とある市民の自己防衛 (サクラ君)
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プロローグ編
プロローグ


にじファンから移転してきました!
お暇な方は駄文ですがどうぞお楽しみください!!
しばらくは向こうで出してた話で話が進んでいきます。


『次は、○●駅。○●駅。』

 

いつもの電車でいつものアナウンスを聴きながら、ガタゴト揺れる電車に俺

は揺られていた。外の風景もいつものまんま。

乗客の顔も変化に乏しく余り変わらない。

そんな日常風景が今日もある。

いや、きっと明日も明後日も。

 

「ああ。寝み。」

 

テスト勉強のせいで大して寝てない。

 

「まあ、後少しだからな・・・。」

 

ああ、眠い・・・・・・・。

 

 

 

目を覚ますと、暗い場所にいた。何処だ此処?

 

「トンネルにでも入ったのか?いや、それにしては。」

 

暗すぎる。まさか・・・。

 

「申し訳有りません!」

 

突然背後からそんな声が聞こえた。

振り返ると、実に苦労していそうなオジサンがいた。

テンプレと言う奴か。

 

「俺は、死んだんですか?」

 

「ええ。ワタクシこのような者です。」

オジサンは、名刺をそっと差出してきた。

 

(あの世課・ヤマダハヤト)

ふむ、実に分かりやすい。

 

「死んだといっても、肉体はまだ生きてますがね。」

どういう事だろうか?

 

「簡単です。精神が既に死亡しているのです。そして、ここに来た。ワタクシは、なんとか戻そうとしたのですが・・・。」

ダメだったと・・・。

 

「で、俺はこれからどうなるんですか?まさか、このままここに?」

 

「いいえ、取り合いずアナタには、別の世界に行ってもらいます。」

 

なんで?

 

「この世界は、いわゆる神とそれに準ずる者しか存在が出来ないからです。」

 

「そんな・・・もう親にも会えないんですか?」

 

まだ、肉体が生きているのなら、可能性はある。

そう思っていたが。

 

「・・・たとえ目覚めたとしても、その時のアナタは既に別人です。家族のことも友達のことも解からない。既に”アナタ”と言う存在は死亡していますから。」

 

「・・・・・・。」

 

俺は、無言でうなづいた。

 

「それでは、転生して頂きます。これから行ってもらう世界は、いわゆるアニメの世界です。」

 

「アニメ?」

テンプレだ。

 

「知りませんか?最近よく―。」

 

「わあああああ!」

メタ発言は禁止ダ。

 

「安心してください。アナタがある程度知っている世界ですから。」

 

「わかりました。・・・でもひとつお願いがあります。」

 

「なんでしょうか?」

 

「もし、俺の体が目覚めたら、少しだけ昔を思い出せる様にしてください。」

 

「・・・善処します。」

ヤマダさんは、そう言うと白い紙を差出してきた。

見るとそこには5つの欄があった。

 

「その中に自分の力を書いて下さい。なんでも良いですよ。」

 

「また、テンプレートな事が・・・・・・。」

 

「いいえ、結構真面目なんです。今から行く世界には、別の神が転生させた方々が数人いらっしゃいます。いつ彼等の戦いに巻き込まれるか分かりませんから。」

 

どうやら、結構デンジャラスな所らしい。

 

「はぁーわかりました。俺は、戦いなんてしたくないし、平和に一生を終えたい。」

 

だから、目立つ力や強い力はパスっと。

 

「こんなもんですかね。」

 

「えっと・・・”超電磁砲”と”ベクトル変換能力と”幻想殺し”。確かに目立ちにくいですが、もう少し強い方が。」

 

これでも自分の身ぐらい守れると思うのだが・・・

 

「じゃあ、”球磨川君の力”と”不慮の事故”で。」

 

「あくまで自分優先で防御思考ですか。わかりました。では、”ベクトル変換能力”と”不慮の事故”には、オン・オフ機能を付けときますね。」

 

「あ!待って下さい!どれか消して、コルルのライフジオの方が・・・。」

 

「最悪、海にでも逃げるつもりですか!?それなら最初はから”知られざる英雄”の方が良いのでは?」

 

それは・・・ちょっと・・・誰にも気付かれない人生は嫌だし・・・。

 

「分かりました。それも追加しておきましょう。元はワタクシの力不足なんですし。」

 

ヤマダさんはそう言うと紙を受け取った。

 

「では、楽しい来世を。時々ですが、アナタの家族の写真でも送りますよ。」

 

「はい。」

すると、俺の意識は暗く濃い霧の中に沈んで行った。

 




これからよろしくお願いします


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第1話予想外の転生

始まります


目覚めると、目の前には、裸になった木々があった。どうやら冬の森の中のようだ。イヤイヤ、待ってよ!なんで転生なのにこんなところにいるんだ?俺はそう思い立ち上がろうとするが。

 

「あり?」

 

いくら足を動かしてもスカスカと空をきってしまう・・・空?

俺は、恐る恐る下を見た。足が浮いていた。そして・・・首にはロープ。

 

「まさか・・・首吊り?」

 

イヤイヤ、なんで行き成り人生が終焉してるんだよ?一応さっき転生するってヤマダさんも・・・というか、なんで俺は平気なんだよ?

すると答えが近くに転がっていた。近くで鳥がもがき苦しんでいる。

ああ。”不慮の事故”か。俺はとりあえず電気をロープに流し焼き切った。

 

「やばかった。もし”不慮の事故”を覚えて無かったら死んでたぞ。」

 

第1話から行き成り死亡って・・・・・・ある意味斬新だが。

 

「はあ、まあいいか。・・・・・・ん?」

 

すると、頭の中にヤマダさんの姿が浮かんできた。

 

『すいません。どうやら少々失敗したようです。』

 

「どういう事ですか?」

 

『やはり、精神だけじゃ不安定みたいです。そのせいで精神が死んでいた、その子に宿ったみたいです。』

 

「じゃあ、この体の元の持ち主は!どうなったんですか?」

 

『・・・恐らく既に死亡しています。今頃地獄か、天国か。・・・・・・』

 

その時俺は、ヤマダさんの言葉を思い出した。

 

『目覚めたときは別人。』

 

リアルに実感した。確かにそうだ。

 

「俺・・・どうすれば・・・。」

 

『その方の体でなんとかしていただくしか・・・・・・。』

 

「そんな・・・・・・力は使えるけど・・・・・・。」

 

先ほどから、元の持ち主の記憶が入ってくるのだが、ロクなもんじゃねえぞ!イジメられて、死にたくなるのも分かる様な目に合って。

そして・・・。

 

『申し訳有りません。どうか・・・。』

 

ヤマダさんの言葉には本気の申し訳なさが滲んでいた。

 

「はあ・・・わかりました。力の代償として受けますよ。」

 

・・・・・・俺も甘いよな。

 

一応の記憶を頼りにこの身体の持ち主の家に行くとえらく小さなアパートだった。

 

「ただいま。」

 

そう言って中に入るが誰もいない。留守なのだろうか?

俺は、目をつむり思い出す。・・・そうか。

 

「これで、5回目の転校先だったのか。」

 

どんだけ暗い人生を送って来んだよ。この人。

俺は、頭を抱えて親の帰りを待った。すると

 

「電話か。」

 

突然電話が鳴り始めた。受話器を取ると、この身体のお母さんからだった。

 

『もしもし・・・・・・一夜?母さんだけど。』

 

「うん。」

 

『ごめんね。やっぱり一緒には行けないみたいなの。お父さんも。』

 

「へ?」

 

どういう事だろうか?

 

『毎日、家政婦さんに来てもらうから安心して。』

 

一体何に安心すればいいんですか?訳が解からない。

 

『じゃあ、元気でね。』

 

そう言うと母さんからの電話は一方的に切られた。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

これって、見捨てられたって事?

 

「なんだ!この新生活は!」

 

俺は悲鳴を上げた。

こうして俺の新しい人生がスタートしたのだった。

 



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第2話 リリカル・マジカル関わりません。

短いです


突然の一人暮らしと言う小学生低学年がやっては行けない様な状況に混乱したが、しばらくして落ち着いた。

 

「まあ、ある意味ラッキーと考えるしか無いか。」

 

この身体の元の主である、南一夜と言う精神は既にこの世界にはいないのだ。

親と暮らしていたら、妖しがられるだろうから。それこそ居心地が悪い。

 

「取り敢えず、ここが何の世界だか調べるか。」

 

ヤマダさんは、俺が知っているアニメの世界だと言った。しかも他の転生者達の戦いとまで言っていた。

少なくとも平和な世界とは思えない。となると、候補としては・・・

 

 1・”超能力と魔法がある世界”

 2・”近未来の能力者バトルの世界”

 3・”小学生の先生がいる世界”

 4・”ファンタジーな魔法の世界”

 

・・・って所か。

 

「取り敢えず2と4は違うな。」

 

新聞を見るとちゃんと俺の知っている年より低いが少なくとも近未来では無い。

そして、ここは日本だ。帰り道に空飛ぶ人には合っていない。

 

「となると、可能性は1・3か。どちらも嫌だな。」

 

その時ふっと、新聞の文字が気になった。

 

「海鳴?」

 

そう書かれてあった。海鳴・・・魔法・・・いや待て!

 

「”リリカルなのは”だと!待て待て!確かにあらすじは知ってるけど細かくはしらんぞ!」

 

えっと・・・確か小学生の女の子が、魔法少女になって・・・ええっと・・・なんか黒い女の子と戦って・・・。

ダ、ダメだ・・・主人公の顔すら怪しい。まあ、そんな世界だ。

 

「ヤバイ・・・原作知識が無いと余計な事に巻き込まれるかも・・・。」

 

そう思ったが・・・すぐに諦めた。なぜならば

 

「その”なのは”及びその周りに近づかなければ良いじゃん!よし、これで行こう!」

 

こうしてしばしの方針も決まり俺は眠ることにした。

 

#とーりゃんせ。とうりゃんせー。#

眠りにつくとこれまでの人生がフィードバックしてきた。

もちろんこの身体の人生だ。

けして、格好良くもなくスペックも低いが、俺は生きようと誓った。

 



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第3話 なんとか回避だよ一夜くん

さて、あれからしばらくたった。恐れていた通り俺の通う学校。”聖杯小学校”には、”なのは”と言う女の子がいた。

しかも、転校した先が彼女のクラス。テンプレだ。しかし、俺は持ち前のステルススキルで転校生と言う存在感を打ち消した。

その結果、余り気にされない存在になることが出来たのだった。イエー。

 

「ふ・・・しかもそれらしい事件は6月と12月に合ったからな。恐らく原作も回避成功だぜ。」

 

今は、年の瀬であり、次から4年生だ。

 

「ウンウン。順調順調。しかも転生者らしい奴らも見つけたし、これで俺の人生は大丈夫だぜ!」

 

転生者らしいのは、全員で3人いた。

 

 1人は、赤神寿也。なのはの幼なじみであり彼氏らしい。

 2人は、八神翼。 転校生であるフェイトと仲がいい。他称・彼氏

 3人は、遠藤晴樹。八神妹の彼氏らしい。

 

と、こんな感じである。そんなことから、”なのは”の他に”フェイト”と”はやて”と言う子にも注意して行きたい。

 

「さてと、親にでも手紙を出しますかね。」

 

あの電話以来マジで、親は来なかった。来るのは家政婦さんばかりで、実際に顔を見たことがない。

しかし、それでもこの身体の親なのだ。手紙ぐらいは書いている。

 

「ヤべ・・・失敗か。」

 

インクが滲んでしまい字が消えてしまった。俺は時計を見るともうすぐ8時を刺す所だった。

どうしようか?うむー・・・・・・。

 

「コンビニで買うか。ちょうど腹も空いたしな。」

 

俺は、財布を持って、家を出た。コンビニまでは歩いて10分もかからない。そんな軽い気持ちだった。

 

 

『ありがとうございました~。』

 

と言う店員さんの言葉を聞き流し、買った肉まんをほうばりながら家路を急いでいると

 

「黙ってないで、なんか言ったらどうだ!このガキ!」

 

「全く・・・自分から絡んで来た癖にどうしてそう都合よく強気に出れるのか。理解に苦しみます。」

 

「んだと!」

 

女の子が酔っ払いに絡まれている現場を発見した。それにしても凄いな。顔は、暗くて見えないけど大人相手にそこまで言うか。

もしかしたら、転生者?

 

「失礼。私には、やることがあるので。」

 

「待てや!」

 

酔っ払いは、女の子の肩にてをかけると力いっぱい壁に押し付けた。

 

「キャ・・・!」

 

小さな悲鳴が女の子の口から上がった。

 

「糞ガキが!こっちが下手にでてりゃ調子に乗りやがって!大人の怖さ、タップリと体に教えてやる!」

 

そう言って・・・って!ええ!ヤバイ!具体的には言えないけどなんかヤバイ!

 

「い・・・嫌・・・止めて下さい!」

 

女の子も先ほどまでのクールな声ではなくどこか弱々しい声で言った。

だが、酔っ払いの手は止まらない。俺は傍観を一旦止めてポケットを探った。

 

「あった。」

 

そして・・・。

 

 

 

 

「”超電磁砲”かなりのご威力で。」

 

まさか、コイン一枚で酔っ払いを貫通して建物半壊とはな。

 

「アハハ・・・。」

 

俺は、ながば呆然としている女の子を無視して、9割方死んでいる酔っ払いに手をかけた。

 

「”大嘘憑き”やっぱ、チートですね。」

 

すると、酔っ払いも建物も先程までの惨劇が嘘の様に治っていた。

 

「・・・・・・。」

 

今思えば、酔っ払った事を無かった事にすればよかった。と言う罪悪感が湧かなくもない。

 

「なんですか?アナタは。」

 

そう聞かれたので俺は振り返りざまに言った。

 

「南一夜。ただの超能力者です。」

 

そして、失敗した。何故ならば。

 

「私は、”理”のマテリアル。星光の殲滅者です。」

 

そこには、俺が最も警戒すべき相手がいたからだった。

 



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第4話 別人だったよ・・・なにごとだ!

始まります


「マテリアル?」

 

「ハイ。ですから私は高町なのはとは別人と考えて頂いて結構です。」

 

場所は変わって近所の公園。テンパル俺になのは?が落ち着ける場所を示してくれた。

 

「それにしてもソックリだな。危うく心臓が止まるかと思ったぞ。」

 

「私は、闇の書のメモリーを元に生まれましたから、90%同じと考えて頂いて結構です。」

 

あり?さっきと言ってる事違くね。

なのは?は、袋から勝手に肉まんを取り出すと二つに割った。なんだろうか。

 

「つまり、私は、この具の様なものなんですよ。言うなれば、ストレートな感情をもつ高町なのはと言った所です。」

 

「???」

 

どう言う事なのだろうか?原作にこんなのあったっけ?って言うよりなんで当然の如く肉まんを食ってんの?

 

「まあ、こんなことをアナタに言っても分らないでしょうけどね。」

 

なのは?はそう言うと軽く笑った。

 

「まあね。」

 

俺は、肉まんの半分を取り返し言った。

 

「では、私はそろそろ行きますね。肉まんありがとうございました。」

 

「ああ。気をつけてな。もうあんな酔っ払いに絡まれるなよ。」

 

「ええ。最後にちょっとだけ嬉しかったです。人になれたみたいで。」

 

そう言い残すとなのは?は空へと飛び上がった。

 

「さよなら。」

 

何故か、その言葉は、寂しそうに聞こえた。

 

 

 

 

家に帰りハガキを制作する事1時間。時計の針はもうすぐ9時となろうとしていた。

 

「あ~寝み。」

 

俺は、大きく欠伸をすると、布団の中に潜り込んだ。風呂には入っていないが問題無いだろう。

俺は、ゆっくりと近づいてくる睡魔に身をまかせ目をつむる。

 

「・・・・・・。」

 

眠れなかった。どうにも先程のなのはモドキが気になるのだ。

 

「外でも散歩するか。」

 

そう誰にともなく呟くと、俺は家を出た。

 

 

 

 

別に気配を辿るとか、魔力を感じるとか出来る訳では無いのだが、適当にぶらついていると、奇妙な感じがした。

何と言うか、誤魔化されている様な・・・そんな感じだ。

 

「???」

 

俺は、自分の右手を突出した。すると、空間に穴が空いた。

これは・・・結界とか言う奴か。

 

「・・・何かあるな?」

 

取り合いず深入りする気は無いので、”大嘘憑き”で自分の気配を無かった事にする。

因みに、俺の”大嘘憑き”は元に戻せる使用になっている。

 

「おじゃましまーす。」

 

そう言って入り込む。

 

「アレ?何かが、当たったみたいだ。」

 

あたりを見ると、墜落していく人間が見えた。・・・墜落?

 

「バカな、ルンガは、ちゃんとよけたハズだぞ!」

 

「・・・偶然?なのですか。」

 

見ると、なのは?と変な服を着た男が対峙していた。その近くには、プスプスと煙を上げる男が倒れていた。

 

「・・・俺のせいか?」

 

そういえば”不慮の事故”って反射的に出てくるんだったな。気を付けねえと。

ルンガと言う男に手を合わせ、なのは?と男を見る。

 

「ち、闇の書の残りカスの分際で・・・とっととくたばりやがれ!」

 

「たとえ、残りカスであろうと、私は闇に帰ります。」

 

「そのまま、死んじまえよ!」

 

結果は、見なくても分かる。あの男の勝ちだ。そもそもから、あのなのはモドキは既にボロボロだ。

きっと、別れてすぐから戦ってたんだろう。

 

「―――ブレイカー!」

 

「遅せいよ!スフィアー!」

 

「あぅ!!」

 

なのはモドキは、光弾に叩き落とされ、地面に打ち付けられた。

 

「止めだ。――――!!!」

 

よく聞こえなかったが、恐らく最大技か。・・・どうする?このまま帰るか?

 

「原作には関わる気は無いしな。」

 

そう言うと、俺は、なのはモドキに背を向けた。

 



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第5話 ただの不幸な不慮の事故ですよ。

続けて投稿です。短いですがどうぞ!


この世に必然等無い。あるのは全て偶然である。

 

「ぎゃあああ!!」

 

だから、今目の前で男が絶叫して地面に叩きつけられるのも、全て偶然なのだ。

 

「え?」

 

なのはモドキは、体を起こしながら、不思議そうにこちらを見ている。俺は、直ぐにそいつを抱えて近くに建物に入った。

その際、なのはモドキの気配を無かった事にした。

 

「どうも。良い夜だな。」

 

「え?・・・・どうして、アナタが?まさかさっきのは。」

 

「いいや、あんなのは、ただの”不幸な不慮の事故”ですよ。」

 

俺は、某超能力者風に言ってみた。因みに加負荷の方では無い。

 

「ちょっと、散歩をしててな。やばそうだったから、顔を見せただけだ。因みにもう帰る。」

 

いくら気配を消しているとは言え、何時までもここにいる勇気など無い。平和に来年を迎えたいのだ。

 

「ありがとうございました。では。」

 

「ちょい待ち。」

 

俺は、なのはモドキに手をかざす。

 

「はい。終わり。」

 

取り合いず怪我を無かったことにした。そして聞く。

 

「なんで、戦ってんの?」

 

「・・・アナタなら良いですね。闇のためです。」

 

「闇?」

 

なんか、中二病ポイ単語出た!

 

「私の始まりであり、親の様なモノなんですよ。ですから、私達は戦うんです。」

 

「戦えば、取り戻せるのか?」

 

「・・・・・・。」

 

なのはモドキは、黙って下を向いた。

 

「・・・それでも仲間は戦っています。」

 

「仲間?」

 

「闇から生まれた仲間達です。閃光や闇それに他のマテリアル達。もうほとんど消えてしまいましたが。」

 

「・・・・・・。」

 

よく分からないが、きっと、他のキャラモドキの事だろう。そうか、仲間はもういないのか。

 

「お世話になりました。」

 

なのはモドキはそう言うと、俺に何も言わせないように飛んで行ってしまった。

 

「・・・・・・・。」

 

なんで、ここまで彼女の事を考えたのだろうか?まだ、出会って1日も経ってなかったのに・・・。

 

「・・・”不慮の事故”か・・・。」

 

アハハ・・・本当に事故だったな。・・・本当に。

 

「帰るか。家に。」

 

原作や関係者には関わらない。それが俺のスタイルだ。たとえ・・・彼女が死んだとしても。

 

「眠いな。・・・。」

 

こうして、俺は気付なかった事故は終わった。

遥か遠くで、綺麗な光が輝いていた。



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閑話 とある闇の創造物

番外編です。


闇。それは、恐怖の象徴。

闇。それは、安息の証し。

 

 

 

「どうやら、失敗のようですね。」

 

暗闇の中誰かが言った。

 

「だが、我らのやることは変わらん。」

 

「そうそう!」

 

闇の中からは、別の声が聞こえる。そして言う。

 

「我らは、闇を復活させる。闇より生まれし者達よ闘いだ。」

 

「「―――――――――!!!」」

 

闇の中より大勢の声が響く。彼らの気持ちは1つのようだ。作られた気持ちであるのだが。

 

「では、皆さん。ご健闘をお祈りします。」

 

誰かがそう言うと、闇の中には、3つの気配しか残らなかった。

 

「健闘か・・・そうあって欲しいものだ。」

 

「”闇”。そこまで、調子が悪いの?」

 

「”雷刃”。あなたもコアの一部ならば分かるのでは?あの時、闇のほとんどが、あの子達から掻き消されました。」

 

「”星光”の言う通りだ。もはや我らに勝ち目など微塵もない。」

 

「うわー偉そうな”闇”が言うとリアルに怖いね。」

 

「ですが、仕方ありません。このまま何もしなければ、私達はあの女と同じ末路ですから。」

 

”星光”はそう言うと空へと飛び上がった。

 

「では、皆さん再び闇の世界でお会いしましょう。」

 

そう言うと、”星光”は闇の中から出て行った。そんな姿を見て”雷刃”は溜め息をついた。

 

「”星光”の奴かなり無理してたね。もう殆ど消えても良い状態だよアレ。」

 

「奴は、我らの様に1度もオリジナルを取り込んでいないからな。力の流失も早いのだろう。」

 

「そうか・・・ボク等に出来る事は無いかな?」

 

「ない。だが、奴の分も戦う事は出来る。・・・さて、逝こうか。さらばだ”雷刃”また、闇で。」

 

「うん。闇で。」

 

 

 

 

二人の手前強がっていましたが、流石に力が持たず私は、一旦地面に降りた。

 

「やはり、もう長くは無いでしょうね。気を抜いた瞬間消える自信まで湧いてきますよ。」

 

そう言って、軽く笑うと私は、一旦休める場所を探し腰掛けた。どうやら何処かの住宅の裏の様だ。

 

「少し休んで行きましょうか。」

 

遠くの方で結界が形成されるのを見ながらそう決めると、家の中から楽しそうな家族の声が聞こえてきた。

 

「家族ですか・・・。」

 

高町なのはのマテリアルである自分は、ある意味で彼女のトラウマを背負っている。自分の記憶の中の家族は自分にとっての苦しみの対象でしか無かった。高町なのはは、子供のころ父親の入院により家族から疎外されている様に感じていた。そのことが彼女のトラウマとなっていた。それでも彼女は、仲間たちのおかげで、そんなトラウマを克服したのだ。

 

「・・・・・・。」

 

そして、そのトラウマは今自分の中にある。何故なら自分は彼女の闇なのだから。マイナスの感情があるのは当たり前なのだ。

”星光”にとっての思い出とは苦しみしかないのだ。

 

「全く。笑えませんよ。」

 

”星光”はそう言うとゆっくりと立ち上がった。彼女にとってここは、居て良い世界ではない。

そう確信したからだ。

 

 

 

 

どのくらい歩いたのだろうか?空でも飛べれば確認出来たのだろうが、そうするのは戦いの時位しか出来ない。

 

『マスター?』

 

自分の一部であり愛機である”ルシフェリオン”が私に声をかけてくる。

 

そういえば、なんでこの子だけ名前があるのだろうか?

 

『マスター』

 

謎である。

 

「なんでも有りませんよ。それよりも”闇”や”雷刃”や他の人達の魔力はどうですか?」

 

『あまり、減っていません。ご心配なく。』

 

「・・・そうですか。」

 

嘘をつくことが下手な子だ。私を心配させまいとして・・・ですが、貴方は私の一部なんですよ。

嫌でも分かってしまします。

 

「(有り得ないスピードで減っていますね。”闇”と”雷刃”は今の所大丈夫みたいですが、長くは無さそうですね。)」

 

私はそう悟り歩くスピードを速めると、前方からやって来た酔っ払いとぶつかってしまった。

 

「すみません。」

 

私は、丁寧に謝ると先を急ぐため歩き出した。しかし

 

「待てや!ゴラ!」

 

と酔っ払いが私の肩を掴んできた。

 

「人にぶつかって置いてそれだけかぁ?あ”?」

 

どうやらタチの悪い人に絡まれた様だ。

 

「・・・・・・。」

 

「黙ってないで、なんか言ったらどうだ!このガキ!」

 

「全く・・・自分から絡んで来た癖にどうしてそう都合よく強気に出れるのか。理解に苦しみます。」

 

「んだと!」

 

酔っ払いは怒鳴ったが今の私は急いでいるのだ。こんな所で、時間を喰っている暇は無い。

 

「失礼。私には、やることがあるので。」

 

「待てや!」

 

酔っ払いは、突然私の肩にてをかけると力いっぱい壁に押し付けた。

 

「キャ・・・!」

 

弱っている私はあっさりと押さえつけられ、小さく声を上げた。

 

「糞ガキが!こっちが下手にでてりゃ調子に乗りやがって!大人の怖さ、タップリと体に教えてやる!」

 

「い・・・嫌・・・止めて下さい!」

 

抵抗したくても力が出ない。本調子だったなら、こんな奴など相手にもならないのに。

お酒の匂いがする息を吐いてくる酔っ払いに私は生まれて始めて恐怖を言うものを感じた。

その時だった。突然爆音が鳴り響き酔っ払いが吹き飛んだ。そして聞こえる破壊音。

私は、気配を察して向くとそこには、眠そうな男の子がいた。

男の子は、何事かを言うと、酔っ払いに手をかけた。

 

「!!!」

 

すると、どういう訳か、酔っ払いのケガがなくなり壊れたビルも元に戻っていた。

一瞬男の子は、何かを後悔したような顔になったが、直ぐに気を持ち直したようで、スッキリした顔になった。

 

「なんですか?アナタは。」

 

私がそう聞くと、男の子は待ってましたとばかりに振り返りざまに言った。

 

「南一夜。ただの超能力者です。」

 

その後何故か絶望的な表情になったが。

 



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閑話 とある闇の創造物2

続けて投稿


南一夜と言う超能力者に助けられた後、精神的に危なくなった超能力者を助けた。

どうやら、高町なのはに何らかのアレルギー的なものがあったらしい。

 

「マテリアル?」

 

「ハイ。ですから私は高町なのはとは別人と考えて頂いて結構です。」

 

私は、南一夜にマテリアルの事を掻い摘んで話した。別に無視しても良かったのだが、この南一夜は、魔力は感じないがそれ以上の力を持っている可能性があるため話した方が無駄に興味をもたれるより良いと判断したからだ。ついでにお腹も空いたからである。

 

「???」

 

南一夜は、話を理解しようとしているようだったが、所詮子供の様だ。

表情から、4割も理解出来ていないのが分かる。

 

「まあ、こんなことをアナタに言っても分らないでしょうけどね。」

 

「まあね。」

 

南一夜は、八つ当たりとばかりに私の食べかけの肉まんを奪い取りほうばった。

 

「・・・・・・。」

 

私の記憶(知識)が確かなら、これは関節キッスと言うのではないのか?

そう思ったが、私は優しくスルーすることにした。

 

「では、私はそろそろ行きますね。肉まんありがとうございました。」

 

「ああ。気をつけてな。もうあんな酔っ払いに絡まれるなよ。」

 

「ええ。最後にちょっとだけ嬉しかったです。人になれたみたいで。」

 

そう。本当ならこんな事などせずに戦いで死んでいただろうから。

最後の最期で、人の様に会話が出来た。食べ物を味わえた。助けられる事の嬉しさを知った。

もう十分だ。私は、涙を隠せる様に空へと飛び上がった。

 

「さよなら。」

 

私はもう一度手を振っている南一夜を見た後、自分の死地へと向かった。

 

 

 

 

「こいつは運がいいぞ。5匹目だ。」

 

「焦るなよルンガ。ゆっくりと痛ぶってやろうぜ。どうせ、もう殆どあのガキ共が殺っちまってんだがらよ。」

 

「ちげえねぇ。」

 

私が戦場に入り最初に遭遇したのたそんな2人組だった。見ると、彼らの背後には砕けて闇に戻っているマテリアルがいた。

 

「”ユーノ・スクライア”のマテリアル・・・。安らかに眠って下さい。」

 

自身の本体である、”高町なのは”の師匠である”ユーノ・スクライア”のマテリアルがボロボロになりながら消えていく。

 

「ごめん。なのは。先に行くよ。」

 

「ええ。私もすぐに行きますよ。この2人を倒したらね。」

 

私は、彼が消えたのを確認すると、”ルシフェリオン”を構えた。

 

「ヒュー威勢が良いねぇ~。」

 

「見た感じボロボロじゃねえか。」

 

「すみません。アナタ達より良い方がモデルなので、問題有りませんよ。」

 

「・・・上等じゃねえか!俺らもガキ共からナメられるのにうんざりしてたんだよ!」

 

「ああ。どうせマテリアルだ。八つ裂きにして晒してやろうぜ!」

 

こうして戦いは始まった。私は、残りの力からどれだけ戦えるのかを計算し魔力弾を放つ。

2人はプロテクションを張りそれを防ぐが、残念ながらそれはフェイクだ。

 

「な!」

 

魔力弾を直前で破裂させ簡易煙幕を張る。そして、その間に設置型バインドをいくつかセットしておく。

 

「テメェ!!」

 

案の定1人が飛び出して来た。バカめ。

 

「かかった。」

 

「なっ!!!」

 

バインドにはまり脱出出来ない男に魔力弾を撃ち込む。本来なら、”ブラストファイアー”か”ルシフェリオン・ブレイカー”を撃ち込みたい所なのだが、魔力の残量の関係で諦めた。

 

「スフィア!」

 

「あぶねえ!ガルン!」

 

と此処で、もう1人の男が出てきて魔力弾を防いだ。

 

「助かったぜ。ルンガ。」

 

「全く簡単な罠にハマりやがって!」

 

「へへ。」

 

そんな友情を繰り広げる2人に更に魔力弾×19をプレゼントして差し上げた。

 

「「うお!!」」

 

それを避ける2人。外しましたか、かなり無茶をして仕留めにかかったのですが。

 

「テメェ!行き成り卑怯だぞ!」

 

「戦場で同じ言い訳が通るとでも?」

 

「ち、やっぱ、残りカスには友情が理解出来ねえか。」

 

ルンガと言う男が、そう言って舌打ちする。友情?そんなものは要りませんよ。必要なのは、闇の復活です。

 

そう思ったその時。”雷刃”の魔力が消失した。

 

「・・・・・・!」

 

”雷刃”逝きましたか。私は、先程”ユーノ・スクライア”のマテリアルが消えた時と同じ感情を感じた。

”雷刃”は本体である”高町なのは”の友である”フェイト・テスサロッサ”のマテリアルだったからだろうか。

まるで、自分の半身が引き裂かれる様な痛い様な切ない様な気持ちがした。

 

「グッ・・・あっ」

 

その時、体中に衝撃が走った。何事かを確認するとどうやら相手の魔力の一撃を受けてしまったらしい。

 

「戦い中に考え事とは余裕じゃないの?」

 

「誰か死んだか?ヒハハ。」

 

そうでした。今は、この人達と戦っていたのでしたね。私は、自分の状態を確認する。よし、まだ行けそうです。

 

「すみません。ちょっと本気で行きますね。」

 

そう言うと、私は魔力を中程度消費し”ルシフェリオン”の先端に魔力を収縮させる。そして相手に狙いを定め

 

「”ブラストファイアー”!」

 

を発射する。まともに受ければ、あの程度の相手ならダウン間違い無しの攻撃である。・・・だが、運命は私に厳しい様である。

2人は、意外と高った機動力で除けきる。

 

「く・・・。」

 

力の半分を使い切った私は、そう呻くと

 

「・・・・・・・・・。」

 

ルンガと呼ばれていた男がプスプスと煙を出しながら落下していった。

 

「バカな、ルンガは、ちゃんとよけたハズだぞ!」

 

「・・・偶然?なのですか。」

 

私は、今起きた現象に混乱していると、半分理性を失ったガルンと言う男が突っ込んで来た。

 

「ち、闇の書の残りカスの分際で・・・とっととくたばりやがれ!」

 

そう言って来るガルン。しかし元からそのつもりです。

 

「たとえ、残りカスであろうと、私は闇に帰ります。」

 

「そのまま、死んじまえよ!」

 

でも、今は死ぬわけには行きません。せめて、マテリアルがいたと言う事だけでも。私達だって生きている事ででも分かってもらえない限り死ぬ訳には行けないんです。

 

「―――ブレイカー!」

 

「遅せいよ!スフィアー!」

 

「あぅ!!」

 

私の最後の力を込めた一撃もかわされ私は地面に打ち付けられた。

 

「止めだ。――――!!!」

 

光の塊が直ぐ目の前まで迫っている。

 

「終わりですか。」

 

すると、生まれてからこれまでの事が蘇ってきた。俗に言う走馬燈という奴だろうか?

大半は、”高町なのは”としての記憶だった。当然だ元は彼女の闇なのだから。そして、直ぐ前の事件から記憶が黒く染まり

次に見えたのは影だった。どうやら、ここからが私の記憶の様だ。

 

「うわー暗いですね。」

 

凄まじく暗い色しか見えない記憶だった。まぁ、生まれてから太陽と呼べるモノも見てないから当然だが。すると、突然画面が切り替わり、先程あった男の子の姿が浮かんできた。

 

「・・・。」

 

たいして格好良くなければ、魅力的とも言えない男の子。そんな彼の笑顔が、浮かんだ。

 

「肉まん・・・。」

 

そう呟いた時不思議な暖かさが体を包み込んだ。

 

「ぎゃあああ!!」

 

「え?」

 

すると次の瞬間には、ガルンと言う男が悲鳴を上げながら落ちていった。そして突然の浮遊感が私を襲った。

しかし抵抗はしなかった。何故か分からないが、とっても暖かかったからだ。そう思っていると

 

「どうも。良い夜だな。」

 

と言って、あの男の子が立っていた。その顔には心配そうな感じが浮かんでいた。

 

「え?・・・どうして、アナタが?まさかさっきのは。」

 

さっきの事態は・・・いや、その前の事もまさか彼が助けてくれたのだろうか?

 

「いいや、あんなのは、ただの”不幸な不慮の事故”ですよ。」

 

しかし、彼はそう言うと笑って言った。

 

「ちょっと、散歩をしててな。やばそうだったから、顔を見せただけだ。因みにもう帰る。」

 

そんな、ふざけけいる様に言う彼に私はとっても泣きたい気持ちになった。何故か分からなかったけれど私はもう一度だけ彼に会いたかったのだ。でも今私を助けたと言う事は、下手をしたら管理局に目をつけられてしまうのかもしれない。

私は、そう思いこの場を立ち去ることに決めた。

 

「ありがとうございました。では。」

 

「ちょい待ち。」

 

立ち去ろうとする私に彼は手をかざす。何を・・・そう聞こうとしたとき、体から痛みが引いた。いや、なくなった?

 

「はい。終わり。」

 

彼が、そう言うと、痛み所か、キズすらなくなっていた。まるで最初から無かった様に。服までも元に戻っていた。

恐らくこれは、彼の能力なのだろう。すると、彼は真剣な眼差しで聞いてきた。

 

「なんで、戦ってんの?」

 

その目には興味とかそんなお遊びの心など無くただ一心に心配が浮かんでいた。・・・言ってもいいかな・・・。

私は、全てを話す。

 

「・・・アナタなら良いですね。闇のためです。」

 

 

 

 

彼に全てを話し、私の心は少しだけ軽くなった。そして私は、彼から逃げた。これ以上彼といれば、私は戦えなくなると思ったからだ。何故そう思ったのか分らな・・・・・・いや、私は、彼に好意を持ってしまったのだ。全く我ながら単純な性格だと思う。

 

「・・・一夜・・・。」

 

私は、自分が”高町なのは”ではなく、”星光の破壊者”として”私”として初めての初恋の相手の名前を呟いた。

 

「・・・全く・・・不幸な不慮の事故ですよ。」

 

 

もうすぐ私は消える。

この物語はバットエンド。

でも、私は・・・・・・。

「幸せでしたよ?一夜。」

 

 

 

その夜は一日中赤い光が満ちていたと言う。その光はとても力強くとても美しく、そして、とても儚い光だったと言う。

その光は、とある少女の初恋の残滓。

その光は、闇をも照らし、とある人物に・・・・・・。

 



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第6話 新しい朝の1ページ。

投下します


あれから、少したち、俺は無事に原作に巻き込まれる事無く新年を迎えた。

とは言え、家は俺一人であるため適当にデパートからオセチの小売を買って祝った。

その後、残っていた宿題を片付けテレビの特番をゴロゴロしながら見ていた。

御神籤も引いて見たが、結果は”大凶”と言うこの時期では逆に運の良い部類に入るものが出た。

なんでも、待ち人がこない上に他人がいるそうな。なんじゃこりゃ?

そんなこんなしていてもうすぐ新学期が始まるので、新しい鉛筆と消しゴムを新調した帰り道俺は、アイツと最後に会った場所に自然と足が向かっていた。

 

「ったく。あの日はお前のせいで眠れなかったんだぞ?」

 

そう言って、空き缶に花をさしてお菓子を近くに置く。

 

「お前の為じゃねえからな。」

 

俺がそう言って、外に出ると銀髪の女性がいた。

 

「・・・・・・。」

 

間違いない。あの髪色は100%原作キャラだ。何故こんな所に?

 

「私はどうするべきだったのか・・・どうすれば・・・。」

 

チャンスだ!原作キャラは只今、よくある苦悩シーンの真っ最中のようだ。

 

「今だ!」

 

俺は、風の様に走る。そして、原作キャラの脇を・・・

 

「アベシ!!」

 

「ん?」

 

抜けようとした瞬間突然動いた右腕により世界が一回転した。

 

「わ!すまん!大丈夫か?」

 

「ダイビョウブデフ(大丈夫です)。」

 

抜かった。正月だったので”不慮の事故”も”反射”も切ってたんだった。随分しさしぶりなダメージだったりする。

 

「いや、そうは見えんぞ?顔面から凄まじい量の失血が・・・。」

 

え?そうなってんの?・・・本当だ!地面に血だまりが出来てる!ヤバくね?

 

「ちょっと待ってろ。」

 

原作キャラの前でまさか”大嘘憑き”を発動するわけにもいかないし地味に痛いし。どうしよう?

 

 

 

 

「アレ?」

 

「目覚めたか。」

 

いつの間にか気を失っていたようだ。と言うよりなんで、膝枕?

 

「ギャアア!!」

 

原作キャラに膝枕をされているぅぅぅ~!!ヤバイっうかなんで?

見知らぬ子に膝枕?

 

「すまない。驚かしてしまったか。」

 

「あ、いいえ。」

 

よし。クールになれ俺。この状況はまだ回避出来るレベルのはずだ。

取り合いず離れてあたりを見渡すとそこは、俺がさっきまでいた場所だった。

 

「お前が、そこらか出てきたのは分かっていたからな。」

 

どうやら、原作キャラのスキルを甘く見すぎていた様だ。原作キャラは花を見て言った。

 

「お前は、どうしてこんな所にいたのだ?」

 

「見ての通り友達の供養のためですよ。アンタこそなんでこんな所に?」

 

「私は、・・・何故なのだろうな?例えるなら、自分が死んだからか?いや、姉弟が死んだからと言うべきか?」

 

これが、原作キャラではなければ俺は不審人物として即座に通報していただろう。

 

「すまない。言葉が見つからないのだ。」

 

「そうですか。じゃあ、俺はここで。」

 

もうこんな所には、長居は無用だ。俺はそう言うと、外に出るために歩き出した。

サラバ原作キャラ。フォーエバー♪

 

「ああ、全く。お前は何が言いたかったのだ・・・”星光”よ。」

 

”星光”その言葉に俺は足を止めた。

 

「”生きて下さい”だと。全く・・・笑える。闇をまき散らし主にその友にまで迷惑をかけた私が・・・呪われた私が・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

俺は次の言葉を待った。そうしなければ、どうする事も出来ない。

そして、原作キャラは言う。

 

「・・・私など早く消えてしまえば良い。あのマテリアルの様に幸せな記憶を抱えたままで。」

 

「・・・・・・。」

 

そうかい。じゃあ・・・。

 

「俺が消してやるよ。」

 

そう言って、ポケットからゲームコインを取り出した。

 

「えっ?」

 

原作キャラは、俺に気付いたが。

もう遅い。高圧電流の塊が、原作キャラの腹部を貫いた。



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第7話 力無き強者と星の輝

投下。
   します。
      どうぞ。


最後に彼女の相手をしたのは、私だった。

 

「お前で最後だ。」

 

「分かっていますよ。”闇”も先程消えた様ですね。」

 

彼女は、追い詰められているのに何故か満たされている顔をしていた。

闇の力のマテリアルに有るまじき表情だった。

 

「”闇”のいや”夜天”の管理人格。」

 

「今は、リインフォースと言う名がある。」

 

私が、主から頂いた名を名乗ると彼女”高町なのは”のマテリアルは深々と頭を下げた。

 

「失礼。リインフォース。一つ良いですか?」

 

「なんだ?」

 

「貴方は今幸せですか?因みに私はとっても幸福な気分です。キャラを忘れて小躍りが出来ますよ。」

 

「私は・・・・・・幸せだ。主と騎士達と過ごす時間は何者には代え難い。私の宝だ。」

 

「そうですか。良かったです。」

 

「何だと?」

 

私がクビをひねると、”高町なのは”のマテリアルはクスクスと笑った。

 

「私は、”高町なのは”の”闇”であると同時に貴方の一部でもあるのですよ。少なくとも私の中の”貴方”は、幸せとは無縁でした。私は”過去”の”貴方”として、祝福致します。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

一体このマテリアルは何を言っているのだろうか。理解出来ない。だが、今はやることをやるだけだ。

 

「済まない。そろそろ終わりにさせてもらうぞ。」

 

「そうですね。私がいると、また罪の”有る”マテリアルが生まれますから。」

 

「自分がどう言う存在かを理解している様だな。」

 

「ええ。大体は理解出来ています。」

 

そう言うと、デバイスを構えてきた。

 

「大人しく闇には帰ってくれないか。」

 

「済みません。これが、私と言う存在なので。」

 

そう言うと何も言わずに突っ込んできた。本当に突っ込んできただけだった。そして一撃で勝負が着いた。

 

「どういうつもりだ?あれでは、無駄死にではないか。」

 

「そうですね。別に気にしないで下さい。こんなのただの”不慮の事故”ですから。」

 

彼女は、そう言って笑った。幸福そうに笑った。

 

「一つだけ良いですか?」

 

「何だ?」

 

「”生きて下さい”私達の分も”生きて”下さい。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「どうしても無理だと思ったら、”あの人”を頼って下さい。きっと何とかしてくれますら・・・。」

 

「あの”人”?」

 

「・・・アハハ・・・。」

 

そう言うとマテリアルはゆっくりと粒子になり闇の中へ帰って行った。だが、私にはそれが、光の中に吸い込まれる様に見えた。

 

「・・・・・・。」

 

私は、何時までも彼女が消えて行った、空間を見つめていた。

 

 

 

 

時が経ち今私の腹部には大きな穴が開き赤い液体が漏れ出し肉は焦げていた。

 

「ゴブッ・・・。」

 

口の中が鉄の味に染まり、赤い液体が流れ出てくる。

力が入らない。

 

「苦しいか?そうだろうな。俺がそうしたんだから。」

 

私の体が突然浮き上がり壁に叩きつけられる。そしてそのまま手足を太い螺子で固定されてしまった。

 

「なんで・・・お前が・・・。」

 

死ぬほど痛い。だが、死ねない。苦しみの連鎖が続く。そんな私を先程の少年が恨めしそうに見てた。

一体どうやったのだ?私は常に主の為に辺りは警戒していたハズである。魔力の反応があれば直ぐに対応出来たはずなのだ。

しかし、少年からは魔力など感じられない。

 

「・・・一体・・・なん・・・。」

 

すると少年は、ニッコリとワラウ。

 

「俺は、”星光”の友達のしがない超能力者ですよ。」

 

そう言って、更に微笑んだ。

 






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第8話 これは罰ですか?いいえ嘘つきです。

プロローグ編終了。


一体何をしてるんだろうね俺。原作キャラを磔って。バカじゃねえの?

 

「”星光”の・・・友達?」

 

「ああ。一目惚れしたよ。」

 

アー恥ずかしい!でも、本当だ。

 

一目惚れだった。前の世界でもそんな事は無かった。

 

「・・・でも、出会って2時間位しか経って無かった。」

 

俺は、砂鉄を集め剣にする。漆黒の剣が俺の手に納まる。

 

「正直お前がなんなのか知らんが。」

 

俺は、剣で原作キャラの腕を切り落とす。原作キャラは、少し苦しそうな表情になる。

しかし、声は上げなかった。

 

「友達の事を馬鹿にしたら。」

 

次は、足を切り落とす。腕も足も失い原作キャラは、不様にも地面に落下する。

 

「俺でも切れるさ。」

 

そして最後に胴体へ突き刺し電流を流す。手加減無しの高圧電流だ。

 

「ガッツアアアアァァァ!!!!!!!」

 

「苦しいか?苦しいよな?そうだよな?これが”生きる”事だ。死にたい?良いぞじゃあ死ね!」

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!」

 

最早、元の姿も分からなくなるまで丸焦げにされても生きている彼女。

 

「このまま死ね!気付かれず死ね!惨めに死ね!家族や友人にも知られずに死ね!」

 

「あああ・・・。」

 

原作キャラはもう何も考える事は出来ていないだろう。

 

「・・・・・・。」

 

俺は、止めを刺すべく螺子を取り出した。

 

 

 

 

手足をもがれ、体を焼かれた。

これは、罰なのだろう。

やはり、私は生きていて良いハズ無かったのだ。

あの時。闇と共に消え逝くのが私の定めだったのだ。

だが、私は幸せだった。たった一時にでも幸せな夢が見れた。

赤神寿也の力によって、消滅までの時間が遅れたのだ。

闇の化物には、過ぎた幸せだった。

私は、”星光”を手にかけそして、その友に殺される。

良い最後じゃないか。

本当に。

ああ。

 

 ・ 

 

 ・

 

 ・ 

 

『何をしているのですか』

 

そんな時だった。”彼女”が目の前に立っていた。

 

「どうして、お前がここに?」

 

『どうしてって?分かりませんか?私は、貴方なのですよ?』

 

”彼女”はそう言うと手を差出してきた。

 

『さあ、立って下さい。そして”生きて”下さい。』

 

「もう、無理だ。私はお前の友に殺められた。」

 

『そうですか。』

 

「ああ。今更起き上がってもどうにもならない。」

 

すると、”星光”はクスクスと笑った。

 

『大丈夫ですよ。彼は嘘つきですから。』

 

「嘘つき?」

 

『ええ。貴方が考えを改めて”生きる”選択をすれば、きっと。』

 

私は訳が分からずクビをかしげる。

 

『まあ、やりすぎた事には、いつか、O・HA・NA・SHIとさせて頂きましょう。』

 

”彼女”は黒い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

いつの間にか私は、ソファーに横たわっていた。

 

「”大嘘憑き”!」

 

と、突然そんな声が耳元で聞こえた。私は”手”で耳を塞ぐ。

 

「えっ・・・・・・・?」

 

私は、自分の体を見た。”手”所か、”足”も”体”も傷一つ無く”元”に戻っていた。

 

「さて、俺はもう帰る。じゃあな。」

 

少年はそう言うと私に背を向けて帰っていった。

 

 

 

 

本当に何してたんだろうな俺は。”星光”の頼みを聞くとは、全くアイツも厄介な頼みをしてくれたもんだよ。

 

「”生きて下さい”って、他人に言う事を聞かせるのは、一苦労なんだぞ?」

 

俺は、そう言いながら、家路についた。

 

 

 

 

 

その後、家に帰ると同時に口止めを忘れた事に気付き慌てたのは、また別の話。

 



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床話 とある”雷刃”の物語

プロローグ編も無事終了し、お気に入り数も着実に増えてきたので嬉しいです。


青い髪をなびかせ、彼女は飛ぶ。

 

「光翼斬!っと。」

 

「うわぁぁぁ!!」

 

取り敢えず襲ってきた、魔導師Aを仕留めてみる。

 

「よくも!ジョーを!」

 

すると、また魔導師出現。

 

「電刃衝!」

 

「ギャアア!!」

 

魔導師B撃墜。

 

「よくもゲーを!」

 

魔導師C出現。ああ、もう!

 

「面倒臭いよ!!!!」

 

一体何人倒せば終わるのさ!僕の叫びが、夜空に響き渡る。

”闇”から、うって出て早1時間余り。ずっとこんな感じなのだ。大きい魔力を感じて、そっちに向かったけど・・・・・・。

待っていたのは、大したことない魔導師軍団だった。

 

「そこまでだ!」

 

「止まれ!」

 

「待て!」

 

うわぁ~また出たよ・・・何なの?1人いたら30人はいるの?

 

「ねえ、もう止めない?キミ等じゃ僕には、勝てないよ?」

 

取り敢えず話し合いだ。まずは、それからって、”星光”も言ってたっけ?

 

「班長!アイツの言う通りスよ!諦めましょうよ!」

 

「ウス・・・自分も同感ッス。」

 

あり?なんか、様子がオカシイゾ?部下と思わしき2人が隊長にそう言っていた。しかし隊長は、ゆっくりと首を振った。

 

「・・・それは、出来ん。」

 

「何故ですか!このままじゃ俺等・・・殺されますって!」

 

「そうですよ!アイツなんかアホそうですよ?手加減なんてしてくれませんよ!」

 

「コラ!今”アホ”って言ったな!僕は”アホ”じゃないぞ!皆からは、『”雷刃”は、馬の様に速くて、鹿の様に強いですね』とか『”雷刃”が風邪をひく様子は想像出来んな。』って、言われる位凄いんだぞ!!」

 

エヘン!どうだ?凄いだろう!

 

「・・・隊長。アイツ・・・。」

 

「・・・泣けるッス。」

 

「言ってやるな。」

 

何故か、同情の視線を向けられている様な気がする。

 

「とにかくだ。ここで、奴を仕留めるぞ。正直に言うと、俺等の首が懸かってるからな。」

 

「どういう意味ッスか!それ!」

 

「まんまだ。”PT事件”や”闇の書”の時俺達は、なにか手柄をたてたか?」

 

「いいえ。」

 

「殆どあの子供達に持っていかれました。」

 

「あーそう言えば・・・。」

 

”フェイト・テスタロッサ”の記憶を探ると確かに殆どあの人外的な力をもつ男の子達が解決している。

 

「俺・・・聞いちまった。」

 

「「「何を?」」」

 

「リンディ艦長が、もうすぐアースラの乗組員の選別を開始する。その電話を・・・。」

 

「「「な、何だって!!!」」」

 

アースラの乗組員の選別だって!それって殆ど左遷じゃないか!皆いい人なのに!

 

「だから、俺等は、手柄をたてなければならない・・・・・・。俺は、病気の妻の為に・・・お前らだって、守りたいモノがあるだろう?」

 

「「「!!!」」」

 

その言葉に皆の目が開かれた。・・・そうだ。

 

「・・・お、俺は、生まれたばかりの子供の為に・・・。」

 

「俺は、・・・貧しい家族の為に・・・。」

 

「僕は・・・闇の為に・・・。」

 

「そうだ!俺等には、守りたい家族や生活があるんだ!ここで、手柄をたてなくていつたてる!」

 

「「「おお!!」」」

 

そうだ!僕等には守るべきモノが、あるんだ!

 

「行くぞ!あのマテリアルを殲滅せよ!」

 

「ハイッス!」

 

「任せてよ!」

 

「了解ッス!」

 

さあ!勝負だ!マテリアル!そう思い振り返るが、そこには誰もいなかった。・・・どういう事だ・・・?

その時、僕の相棒である”バルニフィカス”が反応した。

 

『えっと・・・マテリアルは、マスターですが・・・。』

 

「へ?」

 

・・・ ・・・ ・・・ ・・・ そうだった!!!!!!!!!!

 

でも、妙だ・・・なんで、まだ、攻撃が来ないんだ?僕が、隊長達を見ると・・・・。

 

「そうだった・・・。」

 

「クッ・・・なんて運命なんだ。」

 

「だが、行くしか無い!」

 

どうやら、僕達の気持ちは一つだったらしい。

 

「「「ウオオオ!!」」」

 

3人の周りに術式が展開される。これは、大きいのが来る!

 

『マスター。アレは危険です!一旦距離を!』

 

”バルニフィカス”がそう警告して来るが、僕は逃げはしない。

 

「”力”か・・・。面白い僕の”力”とどちらが上か確かめてやる。」

 

僕は”力”のマテリアル。”雷刃の襲撃者”だ。”理”や”闇”とは違い戦いを求める。

 

「”バルニフィカス”セット・・・アレ行くよ・・・。」

 

『魔力が持ちませんが?』

 

「構わない。僕は、僕で行く!」

 

”バルニフィカス”は、ため息をつく様に光ると術式を展開させた。

 

「「「協力砲撃魔法!!!アラ3ーキャノン!!」」」

 

何だか、えらく悲しみが伝わってきそうな名前は無視して、確かに強力そうだ。”星光”のオリジナルである”高町なのは”の最大砲撃魔法並かも知れない。・・・隊長・・・皆・・・なら、僕だって行くよ!

 

「砕け散れ!雷刃滅殺極光斬!!!!!!!!!!」

 

これが、僕の最大魔法だ!

 

「「「うおおおおお!!!」」」

 

「リャアア!!!!」

 

凄まじい閃光が僕らを包み込んだ。

 

 

 

 

辺りが吹き飛び、隊長達が気絶している。

 

「か・・・勝った・・・勝ったよ!イヤッタ!!!流石僕!凄いぞ強いぞカッコイイ~!」

 

『ですが・・・もうそろそろ限界ですよ?』

 

「うん。分かってるよ。・・・”バルニフィカス”・・・ごめんね。僕のワガママで、寿命を縮めて。」

 

『お気になさらず。主に最後まで付き従うのが、デバイスとしての幸せですから。』

 

「アハハ!!そうかな?じゃあ良いか!」

 

『ええ、マスターは、消えるその時まで、そのままでいて下さい。』

 

「うん!」

 

僕が、そう言うと同時に目の前に2つの人影が現れた。

 

「時空管理執務官。クロノ・ハラオウンだ。君は・・・フェイトのマテリアルか・・・。」

 

「・・・・・・フェイトちゃん。」

 

行き成り強大な魔力を持つ魔導師登場!ヤバイかも♪しかも2人とも間違ってるし。

 

「違うよ?僕は、”雷刃の襲撃者”。”力”を司るマテリアルさ。」

 

僕は、”バルニフィカス”を構える。

 

「さあ、かかってきなよ?その人達のおかげで、弱ってるから今なら倒せるかもよ?」

 

『スタンバイ・・・マスター・・・。』

 

「うん!」

 

2人がディバイスをセットしたのを確認すると僕は、もう一度声高く宣言する。自分の存在を知らしめる為に。

 

「我が名は、”雷刃の襲撃者”。”力”を司るマテリアル!”フェイト・テスタロッサ”の闇より生まれしスーパー強い最強の戦士だ!」

 

うん。やっぱり僕って・・・凄いぞ強いぞカッコイイ~!

 

 

 

 

”闇”の核の内最も早く彼女は退場した。

彼女と戦った局員は、口を揃えて言った。

 強かった。

 アホだった。

 残念な子だった。

意見は、様々だったが、こんな少数の感想もあった。

 

 彼女は、誰よりも真っ直ぐだった。

 

と。

 



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VS 夢夜の殺人鬼編
第9話 新しいクラス


短いです。


新しい年も問題なく過ぎた。俺は、今日から4年生になる。

 

「イエス!」

 

俺は、人目も気にせず大声で叫んだ。何故って?そりゃ・・・

 

 

 高町なのは・4年1組

 その他   ・4年1組

 南 一夜 ・4年2組

 

 

この世界の主役と思わしき連中と違うクラスになったからだ。しかも八神妹も1組らしいので俺の安全は、確保されたも同然なのだ。アッハハハ!

 

「グッバイ!フォーエバー。」

 

そう言いながら、俺は新しいクラスへと向かったのだった。

 

 

 

 

「・・・元3年1組 南一夜です。よろしく。」

 

新しいクラスおなじみの自己紹介。流石にここで目立つと何が隣に繋がるか分らないので今年も暗いキャラで通そうと考え挨拶をする。友達?いませんよ?

 

「元3年4組 日野渚です。宜しく。」

 

そういえば。このクラス結構見ない奴がいるな。前と同じ組の奴が数える程しかいない。

 

「・・・元3年3組 時田鈴音です・・・。」

 

ふむ。こうやって見ると、1組がなんか優遇されている感じがするよな。クラスマッチとか。

 

「えーありがとう。俺は、このクラスの担任 甲田哲二だ。これから一年よろしくな。」

 

『よろしくお願いします』

 

取り合いず、皆デフォルトと化した挨拶をする。

 

「さて、早速だが、皆にお知らせだ。実はな、このクラスに3人転校生がやってくる事になった。」

 

すると、周りから歓声が上がる。

 

3人って、多くね?他のクラスには振り分けなかったのか?

 

「そういえば、1組にも来るって言ってたぞ。」

 

とクラスの誰かが言った。そうかい。

 

「ファ~。」

 

となんか眠くなってきた。今日は早く終わるし、はよ帰って寝よっと。

 

 

 

 

校長先生によるデススピークを乗り越え、生活指導の先生の決まり切った、セリフを聞き流し、ついに下校時間になった。

 

「―――と言う訳で、4年生からは一時的にクラブ活動に参加しなくちゃいけないから。決めておくように。」

 

『はーい。』

 

「ほーい。」

 

「じゃあ、解散。」

 

『起立!気を付け!礼!』

 

『ありがとう御座いました。』

 

俺は、一目散に下駄箱へと駆け出した。

 




色々言われていますが、あとがきって書いたほうがいいと思いますか?
よければ意見をください。


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第10話 引き篭りフレンド

あとがきの件について意見をもらって、いろいろ悩んだ結果、数日中にあとがきを消すことにしました。



このクラスになって、1週間が過ぎようとしていた。流石に4年生にもなると、いくつかのグループが出来ており、その人たち以外とは余り会話をしない様だ。3年から転校し出来るだけ目立たないようにしていた俺もそのグループに入っている訳がなく休み時間はもっぱら眠りに専念していた。

 

「zzzzz・・・。」

 

そしてこの時期になると、学校へ来ない奴も出てきていた。”時田鈴音”と言う子は、始業式の日以外来ていない。

何故かって?知らん。噂では、変人で酷いイジメを受けていたらしい。

 

「全く。どの世界も暗い所もあったもんだ。」

 

楽しそうな、学園ものアニメでも必ずイジメの問題がある。大概はヒロインの一人なのだが、そう言う奴に限って、なんでイジメられているのか分らない程のスペックを持っているものだ。まあ、現実には、そんな都合の良い奴なんていないけどな。

 

「・・・ねえ。」

 

「zzz・・・。」

 

「聞いてんの?」

 

とここで誰かが話しかけて来ている事に気付いた。

 

「なに?」

 

「先生から、時田さんにプリントを届ける様に言われてんの。アンタとね。」

 

「なんで?行くなら日野さんだけで良いじゃん。」

 

「私が、道を知ってる訳無いでしょうが!」

 

「いや、知らねえよ。」

 

「時田さんの家アンタの家の近くなのよ。道位知ってるでしょう?」

 

「・・・見せて。・・・・・・。」

 

「はい。」

 

俺は、日野さんが書いた住所を見てみる。確かに家の近くだ。徒歩5分もない。

 

「分かった。帰りに案内する。」

 

「そう。じゃあ、よろしくね。」

 

そう言うと日野さんは、自分の机に戻って行った。そういえば、あの人もよく独りでいるよな。

 

「まあ、良いか。」

 

俺は、そう言うと再び眠りに入った。

 

 

 

 

授業も怒られながら終わり、眠さをこらえながら、帰路につく。隣には日野さんがいるが。

 

「全く。なんで、いつも寝てんのよ。」

 

「別に。眠いから眠るんだよ。」

 

「そんなんだから、テストの点も悪いのよ。」

 

「知ったことか。難しい問題が悪い。」

 

この世界の小学生の問題は、力を抜いて受けている為毎度点数が悪いのだ。いや、そのうちマジでヤバくなるかも知れない。

 

「日野さんは、常に成績が上位で羨ましいね。確か去年は学年7位だったっけ?」

 

「なんで、知ってんのよ。」

 

自然と他の転生者の成績を見てましたから。因みに1位は、”アリサ・バニングス”だったけ?恐らく転生者共はマジで手を抜いてやがるな。自重しろよ。他の頑張っている子供の事も考えろ。

 

「な、何よ。なんで、そんな哀れそうな目で私を見てるのよ!」

 

「いや。ガンバッテ。」

 

きっといつか報われるさ。

 

「さて、着いたぞ。ここだ。」

 

古い木造の家が目の前にあった。表札には時田と合った。

 

「ここ、人が住んでたのか。てっきり空き家とばかり思ってたぞ。」

 

ここにやって来てはや一年になるが、まさか人が住んでたとは。この街は不思議がいっぱいダァ~。

 

「アンタね・・・まあ。いいか。」

 

日野さんはそう言うと、チャイムを鳴らした。なんとも虚しくなる音が響いた。

 

『・・・はい。』

 

とインターフォン越しに女の子の声が聞こえてきた。

 

「あ、時田さん。同じクラスの日野だけどさ。プリントを届けに来てやったわよ?」

 

『・・・ありがとう・・・。ポストに入れといて。』

 

「嫌よ。出てきなさい。アンタもう1週間も休んでるじゃない。どうしたのよ?」

 

『何でもないよ。・・・ただ、行きたくないだけ。』

 

「何でよ?アンタ自分がどういう学校に行っているのか分かってる訳?高いのよ?学費とか。」

 

それに入学試験も大変だよ?

 

『・・・。』

 

「あ、ちょっと!」

 

時田さんはそのまま喋らなくなった。

 

「もう!なんなのよ!」

 

「いや、多分日野さんが悪いと思うぞ。引き篭り相手にその口調は逆効果以外の何者でも無いから。」

 

「むううう。」

 

日野さんは、軽く唸ると、ズカズカと門を潜って玄関まで行った。後はプリントをポストに入れるだけだ。やっと帰れるな。

 

「ファー。」

 

軽く欠伸をして、日野さんの帰りを待つ。日野さんはポケットから何かを取り出しドアに何かをしていた。

 

「??」

 

何を・・・”ガチャリ”ハイ?何?さっきの音は。

 

「さて、入るわよ!」

 

「ええ!!ちょっと待て!なんだそれは!」

 

「ん?万能鍵?」

 

なんだ?そのチートアイテムは?

 

「私の発明品よ。趣味でね。」

 

趣味でそんなもん作るなよ。と言うより使うなよ!

 

「おい、不法侵入罪だぞ?」

 

「そう。ホラ。」

 

「あ、ちょ・・・。」

 

「これで、アンタも同罪ね。」

 

「何でだよ!」

 

「ホラ、行くわよ。心配しなくても、友達思いの子供の可愛い罪って所よ。」

 

俺は、別に友達じゃないのだが・・・。

 

「さて、行くわよ!引き篭りちゃんの話を聞きにね!」

 

日野さんの迫力に負け、俺はなし崩しについて行く事になった。

家に帰りたい。

 




どうでしたか?


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第11話 未来予知

どうぞ


こんにちは。南一夜(仮)です。

ただいま、ワタシは、他人の家に不法侵入しております。

何故ならば。

 

「ほら、何ブツブツ言ってるのよ?静かにしなさいよね。」

 

この非常識キャラに無理矢理させられているからです。

 

「クソ。主要キャラ以外のモブを甘く見てたぜ。」

 

「何ですって?」

 

「いいや。」

 

己が不幸を呪いながら家の中を進んで行く。

 

「それにしても妙な家だな。絵ばっか貼ってあるぞ。」

 

「そうね。それも子供が描いた様な簡単な物ばかり。」

 

家の中は、そこかしこに画用紙に描かれた絵が貼ってあった。ここが、クラスメイトの家だと知らなければ軽くお化け屋敷にでも来た気分だ。そんな事を思いながら絵を見ていると。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや・・・。」

 

俺は、白い服の人間と黒い服の人間がぶつかっている絵を見つけた。そして、その隣には、子供?が4人の影に守られているような絵があった。

 

「なんなんだろうな。この絵って。」

 

「そうね。ちょっと気味が悪いわ。」

 

しばらく行くと俺は、足を止めた。何故ならば。

 

「・・・・・・そんな・・・馬鹿な。」

 

階段近くに貼ってあった、画用紙に描かれていたのは、黒い服を着た女の子と男の子だった。しかも男の子の服の模様は、あの時俺が着ていた物と同じだった。

 

「・・・”星光”・・・。」

 

そして、女の子の手には、あの杖があった。

 

「どうしたの?」

 

「・・・い・・・や・・・。」

 

なんなんだこれは!偶然なのか?それとも・・・。見てた?あの時の事件を。

俺の頭はパンクしそうになる。そして、涙も出てきそうだ。

”星光”・・・そう考えるだけで、死にそうになる。

 

「捜そう。」

 

「え?あ、ちょ・・・。」

 

俺は、日野さんを置いて、一階を見て回り、時田さんの部屋が無いことを確認すると直ぐに二階に上がった。

そして。

 

「何だコレ。」

 

「・・・何よ・・・何なのよ?」

 

二階の一番奥。その扉は、無数の画用紙によって見えないぐらいになっていた。

不気味だ。コレ。

 

「どうやら、ここが、鈴音ちゃんの部屋みたいね。」

 

辺りの部屋をチェックしたらしい日野さんが恐る恐る言ってきた。

 

「マジかよ。」

 

扉を見る限り相当病んでいる人の部屋みたいだぞ?少なくとも小4の女の子の部屋とは思えない感じだ。

だが、よく考えれば、ここにいる俺だって、自殺してたし今の時代は普通なのかもしれない。

 

「かなり個性的な部屋の事で。」

 

「これは、個性じゃなくて既に異常の領域よ。」

 

「日野さん。人の個性を否定しちゃ駄目だよ。」

 

「そう。じゃあ、一人で行ってらしゃい。」

 

「いいや、日野さんがどうぞ。」

 

流石にあそこに入るのは勇気が必要だ。俺には無い。

 

「か弱い女の子に行かせるつもり?」

 

「安心してくれ。この時期の子供は女の子の方が強いから。」

 

筋力的にも強いし精神的にも男の100倍は強い。

 

「さあ、か弱い男の子のために行ってくれ。」

 

「いいや、昔からいうでしょう?」

 

「レデイファースト?」

 

「女の子は守るべきモノだって!」

 

「そんなの知らねえな。」

 

「アンタね・・・。」

 

「学年最低ラインギリギリを舐めるなよ!」

 

「威張るとこ?」

 

そんな不毛な会話を繰り返していると。音も無く扉が開いた。

 

「「(ビク!!!)。」」

 

「・・・。」

 

時田さんが、そこから、じーっと、覗いていた。

 

「やあ、時田さんごきげんよう。」

 

「うん・・・。」

 

「鍵・・・空いてたよ?」

 

「うんん・・・。」

 

不味い。ばれてる。こうなれば・・・俺は息を吸い込み

 

「「全てはこのバカが悪いんだ(のよ)!」」

 

日野さんと被った。ちぃ・・・同じことを・・・。なんて、汚いんだ!

 

「・・・入って。」

 

時田さんはそう言うと再び部屋の中へと戻って行った。

「・・・。」

「・・・ハァ。」

俺は日野さんの眼力に負け先に部屋の中に入った。

 

「ようこそ。私の部屋に。」

 

時田さんはそう言うと紅茶の入ったコップを差出して来た。

 

「ありがとう。」

 

アレ・・・なんだ?この違和感・・・。

 

「・・・ねえ。なんで、この紅茶・・・温度が丁度いいの?」

 

同じく違和感を感じていた様な日野さんがそう言った。そうだ。確かに。

台所は、一階だし、なんで人数分の紅茶が・・・。

すると、時田さんは、じーっとこちらを見て来て言った。

 

「アナタが、南君?」

 

「あ、ああそうだけど?」

 

何なのだろうか?時田さんは、とっても言いにくそうに

 

「じゃあ、アナタが私を救ってくれる超能力者なのね!」

 

「ああ。って!ええ!」

 

こいつ今なんて?なんでこいつが俺の力を?

 

「初めまして。私は時田鈴音。只の未来が分かる未来人です。」

 




感想待ってます。


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第12話 未来人と超能力者

投下します。


「未来が見える?」

 

「うん。だから日野さん達が来ることが分かってたの。」

 

出された紅茶を啜りながら時田さんはそんな事を言った。

 

「未来予知って事?」

 

日野さんは、怪しい物を見る様な目で時田さんの部屋を見渡しながら言う。自重しろよ。

俺は、ため息をつきながら、時田さんに聞く。

 

「どうして、未来人なんだ?」

 

「え?未来が見えるんだから未来人に決まってるよ?」

 

いや、どちらかと言うと超能力者のカテゴリーに入るんじゃ・・・。

 

「でも、コイツが、鈴音ちゃんを救う超能力者って、どう言う事?」

 

コイツ扱いかよ。と言うよりなんで、こんなに慣れ慣れしいんだ?

友達か?違うからね!

 

「そうそう。俺にそんな力なんて無いからね?」

 

「そんなこと無いよ?私の夢の中で助けてくれたもん。」

 

ああ。確かに変人の類だこの子。・・・人の事言えねえけど。

すると、日野さんは、時田さんの前に座って目線を合わせた。

その姿まるでカウンセラーだ。いや、実際そうするのだろう。

 

「ねえ、鈴音ちゃん。それは、どんな夢だったの?」

 

「うん。私ね、昔からよく正夢を見るんだ。楽しい夢もあれば、怖い夢もあったの。中には信じられない様な非常識な夢も見たけど全部本当になったの。」

 

「それって、もしかして家中に貼ってる絵の事?」

 

日野さんの言葉で先程の絵の事を思い出す。確かにアレは、子供の絵だった。きっと忘れない様に描いていたのだろう。

 

「うん。日野さんが信じてないのも分かってたよ。夢でみたから。」

 

時田さんは、机の中から一枚の絵を取り出して俺の前にやって来た。

 

「お願い。これを見て私を助けて。」

 

それは、黒い何かに人が食い殺されている絵だった。なんだ?コレ。

 

「私。今日の夜にこのままだと食べられちゃうの。」

 

 

 

 

一通り話を聞き終わり、俺と日野さんは帰路についていた。

 

「・・・どう思う?」

 

「分からん。」

 

時田さんの話は、確かに滅茶苦茶だ。しかしスジは通っている。

そもそもからして、憑依なんぞしている上に超能力者な俺にとって、未来予知の存在は信じざるおえない。

 

「時田さんの事どうするつもり?」

 

「日野さんは?」

 

「明日学校に話して見るわ。」

 

「じゃあ、俺も同意見で。」

 

時田さんの予知では、今日襲われるらしい。もし事実ならば、明日ではもう遅いだろう。

行って見るかな。恐らくこれは原作とは無関係だろう。なんせ”なのは”と言う言葉がこれまで一度も出てきていないのだから。

 

「じゃあ、またね。」

 

「ああ。」

 

もう二度と御免だ。さっさと真相を掴んで早く平和な日常に戻ろう。

 

 

 

 

 深夜。

 

11時。俺は、時田さん宅玄関前付近に立っていた。因みに”大嘘憑き”により気配を無かった事にしているので、警察の方のお世話になることはない。

 

「確か。今日中に起きるんだったよな。」

 

そうつぶやき、時計を見るが、本日終了まであと49分しかない。

 

「まあ。嘘ならそれでも良いけどさ。」

 

そう言いながら、暇つぶしに持ってきた本を読んでいると、前方に人影を発見した。

どうやら、辺りを警戒しながら近づいていているらしく、えらくキョロキョロしている。怪しい。

 

「・・・。」

 

もし、アレが時田さんの予知の犯人の場合、”食べられる”とは・・・・・・。

 ・

 ・ 

 ・

止めよう。理性が持たない。俺は、そう考え、地鉄の剣を作る。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

そして、人影と向かい合う。それは子供だった。

 

女の子だった。

 

知り合いだった。

 

日野さんだった。

 

「・・・・・・・。」

 

相変わらずキョロキョロとしている日野さん。俺にぶつかると、「ヒィ!」と小さく悲鳴を上げた。

なんか、面白い。

 

「日野さん?」

 

「・・・・・・。」

 

俺を無視して日野さんは近くの壁に寄りかかった。そして再びキョロキョロし始めて時計を見る。

 

「あ、そうか。」

 

俺は、”大嘘憑き”を解除し語りかける。

 

「日野さん!」

 

「!!!!!!!!!!」

 

突然現れた俺に驚愕する日野さん。

 

「ああああああ、アンタいつの間に!」

 

「さっきからいたよ。ぶつかったじゃん。」

 

「え?えええ!!」

 

「日野さんこそ、ここに何用?」

 

今だ混乱中の日野さんが落ち着くまで5分弱かかったが、どうやら彼女は時田さんが心配でやって来た様だ。

警察に見つかるリスクを侵し友達のために行動する。流石は委員長キャラだ。

 

「・・・だが、委員長は別にいる。」

 

「は?」

 

「いや、気にしないでくれ。」

 

2人になったことにより多少暇を潰す事が出来た。そうして行く内に時間は過ぎ。

 

「もうすぐ12時か。結局何も起こらなかったわね。」

 

「そうですね。後、19秒。」

 

 10

 ・

 9

 ・

 8

 ・

 7

 ・

 6

 ・

 5

 ・

 4

 ・

 3・・・・・・ガリャン!!

