壊は限定的に魔力でも運用出来ます』と言われた。こういうの神様修正って言うのかな。まぁ、仕事人もどきのことやって燃料貯めるしかないか。成長してからね。

 

 

 

『それではお気をつけて』

 

 

 

 

神様の言葉を聞き終わらぬ内に意識が霞んで行く。これから転生するのだろう。

意識が消え行くまでの間、これからの生を考える。

私はどのようにあの世界に生を受けるのだろう。

どのような環境で生きるのだろう。

どのように原作キャラと関わるのだろう。

 

 

 

いろいろ考えるが、ケースバイケースだろう。

ただ、一つだけ小さな願いがあった。

兄弟である。

私自身末っ子で育ったから、少なからず上の兄姉というものに憧れている。

 

 

 

……好きなキャラクターにお姉ちゃんって呼ばれたいなぁ……

 

 

 

好きなキャラ―マース・ヒューズのことを浮かべながらそう思った。叶わぬことだと分かっていたけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――その想い、承りました。

 

 

 

 

 

 

―――――神様こと、■■■■は彼女の思いを聞き届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

暗い―――

 

 

 

 

暗いし狭いけど、温かい。

 

 

まるで、母親の、子宮の中にいるような…………

 

 

 

と。

 

 

 

不意に私を覆っているナニカが狭くなりはじめた。

 

 

私は苦しくて身じろぐ……が、何がおかしい。まるで、私以外に何かいるような………。

っと、出口っぽいのが見えた。まずはあそこを抜け……ってせまっ!

 

ーーーーーーー!ーーーーーーーーーー!

ーーーーー!ーーーーーーー!!

 

 

 

誰かの声がするような気がするけど、気にしていられない。ともかく、外に出て―――――!

 

 

 

 

 

すぽん!

 

 

 

 

 

「ぉぎゃぁぁああああ!!(よぉぉおおしでたぁぁああ!!)」

 

「良かった……女の子です!」

 

 

 

やっと出られた!私は助産師の手によって取り出された。…………が、何かがおかしい。私が出て来たというのにまだ慌ただしく動いている。が、他の助産師の言葉で理解した。

 

 

 

「ヒューズさん、大丈夫ですよ!もう一人、もうすぐ出て来ますから!」

 

 

 

そう、私が子宮の中で感じた違和感………何かがいたようなしたのは、双子だったからか……。ん?今ヒューズって言ってたような…………

 

 

 

 

「ほぎゃぁぁああああ!」

 

 

「生まれました!男の子です!!」

 

 

出て来たのは男の子。その頭には既に黒い髪が生えている。

 

 

黒髪、男の子、そしてヒューズという姓。

 

 

 

 

 

 

ああ。私は全てを理解した。

 

 

 

 

 

 

私は間際に思った願い通り、姉となったのだ。

 

マース・ヒューズの双子の姉として。

 




文字通り、難産でした……!

タイトルの答えはヒューズ中佐でした!!はい、私がヒューズ中佐が好きなので。

神様の名前は一応伏せておきますが、分かった方は感想の方に書いてみてください。ヒント:日本です。

ヒューズ中佐の姉として転生した彼女は特典を使ってどう関わっていくのか。

因みに、アホタルは嫌いじゃありません。技の相性?を考えて外しました。


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設定・外伝
★ キャラ紹介 転生者


もうすぐ漢検なのでストーリーは無理ですが、書き溜めていた設定をおいていきます。

3/30 一部修正。

4/21 人物画像、身体情報追加。

5/27 アイテム、サーヴァント追加。

8/30 人物画像、投稿し直し。


名前

ヴァルトルート・ヒューズ(愛称 ルート)

 

性別

 

身長

174cm

B:84cm W:60cm H:85cm

 

特典

魔術師としての資質と才能と知識

蒼崎橙子の人形作製に関するスキル

戦雷の聖剣

 

趣味

お菓子作り、魔術鍛練、買い物

 

好きな物

弟、家族、お菓子

 

嫌いな物

ハガレンのホムンクルス、お父様、理不尽

 

概要

神様によって転生された現代人。

青春時代をオタクとして過ごし、普通に就職して結婚して主婦やりつつも子供達と一緒にプチオタクとして行動して、子供達が独立した後は神社仏閣巡りを趣味としていた。

ハガレンは小学生の頃に一度オリジナルアニメを見てそれきりだったが、第二期の時に原作を読みハマった。だがどうしてもヒューズ中佐の死ぬシーンは見れない。というか認めたくない。

兄の影響でエロゲにも多少の知識もある。特に型月とか永遠の十四歳神とかは大体兄の影響。ただし兄がとらハで止まっているのに対し本人はリリカルなのはしか知らない。

また個人的に神話も好んで読んでおり、学生時代の愛読書は古事記だった。その為、神様の名前にも心当たりがあった。小さい時の趣味は石屋に行って勾玉を集めること。

小説を読む時は登場人物に感情移入しやすいので、特典を選ぶ時もエミヤの人生を汚すわけにはいかないと無限の剣製は選ばなかった。

よくネットで転生物の小説を読んでいたので、自身が置かれた状況も何となく把握した。他の者とは違い人生を全うしたので駄々はこねなかった。個人的に踏み台転生者は好きじゃない。

末っ子だったので弟妹が欲しかった。転生する間際にそのことを知った神様によってヒューズ中佐の双子の姉として誕生することになる。

 

 

所々に時代劇の単語(仕事人など)が出てくるのは時代劇を見ていたから。

 

 

容姿

マース・ヒューズを女性化して、髪型はDies iraeの香純のアホ毛を無くして前髪を弟同様一部降ろしている感じ。眼鏡はかけていない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)

彼女が神様に頼んだ特典。Dies iraeの黒円卓第五位・戦乙女(ヴァルキュリア)ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンの聖遺物。

これを扱うには第四天・永劫回帰を掌るメルクリウス(コズミック変態)が創り上げた複合魔術“エイヴィヒカイト(永劫破壊)”が必要である。

エイヴィヒカイトの第二位階・形成の形態は武装具現型。第一位階の活動の異能は雷撃を飛ばす・触れることなく物を切ること(永遠の刹那の活動を参考)。

転生者は元の所有者であるベアトリスの創造“雷速剣舞・戦姫変生(トール・トーテンタンツ・ヴァルキュリア)”を使う。

本来エイヴィヒカイトを扱うには人間の魂を必要とするが、神様修正で魔力での運用も限定的ではあるが可能になった。

 

雷速剣舞・戦姫変生(トール・トーテンタンツ・ヴァルキュリア)

ベアトリス及び転生者の創造。発現は求道型。

発現する能力は“肉体を雷に変換すること”で、体が雷化したことによる速度上昇と物質透過、戦雷の聖剣による雷撃が主な効果である。

 

勾玉のネックレス

彼女が生前趣味で集めていたパワーストーンの勾玉を連ねたもの。水晶玉が間に連ねている。勾玉一つひとつに膨大な魔力が込められている。これを身につけるだけで魔力の増幅と循環が行われる。

 

サーヴァント・キャスター

真名:玉藻の前。

ヴァルトルートが契約したサーヴァント。呼ばれた理由は天照。

キャスター(魔術師)のサーヴァントではあるが、そのスペックはCCCでのLv.MAX状態。本気出せば神霊クラスである。主の幸せも願っている。

因みに彼女を転生させたのは色々説はあるが天照の母だとか言われている神様。

 




時々設定が増えると思います。

身長はマスタングが175~176cmとか書いてあった気がするので、それより低めで。
スリーサイズはDiesの女性陣を見て考えました。身長はリザ(ブレンナー)と同じですが、軍人ということなので。


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キャラ紹介 原作・オリジナル篇

今まで出てきた主要(?)キャラクターについてです。
一応同年代メンバーを先にupします。

5/27 アームストロング姉弟についてup。


マース・ヒューズ

 

皆様ご存知の髭眼鏡の親バカ中佐。作中ではヴァルトルート・ヒューズの二卵性双子の弟。

原作ではホムンクルスの企みに気付いてしまったが為に命を落としてしまうが、この作品ではヴァルトルートが弟を守る為に奔走する。皮肉にもこの時のトラウマがヴァルトルートの魔術回路開放のきっかけになった。

幼少時の彼等は“歳の割にしっかりした姉と腕白な弟”という、ある意味理想の姉弟として見られていた。

物心ついた頃に姉の周りとの差異に薄々気付いていたが、幼い思考故に“無理している”と認識していた。

士官学校でロイ・マスタング等と出会うが、正史とは違う出会い方だったので最初から関係は良好。

しっかりした人間に見られたいと思う半面、姉と同じでありたいという甘えも持っている。人前ではほんの少しだけ度の入った眼鏡をかけているが、姉の前では眼鏡を外している(視力はそれほど悪くない)。

 

 

ロイ・マスタング

 

焔の錬金術師として名を馳せる国家錬金術師。玖話時点ではヴァルトルート達と同じ士官学校生にして、現段階での最年少国家錬金術師。

マースとの出会いは原作とは異なり、対抗意識とかは起きなかった。錬金術繋がりでヴァルトルートとも交流を持つようになる。後にヴァルトルートと同室のクリステル、イシュヴァールのヒースクリフと友人関係を築いて行く。

この時はまだ女誑しではない(コレ重要)が、将来的に女誑しになった時を想定してヴァルトルートは男性限定の拘束具礼装を着々と準備している。

 

 

 

クリステル・リー

 

オリキャラ。女子版ロイとマースのような関係を想像した、ヴァルトルートの親友。

祖父がシン国人で、東部の郊外で暮らしていた。

八極拳を教わっており、微妙な気配の流れの変化を感じ取ることが出来る。

士官学校で出会ったヴァルトルートの持つ異常な気配を感じ取り警戒するが、ヴァルトルートの親しみやすさや行動に考えを改める。

直接対話した際にヴァルトルートが呼び出したキャスターを見た時は思わず妲己と言ってしまう。因みにこの世界のシン国の古い神話にはいるらしい。

ヴァルトルートからこの国の未来についてを聞いて、協力することを決意。戦友となった。

ヴァルトルートの鍛練にも付き合い、八極拳の技術を高めた結果、愉悦神父程ではないがマジカル八極拳に昇華させてしまい、圏境も再現させてしまった。

ヴァルトルートがブリッグスに行っている間、部屋の留守を預かっている。

 

 

ヒースクリフ・アーブ

 

OVAで登場したイシュヴァール人の青年。ヴァルトルート達の同級生。

正史では上級生から虐めを受けていたが、本作ではその前にヴァルトルートが“死なないレベル”の雷撃を上級生等に落としたので多少の偏見はあったものの執拗な虐めは受けなかった。

ロイとは廊下の下りで、マースとはロイを通じて知り合い、マースの姉ヴァルトルートとシン国の血を引くクリステルとも知り合う。

正史では敵対してしまったが、ヴァルトルートの行動がどう変化をもたらすかは不明。

 

 

アレックス・ルイ・アームストロング

 

ヴァルトルートの影響で恐らく原作から僅かながら掛け離れただろう人物。

少年期に幼いヴァルトルートに出会い、自身が抱えていたコンプレックスを打ち破った。清濁併せ持つ精神になった。ただし、感動した時はやっぱり身体言語としてのハグはそのまま。

その後は軍に入り、如何なる事態にも従事した。今は家を出てセントラルの司令部に近いエリアで暮らしている。

ヴァルトルートから貰ったオニキスを今も大切に所持している。オニキスの意味は意思の強化。別名「自己防衛の石」。

ヴァルトルートが「アル」と言った場合、それはアルフォンス・エルリックではなくアレックスである。

 

 

オリヴィエ・ミラ・アームストロング

 

ブリッグスの女王。アレックスの実姉。

士官学校の視察に訪れた際、他とは違う雰囲気を纏ったヴァルトルートを見出し、ブリッグスへ出向させた。ヴァルトルートの剣の腕が平均以上であることを見抜いているが、彼女が身に宿している“ナニカ”は完全に見抜けていない。魂の質が高い(ハイドリヒ卿の威圧感に割かし耐えられるくらい)。

弟のことはそれなりに大切にしている。

 

 

 

 

 




増えていきます。


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解説1

お久しぶりです。最後の投稿から3ヵ月近く経っていました。
最新話現在進行形で書き進めています。当初の予定から内容が変更されていますが。
今回は少しずつ書き溜めていた解説(原作用語)の一部を載せますね。
これで、Dies iraeの知識を理解していただけたら…。



「はじめまして読者諸君。本編の方は筆者が遅筆のため、今回は登場する用語などの元ネタ解説をするぞ。

自己紹介をしておくと、俺は“藤井蓮”。Dies iraeの主人公だ。

俺と共に今回の話を進めていくのがこの二人だ」

「Fate/stay nightから来た衛宮士郎と」

「鋼の錬金術師のエドワード・エルリックだ」

「それじゃ、説明解説を始めるぞ」

 

1.エイヴィヒカイトとは?

蓮「ハガレンの錬金術やFateの魔術を知っていても、Dies発祥のエイヴィヒカイトを知らないというやつも多いだろうな」

士「そういえば前にエドワードの錬金術を見せてもらったんだけどさ、遠坂がスゲェ目をギラギラさせていたんだよなぁ……“材量があれば宝石も錬成出来るわよね!!”って」

エ「あー…眼血走らせて詰め寄ってきたときはマジ怖かったよ。アーチャーが引きはがしてくれたから助かったけど」

エ「というか、それいったら士郎たちの魔術だって俺たちからしたら等価交換の法則が見られないからありえないぜ。士郎の何もないところから剣出すヤツとかさ」

士「いや、俺の魔術は異端だからな?俺が使える普通の魔術は解析と強化くらいだし」

エ「ふーん……なぁ蓮、そっちの魔術ってどういうものなんだ?」

蓮「それを今から説明するんだろうが。

エイヴィヒカイト……永劫破壊ともいうが、俺たちの世界の人物メルクリウスが編み出した複合魔術だ。これを扱う者は不老となり、強靭な身体を得る。魂を取り込んでいけばさらに強化され……超人となる」

エ「……なんか、人造人間(ホムンクルス)みたいだな」

蓮「確かにこれだけ見ると、そっち(鋼錬)の人造人間みたいな効果だが、本質は全く異なる。

人造人間は致命傷を負ってもいちいち死ぬ形で再生するが、エイヴィヒカイトの使い手はそもそも普通の致命傷でも死なない。人造人間の魂のストックが肉体再生のために使われているのに対し、エイヴィヒカイトの使い手は魂のストックが肉体の強度にも影響している。言ってみれば、魂の貯蔵量=強さといっても大凡間違いじゃない。

生物兵器や絶対零度、無酸素という極環境でも生存出来るし、超人化する前に負った傷も完治する。

死亡条件は、聖遺物と融合した魂を砕かれること。魂を砕かれなければ、物質の崩壊までは至らない」

 

2.聖遺物とは?

エ「ちょっと待った。その、聖遺物ってのはなんだ?」

蓮「それも説明する必要があるな。お前たちは聖遺物と聞いてどんなものを想像する?」

士「俺たちの世界でなら聖人にまつわるものかな」

蓮「確かにお前の世界では魔術的に係りがあるから理解しやすいだろうな。

士郎の言う通り、一般的に聖遺物とは聖人に所縁のあるものをいう。対して、俺たちの世界でいう聖遺物とは、“人間の思念を吸収することにより自らの意思を持ち、絶大な力を持つようになったアイテムの総称”だ。それが信仰心だろうが、怨念だろうが、力のあるアイテムなら聖遺物として見なされる。こっちでの聖遺物は信仰心由来のものもあるが、戦争で怨念を吸収した近代兵器もある」

士「一種の概念武装みたいなものか」

蓮「そうともいえるな」

蓮「聖遺物は大きく分けて四つのタイプがある。

まず、人器融合型。文字通り人間の身体と一体化しているもので、攻撃に特化している。それ故、全タイプの中では最も高い身体能力を獲得するが、その反面同調率が高くなるほど興奮状態になる。格上には善戦しやすいが、格下には足元を掬われやすいタイプだな」

士「身体そのものが武器、ってものか?」

蓮「いや、そのタイプは別のものとしてあるからな。

二つ目に武装具現型。聖遺物を刀剣とかの武器として扱うもので、バランス面に優れている。特筆するメリットもデメリットもない。主従関係がはっきりしているから暴走・自滅する危険性が低いのが特長だ。経験の少ない者は決定力のない器用貧乏になるが、熟練者となると万能かつ隙が無くなる」

蓮「三つ目に事象展開型。聖遺物を触媒に魔術的な効果を起こすものだ。物理的な破壊ではなく、防御や補助に優れていることから、融合型と組むと相性がいい」

士「ということは、そのタイプの聖遺物は魔導書とかの礼装になるのか」

蓮「書という形でならあるな。……もっとも、日記なんだが

四つ目に特殊発現型だ。これは上記のいずれにも属さない、もしくは複数の性質を併せ持つ形態だ。他を上回る強大な力を発揮することもあれば、状況次第では全く役に立たないこともあるなど、非常に不安定なタイプなんだが……俺が対峙したこのタイプは色々と厄介だった。さっき士郎がいっていた、身体そのものが聖遺物っていうのがこれだな」

蓮「以上が、聖遺物のタイプだ。一応は分かったか?」

士「ああ、なんとなく……?」

エ「人体と融合…同調…事象の展開……」

蓮「まあ一気に言われても分からないよな。筆者もググって要所を抜き出したくらいだし。

とりあえず、今回はここまでにしておこう。今度はエイヴィヒカイトの位階などを説明していくぞ」

 



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解説2

アニメDiesである程度の知識を持っている方もいるかもしれませんが、とりあえず。


3.エイヴィヒカイトの位階について

蓮「今回はエイヴィヒカイトの位階について解説していくぞ」

蓮「エイヴィヒカイトには四つの位階があり、活動、形成、創造、流出の順に別れている」

・活動

蓮「まず|活動≪Assiah≫。エイヴィヒカイトの使い手がまず位置付けられる位階で、聖遺物の能力を限定的に扱うことが可能だ。

初動が早く、不可視であるという利点があるが、魂を燃料とする点に変わりはないから慢性な殺人衝動に駆られる」

士郎「ダインスレイフと同じだな……」

蓮「血を吸わない限り収まらないという点においてはな。

ヴァルトルートは魔力でもある程度は使用可能という特典で殺人衝動は起こさなかったし、軍人になってからも戦争で魂の収集やっていたから現状は問題ないってところだ」

エドワード「限定的に能力を扱えるってというと、具体的には?」

蓮「俺の場合だと、ギロチンの『切断』の機能として、“触れることなく物を切る”異能になるな。

本編だとヴァルトルートが活動として静電気を起こしたり雷を落としたりしているが、これは雷を操る力を持つ聖遺物の影響だな」

エドワード「あれってそういうことだったんだ……錬金術かじっているから多少のことならって言っていたけど」

士郎「魔術を秘匿しなくちゃいけなかったんだろうな。バレたら身内にも被害が出かねないし」

蓮「そういうことだ。さて次に行こう」

・形成

蓮「活動の上位が|Yetzirah≪形成≫。術者の魂と融合した聖遺物の武器具現化だ。人と魔術武装の霊的融合が成されることで、この位階に入った者は人の範疇から外れた超人となる。

具体的には大きく分けて以下の三つ、怪力と肉体的頑強さ、第六感の鋭さが上げられることだ」

エドワード「下から2番目ので既に人間止めているような気がするんだけど……」

蓮「それは誰もが考えることだが、上には上があるんだ。諦めろ」

士郎「ヴァルトルートが使っていた憑依形成っていうのは……」

蓮「それは聖遺物の力を代用品に憑依させることで聖遺物を具現化しなくても運用可能する方法だ。

使い終わった代用品は大体破棄されるんだが、ある程度余裕が出来たら専用の礼装作るらしい」

・創造

蓮「そして、エイヴィヒカイトの代名詞ともいうべき|創造≪Briah≫。聖遺物を用いた戦闘における必殺技を習得する位階だ。

この位階に達した術者は、既存の常識を己が理想で粉砕することができるようになり、心の底から願う渇望をルールとする“異界”を創造することができる。心の底から願うといっても、それは常識などを度外視した「狂信」領域であることを要し、この領域に達したものは一見理知的でも、根本的に常識とかけ離れた思想・価値観を持つ者が多い。

