とある提督の日記 (Yuupon)
しおりを挟む

第1章 とある少年の鎮守府日常
01 とある提督の日記


 ○月×日、雨が鎮守府に着任しました。

 

 不味い事になった。

 何から書けば良いのか分からないので、とりあえず全部書くことにする。

 高校の友達と海へ釣りに行ったんだが、その時に近くにあった鎮守府が目に入った。

 横須賀の鎮守府だったっけ?良く分からんけど、近くに見えたその建物に俺達は興奮した。

 深海棲艦。人類が艦載機などを飛ばしても勝てなかった相手と唯一戦える兵器。艦娘?だっけか。それがある事を俺達は知っていたからだ。

 

 んで、なんと言うか俺達の誰かが中に入ってみない?と話を持ち出して、最終的にはジャンケンになって俺が入る事になった。

 俺としては怒られるのも嫌だし入りたくなかったのだが、ノリ悪いと言われるのも何か嫌だったので仕方なく鎮守府に侵入したんだけど……、まぁ当然の如く見つかったんだよね。

 

 防犯のベル鳴らされて、警備員らしい人に追われた。

 逃げている時に鎮守府の窓の外を見たら俺の友達がトンズラしてて、見捨てられたと思うとともに怒りが湧いたけど俺は何とか逃げ続けた。

 

 途中でメチャクチャ可愛い女の子達(武装してる)に追われて、最後は発砲されたから本気で、本気と書いて本気(マジ)で逃げたね。

 

 うん、怖かった。本気で死ぬかと思ったよ。そして逃げ続けてたんだけど、その途中になんか分からん小ちゃい生物に建造してとか言われてパソコンを適当に弄って、何かその近くにあった画面にゲーム? だったのかな。

 俺を追いかけてきた女の子達と似た武装をしていた女の子達がなんか化け物と戦っている映像が映ってて、面白そうだなーと、プレイしてみたら完全勝利したんだよね。うん、逃げてる時にやる事じゃなかったけど。

 

 んで、気がついたら捕まえられてお偉いさんの部屋の前。ギリギリ携帯で日記書いてますけど、恐らく俺は警察に引き渡されるだろう。

 グッバイ、俺の日常。

 

 

 

 ○月△日、外見てみろ、雨降ってんぞ。

 

 なんか知らんけど、立派な部屋を用意されてその中で待機するように言われた。

 訳が分からん。逮捕するんじゃねーの?

 

 それと、俺を追いかけてきた女の子達が何故か謝ってきた。

 侵入したのは俺の方だったのでその事を謝ると何故か恐縮された。解せぬ。

 あと、妙に視線を感じる。食堂に行ったら凄いガン見された。

 

 ……にしても俺を見捨てたあいつら後でどうしてやろうか。

 

 あ、そうそう。何か、歩いている時に「なのです!」と言っている女の子が俺にぶつかってきた。

 目にゴミが入って慌てて走ってしまったらしい。凄い謝られた。

 そういう時は慌てないでゴミを取ることを先にした方がいいよって教えたら次からは気をつけます! って言ってたけど大丈夫かな?

 ……にしても、何で海軍にあんな子供が居るのだろうか。

 

 

 

 ○月□日、天気は雨だ。異論は認めん。

 

 今日も何故かあの立派な部屋で一日を過ごした。監禁にしては自由過ぎるけど、何か外には出られないらしい。

 独房代わり?にしては立派過ぎるし待遇が良いよな。

 

 あ、それと今日、俺を尋ねてきた人が居た。

 横須賀鎮守府、提督。階級は大佐らしい。お偉いさんの登場にとうとう俺も終わったか……と人生の終わりのような目をしていたら何故かお礼を言われた。

 

 何か知らんけど戦いに勝ったとか、大和が建造出来たとか。それからあのゲームは面白かったか? 的な質問をされた。良く分からなかったので適当に答えたら凄い驚かれたのを覚えている。

 あ、勿論ゲームは面白かったしパソコンは俺にとって無くてはならないものって伝えたけどね。

 

 それと、別れる時に今度やって欲しい事があると頼まれたんだけど一体何なんだろ?無茶振りだったら怖い。

 

 あ、そうそう。昨日の「なのです!」の子がドアの前でウロウロしていたので声を掛けると、何かクッキー貰った。

 お礼らしいけど俺何かやったっけ?見事な指揮でした、とか言われたけど良く分からん。

 それから今度、第六駆逐隊を紹介してくれるらしい。姉妹なんだそうだ。

 「なのです!」の子が話す駆逐艦の細かな知識と役割に最近の子供はやけにリアルなごっこ遊びをするものだ、と少し驚かされた。

 

 そして帰って行くときに「本当にありがとうございました!」って頭下げられたんだけど、俺何もやってないというか身に覚えが無いんですけど。

 ……にしても子供は良いな。やっぱり心の安寧に繋がる。

 

 

 

 ○月☆日、雨でも……良いよね?

 

 元帥って人に会わされた。無精髭が似合うお爺さん。

 なんつーか威厳が凄いあった。あぁいうのが軍人ってやつなのかな?

 横にはナイスバディなお姉さん。名前は長門と言うらしい。

 

 あんな爺さんでさえリア充かコンチクショウ! 本人は秘書とか言ってたけど長門さんは頬を染めてたぞリア充爆ぜろ!(以下、暫く何かを書き殴った跡)

 

 ……ニコニコとした表情でお爺さんは面白い話をしてくれた。お話し上手なようで、時折笑い合いながら楽しい時間が過ごせたと思う。

(ただしリア充なのは認めない)

 

 特に長門さんも凄い綺麗な人だったせいか思わず見惚れてしまった。

 

(この人があのお爺さんを好きだなんて……)

 

「でだ。キミに第六駆逐隊と、新しく作られた鎮守府を任せたい。勿論、受けてくれるね?」

 

 話の内容は、俺の処遇だった。どうやら、俺はそこで働いて罪を償うらしい。

 

 ……そんな感じで話していてふと気付いたら、変な書類みたいなの見せられてサインするように言われたんだよね。

 いや、本当、えっ……? って思ったよ。

 良い人だなって思ってたから裏切られた気分だった。

 書類の内容は良く分からなかったけど、サインしたら不味い気がしたから丁重にお断りしたんだけど、良かったんだろうか。

 一応、書類の内容を説明されたけど、この鎮守府で死ぬまで働きますか? って流石に罪が重すぎるだろ。

 俺がやったのって不法侵入だけだし、まぁ怪しげな書類にサインも嫌だったから止めた。

 でも、働く事はオッケーって言ったけどね?

 

 それで何故かごねられたから、いっそ警察に連れていけって言ったら凄い気迫でそれだけはやめてくれと頼まれた。

 ……俺、ただの不法侵入者なんですが。

 とりあえず適当に答えて部屋を出たら「なのです!」の子と会った。

 明日、第六駆逐隊の子達を紹介してくれるらしい。

 後、提督さんが凄い青い顔してたけどどうしたんだろうか?

 

 

 ○月@日、これより、雨の指揮に移ります。

 

 朝、起きたら「なのです!」の子に連れられて第六駆逐隊の皆を紹介してもらった。

 四人姉妹らしく、とても仲睦まじそうにしていた。

 いや、本当に可愛らしいね。(ロリコンではない)

 微笑ましいって言うのかな?俺の周りにワラワラと集まって色んなことを話してくれた。

 

 どうやらあの子達の間では「艦娘ごっこ」ってのが流行っているらしい。

 四人とも駆逐艦の役をしているようだ。

 装備、なのかな? かなり精巧に作られた武装を見せてくれた。

 どうやら妖精さんに作って貰ったらしい。

 

 ……何処の人か知りませんが妖精さんってのは少し無理がありませんかね?

 

 それと、やっと「なのです!」の子の名前が分かった。

 「なのです!」の子は(いなずま)と言うらしい。女の子の名前にイナズマって……と思ったがそこは気にしてはいけないのだろう。

 呼びにくかったので(でん)ちゃんと呼ぶ事にした。

 

 それから、暁型駆逐艦の三番艦の役をしているらしい(いかづち)ちゃん。

 これも呼びにくかったので(らい)ちゃんと呼ぶ事に。

 オドオドとした電ちゃんとは対照的に雷ちゃんはハキハキとしていた。

 

 それから、言葉の端々にロシア語が入った女の子。名前は(ひびき)と言うらしい。

 少しクールな感じだったが、自分を不死鳥と言うあたり少し中二病も入っているようだ。

 もしかしたら不思議ちゃんってやつかもしれない。

 

 最後に、暁型駆逐艦の一番艦の役をしている(あかつき)ちゃん。

 一人前のレディーとして扱ってと言われた。……背伸びしたい年頃なのだろう。思わず微笑ましくなって頭を撫でたら顔を真っ赤にして怒られた。……うん、ごめん。女の子の頭を撫でるのはデリカシーが無かったね。

 

 んで、俺も自己紹介してと頼まれたので自己紹介してみた。

 

「俺は、九条日向(くじょうひなた)だ。よろしくな、第六駆逐隊さん」

 

 折角だから電ちゃん達のごっこ遊びに付き合ってあげようとした結果がこれだ。

 でも、なんか作戦みたいなのを考えて欲しいとか言われたり装備や陣の弱点って何だろうって聞かれたりして結構本格的だった。

 ……最近のごっこ遊びスゲー。

 

 んで、俺も適当に作戦を考えてみたら凄い驚かれた。アレ、やらかした?

 

 そう言えば、遊んでいる途中に提督さんに呼ばれて明日、演習を見ないか?と言われた。

 どうやら、艦娘同士の演習らしい。そもそも艦娘がどんな兵器なのかすら分からないけどとりあえずお願いしますと言っておいたら凄い喜ばれた。……何故に?

 まぁ、喜ばれるに越したことはないけど。明日は忙しくなりそうだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 とある提督の日記

 ○月&日、はわわわ!雨だったのです。

 

 提督さんが演習に連れて行ってくれた。話によると、どうやら今日は戦艦同士の演習らしい。

 ただ見るだけ、と思っていたのだが突然パソコンを渡されたのには驚いた。

 中身はこの前やったゲームと同じだったようで、説明を要らないと言うと驚かれた。何故?

 

 で、陣とかを適当に決めてプレイしたらまた完全勝利した。……このゲームの難易度が低い気がするのは気のせいだろうか?

 そうしている間に本当の演習は終わってしまったらしい。結局見る事が出来なかった。まったく……提督さんも空気を読んで欲しいものである。周りの人もおかしなモノを見るような目で俺を見ていたし。まぁ演習中にゲームなんかやってる奴が居たら当然だろうけど。

 

 謝るべきかな?と思って提督さんに聞いてみたら「キミは対戦相手の艦娘達にも優しいんだな」と感嘆の目で見られた。訳分からん。

 演習には電ちゃん達も一緒に着いて来てて、憧れのような表情で演習を見つめていた。……ごっこ遊びをするくらいだし、やっぱりなりたい職業なのかな?と思い、夢について語ってみたら、頑張ります!と笑顔で答えてくれた。うむ、やはり子供はこうでなくちゃね。

 そう言えば今度、ここから別の場所に移動してもらう事になるかもって言われたけどどういう事なんだろうか?

 

 

 

 ○月!日、ハラショー、こいつは雨を感じる

 

 いつも通り昼飯を食おうと食堂に行ったら、あり得ない量のご飯を食べているお姉さんと出会った。名前は赤城さんと言うらしい。隣には加賀さんという方も居た。

 

 赤城さんも加賀さんもとても丁寧な人だ。自己紹介の時にですます口調で話されたせいか少し緊張した。

 そして、赤城さんはとてもご飯を食べる人らしい。いつも加賀さんが横についていてカロリーのチェックをしてあげているそうだ。

 何時も助かってます、と赤城さんが笑っていた。

 

 そして、お二人は正規空母をやっているらしい。……操縦士?

 服装は剣道をする時の防具とかを付けていた。弓が得意とも言っていたし、正規空母で敵に弾丸を当てるのも得意なのかもしれない。

 

 それから金剛さんという方にも会った。紅茶好きらしく、何か作れますカー?と頼まれたのでダージリンを入れてみたら喜ばれた。個人的には普通に入れたつもりだったのだが、とても気に入ってくれたらしい。

 どうやらイギリス人らしく、特に紅茶の中でもダージリンは大好物なんだそうだ。

 また今度作ってくださいネー!と頼まれたのでもう少し腕を磨いておこうと思う。にしても明るい人は付き合いやすいな。

 

 

 ○月?日、rainyの時間は大事にしなくちゃネー

 

 何か知らないけど電ちゃん達と提督さんと一緒に釣りに行く事になった。

 釣りをする場所は、鎮守府前の堤防だ。釣りをした事が無かった俺とは違って、他の皆は慣れているらしくそれぞれ何匹か魚を釣っていた。……ううむ、年上としての威厳が。

 中々釣れなかったので場所を変えようと鎮守府の端の方へ移動して釣りを始めたところ、なんか良く分からない女の子が釣れた。

 深海棲姫とか言ってたけど、何だったんだろ?

 適当に会話したらナルホドナ、と言って海に潜っていった。深海棲艦が居て危ないよ、と言おうとしたのに聞く耳持たず。

 ……後、釣り針刺さってたけど痛くなかったのかな?

 

 それからもう暫くそのポイントで粘ったのだが、特に何も釣れなかった。仕方なく皆の所に戻ると、丁度魚を焼いている所で、香ばしい匂いがしていた。うん、すごい美味そうな匂いだった。

 何も釣れなかった分、頑張って準備したら電ちゃん達がありがとう、って言ってくれた。少し嬉しかったのは内緒だ。

 ……にしてもまだ提督さんからは働くように言われてないけど、何時になったら働くように言われるのだろうか。

 

 

 ○月¥日、雨!いっきますよー?

 

 提督さんに呼ばれたと思ったら、またあのゲームをやらされた。

 対戦相手は自分よりもレベルが高かったけど、少し工夫してみたら完全勝利出来た。

 ……いや、真面目にこのゲームの難易度設定低くない?と思ったけど、それを聞ける空気では無かったので自重した。

 陣とかキャラとかをチョチョイと動かしているだけなんですがそれは。

 後、明日は出撃をしてみて欲しいと頼まれた。まだ解放していない海域らしい。

 よく分からなかったけど引き受けたら喜んでくれた。深海棲艦がどうとか言っていたが、俺みたいな不法侵入者には関係の無いことだろう。

 

 

 ○月$日、一人前の雨として扱ってよね!

 

 またゲームをやらされた。難易度はぶっちゃけ前の日よりも低かったと思う。十分くらいでクリア出来たので帰ろっかなーと思っていたら、中破が出るまでは出撃して欲しいと頼まれ、やっていたら殆ど五時間くらいパソコンの前でやり続けていた気がする。

 最後は弾薬とかが切れてしまったので、仕方なく帰還させると提督さんに呼ばれた。

 何か良く分からないけど。明日、元帥さんとこのゲームをして欲しいそうだ。

 

 見極める……とか、君が提督になるのを反対する人達を黙らせるとか何とか言っていたけど、俺には関係無いだろう。多分提督の側にいた海兵さん達の誰かに向けた言葉の筈だ。妙に神妙な顔をしていたし。

 頑張ってくださいと声を掛けたら驚かれた。……なんで?

 ……にしても元帥さんか。あのお爺さんもゲームやるんだな。

 とりあえず話だけ聞く限りとても強いらしいし俺も本気を出そうかな。

 

 

 ○月%日、雨の出番ね!見てなさい!

 

 ……どうしてこうなった?

 目の前には三十人くらいの提督様方。皆、真剣な表情で俺と元帥さんの画面を見つめている。

 本当にどうしてこうなったのかは分からないが、仕方ない。ゲームだし本気でやるべきだろう。

 

 そして画面の中では武装した女の子達が激しく戦っている。弾丸の発射位置を指定して次々と敵の武装した女の子達に当てていく。

 ……弾丸を当てた時に外からズドーンッて本当に弾丸が撃ち込まれた音がするのは何故だろうか?

 外でガチの演習してんのかな?なら何でこんなに提督が居るんだろ……多分皆、暇なのかな?

 

 にしても、元帥さんは本当に強かった。レベルもさる事ながら、作戦や動き。全てが完璧にも思える。

 いや、ぶっちゃけ勝てる気がしねー。そもそも今まで勝ってたのは適当に陣を選んでたり適当に動かしたら上手く弾丸が入っただけで、俺の実力じゃねーし。現に今はコッチの攻撃ばかり当たっているが、一発でも当たったらお陀仏の状態。

 

 逃げ回るしかねーよ!何この差!チートって程じゃねぇぞ!ゲームくらいレベル差を無しにしろぉぉ!!と叫びたかったがそんな事は出来るはずもなく。無言のまま指示を続ける。

 そして一時間が経過しただろうか、何とかタイムアップまで生き残った。

 此方は大破三隻、小破一隻、無傷二隻。対して向こうは一隻だけ大破で、残りは無傷。

 負けた、うん。完全に負けた。

 

 逃げながら攻撃を当てて、一隻だけ大破まで追い込んだがそれが限界だった。寧ろよく粘った方だろう、と俺は思うんだけど、周りの反応はいかんせん違うようだ。小難しそうな顔で画面を見つめている。……アレ、俺またやらかした?

 何か居づらくなった俺は勝敗を確認する事なく部屋から出る。いや……だってあんな空気の中居れないでしょ。

 ましてや俺は犯罪者だし、あの人達は海に潜む深海棲艦と戦う提督だぞ?そんな中で居れる方がおかしいって。

 

 ってか、今から考えたら出る時の言葉が少しアレだったな。「では、俺は邪魔な様なので」って何処のお偉いさんだ俺のバカ!

 うん、明日提督さんに謝っておくか。さっきも青い顔してたし、胃薬も渡しておこう。

 

 

 

 ○月£日、雨の誇り……こんな所で失う訳には……ッ!

 

 何か良く分からないけど『提督』をやるように頼まれた。うん、良く分からないね。俺も分からないよ。

 正直、お偉いさん方は何を考えているのだろうか?俺、単なる高校生なのに。そんなのはもっと勉強してる立派な人を選べってんだ。

 とは言え、威圧されるかのように任命されたのでその場は誤魔化すように言葉を並べて退出してしまった。自分でも焦っていたせいか頭が真っ白で何を言ったのか覚えていない。

 

 それから、電ちゃん達。第六駆逐艦隊も俺と一緒に移動になるそうだ。

 なんでも一度実戦で俺の指揮を受けた分、飲み込みが早いだろうとの事。ねぇ、実戦って何?俺、そんな事したっけ?

 そして多くの提督さん達の前で任命式?が行われた。

 

 何か、一部の人から睨まれたりしていたのは何でだろ?恨みを買った覚えはないんだけど。

 

 ……にしても一般人の俺に、これはキツイって!何?何ですかこれ!?

 彼は人類の希望であります!とか言ってるけどアレは何!?俺が人類の希望ならそこそこ頭良い人全員が人類の希望だよ!

 

 そして半ば放心状態の俺は元帥さんから書状と提督バッジを受け取った。

 この辺りからもう流れに任せて無茶苦茶な事を言ってしまった気がする。……やっちまった。

 

 ってか、一般人の俺に提督やれとかどうしろと?

 

 

 

 ○月○日、口調ネタが尽きてきた。天気は雨

 

 俺が提督として勤める事になる鎮守府は此処から二十Km程離れた無人島にあるらしい。

 どうやらまだ新しく作られたばかりだそうで、島の開発も同時進行で進めて欲しいそうだ。……開発とか知らんのですが。

 

 それから、提督さんと会った。何だかゲッソリとしていて疲れている様子だったので胃薬を渡してから愚痴を聞いたのだが、その大半が一人の迷惑な奴らしい。いきなり現れたかと思うと、勝手に艦娘を指揮して今まで突破出来なかった深海棲艦を完全勝利で轟沈させたそうだ。何だそのチート野郎。その才能を俺に分けてくれ。

 

 気付いたら日が暮れるまで愚痴を聞いていた。うぅむ、やっぱり提督って大変なんだなぁ。

 最後にはお礼を言われた後に、九条君と一緒に無人島鎮守府に移動してくれる艦娘が居ないか聞いてみるよ、と言ってくれた。……やっぱり提督さんは良い人だなぁ。

 

 

 ○月+日、ナンドデモ……アメハヤマヌゥ……

 

 今日は今までお世話になった人達に別れの挨拶をした。

 赤城さんに、加賀さん。それから提督さんと日記には書いてないけど会った人達。

 金剛さんとは何故か会えなかったけど、皆、良い人ばかりだった。思わず嬉しくなって泣きそうになったよ。割と真面目に。

 そう言えば何となく堤防辺りにいたら、深海棲姫さんと会った。

 深海棲艦に襲われてないか心配だったけど問題無かったらしい。そして彼女もまた何処か疲れた表情を浮かべていたので愚痴を聞いてあげた。

 何か知らないけど、自分達の家を荒らされて怒って攻撃したら反撃してきて、ずっと戦いが続いている事に悩んでいるそうだ。

 ……うぅむ、皆それぞれに悩みがあるんだな。

 そう言えば帰る時に間宮アイスっていうオヤツを上げたら凄い喜んでくれた。懐かしいなって言ってたから、もしかして前に鎮守府に居た事があるのかな?

 

 

 ○月*日、小降りの雨も出来れば土砂降りにしたいのです。

 

 いよいよ明日が出立の日だ。そして今日でこのVIP待遇も終わりである。

 沢山の人が見送りに来てくれた。こんな犯罪者に……と、嬉しくなって思わず泣きそうになったのは内緒だ。

 提督さんからも応援のメッセージを頂いた。戦術で困ったり分からない事があれば何時でも頼ってくれ、と言われた時は本当に嬉しかった。

 ……俺、頑張ろうと思う。どうして提督をやらなくちゃならない、とか色々な疑問はあるけど。それでも周りの人達は俺を認めてくれている。

 だから、精一杯この提督という仕事を頑張りたい。

 

 さぁ、出発だ。提督さんとあの言葉を交わす。

 

『暁の水平線でまた会おう』

 

 グッと提督さんと固い握手を交わした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 横須賀提督の体験日誌

前回を書いた時に質問を頂いたのでお答えします。

Q、この小説ではゲーム(コンピューター)を通して艦娘に指示を出すのですか?

A、その通りです。原作(アニメ)では戦時中のような実際のやり方でしたが、その知識が不足している為、このような方法を取らせて頂きました。
 どのような攻撃をするか、動きをするか。何の陣を使うか。全てをそれ一つで出来るようにしています。


……それと、主人公以外のパートをどう書くか悩み中。
試しにこんな書き方にしてみましたがどうでしょうか?


 突然現れた高校生に横須賀提督は何を思うのか。

 これは横須賀提督の体験した全てである。

 

 

 

 

 ○月×日、晴れ

 

 不法侵入者。艦娘達が前線でほぼ壊滅状態に陥り、無傷で残っているのは偶々近くで遠征をしていた第六駆逐艦隊だけになっていた頃、追撃するかのようにその報は届けられた。

 

 どうやら侵入者は高校生位の少年らしい。艦娘達の報告によると逃げ足が速かったらしく逃げきられたそうだ。

 一応、睡眠弾の射出は普段から許可しておいた筈なのだが、それすらもアッサリと避けられたらしい。……何かのスパイか何かなのだろうか、ソイツは。

 

 そして悪い情報は続いた。本部から呼び出しが掛かったのだ。

 命令内容はこうだった。他の援軍の艦娘達も大破が多数出ており、幸いにも轟沈はしていないがそれでも撤退出来るかすら怪しい。

 その為、俺の第六駆逐艦隊を盾に使わせろ……だ。

 

 この命令が来た時にふざけんな!って思ったさ。そりゃ思ったよ。でも、その命令を出したのは上層部。提督の中でもまだまだ下っ端である俺がその命令を無視出来る訳もない。

 

 結局、第六駆逐艦隊にはその場で敵艦を防げとだけ命令して後の艦娘達を全て撤退するように指示を出した。

 ……あぁ、俺は最悪なクソ野郎だよ。上司の言いなりで仲間を見捨てるようなクソ野郎だ。

 

 そして後を秘書艦に任し、こちらから撤退の援軍を送れないか調べていた時だった。

 

 突然、勝利を告げる鐘が鳴ったんだよ。そして鎮守府全体で敵艦を轟沈、作戦は成功しました。というアナウンスが流れた。

 ……えっ?って思ったね。負けたはずだろって。

 

 で、提督室に戻った俺に待っていたのは艦娘達からの報告と、本当に敵艦を全滅させたという吉報だった。

 どういうことが詳しい報告を求めたところ、例の不法侵入者。

 名前を九条日向、と言うそうだが彼が勝手に艦娘達の指揮をしていたらしい。つまりは俺のパソコンを勝手に使って勝利させちまった……ようだ。

 正直、信じられねぇ。だが、俺のパソコンを確認したらそこには『完全勝利』の文字で彩られてあった。

 編成は第六駆逐艦隊、つまり駆逐艦四隻。対する相手は俺達が戦艦やら何やらを大量に投入して敗北した深海棲艦。

 ……あり得ねぇだろ?で、ソイツがどんな指揮を取ったのかをパソコンに残ってたデータで確認したんだ。

 

 

 ……何だ、これは。

 

 それが奴の指揮を見た俺の感想だった。

 

「全艦突撃、よそ見はするな。全速力で突き進め」

 

 その理由は九条の戦法。画面に映る映像を確認する限り九条は全艦を真っ直ぐ突撃させていた。

 しかも、敵艦に両方から挟まれ、横から撃たれ放題の完全に敗北するであろう布陣で。

 だが、何度か映像を繰り返している内に、その作戦がどれ程有効なのかを嫌という程分からされた。

 

「抜けた……ッ!?」

 

 敵艦に挟まれているということは、敵艦からすれば、もしその攻撃が外れた場合、その弾はそのまま味方に当たっちまうって事だ。

 そして、死を恐れていないあり得ない行動に何か裏があるのでは?という不信。

 つまり、そう言った精神的な一瞬の躊躇いを利用して、奴は敵の攻撃を掻い潜った。

 ……駆逐艦には火力が無い代わりに『速さ』がある。それを知ってたソイツは全速力で戦艦レ級目掛けて突撃を掛けさせ、成功させた。

 

 ……驚くのはこれだけじゃない。奴は、中央を最速で突破すると同時に全艦隊に魚雷を発射させた。その打った先は全て同じ一点。

 

「爆ぜろ」

 

 魚雷同士をぶつけて海の中で爆発を起こしやがったのだ。

 当然、その際にとんでもない量の白水が空に舞い上がって一時的に視界を奪われた状態になっちまう。だが、奴はそれを見越して俺が逃走用に装備させておいた閃光弾を撃たせた。

 

「……撃て」

 

 視界が奪われた時に敵が上げたと思われる閃光弾。当然、敵はそこに居ると思って弾丸を一斉に放つ。実際、深海棲艦もそうしていたし、俺だってそうしていた筈だ。

 

 銃撃の激しい炸裂音が響く。ただし視界は泡立った波で真っ白だ。

 その際に手元の操作盤での記録を見ると、駆逐艦達をその場から散開させていた記録が残っていた。恐らくは回避行動を取るためか。

 

 

「……我、勝てり」

 

 そして次に視界が晴れた時……映像の中で深海棲艦共のボスである戦艦レ級は轟沈寸前のダメージを受けていた。

 ……そう、轟沈寸前のダメージを受けていたのだ。

 

 つまり、九条は敵の攻撃を上手く誘導して敵艦のボスに当てた。火力不足を敵の攻撃で補ったのだ!

 ……簡単に言ってるが、こんなの奇跡と言ってもおかしくない、最早神業だ。何度もデータを見返していて気付いたのだが、敵の攻撃全てを当たらないギリギリ。つまり紙一重で避けるように細かな指示を出し続けていた履歴が残っていた。それどころか、戦艦レ級の攻撃すらも利用して雑魚敵艦に当てている。

 俺達が全力で攻撃してなお、通用しなかった相手をこうも簡単に撃破したのだ。

 

 ハッキリ言おう。天才……いや、そんな生温いモンじゃねぇ。こんなの天災だ!

 采配をする為だけに生まれてきたような神の妙手だ!

 だから、九条が発した次の言葉に俺は不思議と納得出来た。

 

「お粗末だな。この程度か」

「……ッ!」

 

 お粗末。奴はそう言った。それも俺達海軍が総力を挙げて攻め込み、敗北した相手に……だ。

 しかし、奴はそれを言うだけの采配を見せたのだ。

 くやしかった。自分自身に。何も出来なかった俺自身に、そう思った。

 

 ……そして最後に奴、九条はピッ!と指を立てるとこう呟いた。

 

「終わりだ」

 

 そしてボスが轟沈する様を見て混乱した敵艦を全艦轟沈。反撃を鼻で笑うかのようにあしらい、駆逐艦だけで完全勝利。……笑えねぇ。本当に笑えない。

 

 …………まぁ、何にせよ確定だ。九条は重要な参考人。結果的に勝利したとはいえ、『提督』じゃない素人が戦局に左右するような事をやらかしたんだからな。

 とりあえず俺としてはこれから九条の事を本部に報告する。一応、VIP用の部屋に通しておいたが大丈夫だろうか?

 ……あぁ、今から頭が痛くなってきたぜ。

 

 

 

 ○月△日、曇り

 

 本部からの伝令が来た。何をしても良いから鎮守府から出すな、そして反感は買うな……だそうだ。

 その理由は何となく分かっている。

 恐らくだが、海軍が総力を挙げて敗北した相手に一般人である九条が完全勝利を収めた。それも駆逐艦、たったの四隻で。

 そんな事実を表に出すわけにゃあいけない。

 

 最悪だと、陸軍にでも伝わっちまえば海軍は何を言われるか分からないしな。

 だからこそ、俺達は九条を何としても海軍に引き入れなければならない状況に追いやられちまってる……と、言ったところか。

 

 それに海軍は九条に目を付けている。恐らく、昨日送ったデータを見たのだろう。

 ……そして理解したんだろう。九条があんな自殺紛いな戦いを平然とやってのけ、そして完全勝利出来るような天才だと。

 昨日、九条の身柄を捕らえた艦娘によると、完全勝利するまで艦娘に気付かないほど画面に集中していたらしい。まるで遊びか何かのように適当に指示を出しているように見える癖に、その指示は全て的確、何一つのミスすらない。俺なんかとは比べ物にならかったようだ。ハハ、泣けてきやがる。

 

 まぁ、まだ会った事は無いが俺個人としてはヤツをとやかく言うつもりはない。寧ろ感謝したいくらいだ。二、三隻の轟沈は覚悟してたくらいだったのに、それを救ってくれたんだからな。

 ……それに、目標も出来た。目指すべき先が見えた。

 

 

 

 ……それから暫くして、妖精さんが建造終了の報告をしてきた。建造なんてした覚えが無かったので話を聞いてみたら、九条がやったようだ。初めて会った……と言っていたので間違いない。

 そして出来た艦娘に会ったんだが……

 

「大和型戦艦一番艦、大和です。よろしくお願いします」

 

 ……空いた口が塞がらないとは正にこんな事を言うんだろうな。俺の目の前には元帥の秘書、長門と互角にやり合える力を持つ戦艦が居た。しかも使用した資材は大型建造を成功させる為の数値の最低値。

 

 ……羨ましくない、と言えば嘘になる。俺よりも十は下の高校生が、俺なんかよりもよっぽど才覚ある事に。

 

 だが、それと同時に不信感も感じていた。大型建造を成功させるレシピ……それを何故九条が知っていたのか。まさか適当にやった訳ではあるまい。

 明日、俺はヤツに会う。正直まともに会話出来る自信なんざねーが、海軍として、俺個人として正しい行動を取るつもりだ。

 …………明日は大変な日になりそうだ。

 

 

 

 ○月□日、晴れ。

 

 部屋に尋ねた俺を、九条日向は快く迎え入れてくれた。

 俺の階級を聞くと少し表情が曇ったのは恐らく階級が低いせいだろう。……悪かったな低くて。

 とは言え予想していた事だ。俺は態度を変えることなく、先に頭を下げた。

 

「まずはお礼を言わせてもらう。……この度は誠にありがとうございました。新海域解放に参加していた提督を代表させてお礼を申し上げさせて頂きます」

 

 そう言うと九条は疑問を覚えたような表情を浮かべていた。まるで何を言っているのか分からない……そんな表情(かお)だ。

 ……まさかあの戦いが何でもないような事だとでも言いたいのだろうか。

 しかし、その心配は杞憂だったようだ。あぁ、と納得の声を漏らすと九条は話し始めた。

 

「アレですか、いえいえ。気にしないで下さい。あの程度の事で」

「……ッ!?」

 

 "あの程度"。九条はそう言った。驚いて顔を見ると、その顔は本当に何でもない事のようにのほほんとした表情だった。

 

「貴方方の攻略の手助けになったなら幸いです。寧ろ、やってしまって良かったのかな?とも思い始めてたので」

「…………………」

 

 本物だ……コイツは、本物だ。

 アレは偶然で起こした事じゃない。何よりもコイツ、九条自身が何をやったのかを把握している。

 目の前で話して初めて理解出来た。……コイツは異常だ。

 少なくとも俺のような凡人じゃねぇ。そして天才なんて生温いモンでも断じてない。

 …………天災だ。とても、俺が相手取れる相手じゃない。

 

「俺としても完全勝利出来て良かったです、……本当に被害が出なくて良かった」

「…………っ!」

 

 だが、次の言葉で俺は目を見開いた。

 ……今、コイツは何て言った。被害が出なくて良かった……だと?

 

「……俺、心配だったんです。あんな戦いで死なせたくなくて」

 

 そう言った九条、君の目は心の底から安堵しているような表情だった。

 そして、その時俺は勘違いしていた事を悟った。

 

「皆……生きて帰れて良かったですよ。あんなのでゲームオーバーしてたら……笑えませんからね」

 

 ……コイツは。

 

「……なぁ、九条君。一つ聞きたいのだが良いかな?」

 

 その許可を得る前に俺は尋ねた。

 その質問は、確認だ。

 もしも、九条日向という人間が艦娘を大事に思っていたら?

 もしも、九条日向が何らかの方法で艦娘が轟沈しそうなのを知り、それを防ぐ為にこの行動を起こしたのなら?

 そんな、淡い希望。

 

「キミは……何故、敵を倒してくれた?」

 

 その質問に九条君は当たり前でしょ?と言うと、

 

「それが……俺にとって何よりも重視すべき存在で。何よりも好きなものだったから」

 

 真っ直ぐな瞳でそう答えたのだった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 横須賀提督の体験日誌

今回は少し長めです。
それと他の視点も日記風に書くかこのまま説明っぽく書くかどちらが良いのか悩んでいるのですがどっちが良いんでしょうかね?


 ○月☆日、晴れ

 

 正直、生きた心地がしない。……提督を引退してしまいたいくらいだ。

 

 事の発端は元帥に九条 日向についての報告をした事だった。

 俺の報告に元帥が少し小難しそうな表情を浮かべた後に、九条を呼ぶように言われたので呼んだのが現在、俺を悩ませている事の発端である。

 

 ……思えば、元帥に報告したのが間違いだったのかもしれない。

 

 

「キミが九条クンか。まぁ、そこに掛けなさい、なぁに。そう構えることはないさ」

 

 無精髭を撫で、ニコニコとした老人のような笑顔で元帥がそう言った。

 そして適当な世間話を始める。恐らく、九条の緊張を解くためか。

 流石の九条も元帥から呼ばれたことに少し驚いていたようだし。

 

 とはいえ、それも数秒でまた元の表情に戻っていたが。そしてしばらくの間楽しげに歓談していた二人だったのだが、突然九条が話を打ち切ると、本題へと話を変えた。

 

「それで……なんの御用。いや、聞くまでもありませんね。俺の"処遇"ですか」

「流石聡いの。その通りじゃよ。まぁ悪いようにはせん」

 

 今までとは空気が一変する。言うなれば休み時間が終わり、授業が再開した学校のような……?いや、そんな生温いモンじゃねぇか。

 

 そして何故か話は俺も部屋で聞くようにと言われている。何でも、これからの良い経験になるだろう……との事。元帥の言うことだし信じたが、何となく。いや、完全に嫌な予感しかしない。

 ……むぅ、頼むぜ九条。俺の首が飛ばないように。

 

「元帥様、そろそろ本題に」

「分かっておる、長門。……さて、それでだ単刀直入に言おう」

 

 そして元帥がそこで一旦言葉を切ると、真剣な表情で九条にこう言った。

 

「キミに第六駆逐艦隊と、新しく作られた鎮守府を任せたい」

 

 その言葉に九条は答えない。仏頂面で元帥……、いや、元帥達を見つめる。その目からは不可解、という言葉が浮かんでいた。

 

「何故?と言った表情だね。まぁ、言うなればキミの罪の精算だよ。この横須賀鎮守府に不法侵入し、あまつさえ勝手に艦娘達を使役した事に対する"罪"のね」

 

 その言葉にも答えない。目には影が掛かっているようにも見えた。

 ……その目はまるで失望したかのような目。この程度か、と見下すかのような目だった。

 これだけでも充分俺の胃を痛くしてくれたのだが、元帥の次の言葉はもっと酷い意味で俺の胃を痛くしてくれた。

 

「……ふむ、不満かね。ならばこれならどうだ?キミは私直属で働いてもらう事にする。つまり、私の後任。元帥の座を渡す事を約束しよう。これならどうかな?」

「…………ッ!!?」

「元帥様、それは!!」

 

 『元帥』の地位の約束。……元帥は分かっているようだ。今、目の前の少年がどれほど重要なのかを。そしてそれが分かっているからこそ、元帥という破格の地位を提示した。長門さんが諌めているが、恐らく聞く耳は持たないだろう。

 ……彼を手に入れるか入れないか。最悪の場合、それで国の。世界の運命が変わってしまうかもしれない。

 

 九条君の行動力。指示。陣。どれを取っても既に彼は完成されている。残されたデータから見た映像でそんなのは一目瞭然だ。

 駆逐艦達が頑張ったから勝ったとか言う同僚もいたが、そんなのあり得ない。頑張っただけで勝てるというのならもうすでに深海棲艦は全滅している。

 

 ……九条は、凡人の物差しで測っていい人間じゃない。

 

 そして元帥は書類を前に出した。その書類には、提督として一生を終え、鎮守府に勤める事。これを誓えば元帥の座。そして提督としての座を何の試験も受けること無くパスさせる……という内容が書かれていた。

 

 ……本気だ、元帥は…………本気だ。

 

「どうかね?条件は破格だと思うが」

 

 元帥が答えを迫る。

 破格。正にその通りだった。

 こんな条件普通はあり得ない。普通に考えて、提督になる為の試験を無条件でパスするだけでも破格だと言うのに、そこに元帥の座まで付けたらどれ位破格の文字をつければ良いのか分からないくらいに破格の条件だ。

 俺だったら……恐らく欲に負けて即決するかもしれない。

 だが、九条は首を横に振った。

 

「……すみませんが」

 

 そう言って頭を下げた九条に元帥が不思議そうな表情を浮かべる。だが、意趣返しなのかニコリと笑うと九条はこう言い返した。

 

「一生勤めよ、というのは"罪"として"長過ぎ"やしませんか?元帥殿?」

 

 その言葉に、俺は衝撃を受けた。……そうだ、そうなのだ。

 んな条件を受けたら一生、九条は提督という職に縛り付けられる。それは決して逃れられぬ鎖のように。

 元帥としては、その条件を上手く使って九条を取り入れるつもりだった……。

 

 水面下で繰り広げられる両者の黒い戦いに俺は思わず冷や汗を流す。

 

 

 異常だ。明らかに異常だ。

 この場はただの歓談なんて場じゃない。

 互いの思惑を通す為の戦いーー、

 

「まぁ、罪を償え。と、言うのであればその部分だけは認めてもよろしいですよ?」

「……つまり、契約は結ばぬ代わりに口頭の約束で、と?」

 

 九条の言葉に元帥が尋ねる。一体……何だってんだ。何のつもりで……

 

「その通り、それならばお互いに不利は無い。信じられないなら監視でも付ければ良いでしょう、ねぇ?」

 

 突然、九条が俺に話を振った。突然の言葉に思わず頭が真っ白になる。

 

「え?あ、あー。そ、そうだな、うん」

「横須賀提督の答えはお気になさらず。元帥様、続きを」

 

 長門さんに無かった事にされてしまった。とは言えショゲている場合ではない。

 ……この歓談は俺にとって、大きな成長に繋がる可能性がある。

 

 元帥と九条。俺なんかとは比べものにならない天才達。

 今の俺には到底出来る会話じゃない。だから、だからこそ。

 折角の機会……逃すわけにはいかない!

 

「つまり……キミはこう言いたいのかね?この書類への契約はしない。その代わり働けというなら期間を付けろ……と?」

 

 元帥が九条に尋ねた。

 次の返答。次の返答で決まる。俺も思わずゴクリと喉を鳴らした。

 だがーーその次の返答に九条は超ド級の爆弾を放り投げやがった。

 

 

「当たり前でしょう、たかがその"程度"の事に俺は一生縛られるつもりはありませんから」

 

 "たかが"。その言葉に俺も長門さんも。元帥さんまでが目を見開いた。

 ……コイツは深海棲艦と。人類の命運を決めるという戦いでさえ"たかが"と、言うのか?

 思わず九条の目を見つめると、その目は笑っていた。まるで、俺達の戦いが自分にとってはゲームとしか見えてないかのように。

 

「……ぐ、貴様!」

 

 元帥が怒りの混じった声を上げた、当然だ、命懸けでやっている俺達。提督の全てを敵にするかのような発言を九条はしたのだから。

 だが、九条はそんな視線をはねのけると笑った。

 

「ご安心下さい。ちゃんと、俺の犯した"罪"の分は働きますから。なんなら、警察にでも放り込みますか?」

「ッッ……!?」

 

 その目は、全てを見透かすかのように透き通っていた。

 そして今の発言。

 ーー全てこいつの手のひらの上で踊らされてた。俺も……元帥も。海軍でさえも。

 ーーコイツは全て知ってて脅している。

 

 陸軍と海軍における亀裂。海軍が陸軍への技術提供を拒否したこと。

 そんな裏の事情を全て知って……脅している。

 

 俺に……手を出すな、と。

 俺を……扱えると思うな、と。

 

 命懸けで挑む戦いなのに、何故アイツは笑えるのか。それも、心から楽しそうに。

 

 それは、戦場において笑える程の強者たる証だ。

 圧倒的強者であるからこそ……ヤツは笑える。

 

 ーー分からない。

 初めは艦娘達を助けたいという思いで後先考えずあんな事をした天才。元帥と同等レベルの素晴らしい人材だと思っていた。

 だが、違う。

 今ならばハッキリ言える。

 ……コイツは、コイツは……!

 

「それこそ、全力でね」

 

 人間として異常だーー。

 

 

 

 

 

 ○月@日、くもり

 

 

 昨日、九条が部屋を後にしてから俺は元帥と奴をどうするか話し合った。

 逃すのは危険……かと言って味方に入れても危険。

 つまり、手の付けられない猛獣だ。

 

 人類からしたら深海棲艦。それもとびきり厄介な。それこそ、鬼や姫といったレベルの化物のような存在。

 話は平行線で、結局、もう一度奴の実力を見よう。という方向で決定したのだがーー

 

 

「ここは一気に突き進むべきなのです!」

「良いと思うよ電ちゃん!そのまま進めば敵の裏を突けるし」

 

 …………なんだ、これは。

 

 そんな思いが俺の頭を駆け巡る。

 

 ……あまりに現実離れした映像を見たせいか、目をゴシゴシと擦りもう一度見てみる。

 うん、"あの"九条が楽しそうに第六駆逐艦隊四隻と戯れていた。

 いや、正しくは敵艦との戦闘を脳内シミュレーションをしているようなのだが、そんな事はどうでもいい。

 

 あ、有り得ねぇ。きっと俺はおかしくなっちまったんだ。いやー、過労とか胃痛って怖いなぁ。

 

「……ここは私が受け持つのか?」

プラーヴィリナ(その通り)!その通りだよ響ちゃん」

 

 ニコポナデポだ!じゃなきゃ、あいつらは九条に操られているんだ!

 いやー、流石天災はスゲェなぁ……じゃなくてッ!?

 

 ……いやいや!待て待て待て!!

 何なんだコイツ!?昨日の危険っぽい感じは何処にいった!?

 完全に小さな子供の遊びに付き合ってあげている優しいお兄さんポジションになってる……って、明らかにおかしいだろぉ!!

 

「それで、私は何処に?」

「雷ちゃんはここだね、それから暁ちゃんはここ」

「ちゃん……って、九条!一人前のレディーとして扱いなさい!」

「あはは、ゴメンね」

 

 完全に微笑ましい図なんですがそれは……。俺はどうすればいいと?

 内心気づかぬうちに俺は思わず馬鹿だった学生の頃の反応をしてしまっていた。

 ……いや、俺は悪くない。悪いのは俺の精神や胃痛の原因である九条のはずだそうに違いない。

 

「あ、提督さんなのです!」

 

 目の前の不自然すぎる光景に思わず部屋を覗き込むように見ていると、電に見つかり声をかけられた。

 く……空気を読んで欲しかった。せめて心の、死ぬ準備を。

 だが見つかった以上、仕方なく俺はオズオズと姿を見せる。

 

「……よ、よう」

 

 ぎこちないかもしれない。でも、これが限界なんだ。

 目の前の異常相手に挨拶出来ただけ充分ってもんだろう。

 

「提督?何でここに」

 

 雷が疑問の声を上げるが、その前に九条は自分に用事があると気付いたらしい。

 俺の肩をポン、と叩くと外へ出るように促した。

 

「ゴメンね、少しこの人と話があるから」

 

 その際に振り向いて申し訳なさそうな顔で九条が言った。気にしないで、と、第六駆逐艦隊が声を上げる。

 どうやらコイツは俺達との対応を上手く使い分け、艦娘に取り入っているようだ。

 ……つくづく恐ろしいやつめ、と内心毒を吐く。

 

 

 そして廊下に出た俺はいきなり本題に入った。

 

「九条君、すまないが頼みがある」

「何でしょうか?俺に出来ることならやりますけど」

 

 昨日とは違い、少し朗らかな表情でそう言ってくれた。

 これなら受けてくれそうだ、とホッと胸を撫で下ろす。

 

「明日、艦娘の演習があるんだがキミにも来てもらいたい。ご足労願えないだろうか?」

 

 元帥が言うには、これはどうやら保険らしい。

 有り得ないとは思うが、もし、あの時見せた指揮がマグレだったとしたら……?という疑問を解消する為だそうだ。

 でも、何か裏があるようにしか思えねぇんだよな。うーん、なんだろ。

 

 ……例えば九条の指揮を他の提督たちに見せつける、とか?

 んー、でもどうしてんな事する必要があるのかが分からねぇけど。

 

 まぁ、とにかく伝える事は伝えた。もし、何か裏があっても九条は自分で何とかする事だろう。

 

 そういえば九条に邪魔したな、と言って別れた後にボソッと、

 

「演習かぁ……楽しみだ」

 

と、九条が子供のような声で言っていたのはきっと幻聴だったのだろう。

 ……明日が終わったら有給取ろう、うん。そうしよう。俺は相当ヤバイと見える。

 

 

 

 〇月&日、晴れ

 

 九条日向という人間は人間には厳しく、艦娘には甘いらしい。

 それが分かったのは今日の演習での事だ。

 

 天候は良好、雲一つない青空だ。絶好の演習日和である。

 ……さて、今回の演習だが九条には適当に見繕った戦艦六隻を使用してもらうことに決定した。

 対する相手は俺よりも格上の少将の先輩提督だ。

 

 そして編成は先輩提督の第一艦隊所属の戦艦達。普段からその先輩提督は「戦争は火力だぜ」などのちょっとアレな発言をしている、正にどこぞの普通の魔法使いを彷彿とさせる方だ。

 とは言えちゃんと成果は残している人だし、何かと俺を気にかけてくれる人だから俺としても悪い感情を向けることはないけど。

 

 ……それに美人だし俺も好きって言うか、あぁもう!

 

 ……でも個人的には酒を飲みにいくときにべろんべろんになるのは止めてほしい。絡み酒だからなぁ……しかも胸とか押し付けてくるし性的欲求が……。

 

「あの、提督さん。大丈夫ですか?」

「どわぁぁあああああっとぉ!!?」

 

 急に後ろから声を掛けられた俺は変な声を上げながら飛び上がった。

 慌てて声をかけてきた相手を見るとそこには……、

 

「げぇ!魔王……じゃなかった。九条君か、余り驚かせないでくれ」

 

 魔王……ではなくそれに限りなく近い人間である九条君がいた。

 本当に急に声を掛けるなんて事しないで欲しい。ただでさえ、キミのせいで俺の心労はマッハなのだから。

 

 

 それから暫くして九条君と先輩の演習が始まった。

 パソコンを渡した時に少し驚いた様子を見せた九条君だったが、今はもう飄々とした顔で指揮をしている。

 

 そして戦況は……、と言うと。

 

「攻撃が当たらない……か」

 

 先輩の攻撃が一発も当たっていない。いくら火力重視の装備とはいえこれはあり得ない事態だ。

 九条君の画面をチラリと見ると、彼の手は絶えず何処其処の地点に移動せよ!や、ここで砲弾を放つなどの指示を全て彼一人で出している。

 そして彼の細かい指示の全てはその艦娘が全力でやればギリギリ出来る、そんなそれぞれの艦娘の能力に見合ったものしか出されていない。

 

 それでも限界はあるはずなのに、どんなに先輩が撃つように指示してもその弾丸は全て回避される。

 それも、必要最低限の動き。まるで、ゲームのチョンよけのように。

 

 やがて、一隻。また一隻と先輩の艦娘達は大破まで追い込まれ、最終的には完全勝利。

 そしてフゥ、と息を吐くと九条は終わった……という表情でパソコンから顔を上げた。

 

 これで、本当に確定だ。

 

 ヤツは……、九条日向という人間は…………、

 

 ーー本物だ。

 

 そんな事を考えていると、九条が突然俺に話しかけてきた。

 

「……提督さん。これ、やっぱり俺、謝ってきた方がいいですかね?」

 

 俄かには信じられないその言葉。そして九条の目線はボロボロになった艦娘達が映る画面に向けられている。

 それを聞いて初めて、俺は九条の人間と艦娘達への対応の違いの理由に気付いた。

 

 九条の顔は打算なんかじゃない。その顔は間違い無く本当に申し訳ないと思っている顔。

 あぁ、そっか。

 気付いたら簡単に飲み込めた。

 

 ーーコイツは、艦娘は好きだけど人間は嫌いなのか。

 

 どうして?とは思わない。

 ……九条の特異性。そういう面から見たら、俺達人間に何かトンデモナイ事を負わされちまったのかもしれない。異常だ、おかしいとなじられたのかもしれない。

 

 それが理解した俺は、不思議と九条を怖いとは思えなかった。

 ……今までの評価なんて関係ない。俺は、俺自身は。

 

 コイツをどう思うのか。コイツの存在をどう受け止めるのか。

 

 

 ……多分だが、俺はこれからもコイツの監視を任される事になるだろう。

 正直、数ヶ月で胃に穴が開く予想しか出来ないがなんとか頑張るつもりだ。

 

 

 ……全ては人類の為。

 そしてーー俺の為に。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05 横須賀提督の体験日誌

やはり説明っぽくすると、長くなりますね。
主人公の日記2話に対し、説明っぽくすると倍の4話くらい掛かりそうです。

今回は試験的な意味も込めて
2日分くらいを日記風にしてみましたがどうでしょうか?


 ○月!日、雨

 

 今日は有休を取った。正直、このまま一ヶ月くらい不貞寝したい。

 ……いや、まぁ無理なんだけれども。

 にしても、久々の休みだったからか疲れが取れたように感じる。

 

 今日の事を丸投げ……もとい、任せた秘書艦、霧島は真面目だし何かあっても問題無いだろう。

 あぁ、本当に心が軽い。

 まぁ、明日からの事を考えりゃ直ぐに暗くなっちまう訳だが、それでも束の間の休日に野暮な考えは必要ないだろう。

 俺だってゆっくり休みたいのだ。

 

 そしてゆったりと朝食を取っている時だった。

 

「邪魔するぜー、冬夜ぁ」

 

 突然、ドアが開けられると共に響いた声に俺は慣れたようにそちらへと視線を向けた。

 ……そこには、

 

「またですか、理沙先輩」

「先輩とかいらねぇって!私とお前の付き合いだろ?」

「そう言われましてもねぇ」

 

 俺を何かと面倒見てくれた先輩である彼女。桐谷 理沙(きりや りさ)が陽気な声で入室していた。

 そしてドカッとソファに腰掛けると、テーブルの上を見て途端に苦そうな表情を浮かべる。

 

「まぁた、こんなモノ(コンビニ弁当)食ってんのかよ。身体に悪いぞ?」

「だって面倒じゃないですか……」

 

 突然の入室に慣れているのはこういう事が今までに何度もあったからだ。よく、俺の元を訪れる先輩は一緒に朝食をとったりする。

 ……まぁ、その度に俺の不健康な生活に目くじらをたてるわけだが、仕事はともかく生活面まで面倒見られるのは流石にアレだと思った俺は溜息を吐きつついつも言い返しているのだ。つまり、ここまでがお決まりのコースというヤツである。

 

「そもそも、ただでさえ頭や胃が痛い事ばかり起こってんのに飯なんか作る気になれませんよ」

「あぁ、それには同情するわ。それって昨日、私をボコボコにした奴の事だろ?」

 

 俺がそう言うと、あぁ、と納得した声を上げる理沙先輩。

 男勝りな彼女は昨日の敗戦を何一つ気にしていないらしい。

 

「いやー、流石に驚いたぜ。私の放った弾幕がことごとく回避されるなんてな。まぁ、お陰で色々と欠点が見つかったんだけど」

 

 そしてニカッと笑う先輩に思わず俺はこう言った。

 

「いや、本当にどこの普通の魔法使いですか先輩は」

「私は魔法使いじゃないっての!……そう言えば最初に会った時もそんな事言ってたよな」

 

 ……先輩と初めて会った時。それは、俺がまだ提督ではなくただの海兵だった頃だった。

 色々な事があって、今の関係に落ち着いているがあの時は本当に酷かった。……主に俺への被害が。

 

「特徴もさることながら口調や言動まで一致してるのは流石におかしいと思うんですがそれは?」

「そんなの知ったこっちゃないぜ。私は私なんだからな」

 

 ……まぁ、彼女との会話は今の俺にとってはとても良いものだった。九条の件で色々と俺も辛かったし。特に俺の胃と頭が。

 

「まぁ冬夜がそんな事言うって事は相当な奴なんだろうな。ソイツ。いつか私も会ってみたいぜ。結局バトル中に会えなかったしな」

「……似たタイプである先輩"は"大丈夫でしょうね。後先考えないから。その代わりそうやって俺に被害が……あ、」

 

 その時、俺は気付いた。理沙先輩と九条を会わせてはならないと。

 会ったが最後、俺の胃は穴が開く。間違いなく。

 

 九条の問題に頭を悩ませている所に理沙先輩という問題児まで加えてしまっては本格的に鬱になる。もしくは胃に穴が開く。

 この時の俺の顔は真っ青だったに違いない。

 

 よって、前言撤回しよう。理沙先輩との会話は俺にとって余りよろしくはなかった。

 

 

 

 ○月?日、晴れ

 

 電から、釣りをしたいとお願いされた。

 ……電が頼み事をするとは珍しい、そう思った俺はそのお願いを受けた。

 

 ……………………受けてしまった。

 

 待ち合わせ場所は鎮守府前の堤防、そこに電、それから第六駆逐艦隊。つまり雷、響、暁の三人。

 そしてーー九条が居た。

 

「ーーヴェ?」

 

 思わずそんな声を上げてしまった俺は決して悪くない。確かに、俺は九条と上手く関係を築くつもりではあるが、いきなり釣りに行くというイベントに巻き込まれるとは思っていなかった。

 前にも言ったけど、電。空気を読んでくれ、もしくはせめて死ぬ覚悟を……。

 

「さて、じゃあ提督さん!早速釣りを始めたいのですが……良いですか?」

 

 俺の顔を覗き込むようにして電が尋ねた。その質問にやっとの思いで俺は答える。

 

「お……おう、も、勿論だぜ」

 

 その返答に第六駆逐艦隊の四人が変な目を俺に向ける。うん、明らかに挙動不審なのは自分でも分かってる。分かってるからそんな目を向けないでくれ。

 

「もしかして、提督さんは釣りは初めてで?」

 

 すると、九条が俺に声を掛けた。その時ビクッと身体が反応してしまったが、俺は首を横に振る。

 

「いや、経験はあるから大丈夫だ。それよりも早く釣りを始めよう」

 

 もう、こうなりゃヤケだ。釣って釣って釣りまくって忘れてやる。もうキャラ崩壊なんて知ったことか。俺にとっては今日を生き残り、胃に穴を開けない事が先決だ。

 

 そして俺達は釣りを始めた。……運の良い事に、開始から五分で一匹目を。それを境に二匹目三匹目と次々と釣れる。

 九条も真剣に釣りをしているようで、声を掛けてくることは無かった。

 

 そしてある程度釣った頃、九条がポイントを変える、と言い残し鎮守府の端の方の堤防へと向かって行った。

 助かった、そんな思いが俺の脳内を覆う。それが引き金になってか、ようやく俺の緊張というか頭痛の種も消え去った。

 

 それからは特に何が起こるでもなく普通に楽しく釣りを終える事が出来たが、本当に良かったと思う。

 ……そういや、何か知らんが理沙先輩がその日の夜に艦娘達から魚をおすそ分けして貰ったから、とか何とか言って夕食を作ってくれた。

 

 思わず、「手作りですか!?」と尋ねると少し恥ずかしそうに頷いたのだが、どうしてなのだろうか。

 

 

 

 ○月$日、晴れ

 

 昨日の釣りが終わった後、元帥に再び九条に演習を行うよう伝えろと言われた。

 何故俺に?と思ったのだが、そんな事は口に出せず九条へと伝える。

 二つ返事で引き受けてくれたので良かった。

 

 そして演習に関しては特に語るべき所は無かった。

 強いて言うなら対戦相手は俺と同じ大佐で、序でに理沙先輩の事を火力馬鹿と馬鹿にしているような奴だったので寧ろ清々したとも言える。

 

 しかし、その実力は確か。レベルも高く、容赦しないその指揮は確かに敵艦を沈没させ、戦果をあげていた。

 

 ……だが、九条にとってはその程度。倒すのは非常に簡単な事だったらしい。

 

 実際、奴の艦娘達は彼の指令通りに動けずに直ぐさま大破させられていた。それこそ、一片の容赦も無く。

 

 ……一応対戦に至った経緯についてだが、その提督は昔からブラックなのでは?と噂されている提督だった。

 そりゃそうだ、彼が持つ艦娘達は何れも傷だらけだったのだから。

 

 俺としてもその噂は聞いていたし、尻尾を掴もうとした事もあった。

 だが、自身に不利な事を隠蔽するのが上手く、証拠が無いため調べる事も出来なかった鼻のつまみ者だったその男は、のらりくらりと俺達の捜査の手を回避し続けた。

 

 そして何を思ったのか今回。彼は元帥にこんなお願いをしたそうだ。

 

「あの火力馬鹿……おっと失敬。あの主砲ガン積みの少将を倒した彼と手合わせ願いたい」

 

 元帥から一字一句違わぬその言葉を伝えられた時は流石の俺もプッチリと切れそうになったが、そこで元帥はこう言った。

 

「……ワシは。ワシが思う海軍には奴は必要無いと思う。ここいらで消そうと思うのじゃが、お主はどう思う?」

 

 消す、その言葉の真意は聞いても教えてくれなかった。が、海軍から奴を追い出せるならば、と思い演習中に奴の本拠地を調べるという事を秘密裏に行う事が決定。そして決行された。

 

 別の鎮守府が主となり、横須賀鎮守府はそのサポートに当たったが。

 

 ……その結果はクロ。奴はブラック主義だった。

 普段から戦いを強いられていた艦娘達は解放されたそうだが、殆どの艦娘はみずから解体を望んだらしい。

 ……可哀想な話だ。

 

 だが数名の艦娘は別の鎮守府で働く事を望んだらしく、その内の一人がウチに来る事になった。

 そしてその男は海軍本部に拘束された。とは言え、そのような実態を報道で流すわけにはいかないのでこれまた秘密裏に処理された。

 

 今回、九条には敢えて何も言わずにこのような事を頼んでしまった事は、決して良くない事だったのだろう。

 ……だが、今はまだアイツを鎮守府の闇に触れさせるわけにはいけない。

 ーーそう、まだ、提督になっていない今はまだ。

 

 

 

 

 ○月$日、晴れ

 

 九条に出撃をさせる事にした。

 勿論、元帥には承諾を貰っているので問題も無い。

 そしてパソコンを渡したのだがーー、

 

「敵艦隊発見。駆逐艦魚雷発射、戦艦はBー54地点へ撃て」

 

 次々と音声認識で伝えられるその指示は正に圧巻の一言だ。そして哀れにも敵艦はゾウに踏み潰されるアリの如く、現れた瞬間に轟沈していく。簡単なシューティングゲームのノーミスクリア動画でも見せられているかのような気分である。

 

 そして音声認識だけではない。その手も絶えず、艦載機の動きや回避行動の指令を送り続けている。

 

「チェックメイト」

 

 そして九条はターン、と軽快にEnterキーを押した。恐らくそれがこの戦いにおける最後の命令という事なのだろう。

 画面に目を向けると、そこには敵艦を轟沈させた艦娘達の姿が映されていた。

 

 時間にして……、戦闘開始から九分四十秒。完全勝利、それも速攻だ。

 相変わらずの実力に内心溜息を吐いた。

 

「終わりましたよ、これで仕事は終わりですか?」

「……いや、出来れば中破が出るまでは続けてもらいたいのだが」

「了解、中破が出るまで……ですね」

 

 それから四時間か、五時間が経過した頃。

 俺に待っていたのは資源が切れたという九条の言葉と、数十㎞に渡る新海域の解放の報せ。

 ……当然、「資源が切れた」の言葉に絶叫した俺は絶対に悪くない。

 だが、一つだけ言わせて欲しい。

 

 ーー誰が資源を尽きるまでやれと言った。

 

 

 

 ○月¥日、晴天

 

 とうとう元帥が九条を提督に推薦する事に踏み切った。

 九条には前日にその旨を伝えたのだが、生返事だったのが気になる。意味が分かっているのだろうか?

 

 そして会議にて元帥が九条を提督にする事について審議をしたのだが、当然の如く多くの提督から反対された。

 まぁ、彼らは九条の指揮を見ていないので仕方ないだろう。当然、それは元帥も理解していたらしく、今日。この日に元帥と九条の演習を行い、その上で判定するように元帥は言った。

 

 そしてその編成は……、

 

 元帥、第一艦隊。九条、ウチの艦娘六隻。

 

 レベルの面だけで見れば誰がどう見ても元帥の勝利だ。

 日々の鍛錬を欠かさず、何十年という期間を元帥と共に戦い続けた歴戦の艦娘達。

 それとは対照的に九条の編成は、本当に適当に選んだ六隻。レベルもまちまちだ。

 

 つまり、圧倒的格差が両者の間で生じていた。

 当然、反対していた提督は勿論、賛成していた提督達だってそんな条件じゃマトモに戦う事すら出来ない。

 当たり前だ。弾が掠っただけで大破する。それほどの差があるのだから。

 

 ……そして、演習は始まった。

 

 開幕の攻撃。艦載機の攻撃を滑るように避けきると九条は距離を取りつつ魚雷をばら撒いた。

 そしてそのまま背を向けて脱兎の如く逃げる。

 

 そのおかしな指揮に提督達は皆、疑問を浮かべた。敵に背を向けるという事は敗北を意味すると言ってもいい行動だからだ。

 

「…………………………、」

 

 何時もとは違い、ただただ無言で九条は手元のキーボードから命令を送り続けていた。

 殆どが避けるか逃げる。偶に、魚雷をばら撒く程度。

 その戦い方に多くの提督は失望した事だろう。あぁ、この程度か、と。

 

 ……だが、それが三十分も続くと反応は変わる。

 

「二隻大破、一隻中破」

 

 三十分。それも、圧倒的レベル差があり、尚且つ指令が元帥である異常な敵を相手にしてたったそれだけの被害。

 ……それも、九条本人のミスではなく艦娘達がバランスを崩すなどの予想外の事態を起こした時のみの被弾である。

 

 ーーそして、恐るべきは、

 

「元帥、一隻小破」

 

 小破。つまり、とても小さな。とても小さな細かいダメージを少しずつ蓄積させた。

 そしてその一隻とは……、

 

「旗艦、長門」

 

 元帥の旗艦である長門だった。

 

 

 ……そして、結果はタイムアップ。

 最終的には

 九条、大破三隻、小破一隻。

 元帥、大破一隻。

 

 残りは無傷だ。そして九条はハァ、と少し疲れた溜息を吐くと、俺達に向かってこんな事を言った。

 

「では、俺は邪魔な様なので」

 

 そう言うと九条は勝敗を確認する事なく部屋を後にした。

 ……そして、九条が部屋を出ると同時にパソコン画面に勝敗が映る。

 

 モニターに映る二つの結果。

 それを見た元帥は笑った。

 

「元帥、戦術的敗北」

 

 静かになった会議室。そこでは、元帥の笑い声だけが響き渡った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 横須賀提督の体験日誌

お気に入り1000

まさか六話でここまで伸びるとは思っていませんでした。
本当にありがとうございます。

それから、
昨日、一昨日と事情があり筆が取れませんでしたが今日からまた更新を再開します。

……やっと横須賀提督sideが終わったなぁ。次はあの人を焦点に当てて書こう。


 ○月£日、晴天

 

 前日の演習。その結果は直ぐさま本部へと伝えられた。

 多くの提督が見る中での、ましてやハンデ戦での戦いに勝利。

 そしてその相手が元帥である事、戦闘内容なども事細かに説明され、九条の有用性が確固たるものに変わった。まぁ、そこは流石元帥と言うべきか。俺もえっ?って思うくらいすんなりいったしな。恐らく裏で手を回したんだろう。

 ……そういう点で考えると、今の俺にゃぁ元帥は無理だ。比喩でもなんでもなく。

 そう考えると、改めて九条が異常に思えてくる。アイツはまだ十五、六そこらのガキの筈なのにな。

 

 

「この度、新鎮守府提督及び、大佐として海軍に着任しました。九条日向と申します。若輩者……いえ、短い間ですがよろしくお願いします」

 

 式中は流石の九条もふざけた事は言わなかった。恐らくここで変な動きを見せるのは不利になると判断したのだろう、

 

「九条大佐と共に新鎮守府に第六駆逐隊も移動になるが、その点はよろしいか?横須賀大佐提督」

「ハッ!異論ありません。彼女達のさらなる活躍を期待します。そして、横須賀鎮守府での任を解く事を許可します」

 

 途中でウチの第六駆逐隊が九条と共に移動となる事も触れられたが、コレに関しては少し前に暁達、第六駆逐隊に伝えたので問題は無い。少しオリジナルを加えつつ、定例文を述べた。

 

「それから九条大佐。後、数人の艦娘も送られる事となるがそれに関しても異論ないか?」

「ありません」

 

 一言で答える。その顔は少し面倒そうに眉を潜めていた。……胃が痛ぇ。

 すると横からヤジのような声が飛んだ。

 

「お待ち下さい元帥!どうやら九条大佐はやる気が無い様子、でしたらこの私を!」

 

 アレは……元帥の座を狙っていた大将か?あぁ、なるほど。ここで九条を認めてしまえば恐らく元帥は何が何でも九条を後任に任命しようとするだろうし、大将からしたらそれを避けたいのか。

 

「武蔵野鎮守府大将殿、ここは任命の場である。慎みたまえ」

 

 元帥が宥めるように声を上げた……が、

 

「しかし彼は未だ高校生!まだ十五の若輩にこのような重要な役割を「くどい」えっ……?」

 

 武蔵野提督は元帥の決定を九条の年齢を持ち出す事で覆そうとしたが、その途中で元帥の低い声が響いた。

 その声に驚いたかのように大将が顔を上げる。だが、元帥は追撃を掛けるかのように声を発した。

 

「では、聞こうか武蔵野鎮守府大将提督殿。貴殿は、練度の低い艦隊で私の第一艦隊に勝てるのかね?」

「……ッ!」

 

 ……まぁ、そう言う反論を通さない為に昨日の演習を行ったんだからな。本当に凄いモンだ。

 そして元帥は続けた。

 

「……軍に年齢は関係無い。有能か、無能か。彼の場合は有能だ。それも私を既に超えていると言っても良い」

 

 元帥が顔を上げる。その目は鈍い光を帯びていた。

 しわがれた声で九条を賞賛する姿はまるで、自分よりも優れた後任を見つけ、安心して引退するような。そんな雰囲気。

 そしてこれが最後だ。と言わんばかりの覇気を纏い、ゆっくりと口を開いた。

 

「……私は、彼をこう評価した。

 ーー彼は、人類の希望だ。

 深海棲艦を打ち破る人類の希望だ……とな」

 

 その言葉にその場に集まっていた提督達が息を呑んだ。

 元帥の言葉。

 それはすなわち、九条日向という人間は自分より。

 提督達の頂点とも言える元帥よりも優れた能力を持っている。

 

 ーーそれも、圧倒的なまでに。

 

 ……少しの間とはいえアイツと暮らしていた俺はともかく、他の提督にとっちゃああり得ねぇと思うのも無理無い。

 だが、九条は確かに見せた。

 

 敗北した筈の戦いにたった四隻の駆逐艦で完全勝利。

 数時間で数十Kmに渡る新海域の解放。

 少将との演習での完全勝利。

 

 そしてーー、元帥とのハンデ戦で勝利。

 

 信じられるか?こんな事を一週間でコイツはやってのけたんだぜ?