 

「きゃああああ!!!!」

 

突然のガラスの粉砕音が響きわたりそれに続いて聞こえる時田さんの悲鳴。

何事だ?

 

「!!」

 

「!」

 

俺と日野さんは、すぐに家の中に入った。どうやら鍵はかかって無かった様だ。

 

「時田さん。来るのが分かってたのみたいね。」

 

「だろうな!」

 

階段を駆け上がり、部屋に入ると、そこには。

 

「・・・み・・・南くん・・・タスケ・・・。」

 

血まみれの時田さんがいた。そして。

 

「・・・・・・。」

 

普通なら悲鳴でも上げそうな日野さんは、固まっていた。当然だろう。なんせそこには。

 

「グルルルル・・・・・・。」

 

真っ黒な闇より深い毛並みの巨大な犬がいたからだ。

 



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第13話 突撃となりのお夜食

訳が分からないわ。何よこれ?

 

「グルルルル・・・。」

 

私はただ、鈴音ちゃんが心配で見に来ただけなのに。なんで部屋に、こんなのが居るのよ。

”食べられる”言葉どうりじゃない!

 

「早く警察・・・保健所に!」

 

「そんな所で対処出来るのかコレ?」

 

じゃあ、どうしろってのよ!そう言おうとした時

 

「ガアアアア!!!」

 

「イヤアア!!!」

 

犬の大きな口が開かれ中から鋭い牙が覗いた。不味い食べられる!

 

「突撃!隣のお夜食!」

 

その時凄まじい轟音と共に眩しい閃光が迸った。

 

「ガガガアアアアァァァァ!!!!!」

 

焦げ臭い匂いを放ちながら犬は窓を突き破り落下していった。

何なの?何が起こったの?

 

「・・・五百円・・・くっ!生きてるか?」

 

「・・・うん。・・・やっぱり・・・助けてくれた。・・・夢・・・・・・。」

 

「鈴音ちゃん?き、救急車!」

 

「無駄だ。これだけの音が出たのに誰も来ないんだぞ?何か張ってやがるな。」

 

南は、そう言って、鈴音ちゃんに手をかざした。すると

 

「え?・・・えぇ!!!!!!傷が・・・服が・・・治ってる!」

 

いやそれだけじゃない。部屋までもが、まるで何事も無かったかのように元に戻っていた。

何なの?これは?夢?夢でも見てるの?

 

「さて、時田さん大丈夫か?」

 

「うん。ありがとう。やっぱり南くんは超能力者だったね。」

 

「出来れば、使いたくなっかったけどな。」

 

南は笑うと窓の外に目をやった。私もそっと、覗いて見ると先程の黒犬が未だにウロウロとこちらの様子を伺っていた。

何よあれは、それに何よさっきのは!

 

「・・・・・・。」

 

「ねえ。」

 

「何だよ?今考えてるんだけども。」

 

「アンタ何者なのよ。」

 

「只の超能力者だ。」

 

そう言うと、面倒臭そうに手の上に光・・・いや電気を発生させた。そうか、最初にあの犬を吹き飛ばしたのはこれだったのね。

 

納得・・・

 

「出来るか!」

 

「うを!なんだよ行き成り!」

 

「そんなチャチイ能力で納得出来る思っての?」

 

「チャチイって・・・結構凄い力なんだけど・・・。」

 

「正直に言いなさい?痛くしないから。」

 

「何されんの!俺?」

 

もう面倒ね。・・・やちゃおうかしら?

 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 5分後経過

 

「つまり、全部無かった事出来る能力って事?」

 

「・・・・・・・・・あい。」

 

「他には?」

 

「ノーコメント。」

 

「・・・・・・まあいいわ。それより、アレまだ彷徨いてるわよ?何とか出来る?」

 

窓の外には相変わらず黒犬がウロウロしていた。これじゃ外に出られないわ。

 

「俺より弱ければな。時田さんを頼むぞ。いくら”大嘘憑き”で傷を無かった事にしても精神的にかなりキツイからな。」

 

「わかった。気を付けてね。」

 

南は、頷くと窓から・・・ではなく普通にドアから出て行った。

 

「微妙・・・。」

 

「頑張って・・・。南くん。」

 

 

 

 

「グルルルル・・・。」

 

「ちっ、俺の今月の小遣いの25%を喰らってまだ元気なのかよ。」

 

先程のとっさの攻撃により俺の財政は行き成りピンチに陥った。

でも元気です。

ピンピンしております。

泣きたい!

 

「ガア!」

 

「おわ!っと。」

 

とっさに紫電を辺りに走らせ犬を威嚇する。これで近付けまい。

 

「所詮は獣!さあ、逃げ回るが良い。」

 

「ガアアアア!」

 

しかし、犬は紫電など気にした風もなく襲いかかってきた。最近の獣は度胸があるようだ。

 

「何の!地鉄の盾!」

 

「ガアアアアァァ!!!」

 

ぶつかる、犬ととっても薄い盾。

 

「しまった!ここは、町中だった!!!」

 

川原や砂場などなら砂鉄も豊富なのだが、ここは整備された町中である。悲しい事に砂鉄は少ない。

なんと言う悲劇!町の発展がもたらした悲劇の結果だった。

 

「グラアアア!!!」

 

「にぎゃああ!!!」

 

肩の肉が抉れ、血が吹き出る。しかも無茶苦茶痛いと来た、気分は最悪だ。

 

「畜生!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 

肩を抑え何とか血を止めようとするが流石に止まる訳のもなく血が溢れる。俺は、あまりの痛みの地面をゴロゴロと転がって痛みをまぎわらすしかなっかた。その時。

 

「何やってんの!さっきの奴やればいいでしょうが!」

 

日野さんの声が真上から聞こえてきた。・・・さっきの奴?

 

「ああ!これか!」

 

俺は、”大嘘憑き”で傷を無かった事にした。ナイスだ!日野さん。俺より能力を分かっている。

 

「グルル・・・。」

 

「へへ・・・さっきは、よくもやりやがったな。かく――。」

 

「ガアアアア!!」

 

「はや!でも同じ手は食うかよ!”反射”!」

 

俺は、”反射”を使い犬を弾いた。犬は、コンクリートの壁に激突し赤黒い血を吐き出す。動物愛護団体が見たら訴えられかねない光景だった。けれども俺に手心を加える義理はねえ。

 

「こいつで、終いだ!」

 

俺は、犬に駆け寄り頭を抑える。そして繰り出すは、ある意味殺人技の一つ。

 

「日野さん!目を瞑ってろよ!”ベクトル”逆流!」

 

犬の体内を流れるあらゆる液体を逆流させる。どうなるか?

 

「ボバババアア!!!!!!!」

 

正解は、犬の頭が破裂するでした~。グロ!

自分でやってなんですが、無茶苦茶グロイ。しばらく肉はNGだろう。

 

「でもまあ・・・アレ?」

 

見ると犬の姿は薄くなっていた。なんだコレ?

 

「・・・。」

 

「犬はどうなったの!って、何よコレ!」

 

どうやら、これは、俺の目がおかしくなった訳じゃないらしい。そう考える、と同時に犬は、闇の中へと消えて行った。

気のせいか、薄らと辺りに冷気が漂っている様な気がした。

 

 

 

 

「・・・痛っ!何?」

 

とある所で人影がそんな事を言って自分の指を舐めていた。

 

「”ダークネス・ハウンド”がやられた?ウソ!」

 

人影はすとんきょうな声を上げ驚いていた。

 

「何で?なんで?(@_@。?まさか、転生者に気づかれた?」

 

声の主は、本当に訳の解からないと言った感じに頭を抱えた。

 

「・・・それは、無いか。だってアイツ等、原作キャラに付きっきりだしね。でもそうだとしたら・・・。」

 

人影は、一つの水晶玉を取り出した。そして・・・

 

「あーダミダ~結界が邪魔だった~こんな事なら貼るんじゃ無かったよ~。」

 

水晶玉の中は砂嵐の様に濁っていた。殆ど自業自得である。

 

「・・・・・・アリ?」

 

しかし、結界が解除すると2人の男女が映った。恐らくこの内の片方もしくは両方が”ダークネス・ハウンド”を片付けたんだろう。

 

「・・・ムウ・・・。」

 

人影は一つ唸ると、ポンと手を打った。

 

「ここは、セオリー通り女の子を当たってみるかね~。」

 

当たりなら上等。外れでも上等。どちらにしても・・・。

 

「アタシの殺人を邪魔する奴は生かしておけないしね♪そうでしょう?”マッド・ブッチャー”。」

 

人影の背後にまた別の人影が現れる。それは、答える様に手に持っていた肉厚の肉切り包丁を掲げ呻き声の様な咆哮をあげた。この場所には、まるで冬の様な冷気が漂っていた。




一応感想にも書かれていたので数日中に、能力をまとめた設定を入れます。


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設定

・大嘘憑き 

この話での大嘘憑きは無かった事をさら無かった事にすることができます。もちろん、このままでは世界を”無かった”ことにできるのでON、OFF機能はこの物語のオリジナル設定です。

そして何故脚本作りではなく、大嘘憑きなのかは、この作品を書き始めた当時、まだ大嘘憑きが球磨川君の能力だと思っていたからです。書き直すには今まで書いていた分の内容などを全て見直す必要性があったのでこのままにしました。

 

ちなみに、脚本作りは作者のオリジナル能力です。

・脚本作り

めだかボックスの能力と思いがちですが、この作品のオリジナル設定です。脚本作りの能力はネジをさした相手に自分の能力を追加するという能力です。

 

・反射

とあるの方の原作と同じ設定です。違うところは、計算をしなくても大丈夫なところです。

 

・不慮の事故

これもプロローグで書いてある通り、ON、OFFありです。能力は、自身が受けたダメージを他の者や人間などに押し付けることができ、肉体的ダメージだけでなく、精神的なダメージに対しても有効な能力です。この能力自体、主人公はコントロールしきれてません。

 

・ライフ・ジオ

忘れがちであるでしょうが、あまり主人公が使わない・・・(っていうか本当に使ってない)能力の一つです。

能力は使う時が来たら入れます。

 

・超電磁砲

10万V間で電気が放出でき、利便性、応用性に便利な能力。




どうでしょうか?


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第14話 夜の課外授業

いつもより長いです。


「どうして・・・。」

 

彼女は、悲しそうに俺を見ている。

 

「違う!アレは・・・。」

 

俺は、必死に首を振り否定するが、彼女は

 

「どうして、私を使ったの?アナタの25%だったのに・・・。」

 

「違うんだ!聞いてくれアレは!」

 

「サヨウナラ。私達はもう出会えない。」

 

そう言うと、彼女は深い闇の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「待ってくれ!!カムバック!」

 

「五月蝿いわ!」

 

「ブホ!」

 

俺が昨日永久に失った、五百円を追っていると急に顔面に衝撃が走った。痛い。

 

「アガガ・・・何をするんだ!日野さん!」

 

「アンタよく、そんな大声で寝言が言えるわね!五月蝿くて集中出来ないでしょうが!」

 

場所は時田さんの家2階の部屋。あれから、しばらく俺と日野さんは交代で外を見張っていた。また、あの犬が襲ってくるかも知れないからだ。警戒するに越した事はない。

 

「それにしても何だったのかしらねアレ。」

 

「知らない。なんで、あんな事になったんだろうね?」

 

あの犬が消えてから気温が急に下がった様な寒気が走り一旦家の中へと避難した。その後再び外に出ると、俺との戦いの跡が、まるで何も無かった様に消えていたのだ。砕けたコンクリートの破片や紫電の焦げ跡すら無かった。

 

「まるで、アンタの力ね。アンタ以外にそんな事出来る奴なんているの?」

 

「う・・・とな・・・。」

 

確かにアレは”大嘘憑き”を使った様な感じになっていた。そういえば、ヤマダさんもこの世界のには、他にも転生者が数人いるとか言ってたしな。案外この力は俺だけの物じゃ無いのかも知れない。

 

「多分、結構いるんじゃねえかな?」

 

「は?」

 

「いや、俺なんて、結構弱い方だし。」

 

転生者の中では、恐らく最弱クラスだろう。自己防衛第一だし。

 

「アンタで、弱い方なの!」

 

日野さんの驚き声が耳に刺さる。申し訳ない。

 

「ああ。俺なんて、電撃を操ったり、ベクトルを逆転させたり、水の中でも生活出来る位の力しかないからな。」

 

「・・・十分凄いんだけど・・・。何なの?超能力者って。」

 

知らない。

 

「じゃあ、俺寝るわ。お休み。」

 

「待ちなさい!」

 

「何?もう朝まで3時間を切ったんだけど?実質俺の睡眠時間が20分に成ってるんだけど?」

 

「そんな話を聞かせて、私に一人で見張れと?」

 

「うん。大丈夫~死んでもパーツが全部あれば何とかなるから。」

 

”大嘘憑き”ならば、多少の欠損位軽いだろう。精神的には保証しかねるが。

 

「日野さんの鋼の精神を信じる。だから日野さんも俺を信じてくれ。」

 

「・・・・・・歯ぁ食い縛れ!」

 

本日2度目の衝撃が顔面に走った。超痛い。

 

「うわああ。」

 

「血で部屋を汚しちゃ駄目よ。」

 

鬼だ・・・鬼がいるよ。・・・アレ?

 

「ねえ、もしかして日野さん・・・怖い―――!!」

 

本日3度目の衝撃が全身を走った。その時本棚が砕け散った。

”不慮の事故”である。反射的に使わなければ俺の体はああなっていただろう。恐い。

 

 

 

 

「おはよう。」

 

「あ、鈴音ちゃん、おはよう!どう?眠れた?」

 

「うん。・・・ごめんね。見張りなんかさせちゃって・・・。」

 

「良いのよ~その位。」

 

女性陣2人の会話を聞きながら俺は、何とか意識を保ち辺りに警戒を張り巡らせていた。恐らく大丈夫だろうが一応の警戒は必要である。

 

「おはよう。時田さん。」

 

「うん。おはよう。昨日はありがとう。」

 

「良いって。アンナの。」

 

その後もっとおっかないのに襲われたし。俺が、笑って話すと時田さんは表情を暗くした。

 

「どうしたの?」

 

日野さんが心配そうに近寄ると、時田さんは紙に何かを書き始めた。・・・まさか。

 

「・・・。」

 

「・・・今日ね・・・こんな夢を見たの。」

 

絵には、恐らく学校だろうか。空には満月が昇っており、女の子が巨大な人(?)によって、ズタズタされている絵だった。

正直言って、見ていて気持ち良い絵ではない。

 

「この女の子って・・・時田さん?」

 

しかし、時田さんはフルフルと首を振った。そして、とある人物を指差した。それは・・・

 

「わ、私?なんで?」

 

「・・・分らないの。本当に分からないの。」

 

「この夢は、大体何日後に本当になるんだ?」

 

「早くて、1日遅くても3~5日後だよ。」

 

「月から見て、満月の夜か・・・アレ?」

 

「どうしたの?」

 

「おかしいぞ?満月って昨日じゃないか?」

 

昨日の夜空の事は、結構覚えている。しかし、それに日野さんは反論した。

 

「何言ってんの?満月は10日前でしょうが。ちゃんとカレンダーに載ってるでしょう?」

 

「は?10日前?」

 

どうなってるんだ?と、言う事は次の満月まで20日以上もあることにならないか?いやそれ以前に確かに昨日の月は満月だったんだけどな。

 

「鈴音ちゃん。本当に空には満月が昇ってたの?」

 

「・・・うん。とっても寒くて空気が澄んでたからよく覚えてるよ。」

 

「と、言う事は、後20日は安全と言う訳ね。取り合いずは一安心か。」

 

日野さんはそう言うと時田さんを拘束し始めた。なんだ?

 

「さて。学校に行きましょうか?時田さん?」

 

「え、あの・・・。」

 

「南!カバンに必要な物を詰め込みなさい。学校に連行するわよ。」

 

「ええ!」

 

流石は、日野さん凄まじい行動力だ。俺には真似できない。

 

「で、でも・・・。」

 

「安心しなさい。鈴音ちゃんの席は私の前だから、何かあったら助けてあげるわ。ね!南?」

 

「何故、俺が・・・。」

 

「ね?」

 

「サーイエッサー。」

 

俺の平和な日常が音を立てて崩れ逝く音がした。

 

 

 

 

とりあえず、俺達は自分のカバンを取りに一旦家へと戻る事になった。もちろん時田さんは捕獲中である。

 

「ふーん。ボロいアパートね。」

 

「失礼な!アンティークな物件と呼べ!」

 

築25年のアパートを呼ぶときはそう呼ぼう。因みに風呂・トイレは、別である。

 

「じゃあ、とって来るな。」

 

「400秒以内にね。」

 

「はいはい。」

 

取り合いずそう言って部屋に入りカバンを掴む。そして、冷蔵庫の中から惣菜パンを取り出し昼飯を確保。水筒に茶を注ぎ、制服を着て鍵を閉める。その間実に

 

「635秒!235秒も遅いわよ!」

 

コイツ。カウントしてやがった。

 

「悪いな。じゃあ次行くか。」

 

クック・・・復讐してやるよ。

 

 

 

 

「ここよ。」

 

俺の家から徒歩30分の所にそれはあった。

 

「へ?」

 

「なに・・・ここ・・・。」

 

そこにあったのは、高層マンションだった。まあ、それなら別に良いのだが。

 

「”日野”家専用マンション?」

 

と自動ドアを潜りポストを見るとそう書いてあった。

 

「うん。だいたい20階から上が私の部屋ね。下は、その他の人達の部屋や仕事場。」

 

「か・・・金持ちか・・・。俺らの敵だったのか!」

 

「まあね!・・・じゃあ行って来るわ。1200秒以内には帰って来るから。朝食は、もう電話で頼んでるから直ぐに来るわ。」

 

日野さんはそう言うと、エレベータに乗って上へと上がって行った。

 

「失礼致します。」

 

その後直ぐに朝食らしきモノが乗っているカートと椅子とテーブルが運ばれて来た。最早俺らは唖然とするしかなく大人しく椅子に座った。

 

「・・・凄いね。」

 

「予言には出なかったのか?」

 

「うん。私の予知はね。大きな出来事しか写さないの。」

 

これを小さな出来事と申されますか。時田さんは、ベーコンエッグをフォークで食べながら言った。この人結構度胸が据わっている。俺なんてドキドキして手が出せないのに。

 

「それにしても、まさか、日野さんが・・・でもさ、”日野”なんて言う有名な会社なんてこの町にあったか?」

 

少なくとも俺には、見た記憶がない。”バニングス”だったら、何回か見たことがあるが。

 

「きっと、別の町で有名なんじゃないかな?日野さんのためだけにここを買ってるとか。」

 

「なるほどな。」

 

まぁ、”バニングス”家の令嬢や”月村”家の令嬢が普通の私立の小学校に通っている(しかもバスで)時点でこの世界は、色々おかしいからな。そのくらい何ともないか。

 

「まあ、良いやアイツが帰ってくる前に平らげるか。」

 

そう言うと、俺はフォークを手に取った。

 

 

 

 

「お帰りなさいませ。お嬢様。」

 

私の部屋がある階ににつくと、一人の老人がうやうやしく頭を下げていた。

 

「相変わらず、準備が良いわね。ジィ。」

 

「ハイ。お嬢様の事ならば、毎日の体重の変化から下着の好みまで熟知しておりますゆえ。」

 

「・・・いつもながら一言多いわよ?」

 

私はジィが用意してくれていた、学校のカバンを手に取り中身を確認する。そうしなくては、たまにとんでもないモノが紛れ込んでいる事があるからだ。

 

「・・・よし。異常無し。」

 

「ホッホッホ。ジィが信用出来ませんかな?」

 

「3割方ね。・・・他に何か無かった?」

 

「はい。昨夜遅くに、お父様から、お嬢様の保有している株式を譲ってほしいとの連絡が御座いました。」

 

「・・・・・・・そう。またか・・・。」

 

私は、そう言うと制服を着るために部屋に入った。

 

「どうなさいます?一応お嬢様は眠っている事にしておきましたが・・・。」

 

「大方、”バニングス”からの圧力でしょう。」

 

「そのようで。」

 

鏡の前で服のシワを確認しながら、顔をしかめる。

 

「分かっているのかしら?今渡したら、待っているのは破滅のみよ?」

 

「そうでしょうな。ですが、相手は”バニングス”家そう簡単には行きますまい。」

 

ジィの声はいつもと同じだが、状態の危うさはヒシヒシと伝わって来る。

 

「何とかするわよ。後8年・・・いや5年耐えれたら。それまで、絶対に渡しちゃダメよ?」

 

「分かっておりますとも。ナギサお嬢様。いや、”バニングス家”分家”日野家”の跡取り様。」

 

「どうしたの?えらく説明口調じゃないの。」

 

「いいえ、分かりやすくしたまでです。」

 

時々ジィの事が分らない事があるんだけども・・・まあ良いか。

 

「とにかく。本家になんか絶対に負けないんだから。”日野”をつぶさせるもんですか。」

 

その後気付けば1200秒を軽くオーバーしており、南に怒られながら学校に向かった。結果としては遅刻手前であった。

 

 

 

 

ポッカポッカの日差しの差し込む窓際。うん最高の寝る場所だ。

 

「ZZZZZ。」

 

「南!起きんか!」

 

なんだろうか?今頭の上で何かが音を鳴らしたけど?気になって目を開けると甲田先生が俺の頭に手を乗せていた。いや、恐らくチョップでもしたのだろう。だがご生憎さま。”不慮の事故”によりダメージ0である。

 

「・・・なんですか?今結構いい感じで現実と言う怪物から決別出来ていたのに・・・。」

 

「お前な・・・学校は寝る場所か?」

 

「ハイ。自由時間や自習中は大概寝てますよ!」

 

「・・・はぁ・・・南、放課後お前の為に先生方が特別課外授業を儲けて下さった。有り難く思え。」

 

「そんな・・・横暴です!先生!寝る子は育つって言うじゃないですか!」

 

先生オールスターだと!なんて地獄だよ!それは。ていうよりなんで行き成り?

 

「それはな・・・今日職員会議で決まったからだ。そんな訳で、寝てても良いぞ?多分夜までかかるからな。」

 

「夜まで課外授業だと!冗談じゃ・・・・・・。」

 

アレ・・・・・・?なんだ?この違和感?

 

「今日のミニテストで8割取れなかったら・・・・・・」

 

先生の言葉も聞き流し考える。

 

 ”大きな黒犬”

 ”満月”

 ”冷気”

 ”何事も無かった様な現場”

 

そして、”夜の課外授業”

 

・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・敵は、転生者?しかもアノ能力を貰ってる。

 

だとすると・・・まともにぶつかる訳には、行かない。

 

”月”はあてにならない。

 

”予知”は、大きな出来事しか予知しない。

 

だとすると・・・。

 

「・・・ヤバイ。多分今日だ。」

 

この日俺は、初めてテストで満点を取った。

 



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第15話 一夜のイジメ撃退法

い、今俺の目の前で起こっている事を説明するぜ。

俺は、いつも通り、ミニテストの採点をしていたんだ。そして気がついた。

これは、6年生用の問題だと言う事に。

当然、誰も答えられる訳が無い。なんたって、受験生用のミニテストだからだ。

恐らく、1組のアリサ・バーニングスでも不可能だろう。

で、だ。

俺は、あの優しい篠山先生でもサジを投げた、出来の悪い生徒と噂をされ。

何故、聖杯小学校の編入試験をパス出来たのか、最近7不思議にも追加されつつある、南一夜の答案を採点したんだ。

 結果は、

 ・

 ・ 

 ・

満点だった。

最初は、夢だと思った。そうだろう?成績は常に低空飛行。授業態度は最悪のあの南が、満点だと?

取り合いず顔を洗ってやり直すが、そこには全問正解の丸だらけ。

クソ、これで、37回顔を洗ったんだぞ?夢なら覚めろ!覚めてくれ!

 

「あ”あ”あ”~!!!!」

 

「どうしたのかしら?甲田先生。もう30回以上も顔を洗ってるけど?」

 

「きっと、色々ストレスが溜まってるのよ。そっと、しときましょう?」

 

俺が、この事実を認めるまで、後5時間。

 

 

 

 

何か、俺の知らない所で、未知の戦いが繰り広げられている用な気がするが、無視しとこうか。時は昼頃。

俺は、”高町なのは”出現ポイントである屋上を避け体育館裏で朝の惣菜パンをほうばっていた。

最近タマゴサンドにはまってます。

 

「このマヨネーズがまた・・・。」

 

体育館裏と言えば、学校の不良の3大溜まり場の一つに数えられるが、幸いこの学校で、不良と言う存在は、余り見たことがない。

なので、ここはジメジメするだけの場所であり、光の道を歩む主人公勢は勿論の事、一般生徒も滅多に訪れない俺のいこいの場と化しているのである。

 

「アムアム。あー美味かった。さて、昼はどう時間を潰すかね。」

 

 

 1・教室に帰り寝る

            うん、良い案だが、確実に日野さんに絡まれるからパス。

 

 2・”高町なのは”及び転生者の調査

            俺は、自爆するほど、アホじゃない。

 

 3・学校の施設を見学する

            4段前を参照してくれ。

 

 4・ここで、時間を潰す

            これしか無いか。

 

 

そんな訳で、俺は余り湿ってないコンクリートの上に横になった。もし濡れても”大嘘憑き”があるから大丈夫だ。

小鳥の囀りや微かに届く太陽の光が眠気を誘う。このまま寝るのも悪く無いのかも知れない。

 

「ファァァっと。」

 

一つ大欠伸をして、体を伸ばすと、誰かが、やって来る足音がした。

 

「ちぃ、折角のリラックスタイムを・・・。」

 

一瞬、気配を無かった事にしようかと思ったが、学校で無闇に力を使う訳にもいかない。何が原因で厄介フラグが立つか分らないからだ。

やるなら、始業前に限る。奴らは授業に行くから。

そう思い、部室塔の影に隠れる。『聖杯ファイト!』と書かれた旗を横目で見ながら、訪れた者の顔を見る。

数は3人。女2人男1人、歳は、俺と同じだ。何故わかるって?2人は隣(3組)の奴らだし、1人は俺のクラスメートだからだ。っと言うより時田さんだったからだ。

 

「何しにきたんだ?もしかして、もう友達になったとか?」

 

流石は、小学生!と、思ったのだが。

 

「キャ・・・。」

 

どうやら、違う様だ。男の方が時田さんを突き飛ばしたからだ。

 

「キモ田なんで、お前学校に来てんだよ。お前がいるだけで、学校の品格が下がるだろうが!」

 

「そうそう♪死んじゃった方が良いよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

そう言えば、時田さんイジメが原因で学校に来なくなってたんだっけ?と、言う事はアイツ等がその一因なのか?

と、言うか日野さんはどうした?

 

「全く、日野って奴になんて言われたのか知らないけど、お前なんて、只のグズなんだから分かれよ。」

 

「アハハ~そうだね。みーんなそう思ってるよ?知らなかった?」

 

さて、まあ、それは、置いて置くとして、どうしようか?

 

「まあ、良いや丁度良いし。これ以上つきまとわれるのも嫌だしな。」

 

と、言う訳で俺は。

 

「失礼。」

 

介入することにした。

 

「ん?誰かと思えば、2組の暗い君じゃないか。そいつ継ぐグズが何の用だ?」

 

「あ、友達にしたくないランキング上位の人だ!何?正義の味方気取り?ウケんるんですけど~。」

 

俺、そう思われてたんだ?へぇ~知らない事が多かったんだな。案外。と言うか、そのランキング、誰が集計してんの?

 

「一夜・・・君・・・。」

 

時田さんが、暗い表情で俺を見ている。俺は、軽く笑うと元気を出すように言った。

 

「安心しろ。日野さんの約束は、守る。」

 

「ハァ?何言ってんの?バカじゃね?」

 

「ヴザイ♪」

 

俺は、振り向きざまにチョキでヴザ男の眼にフレンチキッスをプレゼント。

 

「ギャアア!!」

 

ヴザ男絶叫。ヴザ・・・。

 

「ちょ・・・大丈――。」

 

続いて、素敵(笑)な彼女にも同様のプレゼント。

 

「キャアア!!!」

 

眼を押さえて転げ回る2人が面白い事。アッハハハ!!

 

「ついでにもう一つ♪」

 

視力を無かった事にしてあげましょう。イッツ”大嘘憑き”!

 

「め、眼が見えないよ~。」

 

「い、嫌ぁ!!!」

 

「大丈夫!きっとこの先も上手くやって、行けるさ。!」

 

昼休み終了まで、そのままでいてもらおうか?

 

「俺の仲間に次、手を出したら、殺すから?いや、半殺しだから、注意せよ!」

 

今だに泣きじゃくる2人に背を向け時田さんの手を引いて体育館裏から脱出する。

 

「・・・あの人達大丈夫なの?」

 

時田さんがオズオズと聞いてくる。まあ、なんと優しい。

 

「心配無用。後遺症すら残らんよ。所で、なんで、1人?日野さんは?」

 

「うん・・・パンを買いに行ってくれて・・・。」

 

ああ、納得。そう言えば、朝の拉致の時、弁当を作らなかったんだった。・・・日野さん・・・なんて、バカな事を・・・。

 

「時田さん。」

 

「・・・何?」

 

「学校に来なかった方が良かった?」

 

「・・・・・・うん。」

 

「・・・・・・。」

 

「でもね。・・・楽しい。」

 

「は?」

 

意味が分からないが?因みに俺のアナザーマインドは、学校=地獄と言う認識なので、更に解からない。

 

「・・・これからも守ってくれる?」

 

だが、僅かに笑うこの表情は、解る。そして、このセリフの真意も。

つまり、条件付きか。それなら。

 

「自己防衛程度にならね。」

 

こう答えるのがベストだろう。

 




続けて投稿します。


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第16話 下校時間の対策

「だから、悪かったって言ってるでしょう?」

 

「・・・へえー。」

 

「・・・私は、もう気にしてないよ?」

 

下校時間。そして、下校風景。大勢の生徒が帰りPTAのオジサンやオバサンが旗を持って笑顔で声をかけてくれる、いつもの風景を3人並んで歩いていた。まさか、俺が別の誰かと並んで帰るとは、夢にも思ってなかった。

しかも、女の子となんて、絶対になかった。これが、アニメの中だけで実現していると言う伝説のシチュエーションか。

まあ、嬉しくはないけどさ。

 

「がっ!」

 

拳が飛んできた。なんで!

 

「むかついたから。かっ!となってつい。」

 

「そんな、少年犯罪的動機で殴られたの!」

 

「・・・大丈夫?」

 

時田さんに貰ったティシュで、鼻を抑える。今度から”不慮の事故”を常時発動状態にしておこうか?

そんな、殺意を表していると、分かれ道がやって来た。

 

「じゃ、私こっちだから。また、明日ね!南?鈴音ちゃんは、縛ってでも連れてきなさいよ!」

 

「俺が?」

 

人に見られたら、大問題なんですけど?

 

「大丈夫よ~多分。罪はアンタがかぶってくれるから。」

 

「何も大丈夫な要素が無いんだけど?」

 

「じゃ!」

 

シュタッと手を上げると、日野さんは、マンションの方角へ走って行った。・・・さて。

 

 

 

「時田さん?」

 

「・・・うん」

 

俺は、時田さんから、一枚の紙を受け取った。それには、朝見た絵と同じモノが描かれていた。

 

「やっぱ、そうか。これ以外は?」

 

「・・・ごめんなさい。分からなかった。」

 

時田さんは申し訳なさそうに頭を下げるが、これだけあれば十分である。

 

「ありがとう。これで、確信が得られた。」

 

「・・・でも、どうして?」

 

「それは、秘密と言う事で。まあ、一つ確かなのは。」

 

「・・・日野さんが危ないって事?」

 

「ああ。しかも今夜だ。」

 

俺は、もう一度絵を見る。その中で、日野さんは赤い肉塊と化していた。こうなるのに俺の予測だと5分もかからないだろう。

あの力ならば、尚更だ。しかも、あの力は、俺にとっては天敵と言っても良いだろう。

 

「まだ、転生者共と戦った方がマシだっただろうな。」

 

敵が異能だったら、右手で打ち消せる。チートなら”反射”や”不慮の事故”で対応出来る。だが、俺の予想が正しかったら。

 

 

 

相手が”悪夢”なら?

 

 

 

「勝てるのかね?俺の力で?」

 

なんで、こんな厄介な事に首を突っ込んだのかね?俺も。

 

「・・・絶対に生きて帰って来てね。」

 

そう言ってくれる、時田さんの言葉が重かった。その後、時田さんを家まで送り1人アパートへと戻る。

 

 

 

時間は、多少ある。とりあえず、寝とこうか?夜は長くなりそうだから。



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第17話 グレーブヤードにようこそ!

「ん、ん、ん、プハー!ああ、やっぱ風呂上がりは、牛乳よね。」

 

「ホホホ。左様でございますか。ですが、まだ就寝の時間は早いですぞ?」

 

「分かってるわよ。ジィ、宿題の準備をして頂戴。」

 

「ハイ。では、勉強部屋にて、用意させて頂きます。」

 

ジィは、そう言って風呂場を出て行った。あのジジイいつか解雇してやる。そう心に誓うと私は身体に巻いていたタオルを取って、服をきた。そして、メイドに夜食はいいと伝え勉強部屋のある階へと移動する。

 

「ハア。」

 

私は、エレベータに貼ってあった紙を見てため息をつく。またか。

 

「お嬢様。シュレッターです。」

 

「ジィ。ご苦労様。でもいいわ一応目を通すから。」

 

「左様でございますか。」

 

私はそう言うと、ジィと共にエレベーターへと乗り込み手紙を開く。内容は、まあ、予想通りだった。

 

「また、”バニングス”の事ですかな?」

 

「ええ。私を養子に取りたいそうよ。大事な娘の影武者にでもするつもりなのかしら?」

 

「でしょうな。または、下手な事をする前の人質か・・・どちらにしろ信用なりません。」

 

「全く。いつまで、家に2年前の誘拐事件の犯人疑惑が付き纏うのかしらね?」

 

「まあ。あの”バニングス”と”月村”のご令嬢様が2人揃って誘拐されましたからね。内部犯疑いが強いのでしょう。」

 

ジィの言葉に私はウンザリすると、勉強部屋の階へと到着した。

 

「はあ、じゃあ、今日の宿題を終わらせて来るわ。」

 

「家庭教師の宿題もお忘れなく。」

 

「分かってる。ジィも迷惑な電話やメールの処理をお願いね。」

 

「ハイ。では、お休みなさいませ。」

 

恐らくまた、2時間後辺りに背後から現れるのだろう。

 

「さーて、始めますか!」

 

腕をまくると私は、机に向かった。

 

 

 

 

 二時間後。

 

「ふむ・・・サトルは、きっとハツコが憎かったのね。きっと、この後惨劇が起こるわ。」

 

国語の問題をとき終わり、一息付くと、私は、机に突っ伏した。もう今日は動きたくない。

時計を見ると、11時を刺していた。予定より少し遅く終わったらしい。

 

「ファアア~ねむ・・・。」

 

静かな室内を歩き近くの電話を取る。

 

「・・・もしもし、トメさん?部屋に毛布持ってきてくれる?なんか寒いわ。」

 

何故か、今日はとっても冷えるわね。もうすぐ夏のはずなのに・・・息も白くなってるし。

そう、思っていると、違和感を覚えた。

 

「もしもし?トメさん?聞こえてる?トメさん!」

 

いくら、呼びかけてもトメさんの返事は、帰って来なかった。

 

「故障?」

 

いや、それは無い。ここのメンテナンスは週1でやってもらってるし。どうなってるの?

 

「ジィ!いないの?」

 

呼べばいつでもやって来るジィすら来ない。私は、怖くなって、部屋を出た。すると。

 

「なに・・・・・・ここ。」

 

目の前には、学校にグラウンドが広がっていた。・・・確か、勉強部屋はマンションの23階だったはず・・・。

 

「今晩わ~。」

 

そんな、声がしたので上を向くと、一人の子供が、笑って木の枝に腰掛けていた。そして、私は見た。

 

「なんで・・・どうして?」

 

冷たい空にはとっても透き通った星々と輝く黄金色の月が浮かんでいた。

月は、少しも欠けていない見事な満月だった。

そんな、私を見て子供は笑う。両手を広げ楽しそうに言う。

 

「ようこそ!墓地へ!グレーブヤードへ!アタシは、ここの管理人兼葬儀人。さて、お前もここで、人生を終了しましょう?」

 

すると、どれと同時に暗闇から、昨日の黒犬が2匹も現れた。

 

「ヒィ!」

 

私は、悲鳴を上げると、学校の中に逃げ込んだ。何なの?一体何だって言うのよ!

 

 

 

 

「逃げた?」

 

少女は、そう言って、首をかしげると直ぐに納得した顔になった。

 

「って、事は、もう一人の方だったか。・・・まあ、良いや。アタシの殺しの邪魔をしたのは変わりないしね。」

 

そう言って、残酷な表情を作った。さて、今回の獲物ちゃんは何分もつかな?

そう小さく呟くと楽しそうに女の後を追った。

 



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第18話 超能力者推参

「そろそろか。」

 

俺は、日野さんのマンションの前で、その時を待っていた。

時田さん予言が正しければ、これから三分以内に何かが起こるだろう。

 

「・・・。」

 

時計を見ながらマンションを見上げると、心無しか肌寒くなってきた。

 

「来た!」

 

俺は、全力で走りマンションへと突撃した。

 

 

 

 

「ハアハア・・・・・・もう嫌だ。帰りたいよ~。」

 

私は、教室の中の机の下に隠れてそう呟いた。そして

 

「ここは何処なのよ。」

 

この机の大きさは、どう考えても小学生のサイズじゃないのだ。つまり、ココは聖杯小学校じやない。

いや、それ以前に現実かどうかも怪しい。なんで、今日が満月なのよ!

 

「こんなことなら、鈴音ちゃんも南も家に泊まってもらってれば良かったわ。」

 

きっと、南だったら、いち早く気が付くに違いない。でも、所詮後の祭りなのだ。

ここには、自分の味方はいない。いるのは大きな黒犬と変な子供だけだ。

 

「いいや、きっと大丈夫よ。冷静になれ私!鈴音ちゃんの絵を思い出せ!」

 

あの絵には、満月の夜に八つ裂きにされる私が描いてあった。でも、その隣には大きな人影が、描いてあったのだ。

あの子供も犬もそれには該当しないはずである。つまり、この場はなんとかなるかもしれない!そうよ!なんとかなる!

 

「グルルルル・・・・・・。」

 

すると、私の教室に黒犬がゆっくりと入ってきた。私は息を潜める。鼻の良い犬にどれだけ使えるか解からないけれど・・・。

 

「・・・。」

 

「グルル・・・。」

 

「・・・。」

 

「グルルル・・・。」

 

頼むから、そのまま・・・・・・。

 

「・・・。」

 

「グルル・・・。」

 

私の祈りが通じたのか、黒犬の足音が遠ざかっていく。助かっ・・・

 

 

「見ーつけた~!」

 

助からなかった。行き成り子供がこっちをしやがんで見ていたのだ。何?コレなんてホラー?

 

「きゃああああ!!」

 

「アハハ~待ってよ!」

 

子どもを突き飛ばし、また走る。

 

「アハハハ~待て!!」

 

しかし子供は、まるで私の居場所が分かっている様に先回りしては、追いかけて来るのだ。

そう。まるで、私の考えが詠めるのか、それとも瞬間移動でもしている様に。

 

「なんなのよ!あの子!」

 

そう叫びながら、走っていると前方からあの黒犬がゆっくりと歩いてきた。私は、直ぐに方向転換するが。

 

「グルル・・・。」

 

「って!こっちも。なら。」

 

また、別の方向を見るが、

 

「グルルル・・・。」

 

「ガルル・・・。」

 

どうやら、全方位を囲まれていたらしい。詰んだ!

このか弱い美少女小学生に何とか出来る状況じゃない。

 

「アハハ~もう終わり?残念だな~もう終わっちゃうなんて。」

 

「嫌・・・何なの・・・アンタ・・・ココどこよ・・・。」

 

でも、子供は、そんなことを話す必要が無いとばかりに獰猛な笑みを浮かべた。

 

「グレーブヤード。かつて、雪の女王が行った、殺し合いの舞台。一年をとうして、まるで冬の様な気温。そして、この場所で最も恐ろしいのは、その世界の事柄は全て作り出した者が支配出来る事だ。」

 

その代わりに、今この場で最も聞きたい声が聞こえてきた。

 

「南!どこ?どこにいるの?」

 

辺りを見渡せど姿が見えない。

 

「こっちだ。こっち!」

 

と、声は、私の下から聞こえてきた。・・・下?

 

「おーい!」

 

見ると、手の平サイズの南が手を振っていた。え?何コレ?

 

「ちっ、ヤッパ、こっちじゃこのサイズが限界か。」

 

「アレー誰かと思えば本物じゃん!ここにどうやって来たの?」

 

子供が、黒犬近付きながら南に聞いてくる。それに対し南は、笑う。

 

「なーに・・・俺は、南一夜。只の超能力者だよ。」

 

そして、何故か子供も笑った。

 

「アハハ~そうなんだ。アタシは余世夢。只の殺人鬼伴超能力者だよ~。」

 

何?こいつも超能力者なの?しかも殺人鬼?

 

「落ち着け。こんな奴、現実じゃ敵じゃない。」

 

「現実?どういうこと?」

 

南が、何かを言おうとした時。余世が腕を振った。それと同時に4匹の黒犬が私に飛び掛って来た。

 

「わあああ!!」

 

「日野さん!左腕を突き出せ!」

 

「え?」

 

そう言われ、私は、腕を突き出した。すると・・・。

 

「「キャン!!」」

 

偶然当たった、2匹が砕けて消え去った。

 

「な!」

 

「え?」

 

私はともかく余世まで驚いていた。これは予想外だったらしい。

 

「”却本作り”夢の中だから充分じゃねえが。”幻想殺し”と”超電磁砲”が使用可能になってる。流石に”不慮の事故”と”大嘘憑き”は無理だったけどな。」

 

「夢って・・・ここって夢の中なの?」

 

私の言葉に南は、コクリとうなづいた。そして、私を見る。

 

「日野さん。悪いけど俺は今、日野さんを抱えて逃げてる最中だから、加勢が出来ない。だから、アイツを日野さんが倒すんだ。」

 

「は?どう言う事?」

 

「”脚本作り”は、ちょっと発動条件がショッキングでな・・・只今ショットガンやらを持ったメイドさんや黒服のお兄さんに追われてる正直キツイ。」

 

手の平サイズの南は、チョコチョコと走っているマネをして言った。ちょっと可愛いかも。

 

「のわ!掠った!!嘘・・・実弾!」

 

「当然でしょう?アンタ誰を誘拐してると思ってんの?因みに誰一人傷付けたらダメだからね?」

 

「難易度ハード?!」

 

まあ、こいつなら大丈夫でしょう。私は、そう考えると笑って余世の方を見た。余世は、先程までの笑顔ではなく、怖いくらい慎重な表情になっていた。

 

「ハア~まさか、アタシの能力に干渉出来る奴がいたとはね・・・。良いわ、かかってきなさい。全力で潰してあげるから。」

 

「それは、こっちのセリフよ。超電磁砲少女イマジンナギサが成敗よ!」

 

「「ダサ!」」

 

 

 

 

よし、この超能力者共後でコロソウ。

 




次はバトルです。誰がバトルするかは・・・次回のお楽しみということで!!


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第19話 激突!殺人鬼VS超能力者(仮)

主人公不在のバトルスタート!



学校の中を強烈な電光が駆け巡り、闇に包まれた校内を照らし出している。

いま、この場に対峙する2人の人間。

1人は、小学校低学年程の子供にして殺人鬼。”余世夢”

別名。夢の殺人鬼。敵を自分の夢の中へと引きずり込み仕留める。完全犯罪者である。

1人は、小学校4年生の同じく子供にして超能力者(仮)。”日野ナギサ”

別名。委員長。厄介事を人に押し付ける厄介なお人である。

 

 

 

 

「なに?なんか、すごく失礼な事を言われた様な気がするんだけど?」

 

「アハハ~何余所見してんの?」

 

私が、油断している隙に余世は、次々と黒犬を召喚して私を襲わせる。流石にこの数は右手じゃ捌ききれず辺りに紫電を放って、牽制する。実に不思議な事に能力の使い方が頭の中に流れ込んで来るのだ。

おかげで、次にどうすればいいのかよくわかる。

 

「ちぃ、アンタ!そんな遠くからじゃなくて、近くに来なさいよ!」

 

「嫌だよ?その力アタシの能力をあんまり寄せ付け無いんだもん。近付くだけ危険よ」

 

余世は、そう言うと、次は炎を繰り出した。なんでもアリですか?

 

「でも、その程度なら!コイツで十分!”超電磁砲”!」

 

「甘い!”不闘”!」

 

すると、どういう事か、余世の炎の勢いと威力が段違いに上がり、”超電磁砲”を軽々と貫いた。

 

「嘘!クッ・・・!!」

 

右手を突き出して炎を防ぐが、それが、駄目だった。

 

「アハハ!隙アリ!”呪われた双剣”!」

 

突然現れた、双振りの双剣が私の鎖骨から胸にかけて皮一枚を切り裂いた。

 

「痛っ!切られた!痛い!」

 

「アハハ!」

 

「・・・でも・・・。」

 

私は、素早く相手の腕を掴む。ただじゃやられないわ。

 

「最大電流!!!!」

 

「えっ?・・・・・・アギャアアアアアアア!!!!」

 

直接電流を相手に流し込む。舐めんじゃないわよ!

流石に、電流を直接流した影響で、余世の体が、プスプスと煙を上げて、焦げ臭くなる。

 

「ア”ア”ア”ア”・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

正に電気椅子。しかも正面から見ている。もう限界かも。

 

「てい!」

 

腕を放し余世を放り投げる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

ピクリとも動かない余世を見ていると、何もここまでする必要があったのか?と思わなくもない。

てか、やりすぎたか?

 

「・・・まあ、良いか。早く本当の世界に帰してよね」

 

その時、ポンという音が聞こえ下を向くとミニ南が出現した。

 

「ハァハァ・・・あのジジイ・・・だだもんじゃねえ・・・。日野さん無事・・・ヒデェ」

 

「何よ?文句あるの?私だって、見てよ!こんなにやられたのよ?」

 

私は、自分の傷を示す。コレ治るの?まぁ、いざとなったら、南にやってもらえば良いか。

 

「・・・ユルサナイ・・・」

 

「「!!」」

 

その時、完全に枯れ果てた、声が聞こえてきた。私もミニ南もそちらを見ると、そこにはプスプスと最早炭人間と化した余世がいた。

 

「キャアア!」

 

「ホラーだね。てか、アレやったのは日野さんなんだから。悲鳴はないと思うぞ?」

 

「いや!いや!嫌ァ!!!」

 

「ア”・ア”・ア”・・・―」

 

更に電撃をぶち込む。悪即滅。

 

「ひ、日野さん!それぐらいに・・・せめて原型を残さないと・・・」

 

「ハァハァハァ・・・」

 

煙が、辺りに漂い炭臭い臭いが鼻を付く。殺った?そして、煙の中に一つのシュルエットが浮かび上がる。

 

「・・・ハ?」

 

「・・・来たな。日野さん勝負はこれからだ」

 

それは、2メートルは超える大男だった。片手に肉厚の肉切り包丁を持ち、濁った眼でこちらを見ていた。

 

「アカカカ・・・コロシテヤル・・・コロシテ・・・ヤル・・・”マッド・ブッチャー”アノ、オンナヲコロセ・・・」

 

「フシュ、、、」

 

大男は、ゆっくりとでもとても早く私に近づいてくる。なによ・・・この人?

 

「ま・・・マジかよ・・・」

 

すると、ミニ南は、見当違いの方向を向いて呟いていた。

 

「・・・テメェ・・・寄りにも寄って、こっちにエライもん召喚しやがったな」

 

「・・・どうしたのよ?」

 

「悪い。ちょっと不味そうだ。そいつが現実世界でも召喚出来る事を完全に忘れてたわ」

 

ミニ南の声は、本当に不味い事を知らせていた。本当に何があったのよ。

 

「アハアh・・・ミnナ・・・しnジャエ・・・”ヨトゥン”ミンナゴロシテ・・・アハ」

 

狂気に満ちた、余世の声に背筋が凍り付そうになる。すると、ミニ南がとんでもない事を呟いた。

 

「日野さん。悪いけど、追っては一回殺しておくよ」

 

「は?」

 

南まで何を言ってんの?馬鹿になった?

 

「じゃないと、正直再生が出来ないくらいグチャグチャにされかねない」

 

ミニ南のちっこい体を握り潰さんばかりに握るが、反応一つしないと言う事は本当にヤバそうな奴がいるのだろう。

 

「・・・好きにしなさい。ただし・・・」

 

「分かってる。”無かった事”にするだけだから。とにかく」

 

「うん。分かってる。絶対に・・・」

 

「「勝ってよね」」

 

そう言うと、ミニ南はポンと消えた。

さて・・・・・・

 

「フシュ・・・。。、、」

 

「あんたの相手は私ね。叩き潰してあげる」

 

 

 

 

さあ、戦闘開始よ。

 



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第20話 伝説の巨人”ヨトゥン”

少し時を遡ります。

どうぞ!


場所は、聖祥小学校。俺は、マシンガンメイドさんやハンドガンの黒服さん。そして・・・

 

「ホホホ。逃がしは致しませんよ?」

 

「・・・化物め・・・」

 

執事服を着込んだ、老人を相手に鬼ごっこをしていた。前者2名ならばまだ良かった。問題は、老人である。

この老人、全てに置いて厄介なのだ。まるで時田さんと同じ能力を持っているのでは無いか?と思えるほど先回りしてくるのである。

 

「お嬢様を帰して頂きますよ?」

 

「だから・・・無理だって!さっきから言ってんだろが!」

 

「いいえ。この歳で駆け落ちなどこのジィの目が青白いうちは、許しませんよ!」

 

「駆け落ちじゃねえ!つうか、何だよ!青白いって」

 

「ホラ」

 

「本当だ!青白い!カラーコンタクトをしてるし」

 

この、ジジイこれをやるためにタネを仕込んどいたな。侮れん。

 

「執事流拳術5の型”残砂磁双”」

 

ジジイが投げた石に拳をぶつける。その瞬間、石は閃光に包まれ音速で飛んできた。

つうか、それ”超電磁砲”じゃね?・・・いや、石でやってるから、それより上かも・・・。しかも・・・。

 

「のわ!」

 

これは、何故か”幻想殺し”が通用せず、一回腕が爆散した。なので、避けるしかない。

 

「ホホホ。避けるのだけは、達者ですな」

 

「どうも。それなら、止めてもらえませんかね?お嬢様が死にますよ?」

 

この間も日野さんを抱えているので、下手に戦えば日野さんに被害が及ぶ。おかげで、さっきから日野さんのいる夢の世界に干渉出来ずにいるのだ。

 

「日野家の令嬢たるもの何時死んでも良い位の覚悟はございます。下手に生き、辱めを受ける位ならば死を選ぶ。それが、日野で御座います。まぁ、お嬢様だけですが」

 

「・・・・・・クソ」

 

コレじゃ、日野さんを盾に出来ねえか。”大嘘憑き”を使えば楽なんだが・・・どうやら、”却本作り”の発動中は、能力が低下するらしく

相当不意をつかなくては”無かった”事にならない。このジジイならば尚更だ。

 

「隙アリ。執事流拳術1の型”背後取り”!」

 

「クッ・・・!!!」

 

まるで、瞬間移動の様に俺の背後に出現するジジイ。まさに名の通り背後を取られた。不味い。

 

「さて、このまま、その首落とすのも軽いですが・・・如何したものか」

 

首筋に冷たい手刀の感触が伝わる。明確な死のイメージが頭を巡る。

こいつ、・・・マジで俺を殺す気だ。

 

「む?」

 

「・・・・・・」

 

俺は、精神力をフル活動させ”大嘘憑き”で自分の気配を”無かった事”にした。精神的にはかなりの負担がかかるが、この場合仕方が無いだろう。

 

「姿は見えるが気配が分からず。奇っ怪な技ですね」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

こいつ、俺の姿が見えるのかよ。”星光”すら気が付かなかった程の技なのに・・・このジジイ本当に人間なのか?

まあいい。行くか。

 

「ハアアアアアア!」

 

「ム?」

 

一面を巡る電流の嵐を発生させジジイとの距離をとった。そして、手短な教室へと逃げ込む。

 

「ハアハア・・・ちくしょう・・・なんつう奴だよ。とにかく何とか早く終わらせて貰わねえと」

 

そんな、訳で教卓の下に潜り込み、”幻想殺し”で日野さんの頭に触れる。

奴の能力は、夢の中に相手を引きずり込み自分の有利なフィールドで戦う某殺人鬼的な力である。その間、対象の意識は、相手の精神世界に引き込まれており脱出は不可能なのである。ならば、どうするか?・・・簡単だ入れば良いのだ。

俺には、異能を打ち消す”幻想殺し”と、いかなる状況でも生きて行ける”ライフォジオ”がある。これらを利用し、更に日野さんに”却本作り”で道を繋げれば何とか入ることは可能になるのだ。

 

「よし!行くか」

 

そして、夢の世界へ・・・。

 

 

 

 

そこには、惨劇が広がっていた。

まあ、それはいい。それより不味い事になりつつあった。

 

「アカカカ・・・コロシテヤル・・・コロシテ・・・ヤル・・・”マッド・ブッチャー”アノ、オンナヲコロセ・・・」

 

「アハアh・・・ミnナ・・・しnジャエ・・・”ヨトゥン”ミンナゴロシテ・・・アハ」

 

殺人鬼・余世夢が言ったその言葉。そして、現れた”マッド・ブチャー”。

そして、昨日現れたのは”ダークネス・ハウンド”それは、夢の世界ではない現実に現れた。つまり・・・。

 

「ォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

「!!!」

 

突然の咆哮が、俺の意識の一部が聞いた。そして、少し意識を戻すとそこには・・・。

 

「・・・テメェ・・・寄りにも寄って、こっちにエライもん召喚しやがったな」

 

白い布をまとった、禿げ頭の巨人がそこにいた。その身長十メートルは下らず、ビル4階程の高さがあった。

表情は仁王像の様に凶悪で、腕や足に付いている筋肉は底知れないパワーを感じさせる。

その昔、雪の女王が自らの血から創り出した、頑丈で怪力をもつ巨人の一族。

伝説の巨人”ヨトゥン”それが、俺の対戦相手となる。

 



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第21話 燃え上がる火の(日野)意思

夢の中の戦い。

  決着。


「うわあああ!死ねぇ!!!」

 

「フシュ・・・」

 

私の地鉄剣を肉切り包丁で受け止める殺人鬼は、流れる電流もなんのその。遠慮うなく私を切りつけてきた。

それを紙一重でかわし、再び切りつける。今度の狙いは、殺人鬼の上にいる余世だ。

 

「死ね!!!!」

 

「ケケケ・・・ムダ・・・」

 

しかし、殺人鬼は、巨体を動かしてかわす。見かけによらず俊敏なので気持ち悪い。

 

「ハアハア・・・チィ、ちゃんと当りなさいよ。悪は滅びるのよ?」

 

「フシュ・・・」

 

さっきからこのやり取りをずっと続けているものの、事態は全く進展していなかった。いや、長引けば、体力の減っているこっちが不利だ、それに外で戦っている南も負担が大きくなるだろう。なんとか、早く終わらせないと。

 

「ねえ、一つ良いかしら?アンタ、なんで人を殺したりしてんの?」

 

「ドウデモイイコト・・・」

 

「いや、気になるわね。そんな力が有れば、たくさんの人が助けられるんじゃないの?」

 

「・・・オマエニハ、ワカラナイ。・・・アタシノジンセイハ、最アクダった」

 

すると、余世は、ゆっくりと”マッド・ブッチャー”の上に立った。見た感じは完全に焦げ付いていて、不気味だったが、その目には、どうしようも無い憎悪が浮かんでいた。見た感じは、私より年下の子に一体どれだけの憎しみが渦巻いているのだろうか?

少なくとも私は、分からなかった。

 

「騙サレ、ステラレ、また、騙され。サイアクだった。死んだトキハ、ココロからヤスラゲた。ナノニ・・・また、人生が・・・シカモわけのワカラナイチカラをモラッテ・・・キモチ悪がられて・・・憎い・・・皆憎い!コロシテヤル・・・コrス・・・ああああああ”!!!!!!!」

 

一つ分かった事がある。超能力者って、ヤッパリ解からない。でもこの子の人生が最悪だった事は理解出来た。

この子は、未来の私の姿なのかも知れない。”日野”も”バニングス”から裏で大きな被害を受けてきた。分家と言う事で本家を守るために盾になり、他の家を攻撃する矛にもなってきた。その為”日野”は、多方面から怨みを買い様々な攻撃を受けてきた。

裏の”バニングス”家の事を知らない奴らから、悪の象徴として。まるで、身代わり人形の様に。

 

「コロシテヤル・・・・コロシテヤル・・・コロシテヤル・・・ああああああ”!!!!!!!」

 

この子の人生もそうだったのかも知れない。他の人間の盾になって、利用価値が無くなれば捨てられる。

捨てた奴は、平然とした顔で生きて行く。最悪な世の中で生きてきたのかも知れない。そして、訳が解からないけど、また、やり直そうとした時に超能力に目覚め、周りから拒絶され完全に狂ったのかも知れない。

私も今は夢の中だとは言え、南の力の一部を使って戦っているけど、この力は、はっきり言って怖い。人間をたった一回で丸焦げに出来る電流を出せるなんて、本当に恐ろしい。もし、南の事をよく知らず、この力の発動を見ていたら、恐らく絶対に避けていただろう。漫画などで、過ぎた力は人を孤独にする。と言う言葉があるけれど、まさにその通りである。

 

「ねえ、ちょっと良いかしら?アンタのその絶望の一旦には、その超能力が関わっているのよね」

 

「あああああ””!!!!!!!」

 

「今、外で戦ってる奴。南って言うんだけどさ、アイツも超能力者なのよね。知ってる?アイツ今でこそ私や鈴音ちゃんと話してるけど聞いた話じゃ、転校してきて一年間ずっと、一人で誰とも関わらずにいたらしいのよ」

 

「ダカラ・・・ドウシタ?」

 

「・・・アンタと同じなんじゃないのかなと思ってさ。大きな力を持っているから孤独で誰とも関わらない。いや、怖いんだと思う。拒絶されるのが、奇異の目で見られるのが・・・。」

 

「アイツとワタシはチガウ。絶望シタモノがチガウ・・・」

 

でしょうね。でもさ、もしアイツがアンタと同じ理由で暴走でも起こしたら、最悪な事になるわ。全身から電流を流す奴にこの国の法律で対応したら一体どれだけの被害が出るんでしょうね。・・・だからさ、私は・・・。

 

「アンタ程度の奴に負ける程情けなくないし、絶対になんとかなるって思ってる。アンタは南の反面教師よ」

 

「ソウ。ナラドウスルノ?」

 

「アンタを倒して更生させる。超能力者だから、気持ち悪がれるって言う幻想をぶっ壊してあげるわ」

 

「アハアh・・・所詮はコドモのカンガエね・・・」

 

「笑うと良いわよ。でもね”日野”はね結構約束は守るのよ?」

 

私は、そう言うと心の底から念じた。最強の奥の手を出せと。南ならそのくらいの武器ぐらい持っているだろうと念じて。

すると、何かが現れた。それは、一枚の鏡だった。そして、その中にあるのは1本の螺子。

”却本作り”その知識が脳内を駆け巡った。本来なら絶対に出せる訳もない物。何故出たのかは分からなかったけど。

 

「使わせてもらうわよ?」

 

「ナンデ・・・タイヨウノ・・・鏡が・・・あノコドモにアタシが共感したとデモ・・・」

 

余世が、何かを言っているが、空気を読まない事に定評のある私です。

 

「フシュ・・・」

 

自らの主の危機に動いた”マッド・ブッチャ”の肉切り包丁を恐れずそのまま突っ込んだ。最初は、左腕が私から切り離された。

激痛が走ったけど関係無い。所詮は夢なのだ。次に、胴に包丁が食い込んだが構わず。進む。そして・・・。

 

「アアアアアアアアア!!!」

 

「そんな・・・」

 

私が真っ二つになるのと同時に”脚本作り”の螺子が余世に食い込んだ。

 

「やった・・・」

 

薄れゆく意識の中で私は理解した。つまり今本体の方にはあの太さの螺子が突き刺さっている状態なのだろう。・・・

 

 

 

そりゃ、ジイも怒るわ・・・。そうして笑うと同時に今度こそ意識は消えて行った。

 




最近パソコンの調子が良くないので夢夜の殺人鬼編を最後までだそうと思います。これからも少し間があると思いますがよろしくお願いします。


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第22話 破壊と自己保身

主人公。やっと活躍!


さて、俺の目の前には、まるで、某光の巨人が出てくるべきクラスの敵が立っている。”ヨトゥン”雪の女王の切り札にして、一般的な人間には手出しも出来ない、絶対的な力の塊である。

 

「さーて、日野さんには、強がったけど・・・どうするかな?コレ」

 

体の巨大さは元より俺の力は元々自己防衛第一。その上どうにか出来る有一の能力である”大嘘憑き”は、使用不可に等しく”不慮の事故”は・・・・・・・・・とある理由により使用出来ない。

 

「せめて、日野さんを消せれば・・・」

 

俺は、両腕で抱えている日野さんを見た。腹部には太い螺子が食い込んでおり、猟奇殺人の被害者の様な感じになっている。

まぁ、そのおかげで、黒服や武装メイドさん、バケモノ爺さんに追いかけられた訳だが。

 

「ォォォ!!」

 

突然”ヨトゥン”は、俺の体より太い腕を俺に向かい振り下ろしてきた。巨大だが、動きはけして緩慢ではなく、むしろ速い程だ。

 

「クッ・・・地鉄の盾!」

 

そう言った瞬間、黒い塊が盾の様に広がった。前回と違い今回は、砂場のある学校である。厚さは、昨日の比じゃない。

だが・・・それは甘い考えだった。

 

「ォォォォォォォ!!!」

 

”ヨトゥン”は、すぐさまに反対側の腕で再び殴ってきた。そして、また殴る。

 

「ォォォォォォォ!!!!(僕は、コレが壊れるまで殴るのを止めない!!)」

 

まるで、そんな声が聴こえる。幻聴か。

 

「”ヨトゥン”って、ここまで、頭が良かったか?」

 

俺が知っている”ヨトゥン”は、少なくともここまでじゃ無かったはずだ。つまりこの”ヨトゥン”は、俺の能力と同じく強化されたモノと言う事か。厄介な。

 

「だが、所詮は、力押し第一主義の巨人だ。このままガードしていればチャンスは来る」

 

そう。いくら、殴るスピードが上がり腕が何本に見える様になったとしてもだ。怖いよ~。

 

「ォォォォォォォ!!」

 

すると、”ヨトゥン”は、突然殴るのを止めた。

 

「なんだ?知能が付いた分諦めが早くなったのか?」

 

だが、それは甘い考えだった。突然、地鉄の盾が何かに吸い寄せられる様に引っ張られた。そして、俺から完全に引き離されどこかへと飛んで行った。その先には黒い球体が浮かんでいた。って・・・。

 

「”欲望”だと!」

 

俺は、唖然としてその球体を見上げた。バカな!有り得ない!って、言うよりなんで”ヨトゥン”がそんな能力を使うんだよ!

 

 

”欲望”その力は、ズバリ、相手の能力をコピーするモノである。しかもその方法は、あの球体に吸い込むだけと言うチートな力だ。と言う訳で、アイツは今から”超電磁砲”の力が使える訳なのである。アハハ・・・笑えねー。

 

「ォォォォォォォ!!!!!!」

 

そして、”ヨトゥン”は再び咆哮を上げると、空が消えた。その代わり見えるのは、大量の銃器。

 

「・・・ガンズウォール」

 

ガンズウォール。読んで字の如く、銃の壁が一斉に対象に向かい発泡すると言う荒技である。原作では、確かこれの100分の1位の規模で”ヨトゥン”の頭を消し飛ばしてたっけ?

 

「・・・・・・」

 

しかも、”超電磁砲”の力を加算しているようで、銃口は皆青白い光を放っていた。単純計算にして”超電磁砲”×1000000位か。

アンナのをまともに食らったら、体すら消し飛ぶだろう。原型すら残るのか怪しい位だ。いや、無理だろうな~。

 

「ホホホ・・・お困りのようですな」

 

絶望的な状態に浸っていると背後から聞きなれた声が聞こえてきた。ジジイである。

 

「うん。正直ピンチです」

 

「そうですか。それはそれは。流石のジィもあのクラスの巨人は骨が折れますぞ」

 

ジジイは、ホホホと笑うと巨人を見上げた。つうかアンタ、アレをどうにか出来るのか?

 

「無理ですな。被害ゼロと言うのは、不可能です。少なくともお嬢様が死んでしまうでしょう」

 

「そうだよな・・・まるで、被害さえ出せば、アレを倒せる様な言い方だけど・・・」

 

「ですが、アナタには、それが出来るのでは?」

 

「どうして、そう思うんだ?」

 

「勘で御座います。昔から言うでしょう?女と爺さんの勘は鋭いと。何か出来る事は御座いませんか?」

 

「その、とんちんかんな格言は放っとくとして、一つ頼みたいことがある」

 

俺は、そう言うと、日野さんをジジイに渡した。ジジイは直ぐ様日野さんの脈を取ると安心した表情になった。

 

「生きておりおますな。この螺子は?」

 

「その螺子は絶対に外さないでくれよ。日野さんが死ぬかも知れないからな。日野さんを抱えて、出来るだけ遠くに逃げてくれ。良いか絶対に遠くだ。じゃないと即死するかも知れないからな」

「ほう。分かりました。では、ご武運を」

 

ジジイはそう言うと、明らかに人外のスピードで直ぐ様小学校から出て行った。本当にあの人は人間なのだろうか?・・・まあ良いか。

今は、あの巨人が先決だ。

 

「さーて・・・チョットばかし本気で行くから覚悟しろよ?」

 

どうやら、さっきの会話の時間でチャージが完了したらしく、空全体が、まるで朝の様に青く輝いていた。これだけの事が起こっているのに誰も来ないと言う事は、やはり結界の類が張ってあるのだろう。

 

「ォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

名付けるのなら、”超電磁砲包囲壁”と言った所だろう。まさに破壊の境地いや、消滅の形と言った所か。空が降って来る。そんな感じだ。

最早、触れた場所は破壊ではなく消滅してゆく。単純に力の破壊がそこにあった。・・・だが、俺の能力は自己保身の為にある力だ。

 

「墓穴を掘ったな。・・・学校が消滅してくれたおかげで、狙いが絞れたぜ。」

 

”大嘘憑き”に継ぐ俺の能力の中でも上位の力”不慮の事故”。実は、この力はまだ、コントロールが不十分だった。それ故、日野さんを近くに置いたまま発動すると、最悪の場合、日野さんは昨日の本棚の様に砕け散る可能性があったのだ。まあ、それだけなら別に良かったのだが、今回日野さんは、夢の中で戦っていた。つまり本体が死ぬとどうなるのか分からなかったのだ。それ故戦闘中も日野さんを

”大嘘憑き”で消すことが出来なかった。どうやら、俺の力は、仲間がいると効果が半減する仕様らしい。

 

「だけどな、日野さんがいなくなったおかげでやっと本気でやれる。それにお前は、学校を消した。どう言う事か分かるか?」

 

光が俺に近付く。だが、これは俺の勝利の光だ。”不慮の事故”は対象を選べない。でも、対象が一つしか無かったら?簡単だ・・・。

 

「自分の力で消し飛べ!”不慮の事故輝めきバージョン”!!」

 

 

 

 

全てが終わった後には、その場には、一人の少年しか残らなかった。本当に。たった、一人しか。

そこにあった建物は消え失せまるで、空き地の様な虚しさを醸しだしていた。

 

 

 

 

こうして、殺人鬼との戦いは、完全に終了した。

 



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第23話 完全終焉

夢夜の殺人鬼編

  終了!!


あの事件から6日経った。翌週の月曜日、俺は久々に小学校へ来ていた。とある理由によりしばらく学校を休む事になっていたからだ。

もうこの際、一生来なくても良いか、と思ったが、日野さんに連れてこられたのだった。と言うより休んだのは、日野さんのせいだ。

 

「ZZZZZZ」

 

「ホラ、起きなさい」

 

「zzz・・・zzz・・・。」

 

「蹴られても、踏まれても起きないとはね・・・疲れているのね。・・・夢ちゃん」

 

「ハーイ(^o^)/」

 

「ギャアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

俺は、夢のから目覚めた。悪夢から目覚めた。

 

「あら、おはようもう朝よ!どうかしら?ご気分は?」

 

「最悪だよ!最低だ!」

 

分かるか?いい夢を見てたら、途端に悪夢になった。この気分が?

 

「アハハ~一夜オモシロ~」

 

「・・・」

 

そんな夢をプレゼントしてくれた張本人である余世は、大爆笑していた。

 

 

 

 

あの後、日野さんの意識が戻りそれと同時に瀕死の余世が現れた。とは言え出現場所は、かなり遠くだったが。

恐るべきは日野さんの捜索網であった。なんだろうね?個人衛星って。

まあ、そんな事は別として、止めを刺すか迷っていた時に思いも寄らなかった事を言われた。

 

『この子を助けてやって』

 

と、日野さんから頼まれたのだ。なんでも、余世はとんでもない人生を歩んできて、それ故に狂ってしまったそうなのだ。

 

『アンタにだって、分かるハズよね。その気持ちが・・・』

 

日野さんの目が何故か俺のことを同情的に見ていた。一体俺に何があったと思っているのだろうか?

まあ、断る理由もなかったので、色々な条件を付ける事で復活させた。

 

 

 

 

 1・記憶の消去。

 

    文字通り、記憶を書き変えたのである。とは言え、流石は転生者であるだけあり、完全消去は、不可能だった。

いくら”大嘘憑き”とは言え、色々工夫しなくては、ならなかったので、時間がかかってしまったのだ。

 

    因みにコレ。完全に洗脳である。

 

 

 2・能力の制限。

 

    初めは、消してしまおうと思っていたのだが、やっぱり不可能だった。原理は分からないが恐らく”禍負荷”と同じだからだと思う。生まれついての力は、完全には”無かった事”には出来なかった。

 

    だが、何とか以前の10分1位には出来た。誰か褒めてほしい。

 

 

 3・余世の面倒。

 

    日野さんの調べによると、彼女の両親は既に・・・・・・。

    なので、日野家に引き取ってもらう事になった。

    お幸せに。

 

 

 

 

等の理由により俺は、学校を1週間位休む事になってしまった訳である。皆勤賞が・・・まあ、良いか。

 

「・・・・・・」

 

「ナニ?一夜?」

 

今、余世は、俺の目の前にいる訳だ。偽りの記憶を持った、偽物の人生に俺はした・・・。果たしてこれで良かったのだろうか?