十四歳神曰く創造位階に達した時点で重度の厨二病だということだ」

士郎「あーなるほど。一種の世界の塗替えだな」

エドワード「」

蓮「やっぱりエドワードには規模がデカ過ぎたか。

因みにこの位階に到達していないということは、常識的な思考が残っていることの表れともいえて、常識的な思考・発想ができる人物として評価・重宝されることの方が多い」

蓮「創造のタイプには求道と覇道の二つがあって、渇望によってタイプが別れるんだ。

求道型は内に向かう渇望で、「~~になりたい」といった渇望が該当する。自分自身を創り出した法則で満たし、一個の異界となる。

自分という一点のみに絞って発動するため理として非常に強固で、自身の強化を特徴とするため一対一の決闘に向いている。

覇道型は外に向かう渇望であり、言葉にすると「~~したい」といった渇望が該当する。自分の周囲を創り出した法則で染め上げ、異界とするものだ。

他者を自分の理に巻き込む以上、他者からは抵抗されるのが常で、求道型のような強さは得られないが、一方では、無条件で大勢を巻き込めるため一対多の集団戦向きだ。

ただし周囲の者ら全てを自分の世界に取り込んでしまうという性質上、味方がいる場合は味方も巻き込むことが多い」

士郎「切嗣の固有時制御と俺の固有結界みたいなものだな」

蓮「そういうことだ。因みに覇道型同士が戦うと二つの異界がぶつかり合うことになって、単純に両者の力と力の比べ合いになるぞ」

・流出

蓮「最後に|流出≪Atziluth≫。創造位階の能力によって作り上げられた“異界”と法則を永続的に流れ出させ、世界を塗り替える異能だ」

士郎「世界を、塗り替える…」

蓮「そう、流れ出した法則は最終的に全世界を覆いつくし、既存の世界法則を一掃して新たな世界法則と化す。

世界法則を定めるものを神と呼ぶのであれば、流出とは新たな神の誕生であり、また新たな神が旧神を打ち倒してその座を奪うこと、即ち神の交代劇でもあるわけだ。

一旦始まってしまった流出は、術者が死ぬまで永久に続き、術者自身でさえも途中で止めたり消したりすることはできない。

これは全能とされる神でさえどうしようもなく、もし流出から解放されたければ、別の流出で塗り替えるしかない」

蓮「真に自分の“異界”を流出させて世界を変えることができるのは、覇道の渇望をもつ者に限られるんだ。

求道の渇望を持つ者は、自らの内に展開した“異界”が永劫閉じないようになり、術者自身が世界の理から外れた完全存在となるんだ」

 

 

蓮「って、エドワードまだ戻ってきていないのか」

士郎「まぁ俺達と常識が違うからな。こっちの世界の錬金術師はまだ常識の範疇だし」

蓮「ああ、うん……。それ考えたら俺もお前と同類か」

士郎「はは…」

蓮「ともかく、これでエイヴィヒカイトについては解説は終了だ。現在アニメDiesがやっているが、原作ゲームで規格外っぷりを目にすることをお勧めする」




私はマリィルートまで行きました。
あとはテレジアだけだ…


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幕間 無間血夜固爆破地獄は存在しない世界で

ギリギリセーフ!!バレンタインネタです。
一応時間軸は原作突入はしています。もちろん、マースさんは死なせませんし。
代わりにヴァルトルートさんが准将になってます。実力で。


二月十四日はバレンタイン―――というのは生前の世界のことであった。

アメストリスでは年末年始は存在するが、生前ではポピュラーだったクリスマスとかバレンタインは存在しないのでちょっとつまらない。と、言うわけで。

 

「気分だけでもバレンタインを楽しもうということですか?ご主人様」

「そーいうこと。ってことでキャスターも手伝って」

「ご主人様のお手製をいただけるのならば!」

 

そう意気込むキャスターと共に準備を進める。作った物は一部マースとかにあげるつもりだ。エリシアも喜ぶだろうし。

 

「ご主人様、今回は何を作られるのですか?」

「ガトーショコラとチョコチップクッキーだよ。皆大好きなんだよね」

 

生前、N○Kの今日の料理やグレー○ルの竃をよく見ていてお菓子作りのスキルは磨かれていたが、ガトーショコラとチョコチップクッキーは特にお気に入りだった。

ガトーショコラは小麦粉を繋に使わないしっとりとしたタイプ、チョコチップクッキーはスヌーピーの好物。置いておくと皆食べてたしなー。

 

「それじゃあ、始めますか」

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「よし、出来た!」

「にしても結構な量になりましたねー」

 

キャスターの言う通り、ガトーショコラは少々大きめだが消化する分には問題ないが、チョコチップクッキーは自分でもびっくりする量が出来てしまった。

マース一家にあげるとしても、ちょっと多過ぎだよなー。

 

「軍部に持って行けば誰か食べるか」

 

部下達にも作ったお菓子を分けたことあるし。

おっと、そうだ。

 

「キャスター、コレ」

「?なんでしょう………あ」

 

キャスターに渡したのはロリポップ型のチョコ。余ったチョコレートとスポンジケーキの生地を使って作った。キャスターをイメージして可愛い狐の顔をデザインして。

 

「こ、これは……(ワタクシ)にでございますか?」

「うん。私の手作りが欲しいって言ってたでしょ?とりあえずあったやつで作ってみた」

 

まぁね、ホントならもうちょっと手間掛けたかったけど、明日も早いしね。

 

「あ、ありがとうございますご主人様!!このタマモ、大事にいただきます!」

 

喜んでくれて何よりだ。さて、明日に備えて準備するかと、ケーキを切り分けたりクッキーを仕舞いはじめた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

「おはよーございまーす」

「おはようございます、ヒューズ准将」

 

軍部に出勤すると交わされる挨拶。最初の頃はマジで気が気じゃなかった。あのトラウマが蘇って、准将って呼ばれても“自分だよな?”とビクついてたくらいだし。

っと、私は挨拶に反応した士官―マリア・ロス少尉に声を掛ける。

 

「ロス少尉、良かったらコレどーぞ」

「え?良いんですか?」

「いーのいーの。相方と一緒に食べてね」

「あ、相方って……ありがとうございます」

 

別に私はこの二人くっつけとは思わないが、見ていて和むのでセットで渡しとこう。少し枚数多めに。

さて、お仕事お仕事っと。

 

 

 

お昼休み――――

 

「あ、アルじゃない」

 

キャスター手作りのお弁当を食べて、廊下を歩いていると見慣れた姿が目に入る。

普通ならアルと聞けば某兄弟の弟が連想されるが―――

 

「おお、ルート殿!お久しぶりでございます!」

 

私が言うアルは、豪腕の錬金術師アレックス・ルイ・アームストロング少佐だ。

ある出来事がきっかけでこうして愛称で呼び合うようになった。何でアルかって?生前親戚の家にいたシェットランドシープドックの名前がアレックスでその愛称がアルだったからだよ。

 

「お久しぶり。別に敬語じゃなくっても良いよ。一応フリーなんだし」

「いやしかし……」

「じゃあ命令。休憩時間は敬語禁止」

「は、はい……」

「そうだ、ちょっとついて来て」

 

~休憩室~

 

アルを引き連れて休憩室に入った私は中にあったソファーに腰掛ける。

 

「命令を聞いてくれた君にコレをあげよう」

「こ、これは……ルート殿が作られたのですか?」

「うん。ちょっと手伝ってもらったけどね」

 

将軍家のお坊ちゃんならもっと良いやつ食べてるから満足しないかもしれないけど。

 

「ありがとうございます、ルート殿!我輩感動しましたぞ!!」

 

何故か感動してハグしてきました。エドとかならギャーとかいうだろうけどね。

 

「ちょ、アル分かったから」

 

悲しきかな、今の私はエイヴィヒカイトの霊的装甲によりたいした影響は受けないのである。強いていうなら熱気がね。

 

 




マース一家の分はキャス狐が届けてくれました。

感想にアームストロング少佐のハグ~と来たのでやりました。確かに耐えられそうだね。
ヴァルトルートはエルリック兄弟とも面識あります。呼び方はエドワード、アルフォンスで。
本編も頑張って進めようと思います。


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Happy New Year!

文字通り!
大晦日ネタもあるけど。


大晦日。新たな年の前日に当たるこの日は万国共通なので、前世との違いを感じていたヴァルトルートは少し安心した。

 

前世では申し分程度の掃除と勉強、年越蕎麦を啜りながら紅白と行く年来る年を見て大晦日から新年を迎えていたヴァルトルートであるが、今の彼女は軍に所属する将官の一人である。将官ともなると、部下も増えて責務も増える。

片付けるべき重要な書類を片付けて、地方出身の部下達から優先的に休暇を取らせた。やはり子供の元気な姿を見れば親御さんも安心するだろう。

なお、当の本人は大晦日が来ても執務室で書類を片付けていた。仕事を最後まで片付けたいというのが本人の弁だが、流石に周りの面々からそろそろ休めと言われている。残っている仕事も次の年に回しても問題ないものなのだが、手許にあるものを片づけないということは彼女のプライドが許さないのだろう。

そんな彼女に対し、親しい面々は実力行使を敢行しようとしてきた。

 

そして今回も―――――

 

「ルート殿ォオオっ!!お休みくだされぇぇエエエエエッ!!」

 

アレックス・ルイ・アームストロングが突撃してきた。なお、前日突撃してきたのは戦友クリステル、その前は増田英雄……ロイ・マスタング、そしてその前は実弟マースである。

 

「あ―――……、アルごめん……今やっているやつ終わったら帰るから……」

「今回はそうは言っていられませんぞ。すぐに仕事を中断してお休みになられるべきです」

「でも、まだ残っているやつがあるのに止めたら後に響きそうな気がするんだけど……」

 

「倒れる一歩手前になっているのにまだそう言うか」

 

聞き覚えのある凛とした声に視線を向けると、アレックスの姉…オリヴィエが執務室に入ってきた。

 

「え……ね…少将?」

「全く。お前は一つのことに集中するあまり他が見えなくなるというのは分かっていたが……食事もとっていないとは、体調管理がなっていないぞ」

「ええと、ですから…気づいた時にとっていましたから」

「言い訳はいい。というか気づく頻度が心配なレベルだ。とにかく今日は撤収しろ。そして三、四日は休め」

「え、ちょっ、なんですかこの体勢は!」

「決まっている。駄々をこねている部下を楽に運ぶ方法だ」

 

ヴァルトルートが抗議した理由――――オリヴィエ曰く駄々をこねている部下を運ぶ体勢、一般的にお姫様抱っこと呼ばれているものである。

ヴァルトルートはエイヴィヒカイトの恩恵を受けているが、精神的な疲れは自動回復されないので、地味に身体的疲弊にも影響してきている。故に、オリヴィエの手から逃れられないのである。

 

「アレックス、私は准将を連れて行く。お前も連絡を入れたらすぐに来い」

「分かりました」

「ちょっ、人の話聞いてください、というか降ろしてください~!!」

 

ヴァルトルートが叫んでいるが、それを意もせずオリヴィエは執務室を出て行った。

 

 

 

『―――というわけで、そろそろ着くと思われます』

「そうか。ありがとう、少佐」

 

マースはそう返事を返すと、アレックスからの電話を切った。姉の癖は理解しているが、今回ばかりは流石に休むべきだと思っていた。先日もそれを言いに訪ねて行ったが、聞いているような様ではなかった。姉を連れてくる少将に礼を言わなければならないなとマースは思った。

 

キッチンを見やると、自分の妻と姉の元で住み込みの家政婦をしているというキャスターがごちそうを作っている。彼女達も、姉のことを心配していた。さっきも、電話の会話を聞いて顔を見合わせて微笑んでいた。

 

(姉ちゃんは自分より他人を優先するのは分かるけどさ、たまには自分のために時間作ろうぜ)

 

 

ヴァルトルートとオリヴィエがヒューズ家の玄関に着き、呼び鈴を鳴らすまであと少し。

 




転生者姉、これからもよろしくお願いします!!


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序章
第壱話 トラウマと開放


閲覧とお気に入り登録ありがとうございます!約一週間で多くの方に見ていただけたことに驚いています。
オリ主は幼年ですが人生一回全うしているので台詞は漢字混じりです。その他のロリショタは大体ひらがななので読み難かったらごめんなさい。



私がこの世界に転生して早五年がたった。

 

私の今生での名はヴァルトルート・ヒューズ。分かる人は分かるだろうが、かのヒューズ中佐の姓である。名前の方はDies iraeの戦乙女のセカンドネームで。で、私はそのマース・ヒューズの双子の姉となったわけである。

 

私の家はセントラル郊外でもそこそこの家庭で、収入も安定しているようだ。

 

前世で母親が夜泣きで苦労したと聞いていたので(私も身を持って知っている)子供がいきなり二人増えて苦労するだろうと思い、夜泣きとかあまりしないようにしていたのだが、何処か悪いのではと逆に心配されたので三時間置きに泣くようにした。

 

赤ん坊の状態はなかなか不便である。どうにか立って歩けるようになるのに一年はかかった。数歩歩いただけでバランス崩したけど。

三歳ぐらいになって自分のことは大体出来るようになっていた。

 

まず現状把握だ。

 

 

現在は1889年、すなわち原作が始まる24年前。

 

イシュヴァールの問題は当然の如く膠着状態。

 

お父様の手により賢者の石が地脈に埋められている。

 

一応、まだキング・ブラッドレイは大総統に就任していない。

 

 

これがアメストリスの状態。

 

自分の場合は……

 

 

魔術回路はまだ開いていない。

 

 

これに尽きる。

魔術回路が開かなければ魔術も使えない。

確か開き方は術者によって違って、中には自傷行為によって開くのもあるらしい。大人ならまだしも、幼児がそんなことしたらマズイしなぁ………。

考えてたら頭が痛くなってきた。少し横になろう…。

自分の部屋にあるベッドに横になると、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて眼を閉じた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を、見ている――――――

 

 

 

様々な物事がモノクロで浮かんでは、たちまち消えて行く。

 

 

 

その中で鮮烈に映っている物があった。

 

それは、前世でトラウマであった物。

 

弟/マースが、ホムンクルスに、殺サレル……

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤぁぁぁぁアアアアあああああッッ!!」

 

「おねえちゃん?!どうしたのっ!!?」

 

 

叫び声とと共に目を覚ました。同時に、勢いよくドアが開かれて部屋に小さな影が飛び込んできた。両親は出掛けているから、該当するのは一人しかいない。

 

「……、マース…」

 

夢にも出て来た、自分の弟(マース)

その表情は幼くとも不安げなものであった。

 

「だいじょうぶ?こわいゆめ、みたの?」

 

問われた内容は、マースが想像するのとは若干違うかもしれないが、自分にとっては正しく悪夢だ。

 

「うん…。でも大丈夫よ」

「そう……」

 

心配させまいと言ったが、マースの表情は未だ固いままで。

と、不意にマースがベッドの上に乗り、起き上がっていた私の身体を抱きしめた。

 

「マース?」

「……おれ、ちゃんといいこにするから」

「へ?」

「おれ、おねえちゃんのことまもれるようになるから、だから…こわがらないで」

 

そういうと、マースは肩に顎を乗せて抱きしめる手の力を強くした。

何故そんなことを言うのかと考えて――

 

(もしかして、自分の行動が私を困らせてると思ったのか?)

 

前世でも経験したが、男の子は女の子と違って思考回路が違うらしい。それは我が弟も例外ではなく、よく突飛なことを仕出かしていた。

対して私はというと、精神が肉体に引き寄せられて要るとはいえ、中身は人生を一度全うした存在なので物事の限度という物を理解していた。

その結果、“しっかりした姉と腕白な弟”という構図が出来ていた。

私としては、前世で経験出来なかった姉という立場を喜んで受け入れていたのだが、弟はそうは思わなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、マースは私の肩口に頭を乗せて眠ってしまっていた。

 

マースを横たえてベッドから降りると、自分の身体に変化があったような気がしたので確認してみる。

思った通り、魔術回路が開かれていて、スイッチも出来ていた。

魔術回路の本数は一般的な魔術師より多め、彼のブラウニーより三本多い30本。

スイッチのイメージは私の場合、“撃鉄を起こす”イメージだった。まさかあのトラウマがきっかけになるとは。

 

 

試しに知識にある初歩的魔術を行使してみようと、手にしたのは以前何気なく拾った硝子の破片。風雨に晒されて、角も取れて丸くなった危なくない物。浜辺に時々落ちている、ビーチグラスのような物だ。

 

「―――Anfang(セット)

 

それに魔力を通す。集中して構成されている材質を解明、変化させる。

強化を終えると手の中にあった硝子は水晶に変わっていた。

 

(やっぱり、鍛練が必要ね)

 

幸い、知識はあるから魔術の行使は重ねれば上達するだろう。

強化した水晶は元の場所に戻した。

ベッドにもたれ掛かり、横たわるマースの寝顔を見つめた。

 

 

 

 

 

 

―――誰かが言った。“兄貴は妹を守るもの”だと。

冬の妖精と称された少女は、血の繋がらぬ弟を守る為に命を賭した。

私もこの子を守る為ならば、どんな手も尽くそう。

 

 

 

例えこの手が血に濡れ、この身が人で無くなったとしても。

 

 

 

SIDE:Maes Hughs

 

おれのおねえちゃん、ヴァルトルート・ヒューズっていう。

 

おれの、ふたごのおねえちゃん。

 

おねえちゃんはいつもおれのそばにいてくれる。いえでおるすばんしているときも、おれがこわいゆめをみてうなされてるときも、おねえちゃんはてをつないでなだめてくれた。

 

 

でも、おねえちゃんはなかない。ころんでもいたそうなかおをするけど、なこうとしなかった。とうさんたちは「がまんづよいこだ」っていってたけど、おれにはおねえちゃんはむりしてるようにみえた。

おれがだいじょうぶ?ってきくと、いつもだいじょうぶっていう。だれもみてないところでつらそうなかおして。

 

 

 

あるとき、いつものようにおるすばんしていたらおへやからおねえちゃんのこえがきこえた。おおきなこえで、なにかにこわがるようなこえで。

いそいでおへやにいったら、おねえちゃんはベッドのうえでちいさくなっていた。

だいじょうぶ?ってきいてみたらやっぱりいつものようにだいじょうぶっていって。

おれはおねえちゃんをだきしめた。おねえちゃんはおどろいてたみたいだけど、そのままだきしめた。

 

 

おねえちゃん、おれがまもってあげるから、だいじょうぶだよ。

 

 

 

だから………もう、むりしないで……

 




この回での内容は、
現状把握→過去のトラウマによる魔術回路開放→決意
といったところです。
正直ヒューズさんの死ぬ回はトラウマ過ぎて見るのも恐ろし過ぎて……皮肉にもそれがきっかけとなりました。確か彼のブラウニーのイメージも撃鉄でしたっけ?
オリ主サイドの最後の文章は型月系のwikiから姉弟繋がりで参考にしました。また、永劫破壊についても位階が上がるごとに普通の人間から逸脱した存在になるので(流出に至った者は覇道神、求道神になってしまう為)そう表記しました。
ショタヒューズことマース君の独白も結構考えました。男は女を守る者という考えを持っているマースは無理している(本人はそのつもりはない)姉のことを守りたいと思っています。
長くなりましたがありがとうございました。


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第弐話 錬金術

閲覧とお気に入りありがとうございます。
今回もお楽しみいただければ。


それからというもの、親やマースの目を盗んで魔術と、エイヴィヒカイトの訓練をしていた。魔術だけなら自宅の部屋(マースとは別室)で大体は出来るものの、エイヴィヒカイトのAssiah(活動)は部屋でやるには危険過ぎるからだ。

 

あの後改めて確認してみると活動位階も使えるようになっていた。恐らくあのトラウマがきっかけで魔術回路と共に開放されたのだろう。

早速活動を使ってみようと、外の街路樹の枝に向かって指を振ってみたら雷が凄い勢いで枝どころか本体に落ちてしまった。勿論、数秒後には轟音がした。思わず耳を塞いでしまったが、やったのが夜だったものだからマースが私の部屋に転がり込んで来た。

「おねえちゃん、だいじょうぶ!?」と言っていたが、むしろ逆にそっちの方が大丈夫かと聞きたかった。

何せマースの顔は泣きそうな顔をして身体はぷるぷる震えていたのだから。

まあその後は一緒に寝たが。

 

確か永遠の刹那の活動は聖遺物の特性から“物に触れずに切る”というものだった。詳しくは不明だったが、螢の活動も視線で発火させるとか海面で水蒸気爆発起こしてた気がする。聖遺物が刀剣だから刹那と同じ効果だったりもするのだろうか。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

最近はこの世界の錬金術にも挑戦してみている。魔術の方でも錬金術はあるものの、勝手が違う気がするからだ。

家の中で発見した錬金術に関する本(多分両親か祖父母がやっていたのだろう)を見ながら、庭に簡易的な錬成陣を描いてやってみる。

この世界の錬金術の課程は大まかに「理解」「分解」「再構築」の三つ。魔術回路に魔力は通さずに錬成………

 

 

「…なんでさ」

 

土を材料に錬成したら土偶的な物が錬成された。いや確かに人形(ヒトガタ)的なのをイメージしながら錬成したけどさ、なんで遮光器土偶のリアルな模様とか再現しているんだ、コレ!

