ブラックサレナを使って、合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男 (GT(EW版))
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偽アキトと銀髪ロリとNINJYAさん

 

 ガンプラバトル選手権世界大会の初日である。

 世界大会というレベルの高さではあるが最初の試合ということもあり、この時点ではファイターの実力差による一方的な試合展開が多かった。

 イタリア代表のリカルド・フェリーニやタイ代表のルワン・ダラーラ、主催特別枠のメイジン・カワグチら世界の実力者達が順当に勝ち抜けていく一方でニューフェイスの活躍も目覚ましく、フィンランド代表のアイラ・ユルキアイネンやアーリージーニアスの異名を持つ若き天才、ニルス・ニールセン、相手のビームを吸収し自らを強化するガンプラ「スタービルドストライクガンダム」を操るレイジらがその実力を世界へと見せつけている。

 

 ――そしてまた、新たな強豪が現れた。

 

 数機のガンプラの残骸が漂う宙域に、異形のガンプラの姿があった。

 それは、闇を体現したような漆黒の姿だった。

 つやのない塗装にライトの光を鈍く反射させた重厚なボディは禍々しく威圧的であり、ガンダムシリーズに登場する主役機のようなヒロイックなカラーリングとは程遠いものだ。

 その姿は一般的な1/144スケールのガンプラよりも一回り大きく、MSに区分される人型の形状こそしているものの脚部は飛ぶことのみを追求した完全なスラスターユニットとなっており、人の脚の形状ではない。

 一見テレビアニメ「機動戦士ガンダムZZ」に登場する「クイン・マンサ」にも似た丸みを帯びた巨大な肩部からは羽のような巨大なスラスターが展開されており、背部からは尻尾のような長いバインダーが伸びている。

 そして両手には、手の存在を覆い隠した二丁のハンドカノンが装備されていた。

 

 肩部の形状や重厚なフォルムという僅かな面影から、そのガンプラを見てクイン・マンサの改造機かと判断する大会出場者達。

 そのガンプラを操るファイターの名は、アワクネ・オチカ。二十前半と窺える青年はガンプラと同じ漆黒の衣装に身を包み、目元を覆うバイザー型のサングラスからフィールドを眺めている。そして彼の後部では十一歳程度と見受けられる、この舞台に居る中ではファイターとしてもビルダーとしても幼すぎる容貌の銀髪の少女の姿があった。

 

「コイツ……! 後ろに目が付いているのか!?」

 

 宙域を模したフィールドで対戦相手のシラヌイアカツキガンダムのドラグーンが緑色の閃光を放つ度、彼の操るガンプラはことごとくかわしていき、ハンドカノンの射撃で次々とドラグーンを撃ち落としていく。

 大型のガンプラとは思えない小刻みな軌道でアカツキを翻弄し、敵ファイターの焦燥を掻き立てる。

 程なくして全てのドラグーンが撃ち落とされ、残るはアカツキ本体となった。

 

「おのれぇっ!」

 

 ハンドカノンを構え、急速で一直線に接近してくる漆黒の機体に対し、アカツキは後退しつつ右手に携えたビームライフルを連射し牽制する。

 ファイターに焦りはあるものの一発の射撃精度は高く、高速で移動する漆黒の機体を相手にも正確に狙いを定めていた。

 ただその全てが漆黒の機体を覆う球形状の障壁によって軌道を逸らされ、明後日の方向へと消えていった。

 

「Iフィールド? やはりクイン・マンサの……!」

 

 射撃の精度自体に焦りの影響は無かったが、彼がビームライフルによる射撃を選んだことにその影響があった。

 Iフィールド――ビームを偏向する特性を持ち、有名なのが対ビームバリアとして使われる装備だ。

 その対ビームバリアとしてのIフィールド発生機関をIフィールドジェネレータと呼称し、「クイン・マンサ」にはそれが搭載されている。

 そのクイン・マンサの改造機であるのなら、この漆黒のガンプラにも搭載されているという道理である。

 

「……違う」

 

 だがその推測を、他ならぬファイター自身が否定した。

 

「これはディストーションフィールド。Iフィールドではない……」

 

 ビームライフルを捨て、右手にビームサーベルを構えたアカツキが意を決して接近戦を挑む。

 しかし漆黒のガンプラは彼の間合いに入る寸でのところで機体を翻し、サーベルの一閃を空振りにせしめた。

 

「ぐっ……!」

「そしてこの【ブラックサレナNT-1】は、クイン・マンサの改造機でもない」

 

 次の瞬間アカツキの背後に回り込んだ漆黒のガンプラが大型の肩部装甲を利用したショルダータックルでアカツキを突き飛ばし、乱暴に態勢を崩させる。

 その時点で、この戦いの勝者は決まっていた。

 

「こいつは俺が……」

 

 並のガンプラの機動力を遥かに超えたスピードで旋回しつつ、漆黒のガンプラが両手のハンドカノンをマシンガンのように連射し、ガンプラの急所である胸部装甲を正確に撃ち抜いていく。見たところハンドカノンの放つ弾丸は一発の威力はそう高くはなかったが、同じ部位のみを狂い無く狙った正確な射撃は確実にガンプラの装甲を抉り、程なくしてアカツキの機体は爆散――勝敗が決した。

 

『Battle Ended』

「俺達が作った、ガンダムだ」

 

 機械音声がバトル終了を告げると、プラフスキー粒子が霧散消失し、アカツキのファイターがガクりとその場に崩れ落ちる。

 

「ガン……ダム……?」

「ああ、ガンダムだ」

 

 バラバラになったアカツキの無惨な姿を虚ろな目で眺める彼にそう言い残すと、漆黒のガンプラ――ブラックサレナNT-1のファイター、「アワクネ・オチカ」は自身のガンプラを回収してさっさと撤収していく。

 その後ろを、パートナーを務めていた銀髪の少女が無言で追従していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムです。

 

 ええ、誰が何と言おうとガンダムなんです、このガンプラは。ちょっと黒くて怖くてゴツくて幽霊みたいな見た目だけど、鎧を脱げばちゃんとガンダムさんが出てきます。名前にちゃんと書いてるでしょ? ブラックサレナ「NT-1」って。クイン・マンサとは全く関係無いので覚えておいてください。ルワンさんだってどう見てもオーラバトラーな機体使っているんだから、多少はね。

 ……失礼、さっき戦ったアカツキの人が「どこがガンダムだよ……」って顔してたので精一杯弁明してみました。俺の心の中でな!

 

 俺の名前はアワクネ・オチカ。九州大会を勝ち抜いてこのガンプラ選手権世界大会本選に出場したただのガンプラバトル好きのニートです。はい、職はありません。

 にしても世界大会だけあってみんな強いのなんのって。ルワンさんとかのベテラン勢が凄いのは知ってたけどニルス君とかレイジ君とか若いのに凄いわホントに。アイラちゃんとか何してるかわからなかったもん。あっ、コスプレ衣装的な意味じゃないよ?

 

 コスプレ衣装と言えば、俺もやってたりする。

 全身黒ずくめの格好でマントを羽織って目元にはバイザー……興奮してもボワッとは光らないけど、今の俺の姿は傍目からはあの人にそっくりに見える筈だ。そう、テンカワ・アキトさんに!

 

 ……さて、ここまで読んだ皆さんは誰もが思ったことでしょう。

 

 お前のガンプラ、ガンダムじゃなくてナデシコやん! って。

 機動戦士じゃなくて機動戦艦のロボットやないか! って。

 そうだね、ブラックサレナだね。嫁と協力して作っちゃったんだ。正直やりすぎたって反省している。って言うか、ガンダム作品に登場するロボットじゃなくてもここまで完璧にプラフスキー粒子に反応するとは思わなかったんだ。ディストーションフィールドまで再現出来るとは俺にも予想外だった。

 

「オチカ」

 

 控え室に戻ろうとする道中で、愛しの嫁に呼びかけられた。

 ああ、いつ聴いても良い声だ。幼女にバイオリンを弾いてもらったサングラスの大尉ばりに心が楽になった気がする。

 

「どうした?」

「勝てたね」

「そうだな」

 

 振り向けば、そこには嬉しそうに笑んでいる俺の嫁の姿が。

 ……ああ、これだけであと十年は戦える。銀髪ロリの笑顔こそ最高の動力源だと断言しよう。

 気付けば俺は、この子のサラサラな髪を撫でまくっていた。良い感触っ。

 

「えへへ……」

「俺と君の作ったガンプラが、こんなところで負ける筈はないさ」

 

 さて、この最高に可愛い銀髪ロリの名前だが、ナカマ・ラズリと言う。ナカマが苗字で名前がラズリだ。ユキエ? 知らんな。

 この子はガンプラバトルにおける俺のパートナーであり、今後は人生のパートナーになる予定の女の子だ。つまりは俺の嫁である。

 犯罪じゃないかって? 大丈夫、この子は見た目こそ小学生ぐらいだけど、年齢は十八歳だから。所謂合法ロリという奴だ。

 

「ラズリ、君のおかげだ。君がドラグーンの動きを教えてくれたから勝てた」

「ううん、ガンプラを動かしてるのはオチカだから、凄いのはオチカだよ」

「フッ……褒められた時は、素直に胸を張ってくれ」

「うん。えっへん」

 

 彼女の愛らしさについて語らせればそれだけで色々終わっちゃう気がするから、あえて省いておこう。

 だけど俺がガンプラバトルをやっている理由とこの世界大会という舞台まで勝ち進めた理由、そして俺がテンカワさんのコスプレをして幽霊ロボットっぽいガンプラを使っている理由を語る上で、彼女の存在を欠かすことは出来ない。

 

 次のバトルまで時間が空くし、少し語ろうか。あっ、カワグチさんそこ座ってイイっすか? ラズリちゃんおいでおいで。

 

 

 

 

 

 

 

 先に言ったと思うが、俺はニートだ。だが自己弁護させてほしい。俺は働きたくないわけじゃないし、大学までは卒業して何百社も面接を受けている。……どれもあえなく撃沈しているが、理由は多分、この目つきにあるだろう。

 今はバイザー型のサングラスで隠しているが、俺は目つきが非常に悪い。街を歩けばその辺の不良が泣いて謝るレベルで、自転車で転んで怪我をした子供に声を掛けただけで通報されるぐらい怖い目をしているらしい。

 学生時代の友人からは殺人鬼みたいな目をしていると言われるそんな俺だったが、ある日強面の男から「ウチで働かないか」と声を掛けられた。連中は明らかにヤのついてそうな黒ずくめの男達だったが、就職先が見つからず世間から白い目で見られていた俺にとって、その話ははまさに渡りに船だった。当時の切羽詰まっていた俺は深く考えず、ホイホイ着いていってしまったというわけだ。

 

 それで後で気付いた。俺を勧誘してきた企業は、世間を騒がせる「ガンプラマフィア」だったのだ!

 

 ガンプラマフィア? なんだそれって思うだろう? だがこの組織、俺の想像を絶する巨悪だった。

 ガンプラバトルをビジネスと捉えた場合、これは中々効率が良い。ビルダー達が作り上げたガンプラをガンプラバトルで壊させ、また新しいガンプラをビルダーに購入してもらいまた壊させる。ガンプラバトルがメジャーな競技として認識されつつあるため、ガンプラの購入と破壊の循環は金回りが良く、一部の経営者にとってはウハウハな話だった。

 そして、俺を勧誘したそのガンプラマフィアがやっていたことは、その循環の内の「破壊」だ。

 悪徳経営者によって雇われるガンプラ専門の「殺し屋」。金持ち共のガンプラバトルに乱入し、彼らのガンプラを修復不可能なほど破壊し、新しいガンプラを購入させる――そんな役目を担っていた。

 

 ビルダー達の汗と涙の結晶であるガンプラを、汚い大人の事情で壊させる! そんな裏の世界を知ってしまった俺は、怒りを堪えられなかった。

 小さな頃からガンプラに触れて育ってきた――ガンプラに構いすぎて彼女の一人も作れなかった――俺には、彼らの行いを許すことが出来なかったのだ。

 そして何よりも、彼らは人として許せないことをやっていた。

 

 ――幼女を戦いに利用していたのだ。

 

 その幼女……後で実年齢は俺とそんなに離れていないことを知ったが、彼女は彼らの行いに常に否定的で、自分の「能力」を利用されることに苦しんでいた。

 しかし物心ついた頃から彼らガンプラマフィアの中で育ってきた彼女には、彼らに「能力」を利用されること以外に生きていく術を見つけられなかったのだ。

 その「能力」とはプラフスキー粒子の可視化。彼女には粒子を感知し、相手のガンプラの動きをニュータイプばりに先読みすることが出来た。

 彼女のサポートを受けたガンプラマフィア戦闘員は、それはもう半端ない強さだった。特に時代劇に登場するお侍さんみたいな格好をした「キタ・タツシ」さんのチートっぷりはもはや笑うしかなかった。

 

「怖かろう! 悔しかろう! 例え金を払おうとも、ガンプラの山は崩れないのDA!!」

 

 変態的な操縦技術で金持ちの子供のガンプラを大人気なく一方的に虐殺していく姿に、俺はとうとう自分を抑えられなかった。

 

「……勝負だ」

「裏切りか? いや、新入りに扮したイオリ・タケシの手の者か。面白い」

 

 ガンプラマフィアに入った初日から、俺は彼らを裏切った。

 愛機のガンダムNT-1通称「アレックス」を駆り、俺はガンプラを壊された子供達の為に立ち上がったのだ。

 

 自慢じゃないが俺はガンプラバトルが強い方だ。

 当時は世界大会本選にまで出たことはないが、最高で九州予選の決勝にまでは上り詰めたことがある。まあ、その時は資金不足でガンプラを修理しきれずに終わってしまったが、腕には自信があったのだ。

 だがこの時は相手が悪すぎた。キタ・タツシさんのガンプラ「ギラ・ドーガ夜天」に滅多打ちにされ、さらにキタさんの取り巻きの「キタタツ衆」の「ギラ・ドーガ六連」軍団が来襲。七対一の戦いで俺のアレックスはあえなくフルボッコにされ、敗北してしまった。

 

 ――だが俺は、転んでもただでは起きなかった。

 

「ラズリちゃん! 来い!」

「えっ?」

 

 敗北した俺はアレックスの本体を回収、そしてマフィアの皆さんからトンズラをかます――前に、これまでの戦いを死んだ目で眺めていた幼女に呼び掛けたのだ。

 

「君が奴らの為に戦う理由がどこにある!?」

「でも、私は……」

「ラズリちゃん、俺の話を聞け! クサカベやキタ・タツシの言葉は、確かに正しく心地よく聴こえる……だが彼らの言葉は手段だ! そこに誠意や信頼は無い!」

「……っ」

「彼らにとって人とはただの役割……目的の為の道具に過ぎないんだ! そんなのは機械と同じだ! そして不要になった者は巧妙に排除する! 老朽化したガンプラをゴミ箱に捨てるようにな! 君はそんなところに居てはいけない!」 

「……私は……っ、私は機械じゃ、ない……」

 

 某トゥーヘアーさんばりの説得をかまし、俺は彼女をガンプラマフィアの手から救おうと手を差し伸ばした。THE EDGEのアレックスさんは言ってることがわかりやすくてマジ格好良い。アニメの方? 知らんがな。

 

 そんな俺の熱い説得に何かを感じてくれたのか、彼女は差し伸ばした手を取ってくれた。

 

「我らが逃がすと思うか?」

 

 だがガンプラマフィアが常に勝利するために最も重要な存在である彼女を大人しく拉致させてくれる筈もなく、一緒に逃げようとする俺達の前にキタ・タツシさんとキタタツ衆の皆さんが立ちはだかった。

 その眼光はシャレにならないほど恐ろしく、正直俺はコンクリートに埋められるかその場で首を撥ねられることは覚悟していた。

 だがその時、俺は自分の取った行動に後悔はしなかった。銀髪ロリの為だもの、仕方ないよね。

 

 ――天の神様も俺は間違っていないと言わんばかりに、そんな絶体絶命のピンチに救世主を用意してくれた。

 

「待てい!」

 

 何人かの部下を従えながら、彼は現れた。

 その顔は俺達日本のガンプラバトルファンにとって、あまりにも有名なものだった。第二回大会では元祖RX-78-2ガンダムを駆り、卓越したガンプラ技術で世界大会準優勝に輝いたその男の名は――

 

「イオリ・タケシか!」

「キタ・タツシ他ガンプラマフィア「ジオンの後継者」七名! ガンプラ違法操縦その他諸々の罪で逮捕する!」

 

 彼の登場に、キタ・タツシさんが初めて焦りを見せた。

 ガンプラマフィアが居れば、その活動を止めるガンプラGメンも居る。俺はこの時初めて知ったが、彼は

そのGメンに当たる仕事をしていたのだ。

 ぶっちゃけ、滅茶苦茶カッコよかった。もうホント、俺が女なら惚れちゃうぐらい。彼は既婚者らしいけど。

 

「跳躍っ!」

「げっ? アイツら煙突から逃げやがった!」

 

 イオリ・タケシさんの他にも彼の仲間が十二何人も居た為、形勢の不利を悟ったキタ・タツシさん達はすたこらと逃げてしまった。というか、あれだけの数に囲まれて逃げ切れるのが凄いと思った。あの運動神経はNINJYAかってぐらいマジ半端なかった。

 

「今回は貴様の戦術に嵌められたようだ……アワクネ・オチカ、その名、覚えておこう!」

 

 去り際、キタ・タツシさんが凄い目でこっちを睨んでいた。

 なんかあの人の中では俺が時間を稼ぎつつラズリちゃんを救出、その隙にタケシさんが突入するという作戦にしてやられたってことになっているみたいだけど、全部偶然だからね。まあ、訂正する暇もなく逃げちゃったけど。

 

「大丈夫かい? 君」

「俺は問題無い。それよりこの子を」

「ナカマ・ラズリちゃん……連中に利用されていた子か」

 

 渦中のど真ん中に居た俺を気遣ってか、タケシさんは心配そうに声を掛けてくれた。俺の目を見ても普通に接してくれるんだから、それだけで良い人だってわかったよ。

 だがその時の俺にとって、そんなことはどうでも良かった。

 キタ・タツシとキタタツ衆が立ち去った後、俺の手を握っていたラズリちゃんが緊張の糸が切れたように意識を失ってしまったのだ。

 

 俺はタケシさんから事情聴取を受けたが、彼女には直通ですぐに病院へと運んでもらった。

 まあ、あの時は特に異常が無くて良かった。

 

 

 ……と、まあこれが俺と俺の嫁であるナカマ・ラズリちゃんとついでにイオリ・タケシさんとの出会いの話になる。

 

 えっと時間は……ああ、まだ試合まで余裕があるな。

 次回はその後の話――俺達が「機動戦艦ナデシコ」と、「ブラックサレナ」に出会う話でもしようか。

 

 

 

 

 

 





 最近組み立てたコトブキヤのブラックサレナがかっこよすぎたので書いてみた。
 ガンプラマフィアの設定は捏造です。


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バカップル誕生の経緯と落ち目の女たらし

 

 

 キタ・タツシさん達にはまんまと逃げられたが、俺の証言によってガンプラマフィア「ジオンの後継者」のアジトが割れ、ボスを含む大半のメンバーがお縄につくことになった。俺自身も警察からはこの目つきを見て悪いことしていたんじゃないか?と疑われたが、そっちの方はタケシさんが弁護してくれたり、マフィアのボスのクサカベさんがはっきりと否定してくれたので事なきを得た。

 色々と面倒なことはあったものの、俺の方は牢屋で暮らすこともなく、寧ろ感謝状や報奨金を貰えたりと美味しい思いをすることが出来た。

 特に報奨金は助かったなぁ。バイト代だけじゃ家計が厳しくて、ガンプラを買う金すら無かったから。

 

 ……それでもって、俺にとってさらにハッピーなことが起こった。

 

「オチカ……」

「具合は大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

 

 病院に連れて行かれた後、無事意識が回復したラズリちゃんが俺との面会を所望してくれた。

 吊り橋効果という奴か、事件を経て彼女は偉く俺に興味を抱いてくれたのだ。

 端的に言うと懐かれたのである。街を歩けば何もしなくても子供が逃げていく俺に限って、彼女のような美少女に懐かれることなど生涯有り得ないと思っていた。

 しかし、そんな嘘のような奇跡が起こってしまった。あの時は喜び過ぎてそのまま天に昇っていくかと思ったぐらいだ。

 ラズリちゃんとの会話は、予想以上に弾んだ。俺はこう見えて人見知りで口下手な人間なんだけど、彼女とはなんだか波長が合ったみたいで、バイト仲間達に対する時とは違って自然と言いたい言葉が出てきたのだ。

 そしてしばらく談笑した後、面会の終わる間際に、彼女はとんでもない爆弾発言を残してくれた。

 

「タケシ」

「ん、なんだい?」

 

 一応の見張りという役割で面会に同席していたイオリ・タケシさんに対して、普段の無機的な表情を崩しながら彼女は言った。

 

「私……オチカと居たい」

「え? ……マジで?」

 

 ありのままの願いを、心から吐き出した。

 俺がタケシさんに「何の話だ?」と訊ねると、どうやらラズリちゃんの引き取り先についてのことだった。

 彼女は身寄りの居ない天涯孤独の身であり、曲がりなりにもこれまで暮らしていたガンプラマフィアのアジトが無くなった為に住む家を失ってしまった。だから今後、誰の家が引き取るかタケシさん達の関係者で話し合っていたらしい。

 

 そして、彼女は自らの要望を出したというわけだ。

 

 アワクネ・オチカ――俺のところで暮らしたい、と。多分それは、彼女が生まれて初めて言った我が儘なんじゃないかと思う。言った瞬間、彼女はその言葉が自分の口から出てきたことに誰よりも困惑している様子だったから。

 俺としてみればそれはもう、本当に嬉しかった。なにこの子可愛すぎるよおおおおおおおっと、頭の中がおかしくなるほど彼女を慈愛の目で愛でまくった。

 しかし人一人の面倒を――それも責任能力の無い幼子を引き取るというのは犬や猫を拾うのとはわけが違う。独り身の俺からしてみれば、それは想像を絶するほど大変なことなんだろうと思う。タケシさんも彼女の言葉を聞いて最初は微笑ましげな顔をしたが、すぐに大人の顔になった。

 

「大丈夫、私、子供じゃないよ?」

「ははは……そう言えばまだ年齢を聞いてなかったね。ラズリちゃんはいくつなの?」

「十七」

「はは、そうか、十七歳か。十七歳って言ったらまだ子供だね。まだラズリちゃんは……十七歳!?」

「うん、今年、十八歳になる」

「ま、またまたご冗談を! ウチの息子よりずっと歳上じゃないか……」

「嘘じゃないよ?」

 

 彼女の実年齢が十七歳――それでもまだ子供ではあるが、見た目よりも大分年齢が上だということを知ったのは、その時が初めてだった。

 タケシさんは絶句していた。俺も絶句した。あまりにも信じられなかったので後日、獄中に居るクサカベさんに聞いて真偽を確かめに行ったぐらいである。その結果、彼女が本当に十七歳であることがわかった。

 十七歳から十八歳にもなれば未だ未成年とは言え、法律上は結婚も出来る年齢だ。つまり合法ロリだ。合法ロリである。大事なことなので何回も言わせたもらう。合法ロリなのだ!

 

 ――っしゃああああああああああっっ!!

 

 その時、俺は胸の内の感情が表情に出にくいという自分のコミュ障属性に感謝した。その時の内心の喜び様といったらもう、人に見せたらいかにラズリちゃんという天使と言えどドン引き待ったなしだったからだ。

 

 ……で、彼女の引き取り先だが、最終的には「ホシノ」という家に決まった。

 タケシさん達が調べてみたところ、この日本に彼女の親戚の家があるということがわかり、その家が「ホシノ」という家庭だったのだ。

 そのホシノさんちの家主だが、実際に会ってみて思ったが良い意味で「お父さん」って感じの人だった。

 

「安心せい、ラズリはわしが育てたる」

 

 そう言って、家主のホシノ・センイチさんは快くラズリちゃんのことを迎え入れてくれた。

 ホシノさんちは既に何人か子供も居て、近所の評判も上々の為引き取り先として申し分ないという話になった。ラズリちゃん自身は少し残念そうな顔をしていたが、俺が説得すると渋々ながらも了承してくれた。

 そんなラズリちゃんだが、今ではそのホシノさんちの皆さんと仲良くやっている。センイチさんもよくぞ育ったとご満悦だった。

 

 ……と、流石に彼女の引取り先は俺のところとはならなかったわけだが、当たり前の話だ。

 寧ろ俺は、彼女が安定した家庭に引き取られて本当に良かったと思う。俺なんかの家に引き取られてもみろ。精々ガンプラバトルが並より出来ると言った程度の取り柄しか無い俺なんか、食う物も乏しい4畳半のアパート暮らしの毎日だ。そんな環境に十七歳の女の子を押し込むなんて、常識的に考えて有り得ん。そもそも俺みたいなニート風情に銀髪ロリと一緒に暮らす資格があるなんてことは、これっぽちも思っていなかった。

 ……勝手な正義感でガンプラマフィアという彼女の居場所を奪ってしまった癖に、アフターケアも満足に出来ない自分の甲斐性無さにはほとほと呆れたけどな。つくづく俺って考えなしだよな、とっくに成人してるのに。

 それでもあの時取った行動自体は、後悔してはいないが。

 

 

 

 そんなこんなで無事ホシノさんちに引き取られたラズリちゃん。

 別れの時は年甲斐もなく泣きそうになった。って言うか、本気で泣いた。彼女はもうガンプラマフィアなんていう闇の世界から解放されて、光の中で生きていけるんだなと――出会ってそう時間は経っていない筈なのに、二十過ぎた大人が年甲斐もなく感極まってしまったのだ。

 多分その時点で……いや、もしかしたら俺は、彼女と会ったその瞬間から彼女に惹かれていたのかもしれない――と、カッコつけて言ってみる。ええ、俺はロリコンですよ? 面接で尊敬する人物はと聞かれて「クワトロ・バジーナ大尉です」と即答するほどのロリコンですが何か?

 

 センイチさんとそのお子さん達に手を引かれていく彼女の後ろ姿を見送った次の日から、アルバイトに励み時々ガンプラバトルに精を出すという何の変哲もない俺の日常が帰ってきた。

 

 ――だが、その程度で俺のラブコメは終わらなかった。

 

 それから数週間後の、バイトの帰りだった。疲れた体でいつものようにボロっちいアパートへと帰ろうとしたその時、俺は彼女と再会した。

 

「来ちゃった」

 

 僅かに頬を赤らめながら、天使が俺の部屋の前に立っていたのである。

 そんなバカな!? ……と、お思いでしょう。

 そんなベタな!? ……と、お笑いでしょう。

 銀色の髪を揺らしながら俺の胸に向かって駆け寄ってくる彼女の姿を見た瞬間、バイトの疲れなんか一瞬で吹っ飛んでしまった。多分、あの時のテンションでガンプラバトルをしようものならばカイザーさんすら凌駕することが出来たと思う。夢にまで見た彼女との再会を果たした俺は、そのぐらいハッピーな気分だった。

 しかもラズリちゃん、ホシノさんちで暮らしていく中で良い影響を受けたようでガンプラマフィアに居た頃よりも表情が豊かになっていた。元々可愛かったのがさらに可愛くなっていたのだ。センイチさん、よくぞラズリちゃんをここまで育ててくれた! 愛らしさの塊を育てて何とするっ!

 

 灯台下暗しと言うか。

 天の神様グッジョブと言うか。

 調べてみれば簡単にわかることだったが、実はホシノさんちのお宅は俺のアパートから徒歩で十五分程度の近所にあったのだ。その気になればいつでも会いに行けただろうに、別れの時に漂わせた今生の別れみたいな雰囲気から完全に失念していた。

 ホシノさんちもまた俺がこんなに近所に居るとは思わなかったらしく、最初に気付いたラズリちゃんが居てもたっても居られず、俺に会う為に飛び出してしまったのだそうだ。なんて微笑ましいっ!

 

「ラズリは随分お前さんに懐いとるようやな。……生い立ちのせいかあまり多くの人間に心を開かんが、あの子は本当に優しい良い子や。お前さんも就職活動で忙しいやろうが、出来るだけ構ってやってはくれんか?」

「俺で良ければ、いくらでも」

「はっは、お前さんのような好青年が路頭に迷っとるとは世の中わからんもんやなぁ。良かったらわしの会社の面接にお前さんを推薦してやろうか? 部下になる気があるならわしが育てたる」

「悪くない……」

「まあ、考えておいてくれや」

 

 社交辞令だとは思うが、センイチさんとはこんな会話をしたことを覚えている。

 まあこの会話から考えるに、自分のところの娘が俺に懐いていることを疎ましくは思っていない様子だった。わしの娘をなに誑かしとるんじゃボケェッ!!と、彼がアパートに押し掛けてこようものなら情けない話勝てる気がしなかったので、彼が好印象を持ってくれたのは素直に嬉しかった。

 

 

 そんなわけで、住む家が近いことを知ったラズリちゃんは頻繁に俺のアパートに遊びに来るようになった。

 何回か近隣の住民達からは俺が幼女を自分の部屋に監禁してると洒落にならない通報をされたこともあったが、彼女の必死な叫びのお陰でそんな誤解も解け、俺が本当に監獄に入れられることなく済んでいる。聖人君子じゃない俺はそんな冤罪について思うところが何も無いわけではないが、客観的に見れば確かに俺達の関係は怪しすぎるので納得はしている。一度はマジで落ち込んだけど、ラズリちゃんによしよしと頭を撫でられて復活した。今では寧ろ、彼女に慰めてもらえるならどんどん通報してくれと思うぐらいだ。

 

 因みに、彼女は学力的な意味では平均的な高校生よりもずっと上だ。

 ガンプラマフィアに居た頃は「仕事」の時以外ほとんど外に出してもらえなかったが、暇な時はボスのクサカベさんやキタ・タツシさん達を教師役としてずっと勉強していたらしい。十代なんて青春真っ只中な時期に勉強と仕事だけの毎日とか俺は勘弁だけど、そのお陰で彼女は生きる分には困らない知識を備えることが出来たんだと。まあ、それでも同じ年頃の子と比べると幼いところがあったり、世間知らずなところはあるが、そこもまた可愛いので問題無い。

 センイチさんが言うには教養自体は元から完璧だったので、外に出て一般常識を育てるだけで手が掛からなかったとのことだ。

 ラズリちゃんが裏社会から出てすぐに表社会に馴染もうと努力しているのは見ればわかるし、案外、ガンプラマフィアの連中は彼らなりに親代わりをしていたのかもしれない。俺がクサカベやキタ・タツシらにさん付けをしているのも、そう思ったことが理由だ。まあ、それでも彼らが世間にしてきたことを許す気は無いが。

 

 

 ……ここまで、思っていたよりも話が長くなってしまった。

 

 まあ何が言いたいかと言うとだ、再会した俺とラズリちゃんは非リア充の誰もが羨むキャッキャウフフな生活を送ることになったというわけだ。

 そう時間も掛からずお互いの気持ちを告白することになり、めでたくカップルが成立した。そして、デート中に通報された回数は余裕で二桁に上る。もう勝手にしやがれってんだ。

 

 

 さて、ここいらで君達が今思っていることを当ててみるとしよう。

 

 ――えっ? ガンプラは? ブラックサレナ関係無いじゃん。ただのノロケ話じゃねーかこのクソロリ野郎っ!

 

 うん、正直すまんかった。自重するつもりが、それでも抑えきれんばかりに溢れる嫁への愛が爆発してしまったらしい。だがリア充は爆発しないから安心してくれ。

 

 凸凹カップルとなった俺達は、ガンプラバトルでもペアを組んだ。

 ガンプラマフィア時代自分の力を良いように利用されることを嫌がっていたラズリちゃんだが、ガンプラその物は嫌いじゃなかったようだ。ガンプラを作ったりするのは物心ついた頃に覚えた一番の趣味らしく、そのビルダーとしての腕はうら若き少女とは思えないほど高かった。って言うか、俺よりずっと上手くて笑えた。

 

 ただ、彼女にはガンプラバトルが出来なかった。

 

 ガンプラバトルを見るだけならば良いのだが、操縦桿を握ると無意識的に手が震え、気分が悪くなるのだと言う。ガンダムXに登場するジャミル・ニート先生のコクピット恐怖症のようなものを、彼女は患っていたのだ。

 ガンプラバトルを自分が行うことに対して、彼女には過去にトラウマがあるのだろう。望まずしてガンプラマフィアなどという場所に居たのだから、想像出来る話ではあった。それを聞いて俺は、呑気にガンプラバトルを楽しんでいた俺自身に吐き気を催した。

 

「すまない……君にとっては、辛いことだったな……」

 

 俺は土下座して彼女に謝った。彼女が辛い思いをしていることに気付かず、ガンプラバトルの世界に誘おうとしてしまったことを。当時の俺はただ単純に、彼女に表の世界のガンプラバトルがどんなに熱く、楽しく、素晴らしいものなのかを教えてあげたかった。しかしそのことばかり気にして、彼女の過去については深く考えていなかったのだ。裏の世界とは違う表の世界のガンプラバトルと言えど、それが彼女の持つトラウマを抉る行為になる可能性を。

 しかしラズリちゃんは、そんな思慮の足りない俺を許してくれた。

 そして、微笑みながらこう言った。

 

「いいの。私、好きだから……ガンプラバトルより何よりも、ガンプラバトルをしているオチカを見ているのが」

 

「オチカが戦っている姿、いつまでも見ていたいから……だから、一緒にガンプラバトル、しよ?」

 

 ――天使を超えた、女神であった。

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!