時々・・・と言うよりここ毎日悩んだ。今の余世は、言わば1年前の俺と同じだ。目覚めたら・・・別人・・・。

 

「ゴメンな」

 

「??」

 

俺は、余世の頭に手を置いて言った。俺は、これからこの罪を背負って生きていくのだろう。こんな俺を見て”アイツ”はどう思うのだろうか?・・・下手したら、焼き殺されるかもな・・・でもまあ、一応は。

 

 

 

 

 

 

                  完全決着だよな。

 




次は番外編です。夢の過去の話です


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番外編 とある悪意のナイトメア(前)

結構ダークな話です。


「おや?珍しいですな。ジィの部屋に客が来るとは」

 

「ん?迷った?そうですか。では、出口までご案内いたしましょう」

 

「おや、その本は?」

 

「拾った?この部屋で?ホッホッホ・・・そうですか」

 

「では、お読みになるとよろしいですよ。なに・・・時間はたっぷりございます」

 

「え?なんの物語かって?」

 

「ホッホ・・・なに、とある“殺人者”にまつわる物語ですよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

夜の裏路地を女は、走っていた。

既に靴も脱げており、足の裏がボロボロになりながらも。

 

「はっはっは・・・嫌ぁ・・・」

 

女は、絶望的な表情になり止まった。

 

「グルルル・・・」

 

目の前には、死が牙を剝いて唸っている。

 

「い、嫌・・・嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁ!」

 

どんなに叫んでも。

 

どんなに否定しても。

 

目の前の死からは、逃れられない。それが、女の運命だった。

 

「ガウ!!!」

 

「あ・・・・・・・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

 

体を食いちぎられ悲鳴にすらならない声を上げる女はそのまま、もの言わぬ肉片に変わり果てた。

 

 

 

夏の暑さも酷くなる8月の中盤。そんな中でも俺達警察は、休みもせずに働く。

ブルーシートに覆われたテントの中に入るとそこには無惨に殺された死体があった。

 

「うへ~酷いですね。また、これですか?」

 

「今月で8件目か・・・」

 

新入りを押しのけ害者を観察する。

 

「まるで、デケェ犬にでも食い殺されたみたいな傷だな・・・」

 

「ですね。一応、保健所や役所に該当する犬を調べて貰ってますけど」

 

「それで、見つかれば苦労はしねえよ」

 

俺は、ため息をつくと鑑識に後を任せテントを出る。外に大勢いる野次馬を押しのけ車に乗った。そして、手帳を開く。その中には、これまでの被害者の名前が書き込まれている。

 

「・・・これで、69件目・・・どうなってやがるんだよ」

 

 

 

 

 

そもそも、この事件の起こりは、約1年前だった。

最初の被害者は、40代男性だった。死因は、出血死。大型の犬らしきものに噛まれた様な後があり、血塗れの状態で裏路地に倒れていた所を発見された。

警察は、何処かの犬が脱走し被害者を喰い殺したと言う方向で捜査を開始したのだが、それから僅か、2日後、今度は、20代女性が同じ状態で死体で発見された。

そして、その後もそれが続きこれを連続殺人と断定し捜査が開始された。

だが、1年経っても今だに犯人への手がかりすら掴めていないのが実状だが。

 

 

 

 

俺は、手帳を閉じると新入りに指示をだす。

 

「新入り。ここへいけ」

 

「へ?病院?先輩のご友人でもいらしゃるんですか?」

 

「そういえば、お前には、言ってなかったか?実はな、この事件にはな生き残りがいるんだよ」

 

「・・・生き残りですか?聞いたことがないですけど」

 

「だろうよ。生きている事が分かれば、犯人から狙われかねんからな」

 

俺は、ため息をついて懐から一枚の写真を取り出す。そこには、一組の家族が写っていた。

この事件の6件の事件の被害者である家族。

 

「余世一家の一人娘。夢ちゃんだ」

 

全ての事件の鍵は、彼女が握っているに違いない。

新入りに車を操作させながら俺は、窓の外を眺めた。

 

 

 

 

 

病院の受け付けで面会希望の書類を提出しコーヒーでも飲みながら待つこと20分。

うんざりした顔の看護師が近付いてきた。

 

「加藤さん。また、貴方ですか?」

 

「はは、江頭さんは相変わらず綺麗なお肌で・・・」

 

「どうも・・・いい加減にして貰えますか?夢ちゃんは、ただでさえ精神的に厳しい状態になっているんですよ?もう、そっとしてあげてください」

 

「・・・私は、事件の真相を知りたいだけですよ。案内お願いします」

 

「・・・・・・」

 

まるで、汚物を見るように俺をもう一度見るが、残念ながら帰る気などさらさらない。

 

「・・・先輩・・・嫌われてますね・・・」

 

「うっせい」

 

エレベーターに乗り込み、江頭さんが8階のボタンを押す。上へと上がる起動音を聴きながら、売店でかったお菓子の袋を見る。

 

「一応分かっているとは、思いますけど、夢ちゃんにお菓子を上げる事は出来ませんからね」

 

「ち、なら、江頭さんから渡して下さいよ」

 

そうこうしている内に、8階につき、フロアに出る。そして1つの個室の前に案内された。部屋の前のプレートを確認すると、”余世 夢”との文字があった。

 

 

 

 

「・・・」

 

「邪魔するよ~」

 

病室のベットの上に一人の女の子が座っていた。そして、こちらを睨みつけている。

 

「やあ、久しぶりだね。元気だった?覚えてるかな?」

 

夢ちゃんは、首を少し縦に振った。どうやら覚えてくれていたらしい。

 

「3日に1回は来れば、嫌でも覚えるわよ・・・」

 

今の江頭さんのセリフは、無視の方向で。

 

「えっとな・・・今日は、ちょっと話を聞きに来んだけど・・・いいよね?」

 

「・・・やってない・・・」

 

「ん?」

 

「アタシは、やってない!どうして、誰も信じてくれないのよ!」

 

突然夢ちゃんは叫びだした。俺達は、直ぐに部屋を出ることになった。

 

「アタシじゃない・・・アタシじゃないのよ!」

 

そんな、叫びが、俺の耳に残っていた。

 

 

 

 

 あの日から、夢ちゃんの病室は、出入り禁止となった。聞いた話によると、再び状態がおかしくなったそうだ。

 

「畜生・・・いまの手掛かりは、あの子しかいねえんだぞ!」

 

あの日以来未だに犠牲者が増え続けているのだ。この1週間だけでも、既に3人殺されていた。このままでは、犠牲者ばかりが増えてしまう。

 

「とにかく何か手掛かりでも掴まねえと・・・。何か・・・」

 

俺は、パソコンと向かい合い画像ファイルを開く。映し出されるのは、この事件の被害者達。全員無惨に引き裂かれこと切れている。

 

「・・・・・・」

 

つい目を逸したくなるような写真を食い入る様に見つめる。

これまでの被害者は、全員共通点など無かった。つまりこれは、無差別殺人の可能性が高い。犯人は、犬を使い被害者を追い回し、そして、犬に食い殺させる。今分かっている事はそれぐらいしかない。

 

「だとすると・・・犯人は、愉快犯なのか?・・・いや・・・だったら・・・」

 

あそこまで、無惨に殺すのか?この事件の6件目の被害者である余世夫婦の死体は、無惨にも原型を止めていない程ズタズタにされていた。夢ちゃんは、その中に埋まっている形で発見された。一体誰が彼女を埋めたのか、それは未だに分かっていない。

 

「そういえば、この事件は、他と違っていたな・・・」

 

他の事件は、外で行われていたが、この事件だけは、家の中で行われていた。

 

「ふむ・・・」

 

この事件には、何かとんでもない“悪意”が感じられる。

 

「とにかく、この事件の鍵は、確実に夢ちゃんにある。何とかしなくちゃな」

 

“悪意”に先を越される前に。その時俺の携帯電話が無機質に鳴った。

 

「ん?」

 

俺は、それを取る。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「それは、本当か?」

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

電話の相手は、ある事を言うとさっさと電話を切った。

 

 

 

 

警察署から病院までは、車で約1時間程かかる。俺は、クーラーをガンガンかけながら熱い夜の町に車を走らせる。

 

「流石にこの時間は、不味いかな・・・でも良いか」

 

そう独り言を言いながら車を走らせる。目指すべき病院を目指して。



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番外編 とある悪意のナイトメア(後)

 

 

「『世の中にはさ、2種類の人間しかいないんだとボクは、思うんだよ』」

 

そいつは、そう言うと私の両親を踏みつけた。既にグチャグチャになっていた両親は、軽い水音しか出さなかったが。

 

「『さて、じゃ問題だ。キミは、どっち側かな?』」

 

「『ボクと同じかな?それとも違うのかな?』」

 

「『まあ、良いや。』」

 

「『答えは、今度聞くからさ』」

 

 

 

 

俺が、病院に到着すると、院内は、真っ赤に染まっていた。一体何があったなんて分かる訳もない。

 

「なんだ、こりゃ・・・。」

 

俺は、拳銃を抜き中に入る。既に入口の自動ドアは、開きぱなしになっており、まるで化物の口の中に入っていく感覚がした。

 

「・・・・・・。」

 

2日に1回は、お世話になっている受け付けカウンターに進むとそこも真っ赤に染まっていた。そして、その近くには、何かの塊が転がっている。

 

「・・・・・・」

 

俺の中の感覚がそれが何かを伝えた。

 

「死体か・・・」

 

殆ど人間としての原型を止めていなかったが、香る内臓の臭いと刑事としての感覚からそう判断した。被害者は、女性。死因は、何かに食い殺された用だ。

 

「ッ!・・・・・・・・・夢ちゃん!」

 

俺は、急いで、エレベーターに向かうその間にも同じような死体が、転がっていた。間違いない。犯人が、ここに来ているんだ。エレベーターに到着しボタンを連打するが・・・。

 

「クソ!」

 

配線が切られているのか、全く反応しなかった。

 

「階段を・・・」

 

俺は、急いで非常用の階段を目指す。真っ赤な水溜まりを踏みながら非常階段の前にやって来ると少し笑いたくなる光景がそこには、あった。

 

「グルグル・・・」

 

「ガア!」

 

テレビでしか見たことの無いような巨大な黒い犬が、何匹もそこにはいた。口からは、真っ赤な何かを滴らせ何かを貪っている。

 

「うっ!!!」

 

その何かを見て一気に吐き気がこみ上げて来た。

 

『また、アナタですか!いい加減にしてください!』

 

『全く最近の刑事さんは・・・』

 

そんな言葉を毎回かけて来た江頭さんは、物言わぬ肉塊に成り果てていた。彼女の近くでは、小さな肉塊が転がっていることから恐らく最後まで子供を守っていたのだろう。全く彼女らしい最期だ。

 

「畜生!くたばれ!!!!」

 

犬に向け5発の銃弾を浴びせる。

 

「キャン・・・」

 

「ガ・・・」

 

犬は、頭を砕かれ動かなくなった。俺は、死んでいる事を確認すると新しく銃に弾を込め階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 

結果的に言うとあの犬は、まだまだいた。あの銃の音に感付いたのか集まってきた犬を8階に到着するまでに7匹も仕留めた。全く間に合わなかったらどうするんだ?

 

「待ってろよ。」

 

俺は、ゆっくりとした足取りで夢ちゃんの病室を目指す。拳銃の中の弾は、後1発しか無いからだ。

 

「ゲームじゃあるめえし・・・まったく・・・」

 

残念ながら、現実にはそこら辺の箱に弾は入っていない。

8階も真っ赤に染まっておりナースステーションや病室には、食い殺された亡骸が転がっていた。恐らく犯人は、この病院の配線を切り外部との連絡手段を断ち切り出入口を封鎖した後大量の犬を送り込んだのだろう。

 

「どんな手際のよさだよ」

 

外部に一切気付かれずそんな無茶苦茶な事が出来る。

 

「ん?」

 

そんな事を考えていると、夢ちゃんの病室の前にたどり着いた。俺は、拳銃を構えゆっくりドアを開いた。

 

「ッ!!」

 

「夢ちゃん!良かった無事だった」

 

病室の中のベッドに隠れる様にしていた夢ちゃんを見つけた。俺は、安心するように声をかけようと近付く。

 

「大丈夫だよ・・・もう安心していい」

 

「駄目・・・来ちゃ駄目・・・」

 

しかし夢ちゃんは、何かに怯える様にそう言った。

 

「?」

 

そんな時だった。突然背中に熱が走ったのは。

 

「ガッ・・・何だ?」

 

身体に力が入らず、逆に抜けてゆく。そして、振り向くと・・・。

 

「まさか・・・お前が・・・」

 

犯人は、ニタリと笑うと言った。

 

「そうですよ“先輩”」

 

新入りは、そう言うと更に銃弾を打ち込んだ。どうやらサイレンサーでもついているのか、音は全く聞こえない。

 

「どうしてだ・・・どうしてお前が!」

 

「どうして?決まっているじゃないですか?可愛い犬達の餌の時間ですからですよ?」

 

「犬?」

 

新入りは、軽く笑うと狂った様に言う。

 

「知ってます?古代では、犬は人肉を喰らう時代があったそうなんですよ?人の身体って実は、栄養価が高いんです。戦時中でも犬は人肉を喰らって生きていたぐらいですしね。古文などでもよくあるでしょう?」

 

「・・・狂ってるぞお前・・・」

 

「いいえ、僕は狂っていませんよ?だってそうじゃないですか。」

 

そう言うと新入りは、ぐにゃりと表情を歪めた。

 

「だって。僕は“人間”なんですよ?欲望に従うしかない!そんな正直な生き物なんですよ?だったら、自分のワンちゃんに良い物を食べさせたい!そう思うのも当然じゃ無いですか!アハハ!!」

 

笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い。

狂った様な笑い声が響く。

 

「と言う事は、これまでの事件も・・・。」

 

「さぁ?これからエサになる動物に話すことなんてないですよ。」

 

新入りは、そう言って何かを吹いた。すると周りにいた犬たちは、一斉に俺へと群がって来た。

 

「う・・・うわぁぁぁ!!!」

 

肉を食い千ぎられる感覚を感じながら“俺”は死んだ。

 

 

 

 

きっかけは、とある占い師に出会ったことだった。

 

その占い師は、出会った瞬間俺を虜とした。

 

絶対的何かがそこには、あった。

 

「『好きな事をすれば良いよ。』『君は、人間なんだから、悪意に逆らうなんて無理だよ。』」

 

人は人を殺す事をよく考えるが、実際に行うものは少ない。

人を喰う事を考える事は少ないが、緊急時には、喰らう。そこに悪意は無い。

 

矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾。

そんな、事の答えをあの人は、教えてくれた。

 

単純だったよ。僕は、犬が好きだ。人が嫌いだ。なら・・・犬の為に人を狩ろう。栄養満点の嫌な人を。

 

 

 

 

肉が喰らわれる音を聞きながら僕は、今回の事件の生き残りである女の子を笑って見据えた。女の子は、怯えもせずただただ僕を見ていた。

 

「・・・。」

 

「アハハ!!やっぱりあの人の言った通りだったね。わざわざ最期まで生かしておいてあげたのにその目には、希望すら映らないみたいだ。」

 

「・・・どうして・・・どうしてそんな簡単に人を殺せるの?」

 

「ん?そんなの決まってるだろう?人なんて僕にとっては、エサ以外の何者でも無いからだよ。君は、自分の食べる肉や魚に同情でもするのかい?しないよね。僕にとって人間なんてそんなもんなんだよ。」

 

子供は、アリを殺す。虫を殺す。そこに罪悪感など無い。只の興味だけがある。

 

大人は、害虫を殺す。動物を殺す。そこに罪悪感など無い。目的だけがある。

 

僕は、人を殺す。罪悪感なんて無い。あるのは満足感だけだ。

 

「そう・・・。」

 

「一応は、最初は、吐いたよ?同格だと思っていた同類を食わせたからね。でももう慣れた。所詮は死んだら只の肉でしか無いからね。そこの先輩みたいにね。」

 

未だに喰われている人間に目を向ける。相当旨いのか犬たちはまだ離れない。

 

「さて、無駄話ももここまでにしようかな。一応僕は、逃げるからね。」

 

「逃げられるの・・・?」

 

「アハハ!!!逃げるさ。証拠は、残していないよ。一応は僕は用心深いからね。」

 

後は、ワンちゃんに夢ちゃんを食わせるだけだ。

 

「さて、フィナーレと行こうか?君を食べる為に死んでいった人達と仲良くね。」

 

「・・・ヒトじゃない・・・そうだよね・・・ワタシは・・・アタシは・・・」

 

何か言っているが、僕は、彼女を食わせる為に犬笛を吹く。

 

「グルル・・・。」

 

「グルル・・・。」

 

その音に反応して、2匹の犬がやって来た。他の犬はまだ先輩を喰っている。全くしょうがない奴らだ。

 

「さあ、食べてもいいよ。」

 

「「グルガァ!!!」」

 

犬は、同時に飛び掛った。

 

 

 

 

 

僕に。

 

「へ?」

 

肉が食い千ぎられる。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「アッハハハ!!!」

 

痛みの中夢ちゃんを見ると夢ちゃんは笑っていた。その笑顔は、まだ、小学校入学前の子供の様に愛らしいものだった。そして、どこか残酷な子供のものだった。

 

「そうだよね!アタシと他人は違うんだ!アハハ!馬鹿みたいそんな事で5年も!5年間もアイツ等から気持ち悪がられたり避けられたりしていたなんて!その事で泣いたり・・・アハ!」

 

狂った笑い。

 

「・・・もうコロシテイイヨ?”ダークネスハウンド”。」

 

「ガウ!!!」

 

そんな声と共に黒い犬が僕の頭に食らいついた。ミリミリと音を立てて頭蓋が砕ける音が聴こえた。

 

 

 

 

殺した・・・初めて人を・・・。

 

「アハハ・・・なんだ。人って簡単に死ぬじゃん・・・」

 

前の人生で出来なかった事。どんなに望んでも行え無かった事が簡単に出来る。

 

「アハハ・・・最高じゃない・・・復讐してやる・・・こんな人生にした。アイツを・・・幸せそうな奴らを・・・。」

 

と、ここで迷いが生まれた。果たして自分にこれからも人を殺せる覚悟があるのか?

 

「このゲスは、殺されるべき相手だった・・・。」

 

果たして、私は、何も罪のない人を・・・。

 

「『へえー。』『キミって殺す相手を罪の重さで決めるんだ?』」

 

「!!」

 

そんな時だった。そんな声が私の耳に届いてきた。

 

「『いやぁー見てたけどさ、結構グロイ殺し方だよね~』『頭を噛み砕くなんてさ』」

 

声の主は、大量の犬の中から現れた。

 

「なに・・・これ・・・」

 

その人物の体の肉は、削げ落ち骨が露出しており首は有り得ない方向へ曲がっていた。いや・・・皮一枚で繋がっていると言った方が正しい。

 

「『うん。』『人を食べる犬って美味しいね♪』」

 

ムシャムシャと“犬”を食べながら私を見ている。首は後ろだけど見ている。

 

「『さて、キミの“悪意”は見せてもらったけどさ』『足りないよね~点数的には80点って所かな?』『うん!追試にしては、良い方だけどね』」

 

「追試?何を・・・」

 

「『アレ?覚えていないのかな?』『ボクだよ!』」

 

ぐにゃりとその人物は、姿が変わる。アタシのよく見知った刑事さんから・・・アタシの忘れた事の無い“アイツ”へ。

 

「うわあああ!!!!!」

 

グチャグチャになった両親。血塗の私・・・そして、それを引き起こした張本人。

 

 

 

 

『世の中にはさ、2種類の人間しかいないんだとボクは、思うんだよ』

 

『さて、じゃ問題だ。キミは、どっち側かな?』

 

『ボクと同じかな?それとも違うのかな?』

 

『まあ、良いや。』

 

『答えは、今度聞くからさ』

 

 

 

 

「『あ、思い出した?久し振りだね。で、結局キミは、どっちなのかな?』『ボクが思うにキミは・・・』」

 

「うわああ!!!“マッド・ブッチャー”“ダークネスハウンド”!!!」

 

アタシの今持てる全ての悪夢をぶつけてやる!!

 

「『まだ、補習かな?』」

 

 

 

 

 

「『全く。酷いよね』『行き成り襲い掛かってくるんだからさ』」

 

「『だからさ、今キミがそんなになっているのは、ボクのせいじゃ無いよ』」

 

「『だから・・・』『ボクは、悪くない!』」

 

「『ボクは紙より弱いんだよ?』」

 

「だと、思うのなら、少しは、自重して下さい」

 

血塗の病院の談話室にて、2人の人物が話していた。両方ともまだ、10にも満たない子供だった。

 

「全く。今回は、長い遊びでしたね。殺人鬼まで作り上げて遊ぶなんて・・・」

 

「『アハハ』『良いじゃん~楽しかったしね』」

 

「こちらは、大変でしたよ。あの男を見つけたり、刑事を分らない様に葬ったり」

 

「『情報を操作したり』『病院の監視カメラや警報システムを止めたり?』『流石の手際だと思ったよ』」

 

血塗の子供の笑いに無表情な子供は、ため息をつくと立ち上がった。

 

「さて、もう行きましょうか?この町にアナタの望む“悪意”は、有りませんから」

 

「『そうだね』『行こうか!』」

 

血塗の子供は、嬉しそうに窓に駆け寄る。そして、そのままガラスへと走る。

 

「『アハハ!!』

 

ガラスが、砕ける音が辺りに響く。ここは8階である。

 

「・・・全く・・・アナタも厄介な方に目を付けられましたね?」

 

無表情の少女は、部屋の隅に転がっていた肉塊に声をかける。その肉塊は何かの音を発しながら少しずつ動いていた。

 

「全身を串刺しにされても回復する・・・私も悪夢を使いますが、アナタ程ではないですね・・・。」

 

少女は、肉塊にカーテンをかけた。

 

「余世さんでしたか?“悪意”が有る限りまたお会い出来る機会があるでしょう。その時は、アナタの“悪意”がどの程度成長しているのか楽しみです。」

 

そして、少女も窓へと向かう・・・ハズもなく普通にドアから出て行く。

 

「“悪意”と“罪”は、無限に成長します。“無かった事”には、なりませんよ?どんな“転生者”の力でもね」

 

ゆっくりと音を立ててドアが閉められた。その音は、悪夢の少女の未来を閉ざす音のようだった。

 

 

 

 

 

 

「許さない・・・コロシテヤル・・・ミンナ・・・。」

 

アタシは、余世夢。只の殺人鬼。

 

これから、何人でもコロシテヤル・・・そして必ず“アイツ”に合う。

 

 

この事件より1年と少し後。殺人鬼は、他の転生者とぶつかり“自己”を書き換えられる事となる。それと同時にこの事件の真相は一時封印される。“悪意”この意味を理解するのは、いつの事になるのかそれは、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

「おや?もういいのですかな?」

 

「ホッホ・・・そうでございますか。では、出口は、そちらで御座います」

 

「ん?また、来ても良いかと?ホッホホ。私めも部屋に再び入って来れたらよいですよ。では、またいつか。」



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VS ロリコン天使編
どうでもいい話


次の章の序論です。どうぞ!!


「クックックック・・・遂に完成した・・・」

 

薄暗い部屋の中その人物は呟いた。

 

「苦節8年と6ヶ月・・・遂に!遂に!完成した!」

 

周りには多くの薬品が転がっており、怪しげな煙と異臭を放っていたが、この人物は、一切気にしない。

 

「これで、僕の長年の夢が現実になるわけだ・・・。本当に長かった」

 

人物は、何かに思いを馳せる様に上を見上げた。そして気付く。

 

「・・・ヤべ。」

 

薬品が上げていた煙に火災装置が反応し天上から豪雨の如くスプリンクラーが作動した。

 

「冷たっ!・・・おっと!」

 

人物が声を上げた瞬間、この研究所のセキュリティが作動し侵入者を知らせるブザーが鳴り響いた。

 

「しまった!こりゃあ逃げなきゃ!」

 

人物は、慌ててドアに向かうが、そこには、何時からいたのか、武装したお兄さん方が沢山いた。まさに絶体絶命の大ピンチである。

 

「動くな!」

 

お兄さんの一人が手に持ったガトリングガンを構えながら言った。それに対し人物は、冷や汗を流していた。

 

「なんで、そんなもん持てるんだよ!人間か?本当に?」

 

お兄さん方が持っていたガトリングガンは、ゆうに30キロはっきり言って、武装ヘリに装着する物である。たまに映画などで、撃っているシーンもあるが、現実に出来る可能性は0だ。反動で脱球確定である。なので、人物の突っ込みは正しかったりする。

 

「掃射!」

 

「早っ!なんで!」

 

人物の言葉など、なんのその。数千発の弾が撃ち込まれる。

 

「止め!」

 

普通の人間なら、跡形もなく消し飛ばされるだろう。・・・しかし。

 

「危な・・・何すんのさ!」

 

人物は、無事だった。なぜかって?そりや・・・そう言う事だからさ。

 

 

 

 

 

「ふぅ。」

 

人物がそう言って、息を付いたのは、あれから15分後の事だった。その後ろには、赤黒い何かが山を作っていた。

 

「分れよ?お前らが悪いんだぜ」

 

実際は不法侵入した、アナタが悪いが、そんな事は気にせず、人物は、立ち上がった。そして時計を見る。

 

「・・・ヤバ!早く帰らねえと“ロリタマ”の時間に間にあわない!」

 

そして、赤黒い山をみる。

 

「・・・仕方ないか。オプションサービスだ。」

 

そして、自分の武器をクルクル回し呪文を唱える。

 

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー」

 

瞬間、研究所内は、光に包まれた。

 

 

 

 

 

とある研究所にて侵入者があった。そこで戦闘が行われたが、死者数は、0だったそうだ。また、侵入者は、研究室にて、何かを作っていた形跡があったが、それが何なのかは、不明であった。

 

 

 

 

 

「さーてと、これをどこで試すか?」

 

人物は、薬品の入ったビンを見ながらカレンダーを見る。

 

「よし!決めた。ここでいいっか。」

 

カレンダーには、赤丸でとある文字が書き込まれていた。

 

 

 

 

 

「海鳴」と。



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第24話 銀色の襲来者

新章開始!


「部活に行くわよ!」

 

「は?」

 

朝の悪夢を振り払う為に惰眠を貪っていた所、放課後突然Ms,日野が、そんな事を言った。

 

「何言っての?俺は、部活になんて入ってねえぞ?」

 

「アンタねえ、随分前に先生が言っていた事忘れたの?」

 

先生が・・・?

 

「夜の課外授業?」

 

「・・・4年生になったら、一時的に部活に入らなくちゃいけない。って言ってたでしょうが」

 

ああ、そう言えば、そんな事も言ってたっけ?すっかり忘れてたわ。

 

「取り合いず、皆アンタが休みの間に部活を決めちゃったわよ?」

 

「・・・・・・誰の所為だ。」

 

「夢ちゃんよ!」

 

「少しは誤魔化せよ!」

 

駄目だ、この人は本当に駄目だ。きっと敵も多いぞ。

 

「と、言う訳でアンタは、本日より我が文芸部に所属よ!」

 

「はいはい・・・って!なんでもう決まってるんだよ!」

 

「部員は、今の所6人なのよね。」

 

駄目だ、もう話が先に進んでる。この人には、最早何を言っても無駄だろう。自信がある。チョイマテ・・・

 

「・・・我が部?」

 

「ん?ああ、文芸部には、部員が一人もいなかったのよ。だから、私が乗っ取ったって訳」

 

学校側!何故早く潰さなかった!悪魔に乗っ取られてるぞ?日野さんに任せたらどうなるのか分かってるのか?

そう心で叫ぶが、言葉にする勇気は無かった。

 

「よーし、早速シュパーツ!」

 

ズルズルと引きずられながら、俺は考えた。早く辞める方法を。

 

 

 

 

日野さんに連れられてやって来る事約6分。場所は、学校の3階にある図書室の隣の小さな空き室。そこが、文芸部の部室だった。

何のための教室なのかと思っていたが、まさか部室だったとはな。

 

「まあ、とは言え今日来てるのは、一人なんだけどね。」

 

「一人?時田さんか?」

 

「うんん、鈴音ちゃんは、先に帰ったわよ?」

 

「は?」

 

こいつは、前回の教訓を生かしていないのだろうか?

「なんでも、この間何かあったらしくてね。苛めていた主犯格2人が、鈴音ちゃんに土下座して許しを来いて来たのよ。それからは嘘の様に周りの見る目が変わったわ。」

 

「・・・・・・。」

 

ああ、あの時のバカップルか。どうやらあの時割り込んでいて正解だったみたいだ。・・・1組にはバレてねえだろうな?

 

「じゃあ、誰だ?こんな物好きな部活に入る命知らずは?」

 

「ほう・・・。」

 

「このような、素敵な部活動に入った、聡明な方はどのようなお人で御座いましょうか?」

 

すると、日野さんはニタリと不気味に笑った。

 

「フフフ・・・よくぞ聞いてくれたわね・・・。」

 

「部長。失礼しました。コレ安物ですが。」

 

俺は、売店のチョコレート(10円)を渡し去りゆく。

 

「待ちなさい。この部活は、アンタの為でもあるのよ?」

 

どう言う事だろうか?俺がそう聞く前に日野さんは、語り出した。

 

「夢ちゃんの事で、超能力者が、どれだけ孤独だったかが、分かったの。あの子だって、友達さえいれば、ああはならなかったんじゃないかって。アンタも友達がいないでしょう?だから、偽善と思われても仕方が無いけど、せめて友達の一人や二人作って欲しいのよ。」

 

日野さんは、俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。どうやら俺と余世の人生を似たようなものだと思っているらしい。

 

「えっと・・・。」

 

無茶苦茶違うが・・・気持ちはチョット嬉しい。この1年間俺はずっと、”高町なのは”を避けるために目立たず、友達も作らなかった。お陰で、学校のグループ作りでは、いつも余る存在だ。・・・もう1年経った。・・・もう良いのではないか?友達を・・・仲間を作ったって・・・。

 

「日野さん。」

 

「なによ?」

 

「ありがとう。」

 

「・・・うん。でも作れるのかはアンタ次第よ?安心しなさい。この中にいるのは、アンタが休みの間に入ってきた、転校生だから。ハンディは無いはずよ。」

 

「転校生?いたっけ?」

 

「アンタは、今日は寝てたからね。気付かなかったのよ。」

 

そうだったな。そう言えば、机が増えていた気がする。俺は、そう思うと気分一転。文芸部の部室のドアを開いた。

 

「失礼しマース!」

 

第一印象が大事だ。そう思い笑顔で入ったのだが、その瞬間全身がフリーズした。

部室には、一人の女の子がいた。

髪は、透き通る様な銀色。よく学校が許したものだ。

カワイイと言うより大人びている美人と言う部類だろう。

 

「やあ!リンちゃん、お待たせ!南、この子が転校生の”八神・リインフォース”ちゃん!1組の八神兄妹の親戚で・・・。」

 

最早、日野さんの言葉は、耳には入って来なかった。

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

お互い、どうやら何をするのか分かっているようだ。話が早い。

 

「南?どうしたの?あ、まさか!リンちゃんに見とれ――」

 

瞬間、無数の螺子と幾つものバリアのような壁が発生した。

 

 

 

 

こうして、俺は、あの時の原作キャラと再開を果たしたのだった。

 




ついに原作キャラ登場!続きは次の話で!!


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第25話 魔導師登場!

原作キャラ襲来!


「『やあ!キミがリンちゃんダネ!』『ボクは、南一夜。って言うんだ。ヨロシクネ!』」

 

「… … …」

 

「何やってんのよ!このバカが!!!」

 

「ガッツ!」

 

原作キャラ似の女の子を磔にして挨拶をしていたら、日野さんに殴られた。

でも仕方ないじゃないか!俺の体は、考えるより先に動くんだから。

 

「リンちゃん大丈夫?ああもう!どうして、こんなに深く刺すのよ!」

 

太い螺子が、身体に刺さっている時点で大丈夫じゃないと思うけど?…まあ、日野さんにツッコムだけ無駄か。

 

「日野さん。そいつに近付いちゃ駄目だ。色々問題になる」

 

「…アンタのこの行動が問題よ」

 

ごもっともで。

 

「とにかく、この部屋を元に戻して、リンちゃんを開放しなさい」

 

「へいへい…そいつは後回しなのか?」

 

「早く!」

 

やはり、この娘分らない。

 

 

 

 

「では、改めて。私は、八神リインフォースだ」

 

「俺は、南一夜だ」

 

「…なんで、南はともかく、リンちゃんまで普通に会話してんのよ…」

 

「ナギサから、部員の名を聞いた時から、こうなるのではないかとは予想していたからな」

 

「成る程。だから、あの光の壁が出てきたのか」

 

「ああ。だが、無駄だった様だな」

 

「当然」

 

まあ、俺には”幻想殺し”があるしな。

取り合いず、元に戻した部室の椅子にかけて、置いてあった菓子を摘む。すると、日野さんが、言った。

 

「そうよ!それ!さっきも思ったけど、アレは何なの?もしかしてアンタも超能力者?」

 

「あ…それは…」

 

原作キャラ。リインフォース。略してリンは、困った様な表情になった。どうやら、どう説明するか悩んでいるらしい。

アレか?一般人には、話せないとかか?…しゃあない。

 

「ソイツは、超能力者じゃないぞ。魔法使いと言う奴だ」

 

「正確には、魔導師だがな」

 

良いのか?そこ補正しても?

 

「魔導師?なにそれ?」

 

「自分の固有のチカラを自分で使えるのが、”超能力者”」

 

「ならば、それを道具で補い強力なチカラを使うのが、”魔導師”と言ったところだ」

 

どうやら、このリンと言う魔導師は、自分を追い込むのが好きなようだ。すると、日野さんが興味津々な目を向けてきた。

ヤバイ、下手に動けなくなった。

 

「へえー超能力者以外にもそんなのがいるのね。この世界は不思議が一杯ね」

 

”超能力者”も”魔導師”もそんなもの扱いですか。流石です。日野様。

 

「ところで、アンタらどういう関係?なんで、南が先制攻撃を加えてんの?」

 

随分軽口風だが、言葉の節々に色々と探る様な雰囲気を感じる。恐らく余世の事もあり日野さんなりに心配してくれているのだろう。

有り難い。…しかし、どうしたものか。どういう関係?うんー…別に特には…強いて言うなら、一度殺そうとしただけだしな…。

初恋の子を殺されただけだし…ふむ。

 

「……ゴメン…答えにくいなら別に良いわよ?」

 

いかん!ここで、言わなければ、恐らくあのジジイが動くだろう。となれば、不要な秘密まで日の目を見る気がする。

 

「あ!別にたいした関係じゃねえぞ?ただ、初恋だった子が、ソイツに殺されて、俺がソイツを餐肉にしかけただけだから!な!リン!」

 

「ああ、その通りだ。本当に大した関係ではない」

 

「イヤイヤ!なんかスゴイことさらりと言わなかった?殺された?餐肉?どう考えてもまともな関係とは思えないんですけど!」

 

うん。自分で言うのもなんだが…その通りです。

 

「…でもまあ、夢ちゃんの事もあるし…気にするだけ無駄ね」

 

本当にこの人の器は桁違いだ。ホレ見ろ、リンも唖然としていらしゃる。

 

「でもまあ、仲良くね。これからは同じ部のメンバーなんだから。それに喧嘩しない!部屋がそのたびに壊れるなんて、冗談じゃないわ。良いわね?南!」

 

「ハイ!」

 

「良いわね?リンちゃん!」

 

「あ、ああ」

 

”超能力者””魔導師”。異端者2人をも黙らせ従わせる日野さんが、実は一番の異端なんじゃないかと思う今日この頃である。

 

「ほら、握手!握手!仲直りしなさい」

 

互いの手を取り、日野さんは強引に握らせる。俺は、どうしようか頭を悩ませる。このままだと原作キャラと同じ部活になっちまう。俺の回避生活は?この2年間は?…いや待て、まだ手はある。

 

「日野さん、俺やっぱり」

 

「はい!却下!じゃあ、この部の説明を始めるわよ?」

 

俺は、原作キャラ以上に厄介な人物に見つかった事を今更ながら後悔した。

 




次は番外編です。


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番外編 学校に吹く幸福の風

続けて投稿!番外編始まります。


「ズリー私も学校に行きてぇ!」

 

主はやてが、小学校に通う事が決まった日ヴィータが突然そんな事を言い出した。

 

「私も、はやてや翼兄ちゃんと同じ学校に行く!」

 

まぁ、気持ちは分からなくもないが、それは無理だろう。

 

「ヴィータ。あまり翼達を困らせるな。我々はこれまで通り陰から主を守護していれば良いではないか。」

 

「ああ。そうだぞ。」

 

私にシグナムも賛同してくれてヴィータを諦めさせようとするが。

 

「それ、面白そうやな!」

 

「「へ?」」

 

主はやては、ポンと手を打って悪そうな顔をした。

 

「兄ちゃん。何とかならんかな?」

 

その問いに、主はやての兄であり私達の恩人の一人である八神翼は腕を組んで言う。

 

「うーん…寿也に頼めば何とかなるとはおもうけど…。」

 

「じゃあ、さそっく電話や!ヴィータ。受話器を持ってきて。」

 

「おう!」

 

眼をキラキラさせて、ヴィータは受話器を取りに行った。

 

「じゃあ、早速3人分用意せな。」

 

「主。1人分の間違いでは?」

 

「うんん。3人分やで。ヴィータにシグナムにリーン。」

 

「「はい?」」

 

「シャマルとザフィーラは今まで通りでとして、皆で行こう!」

 

「しかし、ヴィータならともかく我々では、見た目とかが問題なのでは?」

 

「フフフ…その点は寿也君に頼めば問題無い。ダメなら、兄ちゃんも居るし晴樹君も居る。」

 

「しかし…。」

 

「ああ、楽しみやな…学校。」

 

こうして、我々の説得は主に届く事無く消えて行った。

 

 

 

 

あれから、しばらく。私達は、主と同じ聖杯小学校へ通うことになった。体のプログラムを少々書き換え、主と同年代の外見になる。これで大丈夫のはずだが…。大丈夫だよな?

 

「ウガーなんで、はやて達と同じクラスじゃねえんだよ!」

 

私の隣では、調節の心配無用な騎士の一人がそう愚痴をこぼしていた。

 

「ヴィータ。仕方無い、主のクラスは、テスタロッサや主の編入が決まっていたのだ。我々が入れる可能性は低かったのだ。」

 

「うう…でも…。」

 

「シグナムが同じクラスになったのだ、我々の目的は達成出来ると言うものだ。」

 

目的。それは、主はやてに何かあったとき、直ぐに駆けつけると言うものだ。私とシグナムは、これで無理矢理納得したものだ。

そう、しみじみ思っていると、大人1人と子供1人が、やって来た。

 

「えっと、八神ヴィータさんと八神リィンフォースさん?」

 

「はい。」

 

「俺は、2組の担任の甲田哲二だ。で、この子は、今日一緒にクラスに入る後藤君だ。」

 

「後藤聖一だ。気軽にゴッチャンとでも呼んでくれ。」

 

後藤は、そう言うと手を差出してきた。

 

「よろしく。」

 

「……フフ……。」

 

後藤は、何が可笑しいのか、小さく笑った。

 

「じゃあ、教室に案内するから付いてきて。」

 

私達は、甲田先生の後を付いて行った。

 

「「おおおおおおお!!!」」

 

2組の隣の1組から大歓声が上がっていた。何があったのだろうか?そう思いながら、先生の合図で教室に入る。

教室の中には約40名近くの人がいた。ここまで、多くに注目されたのは初めてなので、少々緊張する。

 

「えー前々から言っていたと思うが、今日からこのクラスの仲間になる。じゃあ、挨拶を。」

 

先生に促されるまま私は言う。

 

「えっと…八神リインフォースです。よろしくお願いします。」

 

こんな所だろうか?その後も同じような挨拶が続き、最後に先生が、私達の偽造情報を口にする。主と私達が親戚と言うものである。しかし、そんな中、後藤と言う少年は。

 

「僕は、後藤聖一と言います!好きなものは、幼女!!よろしくな!」

 

と我々以上に目立っていた。目が限りなく本気を物語っており皆ドンビキだった。

 

「え…個性豊かな子達だが、皆仲良くな。」

 

後藤と同格なのか?私達は。

 

「「はーい!」」

 

主に私とヴィータに向けて、クラスの声が集まっていた。

 

 

 

 

噂には聴いていたが、転校生の質問攻めは厄介だった。ヴィータも随分苦労していた様で、昼休みは走って、主達との待ち合わせの場所である屋上へ行った。私も後を追うとすると。

 

「ちょっと、八神さんだっけ?良いかしら。」

 

突然知らない子供から話しかけられた。

 

「あ、ごめん。私は、日野渚。」

 

「あ、ああ。なんだ?」

 

しまった。主からは、もう少し子供の様に振舞えと言われていたのに…いつもの喋り方で話してしまった。

 

「えっと…何かな?」

 

「あ、良いわよ?素で喋っても。私は別に気にしてないし。」

 

「…そうか。」

 

「えっとね。大した要件じゃ無いんだけどね。先生が、八神さん達の入る部活の既望を聞いてきてくれって頼まれたからさ。」

 

部活?…ああ、そういえば、主も何か言っていたな。

 

「済まない。まだ、決めていないのだ。」

 

「そっか、まぁ来たばっかりだしね。色々クラスの人に聞くと良いわよ。因みに私は、文芸部。」

 

我々の入る部活は、主はやてと同じになると思うが、一応聞いておく。下手にあしらえば、主に余波が及ぶかも知れないからだ。

 

「今の所。部員は、私と時田さん。あと、南だけね。」

 

「へ?南?」

 

今、一瞬かつて、私の目を醒さしてくれた、超能力者の事を思い出した。

 

「南一夜。色々あって、今は休んでるわ。来週くらいには、登校すると思うけど。知り合い?」

 

「あ…いや…。」

 

名前まで、同じ…偶然か?闇のカケラに恋をして、それを私によって砕かれた。哀しい少年。そして、カケラの死後も願いを聞き届けた、律儀な者。…確かに歳は主達と同じ位だった。

 

「そいつは…。」

 

不思議な力を使うのか?とバカな事を聞こうとした時。

 

「文芸部!僕も入れてくれ!」

 

後藤が、割り込んできた。しかも、頭から。

 

「却下。」

 

瞬殺!?

 

「何故!」

 

「だってね…。」

 

「頼むって、運動系の部活は全て断られたんだ!ただ、幼女が動いているのを見て愛でたいと言っただけなのに!」

 

世の中には、変態と言うカテゴリーがあると言うが、この男がその見本なのだろう。ある意味初めて見た。

 

「アンタを入れたら、身の危険を感じるわ。」

 

「安心しろ。俺が好きなのは、汚れなき純粋な幼女だけだ。アンタや転校生その1の様な歳離れをした奴には興味がないから。」

 

何だろうか?今、一瞬イラっときた。

 

「…OK入れてやるわ……。」

 

何だうか?今、猛烈に寒い。

 

「お!本当か!」

 

「…この一撃に耐えたらねぇ!!!!!」

 

日野の振り向き様の右ストレートとそれとほぼ同時に放たれた、キックの一撃を受け後藤は…飛んだ。

 

「…!?」

 

…何だ?今の違和感は?

 

「イチチ…耐え切ったぜ?」

 

「チィ…OKようこそ文芸部へ。問題起こしたら、消すからね。」

 

「ああ。」

 

…気の…せいか?

 

「八神さん…あーもう!メンドイ!」

 

と、突然日野が、叫んだ。

 

「同じ苗字が5人って、面倒よ!今度から、リインフォース…長い。リンちゃんで良いかしら?」

「あ、ああ問題無い。」

 

主からもそう呼ばれるし…それにたまに『なんで、こんな長い名前にしたんやろ?』と言っていたからな。

 

「そう。じゃあ、リンちゃん。気が向いたら文芸部に来てね。」

 

「ああ。そうする。」

 

「ヴィータちゃんも連れてきてね?」

 

「黙りなさい。変出者。」

 

「ロリコンと呼んでほしい。」

 

「黙れ!」

 

明らかにオーバーキルなダメージを後藤に与え、日野は、死体を引きずってどこかへ行った。

 

「…文芸部…それに…南一夜か…。」

 

興味が無いと言えば嘘になる。…行って見るか…文芸部へ少なくとも、”南一夜”の真相を確かめるために。

 

 

 

こうして、闇の化身は、自らの意思で初めて動く。この先の事など考えずに。ただ、一つの真相を確かめる為に。



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第26話 人外集団

部活始動!


あの衝撃の再開から1日が経過した。

 

「さあ、もう諦めなさい!さっさと行くわよ?」

 

「イヤだーい!俺は、帰って寝るんだ!」

 

こんな事で原作キャラと関わるなんぞ冗談じゃ無い!下手をすると死亡フラグの可能性すらある。

 

「ほら、ワガママ言わないの」

 

「どちらかと言えば、無茶を言うのは、日野さんじゃん!」

 

そんな俺の抵抗を力でねじ伏せる日野さん。

 

「くそ…仕方ねえか…”大嘘――”」

 

その時、首筋に何かが当てられた。ヒンヤリする。”カチリ”と言う音が聞こえたと同時に俺の身体に電流が走り

 

「うぎゃあああああ!!!!!!!!!!!」

 

「五月蝿いわ」

 

更にもう1本追加と言う地獄を与えられ俺は意識を失った。

 

 

 

 

「ったくよ…なんで、私がここにいなくちゃならねんだ」

 

私は、文芸部の部室にて、そう呟いた。

 

「前にも言った通り、主の所に行けば良かったのではないか?」

 

「テメェを一人にする訳にはいかねえだろうが」

 

全ての元凶である”元闇の書の管理人格リインフォース”がそう言ったので、私はそう返した。

 

「ハァ…」

 

私の主である”八神はやて”とその兄貴”八神翼”。そして、その他の仲間たちは、別の部活にまとめて入っていた。私もはやてと同じ部活に入るつもりだったのだが、リインフォースがこの部活に興味を持ち入ってみたいと言い出したのだ。それが、問題だった。リインフォースは、私たち闇の騎士(現・蒼天の騎士)の中では、管理人格だっただけはあり、トップクラスの知識を持つのだが、あくまで知識だけであり時々とんでもない事をやって退ける事があるのだ。そんな、奴を一人で歩かせるなど問題を起こして下さいと言っているようなものだ。誰かが、近くにいて、見張らなければならなかった。そして、それが出来るのは、まだ、部活の届けを出していなかった私だけ…そんな訳で、私はここにいる。

 

「フムフム…なるほどな…ウヒヒ…」

 

「スヤスヤ…ZZZ」

 

そして、今この部屋には、リインフォースの他にも2人いた。

一人は、同じ日に転校してきた、後藤聖一と言う男だ。あの日以来クラスメイト全員から、真性の変態と言われる奴になっていた。幼女好き。幼稚園を覗いていたり、低学年の教室を覗きに行ったりしていて、私の知っているだけで、8回は、職員室に呼びされていた。そんな、後藤は、カバーの付いた本をニヤニヤして読んでいた。時々カバーの隙間から、”神体幼女”やら”18”やらの文字が見えていた。なんとなくコイツには近づかないようにしようと心に決めた。

 

もう一人は、時田鈴音と言う女の子だ。基本的に寝ている事が多い奴だ。とは言え授業は、ちゃんと聞いている様で、質問されたら、答えると言う器用さも持っている。そんな、鈴音は、やっぱりスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「つうかよ、部長は、まだなのかよ」

 

「恐らく一夜を連れて来ているのだろう」

 

「お待たせ~」

 

「ホラ来た」

 

すると、部室のドアから、この部の部長である、ナギサが、入っていた。…謎の肉塊を引きずって。

 

「遅かったな。ナギサ」

 

「いやーゴメンゴメン。コイツが駄々をこねてさ」

 

ナギサは、肉塊をベチャリと投げ捨てて言った。…コレ…人間か?

 

「ファァ~ん?あ、ナギサちゃん。おはよう」

 

とここで、鈴音が目を覚ました。

 

「いい匂いだね。お肉?」

 

「南よ。コンガリ焼いてみたの」

 

「へえ…」

 

なんだ?この風景は?これが、日常なのか?

 

「おい…リインフォー」

 

「さて、そろそろ始めよう」

 

リインフォースは、肉塊を椅子に乗せながら言った。その光景を後藤は、少し困惑気味に見ていた。

すると、ナギサは、頷いて言った。

 

「さあ、ようやく全員集まったわね。ようこそ文芸部へ。私が、部長の日野渚よ。そんじゃ、知らない奴もいると思うから、南から自己紹介宜しく!」

 

「人を気絶させた上に焼却炉に放り込んで置いてよくそんな口が聞けるな…」

 

「!!!」

 

私は、その声が、聞こえた、方向に目を向けると、そこは、肉塊では無く一人の少年がいた。

 

「俺は、南一夜。ただの超能力者だ。よろしく」

 

南はそう言うと椅子に座った。

 

「OK、じゃあ、次は、鈴音ちゃん!」

 

鈴音は、ゆっくりと立ち上がると

 

「時田鈴音です。只の未来が分かる未来人です。よろしくお願いします」

 

なんだ?超能力者って?未来人って?名乗るのが流行ってんの?

 

「じゃあ、次は、リンちゃん!」

 

「ああ」

 

次は、リインフォースだ。皆からはリンと呼ばれている。私もそう呼ぶかな?

 

「八神リインフォースだ。私は、元管理人格をしていた時代がある。以上だ。よろしくな」

 

って!おい!良いのか?バラしても?仮にも一応は、秘密事項なんだぞ!

 

「…後藤は…良いとして」

 

「おい!無視するな!」

 

後藤は、勢い良く立ち上がり

 

「僕は、後藤聖一!好きなものは、美幼女!な只の天使だ。よろしく!」

 

こいつの脳内を一度見てみたい。

 

「天使って…ウェ―…」

 

止めろ。私も吐きそうだから。

 

「じゃあ、最後にヴィータちゃん!」

 

ついに、私の番が回って来た。えっと…。

 

「八神ヴィータ。えっと…只の…騎士です…」

 

こんなもんで良いのかな?すると、ナギサが、髪を撫でて来た。何だろうか?

 

「ヴィータちゃん。無理しなくても良いのよ」

 

「?」

 

そして、落胆した様に言った。

 

「何?この人外集団は!」

 

それは、私が聞きたい。

 



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第27話 復讐者

シリアス突入?


 

 

 

父が死んだ。その時一緒に母も死んだ。

許さない。俺達は、決して許さない。

”闇の書”必ず復讐してやる。

 

 

 

 

「よーし!今日の部活終了!!」

 

「「ハーイ。」」

 

「アーイ。」

 

個性豊かなメンバーを新たに加え、1週間も経った。そろそろ順応してきている自分が怖い。

 

「って、いかんいかん!相手は、原作キャラだ。」

 

原作キャラと仲良くなるなんて、死亡フラグ以外の何者でもないからな。

取り合いず今の所は、完全に無視している。もちろん全員にだが。原作知識が無い以上どいつが敵なのか分かったもんじゃない。

 

「なぎさお姉ちゃん!迎えに来たよ!」

 

と、そんな声が、聞こえたので顔を向けると、1メートルはあろうかという大きな黒犬にまたがった、余世がいた。

彼女は、殆ど毎日、日野さんを迎えに来ていた。最早完全にボディガードの様な存在とかしていた。

これが、元”殺人鬼”の末路だと思うと泣けてくる。因みにこの町には、コレと同等の犬がいるらしく人並に驚いたのは、後藤だけだった。

 

「あ、夢ちゃん待って、じゃ!南。鍵よろしくね!」

 

日野さんは、そう言うと素早く荷物をまとめ、余世と学校を出て行った。

 

「じゃあ、私達も帰るか。一夜。鈴音。また、明日。」

 

「じゃあな!」

 

「さいなら。」

 

リン、ヴィータ、後藤は、そう言うと教室を後にした。

 

「アイツら…そんなに鍵を返すのが面倒臭いのか?」

 

「…職員室まで行くのが、面倒なんだと思うよ。」

 

「そうかい。じゃあ、いつもどうり下駄箱の前で待ってて。」

 

「うん。」

 

時田さんは、そう言うと荷物をまとめた。

何故俺が、こんな事を言っているかと言うと、女の子を送っていくのが、男の常識!と言う日野さんの発言によって、家の近い者同士が、一緒に家に帰る事になったのだ。なので、家が近い俺と時田さん。後藤と八神×2。が一緒に帰っている訳だ。

例外は、日野さんのみだが。

 

「ハア…でもまあ、原作に関わるよりましか。」

 

俺はため息を吐くと、鍵を返しに職員室に向かった。

 

 

 

 

「オーイ!急いでくれ2人共。早く帰らなければ、ロリタマを見逃してしまう!」

 

「ああ。分かってる。」

 

「ヘイヘイ。」

 

明らかに焦っている後藤を先頭に私達は、帰路についていた。ナギサの提案から1週間経ち最早日常の一部と化している。傍から見れば仲の良い小学生の下校風景だろう。

 

「フフ…。」

 

「ん?何が可笑しんだ?」

 

「いや…何でも無い。」

 

こんな風景に紛れ込めるなんて、前の私は、考えもしなかった。”闇”と言う鎖に囚われ自由を忘れていた。いや、そもそも自由など知らなかった。・・・本当に私は、幸せモノだ。

 

『ウェェン~』

 

そんな時だった。そんな泣き声が聴こえてきたのは。

 

「む?この声は…。」

 

「知り合いか?」

 

「小学校低学年。身長は、前から数えた方が早い女の子の…幼女のものだ!!」

 

後藤が、吼えた。相変わらずの言葉に私もヴィータも引いていた。

 

「アハハ~ドーコーカーナー?」

 

後藤。パーティを離脱。あの動き恐らくテスタロッサ以上だ。

 

「ヤベェ!女の子が危ねえぞ!」

 

「ああ。奴の底が知れない以上放っておくわけにはいかん。」

 

我が部活から犯罪者を出す訳にはいかん。

 

「アイゼン!今すぐ奴を探せ!」

 

『ハイ。』

 

「待て!ヴィータ。こっちの方が早い。」

 

私は、主から頂いた、ケータイと言う通信機器(*ナギサ・カスタム)を取り出しパスワードを入力する。すると、画面に後藤の現在位置が表示された。

 

「…なんだ?それ。」

 

「ああ、ナギサの所有する個人衛生からの映像だそうだ。何でも赤外線や未知の技術が使用されていて、たとえ家の中にいたとしても、何をしているのかが分かるらしい。」

 

「…プライバシーって知ってる?」

 

「急ぐぞ!奴め、もうすぐターゲットと遭遇しそうだ。」

 

私は、そう言うと走った。ヴィータもため息を吐きながら呟いていた。

 

「なんで、まともな奴がいねえんだ…。」

 

それは、私も同感だ。まさか、ヴォルケンリッターより特殊な人間がいるとはな。

 

 

 

 

「ハアハア…オジョウチャン…ダイジョウブ?」

 

「ウェ…ヒイイ!!!」

 

着いた時には、犯罪一歩手前な発言をする後藤を発見した。明らかに狂気に満ちた目をした男に怯える女の子がそこにいた。

 

「テメェ!その子から離れやがれ!!」

 

「ぐぎゃああ!!!!!」

 

しかし、後藤はヴィータによるドロップキックを喰らいゴロゴロと転がっていった。

 

「クハハ!!ここで滅びようともロリは不滅なりぃ~!」

 

かなり見苦しかった。私は、後藤を放って置いて、ヴィータの所に向かった。

 

「おい。ヴィ…。」

 

「リンフォース!来るな!」

 

「は?…わ!」

 

ヴィータに突き飛ばされ、私は、地面に手を着いた。すると、世界が歪んだ。

 

「バカな!これは!」

 

「クソ!」

 

「ん?なんじゃこりゃ!」

 

空の色が紫色に変色し辺りに見えない壁が張り巡らされる。

”結界”である。文字通り世界を隔離するもう一つの世界。しかも、かなり強固な物だ。

そして、もう一つ。ヴィータと後藤を捕獲していた、光の輪。”バインド”つまり…これは。

 

「”魔導師”!」

 

「正解だ。闇の騎士!」

 

すると、何もない空間から2人の男女が出現した。

 

「何者だ。」

 

私が、言うと男は、地面に足をつき、先程の少女の頭に手を置いた。

 

「コウ。危険な事をさせてしまったな。」

 

「うんん。それよりもあの人達なの?」

 

コウと言われた少女は、不思議そうにこちらを見ている。すると、女の方が言った。

 

「ええ。こいつらこそ、私達の仇。”闇の書”の元凶でよ。父さんと母さんの仇。」

 

「…仇…だと?」

 

…これは、まさか…。

 

「そうさ。俺等は、復讐をしに来たのさ。安心しろ。”主”には興味は無い。俺が殺したいのは”本体”だけだ。」

 

 

 

私には、その言葉が日常の崩壊音に聞こえた。

 



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第28話 ザンコク☆無双

天使VS復習者


『あ、もしもし?鈴音ちゃん』

 

「え?渚ちゃん、どうしたの?」

 

『今、南と一緒にいる?』

 

「うん。ちょっと、スーパーで買い物してるよ。お一人様1本の醤油と卵が欲しいんだって。2人で行ったらお得でしょう?」

 

『うん。自分で言いだしといて何だけど、随分適応してきたわね。…って!それは良いんだった!』

 

「どうしたの?」

 

『実は、さっきからリンちゃん達の反応が消えたのよ』

 

「?」

 

『とにかく南と代わって!なんか、嫌な予感がするわ』

 

 

 

 

「主には、興味が無いだと?」

 

「ああ」

 

「どう言う事だ?」

 

「ストライクゾーンを逸脱したからじゃない?」

 

「テメェは、黙ってろ!」

 

ガシガシと後藤を踏みつけるヴィータを背に私は、男に問いた。

 

「簡単だ。お前らの主も俺等と同じ被害者だからだよ。調べたぜ”八神はやて”。随分と不幸な星の下に生まれたもんだ。親と死別し、お前らに目を付けられ、危うく死にかけた上に氷漬けにされかけた。これを不幸以外の何って言うのさ?」

 

コイツ…主の事や”闇の書事件”の裏側まで、知っているのか。それも、こんな短期間で。

 

「成る程な。詰まりお前達は、私とヴィータを殺しに来た訳か」

 

「理解したか?」

 

「まあな。なら、場所を変えないか?ここで、戦っても余計な被害を生むだけだぞ?」

 

私は、ヴィータによってグリグリと踏まれている後藤を見据えた。一応奴は、無関係だ。

 

「いいや、そっちの変態にも話がある」

 

「僕に?」

 

「目撃者の処理方法についてだ」

 

「…6時までには終わる?」

 

「終わるか!テメェは空気を読め!」

 

「ロリは、僕の嫁!」

 

再び激しい打撃音が辺りを包んだ。アレは別に手を下さなくても勝手に殺されるだろう。

しかし、本当に殺させる訳にはいかない。こうなったら…。

 

「おっと、”念話”は、この中じゃ使えないわよ?因みに”携帯”もね」

 

「仲間を呼ばれる訳には行かないからな」

 

やはり、先手を打たれていたか。

 

「…やるしかないか」

 

私は、臨戦体制に入る為に魔力を貯めるが…。

 

「は?…魔力が拡散してゆくだと!」

 

貯めた魔力がまるで、ストローに吸われる様に拡散してゆく。これでは、空すら飛べない。

 

「アッハッハッハ~バーカ!ランクSに近いアンタ達相手に何も対策を立ててこないとでも思ったの?残念ね。この結界内では、アンタ達の力だけ無効になるのよ」

 

「何だと!何だその力は、聞いた事がないぞ!」

 

特定の人物のみに特化した結界ならば知っているが、特定の団体に特化した結界など聞いた事がない。

私の知らない未知の技術なのか?

 

「さてな、一体どんな原理なのか俺達も知らない。これは、情報を売ってくれた奴がくれた術式だからな。インスタントだが」

 

「インスタント?…そんな技術がか?」

 

「さて、無駄話もここまでだ。これで、お前達は只の子供も同じだ。安心しろ嬲り殺しはしない」

 

「時間をかけずに一気にコロシテヤル…」

 

2人から、凄まじい殺気が迸った。私は、思わず後ずさる。そして、何とかならないかと辺りを見渡す。

 

「クソ!」

 

ヴィータは、何とか”バインド”から脱出しようともがいていた。

 

「持ってて良かった~テレビ電話♪」

 

後藤は、携帯電話で、テレビを見ていた。

 

打開策は、無い………って!

 

「アンタ!なんで、携帯なんて使ってるのよ!」

 

私のツッコミの前に女が突っ込んできた。そう。今コイツは思いっきりテレビを見ていた。”念話”も通信も通じないこの場所で。しかも”バインド”を外した状態でだ。

 

「は?ちょっと、静かにしてくれ!今、ロリタマの神OPなんだから!」

 

「何だと?」

 

「ちぃーさくたって~だーいじょうぶ~ニャーニャー~ふんふんふーふん~♪」

 

「コイツ…ナメやがって!」

 

巫山戯た歌を熱唱している後藤に女は、切れたらしく、自分のディバイスを構えた。

 

「おい!ラン!待て!」

 

男は、止めるが、女は止まらない。

 

「くたばれ!」

 

「ふーんふふふーんふ~ふふふふふふふふふふん~ヘイ!」

 

瞬間。赤い血飛沫が、辺りに散らばった。そして、首の無い死体が、重い音を立てて、地面に激突した。

 

「ラン!」

 

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」

 

男の悲鳴と後藤の妙な擬音が重なった。後藤は、女の頭の中身が、へばりついた、釘バットを降ると、男に向けた。

 

「分かれよ?悪いのは、お前だ」

 

気のせいか、その言葉にうすら寒いものを感じた。

 

 

 

 

『…それって、どう言う事?』

 

「そのまんまな意味だよ。もし俺の予感が正しければ…むしろ危ないのは、リン達を襲った方だ」

 

『それにしても…本当にいるの?…天使って」

 

「アイツが、そう言ったからな。とにかく…天使の怒りを買うと厄介だ。”皆”危ない」




次はロリコンがついに動き出す!…続けて投稿しますので次へとGO!


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第29話 残酷な天使

ロリコン始動。




「分かれよ?悪いのは、お前だ」

 

「ラン!」

 

男は、ランと呼んだ女の死体に向かって来る。後藤は、それに向かい釘バットをフルスイングした。

 

「危ねえ!」

 

ヴィータは、叫ぶと男はそれに気付き間一髪で難を逃れた。

 

「ヴィーたん。邪魔しないでよ~」

 

「ヴィーたん言うな!いや、それよかテメェ今何しようとした?」

 

「ん?排除だけど?あと、八つ当たり」

 

後藤は、そう言うとニッコリと笑った。私は、先程と同じ寒気に襲われた。

 

「お姉ちゃん!」

 

すると、コウと呼ばれていた少女が姉に近づいてきた。後藤はニタリと笑う。

 

「どうぞ」

 

そして、あっさりと少女を通した。少女は、姉にすがりつき泣き始めた。

 

「お姉ちゃん~!!」

 

しかし、頭の粉砕された姉は、何も言わなかった。当然だ死人は何も出来ない。

 

「ああ、やっぱり小さい女の子は心がキレイで素晴らしい!こんな汚れた世界の住人とは思えない!!」

 

後藤は、そう言うと少女に抱きついた。

 

「キャア!」

 

突然の事に私達は、何も反応出来なかった。しかし、兄は違った。

 

「コウから離れろ!この変態が!」

 

「チッチ…ロリコンと呼んでくれ」

 

次の瞬間、男の身体に何かが巻き付いた。それは、有刺鉄線に見えた。そして、それの先は、後藤の手の中。

 

「よっせと…」

 

まるで、軽い運動をするように有刺鉄線を引き寄せる後藤。そして、それに引き寄せられる男。

 

「な……やめ……………」

 

「もう!恥ずかしがり屋さん!」

 

そして、凄まじい回転をする釘バット。

 

「ゴブ…ア”ア”ア”ア”!!!!!」

 

男の悲鳴が結界内をこだました。そして、肉を掻き乱す音も響渡る。

グチャグチャ…ネチャネチャ…。思わず私もヴィータも顔を背けた。それだけ直視出来るものでは無かったのだ。

 

「いや…嫌!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「アハハハハ!!!」

 

少女の悲鳴を嘲笑うかの様に未だにバットを掻き回す後藤に

 

「後藤!もうやめろ!」

 

「そうだ。もうやめてくれ。見るにたえない!」

 

「アハハハハ!!!エイ♪」

 

「ゴバッ……………」

 

男は、それだけ声を上げると動かなくなった。…つまり…

 

「お兄ちゃん?…お兄ちゃん!!」

 

コウと呼ばれていた少女が、兄に駆け寄り体を揺する。だが、兄は動かない。

死んだのだ。誰が見ても完全に死んでいた。

 

「後藤…テメェ!!!!!!」

 

ヴィータが、怒りの声を上げる。そして、自分を拘束していた”バインド”が術者の死と共に解かれた。

 

「オラア!」

 

「わ!何すんの?」

 

ヴィータが後藤に殴りかかるが、後藤はそれをヒョイと避ける。

 

「なんで、殺した!殺す必要があったのかよ!」

 

「え~?だって、アイツら僕達を殺そうとしてたんだよ?正当防衛だと思う」

 

確かに後藤の言っている事は一見正しい。もしかしたら、今頃全員死んでいたのかもしれない。…だが。

 

「だからって、こんな残酷に殺すのは酷過ぎる…」

 

過去。私達が”闇の書”と呼ばれていた、時代でも、このような殺し方は滅多にしなかった。

それに、殺せば多少の罪悪感があったが、この男は、まるで当たり前の様に感情なく殺して退けたのだ。

子どもが虫を殺すように…ただ、無邪気に…。

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんを返して!!」

 

ただ一人残された少女が後藤をポカポカと殴るが後藤は、それを楽しそうに見ていた。

 

「返してあげたら何かしてくれる?」

 

「なんでもする…何でもするから!!!」

 

「本当?…ウヒヒ…」

 

もし私の電話が繋げたら即座に通報していた事だろう。…だが、返すなんて、出来る訳がない。二人は完全に死んでいるのだ。

しかし、後藤は、ニタリと笑うと持っていた、バッドを手の中でクルクルと回転させ…

 

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」

 

と、摩訶不思議な呪文を唱えた。

 

「「!!!」」

 

突然だった。砕けた骨が、飛び散った肉が、元の持ち主の元に戻って行く。まるで時間を巻き戻している様に。

その光景を私も他の二人も唖然として見つめていた。何なんだ…これは。

 

「少なくとも…魔力は、使っていない…」

 

「じゃ…何だよ…翼兄ちゃんだって、こんなの魔力無しじゃ無理だぞ」

 

確かに…この力は、どちらかと言えば、一夜に近いのかも知れない。

 

「う…え?」

 

「…なんで…?」

 

そう考えている内に死んだ二人は生き返って来ていた。そして、一通り辺りを見た後、後藤を見て後ずさった。

 

「なんなんだよ!お前は!」

 

男が、自分の妹達を抱き寄せて後藤に言った。その瞳には最早怯えしか見えなかった。

それに対し後藤は、相変わらずの笑顔で言う。

 

「俺は、後藤聖一。只の天使だよ」

 

 

 

 

 これは、とある天使の夢のある物語の始まり。

 



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第30話 永遠の少女を求める天使

後藤のターンは続く。
投下!


「南は、まだなの!」

 

『ごめん…道が分からなくなちゃって…』

 

「…今、何が見える?」

 

『えっと…翠屋って店が…』

 

「逆方向じゃ無いの!ああ!もう!」

 

『…え?ねえ、今どこにいるの?南くんが、もし消えた地点にいるなら、夢ちゃんだったらどうにかなるって言ってるんだけど?』

 

「夢ちゃん?」

 

「?」

 

 

 

 

誰も逃げられない結界の中に三人の兄妹と一人の変態がいた。

 

「さあ、お兄ちゃん達を生き返らせてあげたよ…言う事を聞いてくれるね?」

 

「コウに近付くんじゃねえ!」

 

「お前には、聞いてねえよ」

 

「なっ!」

 

男の身体に再び有刺鉄線が巻き付いていた。後藤は、それを興味なさそうに無視し目当ての少女に迫る。

 

「っ!」

 

が、ここで、少女の姉が、立ちふさがる。一度自分の頭蓋を砕いた相手に恐怖しながら妹を守るために立ちふさがる。

 

「邪魔…」

 

後藤は、持っていた刺バットを振り上げ再び顔面を抉る為に振り下ろす。…が。

 

「止めやがれ!」

 

「ゴバ~!」

 

それは、ヴィータの飛び蹴りにより阻止された。後藤は見事な曲線を描きながら文字通り吹き飛ばされた。

 

「リンフォース!」

 

「ああ。分かっている。”バインド”」

 

未だにピクピクと痙攣している後藤を光の輪っかで拘束した。いくら、魔力が拡散すると言ってもこれだけ時間があれば、この位は出来る。

 

「取り合いずこれを解いて貰おうか。お前達もこのままじゃただ殺されるだけだぞ!」

 

「そうだ!早く解きやがれ!」

 

奴を抑えられるのは、もう1分もない。魔力も拡散のお陰でな。だが

 

「…出来ない。この結界は、後2時間はしないと外には出られない使用になっているからな」

 

「は?」

 

「…アンタ達を確実に殺る為よ。…まさか、墓穴を掘る事になるなんて」

 

「「んな!バカな!!!」」

 

じゃあ、私達は、後1時間以上もここにいなくてはならない訳なのか?しかも…。

 

「あーやっと外れたか」

 

見ると”バインド”を引き千切る後藤がいた。…引き千切る?

 

 

 

”バインド”相手を拘束する為の強固な限定的結界。

人間の腕力で何とか出来る可能性は、0

普通は、砕けるが正解。

 

 

 

なのに…引き千切る?一体どんな事をすれば、そんな事になるんだ?

 

「ヴィータ!とにかく奴からその娘を守れ!」

 

「おう!なんか、最初の目的と大きくズレたけど分かった!」

 

ヴィータはそう言うと、後藤の持っていたバッドに手をかけたそして…

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「何だ…コレ…重い」

 

ヴィータは両手で刺バッドを持つが、バッドは、少しも浮かなかった。ヴィータは、体は小さくても立派の騎士である。しかも、ディバイスである”グラーフ・アイゼン”はそれなりの重さがあるのだ。そんな、ヴィータが持てない…?

 

「当然だ。…”エスカリボルグ”の重量はおよそ2t。常人が持ち上げられる代物じゃねえよ」

 

ユラリユラリと後藤は、ヴィータに近付いてきた。

 

「チッ…」

 

ヴィータは舌打ちすると、一旦後藤から距離をとり最近ザフィーラに習っている空手拳の構えを取った。

 

「後藤…お前その子をどうするつもりだ?」

 

「ん?愛でるだけだけど?愛でて愛でて愛でる!!それだけが、僕の幸せだ。…そう…この世界は、腐ってる。皆が綺麗な心を持っていれば、争いは、起こらない」

 

「…」

 

「…だが、大人は駄目だ…もう手遅れなんだ。心も身体も汚れてる。だから、僕はロリを愛す!愛でる!そして、見守る。世界が、幼女だけになるその日まで!!」

 

後藤は、まるで、子供の様にだが、明確な意思を持って、そう言った。それに私は、寒気を覚えた。気味が悪い訳ではない。

その思いが、純粋だと分かるのだ。まるで…かつての”闇の書”の主達の様に歪んだ願いを感じる。

 

「ヴィーたん。この世の中変だとは思わないか?」

 

「変?…後、ヴぃーたん言うな!」

 

「人は、どうせ死ぬんだ。なのにさ…人は、成長するにつれて、欲を持って行くんだ」

 

「それが、人ってもんだろう」

 

「…確かにな…でも」

 

後藤は、有刺鉄線に縛られている男の方に向かう。そして、何かの瓶を取り出した。

 

「…命が無限で、成長しなければ…欲なんて、生まれるのかな?」

 

そして、それを男の体に掛けた。

 

「う…うわぁぁぁ!!!!」

 

瞬間男の体から煙が上がった。なんだ!

 

「あ”あ”あ”あ”あ”……」

 

煙の中のシュルエットがどんどん変形して行く。全体が縮んでゆき、声が、どんどん高くなってゆく。

 

「こ、これは…」

 

「嘘…だろう?」

 

煙が、完全に晴れた時そこには男はいなかった。その代わり小さな女の子がブカブカの男物の服を着て目をパチクリさせていた。

 

「え…なんだ?これは…」

 

「お兄ちゃん?…が、小っちゃくなっちゃった…」

 

困惑する一同をよそに後藤は高笑いを始めた。

 

「フハハハ!!成功だ!」

 

「何をした!」

 

”元”男が、服で体を隠しながら後藤につかかる。

 

「分らないのか?これこそ全人類の夢!浴びるだけで、美幼女になる夢の薬!どんな、オッサンでもこれさえ浴びれば8歳の幼女になれる!そのプロトタイプさ。」

 

「プ、プロトタイプ?」

 

どう言う意味なのだろうか。それ以前にそんな薬があった時点で驚きだが。

 

「本物は、永遠の命を授ける。つまり不老不死になるのだ」

 

「「「「「ハイ?」」」」」

 

不老不死?それは、なんと言うロストロギアだ?

 

「世界は、幼女だけになる。世界は、救われる…まさに、ヘブン」

 

後藤は、”エスカリボルグ”を拾うとクルクルと構えた。

 

「本当なら、もう少ししてから、始める計画だったんだがな…まあいいか。それじゃあ、皆様…」

 

瞬間私達の体が、何かに拘束された。これは・・・濡れタオル?

 

「さいなら~幼女の世界で再び会いましょう」

 

なんだ?このタオル…どんどん締まって…くっ…なんか、気持ち良くなってきた…。

その間にも後藤は、”エスカリボルグ”を構えてやってくる。全員ここで始末する気らしい。…不味い!

 

「おじゃましまーす!」

 

そんな時だった。とても場違いな声が、聞こえたのは。

 

「その声は、夢か?」

 

「うん!…何してるの?」

 

「話は、後だ。後藤を止めてくれ!」

 

とそこまで言った所で私は気付いた。何言っているんだ?夢は?…一体何なんだ?ナギサをよく迎えに来る子。私が、知っているのは、それだけだ。

 

「OK!なんか、分らないけど良いよ!”ワンワン”!」

 

夢が、そう言うと獰猛な獣の唸り声が辺りから聞こえてきた。何だ?