庭にあっても困らないが、怪しいのでとりあえず土に還して錬成陣も消しておいた。

張っていた結界(簡易的なもので認識阻害するもの)を解除して家の中に戻る。

手を洗いリビングへ行くと、母親がお昼ご飯の支度をしていた。

 

「あ、ルート。お昼にするからマースを呼んで来てくれる?」

「はーい」

 

そろそろ時間的に予想はついていたので言われた通りマースを呼びに行く。

 

お昼食べたら鍛練、夕ご飯食べたら鍛練………暫くはこの繰り返しだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて時は経ち、私達ヒューズ姉弟は七歳になりました。

 

 

原作やアニメでは主人公達(エルリック兄弟)の幼少期がかなり描かれていたが、その他のキャラクターについては青年期しか知らないのだよね。

無論、今生の我が弟マースについてもしかり。二期の方のDVDの特典映像のストーリーが確認出来た若かりし姿(十八歳)だ。

因みに今のマースは眼鏡を掛けていない。もう少し経ってから掛けるのだろうか?

私の現在の視力は左右共に1.5であるから現状眼鏡を掛けることはないだろう。

目に良いということで、アントシアニンが含まれているブルーベリーを意識して取っていたのだが、何故かマースも一緒に取るようになっていた。……視力どうなるんだろう?

 

魔術は、基礎はマスターしたし、この世界の錬金術も最初はあんな感じだったが、安定して錬成出来るようになった。……無駄にリアルになることを除けば。

この世界の錬金術が使えることは別にバレてても大丈夫なので家族に話した。両親は“凄いな”と褒めてくれたし、マースは“おねえちゃんすごい!”と目をキラキラさせていた。

エイヴィヒカイトもAssiah(活動)が安定して扱えるようになったので、もう少しすればYetzilah(形成)を展開出来るようになるだろう。でも剣術必要だから筋力を鍛える必要もあるよね。

 

こうしている間にも“お父様”達の企みは進んでいるのだから……

 

 

 

 

 

 




連続投稿しますので、あとがきは後程。


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第参話 対話、そして契約

 

「やっぱり一人だと限度があるわよね」

 

魔術の鍛練をしながらぼやく。

魔術に関する知識があり、その手法を知っているとはいえ、その実力は他人から見たらどうなのだろうか。

魔術を行使しているのはこの世界で恐らく自分だけ。他人に意見を聞こうにも出来るはずない。下手したらホムンクルスに目を付けられること間違いない。

 

「魔術を扱える人…キャスターとかいたらなぁ…」

 

魔術師のサーヴァントであるキャスターなら魔術の師としてはうってつけだろうが、サーヴァントを喚べるか分からないし、触媒すら持っていないのだから。

 

時計を見ると既に零時を廻っていた。本来七歳児が起きているような時間ではないが、かつては普通に夜更かししていたので苦ではなかった。それでも起きる時間が遅くなるとマズイので床に着くことにした。手に持っていた石――錬金術で錬成した宝石(魔力を込める作業をしていた)を机の上に置いて明かりを消す。ベッドの上に乗って毛布を被り、目を閉じる。徐々にやって来る眠気。それに身を任せ、ふわふわとした感覚を感じながら、眠りに落ちる。

 

―――英霊召喚に憧れ、その詠唱の一節を呟いて。

 

「――告げる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――。

―れ

ほれ、起きぬか。

 

自分でも分かる威圧感と、誰かに呼ばれた気がして目を開けると、目の前に巨大な人影があった。

神々しい気配と所々に入った意匠の装束、特徴的な腰の九本の尻尾。

白面金毛九尾の狐とも称される、天照大御神。

何故自分が此処にいるのか、何故彼女(?)が私の前にいるのか、分からない。

 

「ほう?何故自分が此処にいるのか、という顔をしておるな。主が召喚の詠唱を行ったのだから妾が答えたのだぞ?」

 

お、おう………まさか寝る時に言ったアレがきっかけとは……。

だが自分は触媒を持っていなかったし、それに目の前にいる彼女は……

 

「妾が神霊だから呼べるはずない、というのだろう?母神によって転生されたのだ、その縁で答えてやった。だが、妾は行けぬのでな。アレを向かわせるぞ」

 

アレ……自分の一側面をアレ呼ばわりですか。個人的に好きだけど、キャス狐さんは。

 

「それと、これも渡しておくぞ」

 

光る何かが私に向かってゆっくり落ちてくる。手を伸ばしてそれを受け取った。

色様々な石―勾玉が連なったネックレス。それは前世で自分が集めて作っていた物で。それら一つひとつに膨大な魔力が篭められているのが分かる。

晩年、これを持って巡礼していたから影響は少なからずあったのだろうか。

 

「さて、そろそろ時間のようじゃ。現実の主も目覚める」

 

天照はそれまでの高飛車的な口調から一変。

 

「そちらの世界では苦労するであろうが、負けずに生きて行くが良い」

 

威厳がありながらも、優しい口調で送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると見慣れた天井が目に入った。首を動かすと同じく見慣れた部屋で。

 

「夢、にしてはリアルだったね……あ」

 

何かを左手に握り締めていることに気づき、毛布の中から手を出してみると、あのネックレスだった。手の甲には三画の紋様。そして、

 

「おはようございます、ご主人様♪」

 

いつの間にか傍らにいたサーヴァント。露出度の高い和服風の装束を纏った狐耳の女性。

 

「キャスター、よね」

「はい、貴女様のサーヴァント、キャスターでございます」

「私のこととか、説明しておく?」

天照(本体)から情報は受け取っておりますが、他にありましたらお願いいたします」

「じゃあ一応自己紹介しとくね。私はヴァルトルート・ヒューズ」

 

この国の真実や、私が目指していること等を説明して、契約を交わした。

 

 




遅くなりました!
報告していた予定を遥かにオーバーしてしまい、申し訳ございませんでした。
久々の執筆でネタを放出した結果、長くなってしまいました。

プロローグの答えも此処で出ました。で、呼ばれるキャス狐さん。ゲーム中では伊邪那伎と伊邪那美の子みたいな表現されてましたけど、実際どうなんでしょうか?古事記には伊邪那伎が禊した時に誕生したといいますが。まあ、前者の方が設定的に都合が良かったのでそうしましたが。
あと、天照の口調がよく分かりません。


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第肆話 愛称で呼び続けると、たまに本名が分からなくなる件

お気に入り登録ありがとうございます。

今回は宝石というかパワーストーンに関する記述があります。
筆者自身、パワーストーンを収集してますので。
あと、魔力のストックにも出来ますしね。

で、この回ではとあるキャラの捏造少●期も出てきます。
お気に召さない方は、回れ右をお願いいたします……難産の理由でもありました。


キャスターが召喚されてから、彼女が魔術の修業のプランを組んでくれる。

勿論、勉学も疎かにはしていない。

原作でエド達が私塾的な所に通っていた描写はあったが、日本でいうところの義務教育機関は登場していなかったので学校はないのか?と最初は思った。

だが調べてみると、ちゃんとそういう機関があると知ったので安心した。

年齢的にも適齢期なのでマースと揃って通うようになった。だいたいは近所の子も通っているので顔見知りも結構いる。

 

週末はキャスターが組んでくれたプランに沿って修業したり、形成位階になった時の為に剣術の稽古をしたりなどもしている。家族で出掛けたりするのも忘れずにだ。

 

そんなある週末、私は近くの公園で錬金術の練習をしていた。キャスターも霊体化して側にいる。

この世界の錬金術は大衆に開かれているので人前で行使しても大丈夫という利点はある。流石に金は錬成しないけど。そういえばプラチナは錬成してはいけないとは聞いてないから今度やってみようかな。

 

「よし、出来た」

 

公園の砂を材料に錬成したのはオニキスだ。今まで色んな宝石を錬成してきたが、今回のは中々の出来だ。

オニキスの成分は石英――水晶と同じである。数多くの宝石やらパワーストーンは様々な加工が成されていることが多い。レインボーオーラとアクアオーラは水晶を高温に加熱し、貴金を蒸着させて造られるし、オニキスの和名黒メノウが表す通りメノウは着色処理されたものが一般的である。パワーストーン関連の本を読んでいて良かった。

オニキスの出来に満足しつつ、そろそろ帰ろうかと思っていると、

 

「……あり?」

『どうかなさいましたか?ご主人様』

『いや、あそこ』

 

キャスターの言葉に視線で答えた。

視線の先にはベンチに腰掛ける一人の少年がいた。恐らく歳は十代後半位で、プラチナブロンドの短髪と青い瞳はいかにも西洋人らしい。その表情は何だか暗い。時々溜息もついている。

 

『あの少年ですか?何やら落ち込んでいるようですが』

『うん。ちょっと気になってね』

『ふむ、見た感じ深刻な悩みって訳ではなさそうですが……って、ご主人様?』

 

キャスターの言葉を聞き流しながら、私はその少年の側に近付いた。

私が近付いても顔を上げない所を見ると、無視しているか、気付かないくらい考え込んでいるのだろう。平素でも大人しそうな顔は曇っている。

 

『ご主人様?まさかフラグでも立てるおつもりですか?』

『まさか。ちょっと話を聞くだけだよ』

 

 

 

 

 

「隣、良い?」

 

私が声をかけると、少年は驚いた顔をしたが、“どうぞ”と少しベンチの端に寄ったので有り難く座らせていただく。

傍で見るとやっぱり落ち込んでいる。

 

「何かあったの?」

「え?」

「さっきから落ち込んでいるみたいだから」

「うん………」

 

 

それから少年―――アル(本名はアレックスというらしい)に聞くと彼の家はある意味セントラルに居を置く名家らしく、悩んでいた理由はいわく、自分は気弱な性格で家の役目を果たせるのだろうかということだった。

 

 

………え、なんでアルかって?確かにハガレン界でアルというとエルリック弟を連想するだろう。前世で親戚が飼っていた犬がアレックスって名前で愛称がアルだったからだよ………。

 

 

それはさておき、アルの悩み事はこの世界らしい物である。

現代日本ではさほど重視されなくなったが、家督等を男子が継ぐという慣習は何処でも変わらないのだろう。確かに男性の方が威厳あるし力もあるしね。

だが、自分の道は最終的に自分で決める物である。端的に言えばゴーイングマイウェイ。家督を継がないとかね。

 

それを言ってみると、アルは少し前向きになったようだ。明日にはセントラルに戻るというので意識を切り換えられたのは良いことだ。

私もそろそろ帰ろうとし、ふと思い付いて錬成したオニキスをアルにあげた。アルは慌てていたが、自分が錬成したものだと告げると驚きつつも“ありがとう”と言った。

良いことをしたなーと思いつつ帰路に着いた私であった。

 

 

 

 

 

 

(ご主人様、やっぱりフラグ立てている気がするのですが………まぁ会わなければ大丈夫ですよね?)

 

 

 

 

 

 

良妻狐が感じた予感がある意味的中するのはさらに時間が経ってからであるが、この時のヴァルトルートが気付くはずもなかった。

 

 

 

SIDE:Alex■■■■■■■■■■■■

 

 

旧友に会うという父上に連れられて、自分はこの街にやって来た。

何処へ行っても、自分は父上や姉上の影に隠れてしまうような存在だ。自分には、父上のような威厳も、姉上のような強さやカリスマ性もない。

大勢の中にいるよりも一人になりたかったので、一言言ってから外に出た。

外を出歩いて、何気なく目に入った何の変哲もない公園。中には何人か子どもがいたけど、それぞれ自分のことに夢中なので中に入ってベンチに座った。

何気なく公園の景色を見ていても、頭に浮かぶのは家のことで。溜息をついていると、すぐ傍から声がした。

 

「隣、良い?」

 

顔を上げると一人の女の子がいた。黒い髪と翠色の眼で、自分よりも年下。自分は女の子が座れるように端に寄った。

 

「何かあったの?」

「え?」

「さっきから落ち込んでいるみたいだから」

 

この子は、そんなに自分を見ていたのだろうか?

 

「うん………」

 

それから自分は女の子―――ルートに全てを打ち明けた。自分より年下の子にはちょっと分かりにくいかと思ったけど、ルートは“自分の道は自分で決める物だ”と言った。その言葉に、自分は元気が出たような気がした。

ルートは帰る時に、自らが錬成したというオニキスをくれた。それは、自分でも驚く位出来の良いものだった。

 

 

いつか、またルートに会いたい。こんな自分に新たな道を教えてくれたあの子に。

次に会う時は………しっかりした人間にならないと。

 

そういえば、ルートと話していた時、誰かに見られていたような気がした……時々殺気が混じっていたような気もする。




はい、このキャラは誰でしょうか!

感想の方に答えをお願いします。というか、分かっちゃうか。


あと話し方とかよく分からん!!


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士官学校篇
第伍話 焔との遭遇


お久しぶりです。
リアルが忙しくてネタがなかなか浮かびませんでした。
とりあえず士官学校篇でマスタングと出会うという話を書きました。
一応、2期のDVDの特典映像にあったオリジナルストーリーを元に書きましたが、違いを挙げると

あの上級生は事前にルートによって特大級の落雷を落とされたので生きてはいますが病院行き
ヒースクリフ氏はなんだかんだありつつも平穏に日々を過ごしている
マスタングとマースが関わるきっかけが替わっている

でしょうか。


前回の話の感想の方でキャス狐の扱いについて指摘を受けましたが、最初、人形を作成して憑りつかせようとか言ってましたが、ルートの周りの環境が魔術の秘匿には適していなかったので、士官学校まで基本的に霊体化してたってことで。


 

ごきげんよう、ヴァルトルート・ヒューズです。

この度、元の世界でいう義務教育の期間を終えたヒューズ姉弟は、士官学校に入学することになりました。

展開が早い?一度人生巡った人間の義務教育期など語る必要ないでしょう、正直。実際勉学の他にやっていたのは魔術とエイヴィヒカイトの鍛練だし。

 

それを毎日積み重ねていった結果、形成位階に至りました。形成に至って初めて聖遺物を具現化した時は感動しましたよ。

元はザクセン選帝侯フリードリヒ三世の宝剣として管理された、最も聖遺物らしい聖遺物である戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)。キルヒアイゼン卿も、この聖剣を強く信仰し、自らの命と同等に扱っていた為霊格も更に強化されたのだよな。自分のはどうか分からないけど。

 

 

さて、士官学校に入った理由は至って簡単。軍の裏側を探るには直接軍に入るべきだしね。勿論マースの死亡フラグをへし折る為にも。

流石に男女別になるけど、授業がない時は会えるし不満はない。

キャスターも霊体化して側にいてくれるから何かあった時も安心だ。

 

それに、此処で彼に出会うだろう。

 

焔の錬金術師、ロイ・マスタングに。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

入学してしばらくした頃、マースはヴァルトルートの元に一人の少年を連れてきた。

 

 

 

「姉ちゃん、紹介するよ。こいつはロイ・マスタング」

「…はじめまして」

 

 

 

黒髪黒眼の少年、ロイ・マスタングは初めて会う友人の姉に緊張しながら挨拶した。

 

 

「はじめまして、ヴァルトルート・ヒューズだ。よろしくね」

 

 

ルートは親しげに微笑んで手を指し伸べた。ロイは驚きつつも、その手を取って握手した。

 

 

それから共通の話題である錬金術や、それぞれの講義について語り合い、彼等の仲は深まった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

イェーイ!ロイ・マスタングと会った!リアルだとやっぱり童顔!

 

 

あ、すみません。調子乗りました。

 

 

マースがマスタング氏と接触してるのは知っていたからそろそろ来るかなと思っていたんだよね。

 

なんでそんなこと知っているのかって?

その間私は何をしていたかというと、授業の内容を予習・復習をしたり、魔術やエイヴィヒカイトの鍛練をやってました。ついでにガラの悪い奴等を標的にして活動で電気(常時静電気)を飛ばしたり。

そういえばイシュヴァール人の生徒を虐めていた上級生達にも死なないレベルの雷撃をぶつけたような気もするね。最近見ないけど。

 

 

 

今回はマスタングしか連れて来なかったけど、「今度はもう一人連れて来るよ」と言ってたから彼のヒースクリフ氏も来るだろう。

 

 

士官学校生活は比較的平和です。

 

 

 

SIDE:Roy Mustang

 

俺はヒューズの姉に会うのを前に考えていた。

 

ヒューズの姉はたまにヒューズと一緒にいるのを見たことがある。双子というだけあって顔の微妙なパーツや髪型は違ったものの仲が良いというのは分かった。

 

その頃、素行の悪い学生が静電気に悩んでいたり高慢なあの上級生が突然の落雷に撃たれて病院送りになっていたが、ヒースクリフも平穏に過ごせるようになったので結果的に良かったと思う。

 

 

そんな折、ヒューズが話し掛けてきた。俺が持っていた錬金術の本に興味を持ったらしい。いわく、姉も錬金術を嗜んでいるので声を掛けてみたのだと。

ヒースクリフはちょうど席を外していたのでしばらくヒューズと話して、姉に会おうということになった。

 

 

「姉ちゃん、紹介するよ。こいつはロイ・マスタング」

「…はじめまして」

 

 

同年齢とはいえ、女性ということで少し緊張したが、姉ヴァルトルートは親しげに挨拶を返してくれた。

それから姉弟と自分達について話した。彼女とは錬金術の話題で盛り上がった。

 

この姉弟とは良い関係を築けそうだ……。

 

 

 

 

 

 




マスタングむっずー!!
地味に士官学校ネタむずい!!!