 今思い出すだけでも気が高まる! 溢れる……っ! あっ、カワグチさん肩当たっちゃってごめんなさい。

 彼女は俺と一緒にガンプラバトルをやりたいと言ってくれた。なにこれ俺幸せすぎるんだけど!? 明日にでも死んじゃう!? これなんか怪しい組織に拉致されて頭ん中滅茶苦茶に弄られて五感失うフラグ建っちゃってる? うわー、幸せすぎて不安だわー、つれーわー。

 

 ……そういうドラマもあり、俺は彼女と組んでこれまで以上にガンプラバトルに打ち込んだ。えっ? そんなことよりニートは就活に集中しろ? おっしゃる通りです。

 まあ切羽詰っている筈の就活を後回しにしてしまうほど、俺は彼女の言葉が嬉しくてハッスルしちゃったわけだ。色んな大会に出場しまくった結果、愛機のアレックスが全盛期のハマのスペランカーの如く壊れに壊れてしまった。その修理に掛かる費用は馬鹿にならず、我が家の家計はさらに圧迫されるというアホな事態に陥ってしまったのだ。

 だがラズリちゃんという最高のパートナーを味方にしたお陰か、俺の戦績は以前よりも明らかに伸びた。自惚れでなければ、地元ではかなり有名になったと思う。

 そして就活そっちのけでガンプラバトルの日々を送っていたある日、俺のニートファイターとしての生活に転機が訪れた。

 

「失礼、アワクネ・オチカさんですね?」

 

 地区で開かれた小さな大会で優勝をおさめた帰り道、小奇麗なスーツに身を包んだ長髪の男が、彼の秘書と思われる美人な女性を伴って俺に話しかけてきた。

 

「ああ、そうだが」

 

 「はい、そうですが」と帰すつもりが、飛び出してきたのは初対面の人に対して凄く無礼な言葉。いつものことであるが、どうにも俺は、言おうとした言葉をぶっきらぼうな形で口にしてしまう癖があるのだ。面接に受からないのは目つきの悪さも理由の一つだが、これもその一つだろう。病気なのかなー俺。

 

「君のバトル見せてもらったよ。いやあ、実に驚いた。噂には聞いていたけど、まさかあれほどとはね」

「あんたは?」

「失礼、私はこういう者です」

 

 スーツの男は大人な対応だ。こんな俺の物言いに不快そうな顔一つせず、慣れた手つきで名刺を差し出してきた。俺はそれを受け取り、そこに書かれている文字を確認した。

 

「KTBK社会長、キンジョウ・ナガレ?」

「どうも」

「KTBK社……聞いたことがないな」

「はは、これは手厳しい。最近になってやっとこさガンプラバトルに手を出し始めた、時代遅れの模型生産会社さ」

 

 最初こそ丁寧な口調だった彼だが、俺の前でそんな言葉遣いをする必要は無いと判断したのか、次第に砕けた口調になっていく。まあ俺としては畏まったやり取りよりもそっちの方が話しやすいので、寧ろ助かったが。

 彼は言う。

 

「君のガンプラの纏っている鎧……チョバムアーマーだったかな? 随分ボロボロだったね。あれでは修理するよりも、新しい物に替えた方が良いとは思わないかい?」

 

 俺のガンプラ「ガンダムNT-1」の纏うアーマーはその時、確かに限界を迎えていた。

 それもこれも修理費をケチりにケチりまくった結果であるが、最悪本体さえ無事ならアーマーがどれだけボロボロでも構わないという俺のスタイルだ。

 だが今回の大会で優勝したことで、それなりの賞金が出た。その金とバイト代を合わせれば、生活費を差し引いても十分に修理は出来た。

 

「修理費なら問題は無い。今回の賞金を使えば、スクラッチに掛かる分を加算してもお釣りが来る」

「いや僕が言いたいのはそういうことじゃなくてだね……世知辛いファイターだねぇ、君」

「何が言いたい?」

 

 うるさい、ガンプラバトルには金が掛かるのだ。お金持ちにはわからんのだよ。

 彼の言葉にムッと来たので、俺は少し刺を込めた声で言った。その際、心配そうに擦り寄ってきたラズリちゃんの頭を撫でるのは忘れない。

 だが次の瞬間、彼女を撫でる手を思わず止めてしまう発言を、スーツの男が言った。

 

「僕に雇われてみる気は無いかい? もちろん、報酬は弾む。少なめに見ても、今回の優勝賞金の十倍以上はくだらないよ?」

 

 それはガンプラバトルニートファイターに対する、世にも怪しい取引の持ちかけであった。

 だがこれを機に、俺は今愛用している「最強の鎧」と出会うことになる。

 

 そして「機動戦艦ナデシコ」という、ガンダムシリーズには無い魅力を秘めた衝撃的なアニメと――。

 

 

 

 

 

 





 ネタは自重しない方が書いてて楽しいことに気付いた。
 ガンダムブレイカー2でブラックサレナを作ろうとして挫折しているのは私だけではない筈。特に足パーツがね、駄目なんだよ……。


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ロワイヤルと黒百合と一目惚れ

 

 フィンランド代表アイラ・ユルキアイネンの駆るガンプラ、キュベレイパピヨンにはクリアファンネルという武器がある。

 肩部のアーマーから射出される、その名の通りクリアパーツで作られたファンネルだ。

 透明度が高く、レーダーにも感知されない性質の為、相手は自分が攻撃されたことにも気付けないまま一方的に撃破されていく。そんなクリアファンネルがフィールド上の光を反射する姿は、さながら蝶(パピヨン)の鱗粉のように見えた。

 この武器の凶悪性は前大会優勝者であるカイザーをも容易く打ち破ったことから既に実証済みであり、キュベレイパピヨンを操るアイラを無敗のファイターとして君臨させていた。

 

 

 第一ピリオド終了からのインターバルが開けて始まった第二ピリオドは、これまでの試合を勝ち上がってきた全出場者達によるバトルロワイヤル戦だった。

 これまでアイラのキュベレイパピヨンは五機ほどのガンプラと遭遇し戦闘になっているが、どの戦闘も一発も被弾することなく終わらせている。

 否、それはもはや戦闘とすら呼べないアイラによる一方的な蹂躙だった。

 

 しかし、彼女が六機目のガンプラと遭遇した時だった。

 

 紫色のガンプラが単機で向かってくる姿をモニターに捉える。機動性を重視しているのか戦闘機のような造形をしているが機体サイズは並よりも大分大きく、その分的が普通のガンプラよりも大きい為、捉えるのは容易い。そう判断したアイラはこれまで他のガンプラを相手にしてきたようにクリアファンネルを射出し、相手にこちらの攻撃を悟られる前に勝負を終わらせようとしたのだが――この時、アイラは初めて不測な事態と対面した。

 

「……?」

 

 飛んで火に入る夏の虫の如く、そのガンプラはノコノコとクリアファンネルの射程内へと入ってくる。

 そこまでは良かったのだ。

 しかしそのガンプラはキュベレイパピヨンのクリアファンネルが周囲を取り囲もうとした途端、急加速を掛けて旋回し、射線上から退避したのである。

 それはまるで、不可視である筈のクリアファンネルが「見えている」かのように。

 

「避けられた? そんな筈は……」

 

 それが最初の一回だけなら、偶然で片付けることが出来る。

 しかしそのガンプラは、続く二射、三射と連携するクリアファンネルのオールレンジ攻撃をことごとく鋭角的な軌道で避け、アイラにこの事態が偶然ではないことを証明してみせた。

 しかも、ただ避けるだけでは終わらなかった。

 

「まさか……っ」

 

 再度機体に狙いを定めたクリアファンネルの一つがビームを放つ前に、そのガンプラがアイラの予測を遥かに上回る速度で接近し、推力と重厚な装甲に任せた体当たりでクリアファンネル本体を潰してきたのである。

 

(クリアファンネルを見破って、私の予測も超えた……? こいつにも、粒子の流れが見えているの!?)

 

 アイラにはプラフスキー粒子の動きを察知し、ガンプラの動きを先読み出来るという特異な力がある。

 そして彼女が着用している一見コスプレ衣装にしか見えないスーツ「エンボディ」は、彼女が感じる粒子の動きを可視化し、予測的中率を限りなく100%へと近づける作用がある。彼女がこれまで予選も含めて被弾率ゼロという驚異的な戦果を発揮することが出来たのにはもちろん彼女自身が備えている高い操縦技術もあるが、エンボディによる未来予知染みた予測で敵の動きを完璧に読めたことが最大の要因だった。

 

 それが、通じない。

 

 あのガンプラがどう動くのか、アイラとエンボディの力を持ってしても読み通すことが出来ないのだ。

 紫のガンプラはアイラの予測した光景の全てを、ことごとく深い闇色へと塗り潰していた。

 

(コイツ……!)

 

 ガンプラバトルにおいて、彼女が見通せなかった未来は無い。

 その実績が積み重ねてきた絶対的な自信を、あの紫色のガンプラはいとも簡単に揺るがしてみせた。

 もちろん、アイラはたった一人のファイターを相手に自分の予測を超えられたからと言って、それで何も出来くなるほどヤワな精神構造はしていない。

 他の人間とは、ガンプラバトルにかける思いが違うのだ。

 アイラは他の大会参加者とは違って、ガンプラバトルを遊びでやっているわけではない。

 アイラは苦しんできた。幼い頃は寒さの厳しい北欧の小さな村に住み、親類縁者もなく、ストリートチルドレンとして天涯孤独の生活を送っていた。

 そんなある日、プラフスキー粒子の感知能力に目をつけたネメシスの男ナイン・バルトにスカウトされ、「フラナ機関」で数年に渡る訓練と言う名の人体実験漬けの日々を送ることを条件に、ようやく安定した衣食住を手に入れることが出来たのだ。

 しかしガンプラバトルで負けてしまえば最後、機関にとってアイラ・ユルキアイネンという存在は何の価値も無くなってしまう。

 そうなれば、アイラにはまた居場所が無くなる。アイラはもう、思い出すのもはばかれるあの貧しい暮らしには二度と戻りたくなかった。

 

(コイツは危険! コイツだけは、ここで始末しておかないと!)

 

 もしもこの紫のガンプラのファイターも自分と同じようにプラフスキー粒子の流れが見えているのだとしたら、アイラにとって最大の脅威となるだろう。

 だからと言って負ける気は毛当無い。しかし危険な芽は今の内に取り除いておくのが最善だと、予測ではなく直感がアイラを訴えていた。

 しかし紫のガンプラは彼女に構っている気は無いとでも言うように、進行方向に展開されたクリアファンネルを潰すだけ潰すなり、早々とキュベレイパピヨンから後退していった。

 

(逃がさない!)

 

 危険な存在をおめおめと逃がしておく意味は無い。手持ち式の大型ランス――ランスビットを携え、キュベレイパピヨンは後退していく紫色のガンプラを追い掛ける。

 しかしアイラの予測に反してその距離は一向に縮まることなく、それどころかみるみるうちに遠ざかっていた。

 

「このキュベレイパピヨンが、スピードで負けている……?」

 

 彼女の駆るキュベレイパピヨンは、最新の技術をふんだんに扱った傑作機だ。製作した「ネメシス」というチーム自体に対してはろくな感情を抱いていないが、そんなアイラも自分の反応に遅れることなく追従してくれるこのガンプラの性能の高さだけは大いに認めていた。

 しかし、そのガンプラを持ってしても機動性ではあの紫のガンプラに完全に負けている。その事実が、またしてもアイラの心へと深い衝撃を残した。今までも機動性に特化した相手と戦ったことはあるが、キュベレイパピヨンの機動力で追いつくことが出来なかったのはこれが初めてだったのである。

 

「アイラ、深追いする必要は無い。あっちから逃げてくれるのなら、今は逃がしておけ」

「……っ、……了解……」

 

 マネージャーのナイン・バルトからの指示に、「黙れ素人が!」と返したくなる言葉を抑えて応じる。

 この場であのガンプラと戦うことによって生じるリスクと戦わないことによって生じるリスク、二つを天秤に掛けた際、傾くのはどちらだろうか? アイラにはこの時、どうしても後者の方が重く思えてならなかった。

 

「ブラックサレナNT-1、アワクネ・オチカ……一体、何者なんだ……?」

 

 出足が遅れたとは言えネメシス自慢のガンプラが速度で追いつけなかった紫色のガンプラに対し、バルトが怪訝そうに呟く。

 この時、アイラには珍しく彼と思考が一致した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【高機動型ブラックサレナNT-1】――それが、今のこの機体の名前だ。

 第一ピリオドで戦っていたブラックサレナNT-1の装甲の上に、さらに「高機動ユニット」という外付け式の追加ユニットを装備させた姿で、見た目は戦闘機とか鳥みたいな形になる。

 ユニットの色が紫色だから、取り付けた状態で正面から見ると名前ほどブラックな姿には見えなかったりする。まあ、色なんかどうでも良いって思えるほど無茶苦茶格好良いけどね。

 ただでさえ速いのに、高機動ユニットを装備した俺の愛機はさらに速くなりすぎてビビる。うっかり制御をミスったら、フィールドから豪快にコースアウトしてしまいそうなぐらいだ。多分、この状態の機動性はトランザム中のガンプラにも劣らないんじゃないかと思う。あっ、今なんか轢いた。ディストーションアタックパネェ。

 

 ……にしても、さっきは危なかった。

 フィンランド代表のコスプレファイター、アイラ・ユルキアイネンちゃん。バトルロワイヤルが始まって最初に鉢合わせた相手があんなのなんて、本当に運が悪かったと思う。

 クリアパーツを使ったファンネル――ガンプラバトルならではの、初見殺しの恐ろしい攻撃だ。ラズリちゃんがファンネルの展開されている場所を教えてくれなかったら、俺も危うく餌食になっていた。

 しっかし毎度のことながら、粒子の流れが見えるなんて凄いチートだよなぁ。あっ、もちろんラズリちゃんのことだよ? 俺だけだったら瞬殺されるの不可避な相手だったけど、彼女のおかげで何とかあの場を切り抜けることが出来た。

 それと、高機動ユニットを着けたこのブラックサレナNT-1の機動性の高さだ。避けなくてもディストーションフィールドがあるけど、避けれるんなら避けておくに越したことはないからね。こうして無事アイラちゃんの手から逃げ果せてこれたのは、言うまでもなく俺とラズリちゃんが作ったこのガンプラの性能も大きい。

 ただこの機体に一つだけ難点を挙げるとするなら、この高機動ユニットを装備した状態では本体が持っているハンドカノンが使えないことだ。改造次第では普通に他の武装をつけることも出来たけど、「高機動型ブラックサレナ」と名乗る以上甘えてはいけないと思っている。まあ、仮に武装を取り付けたところで俺の腕じゃこのじゃじゃ馬の機体制御に精一杯で、射撃まで手が回らないだろうけどね。結局、ディストーションフィールドを張って体当たりする「ディストーションアタック」だけやっているのが一番良いって結論になるんじゃないかと思う。

 

 さて、さっきはアイラちゃんのキュベレイパピヨンから全力で逃走してきたわけだけど、こんな俺のことを「ヘタレ」だとか「負け犬め! ブラックサレナから降りろ!」とか言わないでいただきたい。別に勝てないと思ったから逃げたわけじゃないんだからね? 勝てる気満々だったけど消耗したくなかっただけなんだからね? ……うん、ホントダヨ。

 だがこのバトルロワイヤルでは、時間制限まで生き残ることが勝利条件だ。

 なので彼女みたいな強敵と無理して戦う必要は無く、つまらないことを言ってしまうと「逃げるが勝ち」なルールなのだ。時間中ずっと隠れんぼをするのも有り、鬼ごっこで逃げ回っているのも有り。大会序盤で消耗したくない、手の内を晒したくないファイターにとってはありがたいルールだと思う。

 その点、この機体ほどこのルールに適応しているガンプラは無いだろう。生半可な攻撃じゃ落ちない重装甲に、バリア機能、そしてさっき見せたこの機動力があれば、たとえ複数の敵に囲まれても持ちこたえることが出来る設計だ。

 

「オチカ、敵」

「数は?」

「三機。バーザムとウィンダムとボール」

「……了解」

 

 地球の周りを一周するように宇宙エリアのフィールドを駆け回っていると、俺よりも早くラズリちゃんが敵さんを見つけてくれた。どうやら三機のガンプラが、一列に並んでこっちに向かってきているらしい。

 大会出場者全員参加のバトルロワイヤルだからか、参加者同士で共闘している人達も居るみたいだ。即席チームの場合裏切りが怖いけど、制限時間まで生き延びる確率は上がるし、共闘してルワンさんみたいな優勝候補を落とすことが出来れば美味しいからね。俺は単機で戦い抜くから関係無いけど。そもそもこの機体は、「原作」からして多対一を想定して単機で運用するよう設計されているからね。来るなら来やがれってんだ別にぼっちが悔しいわけじゃねぇぞ! なんたってこっちには嫁が居るんだからな!

 

「ディストーションフィールド全開……!」

 

 機体を加速させつつディストーションフィールドを展開。あちらさんもこっちの存在に気付いたようで一斉にビームを撃ってきたが、効かん! 効かんなぁっ!

 ……って言うかバーザムやウィンダムやボールで世界大会まで勝ち抜いてきたって凄いな。ウィンダムとかHGのキットすら出てないのにすげぇ! 何が一番凄いかって、原作で微妙なポジションの機体を自分の愛機に選んだことだよ。とてつもない愛を感じる。

 彼らが量産機だと侮るなかれ。ガンプラバトルでは原作アニメの強さがそのままバトルに反映されるわけではない。だから原作では微妙な立ち位置だったMSでも、ビルダーとファイターの腕次第では主役級のMSが相手だろうと圧勝することが出来たりする。だからこそ、ガンプラバトルは面白いのだと俺は思う。

 

「ディストーションアタックで殲滅する」

 

 原作ではパイロットの棺桶だった量産機を、自分の愛機として利用する。そんなガンプラ愛溢れる彼らのことを、俺は純粋に尊敬した。世界大会にまで来ている人達を捕まえてこう言うのもなんだけど、そのぐらいガンプラが好きな人なんだなとわかると、こっちもより楽しくなるのだ。出し惜しみなんか忘れて、つい張り切ってしまう。実際のところどうかは知らないが、こうして相手のガンプラ愛が伝わった時は俺も効率とか後先とか忘れて全力で戦うことにしている。

 

「撃ち落とせぇぇーー!!」

「撃って撃って撃ちまくれぇぇーー!!」

「って言うか、全然効かねぇぇーー!!」

 

 三機のファイター達の声が、通信回線を通して聴こえてくる。こうして対戦相手間で回線を開くのも、ガンプラバトルの醍醐味の一つだ。時々相手のことを貶すマナーの悪い人も居るけど、俺はあんまり気にしていない。考え方によってはガンダムシリーズの劇中の戦闘会話みたいで、俺を熱くさせてくれるからだ。

 

「ウィンダァァァーームッ!!」

「せっちゃん!?」

「おのれ、よくもせっちゃんを!」

 

 ディストーションフィールドを展開し、敵のビームに怯みもせず流星のように突っ込んでいく。

 高機動型ブラックサレナNT-1の全推力と重量を込めた体当たりが最初にウィンダムを抉り、ウィンダムの機体は見るも無惨に砕け散った。うわっ、思ったより酷い壊れ方。

 しかし、これは勝負の世界。自分が壊した相手のガンプラを可哀想だと哀れむのは、その相手に対する侮辱も同じだというのが俺の持論だ。

 だから俺は、この戦いにおいて容赦はしない。って言うか、世界大会のレベルで容赦なんかしてたらこっちが負ける。俺にはガンダムの主人公達みたいに相手の急所だけを外す技量は無いし、そもそも「復讐」の為に作られたこの機体にそんなことは想定されていない。別に俺自身は、復讐人でも何でもないけどね。

 

「なんなんだコイツ……!」

「ば……化け物かっ!?」 

 

 ウィンダムを撃破した後、大回りで旋回し、残りの二機に向かって再度ディストーションアタックを仕掛ける。

 バーザムもボールも懸命に対抗しようとするが、彼らの武装ではブラックサレナNT-1のディストーションフィールドを破ることは出来ず、あえなく木っ端微塵になった。

 

 ……今の俺、多分倒した相手のファイター達からしてみれば酷くアレな扱いをされていると思う。何というか、アニメで言うところのボスキャラがついに戦場に出てきたとかそんな感じの。この機体、凄くダークな外見だから。

 

「他にも何機か、隠れてこっちの様子を見てたのが居たけど、今のオチカの戦いを見てみんな逃げたみたいだよ?」

「そうか、索敵ありがとう」

「ほとんどの敵は地球エリアに降りたみたいだけど、オチカも降りる?」

「……少し、待ってくれ。ここで待機する」

「わかった」

 

 三機の量産機の残骸が漂う中、俺はラズリちゃんの言葉を聞いて機体を制動させる。

 自惚れではなく、今の戦いはこちらの圧倒的な力を見せつけた戦いだったと思う。高機動型ブラックサレナNT-1を実戦で使ってみたのは実を言うと今回が初めてなんだけど、正直俺も、コイツの性能にはびっくりしている。

 圧倒的な蹂躙――だが操縦している俺からしてみると、この機体のとんでもない性能を持て余し過ぎて、戦闘中いつ機体制御をミスるか気が気でなかった。

 バイクで人をヒャッハーするように三機のガンプラを体当たりだけで蹴散らしてみたが、その性能は流石と言うしかない。

 デブリの中に機体を隠した後、俺はバイザーを外して額の汗を拭う。一先ず、ここで休憩タイムだ。機体は無傷だが、こんなことでは俺の方が参ってしまう。この機体は、トールギスかってぐらい操縦者殺しのガンプラなんだよ。

 それに加えてコイツにはまだ一番のトンデモ機能が残っているというのに、高機動ユニット一つに手を焼いていたら先が思いやられるというものだ。ブラックサレナ――今の俺にとっては、明らかにオーバースペックな機体だ。ラズリちゃんのバックアップが無ければ、とても戦えたもんじゃない。

 

「ナガレ、このガンプラは最高だ……」

 

 この機体を完全に、それこそテンカワ・アキトばりに乗りこなすことが出来れば優勝も夢ではないだろう。自信はあったが、それが今確信に変わった。

 キンジョウ・ナガレ――あの人が提供してくれたパーツをラズリちゃんと俺が組み上げ、何度もテストを重ねてここまで仕上げた。思えば短いようで、長い時間だったな。

 

 ――さて、地球エリアに降りる前に説明しようか。

 

 俺達が、このガンプラと出会った日のことを――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある小さな大会の帰りに出会った長髪のイケメン、キンジョウ・ナガレ。

 KTBK社という無名の模型生産会社の会長を名乗る彼に、俺はとりあえず話だけでもと着いていくことにした。

 そうやってホイホイ着いていった先がまたしてもガンプラマフィアだったらどうするのかと考えなかったわけではないが、俺達働く気のあるニート、通称レイブルは「雇う」という言葉に弱いのだ。

 夕飯を奢ってくれるという言葉にまんまと釣られたのもある。いやあ、あの時食った寿司は美味かったなぁ。

 

 ……そうして彼によって俺達が連れてこられたのは、目立たない場所に建てられた小さな模型生産工場だった。

 そこは確かに模型生産会社の工場であり、すれ違う社員の皆さんが彼のことを会長と呼んで頭を下げていたことから、彼の言っていた言葉が本当のことだというのがわかった。

 そんな会長殿にKTBK社工場内を直々に案内してもらいながら、俺は内心興奮しながら模型――プラモデルの製造現場を眺めていた。

 小さな工場ではあったが、その時の俺は初めてプラモデルのパーツが製造されている光景を目にしたのだ。ほら、今の時代静岡のガンプラ製造工場のツアーとか、人気過ぎてチケットが取れないんだ。

 一緒に着いてきたラズリちゃんもまた、興味津々と言った顔で製造現場を見つめていた。うむ、可愛い。

 ……ただ、一つだけ気になることがあった。

 その工場で作られているプラモデルの中には、現在絶賛大ブーム中であるガンプラの姿が無かったのだ。

 

「ここにはガンプラは無いのか?」

「偉い人達が中々権利を買い取らせてくれなくてねぇ。お陰で我が社は流行に乗り遅れるわ、ガンプラバトルでの企業抗争にも参加出来ないわ、踏んだり蹴ったりさ」

 

 ガンプラバトルという夢のような競技が流行している今という時代、ガンプラ以外のプラモデル達はその需要が減っているのだと彼は言った。

 勿論、ガンプラ以外のプラモデルとて決して人気が無いわけではない。ただ、ガンプラバトルによる「作り上げて壊し、また作る」という循環は、商売として普通のプラモデルを売るよりも何倍も効率が良い為、そのガンプラバトルの恩恵を受けられない模型会社は利益競争で大幅に遅れを取ってしまうのだとか何とか言っていた。だからか、今やほとんどの模型会社がガンプラの生みの親であるB○NDAIの下へと吸収されているんだとさ。

 

「……興味無いな」

「はは、確かに君からしてみれば知ったこっちゃない話だったね。僕も、ずっとお客さんの立場だったらそう思ってたよ」

 

 言われてもよくわからないのでその話はしないでくれ、という意味を込めて興味が無いと言うと、ナガレは肩を竦めながらも理解してくれた。経営のことなんか学生時代全く習わなかった俺には、そんな事情を事細かく聞かされたところで着いていけるわけがなかった。

 

「まあ、今日はそんな話をする為に君を呼んだわけじゃない。少し長くなるだろうから、僕の部屋に行こうか」

 

 俺を経営者として雇うとかトンチキなことを言ってきたらどうしようかと身構えていたが、本題はもちろん別にあったようだ。

 俺とラズリちゃんは彼に誘われるがままに着いていくと、会長室と表示された部屋の中へと通され、落ち着いて話を聞けるソファーの上へと腰掛けた。

 

「君は、【機動戦艦ナデシコ】というアニメを知っているかい?」

 

 そして開口一番、ナガレがそんなことを聞いてきた。

 雇用の話かと思いきや何故アニメの話が出てくるのかわけがわからなかったが、とりあえず口は挟まずに質問に答えることにした。

 

「知らないな」

「そうかい? まあ、確かに君が視聴しているイメージは沸かないね」

 

 うん、知らない。俺はガンダムシリーズの作品はほぼ網羅しているが、それ以上のアニメはあまり見ない人間なのだ。ガンダム限定のオタク――そう珍しくもない人種だと、俺の中では思っている。

 

「大まかに説明すると、一昔前に流行ったSFのアニメさ。宇宙戦艦が出てきたり、ガンダムのような人型のロボットが出てくる」

「ほう……」

 

 機動戦艦というタイトルからして、そんな内容だろうということは言われなくても予想出来た。

 しかし工場の会長室の中で大の大人達がアニメについて語り合うとか、絵面的にシュール過ぎるのでないかと思う。隣にちょこんと座るラズリちゃんだけが癒しだ。

 

「まあそんなアニメなんだけど、この工場ではそれに登場するロボットのプラモデルが何体か作られていてね」

「それで?」

「単刀直入に言うよ。そのプラモデルを使って、君に今年のガンプラバトル選手権に出てほしい」

 

 こちらの知りたいことをすぐに話してくれる辺りは好感が持てる。

 ただ、俺はその言葉を聞いて当たり前のように疑問を抱いた。

 この工場ではガンプラは製造されていないと、さっき自分で言ったばかりじゃないかと。ガンプラじゃない普通のプラモデルでガンプラバトルをしろなんて、ウォンさんとは比にもならない無理難題だった。

 そんな俺の思考を口に出すまでもなく、ナガレは説明の補足を行った。

 

「君の考えていることは尤もだ。だけど我が社はガンプラじゃなくても――ガンダムシリーズに登場するロボットのプラモデルじゃなくてもプラフスキー粒子に反応し、操縦することが出来るプラモデルを完成させることが出来たんだ」

 

 そうかそうか、ガンプラじゃなくてもバトれるプラモデルを作ったのか。ほうほうそれは凄い。

 ……って、今さらっととんでもないことを言ったぞこの男!?

 

「そのプラモを実戦で活躍させることで、我が社の名を宣伝してもらいたい」

 

 彼の話が本当なら世界すら揺るがしかねない重大な情報を与えられた俺は、そこでようやく話が見えた。

 ガンプラバトルが始まって以来世界規模で行わているガンプラバトル選手権には、企業の技術力を世界に知らしめる為に企業が独自に育成したガンプラファイターや、そのサポートチーム等の専属のワークスチームが参加することがある。有名なのがガンプラバトル生みの親、PPSE社のワークスチームに所属する「メイジン・カワグチ」などがそうだ。今回の大会では、その三代目が出場しているね。

 プロのガンプラファイターと言えば響きは良い。

 だが生憎にも、俺というニートは雇用先に我が儘な男だった。

 

「断る」

「即答だね。理由を聞いても良いかい?」

「仕事と趣味は別にしたい」

「それはそれは、納得の行く理由だ」

 

 隣に腰掛けるラズリちゃんの肩に手を置きながら、俺は迷うことなく言い切った。

 ガンプラバトルはあくまでも遊びなのだ。日々の生活というプレッシャーを背負ってまで戦うのは息苦しいし、俺には心から楽しむことが出来ないと思う。それは、常に心に余裕の無い二代目メイジンの戦いを見て思ったことだ。現役時代の彼は間違いなく最強のプロファイターだったと思うが、俺にはあの人のようにガンプラバトルを仕事として冷徹に向き合うことは出来ない。二代目メイジンの戦いを批判するわけじゃないけど、俺の性格じゃあナガレの望む役割は無理だと思ったのだ。

 それに、俺は自分とラズリちゃんの作ったガンプラ以外を使って戦いたくはない。何も人に作ってもらったガンプラで戦うことを悪いとは思わないけど、それは俺の主義じゃないのだ。

 しかし俺がそのことについて言うと、ナガレは「ああ、そっちは気にしないでいい」と返してきた。

 

「我が社がやることは君にパーツを提供することだけだからね。デザインさえ大きく改変しなければ、後はそちらで好きに弄ってくれて構わないよ?」

「……俺の愛機は、アレックスだけだ」

「それも結構。僕が君に使ってほしいのは、あくまで君のガンプラに装着する「鎧」の方だからね」

「鎧?」

「最初に言ったろう? 新しいアーマーに替えてみないかって」

 

 そう言って、ナガレは美人な秘書に一つの箱を持ってこさせた。

 大きい箱だ。サイズで言えば、ガンプラのマスターグレードぐらいはある。

 そしてその箱のパッケージには、宇宙空間を背景に悠然と佇む闇色のロボットのイラストが描かれていた。

 

「……そう、この鎧を君のガンプラに纏わせてほしい。名は――【ブラックサレナ】。「機動戦艦ナデシコ」の劇場版に登場する主役機の鎧だ」

 

 そのロボットには深い思い入れがあるのか、ナガレはテーブルに置かれたその箱を真剣な眼差しで眺めながら言った。

 そして俺は――奪われた。

 

 ――奪われてしまったのだ。

 

 そのイラストの禍々しさに、雄雄しさに、格好良さに――一瞬で心を奪われてしまった。

 初めてガンプラを買った小学生の頃のことを思い出す。あの時も純粋に、こうして箱に映る格好良いロボットの姿に惹かれ、なけなしの小遣いを叩いて衝動的に購入したものだ。初めて買ったあのガンプラは――HGストライクフリーダムガンダムだった。あの時は色んな意味で泣いた。思えばスクラッチの技術も、元々はあのキットを格好良くする為に磨いたんだったなぁ。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。

 俺は秘書さんがテーブルに置いたプラモデルのパッケージに魅了され、心を奪われた。その気持ちは、まさしく愛だった。

 

「頼みがある」

「ん? 何だい?」

「そのアニメ、機動戦艦ナデシコを見せてほしい」

「おや、興味が出たかい?」

「この機体……いや、鎧に興味がある。これが動く姿を見たい」

「それは嬉しいね。おやおや? 丁度こんなところに機動戦艦ナデシコのブルーレイボックスがある。しかも全巻揃っていて、劇場版と特典映像まで付いているぞー」

「レンタル料はいくら払えばいい?」

「ふふ、レンタルと言わず、全部無料であげるよ。これは布教用に会社に置いていた物で、僕の分は他に三セット揃えてあるからねぇ」

 

 何かこう、そのロボットのデザインは本能的な部分で俺の琴線に触れたのだ。

 この機体が映像で動いている姿を見てみたい。その思いで、俺は「機動戦艦ナデシコ」というアニメを視聴した。この「ブラックサレナ」はテレビ本編の続編である劇場版に登場するらしいので、生き生きとした表情でナガレから奨められたのもあり、俺は次の日から彼から貰ったBDをラズリちゃんと一緒にテレビ本編第一話から辿って視聴することにした。

 

 そして劇場版まで見終わった俺が「この機体を自分が動かしたい」と考えるまで、時間は掛からなかった。

 

 

 ……以上。それが全てというわけじゃないが、今の俺がこの機体を扱っている理由の一つだ。そして俺がガンオタであると同時にナデオタにもなった瞬間だった。

 最初はブラックサレナ目当てで見たアニメだったけど、最後にはアニメその物も好きになっていたのだ。

 その理由は、このロワイヤルが終わった後にでも語ろうか。

 まだちょっとだけ、俺の自分語りを聞いてほしい。

 

 

 

 




 三話ぐらいで終わる予定でしたが、六話ぐらいまで伸びそうです。


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ナデシコと種デスと製作秘話

※ガンダムSEEDDESTINYの後半が大好きという方には不快な思いをさせるかもしれません。


 

 第二ピリオド、バトルロワイヤル。

 その地上エリアに、突如として1/48メガサイズモデルのザクⅡが上陸した。

 1/144スケールのガンプラが主流のガンプラバトル会場において、その存在はまさに怪獣のようだった。

 一歩歩けば大地が揺れ、マシンガンの直撃を受けたガンプラは塵すら残らないだろう。

 そしてその巨体から来る分厚い装甲の前には、ビームライフル程度の火力などものともしない。文字通り、「規格外」な存在だった。

 

 世界大会出場者達の戦いに横から割り込んできた無粋な乱入者へと、レイジ、イオリ・セイのスタービルドストライクガンダム、リカルド・フェリーニのウィングガンダムフェニーチェ、ヤサカ・マオのガンダムX魔王が結託して戦いを挑んだ。

 彼らの中で燃え猛るガンプラファイターとしての誇りが、悪戯に戦場を混乱させるこの怪物の存在を許せなかったのだ。既に彼らの頭には、逃走の二文字は無かった。

 

 しかし、スタービルドストライクが執拗に巨大ザクの弾幕に曝され、窮地に陥る。

 

 巨大クラッカーの爆発に巻き込まれ、墜落。一時的に機体のコントロールを失ってしまったのだ。

 懸命に態勢を立て直し、再び飛び上がろうとするスタービルドストライクだが、巨大ザクは無情にも二つ目のクラッカーを投擲する。

 スタービルドストライクの機体サイズほどもあるそのクラッカーは、直撃を受ければひとたまりもないだろう。

 完全に直撃コースに入ってきた巨大クラッカーを前に、未だ飛び立てないスタービルドストライクのファイター、レイジとセイは背中から冷たい汗を流した。

 

 ――その時である。

 

 スタービルドストライクと巨大クラッカーの間。

 何も居なかった筈の空間が突如ボワリと揺らぎ、闇色の影が現れた。

 そしてそれはまるで幽霊のように不気味な存在感を漂わせながら、スタービルドストライクを庇うように巨大クラッカーへと立ち向かい、背部から伸びる長い尻尾でクラッカーを掴むと、巨大ザクへ向かって()()()()()のである。

 直後、スタービルドストライクを襲う筈だった巨大クラッカーの爆発は、最初に投げた張本人である巨大ザクの装甲を襲った。それもガンプラの装甲の構造上、最も弱い部分である関節部で爆発し、巨大クラッカーの衝撃はザクの左膝を見事に粉砕してみせたのである。

 左膝を破壊されたことでそこから下の左足が本体から切り離された巨大ザクは、残った右足だけでその重すぎる重量を支えきれる筈も無く、大きく地を揺らしながら仰向けに転倒した。

 

 闇色の影が行ったことは単純である。

 言ってみれば相手の投げたクラッカーを尻尾で掴み、投げ返しただけ。ただ、それまでの動作があまりにも速かったのだ。

 どこからともなく出現し、ほんの一瞬でこれほどの芸当を披露してみせたそのガンプラとファイターの存在に、現場で戦っていたファイター達はもちろん、会場内の観戦客達の目も釘付けになる。

 

「なんだ……?」

「あのガンプラ、確か九州代表のアワクネ・オチカさんの……ブラックサレナNT-1?」

 

 レイジが驚きに目を見開き、セイが出場選手として登録されていたそのファイターの名とガンプラの名を読み上げる。

 鳥か、戦闘機のような姿をしたそのガンプラはその間も仰向けに倒れ伏した巨大ザクの真上を弧を描くように飛行しながら、前面と側部を覆っていた紫色の装甲をおもむろにパージした。

 

 その行動は、セイの目からはRGZ-91リ・ガズィのような飛行ユニットの脱着に見えた。

 しかし直後、その認識は誤りだったと気付かされる。

 アレはただ、装甲を外しただけではない。

 装甲という名の爆弾を投下したのだ。

 

「なっ……!?」

 

 闇色のガンプラがパージした紫色の装甲が重力に従って落下し、真下に倒れていた巨大ザクの頭部に当たった瞬間、凄まじい爆発が巻き起こった。

 闇色のガンプラがパージした装甲は、機動力を向上させるユニットであると同時に強力な爆弾にもなっていたのだ。

 

「何をしている、早くとどめを撃て」

「っ、言われなくても!」

 

 爆炎が巨大ザクの頭部を覆い、その隙に態勢を立て直したスタービルドストライクが上空へと舞い戻る。

 片足と頭を失った今、敵はもはや虫の息だ。しかしそれでもまだ原型は残っており、巨大ザクはもがきながらも立ち上がろうとしていた。

 闇色のガンプラを操るファイターの男から寄せられた通信に答えると、レイジはスタービルドストライクの「ディスチャージシステム」を発動。ディスチャージライフルモードの圧倒的な火力によって、今度こそ巨大ザクを葬った。

 

 そして怪物の最期を見届けるなり、闇色のガンプラはこの場にもう用は無いとばかりに、何も言わずにこの空域を去っていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3! 2! 1! 0! ロワイヤル終了~! よっしゃ、無事生き残ってやったぞ!