 

「ック………」

 

 すると、九条が笑い声のようなモノを漏らした。

 

「何がおかしい!」

 

 先程の大将が叫ぶ。

 その声を嘲笑うかのように九条は口を開けた。

 

「あぁ、これは失礼。面白いな、と思っただけですから」

「面白い……だと?」

 

 俺にゃぁ九条の言葉は理解出来ない。だからこそ、無言のまま次の言葉を待つ。

 

「まず俺。いえ、僕が提督なんかに選ばれた事も疑問なんですけどね?貴方が何故、そこまで騒ぐのかが分からなくて、酷く滑稽に思えたんですよ。気に障ったら申し訳ありません」

 

 ニタニタとした笑みを顔に貼り付け、言ったその言葉は大将を嘲笑するものだった。

 そして的を射たその言葉に元帥の座を狙っていない提督達が笑い声を漏らす。

 

「き……貴様!」

「アッハッハ!怒らないで下さいよ。思った事を口に出しただけですし。

 それにーー、さっき言ってたじゃないですか?僕が子供(ガキ)だって。なら、子供の言うことくらい笑って流さないと」

 

 笑いながら九条は大将を馬鹿にするような言葉を紡いでいく。……周りは笑っているが、俺にとっちゃ胃が痛い原因でしかないんだが。

 ……あぁ、後でなんて謝るべきか。一応九条はウチが預かっているし、俺が責められるよな?

 クッソー、何で面倒を背負ってまで責められなくちゃならないんだよう!

 

「黙れ!大佐如きが無礼だぞ!」

「だ、そうですが元帥。僕は黙るべきですか?」

「ッッーー!!」

 

 楽しそうに元帥に尋ねた。九条の質問に元帥は首を横に振る。

 弄ばれている事に気付いた大将が顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべた。

 

「っこのーー「そこまでだ、武蔵野鎮守府大将殿。先も言ったが、今は神聖なる任命式である。口を慎め」

「……チッ!」

 

 そして何かを叫ぼうと口を大きく開けたところで元帥がストップをかけた。

 ……まぁ、なんだ。ナイスです元帥と言えば良いのか?

 あのままじゃ式は滅茶苦茶になってただろうし。

 

 舌打ちをして引き下がった大将を確認した元帥はゴホン、と溜息を吐いた。

 

「では、改めて。九条大佐。新鎮守府への着任の儀。受けてくれるね?」

「それが罪の償いだと言うのなら」

 

 そして九条は任命書と提督としての身分を証明するバッジを恭しい手つきで受け取った。

 その様はまるで、王からの命令を受けた騎士の如く。

 俺たちなんかじゃ表現出来ない美しさ……それがそこにあった。

 

「では、これにて」

 

 そして九条は誰に話しかけるでもなく、大佐のマントを翻すとその場を後にした。

 その余りにも堂々としたその姿に誰も話しかける事は出来ず、そのまま彼の姿が視界の端に消える。

 

 

 ……後に残されたのは静寂だった。

 そして任命式は"無事"、終わった。

 

 

 

 

 ○月○日、晴れ

 

 俺の胃や頭が痛い元凶、九条と会った。

 また問題を起こしたのか……、と若干投げやりになりつつ話しかけると、何かを察したように胃薬を渡されたのを覚えている。

 

 ……正直、驚いたというのが本音だ。

 そもそも九条が周りの人間を気にかけるようなタイプだとは思っていなかったのもあるが。

 

「最近お疲れのようですし、良かったら愚痴を聞きますよ」

 

 ニコニコした表情でそう言った九条に少し腹が立った俺は、意趣返しに九条へと愚痴を吐いた。

 ……まぁ、アレだ。お前がやった事はこんなにも俺の頭や胃が痛くしているんだ、って言う事を改めて教えるってのもあるけど。

 

「まぁ、それでソイツが元帥に勝利してな?」

 

 九条の名を出さなかったのは単に俺の怨みというか私怨だ。鬱憤を晴らすためとも言える。

 だが、九条は俺の言葉を他人事のようにふーん、と聞いていたので少しムカついたと言えばムカついた。……まぁ、俺程度の言葉なんて気にする男じゃねーしな。

 そんな事を考えていると、

 

「凄いですね。俺もそんな才能を分けて欲しいな」

 

よりにもよってこんな事をほざきやがった。

 コイツ……確信犯か!つーかお前の事だっつーの!!

 ってかコイツ知っててやりやがっただろ!もっと俺みたいな下っ端を優しく扱ってくれぇ……。

 

 ンな感じの会話をしていて気が付いたら夕方まで話し込んでいた。

 ……何つーか、少し仲良くなれた気がする。少なくとも軽口を叩けるくらいには。

 気も楽になったし。

 

「愚痴に付き合ってくれてありがとう九条君、気が楽になった」

「いえ、気にしないで下さい。これからも頑張って下さいね」

 

 そして俺達は互いに背を向けたのだが、一つ思い出した俺は気が付けば九条にこう言っていた。

 

「一人か二人、九条君と一緒に無人島に行く艦娘を選抜しておく!楽しみにしていてくれ」

 

 俺の声に九条はただ、お礼を言うかのように右手を上げると、振り向く事なく去っていった。

 ……キザな野郎だぜ、全く。

 

 

 ○月+日、晴れ

 

 今日は一日中書類を片付けていた。最近の様々な出来事のせいで溜まりに溜まった書類である。

 秘書の霧島も疲れた表情を浮かべていたので休憩時間中に肩を揉むと喜んでくれた。

 なんか暇になったらしい理沙先輩が来て、手伝ってくれたのでお礼を言うと飯に誘われたので、仕事が終わった後に適当な居酒屋に足を運んだ。今回は霧島も一緒に行っている。

 

 んで、案の定潰れた。あぁ、潰れた。

 グデングデンになった理沙先輩がはだけた服のまま抱き付いて来た時は流石に童貞卒業を覚悟したが、鋼の理性で押さえつけた。

 

 ……意外だったのは霧島だ。冷静な感じがあったのだが、そこまで飲める人ではなかったらしく彼女もまた潰れた。

 ついでに絡み酒。何で俺の周りの女は絡み酒ばかりなんだ。

 

「提督〜、理沙提督と私のどっちなんですかぁ〜?」

「あぁ、そうだぜ冬夜ぁ〜、どっちを選ぶんだ〜?」

「あぁもう!選ぶとか何言ってんだ!俺なんかにゃ勿体なくて選ぶ選ばないの問題じゃねぇっつの」

 

 全く面倒なものだ。結局連れ帰るのは俺の仕事になるんだろ?

 ついでに支払いも俺になりそうだし。

 

「おやっさーん!勘定ー!」

「あいよ!冬夜坊も大変だねぇ、ったく羨ましい!美女二人も連れて」

「馬鹿言うなっておやっさん、女二人に挟まれて肩身が狭いぜ全くよー」

 

 提督仲間からはこのハーレム野郎とか言われたが意味が分からん。

 そもそもハーレムなんか作ってないし、俺の状況がハーレムだと言うにしても、確かに良い部分もあるが、大半は面倒ばかりだ。

 

 チャリン、と札の上に小銭を置きながら俺がそう言うと、

 

「オメェこそ馬鹿言っちゃぁいけねぇよ。冬夜坊は若いからまだ分からんが、俺くらいの歳になると羨ましいモンだ。そこまで尽くしてくれる女なんか中々居ねーよ。理沙ちゃんにしても霧島ちゃんにしても、何時もお前を助けてるだろーが。現に、今日の朝だって理沙ちゃんの手料理だろ?仕事中だって最近は忙しいお前の分まで霧島ちゃんが処理してるし。

っかぁ〜、愛されてるねぇ。

倦怠期に入ったウチのオカンと違って羨ましいモンだ」

 

 そう言っておやっさんは頭を撫でた。かなり後退しているその生え際が妙に寂しい。

 すると、

 

「いやいや源さん。時江さんだって充分アンタに尽くしてんだろう」

 

 近くの座敷から声が響いた。見ると、そこにはおやっさん。つまり、源さんと半世紀近い親友らしい勝さんの姿が見える。

 ……どちらも、俺が小さい頃からお世話になった方々だ。

 

「違ぇねぇ!ガッハッハ!」

 

 勝さんの言葉に源さんが頷く。そしてひとしきり楽しそうに笑った後、真剣な声色でこう言った。

 

「……、冬夜坊よ。ちゃんと二人共守ってやるんだぞ?それが男として最低限の甲斐性ってもんだ」

「……ッ、………………はい」

 

 ……本当に、この人達は暖かい。何がって言われたら、心がだ。

 この居酒屋には良く足を運ぶがいつも繁盛している。恐らくその理由はここにあるんだな……、となんとなく理解した。

 

「良し!明日からも頑張れよ冬夜坊!おっちゃんは応援してるかんな」

 

 そうやっておやっさん流の発破をかけられた俺は居酒屋を出た。

 二人に肩を貸し、街を歩く。

 

 ……あぁ、なんつぅか。

 

 今日は良い日だった……と、思う。

 

 

 

 ○月*日、快晴

 

 明日。明日の早朝が、九条の出立する日だ。

 夕方頃に皆でお別れのパーティを開いた。元帥からも大々的にやれ!と笑顔でオッケーを貰ったので出来る限り大きなパーティにしたつもりだ。

 

「……んで、何でここに居るんですか?魔理沙、じゃなかった。理沙先輩」

「魔理沙って……。まぁ良いぜ、私がここに居るのはパーティがあると聞いたから。そして、冬夜が居るからに決まってるんだぜ」

「あぁ、さいですか」

「あー!なんだよ、反応が冷たいな」

 

 そう言って俺の肩をバンバンと叩く理沙先輩。……もう少し女らしさというかが無いのかな?この人には。

 すると、横からチョイチョイと肩を突かれたのでそちらを振り向く。

 

「提督、お飲み物を」

「ん?あぁ、霧島か。ありがとな、……これは?」

「ローズライムジュースです。チャンドラーの『ロンググッドバイ』という小説の中で書かれていた事で有名ですね。多めにジンを入れましたのでスッキリ美味しく飲めますよ」

「ロンググッドバイ……?まぁなんだ、美味いんだな?」

「えぇ、まぁ味覚が合わない方も居ますが基本的には美味しいかと」

 

 霧島から貰った飲み物をグビッと煽る。うーん、ちょっとすっぱいな。

 まぁ美味いけど。

 

「お酒は入ってませんので、酔いの心配もありませんし」

「あぁー、まぁお前の場合は結構重要だな」

「……恥ずかしながら」

 

 下戸……ってまでじゃねぇが、そんな強くないんだよなぁ。何でだろ?

 

「オー、中々良いアピールですネー!提督は単純なので結構良いと思いますヨー!」

 

 すると、横から茶々を入れるように横槍が入った。

 見ると、ヤケにニタニタした表情の金剛が此方を、正確には霧島を見つめている。

 

「なっ……姉様!そんな事は」

「霧島ちゃんは恥ずかしがり屋ですネー!もっと理沙提督ぐらいスキンシップを取るべきデース」

 

 チッチッチ、と人差し指を振る。そして理沙先輩を見ると、ニヤリと笑った。

 

「言っておきますけど、理沙提督!霧島ちゃんは負けませんからネー!」

「フッ、宣戦布告か、まぁ私は別に良いぜ。そっちが私をなんとかしようとしている内に落としちまえば良いし」

「でも、落とせていませんので、心配はありませーん、良かったデスね!霧島ちゃん!」

「なっ……ぐぬぬ」

 

 ……落とすって、何をですか?なんか怖い。いきなり海に落とされるとかマジ勘弁なんですが。

 そして理沙先輩と霧島がそろって顔真っ赤にして、金剛が楽しそうに笑っているんだがこの状況をどうすればいいと?

 

 だがその時二日前に九条とした約束を思い出した俺は二人を一旦置いて、金剛に話しかけた。

 

「あっ、そうだ金剛。今、九条と一緒に行く艦娘を探しているんだがお前、行く気とか無いか?」

 

 結構駄目元である。まぁ、ウチは金剛四姉妹揃っているし、離れたくないと思うだろうからどうせ答えはNOだろうが。

 しかし、出てきたのは予想外の言葉だった。

 

「OH?あぁ、九条さんの所ですネー!オッケーデース!あの人の淹れる紅茶はとっても美味いネー」

「まぁそう言うよな…………あ?え?良いのか?」

 

 ……なんというか意外だった。

 

「まぁ、ここに居ても私はお邪魔虫ですからネー。遠くからそっと応援する事にします」

 

 チラリと理沙先輩と霧島の方を見つめてそう言った。

 うーん、寧ろ主力だからお邪魔虫では無いと思うが。

 

「それに!私だって恋愛してみたいですから!アッチの方が良い人と出会えそうデース!九条さんも中々良物件ですしネー!」

「あ、そうですか」

 

 なんと言うか……逞しいな。俺だったら自分から好んで九条のとこになんか行かんぞ。

 

「まぁ、私はティータイムの時間が何より大切ですからネー」

「出たな紅茶妖怪」

「提督は酷いのデース」

 

 そんなお話をしたりして、数時間ほどパーティは続いた。

 

 

 

 時刻は夕方。真っ赤に燃えたオレンジの太陽が輝いている。

 水面もキラキラと太陽な光を反射していて、とても綺麗だった。

 

「俺の為に、この度はありがとうございます」

 

 九条が頭を下げた。今、パーティの最後の挨拶を行っているところである。

 

「このようなパーティを開いて下さるとは思ってはいませんでした。とても嬉しく思います」

 

 そんな感じの挨拶が続き、一人ずつ九条に声を掛けていく。

 そして俺の番が来た。

 

「提督さん」

「あぁ……まぁ、なんだ。九条君には色々と面倒を起こされたが、それでも今日という日を無事に迎えられて良かったと思う」

 

 無難な滑り出しだ。俺自身そう思った。

 

「私が……いや、俺が言える事ではないが、キミはまだ子供だ。技術はともかく大人としての経験は俺達の方がある。何かあったら頼ってくれ。きっと、助けになろう」

 

 いや……、実際にそんな事があったら困るが。

 

「まぁ戦いでは助けになるとも思えないが戦術でも援軍くらいなら送れるだろうし……な」

 

 なんつーか、こんなのは俺の柄じゃない。

 もっと俺はいい加減だった筈なんだがなぁ。

 

「うむ、とにかく頑張れや。若者よ」

 

 そう言って手を差し出す。その事に驚いたのか、俺の顔を見つめた九条だが、直ぐに口元を整えると笑顔で俺の手を握り返した。

 ギュッと、強く握手をする。

 

 そして、俺達は同時に呟いた。

 

「「暁の水平線でまた会おう」」

 

 次に会うのは……戦いの時だ。

 だが、恐らく次に会うのは俺が。

 そうだな……、

 

 大切なモノを守れるくらい強くなったら……だな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 駆逐艦・電の日記

 『週間ランキング1位』ありがとうございます。
五時頃にチラッと見たら一番上にあって驚きました。


そして今回は電ちゃん、夢を抱くの巻。

どうも、最近二次小説を読んでいて、挿絵を書いている人が結構多かったので(下手ですが)自分も描いてみようかなと思っているゆうポンです。

前回で冬夜提督(横須賀提督)視点が終わりましたので今回から電ちゃん視点に移ります。(二話で終わる予定)

それと感想で、読みにくい……という感想を頂きました。
どこでどう勘違いしたのかが分かり辛いようです。
自分でも、前話を覚えていないと何となくつまらないかもなぁ……と思っていたので納得の感想だったのですが、ここで一つ謝罪を。

申し訳ありませんが、少なくとも第1章(九条君の日記の2話分)までは既に書き上げてしまったので、この第1章はこのままの書き方でやらせていただきます。

予定では後二、三話で終わりますが、それでも一から書き直すとか修正を入れると私の場合、次の投稿がいつになるか分かりません。

その為、第1章終了まではこのままの書き方でやらせていただきます。

大変、申し訳ありません。分からなかった場合は前の話を見返すなりして頂ければありがたいです。

では、本編をどうぞ


 九条の指揮を受けた駆逐艦は何を思うのか。

 そして、彼に救われた命をどう使うのか。

 これはとある一人の駆逐艦。

 第六駆逐隊の四番艦が感じた事を書き記す日記である。

 

 

 

 ○月×日、晴れだけど……雨なのです

 

 こんな事が起こるなんて……思っていなかったのです。

 だから私は……日記として今日の出来事を書き記そうと思います。

 

 あれは……そう、いつかはこんな命令が来るかもしれないと思い、絶望していた時の事だったのです。

 その時は私も、第六駆逐隊の皆も。これから死にに行くんだという思いに縛られていました。

 

『味方ノ撤退ヲ完了サセヨ』

 

 それがその時、私達に与えられた任務でした。

 その意味は………………私達が轟沈するまで戦い抜け。そんな、非情な命令。

 

 正直……先輩方や他の援軍の皆様が敗北したなんて信じたくなかったのです。でも、現場に到達した私達が見たのは壊れた装甲の残骸や敵深海棲艦の死骸。それから壊れた先輩達の武器や防具。

 ……死の匂い。

 

 どのくらいの命がこの戦いで失われたのか。

 例え、敵であっても出来れば助けたいと考えていた私にとってはその光景はただただ残酷なものでしかありませんでした。

 

 ……そんな中、聞こえるのは、敵艦の嘆くような甲高い声。ギャァァアアア!!という嘆きの叫び声だけ。

 そんな戦場の真っ只中に私達。第六駆逐隊は居たのです。

 

 

「……不死鳥と呼ばれた私でも……流石にこれはキツイな」

 

 その光景を目にした暁型駆逐艦の二番艦。響ちゃんがそう言いました。

 その清らかだった白髪は戦場の空気で煤がつき、薄汚れていて、そんな中で呟いた響ちゃんの言葉で、あぁ。これから轟沈するんだな……って、改めて死への恐怖が浮かんできたのです。

 

「……敵艦は分かる?暁」

 

 雷ちゃんが暁ちゃんにそう尋ねました。その目は既に死を覚悟した"ソレ"になっていた事を覚えています。

 

「当然よ、前方に数え切れないほど一杯。これだけで十分でしょ?」

 

 その時、霧の中で深海棲艦の紅い目が光りました。

 威嚇するかのように向けられたその光は電達の戦意を奪っていったのを覚えています。

 

 そしていよいよ決死の防衛戦が始まろうか……といったタイミングでした。

 

「……え?」

 

 突然、提督からの指示が私達に届きました。

 それは極々短い文章でこう書かれていたのを覚えています。

 

 『この戦いで勝つ』

 

 そして、命令に従うように指示がされていました。

 

 

 そこからは驚きの連続でした。脈絡のない突撃の指示。魚雷の発射。細かい動きの微調整。

 ……全て、全て細かく指示を出され続け、その通りに行動し続けました。

 これは、今までの提督の様子からしたらあり得なかったことです。何せ、その指示は全て的確。

 指示に従い動けば敵の攻撃を回避していて、指示の通り魚雷や弾丸を射出すればほぼ、全弾が命中する。

 

 極め付けは敵艦の攻撃を利用し、敵の旗艦。戦艦レ級を撃破した事。

 提督さんにはそこまでの才能なんて無かった筈なのに。

 

 ……終わってみれば、結果は完全勝利。……無傷で戦いが終わったのです。

 

 ……正直言えば、帰投している今でも信じられない気持ちです。当たり前なのです、死ぬ覚悟をしていたのに結果は無傷だったんですから。

 

 でも、私達は生き残った。しかも無傷で。

 ……それは正にーー

 奇跡。

 

 万が一、億が一に起こる限りなく低い可能性。

 ……そう、所謂あり得なかった筈の可能性。

 

 ーーそれに巡り合った。

 

 ……初めてだった。あり得ない選択肢を選ぶ事が出来たのは。

 ……初めてだった。起こり得ないはずの奇跡を知ったのは。

 

 だから、私は決めたのです。

 その、奇跡に賭けてみようと。

 

 深海棲艦とはいえ、敵とはいえ、沈めるのは私も好きじゃ無い私の気持ち。

 それに嘘を吐く事は出来ないと。

 

 ……だから、私は決めたのです。

 

 艦娘、人間、深海棲艦。

 

 その三つの種族が共に生き残る道を探る戦いをする事を。

 

 一度死んだ筈の身、もう怖くなんて無いのです。

 ……だからこれは、私の。私にしか出来ない戦い。

 

 私達が死ななかった奇跡だって起こるなら、

 

 ーー皆で手を取り合う幸せな未来になる奇跡だって……きっとある、と。

 

 

 

 ……後、帰ったら提督さんに色々と問い詰めてやらなければならないのです……!

 

 

 

 

 ○月△日、くもりなのです!

 

 何となく気分で今日も日記を書いてみるのです。

 昨日は色々な気持ちが混ざっちゃって変な文章になってたのですが、今日はちゃんと日記として書くつもりです。

 

 

 今日、昨日の戦いを終えて帰投したのですが未だに信じられない気持ちが電達を覆っていました。

 それもそのはず。死ぬ筈だった私達が無傷で帰還したのですから。

 

 ……そして、電達に待ち受けていたのはとんでもない報告でした。

 

「今回、お前らに指揮をしたのは俺じゃない」

 

 私達に与えられた事細かな指示。そして敵艦を見事轟沈させた戦術を考えたのは提督ではない。そんな知らせでした。

 

「その方はこの横須賀鎮守府に滞在している。くれぐれも怒られるような事はするなよ」

 

 その時の提督の顔が何とも言えない表情だったのは何でだったのかな?

 まるでーーそれが提督の意志では無いかのような、そんな感じ。

 

 

 あっ、それからその人にお礼を言おうと探していた時に見知らぬ人とぶつかってしまったのです。

 ……完全にこちらの不注意だったので慌てて謝ったのですが、その人は笑って許してくれました。

 

 でも、さりげなく注意してくれたりとしっかりした方だったようです。

 ……見かけない人だったけど誰だったのかな?

 明日提督に聞いてみようっと。

 

 

 

 ○月□日、晴れなのです!

 

 何か、日記を書くのが楽しくなってきたのです。

 このまま習慣にしても良いかもしれません!

 

 ……さて、昨日の事を提督に話してみたら、なんと私が昨日ぶつかってしまった人が私達を指揮してくれた人だったみたいです!

 道理で見かけない人だなぁ、と思ったわけでした。

 

 そして、お礼をする為に間宮さんに教わりながらクッキーを焼いて、持っていったらとても喜んでくれました。

 

 頭を撫でてくれたその手がとっても暖かかったのです。

 でも、指揮について話すと変な顔をされました。……もしかして何か事情があったのかな?

 

 それから、気付いたら色々な事を話していました。

 ……私の事、第六駆逐艦隊の皆の事。戦いなどの戦術。

 

 どれも嫌な顔をせずにニコニコと聞いてくれたのが嬉しかったのです。

 そして、少しだけその人も自分の事を話してくれました。

 

 自分は単なる高校生だよ、という謙遜から慎み深い人なんだなぁ、って感じたのが印象的です。

 度が過ぎた謙遜も勿論良くないとは思うのですが、その辺りもキッチリと理解しているようでした。

 

 そして最後に第六駆逐艦隊の皆を紹介することを約束したらこれまたとても喜んでくれました。

 

 

 …………この人ならもしかしたら。

 

 

 

 ○月☆日、晴れなのです!

 

 

 今日も日記を書いてみるのです、……もう習慣付いてきた感じがします。

 

 それで、今日もあの人の所に行こうかな、と思って部屋を尋ねてみたのですがどうやら不在のようでした。

 そう言えば自己紹介もしていなかった気がします……うぅ、やってしまったのです。

 

 提督の秘書艦、霧島さんに聞いてみたところ、なんと元帥さんに呼ばれていたそうです。

 何か用事でもあったの?、と尋ねられたのを適当に濁して場所を聞いたのですが、くれぐれも邪魔はしないように。と念を押されてしまいました。……そんな事しないのに。

 

「……ここ、なのです?」

 

 霧島さんに教えてもらった場所は横須賀鎮守府に存在する殆ど使わない会議室でした。

 初めてここに来た時にここでは重要な会議のみを行う、と説明されたのをふと思い出しました。

 

 表のドアは少しだけ錆びていて、とても中で会議がされているとは思えない部屋でしたが、する事も無いのでその場であの人が出てくるまで待っていたのを覚えています。

 

 そして数分間ドアの前で座っていた私だったのですが……、

 

「……………ぁ」

「?」

 

 突然、部屋の中から怒鳴り声?のような声が聞こえました。

 その声には聞き覚えがあります、確か……元帥さんの?

 

「なんだろう……なのです」

 

 気になった私はそっとドアに近付くと聞き耳を立てました。

 この時点で既にやってはならない事をやってしまったのですが、その時は"あの"温和な元帥さんが怒ったという理解出来ない事態に驚いて、ついつい我慢しきれなくなったのです。

 

 どうして重要な会議をする部屋から音が漏れたのか。それは古かったから穴が開いていた為か、元々そんな欠陥があったのか。それは分かりませんが、とにかく聞こえてしまったのですから。

 

「ご安心下さい。ちゃんと俺の犯した罪の分は働きますから。……何なら警察にでも放り込みますか?」

「ッ!?」

 

 その声の主は、昨日、私と楽しそうに話してくれたあの人。

 ーーそう、あの人のモノだった。

 

 罪?どういうこと?あの人は提督さんと元帥さんに脅されているの!?という突拍子の無い考えが頭を駆け巡り回った。

 でも、答えなんか出てこない。

 ……ただ、一つだけ言うならば。

 

 ソレは、私が聞いてはならぬ事だった。

 

 そしてその時、聞き耳を立てている私の存在に気付いたのか"あの人"がドアを開けました。

 突然、ドアを開けられた事に怒られる……!と思って私は思わず身体をビクリと震わせました。

 ですがーー、

 

「キミは……、どうしたの?"こんな所"で」

「…………、」

 

 

 あの人は私にそう尋ねます。それで全てを理解しました。

 ーー気付かれていた、と。

 その理由はアクセント。わざわざあの人は"こんな所"という言葉に力を込めて言ったのです。

 ……つまり、私が聞き耳を立てていた事にあの人は気付いていた。

 

 思わず、身体が震えました。それは、目の前にいるあの人が、昨日のあの人とは別人のようだったから。

 その時の目は死んでいて、昨日との違いに怖くてギュッと目を瞑ってしまいました。

 

 しかしーー、

 

「あぁ、ゴメンね。怖がらせちゃったかな」

 

 目を開くとそこには、昨日のあの人が居ました。

 のほほんとした表情で私の頭を撫でてくれました。

 気持ち良かったので目を細めていると、

 

「とりあえずここに居て元帥さんに何か言われるのもアレだし、少し離れるか……よっと」

「ふぇ!?」

 

 気が付けばおんぶされていました。……うぅ、恥ずかしいよぉ。

 

 

 それから明日、第六駆逐隊の皆を紹介する事になったのです!

 少しだけ楽しみなのは内緒なのです。

 

 

 

 ○月@日、くもりなのです!

 

 今日はあの人に第六駆逐隊の皆を紹介したのです。

 何故かは分からないのですが、私と雷ちゃんの事を。

 

 (でん)ちゃん。(らい)ちゃんと呼んでいました。アダ名だそうです。

 

 あ!そう言えばなのですが、やっとあの人の名前が分かりました。

 

 九条日向(くじょうひなた)さんというらしいです。

 うぅ……カッコいい名前なのです。

 

 

 ニコニコとした表情で私達の作戦や考えなどを聞いてくれました。

 時折、細かいミスを指摘してくれたりあっと驚くような作戦を考えてもくれました。

 ……やっぱり、九条さんは凄い人なのです!!

 

 

 ……この人なら私の夢も。いえ、何でもないのです。

 この夢は私自身が叶えなくちゃならないものなのですから……!

 

 ……むぅ、そろそろ眠いので終わるのです。

 明日は晴れると良いなぁ。

 

 

 




とりあえず簡単に電ちゃんサイドを書いてみました。
今回は余り内心の描写をしていませんので次回、細かく書こうかな?と考えております。
では、また次回お会いしましょう



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 駆逐艦・電の日記

やっと……やっと書き終わった。
どうも、ゆうポンです。お気に入り1500越えありがとうございます。

……今回はかなり難産でした。(多分内容が少しアレな気も)

とりあえずこれで第1章の電ちゃんサイドは終わりです。
次回が第1章のエピローグかな?(どう書こうか悩み中)

では、本編へどうぞ


 ○月&日、はわわわ!晴れだったのてす。

 

 今日は九条さんと提督……の、彼女さんだったかな?

 提督よりも階級の高い、少将の理沙提督と九条さんの演習を見ました。

 ……結果から言うと、九条さんの完全勝利。その指揮は正に圧巻の一言に尽きました。

 

 理沙提督の艦娘達が放つパワー重視の攻撃を着弾点を完全に予測する事でギリギリを回避し続け、密度の高い砲弾をもかい潜り、一人、また一人と大破させていったのです。

 

(ーー凄い)

 

 九条さんが言葉を発する度、九条さんが指揮する艦娘さん達が的確に攻撃を当て、相手の攻撃を紙一重で回避する。

 最初の方では提督ですらない九条さんに指揮される事に不安を抱いていた艦娘さん達も、数分で彼を百%信頼していた。

 

(ーー凄い!)

 

 凄い、その一言に尽きた。

 気付けば、私は九条さんの姿をジッと見つめていました。その動き、声。指令の全てに。

 

「ラスト……っと」

 

 そして最後に九条さんが呟いた瞬間、海でバーン、と大きな爆発音が響きました。そして、煙が晴れた先には大破した艦娘さんの姿が。

 

 

 ーーーー完全勝利。

 

「ーー凄い」

 

 その言葉が口から溢れました。

 今まで、あんな指揮は見たこと無かったからです。

 そして、やっと実感が湧いてきたのです。

 

 ……あぁ、私達はこの人に助けられたんだなぁ、と。

 そのまま九条さんの姿を目に焼き付けるように私は見ていたのですが、ここで驚くべき事が起こりました。

 

 突然九条さんが立ち上がり、演習の終わった海を見つめて……、表情を暗くしたのです。

 

「……………………………」

 

 その表情は、何だかやるせないような……そんな表情でした。

 そして、九条さんは提督さんに向かってこう呟いたのです。

 

「…………俺、謝まりたいんですが良いですか?」

「……っ!?」

「えっ……?」

 

 その言葉は予想もしていなかったものでした。

 思わず、顔を見るとその表情(かお)は悲しそうな……そんな顔。

 

「九条……君。キミは対戦相手の艦娘にも優しいんだな……」

 

 それを見た提督さんも何かを察したようでした。そして感嘆の目を向けると、こう言ったのです。

 

「…………………」

 

 その言葉に対し、九条さんは言葉を返しませんでした。

 

 

 

 

 ……それから暫くして、私は九条さんの元に行きました。

 端の方で壁にもたれ掛かるようにして立っていた九条さんは、何時もと少し違っていて緊張したのを覚えています。

 

「九条さん、あの……あの」

 

 緊張しちゃったせいか、少しオドオドとしてしまった私を見た九条さんは柔らかい笑みを浮かべると頭を撫でてくれました。

 そして、真剣な表情でこう話し始めたのです。

 

「……電ちゃん。何か悩み事があるのかな?」

 

 その言葉は問いでした。それと同時に、私は九条さんの言葉に驚いてしまった事を覚えています。

 

「その反応からしてやっぱりか……、一昨日の時もさ、何となく違和感があったんだよね。俺で良かったら相談に乗るよ?」

 

 ーー気付かれていた。皆の前で隠していた姿を。

 

「……ぅ」

「あぁ、無理にとは言わないよ。うーん、そうだね。じゃあ俺の体験を一つ話してみようか」

 

 そう言うと、九条さんはとある話を話し始めました。

 ……そのお話は、『夢』についての話でした。

 

 

 夢というのは叶わないから夢……って言う話があるけどそれは違うんだ。

 

 ……夢は、つまり目的なんだよ。こうなりたい!とかあぁなりたい!とか。これをしたい……成し遂げたい。とかね。

 

 電ちゃんは多分、俺よりも長く生きれると思う。だからその分、夢を叶える時間は一杯あるんだ。

 

 だから電ちゃんが、電ちゃん自身が、一杯考えて、一杯悩んで、一杯努力して、それを目指せばいい。

 

 勿論、電ちゃんが途中で苦しくなったり一人で出来なかったら俺も協力する。いや、俺だけじゃない。提督さんだって、第六駆逐隊の皆だってきっと電ちゃんの事を助けてくれる。

 

 だから……電ちゃんには笑顔でいて欲しいな。

 

 一通り話した九条さんはフゥ、と溜息を吐くと缶コーヒーを取り出しました。

 ……何故か、私にはそんな九条さんの姿が輝いているようにも思えました。

 

 

「あ……あのっ!」

「何かな?」

「あの……九条さんは。九条さんはどうして、こんな事を私にーー?」

 

 だからこそ、不思議でした。一応、接点はあるとは言え。未だそこまで親しく……アレ?

 そう言えばおんぶしてもらったりとか色々と…………。

 

「は……はにゃぁぁああ!!」

「ちょっ!?電ちゃん大丈夫……よし、直ぐに医務室に連れて行くからね!」

 

 一昨日の忘れたい記憶(出来事)を思い出した私は気付けばそんな声を上げて顔を真っ赤にしていました。

 座り込んでしまった私を九条さんが心配そうな表情で抱き上げます。

 …………って、よく考えたらさっきの九条さんの言葉って、

 

「にゃぁぁああ!!恥ずかしいのです!!」

「余計ひどくなった!?俺の何が悪かったんだ!?」

 

 私の声を聞いた九条さんが困惑の声をあげますが、既にそんな声は私の耳に入ってきませんでした。

 

(わ……私に笑顔でいて欲しいって……それは、その。プロポーズってやつなのです!?)

 

 私の顔が真っ赤になっていたのはその言葉を思い出したと同時に現在の状況がお姫様抱っこをされている事にも気付いたからに違いありません。

 気が付いたら医務室に居たのですが、……なんと言うか、とても恥ずかしい思いをしたのです。

 ……ついでに、九条さんに色々と聞きたい事があったのに何一つ聞けませんでした。

 ……うぅ、厄日だよぉ。

 

 

 

 

 ○月!日、雨なのです……。

 

 今日こそ九条さんに昨日の事と三日前の事を尋ねるべく部屋に向かったのですが、運悪く会えませんでした。

 ……うーん、なんでだろう?結構な時間を使って探していたのに。

 とは言え、会えなかったのなら仕方が無いのです。諦めて明日……という事にします。

 後から聞いた話では赤城さん、加賀さん。それから金剛さんと会っていたらしいのですが……。

 あっ、そうだ。明日、釣りに行かないか誘ってみようかな?

 

 ……それにしても女の子に対してあんな態度は(以下、愚痴のようなものが続く)

 

 

 ○月?日、晴れなのです!

 

 

 ……正直、信じられない気持ちで一杯なのです。

 いや、もしかしたらアレは私の夢だったのかもしれません。

 とにかく、今日起こった事を書き綴っていきます。

 

 

 ……アレは、釣りが始まって暫くしてから起こったのです。

 

「中々釣れないのでポイントを変えてきます」

 

 そう言って九条さんが立ち上がりました。九条さんが持つバケツの中には未だ一匹の魚の姿もありません。

 恐らく、余りに釣れないので業を煮やしたのでしょうか?

 ……何にしても、丁度良かったのです。昨日、一昨日と聞けなかった事を聞けそうだし。

 

 そう考えた私は九条さんの後を追いました。

 

 

「……ここらで良いかな」

 

 九条さんは急に立ち止まると、折り畳み式の椅子を開いて釣竿の先を海へと放りました。

 タイミングも良さそうだったので声を掛けるべく近付こうとした私なのですが、その時。

 ……私の目の前で、信じられない事が起こったのです。

 

「うぉ!?いきなり掛かった!しかも大物…………って待て!重い!重いってこれ明らかに!!」

 

 竿が激しくしなります。それも……え?これ、明らかにあの竿で釣れるような魚さんじゃないような。

 

「んぎぎぎ!これを逃してたまるか!!」

 

 しかし、九条さんは強引に釣竿を引っ張り上げました。その際にバキン、と音を立てて釣竿が真っ二つになりましたが、それを手で掴み、強引に引き上げます。

 そしてその釣り針の先にいたのは予想もしていなかった人物でした。

 

「オマエガ……イレギュラー(異常)か?」

「!?」

 

 深海棲姫。種類は分からない……。

 その身体は真っ白で透き通り、私達、艦娘が日々戦っている深海棲艦のおやだまと言っても過言ではない化け物。

 そして……私達の仲間を沢山沈めた張本人。

 

 

 無表情な目からは彼女が何を考えているのかなど何一つ理解出来ない。ーーいや、自分自身が理解する事を本能的に拒否している。

 

(……ぁ…………ぇ?)

 

 ただ、私が感じたのは恐怖でした。

 

 怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

 彼女が纏う雰囲気。それは、彼女に関わるモノ全てを消してしまうかのような残虐性。

 実際、その通りなのでしょう。恐らく、彼女にとっては私一人。息をする間に轟沈……いや、"消す"事が出来るに違いありません。

 それを目の前にした私の心の中で、一つの感情が爆発的に上昇していきました。

 

 

「ぁ…………」

 

 怖かった。

 それは、目の前の存在が。

 

 身体が震えた。

 それは、彼女が圧倒的強者である所以か。

 

「ぅ……ぁ…………」」

 

 そしてーー

 

異常(イレギュラー)?……それを言うなら俺よりも海の中から出てきたキミの方が似合うと思うけど?」

 

 その圧倒的強者に対して平然と対応している九条さんが。

 

 ……その時、私は。自分が抱いていた夢は"今の"私では一生掛けても不可能である事を悟りました。

 

 助けたい……、そんな思いが軽く消えてしまう。

 殺される……、そんな映像(ヴィジョン)がやられてもいないのに思い浮かぶ。

 

 自分が太刀打ち出来ない相手に対してそのような思いしか抱けなかった私は。……いや、私では。

 

 ーー絶対に叶えられない。

 

「ニンゲン……。イヤ、キサマハ。ナゼワタシカラニゲナイ?」

(人間……。いや、貴様は。何故私から逃げない?)

 

 深海棲姫(種類が分からない為仮名)は九条さんにそう尋ねました。その声は少し驚いているようにも感じられます。

 ……でも、それは当たり前です。提督さんだったら直ぐさま逃げている筈ですし、実際にそうするように義務付けられています。

 それに、普通の人でも目の前にこんな異常が現れたら逃げる筈なのに。

 この人はーー、

 

「何で逃げる必要があるのかな?確かに少し見た目が異世界人みたいだけど、別にそれだけで逃げる理由にはならないし。よく見たら結構可愛らしいしね。それに女の子から逃げるのは個人的にもどうかと思うな」

「……バカニシテイルノカ?」(馬鹿にしているのか?)

 

深海棲姫が思わずそう呟いても無理は無かっただろう。

 

「してないさ。マジも本気(マジ)大本気(おおマジ)だよ」

 

 しかし、それと同時に私は心の底から嬉しさ……が湧き上がるのを感じていました。

 

 ーーこの人は、私と同じだ。

 ーーこの人は私と同じように深海棲艦さんとも仲良く出来ると思っている。

 

 あの人。九条さんの行動は全て、私が思っていた"その"行動だったから。

 

「……フン、オカシナヤツ」

「自覚しているから問題無いよ」

「……ナオ、ワルイトオモウノダガ?」

 

 "二人"は楽しげに談笑していました。九条さんは笑いながら。深海棲姫さんは少しやり辛そうに。

 そして二人は楽しげに話しながら一瞬。

 

「っ!?」

 

 ーーゾクッ。

 音にするならそんな表現でしょうか?

 しかし、ハッキリと二人の目は私の姿をしっかりと捉えていました。

 

 九条さんは少しだけ眉を顰めて。深海棲姫さんは軽い敵意を込められて。

 

 

 ーー気付かれていた。

 そんな思いが脳内を駆け巡りました。しかし、身体は動きません。

 まるで、私だけが時間の波に取り残されたかのように身体は動きませんでした。

 

 そして深海棲姫さんが一歩前に出て手を振り上げようとゆっくり動かし始めた所で、

 

「おっ!?イルカじゃねーかっ!」

「!?」

「なのです!?」

 

 突然、九条さんが大声を上げました。そしてその指先が示すのは、確かにイルカの姿が。

 ですが、その時。同時に石化が解けたように私の身体も動けるようになった事に気付いた私は一目散にその場を後にしました。

 

 …………私が逃げる時に、九条さんが此方に軽くウインクしていたのを考えると……恐らく私を助けてくれたのでしょう。

 暫くしてから無傷で私達の元に戻ってきた九条さんにお礼を言うと、「あれくらい気にしないで」、と優しく声を掛けてくれたのを覚えています。

 

 ……そう言えば、あの事を提督に報告していませんでした。でも信じてもらえなさそうなので止めておきます。

 電は無駄な事はしない子なのです!

 

 

 

 

 ○月$日、○月¥日。両方とも晴れなのです!

 

 この二日間は、第六駆逐隊の皆と遠征に出ていたのです。

 さて!今回の任務は、南西諸島海域の『資源輸送任務』でした。

 南西諸島海域は既に解放された海域である事もあり、かなり安全でした。

 特に特筆すべき出来事が起こらなかったのが残念なのです。

 

「むぅー、なんか物足りないわね。出てもイ級とかばっかりだし」

「それだけ平和だと思えば良いのではないか?」

「確かにそうなんだけどぉ……なんか物足りないのよねぇ」

 

 雷ちゃんと響ちゃんもそんな会話をするくらいでしたし。輸送に関しても問題無かったのです。

 

「これが流行の……」

 

 ……暁ちゃんは任務中以外の休憩中はファッション雑誌に載っている大人っぽい服をジッと見ていましたし。

 

 

 

 

 ○月%日、眠いのです……。

 

 一昨日から寝る前に九条さんの事を思い出していたら一睡もしていなかったのです。

 うーん、何だろう。何故かは分からないのですが九条さんが気になります。

 ……例えば、あの人の素とか。他にも聞きたい事はいっぱいあるのです。

 

 深海棲姫さんと話してどうだったのか。何処であそこまでの指揮能力を得たのか。

 そしてーー、どうして私達艦娘に優しいのか。

 

 それが気になって気になって眠れず、結局二徹。

 正直、書いている今も眠くて眠くて……(以下、よだれの跡が付いていて読めない)

 

 

 

 

 ○月£日、晴天なのです!

 

 昨日は寝落ちしちゃいました。うぅ……カッコ悪いよぉ。

 涎の跡とかもありましたし……。

 

 ハッ!、そんな場合では無かったのです!!

 大変大変!それもとっても大変な事があったのです!!

 

 ……なんと!九条さんが提督になるそうなのです!

 驚きのあまり『!』を連発していますが、正直、それくらい驚いています。

 

 そして、もっと驚く事が。

 

 『私達第六駆逐隊は、九条さんの指揮下に入る』

 

 つまり、私達は提督さんから九条さん。いや、九条提督の元で働く事になるのです。

 

 ……これはチャンスなのです!

 私が九条さんに色々な事を学ぶ事が出来るチャンスなのです!!

 

 

 

 

 

 九条さんの元で学べば……私の夢だってきっと。

 

 

 

 

 ○月○日、晴れなのです

 

 昨日は、あれ以上文章を書く気が起きませんでした。

 むぅ、ちゃんと分かりやすく書きたいのですが文章力が足りないのです。

 そう言えば今日は間宮さんの所に行きました。第六駆逐隊の皆も一緒です。

 

 その理由は、暁ちゃんの一言がキッカケでした。

 

「そう言えば……理沙提督が言ってたんだけど一人前のレディとか関係無く料理が出来るのが普通にしておいた方が良いって言われたんだけど」

 

 お料理、……ハッキリ言いましょう。

 確かに今の私達は女の子ですし、考え方や普段の生活だって女の子の『ソレ』です。

 でも、軍艦が料理なんかを覚えているわけが、

 

「私は一応出来るな。日本料理やロシア料理が大半だが」

「「「え?」」」

 

流石不死鳥(響ちゃん)。沈んだ私達に出来なかった事を平然とやってのける。そこに(女の子のステータスとして)痺れて憧れます!

 ……そう言えばこのネタの元って何なんだろう?提督さんが楽しそうに話していたけど。

 

 

 まぁ、そんなこんながあって間宮さんのいる食堂の料理室に私達は居るのです。

 

「じゃあ先ずは手を洗って下さいね。料理の前には手を綺麗に洗う!これが基本です。それと響ちゃんに関しても私の指示には従ってもらうからね?」

「「はい!」」

「なのです!」

「了解した」

 

 

 こんな感じで間宮さんの料理教室は続き。

 

「じゃあ、ココでポイント!少し面倒だけど、玉ねぎは飴色になるまでやった方がジュワッとして美味しくなるわ。早速やってみましょう」

 

 細かいポイントや作る際の注意を説明され、

 

「あぁっ!それを入れたらダメよ!」

 

 ミスを指摘され、

 

「美味しそうな匂いがしてきたわね。皆、ちょっとずつ味見してみよっか?」

 

 偶に美味しい思いをさせて貰った。

 

 

 そしてカレーは無事に完成し、初めての料理(お菓子などは除く)を成功させたのでした。

 

 

 

 ○月+日、晴れなのです!

 

 

 今日も間宮さん指導の元、私達はお料理を教わりました。

 今日作ったのは、ハンバーグです。

 カレーと同じく簡単そうなイメージがあったのですが、これまたとても奥が深かったのです。

 

 肉の塊を混ぜる時には塩を入れないと豚肉と牛肉の繊維がきちんとくっついてくれないのだとか。

 他にも、豚肉や牛肉に含まれる脂分は、体温に非常に近い温度で溶け出す性質があり、手の平など体温が感じられる部分でかき混ぜると脂が溶け出して、ベタベタになってしまうというからビックリしました。

 

 ……毎日こんなに手間暇かけて間宮さんは皆さんのご飯を用意しているんですね。

 純粋に凄い……と、感じました。

 

 

 

 ○月*日、快晴なのです!

 

 ……いよいよ明日は私達の。そして九条さんの移動の日なのです。

 どうやら九条さん。いや、九条提督は階級を幾つか飛び級し、大佐からのスタート。そして、無人島に新たに開発された鎮守府を任されるそうです。

 とは言え、本土からそこまで離れているわけではないので直ぐに戻る事も出来ますが。

 

 そして、此処。横須賀鎮守府でも盛大なパーティが開かれました。

 ……提督さんは両手に花の状態で大変そうというか凄い事になっていたのですが。

 

 何となく九条さんに話しかけようかな?と思って向かってみましたが、九条さんは常に様々な階級の提督さん達に囲まれていて話す事が出来ませんでした。

 

 

 ……まぁ、それに関しては明日からいくらでも話せるので良いのですが。

 

 

 ーーそれにしても、いよいよ始まるのです。

 夢を。私の夢を叶える為のスタートが。

 

 『人間、艦娘、深海棲艦の三つそれぞれが手を結べる未来を目指したい』という夢のスタートが。

 

 ……少なくとも、今の私では私が不可能です。

 あの時に感じた恐怖は今でも覚えていますし、今の私では目の前に立つ事すら叶わないでしょう。

 

 でも、この人は言ってくれたのです。

 

『電ちゃんが壁にぶつかったら俺も手伝う』

 

 九条さんが……『九条日向』さんが手伝ってくれなら、それが出来る。

 

 だからこそ、私は一人の艦娘として前を向くのです。

 

 今までみたいなオドオドした私じゃなくて。

 自分がやりたいと思える事に迎える私に。

 

 ーーーーそう、夢に続く大きな航海へと向かって。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 エピローグ(第三者視点)

今回はどう書くか悩みました。

エピローグなので説明もいるだろうし、日記要素も欲しい。

そこから、とある天啓的な考えが浮かびました。

九条君サイドを普通に書いた後、その日の部分を日記風に書いてしまえば良いのでは?という考えです。

もはや日記風とは何だったのかよく分かりませんが、
とにかくエピローグをどうぞ!


○月EX日、快晴。

 

「あぁもう!これだから勉強は嫌だ!!」

 

 自分でも情けないなぁ、と思いつつも九条はそんな声を上げた。その原因は目の前にある海軍の心得である。

 

 五省。

 

 至誠(しせい)()とる()かりしか。

 言行(げんこう)()づる()かりしか。

 気力(きりょく)()くる()かりしか。

 努力(どりょく)()らみ()かりしか。

 不精(ぶしょう)()たる()かりしか。

 

 これら五つを総じて五省(ごせい)と言い、海軍では訓戒としている。

 つまりこの五つは海軍に所属する者なら誰であれ、スラスラと答えられるような内容でしか無い。

 いや、それ以外にも海軍においては一般常識と言わざるを得ない事象が幾つもある。まぁそれはともかくこれらは海軍に関係する者ならば誰であれ答えられる問題なのである。……問題なのだ、が。

 

「……所詮、ただの学生だった俺がこんな事知ってるわけ無いじゃないですかやだー」

 

 そう、元々"ただ"の高校生だった彼(と、本人は思っている)が知っている訳がない。

 まぁ、大雑把に纏めると彼は基礎的な海軍の『勉強』をしていたのだ。

 

「クッソ……海軍は俺に何を求めてんだか。訳が分からないぜ」

 

 そう言って九条はガシガシと頭を掻いた。しかしその目は真っ直ぐと手元の資料に向けられている所から彼の真面目さがうかがえる。

 しかし、残念な事に偏差値六十弱のこの頭ではどうにも理解しきれない。と言うよりも、興味が無いからか脳が理解しようとしていないと言った方が正確か。

 

 ハァ、と再び溜息を吐く。

 

「あー、いっそ金剛さん辺りにでも聞いてみるか?……でもなぁ、仕事してたら悪いし」

 

 元々、九条は余り人に頼ることを良しとしない人間だった。稀に頼った場合でも、相手に負担を掛けぬように気を遣って物を頼んでいたので、このような事にはあまり慣れていない。

 加えて、同世代の女の子にそんな事を尋ねるのも何とも情けないし。恥ずかしいし。

 世界は俺に何を求めているんだー、と言い訳っぽく呟く。 

 

「うーん、提督さんは忙しいだろうし」

 

 毎日毎日、胃が痛そうな表情で必死に働いている横須賀提督を思い浮かべた。

 うん、ダメだ。あの人に尋ねるのは俺の良心が許さない。

 

「時間は……八時か。確か移動は十二時からだったよな」

 

 時計を確認する。現在時刻は午前八時。そろそろ朝食を食べる時間だ。

 

 するとその時、ググゥ……と自身の腹の音が鳴った。

 なんかタイミング良いな、と思わず苦笑いをする。とは言え、出発はこれからだし色々と準備も始めないといけないのでそろそろ食事を摂るべきなのだが。

 

「……でもキリが悪いしなぁ」

 

 チラリ、と資料を見つめる。今、見ているのはちょうど二枚目の半分辺りというなんともキリが悪い部分だ。

 しかし、腹は減っているし……。

 

「良し、飯にしよう」

 

 勉強と食事。その二つを天秤に掛けた結果、一瞬で食事の方へと傾いたのを確認した九条は立ち上がった。

 ……まぁ、なんというか。高校生はやっぱり食べ盛りなのだ。

 決して勉強が嫌だからとかそんなんじゃない、と言い訳をしつつ九条は部屋を後にする。

 

 そして扉はパタリと閉じられ、鍵が掛けられた。

 

 

 

 

 食堂。それは海軍に於いても意味は変わらず、食事を摂る場である。

 ここ、横須賀鎮守府でもそれは変わりない。

 毎日の朝昼晩はここで美味しい料理を出され、海兵達に力を与えているのだ。

 

 まぁ、前口上は良い。それよりも現状に目を向けよう。

 

「……で、何で電ちゃん達がこの席に居るのかな?」

 

 何なんだろう、と九条は絶句していた。ここは、食堂の窓際にある四人席である。

 そこで腹を空かせた九条は食事を摂っていた。うん、そこまでは良い。

 

「偶々なのです」

「電に同意ね」

「九条!また私を子供扱いしてない?」

「こう言う時、何処かの魔王が気にするな、と言っていたな」

 

 で、何だって第六駆逐隊の皆さんがこの狭い四人席に詰めるようにして座っていて、それぞれ好き勝手にくっちゃべっているのか。

 いや、まぁ狭いと言っても身体の大きさ的には問題は無いのだけれども。

 それに、四人共子供なので和むと言えば和む。だが、問題はそこじゃないのだ。

 

「うん、それは良いんだけど。良いの?他の子達と食べなくて」

 

 チラホラと視界の端に映る電ちゃん達くらいの子供達の方を指差してそう尋ねる。

 子供は子供同士の方が良いのでは?と言う考えからそう尋ねたのだが、

 

「それよりも新たな提督さんと仲良くなる方が先決なのです」

「まぁ、九条提督は色々と不思議な部分もあるしね」

「一人前のレディは男の秘密を知っているらしいから秘密を暴いてやろうと思って」

「と、まぁこんな理由らしい」

 

 どうやらこの四人のお嬢様方は知的探究心に打ち負けたようだ。

 ってか、暁ちゃん!そんな知識を何処で覚えた!?と、内心困惑する。

 

「うん、とりあえず響ちゃんはボケ役なのかストッパー役なのかハッキリしようか」

「私はボケでもストッパーでも無く不死鳥なんだが」

「あ、成る程。最初の予想通りクールな不思議系中二病ロリだったのか。納得」

 

 とりあえず、響ちゃんは中々に多彩な属性持ちのようだ。なんだ、クールな不思議系中二病ロリって。

 って、なんか周りからの視線を凄く感じる。周りを見渡すと、此方を睨むように見つめている海兵さんが数人。

 

「……ロリ?って何なのですか?」

「あぁ、電ちゃんは知らなくて良い」

 

 少しばかり不愉快になったが、まぁ気にするほどの事ではないだろう。そう思って九条は普段通りの表情に戻し、また電達と会話を再開させた。

 

 ーーすると、

 

 ザワ……ザワ……。擬音にするならそんな音だろうか。

 突然、食堂全体で何か恐ろしいものが現れたかのように明るい雰囲気が掻き消えた。

 そして人々の視線は入り口の方へと向けられている。

 

「それで九条!やっぱり一人前のレディーっぽい服装って」

「ん?あぁ、それはだな」

 

 当然、九条も食堂のおかしな雰囲気には気付いていたのだが、何かあったのかな?、と少し疑問に思った程度だったので直ぐに暁の言葉に返答をする。

 

 ……何だろう、何だかとっても不幸な予感がする。

 大体、何で海兵達の食堂場で急に楽しげな会話が無くなるのか。そんなの真っ先に思い浮かぶ理由としては一つしかない。

 そう、何らかの『異常』が起こった時に他ならない。

 もしかしたら深海棲艦が鎮守府に強襲を仕掛けてきたんじゃないか、と九条は戦慄する。しかし、それならば何らかの避難やら戦闘準備を促す放送がある筈なのでそれは無いか、と自ら否定した。

 

 その時だった。

 

「ふぅん、キミがね。成る程、確かに一般人とは何か違うみたいだね。強いて言うならばボクと同じような匂いがする」

 

 一瞬、その声が自分に向けられたものだと気付かなかった九条は、何だろう?、といった感じに振り返る。

 ……そこに居たのは、横須賀提督と似た服装をした海兵さんだった。肩まである白い髪が食堂の明かりを反射して輝いていて、その声は中性的だが自分とあまり変わらぬ少年のようにも思える。

 

「……アンタ、誰だ?」

 

 九条の口から出てきたのは疑問だった。まぁ、何だって自分と同い年くらいに見える少年が海軍に居るのだとか、どうして自分の事を知っているのかとか疑問は沢山あるが、それよりも先に出てきたのはソレだった。

 

「おっとこれは悪かったね、……ボクの名前は氷桜 理緒(ひおう りお)。キミの鎮守府から三十Km程離れた場所で提督をやってる。まぁただの凡人なんだけどよろしくね九条君!」

「あぁ、よろしく。……俺にはそうは見えないけどな。そもそも俺みたいなよく分からないのはとにかく凡人が提督になれる訳ないだろ?」

 

 九条は素直に思った事を口にする。まぁ、自分みたいに罪を償う為とか特別な理由でもない限り提督なんて仕事やらされるわけないし、そもそも世界の命運が掛かった戦いに素人が参加して良い訳がない。

 と、ここまで考えた九条はじゃあ、自分はどうなのか……と、考えてみるが。

 

(あ、俺。素人じゃん。アレ?マジで何で俺が提督に選ばれたの?)

 

「いやいや、とてもじゃないけど九条君程の才は無いよ。出来ると言っても大したことはないし」

「謙遜すんなって、そもそもその年で提督になれるのは異常だろうが。提督になる平均年齢ってのは優秀なヤツでも二十後半。遅けりゃ三十、四十なんてザラだ。そう考えりゃアンタは十分優秀だよ」

 

 何だかんだ言っているが、目の前の少年は本当に優秀に違いない。そもそも提督ってのは世界の命運を掛けて戦っている存在なのだから。

 それこそ、自分なんか足元にも及ばない。

 

「あー、まぁ褒め合いはここまでにしようぜ。……んで、何の"要件"だ?」

 

 とは言え、こんな不毛な事をしていても話は進まない。そう思った九条は話を進める為に、そう切り込んだ。

 なんと言うか……これまでの経験上、こう言う輩は何かしら、面倒な事を運んで来ることを九条は知っている。だからこそ、面倒を極力避けたいのである。その為にわざわざ催促したのだが、

 

「要件……ねぇ。強いて言えばお願い事かな?」

「お願い事?」

 

 九条は聞き返した、その言葉に氷桜が頷く。

 

「ボクと友軍関係になって欲しい。つまり助け合いの関係だね」

 

 ……助け合いね。それは立派な事なんだろうが。

 

「悪いが、それは受けられないな。メリット的に」

 

 そうなのだ。少なくともあっちは本当に優秀で、こちらはただの凡人。何を勘違いしているのか分からないが、俺と友軍を結んだところでデメリットにしかならない。そんなの認められる訳が無いだろう、と九条は内心結論付けつつそう言った。

 

「……ボクが役に立たないと思ったの?」

「違ぇよ。寧ろ俺がそっちに足並みを合わせられないからデメリットにしかならねーっつってんだ」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら九条は答える。九条は実際に自分が指揮したつもりや覚えが無い。というのも一つの理由だが、そもそも自身にそれほどの実力がある事すら気付いていないのだから仕方がない。

 

「それで、用がそれだけならもう良いか?」

「それがキミの本心?」

「……、ならお前はどう思うんだよ?」

「嘘吐き。キミはわざと誘いを断った」

 

 食えない、という言葉が喉までせり上がってきたが、九条はかろうじて呑み込んだ。

 代わりに言葉を選び抜いて、言ってみる。

 

「ってか、お前俺じゃなくて別の奴と友軍組めば良いじゃん、そうすりゃお前も相手もWinWinでハッピーじゃねぇか」

「……それじゃダメなんだよ」

「なんでだよ……ってか期待の眼差しなんか向けられても困るって!!」

「それは……ギャグなのかな?」

 

 このままでは相手に迷惑を掛けてしまう!と、思った九条はぎょっとして氷桜少年から離れるように身を仰け反らせた。

 九条はただでさえ海軍に迷惑(勘違い)を掛けているのだ。その上、警察に突き出される事なく罪を償う機会まであたえられている。ここまでされたら流石に周りに迷惑を掛けてばかりの高校生である九条と言えどこれ以上迷惑を掛けたくないと思うのも無理はないだろう。

 

 それからもう一つ。

 

 ここに来て初めて髪をはらって顔を見せた氷桜少年はとても整った顔立ちをしていた。中性的と言うのだろうか?女の子として見れば美少女のようにも見えた。

 日本人としての白い肌。白い髪から見え隠れする黒い目。

 ……何と言うか、抗えない見た目的な格差を感じた。詰まる所、あ、コイツ絶対に勝ち組だわ。と思った。

 と、

 

「九条さん、何処を……見ているのです?」

 

 むっすーとした表情でこちらを見つめる電と、

 

「そうかコレが何処かで聞いた男の娘というヤツか」

 

 流石、と言わざるを得ないクールな不思議系中二病ロリを見せつけている響が居た。

 

「ちょっと待て響ちゃん。その二次元知識(オタク文化)を何処で知った!?あとそれと電ちゃんは何で俺を睨んでいるのかな!?それと氷桜!悪いがその話は断らせてもらう!以上会話終了!!」

 

 先程から珍発言を繰り返す響をもっと問い詰めたかった九条だったが、流石に場所をわきまえることにする。……何にしてもキャラ崩壊が酷くなってきた九条だった。

 

「九条は何で断ってるのかしら?」

「きっとアレよ。多分考えてるんじゃない?頭良いし」

 

 横で何やらレディ二人(暁と雷)が話している。

 ……何だか凄い勘違いをされているような。

 

「えっと、ダメ……かな?」

「駄目だ。結べないものは結べない」

「……、」

 

 氷桜はちょっとだけ考えて、

 

「あ、じゃあこうしよう。友軍じゃなくて同盟というのはどうかな?」

「意味が同じだろうがオイ」

 

 考えた結果がコレだったら残念すぎるのだが、

 

「あ……あの!九条さん。どうして友軍を結ばないのですか?」

 

 電が疑問を込めた声でそう尋ねてきた。

 

「そうだよねー電。何でボクと組んでくれないんだろう?」

 

 氷桜がそれに便乗する。いや逆に何故氷桜がそんなに俺と友軍を結びたいのか分からないんだが、と九条は思わず言いたくなったがギリギリでそれを飲み込んだ。

 

「……まぁ強いて理由を上げるなら二つ」

 

 もう、これ以上付き合ったら此方の処理能力を超えそうなので九条は仕方なく本音を口にする事に決めた。

 

「一つはさっき言った通り。俺がそっちに合わせられなくて足手纏いになる」

 

 これに関しては先程も言ったので、特に疑問を上げる人物はいなかった。

 

「んで、二つ目。俺自身海軍に詳しく無いから時間がいる。つまりは、勉強する時間が欲しい。それだけじゃなく、俺が行く島は開発も何もされてない無人島だからそこの開発もしなきゃなんねー。何にしろ時間が足んねーんだよ。分かったか」

 

 それを口にした時、第六駆逐隊は勿論の事。氷桜もハッ、としたように口を噤んだ。

 シン、とした空気が九条達の周りを覆う。……何だろうか、似たような空気をつい最近感じた気がしてならない。気がしてならないのもあるけど、なんだっていきなり通夜みたいに湿っぽくなってるんだーっ!!と九条は心の中で絶叫する。

 

「えっと、とりあえず。そんな訳で友軍を結べないんですが……納得しました?氷桜さん」

 

 何となく空気的に敬語で九条は尋ねた。内心は汗ダラダラである。何せ、理由がこちらの。それも個人的な物や進められる気がしないようなモノばかりなのでいきなりキレられてもおかしくないのだから。

 

「あっ、うん。ご、ゴメンね?わ……ボクも考えが足らなかった部分があるし」

 

 少し申し訳なさそうな表情で氷桜がそう言った。この反応は些か予想外だったが、それを口に出すことはしない。

 

「まぁ気にすんなって。寧ろ、俺の方が整ってねーから悪いんだし」

「何だか九条さんが普段よりも砕けた口調なのです」

「……いつから電ちゃんはKYになったのかな?」

 

 突然、口を挟んだ電を少しばかり(たしな)める。

 というか、何だか申し訳ない。折角の申し出なのに。

 

「うん、まぁ駄目元だったから良いよ。寧ろ、九条君がどんな人か分かって良かったし。聞いていたよりも面白い人だった」

 

 ソレを口にすると氷桜はそう言った。そして時間を確認すると、そろそろ行かなきゃ。と呟いて九条に背を向ける。

 

「じゃあね九条君。また会おうね」

「ん、あぁ。またな氷桜」

 

 別れはそんな素っ気ない言葉で終わった。そして氷桜が食堂から姿を消すと同時に、再び先程までの聞きなれた喧騒が耳に戻ってくる。

 氷桜の姿が消えてから、響がボソリと呟いた。

 

「氷桜、確か最年少で"大将"になった天才が居たとか聞いたような……」

 

 その言葉でようやく九条は何故人々が氷桜が現れた途端、突然会話を止めたのかに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 時刻は間も無く十二時。

 移動の為の様々な準備を済ませた九条達は鎮守府前の堤防に集まっていた。

 九条と共に移動するメンバーは、まず第六駆逐隊の四人。それから金剛。そして見知らぬお姉さんの六人であった。

 初めて会ったお姉さんに少しばかり困惑した九条だったが、横須賀提督に紹介され。彼女が自分と共に鎮守府に行く方である事を知った九条は今では普通に彼女と接している。名前は『大和』と言うそうだ。

 

 鎮守府前の堤防には、大きな船が用意されていた。提督さんの話だと護衛もしてくれるそうなので安心だ。

 しかし、九条の様子は明らかに挙動不審であった。

 

「九条さん、どうしたのです」

 

 にっこり無邪気にそう言われたとあっては、何でもないと答えるしかあるまい。九条は誰にも気付かれぬようにそっと息を吐いた。

 

 ……何と言っても『同棲』である。

 しかも男女比率は『男一人』に『女六人』だ。

 挙げ句の果てには『小さな女の子を四人』も、だった。

 

 ハーレム。そんな言葉が思い浮かぶが、九条としてはそんなの要らないのが本音だ。

 仮にも、健全な男子高校生なのである。そんな健全な男子高校生である彼が女ばかりの場所に居たらどうなるのか。

 最悪な結末など考えたくない。と言うよりも逮捕歴がつくなんて嫌だーっ!と内心叫ぶ。

 

 するとポン、と九条の肩に優しく横須賀提督が手をおいた。

 

「九条君……分かるよその気持ち。俺も、理沙先輩や霧島に手を出しそうになった事があるし」

「提督……いや、冬夜さん。俺」

「良いんだ。九条君だって健全な男子高校生だからな。だが、決してエロ本とかは駄目だぞ。女ってのは何処に隠しても把握しやがるからな」

 

 経験談であるからこそ、その言葉は九条の胸に響いた。真剣な表情でコクリと頷く。

 

「まぁ、俺が何とかなっているからキミも何とかなるだろう。暫くは我慢するんだな」

「はい、特に金剛さんや大和さんへの対応を気を付けます」

 

 コッソリと他の女性陣には聞こえぬように会話をする二人は側から見れば滑稽だろう。なんと言うか、ハッキリ言うと少しばかり気持ち悪い。

 

「まぁ、それはともかくだ」

 

 コホン、と提督が息を整えた。そしてニッ、と笑うと九条にこう声を掛けた。

 

「頑張りたまえ、九条君。俺も頑張るからな」

「はい、ありがとうございます」

 

 二人は握った手を軽く合わせる。コツン、とぶつかった手の感触は何だか、あったかく思えた。

 そして九条は普段のモードから仕事モードへと切り替えると後ろの七人へとこう、声をかけた。

 

「船に乗り込め。先で次の指示を伝える」

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

 全員が船に乗り込んだのを確認した九条は船の上で声を張り上げた。

 

「今までお世話になった横須賀提督に対し敬礼!」

 

 ビシッ、と全員が右手を頭に添える。キラキラと輝く太陽が六人の姿を照らし、その姿を眩しそうに横須賀提督が見つめていた。

 

 そして九条は進行方向を向き、指示を出す。

 

「これより向かうは我々の本拠である!

無人島鎮守府へ、いざ……出航ッ!!」

 

 ソレが出発の合図だった。

 

 

 

 

 ○月EX日、今日の雨は一味違うぜ?

 

 今日は朝から勉強してた。海軍の勉強だ。

何つーかマジで難しいね。覚えにくいって言うか、なんと言うか。

 

 あ、そうそう。朝飯食ってた時に、なんか知らない美少年が現れた。

 白髪の中性的な感じで、正に勝ち組!ってやつだったね。

 

 んで、なんか知らないけど友軍を組みたいとか言ってきた。

 ……ぶっちゃけ、馬鹿なの?俺、ど素人ですよ?

 負ける未来しか見えないじゃないですかやだー。

 

 まぁ適当な理由を言ったら諦めてくれたみたいで良かったけど。

 

 それから移動をして、今は新たな鎮守府に居る。

 メンバーは、電ちゃん達第六駆逐隊と、金剛さん。それから大和さんっていう人だ。

 後から間宮さんって人も派遣するとかどうとか。

 

 まぁ移動のせいで結構疲れているんだけど、日記はキッチリ書いているから完全に習慣付いているんだよなぁ。

 

 まぁ何にせよ明日からは忙しくなりそうだ。

 ……個人的にはこのハーレム(仮)状態をなんとかしないといずれ性欲がヤバイだろうけど。

 

 




次回から第2章です。
第1章は内容が薄かったので、第2章からはもう少し濃くしたいなと考えております。
それと勘違いが分かりにくかった件も改善していきたいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 人物紹介『第1章』

今回から二章をやるのは嘘だ(申し訳ありません)

とりあえず今回は人物紹介をスタイリッシュかつ適当に、そして若干のボケを込めつつ書いてみました。
なんというか……書く気が無い状態で書いたので色々と酷いです。

それでも良い方のみどうぞ


 九条 日向(くじょう ひなた)

 

 一言で言えばこの作品における公式チート。もしくはバグとも呼べる存在。

 凄まじいまでの指揮能力。その他能力を持っている。

(ただし本人は気付いていない)

 

 そしてこれだけでも十分艦これという。その中でも提督という職種においてはチートと呼ぶに相応しいのだが、更に幸運持ちという正に天に愛された存在(超高校級の幸運ではない)である。

 

 年齢は十六。外見はそこそこ整っている。

 性格は周りから見れば悪魔に近い存在。ただし内心はのほほんとした危機感知能力の無いバカ学生。

 

 自分がやった事を理解出来ないのって怖いよね?