一応次回は原作キャラが出てくる予定です。捏造ストーリーだけど。


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第陸話 Königin und Kamerad

タイトル訳:女王と戦友(ドイツ語)。
戦友と聞いてカメラードという単語が出てきたら立派な女神守護者です。

タイトルのネーミングのなさにorz

気合い入れすぎた結果こうなりました。
あのお方の登場です。


 

その日、士官学校は少し慌ただしかった。

他の生徒に聞いたところによると、軍の将軍が視察に訪れるらしい。HRでも教官が、くれぐれも士官学校生として粗相のないよう振る舞え、と言っていた。

確かに国のこれからを担う者達が、雲の上の存在である将軍殿の前で無礼をしては教官どころか学校の威厳にも関わるだろう。

 

(まぁ普段通り、マルチタスクで乗り切りますか)

 

 

そんな中、ヴァルトルートは通常運行であった。

この時、彼女のサーヴァントはというと。

 

(うっわー、タマモ的に嫌な予感しますよコレ。後でご主人様には忠告しなくては)

 

本能的に危険を感じ、自らの主に忠告することにした。

 

 

 

士官学校の中を、職員に案内されている人物がいた。

プラチナブロンドの長い髪を靡かせ、深い青の瞳に鮮烈な輝きを宿したこの()()こそ、北のブリッグス要塞を統べる存在、オリヴィエ・ミラ・アームストロングである。

彼女としては正直この視察には乗り気ではなかった。

この視察に行くことにしたのは上の指示であり、士官生の士気を上げるものであり、彼女の意思など何処にもない。

 

だから彼女は事務的に校内を視察した。生徒が教室で授業を受けている光景、校庭で走り込みをしている光景、狙撃の訓練をしている光景―――それらはあまりにありきたりで、つまらなかった。

 

ある程度視察して、護衛も外して見て回ることした。

授業終わりなのだろう、生徒達が自由気ままに雑談を交わしている。

 

甘い。甘すぎる―――

 

北の大国ドラクマを相手に戦ってきた彼女から見たら、士官学校の生徒達はまだ覚悟が足りていない。コレでは、戦場に立ってもすぐには役に立たないだろう。

 

 

オリヴィエは十年程前まで頼りなかった弟を思い出す。

男ながら小心者で、常に父親や自分の影に隠れていた弟はある日を境に変わっていった。

 

普通なら根をあげるだろう鍛練にも自ら進んで行った。

軍に入りいかなる事態にも従事した。

 

更には、家を出て市井で暮らしはじめた。

これには彼女も驚き、弟を止めようとした。だが弟の意志は固く、実力行使しようとしても止められてしまった。

 

弟を訪ねて、何がそこまで弟を変えたのかを聞いてみた。

 

十年前に出会った少女に言われた言葉、そして次に会う時の為に変わろうとしたのだと。

 

その答に馬鹿馬鹿しく思ったが、その少女に貰ったというオニキスを見詰めるその眼は、あまりにまっすぐだった。

 

 

ふと、我に返って歩きはじめる。そろそろ戻った方が良いだろう――そう思った時、思わず脚が止まった。

 

視線の先に在ったのは一人の女子士官生だった。

 

黒髪の両サイドを肩の辺りまで伸ばし、前髪を一房だけ降ろして後は上げて、後ろ髪を襟足の辺りまでシャギーカットした様は一見男子だが、若干丸みを帯びた体つきは年頃の―ここでは関係ないが―女子のものだ。

 

それだけなら気にも留めないが、オリヴィエが思わず見入った理由はその士官生が纏う気配だった。

 

歴戦を駆け巡ったオリヴィエは相手が纏う気配が分かる。現に、大総統キング・ブラッドレイに拝謁した時は本人は柔らかい表情をしていたが、気配は強者のそれだった。

 

対して、この士官生はどうだ。普通の士官生なら覚悟も信念も定まっておらず、戦に出しても弱腰になるだろうものを、彼女はその翠色の瞳に確たる信念を宿し、何かの武術をやっているのだろう、その動きも無駄が無い。その才能もまだ発展途上だが、研いていけば一流のものになるだろう。

 

オリヴィエが考え込んでいる間に、その女子士官生はいなくなっていた。我に返ったオリヴィエは辺りを見回すが、いるはずもない。

 

オリヴィエは足早に戻ると学校の責任者を呼び、在籍する女子士官生の名簿を持って来るよう命じた。

持って来られた名簿を一つひとつ確認していき、ある生徒の頁に目を留めた。その生徒の頁にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァルトルート・ヒューズ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは、ヴァルトルートです。

 

マスタング氏と遭遇してから結構経ちました。

 

学生生活はというと、同室のクリステル・リーに格闘の相手をしてもらったり、キャスターと一緒に魔術や戦闘の訓練をして、学業も疎かにせずと言ったところでしょう。

 

いや、ね、実はクリステルにキャスターのこととかバレたんだよね。

名前の通りシン国の人間の血を引いているクリステルは、入学して同室になった私と対面してから異常に気付いていたらしい。

 

なんでもクリステルの家系は八極拳を嗜んでいて、気を読むことができるらしく、私のエイヴィヒカイトによる霊的装甲やキャスターのいる気配とかを感じ取っていたのだと………って何処のアサシン先生だよ。いや、シン国の皇子様皇女様やその従者さんもいたか。

 

本人曰く、これ程まで強い気は感じ取ったことがないので、自分が過剰反応しているのでは?と思ったらしいが、日が経つに連れて普通の生徒や私とよくいるマースの気を読んで、私の異常さに気付いたそうだ。

 

それを告白されて流石に焦ったが、落ち着いて自分について説明した。転生者だってことは除いて。具体的には、小さい時に大人の弟が何者かに殺されるという可能性の夢を見て力に目覚めたのだ、と。

 

うん、間違ってはいない。現にあのトラウマで魔術回路も開いたし。

 

で、キャスターも合わせて紹介したら「……妲己?」と呟いたので「あんな贅沢狐と一緒にしないでくださいまし!!」とキャスターが怒ったので宥めるのに大変だった。というかこの世界にいたんだ。

 

それから、力に目覚めた時に知ったこの国の未来~という名の原作知識を教えて、私はクリステルに問い掛けた。

 

「君は私が言ったことを信じる?信じなければこれを只の夢語りとして片付けても構わない」

 

普通なら馬鹿馬鹿しいと思うだろう。夢語りとして片付ける場合に備えて記憶操作の魔術の準備もしていた。

だけど、クリステルは全てを受け入れてくれた。

 

「アタシには魔術とか、そんなのは分からない。でも、この国が大変なことになりそうで、アンタがそれをなんとかしたいって気持ちは分かる。だから、アタシはアンタの力になりたい!」

 

驚いた。信じてくれただけではなく、協力もしてくれるとは。キャスターもその言葉に偽りはないと言っていた。私はクリステルと、戦友(親友)として手を組んだ。

 

 

その日から、クリステルも一緒に訓練に参加するようになった。

アサシン先生こと李書文の圏境を再現させようとしてみたり、キャスターの奥の手を学んでみたりと、端から見れば白い目で見られそうだが、基本訓練やるのは夜で人払いの結界も張って行っているので人目を気にすることはない。

 

今日も授業が終わったら剣の鍛練でもしようかと思ったのだが、キャスターに止められた。

曰く、

 

「なーんかタマモ的に嫌な予感がするんですよね。ご主人様の為にも、視察に来るという人間の目を逸らす意味も込めて目立つ行為は控えてくださいまし」

 

とのこと。

まぁね、原作でもマスタング氏も言ってたけど、上層部はブラックの塊だからね。キャスターが警戒するのも最もだ。私が有している魔術とかエイヴィヒカイトを知られたら絶対に狙ってくるだろう。それこそ、マースを人質にして。

仕方がないが、今日は鍛練は休みにしよう。そう思いながら授業を受けた。

 

 

 

 

それからしばらくして、ヴァルトルートは頭を抱えることとなる。

 




長かった……

そしてどうしてこうなったアームストロング…

オリキャラ、クリステル・リー登場。シン国系列ってチート多くない?
原作キャラと合わせて紹介しようと思います。

アンケートやってるので、よかったら活動報告の方に解答お願いします。


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第漆話 人間ショック受けるとヤケ食いやってしまうよね(実話)

前の話と同時期にできていたけど、色々考えていました。

凄く今更だけど、お気に入り200件超えしてました。皆様ありがとうございます。
投票もしてくれた方々もありがとうございます。


 

 

ヴァルトルートは混乱していた。

 

確か自分は今日も授業が終わったら剣術鍛練をしようと思ったが、視察に来る人間に警戒するようキャスターに言われたので授業が終わった後はそのまままっすぐ寮の自室に帰って座学の方の復習と予習をしていた。

そしたらクリステルが慌てて部屋に入ってきて、自分に理事長室に行くように言った。理由を尋ねたが、クリステルも自分を呼ぶよう言われただけで詳しくは知らないとのこと。

このままでは埒が明かないので理事長室に向かう。念の為キャスターも霊体化して来てもらってだ。

理事長室の前に着き、ドアをノックしてから部屋に入った。

室内には、この部屋の主である理事長と、もう一人いた。それは、ある意味この世界で遭遇することを避けたかった人物だった。

 

 

(なんで、オリヴィエ姉さんがいるのよ………)

 

 

基本ブリッグス要塞にいるこのお方は、こんな所の視察なんて行かないはずだ。

自分が呼ばれる理由も分からない。授業が終わってからはさっさと自室に引き篭ったから特に騒ぎを起こしてはいないはずだ。仮にあったとしても、ブリッグスの女王の前で言うか?

そんな彼女の思考は、理事長の言葉で中断された。

 

 

「呼び出して悪かったね、ヴァルトルート・ヒューズくん。実は――――」

 

 

 

 

その傍らでオリヴィエはまっすぐヴァルトルートを見詰めていた。その視線を受けながら理事長の言葉を聞いていたヴァルトルートはその内容に言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂――――

 

多くの学生が食事を摂っている中、クリステル・マース・ロイ・ヒースクリフの面々は食事に手を付けずにいた。

 

 

「ルート、どうしたんだろう……」

 

クリステルは呼び出しを受けた友を案じていた。

校内を歩いていたら教官の一人に呼び止められて、急いでヴァルトルートを理事長室へ向かわせるように言われた。教官の必死な表情を見て思わず承諾してしまったが、今になってみると断れば良かったのではないかと思う。

 

「その……ヴァルトルートさんは、特には問題は起こしてないんだろう?だったら、心配はいらないんじゃないかな?」

 

ヒースクリフはヴァルトルートと数える程度しか会ったことがないが、彼女の弟であるマースと彼女と何度も面識のあるロイによく聞かされていたので、彼女については大まかに知っている。

落ち着いた性格で、文武両道と称され、話しかければ親しく相手にしてくれる。成績も優秀で、問題もないことから教官達の間でも好印象を持たれている、と聞いている。

 

「だと良いんだけどさー……」

「ッ、……?」

「どうした?」

 

マースが不意に自分達が座っている場所に近い入口の方を見たので、ロイが問いかけた。すると。

 

 

カチャ………

 

 

噂をすればなんとやら、ヴァルトルートが扉を開けて入ってきた。だが、その表情は彼らが見たことがない程暗かった。

 

 

「ちょっ、どうしたのルート、何かあったの?!」

 

クリステルがヴァルトルートの前に立ち、両肩を掴む。ヴァルトルートは若干下に向いていた顔を上げた。微妙に引き攣った笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

理事長室を出て行ったオリヴィエはその表情に笑みを浮かべながら歩いていた。

ヴァルトルート・ヒューズ。理事長室に呼び出した彼女を間近で見て、自分の思い違いではなかったと確信した。

本来オリヴィエは権力を行使してまで何かをするということはほとんどないが、今回ばかりはそうではない。

後は諸々の準備をしなくてはならないな、と考えながら去って行った。

 

 

ヴァルトルートを半年間ブリッグスに出向させるという、決定事項を抱えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それは……」

「良いことなのか、そうでもないことなのか……」

「一応、大佐殿直々の引き抜きなんだろう?期限付きとはいえ」

「ちゃんとカリキュラムのことも考えて、あっちでも必要な概要を教えてくれるみたいだし、良いんじゃないかな……?」

 

そのことを聞いたクリステル達の反応は様々だが、当の本人はというと。

 

 

「むぐむぐ、はぐっ!!」

 

 

ヤケ食いの真っ最中だった。

 




実際はどうか分からないけれど、士官生のルートさんはオリヴィエ少将に連れられてブリッグスに行くことになりました。
次の話はブリッグスに行ってからの内容です。


アンケート、活動報告にて回答を待っています。


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第捌話 気付いた時にはもう遅かった

最近新ネタとか浮かんできて書き留めていたらこっちの方が滞ってしまいました。

普段より文章の量が少ない気がしますが楽しんでいただけたら幸いです。


 

こんばっこん、ヴァルトルートです。

 

 

不可抗力で期間限定ながらブリッグスにやって来て、オリヴィエ姉さん直々の指導と自主勉に日々を費やしてます。

 

初日の着いた直後に訓練場に連れて行かれて剣術や格闘技の指南を受けました。日頃から鍛練はやっていたから苦しくはなかったけど、この年齢の女子が息切れもしないでいるのは流石におかしいので一時間くらいで疲れが出るようリミッターを意識的に掛けておきました。姉さんは訝し気に見ていたけど、時間が終わるまで稽古をつけてくれた。

その後は宛がわれた部屋に行き、参考書を読みながらキャスターに身体のマッサージをしてもらいました。

 

「まさか姉さんに目を付けられるとは思わなかったわ……」

「ご主人様を見掛けただけで見つけだそうとする魂胆、ある意味恐ろしいものですねぇ。気配抑える訓練でもした方が良いでしょうか?」

「だよねぇ……」

 

 

 

原作でもエドワード達のことあんな扱いしてたし、一士官生に過ぎない私を目付けるとはどうしてだろう?

そんなことを考えながら過ごしていたある日のこと。

 

 

 

「あの、ご主人様?」

「何?」

「昔、ご主人様が話していた少年を覚えていますか?」

「ああ……」

 

まだ郊外の家にいた頃、セントラルから来ていた男の子を思い出す。年齢考えてみると、もう独り立ちはしているだろうなー。

 

「その少年の名前は分かります?」

「うん、アルだったよ」

「間違ってはいませんけど、私が聞いているのは本名の方です」

「えーっと、アレックス………ん?」

 

 

まて、確か原作にそんな名前の人物がいなかったか?

思考が一時停止した私にキャスターは更に問い掛ける。

 

 

「名前は一応覚えているみたいですね。ブリッグス(此処)の実力者である方のフルネームは分かりますよね」

「オリヴィエ・ミラ・アームストロング…………」

 

 

キャスターの問いに、徐々に私は言葉を失って行く。

いや確かにそうだけど、まさかあんな所で会うとは普通思わないでしょう!

 

 

「そのオリヴィエさんには弟さんがいらっしゃるようですけども、ご主人様?」

 

 

ああ、もう言わなくとも分かっているよキャスター。私はやらかしたんだね、原作キャラにフラグを立てるということを!

 

 

 

「……“アレックス”・ルイ・アームストロング、だろう?」

 

 

 

その日、ヴァルトルートはガチで頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

ブリッグス要塞の執務室、その部屋の主であるオリヴィエは椅子に腰掛けて目を閉じて考え込んでいた。

先日士官学校から連れて来た士官生、ヴァルトルート・ヒューズ。本人は上手く隠しているつもりなのだろうが、稽古をつけていると並の剣使いよりも腕があるようで思わず自分も本気を出しかけてしまった。意識して実力を出さないようにしているのは気になるが、もう一つ気になっていることがある。

 

 

あくまでも風の噂に過ぎないが、ヴァルトルートは錬金術も扱えるらしい。

同学年の現最年少国家錬金術師であるロイ・マスタングのように派手ではなく、主に鉱物を錬成しているらしい。それだけならただの器用貧乏だが、オリヴィエにはあることが頭に浮かんでいた。

 

 

自分の弟――アレックスが会ったという少女は、ヴァルトルートのことではないかということだ。

ヴァルトルートの出身地は父の知人が住んでいた地域で、アレックスから聞いた少女の見た目から計算すると十代後半――ヴァルトルートと同じくらいだ。そして、アレックスが少女からもらったという、錬成されたオニキス。

 

 

オリヴィエは椅子に座り直すと、机に据え付けられている電話を手に取り、ダイヤルを回した。

 

 

 

 

 

「私だ。アイツに繋いでくれ。………ああ、アレックス。今時間は良いか?」




人造人間(ホムンクルス)やっていたら、最強姉弟に目を付けられた。



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第玖話 戦乙女は動き出す

長らくお待たせしました。
今回からシリアスが入ってきます。
プラス原作崩しも。




ブリッグスでとんでもないことに気付いたヴァルトルートです。

 

あれから少し頭を抱えましたが、流石に十年近く経っているから向こうも流石に覚えてはいないだろうと気持ちを切り換えて日々を過ごしております。キャスターの視線がなんか生暖かいけど。

 

キャスター、お願いだからそうであると思わせて。

 

 

ブリッグスでの環境にも慣れてきて、要塞の人達とも顔見知りになりました。バッカニア大尉――今はまだ少尉だけど、やっぱりデカイですね。要塞の中で出会うと、よく頭を鷲掴みにされて撫でているつもりなのだろうけど、結局は髪をぐしゃぐしゃにされます。

この時はまだマイルズ氏はいない。だってオリヴィエ姉さんの副官ポジになるの確かイシュヴァール殲滅戦の前後辺りな気がするし。

 

 

そんなこんなで日々を過ごして半年の半分位が経った頃、ブリッグス要塞に激震が走った。

北の大国ドラクマが要塞に向かって進軍してきたのだという。

士官学校でも課程に戦場に実習に行くというものがあるが、オリヴィエ姉さんによってブリッグスに出向して来ている私は直に身を置いていることになる。普段見慣れた要塞の空気がピリピリしているのが分かる。

 

士官生で実戦経験もないまだまだヒヨッコな私は自然と衛生兵の手伝いに入るのだが……………

 

 

 

 

 

「あの…、アームストロング大佐?これは一体……?」

「そのままの意味だ。さっさと支度して付いて来い」

 

 

 

テントで衛生兵の手伝いをしていたはずが、オリヴィエ姉さんに連れ出され(責任者に話はつけたとのこと)、軍服と雪国仕様の上着とサーベルを手渡されました。今戦中ですよね?と思いながら尋ねたら、支度しろと言われました。

 

 

マジですか。

いや確かにオリヴィエ姉さんエドワード達にもこんなことやってた気がするけどさ、今敵国が攻めて来てるんだよ?!んなことやるか?普通!

 

声に出しても無駄であると既に察しているので言われた通りに支度する。

 

 

『とんだ災難ですねご主人様………』

『……この前私の切実な思いを生暖かい目で見ていた人に言われたくないよ』

 

 

 

 

キャスターだから何かしらの操作は出来るだろう?ドラクマの兵を追い返すとか………

 

 

……………ん?

 

 

確か此処も国土錬成陣の血の門の一画だったはず。もしかしたら……

 

 

 

『キャスター、この辺を地理・霊的関係なく徹底的に調べて』

『…解りました。お気を付けくださいませ』

 

 

キャスターも私の言わんとしていることが分かって、私の傍から離れた。

 

こんな時に思い出すなんて、私も随分平和ボケしていたのね。

 

 

「いい加減夢から醒める時なのかもね」

 

そもそもこの世界には目的があるのだから。

手に握り締めたサーベルを鞘から抜き放つ。

“コレ”を使ってしまえば、もう後戻りは出来ない。楽しかった過去や思い描いていた未来も、手にできなくなる。

それでも。

 

 

憑依形成(Besitz Yetzirah)―――戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)

 

 

その詠唱を唱えた途端、刃に光が走る。刀身には戦雷の聖剣の意匠が浮かんでいる。その手の人間が見たのなら錬金術だと思うだろう。

だがこれは錬金術にあらず、人間の魂を糧として力を奮う複合魔術・エイヴィヒカイト(永劫破壊)

本来エイヴィヒカイトは聖遺物を触媒として運用するが、ヴァルトルートは魔術を研鑽していく中で、聖遺物を具現化せず聖遺物の力を代用品に憑依させてそれを触媒として運用する方法を確立させたのだ。

 

これならば使う得物は共通の物ながらエイヴィヒカイトを扱えるという利点があるが、欠点も存在する。

 

元々エイヴィヒカイトは水銀の蛇・メルクリウスが組み上げたものであり、聖遺物を人間の手で取り扱うための魔術であるため人間の魂を糧にしなくてはいけないこと、この術の使用者は魂の回収のために慢性的な殺人衝動に駆られるようになること、などがある。

 

幼少の頃から聖遺物を所持していたヴァルトルートがそのような行動を取らなかったのは、転生される際に限定的に魔力でもエイヴィヒカイトを運用できるようにしてもらったからである。だがこれからは魔力だけでは圧倒的に足りなくなる。必然的に魂の蒐集をする必要がある。

だからこそ、ヴァルトルートは今までエイヴィヒカイトを本格的に使わなかったのだ。

 

 

 

 

幼い頃の誓いを思い出す。

 

 

例えこの手が血に濡れ、この身が人で無くなったとしても、弟を、弟が生きる世界を守る為に、どんな手も尽くしてやろう。

 

 

 

――――――――――

 

SIDE:Olivier Mira Armstrong

 

 

別室でヴァルトルート・ヒューズの支度を待っていた私は、部屋に入って来たヴァルトルートを見て思わず息を呑んだ。

手渡した装備を身に着けたヴァルトルートは見た目こそそれまでとあまり変わらないが、その身に纏っていたのは狂気に近い気配。

だがその表情は正気であると直感で分かった。士官学校で彼女を見掛けた時と同じ眼差し。確たる信念を宿したそれだ。

 

それを見て、私は理解した。

 

 

コイツは戦場に立つ覚悟を既に持っている。

 

 

以前稽古付けた時と言い、何を抱えているかは知らないが浮足立って役に立たないよりかは頼もしい。

 

「準備は出来たな?行くぞ」

「はい」

 

そうして、私はヴァルトルートを連れて戦線へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

思えば、この時に気付くべきだったのかもしれない。

 

もし気付けていたなら、あんなことをさせなかったのに、と。




ブリッグスにて止まっていた時間(ヴァルトルートの使命)が動き出しました。

最後のオリヴィエ姉さんの独白、理由は作者にも分からない(←え
なんてことはなくちゃんと考えています。

エイヴィヒカイトにちょっとしたオリジナル要素を入れました。



憑依形成(Besitz Yetzirah)
エイヴィヒカイトを運用するための触媒である聖遺物の力を代用品に憑依させることで、聖遺物を具現化しなくても運用できる………のだが、元々神秘を宿した聖遺物の力に代用品が耐えきれるはずもないので、使い終わった代用品は大体破棄される。
幼少時から魔術を研鑽してきたヴァルトルートが前世で見たキャラの技術を参考に組み上げた。


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第拾話 戦場に、舞い降りる

リアルで忙しかったので申し訳ございませんでした。
カッと文章が舞い降りたので一気に書きました。
一応、出来てるとこまで載せます。



註)原作から乖離要素ありです。


常夏ならぬ常冬のブリッグス。

普段なら冷たい空気に包まれた静かな世界に、硝煙と血の臭いが混ざる。

ブリッグスはドラクマに対する防衛拠点であり、幾度となくこうした小競り合いが続けられてきた。

そして知らぬ内にこの国を裏側で操るモノ達の陰謀に巻き込まれていた。

 

正史では存在しないイレギュラーがもたらすのは希望か、絶望か。

 

 

 

凍てつく空気の中、ブリッグス側から二人組が戦場となっている地へ駆けていた。一人は後にブリッグスの北壁と称されるオリヴィエ・ミラ・アームストロング。もう一人はこの世界においてのイレギュラーであるヴァルトルート・ヒューズ。

この二人の装備は主に腰に携えたサーベル。ヴァルトルートは予備としてサバイバルナイフとハンドガンも装備しているが、それ以外に戦闘で使われる武器は持っていない。

コレを見た者は、命知らずと嘲笑うかもしれない。

だが、この二人に限ってはそんなことは有り得ない。

 

片や名門アームストロング家の人間としての誇りを持ち、その絶対的なカリスマと実力で突き進んできたオリヴィエ。

片や魔人の力を手に転生し、愛する弟を守る為に研いてきたヴァルトルート。

 

二人の在り方は異なるが、何処か似ていた。

それは何処かの世界にいた、苛烈な騎士とその部下のようだった。

 

 

味方が敷いている陣地に辿り着いた二人はその場を取り仕切っている部隊長の元に向かった。オリヴィエが部隊長に話を聞く間、ヴァルトルートは離れた所で見張りに着いた。辺りを見ながら、解析の魔術を行使する。

 

(此処から北の方角に部隊が三つ展開している。数は多いけど、地の理はこっちにあるから多分問題なさそうだ。コレだと、蒐集する魂の質は普通のレベルかな)

 

解析した結果を見て思ったことに、思考回路が普通じゃなくなっているなと苦笑した。魔術に関わるということは、普通から離れて行くこと。それは分かっていたはずなのに。

 

『ご主人様、よろしいでしょうか?』

 

キャスターから念話が来たので意識を切り換える。

 

『キャスター、どうだった?』

『ご主人様の思っていた通りですよ。何度も小競り合いがあった所為で怨念やらなにやらが染み付いてますよ。しかも地下にもトンネルのようなモノが“現在進行形”で掘られています』

『やっぱりねー、そりゃ建国から随分経っているからそうもなるか……って、現在進行形?』

 

ちょっと待て。今現在で掘削されているだと?確かブリッグスで“アレ”が出て来たのはエドワード達が来てからじゃなかったか?