 

 

 

 

「上手く入れたみたいね」

 

『そうか、流石”無効”の力だな』

 

「前、そんな力使ってたっけ?夢ちゃん」

 

『…恐らく使う以前にボロボロにされたからだと思うぞ?』

 

「う…。アハハ~…ワスレロ」

 

『ハイ』

 

「とにかく、早く来なさい」

 

『はいはい』




次回前章ボスVS次章ボス。どっちが勝つか……明日あたりに投稿します。


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第31話 ”元”殺人鬼 VS 撲殺天使

前章ボス
    VS
     今回のボス
          激突!


「ねえ。南くん」

 

「ん?何」

 

「夢ちゃんって、超能力って、どの位使えるの?」

 

「んー…以前の1/4位かな。”墓地”の力を封殺した分、自分の有利な領域は作成出来ないからな」

 

「…大丈夫かな…一人で入らせちゃって…」

 

「まあ、…相手によるな。”ヨトゥン”を召喚出来なくした分、”ダークネスハウンド”今は、”ワンワン”だったか?そいつが、4匹は出て来るからな。並の相手には、大丈夫だろう。…少し急ぐか」

 

 

 

 

「”ワンワン”!後藤ちゃんを取り押さえて!」

 

「ゴチャンと呼んでくれ」

 

4匹の黒犬が後藤に襲いかかるが、後藤は、それをバッドて打ち落として行く。

だが、黒犬は、恐るべき俊敏さでバッドをかわし更に襲いかかる。

 

「ムー早く捕まってよ!手加減って、難しいんだよ!」

 

「く!幼女に本気が出せないなんて!」

 

どうやら、2人共今だ本気ではないらしい。異常な光景だった。普段見知っているハズの2人が、突然人外の様な戦いを繰り広げるしかも、魔力が使えない結界内でだ。

 

「な、何なんだよ…こいつらは…」

 

”元”男が、妹達を抱き寄せながら呟く。が、しかしその姿では、むしろ抱き付いているように見える。

 

「…分からない。…まさか、”一夜”の言っていた”超能力者”なのかもしれない」

 

「”超能力者”?ちょっと待て!”一夜”が言ってたって…南もあんなのが使えるのか!」

 

「ああ。自己紹介を覚えているか?一応あれは、皆正直に話していた」

 

「……何だよ!!その人外集団は!じゃあ、何か?”超能力者”や”未来人”、果ては”天使”ってか?それに加えて”プログラム騎士”と”管理人格”まともな奴が1人もいねえじゃねえか!」

 

「…いや、ナギサは、人間だ。頭が上がらないが…」

 

「テイマー!?」

 

…だが、言われて見れば、まともな人間が1人もいない部活の様な気がする。

 

「ねえ、お兄ちゃん。”超能力者”って、何?」

 

「…分らない。でも、少なくともマトモな連中じゃないだろうな」

 

いいえ、只の小学校の部活動です。そう心の中で呟いていると、どうやら何らかの動きがあった様だ。

 

「うむむ~やるね…後藤ちゃん」

 

最後の黒犬の頭が砕かれ、夢は後藤にそう言った。それに後藤は、笑顔で答える。

 

「ふ…ロリを愛する者に不可能など皆無!」

 

「よく分からないけどすごい!」

 

「アハハ!そうだろうそうだろう!」

 

「ねえ、ロリって何?」

 

「コウは、まだ知らなくて良いよ」

 

「あの変態野郎が…来るなら来い!」

 

「その頭叩き潰してやる!」

 

「…なぜ、ヴィータは、敵と馴染んでいるんだ?」

 

となんだか、場が混沌として来た。

 

「で、結局夢ちゃんは何なんだ?俺は、”天使”2つ名を付けるとすれば、”撲殺天使聖一くん”って、所か」

 

なんだ?”撲殺天使”って…。それに対し夢は笑顔で答える。

 

「えっとね…私は、”超能力者”かな?渚お姉ちゃんの”ぼでぃがーど”にして”元”殺人鬼だって。一夜によると”夢夜の殺人鬼”って、言ってたよ」

 

「…”元”殺人鬼だと…」

 

「どう言う事だよそれは」

 

突然の夢のカミングアウトに騒然とする私とヴィータ。しかし後藤は、軽く笑う。

 

「成る程な。道理で血の匂いがよくしていた訳だ…」

 

「匂うかな?私?」

 

「血塗れ幼女…だが、良し!」

 

「?…まあ、良いや。じゃあ、”悪夢”を見せてあげるね!」

 

「?」

 

その時、辺りに獣の唸り声が聞こえてきた。

 

「なんなんだ…アレは」

 

ヴィータの視線の先を見て見ると…そこには確かに悪夢があった。

 

「黒犬が…起き上がった…だと?」

 

頭や胴体を砕かれたハズの黒犬が、いつの間にか復活していた。そして、その目には後藤への憎しみが湧き出していた。

後藤は、それを見て苦笑いを浮かべる。

 

「えーと…何?その能力?」

 

「エへへ~”ワンワン”♪殺っちゃえ♪」

 

最早、どちらが悪役か分らない感じだ。

 

「うりゃ!」

 

「ガウ!」

 

同時に飛びかかった黒犬をバッドで、一気に殲滅するが、ここからが悪夢の様な状態になった。

 

「無駄だよ?」

 

黒犬は、まるで粘土の様になったかと思うと一気に再生していた。その時間1秒もかかっていない。”闇の書”の”再生プログラム”と良い勝負だ。

 

「行け行け行け~!!」

 

「クッ…厄介な能力だぜ。だが…弱点見ーつけた!”攻性有刺鉄線大葉刈之列”!」

 

先程、男を捕らえた有刺鉄線が現れ夢に襲いかかる。その数は空を覆い尽くす程の量だ。

 

「ふえ?」

 

空を見上げる夢は、ポカーンとしている。そして、その全ての有刺鉄線で、後藤は黒犬を捕らえていた。そして…

 

「夢ちゃんの弱点は、本体が無防備って所だ!」

 

「わ!バレちゃった!」

 

バッドを構え夢に向かい突撃する後藤。そして、焦った様に慌てる。

 

「覚悟!」

 

後藤のバッドが、夢の頭部を砕く為振り上げられる。…だが。

 

「なーんちゃって♪”放火魔”!」

 

夢の掌から灼熱の炎が噴き出した。

 

「のわ!」

 

炎が後藤の体を包み込む。

 

「オアチャ!!」

 

「アハハ~!」

 

ゴロゴロと地面を転がる後藤を笑う夢。

 

「…なあ、一体私達は、何と戦ってたんだっけ?」

 

ヴィータの言葉が心に響く。しかし私も状況に着いて行けないのだ。

 

「さて、もう終わりにしようか?」

 

「ああ、こっちも本気で行くか」

 

夢と後藤は、そう言うとお互いに距離をとった。

 

「行くよ!”呪われた双剣”!」

 

「受け立つ!”エスカリボルグ”!」

 

そして、2人は激突する。”元”殺人鬼 VS”天使” の対決征したのは。

 

「アリ?」

 

自分の腕が飛んでいくのを夢は、見ていた。そして倒れる。

 

 

 

 

”天使”だった。

 

 

 

 

「恐らく夢は、負けるな。アイツが”殺人鬼”のままだったら能力的にも負ける要素は無かったが…」

 

「生け捕り?」

 

「ああ。手を抜く恐れがある」

 

「それって…」

 

「不味いな。嫌な予感しかしねえ…」

 

「あ!渚ちゃん!」

 

「遅いわよ!早く行って!」

 

「了解!」




夢世の殺人鬼VS
      ロリコン天使
          勝ったのは天使でした。

さて次はようやくわれらが主人公?が登場です。後藤の計画を止められるのか?次回でまた会いましょう。


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第32話 海鳴市民総ロリ計画

主人公
   VS
    変態紳士
        
        開戦!


「夢!リン!ヴィータ!バカ!無事か!」

 

”幻想殺し”により結界を砕き侵入すると、そこには、片腕を無くした夢が倒れていた。

 

「…遅かったか…」

 

「夢ちゃん!」

 

「…酷い…酷いよ…」

 

夢へ駆け寄り抱き上げる日野さんと時田さんを横目で見ながら俺は、後藤を見据える。

 

「後藤…お前」

 

「…結界が砕けた。つまりお前も何かの能力者か」

 

「見たところ、お前は”撲殺天使”って所か…これまたマイナーな能力を…」

 

「何を言う!最新の力にして最強だろうが!」

 

”撲殺天使”が最新?何を言っているんだろうか?確かアレは、2000年代のアニメだったはず。

 

「…まあ良いか。どちらにしろ、僕の計画の邪魔はさせねえ」

 

「計画だと?」

 

「ああ、海鳴市民総ロリ計画のな!」

 

「な!海鳴市民総ロリ計画だと!…って何それ?」

 

意味が分らない。ロリ?…ん?”撲殺天使”…”サクラクン”…ロリコン…12歳…あ!!

 

「まさか!アレか!ロリコン薬!まさか存在したのか?」

 

「ああ。僕の知識と力があれば完成は容易いよ。僕は、それを改良して、12歳から8歳で年齢を固定する事に成功した!更に男に使うと美幼女にしてしまう効果も付属させた!」

 

「ちょい待て!それって作品が違う!」

 

「フハハハ!ロリコンに不可能など無し!」

 

「クッ…確かに…」

 

作品すら超えた信念…まさに不可能を可能にしやがった。

 

「何感心してんの!どうでも良いから、早く後藤を捕まえて!」

 

「了解…って言いたい所だけど…」

 

俺は、後藤を見ながら一歩後ろへ下がった。

後藤の能力は”撲殺天使ドクロちゃん”の力だ。一説では、最強説のあるハチャメチャな能力である。

何せ、元がキャグ小説なのだ。俺の知る限り”灼眼のシャナ”に出てくる能力といい勝負なのだ。

 

「クッ…」

 

なので、下手に動くわけにはいかない。何より戦ったとしても勝てる保障など無いのだ。

俺の力は”超電磁砲”を除きほぼ自己保身の力だ。つまり戦闘スタイルはカウンタータイプとなる。つまりは…相手が動かない事には、こちらも下手には動けないのだ。そんな理由で、戦闘に置いては、力が激減した夢の方が上と言う事になる。…かつて、

 

「落ち着け。こんな奴、現実じゃ敵じゃない」

 

と言ったが、そんな考えは、夢の力を調整する際に本当にバカだったと思いしらされた。って、言うより勝った日野さんは、本当に化物だと思う…。

まあ、そんな訳で、お互い手を抜いていたとは言え夢を下した後藤には最大クラスの警戒をしておかなければならないのだ。

 

「……そもそもロリを愛する者とは、世界を敵に回す覚悟を持ったモノでありその際の覚悟は――――」

こんな、アホな事を熱弁しているバカに最大クラスの警戒をしなくてはならないのだ。

 

「この世界の歴史を振り返れば人類は皆ロリコンだったと言う事が――――――」

 

「……」

 

我慢だ、俺…まずは、様子を見て…。

 

「さあ!恥ずかしがる事などない!共に叫ぼう!ロリコンは世界を変える!チェンジザロリ!ハイルーロリ!幼女最高!」

 

「ウザイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!わぁ!!!!!!!!!!!!!!」

 

”超電磁砲”発射。我慢出来なかった。かっとなってつい…。

 

「うぎゃあああ!!!」

 

悲鳴が、辺りに轟く。殺ったか?爆散した場所に地鉄の剣を作成して駆け寄るとそこに人影は無かった。

 

「なんだと!」

 

「残念でした~」

 

「ッ!!」

 

振り向くとそこには、笑顔の後藤がいた。バカな!

 

「枷操白昼夢 エルクスナウト …てな訳で無駄だけど分かるかな?」

 

「枷操白昼夢 エルクスナウト だと!」

 

”撲殺天使ドクロちゃん”に登場するアイテムの一つ”枷操白昼夢 エルクスナウト”は、確かミラーボール型で”微睡弄御 ヒルドスレイフ”の姉妹品。

いわゆる洗脳アイテムだ。”微睡弄御 ヒルドスレイフ”が一人を完全に操れる代物なら ”枷操白昼夢 エルクスナウト”は、大勢の人間を広く浅い催眠にかけ操るアイテムだ。…しまった!先手を打たれてたか。

 

「つまり今ここにいる全員が見ているお前は…」

 

「ご名答!偽物でーす」

 

その瞬間、俺の後頭部にとんでもない衝撃が走った。その直後何か脳の様なものが見えたかと思うと意識がとんだ。

 

「アハハ!!俺の勝ちだ!」

 

「南!!!」

 

ヴィータの悲鳴が響く。

 

「早く立ちなさい!」

 

日野さんの罵声が響く。この人本当に鬼だ。

 

「ヘイヘイ」

 

”大嘘憑き”により早めに復活を果たした俺は、直ぐ様後藤の位置を割り出した。

 

「オラ!」

 

「ぐべ!」

 

どうやら、洗脳アイテムは、一度死ぬと解除されるらしい。その証拠に皆見当違いの方向を見ていた。

 

「ほら!お前ら目を覚ませ!」

 

”大嘘憑き”を発動し”枷操白昼夢 エルクスナウト”の効果を”無かった”事にする。すると皆の目が覚めた。

何故分かるかって?皆の目がキラキラしていたからさ!

 

「なんで、後ろに?」

 

「洗脳アイテムだ。皆離れてろ!」

 

俺は、再び地鉄の剣を創作して後藤に向ける。

 

「生き返った…?何の能力だ…。それに…本体を破壊しないで、目覚めさせるなんて…ふむ」

 

「御託は良い!お前の絡繰りがわれた以上もう勝ち目はないぞ?」

 

確かに”撲殺天使”の能力は強力だが、所詮はアイテムの力が大きいのだ。本体に関しては”アレ”を使わせなければ大丈夫だろう。

なら、やる事は一つだ、”アレ”を使わせる前に夢を再生して一気に潰す。…いや、夢を再生させた時点で勝負ありだ。

 

「勝ち目が無いね。どうかな?」

 

「なんだと?」

 

だが、後藤は、余裕の表情で笑う。…何だ?一体何を隠している。

 

「まさか…これを使うはめになるとはな…。まあ、偉大な功績には犠牲が付きものだからな」

 

そう言うと、ポケットの中から何か小さな箱を取り出した。まさか!”ルルネルグ”か!それとも”アルターボリア ”か?色が違うが、どちらも厄介なアイテムだ。得に”アルターボリア ”は、”アレ”の発動条件だ。

 

「させるか!」

 

俺は、後藤に向かい突貫する。普段なら有り得ないが、この場合は別だ。だが、後藤は箱の中から何かを取り出した。

取り出したのは、何かの液体だった。なんだ?アレは?

 

「ほい」

 

そして、後藤はそれを俺に向かいかけてきた。

 

「アレは…南!かわせ!」

 

「へ?」

 

 

 

ヴィータのそんな言葉が俺の聞く最後の言葉になった。

 



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第33話 いっちゃんです!

第3の能力者
      投下!


あの後、後藤は直ぐに何処かへと逃げて行った。一応直ぐにヴィータちゃんが追いかけたけど、結局見つからなかった。

私は、直ぐにジィに連絡し海鳴全域に監視網を張り巡らせた。これで、ネズミ一匹逃げることが出来ない。

 

「…そう。まだ見つからないのね。」

 

『ええ。申し訳ありません。』

 

「いいわ。ジィの捜査能力は知ってるし…とにかく捜索を続けて。」

 

『かしこまりました。』

 

電話を切りため息をついて皆の待っている24階へと向かう。

あの後皆(不審者3名も)を一旦私の家に保護する事にしたのだ。一体”超能力者”や”魔導師”にどの程度意味があるのか分らないけど、普通の家にいるよりは安全だろう。

 

「お待たせ。あの変態まだ、見つからないわ。」

 

「そうか…。」

 

リンちゃんが、少し残念そうに言った。

 

「でも、心配無いと思うわよ?南でもない限りたとえ”天使”だろうが、なんだろうが、絶対に発見されずに町を出る事なんて出来ないわ。」

 

いや、たとえ南だったとしても、ジィのいる限り逃げられないわ。…一体ジィってなんなのかしら?

 

「…なあ、リン。やっぱり、この事を翼兄ちゃん達に報告した方がよくねえか?」

 

「…いや、それは、無理だろう。考えてもみろ、確かに被害の大きさでは、”闇の書”と良い勝負だろうが、今回は”ロリコン薬”なんだぞ?まともに取り合ってもらえるのか…。」

 

「”闇の書事件”は、あの変態の野望と同格なのかよ…。」

 

「それに、今回は我々の部活動の仲間の問題だ。下手に協力を仰げば…。」

 

「…。」

 

何か、リンちゃんとヴィータちゃんがシリアスな雰囲気になっていた。なんだろうか?”闇の書”って?”ロリコン薬”と同格って事は…エロ本?…まあ、良いか。そんな事より今は、変態対策を練らなくちゃ。

 

「ヴィータちゃん。その”翼兄ちゃん”に相談するとして、その人達に何とか出来ると思うの?…南の能力は説明したわよね?その南ですら…あんな事になったのよ?」

 

「うう…。」

 

ヴィータちゃんが、唸ると同時に鈴音ちゃんと他のメンバーが部屋へとやって来た。

 

「鈴音ちゃん。夢ちゃんの状態はどう?」

 

「うん。”治癒”の能力で何とかなりそうだって。…でも、しばらくは動けないかも…。」

 

「そう…。」

 

南から聞いていた情報があって、本当に良かったと思う。夢ちゃんの力の一つには、”治癒”の力があり人体の欠損位ならパーツさえあれば2~3日で全快するそうだ。南曰く自分より何でも出来る能力らしい。

 

「大幅な戦力ダウンね。…南だって…。」

 

私は、窓際で外を見て目をキラキラさせている5歳位の女の子を見た。

 

「わー凄いよ!見て見て!さっきの部屋より高いよ!キレイだよ~。」

 

そう言うと女の子は、コウちゃんの手を引いてテーブルの上のお菓子を摘んで何処かへと走っていった。

 

「ああだし…ね。」

 

アレが、後藤によって薬をかけられた南の末路である。記憶が完全にとんでしまい、ここに来るまでとても不安な表情で泣きじゃくっていた。

今は、リンちゃんやコウちゃん、鈴音ちゃんのおかげで落ち着き、元気に走り回っている。因みに何故か私には近づかない。

 

「”大嘘憑き”があるから、直ぐに元に戻るって思ってたんだけどね…。変態の執念を甘く見てたわ。」

 

「”無かった事”にする力が、働かなくなった以上下手に”男”を出せば、ああなる可能性も高い。だからこそ”翼”達には、知らせない方が良い。」

 

「特別製とか言ってたしね。シュウちゃんがかけられた試作品とは別物みたいだけど。」

 

「シュウちゃんじゃない。…確かに俺は人格を保ったままだったが…。」

 

リンちゃん曰く”元”男のシュウちゃんが麦茶をコップに注ぎながらため息をついた。まあ、南と違って人格が残っている分、色々と辛い所もあるのだろう。

 

「まあ、殺されなかっただけマシだと思うがな。」

 

「1回位死んだらしいけどね。」

 

ランさんが、適当にお菓子を摘んで話す。聞いた話では、この2人は一度、後藤に殺されたらしい。そして、何らかの手段で生き返えらされた。

考えて見れば随分恐ろしい事だが…なんか、そう感じなくなりつつある自分が怖い。

 

「とにかく、後藤を見つけなくちゃね。下手をすれば、一週間後には、この町は、不老不死の少女だらけの町になるわよ。」

 

「…でもよ、どうやって、見つけるんだよ?一応操作網を張ってるんだろう?」

 

「…だな。手がかりが無い以上は、こちらからは…。」

 

文芸部2人は、不安そうな顔をしているが、実は問題は無かったりするのだ。

 

「フッフッフ…誰か忘れているようね。我が部の超能力者は、南だけじゃないのよ?」

 

「は?どういう事?」

 

「…”未来人”か…そういえば、鈴音がいたな。」

 

「?」

 

リンちゃんは、気付き、ヴィータちゃんは、未だに?マークを浮かべている。他の2人は、鈴音ちゃんを見ていた。

 

「…わ、私?」

 

「鈴音ちゃん。悪いけど今すぐ寝てくれないかしら?最早、この現場を打破出来るのは、鈴音ちゃんの”未来予知”しか無いのよ。”超能力者”も”殺人鬼”も行動不能になっている以上頼れるのは”未来人”だけ。お願い!あのバカが起こす事件は、絶対に大きな事件になるわ」

 

「で、でも、必ず予知出来る訳じゃ…。」

 

鈴音ちゃんが、不安そうな顔になる。当然だ行き成り最後の希望にされたのだ、私だって不安になる。

 

「あ、ナギサおばちゃんが鈴音お姉ちゃんをいじめてる!」

 

「だ、駄目だよ!いっちゃん!ナギサさんにそんな事言ったら。」

 

と、ここでチビ達が戻ってきた。…おばちゃんね…この南が…。

 

「鈴音ちゃん…お願いね。じゃないと…私この子を…八つ裂きにするかもしんない。」

 

「まて、ナギサ!一夜の首を締めるな!」

 

は!いつの間にか、首を締めてたわ。習慣って怖いわ~。

 

「フエエン~リンお姉ちゃん~怖かったよ~痛かったよぉ~。」

 

南が、リンちゃんに抱きついて泣いていた。絶対に普段では有り得ない光景だ。

 

「よしよし…怖かったな。良いか?ナギサは絶対に怒らせてはいけないぞ?」

 

「うん…。いっちゃん気をつける…。」

 

「良し、良い子だ。」

 

「エへへ…。」

 

親子かお前ら…。そんな様子を皆が呆れて見ていた。

 

「ハア…鈴音ちゃん。南を八つ裂きにしたいから早く予知してね。」

 

「…うん。なんか…私も身の危険を感じるから頑張るね。」

 

鈴音ちゃんは、何かに怯えるように部屋をさって行った。

 

これで、恐らく大丈夫のはず。後は…。 戦力確認ね。



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第34話 結成!対天使同盟

とーきーおーこえー

         投下


現状の戦力確認の為に自分がどの位の強さかを紙に書いてもらった所こんな結果になった。

 

 ヴィータちゃん。

          AAランク

 

 リンちゃん。

          Sランク

 

 シュウちゃん。

         (元)Aランク

 

 ランさん。

         Aランク

 

 コウちゃん。

         不明

 

 南。

         戦闘不可

 

 夢ちゃん。

         治療中

 

 鈴音ちゃん。

         戦闘不可

 

 との結果になった。…ランクってなに?

 

 

 

 

 

「つまり、このランクって言うのは魔導師の魔力量や強さを表すと?」

 

「ああ。…だが、このランクも”天使”や”超能力者”相手では、気休め程度の意味しかないがな」

 

リンちゃんは、ため息をつき、紙を見ていた。

 

「お前ら、結構強いんだな」

 

「…努力を重ねて来たからな。…殺す為に」

 

「……」

 

場にピリピリとした空気が流れる。

ヴィータちゃんとリンちゃんは、気まずそうに視線を逸らし、シュウちゃん達は、そんな2人を睨みつけている。

 

「大体!おま――――」

 

「はい!ストップ!」

 

シュウちゃんがまた何かを言い出す前に私は、大声を上げて黙らせた。

 

「アンタ達。今の状況を理解してんの?」

 

「それは…」

 

「良い?今、この町は、いや、全ての人は後藤によって、未曾有の危機に晒されようとしてんのよ?それに、シュウちゃんだって、このままだったら、一生女の子のままなのよ?」

 

「…」

 

「それに、何とか出来たかも知れない南も夢ちゃんもリタイアしちゃったし、今、まともにあの変態に対応出来るのは、私達だけなのよ。もっと言うのなら、変態と戦う事の出来るのは、アンタ達だけ。つまり、私達は運命協同体みたいなものになってるの!今、仲間割れを起こしてどうするの?」

 

それに、聞いた話では、後藤を倒すのは、1人では、無理の様だ。更に、南の言い方じゃ、後藤は、まだ何らかの奥の手を隠し持っている可能性が高い。決して、個人戦で勝てる相手では、無いだろう。

 

「はっきり言って、私には、アンタ達の関係なんて分からないわ。いいえ、知った事じゃないって言った方が良いわね。だって、私はアンタ達を全く知らないし、リンちゃん達の昔なんて分らない。私の今、分かる事は、このままだと、この町が小さな女の子しかいなくなってしう事だけなんだから」

 

無茶苦茶かも知れないけど、今は、過去の因縁よりロリコンの野望の方が優先されるべきなのだ。…自分で言って泣けてくるけど…。

ともかく、今は、ケンカしている場合じゃない。

 

「お願い。だから協力して?この町をロリコンの魔の手から守って!」

 

私は、深々と頭を下げた。悔しいけど、今の私には、夢ちゃんの時とは違って何の力も無い。只の女の子だ。色々と偉そうな事えを言っているけれど、所詮はまだ、小学4年生なのだ。だから、こうやってお願いする他ない。すると、以外な方向から、返事が返された。

 

「ねぇ、協力しよ?」

 

いっちゃんの手を引いたコウちゃんだった。

 

「コウ?」

 

「あのね。…ナギサさんの言う事は正しいと思うの。私、昔からお兄ちゃん達の事がちょっと怖かったの。お父さんとお母さんの仇って、言って、鬼みたいな表情で、訓練している姿が。」

 

「それは!」

 

「でも、それは、仕方がない事だもんね。…でもね、今は、ちょっと状況が違うと思うの。今、あの人を止めないと、きっと私達と同じくらい不幸になる人が出てくる。そんな気がするんだ。」

 

コウちゃんの言葉にその場が静まりかえった。そして、シュウちゃんは、無言でリンちゃんに手を差し出した。

 

「え?」

 

「…。」

 

困惑するリンちゃんにシュウちゃんは、言う。

 

「…確かに、ナギサやコウの言う通りだ。…今だけ…今だけ、過去の怨みや仇を忘れてやる。…だから、お前等も協力しろ」

 

その言葉にリンちゃんは無言で手をとり握った。

 

「頼む!あの”ロリコン天使”を共に倒そう」

 

こうして、対天使同盟は誕生した。

 

 

 

 

1時間後。

 

主な対策を説明している時、鈴音ちゃんが部屋に入ってきた。

 

「渚ちゃん!分かったよ!」

 

鈴音ちゃんは開口一番にそう言うと、一枚の画用紙を机に置いた。そこには、後藤と対峙する赤い女の子の絵があった。

 

「場所は、水が多い所で、時間は…。」

 

鈴音ちゃんは、していた腕時計を見た。鈴音ちゃんの力は夢を目の前で見る事が出来る。その為身につけていたものごと夢の中に入るので、時計を持参していれば、時間も確認出来る訳である。

因みにこの方法は、夢ちゃんの時も使用したそうだ。

 

「…時間は、今日の朝3時。」

 

「3時ね…」

 

時計を見ると、時刻は午前1時であった。つまり後2時間しか無い事になる。

 

「…とにかく、探さなくちゃね。水の多くて暗い場所を」

 

「ああ、恐らく後藤は、そこに”ロリコン薬”をまくつもりなのだろうな」

 

「でもさ、どうやって、町中にばらまくの?水に混ぜた位じゃごく1部の地域位でしか影響が無いんじゃないの?」

 

そうだ、あいつは、海鳴をロリの町にする。とか言っていた。1日で行うとは、言えないが、存在がバレている以上急ぐはずだ。

つまり、まくとすれば、最も効果的な場所…そう、たった、1日で…全ての市民に効果を及ぼす事の出来る場所。

 

「お空から降って来るの?」

 

そんな時、いっちゃんがそんな事を言った。…空から降る?…待てよ?

 

「ねぇ、いっちゃん?」

 

「なに?」

 

「天使って、知ってる?」

 

「うん!いっちゃん知ってるよ!あのね…天使って――――――」

 

こうして、いっちゃんの口から恐るべき”天使”の力が語られた。もしこれが本当だとするのなら…。

 

 

 

 

後藤は、”天使”にして”自然災害”の様なものと言う事になる。

 




お知らせ。能力を変更しました。
一方通行の反射からベクトル変換能力へ
とりあえずこの編が終わったら人物紹介をいれます!!


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第35話 探し物はなんですか?

今回は少し短めです


後藤に関する恐るべき情報を手に入れた私たちは、2手に別れ行動することになった。チーム分けは。

 

A班

 私。

 リンちゃん。

 ランさん。

 

B班

 ヴィータちゃん。

 シュウちゃん。

 鈴音ちゃん。

 

と言う具合に分かれたのだった。

 

 

 

 

「で?一体私達は、なにを探せば良いの?」

 

「取り合えず、さっき言った所を回るわよ」

 

「しかし、さっき話した仮説が正しければ、場所は数十はあるぞ?見つかるのか?」

 

「たぶんね。鈴音ちゃんの予知が正しければ、私たちの内どちらかの班があの変体を見つける事になるらしいからね」

 

私が、言うとランさんが少しじとめで言った。

 

「随分と信用してるのね。未来予知なんてあやふやなモノなのに」

 

「確かにな。どんな時代の予知者でも必ず当たる予言者などいなかったな」

 

リンちゃんも地図を眺めながらそう言った。まぁ、鈴音ちゃんをあまり知らない人から見ればそうかもしれない。だけど、私は知っている。

夢ちゃんの時も彼女のおかげで私の命は助かったのだ。それに鈴音ちゃんの力については、南・夢ちゃんという2人の超能力者も認めているのだ。信用度は高いと考えてもいいだろう。

 

「大丈夫よ。確かにあやふやだけどこんな時なら鈴音ちゃんは、南より役にたつから。兎に角予言に出てきた赤い女の子をさがしましょう」

 

今、探すべきは、鈴音ちゃんの夢に出てきた、赤い服を着た女の子だ。恐らくその子の前に後藤は、現れるのだろう。そうなると、その子が非常に危ない状況になってしまう。早めに見つけなければいけない。

 

「…赤い服の子供…ん?」

 

「どうしたの?リンちゃん」

 

「…いや、ちょっと気になってな…赤い服…」

 

リンちゃんは、腕をくんで何やら考えだした。何か心当たりでもあるのだろうか?

 

「それよりさ、ナギサ」

 

すると、ランさんが、自分のディバイス(武器らしい。)を見ながら言ってきた。

 

「あの変態を見つけられたとして、どうやって捕まえるの?正直に言うと例え魔力の結界を張って無かったとしても、あの変態に勝てていたかは、怪しかったわよ」

 

そう言って、ランさんは険しい顔をして辺りを見渡した。ランさんの実力は、リンちゃんの話では、そこいらの魔導師より強いらしい。

まだ、いんの?この町に?

 

「その点は、大丈夫…だと思う…」

 

そう言って、私は、リュックの中からネット網を取り出した。大きさ的には、人間2人分位だろうか。

 

「なんだ?それは?」

 

リンちゃんとランさんが不思議そうに網を見ていた。

 

「“身動き不能”夢ちゃんに貸して貰ったの。これに絡め取られたら、ゆっくり締まって行って、最終的には、対象を肉のサイコロにする拷問用アイテムよ」

 

「強度は?」

 

「南で実験した限りでは、かなり頑丈。サイコロにする時間は大体30分って所かしら」

 

「え?試したの…?」

 

「ふむ…一夜が脱出出来なかったのか…」

 

「ねえ!なんで正確な時間が分かってんの?」

 

何か、ランさんが、驚愕の表情で私を見ていたが気のせいよね。大丈夫よ?ちゃんと昏倒させてから実験したから。人道的でしょう?

 

「…だが、それだけでは、いささか頼り無くないか?南の力は、どちらかと言えば防御に特化した力だ。それに対し後藤は私の見た限りでは、攻撃に特化した力のようだったが…」

 

「うーん…死に直面した南の必死の攻撃には耐えたんだけどね…」

 

「ねぇ…その南って子、元に戻さない方が幸せな人生を遅れるんじゃないかしら?」

 

大丈夫よ…記憶の方は、ちゃんと“大嘘憑き”で削除してあるから。

 

「でもまぁ、今の所は、これくらいしか捕獲の使用がないのも事実だし、これに賭けましょう」

 

「ふむ。そうだな。…ん?そろそろ1箇所目か」

 

リンちゃんの言葉に顔を上げると、確かに目的の場所が見えてきた。

 

「下水処理場ね…」

 

「ああ、この町。もしくは、近くには、2箇所ある。ここに居なければ…地下に潜るしかあるまいよ。」

 

「うへー今更だけどかなりの賭けね。明日が休みで本当に良かったわ」

 

もし潜る事になったら匂いが大変な事になりかねない。しかも下水の出口は、全部で数十もあるのだ。それを全部回るとなると体力も時間もかかる。

 

「時間は?」

 

「2時30分だな」

 

「と、言う事は…」

 

「もし、ぶつかるとしたら…やっぱりここになりそうね…」

 

ランさんは、表情を険しくしてディバイスを握り締めていた。…それにしても。

 

「なんで、赤い女の子は、こんな所にいるのかしらね?」

 

どう考えても、夜遅くに女の子が来るような所とは思えないんだけども。

 

「…赤い服…何だ?何か忘れているような…」

 

リンちゃんがまた、何かを呟いていた。何よ?そんな時だった。

 

「あ、赤い服と言えばさ」

 

ランさんが思い出した様に言った。

 

「鉄槌の騎士のバリアジャケットって…」

 

「……」

 

え?何?どうして2人とも黙り込むの?沈黙が辺りを包み込む。それから…。

 

「「しまったぁ!」」

 

リンちゃんとランさんの絶叫が響いた。…コレは、後に聞いた話なのだが、私達が探していた赤い女の子は…。

 

「ヴィータ!」

 

だった、らしい。



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第36話 未来人 VS 鉄槌の騎士

最強の敵は近くにいる?
           投下!


「赤い服と言えば、鉄槌の騎士。確かお前のバリアジャケットも赤だったよな?」

 

「ああ、はやてが考えてくれた最高の鎧だぜ!」

 

「へえーどんなのなの?」

 

「とにかく赤いんだ。ついでに帽子には呪いのうさぎが付いてつんだぞ?」

 

「…著作権とか大丈夫なのかな?」

 

「?何だそれ?」

 

「しかし、その赤い服の女がお前だったら洒落れにならないな」

 

「ははは~まさか」

 

この会話は、実にマンションを出るときの何気ない会話だった。ナギサ達が先に出発して、そのすぐ後に私達はマンションを離れ、ナギサ達とは、逆側にある下水処理場へと向かった。今思えば、あの時もう少し考えていれば良かったと思う。

 

「「「…」」」

 

結論から言えば私達は後藤を発見した。

 

「リャリャリャ~リャー~リャ♪」

 

下水処理場の職員塔の中で深夜アニメを見ながら奇妙なダンスを踊っているバカがいた。後藤だった。

 

「「「…」」」

 

その光景を窓の陰から死んだ魚の目で見ている私達がそこにいた。

 

「えっと…どうする?」

 

「時間は?」

 

「2時30分かな?」

 

「予言は?」

 

「3時」

 

あと30分か…。

 

「トランプとかあるけど?」

 

 

 

 

「ヨッシャ!3カード!」

 

「甘いな。フルハウス」

 

「エへへ~ゴメンね。ロイヤルストレートフラッシュ」

 

ミッドにもあったらしいポーカーを暇なのでやった結果、スズネの全勝だった。つえー。

 

「お!ヴィーたん!何してんの?」

 

「ポーカーだよ!」

 

「僕も混ぜて混ぜて!」

 

「おう!シュウ!早く配れ!」

 

「分かってる!次は勝つからな!」

 

「うん!どーんとこい!」

 

 

 

 

 

「また、私の勝ち!!」

 

「「「つえー」」

またしてもスズネの圧勝だった。おかしい。私とシュウと後藤で組んだはずなのに!

まさか…イカサマ?…いや、スズネに限って…いや…人間と言うのは、勝利に貪欲だ。何かを捨ててまでかかってくる。

スズネも…もしっ!私が組んでいる奴と繋がっているとしたらっ!考えろっ!思考を止めたら負けだっ!即ち死と同義っ!

 

「…」

 

シュウは、確か今回のゲームでは、殆ど2位っ!つまりスズネを勝たせる為にっ!…いや、これはポーカーだ。カードコントロールは、殆ど不可能だろう。

 

「ヴぃーたんドンマイ!」

 

後藤は…さっき参戦したばかり…いやっ!それこそがフェイクの可能性もある。全ては布石…まさか!2人共敵っ!

それならばイカサマ可能っ!カードのすり替えを行えば可能っ!

 

「…もう誰も信じないっ!」

 

 

 

 

ミンナテキナンダ…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

「うう…うううっ…」

 

「ど、どうしたの?ヴィータちゃん!」

 

は!一体何をしていたんだ?

 

「ごめん。ちょっとコープってた」

 

「コープ?なにそれ?」

 

「なんだろうな?自分でも何言ってんのかわからない…」

 

「まあ、ミナツキさん。落ち着いて」

 

おい!誰だよ!ミナツキって!

 

「所で、今は、何時だ?」

 

「えっとね…2時55分かな」

 

「そうか。“アイゼン”セット」

 

『サー』

 

バリアジャケットに着替えた。さて、始めるか。

 

「後藤」

 

「ん?何?ヴぃーたん?」

 

「テメェがなんで普通に混じってんだよ!」

 

「今更!って!」

 

手応えアリ!後藤は見事に地面に叩き付けられた。

 

「ハァハァハァ…」

 

本当に今更だったが、奴は完全に違和感無く参加していた。これが、奴の力なのか。

 

「いや…今回は、特別なアイテムは使ってないから」

 

「なっ!」

 

見ると、“アイゼン”が、下から押し上げられていた。そして、そこには、笑顔の後藤が、いた。

 

「…ちょっと待て…全力で叩き潰したはずなんだけど…」

 

「ヴぃーたん~ヒドイな~」

 

その間も後藤は、“アイゼン”を押し上げて行く。確かによく考えれば、後藤の使う“エスカリボルグ”は重量2t。対して“アイゼン”は、100kgも無い。いくら、加速して振り下ろしたとは言え、その重量は、2tには及ばない。つまり受け止められても不思議では無いのだ。

 

「ちっ!ウラ!」

 

力の限り後藤を“アイゼン”ごとぶん投げた。

 

「あっらぁ?」

 

そんな声を上げながら後藤は、下水道に繋がる階段の壁をぶち破り、地下へと落下していった。

 

「あっらぁ?」あっらぁ?」あっらぁ?」あっらぁ?」あっらぁ?」あっらぁ?」

 

エコーがむかついた。

 

「追うぞ!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

変態発見メールを送信し、私達は、後藤を捕獲するために地下へと向かった。

 

 

 

 

「なんで、バレたんだろう?」

 

一方後藤は、下水道に落ちながらも考えていた。

自分の計画が事前に知られる訳が無いし、日野さんの監視網にも引っ掛からない様に最大限の努力もしたはずだ。

 

「…っと、ともかくバレたなら仕方無いよな…」

 

くるりと体制を整え足場へと着地する。

 

「ヴぃーたんを手に掛けるのは、気が引けるけど…」

 

後藤は、“アイゼン”をヴィータ達がやって来るであろう場所へ投げる。

 

「軽くやってみるか」

 

 

 

 

今、変態紳士の反撃が始まる。

 



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第37話 お前の記憶は確かか?

かなり遅れました!投下!


『にぎゃぁ!!!!!!』

 

「メールね。ヴィータちゃんからよ!後藤を発見したって」

 

「やはり、あっちにいたのか…急ぐぞ!」

 

「ねぇ…何?その着信音…」

 

「ん?南の断末魔だけど?」

 

「そう…(歪んでる…この子歪んでる…)」

 

「ほう。ちょっと気になるなそれは」

 

「みんな歪んでる!」

 

 

 

 

 

私達が地下に着くと直ぐに後藤を見つけた。

 

「やあ。待ってたよ」

 

私の記憶が確かならばここに叩き込んだのは私のはずなのだが、後藤はまるで自分は最初からここにいました。的なオーラを醸しだしていた。

 

「後藤…観念しろ!もうすぐ、ナギサもリンもあと…えっと…」

 

誰だったっけ?…。

 

「ミィちゃんもここに来るぞ!」

 

「ランだ!」

 

あ、そうだった。

 

「観念?ハハハ~のハ~。例え全員が揃ったとしても僕を止められ無いよ?昼間の戦いを忘れたの?」

 

「昼は昼だ!そもそも魔力が使えなかった。つまり、お前は、私の実力は知らねえ訳だよな?」

 

「ふ…僕のロリー観察眼を持ってすれば、相手の実力位分かるさ。ヴィーたんの実力は、いいとこ7だ」

 

「お前を10とした場合か?」

 

「“今”の僕をね。因みに“夢ちゃん”は58。“南”は5って所かな」

 

夢が随分強く思われているようだ。58って…。

 

「あと、そこの幼女ちゃんは、7。妹さんは6。で、コウちゃんは、将来的には11だな」

 

「…つまり、お前の見立てでは、シュウと同程度の私は相手じゃないと?」

 

「正解」

 

「っ!鉄槌!」

 

その時、シュウが私を突き飛ばした。

 

「つっぇ…何…しや…がる…」

 

あれ?

 

「どうしたのかな?」

 

なんだ?どうして私は…誰に突き飛ばされた?

 

「おい!スズネ!お前か?」

 

「う…うんん?そこには、ヴィータちゃんしかいなかったよ?…あれ?」

 

なんだ?なにかが、おかしい…。

 

「おい!後藤!テメェ!私らに何しやがった!」

 

「ん?別に?ヴィーたん達には何もしていないよ?」

 

何故か、その言葉が心に引っ掛かった。

 

「そうだね。強いて言うなら君の仲間を“いなかった事”にした位かな?」

 

「は?」

 

意味が分らない。“いなかった?”私は最初からここへはスズネと2人で来たはず…そのはず…。

 

「不思議だよね。存在をチョイトいじっただけでさっきまでの味方が消えても気付かない。まぁ、消したっつうより…気にならなくなったって言った方が自然だけどね」

 

こいつは、一体何を言っているのだろうか…不気味すぎる。とにかく早く倒さねえと!

 

「あ、そうそう。ヴィーたんの武器ならそこに落ちてるから」

 

後藤が、そう言って見ていた方を見ると確かに“アイゼン”が落ちていた。

 

「ちっ!」

 

私は、“アイゼン”に向かい走ると、何かにぶつかった。

 

「のわ!」

 

「あ、悪い」

 

頭を押さえながら見ると、シュウ真ん前にいた。

 

「ボケーっとすんな!シュウ!お前は、アイツを連れて離れてろ!」

 

「ん?鉄槌。アイツって誰のことだ?」

 

「はぁ?そんなの…」

 

瞬間、私の思考はフリーズした。私は、誰を逃がすつもりだった?

 

「シュウ。ここには、何人で来た?」

 

「2人だった…たしか…」

 

シュウがどこか歯切れの悪い返答をした。なんだ?この違和感は!

 

「後藤!何をしたんだ!何だ!この気味の悪さは!」

 

「うーん…。まぁ、いいか。ヴィーたん。天使と人との違いって分かる?」

 

「は?んなもん知るかよ。種族とかか?」

 

「うーん。チョイト違うかな。答えは、圧倒的な個性だよ」

 

「個性?」

 

「そう。で、その個性が枯れた時。天使は消えるし人も消せる様になるんだ」

 

「は?」

 

こいつは、何を…。

 

「簡単に言うと、その人間の個性を枯らして、居なくなっても不思議…違和感がなくなるんだ」

 

言ってるんだ?

 

「っと、言っても分らないだろうから。特別にヴィーたんだけに教えるよ」

 

そう後藤が行ったとき急に何かを思い出した。

 

「っ!スズネ!」

 

時田鈴音。自称未来人の少女。そいつが、いなくなっていた。

 

「おい。誰だ?スズネって」

 

「誰って!さっきまで一緒にトランプをやってただろうが!」

 

シュウは、私の言葉に首をかしげるだけだった。どういう事だ?

 

「簡単な事だよ。ヴィーたん。そいつは時田さんの事を気にしなくなったんんだ。さっきまでのヴィーたんと同じさ。」

 

「さっきまでの私だと…」

 

そう言われ記憶をさかのぼって見ると確かにそうなっていた。

 

「分かった?これが、天使の力だよ。これでもヴィーたんは、僕を止めるのかい?」

 

「っ!」

 

瞬間寒気が迸った。圧倒的な悪寒がしたのだ。後藤の力は、強大過ぎる。勝てない…。

 

「ヴィーたん。引いてくれない?僕も友達を手にはかけたく無いんだ。」

 

「…」

 

相手の個性を消して、気にならなくする力。これほど恐ろしい力があるのだろうか?リンから聞いた南の力は、“無かった事”にする力。

一見そっちの方が恐ろし様に思えるが、私には後藤の力の方が恐ろしく感じた。簡単に言えば、南は消しゴム。後藤は修正液といった感じだ。

剥がせばまた字が見える。安いだけど恐ろしい修正液だ。何せ、アイツが解除すれば、全てが元に戻るのだ。“無かった事”が“あった事”へと変貌する。怖い。

 

「ヴィーたん。震えてるよ?」

 

気がつけば、私は、震えていた。けれども何故震えているのかが分らない。

 

「う…わぁ…」

 

気が付くと1人になっていた。最初から1人でここに来たのだから仕方がない。

 

「ヴィーたん。例えここで逃げても誰も君を責めはしないよ?僕にたった1人で向かわせた、日野さんのミスなんだから」

 

そうだ。ナギサは私をたった1人で行動させた。後藤に勝てなくて逃げたとしても私には非は無い…。

 

「…」

 

“アイゼン”を持つ両手は汗で濡れていた。今、私が思うことは、全力でこの場から離脱したい。と言うことだけだった。

 

「別に、僕の計画が成功しても君は変わらない。永遠に成長しないだけなんだよ?これ程幸せな事は無いよ。」

 

成長しなければ、病気にならない。年も取らない。衰え朽ちて行くことも無い。そう…成長しなければ…成長…。

 

「…ザケンな…」

 

「ん?」

 

「ふざけんなって言ってるんだよ!」

 

私は、後藤へ大声で言った。

 

「何が、永遠だ!そんなものいらねえよ!成長しない?こちらと何百年もこの調子なんだよ!お前にこの辛さが分かるか!」

 

「?何言ってんの?」

 

毎回出てくるたびに、歴代の主からは、馬鹿にされ、身長の事でいびられ、果ては、未だに私の私服は子供服だ。一体何度この体にした

奴を恨んだ事か。せめて年齢位合わせろよ!シグナム、シャマル、ザフィーラが成人程なのになんで私だけ小学生なんだ!おかげでなのはには、ちゃん付けされてるし、ナギサからもそう呼ばれている。一応言っておくけど…私は、お前らの数十倍は生きてるからな!他の奴ら見たいにさんを付けやがれ!

 

「ああ。もう面倒くせ!」

 

怖がっていた自分が、面倒だ。ひとつ言える事は、後藤の計画が成功すれば、はやてもなのはも私と同じになるって事だ。

 

「させるかよ…」

 

はやてが私と同じになるなんて…そんな苦しみに中に叩き込むなんてマネは絶対に出来ない。

 

「後藤。テメェの計画はなにがなんでも止めてやる。繰り返されてきた悲しみの連鎖は紡がせない!」

 

“アイゼン”を構え宣言する。

 

「“鉄槌”の名にかけて、お前を止める!必ずだ!」

 

仲間は、いない。だが、小さな騎士は天使へと挑む。全ては、悲しみの記憶を断ち切るために。

ロリの悲劇を一番知っているが故に彼女は負ける訳にはいかないのだ。

そう。“闇”の悲劇を…結末を忘却していてもロリの悲劇は忘れない。

それが…。

 

「“鉄槌”の騎士 ヴィータ!行くぞ!」

 

実は、八神家の衣類で最も服に費用うがかかっている騎士ヴィータだからだ。子供服は高いのだ!

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや…アレ?」

 

「何よ?」

 

「…ヴィータは、一人で戦っているのだな?」

 

「は?何言っての?シュウちゃんと鈴音ちゃんがいるじゃいない!」

 

「誰だそれは?」

 

「誰って!ランさんのお兄さんとウチの未来予知者よ!」

 

「私に兄なんていないわよ?」

 

「…なに…まさか…皆!一旦ん進軍停止!様子を見るわよ!」

 



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第38話 イレギュラーの存在

連日投下!

神フェイズ!


とある異空間。

 

いや、異空間と言うような安い言葉では表せない空間で多くの人々が何かの画面を凝視しながら働いていた。

その中の一人に南をこの世界に送りだした、あの世課のあの人がいた。

 

「えっと…あの次元が、破壊されたから…約1000000000000000000000000000000位の損害か…」

 

彼が、の前の机の上には、大量の書類と彼とそのほか2人が写っている写真があった。皆笑顔である。

 

「ヤマダちゃん!仕事乙ね!」

 

「まだ、終わってませんよ部長…今日も残業です」

 

「ハハハ、なに言ってのさ、老後の為の蓄えと思えば軽い軽い」

 

「…私達の老後っていつなんでしょうかね?」

 

「それは、言わない約束だぞ」

 

彼等の寿命は人間など比較にならない程長い。故に老後までは長い道のりなのだ。その実部長とヤマダさんとの間には、地球の誕生から滅亡までの期間×3程の歳の差があるのだ。

 

「なら、ほら、家族の為とか…」

 

「……」

 

「あ、すまん…」

 

写真を見て部長は頭を下げた。

 

「…いいんですよ。何時までもこんなものを机に置いている私が悪いんですから」

 

「あ…まぁ、なんだ…元気出せ…うん。浮気なんかに負けるな」

 

神の世界も色々な問題に満ちている。

 

「ところで、普段なら部下を見捨てて逃げ帰る部長がこの一介の係長ごときになんの用ですか?」

 

「酷い言い草だな。部下を信頼しているからこそだろうが。まあ、これを見てくれ」

 

部長は、そう言うと一枚の紙をヤマダに渡した。

 

「…なんですか…これは…」

 

「うーん。ヤマダさんが、久々にミスったって聞いたから気になって調べて見たら…こうなってた。心当たりはある?」

 

「無いですよ。でも理解しました。道理で転生じゃなくて憑依になったんですね…転生者の数が多すぎる…」

 

「そうだよね。ヤマダさんの前任のだって、転生させたのは2人。そんで、ヤマダさんは1人。いくら何でもこの数は異常だ」

 

「しかも…なんですか?この力は?明らかに転生条約違反ですよ!」

 

ヤマダの持つ紙の中には、現在確認されている転生者の能力一覧が書かれていた。そのどれも全てが、異常な力ばかりだった。

 

「これは…一度皆さんに集まって貰った方がいいかもね」

 

「ですね…しかし無理でしょう。私が行って貰った方はともかく残り2人は…その…」

 

「捻くれてる?」

 

「はい」

 

「大丈夫だって、局長に説明して、神の権限で精神だけ連れて来れば、問題無いって」

 

「簡単に言いますね…はぁ~分かりました。一応上に掛け合ってみます」

 

ヤマダはそう言うとまるで煙の様に消えた。無駄にここらへんだけ神っぽかった。

 

「さて…」

 

部長は、呟くとどこかへ向かって声をだした。

 

「これで、良いのかな?」

 

返事は、無い。いや、ここには、届かないだけだ。

 

「ははは。人間のことなんて良くは分からないけど、君の事程分らない事はないね」

 

そして、しばらくした後、部長は笑った。

 

「成程ね…そう言う事か…うん。まぁ良いんじゃ無いか?元々は君しか転生者はいない世界だったんだ。言ってしまえば主人公は君なんだから。その作品をどうするのも君の勝手さ。まぁ、他の2人がどう思うかわからないけどね。どうだい?殺し合いでも始めるかい?」

 

部長が見つめる虚空の中。その転生者は答える。

 

「はは、君らしいね。うん仲良くしたまえ…時が来るまでね。…あ、そう言えば、今、3人目がイレギュラーと接触してって聞いたけどどうする?…ん。傍観ね。了解。まあ、直ぐに終わるだろうからね。所詮は、“天使”モドキ。“悪魔”モドキの君の相手にもならないだろうから」

 

部長がそうつぶやくとそのまま世界は反転した。そして、とある戦いの場面へと移り変わる。

 

「さて、勝つのは、イレギュラーか?世界そのものか…見せて貰おうじゃないの」

 

結局の所。どちらが勝っても。関係ない事だから。

 



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第39話 推参!夜の帝王

参上!夜仮面!!


「で、なんで一旦止まったわけ?」

 

「なんか、後藤がなにかをしたみたいだからよ」

 

「何かとは、なんだ?」

 

「あんたらの記憶から鈴音ちゃんとシュウちゃんの事が抜け落ちてる事ね。南(幼女)を脅して情報を絞り取ったかいがあったわね。どうやら、あいつは、人を消せるみたいなのよね…原理は不明だけど…」

 

「つまり、消された人間は、周囲の記憶に残らなくなると?」

 

「そう言う事ね」

 

「じゃあさ、なんで、アンタは覚えているわけ?おかしいじゃない」

 

「私は、あれよ!」

 

「…まあ、ナギサだから仕方無いか…」

 

「…ああ」

 

「どういう意味よ!私は、幸いアイツの影響を逃れてるのよ!これのおかげでね」

 

「…?螺子…?」

 

「そうよ。一回お風呂に入った時に気が付いたんだけどね。どうやら南の奴、無意識的に私に打ち込んだ見たいなのよね…」

 

「いつだ?」

 

「多分、昼頃やられる直前か少し前くらいかしら?」

 

「“幻想殺し”か…」

 

「かもね。夢ちゃんの時も南の力が使えたから、“超電磁砲”とか“不慮の事故”とか“反射”とかも使えるかもって思ったけど…」

 

「やめてくれ、ナギサがこれ以上の力を持っては、世界の危機に繋がる」

 

「…リンちゃん…消されたい?」

 

「すまん!私が悪かった!だから“幻想殺し”をこっちに向けるな!」

 

「でもさ、それは、良いとして早く行った方が良いんじゃないの?ナギサちゃんの話が、本当なら今戦っているのは、記憶にある“鉄槌”の騎士だけって事でしょう?」

 

「そうよね…」

 

「…いや、大丈夫だろう」

 

「リンちゃん?」

 

「奴も歴戦の騎士である事には変わりはない。これまで多くの戦場を駆け抜けてきたスキルは、天使にも引きは取らない。それに、昼間の後藤の戦闘は、ただ、思い鈍器を振り回していただけにすぎん。白兵戦になれば、ヴィータの勝利は揺るがないだろう」

 

 

 

 

 

「うらっ!」

 

「ヨット!」

 

下水道において現在、天使と騎士が激戦を繰り広げていた。当たれば、致命傷確実な天使の攻撃を騎士は巧みにかわし反撃を始めた。

一方天使は、その反撃をギリギリでかわしている。現状況から見れば互角の戦いだった。

 

「うーん。手ごわくなってきたな…」

 

「はぁはぁ…やっと、てめえの“エスカリボルグ”の軌道が読めてきた…成る程な…考えて見たら単純だったな。そのバットの重さは2t。いくらお前が怪力を持って居るからとは言え、2tもの鈍器を自由に振り回せる訳じゃねえ。確実に一定方向にしか動けなかった訳だ。」

 

息を切らして言い切るヴィータに後藤は。

 

「はぁはぁ…推理系幼女…ハァハァ…」

 

息を荒らげて言った。

 

「半分正解かな?正直、ヴィーたんの戦闘力を見誤ったかも…」

 

「どうも。これでも私は、騎士なんだ。経験は履いて捨てる程あるからな」

 

「そうか…経験ね…」

 

「お前が言うとなんか寒気が走るな…」

 

ヴィータは、一歩下がって様子を見る。本来なら先手必勝な性格なのだが、相手が相手なのだ。

 

「…しょうが…ないか…」

 

後藤は、そう言うと、“エスカリボルグ”を投げ捨てた。

 

「何のつもりだ?」

 

「仕方無いだろう?このままじゃ勝てない。…ところでヴィーたん」

 

「何だよ?」

 

「もう寝なくても良いのかい?」

 

「この状況下でそれを言うのか?」

 

すると、後藤は、ふっと笑った。

 

「それは、いけないな。深夜率は、とっくに一二〇%を超えているというのに」

 

瞬間、あたりが暗闇一色に染まった。元々暗かったのだが、その闇は更に暗い。

 

「な…んだよ…」

 

これまでに体験したことのない展開にヴィータの声に怯えが入った。

 

「そんなに闇が恐ろしいのか?」

 

その時後藤の声が闇の中から聞こえてきた。

 

「テメェ!」

 

「夜とは、闇とは、人に絶望や悲しみを与えるために存在するにあらず。」

 

そして、瞬間、闇は、消え去りその場には、暖かい闇が残った。

 

「真の闇とは、人々に深い安らぎと平和の心をもたらすモノなり!!」

 

全てを温かく包み込む様な月光。そして、上空を埋め尽くさんばかりの寝具の数々…。

 

「…ってえええ!」

 

いつの間にか、有り得ない状況下へと追い込まれたヴィータは声を上げた。なんだこれは!

その間にも寝具全てが合体。枕は枕カバーにシーツは布団にドッキングそして出来上がるのはシワ一つない布団セット。

そして、いつの間にか積み上がった布団タワーの上に着地した後藤は、両手を鳥のように広げ片膝を付き

 

「布団の上では常勝無敗!(シュババババ!)夜の帝王!夜仮面!(マント。バサァ~)寝ない子は誰だ?」

 

と決めたのだった。

 

「な、んだよこれは!」

 

「夜仮面!(マント。バサァ~)」

 

「いや、それは、さっき聞いたから!なんで、下水道から、地上に出てるんだよ!」

 

そう、これまで、2人が戦って来たのは、地下の下水道。間違ってもこんな綺麗な空が見える場所ではない。

 

「ッ!まさか…寿也と同じ力なのか!」

 

“無限の剣製”ヴィータ達の恩人の一人である、赤神寿也が使う“固有結界”というものらしい。あらゆる武器を複製し取り出す事が出来る。

闇の書の最終決戦の際には、まるで、世界を想像した様な剣だらけの世界を展開していた。今回は、寝具だらけの世界のようだが…。

 

「?いや、ヴィーたんが何言ってんのか分からないけど、多分違うから」

 

しかし、後藤は、首を振った。

 

「じゃあ、なんで、私は、ここに…」

 

その時首元に猛烈な違和感が生じた。触って見ると何かが刺さっていた。

 

「なんじゃこりゃ!」

 

引き抜いて見ると、それは全長一メートル程の針だった。

 

「”微睡弄御 ヒルドスレイフ”。まぁ、完全洗脳アイテムかな。さっきの戦いで仕込んで置いたんだ。痛みは無いはずだよ?」

 

確かに不気味な程痛みは無かった。だが、疲れが凄い。

 

「ちょっと待て!洗脳アイテムを持ってたんなら、どうして私を仕留めなかったんだ?」

 

「僕は、殺戮者じゃ無い。それに、ロリを愛するものだからだ!」

 

後藤は、布団タワーの上から言った。不思議とその声ははっきりと聴こえた。

 

「それに、ヴィーたんは、騎士なんだろう?洗脳されて倒されるより、実力で倒された方が、のちのち納得してくれるんじゃないかな?」

 

「…成る程な。」

 

後藤の言葉にヴィータは、一つの確信を持った。

 

「…悪いな後藤。お前の事を少しだけナメてた。最低のグズ野郎って思ってた」

 

「うん」

 

「でも、考えを改める。テメェは、変態だが、グズじゃねえ」

 

「それは、どうも」

 

何故か、2人の表情には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「ヴィータちゃんが移動してる。」

 

「戦いの場所を変えたって事?」

 

「みたいね」

 

「どこに行ったんだ?」

 

「えっと…海鳴海浜公園のそばにあるキャンプ場ね」

 

「罠の可能性は無いのか?例えば、端末だけそこに置いたとか」

 

「“鉄槌”がやられて奪われたとか?」

 

「まぁ、無い事も無いけど…少なくとも後藤も居るわよ。」

 

「なんで?」

 

「端末は、ヴィータちゃんの“中”に仕込んであるから。」

 

「「は?」」

 

「頭でも、もがれない限り分離は不可よ」

 

「おい!それって!」

 

「さて、どうする?私は、キャンプ場に行くけど?」

 

「…なら、私は、下水道へ行こう。例の装置が設置されている可能性が高い」

 

「分かった。じゃあ、ランさんは私と」

 

「…天使と戦うより、ナギサちゃんと一緒にいる方が怖いわ…」

 

「…ラン。安心しろ。“今”は大丈夫だから」

 

「何してんの!早く行くわよ!」

 

「「無事で」」

 




聖杯と聖祥。結構間違いがあるようなので、時間があるときに一回全部見直して、訂正していきたいと思います。これからも誤字脱字などがありましたら報告をお願いします。


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第40話 鉄槌の最期

短いです。


海鳴キャンプ場は、異常な状態になっていた。

辺には、布団の山が空高く積み上がっており、その周りには、枕やシーツが散乱していた。

その中に騎士が一人いた。

“鉄槌の騎士”と呼ばれた、小さな騎士だった。

呼ばれた…そう。所詮は、過去の話だ。

騎士は、無惨に散っていた。

武器は、砕かれ、身はうちひさがれ、その身には、生気のかけらすら宿っていなかった。

騎士の倒れ付しているシーツに拡がっている赤い染みが、その絶望的な状態をより深く表していた。

騎士は、天使には勝てなかった。

ただ、それだけの話である。

 

 

 

 

 

正直、私はこの世界に絶望していた。戦いの日々は、確実に私達から生きる気力を削いでいった。

世界は、私達“闇”の騎士に冷たかった。

 

「うら!」

 

何度も絶望した。

 

「はぁ!」

 

何度も消えたいと思っていた。こんな戦いの日々はもう嫌だった。

 

「“アイゼン”!」

 

『Ja』

 

そんな、ある日だった。私達は、“闇”から開放された。戦いの日々は、終わったのだ。

 

「カートリッチ!3つ消費!」

 

『ギガント!』

 

嬉しかった。

 

「な!」

 

やっと、悪夢から開放された。

 

「なんだ!アレは!有り得ねえぞ!」

 

だけど…。

 

「…おもしれえ…」

 

退屈だった。…いや、別に、“はやて”や“なのは”達と過ごす日々は、悪いもんじゃ無かった。むしろ幸せだった。

何気ない出来事が幸せだった。

 

“シグナム”も

 

“シャマル”も

 

“ザフィーラ”も

 

“リイン・フォース”も

 

そして“ヴィータ”も

 

皆が幸せになった。そして、新しい生活が始まった。

 

「アハハ…本気で行くぞ!」

 

学校に行く様になって、私の世界は広がった。

 

“絶対支配者”のナギサ。

 

“超能力者”の南。

 

“殺人鬼”の夢。

 

“未来人”のスズネ(後藤談)。

 

そして…“天使”の後藤。

 

世界が広がった。これまで知らなかった、世界がそこにあった。

 

「やるね、ヴィーたん。ちとばかり驚いたよ」

 

「テメェこそな」

 

正直、私は、今とっても楽しい。全力で戦える相手がそこにいるからだ。

正直、自分より格上の相手と戦闘したのは、何度もあった。だけど…。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

なぜだか、わからないけれど、このまま打ち合っていたい気持ちになっていた。

相手が、後藤だからか?…分らない。

 

「まさか、孫の手+と、打ち合えるとはな…だけどコイツで終いだ!」

 

「どうかな?私を舐めんなよ?」

 

まだ、私が、学校に馴染めなかった頃だった。あの時の私は、皆と同じクラスになれずイライラしていた。そのお陰で、誰も私に話かけて来なかった。でも…。

 

「『ヴィーたん!一緒に文芸部に入ろうよ!』」

 

アイツは、一番初めにそう言って話しかけてきた。楽しそうに。笑顔で。

 

“後藤聖一”私の始めての友達。

 

「勇気のマヨネーズ+勇気のタオル」

 

「な!」

 

好きなものは、“幼女”。

 

「何だ?その巨大な布団たたきは!」

 

嫌いなものは、“それを傷つける者”

 

「…しぁーねえか…」

 

そして…

 

「安らかに眠れ…」

 

「“アイゼン”!行くぞ!」

 

『Ja』

 

私の…

 

「夜仮面!ソード!」

 

「ギガント・シュラーク!」

 

 

 

一番の友達。

 

 

 

 

 

以上が、事の全てである。

結果。騎士は倒れた。

武器は、破壊された。

最早、動くことは無いだろう。

永遠に…永久に…。

 



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第41話 とある天使の物語

天使の物語終焉


「…これって…」

 

私達が、海鳴キャンプ場にたどり着いた時。既に全ては終わっていた。

 

「…見ての通りね…」

 

辺には布団の山が出来ており一見滑稽な光景だった。

 

そこに私達の友達が血塗れで倒れていなければ…。

 

「…相打ち…」

 

ヴィータちゃんは、血塗れで倒れ伏してピクリとも動かない。

 

「…」

 

そして…後藤は…。

 

「アンタ…何がしたかったの?」

 

何かの柄に突き刺されヴィータちゃんに手を伸ばすようにして倒れていた。

 

「…一体…何がしたかったのよ!」

 

後藤は、その問いには答えてはくれない。

 

 

 

 

 

「ねぇ…ヴィーたん」

 

僕は、痛む傷を押さえながらシーツに体を預けて言った。まさか、最後の一撃が僕の武器を狙ったのではなく、僕自身を狙ったものだった

とは、思いもしなかった。自分を盾にして、武器を砕かれることを計算した、ヴィーたんの勝ちだ。

 

「これから、ちょっと昔話をするよ」

 

もう動くことの無い小さな騎士に…大切な友達に。

 

「僕は、いわゆる転生者って奴なんだ。」

 

普通の人が聞けば頭を疑われるだろうが、関係ない。

 

「一応言っておくけど、その時は、けしてロリコンだった訳じゃ無いよ?」

 

僕が、喋るだけだ。

 

「僕には、小さい頃から付き合いがあった、幼馴染がいたんだ。本当に小さい頃から兄弟見たいに育った。小学校も中学校も高校も同じだった。」

 

風が、吹いてきた。散っていた落ち葉が、布団の上に振りかり白を染めてゆく。

 

「ある日僕は気が付いたんだ。彼女の事が好きだったんだって。」

 

太陽が、うっすらと昇って来ているのが分かった。もうすぐ夜明けだろう。

 

「でも、結局振られた。…彼女は、僕なんかよりも100倍格好良い奴と付き合ってたんだ。いやーあれは、僕の人生の中でも一番悲惨な思い出だよ。」

 

夜明けが近付くたびに眠気が襲ってくる。ああ、やばいかも。

 

「で、僕は、引き下がった。正直彼女は、僕なんか相手にもしていなかったんだ。何より彼女は幸せそうだった。邪魔なんて出来る訳が無かった。…でも…今思えば、それが、原因だったのかも知れない。」

 

目の前が、霞んでゆく。もう何も見えない。

 

「彼女は、騙されてたんだ。そして、多額の借金を残されて捨てられた。…僕は、それを知って直ぐに彼女の住んでいるアパートに行ったんだ。」

 

慰める為に。小さい頃から知っている、彼女の為に。きっと、直ぐに立ち直る。彼女は、強いから。

 

「…でも、彼女は、死んだ。近くの公園で首を吊って。勝手に読んだ遺書には、自分の愚かさが書いてあった。自分にはもう味方はいない。自分は、一人だ。そんな文字が最後に書いてあったよ。…後悔した、とっても後悔した。なんでもっと早く彼女の変化に気付かなかったのか?

なんで、自分が傍にいてやれなかったのか?なんで!あんなに強い人が簡単に…こんなにも簡単に死ぬんだって!」

 

声を荒らげたのがいけなかったのか、血が、ゆっくりと溢れた。鉄の味が口腔内を支配してゆく。

 

「それから、僕は、死人の様に過ごしたよ。別に何も食べなくなったり眠らなくなったりした訳じゃない。生きる為の最低限の事しかしなくなった。ただ、食べ、眠る。周りからも見捨てられ、親からも見捨てられた。それでも、何も気にはならなかった。」

 

死にたい。そう、思っていたけれど…僕には、そんな勇気も気力も無かった。

 

「そんな時、僕は一人の女の子を見つけたんだ。僕が、歩道橋の上でただ眺めていると彼女がいた。それも小さな頃の元気な彼女が。もちろんそれは、彼女じゃなかったけど…僕は、誘われる様にフラフラとその子に近付いた」

 

正直あの時の僕の見た目は、正しく変態だったに違いない。

 

「その子は、ボールで遊んでいてね、取り損ねたんだ。そして、道路に出てしまった。そこにトラックが来んだ。僕は、駆け出したよ何も考えずに…彼女が、僕の幼馴染にそっくりだったからかも知れない。そして、僕は、大怪我を負った」

 

死ぬかと思ったけど、人間は、そうは、簡単には死ねないのだ。

 

「それからは、辛いリハビリのスタートさ。でも、僕は、それを辛いとは思えなくなってきたんだ。理由としては、その子が毎日お見舞いに来てくれたからかな。」

 

そんな日々の中で、僕は、生きるって意味をまた見つける事が出来たんだ。辛い生活から僕は、彼女の死に向き合う事が出来た、そして、乗り越える強さをまだ、小さな彼女から教えて貰った。

 

「…でも…ある日その子は、来なくなった。初めは、きっともう許して貰えたから来なくても良いと思ったからと思った。…だけど、それは、間違いだった。…その子は、病気になってたんだ…いや、元々難病だったらしい。道理で、パジャマの様な格好で来るとは思っていたんだけどね。」

 

僕なんかよりずっと苦しいのに…僕なんかよりずっと辛いのに。あの子は、元気な時は必ず来てくれていた。

 

「その子の病気は、殆どの臓器の不全だった。治療には、多額のお金とドナーが必要だったんだ…」

 

僕が集めた情報では、お金は、何とかなるそうだったのだが、ドナーが見つからなかったらしい。歩けるようになった僕は、その子の病室に毎日通った。入院当初とは、立場が逆転したんだ。

 

「僕は、その子を死なせたくなかった。だから、試しに自分の臓器を調べてみたんだ」

 

最初は、期待なんてしていなかった。だけど…。

 

「僕は、運命に感謝したよ。本当に感謝した」

 

僕は、自分の命より彼女がまた、死ぬのが、怖かった。楽しげに笑う顔や恥ずかしがっている顔、僕が、思い出せる彼女は、全て子供の頃の姿だった。その彼女が死んでしまう…嫌だった。

 

「だから、僕は、彼女の死んだ木で彼女と同じ様に死んだ。直ぐに見つかる様に遺書を残して。警察も呼んで、ちょっとした騒ぎを起こした。遺書には、僕の臓器を彼女に移植して欲しいとの文と死んだ事は秘密にして欲しいとの旨を書いた。」

 

ちゃんと移植出来たのかは、死んだ後神から聞いた。いや、まさか死後の世界が、あるとはね…。

 

「…まぁ、そんな訳で、僕の話は、終わり。殆ど独り言見たいになったけど…」

 

ゆっくりと、“死”の感覚が、伝わってくる。1度は、体験した事とは言え、やっぱり怖いな…。

 

「あ、そうそう…ヴィーたん…」

 

言わなかったけれど…キミは、彼女達にそっくりだった。最初見た時は、本当に驚いたんだ。彼女が転生したのかと思ったくらいだった。

だから、声をかけた。…でもね…僕は、いつの間にか…キミを…。

 

「…大好き…だったよ…」

 

これが…僕のストーリーの結末。悪くない人生だったな…。

 

 

 

 

 

これにて、天使の物語は、終了。

天使は、騎士と相打ち滅しられた。

これは、覆る事のない事実。

さて、これから始まる物語のさわりでしかない。

転生者の物語。

転生者が全て集まる為のほんの些細なきっかけに過ぎない。

 




転生者のすべてがこんな運命をたどっていたのだろうか?
だがこれはひとつの物語に過ぎない。
ただひとつの物語。
さて次回はどんな話なのだろうか?お楽しみに…


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第42話 大嘘

短いです。


「『やあ!』『元気にしていたかい?』『僕だよ!』」

 

「誰に話しかけているのですか?」

 

「『うーん』『強いて言うなら、この世界の源かな?』」

 

「そうですか」

 

日野家所有のマンションの屋上で2人の少女が会話をしていた。

 

一人は、“元”南一夜のハズの少女。

 

もう一人は、“悪意”の源の従者の少女。

 

何故、この二人が会話をしているのか?簡単な事だ。

 

「『でも、面白くない戦いだったね』『せっかく、3番目になって、見てたのに』』正直不完全燃焼だよ…』」

 

「よく、言いますね。一番苦労したのは、私のはずですが?」

 

「『あ、そうそう』『彼は、どうなってる?』」

 

「はい。正直、とどめておくのも限界ですね。再生なんて生易しいものでは、ありませんから」

 

「『あ、』『そう』」

 

“南一夜”は、興味なさそうに言うと、少女を突き飛ばした。

 

「…」

 

「…」

 

そして、彼女がいた場所には、一人の人物が、立っていた。

 

「『やあ、久しぶりだね』『ファースト』」

 

「ほんとうだな。“セカンド”」

 

「『僕が、僕じゃない事に随分前から気がついてたよね?』『どうして、誰にも言わなかったんだい?』『ヒントは、色々とのこしたんだけど?』」

 

「余計な混乱は、避けるべきじゃないのか?」

 

「『うーん』『混乱は、起こった方が』『良いと思うけどね』」

 

「意見の相違だな…俺達は、だから相性が悪いんだ」

 

「『アハハ』『悪くしているのはキミだよ』『僕は、悪くない!』」

 

一見のどかな会話の様だが、油断をすれば、死ぬ事は、2人とも分かっている。

 

「それにしても、何故キサマが、“サード”に化けている?」

 

「『いやぁ』『初めは、夢ちゃんを見に来ただけだったんだけどね』『何か、面白そうな事が起こっててさ』」

 

「成る程な…相変わらずの悪趣味だ」

 

「『アハハ』『それを、キミが言う事かい?』」

 

「…意味が、解らないな」

 

「『今回の事件の一旦は』『キミが、一枚噛んでいるのは分かってるんだよ?』」

 

「さて、なんの事だか?」

 

「『まぁ、良いや』『それより“ファースト”』『今回の話は、究極につまらない話だったね』」

 

“南一夜”は、首をくるりと回し天使の戦場後の方向を見据える。実につまらなそうに実に下らなそうに。

 

「『天使?』『アレは、天使でもなんでもなかったよね』『少なくとも、“サード”が警戒していた、“天使化”を行わなかった訳だしね』」

 

「そうだな。今回は、“天使”は、本領を発揮しなかった…いや、出来なかったんだろうな」

 

「『好きな人がいたから?』『おかしいね』『所詮僕達なんて、世界とは、関わらない方が、楽なのに』」

 

「…」

 

「『あ、』『ゴメンゴメン』『キミも同類だったか』」

 

“南一夜”がクスクス笑うと、これまで傍観していた、少女が膝を着き苦しそうに表情を歪めた。

 

「早く、“サード”開放したまえ…さもなければ死ぬぞ?」

 

“ファースト”の言葉に従者の少女は、“悪意”の主人を見つめる。

 

「『ペッしちゃいなさい』『ペッ!』」

 

少女が頷くと、空間が、割れ何かが現れた。それは、この屋上と全く同じ景色の場所。正し、そこには、1人の人間しか存在していなかった。

 

「『ランランルー』」

 

“南一夜”はその中に倒れていた“南一夜”に近付き、その体を外にへと投げた。一体どれだけの力で投げたのか、“南一夜”体は、柵に激突し、ひしゃげた音を出した。

 

「『あ、いけね~』『生きてる?』」

 

“南一夜”は、全く心配なさそうに言うと、その空間から、抜け出した。それと同時に従者の少女は、糸の切れた人形の様に倒れた。

 

「『おー怖』『理論的には、永遠にその空間に隔離出来る力のはずなのにな~』『一日も持たなかったか…』」

 

「それだけ、“サード”の力は、特殊な様だ。その子の使うのは、“悪夢”の力。耐性はによってコントロール出来ているだけだ。“サード”の“不慮の事故”によって、“悪夢”が2倍近くに跳ね上がっていたんだ。暴走しないだけ上出来だ」

 

「『ふーん』『まぁ、分かっては、いたけどさ』『僕は“南一夜”本人になってたんだし』」

 

「確かにそうだったな。キサマの力も俺には、理解出来ない」

 

「『僕からすれば、キミの力の方が、理解不明だよ』『正直、戦っても勝てる気がしないんだよな』『まぁ、年月の差だろうけどさ』」

 

「そうだな…」

 

「『ねえ、いっそのこと、…!!』『アレ?』」

 

その時、空間が、歪み皆が消えた。

 

「『アレレ?何かな?』『これは?』」

 

気がつけば、何処かの神殿の様な場所にいた。辺りを見渡すと誰かが、いると言う雰囲気だけが、伝わってくる。

 

「『ねぇ、“ファースト”いる?』」

 

「ああ。久しぶりの場所だ」

 

その時、突然体から力が抜けてゆく感覚がした。そして…

 

「あの、皆様突然すみませんでした」

 

中年の何とも弱々しそうな、男が、現れた。

 

「『えっと…』『誰かな?』」

 

“悪意”の質問に男は、頭を下げて答えた。

 

「あ、すみません。申し遅れました。私は、あの世課で勤務させて頂いております。“ヤマダ”申します。前任の“マツモト”よりこの仕事を引き継ぎましたので、以後宜しくお願い致します」

 



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第43話 正規転生者と不正規転生者

今日は地球滅亡といわれている日……

何も無ければいいですね!本当に!!