 

 

 

 

 

 橘 冬夜(たちばな とうや)

 

 通称、横須賀提督。作中でもそう書かれる事が多い。

 階級は大佐であり、九条の圧倒的な才能の前に霞んで見える彼だが、実は相当にエリートである。

 

 現在の年齢は二十六歳で、その性質は、曰く、良くあるハーレム鈍感系主人公。

 

 その言葉からも良く分かるように、先輩提督である『理沙提督』や、彼の秘書艦である霧島から好意を向けられている。(ただしその好意には気付いていない)

 

 尚、彼に惚れている女はまだ居る模様。爆ぜろ。

 

 彼自身の性格は明るい。ただ、上司や九条の行動でいつも胃や頭を痛くしている苦労人でもある。

 

 

 

 

 

 桐谷 理沙(きりや りさ)

 

 一言で言えば、「弾幕はパワーだぜ」と言い張る普通の魔法使いに良く似た女性提督。

 

 階級は少将であり横須賀提督こと、冬夜提督に好意を抱いている。

 そして行動も中々に大胆。酒を飲むと毎度の如く酔った振りをして冬夜提督に抱きついたりなど色々とやっているが効果が無いようだ。

 

 最近では、次々と現れる恋のライバルに少し悩んでいる。(横須賀提督が次々とフラグを立てることにも)

 

 見た目は先程も書いた通り何処ぞの魔法使いと良く似ている。ただし胸はデカイ。

 口調や性格も男勝りな彼女だが、とても尽くすタイプらしい。

 

 

 

 

 

 元帥

 

 性格は優しい。

 ただし、目的の為には手を汚すのも厭わない。

 

 九条と激しい論戦を繰り広げたが、結果は引き分け。

 彼自身は九条の実力を『人類の希望たりえる存在』と評した。

 

 

 

 

 

 氷桜 理緒(ひおう りお)

 

 九条と同じく若き天才。階級は大将。

 九条に友軍関係を結ぶよう持ちかけたが、破談。しかし諦めていない模様。

 

 性別不詳のアルビノ系。少なからず美男子、美少女であるのは間違いない。

 

 未だ謎に包まれた提督である。

 

 

 

 

 とりあえず簡単にオリキャラ達の人物紹介を書きました。

 第1章での人物紹介ですので、本当に少ないですね。

 

 

 さて、次回から第2章に移ります。

 大体の内容は既に考えついているので、サクサクと……進めればいいなぁ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 提督が鎮守府に着任しました!
11 とある提督の日記


少し日が空きました。最近は結構忙しいです。
そして第2章始動!今回は前回よりも分かりやすく書けるよう頑張ります
それからお気に入り『2000』突破致しました!ありがとうございます。


 

 ☆月α日、いつか雨は止むさ(その代わり雪が降る)

 

 着いた。うん、なんと言うか島に着いた。

 ……無事とは言い難かったけど、まぁ怪我なく辿り着けたので良かったと思う。

 まさか移動中の船に魚雷をぶつけられるとは思って無かったよ。まぁ、ほぼ損傷が無かったのが幸いして、護衛の人達が殲滅したと報告くれたけど。

 船を探検中で丁度船底の辺りに居たからビックリした。

 いきなり船底突き破られて水出てきたらそうなるわな。爆発もしてたし。

 なんとか近くにあったもので小さな生き物……妖精さんと協力して修繕しましたけど。

 

 そう言えば島に着いた時に鎮守府名を決めてくれって言われたので、適当に考えたヤツを言ってみたら引かれた。

 うん、何が悪かったのかよく分からなかったけどドン引きされたよ。真面目に泣きたい。

 とりあえず仕事は明日からになりそうだし、今日は早めに寝るとしよう。まずはどんな事をやらなきゃいけないか調べないとな。

 

 

 

 ☆月β日、降らない雨はただの雲

 

 とりあえず今日はこれからの方針を決めた。資材とかその他の島の状態を見る限り、現在の状況は無人島に鎮守府をボン!と作っただけのような感じで、更に資材も少なかったので暫く出撃は無理そうだった。

 その為、決めた方針が島の開発及び資材集めだ。

 横須賀提督から大体の仕事内容を纏めた資料やその他のアドバイスが送られてきたので、それを参考に始めようと思う。

 読んだ限りでは資材は一週間に一度決められた量を送ってくるみたいだし、まずはそれが来るまでに防壁を作らねば。

 あっ、それからなんか知らないけど電ちゃん達に遠征に行きませんか?と提案された。何ぞそれ?って聞き返したら、どうやら『艦娘』を遠征に行かせ、資材を集めさせる事が出来るらしい。

 とは言え駆逐艦や潜水艦以外だと赤字になる可能性も高いそうだが。

 うーん、もし本当に資材が増えるならやるべきだよな。

 

 

 

 ☆月γ日、天候(真実)はいつも(一つ)

 

 今日は昨日聞いた遠征をやってみた。というか、大和さんに駆逐四隻を遠征に出すようにお願いした。

 ……ってかさ、大和さんスタイル良すぎない?個人的には大人のお姉さんは好みのタイプだから最初見たときはちょっと見惚れたんだけど。

 まぁ私事は置いといて、開発もかなりのペースで進んでいる。横須賀鎮守府に侵入した時に出会った小ちゃい生き物。通称、妖精さんが物凄い働いてくれてるからだ。

 何となく精霊魔法の契約とか出来ないの?と尋ねたら頭の上にはてなマークを浮かべてた。

 

 ってか、ぶっちゃけあり得ねぇ。何だあの速度。作業スピードがおかしい。チートや!チーターやろそんなん!!

 ……コホン。あ、そう言えば金剛さんがまた紅茶を入れて欲しいと言ってきたので、今回は前回よりもグレードアップした俺の紅茶を味わって貰った。

 その時に丁度響ちゃんも来たので紅茶を振る舞う。美味しそうに飲んでくれた。

 ってか、一つ思ったんだけど提督ってこんな感じで大丈夫なのか?

 

 

 エッ?大和サンハ何モアリマセンデシタヨ?アナタハ何ヲ言ッテイルンデスカ?

 

 

 ☆月Ω日、あ……雨にするダァー!

 

 

 昨日、なんか大変な事があった気がする。うっ、頭が。

 

 

 ……いつも通り遠征や開発を進めていると物資が届けられた。どうやら今日が受け渡しの日らしい。

 受け取った物資はそれぞれ三千ずつ。元の物資が二百弱だったのでこれはかなり嬉しい。

 それと、早速出撃をしてみた。その間俺はその間する事が無かったので横須賀提督にやらされたゲームをひたすらプレイしてた。流石に素人に指揮は任せられないという事だろう。

 ちなみに鎮守府前の海域を完全解放する事に成功した。

 その時に新たな艦娘を見つけましたとかどうとか訳の分からない文字が映ったんだけど何だったんだろ?

 それと電ちゃん達四人組が少し疲れた表情で歩いていたので、大丈夫か?と声を掛けたんだけど、凄い指揮でした〜と言い残し、早々に立ち去ってしまった。

 ……だから凄い指揮でしたって何のことだよ。

 

 

 

 ☆月ε日、雨が降ったらそこで試合中止ですよ……?

 

 突然、横須賀提督がウチの鎮守府を訪ねてきた。どうやらちゃんとやれているか見に来てくれたらしい。

 それと一緒に、二人の女性(片方は少女)を連れてきていた。二人ともウチの鎮守府で働く事になるそうだ。

 

 お姉さん風の方のほうは間宮さん。と言うらしい。普段は世話役として働いているそうだ。あぁ、これでやっと俺が家事に取られる時間が減る……。

 そしてもう一人の少女。島風ちゃんと言うそうなのだが、中々にインパクトある服装をしていた。

 ……むぅ、流石にウサ耳に加え、あのギリギリの服はお兄さん的にどうかと思うのですよ。何つーかエロい。とは言えガキ相手に欲情はしませんが、学校で怒られないのかねぇ?

 というかそもそも俺、明らかに小学生並みの少女を四人も働かせてたけど良かったのかな?……まさか、労働法かなんかで逮捕とか無いよね?

 

 

 

 ☆月ζ日、落ちた雨粒ばかり数えるな!!!

 

 立て続けに今日も来客があった。相手は、この間出会った氷桜だ。

 どうやらこちらが落ち着くのを待ってから訪ねてきたらしい。今度こそ友軍を、と頼まれたけど。まだまだ経験が足りないのでもう一度丁重に断った。

 その代わり何かあったら協力はすると言ったけど。

 

 それから雷ちゃんと暁ちゃんの二人と一緒に氷桜にここの鎮守府の実情を説明した。個人的には日に日に変わっていく島の姿に結構楽しみながら働けている気がする。

 毎日朝から晩まで一生懸命島の開発をしていた時、脳内にDASH島という単語が浮かんだのは気のせいだろう。ここは神無島(かんなしじま)だし。鎮守府名も神無鎮守府だし。

 

「凄いね、よくも短期間でここまで……。しかも海域の解放に加えレア艦まで」

 

 そんな事を言って驚いていたが、皆で一生懸命頑張った結果だ。当然とも言える。

 でも、他の人からそう言ってもらうと何だか嬉しく感じられた。これからも頑張ろう。

 

 

 

 ☆月@日、土砂降り

 

 今日は雨だった。しかも土砂降り。

 ……何だかとっても嫌な予感がする。

 近いうちに何か起こりそうな……そんな予感だ。

 

 今日は風も強かった事もあり開発なども全て中止した。

 ……昔からこうだ。何かが起こる前に何故か土砂降りの雨が降る。

 そして、嫌な予感は外れない。

 

 鎮守府の外へ出た。霧が濃く、視界が果てしなく悪い。

 土砂降りの雨の中、傘も差さず俺は鎮守府から堤防へと向かう。

 その理由は無い。強いて言えば経験か。

 俺の……経験。

 

「……あっ」

 

 堤防から見えた海岸線。その果て。

 一瞬。本当に一瞬。

 紅く鈍い光が霧の中から見えたーー気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 とある提督の日記

これで一旦区切り、次は別視点です。
うーむ、誰を書こうかな。


 ☆月D日、雨の夜(詩的)

 

 

 今日は、朝から昨日の処理をしていた。

 どういう事かと言うと、昨日の雨で土砂崩れが起こった場所があったのだ。

 まぁ、そこの復旧作業を一日かけて終わらせた。

 ……にしても電ちゃん達、力持ちだったな。土砂が一杯に入ったバケツを軽々と持ってた。

 うん、何だか男として情けないね。これでも頑張ったんだけど。

 

 んで仕事が終わってから報告書を纏めて、夜。

 

 何となく昨日の紅い光が気になったからまた堤防の所に行ったら電ちゃんが居た。

 何をしているのかな?って思って近付いたら悲しそうな声で海に向かって呟いていた。

 

 ……何となくあの表情は嫌いだ。

なんと言うか、あんな悲しそうな顔をされると俺の心が暗くなる。

 思えば、横須賀鎮守府に居た時もそうだったか。笑っているのに、心では泣いている。笑顔という仮面を貼り付けて無理をしている。

 

 ……居た堪れなくなった俺は電ちゃんを抱き締めた。

 

 どんな事情があるのかなんて分からない。

 でも、俺は助けになってやりたかった。

 

 …………今日はもう日記を書きたい気分じゃない。

   止めよう。

 

 

 

 

 

 ☆月E日、霧雨は幻想に降り注ぐ

 

 

 電ちゃんはどうやら元気を取り戻してくれたようだ。朝、心からの笑顔を見せてくれた。

 ーー本当に良かった。

 子供にあんな顔をさせたくなかったから。

 

 

 

 さて、仕事に移ろう。

 今日の仕事は無人島の探索だ。まぁ、半径二Km位はあるみたいだし、何処に何があるのかを正確に把握する必要がかったからね。

 

 とは言え大部分が森だったし、見つけたものと言っても風化してボロボロになった神社位だったけど。

 ……何となく神社の神様が可哀想だから掃除したんだけど、良かったのかな?

 うーん、あ。そう言えば神社の中で変な人に会った。

 

「貴方が掃除してくれたの?助かるわ。お礼にこの御守りを上げる。これがあれば海での危険を一度だけ無くせるわ」

 

 そう言って首に掛けるタイプの勾玉を貰った。蒼い光を帯びててかなり綺麗だったと思う。

 にしても美人だった。やっぱり黒髪の巫女さんは良いね。

 

 ……だけどそう言った後に消えたのはどうやったのだろうか。

 まさか瞬間移動(テレポーテーション)?いや、まさかなぁ。

 

 

 

 

 ☆月F日、うう、雨だ(不幸)ーっ!

 

 朝起きたら金剛さんが横で寝ていた。

 な、何を言ってるか分からねーが俺も何を)ry

 

 昨日まさかお持ち帰りしてしまったのか?と思ったが、どうやらそうではなくただ気まぐれで入ったらしい。

 周りからも勘違いされるわ暁ちゃんは顔を真っ赤にするわ、雷ちゃんには怒られるわ。

 

 あーもう!何なんですかこの不幸はーっ!

 

 ……うん、ちゃんと説教しておいたよ。

 まったく、男は獣!これ常識!って言うくらいなのに何であんな行動取るんだか。

 そもそも見た目も良くてスタイルも良いんだから、俺じゃなかったら絶対勘違いしてるよ?

 朝起きて隣に服のはだけたエロ可愛い女の子が居たら襲っててもおかしくないからね?

 ……ハァ、俺が某ツンツン頭の人みたいに鋼の理性を持っていたから良かったものの。

 

 ……でももし、アレが大和さんだったら持たなかった気もする。

 

 

 

 

 ☆月G日、雨だって精一杯降ってるんだぞ!!

 

 

 今日はある程度資材が溜まったので出撃する事にした。

 とは言え鎮守府前の海域をもう一度。らしいが。

 どうやら俺が知らない間に鎮守府前の海域を攻略していたらしい。流石です大和さん!

 

 コホン、まぁ。今回の目的は敵の殲滅及び、海上基地の建設らしい。(所謂監視塔というヤツだ)

 

 中では妖精さんが代わる代わる監視の役目を務めてくれるそうなので、基地さえ作れば後は費用はかからないようだ。妖精さん凄ぇ!

 

 そう言えば妖精さんって種類は一種類しか居ないのかな?何故か⑨とか大妖精という単語が脳内に浮かんだんだけど。

 ちなみに基地は簡単に出来たようだ。その間はゲームしてたから知らん。

 

 

 

 

☆月☆日、今日も雨だ(大本営並みの感想)

 

 

 今日は深海棲姫さんと堤防で会った。どうやら俺が提督になったのを知って来てくれたらしい。

 コッソリと厨房からジュースを持ってきて二人で乾杯しつつ、色んな事を話した。

 

「提督ハドウダ?中々ニ疲レルダロウ?」

と、尋ねられた時は思わず俺も愚痴を吐いてしまった。

 特に性欲とか。

 

 そう言うと笑われてしまった。懐かしい、ウチの提督もそうだったな。と懐かしげにしていたのも印象的に覚えている。

 

 ……そう言えば、去り際に。

 

「私ハ静寂島ニ居ル。ソレト最近、深海棲艦ノ動キガ活発ニナッテイル。精々気ヲ付ケロ」

 

と、忠告をくれた。

 やっぱり海に潜っていると深海棲艦の情報も分かるのだろうか?

 

 

 

 

 ☆月H日、世紀末帝王AME()

 

 ……本部から伝令がきた。

 

 『志島鎮守府ニ置イテ強襲後、提督ガ行方不明』

 

 内容を簡単に説明すると夜に深海棲艦の集団に鎮守府を強襲され、志島鎮守府の提督が連れ去られたらしい。

 余りに突然の出来事だったせいか殆ど、迎撃という迎撃が出来ぬままあっという間に。だったそうだ。

 

 ……そしてその提督名は『氷桜 理緒』。つい、この前俺と話したアイツーーだった。

 

 

 その事から敵は想像以上に手強いと予想出来る。尚且つ、次の狙いは恐らく此処である可能性が高い。

 

 横須賀提督とも連絡を取り合い、万が一の場合は直ぐに連絡を入れることを話し合った。

 

 ……、深海棲姫さんの昨日の忠告はこれを危惧していたのだろうか?

 

 

 

 ☆月J日、雨なんざどうでも良い。ただ、ふざけるな。

 

 

 新たな指令が届いた。

 

『志島鎮守府ヲ奪還セヨ』

 

 つまり、敵艦に奪われた志島鎮守府を奪い返せ。単純に言えばそんな命令だった。

 ……確かにそれ自体に不満はない。寧ろ当然だからだ。

 

 だが、

 

「奪還後、俺と電ちゃんと島風の三人で志島鎮守府で防衛せよだと!?」

 

 一言言わせて欲しい。ふざけるな、と。

 確かに俺はまだ良い、提督だからな。

 だけど、

 

「何で電ちゃんや島風まで連れて行かなきゃなんねーんだよ!」

 

 こんなの明らかにおかしい。確かに俺は提督という立場があるから危険を追ってでもそうしなきゃならないのは理解出来る。

 でも、電ちゃんや島風は関係ない。

 どうして死の危険がある場所に二人まで巻き込まないといけないのだ。

 

 書かれていた作戦によると最高速で志島鎮守府まで向かい、その後奪還して防衛。暫くすれば援軍が着く。と、記されていた。

 だが、こんなのおかしい。

 

 ……だけど、やるしかない。

 志島鎮守府にもまだ生き残りがいるかもしれない。氷桜だって助けを求めているかもしれない。

 

 ……ソレを見捨てるなんて出来ない。

 

 だから俺は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 ☆月K日、守り切ってみせる、例え豪雨の中だって

 

 

 結果から言えば志島鎮守府へは到着した。

 そして現在俺は、志島鎮守府内の治療室に寝かされている。

 

 ……キッカケは一発の銃弾。志島鎮守府へと真っ直ぐ突き進む道の中で、雨のように降り注ぐ一発の弾丸が俺の心臓に当たった。

 

 即死だった、……本来ならば、

 だが、俺は軽い怪我で済んでいる。

 

『勾玉』

 

 ついこの前に貰った勾玉に、銃弾が当たった。

 降り注ぐ銃弾から二人を守るように飛び出した俺の心臓に命中したその一発を。

 

 『海での危険を一度だけ無くせるわ』

 

 ふと、神社で出会った女性を思い出した。

 

「ありがとう」

 

 気が付けば、そんな言葉が口から出ていた。

 

 彼女までその思いが届きますようにと願いながら。

 これでまた守る事が出来る。と感謝しながら。

 

 

 

 ☆月L日、こんな雨……全部残らず吹き飛ばしてやる

 

 

 援軍が来た。戦線は本当にギリギリの状態で、いつ打ち破られてもおかしくなかったとも言えるが、これで危機は脱した。

 傷も回復したし、この場に必要無いと判断した俺はこれからとある無人島へと向かう予定だ。

 

 その無人島の名は『静寂島』

 

 その情報を得たのは偶然だった。

 パソコンのディスクに残されていたメッセージ。

 

『ーーもう戦線は持たない!静寂島へ撤退する‼︎ーーっ!?ぁ……』

 

 静寂島。この志島鎮守府からそう離れていない無人島で、深海棲姫さんが住んでいる場所。

 

 

 ……もしかしたら氷桜はまだそこにいるかもしれない。

 深海棲姫さんが助けてくれているかもしれない。

 

 だからこそ、俺は行く。

 例え死ぬ危険があったって関係無い。

 

 ただ…………、

 俺の手の届く範囲で誰一人だって殺させはしない!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 金剛日記・デースノート

サブタイトルはとある方の画像を見てこうしてみました。
そのうちその病気に感染しそうな気が……。
(そのお方が分からない方は上文をスルーして下さい)

そして何時の間にかUAが10万を突破!
ありがとうございます!

……にしても金剛の口調がよく分からないなぁ


 

 新たに配属された戦艦は何を思うのか。

 九条という異常(イレギュラー)に対しどう接し、どう行動するのか。

 ただ一つ言えるのは、金剛にとって提督は護るべき大切な人だという事である。

 

 

 

 

 

 ☆月α日、今日は晴れデース♪

 

 

 

 今日から横須賀提督の元を離れるので新しい日記帳を買ったのデース!

 名前は……『デースノート』で決定ネ!

(とは言え名前書いても人は死なないケドね!)

とにかくこれに提督の様子を事細かに書いて……ウフフひひひひっ!

 

 

 さて、気を取り直して日記を書きます!fire!

 

 今日は皆と一緒に新たな鎮守府へと移動したのデース!

 途中で襲われたりするaccident(アクシデント)があったりしたけど私的には問題無いネー。

 ……にしても九条提督は凄いデスネー。船底に開けられた穴を水を殆ど入れずに塞ぎ切ったみたいデース!

 妖精さんから色々と話を聞いてみたけど、冷静な判断と的確な指示あっての結果、と言っていたネー。

 Yes!流石私の新たな提督デース!これからも期待出来ますネ!

 

 そう言えば九条提督が勤める事になる鎮守府にはまだ名前が無かったようなので、本部からの指令もあり提督に名前を付けてもらったのデース!

 

「……神無(かんなし)島。神が無いと書いて神無」

 

 ボソリ、と呟いたその名前で一応決定はしたんですが、その時空気が凍ったのデース。

 その理由は、その名付け方法にありました。

 

「神が無い……なんて似合うと思わないか?」

 

 そう言った提督の表情は悪戯が成功した子供のような表情でした。

 そして、その言葉は海軍に対する皮肉だったのデース。

 

 

 それは私達がまだ艦娘じゃなくただの船だった頃。

 

 当時は、戦争前に神様に願掛けする事が結構普通だったデース。

 しかし、現在の提督達の大多数はそんな事をしなくなっていまーす!

 だからこその皮肉だったのでショー。……私はともかく他の人が引いていましたけど気にしないネー。

 

 まぁ色々あったけど無事に鎮守府へ辿り着けて良かったデース!

 

 

 

 ☆月β日、今日も晴れデース!

 

 

 

 今日から仕事開始!張り切って行きましょー!

 ……と、思ったのですがどうやら資材が足りないせいで出撃出来ないみたいデース。というか、資材が無いのに私や大和さんを派遣した事に何となく上からの悪意を感じマース。まぁ、本人が気にしていないので問題無いけどネー。

 

 とりあえず暫くは島の開発をする事になりました。先ずは防壁を築くそうデース。

 鎮守府自体もこじんまりとした小さな鎮守府だったので、守りが足りないと判断したんでしょう。

 しかしやる事が決まってからの動きは凄かったデース。無駄が無い指示で次々と防壁や、深海棲艦からの攻撃を防ぐ為の迎撃装置を開発していました。

 一週間でここに載ってる防御装置は全部揃える、とマニュアルの防御装置の全てを指差していました。

 でも、普通なら出来そうに無い事なのに不思議と出来ると思えたのは提督のカリスマってやつですかネー?

 

 実際に今日一日で六つもの装置を完成させていましたから凄いデース!

 とにかく一つ言えるのは九条提督はやっぱり有能な人だという事ですネー!!

 良し、明日からも頑張ります!

 

 

 

 

 ☆月γ日、今日は曇りデース!

 

 

 第六駆逐隊(暁 響 雷 電)を遠征に出していたのデース。どうやら資材集めが目的だそうですが。

 にしても大和さん……!あのスタイルは反則デース!

 というか私の居る前で、提督が立ち上がろうとして足を滑らせて大和さんを巻き込んで転び、胸を揉むなんてラッキースケベをやらないで欲しかったのデース……!

 まぁ、慌てて土下座ポーズで頭を擦り付けて謝っていたので何とか許されてましたし、二度と思い出さない事を誓わされていたので問題は無いネー。……無いよネ?

 

 ぐぬぬ、横須賀提督は霧島ちゃんが居たから諦めたのですが、そう何人も諦めることなど出来ないのデース。……ここは私からアプローチを掛けるべきでしょうか。

 

 そう言えば提督が妖精さんに「精霊魔法の契約はできないの?」と尋ねていたところにちょっとキュン、としたのデース。

 それから、提督に紅茶を入れてもらいました!前のでも十分美味しかったですが、今回のは更にLevelUP(レベルアップ)していました。

 

 しかし途中でやってきた響ちゃんにはもう少し空気を読んで貰いたかったデース……。

 

 

 

 

 ☆月Ω日、今日は雲一つない晴天デース!

 

 

 資材が届いたのデース!

……やっと深海棲艦にバーニングLOVE(ラブ)出来るかと思ったのですが、開発に回されました。

 ……少し残念デース。ですが!提督さんに任された以上精一杯頑張りまーす!

 

 …………と思っていたのですが、問題は夕方頃に起こったのデース。

 

 夕方、大和さんから提督が鎮守府前の海域を完全開放した。という報告を貰いました。

 一度の出撃で全ての海域を開放した事は流石!としか言いようが無かったですが、問題はその後。

 

「明日から間宮さんと今日見つけた島風がウチに来るから」

 

 思わず、オーマイガーと言いかけてしまいました。それもその筈デース。

 

「駆逐艦、島風です。スピードなら誰にも負けません!」

 

 頭の中にあるのは露出狂のエロウサギ。……クッ!このままでは提督がロリコンに目覚めてしまいマース!

 由々しき事態デース!!!

 

 ここは近いうちに行動を起こすしか無いネー……。

 

 

 

 

 

 ☆月υ日、提督……やっぱり貴方は男の中の漢デース。

 

 

 今日、あの露出狂エロウサギと出会った提督が最初に発した言葉。それは、

 

「……とりあえず上着を羽織ろうか。子供がそんな格好をしてたら襲われるよ?」

 

 完全なる子供扱い(大人目線での会話)!……流石、流石九条提督。幼女性愛者(ロリコン)じゃなくて良かったデース!

 

「おぅ!?上着を羽織ったらスピードが無くなってしま」

「はいはい、とりあえず大和さん。このままだと俺が勘違いで犯罪者になりかねないから上着を羽織らせてあげて」

「分かりました。さっ、島風。行きましょうか」

 

 出会って僅か十数秒。流れ作業のように大和さんに運ばれていった島風(露出狂エロウサギ)は抵抗するも虚しく着替えさせられていました。

 

「……電ちゃん達は真似しちゃダメだからね?」

 

 後ろの方では四人の駆逐艦達に少し頭が痛そうな表情で言っていたのを覚えていマース。

 

 それから、横須賀提督達に連れられて間宮さんと島風が正式に此処、神無鎮守府に着任しました。

 今までは家事の殆どを提督と私と大和さんの三人でやっていたので、少し楽を出来そうデース。

 間宮アイスも楽しみネー!

 

 

 

 ☆月ζ日、今日は曇りデース

 

 

 今日も来客があったそうデース、提督の話だと同年代の提督と言っていました。

 ちょっとだけ挨拶をしたのデスが、何故か性別が分からなかったのデース。

 ……クッ、この私のスカウター(耳のあたりのアクセサリー)でも分からないとは。中々やる相手のようデスネー。

 

 それにしても最近は島の開発もドンドン進みここ数日で別の島のように変貌してきました。

 ……九条提督だからこそでしょうか?

 そう思っていると鼻先にポツリ、雨が当たりました。

 

 …………明日は雨になりそうデース。

 

 

 

 ☆月@日、嫌な予感がします。

 

 

 今日は朝から土砂降りだったのデース。それも台風のような。

 

 ……何だか嫌な予感がしまーす。多分、明日になるとその予感が当たっているでしょうが。

 

 そうです、窓の外から聞こえる木のバキバキという折れる音や窓にガンゴン、と当たっている傘はきっと幻聴や幻惑デース、そうに違いありまセーン。

 だから明日一日中泥だらけになって片付けをしなきゃならないこの予感はきっと気のせいデース。

 

 ……そう言えばふらりと提督が鎮守府から出たと思うと土砂降りの雨の中、一人堤防で佇んでいました。

 

「……嫌な予感、当たらなきゃ良いが」

 

 そう呟いて提督は真っ直ぐと地平線を見つめ、何かを見据えるように手をポケットに突っ込みました。

 その口は面倒だ、と言いたげにギュッと結ばれていました。

 

「………………」

 

 荒れ狂う海。響く轟音と雨、風の音。

 視界が悪い、普段より暗い海。

 

 そんな海の果てで、

 

 ギャハッ……!

 

一瞬。本当に一瞬だけ。

 

 深海棲艦の目の紅い光と、

そんな笑いが耳に届いた気がしました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 金剛日記・デースノート

どうも、少し日が空きました。ゆうポンです。
とりあえずこれにて金剛パートも一旦終わりですね。

そう言えば艦これのイベントが開催されましたね。
私も、参加しております。

くっ……資材もバケツも艦娘も装備も何もかも足りない。
現在Eー1のみ攻略済み。Eー2を突破すべく日々突撃する毎日です。

それから、バレンタインも近付いてきました。誰か私にリアルチョコを(懇願)
とまぁ、見苦しいのはおいておいて。本編をどうぞ!

……にしても金剛の口調が本当によく分からねぇ。


 

 

 

 

 ☆月D日、今日は曇りデース

 

 

 昨日の土砂降りで土砂崩れが起きていたのデース!

 流石に朝から泥まみれの片付けはなんと言うか、テンションが下がりますネー。

 

 と、問題は夜デース。

 提督のベッドに潜り込もうと思ったら部屋はもぬけの殻でしたー。

 何処かへ出掛けている?そう思った私は鎮守府を出て提督を探したのデース!

 

「うむむ、提督もやっぱり男だから我慢出来ずに外で。いや、流石にそれは無いか」

 

 そんな事を考えつつ、探していたら堤防付近で提督らしき人影を見つけました。

 

「ーーーー」

「だから私はーーーーなのです」

 

 よく見ると提督と電ちゃんが一緒に話していました。

 会話の内容が分からないのがもどかしかったのデース……!

 

「……っ」

「………………!」

 

 デスが、次の瞬間衝撃的なモノを目にしてしまいましたー。

 

 ギュッと。まるで恋人を抱きしめるかのような熱い抱擁を"提督"から交わしたのデース!

 そしてそのまま耳元で何やら囁いて、頭を撫でました。

 電ちゃんの方は顔を真っ赤にして、そして涙を零していたのを覚えています。

 

 提督はロリコン?そんな考えが浮かびましたが、何か違う。と感じました。

 

 なんというか、提督の表情が親の顔みたいな、泣いている子供を宥めているかのような。そんな雰囲気だったから。

 

 まぁ、何にしても事の真偽は明らかにしなきゃだけどネ!

 

 

 

 

 ☆月E日、今日も晴れデース

 

 

 

 土砂崩れの片付けが終わり、また防衛用の装置を配置した金剛デース。

 さて、昨日の出来事について電ちゃんから詳しい話を聞いてみましたー。

 

「ふぇ!!み、見ていたのですか!?」

 

 動揺した顔が可愛らしいネー。まぁ、洗いざらい話して貰いマースけどネ?

 

「えっと……実は私が悩んでいる事の相談を」

 

 電ちゃんの話によると、悩んでいる事に対して解決策が無いかを尋ねていたらしいデース。

 ……はぐらかしましたネー。ただのカウンセリングでハグなんかしないのデース。

 まぁ此処が英国とかアメリカとかならやるケド、ここは日本デースから。

 

 ……まぁいいデース。明日、目にモノ見せてやりましょー。

 

 

 

 

 ☆月F日、微妙デース

 

 

「ふぁ……む。朝デース……か?」

「!?いや、金剛さん。これは決してお持ち帰りしたとかそういうわけでもなく俺の性欲の我慢が限界だったとかそんな事は決してありませんから!」

 

 朝、起きたら提督が慌てていました。どうやら、知らぬうちに持ち帰りをしてしまったと思ってしまったらしいデース!

 フッフッフ……計画通り。

 

 なのですが、何処か釈然としまセーン。

 

「えっと……お許しくださるの、ですか?」

 

 提督が襲ってくる素振りはありませんし、

 

「提督〜、別に触っても良いけど。時間を弁えてねっ!」

「………………」

 

 誘うような言葉も言ってみましたが完璧に無視。

挙げ句の果てには、

 

「えっ、なんて言った?」

 

という難聴系主人公ばりの反応をしやがってくれたのが妙に気になったのデース。

……しかも最終的には、

 

「あーもう!何つーか不幸だーっ!!」

 

と、叫んでいました。流石に不幸と言われると女としての自信を無くしちゃいマース。

 ……グスン。涙目。

 

 ついでに説教までされました。……提督はそれでも男なのデースかッ!!?

 

 

 

 ☆月G日、快晴デース!

 

 

 今日は提督から『監視塔を築く』と、言われました。

 どういうことがというか、敵艦が攻めて来た時にいち早く感知する為だそうデース。

 私のmission(ミッション)はその防衛だったんだけど、やっぱり最近バーニングラブ!する機会が無いですネー。

 敵艦が一隻も来ませんでした。つまらないデース。

 

 今日も潜り込もうかと思ったのですが、大和さんが監視していたせいで無理でした。

 うーん、中々難しいですネー。

 

 

 

 ☆月☆日、晴れデース!

 

 

 そう言えば、今日は提督の姿を見かけなかったのデース。

 既に防衛用の装置は全て作成AND配置済みなので問題は無いんですけど、やっぱり少し気になりマース!

 

 むぅ、にしても。最近出撃が無いので暇ですネー。まぁ、平和に越したことは無いけど。

 やっぱりそろそろバーニングラブしたいデース!

 

 あっ、ついでに提督の心を掴むのも私デース!

 

 

 

 ☆月H日、曇りデース

 

 

 

 大変な事が起こったのデース!!

 ついこの前私達の鎮守府を訪れた方。『氷桜』さんと言うそうデスが、彼(彼女)?の鎮守府が敵艦に強襲され、それ以降行方不明になってしまったそうデース……!

 

 本部からは恐らく敵に『拉致された』という推測が建てられていますが、 依然として行方は分からぬまま。

 ……心配デース。

 

「明日は我が身か?いや、それよりも恐らく明日頃に本部から命令が来るだろうな。ここも近いし」

「敵艦が来ても大丈夫!スピードなら絶対に負けないからッ!」

 

 提督達がそんな風に話していましたが、提督の顔は少し陰りが見えました。

 どうやらかなり悩んでいたようデース。

 ……知り合いが行方不明だったらそうなるのも頷けますけど。

 

 ここは私が励まして上げないといけないネー!

 ほらっ、提督!元気出して!

 

 

 

 

 ☆月J日、提督が本気で怒ったのデース……ッ!

 

 

 

「今回、このような命令が本部から届いた」

 

 そう言って提督が見せてくれたのは、深海棲艦の手に落ちた鎮守府。現在敵艦が多数存在する『志島鎮守府』を奪い返せという内容が書かれた指令書でした。

 それだけなら納得の命令だったのデースが、問題はその後にあったのデース。

 

『尚、本作戦には島風と電の二隻だけで攻略し、その後防衛せよ』

 

 一瞬、自分の目がおかしくなった。と思ったのデースが、何度見返してもそこに書いてあったのは同じ言葉でした。

 

 ……条件指定にしても明らかにこんなのはおかしいデース。

 普通なら、『尚、本作戦に使用するのは駆逐艦四隻までとする』のように、具体的な艦の指名は。ましてやたった二隻で攻略しろなんて命令は出されない筈なのですから。

 

「偽物じゃないか?どう考えてもおかしいと思うよ?」

 

 冷静に響ちゃんがそう尋ねましたが、提督は首を横に振りました。

 

「無い、本部には連絡を取った」

 

 その言葉で、この書類が本物である事は分かったのデース。

 そして安心させる為か提督は説明を続けました。

 

「既に、援軍は要請済みだ。横須賀提督にも話は付けてある」

 

 幸運にも、偶々近くで遠征を行っていたようだしな。と付け加えてから提督は次に海図を指差しました。

 

「今回は俺も着いて行く。ここに来る前に元帥から貰った高速船があるからそれで目的地まで直行。そこから反撃に出るが異論ないか?」

「ちょっ!ちょっと待ってください提督。それではただの的では」

 

 提督の言葉に大和さんが反論しましたが、提督は考えがある、と言って海図の一点を指差しました。

 

「この海路。信用出来る筋からのリークだが、この付近のみ敵艦は少ないという報告がある。監視塔からも確認済みだ。運の良いことに霧も出ているから、奇襲を掛けるチャンスでもある」

 

 指でなぞるように道筋を説明しました。監視塔からのデータと照らし合わせると、駆逐イ級が五艦程度見受けられましたがそれ以上の姿は見えません。他と比べても圧倒的に数が少なかったデース。

 

「提督、それって罠じゃないのー?」

 

 暁ちゃんが尋ねましたが、提督は反論を述べます。

 

「それなら、何でここに駆逐イ級を配置する?罠なら敵艦が居ないほうが誘いやすいだろう?それに、霧が出ているのに罠を掛けるとは思えない。寧ろ、俺だったら敵を待つよりも次なる鎮守府。此処(神無鎮守府)を狙うが」

 

 その言葉で私は提督の言いたい事が分かりました。

 つまり、

 

「これは罠ではNOで!霧によって生まれた敵の配置ミス。いや、移動ミスって事デースか?」

「少なくとも俺はそう考える。というよりもメリットが無いからな。わざわざ(鎮守府)を得たのに相手に襲って下さいと言わんばかりの罠を張るなんて。それに敵の目的が分からない以上、そこを行くしか他に手がない」

 

 うむむ、中々難しいですね。

 でも、こう考えたら敵艦はある程度知恵があるという事になるんだけど、という事は敵は……、

 

「敵の大将は戦艦棲姫(せんかんせいき)"らしい"。戦艦棲姫を中心として深海棲艦の規模は数百。それをたった二隻で攻略しろってんだから随分な命令だ」

 

 あくまで表情は気楽そうに。でも、その目は怒りに燃え滾るようにキッと鋭くなっていました。

 そして提督は口調を変えると、真剣な声色でこう言いました。

 

「全員。よく聞け」

 

 ビシッと、空気が真剣な空気に変わりました。

 そして提督は一言、こう命令しました。

 

「なんとしてでも生き延びろ。それだけだ」

 

 その一言で充分でした。

 

 

 

 

 

 

 

 ……出撃の少し前に大和さんと私だけ提督から残るように告げられました。

 

「……万が一の時はこれを使え。無いとは思うが……一応な」

 

 そう言って渡されたのは一枚の封のされた封筒でした。物では無く、何かの使用の仕方が書いてある紙のようでした。

 ある程度の分厚さがあったので、時間ギリギリまで纏めてくれたみたいです。

 

「帰るまでここを任せた。金剛、大和」

「待って下さい提督!」

 

 私は提督を引き止めマシタ。

 それから、提督にお願いをしたのデース。

 

「ちゃんと帰ってくるって約束して下さい。帰ってきたらご褒美にデートでもしてあげますカラ」

「……分かった、約束する。デートの誘いなんか初めてだからな、絶対に帰ってくるさ」

 

 そう言って提督は駆逐艦二隻と共に出撃していきました。

 その顔がヤケに血走っていたのが気になりました。

 

 

 

 ☆月K日、ウソダ、ソンナノ

 

 

 提督が撃たれた。

 そんな報せが午後に届きました。

 

「……九条提督」

 

 残っていた駆逐艦達三人は塞ぎこんでしまい、部屋で泣いたまま。

 大和さんも、周りに弱い姿は見せまいと頑張っていますが、何処か無理をしていました。

 ……いや、私もそうですネ。

 

「提督……」

 

 守らなきゃいけない。

 提督の帰る場所を。でも、守っても提督は……。

 

「……お二人共。コーヒーと紅茶をお持ちしました」

 

 間宮さんがドリンクを届けてくれましたが、彼女もまた何処か気落ちした表情。

 でも、それも仕方がありまセーン……、

 

「心臓を、撃たれたんですよね……?提督は」

 

 確認をとるかのように私は呟きました。

 口にしてはならない禁句(タブー)。それを私は呟きました。

 

「……えぇ」

「………………、」

 

 大和さんは静かに。間宮さんは黙ったまま、それを肯定しました。

 

「まだ……息はあるんですよね」

「……そうです。提督ならきっと大丈夫です」

「大和さんの言う通りですよ金剛さん。守らないといけないじゃないですか。提督達が帰ってくるこの場所を」

 

 私を元気付けるかのように二人が声を掛けてくれたのデース。

 ……信じないと。提督は生きてるって。

 それに、デートの約束もしたんデースからっ!

 

 

 

 ☆月L日、sunnyデース

 

 

「敵艦多数発見!攻撃開始ネー!」

 

 敵艦が攻めてきました。その数三十。

 こちらがまともに戦える艦が五隻なので、一人あたり六隻の担当。

 

「雷、魚雷発射準備!魚雷発射!」

「こちら第六駆逐隊。ある程度殲滅したらそちらに帰投する」

「敵艦が多過ぎる!雷、響。少し下がって!」

 

 防衛戦なので、少し出撃()ては直ぐ撤退を繰り返しました。

 防衛装置もキチンと作動していたので、ある程度までは楽に戦えたと言っても良いと思う。でも、やっぱり数のせいか少しずつ押されてしまったので、

 

「バーニングラァァアブ!!」

 

 この時ばかりは資材なんて考えるよりも防衛が優先だったネー。私も本気で戦ったのデース。

 

「ここは絶対に乗っ取らせはしないネー!提督達が帰る場所は、絶対に守ってみせる!!」

 

 何度か危ない部分はあったけど、何とか耐え切りました。

 提督から渡された封筒。その中身に感謝しないといけまセーン……。

 

『防衛戦。以下、鎮守府付近に埋めた機雷場所。それを使い敵を殲滅せよ』

 

 それに書かれていたのは地図でした。

 それも、この付近の海域。鎮守府の周り一帯の地図。

 

 万が一鎮守府から半径三キロメートル未満まで攻め込まれた場合この地点に機雷を埋め込んである、などの情報。

 海の地雷とも言える機雷の効果はとても高く、艦娘用のモノだったようで敵艦に確実にダメージを与えていました。遠隔操作可能だったので、主に大和さんがタイミングを見計らって、敵の深海棲艦を巻き込むように爆発させていたのを覚えていマース。

 

 ……提督はこの事態を見越していたのでしょーか。最初に防衛装置を造るといったときに此処まで考えていたのなら驚きデース。

 

「提督……貴方は何処まで先を」

「大和さん!話は後にしましょう!とにかく先にこれを作動させます!大丈夫デース!提督が言うことですからっ!」

 

 

 

 守ろう。……そう思いました。

 私達の事を考えて、先を見据えて行動してくれる提督の為に。

 

 心臓を撃たれたと聞いて昨日は動転しちゃったけど、私が信じなくて誰が提督を信じるというのか。

 

 だから、私は信じマース。

 

 ーー提督は生きているとっ!

 

 そして、提督からの期待にも応えてみせますっ!!

 

 

「ここは金剛に任せてくださいっ!九条提督!!」

 

 

 戦艦金剛!提督の為に出撃デース!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 秘書艦・大和日誌

前に感想で一話で終わらせると書きましたが、思いの外大和さんが真面目過ぎたせいで長くなりました。
多分、横須賀提督と同じように四話使うかもしれません。
(一部だけ書くのが無理だったよ……)

まぁ説明にもなって良いかな、とも言えますが。

そして艦これイベント。
多分攻略不可能ですね。Eー2が突破出来るかどうか……。

そしてお気に入り2500突破ありがとうございます!
と思ったら2700突破していた。本当にありがとうございます

追記、2015年2月19日、テスト期間につき更新が遅れています


 

 

 戦艦大和は何を思うのか。九条に出会い、何を感じるのか。

 そして、九条を見てどう思うのか。

 これは、戦艦大和の見た世界である。

 

 

 

 ☆月α日

 

 

 日差し良好。絶好の海日和。

 燦々(さんさん)と照らす太陽の下、私達は自分達の拠点となる無人島へと辿り着きました。

 

「提督。お茶をどうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

 ここに辿り着けたのは何と言っても提督のお陰と言う他ないでしょう。

 途中で乗船中の船に魚雷を当てられたにも関わらず、それを提督が完璧な指示で修復させたお陰で無事に私達は此処に辿り着くことが出来たのですから。

 

「しっかし、安全だと思っていたが思いの外危険だったな」

「えぇ、そうですね」

 

 提督の愚痴のような言葉に私は同調しました。確かに、まさか解放済みの海域に敵艦が居たとは思ってもみませんでしたし。

 後から確認を取ったところ駆逐ハ級が数体居たそうです。

 しかしそれも提督がその場に居た妖精さんに命令し轟沈させたと妖精さんから聞きましたので、やはりこの方は有能であられると理解出来た分良かったかもしれません。

 

「んで、此処が拠点か。何つーか、無人島に鎮守府をポンと置いただけみたいだな」

 

 そう言って提督が指差す先には、あぁ。確かに鬱蒼と生い茂る森の中にポツンと小さな鎮守府がありました。

 見た感じでは殆ど整備もされていないようです。最前線だからか、かなり急ごしらえのようにも感じられました。

 

「まるで左遷みたいだなオイ。元帥さんにモノを強請ったのが悪かったのか?」

「……元帥、ですか?」

 

 提督がやれやれ、と言いたげにそう呟いた言葉に聞き逃せない単語があり、私は聞き返しました。

 すると一枚の書類をこちらに見せて、

 

「ここに書かれてる最新鋭の移動用の船やら何やら。それからその他諸々を貰ったんだよ。まぁ、ぶっちゃけて生き延びる為に必要だと思ったからな。最新鋭の船や戦闘機。それから潜水艦は完全に目的地指定すれば敵艦の攻撃を自動感知しながら動けるし、小回りきくし。何より速いし。戦いじゃ使えないけど、移動用とか物資運ぶ用には使えるからな」

 

 成る程、それで。と提督の言葉に納得し掛けてハッ、と気付きました。

 

「ちょ……ちょっと待って下さい提督。元帥に強請ったって」

「オイオイ、普通に考えてくれよ。俺はただの学生だぞ。そのごく一般的な学生である俺をこんな戦いに巻き込むんだからちったぁ融通してくれたって良いだろって考えだ。それに元帥だって快く譲ってくれたし問題はナッシングだよ」

 

 ……どうやら提督は中々に交渉上手なようです。普通じゃないくせに、ごく普通の学生を巻き込んだ。と皮肉を入れているあたり相手に交渉の軸を握らせないようにしているのがより黒く見えます。

 とは言え、ただのお人好しや指揮が出来るだけの提督では心配だったので一安心とも言うべきでしょうか。

 

「ついでによ、この島の名前まで決めろだと。何、何ですか。海軍は九条さんに何を求めてんですかねぇ」

「恐らく箔をつける為では?島に名前を付けるなんて中々ありませんし、それに最前線に送られるというのも有能である証ですから」

 

 そう言うと提督は溜息を吐きました。面倒なのか、それとも何か別の考えを持っているのか。

 ……私のような者では、目の前の天才が今、何を考えているかなど到底理解出来ないでしょうが。

 そして提督が空を見上げた時、丁度青空が一変して曇りへと天気が変わりました。

 それを眩しそうに見つめ、彼は口を開きました。

 ……どのような言葉が彼の口から飛び出すのか。少しばかり楽しみにしていた私は。いや、楽しみにしていたからこそ次の発言に思わずツッコミを入れてしまいました。

 

「……あぁ、空はあんなに青いのに。何で俺の心は曇っているんだろう」

「曇ってんのはアンタ(提督)の目だ!!」

 

 

 

 その後、提督はこの島の名前を神無島(かんなしじま)と、名付けました。

 同様に鎮守府名も神無鎮守府(かんなしちんしゅふ)に決定されたのですが……、

 

「この世界に神は居なかった!!」

 

 皆が部屋から退室した後、一人叫んでいた提督の姿が気になったのは内緒です。

 ……もしかしたら情緒不安定なのかもしれません。しっかり見ておかないと。

 

 

 

 

 

 ☆月β日。

 

 

 出撃が出来ない。その言葉を聞いたのは司令室での事でした。

 

「一言で言えば戦艦は無理だな。資料を見る限りでは駆逐艦でも一海域行けるかと言った所だ。と言うわけで暫く出撃はしない。方針としては駆逐艦で遠征をして、資材を溜める。後はこの鎮守府の正確な地図を作る事と住んでいる生物の把握と保全。それから防御機能を造る。良いな?」

 

 一息にそう言った提督の言葉は、まぁ非の打ち所がない言葉でした。

 と言うよりも資材を分かりやすくグラフにして、ゲームちっくに説明してくれたので駆逐艦達にも理解しやすいように説明してくれた時点でちゃんと考えているのだな、と思えましたね。

 

「それで、造る防御機能なのだが。コレだ」

 

 そう言って提督は大きなポスターのようなモノを開きました。

 そこに載っていたのは、海軍で主に使用される防御機能の数々です。

 

「とりあえず全部作るのは機能が被ったりするから、最低限のものを選別しておいた。とは言え個人的には予備も兼ねて全て造りたいし、その資源やら資材も足りないからそれの対策もしたいけどな」

 

 仕事が早い。素直にそう感じました。

 成る程、流石アレだけの功績を数日で打ち立てた方です。脱帽しか出来ませんね。

 

 そもそもアレだけのリストを全て見て、その中から必要なモノの選抜。

 その為に使える資材と、これから溜める為にどの程度残す必要があるのかと言った計算。

 そしてそれらがこの島の生態系にどのような悪影響を及ぼすかの想定と、その保全。

 更に私達の説明の為の情報整理。そして説明。

 私達の運用資材の計算に加え、練度から想定される遠征可能なエリアの選定。

 極め付けは、完璧な行動指針。

 

 これをたった1日で計算し、行動を宣言出来る提督が果たして何人居るかどうか。

 居たとして、実際に行動出来るのかどうか。

 

 しかし、彼が提示した道筋は。例え異常(イレギュラー)が起こったとしても対処出来るかのような完璧な計画。

 

 

 あぁ、成る程。と私は唐突に理解しました。

 

 ーーこれが、九条提督なのだと。

 

 これが、若いながらに元帥に認められた天才。

 

 ーーーー九条 日向(くじょう ひなた)という人間なのだと。

 

 

 

 

 ☆月γ日。

 

 

 

「提督、お飲み物はどうしますか?」

「カル○スで。少し濃いめでよろしく」

 

 今日も提督は私より朝早くから仕事をしていました。時刻にして朝の6時。昨日寝たのも私より遅かったので、一体いつ寝ているのが少し気になりました。

 

「……提督、お身体大丈夫でしょうか。無理はいけませんよ?」

「あぁ、まぁ慣れてるし。大丈夫大丈夫」

 

 カラカラと笑いながらそう言ってくれたのですが、目の下には薄い隈が出来ていたので寝不足に違いありません。

 やらなくてはならない事が多いのも分かりますがもう少し休憩を取るべきでしょう。

 

「提督、今は何を?」

「あぁ、今日から始める遠征の消費資材の予想だな。駆逐艦とはいえ、潜水艦じゃあるまいしそんなに資材を取れるとも思えないから。殆ど練度を上げるだけの事になりそうだし」

 

 カチカチ、とパソコンを弄りながら提督がそう言いました。ふむ、成る程。つまりどの程度資材を消費するかの予想。それからそれによってどの程度練度を上げられるかという計算ですか。

 普通に考えたらやってから表を作るべきだと思うのですが、先に予想を立てておく事で次に予想を立てる時に前回の予想からどの程度数値がズレていたから次はこの程度だろうと言った具合に正確な予想が出来るようにしたいのでしょう。

 

 ……なんだか提督が未来予測の人工知能のような気がして来ました。

 

「とりあえず大和、悪いけど朝食を作って貰えないかな?今手を離せないし。それに大和の料理美味いからね」

「分かりました。皆は何時頃に起こせばよろしいですか?」

「とりあえず7時過ぎで良いよ。多分金剛辺りがそろそろ起きてくるだろうし、今の時間帯に四人を起こすのは何だか可哀想だし」

「かしこまりました」

 

 ……にしても真面目な方ですね。私も人よりは真面目なタイプだと思っていたんですが、提督と比べるとどうしても自分が働いていないようにも思えます。

 まぁ、言っても仕方がありません。とりあえず提督の飲み物を入れてから朝食を作る事にしましょう。

 

 

 そして食堂で飲み物を入れ、それを持った私は司令室のドアを叩きました。

 

「どうぞ」

「あれ、大和さんデスか?goodmorning(グッドモーニング)デース!」

「おはようございます金剛さん、……それで貴女は何を?」

 

 どうぞ、の声が聞こえた私は司令室に入ったのですが、そこに居たのは提督に抱きついて頬ずりしている金剛さんと、少し嬉しそうな表情を浮かべつつも弱ったな、と呟く提督の姿でした。

 

「で、金剛さん。この俺に貴女は何をしているんです?」

「提督から提督成分を貰っているんデース!元気百倍になりますネー!」

 

 何と言えば良いのでしょうか。何となく目の前の光景に私は苛立ちを覚えました。

 ……にしても提督も提督です。抱き着かれてデレデレして。こんなのでは一人前の提督ではありません!

 

「えっと……とりあえず離れて頂けると嬉しいんですが?」

「NOデスね!まだまだ提督成分が足りセーン!」

 

 少し嫌そうに言っている割に表情が緩んでいるのはお見通しです。ムッ、何だか胸の辺りがムカムカします。

 この感情は何でしょうか。

 

「提督お飲み物を。そして金剛さん!もう少し節操を持ちなさい。それに提督も提督です!嫌そうに言っている割に表情が緩んでます!」

 

 思わずお説教のような事を言ってしまいました。うーん、どうしてでしょうね。

 まぁ、金剛さんに節操が足りないのは既に分かっていましたので正解だとは思いますが。

 

「oh、仕方がありまセーンね。分かりました」

 

 渋々、と言ったように金剛さんが提督から離れました。乗っかられて身体が痛かったのか提督が立ち上がり軽く伸びをした後に、私の手から飲み物を受け取ろうとして、

 

 それは起こりました。

 

「のわっ!?」

「きゃっ!?」

 

 突然、足元を滑らせた提督が私の方へと倒れこんできたのです。

 余りに突然の出来事にソレを回避する事が出来ず、私は提督と一緒に倒れこみました。と、同時に持っていたジュースがバシャッ、と私に掛かります。

 

「冷たッ……ひゃっ!?」

「いて……ってアレ、何だこれ。何か柔らかいけどズレたようなーーッ!」

 

 胸の辺りから感じる手のような感触。それが私の胸に入れていたPadをズラし、その中にある胸を弄って……、

 

「きゃぁあああああ!!」

「これ……まさか胸。いや、OTSUPAI(オッパイ)!?それにこれってまさかPadじゃ……」

 

 そこまで言った提督は顔を青ざめました。頬から冷や汗がポロポロと流れ始め、自分が触っているものを確認するかのようにゆっくりと指先を見つめます。

 

 しかし、私にとっての不幸はまだ終わりませんでした。

 バタンッ!という大きな音を立てて勢い良く四人の少女達が部屋に乱入してきたのです。

 

「提督!?今の悲鳴っ、て……」

「何があったの!?凄い音、が……」

「な……なのですっ……!?」

「ふむ、どうやら提督は欲求不満のようだな」

 

 暁、雷、電が私達の方を見つめて顔を真っ赤に染めました。響だけが冷静に呟きますが、それは勘違いです。

 

「て・い・と・くゥ〜?」

「待て!頼むから待って!これは事故だ!不幸な事故なんだ!」

 

 上から睨みつけるかのように金剛さんが呟きました。その声に危機感を感じたのか提督が弁明しましたが、どうやらそれは意味の無い事だったようです。

 

「ならどうして大和さんの顔にアレが付いているんだ?完全にヤったとしか思えないのだが」

「……えっ?」

 

 起き上がろうとした私の顔を指差して響が言いました。それを確認するためかジッと、私の顔を見つめた提督が固まりました。

 終わった、と言わんばかりの絶望の表情。

 

「なぁ皆。これ、カル○スなんだけど。って言って納得する?」

「な……なのなのなのででで」

「い……電!しっかり気を保って!」

「えっと……一人前のレディーはこんな事を」

「しないね、と言いたいけど匂いで分かるよ。とはいえ、多分この三人はまともに状況把握出来ていないから信じてくれないと思うよ?」

 

 提督の言葉に唯一響だけがまともな返答を返しましたが、そんな言葉では意味がありません。

 そもそも、この中で最も怒っているのは私ですから。

 

「提督以外出ろ。今すぐにだ」

「な……なのなのなっ!!わ、分かったのです!」

「は……はい!分かりました!」

「べ、別に見たくなかったとかそういうわけじゃないんだからねっ!!」

「とりあえず死なない程度にお仕置きしておいたほうがいいと思うよ」

「……仕方ありまセーンね。一番怒っているのは大和さんですし、此処は譲ってあげるのデース」

 

 ニッコリとした笑顔でそう言うと、五人はそれぞれ言いつつも直ぐに指令室を後にしてくれました。残されたのは提督と私の2人だけ。

 

「……で、何時まで触ってんですか?エロ条提督。胸か?胸が良いんですかエロ条」

「えぇ……っと。結構なモノをお持ちで。じゃなくて!ご、ゴメン!!」

 

 慌てて胸から手を離し、提督は私の顔をまるで圧倒的弱者であるかのような。機嫌を窺うような表情でこう言いました。

 

「えっと……今回は事故という事で解決でよろしいです、か?」

「よろしいと思いますか、て・い・と・く?」

 

 今、私の表情は般若のような顔に違いありません。あくまで冷静ではありますが。いえ、冷静であるからこそ私の表情は怖いものになっていると予想出来ます。

 

 そして私は思ったままに提督へのお仕置きをしました。

 暫くの間断末魔のような悲鳴が鳴り響いたのは書くまでもありません。

 

「もうじばけありませんでした(申し訳ありませんでした)」

「大きい胸より小さい胸!リピートアフタミー!」

「大きい胸よりぢいさい胸!つか、さっき触った感覚だとCカップは確実、へぶッ!!?」

「良いから黙ってリピートしなさいッ!」

 

 服を整えた私は提督にリピートさせていました。女性が気にしている事を突っ込むなんて最低な野郎です。

 もう九条提督とは呼ばずにエロ条提督と呼んでやります。

 

「大和の胸は本物の胸!サンハイ!」

「や……大和の胸は本物ってまて、あれ完全にPadだろ、くわらばっ!!?」

 

 結構強めに殴り飛ばします。暴力ではありません。愛の鞭。もしくはお説教の延長です。だから何の問題もありません。

 

「貧乳はステータスだ!希少価値だ!!サンハイ!」

「ひ……貧乳はステータスだ!希少価値だ!つかお前は充分巨乳だと、そげぶっ!!?」

「何処までも私を怒らせたいようですね九条日向」

 

 自分でも驚くほど低い声が出ました。そして再び肉体言語もとい、お説教を打ちます。

 

「小さい胸こそ夢がある!」

「小さい胸こそ夢がある!!」

「誰が貧乳ですかエロ条提督!!」

「だからさっき巨乳って言っただろ、南無三ッ!!?」

 

 更に説教を続けるとエロ条提督の顔が青ざめるを通り越して真っ青に変わりました。どうやら死にかけているようです。

 理不尽だ……、という言葉が出てきましたが、どの口からその言葉が出てくるのやら。さっぱり分かりませんね。

 

 そして、事の顛末を皆に説明した私はエロ条提督を放置してその場を去りました。朝食?そんなの私が食べちゃいましたよ。

 ……全く、初犯である事と事故だった事からこの程度で許しましたが次は絶対に許しません。唯一の男性なのですからもっと節操を持って欲しいですね。

 

 にしても、彼の身体はどうなっているのでしょうか。午後には怪我一つ無くなり完全回復していたのを見ると、完全に人間ではないような…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そう言えば活動報告を上げてみました。
良かったら見て下さい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 秘書艦・大和日記

ちょっと間が空きました。
定期テストェ……。

さて、今回の話は提督の仕事ぶりを横から見た感じを書いてみました。前回の大和さんの書き方がガチガチ過ぎて少しアレだったかな?と思ったのでかなり柔らかくしています。

……にしても日記風って、何でしたっけ?


 ☆月Ω日

 

 昨日この日記を提督に見られ、なんか小説みたいだね。と言われました。

 書き方がおかしかったのでしょうか?

 

 さて、今日も青空。良い天気ですね。

 そして今日は資材の受け渡しがありました。各資源はそれぞれ3,000ずつ。私を運用するには少ない量ですね。

 提督は早速駆逐四隻を出撃させていました。

 

「提督、今日は何処まで攻略を?」

「鎮守府前は全部だね。そこまで難しくは無いし」

 

 ……提督の言う簡単と私達が言う簡単の度合いが大きく違う気がするのですが、私の気のせいでしょうか。

 

「とりあえずAー1攻略っと。次はAー2だな」

 

 開始から僅か十数分、最初のエリアを開放させることに成功したようです。提督の命令を駆逐艦達に伝えているだけなのに結構作業がギリギリなのが情けないですね。

 もっと早く命令を伝えれるようにならなければ。

 

「トドメ、これでクリアか。じゃ、次はAー3だな」

 

 どうやら仕事になるとかなりキツイ事もやらせるタイプのようです。普段は駆逐艦達に甘々な分、ちょうど良いメリハリを付けられているのかもしれません。

 ……やはりそこも考えて行動されているのでしょうか。

 

 そして結局、言葉通り鎮守府前の海域を全て解放させることに成功しました。

 使った資材も必要最低限。それぞれ100も超えていないのでは無いでしょうか。

 ……流石、としか言いようがありませんね。

 

 

「ん、新しい艦娘……?」

「え?あ、あぁ。新しい娘が来るんですか。どなた……かは流石に分かりませんよね。後で本部に連絡を取ります」

 

 提督の呟きに意識をそちらに向けると、パソコンの画面に新たな艦娘を発見しました。という文字が浮かんでいました。

 成る程、どうやら新しい艦娘が海で見つかる事がある事を知らなかったようですね。すると提督として問題点は知識量ですか。

 ……にしてもつくづく末恐ろしい提督ですね。これで知識が身につけばもはや弱点が無くなりそうです。

 ただでさえハイスペックなのにこれ以上凄くなったら一体何処へ辿り着くのやら。

 

 ちなみに新しい艦娘は島風のようです、……うむむ、また駆逐艦ですか。

 そろそろ戦艦と駆逐艦だけ……なんとも戦力的に心配になってしまう鎮守府ですね。

 

 

 

 

 

 

 ☆月ε日、天気は晴れ

 

 

 

 横須賀提督が来られました。

 どうやら何処まで攻略したのかと、どんな事をやっているのか参考に来たそうです。

 私の日記を見せると、「うわっ細かいな。ってかこれ日記じゃなくて小説だろう」と言っていました。

 教えられた書き方で今、書いているのですが大丈夫でしょうか?

 

 そう言えば、島風と同時にもう一人。この神無鎮守府に着任する事が決定しました。

 間宮さんです。どうやら家事全般を担当してくれるそうなので、私と提督と金剛さんの負担が減りそうですね。

 まぁ、提督は料理が好きなようなので自分で勝手にやるかもしれませんが。

 

 そう言えば、提督が島風と会った時に直ぐさま着替えさせるように命令したのは少し意外でした。

 いえ、まぁあのような露出度の高い服装が目によろしくないのは分かりますが、まさかロリコン……では無くペドフィリアではありませんよね?

 

 あっ、それから横須賀提督が今日をまとめた日記を見せてくれました。

 どうやら書き方は小説風でも構わないそうなのですが、私の場合文章が硬いそうです。

 むむむ、何だか難しいですね。

 今日は時間が無くて簡単にしか書けなかったので明日は助言を活かして頑張ってみましょう。

 

 

 

 

 ☆月ζ日。

 

 

「今日、人が来るから」

 

 早朝。仕事を始めますかー、と司令室へと足を向けた私に提督がそんな事を言いました。

 来客?疑問に思った私が聞き返すと、まぁ知り合いだよ。との返答が。

 提督の知り合い……、神無鎮守府(ここ)に来るという事は提督のどなたかが来られるのでしょう。

 そう解釈した私は、その方をお迎えする為に準備を始めました。

 ……、始めたのですが。

 

「うーん、困りましたね。突然言われてもお出しするモノが」

 

 食堂で、まるでどうやっても攻略出来ない海域にぶち当たった提督のように私は呟きました。昨日までは幾つかお出し出来そうなもの(和菓子)があったのですが、丁度切れてしまっていたからです。

 間宮さんとも相談しましたが、作るにしても時間が足りないのだとか。

 困りました。

 本当に困りました。

 

「ん、大和さん。何をしているのかな?もう三十分もしたらお客様が来るって聞いたけど」

「悩みがあるなら私がスピード解決してみせますよっ!」

 

 そんな風に考えていると背後から声。

 身体ごと振り返ると、そこには響と島風の姿がありました。

 

「響と島風ですか。うーん、そうですね。今は猫の手も借りたい位ですし……」

 

 特に打開策も浮かばない今、なりふり構っていられ……ませんね。

 仕方ない。

 そんな思いで、何か案が無いか尋ねてみると響がクスリ、と笑いました。

 

「お茶請けか……、普通に作れば良いんじゃないかな?」

「いえ、間宮さん曰く納得出来るモノを出すのに時間が足りないと」

「簡単なのじゃダメなのかな?カップケーキくらいなら直ぐ作れそうだけど」

「うーん……そうですね」

 

 中々に難しい。間宮さんはカップケーキ一つでも、ちゃんとした工程を踏んで作らないと納得しないでしょうし。

 いっそ提督に聞いてみますか。

 

「私は元々料理を作れた艦じゃないからな……。専門的な事までは分からないけど、まぁもし作るなら手伝うよ」

「料理はあんまりした事ありませんけど作る早さは負けませんっ!」

「ありがとうございます、響、島風」

 

 心優しい駆逐艦達にお礼を述べ、私はその場を後にしました。

 

 

 

 (次のページへ)

 

 

「お茶請け?あぁ、それならこの前持ってきたのが残っているよ」

 

 司令室。そこで忙しそうに働いていた提督に尋ねると、自室へ来るよう指示されました。

 どうやら個人的に持っていたモノだそうですが、「無いなら仕方ねーか」の一言で持ち出す事を許可してくれたので良かったです。

 

「えっとー、確かここにカステラを入れていたような……」

 

 ゴソゴソと。

 タンスを漁りながらそんな事を呟いた提督は、やがて目当てのモノを見つけたのか、取り出し私に渡しました。

 

「とりあえずコレを。あっと……そろそろ来る時間だな。出迎えてくる」

 

 そう言い残し提督はパタパタと部屋を後にしました。時間は……あぁ、成る程。気が付けばお茶請けを探し始めて三十分くらいが経過していました。どおりで急いでいるわけです。

 

「さて……、私も準備をしましょうか」

 

 そう呟いて出迎える準備を始め、何とか準備を間に合わせることが出来た私でした。

 にしても今から考えれば来客用のお菓子は常に用意していた筈なのに一体誰が食べたのやら……?

 

 

 

 

 

 ☆月@日

 

 

「で、私達はもう少し働くべきだと思うんだ」

 

 駆逐艦達の部屋。

 生憎の土砂降りで外の仕事が一切出来なかった私は駆逐艦達の部屋にいました。

 開口一番にそう宣言した響の方へと目を向けます。

 

「む〜、確かに。九条提督ってば私の事子供扱いするし」

「確かに最初に会った時に子供はそんな格好しちゃいけませんっ!て怒られちゃいましたしね」

 

 暁と島風がそう言って、小難しそうな表情を浮かべます。

 うーん、人間である九条提督からしたら見た目子供な彼女達を働かせるのがOUTだと思っているのでしょうか?

 法律的な感じで見ても見た目の年齢は明らかに基準を下回っていますし。

 

「最初、此処に来た時もそうだったんだよ。確かに私達も働いてはいたよ?鎮守府の防御機能の取り付けをしたりさ。でも、やらされたのは子供でも出来るような事ばかりなんだよ」

「確かに、今考えてみればそんな感じだったわね」

 

 響と雷も何だか微妙な顔つき。良く思い出してみると、あぁ。確かにそうでした。

 子供でも出来るような小さな荷物運びやら、材料運び。組み立ては基本私と提督と金剛さんと妖精さんで行いましたし、10キロ以上の重さのモノは殆ど提督が汗水垂らして運んでいた覚えもあります。顔が真っ赤になるまで力を込めていたような覚えもありました。

 

「おぅ!確かに提督は毎日誰よりも早く起きて誰よりも遅くまで働いていますね!最近は早く起きるようにしてるのに、負けたままです!」

 

 島風も追加でそのような事を口にします。……ってあれ?

 

「ちょっと待って下さい島風。貴女、何時に起きているのですか?」

「おぅ!?えっとー最近は四時半くらいに」

「…………っ!!?」

 

 ちょ……ちょっと待って下さい。私が普段寝るのは夜の1時半です。提督は二時頃寝ていると聞いたので、二時。

 起きるのが、島風よりも早い。証言から考えて四時頃?

 

「ちょっと待って下さい。提督は二時頃に寝ていると聞いた覚えがあります。そうなったら二時間程度しか寝ていない事になりますよ?」

「「「「「!!?」」」」」

 

 私の言葉にこの場にいる全員が驚愕の表情を浮かべました。

 それもそのはずです。提督の普段している仕事は普通の仕事よりもよっぽどハードな仕事です。

 体力も使いますし、パソコンの前や書類作成もありますので事務的な疲れもあります。

 そのうえたった二時間しか寝ていない?

 

「……ヤバイですね」

 

 少なくともこのままの生活を続けていたら……。

 私は考え得る限り最悪の未来を告げます。

 

「このままだと……、過労死しますね。間違いなく」

 

 朝から晩まで駆けずり回り、何人分の仕事を一人でこなし、満足な休憩すら取れていない。

 ブラック企業でもここまで酷くは無いと思います。

 

「思っていたよりも深刻だね。やっぱり仕事を私達ももっとしないといけないよ、これは」

 

 というかそれを飄々と行っている提督が異常なのですが。今は……何をしているんでしょうか?

 電と金剛さんの姿が見えないので彼女達の元に居ると思われますが。もしくは間宮さんの所。

 ……どちらにせよ、提督には近いうちに休みを取らせなければなりませんね。

 

 それと、最近金剛さんの行動が不審になってきました。提督へのアプローチが些か激しいというか。

 ……こちらに関してもある程度気にしておきましょう。何かの拍子で野獣になられても困りますし。

 

 …………あぁ、憂鬱です。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 秘書艦・大和日記

今回の話は、ギャグに重点を置きました。
(果たしてこれはギャグなのか……?)