 

『……キャスター、それ何かの間違いとかじゃないわよね?ドラクマの兵が掘削機使って掘ってたとか』

『私も気になりましたけど、反応があったので確認したら明らかに人間でないモノが道具も使わず素手で穴を掘り進めていましたから』

 

キャスターから返ってきた答えに私は頭を抱えたくなった。

どうしてこうなる?

現実逃避してもことは進まない。原作はあくまでも原作でしかなく、この私達が生きている世界は“もしも(if)”も存在もし得るのだから。

それに、今此処でアレを討てばホムンクルスの野望を少しでも止めることが出来るのだから。

これからのことを決めた私は、思い立ったら即行動の元に動き出した。

 

近くにいた歩兵に少しこの場を離れると言伝を頼んで、陣地から出て行った。キャスターに地下へ行く道を確保するよう指示しながら強化魔術を行使して脚力を強化する。

駆けて行く途中、ドラクマの伏兵に遭遇したが、血を流さない為に活動で雷を落としながら駆け抜けた。生死は確認しなかったが、淡い光の粒子がサーベルに吸収されていた。

キャスターの元に辿り着くと、キャスターは人ひとりが通れる穴を地面にこしらえて待っていた。来たのが私だと認識してから周囲に結界を張った。

 

「行けるかしら?」

「大丈夫です。私も精一杯お手伝い致します」

 

その問答で十分だった。お互いに顔を見合わせて、私達は穴から地下へ降りて行った。

 

 

 

 

 

 

穴から入り込む光の他に明かりはないので空洞の中は暗い。明かりの代わりにと魔力を込めた宝石を発光させることで視野を確保した。降りて来た所に目印として一つ宝石を置いてから、掘削する音がする方向―――怠惰(スロウス)のホムンクルスの元へ向かった。

近づいて行くにつれて掘削する音が反響する。これを道具も使わずに行っているのだからホムンクルスパネェ。独立したらアインツベルン式のホムンクルス鋳造しよう。基本的にお手伝い兼ガードマンで。

 

「ご主人様、見えて来ました!あれです!」

 

キャスターの言葉に目を凝らすと、“ソレ”はいた。

不格好に腕が太く長く、それでいて巨大な身体。腕を打ち付けるだけで地が掘削されて行く。そして何よりソレから感じられる気配は明らかに人間ではない。私達の声も聞こえているはずなのに、その手を止めることなく掘削し続けている。

 

「キャスター、あれを止めること出来そう?」

「ものに寄りますけど、ギリギリまでやってみます」

「オッケー。私も頑張ってやるよ」

 

その掛け合いをきっかけに、ヴァルトルート達は飛び出した。

 

「氷天よ、砕け!!」

 

キャスターが呪符を投げ付け、スロウスを氷漬けにする。直撃した所から凍り付いて行きながらも、スロウスは手を止めようとはしない。それでも侵食が進む凍結に、動きは徐々に阻害されていく。

 

「ご主人様!」

「分かった!」

 

サーベルを抜き放ち、魔術回路とネックレスを活性化させて魔力を練る。戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)が憑依したサーベルはオリジナルの意匠の光を刀身に宿し、紫電を瞬かせて行く。

 

「ぜぁぁああああああッッ!!」

 

地を踏み抜き、スロウスの腕に刃を振り下ろす。

赤黒い液体を迸らせながら、スロウスの腕は本体から切り離される。そこからさらに凍結は進み、傷口も凍り付く。

だが、これで終わりとは思っていない。エイヴィヒカイト(永劫破壊)の恩恵である第六感と強化された脚力でジャンプして天井部に逃げると同時に、両腕を失ったスロウスが全身を氷漬けにされつつも凄まじいスピードでヴァルトルートがいた場所に頭突きをかました。頭突きされた場所はクレーターとなり、その衝撃を表していた。

 

外見(見掛け)より速過ぎだっての………!」

 

スロウスから距離を取りながら降り立ったヴァルトルートは体勢を整えながらごちる。

どうやらキャスターの呪術がまだ効いているようで、本来即座に修復されるはずの両腕も戻ってはいない。

だが、幾ら常人とは違うエイヴィヒカイトを有するヴァルトルートでも、初めて本格的に使っている以上、長くは戦えない。肉体的疲労も勾玉のネックレスで生成・循環される魔力で癒しているとはいえ、精神的にこれ以上戦うのもまずい。それに、オリヴィエ達の元に戻らなければ確実に怪しまれる。

適当な理由を考えながら、サーベルを持ち直した。

 

「キャスター、アレを使うよ」

「―――承知致しました」

 

右手で柄を握り、左手を添える。視線は、今も呪術に抗うホムンクルスに見据える。

 

 

「めん…ど……くせぇ………」

「私もあまり手間は掛けたくないのでね、手早に終わらせてもらうよ」

 

 

そう言うと、ヴァルトルートは口ずさむ。人から魔人へ変貌する為の言霊(詠唱)を。

 

 

 

その異常に気付いたのは、やはりオリヴィエだった。

陣地を担当していた部隊長と話し終えた彼女は、ヴァルトルートの姿がないことに気付いた。近くにいた歩兵が近寄って来て、少し離れると言伝を頼まれたと聞いた。

戦場に立つ覚悟があるとはいえ、まだ士官生の身。気を紛らわせるのに用を足しに行ったのかと思い、その場は落ち着いた。

だが、ある程度時間が経ってもヴァルトルートは戻って来ない。まさかドラクマの兵が潜んでいたのか?もしかしたらヴァルトルートはドラクマの兵に見つかったのか?そんな考えが脳裏を過ぎり、探しに行こうとした時異変に気付いた。

大総統に謁見した際に感じた時以上の、圧倒的な気配と力。

オリヴィエはなんとか胸元を握り締めて堪える。滅多にそんな姿を見せないオリヴィエに、兵達も心配して声をかけようとした時、さらなる異変が起こった。

 

「な、なんだ?!」

 

地面が震動する。地震と呼ばれるそれが、その場一帯に響き渡る。辺りは一瞬騒然とするが、

 

「馬鹿者、落ち着け!すぐに召集をかけろ!!」

 

オリヴィエの一喝で落ち着きを取り戻し、すぐさま行動に移る。

それらを見ながら、この状況でも戻って来ないヴァルトルートの身を案じていた。

 

 

 

 




次でヴァルトルート、あれやります。

因みにヴァルトルートの叫びは「デモンズソウル」の偽王を、光の粒子~は「ダークソウル」のソウルがプレイヤーに吸収されるのをイメージしました。


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第拾壱話 戦姫変生

なんとか書き上げました。
詠唱のドイツ語、難しいわね。



 

 

 

War es so schmählich,(私が犯した罪は)――

 

ihm innig vertraut-trotzt’(心からの信頼において) ich deinem Gebot(あなたの命に反したこと).

Wohl taugte dir nicht die tör' ge Maid,(私は愚かで あなたのお役に立てなかった)

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;(だからあなたの炎で包んでほしい)

 

 

ヴァルトルートの身体から、紫電が淡い輝きを放つ。詠唱が進むにつれてその輝きは増す。

本来恐怖を感じぬはずのスロウスも、ヴァルトルートから放たれる威圧感に身が竦むが、すぐに彼女に向って突進する。

だが、ヴァルトルートは退かない。もう詠唱を終えるのだから。

 

Wer meines Speeres Spitze furchtet,(我が槍を恐れるならば) durchschreite das feuer nie!(この炎を越すこと許さぬ)

Briah―(創造)

Donner Totentanz――Walküre(雷速剣舞・戦姫変生)

 

 

 

そして、ヴァルトルートは戦乙女(ヴァルキュリア)へ変生した。

 

 

スロウスの渾身の一撃は彼女の身体をすり抜けた(・・・・・)。スロウスはそのまま地面に顔をめり込ませる。

ヴァルトルートは紫電そのものとなった(・・・・・・・・・・)身体ごと振り向くと、サーベルを両手で振り下ろした。

スロウスの巨体は魔力が込められた一閃で真っ二つにされた。

 

「う、ご…くの……めんど、くせぇ……」

「君自体に恨みはないけど、君の兄弟というべき奴に私は相当恨みやら怒りやらあってね。とりあえず、その足掛かりになってもらうよ」

 

ヴァルトルートは巨体を切り裂いた時に剥き出しになった賢者の石に刃を突き立てた。確かな手ごたえを持って、それは破壊された。

ホムンクルスは徐々に形を失い、やがて消えた。

 

 

 

「ご主人様。想定外でしたが、どうにか倒すことが出来ましたね」

 

キャスターが声をかける。確かに想定外だったが、この経験の価値は大きい。賢者の石のエネルギーを得て、本来のエイヴィヒカイトを運用出来るのだから。

彼らの計画を止める為にも、また色々やらなければならない。

 

「キャスター、錬成陣のラインになっているこの空洞、できる限り潰すよ」

 

宝石魔術や呪術でこの辺り一帯に地震のようなのを起こせば、このトンネル状の空洞は埋められる。それは、計画を頓挫させる要因にもなる。

 

「分かりました。ひとまず、外に出ましょう。いくら何処かと通じているとはいえ、酸欠になったら大変ですから」

 

 

そして、一旦外に出たヴァルトルート達は総仕上げとして、魔力を込めた宝石を媒介として地震を起こし、錬成陣として掘られていた穴を塞ぎ、キャスターが鎮魂(たましずめ)の祝詞を詠み上げてブリッグス一帯を浄化させた。

 

 

これで原作からは離れてしまった。だがかまわない。弟の死を、この国の滅亡を回避するためならば、何だってしてやる。この世界は、自分達が生きている世界なのだから。

 

 

ヴァルトルートは踵を返してその場から去って行った。キャスターも霊体化して主人に付き従った。

 

 

 

なお、陣地に戻ったヴァルトルートはオリヴィエや他の兵士達に心配されて説教された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメストリスの何処か―――――――

 

 

「ブリッグスで地震があったぁ?」

「ええ。でも、どうやら自然的なものじゃないみたいなのよ」

「ふうん。どっかの錬金術師がヘマをやらかしたのかねぇ」

「でも、今あっちには“スロウス”がいるから、特には問題なさそうね」

「そうだね。そんじゃ、こっちもいつも通り行きますか」

「分かったわ、行きましょう」

「はーい」

 

 

黒い幾つかの影が、その仲間の消滅に気づかず行動していた。

 




地味に今もアンケート受け付けてます。


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第拾弐話 事後報告と再会

こんにちは、文章が浮かばないのとリアルでの忙しさにROM専になっていた白燕です。
なんとか書き上がったのですが、その、後半を書くのが難産でした。
ドレスの種類とか。

あとヴァルトルートさんのグラちょっと描き直してたりしてます。


 

ドラクマとの小競り合いは何事もなく収まった。

 

というのも、錬成陣を潰すのに起こした地震でパニックを起こしてしまったらしく(なお、ブリッグスの皆はオリヴィエ姉さんの指示ですぐに召集がかかったので落ち着いた)、しかもどういう訳かドラクマの軍が一斉に引き上げて行ってしまったのだと。

 

うん、間違いなく私達の所為だね。

 

あちらさんが引き上げたのって、もしかしてあの辺一帯を浄化したから?血の門を機能させない為もあるが、無念の内に散って行った名も無き防人の霊位を慰める意味も込めて結構入念に浄化やったら、ちょっと加減を間違えたらしく、邪なモノを滅し荒ぶるモノを鎮める力を持ってしまったのだ。

 

うわぁ、やっちまった―――……過ぎ去ったことはどうしようもないので、これからはやり過ぎには注意しようと心に誓う。

 

因みに今までどうしていたのか聞かれたので、ドラクマの伏兵と鉢合わせして逃げ回っていたと答えておいた。他の皆はともかく、オリヴィエ姉さんの目が怖かったけどどうにかそれで納得してくれた。

だけど要塞に戻って報告が終わった後すれ違い様に「今度は本気見せて見ろよ」と言われた時は寒気がした。

つーか、姉さんにバレている?魔術とかは比較的バレないようにしているけど……となると剣や体力のほうか。その辺もうまくごまかさないとなぁ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして月日は流れ、出向の期限である半年が来た。

 

その間、ヴァルトルートは要塞の中で必要なカリキュラムをこなしたり、オリヴィエに稽古をつけてもらっていたりした。

 

たまに諸用があってノースシティまで行ったりもしたが、地元住民でもないので暇な時に行くような場所など分からなかった。ただ、キャスターが時々散策しているらしく、美味しいケーキ屋などを教えてもらって出掛けたりもした。

 

 

 

半年過ごした部屋を片付けて、さてブリッグスを出ようとヴァルトルートが玄関先に向かうと、ある人物がいた。

オリヴィエである。

 

「来たか、ヒューズ」

「オ……アームストロング大佐?どうなさったんですか?」

「お前を待っていた。セントラルに行くぞ」

「はい?」

 

なんで?セントラルに戻るのは分かるけどさ、何故に姉さんも?

そう考える中、ヴァルトルートはオリヴィエに連行されて行った。

 

それを、この半年彼等を見てきたブリッグス要塞の人々は何故か微笑ましく見送っていた。

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった…………

 

セントラルの某所にて、ヴァルトルートはドレスを着せられた身体をガチガチに固まらせていた。

列車に揺られてセントラルに辿り着いたところまでは良い。

だが、その足で士官学校の寮へ戻ろうとしたところ、オリヴィエに止められた。学校には話をつけていると、半年前と同じような台詞を言われ、連れていかれたのはどう考えても上流階級の人間が集う鹿鳴館のようなサロン。そこで待機していたアームストロング家の使用人がオリヴィエ達を出迎え荷物を運ぶと、オリヴィエはヴァルトルートの腕を掴んでサロンの控室に向かった。またそこで待機していたメイド達に、オリヴィエは「用意させていたアレをセッティングしろ」と告げ、ヴァルトルートはメイド達によって着替えさせられた。

メイド達がセットしたのはハイネックで背中が大きく開いた翠色の長い裾のイブニングドレスと、金とライトストーンでシンプルな装飾が施されたヘッドドレス。前世でもこんなに値が張りそうな物などヴァルトルートは身につけたことなどない。

しかも先程オリヴィエは“用意させていた”と言っていた。ドレスのサイズがピッタリなのもオリヴィエが調べて用意させていたからだろう。だが、何故一士官生でしかないヴァルトルートのために用意させたのか、本人ですら分からない。しかも、オリヴィエはというと普段と変わらない軍服姿である。いや、逆にドレス姿よりもそっちの方がオリヴィエらしいのだが。

 

「ほぉ、なかなか似合っているじゃないか」

「はぁ……」

 

薄化粧を施されたヴァルトルートは何とも言えなかった。

 

「あの……なんでわざわざ此処に連れて来たんですか?」

 

はっきり言ってヴァルトルートは一士官生の身であり、これまで高価なドレスを身につけたこと所か、このようなサロンに行ったことすらない。

 

「ふむ、理由はちゃんとあるのだがな。実際に行ってみた方がいいだろう」

「はぁ……」

「さ、行くぞヒューズ。いや、“ルート”と呼んだ方が良いか?」

「へ?」

 

オリヴィエから自分の愛称が出て来たことに混乱しかけたヴァルトルートであったが、オリヴィエに手を引かれて控室を出て広間に連れていかれるまでその理由は見出だせなかった。

 

 

 

 

サロンの広間には多くの紳士淑女が集っていた。

多くの視線がこちらに集中している中、オリヴィエはヴァルトルートをエスコートしながら進んでいた。

エイヴィヒカイトの副産物のせいで人の視線やら気配に敏感になってしまったヴァルトルートは更に萎縮してしまっていた。

ある程度進んで、オリヴィエは歩を止めた。顔を伏せていたヴァルトルートもそれに従って歩を止める。

先程の面白いものを見るような、邪な視線は感じられない。

代わりにこちら―――ヴァルトルートに向けられている視線は優しく、温かなものだった。例えるなら、やっと会えたと期待するような。

 

「待たせたな。連れて来てやったぞ」

「ありがとうございます、“姉上”」

 

……………………

………………

…………

……

 

 

その声と台詞に、ヴァルトルートの思考は停止した。

恐る恐る顔を上げてみると――――

 

 

「――――また、会えましたな、ルート殿」

 

 

アレックス・ルイ・アームストロングが、微笑みを浮かべてそこにいた。

 

 

 

ヴァルトルートは―――――

 

(――もう、禿げていたんだ)

 

軽く現実逃避していた。

 

 

 





十数年ぶりに再会したアレックスとヴァルトルート。
アレックスから出た思いもよらない言葉とは?!
そしてヴァルトルートはどう反応する?!