遅くなりましたが投稿します。


職員室に鍵を返しに行った帰りにトイレに寄った。それから…あら?どうなったんだっけ?

 

「うーん…?」

 

気が付くと俺は、何処かの神殿の様な場所で倒れていた。何処だ?ここは?

 

「あ、“サード”さんも目覚めたようですね」

 

そんな、聞き覚えのある声がしたので、見るとそこには“ヤマダさん”が、いた。

 

「あ、ヤマダさん!久しぶりです!」

 

「ええ、お久しぶりです。どうですか?その後の生活の方は?」

 

「まぁ…楽しい事もありますよ…」

 

日野さん関連については、けして楽しくは無いが…。

 

「ところで、なんですか?“サード”って?」

 

「はい、この世界に転生した、順番ですね。因みに“ファースト”さん“セカンド”さんもいますよ」

 

「へ?」

 

辺りを見渡すと、深い霧の様なものがかかっており遠くまでは、見えないが、確かに他の人間の気配がした。

 

「『じゃあ、“サード”の目覚めたことだし』『なんで、僕達が、集められたのか教えてくれないかな?』」

 

霧の向こうからは、男か女かも分らない声が聞こえて来た。その声に“ヤマダさん”は頷くと口を開いた。

 

「皆様に、集まっていただいたのは、他でもありません。非正規の転生者についてです。」

 

「非正規?」

 

「『神様が、自分の失敗を誤魔化す為や面白半分で、こっちに送り込んだ転生者のことだよ』『確か、能力に制限が無いから、とんでもない能力を保有しているんだっけ?』」

 

「その通りです。本来転生は、神の書類審査や何重もの手続きを経て行うものなのですが、非正規の方々は、そんなもの気にせずに送り出されています。しかも、たちの悪いことに失敗したのが、位の高い神だと、私達は、傍観するしかないのですよ」

 

情けない話ですが…そう“ヤマダさん”が言うと、一つの疑問が湧き起こった。

 

「あれ?俺の時は、大分簡単に転生させませんでした?」

 

気が付いたらいたわけだし。

 

「あ、その前に審査を通したんですよ。本来なら、意識はありませんから」

 

「あ、そうですか…」

 

何気に恐ろしい事実を聞いた様な気がする…。

 

「で?その非正規転生者が、どうしたんだ?」

 

と、落ち着いた、大人の声が、聞こえてきた。

 

「因果律をご存知ですか?その事柄には、幾分かの道筋はあれど結果は同じと言う意味の言葉です」

 

「ああ。それくらいは、知っている」

 

「いくら、強大な力を持っていようと、この因果を覆す事は、出来ません」

 

「へぇーそうなんですか?」

 

「ええ。その世界は、元に戻そうとする力が自動的に働きますから。得に貴方がた正規の転生者の方々は、自動的に世界との関わりが無くなる様に設定されていました。」

 

ちょい待て!じゃあ、何か?別に俺が原作を回避しなくても結果的には巻き込まれずに済んでいた訳か?じゃあ!俺のこの1年は一体…。

 

「しかし、その因果律は、崩れて来ています。“サード”さんが、最もな例でしょうね」

 

「リン達の事ですか?」

 

「ええ。もっと言うのならば、“星光”さんの時から」

 

「……」

 

知っていたのかよ…。

 

「『で?』『その、因果律が壊れた理由は何なの』」

 

「非正規の転生者が、増えすぎた事です。彼らには、因果律の制約が無いですからね、好き勝手に行える訳です。」

 

 

例えば、放ておけば“原作キャラ”だろうと殺していたかも知れない“殺人鬼”

 

     “原作キャラ”に多大な迷惑をかけている“天使”

 

     “原作”には、居ないはずの“兄” 

 

     主人公の“幼馴染”

 

     “原作”での不利なサイドにつく“親切な強者”

 

そんな、一人いるだけで、“原作”が崩壊しそうな“転生者”が数多くいる。そして、“原作”を知っているものは、悲劇を止めようと動き更に因果をめちゃくちゃに掻き回す。引っかき回す。それが、どんな結果を招くのかも知らずに。

 

「このまま、因果律が、崩れる事になれば、皆様もいづれは、この世界に巻き込まれる事になります。“サード”さんの様に…」

 

「ちょっと!待て!俺は、まだ、大丈夫だ!」

 

まだ、巻き込まれた訳じゃ無いはずだ!“日野”さんが、“原作キャラ”ならば、手遅れだけどな!…違うよね…。

 

「そうでしたね。“まだ”大丈夫ですね。」

 

その言葉が、滅茶苦茶不気味なんだけど…。

 

「『じゃあ、どうするの?』『僕達で、その非正規達を狩っていく?』」

 

「冗談じゃねえ!さっきも言ってたじゃねえか!非正規転生者は、能力の制限を受けていないって!」

 

夢の能力から考えても返り討ちにあうのが、関の山だ。

 

「『うーん』『そうだね』『ファーストなら楽に狩れるかもだけど、僕の力じゃ連戦になればキツイだろうしね』」

 

「…連戦じゃ無ければ勝てるのかよ…」

 

どんな能力をもらってんだ?この人は?

 

「『まぁ』『取り合えずは、周りの人間ら狂わせて精神的に追い詰めることから始めないとね』」

 

長そうだし、卑劣な策なこって。

 

「まぁ、皆様落ち着いてください。別に私共は、非正規の方々を排除して欲しい訳ではありません。ただ、注意をして欲しいのですよ」

 

「…だとすれば、既に事実上5人の転生者に囲まれ2人に深く関わってしまっている“サード”は手遅れなんじゃないのか?」

 

「ええ…ですから、それに関しては、手をうつ準備があります。“サード”さんが、望むのであれば、深く関わっている2人を強制的にこの世界から退場させることも出来ますよ?」

 

「つまり…」

 

夢と後藤を殺すのか……。そりゃあ良い。そうなれば、俺の人生はある程度安泰になるだろう。答えは…。

 

「いや、良い」

 

「そうですか」

 

今、あの二人が消えたら、日野さんの魔の手は一括して、俺に向けられるだろう。生贄と身代わりと隠れ蓑は多い方が良いに決まっている。

決して、あの二人の為じゃない。

 

「『ふーん…』『やっぱり“サード”は詰めが甘い所があるよね』『それが、命取りにならないと良いけど』」

 

「…」

 

「『アレ?』『帰るの?“ファースト”?』」

 

「ああ、あらかたの話は、聴き終えたからな」

 

「『フーン』『……』『まぁ、後片付けは、忘れないでね~』」

 

「“サード”」

 

すると、“ファースト”が、俺に話しかけてきた。その口調は、どこか、憐れみや怒りの様な物が混ざっていた。

 

「友は、大切にしろ。例えそれが、無理と思える相手でもな…」

 

「?」

 

「何れ…また、会おう」

 

そう言うと、“ファースト”の気配は消えた。きっとこの空間から出たのだろう。

 

「『“サード”』『僕からも一言』『友達は、信じない方が良いよ』」

 

「?」

 

“セカンド”は、ニタリと笑う気配を見せると、

 

「『キミは、確実に…』『仲間を手にかける』『断言するよ。キミは、仲間を全て殺すだけの“悪意”を持っている』」

 

「何・・・言ってんだ?」

 

「『キミに“なって”分かったんだ…』『その“悪意”が芽吹くのを楽しみにしているよ』『じゃあね。“サード”』『記憶は、置いて行くから感謝しな』」

 

そんな“セカンド”の言葉に寒気が、走った。そして、気配が消えた。

 

「……何なんだ?あの二人は…」

 

圧倒的な何かを感じた。俺が、持っていない何かを奴らは持っていた。

 

「彼らは、特殊な方々ですからね…前任の“マツモト”は、何か特殊な方を選んでいたようでしたから」

 

「はぁ…ところで、“ヤマダ”さん」

 

「なんでしょう?」

 

「どうしたら、ここから出られるんですか?」

 

帰りたくても帰れないんですけど…

 



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第44話 大嘘憑き

「ん?」

 

気が付くと俺は、日野さんのマンションの一階のエントランスしたに横たわっていた。

 

「あれ?“ヤマダさん”は?」

 

なんか、出ろ!と念じれば出れると言われたので試して見たところ凄まじい目眩に襲われ気付けばここに入た訳である。

 

「おや?目を覚まされましたか?」

 

「おわ!」

 

すると、目の前に日野家の執事を務める爺さんが、現れた。本当に突然だった。

 

「ホッホッホ。そこまで驚かれる事ですかな?」

 

「驚くわ!何だよ!その瞬間移動は!」

 

「さて?私めは、只、屋上から落下した南様を追ってきただけなのですが?」

 

「落下って…」

 

と、確かに体の下には、何かが落下し凹んだ地面があった。どうやら俺は屋上から落下し一旦へしゃげて再生したらしい。

 

「相変わらず奇妙な体ですな」

 

「どうも…あんた以外誰も見ていないよな?」

 

「コウ様が、見ていらっしゃいましたが、気絶いたしましたので、只今メイド共が、介抱しております」

 

「コウ?」

 

「おや?覚えていらっしゃいませんか?今日の襲撃者の妹ぎみです」

 

「襲撃者…ああ、あいつらか」

 

記憶に多少の混乱が、でたものの何とか思い出せた。確かに後藤と戦った際にいた様な気がする。

 

「あれから、どうなったんだ?」

 

「ええ。どうやら後藤殿を探すために皆様街へ探索に出かけていきました」

 

「…探してどうするんだ…」

 

後藤の力は、それこそ手の付けようが無い程の力だ。例えば、相手の存在を“気にならなくする能力”これは、“大嘘憑き”の“無かった事にする能力”以上に厄介な能力なのだ。そして、“感情による天候の支配”これは、感情によって、天候がコントロール出来る能力である。この力下手を打てば、

この地上を氷河期に変貌出来る能力なのだ。そして、何より後藤の力で恐ろしいのは、“天使化”こいつを発動された場合…近・中距離で奴に勝てる者は居なくなると言っても過言では、なくなるだろう。そんな、チート能力満載な後藤に果たして日野さん達だけで…。

 

「……勝てそうで恐いな…」

 

日野さんが叩きのめしている映像が一瞬脳内に流れた。あの人ならやりかねない。

 

「今、どこにいるか分かるか?」

 

「ええ。先程連絡があり、後藤殿を討ち取ったそうです」

 

「へえーって!ええ!」

 

討ち取った?どうやって?いや、そこは、流石日野様だよ!

 

「混乱なさっている所失礼致しますが、どうやら物凄く不味い状態になっているようです」

 

「不味い?」

 

「ええ。」

 

 

 

 

 

夢を復活させ、ついでにコウと言う女の子をつれ、やって来たのは海鳴キャンプ場のすぐ近くにある公民館。ここは、休日なら誰でも利用できる図書館があり海と山が見渡せる屋上は、人気のスポットである。

 

「フアァ~眠い…」

 

「いっちゃん…ここどこ?」

 

眠そうに目をこする幼女2名に小学4年の俺という奇妙なパーティは、そんな公民館の前に立っていた。因みにこの公民館は、日野家が、出資しバーニングス名義で建ったものらしい。爺さん曰く“バーニングス家”名義で建っている建築物のおよそ4割は、その他の分家が建てたものだそうだ。しかし、殆どを知名度の勝る“バーニングス”に奪われるのだそうだ。

 

「しかし、どこから入ったら良いんだ?」

 

公民館の自動ドアは、動いていないし裏口も閉まっている。

 

「いっそうの事ぶち破るか?後で“大嘘憑き”で直せばいいし…」

 

器物破損に対して余り気にならなくなった今日この頃だ。

 

「一夜…良いよ。私が開けるから」

 

と言って、前に出たのは、夢である。するといつの間にか夢のすぐ下にチェーンソウが落ちていた。それを夢は拾いスイッチを押す。刃が回転する音が当たりに響きわたる。

 

「“殺人規制”」

 

夢が、そう言うと扉に向かいチェーンソウを突き刺した。俺は、コウを後ろに隠し様子を見る。

 

「あいたよー」

 

「ご苦労さん…で…何コレ?」

 

チェーンソウで切った部分は明らかに異常をきたしていた。確かに建物の中に入れるのだが…。

 

「…何で、日野さんの後ろ姿が直ぐそこに見えるわけ?」

 

切られた扉の向こうで日野さんが何かを見ていた。しかもこっちに気付いた様子は無い。

 

「えっとね。“殺人規制”は、会いたい人がすぐ近くにいれば、その人の真後ろに出られるんだよ~」

 

つまりは、ホラー映画などで、殺人鬼から逃れ扉に鍵を掛けたにも関わらず振り向いた先には殺人鬼がいて、凶器を振り下ろすシーンを再現出来る能力と考えても良いだろう。流石は、“悪夢”を使えるだけはある。俺なんかより応用が効くな。

 

「…夢…その力は日野さんには、言うなよ?」

 

「何で?」

 

「…もう何処にも逃げられなくなるからだ」

 

最悪。深海か宇宙に逃げるしか手は無くなる。

 

「…分かった!」

 

どうやら俺の気持ちを察してくれたらしい…そう信じたい。

 

「さーて、入るか。何時までも待たせる訳にはいかないからな。夢、一応聞いておくが、コレは、俺達が入っても大丈夫なんだよな?」

 

「うん!あ、壁には触れないでね。混ざるから」

 

「分かった」

 

何が?とは、聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

無力だ。そんな思いが、私を苛む。

 

何も出来ず。

 

只、友達を失った。

 

何とか、出来ないかと頭を悩ませたけど…無理だ。何故なら私は、何の力もない。

 

「…ナギサ。…自分を責めるな。奴は、最後まで騎士として戦い…散ったのだ…」

 

地下道から後藤の仕掛けていた薬液を全て回収してきた、リンちゃんが私の肩に手を置いた。

 

「でも…もう誰も戻って来ないのよ…」

 

ヴィータちゃんはもちろん。後藤の能力によって消えた二人。鈴音ちゃんとシュウちゃんは見つからず、リンちゃん達の記憶からも消えていた。

どうやら、後藤の能力は後藤自身が解除しなければ、意味がないみたいだ。

 

「全部…私のせいで…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

視界が、滲んでくる。友達を失う事がどれだけ大きな事だと言うことが身をもって分かったのだ。

 

「日野さん?」

 

後ろからは、南が困惑したような声を上げていた。そりゃあ、そうだ。私が泣くなんでそうそう無いから。…南?

 

「どうしたんだ?」

 

南は、真後ろに立っていた。なに?このホラーのシーン見たいな感じは?

 

「ねえ。怖く無かったでしょう?」

 

「うん!凄いね!夢ちゃん!」

 

続いて、夢ちゃんとコウちゃんも現れた。よく見ると、二人が出てきた辺りの空間には、穴が空いていた。何だろうか?

 

「南…アンタ元に戻ったの?…どうやって!」

 

「え?えっと・・・良く覚えてないけど、屋上から転落して体がひしゃげたら元に戻ったって、爺さんが言ったたぞ?」

 

「屋上から転落…ああ!」

 

そうか!こいつの“大嘘憑き”は、死後も発動可能だったんだ。そして、死ねばこれまでの事が“無かった”事にされる。最初の後藤戦の時だって、頭を砕かれた後は、催眠から抜け出してたじゃない!いくら、小さくなったからとは言え“いっちゃん”は“南”だったのだ。

“大嘘憑き”が使えない訳が無かったんだ。なんで、気が付かなかったのだろうか!

 

「あの時絞め殺して置けば良かったのに…」

 

「え?何!なんで、あの時って?」

 

どうやら、小さくなった時の記憶はないようだ。

 

「でも…」

 

もう、遅いのだ。いくら、南の“大嘘憑き”でも死人を復活させる事は出来ない。消された人間を呼び戻す事も出来ないのだ。

 

「…そこに寝てるのは、ヴィータか?」

 

すると、南は、直ぐそばのベットの上に寝かしてあるヴィータちゃんに気が付いた。バリアジャケット(と言うらしい防護服)も消え今は、聖杯小の白い制服姿になっている。しかし、白の上に真っ赤な赤が広がていることから悲惨さが更に増大している感じがした。

 

「…死んでるのか?」

 

南が、確認するように聞いてくる。それに私はうなづく。

 

「正確には、プログラムが破損したのだ」

 

リンちゃんが、後を継いで答えてくれた。

 

「プログラム?」

 

「ああ、ヴィータは、“闇の書”と呼ばれていたプログラムの騎士でな…本来なら死ねば書の中に戻るのだが…」

 

今回は、体が、残っている。つまりは、根本から壊れてしまっているのだ。

 

「そんな…」

 

南は、リンちゃんの言葉に膝を着いた。流石にショックなのだろう。

 

「確かに…リンの仲間だとは思ってたけど…人間じゃ無かったなんて…待てよ…じゃあ!文芸部には人間は時田さんしか居なくねえか?」

 

「そっち!と、言うより私も居るわよ!ついでに言うと私が文芸部有一の普通人よ!」

 

「そんな…」

 

アンタ…そこまで私の事を人外だと思いたいの?私がやった事と言えば、夢ちゃんを倒した位のもんよ?

 

「たいだい…何で増えてるの?」

 

「あ。お姉ちゃん!」

 

「コウ!」

 

飲み物を取りに行っていたランさんが帰って来たみたいだ。

 

「…南?ショックを受けているのは良いけど他に思う事は無いの?」

 

「思うこと?」

 

南は、キョトンと私を見る。

 

「友達が死んだのよ?それをアンタは、どう思ってるのよ…」

 

「え?そうなの?」

 

南は、訳が分らないと言った感じで私を見た。

 

「アンタ……」

 

「なぁ、リン」

 

「何だ?」

 

「ヴィータは、人じゃなくて、データの塊と考えても良いんだよな?」

 

「主が聞いたら怒りそうだが…その通りだ。人間で言う所の肉体や内臓が細胞では無く緻密なデータで構成されていたと考えて貰っても構わない」

 

「…“星光”との違いはあるか?」

 

南は“星光”と言うときに少しの声の震えがあったが、リンちゃんは答えた。

 

「基本的には同じだ。ただ、魔力を拡散させない様になっていて、“星光”とは、違い長期に…いや、ほぼ永遠に活動出来る。」

 

リンちゃんが、そう言うと南は少し俯き何かを言いかけようとしたが言葉を飲み込んだ。南とリンちゃんには、“星光”と言う人について何かの因縁があるらしいのだけど私はそれがなんなのか知らない。

 

「…サンキュ…それだけ聞ければ十分だ」

 

南は、そう言うと、ヴィータちゃんに近付き手をかざす。

 

「データの破損を“無かった”事にする…」

 

そして、軽くなでると…

 

「……ん?」

 

ヴィータちゃんが、何の前触れも無く眠そうにまぶたを開けた。

 

「アレ…私は…後藤は?」

 

寝ぼけた様に辺りを見渡すヴィータちゃんを見て、私は改めて南の凄まじさを知った気がした。

 



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第45話 思いを込めて。

VS天使篇
ラストスパート!!


青空の下。可愛らしい服に身を包んだ少女3人とオシャレな服を着ている少年2人。そして、普通の服を着ている少年1が駅前の広場に集まっていた。

 

「もう!翼兄ちゃんは、何でそんなにセンスがないんや?せっかく皆オシャレしてきたのに!」

 

「…いや、はやて…今日は、クロノと仕事の打ち合わせに来ただけだよね?オシャレする必要性が、見当たらないんだけども…」

 

「それやから翼兄ちゃんは…フェイトちゃん。ここは彼女としてビッシーと!」

 

「え…えっと…翼君は何を来ても似合うよ?」

 

「あ、ありがとう…」

 

「…アカン。ここは妹として何とかせんと…将来的にフェイトちゃんのデートの相手がジャージ姿になってまう…」

 

「相変わらず仲がよさそうなの」

 

「そうだな」

 

八神兄妹とフェイト以外が笑う。

 

「そう言えば、今日は、ヴィータは来なかったんだな?付いて来ると思ってお菓子を多めに作ってきたんだが…」

 

遠藤晴樹の言葉にはやては、嬉しそうに答える。

 

「いやーあの子な学校で友達が出来たみたいでな、しかも同じ部活の子みたいで作品を作るためにその子の家に止まってくるって昨日連絡があったんよ」

 

「ふーん…確か文芸部だっけ?」

 

「そうそう。」

 

「そりゃ良かったな!」

 

「うん!」

 

2人が笑い合うと同時に何処かからクラクションの音が聴こえた。

 

「もう!なんなん?朝からこの調子やで?一体何台トラックが通ったら気が済むや?」

 

実は、今朝から同じ感じの大型トラックが何台も土を乗せて運んでいるのだ。お陰で土煙がすごいし目も痛くなる事が朝から続いていた。一体何事かと思うのは、はやてだけではなく、通行人達も迷惑そうにトラックを見つめていた。

 

「まぁ、あっちも仕事なんだから気にするなよ」

 

「…うう。服が、また、土だらけや…きっとこんな事をする奴は捻くれてるに違いないんや」

 

 

 

 

 

 

「ヘクチッ!」

 

「ナギサ。風邪か?」

 

「違うと思う。土煙のせいよ」

 

私は、そう言うと、日野家所有の屋外プールの中に注がれていく土を見やった。取り合いず10tトラック10台分の土が入っている訳だ。

 

「それにしても、南の奴。これだけの事を私にさせておいて失敗でもした日には、どうしてくれようかしら?」

 

「…せめて苦しまないようにしてくれ」

 

私が、ため息を吐くと南が言った事を再び口にする。

 

「…後藤を復活なんて本当に出来るのかしら?」

 

ヴィータちゃんを復活させた後2人に後藤の事を話し対面させるとヴィータちゃんは、体の力が抜けたようにその場にしゃがみこんだ。

南は、そんなヴィータちゃんを見てから後藤の状態を観察し後藤の死因が出血多量と判断した。復活は可能なのかをその後南に聞いたのだが、少し考える様な表情で一旦出ていき、帰ってきた南が言ったのが、戦闘の後の土を全て回収しろとの事だった。

 

「…大丈夫だと思うぞ?」

 

するとリンちゃんが、ポツリと呟くように言った。

 

「奴は、きっと今のヴィータの姿を少し前の自分と重ねているのだろう…だから、絶対に死なせない。」

 

「ねぇ…アイツに何があったの?リンちゃんは、知ってるんでしょう?」

 

「…すまない。それは言えない。」

 

リンちゃんは、それだけ言うと黙り込んでしまった。

 

「そっか…」

 

きっと、それは、2人にとっては、辛い話しなのだろう。アイツが…止めよう…。

 

「ん?」

 

その時土煙が一気に晴れた。いや、“無かった”事にされたのだ。いよいよ始まるみたいだ。南一夜の大嘘が。

 

「おお!凄い量だな…。日野さん。ありがとな」

 

「別にこの位、訳ないわ…それより南…もし失敗したら…請求書はアンタの家に来るからね?」

 

「はは…ご冗談を…」

 

「因みに今回かかった費用よ…」

 

そう言って、電卓を見せる。そこには恐らく南が電卓をデタラメに打った時にしか見たことの無い金額が表示されている事だろう。

 

「…マジ?」

 

「ええ」

 

ちょっとだけ南の顔が青くなっているのが見えた。本人も可能性が五分五分と言っていたので、しょうがないが。でも今回は、人生をかけてくれるだけのやる気が無ければ困るのだ。

 

「…深海か宇宙か…いや、マグマの中も…」

 

「一応言っておくけど…どこへ行こうが日野は逃がしはしないわよ?」

 

「全力でやらせていただきます!」

 

「よし」

 

私が、そう言うと南は、私達に下がるように言った。

 

「コウちゃん。ランさん。そっちは?」

 

すると、後藤を抱えたランさんとヴィータちゃんの手を引いたコウちゃんがやって来た。

 

「夢!そっちは?」

 

「大丈夫だよ!」

 

夢ちゃんは南とは、逆の側の位置にいた。何か発動するのか、少し汗を掻いている。南から“ワンちゃん”や“マッド・ブッチャ”を呼び出す時は、負担が少ないと言っていたので、かなりのモノが出るのは間違いない。

 

「…よし…行くぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

全員が、声を上げると、遂に後藤の蘇生が始まった。

 

「まずは、土を“無かった”事にする!」

 

すると、大量にプールの中に入っていた、土が消失し赤い液体だけが残っていた。これは恐らく後藤の血だろう。まるで、惨劇の後のようにプールの底には血が飛び散っていた。

 

「夢!」

 

「うん!“拷問絞りの部屋”!」

 

すると、空間が歪み透明の壁の様なモノが、プール内に発生下そして、徐々に前に進んでいる。よく見ると壁は4方向から発生している様だ。

確か、コレは、相手を見えない部屋に閉じ込め空間を潰し圧搾機にかけた様な状態で殺し血の一滴まで搾り取るものだ。

 

「良し!」

 

後藤の血は、見えない部屋の中に貯められた。遠目から見れば、赤い液体が宙に浮いている様に見えることだろう。

 

「次に後藤の血の酸化を“無かった”事にする!不純物を“無かった”事にする!」

 

溜まっている後藤の血が暗赤色から鮮血色に変わった。さて、これからどうするのだろうか?そこで、南は次の指示を出す。

 

「ランさん!後藤を血の海の中に沈めてくれ!」

 

「分かったわよ」

 

ランさんが渋々と言った感じに後藤を抱えて飛ぶ。まぁ、彼女からすれば、何故自分を殺した危ない変態を蘇生させなければならないのかと思っているのだろう。だけど、シュウちゃんと言う記憶に無い兄の為に協力しているのだ。

 

「そのまま落として!」

 

「えい!」

 

後藤は、落下し血のプールに沈む。そして…。

 

「…ヴィータ。後は、お前だ」

 

「…え?」

 

南は、そう言って、1本のバッドとヴィータに差し出した。それは、後藤の使っていた武器。

 

「…エスカリボルグ…」

 

「ああ。重さを“無かった”事にしてるから、ヴィータでも十分に持てる。因みに“重さ”は無くとも“破壊力”は健在だから気を付けろよ?」

 

「ちょっと待ってよ!南!それで叩いてどうするのよ?例え再生しても後藤は死んだママなのよ?」

 

「いや、大丈夫だよ日野さん。アイツは“天使”だからな。」

 

どういう意味だろうか?

 

「天使にとって死と言うものは、己の個性の消失を表すんだ。“天使の憂鬱”がいい例だな。後藤も死ねば、光に変わる。それこそ誰からも忘れられるはずなんだ。だけど、俺等は、アイツの事を覚えてる。つまり奴の個性はまだ、生きてるんだよ。」

 

「じゃあ、なんで、動いて無いし死んでるんだ?」

 

「恐らく、血を流し過ぎたんだ。だから、肉体的に滅んだ。だから、血を奴の身体に戻す。既に臓器や脳は腐敗を“無かった”事にしてるから後は、後藤をミキサーにぶち込んだように細かく砕いて良く混ぜるだけだ」

 

「…後藤を砕く…」

 

「ああ。お前の思いを込めて、殺ってこい。」

 

随分と恐ろしい会話だと思う。後半から聞いてたら後藤が食材の様だ。

 

「…分かった。私…後藤を殺って来る!」

 

「ああ!行ってこい。俺らも後から行くから」

 

「…そうね。後で、私達の思いをぶちまけましょう」

 

ついでに南…アンタにもね…。アンタの暴言…よもや忘れると思って?

 

「…何だ?何なんだ?この寒気は!」

 

「あら?どうしたの?ミナミ?カオイロガワルイワヨ?」

 

「…タスケテクダサイ…」

 

あら?なんで震えているのかしら?まあ良いか。私は、見えない壁の上を進んでいるヴィータちゃんを見た。手に釘バットを持ってゆっくりと後藤の元に進んでいる。見た感じは、危ない女の子だ。

 

「後藤…」

 

そして、血のプールの中に入る。そして、バッドを振り上げ…。

 

「この!変態が!」

 

振り下ろした。鈍い音が辺りに響き渡る。

 

「変態!最低!ロリコン!バカ!バカ!バカ!バカァ!」

 

透明だから分かるのだが、ヴィータちゃんの打撃には、一切の迷いは感じられない。しっかりと思いを込めて後藤へと打ち込んでいる。

後藤の肉体は既にミンチを通り過ぎ液体になりつつある。因みにコウちゃんは、直ぐにメイドに命じて連れて行って貰った。これは、健全な子供に見せていいものじゃない。

 

「死ね!死ね!死ね!死ね!」

 

もう死んでます。だけど、ヴィータちゃんは、叩き続ける。最早、ビチャビチャと言う音しか聞こえない。

 

「ヴィータ!もう良い!あの呪文を踊りながら唱えるんだ!」

 

南は、メガホンを持って叫んだ。…呪文…ああ。アレか…。

 

「うう…あんな恥ずかしい奴出来ねえよ!」

 

「砕いたのは、お前だ。さあ、やるんだ!」

 

何故だろうか?この言葉の裏に何かとんでもない思惑を感じるんだけど…。

 

「うう…。」

 

「早く!砕いた分酸化が速い!」

 

「わ、わかったよ!」

 

ヴィータちゃんは、恥ずかしそうに両足をそろえ、血塗れのバットをクルクルと回す。所で、何でそんなに上手いの?素人じゃないわよ?あの動き…。

 

「後藤に良くやってくれって、映像を見せられてたからな…もともとヴィータの運動能力は高いから出来るのだろう」

 

はい、リンちゃんありがとうね。

 

「ピ…」

 

そして、ヴィータちゃんは、もうどうにでもなれと言わんばかりに息を吸い込む。

 

「うわわわ!」

 

「…」

 

皆が見守る中。

 

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」

 

そんな、声が辺りに響いた。

 



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第46話 そして、日常へ。

VS天使篇終了。


あの後、後藤は見事に復活した。その後は、エンドレスで叩き潰されてたが…。

 

「…」

 

その直ぐ後に何故か日野さんからエスカリボルグで撲殺され気がつけば皆がドン引きになる程の状態になっていたらしい。

液体より酷いって…止めようか…。まぁ、結論から言えば皆が無事に戻って来たのだ。時田さんもシュウも皆が揃って…爆睡した。確かにフラフラになって帰って来たので、皆夜まで眠っていた。そして、気が付いた時には、後藤の姿は無くただ、ヴィータに対し“ありがとう”とのメッセージだけが紙に書いてあるだけだった。

 

「よし、今日はここまで。」

 

そして、日が明け月曜日。後藤は学校を休んでいた。これで、厄介な事からは開放された訳だ。

 

「あ、南」

 

すると、日野さんが話しかけてきた。

 

「なに?」

 

「今日、部活動があるから、早く行くわよ」

 

「…どうせ日野さんからは、逃れられないからね。すぐ行く」

 

そう言って、カバンを持って部室に向かう。その後を日野さんと時田さん。リンとヴィータが続く。

 

「あ、鍵…先に行ってて」

 

俺は、部室の鍵を取りに職員室に向かった。

 

 

 

 

 

結果的に職員室に鍵は無かった。何でも誰かが取りに来たらしい。誰だ?言わないのは?そんな事を考えながら階段を登っていると。

 

『ヴィーたん~』

 

『来んじゃねえ!』

 

と、いつも通りの騒ぎが聞こえてきた。…いつも通り?

 

「何事?」

 

別段急ぐわけも無く階段を上がって部室を覗くと、ヴィータにボコボコにされている後藤を発見した。何か幸せそうだ。

 

「後藤?何でいんの?」

 

すると、後藤はこちらに気付き言った。

 

「何でって、僕は、この学校の生徒だよ?居ても不思議じゃ無いだろう?」

 

「いや、そうじゃなくて。普通は、学校から去っていくものじゃないのか?」

 

あれだけの事をしたのに。

 

「ハハハ!アニメや漫画じゃ、あるまいし。僕は、まだ、小学生だよ?義務教育!親のお金でこの学校に通ってるのに辞めれるわけないでしょう?」

 

まあ、確かに。やられたからと言って、学校を簡単に辞める訳にもいかないだろう。

 

「じゃあ、何で朝から居なかったんだ?」

 

「いやー日野さんがさ、こんなものを届けに来たからさ~」

 

「こんなもの?」

 

後藤が、何か、の用紙をピラリと見せた。【請求書】そこには、はっきりとそう書かれていた。しかも、その金額は…どの位なのか判断に苦しむ桁だった。

 

「…日野さん?」

 

「何?当然でしょう?今回の原因は、そこの馬鹿なのよ。壊れた建物の建て替え費用にトラックのレンタル料金。あと、私達への賠償金ね。因みに土地の方は、日野で買い取るから含まれていないわよ」

 

あっけらんと答える日野さんは、凄いと思う。仮にも相手は殺さないとは言え簡単に人間をミンチに出来る実力者なのに…。まぁ、今更か。

 

「そこで、南。頼みがある」

 

と、後藤が何か苦笑いを浮かべて言った。大体の予想は付くが…。

 

「流石に天使と言えどこれだけの金額を用意するのは、きつすぎる…日野さんから聞いてんだが、お前の“無かった”事にする力で、建物を元に戻してくれないか?」

 

どうやら、そのほかの金額はどうにかなるらしい。流石は天使か。

 

「別に良いけど…」

 

「…安心しなよ。もう僕は暴走はしないよ。もろん幼女の世界も諦める。」

 

俺の警戒の目に気づいたのか後藤はそんな事を言った。

 

「怪しい…」

 

しかし、簡単に信じるほど僕は甘くは無い。最悪、後藤を洗脳し夢の様にする必要が出てくる。何よりこの変態が野望をたった一回くじかれただけで、諦めるとは思えないからだ。しかし後藤は、笑顔で言った。

 

「本当だって!何故なら理想の少女はそこに居るからだ!」

 

そう言うと後藤は、ヴィータを指差した。……は?

 

「彼女こそ、僕の理想のヒト!マイドリーム!」

 

「だから、こっちに来るんじゃねえよ!」

 

ヴィータが、近くにあった、ハードカバー本をフルスイングするが、後藤は平然と前進する。…見た目がヤバイ…。

 

「ほら!南も何か言えよ!」

 

「…成る程…ヴィータか…」

 

確かに彼女はデータの塊見たいなもんだし…リン曰く数百年前から姿は変わっていないらしい。

 

「…おい…南…テメェ何を笑ってやがる?」

 

「いや、ヴィータを一人生贄に捧げるだけで平和が手に入るなんて…オモッテナイヨ?」

 

「ゴラ!南!表に出ろや!」

 

「あら、気が合うわね?」

 

「あ、やっぱり日野さんも考えてたんだ?」

 

日野さんが2人の様子を面白そうに見ながら、俺を手招きした。取り合いず日野さんの隣に座ってカバンから水筒を出して飲む。

 

「取り合いず、後藤のヴィータちゃんへの気持ちは、本当みたいだしね。いざとなったら、ヴィータちゃんを盾に取れるし後藤のコントロールも容易になる。まさに一石二鳥ね」

 

相変わらず小学生とは思えない発言をありがとう。

 

「まあ、ヴィータちゃんも満更じゃないでしょうけどね」

 

「? どういう意味?」

 

「いつか分かるわよ…」

 

日野さんが、面白そうにヴィータと後藤を見ると、今度は、リンが手を招いてきた。

 

「なに?」

 

「ああ。ちょっと来てもらえないか?」

 

「別に良いけど?」

 

言われるがままにリンと廊下にでる。

 

「で?何の用だ?」

 

「いや…改めて礼をと思ってな…ヴィータの事は本当に感謝する」

 

「感謝って…友達を助けるのは、当然だろう?死んだのが、リンだったとしても助けてたさ」

 

「…そうか…」

 

リンは、どこか寂しそうな表情になったかと思うと少し声を潜めた。

 

「…まだ、私の事を恨んでいるか?」

 

その言葉の意味を理解するのに少し時間を有した。まだ、恨んでいるかって?そりゃあ…。

 

「ノーコメントだ。」

 

「…そうか…」

 

「正直アイツの事を思うと胸が苦しくなる事もある。それが、こちらの一方的な片思いだったとしてもな…。だけど…」

 

“今”は、その辛さを忘れさせてくれる程楽しいんだよ。

 

「…」

 

「日野さんが居て、時田さんがいて、後藤がいて、ヴィータがいて、そして、リン。お前のいる今の生活がな・・・」

 

いつの間にかそれが俺の日常になっていた。当たり前の日常に。皆ですごして、馬鹿騒ぎをする。日野さんからの無茶苦茶な難題を皆でクリアする。そして、また明日と言って帰って、また学校で会う。そんな当たり前の日常が俺はとっても楽しいのだ。

 

「さて、この話はもう終わりな!心配するな。もし、許せなくなったら真っ先に言うからさ。その時は、八つ当たりに協力してくれよ」

 

俺が、笑ってそう言うと、リンも笑った。

 

「そうだな。その時は、運命と受け入れよう。ただし…」

 

「ああ。」

 

お互いにニヤリと笑うと同時に同じ言葉を口にした。

 

「「自己防衛位はさせてもらうがな…」」

 

そして、2人して、廊下で大笑いをした。その声に文芸部の皆が出てきた。

 

「何よ?何かあったの?」

 

「…楽しそうだね」

 

「ヴィーたん!」

 

「だから、こっちに来んなって!」

 

楽しそうに愉快そうに自由に笑って生きている。文芸部それが、今の俺の居場所だ。そして、このメンバーは、大切な仲間だし掛け替えのない宝物なのだ。

 

「何でもないさ。所で、日野さん?」

 

「何?」

 

「今日の活動は何なんだ?」

 

「フフフ…」

 

「「「「(不気味な予感がするな…)」」」」

 

こうして、俺達は日常に帰っていく。メンバーが異常でも…メンバーの半数が人外だったとしても。俺達の日常は変わりはしないのだ。

 

さて、今日も放課後を皆で楽しみますか。

 

 

 

 

VS 撲殺天使篇 完

 

 

 




次回は番外編です。あの3人がどうなったのか?…などがあります。ではまた次回で!!


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番外編 被害者と加害者の思い

今年最後の投下!…人物紹介がまだありますが…


この世界は、いつだって公平で残酷だ。そして、幸せは不公平で優しい。

 

たとえば、死は、誰にでもやって来るものだし、回避は不可能だ。

 

たとえば、戦争のない国の子供の幸せが戦争のある国の子供の幸せと同じかと問われれば、99%違うだろう。

 

「さて、行くぞ」

 

それは、俺達、兄妹にも闇の騎士達にも言えるものだろう。闇の騎士達が魔導士を襲う理由は、自らの主の為であり、けして自らの欲望のためではない。だけれど、襲われ未だに意識が戻らない両親や俺達にとっては、そんなものは関係なかった。

 

「…」

 

身体も元に戻り魔力も回復した身体で空を見上げるとむかつく程の星が輝いていた。

まるで、俺らをここから追い出そうとしているように。

 

まるで、ここが、俺らの居場所ではないと言うように…。

 

「兄さん…こらからどうするの?」

 

眠っているコウを背負いながらランが不安そうに俺に聞いてきた。そんなもの俺にだって分らない。分かる訳もない。

 

復讐を続けるのか。

 

復讐を諦めるのか。

 

道は、2つしかないのにその答えが分からなかった。

 

「…分らない。でも、取り合いず、父さん達の所に戻ろう。まずは、そこからだ」

 

復讐をするにしても。諦めるにしても。それを決断するのは今でなくても良いのだ。それが、数年後でも構わない。今は、休みたいし今回の事で予想外な勢力が加わっていることが分かった以上、もう俺達に手のだし用は無いだろう。

 

「…そうね。お父さんの所に帰ろうか…」

 

そんな時だった。俺達が借りているホテルの正面玄関に見覚えのある奴が立っていた。

 

「…もう。帰るのか」

 

銀色の闇は、そう言うと、俺達に付いてくるように言った。数秒迷いがあったが、俺達は付いて行くことにしたのだった。どうせ、身元もバレているのだ。無視したり逃げた所で何も変わりはしないだろう。もし、処分されるのだとしたら、せめて、コウだけでも助けてもらおう。

 

 

「…」

 

「…」

 

無言で、ついて行くとそこは、古い工場の跡地だった。夜にもかかわらず、電灯も何も付いておらず、月明かりだけが、俺達を照らしていた。

銀色は、何かを唱えると薄い黒色の魔力光が発生し次の瞬間には、小学生の身体から大人の女性の身体へと変化していた。恐らくこちらが、正体なのだろう。

 

「話を聞かせてもらえないか?」

 

銀色は、そう言うと俺達を真っ直ぐに見据えた。月明かりに照らされた銀色の髪が幻想的で不覚にも美しいと思える程の闇だった。

 

「話しだと?」

 

「ああ。お前たちの両親の事だ…死んだのか?」

 

銀色は、表情を少し曇らせ俺達の返答を待っていた。

 

「…いや、死んではいない」

 

「ただ、数年間、目覚めないのよ。リンカーンコアの損傷による。魔力の喪失及び不足。リンカーンコア自体がもうないから回復も出来ないのよ。」

 

リンカーンコアはいわば、魔導士の命と同意義のものであり、それの喪失及び損傷は、その人物の死と同意義なのだ。

俺達の両親は、管理局の魔導師だった。まあ、そこそこ優秀な魔導師だったらしく局内でも人望があった。そのおかげで、俺達は、何とか生きて来れたのだが。そんな、ある日、それは、俺等が遊園地の遊びに行った時だった。両親が休みで、俺達はとっても嬉しくて、とっても幸せだった。そんな時、闇の騎士の襲到を受けた。両親は、俺らを庇って、リンカーンコアを蒐集された。ロクにデバイスも持たずに戦ったのだ、当然の結果だったのだろう。だけれども、デバイスはなくても、両親は、戦い続けたのだ。最後まで…結果、蒐集の際にリンカーンコアを傷つけられ、意識不明になってしまったのだ。

 

「…」

 

銀色は、そんな俺らの話を黙って聞いていた。まるで、罪を噛み締める様に黙々と聞いていた。

被害者と加害者…いや、実際に両親を襲ったのは、烈火の将だし両親のリンカーンコアを傷つけたのは、泉の騎士なのだが、その管理人格であった、銀色も同罪と言う事なのだろう。

 

「私達が、憎いか?」

 

銀色は、答えの分かりきっている質問を口にした。

 

「…憎いに決まっているだろう。親をほとんど生きた屍にした奴らの事が憎く無い訳がないだろうが…。出来るなら、今すぐにでも殺してやりたいさ。」

 

「…そうか…」

 

「でも、出来なくなった。他の騎士達は、バカに強い奴らが守っているし、お前達にも異常な連中が常に守っている。もう俺達に付け入る隙なんて無くなったんだ。それに、たとえ、殺しても他の奴らから殺されるのがオチだ」

 

下手をうてば、管理局が動き両親すらも殺されるだろう。ここ数年で、俺達は、社会の闇を嫌と言う程見てきたのだ。将来を有望視される魔導師の戦力を減らすなど、管理局には、出来ないだろう。実際に闇の書の被害者がここ数か月で、何人も行方不明になっているのだ。

 

「…どうにも…ならねえよ…」

 

もう全てが遅すぎるのだ。あの不意打ちが失敗した時から、俺達の復讐は終わっていたのだ。

 

「…殺せるのなら殺してやりたいよ。でもな、俺らにはコウがいるんだ。頭に血が昇っていたあの時なら、やれたかも知れないがな。コウの事を考えるともう無理は出来ないんだ。家族をもう失わせる訳にはいかない。」

 

「…」

 

銀色は、黙って俺の言葉を聞いていた。口の端からは、少し血が滲んでいた。

 

「すまない。私の命で償えるのなら、償うつもりでいたのだ。だが…」

 

「…もういい。消えてくれ」

 

銀色の言葉には嘘は無いのだろう。だが、その誘いは、今の俺達にとっては死ぬよりも辛い事なのだ。殺した所で誰が証明してくれるのか?誰が、俺達を許すのか?きっと、再び憎しみの連鎖が生まれるだけなのだ。

 

「じゃあな…」

 

俺達は、銀色の隣を通り過ぎ自分の世界に帰る。もう二度と関わる事もなくなるだろう。

 

「一瞬だけでもいい夢が見れたよ」

 

そう呟きながら、バリアジャケットを展開した瞬間。

 

「「!!!」」

 

突然衝撃が走り気が付いた時には、俺達は、壁に打ち付けられていた。

 

「な、何だ!」

 

「どうなってるのよ!」

 

手足を動かそうとしても、手足には、太い螺子が打ち付けられていて、動く事も出来なかった。

 

「…これは!」

 

銀色が、驚いた様に螺子が飛んできた方向を見ていた。俺達は、その方向を見ると絶句した。

 

「こんな夜に何の相談してんだ?リン?」

 

そこには、黒い学生服をきた、少年が立っていた。彼の名は、南一夜。超能力者だった。

 

「それは、こちらのセリフだ…なぜ、お前がここにいる?」

 

「さぁ?取り合いず、何となくだ。けして、後藤とヴィータを見て“星光”の事を思い出して、女々しく思い出ここに来た訳じゃないぞ?」

 

南は、月明かりでも分かる程、顔を赤くして答えていた。そして、一つため息を着くと、突然銀色を睨みつけた。その視線にその場の全員が震えた。言うならば、身体中に虫が湧いた様な不快感の様な感じだった。異常。いや、それ以上の何かだ。

 

「…リン?」

 

「な、なんだ?」

 

まるで、地の底からの声の様な南の言葉に銀色は、答えた。

 

「何勝手に自分の命を賭けてるんだ?」

 

「…」

 

「お前が、居なくなったら、俺は誰に八つ当たりをすれば、よかったんだ?後藤か?ヴィータか?時田さんか?夢か?それとも日野さんか?俺に死ねと言いたいのか?」

 

瞬間、凄まじい閃光が走り何かが銀色を貫いた。

 

「カッ…」

 

銀色の腹部から赤い色の液体が大量に流れだし、肉の焼ける臭いと、音が上がった。

 

「…そこで、寝てろ。」

 

そう言うと、南は、スタスタと俺達の方へと歩いて来た。俺達は、動けないなりに身構えたが、体が、勝手に震えた。

 

「ど、どうするつもり何だよ!」

 

「…なにも?」

 

そう言って、南は手を振った。すると、手足を拘束していた、螺子は全て消え去り、穴が空いた服すら元に戻っていた。

 

「これで、リンの事を許してくんねえかな?」

 

南は、真剣な表情になると、更に閃光が、迸り銀色に襲いかかった。銀色の苦悶の声が、辺りに響く。

 

「…まだ、足りないのなら、死ぬ寸前まで、リンを苦しめても良い。そして、元に戻して、また、苦しめる。気が済んだら、言ってくれ」

 

南は、感情が無い声でそう言って、更に閃光を銀色に向けた。俺達は、その光景を唖然として見ていた。そうすることしか出来なかったと言った方が正しかった。とにかく目の前の状況について、整理が出来なかった。

 

「…」

 

「あ…ガッ…」

 

その間にも南は閃光を休ませる事なく銀色へと叩きつけていた。手加減も何も無い只の蹂躙がそこにはあった。

 

「も、もう、止めろよ!お前ら仲間じゃねえのか!」

 

「そ、そうよ!」

 

あまりの光景に、俺達は言った。それに対し南は。

 

「恨みは、晴れたのか?我慢は、しない方が良いぞ?俺は、リンの仲間だからこそ、殺さない様に殺されない様に、生かさず殺さず。調節してるんだ。なぁに、安心しろよ?俺の能力が有る限り、リンは死ない。そんなことは、俺がさせない。“仲間”だからな」

 

“仲間”。その言葉に俺は、底なしの寒気を感じた。恐らく南は、俺達が良いと言うまで、銀色を…いや、リィーン・フォースを“生かし続ける”だろう。

 

“生き地獄”に晒し続けるのだろう。“仲間”だから“友達”だから。彼女を守るために、彼女を苦しめ続けるのだろう。

 

「…もう、良い!止めてくれ!」

 

俺は、叫んだ。それにランも続いた。

 

「もう、良いから!もう許すから!」

 

俺達の為に、罪を一人背負おうとした、友人を苦しめたくは、無かった。

 

「…分かった。良かったな、リン」

 

南は、閃光を放つのを止めた。閃光が消えた後には、ピクピクと動き呻き声を上げている“何かが”あった。

 

「さて、教えろよ」

 

南は、俺達にを見渡し射抜くような視線を放った。有無を言わせるつもりは無いと言った、所だろう。

 

「お前らの親は、何処にいる?こっちに連れて来れるか?」

 

「…それは…」

 

無理では、無いが…。

 

「言っておくけど、お前らに拒否権は無いぞ?」

 

南は、冷たい視線で、今だに眠っているコウをを見ていた。そう言えば、あれだけの音がしたのに、コウは一切目を覚まさなかった。つまりこれは、南から何かを仕込まれていたのだろう。そう。例えば…。

 

「コウちゃんの意識を“無かった”事にしているからな。妹を永遠に廃人にしたけりゃ、どうぞ、ご勝手に」

 

南は、不気味な笑顔を顔面に貼り付け笑った。

 

「…お前…狂ってるだろう?」

 

「さぁ?俺は、ただ、全てを“無かった”事にしたいだけさ。“今”を守る為にな。言わば“自己防衛”さ」

 

南は、俺に手を差し出した。

 

「“仲直りしようぜ?”」

 

あの天使の方がまだ、人間らしかった。

 

話が、通じた。

 

交渉が出来た。

 

損得があった。

 

「…ああ。」

 

だけれど、こいつは。

 

得しか、与えるつもりは無いらしい。

 

きっと、それ以外には、耳を貸さないだろう。

 

交渉なんて、もってのほかだ。

 

ただ、一方的に相手に得を与える。損をさせて、恨みを拡大させない。力づくで、相手を幸せにする。

狂った。“敵の味方”なのだ。

 

「交渉成立だな。」

 

南は、ニッコリと笑う。そして、気が付くとコウの姿が見えなくなった。“無かった”事にされたのだろう。

 

「ん、じゃ、用意が出来たら、日野さんにでも連絡してくれ。俺は、もう眠い」

 

そう、言うと南は、夜の闇へと溶けて行った。

 

「…ラン」

 

「…なに?」

 

「…父さんと母さんをこっちの病院に移す準備をしようか」

 

「…うん」

 

「…なあ、リイン・フォース…いや、リン」

 

俺は、いつの間にか元に戻り震えていた、リンに声をかけた。

 

「ゴメンな」

 

「…ああ」

 

恐らく、この時ばかりは、俺達が加害者。リンが被害者となった瞬間だった。

 

 

 

 

結局。俺達の復讐の理由は、“超能力者”と言う非日常により“無かった”事にされた。俺達の時間も努力も全て、無意味なモノへと成り下がったのだ。

 



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人物紹介

今年最後の投稿です。



名前 南 一夜

属性 闇

区別 悪

能力 ・ 大嘘憑き

     不慮の事故

     ベクトル変換能力(一方通行の)

     幻想殺し

     超電磁砲

     ライフジオ

     脚本作り

 

 

性格

 

基本的に原作に関わらないようにしているが、どのようなめぐり合わせかそれ以外の事件に巻き込まれる性質を持つ。

何気ない日常を好んでおり、それを邪魔する物には、容赦なく襲いかかる。

普段は、温厚な性格をしており、メンタル面でも強い。

恐らくこの小説の主人公だと思う。

 

 

 

名前 余世 夢

属性 闇

区別 悪

能力 ・夜の課外授業(悪夢を操る能力)

    マッド・ブッチャ

    ダークネスハウンド

    ヨゥトン

    殺人規制

    拷問絞り

    

 

性格

 

無邪気な少女。元々は、転生者であり精神的にも成熟していたが、とある事件により精神的に壊れ無差別殺人を引き起こす。

殺しをまるで子供の様に楽しみ生きようと足掻く被害者を嘲笑う事を繰り返していた。海鳴市に殺人を起こすべく現れたが、そこで、

南と激突し最終的には日野さんに打ち取られた。その後、南による再教育(洗脳)を受け、日野さんのボディガードのような存在となる。

普段は、普通の子供として、日野家の中で遊んでいたり外で友達を作ったりしている。

 

 

 

名前 後藤 聖一

属性 光

区別 善

能力 ・撲殺天使ドクロちゃんの能力(小説)

     夜仮面の能力

     ジザイホウ

 

性格

 

ロリコン。幼女好きの変態。南と同じく転生者である。身体能力が高く成績も高い。また、転生者だからかルックスも良く他の転生者同様人気がある。

海鳴市をロリの街とすべく活動していたが、日野様一行に阻止され、ヴィータによって、完全に夢を終わらされた。現在は、夢のエターナルロリであるヴィータに夢中である。恐らく変わることは無いだろう。文芸部の中では、断トツの実力者であり実質文芸部の最高戦力である。

普段は、ヴィータやロリ関連がないと良く読書をしており、知的に見える。性格は、少し熱血であり、仲間思いである。

 

 

 

 

名前 日野 渚

属性 風

区別 中立

能力 ・得に無し。

 

性格

 

文芸部部長。または、超能力者どものストッパー。得に優れた能力は無いが、何故かメンバーは彼女だけには逆らえる気がしない。

横暴で滅茶苦茶な性格だと思われているが、その裏ではメンバーを思いやったり補助をしたりと助けるための目的がある。

クラス内に置いては、真面目な生徒と言う仮面を被っておりそのギャップは凄まじいものがある。最早二重人格の域ととれる。

バニングス家とは、分家と言う立場だが、何故か激しく敵対心を持っている。

性格は、少し横暴。仲間は、大切にするタイプ。

 

 

 

 

名前 時田 鈴音

属性 光

区別 中立

能力 ・未来予知

 

性格

 

元引き篭りの少女。昔から奇妙な夢を多く見ておりそのいくつかが実際に起こった為自分を未来人だと思い込んでいる。

ある日自分が食い殺される夢をるが、南の介入があり何とか命が救われた。その後、日野さんの無茶ぶりが炸裂し学校に行ったが、また、イジメられた。その後南の制裁が炸裂しイジメは、完全に消滅した。

文芸部のメンバーの中では、恐らく最弱と言えるが、運動神経は良く強化していない後藤より速い。

性格は、温和。時々ナチュラルで恐ろしい事を言うが、本人にそのようなことを言った気は更々ない。

 

 

 

 

名前 八神 リィン・フォース

属性 闇

区別 中立

能力 魔導の力

 

性格

 

元闇の書の管理人格。闇の書が生み出した人格であり、その知識の量はスーパコンピューターなど比べ物にならないほどである。

恐らく南が戦った最初の相手であり、彼の想い人を殺めた存在である。その為、南からは多少嫌われている様子である。

様々な変人奇人がいる文芸部の中では、ツッコミとボケが両立できている猛者である。

しかし、彼女の存在は不安定なものであり、赤神の能力が無ければ、“自己”を保つことも出来なくなる。

性格は、真面目。部活メンバーのことは、八神家と同じ位大切に思っている。

 

 

 

名前 八神 ヴィータ

属性 闇

区別 やや善

能力 鉄槌の力

 

性格

 

元闇の騎士。現在は、名称を蒼天の騎士にチェンジしている。

エターナルロリータであり、ロリコンな天使から狙われている模様。

文芸部の中では、恐らく一番の常識人である。ポジションはもっぱらツッコミでまた、メンバーの中では、実力者の部類に入るがいまいち活躍が出来る気配を見せないキャラである。因みに後藤や南にツッコミを入れる際は、“エスカリボルグ”を愛用している。

性格は、常識人。また、無邪気な様子も見せることがある。

 

 

 

その他転生者?

 

 

 

 

名前 ?(ファースト)

属性 混沌

区別 ?

能力 ?

 

南のいる世界の実質的な主人公であり、正規転生者の中では、最強と言われている人物。

後藤の事件に関わっていた様だが、今のところ全てが謎に包まれた人物である。

南に仲間を大切にしろ。とメッセージを残して行った。

 

 

名前 ?(セカンド)

属性 『そんな、生ぬるい表現じゃあらわせないよ?』『でも、言うなら、“悪意”だね』

区別 『悪で良いんじゃないかな?』

能力 『秘密だよ?』

 

“悪意”の人物。目的、理由、理解が全て不明な人物であり、不気味な存在。

人の“悪意”を見抜きそれを成長させて何かを見ている。

力は、不明であるが、南の不意を付き殺せるだけの能力である。

ファーストが言った言葉に対し、南に必ず仲間を手に掛ける。と言って、帰っていった。

 

 

名前 ?

属性 闇

区別 ?

能力 悪夢系統

 

“セカンド”と常に行動している少女。その能力の高さから恐らく転生者だと思われる。

自ら悪夢を操る力と言っており、それは、事実上文芸部最強の 余世 夢 すら凌駕する。

しかし、本人曰く夢の力の方が強力と述べている。

何故“セカンド”と共にいるのか、また、目的はなんなのか、ある意味一番理解しにくいキャラである。

 

 

 




次回からは新主人公が登場!!
そして新章へ突入。
だが新たな主人公の下に幸福は訪れるのか?
ではまた来年に
良いお年を!!


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日常編
第47話 新生文芸部始動


日常編開始!


「…欝だ…」

 

季節は、めぐり6月。天気は、気持ちのいい程の雨だった。湿気でジメジメするし、服が身体に張り付くし気持ちが悪くて仕方がない。

 

「ああ。欝だ…やる気がでねえ…」

 

にもかかわらず、今は、テストシーズンでありこの結果によって、夏休みの楽しみが左右されるのだ。…まあ、友達がいない俺にとっては、どちらでも良いのだが。

 

「欝だ…」

 

「南…アンタね…」

 

そんな、俺を日野さんは呆れた表情で見て言った。

 

「誰のために文芸部の活動を勉強会にしたと思ってんの?」

 

「ヴィータのため?」

 

「アンタ達のためよ!!」

 

そう、ここは、文芸部の部室。つまり、本来なら雑談や惨劇が繰り広げられる空間なのだが、只今部活メンバーは全員がテーブルの上に教科書を広げ勉学に勤しんでいた。はっきり言って、カオスな光景がそこにはあった。

 

「はぁ…全く。この前のテストの結果を見て心臓が止まるかと思ったわよ!学年最下位から14番目って何?私立の小学校を馬鹿にしてんの?」

 

「いやー小学生のテストって難しいよね~。」

 

「ヴィータちゃんは、まだ良いわよ。クラスで下から19番目だから。でも、アンタは、どう考えても日頃から勉強してないでしょうが!」

 

日野さんの言う通り。俺は、勉強していなかった。だが、一つ言い訳をさせてもらうと、シュウさん達の両親の蘇生と細かい調整があったり、あの後のリンのメンタルケアーに時間を裂いたからである。けして、好きで勉強をサボっていた訳では無いのだ。

 

「アンタね、そんな事で将来どうするのよ?超能力だけじゃ社会には通用しないのよ?」

 

「まさかのリアルアドバイス!ボケは無しか!」

 

「…後藤。“エスカリボルグ”」

 

「へい」

 

只今、ヴィータに勉強を教えておて幸せな表情の後藤から受け取った“エスカリボルグ”をこっちに向ける日野さんは、とっても笑顔だった。

 

「ちょ…待って!撲殺禁止!助けて!クラス9位のリン!」

 

俺は、窓際に逃げながら、クラスで9番目の成績を収めたリンに助けを求めるが。

 

「…今、推理小説が面白い所だ。他を当たってくれ」

 

推理小説>俺 随分と軽く見られたものだ。

 

「そんなにあの時ズタボロにしたことが憎いか!」

 

「…被害者は、小学生。死因は、撲殺。その後、焼却炉にて焼却され歯型から本人と確定。その後事件は捜査されるが、謎の圧力により事件は迷宮入りっと」

 

「リン!それは、今から俺に起こる悲劇と見て間違いないんだな!助けてくれ!ただでさえ、最近焼却炉から異臭がするって、用務員のおじさんも頭を抱えていたから!」

 

人が燃えた時の異臭は、凄まじいものがある。毎回“大嘘憑き”で消しているものの、やはり遠くまで届いた臭いは、消せるはずも無く最近この聖杯に新たな七不思議として加えられつつあるのだ。

 

「全く。将来どうするのよ?ずっと、親に頼る気なの?」

 

「いや、親には、大体見捨てられてる様なものだからな。取り合いず最悪、深海にでも住むわ」

 

「…平然と言える所が凄いわね」

 

深海がダメならマグマの中でもいいが、その場合家が無いからな…。

 

「おっしゃ!やっと終わったぜ!」

 

と、その時ヴィータの元気な声が響きわたった。どうやら今回の課題を終えたらしい。

 

「フムフム…。100問中68問正解ね。ヴィーたん。頑張ったね」

 

「当然だぜ!私は、やれば出来る子だって、はやても言ってたしな!」

 

嬉しさの余り舞い上がっているヴィータの頭をここぞとばかりに撫でる後藤。実にシュールな光景だった。

 

「はぁ~良いわね後藤は、ヴィータちゃんが真面目で、爪の垢を南に飲ましてやりたいわ」

 

「駄目!南にやるくらいなら僕が、ヴィーたんのを飲む!」

 

「キメェ!」

 

どこからか取り出したハンマーで後藤が叩き潰された。どっちでも良いけどそれを直すのは、恐らく俺の仕事になるだろう。

 

「はぁ~なんで、後藤が私より順位が上なのかしら?」

 

日野さんが、潰されて幸福そうな表情の後藤を見て言った。

 

「たしか、日野さんが学年7位で、後藤が1位だったけ?」

 

「そうね。バーニングスの順位が下がったのは、爽快だけど。やっぱり納得出来ないわ」

 

まあ、そうだろうね。後藤の普段の姿を見る限り勉強が出来るキャラとは、思えないだろう。だけど、後藤は、転生者であり実年齢は、小学生より上である。だから、俺からすれば、別に珍しいことではないが。

 

「絶対何かあるわよ。実年齢を偽っているとか…」

 

時々、実は日野さんは全てを知っているのではないか?と思う事がある今日この頃である。

 

「まあ、天使だからね。案外当たってるかもよ?」

 

「天使ね…本当なのかしら?」

 

あの事件。“超能力者”に“殺人鬼”、“管理人格”に“騎士”、更に“未来人(予知能力者)”まで、いるにも関わらず、天使の存在を疑う日野さんは、きっと“魔女伝説の島”に行っても魔女を否定し続けるだろう。

 

「まあ、良いわ。それより問題は、アンタよ!このままじゃ夏休みが無くなるわよ?」

 

「別にいいけど?」

 

「良くないわよ!夏休みは、文芸部の合宿を計画してるんだからね!」

 

と、なにやら日野さんが、とっても分厚い紙を差出してきた。見ると“合宿予定地(ネオ海鳴キャンプ場)”とあった。何?ネオって。

 

「前に買い取った、あのキャンプ場を新しくオープンすることになったのよ。で、その第一号の団体客に私達を選んだのよ」

 

「…そう言えば、そんなことも言ってたっけ?…つうか、決定事項なのか?それ?」

 

「当然!」

 

驚いた。部員の返事も待たずに学宿を決行するとは。

 

「八神家の2人は、予定が合えば、行くらしいし、鈴音ちゃんも行くって。後藤は強制参加で、後は、アンタだけなのよ」

 

驚いた。知らなかったのは、俺だけのようだった。

 

「皆!全力で手を抜くぞ!」

 

「「「「おお!!」」」」

 

皆の心が一つになった。

 

「そんなに行きたくないの?」

 

逝きたくないんです。日野様が企画したキャンプの計画なんてきっと、殺人鬼がやってきたり、異世界からの侵略者がやってきたり、宇宙うからの使者がやってくるに違いない。

 

「大丈夫よ命の危険は、そんなに無いから。」

 

その言葉で、安心できるほど俺は、馬鹿では無い。

 

「命の危険がある限りそれは、キャンプとは、言わない」

 

「危険があってこその人生。そうは思わないの?」

 

「俺は、平凡に暮らしたいの」

 

「はあ、トンデモ能力を持っていて、よく言うわね」

 

別に好きで持っている訳じゃ…いや、好きで持ってはいるが、これは、あくまでも自分を守るための能力である。

 

「とにかく決定事項だからね」

 

「嫌だ!夏休みは、自由に過ごしたいんだ!」

 

「学校の補習のどこが自由なのかしらね?」

 

それを言われたら返す言葉もない。俺の人生で補習の無かった人生は無い。

 

「俺の人生は、補習と共にある」

 

「…」

 

日野さんの視線が痛い。

 

「はあ、分かった。つまりこう言いたい訳ね」

 

「うん」

 

「俺を連れて行きたければ、学校の革命を行え。つまり、理事長を失脚させれば良いわけね」

 

誰もそんな事は言ってはいない。つうか、そんな事を平然と言える生徒がいるとは、理事長も思ってもいなかった事だろう。

 

「…ふふ。遂に南が学校を…協力するわよ?」

 

「日野様、キャンプに是非とも参加させて下さいませ」

 

俺は、人柱になる気などない。

 

「じゃあ、気合を入れなさい。さもないと本当に学校は無理でも教師陣を買収するはめになるからね」

 

多分冗談だろうけど…近い事は、平然とするだろうな…。

 

「分かった、分かりましたよ。」

 

俺は、そう言うと、再び机に向かい鉛筆を取った。全ては、この学校の未来のために。

 

「そういえばさ」

 

俺が、問題集を解いていると、ヴィータが思い出した様に言った。

 

「今度、ある持久走大会なんだけどよ賞品があるって、はやてから聞いたんだけど、賞品って何なんだ?」

 

「賞品?」

 

そんなものあったか?たかだか、小学生の持久走大会に賞品なんて出るのか?メダルとか?

 

「あ、それ、こないだ斎藤が言ってたわね。何か、これまでの大会の参加者がやる気が無い人が多かったから、今年からは賞品が出るとか」

 

斎藤とは、クラスの委員長である。日野さんは、委員長では無い。が、クラス内で彼女の発言権が向上してきている今現在もはや飾りの委員長なのだが。

 

「賞品ね…」

 

「なんか、物凄く疲れた表情をしてたわね。まあ、全クラスの委員長が全員“あの”理事長先生に呼び出されたんじゃね」

 

「理事長先生ね…」

 

日野さんをもして、“あの”とまで言わしめる理事長先生。まあ、確かにあの人は、そこまで言われる程の人なのだが。

 

「そこまで、変な奴だっか?終業式の時も始業式の時も見たが、そこまでおかしな奴には、見えなかったが?」

 

「それは、校長先生ね。表だった、行事は、不要な混乱を避ける為に校長先生が、壇上に立つのよ。」

 

「へえーどんな奴なんだ?」

 

「「…」」

 

興味津々と言った様子で、俺達を見つめてくる文芸部の面々。確かに言われてみたら、殆どが、転入生だし、時田さんに限っては、ほどんど引き篭りだったのだ。理事長の事など知る由も無いだろう。

 

「えっと…簡単に言えば…えっと…」

 

「「「「簡単に言えば?」」」」

 

どうしよう?言えるのだが、答えづらい。

 

「えっと…後藤と日野さんの性格を足して割った様な感じかな?」

 

「「「「は?」」」」

 

「つまり、欲望に忠実で、そのための行動力があって、それを行うだけの資産を所有してるんだ。」

 

とにかく、あの人が考える事は、全く分らないのだ。

 

「なんで、私が後藤と足されたのかはともかく、そう言う事よ。1年生にお時なんて、『テストの答えか?欲しけりゃくれてやる。探せ!テストの答えをそこに置いてきた!』とか、言って、急に宝探し大会を開いたのよ」

 

「へえーそんな事があったんだ。俺の時は、転校初日に『この学校に暗い影あり!至急!占いの館に集合せよ!』と言われて、転校初日に学校じゃなくて、占い館に行ったよ」

 

あの時の占い師さんから『気を付けなさい。女の子には気を付けなさい』と言われたのは、今でも記憶に新しい。

 

「…よくそんな変人が、理事長なんてやってられるな…」

 

「リコールなら年に365回程起こってるわよ?1日に1回リコールが起こっている計算ね」

 

「良くここに残れてるな…」

 

「まあ、一応は、有能見たいだからね。」

 

絶対なにか。裏があると思うのだが、そこは小学生である俺達の知った所ではない。

 

「世の中には、いろんな奴が居るんだな…」

 

「ああ。あの人なら、小学生から、働く為に学校を休む事になっても平然と許可するだろうからな」

 

教育者として、どうかは兎も角な。

 

「チョイ待て。」

 

すると、後藤が手を上げた。

 

「俺の成分は、どこなんだ?それだけだと、進化した日野さんじゃないか?」

 

「ああ。いつだが、雑誌でインタビューされた時な『一番好きな者はなんですか?』という質問に理事長は、こう答えたんだよ」

 

 

 

 

『子供が、一番好きです』

 

てな。

 

 




さてあけましておめでとうございます。
というわけで、新年も無事スタートしたので、これからも一年間がんばっていこうと思います。


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第48話 愛を取り戻せ!

日常編スタート!!


 

暗く巨大な空間が目の前に広がている。一体どこまで続いているのだろうか?