ちゃちゃっと書いたのでミスがあるかもです。
にしても定期テスト、早く終わらないかな……。
ちなみに、今回が大和さんラストです。


 ☆月D日、

 

 

 今日は朝からバタバタとした一日でした。

 

「……はぁ、三日程本部へ行け、と」

「あぁ、申し訳ないけどな。金剛でも良いんだが、何か不安だし。他の子達は……その、な」

 

 何とも言えない表情を浮かべる提督。

 ……察しました。

 

「まぁ駆逐艦の子達は遠征や色々出来ますからね、……一応聞きますがまさかロリコンでは」

「無いからっ!俺にそのような趣味は断じてありませんからっ!YesロリータNOタッチ!俺、巨乳大好きです!」

「……、分かりました。ではエロ条提督。行ってきますね」

「オイちょっと待って大和さん!お願いだからその不名誉なあだ名で呼ばないでくれませんか、ねぇ待ってぇえええ!!」

 

 朝から提督は煩いですね。まぁ、それはさておき。

 提督から、本部への連絡及び横須賀鎮守府へ顔を出すように頼まれました。

 本部への内容は主にこの一週間の成果の報告書の提出。それから資材が足りないので、追加の要請などですね。横須賀鎮守府へはただのついでですが、まぁ仲は良い方が良いと、仰られてましたので仕方なく訪問する事にします。

 ……にしても最低二日間は泊まりでアチラに居なくてはならないので少し心配ですね。

 主に金剛さんが提督のベッドへ行く的な意味で。

 

「クソっ……なんで提督になってまで超絶美人なお姉さんタイプの秘書さんに罵られなきゃならないんだよう!」

 

 司令室から項垂れたような。そんな声が聞こえましたが、敢えて無視して私は部屋を後にしました。

 

 

 そして鎮守府を出ようとして、バッタリと。

 金剛さんと出会いました。

 

「hey大和さん!おっはよーございマース!」

「おはようございます金剛さん」

 

 やはり朝から元気のある方ですね。でも、にこやかな笑顔の筈なのに目が笑っていないのは何故でしょうか。

 

「ネー大和さーん。さっき司令室で何してたのー?」

「少しエロ条……。九条提督から二日間、本部へ向かうように指示されただけです」

 

 簡単に任務の内容を説明しました。まぁ、私としては駆逐艦の子でも果たせそうな内容の気がしますが、エロ条……。九条提督の事です。何かしら考えがあって私を指名したのでしょう。予想だと、ある程度黒い話になりそうですし。特に資材の追加は。

 

「そうデースか。それは大変デスね。それで、いつ頃戻って来るんデスか?」

「早くても二日後。遅ければ三日後ですね、……アナタまさか提督の部屋に侵入しようと考えては」

「い、いや!べ、別にそんなやましい気持ちは無いデスって!大和さんというガードが居ない間に提督とあんな事やこんな事しようなんて一切考えてませんからっ!」

「……………………、」

 

 恐らく私は今、目の前で慌てて弁解するこの金剛型の一番艦の姿をこれ以上無いジト目で見つめているのでしょう。

 金剛さんの慌てていた表情がますます酷くなっているのがその証拠です。

 ……クッ、どうなっているのでしょうか。この鎮守府にいる大人は皆、変態しか居ないのですか。

 いや、まだですね。まだ間宮さんが居ます。

 

 ……にしても、このまま提督の部屋に侵入させる訳にもいかないので釘を刺すとしましょう。何だかムカムカしますし。

 

「良いですか、金剛さん。男性は獣です。ちょっとでも油断を見せれば胸や尻に手を伸ばします。エロ条提督も例に漏れず、私にカル○スをぶっかけた挙句に胸を揉みしだき、更にはセクハラ紛いの言葉をぶつけました」

「ちょ、ちょっと待って欲しいネー。前半の胸を触ったまでは分かりマースが、それ以降は完全に大和さんが」

「シャラップ!丁度良い機会です。まぁエロ条提督もあの出来事を思い出せないように調きょ……もとい。お説教をしましたので貴女にも女性の在り方と言うものを」

「や……ヤバい雰囲気が!ここは一時撤退しマース!see you!大和さん」

「あっ!コラ!逃げないでください!、もう」

 

 説教モードへ移行した途端、冷や汗を流した金剛さんは一目散に逃げてしまいました。

 うむむ……失敗ですね。提督の睡眠時間を削るような真似はさせたくなかったのですが。

 

「……はぁ、なんか調子が狂いますね」

 

 なんとなくモヤモヤした気持ち。

 まるでテスト中に浮かびそうで浮かばない答えのような。そんなモヤモヤした気持ち。

 提督関連の話をするとそんな気分になります。

 本当にどうしてでしょうか。

 

「……あぁもう。これも全部提督の所為です」

 

 ぶつける相手が居ない、この気持ちを此処には居ない提督に向かってぶつけました。

 返事は、帰ってきませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆月E日、

 

 

「冬夜ぁーっ!!」

「あぁぁぁあああっ!もう、何つーか!ツイてねぇぇええ!!」

 

 昨日の内に移動して本部での仕事を終えた私は横須賀鎮守府に宿を借りました。

 そして翌日の朝。即ち今日。

 迷惑な叫び声に私は目を覚ましました。

 何事だろうか、そんな思いで眠い目を擦りながらドアを開けると、

 

「冬夜のバカヤローッ!!」

「俺は悪くない!アレは事故!事故なんです!そもそも理沙先輩が俺のベッドに入るから悪いんでしょーがぁ!ってうわっ!誰だ鎮守府内で弾丸(タマ)ぶっ放したの!」

「安心して下さい、睡眠弾ですから」

「霧島ぁ!?睡眠弾って何処も安心出来る要素が無いんですけどっ!?撃たれて起きたら説教の未来しか見えないんですけどっ!!」

 

 …………、見なかった事にしましょう。

 そっと、私は部屋のドアを閉じました。

 

 えぇ、気のせいでしょう。横須賀提督が憤怒の表情を浮かべた理沙提督と、睡眠弾を構えた霧島さんに追われているなんてきっとこれは私が見ている夢か何かですね。

 

 と、

 

「ちょっと提督ぅ〜?私、貴方の所で寝てないんだけど〜?」

「まさかの愛宕(あたご)さん参戦ッ!?ってか走るなっ!走ったらそのマスクメロンが……ブハッ!」

 

 ドアの隙間から覗いていると、突然部屋から出てきたオッパイお化け……もとい、巨乳美人の愛宕さんが提督の後を追うように走り出しました。

 

 その際に、その豊満過ぎる胸がたゆんたゆん。

 いえ、バインバインと動く姿に興奮したのか横須賀提督が走りながら鼻血を吹き出します。

 しかし、その背後に二人の般若の姿が。

 

「と・う・や・ぁ〜?」

「て・い・と・く・ぅ〜?」

「ま、待てっ!早まるな!今のは決して愛宕さんのその豊満なマスクメロンにやられたとかそんなわけでは」

「ワリィ、久しぶりにキレちまった。だから一発受けてもらうぜッ!!」

「マイクチェックOK。あー、contact preparedness it is regstered(お覚悟はお済みですね)?」

「あ、終わった」

 

 絶望の表情を浮かべた横須賀提督が廊下に立ち尽くしました。そしてこれが最後だ、と言うかのように、

 

good-bye My Life(さようなら、俺の平和)。巨乳に囲まれて僕は本当に嬉しかったです」

 

 瞬間、ギャグか何かのように横須賀提督は鮮やかな手付きで気絶させられると、三人に引っ掴まれ運ばれていきました。

 成る程、あれがハーレムを作った男の末路なのですね、少しばかり勉強出来た気がします。

 エロ条。もとい、九条提督もそうなりそうでちょっと不安です。実際になったら……なんと言うか、ムカムカします。

 ……まぁ、何にせよ。

 

「暴力は控える事にしましょう。人のふり見て我がふり直せ、ですね」

 

 また、新たな事が学べました。これでも私は生まれてから短いので、まだまだ学ぶ事が多いですね。

 小さい子が多い分、頑張らないと。

 それに、提督の負担も減らさないといけませんしね。

 

 

 

 

 ☆月F日、

 

 

 仕事を素早く終えて帰りました。

 元帥との会話もありましたが、提督に持たされた資料を見せただけでスンナリと資材の件を通してくれたので良かったです。

 ……元帥の表情が青かったのは気のせいでしょう。そうじゃなければ多分、提督が何らかの脅しを掛けたのか。

 で、

 

「何してんですか金剛さん。アレほど言いましたよね?男は獣だと。決してベッドに入るな、と。そもそもですね、付き合ってすらいないのにそんな事をするなんて」

「sorry……。提督は何で私を見てくれないんでしょうか」

 

 やりやがりました。

 金剛さんが提督のベッドに潜り込んだそうです。

 朝、起きた提督は夜に連れ込んでしまったと勘違いし、パニックになって責任を取る、とか土下座したり、とか色々と面倒な事になっていました。

 まぁ金剛さんには勘違いだと気付いた提督が説教をしていたので問題は無さそうですね。

 ……にしても、提督は本当に男なのでしょうか?幾ら艦娘とはいえ、美人な女の子がベッドに潜り込んできたら手を出すような気もしますが。

 でも、安堵している自分も居るから不思議です。

 そう言えば、

 

「大和さんだったら……」

 

 何やらボソボソと呟いていましたが、アレはなんだったのでしょうか。金剛さんと私を見比べていたような。

 

 

 

 

 

 ☆月G日、

 

 

 

 提督に、敵の接近を把握する為の監視塔を作ることを提案しました。

 場所は、鎮守府前の海域です。一度攻略したとは言え、既に数日経っていますのでそろそろ敵も来るか、と予想しての提案でしたが、アッサリと通りました。

 思わず拍子抜けするくらいです。

「あ、良いね」の二つ返事だったからかもしれませんが。

 

「全艦、単縦陣を取れ!」

 

 相変わらずの指揮。

 いや、パソコンの画面に目を向けていないにも関わらず、ほぼダメージをくらわずに敵艦を轟沈させていました。今回は何時もより指揮が少なかったので尋ねてみると、

 

「あぁ、練度だよ。自分で考えさせないと何時まで経っても伸びないし」

 

 流石、考えていますね。出陣()ている駆逐艦達もある程度九条提督の指示に慣れた為か、自分の考えで動いても充分過ぎるくらいの力を発揮していました。

 敵艦の攻撃をひょいひょいと躱し、沈める姿はまさに作業ゲームを思わせるものがあります。

 

「………………、」

 

 全てが上手くいっている。それなのにも関わらず、提督は少し暗い表情でした。いえ、正しくは仏頂面と言うべきでしょうか。

 何か、納得出来ない。そんな表情。

 

「どうしたのですか?順風満帆なのに」

「いや、最近嫌な予感がしてね。どうも、敵の動きが怪しいんだよなぁ」

 

 私には別段おかしいようには感じられませんでしたが、今日、敵艦が現れた場所を見て提督は頭をひねっていました。

 やはり、一般の人とは違う何かがあるのでしょうか。

 

「こちら第六駆逐隊の電!敵を全て轟沈させました……」

 

 その時、電から連絡が届きました。提督は私の方をチラリと見やります。恐らく、私の提案だから作成は私が指示しろ、という事なのでしょう。そう解釈して、私はその場の駆逐艦達に命令を出しました。

 

「了解しました。では、これより監視塔の建築計画を実行します」

 

 提督はその間、資材調整の仕事やその他の資料の確認作業を行っていました。

 時折、私の方を確認しては順調そうだね、と声を掛けてくれたのが嬉しかったです。

 

 そして、監視塔は無事に完成しました。妖精さんには頭が上がりませんね。

 

 

 …………、それにしても嫌な予感ですか。

 

 何が、起こるんでしょうね?

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 深海・棲姫日記

一話完結。

原点回帰という事で日記風に。
本来は大和さんの4話目をやろうと思っていましたが、金剛とかぶるので止めました。
次は恐らく駆逐艦の島風か電のどちらかを書いて、エピローグ(恐らく文量がヤバイ)を書く予定です。




 かつて沈んだ艦はどう思うのか。

 異常に直面してどう感じたのか。

 これは、深海に棲む一人の姫の日記。

 

 

 

 

 ○月?日、

 

 

 横須賀鎮守府へと久々に向かった。

 本当に久し振りだ。かれこれ数年ぶりか。

 話を盗み聞いた限りでは"アイツ"も元気にしているらしい。かつて"アイツ"と一緒に深海棲艦を倒していた横須賀鎮守府は今では、別の提督が着任していた。

 

 そう言えば、変な奴にであった。

 九条日向(くじょうひなた)と名乗っていた。

 今、私が書いている日記もその九条という男がくれた。

 人間の癖に私、深海棲姫を見ても驚きすらしない。フレンドリーに接してくれた。

 それからその様子を駆逐艦、電がコッソリ盗み見ていた。恐らくは私と話していた九条を気遣っていたのだろう。

 

 だが。

 ……どうしてだろうな。

 人間の筈なのに、何故か"勝てない"と思ったのは。

 

 とにかく、九条という男が気になった。

 これからも何かあったらこの日記を書くとしよう。

 

 

 

 

 ○月+日、

 

 

 5日くらい日が空いた。

 最近は少し海が荒れている。私の周りに集まっている平和主義の深海棲艦達も何故か、好戦的になっていた。

 その原因を探る日々なのだが、どうにも足が掴めない。

 もしかしたらどこかの姫クラスの深海棲艦が何かを企てているのか?

 まぁ、それはともかくとして九条と会った時の様子を書くことにする。

 

 九条という男が気になった私は横須賀鎮守府へ訪れた。

 海から顔を出して、探してみると堤防辺りにその男は居た。

 

「最近海の動きが変だけど深海棲姫さんは大丈夫だった?」

 

 ニコニコと。

 当たり前のように尋ねてきた九条。

 その情報を掴んでいる事にも驚いたが、彼の言葉の真意は何だったのか。私には分からなかった。私だってある程度の威圧はしているのだ。人間なら誰でも深海棲艦、それも姫であることが分かる。

 それをもろともしない九条は何なのだろうか。

 ……私にはヤツが人間だとは思えなかった。寧ろ、艦娘。もしくは深海棲艦のような……。

 

 それから九条はこう続けた。

 

「疲れているのか? 俺で良かったら愚痴を聞くぞ」

 

 そう聞いてくれた九条の表情は優しさに包まれていた、

 ずっと昔に、人間には弱みを見せないと誓った筈なのに、何故だか九条と、アイツの姿が重なって。

 古い、古い過去を思い出した。

 私が最も幸せだった頃の事を。

 気がつけば、私は九条に愚痴を話していた。

 人類と深海棲艦の戦争の理由や、私の知る全てを。

 

 恐らく、私が話した事は人間に広まるのだろう。もしかしたら人間だけではなく全ての深海棲艦が私の敵になるかもしれない。

 でも、もういいや。と思った。

 何故だか分からないが、どう足掻いたところで目の前の男には勝てる気がしなかった。

 それこそ、深海棲艦全てを結集しても。

 

 九条は間宮アイスをくれた。懐かしい味だった。

 深海棲姫の私とはいえ、舌はかつてのまま。

 本当に美味しかった。多分、これが人生最後に食べる甘いものなのだろうな。

 

 

 

 

 (解読不能)結果

 

 

 10日以上たった。

 依然として深海棲艦達が敵にまわる様子は無い。

 人間達にも私が話した事は広まっていないようだった。

 何故、話さなかったのか。気になった私は九条を探した。それが三日前の事だ。

 

 九条は提督になっていた。

 恐らく深海棲艦にとって最悪のニュースと言ってもいい。彼の指揮は以前彼の指揮する艦娘と戦い、生き残った深海棲艦から聞いた。

 

「アノマエニタッテイキノコレルノハキセキダ」

 

 あの前に立って生き残れるのは奇跡。

 そうと言わしめるまでの圧倒的な指揮。駆逐艦4隻に大部隊が壊滅させられたという話も聞いた。

 『深海棲艦の天敵』

 それも、努力すれば。とか数があれば勝てる天敵ではなく、決して勝てない相手。

 私も彼と話したから分かる。

 彼は、基本的に優しい。たとえ相手が私のような深海棲艦にだって優しく接してくれる。

 でも、敵に対しては別だ。

 明確な敵であれば、彼はそれこそ狂気的に変わる。その戦いはまさしく一方的に相手を虐殺する(ワンサイドゲーム)だ。

 

 ちょっと挑んでみよう、なんて思えない。

 彼は最強ではなく、無敵なのだ。少なくともそう感じた。それは、初めて会ったあの日。覗いていた駆逐艦、電に脅しを入れるように睨んだ時にこちらを見た目だ。

 

 狂気、絶望。そんなものが生温いくらい。いや、冷水にも感じる程壊れた目。それが、私を見ていた。

 全てを見透かされたかのような、命が握られているかのような。そんな恐怖を感じた。

 

 あんなの、人間じゃない。生きている者が出来る目では、して良い目ではない。

 勝とう、じゃなくて勝てないのだ。

 現に、私は彼と戦う気はない。戦えば死ぬからだ。それこそ、身体をズタズタにされた方がマシであるような殺され方で。

 

 『人間』。そんな言葉合わない。

 彼はそれこそ、挑戦しようと思うことがおこがましいくらいの。戦う事を選べば全てが壊されてしまう。そんな無敵の存在。

 ただし、敵に対しては。という言葉が付くが。

 

 私は明日彼と会う。

 敵ではなく、友人として。私を慕ってくれる深海棲艦達を守る為に。

 

 

 海の調査結果

 

 

 最近の海が荒れている原因が分かった。

 原因は戦艦棲姫。彼女は未だに九条と会った事が無いから、彼が危険である事を理解出来なかったらしい。

 九条の直ぐ近くの鎮守府を襲い、そこへ救援を送った九条の鎮守府を落とす。という策を行おうとしているようだ。

 私はどう動くべきだろうか。

 九条に味方するか、戦艦棲姫に味方するか。

 単純に考えれば九条に味方するのは以ての外だ。だが、だからと言って戦艦棲姫に味方しても轟沈させられてしまう恐れもある。

 ……私はーーーー。

 

 

 

 

 ☆月☆日、

 

 

 九条の鎮守府。神無鎮守府を訪れた。

 九条は堤防に居て、私を見つけると鎮守府内から飲み物などを持ってきてくれた。

 その途中で面白い駆逐艦達にも会った。

 軽い世間話をしながら、情報交換をする。彼が着任してからまだそこまで経っていないのにも関わらず見た所防御機能は完成していた。

 大した事ではないといっていたが、この速度でそこまで揃えるのは異常だ。明らかにおかしい。

 

 しかし性欲が、とか言っていたところを見ると、どうも人間っぽさがあっておかしな気分になった。

 とりあえず、海が荒れている事をボソリと呟いて、私は基本的に傍観に徹するつもりだ。

 戦艦棲姫に我が家。静寂島の内部を壊されると困るので、引きこもっておこう。勝てる気がしないから。

 

 とにかく、どうなるか。

 私としては楽しみだ。

 

 

 

 ☆月H日、

 

 

 戦艦棲姫の作戦は順調なようだ。これ以上ない程、と言っていた。

 しかし志島鎮守府の提督の行方は分からないらしい。

 まだ、人間側は動いていないが果たしてどうなるか。

 

 私としてはやり過ぎないようにして欲しい。

 

 

 

 ☆月J日、

 

 

 人間側が動き出した。

 志島鎮守府は既に占拠する事に成功したようだが、全ての艦娘及び提督。それから妖精に逃げられたそうだ。

 この話だけで既にキナ臭いのだが、どうやら戦艦棲姫はそれに気付いていないらしい。

 根っからの深海棲艦はそんなものか? いや、私がおかしいだけなのだろう。

 

 とにかく近いうちに敵が来る。備えておこう。

 

 

 

 ☆月K日、

 

 

 九条を殺した。戦艦棲姫がそう言っていた。

 駆逐艦の艦娘を乗せ、高速船で移動していたところを狙撃したらしい。

 九条は駆逐艦を庇い、心臓に弾丸が命中したと聞いた。

 船ごと吹き飛ばしたらしい。

 

 ………………、何でだろうか。

 死んだ、と聞いても信じられない。

 

 あの男ならば、心臓に弾丸が突き刺さっても蘇るような、そんな気がした。

 

 

 

 2ページ目。

 

 

 それから志島鎮守府を奪い返されたらしい。

 それも戦艦棲姫が居なかった僅かな時間の間に。たった、駆逐艦2隻に。

 恐らく九条からの命令書を持っていたんだろう、と戦艦棲姫は言っていたが……。

 

 彼女は近海で再度立ち上がるべく、深海棲艦達を集めるそうだ。

 拠点探しをすると言っていたが、何処に行くのだろうか。ここらにはこの島しか無いと言うのに……。

 

 

 

 

 ☆月L日、

 

 

 私はこの日を決して忘れない。

 かつて、私が沈んだあの日のように。絶対に忘れない。

 

 戦いは……終わった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19 駆逐艦・電の日記

お気に入り3000突破ありがとうございます
ついでに初めて小説を書いてから地味に一周年……。

今回は電ちゃんです。にしても電ちゃんの話は書きやすいですね

そう言えば、活動報告に書かれたコメントが見れないバグ? が起こっているんですがどうやったら直るのやら……。

追記、活動報告のバグはとある方のアドバイスを受け無事に直りました。


 過ぎていく日常。新たな鎮守府での事件。

 九条と出会ってからしばらく経った駆逐艦、電は今ーー

 

 

 

 

 ☆月D日、満天の星空だったのです

 

 

「……………………」

 

 前日の土砂降りで起こった土砂崩れを片付けた日の夜。

 一度寝た私は、とある夢を見て飛び起きました。

 

「タスケル……フザケルナ。キサマハソウイッテミステテイルジャナイカ」

 

 その夢は、傷だらけになった深海棲艦さん。

 沢山。本当に沢山の。

 血を流していて、無事な深海棲艦さんは一人もおらず、私を囲んで恨み言を言う。

 口だけ偽善者、クズ、殺し、お前のせいで、嘘吐き。

 中心にいた私はただ、その言葉の嵐に耳を塞いで地面に座り込んで目を瞑って。

 怖くて、ただ怖くて。でも、逃げたら深海棲艦さんと向き合う事が出来なくなりそうで。

 

 そんな思いで私は必死に耐えている、そんな夢でした。

 

「……ッ! ……ひっぐ」

 

 夢の中で私は逃げませんでした。いえ、ただしくは逃げられませんでした。

 

「ニゲルノカ?」

 

 そんな声が、私を逃げさせてくれませんでした。

 

「ニゲルノカ? ワタシタチヲコロシテ。アンナコトヲイッテオイテ」

 

 その理由は、その通りだったから。

 深海棲艦さんが言っていたのは全て本当だったから。

 沈んだ敵も出来れば助けたい。そんな事を言っておきながら、実際に助けた事はなかったから。

 だから、私は……。

 

「やっぱり……無理ですよね」

 

 気付けばそんな言葉を口にしていたのです。

 

 人間、艦娘、深海棲艦。

 三者三様。それぞれが全く別の知的生物。

 当然、それぞれ別の考えがあり相手と接しています。

 私達、艦娘は人間に味方していますが深海棲艦は人間と艦娘に敵対していて。

 三つの種族がそれぞれに話し合い、平和を保つ。

 私。(いなずま)が目標としている世界。

 目標は分かっています。目指すべき人物も居ます。それなのに、私には何をどうすれば平和を実現出来るのかが分かりません。

 

「なんで……だろ」

 

 沈んだ敵も出来れば助けたい。

 そんな事を私はよく言います。でも、一度だって沈んだ敵を助けた事なんてありません。

 助けたい、と思っても。周りの目が気になって、周りが見ていないか怖くて。助けているところを見られて捨てられるのが嫌で。

 結局は、逃げていました。周りの目を気にして、私はずっと(・・・)見捨てていたのです。

 

「……ぅ」

 

 そう考えていたら、またあの夢が鮮明に脳裏を過ぎりました。

 沢山の深海棲艦さん達が、私の足を掴み腕を掴み。罵倒や恨み言を口にしながら私の四肢を……、

 

「ぁ……ぁ」

 

 深海棲艦の血だまり。

 縋り付くかのように迫る沢山の深海棲艦。

 動けない私。ゾンビのように壊れている身体で私を弄ぶ。

 深海棲艦の一人一人が私に嘘吐き、死ね、口だけ、殺したな? と口々に語りかけてくる。

 

「あ……ぁ……いや」

 

 身体は動かない。既に自由などない。

 あるのはただ、絶望の渦。深海棲艦達の、死の恨み。負の思い。

 真っ暗な世界に一人私は存在し、その周りには今まで私が手に掛けた深海棲艦が。

 夢の世界は正にそうだった。

 

「ぁ……ぇっぐ……ぅっぐ」

 

 知らず知らずのうちに私は泣いていました。

 それが恐怖からくるものなのか、それとも自分が情けないと思ったのか。はたまた、自分の精神を守るためか。

 頭の中には、泣いて誤魔化すのか? という沢山の声が響いて、その声の持ち主が今にも現れそうで。

 そんな不安定な状態でした。

 と、

 その時でした。

 

「電ちゃん……? こんな時間に何を」

「……ひっぐ……えっ?」

 

 九条提督。

 人間として私達を指揮してくれる人で、私が尊敬する人。

 不思議そうに近寄ってきたあの人は、私の顔を見てこちらへと早足で歩いてきました。

 

「……て、てーとく……?」

「…………、」

 

 慌ててゴシゴシと目を擦って涙を拭いたのですが、拭いても拭いても涙は止まりませんでした。

 提督は、ただ。

 分かっているよ、というように優しい表情を浮かべて私の前で立ち止まりました。

 

「ーーえっ?」

 

 次の瞬間、私が感じたのは温もりでした。

 暖かくて、優しくて。さっきまで頭の中で浮かんでいた映像の中に提督が浮かんで。

 ギュッと。

 強くはなく、それでいて弱くもない。強さと優しさを兼ね揃えたような抱擁。

 提督は私を抱き寄せて、呟きました。

 

「……ゴメンな、電ちゃん。悩んでたんだな」

 

 私の勝手な思いなのに。

 深海棲艦さんと人間と艦娘(私達)が仲良く出来る未来を創りたい、と私は自分で考えて、勝手に落ち込んで。

 関係無いのに、それでも提督は私を励ますように抱きしめてくれました。

 

「てい、とく」

 

 顔を上げると、提督は辛そうな表情で私を見つめていました。そしてそのまま提督は私の頭を撫でて、こう言いました。

 

「俺も協力するから。電ちゃんが悩んでいる事の解決策を一緒に考えるから。だから、俺にも手伝わせて欲しい。一人で勝手に悩まないで、一人で突っ走るんじゃなくて。皆で悩もう。少なくとも俺は電ちゃんの味方だから。これから先もずっと。ずっとね」

 

 その時の提督の姿は、提督ではなく九条日向。提督という職業だからじゃなくて、私の目には九条さんが手伝ってくれる。そんなように聞こえました。

 そして九条さんはこう締めくくりました。

 

「だから……もっと頼ってくれ。俺だけじゃない。電ちゃんには一杯仲間が居る。暁も響も雷ちゃんも。大和に金剛に島風、それから間宮さん。皆、皆、電ちゃんの味方だから。だから、一緒に頑張ろう」

 

 何故だか、その言葉は私の胸に響きました。

 

 

 

 

 

 ☆月E日、元気出して頑張るのです!

 

 

 昨日、提督の胸で一杯泣きました。

 これ以上無いくらい、一杯泣いて。涙が枯れるくらい泣いて。

 今日はとてもスッキリと目が覚めたのです。

 

 周りの風景が何時もと違って見えました。何かフィルターを通して見ていたような景色が急にクリアになったような。そんなように思えたのです。

 元気、出てきました。

 深海棲艦さんと、これからはしっかり向き合うつもりです。

 今はまだ助けられないかもしれません。ですが、いつか絶対に共存の道を歩めるように頑張りたいです!

 

 だから、今日も元気で頑張るのです!

 

 

 

 

 

  ☆月F日、提督の節操なし! なのです!

 

 

 朝、提督の悲鳴のような叫び声で私は目を覚ましたのです。

 慌てて司令室へと駆逐艦のみんなと一緒に行ったら……、

 

「ネー、提督ゥ! 触っても良いけどさ、場所を弁えなよ〜!」

「ウソだ……いくら性欲を発散出来ないからって、夜中に無意識のうちに女の子をお持ち帰りするほどの欲求不満だなんて、そんなのウソだーッ!」

 

 うわあ! と提督は頭を抱えてそんな叫び声を上げていました。

 その隣にははだけた服装の金剛さんの姿……。

 その事から予想出来る事は……にゃっ!?

 

「なのでででで提督!? ままままさか!」

「待て! 頼むから待って! 俺はやってないから! 『まだ』やってないから!」

「つまり提督はこれからヤるつもりだったの?」

「ち、違うッ! 断じて違うよ雷ちゃん! それは綾! 言葉の綾だから!」

 

 呼吸が止まりそうな勢いで提督は否定します。その顔は真っ青になっていて、死刑を待つ犯罪者のような。そんな雰囲気でした。

 

「あ……えっと、提督の節操無し!」

「えへへ、提督がそう言うなら私……」

「暁ちゃーん!? 俺は無罪だから! ついでに金剛! 時間と場所を弁えるのはお前だーッ!!」

 

 そう言って提督はゼェゼェハァハァと疲れたように息を吐きました。

 そして窓の外を見上げて、

 

「あーもう! 何つーか不幸だーッ!!」

 

 その言葉を聞いて私は提督のバカーッ!! と叫びたい衝動に駆られたのを覚えています。

 その後、金剛さんが提督の布団に潜り込んだ事が分かり、提督が説教していました。

 ……提督が変態じゃなくて良かったのです。

 

 

 

 

 

 ☆月G日、晴れなのです!

 

 

 

 今日は以前攻略した鎮守府前海域をもう一度攻略したのです。とは言っても敵艦は少なかったので直ぐに終わったのですが。

 さて、今回の作戦の本内容なのですが『監視塔』の建築だそうです。

 何でも、敵艦が来た時の備えだとか。

 

 特に何があるわけではなく建築は終わりました。

 島風ちゃんがやたら楽しそうに海を滑っていたのですが何だったのでしょう?

 ……にしてもあの速さは少し羨ましいのです。

 

 で、監視塔なのですが、普段は妖精さんが居てくれるそうです。

 働き者ですね、提督みたいなのです!

 

 にしても妖精さんは何処から来たのでしょうか?

 良くよく考えれば、私達も何処から生まれたのとかよく分かっていません。

 最近では私達は『建造』することで生み出されているようなのですが……、提督なら何か知っているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 ☆月☆日、……提督はやっぱり、凄い人なのです

 

 

 提督がふらりと、外へ向かったのを見て気になった私は響ちゃんと一緒にコッソリとついて行きました。

 

「こちらスネークではなく響。ターゲットは歩いている、どうぞ」

 

 響ちゃんはどこからかダンボールを取り出すと、その中に入ってトランシーバーのようなモノを使って誰かと会話していました、……スネークって誰なのかな?

 

「ふっふっふーん。ふっふっふーん」

 

 そして九条提督は楽しげに鼻歌を歌っていたのですが、その足が堤防に差し掛かったその時でした。

 

「 久シブリダナ。九条日向」

「ふっふっふー、ん? 久しぶりだね深海棲姫さん。日本語上手くなった?」

「ーーーーーーッ!!」

 

 現れたのは真っ白い人間。いや、深海棲姫。

 それも前に横須賀鎮守府で見た『あの』深海棲姫でした。

 しかし、驚くのはそこではありません。

 

「あげた日記帳どう? 書いてる?」

「マァナ。書クノハ久々ダカラ楽シカッタ」

 

 九条提督(・・・・)深海棲姫(・・・・)とフレンドリーに話している事。それこそが、私にとって最も驚いた事でした。

 

「な……何で深海棲姫が? 電、下がって。私が

「待って響ちゃん! あの深海棲姫さんは前に見たことがあるから、もしかしたら提督の知り合いかもしれないです」

 

 飛び出そうとした響ちゃんを慌てて私は止めました。その理由は邪魔したくなかったから。

 提督が私に見せてくれている可能性(・・・)の邪魔をされたくなかったから。

 私は我儘を言いました。

 

「……少し様子を見る。何かあったら直ぐに向かう、それで納得するなら」

 

 初めて言った我儘に少しだけ響ちゃんは驚いたようにこちらを見ましたが、溜息を吐くとそう言ってくれました。

 

「ちょっと待ってて。飲み物持ってくるよ」

「スマナイナ、頼ム」

 

 そうこうしていると、提督が走って鎮守府の方へと行ってしまいました。

 そして先ほどまで楽しげに話していた深海棲姫さんは表情を凍てつかせました。

 

「出テコイ。分カッテイルゾ」

「「ーーーーッ!?」」

 

 私達に向けられた声。驚きの余り音を立ててしまい、仕方なく私達は姿を見せました。

 最初に感じたのは『恐怖』でもなければ『死の覚悟』でもありませんでした。

 『戸惑い』と『不安』。何故、わざわざ呼び出したのか。呼び出すまでもなく私達を轟沈させられるのに。

 そんな緊張感がジワジワと私達を覆いました。

 

「駆逐艦、電二響カ。覗クナラモウ少シ上手ク隠レルンダナ」

 

 掛けられた声は少し残念そうなモノ。どちらかというと、呆れられた。そんな声でした。

 実力差は、大きい。

 一目で分かります。

 私達が束になったところで勝てないのは。

 だけど私はーー、

 

「あ、あの! 深海棲姫さん……貴女は提督の友達、なのですか?」

「電!」

 

 勇気を振り絞って。

 私はこちらをつまらなそうに見やる深海棲姫さんに声を掛けてみました。

 震えていて、とてもじゃないけど普通じゃない声。だけど、それは私にとって大きな第一歩でした。

 

「ン? アァ、アノ男カ。……ソレヲ聞イテドウスル?」

 

 睨むような鋭い眼光。

 完全に異空間と化したこの場で、深海棲姫さんは私達を『敵』として見ていました。

 感じる威圧に私は思わず後ずさりしそうになって、踏みとどまりました。

 その理由は逃げたくなかったから。ここで逃げたら深海棲艦さんと和解する。それが不可能だと確定してしまう、そんな気がしたから。

 だから私はーー、

 

「わ……私は、深海棲艦さんと戦いたくないのです! あの、えっと。深海棲姫さん! 良かったら私とお友達になって下さいなのです!」

 

 私の精一杯の勇気でした。

 震える身体を踏み留まらせて、何とか絞り出すように伝えられたこの想い。

 深海棲姫さんは私の言葉が予期せぬ言葉だったからか、目で見て分かるほど狼狽えていました。

 

「ワ……私ト、オ前ガ? 私達ハ艦娘と深海棲艦。敵同士ダゾ?」

「それを言えば提督と貴女だって本来は敵同士なのです! 私は……嫌なのです! これ以上争いあうのは! 皆、皆が平和に暮らせる世界にしたいのです! だから……私は」

 

 最後まで言い切る事は出来ませんでした。

 深海棲姫さんがストップを掛けるように手を出したからです。

 凍てつくような眼光で見ていた彼女は、何とも複雑そうな表情を浮かべていました。

 彼女はポツリと言いました。

 

「……考エテオク」

 

 そして彼女は鎮守府の方を見ると私達にこう声を掛けました。

 

「アノ男ヲシッカリ支エテヤルンダナ」

 

 そして彼女は鎮守府の方で飲み物を持って走ってきた九条提督の方へと向かって行きました。

 私の頭の中には先程の彼女の言葉が再生されていました。

 

 これが……第一歩。

 深海棲艦との和解の第一歩です。

 

 まだまだ先は遠そうですが、電は今日も頑張るのです。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20 前哨戦(三人称)

最後は日記風では上手く伝えられそうにないので第1章のエピローグと同じく三人称でやっていきます。
というか日記だと(12 とある提督の日記参照)1000文字弱がまさかの10,000文字……。
それからUA20万、ありがとうございます
多分第2章終了に三人称視点が三話くらい掛かるかなぁ……



 志島鎮守府の陥落から始まった戦い。

 これは、その一部始終である。

 

 

 

 

 ☆月H日。

 燦々(さんさん)と太陽が照らす日の昼下がりだった。

 神無鎮守府(かんなしちんじゅふ)。提督が就任してから僅か一週間と少しの鎮守府では、朝から一人の少女が疾走していた。

 

「急いで提督に伝えない、と!」

 

 小さな三つ足の傘を持ち、赤いスカートを履き、頭に簪のようにして桜の花飾りがついた電探をつけている少女。

 普段は冷静沈着な彼女だが、今回ばかりはその例から漏れていた。ハァハァ、と荒い息を零しながら鎮守府の廊下を疾走する。

 そして少女は勢いそのままに廊下を曲がり、目の前にあった扉。『司令室』、そう書かれたプレートが掛かっている扉を勢い良く開け放った。

 

 

 

 1

 

 

 

 同日☆月H日、午前10時20分、天気は晴れ。

 いつも通り五時前に起床した九条日向(くじょうひなた)は若干眠い目を擦りながら資料を片付けていた。最近では何故か鎮守府の皆が積極的に手伝ってくれるようになり睡眠時間が増えたせいかたるみ始めてるな、と思う。

 通常、『提督』と呼ばれるモノは以前九条がやっていた夜二時に寝て朝四時起きというブラック企業も真っ青なモノでは無いのだが、実際にそれを教える人が居なかったため、九条はそれを常識と信じ込んでいるのだ。

 まぁ、それはともかくとして彼は目の前の書類に頭を悩ませていた。

 

(うーん、資材は溜まってきたけど若干皆を働かせ過ぎてるからなぁ……。休みを作らないと)

 

 休み。本人達が聞けば、九条提督が取れ! と言うこと間違い無しなのだが彼はそれに気付かない。

 彼女達を『艦娘』と呼ばれる兵器だと認識していないのと、更には駆逐艦の姿が完全に子供。所謂(いわゆる)労働基準法に違反するような容姿をしているのもそれに拍車を掛けていた。

で、

 

(そもそもあの子達(電ちゃん達)働かせてる時点でアウトだよな? バリバリ労働基準法違反ですよね?)

 

 完全にアウトです、本当にありがとうございます。そんな言葉とともに頭の中では手錠を掛けられる自らの姿。

 やベーよ! 無意識の内に犯罪履歴増やしちゃったよ! そもそも小学生くらいの子を学校行かせてない時点で完全に犯罪者ルートまっしぐらだーッ! と九条は頭を抱えながら心の中で絶叫する。

 ……俺、もうダメかもしれない。

 そんな事を考えて慌てて首を横に振った。というか、そもそも九条は犯罪(鎮守府への不法侵入)をしたからその罪の償いの為にここに居る(と、本人は思っている)ので、更に罪状を増やしてしまったと言うのはなんと言うか償う機会をくれた鎮守府の方々に申し訳ないと思う。喧嘩ばかりしてた不良高校生(頭はそこそこ良い)にもそんな思いはあるのである。

 と、がっくりと肩を落とし反省の意を述べていた九条はふと外からバタバタ、と誰かが走ってくる音に気付いた。

 なんだ? と、顔を上げた瞬間、勢い良くバタン! と扉が開け放たれる。

 

「提督!」

 

 誰が来たのだろう? 確認の為に見ようとしたら、いきなり入ってきた女の子の柔らかい手が九条の腕を掴んでいた。

 そして次の瞬間、紙のようなモノが九条の前に突き出される。

 なんだなんだ? と九条が首をそちらに向けると、大学生くらいの美人さんが居た。腰まで届きそうな赤みがかった黒髪に、化粧が必要ないほど整った顔立ち。赤いスカートを履き、上は脇を開けた巫女服のような服。そこまで見て、九条はようやくその人物が誰であるか分かった。

 

「大和? どうした?」

 

 大和。それが、目の前にいる美人さんの名前だった。

 そして彼女は九条が勤めている神無鎮守府の責任者兼、九条の秘書らしい。

 らしい、と曖昧なのは未だに九条の実感が湧かないのと、実際に働いたり助言を貰ったりしているとどうも秘書、とは思えないからだった。つまり、九条にとっては普通の高校生である自分が何だかよく分からない内に配属させられて、その先で居た上司。みたいな感覚である(ただし敬語ではない)。

 そして、そんな有能な方である彼女はいつに無く冷静さを欠いていた。ハァハァ、と荒い息を吐いていて何だか1キロくらい全力疾走してきたような雰囲気を匂わせる。

 何かあったのか? そう思いつつ尋ねると彼女は一言。

 

「提督……この書類を」

「あー、うん」

 

 受け取って、読んでみる。彼女がここまで冷静さを欠いているという事は何かしら『よろしくない』事が起こったのだろう。

 何だか嫌な予感がした。大変嫌な予感がした。しかし、読まなければ何も始まらないので仕方なく読み始めて、

 

「は?」

 

 驚愕した。

 別に、何か驚く事が起こったとか横須賀提督は元帥さんの隠し子だったとかそんな事ではない。

 問題なのは『書類の内容』だった。

 

 『志島鎮守府二オイテ深海棲艦ノ襲撃アリ。尚、提督ノ氷桜提督トハ連絡ガ取レズ。十分二注意サレタシ』

 

 それは志島鎮守府が謎の深海棲艦の集団によって落ちた、という報告書だった。

 そしてその鎮守府を九条は知っていた。つい最近、知っていた。

 神無鎮守府から最も近い鎮守府で。知り合いが提督を勤めている。

 九条は報告書を凝視する。

 もしかしたら嘘なのでは? そんな考えも浮かんだがその書類には元帥の判が押されていた。

 つまり、この書類は偽物ではない。

 

「…………、」

 

 九条は黙ったまま、携帯を取り出した。電話帳を開き、一人の名前を押す。

 それだけで周囲の温度が二、三度下がったような気がした。しかし、少しだけ残された希望に掛けて九条は携帯を耳に押し当てる。

 コール音は二回で相手が出た。

 

『もしもし、九条です』

『……九条提督か。氷桜提督の事だね?』

 

 九条が電話した相手は元帥だった。元帥は目的は分かっている、というように九条へと確かめる。

 

『その通りです。書類は本当なのですか?』

 

 一気に切り込んだ。回りくどいことなんていらなかった。

 ただ、九条は何よりも知り合いの安否を心配していた。

 無意識の内に喉をゴクリと鳴らし、相手の答えを待つ。元帥は言った。

 

『真実だ』

 

 一言だった。たった一言で言われた。

 九条はその後失礼します、とだけ言って携帯を切った。

 一瞬だけ目を閉じ、また開く。次に目を開いた時、その顔は九条日向ではなく提督としての姿になっていた。

 

「大和、全員を集めろ。緊急会議を行う」

 

 

 

 2

 

 

 何時も賑やかな司令室は今日に限って静かだった。

 大和が全員を呼びに行って十数分。既に全員が集まり、後は提督である九条が報告を開始するだけ。

 九条は顔を上げて、重い口を開いた。

 

「……志島鎮守府が落ちた」

 

 どういうことか? と口々に尋ねてきた少女達に九条は書類を取り出した。

 

「昨日の夜。突然謎の深海棲艦の艦隊が志島鎮守府を襲ったらしい」

 

 書類に書かれている事をそのまま読み上げる。

 

「感知するレーダーを突破され、夜襲を掛けられたからか混乱状態に陥ったらしく、直ぐに落ちてしまったようだ。そして今なお、志島鎮守府の提督とは連絡が取れていない」

 

 実際、襲ってきたのは突然だったのだろう。ロクな情報も伝えられてないことから、相当ヤバかったと思える。

 と、ここからは自分の意見も交えていくことにしよう。

 

「次の目標は恐らくウチの鎮守府だろうな。志島鎮守府から最も近いからってのが理由の一つだ」

 

 位置的にはこの鎮守府が最も近い。距離にして約三十キロメートル。次点で五十キロメートル離れている鎮守府が向かい側にあるらしいが、恐らく本土に近い此方側へ進撃して来るはずだ。

 

「それと、恐らくだが志島鎮守府の奪還作戦もウチが主体となって行われるだろう。最も近い拠点、というのもあるが戦績を確認する限りではウチが最も高いからな」

 

 大和がそれ程有能なのだろう。勝率が100パーセントなのには驚いたものだ。というか、そもそも何故自分が説明しているのだろうか? と若干疑問を抱きつつ九条は話を続ける。

 

「これから他の鎮守府と話をつけるつもりだが、とりあえず今日からは暫く何時もより監視を厳しくするつもりだ。初日は金剛、すまないが頼む。俺も一緒にやるから我慢して欲しい」

「Yes! 任せて下さい提督ゥ! 一緒ならドンとこいって感じデース!」

 

 ビシ! と敬礼した金剛はニコニコ笑いながら答えた。心なしかとても嬉しそうに見える。

 ……何だか別のベクトルで嫌な予感がしてきた。

 

「明日は大和と間宮さん、頼む。とりあえず暫くはローテーション組みながら監視を強化するからな。それと、電、暁、雷、響、島風の五人は何かあればすぐ動けるようにしておけ」

「「了解しました」」

「「「「「はい!(なのです)」」」」」

 

 

 もし、戦いが起これば真っ先に五人を戦闘から離さなければならない。何かあれば、直ぐに動けるようにしてもらおう。

 そして書類の内容を説明した九条は最後にこう言って緊急会議を締めくくった。

 

「目標は誰一人欠けず、そして怪我をしないように! 以上!」

 

 誰からも異議が無いことを確認して、九条は部屋を出た。

 そのまま足を外へと向ける。

 何だか、とても外の空気を吸いたい気分だった。

 

 

 

 

 

 説明に時間を掛けたせいか、時刻は既に夕方だった。

 夕暮れに染まる神無鎮守府には特に何の異常もない。いつも通り海がザザー、と音を立てているだけだ。

 

(……深海棲姫さんの忠告はこれを指していたのか?)

 

 何気なく辺りを見渡して、堤防の辺りで座り込んだ九条は落ちていく夕日を見つめながら考えてみる。

 数日前に九条自身も感じた嫌な予感。それが当たったとでも言うのだろうか。いや、もしかしたら既にウチの鎮守府にも……、そんな嫌な予感がして、改めてぐるりと見回してみるが何処にも異常は無い。

 

(深海棲艦は早ければ今日の夜には来るかもしれない……今のままで防げるか?)

 

 氷桜。自分と同い年で最年少で大将に昇格していて。罪の償いなんていう理由で提督になった俺とは違って優秀なヤツ。

 そんな氷桜がアッサリ敗北した深海棲艦の集団。そんなヤツら相手にこの鎮守府を守り切れるのか。

 いや、問題なのはそこではない。自分はどうだっていい。

 それよりも問題は電ちゃん達だ。子供である彼女達をこれ以上危険な目に合わせても良いのか? いや、良いわけがない。

 そんな風に自問自答した、その時だった。

 

「??? 何だこんな時に。電話?」

 

 携帯の着信音が鳴った。ポケットから取り出して出る。

 

『はい、もしもし九条です』

『九条君か。俺だ、横須賀提督だ』

 

 電話の相手は横須賀提督だった。本名ではなく横須賀提督、と言っている事から仕事の電話なのだろう。

 

『こちらも忙しいから手短に言うぞ。志島鎮守府の件だが、万が一深海棲艦が攻めてきた場合はウチと九条君の神無鎮守府で協力する事になりそうだ。恐らく奪還作戦と捜索もウチと九条君のトコが主力になるだろう。だからある程度連携を取るために方針を決めようと思ってな』

 

 つまりはお互いの動きをある程度決めよう、という事のようだ。それについては九条も大体同意なので肯定の意を示す。

 

『だが連携を決めるにしても問題が一つある。まだ確定では無いらしいが、上層部はこの敗北を無かった事にしようとしたいらしい。つまり少ない艦娘で志島鎮守府を奪い返し、殲滅戦と称して後から大部隊を送る。そんな感じになるだろうな。ついでにこれ以上負ける事は日本海軍としての恥とかなんとか。艦娘が最も多い国としての意地を見せたいんだろーが、それが逆に仇になってやがるから、相当キツイ事になるのは間違いねーだろうな』

『……はい? 敵の量が未知数なのにハンデでやれと? 馬鹿なんですか上層部は』

 

 深海棲艦。相手がどれほど居るのか。ボスは何なのか。それも分からないのにハンデ戦。

 馬鹿げている、と九条は思った。

 

『元帥も反論はしているんだがまだ情報が無いからな。志島鎮守府がロクに対応できなかったところを見ると手強いのも間違いない』

 

 横須賀提督も頭を悩ませているようだ。

 というか、九条としても上層部の意向がよく分からない。そもそもの話、大部隊で殲滅すればそれで済む話なのに何故そうしないのか。

 頭の中で『?』が飛び回る。確かに敗北を隠したい気持ちは分かるが、それが無茶苦茶な案を通す事に繋がるのだろうか?

 何か。何か大事な事を見落としているような気がした。

 

『とりあえず今日は色々と忙しいから明日電話する。守りに関しては明後日には支援を出来るように準備しておくが異論は無いか?』

 

 ありません。ではまた明日、と答えて九条は電話を切った。そしてそのまま九条はとある番号にかける。

 

『もしもし、少し調べて欲しい事がーー』

 

 

 

 

 3

 

 

 翌日の☆月J日。

 昨日の送られてきた報告書のせいで一睡もせずに鎮守府の見回りと監視を続けた九条はドス黒いくまを作ったまま司令室で仕事をこなしていた。

 

「眠いので寝てきマース。おやすみ提督ゥ」

 

 一緒に監視していた金剛は昨日の夜、終始ソワソワしながらこちらをチラチラと見ていたのだが、明け方頃には眠気に抗えなくなってきたようで終わりと同時に部屋へと戻って行ってしまった。

 で、現在九条は少し眠気のある頭を無理やり覚醒させながら仕事を続けているのである。

 と、

 

「おはようございます九条提督。って凄いくまですね」

 

 そう声を掛けてきた主は大和だった。監視が終わってからもずっと対策を考え続けていたからか部屋を悶々鬱々(もんもんうつうつ)とした負の空気が渦巻いていたのだが、彼女はそれを気にしないらしくズカズカと入り込んで心配そうに九条の顔を見つめている。

 本当なら彼女居ない歴=年齢である九条にとっては100パーセントドキドキするシチュエーションなのだが、生憎昨日の疲れも重なってそんな気さえ起こらなかった。

 

(く、くそう。本当ならスッゲードキドキするシチュエーションなのに!)

 

 嘆いても反応しないものは反応しないのだ。そんな自分に何となく不幸だ、と思いつつも九条は仕事の手を止めようとしない。

 と、唐突に大和は九条の頰を両手で優しく触ると、

 

「本当に顔色が悪いのですが大丈夫ですか? 一睡もしていないようですし変わりますよ?」

「(何ですかコレーッ!? 大和さんが優しく頰を撫でてくれるってなんだこの素敵イベントはーッ!)」

 

 心配そうな表情で大和は優しく九条の頰を撫でる。それはヒンヤリとしたそれでいて優しい『女の子の手』だった。

 先程まで反応しなかった身体がようやくこの素敵イベントを経て段々と温度を上昇させていく。

 すると、大和は驚いたように、

 

「あ、あれ!? 温度が上がって……大丈夫ですか提督!」

 

 ペタペタと大和の細く長い指が九条の顔やら何やらに這い回る。少しばかりヒンヤリとした大和の体温が何だかとても心地良く、それでいて暖かかった。

 が、

 

(ちょ、待……っ! うおお! このままでは何か完全にアウトな趣味に目覚めてしまいそうな予感!)

 

 当の本人はそれどころでは無かったらしい。女性(しかも美人)に身体をペタペタ触られるという未知の感覚に九条は襲われていた。

 と、その時だった。

 

「て、提督! 電報が届いたのです」

 

 勢い良く扉を開けて入室してきたのは電だった。慌てた様子で両腕をブンブン振りながら九条達の方を見つめて、

 

「にゃっ!? にゃにをしているのですか!?」

 

 一瞬で頰を赤く染めた。ついでに言動もおかしい。

 不思議に思った九条が横を見ると、至近距離にまで迫った大和の顔。

 横を向いただけお互いの唇が触れ合うような、そんな近さ。それを見た瞬間九条は理解した。

 

(あぁ、あの素敵イベントはこう言うオチか)

 

 刹那、一人の少年の悲鳴と打撃音が響き渡った。

 

 

 

 4

 

 

 落ち着いてから九条は電から船で輸送されてきた報告書を受け取った。重要! と大きな字で書かれている。

 ……なんと言うか、本当に重要な資料なのか? そう疑いたくなるような資料だった。

 しかし読まなきゃ始まらない。仕方なく九条は中から紙を取り出してちらりと見てみる。

 

 命令-番号0七-一五-七五二四-甲

 

 神無鎮守府(かんなしちんじゅふ)提督。『電ト島風』ノ二艦デ志島鎮守府ヲ奪還シ、提督ハ一時ソチラへ移ルベシ。尚、本作戦ハ機密事項二

 

 九条はギョッとした。紙に書かれた事をまだチラリと見ただけだが、何やらおかしな事が書かれていたような気がする。

 

「……、」

 

 九条は一瞬偽物か考え、目を開けた。

 見なかったことにする、なんて事は出来ないのだろう。覚悟を決めて九条は全ての資料を取り出した。

 10枚近い資料が入っていた。その中に一枚だけワープロではなく直筆の資料を見つけた九条は気になってその資料を取り出す。

 

『昨日の件だが、私なりに調べてみた。海が荒れている原因を探るのは流石に大変だったが何とか一日で原因を突き止めたので命令書と一緒に送る』

 

「元帥さん。仕事が早いな」

 

 呟いて九条はその資料を自分のポケットへと押し込んだ。そして一番上の資料を確かめる。

 

『戦艦棲姫が指揮する深海棲艦の群れ』

 

 資料の名前はこうだった。

 

(戦艦棲姫……?)

 

 九条は首をひねる。確か深海棲艦には姫、と呼ばれる上位種が居るとかどうとか、という話を思い出した。

 改めて資料の文字を目で追っていくと、資料作成者、のところで一人の名前があった。

『武蔵野鎮守府提督』その横には大将の印鑑。

 

(武蔵野鎮守府提督って……確か俺が提督になる時に反論した人だっけ?)

 

 少し前の出来事を思い出す。確か、ヤケに突っかかってきた人だった。睨まれた覚えがあるので何となく好きではないタイプの人だ。

 

 と、思い出すのを止めて、資料へと意識を戻す。

 資料の内容は専門的だったが、九条は自分の持っている知識でなんとか読める言葉へと変換していく。

 

『敵は戦艦棲姫。どうやら周りには100近い深海棲艦が居る模様。出てきた原因は不明。だが、志島鎮守府と神無鎮守府付近で突然姿を現した事からどちらかの鎮守府付近で何か事故が起こったと考えられる』

 

 内容は主に九条や氷桜の鎮守府付近で何かがあった、という予想だった。海の中も妙に荒れていた事から恐らくそれが原因で深海棲艦は来たと考えられると書かれていた。

 

『戦艦棲姫との接触には既に成功。言葉は通じるようだが聞く耳を持たなかった。氷桜提督の安否は不明である』

 

 接触に成功。

 その部分を読んだ九条は何となく違和感を感じた。

 武蔵野鎮守府は確か志島鎮守府から二番目に近い五十キロメートル地点にある鎮守府だった筈。

 だが、それにしたって明らかに接触するタイミングが早い。若干疑問を感じたが九条は次へ読み進めていくことにした。

 

『戦艦棲姫は事実上、戦艦型の深海棲艦の中でも最上位に君臨する存在である。実際の戦闘データから計算しても、七十パーセント弱の確率で前に立った艦娘は轟沈していると算出された』

 

 その下には参考資料と思わしきグラフが載せられていた。

 と、その時。一番下の紙の裏に何かのメモだろうか? 何かが張り付いている事に気付いた。

 

「何だこりゃ?」

 

 剥がしてみると、それはメモだった。

 『静寂島にて合流』。そう書かれている。

 

(静寂島って……確か深海棲姫さんが住んでいるトコだっけ?)

 

 何でその島の名前がここで出てくるのだろう。不思議に思ったが、頭の片隅に留めておくことにして九条は次なる資料へと手を伸ばそうとして、

 

「っとと、とりあえず資料じゃなくて命令書の方を見ておかないとな」

 

 止めた。資料は後で確認するとして、先に命令書を理解しておく必要がある。というか、そもそも最優先事項はそっちじゃねーか、と自分自身にツッコミを入れた九条は先程チラリと見た命令書を手に取ってぱらり、と眺めた。

 

『志島鎮守府奪還作戦『甲』

 電と島風のみで志島鎮守府を奪還せよ。方法は問わない。

 奪還後、志島鎮守府を再び奪われんが為、九条大佐は志島鎮守府に居るべし。

 勿論、神無鎮守府を奪われても任務は失敗したものとする』

 

 九条の手がピタリと止まった。

 電と島風。その意味するところとは何なのか。

 まさか、海軍は子供二人(・・・・)を戦いに巻き込め、と言っているのだろうか。

 

「…………、」

 

『尚、電や島風が轟沈しても任務には差支えなければ構わないものとする。どのような方法でも志島鎮守府を奪還せよ』

 

 海軍だから敢えて轟沈、と船のように書いているのだろうか? 九条にはイマイチ理解出来なかった。

 ふつふつと、怒りに似た感情が湧き上がってきたその時。

 

「……あ?」

 

 携帯が鳴り出した。取り出すと、画面には横須賀提督と表示されている。

 

『はい、もしもし』

『九条君か。昨日の続きだがそれどころでは無くなってな。キミの所にも命令書が届いただろう?』

 

 怒りを隠しつつ電話に出ると横須賀提督は少し切羽詰まった声で九条にそう尋ねてきた。丁度、確認しているところです、と返事をする。

 

『……どうしたんです? なんか焦っているみたいですけど』

『分かるかい? まぁキミなら問題は無いだろう。最近なのだが武蔵野提督の動きが怪しくてな』

 

 『武蔵野提督』。つい先ほど見た名前だった。横須賀提督が愚痴のように言う。

 

『出撃回数が減ったし、その癖元帥を狙っているにしてはヤケに動きが無い。それなのに今回の報告書の内容は濃い』

 

 大将だから情報を掴むのが早い、という事では無いのだろうか。

 横須賀提督も何処か不信感を感じている様子だった。

 

『申し訳ないが、支援に少し遅れが出るかもしれない。万が一の可能性があった場合を考えると、少し調べる必要がありそうだからな』

 

 それも仕方がないか、と九条は思った。詳しい事はよく分からないが、とりあえず横須賀提督は何か重要な事を元帥から頼まれたのだろう。忙しそうな声色だった。

 

『キミの方も大変な事は重々承知はしているが……本当にすまない』

『いえ……俺は一応とはいえ提督ですからね。全力で事にあたります』

 

 そう言って九条は通話を終わらせた。

 そのまま携帯をポケットへと滑り込ませ、資料の続きを読み進めていく。

 が、とある一文を読んだ九条の手が止まった。

 

 それは一枚の命令書だった。

 しかし、それを読んだ九条の手が震えた。呼吸が若干不規則になり、心臓の鼓動もおかしくなっていた。

 そして、その視線はとある一文に凝視されていた。

 

『最悪の場合、電と島風を犠牲にしても構わない。

 志島鎮守府を奪還し、戦艦棲姫を轟沈させる事だけに集中せよ。

 武蔵野鎮守府提督 印』

 

 犠牲。

 その一文を見た瞬間、九条は怒りに打ち震えていた。

 

 電も島風も。

 それぞれの思いを持って。これから先を生きていける少女達だ。

 間違っても、こんな命令書一つで命を投げ打たせる事なんてして良いわけがない。

 九条を気遣い、自分に出来る事を精一杯やろうとしてくれる女の子達をこんなふざけた命令一つで死なせても良い。そんな事があってたまるか、と九条は思う。

 しかし、事実として手元にはその命令書があった。だからこそ奥歯を噛み締めながらも最後まで読み切って、

 

『尚、轟沈したとしても一切の責任はーー』

 

 ふざけるんじゃない、と。

 九条はその瞬間資料を握りつぶしていた。

 

「ふざけてんじゃねぇよ……」

 

 まだ幼い二人の少女。それもこれからの未来がある少女達が。何でこんな命令一つで命を落としても良いなんて事になってるんだ? と九条は思った。

 戦艦棲姫。確かに強大なのだろう。

 人類がかつて敗北した深海棲艦の最強種に値する敵なのだから。

 

 だけど、たった一艦の敵を殺す為に二人の少女を犠牲にしても良い理由なんてあるわけがない。

 だが、命令書にはそうしても良いと書かれている。

 必ずその二人を連れて行け、とも書かれている。

 

「なんで……なんであの二人を巻き込まなきゃなんねーんだよ」

 

 明らかにおかしい。

 一つの鎮守府が落とされた。そんな大きな事件だからこそ、この命令書は明らかにおかしい。

 例え、どんな理由があったとしても。

 『戦艦棲姫』という一つの敵を殺す為だけに『二人の少女』を犠牲にしなくちゃならない事にはならない。

 しかし、事実として命令書には元帥の次の官職である大将。武蔵野鎮守府の印が押されている。

 元帥の次に偉い官職に付くその人物がこうしろ、と命令している。

 

「ちくしょう。ふざけやがって……!」

 

 電はしっかりとした夢を持っていた。どんな夢かは分からないけれど、それでも真剣に悩んで。涙して。

 必死に努力出来る女の子だ。

 

「くそう、なめやがって……!」

 

 島風はいつも速さを重視する女の子だ。その為には服装が過激になっても厭わない。

 けれど島風もまた、優しさを持った女の子だ。まだ出会ってから日は浅いが、九条の手の回らない部分を手伝ってくれたりする優しい女の子なのは九条も知っている。

 

 だからこそ九条には認められなかった。

 戦艦棲姫がどれほど人類にとって危険だったとしても。

 どれほど命令書が絶対だったとしても、たとえ九条が牢に入れられたとしても。

 それでも、九条にはその選択を取ることが出来ない。

 

 初め、ワケも分からないまま鎮守府の中で過ごしていた九条に声を掛けてくれたのは電だ。

 暁達第六駆逐隊の。三人を紹介してくれたのも電だ。

 島風だって、まだ出会ってからあまり経って居ないけれど彼女達の存在で頑張ってこれた自分だっている。

 だから、九条は。

 

「……犠牲になんかさせない」

 

 守ることを、決めた。

 

「……誰一人だって犠牲になんかさせないッ!!」

 

 あの少女達を守る覚悟を、決めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21 前哨戦(三人称)②

遅くなってすみません。
リアルが忙しかったのと暇つぶしで書いた話が意外に伸びたのと、……色々な批判を受け止めたりと。
ちょっと暫く筆をとってなかった事でストーリーを一部忘れたりと色々ありかなり時間がかかりました。
というか前話を見直して最後が酷い、と感じて恥ずかしくなったのですが(黒歴史確定ですね)
まぁともかく中盤戦をどうぞ。

(……次で二章を終われるかなぁ?)

追記、

結論、終われませんでした。
中盤戦から前哨戦に題名を変更いたしました。


 5

 

 

 同日、☆月J日。

 横須賀提督こと、橘冬夜(たちばなとうや)は資料の山を処理していた。

 神無鎮守府。九条日向との連絡を終えた彼は自分に与えられた任務を考える。

 

(……なんで元帥は俺に武蔵野提督を調べろって言ったんだ? 非常事態……それも俺が主力として指揮しなきゃなんねー時に)

 

 そこが冬夜提督にとって不思議だった。

 何故、この時に武蔵野提督を調べる必要があるのかが。

 確かに、幾つか疑いたくなる部分はある。あまり積極的に動いて居ないにも関わらず、なぜか多くの情報を持っていること。それも深海棲艦と内通していてもおかしくないような量。そして九条に対する理不尽な命令書を元帥が認めた事も。

 

(何かおかしい……九条にしたってあのふざけた命令書に驚きはすれど淡々と答えたのだってそうだ。いや、アイツにとっちゃコレだって出来る範囲の事なのかもしれねーが、それにしたって要は死ね、と言っているような内容だぞ?)

 

 つい最近配属された新人提督。いや、天才を思い出す。相手が元帥だとしても敵だと認識すれば不遜で、それでいて俺達の誰にも出来ないような事を平然とやってのけたあの男。

 彼ならばきっとやり遂げるのだろう。しかし、それにしたってもう少し驚いたりするものじゃないだろうか?

 

(まぁ九条の事はいい。それよりも問題は武蔵野提督だ。今回の戦艦棲姫の侵攻……今一番怪しいのがあの人だからな)

 

 だが、あくまで容疑者。に留まるが。

 と、

 

「……、あー、一旦打ち切るか。考えなんて性に合わねぇ。動いて探るか」

 

 冬夜提督は立ち上がった。そのまま部屋を後にする。

 欲しいのは情報だ。疑わしいなら調べれば良い。簡単な話だった。

 

「まー、武蔵野大将が裏切りなんて真似するとは思えねーが。まずはあのふざけた命令書の真偽でも調べるとしますかね」

 

 そう呟いて、冬夜提督は唐突に振り返る。

 

「……で、何の用ですか? 理沙提督センパイ」

 

 廊下。誰も居ない方向へと冬夜提督は振り返らずに言った。

 廊下の角からその女は姿を見せる。そして冬夜提督の隣まで歩き肩に手を置いて、言った。

 

「おいおい。まさか私をおいて行く、なんて言わねーよな。生憎(あいにく)だがあのおっさんには借りがあるからな、付き合わせろよ冬夜」

「どうせダメって言っても着いてくるんでしょう?」

「当たり前だぜ。よく分かってるじゃないか、冬夜」

「……せめて離れないようにしてくださいよ?」

 

 桐谷理沙(きりやりさ)。金髪の女は無言で若干面倒にそうに、それでも肯定の意を示す。

 冬夜提督よりも頭一つ分身長が低い彼女は背中まである金髪を三つ編みにまとめ、白い海軍服を真っ黒に染めた(改造した)服を羽織り、楽しげな表情で冬夜提督の横を歩き、呟いた。

 

「さぁて、楽しい楽しい調べ物の時間だぜ」

 

 

 

 冬夜提督達は外へ出た。

 堤防の方を見ると、海軍船と思わしき船が慌ただしく入港と出航を繰り返している。

 志島鎮守府が落ちた影響だろうか? と考えつつ、海岸線に沿って歩いていた。

 その時だった。

 

(……あれ? なんだあの船)

 

 見知らぬ船があった。少なくとも横須賀鎮守府のものではない。目を凝らしてじーっと見てみると元帥のマークが描かれていることに気付く。

 

(あの船……元帥の?)

 

「あの、すみません」

「? はい、なんでしょう」

 

 近寄って、船に何かを運ぶ人に尋ねる。

 

「この船には何を積んでいるのでしょうか?」

「えっと、許可の無い方は……」

「失礼、私は横須賀鎮守府提督をしている橘冬夜(たちばなとうや)と申します」

「あぁ、ここの鎮守府の方でしたか。成る程、納得です」

 

 証明書を出すとその男はあぁ、と頷いた。

 冬夜提督が彼に再度何を輸送しているのかについて尋ねると、男は一枚の紙を取り出した。

 

「こちらに書かれているものです。艦娘の装備だと聞いております」

 

 冬夜提督は男が持っている艦娘の装備のデータ用紙を眺め、その先を追った。書かれている装備は全て同一の名前だった。

 

(……? 装備が全て同じ。どういう事だ?)

 

 別に、同じ装備だけをまとめて輸送するのは不思議な事ではない。ストックの問題もあるだろうし、その装備を使う艦娘が大勢いれば、キッチリと使用されるからだ。

 気になるのはそこではない。

 書かれていた装備名。

 それが明らかに不自然だった。

 

(……連装砲ちゃん? 島風が使用するものだったか)

 

 島風しか使用しない連装砲。それがひいふうみい、合計五十近く。一人の艦娘しか使用しない装備を五十も。

 どう考えても不自然な書類に、冬夜提督が首を捻っていると理沙提督がズカズカと船の中へと歩いて行った。

 

「あ! ちょっと待ってください理沙先輩」

「待たない。目の前に怪しいものがあるのに調べないなんてもってのほかだ」

 

 制止したが、理沙提督はそのまま船内に積まれた装備を一つ一つ確認しに行ってしまった。

 どっちにしろするつもりではあったが、こう自由に動かれるとやりにくい。しかし、役割分担と飲み込んで冬夜提督は男に質問を投げかける。

 

「そう言えば、輸送先は何処なんですか?」

「えぇと、神無鎮守府、と聞きましたよ」

「ふむ……」

 

 男は思い出すような素振りを見せたのちに答えた。

 その言葉が間違っていなければこの大量の装備の輸送先は九条提督の鎮守府になる。

 しかし、彼の下にいる島風は一人だった筈だ。

 まさかまた、何かの作戦を思いついてこんな事をしだしたのだろうか?