 いやあ、メガサイズザクは強敵でしたねぇ。……って言うか、デカすぎねアレ? 1/48スケールどころじゃなかった気がするんだけど気のせいだろうか。

 

 ……しかし、何だ。ラズリちゃんから地球エリアに巨大なザクが現れたと聞いて、少し野次馬気分で様子を見に行こうとしたんだが、色々と失敗してしまった。

 このブラックサレナNT-1の持つトンデモ機能、「ボソンジャンプ」を使ったところまでは良い。

 ただ、その転移先が丁度攻撃中のザクの真ん前になってしまったのは、完全に予想外だった。危ねぇよ本当っ! 心臓に悪いったらない。生きた心地がしなかったわ……。

 あいつのクラッカーという名の殺戮兵器はテールバインダーを使って無我夢中で投げ返したけど、なんとか爆発する前に間に合って助かった。

 でも、ボソンジャンプの練習はもっとしておかないと駄目だな。思っていたところと全然違うところに転移してたんじゃ、これから先実戦じゃあとても使えない。

 ただ、そのミスは結果的にレイジ君って言ったかな、日本代表の一人であるあの子のガンプラを助けることに繋がった。彼視点だと多分、自分のピンチに突然異形のガンプラが現れ、颯爽とザクを破壊するっていうどんなヒーローだよって展開に見えたんじゃなかろうか。……言っておくけど全部偶然です。偶然彼とクラッカーの間に割り込むように転移しちゃって、クラッカーは偶然ザクの関節部に投げ返すことが出来ただけで狙っていたわけじゃないんです。パージアタックで時間を稼いだのだけは俺の技だけどね。にしても凄かったなぁ、レイジ君のガンプラの火力。ビルダーはパートナーのイオリ・セイ君だっけ? イオリ……ああ、そりゃあ強いわけだ。

 戦いが終わった後は、あの場には他にもイタリア代表のフェリーニさんや関西代表のヤサカ君が居たので、消耗したくなかった俺は彼らとの交戦を避ける為にさっさとドロンした。

 

 そして今、ようやくロワイヤルが終了したというわけだ。

 

 いやあ、疲れたけど楽しい戦いだった。

 でもまだまだ、ブラックサレナの性能に助けられた感が強い。

 もっともっとこのガンプラに、そしてラズリちゃんという最高のパートナーに相応しいファイターにならなきゃな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、第二ピリオドが終わったし、約束通り俺が「機動戦艦ナデシコ」にハマった理由を話そうか。多分これが、最後の過去話になる。

 

 ――始めは、詐欺にあった気分だった。

 

 お前SFって言ってたのにラブコメじゃないかコレ!って、でもなんだかんだで勢いに飲まれた感じで、気が付けば作品に夢中になっている自分が居た。

 理由は色々ある。例えばサブヒロインの子がラズリちゃんに凄く似ていたり、サブヒロインの子が凄く可愛かったり、寧ろナデシコという作品よりもサブヒロインの子が好きだった感じだ。あっ、もちろんメインヒロインの人も嫌いじゃないよ? ただ、俺という人間がロリータコンプレックスだっただけだ。

 でもアニメの評論家じゃないけど、シナリオには結構な数の突っ込みどころがあったと思う。それはまあ、俺が普段ガンダムシリーズしかSF物を見ていない狭い視野だったからなんだろうけど、そのことを言ったらナガレの奴にドヤ顔で「君はもっと色々なアニメを見ておくべきだったね」ってナデシコに登場するナガレさん風に言われた。見た目も声も妙に似ているもんだからイラッと来たよ。

 ただ、不満な点を全てひっくるめても良い作品だったと、最終回を見終わった後で堂々と言い張れるほどには十分にハマっていた。最初はラブコメじゃないかと思った内容も、世界観とか戦艦とかメカの戦闘はちゃんとSFしてたし、ゲキ・ガンガー3という劇中劇を絡めた木連との戦いは見所満載で気にならなくなった。何と言ってもルリルリを筆頭にキャラが良かった。メインの女キャラ達だけでなくウリバタケさんら男キャラ達も濃い性格をしていて、主人公のテンカワ・アキトも熱くて良いキャラだった。

 特に最終回を見終わった時、俺はアキトの台詞に痛く共感したよ。

 

「アニメ本編全26話を見終わったみたいだねぇ。感想はいかがだったかな?」

「良いアニメだった。……俺が最初にガンダムのアニメを見た時のことを思い出したよ」

「へぇ、詳しく聞いても?」

「俺が初めて見たガンダムは、【機動戦士ガンダムSEEDDESTINY】だった」

 

 ナデシコのテレビ版本編を見終わった時に感じた気持ちを、俺はナデシコの視聴を奨めてくれたナガレに伝えたかった。

 そこで出したのが、俺が初めて視聴したガンダム作品のことだ。

 

「ふうん、因みに僕はガンダムはZまでしか見ていないんだ。だからその作品の方は見たことないんだけど……ナデシコと似ていたりするのかい?」

「いや、全く似ていない」

 

 決してその二作品、機動戦艦ナデシコと機動戦士ガンダムSEEDDESTINYの内容が似ていたわけではない。

 似ていると感じたのは、当時子供だった頃の俺とナデシコの主人公、テンカワ・アキトの気持ちだ。

 「機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」を見終わった時の俺と、ナデシコ劇中劇「ゲキ・ガンガー3」を見終わった時のアキトの気持ちが、どこか通ずる部分があると感じたのだ。

 

「SEEDDESTINYという作品は、ガンダムファンの中でも特に賛否両論がわかれている作品だ。ネタバレになるが、作中の終盤から最終回に掛けてのシナリオはそれはもう酷いもんだったよ。戦闘シーンはバンクだらけで、隙を見ればしつこいほど同じ回想シーンを挟み、大事な話をするかと思えば総集編が始まる。登場人物達は子供ながらにおかしいと思うぐらい唐突に意味のわからない行動をし始めるし、主人公に至っては終盤から完全に悪役扱いされ、挙句の果てには前作「ガンダムSEED」の主人公に主人公の座を奪われ、最終回では相手の機体に傷一つつけることが出来ず、まともな台詞の一つも言えないまま敗北する。……良くも悪くも、普通じゃないアニメだった」

「らしくなく饒舌だね。そんなにそのアニメが嫌いなのかい?」

「いや、嫌いなわけじゃない。寧ろガンダムSEEDDESTINYは、俺がガンダムシリーズにハマっていく切っ掛けを作ってくれた作品で、一番思い入れのあるアニメだ」

「その割には、随分と激しい批判だったけど?」

 

 この話をする相手がSEEDDESTINYを見ていないナガレで良かったと、俺は話した後になって思った。もしもナガレが熱狂的なSEEDDESTINYファンだったらと思うと、この言葉で戦争が免れなかったからだ。

 だがこれは単なる、俺という一視聴者の感想である。ただ、不快な思いをさせたら申し訳ないとは言っておこう。

 

「突っ込みどころは語り尽くせないほど多い。ここをこうすれば良かったのにと思う話だって、たくさんあった。……だが俺は、SEEDDESTINYの最終回を見終わった時、寂しさを感じた」

「好きだったアニメが終わってしまう時に感じるあの喪失感だね。ナデシコでアキトが言っていた」

「……ああ」

 

 初めて見たガンダム作品、「機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」にはその内容に多くの疑問と不満を抱きながら視聴を続けていた。特に第三クール後半辺りから最終回までの内容――ロボットの格好良さばかり見ていた少年時代だったけれど、あの展開には子供ながらに違和感を感じたものだ。

 だが、それでも最後まで視聴を続けたのだ。親に頼んで、BDをレンタルしてもらって。

 不満を抱えながらも俺は作品の続きが気になって楽しみにしていたし、デスティニーガンダム等新しいMSの登場には毎度ワクワクしていた。

 だからか、最終回を見終わった時は言い知れぬ喪失感を感じたものだ。

 

「俺も、アキトと同じだった。ずっと見ていたアニメが終わってしまうことが怖くて、DESTINYの最終回を見るまではしばらく時間が掛かったよ。新しい回を視聴する時は、いつも主人公のシン・アスカやガンダム達の活躍を楽しみにしていたんだ。……色々と不満なところがあっても、それを上回るぐらい作品の魅力に引き込まれていた証拠だ。

 ……だから俺は、機動戦士ガンダムSEEDDESTINYというアニメが「やっぱり好きだ」と思った。そしてその点で、アキトのゲキ・ガンガー3に対する思いと俺のガンダムSEEDDESTNYに対する思いは、どこか似ているような気がした」

 

 まさかあの時抱いた俺の気持ちを、アニメのキャラに代弁されるとは思わなかったもんだ。

 俺の見方は少しズレているかもしれないが、テンカワ・アキトのあの台詞を聞いた瞬間からナデシコという作品も心から好きになれた気がした。

 ゲキ・ガンガー3というアニメを戦争に利用する木連よろしくガンダムというアニメをしょうもないことに利用するガンプラマフィアみたいな連中が蔓延っているこの時代、今こそナデシコのような作品を世間に広めるべきなのかもしれないと思った。

 

「あの時の気持ちを思い出すことが出来て良かった。俺はナデシコを見て、心から感動した」

「……なるほど。君とは美味い酒が飲めそうだ」

 

 あのアニメを奨めてくれたことに対してナガレに礼を言うと、ナガレもまた嬉しそうに微笑んだ。人間誰しも、自分が好きな物を褒められると嬉しいものなのだ。

 

「ナデシコにはまだ続編として劇場版があるわけだけど、こっちも見るかい? お待ちかねのブラックサレナが登場するよ」

 

 そしてその時ナガレに言われて、俺は機動戦艦ナデシコというアニメを視聴した元々の理由を思い出した。

 すっかり忘れていたが、元々俺はブラックサレナが活躍する姿が見たくてBDを借りたのだ。BDはただでくれると言われたけど、流石にそれは申し訳ないので遠慮しておいた。BDボックスは後でネットで買う予定だ。

 

「……ああ、そう言えばその為に見たんだったな」

「本来の目的を忘れるほどアニメにのめり込んでいたのかい? はは、結構じゃないか。で、どうする?」

「もちろん見るに決まっている」

「いい返事だ。でも、覚悟しておきなよ」

 

 覚悟――というナガレの言葉に、その時の俺は首を捻った。ホラー映画じゃあるまいし、ビデオ一つ見るのに覚悟が要るのかと。

 だが、「楽しみにしていたアニメが今度こそ終わってしまうことに対する覚悟」なら、確かに必要かと納得した。

 でもまあ、あのナデシコの続編だし内容自体はそう身構えるものでもないだろう。不幸続きだったアキトだってユリカと結ばれてようやく幸せになったし、二人のことはもう安心だ。劇場版の内容はあれだな、うん。きっとアキトとは違う新しい主人公が登場して、そいつがブラックサレナに乗ってルリルリ達と一緒にあれやこれやするんだろう。いつものナデシコの、明るいノリでさ。

 

 

 

 ――そんな風に思っていた時代が俺にもありました。

 

 

 

「………………」

「ははは、流石の君も、ショックを隠せないみたいだね」

「………………」

「言いたいことはわかるよ? でも僕は言ったろう、覚悟しろって」

 

 劇場版を無事視聴し終わった後、俺は文句の一つでも言ってやろうと単身ナガレの元へと押しかけた。

 もう本当に、てめえだけは許さんぞナガレェッ! ラズリちゃんなんてあれを見て、アキトはどこへ行っちゃうのってめっちゃ泣いたんだぞ!? 俺はそれに対して思わず真っ白な頭で「秩父山中」と返しちゃったじゃないか!

 

 ……テレビ版の続編である劇場版機動戦艦ナデシコは、俺の想像を遥かに上回る壮絶な内容だった。

 映像のクオリティは高くて話もよりSF的になってて面白かったし、ブラックサレナなんて予想以上に格好良すぎてますます惚れたけど、それとこれとは話が別だ。別なんだよ、ナガレェッ!!

 俺は聞いていないぞ、アキトがあんなことになるなんて! でもラピス・ラズリちゃんっていうこれまたラズリちゃんにそっくりな可愛い幼女を連れていたのはナイスだったと言わせてもらおう! 銀髪幼女は最高。

 作品に対する不満は無かったが、アキトが何一つ救われない終わり方だけは納得出来なかった。漫画のヒーローに憧れていたあのアキトが、あんな風に漫画みたいなことになるなんて皮肉にしては度が過ぎている! 良い歳してラズリちゃんと一緒に号泣しちゃったじゃないか。

 

「ナガレ、劇場版の続編はないのか?」

「無いわけじゃないよ。マイナーだけど、ドリームキャストにあの後のアフターエピソードを描いたゲームがある」

「なら……」

「でも残念ながら、あの後アキトがどうなったかまでは明かされていないんだよねぇ。おかげでネット上にはファンの書いた大量の二次創作が溢れかえっている始末さ。僕も何作か自分で書いちゃったよ。もちろん、アカツキ・ナガレ無双のIF小説をね」

「お前の話は聞いていない」

「それは残念」

 

 ああ、作品は良いんだ。ナデシコの続編を見て良かったと心から思うほど面白かったし、作風もより俺好みになっていた。だが、あれの続編が無いことだけが唯一にして最大の不満だった。

 俺も一緒に見ていたラズリちゃんも、アキトがあれで終わってしまうのはあまりにも不幸すぎると、彼は何があっても救われるべきだと思ったものだ。

 しかしそんな俺に「続きは無い」と、無情にもそう告げたナガレは無駄に豪勢なソファーから立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて俺に耳打ちしてきた。

 

「……でも、もし君がブラックサレナを使ってガンプラバトルで優勝でもすれば、またナデシコブームが始まって続編が作られるかもしれないねぇ」

「ナガレ、俺と契約しろ」

「その言葉が聞きたかった」

 

 悪魔の囁きのような提案に、俺はコンマ一秒も掛からず即答した。最初に趣味と仕事はうんたらかんたらと言っていたのが何だったのかと言わんばかりの手のひら返しぶりである。俺の手首は夜天光並にグルグル回るから仕方が無い。

 都合が良すぎる話ではあるが、ガンプラバトルブームが加速している現代、たとえ1パーセントでも彼の示した可能性は十分にあると思った。

 ……と言うか、この時の俺はそう思うことで彼と契約した後もガンプラバトルのモチベーションを高めようとしていたのかもしれない。ブラックサレナを使って戦うことについては、劇場版ナデシコを見る前から決めていた。

 

「ただ、あんまり自重しないと周りがうるさそうだから、あくまでこの機体のことは「ガンダム」と言い張ってくれよ?」

「問題無い。中身はエステバリスではないからな」

 

 もし上手く行けば、アニメ製作者さんサイドが劇場版ナデシコの続編を作ってくれるかもしれない。会社への貢献だとかよりそっちのことを考えておけば、重すぎず軽すぎない絶妙な加減のプレッシャーを持って戦うことが出来る。

 もちろん後でラズリちゃんとも相談したが、あの子も俺と同じぐらいの速さで協力すると即答してくれた。彼女もまた、ナデシコの続きが見たくて夜も眠れないらしい。それと、ブラックサレナを使う俺の姿が見たいって言ってくれた。ヒャッホイ。

 

 

 

 しかし、それからKTBK社と協力して行った選手権までの準備は、想像を絶するほど過酷なものだった。

 ブラックサレナの鎧をアレックス用に加工するのも楽ではなかったし、形その物が完成した後もトントン拍子には運ばなかった。

 ナガレの言う通り、ブラックサレナの造形をしたプラモデルは確かにプラフスキー粒子に反応した。しかし反応しただけで、最初に動かしたブラックサレナ擬きの性能は素体のアレックスのままの方がずっと強いぐらい情けないものだったのだ。当然ディストーションフィールドも再現出来なかったし機動力もショボく、鎧の強度すらチョバムアーマーに劣るレベルだった。

 そんな感じで、製作は始めから上手くは行かなかった。今にして考えてみればナガレから提示された異常とも言える契約金は、KTBK社のワークスチームではプラモデルを「動かす」ことの先まではどうにもならなかったからなのだと思う。

 

 だが俺達は、立ち止まらなかった。

 

 劇場版ナデシコで活躍したあの闇色のロボットを、性能まで完全に再現することを最後まで諦めなかった。

 それはもはや、執念で作り上げたと言って良い。

 KTBK社の社員に必要なパーツを取り寄せてもらいながら、俺達は何度も試行錯誤と起動試験を重ね、世界大会本選が始まる三日ぐらい前になって、ついに念願のブラックサレナを完成させたのだ。

 妥協は一切しなかった。そしてKTBK社の総力と俺とラズリちゃんの持つビルダーとしての全技術と愛を結集して出来上がった「ガンプラ」は、文句なしの最高傑作だった。

 以上が、今俺が使っているブラックサレナNT-1が完成に至るまでの製作秘話だ。

 因みに、国内で開かれた予選は中の人ことアレックスで頑張った。予選決勝まで完成が間に合わなかった時は流石に終わったかと思ったけど、紙一重の戦いで初めて優勝することが出来た。もちろん、ラズリちゃんの協力のおかげだ。

 だから実を言うと、このブラックサレナNT-1を衆目の目に晒したのはこの世界大会が初めてだったりする。

 

 ガンプラバトルで他のアニメのロボットを使っていることで、世間から少しは話題にされているだろうか。

 少し気になったので、ロワイヤル終了後に俺は携帯端末からインターネットの某掲示板の一つ、「ガンプラバトル板」を覗いてみることにした。

 

《世界大会優勝予想(438)

【オーラバトラー】ガンプラバトルって、時々変なロボットが沸くよな【ブラックサレナ】(112)

 巨大ザク出現wwwwww(620)

 フィンランド代表アイラ・ユルキアイネンちゃんのヘルメットの下は美少女(1001)

 九州代表の二人組が完全にアレな件(102)

 【悲報】チョマー軍団全滅(23)

 三代目メイジン・カワグチの正体について考察するスレ(555)

 ニルス・ニール専(300)

 カイザーINEEEEEEEEEEEEEEE(98)

 アキトはどこへいきたいのー?(12)》

 

 板内のスレッドタイトルの一部である。どうやらこれを見る限り、そこそこ話題にはなっているようだ。スレの中身までは何が書かれているのか怖くて見れなかったが、大会初日でこれだけ注目されれば十分だろう。

 その点、巨大ザクとのバッタリドッキリはナイスな展開だったのかもしれない。

 ブラックサレナを活躍させ、世間にKTBK社の宣伝をする。その点については、今回の戦いでは十分に成功したと思う。

 

「オチカ、食事会始まるよ?」

「ああ、今行く」

 

 第二ピリオドのバトルロワイヤルが終了し、世界大会の初日を無事乗り越えた俺達。

 明日はどんな戦いが待っているのやら、ガンプラファイターとして楽しみで仕方が無い。

 KTBK社との契約のこともあるが、そんなことよりも俺は、ラズリちゃんと初めて出場したこの世界大会を思い切り楽しむこと一番に重視していくつもりだ。

 

 真剣に、心から遊べる――やはり、ガンプラバトルはいいものだ。

 

 

 

 

 

 

 





 種死の前半は割と好きと言ってみる。
 次回はVSオーラバトラーとか色々を予定しています。
 お気に入りが思っていたより増えてビックリ。やっぱりブラックサレナの人気は凄いんだなぁと実感。


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闇の偽王子と聖戦士アビゴルバイン

今回はちょっとシリアスです。


 

 

 世界大会は第三ピリオドを迎えると、主催者側からそのルールが言い渡された。

 内容は、大会主催者側が用意したオリジナルウェポンのみを使用し、大会参加者同士一対一で対戦するというものだった。こんなところでも自社商品の宣伝を怠らないとは、PPSEも抜け目がない。

 そして各々に用意された武器が何なのかは、バトルが始まるまではわからない仕様になっていた。

 他の人のバトルを覗いてみればオリジナルウェポンはハンマーだったり、シールドだったり、中にはスプレーガン(塗装用)のみで戦えだとかいう鬼畜な条件をつけられるファイター達の姿が何人か見えた。

 その中でも特にユニークだったのは、レイジ君とイオリ・セイ君対タイ代表ルワン・ダラーラさんの戦いだ。彼らに用意された武器は、それぞれボールとグローブとサンバイザーとバット――ガンプラで野球をしろと言うのだ。……主催者の発想、どうかしてるだろこれ。

 結果は、レイジ君達の勝利に終わった。なんかボールを持ったスタービルドストライクの右手が青く光ってたけど、あれは一体何だったのだろうか?

 しかしこんなガンプラバトルと言って良いのかわからない勝負で土をつけられてしまって、ルワンさんも悔しいだろうなぁ。本人は納得しているみたいだったけど、ピッチャー対バッターの対決じゃあ勝率が偏りすぎているし、運が悪かったとしか言い様がない。

 

 

 ……俺はそう、自分の番が回ってくるまでは他人事のように思っていた。

 

 

 ――俺に用意されたのは、テニスラケットとテニスボールだった。

 

 ブラックサレナを使って、テニスをしろと申されたのだ。

 レイジ君達と同じスポーツ路線である。それでもまだ、野球よりは良かったと思う。ブラックサレナは機体の構造上バットを両手で握れないし。ラケットを持つのが片手だけで良い分テニスの方がマシだったかなと。

 そして対戦相手は、ドイツ代表のライナー・チョマーさん。扱う機体はアニメでは「∀ガンダム」に登場する巨大MA、ウォドムだった。

 チョマーさんは戦う相手が俺と知って、ライバルのフェリーニさんじゃないことに少し残念そうだったけど、やっぱりお互いを高め合うライバルって良いよね。友達の少ない俺には無縁な存在だけど、やっぱりそういう関係には憧れる。

 そんな話をラズリちゃんとイチャイチャしながらしていると、何かが癪に触ったのかチョマーさんが激しく怒り出した。……話を聞くに彼、去年付き合っていた彼女にフラれたらしい。どうやらフェリーニさんにNTRされたようで……なんだかもう、すみませんでした。

 

 そんなチョマーさんは世界大会常連の強豪だったが、今回ばかりは機体の選択をミスったとしか言い様がない。このブラックサレナNT-1以上の大型機体であるウォドムの手ではラケットを上手く扱うことが出来ず、俺の必殺テニス奥義ディストーションサーブの前に敗れ、俺達は危なげなく勝利を収めた。ただブラックサレナNT-1も小回りの効く方じゃないから、チョマーさんに中型から小型のガンプラを使われていたら危なかったと思う。

 

 

 

 その後も俺達は順調に好成績をキープしながら、世界大会は第7ピリオドへと移行した。

 一度も優勝候補との対決にならなかったのが幸いしたのか、これまでの試合はいずれも全勝し、どうにか上位グループまで食い込んでいる。このまま行けば大会出場者のベスト16まで残り、続く決勝トーナメントへと勝ち抜けることが出来るだろう。

 第7ピリオドの試合内容は「ガンプラRACE」――会場内に作られた特設コースを三周し、その順位を競う文字通りのスピードレースだった。ガンプラの機動性とファイターの機体制御技術が勝敗を左右する、野球やテニスと比べれば至って普通のルールである。

 それは俺達にとっては願ってもない試合内容だった。ガンプラの性能で言えば、レースなど高機動ユニットを装着した高機動型ブラックサレナNT-1の独壇場であろう。他ブロックの試合を見ればメイジン・カワグチのケンプファーアメイジングやフェリーニさんのバイクに乗ったウイングガンダムフェニーチェも物凄い速さで独走していたが、それでも高機動型ブラックサレナNT-1と比べればやや劣って見えた。尤も、ファイターの俺がこのガンプラをちゃんとカタログスペック通りに動かせればの話ではあるが。

 しかしそちらについても、今はそれほど心配はしていない。これまでの実戦や空き時間を使って何度も訓練に励んだ成果もあり、俺は大会初期の頃よりかはこのじゃじゃ馬を上手く制御出来るようになっていた。それには地味に、第三ピリオドのガンプラテニスが良い機体制御訓練になっていたりする。

 

 その見立て通り、レースは開幕から俺達のブラックサレナNT-1が他のガンプラ達をぶっちぎった。

 

 一周回り終えた頃には二位のニルス・ニールセン君の戦国アストレイに半周以上の差を付けていたし、途中まではこれまでの試合の中で一番余裕のある戦いをしていたと思う。

 

 ――途中までは、だ。

 

 特設コースの二周目に差し掛かろうとした時、予想だにしない最悪なアクシデントが発生した。

 制御をミスってコースアウトした? ……違う。それはもし俺達がブラックサレナNT-1を使ってレースで負けるのならそのパターンになるだろうなと真っ先に思いつくぐらいには予想していたことだし、そもそも俺の中では最悪の出来事に入らない。

 

 俺にとっての最悪とは、いつだってラズリちゃんの身に降り掛かる不幸のことなのだ。

 

「……ッ! ラズリ、どうした!? ラズリ! しっかりしろ!!」

 

 ――その異変に気付いた時、俺はフィールドを疾走する愛機には目も暮れず、後ろに立っていた筈の最愛のパートナーの元へと振り向いた。

 そこにはいつものような愛らしい銀髪の美少女の姿は無く、糸が切れた人形のようにぐったりと横たわっているラズリちゃんの姿があった。

 

「ラズリ! ラズリ! ラズリ……ッ!!」

 

 呼びかけても揺すっても返事は無く、脈はあるが顔色は悪く、普段にも増して明らかに白くなっていた。

 俺は何故、彼女がこんなになるまで気づいてあげられなかったのか……自分自身の愚かさに憤怒した。

 

「くそっ、誰か医者を呼んでくれ! 急げ!! 救急車だッ! もたもたしているんじゃねぇぞジジイ!!」

 

 その時の俺は試合中のフィールドのことはもちろん、この事態が何故起こったのかを考える余裕も無く、周囲への配慮すらも気に掛けなかった。

 

 時が凍りついたように頭の中が真っ白になった俺は、口汚く係員の人を呼びつけたところまでは覚えていたが――気が付けば救急車の中に居て、ベッドに寝かされたラズリちゃんに同伴して近くの病院へと運ばれていた。

 

「……オチカ……」

「……! ラズリ!」

 

 横たわる彼女の手を縋るように握っていると、ラズリちゃんが微かに目を開き、力の無い声で言葉を紡いだ。

 

「ごめんね……わたしのせいで、試合……」

「そんなことは気にするな! ガンプラバトルなんかより、君の方が大事に決まっているだろ!」

 

 こんな時に試合のことを気にする奴があるかと、俺は申し訳なさそうな顔をする彼女に言い返した。

 ガンプラバトルならいつでも出来る。世界大会なら、来年出れば良いじゃないか。俺にとって何が一番大切なのか――そんなものは、考えるまでもなかった。

 人の命は何にだって一つしかないのは、小さな子供にだってわかる当たり前のことなのだから。

 俺がそう言うと、ラズリちゃんはいつもより力は無かったが、いつもと変わりのない天使のような顔で柔和に微笑んだ。

 

「……ありがと、オチカ……」

 

 ――そこで、彼女はまた意識を手放した。

 

 

 

 

 

 運ばれた先の病院で検査を受けた結果、ラズリちゃんの身体に病のような異常は見られなかった。

 ただ、酷く疲労していたようで、その上睡眠不足が祟って貧血を起こしたのではないかと医師は言っていた。

 彼の手によってすぐに適切な処置を受けるとラズリちゃんは夜中には無事目を覚まし、またいつもと同じように話すことが出来た。

 ……とりあえずは、一安心か。しかし救急車の中で、お礼の言葉を最後に意識を手放すなんて縁起でもない。あの時の俺は、最低でも三回は心臓が止まった気分だったよ。まあ、俺の心臓なんか彼女の命と比べればゴミみたいなものだけど。

 何はともあれ、このまま安静にしていればすぐに回復するだろうとのことで本当に良かった。

 

「オチカ」

「なんだ?」

「大好き」

「俺もだ」

 

「オチカ」

「なんだ?」

「明日の試合、どうするの?」

「そんなことよりも、君の傍に居るよ」

「だめ」

「何故?」

「オチカは、試合に出るの」

「……君が着いていなければ、出たって勝てない」

「うそ」

「嘘じゃない。俺は君が居なければ、ここまで勝ち進めなかった。ブラックサレナを動かすことも出来なかったさ」

「でも、信じてる」

「何を?」

「オチカは私の王子様だって」

「……そう言われると、迂闊に弱気なことを言えなくなるな」

「オチカは強い。私の分も、頑張って」

「……わかった。でも心細かったらいつでも呼んでくれ。試合中でも駆けつけるよ」

 

 見舞い中、俺達はそんな感じに甘甘なやり取りを延々と行っていた。

 しかし、倒れた原因は疲労か……俺は今の今になってようやく気付いたが、彼女はガンプラバトル中、ずっと無理をしていたのだ。

 振り返ってみれば、思い当たる節は幾らでもある。彼女は18歳で、既に高校を卒業した年齢ではあるが、その身体を見ればわかるように華奢で小さい。成人男性である俺ですら、ブラックサレナNT-1を扱ったガンプラバトルには体力を激しく消耗するのだ。彼女は直接操縦していないとは言え、サポートもまた大きな負担になっていたに違いない。

 

 ……クソ野郎が。なんて思慮のない男なんだ、俺は!

 

 倒れるまで彼女の負担に気付かず、呑気にガンプラバトルをしていたなんて! これじゃあ、ガンプラマフィアの連中と同じかそれ以下じゃないか!