 

『集まった、様だな。選ばれし15人の戦士達よ』

 

そんな声が、俺の頭上に設置されていた高音質スピーカーから流れてきた。

 

「…毎度の事だが…どんだけ下らない事に金を懸けてるんですか?理事長先生!」

 

『おい。4年2組クラス委員長。斎藤進くん。そんな夢を壊すような発言は、避けたまえ』

 

理事長の威厳のある言葉に何も感じるモノはない。

 

『目覚めたら、謎の空間にいた。男なら誰しもが憧れるシチュエーションではないか!』

 

「いやいや!呼び出し喰らって、理事長室に行ったら、何故かダンジョンの入口の様な階段があって、そこに貼ってあった指示どうりに降りてきたら、ここにつながってただけだぞ!」

 

と言うより、何故4階にあった、理事長室からこんな地下空間に繋がる階段が出来ていたのかが不思議である。少なくとも校舎に変化は無かったはずだが…。

 

「黙るがいい!この背信者め!見てみるといい。この場でキサマ以外文句を言っている輩はおらんぞ!」

 

「皆呆れているだけだ!」

 

その証拠に時々ため息が聴こえる。

 

『夢の無い奴め。まあいい、さて、本日4年生から6年生までのクラス委員長に集まってもらった訳だが、本日は、7月にある持久走大会について、連絡をしたいと思って集まってもらった訳だが。』

 

瞬間、クラス委員長達の間に緊張が走るのが分かった。この暗闇のせいでお互いの顔は見えないものの雰囲気だけは伝わって来るのだ。何かヤバイと。何故ならば、この理事長が只の連絡だけで自ら動くなど有り得ないからである。このレベルの連絡なら校長先生でも十分な事なのだ。

 

『さて、近年モブキャラ不足が深刻な我が校なのだが、斎藤これをどう思?』

 

「知らん。」

 

『そうか。では、持久走に必要なものはなんだと思う?4年1組 月村。』

 

すると俺の隣にいた人影が動いた。どうやら1組の委員長である月村さんだったらしい。月村家の令嬢であり、綺麗な黒髪と落ち着いた佇まいが、人気の聖杯5大美少女の一人である。恐らく3人しか美少女の枠がなくても確実に脱落することはないと俺は確信している。

 

「えっと…掟ですか?」

 

『ルールか…へっ』

 

「よし、理事長!出てこいよ?その顔面に拳をくれてやるから」

 

聞いておいて馬鹿にしたような返答とは、いい性格してやがるじゃねえか。

 

『確かに、ルールは大事だ。だが、君達は何かを忘れてはいないかね?』

 

「何をだよ」

 

『走る事の根本的な目的だよ。人は何の為に走るのか?何故急ぐのか?長年生きている君たちになら分かるはずだ』

 

まだ、10年位しか生きていない俺等にそんな人生の到達点みたいな事がわかるはずもないだろうに。

 

「あの…目的って、一体…」

 

月村さん。理事長の話は、真剣に考えるだけ無駄だからね。

 

『フッ…それは“愛”だ。人は、“愛”の為に走るのだ』

 

ほらね。

 

『走るのは、皆愛するモノの為にする行為なのだ。メ●スだって、愛する友人の為にあらゆる困難を耐え抜き走り。●クラスの漢共も愛すべき●●ァの為に走り抜いた。これは、遥か古代から伝わる、通学途中でパンをくわえて全力でダッシュしていたら運命の人とゴッツンコの法則からくるものであると学者も証明している』

 

「嘘をつくな!メ●スが走ったのは、妹の結婚式に出るために身代わりとなった友人の為であって、けして愛する友人の為じゃねえ!●●ァについては、元ネタは知らんが、多分●クラスの連中は、●●ァにそんな感情は抱いていねえよ!後最後の奴だが、それが、流れたのは、1970年代であって、古代じゃねえ!後、それを証明した学者は、誰だよ!」

 

『長いツッコミご苦労だったな。斎藤君。後、パンについては、当時本当に実行する人がいたそうだぞ?結果は知らんがな。後、同時期に小学生の間では、コックリさんやら花子さん。人面犬等がブームとなっていてな、ぶつかった相手が将来自分を殺しに来ると言う怪談バージョンが流れた事があったそうな』

 

「知るか!」

 

「っ!待って!斎藤君!」

 

「何?月村さん?」

 

「メ●スだけど、確かにそう言う説もあるって聞いたことがあるわ…」

 

「知るかよ!て、言うか蒸し返さないで下さい!いや、マジで!」

 

『さて、斎藤君が五月蝿いので、なかなか進まなかったが、本題に入るとしようか』

 

「アレ?俺のせいなのか?」

 

「そうですね」

 

「月村さんまで!」

 

何?これって、イジメなのか?そんな訳で、一人落ち込んでいると、中央の空洞から、何かがせり上がってきた。

 

「…巨大なディスプレイ?」

 

そう。それは、明らかに体育館のステージより巨大なディスプレイだった。こんなのは、アニメでしか見たことがない。

 

『これを見たまえ』

 

そして、映し出されるのは、数人の生徒の写真だった。

 

「これは?」

 

『良い質問だ。見ての通りこの学校の生徒のモノだ。プロのカメラマンを雇って撮ってある、良い出来だろう?』

 

すると、眼鏡をクイッと上げる仕草をした、男子生徒がいかにも知的な声で言った。

 

「何故、女生徒の写真は、皆水着なのですか?」

 

そう。表示されている写真の女生徒は、皆水着姿だったのだ。その中には、“高町なのは”や“アリサ・バーニングス”、“フェイト・T・ハオウラン”等の4年を代表する美少女達の姿もあった。正直、プールの授業が男女別になった今現在では、この映像は、レア中のレアなのだ。

 

「あの…すみません…」

 

すると、月村さんがオズオズと手を上げた。まあ、無理も無いだろう。

 

「どうして、私の写真もあるんですか?」

 

そう。画面には、他の美少女に負けないほど可愛い姿の月村さんの水着ショットが表示されているのだ。正に眼福である。

 

『そう。そして、次だ』

 

すると、写真が消え新たな写真が表示される。次は、男の写真だった。

 

「おい!さっさとさっきの写真に戻せよ!(何だ?この写真は?)」

 

『斎藤君。本音と建前が逆転しているぞ』

 

おっと、しまった。

 

「コホン…。で…何をするのですか?理事長先生」

 

「…」

 

月村さんの視線が痛い。

 

『先程も言ったように人が走るためには“愛”が必要である』

 

「…」

 

『だが、最近の子供たちの走りはどうだ?弛みきり、本気で走らず、最後には、一緒に走ろうと言い出す。全く嘆かわしい限りだ!』

 

「まあ、持久走ごときで本気で走りたくはないからな」

 

『バカ者!誰かその斎藤を叩きのめせ!』

 

「ちょい待てや!その斎藤って!どう言う…」

 

「分かりました」

 

「…ゴバ!!!」

 

月村さんの左アッパで、俺の意識は点滅した。主に赤色に。

 

『斎藤君の体が、1m程浮かんだのは、気のせいとして、そこで、私は考えた訳だ。どうすれば、彼らは本気で走るのか?どうすれば、熱い勝負が見れるのか?』

 

「それは?」

 

『つまり、根本的な“愛”それを手に入れるチャンスを与えれば良い訳だ。つまり、この持久走大会の男女各部門優勝者には、それぞれの人気部門で、ランクインした、我が校の生徒とのデートを行う権利を与える事としたのだ!』

 

理事長が、まるで、自分が、さも偉大な事を言ったと言った感じで宣言した。因みに俺は、顎がヤバイ為ツッコミは不可能になっている。

 

「男女別…つまりは、女子と男子が別れて行う訳ですね」

 

『ウム、なお、各ルートにはチェックポイントを設けており、また、難関を設置してあるため、足が速いだけでは、簡単にはクリア出来ない仕組みとなっている』

 

「条件は対等…と言う訳か…」

 

「ちょっと待てくれ。6年と一緒に走るんじゃ、4年の生徒は不利じゃ無いのか?」

 

『さて、どうかな。確かに体の大きさは4年は6年に負けるかもしれん。だが、体力や気力は、この学校の生徒である以上は、互角に渡り合えると私は、思っている』

 

まあ。確かにね…。と言うより誰か…保健室へ連れていって下さい…。後、なんで、皆さんそんなにノリノリなんですか?

 

「と、言う事は…」

 

そして、何故か、皆の視線が俺に突き刺さる。

 

「…当面の障害は…」

 

「4年2組ダナ」

 

はい?

 

「4年1組に最近になって、身体測定と学力検査で追いついて来たのは、チート厄介だぜ」

 

「…」

 

え?え?え?

 

「ウフフ…恐れが“視え”ますよ?4年2組委員長さん?」

 

なに?この状況!

 

「安心しろ。キミは私が保護する」

 

何から!?

 

「…大丈夫だよ」

 

月村さん?

 

「勝つのは…私達だから。危険から守ってあげる」

 

そして、画面に理事長の姿が映し出される。

 

『これより、“愛”を賭けた、男女別のバトルロワイアルを開催する!各自知略をつくし他の生徒を駆逐せよ!』

 

いやいや、駆逐しちゃったらいけないだろう!

 

『では、解散!各自この事実を各クラスへ報告せよ!』

 

その言葉を最後に各クラス委員長は無言でその場を後にした。

 

 

 

 

 

「あの…皆さん…俺を置いていかないで…」

 

『…今から、医療藩を送ろうか?」

 

「お願いします…ガク…」

 




どうでしたか?
感想待っています!!


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第49話 嵐の前に

「…と言う訳で、以上が理事長先生からの連絡だ。何か質問は?」

 

どうやら、あの一撃は軽傷だったらしく、昼休み終了間際に回復し現在はホームルームにて、今日の連絡を行った。

 

「「「……」」」

 

クラスの中に静寂がおとづれる。俺は、ため息を付き教卓の下に隠れた。

 

「「「いよっしゃ!!!」」」

 

クラスの殆どの生徒が、男女問わずに歓声を上げた。その勢いで、鞄や教科書が宙を舞いボタボタと地面に落下してゆく。

 

「お前ら、落ち着けよ!」

 

「「「!!!!!!!!」」」

 

駄目だ。最早俺の言葉は届かないらしい。

 

「ちょっと、アンタ達落ち着きなさい!」

 

すると、凛とした声が響きわたった。見ると一人の女生徒が、呆れた表情で立っていた。

 

「「「……」」」

 

すると、あら不思議。声の波は収まっていった。…泣いて良いですか?

 

「助かったよ。日野さん」

 

「アンタも苦労してるわね…」

 

このクラスの真の委員長であると言われる日野渚が、辺りを見渡す。

 

「ハア…で、男の子と女の子の部門で1位になったら、その訳の分らないデートの権利が貰えるって言ってたけど、それは、相手を選べるの?」

 

「あ、いいや、その場でクジを引いて当たった子とデートだって言ってた」

 

「…相手には、ちゃんと了承が取ってあるんでしょうね?」

 

「…さあ」

 

ディスプレイにあった月村さんの写真に本人が驚いていたところを見るとその可能性は少ない様な気がしてならない。

 

「…つまりこの行事…モテない、人達の行事って訳ね…」

 

「…まあ、多分…何で、俺を見るんだ?」

 

「…いや、かなり前から、このクラスの委員長が、月村さんに思いを寄せているって噂がね…」

 

「別に俺が提案した企画じゃねえよ!!」

 

「…変人のアンタが言ってもね…」

 

「変人集団を率いている日野さんが言える事じゃないよね?」

 

日野さんは、文芸部の部長と言う立場にいる訳であるが、そのメンバーは、見事に個性的である。

 

「ちょっと待った!僕のどこが変人なのさ!」

 

「黙れ!幼女趣味が!」

 

後藤聖一。このクラスの転校生であり、恐らく変人の部類では、クラストップの実力者だろう。成績優秀。運動神経抜群。と万能で、見た目も1組の赤神達に引きを取らないが、幼い女の子が好きと言う将来がとっても心配になる性癖を持っていたりする。

 

「ハア、後藤…もう黙れ…」

 

無言で、釘バットを取り出したのは、八神ヴィータ。得に変わった特徴は無いが、クラスで一番後藤に好かれているらしく、良く付きまとわれている。

最初は、殴り飛ばすだけだったが、最近では、どこからか釘バットを取り出しては、逆に追い回している。因みにこのクラスでは、美少女の部類に入り1組の女子と比べても引きは取らない。

 

「ヴィータ。落ち着け」

 

そんな、八神を止めているのが、八神リィン・フォース。こちらも転校生であり、変人集団の中でも比較的マトモな部類に入っている人物である。

俺達と同年代とは思えないほど落ち着きがあり、クラスの行事を決めるときには、良く書記をやって貰っている。こちらも美少女であるが、どちらかと言うと、10後位に急に芽吹くタイプと理事長は語っていた。

 

「スゥ~スゥ~」

 

こんな仲間の状態にも平然と眠っているのは、時田鈴音。詳しくは知らないが、酷いイジメにあっていた事があるらしく、しばらくは学校に来ていなかった。しかし、気がつけばまた、学校に来ており、その際にイジメは無くなったらしい。しかし、彼女は、どこかで見たことがある気がするのだが、全く思い出せない。…まあ、いいか。

 

「…」

 

一方、こんなカオスな光景を呆れた表情で傍観してるのは、南一夜。たしか、3年の始め頃に転校してきたのだが、暗く誰とも関わろうとしなかったので、そんなに目立つ事は、ない存在だった。俺の第一印象は暗い奴だった。幸いな事にイジメの対象にはなっていなかったが、ある意味で、そいつらは幸運だったらしい。何故なら、時田さんがイジメられていた所に乱入しその相手をしばらく学校に来なくさせる程のトラウマを与えたらしいのだ。普段のやる気の無い姿を見たいるだけそのギャップはすごいものがある。文芸部の実質的副部長であり、日野さんが最も信頼している相手だという噂だ。

 

「だあ!もう!アンタら少しは落ち着きなさいよ!だから、変人集団なんて裏から言われんのよ!」

 

その代表は、アンタですけどね。

 

「まあ、ともかく、皆良い?きっとこの中には、やる気になっている奴ややる気の無い奴もいるでしょうけど、レースである以上は、ちゃんとルールと安全を守ってやってちょうだい!怪我人なんて出した日には、レースは中止になるからね…良いわね?後藤?」

 

「委員長!武器は使用可ですか?」

 

「不可に決まっているだろうが!」

 

何故か、バチバチ光る棒を持っている後藤に言うと、俺は、再び壇上に上がった。

 

「あー皆も分かっているとは思うが、持久走大会は、7月だ。つまり後2週間。その間もし問題が起これば、この大会中止になるかもしれん。良いな!真面目に参加する奴は、絶対に他の参加者にチョッカイをかけるなよ?後、コースは、当日に発表される。だから、街中を走り回るな。以上だ!」

 

俺が、いい終わると、異常な静けさが、辺りを包み込んでいた。

 

「…これが、嵐の前の静けさと言う訳か…」

 

「…斎藤。大丈夫だと思う?」

 

日野さんが、少し声を潜めて聞いてきた。

 

「まあ、恐らく大丈夫だろう。いくら、立場が対等とは言え、やはり、勝つのは、運動神経の良い奴だろうからな。このクラスでは、断トツで後藤だろうな。1組では、赤神、八神、遠藤か?女子では、ヴィータで1組では、月村さん当たりだろうな。」

 

恐らく4年限定で行うとすれば、今上がった名前が優勝候補だろう。いや、このメンツなら優勝も夢では無い気がする。少なくとも俺らの様な普通クラスの人間とは、違うのだろう。

 

「…だが、そのことは、理事長だって知っているはず…あの言った事だけは、きちんと守る理事長の事だ…何かはあるんだろうけど…」

 

「…そうね…警戒はしておくべきでしょうね…」

 

日野さんは、何故か南を見ながら言っていた。まあ、気にしても仕方が無いか。とにかく、安全に大会が終わる事を祈るだけである。

 



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第50話 希望の光

無音。音の聞こえない教室内。

 

それは、ある意味不気味なモノだ。

 

人の気配がするのに、音がない。

 

「では、今日は、ここまで」

この空間で有一の音源であった、先生の声が響きわたる。それが、全ての始まりだった。

 

「じゃあ…」

先生が教室の扉を閉めた。

 

「「「レッツ!パーティー!!」」」

我がクラスの大多数の生徒が、一目散に校庭へ飛び出して行った。いや、このクラスだけでなくその他のクラスの生徒も飛び出していた。

 

『走ろうぜ!』

 

「「青春の光!!!」」

 

『駆けようぜ!!』

 

「「その手に掴むために!!」

 

『夢を!』

 

「「愛を!!」」

 

『誰が勝っても!』

 

「「祝福を!!」」

 

どうやら、この学校の大多数の生徒は、理事長に洗脳された様だ。可哀想に今度良い精神科を紹介してやろうか?

 

「はあ…」

そんな、小学校高学年の生徒が、校庭を走り回る姿を窓から眺めながら俺は、この学校の生徒の未来を憂いていた。

 

「はあ…」

と、そんな俺と同類のため息が聞こえたので首を向けると、日野さんが呆れた表情で校庭を見ていた。

 

「あの、バカ、問題起こさなきゃいいけど…」

 

「誰か、知り合いでも行ったのか?」

 

「ええ。後藤がね…」

 

「ああ…」

目を光らせて、走っている後藤を思い浮かべたら、頭が痛くなってきた。

 

「アイツが、優勝なのかね?」

 

「さあね。このクラスだけだったら、そうかもだけど、今回は、5・6年も参加するしね。正攻法じゃ難しいんじゃない?」

まるで、奥の手でもあるとでも言ったいいかただな。

 

「それに、1組も参加するしな…俺等みたいな凡人には、無理なイベントか…」

1組には、赤神、遠藤、八神を始め運動神経の良い男子生徒が多々集まっているのだ。勝率など皆無に等しいだろう。

 

「果たして?それは、どうかな?」

すると、教室の扉に寄りかかりながら腕を組んでいる男がいた。

 

「…原田…」

 

「よう。斎藤、随分とシケた面じゃねえか?」

男は、ニヤリと笑うと軽い足取りで俺に近づいてきた。奴の名は、原田大輝。俺の一番の親友であり、聖杯一の情報を持っている男である。

 

別名“ストーカー予備軍”。

 

「意外ね。アンタは、あっちの人間だと思ってたんだけど?」

 

「ヒデェな。確かにそうだが、落ち込んでいる友の為に良い情報を仕入れてきたんだぜ?」

 

「情報?」

日野さんが、首をひねると原田は、ニヤリと笑い俺に机に座る様に促した。俺は、少し不気味に思いながらも指示通り席に着いた。

 

「…席を外しましょうか?」

すると意外な事に日野さんがそう言った。

 

「…斎藤?」

 

「スミマセンデシタ!!!」

心を読まれた?怖いよこの人!

 

「いや、別に聞かれても困る話じゃねえしいいぞ」

 

「そう」

そう言って、日野さんは言うと、自分の席に着いた。

 

「さて、我がヘタレな友は、月村に好意を寄せているが、こんなイベントでも無いと、声をかけることも出来ないチキン野郎であるが…」

 

「おい!」

 

「それは、クラスの誰もが知ってるわよ」

 

「日野さんまで!!」

我が友とクラスメイトの俺に対する評価に涙がこぼれた。

 

「まあ、それは、ともあれ。そんな哀れな斉藤の為に俺は、独自の情報網を展開し気になる情報をつかんだのだ」

 

「情報?」

 

「赤神達は、恐らく今回の件にはノータッチの可能性が高い」

 

「は?」

何を言っているのだろうか?

 

「赤神達は、今回のデートの相手の彼氏だぞ?彼女の為に頑張るんじゃねえのか?」

 

「そうだな。だが、奴らとて空気位は読めるだろうからな。確かに運動能力では、群は抜いているが、そこらへんは理事長が調節しているらしいからな」

 

「理事長が?」

 

「…ああ。確かにイベントの成功より面白さを優先する理事長なら手くらい打つでしょうし、赤神君達は、ウチのバカ共と違って大人だしね」

 

「まあ、後藤と比べてもな」

赤神達と後藤では、何かがかかった時の真剣さが違う。後藤は我慢を知らないからな…。まあ、それが、本来の子供の姿なのだが。

 

「まあ、アイツだけじゃないんだけどね…」

気のせいか、日野さんは遠い目をして、グランドを見ていた。…確かにね…。

 

「希望は、出ていたが、流石にあの狂人共を相手に勝つ自信なんぞ無いぞ?」

確かに赤神達の不安は、薄まったが、残りの(彼女・彼氏のいない)狂人共を出し抜けるとは到底思えないが。下手をすると俺は死ぬかも知れん。

得に後藤の殺気がここに居ても分かる位に感じるのだ。

 

「まあ、後藤の方は、南辺りに相談してみるわ…下手に優勝したら、文芸部廃部の危機ですしね」

何故に南?そう思ったが、気にしない方が身のためだ。と自分の勘が訴えていたので、あえてスルーしようか。

 

「ともかくだ」

そこで、原田は、ニヤリと俺を見た。

 

「少しは、希望を持てたか?斎藤君?」

狂人。後藤。理事長の策略。全く問題は解決していないに等しいが…。まあ、いいか。

 

「少しな。…原田」

 

「何だ?」

 

「俺……走ってくるよ!」

 

「ああ。行け」

俺は、教室を飛び出し廊下を駆けた。目指すは、グラウンド…いや。

 

「月村さんとデートだ(超小声)!」

 

 

 

 

少年が、飛び出した教室に1人の少年と1人の少女が取り残されていた。

 

「行ったか…」

 

「良かったの?あんな希望を与えちゃって。いくら赤神君達が、参加しないと言っても相手はまだ100人以上いるのよ」

 

「…大丈夫だろうさ」

少女の言葉に少年は、グランドを見ながら言う。

 

「斎藤は、負けねえよ。それこそ赤神達が出てきてもな」

 

「そう言える訳は?」

 

「俺と斎藤は、幼稚園の時からの付き合いなんだがな。奴は、自然と力を押さえちまう癖があるんだよ。知ってたか?アイツの50m走のタイム」

 

「タイム?」

 

「驚く事なかれ。4秒弱だ」

 

「…冗談でしょう?」

 

「マジだ。しかもこれは1年の時の記録だ。それ以来奴は、8秒台を出す様になっていったがな」

 

「手を抜いているって事?」

 

「恐らくな」

 

「でも、そんな噂聞いたことも無かったけど?」

少女は、思い出す様に頭を抑えたが、そんな噂など聞いたことが無かった。

 

「それはな、その時の測定が、ミスだと思われていた事もあるが、その後5秒台を叩き出した、女がいてな。そっちの方が有名になっていたからだろうな」

 

「あ、それなら聞いた事があるわね。確か…誰だっけ?」

 

「忘れた。…依頼するか?」

 

「いいわ。時間の無駄だしね。その気になれば、ジィにでも調べてもらえば済むしね」

 

「さいで~」

 

少年と少女は、そう言いながら窓の外を眺める。そこには、一生懸命に走っている少年の姿があった。

 



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第51話 斎藤進の華麗なる人間関係

原作キャラ登場!キャラ崩壊注意!!

投下します!


「よし。こんなもんかな」

原田に希望を持たせてもらい、やる気になった俺は、ここ毎日朝と夜にランニングを行っていた。

 

「…後、3日か…勝てるのか?本当に」

ペットボトルに入ったスポーツドリンクを口に含み何十回目かの同じ事を考える。ドリンクの甘味と苦味が口の中に広がり心地が良い。

ドリンクを一気に飲み干し、ボトルを小さく潰し近くのゴミ箱に投げた。ボトルは、綺麗な放物線を描きゴミ箱のすぐ脇に落下した。

 

「はい。バズレね」

 

「ん?」

すると、いつの間にか、見知った顔がそこにはいた。

 

「シャマルさん?」

 

「フフ。相変わらずね、斎藤君」

金色の髪に青い瞳の外人さん。最近この町にやって来たらしい。彼女の名前は、八神シャマル。つまりは、1組の八神はやての親戚らしい。

彼女とは、正月に母さんに連れられて行った、料理教室で初めてあったのだ。別名“殺人兵器”

 

「どうしたんですか?こんな時間に?」

時間は、夜の8時過ぎ普段なら家にいる位の時間帯である。しかも、ここは、海鳴から少し離れたキャンプ場である。普通なら出会うハズは無いのだ。

 

「外食よ。はやてちゃんが、急に外で食べたいって言い出してね。せっかくだから少しいい店で食べて来たのよ」

 

「…ああ。今日台所に立ちましたね」

 

「!よく分かったわね。ほら、もう直ぐ持久走大会でしょう?だから、少しでも力になるものを食べて貰おうと思って、作ったんだけど…何故か皆外食にしようって、言い出したのよ。なんでかしらね?」

恐らく大会前に入院したくないからだろう。自己防衛の為に強行手段に出たようだ。

 

「せっかく、縁起を担いで、“カブト”を入れてみたのに」

 

「…」

植物か動物かで、KOか死に別れる事だろう。植物だったら、この世との別れが待っていることだろう。

 

「…八神の奴も苦労してんな」

家でも学校でも苦労している赤髪の少女を思うと涙が止まらない。

 

「でも、不思議な事があったのよ」

 

「なんですか?」

 

「それがね、一口も食べないで、行くなんて失礼だから、バイン…みんなを椅子に座らせて食べてもらおうとしたんだけどね」

気のせいか?今、この人家族を堂々と殺そうとしてるよ?

 

「料理を取りに行ったら、無くなってたのよ。まるで、最初から“無かった”みたいに」

 

「“無かった”?」

 

「ええ。どこを探しても見つからなかったのよ。不思議よね」

シャマルさんは、首をかしげて、考える仕草をした。しかし、何が、あったのかは、知らないけど皆の命が助かって良かった。

 

「まあ、それで、外に食べに行くことになったんだけどね。」

 

「そう言えば、他の人は、どうしたんですか?」

皆で、出かけたと言っていたが、今この場には、シャマルさんしかいない。…まさか、本当は全員死んでいて、俺には、見えないとか言うオチじゃないだろうな?

 

「ああ。帰る途中に斎藤君が、走ってるのを見てね。ほら、もうこんな時間でしょう?」

なるほど。時計を見ると、確かに8時過ぎ、塾にも通っていない小学4年生が、外にいる時間では、無いだろう。つまりこの人は、俺を心配して来てくれたのだ。

 

「もしかして、今度ある持久走大会の練習?」

 

「え…まあ」

 

「だとしても、ダメよ?こんな時間までいちゃ」

 

「え…すみません」

家族を手にかけようとした人にだけは、言われたくないが、我慢だ。

 

「好きな子に告白しようと思ってもルールは守りなさい」

 

「はい…ん?」

ちょっと待て。何で、知ってんだ?この人。

 

「全く、すずかちゃんが好きなら、こんなイベントじゃなくて、しっかりと告白したら良いのに。斎藤君は本当にヘタレね」

 

「ちょっと待って下さい!何で知ってるんですか!」

 

「ん?前に、はやてちゃんが、すずかちゃんが皆に斎藤君がジロジロ見てくるから気味が悪いって相談があってね。それで…って!何処に行くの!そっちは、崖よ!」

 

「うわあああ!!!!!」

まさか…まさか。気付かれていたなんて!しかもストーカー紛いに思われてたなんて!!

 

「シャマルさんの料理を食べて死んでやる!!!!」

 

「ちょっと!どう言う意味!って!本格的にマズイわ!止まって!!」

だが、走り出したら止まらない。それが、青春だ!そして、俺は崖へとダイブした。

 

 

 

 

 

 

「全く。危ないじゃないか!」

 

ところ変わって、とある喫茶店。

 

「いやー悪いな~」

 

「本当に反省してるの?」

俺の言葉にユーノ・スクライアは、ジト目になって、いた。あの後気が付くと、近くの公園に寝かされていた。シャマルさんの話では、真下にユーノがいたらしく、俺は、無傷で済んだらしい。しかし…人間一人を受け止めて無傷?…まあ、良いか。

 

「ハハハ…本当にゴメンナ。ちょっと…シヨックな事があってな…ハハ」

 

「全く。」

ユーノは、どこか深みのあるため息をつくと、俺を見て言った。

 

「月村さんを好きなのは、知ってるし、ストーカー扱いされて絶望するのも分かるけど…その程度で、死のうなんて、どうかしてるよ!」

 

「その程度って…」

 

「…好きな子に好きな人がいるよりは…100倍マシじゃないか…」

 

「あ…」

そうだった。ユーノには、高町さんが好きだったにも関わらず身を引いた過去があったんだった。あくまでも噂だけども、こっちへ仕事の都合でやって来たユーノに出来た始めての友達だった高町さん。そんな、彼女に恋心を抱くも彼女には頼りになる幼馴染(赤神君)がいた為にどんなにアプローチをかけても見向きもされず、今では、友達に固定された哀れな男だった。

 

「キミを見ていると、昔の僕を見ているみたいだ…1年前の伸ばせば手が届くと思っていた僕に」

 

「あ…えっと…」

どうしよう?なんていったら良いのか分からない…。相談しようにも近くには、知り合いはいない。シャマルさんは、家に帰ってるし…。

 

「斎藤君!」

 

「は、はい!」

 

「僕の様には、ならないでくれ…大好きな女の子に告白出来ず、戦う事なく散って行くような哀れな男には!」

 

「ユ…ユーノ君…首が閉まるんだけど?」

 

「僕の様には!!」

ダメだ、聞いちゃいない。むしろ声をかけた方が危険だ。何より眼が正気じゃない。

 

「僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕

 

の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕

 

の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕

 

の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕

 

の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕

 

の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕

 

の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の・・・」

 

「ヒッ…」

底知れない恐怖だ。まるで、とある学校に閉じ込められ、無念の死を遂げた怨霊の様な感じだ。

 

「僕

 

の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・」

 

「あ、もうこんな時間だ!じゃな!また!!」

恐るべき空間を代金を払って脱出し、俺は、恋の怨霊の成仏を願いながら逃げ出した。

 

 

 

 

 

「ハア…ハア…ハア…ここまで来れば…」

恐るべき閉鎖空間から脱出した俺は、夜の町を彷徨っていた。とは、言っても家路についているだけだが。

 

「全くユーノの奴…可哀想に…」

出会ったばかりの頃は、まだ、希望に溢れる瞳だったのに…最悪アレは、俺の未来なのかも知れん。

 

「このまま、何も起こさず気が付けば…月村さんは、結婚…幸せな家庭を持って…ア…アハハ…アハハハ」

脳内に駆け巡る最悪の映像。これが、未来なら俺は、ユーノと共に怨霊と化すだろう。

 

「斎藤?なに笑ってんの?」

 

「!怨霊か!」

 

「誰が、怨霊よ!失礼ね!」

笑っていると、知り合いからまた、声をかけられた。今日は、知り合いによく会う日である。

 

「…なんだ…ハズレの方か…」

 

「…その意味…じっくりと聞かせて頂こうかしら?」

何故か、怒りに満ちている、少女。アリサ・バニングスは、目にも止まらぬスピードで、俺の顔面を拳で打ち抜いた。

 

「ゴベバ!痛え~何しやがる!」

 

「私のパンチから始まるコミュニケーションに何か問題でも?」

 

「大有りだ!大体何だよ!その不良もびっくりなコミュニケーション術は!って!ガフー」

 

「継いで、キックで繋ぐ奥手な美少女のアプローチね」

 

「…誰が…美少女だと…」

 

「…最後に経済的に追い詰める支配者の特権を炸裂させましょうか?」

 

「済みませんでした!」

俺は、自分の親の仕事を守るためにこの傍若無人の少女に頭を下げた。

 

「土下座ね」

 

「くっ!流石は、あの日野様の本家本元。俺等、雑魚庶民んなんかとは、格が違うぜ!」

俺が、地面に頭をつけるためにしゃがむとバニングスは、慌ててそれを阻止した。

 

「冗談よ!だから、こんな町中で止めなさいよ!」

 

「冗談なのか?日野さんは、平然と教室でも後藤やらにさせているけど?」

まあ、主に後藤が八神にチョッカイをかけた時にだが。

 

「…あの子何やってのよ…」

バニングスは、頭が痛そうに額を押さえる。まあ、日野家は、バニングス家の分家であるわけで、その娘が、学校で目立っているのだ。心配にもなるだろう。ところで、日野さんは、バニングス家の事を毛嫌いしている様で、いつも話題が上がるたびに不機嫌になるのだが…まあ、色々あるのだろう。俺が考えるだけ無駄である。

 

「ところで、なんで、こんな時間にバニングスさんは、こんな街中に?鮫島さんは?黒服のお兄様方は?」

 

「…買い物に来てただけよ。別に一人でも良いじゃない」

 

「…ハハーン。はぐれたな?」

 

「う、うるさいわね!全くすずかと新しい水着を買いに来たのに…」

 

「その話詳しく聞かせて頂こう!」

月村さんの新しい水着。どんなのだろうか?

 

「ハア…ハア…ハア…」

 

「…」

おっと、また、息が乱れてきたようだ。

 

「しかし、バニングスよ」

 

「な…何よ」

 

「小4で、ビキニタイプはどうかと思うぞ?」

 

「っ!!!」

バニングスさんが、何故分かった!的な顔をしていらっしゃる。良かろう。この名探偵斎藤の名推理をご覧あれ。

 

「まず、何故、鮫島さんも黒服もいないか?これは、簡単。バニングスさんが、水着を買う為だ。しかし、普通なら絶対一人での行動はさせないはず。前の誘拐事件の件があるからな。しかし、いないとなるとこれは、バニングスさんの命令によるもの…つまり、少し大人っぽい水着を買いたいど、恥ずかしいので、男共を排除した。違いますか?」

 

「ッ!!」

表情は口ほど真実を語る。バニングスさんの表情は正に的を射ている事を伝えていた。

 

「しかし、流石に一人で買いに行くわけにはいかなかった。そこで、貴方は非情にも月村さんを利用した。…いや、正確には、月村家のメイドさんを!あの2人は、バニングス家の黒服レベルの使い手!しかも同性!そんな2人なら貴方を任せても良いと鮫島さんは引き下がった。」

 

「くっ…」

 

「しかし、悲劇が起こった。流石に小4でのビキニタイプは、恥ずかしい。恐らく月村さんあたりが悪気も無く言ったんだろうな。そして、彼女は、ワンピースタイプの水着を手にとった」

 

「…なんで、すずかの水着が分かるのよ!」

 

「ふ…俺の脳内月村さん予測システム。と“週間 月村さん春の特集号”があれば、予測等軽いな。」

 

「アンタのクラスのメンバーも大概だけどアンタも大概ね」

 

「で、自分が、そんな水着を買ったから、恥ずかしくなって飛び出たら、迷ってしまったと言う分けですな」

 

俺の名推理にバニングスさんは、真っ赤になり

 

「町中で!そんな推理を行うな!!!」

と、鉄拳が飛んできたのだった。理不尽だ!

 

 

 

 

「ほれ。着いたぞ」

 

「あ…ありがとう…」

危うく町中で気絶しそうになったものの耐えしのぎ、現在月村さん達とはぐれたらしいデパートの前までやって来ていた。俺の月村さんレーダーによると近くにいる事は間違いないと告げている。

 

「…」

 

「…」

取り合いず、近くのベンチに座り正面にある噴水を見つめる。吹き出す水の色が変わる噴水で、様々な色に変色して結構面白い。

 

「…ねえ」

 

「ん?」

 

「アンタ、こんな時間まで、走ってたの?」

 

「まあ…」

 

「それって、やっぱり…すずかの為?」

何故か、探る様なものの言い方だった。何か問題でも?

 

「…あ、ヤッパ良いわ。頑張ってね」

 

「あ、おう…っと、どうやら来たみたいだな」

見ると、噴水の向こう側にメイドさんが見えた。この日本であんな格好をするのは、メイド喫茶の方と月村さんの所のメイドくらいのものだろう。

 

「よし。じゃあな!」

俺は、ベンチから飛び降りると、バニングスさんに向かって手を上げ家に帰る為に歩き出した。

 

「ちょっと!すずかに頼んで送って行くわよ?」

 

「いや、良いよ。月村さんを直視するのは、今は、きついから」

 

「は?」

バニングスさんが、訳の分らないと言った感じに首をかしげた。君には分かるまい。ストーカー扱いされた俺の絶望など。

 

「じゃあ、アリサ。また、学校で!」

俺は、その場から全力で立ち去った。

 

 

 

 

「…なによアイツ…」

斎藤の後ろ姿を見ながら、私は何か分からないけど、イライラするど同時にどこかホッとしていた。

 

「アリサちゃん~」

すると、すずかとノエルさんとファリンさんが、やって来た。

 

「何処に行ってたの?」

 

「ごめん。ちょっと迷って…アハハ…」

 

「フーン。何か良い事でもあったの?」

 

「へ?」

 

「だって、嬉しそうな顔してるよ?」

 

「そ、そうかな?」

まさか、アイツに久しぶりに名前で呼んでもらえたからじゃないからね!あの、バカ!何で、昔見たいに名前で呼んでくれなくなったのかしら?おかげで、不意打ちだったじゃないのよ!

 

「何があったの?教えてよ~」

 

「な、何でもないんだってば~」

 

すずかの追求は、帰りの車でも続いたのだった。

 



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第52話 開催!持久走大会

カンカンに照りつける太陽。

 

ダラダラと流れる汗。

 

そして、次々と倒れていく戦士たち。

 

 

 

 

気温39度

 

湿度50%

 

天気は晴れ。

 

 

 

 

 

 

「明らかに異常気象だろう!コレ!!!」

 

まだ、7月になって、間もないというのに気温39度と言うのは、異常事態に他ならない。

 

「そこ、ちゃんと話を聞きなさい」

 

こんな時に持久走大会を開く理事長も異常人物に他ならない。

 

「全く。えー本日は、お日柄も良くお子様がたの日頃の成果を出しなさいと天がそう言っているような天気です。」

 

「おい!理事長先生!保護者への挨拶は、良いからさっさと大会を中止にしろ!もう、50人は倒れたぞ!」

 

この天候の元に長時間立っているのは、地獄の苦しみである。得に普段から快適な空調の中で過ごしている現代っ子には、この地獄に耐えられる猛者等、ひと握りしかいない。そして、今、俺の目の前の生徒が、意識を遥か彼方にある理想郷へ旅立たせた。

 

「このように、最近のお子様は、すぐに諦めようとする傾向にありますが、我が校では、何事においても全力で取り組む方針を立てており…」

 

「原田!嘘だろう?おい!しっかりしろォォォ!!!」

 

ここまで、耐えきてた、我が友人も理想郷へと旅立って行った。被害者回収部隊が、即座に到着し原田をタンカに乗せて何処かへと運んで行った。

最早、小学生のお気楽な行事ではなく、何処かの刑務所に入れられた気分である。と、言うより親御さんの誰か!マジで抗議してください!

 

「…」

 

が、しかし親御さんの誰からも中止の声は上がらなかった。彼等は既にあの理事長に何を言っても無駄だと言う事を理解している為である。

コレは、明らかに虐待では?と思うが、残念ながら小学生の声など誰も聞いちゃくれない。

 

「…ハア…ハア…残りは?」

 

だが、この残酷な選別は、同時にライバルを減らしてくれる。辺りを見渡して見ると、稲穂の様に不気味に揺れる男子達。因みに、女子は、だだ今体育館へ行って、午後の部に備えている。男子が、午前。女子が、午後っと言った感じだ。恐らくこの男子の結果次第では、女子の部は、中止となることだろう。あの理事長でも“バニングス家”と“月村家”の令嬢に過酷な仕打ちはするまい。

 

「…」

 

また一人犠牲者が出る。だが…。

 

「…化け物か?アイツ等?」

 

こんな状況下においても、全く身じろぎもしない連中がいた。1組の赤神達である。汗は、掻いているものの他の連中と比べたら可愛いものだった。

まあ、汗の出過ぎで、少なくなったのなら、別だが…。

 

「…後藤。ちょっと話がある」

 

「ん?何?」

 

一方我がクラスの文芸部員の2人も同様に無事であった。得に南に関しては、汗すら掻いていなかった。まさか、熱を“反射”しているのでは、あるまいが、異常な光景だった。流石は、文芸部である。

 

「まあ、それでもちゃっかりと残っている斎藤は、凄いと思うぞ?」

 

理事長が、小さく何かを言ったが、気にするだけ体力の無駄であるので、スルーする。

 

「では、これより。持久走大会を開催する。意識のある生徒は、スタートラインに立つ事」

 

「理事長先生~」

 

すると、珍しく南が、手を挙げて、理事長の言葉を遮った。

 

「なんだね?」

 

「ちょっと、トイレに行ってきても良いですか?」

 

「ああ。急ぎたまえ。他の生徒も水分を取るように」

 

理事長の言葉に俺たちは、衝撃を受ける。そんな思いやりがあるのならば、この大会を中止してくれ!と。

 

「さて、後藤…逝くか」

 

「アレ?ナンダロウ?意識が……………」

 

まるで、糸の切れたようにグッタリした、後藤を抱え、南は校舎のある方へと去って行った。

 

 

 

 

 

その後。何故か、気温は平常通りに戻った。

 

 

 

 

 

 

天使の能力の一つに自分の精神状態によって、気温を操れるものがある。過去にとある天使が、妖怪図鑑を読んだ際に世界を氷河期一歩手前にまでに追い込んだことがある程だ。まあ、前置きは、この辺として、現在の状況確認だな。今回の異常気象は全て後藤の影響である。天使である後藤の気分は、最高潮に燃えていた結果、辺りの気温も上昇し今回の惨劇が起こった訳である。本来ならもっと早く後藤を仕留めていたが、今回は、何故か日野さんから、ある程度参加者を減らしておけとの指示があり、哀れな犠牲者を出した訳である。

 

「さて…夢」

 

「はーい!ナギサお姉ちゃんから聞いてるよ!」

 

「なら、話が早いな。このバカを幽閉してくれ」

 

「うい!“不可侵の檻”!」

 

瞬時に後藤の周囲に何かの壁が発生する。そして、次の瞬間には消滅。そこには、寝ている後藤しかいない。

 

「大丈夫なのか?コレ?」

 

「うん!“不可侵の檻”はね、内側からの干渉を全て弾いちゃうの」

 

「つまり?」

 

「外側からの影響は受けるけど、内側。大体半径1m位まで、ゴトウちゃんの能力が行くと弾かれるの」

 

「成る程な。つまり、この檻がある限り後藤の能力は、半径1mまで、制限される。つまりは、無力化できるわけね」

 

「うん!!」

 

げに恐ろしい異能殺しである。つまり俺なら、“超電磁砲”が無力化される訳だ。最悪“不慮の事故”も封じられるだろう。敵であった頃に使われなくて、本当に良かった。

 

「まあ、これで、こいつも下手なことは出来んだろうな」

 

後藤の能力の強みは、アイテムにこそある。接近戦向けの“エスカリボルグ”や“ドゥリンダルテ”には、制限は無いだろうが、まさか、後藤もそこまで目立つ行動に出るとは思えない。つまり、後藤は、完全に封殺したも当然。

 

「…一夜」

 

「ん?」

 

「あんまり、これを過信しないでね」

 

「はい?」

 

「“不可侵の檻”は、対象の強さに応じて強度が決まるんだけど、もし対象が、急に強くなったら対応出来ないかもしんない…」

 

急に強くなる?そんな事があるのか?

 

「分かった。ありがとうな、夢」

 

夢の頭に手を載せて、言うと夢は、ニッコリと笑い頷いた。

 

「エへへ。でも、一夜なら、大丈夫だよね!理不尽だもん!」

 

出来れば、“強い”とか“頼りになる”とかの方が良かったんだけどな…。まあ、“不慮の事故”やら“反射”やら“大嘘憑き”を使う俺が言うのもなんだが。

 

「じゃあ、頑張ってね!」

 

夢は、そう言うと何処かへと走って行った。恐らく日野さん辺りに報告に行ったのだろう。

 

「…さてと…オラ、後藤起きろ!」

 

「…ハッ!ロリロリのフリル付きのヴィーたんは何処!」

 

「知らん。それより行くぞ!」

 

丁度その時、スタートを告げる放送が流れた。

 

「ヤバ!」

 

「俺等を無視かよ…」

 

俺と後藤は、慌てて、走り出した。

 

 

 

 

 

 

だが、この時。俺は、この先、過酷な運命が待ち受けている等考えてすら無かった。

 



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第53話 仲間の思い

投下します。


スタートから早10分が経過した。今回の持久走のコースは、学校から出て、商店街に入り海沿いの船着場で折り返しまた、学校に戻ると言うものだ。

時間にすると、約40分程かかる。

 

「正直、小学生が走るコースじゃねえ!!」

と、コースに一人ツッコミを入れる斎藤進です。現在位置は、商店街の中を走っている。

 

「しかし、足が速いだけではクリア出来ないって、こう言う事だったのかよ」

確かに、この距離だったら、速さより体力の問題になるだろう。軽いマラソンだコレは。

 

「ハアハア…しかし、流石は、アイツ等か」

現在俺の目の前には、1組の赤神達とその他の有力な生徒が走っている。陸上部の速水くん。野球部に早見くん。柔道部の逸見くん。茶道部の快美くん。恐るべき偶然。赤神達以外が全てハヤミという苗字だった。ハヤミのキャプテン率が多い!茶道部強い!

 

「…後藤がいない?」

辺りを見るが、我が2組の問題児の姿が見えなかった。南に連れていかれてから見ていないが、一体どうしたのだろうか?アイツの事だから、例え手足がどうなっていようと参戦するハズだが…。

 

「まあ、良いか。ライバルが減ったと思えば」

だが、奴はあの日野さんの部下である。油断は、禁物だ。

 

「ハァハァハァ…ゴホッ…ハァハァハァ」

すると、俺の隣で走っていた、相撲部の后和守くんが、咳き込んでいた。

 

「后和守くん。大丈夫か?」

 

「さ、斎藤…」

后和守くんは、よわよわしくこちらを見る。その目には涙が浮かんでいた。

 

「…やっぱり、無理だったんだよ。ボク達が、参加して勝てる大会じゃ無かったんだ。…ゲホ」

 

「諦めちゃ駄目だ!せっかくここまで来んだぞ!」

あの、灼熱の地獄から生還した后和守くんは、強いはずだ。

 

「…斎藤は、優しいな…ライバルなのに…僕みたいな奴に声を掛けてくれるなんて」

 

「一応は委員長だからな」

 

「アハハ…そうだね…斎藤は、ボクらの委員長だったね…」

后和守くんは、そう言うと、立ち止まった。

 

「…后和守くん?」

 

「…ごめん。もう行って。ボクの事は、良いから」

 

「なに、諦めてんだよ!」

 

「良いんだ…ありがとう」

 

「后和守くん!!」

后和守くんから、背中を押され、俺は、後悔しながら走り出した。確かに敵だったのかも知れない。でも、同時に彼は、絶望的な勝負に挑んだ挑戦者であったのだ。

 

「畜生!絶対に俺が勝ってやるからな!」

全ての挑戦者の為に俺は!

 

「ん?」

すると、暫く先に止まっている赤神達の姿が見えてきた。何をやってるんだ?場所は、商店街の中央付近の広場だが…?気になり俺も様子を見るために近づく。そして、俺は見た。

 

「……なんじゃこりゃ!!!」

目の前には、巨大な何かがあった。いや、それが何かは分かるのだ。でも、何故あんなモノがこの商店街に存在してるのかが不思議なのだ。

 

それは、一見地面のタイルと見分けがつかないものだった。

 

それは、足を踏み入れた哀れな生徒を飲み込んだ。

 

それは、飲み込んだ生徒を頭一つ出るまでに沈めていた。

 

底なし沼の様なものが存在していた。

 

「…なんで、商店街のど真ん中にこんなものが?」

と、言うよりどうやって渡れと?

 

「…」

試しに商店街の店のタイルを踏んで見るが、踏んだ瞬間に足が沈んだ。どうやらここも沼の様である。

 

「…買い物客が大迷惑するだろうな…」

何も知らない客だったら沈んでしまっていただろう。つうか、こんなことして大丈夫なのか?海鳴商店街?最近は、デパートに客を取られていると聞いていますが?こんな巨大な沼を作って、元に戻るまで一体どれだけの予算と時間が必要なのか俺には分からん。

 

「しかし、問題は…」

どうやって、渡るかである。ご丁寧にも持久走のコースの端から端まで、この沼地になっているらしく人間の頭がニョッキりと生えていた。正直気味が悪い光景だ。小さい子なら確実に泣く光景だろう。

 

「…斎藤」

 

「ん?八神か」

すると、1組の代表格の一人、八神翼が声をかけてきた。こいつとは、他の二人と比べ多少なりとの付き合いがあるのだ。いつも明るく楽しげな所が女子に人気らしい。あのハオウランさんとお付き合いしているらしい。まあ、それはともかく。

 

「何?」

 

「ああ。ここの攻略法が何か分かるか?」

 

「ちっとも。正直参ってるよ。あの理事長の野郎今度あったらブチノメシテヤル…」

何が、難関を設置するだ。誰もクリア出来ないじゃねえか!

 

「まあ、そうだよな…ん?」

すると、八神が、これまで俺らが走って来た法を見て眼を細めていた。

 

「どうした?」

俺もその視線を追ってみる。そして・・・そこには、化け物がいた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」

凄まじい勢いで、我がクラスの問題児にしてエースである後藤聖一が眼を血ばらせて走って来たのだ。

 

「おい!後藤!一旦止ま…」

しかし、後藤は、そんな言葉を一切聞かず沼地へと突っ込んで行った。これで、後藤も終わりになったハズだった。しかし…。

 

「アアアア!!!!!!!!!!!!」

後藤は、沼地に埋まった生徒の頭を踏みつけて渡って行ったのだ。

 

「って!!おい!」

確かに、その手は考えていたが、あまりに非人道的ではありませんか?

 

「ッ!!そうか!」

すると、八神も生徒の頭を渡り始めた。

 

「おい!八神!」

 

「大丈夫だ!見てみろ!」

 

「は?」

そう言われて、見てみると…これまで、埋まった生徒かと思っていたものは…。

 

「人形?」

良く出来た、鉄製の人形だった。あまりの精巧さに本物と区別がつかなかったのだ。しかもこの人形この学校の生徒を模しているらしい。俺もいた。つうか、殆ど俺だった。

 

「何の嫌がらせだ!理事長!!!」

何を好き好んで、俺を踏みつけて進まなければならないのか。しかし、今は、ツッコンでいる時ではない。

 

「お先に!」

 

「おし!」

赤神と遠藤が、沼地を渡るべく飛び始めたのだ。ヤバイ!あの2人を先に行かせる訳には!そんな瞬間だった。

 

「うををおおおお!!!!!!!!!」

俺の隣を誰かが走りって行った。そして。

 

「っ!何だ!」

遠藤が何者かと共に沼地へと落下した。

 

「斎藤!!!」

 

「后和守くん!どうして君が?」

 

「そんなことは、どうでも良いよ!早く行って!ボクには、これしか出来ないけど…早く!」

遠藤を押さえ付けながら、后和守くんは、俺にそう言った。

 

「クソ!離せ!」

遠藤がそう言って、后和守くんを引き剥がそうとするが、后和守くんは、相撲部と言う事もあり中々引き剥がせないようだった。

 

「そうは、行かないよ…遠藤。キミはここでボクとリタイアだ」

 

「クソ!体が沈む…ハア…分かったよ」

遠藤は、諦めた様に笑うと俺を見た。

 

「スゲェな、お前。リタイアしまで、助けようとする奴がいるとはな」

 

「后和守くん…」

 

「…斎藤。絶対に勝ってね。ボクらの為にも」

后和守くんの背後にこれまでに散っていった、仲間たちの姿が見えた。きっと目の錯覚だろうが、その光景は俺に力を与えてくれる。

 

「…ああ。任せろ!この大会、俺が勝つ!」

 

 

 

俺は決意を新たに足を進めた。

 



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第54話 逃れられぬ宿命。

「ふふふ…」

暗い表情を浮かべた少年がトボトボと海鳴の町を歩いていた。

 

「な…の…」

暗い表情には生気は感じられず、ただ虚空を見つめていた。

 

「なのは…」

そして、口元には微かな笑みが不気味に存在している。その姿は、処刑されることが決まり何事も悟った囚人の様であった。

 

「…ツライ?」

そんな、彼に後ろから声をかけて来る人物がいた。

 

「…ツライ…ナゼ、ボクハ、コンナニクルシイノ?」

 

「サア?ワカラナイ。デモ、ソレヲトリノゾクコトハデキルヨ」

少年は振り向く。ソコには、赤い影が佇んでいた。

 

「オイデヨ…キミナラ、イイ、ハグルマ二ナレル」

 

「僕は・・・僕は・・・アアアアアアアア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

次の瞬間、少年の足下に亀裂が走り、その下に虚無の空間が現れた。虚無の中の闇は、少年を逃がさない様に足を絡めとりそのまま、闇の中へ導いて行った。

 

「ヨウコソ…テンジン小学校へ…キャハハハ!!!!!!!!!!!」

赤い影は、狂った様に笑うと、闇の中に溶けて消えた。

 

 

 

この日以来、少年。ユーノ・スクライアの姿を見たものは、誰もいない。

 

 

 

 

                              BAD END

 

 

 

 

 

 

 

あの沼地から、しばらく行った地点。もう直ぐ折り返しのハズなのだが、先に行ったハズの赤神と八神に姿が見えなかった。

本来なら、すれ違ってもいいはずなのだが…。

 

「また、理事長のろくでもない難関でもあるのか?」

先程の沼地でも十分に地域の皆様にご迷惑をおかけしているのに…。

 

「まあ、いいか。それで、奴らに追いつけるのなら」

今より未来を選び取れる若者の為に地域の皆様にはご迷惑をお掛けします。そんな、事を考えていると、どこからか、甘い香りが漂っていきた。そして、前方に何やら巨大に建造物が見えてきた。その高さ100mはあるだろう。

 

「…って!ええ!!なんで、こんなもんが!さっきまで見えてなかったよね!」

それは、巨大な理事長の銅像だった。偉そうにふんぞり返っている姿にイラつきを覚える。つうか、お前は、何処の独裁者だよ?と、言うより、ここに本来あるはずの本屋は、何処に行ったんだ?本を予約してたんだが…。

 

『著事情により閉店させて頂きます。20年間誠にありがとう御座いました。 海鳴BOOKs店員一同』

 

「認めない!俺は、認めないぞ!」

昨日までは、皆笑顔でいたじゃないか!新刊を薦めてくれたじゃないか!

 

「おのれ!理事長!貴様はどれだけの人間を犠牲にすれば、気が済むんだ!」

商店街の人たちといい、本屋の店員さん達といい。お前は、何様だよ!っうか、どこから、買収出来るだけの金を持ってきたんだ?まさか、学校の金を使った訳じゃあるまいに。理事長とて、公務員。個人の力で、これだけの事をするとは思えないが…。

 

『なお、この跡地には、日野家プロリュースのケーキショップが開店予定。』

 

「日野さん!!!」

アンタか!理事長と共犯だったのかよ!確かに日野さんは、アリサの親戚とは、知っていたけど…ここまで、やるか?普通?

 

「…南も後藤も災難だな」

日野さんの恐ろしさの一部を垣間見た気持ちだ。いや、本当に商業的戦略の為に買収したのかもしれんが…。

 

「斎藤!伏せろ!」

その時、八神の悲鳴の様な叫び声が耳に入った。とっさに伏せると、何かが、俺の頭上を通過した。

 

「な、何だ!」

その何かは、張り紙のあった、木の立札に命中し粉々に打ち砕いた。

 

「斎藤!こっちだ!」

見ると、八神が、建物の影に隠れこちらに手招きをしていた。咄嗟にそこまで走った。ここにいれば、木の立札と同じ運命の様な気がしたからだ。

 

「怪我は、無いか?」

 

「ああ。っうか、さっきのは一体?」

 

「…ああ」

何故か、八神は、気まずそうな顔になり、視線を泳がしていた。俺もその視線の先を追う。すると、知った顔が2人いた。

 

「赤神に…ユーノか?」

 

「まあ…」

視線の先では、1組の代表格の一人である赤神と俺の友人のユーノが対峙していた。心なしか、ユーノの周囲にどす黒い何かがまとわりついている感じがするが。

 

「…どう言うつもりだ?ユーノ?」

 

「…二 ク イ …アハ…」

駄目だ。正気の表情じゃねえ。目の焦点があって無いし…。

 

「説明ヨロ!」

 

「ああ、俺達が、後藤を追ってここまで来んだが、突然地震が起こってな…気が付けば、ユーノがそこにいたんだ」

 

「フムフム…」

 

「後藤は、気にせず通過しようとしたんだが…ユーノに触れた瞬間吹き飛ばされたんだ」

 

「ん、な…」

あの、後藤を止めるだと?あの草食系男子の筆頭の様なユーノが?

 

「見ろ。坂の下のハチミツの池の中を」

 

「ハチミツ?」

少し移動し遠目から観察してみると、坂の周りには何か黄色いモノに満たされており、そこに後藤と思われる人影が浮いていた。ああ。甘い匂いの正体はコレだったのか…理事長よ…お前の目指すモノは一体…。

 

「急いで救出に向かったんだが…ユーノに邪魔されてな…」

 

「後藤なら、大丈夫だろうが…確かにあのユーノは、異常だな」

まるで、何かに憑かれている様だ。そう、まるで…。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、一瞬、赤い服を着た女の子がユーノの背後に見えた様な…」

見間違いか?

 

『キャハハ…ダメだねコイツ黒化が進んでる…』

空耳か?

 

『マアイイカ…次は、アイツダ…』

瞬間、鎖の様な光が無数に発生した。それらは、まるで意思のある生物の様に赤神へと絡み着いた。

 

「な!コレは!」

 

「ナ ノ ハ … ハ アハハハハ!!!!!!」

ユーノの笑いは、まるで、この世界が彼の恋する事を禁止している事を知り絶望しているかの様な哀しみに満ちた笑いであった。

 

「バカな!破れないだと!コレは…魔力じゃない!」

赤神は、そう言うと舌打ちする。すると、地震が突然起こり赤神の体が亀裂の中に落下して行った。

 

「っち!」

八神は、舌打ちすると自分も急いで、亀裂の中に飛び込んだ。

 

「アッ…アガガガ…」

ユーノは、壊れたラジオの様にガラス玉の様な眼をしながら、どこかに走っていった。俺は、隠れてやり過ごす事にした、誰が俺を責めれれようか?

しばらく経ち、俺は、恐る恐る坂道の前に立っていた。

 

「あれ?」

そして、気がつく。地震で起こっていた、亀裂が無くなっていることに。

 

「どう言う事だ…?理事長の仕業か…?いや、それにしては…」

ユーノの変貌に亀裂の消失…訳が分からん…。

 

「…一体…赤神達は何処に…」

そう言って、見渡すが、当然ながら赤神の姿も八神の姿もどこにも無かった。

 

 

 

 

自分でも一体何が起こったのか分かりません。ニンゲンに説明可能なトリックだったのか?それとも、何かの別の力が働いた現象なのか?誰かこの謎を解いて下さい。それだけが、私の望みです。

 

 

 

 

 

 

 

オマケ。

 

 

「ナ ノ ハ …ゲボ…ゲエエ…」

少年は口からどす黒い何かを吐き出す。こうなれば、死して怨霊と化すのは時間の問題である。

 

「…何だ?コレ?」

すると、どこからか、そんな声が聞こえた。姿も見えないし気配すらしないのに声だけは、やけにはっきりと聞こえた。

 

「まあ、いいか。苦しそうだし…それに危険そうだし…」

 

「アガガ・・・」

半怨霊と化してしる少年は、悟った。まずいと。一体何がまずいのか?そんなことは解らなかったが…ともかく。

 

「ヤ メ テ …」

 

「ん?ああ。安心しろよ。ただ…」

 

「アアアア!!!」

半怨霊は、悲鳴を上げて走る。圧倒的にマイナスな存在から逃れる為に。

 

「あああ  アア!!!!!!!!!」

ただ。彼は、半怨霊つまりは、この世に未練のある(プラス)の存在である。故に。

 

「“無かった事”にするだけだから」

(マイナス)に、何をしても無駄であっただけである。

 

「うわあああ!!!」

半怨霊。ユーノの意識は名状しがたい何かに彩られて、反転した。

 

「さて、行くか」

こうして、(マイナス)の存在は、歩を進める。この先の惨劇を知る由も無く。

 



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第55話 蘇りし者

赤神や八神たちの行方も気になるが、あの2人なら大丈夫だろう。と言う事で、先に進んだ。

 

「ここが、折り返しか…」

理事長の顔が堂々と描かれた看板に『折り返し』と書かれていた。取り合いず近くにあったハチミツの着いた泥を投げつける事にする。

 

「人の痛みを知るがいい。悪党が」

これまでの恨みを込め散っていった強敵の為に言う。

 

「人は…来ないか」

最初は、あれ程いたライバル達も今は、誰一人として影すら見えなかった。恐らく俺が通って来たトラップ以外にも罠があったのだろう。ラッキーと言うべきか…。そう思いながら、坂道を再び登る。理事長の銅像の頂上に到着すると海鳴の街が一望出来た。海の見える町。海鳴。生まれてからずっと住んでいるが、正直キレイな町だと思う。

 

「…」

まあ、普段なら、こんなカッコイイ事など思わないのだが、ついついそう思ってしまうのは…。

 

「… … … … ゲボ…」

 

「…」

目の前にハチミツまみれの悪魔が降臨なすったからだろう。最早ハチミツ人間と呼んでも違和感が無い程の存在に成り果てた後藤がそこにいた。

 

「ぶ…無事だったか…後藤…」

 

「…」

取り合いず軽く話しかけながら後ろへ後退する。ハチミツ繋がりの対策である。後藤に効くかはともかく。

 

「いやー別に助けなかった訳じゃ無くてな…」

 

「…」

 

「ほら、お前なら大丈夫だと言う委員長の信頼の…」

 

「…ヴィ…」

 

「ヴィ?」

 

「ヴィ た ん と デ ー ト …標的排除…」

何故に漢字のみ流暢?って!

 

「うわ!」

とっさに身を伏せると後藤は、なにかパチパチと光る棒の様なモノを突き出してきた。空振りした棒は、坂道に設置してあった手すりに命中したかと思うと手すりを粉砕した。 何?アレ?

 

「殺す気か!!」

今の当たったら確実に死んでたよね?何あれ?スタンガン?

 

「チィィィ!!!!!!!!!!!!!!」

殺す気の様です。むしろ“デス”

 

「ちょ!話し合おう!同じ小学校の仲間じゃないか!何も行き成り特殊な空間に閉じ込められて、急に殺し合いを強要されてる訳じゃないんだから!話し合おう」

「ヴィ…たーん!ウワワワ!!!!」

 

「今度は、なに!」

見ると後藤の体の周りに先程ユーノにまとわりついていたモノと同じ黒い何かが発生していた。よく目を凝らすと俺等と同年代位の子供の姿が見える気がする。3人程。

 

『ワタシノメェ!!!!」

 

『アハマ…カエヒヘ…カエへェェ!!』

 

『ヘロ…ホフノ…ヘロ…』

気のせいか、全く別の理由で襲われている感がすごい。だが、好きにさせる気も無い!

 

「後藤!眼を覚ませ!何か亡霊みたいなのにとり憑かれてんぞ!」

 

「ヴィ…たんとデート!」

いかん!このままでは、後藤と八神(小)は、どこぞの呪われた小学校へ招待されかねん!そして、必然的に俺の優勝も塵と消える。

 

「…」

このままコイツをかわし、小学校へ戻る事も出来るだろう。だが、先程のユーノと言い鉄製の手すりを粉々に砕いた棒を持つ危険人物を放置するのは、どうなのだろうか?それ以前に、このままだと後藤がこの世から消える恐れもある。

 

「くそ!」

あの亡霊がなんだか知らんが、止なければ!あんなのがコースにいたら、次の女子の部に支障をきたすだろう。そうなると月村さんやアリサに危険が及ぶ。なら、ここは、優勝を捨ててでも止める!

 

「やってっやる!やってやるよ!」

構え後藤の一撃をかわす。

 

「!」

攻撃をかわされたのが驚きなのか、後藤の動きが少し遅くなった。そこへすかさず打撃を加える。

 

「!!」

 

「ふっ!」

昔アリサと出会ったばかりの頃にバニングス家の黒服のお兄さん(60代男性)に習った護身術である。その黒服のことは、敬意を持って、シャーク・アイランドと呼んでいる。今でも親交があり最近のアリサの態度がキツくなったと電話で3時間程相談されたのは記憶に新しい。取り合いず『反抗期』で全て解決したが。

 

「チョイヤ!」

 

「ガ…」

腕をとり柔道の背負投げの様に後藤を地面に叩きつける。一つ言っておく。絶対にマネをしてはいけない。後藤の頑丈さは、普段の八神(小)から受けているバットの殴打によって、良く分かっている。恐らくこれくらいなら大丈夫だろう。…たぶん。

 

「…」

 

「… … …」

動かなくなった後藤をジーと見つめる。後藤は、動く気配は無かった。

 

「終わったのか?」

どうやら、終わったらしい。俺は、ため息をつくと取り合いず後藤を抱え坂を降りそこで見つけたビニール紐で後藤を柱へと縛りつける。これで大丈夫だろう。あとは、医者なり霊能力者なり連れて来ればいい。アリサに頼めば、何とかなるだろう。

 

「じゃな。後藤」

そう言って、もう一度後藤の方を見ると…何故か、光る棒を持った後藤が目の前にいた。

 

「へ?」

 

油断した。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

アレ?俺は、何してたんだ?えっと…ユーノが変で…赤神達が穴に入って…坂を昇って…。

 

「あ、そうか!今は、折り返しだった!」

どうやら、一瞬意識が飛んでいたらしい。何故か、身体に疲れが溜まっているが…。まあ、いいか。

 

「急がねえとな」

俺は、理事長の銅像に石を投げつけると再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「行ったか…ハアー」

 

斎藤が、走り出すのを確認し、俺は溜め息をついた。“大嘘憑き”によって、気配を“無かった”事にした、俺が適当に走っていると、ふざけているとしか思えない巨大理事長のオブジェの上で後藤と斎藤がガチバトルを繰り広げていた。天使のアイテムを使用する後藤の前に苦戦していた斎藤だったが、知恵と人間離れした動きで、辛くも勝利していた。その後、後藤を橋の下に縛りつけていたが、斎藤が後ろを向いた隙きに後藤が紐を力づくで引きちぎりホラー映画の様に斉藤の真後ろへ回り込み、丁度振り向いた斎藤と目があっていた。驚愕の表情の斎藤にスタンロットを突きつける寸前に後藤を“ベクトル操作”で蹴飛ばし、驚いていた、斎藤に“大嘘憑き”を使い、先程の後藤の件を“無かった”事にした訳である。

 

「…しかし…さっきの男の子といい。後藤といい。なんなんだ?“黒化”か?んな、バカな」

 

「…ヴェー弾 …」

先程の男の子は、自滅寸前であった為に気軽に“無かった”事に出来ていたが…。

 

「流石に…厄介だな…」

蹴り飛ばした際に後藤の“超電磁スタンロット・ドウルンダンテ”によって、消し炭と化した足を見ながら呟く。痛みが酷い分気絶しなかったのは奇跡だろう。“不慮の事故”も使えば、ダメージは防げたのだろうが…斎藤に命中した日には、エライ事にになるので、今回は、遠慮させて頂いたのだ。

 

「さて、このバカを正気に戻すには、倒すしか無いか…そう言えば、こいつとガチでやるのは、久しぶりかも知れん」

 

前回は、途中退場を食らったが…。

 

「今回は、勝たせてもらうぞ!」

 

「…」

先手必勝とばかりに先手を取る。基本的に防衛タイプの俺だが、奴に先手を取られると言う事は“アレ”に繋がりかねない。

 

「くらえ!」

全力で電撃を発生させ後藤へ向ける。電撃は全て後藤のいた位置へと命中し激しい爆音を響かせた。

 

「ハハハ!どうだ!」

立ち込める土煙。

 

「なに!」

その中で、悠然と立つ人影。

 

「…」

 

「…」

その人影は、ゆっくりと後藤に肉厚の肉切り包丁を叩きつける。後藤は、それを回避しとある方向へと顔を向ける。

 

「あ!惜しい!」

その人物は、漆黒の犬にまたがり、ゆっくりと俺の隣へやって来た。

 

「夢か」

 

「うん!手伝いに来た!」

 

「日野さん?」

 

「うん!“えいせい”で見てるって!」

慌てて上空に眼を凝らす。へ?“衛星”そう言えば、前回もそんな事があったような…。

 

「あと、ナギサお姉ちゃんからの伝言。あのね“無闇に能力を使うな!アンタの能力で誤魔化しきれると思ってんの?”だって」

 

「…反省しております」

確かに、個人に“大嘘憑き”を使うなら楽だが、さっきの電撃の様に目立つ攻撃は不味かったのかもしれない。

 

「あと、“後でね♪”だって」

どうしよう?今すぐ逃げたい。まあ、夢がいる以上逃げる事など不可能なのだが…。それにしても恐るべきは夢の能力だろう。話によると、雷撃の直後に学校からここまで一瞬で来たのだから。

 

「空間の隔離完了!良いよ~」

底抜けの明るさの最強少女の声に我に帰ると、知らない学校のグラウンドにいた。これが、噂の“ナイトクラス”って奴か…。

 

「眠った覚えが無いんだが?」

 

「寝なくても行けるよ?」

さりげなく恐ろしい事を言うな。昔より明らかにパワーアップしてやがる。

 

「まあ、これくらいのハンデは、良いよね」

そう言って、後藤を見据える。後藤は、白い箱を持っていた。既に手遅れだった。

 

「2人がかりで行くぞ…じゃないと死ぬぞ」

 

「なんで?」

夢が、首を傾げる。そんなの決まっている。

 

「“天使”が来るからだ!」

マラソン大会の会場で、文芸部の部員による最終決戦が幕を開けた。

 







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第56話 閉幕

長かった。

本当に長い旅だった。

何十人という猛者どもが、しのぎを削り。そして、散っていった。

眼をつむれば、思い出す。あの梅雨の日の事を。あの蒸し暑い日、俺の放ったたった一言が、若者達を駆り立てたのだ。

 

女の子とのデート。

 

その一言が。

あの、惨劇の始まりだったのかも知れない。

始まりのグラウンドで、多くの少年達が、力尽き散っていった。

俺の友である原田も力尽きた。元々体力等無かったが、それは、早すぎる最後だった。

その後生き残った男たちは、我先にと走り出した。

待ち受けていたのは、理事長の用意した難関だった。

あの常識外れの変人が創り出した桁外れの罠。

 

俺が、確認しただけでも底なし沼やハチミツの池等、常人には、理解出来ない。そして、ハタ迷惑なしろものが、平然と存在していた。

恐らくその他にも様々な罠が存在していたのだろう。人が、脱落する罠がどんなものかは分からないが…と言うか、小学生の持久走大会に何故、脱落するような罠があるのかが、そもそもの問題だが。

 

まあ、お陰で俺が有利になった訳だが…。ともかく、ユーノが変だったり、赤神が消えたり、後藤が未知の物体を振りかざしたり。様々な事があったが、それらを乗り越え現在俺は、ゴールへ向かっていた。背後に人の気配は無く、コースの脇には、脱落したと思われる男子生徒の骸が、転がっている。

 

『至急ベッドを開けろ!くそ!班長!どの病院も満員です!』

 

『ちっ、なら、診療所に連絡しろ!』

 

『はい!』

 

『それにしても、今日はハードな日だな』

 

気のせいか、病院送りになっている生徒が大半を占めているような会話である。

 

「…俺は、幸運な部類なのかもな。病院送りの罠って一体?」

 

『毒ガスでも吸ったのか?』

 

罠って一体…。

 

「ハアハア…もう少しだな」

学校の校舎のどんどん大きくなっている。ココで言う大きくなるとは、近づいていると言う事である。けして、校舎自体がデカくなっている訳ではない。いや、最終ステージで、デカくなるとは限らないが…。ともかく、ゴールは近い。

 

「く…」

とは、言え、体力も限界な状態である。何故かは、分からないが、あの坂道から体力の減りが凄かった。まさか、体力を搾り取る魔術的な仕掛けがあったのか?と考えたが、あの理事長ならやりかねないと非常識な事も思ってしまった、俺は、既に末期である。

 

「…」

目が、霞みそして、足がフラつく。頭がガンガンし吐き気すらある。

 

「もうすぐだ…もうすぐ…」

しかし、幸福な未来の事を考えると、そんな事は吹き飛ぶ。

 

「…」

一歩一歩。ゴールに近づく感覚がある。

 

「「ワア!!!!!!!」」

気が付くと、周りから歓声が聞こえてきた。左右を見ると学校の生徒や保護者達が、旗を持って、応援してくれている。

 

「「頑張れ!もうすぐゴールよ!」」

 

「「優勝は、譲ってやるよ」」

 

そんな、声が、辺りから聴こえる。見ると、女生徒や脱落した男子生徒が応援してくれていた。

 

「頑張んなさい!もうすぐよ!」

アリサが、ゴールのテープを持って俺を応援していた。

 

「まあ、頑張れ」

脱落した原田が、怪しげに笑いながら、親指を立てた。

 

「はは…みんな…サンキューな…」

これまで、辛い事が、色々あったが、報われた気持ちになれる。後、数メートルでゴールだ。

 

「ハア…」

もう、すぐ…もうすぐ…もう…。

 

「ガッ…」

足がもつれ、顔がら突っ込んだ。

 

「斎藤!」

 

「ハアハア…」

みんなの声が聴こえる。後、少しでゴールなのに身体が動かない。あと少しなのに…。

 

「動けよ…動け!」

ゆっくりと少しづつ進む。

 

「頑張りなさいよ!デートに誘いたい相手がいるんでしょう!」

アリサの激励が聴こえる。ああ、この幼馴染は、相変わらず、こちらの状態を理解しないな。そう考えつい笑いが出てしまう。

 

「ああ!分かってるよ!」

でも、お陰で、力が湧いてくる。ありがとな。

 

「ウおおお!!!」

渾身の力で立ち上がる。そして、一歩ずつ進む。

 

「頑張れ!」

 

「頑張って!」

 

「斎藤君頑張って!」

月村さんの応援も聴こえる。頑張るぞ…後、少し…。

 

「後、少し…」

腕を伸ばせば、テープに届きそうな距離だ。

 

タッタッタッタ。

気のせいか、後ろからそんな音が聴こえる。

 

タッタッタッタ。

 

「「!!」」

みんなの表情も何故か驚愕の表情だ。急がないと…急がないと…。

 

「うわわわ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ゴール!!!」

音の主は、無情にも俺の直ぐ横を通り過ぎゴールテープを切った。ゴールテープを切った。ゴールテープを切った。

 

「ヨッシャ!最下位だけは、まのがれたぞ!!」

南一夜は、そう言って嬉しそうに笑っていた。

 

「あれ?」

辺りの空気が異様な状態になっていることに気付いた。南は、訳も分らないと言った感じに辺りをみる。

 

『『く…』』

 

「く?」

 

『『空気を読め!このバカァ!!!!』』

 

 

 

 

全ての人間の意見が一致した瞬間だった。

 




これで、小説家になろうで出していた話は終了です。次回からは、また少し更新スピードが落ちるかもしれませんが、よろしくお願いします。


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第57話 行こう友よ。

短いです。


 

 

あれから数年後

 

南と月村さんは、今でも仲が良く最近では、二人で何処かへと出かけている様だ。アリサがそんな事をよく話題に上げるので嫌でも耳に入る。

そう。全ては、あの大会からだった。

これが、俺の初恋の顛末である。

 

「ふ…フフ…」

見苦しく涙をこらえ歩く俺に一つの影が近付く。俺は、顔を上げ確認する。

 

「…ユーノ…」

それは、数年前の友人だった。彼は、俺に手を差し伸べる。

 

「行こう…」

 

「…」

俺は、彼の手を取る。そうか、お前は、あの時から…。

 

「こう言う世界を見ていたんだな…」

 

「うん。でも、良いんだ、彼女が幸せなら…」

 

「…そうだな。行こうか…」

 

 

 

 

              友よ

                   

 

 

 

                  俺達の戦いは終わった。

 

                                

       

                               END

 

 

 

 

「斎藤!まて!何処へ行くんだ!!」

瞳に生気が無い斎藤が、フラフラと何処かへ旅立つのを原田とバニングスのお嬢様が慌てて止めている。そんな光景を見ながら私はため息をついた。原因はコイツである。

 

「南…アンタって奴は…はあ…」

 

「えっと…どういう事?」

全ての元凶である南は、訳の分らないと言った表情で固まっていた。全校生徒からブーイングを受けていた南を安全な日野家特設ステージに無理やり連れ込み現在はブーイングは止んでいる。

 

「日野さん?」

 

「はあ…まあ、取り敢えず優勝おめでとう。良かったわね…これで、誰かとデート出来るわよ?」

 

「へ?」

いまだに事態の把握が出来ていない南に簡単に事の顛末を説明する。すると、南の顔色が面白い様に青くなった。

 

「え!ちょ!辞退する!優勝を辞退するよ!」

 

「さっき確認したけど…それ、無理」

確認した所、やり直しの電話が学校に殺到したらしいが、混乱を避けるために校長が南の優勝を確定のモノとしたらしい。理事長もこれ以上の混乱は避けたいらしく口を出さなかったらしい。

 

「そんな…」

この世の終りの様な表情で、呆然と立ちすくむ南は、どう見ても優勝者には見えない。

 

「て、言うより。なんで、アンタがここに来れたの?後藤は?夢ちゃんと押さえ込んだんじゃ無かったの?」

 

「アハハ。ご冗談を天使と悪夢のとの戦いに首を突っ込む馬鹿はいないぞ」

 

「…」

 

「3分も戦ったんだから…正直あの二人の戦いは、次元が違う…」

南がどこか遠い目で言った。それ程の戦いになっているらしい。

 

「ほら、見てみなよ。外は、吹雪だ…」

 

「異常事態ね…」

 

「恐らく後、数分で決着だろうな…今回は、夢の勝利らしい」

どうやら、異常気象の原因は後藤らしい。まあ、南が言うんだから間違いは無いだろうけど…。

 

「いっそ…後藤が勝って全てを無かった事にしてくれないかな?」

 

「アンタの得意分野でしょうが?」

 

「ハハハ…ハア…」

南がため息をつくと、放送が流れ始めた。内容は、大会の中断だった。

 

 

 

後日女子の部が行われた。結果は…。

 

 

「…まさか、男女共に我が文芸部の優勝とはね…」

日野さんが、部室に置いてあるトロフィーを見ながら呆れる様に言った。

 

「これで、我部も一躍有名になったわね…」

 

「俺は悪役だけどな…」

表彰台に上りデートの相手を引くクジを全校生徒の殺気を感じながら引く事になったが…まあ、対処さえ間違わ無ければ大丈夫な相手だった。何故か、月村さんを引けば命が無いと日野さんが忠告していたが…。

 

「しかしまあ、まさか鈴音がアレだけ速いとはな」

今大会3位のヴィータが、苦笑しながら言うと、大会の優勝者である時田さんは、照れるように笑った。

 

「…走るのは…楽しいから」

 

「いや、アレは見事な走りだったぞ」

リンも感心した様に頷く。

 

「昔は、マラソンクラブにいたらしいからね。にしても1年の時の瞬足少女が鈴音ちゃんだったとはね…人は見かけによらないって、本当ね」

日野さんが、そう言って時田さんをなでる。時田さんはくすぐったそうに笑った。そんな平和な光景を見ながらフッと外を見ると季節はずれの桜が満開に咲いていた。一体あの天使は悪夢の世界で何をやっているのだろうか?