 

「その装備を注文したのは誰か分かりますか?」

 

 冬夜提督がそう尋ねると、男は頷いて、

 

「誰も何も元帥ですよ。そもそもマークを見れば分かると思いますが」

「それは、元帥が神無鎮守府に送るように電話された、と?」

「えぇ。急ぎで、と仰られていました」

 

 疑念が深まった。

 元帥の行動、武蔵野提督の行動。そして神無鎮守府への連装砲ちゃんの輸送。

 全く話が繋がらないのだ。

 

 元々、冬夜提督に与えられた仕事は武蔵野提督の監視兼、戦艦棲姫部隊の撃破。そして氷桜提督の捜索と発見だ。

 主に戦艦棲姫部隊を撃破するのは神無鎮守府の九条の仕事だが、それにしたって命令がおかしい。

 

 駆逐艦二隻での戦艦棲姫部隊を攻略。本来ならば物量で潰すべきなのにそれをしない。

 氷桜提督の捜索だって今すぐにでも始めなければならないのに、海軍の初動が遅い。

 更に追い討ちを掛けるように武蔵野提督の不審な情報所得と元帥の動き。

 

 何か、何かが、自分の知り得ない場所で動いているような気がする。

 

(そもそも考えてみればおかしい事ばかりじゃねーか。まず、なんで元帥は今回の件の決定権を持たないんだ? 鎮守府が落とされ、今尚周辺の鎮守府に危機が迫っているこの現状、どう考えても海軍自体が積極的に動きべきだろう。それなのに何故決定権を持つのが、『元帥』ではなく『大将』なんだ? まさかこんな時にまで九条を引き摺り下ろすなんて馬鹿な真似はしてるとか? いや、そもそもあの人だって大将という役割がある。考える力はあるし、実力だって……)

 

 確かに九条の能力は常軌を逸しているくらいの勢いで高いと言える。九条が提督になった時、武蔵野提督はそれを良しとしていなかったが、それだって気に食わないから(、、、、、、、、)なんて馬鹿みたいな理由じゃない。

 武蔵野提督は武蔵野提督なりに九条が提督になった時のリスクを考えたはずなのだから。

 

(命令書もおかしい。俺に渡されたのはあくまで『支援』で、主となって戦えと言われたわけじゃない。九条が駆逐艦二隻で志島鎮守府を奪い返してから、俺たちが支援として周りの艦の撃破にあたる。でも、その過程がおかしい。確かに九条には実力はある。ハッキリ言えば俺なんて足元にも及ばないような『才能』が、だ。だけど、それがなんで駆逐艦二隻で挑ませる(、、、、、、、、、、、、、)なんて事に繋がるんだ? 上層部は何を考えてーーー

 

「冬夜!」

 

 不意に横合いから声を掛けられた。思考を一時中断してそちらを見ると、真剣な表情の理沙提督の姿。

 少し驚いたが、直ぐに平静を取り戻した冬夜提督は尋ねる。

 

「どうしたんですか?」

「中身全部報告書通りだった、……でも、なんかおかしい」

「おかしい?」

 

 冬夜提督は船内に視線を向けて、どこかおかしいかちょっと考えてみる。

 だが、特におかしいと思える部分は見当たらなかった。

 

「何かおかしい部分がありましたか?」

「……あぁ。なぁ冬夜、連装砲ちゃんって確か自立型の武装だよな。大体触ったら動くと思うんだけどどこか違うか?」

「いえ、少なくとも今まで見た連装砲ちゃんは大抵そうでしたよ?」

 

 イマイチ質問の意図が分からない。そんなの提督業に関わっている人なら誰だって知っている常識じゃないか、と冬夜提督は呟いて

 

 

 気づいた。

 

 そう言えば、輸送中とはいえ連装砲ちゃんがなんの反応もしていない事に。

 理沙提督が調べた時、連装砲ちゃんを触って調べていたりしたが動く様子なんて無かったし、ましてや自立している様子なんてない。

 自立型、という自分の意思で動ける武装なのに。

 

 駆逐艦島風が操る事も可能だが、基本的には連装砲ちゃんは自立式の武装だった。それなのに、船内の連装砲ちゃんは動かない。

 だが、それでもスリープモードだから、とか燃料が入っていないからと言い訳も出来る。しかし、今回のはそれと比べても明らかにおかしい。

 

 『輸送される武装には燃料を入れる』。特に今から戦争をおっ始めようなんて時に燃料を入れずに輸送するなんてあり得ない。

 神無鎮守府など、今まさに戦争から最も近い位置に存在する鎮守府なのだ。燃料くらい当然として用意して、入れておくのが普通。それなのに燃料が入れられていないなんてあり得ない(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)。つまりこの連装砲ちゃんには燃料が入っているはずなのだ。

 スリープモードにしたって解除方法くらい理解している。理沙提督がそれをしなかったとは思えない。

 

 そして、自立。

 自立式という事は、自分の意思で動く事が可能な武装ということだ。

 動きや思考が大雑把だからか、半自立のように扱われている為に戦いには使われていないが、この武装は自分で動く事が出来る(、、、、、、、、)

 

 そう言えば最近では島風の遠隔操作による連装砲ちゃんの操作を真似た、人間による自立式武装の操作なんて実験も行われていたような覚えもあるが、それ自体は余程の事が無ければ『人間』には不可能だと言われていた。

 その理由は高度な操作技術、そして『連装砲ちゃん』自体に主と認められない限り外部からの操作を武装自体が受け付けない(、、、、、、、、、、、)から。

 

「……、」

 

 もし、この武装を依頼したのが九条なら。この大量の連装砲ちゃんをどう使うのか。

 想像するしかないが、まさか九条には不可能と言われた連装砲ちゃんの操作が可能だとでも言うのだろうか。

 

 もしくは、元帥が九条に送り付ける予定のものだとしても元帥は九条に何をやらせるつもりなのか。

 

 理解不能(分からない)

 

 提督でーーーーいや、おそらく全人類の中で最強の頭脳を持つと思われる二人の考えが理解出来ない。

 何を考えて自分にこんな命令を下したのか。電話口であの無茶な命令を受けてなお飄々と答えていた九条の目には何が見えているのか。

 分かるのは一つの事実。

 どう足掻いても頭脳で二人を理解するのは不可能だという事実。

 だからこそ、冬夜提督は理解した。

 ようやく、彼は動き出した。

 

 

 6

 

 

 九条日向(くじょうひなた)は武器を作成するドックに居た。

 ここは妖精さん達の仕事場で、建築もさる事ながら開発までなんでもござれの物理法則とか常識とかを色々と吹っ飛ばしてしまうそんな異世界とも呼ぶべき場所だった。

 

「だから、万が一の時に怪我を防止出来るような。そんな装備が欲しいんだよ。何つーのかな、せかい○ゅの葉とかリザ○クションのアレとかみたいなの。妖精さんなら何とか作れない?」

 

 そんな仕事場で、九条は何とか想像を実現出来ないか『真剣』に語りかけていた。

 九条の目の前には大工さんのようにハチマキをした妖精さんなる不思議生物が確かにいた。人間のような姿だが明らかにアニメのキャラクターのようなのっぺりとした妖精さんがいた。

 そんな不思議生物ならば、ゲームのような死んでも大丈夫な道具が作れるのではないか、と九条は思っていたのだが。

 

 『突然来て何無茶言ってんすか旦那』と、言いたげな表情で妖精さんは九条を見つめている。その周りには失敗作なのか幾つものペンギンさんやらなんやらが散乱していた。

 

「きあいのハ○マキとかフェ○ックスの涙みたいな回復もしくは耐えれるような装備。それが欲しいんです!」

 

 そう言いつつ視線を横へずらすと、別の妖精さんが『提督、妖精つっても無理はあるんすよ』とこちらを見つめている。

 九条自身真面目に考えての行動なのだが、いかんせん妖精さんからするとただ無茶言われているようにしか思えないらしい。

 

(……、そんな都合良くいくとは思ってなかったけどさ。駆逐艦だって百メートルはあるような船だろ? それを二十分で。ましてや高速ナントカみたいな道具を使えば一瞬でそんな船が作れるみたいだし。真面目に『俺の技術に常識は通用しねぇ』って言えるような技術を持つ不思議生物ならもしかしてって思ってもさぁ……)

 

 ガックリと、肩を落とした時に首からかけていて服の内側に入っていた勾玉が服の外に零れ落ちた。

 それは数日前に貰った『お守り』である。

 確か、女神みたいに綺麗なお姉さんから貰った。そう言えば俺達以外にもあの人もこの島に住んでたっけ、とふと数日前の出来事を思いだす。

 このゴタゴタが終わったら会いに行こうかな、そう考えて、

 

「……、どうした? 妖精さん」

 

 九条は服の端をグイグイと引っ張る妖精さんに尋ねた。キラリ、と。妖精さんの目が光っていて、何かとても興味深そうな表情を浮かべている。その視線の先は九条の勾玉へと向けられていて、いかにも私気になります! と言いたげにしていた。

 九条は少し考える。

 少しだけなら見せても問題無いか? お守りだし改造しないように頼めば良いよな。そう考えて九条は首から外した勾玉を妖精さんに手渡した。

 

「大事なものだから改造とかはしないでくれよ?」

 

 コクリと頷いた妖精さんは急いで調べるようにジックリと勾玉を観察し始める。と、そうしたかと思うと、数人の妖精さんがわらわらと集まってきた。皆、勾玉が気になっているようで何やら真剣そうな、それでいて面白そうな表情で嬉々として調べている。

 

「ははっ、そんなに気になるのか?」

 

 尋ねると、妖精さん達が同時に頷く。コクンコクン! と頭を上下させる様子が何処か小動物のようで可愛らしい。

 と、そのまま数分程ぶっ続けで調べていた妖精さん達が突然勾玉を九条に返した。何やらやる気に溢れた妖精さん達は九条に勾玉を返した後、そのまま凄まじい勢いで何かを作成し始める。

 

 何作ってんだろう? そんな疑問を覚えつつ、九条は出来たら知らせるように言うと、部屋の外へと足を向ける。

 今はとにかく時間が惜しかった。

 

 

 

 

 

 廊下に出た九条は何かを悩むような素振りを見せながら歩いていた。

 

(出撃まで後、数時間……か。どうするべきかねぇ)

 

 まだ、時間はあった。

 残された時間で出来ることをやろう、提督として当たり前のことだ。

 

 戦争に子供を巻き込むなんてことは、九条自身未だに認めたわけではない。

 巻き込まざるを得ないこの状況でもその考えは変わってはいない。

 

 先程の妖精さんへの依頼だって安全を確保する為の事だった。もしも、ダメージを受けても直ぐさま復活出来るような道具があれば。そうすれば戦場でもある程度の安全は確約出来る。

 

 だが、それは完全な戦争に突入してしまった場合の対策だが。

 

(戦争が嫌なら、どうすれば良いかなんて直ぐ分かるしな)

 

 どうすべきか。

 ーーそんなの決まっている。

 

(意味もない戦争なんて間違ってる。なら、止めちまえば良い。……話をすれば良いんだ。この考えが凄い馬鹿みたいな事で、愚かな事なんて分かってるけど、俺に出来るのはそれしかないもんな。俺が犠牲になる、なんて高尚な考えを持ち合わせているわけじゃないけど、話をするだけなら俺にだって出来るし)

 

 話を聞けば良い。

 相手だって何も考えずに戦争を起こすなんて事は無いだろう。絶対に何か理由があるのだ。

 

 それに深海棲姫だって言っていた。人類と深海棲艦の戦いだって元は人間が深海棲艦の住処である深海を荒らしたのが原因だと。

 このことから深海棲艦も知能を持つことは分かる。

 武蔵野提督の報告書にも話す艦が居るとも書いてあった覚えもある。

 それなら話を聞いて、誰が間違っているのか。それを判断してやればいい。

 人間が深海を荒らしたと言うのなら人間が深海棲艦に謝罪をすれば良いのだから。

 

「……、まぁ現実的じゃないのは分かってるけどさぁ」

 

 勿論、そんな簡単な話じゃないことなんて分かりきっている。

 そんな事も分からないほど九条は馬鹿ではない。だからこそ現在の状況が絶望的なのも分かる。だが、その絶望的な状況を変えなければ救えない。

 九条は。九条日向という人間は絶望を希望に変えるような一手など持っていない、無力な人間だ。

 だからこそ、自分に出来るのは一つだった。

 

(全てを上手く収める方法なんて分からない。なら、俺がやるべきは俺に出来る事を全て試す事。そんな簡単な話じゃねーか)

 

 

 7

 

 

 志島鎮守府奪還への奇襲は夜だった。

 タイミング良く濃い濃霧が発生しており、九条の鎮守府付近は静寂に包まれていた。

 九条は元帥から届いた物資を出撃用の高速船に運ぶ。出撃について来なければならない二人。島風と電の二人は緊張した面持ちで座っていた。

 

 今の九条には、自分の行動の理由なんて何もない。命令書になんで子供二人を連れて行かなければならないのかも分からない。相手がどんな理由で志島鎮守府を落としたのかも分からない。氷桜が無事なのか分からない。だが、分からないからこそ九条は動けていた。

 

 これがもし絶対に死ぬ戦い、だとか。氷桜が死んだと確認されていた、とか。行ったところで惨めな現実を見せられるだけと事前に確定的な未来として分かっていれば九条は出撃する事が出来なかっただろう。

 きっと逃げ出していた、と思う。何もかも放り投げて逃げていた、と。

 不安が無い、と言えば嘘だ。出撃した途端に襲われるかもしれない。死ぬかもしれない。そう考えたら足が震えてくる。

 だが、一方で九条にはまだ余裕があった。

 それは信頼だった。まだ僅かな時間だったが、自分に接してくれた周り人達への信頼だった。皆ならきっとやってくれる。助けてくれる。この奇襲作戦は成功する。

 そう言い聞かせて不安を打ち消したからだった。

 

 巨大な電極のようなモノを運びながら九条はつい先程行った会議を思い出す。

 それは、キスカ島撤退作戦の真似だった。

 

 濃い濃霧。目的は濃霧に紛れ、志島鎮守府への奇襲。周りの敵艦が気付く前に制圧を終え、再び奪われぬように地盤を固める。

 キスカ島撤退作戦と違うのはこれが『撤退』ではなく『攻略』である事だけだ。

 

「妖精さん、こっちの荷物を頼む」

 

 元帥から送られてきた物資を妖精さん達に頼むと、一斉に運び出して船に積み始めた。

 余った妖精さん達には別の仕事を言い渡す。

 

「さっき作った『アレ』も、頼むな」

 

 そう言って大まかな準備を終えた九条はゆっくりと皆の元へと近づいて行く。

 やれる事はやった。

 人事を尽くして天命を待つ、後はただそれだけだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22 中盤戦(三人称)

更新が無かったこと。深くお詫び申し上げます。
また、タイトルにある通り一話では終わらなかったので何度かに分けて書き切りたいと思います。

文章力……oh。


以下、忘れた方へのあらすじ

志島鎮守府が深海棲艦に奪われた。

主人公率いる神無鎮守府へ奪還せよとの命令

駆逐艦2隻での縛りプレイ

いざ突撃←イマココ

追記、一部修正を入れました。


 8

 

 

 

 

 

 その部屋には窓がない。

 一つだけ、防弾仕様の扉があるのみで中には武器にならなそうな固定式のイスとテーブルだけが存在している。部屋としては圧迫感があるその部屋は、海軍の中でも最重要機密を扱う時のみ使われていた。

 そんな核シェルターなみの強度を誇る部屋の外に、一人の男性が立っていた。

 海軍の服を着用した男性は、毅然とした態度で扉を睨む。その服に付けられた階級章から彼が大将であることが見てとれた。

 

「…………、フン」

 

 つまらなそうに鼻を鳴らして、彼は扉を叩く。コンコン、と二回鳴らしたあと、コンコンコンと三度。

 そうして数秒、扉が開かれる。

 

「ようこそーーーー」

 

 部屋の奥からしわがれた声が響いた。

 大将、であるからには彼は多くの戦果を上げている。当然、人を殺すことにだってためらいはない。

 捕獲した人型の深海棲艦を殺すことさえ、迷いはしない。

 

「……、」

 

 だが、そんな彼でさえ、この部屋を慣れることはできなかった。

 室内と呼ぶにはあまりにも広い空間には、薄暗い照明しかない。それでいて、文字を見るのには不自由しなかった。部屋の至る所には目に見えない極小の監視カメラや、大小様々な機械類が見える。

 それらはすべて中に入った人間を監視し、そして万が一があれば殺すため。

 いわば、何かしようものなら決して生きて帰れない空間だった。

 

「遠慮せずに入りたまえ。柴田……ぃゃ、武蔵野提督(、、、、、)

「……っ、ハッ」

 

 人に寒気を感じさせるような声に、一瞬反応出来なかった。

 頷いて部屋に入ると、途端に中にいた人物の姿があらわになる。

 『ソレ』は、人間だった。怪物、化け物。そんな言葉は似合わない。温和そうな、気の良さそうな。そんな老人にしか見えない『ソレ』は見た目には人間と表現するしか出来ない。

 

「待っていたよ。いやはや面倒を任せて済まないね。キミには苦労(、、)を掛けてしまうーーーー」

 

 初めの口上はそんな感じだった。うっすらと浮かんでいる笑みは暖かな印象を抱かせて。

 

「ーーーーまぁそれは置いておこう。さて、経過はどうか聞かせてもらいたい」

 

 孫に向けるような笑みで、老人は言う。昔からそうだったが、歳を取るごとにその技術は上がっていた。ごくごく自然で、当たり前のように包み込んでしまう優しさが、武蔵野提督の目の前に存在した。

 

 

 武蔵野提督は、怖い。

 

 彼の笑みは自然なものなのに。そっと微笑みかけられてしまうだけで自分のすべてを委ねてしまいそうになる程心酔させてしまう目の前の『人間』が。

 

 言葉では表せないほどどうしようもなく、恐い(、、)

 

「呼び出した理由は分かっていると思うがーーーー」

 

 海軍本部元帥、『科海俊蔵(とがいとしぞう)』。

 数人存在する元帥の中での別格である『人間』は、厳然と告げた。

 

「ーーーー逃げ出した彼の動向はどうかね?」

 

 科海元帥の言葉に、武蔵野提督はビクリと身体を震わせた。言霊なんてものを信じているわけではないが、彼の一言一言に不思議とそうさせてしまう力があったのだ。

 

「……黒鎮守府の件ですね」

 

 目の前の元帥には九条と話した時のような甘さは存在していない。

 一瞬でも。ほんの少しでも敵意を感じられれば、その瞬間に殺されてしまうことが分かった武蔵野提督はごくりと息を呑む。

 

「そうだ」

 

 科海元帥は頷いた。そして『人間』、科海俊蔵は全てに安心感を与えるような笑みを作り、言う。

 

「ーーーーどうかね? あの男の実力は。こっちとしても彼をこれ以上のさばらせるわけにもいかないからね」

 

 

 

 

 9

 

 

 

 

 暗闇と濃い霧に包まれた海を高速船で突き進んでいた。

 最新型の高速船、と言われるだけあってか音も余り大きくなく、スピードも凄まじい。

 速さに関しては深海棲艦でも追いつく事は出来ないだろう。

 

「一応確認しておこう。今回、俺たちのやるべき事は志島鎮守府の奪還だ。その為には、志島鎮守府にいる深海棲艦と周りの深海棲艦を一掃しなければならない」

 

 九条は島風と電の二人に言う。基本的には高速船から九条は指揮を執ることになるだろう。

 コクン、と二人は頷いた。

 

 

 

 

 それから三十分ほど、驚くくらい静かな海を突き進んでいた。

 その頃から、どうも様子がおかしくなっていた。

 

「……敵艦反応。レーダーに敵艦の接近を確認!」

 

 レーダー。深海棲艦を索敵する機械が異常を発した。それを見ると、六隻の敵艦が『こちら』へ向かっている事が分かる。

 既に場所は志島鎮守府付近。突っ込んで奇襲出来るくらいの距離ではある。気付かれたか……、と九条は一瞬考え、レーダーへと目を向けた。

 あいも変わらずレーダーには接近してくる敵艦の反応。

 

「司令官さん……」

「提督、どうするの?」

「少なからずこちらからは撃たない。相手が追いつけるとは考えにくいから最速で突破する」

 

 そう言って妖精さん、と声をかけると妖精達が慌ただしく動き出した。

 そして数分もしないうちに船の速度が加速する。

 

「上手くいけばあと二十分くらいか? 万が一の時の迎撃は頼む」

 

 妖精さん、とは言わずに九条は手元のデータを確認する。敵艦の動きは変わらない。ただただ一直線に進むのみだった。

 これは、気付かれていないのか……、と少しの間思考して、九条は結論を出す。

 

「とりあえず全速力で駆け抜ける。バレる可能性があるからしっかり船につかまってくれ」

 

 そのまま近くの妖精さんに声をかける。妖精さんは頷くと、船の速度を上げた。流石最新型の船と言うべきか。速さだけに特化させた事でグングンと敵艦と差をつける。

 濃い霧のお陰ですぐに目視できなくなり、レーダー上の敵艦に異常がないかを確認してフゥと安堵の息を吐いた。

 

「よし、逃げ切ったな。このまま霧に紛れて本陣に突撃をかけるぞ。当然、相手側もそれを考えているからまずは撹乱する。島風ちゃん」

「なに?」

「連装砲ちゃんを同時にいくつ運用できる?」

「基本的には2つかな。運用だけなら6つまで出来るよ。ただ、その間動けないけど」

「分かった。じゃあその6つを動かすことに集中してほしい。敵陣の表門で暴れさせてやれ」

 

 ただ本陣に突っ込んだところで数を持ってこられたら勝ち目はない。

 素人の浅知恵だが、まずは撹乱をすべきだと感じた。そのためにまずは表門を攻める。

 

「次に電ちゃん、無理だったらいいけど遠くからの射撃(連装砲ちゃんで)出来るかな?」

「出来ます! 任せてほしいのです」

「じゃあ、俺たちはこのまま敵陣の裏側に回る。まず先に島風ちゃんが表側で連装砲ちゃんを操作。表側に戦力を集中させつつ、裏側から電ちゃんが砲撃。その後最速で表側へ向かう。次の指示はその移動中にするよ」

 

 幸い、敵に感知はされていない。表側を撹乱し、裏から攻撃。ただ、これだけならば相手も直ぐに見破るだろう。だからこそ再度表側に回る。

 連装砲ちゃんも大量に用意した。勿論、連装砲ちゃんも意思を持つ生き物なので無理はさせられない。それぞれ決めた位置まで移動させ、役目だけを務めさせればいい。

 

「じゃあ、行くぞ。作戦開始だ」

 

 

 

 

 

 

 10

 

 

 

 

「出撃準備だ」

 

 一方、横須賀鎮守府も援軍の準備を進めていた。

 理沙提督率いる鎮守府との合同作戦。階級的にも横須賀鎮守府は理沙提督のバックアップに入ることになりそうだ。

 段取りや打ち合わせも全て終え、橘冬夜は執務室にて一八人の艦娘を呼び出し今に至る。

 

「オッケー、援軍ですね?」

「あぁ、第一艦隊の旗艦は霧島で頼む。まぁ三つの部隊に分けるから三人選ぶ必要があるけどな」

 

 いずれも真剣な表情を浮かべる艦娘達の前で橘提督は地図を開く。

 その上で指をさし、三つのルートを辿った。

 

「今回、三方同時作戦という形で決まった。俺たちの役割は本隊が通る最短の海路の警護だな。ようは攻略することで敵艦を集中させちまうって寸法だ」

「ということは実質的に援軍として行くのは第一艦隊だけ?」

「あぁそうだ。愛宕、お前には第二艦隊を任せる」

「分かったわ〜」

 

 返事に頷いて、今度はパソコンを開き画面を表示させる。画面には現在の現地の情報及び、目的地到達までの予測時間などが計測されていた。

 

「……つい先程、神無鎮守府から奇襲を仕掛けるとの報せが届いた。今から向かっても恐らく戦闘には間に合わないだろう。そして何よりも、大本営からの指示で二隻の駆逐艦での奪還を目指すらしい」

「……ふざけているのですか? その命令って」

「ジョークなら良いんだけどな。まっ、そういうわけでメンバーはいつも通りで構わないからさっさと第一艦隊は出撃をしてくれ。次に第三艦隊だが赤城」

「はい」

「旗艦を頼む。加賀をつけるから彼女の言うことをよく聞くように」

 

 そこで指示を打ち切った橘提督は理沙提督への引き継ぎ作業を完了させた。

 本来であれば、橘提督は万が一に備え指示室に居なくてはならないのだが、彼はそのまま部屋を後にする。

 

(……武蔵野提督、か)

 

 口の中で呟く。

 昨日、理沙提督と共に探ったことで不可解な点がいくつか生まれた。

 武蔵野提督は何を考え、九条にあのような命令を出したのか。元帥はなぜ、今回のことについて決定権を持たないのか。

 そして、何よりも。

 

(……九条が何を考えて命令を受けたのか)

 

 一応、彼も提督という立場上、上からの命令は断れない。が、どう考えてもあんなメチャクチャな作戦には従おうとはしないだろう。

 仮に、橘提督自身がそのような命令を受ければ間違いなく何かしらの反論をする。それなのに何も言わず命令を受けた九条は何を考えているのか。

 少なくとも勝算はあるだろうが、と橘提督は考えて、

 

(ぃゃ、考えてるよりも先に動け、だ。とりあえずは武蔵野鎮守府へ向かう。それで万が一反乱の意思が見つかればーーーー)

 

 そうなったら。

 武蔵野提督を潰さなくてはならない。

 とりあえず、と呟いて、

 

「ま、日記に証拠代わり兼、遺書でも書いておくか」

 

 楽観的に言って、橘提督は笑った。

 

 

 

 

 

 

 11

 

 

 

 作戦は成功した、と言うべきなのだろう。

 島風曰く連装砲ちゃんが上手く機能し、操作に集中することで相手の攻撃を回避しながらの攻撃が可能だったらしい。

 視覚共有のシステムを使うことで敵基地の様子も確認出来たらしくそれなら、と暴れさせた連装砲ちゃんを回収せずに侵入させるように命じた。

 

「裏はどう?」

 

 九条が島風に問うと、

 

「良いわ。多くを哨戒に回していたのかは分からないけど、あまり数もいないし。そもそも深海棲艦は陸を得意としないのもあるけど」

「そうか」

 

 だが、船のレーダーには絶えず深海棲艦のマークが映されている。ここまで近づけたのは敵のレーダーが第二次世界大戦時のレーダーであったことと、濃霧のおかげ。そして運が良かったに過ぎない。

 一瞬、連装砲ちゃんで一気に攻め込むべきかと考えて、九条は首を横に振った。

 その代わりに、

 

「電ちゃん、島風。コレを」

「なんですか? これ」

 

 船に積んだ荷物から、二人の妖精さんを出す。その後ろには小さな船が二つ存在していた。

 それらを一つずつ、二人に渡す。

 

「妖精さんが艦娘に渡しといてってさ」

 

 九条はどこに艦娘があるのかは分からない。だからこそ、理解している二人に渡した。

 妖精さんが必ず渡して、と言うほどなので相当な代物なのだろうと予想する。

 

「表側まで、あと二分かな」

 

 マップを見て九条は呟いた。順調に行けば、だが。

 現在、裏側を撹乱しているので潜り込むならその混乱が最上になった瞬間である。

 故に、静かに、素早く。

 絶えず敵艦の存在を揶揄(やゆ)するレーダーに目を運びながら、速やかに行動を進めていた。

 

「ーーーーーーはぁ」

 

 九条は小さく吐息を吐き、今度は目であちこちを見渡す。敵の姿は見えない。ただ濃霧によって白く染まった世界が存在するだけだ。

 が、その時チラッと。九条の視界の端であるモノが見えた。

 海の上を走る女性、距離は三〇メートル。その女性は怒りを覚えた顔で巨大な砲をこちらに向けて、

 

 

「〜〜〜〜〜〜!!」

 

 なんと言ったのか。シネ、というように口が動いた瞬間、九条は咄嗟に二人を庇う位置に飛び出していた。

 次の瞬間、ズドンッ!! という轟音が響く。そして何かがぶつかり合うような轟音が響いた直後、九条は体をくの字に折り曲げた。

 ふわり、と身体が浮く。

 そのまま地面に背中から落ちた。

 

(何、が……、)

 

 立ち上がろうとするが力が出ない。九条はヒューヒューと不明瞭な音を立てる己の喉から、何かがせり上がってくるのを感じていた。

 それを吐き出して、

 

「……紅?」

 

 紅い何かが溢れた。

 温かい液体だ。

 

 

 直後、ふわふわとした意識が覚醒する。

 

「グ、ガアアアアアッ!!」

 

 胸を押さえる。焼けるように痛い。まるで熱したナイフで突き刺されたかのような。そんな痛み。

 冷静さが失われ、どこから撃たれたのか? と視線だけ動かし確認して、

 

(……ッ!?)

 

 まともに動かない身体を無理やり動かしたのは計算してのことではない。

 司令官!? と駆け寄ってきた二人の女の子を地面に転がした瞬間、二人がいた空間を弾丸が突き抜けていった。

 九条は逃げるよう、妖精さんに指示を飛ばす。そしてモニタに触れて敵艦の場所を把握するが、

 

(やっぱり……無理が)

 

 薄れゆく意識を何とか現実に繋ぎ止めながら、痛みに堪える。空を裂くように、幾つもの砲弾が船のすぐ空を突き抜けていった。着水したソレは、轟音と水しぶきを立てる。

 

「……、!」

 

 倒れこんだまま、九条は考察する。こうやって自分が生きているということは心臓を打たれたわけではないのだろう。恐らく破片が突き刺さったのだと思う。

 さっきからバンバン打たれているのは敵艦の砲撃か。

 モニタをおいて、人間の眼球に捉えられない速さの弾を見た(、、)九条は凍りつく。

 そのまま何とか身体だけ船から乗り出して敵の把握をしようとして、ふと思った。

 

 九条の横ーーーーすぐ横合いに押さえつけた二人の女の子の存在を。

 

(……逃げながら敵基地を掠めるようにして二人を下ろす。連装砲ちゃんに賭けるしかない……)

 

 二人は無力な女の子だ。敵艦は間違いなくこの船を追ってきているのだろう。なら、九条がすべきなのは二人の安全確保。

 だからこそ、まだ倒れるわけにはいかない。

 

「最速……っ。二人を下ろすよ」

 

 エンジンの運動を加速させる。何人かいる妖精さん達はそれだけで九条がやろうとしていることを理解してくれたようで、ビシッと敬礼してくれた。

 気を抜いた瞬間倒れてしまいそうな痛みに耐えながら、九条は二人を助けることを優先する。

 グングンと敵艦を引き離していく姿を見つつ、まだ飛び交っている弾幕を弾幕用のレーダーで観測する。

 

(焦るな……、三次元の弾幕ゲームだと思え。普段からこれぐらい突破してきただろうが……!)

 

 バクバクと、確かに生きている感触を心臓が鳴らすのを感じながら、九条はモニターに表示された弾幕と船の位置から突破する航路を定める。

 ピピピピピ、という音が辺りに響いた。

 高速で船の動きを、操作する音だった。

 

「ーーーーく、そ」

 

 一発でも被弾したら終わり。改めて現実はクソゲーだと、あまりの事態に麻痺しかけた思考を九条は必死に動かす。喉まで出かかった悲鳴を必死で押し殺す。九条には『助けて』とは言えなかった。横に、自分よりも小さな女の子が二人いるのに、見捨てるなんて出来ない。きっと、あの敵艦は九条の船を沈めるまで追いかけてくるに違いないから、彼女達を生かすために連装砲ちゃん達の元まで送らなければならなかった。

 九条は叫ぶ。

 

「くそ、が……ちくしょう! 戦場ってなぁ理不尽過ぎんだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ……降りてくれ二人とも」

 

 何とか砲弾の雨を掻い潜った九条達は敵基地を掠めるように船を進ませていた。

 そして妖精さんに合図した瞬間、船が減速する。連装砲ちゃんの姿も確認した九条は船に乗っていた残りの連装砲ちゃんを全て降ろし、同時に島風と電の二人も降ろした。

 

「ケホッ……俺が囮になってさっきの敵艦を誘っておくから安全を確保していて……」

「で、でも司令官さん。大丈夫ーーーー」

「良いから! 心配せずに降りろ!」

 

 半ば追い出すようにして船から二人を敵の基地へ降ろしたのは、最低の行為だったのかもしれない。

 だが、九条はこれが最優の選択であると確信していた。

 辺りには50機の連装砲ちゃん。それら全てを改造させたのは九条の指示だ。

 妖精さんには無理を言ったが、きっと二人を守ってくれることだろう。

 

「ーーーー行こう、妖精さん」

 

 なおも、九条を気にする二人をおいて、九条は加速するよう妖精さんに命じた。

 

「ま、司令官ーーーー!」

 

 コクンと。頷いた妖精さんは目を伏せて作業をする。直後、船が加速した。二人が待って、という声を上げたように聞こえたが、それら全てを聞こえなかったふりをして九条は更に加速するよう告げた。

 

 

 

 

 

 




活動報告を書いたのでそちらも見てくださるとありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23 中盤戦(三人称)②

二日連続投稿。
復活したと言っても良いのか、と考えるゆうポンです。
そして中々終わらない第二章。一日が、一日が終わらないんだ……。


 

 

 

 

 12

 

 

 

 風を切って、船は進んでいた。

 レーダーを駆使することで、幾つかの敵艦の存在を捉えることが出来たものの、九条達と交戦した敵艦は見当たらない。

 

「妖精さん、あの敵が近くにいるか分かるか?」

 

 尋ねると、分からないという返事が返ってくる。本来であれば月と星に照らされた海はもっと索敵出来てもおかしくはないのだが、今は濃霧だ。先程接触した敵艦が恐らくボスであると思った九条はとにかく、艦娘とやらが志島鎮守府を奪還するまで近付かせてはならないと焦っていた。

 

(どうする? 電ちゃんと島風の二人を置いてきてしまった。大丈夫だろうか? メチャクチャ不安なんだけど)

 

 嫌な予感が脳裏をよぎる。しかしそれを否定して九条は、

 

「ぃゃ、まだそうなったわけじゃない。きっと二人とも無事なはず」

 

 五〇機の連装砲ちゃんがいるのだ。それに妖精さんも半分以上置いていった。

 きっと大丈夫。そんな根拠のない言葉を呟いて、

 

 

 ばん、と。

 銃弾の音が鳴り、突然船の積荷の一つが吹き飛んだ。

 

 

「……ッ!!」

 

 響いた音に、九条は顔だけ動かしてそっちを見る。爆発する砲弾ではなく、銃弾だったのが救いだったのか。船に小さな穴が空き、積荷の一つが壊れた以外問題はない。

 来たか、と呟いて九条は辺りを見回した。積荷を留めていた金属の留め具が外れて、パカパカと空いてしまっている。その中からアイテムらしきものがバラバラと船に散っていく。直後、そこから離れて! という妖精さんの声が響いた。

 

(次の銃弾か?)

 

 慌てて飛びすさって、胸がズキンと傷んだ。先程突き刺さった砲弾のカケラは幸いにも九条が掛けていたお守りに直撃していたので致命傷にはなっていないが、突き刺さってはいた。一応、ある程度の深さまで。

 そもそも血を吐いた時点で重症なのだ。それなのに激しい運動を繰り返していればそうなるのも当然の話だった。

 

「やっぱ狙撃か!? 妖精さん!」

 

 九条は自分ごと、近くの妖精さんを押し倒す。

 バン、と遠くから小さな音がした。

 九条の背中に、右から左へと線を引くような痛みがはしる。

 何かが皮膚の上を掠っていったのだ。

 

(どこだ!? さっきの敵艦か……!)

 

 ズキズキと滲む痛みに耐えて、周囲を見回す。周囲は視界不良で、とてもではないが見渡しきれない。

 素人の九条にはこれが銃撃戦を行うのに適した環境であるのかは分からないが、ぐるりと見回した範囲では馬鹿でかいライフルなどを構えた敵艦の姿は見えなかった。

 レーダーを使用して右から左へと線を引くような痛みを頼りに、大体の方向に検討をつけて調べる。

 が、そこで妖精さんは攻撃の予兆に気付いていたことを思い出して、

 

 提督さん!! という妖精さんの声が聞こえる。

 思考を遮断して、九条が注意を向ける前に、背後からヌルリと冷たい感触がする。ギョッとして振り返ると、海から一本の手が伸びていた。白い、人間とは思えない真っ白な手だ。誰かが海面から這い上がり、九条の足首を掴んでいるのだ。

 

「ッ!!」

 

 何かを思う前に一気に引っ張られた。

 バランスを崩した九条は船の上から引き剥がされ、そのまま海へと落ちた。突然引きずりこまれたことで対応出来ず、海の水を飲んでしまう。塩水で背中と胸の痛みが爆発したように増していく。目が痛いのを我慢して開けると、白い顔が見えた。ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた、巨大なゴーレム(、、、、)のような兵器を持った。

 

 深海棲艦、戦艦棲姫。

 

(ちっくしょ……誰なんだテメェは!)

 

 九条は襲撃者へ向かって手を伸ばしたが、すり抜けられた。仕方なく上昇しようと泳いで、一気に水面へ顔を出す。

 そのすぐ横に、居た。

 

 彼女は、海の上に立っていた。

 

 立ったまま、九条に対してニヤついた笑みを浮かべている。

 そして一言。

 

「ミーツケタ」

 

 ゾグン! と恐怖が胸の中を覆った。殺される、という恐怖感が心の中を覆い尽くして、慌てて九条は船の上に這い上がるために縁に両手をかける。

 と、這い上がった先にその女性の姿があった。腕を九条の胸に突きつけて、ニタニタと笑っている。その顔には愉悦感が張り付いていた。

 そして。

 そんな彼女の周りを、巨大な歯を持つゴーレム型の化け物が浮いていた。黒光りした外装から覗く歯が恐怖を煽る。そして女性の方は長い黒髪の、ネグリジェのようなワンピースを着た女性だった。色が白いことと、頭から日本のツノが生えていることを除けば人間そっくりなのが特徴的だ。

 まさかあの化け物に操られているのか? と九条は勘ぐりながら観察をする。

 

 そのびしょびしょに濡れた手には何も持たれてはいない。だが、その背後にいる化け物がネック。

 あの歯が振るわれれば間違いなく人が死ぬ。

 そんな化け物を、女性は軽々と扱っているように見える。まるで九条を嘲笑うかのように。

 

 すぐさま立ち上がらなくてはならないが、這い上がったばかりの九条はちょうど船にへばりつくような格好で、立ち上がるまで数秒かかる。そうこうしている内に、女性は化け物を操ってその歯を九条に向けて噛みつくように動かして、

 

「死ねクソ化け物!」

 

 九条は散らばっていた積荷から、大きさ三〇センチくらいの鉄の破片を思い切り投げ付けた。

 化け物に向けて投げたのだが、逸れて無防備だった女性の顔面に直撃する。

 その瞬間、操作が狂ったのか船の(ふち)を化け物は噛み砕いた。

 

「ナッ!!」

 

 鉄屑が直撃した女性はそんな声を上げる。が、すぐさま顔面の異物を引き剥がすと、良くもやってくれたなとばかりに、そのまま九条の懐へと突っ込んできた。その拳は華奢に見えるが、実際に当たってしまえば即死するのだろう。

 九条は地面を転がるようにして、両の拳を握りしめて、

 

「グォッ!?」

 

 その時、エイヤ! と妖精さんの声が響いた。バンっ!! という銃声が耳に届いた瞬間、女性が仰け反って海に落ちる。突然吹き飛ばされた主人に困惑したように化け物が海へと飛び込んで、

 

「妖精さん!!」

 

 起き上がった九条は素早く命令した。直後、船の速度が加速する。

 その数秒後、背後の海からザバァッ!! という音が聞こえた。

 

「コ、ロス!! ブチコロス!!」

 

 憤怒に顔を歪めた女性に対して九条は叫ぶ。

 

「わ、悪かった! アンタに当てるつもりは無かったんだッ!!」

 

 しかしそんな言葉は彼女の怒りを抑えることは出来なかったらしい。見た目が人間そのものであることから、恐らくあの女性は人間に違いないだろう。となると、横のデカイゴーレム型の化け物に操られていると見るべきか。

 ババババッ!! と響く銃器の音が返事代わりに聞こえてきた。

 と、船のすぐ横の海面が突如盛り上がる。

 

「今度はなん……ッ!?」

 

 起き上がった九条が、そちらへ目を向けると紅い目がみえた。ギラリと光るその目は、捕食者としての闘争心を持っている。

 その口内からは巨大な砲塔があった。

 

「キシャアアアアアッ!!」

「あっ、ぎ!?」

 

 咄嗟だった。船に散乱していた丸い『何か』を引っ掴んで九条は化け物、駆逐イ級に向けて放り投げる。

 直後、バン!! という音が聞こえた。

 放り投げた丸い何かは、綺麗に駆逐イ級の口の中へ吸い込まれ、直後爆発した。断末魔のような叫び声を上げて駆逐イ級は怯んだように仰け反る。

 どうやら、投げたのは爆発する何かだったらしい。

 ホッとする間もなく、

 

「ッ! 狙撃の方は!?」

 

 聞くと、大丈夫もう出来た、という妖精さんの言葉。

 意味が分からなかった九条は逆に問いかけようとした直後、

 

「グギュルガァァァアッ!?」

 

 あちこちから、駆逐イ級の声が飛んできた。ギョッとする九条の耳に、妖精さん達の余裕の声が聞こえてくる。

 

『3、2、1』

 

 モニターからそんな機械音声が放たれる。そしてそのカウントが0になった瞬間だった。

 ドンッ! という衝撃が船全体を揺らす。バランスが取れずに転んだ九条が起き上がって見えたのは、海の中を突き進む魚雷のような何か。

 ファイア! と妖精さんが叫ぶ。

 と、四方八方が爆ぜた。

 

「なーっ!?」

 

 凄まじい水しぶきが舞い上がり、その僅かに出来た隙間をくぐり抜けるようにして船が突き進む。

 それは初めて九条が指揮した時のものと同じ脱出方法だったのだが、本人にはその自覚がないために妖精さんが何かやったとしか分からなかった。

 その時バシュン! という音を九条の耳が捉える。

 九条が音のした方向へ目を向けると、そこから先程の巨大なゴーレム型の化け物が飛び出してきた。筋肉隆々の豪腕を振り上げて、怒り狂った様子だった。耳元で爆発音でも聞いたような感覚にビビる。暗いので細部は分からない。

 そのゴーレム型の化け物は女性を乗せて、海の上を泳ぐではなく、一直線に九条達の船めがけて走ると、

 

「ゴ、ガァッ!!」

 

 深海棲艦語らしき言葉で何か喚いて、そのままためらわずに海の上から海中に飛び込んだ。

 

(な、なんだ? あの化け物一体何をしようと!? くそ、とにかく逃げるぞッ!)

 

 一瞬、考えている間に水を破る音が聞こえた。

 ただし。

 先程海で爆発した魚雷なんて比にならないほどの、あまりにも巨大すぎる轟音が。

 

 ザバァ!! と海の海面がまとめて吹き上がる。

 まるで滝を逆さにしたように海水が舞い上がり、化け物はその波の上に乗る。

 

 

「な……ッ!?」

 

 九条の息が一瞬止まった。

 空から落下してくる化け物の口の中には、巨大な砲塔があった。大砲、とでも表記した方がよほど『らしい』と思わせる、巨大な砲塔だ。ただの砲塔と違うのは、そのサイズと見たことのない素材か。本来の大砲は鉄などで作られているが、今ここで使われた砲塔は生きているということ。『化け物』という言葉が本当にしっくりとくる。

 しかし。

 それ以上に恐ろしいのは、その砲塔が発射準備に入っていたことだった。

 

「うわっ!?」

 

 回避のためか。妖精さんが全速力で船を加速させる。だが、船の後方。本当にギリギリの位置がその砲塔に飲み込まれた。

 エンジン部分には命中していないが、船の後方が噛み砕かれるように破壊され一部が海へと沈み、あるいはその出力に耐え切れず宙を舞った。九条はばら撒かれた積荷の一つであるシートのようなものをかぶる事で怪我をすることは無かったが、直後にまるで鉄砲水のように荒れ狂う海水に足を取られ、船底を転がり滑る。

 

「痛っ……! なんだよこのっ!」

 

 一部浸水してしまった船から先程の化け物がいた方を見てみれば、再び銃器のようなものを構えていた。

 その瞬間。

 

 (ごう)!! と風が唸りを上げる。

 一瞬だけ浮遊感を得たと思ったら、すでに足元に地面がなかった。ずるりと体が滑ったも思った瞬間、九条の体が竜巻のように吹き荒れた風に巻き込まれて一〇メートルほど浮き上がった。頭が下を向いていたため、自然と乗っていた船が見える。

 極彩色の光に飲み(、、、、、、、、)込まれている船の姿が(、、、、、、、、、、)

 

「っつ!!」

 

 ゆっくりとスローモーションに見えたその映像に、九条は驚愕を通り越して混乱していた。

 ついさっきまで、海を突き進んでいた船の壁は丸ごと破壊され、原型は残されていない。煙を上げて燃え始めた船にはまだ避難が完了していない妖精さんが右往左往していた。自由落下に従って落下する九条が辺りを見ると、完全に崩壊した船を見て笑っている深海棲艦が九条に向けて砲塔を構える姿が映った。

 

「嘘だろ……!?」

 

 直後、同時に舞い上がった船の破片などと同タイミングで九条がいた空間を銃器の雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 

13

 

 

 

 

 時間は一時間ほど(さかのぼ)る。

 

 

 完全に深海棲艦の手に落ちてしまった志島鎮守府を歩く小さな影があった。『ソレ』はピョンピョンと跳ねるようにして素早く影から影へと動く。忍者のような動き方をするソレは、しかし慎重に鎮守府の内部を突き進む。

 

 そう、連装砲ちゃんである。

 

 駆逐艦、島風は視覚共有によって連装砲ちゃんから伝えられた視覚情報を受け取り、有事の際に使われる隠し部屋でまとめていた。横には、敵艦を索敵する電の姿も存在している。

 九条によって裏口へと置いていかれてしまった彼女達は、九条の『安全を確保しろ』という言葉を『九条が囮となり深海棲艦を引きつけている間にこの鎮守府を制圧しろ』という命令に都合よく解釈していたのだ。

 

 隠し部屋の場所などは事前に情報として大本営から伝えられていたので、そこに辿り着くまでは少々手間取ったがそれ以後は比較的安全に事を進められている。

 

 そして現在、島風は操作する連装砲ちゃん六体それぞれからの情報から、鎮守府内の敵の居場所をほぼ掴んでいた。

 

「電、ほとんど状況は掴みました。数は一五ほどいるけど、それぞれがバラバラで見張りも何もないから恐らく勝てます」

「そうなのですか……、まぁ司令官があれだけ装備を置いてくれていますからね」

 

 九条が二人と一緒に置いていった武器などの資材の数々を見る。必要最低限、と彼は言っていたが、その内容は他の鎮守府の殆どが揃えられないであろうレアな装備ばかりだ。彼はこれが当たり前だ、というように言っていたが。

 ともかくにも連装砲ちゃんが五〇機あるだけでも一五体の敵に対しては過剰戦力かもしれないのに、それに加えて死ぬような攻撃を食らった時に資材ごと満タン近く回復するアイテムとはどうなのか。

 

 大本営が知ればまず、研究しようと言い出すであろう恐るべき装備に戦慄しながら二人はコレだ、という装備を選んでいく。

 

「……妖精さんもよく作ったものですね。応急修理女神だったっけ?」

「そうですね……ファンタジーみたいなのです」

 

 それをアッサリと使うように言える九条提督は一体何者なのだろうか、と少し考えて、二人は準備を終えた。

 

「さて、気分はミッションインポッシブルですね」

「むしろ司令官が心配なのです。これだけの装備があればかなり楽でしょうから、さっさと制圧してしまうのです」

 

 と、外へ出る前に島風は全ての連装砲ちゃんの命令を完全自立式(オートモード)に変えた。

 敵艦を攻撃するような命令をさせ、一気に突撃させる。

 

「それを言えば連装砲ちゃんもです。私が近くにいないと戦闘において機能しない自立式を改造して私が『敵を攻撃』するようにだけ命令すればあとは勝手に倒してくれるようにするなんて」

「司令官さんは心配性なのでしょう。まぁ姫級相手だと私達の練度も足りないですし、連装砲ちゃんも通用しないと思うのです」

 

 そんなもんかな、と言う島風にそんなものなのです、と電が答えた。

 隠し部屋から一斉に連装砲ちゃんが飛び出す。速度が速いのは最速であった島風の影響に違いない。

 

「……さて、おふざけモードは終わりにしましょう」

「ですね。司令官さんの指示通りやるのです。本当は沈めないに越したことは無いですけど、そうも言ってられる状況じゃないのですし」

「そうですね。じゃ、行きましょうか。連装砲ちゃん達が敵と接触し始めたし」

 

 連装砲ちゃんからの戦闘開始の知らせを受けた島風は扉から外へ出る。小さな振動が足に届いた。島風は各々の情報から敵艦のいる位置へと歩き出す。

 

「勝負は姫級が帰ってくるまで。速さ勝負なら島風の得意です!」

 

 それが合図のように、志島鎮守府奪還が始まった。

 

 

 

 

 

 




次回も早く出せるよう頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24 中盤戦(三人称)③


とりあえず第二章終わりの目安をつけました。
それに伴って前哨戦二話、中盤戦三話、残りラストを後半戦としたいと思います。
物語に変更はございませんので題名だけ変わったと思ってもらえれば。

では、どうぞ。


 14

 

 

 

 

 五〇近い連装砲ちゃんの面々は敵一艦にあたり、五機で対応するリンチ戦法によって着実に志島鎮守府内の深海棲艦を処理していた。

 爆音、爆風、戦いの余波を極力抑えた、正に殺すためだけに特化させた戦法は見事としか言えないほど上手くパターンにはまり、未だこちら側に犠牲者はいない。

 

 同じスペックどころか、むしろ劣っているにも関わらず、圧倒的な物量と統率によって荒れ狂う深海棲艦を薙ぎ払って蹂躙を続ける連装砲達。銃器が鳴り響く音だけが続き、断末魔の叫び声と金属の音が炸裂している。

 離れた所から見ると、それは酷く(みにく)蹂躙戦(じゅうりんせん)にも見えた。激突と共に四方八方から襲い来る連装砲ちゃんに反応出来ず深海棲艦が沈んでいく。

 その様子を駆逐艦、電は半ば泣きそうな顔で見ていた。

 

「おっそーい、なんて言いたくないくらいガチ過ぎません?」

 

 島風もまた、魔改造された自らの連装砲ちゃんにドン引きする。が、紛れもなくあれは自らの連装砲ちゃんなのだ。あまり見たくない光景だとはいえ、目を背けるわけにはいかない。

 普段から沈めることには慣れていたせいか、少しの嫌悪感はあれどそれ以上のものも無かった。

 が、電にとってはその感情が無かったことが悲しいらしい。

 

「ごめ、……ゴメンなさい」

 

 ポロポロと涙が溢れていた。

 何度も何度も。凄惨な殺し方をして、嫌悪感を感じてしまっていることからか。

 しかし目は背けずに、謝罪の言葉を述べていた。

 

「…………、」

 

 島風は黙り込んで、電の顔を見る。

 そして自分の行動を(かえり)みた。

 自分は今、流れ作業のように。自らの手を下すことなく敵を沈めている。何もせずにだ。

 果たしてそれは良いことなのか? 

 

 戦場において、殺さなければ死ぬのは自分だ。

 だが、電のようにそれ以外の可能性を探ろうとする艦娘を見ると、どうも自分の行動が間違っているようにも思える。

 艦娘として、深海棲艦を沈めることは当然(、、)なのに。そのことは以前の提督からも教わったはずなのに。

 だが、

 

 

『ふざけてんじゃねぇよ……』

 

 

 頭に浮かぶのは、この神無鎮守府で初めて『彼』が怒った時の言葉。大本営から届いた命令書を握りしめる姿を、実は島風は見ていたのだ。

 島風と電だけで志島鎮守府を奪還せよ、と言われた時のその言葉を思い出すたびに、何故か胸が痛くなる。

 心が、痛くなってしまう。

 

『なんで……なんであの二人を巻き込まなきゃなんねーんだよ』

 

 提督になったばかりの、本部から天才と謳われていた少年。

 

『誰一人だって、犠牲になんかさせないッ!!』

 

 別に、彼の言うことは美しいとは思わない。

 思想なんて人の数だけあるし、島風からすればあの時彼が叫んでいたことは綺麗事だった。

 しかし。

 以前の『提督』よりはきっと、ずっとマシなのかもしれないと島風は思う。

 

 元はただの一般人のくせに、艦娘を守るためにわざわざ提督になったと聞いたあの少年は、きっと提督としての任務や国を守るための『選ばれた人間』として当たり前のように君臨する者よりは、遥かに。

 前の提督に教わった冷徹な指揮を取りながら、島風は思い切り奥歯を噛みしめる。

 

(……司令官、私はーーーー)

 

 

 この変化をどう判断すれば良いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 「行間」

 

 

 

 救難信号ならとっくに出されていた。

 しかし、その信号は大本営に届くことはなかった。別に、信号に破損がある訳ではない。目的地まであまりにも距離があり、そして乗り物が調達できないという訳でもない。

 彼らが動かないのは、その情報自体が届かなかったからだった。

 

「……思ったよりも早かった、か」

 

 海の上で、セグウェイ型の機械に乗った人間が呟いた。

 その顔は楽しげだ。周りには一〇人の艦娘達が、命を待つようにして、ぐるりと囲んでいる。

 

「提督、『彼』はどのように?」

 

 青みがかった(ひとみ)と長い頭髪のツインテールの少女が『提督』と呼んで問いかける。

 二航戦、蒼龍(そうりゅう)。正規空母の少女だ。

 

「志島鎮守府あたりに置いておけば良いよ。敵艦はある程度殲滅したし」

 

 提督、と呼ばれた人間はカラカラと笑う。

 蒼龍はそうですか、と話を切った。

 

「待ってよ。焦らないで欲しいね。むしろ本題はこれからなんだから」

 

 そう言って、提督は周りの艦娘らに告げる。

 

「これから面白いことをするよ、あの人間(、、)、科海のジジイをビビらせるくらいのね」

 

 

 

 

 

 

 

 15

 

 

 

 九条日向のまぶたが動いた。

 それは自分の意思で動かしているとは思えないほど小さなものだ。ただゆっくりと、ゆっくりとまぶたが開く。それでいて、数秒はボヤけた視界が目に映っていた。遠近が上手く捉えられていないのか、しかし数秒でようやくピントがカチリとはまりこんだ。

 病室のような、部屋だった。

 

(……ここ、は……)

 

 ここがどこなのか、九条には分からなかった。あるいは見覚えがあっても、その情報を脳内の情報と照らし合わせられなかったのかもしれない。目に映った光景よりも、鼻で嗅いだ薄い硝煙と消毒用のアルコールが混ざったような匂いの方が早く理解出来た。

 

(確か……撃たれて……どうなった、んだ?)

 

 胸や背中に包帯が巻かれている感触があった。おそらく何者かが治療してくれたのだろう。

 部屋の照明は落とされていたが、誰かの気配があった。布団の腹のあたりに、腕のような何かに触れられているのを感じる。目だけを動かしてそちらを見ると、電の姿があった。

 泣き疲れて眠ったような、そんな表情を浮かべていた。

 その事に九条はほんの少し罪悪感を覚えたが、

 

(……、ぁ)

 

 どこかボンヤリとしていた頭が覚醒した。

 意識が活性化し、血液が全身に巡っているのが分かる。

 

 志島鎮守府の奪還。

 戦艦棲姫。

 

 九条は空中に放られて銃器で打たれた時に意識を失ったが、まだ作戦は継続中のはずだ。そうでなければ困る。もちろん、『無事に作戦が終わった』可能性もゼロではないが、しかしそのビジョンは思い浮かばない。戦艦棲姫は正真正銘の化け物だ。戦争経験のない……いや、戦争経験があったとしても立ち向かってどうにかなる訳ではないのが九条には分かっていた。

 

 電が生きている事は確認した。

 だが、島風はどうだ?

 それに氷桜の無事も分からない。

 ベッドから身体だけ起き上がった九条は、頷いた。

 自分に寄り添うように眠っている電をもう一度見て、九条は立ち上がる。

 

(……ゴメン、電ちゃん。でも今は、島風ちゃんを。それとこの戦いでやらなきゃならない事があるから)

 

 痛む身体を引きずりながら九条が病室らしき部屋を後にしようとして、

 

 

「はい、怪我人は寝てください。起きるにははっやーい」

 

 凄い作り笑顔の島風に止められた。

 

 

「……は?」

「いや、だから起き上がるには早いって」

 

 ギクリと身体を凍りつかせた九条が変な声を出すと、怪訝そうな顔つきで島風が言った。

 いや、問題はそこではない。

 

「え? は? まさか無事に作戦成功した、の?」

「寝ぼけてんですか? 当たり前です、あれだけ戦力揃えてるんですし」

 

 目を何度も見開きする九条に対し、島風はどこ吹く風である。当たり前、と言い切ってから彼女は九条に質問した。

 

「それよりも、何があったんですか? 海岸に流れ着いてたし、身体中傷だらけじゃないですか」

「傷だらけ……? ぁ、そう言えば銃弾の雨に打たれて…………!?」

 

 島風の言葉で思い出した。

 そうだ。

 自分は降り注ぐ銃器の弾幕を身体全体で受けたはずなのだ。つまり、死んでいなくてはおかしい。

 なのに何故自分は生きて、ましてや動けているのか。

 普通なら真っ先に思い浮かぶ疑問だが、何しろ命がけのシチュエーションだったのだ。さらに起き立ての頭では混乱していてもおかしくはない。が、そこでようやく九条は気づいた。

 

 

 身体が痛い(、、、、、)。それも今まで感じたことないくらいに。

 

 

「んぎゃああああっ!?」

 

 突然、弾かれたように浮かび上がった激痛に九条は飛び跳ねた。そして着地、した瞬間に全身が痺れたような痛みがはしる。

 突然の奇行に驚いたらしい島風が慌てて、

 

「おぅっ!? 司令官、無理は良くないですッ! だから早いって言ったじゃないですか!?」

「おごっ、おごごごごごごっ!? い、今まで感じたことのない全身の筋肉痛的な何かがーッ!?」

 

 たまらず叫んだ九条を島風が支える。そんなバタバタと煩くしてしまったからだろうか。うぅ、という声がベッドの方から聞こえてきた。

 顔だけ動かしてそちらを見る。

 

 

「……、ぁ」

 

 目をこすって眠そうな声を上げて、電がこちらへ顔を向けていた。九条の顔まで目が動いたとき、彼女は覚醒したらしい。

 ッ! と声にならない声を上げて、次の瞬間には九条の懐に飛び込んできていた。

 

「司令官さんっ!!」

 

「ぃゃ待て電ちゃん今はうぎゃあああああっ!?」

 

 

 現場は混沌(カオス)だった、と後に九条は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、結局何があったんだ?」

 

 

 あの騒ぎから二〇分、ようやく落ち着いた九条はベッドの上から二人に尋ねた。

 

「何があったも何も、普通に全滅させて終わりです。あとは周辺の哨戒と残党の処理をしていましたが、それらにも問題はありません。むしろ問題なのは司令官です」

「島風ちゃんの言う通りなのです。さぁ司令官さん、吐いてください。何があったのですか? 妖精さん達の説明は受けましたが、よく分からなかったのです」

「ぃゃ、その前に今日はいつだよ。同日なのか?」

「残念、翌日です。本部へは私が連絡しておきました。司令官が起きるのが遅かったので」

 

 色々と聞きたいことがあったが、二人の剣幕が物凄い。とりあえず翌日であることは分かったのだが、いかんせん外は暗いのでそんなに時間が経過したようにも思えない。

 というか海岸に流れ着いていたとのことだが、あの状況でどうやって自分は助かったのだろう、と九条は考えてみる。

 

(……つーか、吐けって言われても。船を駄目にしたことをあんま口に出したくないんだけど)

 

 怒られそうだ。

 というか最新型の船なんて、それこそ数百万じゃ済まないだろう。鎮守府への侵入という罪に加えて、器物破損(最新型の船)が増えたことに軽く絶望感すら感じた。

 もう、一生鎮守府でただ働きをしなければいけないんじゃないだろうか?

 

(い、いやまさか……。でも完全に壊されてたし)

 

 自分の身体の怪我よりもそちらが気になってしまう。

 と、そのときカラン、と何かが地面に落ちた。

 

「ん?」

 

 ベッドのふちに当たって地面に落ちた何かを拾い上げようとして、先に電が拾い上げた。

 

「はい、落としたのです」

「うん、ありがとう電ちゃん」

 

 受け取って何を落としたのかを確認する。ヒビが入った『ソレ』は、触れるたびにボロボロと崩れていた。

 

 ーーーー勾玉。

 

(……ぁ、そう言えば)

 

 それを見て、九条は思い出した。

 この鎮守府に来て、間もない頃。無人島と言われていたこの島に似合わない古ぼけた神社があったことを。

 その中で黒髪の女性と出会ったことを。

 

(ーーーーあの時の、か)

 

 首からかけるタイプの勾玉の中心に弾丸のカケラが突き刺さっていた。そこからヒビが広がっている。

 初めてもらった時は淡い蒼色を放っていた勾玉にはもはや光は存在しない。それどころか、何百年も昔の遺物であるかのような風化を感じさせた。

 

「勾玉、ですか?」

「あ、あぁ」

 

 あれ、こんなに古かったっけ? と首をかしげる九条が持つ勾玉を見て島風が問いかけた。

 

「うわ……凄いのです。これ、多分私達が船だった頃。それよりも昔に作られたものなのです」

「そうですね、見た感じ突き刺さった破片は昨日のものと見た方が良さそうです……」

 

 昨日のことを思い出したのか。苦虫を噛み潰したような顔をする島風。電も複雑そうな顔を浮かべていた。

 

 

「…………、」

 

 黙り込んだ九条はそっと勾玉を撫でてみた。

 つい昨日まで保っていた新品さはない。代わりにあるのはザラザラとした感触だった。

 

『海での危険を一度だけ無くせるわ』

 

 あの言葉を思い出すなら、あの銃撃の雨を防いでくれたと言うのだろうか。

 本当に効果があるのかは分からないが、まるで役目を終えたかのように勾玉は風化してしまっている。

 ジッと勾玉を見つめていると、少女達がそれぞれぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。九条はわずかに目を細める。

 

 神様が身近にいるとは思えない。

 だが。

 電、島風、鎮守府に残してきた彼女達ーーーーこういった人達と再び出会わせてくれる機会を作らせてくれたのが勾玉をくれた女性のおかげだというのなら、九条は素直に神様に感謝しようと思う。

 そして。

 生かしてもらえた幸運を、二度と失わないように守る。

 何があっても。

 

 勾玉をくれた彼女からのチャンスを活かしてみせる。

 

「……? どうしたのですか、司令官さん。真剣な表情で」

「きっとアレでしょう。勾玉に何かしらの思い出があったんじゃないですか? ほら、勾玉をギュッと握ってますし」

 

 ある意味な、と九条は少しズレた島風の言に頷いた。

 とにかくにも生き残ったのだ。

 もう一度、最高の未来(ハッピーエンド)を目指すところから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 






やっと二日終わった(九条君が寝てたおかげ)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25 後半戦(三人称)

タイトル詐欺も極まれり、というツッコミは置いておいて。
いい加減日記に戻らねば本当にタイトル詐欺ですね。
……本当に終わらないなぁ。

それと、UA三〇万突破ありがとうございます。





 

 

 

 

 16

 

 

 

 翌日の☆月L日、天気超晴れ。

 濃霧の中での奪還作戦というおよそ平凡とは程遠い場所へと放り込まれた九条はしれいかーん、という女の子のミルキーボイスで目が覚めた。

 

「……、何だ。今のドリームボイス?」

 

 九条は半分寝ぼけたまま、うっすらと目を開けた。体に掛けていたタオルケットが横合いでくしゃくしゃになっているのが見える。

 女の子の声は扉の向こう側から聞こえたみたいだった。

 寝そべっている九条の視界に映るのは病院のような一室。床は真っ白のペンキで塗られていて、天井には真新しい小さな蛍光灯。少し鼻を動かすと硝煙と磯の香りがした。

 志島鎮守府。ややあった末にいつの間にか奪い返していた鎮守府である。

 

「……、そっか。奪還しに来てたんだっけかー」

 

 九条はぼんやりする頭で、ぶつぶつと独り言を呟いた。

 そして起き上がろうとして、胸がチクリと痛む。が、今はそれよりも眠気が増していた。

 今何時だ? と時刻を確認すると朝の四時。

 

(う、ぁ、ねみー……)

 

 起きるには早いな、と九条はタオルケットを頭から被って再びまどろみに身を任せた。

 最近は朝から晩まで。それこそ受験前の学生並みの遅寝早起きを繰り返していた九条にとって、眠気は敵である。が、昨日怪我をしたこともあって仕事も任されないだろうと睡魔に甘んじたのだが、その時また『しれいかーん、起きてー』という女の子のモーニングコールが扉を突き抜けて廊下の方から飛んできた。

 うつらうつらと、朝から女の子が起こしに来てくれるとかソイツマジ羨ましいな、と考えていたが、

 

(あれ、司令官って確か俺しかいなかった気が……)

 

 ふと疑問に思った瞬間、ズバーン!! という大音響と共に部屋の扉が開かれた。

 何事!? と九条がベッドから飛び起きようとする前にちょこちょこと女の子の足音が近づいてきて、

 

「朝です司令官! 起きるのおっそーい!!」

 

 耳元で可愛らしい女の子のステキボイスが『鼓膜(こまく)』に突き刺さった。

 うぎゃあ! と耳の奥にまで直撃した女の子のハイパーボイスに九条は悲鳴をあげる。マンガやギャルゲーなら完全に役得なイベントの筈なのに、どうしてだろう耳が痛い。

 九条は両耳をおさえて、若干涙目で声の主を見上げた。普段ならおっそーいというフレーズで大体の想像はついていたのだが、耳をつんざく声でそこまで頭が回らなかったのだ。とにかく眠い、一刻も早くこのどうでもいい茶番を終わらせたい。

 九条は一瞬だけ腕に力を込めると、

 

「……、おはようございます、そして安眠をよく邪魔しやがったなコラァ!!」

 

 勢いよく叫んで、ガバッと起き上がった。軽く押すように腕を振り回したことで、女の子がきゃあ!? という悲鳴をあげて転がるのが分かる。

 ようやっと出来た安眠タイムを邪魔したのはどこのどいつだ、と怒り心頭で九条は朝早くから起こしに来た女の子を見る、と

 

 

 地面に転がっていたのは島風(しまかぜ)だった。

 

 それも、以前言いつけた上着を羽織っていない。最初に出会った時の過激満載(、、、、)の服装の姿である。

 

 更に言えば、転がったことでただでさえギリギリだった服がはだけて、とんでもないことになっていた。

 

 

「いったぁ。ちょっとー、せっかく起こしに来たのにその反応はなんですか?」

「………………、おぅ」

 

 目が覚めた。完全に。一瞬で眠気が吹き飛んでしまった。

 島風。初めて出会った時から過激な。見るからに大人(バカ)服と分かる衣装に身を包んでいた少女。この間、九条の鎮守府に加わったばかりだが大和さん曰く練度はかなり高いっぽい。まぁそんなことは置いておいて、九条はまず何よりも言いたいことが出来た。

 

「え、っと。とりあえずだな、服を見ろよ」

「なに? え? どこかおかしいところでも…………?」

 

 背後を向いて、九条が言うと島風は怪訝そうな声をあげた。

 

「え、だから服。まずそれをなんとかしてもらわないとそっち見れない」

「はぁ、ナニ言ってんですか? 確かに言われてた上着は着てませんけど、見れないほどの衣装じゃ」

 

 

 そこで島風の声が固まった。ようやく、事態を把握したらしい。

 ぁ、という分かりやすい声に、九条の全身から鳥肌が立つ。

 どこか、ビクビクとしながら九条ははちょっと考えてみる。

 

 

 Q、さっきの惨事は一体誰のせいなのか。

 A、九条日向。

 

 

(いや完全に俺のせいだよまさか俺の犯罪歴に不法侵入に加えて器物破損、それに婦女暴行までつくなんてシャレにならねーよマジでここはジャパニーズ土下座をするべきかでも許してくれたら嬉しいけど許してくれなかったら……くれなかったら?)

 

 ……。

 …………ああああああっ!?

 

 はっ!? と。数秒間沈黙していた九条は、そこでようやく現実へと帰ってきた。

 九条は可能性として存在する最悪の未来(バッドエンド)を振り払うべく絶叫してみる。

 

「う、ぐ……あぁもう! 見せてやるぜ大和魂! 九条日向はやるぞ、やってやるぞーッ!!」

「司令官、うっさい」

「くそ、昨日俺は決めたんだ。最高の未来(ハッピーエンド)を目指すと! だからこんな最悪の未来(バッドエンド)は絶対に認めない! あっ、そうか分かったぞ! これは罠だ! L的な誰かの後任が俺に仕掛けた罠なんだろこれーっ!」

「朝からテンションが高すぎるよー……。寝起きからハイテンションになるまではっやーい」

「誰のせいだと思ってんだ!?」

「知らないです」

 

 そして島風はよく分からない顔で考え込むように顎に指を当てて、

 

「ってか、服なら気にしてませんからとっとと起きてください。あと少しで増援が来るらしいですし。それに見張りしてたから眠いんですよ……ふぁあ」

 

 それだけ言うと島風は外へ出るために扉の方まで行って、

 

「そう言えば深海棲艦も反撃に出てくると思いますので、来たら起こしてくださいー……」

 

 真面目な顔でそれだけ言うと島風は行ってしまった。

 どうなってるんだ? 許されたの? と九条は出口の扉の方を眺めてみる。

 

(……、えっと。許されたのか? つまり俺の余罪に婦女暴行は加わらない?)