 

「オチカ、私ね」

「どうした?」

 

 彼女の彼氏として、人間として失格だ――そう思い、他の誰よりも自分自身が許せなくなった俺に対して、ラズリちゃんが言った。

 

 ――その後の俺の行動原理の礎となる、あまりにも衝撃的な発言を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終予選、第8ピリオド。

 ルールは一対一、降参を宣言するか、どちらかのガンプラが壊れるまで戦う真剣勝負だ。

 メイジン・カワグチやリカルド・フェリーニら第7ピリオドまでに叩き出した高成績によって既に16位以内が確定し決勝トーナメントへの進出が決まっている選手達が何人か居る中で、残りの出場枠を巡る戦いが繰り広げられようとしていた。

 

 その中でも特に注目されている対戦カードの一つが、タイ代表ルワン・ダラーラ対日本九州代表アワクネ・オチカの試合だ。

 

 ここまでの予選順位はルワンが11位、オチカが18位だ。黒星を喫したのはお互いに一回のみだが、二人の順位にやや開きがあるのはやむを得ない理由とは言えオチカが不戦敗として第7ピリオドにおいて「レース最下位」という結果になってしまったことが大きい。

 

 しかしパートナーである幼い少女を助ける為に自らの試合を放棄して、一体誰が彼を責められようか。

 

 会場を訪れた観戦客達はそんな彼に同情的な目を向けており、この第8ピリオドの相手のファイターが下馬評で上回る優勝候補者のルワン・ダラーラだということから生じた判官贔屓的な心理も手伝ってか、試合前オチカに掛けられる声援はそれなりに大きなものとなっていた。

 だが、そんな大勢のガンプラバトルファンの声に対して、オチカはまるで何も聴こえていないかのように無反応だった。

 ただでさえ無表情な上に目元がバイザーに隠されている為その感情を読み取ることは出来なかったが、フィールド越しに正面に立つルワン・ダラーラには今の彼から発せられる威圧的なプレッシャーだけは感じ取ることが出来た。

 まるで、修羅だ。

 これまで自分が戦ってきたファイター達とは明らかに違うと、ルワンは向き合った瞬間から即座に彼の異質さに気付いた。

 

 日本九州代表、アワクネ・オチカ。開幕前までは無名であった筈のそのファイターの名は積み重ねてきた実績こそルワンには遠く及ばないが、今回の大会の中で一気に台頭している。第1ピリオドから順調に高得点を叩き出し、不慮のアクシデントが発生した第7ピリオド以外全ての試合で圧勝しているのだ。

 彼の扱うガンプラの「ブラックサレナNT-1」は、ルワンのアビゴルバインと同じく機動性に優れたガンプラだ。その上強力なバリアシステムを搭載しており、ビーム兵器の類は一切通用しない。ミサイル等の質量兵器ならばある程度通用するようだが、そちらは元の装甲が分厚い為に生半可な威力では撃墜どころか行動を止めることすら出来ないだろう。

 機動性と耐久性に関して言えばこの大会でもトップクラスの性能を誇り、まさに「化け物」と表現するに相応しいガンプラである。これほどのガンプラを生み出すビルダーが突然出てくるのだから、何度出場しても世界大会は面白い。

 高機動と重装甲の両立――ルワンのアビゴルバインも似たような機体コンセプトではあるが、ブラックサレナNT-1のそれはアビゴルバインのそれをもやや上回っているように見えた。

 しかしその二点にのみ突き詰めて設計している為かブラックサレナNT-1は最低限の武装しか持っておらず、そこから生じる火力不足がこちらの付け入る隙になるだろう。

 これまでの彼の試合を見てわかったことだが、ブラックサレナNT-1の両手に装備している連射式のハンドカノンの威力はそう高くなく、あの程度ではアビゴルバインの装甲を破るのは至難の業だろうとルワンは踏んでいる。

 故に優先して警戒するべきなのは、射撃よりもバリアを張っての体当たりと尻尾による搦手か。いずれも接近戦に持ち込まれた場合だとルワンは考えていた。

 

「ルワン・ダラーラ――アビゴルバイン、出るぞ」

 

 プラフスキー粒子の光が包み込み、両者の試合が開始する。

 一瞬で展開した簡易的なカタパルトから射出されると、アビゴルバインはすぐさま空中でMA形態へと変形し、背部に展開したビームウイングによって高速飛行していく。

 今回のバトルフィールドとして選ばれた地形は荒野だ。荒れ果てた大地を、上空を舞う二機のガンプラが見下ろしていた。

 

(しかし、なんて禍々しいガンプラだ)

 

 こちらに向かってくる闇色のガンプラの姿をモニターに映した瞬間、ルワンが抱いた率直な感想である。

 全身を黒く染めたカラーリング自体は、ビルダーの中ではそう珍しくはない。黒という色には組み合わせたパーツの整合性を整える効果があり、オリジナルのガンプラに使う色としては赤や青以上に使いやすい色なのだ。色々なパーツを考えなしに組み合わせたキメラのようなガンプラでも、黒を中心に配色すれば案外落ち着いた見た目になったりする。ルワン自身もまた、初めてオリジナルのガンプラを作った少年時代はとりあえずそのガンプラの色を黒一色で塗りたくっていた思い出がある。

 しかし、アワクネ・オチカという男が駆るあのブラックサレナNT-1という機体に関しては、ただ見栄えを良くする為だけに機体を黒く染めたようには思えなかった。

 長年ガンプラファイトを続け、多くのファイターのガンプラを見てきたルワンだからこそ、そのことに気付いた。あのガンプラからは何か、怨念のようなものが感じるのだ。

 それはファイターから放たれる威圧的なプレッシャーも相まって、ガンプラバトルという純粋な競技の場においては似つかわしくないとすら思えた。

 

「……ならばその怨念、このルワン・ダラーラが切り裂く!」

 

 闇色のガンプラを射程圏に収めるなり、アビゴルバインが両肩から四発のミサイルを発射する。

 ミサイルで弾幕を張りつつ、接近してMS形態に変形。ビームサイスによる格闘戦を仕掛け、一太刀浴びせた後でまたMA形態に変形し離脱――変形機構を駆使した無難なヒット&ウェイが、この敵には有効だと判断したのだ。

 高い機動性と耐久性を持つブラックサレナNT-1を相手にする場合、よほどの火力が無い限り短期の間で攻めるのは愚策だ。ここはあえて長期戦に持ち込み、じわじわと少しずつダメージを蓄積させながら、相手が焦れてきたところで隙を見つけ、一気に決める。それが、ルワンがこの戦いで打ち出した作戦である。

 

 しかしその作戦は、ルワンにとってはあまりにも想定外の形で崩されることとなる。

 

 

 彼は戦闘開始から思わぬ手段で強引に短期決戦へと持ち込まれ――僅か三分足らずで敗北を喫したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、こんな試合になるとは誰が予想しただろうか。

 優勝候補のルワン・ダラーラが、アワクネ・オチカによって敗れた。

 その事実は会場に集まった観戦客全員に衝撃を与え、試合終了直後は歓声すら沸くことなく静まり返っていたほどだ。

 

 ……そんな感じに、会場は酷く微妙な空気に包まれていた。優勝候補が負けるなんて大波乱が起きたんだから、もうちょっとぐらいこう、観客の皆さんから俺を褒め称える声があっても良いのではなかろうか。試合前は俺を応援する声も結構あったから、ちょびっとだけ期待していたんだけど……どうやら自惚れだったらしい。

 ま、まあ、あまりにも予想外な決着に、ガンプラバトルファンの皆さんからしてみればどう反応すれば良いかわからないのだろう。うん、そうだよね。俺がみんなから嫌われているとかそんなことはないよね? ね?

 

 大勢の観戦客達のざわつきが支配する場の空気に居た堪れなくなった俺は、今回のバトルでボロボロになったブラックサレナNT-1を回収すると、そそくさと舞台の上から退場することにした。あっ、一応ファイターとしての礼節は忘れず、試合終了後にはちゃんとルワンさんに挨拶したよ? 返事は貰えなかったけど。

 

 試合時間はたったの二分五十秒。そんな短時間の戦いで優勝候補に勝利するという、字面だけ見ればとんでもないことをやらかした俺だが、それは俺のファイターとしての腕がルワンさんよりも圧倒的に上だったからとか、断じてそういうわけではない。寧ろお互いに同性能のガンプラを扱って戦ったとしたら、俺なんか謙遜でもなく簡単に負けていたことだろう。俺がこの戦いを勝つことが出来たのは、単にブラックサレナNT-1が備えている初見殺しのトンデモ機能が要因だった。

 

 その機能とは皆さんお察しの通り、原作アニメに登場するブラックサレナ最大の特徴とも言える、機体単独での「ボソンジャンプ」のことだ。

 

 このブラックサレナNT-1にもまた、その機能が「機体の瞬間移動」という原作に忠実な形ではないにしろ、それに近い形で再現されている。ナデシコ原作のボソンジャンプと大きく違う点は、こちらは移動の過程を無視した単純な瞬間移動能力であり、本物のようにタイムスリップをしているわけではないところだ。それでもガンプラバトルの常識を捻じ曲げるトンデモ機能なのは間違い無いが。

 俺だって最初は、ボソンジャンプの再現ばかりは厳しいんじゃないかって半ば諦めていたさ。でも愛情を注ぎ込んで組み立ててみたら、なんか知らないけど出来ちゃいました。あの時、俺は改めて思ったよ。ガンプラに限界は無い!って。

 

 ブラックサレナNT-1に搭載されているその「ガンプラバトル版ボソンジャンプ」を駆使することで、俺は約三分間の死闘の末、ルワンさんを紙一重で打ち破ることが出来た。

 この機能は第二ピリオドで一度使ってしまっている為、試合前はその存在を警戒されていないか心配だったのだが、ルワンさんのチェックはそこまで行き届いていなかったのか、流石の彼もこのガンプラに瞬間移動能力があるとまでは思わなかったようだ。

 これは後で本人から直接聞いた話だが、どうやら彼はロワイヤルの時の戦いはビデオに録画してチェックしていたのだが、あの時俺のガンプラが巨大ザクの前に突然現れたのは、ミラージュコロイドやハイパージャマーのようなステルス機能を使っていたからだと思っていたらしい。まあ、ガンダムファン的には瞬間移動よりも先にそっちの方を疑うよね。

 

 そのボソンジャンプを、俺はアビゴルバインが最初に射撃態勢に入った瞬間から即行で発動した。狙い通りの位置にジャンプ出来るか不安はあったが無事成功し、ブラックサレナNT-1はアビゴルバインの背後へとジャンプアウトすることが出来た。

 ルワンさんの視点から見れば、先ほどまで遠方に居た筈の敵機が、こちらがミサイル攻撃を仕掛けようとした次の瞬間には真後ろに居たということになる。いかに彼と言えど、それはあまりにも予想外な事態だったろう。

 移動した形跡すらなく近距離へと出現したブラックサレナNT-1の突進に、流石のルワンさんもすぐには反応することが出来なかった。

 奇襲に成功した俺は彼に反撃の隙を与えないよう、がむしゃらに攻撃を仕掛けた。

 即座に態勢を立て直そうとするアビゴルバインを前に、俺はそうはさせまいと二丁のハンドカノン、胸部のバルカン砲を乱射し、ブラックサレナNT-1の持てうる全ての武器をつぎ込んだ。しかしアビゴルバインの装甲は並のガンプラとは比べ物にならないほど堅く、一発や二発では落ちる気配すら見せなかったものだ。

 そして、流石は優勝候補筆頭、俺の尊敬するファイターのルワンさんだった。ブラックサレナNT-1のボソンジャンプからの奇襲に対してそのまま大人しく一方的にはやられてくれず、職人的な技巧から手痛い反撃を繰り出してきた。

 ブラックサレナNT-1とアビゴルバイン、それぞれガンプラとしては異色な造形をした二機は密着した距離から互いに衝突し合い、もつれ合うように激しい攻防を繰り広げた。

 俺はその時、彼に距離を取らせまいとしがみつく思いで必死だった。

 ラズリちゃんが病院で検査を受けている今、俺の後ろには頼れるパートナーが居ない。彼女のバックアップを受けられない今の俺では、以前よりも腕を上げたとは言え、世界大会出場者の中では良くて中の中レベルだろう。長期戦になればなるほどボロが出て、ルワンさんとの力量差が露呈されてしまう。だからこそ、俺はボロが出ない内に勝負を短期決戦の内に決めたかったのだ。

 

「その執念は見事っ!」

「…………」

「だが、勝つのはこのアビゴルバインだ!」

 

 幾度も斬りつけられるビームサイスの反撃に遭い、ブラックサレナNT-1の装甲のあちこちに深い傷が刻まれていく。それは並のガンプラならば、とっくに爆散していもおかしくないダメージだった。

 

「せあっ!」

「っ……」

 

 至近距離から放たれる攻撃の応酬により、ブラックサレナNT-1が装着していた両手のハンドカノンが破壊される。それによって無手の状態となってしまったブラックサレナNT-1に出来たことは、尚もがむしゃらに体当たりによる近接戦闘を挑み続けることだけだった。アビゴルバインの反撃に鎧がどれほど抉られようとも、俺は構わず、馬鹿の一つ覚えのように近距離でのぶつかり合いを続けた。

 

「やる……! ならば行くぞ、ハイパープラフスキー斬りだっ!」

 

 ルワンさんは一度も距離を取ることなく、最後まで俺との近接戦に付き合ってくれた。

 そして今までの試合では一度も見せなかった姿を、アビゴルバインが見せる。

 全身が赤く発光すると、右手に携えた近接戦用の鎌状の武器――ビームサイスのビーム刃のエネルギー密度が加速的に上昇し、機体サイズ以上の大きさへと巨大化していった。

 アニメでは「機動戦士Zガンダム」の主人公、カミーユ・ビダンが乗るZガンダムが初めて発動させた現象である。バイオセンサーの暴走――Gジェネレーション等のゲームでは「ハイパー化」と表現される現象だ。

 こちらのブラックサレナNT-1がボソンジャンプという切り札を持っていたように、ルワンさんのアビゴルバインもまた強力な隠し玉を用意していたのだ。

 

「落ちろよおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 普段は冷静なルワンさんが、滅多に見せない熱い叫びだった。

 巨大化したビームサイスを振り上げると、サイコフィールドの光で全身を真っ赤に染めたアビゴルバインが猛然と斬り掛かる。それに対して俺が選んだ策は攻撃こそ最大の防御――彼の最強の攻撃に対し、こちらも最強の攻撃を持って迎え打つことだった。

 

「ゲキガンフレアッ!」

 

 ゲキガンフレア――もはや説明は不要だろう。アニメ「機動戦艦ナデシコ」作中で主人公のアキトが度々扱っていた、エステバリスが誇る「必殺技」とも言うべき技だ。名称が違うだけで原理はディストーションアタックと同じだが、俺はディストーションフィールドを纏っての体当たりをディストーションアタック、機体の拳という一点にのみフィールドエネルギーを集束させた攻撃を「ゲキガンフレア」と呼ぶように区別している。だってほら、その方が特別な必殺技って感じがして格好良いじゃない。

 ブラックサレナNT-1の腕部は、ナデシコ原作のブラックサレナとは違いガンダムNT-1の腕だ。鎧の中身はガンダムNT-1であってエステバリスとは違うが、せめて鎧から剥き出しの状態になっている腕部だけはとエステバリスに似せた改造を施している。カラーリングもまた、わざわざアキト機をイメージしたピンク色にしていた。

 その甲斐もあってか、鎧を纏っている間だけはガンダムNT-1の腕でもエステバリスと同じようにゲキガンフレアを放つことが出来た。

 

 ハイパープラフスキー斬り対ゲキガンフレア。二つのガンプラの必殺技が激突した瞬間、バイザーが無ければ目も眩むほどの閃光が飛び散った。

 

「覚悟!」

「……っ!」

 

 しかし数拍の間拮抗した二つの力は、アビゴルバインのビームサイスへと傾いた。

 巨大なビームサイスが最大出力のゲキガンフレア――ディストーションフィールドを突破し、ブラックサレナNT-1の右腕を粉砕する。

 

 だが、まだだ。

 

 俺はその時もまだ、勝負を諦めなかった。

 

「俺が、あんたに勝たなければ……!」

 

 思考よりも先に、身体が動いていた。

 アビゴルバインのビームサイスにブラックサレナNT-1の装甲を貫かれながらも、俺は強引に懐に飛び込み、最後の力を振り絞った。

 

「ラズリが、安心して子供を産めないんだ……!」

「……は?」

 

 右腕を壊されても、左腕はまだ残っている。

 予め必殺技の打ち合いで敗れることを想定し、俺は既に次の一手を用意していたのだ。

 

 ――左腕の、ゲキガンフレアを!

 

「なに!?」

 

 ブラックサレナNT-1の左手の拳が、アビゴルバインの胸部へと叩き込まれる。

 互いに両者の攻撃をまともに受けた二機のガンプラの命運は、ただ先にどちらがより早く爆散するかというだけの、時間の誤差に過ぎなかった。

 

 ――そしてその誤差が、この戦いの勝敗を決した。

 

 ブラックサレナNT-1よりも先に、アビゴルバインがプラフスキー粒子の光を撒き散らしながら砕け散ったのである。

 コンピューターが試合終了を告げられるのがもう少し遅れていたら、次の瞬間にはブラックサレナNT-1も彼の後を追うように爆散していたことだろう。

 勝因は装甲の分厚さでこちらが勝っていたことと、初手のボソンジャンプからの不意打ちによってアビゴルバインの方がこちらよりも多くダメージが蓄積していたことだ。

 

 僅か三分内に収まる短い試合時間の中に戦いという戦いの限りを凝縮した死闘を制した俺は、しかし勝利したことへの喜びよりも、負けなかったことへの安堵、そして無茶苦茶な戦い方でブラックサレナNT-1を傷つけてしまったことに対する申し訳ない気持ちの方が大きかった。

 対戦したルワンさんからしてみれば、失礼極まりない話だとは思う。しかし、それでも心から素直には喜べなかった。

 

「すまない、ブラックサレナ……」

 

 肉を切らせて骨を断つというよりも、自分の骨が砕ける前に相手の心臓を握り潰すといった無茶な戦い方だったと思う。

 俺は一旦通路内で控え室に向かっていた足を止めると、手に持っていた痛々しく半壊したブラックサレナNT-1の姿を眺める。

 試合を見ていた観戦客達が静まり返ったのは、あまりにもゴリ押しすぎる俺の戦法にドン引きしていたからなのだと思う。甘いと言われればそれまでだが、俺だって本当ならばこんな戦い方をしたくなかった。

 

 だが、昨日までとは事情が変わったのだ。

 

 俺はこの第7回ガンプラバトル選手権世界大会を、どんなことがあっても優勝しなければならなかった。

 今の俺にとって、この大会の優勝は願望ではなく義務になっていたのだ。

 

 俺の脳裏に、昨夜ラズリちゃんから言われた言葉が響く。

 

『私、デキちゃったかもしれないって』

 

 ……精密な検査は今日受けるみたいだが、試合の前に今朝病院で話を伺ってきた産婦人科のアニュー・ディランディ先生の話によれば、その可能性は極めて高いのだと。

 彼女の話を聞いたその時から、俺は今までの俺では居られなくなった。

 人生で背負うことになる責任が、何から何まで重く大きくなったのだ。

 もちろん、俺はその責任から一歩も逃げる気はない。センイチさんからぶん殴られる覚悟も出来ている。

 だからこそ、あえて言おう。

 

 

 ――俺、この大会が終わったら結婚するんだ――。

 

 

 

 





 アビゴルバインが本気を出せばこのぐらいは出来ると思っています。
 ボソンジャンプはアリスタで人間が異世界との間を移動出来るぐらいだし、時間の跳躍は無理にしろプラフスキー粒子の応用でガンプラの瞬間移動ぐらいは出来るのではないかと妄想。
 因みにオチカのファイターとしての技量はロワイヤルに登場したドラゴンエピオンの人と同じぐらいのつもりです。


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名人と変人と負けられない戦い

 

 俺だって、ゆくゆくは――とは考えていたことだ。

 その一方で、「バカな、早すぎる!」という思いも確かにある。

 彼女から言われた言葉は俺の中ではあまりにも衝撃的過ぎて、言われた時は現実味が沸いてこなかったぐらいだ。

 でも、そこで逃げたら駄目なんだ。

 目の前にあることを現実として受け止めて、きちんと責任を取って、彼女のことをこの命が終わるまで支え続けなければならないのだと思う。

 

「その言葉が聞けて、良かったです」

「何がだ?」

「貴方が責任を取らないで逃げようとする男性じゃなくて、という意味です。そういう人も、時々居るんですよ?」

「……俺はそういう奴にはならない、絶対に」

「良い心掛けです。医者として、一児の母として私も出来る限りのことは相談に乗らせていただきます」

「……感謝する、ディランディ先生」

 

 試合終了後病院に直行し検査の結果を聞きに行ったが、アニュー・ディランディ先生から開口一番に「おめでとうございます」と言われて俺は全てを察した。

 まだお腹は大きくなっていない初期の段階だが、じきに外から見てもわかるようになるとのことだ。

 その時、俺の中に落ち込む気持ちは全く無かった。俺とラズリちゃんの元で生まれてくる新しい命のことを聞かされて、心の底から嬉しいと思ったのだ。

 ただ、同時に不安もあった。

 まだ結婚もしていない自分が、今後父親として真っ当に生きていくことが出来るのか。仕事だってそうだ。ナガレとの契約が残っている今は契約社員として給与を貰っているが、このガンプラバトルで負けてしまえばその契約もいつ打ち切られてしまうかもわからない。

 

 ――だから、負けられなくなった。何があっても、俺は戦いに勝たなければならなくなったのだ。

 

 親としての知識不足や心構えについては、今後二人で勉強していくしかない。幸い担当のディランディ先生もラズリちゃんほどではないが若い頃に子供を産んだ経験があるらしく、彼女から為になる助言を受けることが出来た。

 

「私、頑張るね」

「……俺も、出来るだけのことはするよ。まずは生活の安定だ。必ず、この世界大会を優勝する」

 

 もう、ガンプラバトルを遊びとして楽しむことは出来ない。

 もしもの時はラズリちゃんの後見人であるホシノさんちの助けを借りるかもしれないが、これは俺の責任だ。彼女と生まれてくる子供の為にも、俺はその時から個人的な感傷を一切切り捨てることにした。

 自覚しなければならない。俺の行動に、未来が掛かっているのだと。

 

 

 

 

 

 最終予選の第8ピリオドが終わったことで、決勝トーナメントに出場する16人のファイターが決定した。

 ルワンさんを打ち破ったことで、俺もその中に無事滑り込みで加わることが出来た。あの戦いは見ていてヒヤヒヤしたと、後で会ったキンジョウ・ナガレに言われたものだが。

 どうやら彼は、現地の観客席から直々に試合を見ていたらしい。会長のくせに随分と暇なんだなと小言を言うと「ウチの会社の命運が掛かっているんだから当然さ」と、重い言葉とは不釣合いな飄々とした笑みで返された。

 彼が言うにはここまで勝ち抜いてきたことでブラックサレナNT-1の名前も広まりつつあり、その開発に協力していたKTBK社の売上もこの数日間から飛躍的に伸びたとのことだ。

 ついでにナデシコの知名度も上がってくれれば最高である。

 

「いつも君の試合からは貴重なデータが取れるからね。そうそう、さっきウチの開発班から一般販売用のガンプラバトルモデルのプラモデルが完成しそうだって報告されたよ。これでやっと我が社も、ガンプラバトルビジネスに参戦することが出来る」

「……俺達の実戦データが役に立ったというわけだ」

「真面目な話、君の働きには感謝しているよ」

 

 KTBK社に対する俺の貢献は思ったよりも会長から評価されているらしく、もしかしたら契約終了後も正社員として雇ってくれるかもしれない。

 だが、今の俺はそうやって楽観視出来る状況ではない。もしもの時の為に今後の自分の身の振り方を考えておかなければ、今後新しく持つことになる家庭を崩壊させることになるだろう。

 その為にも、世界大会優勝という肩書きは絶対に必要なのだ。

 

「ああ、言い遅れたけどラズリちゃんのご懐妊おめでとう。これで君も、ますます犯罪者だね」

「……勘弁してくれ」

「はは、噂では昨日の試合が終わった後、警察から事情聴取されたみたいじゃない。あれって本当なのかい?」

「どうしても言わなければいけないか?」

「はは、最近事案とかうるさいよねぇ。まあ、合法幼女な奥さんのことは大事にしなよ。でないと君も、どこかのメカニックのように逃げられることになる。いや、あれは彼の方から逃げてきたんだっけ?」

「逃がさないし、逃げないさ。彼女は俺の、大切な人だ」

 

 これからもずっと、俺は彼女と共に居る。自分自身への決意表明の意味も込めてナガレにそう言った後、俺は彼と別れて選手村のホテルへと帰った。

 今日は決勝トーナメントに出場する選手達にとって束の間の休息だ。丸一日、休みとなっている。

 しかし俺には、静岡の町で羽を伸ばす気にはなれかった。昨日の戦闘でボロボロになったブラックサレナNT-1を直さなければならないし、そもそもラズリちゃんと一緒に出掛けられない町に意味は無い。

 普段から常々思っていたことだが、俺にとっての彼女は居なくなることが考えられないほど大切な存在なのだ。彼女が病院内で静養中である今、俺は心の寂しさを紛らわすように無心でブラックサレナNT-1の修理作業へと当たった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、ガンプラバトル選手権世界大会の決勝トーナメントが始まった。

 第8ピリオドまでの戦いとは違い、一敗でもしたらそこで終わりの勝ち抜き戦方式。

 緊張する心を「家族」への思いで封殺しながら、俺は一回戦のステージに上がった。

 

「パトリック・マネキン、ジンクス・シミュレーションスペシャル――出るぜぇっ!」

 

 俺の一回戦の相手はパトリック・マネキンさん。

 世界大会常連の一人であり、愛妻家で有名なガンプラファイターである。機会があれば、お互いの嫁について存分に語り合いたいものだ。

 彼の使用するガンプラはテレビアニメでは一番最新のガンダムシリーズ「機動戦士ガンダムOO」に登場するMS、ジンクスの改造機だ。そろそろセカンドシーズンが放送されるみたいだけど、残念ながら俺にはリアルタイムで視聴する余裕は無いだろう。だが録画しておいたものを六年後か七年後、生まれてくる子供と一緒に視聴するのもまた一興だ。ガンダムに興味持ってくれると嬉しいなぁ、あとナデシコにも。

 

 ほのぼのとした未来の想像は発進と同時に打ち切り、俺は即座に「ボソンジャンプ」を発動する。

 膨大な量のポーズ粒子ならぬプラフスキー粒子がブラックサレナNT-1の機体を包んだ次の瞬間、マネキンさんのジンクス・シミュレーションスペシャルが発進した直後の、カタパルトの真ん前へとジャンプアウトした。

 

「どわっ!? なんじゃそりゃあ!」

 

 出待ちする形となったブラックサレナNT-1の出現にマネキンさんが動揺している隙に、俺は両脚部のスラスターユニットによる蹴りでジンクスを空中から叩き落とし、地に墜落した彼に対して容赦無くハンドカノンを発砲した。

 その狙いは全て、ガンプラの関節部だ。執拗にその部位だけを狙って撃ち抜いた結果ジンクスの四肢は無惨にも弾け飛び、最後に達磨状態になった胸部装甲をテールバインダー先端部のアンカークローで突き刺し、止めを刺した。

 

 その間、僅か十秒。

 

 試合終了後は、これまたルワンさんの時と同じように空気が静まり返っていた。……ああ、これは完全に悪役ですわ。

 

 出待ちからの奇襲、執拗な関節部狙いの攻撃、相手に全力を出させない戦法は、二代目のメイジン・カワグチを参考にさせてもらった。

 この情け容赦の無い戦い方はガンプラバトルファンの中でも賛否両論が割れており、俺自身、あまり好んではいなかった。

 今だって、勝ったことに対して素直に喜びを感じていない自分が居る。これじゃあもう、ガンプラバトルを遊びだなんて言えないな……。

 でも、今の俺にとって重要なのは過程はどうであれ、勝利という結果を掴むことだ。それ以外を選ぶ気にはなれなかった。

 

「いい戦争をするじゃないか」

「………………」

「無視かよ」

 

 大会出場者達が試合を観戦する為の控え室に戻ると、ピンク色の服を着たダンディーな二人組に話しかけられた。

 フリオ・レナートさんとマリオ・レナートさん――レナート兄弟として一括りに扱われている、アルゼンチン代表のファイターだ。

 二人ともベテランの風格が漂っているが、確か世界大会の出場は今回が初めてだったと思う。しかしその実力は高く、ここまで特定のガンプラに拘らず、色々なガンプラを扱いながら勝ち抜いてきた実力者だ。

 彼らは親切にもラズリちゃんが居なくて絶賛ぼっち状態になっていた俺に話しかけてくれたというのに、俺は無言を返してしまい彼らの気分を害してしまった。ごめんなさい、でも違うんだ。ただ貴方達の声がテンカワ・アキトに似ていてびっくりしただけで、決して無視したわけじゃないんです。

 慌てて俺は、彼の言葉に話題を見つけて言い返す。

 

「俺の戦いは、戦争なんて大層なもんじゃないさ」

「ん?」

「ただ自分の過去にケリをつけるための戦い、俺自身への復讐みたいなものだ」

「復讐、ねぇ……」

 

 迂闊で残念な男がデキ婚後の将来の為に戦うことが、戦争なんて大層なものであってたまるかと――俺は今の自分がガンプラバトルをする目的を自嘲する意味で言った。真面目に考えなくても恥ずかしい話なのであえてオブラートに包んで言ったのだが、何故か兄弟揃って感心げな顔をされた。多分、俺の意図した言葉の通りには伝わらなかったのだろう。まあそれに気付いたところで、わざわざ訂正する気にはみっともなくてなれなかったわけだが。 

 

 

 

 

 

 

 翌日俺が戦う二回戦の相手はイギリスを代表するファイター、ジョン・エアーズ・マッケンジーさんに決まった。

 御年78歳という大会出場者最高齢のお爺さんファイターで、「准将」と呼ばれるほどの有名な実力者だ。彼がかつて繰り広げた二代目メイジン・カワグチとの死闘は、俺もテレビで見たことがある。

 しかしフィールドに現れたのは彼ではなく、金髪のイケメンな兄ちゃんだった。

 試合直前にジョンさんが心臓発作で倒れ、選手の交代を言い渡されたのだ。

 彼の名前はジュリアン・エアーズ・マッケンジー――ジョン・エアーズ・マッケンジーさんの孫に当たり、俺も知っているガンプラファイターだ。かつては三代目メイジン・カワグチを襲名するのは彼ではないかという噂を耳にしたこともある、俺からしてみれば雲の上みたいな存在だった。

 ただ彼は三年前にガンプラバトルを引退し、以後はこのような表舞台には上がってこなかった筈だが――中々どうして、とんでもないサプライズを用意してくれたものである。

 ……全盛期をとっくに過ぎているジョンさんですら俺の手に余る実力者だっていうのに、それよりもヤバいのが敵に回ってしまったようだ。

 だが、相手が誰であろうと負けるわけには行かない。強敵なら、今までだって散々戦ってきたんだ。この試合を勝てば次の相手は三代目メイジン・カワグチになる。優勝をする為には結局、彼のような強敵との戦いは避けては通れない道だった。

 

《Please set your GUNPLA》

「アワクネ・オチカ、ブラックサレナNT-1――レッツ・ゲキガイン!」

 

 ブラックサレナNT-1をGPベースへセットし、プラフスキー粒子から出現した簡易カタパルトからバトルフィールドへと発進させる。

 全面に広がるのは無数の星が瞬く宇宙と、数多のクレーターに覆われた荒地――月面だった。

 今回のステージは月面か。市街地や森林地帯のような障害物が無い為、地形を利用した戦い方は難しそうである。

 

「初手から仕掛けるしかない……」

 

 モニター前方に、オレンジと白の配色を施された小型のMSの姿を捕捉する。

 ガンダムF91イマジン――今では知る人ぞ知る名機。かつては無敵と言われたガンプラの姿が、三年前と変わらずにそこにあった。

 思わずビビりそうになる心を押し殺して、俺は虚勢を張る。

 F91イマジンがなんだ! あんなもん、所詮は三年前の機体だ!

 

「ジャンプ」

 

 イメージするのはF91イマジンの背後。ルワンさんと戦った時のように死角からのボソンジャンプで、勝負を一気に決める。

 大量のプラフスキー粒子に包まれたブラックサレナNT-1が一瞬で姿を掻き消す。

 そして、次の瞬間――

 

 ジャンプアウトしたブラックサレナNT-1が、異魔人の砲撃に撃ち抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ガンプラの瞬間移動――なるほど確かにこれは強力だと、ジュリアン・エアーズ・マッケンジーは冷静な表情の裏で舌を巻いた。

 急患を患った祖父のジョンからこの試合を託されたジュリアンは、始めはガンプラバトルに復帰することに乗り気ではなかった。

 ジュリアンはかつて二代目メイジン・カワグチの開いた「ガンプラ塾」の第一期生だった。

 ガンプラバトルを純粋に愛していた無垢な少年時代、祖父のジョンから「ガンプラの光と闇を知って欲しい」と言われ、ガンプラ塾へ入塾したジュリアンはガンプラバトルのノウハウを徹底的に学び、塾内では敵う者が居ないさえ言われる腕を身につけた。

 他を寄せ付けない天才的な実力に、当時は誰もが三代目メイジンを襲名するのはジュリアンであると疑わなかった。

 だが、ジュリアンは自らそれを拒絶した。共に高め合う筈の仲間さえも敵視し、勝利こそを至上とする二代目の思想を受け入れることが出来ず、またその思想に自分も取り込まれてしまうのではないかという不安に耐えられなくなったのだ。

 やがてガンプラ塾を破門となり、この三年間はガンプラバトルどころかガンプラの製作からも遠ざかっていた。

 ……ガンプラは製作しなかったが、ちゃっかり他のプラモデルは作っていたりする。

 閑話休題。

 そんなジュリアンがこの第7回ガンプラバトル選手権世界大会に参戦する気になったのは、心臓発作に倒れた祖父に強く請われたこともあるが、一番の理由は三代目メイジン・カワグチのことだった。

 試合の直前、ジュリアンは通りすがりのラルさんから三代目のメイジン・カワグチはガンプラ塾時代の友人ユウキ・タツヤであることを聞かされたのだ。

 タツヤは自分と同じで、二代目の思想を受け入れていなかった筈だ。勝利こそを至上とはせず、ガンプラバトルを楽しむことを望んでいた筈だ。

 その心の引っ掛かりを、ジュリアンは解消したかった。

 タツヤの真意を掴む為、ジュリアンはこの場に舞い戻った。彼と直接戦うことで、彼のことを理解したかったのだ。

 この戦いに勝利すれば、次の準決勝の相手はレナート兄弟に負けない限りはタツヤとなる。しかし彼ならば、間違いなく勝ち上がってくるだろう。

 故にジュリアンには、この戦いを負けるわけにはいかなかった。

 

「そこ!」

 

 闇色のガンプラの反応がレーダーから消失した瞬間、ジュリアンはF91イマジンを急速で方向転換させ、背後の空間に向かってヴェスバー――F91イマジンの背面側にフレームのアームを介して左右一門ずつ懸架されているビーム砲――を発射する。

 瞬間、プラフスキー粒子の光と共に出現した闇色のガンプラを、二条の光が撃ち抜いた。

 ジュリアンは闇色のガンプラブラックサレナNT-1の瞬間移動に対して完璧に反応し、奇襲を掛けられる前にこちらのビームを直撃させてみせたのだ。

 

「迂闊な!」

 

 しかし、流石は()()ブラックサレナだ……とジュリアンは敵機の頑丈さを賞賛する。宇宙世紀屈指の火力を誇るヴェスバーの直撃を受けてもまだ、彼は撃墜には至らなかった。

 傷を負ったブラックサレナNT-1が即座に態勢を立て直し、両手のハンドカノンを連射する――が、ジュリアンのF91は急加速による蛇行で、それらの射撃を全て無駄弾にせしめた。

 

「よくここまで再現を……でも、その程度の動きでは!」

 

 肩部に装着された巨大なスラスターを吹かしながら、一気に間合いを詰めてくる闇色の機体。ディストーションフィールドを展開しての体当たり、ディストーションアタック。小型のガンプラが受ければひとたまりもないであろうその攻撃を、ジュリアンは全てスペインの闘牛士の如く紙一重でかわしていく。

 こちらの砲撃を恐れない勇敢な姿勢は良い。勝利の為ならば自分のガンプラが壊れることも厭わない、その執念も。

 しかし闇色のガンプラの荒々しい戦い方は、ガンプラ塾最強の実力者だったジュリアンにとっては恐るるに足らない、単調なものだった。

 彼の動きは似ているのだ。二代目の教えを律儀に守ろうとしていた、タツヤ以外のガンプラ塾の門下生達と。

 あまりにも見慣れ過ぎているその戦い方に対して、ジュリアンは脅威を感じなかった。ジュリアンにはその対処法が身体に染み付いているのだ。故に三年間のブランクがあれど、彼の動きを見切ることは容易かった。

 

「狙いが見え見えだよ、ブラックサレナ」

 

 あの「ブラックサレナ」をモデルとしているだけあって、凄まじい性能だとは思う。

 復讐人アキトの乗っていたあの機体を、よくもここまで再現したものだとビルダーを褒め称えたい。

 だがまだ、名人を相手にするにはファイターの引き出しが足りていない。ジュリアンは相手のファイターであるアワクネ・オチカに対して、冷静にそう分析していた。

 ボソンジャンプの奇襲も、ディストーションアタックによる突進も確かに強力だ。

 しかし、これは対戦相手のアワクネ・オチカにとっては計算外なことだろう。

 どこもかしこもガンダムオタクだらけの世界大会出場者達において、自分以外にその存在が居たことは。

 

「ナデシコが好きなのは、貴方だけじゃないっ!」

 

 ジュリアン・マッケンジーは、ブラックサレナという機体の特性を知り尽くしていたのだ。

 体当たりをかわし、擦れ違い様にビームサーベルを一閃する。

 まずはブラックサレナNT-1の尻尾――テールバインダーを斬り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 三年前のガンプラが相手なら何とかなると、そんなことをちょっとでも考えていた自分の愚かさを思い知る。

 そもそもルワンさん、マネキンさんと立て続けに行ってきたボソンジャンプからの奇襲が、今度も素直に通じると思っていたのが迂闊だったのだ。ディストーションフィールドが無ければ、最初のヴェスバーの時点で落とされていただろう。

 しかし、どうしようか。やべぇジュリアン君強すぎる……!