その頃、セントラルの地下では不穏な気配がうごめいていた――


次回も更新時期は不明ですが、よろしくお願いします。

活動報告にてアンケート結果を発表します。


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第拾参話 ラブコメっぽい口説きって正直よく分からない

お久しぶりです。就活で文章がなかなか浮かびませんでした。
今回の話も、途中までは書けていましたが、その後の展開がイメージは出来てはいるけれどもうまく表現できない状態が続きました。

サブタイは今回の内容を親友に相談した際、ラブコメ読めよ~と言われたので。


セントラルのとあるサロンのテラスにて一組の男女がいた。

アフタヌーンティーのセットが置かれた丸テーブルを挟んで座っているのはアレックスとヴァルトルートである。

先程アレックスとある意味衝撃的な再会を意図せず果たしたヴァルトルートは、さらに固まっていた。

 

 

「ルート殿、如何なされましたか?顔色が悪いみたいですが」

「い、いや、大丈夫です」

 

アレックスに声をかけられたヴァルトルートは目の前に置かれているティーカップを手にとって紅茶を半分程飲んだ。

流石は上流階級。ティーカップも優雅なら紅茶の茶葉も一流物だ。ティーパック式の紅茶とは大違いだ。

軽く現実逃避しながらヴァルトルートは自分とアレックスの関係について考えてみた。

 

 

アレックス・ルイ・アームストロング。代々将軍を輩出してきた名門アームストロング家の子息で、自らも軍に所属し、アームストロング家の多くの芸能を継承している。原作では優しすぎる性格から周囲から軽んじられることもあるが、その熱意は本物であり信頼もされる人物である。原作開始前のイシュヴァール戦以降少佐のままだとか、ブリッグスの女王オリヴィエ・ミラ・アームストロングの弟であるというなどの情報が頭の中で混乱しているが、コレだけは言える。

“自分という存在の影響で原作は乖離してきている”と。

実際はどうかは知らないがマース・ヒューズに兄弟がいる描写はなかったし、ヒースクリフが上級生に虐められることもないし、最近では人造人間(ホムンクルス)スロウスが原作開始前に消滅させた。

これらは自分が介入していなかったら起こっていない事態なのだ。それは自分でも理解している。

 

だが、コレに関しては別だ。まさかこのような展開になるとは誰も思わない。

アレックスとヴァルトルートが出会ったのは十年以上も昔のことだ。中身はともかく当時のヴァルトルートは七歳、対してアレックスは十代後半入りかけだ。普通なら自分はアレックスから見たら郊外に住む子供Aという立場なはずなのだが……

 

 

 

 

 

ティーカップをソーサーに置くと、私はアフタヌーンティーセットのケーキに視線を向けた。

サロンに来てから緊張状態だったので糖分がものすごく取りたい。しかしアレックスがいるのでは、女性としてはあまりがっつくのは見られたくないというか……

と、アレックス氏がガトーショコラを皿に取って私の前に置いた。

 

「どうぞ」

「え?」

「姉上から聞きました。時々ノースに行って菓子を購入されていたとか」

「あ、ありがとうございます……」

 

私は思わず

(姉さんェ…………)

とオリヴィエ姉さんに対してツっこんだ。

 

ガトーショコラをフォークで口に運ぶとほっとする気がした。流石上流階級。程よい甘さと苦さのマッチである。

ガトーショコラの味を堪能していると、アレックス氏が意を決したように話し掛けてきた。

 

「ルート殿、此処にお呼びしたのは理由があったのです」

「はい?」

 

というか、アレックス氏だったのか。今まで姉さんが引っ張ってきたから、意外である。しかし、理由とは何だろうか。

 

「初めて会った時、貴女に掛けられた言葉によって私は自分の殻を破ることができました。今の私があるのは、貴女のお陰です」

 

えっと、それってもしかしてゴーイングマイウェイ的な奴か?

確かに自分が行く道は自分で決めるとは言ったが、まさかここまで影響与えるとは思わなんだ。

そんなことを考えていると、アレックス氏が私の手を取って両手で包み込んだ。

 

「ルート殿、貴女は私にとって運命をくれた存在です。

いつか会いたいと強く思いました。その気持ちは日を追うごとに強まっていき、同時に今まで感じたことのない気持ちが燻っていったのです。

そして、ある時気付いたのです。私は、貴女に恋しているのだと!

ルート殿。どうか、私の想いを受けとめて下さい!」

 

 

……………………

………………

…………

 

コレって、プロポーズ的な何か?

 

あまりの展開にパニクっていると、どこかに行っていたオリヴィエ姉さんが現れてアレックス氏を殴り飛ばしていた。

 

その場はお開きとなり、着替えた私は士官学校の寮に帰った。

半年ぶりの士官学校の景色は変わらず、懐かしさと安堵を感じた。

私が不在の間部屋の留守を預かっていたクリステルにブリッグスやサロンでの出来事を話したら、溜息をつきながら頭を抱えていた。いや、私だってそうしたいけど。

 

 

 

 

(全く、一時はワタクシが出て去勢拳をかまそうと思いましたが、あのお姉さんが出て来て良かったです。

でもまぁ、この一件でご主人様が女性らしさに目覚めてくれれば良いんですが)

 

ヴァルトルートの前世は、二十歳過ぎても基本すっぴんだった。

 

 

 

 

 

 

 

場所:?????

 

「東部の内乱はどうなっているの?」

「ああ。あちこちで情報操作したら面白いくらい連中は騙されたよ。“血の紋”を刻むのもいい頃合じゃないか?」

「そう…でもね、最近おかしなことがあるのよ」

「おかしなこと?」

「ええ。ブリッグスに侵攻していたドラクマの軍が突然引き上げてそれっきり動きを見せないみたいなの」

「ふーん。でも、あっちの方はまだいいんじゃない?こっちの騒動は始まったばかりだし」

「そうね。一応お父様には報告しておきましょう」

 

 

 




士官学校、二年課程という設定にしておきます。
あとは駆け足でイシュヴァールに持ち込もうかと思います。

あと、アンケート受け付けてますので、活動報告ご覧ください。
赤弓のマスターについては予定している人物がいます。


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軍属・原作前
第拾肆話 軍に入って諸々


一か月と少し振りの投稿です。
少しずつ書き溜めていました。

キングクリムゾンしまくると思います。


それから一年と半年が経ち、1905年、士官学校を卒業した私は軍の業務に勤しんでいた。

首席ではなかったので軍に入った時の階級は准尉である。

なお、マースとクリステルは私と同じく准尉、マスタング氏は国家錬金術師ってことで少佐。ヒースクリフ氏は卒業してから消息が絶えてしまっている。おそらく、イシュヴァールの地に戻ったのだろう。

東部の内乱は未だ収まる気配はない。このままの流れで行けば、私達は必ず敵対する。それだけは何としても避けたいのが本音だ。

それまでに何かしらの対策を考える必要があることを頭の隅に留めておいて、思考している間にまとめた報告書を上司の元に持って行こうと席を立った。

 

 

私の上司となった人物はエリートではないが、地道に実績を重ねてきたタイプで、内乱が起こった頃にも前線に立っていたそうな。

長年軍にいるせいか色んな所とコネクションができているらしく、中にはアームストロング家とも交流があるという。だからか、私が配属されてきた時にオリヴィエ姉さんの話が出て来たのは。しかも、アレックス氏が私にプロポーズしたことも一部で噂になっていたらしく、その話を知っている将校達からからかわれた。解せぬ。

言っておくがあの後アレックス氏は感情的になりすぎて発言したことを謝罪し、友人として交流してほしいと頼まれた。友人なら問題はないだろう。

それから、アレックス氏から昔のように“アル”と呼んでほしいと言われたのでプライベートでそのようにすることにした。

 

 

話は戻るが、報告書を提出したら今日の業務は終了だ。帰宅したらやることがたくさんある。主に魔術関連で。

え、魔術は秘匿すべきモノだろって?ご心配なく、今住んでいる所は住人は私しかいないので。

というのも、正式に軍に入った際に一人暮らしを始めたのだ。両親も、大人になったし士官学校でちゃんと教わっているから大丈夫だろうと了承してくれた。マースは何故か不服そうだったが、非番の時には姉弟で過ごすという約束で納得してくれた。

今私が住んでいるのはセントラルの二階建ての一軒家。軍に入ってしばらくしてから購入したものである。事前に通勤のし安さや近辺の情勢も調査して判断した。やっぱり女性の一人暮らしは気にした方が良いよね。まぁ、家に入った後キャスターと一緒に結界張ったりしたけどね。さらに、家の下に地下空間を作って魔術工房を作り上げた。これなら誰かが訪ねてきたとしても、表立って見られることはない。

人形作製のスキルを試すために幾つか作ってキャスターに試して貰おうかと思う。今まで家族の元にいたから霊体化せざるを得なかったが、これからは住み込みの家政婦と通せば問題ないだろう。

 

 

 

 

 

それから一年が経とうとする中、ヴァルトルートは軍務が終わったら真っ直ぐ帰宅して魔術の研讃をする生活を送っていた。無論、週に一回は両親に電話したり、マースと待ち合わせて食事をしていた。

また、違う部署に配属されていたクリステルがそこの上司と馬が合わず、ヴァルトルートがいる部署に廻されてきた。例の如くヴァルトルートの近辺情報を聞いていた上司の手によるモノなのは明らかである。

元々相性も士官学校の頃から良かったので、任務の時は必ずコンビを組んだ。圏境を用いた隠密に特化したクリステルと、剣術でターゲットを落とす(使用するのは刃を潰したサーベル)ヴァルトルートのコンビは一部では知られた存在になっていた。

 

 

「はぁ~、今日も疲れたぁッ」

「それ、昨日も言っていなかったか?確かに此処最近外に出ることが多いけれど」

 

ヴァルトルートの自宅にて、クリステルは腰掛けた椅子の背もたれに寄り掛かり、ヴァルトルートはもう一脚の椅子に座って愛用のマグカップで紅茶を飲んでいる。

ヴァルトルートの言う通り、最近セントラルでも治安が余り良くなく、ヴァルトルート達が駆り出されることも多くなっていた。

 

「コレも、国を利用しようとしてる奴らの仕業かなぁ」

「どうだろうね、彼等はきっかけを作っているにしか過ぎない。人の心の闇に付け込んで、行動を起こさせる。自分達は手を汚さず結果を最終的に得られるというサイクルだよ。軍部の上層部と一緒だよ」

「うー……この世界入ってから結構経つけど、やっぱりキツイな…。ルートは辛くないの?」

「辛いことに変わりはないけれど、あのオリヴィエ姉さんに鍛えられた分、こんなんでへこたれてちゃだめでしょう」

「うっわ、アタシには耐えられないわ。っていうかあのアームストロング准将の名前だす辺り、まだ影響残ってんのね」

「影響が残っているというより、今でも会ったりするからね。その度に模擬戦吹っかけられるけど」

 

オリヴィエはヴァルトルート達が卒業してから准将に昇進し、活動の拠点を本格的に北部に置いているが、時々セントラルに来てアレックスやヴァルトルートと会っている。

オリヴィエはまだヴァルトルートがその身に宿しているナニカは見抜けていないが、自分に匹敵する腕を持つ彼女に会う時は必ずと言って良いくらい鍛練に誘って来るのだ。ヴァルトルートはそれに付き合って疑いから外れようとしているのだが、オリヴィエの鍛練に付いて行けているのはアレックスを除けばヴァルトルートだけなので別の意味で人外認定されかけている。

 

「……うん、そっか」

 

 

クリステルは深く突っ込まないことにした。

その後、キャスターが作った夕食を取って一息付いていた。

 

 

「ルート、今日は何するの?」

「キャスターの人形(身体)を作った技術を参考にしてホムンクルスを鋳造しているから、その調整をね」

「ホムンクルスって……ルートが前に言ってた、暗躍してるやつみたいな?」

「いや、あいつらみたく身体の一部が欠損しても瞬時に再生はしないから。魔術の中の錬金術で鋳造するから、魔術回路を人間にするようなものだし」

「えーと…?うん、とりあえずそいつらとは違うってことだよね?」

「そういうこと」

 

魔術に関することはクリステルにも大まかに説明しているが、彼女には難しいようである。ヴァルトルートはクリステルの推測を肯定しておくことにした。

 

「それで?ホムンクルス?を作ってどうするのさ?」

「最初の一体だから、基本はメイドにしてキャスターの手伝いをさせるよ。そのデータを元に量産型のホムンクルスを鋳造していこうと思っている」

「……一体何をしようとしてるのさ」

人造人間側(あちらさん)にちょっかいかけようと思ってね。計画の邪魔して煽って行けば、隙の一つや二つできるだろうし」

 

ヴァルトルート・ヒューズ。人造人間相手には徹底的に殺る主義である。クリステルはこれ以上追及しないことにした。

と、その時電話が鳴り、家事を行っていたキャスターが出た。

 

「ご主人様、上官の方からお電話です。急ぎの用みたいですよ」

「急ぎの?」

 

何事かと思い、ヴァルトルートは保留されていた受話器を手に取った。

 

 

「はい、ヒューズです」

『ヒューズ准尉、そこにリー准尉もいるか?』

「?はい、いますが」

『ならすぐに一緒に来てくれ。大事な話があるんだ』

「…分かりました。すぐに向かいます」

 

電話を切ったヴァルトルートはクリステルに言った。

 

「クリステル、支部に行くわよ」

 

 

 

 

 

「突然呼び出してすまない。勤務を終えて寛いでたろうに」

「いえ、大丈夫です」

「それで、大事な話とは何でしょう?」

 

上官の前に立ったクリステルとヴァルトルートは用件を尋ねる。

 

「うむ、話というのは君達のことだ」

「ア…私達、ですか?」

「君達も、東部の情勢については聞いているだろう」

「………、はい」

 

 

上官が言う通り、東部の情勢は芳しくない。イシュヴァール人による抵抗に加え、軍に不満を持つ者達の暴動も起こっている。

ヴァルトルート自身も、運命の時が近付いているのを理解していた。

 

「東部では対応する人員が不足していて、中央からも増援を送ることになったんだ」

「それに、私達が選ばれたと?」

「ああ。君達はもう軍に入って一年経つし、個々でも能力が高いからな。正直、君達を送りたくはなかったのだが……」

 

彼女達は一部とはいえ知られすぎてしまっている。そんな逸材を使わずにはいられない、というのが彼以外の将校の意図なのだろう。

 

「分かりました。いずれにせよ、決定事項みたいなモノでしょうし」

「フ、君は話が早いな……、そこでだ。今回の出向に伴い、君達の階級が上がることになった」

 

上官は二人を見据える。自然と、ヴァルトルートとクリステルの姿勢が正される。

 

「まず、クリステル・リー。准尉から少尉に昇進」

 

クリステルは敬礼の姿勢をとった。

次に上官はヴァルトルートを見たが、何故か苦笑を浮かべていた。

 

「次にヴァルトルート・ヒューズ…。

准尉から少佐に昇進だ」

 

 

 

 

「………はぃ?」

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなる。

 




マスタング
(国家錬金術師なので)少佐。

マース
准尉(推定)→大尉(イシュヴァール戦)

クリステル
准尉→少尉

ヴァルトルート
准尉→少佐


……普通はこんなに階級はあがらないよね?


追伸。
活動報告にてアンケート継続しておりますので、ご意見お願い致します。


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第拾伍話 姉さんの仕業で胃がマッハでヤバい

お久しぶりです。就活はまだ続いてますが、どうにか卒論は提出出来たので投稿します。
後半はほぼノリで書き上げました。


ここでひとつ、アメストリス軍における階級を見直してみよう

 

軍の階級は完全ピラミッド制で、士官と下士官・兵に分けられている。

その頂点に立つのが大総統。現時点ではキング・ブラッドレイがその地位に在る。

次いで大将・中将・少将・准将の将官クラス。長期間の作戦を実施できる戦隊を指揮する存在である。アームストロング家は代々将軍を輩出してきた名門であり、オリヴィエもここに属する。

その下に大佐・中佐・少佐の佐官クラス。短期間の作戦を実施できる大隊を指揮する存在で、参謀の職務も務める。なお、国家錬金術師も少佐相当官の地位を持ち、軍に従事することもある。既に国家錬金術師の資格を持つロイも、士官学校を出て間もなく少佐の地位に在るのもこれが理由である。

さらに下には大尉・中尉・少尉の尉官クラス、准尉・曹長・軍曹・伍長の下士官クラスがいる。士官学校を首席で卒業した者は少尉、それ以外は主に准尉となる。後にロイの部下になるハイマンス・ブレダも首席で卒業した者である。

そしてヴァルトルートもクリステルと共に“普通なら”昇進で少尉になるはず、なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一体どういうことなんですか?」

 

あ、ありのままに起きたことを話すぜ!?上司に呼び出されて辞令的なものを受けたらいきなり少佐に位置付けられていた!!な、何を言ってんだか分からねぇと思う……っ!!頭がどうにかなっちまいそうだ……っ!!工作とか陰謀だとかそんなチャッチイもんじゃねぇ…っ!!もっと恐ろしい物の燐片を味わったぜ……っ!!的な状態にあります、ヴァルトルートです。

え?もっと真面目に説明しろって?無理でしょ、この内容じゃ。だってついさっきまで一介の准尉だったのに、特進二級を超えて少尉中尉大尉経験無しで少佐だよ?!一般的観点からすればおかしいでしょ!!ほら、クリステルだって驚いた顔しちゃっているし!!

 

「確かにね。普通なら功績によって昇進したり、殉職して特進して階級が上がるけれど、それでも二階級が限度だ。それに最近の情勢で駆り出されているとはいえセントラルの一般業務に就いている新人は滅多なことがない限り殉職するような事態は起きない。通常ならリー准尉……否、リー少尉のように一階級昇進するのが一般的だ」

 

上官の言葉にある意味嫌な予感がしてきた。自分の経歴を思い返してある人物が関わっていることを確信した。というか、あの人しかいないだろ!!

 

「ブリッグスのアームストロング准将が君を少佐に推挙してね。准将が直々に指導したということもあって佐官教育などの高等教育が身に着いているということと、日ごろの功績によって今回の昇進が決まったんだ」

 

……………

 

………

 

 

オリヴィエ姉さん何やらかしているんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~いルート、生きてる~~?」

 

………クリステルが顔の前で掌をかざして振っているのが分かるけど、今の私に応える気力はない。確かにブリッグスにいた頃、なんか姉さんに教えてもらっていた内容が士官学校で予習していたものよりも難しかったという気はしていたけど、他人に容赦なしで向かわれる姉さんだから難しく解釈していたと思っていた。だが、軍属になって改めて教わっていた内容を思い返すと、あれは高等官僚候補のための内容だった。

 

そうとは知らず、言われるがままに学んでいた自分を殴りたい。

 

「………ご主人様、お気持ちは分かりますが、これからのことを考えましょう。早く現実にお戻り下さいまし」

 

キャスターに言われたのでどうにか現実に帰還する。

 

辞令が出た以上、多少のラグはあるが、東部に向かわなくてはならない。その前に、ここで済ますべきことをやらなければ。

 

「キャスター、ホムンクルスの調整急いでやるよ」

 

様々な工程を前倒ししてホムンクルスの調整を終わらせた。そうして出来上がった女性型ホムンクルス。アインツベルンの術式を用いたので、髪は雪のような白銀、目はルビーの如き紅。整った顔立ちは人形みたいだ。

 

「へぇ、こうして見ると人形みたいだねぇ」

「ホムンクルスは一から調整するから大体こんな感じになるんだ」

「へー……そうだルート、名前とかどうするの?最初の子だから、特別なものにしようよ」

「子って………確かにそうね。じゃあ……

 

フェリスティ、フェリスにしよう」

 

“幸福”の名前を冠したホムンクルスがここに誕生した。

七つの大罪を冠した似て異なる人造人間(ホムンクルス)と対になる存在は、この世界でどう行動していくのだろう。その行く先は、真理ですら分からない。

 

 

 

 

フェリスを完成させて数日後、ヴァルトルートとクリステルは東部に着任していた。到着してすぐに受けた佐官対応にヴァルトルートは閉口したが、何とかそれを乗り越えて対策会議に参加した。穏健派の代表との交渉、過激派を制圧するためのプランを話し合い、初日を終えた。

翌日からは他の軍人達と共に穏健派の拠点を訪ね、軍に対する不満とその対応策を話し合った。会談を行っている中、何処から聞き付けたのか過激派の一部が銃撃を仕掛けてきた。

直接の被害はなかったものの、緊張感漂う状況を打開するため迎撃することになった。付いて来た部下達の腕は良いのだが、半日程睨み合いが続いた。

 

「全く、こんなことしてても時間の無駄だろうに……。こっちもあんまり犠牲出したくないしなぁ…」

 

何を思ったのか、ヴァルトルートは身動きがしやすいよう軍服から黒ずくめの軽装になると、サーベルを片手に単身敵陣に切り込んで行った。

 

「ルートがいない……?こういう時は一言くらい言ってから…ってまさか!」

 

ヴァルトルートの姿が見えなくなったことに気付いたクリステルは彼女の行動パターンを予測すると、圏境(偽)を発動して敵陣に向かった。

ヴァルトルートはエイヴィヒカイトによるブーストで銃弾を避け、敵が構えているライフルを斬鉄剣よろしく細切れにして無効化していく。追い付いたクリステルもヴァルトルートを狙っていた狙撃者に拳を撃ち込んで行き無力化する。

 

「あ、クリス良い所に!」

「良い所にじゃないわよ!何でそれ(エイヴィヒカイト)使っているのよ!」

「いや、手っ取り早く敵を抑えるにはブーストしたほうが良いかなと思ってね!直接攻撃はしてはいないし、手加減はしてあるけど!」

「当ったり前よ!!」

 

そんな言葉を交わしつつも戦闘を続け、大方倒し終えた所でクリステルはヴァルトルートを引きずって帰った。

勿論、しっかり姿は消してだ。

 

その後、過激派メンバーが次々と拘束されて護送されて行ったが、どの面々も顔色が悪かった。

 

『突進してくる影に撃とうとしたら銃がバラバラに切り刻まれていた』

『遠くから狙撃しようとしたら鳩尾に一撃食らった。周りに誰もいなかったのに』

 

そんな証言があったらしいが、実際に見た者が少ないのでスルーされることになった。真実を知るのは、とある少佐と少尉だけである。

 

なお、穏健派との交渉は幾つかの妥協案で合意を取り付けた。とりあえず問題を片づけることが出来たことと、親友のやらかしたことがバレなくてほっと胸を撫で下ろしたクリステルだった。




ここに出てくる穏健派と過激派というのはイシュヴァール人ではなくアメストリス人の軍に不満を持つ方々のことです。
穏健派……争いはできるだけ避けたい。交渉で良い方に行きたい。
過激派……力でもって軍に敵対。原作での青の団みたいな。

という関係です。


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第拾陸話 葛藤

皆様お久しぶりです。
就活を終えて研修などでドタバタしています。
後半はほぼ駆け足で書き上げました。オリ主やオリホムの心情とか難しかったです。

本格的に働きはじめたら、執筆できるかなぁ……


それと、Dies iraeとFateの方での新情報にもウハウハしてます。
イカベのop、ベイだからかっけえ。
Fate/EXTELLA、完璧にFate無双ですね!!楽しみだ!!