 

「そろそろ出してやるか…」

 

「そうね…これ以上」

日本の四季をこれ以上いじられるのも問題だろうしな…。

 

 

 

こうして、マラソン大会の幕は下ろされた。

しかし、これは俺にとっての始まりに過ぎない。本当の戦いはこれからだ!

 

「斎藤!何処だ!」

 

「斎藤!」

 

 

「日野さん…」

 

「分かってる…斎藤は必ず見つけるわ…」

 

 




日常編…完
次回からは南?が日野様の本家とデートするためにさまざまなことをする話です。若干違うところもあると思いますが、よろしくお願いします。


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日常編(2)
第58話 デートORアライブ


新章に突入!?

遅くなりましたが、まあ徐々に投稿していきたいと思います。


「ねえ、南くんって、どんな子なん?」

大量の書類の整理をこなしながら、はやてはそう言ってきた。

 

「どんな奴って、言われてもな…うーん…」

 

「何故?一夜の事を?」

同じく大量の書類に埋もれかかっている私とリンは、疑問を返した。つうか、終われねえなコレ?通

学時間に間に合うか?

 

「いや、だって、アリサちゃんのデートの相手やろ?そりゃあ気になるよ」

 

「まあな…」

今回の持久走大会の男子の部優勝者である南がクジを引いた所デートの相手がアリサとなったのだ。その時の南の表情は、死刑をま逃れた囚人のようだった。リン曰く『なのは。だったら、世界が崩壊していた…』らしい。

 

「で?どんな子なん?」

興味津々とばかりに聞いてくる、はやて。さて、どう答えようか?

 

『只の超能力者だ』

なんて、言えるか?言った所で、信じて貰えない可能性が高いだろう。それ以前に私はまだ、死にたくない。

 

「えっと…まあ、良い奴だぞ?」

 

「へえーリィンは、どう思う?」

 

「私ですか?」

南との付き合いが、最も長いリンは、腕を組んで思案する。こう言う所が真面目な奴なのだ。私の様に適当の答えれば良いのに。まあ、そこが良い所だけど。そして、思案する事1分後。

 

「…文芸部の中で、怒らせると一番怖い奴では、あるな…」

それが、答えかリンよ。確かにそうだが…噂によると南はかつて、リンを撒肉にした事があるそうな。

 

「へ…へえー…」

はやての表情が心無しか不安になっていた。まあ、友達がデートする相手だから仕方が無いだろうが…。キレると怖い男とデートする事程、不安な事は無いだろう。

 

「あ…安心しろ!南の沸点は、相当高いから!余程の事がない限りでは、リン以外にはキレる事は無い!」

 

「え?なんか、リンが心配になって来たんやけど!」

 

「大丈夫です。奴が暴走してもナギサが確実に仕留めてくれますから」

 

「そうそう。安心しろ」

開始時より不安度が5割増しな表情のはやてを説得していると、持久走大会から数日姿を見せていなかった、赤神と翼兄ちゃんと遠藤がやって来た。それに続いて、なのは達も仕事が終わったのか、やって来た。

 

「なになに?なんの話?」

 

「うわ…まだ、残っているのかよ…ったく、クロノの奴…小学生がやれるレベルじゃ無いぞ?コレは」

翼兄ちゃんが、ため息をつきながら、書類の整理を手伝う。それに続きフェイトも無言で手伝ってくれた。

 

「赤神!遠藤!悪ィけど、手伝ってくれ」

 

「分かったよ」

 

「ああ」

その後、書類の整理は1時間程で終了した。やっぱり翼兄ちゃん達は、スゲエと思う。

 

 

 

クロノに苦情のメールを送信した後、私達は、用意されていた大部屋に集まっていた。内容はもちろん。

 

「アリサのデートの事だな…」

 

「やっぱりか…」

どうやら、現在の話題の中心は、コレらしい。まあ、仕方が無いだろうが。

 

「さっきもはやてに話したけど、南は、良い奴だと思うぞ?」

 

「いや、だけどな…」

先程から、そんな会話のループが続いていた。何か違和感を感じるのにそう時間はかからなかった。

 

「何を警戒している?」

そんな空気の中、リンは、一言そう言う。すると、場の空気が一気に張り詰めたものとなった。この空気は、戦場のものだ…命のやり合いが起こっているような感じがした。

 

「先程から、ヴィータは、一夜の安全性について、1時間近く説明している。アイツが、アリサ嬢に危害を加える事など皆無だとな・・・何を警戒しているのだ?翼達は?」

リンの言葉に翼兄ちゃん達が気まずそうに顔を背けた。そんな中シグナムが、皆を代表するように声を出した。

 

「…南と言う奴は、あの“日野”の手先なのだろう?」

 

「ナギサ?」

一瞬訳が分からなくなったが、直ぐに警戒の意味を理解した。

 

「誘拐事件の事か?あれは、“日野”のやったことじゃねえぞ!」

今から2年程前に起こった、アリサとスズカが誘拐された事件。赤神達の活躍により二人とも無事だったのだが、その時の実行犯が内部事情にも詳しい上“バーニングス”に怨みを持っているとされる“日野”が実行犯ではないのか?と言いう噂があったらしい。それゆえのこの反応みたいだ。心配なのは分かるが、ナギサの友達としての立場から言わせてもらうと何だか悲しい気分のなるな。

 

「翼達の心配も分かるが、あまり私やヴィータの友の事を疑うのは止めてくれないか?実際にその件については、ナギサ本人にも確認を取っている。あの事件には、関わって無いそうだ。例え、関わっていたとしてもそれは、ナギサのせいではないだろう?」

まだ、付き合いが浅かった頃に誘拐事件の事について、きいたことがある。その時ナギサは、うんざりした表情になっていた。今から考えると随分酷い質問をしたものだと後悔している。

 

『“私”だったら、誘拐なんてハイリスクな事なんて、やらないわよ?やるなら…』

そこから先は、覚えていないが、少なくとも2人共無事では無かっただろう。それに、現在はナギサが、“日野”がバカな事をしないように見張っているが、2年前はあの爺さんがやっていたらしい。あの爺さんが、そんな事を見落すとは考えづらい。

 

「…」

だが、皆の目からは、未だに疑いの色が発せられていた。何故分かってくれないのだろうか?ナギサは良い奴なのに…。何故か悔しさがこみ上げてくる。そんな中リンは、ひとつ溜め息をついた。そして、諦めた様に言った。

 

「ヴィータ。これは、私達と同じだな」

 

「へ?」

意味が分からず呟くと赤神達の表情が少し変わった。

 

「“闇の書”として、一度広まった悪評は簡単には消えない。“日野”もまた同じなのだろうな…誘拐事件の黒幕と言う烙印を押され何をするにも疑われる。まるで、我主の今をはっきりと見ているようだ」

見ると、はやては、少し俯き飲み物を見つめていた。確かに今のナギサの評価は、今のはやてに似ているかもしれない。未だにはやては、“闇の書の主”と言うレッテルが貼られ局内でも信用が薄いのだ。

 

「確かにな…」

元々の悪評を広げたのは、私達だが、主には、無条件でそれ以上の悪評がついてくる。なんという悪循環。

 

「…もうやめようよ」

フェイトがポツリと呟くと皆小さく頷くしかなかった。

 

 

 

 

と、いう話を部室にてヴィータとリンが話しているのを俺は、文芸部らしく本をめくりながら聞いていた。

 

「なんで、深夜に小学生が集団で集まっているのかはともかく良い疑問ね」

そんな、話題から出された日野様の答えは笑顔だった。

 

「って!良いのかよ?疑われたままだぞ?」

 

「アハハ~何言ってのよ?良いじゃない?疑わしとけば?そっちの方が“バニングス”のお嬢様も不安で一杯になるだろうしね」

まあ、日野様の事だからこの程度の答えは、予測していたが、やっぱりはっきりと仰る事で。すると、日野さんは、面白そうにこちらを見てきた。俺は、無駄な抵抗だが、本に顔を隠す。

 

「なんなら、南。“バニングス”のご令嬢を襲っちゃう?今なら“日野”のせいに出来るけど?」

 

「遠慮しときますよ。この心地いい学校生活を灰塵にきたしたくないからな」

それに、襲うとしたら、後藤の役目だろうに。俺は、ロリコンでは無い。

 

「ん?今誰かに褒められた様な?」

 

「気のせいだ」

 

「あ、そうなんだ。所でヴィーたん。デートは、何時が良い?」

 

「そんな予定はねえ!」

カバンを後藤の顔面に叩き付けるヴィータを無視して会話は進む。

 

「っても、あの誘拐事件以来“バニングス”の警備もかなり厳重になっているみたいだから、襲うとか無理でしょうけどね」

 

「…どのくらいなの?」

ここで、昼寝から復活した時田さんがログインしてきた。つうか、寝ながら話聞いてたんだね。

 

「何しろ、資金が違うからね。ウチとは、比べ物にならないんじゃないかしら?」

「個人衛生やら赤外線やら町を一つ包囲網を張るナギサの家より凄いとはな…想像も出来ないな…」

同感である。金持ちの警備のレベルは、計り知れない。

 

「当たり前でしょう?“日野”の本家家元よ?じゃないと誘拐事件の後も呑気に学校に来るわけ無いでしょうが?」

 

「まあ、確かにな…」

 

「…うん」

普通の学校にお金持ちのお嬢様が来ていると思ったらそんな秘密があったとはね。…おちおち学校で能力が使えなくなったな。

 

「まあ、普段から監視しているのは家位だけどね」

 

「…プライバシーって知ってる?」

 

「プライバシー?何それ?食えんの?」

流石は、日野様である。何事に置いても勝てる気がしない。とは言え、多少考慮はしてくれているだろうが。

 

「ん?」

そんな会話をしている内に部活終了の鐘が聞こえてきた。放送もそろそろだろう。

 

「まあ、今日はここまでね。ほい部活終了!南!鍵よろしくね~」

 

「今日は、後藤達だろうが!」

 

「デートは、遊園地かな?」

 

「だから、行かねえって!」

 

「ほら、後藤行くぞ」

今日も見事なまでにバラバラな文芸部であった。

 

 

 

その夜のこと。

 

『もしもし…』

家に帰りお風呂から上がった時ジィが電話を持ってきた。相手は、鈴音ちゃんらしい。

 

「もしもし?どうしたの?」

 

『…うん…あのね』

どこか、歯切れの悪い言葉に疑問を抱いたが、気にしない事にした。でも…。

 

『…死んじゃう…』

 

「へ?」

 

『このままだと…誰かが死んじゃう…』

未来予知。それは、気にしない事には出来ない危機が迫っている証。

 

 

 




さて動き出した歯車。また投稿は遅れると思いますがよろしくお願いします。


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第59話 出陣準備

 

 

 

デート。

 

date。

 

って、何すんの?

 

「…何も考えてねえ!」

そんな事に気がついたのは、午前3時の事であった。ボロボロな天井につきそうな程毛布を蹴り上げ机に向かう。

 

「参考になるものは…」

参考になるものを求め辺りを見渡す。目に入るモノは…。

 

“ファンタジー小説”

 

“ホラー小説”

 

“伝記”

 

“トランプ”

 

「役に立つものがね!!!」

最後は、書物でもねえ!頭を抱え机に叩きるける。

 

「やべえ…あの“日野様”の本家本元だぞ?殺される…嫌だ…死にたくない…」

無礼を働くと俺など、ゴミのように潰されるだろう。特に最近の俺の評判は最悪なのである。逃げるか?海…山…それとも…空?

 

「…駄目だ!逃げれる気がしねえ…」

“日野”より高位に位置する“バニングス”から逃げられるとは思えない。

 

「考えろ…考えるんだ…思考を止めるな…模索しろ」

しかし、前世?でも、女の子と関わりが薄かった俺に何が出来るはずも無くただ時間を浪費するだけだった。

 

「クっ…こうなったら!」

電話に駆け寄り時計を確認する。時刻は、朝の3時50分。今かければ、いい迷惑だろうが、こちらは、命がかかっているのだ、これ位の迷惑なぞ軽いだろう。そんな訳で、ボタンをプッシュする。電話特有の音が鳴り暫く待つ。

 

『…はい…八神です…』

 

「リンか?」

 

『ん?一夜か?何だ?こんな時間に』

どうやら寝ていたらしいリンが、意外そうに言うと俺は、要件を切り出した。

 

「今、時間大丈夫か?」

 

『ん?ああ、ちょうど仮眠中だった。今は、大丈夫だ』

一瞬ツッコミを入れたかったが、原作キャラの事情など知らん方が良い。余計な事に巻き込まれるからな。

 

「知っての通りバニングスさんとデートするんだが、デートってどうすれば良いのか分からなくてな…」

 

『明らかな人選ミスをしたな…人間の恋愛事情など、ついこの間まで、プログラムの管理人格をしていた私が知っていると思うか?』

 

「でも、知識はNO1何だろ?少しは、知ってるだろう」

 

『フム…』

リンは、何かを考える様に声を出す。頼む…期待してるぞ!リン!

 

『“でぃすこ”とか?』

 

「お前は、いつの時代の人間だ?」

 

『古代ベルカだが?』

 

「…すまん…人選を本格的にミスったらしい」

 

『だから、言ったのだ…他を当たった方がいいな。ヴィータは、私と似た様なものだし…後藤などは、どうだ?ヴィータをデートに誘った程だ、きっと、何かしらの進言はくれるだろう』

 

「成る程…」

時計を見ると4時30分程だった。今なら、大丈夫だろう。

 

「悪いな、じゃあ、お休み」

 

『ああ』

電話を切り、後藤の番号をプッシュする。長いコール音の後に後藤の声が聞こえてきた。

 

『はい…全日本幼女を愛でる会海鳴支部副会長後藤聖一ですが…』

 

「よし…色々ツッコミたいが、今は我慢してやる…」

 

『ん?その声は…南か…どうした?こんな時間に』

 

「ああ、ちょっとな、相談したいことがあってな…」

 

『相談?』

 

「ああ、女の子とデートに行くなら何処が良いと思う?」

 

『…幼女に手を出してみろ…テメエをコロス…』

 

「出さんわ!今度のデートの事だよ!」

尋常ならざる殺気を電話越しに感じたが…あえて、無視だ。

 

『ああ…委員長の生きる気力を奪ったアレか』

 

「責任の半分は、テメエだがな…」

こちらも殺気を飛ばして見るが、上手く伝わらなかったらしい。

 

『うーん…幼稚園とか小学校とか?あ、後塾帰りの…』

 

「お前に聞いた俺がバカだったよ!」

遊園地とか言ってたじゃん!

 

『後は…』

 

「後は?」

 

『“デェスコ”?』

 

「まさかの一致!」

 

『ゴメン。ヴィーたん以外とのデートは、あまり考えられないや。こう言う事は、女の子に聞いたほうが良くないか?』

確かに…だが、時間が時間だしな…。時計を見ると5時20分を刺していた。

 

「悪いな…じゃあ、お休み」

 

『ああ』

電話を切り、次なる番号をプッシュする。時田さんの番号だ。部活メンバーの中で最もマトモで常識人なうえ、未来予知が出来る彼女ならば、何かしらの打開策を提供してくれるかも知れない。

 

「…」

長いコールが鳴り響く…そして…。

 

『…“デェスコ”』

電話が、切れた。

 

「なんじゃ!そりゃあ!!」

行けってか?デェスコに行けってか?って、言うか要件ぐらい聞いてよ!俺の話を聞けよ!何だろうか?目の前が涙で見えないや…。

 

「…いや。時田さんの事だ、恐らく電話の事を未来予知で見て、結論だけ伝えたのだろう…そう信じようか…っうか、後は…」

恐る恐る文芸部の連絡網を確認すると残りは一つしかなかった。

 

「日野さんか…最後に回した事をばらすとキレるだろうな…」

被害を最小限にするためにあえて選ばない様にしてきたが、もう仕方が無いだろう。

 

「神よ…ヤマダさんよ…何故、この様な試練をお与えになるのか…」

震える指で、地獄の番号を押してゆく。そして、コール音。心臓の音が、はっきりと聞こえる。心情は、電話を繋ける誘拐犯だ。

 

『もしもし…南ね』

 

「ッ!!」

何故!バレた!心臓が萎縮し冷や汗が体を伝う。

 

「もしもし…日野さん…何故…その…」

 

『さっき、鈴音ちゃんの携帯に繋けて来たでしょう?履歴から直ぐに分かったわよ』

 

「え?時田さんの携帯?そっちにいんの?」

 

『ええ。今は、寝てるわよ』

 

「じゃあ、デェスコは?」

 

『イタ電対策よ。ほら、意味が分からなかったでしょう?』

 

「…いや、色々あって、意味が出来てたよ…」

 

『?』

 

「所で、相談なんだけど…時間大丈夫か?」

 

『はあ?こんな早くから繋てきてそれ言う?』

 

「申し訳有りませんでした!」

その場で土下座をして、見えない相手に許しをこう。

 

『で?相談って?』

 

「ああ…実は…」

取り敢えずこれまでの事を洗い残さず話す。すると、日野さんが呆れた表情になるのが、電話越しから分かった様な気がした。

 

『はあ…アンタね…』

 

「一応女の子である日野さんに相談しに来たんだけど…何か案とかある?」

 

『喧嘩を売りに来たの…?』

なんだ?この殺気は!息が…出来ない?

 

『殺意で人が殺せたら…』

苦しい!殺されてますよ!!

 

『…まあ、良いわ。私もデートとか良く分からないし…』

 

「?日野さんデートとかした事無いの?一度も?」

 

『そう見える?』

 

「うん。」

意外だな…下僕が沢山居そうなのに…。

 

『無いわね…そんな暇無かったし…勉強勉強だったしね…アハハ、跡取りは、大変よ』

 

「日野さん…」

明るい声で、言う日野さんだったが、何処か影があった気がした。どうやら、日野さんの触れてはいけない過去に触れっていたらしい。まだ、子供の日野さんに“日野家”を継ぐ為にどれだけの時間を犠牲にして来たのだろうか?考えるだけで、頭が痛くなる。

 

『まあ、最近は、何か軽くなったし部活も楽しいし結構リア充に成ってるけどね』

 

「はあ。…」

リア充の意味が分らない。

 

『うーん…ゴメン。分からいわね…“バニングス”の令嬢を困らせられる事に喜んでて、アンタが恥をかくことを失念してたわ…ダメね…ちょっと、待ってて…えっと…』

すると、電話の向こうで、誰かが近づいて来る音がした。声からするに夢の様だ。

 

『あ、おはよう。夢ちゃん。悪いけどちょっと、南とお話してくれる?探す物があるから』

 

『…うい…もしもし』

目を眠そうに擦っている夢を連想しながら、時計を見ると、もう直ぐ6時だった。案外早起きだったんだな。夢の奴。

 

「もしもし…」

 

『うん…一夜…何?バラバラ?』

 

「何が!?」

かなり寝ぼけている様だ。

 

「デートの事で少しな」

 

『デート…』

 

「ああ、どうしたら良いのか迷っててな…アドバイスをもらいにな」

言っても分からないだろうが、つい説明してしまう自分に苦笑する。だが…。

 

『まずは、服装からだね…一夜は、私服が少ないからもう少し増やした方がいいかも…デートのでの服装は、相手の第一印象に関わるから絶対に手を抜いちゃ駄目だよ…』

 

「え?夢さん?」

 

『一夜には、ちょっと黒っぽい服だね…出来たら…』

 

「えっと…」

え?何?この状況?

 

『デートの場所は、海鳴市…良くて、デパートまでの範囲だから…』

次々に飛び出る具体的計画案。何なんだ?コレは…。

 

『この時期なら…』

そして、思い出す。ああそうか…コイツ転生者だったよ!近頃完全に忘却していたが、元々夢は“転生者”であり“殺人鬼”だ。日野さん曰く生前は、騙され続けた人生だったらしい。そう考えると夢の精神年齢は、俺より上。下手をしたら後藤より上かもしれないのだ。

 

「そう言えば…“夜の課外授”も不完全だけど復活してたし…」

記憶は、厳重に封印してあるが、寝ぼけている間に僅かに漏れ出ているのかも知れない。っと、言うことは、今の夢は、人生経験が豊富な先輩と言う事になる。…このチャンスを逃す手は無い!

 

『後は…』

取り敢えず内容を紙に書き始める。期限は、夢が完全に目覚めるまで。その間に出来るだけの情報を集めてみせる!!

 

 

 




今回は南がデート前日?いや当日か…におこった話でした。

次の話は…果たしてデートなのか?それとも…


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第60話 ドキドキ!デート。

南が夢に教わったデート術!!

さてさて発揮されるのか?

ではどうぞ!!


時は、平成。海鳴。

多くの漢達が自らの覇権と僅かな幸福を求めた乱世は終焉を迎えた。

多くの屍が生まれ、多くの涙が流された。しかし、そんな乱世も終わり、孤独な勝者が誕生した。

その名は、南一夜。

この物語は、望まぬ権利を手に入れてしまった男の哀れな物語である。

 

朝。それは、希望を告げる太陽の時間だ。だが、今日に限り永遠に昇って欲しくは無かった。

 

「はあ…」

時計を見るともう直ぐ7時である。待ち合わせの時間は、9時だから後2時間は時間がある。

 

「…まあ、良いか」

取り敢えずの今日の目的は、デートを完遂し身の安全を確保することである。そのためには、僅かな気の緩みすら許されない。そんな訳で、俺は、2時間前に家を出る事にした。

 

「今日も平凡な日であります様に」

手を叩き神に祈る。そして、冷たい朝の空気を肺一杯に吸い込み前進する。そして、数分後。待ち合わせの駅前の噴水が見えてきた。取り敢えず頭の中で日野さんが持ってきた雑誌のチェックポイントにチェックを付ける。

 

「よし、彼女より早く来る。クリ…あ…」

 

「あっ…」

そんな声を上げた金髪の少女を見る。何故来ている?…アリサ・バニングス。恐ろしい子!

 

「あ…おはよう…」

 

「ど…どうも…」

お互いに不意打ちだったらしく心臓がドキドキしている。

 

「えっと…遅いわよ?」

まだ軽く1時間以上の猶予が在るはずだが…そうか…時間に遅れて来たからデートは中止とか考えていたんだな。ミスった…。

 

「えっと…御免なさい…」

気まずい雰囲気の中、デートと言う拷問が幕を開けた。

 

 

 

「フフフ…完璧やな…」

 

「何だ?はやて?そんな悪い顔して」

怪しげに微笑むはやてに若干引いながら朝ごはんを食べる。翼兄ちゃんやリン達も不思議そうに見ている。

 

「いやな、アリサちゃんもしたくないデートをさせるのも可哀想やし一計を案じて見たんやけど…あ、別に南くんを疑っている訳じゃないんやで?」

 

「いや、デートが出来なくなるならアイツも狂喜乱舞するけど…どんな策なんだ?」

 

「フフフ…その名も!“女の子を待たせる男の子は最低!大作戦”!」

どこからか取り出した、長い紙に筆でそう書かれた巻物を広げ誇らしそうに言った。この奇行には既に全員が慣れているので、誰も突っ込まない。まあ、作戦名を聞く限り恐らく時間通りに来ても早く来ているアリサに罵られデートを破棄させる作戦なのだろう…。確かにエグイ作戦である。だが…。

 

「恐らく上手く行かないだろうな…」

たくあんをポリポリとかじりながらリンは、断言した。

 

「?なんで、そう思うん?」

 

「…一夜に時間差の戦法は効果は無いからな…タダでさえ、日頃から“日野”に酷い目に合わされている一夜が本家である“バニングス”相手に気を抜くとは思えない。1・2時間前には家を出るだろうな…」

 

「…確かにな」

恐らく南は、アリサをナギサレベルの暴君だと考えている。そんな奴が時間通りに来る訳がない、脅せば1日前からいるだろうし…。

 

「む…むう…」

はやてもその可能性に気が付いた様である。

 

「でも、可能性は可能性やし…」

 

「…まあな…ん?」

その時誰かの携帯が鳴った音がした。この着信音は…リンか?

 

『ピピルピルピルピピルピ~♪』

 

「主。失礼します」

 

「ちょい待て!何で!それが、着信音にセットされてんだ!」

何故か私の黒歴史が着信音になっていた。

 

「へ?何?その着信音。ヴィータの声だ」

 

「ああ。コレは、前に…」

 

「アアアア!!!!!!!!!!!!!!」

全力で大声を張り上げる。近所迷惑?知るか!

 

「後藤に…」

 

「あのロリコン野郎!!コロス!コロス!ついでにリンもコロス皆コロス!!」

この声を知る者全てを滅す!最近私物化しつつある釘バットを振りかざしリンを追撃する。

「ま、待て!ナギサからだ!」

 

「ウガァ!!」

最早関係ない!

 

「ん…ああ…心配ない。今、ヴィータに殺されかけている所だからな…そうか…分かった」

瞬間体中に光の輪が出現し拘束された。

 

「主。本日は少々私用の為、お暇を頂きたいのですが…」

私を担ぎ上げ真面目な顔で言うリンはシュールだった。

 

「ん?ええけど?」

大破した魔力的防御壁が貼ってあった壁を見ながらはやては、そう言った。エスカリボルグの破壊力は、魔法をも超えるらしい。まあ、ともかく呼び出しがあったって事は…。

 

「…始まったか…」

 

「ああ」

その時、開けていた庭の窓から体長2メートルは超える黒犬が飛び込んできた。

 

『グルル…』

 

「「「「!!!」」」」

血走られた目で辺りを見渡し殺気を振りまくのは止めてもらいたい。おかげで皆が警戒している。

 

「何だ…コイツは…」

 

「主…下がっていてください」

 

「隙がないだと…」

 

「…怖い…」

皆さん凄まじい感想を抱いているようだ。

 

「ふ…わざわざ悪いな。タマ」

 

「「「「タマ!?」」」」

 

「では、これで!」

 

「あ、アイスは食べんなよ!」

タマ(リン命名)にまたがり一駆けで道路に飛び出す。相変わらずの跳躍力だ。そして、近所の奥様方に怯えられながらナギサの家に向かってタマを走らせた。

 

 

 

 

「何やったんや?アレ…」

 

「さあ…」

まるで、悪夢に出てくる様な黒犬で町中を疾走していく家族をみながらそう言うしかなかった。

 

 

 




次回ようやく南とアリサのデート!!

披露される策の数々。

どうなるこのデートは!!

と言うことで次回にまた会いましょう。

※追伸、2行目のことは本当かどうかは次の話で!!と言うことで。


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第61話 慣れと嫌悪

さて南とアリサのデート開始!…もう開始していたような気もするけど…

どうなる二人の運命は!!



 

時刻は、8時。待ち合わせ時間まで約1時間を切った。

 

「…」

 

「…」

しかし、今この場には、既に二人いた。旗から見れば、どう考えてもこれからデートを行う二人には見えないだろう。

 

「えっと…1時間前ね…」

 

「うん…そうだね…」

2時間前に家を出た日本人の精神を怨みたい。でも、何時までもこうしている訳には行かないだろう。何せ相手は、あの“バニングス”なのだから。油断は死を意味する。

 

「時間より早いけど…行こうか?」

 

「うん…」

お互いの雰囲気は重い。しかも俺の服装は、黒を基調としている為、葬式にでも行く様だ。

 

「で?何処に行くの?」

 

「えっと…」

懐ろから今回の計画を書いた紙を取り出しこっそりと見る。今回は、9時からのハズであったが時間が1時間早まった為多少の誤差はあるだろうが、何とかなるだろう。

 

「えっと…まずは…商店街でも見てまわろうか」

 

「わかったわ」

こうして、デートが開始された。

 

 

 

デートと言うものは、実は私もよく分らない。

 

好きな人と出かけるのがデートなのか?

 

気になる人同士が出かけるのがデートなのか?

 

それとも…片思いの人と出かけるのがデートなのか?

 

「…」

そう考えると私自身は、かなりの回数デートをしている事になるけど…。

 

「はあ…」

 

「え?す…すみません!」

私がため息を着くと南君が全力で土下座を行った。商店街のど真ん中である。

 

「ちょ…そんな事しないでよ!皆が見てるじゃないの!」

 

「申し訳有りませんでした!」

そう言って、更に深みにはまって行った。因みにこのやりとりを8回は繰り返している気がする。デートの内容は結構面白いものが多かったが、流石にコレはキツいものがある。

 

「あーもう分かったから!良い?今度から土下座は一切禁止だからね!」

 

「はっは」

まるで、時代劇に出てくる主君と部下である。商店街のオジサンもオバサンも微笑ましそうに見ている。

 

「ねえ?どうして、そこまで低姿勢な訳?普段はそんなんじゃ無いわよね?」

普段の姿の事は、斎藤やヴィータちゃんに聞いているので、ここまでされると逆に気味が悪い。すると、南君は、少し汗ばんだ顔を上げて言った。

 

「“日野家”の本家である“バニングス家”の方に粗相を働いては、切腹ものかと思いまして…」

 

「…一体“バニングス”を何だと思ってるのよ…」

 

「えっと…悪の総本山?」

 

「悪って…」

普段から“日野家”に酷い目にあっているってヴィータちゃんが言ってた気もするけどまさかここまでとは…。噂では、首絞め、拷問、紐なしバンジー、新薬の実験などをされていたらしい。…新薬って…。

 

「あのね…私達は悪の総本山じゃ無いわよ!」

 

「え?」

 

「何…その「え?」って」

さも意外そうな表情の南君に私は諦めた様にため息をついた。ああ、成る程。コレが私たちからみた“日野家”の印象なのか。

 

「とにかく、土下座は今後一切禁止だからね」

私がそう言うと南くんは、渋々と言った感じに頷いた。

 

「はあー疲れちゃったわね。そろそろお昼にしない?」

腕時計を確認すると時間は、午後12時を指していた。もうお昼の時間である。

 

「そうですね…えっと…」

 

「敬語も禁止!」

同学年なのに敬語は疲れるし辛いだろう。

 

「あ、分かったよ…んじゃあ、近くの…」

南君がどこかを指そうとした時と同時に私は用意してきたお弁当を差し出した。

 

「ここの近くにあるベンチで食べましょう。近くに噴水があって綺麗なのよね」

 

「へ?」

お弁当からイマイチ状況に付いて行けて無い南君は、少し頭に“?マーク”を浮かべていた。どうやら、此方からの提案があるなど考えていなかった様だ。

 

「こっちだけ何もしない訳には行かないしね。こう見えても料理は出来るのよ?」

 

「は、はあ…」

未だにキョトンとしている南君の腕を引いて、デパート前の噴水広場まで歩いた。

 

 

 

 

幸いな事に休日なのにも関わらず人が少ない噴水広場のベンチに腰掛け作ってきたお弁当を食べる。その際、お茶を忘れた事に気が付き慌ててしまったが、すぐに南君が自販機を発見しお茶を買ってきてくれたので、問題は無かった。

 

「はあ…おいしい」

南君が関心するような顔でそう言いながらおにぎりを食べお茶で流し込む。

 

「てっきり、バニングスさんは料理が出来ない系の人だとばかり思ってたから結構意外だったな…」

 

「イメージで、そんな事決めないでくれる?」

 

「ゴメンなさい」

時間とは恐ろしい物で、この頃には、南君も多少は警戒しつつも、打ち解けてきたようである。その証拠に少しも悪びれていない。

 

「けど、美味しいって言うのはホント。俺は、一人暮らしで、結構自分で炊事をすることが増えたけど、正直ここまで美味しくは出来ないな。材料や調味料の違いか?」

 

「失敬ね。全部実力よ!」

昔、斉藤に料理を食べて貰った時に

 

『美味しかった?』

 

『あ…うん…』

その時の斉藤の表情は、なんとも言えないモノだった。その事が悔しくてその後料理を特訓してきたのだ。今では、すずかにも美味しいと言われるほどの腕前なのだ。…まあ、そんな事恥ずかしくて言えないが…。

 

「あのさ…南君」

 

「ん?」

 

「斉藤ってさ…私の事で何か言ってた?」

 

「斉藤?」

南君は先程と同じ様な目で私を見た。あ、そうか私と斉藤が幼馴染だって知っている人は少なかったんだっけ?そりゃあ、急にそう言われたら反応できないわよね。

 

「あ…やっぱり良いわ」

 

「はあ…って言うか斉藤の姿をあの日以来見てないんだけど…」

 

「あ…」

辺りを気まずい沈黙が漂った。そうだ、確かにあの日から斉藤を見ていなかったのだ。てっきり学校で、すずかと会うのが辛いので避けているだけだと思っていたのだが…これって本格的にヤバイんじゃ…。

 

「日野さんが捜索隊を結成して探してくれているから、死んでるにしろ生きているにしろ見つかるとは思うけど…正直生きていて貰わないと俺が完全に悪役だよ…」

南君の目には、色々な疲れが見えていた。

 

「まあ、斉藤は殺しても死ぬような奴じゃないしね!きっと大丈夫よ!あはは…」

この言葉に説得力など皆無であろう。

お茶を飲む音がやけに大きく聞こえた。お弁当箱の中はもう空になっておりこれ以上開けていても無意味なので、回収した。

 

「あのさ…」

一息ついていると、今度は南君の方から話しかけてきた。私は、なんとも無しに目を向けると

 

「っ!!」

とたんに身体中になんとも形容しがたい不快感が襲い掛かってきた。どういったら良いのだろうか?急に南君の事が気味が悪い存在に思えてしまったのだ。そんな私の状態を知ってか知らずか、南君は、淡々と言葉を紡いだ。

 

「あのさ、日野渚って知ってるよね?」

 

「え…ええ」

言葉一つ一つがまるで虫の大群のように感じてしまう。一体如何したのだろうか?とにかく早くここから離れたかった。

 

「日野さんは、何故か“バニングス”を嫌っているんだけど…バニングスさんは、理由を知らない?」

 

 

 

悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒

 

 

 

 

 

まるで蛆虫が身体中を這い回っている様な感覚に陥り吐き気すらこみ上げてくる。身体が無意識に震え目からは涙が滲んだ。なんだ?この人は?少なくとも嘘は通じないだろう。否。嘘など決して許さないだろう。嫌だ!嫌だ!嫌だ!一刻も早くこの人から距離を取りたい!だけれど、身体が全く動けない。南君の目から目が離せない。気のせいか彼の目の中には、私じゃない誰かが映っているような気がした。

 

「し…知らないわ…“バニングス”がこの国にやって来てから傘下に入ったって聞いたことはあるけど…それが理由なのかな?」

出来るだけ平静を装いながら正直に答える。実際にこれ以上私は知らないのだ。しかし南君は、じっと虚空の瞳で私を観察している様に見ている。

 

「ほ…本当よ!信じてよ!」

 

「…」

怖い…助けて斉藤…怖いよ…。心の中で斉藤を呼ぶけれど当然ながら誰も助けには来ない。辺りを見ても誰もいない。その時だった。

 

「…ん?ガフー!!!」

突如飛来した金属バッドと思わしきモノが南君の頭部へ命中し南君はその勢いで噴水へとダイブしてしまった。

 

「み…南君!」

気が付くと先ほどまでの気持ち悪さは、霧散しており何故私があそこまで気持ち悪いと思っていたのか自分でも分からない程であった。

 

「あーワリィワリィー」

と、どう見ても棒読みな台詞を言いながらやって来たのはヴィータちゃんだった。

 

「ついハンドベースをやってたらボールがこんな所に行くなんてなアハハ…」

私の知る限りバットをボールにするスポーツは存在しない筈だが…聞くのが怖い。

 

「おー大変だ!服が濡れている!」

それ以前に水がどんどん赤くなってきている気がするのだが…。

 

「アリサ」

 

「は…はい」

ヴィータちゃんは、南君を引き上げジッパーの付いた黒い袋へ押し込み担ぎ上げると少し笑いこう言った。

 

「10分程待っててくれないか?こうなったのも私の責任だし、ちょっとばかし着替えを探してくるから」

 

「えっと…病院へは?」

さっき見たのはどう見ても撲殺死体の様だったのだが…。行くべきは、服屋じゃなくて、病院もしくは、警察だろう。

 

「この程度で死んでたら、小学生はやってられねえぞ?んじゃ!10分待ってて」

そういうと一人デパートの中へと入っていった。

 

 

その後何事も無かったかの様に南君は復活してきたのだった。

 

 

 



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第62話 無題

久しぶりの投稿です。

大学生活が始まり、毎日が忙しい!!

では、どうぞ!!


 

昔のお話です。

 

ある所にとっても優しくて美しい女の子がいました。

 

誰にでも平等に接する彼女の事を皆はとっても大好きでした。

 

そんな女の子も時が経ちとっても美しい女性へと成長しました。

 

当然その娘と結婚したいと思う人達は沢山いました。

 

しかし、彼女の両親は、お金持ち。彼女の結婚相手を勝手に決めてしまいました。

 

誰も両親の決定に口出し出来ませんでした。

 

結婚の相手は、外国のお金持ちの息子さんでした。

 

つまり結婚すれば、彼女は外国へ行ってしまうのです。

 

皆は、不安になりました。

 

不安。

 

しかし、彼女は、成長しても子供の様な笑顔で皆に言いました。

 

「大丈夫。だから心配しないで」

その笑顔に皆の不安は少し消えていました。

 

結婚式は外国で行われました。彼女の両親や親戚などが参加しましたが、彼女を慕う皆は参加できませんでした。

 

ただその姿を写真で見ることしか出来ませんでした。

 

1年後。とっても可愛い双子の赤ちゃんが生まれました。

 

皆は、喜びました。

 

しかも赤ちゃんの顔を見せに帰って来るともありました。

 

皆はもっと喜びました。

 

数日後。彼女は死んでしまいました。

 

殺されたのです。

 

赤ちゃんの一人は、外国のお金持ちに引き取られました。

 

もう一人は、彼女の実家が必死の交渉の末引き取ることが出来ました。

 

しかしその際に彼女の実家は外国のお金持ちに飲み込まれてしまうのでした。

 

 

もしこの世界に主人公の様な存在が居たならば、あんな惨劇を回避出来たのか?

答えは。

 

「ノーだろうな」

そもそもそれが、その世界の理なのだから。

 

バットエンドがハッピーエンドの条件だったなんてこの世界には腐るほどある。

 

たとえば、この世界の本来の主人公の一人と言える“フェイト・テスタロッサ”の母親はこの世界では死ぬのが運命であり、これから続く物語のための布石に過ぎない。

 

コレは、彼女以外のハッピーエンドの条件になるのだろう。

 

「でも、もしかしたら、主人公が変わることで何かが変わるかも知れないって、思ってる人も結構いるよね」

主人公が変わる。たとえば、転生者。

 

圧倒的な能力で原作を改変する存在。

 

主人公と匹敵する程物語に影響を与える存在。

 

「だけども残念ながら彼らは主人公とは言えない。ただ、主人公に匹敵するだけの存在なんだよね」

その証拠に物語りは、原作寄りに進んでいく。

 

誰を助けようとも。

 

誰を殺そうとも。

 

主人公を亡きものとしようとも。

 

「いずれにしろ、彼らは物語に引きずりこまれる訳だ。無意識の内にね」

エンドロールがどうあれ。

 

ハッピーエンドであれ。

 

バットエンドであれ。

 

「そう言う意味では、僕みたいな主人公になれない存在は楽でいい」

 

「はあ…」

海鳴病院の一室にて、とある存在と少女の会話である。

 

「あれ?どうしたんだい?そんな君の悪そうな顔をして?」

 

「いえ、いつもの『』がついていないもので、不気味といいますか、なんといいますか」

 

「あはは、皆の病院で『』なんてつけたら目立つじゃないか、全く非常識だなー」

 

「私からしたら、普段から悪役を好き好んでやっている貴方が、盲腸で入院している事事態が、非常識なんですけど?」

 

「僕は、人間なんだぜ?そりゃ、盲腸にもなるさ」

少女の呆れ顔に悪意はクスクス笑うと窓の外を見つめた。

 

「どうしました?」

 

「いいや、どうもしないよ。所で、最近のファーストの動きはどうなってるの?」

悪意は、近くにあった林檎を手に取り弄ぶ。少女は、呆れ顔になりつつ。

 

「いや、何故私が、頼まれもしていない事を調べていると思っているんですか?」

 

「え?君って、僕に付き従うミステリアスかつ有能な美少女じゃなかったの?」

 

「従っているのは認めますが、ミステリアスかつ有能及び美少女は余計です」

 

「そこは、認めようぜ?10人中7人は、美少女と答えると思うけどな~」

 

「…どんな趣味の人間ですか?それ?」

 

「天使の同類?」

 

「最悪ですね。」

少女の回答に笑い林檎をかじる。

 

「駄目ですよ。手術前に食べたら」

しかし、それは少女によって未然に防がれた。

 

「『鬼!』『悪魔!』」

 

「何故?ここで『』を?ともかく手術を受けるなら、食べたらいけませんよ!お医者さんにご迷惑がかかるでしょう?」

 

「…分かったよ。僕は“人間”だからね、その意見は聞き入れよう」

 

「何故?偉そうに?」

少女はさらに呆れた視線を送った。悪意は、さらに笑う。

 

「で?実際の所は?」

 

「はあ…ファーストは今のところ動きは余り見せていません。ただ…」

 

「ただ?」

 

「転生者と思わしき人間がこの町に入り込んでいるみたいですね。」

 

「さすがは、僕の相棒だね!今度、なにか奢るぜ!」

 

「では、フランス料理のフルコースを」

 

「勘弁して下さい!」

 

「では、そうですね…     を」

 

「    か、相変わらず好きだね」

そのときドアがノックされ看護師が入ってきた。どうやら手術前の準備を行うようだ。少女は看護師に会釈すると、病室の外へと出て行った。

 

「しっかりした子ね」

 

「全く僕には勿体無いぜ」

 

「そうね、じゃあ、準備しましょうか?」

 

「そうだね!」

悪意は、笑顔で答えるともう一度外を見た。

 

「転生者ね…狙いは恐らく…さて、麻酔からさめたら確認に行かなくちゃね…」

悪意はさらに不気味な笑みを浮かべ小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 



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第63話 サイトウハザード

久しぶりです。やっとGWですね。

コレで少しは楽に執筆できそう。…投稿するのは遅いですが…

まあ気にせず頑張っていくのでよろしくお願いします!!


 

無人の街中を用心しながら一人で進んでいく。空は、灰色に曇り今にも雨が降りそうな天候だった。

 

「…」

そんな空の下俺はゆっくりと辺りを警戒しながら歩いていた。“奴”はどこから襲ってくるのか分からないからだ。

 

「ここには居ないのか?」

半ば安心し警戒を解いた…瞬間だった。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

突如として上空から“サイトウススム”の大群が降って来たのだ。

 

「なんだと!」

俺は、慌てて持っていた銃を構えるが、時はすでに遅かった。

 

「ノロッテヤルゾォ~ミナミ~!!!」

 

「ノロッテヤル!」

 

「ヨクモ…オオオ!!」

流石の俺もその大群と怨念の前には、手も足も出ずに大量の“サイトウススム”に飲み込まれたのだった。

 

 

 

「いじめじゃねえか!」

画面に表示される何故か日本語で“げーむおーばー”と表示された画面を見ながら俺は心からの叫び声を上げたのだった。

 

「南君?大声出しちゃ迷惑でしょう?」

 

「いやいやいや!なんだよ?このゲームは!」

場所は、海鳴市のデパートの中にあるゲームセンターである。

 

バニングスさんに軽い質問をしていたらいつの間にかヴィータに撲殺されており気が付くと日野さんが目の前にいたのだった。

この時ばかりは、ヤマダさんにいて欲しかった。

どうやらこのデートは、監視されており俺がバニングスさんに何かしようとしていた様に見えていたらしい。それを誤解と説明し何とか開放された訳である。

その後、バニングスさんがここのゲームセンターに面白いゲームがあると言っていたので、興味本位に立ち寄った所このゲーム。

 

“サイトウハザード”

 

という冗談のようなゲームがあった訳である。因みにシリーズらしく10とあった。

 

「バニングスさん!これは、斉藤に対して酷いんじゃないんですか?いくら、親友を狙う半ストーカー予備軍だからって…こんな…」

 

「?おかしな事を言うわね。ホラ見て」

バニングスさんは、“サイトウススム”が大量に発生している画面に表示された文字を指差した。俺はその文字を読み上げる。

 

「えーっと…このゲームはフィクションであり実在する人名・地名・集団・私立S小学校のS・S君(10歳)とは、一切関係ありません。…」

 

「ね?」

 

「確信犯じゃねえか!!!!」

しかも年齢が出ている時点で嫌がらせ及びプライバシーの流失が半端なく伝わるぞ?しかも“サイトウススム”のモデルは、どう考えても斉藤進だろうコレ?

 

「バニングスさん?どう考えてもコレはおかしいよね?斉藤の年齢と名前の重大なヒントが出てる時点で既にコレは斉藤に対する嫌がらせ以外の何者でもないよ?」

しかも、ジャンルがガンシューティングって所が悪質極まりない所である。

 

『ミナミ~ノロッテヤル~』

しかも今回は、俺の名前まで登場してるし最悪以外の何者でもない。声も見事に再現されており、斉藤進という少年を憎いと思う人には大人気だろうが、我がクラスの委員長(お飾り)は、今のところそこまでの殺意を受ける様な事はしていないはずだ…たぶん。

 

「南君…いくら最初のステージがクリアー出来ないからってゲーム批判は酷いと思うわよ?このゲームは全国にプレイヤーがいて、全国大会も開催される人気作品なのよ?いくら斉藤に似ているからって…」

 

「いや!だから、コレは斉藤なんだって!って!何でお店の人が俺を睨んでるの?悪いの俺?って!皆俺を睨んでるし!怖い、怖いよこの空間!」

全国のプレーヤーから銃器されている斉藤の気持ちを思うと遺憾の気持ちが止まらない。しかも、そのことを発言した者はプレイヤーに無言の圧力を受ける不条理さは結構泣きたくなるものがある。

 

「俺はまだ幸せだったのか…」

俺の今の現状は、結構ヒドイものと思っていたのだが、現実には俺以上の苦しみを味わっている人間がいたことに軽く安心したのは秘密である。

 

「貸して、私がお手本を見せてあげるわ!」

バニングスさんはそう言うと100円を投入しゲームを開始した。心なしか活き活きしている様に見える。

 

「さて、来たわね…斉藤!死ね死ね死ね死ね死ね!!!!」

心なしか本物の斉藤に向けての言葉の様に聞こえるのだが、きっと気のせいなのだろう。それにしてもこの冗談にしては悪質なゲームを作っている会社は裁判が怖くないのだろうか?

 

「また、日野さんの会社って落ちだろうけど…」

こっそりと販売元の表示してあるシールを探すと直ぐに見つかった。

 

「日野じゃ…無いだと…?」

軽く戦慄した。発売元は別の会社だった。一応の下調べの時に“バニングス”家の子会社は全て調べ上げていたので、日野が作ったものでない事も分かるのだ。しかしそう考えると…。

 

「世の中って怖い…」

本気でそう思わざる事しか出来なかった。

 

 

 

 






次回…遂に奴が帰ってくる!?

では次回で会いましょう。


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第64話 敗者の帰還

今回ついに奴が帰ってくる!!

短いです。連続して投稿します。


 

太陽が輝く晴れの空の下。少年は帰ってきた。

 

「会いたかったぞ!海鳴!」

両手を広げ大声を上げる少年を町の人々は奇異の眼差しで見つめていた。

 

「あのお兄ちゃん何してるの?」

 

「見ちゃいけません!」

近くにいた親子の会話に若干心に傷を負うが、それでもめげず、少年は活き活きとした目で辺りを見渡した。

 

「斉藤進!ここに帰還せしー」

さっきから、少年とぼかしているが、この少年はかつて、南に敗れ姿を消した斉藤進その人である。彼は、あの後、心に傷を負いさ迷っていた。そして気が付くと見知らぬ土地に一人立っていたのだ。当然帰ろうとしたのだが、心の傷は、そうとうなモノでありまた、此処が何処かも分からなかったので、帰れなかった訳である。しかし、斉藤は此処で始めて会った人々との触れ合いや美味しい空気や野菜に触れながら少しずつ心を癒したのだった。そして今、彼はこの場に帰還したのであった。

 

「俺は、もう迷わない。そうさあの場所の皆が教えてくれたんだ!迷わなければ、道は開けると!」

斉藤はそう言うと、歩き出した。家に向かって。

 

 

 

 

『迷い人「斉藤進」君を探しています。』

 

『特徴「特になし」「たまにボケる」「ツッコミは78点くらい?」』

 

『持久走大会の日より行方不明。目撃情報や有力情報をお待ちしております』

 

『℡ ●●●―●●●―●●●●』

 

「一大事になってる!」

ツッコミの点数78点くらいのツッコミを入れるが、どうも気持ちが落ちつかなかった。なにせ自分が迷い人扱いにされていたのだから仕方が無いだろうが。

 

「て、言うより何だ?この「特徴なし」って!何か在るだろう?俺の特徴くらい!」

例えば……。

 

「…………………」

自分でも自分の特徴が分からない人って結構居るよね?うん。そうに決まっているさ。この涙は決して、自分に特徴が無いのを悲観しての涙ではないのだ。

 

「とりあえず電話番号からすると日野さん辺りか?」

よく見ると、迷い人の紙はあちらこちらに貼られていた。写真の無愛想な顔も相まって、さながら指名手配犯になった気分である。

 

「とにかくこの捜索願いを取り消してもらわないと」

最悪家にも帰りずらい。近くの公衆電話でも探してこの対策本部とやらに電話をしなければな…帰りずらい。

 

「この辺にある公衆電話はたしか…海鳴病院か?」

最近の携帯電話の普及により公衆電話が絶滅しかけている。携帯を持たない俺のような小学生には迷惑な話だ。

 

「はあ、面倒だ」

近くにアリサの家があれば、そっちの方に行けたのだが…場所が悪い。とりあえず、俺は、病院を目指して歩き出した。もちろん張り紙は全て剥がした後にだが。

 

 

 

 



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第65話 病院での邂逅

実は昨日投稿しようとしていたのですが、メンテナンス中?だったかなんかで小説サイトにいけなくて今日投稿しました(笑)


 

海鳴病院は、この町にある大きな病院である。どこぞの系統の病院らしくこの町以外でも似たような病院を見かける事がある程だ。俺も小さな頃から予防接種などでよくお世話になっている。まあ、それはともかく。

 

「ようやく着いたな」

張り紙を剥がしまくりながら同時に張り紙をゴミ箱に捨てながらやって来たので、思ったより時間がかかったのだ。と言うか、張り紙の数が異常だった。

 

「しかも、後半になるほど適当になってたしな…」

迷い人という文字が欠落しているものがあった時は、本当に指名手配犯に見えた。しかも写真も無くなっており誰かの書いた似顔絵になっていたときは、完全に驚いた。

 

『僕の書いた斉藤進コンテスト最優秀賞!』

と書かれていた。完全に遊ばれている感がすごい。

 

「ともかく文句は学校で言うとして…電話は…」

病院の必要品を扱うコンビニの近くにある筈だが…。

 

『故障中♪』

 

「……」

ふざけてんのか?なぜに『♪』?

 

「電話が出来ねえ~」

ここまで来て電話が出来ないとは、不幸だ。

 

「ここ以外に電話はあったけな?」

入院はしたことが無いので、ロビー以外の場所が分からなかった。誰かに聞いてみるか?そう思い辺りを見回すが、居るのは忙しそうに動き回る職員の方々や居眠りをしている老人の方々しか見当たらず話を聞ける状況ではなさそうだった。

 

「はい…そうです。(笑)の方の斉藤です…」

すると背後からそんな声が聞こえてきた。振り向くと携帯電話を持った少女がこちらを見ながら話していた。

 

「あ、こっちを見ました。間違いありません、斉藤(笑)です。亜種ではないようです」

そんな少女の手には、『斉藤進コンテスト』の張り紙があった。

 

「あの…」

取り敢えず話しかけてみるが…。

 

「特徴の目が空洞の様で赤い液体が流れ出ています。間違いなく斉藤進ですね」

 

「明らかに別人だよな!それ!」

俺の外見はそんなホラーでは、無かったハズだ。

 

「ん?失礼。皮膚の腐敗が酷くて見分けがつきませんでした」

 

「ゾンビか!」

つうか、完全に遊ばれてるよな?これ?すると、何故か少女は呆れた目になった。

 

「病院で大声を出すなんて非常識ですよ?」

 

「アンタのせいだろうが!」

 

「へ?」

 

「なに?その意外そうな顔は!」

 

「このやり取りどこかで見ませんでしたか?」

 

「知るかよ!」

何故俺は、始めてあった見知らぬ女子と漫才モドキをやっているのだろうか?はたから見れば知り合いに思われる事うけあいだろう。

 

「しかし、貴方が斉藤進君ですか。噂はかねがね聞いていますが、パッとしない方ですね。もっとホラーチックな方とばかり思っていましたが」

 

「どんなんだよ?」

 

「こんなんです」

 

差し出される『指名手配 斉藤進』の張り紙。完全に犯罪者扱いになっている事に視界が滲んだ。使われている絵は、モンタージュ写真の様で俺と同じ所もあれば、違っている所もあった。例えば、目からは、赤い液体の様な物が流出しており皮膚は、完全に腐敗していて、人相は分からなくなっていた。どちらかと言えば指名手配写真よりは、ホラーゲームの攻略本のクリーチャーのページの始めに乗っていそうな感じだった。

 

「サイトウハザードの新作クリーチャーじゃねえか!」

何処の誰かは知らないけれど、俺を化け物化して撃ち殺すという虐めのレベルMAXの様なゲームがある。日野さんの関連の会社が作ったとされているが実際は何処が作ったのかは分からないゲームである。本来こんなゲームなど売れるはずも無いが、意外と本格的にシステムとやりこみ要素がありヒット作品になっていた。因みにアリサはコアプレイヤーであり世界ランク上位10には入っているそうだ。そんなに俺が憎いのか?アリサよ?

 

「サイトウハザード?ああ、あの面白いゲームですよね。家庭版は全て持っていますよ。お気に入りのキャラクターは、サイトウタイラントXですね。あれは、可愛いです」

 

「確か、首だけで動き回る奴だよな?…女子の感性が分からない…」

 

「?あの人も同じ事を言っていましたね。何故分からないのでしょうか?」

パピヨンマスクをつけた首だけの化け物に可愛さを感じる奴は少ないだろう。因みにサイトウタイラントXは、いわゆる隠しボスであり強さはラスボスをも凌駕するほどである。すばやさが尋常ではなく弾丸を当てるのも難しいのだ。

 

「因みに私は、ナイフ縛り派です」

 

「神か!」

ナイフ縛りなど、俺の知る限りアリサ位しかしていない。俺がプレイした際は1面でゲームオーバーになった。

 

「って!話が完全に逸れてた!」

あまりのふざけた会話に本題を逸らされていた。俺は、頭を押え少女を見る。

 

「えっと、知り合いじゃないよな?」

 

「はい。実際に会うのは初めてですね」

少女の言葉に一瞬誰かの姿が頭に浮かんだが、直ぐに消えてしまった。なんだ?

 

「さっきの電話は?」

 

「この有力情報の提供に賞金があったので、確認の意味をこめて話しかけてみました」

張り紙を見ると確かに有力情報に懸賞金とあった。どうやら本気で探しているらしい。早い所電話をした方が良いだろう。

 

「って、その電話を探してるんだった」

 

「電話ですか?」

すると、少女は、とある方向に指を向けた。

 

「あそこの角を右に曲がって赤い人のマークのある所にありますよ?」

 

「へ?本当か!」

 

「ええ」

 

「ありがとう!じゃあ!」

俺は、電話を急いで掛ける為に走った。そんな姿を笑いながら少女が見ていることなどしらずに…。

 

 

 

 

 

 

5分後。

 

 

 

 

 

 

俺は、病院の空き部屋に身を潜めていた。

 

「………」

少女が笑を隠すようにしてうつむいていた。

 

「テメエのせいだ…」

俺が、女子トイレに入り変質者扱いを受けたのは!

 

「失敬。まさか、本当に入る人がいたとは…この私、感服いたしました」

 

「俺は、初めて女の子をぶっ飛ばしたいと思ってるぞ…」

 

「では、本来の場所をお教えしましょう」

そう言うと少女は、地図を取り出した。

 

「ここを出て、真っ直ぐ言った所の突き当たりの部屋があります。そこに扉が2つ在りますので、左の部屋に入って下さい」

 

「…」

 

「大丈夫です。信じてください」

少女の瞳には、何も映っていなかった。

 

 

 

 

 

15分後

 

 

 

 

俺は、病院の機材庫にいた。

 

「…だから言ったんですよ」

少女が呆れた視線で俺を見据えていた。

 

「…」

俺は、騙されたと過程し左ではなく右の部屋に入った。その時気が付くべきだった。更衣室と言う文字に…結果俺は、追い詰められた指名手配犯の様な状態で震えている訳である。

 

「前科2犯ですか…まだ、若いのに…」

 

「一つはお前のせいだ!」

こうなったら意地でも捕まる訳にはいかない。捕まれば、月村さんや学校の皆の俺を見る目が変わる事だろう。変態としてのレッテルを貼られ、行く先々で奇異の目でみられ、道行く人々から石を投げられる人生になるだろう。それだけは、なんとしても回避しなくては!

 

「っく!こうなったら!俺の隠された力を使うしか…」

 

「現実逃避は済みましたか?」

 

「後、5分…」

とは言え、一度犯した罪は消える訳など無いのだ。しかし、しらをきる事は出来るはずである。つまりは、アリバイを作れば良いのだ。

 

「まずは、電話…次いで、アリバイ…絶対にやってやる!」

 

「はあ、しかし、ここに隠れるのは失敗でしたね。空き部屋ならともかく機材庫はたまに人が来ますよ?男の子が女の子を機材庫に連れ込みワイセツ行為を働く。前科3犯ですね」

 

「殺人事件にしたろうか?」

結構本気で殺意が沸いてくる。

 

「それに俺は、月村さん以外の女子には、興味が無い」

 

「それも、問題発言の様な気もしますが…」

 

「どこがだ?俺は、月村さん一筋!代わりは居ねえ!」

 

「月村さんには、貴方の代わりなんて、いくらでも居るでしょうに」

心にナイフが突き刺さった。流石は、ナイフ縛りの達人である。

 

「さて、この病院からの脱出ですが、私に考えがあります。ここまで、やって来た仲です最後まで面倒をみてあげましょう」

何故か、上から目線だった。

 

 

 



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第66話 脱出

最近「シークレットゲーム リべりオン」というゲームにはまっています。前作「シークレットゲーム ポータブル」のとある人の過去の話でやっていたら結構面白いです。もし、興味がある人はやってみる事をお勧めします。因みにこのゲームはノベルゲームです。
ということで、本編に入ります。


 

カラカラ~。と言う音が耳に大きく響く。

 

「…」

俺は、今大量のシーツに埋もれて運ばれていた。機材庫には、病院で使う物が結構収められており、松葉杖やワゴン。点滴台や空気のボンベ等が所狭しと置かれていた。その中で、只今俺が、復讐してやりたいランキング1位の謎の少女は、汚れたシーツを運ぶシーツ車に目をつけた訳である。その際に俺との悶着があったが、そこは割愛させて貰う。

 

「…」

カラカラと言う音に耳を澄ませながらゆっくりと辺りに気を張る。恐らくは、中に人が居ると外側からはバレないだろうが、押しているのは俺と変わらぬ年齢の小学生である。もし止めれたらそこでアウトになりかねない。最悪俺は、汚れたシーツに塗れた変態だろう。

 

「安心してください。そうなったら私は、貴方に脅されたと泣ますから」

 

「何一つとして安心できねえよ!」

 

「…私は、嫌だと言ったんです…でも…この人が…「へへヘ…汚れたシーツ…揉瑠璃って」…無理やり…」

 

「なんで、漢字?つうか、俺はどんなキャラクターなんだよ!」

それ以前にこの女に此処まで弱々しい声が出せるとは…女って怖い。

 

「そうですね…女の子に汚れたシーツを掛けさせて喜ぶ変態さんですかね?」

 

「完全に今の状況を言ってるだけじゃねえか。本当に頼むぜ…これ以上俺は人間として道を踏み外す訳にはいかねえんだからな」

 

「人間として、ですか…」

どこか、“人間”と言う言葉に一種の同情の色が在った様に思えた。まあ、きっと気のせいなのだろうが。そんな時だった。

 

「あら、クダキちゃんじゃないの?どうしたの?シーツ台なんて押して」

お世辞にも若いとは言えない中年くらいの女性の声が聞こえてきた。って!不味い!

 

「………」

俺は、この時、無我の境地に至ったと自負した。

 

「ああ。少し頼まれまして」

 

「そう?全く誰かしらね?私がやりましょうか?クダキちゃんはこの病院の事は解らない事も多いでしょう?」

 

「あ、いいえ。大丈夫ですよ。“あの人”の手術が終わるまで、どうせ暇ですし」

 

「でもね…。本当は、そんな事をさせたらいけない決まりなのよね」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。」

病院のシーツや病衣などは、感染の恐れなどがある為、変えるときなどは特別な場所に置く必要があるらしい。特にシーツ等は、血液や排出物などの付着が多い為、普通は、一般人が触れる事はあまり無い。今使っているシーツは、近くにあった、新しいモノだが、わざとグチャグチャにしている為、古い物との見分けが難しいのだろう。

 

 

 

さて困った。コレでは、完全に詰みである。どうする?このまま出て行くか?かくれんぼをしていた事にすれば、多少のお灸を据えられるだけで済むだろう。…でもな…。

 

 

 

「あ、遠藤さん」

 

「あら、どうしたの慌てて」

 

「実は、女子トイレや更衣室に侵入した男の子を捜しているんですよ。全く何処の子でしょうね」

 

「あら、それは、大変ね」

多少のお灸は、恐らくクダキと言う女の子だけだろう。俺は、前科2犯である。多少所か、焼死しかねない。

所で、クダキって、苗字だろうか?名前だろうか?管木?砕?どっちにしろ変わった名前である。

 

「さあ、後は私に任せて。ね?」

遠藤さん。恐らく看護師さんが、笑顔でクダキに迫るのが目に浮かぶようだ。

 

「…」

さしものクダキも結構悩んでいる様だ。頼むクダキ!見捨てないで!俺は祈った。神に仏にクダキにそして、月村さんに。

 

「…解りました」

この世に神なんていない。心の中でそう叫んだ時だった。一瞬後ろへ引かれる様な感覚がした。次の瞬間。

 

「手が…」

本当に偶然と言った感じにクダキが言うと急に台車は発進した。

 

「のわ!」

流石にコレは予想外だった。完全に暴走列車と化した台車は、俺を乗せ突き進んだ。

 

「ヤバイ!なんか、ヤバイ!」

声を潜めることも忘れ、シーツを退けて、外を見ると…そこは、奈落でした。

 

「階段!!」

現在位置は、4階つまり階段があるのは当たり前だった。不味い!これは、非常に不味い!

 

「俺のストーリーは、此処で終わりなのかよ!」

自分のストーリー。諦めたくない!そんな、願いが天に通じたのか、奇跡は起こった。階段横のエレベータが開き中からベットが出てきた。そのベットに激突し台車の軌道が階段から外れた。

 

「『にぎゃー!!』」

ベットに乗っていた人物はどうやら衝撃で転落したらしい。つうか、どんな力で押したんだ?あの女は?

 

「先生!患者が!傷口が開いて!!」

 

「『何事?何事?』」

どうやら、麻酔の影響か痛みは感じないらしく辺りの状況に困惑していた。どうやら俺は捕まれば、殺人未遂も追加されそうである。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

「『え?なに?この声!症候群?ヒナミザワ症候群!』」

俺の謝罪が届いたことを確認し俺は、即座に病院食を運ぶエレベーターに飛び込んだ。時間が良かったのか、エレベーターは、あっさりと起動してくれたのだった。

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。トロミ付きの麦茶です」

 

「…」

病院の外にやって来た俺にクダキはそう言ってお茶を差し出した。俺は、受け取り一口飲む。

 

「因みにサービスでホットにしときました」

 

「あちゃ!」

トロミのせいで舌に粘りつくような麦茶。熱さも相まって最悪なハーモニーが奏でられている。

 

「いらんサービスだ!」

舌を冷ましながら訴えると、クダキはまた笑った。

 

「さっきの人は、大丈夫かな?」

逃げるのを優先したので、確かめる事が出来なかったが、周りにあの慌てっぷりから見て、大惨事だったのだろう。

 

「大丈夫ですよ。あの人がそう簡単に死ぬ訳が無いですからね。死太さについては、私が、保証しますよ」

 

「知り合い?」

 

「ええ」

そう言えば、手術が終わるまで暇とか言っていた様な…。

 

「まさか…わざととか?」

あのタイミングと押しの強さ。まさか、この女、計ったんじゃ…。

 

「さあ、どうでしょうね…こういう“運命”だったんじゃ無いんですかね?」

 

「“運命”?」

 

「悪人は、正義に殺される。それが、悪人の“運命”。神が定めた確定事項だって昔言ってましたから」

 

「は?」

意味が解らない。

 

「あ、そういえば、今思い出したんですけど…」

クダキは、そう言うとおもむろにポケットから携帯電話を取り出した。

 

「私、電話持ってました」

 

「あ…」

一瞬頭が白紙になった。そうだ…そうだった!何故思い出せなかったんだ!こいつは最初に携帯で電話してた事を!あの後、色々な事があったとは言え忘れるなんてアホ過ぎるだろう!俺!

 

「ちょっと貸せ!」

目にも止まらぬスピードで携帯をひったくり、“斉藤進捜索本部”へと連絡する。

 

「まだ、貸すとは言っていませんが…」

後ろからクダキの抗議に声が聞こえるが、無視だ。

 

『はい。こちら、斉藤進捜索本部ですが』

オペレーションのプロと思わしき女性の声が聞こえたので、早速俺は、用件を伝える。

 

「えっと、俺は、斉藤進です!この手配書の様な捜索願いを取り下げてください!」

心の底からの言葉を言うとオペレーションの女性は、淡々と言葉を紡いだ。

 

『えー斉藤進さんですね。失礼ですが、幾つか確認事項がありますので、質問に答えてください』

 

「…はい」

まあ、この場合、悪戯などもあるのだろう。それに俺関連の質問なら答えられるだろうし。

 

『では、質問です。斉藤進さんの誕生日は?』

 

「5月25日」

 

『ファイナルアンサー?』

なぜか、ミリオネアみたいになった。

 

「ファイナルアンサー」

 

『………』

 

「…」

 

『…』

長い!溜めが長い!

 

『正解!』

電話の向こうで、軽快な音楽が聞こえた。

 

『では、第二問。月村家の令嬢のストーカー予備軍で有名な斉藤君ですが…』

 

「はい。待った!俺はストーカーじゃねえぞ!」

 

『初めて、月村家の令嬢に会ったのは?』

 

「小学校の入学前。正確には、校門の前で写真を取っていた月村さんを見かけたとき。時刻は、7時38分21秒!」

月村さんとの出会いを忘れる訳が無い!