 

 よく分からないままとりあえず許されてよかったーと、九条は仕事着に着替えて部屋の外に出た。

 長い直線の廊下を歩くと、潮風の影響なのか比較的新しいにも関わらず、ペンキがはがれている部分があった。

 指令室への階段は廊下の突き当たりにある。

 九条がそちらへ向かった所で、後ろからがちゃりとドアが開く音が聞こえた。

 

「ぅ……おはようございますぅ。司令官さん」

 

 電の声だった。

 (いなづま)。眠そうな目をこする彼女は、見た目相応の女の子だ。まだ小さいのに頑張り屋で、他の姉妹達と一緒によく働いてくれている。それはそれで労働基準法違反に引っかかっている気がしないでもない九条だが、少なくとも今の鎮守府にとっては重要な人手だった。

 そんな彼女はまだ四時にも関わらず起きてきて、

 

「ん、おはようーーーーって、あれ?」

 

 何気なく挨拶を返して九条は疑問を持った。

 

「ぅ? どうしたのです司令官?」

 

 電は疑問の声をだす。その疑問の声を出した電に対して、九条は逆に疑問の声を上げた。

 

「ぃゃ、まだ朝早いからさ。別に寝ててもよかったんだよ?」

「そんなのダメです。仕事なのですぅ、から」

 

 トテトテと自分よりも小さな女の子が歩いて行く姿を見て九条は思った。

 あんな小さい子が頑張ろうとしているのに自分は寝ようとしていたことがひどく恥ずかしい。

 というか九条の脳内天使と悪魔は言う。

 働け、と。仲良くハモられた声に深く同意せざるを得ない九条だった。

 

 

 

 

 

 

 17

 

 

 

 

 

 人間、意欲を出したその時には既に手遅れであるという話を聞くことがある。

 その言葉通り、やる気を出した九条を放ったらかしにして、奪還に成功した志島鎮守府にとある客が来訪していた。

 

 

「まさか本当は落とすとは思ってなかったが、とりあえず増援にきた。つーかどんな魔法だよ」

 

 そう、横須賀提督による増援である。そしてもう一人、

 

「よう、演習ぶりだな。まぁ私を倒したんだからそれくらいやってもらわねーとな」

 

 桐谷理沙。むしろこちらが増援の本隊なのだが、九条にとってはどうでもいいことだったので置いておこう。

 で、何故二人がここに来たのか分からなかった九条は尋ねる。

 

「えっとー、何故お二人はこちらに?」

「俺はここ経由で行く場所があってな。あぁ安心してくれ、ちゃんと第一艦隊はここに配備させておくから」

「私はお前の補佐だな。階級上は私のが上だけど、認めたくないけどお前の方が実力は上だ。交代要員とでも思ってくれればいい」

 

 どうやらそれぞれに目的があったようだ。という理沙提督、ジョークは止めてもらいたい。なんと言うか嘘を吐いているように見えないから少しビビる。

 まぁともかく、指揮権は理沙提督の方へ移ったのだと理解した九条は安堵の息を漏らした。

 

「まぁ助かりました。流石に三人じゃどう足掻いても鎮守府は回せないですし」

「あー……まぁそうだな。お前の膝の上のやつが何よりも証明してくれてるぜ」

 

 理沙提督が九条の膝を指差す。

 その上で、電が座って寝ていた。つい先程まで一生懸命働いてくれていた彼女だが、横須賀提督達が来た後は暇になったらしく、うつらうつらとしていた。近くに引き寄せたら身を預けるようにしてクークースースーと寝だしたので、以後そのポーズのままである。

 その姿はどこか保護欲を誘うものがあった。

 

「最初からウトウトしてるなーとは思ってたけどな」

「……頑張ってくれてましたから、仕方ありませんよ」

 

 優しそうな笑みを浮かべる横須賀提督。橘提督に対し、九条も優しい笑顔を浮かべる。

 軽く頭を撫でると、小さな手で九条の服を掴んできた。

 

 

「とりあえず、早速ですが指揮をお願いしても良いですか? 電ちゃんを寝かせてあげないと」

「あぁ、この桐谷理沙様に任せておけっ!」

 

 ドン! と大きな胸を張る理沙提督に橘提督と九条は目を背けた。

 そのまま九条は部屋を退室する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電を部屋に寝かせてきたあと。

 九条は、空いている時間に仕事をこなしておこうとパソコンを開いた。

 自分のパソコンは船と一緒に大破したので志島鎮守府の備品を借りている。

 

(……えっとパスワードパスワード)

 

 海軍で使用されるパスワードは一つたりとも同じものはない。それぞれの鎮守府の機密情報でもある。

 当然、九条が志島鎮守府のパスワードを知っているはずもないのだが、それは問題ない。事前に元帥から預かっていた資料があるからだ。

 

(ほいっと。じゃあ経過報告から)

 

 本来、機密を漏らす可能性がある資料など作られたりはしない。が、そんな事にも気付かない(、、、、、)九条は『手書きの資料』に書かれた通りの動作をして、

 

「ーーーーあれ?」

 

 疑問の声を上げた。

 その声はパソコンに表示された『音声ファイル』に向けられている。まさか音声で指示するから、終わったら消せと言いたいのだろうか、とちょっと考えて首を横に振った。

 

(……おいおい、音声でって機密情報じゃねえんだから。ってか何でお手伝い要員兼、提督(仮)のはずの俺がここにいるのかも分かんねーけどさ)

 

 ともかくにも出てきたのなら仕方がない。

 とりあえず開いてみるかー、とイヤホンをつけた九条はその『音声ファイル』を再生してみる。

 

 ーーザザッ。

 

 開いた瞬間、ノイズのような音が聞こえた。イヤホンをしているので少々耳が痛い。

 背景からはドンドンバンバンとまるで大砲の打ち合いでもしているかのような音が響いていた。

 ざザザざザざざ、と絶え間なく続く不気味に思わず背筋が強張る。

 そして、九条は聞いた。

 

『ザ……早、脱出…ゾザザ! 静寂島ざザざザザ!』

 

 ノイズの中から聞こえる声を。その声は真剣さを孕んでいていた。断片的に『脱出』、『静寂島』と聞こえたが。

 というかこれは本部からの資料ではないのか?

 もしかしてこれは、志島鎮守府が襲われた時の音声ではないのか?

 

(まさ、か? ってか静寂島って……確か近くに無かったか?)

 

 その時、一際大きな破壊音が聞こえた。

 ズドンッ!! という爆発音だ。もしこれが志島鎮守府が奪われた時の音声だとするなら、建物が破壊されたらしい。昨日見て回った時に見つけた、鎮守府内の破壊された場所の光景が頭に浮かぶ。

 確か、今も瓦礫の山が残っていたはずだ。

 

『ッ! ザザザッ撤退、総員静寂島、ゾザザザザザッ!」

 

 

 そこまで言って同時。

 音はなく、いきなりブツッ! と音声が終わった。つんざくというよりは、映像が途切れたように。

 

「………………ッ!?」

 

 九条は、全身の血管にドライアイスでもぶち込まれたかのような悪寒を覚えた。

 ゾグン、と。得体の知れない感覚に戦慄する。

 

「ま、さか。って事は今、静寂島に……ッ!!」

 

 その時、九条は思い出す。確か静寂島には九条の知り合いが住んでいたはずだ。

 深海棲姫(しんかいせいき)だったか。珍しい名前の女性が。それと同時に九条は気付く。

 

(ーーーーや、ベェ。この辺りって静寂島しか無人島なかったよな? まさか深海棲艦の連中、静寂島に行ってねぇだろうな……ッ!!)

 

 嫌な予感が加速する。そう言えばそうだ。ここら辺に拠点となりうる場所など、静寂島しか存在しない。

 万が一の避難場所としてもだ。

 そもそも敵がどこから来たのかを考えればそんなの一発だった。何故、気付けなかったのか、それが分からない。

 

(ぃゃ、まだそうなったとは決まってない。とりあえずメモだけ書いて様子見に行って)

 

 慌てて九条は立ち上がる。

 ともかく戦いは本職に任せよう。二人からは休むように言われたし、その時間を有効活用してやればいいのだ。

 最低限の自衛の装備だけをどうするか考えて、

 

(……ぁ、そう言えば船)

 

 船がぶっ壊れるどころか修復不可能なところまで壊されたことを思い出す。

 というか船の操縦が出来ないのも忘れていた。とりあえず妖精さんを呼ばないと、と九条は廊下に出る。

 が、さらなる問題が発覚した。

 

(……っつっても、どこにいるのかが分からないんだよなぁ)

 

 そう、妖精さんがいる場所が分からないのだ。工廠(こうしょう)という場所にいるとは聞いたことがあるのだが。

 

「ぁー……」

 

 九条は溜息のような声のような音を出して、一人考えた。

 戦場にいる者にしては、あまりにも無防備すぎる仕草で。

 そこで九条は思い出す。そう言えば、昨日使っていたモニターは今もあった気がする。確か船を簡易運航させるための道具だとか説明を受けたので、恐らくあれならば問題なく行けるのではないだろうか。

 

 素人丸出しの、馬鹿みたいな考え。ついでに犯罪であることにすら気付かないまま九条は歩きだした。

 

 

 

 

 

 ーーーーその無防備な少年を、『視線の主』はジッと見ていた。

 視線の主は、鎮守府の床下に隠れていた。海の近くというのは砂と湿気の侵入を防ぐため、大抵が床下の高さは七〇センチくらいある。

 床と床板を透視(とうし)していた、『視線の主』は少年を見た。

 

「……提督、見つけたよ」

 

 橙色セーラー服と黒スカートに身を包んだ茶髪の少女は、透視用ゴーグルを目から離した。音一つ立てずに床下を歩き回る姿はさながら忍者といったところか。床下に入るという、大概の人は嫌がりそうなことをしているにも関わらず、少女は楽しげな笑顔を浮かべている。

 

「うん、予想通り見つけてた。提督が言ってた役者が揃う(、、、、、)までそんなに時間は要らなそうだよ」

 

 通信用のマイクに小さな声で彼女は言う。その声からは楽しさが溢れていた。

 移動する少年の後を追いかけながら、彼女はその様子を嬉々として眺めている。

 

「へぇ〜、あの人がねぇ。私にはそうは見えないけど、提督が言うならそうなのかもね」

 

 耳に届く提督の声に思わず気分が高まる。このような夜戦にも似た暗がりでの仕事も好きだが、それ以上に彼女は提督との会話が好きだった。思わず我慢仕切れなくてフフッ、という笑い声が漏れてしまう。

 

「分かってる。ちゃんと見張っとくから、帰ったらご褒美に夜戦しましょ? な〜んてね」

 

 そう言って、『彼女』は提督との連絡を切った。

 『彼女』川内型軽巡洋艦(せんだいがたけいじゅんようかん)川内(せんだい)は少年の後を追うように走り出した。

 

 

 

 




「一言」、一日が濃い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26 後半戦(三人称)②

ちょっと間が空きました。
実は新しいゲームを買いまして、ハマっていたり。
それから夏に向けて賞へ出す小説も書かねば(大賞ではなくプロの意見を聞きたいがため)



 

 

 

 18

 

 

 

 

 朝から志島鎮守府はてんてこ舞いだった。

 

「理沙提督! 鎮守府の修理のための資材が足りません!」

「理沙提督! 大変です、本部への連絡機器が一部を残して破損しています!」

「理沙提督! 一大事です! 九条提督が消えました!」

「あーもう! 連絡は一人ずつ言え! 私は聖徳太子じゃないんだぜ!?」

 

 これでもか、と舞い降りる事案についつい叫び返す。というかこれほどの問題が起こっていることに逆に恐怖すら浮かんだ。

 理沙提督はうっとおしさを感じつつ、それでも的確な指示を各自に飛ばす。

 

「資材はドックに緊急用のがあるからそれを使え、連絡機器は持参したのがあるだろ? 無けりゃ九条提督のか冬夜のを借りろ! んで九条提督が消えた……?」

 

 と、ここで指示を出す声が止まる。

 ギョッとしたとも言えた。

 

「あー……どっかにいるんだろ。もしくは寝てるとか」

「隅々まで探しましたが見当たりません! 代わりにこのような手紙が……」

 

 言われて、手紙を受け取る。クマさんのシールが付けられた封筒だった。取り出すと差出人には、『九条日向』とやけに達筆で書かれており、『後任の提督さんへ』となっている時点で嫌な予感がしてきた。というかクマさんのシールが某弾丸で論破するヤツの『モノクマ』のシールであることにこれ以上ない悪意すら感じてしまう。

 

 ちなみに手紙には、

 

『拝啓、後任の提督様。

さて、恐らくあなたがこの手紙を見ている頃、私は静寂島にいると思います。

実は知り合いがその静寂島にいるらしく、安否を確かめたいのです。

とりあえず、鎮守府の引き継ぎやら何やらは全て権限を譲りますのでよろしくお願いします。それと、私の考えですが恐らく敵の残党が静寂島にいる可能性もございますので、その確証も見つけてまいります。

ご迷惑をお掛けしますが、何卒よろしくお願いします』

 

 腹が立つほどの達筆で書かれていた。

 そして手紙の最後には可愛らしいキャラクターっぽいのが「よろしくお願いします」と言っている絵が描かれていた。

 理沙提督は黙り込んで、

 

「って黙れるかこれえええええっ!?」

 

 叫んだ。もう、なんか駄目だった。

 我慢出来ないとかではなく、意味不明だった。

 

「ちょっと待て、この手紙通りならあのバカ静寂島に居んの!? というかまだあそこの深海棲艦の掃討してないのに何考えてんだアイツ!? ぃゃ、落ち着け桐谷理沙。敵が居るかもと考えているなら駆逐艦達を連れて行って……」

「うわぁっ! 完全に寝てしまったのです、ゴメンなさい提督さんーっ!!」

「ふぁあ……朝か。とりあえず二時間は寝たし働かないとって誰ですか?」

「………………、」

 

 居た。いやがった。

 そのことに理沙提督は驚愕を禁じえない。というか一瞬、死にたがり野郎なのか? と考えてしまう。

 それともマゾヒスト、と考えたところでハッ!! と理沙提督は現実に戻ってきた。

 

「ぁ、ぁぁああああッ!!」

 

 慌てて叫んで、取り乱しながら理沙提督は叫ぶように命令を下す。

 

「第二艦隊! それからそっちの二人。静寂島へ出撃するぞ!! 九条提督の命がガチでマッハでヤバい!?」

 

 

 

 

 

 19

 

 

 

 

 噂の彼。九条日向は、朝日が射す静寂島の上に立っていた。

 朝、ここへ来ることを決意してそれから何事もなく島へは辿り着けてしまったことに拍子抜けした九条なのだが、島の惨状を見てそんな考えが粉々に砕け散る。

 

 その小さな島は、不自然なほど静まり返っていた。島の一部が抉り取られたように破壊されていることもあるが、それ以上に『何があった?』という疑問が大きい。惨状を眺めながら、九条は切れ切れの言葉で疑問をぶつけた。

 島の抉り取られた一部には海水が侵入し、湖のようになっているほどだった。特に目を引き付けるのは、島にあった標高一〇〇m程度の山。そこに大穴が開けられていることで土砂が流れている。

 危険地帯、という言葉が九条の頭をよぎった。

 

「……深海棲艦に襲われたってのか? それとも戦艦棲姫(せんかんせいき)

 

 口に出された言葉には、つい先日の接触による実体験が存在する。

 

「いや、言ってても仕方ない。ともかく何があったのか調べないと」

 

 頭を横に振って、乗ってきた船から装備を取り出す。『戦うため』ではなく『逃げるため』の装備を。妖精さんに必要最低限、と頼んだので渡された装備に不要なモノは無いはずだ。ついでに使用法も全て事前に調べてあるので頭に入っている。

 九条は辺りを見渡して、

 

(やっぱり、深海棲艦の残党がここに? でも何で『深海棲艦』が陸上に拠点を持とうとしたんだ? ……、人間を全滅させるためなら『本土』を直接狙った方が早いのに)

 

 浮かぶのは疑問。

 

(本来ならさっさと逃げ帰るのが正解なんだろうし、俺自身逃げたいが……駄目だ。ここには深海棲姫さんが居るって話を聞いたし、知っている以上見捨てちゃ駄目だ。例え(仮)だとしても俺は提督なんだし……。だから)

 

 九条は顔を上げる。

 それからあちこちを見回すと、やがて一点に向けて走り出した。

 

 

 

 

 20

 

 

 

 (たちばな)提督は武蔵野鎮守府を訪れていた。

 事前にアポは取っていないが、門にいた艦娘に身分証明書を提示して『……横須賀鎮守府の橘だ。武蔵野鎮守府の柴田提督に火急の要件がある』と、真剣さを孕んだ声で開けさせたのだ。今は案内役の艦娘に案内されているので、おそらく武蔵野提督には会うことが出来るだろう。

 残してきた理沙提督が気になるがそちらに意識を割いても仕方ない。

 

 橘提督は通路の角を曲がり、廊下の先を見た。

 窓から入る光が反射し、自然の光を最大限に取り入れた気持ちの良い直線通路は、鎮守府のモノにしてはやけに小綺麗で、美しい。機能的には良いと思うが、海に近い鎮守府としては少々……というか珍しい造りだった。

 

「あの、横須賀提督殿」

「ん、なんだ?」

 

 唐突に話しかけられた橘提督が聞き返す。

 すると案内役の艦娘が、

 

柴田(武蔵野)提督には何のご用件でしょうか?」

「……ちょっとした問題がな」

 

 意味深なニュアンスではぐらかすと、艦娘の方は疑いを向けた視線を橘提督に向けてきた。

 実を言うと、話す内容は決めていた。が、それをここで口にすることは出来ない。実際、今も緊張で心臓はバクバクいっているし、今こうしている瞬間も無茶苦茶勇気が必要だった。

 だが、それでも疑問に思ったことを聞かずには居られない。

 

『武蔵野提督が何を考えているのか。何故深海棲艦を煽るような行動を起こしたのか。氷桜が何故ああまでアッサリと敗れたのか……、本当に武蔵野提督は人類の味方(、、、、、)なのか?』

 

 必要最低限まで絞っても、これだけ武蔵野提督には尋ねたい。そもそも最初の敗れ方の時点でどこか陰謀めいているのだ。深夜だからこそ外への注意は強めに行われているというのに。

 

(……疑問点をここで解消する必要がある。そうじゃなきゃ、俺は。横須賀鎮守府の提督として失格だ。現在(いま)の海軍で何が起こっているのか。それが分からなきゃ提督として居ていいわけがない)

 

 橘提督には夢、というか目標がある。

 それは、守る(、、)ことだ。

 自分の鎮守府を、家族を、世界を、自分に関わる人々を。

 日常を過ごせば過ごすほど、彼が守りたい人達は増えていった。艦娘は勿論のこと、自分の家族や知り合い。友達に先輩に。

 

 橘提督は嫌だ。

 自分の知らないところで誰かが苦しむのが。

 苦しんでいるのに何も言わないまま潰されていくのが。

 

 だからこそ、知る必要(、、、、)があった。

 

(……海軍に入ったのもそれが理由だったっけな)

 

 注意しながら辺りを見渡して安全を確認しながらも、相変わらずいつバレるか気が気ではない。ズラリと並ぶドアの奥、直角に曲がる通路の死角、そういう所に橘提督がここに来た理由を知っている誰かが潜んでいるような錯覚を感じた。

 

 それから急な階段を使って上に向かう。

 二階部分の通路は、一面に窓が並んでいた。それから小さな部屋……恐らく艦娘達が使用しているであろう部屋が見える。ドアには艦娘が書いた可愛らしい文字のパネルが付けられていた。

 一階部分が来客用などの部屋や会議室が多いのに対し、二階は小さな部屋を多く作っているようだ。

 

「……ん?」

 

 と、橘提督は何気なく窓の外へ視線を投げた。

 案内役の艦娘が、

 

「何か?」

「ぃゃ、あそこでやってるのは演習かなって?」

 

 指をさした先には、大きな演習場で鍛錬に励む艦娘の姿。正確な狙いで射撃し、素早く動き回る様子はまさに圧巻と言うべきか。とてもではないが、橘提督の艦隊はここまでの練度に達していないと言い切れる。

 塔の上から景色を見下ろすような感じだが、眼下に広がるものは本当に素晴らしいものだった。

 

「あれが、武蔵野提督の第一艦隊か……」

「全員ではありませんが。あそこの四人は第一艦隊ですね」

 

 指差された方を見ると、扶桑(ふそう)姉妹と古鷹、それから睦月の姿が見える。

 

「レベルの差が知りたくねぇ……。やっぱ大将ともなるとレベルが段違いだな」

 

 それを指揮でひっくり返せる九条は化け物だ、と断定して橘提督はため息を吐く。

 それから再び長い廊下を歩いていると、最深部に内観に似合わない鋼鉄のドアがあった。

 堅牢、という言葉が似合いそうなドアだ。少なからずドアを壊すより壁を壊した方が侵入しやすそうな。「こちらです」、という艦娘の声に頷いて、橘提督はコンコンとドアをノックしてみる。

 返事はすぐに返ってきた。

 

「ーーーーどなたかな?」

「横須賀鎮守府の橘提督です、武蔵野提督に要件があり参りました」

 

 正直に答えて、橘提督は直立不動する。心臓がバクバクと鳴り止まず、全身から嫌な汗がびっしょりと浮かぶ。

 そのまま固まっていた橘提督はゴクリと唾液を飲み込んだ。

 それから数秒。

 

「ーーーー誰も近付けぬようにしなさい。それと横須賀提督を中へ」

「はい、承りました。では許可が出ましたので」

「あ、あぁ」

 

 軽く腕を引っ張られた橘提督は少し動揺する。

 と、重苦しい音を立てて鋼鉄のドアが開いた。ギギギギギィ……と音を立てて開く様は、開かずの間を開けたような感覚がする。

 そして中へ入れられたと同時に案内役の艦娘によってドアが閉められた。

 

 そして部屋の中に入ってから橘提督は気付く。

 

 

「ようこそ、と言っておこうか。横須賀提督」

 

 低い、それでいて突き刺すような男の声。

 そして。そうして。ゆっくりと顔を上げた橘提督の前には、腕を組んだ大男が立っていたーーーー否、橘提督の方へ歩いてきた。

 

「……っ」

 

 思わず身構えそうになって、止まる。海軍の服装に身を包んだ貫禄ある大男。彼が(まと)う覇気はおよそ普通の人間のものではないが、それはあくまで自分自身が勝手に威圧されていると感じているに過ぎない。

 武蔵野鎮守府の、柴田提督とはそういう男なのだ。

 故に、橘提督は怖気付いてはならない。

 

「聞きたいことが、あって来ました」

「要件、だな。重要案件なのだな?」

 

 振り絞るように言い切った言葉に武蔵野提督が聞き返す。それに対して、橘提督は額に汗を浮かべながら頷いた。

 

「……はい、凄く。それこそ海軍自体が大幅に変わってしまうかもしれないくらいに」

「成る程。聞く価値はあるらしい。で、何用かな?」

 

 そう言ってから「座りたまえ」、と武蔵野提督が席を勧める。頷いてから、座った。

 そして覚悟を決めて、言う。

 

 

「武蔵野、提督。あなたは何を考えてこのような行動に出たのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「一言」九条の犯罪歴が意外に多い件。

①不法侵入
②軍のモノを勝手に使用する
③艦娘へのセクハラ(電ちゃんへのおんぶ)
④恐喝(交渉の際などに無意識で)
⑤器物破損(何千万は軽くいきます)
⑥命令無視(言わずもがな……)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27 後半戦(三人称)『終』

事前に第5話を見直すのをオススメします。
とりあえず大筋はこれで終わりですね。エピローグで残った部分を書きます。
エピローグ終了後に、分かりやすく解説を書き、人物紹介の二章版を書いて終わりですね。

……三章からやっと日記に戻れる!


 

 

 

 

「何が、とは。具体的に教えてもらってもよろしいか? 横須賀提督殿」

 

 

 見下ろすような声が響く。その男、武蔵野提督は続けて、

 

「こちらとしては困惑しているのだよ。横須賀提督、そもそも貴殿の役割は志島鎮守府奪還後の周辺の平定だと聞いたが。まぁキミがここに来たということは何かしらの確信を持ってここに来たのだろうがな。しかし、はぐらかすばかりでは話すものも話せない。何より面倒臭いだろう? わたしは面倒臭いのは大嫌いなんだ」

 

 向けられたのは軽薄な言葉だった。

 橘提督はウッ、と声を上げそうになって堪える。

 武蔵野鎮守府の柴田提督はこう言う男なのだ。だからこそ、面倒を省いて本音を口にしなければならない。

 

「……では、言います。何故九条に対してあのような命令を? まさか貴方ほどの方が彼を追い落とそうなどと考えているわけはないでしょう? 駆逐艦二人での攻略なんて、ハッキリ言えば馬鹿の所業だ。そして元帥が何故その命令を黙認したのか。それが一体どういう事なのか、聞きに来ました」

 

「成る程な、だがそれだけでは弱い。その確認のためだけに命令違反までしてここまで来たと?」

 

「……、」

 

 橘提督は、すでに握っていた握り拳に力を込める。

 しかし誰から見ても、橘提督がこういった会話(、、)に慣れていないのは一目瞭然だった。そもそも横須賀提督はまだ提督になってから二年そこらの男だ。武蔵野提督とでは、根本的な部分で差が存在する。そもそもこのような戦いにおいて勝てるわけがない。アリがゾウに歯向かうようなものだ。

 武蔵野提督もそれが理解出来ていたのか、余裕の表情を崩さない。構えすら取らない。

 

「できればその程度の事ではしゃがないで欲しいものだ。そういう行いは海軍として相応しくない。ましてや現在の海軍は国民の命を真なる意味で担っているのだから。質問がそれだけならばお引き取り願いたいな」

「……志島鎮守府が奪われる前に敵艦隊を煽るような真似をした理由に正当なものがあるのですか」

 

「正当だ。現に我々は志島鎮守府を奪い返し、今現在において安全圏を増やしている。そして横須賀提督、キミが言っているのは間違いだ。私達が行おうとしているのは安全圏を増やす事ではない。その先にあるものだ(、、、、、、、、、、)

 

 その先にあるものとは深海棲艦の全滅を指すのだろう。

 

「深海棲艦を全滅させる、と。志島鎮守府提督の安否すら確認出来ていないのに随分と、余裕ですね」

 

 橘提督は言う。

 だが、同時に失敗したと思った。武蔵野提督とこのまま会話を続け、距離を図るのが常套手段だからだ。よってこのような煽り文句はよくない。

 

「フン、現状我が国が優勢なのだ。その程度の余裕なら存在する。それに散りゆくものには礼を尽くすのが私の主義だ。出来る範囲でだがな。そうそう、元帥も同じような事を言っていたか。彼は決して『優しい』だけの男ではない。キミも目の前で見ただろう、黒鎮守府提督の末路を」

「…………ッ、」

 

 橘提督は反射的に一歩前に進んでいた。

 対して武蔵野提督は動かない。

 何をされても対処出来ると言っているように。

 

「さて、何の話だったか。そう、『今回の作戦』だな。キミも知っていると思うが、あれは元帥も認めた公式の作戦だ。九条提督の指揮に一任した形だが、あれは本来作戦とも呼べない代物だ。九条提督の指揮があったからこそここまで上手く事を運んだが、それが敗れた場合、神無鎮守府も奪われる可能性があった」

 

 言われた橘提督は、ふと眉をひそめた。

 単純に意味が分からなかったからだ。何故、作戦として欠陥であることを認めるようなことを言ったのかが。

 話を聞くべきだと思いつつ、思わず尋ねてしまう。

 

「いきなり何を? 欠陥だと認めているならそんな作戦やってはならないじゃないですか……」

「そうだ。あの作戦は『志島鎮守府奪還』としては決して使ってはならない作戦だよ。だが、少し前に流れた噂を知っているか?」

 

「……少し前? 確か、黒鎮守府提督が深海棲艦と繋がっていた言う話ですか? でもあれはデマだったでしょう」

 

「が、火のないところに煙は立たない。事実、大本営の上層部はこのように考えていたよ。『黒鎮守府は人間側の提督ではなく、艦娘の身体を調べて深海棲艦側にデータを送っていたスパイである可能性がある』とな。事実黒鎮守府にはそれを行ったらしき部屋が幾つか存在していた」

「……、」

 

「しかし、決定打になりうる証拠は残念ながら存在しない。よって最終的に噂をもみ消すことにしたのだ。もちろん、これは『内に潜む真なる敵』を油断させるためとも言えた……結果的に大本営は行動しなかったのだよ」

 

「それと今回の作戦に何の関係が……。しかし」

 

 橘提督が呟くと、武蔵野提督は笑う。

 

「そう、しかし、だ。『深海側のスパイ』は既にこちらが捕らえていた。どれだけ敵側が動いたとしても、敗北しない限りは取り返せない。現在の深海棲艦は人類に敗北し続けているからな」

 

 今の武蔵野提督のセリフには、ある一部に重大な(、、、、、、、、)事実を含んでいる(、、、、、、、、)

 

「そうだ、気付いたな」

 

 武蔵野提督は断言する。

 

 

「捕まえていた、つまりは現在は逃亡している。そして彼が拘束されていた場所は、『志島鎮守府』だ」

 

 橘提督の呼吸が止まる。

 思い出したのだ。黒鎮守府を検挙した時のことを。

 志島鎮守府が中心となり、黒提督を捕縛したことを。

 武蔵野提督は構わずに続ける。その顔に少しずつ、笑みが滲んでいく。

 

「予想はしていた。いや、実際に『深海棲艦』側が彼を奪い返しにくるかは半信半疑だったがね。まったく、辛かったぞ。確証のない作戦を元帥に認めさせるのは。まぁ志島鎮守府提督の彼は、二つ返事で受け入れてくれたがな」

「まさか……ッ!!」

 

 橘提督は思わず叫び声を上げた。

 

「それでは、あなた達は『志島鎮守府』を使って自作自演をしたと言うのですか!? その事を一切知らされていなかった他の鎮守府に大きな迷惑をかけ、九条達に対しては大本営の権力を振りかざして!!」

「あぁ、そうだ。より正しく言うなら国民のためと言うべきだが」

 

 武蔵野提督は笑みを引っ込め、真剣な顔つきで言う。

 あたかも、自分達が正当であるかのように。

 

「作戦は見事に成功したよ。見たまえ、志島鎮守府を奪還された深海棲艦達が今どうなっているのかを」

 

 

 

 

 

 21

 

 

 

 

 

 探していた。

 戦闘の跡が残る静寂島の中を駆けずり回るようにして九条は深海棲姫を探していた。

 少なくとも一、二時間は探したに違いない。しかし、その姿どころか痕跡すら見当たらない。そうして九条日向は島の片隅で座り込んでいた。

 島の端っこで。

 九条以外の人間が存在しないこの島で、たった一人で。

 

 九条日向は精も根も尽き果てかけていた。

 

「……逃げた、ってのか? それなら良いけど、でも」

 

 その視線の先には、レーダー。人間の生体反応(、、、、、、、)を感知するソレに『九条以外の生体反応が存在しない』。

 だからこそ、九条は恐怖していた。

 自分の知らないところで、知り合いが殺されてしまったかもしれないことに。

 

「クソッ、とりあえずもう一度探しに」

 

 レーダーが壊れているだけだと口にした九条は深海棲姫と氷桜を探しに行こうと立ち上がって、

 

 

「誰を探しているのかな? 九条君?」

 

 

 だからこそ、背後からかけられた声に九条は固まった。そのままレーダーに目を向けると、見知らぬ生体反応がもう一人分増えている。

 体ごと振り返ると、そこには九条が探していた人物がいた。セグウェイのような乗り物に乗って、彼は海の上を走ってきたようだった。

 美少年、美少女。どちらの言葉も似合いそうなほど整った容姿をしている人間は、あの日のようにニコニコと笑っていた。

 

 氷桜理緒(ひおうりお)。志島鎮守府の提督である若人(わこうど)は軽く手を上げてはにかむ。

 

「やぁ、九条君。奇遇だね」

 

 と、その背後から何人かの少女達が飛び出してきた。

 

「ひ、氷桜なのか?」

「うん? 氷桜理緒に決まってるじゃないか。まさかボクのこと忘れちゃった? そうだとすると悲しいなぁ」

「いや、そうじゃなくて……良かったよ、見つかって」

 

 あまりに突然過ぎて反応が出来ない。喜ぶのが正解なのだろうが、余りにも当たり前に出て来すぎたせいで実感が無い。

 それでも、九条は笑顔を浮かべて、

 

「本当に良かった。やっぱり予想通り(、、、、)だな」

 

 音声ファイル。アレは本物だったのだ。そして、もう一つの心配も同時になくなった。

 深海棲姫。氷桜がここにいるということは、彼女は無事に救助されたに違いない。となると、島に残っていた戦闘の跡は氷桜が艦娘とやらを指揮して深海棲艦と交戦した証なのだ。

 一昨日、志島鎮守府へ向かった際に敵が少なかったのはきっと氷桜が少しずつ敵を撃破してくれていたからだろう。

 

「へぇ、やっぱり予想通りだったんだね」

「ん、あぁ。お前もそのつもりで残したんだろ? あの音声ファイル。ってかあそこまでヒントあればeasyモード以下だろ?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべた氷桜の言葉に九条は返す。あそこまでヒントを置いてもらえば幾ら何でも分かるものだろう。

 そもそも静寂島へ避難すると言っているのだし。

 

「そうか……元帥や武蔵野提督と協力してもキミは騙せなかったか。まぁこれは元々言うつもりだったしね。一つだけ伝えるなら、作戦は無事に成功したよ。後は戦後処理だけかな。戦艦棲姫もキミを追いかけてきた艦隊が撃破したようだしね」

「作戦……? あぁ、そうだな。今度はこんなことするなよ」

 

 志島鎮守府の奪還のことか。あれは本当に怖かった。

 今度はこのような事が起こらないようにして欲しいと九条は思う。

 

「うん、まぁここまでややこしくする必要はなかったけど。まぁ迷惑をかけたようだから謝るよ。おそらく作戦の正式発表は一週間後くらいになるから」

「あぁ、一般にも同じように公開されんのか?」

「うん、ある程度抑えめにだけどね」

 

 成る程。だが、良い。そんな話よりも先に聞きたい事があった。

 

 

これからどうなる(、、、、、、、、)?」

 

 それを口にした九条の意図は、『志島鎮守府のこれからはどうなるのか』だ。普通に考えてアッサリと敵に敗れたとなれば何かしらの罰が与えられる。

 それこそ提督としての生命の終わりすらあり得た。

 一転して真剣な顔を浮かべた氷桜は言う。

 

変わるよ(、、、、)。間違いなく変わる。海軍だけじゃなく、ボク自身もね」

「……それは、海軍のせいで?」

「いや、ボク自身としての本心だ。一つだけ言うなら、二度とこの作戦は行わない」

 

 そう言って氷桜はニヤリと笑う。

 今度のそれは、作られた笑顔ではなく。本当の意味での笑顔で。

 と、ここで九条は一つ思い出す。

 氷桜の安否は確認した。残るのは深海棲姫。提督である九条は一般人である彼女を見捨てるわけにはいかない。

 

「そっか、じゃあ俺は探してる奴が居るからまた今度な」

「うん、また今度」

 

 そう言って駆け出した九条の背中を氷桜はジッと見つめていた。

 

 

 

 その背後から朝、九条を観察していた川内が顔を覗かせる。

 

「……驚いた。まさか本当に見抜いてたんだね」

 

 川内の言葉に氷桜は頷く。

 

「覚えておいたほうが良いよ、川内。彼はボクよりも格上だ。もしかしたらキミが潜んでいた事をあえて泳がせていた可能性すらあるからね」

「そうだったら怖いなぁ。暗闇を得意とする私としては立つ瀬が無くなっちゃうよ」

「ふふ、彼が例外なだけさ。と、蒼龍、少し来てくれないか?」

「はい」

 

 川内といくつか言葉を交わしてから、氷桜は蒼龍を呼んだ。無駄のない動きで近付いてきた蒼龍に氷桜は言う。

 

「少しばかり(ハエ)が煩くていけない。無力化してくれないか?」

「はい、かしこまりました」

 

 言われて蒼龍は一本の矢を放った。その矢は真っ直ぐ飛んで行き、空を飛んでいた黒い塊(、、、)を貫く。

 

「……支配完了、あちらには事前に録画した映像を流しておりますがよろしいですか?」

「あぁ、これで武蔵野提督には聞こえないね」

 

 武蔵野提督が放ったと思われる『監視』を無力化し、ようやく氷桜は安堵の息を漏らした。

 そのまま、空に向けていた視線を艦娘達の方へ落とす。

 

「さて、捕らえた黒鎮守府提督は今どこにいるんだい? ボクが志島鎮守府を囮にして逃亡中の黒鎮守府提督をおびき出す、なんて欠陥作戦に手を貸したのは全て彼を調べるためなんだから」

「彼は地下拠点に。そして彼を調べるため、とは?」

 

 蒼龍の質問に対し、氷桜は答える。

 

「簡単な話さ。彼が深海棲艦側なら、一体彼は何者なのかってね? 今までは本部の人がいたから不可能だったけど、海軍にさえ公表していない地下でならそれが可能になる。ーーもし彼が深海棲艦で、人間に擬態(ぎたい)した存在だとしたら? という質問に対する答えをね」

「……まさか昨日、科海元帥を驚かせるといったのは」

 

 驚いた声を上げる蒼龍に対し、未だ不明点が多い若人(わこうど)は答える。

 

 

「ーーーーさて、ね。キミの想像に任せるよ」

 

 

 

 

 22

 

 

 

 全て、見ていた。

 武蔵野鎮守府に映し出されたモニター。そのカメラに捉えられた映像で、ようやく橘提督は真実(、、)を把握した。

 それは。

 決して良いものではないのだろう。

 しかし、橘提督は知ったのだ。

 

 まず、見せられたのは静寂島での光景だった。

 

『クソッ、とりあえずもう一度探しに』

 

 切羽詰まったような素振りで立ち上がる九条。

 橘提督には何故、九条がそこに居るのかは分からなかったが、きっとそれは意味のある行為なのだろう。

 そしてそこに声を挟む人物。

 

『誰を探しているのかな? 九条君?』

 

 氷桜理緒(、、、、)。行方不明となっている提督である。

 

「少し前に説明したことを思い出してみようか」

 

 唐突に。

 武蔵野提督がそう言った。

 

「志島鎮守府を囮にし、あえて敵に奪わせる。敵の目的は黒鎮守府提督の奪還及び、地上拠点を得ることだ。まず作戦をする前に、氷桜提督の協力が不可欠だった」

「……それがさっき言った作戦、ですね」

 

 ようはあえて甘い警戒網を見せることで敵を誘い、襲ってきたらわざと敗北した。その後敵の動きを観察していたということなのだろう。

 

「その通りだよ、横須賀提督殿。事実、鎮守府内に残していた隠しカメラの映像には牢へ入る敵の姿が残されていた。それでようやく確信がいったのだよ。彼が本当に深海側のスパイであることがな」

 

 正直に言えば、ゾッとした。

 何が、と言えば無茶苦茶なのだ。始めの作戦から何から全てが無茶苦茶。しかし、それを見事に成功へと導いてしまっている。

 しかも、犠牲者0のオマケつきで。

 だが、それは逆に言えば武蔵野提督は人間を人間と見ていないことになる。下手をすれば大規模なダメージを受けていた作戦を平然とこなしていた彼は。

 いや、彼もまた異常(、、)だった。

 

 

「元帥もこの件に関しては納得してくれた。思えばこれが一番大変だったな。あの男は九条とは違う意味で底が知れん。まともにやりあえば勝ち筋など浮かばないくらいにな。黒鎮守府提督も上手く動いてくれたものだよ。志島鎮守府を奪ったのちに、まずは自らの安全確保のために無人島である静寂島に移る。予想通り、予想通りすぎた」

 

 真顔で語る武蔵野提督に対して戦慄を拭えない。

 橘提督は冷や汗を垂れ流した。

 

「あとは九条君への命令か。彼もまた、こちらを見抜いていたのだろうな。こちらの思惑に乗ったと思えば、さらなる戦果を上げてくれた。しかもそれを自分の手柄にしないとはな。聞きたまえ、彼の口上を。惚れ惚れしてしまいそうだ」

 

 指差されて、再びモニターに意識を向ける。

 九条と氷桜の話は少し進んだのか、音声ファイルがどうとか言っていた。

 

 

『へぇ、やっぱり予想通りだったんだね』

『ん、あぁ。お前もそのつもりで残したんだろ? あの音声ファイル。ってかあそこまでヒントあればeasyモード以下だろ?』

 

 ニヤリと画面で笑みを浮かべる九条の目は、明らかに画面を見ていた。

 吸い込まれそうなくらい透き通った目に、違う意味で相変わらずだと橘提督は思い知らされる。

 

 

『そうか……元帥や武蔵野提督と協力してもキミは騙せなかったか。まぁこれは元々言うつもりだったしね。一つだけ伝えるなら、作戦は無事に成功したよ。後は戦後処理だけかな。戦艦棲姫もキミを追いかけてきた艦隊が撃破したようだしね』

『作戦……? あぁ、そうだな。今度はこんなことするなよ』

 

 作戦に関して聞かれた際に九条は身に覚えがないような声を上げてから、あぁと声を漏らす。

 その様子に武蔵野提督が笑みを浮かべるが、それよりも橘提督は『戦艦棲姫』を轟沈寸前にまで追い込んでいるという報告が気になった。

 

「やはり彼は気付いていたか。しかも私達が見ていることにも気付いている(、、、、、、)。彼の有用性を知っていたからこそ、わざと無能を演じたのにも関わらず見抜いてしまう慧眼は羨ましいな。ハハッ、しかもヤツは私の出した作戦を作戦だと思っていないようだぞ! 傑作ではないかっ!!」

「……、戦艦棲姫は九条の策ですか?」

「あぁそうだ、彼は自身が静寂島にいることを文にしたため、それを置いておいたのだよ。戦艦棲姫がちょうど志島鎮守府を奪還しに来たタイミングでな! さらに、それに気付いた後任の提督が出撃する時間までもを計算し尽くしていた。艦娘達が戦いやすい入り江で丁度奇襲をかけれるようにな」

 

 見たまえ、と別の画面が映し出される。

 そこには、一〇人は居そうな艦娘達と五〇を超える連装砲ちゃんが戦艦棲姫を含め六体の深海棲艦を飲み込む映像があった。

 五〇を超える連装砲ちゃんは貪るように深海棲艦に引っ付いて内部に直接砲塔を刺し、撃っている。

 グチャリ。と深海棲艦の肉や血の破片が辺りに飛び散っていた。

 

「な……うっ」

 

 余りのグロさに思わず吐き気を覚えたが飲み込む。

 が、深海棲艦達の断末魔の声が響き、艦娘達が目を伏せ始めた辺りでもう一度酸っぱい何かが喉元までせり上がってくるのを感じた。

 それを我慢して、代わりに尋ねる。

 

「……これ、は?」

「連装砲の完全自立化だ。人間の技術として自立化は存在するだろう。だが、それ自体を連装砲に組み込む事は出来なかった。だから、条件を変えたのだ。敵と指定したものを攻撃するようにな。艦娘とは第二次世界大戦までの技術でしか強化が出来ない。だからこそ、当時に存在していた『目標』を定めてそれだけを殺す技術を利用したんだ。中々に仁義のないものを考える。ま、彼にとって人間は興味の対象外なのだろうしな。確か艦娘のため、だったか」

 

 九条は人間を余り好いていないのは知っている。

 その代わり、艦娘に対しては優しいことも。

 だが、だからと言ってこれはあんまりだった。

 

 と、ここで武蔵野提督が画面を消した。

 

「さて、これであらかた作戦は終わった。奪われた黒鎮守府提督は既に静寂島に待機していた氷桜くんが『確保』し、戦艦棲姫は『九条提督』の策で轟沈寸前に追い込まれている。さて、敵の一大将とも呼べる『戦艦棲姫』を捕らえればどうなると思う?」

 

 黒鎮守府提督の確保。

 戦艦棲姫の確保。

 橘提督はそれら二つから、武蔵野提督の言おうとしていることを掴む。

 

「まさか、深海棲艦を!?」

「そうだ、横須賀提督! 『戦艦棲姫』は敵にとって重要な存在。言うなれば深海棲艦にとっての大将、元帥だ。既に幾つかの深海棲艦のサンプルは存在する。実験も数々行われてきた。その実験の中で、深海棲艦を武器として使うものが存在していた。ようは火薬を詰め込んで爆発させるのだよ、そしてその実験は既に成功した。単体でもかなりの威力だ。となれば、その大将とも呼べる存在を利用すれば、科学という人類の叡智で、あの忌々しい世界の七割を占める海を包み込んでいるサイドを、一気に駆逐する事が出来る可能性が高いのだよ!!」

 

 意味が、わからなかった。

 正しくは理解したくなかったのかもしれない。

 武蔵野提督の言葉は、深海棲艦が害悪だと信じている口ぶりだった。まぁこれに関しては橘提督がどうこう言う事は出来ない。しかし、橘提督が見ている世界と武蔵野提督が見ている世界は違っていた。

 

 深海棲艦の全滅。それは単純に深海棲艦を全て駆逐するのとはわけが違う。ベトナム戦争などがいい例だ。どうやっても殺しきれないのである。敵を一人倒せば、その子供が。それを倒せば知り合いが、その土地の人々が。次々と敵に回り、結局は勝てなかった。それと同じように、深海棲艦を全滅させるなど不可能だ。そもそも深海棲艦以外にも深海には人類を凌駕する存在がいるかもしれないのに。

 

「深海棲艦を全滅すれば、それで皆が幸せになるとでも……?」

「思わんよ。そうなれば次には艦娘が敵に回るだろうな。人間とは常に食物連鎖の頂点に立たなければ不安になる生き物だ。臨戦モードなら人の攻撃が通用しない艦娘もまた、第二の深海棲艦と同様だ。資材に変えるにしてもそのうち反乱が起こるのは間違いない」

「それじゃあ、何を望んでいるんですか!?」

 

 思わず叫んだ橘提督に対して、武蔵野提督は呆れたように語り続ける。

 

「今のままでは生温いのだよ。いつから海軍は敵を残すような甘い存在になった? そもそも艦娘はともかく深海棲艦は人類に仇なす敵なのだよ。いわゆる世界共通のな」

「その地球だって、人間のものじゃないでしょう」

「それを言う権利は貴様にはないぞ横須賀提督殿。それは今生きている時点で、貴様も人間が地球を支配している(、、、、、、、、、、、、)事の恩恵を受けているのだから」

 

 言って、武蔵野提督はジロリと橘提督を見た。

 戦慄する橘提督にまだ甘いか、と言葉を漏らして、

 

 

「まぁいい。話を変えよう。次は何故海軍が黒鎮守府提督をスパイだと疑っていたにも関わらず、このようなまどろっこしい手を使ったについてだ」

「……っ、はい」

 

 未だにモヤモヤした気分を抱えながら橘提督は返事する。

 

「日本は基本的に、法律によって守られていた。現在は憲法九条を無視する形だが、それは特例と認められている。そして黒鎮守府提督は志島鎮守府が襲われる数日後には本土に輸送され、裁判が確定していた」

 

 武蔵野提督は疲れたように軽く肩を揺らして、

 

「艦娘に対して黒と呼ばれる行為をするのは犯罪だ。昔風に言えば、第二次世界大戦で使用された兵器を駄目にするようなものだからな。良くて無期懲役、悪ければ死刑は確定していた、がそこに新たな疑惑が浮上した」

 

「ーーそれが、黒鎮守府提督のスパイ疑惑」

 

「その通りだ。そしてスパイに関する法律は深海棲艦が現れてから復活したのを覚えているか。それによる余罪が問われれば、海軍がどう手を出そうと黒鎮守府提督の死刑は確定だった」

 

 スパイ防止法案。確か最高刑は死刑だった。元々の罪に加えて人類の危機とまで言われている敵に情報を流せば死刑は免れない。

 

「それを食い止める必要があったのだよ。そして同じくして深海側も人間側に黒鎮守府提督を殺されたくはなかった。この理由は分かるか?」

「……死刑にする前に必ず、彼から情報を聞きだされるからですか?」

「そうだ。しかし、彼がスパイであると気づいていたのは海軍だけ。そしてそれを世間に公表しようものなら、海軍の威信は地に落ちるだろう。何故なら、スパイが堂々と居たのに気付くのが遅かったからだ。そして気づいた時にはもはや手遅れだったよ」

「……まさかそれが原因でこんなことを?」

 

 一歩前に出て問う橘提督に対して、武蔵野提督はくだらなそうに息を吐いて、

 

「そうだ。だから世間への発表はこう変わる。『志島艦隊出撃中に志島鎮守府が強襲される。罪を犯し牢にいた黒鎮守府提督が罪を償うためと残りの艦娘を指揮するも、名誉の殉職。その後、神無鎮守府が主体となり弔い合戦を行い志島鎮守府を奪還。黒鎮守府提督を殺した戦艦棲姫を撃破し、弔いを』というところか。本来は酷く不本意だが、彼を『社会的に』殉職させるにはこれが手っ取り早い。何より人は美談を好むものだしな」

 

 その言葉が出た時には、すでに戦艦棲姫との勝負も決していた。

 無数の連装砲ちゃんによって身動きできないほど縛りあげられた戦艦棲姫が慎重に運ばれていく。戦艦棲姫は暴れていた。だが、弱い。いや、動けていることが異常なのだが。

 ゴーレム型の装備は既に粉々に破壊されており、人間体だけが運ばれていく。

 それに対して、総指揮官である武蔵野提督は薄笑いを浮かべるだけだ。

 

「終結にしては随分とあっさりとしていたが、まぁいい」

 

 

 そして武蔵野提督は宣言する。

 

 

『これにて志島鎮守府奪還作戦ーーーーいや、黒鎮守府提督の弔い作戦を終了する』

 

 

 




「一言」一章でサラッとやった黒鎮守府が大きな伏線でした。
それと深海棲姫はエピローグにて書きます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28 エピローグ

 日記風を久々に書いた。


 

 

 

 

 戦艦棲姫が確保された頃。

 九条日向(くじょうひなた)は自分の名前が呼ばれたような気がして足を止めた。

 大穴が開けられた山の中から声は聞こえた。山の外側ではなく、内側だ。目を凝らして山の方をあちこち眺めていると、人間が入れそうな穴があったことに気づく。聞き覚えのある声だったからか、もしかすると深海棲姫さんじゃあるまいか、と淡い期待を抱いていたりする。

 

「……よっと、地面から中に繋がってんのか?」

 

 地面に開いた穴に潜り込むと、道が続いていた。その道は数メートル続いていて、上に向かっている。これは確定か、と九条はグングンと突き進んでいく。そして山の内側に侵入しようとしたが、体が思うように動かなかった。単に怪我が響いているやというのは違う。何だか異様な重さがあって、全く力が入らない。と、そこでようやく慣れない感覚の正体に思い立った。

 

「あ、そういや装備……」

 

 妖精さんから渡された装備を思い出す。そう言えばずっと背負ったままだった。そりゃ体力も奪われるわけだ、と九条は思わず溜息を漏らす。

 それを下ろしてから辺りを見渡して、気付いた。

 

 人らしき誰かがいる(、、、、、、、、、)

 

「ーーーーッ!?」

 

 思わず飛び退るようにして身構える。が、一向に襲ってこないことに臨戦態勢を解除した。

 そしてジッと観察して、

 

 

「ーーーーぁ」

 

 

 九条はようやく目の前の何者かが探していた『彼女』であると認識した。

 眠っていた、という表現をするべきなのか。彼女は静寂島にある洞窟の奥で岩壁を背にするように目を閉じていた。

 洞窟の中には大きな湖が存在していて、どうやら海につながっているようだった。横には家具が置かれており居住スペースであるように見える。

 九条が近寄ると、どうや目を覚ましたらしい。ん、と声を漏らしてから彼女。

 ーーーー深海棲姫は起き上がった。

 

「深海棲姫さん……か?」

 

 本当にいたことに驚愕を隠せないままに九条は言った。

 深海棲姫は一瞬だけ見開くと、少し驚いたような様子を見せる。

 

「アッ、九条……カ?」

 

 今目が覚めた! というような声に思わず苦笑してしまう。が、とにかくにも彼女の無事を確認出来たのは収穫だった。

 氷桜から、戦艦棲姫をとりあえず捕獲した事、民間・海軍共に死者は出ていない事を聞いた九条だが、全くもって実感はない。自分の目で生きている事が確認出来て良かった、と口の中で呟く。

 

「良かった、無事だったんだな。氷桜に保護はされなかったか」

「……勝ッタノカ?」

 

 ぶつぶつと言っていると深海棲姫がそんな事を聞いてくる。九条は頷いて、

 

「あぁ、民間や海軍に死者は出てない。戦艦棲姫は捕獲して戦争は終結したよ」

「……ヤハリ、カ。戦艦棲姫ハドウナル?」

「悪いが分からない。俺の手が届く場所じゃないし……」

 

 そう答えると深海棲姫はうーんと唸り始めた。どうしてかは分からないが、ようは気になるということでいいのだろうか、と海軍について何も知らない九条は超アバウトに状況を判断する。

 ……ちなみに実の所、意図するしないに関わらず、深海棲艦と密会している現状は疑いの余地なくアウトなのだが、九条にはその事実に全く自覚がない。勘違いバカは罪か。いずれにしても海軍上層部からしたらふざけんな! の一言に尽きるだろう。

 

「だー……つか、避難したほうが良いぞ。ここらにも敵は多いからな。家があるってんなら送るけど、……というか学校どーすっかな。出席日数とか完全にヤバい気がする。何故なら最近はずっと事件が起こっているから!」

「ィャ、送ルノハ良イ。ソレト学校……気ニシテル場合ナノカ?」

「何を言う! 高校は卒業しとかないと進路に響くわ! いつまでも海軍で働いてると思うなよーっ!」

 

 そもそも犯した罪を許される代わりに雑用しているだけなのだ。何にしてもこの生活は長く続かない。

 だからこそ二週間近く経ってくると本格的に進路がヤバいと感じ始めていた。

 すると、

 

「…………マタ助ケラレタノカ」

 

 ボソリと、深海棲艦が呟いた。

 その深刻そうな声色に九条は顔を向ける。

 

「……? 何の話を」

「知ラナイ振リハ良イ。私ガ言ッテイルノハ現状ダ」

 

 現状……? と首を傾げてから九条は気付く。

 あぁそうか。今生きている事のお礼を言いたいのか。それなら氷桜に、と言おうとして、

 

「助カッタ。オ陰デ私モ覚悟ヲ決メタヨ。聞キタイ事ガアレバ好キニ聞ケ」

「覚悟……? 何の覚悟だよ」

「決マッテイル。守ル覚悟ダ」

 

 その言葉で九条は思い出した。そう言えば、始めて出会った時に守りたい相手がどうとか言っていた気がする。

 恐らくそれか、と考えて。とにかく良いことなんだよな、と判断した九条は、

 

「……そうか。なら頑張れ。俺に止める権利はねーし」

「アァ、ヨロシク頼ムゾ」

 

 そのまま伸ばされた手をギュっと掴んだ。

 握手。

 もしここに第三者がいれば間違いなくあり得ない光景だと言える光景がそこには広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 ☆月L日、深海日記

 

 

 思っていたよりも海軍は強大だったと言うべきか。

 九条によると、志島鎮守府は驚くほどアッサリと奪い返せたらしい。本人は撃たれたけど、と笑いながら傷痕を見せていた。

 

 戦艦棲姫は捕獲されたらしい。一応、彼女も知り合いなので酷い目に遭わされないことを願うが恐らくそれは避けることの出来ない未来に違いない。

 戦艦棲姫が大きな野望を持っていなければ。

 とは言え、深海の大本営の作戦はこれで失敗だ。戦艦棲姫という大きなものを失い、敵には誰一人被害がない。

 人間側にいたスパイの奪還も完全に不可能となった。これによって、ますます戦いは不利に働く。

 

 

 ……私は戦争が好きではない。だからこそ、九条日向という人間に出会った時に私はこう感じた。

 彼なら。彼ならばこの世界を変えてくれるのではないかと。

 

 駆逐艦二隻での鎮守府攻略を簡単だったと言える男だ。きっとそれだけのチカラを持つのだろう。そして彼は深海棲艦に対しても敵意を向けることはない。

 彼が敵意を向けるのは、彼にとっての敵だけだ。それも相手が改心すればすぐに消え失せてしまう。

 

 まさしく英雄のような男だと思った。

 そして彼は当然のように私を逃した。

 まさか海軍のレーダーを妨害する機器まで持ってくるとは思っていなかったが……。

 

 とにかくもう、結論を出すのは遅くない。

 私は決めた。

 

 

 人間と深海棲艦の和解。それを目指すために、彼のチカラを借りる。

 

 決行は何時になるか。一年か、二年か。分からないが、決して遠くない日に出来るはずだ。

 

 だからこそ、その為に私は命を賭けると誓おう。

 

 

 

 (深海棲姫エンド)

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 戦争は終わった。

 ならば、済ませなくてはならない事がある。

 

「……、」

 

 駆逐艦、電と島風は、人を待っていた。志島鎮守府の堤防である。濃霧が晴れ、打って変わって雲一つない快晴の空を見つめていた二人は、バタバタとした足音が近付いてくるのを聞いた。

 二人はくるりと振り返る。

 そこにはーーーー、

 

 

「……お疲れ様、電ちゃんに島風ちゃん。無事に集結出来たようで良かったよ。怪我もないみたいだしね」

「それはこっちのセリフなのです。それと司令官さんが怪我をしているのが最も駄目だと思うのですが」

 

 九条日向の姿があった。電達のツッコミにタハハー、と笑い声を漏らしている。

 さきほど快晴、と言ったが時刻的にはそろそろ日暮れ。昼間の騒ぎから数時間経過していた。見た目はピンピンしているものの、一応九条は救急患者である。二日前にに勾玉によって阻まれたとはいえ、心臓を撃ち抜かれたり戦場に舞い戻ったりすれば、心配するというのは極々自然だった。

 九条はジト目で見つめる二人に戸惑った様子を見せて、

 

「あー、ともかく無事で良かった。終わり良ければ全て良しって言葉もあるし。俺以外の怪我人もいないし最高の結果じゃねぇか」

 

「この状況で笑ってられる気持ちが理解出来ません。それとも司令官はあまりの疲労でハイになってるんですか? それと司令官、馬鹿ですか? なに胸に弾丸くらっといて何生身で戦場に飛び出してるんですか? 業務だってデスクワークだけのはずでしょ!? それと怪我してるのに最高の結果とかまさかドMなんですか? 変なこと言ったら最速でぶっ飛ばしますよ?」

 

「……、はい。スミマセン島風サン」

 

 とりあえず謝る。まぁ非があるのは明らかだった。その時は頭が一杯で気付けなかったが、よく考えれば随分馬鹿なことをしたものだと自分でも思う。

 ザクザクと九条のミスを羅列していく二人に、精神がやられてしまいそうになった。

 九条が黙ると、電と島風の態度も沈静化していく。

 電が、九条を見ながら、やがてポツリポツリと言葉を発した。

 

「分からない事がいくつかあるのです」

「分からない事?」

「はい。質問に答えてもらえませんか?」

 

 電はキッ、と真剣な顔つきをして、

 

「まず一つ目。今回の件、そもそもどうして起こったのでしょうか? 武蔵野提督が敵艦を煽る真似をしたという報告書を見たのですが、どうにも腑に落ちないのです。それに戦艦棲姫のような姫級が現れていたのはここから遠く離れた場所。偶然と言われてしまえば反論出来ませんが……」

 

 続いて二つ目です、と言って、

 

「何故、大本営が『駆逐艦二隻での攻略』をあそこまで強く言ったのでしょうか? 司令官さんの指揮を信頼していたと言われればそれまでですが、怪しいのです」

 

 そして最後です、と言って、

 

「今回の(くだん)。大本営の目的は何だったんでしょうか。志島鎮守府の奪還にしてもそうです。どう考えても敵が弱すぎた。あの練度の敵に志島艦隊が敗れるとはとても思えません。と言ってもその時攻めてきた敵とその後引き継いだ敵が違うからと言われてば議論はできないのですが」

 

 言って、電は九条の顔を見上げると、

 

「……司令官さん。司令官さんは気付いてるのではないのですか? そもそも不自然な部分が多過ぎるのです。私達ではおかしいと思っても、答えは出ませんでした。でも、聡明な司令官さんなら全てーーーー」

「電ちゃん」

 

 電の声を九条は区切った。

 そして堤防に沈黙が降りる。

 答えを出すためには、手札の材料が少なすぎた。それでも司令官ならば、と思っていた電に対し、九条は言う。

 

「電ちゃん。それ以上は機密情報(トップシークレット)だ。今この場で話す内容じゃない」

 

 言ってから、九条は二人を抱きしめた。

 そして軽く頭を撫でる。頑張ったな、という言葉をつけて。

 それから鎮守府内に歩き出した九条に対し、二人は待ったをかけた。

 

「待ってください! 最後に一つ、教えて欲しいのです。……司令官さんは何のために戦ったのですか?」

 

 うん? と九条は一度だけ電の言葉を確かめて、それから答えた。

 

「自分のためだろ、と言いたいけど。正確には俺自身と守りたい人のためだよ」

 

 

 こうして戦争はひとまずの終わりを告げた。

 明日からはまたいつもの日常が始まる。

 きっと、まだ私は未熟なのだろうと電は思う。

 だから、頑張る事にした。

 明日からも、これからも。精一杯頑張って、いつか理解出来るようにする。

 

 そう、決めた。

 

 

 

 

 

 

 ☆月L日、駆逐艦電の日記。

 

 

 鎮守府から司令官さんが姿を消したと聞いた時は、本当に心臓が止まりそうでした。

 そのまま司令官さんが残した後を追跡しながら進んでいたのですが、とある地点で不自然な曲がり方をしていたのです。

 何かあるのかと調べてみると、敵艦の姿を発見しました。

 戦艦棲姫。姫級の深海棲艦だったのです。

 

「……オイオイ、まさか私達が追ってくることを計算して丁度ここでかち合うようにしたんじゃねーよな? やけにデータが拾いやすいと思ったら」

 

 理沙提督がそんなことを呟いていました。本来であればこじ付けのようにしか思えないその言葉。ですが、司令官さんが絡むとあり得ると思ってしまう自分がいます。

 船には連装砲隊が居ましたので、それをオートモードにして数で攻めました。

 艦娘一四人に、連装砲が五十。フェアも何もあったもんじゃない物量差でしたが、そのお陰もあって犠牲者なく捕獲に成功したのです。

 

 それから、夕方頃に司令官さんが帰ってきたのです。

 ヘラヘラと笑っていましたが、どれだけ心配をかけたと思っているのか。それに関しては島風ちゃんがツッコミを入れたので私は何も言いませんでしたが。

 

 そして、気になっていた事をたずねてみました。

 『今回の戦争』。どう考えても不自然過ぎるのです。島風ちゃんとも話してみたのですが、結局答えは出ませんでした。

 だからこそ司令官さんに聞いたのですが、はぐらかされてしまったのです。

 

 機密情報(トップシークレット)。と言っていました。

 ……ふと陰りが浮かんでいたようにも見えました。

 

 きっと。司令官さんが教えてくれなかったのは私のチカラが足りないからなのでしょう。

 これからも頑張らないといけないのです。

 

 夢を、叶えたいから。

 

 

 

 

 

 ☆月L日、最速の島風日記。

 

 

 戦争が終わりました。

 電が大本営の命令が不自然だと言っていましたが、恐らくあの『駆逐艦二隻』の命令の原因は私にあるのでしょう。

 

 黒鎮守府のエース。練度一五〇の最速狂殺兎。

 かつてはそのような名前で呼ばれていました。

 つい最近。私の友達が死んだことがキッカケで私は彼の元を去りました。それからは海を放浪していましたが、九条司令官率いる艦隊に『新しい艦娘』として保護されたのです。

 

 しかし、元帥の目はあざけなかった。

 本来、あの海域では私が現れることはありません。だからこそ気付かれたのでしょう。本部から移動する際に『笑み』を向けられました。

 

 

 ……今回の件、電には分からないと通しましたが恐らく黒鎮守府が原因のはずです。

 私があそこを抜けたのは黒鎮守府が検挙される数日前。だからこそあそこの内情は知り尽くしている。

 あそこはただの『黒』ではない。

 

 そのことを電に聞かれた司令官さんは、私の目を見ました。

 一瞬。そんな刹那の行為でしたが、それで気付きました。

 

 きっと彼も元帥と同じように気付いている。練度は出来るだけ下手に撃つことである程度までは数値を誤魔化せましたが、やはり限界がありました。

 ……どうすればいいのでしょうか。

 

 私の事情を知っているのに黙ってくれた司令官を私は守れなかった。

 きっと彼はそれを言っても気にするな、と言うでしょう。でも、それでも。

 

 ぃゃ、元々私は殺し過ぎた(、、、、、)

 かつての提督が黒鎮守府の提督だとかは関係なく。

 彼はふざけるな、と私達に下された命令に対して言ってくれたけど、でも私は。

 

 

 

 

 (駆逐艦二人エンド)

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 夜。志島鎮守府にて、盛大なパーティが開かれた。

 『作戦成功』と書かれた看板がデン! と置かれており、中に入ると大量のテーブルに料理がある。

 

「……なぁ、ここって奪ったり奪われたりしたばかりの鎮守府なんだよな?」

 

 と、そんな事を呟いている九条日向は入り口で突っ立っていた。その顔は若干呆れ顔である。

 いや、別にパーティが嫌いなわけではないのだ。むしろ好きな部類に入る。料理や飲み物を楽しみつつ、仲の良い者と語り合えるパーティは良いものだと思う。

 だが、つい一昨日まで敵の支配下にあった場所でパーティをするのはいかがなものかと疑ってしまう。

 

「何をしてるの? 主役がいかないと盛り上がらないよ?」

 

 背後から声をかけられた。

 氷桜だ。戦争中に基地を奪われたにしては随分とラフな態度である。まぁそれは良い。

 海軍としては良くないのだろうが九条としてはどうでも良い。

 

「ぃゃ、主役って。つーか俺としてはさっさと帰りたいんだけど。……学校の単位ヤバいし」

「何冗談言ってるのさ。ほらほら行って行って。静寂島の奪還に加えて戦艦棲姫の捕縛はキミの功績だ。流石ヒーロー」

「完全に悪意あるようにしか聞こえないんですが!? ってか戦ってもないのにヒーロー呼ばわりされるわけにはいかねーだろ。それなら艦娘にやるべきじゃねーのか?」

 

 そもそも艦娘が何か分からないが、直接深海棲艦と戦ったのは艦娘だ。妖精さんが作っていた連装砲ちゃんとやらみたいなやつなのだろうが、ヒーローと呼ぶならむしろそっちを呼んでやってほしい。

 

「まぁともかくお礼の気持ちも込めてるんだから楽しんでいってよ。茶番に付き合わせたお詫びでもあるしさ」

「茶番って……何だそりゃ。まぁ楽しませてもらいますよっと」

 

 そんなこんなで。

 九条は会場まで歩いて適当に皿をとる。それから食事を始めた。

 

「……、あー。最近色々不幸な気がしてならない。まぁどう考えても自業自得なことも多いけど。もう良い腹が壊れるまで食って忘れてやるーッ!!」

 

 一日中駆けずり回ったり、色々な人に謝ったり。肉体的にも精神的にもボコボコにされた九条は、疲れた顔でパーティの食事を物凄い勢いで食べ始めた。

 妙なベクトルに吹っ切れたとも言う。

 

「アハハ、そもそもここまで非日常が続いてた事自体がおかしいんだ! よーし、ここからはごく普通のありふれた日常のターンだろこれーッ!!」

 

 わけのわからないことを言いながらバクバクバクバクッ! とテーブルマナーを気にせずに食い漁る様は完全に社会の常識を疑われるものだったが本人は気づいていない。それどころか物凄い食のスピードに驚いた人々が余興代わりにとやんややんやと(はや)し立てる。

 そしてあらかた食い尽くした九条は言った。

 

「もっと追加を持ってこい!!」

 

 

 

 

 

 

「……で、アイツを利用したってわけか。まぁあんな事をしてても気付いてるようだが」

「そうだね。流石九条クンだ。ボクの予想以上に彼は凄かったよ」

 

 そのパーティの端。少し離れた場所で、橘提督は氷桜提督と話していた。

 武蔵野鎮守府にて、全ての事情を知った橘提督はやや真剣な目で問う。

 

「お前の目的は恐らく黒鎮守府だろう。それか黒鎮守府提督の身柄か? それで元帥に交渉でも仕掛けるつもりか?」

「まさか。そんな馬鹿な真似しないよ。ボクはあくまで一提督としてやれることをやるだけさ。九条クンと同じようにね」

 

 そう言う彼をどこか疑いの目で橘提督は見る。前から思っていたのだが、こいつも中々に得体の知れないやつだ。

 九条もそうだが、氷桜はそれよりも何か策謀めいたものを感じる。

 もし、それが守りたい存在に襲いかかったら。

 

(いや、考え過ぎか? だが、こいつも天才だ。九条とは別種の意味で)

 

 侮れない。今こうしている瞬間にも何を企んでいるのか。そもそも何が見えているのかも分からないが。

 しかし、九条や元帥が放置しているということは『そういうこと』なのだろう。

 

 橘提督は知っている。

 こう言えばあれだが、彼はエリートだ。

 エリートだからこそ、自分達の上の存在が分かる。

 

 得体が知れない(、、、、、、、)

 

 自分達が思いもしない策を考えつき、それを失敗作扱い出来るような人間は。

 九条は指揮の面で。そして氷桜は策の面で。

 

(駄目だな。とてもじゃねーが駄目だ。叶わない、と思わされてる時点で勝てるわけがない。だからこそ、俺も成長しなきゃならねーな。現に武蔵野提督から話を聞くまではてんで駄目な思考をしていた)

 

 事前に得ていた情報と、自分の目で見た情報。それらを組み合わせることのできなかった橘提督は黙り込む。

 そして改めて決意した。

 

(ーー俺は、足りない。だからまずは経験を積む。全ては、俺の守りたいもの全てを守るために)

 

 

 

 

 

 ☆月L日、横須賀提督の体験日誌

 

 

 やはり俺は未熟だ。

 九条や氷桜を見てそう思った。

 大本営の思惑。それを武蔵野鎮守府で知るまで、全く変な方向に俺は進んでいた。理解出来ていなかったのだ。

 

 情報が足りなかったとか、言い訳をすればいくらでも出てくる。でもそれは情報を集めなかったのが悪い話だ。

 全て分かっていたからこそ、九条は最初からあそこまで余裕ある返事をしていたのだろうし、氷桜もあえて鎮守府を担保にかける真似をした。

 そうだ、俺はまだ足りないのだ。

 

 経験も、頭も、行動も。全て、全てが足りていない。

 このままじゃ駄目なんだ。

 

 だから、頑張らなくちゃならない。

 まずは、同じ舞台に立てるように努力することから始めよう。

 

 

 

 (横須賀提督エンド)

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 とある提督の日記。

 

 ☆月L日、濃霧が晴れたよ! やったね電ちゃん

 

 

 ……何だか日記を書くのが物凄い久しぶりな気がする。

 まぁそれはおいておこう。

 

 『戦争』が終わった!