 

東部に移ってからというもの、私達の日々は多忙を極めていた。

増援として送られた私達も否応なしにテロリストとの抗戦に送られ、多くの同僚や部下達が負傷、中には命を落とすものもあった。そんな彼等に黙祷を捧げつつも、その魂をエイヴィヒカイトの糧として蒐集した。

エイヴィヒカイト本来の運用のため、一時とは言え戦友だった者達の無念を受け継ぐため、色んな理由が混ざり合う。

それでも、止めるわけにはいかないのだ。この世界の未来、この国を支えていく人達のためにも。

クリステルも私がやっていることに気付いているようだが、私の心境を察してくれているので何も言わない。彼女も八極拳の腕を更に高めるべく鍛練しているので、私もそれに付き合っている。

 

そんな中でも僅かながらに休みが取れるときもあり、その時は故郷の両親に顔を見せに行ったりした。また、中央に戻る時は自宅に寄り、留守を預かっているフェリスの稼働確認を行っている。フェリスは近所の住民からも普通の人間と同じ様に認識されているらしいので、ひとまず異端として扱われることはなさそうだと安心した。

ある程度の用を済ませると地下の工房に篭り、フェリスのデータを元に戦闘用ホムンクルスの鋳造を進めた。

不手ではあるが時間操作の魔術も使っているので短期間で量産はできるが、その反面、急造であるが故に短命であるという欠点もある。

使い捨て同然のホムンクルス(仲間)を見て、フェリスはどう思うだろう?フェリスにも今後の計画を伝えているが、フェリスにも未熟とはいえ普通の人間のように感情がある。仲間を道具のように使い捨てるやり方に不満を持っているかもしれない。

東部に戻る前に、話し合ってみた方が良いか。

 

 

 

SIDE:Felicity

 

地下の魔術工房で私は仲間達が眠る水槽を見詰めていた。自分とは異なり、戦闘技術の刷り込みや筋力の改造を施され、純粋な戦闘兵器として鋳造されているホムンクルス。それらを行ったのはこの国の軍人として戦いに従事する我が(マスター)、ヴァルトルート・ヒューズだ。

私は鋳造され、覚醒めて初めてマスターと対面した日のことを、今でも覚えている。

 

東洋系の黒髪黒目の女性の友人と獣耳の魔術師(キャスター)英霊(サーヴァント)を控えさせたマスターは私に幸福(フェリスティ)の名前を与えた。そして、この国が行おうとしていること、それを阻止するために自分達が行う計画を話した。それは、明らかに誰かを犠牲にすることを前提にしたものだった。そして犠牲にするのは名も知れぬ誰かだけでなく、他ならぬマスターもその対象だった。

 

当時は覚醒めたばかりでただ聞き流すことしかできなかったが、街の人々との交流や自分なりにこの国のことを調べたりして、マスターがやろうとしていることを理解した。

 

その時、私の中には二つの思いがあった。

仲間(ホムンクルス)達を使い捨てにすることへの怒りと、自身の身でさえ切り捨てなければならないことへの憐れみ。

この世界では異端(イレギュラー)である永劫破壊を身に宿し、他人を犠牲にしていきながら望むのはこの世界の救済、否大切な人達が安らげる世界。そこにマスターの姿はない。

例外の存在である自身を代償に、周りの大切なものを守るということ。一見筋が通っているようで、自身のことを考えてくれている者の意思を無視している。だが、それ程のことをしなければならないのだ。

 

私はホムンクルス。人間と異なる方法(カタチ)で生まれた存在。多くの知識を生まれながらに焼き付けている(知っている)が、感情(ココロ)は幼子よりも未熟だ。

ただ、私を形成している根底の何かがマスターを見捨てるなと訴えている。支えてやらねば、マスターは人間(ヒト)であることを捨ててしまう。

私の、意思(コタエ)は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東部へ戻る前夜、ヴァルトルートは自室にいた。

自分が今後行おうとしていることが倫理的に許されるものでないことは、彼女自身理解している。

元より、ヴァルトルートは親しい間柄の者には何事もないように振る舞うが、複雑な事情や辛いことがあると一人で溜め込む癖がある。魔術を行使することでそれらを消化しているが、根本的な解決ではない。

彼女の弟マースも、周りの人達に心配させまいと隠して振る舞う。この二人は双子ということを抜きにしても似ているのだ。大切なモノを守るためなら、血に濡れても構わないということ。ヴァルトルートがかつて誓ったあの言葉のように。

 

 

「マスター、少しよろしいでしょうか」

 

ヴァルトルートが机に向かって考え込んでいると、部屋のドア越しにフェリスティが呼びかけてきた。フェリスが深夜訪ねてくるなんて珍しい、と思うつつヴァルトルートは中に入るよう足した。

失礼します、と返事をしてフェリスティがドアを開けて入った。その眼差しは真っ直ぐヴァルトルートに向けている。平時とは異なる様に、ヴァルトルートも不思議に感じた。

 

「フェリスどうしたの?改まった格好しちゃって」

「……マスター、以前お話しされていた戦闘用ホムンクルスのことですが」

 

そのことが出て来て、ヴァルトルートは眉をひそめる。やはり、仲間を使い捨てにするのは反対か―――

 

「もし仮に彼らを使わなかった場合、貴女はどうなさるつもりだったのですか?」

「え……」

 

予想とは異なる問いに思わず思考が停止する。

ホムンクルスを使わなかったら?

そうなる可能性もいくつか方法は考えてあるが……

 

「恐らくですが、貴女一人で相手に向かっていくつもりだったのではないですか?」

「!!」

 

フェリスティの言葉にヴァルトルートは何も言えなかった。もしホムンクルスが使えない状況になった場合、その時はクリステルとキャスターにマース達のことを頼み、自身は大総統府の地下に乗り込み永劫破壊(エイヴィヒカイト)を発動させて戦おうと考えていたのだ。

勿論何も考えなしに挑もうとは思っていない。幾つか他の案も考えてはいた。けれども、そのどれにも共通するのは自分一人が犠牲になるということだった。この世界では本来いるはずのない自分の存在を人造人間との戦いで清算するということ、それが、ヴァルトルートが考え抜いた方法だった。

沈黙を肯定と見たのか、フェリスティは言葉を続ける。

 

「確かに異端を相殺させるのには効率が良いのかもしれません。ですが、その後に遺された者達はどうなるのです。貴女を気にかけていたあのご姉弟は、貴女を姉と慕う弟君は」

「…………」

 

そうだ。ある日突然自分にとって親しい人物が目の前からいなくなったら、不安になるし安否の心配もする。そして、後から真相を知ったとしたら?

その後を想像しようとするが、できなかった。

 

「…マスター、貴女は人間です。例え人を超えた力をお持ちであろうと、そのことに変わりはない」

 

フェリスティは椅子に腰かけたままのヴァルトルートの前に屈みこむと、膝に置かれたままになっている手を取って包み込んだ。

 

「貴女は決して一人ではありません。クリステル殿やキャスター、私がいます。貴女の罪や宿業、何もかも共に背負いましょう」

 

フェリスティの手に包まれたヴァルトルートの手が、小さく握り返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1908年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の時が訪れる。

 




文末の年号で察した方々、正解です。

やっと原作epが書けるよ!と思ったけど展開どうしよう。


原作主人公達の関係者は救いたいが……

アドバイスなどありましたらお願いします。


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イシュヴァール殲滅戦
拾漆話 取引


リアルで色々あって出直しております。
ノートに書きだしていったらキリがない。というわけで載せます。

今回からイシュヴァール殲滅戦です。原作の面を省略することになるかもしれませんが、ご了承ください。



1908年。それはアメストリス史に大きな事変を遺した年。

 

事変の名は『イシュヴァール殲滅戦』。

表向きは以前より対立していたイシュヴァール人への粛清。だが、その真の目的は、アメストリスに住まうすべての人間を贄にした国土錬成陣の血の紋を刻む為の大量虐殺。

良心ある者は何故このようなことを、と悩むが大総統の決定故に反論することは出来ない。

この戦いには戦場での実用を確かめる為に多くの国家錬金術師が導入された。国家錬金術師は国から研究費が支給される代償(代わり)に、軍に従事することが必須とされる。故に、“軍の狗”と揶揄される。

従軍する者には、ロイ・マスタング、アレックス・ルイ・アームストロング、マース・ヒューズ、さらに士官生であるリザ・ホークアイも含まれていた。

 

だが、正史には存在しない人間、ヴァルトルート・ヒューズ。彼女が介入することで、運命は少しずつ変化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

イシュヴァール殲滅戦の最前線、イシュヴァールを見つめる人物がいた。

青い軍服の上に白の外套をマントのように肩に引っ掛けた黒髪―――ヴァルトルートだ。

数日後には戦場となる地を見つめながら、ヴァルトルートはこれまでのことを考えていた。

 

フェリスティの言葉で決意を新たに固めた。そして必要な準備を重ねてきた。鋳造した戦闘用ホムンクルスは一個師団クラス。完成したもの達からイシュヴァール付近に拵えた地下空間に待機させている。これらはイシュヴァールの民を守る為、アメストリス軍に差し向けるのだ。もしバレたらただでは済まないということは分かっている。

さらに犠牲者を減らす為に、ヴァルトルートはある人物とコンタクトを取った。

ヒースクリフ・アーブ。かつての同級生だった青年だ。情報屋に消息を掴んでもらい、使い魔に伝言を託した。“ただの友人”として会って欲しい、と。

そして約束した場所で二人は数年ぶりの再会を果たした。

 

方や生まれに誇りを持ち、偏見に苛まれながら民族の待遇を良くしたいと希望を持ちながら夢破れた者。

方や自分の大切な人達を守りたいと才と努力を重ね、転機が重なったことで地位を得た者。

この時ばかりは、そのことを忘れた。

ヒースクリフは消息を絶ってからの行動を、ヴァルトルートは士官学校を卒業してからの自分達の歩みを語り合った。特に准尉から少佐に昇進した経緯を話したときは、二人とも元凶となったオリヴィエの手腕に呆れると共に笑みが零れた。

懐かしい話もほどほどに、ヴァルトルートは決行される殲滅戦について話し始めた。ヒースクリフもいずれ大きな手を打ってくるとは予想していたが、国家錬金術師を導入してくること、自分のかつての友人達も駆り出されるという事実に驚愕していた。

そしてヴァルトルートはある提案を切り出す。

少佐の地位に在る自分が持つ情報―――軍がイシュヴァールの民を閉じ込めて皆殺しにしようとしていること、行軍ルートを伝え、非戦闘員の女子供だけでも脱出させるように仲間を説得するよう頼む。

彼女と親しかったヒースクリフはともかく、多くのイシュヴァールの民はアメストリスに反感を持っている。アメストリス、しかも軍に所属する人間の言うことに耳を貸すとは思えないが、少しでも犠牲をなくす為にも、一種の賭けだった。ヒースクリフもヴァルトルートの思いを察して何とかやってみると引き受けた。

その後、ヒースクリフに預けた使い魔から呼び出しがあって行ってみると、ヒースクリフの他に何人かのイシュヴァールの民がいた。そして上座にいたのはイシュヴァラ教最高指導者ローグ・ロウだった。

まさかの展開に驚きながらもヴァルトルートは彼らと対峙した。何故軍部の情報を横流ししたのかなど、様々な質問(という名の詰問)をされながらも相手を刺激しないように答えていった。

そんな折、ローグ・ロウはヴァルトルートにこう尋ねた。

“自分の命と引き換えに、同朋の命を救うことは可能か?”

彼に付き従う者達は思わず声を上げた。それは降伏を表すものだから、彼らが動揺するのも無理はない。

ヴァルトルートは大総統の指示のもと行われる悪夢の末を知るだけにあわれに思ったが、“お父様”の命令で動く大総統――憤怒(ラース)に慈悲は存在しない。前置きをしてから否、と答えた。

理解はしていたのだろう、答えを聞いて、そうか、とだけ呟いた。小さな嗚咽が、周りから聴こえた。

ある程度落ち着き、ローグ・ロウは姿勢を正した。そして、提案を受け入れることを告げたのだった。

 

 

 

「ルート、こんな所にいたんだ」

聞きなれた声に、ヴァルトルートは思考の海から浮上した。振り返ると、白の外套をきちんと着込んだクリステルが立っていた。

ヴァルトルートが引き連れている部隊に所属するクリステルは副官として動いている。兵達に戦いの準備を指示したクリステルは報告の為にヴァルトルートを探しに来たのだろう。

 

「兵達には基本の装備を身に着けておくように言っておいた。仮に上から指示が来てもすぐに出れる」

「そう…分かった」

 

二人の間に静かな時間が流れる。時々風が高い音を立てながら吹く。

沈黙を破ったのは、クリステルだった。

 

「……ヒースクリフは、みんなと一緒に行ったんだよね」

「……ああ」

 

 

軍がイシュヴァールに到着する前日、ヒースクリフは避難するイシュヴァール人達と共に旅立った。今、イシュヴァールにいるのはそれでも死ぬ時はと残ることを決めた者、徹底抗戦を唱える者。それだけでもかなりの人数がいる。そして、ヴァルトルートが鋳造したホムンクルスも各地に配置している。敵味方問わず犠牲が出るのはある意味必然だ。

ヒースクリフも残ろうとしていたが、ヴァルトルートが懇願して脱出行に旅立たせた。

これはある意味自分の我儘だと、ヴァルトルート自身理解している。それでも、かつて共に学んだ友と敵として相見えるよりかは。

 

 

「卒業してから全然会っていなかったからなぁ~、一度顔見たかったな」

「……会えるさ、全てが終わったら」

 

 

 

その“全て”がこの殲滅戦なのか、内乱なのか、はたまたこれから先に起こることなのかは分からない。

それでも、彼らは信じる。その先に明日があることを。

ヴァルトルートは腰に穿いた剣の柄をそっと撫でた。

 




イシュヴァラ教最高指導者が早くも登場。大総統に会うことなく脱出行に出られました。
とある武僧とその兄、医者夫婦は残っています。彼らの運命は……?

感想お待ちしております。


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第拾捌話 栄光と闇

お久しぶりです。

電子辞書を新調してからちょっとやる気が出てきました。

あと最近FGOや三國無双にハマってプレイ動画視聴していました。すみません。
はっきり言いますとね、ヘクトールと于禁がかっこよすぎる。



風が吹き、砂塵が舞う。砂を巻き上げる風は熱と共に血と肖煙の臭いを運んでいた。

軍がイシュヴァールに総攻撃を開始してから半年が経過していた。圧倒的な兵の数を導入しているのにも関わらず、イシュヴァール側に勢いの衰えは見られなかった。イシュヴァラの武僧の戦力、戦闘用ホムンクルスなど理由は様々だが、根底にあるのは故郷のために戦うということ。

軍も成果がでないことに焦りを感じたのか、本格的に国家錬金術師を投入していった。彼等は大きな成果を軍に齎したが、自身の心を蝕んでいった。それでも、彼等は戦い続けた。理想と現実の板挟みになりながら、上からの命令とは言え自らが行った所業に苦しみながら、自らの行いに罪悪感すら持たず悦しみながら、全てを受け入れ散って逝った者達のことを胸に刻みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声と爆音が街中に鳴り響く。その中をロイとその部下は駆け抜けていた。

彼等が通った道の脇には、息絶えた人間達が倒れていた。褐色の肌と赤い目。イシュヴァールの民だった。だが、その中にイシュヴァールの民とは異なるモノが含まれていた。褐色の肌は同じだったが、赤い目は作りものめいた、硝子玉のようなもので、顔立ちも人形のように整いすぎたものだった。

彼等だけでなく国の裏で暗躍する者達ですら知らないだろう。一人の未来を知る魔術師が造り上げたホムンクルスであることに。

 

やがて彼等は銃撃戦が行われている建物に辿り着いた。中にはマース・ヒューズが率いる隊が相手側の様子を伺っていた。

ロイはヒューズから状況を聞くと、一旦建物から出た。自分のいる場所が相手の死角になっていることを確認すると、発火布製の手袋を装着した指を鳴らした。錬成反応の光がほとばしり、建物の屋上で爆発を起こす。それを見た兵達は驚嘆の声を上げた。

ロイは状況を確認するため建物の屋上に上がった。

屋上で目にしたものは、銃撃していたと思われる倒れ伏したイシュヴァールの民。どれも獲物を握ったまま事切れていた。自分が行ったこととはいえ、あまり気持ちの良いものではない。早々と確認を済ませて隊に戻ろうと考えて、足を一歩踏み出した時、ロイは気付いた。

イシュヴァールの民の身体が足元から徐々に塵化していっている。錬金術でも物質を灰塵にするものはあるが、自分が行ったのは空気中の酸素を反応させて爆発させるものだし、仮にやったとしても時間差で効果は出て来ない。そんなことを考えている内に、その場に在った死体は全て消えていた。それをただ見ていたロイだったが、死体が在った場所に何かが落ちているのを見つけた。拾い上げてみると、ダガーナイフのような刃物だった。マースが愛用しているものに似ているが、鋭利さで言えばこちらの方が上だ。これを触媒に錬金術を発動させたのだろうか。そうだとしても一体誰が?ロイの疑問はヒューズが呼びに来るまで尽きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロイ達から離れた場所に構えられた陣営。その一角に一人の将校が腰掛けていた。

 

 

「……なんとか、うまくいったわね」

 

魂を吸収し、淡く発光した剣の刃を見つめながらヴァルトルートは呟いた。OVA由来の原作知識でロイが指パッチンで銃撃者達を爆破していたことから、それに便乗した。誘導性と永劫破壊の性質を付属させた苦無を建物周辺に待機させ、使い魔越しにロイが指パッチンして爆破した瞬間に苦無を心臓に目掛けて発射し、魂を算奪した。魂を奪われた者達は今頃塵となっているだろう。

彼女自身、友人の同胞の命を奪うことに罪悪感が無いわけではない。だがこれは戦争。生き残るためには他のものを犠牲にする必要がある。そして、人造人間を倒すための力を得るためにも、屈強な魂を収集しなければならないのだ。

ヴァルトルートは剣を鞘に納めると、次の戦いの反応があった使い魔に意識を集中させた。

 

 

 

 

それからしばらく経ち、幕屋に戻ったロイは拾った刃物を眺めていた。鋳物とは違う、手作業で鋭さを磨かれたフォルムに一種の関心を持っていた。

あの場で見つけた刃物は倒した者と同じ数あった。やはり何者かが自分が錬金術を発動させた瞬間を狙って刃物を投擲し、錬金術を発動させたのだろうか。もしそうだとしたらいくつか疑問がある。