 F91イマジンがディストーションフィールドで大幅に威力を軽減出来るビーム兵器主体の機体だからこそ今まで持ち応えられているけど、このままではやられるのは時間の問題だ。

 火力はともかく、機動性ならば劣っていない筈だ。機体のスペックに関しては全く負けていない筈なのに、やはりファイターの技量の差か。あのガンプラは化け物だが、ジュリアン君はもっと化け物だ。お前はアムロ・レイかって言うぐらいこちらの動きをことごとく読み取って、正確に捉えてくる。

 最初のボソンジャンプからの奇襲が失敗した時点で、厳しい戦いになるのはわかっていた。問題はその後の対処法が全く思いつかないことだ。

 

「貰ったぁっ!」

「くっ……!」

 

 ビームサーベルを薙刀のように回転させながら、F91イマジンがブラックサレナNT-1の装甲に向かってビーム刃を叩きつけてくる。

 これが実体剣だったら、その一閃でブラックサレナNT-1は完全に真っ二つにされていただろう。しかし、このままでも結末は同じだ。サーベルのビーム刃とディストーションフィールドは拮抗しているが、ジリジリとこちらが圧されているのがわかる。

 

 ――くそっ! どうすればいい!? こいつを倒すにはどうすれば良いんだ……!?

 

 焦りと苛立ちが俺の心を支配する。

 そんな俺に冷静さを取り戻させてくれたのは、脳内に走馬灯のように浮かび上がってくる、最愛の少女との日常風景だった。

 

『オチカ』

 

 花畑を走り回りながら、麦わら帽子を被った銀髪の少女が微笑む。

 

 ……ああ、そうだ。

 

 俺は背負っているんだ、彼女との未来を!

 理屈じゃなくても、どんなことをしても、勝たなければならない。

 俺は、負けるわけにはいかないんだ!

 

「う……うおおおおおおおおおっっ!!」

「っ!?」

 

 俺は、無我夢中だった。

 後先構うことなくスラスターの推力を全開まで引き出し、押し当てられていたビーム刃ごと突進し、F91イマジンの胸部に頭突きを喰らわせた。

 機体の衝突によって重量で大きく下回るF91イマジンが吹っ飛び、一方で無理な機動をしたブラックサレナNT-1の鎧に深い亀裂が走った。

 

「まさか、ここまで……!」

 

 通信回線を通して、ジュリアン君の驚く声が聴こえてくる。

 見たか、ファイターの俺が全く着いてこれないブラックサレナNT-1の馬鹿力を!

 あんたが化け物みたいな技量で翻弄してくるんなら、こっちは化け物みたいな力押しで戦うだけだ!

 未熟なら未熟なりに、性能頼みのゴリ押しをとことんやらせてもらう。闇の偽王子を舐めるなよっ!!

 俺の手には余り過ぎる、ブラックサレナNT-1の最大稼働で突っ込んでいく。

 それは、今までこちらの動きに余裕で対応していたジュリアン君をしても唸る速度だった。

 まるで制御しきれていないデタラメな機動で旋回しながら、俺はハンドカノンをまともに狙いも定めずに乱射しまくる。下手な鉄砲、数撃てばなんとやらだ。無論F91イマジンがそんな無茶苦茶な攻撃に当たるわけはなかったが、ジュリアン君が今までとは違うこちらの動きに脅威を感じたのか、ついに「あの技」を発動してきた。

 

「……ッ、バックジェットストリーム!」

 

 ジュリアン・マッケンジーの代名詞とも言える彼の奥義、「バックジェットストリーム」。

 ガンダムF91が持つ「M.E.P.E (Metal Peel-off effect=金属剥離効果)」という特殊な効果により微細な塗装や装甲が剥がれ落ちることによってまるで機体その物が残像を発生させているかのように見える現象――通称「質量を持った残像」をさらに強化した技だ。

 発生した残像は相手の機体のセンサーを誤作動させ、あたかもF91が複数存在しているかのように認識させる為、目視だけが頼りになる。そしてジュリアン君のF91イマジンの「バックジェットストリーム」はそれに加えてトランザムシステムやEXAMシステムのように機体その物の出力を上昇させる効果を含めているトンデモ機能である。

 これを発動させてきたということは、彼が本気になったということだ。俺のブラックサレナNT-1が、彼にそうさせるだけの恐れを抱かせたということになる。

 彼の最大稼働に対して、俺も最大稼働で応える。

 F91イマジンの最大稼働を余裕で使いこなしてくるジュリアン君と違って、俺はブラックサレナNT-1をまるで制御出来ない。

 だが、無理は承知の上だ。このぐらいのことをしなければ、彼の土俵には上がれない。

 

「無理をしてくれ、ブラックサレナ」

 

 無茶な機動でF91イマジンの射撃を回避していくが、その度に機体の内部が悲鳴を上げていくのがわかる。

 鎧も中身のガンダムも、既に限界近い。

 その機体にさらに鞭を打とうとする未熟なファイターのことを、どうか許してほしい。

 

「ボソンジャンプ!」

 

 

 

 

 

 姿が消えたブラックサレナNT-1が死角から飛び出してきた瞬間、F91イマジンが左手に構えたヴェスバーから暴力的なビームを発射する。

 ブラックサレナNT-1のボソンジャンプは移動の過程を無視した瞬間移動だが、出現する一瞬だけはその場に大量のプラフスキー粒子が拡散していくという予兆が見える。その一瞬に対して即座に反応し迎撃することが出来るのが、ジュリアン・マッケンジーというファイターが持つ超人的な反応速度だった。

 

「私にボソンジャンプは通用しないぞ、アキト!」

「……アキトじゃない、オチカだ」

 

 ボソンアウトと同時にまたも発射された強力なビーム砲に対し、闇色の機体は即座にその空間から飛び退り、避けてみせる。この戦いで二度目のボソンジャンプである以上、こちらに出現先が見抜かれているのは予測していたのだろう。

 ならばとジュリアンはバックジェットストリームによって飛躍的に上昇した機体を駆って闇色の機体に詰め寄る。

 しかし、振り下ろした一太刀は装甲に擦過傷すら与えることが出来なかった。

 闇色の機体は空中でバックステップを踏むような動きで、F91イマジンの剣筋をかわしたのだ。

 

「速いっ!」

 

 闇色のガンプラは、今まで本来の性能を隠していたとでも言うのか。先ほどまでとは別人のような動きに、ジュリアンは内心で舌を打つ。

 戦い方に関しても、さっきまでとはまるで違う。荒々しいところは変わっていないが、中途半端に二代目メイジンを真似した戦闘スタイルではなくなり、良い意味でデタラメになった。軌道があまりにもデタラメ過ぎて、ジュリアンには彼がどう動いてくるのか読めなくなったのだ。

 

 バックジェットストリームによって金色のオーラに包まれたF91イマジンとブラックサレナNT-1、金色と闇色の二つのガンプラが、月面を眼下にした宇宙空間で寄りつ離れつの軌跡を描く。

 

 ジュリアンは猛然と突っ込んでくる闇色の機体を捉え、二門のヴェスバーを最大出力で放つ。

 ディストーションフィールド越しにもダメージを与えることの出来る二条の光が、つい一瞬まで闇色の機体が居た空間を貫く。

 だがそれは陽動であり、本命の一撃ではない。

 闇色の機体がビームを避けた先に、F91が残像を撒き散らしながら回り込んだ。

 

「これでっ!」

 

 F91イマジンが、闇色の機体を今度こそ仕留めるべくビームサーベルを振り上げる。

 いかにディストーションフィールドと言えど、これまで散々痛めつけたことで出力は落ちている筈だ。

 狙うはブラックサレナNT-1の構造上、最も細い胴部。懐に飛び込んだF91イマジンは、横薙ぎに走らせたビームサーベルを一気に振り抜いた。

 

 しかし、その一閃は空を掻いた。

 

 どれほど速い機体でもかわせない、コンマ数秒も掛からない筈の距離から。

 闇色の機体はその空間から忽然と姿を消すことで、絶体絶命の窮地を乗り切ったのだ。

 ボソンジャンプによる緊急回避――と、ジュリアンは即座にその現象に当たりを付ける。

 だが、次で終わりだ。

 超高速で機体を翻し、ジュリアンは後方にプラフスキー粒子の拡散を察知。ビームサーベルを携えたF91を全速力で向かわせた。

 

「仕留めるっ!」

 

 予測通り、そこに闇色の機体が現れた。

 F91イマジンは出現と同時にビームサーベルを突き刺し、今度こそ闇色の()を仕留めた。

 

「っ……?」

 

 F91イマジンのサーベルが仕留めたのは、敵の鎧だけだったのだ。

 ブラックサレナNT-1の胸部を覆う鎧。その中身には何も入っておらず、もぬけの殻だった。

 

「まさか……!」

 

 その時、ジュリアンはこの三年の間に視聴したアニメ「機動戦艦ナデシコ」内の設定を思い出し、額から嫌な汗を流した。

 ブラックサレナの鎧には、機密保持の為の爆弾が仕込まれている――ならば、これも……。

 すぐさまビームサーベルを抜き取ろうとするジュリアンだが、時既に遅し。瞬間、ビームサーベルの突き刺さった闇色の鎧がF91イマジンの目の前で豪快に爆発した。

 

 敵は、アワクネ・オチカはボソンジャンプが読まれていることを逆手に取り、あえて鎧の一部を囮にしたのだ。

 

「くっ……イマジン!」

 

 至近距離からの爆風に煽られ、F91イマジンの全身を覆っていた金色の光が消失する。

 機体その物は無事だったが、闇色の鎧の爆発によってバックジェットストリームの状態が解除されてしまったのだ。

 

「俺は……ここだ!」

「っ!?」

 

 その爆煙を突き破りながら、F91イマジンの前に四肢に闇色の鎧を纏ったピンク色のガンダムNT-1が出現する。

 ジュリアンがその姿を確認した時には、F91イマジンに組み付いたガンダムNT-1が肩部のスラスターを全力で吹かし、そのままスピードを緩めずF91イマジンの機体を月面の岩塊部へと叩きつけていた。

 

「機体出力低下……くっ!」

 

 月面に仰向けに倒されたF91イマジンはもがきながらも右手に携えたビームサーベルでガンダムNT-1を切り裂こうとするが、敵はそんなこちらの動きを先読みし、至近距離からのハンドカノンによってF91イマジンの右腕はサーベル諸共破壊された。

 ならばとジュリアンは胸部のバルカン砲を連射し、尚も組み付き続けるガンダムNT-1を懸命に引き剥がそうとするが、もはや苦し紛れにもならなかった。

 

「ゲキガンフレア!」

 

 ガンダムNT-1が右腕からハンドカノンを取り外し、エネルギーを集束させた抜き打ちの鉄拳を繰り出す。

 その一撃は倒れ伏したF91イマジンの胸部装甲を無慈悲に貫き、激闘の終焉を告げる爆発が月面に広がっていった。

 

 

 ――勝者、アワクネ・オチカ。準決勝進出決定――。

 

 

 惜しみない歓声と拍手が、会場を揺らした。

 

 

 





 勝因、F91の実弾不足。と相手ファイターにあった三年のブランク。
 大会出場者で最強はジュリアンだと個人的には思っています。くたくたな関節であれはパない。
 次回は最終回を予定していますが、なんだかんだでまた話数が伸びるかもしれません。


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合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男(終)

 

 ――準決勝当日、俺は試合前、病院に居るラズリちゃんと会って話をした。

 

 彼女の体調は随分良くなったようで、ディランディ先生いわく明日にでも退院出来るとのことだ。

 ただ、無論のことながら今後はお腹の中に居る赤ちゃんのことを考えて慎重な行動に慎めと釘を刺された。言われるまでもなく、俺は彼女のことを今まで以上に大切にしていくつもりだ。

 

「オチカ」

「なんだ?」

「今日、準決勝だね」

「ああ、相手はあのメイジン・カワグチだ。勝機は薄いが、ブラックサレナNT-1なら勝てるさ」

「うん、オチカは負けない。だからね、オチカ」

 

 彼女のことを何よりも大切に。

 何よりも――もちろん、ガンプラバトルよりも。

 彼女は俺にとって、ガンプラバトルよりもずっと大切な存在なのだ。

 俺は御伽噺のような理想の王子様にはなれないが、せめて彼女の為に、俺なりに全てを尽くすつもりだった。

 だから俺は、どんな手を使ってでも彼女に勝利という結果を届けなければならない。この期に及んでガンプラバトルを楽しむだとか、そんなことは到底考えられなかった。

 

 だけど俺は……この時まで、そんなちっぽけな虚勢がとっくに見抜かれていたことに気付いていなかった。

 

「無理しないで」

 

 俺が無理をしていたことに、彼女はとっくに気付いていたのだ。

 ルワンさんと戦っていた時から今まで、ずっと。

 そんな彼女に返す俺の言葉は、悪事がバレた子供のように震えていた。

 

「……何が、無理をしているんだ?」

「オチカの試合、見てたよ。オチカ、いつものオチカじゃなかった」

「……背負うものが出来たんだ。今までと雰囲気が変わったように見えたのなら、俺は寧ろ嬉しい」

「そうじゃないの。オチカ、楽しそうじゃなかった。……苦しみながら、戦っていた」

「俺の戦いに、今後の生活が関わっているかもしれない。そんなプレッシャーの中で、今までのように楽しめるわけがない」

「私とこの子は、オチカにとって重荷?」

「そうじゃない! そんなわけがない!」

 

 俺は彼女が身篭っていることを知ってから、それまでの俺で居ることを否定した。

 それは俺なりの意識改革のつもりだった。彼女を救えるのなら、俺自身の気持ちなんて知ったこっちゃない。元々あったラズリちゃん至上主義の考え方を、さらに極端化したような考え方だ。

 ……そんな俺の姿は、彼女の目には酷く痛々しいものに映ったのだろう。

 だが、だったらどうすればいいんだ。

 

「俺にはガンプラバトルしか取り柄が無い。それでもこの取り柄がラズリの助けになるのなら、俺は……!」

 

 そんなことを考えていた俺は、この時まで焦っていたのだ。

 そして、空回りしていた。

 ラズリちゃんの為ラズリちゃんの為にと思っていたことが、俺のガンプラバトルから一番大切なものを失わせていた。……いや、失わせかけていたと言うべきか。

 マズい方向に行きかけた俺のことを、彼女は優しいその手で引き上げてくれたのだ。

 

「オチカは今、ガンプラバトルが楽しい?」

 

 俺の核心を突いてくる、その問いかけで。

 

 ……俺が彼女に惹かれたのは、決してロリ可愛い見た目だけじゃない。

 口下手で無口な俺にとって、多くを語らなくてもこちらの心情を読み取ってくれる彼女とは一緒に居ると誰よりも心が落ち着くのだ。

 この見た目からよく人からは勘違いされる俺だが、彼女だけは俺のヘタレな本質を理解してくれるし、それでも俺のことを認めて愛してくれる。だからこそ、俺はそんな彼女のことを女性として好きになった。

 今、ガンプラバトルが楽しいか――この時は自分でも気付いていなかったが、俺は多分、その問いかけが一番欲しかったのだと思う。

 つい最近までは、ガンプラバトルを純粋に楽しんでいた自分が居た。

 だが今は、そうでない自分が居る。

 

「……君の知っている、アワクネ・オチカは死んだ」

「誤魔化さないで」

「……正直、楽しめてはいないさ。ルワンやマネキン、ジュリアンという強敵を倒せて嬉しい筈なのに、心の底からは喜べていない自分が居る」

 

 彼女の質問に対し、出来ることならこの大会が終わるまでは答えたくなかったのだが、まっすぐに俺の顔を見つめるラズリちゃんの金色の瞳を前にあえなく観念し、俺は本心を語った。

 ……まぐれとは言え試合に勝っておいて失礼な話だが、俺は数々の強敵を打ち破ってきたことに対して喜びを感じていなかった。

 それは直近のジュリアン君との試合の時も同じだ。たった一瞬の隙を突いての逆転勝利に、会場内に詰めかけてくれたお客さん達は総立ちで拍手を送ってくれたものだが、それを受けてさえ思ったほど心地よくなかった自分が居た。

 それはとても……とても、寂しい気分だった。

 仕方の無いことだとわかっていても、ガンプラバトルを心の底から楽しめていなかったのである。

 

「ガンプラバトルでの優勝に君との生活がかかっていると思うと、試合に勝つことも通過点にしか感じられなくなる。だから勝ったところで喜ぶことも、楽しむことも出来ないんだろうな……」

 

 ガンプラバトルに俗な話を持ち込むことをあれだけ嫌っていた筈の俺が、今や就活の為だけにガンプラバトルに臨んでいるという矛盾。何ともまあ、しょうもない話である。イオリ・セイ君みたいな純粋な子供も参加している大会だというのに。

 

 だがそれも、彼女の為だからと俺の中では許されていた。

 

 ナカマ・ラズリという女の子は、俺にとっては全てにおいて優先される存在だからだ。

 もちろん、俺自身の心よりも。

 

「ありがとう、オチカ。私のことを、そんなに考えてくれて」

 

 俺がもっと器用な人間だったらもう少し上手く立ち回れたのだろうが、それが出来る人間ならばそもそも無職などやっていない。

 それでも、そんなしょうもない俺のことを、ラズリちゃんは信じて受け入れてくれた。

 

「でも大丈夫。私のことも、生活のことも大丈夫だから」

 

 そしてラズリちゃんは、俺の心に張り詰めていた感情を浄化するような、柔らかな笑みを浮かべて言った。

 

「昨日、ナガレが来て話したの。大会が終わってからも、オチカのことを正社員として雇いたいって。これが、契約の内容だって」

 

 ナガレ……あの野郎、俺を差し置いてこの病室に来ていたのかと少し苛立ちを覚えながら、俺はラズリちゃんの手から数枚にも及ぶ書類を受け取った。

 そこにはKTBK社の正社員として俺を雇いたいという旨と、契約の詳しい内容が記載されていた。

 えっ、マジで? と内心驚きながらその内容を流し読みした俺は、内から込み上がってくる変な笑いを抑えることが出来なかった。

 

「……これからは、アイツのことを様付けで呼ばないといけないな」

 

 労働時間こそ日本の企業らしくそれなりに長いが定休日はしっかりと確保されており、これならばブラックと言うほどでもないだろう。何より目を引いたのが月に貰える給与だ。KTBK社で貰える給与は、並の求人広告で見かけるそれとは文字通り桁が違っていたのだ。

 ナガレ……いや、ナガレ様っ! 俺は一生あんたに着いていきます! って、思わずそう叫びたくなるほどの破格な条件だった。どうやらあの男は、よほど今回の俺の働きぶりを評価してくれたらしい。

 明日なき子持ちニートとして、願ってもないこの申し出は受けざるを得なかった。

 

「ナガレからは、オチカには言わないでって言われたけど……やっぱりオチカには、そのままのオチカでガンプラバトルをしてほしかったから……ごめんね」

「いや……こっちこそ、ごめんな。どうやら俺は、一人でピリピリして空回りしていたらしい。ありがとう。これで安心して、心置きなくメイジンとの試合を楽しめる」

 

 申し訳なさそうに事情を説明するラズリちゃんの言葉に、俺はまあそうだろうなと納得する。

 確かにこんな夢みたいな話を試合直前にすれば、俺の中から今までの緊張感が抜けてしまい、力が発揮出来なくなると考えるのは当然だろう。そういう意味では、彼女に口止めしようとしたナガレは正しい。

 

 ――だが、ナガレ。お前は一つ勘違いをしている。

 

 このアワクネ・オチカのモチベーションを何よりも引き上げることが出来るのは、負ければ生活が困窮するという取引先のお偉いさんを接待するサラリーマンのような後ろ向きなプレッシャーではないのだ。

 

「そろそろ時間だな」

 

 時計を見ると、刻一刻と試合開始時刻が迫っていた。さあて、いっちょやってみますか。

 俺はスチャッと目元にバイザーを装着し、ハンガーに掛けていた黒衣を一瞬で纏う。あっ、今の動きちょっと格好良かったかも。

 そうして闇の王子モードになった俺は、部屋を出る前にラズリちゃんに対して宣誓した。

 

「メイジンとの試合は、「自分らしく」いくよ」

「うん、私もここで応援している。頑張らなくてもいいから、楽しんできてね」

 

 俺が一番力を発揮する時――それは、大切な人の笑顔を見た時なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――満月の浮かぶ、夜の荒野。

 

 

 蒼色の機体が剣を突き出すのと同時に闇色の機体が拳を突き出し、両機はまるで爆風の煽りを喰らったように左右へと弾き飛ばされる。

 

「おおおおおっっ!」

 

 距離を開け、態勢を立て直すのが一歩早かった闇色の機体「ブラックサレナNT-1」がファイターの叫びに呼応するように突進し、蒼色の機体「ガンダムアメイジングエクシア」へと突っ込んでいく。

 ディストーションアタック――全推力を解放したそのスピードに避けきることは叶わないと判断したアメイジングエクシアは、左腕に装着されているアメイジングGNシールドで機体本体へのダメージを凌いだもののその一撃によってシールドは木っ端微塵に砕け散り、使い物にならなくなった。

 しかしメイジン・カワグチを継いだ男がそのまま圧されっぱなしで居るわけもなく、アメイジングエクシアはバランスを崩しながらも空中で曲芸染みた動きを披露し、機体を捻りながら左腰にマウントしていたアメイジングGNブレイドを投擲することで反撃を仕掛けた。

 グシャッと、鈍い音が岩肌に覆われた荒地のフィールドに響く。

 投擲されたアメイジングGNブレイドがディストーションフィールドを貫通し、ブラックサレナNT-1の右肩部へと突き刺さったのである。

 

「くっ……!」

 

 誘爆の危険を察知したブラックサレナNT-1が即座にブレイドの突き刺さった右肩部のアーマーを切り離し、機体を後退させる。

 直後、切り離したアーマーが派手に爆発する光景を見て、場内の者は彼が行った判断が間一髪のファインプレーであることを思い知った。

 

 状況はブラックサレナNT-1のファイター、アワクネ・オチカにとって劣勢。既に右腕のハンドカノンとテールバインダーを失っており、今の攻撃で右肩部のアーマーを失ってしまった。

 対してメイジンのアメイジングエクシアはディストーションアタックを受けたアメイジンGNシールドと今しがた投擲したアメイジングGNブレイドを失っただけで、機体本体へのダメージは皆無に等しかった。

 だがそんな状況下に在っても、オチカはこの試合を苦しいとは感じていなかった。

 

 寧ろ、彼は心の底から楽しんでいた。相手のファイター、メイジン・カワグチとの戦いを。

 

 お互いに全力を出し合い、こちらの全力に対して全力で受け止めてくれる。終始冷徹だった二代目メイジンの印象とは掛け離れたその三代目メイジンの戦い方に、オチカはガンプラバトルに対する「遊び」としての楽しみ方を思い出していた。

 

「流石はジュリアン・マッケンジーを打ち破ったファイターだ……しかし!」

 

 一方で、メイジン・カワグチもまたオチカの実力を好敵手と評するに相応しいと認めていた。

 ブラックサレナNT-1の右肩部アーマーの爆発による爆煙を突き破りながら、右腕にアメイジングGNソードを展開させたアメイジングエクシアが急迫する。

 ビーム兵器に対しては絶大な耐性を誇るディストーションフィールドだが、その半面質量兵器への耐性には乏しい。故に実体剣が主武装であるアメイジングエクシアとの相性は、ガンダムF91イマジンの時よりも遥かに悪かった。

 

「……っ、ジャンプ!」

 

 アメイジングエクシアの剣の間合いに入った瞬間、ブラックサレナNT-1の機体がその場から消失する。

 ボソンジャンプ――アワクネ・オチカのガンプラが発動した超機能に、大会出場者を含めた観戦客達全員が息を呑む。

 

「瞬間移動か! さすれば……トランザムッ!」

 

 彼がこの大会において何度も披露したその機能に対して、通信回線を開きっぱなしにしたメイジンが喜悦そうに叫ぶ。

 瞬間、機体を紅く変色させたアメイジングエクシアが残像を残す速さで上昇していき、膨大なプラフスキー粒子と共に上空に出現したブラックサレナNT-1と激しい剣の乱舞を踊った。

 それはまるで、黒と紅の彗星が正面からぶつかり合うような光景だった。

 互いに道を譲らず激突した二つの彗星が、一度離れあったものの旋回し、螺旋を描き、もつれ合いながら月光に照らされた夜空を疾走していく。

 そのまま戦いながら世界を一周していくかのような速さで、二機のガンプラは死闘を繰り広げた。

 

「せあっ!」

 

 メイジンが叫び、アメイジングエクシアがバックパックから翼の一部を分離させた一刃の実体剣――トランザムGNブレイドを左手に握ると、目にも止まらぬ速さでそれを投擲する。

 胸部を目掛けて寸分の狂いも無く迫ってきたそれを、ブラックサレナNT-1は咄嗟に左肩部のアーマーを盾として犠牲にすることで防いでみせた。

 

「こんなものか、メイジン……! 俺はまだ、ここに居るぞ!」

 

 これで両肩のアーマーを失ったブラックサレナNT-1だが、ファイターの戦意は何ら衰えていない。

 左腕に残った唯一のハンドカノンを連射しながら、可能とする限りの最大稼働でトランザム状態のアメイジングエクシアへと食らいつき、メイジンを勇猛果敢に攻め立てた。

 

 何度壊されても動ける限り立ち上がり、臆することなく食らいついてくる――これが人の執念かと、メイジンは彼の戦い様に畏怖を抱く。

 

 そしてそんな彼の執念が、遂にアメイジングエクシアを捉えた。

 それは、たった一発の銃弾だった。機体に破損を来さない程度の微々たるダメージに過ぎなかったが、ブラックサレナNT-1のハンドカノンがトランザム状態のアメイジングエクシアの左肩に命中したのである。

 それによって生じた隙など一瞬の半分にすら満たなかったが、ほんの僅かでも動きを鈍くしたアメイジングエクシアの時間を、ブラックサレナNT-1は見逃さなかった。

 ゲキガンフレア――ありったけのエネルギーを集中させた鉄拳が、アメイジングエクシアに牙を剥く。

 それに対してメイジンは、背を向けず、堂々と、王者のように正面から応えた。

 アメイジングGNソードとゲキガンフレア、二つの力が激しいスパークを撒き散らしながらぶつかり合い――アメイジングGNソードが亀裂と共に砕け散った。

 

「剣はまだある!」

 

 そこまでは、予想通り。

 純粋なパワー勝負でブラックサレナNT-1の拳に負けることは、メイジンにとって計算の範疇内だった。

 即座に次の一手を打ち出したメイジンは、アメイジングGNソードの刀身が砕けるなり右腕のアームカバーから光の剣――ビームサーベルを発生させ、迫り来るブラックサレナNT-1の拳を右腕ごと叩き切った。

 ゲキガンフレアによって拳にエネルギーを集中させていた為、その分防御に回すディストーションフィールドは手薄になる。そこを突いたメイジンの策により、ブラックサレナNT-1の右腕は抵抗も無くあっさりと切断することが出来た。

 メイジンはそのまま本体を斬り裂くべくビームサーベルを一気に振り下ろした――が、胸部の鎧を浅く斬り裂いたところで手応えが無くなった。

 ブラックサレナNT-1はまたしても、ボソンジャンプによって窮地を脱出したのである。

 

 メイジンが次はどこへ現れるかと目を向ければ、地上――左手に一振りのビームサーベルを構えながら悠然と大地に佇んでいる、全ての鎧を解除したピンク色のガンダムNT-1の姿がそこにあった。

 

「銃も鎧も捨て、全てをその剣に託したか……ならば心して受けて立とう。この三代目、メイジン・カワグチが!」

 

 アメイジングエクシアを地上へと降下させると、メイジンはアームカバーから発生させていたビームサーベルを解除する。

 そして手持ちの武器を入れ替えるように背中のバックパックから最後に残った唯一の実体剣であるトランザムGNブレイドを引き抜くと、それを右腕に携えた。

 この時、メイジンとて余裕は無かった。

 既にアメイジングエクシアのトランザムシステムは解除されており、その機体出力は本来よりも大幅に低下している。

 次の一撃で仕留められなければ負けるのは自分だと、メイジンはそう確信していた。

 アメイジングエクシアが右腕に携えたトランザムGNブレイドを真っ直ぐに伸ばし、その切っ先をガンダムNT-1へと定める。

 

「行くぞ!」

「勝負だ!」

 

 そして――同時。

 二機のガンダムが同時に地を蹴る。 

 お互いが持てる全出力を解放し、最高のスピードで直進していく。

 そして両者は全く譲ることなく、真っ直ぐに、正面から衝突した。

 

 ――それがこの試合を終わらせる最後の一撃となった。

 

 

 

 結果から言わせてもらおう。

 

 

 軍配が上がったのはアメイジングエクシア――メイジン・カワグチの方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 人生とは、筋書きの無いドラマだと言う。

 今の俺をテレビドラマに例えるのなら、中盤の山場以降は最終回までの盛り上がりに欠け、尻すぼみに萎んでいく内に視聴者の皆さんから放送を忘れられていく感じの微妙な作品と言ったところか。

 つまり何が言いたいのかと言うとだ……所詮、俺程度の人間ではヒーローの役目を全うするには役者不足だったというわけだ。

 

 ……俺なりに、最善を尽くせたとは思う。

 ラズリちゃんと話したことでかつてないほど良好なコンディションで準決勝に挑んだ俺は、それまでのどの戦いよりも上手く立ち回ることが出来た。ルワンさんやジュリアン君を相手にした時よりもだ。

 敗北したとは言え途中までは拮抗していたと思うし、あのメイジン・カワグチさんを相手に一方的にやられなかった自分のことを、ほんの少しだけ誇らしいとも思う。

 俺はこの準決勝で、間違いなく自分の実力以上のものを発揮した。

 それでも負けたのはなんてことはない、簡単な理由だ。

 ただ単純に、俺とブラックサレナNT-1の力をメイジン・カワグチという男がさらに上回っていたというだけなのだから。

 やっぱり強かったよ、メイジンは。

 操縦技術もガンプラの性能も、心の強さも。

 彼に負けた時、俺は自分が思っていたよりもあっさりと敗北を受け入れることが出来た。

 

 だけど……

 

「……勝ちたかったよ……」

 

 フィールド上に広がっている最後の光景に、俺はそう呟く。

 

 そこでは、ガンダムNT-1のビームサーベルがメイジンのアメイジングエクシアを貫き、アメイジングエクシアのGNブレイドがガンダムNT-1を貫いていた。

 

 二機のガンプラの武器は、敵を突き刺すというお互いの役割を見事に果たしていた。

 観客席側からその光景を見れば、俺達の試合は相討ちに終わったと思うことだろう。

 だがこの決着の白と黒がはっきりとついていることを、戦いの当事者である俺は理解していた。

 

 ほんの少しだった。

 

 ほんの少しのパーツの差が、俺達のガンプラの勝敗を明確に分けたのだ。

 

「……トランザムブースターが無ければ、即死だった」

 

 ふっと緊張を解いた苦笑を浮かべると、メイジン・カワグチがサングラスを外しながらそう呟く。

 瞬間、俺のガンダムNT-1は爆散し、メイジンのアメイジングエクシアも同時に爆散した。

 しかし、アメイジングエクシアの背中には機体本体が活動を停止した後でも自立稼働出来るパーツが、「トランザムブースター」が装備されていたのだ。メイジンは機体がビームサーベルに貫かれる瞬間、コントロールをブースターへと移し、分離していたというわけだ。

 流石は三代目を継いだ男……最後の最後まで、抜かりは無かったというわけか。

 

「……ラズリ、すまない……」

 

 頑張ったという言葉を、自分への慰めには使いたくない。

 ただ、もしこの試合を彼女が見てくれたのなら……褒めてほしいなって思う。

 負けたのは残念だけど、よく頑張ったって褒めてほしい。

 そう、俺()のことを褒めて……

 

「……お前も、よく頑張ったな」

 

 ……ああ、駄目だ、涙がこぼれ落ちてくる。大の大人が恥ずかしいとは思うが、今だけは許してほしい。

 バラバラに砕け散ったガンダムNT-1とブラックサレナの鎧を見つめながら、俺は無惨ながらも美しいと思ったその姿に敬礼し、労いの言葉を掛ける。

 お前のお陰でここまで戦えた。お前が居たからガンプラバトルを楽しめた。だから、ありがとう――と。

 

 人の人生に筋書きは無いが、必然はある。

 敗北の悔しさを堪えることは出来ないが、負けるべくして負けたという言葉が今の俺には当てはまる。そう思えたからか、頭の中は不思議とすっきりしていた。

 

「良いバトルだった、メイジン」

「こちらこそ、貴方と戦えて良かった」

 

 試合終了後、サングラスを外したメイジンの元へと俺もバイザーを外しながら歩み寄り、握手を求めた。

 前にも言ったけど俺の目つきは殺人犯みたいに凶悪で、面と向かい合った人間からはことごとく避けられてきた。しかし若きガンプラ名人はバイザーを外した俺の目を見ても警戒するような反応はせず、快く俺の握手に応じてくれた。

 

 ……本当に、楽しいバトルだった。

 

 次もあるのなら、今度は絶対に負けないと――そう言いたくなるぐらい。

 その時まで、もっともっと強くなりたいと――何もかもが純粋だった少年時代のように、そう願いたくなるぐらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンプラバトル選手権世界大会は、遂に決勝トーナメントのファイナリストが決定した。

 二人のファイターの名はメイジン・カワグチとレイジ。使用するガンプラはそれぞれ21世紀ガンダムを代表する名機ガンダムエクシアとストライクガンダムをベースにした改造機だ。世間からの勝敗予想はと言うと、やはりネームバリューもあってかややメイジンの方に傾いている感じだ。

 かくいう俺も、メイジンが勝つと思っている。って言うか勝ってほしい。俺を倒したんだから俺の名誉の為にもあんたが優勝してくれ的な意味で。

 とは言うものの、世界大会の決勝戦まで来るとなるとどちらが勝ってもおかしくはないだろう。当日は今日退院するラズリちゃんと一緒に、現地で最強ガンプラビルドファイターの誕生を見届ける予定だ。

 

 そう、ラズリちゃんは本日を持っていよいよ退院するのである。正確には、本日の午後だが。

 

 俺はそれまで病院で待っていようと思っていたのだが、早朝から突如として選手村のホテルに押し寄せてきたナガレ達KTBK社御一行様に呼び止められた。

 

「唐突ですまないが、早速正社員として働いてもらいたい。もちろん、給料は弾むよ」

 

 無駄に綺麗な白い歯を見せびらかした良い笑顔を浮かべながら、ナガレがそんなことを言ってきやがりやがった。

 昨日の準決勝が終わった後、俺はナガレと会って契約書に判を押してきた。ついでに今回の報酬は俺の口座に振り込んであるというありがたい言葉をいただいて、ようやく肩の荷が下りた。いや、この場合は肩の荷を新しい物に交換したと言った方が上手い表現だろうか。

 まあそんなこんなで俺も今日から晴れてニートを卒業し、KTBK社の正社員となったわけだが、いきなり今日から働けというのはいくらなんでも急な話である。

 しかし既に病院のラズリちゃんには話を通しているらしく、彼女からは「お仕事頑張ってね」という伝言すらも預かっているという有様だった。

 ええい、そんなことを言われては余計に働かざるを得んではないか!