 

 第三部完! とはならないけど嬉しい。

 何がと言われれば、日常の生活に戻れるから。

 

 個人的には意味分からないことを氷桜に言われたり、電ちゃんの質問に対してうまく答えられなかったり、食べ過ぎで腹壊して気分は最悪だけどね。

 うっぷ、吐きそう。

 

 まぁそれはともかく。皆無事で良かった。実を言うと、連装砲ちゃんの改造を手伝ったりとかしてたから上手く動かないんじゃないかって心配だったんだよね。

 そして流石の氷桜。

 

 そもそも今回の件は黒鎮守府提督が元凶なんだとか。それを誘うために鎮守府を一時的に捨てるとか、というかそれで成功させるのがパネェ。

 俺何も出来なかったよ。何これただの邪魔じゃね?

 

 ついでに船大破。これも借金になるのかな? とりあえず黙っているつもりだけど。

 …………、怖いし。

 

 まぁともかく本当に無事で良かった。

 パーティ明けでテンションが徹夜並みの感じになってるけどまぁいいや。

 

 

 

 ……ちなみに胸の傷は全治一週間。激しい運動と、暴飲暴食でまた血を吐いたからしばらくは業務出来なそう。

 ゴメン、鎮守府の皆。




はい。エピローグ終了です。
島風の過去を簡単に書いて、新しい艦らしくないセリフの理由の説明になったかな、と。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29 二章解説 (閲覧注意)

文章を気にせずに書いたので効率が普段の二倍でした。
最後にも書いてますが、これを読んでも分からない部分があれば質問いただければお答えします。
(追記もします)


 今回の話は第二章の解説です。

 緩めに書いていきますが、興味が無い方はブラウザバック推奨します。

 

 ではでは、早速。

 

 まずは二章に出てきた勢力と、その目的をまとめていきます。

 

 

 

 神無鎮守府

 

 主人公の鎮守府です。防衛に長けた造りにしており、志島鎮守府を制圧した深海棲艦の群れの攻撃にも耐え切りました。

 

 志島鎮守府の奪還に駆逐艦電、島風の二人。

 防衛には残りのメンバーを。

 

 目的は誰一人欠けることのない作戦遂行。

 

 

 

 

 横須賀鎮守府

 

 橘提督の鎮守府です。艦娘の数は多く、豊富な資材があります。今回は援軍を送るためのルート確保に三部隊を用意しました。

(直接の援軍は第一艦隊のみです)

 

 桐谷理沙提督が主となった合同作戦の補佐役というのが彼らの役目でした。

 

 目的は任務遂行。

 橘提督の個人的な目的としては、今回の不自然な戦争の原因を突き止めること。

 

 

 

 

 志島鎮守府

 

 奪われた氷桜理緒の鎮守府です。元帥、武蔵野鎮守府との極秘作戦で、わざと敵の手に鎮守府を渡しました。

 その際に艦娘達は事前に作成していた拠点に移していたようです。

 

 目的は、表向きに深海棲艦に敗北したニュースを速報として流すことで、深海棲艦との繋がりを疑われていた黒鎮守府提督を釣ること。

 

 氷桜提督の個人的な目的は、黒鎮守府提督の身柄。

 深海棲艦のスパイ=黒鎮守府提督は深海棲艦という図式ですね。

 もし深海棲艦が人間に擬態出来るなら、その技術を秘密裏に調べることで元帥に対するカードになり得ると考えています。

 

 

 

 武蔵野鎮守府

 

 今回のラスボス(横須賀提督に対しての)です。

 とは言っても彼自身悪い人間ではなく、また武蔵野鎮守府の働きは人間側にとってとても有益です。

 

 目的は、黒鎮守府提督を釣り出すことで敵の幹部を誘い出すこと。

 現在、通常型の深海棲艦のサンプルは存在しますが、姫級のサンプルはありません。だからこそそれが欲しかったのです。

 また、深海棲艦に火薬を詰めて火をつけると絶大な威力を待つ爆発になるということを明かしています。

 

 武蔵野提督の最終目的は深海棲艦の絶滅ですので、まずは敵を調べる(人体実験)のために敵にとって有益である黒鎮守府提督を餌にしました。

 

 

 

 黒鎮守府

 

 一章の05でサラッと書いた鎮守府です。

 よく言われているブラック鎮守府であり、その実態は艦娘達に人体実験を行うことでその構造を調べていました。

 提督は深海棲艦のスパイであり、人間に擬態していた模様。深海棲艦側に情報を流していましたが、摘発されて捕縛されます。

 

 その後志島鎮守府の牢に入れられており、後に本土へ輸送予定でしたが本作戦により牢を脱出。そして一時の拠点を得るために静寂島に移動したところを氷桜に捕縛されました。

 

 目的は不明。深海棲艦側に有利に働かせることとたけは分かっています。

 

 

 元帥

 

 元帥として『優しく』、そして厳しい人物。

 武蔵野提督視点ではラスボスのように描かれていますが、彼の目的は人類の安全の確立です。

 武蔵野提督が提案した、黒鎮守府を利用する作戦に承諾しました。

 

 

 

 

 戦艦棲姫

 

 

 非常に野心がある深海棲艦にして、深海棲姫曰く人間側を排除しようとする筆頭。

 多くの深海棲艦を従えて志島鎮守府を落とした後、部隊の半数以上を次なる敵地、神無鎮守府へ送ります。

 

 九条の心臓に銃弾を当てたのも彼女ですね。

 

 目的は人間を根絶やしにすること。そのために志島鎮守府に捕らえられている黒鎮守府提督(深海側のスパイ)を回収して情報を得ようとしました。

 そして回収には成功しましたが、その後きた九条達に志島島を奪還され、氷桜の艦隊に叩かれて大打撃を受けます。

 

 それから二日で部隊をまとめなおした彼女は再び志島鎮守府へ攻め入ろうとしましたが、九条の策(意図していない)に嵌り、理沙提督率いる艦隊と九条が連れてきた二人の駆逐艦によって捕縛されます。

 

 

 

 

 と、ここまでが大まかな勢力ですね。

 では次にシーンごとに切り取って書いてみます。

 

 

 前哨戦①〜前哨戦②まで。

 

 

 

 九条提督の元へ届いた一通の指令書が発端です。

 氷桜という九条の知り合いの提督が運営している『志島鎮守府』が陥落したとの報告があり、命令書には、電と島風だけでそれを奪還せよと書かれていました。

 そこには元帥のマークが付けられており、公式に認められた命令書です。

 

 勘違いしている九条くんは『無力な女の子二人』を連れて戦場に行くなんて、と激昂します。

 

 一方、横須賀鎮守府の橘提督はこの作戦はおかしいと感じ、武蔵野提督が何かしらやっているのではないかと疑います。

 それから調べ始めると、横須賀鎮守府に輸送用の船が停泊していることに気付きます。

(その際に桐谷理沙提督と合流)

 

 船の人曰く元帥が神無鎮守府へ送るように、と書いてありますが詳しく書きますと。

 九条が元帥に連装砲ちゃんを送るように依頼→元帥がそれを受けて連装砲ちゃんを輸送するように命令 という感じだったりします。

 

 そこで、五〇機の連装砲ちゃんという意味不明の輸送品に混乱します。

 

 この五〇機の連装砲ちゃんは九条が依頼したもので、妖精さんと協力して改造することによって、ただ自立して動くだけではなく命令をすると敵を攻撃するようにプログラムするのですが、この段階ではプログラム前なので自立モードをオフにしています。

 作中で連装砲ちゃんが動かないのはそういうわけですね。

 

 

 それから九条くんの対策は続きます。

 妖精さんの元へ行き、『勾玉』を調べることで応急修理女神の開発に成功。

 装備は持ち前の幸運で戦争前に作っていたという設定です。

 

 

 

 

 さて、ここまでが前哨戦ですね。

 図にすると、

 

 志島鎮守府陥落→志島鎮守府の奪還依頼→ふざけた命令書にブチ切れ

 橘提督、不審感を抱く→動かない連装砲ちゃん

 

 こんな感じですね。ザックリと。

 え? 分かりづらいって?

 

 ……コホン。

 

 ではサクサク進んでいきます。次は中盤戦です!

 

 

 

 

 

 中盤戦①〜中盤戦③まで。

 

 

 まず初めにフラグ立て(元帥と武蔵野提督による会話)ですね。

 捕まっていた誰かが逃げ出したことを示唆する内容を話しています。若干上から目線で、元々泳がせていたためか観察しているといった感じかな?

 

 そして九条達が動き始めます。具体的には、奪われた志島鎮守府の奪還です。

 濃霧という条件がありますので、史実のキスカ島撤退作戦と同じように霧に紛れて行動することにしました。

 それから志島鎮守府への奇襲ですが、これに関してはまず表門から堂々と攻めいることで撹乱し、表側に戦力を集中させることが最初の狙いです。次に裏門を攻めることで、『そちらが本隊か』と勘違いさせようとしたのが肝です。

 

 最後に表側に戻って今度は正面から突撃をかける、というのが当初の予定でしたが、その途中で邪魔が入ります。

 

 ……はい、戦艦棲姫です。一応事前に応急修理女神を二人に渡してはいますが、その効果を知らない九条くんは二人を庇って怪我を負います。(心臓へ弾丸の破片が突き刺さる)

 

 その後交戦は諦め、まず敵陣に二人を置くことにしました。

(二人の安全のために)

 連装砲ちゃんを全て置いていき、九条くんはそのまま戦艦棲姫を志島鎮守府に近づけさせないために単身戦艦棲姫の元まで行きます。

 まぁ、妖精さんは居ますが。

 

(ついでに、この辺りで横須賀提督が武蔵野提督に問い詰めることを決意しています)

 

 

 で、中盤戦②

 

 始まってからすぐに、九条VS戦艦棲姫というおよそ負けゲーにしか見えないバトルが勃発します。

 九条くんの目的はさきほども言った、二人がいる志島鎮守府に戦艦棲姫を近づけさせないこと。

 途中、海に引き摺り込まれたり駆逐イ級を怯ませていたりと人間とは思えない活躍をします。

 ただ、九条くんはここでも勘違いをしており、戦艦棲姫の化け物の部分だけを戦艦棲姫だと思っており、人間の部分を操られた人間だと思い込んでいるので、後のフラグにも使えそうですね。

 

 そんなこんなありましたが、結局敗北します。

 船はまるごと消し飛ばされ、九条くんは銃弾の雨を全身で受けるわけですが、ここで持ち前の幸運を発動します。

 

 

 最初の作戦で上手く敗北してから、周辺の深海棲艦を撃破して回っていた氷桜くんの艦隊がすんでのところで彼を保護したのです。

(ただし九条本人は気付いておらず、本編の描写も曖昧)

 その後、志島鎮守府の波打ち際に放り捨てられるのですがそれは置いておきまして、

 

 

 一方その頃。

 志島鎮守府に置いて行かれた二人は連装砲ちゃんを駆使して敵を各個撃破していました。

 連装砲ちゃんのオート化という改造を施したことで、ほとんど戦う必要もなく敵を倒せたのです。

 

 

 さてさて、ここからは中盤戦③です。

 

 初手は島風の思考フェイズですね。

 エピローグの日記にて、軽く島風の過去を書くことで分かってもらえたと思いましたが、彼女は元々黒鎮守府に所属していた艦娘でした。

 黒鎮守府から抜け、放浪していたところを発見されて新しい艦娘として神無鎮守府に着任した、という設定です。

 短い間でも九条提督と共にいることで、若干影響を受け始めている感じです。

 

 で、次が行間。これは要約しますと、九条を志島鎮守府の海岸に放り捨てた氷桜が何やら企むシーンです。

 これが、上記で説明しました『黒鎮守府提督の身柄』に繋がります。

 まぁここはこれといって説明することはありませんのでこんな感じで。

 

 

 その後、九条くんが目をさまします。

 最近は緊迫したシーン続きだったので若干の息抜きを入れつつ、あの後どうなったのかを説明しています。

 

 まずは志島鎮守府を奪還しに来てから一日経過してしまっていること。

 志島鎮守府の奪還に成功したこと。そして勾玉によって決意のシーンを入れてみました。

 『ありがとう』の意味は各自の解釈にお任せします。

 

 

 さて、中盤戦をまとめますと、

 

 志島鎮守府への奇襲→VS戦艦棲姫→志島鎮守府奪還→九条目が覚めた。

 

 超ザックリと。こんな感じです。

 

 

 そしてラスト! 一番面倒げふんげふん。読みづらい後半戦です!

 

 

 後半戦①

 

 

 初手はほのぼの。個人的に戦闘書くのが一番で、二番目に好きなフェイズです。

 島風に焦点を当て、『援軍到着のフラグ立て』が一応の目的です。

(一番はほのぼの好きな読者様のための息抜きですが)

 

 そして横須賀提督こと、橘提督。その先輩である桐谷理沙との合流。

 簡単に言うと、桐谷理沙に実権を渡す話です。

 提督としての権利を預ける形ですね。

 

 

 そして仕事を片付けようとパソコンに向かって、音楽ファイルを発見。

(パソコンのパスワードという普通教えられない情報をもらっているのに気付かない、不思議!)

 

 そして静寂島に氷桜がいることや、深海棲艦が住んでいることを思い出した九条は単身静寂島へ向かいます。

 その際に、妖精さんから逃げるための装備を受け取ります。

 

(描写していませんがこれも勘違いで、持たされた装備がレーダーなどを妨害する装置だったり。

妖精さんは逃げる=ステルスと勘違いしたようです。しかし、これによって海軍に発見されずに深海棲艦を逃していますので一応フラグなのかな?)

 

 ギミック的に考えましたが、後々考えるとそこまで考えながら読んでくれる方がいるかどうか……というところにいってしまいましたが。

 

 で、最後に監視です。

 氷桜提督の指令により、川内が鎮守府に潜んで九条くんの行動を覗いていました。

 うん、これだけです。

 

 

 そして次! 終盤戦②

 

 

 理沙提督大混乱☆ なんて言ってみたりですが、まぁ普通に考えて提督という職種に就いてる奴がフラフラと敵艦の蔓延る地域にいったらそうなりますわ、という話です。

 九条くんの指揮が無かったので無理やりねじ込みました。

(最初に考えてたのが九条くんが実は艦娘の息子でバトル〜的な展開だったという衝撃の裏話)

 

 うん、作品自体ぶっ壊れるところでしたね。まぁこじ付けがましいですが。

 

 

 そして九条くんサイド。

 今回は視点移動が激しいです。

 

 内容は、静寂島まで無事に辿り着いたことを書いただけですので説明は不要かと。

 

 

 で、最後に橘提督サイドです(なんかこの辺りから主人公変わってる気が……気のせいだよね?)

 

 最初に言いました、橘提督の目的。

『今回の戦争における不自然な部分を解明』するために聞きに行きました。

 ド直球過ぎて何も言えないですね。

 

 で、結構引っ張ってこの回では結局聞きません。

 

 

 

 後半戦③! 段々とテンションがおかしくなってまいりました!

 

 

 ここでは武蔵野提督が自身の目的を語っています。

 深海棲艦の全滅。その素体を使っての科学兵器などですね。

 

 そして、今回の九条達への作戦が、『志島鎮守府の奪還』には決して使ってはならない失敗策だと認めます。

 では、本来はどのような作戦だったのか。

 

 ここで、第一章の05でサラッと書いた黒鎮守府がでてきます。

 05話では、黒鎮守府を摘発して提督を拘束したことを書きました。

 

 そしてこの話で黒鎮守府にて、艦娘を人体実験していたことが明らかになります。

 そこから武蔵野提督は、黒鎮守府の提督は実は深海側と繋がっており、艦娘のデータを送っていたのではと疑います。

 

 それらを罠に嵌めて一網打尽にする。それが、真の作戦です。ただ、メディアなどにそれを言ってしまうと内側に裏切り者がいたのに気付かなかったということで海軍の威信に関わってしまうので、秘密裏に行う必要がありました。

 まぁそれを言ってしまえば志島鎮守府を奪われたことも威信に関わりますが、あとからわざと奪われたと説明してしまえば問題ありませんので。

 

 

 そして九条と氷桜サイド。

 氷桜くんは九条くんが全ての作戦を完璧に見抜いていた、と勘違いします。

 そして九条くんは九条くんで氷桜スゲーくらいにしか思ってなかったり。

 

 とりあえず氷桜の生存確認をした九条くんは次に、深海棲姫の生存の確認へと走っていってしまいます。

 

 (ちなみに、この様子は武蔵野提督が航空機を飛ばして録画し、鎮守府で放送していました)

 

 そして武蔵野提督が放った航空機を無力化し、バレないように編集データを仕込んだ氷桜くんは真の目的。

『黒鎮守府提督が深海側のスパイならば、彼もまた深海棲艦である』という予想を信じ、一枚の手札を手に入れます。

 

 人間に擬態している可能性。そんな手札を。

 

 

 その後、九条の策(完全なる意味で勘違い)によって戦艦棲姫を捕獲。

 これは九条が乗った船が残してしまったデータによる痕跡を追っています。何も処置を施していないので追跡は容易だったり。

 そしてちょうど戦艦棲姫の部隊に奇襲をかけるような位置でぶつかりあってしまったと。

 

 

 そして戦艦棲姫を無力化したことで、終結宣言が出されます。

 

 

 そしてザックリとまとめると。

 

 武蔵野提督の暗話→氷桜勘違いからの悪巧み→九条策(笑)によって戦艦棲姫捕縛→戦争終結

 

 こんな感じです。

 

 

 

 くぅ、疲れました。

 エピローグはもう説明不要だと思います(日記入れたので)

 

 あとはそれぞれの話と組み合わせれば分かるのではと。

 ……はい、分かりにくいのは完全に作者のミスです。やっぱり話を膨らませすぎると物語が動かし辛いですね。

 下手は下手なりに、日記でやっていきたいと思います。

 

 それから、ここが分からない、などありましたら質問して頂けるとありがたいです。

 その都度お答えします。(活動報告に作った方が良いかな?)

 

 ともかくにも、ここまでご閲覧ありがとうございました。

 人物紹介を書いてから第三章(今度は分かりやすく)を書きますのでどうぞごゆるりとお待ちを!

 

 

 

 追記です。

 質問がありましたのでいくつか載せていきます。

 

Q1、勾玉を調べた結果ダメコンが開発されたなら、今までこの世界にはダメコンがなかったんですか?

 

A、はいありません。そして量産なども、九条くんがその効果を知らないために鎮守府内でしか運用されず、艦娘達はそれを見て内密にするのか、と勘違いするので余り多くはされません。少なからず世には出回らないです。

 

 

 

Q2、擬態棲姫(仮)への見分け方や対処法は考案されてるんですか?

深海棲艦のスパイがアイツ一人という保証もありませんが。

 

A、対処法はまだ考案されていません。これから実験(人体)によって調べるつもりだったようです。

恐らくこれは描写しないだろう(氷桜の日記を書かない限り)なので、セーフかな?

 

 

 

Q3、連装砲ちゃんの大規模自立化&突撃運用法ですが、反発やコストの問題はないんですか?

 

A、問題ありません。連装砲ちゃんに関しては、作戦コマンドを思い出してもらえるとありがたいです。

 某RPG風に言うならガンガンいこうぜ、みたいな。強制的に攻撃するのではなく、これに攻撃してくれ、程度なので反乱の心配もありません(本人の意思なので)。コストに関しましても、前線が要求したことを受けて大本営が出しているので問題無しですね。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30 人物紹介『第二章』

 思ったより、内容は薄いです。


 九条 日向(くじょう ひなた)

 

 一言で言えばこの作品における公式チート。もしくはバグとも呼べる存在。

 凄まじいまでの指揮能力。その他能力を持っている。

(ただし本人は気付いていない)

 

 そしてこれだけでも十分艦これという。その中でも提督という職種においてはチートと呼ぶに相応しいのだが、更に幸運持ちという正に天に愛された存在(超高校級の幸運ではない)である。

 

 年齢は十六。外見はそこそこ整っている。

 性格は周りから見れば悪魔に近い存在。ただし内心はのほほんとした危機感知能力の無いバカ学生。

 

 自分がやった事を理解出来ないのって怖いよね?

 

 

 NEW↓

 

 第一章ではそのチートっぷりを見せつけたが、第二章では革命と呼べるほどのものを開発したりとさらにチート具合に磨きがかかっている。そして艦娘沈没率七〇%を誇る戦艦棲姫に対して生身で生き残るという化け物っぷりも発揮。

 比較的普通っぽく大人しめに書いたつもりだったが、後々見返して作者がビビるレベル。

 

 一応正義感があり、子供(駆逐艦)達を守るために奮闘した。

 

 

 

 

 

 

 橘 冬夜(たちばな とうや)

 

 通称、横須賀提督。作中でもそう書かれる事が多い。

 階級は大佐であり、九条の圧倒的な才能の前に霞んで見える彼だが、実は相当にエリートである。

 

 現在の年齢は二十六歳で、その性質は、曰く、良くあるハーレム鈍感系主人公。

 

 その言葉からも良く分かるように、先輩提督である『理沙提督』や、彼の秘書艦である霧島から好意を向けられている。(ただしその好意には気付いていない)

 

 尚、彼に惚れている女はまだ居る模様。爆ぜろ。

 

 彼自身の性格は明るい。ただ、上司や九条の行動でいつも胃や頭を痛くしている苦労人でもある。

 

 

 ↓NEW

 

 二章では、主人公ばりの働きを見せる。自身が見て見ぬ振りをしていた海軍の闇に目を向け、武蔵野提督と対峙。

 そして作戦の本当の意味を知る。

 今回は指揮をとらなかったが、エリート提督であることも判明した。

 

 

 

 

 

 

 桐谷 理沙(きりや りさ)

 

 一言で言えば、「弾幕はパワーだぜ」と言い張る普通の魔法使いに良く似た女性提督。

 

 階級は少将であり横須賀提督こと、冬夜提督に好意を抱いている。

 そして行動も中々に大胆。酒を飲むと毎度の如く酔った振りをして冬夜提督に抱きついたりなど色々とやっているが効果が無いようだ。

 

 最近では、次々と現れる恋のライバルに少し悩んでいる。(横須賀提督が次々とフラグを立てることにも)

 

 見た目は先程も書いた通り何処ぞの魔法使いと良く似ている。ただし胸はデカイ。

 口調や性格も男勝りな彼女だが、とても尽くすタイプらしい。

 

 

 ↓NEW

 

 第二章では、志島鎮守府奪還後の引き継ぎとして活動していた。元々ツッコミよりもボケ役だったが、その斜め上をいくボケ役(九条)によってツッコミ役に変換させられる。一応常識を持ち、節度を持っている(ただしプライベートの、橘提督との時間に関しては別)。

 一応、戦艦棲姫の捕獲は表向きは彼女の手柄となっている。

 

 

 

 

 元帥

 

 性格は優しい。

 ただし、目的の為には手を汚すのも厭わない。

 

 九条と激しい論戦を繰り広げたが、結果は引き分け。

 彼自身は九条の実力を『人類の希望たりえる存在』と評した。

 

 

 ↓NEW

 

 武蔵野提督曰く、化け物のような人間。

 『優しさ』のレベルがただの優しさではなく、一瞬でも気を抜けば殺されても構わないと思わされるほどのカリスマを持っている。

 九条の前では安穏な有能なだけの無能を装っているようだが……。

 

 

 

 氷桜 理緒(ひおう りお)

 

 九条と同じく若き天才。階級は大将。

 九条に友軍関係を結ぶよう持ちかけたが、破談。しかし諦めていない模様。

 

 性別不詳のアルビノ系。少なからず美男子、美少女であるのは間違いない。

 

 未だ謎に包まれた提督である。

 

 ↓NEW

 

 第二章の被害者、かと思いきや裏ボス。わざと鎮守府を奪わせ、そして武蔵野提督の言うことを聞いていた。

 深海側のスパイである黒鎮守府提督を捕縛し、何か企んでいる。

 本人の話曰く、どうやら元帥を嫌っているようだが……。

 

 

 

 

 以下、NEW

 

 

 

 

 NEW 武蔵野提督(柴田提督)

 

 第二章のラスボスにして、海軍大将。

 一見不可能とも思える作戦を成功へ導いたことから、作戦進行力は高いと見られる。

 深海棲艦の全滅を目論んでおり、そのためには敵を知ることが重要だと考えている。(人体実験など)

 

 元帥を恐れており、九条のことも気になっている様子。ちなみに男性。

 練度が高い艦隊を指揮しており、一章では九条の前で無能を演じた。(しかし見抜かれていると勘違い)

 

 

 

 NEW 深海棲姫

 

 未だ発見されていない、未発見の姫級深海棲艦。

 戦争を嫌っており、九条と出会ったことで人間との和平の道を選べないかと考えていたが、第二章にて和平の道を選ぶことを決意した。

 九条以外だと、電、響とはすでに面識がある模様(ただし友好的ではなかった)。

 

 

 備考、九条に人間だと勘違いされている。

 

 

 

 NEW 黒鎮守府提督

 

 深海側のスパイ。深海棲艦によって、深海側にも大本営があることが明らかになっているのでそこから派遣されたのかもしれない。

 氷桜曰く、深海側のスパイ=深海棲艦が人間に擬態している、らしい。

 未だそうなのかは明らかとはされていないが、可能性はある。

 

 本編には名前しか出されなかった(騒動の中心ェ……)

 

 

 

 はい、とりあえずこれでオリキャラは全員ですかね。

 うーん……思ったよりも寂しいな。次は原作キャラを追加してみるのもいいかも知れません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 白い少女と九条in本土
31 とある提督の日記


よっしゃ! 久々の日記だーっ!
↑テンションがおかしい。


 

 

 

 

 S月A日、それでも俺は、本物()が欲しい!

 

 

 

 久々の鎮守府! 一週間の入院生活を乗り越えて帰ってきたぜ! とまぁテンションMAXであることを書いてみる。

 病院では作戦の時一緒にいた電ちゃん達が一緒に居てくれたので特に不自由はしていない。

 いや、一個だけ不自由したな。

 

 

 携帯がぶっ壊れた(、、、、、、、、)

 

 

 うん、当たり前だね。銃弾の雨の中に放り出されたり海の中に引きずり込まれたりしたから当然だよ!

 まぁ、通信機器を買うのは明日行くので置いておこう。

 ついでに気になるのはやっぱり学校だよな?

 もうそろそろ一ヶ月くらい休んでることになるぞ? せめて出席しておかないと後々卒業出来ませんってなりそうだし……。

 

 そっちにも顔を出すことにしよう。

 何故か分からないけど、元帥さんから二週間も休暇をもらったし。

 その間に溜まってた仕事も済ませておかないとね! 電ちゃん達のような子供にやらせるわけにはいかないからね。

 

 ……はぁ、鬱だ。

 

 まぁそれは良いか。良くないけど、今は皆無事だったことを祝うべきだね! だが金剛さん抱きつくのはヤメろ。勘違いするから! 

 とにかくあんなのはもう二度と無いだろうし、今は平和と言う名の日常を享受しておこう。

 

 

 

 

 S月B日、負ける(晴れる)気がしねぇ!

 

 

 

 今日は雨だ。残念だけど今日のお出かけはパー。

 ……はぁ。

 まぁ良いけどね、明日行くし。

 それよりも今日は一つ問題が起きた。なんか侵入者が居たみたいなんだよね。

 それから深海棲艦も攻めてきたらしい。その時イヤホンつけてゲームしてたから気付かなかったよ。まぁバージョンアップしたらしく防衛戦が追加されててついのめり込んでしまった。

 どうやら防衛戦は稀にしか無いイベント戦みたいだけど。

 

 

 それと、鎮守府付近で怯えてた女の子を見つけた。一応保護して、俺の部屋に行かせてるけど何だろうね?

 なんか本土の方で船が行方知れずになったとか言う話も聞いたし、多分その船に乗船していたのかな?

 とにかく怯えてて、最初は声をかけても『カエレ!」とか「アッチイケ!』としか言わなかったから少し心配だ。

 

 とりあえず明日、本土に一緒に連れて行こう。

 

 

 

 

 

 S月C日、ちまちま雨を降らせるのも面倒くせぇな。

 

 

 今日は快晴だ。

 本土に行くのは俺と雷と響、それからあの女の子の四人だ。まぁ、横須賀鎮守府と演習を行うことが決定したから、後ほど他の子達も来るらしい。鎮守府には大和さんと島風が残るようだ。

 

 そして久々の本土。やっぱり都会だね。

 未だ土地を攻撃されたことは殆ど無いので、過去の繁栄を保っている。

 街にはビル群が立ち並び、忙しそうに人々が行き交っていた。

 そう言えばあの女の子の名前は『ほっぽ』、と言うらしい。深海棲艦さんのように白い身体の女の子だ。

 ちなみに服装は、着ていた服を脱がせて、洗濯して。今は鎮守府にあった子供服に、ポンポンのついた帽子を頭の上に乗っけさせている。

 

 ……今思えば服を洗った時についていたあの黒いタコ焼き型の球体は何だったんだろうか? 構わず洗濯機(妖精さん改造)に放り込んだんだけど中から『ミギャー!』と断末魔のような声が聞こえてきたのが気になる。

 

 まさか生き物だったり? いやいやいや。洗濯機(妖精さん改造)から出した時にポンポンがついた帽子みたいになってたし……違うよな?

 

 で、その帽子をほっぽちゃんはかぶって嬉しそうに歩いている。

 

「ネェ、アレ食ベタイ!」

「タコ焼き? 熱いから気を付けなよ」

 

 指差した先はタコ焼き屋だ。はぐれないように手を繋いでいるがどうにも心配になる。背後で何やら雷ちゃんと響ちゃんが話しているが一体何なのだろうか。

 もしかしてあれか? ロリコン扱いされてんの?

 

 ぃゃ、断じて違うからね!? 俺のタイプは年上の包容力溢れるゆるふわお姉さんだからね!?

 

 それぞれ一パックずつ買って渡す。その際にふーふーするように言うと、三人ともふーふーしだした。可愛い。

 ……にしても、やけに雷ちゃんと響ちゃんの様子がおかしいな。

 むぅ、また知らず知らずのうちに何かやらかしたのか? とりあえず後で聞くことにしよう。

 

 

 

 S月D日、汚物は(雨で)消毒だーッ!!

 

 

 

 そう言えば題名に雨入れてるけど、何でだっけ。

 悶々鬱々? 確かそんな……まぁ良いや、習慣で。

 

 とりあえず今日は、携帯ショップへ行った。ぶっ壊れた携帯についてだが、よく見たら銃弾が突き刺さってた。

 確か右胸ポケットに入れていたので、どうやら知らない間に俺は携帯に命を救われていたらしい。

 

 御守り代わりに出来ないか交渉したら直ぐにオッケー出してくれた。それから最新の携帯も直ぐに契約出来たので良かった。流石日本一のケータイ会社。

 

 

 

 それからその用事を済ませた俺は一度ホテルに戻ったのだが、その時雷ちゃんと響ちゃんに引き止められた。

 曰く、ほっぽちゃんは深海棲艦とか何とか。

 

 また艦娘ごっこかな? ほっぽちゃんも一緒になってやるのは構わないけど、演技なら演技と言って欲しい。本当のことのように言われると一瞬ビビる。

 とりあえず、空気を読んで両者の間を取り持つキャラクターを演じてみたけど大丈夫だったのだろうか?

 

 

 

 

 

 S月E日、降らない雨など、あんまりない!

 

 

 横須賀鎮守府で演習を行った。今回は指揮を行わず、『万が一連絡がつかなくなった場合』を想定して行うらしい。曰く、艦娘の判断が鍵だとか。

 ……思ったんだけど、艦娘って人工知能か何かが埋め込まれてんの?

 高性能すぎだろ、どう考えてもオーバーテクノロジー。

 まぁ良いけどさ。ちなみに俺はほっぽちゃんの両親を探すために街の交番から交番へと歩き回っていたので演習を見ていない。

 まぁ国家機密を一般市民に見せるのは色々と不味かろう。鎮守府の事だって殆ど分からないし、というか雑用的な感じだし。

 

 そうして交番に行っては『捜索願』やらを出されてないか尋ねてみたが見つからなかった。

 海軍の方にも聞いてみたけど、沈没した船の客員は未だ全員が行方不明らしく知らないとの事。

 

 まさかとは思うが、身寄りがない?

 

 だとするなら大変だ。何がといえばこれからの生活が。

 こんな歳で後ろ盾が無くなってしまえば、後はどうなるか想像に難なくない。少なくとも辛い事が降りかかるはずだ。

 

 ……仕方ない、これ以上迷惑をかける真似をしたくないが、最悪土下座してでも許可をもらおう。

 

 

 ……電ちゃん達のような子でさえ働かせている鎮守府なら、きっとほっぽちゃんも雇ってくれるはず!

 

 

 

 

 

 

 S月F日、それがどれだけ信じられない雨でも、残された可能性が真実だ

 

 

 今日は一人で学校へ行こう、としたのだが。

 不幸だ……、こっそり制服まで用意していたのに雷ちゃん達に見つかった。

 

「司令官どこに行くの? 司令官は私が守るんだから離れないわよ? え、学校? じゃあ司令官の膝に座ってるわ!」

 

 本人としては最善策のように思えたのだろうが、それは完全にクラス騒然の予感しかしない。そもそも一ヶ月休んだ奴が学校に来るだけでも騒ぎになるというのに。

 とりあえず来させないために話をでっち上げたのだが、

 

「それこそ駄目じゃない。誰かに尾行()けられてることくらい私達も気付いてるわ。きっと狙いは司令官、それかそっちの北方棲姫ね。恐らく両方か……?」

「そうだね。でも電が和平派だから私としては何かするつもりはないよ。司令官に任せる、まぁ着いては行くけどね」

 

 何だかよく分からない。どうしてこうなった。

 

「ホッポモ、守ル! 司令官良イ人ダカラ!」

 

 あれえ? 本当にどうしてこうなった? ついでに三人とも行く気満々だし。今更嘘と言える空気じゃないし。個人的には普通に授業を受けさせて欲しいだけなのに!

 

 そんなこんなで移動である。

 早朝。

 通学路。

 制服を着た男女が当たり前のように学校に通っていく中、ただ一人。俺だけが女の子を三人も引き連れて(しかも全員小さい)、学校に向かわされるこの所業。

 

 一言言いたい。

 

「辛い、地味だけど本気で辛い! なんだこの全方位型場違い感! 周りの人達の、何アイツ。あんな子供引き連れてロリコンか? って言う空気をお前らは感知出来ないのか!?」

 

 答えはうん、という言葉。

 

 …………本当に辛いです。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32 ダメ提督製造機 雷の日記

 雷ちゃん視点。やっぱり雷ちゃんにはツッコミ役が似合う気がする。


 

 

 

 駆逐艦雷は何を思うのか。

 九条に触れ、彼の人間性を垣間見て彼女は何を抱くのか。

 これは、司令官を世話したがる一人の少女の日記。

 

 

 

 

 

 S月A日、晴れね。

 

 

 司令官が帰って来た! 何度かお見舞いには行ってたけど、やっぱり嬉しいわね!

 顔色も良いし、元気そうにしていた。

 怪我をしたということで、しばらく休暇をもらえたみたいなんだけど司令官がどこかソワソワしてるから気になったわ。

 多分、仕事をしたいと思ったのかしら? ワーカーホリックだとしても流石司令官、仕事を第一に考えるなんて提督の鏡ね!

 

 それから、今日一日は快気祝いの意味合いも込めて、司令官のためにパーティをしたわ!

 途中、金剛さんが、

 

「あぁもう! いいかげん引っ付かないと提督分が足りないデース!」

 

 って言って司令官に飛びついた後、大和さんに

 

「……三分までですよ?」

「俺の意思は!?」

 

 九条司令官が叫んでいたけど気にしない。

 最初に比べたら随分緩くなったなと思った。でも満更でも無かったのが癪に障ったわ。何故かしら。

 やっぱり胸? 胸なのかしら?

 

 でも、私達が抱きついても嫌な顔はしないってことは、そういうことなのよね!

 

 あと、明日本土に行くらしいわ!

 

 

 

 

 S月B日、雨よ……。

 

 

 生憎の雨で計画がご破算になってしまった。泣きたい。

 全く空気を読んでよね!

 

 それで不幸も続いて、侵入者まで現れるなんて! しかも多くの深海棲艦を引き連れてよ!?

 しかもこの前、志島鎮守府を司令官が奪還していた時よりも多くて練度が高い!

 この前の防衛で資材も大分無くなっていて、正直ヤバイと思っていたけど……。

 もう、信じられないから結果から言うわ!!

 

「よっしゃ、ノーミスクリア! ふふふ、こんな弾幕でウチの艦隊がやられるかーッ!!」

 

 司令官が指示用のパソコンの前で叫んでいたけど、結果はオールSクリアの完全勝利。しかもその戦法が酷かったわ。

 

「貴様ラガ艦娘か、私ハ港湾棲姫ーーーー!?」

 

 

 まず、手を抜いて戦い、撤退して相手を誘う。で、その誘いに相手は上手く乗ったのよね。

 それから相手が名乗り口上を上げているときに、

 

「これが大和の全力全開です!!」

 

 鎮守府から撃った大和さんの砲撃が相手に命中して爆散した。司令官曰く、戦艦クラスは出撃させると資材消費が激しいから本陣から撃てばいいとの事。

 ダメージで言えば大破レベルかしら? 一直線に飛ばした砲弾が真正面から入っていったのを見て思わずうわぁ、と唸る。

 でも、司令官の指示は止まらなかったのよね。

 

「ねぇ、知ってマスか? 撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけなんデース、よッ!!」

 

 ドン! と金剛さんの砲撃。でもこれは周りの深海棲艦が身体で止めていたわ。そのお陰で港湾棲姫はギリギリで

一命を取り留めていた。それからノロノロと逃げ出したんだけど。

 容赦なく司令官は一艦に突撃を命じたの。

 

「遅いです、貴女の動きは見切りました。貴女に足りないものは多々ありますが、何よりも……速さが足りない!!」

 

 島風の魚雷。続いて砲撃。

 うん、書いてて悪者に思えてきたわ。ちなみに港湾棲姫は大破で逃げ帰ったみたい。

 

 

 

 

 

 S月C日、快晴よ!!

 

 

 今日は雲一つない快晴だったわ。これで昨日行けなかった本土に行けるわね!

 メンバーは私と司令官。それから響と……ちょっと待ってほしい。

 

 

 白い女の子。ぃゃでもこれって……北方棲姫よね?

 なんで居るの? しかもなんで司令官は落ち着いてるの? 敵よ、ソレ。

 

 私が図鑑で見た北方棲姫とは服装が違っていたが、間違いなかった。問題は、その北方棲姫の手を握って幼児に対するように接している司令官。

 ふと響を見ると、口をパクパクしていた。余りの衝撃で反応出来なかったみたい。

 

「ネェ! アレ食ベタイ!」

「タコ焼き? 熱いから気を付けなよ? 雷ちゃん達も居るよね?」

 

 何故だろう。あまりの出来事に呆然としてしまっていて気がつくと私達はタコ焼きを頬張っていた。

 そして北方棲姫を見る。

 

 司令官の背中に乗っていた。おんぶである。

 あれえ? 北方棲姫は『カエレ!』とか言いながら攻撃してくるんじゃないの?

 というか何で船の人も疑問を抱いてなかったの? もしかして私達がおかしいのこれー!?

 すると、

 

「雷、話しておきたいことがある」

 

 響が耳元で囁いた。それから彼女の話に耳を傾けていたのだが、

 

「……嘘!? 前にもあった……!?」

 

 どうやら司令官は深海棲艦にもツテがあるらしい。

 電と響はそのシーンを見たらしいのだが、深海棲艦と一歩も引くことなく対等に話していたそうだ。

 ……まさかとは思うけど、敵のスパイじゃないわよね?

 いや、あれだけ思い切りよく沈めてたらその可能性は無いか。

 

「電は、司令官が深海棲艦との和平を目指していると言っていたよ」

 

 末っ子の姿を思い出す。あの子は、例え深海棲艦でも沈めたくないという優しい子だ。

 だからこそその姿を見てそんな希望を見出したのか。

 

 もしかすると……司令官には気を付けないといけないかもしれないわね。

 本当はしたくないけど、探りを入れてみましょう。

 

 

 

 

 S月D日、晴れよ。

 

 

 今日は携帯ショップに行った。

 

「じゃあこの機種でお願いします」

 

 どうやら、志島鎮守府奪還の際に携帯が壊れたらしい。

 戦艦棲姫に海に引きずり込まれちゃってね! と笑っていたが何故笑えるのか分からなかった。

 というかそこまでされて何で生きてるのよ? ……と、いけないいけない。昨日みたいな事があったせいでどうも司令官を疑ってしまうわ。

 

 それからも司令官を観察していたんだけど、北方棲姫も暴れたりせず普通の子供のようにおとなしかった。

 時折司令官に撫でられた時は嬉しそうに目を細めている。

 

 ……前から思ってたんだけど、司令官はニコポナデポとか持ってるんじゃないかしら。なんて言うの? 撫でられた時に暖かい感じがするのよね。

 まるでお父さんに護られているみたいに。

 

 ……艦娘の私がお父さんなんて、変な話だけど。

 

 

 

 それから、ホテルにチェックインした時。

 意を決して私達は北方棲姫について聞いてみたんだけど、

 

「……二人に聞こうか。深海棲艦に心があると思う?」

 

 質問で返された。その質問に私達は頷いてみる。少なからず、先程までの北方棲姫の様子を見ていると、心があるように見えた。

 

「正解だよ。艦娘達にもそれぞれ心があるように深海棲艦にもソレは存在する。そしてその中には、人間と和平を望む深海棲艦も居る」

「……でも、現に戦争してるじゃない」

「そうだ。人間ってのは愚かでね、常に自分達が一番で居ないと恐怖を覚えるんだ。だからこそ敵を屈服させようとしているんだよ」

 

 そう話す司令官の目はどこか遠くを見ていて。

 

「二人にはまだ分からないかもしれないけどさ。俺は。俺という存在は、そんなふざけた理由の戦争に巻き込まれて、どこかで不幸になって。それでも何も言わずに耐えようとしてる奴を助けるためにここに居たいと思ってる。もちろん、全てを救えるなんて思ってないし救ってやる、なんて気持ちもない。でも、俺は現状を変えたい。勿論、君達だって身体を張ってでも守るつもりだよ」

 

 その目は子供に向けられるように優しげで。

 

「だから、俺はほっぽちゃんを助けた。深海棲艦だからーーなんて関係ない。俺は、俺自身が。彼女を助けたいと思った。そこに命令違反だとかそんなふざけたものはいらない。命令違反だろうが何だろうが、例え元は敵だったとしても、そいつが理不尽な不幸に見舞われていたら俺は助ける。それだけで動く理由になる」

 

 夢とか、何かあれば言ってくれ。その道に進めるように努力する。勿論、理不尽な目にあった時も。

 でも、今はまず大きく成長しないとね。

 

 そう言って司令官は笑った。まだ、早かったかな? と微笑んで頭を撫でてくれた。

 暖かい、安心出来る大きな手。

 

 それを感じて、私は気づいた。

 

 

 私が、なんで今まで司令官に好かれようとしていたのかを。

 それは、きっとーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 『誰かに愛されたかった』から、だと。

 

 

 

 

 S月E日、晴れ!

 

 

 

 昨日は柄にも無くメソメソしてしまったわ。

 でも、そのお陰で司令官がどんな人なのか、分かった気がする。

 だから、もう疑うのは辞めにするわ。響も同じ考えだったらしく、顔を見合わせて笑ったのはいい思い出だ。

 

 さて、今日からまた明るい雷様の復活よ!

 

 

 で、なんだけど今日は横須賀鎮守府で演習を行うらしい。数日前に決まったようで、全てを艦娘の判断に任せるようだ。

 横須賀鎮守府へは既に金剛さんと暁、それと電が居てそれぞれスタンバイをしていたわ。

 人数は五人しか居ないけど、精一杯頑張らないと。

 

 で、結論から書くわ。

 

 

「……強い」

 

 やはり横須賀鎮守府の艦娘達は強い。前に所属していたから分かるけど、特に霧島さんや赤城さんの練度が桁外れだわ。愛宕さんは……うん、強いんだけどね。金剛さんと撃ち合いになって、必死に頑張っている様子を見せながらわざと弾を受けてあられもない姿を提督に見せるのは……うん。

 

 電と暁が顔を真っ赤にしていたけど、響がトドメを刺していたわ。

 ……北方棲姫と行動すると言われて心配してたけど、司令官が観戦してなくて良かったかもしれないわ。

 だって、司令官が居たら金剛さんが絶対に真似していたもん!

 

「あ、愛宕何でこっち近づいて来て。つかまず着替えろ!

「えー? 頑張ったんだから愛宕、ご褒美が欲しいなぁ?」

「後で何でもしてやるから着替えて下さいお願いします!」

「ふふ、何でもしてくれるなら仕方ないわねー」

 

 ちなみにこれが相手の橘提督達の会話。対戦相手で生き残っていた霧島さんの顔が不幸(ハードラック)踊っ(ダンス)ちまった感じになっていて正直怖かった。

 でも、金剛さんが何か耳元で呟いたら治ってたわ。何を言ったのかしら? 

 

「ゴメンなさい足が止まらないのですぅうううっ!!」

 

 ちなみに霧島さんと赤城さん以外は電がテンパってぶつかるの繰り返しで大破認定にしてしまったらしい。

 

 図にすると、

 

 電、敵にぶつかり大破させる→テンパって動き回る→電、敵にぶつかり大破させる。

 

 ……何これ強い。っていうかゴリ押しじゃないこれ!? 酷いギャグ漫画でもここまでの展開は少ないわよ!

 と、思ったらいつの間にか身体が宙に浮いていた。

 どうやら赤城さんの戦闘機にやられたらしい。同時に暁も吹き飛んでいて、どうやら轟沈判定を出されたらしく無理やりエリアから追い出された。

 

 の、結果。

 一応勝利だけど、戦況はとてもじゃないけどよろしくなかったわ。特に私。負けていたら戦犯だった。

 

 うー! 悩んでばかりいないで精進しないと!

 

 

 

 

 S月F日、晴れよ!

 

 

 電達は一旦帰った。

 で、昨日の夜。どこかソワソワしていた司令官を見て何かあると思っていたら、なんと学校の制服に着替えていた。

 

 そう言えば学生なんだっけ?

 

「司令官どこに行くの? 司令官は私が守るんだから離れないわよ? え、学校? じゃあ司令官の膝に座ってるわ!」

 

 そう聞くと司令官は微妙な顔つきをした。

 何か考え込んで、溜息を吐く。

 

「……雷ちゃん。ほっぽちゃんが来た時に何で敵が攻めてきたと思う?」

「何でって、北方棲姫の仲間か何かじゃないの?」

「違うよ。一昨日言ったけど、深海棲艦には心がある。その中でもほっぽちゃんは温厚派だ。様子を見ていたけど、攻め込ませた素振りは無いからね」

 

 そう言って、司令官はチラッと目線だけ動かして端を見た。

 

「……じゃあほっぽちゃんが攻め込ませたもので無いと仮定して考えよう。なぜほっぽちゃんがウチの鎮守府に居たのか。それが鍵なんだよ」

「何でって……そりゃあ北方棲姫が鎮守府の防衛戦と関係無いなら、別の深海棲艦に追われてきた……あ!」

「そう、港湾棲姫だ。つまり、ほっぽちゃんはアレから逃げてきたんだよ」

 

 淡々と告げる司令官に私は驚愕を覚えた。

 もしかして、そんな思いが頭をよぎる。

 

「逃げてきた理由はいくつか思い当たるけど、次に敵の目的。ほっぽちゃんが狙いのはずだけど、そのためにまず俺を狙うはずなんだ。何故なら俺は『交渉カード』として使えるからね」

 

 鎮守府で初めて北方棲姫を見た時、司令官は港湾棲姫と結びつけたのではないか。

 それも、初めて会ったその瞬間に。

 もしーーそうなら、やはり司令官は別格だ。

 

 そんなことを思った雷の頭を撫でて司令官は言う。

 

「それに、その証拠に気付いてるかな? ほら、尾行()けられてる」

 

 指差す先には、こちらを覗き込む白い影(、、、)。人間にしては白すぎるソレは、確定的に司令官の話を裏付けていた。

 尾行()けられていることには気付いていたが、そこまで考えが及ばなかった。

 

「……俺の考えがあっていれば敵の狙いは俺だ。学校なら人が多いからひとまずの安全は確保出来る。それに同級生を人質を取られたら困るからな。見張りも兼ねてだけど。まぁ雷ちゃん達には鎮守府へ帰る手配をしてあるから安心してくれ」

 

 やはり全て読み切っている。

 あんな僅かな情報だけで真実を。

 そして、その上で護ろうとしているのか。

 司令官は私たちを。司令官に関わる全ての人々を。

 

「本当は両親の元に行くべきなんだけど、あの人達は問題ない。俺よりも遥かに優秀だからな」

 

 だから、だからこそ。司令官の口から溢れた言葉に私は驚愕した。

 俺よりも遥かに優秀。どんな化け物一家だよ、と思わずツッコミを入れてしまう。

 

 そしてなんだかんだ言いながら私達は司令官の学校へ向かった。

 

 

 

 

 




 『一言』
九条以上のチート両親。果たして勘違いなのか。
うん、これ以上やると艦これ世界の世界観が壊れる気がするね(え? もう手遅れ?)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33 北方棲姫 ほっぽちゃんのにっき!

 文字数が少ない件。
 しかし余り書く事は多く無い代わりに伏線は多い。
 ついでにほっぽちゃんだから書き方とか分からなかったりしましたが、想像で書きました。


 いくつか伏線回収をしたけど分かりますかね?


 

 

 

 迷い込んできた深海棲艦の少女は何を思うのか。

 九条という存在に触れ、何を感じるのか。

 

 これは、とあるほっぽちゃん。北方棲姫の日記である。

 

 

 

 

 

 S月B日、アメダヨ!

 

 

 深海棲艦同士の抗争で敗北したら、いつの間にか変な鎮守府に入り込んでいた。

 提督サンがノートくれたから書いてみる。

 

 確か、今日の昼間。突然港湾棲姫の軍勢が攻めてきて、住むところを追われた。

 仲間達が皆殺されて、私だけが生き残っちゃった。

 それで逃げていたらいつの間にか鎮守府に居た。

 

 鎮守府の提督サンは、本来は敵である私を匿ってくれるらしい。でも、まだ信用出来ないからカエレと言っておく。

 とりあえず本土に行こうと言ってた。

 仲間がいるかもしれないらしいので、一応付いていくつもりだ。

 

 

 

 

 

 S月C日、ハレダヨ!

 

 

 提督サンは良い人だ!

 ほっぽの艤装を改造してくれた! しかもカワイイ!

 性能も上がっているし、大きさも自由に変えられる。一日で解析したことでも凄いのに、更に改造するのはもっと凄い!

 服とかもくれた。前のよりも防御性能が高い服だ。艦娘用の服なのかは分からないけど凄い!

 

 タコ焼きなるものとかもくれて、美味しかった。

 

 

 それから最初に泊まるホテルで、どうして良くしてくれるのか聞いてみたら、

 

「どうしてって言われてもな……まぁ理由を言うなら、『嫌』だから、かな?」

「イヤ?」

「その姿(白い肌)をしているだけで迫害される現実が。何もソイツは悪くねーのに」

 

 ナルホド。その姿(深海棲艦)をしているだけで、ということは提督サンは和平派なのか!

 だから……、か。

 

 

 

 S月D日、ハレダヨ!

 

 

 

 けーたいしょっぷ? ってところに行った!

 どうやら提督サンが少し前に壊してしまったかららしい。

 一瞬……。

 

 けーたいに突き刺さってた弾丸が見えたケド。

 あれって深海棲艦のダヨネ?

 もしかして提督サンは現地に行って指揮をするの?

 

 もしくは交戦してるの?

 分からないけど、何で深海棲艦の前に生身で行って生き残っているのかが不思議。

 

 

 それから、ホテルに帰った頃。

 一緒に来てた駆逐艦の雷と、響が司令官に『ナゼ深海棲艦と行動しているのか』を尋ねていた。

 

 ナンデダロ。胸のあたりがギュッて痛くなった。

 その場から逃げてしまいたくなった。

 

 提督サンは一瞬だけ驚いた顔を浮かべた後にふふ、と笑うと

 

「雷ちゃん響ちゃん。深海棲艦は怖い?」

「……怖いわ」

「雷と同じだね」

 

 

 怖い、と答えた二人に提督サンはニコリと笑った。

 そして二人の頭を撫でて言う。

 

「そうだね、俺も深海棲艦は怖いよ。この前は本当に死ぬかと思うくらいだったし。でもね」

 

 そう言うと提督サンはほっぽを抱き寄せた。

 

「二人はほっぽちゃんが怖いかな? 今までの様子を見て、彼女が俺たちに仇なすことをしたか?」

 

 すると二人は首を横に振った。

 それを見て提督サンは、

 

「だからだよ。俺は敵には容赦しないけど、その敵は深海棲艦じゃない。人間だろうが艦娘だろうが、ソイツが間違ってると思ったら俺はソイツと戦う。相手がどんなに強かろうが関係ない。例え届かなくたって、戦う姿勢が重要なんだ。で、話を戻すけど俺はほっぽちゃんをどうこうする気はない。だってする必要が無いからな」

 

 そう言って笑った提督サンを見たら、さっきまで痛かった胸が治まっていた。

 その言葉を聞いた二人は、納得したような声を上げた後に謝罪の言葉を向けてきた。

 

 ほっぽは許した。

 

 

 

 

 

 S月E日、ハレダヨ!

 

 

 

 今日は提督サンと色々な場所に行った。

 交番とか、いろいろ。

 

 どうやら私の仲間を探してくれているらしい。でも、陸には居ないと思うのにナンデ?

 それから何か決意したように提督サンは頷いて、

 

「とりあえずウチで働くか?」

 

 そんな事を言ってきた。

 ナンデその答えが出たのかは分からないけど、このままお世話されっぱなしはダメだと思ったので頷いた。

 それに……港湾棲姫とかが私の仲間を殺した事は忘れていない。

 でも復讐はダメだと分かってるから、死んだ深海棲艦達のために和平を実現してあげたい!

 

 提督サン、チャンスをくれてありがとう。

 

 

 

 

 S月F日、ハレダヨ!

 

 

 

 今日は学校に行くらしい。

 提督サン曰く、ほっぽ達は付いてきちゃダメ! らしい。

 なんでなのかな? 昨日働くって言ったからまず提督サンを護ろうとおもってたノニ。

 駆逐艦の二人もそこを疑問に思ってたみたい。同じようについていくといってた。

 

 で、問い詰めると提督サンは隠し事をしていたらしい。

 ほっぽが港湾棲姫に追われて鎮守府に迷い込んだ事とかを気付いてたみたいで、尾行している人もいるとか言ってた。

 改造された艤装の特殊探知機を使用して透視(クレアボヤント)したら、近くには複数の反応。

 帽子から目の当たりに画面が現れて、マップが表示されて、場所が分かる。

 普段、艦娘の探知を優先してたから深海棲艦の接近には気付かなかった。

 

「反応ハ7! 近クニ一艦イルヨ!」

「うん、あそこだね」

 

 指差した先には地上を歩く深海棲艦の姿。ある程度は偽装してるみたいだった。

 それから駆逐艦の雷といくつか話していた提督サンが言う。

 

 

「非番だけど仕方ないか。人質をとられる前に素早く殲滅してしまおう。と言っても人数的に無理もあるし仲間に連絡されたら困る。つまり、取れる手段は一つ」

 

 そう言って、提督サンは私達三人に言った。

 

「囮作戦だ。俺は学校にいるから、その間に殲滅を頼む。指示はケータイでするよ。超高性能だからね」

 

 

 

 

 




 

「一言」
 まさかの壊れたケータイが伏線。そして妖精の技術(透視)
 覗きに使え……はい。
 とりあえず街中でも指揮が出来るようになりました(少しずつ進化していく九条君)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34 とある提督の日記

今回、少し話が動きます。
にしても日記は書きやすい。


 

 

 

 

 

 

 

 S月G日、大雨子供の雷と電

 

 

 ……なんだこの題名は。

 と、まぁそれはおいておこう。

 昨日、結構ゴタゴタしてしまったのでその事もまとめて日記に書いていこうと思う。

 

 まず、昨日なんだけど。

 『学校には行けた』、行けたんだよ! 学費もちゃんと支払われていたみたいで良かった!

 ……真面目な話、最悪だと退学扱いされているかと思っていたし。

 雷ちゃんと響ちゃん。それにほっぽちゃんも上手いこと丸め込めたからね。その代わり近くにいた白い人、ごめんなさい。

 で、ケータイで連絡すると言ってしまった以上しなくてはならない。

 でも流石に学校では電話は論外だ。そもそも雷ちゃん達はケータイを持ってなかったし。

 それで連絡するのに丁度良いアプリがないかなー、と適当に机の下で弄ってたら……、

 

 

 ありました(、、、、、)

 

 

 見た所GPS機能っぽい。雷ちゃん達の場所にそれぞれの名前と現在地点が表示されていた。

 レーダーなんとかみたいな名前だったかな? ともかくにも雷ちゃん達以外にも、『敵』の表示と横須賀鎮守府の艦娘の反応がチラホラとあったんだよね。

 ちょっと敵の表示が気になったけど、とりあえず横須賀鎮守府のメンバーのところに合流させるべきだと思ったから三人ともそこに向かわせたんだけど。

 

「敵発見。どうやら横須賀鎮守府も探知していたみたいで、様子を見ながら本部に対策を仰いでいるみたい」

 

 

 急にケータイから雷ちゃんの声が聞こえたのにはビビった。

 しかも授業中に。

 大慌てで断りいれて授業から抜けたけど。

 

「司令官、敵の位置を教えて欲しい」

「待て、一度待って。とりあえず学校まで戻ってきてくれ」

「何で?」

 

 まさかあのアプリ、通話とかのモード切り替えしなくてもリアルタイムで話が出来るとは思っていなかった。

 そしてそのアプリを完全に使いこなしている三人には一度説教をしなくてはならない。

 何故なら、授業中だと言ったのにまだ『ごっこ遊び』を繰り広げているからだ!

 だが、説教と言われて来る奴はいないだろう。だからこそ理由をでっち上げる。

 

 

「果たして深海棲艦がこんなケータイのアプリ程度に引っかかるか?」

「ッ!」

 

 そう、聡明な彼女達は分かってくれたようだ。俺のでっち上げた理由の意味を。

 敵にこの電波を傍受されているかもしれない。ついでに、この探知システムから逃れた敵も居るはずだ。

 『ごっこ遊び』をしているあの子達ならそう読み取ることだろう。

 

 でも、その途中で問題が起こったんだよね。

 

「ミツケタゾォォオオオオッ!!」

 

 校門を出たところ。

 変な白い人に追いかけ回された。うん、ガチで。

 警察に連絡したけどね。ってか五人も誘拐犯? が居るみたいな感じになったから、説教どころじゃなくなってね。

 とにかく三人を保護しようとレーダーを頼りに動いてたら、

 

 

「……目的ハ、ホッポダヨネ! ナラ二人ニハ手ヲ出サナイデ!」

 

 とんでもないものを見てしまったぜ。

 

「フン、裏切リ者メガ」

 

 ボロボロの幼女三人にゴツくて白いおっさん。

 完全に事案です本当にありがとうございます。

 と終わった今だからこそ冗談を言えるけど、

 

「……警察ですか、えぇ。◯丁目で変なおっさんが子供を相手に暴れていて」

 

 まずは通報。から、結構ガチでブチ切れました。

 

 

「マ、待テ、話セバ分カーーーー」

 

 意識が戻ったのはこの辺りだった。

 最初に感じたのは『怒りで昂った気持ちの氷解』。そして見えたのは倒れ伏した白いおっさんの姿。

 ここで俺は冷静になって気付いた。

 

(……やっちまった)

 

 明らかに正当防衛の域は超えてしまっている。過剰防衛だ。

 というか戦艦棲姫と戦闘した時から持つようにしている対深海棲艦用の武器が突き刺さっている事から完全に犯罪である。

 つまり、立派な犯罪者の仲間入りをしてしまったのだ。

 

(…………、あぁぁああああああああああッッッ!!)

 

 情けない事に、俺は三人を抱えて逃げ出してしまった。

 ひき逃げ犯並みの悪党っぷりにその時の俺は半ば絶望しかけていたが、とにかく三人だけはちゃんと安全な場所まで送ってやらねばという気持ちで一杯だった。

 

 

 

 

 で、気が付いたら翌日だった。

 どうやら俺は無事に横須賀鎮守府のメンバーのところまで三人を送り届ける事が出来たらしい。

 医療室に寝かされていた。

 ほっぽちゃんについて横須賀提督から問いただされたが、彼女は悪くない旨を告げた。

 それから事の顛末を聞かされたのだが、

 

 俺を追いかけてきた五人組は仕留めたらしい。

 逮捕、ではなく仕留めた、だそうだ。

 何故かと聞いてみると、どうやら彼らは深海棲艦側の人間だったそうだ。

 まだ詳しくは不明だそうだが、少し前に居た黒鎮守府提督が深海棲艦が擬態したものでは、と疑われていたところから話は遡るらしい。

 

 身体検査などで今も詳しく調べているが中々情報が集まらず、結果として可能性があるというところで落ち着いていたらしいが、今回の件でまた新たな意見が生まれたらしい。

 それが、あの白い人間は深海棲艦側の人間ではないか、という説だ。

 

 実際に俺が交戦した人もその疑いの中に含まれており、こちらは捕獲したとの事。

 他の人達は捕らえられる前に全て自殺した上に、溶けるように消えたため。証人として残っているのは俺が相手した人だけだそうだ。

 大手柄だなんだと騒がれてたが、そんな気はしない。

 

 それから医務室に雷ちゃん達三人が来てくれたが、泣いていた。

 背後から突然現れ、三人とも殴り倒されて艤装を剥ぎ取られたらしい。深海棲艦なのか操られている人間なのか判断が付かず、何が起こったのか考える間もなくの事だそうだ。

 

 『レーダーに何故かかからなかった』とも話していた。

 

 まぁ武器が無ければ子供には太刀打ち出来ないというものだろう。

 まだ『艦娘ごっこ』は続いていたのか、艦娘失格だなんだと言っていたので、提督として振舞った。

 

「無事でよかった」

 

 まぁ、提督以前の言葉だけどね。

 それを言うとまた泣き出してしまったので心が痛い。

 怖い思いをさせてしまっただとか、そもそも俺が学校に来る事を許可していれば良かっただとか。

 ともかく、落ち着いてから昨日回収したモノ。ほっぽちゃんの帽子とかを渡してあげると、喜んでくれたので良かった。

 

 

 

 

 

 S月H日、雨共には丁度いい目くらましだ。ハーッハッハッー!

 

 

 朝起きたら、布団の中に雷ちゃん達三人が居た。

 正直ビビった。

 女の子がそんなはしたない真似をするんじゃないと叱ろうとしたが、今度こそ司令官を守るんだから! と元気の良い声で言われては何も言えなかった。

 とりあえずそれとなく叱っておいたけれど。

 

 それから、怪我が完治した!

 

 かなり自然回復力があるのか、それとも治療が凄いのか。

 まぁ今日一日は大事をとって休まされたけどね。

 ついでに罪も無くなった(半殺しにした事については後悔していない)ので、気分も晴れ晴れ。

 なのだが……、どうも釈然としない。

 

 横須賀提督の話を聞く限りでは、この前の深海棲艦の地上侵攻は深海棲艦側の人間のように聞こえた。

 それに関しては異論はないし、海を泳ぐ深海棲艦が地上を侵攻出来た理由にも納得がいく。

 ただ、そうなると気になる部分が生まれるのだ。

 

 そう、同じように身体が白いほっぽちゃんや深海棲姫さんだ。

 あり得ない話だけど仮に彼女達が深海棲艦だと仮定しても、それならそれで俺とかを殺すはず。仮といえ提督には変わりないし。

 それなのに、彼女達は俺に対して友好的だ。

 

 まさか雷ちゃん達に話した、『深海棲艦にも人類との和平を望んでいる奴がいる』なんて事があるわけないし。

 つかそれを言うなら戦艦棲姫には殺されかけたし。

 ただ色白なだけにしても、タイミングが良すぎる。

 まぁ二人を疑う気はないけどね。

 

 それから、昨日の侵攻。

 敵の目的がまだ不鮮明な事も気になった。

 俺狙いだなんて考えにくいし、仮にほっぽちゃんが深海棲艦の裏切り者(俺が倒したおっさんが言ってた)だとしても、理由としては甘い。

 それならそれで、回りくどい事はせずに本土に渡るタイミングを狙えば良いのだ。

 

 何か、何かが抜けている気がしてならない。

 

 

 

 

 S月I日、雨デース、デース、デース

 

 

 

 本土から金剛が来た。どうやら今回の件を受けて俺の周りの守りを増やすらしい。

 女の子に守られるのは男としてどうかと思うのだが、金剛の嬉しそうな顔に思わず嬉しくなってしまう。

 壮絶なジャンケン大会デシター、とか言っていたが鎮守府で何があったのか気になるところである。

 

「hey! 提督ゥー、会えなくて寂しかったデース! デートの約束、ちゃんと覚えてマスカー?」

「あぁ、俺も金剛に会えて嬉しいよ。それとちゃんと覚えてるから安心してくれ」

 

 何せ初デートだ。

 もう一度言うが、人生初デートだ!

 

 まぁその場の流れだったとはいえ、そんな大事な事を忘れるわけがない。

 思えばその約束をしたのは志島鎮守府奪還の前だったんだよな。

 死亡フラグじゃねーかと当時思ったのは内緒、

 

 とは言ってもこの休み中にデート出来るかね? 今回の件で休みがさらに一週間伸びたとはいえ、まだまだ危険があるのも問題だし。

 それ以上に怖いめにあったあの三人も慰めてやらないといけない。

 それを言うと、

 

「分かってマース。だから提督、今日は皆でshoppingしましょう!」

「買い物? 何か買いたいものがあるのか?」

「そうではありまセーン。そもそも、今回私達は休暇中の提督を守るのが役目デース。なので、しっかりと守れた事実を作り、共に楽しませてあげれば良いのデスよ。それにまだまともに遊んで無いでしょ? 聞きましたよ、仕事ばかりしていると」

 

 そうなのか? 俺が働いてるのなんて一四時間程度だぞ? いつもの一八時間よりかなりサボり気味なのに。

 ぃゃ、寝る時間はそんなに多くないけれども。

 

「……、志島鎮守府奪還の時のが溜まってたし」

「言い訳無用デース。そもそも提督は働き過ぎなんデース! 本当なら私や大和さんがこなす書類や、他の子のものまで全て仕事を持っていったそうじゃないデースか! 鎮守府ではあまりに仕事が無くて仕方なしに資材集めやら攻略やらを進めるだけになってるんデースよ?」

「仕方なしにって……つか攻略出来てるんならいいじゃねーか」

「分かってませんネー。私達は提督が体調を崩す事を恐れてるんデース! そもそも何ですか。怪我が完治した一週間後にまた大怪我なんて貴方は何処の幻想殺し(イマジンブレイカー)なんデースか!?」

「知るか! こんなイベントが起こるのが悪い!」

 

 そもそも入院したくて入院してるわけではない。

 まぁ確かに身体検査された時に相手を殴った左手の骨が折れてるとか言われたが。

 それだってあと数日すれば完全に完治することだろう。

 

「まぁともかくデース、提督は働き過ぎ! 休暇中に仕事漬けになる人がどこにいるっ!!」

 

 ここに居ます、と言えば怒られそうなので止めておく。

 なんと言うか、やはり年上お姉さんの押しは凄いなと思った。

 

 

 

 で、だ。俺は幼女三人組と金剛と共に朝一で千葉まで来た。

 横須賀が神奈川あたりなので結構な移動である。

 何故ここまで移動したのかというと、金剛曰く『横須賀付近が危険ならそこから遠ざかれば良いじゃないデースか』との事。

 それから行き先は何処なのかと尋ねると、

 

「千葉まで来たら決まってるじゃないデースか。東京ネズミーランドに」

 

 ……、

 …………。

 ……………………!

 

「ネ、ネズミーランド!? shoppingじゃなくて!?」

「反応遅くないデースか? それと、ネズミーランドのお土産をshoppingするんデース」

 

 まさか某ネズミの王国に来る事になろうとは。

 というか来ると言うなら鎮守府に残してきた暁ちゃんや電ちゃんも連れてきたのに!

 何だか不公平な感じがある。

 

 ……ま、まぁ。今度連れて行ってやろう。大和さんや島風、間宮さんも連れて。

 というか良いのか。

 そもそも今日は平日で、俺学校あるんだけどという発言もしたいのだが。

 

「学校なんて、海軍の権限で一発じゃないデースか。何なら今すぐ卒業も出来ますよ?」

「……何だかなー。俺の青春ラブコメが終わるのは間違っている気がする」

「千葉だからといって無理やりそのネタねじ込まなくても良いと思いマースが……」

 

 そんなこんなでネズミーランドに突入した。

 ちなみにチケット代は俺持ちである。まぁ海軍から金額見てビビるくらいもらったし。

 一ヶ月で五〇〇万ってあんた……、それに特別ボーナス云々合わせたら一〇〇〇超えるんですけど桁間違ってない? 絶対に間違っている気がする。

 

「わぁ、凄いのね」

「うん、初めてきたよ」

「ほっぽも……人、凄い」

 

 初めて来たネズミーランドに子供達も興味津々な様子だった。

 某ネズミや、黄色いクマさんことプさんをチラチラと見ている。

 ……だが、何処か警戒は抜けていないのが悲しかった。とりあえず彼女達を楽しませるために、

 

「よし、じゃあ皆で写真を撮ろうか。おーいミキッー!」

 

 俺から率先して動くことにする。こう言えば彼女達も写真に写らざるを得ないからだ。

 それからアトラクションに乗ったり、(身長制限でいくつか引っかかった)

 お化け屋敷的なアトラクションに行ってみたり、(意外にも雷やほっぽが平気で、響が涙目になるほど怖がっていた)

 パレードのようなイベントを見たり、

 

 幸いにも邪魔が入ることもなく一日中楽しんだ俺たちは、ホテルへチェックインした。

 折角来たのだから、泊まりがけにしたのだ。

 まぁ金には困ってないし、一日じゃネズミーランドを楽しみ尽くせないというのもあったが。

 そのためお土産は明日買うことにして、ともかく三人のご機嫌取りとリフレッシュに勤しもうという考えである。

 

 

 

 

 ……今日一日を見る限りでは、かなり楽しんでくれたようだった。

 とても嬉しく思う。

 あんな子供が、あそこまで怖い目に遭わされたのだ。トラウマになっているかとも思ったがそうでもないようで良かった。

 

 

 

 

 …………明日も、無事に一日が過ぎてくれたらと切に思うのは、フラグだろうか?