 

『…正解』

今回は、確認無しだった。どこか、引いた感じすらある。

 

『では、第三問。斉藤進君の幼馴染であるバニングス家の令嬢。アリサちゃんですが、始めて斉藤君に会ったのは?』

 

「………」

…。困った。付き合いが長すぎていつ会ったのか忘れた。えっと、たしか…。

 

「乳児検診の時だった様な…」

俺とアリサは、母親同士が知り合いだったらしくその縁で知り合ったのだ。恐らくその時に会ったのだろうと俺は、予想する。

 

『ファイナルアンサー?』

 

「ファ…ファイナルアンサー」

電話の向こうでは、ズズン!!と言う音楽が聞こえてくる。

時計の音がやけに大きく聞こえ、風の音すらやかましく感じる。

 

「…」

クダキは、近くにいた子猫と遊んでいた。

 

「…」

俺は、電話を片手に結果を待った。そして…。

 

『………残念!!正解は、お腹の中に居た時でした~』

 

「そんなん、分かるか!!!!」

知るかよ!自我すら形成されてねえよ!恐らく先に生まれた方が授乳の時間にまだ、お腹の中に居た方を見た。って、事だろうが、なんか納得出来ねえよ!引っ掛け問題か!

 

『そんな訳で、またの挑戦。お待ちしております~』

ヒラヒラと笑顔で手を振っているイメージがダイレクトに脳内へ伝わって来た。ついでに殺意も湧き上がってきた。

 

「どうでしたか?斉藤進(偽)さん?」

 

「その(偽)は、止めて!」

 

「自分の質問に三問も答えられない人に(偽)をつけて、問題でも?」

 

「うぐ…」

クダキの言葉に胸が抉れる。だが、聞いて欲しい!あの質問に答えられる人は一体何人いるのか?

 

「因みにこの質問は、最大で9問答えた人が居るそうですよ?」

 

「俺以上!」

 

「まあ、この世には、本物より本物らしい偽者もいますし、その逆もしかりですからね」

子猫を抱いてしみじみとクダキは、語った。

 

「まあ、やはり私が、目撃情報と言う事で連絡した方が良いのかも知れませんね」

 

「…そうなのか?」

なんか、今一つ納得出来なかったが、この際は、仕方ないだろう。

 

「じゃあ、頼むわ…はあ~」

ため息が、やけに大きく聞こえた。まあ、この際家に帰れば嫌でも俺が、斉藤進と分かるだろう。電話に固執してしまったばっかりに要らん被害を出してしまった。

 

「よしよし…」

子猫を地面に下ろし、クダキは、携帯を受け取る。

 

「じゃあ、ここにいるのも不味いし、もう行くわ」

 

「そうですか。あ、そういえば!」

すると、クダキは、ポンと手を打ち思い出した様に言った。

 

「今日って、確か斉藤さんを破った人のデートの日でしたね。たしか…バニングスとか言う人とデートになったとか…」

 

「バニングス?」

アリサの事か?大会の後の記憶が曖昧だったから、南の相手が月村さんじゃない所しか覚えていなかったが…これは…。

 

「斉藤さん?何故か、表情が邪悪ですが?」

 

「ん?そんな事ねえさ…デートか…そうか…」

これは、面白い物が見れるかもしれないな…腐腐腐。

 

「蛇亜又菜!砕!」

 

「言葉が、厨二傍チックに!しかも、表情が清清しい。これは、サイトウハザードのクリーチャーより気味が悪いですね…」

こうして、俺は、クダキと別れ、面白そうな物が見れる筈の場所へ向かった。何故分かるって?小学生のデートなど俺の脳内では、常に構成されているからだよ?

 

 

 

 

結果と言うかオマケ。

 

 

 

 

病院内を漆黒に多い尽くす蠢く何かがあった。目を凝らせばそれが何か分かる。

蟲。

大量の本当に小さな蟲が蠢いていた。

 

「『ったく。今回は本気で死に掛けたぜ』」

“悪意”は、本当に青い顔をしてそう言った。その視線の先には、クダキと言う少女と斉藤の姿があった。

 

「『で?一体全体どう言うつもりだい?ファースト?一応クダキちゃんは僕の仲間なんだけど?』」

ガラス越しに映るファーストに“悪意”は不機嫌そうに言う。しかし、ファーストは、表情ひとつ崩さない。

 

「少し、お願いしただけだ…特に危害を加えてはいない」

 

「『…よく言うぜ』」

振り向きはしていないが、“悪意”は、ファーストを睨みつける。

 

「『脅しとお願いじゃあ、天と地程ある』『大方、“僕”を人質に取られたのか…それとも』」

 

「まあ、余計な話は止めておこう。セカンド、私が、此処に来た理由を話そう」

蟲が蠢く中異様な雰囲気の二人を気にする者はいなかった。まるで、そこには、誰もいないと言った感じに辺りは動いている。大量の蟲の存在すら気が付いていない様に。

そして、ファーストも蟲など気にせずに言った。

 

「非戦協定を結ばないか?」

その言葉に“悪意”は不気味に笑った。

 

 

 

 



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第67話 文芸部の雑談

 

南とアリサのデートの様子がカメラを通じて、画面に送られてくる。この時代の監視の技術には、関心させられる。なにせ何処にいようと全てが筒抜けになるのだ。

ある意味で、恐怖も感じる。

 

「しかし、あのゲームは、誰が作ったんだ?」

サイトウハザードを最終局面まで続けているアリサを見ながら誰とも無く呟く。時々近くのテーブルから菓子を取り口にいれる。

 

「さあ?ウチじゃ無いわよ?そんな需要の無さそうなマイナーゲームを作る余裕なんて、今の日野には無いからね」

ナギサも菓子を食べながら答えた。

 

「しかし、良いのか?南はともかくバニングスの監視を行っても…立場は、悪くならないのか?」

 

「良いんじゃないの?どうせ本家の方も監視してるでしょう」

 

「そう言う問題か?」

私は、ため息を吐くと視線を再び画面に向ける。どうやらラスボスの登場らしい。

 

『来たわね!斉藤ZW!!』

 

『言ったよね!今ハッキリと漢字の斉藤の表記を使ったよね!!』

 

『くらえ!顔面3段撃ち!』

画面の中では、ゲームに熱中しているアリサと意味の分からない事を言っている一夜がいる。かなり鮮明な画面の様で、ゲームのキャラクターまでクッキリと映っている。

 

「ただいまー」

その時、玄関から声が聞こえた。玄関を見ると、夢と後藤とヴィータが立っていた。

三人には、一夜の暴走を止めるために一旦監視体制を取ってもらっていたのだ。

 

「あれ?鈴音は?」

 

「買い物だ。正確には、残虐描写を見せないための非常手段だがな…」

いくら、人外集団に慣れているからと言って、まだ子供である鈴音にとって、残酷な映像をそうそうに見せる訳にはいかないだろう。

 

「ふーん…所でどうだ?南の様子は?」

ヴィータが、画面を覗き込む様にすると、他の2人も続いた。

 

「あれ以来おとなしくなったわ…まあ、常に見張られているって分かっただけ良いんじゃない?」

ナギサは、新しくお菓子の袋を開けた。それを見て夢もお菓子に飛びつく。

 

「わ~限定味だ!」

目をキラキラさせてお菓子をほうばる姿に皆苦笑した。

 

「はいはい。そんなに詰め込むな。ほら、水を飲め」

 

「うん!」

超能力者がお菓子を喉に詰まらせて死ぬとは思えないが、夢の見た目からつい過保護になってしまう。

 

「リンちゃんって、時々おばあちゃんみたいに見えるわよね…」

 

「まあ、実年齢が年齢だからな…」

 

「ロリなら問題ないけどね!」

後ろから聞こえてくる声は無視の方向で行こうか。これが、大人のマナーだ。だが、あえて言うなら、ヴィータよお前の年齢は私とそうは変わらない。

 

「でもまあ、この様子だと何も起こらないだろうね。しかし、サイトウハザードか…フムフム…ヴィーたんとのデートに使えそうだな…」

 

「そうだな…って!待て!後藤!」

 

「家庭版なら貸すわよ?1から全部そろってるし」

 

「おお!ありがとう!これで、クリーチャーの出現ポイントをチェック出来るよ…一発クリアーしてヴィーたんに凄いって言ってもらうぞー!」

 

「本人を目の前にして堂々というお前が凄ぇよ!」

会話の乗りがいつもの文芸部に戻った所で、何かに気配を感じた。

 

「ん?」

気配の方向の目を向けると、ナギサの至近距離に一人の老人が立っていた。

 

「楽しそうですね。お嬢様」

 

「ん?って!キャー」

どうやら今気づいたらしくナギサはらしくもない悲鳴を上げた。

その姿を見て老人もイタズラっぽく笑った。

 

「熊おばあちゃん!いつの間に!」

 

「デート云々の時からですかね?お掃除の時間でしたので勝手に入らせて頂きましたよ?後、お菓子ばかり食べていては、成長に異常をきたしてしまいますよ?」

 

「むう…」

 

「ですので、このお菓子の山は、このお熊めが引き取らさせて頂きましょう」

 

「…それって、熊おばあちゃんが食べたいだけなんじゃ…って!まとめるの早!」

熊という老人は、風呂敷にお菓子を次々に詰めていった。

 

「えっと…ナギサ…この方は…?」

私の質問に夢以外の他のメンバーも気になった様にナギサを見た。一方のナギサは、乾いた笑いを上げていた。

 

「熊おばあちゃんだよ!」

そんな中、夢は熊おばあちゃんと言う老人に自分の分のお菓子を渡しに行っていた。

 

「日野の家に昔から仕えてくれている使用人よ…たしか、ジィより長いはず…」

 

「ええ。私は、アキトより長く仕えておりますよ。立場も私の方が上と自負しております」

なんと、あの人外に匹敵すると一夜が言っていた執事より立場が上とは…あれ?

 

「そう言えばナギサ…」

 

「何?」

 

「今日は、朝からいつもの執事を見ていない様な気がするのだが…」

いつも、ナギサの背後から脈絡なく現れる印象があったので、気にしていなかったのだが…本人の話題が出ると気になってしかたない。

 

「ん?ジィなら今日は休みよ?」

 

「休み?あのじいさんって休みを取ることもあるのか?」

ヴィータが、少し驚いてそう言うと、ナギサは呆れた眼をして言った。

 

「そりゃあね。機械じゃあるまいし、休みくらい必要じゃないかしら」

 

「…まあ、そう言われたらな…」

 

「超人でもない限り休みは必要だろうしね…」

 

「そうよ…だいたい360日くらい働いてるからね」

どうやら、盆と正月分くらいは休んでいるらしい。

 

「まあ、あの人は休みでも来ますからね…厄介な事に」

お熊おばあちゃんも呆れた笑いを上げていた。そして、パンパンと手を打った。

 

「はいはい。それでは、部屋の掃除に移りますので、一旦外へ」

 

「「「「「はーい」」」」」

ここで、逆らっても良い事は無いので、素直に外へ出る。監視も良いが、たまには外の空気を吸うのもまた良いだろう。

 

 

 

 

監視を一旦取りやめ、ナギサの家のリビングに値する部屋に全員で集まった。因みにスズネは先に来るように言われていたらしく普通にジュースを飲んでいた。

 

「…どうだった?南君の様子」

 

「変わらずと言った所か」

 

「まあ、頑張っている方じゃねえか?」

 

「暴走でもしない限り大丈夫でしょう」

 

「フムフム…ウへヘ…」

何かしらの本を熟読している後藤とメイドの手伝いをしている夢以外の感想であった。スズネは、「そうなんだ」と言って、再びジュースを飲み始めた。

 

「それにしても平和だよな…」

お菓子を口に含みながらヴィータが誰とも無く呟いた。

 

「まあ、時代が時代だからな」

情報や見張りなど、戦いの時代ならば物騒な結果しか付いて来ない物だった。しかし、今は、只の遊びや興味で行っている。結果はどうあれ悲惨な事にはならないだろう。多くの戦場を戦士として駆け抜けて来たヴィータにとって今の時代の変化は楽しいし興味深いのだろう。

 

「…ふう…」

窓の外に広がるこの町の風景を目にしながら日々の平和について思いをはせる。これまでの戦いの中でずっと望んで来た光景が今はそこにあった。平和と言ってもそれは、今この時と場所だけだろうが…それでも。

 

「戦いとは、無縁か…リン」

ヴィータが、相変わらず外を見ながら私に話しかけてきた。私も同じく外を見据える。

 

「今、私たちが管理局に協力している事って、本当に正しいのかな?」

 

「…」

主が管理局に協力するのは、我らの罪の清算の為。その事は分かっているのだ。しかし、本当にそれしか無かったのかと時々思ってしまうのだ。

 

「はやてが、私達の為に利用されたりしないのかな?」

ヴィータが恐れているのは、自分たちのせいで、主の将来が滅茶苦茶になってしまう事なのだろう。

我々という枷の為に主の歩む道が選択肢が無くなってしまう。

戦いに無縁だった主が更なる戦いに身を置く事になる。

そんな不安があるのだろう。

 

「主の道は既に決めれれているのだろうな…最早運命の様なモノだろう」

書の主となった時点で。

死を回避した時点で。

いや…。兄が魔道師であった時点で。その運命からは逃れられなかったのだろう。

 

「…」

 

「…」

気まずい沈黙が訪れた。

 

「後藤君。前から気になってったんだけど…いつも何読んでるの?」

 

「ん?幼女のバイブルかな?」

 

「…私達とは無縁ね…」

 

「…たしかに…ヴィーたん以外には、無縁かな?」

 

「あ、ヴィータちゃんの絵だねコレ?何だろう?なんかタコに絡まれてる」

 

「ヴィータちゃんが、この馬鹿に出会ったのは、本当に良かった事だったのかしら?」

 

「もちろんさ!」

 

「なんか、後藤君ってヴィータちゃんをダシに良い様にされてるよね?」

 

「こいつの性癖は既に末期よ。最早運命ね」

ある意味で気まずい沈黙だった。ヴィータが立ち上がり、無言で後藤の本を取り上げ本を見据える。そして、真っ赤になり本を床に叩き付けエスカリボルグで完膚なきまでに叩き潰した。そして、後藤も叩き潰した。

 

「後藤の死。コレも運命だったんだな…」

ヴィータが目の色を完全に無くし無言でザクザクと身体を耕した。

 

「さて…ヴィータちゃん。後藤をちゃんと処理しておいてね」

 

「…」

ザクザクと無言のヴィータが手をあげる。

 

「スズネ…行くぞ」

 

「う…うん…」

この惨劇を出来るだけ見せないように私達は足早に部屋を出たのだった。

 

 

 

「…少しは気が紛れた?」

 

「…」

血まみれの後藤が、そんな事を言ってくる。付き合いの長さからコイツの性格は良く分かっているんだ。

 

「なんか…ワリィな…こんな空気にしちまって…まだまだ、弱いな…私って…」

 

「誰でも不安はあるよ。こんな平和な世界にもね」

後藤はヘラヘラと笑って私を見据えた。

 

「だからさ…不安なら僕や皆に相談しても良いんだよ?絶対に力になるからさ」

 

「…うん…」

後藤は不安に囚われた私を安心させるためにあんな馬鹿な事をしていたのだ。何気に気使いの出来る男だった。そして、満足そうに微笑むと。

 

「…白か…」

 

「死ね…」

私は、後藤の顔面にバットを叩き付けた。この惨劇は暫く続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第68話 急転

お久しぶりです。では、投稿です。


 

全国のサイトウススム愛護団体が抗議するような速度でサイトウススムを蹴散らし最終的にはワンコインクリアーを果たしたバニングスさんはニコニコととっても機嫌がよさそうだった。

 

「シューティングゲームでワンコインクリアーなんてはじめて見たよ…」

 

「そう?クリーチャーの出現ポイントとか攻撃パターンとか覚えれば誰でも出来るわよ?」

 

「…そうなんだ…」

嬉々としてサイトウを撃ち続けていたバニングスさんに日野さんの面影を見たのは秘密だ。そして、ただただ撃たれ続けているサイトウに今の自分が見えたのだった。

 

「家庭用のソフトなら貸してあげましょうか?オススメはサイトウハザード5かしらね?…いや、物語の確信に迫った3…やっぱり初代の1のリメイクの方が…」

どうやらソフトを貸すのは確定事項らしい。これ以上原作キャラとの邂逅は避けたいのだが…日野さんの影が見えるバニングスさんから逃げられる気がしなかった。

 

「南君は、どれが良いと思う?」

おっと、話がこっちに来たか…。話をよく聞いていなかった。まあ、ゲームなら適当でも良いだろう。

 

「7辺りかな…」

なんとなくラッキー7な答えを返すとバニングスさんは複雑そうな表情になった。なんだ?何かおかしな事を言ったか俺?

 

「…発売3日で発狂した人間が出て発売禁止になった曰く付きの呪いのソフトをチョイスするなんて…良いわよ?さっそく帰ったらバニングスの心霊研究機関の呪い専門課に連絡して送ってもらいましょう…良い?何か異変があったら直ぐに言うのよ?」

 

「やっぱ!初代でしょう!」

そんな呪いのソフトなぞしたくねえ!つうか、何?心霊研究機関って!バニングスでは、そんな分野も網羅してたの?

 

「初代ね…うん…頑張ってね…」

 

「なに!その不気味な言葉は!」

俺が、渾身のツッコミを入れると何故かバニングスさんは、クスクスと笑い始めた。何事かと思い声をかけようとするがその前に理由が判明する事になる。

 

「…南君って、思ったってたより面白い人なんだね」

 

「はい?」

 

「だって、こっちの冗談に全力で反応してくれるんだもん…カラカイがいが在るって言うか…アハハ」

お腹を抱えて大笑いする姿にどうやらからかわれていた事が分かった。

 

「斉藤の奴も結構冗談を真に受けるから…」

 

「斉藤?」

 

「あ。何でも無い~」

サイトウハザードのクリーチャーの事だろうか?確かに陽動に弱い奴だった。俺の反応は、ゲームキャラと同格と言う事か?これは、不名誉だ。訂正してもらおう。

 

「バニングスさん!」

 

「何?」

 

「一つ言わせて貰うけど!………?」

その時周りの空気が変わった感じがした。

まるで誰かに監視されているような。そんな気配。

 

「…」

 

「ど…どうしたの?」

急に辺りを見回す俺にバニングスさんは不気味そうに話しかけるが、俺はそれ所では無かった。

 

「…日野さんの監視か?それとも本家の?…いや」

その気配ならデート開始時からヒシヒシと感じていた。今感じている気配はそれではない。もっと濃い悪意の様な視線…。

 

「バニングスさん」

 

「え?」

俺は、バニングスさんの手を強引に引き人ごみの中へ入る。

 

「どうしたの?」

 

「…誰かに見られてる…付けられてる?」

 

「へ?」

バニングスさんは、後ろを振り返るがその様な人の姿は見えないだろう。何故なら俺も気配は感じるが視線の正体までは分からないからだ。

 

「…」

 

「…」

足早に歩くが気配は一向に離れない。むしろ近づいて来る。

 

「…バニングスさん…ここら辺に知り合いの家とかある?」

 

「えっと…たしか、バニングスの経営している警備会社のビルがあったはずだけど…」

 

「…じゃあ、そこに向かおう」

警備会社なら例えどんな悪意を持っていたとしても入って来れないだろう。

 

「“大嘘憑き”」

自分とバニングスさんの気配を無かった事にする。人にぶつかり易くなったがコレで見付からない筈だ。

 

「そこを右」

バニングスさんをなるべく人とぶつからない様に誘導し道案内を頼む。しかし、気配は離れなかった。

 

「…」

在り得ない。気配を無かった事にしている現在、俺を追跡するなど不可能な筈である。それなのに気配は着々と近づいて来る。

 

「そこの角を曲がって…路地裏に出たら直ぐよ」

 

「…」

俺は、頷き路地裏へ入る。その時だった。

 

「へ?」

まず、目の前に奇妙な物体があった。まるで、箱の様な形をしたオブジェの様なモノ。

続いて、地面の色が真っ赤に染まっていた。

そして、最後に気配を無かった事にした筈のバニングスさんの姿がはっきりと見て取れた。

 

「…??」

完全な思考の停止だった。

 

「ご苦労さん」

そして…目の前に黒服の男が立っており銃を俺の頭に突きつける。

 

「お…“大嘘…”」

“大嘘憑き”を発動する前に乾いた音が辺りに響いたかと思うと俺の意識は闇へと堕ちていった。

最後に聞こえたのは、バニングスさんの悲鳴の様な叫び声だった。

 

 



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第69話 襲撃者

遂に出した数が80行った~

長かった~

更新が遅いですがこれからも頑張りますのでよろしくお願いします!!


 

車の中でひたすらに震えているしか無かった私は、縛られたまま何処かの工場の中へと担ぎ込まれた。

工場の中は、赤い不思議な色をしていて、気のせいか光っていた。

 

「わ…私をどうするつもりよ!」

 

「…」

私の精一杯の強勢を装っても男の人は、ただ、黙って作業の様に私を柱に縛り付けた。身体を強く縛られ一瞬体中の血管が萎縮したように感じた。身体中に痛みが走り顔をしかめる。

 

「イタッ…」

 

「…」

乾いた音が数回響いた。男の人は、南君の入った袋を再び撃ったのだ。

 

「ひぃ…」

 

「黙っていろ。こいつの様にはなりたくないだろう?」

袋からは、再び血が溢れ出していた。人間の身体からはこんなにも血が出るのかと認識した瞬間だった。

 

「さてと…後は、頼みますね旦那」

男はそう言うと工場の奥に声を張り上げた。

 

「へいへい…全く嬉しいね。俺なんか人生の負け犬だったのにこんなアニメの世界に来れるなんてね」

工場の奥から一人の男が歩いてきた。

一見ただのサラリーマンの様な容姿をした男は、私を見ると突然笑顔になった。

 

「アリサ・バニングスか…サブヒロインとか言われてるけど結構好みかもな…」

まるで、値踏みでもする様に私を舐める様に観察する男に嫌悪感が沸き起こった。

 

「あーあーそんなに気持ち悪そうな顔をしないで欲しいね。俺だって好きでこんな事しないよ。むしろ、“アイツ”に目を付けられなかったら今頃は、君の味方だったかも知れなかったんだぜ?」

男は、肩をすくめると怪しく苦笑いを浮かべた。

 

「分かっていると思うが…下手な事を考えるなよ?」

 

「へいへい…そっちこそ約束は守ってくださいよ?もう二度と俺に関わらないって」

 

「働き次第だな…では、健闘を祈る」

私を攫った男は、そう言うと早足で出て行った。残った男は、その後姿に親指を下げていた。

 

「クタバレ…化物」

そう言うと私の前にドカリと座り込んだ。

 

「さて、アリサちゃん」

 

「な…何?」

 

「短い付き合いに成るだろうから取り合えずよろしくね」

 

「…」

男は、私の態度を見ると少し気の毒そうな表情になった。そして、ため息を着く。

 

「俺は、アニメでしか君を知らないけど苦労が多そうだよね」

 

「…アニメって何よ…」

 

「さあ?こっちの話だよ…しかし、この世界はそう言う“設定”だったみたいだ。俺も最近気付いたんだよ」

男の言葉の意味が分からなかった。コイツは何を言っているのだろうか?

 

「まず、君に忠告しておくよ。君を狙っている奴らは、化物だ…なにが原因でそうなったのかは知らないけれど…キミ達に異常に執着している。バニングス全員を憎んでいると思う」

男は、冷や汗をかいているようだった。そして、表情は、真剣そのものだ。

 

「奴らは、手を選ばない。どんな手でも使ってくる。俺の様な無害な転生者ですら例外じゃない…」

 

「て…転生者…?」

何の事なのだろうか?男の表情からまじめな話だとは分かるが、理解が出来なかった。しかし、一つだけ分かる事があった。それは、この目の前の男は、そんなに悪い人では、無いと言う事だ。

 

「私をどうするつもりなの?」

 

「…分からない。俺は、イレギュラーを殺せと言われているだけだからな…そして、ここからは、誰も逃げられない」

 

「殺せ?逃げられない?どういうこと?」

言葉の通りだよ…そう言うと男は、ビー玉を取り出し入り口に向かって投げた。ビー玉は、勢い良く出口に向かって飛んでいくが、直前で何かに弾かれてしまった。

 

「“進入禁止”と“味方特殊技使用禁止”っていう制約がこの場所にかけられてるらしい」

 

「進入禁止?味方特殊技使用禁止って…」

意味が分からない。それ以前に今目の前で起こっている事が信じられなかった。

 

「アハハ…何?この悪夢は?南君は死んじゃうし訳の分からない連中は出てくるし…一体何なのよ!」

 

「…」

喚き声を上げる私を男は、じーっと見つめている。そして、目を閉じると諦めた様に首をふった。

 

「悪夢じゃない。現実だよ」

 

「そんな訳…」

 

「コレを見なよ」

男は、そう言うと南君の袋のジッパーを開け中身を私に見せた。

 

「い…嫌ぁ!!!」

頭の砕かれた南君がそこにはいた。力無く開いたままの眼球がギョロリと私を見た様な気がした。血の匂いと胃液の匂いが混じりあい不快なハーモニーを奏でている。私の心は、一気に恐怖で塗りつぶされた。

 

「斉藤!!助けて!斉藤!…約束してくれたじゃない!いつまでも一緒だって!助けてよ!進!進!」

私にとってのヒーローである幼馴染の名前を大声で呼ぶが、当然ながら彼は行方不明で居場所も分からない。来てくれる訳が無いけれど私は呼び続けた。

 

「…あ…」

 

「へ?」

そんな時だった。南君の死体であった筈の物体から声が漏れたのは。

 

「…あ…あ…あれ…?」

在り得ない光景だった。頭を砕かれて生きている人間なんて存在するわけが無い。いや、しちゃいけない。そんなのは、生命に対する冒涜だ。

 

「い…い…嫌ぁ!!!!!!!」

南君が生きていた事よりその状態で生きていた事に私は恐怖を感じこれまでの人生で一番の悲鳴を上げた。

 

「…こいつ…この制約下で能力を不完全ながら使えるのか?」

男は、一瞬戦慄の表情を浮かべたかと思うと手を南君の後頭部に添えた。

 

「…悪いが、アンタは退場願おうか…サード」

瞬間だった。男の手の平に光が迸り次の瞬間には、南君の頭はスイカの様にはじけ飛んでいた。

 

「え…あ…」

南君の頭の一部が私の身体に降り注ぎ服を赤く染めていく。

 

「…あ…あ」

足元に転がった眼球を見ながら私の頭の中は真っ白に染まり、瞬間視界は真っ黒になった。

 

 

 

 

 

 

俺の人生は、意味の分からないものだった。事故を起こし頭を強く打ったことは、ハッキリと覚えている。

 

「…気が付けば、知らない家の子供になってたか…」

まるで、映画や小説の様な話だ。しかし、現実には俺の身に起こっている事だった。

コレが、転生じゃないか?と理解したのは、高校生の頃だった。偶然読んだ本の中に同じ様な状態の人間の話があったのだ。それまで、コレは長い夢だと心のどこかで思っていたモノが簡単に砕け散った様な気持ちになった。

 

「でも、それだけなら幸せだったかもな」

次に俺は、大事故に遭ってしまった。その時起こった俺の身体の変化を今でも忘れられない。俺の四肢は、吹き飛んだ筈だったのだ。しかし、気が付くとまるで自動で戻ってくる機械の様に肉片が集まり再生した。

 

不死身。

 

その事が理解出来た瞬間の絶望は、計り知れなかった。

 

自分は、人間じゃない。

 

得体のしれない化け物だと…でも…。

 

「時間が解決してくれた…」

化け物な自分にも友達がいたし家族もいた。自分が黙ってさえいれば、絶対にばれる筈の無い秘密だと考えた時とても楽になった事は、今でも覚えている。

俺は、幸せになれるそう思えた日常だった。そして、きっと死ぬまでそれが続くのだと心から信じていた。しかし…。

 

「…あいつのせいだ…あいつが…」

俺の前に現れた男は、いとも簡単に俺の日常を破壊しつくした。

俺は、日常を守るために忌まわしい力で戦った。しかし、アイツには全く敵わなかった。

俺自体も再生能力の他に圧倒的な破壊力を持つエネルギー弾を構成出来たのだが、あの男には、それすらも全く通用しなかった。

男は自分をファーストと名乗った。そして、今回の指示を書いた手紙だけを残し去って行ったのだ。俺の全てを人質にとって。

 

「…だから、俺は日常を取り戻す。そのために…」

詰めなおしたサードの死体(仮)の袋を今入って来たそいつに投げつけた。

 

「…」

侵入者は、ただ、黙って袋を手で軽く弾いた。ただ、それだけだった。

 

「『…クフ』」

サードの断末魔的なくぐもった声と爆音が響き渡りサードの身体が真っ二つに左右に吹き飛んだ。

 

「…」

侵入者は、恐らく何を引き裂いたのか理解出来ないでいるだろう。その証拠に顔色一つ変えなかった。

 

「ハハ…マジかよ…」

話には聞いていたが、本人を前にすると良く分かる。

圧倒的な力。

 

「…」

そして、圧倒的な怒り。殺意。恐らく俺は、死ぬだろう。再生能力が通用するのか分からない怪物を相手に死ぬのだろう。…だけど。

 

「俺は…」

それから、先は…………。

 

 

 



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第70話 不死身の殺し方。

友達が非常にうざいメールを送ってきます…どうしよう…

まあ気にせず頑張ろう!!という事で、70話です。


 

「不死身の殺し方?」

病院の屋上にて、悪意とクダキと言う少女が、ベンチに座り何かを話していた。悪意は、術後にも関わらず此処に居るものだからきっと病院の方々に多大なる迷惑を掛けているであろう。

 

「『うん。ほら、ファーストやサードって基本的には不死身じゃん?そんな奴らどうやって殺せると思う?』」

 

「サードについては、分かりますが、ファーストも不死身なのですか?そうは、見えませんでしたが?」

 

「『そうだね。ファーストは、厳密には不死身とは違うね。でも、まあ良いじゃん?そんな些細な事なんて』」

 

「はあ?」

クダキは、お茶の入ったコップをジーッと見つめ思考に入る。

 

「…………………………………………………」

のどかな日だな~と悪意は、夕焼けが綺麗な空を見上げながら心なしか笑っていた。

 

「…………………………………………………」

あ!猫だ!って!大量の猫だ!怖い!と悪意は軽く戦慄した。

 

「…………………………………………………」

ああ!クダキちゃんが大量の猫に埋め尽くされてる!と悪意の本気の焦り声が屋上に響いた。

 

「…………………………………………………」

ほら!ほら!こっちに来い!と悪意の猫陽動作戦が成功し、クダキを救出に成功する。

 

「…………………………………………………」

って?何こっちを見てるの?って!大量の猫が襲い掛かって…うわ!!と悪意が猫達から本気で襲い掛かられていた。

 

「…………………………………………………」

よーし…良いだろう…ボクの本当の力を見せてやろう!悪意の本質を知るが良いアハハ!!と悪意が猫相手に本気になっていると。

 

「…………………………………………………剣樹…」

 

「『にぎゃああ!!クダキちゃん!力使ったよね!ボクに向かって使ったよね!』」

全身から金属と血液を噴出した悪意は地面に伏せた。明らかに前より重症だった。

 

「…すみません…私には分かりかねます」

 

「…そうかい…」

猫を優しく撫でているクダキを悪意は、恨みがましく見上げると、地面の一部となったまま話し始める。

 

「『厳密には、不死身を殺す事なんて不可能だ。それゆえの不死身なんだからね』」

 

「それでは、答えが無いのが正解と言う事ですか?」

 

「『いや、確かに殺す事は出来ないけど、無力化する事なら出来るんだよ』」

 

「無力化ですか?」

クダキは、首をかしげるが悪意は、さらに続ける。

 

「『方法は、大きく分けて2つ』」

二本指を立て地面にうつ伏せのまま続ける。

 

「『一つ。相手を宇宙空間や異次元空間に幽閉する。いくら不死身でも“世界”から追放されたら死んでいるのと同じだからね』」

 

「なるほど…確かに何も為す事が出来なければ死んでいるのと同意義ですからね。コレが、ファーストやサード対策ですか?」

その言葉に悪意は、苦笑いを浮かべる。

 

「『いや、前者は、両方共戻って来れるだろうし後者は、ファーストなら問題なく対応してくるだろうさ。下手をすればサードも…』」

 

「はあ?では、もう一つの方法と言う事ですか?」

クダキは、そう言って悪意を起こしてベンチに座らせる。悪意は、既に虫の息だった。

 

「『いや、むしろもう一つの方法が一番難しい』」

ゲホっと、血の塊を吐き出しながら悪意は話を続ける。クダキは、テキパキと輸血用の血液を準備し点滴をセットする。ついで、地面の血液を片付け始める。

 

「地面の血液が取れませんね?どうしましょうか?」

 

「『方法は、超簡単なんだ…相手が再生するなら…』」

悪意の目には既に光はなかった。

 

「『再生が追いつかないくらいに相手を破壊すればいい…』」

 

「破壊?不死身をですか?そんな事…」

出来る訳が無い。クダキは、そう考えたが、悪意は口元を三日月型にして笑っていた。

 

「『そうだね。そんな芸当はこの物語の主人公と言っても言いファーストだって不可能だ。もちろんセカンドであるボクやサードだって不可能。それだけじゃない、“天使”だって、“殺人鬼”だって、“英雄”だって、“役立たず”だって、“万能”だって、キミにだって不可能だ。でも…ただ一人可能な人間…いや、化け物がいるんだよ…』」

 

「化け物?」

 

「『いや、語弊かな?ファーストやサードと比べると限りなく人間なんだけど、あの2人以上に化け物なだけかな?』」

 

「…意味が分かりませんが…」

 

「『今は、分からなくたって良いよ。恐らく今回の転生者らしき奴は、ファースト辺りが呼んだんだろう。生贄って奴かな』」

 

「生贄ですか…」

 

「『大方、再生能力に特化した奴を当てて来たんだろうね。化け物の力を見るために…』」

 

「ファーストは、“彼”を警戒している?」

 

「恐らくね。だからこそファーストは、危険を冒してまでボクに同盟を持ちかけて来たんだよ」

 

「同盟ですか…同盟?」

あっさりと言われた同盟と言う言葉に流石のクダキも少しの動揺を見せた。悪意は、相変わらず死にそうな顔色で、悪戯成功と笑う子供の様な顔になった。

 

「『内容は、いまから4年間の不可侵条約さ。4年間はお互いの行動に口を出さないし出せない』」

 

「こちらのメリットは?」

 

「ボク達の命かな?」

 

「…」

 

「『まあ、弱者が強者に組み伏せられるのも世の常だって言うしね。しばらくは、ファーストの行動を観察させて貰うとするよ』」

悪意は、そう言うとケラケラと笑いそのまま動かなくなった。

 

「…同盟ですか…裏切られる事を前提に考えなくてはいけませんね…」

クダキは、顎に手を当てて考え事をしながら屋上を後にした。その後ろに付き従うように猫の大群が彼女の後を追ったのだった。

 

屋上には、悪意の身体が力なく横たわっていた。

 

そして、ベンチには、悪意自身の血で“クダキ”と書かれているのが後日発見されるのだった。

 

 




という訳であと少しで日常編終わり!!頑張って投稿していきます…非常に遅い投稿ですが…

これからもよろしくお願いします。


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第71話 主人公の資質

 

この世は、理不尽で残酷だ。

 

死ぬ瞬間に俺は、そんな事を考えた。

 

たまたまお金が足りなくなり銀行に行ったまでは、良かった。

 

銀行強盗が突然入って来るまでは。

 

銃を突きつけられ一箇所に集めれれる。そして、妙な動きをすれば殺すと言われた。

 

もちろん動くつもりは無かった。

 

俺だってまだ死にたく無かったから。

 

暫くして警察が沢山やって来た。そして、銀行を包囲した。

 

強盗は、銀行に立てこもった。まあ、妥当な判断だろう。

 

暫くすれば、きっと警察が突入してきっと全員助かると誰もが思った。

 

夜に子供が泣き始めた。

 

まだ、小さな女の子だった。

 

お母さんは、その子を銀行に残し近くのスーパーに買い物に行ったらしかった。

 

しかし、誰もその子に構おうとはしなかった。当然だ誰もが自分の事で精一杯だったからだ。

 

その内強盗がイライラしながら彼女の前に立っていた。そして、怒鳴ったのだ。

 

「うるせえ!殺すぞ!」

と。明らかに逆効果であろう言葉を聴いて女の子は、更に泣き出した。強盗は、銃を突きつける。警察に囲まれ明らかに冷静さを欠いていた。

 

俺は、女の子に近づき大丈夫だと励ました。別に兄弟がした訳でも無かったが、その子をそのままにしては、置けなかったのだ。

 

そして、その子をなんとか落ち着かせる事が出来た。

 

気が付くといつの間にか朝になっていた。

 

まさか、銀行で一夜を明かす事になるとは、世の中分からないモノである。

 

2日が過ぎた。

 

いい加減に突入して欲しいと心から祈ったが、その日も警察は何もしなかった。流石にこの頃になるとお腹が空いてくるモノである。銀行内にもお菓子類などがあったが、殆ど強盗が独占していたため俺たちは猛烈な空腹に襲われていた。

 

誰もがイラつき些細な事で争いが起こった。

そして、矛先は一番弱い立場の者に集中する。

 

俺は、何とか冷静さを保ち女の子を守っていたが、強盗が入ってきたのはお前の所為だ!だの訳の分からない事まで言われ殴られる始末であった。強盗は、その間ニヤニヤと笑っていたのを覚えている。

 

そんな状況が変わったのは、数日後の事だった。警察が一斉に突入してきたのだ。なんでも、慎重派が止めていたらしいが世論に押され突入したとか…。

 

スモックが張られ辺りが白くなる。因みに催涙弾の発射されたらしく目がえらい事になった。

続いて、煙幕の中からゴム弾らしき弾が雨あられと飛んできた。何発か身体に命中し死ぬほど痛かったのを俺は忘れない。

 

しかし、これで、きっと全てが終わるだろう。そう信じて疑わなかった。

 

「畜生!皆死ね!」

突然タイプライターの様な音が響き渡った。と、同時に身体に走る激痛がその正体を分からせた。つまり、強盗は撃ったのだ。音はやむどころかまだ続いていた。一体何発あるんだ?そう考えた瞬間だった。

 

「う…お母さん!」

女の子が恐怖に耐え切れず飛び出して行ってしまったのだ。動けば弾丸の餌食だと言うのに…それが分からないのだろうが…。

 

「っ!」

案の定強盗は動いた獲物を狙ってきた様だ。獣か?アイツは?

あの子は、死んだな…そう心の中で合掌したが、次の瞬間身体が勝手に動いたのだ。

俺は、女の子を抱きしめた。瞬間何発もの弾丸が身体を貫いた。

 

「…バカか…俺は?」

まさか、自分の最後の言葉が自分の罵倒などとは夢にも考えて無かった。俺と同時に女の子も倒れたが、何発か、俺の身体を貫通した弾に撃たれた様だが、泣くだけの力はある様だと安心した。

そして、強盗が取り押さえられるのを最後に見たあと俺の意識は途絶えた。

俺の人生はこうして終わったはずだった。

 

 

 

 

その後に悪夢以上の現実が待っているなって思った事も無かった。

 

 

「決着は、付いたか…」

真っ赤に染まった赤い工場の中に一人の男が佇んでいた。

 

「…圧倒的な再生能力でもこの様ではな…」

壁一面にまるで、ペンキの様に広がっているものがまさか元々が人間だったとは誰も思うまい。

 

「“特殊技禁止”がまだ健在な所を見ると純粋な力技か…恐ろしい…」

男は、顎に手を当て考え込む。そして、未だに気絶している少女を見やる。

 

「今回は運が良かった様だな…バニングスの令嬢…」

そう無表情で言い捨てると、左右に散らばっていたサードこと南一夜の遺骸を集め新しい袋に詰めなおした。その際もう一度頭部を破壊し直後の再生を防いだが。

 

「…失礼いたします」

すると、若い男がやって来た。アリサを誘拐した男である。

 

「どうやら、“姫さま”が此方を特定した様子…いま、高速で此方に向かっている気配が2つほどございますが…」

 

「…此処に長居する理由はもう無い。撤収するぞ」

 

「はっ…して、今回の煮はどの様に処分致しましょうか?」

 

「いつもの様に…丁重に“育てて”やれ」

 

「はい。それでは、私は、これから例の場所に向かい貴方の迷惑にならない様に消えるとします。これまで、お世話になりました。“次”の私も役に立てれば幸いです」

 

「…感謝する。安心してくれ。必ず…」

その言葉終わるか終わらないかの直前に男たちは、空気のように消えた。

 

 

 

この物語には、主人公がいる。

 

主人公の素質とは…。

 

正義を貫く心か?

 

悪を貫く心が?

 

復讐心か?

 

それとも偽善か?

 

結局の所まだ、それは、分からない。

 

 



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第72話 終わりの後地

お久しぶりです。

バイトや勉学の都合上なかなか投稿ができませんでした。すみません。

では、どうぞ!


 

優しい感じがした。

 

とっても暖かい誰かの気配…。

 

それが、何かは分からなかったけど。

 

とっても…頼もしくて、信頼出来る。

 

そんな感じ…。

 

「アリサ!アリサ!」

そんな声が、私を呼んでいた。その声は、聞きなれた声だった。

 

「アリサ!しっかりしろ!」

最初に感じた気配とは違うけれど信頼出来る人の声だ。

 

「…ヴィータちゃん?」

バリアジャケットという魔道師の防護服に身を包んだ赤い女の子が私の身体を揺すっていた。

 

「アリサ!目が覚めたのか!何処も痛くないか?怪我とかしてないか?」

ヴィータちゃんは、とても心配している表情で私を質問攻めにする。だけど、それが彼女らしいと思えてしまう。

 

「…うん。大丈夫だよ…どうして此処に?」

「ナギサが南に付けてた発信機の破片を見つけてな、鈴音の予知夢とポチの鼻で此処まで来たんだよ!とにかく無事でよかった…本当によかった」

泣いているヴィータちゃんの頭を軽く撫でて落ち着いてもらう。そして、私に起こった事を思い出す。たしか、誘拐されて…いや、その前に…。

 

「ッ!!」

その時コレまでに起こった出来事が洪水の様に脳内へと流れ込んできた。

 

撃たれる南君。

 

首の折れた南君。

 

頭の吹き飛んだ南君。

 

完全に頭部の消失した南君。

 

恨めしい目で私を見ていた、南君の眼球…。

 

「南君は!」

全てを思い出し吐き気も込み上げた。だけど私の所為で撃たれた南君を放って置ける訳も無い。直ぐに辺りを見渡すが、南君の姿は何処にも無かった。

 

「ああ…南な…」

ヴィータちゃんが少し気の毒そうに顔を伏せた。

 

「リンの奴が、急いで此処に来たもんだから、足元を見ないで着地してな…顔面を粉さ…顔面を踏んづけてな…重症だったから先に病院に行って貰ったんだよ…」

 

「重症…そんな…だって、南君は頭を銃で撃たれて…」

 

「ああ、奇跡的に一命を取り留めたんだ。ほら、奇跡的な起動で弾丸が経過してて…」

 

「その頭が吹き飛んだんだよ!首も折れて変な方向だったし…」

 

「アハハ…キセキデスヨ?」

ヴィータちゃんが何故かうん臭く見えた。

 

「目が…目しか残らなかったんだよ!」

 

「…キノセイデスヨ…アリサハツカレテルンダヨ」

実に厄介そうな表情を一瞬浮かべた後ヴィータちゃんは、真剣な表情になった。

 

「所でアリサ…お前らを攫った犯人は何処にいる?」

 

「へ?」

ヴィータちゃんの言っている事の意味が分からなかった。てっきりヴィータちゃん達がやつけたのかと思っていたのだ。

 

「此処に来たときから誰もいなかったんだよ…てっきり罠かと思ったんだけどな…」

辺りを警戒するような感じで左右を見る。しかし、あの男はいなかった。

 

「まあ、とにかく一応近くにいた斉藤にバニングス家に連絡をして貰ってるから暫くしたら迎えが来るだろうさ」

その言葉に私の鼓動は高鳴った。斉藤…?

 

「斉藤が此処に来てるの?」

 

「ああ。近くにいるのを確認してな。私らの事情を話したら直ぐに…アレ?」

此処で、ヴィータちゃんが頭をかしげた。どうしたのだろうか?

 

「何でアイツ…真っ先に…アレ?」

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや…」

その時入り口近くで走る音が響いた。そして、一人の少年が姿を現せた。

 

「八神(小)!本家の連絡完了したぜ!」

その少年は、そのまま私へと駆け寄ると変わらぬ笑顔を見せた。

 

「大丈夫か?アリサ」

その言葉に私の何かが決壊した。

 

「大丈夫な訳…あるか!」

左フック。

 

「な!」

右ストレート。

 

「ガフ!」

ボディ。

 

「オエ!」

最後に回転蹴り。

 

「おかしい!」

見事に斉藤を“KO”しヴィータちゃんが私の腕を持ち上げた。

 

「ヒドイ…」

斉藤は涙目である。でも…本当に泣きたいのは私だった。

 

「斉藤…斉藤…進!」

 

「え!わー!ごめんなさい!」

突然飛び掛った私に身構えた斉藤だったけど…。

 

「怖かったよ!何処で何してたのよ!進!」

 

「…」

私を受け入れ優しく抱きこんでくれた。

 

「怖かった…本当に怖かった…南君は死んじゃうし…」

 

「生きてます」

 

「誘拐されるし…訳の分からない話をされるし…ウエ…ワアアアア!!」

涙で視界が塞がれてしまった。けれど…。

 

「…ゴメンな…本当にゴメンな…もう絶対にこんな事にはさせないから…」

進の暖かさに抱かれ不思議と怖くなかった。コイツがいたら何も怖くない様に思えるのだ。そして、私は迎えの車がやって来るまで進の腕の中で泣き続けた。

 

 

 

斉藤の腕の中で泣きじゃくるアリサにやっと素直になったな。などと歳相応な老婆心をみせていた、ヴィータは、壁の赤色について考察していた。

 

「気味が悪ぃ…」

工場特有の匂いか鉄の匂いが漂う中、かつて彼女が戦場で良く嗅いだ匂いが漂っていた。

 

血。

 

血液。

 

内臓。

 

一瞬我が部の再生特化の南のものかと思ったのだが…。

 

「アイツは…“無かった事”にするからな…」

壁の一部が不気味なほど赤く染まった壁を見上げながらかつての戦士は、考察する。そして、一つの結論へと辿り着くが。

 

「…ありえねえ…」

自分の考えに背筋を凍らせた。

 

「…人間の仕業じゃねえだろうが…もしそうなら…」

自然と震える身体を押え、この報告を誰に行えば良いのかを考える。

 

「…やっぱ、アイツしかいねえか…」

そう呟くと壁から目を逸らし再び犯人がいないかを確かめに辺りの警戒へと戻るのだった。

 

 



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第73話 デートの終わり

大変更新が遅れて申し訳ありませんでした。

これからも遅れる事がありますが、どうか見守っていてください。




目が覚めると、知らない天井だった。

 

「まあ、慣れてますけどね」

なんだか、理不尽に酷い目にあった様な気がする。最初の撃たれた時以外の記憶は曖昧だが、その後も身体に激痛が走った様な気がした。

 

「…さて、動くか…」

身体の動き辛さから、どうやら拘束されているらしい。目を下に向けると白い布で体中をグルグル巻きにされており傍目から見ればミイラの様に見えるだろう。

 

「誘拐犯の仕業か…しかし何で、拘束を?俺は、完璧に死んでいたはず」

比喩でも演技でもない。完璧な死体であったはずである。ばれるはずは…無いと思う。

そもそも、死体の定義とは、心拍の停止に始まり瞳孔の拡大、身体の損傷、その他諸々等多くあるが、俺の力によってそれらはクリアーされているはずである。特に身体の破損については、もっとも自身がある。

 

「まさか!…俺を標本に?…いや…ミイラに加工するつもりか!」

映画などで、殺した相手をミイラにや標本にして、売り飛ばすと言うのを見たことがある。バニングスさんを誘拐するような組織だその位しているだろう。

 

「標本やミイラなんぞに加工か…“大嘘憑き”で元に戻れるかな…」

なにせ、標本やミイラに加工されるなど人生初体験である。能力にも限度と言うものがある以上流石に無理かも知れないな…だって、ミイラや標本って、脳と別離するし…。

 

ならば、標本に変えられる前に脱出した方が良いだろう。

しかし…問題は、バニングスさんだ。彼女を見捨てて帰ってしまえば今後の俺の学校生活が暗黒面に堕ちる事は最早確定だろう。

助けるべきか…いや、しかし…最初の能力が完全に発動出来なかった事を考えれば敵は俺の能力を知っているか、弱める事が出来ると言う事だ。

そんな、得体の知れない相手を敵に回すのは危険だろう。

 

「やはり、ここは撤退か…どうせ、俺のなんて友達も居ないし…今更無様に帰って来ても…フフフ…どうせ、死んだ事を知っているのは、バニングスさんと犯人くらいだ。例えバニングスさんが無事に帰って来てもきっと…精神的なショックだと思われる…エヘヘ…エヘヘへ…」

そうだ、見捨てても良いじゃないか?そうだろう?南一夜。

 

お前は悪くない。

 

悪いのは、バニングスさんだ。

 

悪いのは犯人だ。

 

そうだ…。

 

そうなんだ。

 

『「“僕は悪くない”」』

 

「流石ね。その外道的思考は…」

 

「っ!」

早速逃げようと行動しかけた時、突然そんな声が聞こえてきた。まさか…黒幕か?

 

「………」

心臓に冷水が浴びせられた様に一気に体から体温が失せる。ここで、生きている事がバレる訳には行かない。意識を集中し死んだフリを続行する。

 

「南?死んだフリは、止めなさい」

 

「…」

やはり、奴らは俺の力の事は把握しているらしい。頭にまで、巻かれた包帯の所為で、声が聞こえづらいが、犯人は女性の様だ。声を聞くたびに心臓が悲鳴を上げている気がする。

 

「警告。止めなさい…」

 

「…」

死んだフリ。死んだフリ。

兎に角死んだフリ。

 

「…あ、そう。私の言う事が聞けないのね…」

凄まじい殺気が、全身に襲い掛かる。何だ?この殺気は?只者じゃねえ!

 

「さっさと…返事をしなさいよバカ!」

瞬間。俺の腹部に深刻なダメージが襲い掛かってきた。どうやら何者かが、腹部へと重い物を叩きつけたらしい。

 

「グフ…」

腹部。特に肋骨に深刻な被害があったらしく、耐え切れず悲鳴を上げてしまった。

ヤバイ。

 

「…おはようございます」

 

「はい。おはよう」

観念した、俺の言葉に普通に答える犯人。…つうか…。

 

「日野さん?」

 

「何?」

目の前に何食わぬ顔をした日野さんが腕を組んでいた。表情は、少々機嫌が悪い様だ。

ヤバイ。命の危険を感じる…。

 

「で?」

 

「えっと…」

日野さんが此処に居るという事は、誘拐の犯人は…日野家?

つまりは、バニングスさん…いや、バニングス家の令嬢を誘拐する作戦に利用されたのか?…いや、日野さんがそんな事をするか?

 

「…誘拐犯は…日野さん?」

 

「…」

その後、満面の笑みで、再び腹部に重い物を叩きつけられたのは、言うまでも無い。

 

 

 

腹部へのダメージを若干残しつつ何故この様な状態になっているのかを日野さんから軽く説明を受けた。

 

「つまり、俺の能力が発動しなかったと?」

 

「そうね。アンタの唯一の長所である能力が発動しなくて、全身の骨が在り得ない事になっていた上に顔面も粉砕されてて、心臓の弱い人には見せられない状態だったのよ?」

あまり想像したくない光景だな…。自分の事ながら感じるぞ。

しかし…俺の能力が発動してなかったとは…仮にも神様の様な人から貰った力だぞ?

“過負荷”の能力が消せない様に能力の無効化なんて出来るのか?

たとえ、“無効”の能力でも夢の例がある様に完全に無効に出来るとは思えない。

特に欠点である“大嘘憑き”ならば、なおさらだ。

 

「…まあ、良いか。考えた所で答えは出ないだろうしな。所で日野さん」

 

「何?」

 

「俺が元に戻らなかったのは、十分に分かった。でも、なんで、俺は包帯なんかでミイラの様に梱包されたんだ?」

正直、首しか動かせない様に縛られている為、時折やって来る日野さんの攻撃を防御出来ない。

 

「ああ、それね。リンちゃんが、南が元に戻らないって、慌てて駆け込んできてね。手遅れの人に処置するように医務室にあった包帯やら薬品で蘇生を試みたみたいなのよ」

 

「…成る程な。通りで、包帯の中から薬品の匂いがする訳だ…」

「まあ、本人に悪気は無かったと思うわよ?私は、放置してたら自然と元に戻るって言ったんだけどね」

鋭利な鋏を取り出し包帯をジョッキリと切ってくれたお陰で体が自由になった。起き上がり身体を観察すると薬品の為すこし赤くなった皮膚が現れた。

 

「むう…」

試しに赤くなった部位を“無かった事”にすると、皮膚の色は元の肌色へと変化した。今の所は異常なしらしい。

 

「リンは何処にいるんだ?」

俺の能力が発動していなかった時の状況を詳しく聞きたい。

バニングスさんに聞くのが実際は一番だろうが、今は事件後だ聞くのは酷だろう。それに原作キャラに関わるのは出来るだけ避けたい。

 

「リンちゃんなら、アンタが起きる少し前に疲れて眠ったわよ?3日間位眠らずに看病(?)してたみたいだから」

 

「3日間?俺は、そこまで元に戻ってなかったのか?」

 

「そうね。流石にヤバイと思って葬儀の手配をする所だったわ」

燃やされる前に目覚めて助かった。いや、本当に。

 

「まあ、半分冗談はこのくらいにして、」

 

「何が冗談だったの!」

 

燃やす事?それとも葬儀の事か?

 

「南…ゴメンね」

 

「はへ?」

やがて来る衝撃の言葉に身構えていた俺は日野さんの以外な言葉に思考が停止した。

謝った?あの日野さんが?

 

「今回の事は、完全にこちら側のミスよ。完全に犯人の力を見誤ってた」

日野さんは、こちらに背を向け淡々と言葉を続けた。

 

「その所為で、アンタが死んでしまった…死んで無かったけど…結果だけ見れば死んだも同じだった。…私の所為でアンタは…」

 

「えっと…日野さん?」

日野さんの言葉に何故か、冷たい汗が背中を伝った。訳が分からない…日野さんが一体何を言いたいのかが分からない。

 

「…つまり?」

 

「アンタは、暫く入院って事よ」

 

「へ?」

入院?何故?俺の体は既に全快してますが?

 

「今までの様に直に復活したなら、誤魔化せたんだけど…ほら、3日間も死んでたじゃない?医者とか看護婦さんとかの噂が結構広がちゃってね…アハハ…」

守秘義務は何処にいった?

 

「こっちからも圧力をかけたんだけど…既に時遅し…バニングスにも伝わってると思うし…」

バニングスの情報網がどれ程か分からないが、それに瀕死とあって、学校に登校したとなれば、確実に人外だと思われるだろう…原作キャラや転生者達に目をつけられかねん。

 

「あ…アハハ…」

 

「アハハ…」

日野さんと俺の乾いた笑いが部屋に響き渡る。互いに今回の失敗について、頭で考えているのだろう。俺自身ももっと気を付けていれば良かった。自分の力を過信しすぎたのだ。結果は、この有様だ。

 

「と、言う訳で…はい」

日野さんはそう言って、紙の束を渡してきた。表紙には、見た事の無い建物が写っている。

 

「…なに?コレ?」

 

「流石にこの病院は、不味いでしょう?アンタの能力を知らない人が見たら軽くアンデット扱いよ?サイトウハザードならぬミナミハザードよ?」

確かにそうだろうが、なんか、言葉だけ聞くと新手のイジメっぽいな。学校でミナミ菌だ~感染するぞ~とか言われそうだ。

 

「この病院だったら、完全に日野の支配下にあるからその心配も無用よ。スタッフもウチ出身だけだし」

 

「?」

ウチ出身?どう言う意味だろうか?

だが、俺の能力がバレる危険性が無い方が良いに決まっているし…それに…。

 

「因みに…全治何ヶ月?」

 

「…資料とかを見ても…最低1年って所かしらね…」

 

「い…1年…」

早く学校に復帰したいしな…アハハハ…はぁ…。

 

 

 

 

こうして、俺の始めてのデートと言う一大イベントは、俺の知らぬ所で勝手に進み、そして終わった。

 

このデートで俺が手に入れたモノは、1年の禁固刑の様なモノだった。

 

 

 

 

 

 

デートなんて…もうしない…したくない!

 

 

 




次の話で、日常編は終了です。



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番外編 デートのオワリ

「ナギサ!一夜が…一夜が!元に戻らない!」

リンちゃんが、そう言って赤黒い袋を抱えて戻って来たのは、1時間前の事だった。袋の中身を確認すると惨殺死体の様に滅茶苦茶にされた男の子の死体が出てきた。最近の戦いの所為でグロ体勢も付いてきた私にとっても目を背けたくなるような酷い状態だったのだ。

 

「ねえ…これ…南なのよね…?」

 

「ああ…間違いない…一夜だ…」

顔面の損傷も激しく人相が分からなくなっており、更には、身体が二つに切断されていた。どちらも人間にとっては、致命傷と言っても良かった。

 

「私の所為だ!急ぎすて、地面を確認しなかったから…」

「落ち着いて!リンちゃん!大丈夫だから…それに体が二つに切断されている時点でアウトだから」

南の耐久力がどの位なのかは分からないが、少なくとも身体を分断されて生きては生けないだろう。少なくとも一回は死ぬだろう。

 

「それに、ほら、脳も無傷みたいだし、アイツには“大嘘憑き”って言う隠し玉もあるから大丈夫よ」

脳味噌の損傷が関係するのかは解らないが、少なくとも南は死んだとしても“大嘘憑き”と言う全てを“無かった”事に出来る力があるのだ。確かに顔面の損傷も酷いが、そう簡単に死にはしないだろう。

 

「そ…そうか…」

今だに不安そうな表情を浮かべるリンちゃんは、きっと優しい子なのだろう。少なくとも我が部の中では、南を本気で心配するのは、リンちゃんと鈴音ちゃん位しかいないだろう。

 

「とにかく、落ち着いて。まずは、崩壊した顔面と体を包帯で固定しましょう?」

 

「あ…ああ。スマナイ…柄でもなく取り乱してしまった」

 

「良いのよ。今回は、異常事態だったし…」

今回の事件は完全に予想外だった。この平和な街中で南を射殺しバニングスを誘拐だなんて完全に想定外だったのだ。結果的には、南の異変を察知出来たから良かったものの…もし対応が遅れていたら…バニングスの令嬢が死んでいたかも知れないのだ。そうなれば…。

 

「…いや…今の方が不味いか…」

今の所犯人の目星すら付いていない。令嬢と一緒にいただけの南を撃ち殺してまで、誘拐したのに開放があっけなさ過ぎるのだ。

 

「“こっち”が先に見つけたのが痛いわね…。南も生きてるし…」

監視はバニングス側も行っていた。そして、異変に気付いたのは日野側…。私にとっては最悪の展開だと言って良いだろう。

 

「早急に手を打つ必要がありそうね…全く…」

友達が死に掛けてまで、家の保身にかかる自分が嫌になる。例え生き返るとは言え…。

リンちゃんに包帯と薬品で剝製の様に梱包される南を見ながら私は溜息をついた。

 

 

 

 

 

事件から数時間後、私は、南を病院へ無理やり隔離しその後、リンちゃんと別れ日野家のマンションへと向かっていた。後藤とヴィータちゃん、鈴音ちゃんには、今日の所は帰ってもらった。

 

「…」

自宅のマンションの前に見知った顔が見えてきたのを確認すると私は、足を止めた。

 

「…あらあら…こんな時間に何の御用かしら?」

出来るだけ単調に感情を見せずに言葉を選ぶ。

相手は、その言葉を特に気にせず同じく単調に話す。

 

「また、お前らか?…」

言葉に感情は込められていないが、辺りに立ち込めるのは軽く殺気だ。それも只の殺気では無い。確実に害意がある殺気だった。

 

「何の話?」

 

「今回の話だ。誘拐と殺人未遂…また、お前らか?」

 

「“また”?何の話かしら?私達は今回は何もしていないし、それ以前も何もしていないわよ?」

私の前の相手は、私の目をしっかりと見つめ内心を探るように目を細めた。

 

「本当に違うのか?」

 

「ええ。今回に限っては、100%家じゃない。少なくとも私は関係ないわ」

 

「…」

私の言葉に納得したのか、しないのか、腕を組み考えこんだ。しかし表情は、相変わらず厳しかった。

 

「どうしたの?いつものアンタらしくないわよ?」

私は、目の前のそいつに話しかける。そいつは、普段は、そんなに疑り深い奴では無いのだ。恐らく今回の事件で先走った行動に出たのだろう。それだけ大切な存在が危険にさらされたのだ。

 

「………悪い。少し冷静になる時間をくれ」

 

「ええ。アンタは、こんな所よりお嬢様の近くにいてあげなさい。話なら別の日に聞いてあげるから…」

 

「…南は、どうなんだ?アリサは錯乱してたが」

 

「まあ、重症ってのは間違い無いわね。でも大丈夫よ死太いからアイツ」

 

「そうかい。なら、心配ねえな」

そいつは、少し笑うと私に背を向け帰って行った。きっと、完全には信用してくれては、いないだろうが…今日の所は、コレで十分だ。私は、そう考えマンションへと足を踏み入れた。

 

 

 

ある程度の情報操作の指示を出した後、私は電話に手をかけた。

番号を押し呼び出しのコールが鳴る。

 

『はい。何で御座いましょう?お嬢様?』

 

「…相変わらず、1回で出るのよね。ジィは…何?常に電話を確認してるの?」

呼び出し1回目で目的の人物が出た。しかも現在の時刻は夜の1時半である。

 

『ホッホッホ。この歳になりますと何かと情報が必要になります物で』

 

「…なんの情報よ?」

 

『ジジィの秘密に御座いますよ。所で、ご用件は何で御座いましょうか?』

 

「今日の事件の事は、知っているわよね?」

 

『ええ』

ジィの情報網は、私にも解らない程巨大で、広範囲だ。だからこそ私は今日の事件を知っていると踏んでいた。電話越しにジィの笑顔が浮かんでいるように感じる。

 

『“バニングス”の方も大変でしょうな。ホッホッホ…まぁ、“日野”に被害が来なくて幸いでしたな』

 

「とばっちりは、来るだろうけどね…」

 

『お嬢様。ガンバですぞ』

 

「アッハハハ~。人事だとでも?」

 

『左様で御座いますか。お電話を頂いたという事は…分かりました。今すぐ荷物をまとめて帰還いたしましょう』

 

「…ゴメンね…せっかくの休みだったのに…」

滅多に聞けないジィの疲れた声に申し訳なさがこみ上げてくる。ジィの休みは、それ程少ないのだ。盆と正月くらいの休みしかないと言ったが、実際はもっと少ない。

 

『いえいえ。“日野家”のお仕えして、数十年。“日野家”の為ならば、休みすら要らない。使用人全員の気持ちで御座います』

 

「それは、言いすぎよ。全く…」

 

『ホッホッホ。では、本日の9時頃には、帰還いたしますので』

 

「うん。了解」

私は、そう言うと電話を切った。

 

「…」

部屋の中に静寂が訪れる。私は、ベットにもたれ掛かる。

 

「…」

今日は、色々あった。

いや。ありすぎた。初めは、南のデートを笑いながら皆で見て終わるはずだった。

だが、結果としては、“バニングス”にとっての大事件に出くわす事になった。

ついでに、南の様子もおかしくなっている。

 

「事件の対応…犯人…目的…ついでに南の事か…やる事が多すぎるわよ!全く!」

手身近にあった、枕を投げ飛ばし天井にぶつける。枕は落下し私の頭に命中した。

 

「あぅ…」

疲れが、津波の様に押し寄せてくる感覚を感じながら私は、目を瞑る。

取り合えずは、私に出来る事は全てやった。後は、ジィや使用人の人たちに任せよう。私は所詮は、小学生の小娘でしかない。今、出来る事は限られているのだから。

 

「…」

そう考えた所で、私の意識は闇に落ちた。

 

 

 

夜の廃工場。

女の子。

呼び出し。

ロリ。

さて、紳士淑女の皆様方。この組み合わせをどう思いますか?

 

「♪♪♪」

僕こと後藤聖一は、小学4年生の男の子である。事件後、日野から解散命令が出た後にヴィーたんから、この場所に来るように指示を受けたのだ。

 

「身の危険を感じちゃう!」

 

「…物理的に感じさせてやろうか?」

止まらない思春期の妄想を良い感じに壊すのは、我が愛しの“永遠の少女(エターナルロリータ)”であるヴィーたんだ。今日もエスカリボルグがよく似合っている。

 

「ごめんなさい」

流石にそれで殴られたら妄想所か、下手を打てば天国に飛ばされかねないので、真面目になろうか。

 

「で?ここが、現場ってわけね」

 

「ああ」

僕達が居るのは、時間的に言うと昨日事件があった現場である。時刻は、現在1時位か。門限のある僕にとっては、一応電話をしているとは言え結構な時間である。

 

「どう思う?」

ヴィーたんの言葉から、現場を見渡す。

廃工場と言う名に相応しい程荒れ果てた現場だった。錆びた鉄パイプが散乱し僕の腕ほどある鎖が天井から垂れ下がっている。オマケに凄くホコリが俟っており目や鼻が痛い。目を凝らせば、猫やネズミ。訳の分からない虫等が這いずり回っている。正直あまり長居はしたくない現場である。

 

「…」

その中でも一際目を引くのは、工場の壁にこびり付いた大きな染みであった。暗くて色はよく分からないが、吐き気を催す匂いと不気味さが、伝わってくるのが分かった。

 

「正直よく調べないと分からないけど…ヤバイ…」

僕自身何度も人間を撲殺して、内臓の匂いを嗅いでいるが、やはり慣れるモノではない。しかも…もしコレが、人間だったならば…常人の感覚では考えられない程の…。

 

「とにかく…詳しく調べようか。ヴィーたん手伝ってくれる?」

 

「あ…ああ」

どうすればこうなるのかが察しがついているであろうヴィーたんの顔は少し青くなっている。“バニングス”さんや“南”を襲った犯人かそれとも別の犠牲者は分からないが、エスカリボルグを使った所で、此処までにするには時間がかかり過ぎる。つまり犯人は、人間を長時間かけて磨り潰したのだ。

 

「所でよ?私もついノリで後藤をよんじまったけど…どうやって調べるんだ?」

 

「うん。それはね…ヴィーたん!」

おなじみ天使のチート道具の説明に入った所で、只ならぬ殺気を感じヴィーたんを抱え、跳躍する。

 

「って!わ!」

予備動作なしで急に跳んだモノだから、ヴィーたんはビックリしていた。うん。可愛いなぁ~。って!いかんいかん!

 

「…」

目を凝らし殺気のした方を見やる。

 

「おい!どうした?急に?」

 

「…ゴメン。ちょっと黙ってて…」

殺気に気づいていないのか、ヴィーたんは、訳の分からない様な表情をしていた。

 

「…何かいるのか?」

でも、僕の表情を読み僕と同じ方向を見やる。そして、僕へ無言でエスカリボルグを差し出した。

 

「誰だ!出て来いよ!」

工場の中に僕の声が不気味に反響する。殺気は消えていないが…。

 

「っ!」

殺気は消えないどころか、更に数を増していた。その場所は…地面!

 

「ヴィーたん!ゴメン!」

ヴィーたんを抱え上げ、今度は天井に下がっている鎖まで飛び上がる。天使化はしていないが、これ位の身体強化はお手のものだ。

 

「って!何だよアレは!」

腕の中で、上がった悲鳴の様な声に反応し僕は下をみる。そこにあったのは…。

 

「地面が…蠢いてる?」

 

「いや…大量の蟲だ…」

さっきまで僕たちが居た工場の地面には、何万匹という数の蟲が湧いていた。一匹は1ミリに満たない蟲だったが、それが、地面を埋め尽くす程現れたのだ。

 

「か…痒い!」

ヴィーたんが身体を動かしてそう言った。同感である。僕も身体が痒くなってきた。

 

「あの蟲は、此処に来たときにいた蟲だったよね。いつの間にあれだけ増えたんだ?」

蟲は、壁を伝い天井も埋め尽くした。完全に“悪夢”である。

 

「ちっ!」

僕は、エスカリボルグを強く一振りする。すると、ソニックブームの様な風が巻き起こり近くの壁を大破させた。明らかに事件現場の破壊だが、仕方ないだろう。

 

「跳ぶよ!」

 

「あ。ああ」

今度は、しっかりと伝え、壁の穴に向かい跳躍する。蟲が壁の様に阻害するが、再び風圧で押しのける。

 

「舐めるな!」

外も同様に黒い蟲が蠢いていた。が何とか、エスカリボルグで蹴散らし退散させる。

 

「うおおおおおおおお!!!」

正体不明の蟲は、それでも僕達に向かい群がってくる。そのたびに僕は、ソニックブームを起こし蟲をはじき飛ばす。

 

「後藤!このままじゃジリ貧だぞ!」

ヴィーたんの焦りの声が聞こえるが、まさにその通りだった。

 

「転生者…いや、文芸部的にいうと、超能力者の仕業か!」

蟲は、払えども払えども群がる。蟲を操る力か?

 

「…何のために俺らを襲う?…くそ!考えたって仕方ないか!あんまり使いたく無かったけど…仕方ない!」

僕は、敵の位置を探るのを放棄し空へと意識を向けた。そこには、雲一つない空が広がっている。

 

「はっ!」

僕が、空を睨み付けた瞬間。

 

「は?」

ヴィーたんの驚きの声と共に滝の様な豪雨が降り注いだ。天使の力の一つである。天候のコントロールだ。その気になれば、この世を氷河期に出来る力である。雲一つ無い空から、豪雨を降らせるくらい訳ない。

 

「コレくらいか」

大量の蟲が大量の水に流され黒い渦を巻きながら排水溝や道路に流れこんだ。完全に地面から蟲がいなくなるのを確認し、ヴィーたんを地面に下ろす。

 

「………」

辺りを警戒しながら見渡すと、どこかから拍手が聞こえた。僕は、音を頼りに暗闇へと目を凝らす。すると、闇の中から一人の女の子が現れた。

 

「は?」

 

「なっ!」

僕とヴィーたんの声が重なる。驚きと動揺の音色が辺りに響いた。

 

「お見事です。流石は、天使と言った所でしょうか。私の蟲をこんな方法で駆除するとは…予想以上に読めない方のようですね」

女の子は、クスクスと笑い僕を見据える。その瞳には冷たさすらある。

 

「私の姿を見て同様なされたでしょうが、私は彼女とは、別人ですので悪しからず。まぁ、他の可能性をヴィータさんは考えているようですが、先に宣言しますと完全に的外れですので」

女の子は、余りにも無防備に近づいてくる。この距離ならば、僕やヴィーたんの射程圏内なのだが、僕達は何故か動けなかった。罠とかそんな物ではない、何か別のプレッシャーが身体を固定していた。

 

「えーっと…僕達に何の様?」

 

「はい。こちらを調べられるのは、少々マズイので、その足止めを…」

女の子がそこまで、言った所で、何か凄まじい音が僕の身体から発せられた。

 

「は?」

何故か辺りがユックリ動いている。僕は、自分の身体を見て納得する。

身体が、横から折れていた。完全に“くの字”に曲がっている。

誰が僕の隣にいた。そいつの足の位置から恐らくそいつから蹴られたのだろう事が分かった。変化前とは言え僕の身体は頑丈だ。普通はこうはならないはずだ、その上僕に気付かれる事無く近づくなんて至難の業の筈だった。つまり…。

 

「在り得ない…」

女の子に気を取られた隙に接近し純粋な脚力だけで身体を粉砕したのだ。しかも、ヴィーたんは、まだ気付いていない。

 

「…手伝いに来ました」

最後に時間が戻りそんな声がハッキリと聞こえたと同時に僕の身体はコンクリートの壁を突き破り完全に粉砕された。

走馬灯なんて、見る事も無く僕の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

廃工場の前に二つの骸が転がっていた。その骸を気にした風もなく二つの影が対峙していた。

 

「…流石ですね。“天使”と“騎士”を一瞬で」

少女は、先程の惨劇の感想を淡々と述べた。

 

「この位、大した事ではありません」

男は、そう言うと建物へと移動し建物に手をかざした。すると、建物は一瞬で燃え上がった。

 

「“天使”は、本気では無かった。“騎士”は、我々の敵にはならない。ただ、それだけの事です」

 

「…成る程。ところで、これからどうするつもりですか?二人も殺してしまいましたが?」

そう言って、少女は、骸へ視線を向ける。少女からすれば、二人とも戦っていれば、只では済まない相手であった。それを目の前の男は、一瞬で屠ったのだ。強い事は、聞いていたが、正直ここまでとは思いもしなかった。背中に冷たい汗が伝った。

 

「簡単です」

少女の問いに男は答える。

 

「この事を“無かった”事にすれば良いんです」

赤く燃え上がる工場の炎に照らされながら男。ファーストは微笑んだ。

 

 

 




亀更新ですみませんでした。ようやくデート編終了です。


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