なぜ隠れてやる必要がある?表向きイシュヴァールの民を粛正するこの戦い、自分と同じく駆り出された錬金術師なら何か連絡があってもおかしくないはずだ。

どうやって錬金術を起こしたのか?触媒となった刃物には錬金術の要となる錬成陣は書かれていない。

 

 

ロイは懐中時計を見て気付いた。考え込んでいるうちに、かなりの時間が経ってしまっていたようだ。

それにしては、相方の帰りが遅い――――。座り込んで固まった身体をほぐしながらロイがそう思った時、外から砂を蹴りながら走る音と息を切らしている呼吸が聞こえた。

ヒューズが戻ってきたかと、そう思いながら幕屋の入り口に目を向けるとヒューズが走ってきた勢いそのままで入ってきた。その表情は走ってきたというのに、血の気が引いたように青白い。

 

「おいヒューズ、どうした?何かマズイ知らせでもあったのか?」

 

軍にとって良くない知らせが来たのかと、ロイはヒューズの肩を掴み揺す振った。それに遅れて、ヒューズは重い口を開いた。

 

「……姉ちゃんが、中佐に昇進した」

「ルートが?それはすごいな。だが、こんな時期に…?」

 

普段ロイはヴァルトルートのことを階級で呼ぶが、例外として親しい者――士官学校の同期などとの間では愛称で呼んでいる。

それは彼女の弟(ヒューズ)との間でも同じで、幕屋という二人しかいない環境で無意識に漏らした言葉だった。

准尉から少佐という破格の昇進をしたヴァルトルートに当時は驚きもしたが、彼女を士官学校時代から指導しているオリヴィエの手腕によるものということを聞いていたこともあり、なんとなく納得していた。だが今この時期に昇進したということはどういうことだろうか。

 

「今度の最前線で総攻撃を仕掛けるらしくて、その分隊長に姉ちゃんも含まれることになってるんだ。対白い死神(ホワイトグリム)として」

「っ!!」

 

 

すぐ終わるだろうと思われていたこの戦い。それが予想以上に長引いている理由が、イシュヴァラの武僧と白ずくめの集団だった。特に白ずくめの集団は身の丈以上の重量級の武器を軽々と操り、銃撃すら恐れずに向かってくることから一部の兵からは白い死神―――ホワイトグリムとして恐れられていた。これまでに何人もの錬金術師が相手にしてきたが、彼等の勢いを止めることはできず、逆に生命を絶たれていった。そんな中でホワイトグリムを圧倒し、殲滅できたのが鉄血の錬金術師バスク・グラン、紅蓮の錬金術師ゾルフ・J・キンブリーなどの錬金術師、そしてヴァルトルートだった。ホワイトグリムこと戦闘用ホムンクルスの生みの親であり、その特徴を知る彼女だからこそ彼等の盲点を突き倒すことができた。それが皮肉にも、彼女の名を高めてしまっていたのだ。

勿論、ロイやヒューズなどの軍に所属する者はホワイトグリムが身内から生み出されたものなど知る由もない。それに、ヴァルトルートが設定した命令によりロイやヒューズはホワイトグリムに遭遇したことはない。

 

 

「なぁロイ、俺はどうすればいいんだ」

「ヒューズ」

「こうして話している間にも姉ちゃんはどんどん遠くに行く……俺の手が、届かない場所に」

「ヒューズ」

 

ヒューズは胸元に手をやり軍服を握り締めた。そこには、中央から届いた婚約者(グレイシア)の写真と手紙が仕舞われている。

 

「姉ちゃんをそばで守ってやれない俺なんかに、グレイシアを幸せにする資格なんてあるのか?」

「ヒューズ!!」

 

ロイは思わず声を荒げる。ヒューズはその声が届かないのか、虚ろな目でロイを見る。

 

「教えてくれ、ロイ……」

 

 

 




ヒューズさんすまん……好きな人ほどいじめたくなるというかね……
書いている本人が一番驚いている。まさか闇落ちとまではいかないが、それに近い状態になるとは。




しばらく更新まで時間がかかると思います。


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第拾玖話 祈りの空

お久しぶりです。
ちょっとイシュヴァール殲滅戦キングクリムゾン致しました。
はっきりいって戦闘描写むずいもん。

後半の術式というのはオリジナルです。たぶん。
確か何処かの記述で、戦雷の聖剣を手にした蓮の創造はマリィ(亡霊)と相性が悪いとかあったので。
祝詞は延喜式にあった大祓をイメージしていただけると。

一部修正しました。


対ホワイトグリム作戦が始まって以降、ロイはヒューズから目を離さないように気を配っていた。ロイ達の部隊は最前線からやや離れた場所にあり、時々単身で襲って来るイシュヴァール人を返り討ちにすることが多くなっているが、警戒を怠るような真似はしない。

横目でヒューズを見やると、一応は警戒はしているのだろう。だが、付き合いの長いロイには分かっていた。感情を切り離すことで、無駄を排しているのだろう。その証拠に、翠色の眼は暗く、光を宿していない。

ロイだけでなく、部隊全員がその異常に気付いていた。普段のマース・ヒューズという人物は、戦場にありながら巧みな話術によって緊張を解す。だが、今の彼はそんな余裕すらなかった。暗示をかけなければいけないくらいまで追い詰められていた。

理由は分かっている。彼の姉―ヴァルトルートだ。彼女は対ホワイトグリム要員として駆り出されている。

自分の身内が戦闘の、それも最前線にいると聞いたら安否を心配するのが普通だ。国家錬金術師で少佐の地位にあるロイといえど、どうすることも出来ない。

 

「ヒューズ、お前も少し休め。警戒していても疲れるだろう」

「いや、いい。休んでいる時に敵襲にあったらマズいしな」

 

マズいのはお前の方だ、とロイは思った。

今の精神状態では何かあっても対応しきれない。それならば、心を少しでも落ち着かせるため休んだ方がいい。

 

「これは命令だ。そんな状態では必要な時に動けないだろう」

「……分かった、そうする」

 

正論を出されたヒューズは表情を変えずに答え、少しふらつきながら建物の壁に背を預けた。

それを見ながらロイは部下達に指示を出そうとした。

 

「マスタング少佐!」

 

一人の兵が駆け寄ってきた。確か他の部隊の人間だったはずだ。どうしたのだろうかと思っていると、彼らにとって衝撃の事実を告げたのだった。

 

 

「ヴァルトルート・ヒューズ中佐が、重傷を負われました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァルトルートです。あれから終戦を迎えましたが、終盤でまさかのまさかでしくじりました。

でも考えたら、この戦いには多くの国家錬金術師が駆り出されていたのだ。人間兵器として扱う以上、その判断に性格は問われない。

軍人であるグラン大佐やアル――アームストロング少佐なら余計な被害を出さないようにする。特にアルは、正史では優しすぎるがゆえにイシュヴァール人を殺すことに躊躇していたが、非戦闘員である女子供がいなかったこと、本人自身の心が強化されていたことで、合理的な判断を下せていた。

だが、中にはそうでもない人物もいる。

気が弱い者などならまだいいのだが、見境なく行動を起こす者もいて。私が負傷したのもソレが原因だ。

普通味方の近くで爆発させるか、あのキ○○イ。動けないでいた一般兵を庇ったことで左腕に大火傷を負ってしまったのだ。本来ならエイヴィヒカイトの恩恵で即座に回復可能なのだが、怪我のレベルから怪しまれること大なので意図的に抑えている。はっきり言って痛みがキツイ。小さい火傷をした時のピリピリとした痛みが腕全体に襲ってくるのだ。利き腕ではないからよかったが、正直不便だ。

今は自宅で大人しくしている。あの時クリスがいたらキ○○イ…もといキンブリーを妨害できたかもしれないが、あいにくその場にはいなかったのだ。

 

というのも、イシュヴァールに残っていた原作におけるキーパーソン、ロックベル夫妻の救出を頼んでいたのだ。クリスならば隠密は適任だし、例え武僧に襲われたとしてもイシュヴァールに来てからの結果を見る限りやられる可能性は低い。

実際、使い魔を通じて作戦成功の知らせを聞いていたのだが、直後にこの有り様だ。

一つのことを成功させて一つのことでミスるとは――。

しかもそれだけでなく、キンブリーがマース達の前で持論を展開して挑発。マースが手を出しかけたが、ロイが何とか押さえてくれたらしい。それに加え、グラン大佐がキンブリーに対し厳重注意をしてくれたとのこと。金鰤ザマァ。それでも懲りないだろうけど、結局牢屋にぶち込まれるしいいよね!

今頃、キャスターがイシュヴァールの浄化をやっているだろうから、血の紋としての機能は失われるだろう。人造人間達の思惑はできる限り潰しておくのがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメストリス東部、イシュヴァール。

 

イシュヴァールの民はおろか、駐屯していた軍もいなくなったその地に、人影が在った。

露出度の高い青の和装に、狐の耳と尾。何も知らない人間が見たなら、一種のコスチュームプレイ、“裏”の事情に関わる者なら人間を素体とした合成獣と思うだろう。

だが彼女は合成獣どころか“ヒト”ではない。信仰によって精霊の領域にまで押し上げられた存在。魔術師のサーヴァント・キャスター、玉藻の前。それが彼女の真名だ。

キャスターはイシュヴァールで殲滅戦が行われていた時から暗躍していた。

血の紋としての機能をなくすため、包囲されていたイシュヴァールの地の各所に術式を施したのだ。

そしてその術式は、これから執り行う儀式により完遂する。

 

 

 

精製された水銀で描かれた魔法陣。その中心に突き刺してあるのは、キャスターの主ヴァルトルートの聖遺物である戦乙女の剣。

 

 

舞台は整った。

 

 

自身の宝具である鏡を展開すると、キャスターは祝詞の詠唱を紡ぎ始めた。

 

 

「――――――――――――――――――――」

 

「――――――――――――――――――――――」

 

「――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

詠唱に呼応するように、魔法陣と剣が輝きだす。同時に、キャスターが施した術式の核である水晶も、周囲から“ナニカ”を吸収するように輝きだす。

 

「―――――――――――――――――――――――!!」

 

魔法陣と水晶の輝きを剣が吸収するように強く青白く輝きを放ち、天を貫いた。

 

 



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原作開始
第弐拾話 戦乙女、居合わせる


お久しぶりです。
遅くなり申し訳ございません。
FGOやり始めたりウルトラサンやってたりしてて疎かになっていました。
いや、ちゃんと書いてはいたのよ?でも途中でスランプに陥りまして。
今回から本格的に原作介入します。



時は流れ1913年。

ニューオプティン発の特急列車が東部過激派『青の団』にハイジャックされた。

乗客にはハクロ少将の一家がおり、テロリストは彼らを人質に、収監されている指導者の解放を要求しているとのこと。

東方司令部のロイ・マスタングは副官のリザ・ホークアイらと共に指令室で事態の解決を図っていた。

 

「困ったな、夕方からデートの約束があったのに」

「たまには俺達と残業デートしましょうやー」

「むぅ……ここは一つ、将軍閣下には尊い犠牲になっていただいて、さっさと事件を片付ける方向で…」

「バカ言わないでくださいよ大佐。乗客名簿あがりました」

 

咎めるような発言をしたフュリー曹長から乗客のリストを渡された。

ハボック少尉とともにリストに目を通すと、紛れも無いハクロ一家の名前が記されていた。

 

「あー本当に家族で乗ってますね、ハクロのおっさん」

「まったく…東部の情勢が不安定なのは知っているだろうにこんな時にバカンスとは…」

 

上官の行動に顔をしかめていると、ある名前を見つけた。

 

「ああ諸君、今日は思ったより早く帰れそうだ」

 

ロイは不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「“鋼の錬金術師”が乗っている」

 

 

――が、ある名前を見つけて固まった。

あ、これ別の意味で帰れないかもしれない。

 

乗客の名前の中に、その名前はあった。

 

ヴァルトルート・ヒューズ、と。

 

 

ロイを固まらせた、当の本人はというと。

 

 

 

 

「うん、こんな感じだね」

 

紫電を纏った右手を軽く開閉しながら呟いていた。その足元には、武装したテロリスト達が痺れた状態で転がっている。

早い話(ようするに)、活動の応用でテロリストを無力化したのだ。

 

イシュヴァールでの一件の後、エドワード・エルリックが国家錬金術師となったことを知ったヴァルトルートは、使い魔を通じてエルリック兄弟の動向を探っていた。

今回、原作開始の時期と原作知識を照らし合わせ、ハイジャック事件に居合わせるようにニューオプティンに用事を捩込み、帰りの列車に乗り込んだのだ。

乗ってからしばらく、テロリストがジャックして各車両に見張りを置いた。後はエルリック弟のアルフォンスが先頭車両に向かって行くのを待つだけ……なのだが、ヴァルトルートは見張りを落としていた。

何故か?彼女ならこう答えるだろう。

 

“考えるより先に身体が動いていた。反省はしているが後悔はしていない”

 

イシュヴァール殲滅戦後、ヴァルトルートが戦場に出る機会は減っていた。手合わせをしてくれたオリヴィエも北壁での指揮に専念しているらしく、相手をする人物がいなかったのだ。

もしここに副官にしてツッコミ役というストッパーのクリステルがいたならヴァルトルートの蛮行を拳でもって止めていただろう。

だが、クリステルはセントラルで発生する事態に備えてある人物の護衛についてもらっている。

故に、ヴァルトルートを止めることが出来る者は存在しない。

友人が胃痛に襲われていることなど露知らず、ヴァルトルートは見張りを次々と潰していくのだった。

後からやってきたアルフォンスがこの有り様を目にして首を傾げることになるのは致し方ない。

 

途中、ここでのイベントを思い出して一号車の前で認識阻害の魔術を行使して、兄弟が揃うのを待つのだった。

やがて、エルリック兄のエドワードが炭水車を媒体に水道管を錬成して水に流すという暴挙を起こし、アルフォンスが流されてきたテロリスト達を迎えるという構図になっている中、ヴァルトルートはその隙にリーダー格の前に立ちふさがったのだった。

 

「やぁテロリストさん、年貢の納め時みたいだね」

「てめえ……これをやったやつの仲間か」

「いやなに、流石に一人で立ち向かうなんてことは出来ないから彼らに便乗したまでだよ」

 

仲間ではないが目的が同じだった、つまりはそういうことだ。

青の団のリーダー、バルドは既に頭に血が上っていてその意味を理解することが出来なかった。

 

「こっ…、こんな(アマ)にィィィ!!!」

 

機械鎧を振りかぶるバルド。ヴァルトルートはそれを冷めた目で眺める。

 

「はぁ…気づいてないの?ここには私以外にもいるんだぞ?」

 

ヴァルトルートとバルドの間に割り込むように金髪の少年―――エドワードが刃物状に変形させた機械鎧をバルドの機械鎧に突き刺す。

 

「なんだ、安物使ってんなぁ」

 

アルフォンスがバルドの背後で肩を掴み、そして。

エドワードが機械鎧を切り払い、アルフォンスが頭部を思い切り殴りつけたのだった。

 




原作死亡キャラはある程度は救っておきたいですよね。
でも登場人物の行動のきっかけとなる犠牲も必要なわけで。

現在救済している原作キャラ
ロックベル夫妻
ヒースクリフ
ローグ・ロウ


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第弐拾壱話 戦乙女は救わない

投稿遅くなって申し訳ありません。
こんな感じという骨子はあったのですが、FGOにハマり過ぎたりしてました。

先に謝っておきます。ニーナファンの方々、すまない。


「そういや大佐、一つ気になっていたんだけどさ」

 

機械仕掛けの肢を持つ金髪金眼の少年、エドワード・エルリックは目の前に座っている人物―――ロイ・マスタングに尋ねた。

 

「何かな、鋼の」

「駅で話していた女の人、誰なんだ?大佐にしちゃ顔が引きつっていたけど」

 

エドワード達とテロリストを鎮圧した女性を目にした瞬間、それまで余裕のある笑みを浮かべていたロイの表情が分かりやすいくらい引きつったのだった。

女性の方は気にした様子もなく、普通にロイに話しかけて言葉を交わしていた。対してロイは顔を引きつらせたまま、その背後に控えていたホークアイも閉口していたのだ。

あのロイ・マスタングにあんな顔をさせた女性はいったい何者なのだろう。

「ああ、彼女のことか……」

 

ロイは明後日の方向を見ながら遠い目をする。

 

「中央司令部所属、ヴァルトルート・ヒューズ。階級准将、そして……私の同期だ」

 

 

 

 

 

 

「……くしっ」

「おや、ルート准将。風邪でも引いたのかな?」

「いいえ、誰かが私のウワサをしているのでしょう」

 

東方司令部の応接室で私はグラマン中将と応対していた。グラマン中将との関わりはイシュヴァール内乱の頃まで遡る。リザ・ホークアイ中尉――当時まだ士官生だった――の祖父である彼とは軍の関係で何度か面識もあったが、何を考えているか分からない笑みを常に浮かべていた。

今でこそ閑職に追いやられているが、グラマン中将という人物は敵に回したら非常に厄介な人物である。

内乱後はホークアイとロイを通じて交流しており、公の場所以外ではこうして愛称混じりの呼び方をしてくれる。また、非公式に軍の裏の情報も共有している。

 

「マスタング大佐も頭を抱えていたよ。“なんでアイツはストッパーを連れて来ていないんだ”とね」

「はは…クリスには頼みごとをしているので…」

「ふむ、それは“傷の男”に関係することかな?」

「……流石中将、既に耳にしておりましたが」

 

グラマン中将はどうやらクリスを連れて来てない理由を見抜いていたようだ。

“傷の男”――国家錬金術師を狙い襲撃する謎の男。その正体はイシュヴァール内乱でキ○○イ野郎――、もといキンブリーに兄を殺された武僧であることは、私やクリスしか知らない。

しかし、国家錬金術師が犠牲になっていることから、軍部でも犯人確保が急がれていると共に、対象となる人物に護衛を付けさせるべきという声が挙がっている。

そんなことから、接近戦・隠密性に特化したクリスをある人物の護衛として置いてきたのである。

 

グラマン中将との対談を終えて部屋を出た私は廊下を歩きながら今後に起こる出来事に思いをはせる。

エルリック兄弟は合成獣の情報を求めて“綴命の錬金術師”ショウ・タッカーのもとを訪れて、娘のニーナと飼い犬のアレキサンダーと交流を深めているだろう。

このままだとニーナ達はタッカーによって合成獣にされる。ニーナ達を救う手立てもあるだろうが、私は手を出さないことを決めていた。

何故か?

エルリック兄弟のためだ。ニーナという犠牲があったからこそ、兄弟は前に突き進むことが出来たのだ。

要は等価交換と同じだ。何かを得るためには、それ相応の対価を支払わなければならない。

エルリック兄弟にとっての等価はニーナ達だった、ということだ。

生憎私は聖人君子でもない軍人だ。時に残酷な決断を下さなければならないのが現実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ショウ・タッカーは禁断の合成獣錬成を行い拘束された。翌日に中央に護送されて軍法会議にかけられるはずだったが、その夜侵入してきた何者かに殺害された。その傍らには、合成獣にされた娘の亡骸もあった。

ヴァルトルートは暗闇の中、二つの骸を静かに見下ろしていた。外は未だ闇に包まれ、この惨状が明らかになるにはまだ時間がかかる。

結局、彼らを救うことはしなかった。

読み手の立場で救済を謳うことは簡単だ。だが、当事者となってそれを為そうとするには、様々な弊害が生じてくる。

全てを救うなんて大それたこと、私にはできやしない。事情を知っているのもクリステルだけで、全員を説得するのも時間がかかる。それに、下手に情報が洩れて人造人間側に消されるのもごめんだ。

私は、私の世界を守るために行動する。

だが、せめてのものと死者への弔いの言の葉を口ずさむ。

 

 

『主の恵みは深く、慈しみは永久(とこしえ)に絶えず

あなたは人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず

餓え、渇き、魂は衰えていく

()の名を口にし、救われよ。生きるべき場所へと導く者の名を

渇いた魂を満ち足らし、餓えた魂を良き物で満たす

深い闇の中、苦しみと(くろがね)に縛られし者に救いあれ

今、枷を壊し、深い闇から救い出される

罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ

正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を

―――去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)

 

 

洗礼詠唱で彼らの魂を見届けたヴァルトルートは闇に溶けるようにその場を後にした。

 

 




ニーナ達の扱いは執筆当時悩んでいたのですが、ハガレン展を見に行った時、最終回の場面の再現でニーナの件がエドワード達の行動に影響を与えたことから、この展開となりました。


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