 

 

 

 




金剛のデートのくだりが分からない方は14のデースノートを読むことを推奨いたします。
それから今回ツッコミどころ満載な九条君。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35 ダメ提督製造機 雷の日記

 最近、艦娘への憑依or転生が増えてきましたね。
 無人島漂着→提督も多いですが。
 やっぱりこの辺りがテンプレで人気なんですかねぇ?
 それを考えるとこの作品は『読者層を考慮したマーケティング(人気作品としての)』を丸々ぶっ飛ばした趣味の作品ですね。
 いつも付き合ってくださっている皆様ありがとうございます。


 

 

 

 S月G日、晴れよ……。

 

 

 失態だったわ。

 艦娘失格かもしれない。司令官を守るのが役目なのに、逆に守られて。本当に情けない。

 今思えば、レーダーに頼りきりだったのが悪かったのかもしれないと私は思う。レーダーで感知出来るのは深海棲艦だけだもの。

 恐らく私達を襲ったのは深海棲艦以外の、深海派の敵。私達艦娘は基本、軍艦並みの力を発揮出来るけど、それを人間に対して使えば危ないからストッパーを掛けられているのを知っていたのだろう。

 艤装。

 私達の耐久、攻撃力。全てに作用する艦娘の為の装備。

 それを剥ぎ取られたら私達は見た目通りの力しか出せない。勿論武術は習っているけれど、それでも大の大人には通用しない。

 ……油断大敵。慢心してはならない。

 

 それを忘れてしまった。

 これを艦娘失格と言わず何となるのだろう。守る相手である司令官に守られて、傷ついて。本人は気にしていないと言って撫でてくれたけど、それで私達の罪が無くなってしまったわけではない。

「無事で良かった」と。

 司令官は言ってくれたけれど、私達の心の闇は晴れない。

 響やほっぽとも話したが、いずれも消沈していた。

 それだけではない、司令官は深海棲艦であるほっぽちゃんも守っていた。元司令官、横須賀提督の追求をあっさりと丸め込んで。

 しかも敵を捕らえる戦果。司令官は対深海棲艦用の武器と言っていたけど、電気ショックで相手を無力化させる武器を妖精さんに作らせていたらしい。昔はよくそんな研究もされていたが、私達が深海棲艦と戦うようになって、そして今日では人間が深海棲艦と戦うなんて殆ど考えすらされていないのに。

 

 きっと、あの人は私達が慢心している事に気付いていたんだろう。

 だから、あんな武器を作って、命をかけて守ってくれたのだろう。

 もう二度と、慢心させない為に。

 

 これが戦場なら死んでいた。死んだ命を、司令官さんに繋げてもらったのだ。

 だから、まずは。慢心せず、弱った司令官を守る為に私達は決めた。

 

 

 

 

 S月H日、晴れよ!

 

 

 昨日の夜、私と響とほっぽは司令官のベッドの中に潜り込んだ。その理由は幾つかあるが、まずは守る為だ。

 ドアの前に立っていればどうしても気配が残ってしまう。ならいざという時にすぐ守れる位置にいるべきだと判断したのだ。

 

 司令官は苦笑いを浮かべていた。予想外だったのだろう。怪我も完治したらしく、元気な姿を見せてくれた。嬉しい。

 

 

 

 

 

 S月I日、晴れよ! 

 

 

 鎮守府の方から金剛さんがきた。私達の失態を受けて、来る事になったらしい。再会直後に司令官に抱きついていた。突然飛びついてきた金剛さんを優しく抱きとめた姿は、まるで映画のワンシーンのようだったわ。

 ……何だか司令官が取られた気がして胸がチクチク痛んだけど。

 

「デートの約束、覚えてマスカー?」

「あぁ、当たり前だろ」

 

 その言葉を聞いてさらに胸が痛くなった。響の目からは光が失われてたんだけど、何かしらあれ。ほっぽちゃんはニコニコ笑っていたけどね。

 

 それから。

 デートは今度にして朝一で出掛けることにした、という司令官の言葉で私達はバスに乗った。二時間くらいバスで揺られていて、で司令官がここ、と指差した場所なんだけど。

 

「東京ネズミーランドだ」

「!」

 

 嬉しい。

 正直、嬉しい。艦娘ということもあって、来れる機会が無いと思っていたから本当に嬉しい。

 遊園地。

 人間が作ったアトラクションには私達も興味があった。その中でもユニバーってところとネズミーランドは特にだ。

 電や暁が居ないのが少し罪悪感があったけど、凄い楽しめた。ほっぽちゃんが深海棲艦だとバレることも無かったしね。

 

 で、夜にショーを見てた時。

 

「……金剛、少し良いか?」

 

 司令官が突然金剛さんだけをこっそり呼び出していた。響とほっぽはショーに夢中で気付いていなかったけど、ふと気になった私は付いていく事にしたんだけど。

 

「これであの子達の気も紛らわせる事が出来たかな?」

「慢心を教えるには良いタイミングデース。特に子供達は連戦連勝で気が大きくなってマースから。そういう意味では提督の行動は間違ってません」

「……俺はさ、本当はあんな目に遭わせるつもりは無かったんだ。少し叱ってやれればと思ったんだけど」

「イレギュラー、ですか。提督にも読みきれない事があるんデースね」

 

 暗い顔をした司令官が金剛さんと話していた。何を話しているのかしら? と気になって聞き耳は良くないと思いつつ聞いてしまう。

 

「買い被るな。流石に情報も無しに敵の目的は分からねぇよ。恐らく、の検討なら幾つか付いてるけど」

「……何にせよ、しっかりと構えておきます。折角の休暇デースから」

 

 そうしてまた元の場所へ戻ってきていた。

 ……何だろう。敵、ってもしかして三日前の? また、司令官は私達の知らないところで動いているの? なら、こうしていられる場合じゃないわ! 私達も司令官を守る為に警戒しないと!!

 

 だって、今度こそ守るって決めたんだから!

 

 

 




 今更ですが、原作が無いので日記内に状況描写がいるのが辛いです。
 うん、まぁその分好き勝手書けますが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36 不思議系クール中二病ロリ 響の日記

 タイトルは九条くんが響にあると断定した属性です。
 それ以外に意味はない。

 それから夏イベントが始まりましたね。
 そう言えば最近艦これに触れていなかった事を思い出しました。
(結構長い間やってないくせに書いてる俺は異端)
 まぁ時間が取れないのもあったりしますが……イカが面白いんですこれが。
 とりあえずイベントは電ちゃん連れて頑張ります。←ロリコンではない。


 

 

 

 かつて不死鳥と呼ばれた少女は九条の存在をどう思うのか。

 戦時中、沈まなかった彼女はどのような希望を見出すのか。

 これは、不思議系クール中二病ロリ。

 暁型駆逐艦の二番艦、響の日記である。

 

 

 

 S月B日、雨だよ。

 

 まず、始めに書きたい事がある。

 日記、というものを書くのは初めてなので少し緊張するな。とりあえず書いていこう、

 九条司令官についてだ。

 

 正直、初めて会ったときは気の良さそうな青年にしか見えなかった。

 私達の会話にもニコニコ笑いながら付き合ってくれたし、前司令官であった横須賀司令官がいうような天才にはとても見えなかったからだ。

 

 それを踏まえてなんだけど、今の私が抱く九条司令官のイメージはコレだ。

 側にいるだけで安心する人。

 まるで父のように優しく、強い。それでいて私達と対等に話し、深海棲艦との会話すら物怖じしない。

 ましてや戦艦棲姫とは直接交戦したとも聞いた。人間とは思えない人だ。

 

 さて……私は今の九条司令官が司令官になる前。電と共に見知らぬ深海棲姫と談笑する九条司令官の姿を見たことがある。

 私達に睨みを利かせた彼女を軽々と制し、ニコニコとした笑顔を崩さないまま。

 まるで、深海棲艦が恐ろしくないように。普通の人間に対する反応を九条司令官はしていた。

 

 電は、素直に嬉しそうにしていた覚えがある。もしかすれば、深海棲艦を沈めなくても良い道があるのかもしれないと。

 だが、対照的に私は心底恐怖していた。

 過去を、思い出してしまうのだ。雷が、暁が、電が沈んでいく姿を。

 船だった頃の私を。

 

 恐らく、敵を無意識に米軍の軍艦と照らし合わせてしまっているのかもしれない。

 それでも、私は怖かった。

 一人ぼっちで、周りには誰も居なくなって。勝てないのが分かっているのに戦って。生き残って。

 

 『不死鳥』。そのように評されていたが、私には皮肉としか思えない。

 それか、枷だ。死なない船、としての枷。司令官が行っている行為は、敵との新たな道を作れるかもしれない行為だと理解しているが、怖い。

 それが失敗すれば?

 そうなれば全ては水の泡だ。幸いにも司令官の指揮は素晴らしく、未だ敗北はしていない。

 それでもいずれ敗北は訪れる。

 だから私は、怖い。敵を恐れず、生身で敵に向かっていける司令官が理解出来なくて、怖い。

 

 だから私は港湾棲姫が攻めてきたと聞いたとき、恐怖を感じた。死を覚悟した。

 それなのに、司令官は簡単に勝利した。

 神がかった妙手。無茶苦茶とも呼べる指示をこなしてしまう力量。

 圧倒的だった。

 

 驚くほどにアッサリと港湾棲姫は撃破された。

 ……おかしい、と私は思う。

 そもそも艦の数からして勝ち目はないのに。それなのに勝ててしまう。勿論指揮の力や私達の動きがよかったなどの理由はあることだけど、それでもあまりにも異質だった。

 恐らく、違和感を抱いているのは私だけなのだろう。

 逆に言えば、私以外の皆は司令官を信用しているのだ。彼の指揮は常に最適で、万が一の間違いもない。

 事実その通りだ。だが、偶々それが崩れるかもしれない。

 

 だから、私は。私だけは一瞬たりとも油断はしない。

 今度こそ、姉妹を守る為に。

 

 

 

 S月C日、気持ちの良い晴れだ。ハラショー

 

 

 心臓が跳ね上がる、という描写の意味が分かった。

 これほど驚愕したのは初めてだ。正直、攻撃する前に動きを止めた自分に賞賛を送りたい。

 とりあえず落ち着いたから、書こう。

 北方棲姫が居た。

 まごう事なき北方棲姫だった。敵の、それも姫級。かつて電と見た敵の姿は一瞬で私を臨戦体勢へ移行させそうになった。

 

 が、よく見るとおかしな部分があった。

 北方棲姫は、タコ焼き型の武器を扱う、と聞いていたのだが、その北方棲姫はポンポンのついた帽子をかぶっていたのだ。

 司令官に尋ねると、妖精さんの洗濯機に放り込んだらこうなった、という訳のわからない返答をされたよ。

 本当に意味が分からない。

 

 とりあえず、雷に過去の出来事を話す事で司令官への危険性を一応伝えておく事にした。

 特に北方棲姫だ。どう考えても危険過ぎる。

 雷も分かってくれたのか、『一応気をつけておくわ』という返事をもらった。

 

 

 

 S月D日、晴れだよ

 

 

 今日あった事を簡単にまとめてから本題に入ろう。

 とりあえず今日は一日中北方棲姫を監視した。司令官が壊した携帯を買い換えているとき。食事をしているとき。

 とにかく一日中だ。

 しかし、北方棲姫は何のアクションも起こさなかった。それどころか、司令官に頭を撫でられては気持ちよさそうにしている。まるで子供のように。

 

 子供といえば、雷も頭を撫でられては気持ちよさそうに目を細めていたが。

 

 とにかく、一日が終わった後。

 私達は意を決して司令官に北方棲姫について尋ねてみた。

 

「深海棲艦だからとか、人間だからとか。そんなモンは関係ないんだよ。俺はさ人種とか人外とか関係無く、ソイツが苦しんでいたら助けたいだけだ。綺麗事かもしれないけど、そうしたいって本気で思ってる」

 

 長い時間を使って語ってくれた。

 深海棲艦に対する思い。私達に対する思い。人間に対する思い。包み隠さずに教えてくれた。

 その上で、私はこんな質問をした。

 

「……司令官は怖くないの? 深海棲艦が」

 

 一瞬、司令官の目が驚愕の色を帯びた。だが、私の質問の意図を察したらしい。

 はっ、ーーーーと。

 そう問われた司令官は小さく笑って、

 

「そりゃあ、怖いよ。でもそれは深海棲艦に限った事じゃない。俺が立ち向かうって決めた相手は皆怖いさ。だってそうだろ? 俺は元々ただの学生だぜ? そんなの怖いに決まってる」

 

 言い切って、司令官は真剣な顔を向けた。

 そして大人な笑みを浮かべて、私達の頭を撫でる。

 

「それでも、逃げちゃ駄目だ。俺がそこでソイツを見捨てちまったら、ソイツを助けてくれるヤツが次いつ現れるか分からない。そして何より、俺が認められない。認めたくないから、俺は手を伸ばすんだ」

 

 二人にもいつか分かるよ、と言う司令官の手は温かくて大きかった。そして何より、どこにでもいるのような学生の言葉だった。

 雷はその一言で疑うのを止めたようだ。

 私は、何を考えているのだろう。

 

 とにかく、私の意見は変わらない。まだ一%だけ、司令官を疑う気持ちは残っていた。

 もし、この一%が無くなれば。

 その時こそ、私は本気で彼の駆逐艦として生きる。

 

 その覚悟を、した。

 

 

 

 S月E日、晴れだよ。

 

 

 今日は横須賀鎮守府との演習があった。

 電が大慌ての獅子奮迅だった。

 書いていて意味が分からないけど、実際にそうだったのだから仕方がない。

 にしても、愛宕さんは自重して欲しい。

 電と暁が顔を真っ赤にしていた。

 ……私もあそこまでのアピールは少し、恥ずかしいな。

 

 

 S月F日、晴れだよ

 

 

 慢心、だったのだろうか。

 一つ私は失念していた。

 

 敵は深海棲艦だけじゃない(、、、、、、、、、、、)

 

 司令官が数日前に話していた。敵は深海棲艦だけではないという言葉を、私は本気で受け取っていなかった。

 だから気付けなかった。

 

 気付いた時には遅かった。殴り倒され、艤装を奪われ。

 何が不死鳥なのだろう。

 武器をもがれた私達は見た目通りの力しか出せない。

 雷を守ることも、ようやく話す事が可能になったほっぽと連携をとることもできない。

 詰んでいた。という表現が正しいのかもしれない。

 咄嗟に一撃目だけは雷を庇えたが、それだけだ。辛うじて意識があっただけで、何も出来なかった。

 

 そして雷も倒されてもう駄目だ、と思った時だった。

 カツッ、と靴音が聞こえた。

 コツコツと響く音で、私は誰かが来た事に気付いた。

 

(……駄目、危ないの、に)

 

 その時の私は混乱していた。だからこそ、運悪くこのような場面に出くわしてしまった一般人を近寄らせない為、離れるよう声を出そうとした。

 のに、

 

「離れろよ、テメェ」

 

 その声には聞き覚えがあった。

 毎日のように聞く、声だ。

 

「今すぐ離れろ、このクソ野郎」

 

 ザリッ、と地面を踏みしめる音が聞こえた。

 顔を上げて、私は気付いた。

 

「テメェ、何に手ェ出したのか分かってんのか?」

 

 司令官がいた。憤怒に顔を染めた司令官が。

 拳を握り、私達を襲った相手を睨む司令官が。

 そして司令官は私達へ顔を向ける。

 

「悪い、待たせた。今からコイツをぶっ飛ばすからーーーーそこで見て待ってろ」

 

 結果的に司令官はその白い男を倒した。

 しかし殴った時に怪我を負い、何度か相手の一撃を受けていた。私達を守る為に怪我を負わせてしまったのだ。

 

 仮にも私達は艦娘である。それなのに司令官に守られてしまった。それも、心のどこかで疑ってしまっている司令官に、だ。

 ……心がモヤモヤする。

 私達の為に戦ってくれた姿を見て、気付いてしまったんだ。

 

 司令官の思いは本物(、、、、、、、、、)だと。

 

 一%の可能性なんて、元々無かったんだと。

 だからこそ私の気持ちは複雑だ。

 

 

 

 S月H日、晴れだよ

 

 

 雷の提案で、今度こそ司令官を守る為に身辺警護をする事になった。

 で、気付いたら司令官の布団の中に潜り込んでいた。雷に乗せられてしまった感が否めない。もしかすると私は人に騙されやすいのかもしれないが、それはともかく。

 それとなくだけど怒られてしまった。

 雷とほっぽは堂々としていたけど。

 

 やっぱり……恥ずかしいな。

 

 

 

 S月I日、晴れだよ

 

 

 金剛さんが合流した。デートだなんだと騒いでいたが、往来で抱き合うのはやめて欲しい。

 ……うん、最近多いけど、恥ずかしいな。

 でも周りから子供三人ってという声が聞こえたのはどうかと思うよ。実際には抱きついた金剛さんの姿が一昨日の私達と重なってしまった事で変な気持ちになっていた。

 助かった、そんな思いで抱きついた一昨日の私達の姿と少しだけ重なって見えたのは気のせいだ。

 だけど、私はどうも不可解な、味わった事のない気持ちを感じていた。

 

 きっと周りから見たら変な様子だった事だろう。

 グルグルと心が安定しなかったのを覚えている。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 さて。それから私達は東京ネズミーランドへ行った。

 気晴らしもかねてらしい。お化け屋敷に入る時になって、やけにみんなが入りたがる意味がわからなかった。

 ……認めよう、私はお化けが怖い。

 暁よりはマシだけど。暁よりは。

 

 ……泣いてなかっただろうか。一日中楽しかったけど、翻弄されっぱなしの一日だった。

 明日もここで遊ぶらしい。電と暁も居れば、良かったんだけどね。




 
『一言』
 響ちゃんのなんとも言えない気持ちの描写に手間取りました。
 ちなみにお化けが怖い設定はオリジナルです。暁を出したい(ツンデレロリが書きたい)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37 とある提督の日記

 前章(第二章)に勘違いが少ないという言葉をもらったから今回はマシマシにしましたぜ(含み顔)
 それから文章の書き方を原点回帰してセリフを殆ど削ってみました。試験的に数話この書き方で書きますので好評ならこちらに切り替えます(あれ、37話もやって今更かよというコメントが聞こえる……)



 

 

 

 S月J日、ハハッ! レイニーだよっ!

 

 

 なんか、見知らぬ人に絡まれた。白っぽい身体色だったので深海棲艦側うんぬんの人なのかと思っていたらどうやら違っていたらしい。

 ほっぽちゃんを探していたとか言っていて、ほっぽちゃん自身も喜ぶような素振りを見せていた。ちなみに美人である。

 

 ヤケに雷ちゃん達や金剛さんが警戒していたがどうしたのだろう。俺を守るように手を広げられても意味分からないぜ。……マジでなんだあれ。

 

 それからほっぽちゃんを連れ戻しに来たとか言っていたので、彼女がほっぽちゃんの保護者であると分かった。「オ世話ニナリマシタ」と言われて少し照れくさい。名前は空母棲姫(くうぼせいき)と名乗っていた。

 ……最近思ったんだが、深海棲艦や艦娘の名前を付けるのが流行っているのだろうか。電、雷、暁、響にしても第六駆逐隊という駆逐艦の名前だし、北方棲姫だとかも敵の名称が載った名簿に書かれていた。

 

 まさか本当に艦娘や深海棲艦な訳が無いし……それに俺がまともに出会った深海棲艦も志島鎮守府奪還の時に見た敵だけだしな。

 

 まぁそんな馬鹿なことは置いておこう。

 ほっぽちゃんと良く似た白髪をした、ボンキュッボンッ! な美人さんはほっぽちゃんを愛おしそうに抱きしめていたが、やがてお礼の言葉を言ってから帰ると伝えられた。

 にしても良かった。親御さんが見つかってホッとした。

 もしかしたらもう身寄りがないんじゃないか、なんて事も考えていたから良かったと心から思う。

 

 が、いざ別れるとなった時ほっぽちゃんがグズリだした。まだ別れたくないと言うのだ。

 正直言うと嬉しかったが、お母さんからしたら微妙だろう。ようやくの再会なのだ。一緒に居させてやりたい。

 それを伝えると、空母棲姫さんは「ジャア、今日一日ダケ遊ンデオ別レニシマセンカ? 帰リ道モ同ジデスシ」と代案を出された。

 

 結局その提案を呑んでネズミーランドで遊んだんだけど、やっぱり楽しいな。流石親子三世代遊べる遊園地。

 その日一日は遊び尽くして、夜間バスで帰ることにした。明日鎮守府に帰るときがお別れの時だ。

 雷ちゃん達は空母棲姫さんとほっぽちゃんの様子を見て目を丸くしていたが、やがて暗い、陰りのある表情で何やらつぶやいていた。

 ……もしかしたら。彼女達も寂しいのかもしれない。そう言えば雷ちゃん達も親御さんと離れ離れなのだ。なら、一度親御さんの元へ帰してあげるべきかもしれない。

 ……それとフラグ回収しなくて良かった。

 

 

 

 S月K日、別れの雨はまたねの証

 

 

 今日は空母棲姫さんとほっぽちゃんとのお別れ、だったのだが面倒が起こった。

 

 突然見知らぬ白い男達が現れ、ほっぽちゃんを攫う! と攻撃を仕掛けてきたのだ。雷ちゃんと響ちゃんと金剛さん。それから空母棲姫さん達がその対処をしていたんだけど、何だろう。

 普通、男である俺がやらないといけないのに寧ろ邪魔になっている気がするというか気しかしない。というか空母棲姫さんは何故そこまでの戦闘スキルを持っているのかが謎だ。

 

 ついでに街中で砲撃するな。一番小さい銃でも銃刀法違反だぞ。思わず叱ってしまったけど。まぁ流石に見過ごせない。人間相手に銃は駄目だ。志島奪還の時のはノーカン。

 

 それはさておき、瞬く間に変人の群れは撃滅した。一応こんな俺でも海軍としての地位があるので、最寄りである横須賀鎮守府に連絡をしておいた。

 恐らくこいつらがこの前、横須賀提督が言っていた深海棲艦側の人間に違いない。ぶっちゃけ俺は何もしてねーけど。

 

 銃を使った時に怒ったせいかシュンとしていた二人に罪悪感を覚えた。でも、お兄さん犯罪はいけないと思う。過剰防衛した俺が言えることじゃねーけど!

 で、横須賀鎮守府からの援軍を待っていたわけだが、そこで更に問題が発生した。

 雷ちゃんが叫んでようやく気付いたのだが、姫級の深海棲艦が現れたらしい。あれ、一日遅れのフラグ回収? と思ったのは内緒で。

 

 にしても本土に姫級の深海棲艦とは。海軍の失態になるのか? そんなことを考えつつ、港湾棲姫が沈んでない!? どうしてッッ!? って慌てる二人を落ち着かせてから俺は空母棲姫さん達に声をかけた。

 まぁほっぽちゃんと空母棲姫さん達は一般人だ。こんな戦争に巻き込むわけにはいかない。だから避難するように言い、雷ちゃん達も巻き込みたくなかった俺は二人をボディーガードとしてつけるという名目で四人を避難させたのだが、この判断は合っていたのか。

 雷ちゃんと響ちゃんの反発は凄かったけど、適当に言いくるめた。

 

 それからしばらく街の中に敵らしい不審者が居ないか金剛さんと二人きりで走り回っていたのだが、その途中ではぐれてしまった。

 裏路地の方を見回っていたせいか。迷子になってしまったのだ。うん、恥ずかしい限りだけど。

 ……で、しばらく歩いていたら荒れている女の人を見つけた。これまた真っ白な肌の人だ。ついでに美人。荒れている彼女は探している人がいる、と言っていた。

 

 気になって尋ねてみたら、最近鎮守府に着任したばかりのくせに功績を立てまくっている天才の話をされた。どうやら彼女はその天才を探しているらしい。

 うーん、俺には縁のない話だ。一瞬、もしかして氷桜かなと思ったけど違うようだし。そこで横須賀提督に聞いた天才君の話を思い出したが、具体的な人は知らなかった。申し訳なく思いつつ俺は丁重に断ったのだが、その頃には彼女はだいぶ落ち着いてくれたらしい。

 「話ヲ聞イテクレテアリガトウ」と。お礼も言ってくれた。

 まぁ殺すとか物騒なことを叫んでいたからね。前向きに生きてくれると良いな。

 ちなみに翌日も探しに来るらしい、用があるので他には危害を加えないと話していた。それからもし良かったら愚痴に付き合ってくれとも。まぁ愚痴くらいならね、本土にいる間は聞いてあげることにした。

 

 

 

 S月L日、ナンドデモ……ナンドデモ(雨が)降っていけ

 

 

 ほっぽちゃん達が帰るのは延期になったらしい。危険、という事もあって空母棲姫さんが一度帰宅して安全を確認する事にしたらしい。帰り道を海軍の方で護衛しましょうか、とも声を掛けたのだが断られてしまった。

 そしてその間ほっぽちゃんを頼むとの事。

 ……二つ返事で引き受けたんだけどそうホイホイと娘を任せても良いのだろうか? まぁ引き受けたからにはキチンと守り抜くつもりではある。知らぬ間に雷ちゃんと響ちゃんとは和解したらしく、楽しそうに話していた。

 

 それから金剛さんに怒られた。

 昨日、途中ではぐれた事に関して物凄い怒られた。心の底から俺の身を案じてくれる彼女はきっと良い人なのだろう。罪悪感がある……。でも少しくらい信用してほしいな。俺だって男だから一人でも大丈夫だし……ね。

 ついでになのだが、昨日現れた姫級の深海棲艦は何もせず撤退していったらしい。目撃証言によると一人の男性が説得していたのを見たとの報告を受けた。

 うーん、その人勇気があるな。深海棲艦、しかも姫級を説得するなんて。こりゃそのうち表彰されるんだろうな。

 つか俺よりソイツの方が提督として適任だと思う。そもそも俺みたいな不法侵入者雇うくらいならソイツを雇えよ何やってんだ海軍。

 

 んでとりあえず危険は去ったとはいえパトロール代わりに昨日歩いていた道をぐるりと歩いていたら、昨日会った白い女性に会った。名前は港湾棲姫さんらしい。

 昨日のように怒り狂った表情ではなく、普通だった。怒ってはいないようだった。表面上は。内面は分からん。つーか出会って一日、二日そこらの俺が内面を理解してるってのもおかしな話だと思う。

 愚痴を聞いていたんだが、なんでも昨日探していた天才は見つからないらしい。どうして探しているのか、と尋ねてみると友達がその鎮守府に捕らえられたそうだ。

 犯罪者か何かかと思ったんだけど、違うらしい。で、話を聞いていて分かったんだが港湾棲姫さんには二人の友達がいるらしく、その一人が天才君の鎮守府に囚われた子で、もう一人が深海棲姫さんだったらしい。で、深海棲艦さんが何か友達を裏切るような行動をとり、それが原因でもう一人の友達が捕まってしまったと。

 で、友達を助けるためにその鎮守府に向かったが、その途中でほっぽちゃんの仲間に邪魔されたらしい。それを強引に突破して鎮守府に来たものの、あっさりと撃破されたそうだ。流石天才だと言いたいが、無実の人を捕まえたと聞いてからは何も思えない。

 事実死にかけたらしいから笑えない。

 

 邪魔した理由をほっぽちゃんが知らない様子だったところを見ると、多分大人の人か何かが止めようとしたんだろう。天才相手に勝てない、みたいな感じかな?

 

 んで、今はその天才を探してそこから友達を助ける方法がないか模索しているとの事。

 うーん、大変なんだな。友達を何とかしてやりたいけど。……元帥さんにでも尋ねてみるか?

 

 そのあと、金剛さんが合流した。港湾棲姫さんが目に見えて分かるほど敵意を発していたけど何なのだろう。とりあえず落ち着かせてから金剛さんに事情を話したのだが、彼女も彼女で警戒心を解いていない様子だった。ねぇ、ちょっとそのオーラ消してよ怖いから。

 

 でも話を聞いているうちに金剛さんも納得の表情をしていた(ただし不穏な顔つきで)。

 ちなみに港湾棲姫さんが金剛さんの事を艦娘呼ばわりしていたけど変な事を言わないでほしい。そして金剛さん、深海棲艦呼ばわりは止めろ。失礼だろ。

 

 本気で胃が痛くなってきた。

 とりあえず宥めすかして落ち着かせる役に徹したのだが、何というか辛い。というか最近思ってたんだけどなんつー休日だ。もうこれ休日じゃない気がする。

 とにかく明日は平和に一日が過ぎればいいな。

 

 

 

 

 S月M日、こっから先は大雨だァ! 無様に元の居場所へ引き返しやがれェッ!!

 

 

 今日は朝から元帥さんの元へ向かった。金剛さんと一緒に。昨日あんな話を聞いては流石に捨て置くことは出来なかった。その事を話そうとアポを取って大本営まで来たのだ。で、結構待たされるんだろうなとか思ってたら顔パス並みの早さで通された。それで良いのか大本営。俺仮にも不法侵入者なんですけど、余罪もあるし。

 

 で、話を聞くとなんでも今日は会議があるらしく、それに参加すると思われていたらしい。というか参加してくれと頼まれた。

 うん、何の会議をするのか分からないけど置いてけぼりだよ。説明がほしい。

 

 そう思って尋ねると、戦艦棲姫の事に関してだから当然だろうと言われた。意味が分からない。捕まえたのは俺じゃなくて桐谷理沙提督と聞いたんだけど。それから元帥さんと武蔵野提督らが俺の名前を出したらしい。あと石蕗(つわぶき)大将という人も。

 

 誰だよ石蕗(つわぶき)さんって。会ったことないんだけど。それと元帥さんと武蔵野提督さんは俺に何を求めてるの? もしかして見せしめ? 海軍に対して犯罪を犯したらこうなる的な? 何それ怖い。……なんか逃げたくなってきた。

 初めに会った時妙に優しかったのを思い出す。うわぁ。

 ……本気で逃げようかと思ったけど諦めた。すぐ後ろに般若のごとく辺りを睨み散らす金剛さんが居たからだ。怖い、何を言うよりも先に怖い!

 

 で、その戦艦棲艦の会議? なんだけど大本営の会議室、と書かれた場所で行われた。なんか周りには警備員さん的な人がいっぱいいて逃げられそうにない様相だ。

 入っていきなり元帥さん達に今回の主役だとか言われた。違うと言いたかったけど言える雰囲気じゃなかった。だって皆こっち見てるし! 知らない人ばかりだし皆階級が高そうな感じの人達だったし! 完全に場違いだ。

 それで辺りを見回すと横須賀提督や氷桜の姿もあった。少し安堵した。何かあったら助けてもらおうと勝手に思う。

 

 で、まず初めに『姫級の深海棲艦が本土に上陸した』事に関してを話していた。

 一度でも本土侵攻を許したことに対する対策と、それを説得したとみられる青年が話に挙げられた。

 ……こう書くと世も末だな。海軍が手をこまねいている間に一人の一般人が命をかけて日本を救ったんだから。出された飲み物を飲みながらそんなことを考えていた。

 

 あとなんか、説得した青年の話の時にイケメンのおじさんがこっちを見てた。後から知ったが、彼が石蕗(つわぶき)さんらしい。『陸軍の大将』さんだそうだ。皆が石蕗(つわぶき)さん、と呼んでいた。やっぱ知らない人だった。というか陸軍の元帥的存在とか言っていたが何故俺はそんな人に知られているんだろう。俺のプライバシーはどうなってんだ。

 それから金剛さん、何だか不機嫌だけどどうしたのだろう。もしかして退屈なのかな? そう思ってたけど、真剣な表情をしていただけらしい。良かった。

 それから話が進んで、元帥さんが今回の件で陸軍から重圧をかけられるようになったと話していた。これまでは艦娘を拝する海軍が上とみなされていたが、この度の失敗で海軍全体が低く見られるようになったらしい。

 石蕗さんがこう言っていた。

 

 ーーーー今や、艦娘を拝するのは海軍の特権ではない。我が陸軍も艦娘を所持している。今まで陸の仕事は日本の防衛だった。だがそれではこのような事がまた起こってしまう。何故なら海軍は強力だとしても万能ではないからだ。

 

 正論だと思う。というかなんでいがみ合うのは分からん。協力すれば早いのに。

 ともかく世紀末な世の中にならない事を願うばかりだ。

 でしばらく俺の知らない事に関する事を話していて、俺の存在不必要なんじゃねーの? とか思い始めた頃だった。

 

 テロリストが襲撃してきたとの報告が飛んできた。俺は艦娘とかを持っているといっていたし他の方は皆その道のプロだから大丈夫だと思っていたのだが、状況は予想外に悪かったらしい。警備は万全にしていたが、単純にそれ以上の力を持つ存在が強襲してきたとの事。

 なんでも、戦艦棲姫さんを奪いにきたらしい。それで付近の海まで侵攻してきたらしいんだけど。でもこちらには精鋭が揃っている。バンバン砲弾が飛び交う中、全員でボコボコに返り討ちにしていた。哀れになるレベルで。

 それからしばらくして石蕗さんの連れてきた少女、後で名前を知ったがあきつ丸さんが主犯と思われる敵と交戦して帰ってきた。

 

 港湾棲姫に邪魔されたとかなんとか。まさかと思うけど昨日の彼女じゃないよね? とりあえず怖かったから皆の邪魔にならないように戦艦棲姫の居るところを守ろうと移動(避難)しつつそう考えた。

 で、テロリストの主犯らしいが名前は戦艦水鬼(せんかんすいき)だそうだ。この前の戦艦棲姫ではない。

 その能力は戦艦棲姫を格段にパワーアップしたものらしく、周りの敵艦もかなりの練度を誇っていたとのこと。どうやら防衛の穴を突かれて攻め込まれたそうだ。薄い部分を。

 

 その話を聞いてもしかしたら姉妹なのかな? と少し思った。それから戦艦棲姫がいる場所なんだけど結局誰も来なかった。仕方ないから戦艦棲姫さんと会話した。

 で、意外と話せることに気づいた。元々あのゴツい怪物みたいなのに操られているのかと思っていたのだが、アレが無いだけで普通の(肌白の)女性にしか見えないのだ。最初のうちはそっぽを向くばかりで反応しなかったが、昨日の話とかをしていたらびくりと反応した。確か港湾棲姫さんの愚痴を話していたっけな。

 

 それからしばらく会話していたのだが、俺がいない事に気付いた金剛さんに無理やり掴まれて引き戻されてしまった。まぁ何しても無事でよかったよ。

 こんなテロはやめて欲しい。次に会うことはなければいいな。だって俺普通の人間だし。

 訓練した軍人と一緒にしないで欲しい。

 

 

 

 S月N日、雨は全てを受け入れるわ

 

 

 翌日だった。なんだかんだ言って敵を追い返したことで今度こそほっぽちゃん達とのお別れである。

 空母棲姫さんが申し訳なさそうに『本当二、オ世話二ナリマシタ』と言っていたのでいえいえ、と返す。

 雷ちゃん達+ほっぽちゃんは俺に会うなり抱きついてきた。よしよし、可愛いやつらめ。その時金剛さんの後ろに般若が見えたのは気のせいだろう。

 それから何故か大本営に表彰されたけど何だったんだろうかアレ。

 

 と、話を戻してっと。

 まぁ折角ほっぽちゃん達とは仲良くなったのだ。

 いつでも遊びに来ていいからね、と言うと笑顔で二人は帰っていった。海の方へ行ったことでようやく深海棲姫さんのように海で暮らす珍しい人達なのだと気付いた。

 




 
『一言』陸軍まで絡み始めました(軍知識〇)
 それとUA四〇万突破しました。ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38 金剛日記・デースノート

 金剛さんの口調がわからない件。
 かなり書きづらい話でした。


 

 

 

 S月J日、晴れデース

 

 

 九条提督と合流して二日目。一つ思ったのデースが、やはり九条提督には不思議な魅力がありマース。具体的に言えば敵である深海棲艦ともfriend(友達)になれるあたりデースね。いえ、friend(友達)は言い過ぎかも知れませんが、普通に接することが出来るくらいには慣れているようでした。

 うーん、常識的に考えれば機密情報云々で報告しなければならないのデースがこれはどうするべきでショーか? 私としてはLOVE(好き)提督(ヒト)を訴えたくはありませんが。

 まぁ良いでしょう。この話は置いておきマース。

 

 今日、暁型駆逐艦の二人と、……北方棲姫。

 それから九条提督と行動していた時に、『空母棲姫』と遭遇しました。

 ……本土で。

 ついでに言うなら某ネズミーランドで。

 

 …………、What()!? 

 何デースかこれ!? そもそも昨日から思っていたのデースが北方棲姫と行動している時点で意味不明デース!

 そして周りの対応もおかしいデース!! 何、頭撫でてるんディスカ提督ぅっ!? 羨ま、妬ましいデース! というか敵デースから! 思いっきり敵デースからっっ!!

 

 とか思っていたら空母棲姫に対しては流石に雷達も敵対反応していたネー。良かった、本当に良かった。

 

 それから色々あってそのままネズミーランドで遊ぶことになったのですがこれは良いんでショーか? 深海棲艦と仲良くネズミーランドで遊び尽くすなんて、シュール以外の何物でも無いんデースけど。

 あぁもう提督! また子供達の頭を撫でてマース。

 本当に訳が分からないし羨ましいっっ!! 全くもってwhyデース。もうとりあえず事実だけを呑み込むことにしました!

 今日は深海棲艦と遊べて楽しかったデース! それから提督! さりげなく手を繋いでくれた事thank youネ! 

 

 

 

 S月K日、曇りデース

 

 

 また面倒ごとデース。

 前々から話はあったんデースが、深海側の人間ですかね? 真っ白い身体の人間達が襲ってきました。まるでゾンビ映画みたいだったネー、迫力MAX(満点)ヨ!

 

 それらを従手空拳(としゅくうけん)で適当に蹴散らしてから(雷達は砲撃して怒られていたネー……)提督に指示を仰いだのですが、提督曰く横須賀鎮守府に連絡をつけたとのこと。流石、仕事が早いデース。

 

 と思っていたら、突然北方棲姫が何やら叫びました。どうやら敵sideの姫級が出たとかなんとか。雷と響がほっぽに確かめて、本土に侵攻しているのが数日前に轟沈させたはずの『港湾棲姫』だと分かりました。

 というかアレだけ食らって生きているのが信じ難いデース。本当に化け物デースね、princess(お姫様)は。

 

 それから提督の指示で二人きりになり、港湾棲姫の捜索をすることになりました。

 のデースが。

 ……What!? 提督はどこデースかっ!?

 と、そんな具合ではぐれてしまいました。というか気が付いたら提督が居ませんでした。

 それからしばらく捜索して、やっと提督を見つけて。

 

 私は思わず驚きを隠しきれませんでした。

 

 提督は、一対一で港湾棲姫と対峙していたのデース。

 九条提督の顔は非常に真剣で、漂う雰囲気は人間と思えない異常性を孕んでいるようにも見えました。

 何を話していたのか。

 私には聞こえませんでしたが、やがて港湾棲姫は頷くと海の方へと歩き出しました。

 

 『姫級深海棲艦を言葉のみで撤退させる』。

 そんな馬鹿みたいな単語が頭を過ぎりました。

 九条提督は。

 去りゆく彼女の姿を見た後、分かっていたように一直線で私の元まで歩いてきました。それから一言二言話したのですが、何を言われたのか覚えていません。

 北方棲姫達のような中立の存在を含め、深海棲艦について考えさせられる一日でした。

 

 

 

 S月L日、晴れデース

 

 

 一日考えて決めました。心を鬼にして提督を怒ることに!

 というかそもそもの話、周りは姫級が本土まで来ても被害が〇だった事に目を向けていますが、その原因って提督じゃないデースかっ!

 それに姫級が本土に来たというならほっぽ、空母棲姫、それから港湾と三艦も来てるじゃないデースかっ! 警備ガバガバ過ぎじゃありまセーンかっっ!?

 というか普通に本土侵攻されているけど本当に良いのでしょうか。かなり、というか非常に不味いと思うんデース。

 

 それからまた提督の姿が消えました。巡回の者に聞けばなんとパトロールに行ったとの情報が。

 ……一つ良いですか?

 無双ゲームじゃないんデースからっ! 何で大将が突撃しかけてるんデースかっ!? というか慌てて追いかけてみれば港湾棲姫と何やら話していたし!

 本当にWhat! デース!!

 

 それから話を聞いてみれば原因は戦艦棲姫を捕らえた事で、それを助けに来た、なんて。

 自分で捕まえといて他人事のように言わないで下さい! というか提督本当にそれ敵デースよ? もしかして分かってなかったり……ぃゃ、それはありませんよね。

 とりあえず一言。

 提督、お人好し過ぎます。

 

 

 

 S月M日、雨デース

 

 

 雨は嫌いデース。最近提督の事で心配しすぎているのか、少し気分が良くない気がします。

 で、今日は朝から大本営へと向かいました。その内容は『姫級深海棲艦の本土上陸について』デース。

 海軍の名だたる将校、そして陸軍総大将の石蕗耕三(つわぶきこうぞう)などに名前を挙げられていました。やはり提督は凄い人なんデースよね。時々、というかしょっちゅう無謀を犯しますけど。

 ……私は貴方に危険な目にあって欲しくないのに。

 

 そんな事を考えて遠い目をしていたら提督が妙なものを見るような目で私を見てきました。

 適当にごまかして、会議デース。

 

 会議室の周りには大勢の警備員が存在していました。やはり日本の重役達がいるからでショーか?

 これで少しはpeace of mind(安心)かな?

 

 

 ……そう思っていた時期が私にもありました。

 

 突然サイレンが鳴りました。敵が攻め込んできたという放送が流れて、現状対処している部隊が劣勢だと。

 それを受けて元帥さん達が即席メンバーを編成し出撃、敵を完膚なきまで叩き潰していました。

 敵の目的は戦艦棲姫の奪還である、と聞いてふと昨日の港湾棲姫が思い浮かんだネー。

 陸軍総大将の石蕗(つわぶき)氏はかなりの実力者のようデース。指示から何から全てに安定感がありました。とはいえ敵の練度も高く、若干苦労しているところもありましたが。

 

 ……で。

 

 気がついたらまた提督が居ませんでした。

 慌てて探し回っていると、何人かの警備員が倒れているのを発見して、驚いたのを覚えています。そしてその警備員達の肌は肌色のペンキ(、、、、、、)で塗りたくられていました。その頰には殴り跡が残っており、誰かに気絶された事が伺えたのデース。

 そしてその警備員達……いえ、深海棲艦側の人間達が倒れている先には戦艦棲姫を収容しているという部屋。

 

 もしや、という思いが浮かびました。

 

 そして扉を開けて、その『もしや』が現実である事に気づいたのデース。

 

 九条提督は戦艦棲姫と会話していました。

 昨日の空母棲姫の話をしていたのデース。

 ややあって、私に気づいた九条提督はやぁ金剛さん、と。戦艦棲姫からこちらに顔を向けて言いました。

 

 その言葉に私は一瞬反応出来ませんでした。だって、おかしかったからデース。深海棲艦に感情なんて存在しないと思っていたのに、特に敵だった相手がそんな風に心を開きかけるなんてそれこそあり得ないのに。

 

 戦艦棲姫は。

 ーーーー泣いていました。

 ポロポロと涙を零して、人間や艦娘(私達)のように。

 

 今まで深海棲艦は敵だと言われて。それで沈めてきて。それなのにこれは何なんでショーか?

 艦娘として私はおかしいのですか? アレだけ沈めて沈められてきた敵を敵だと思えなかった私は。

 

 提督の為なら、という思いで今までは深海棲艦と触れることを認めていたケド、やっぱり複雑デース。

 前の艦隊で沈められた娘も居ますし、友達も沈められていマース。別の艦隊では私達の同型艦も沈められていますから。

 

 やっぱりこういう時はまだ新人であり着任したばかりの雷達が羨ましいデース。思考の切り替えが出来るのは得ですから。

 

 それと、倒れていた警備員達。前述しましたが、全員例の深海側の人間である可能性が高いとの結果が出されました。人数は述べ七人。

 以前捕獲した事例を持つとはいえ、ただの人間が七人を気絶させたこと。今考えればまさか……という気持ちがあります。それを言えば戦艦棲姫から生き残ったこともそうデースけど。

 しかも中には銃器を持っている者も居たのに(深海棲艦出現後法律改正されたのデース)。

 

 そして戦艦棲姫との会話データも残っていました。

 プロの自白を促す役職の方でさえ反応すら引き出せなかったのに。

 それを九条提督は成し遂げた。しかも簡単に。子供のようにニコニコと笑いながら。

 でも、提督はそれがどんな意味は持つのか気付いているのでしょうか?

 元々、提督はただの一般人。それが抜擢され、不法侵入罪の償いの為だけに働いている。そんなものとうに返しきっているのに。

 

 ーーこれで、九条提督はますます『普通』に戻れなくなりました。今更かと思うけど、それでも今までは上層部にその情報が入ってなかったから何とかなっていたのに。

 いえ。

 きっと判っていマース。だってそれを覚悟しなきゃ、あんな派手な真似はしません。港湾棲姫の説得だってあの人一人でやり遂げていたのだから。

 ーーーー素直に、凄いと思いマース。

 私は海軍所属でありながら、前線が優勢だと聞いて本陣が攻められていることに気付きさえしなかった。いや、あんなの他の誰も気付いていなかったでショー。身内に敵がいた(、、、、、、、)なんて。

 

 心の整理が付かなかったのとそんな提督を見ていられなかったのとで無理やり引っ張って帰ってしまいました。

 とにかく今日はもう寝ます。GoodNight(おやすみなさい)

 

 

 

 S月N日、晴れデース

 

 

 やはり、深海棲艦と触れ合うのは慣れまセーン。

 今日、北方棲姫達が海へと帰って行きました。

 昼頃、ようやく合流出来た雷達は提督に抱きついていました。子供らしくて良いですね、癒されマース。

 にしても、昨日撤退したという戦艦水鬼。未だに討たれていないのが気になりますね。

 それから提督が何やら表彰されていました。思い当たりがあり過ぎて困る経験は初めてデース。

 まぁなんにせよ。

 

 ……逃げ延びた戦艦水鬼。この嫌な予感が杞憂なら良いんデースけど。

 

 




 



 「一言」露骨にフラグを立てていくスタイル
 それからちょっとしたお知らせを活動報告に書きましたのでよろしければ見て下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39 駆逐艦・電の日記(ミニ)

 執筆意欲が湧かない(切実)
 とりあえず日常成分が足りないので今回は割とほのぼのな話を書きました。
 少し間が空いた上に短くて申し訳ないです。


 

 

 

 S月C日、晴れなのです!

 

 

 雷ちゃん達と司令官さんが本土に行くらしいのです。

 本当なら私も着いて行きたいのですが、残念なことに大和さんや島風ちゃんの授業(深海棲艦との戦いの教授)で赤点を取ってしまったので補修なのです。

 ……泣きたい。

 

 やっぱり回答に『沈めた敵も出来れば助けたい』と書いたのが間違っていたのかな? 大和さんも島風ちゃんも引きつった顔でこっちを見ていたし。

 それから『沈めてから、なの?』という事を聞かれたのですがよくわかりませんでした。とにかく電は争うのが嫌なのです、とは伝えましたけど……。

 

 司令官さんなら分かってくれますよね?

 

 

 

 S月D日、晴れなのです!

 

 

 司令官さん達がいないせいか、鎮守府も少し静かなのです。皆で間宮さんのご飯を食べて、大和さんと島風ちゃんに訓練してもらって、暁ちゃんと遊んで。

 ……充実はしていますが、やっぱりどこかポッカリと足りない気がするのです。

 それほど、司令官さんや雷ちゃん、響ちゃんの存在が大きいのかもしれません。

 暁ちゃんは、私が寂しがっていると思ったのか「元気出しなさいよ電、それより遊びましょ? レディーにも休息は必要なのよ!」と励ましてくれました。

 ありがとう、お姉ちゃん。

 

 

 

 S月E日、晴れなのです!

 

 

 本土に呼ばれたのです。急に知らされたのでビックリしました。

 どうやら横須賀鎮守府と演習をやるみたいなんだけど、どうやらルールが変則的なものだったみたいです。

 

 『艦娘の判断で行動せよ』

 

 これが、今回のルールでした。即ち司令官さんの指示は無い状況で、とのことです。

 何度か実践をこなした事もありますので焦らず戦えるかな、と思っていたのですが失敗したのです。

 

 エンジンとらぶる? なのかな? 全力で海を駆けていたら止まれなくなって、色々な人にぶつかってしまいました。

 気がついたら周りに殆ど誰もいなくなっていたのです。

 はわわ、一瞬敵海域まで来てしまったのかと心配になったのは内緒ですよ?

 

 司令官さんとは少しお話出来ました。どうやら迷子の女の子の親御さんを探しているようなのです。やっぱり心優しい司令官さんなんだなぁって改めて思えました。

 よぉし! 明日からも頑張るのです!

 

 

 

 S月F日、晴れなのです!

 

 

 昨日の演習を終えた私と暁ちゃんは一旦帰港しました。

 大和さん達が迎えてくれて、頭を撫でてくれました。手慣れた手つきで、気持ち良かったのです。

 暁ちゃんは嫌がっているみたいだけど、あれは『つんでれ』というやつなのですね。

 

 生活もまた元のものに戻りました。朝から訓練、勉強、お昼からはご飯と遊び。それから遠征と夜は哨戒。

 司令官さんがいる時はあまり哨戒をやらせてもらえないので良い機会なのです。というか司令官さんは何でも一人でこなしすぎなのですよ。

 

 率先してやることは良いことですが、人の仕事を奪わないで欲しいのです。

 ……それに子供は早く寝なさいって、完全に子供扱いされているみたいで恥ずかしいのです。

 駆逐艦として頑張らないと!

 

 

 

 S月G日、晴れなのです!

 

 

 本土の方から急報が届きました。どうやら司令官さん達が深海棲艦と交戦したと。

 ……一つ言いたいのですが、またですか? この前志島鎮守府での一件や神無鎮守府侵攻があったばかりなのに。

 もう、司令官さんは悪魔か何かに魅入られているんじゃ無いかな、とふと思ったのです。

 まぁ問題は深海棲艦です。本土に現れたと言うのなら、どこかに敵が潜り抜けられる隙があるということ。これは非常に危険な状態なのです。

 

 ……一刻も早く侵入経路を突き止めねばなりませんね!

 

 

 

 S月H日、晴れなのです!

 

 

 昨日の一件で、金剛さんが司令官さんの元へ行くことになりました。本当は行きたかったけど仕方ないのです。諦めましょう。

 その間に司令官さんがビックリするくらい強くなってやるのです!

 

 暁ちゃんも同じ考えみたいで、『レディーは影で努力するんだから!』とか話していました。

 それで私達より圧倒的に練度の高い島風ちゃんに聞いてみたら、協力してもらえることになりました。

 頑張って立ち回りを覚えて、司令官さんを守れるようになりたいのです。

 

 そして何より相手を傷つけない強さが、欲しいのです。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40 駆逐艦・電の日記(ミニ)後編

更新遅れてすみません、まだモチベが上がらないです。
今回書けたのは雷ちゃんの浴衣姿に萌えたからに他なりません。

とりあえず今回はシリアスパートです(ついでに日記が四日分しかねぇ)

次回は久々に横須賀提督の日記でも書きましょうかね。
そろそろ三章で書いている日記が増えてきたので多分三章で書かれる日記では最後の一人でしょうが。
陸軍や海軍本部に関しての説明全てを横須賀提督にぶち込んでやるぜ(投げやり)


 

 

 

 S月I日 晴れなのです!

 

 

 司令官が襲われたそうです。昨日は書きませんでしたが、そんな話を聞きました。もちろん司令官さんは無事だったそうなのですが、警備が足りないので一人増援を送ってほしい、と横須賀鎮守府から要請が来ました。

(……骨折したと聞いたので心配なのです)

 

 もちろん居なければこちらで用意すると書いてありましたが。

 でも、やっぱりというか皆司令官の元に行きたいわけで。

 

「HEY! このじゃんけん大会! 金剛が制しましたヨーッ!!」

 

 壮絶なるじゃんけん大会の結果、金剛さんが勝ち抜いて司令官の元へ行くことになりました。

 うう、金剛さん強いよぉ。

 

 暁ちゃんも行きたそうな顔をしていましたが金剛さんは何のその。軽く私達の頭を撫でた後に彼女が持っていたお菓子を貰いましたが、これって餌付けされちゃったのかな? その時、思わず今回は譲ろうって気分になっちゃいましたし。

 後でハッ! と気付いて島風ちゃんに呆れた顔をされましたけど……。

 まぁ仕方ないのです。今回は諦めます。

 その代わり全力で訓練をしてやるのです! 

 

 でもなぁ、やっぱり行きたいのです……。

 

 

 

 S月J日 晴れなのです!

 

 

 今日も訓練なのです。最近は朝起きたら遠征→訓練というのが習慣付いてきた気がします。

 ……にしても暁ちゃんはお寝坊さんなのです。私が起こしてあげないといつも寝過ごしちゃうなんて、可愛らしいお姉さんなのです。

 ……最近姉を妹に見てしまう自分が怖い。

 

 まぁいつまでも末っ子ではいられません。私には今はまだ身の丈に合わないような大きな大きな『理想』がありますから、いつかその理想に『現実味』を帯びさせられるよう頑張らないと!

 

 暁ちゃんも、一流のレディーは強いのよ! と言っていました。

 

 

 

 

 S月K日 晴れなのです

 

 

 嫌な夢を見ました。

 九条司令官に出会う前、私が命を捨てる覚悟をした時。初めて彼の指揮を受けた時の夢でした。

 

 海は朱色に染まっていました。

 周りを見ると、艦娘の装備の破片のようなものが見えました。紅の海は血のように真っ赤で、海の上なのに燃えていました。

 

 気がつくと、すぐ近くで暁ちゃんや雷ちゃん、響ちゃんがボロボロになっていました。

 

 受けた指揮は九条司令官のモノではなく、玉砕命令。

 ふと気がつくと多くの敵に囲まれ、命を捨てろと。そんな事を言われる夢でした。

 

 そこで私は目を覚ましたのです。

 

「ーーハァッ、ハァッ……!」

 

 起きて、荒い息を吐く。

 動悸が激しく、吐き気がする。そして心の底を覆うのは恐怖。

 身体中から汗が生まれ、涙がポロポロと落ちました。

 

 もしかしたら、あれは九条司令官が居なかったら。

 そんな未来ではないかとふと思い当たったのはそれから二時間以上経っての事です。

 

「……司令官、さん」

 

 もしかして。

 自分は司令官さんがこの場にいない事が怖いのではないか。そう思いました。

 彼がいなければまたあの時のようになるのではないか、とそんな不安を。

 

 その時。一通の電話が掛かってきたのです。

 プルルルル、と。

 鳴った電話に私が出ると、知った声が聞こえました。

 

「もしもし、こちら雷よ」

「雷ちゃん、ですか?」

 

 電話の相手は雷ちゃんでした。後ろからは響ちゃんの声も聞こえました。

 

「ーー電、どうしたの? 涙声だし。喉の調子が悪いの?」

「い、いえ! ……少し、怖い夢を見てしまっただけなのです」

 

 流石姉妹だけあって、あっさりと雷ちゃんには私の様子が見破られてしまいました。

 

「どんな夢だったの?」

「え、えと……それはその」

 

 どんな夢、と言われても言いづらいです。

 それでも頭の中で文章を組み立てて、ポツリポツリと私は言いました。

 

「九条司令官さんの指揮を、初めて受けた時。もし、九条司令官の指揮が、指揮が無ければどうなるか……という夢、なのです」

「…………、」

 

 また涙が零れそうになりましたがグッと堪えます。

 雷ちゃんは静かに聞いてくれました。

 

「海が、赤色に染まってて。壊れた艤装が散らばってて。雷ちゃん達がボロボロで。玉砕命令が、玉砕命令が」

 

 本当はもっと涙交じりだったので聞き取り辛かったと思います。それでも、雷ちゃん達は最後まで聞いてくれました。

 聞き終わってから雷ちゃんはそう、と一言呟いた後にポツリポツリと優しい声でこう言いました。

 

「電の話と少し違うけど、司令官が来てから。今の、九条司令官が来てから、私は妙に安心しきっていたわ。それは司令官の指揮能力を信じ切っていたからーーという理由もあるけれど、それ以上にこの人についていれば絶対に死なない、って思ったの。今までの戦績を見ても司令官の指揮能力、策謀。何をとっても負けないって心の底から思い込んでしまっていたからーーーー」

 

 何を話し始めたのか。

 一瞬理解出来なかった私は反応を返せませんでした。

 その間にも雷ちゃんはポツポツと語ります。

 

「数日前。司令官が襲われた話。電も聞いたでしょ?」

「う、うん。聞いたのです」

 

 思わず怪訝な声で頷くと、

 

 

「司令官が怪我をしたのは、私達のミスなの(、、、、、、、)

 

 

 ハッキリと、そう聞こえた。

 意味が、分からなかったというのが正しいかもしれません。

 私が少し黙り込んだ間にも、雷ちゃんの説明は続きます。

 

「司令官が怪我をしたのは私達を守ったから。守られる対象に守られるなんて滑稽よね。でも、言葉の通り油断していた私達は艤装を奪われちゃって、気がついたら一方的に倒されていた。司令官が来たのは、倒れた私達を助けるため」

 

 頭の中で整理する。

 雷ちゃんと響ちゃんが倒された。あり得ない話ではないと思う。それは私だって例外じゃないから。そもそも護衛中にやられてしまう可能性など低くとも一パーセントはあるはず。

 だが、問題はそこではないのです。

 問題はもっと根本的な部分。護衛対象である司令官が雷ちゃん達を助けるために行動し、怪我をした。

 この前の戦艦棲姫の時を思い出すと、成る程。納得出来ます。

 実際、司令官は一度姫級の深海棲艦と生身で相対して生き延びているほど、行動はアグレッシブな方ですから。

 それでも。

 

 

「ーー情けないでしょ? 艦娘として最悪も最悪。一番守らなくちゃいけない人に守られるなんて、さ。響も大分落ち込んでるわ。勿論私も。自己批判してはその度に自分のミスが浮き彫りになる。今はそれの繰り返しよ」

「…………っ、」

 

 

 私は思わず顔を天井に向けて、息を吐きました。

 知らなかった。

 司令官さんが怪我をしたとは知っていても、実際何があったかなんて。そして、自分達が呑気に訓練なんてしている間に雷ちゃん達が辛い目にあっていた事も。今こうして聞くまで、何も知らなかった。

 

 

「ーーーーーーーー、」

 

 

 言葉が出ない、という表現が正しいのでしょう。

 私はまともな反応を返すことができませんでした。

 

「でもね気付いたのよ、電の話を聞いてさ。正直、このままずっと一人で悩んでたらノイローゼになってたかもしれない。だから、ありがとう電。私、一つ決めたわ」

 

 雷ちゃんはそう言って

 

「もう、油断しない。慢心もしない。一度死んだはずのこの命、司令官の為に使う。狂信だとかそんな意味じゃなくて、純粋にあの人を守りたいの。そして、守る対象は司令官だけじゃない。電も、他の皆も。全部、全部守りたい。だから、電の見た悪夢は皆が殺されてしまう夢だったけど、そんな悪夢は私がぶち壊してやるわ! ーーだから、元気出しなさい」

 

 その声は、安心感を抱かせるような柔らかい声で。

 気がつけば、私の心は穏やかに、安心しきってしまっていたのでした。

 

 ーーそれから一時間くらい電話をしていました。

 途中、響ちゃんにも変わってもらって、私を安心させるような言葉をくれました。

 暁ちゃんも起きてきて、眠そうな目をこすりながら一言二言話したあと私の布団で寝始めたのはご愛嬌。でも、お陰で落ち着いて寝れたのです。

 

 

 ……ありがとう、お姉ちゃん。

 

 

 

 

 S月L日 晴れなのです!

 

 

 今日もまたいつも通りの訓練、なのですが。

 いつもと違うことが一つあります。

 

 雰囲気が違っていたのです。

 

 誰が、と聞かれると私と暁ちゃんが。

 いつも以上に身の入った訓練。だけれど、それ以上に。

 

 心の持ち方を変えた動きは軽く、精度が確かに高まったのでした。

 

 

 




 


次回の話が終わったら三章を完結させにかかります。
(そろそろ本編の終わり方も考えないといけませんね)

ではまた次回。お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41 とある提督の日記

新年あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いします。それからお待たせしました。


 

 

 

 S月O日 さよならあめさん!

 

 どうも九条ですよ。なんか猛烈に不幸に見舞われまくってる九条さんですよ。色々溜まってるので、せめて日記の中だけでも言いたいことがある。

 

 ほっぽちゃん達が海に帰って行った翌日のことだ。

 

 そもそもの話。俺たちが本土を訪れた理由は休暇、がメインのはずだった。

 だが、今思えば休みって感じがしない。毎日のように事件に巻き込まれている!

 ……。

 …………、

 ………………(汗)

 

 いやおかしいだろォッ!!

 何あれ! 俺はただ学校に通おうとしただけだろ!? それなのに何で陸軍と海軍のお偉いさん達の会議に参加させられたり、前みたいに戦闘を体験しなきゃいけないの!? つか戦艦棲姫さんに至っては泣かせた場面を金剛さんに見られちまうという最悪の展開に陥ったし!

 

 もう、鎮守府に帰っても俺の居場所はない気がする。というか里帰りしたい。都会怖いマジ怖い。

 

 とまぁそれは置いといてだ。

 いや、置いておけないけどとりあえず置いておく。

 問題が起こったのだ。

 

 それも未だかつてないほどの。

 恐らく、俺は人生最大の危機を体験している。

 

 以下、雑な演劇で何が起こったのかを説明しよう。

 前回の所からだ。

 

「やったー、戦艦水鬼を海に追い返したぞー」

 

 まず、海軍本部に強襲を仕掛けてきた戦艦水鬼を追い返したのはいい。問題はここからだった。

 

「ってうわぁ! 逃げた戦艦水鬼に主要な海路を占領された!」

「大変だ。確かその海路は唯一日本と連絡の取れているドイツとイタリアとの海路だ! しかも今、その艦娘達が送られてきているー!」

 

 はい。この時点で俺は意味が分からなかった。前に、ドイツとイタリアだけが日本と艦娘のやり取りをしている話を聞いていたけれど、まさかここで出てくるとは思わなかった。そして酷いのがここからだ。

 

「このままでは日本と諸国との間に溝が出来てしまう! 今度は戦艦水鬼も真正面から戦おうとしないだろうしどうすればいいんだー」

「そうだ。戦艦水鬼を取り逃がしたやつに責任を押し付けてしまえーっ!」

 

 ……とまぁそんな流れがあった。

 実際はこんな簡単な話じゃないが、こんな事が起きてしまったのだ。

 で、問題。

 海軍と陸軍はその責任を一体誰に押し付けたのでしょーかッ!

 

 

 ーーーー俺だよぉっ!! 俺ですよぉっ!!

 

 何だよ「戦艦水鬼の撃破及び、海路の確保を九条大佐に頼みたい」って!

 完全に責任の押し付けじゃねーか! しかも金剛さんとかは割と当たり前な顔してたし!

 何ですか、あれですか。横須賀鎮守府に侵入した罪ってそこまで重かったの!? いやまぁ軍の機密を考えたら普通かもしれない気もするけど。

 

 ……逃げようかな。ガチで。

 

 

 

 S月P日 Pって何かの伏字みたいだよね。心は雨です。

 

 

 やっぱりこんなのってないよ。

 おかしいよ。

 あれから一旦鎮守府に帰ったんだけど、どうやら行く空気で確定してた。やっぱ味方はいないらしい。

 あの電ちゃんでさえ「大丈夫なのです。司令官さんなら何とかなります!」って返された。

 ……うん、無理だから。戦艦棲姫さんに襲われた時に死にかけたから。で、戦艦水鬼って戦艦棲姫さんより強いんだろ? 無理だよ、無理ゲーだよ!

 あれ、人生詰んでないか?

 

 ……いや待て! ポジティブにいこう。

 人間には言葉という武器がある! 諦めたら試合終了だとどこぞの先生も言っていた!

 某幻想殺しの話術を思い出せ。出来ないという幻想をぶち殺せ! 頑張れ頑張れ俺なら出来る! 何でそこで諦めるんだそこでぇっ! 

 

 ……うん、何となる。ネタ口調で何とか調子を取り戻した気がする。

 

 やっぱり物理はよくない。まずは話すことから始めよう。

 OHANASHI(お話)だ! それでこのピンチを切り抜ける。

 多分大丈夫な筈だ。何せ戦艦棲姫さんにだって対話は通じたし。何とかしてやる。最悪俺の黒歴史バラしてでも何とかする(血涙)

 

 よし、そうと決めたら明日は早速言われてた海域に行くぞ!

 

 

 

 S月Q日 SUN値!ピンチ!命!ピンチ! 心の中は土砂降りです。

 

 

 ……助けて。

 ヤバイ、命がヤバイ。とりあえず書置きを残して鎮守府を出て行ったまではいいんだけど、何故か俺の後ろから電ちゃんが付いてきてた。

 ついでに電ちゃん曰く暁と雷と響、それから島風も一緒だったとか。途中で逸れたらしい。

 というかどんだけバレバレだったんだよ俺。

 とりあえず海上の迷子は大変だ、と直ぐに大和さんに電話でお願いして探しに行ってもらった。金剛さんには鎮守府を任せている。

 

 のだが、それはともかくとしてだ。

 

「ドコダァァ……忌々シイ人間ンンン……」

 

 ヤバイ、深海水鬼さん達のアジト内に侵入する事に成功したから、後はお話するだけだったのに深海水鬼さんがおこだ!

 というかおこのレベル超えてる。もう姿を見つけた瞬間殺しにくるんじゃないだろうか。馬鹿でかい砲台担いでるし! というか細い体のどこにそんなパワーがあるんだ!?

 気分はさながらスネークである。というかマジでダンボールの中に隠れている。ちなみに電ちゃんも一緒に。

 俺一人なら全力で逃げる、という選択肢が取れるけど電ちゃんを巻き込むわけにはいかないし。それ以前に他の子達も迷子だから巻き込む可能性があるし……。

 

 何とかして怒りを抑えてもらう方法はないだろうか。

 

 って、あ。見つかっt(以下読めない文字の羅列)

 

 

 

 S月R日 疾風のーー如く。心の中に雨が降る。

 

 

 昨日の話の続きをしよう。

 俺らは今、深海水鬼のアジト内に『匿われている』。

 勘違いしないで欲しいのは、捕まっているのではなく匿われているのだ。

 今、俺を匿ってくれているのは空母ヲ級さん。

 多分名前とは考えづらいので、コードネームなのだろう。彼女も真っ白い肌の女性で、変な帽子を被っていた。

 というか見た目が完全に戦艦棲姫さんみたいな感じだった。

 

 ……悪目立ちしないのかな?

 まぁそれは置いておこう。電ちゃんとヲ級さんの仲が悪いのも置いておく。

 どうして匿ってくれたのかに関しては、彼女が港湾棲姫さんと関わりがあったかららしい。潜入捜査してるとか何とか。港湾棲姫から要注意人物だが有事の際に頼れ、と渡してきた写真の顔と同じ人が居たから匿ったとのこと。

 

 で、お願いをされました。

 今の戦艦水鬼はおかしいと。その理由には多分戦艦棲姫さんが関わっているのではないか、と。

 そのため、彼女を何とかして落ち着かせられないか、と頼まれたのだ。

 

 あの、俺。提督って言っても名ばかりなんですけど。

 流石に拘束してる人を無理やり連れて行けるような発言力ないんですけど。

 

 だが、解決方法はそれ以外無いらしい。

 それから近々、付近の鎮守府の部隊もこちらに送り込まれてくるらしい。

 話を聞いたとか何とか。

 ……一つ思うけど情報がガバガバ過ぎない? 何で重要機密バレてんの?

 

 まぁそれは置いておこう。

 とりあえず声を聞かせるだけなら出来そうだし、電話させてみようかな。

 

 

 

 S月S日。血の雨が降りましたとさ。

 

 

 説得に成功しました。

 撤退してくれるそうです。本当によかった(白目)

 ただ、……うん。自分の責任なんだけどね。俺は全治三週間らしい。

 説得のために戦艦水鬼のいる部屋に飛び込んだら、風呂場だし。銃乱射されたし。

 いや、よく生きてたな俺。つか相手も羞恥心とか無さそうだったけど。「ヤット見ツケタ、臭イノ元凶」とか言ってたけど。というかどうやって一瞬で服を着たのかその辺りも詳しく知りたい。

 

 で、撤退させたと同時に何か外でも勝利宣言してた。何だろう? 戦闘でもあったのかな?

 応援に来たとか言ってた横須賀提督はポカンとしてたし。まぁ良いや。

 迷子の子達も皆見つかったし、本部からは任務達成ご苦労、感謝するってメール来てたし。

 

 あぁ、これでしばらくは休めそうだ。

 まぁ、怪我直すまで鎮守府に帰れないんだけど(溜息)





これにて第三章の九条サイドはEXを残し終了予定です。(書くかは不明ですが保険のため)
後は勘違いをまとめて終了ですね。

あ、それから艦これではありませんが新作書きました。
暇つぶしにでも見てみて下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。