 

「午前中だけで良いんだ。ちょっと急患が出ちゃったんで、君にその代わりをね」

「ガンプラ・イブ絡みか?」

「もちろん、我が社もイベントに参加させてもらっているのでね。そこに大会ベスト4の君が加われば良い宣伝にもなる。準決勝では負けてしまったけど、アワクネ・オチカというファイターは結構人気なんだよ? ……色んな意味でね」

 

 業務内容はある程度俺も予想していたが、今日開催される一大イベント「ガンプラ・イブ」に関することだった。

 ガンプラ・イブ――それは決勝戦を一週間後に控えたこの日、大会会場で行われる前夜祭みたいなものだ。

 数多の模型店や食店が集まったり、等身大ガンダムの周りでガンダムに関するモノマネやカラオケ大会、上映会等、その他盛りだくさんのアトラクションが開かれたりするガンダムファン感涙物のイベントだ。

 利益の大半はPPSE社に持っていかれるが、それでも経営者としては願ってもない大幅な売り上げアップの機会だと言う。特にKTBK社の名を世に知らしめていく為には是非押さえておきたい重要な祭りなんだと。

 そこに大会ベスト4のファイターが顔を出せば、さらに売り上げが跳ね上がるという魂胆か。良いだろう、利用されてやる。ラズリちゃんが居なければ基本ぼっちな俺にとって、人気者という存在には密かに憧れていたのだ。いやあ、人気者はつらいわーまじつらいわー。

 

「わかった。……それで、何をすれば良い?」

 

 俺の了承を受け取ったことで、ナガレが意味ありげに笑う。

 

「ふふ、君にやってほしいことはね……」

 

 そしてナガレから告げられた業務内容は俺にとって……いや、全ガンプラビルダーにとって衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スリー!」

「ツー」

「ワン!」

「ドッカーン!」「どっかーん」

 

「みんなー! 集まれー!」

「あつまれー」

「なぜなにナデプラが始まるよー!」

「はじまるよー」

 

 開催されたガンプラ・イブ。

 選手権会場周辺に大量に構えられているガンプラ販売コーナーの一角に、珍妙な光景が広がっていた。

 

「司会のメグミお姉さんでーす!」

「助手のウサギでーす」

 

 一人はエプロンに身を包んだお下げの女性。端麗な容姿に健康的な佇まいは、まさに「司会のお姉さん」と言った装いだ。

 そしてその隣に立っているのが巨大なウサギ――もこもこした造形の、可愛らしいウサギの着ぐるみであった。中の人は何を隠そう、このアワクネ・オチカである。

 

 ナガレから要請された仕事の内容――それは、KTBK社製品の宣伝活動だった。

 

 まあ、それは良いのだ。俺が大会でベスト4まで行ったとは言え、KTBK社はネメシスやPPSEとは違ってまだあまり名前が知られていない会社だし、ここで声を大きくして宣伝を行うこと自体は間違いでもなんでもない。

 ただその宣伝方法が……教育テレビ的なアレだった。ナガレが何に影響されてこんな企画を打ち出したかは、ナデシコファンなら語るまでもないだろう。

 

「ねぇねぇメグミお姉さん」

「ん? 何かなウサギちゃん」

「ナデプラって何? ガンプラじゃないの?」

「良い質問だねー!」

 

 俺は今、司会のお姉さんの隣でウサギの着ぐるみの中で喋っている。

 これが予想以上に暑くて苦しい。冬場だというのに何なんだこれは……いかん、目眩がしてきた。

 どうしてこんな物の中に入っているのかと言うとだ。俺の見た目は色々とアレだから、プラモデルに入門しようとするちびっ子達には怖がられてとっつきにくいだろうという至極尤もな理由からだ。

 理屈はまあわかる。確かに目つきの悪い黒い兄ちゃんよりも、可愛らしいウサギの方が子供は寄ってくるだろうし。実際これが結構評判が良いみたいで、俺達の周りに人だかりが出来ていた。

 だけどこれ、別に俺じゃなくても良いと思うんだ。大会ベスト4の肩書きとか、顔が見えないんだから要らなくねって思うだろう?

 

「ナデプラって言うのはね、KTBK社が新しく作った「機動戦艦ナデシコ」のプラモデルのことなんだ!」

「ああ、ナデシコだね! 大会でも、ブラックサレナを使っている格好良い人が居たね!」

 

 脚本通りに茶番、もとい宣伝を続けていく俺とメグミお姉さん。でもこれ、考えてみれば着ぐるみで良かったかもしれない。なんかこの茶番、無茶苦茶恥ずかしいし。この格好ならキモいとか言われずに遠慮無く話せるし。

 しかしこんなトンチキな格好をしているが、俺達が今やっていることはかなりとんでもないことだ。

 何故なら今行っているKTBK社製品の宣伝とは、ガンダムシリーズ以外のアニメのロボットにおける初のガンプラバトル対応モデルのプラモデルの宣伝なのだから。

 集まってくれた人達もまた、その事実を知ってか次第にざわざわし始めた。

 そんな彼らの前で、司会のメグミお姉さんがピンク色のロボットのイラストが描かれたHG並の大きさのプラモの箱を手に取った。

 

「そう! ガンプラバトルに他のアニメのプラモデルが出れないのはおかしい! だからガンプラみたいに戦える他のプラモデルを作っちゃおう!って言う変態……コホン、お兄さん達が作ったのが、このナデプラなんだー!」

「うわー、すごーい! エステバリスだぁー! しかも色んな種類があるぞー?」

「アキト機、リョーコ機、ヒカル機にイズミ機、そしてアカツキ・ナガレェーのエステバリス! もちろん全フレームも完備してます! 本当は一週間後に発売する予定なんだけど、今日は遠くからも集まってくれた皆さんの為に、フライイングして売っちゃいまーす!」

「わあー、これは買うしかないねー!」

 

 途中からテレビショッピングみたいなノリになってしまったが、これも一応脚本通り。誰だよこの脚本書いた奴、メグミお姉さんも困惑しているじゃないか。

 しかしそれでも俺達の宣伝はちゃんとお客さん達に伝わったようで、彼らはぞろぞろと売り場の箱に手を伸ばしそれぞれのパッケージを確認していた。

 ガンプラバトル対応型プラモデル「ナデプラ」の存在は彼らの価値観に大きな影響を与えたらしく、おそらくアニメ「機動戦艦ナデシコ」を知らない者も驚いたのではないかと思う。

 何より「他のアニメのプラモデルもガンプラバトルで使えるようになった」という事実が、ビルダー達にとってあらゆる可能性へと繋がっていくからだ。

 例えばこれを機に、いつかマジンガーやらゲッターやらのスーパーロボット達がガンプラバトルに参戦する日が来るかもしれない。俺はそれらのアニメは見たことがないけど、それらに愛着のある人達にとっては胸が熱くなってしょうがない話である。

 現に、今回の成功からKTBK社ではナデシコ以外のロボットにもどんどん手を出していくという話が聞こえている。

 まあ俺としては、そんなことよりもこれを機にナデシコのファンが増えてくれれば嬉しいなとだけ思っている。それと、ナデシコ続編の決定! これさえ達成されれば他に言うことはない。

 

「でも、お高いのでしょう?」

 

 商品の宣伝中、お客さんの一人が行儀良く挙手をしながら俺が言う筈だった台詞を奪い、メグミお姉さんに問い掛けた。

 

 ……ってか、君はジュリアン君じゃないか! こんなところで何やってるんですか!?

 

 着ぐるみの中で思わず叫びそうになった俺は悪くないと思う。お客さんの青年、ジュリアン・マッケンジー君の目は興奮気味にメグミお姉さんが持っているエステバリスの箱へと注がれていた。

 ああ、そう言えば彼もナデシコが好きだって戦闘中言ってたっけ。今思い出したけど、その言葉は間違い無かったみたい。

 

「良い質問です! しかし先行販売のこちらのお値段、定価よりも500円安い2000円で売っちゃいまーす! それを安いと思うか高いと思うかは貴方次第!」

「買った!!」

「あ……ありがとうございます」

 

 2000円――ガンプラのようにまだ普及されていない新たなブランドの商品の値段としては、破格すぎるほどの安さだと俺は思う。問題はその品質だが……ジュリアン君の熱心な目を見る限り、某ゲルマン忍者の如く「そんなことはどうでもいい!」といった具合だ。まあ彼なら品質が悪ければ魔改造でも何なりして無理矢理にでもF91イマジンばりの鬼性能のキットへと仕上げるのだろうが、その剣幕はメグミお姉さんをしても少し引かせるものだった。

 ジュリアン君が最初にエステバリス全機を景気よく購入すると、他のお客さん達もそれに釣られて雪崩込むようにレジ前へと押し寄せていった。

 いやあ、これは嬉しい誤算だ。初のナデプラ購入者が超天才ビルダーのジュリアン君になるなんて、社名に泊がつくなんてもんじゃない。ナガレとしてみれば大層ウハウハな話だろう。

 

 

 ……とまあそんな感じで、俺は午前の時刻が終わるまでメグミお姉さんと宣伝活動を続けていた。もちろん、ウサギの着ぐるみを着ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ガンプラ・イブ、午後の部。

 

 無事与えられた業務を終えた俺は楽屋裏で着ぐるみを脱ぐと、販売員の皆さん(特にメグミお姉さん)に労いの言葉を掛けるなり早々とその場を後にした。

 エステバリス達の売れ行きは当初の予想を大きく超え、全てのナデプラが完売することになった。因みに俺も幾つか購入させてもらっている。ナデシコ搭載機はもちろん、まさかダイテツジンまで売ってあるとは思わなくてビビった。開発班はそんなに飛ばして大丈夫かと思わないでもないが、あの変態達なら過労という言葉の方が逃げていきそうな気がするので問題無いだろう。

 

 そんなことを考えながらしばらくぶらぶらと会場を巡っていると、俺は彼女(・・)と再会した。

 

「オチカ、ただいま」

「ああ。おかえり、ラズリ」

 

 銀髪金眼の――合法ロリ。

 ああ、やっぱり俺は彼女のことが大好きなんだなと、入院前と変わらない姿で居る彼女を見て改めて思った。

 そして、彼女の放った一言をひたすらに嬉しく思った。

 今、彼女は俺のところへ来て「ただいま」と言ってくれた。

 それはつまり、俺が彼女の居場所であることを認めてくれているという意味でもある。

 いかんな、目頭が熱くなる。こんな顔を見られるわけにはいかない。バイザーを付けてて良かった。

 

「オチカ、私ね……」

「君に、渡しておきたい物がある。そして、言いたいことも」

「えっ?」

 

 彼女とここで再会したことで理性を抑えられなくなった俺は、地面に膝を着けるなり彼女の左手を掴んでこちらに寄せた。

 そしてその小さな指へと、ガンプラの製作よりも慎重に、銀色の指輪(・・・・・)をはめ込んだ。

 

 ……本当は夜に打ち上げられる予定の花火を見ながらだとか、そんなベタなシチュエーションの中でロマンチックにやりたかったのだが、俺は今この時にやりたいという欲求を抑えられなかった。

 大勢の衆目があろうと関係無い。警察でも通報でも、来るならさっさと来やがれ。

 全ての覚悟を完了させていた俺は、ただこの時の為だけに取っておいた言葉を言い放った。

 

「色々と順番が間違っているかもしれないけど……結婚してくれ、ラズリ」

「……うん……うんっ!」

 

 返事と同時に、俺の両手は彼女の小さな身体を包み込んだ――。

 

 

 

 

 ――こうして、ブラックサレナを使って合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男の戦いは、一応の決着をつけた。

 

 

 ただ一つ心残りがあるとするなら、俺の弱さでお前を最強の機体だってことを証明出来なかったことだ。

 

 黒百合――花言葉は呪いだとか復讐だとか、どうにもおっかないものばかりだけど、中には「恋」という明るい言葉もある。

 

 俺には呪いも復讐も無縁なものだったけれど、この心に満ちた「恋」だけは誰にも負けないと思いたい。

 

 ――だからこんな俺にも、お前を使う資格はあったと……そう思ってもバチは当たらないよな? ブラックサレナ――。

 

 

 

 

 

 【ブラックサレナを使って、合法ロリと結婚する為にガンプラバトルをする男  ~完~ 】

 

 




 お疲れ様でした。これにて合法ロリと結婚する的な意味での物語は完結となります。

 本作はブラックサレナの格好良さを書きたくて書いた作品でしたが、アメイジングエクシアとは流石に相性的にもファイターの技量差的にも厳しいかなぁと思った結果、このような結果になりました。ファイターがアキト(真)なら同じ結果にはまずならなかったでしょうが、アキト(偽)では現状これが精一杯です。
 話的には中途半端かもしれませんが、主人公的には今回で色々と決着がついたのでここで一旦完結とします。
 他にもアイラとレイジの空間に割り込んで意味深に説教をかますラズリとか、「特に腰がね、駄目なんだよ……」とレイジの初ガンプラ製作の場に介入してHGストフリのことをひたすらdisるオチカとか色々とバトル以外の話も考えていましたが、物語の本筋には関係の無い話だと思ったので丸々カットする形となりました。機会があれば番外編として書くかもわかりません。

 原作最終回に介入する話は、投稿まで時間が掛かると思いますが一応予定しています。
 あの場にオチカの他にも男チョマー軍団、ナデオタジュリアン、聖戦士ルワンさんらを参戦させたりとか色々とカオスな展開にしたりとか。
 それと、やっぱり最後はブラックサレナ大勝利で終わる話にしたいという気持ちが強いので。

 それでは、また。


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外伝 大惨事スーパーロボット大戦TRY
愛娘と四天王と魔改造野郎Aチーム


※この番外編では、ナデシコ以外の他作品ネタが大量に出てくるので注意してください。


 

 決勝戦の直後、PPSE社のマシタ会長が失踪した第七回ガンプラバトル世界選手権が終了してから、七年の歳月が流れた。

 会長を失なったPPSEは日本企業のヤジマ商事に吸収され、ガンプラバトルは尚も世界中で続いている。

 一部ではマシタ会長はヤジマ商事によって暗殺されたなどという根も葉もない黒い噂が流れているが、全く持って事実無根、そんなことはないのだということを俺は知っている。

 俺、アワクネ・オチカはマシタ会長が失踪した現場に居合わせていたのだ。いやあ、あの時はびっくりした。ガンプラだけでなく、人間まで瞬間移動しちゃうんだからプラフスキー粒子ってもう何でもありだね。

 

 ……あの時は、色々あったなぁ。決勝戦ではメイジンがマシタ会長に洗脳されてダークメイジンになったり、かと思えば「身体と心は支配されても、ガンプラへの思いだけは忘れんぞォ!」と某野菜人の王子みたいに自力で洗脳を解除しちゃったりとか、色々と大変な決勝戦だった。

 そして気を取り直してぶつかり合ったメイジンとレイジ君達の試合、あれは決勝戦の名に相応しい最高の試合だった。

 アメイジングエクシアダークマター対スタービルドストライク。トランザムシステム対RGシステム。一進一退の高速戦闘はラズリちゃんの目を持ってしても「動きが読めない」と言わせるほどで、あの時の俺ではとてもではないが二人の戦いにはついていけないと思ったものだ。

 

 しかし、最後の勝利者となったファイターは、実は俺も知らない。

 決着付かず――公式の舞台では、第七回ガンプラバトル世界選手権の記録はそうなっている。二人の勝敗が決まる前に、彼らの最高の舞台に水を差すアクシデントが起こったのだ。

 バトルシステムの暴走――まあ、そのことは機会があればまた追々話そうか。ただマシタ会長が失踪するきっかけにもなったその事件は、俺には想像も出来ないカオスな有様だったとだけ言っておこう。チョマー、ジュリアン、あの時はありがとう。マジで助かった。

 

 

 ……さて、俺が七年経った今になってなんでそんな昔の話をしているのかというとだが。

 それは現在、俺()は第七回ガンプラバトル世界選手権当時のビデオを視聴しているからだ。

 当時を懐かしみながらテレビ画面を眺めている俺の膝の上には、それはそれは可愛らしい銀髪美幼女の姿がある。

 国宝をも超越した可愛らしさのその子は、愛しい愛しい妻のラズリちゃん――ではない。

 そう、俺の娘だ。びっくりするほどラズリちゃん似の、俺の自慢の娘である。

 察しの通り、この子こそあの時ラズリちゃんのお腹の中に居た子供だ。目つきの悪い俺に似なくて良かったと、この子のラズリちゃん譲りの金色の目を見る度につくづく思うよ。

 名前は、ユリ。アワクネ・ユリだ。ラズリちゃんと二人で考えたこの名前の由来は色々とあるのだが、その辺りのことはまあ適当に想像してくれるとありがたい。

 子育てはやっぱり俺が想像していたよりも遥かに大変だったが、この子があの時に産まれてきてくれて本当に良かったといつも思う。それはきっと、仮に産まれてきた子供が愛らしさの欠片も無い俺似の目つきの悪い男だったとしても変わらないのだろう。自分の子供というものはそれだけ親にとって特別なものなのだということを、俺はしみじみと実感していた。

 

「お父さん、どうしてこの試合には続きがないんですか?」

「ああ、実はこの試合中にしょうもない事故が起きてね。その後も色々とゴタゴタがあったもんだから、二人は決着をつけられなかったんだ」

「そうなんですか……勿体ないですね」

「それはユリちゃんにとって、勝敗が読めない試合だからかい?」

「はい。どっちが勝つのかわからない試合なんて、この大会ではこの試合と準決勝戦だけでしたから」

「そうか」

 

 銀色のさらさらした髪を撫でながら、俺は娘との会話を楽しむ。

 最近は仕事が忙しくて構ってあげられる時間が少なかった分、今日のような休日では思う存分家族サービスをしなくちゃなと思う。

 KTBK社の正社員として働き始めてから早七年、俺はどうしてこうなったのやら無駄に偉い立場になってしまったもんだから、平日は忙しくて仕方が無い。ニート時代がもはや懐かしいとすら思う。

 まあそのおかげで立派なマイホームを建てることが出来たわけだし、ホシノさん家からもラズリちゃんの夫となることを(ボコボコに殴られながらも)許されたのだ。こんな俺を雇ってくれたナガレ会長殿には感謝しているし、なんだかんだで楽しい職場を提供してくれる仕事仲間達にも同じぐらい感謝している。

 

 ……ああ、俺の話はどうでもいい?

 娘のことを詳しく話せって?

 その意気や良し! ならば我が愛娘の自慢話を親馬鹿濃度全開で話してくれるわぁっ!

 

「オチカ、ユリ、ルルヤマさんが迎えに来たよ」

 

 ――と、そうしたいところだけどそろそろ時間のようだ。

 実は俺達、今から一家で静岡まで旅行に行くんだよね。娘についての話はその先ででもするとしようか。

 

「行こうか、ユリちゃん」

「はい」

 

 俺にとっては昨年の選手権以来の静岡だが、今回のように仕事の絡まないプライベートな時間で行くのは実に久々だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひっとりあるきの」

「まーいれぼりゅーしょーん」

 

 空港に向かう乗用車の中、助手席に座る俺は後部座席から聴こえてくる母娘の「Dearest」にバイザーの下で目を細めた。

 いやあ、二人とも歌が上手くて素晴らしいですわ。いつか家族でカラオケに行くのも良いかもしれないなぁと、そんなことを考えながら俺はラズリちゃんとユリちゃんの歌声を心地よく聴いていた。

 

「はは、娘さん、ラズリさんと並ぶとまるで姉妹みたいですね」

「……母と子だぞ?」

「知っていますよ。しかし見る度に、貴方の奥さんのお若さには驚かされる」

「……そうか」

 

 運転席に座っているひょろ長い兄ちゃんの言葉に、俺は全面的に同意する。

 今のラズリちゃんの年齢は二十五歳と十分に立派な成人なのだが、彼女の姿はまるで呪いを受けたようにあの頃のままだ。いや、ロリ化維持の呪いとか大歓迎なんですけどね。

 

「ルルヤマ、運転ありがとう」

「ありがとーございます」

「なに、オチカさんには日頃から職場でお世話になっていますからね」

「KTBK四天王のミスター・ゼロが、同僚の家族サービスに付き合ってくれるとはな」

「意外ですか?」

「……まあ、仕事中のお前を見ていればな」

 

 さて、皆さんお気付きかと思いますが、この中に一人、俺達の家族ではない人間が居ます。

 乗用車の運転席でハンドルを握っている美青年の名前は、ルルヤマ・ラン。職場では訳あってミスター・ゼロと名乗っている彼は俺の仕事仲間であり、ガンプラバトルでは良きライバルの一人でもある。

 仕事中では中々にはっちゃけた男だが、それ以外の時間では少々妹好きが行き過ぎているだけの至って爽やかな好青年である。

 彼は俺とは違って仕事として静岡に行くらしく、行き先も丁度同じということで途中までは同行することになっている。今彼の車に乗せてもらっているのもその為だ。

 俺の仕事仲間ということで、彼もまたKTBK社の一員だ。そしてKTBK社の誇る最強のガンプラファイター集団、KTBK四天王の一人でもある。因みに俺もそのKTBK四天王の一人として数えられていたりする。

 え? KTBK四天王とは何かって? んなもん俺は知らんよ。KTBK社の看板ファイターとして仕事をしている内に、気付いたら周りからそう呼ばれていたんだ。まあ四天王っていう響き自体は普通に格好良いし、最強の集団とか呼ばれてぶっちゃけときめいちゃってる俺は全然構わないんだけどね。四天王最弱ポジは多分俺だろうけど。

 ……と、そんなくだらないことを考えていたら運転席のルルヤマ君からお呼びが掛かった。

 

「空港までしばらくありますし、少しお話しませんかね」

「ユリちゃんに話しかけられるまでは良いだろう」

「それはどうも」

 

 車の運転手というものは孤独な立場である。それも、家族旅行に同行する身とあっては肩身も狭かろう。まあ進んで運転手を買って出たのは彼の方だし、コミュニケーション強者である彼はその状況を特に気にしてもいなさそうだけどね。

 まあ、俺も後ろでラズリちゃんとユリちゃんがわいわいやっている中に入れない寂しさを紛らわす為に、しばらくは彼との雑談に付き合うことにした。

 

「今日皆さんが見学しに行くニールセン・ラボですけど、どうやら全国大会に出場する学生の子達が合宿に使っているようですね」

「そう言えば、もうそんな時期か」

 

 ああ、結構面白い話題を持ってきたね。今回の静岡旅行で最初に行くことになっているのはニールセン・ラボ。第七回ガンプラバトル選手権にも出場していたあのニルス・ニールセン……いや、今はヤジマ・ニルス君だった。彼が支配人をやっているガンプラ専門の研究施設で、所内では未だに謎の多いプラフスキー粒子の研究活動を行っており、観光地としてはガンプラ博物館的なものも開かれているガンプラファンとしては堪らない施設の一つだ。

 で、そのニールセン・ラボには業界で最高峰のバトル環境が整っていたりして、全国、はては世界中から強豪たるガンプラバトルファイター達が修行に訪れたりしている。

 そして夏休みにもなると、日本国内で開催される中高生によるガンプラバトル全国大会の出場チームなども合宿に扱うことが多い。……何というか、ここまでガンプラバトルがメジャーな競技になってくれるとはおじさんは嬉しいよ。

 

「それで、今年はどこの学校が来ているんだ?」

「有名どころで言いますと、昨年の優勝校の私立ガンプラ学園や、鹿児島代表の我梅学園。他に目ぼしいところと言えばあのイオリ・セイの母校、西東京代表の私立聖鳳学園が来ますね。聖鳳学園、トライファイターズの試合は俺も一度見に行ったことがありますが、中々面白いチームでしたよ」

 

 ルルヤマ君の語る合宿参加校の中には俺が予想していた学校もあれば、予想していなかった意外な学校の名前もあった。しかし鹿児島代表の子達には同じ九州民として頑張ってもらいたいものだと、上から目線で言ってみる。

 

「お前はどこに注目している?」

 

 ルルヤマ君の出身は、確か神奈川県だったっけ。

 彼も地元の高校を応援しているのかなと、この七年間で向上した俺のコミュニケーション能力を持って聞いてみる。

 すると、その点では思った通りではあったが別の意味で興味の沸く言葉を返してきた。

 

「俺が個人的に気に入っているのは神奈川県代表の本牧学園ですね。あそこは俺の母校でもありますし……何より、面白いガンプラを扱う子が居てね。ああそうそう、この学校もニールセン・ラボに来ているそうです」

「本枚か……あそこはカリマ・ケイのワンマンチームだと思ったが」

「良い新人が二人入ったんですよ。ガンダムMark-Sein(ザイン)を駆るアスカ・シンと、キュベレイMark-Nicht(ニヒト)を駆るミナキ・ソウシ……貴方も彼らを見れば、きっと気に入ると思います」

「……ああ、機体名でわかるぞ。俺達の同類だな、そいつらは」

 

 何その機体名すっげぇ気になるんですけど!? っと俺はバイザーの下で目を見開く。

 ガンプラバトルの大会では大人や子供という区分に限らず、毎年かつての俺みたいな奴が冗談みたいなガンプラを駆って現れたりする。メイジン・カワグチはそんな彼らに「ガンプラは自由だ!」と変態機体の出場を認めてそう言っているが、俺も大体は同じ意見だ。

 勝ち負けが全てではない。ただ自分の好きな機体を使って、好きな戦い方で挑む。単純だが、遊びであるが故にそれがガンプラバトルの一番の醍醐味だと思うのだ。その考え方は、俺の中で昔から変わっていなかった。

 ……にしても、ガンダムMark-Sein(ザイン)とキュベレイMark-Nichit(ニヒト)か。カリマ・ケイ君のモビルアーマー次第では、絵面的に凄いことになりそうだな。

 

「気が向いたら見に行ってやってください。二人とも貴方に憧れているみたいなので、顔を出すと喜ぶと思いますよ」

「……一応、四天王とか大層な名で呼ばれているんだ。一部の人間ばかり特別扱いは出来ないぞ」

「そこはまあ、さじ加減ということで」

 

 一応はプロということもあるので、立場上は一部の人間にばかり拘ってはいけないのが難しいところだ。

 しかし学生のバトルというものも見ていて非常に面白いので、時間があれば家族みんなで一緒に見に行こうかなと思う。

 

 ただ、何よりも忘れてはならないのは――

 

「お父さん、酔いました……」

「ルルヤマ、何をやっている! パーキング・エリアだ!」

「了解した! このミスター・ゼロが車に命じる! 停まれ!」

 

 ――娘のユリちゃんの希望に、どこまでも従うことだ。

 

 アワクネ・オチカ、親馬鹿です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンプラバトルとは、時が経てば主流が変わってくるものだ。

 フィンランドのカイザーさんが無双していた頃は火力重視の機体が覇権を握り、俺が初めて世界大会に出場した頃のガンプラバトルでは、よりプラフスキー粒子を上手く応用出来るかという自由な発想が勝敗をわかっていた。

 そして近年では高機動からの格闘戦がガンプラバトルにおける主流となっている。そのパイオニアとなったのは、やはりメイジン・カワグチのアメイジングエクシアとレイジ君のスタービルドストライクだろうか。

 格闘機体の威力はレイジ君の(正確にはレイジ君とイオリ・セイ君のだが)スタービルドストライクのビルドナックルが世界大会の舞台において絶大な威力を発揮し、数々の強豪を殴っては貫いていたことから実証されており、メイジンのアメイジングエクシアは言わずもがな。トランザムシステムからの超高機動は、並のガンプラでは何をされたのかもわからず真っ二つにされてしまう凶悪なものだ。

 そんな彼らをリスペクトしてか、近年の――特に学生の大会などではGNドライヴを積んだガンプラや殴り合い主体のモビルファイターのようなガンプラが流行っているようだ。まあGNドライヴに関しては丁度ガンダムOOがリアルタイム世代直撃だからというのもあるのだろうと思っている。

 中高生最強のチームと言われている私立ガンプラ学園もまた、彼らの使うガンプラには今年もGNドライヴが動力として積まれていた。

 うーん、キジマ・ウィルフリット君のトランジェントガンダムアルストロメリアは相変わらずナイスなガンプラだ。流石はあのジュリアンが育てたファイターだけのことはある――と、俺はまたまた上から目線で彼らの訓練風景を遠目に眺めていた。

 

 

 話は少し遡る。

 道中で俺の愛娘が車酔いに遭うという悲劇的なアクシデントが発生したものの、ユリちゃんはパーキング・エリアで休憩すると程なくして回復し、何だか俺の目が怖かったから本気を出したらしく以後覚醒したルルヤマ君による揺れを微塵も起こさない変態的な運転テクニックによって快適に空港まで到着。そのまま飛行機による移動で無事に静岡へと着陸した。

 

 ――それから電車で数分後、俺達は最初の目的地であるニールセン・ラボへと到着した。

 

「お久しぶりです、ミスター・ゼロ。そしてアワクネ・オチカさん。しかしアワクネさんまでいらっしゃるとは意外でした」

「俺は仕事で来たわけではない」

「そう。私は仕事だが、彼はプライベートでの来訪だ」

「そ、そうですか、これは失礼」

 

 ラボに入るなり俺達は施設の責任者であるヤジマ・ニルス君直々に歓迎され、挨拶を交わした。その際、ルルヤマ君は皇帝のようなマントに身を包み、頭にはフルフェイスの仮面を被っていた。声のトーンまで変えて微妙に尊大な態度を取っているが、これは決して彼がツッコミ待ちだとか、ふざけているわけではない。仕事中の俺がテンカワ特製黒衣を纏っているように、彼のこの格好もまた仕事着なのである。全てはナガレ会長のふざけたもとい粋な計らいである。

 

「ユリ、こんにちはは?」

「こんにちはー」

「こんにちは。皆さんは家族旅行ですか?」

「ああ、敵情視察ではないから安心してくれ」

「はは、ここは観光地としても力を入れていますからね。お楽しみ頂けると思いますよ」

 

 そんなルルヤマ君もといミスター・ゼロの方をなるべく見ないようにと言った様子でこちらに顔を向けたニルス君が、ラズリちゃんとユリちゃんのやり取りを見て微笑ましげに頬を緩める。わかる、わかるぞその気持ち! 見た目姉妹にしか見えない幼女二人が母と子のやり取りをする画は微笑ましかろう! 可愛かろう! フハハ!

 ……しかしニルス君もご婦人と結婚して幾らか経つが、まだ子供は作っていないのだろうか。そんなことを聞くと、それも良いかもしれませんねと至って普通に返された。うむ、子供はいいものだぞ。

 

「ではミスター・プリンス、私はこれでしばし失礼する。良い旅を」

「勝手にそう呼ぶな」

「ルルヤマさん、ありがとーございました」

「私の名はミスター・ゼロだ! ふははは、さらばだ盟友!」

 

 俺達の和やかな会話を吹き飛ばしながら、ルルヤマ君が颯爽とその場から離れていく。

 それも職業上必要な役作りなのだろうが、あの格好になると性格まで変わるのは気のせいではないだろう。俺は慣れているから良いにしろ、ニルス君やタイミング悪く入口から入ってきた合宿生と思わしき少年達はみんなドン引きしていたぞ。

 ってあれ? そこの赤毛の君、何目をキラキラさせてるの? もしかしてアレを格好良いって思ったりとか……ま、まあ、中学生ぐらいの年齢みたいだしそれも仕方無いか。こういうことを俺が言うと「お前が言うな」って言われそうだけどね。

 って言うか、あの子達を引率しているのラル大尉じゃないか! これは久しぶりだ。

 

「おお、オチカ君とラズリ君。久しぶりだな」

「あっ、ラルさん」

「ご無沙汰している」

「久しぶり、ラルさん」

 

 貫禄のある佇まい、出っ張った腹。その正体は三次元化したランバ・ラル大尉と専らの噂の彼こそが、ガンプラバトル界における大御所の一人、ラル大尉である。

 大尉はこちらに気がつくとフランクに挨拶を交わし、そして俺の足元に立つめちゃ可愛い娘の方へと興味深げに視線を向けた。

 

「しかしそちらの子は、小学生の部の優勝者のユリ君では……そうか! その子は君達の子だったのか! 通りで素晴らしいファイターだと思った」

「えっへん」

 

 どうやらラル大尉はユリちゃんのことを知っている――と言うか、ユリちゃんの方も大尉の名前を呼んでたし、お互いに面識があるようだ。俺は知らなかったが、ラズリちゃんは知っていたのだろう。特に驚いた様子は無かった。

 

「会ったことがあるのか?」

「ユリ、ラルさんと会ったことあるよね?」

「はい。春の大会の時、私の試合を見に来てくれました」

「……流石は大尉だ。小学生の部までチェック済みとは」

「なに、次代を担うファイター達の戦いだ。老骨として調べておかねばな」

 

 ガンプラバトルの大会にも色々と区分がある。

 一番有名なのは世界中のガンプラファイターが集まる全年齢層による世界選手権だが、この日本国内では小学生の部、中高生の部とわかれて行う学生用の大会がある。それは、ガンプラバトルが昔よりも遥かにメジャーな競技になったことによる変化の一つだ。

 そして俺とラズリちゃんの愛の結晶ことユリちゃんは、小学二年生でありながらもその小学生の部で全国優勝を果たしている。いやあ、我ながら自慢の娘だ。

 

「大尉は中高生の視察か?」

「うむ、それもあるが今回はこの子達、トライファイターズの合宿をな」

「トライファイターズ……聖鳳学園か。なるほど」

 

 どうやらラル大尉は今、あのイオリ・セイの母校である聖鳳学園ガンプラバトル部の顧問をしているらしい。

 フラフラと色々な場所に移動することの多い彼がそうやって一つの場所に拘るというのは珍しい、と言うか、俺の知る限りこれが初めてだ。

 ルルヤマ君も気にしていたが、聖鳳学園のトライファイターズとやらはよほど高いポテンシャルを秘めているようだ。

 そのメンバーの一員と思わしき赤毛の男の子の目を見ると、俺も何となくわかるような気がした。

 

「……似ているな」

「えっ?」

 

 そう、似ているのだ。

 赤い髪と言い、澄んだ目と言い。

 第七回ガンプラバトル世界選手権でメイジンと互角に渡り合った少年、レイジ君と。

 それはもう、血縁関係を疑うほどに。

 

「あの子の弟か」

「いや、違うぞ」

「そうか」

 

 人は見た目だけではないとは言うが、最初に物事を判断するのは見た目から入るのがほとんどだ。

 俺はそれほどレイジ君と話したことはないが、あの少年と姿が似ている赤毛の彼には何となく興味を抱いた。戦い方も似ていたりするのかなと、そのぐらいの興味だ。

 まあ、今日は家族サービスの為に来た以上、彼ら学生達と関わる気はさらさら無かったが。

 

「あ、あの、アワクネ・オチカさんですよね!?」

「うおっ、ユウマ、どうしたんだ?」

「ユウ君、あの人のファンなのよ……」

 

 あっ、でもトライファイターズの眼鏡の少年にサインを求められた時は全力で受けてあげた。彼、俺のファンなんだって。バトルではスーパーエステバリスを使っているんだと聞いて、おじさん感動したよ。

 

 ……俺の今までの戦いは、ちゃんと子供達の心に届いていたんだってさ。

 

 

 



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馬鹿ばっかと歩むユウマの日記

流行りの日記形式に挑戦しました。
キャラ崩壊、設定崩壊にご注意ください。


 

 ○月×日

 

 全国大会への出場が決まり、ガンプラの整備も落ち着いてきたので久しぶりに日記を書くことにした。しかしまあ、日記とは言ってもここに書くのはリアルでは口に出せない愚痴みたいなものが主になっていくのだろう。セカイの馬鹿とかセカイの馬鹿とか……しかしなんだかんだでこの大会、アイツに助けられてばかりいるのが癪だ。決して口に出すつもりはないが、接近戦に限定すればアイツの技量は全国でもトップクラスのものだろう。

 格闘家のくせに……いや、格闘家だからこその次元覇王流か。あれの理不尽さは正直敵に回したくない。

 さて、明日はニールセンラボに合宿だ。他校のチームも参加しているだろうし、僕が目を光らせておかないとな。

 

 

 

 ○月×日 ニールセンラボ

 

 合宿――と言う時点である程度は覚悟していたが、想像以上に色々なことがあった一日だった。

 ガンプラ学園のアドウ・サガ……因縁のある相手ではあるが、今の僕はそれほど恨んではいない。寧ろ、奴には少しだけ感謝しているぐらいだ。

 昔、奴にこっぴどくやられてガンプラバトルが怖くなったのがきっかけで、僕はガンプラバトルから離れた。そして、暇つぶしに機動戦艦ナデシコの再放送を見た。見た。見たのだ。

 一度ガンプラバトルから離れたことで、僕はナデシコに出会った。そして見事にハマり、今に至る。

 アドウ・サガとの戦いで荒んだ心を、ナデシコというアニメが癒してくれたのだ。ルリルリマジルリルリ。フミちゃんが言うにはあの時の僕のハマりっぷりには引いていたらしい。うん、まあ、それもいい思い出だ。

 さて、ガンプラバトルの合宿にまで来ておいてナデシコナデシコ言っている理由だが、僕はこの日、あの人と会った。

 

 KTBK社の四大ビルドファイター、通称KTBK四天王の一人、アワクネ・オチカ。

 

 ブラックサレナを操り、今に至るまでガンプラバトル選手権で数多の名勝負を披露してきた現役のプロファイターだ。

 偶然彼の姿を見かけた僕は、彼も他の四天王達と一緒に視察に来たのかと思ったが、どうやら彼は家族との旅行の一環でここを訪れたらしい。ニールセンラボを観光地に選んだのは娘のユリちゃんたっての希望らしく、オチカさんもこの数日間は家族サービスに専念するそうだ。

 尊敬するオチカさんから、僕はサインと激励の言葉を貰った。彼の姿は黒アキトのように渋くカッコ良く、彼のことをロリコンクソ野郎と呼んでるネット民なんかは死ねばいいのにと思った。

 

 そんな感動の対面の後は予定通りの強化訓練だ。他校のチームも交えて、僕達は最新式のバトルシステムの上で模擬戦を行った。フィールドは選手権のサバイバル戦にも使われているタイプのものであり、既に利用者が居ても僕達が邪魔になることもなく、取り決め上は乱入も可という対戦相手のセッティングには困らないゲーセンのような方式だった。

 そのフィールドで僕達が遭遇したのは、神奈川県代表の本牧学園――チーム名は「竜宮城」。去年までは「グレートK」という名前だったらしいが、メンバーの一新から改名したらしい。

 リーダーにはMA使いとして有名なカリマ・ケイ。両サイドを固めるのはなんかどこかで見たことがある長髪の男達。名前はアスカ・シンとミナキ・ソウシだ。

 去年まではカリマのワンマンチームだったが、この二人が加わったことによって戦略に幅が広がったとラルさんが解説してくれた。僕も実際、彼らと模擬戦をしてみてその強さは身に染みている。

 カリマはケルディム、アスカはフォースインパルス、ソウシはキュベレイを使っていたが、三人とも今回は本戦用のガンプラではなかったらしい。しかしそんなハンデを一切感じさせない戦いぶりであり、僕達は苦戦を強いられた。

 彼らは僕達以上にチームワークが良かった。三対三のチーム戦という競技の特色を僕達以上に上手く生かしていたのだ。

 特にソウシの戦術指揮は厄介だった。例によってセカイが次元覇王流拳法で突破口を開こうとしてくれたが、指揮官としての彼はそんなものは慣れっこだと言わんばかりに冷静に、落ち着いて対処に当たっていた。

 彼らは決してセカイの土俵には上がらず、ミドルレンジからのファンネル、カリマのケルディムからの狙撃を交えながらセカイの接近を試合開始から一切許さなかった。

 僕はと言うとアスカのフォースインパルスの相手に手が一杯であり、セカイの援護に回れなかったのが悔やまれるところだ。

 あのまま戦い続けていたら負けていたとは思いたくないが、僕達は彼らを相手に常に後手に回っていた。今更付け焼刃かもしれないが、僕達もチーム戦についてもっと理解するべきなのかもしれない。予選では上手いこと一対一の状況に持ち込めていたが、これからはそうもいかないだろうから。

 

 さて、僕はさっき「あのまま続けていたら」と言った。そう言ったのはこの後、思わぬ形でバトルシステムが止められたからである。

 

「おい君達、少しは自重しなさい!」

 

 誰かがそう言って、こちらの戦いも巻き込んでバトルシステムを強制停止させたのだ。

 しかしその言葉は、もちろん僕達に向けられたものではない。どうやら彼らの方で、一つ揉め事が発生していた様子だった。 

 

 僕がアドウ・サガと再会――というか、奴の存在に気づいたのもその時だった。

 

 僕達が戦っていたフィールドでは、奴の居るガンプラ学園もまた他校のチームと戦闘をしていたのだ。

 ラルさんが言うにはアドウは昔の僕にしていたようなえげつない戦い方で一方的に相手のガンプラを痛めつけていたようで……それを見かねた彼が、颯爽と止めに入ったとのことだ。

 三代目、メイジン・カワグチが。

 伝説のガンプラ、アメイジングレッドウォーリアを駆り、彼はアドウに熱い説教をかましたらしい。竜宮城との模擬戦に集中していた為僕はその光景を見ることは出来なかったが、メイジンは常人の三倍礼節を重んじるファイターだと有名だ。アドウもその説教で改心してほしいもんだと思ったが、彼らガンプラ学園を取り巻く騒動はまだ終わらない。

 

「大人げないな、メイジン。強者が弱者を虐げない……結構だ。しかし君自身もまた絶対的な強者であるということを理解しなければ、それは愚者の行いも同じだ」

 

 アメイジングレッドウォーリアがゆったりと空から降臨してきたのと同じように、漆黒の機体が両腕を広げた姿で降りてきた。

 KTBK社製の新シリーズ――その最先端に立つガンプラの名は、ガウェイン。ガンプラである。

 

「私は――ゼロ。力ある者よ、我を恐れよ!」

 

 KTBK四天王きっての変態もといカリスマと呼ばれている男、ミスター・ゼロ。ガンプラと同じく漆黒の衣装を纏い、仮面を被ったその正体は謎に包まれている。

 ガンプラバトル界の大物が二人、その場に対峙する。これにはメイジンも意外だったらしく、そしてさらに予想外なことに、立て続けにもう大物がもう一人参入してきた。

 

 ――チャララーン~チャララーラ~チャラ~ン♬

 

 やたらカッコいいBGMと共に、彼のガンプラが混沌としたフィールドに舞い込んだ。

 それはメイジンのアメイジングレッドウォーリアとは別の意味で「伝説」と呼ばれている存在であり、かつて大人の事情により存在そのものが抹消された筈の機体――人はそれを、ヒュッケバインMarkⅢ《トロンべ》と呼んだ。

 

「ゼロよ、メイジンの相手は私が引き受けよう」

 

 こちらもKTBK四天王の一人、ショクツ・シークレッター。金髪のロン毛にイカしたサングラスを掛けた、黒いコスチュームの男だった。

 これでKTBK四天王が二人、家族旅行に来ているオチカさんを含めれば三人がニールセンラボに居ることになる。そこにメイジン・カワグチである。これは濃い。ちょっとアドウが可哀想になってくるぐらい濃い面子である。

 

 さて、メイジンと二人の四天王が一堂に会すると、何故か一触即発な雰囲気になる。ガンプラファイターにとってガンプラバトルとは挨拶のようなもの。彼らほどのプロになれば、もはや理由を持って戦う必要は無いのかもしれない。

 そんなこんなでメイジンと二人の四天王の戦いが始まりそうになり――話はバトルシステムの強制終了の件へと戻る。

 

 要はお前ら自重しろよとガンプラ学園の顧問が怒ったのだ。

 

 巻き込まれた僕達は完全なとばっちりだったが、こんな理由が背景にあれば仕方が無いと納得した。そう、ガンプラバトル界にはこういう言葉があるのだ。

 

「メイジンなら仕方ない」

 

「KTBK四天王は(変態だから)仕方ない」と。

 

 

 それからのこと。ほとんどノリと勢いでバトルに水を差してしまったことのお詫びとして、なんとメイジンが三時間ほど僕達の訓練に付き合ってくれることになった。メイジンの付き人、レディーカワグチさんも一緒にだ。竜宮城の人達もKTBK四天王の二人が特訓を見てくれる話になり、僕達はお互い得をしたと言ってもいいだろう。

 まあセカイだけは決着がつけられなかったことに納得出来ず、フラストレーションを解放しようと他のバトルフィールドに向かっていったが……今思うとこの時、僕は無理にでも止めておくべきだったのかもしれない。

 

 ――しばらくして帰ってきたセカイの手には、それはもう無惨な姿に破壊されたビルドバーニングが抱えられていたのだから。

 

 その有様にはラルさんもフミちゃんも絶句しており、この僕も同じように言葉を失った。

 バラバラになったビルドバーニングの姿が意味しているのは、セカイが誰かに負けたということだ。それも、ダメージレベル設定が基本となっている現代ガンプラバトルとしては異常とも言える酷い壊され方だった。

 恐らくは、オールド式のシステムで戦ったのだろう。いや、それはこの件に関しては大したことはないか。

 ただ僕には、あのセカイがここまでやられたということがすぐには信じられなかった。

 そしてもっと信じられなかったのは、セカイがいつもの元気を失った目で言ったこの言葉だ。

 

「……言い訳出来ないぐらいやられたよ……七歳の、女の子にさ」

 

 

 

 

 ○月×日

 

 合宿二日目。今日は昨日のメイジンの言葉を参考にしながら、戦場での立ち回り方をおさらいした。アスカとの戦闘を糧に新しいガンプラの製作プランも浮かんでいるが、そちらは家に帰ってからでも十分間に合う。合宿中はニールセンラボの設備でしか出来ないことに取り組むべきだというラルさんのアドバイスには僕も賛成だった。

 フミちゃんも何か、メイジン達との交流には得るものがあったようだ。レディーカワグチさんからは少し厳しいことを言われていた様子だったが、それを糧に新しいガンプラのプランを思いついたらしい。全国大会まで、僕達の方は順調に仕上がりそうだ。

 問題なのはセカイ……ガンプラバトルを始めて初めて経験した挫折には、流石にアイツも堪えたようだ。

 もしやとは思ったが昨日、セカイが戦ったのはアワクネ・ユリちゃん。オチカさんの娘だった。

 ユリちゃんのことは小学生大会の優勝者として僕も知っていたが、セカイがあそこまで落ち込むほどの実力があるとは思っていなかったものだ。

 ガンプラバトルにおいて年齢の違いは屋外スポーツほど大きくはないが、あの子は確か小学二年生だ。反応速度においても情報処理能力に関しても、幼い彼女と僕達とでは大きな差がある筈だった。

 しかしセカイが言うには、セカイの攻撃は最初から最後まで全く彼女のガンプラに通じず、得意の次元覇王流すら簡単に避けられてしまったのだそうだ。あの拳法馬鹿はあれに命を懸けているからな……それは、落ち込みもするか。

 セカイはユリちゃんのガンプラの動きに全く着いていくことが出来ず、「遊ばれた」とも言っていた。

 拳を避けられれば突き出した腕に足を乗せられ、振り落とそうとすれば額にデコピンを喰らわせられる。熱くなって次元覇王流奥義を繰り出そうとしたら次の瞬間、セカイはユリちゃんのガンプラが何をしたのかわからなかったそうだ。気がついたら頭部、両腕、胴部、両足をバラバラにされたビルドバーニングの姿が転がっていて、セカイはバトルに負けていたと――そういう経緯だ。

 ラルさんに聞いてみると、ユリちゃんのガンプラは機動新世紀ガンダムXに登場する「ベルティゴ」の改修機らしい。ふむ、見る目あるじゃないか。

 まだ幼いユリちゃんが自力でSD以外のガンプラを組み立てることはオチカさんが止めているが、機体の設計は全てユリちゃんがしているとのことだ。そしてユリちゃんが設計したガンプラを、ユリちゃんの母さんが組み立てたのだという話で……恐れればいいのやらほのぼのすればいいのやら、僕にはわからない。

 しかし七歳でガンプラの設計をするとは末恐ろしい。何より既に中高生の全国クラスの腕を持っているというのが、才能の違いを思い知らされた気がする。流石は、オチカさんの子供だ。

 

 

 ○月×日

 

 合宿最終日。本枚高校のミナキ・ソウシと意見を語り合った。

 僕もあまり口が上手い方ではないが、彼は僕以上に不器用な男みたいだ。それでもちゃんと話してみるといい奴で、中々気の合う奴だったので連絡先を交換しておいた。敵ながら彼の戦術指揮は見習うべきところだ。

 セカイの奴も今日はすっかり立ち直った様子で、思った通り心配は要らなかったようだ。そうそう、壊れたビルドバーニングはまだ直ってはいない為、アイツには僕の予備機体であるライトニングを貸してやった。拳法以外の戦い方を覚える良い機会だろう。次元覇王流一本じゃ厳しいと思ったのか、アイツも僕の指導を熱心に聞いていた。

 ……しかし、火器の扱いはほんと駄目だなアイツは。まあ、サーベルの扱いはコツを掴むのが早く、すぐに良くなったが。

 

 そんなこんなで色々あり、僕達の合宿は終わった。これからは新機体の製作、あとはビルドバーニングもこの際改修してやるか――と思ってラルさんの車に乗り込んだのだが、セカイからの思わぬ一言に驚いた。

 

「ユウマ、俺にガンプラを作らせてくれ」

 

 ……あの拳法馬鹿が、自分からそんなことを言うなんてな。中々、いい方向に変わっているじゃないかと某グラサン風に僕はほくそ笑んだ。

 

 

 ○月×日

 

 ガンプラ製作開始。セカイへのレッスンと並行するが僕の方は順調だ。

 

 

 ○月×日

 

 やばい、順調でもなさそう……

 セカイにはとりあえずHGゴッドガンダムを作らせてやった。初めてにしてはあんなもんだろう。

 

 

 ○月×日

 

 おい、なんだこれ予定と違う。

 

 

 ○月×日

 

 余裕が出来たのかセカイの方はフミちゃんが見てくれるようになった。スターウイニングガンダムか……僕も早く完成させなきゃいけないんだが……何故上手くいかないんだ?

 

 

 ○月×日

 

 セカイが「俺に足りないものがわかった。それはガンダムだ!」とか言い出してレンタルしてきた機動武闘伝Gガンダムを見始めた。……アイツは良くも悪くも拳法一直線で、ガンダムの知識が疎かったからな。確かに足りないっちゃあ、足りないだろう。フミちゃんも一緒に見ていたが僕はガンプラの製作に集中だ。ミライさん、お茶ありがとうございました。愛しています。

 

 

 ○月×日

 

 シュバルツゥゥゥゥゥ!!

 

 

 ○月×日

 

 師匠おおおおおおおおおおっ!!

 

 

 ○月×日

 

 いつ見てもGガンの後半は泣ける。僕はXが一番好きだけど、Gもいいよね。あっ、ガンプラの製作はサボっていない。ただ、思うようにいかないんだ。明日はセカイに貸していたライトニングを返してもらい、少し試してみることにする。大会まであと僅か……早く仕上げないとな。

 

 

 ○月×日

 

 セカイのガンプラが完成した。

 その名はガンダムビルドバーニングゴッド。その名の通り、ゴッドガンダムとビルドバーニングをミキシングした機体だ。

 バラバラになってからわかったことだが、ビルドバーニングには想像以上にとんでもないギミックが隠されていた。流石セイ義兄さんの作ったガンプラだ……もっと使い方を調べていれば、もっと色々出来たのにと悔やむ。

 新たに解明することが出来たビルドバーニングのシステムは、ゴッドガンダムのパーツと非常に相性が良かった。恐らく、実戦では今までのビルドバーニング以上の性能を発揮することが出来るだろう。

 もちろん、ミキシングの許可はセイ義兄さんに取っておいた。というか三人で謝りに行った。部室に置いてあったガンプラを使用した挙句壊してしまったのだから、当然だろう。

 だけどセイ義兄さんは笑って僕達を許してくれた。ただ、直したり改修するのは自分達でやってくれと。

 そして、セイ義兄さんはセカイに言った。

 

 ――このガンプラはもう君の物だと、だから君の手で、新しい命を吹き込んでやってくれと。

 

 そうして生まれ変わったのがセカイの新しいガンプラ、ガンダムビルドバーニングゴッドだ。

 命を吹き込む――その言葉で、僕のガンプラ製作にも道が開けた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ○月×日 大会前夜

 

 やっと完成!! ぶっつけ本番上等だあああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全日本ガンプラバトル選手権大会が、遂に開幕した。

 会場にはメイジン・カワグチを始めとする大御所に加え、KTBK社からアワクネ・オチカ、ミスター・ゼロの姿も見える。

 ガンプラバトル界の未来を担う中高生の大会には、それだけの注目が集まっているのだ。この緊張感の中で戦える喜びは何事にも替えがたく、尊いものだった。

 

 トライファイターズが始動する第一回戦が始まり、カミキ・セカイのビルドバーニングゴッド、ホシノ・フミナのスターウイニングガンダムが立て続けにカタパルトから打ち出されていく。

 しかしチームの三機目――後方支援を役割とするコウサカ・ユウマのガンプラの姿は、すぐには現れなかった。

 対戦相手であるオホーツク学園のガンプラと仲間達が交戦に入った時ですら、彼はまだ出てこない。

 動かないのだ。ガンプラが。

 

「何やっとるんやユウマ!」

 

 外部から響く糾弾の声。しかしそれでも、ユウマの心は揺らがない。

 昨夜、徹夜でようやく完成を遂げたガンプラ。

 テスト運転すらしていないこの機体はユウマがこれまでに手掛けてきたどのガンプラよりもピーキーな仕上がりであり、その中身はこのままカタパルトに接続されたまま動かないことも十分に考えられるほど複雑な構造であった。

 

「RGシステム、起動……」

 

 ユウマのガンプラの内部から青い光が浸透し、おびただしい量のプラフスキー粒子の奔流がその全身を包み込んでいく。

 その奔流と呼応するように、ユウマのガンプラのツインアイが眩く輝く。

 

「目覚めてくれ、エステバリス……」

 

 ユウマは自身のガンプラ――スーパーエステバリスに祈りを込める。

 そして、それだけではない。

 

「ここには、エアマスターと……」

 

 彼は今、命を吹き込んだのだ。

 

「ライトニングガンダムと……!」

 

 自らが共に歩むべき相棒、最強という名を残すべきガンプラに。

 

「僕がいる――!」

 

 そしてその祈りは――届いた。

 

 

 スーパーエステバリス《ダブルウイングフレーム》、システム起動。

 ガンプラに限界は無い。

 そして、少年達にも限界は無い。

 

 混沌とした戦場を駆け抜けるトライファイターズの伝説が、今始まった――。



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自重しない蒼穹野郎とフラグクラッシャー幼女

 ※原作崩壊注意
 今回もユウマ君の日記視点です。


 

 

 ○月×日 なめるな! ユウくん怒りの初戦突破

 

 遂に全国大会の一回戦が始まった。

 徹夜で完成させた新しいガンプラ、ダブルウイングフレームはぶっつけ本番での初陣だった。ナデシコとガンダム、二つのクロスオーバーによる機体故に内部の設計は複雑で、正直プラフスキー粒子に反応するかどうかも微妙な代物だった。それでも僕は、100%起動に成功することを信じていたわけで……信念を込めたガンプラは絶対に応えてくれる。それは僕が今までの戦いを通して学んだことだ。

 セカイとフミちゃんの二人も、僕のガンプラの起動を信じてくれた。まあ、そこは日頃の行いという奴だろう。

 しかし想像以上に良いスタートを切れたと思う。フミちゃんのスターウイニングもセカイのバーニングゴッドも相手のガンプラを一切寄せ付けず、僕の新エステは言わずもがな。僕が今まで作ってきたガンプラの中でも、掛け値無しに最高の性能だった。圧倒的な力でオホーツクチームを粉砕し、二回戦進出を決めた。

 去年のベスト8を相手にあそこまで戦えたのだ。今の僕達の実力なら、優勝も夢ではないと確信している。

 

 しかし僕達の試合が終わった後、セカイが突然観客席に向かって走り出した時は驚いた。見るとそこにはルリルリに似た銀髪の女の子が――そう、アワクネ・ユリちゃんが座っていたのだ。会場にはオチカさんも見に来ていたからもしかしてとは思っていたが、彼女も観客席から僕達の試合を見届けていたらしい。

 そんな彼女の存在に気づいたセカイは、彼女に向かってこう言ったのだ。

 

「俺達は優勝する! その後で、もう一度俺と戦ってくれ!」

 

 まるでドモン・カッシュの全勝宣言のように、僕達が優勝することを前提とした言い方だった。向こう見ずで直情的なアイツらしいリベンジの申し込み方だとは思うが……まあ、僕もそういうのは嫌いじゃない。周りからの視線は痛かったけどNE。

 しかしそれに対するユリちゃんの反応も大物だった。セカイに対してナチュラルに上から目線で「期待しています」と言う姿は、とても七歳の女の子には見えなかった。

 

 

 

 ○月×日 その時、蒼穹へ

 

 流石に全国大会だけあって、出場者の実力も色物具合もハイレベルだ。サカイ・ミナトのトライオン3対ゲキ・ガンガー3と言った色物同士の対決もあり、会場は大いに盛り上がった。

 彼らによるスーパーロボット同士の力と力の真っ向勝負は一挙一動が一々パワフルであり、見どころの多い白熱したバトルだった。今回はサカイ・ミナトのトライオン3に軍配が上がったが、ゲキ・ガンガー3の熱血パワーも侮れない。実に木連ホイホイな試合内容だった。

 

 しかし今日の試合で一番の盛り上がりを見せたのは六年連続で日本一となっているガンプラバトル界の覇者、ガンプラ学園の試合だろう。

 その相手はソウシの率いる本枚高校。僕はこの試合で、ガラにもなく熱狂したものだ。

 

 この試合の感想を一言で表わそう。

 

 アドウざまああああああwwwwwww

 

 ねえどんな気持ちwww? 余裕ぶっこいて単機で相手をさせようとして返り討ちにされてどんな気持ちwww? 慌てて出撃したけど2対3の状況から消耗戦を強いられて負けてどんな気持ちwww? んwww?

 

 

 ……結論、慢心はダメ絶対。

 いくら天下無敵のガンプラ学園でも、自分から付け入る隙を与えたら足元をすくわれるということだ。

 ネットをちらっと見てみたら案の定大炎上しており、ガンプラバトル板ではシアちゃん涙目スレが大量に乱立している始末だった。

 

 しかしキジマ妹の単機出撃というガンプラ学園側の慢心を差し引いても、ソウシ達の実力は確かなものだったと思う。

 

 アスカのガンダムマークザインとソウシのキュベレイマークニヒト、そしてカリマのジ・Oマークレゾンが彼らのガンプラの名だ。

 ソウシ自身は蒼穹なロボットアニメに出てくる救世主モデルを基に設計したと言っていたが、同化アタックまで再現されては仮にガンプラ学園が真面目に戦っていてもどう転ぶかわからなかっただろう。

 キジマ妹は余裕ぶっこいてこれらを一人で相手しなくちゃいけなくなった結果、案の定三対一でフルボッコにされた。

 アドウの奴はアスカのガンダムマークザインが自分ごと相手を同化するルガーランス攻撃(相手は死ぬ、自分も死ぬ)でジエンドがファングを展開しきれないまま無理やり相討ちへと持ち込まれていった。

 そして残るキジマには前衛のレゾン、後衛のニヒトが防御中心のフォーメーションで相手取り、試合は長期戦にもつれ込んでいった。

 このままでは埒が開かないと痺れを切らしたキジマがトランザムを発動したが、それこそがソウシの狙いだった。トランザムの限界時間を狙ってニヒトが同化ケーブルを使ってキジマを強引に拘束。そして「今だ! この怪物を僕ごと消し去れェェッ!!」と叫び、カリマのレゾンがニヒトごとキジマのガンプラを葬り去り、the endとなった。

 

 観客は口あんぐり。僕らも口あんぐり。

 

 信じられない結末に愕然とするガンプラ学園に向かって「これが結束の力だ」と言い放ったカリマのドヤ顔は、正直くっそカッコよかった。

 

 そんな、大会史上最大の番狂わせと言ってもいい出来事が起こったのがこの一日である。

 

 最強の優勝候補が早々に消えたことがこの後どう響いていくか……彼らと戦うとすればブロック的に準決勝以降になるが、今の内に対策を考えておいた方がいいかもしれない。

 アレ、元ネタみたくパリーンって自滅してくれればいいんだけど。

 

 

 ○月×日 お化けなんてないさー

 

 二回戦の対戦相手は新潟代表、統立学園だった。メンバーはシキ三兄弟。兄弟の三人が三人ともSDガンダムを使い、ここまで緻密な戦術と巧みな連携で大会を勝ち抜いてきた厄介な強敵だった。

 いやあ、幽霊怖い。むっちゃ怖いわぁ……でも僕には愛機スーパーエステバリスダブルウイングフレーム、略してWWバリスが居る。幽霊の城もなんのその! 僕の愛機への信頼が、長年苦手としていた幽霊への恐怖に打ち勝ったのだ! フハハ!

 ……あっ、試合にはなんとか勝った。しかし、かなり苦戦を強いられた一戦だったのは間違いない。三機のSDガンダムが合体してキングギドラみたいのになったのは驚いたが、合体してパワーが上がっただけでなく、あのスタービルドストライクが使っていたアブソーブ・システムまで内臓していたのが一番の誤算だった。

 それでも勝てたのは、カリマ風に言えば僕達の結束の力か。

 

 しかし、シキ三兄弟もなっていないな。ガンプラ学園への復讐心なんかでガンプラバトルをするとは。その様子があまりにも見ていられなかったから、試合が終わった後で、僕が「ガンプラバトルは復讐の道具じゃないぞ」と説教してやった。そしたらフミちゃんに「お前が言うな」みたいな目で見られた。解せぬ。

 

 他の試合を見ると、サカイ・ミナトのチームもソウシのチームも無事に勝ち上がっているようだ。しかし、サカイ・ミナトのトライオン3の相手が今度はゲキ・ガンガー3の元ネタ様だったのにはお茶吹いた。一回戦に出てきたゲキ・ガンガー3同様、オープンゲットまで再現して三種類の合体を使いこなしていたのにはもっとお茶吹いた。

 僕が言うのもなんだけど、アイツらはガンプラバトルじゃなくてスパロボの世界にでも行ったらいいと思うの。終始白熱した凄まじい試合だったが、ものすっごい暑苦しかった。

 

 そして今日一日の試合が終わった後のことだが、僕としたことが宿舎への帰り道でいかにも悪そうな不良達に絡まれてしまった。

 リアルファイト最強のセカイが駆けつけてくれて最悪の事態は免れたが、さらにそこへメイジン・カワグチやミスター・ゼロまで現れて場は(余計に)大混乱。しかも、不良達が絡んできたのはイノセ・ジュンヤ――セカイやミライさんと一緒に次元覇王流拳法を学んでいた兄弟子の差し金だというのだからさあ大変!

 

 ……ミライさんが言うにはそのイノセ・ジュンヤ、次の準々決勝の対戦相手の補欠メンバーに登録されているらしい。

 彼の人柄をよく知るセカイとしては優しかった兄弟子がそんなことをしてきたことが解せなかったようで、明日の試合で真意を確かめようと意気込んでいた。まあ、今回の件はアイツに任せてやるか。今回の被害者は僕だが、ナデシコで愛を知った僕は寛大だからな。お前達はGガンのように拳と拳で存分にわかり合ってくるといい。

 

 

 ○月×日 ようじょこわい……

 

 待ちかねた準々決勝が始まったが、肝心のイノセ・ジュンヤが試合に出てこなかった。これはどういうことかとセカイも僕もフミちゃんも困惑しながら戦ったものだが、試合が(僕達の勝利で)終わった後、今回の件について事情を知っている人が、こっちまで赴いて説明しにきてくれた。

 

 その人、幼女である。

 

 アワクネ・ユリちゃんだ。話を聞くに、彼女は彼が僕達に不良をけしかけてきた現場をその目で目撃しており、それが気に入らなかった彼女はあの後、単身でイノセ・ジュンヤの元へ乗り込んでいったらしい。

 

 そして彼に対してガンプラバトルを仕掛け――圧倒的な力で叩きのめした。わざわざダメージレベルをA設定にして、この大会に出てこれないように徹底的に破壊したのだそうだ。

 

 つまりイノセ・ジュンヤが今日の試合に出てこなかったのは、僕達の与り知らぬ場で行われた彼女による報復が原因だと言うことだ。

 

 もうお兄さん達頭が痛いよ! セカイは言葉も出ないし、フミちゃんは目の前の幼女が行ったえげつない所業にガクブルしていた。

 なんだよこれ、突っ込みどころが多すぎる! 小さい女の子が一人で向かっていくのもおかしいし、圧倒的に叩きのめしてしまうのもおかしい! そらイノセ・ジュンヤもショックで寝込むわと流石にちょっと同情する。

 

 本当に……セカイ、お前は勝てるのか? このラスボスに。

 

 

 

 ○月×日 余裕が無いので日記はここまで

 

 色々予想外な出来事があったものの(セカイはかなり釈然としていない様子だった)、この大会のベスト4が遂に出揃った。

 ミナキ・ソウシ率いる神奈川県代表、本枚高校。

 ヨーロッパのジュニアチャンピオン、ルーカス・ネメシスが所属する徳島代表、グラナダ学園。

 サカイ・ミナトの大阪代表、天大寺学園。

 そして僕達西東京代表、聖鳳学園中等部。

 以上、もとい異常の四校だ。

 そして抽選の結果、本枚高校がグラナダ学園と、天王寺学園と僕達が当たることになった。

 つくづくこの舞台にガンプラ学園の名前がないのが違和感を感じるが、何が起こるかわからないのがトーナメントの恐ろしさと言う奴だろう。

 

 先に行われたのは、本枚高校対グラナダ学園の試合だった。

 本枚高校のチーム竜宮城はこの大会でお馴染みとなったザイン、二ヒト、レゾンの揃い踏み。

 対するグラナダ学園のガンプラの先頭に立つのは、やはりルーカスさんのクロスボーンガンダムフルクロスだ。こちらは今更説明不要だろう。

 そこに加わる二人の仲間は、ヤガミ・I・Y・タイチさんの操るオメガモンダム(誰が何と言おうがガンダムである)と、バン・エレシーネ・リネさんの駆るブレードバクゥライガー(バクゥの改造機、ゾイドに非ず)が加わった大会屈指のメンバーである。僕が言うのもなんだが、このメンバーもうなんでもありである。

 

 どうなるか全く予想がつかないこの試合、最初に戦闘不能になったのは意外にもソウシだった。

 

 ヤガミさんのオメガモンダムの放った右腕のキャノン砲はビーム兵器ではなく、特殊な冷気が込められた絶対零度の弾丸だった。その一撃はソウシのキュベレイマーク二ヒトにとって相性が悪かったらしく、防御した瞬間「凍らせて同化するのか……」とか呟いて呆気なく墜落していった。だがそれでも、微かに動くケーブルをテクニカルに使ってオメガモンダムを拘束し、自爆で無理やり相打ちに持ち込んでいく辺りは流石。しかしなんであの人は、ああも愛機の扱いが悪いんだろうか。

 

 それで数の面では二対二のイーブンとなった二チームだが、頼れる指揮官が最初に脱落した本枚高校のダメージは大きかっただろう。そこで気を吐いたのが、アスカ・シンのガンダムマークザインだ。

 しかしグラナダ学園のブレードバクゥライガーも一歩も劣らず、アスカのマークザインと熱い高速戦闘を繰り広げた。

 ブレードバクゥライガーは四足歩行とは思えない変態機動でザインの動きに着いていき、それどころか一時はあと一歩のところまでアスカを追い詰めた。しかしアスカが粘りに粘った結果、ブレードバクゥライガーの機体がファイターの操縦負荷に耐えられず自滅し、辛くもアスカが勝利を収める形となった。自分の操縦にガンプラが耐えられなかったというあまりにもあんまりな敗因に対しては、ファイターが「俺にもオーガノイドが居れば……」とか呟いていた。

 

 そして戦況は二対一となり、本枚高校がグラナダ学園を追い詰めた。ここまで防戦一方ながらルーカスさんのフルクロスを相手に一人で抑え込んでいたカリマ・ケイのジ・Oマークレゾンもまた、この戦いで絶大な貢献を果たしていたと言えよう。

 

「いくぞカリマ! ツインドックだ!」

「ルーカス! お前にも見せてやる! 俺達の結束の力を!」

 

「……みんないなくなればいいのに」

 

 合流したアスカとカリマは、見事なまでに絶妙なコンビネーションだった。対して、一人で二機ものザルヴァ―トルガンプラの相手をしなければならなくなったルーカスさんはもう勘弁してくれよとうんざりしながらも、これぞガンプラバトルと楽しそうな表情を浮かべていた。

 チームにおける一人一人の技量は、恐らくルーカスさんの方が上手だろう。しかし仲間と仲間が合わさることによって、彼らの力はより強く引き出されていく。これが一回戦でカリマの言っていた、彼らの「結束の力」なのだと僕は思い知った。

 

 ……その後の戦闘の詳細は、あえてここには書かないでおく。

 

 ただこの後、結束の力を武器にカリマ・ケイがルーカスさんのフルクロスを打ち下し、本枚高校が決勝戦への進出を決めたことだけは書き記しておく。敵ながら感動してしまうほどに、心が躍る名勝負だった。

 

 

 さて、明日は僕らの番だ。一々僕に突っかかってくるサカイ・ミナトについては、そろそろお互い腹を割って話をしてみるのもいいかもしれない。

 だがその前に、今は機体の調整をより完璧に仕上げよう。

 

 トライファイターズ全員が自分らしく、誇らしいガンプラで優勝してみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 トライオン3を辛くも打ち破り、決勝戦へと駒を進めたトライファイターズ! 栄冠の座は、彼らと本枚高校の二校に絞られた。

 2日後に行われる決勝戦に向けて、準決勝でダメージを受けた各機体の修復を始める両チーム。そんな中、ラルさんの提案でブリーフィングをする事になったトライファイターズ。大会第二回戦で対戦した新潟代表の統立学園から、本枚高校の戦いぶりなどを記録した詳細なデータが送られてきたのだ。

 それを見たユウマは機体の修復を進めながらも思い悩む。このまま、修復を進めたとしても勝機は五割に満たない……そう確信したユウマは意を決し、決勝までの時間がない中、全機体のフル改装を決意する。

 

 一方その頃、セカイの前に次元覇王流の使い手、「JI」と名乗る謎の覆面ファイターが現れた!

 

 彼の正体は一体何者なのか!? そして彼は、「最後の組手」と称してバトルシステムに隠された禁断のパワーアップシステム、「アシムレイト」を使ったガンプラバトルをセカイに仕掛けたのである!

 

 

 次回、【アシムレイト】

 

 

 封印されし理由……それはとある少年の左目――。

 

 




 今までで一番やっちまった感の強いお話でお送りしました。セカイ君が幼女にリベンジマッチをするまでは、この番外編の続きは予定しています。
 ガンプラ学園の面々は……もちろんこの後も出番はあります。ジュン兄についても後ほど。


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粒子とアシムレイトと殴り合い蒼穹

 今更ですみませんが、私はアンチアシムレイトです。


 

 

 全日本ガンプラバトル選手権。それはガンプラバトルを行うビルドファイター達が掲げる大きな目標の一つであり、その熱狂ぶりは大会発足時から今に至るまで留まることを知らない。

 この大会に登場してくるガンプラは、人の個性そのものを表しているかのように実に多種多様である。それは市販のガンプラを素組したものであったり、色を塗ったものであったり、アレンジを加えていたり、ミキシングをしていたり……レベルの高いビルダーであれば存在しないガンプラのパーツを一からフルスクラッチで作り込む者も居る。

 

 プラフスキー粒子の性質を理解するビルダーが、誰も知らない未知の技術を生み出すこともある。

 

 有名どころではビームを吸収し飛躍的に性能を向上させる「アブソーブシステム」や、内部フレームに粒子を浸透させて一時的に機体を強化する「RGシステム」もまたその一例である。

 ガンプラバトルが生まれて以降未だ謎の多いプラフスキー粒子であるが、時を経るごとにその謎は少しずつ、ほんの少しずつだが確かに明かされてきている。

 この大会に出場しているビルダー達もまた少なくない人数の者がプラフスキー粒子の性質を理解しており、各々がガンプラバトル界に新しい風を吹き込む奇想天外なシステムを披露していた。

 

 しかしそのシステム――色々とやりすぎであった。

 

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラからディストーションフィールドが発生しました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラからハドロン砲が出ました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラからカッコいいBGMが鳴るようになりました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラが念願のオーラ力を身に着けました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラがありえない変形合体をしました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラの目から光子力っぽい何かが出ました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果、私のガンプラが私によって憎しみを理解しました。

 プラフスキー粒子の性質を理解した結果……

 プラフスキー粒子の性質を理解……

 プラフスキー粒子の性質……

 プラフスキー粒子……

 プラフスキー……

 プラフ……

 

 お前らプラフスキー粒子の性質を理解したって言えばいいもんじゃねーぞという混沌ぶりである。

 

 彼らにとっては、なまじ過去の場において「ブラックサレナNT-1」という成功例が生まれてしまったのが大きいだろう。

 かつての世界大会を駆け抜けたアワクネ・オチカ、アワクネ・ラズリの夫妻による研究と実戦の成果は膨大なデータとなってKTBK社という一つの模型会社に注ぎ込まれた。

 そしてそのKTBK社が、ガンダムシリーズでなくともプラフスキー粒子に対応する「ナデプラ」という新たな可能性を生み出した。

 そのナデプラが七年の歳月を経て発展していく中で、彼らの影響を受けた一部のガンプラビルダー達の創作(ロマン)魂が熱く燃え上がったのである。

 それはきっと、かの幽霊ロボットが戦場を舞った時点で予測されていた事態なのかもしれない。

 

 

 全日本ガンプラバトル選手権の決勝戦に駒を進めた本枚高校、チーム「竜宮城」の戦術指揮官であるミナキ・ソウシもまた、そんな個性派ビルダーの一人だった。

 

 昨日準決勝が終わり、来る決勝戦を二日後に控えた今――彼は一人宿舎の自室に篭り、異形のガンプラと対峙していた。

 そのガンプラは全身が暗い紫の外装に覆われながらも、節々には光り輝かんばかりに美しい翠色の結晶のようなパーツが浮かび上がっている。腰部は細く、腕は足よりも長く重厚だ。背面に広がっている鋭角的八枚のウイングも合わさり、その姿はさながら神話に出てくる悪魔のようだった。

 

 キュベレイMark-Nichit(ニヒト)――それが、このガンプラの名前である。

 

 映像作品では機動戦士ZガンダムからガンダムZZに掛けて登場した「キュベレイ」の改造機であり、ミナキ・ソウシにとっては長い付き合いである愛機だ。

 尤もガンプラバトルにおける実働期間は一年にも満たないが――それでもソウシの中での思い入れは強く、語れば長くなる特別な思いが込められたガンプラだった。

 

「決勝は二日後……後二日で、この大会も終わりか」

 

 今部屋にいる人間は、ソウシだけだ。チームメイトのカリマ・ケイとアスカ・シンは二人でリフレッシュの為街に出掛けており、ソウシだけがこの部屋で自らのガンプラと向き合っている。

 思えば一人で過ごすこういった時間も、随分と久しぶりな気がする。座椅子の背もたれに寄り掛かりながら、ソウシは感慨と感傷に浸っていた。

 

 これまで長く、極めて濃い大会であった。

 

 いや、大会が始まる前からも濃い日々ではあった。彼の日常がそうなったのも、全てはこの本枚高校に入学したことが始まりだった。

 入学して彼らに出会うその日まで、ソウシにとってガンプラバトルは中学時代に卒業した筈のゲームだった。

 

 しかしソウシはこの高校に入って、ほんの些細な成り行きから今のチームメイトであるアスカとカリマに出会った。

 

 アスカ・シン――ドン引きレベルの不幸体質が玉に瑕だが、ガンプラバトル部において最も頼りになる先輩だ。彼のガンプラバトルに懸ける情熱は人一倍強く、ソウシもまた彼の情熱に感化された結果、再びガンプラを操るようになったほどである。

 彼と出会わなければ、今の自分はここには居なかった。

 そう思うと、ソウシは今なら言えるだろうと一人思う。ガンプラバトルをまた始めて、彼らとチームを組めて良かったと。

 

 カリマ・ケイ――自信過剰で時々噛ませ犬っぽい行動をしてしまうのが玉に瑕だが、彼の発する空気を読まない自信満々な言葉には、ソウシはこれまでに何度も助けられたものだ。

 チームを組んだ当初こそ、年下であるこちらの指揮に従わず独断行動を行っていたものだが……苦難に塗れた数々の実戦を積み重ねてきたことによって彼は「結束」の重要さに気づき、自ら率先して緻密な連携を取るようになった。

 彼にとっての本枚高校は自分以外に頼れる仲間がいない、典型的なワンマンチームだった。

 その為に彼はこれまで自分一人で三人を相手取る為に出撃制限の掛かる巨大モビルアーマーの火力に頼っていたのだが……この三人でチームを組むようになってからは、ケルディムやジ・Oを巧みに操り、連携の要としてサポートに回ることが多くなった。そしてこの大会を経て――彼はサポートの鬼とも言える素晴らしいファイターへと開花したのだ。

 カリマ・ケイという男は、仲間のサポートに回ってこそ真価を発揮するファイターだったのだ。それはこの本枚高校ガンプラバトル部が彼のワンマンチームでなくなったことによって明かされた、今まで彼自身すらも知りえなかった新しい才能だった。

 

 ソウシが仕切り、アスカが切り込み、カリマが抑える。それが本枚高校最強のチーム、「竜宮城」の姿だ。

 

 ここまで勝ち残れたのはガンプラ学園の慢心という運もあった。しかしそれ以上にチームが一丸となって戦っていく結束の力こそが、自分達が躍進している一番の要因だとソウシは考えていた。

 

 しかし……と、誰もがこのチームを見て疑問を抱くことだろう。

 

 傍から見れば抱いて当然の疑問であり、ソウシもまたそうあって然るべきものとして素直に受け入れている。

 その疑問とは……

 

 

「あなたはそこにいますか?」

 

 背後からの問いかけに、ソウシは微かに頬を緩める。

 そしてどこか自嘲気味に、不意の問いかけに答えてやった。 

 

「前はいなかったが……今は、ここにいる」

「いい話だったよ、蒼穹のファフナー。久しぶりに感動する作品だった」

 

 問い掛けてきた相手もまたソウシと似たような笑みを浮かべながら、その手に一枚のケースを持って差し出してくる。

 それは先日、ソウシが彼に頼まれてより貸し出したブルーレイディスクの一つである。

 

 タイトルには、「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」と書かれていた。

 

「しかしあそこで犬はないだろ……犬は……」

「僕が知る創作の中で、最も心に響いた話です」

 

 感極まった様子の彼の言葉に対して神妙に頷くソウシだが、ここで話しているのはアニメの内容である。

 それは「蒼穹のファフナー」という少年少女達の存在の在り様を描いた一作のロボットアニメであり――どういうわけか、ソウシにそっくりなキャラクターが登場する作品であった。

 

「しかし似ているな、総士とソウシは。顔や声とかそっくりだ。雰囲気はそうでもないが、お前の左目の傷を見ていると怖いとすら思うよ」

「言われても困ります」

「もしかしてその傷は、昔友人につけられたものだったりするのか?」

「…………」

「おい、何か言えよ」

 

 何故ソウシが総士に似ているのか――そこに理由などある筈もなく、ソウシが総士の生まれ変わりであるなどということもも断じてない。

 全てはただの偶然――そう。

 ソウシの左目を覆っている大きな切り傷もまた、過去に起きた偶然の事故によって刻まれたものだった。

 

 

「……アシムレイトという現象を、貴方は知っていますか?」

 

 まさか傷の理由までアニメと同じじゃないだろうなと焦る金髪の男の手からBDを受け取った後、ソウシは数拍の間を置いて彼に尋ねた。

 脈略のないソウシの問いであったが、金髪の男は間を置くことなく当然のように答える。

 

「ああ、一時は大騒ぎになったからな。ここにいて知らない奴はいないだろう」

 

 アシムレイトとは、ガンプラバトルにおいてファイターが強力な自己暗示をかけてガンプラと五感を共有し、その機体性能を飛躍的に向上させる現象のことだ。平たく言えば、「ガンプラとファイターの一体化」のようなものか。

 これは数年前に確認された現象であり、最初に発覚した当時はお茶の間でも大いに話題になったものだ。

 しかし、このアシムレイト。現在ではヤジマ商事やKTBK社を始めとする企業の手によって世界全てのバトルシステムにファイターとのシンクロを断ち切る「アシムロック」と呼ばれる特殊措置が加えられており、それによって実質的に「封印」されている現象であった。

 

 何故、ファイターにとって有用なこの現象が封印されたのか……その理由は、ひとえに「有用すぎるから」であると人々は認識している。

 

 従来のガンプラバトルにおいて、重要なのはあくまでも組み立てたガンプラの完成度とファイターの操縦技術の二つにあった。そこにアシムレイトという新たな要素が加わることを、多くのビルダー達は恐れたのである。

 「こんなのがあったらガンプラを丁寧に作るより瞑想してた方がいいじゃん」、「ガンプラの性能関係なく武闘家が無双出来ちゃうのはちょっと……」というのが、彼らから贈られてきた否定的な意見である。

 そう言った理由もあり、今では封印され日の目を見ることがなくなったアシムレイトであるが――ここまでは表向きの話である。

 アシムレイトに対するビルダー達の意見だが、その全てが否定的だったわけでは断じてない。

 「バトルバランスは崩れるが、今までだってガンプラバトルは進化してきたじゃないか」、「ガンプラとシンクロすることによって、よりガンプラに愛着が持てるようになるじゃないか」、「明鏡止水再現キター!」……というように、アシムレイトに対して肯定的な意見を述べる声も少なくはなかった。

 賛否両論あるならば、アシムレイトがガンプラバトルにおいて有りか無しか、戦う都度任意にルールを決めれば良いという話にもなるだろう。

 

 しかしそれでも「封印」という結論を急ぐような形になってしまったのは、アシムレイトに隠された一つの副作用が本当の原因であった。

 

「アシムレイトはプラシーボ効果によって、ファイターの精神力が続く限りその効果は発揮される。……しかし、一方でプラシーボ効果の反作用であるノーシーボ効果によって、ガンプラが傷つけばそのダメージがファイター側へも反映されてしまうリスクも孕む。ここまでは知っていますか?」

「……ガンプラへのダメージが、ファイターに反映されるって言うのか?」

「ファイターが受けるダメージはガンプラへのダメージが強ければ強いほど重くなり、酷い場合には重傷事故になる危険も十分にあった」

 

 まるでアシムレイトをその身で実際に体験してきたかのように詳細に語るソウシに、頭の回転の速い金髪の男はこの話の続きをある程度察し、頷く。

 そしてそれを決定付けるように、ソウシは左目の傷を懐かしむように摩りながら告白した。

 

「この左目の傷は……重度のアシムレイト現象によって受けたものです」

 

 かつてアシムレイトによってガンプラとシンクロを果たした幼いソウシは、その状態で一人の友人とガンプラバトルを行った。

 そして友人のガンプラが突き出したビームサーベルによって自らのガンプラの頭部――丁度左目の部分を破壊され、この傷が生まれたのだ。

 それによって、しばらくの間ソウシは左目の視力を失った過去がある。

 何も眼球まで失っているわけではない。しかしこの話が本当ならば、ガンプラバトルそのものがなくなってもおかしくない重大な事件であった。

 

「……なるほど」

「信じるんですか?」

「お前はそんな嘘をつくような奴には見えん。……まあ、仮に私が言いふらしたところで、今となっては誰も信じそうにないがな」

 

 この話を外部に広める気は二人の内のどちらにもないが、事件当時から時間の経ちすぎた今となっては仮に広めようとしたところでガンプラバトルを嫌う者の陰謀か、都市伝説のようにしか思われないだろうというのがソウシと金髪の男の見解である。

 ガンプラバトルは誰もが安全に、楽しく戦うことが出来る健全な遊びだ。メイジン・カワグチを筆頭としたプロのビルドファイター達の尽力によって、今や世界中の人々にそう広まっているのだから。

 金髪の男はソウシの話を真摯に受け止めると、腑に落ちた笑みを浮かべた。

 

「私も、あの時は確かにおかしいとは思った。アシムレイト現象が発覚してから封印されるまでの流れは、どうも不自然だと感じていたが……」

「……とは言っても、アシムレイトの封印はノーシーボ効果が発覚した時点で決まっていたようです。この話を知っている人物は、事故の当事者以外はミスター・ゼロ一人……ヤジマにもKTBKにも広まっていないと彼は言っていました」

「あの人か……厄介そうな人間に知られたな」

「問題ありませんよ。妹を愛する人間に、悪い者は居ないでしょう?」

「気が合うな、私もそう思う」

 

 少し長く語りすぎてしまったが……自分らしくないとはソウシ自身も思っている。

 こんなことを話したところで良いことなど起こりえないし、寧ろこの金髪の男の出方次第では悪いことの方が起こり得るだろう。

 それでもソウシが彼に語ったのはきっと柄にもなく――ただ単に、そういう気分だったからなのだろうとソウシは自己分析を下した。

 

「……という、僕の考えたネット小説の内容です」

 

 最後にそう締めて、ソウシはこの話を無難に終わらせる。

 予防線としては少し苦しいかもしれないが、特に広める気のない金髪の男に対してはこれで十分である。

 何せ、ミナキ・ソウシの左目の傷がガンプラバトルが原因であるという証拠は、今やどこにもないのだ。

 傷その物が何よりの証拠ではあるが……実際にその現場を見ていたのは当事者である対戦相手の友人が一人だけだ。そちらにももう、心配は無い。

 

「ああ、そういうことにしてやる」

「ありがとうございます」

 

 自身の意図は無事伝わったようで、ソウシは内心で安堵の息をつく。

 そう、これは妄想の物語。自分と同じくガンプラバトルを愛する彼にとっても、こんな爆弾話に対する認識などそういう形で落としておくのが最善であった。

 

「……周りには、転んでそうなったとでも言ったのか」

「ええ。僕はこんなことの為に、ガンプラバトルが世からなくなってほしくなかった。……案の定、事故を起こしてしまった対戦相手の友人とは長い間関係がこじれましたが……なんであの時、自分がやったって言わなかったんだと泣かれましたよ」

「リアル総士じゃねーか」

 

 机の上のキュベレイMark-Nichit(ニヒト)に手を触れ、ソウシは自らのガンプラに両手を広げたポーズを取らせる。

 そのポーズを取らしたことに、特に理由は無い。

 しかしただ単純に――とてもカッコいい姿だとソウシは思った。

 

「そんな時、僕はこのアニメと出会った」

「ああ、なるほど」

「そして友人も、このアニメと出会った」

「お、いいぞいいぞ」

「事故以来関係がこじれていた僕達は、このアニメに出てくる皆城総士と真壁一騎を教師に、或いは反面教師に……お互いに腹を割って話し合いました。その後和解し……彼女とは今でも、良い友人関係ですよ」

「それは何よりだ。……彼女?」

「……真壁一騎に似た境遇だからと言って、存在まで同じなわけないでしょう」

「それはそうだが、お前が言うとなんかムカつくな」

 

 アシムレイトの副作用によって左目を負傷した過去のあるソウシであるが、彼は当時ですらガンプラバトルや友人のことを恨んだことは一度もない。

 

 ……寧ろ、当時は感謝してすらいたのだ。その理由も色々とあるのだが……流石に金髪の男を相手に、ソウシはそこまで語る気は無かった。

 ただ、ソウシと友人は一つのアニメがきっかけで仲直りすることが出来た。それだけは確かな事実であり、彼がこのアニメを好むようになった理由なのだと伝えたかった。

 テクニカルかつ、実に回りくどい作品PRであった。

 

 アニメと現実を混同するのは決して良くないことだ。

 しかし程度の違いはあれど、アニメで学ぶものがあったのもまた確かな事実である。

 ガンダムシリーズも、他の作品も、どれもソウシにとっては平等に尊いものだった。

 

 

 ソウシの語りを聞き終わった金髪の男は、少し疲れたような表情を浮かべる。

 そして話題を変えて、ソウシの机の上にある異形のガンプラを指して訊いた。

 

「そう言えばお前のそれは、やっぱりマークニヒトなのか? 私には、アスカのザインほど似ていない気がするが」

「ザインのように、あの機体も劇場版で変化するんです」

「……よし、後で見てくるか」

「その後、さらに続編で活躍します。主役と言ってもいい」

「OK。ネタバレはその辺りにしてくれ。ともかく有意義な作品を提供してくれて感謝するよ。この作品を通して、私の足りないものもわかった気がする」

「アニメと現実を混同するのはどうだろうか」

「お前が言うな」

 

 キュベレイMark-Nichit(ニヒト)――もはやキュベレイの原型が留めていないどう見ても変質したザルヴァ―トルモデルにしか見えない造形であるが、ミナキ・ソウシはあくまでもこれはガンプラだと言い張っている。まるでかつての世界大会でどう見ても幽霊ロボットにしか見えないガンプラを駆って活躍した、アワクネ・オチカのように。

 

 金髪の男は彼と戦う前まで、彼の……彼ら「竜宮城」のことを取るに足らないチームだと侮っていた。

 四代目のメイジン・カワグチを襲名することを自らの義務とまで考えていた彼にとって、今まで出場してきたこの大会には強敵と呼べる者など居らず、彼自身も精々が世界選手権に向けての調整試合としか考えていなかったのだ。

 ソウシ達のことなど精々妹が扱う新機体の踏み台程度にしか見ておらず――その慢心が結果的に、ガンプラ学園創立史上初の一回戦敗退という形に繋がったのである。

 恥ずべき結果の全ては、リーダーである自分の驕り高ぶりが招いた結果だ。かつてないほどの屈辱を胸にした彼はガンプラバトルに対する自らの向き合い方の甘さを戒め、二度とこんなミスは犯さないと心に誓った。

 そして彼は、最強である筈の自分達を見事に打ち破った彼らに対し敬意を払い、今後のガンプラバトル道において必ず倒さなければならない強敵――ライバルだと認識したのである。

 故に。

 

「優勝しろよ、ソウシ。お前を倒すのはこの私だからな」

 

 明後日の決勝戦に向けて、彼はソウシに対し激励の言葉を贈る。

 自分達を倒したチームが他の誰かに負けることは、今の彼にとって最も面白くない展開だ。

 そして次に、彼は自らが認めたライバルに対して高らかに宣誓する。

 

「今回の汚名は次の戦場で晴らす。今度は油断も慢心もしないと、他の二人にも伝えておいてくれ」

「……了解」

 

 随分と長い前置きになってしまったが、そう伝え終わると彼は踵を返し、部屋を去っていった。

 

 

 

 

「キジマ・ウィルフリッドか……」

 

 言いたいことを言って颯爽と帰っていった金髪の男の名を呟きながら、修繕を終えたガンプラをケースへとしまい、ソウシはその頬に苦笑を浮かべる。

 キジマ・ウィルフリッド――四代目メイジン候補として名高い、ガンプラ学園一の実力者。

 クールな外見から気難しい男だという印象を受けるが、実際に話してみると案外気安いところもあるものだ。あのコウサカ・ユウマと同様に、ソウシにとっては波長の合う男だった。

 

 明後日の決勝戦の相手は聖鳳学園中等部――そのコウサカ・ユウマの所属するトライファイターズだ。

 天大寺学園のスーパーロボット「トライオン3」との戦いを制し、同じく決勝戦へと駒を進めた彼らのポテンシャルの高さは掛け値なしに凄まじいものがある。

 エアマスターとライトニングをミキシングしたユウマのスーパーエステバリスの機動性は、竜宮城最速を誇るアスカのガンダムMark-Sein(ザイン)と比べても何ら遜色はなく、加えて彼の機体にはあのRGシステムまで内臓されている。まさに「ぼくのかんがえたさいきょうのエステバリス」といってもいいほどの戦闘力を誇る。

 そしてカミキ・セカイのビルドバーニングゴッド。ニールセンラボで対峙したビルドバーニング以上のパワーを持ち、相手を叩き潰す拳の破壊力はソウシの二ヒトと同等か、それ以上かもしれない。

 それ以上に厄介なのはホシノ・フミナのスターウイニングだ。前述の二機ほどのインパクトはないが、前述の二機以上に何をしてくるかわからない底知れなさがある。戦術指揮官であるソウシにとっては、彼女こそが最も戦いにくそうだと感じる相手だった。

 いずれの相手もまさに不足なし、決勝戦の相手として相応しい相手だ。

 故に、ソウシの頭には油断も慢心も無かった。

 

「祝福を果たそう、マークニヒト」

 

 完璧なガンプラで挑み、完璧に勝つ。それが彼、ミナキ・ソウシにとっての祝福だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――二日間は、あっという間に過ぎた。

 

 そして遂に始まった、全日本ガンプラバトル選手権決勝戦。下馬評ではあのガンプラ学園を破った本枚高校が優位か、という声も少なくはなかったが……始まってみればどちらもお互いに一歩も譲らない一進一退の攻防だった。

 ファイターの技術もガンプラの性能も、どちらもこの大会最高峰のものだ。そしてどちらのチームのファイターもまた、固い結束を身に着けていた。

 両者とも抜群のチームワークを発揮し、お互いにお互いを助け合う。三対三のチームバトルという形式を最大限に活用し合った、巧みな連携であった。

 

「はあああっっ!!」

「これは……この力は……!」

 

 制限時間が着々と迫り、膠着状態となっていた戦場に突破口を開いたのは、カミキ・セカイのガンダムビルドバーニングゴッドだった。

 彼のガンプラのゴッドガンダムを彷彿させる背中のスラスターが展開されると、燃え盛るような炎の日輪が浮かび上がり、同時にビルドバーニングゴッドが纏う全身のクリアパーツが激しく光り輝いた。

 その力の正体を、他ならぬソウシは誰よりも早く見抜いた。

 

「馬鹿な……アシムレイトだと……っ!」

「ジュン兄が教えてくれた……そして、ユウマと先輩が作ってくれた! これがビルドバーニングゴッドの本当の力! アシムバーストだ!」

 

 セカイのビルドバーニングゴッドには、ソウシの知らない新兵器が内臓されていたのだ。

 その名は「アシムバーストシステム」――封印されたアシムレイトのパワーアップ原理を参考に、彼らのチームが研究し、一丸となって生み出した新たな力だ。

 それはファイターの精神の高ぶりによって機体の性能を飛躍的に上昇させることが出来る、アシムレイトとは違いファイターの肉体には一切ノーリスクである、純粋なパワーアップシステムであった。

 

「行け! セカイ!」

「ここは私達が抑える! セカイ君はニヒトをお願い!」

「うおおおおおおおおおおっっ!」

「くっ……!」

 

 アシムバーストシステムによって全性能が引き上がったビルドバーニングゴッドが最初に行ったのは、戦術指揮官機であるソウシのキュベレイMark-Nichit(ニヒト)の機体を彼の仲間達の元から引き離すことだった。

 敵の頭である彼を分断すれば、他の二人との戦いもやりやすくなると――通常時の戦力では実行は困難であるが、理にかなったトライファイターズの戦術であった。

 背中から日輪を加速させるビルドバーニングゴッドが猛然と突っ込み、ニヒトの機体を強引に浚っていくと、吹き荒れる過剰なまでの推進力を持って一気に上空へと押し出していく。

 

 ニヒトの機体はビルドバーニングゴッドの圧力により雲を突き破ってなお上昇していき、二機の戦いの舞台は太陽の光が照り付ける「蒼穹」の空域へと押し出された。

 

「やってくれたな……カミキ・セカイ!」

 

 友軍から強制的に引き離されたソウシのキュベレイMark-Nichit(ニヒト)は、その巨大な両腕によってビルドバーニングゴッドの機体を握りつぶそうとする。

 しかしファイターの判断が僅かに速く、ビルドバーニングゴッドが自ら拘束を解き、二ヒトの腕から逃れた。

 

「一対一の勝負だ! ミナキ・ソウシ!」

「邪魔をするなァァッ!!」

 

 二ヒトの右手が持つ斬射両用の武器「ルガーランス」の射撃を宙を泳ぐような動きでかわしながら、加速するビルドバーニングゴッドが迫り、拳を突き出す。

 予想を上回る速度で懐に飛び込まれたソウシは冷静にルガーランスを斬撃モードに切り替え、本来の使い方である「突き」を持って応戦する。

 しかし。

 

「次元覇王流ゥゥッ! 聖拳突きィ!!」

 

 カミキ・セカイの拳法がルガーランスの強度を上回り、真正面から槍の先端部を貫いていく。

 

「――!」

 

 次元覇王流、聖拳突き。これまでの試合で多大な成果を上げ続けてきたその一撃は当然ソウシも事前から警戒しており、ビルドバーニングゴッドの拳がルガーランスを破壊し、二ヒト本体にまで届こうとしたところで身を翻し、即座に距離を取ることで攻撃から逃れていく。

 しかし、ソウシの額から冷たい汗が滴る。

 拳法だけではない。アシムバーストシステムによってパワーアップしたビルドバーニングゴッドの性能は、確実に今のキュベレイMark-Nichit(ニヒト)を上回っていた。

 

「いいだろう……!」

 

 制限時間も、もはや残り僅か。

 今から仲間と合流しようとしても、その後で出来ることはたかが知れている。

 何より、カミキ・セカイは強い。「ワーム」で移動すると言う反則的な手段もこの機体には残されてはいるが、彼がその隙を逃すとは思えない。

 故に。

 

「どちらが同化(アシムレイト)の申し子か教えてやれ……マークニヒトォッ!!」」

「いくぞおおっ!!」

 

 ここで全ての粒子を使い尽くしてでも、目の前の敵を滅ぼす。

 そう決意したソウシは、キュベレイMark-Nichit(ニヒト)に掛けていたリミッターを外した。

 それは外したが最後、機体の性質故にあまりにも大きすぎるプラフスキー粒子の消耗を抑えきれず、自滅することが必至となる諸刃の剣――ソウシにとってはこの戦いを制する為の最後の手段であった。

 

 全ての力を込めた二ヒトの右手が、金色に輝く。

 ビルドバーニングゴッドの右手が、真っ赤に燃える。

 

 

 ――そして二体のガンプラが、勝利をつかめ(祝福を与えよ)と轟き叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 光と炎の拡散が蒼穹の空を覆い尽くし、観客席からモニターを眺めていた全ての人々が言葉を失いながらも二人の一撃に視線を集めていく。

 会場に詰めかけた大勢の心を魅了する激しくも美しい爆発は、二人の戦いの決着を意味していた。

 爆発の中で残っているガンプラが誰のものであるのか、この時はまだ誰の目にも見えていない。

 

 ――ただ一人、金色の瞳を持つ幼きガンプラファイターを除いては。

 

「……同時優勝の場合は、私との約束はどうなるのでしょうか……」

 

 困った顔で――外面から見た表情に変化はないが、その決着を見つめながら真面目に悩んでいる幼女の姿がそこにあった。

 そんな彼女の呟きに応じたのは、隣の席に腰かけている彼女の見た目幼い母親ではなく――いつの間にやら彼女の傍らに佇んでいた、見るからに怪しげな仮面を被っている一人の男の姿だった。

 

「なに、君達が行う戦いの場には、我々がこれ以上ないほど素晴らしいものを提供しますよ」

「ルル……みすたーぜろ?」

 

 ミスター・ゼロ――幼き少女の口からそう呼ばれた男は、仮面の下でこれから自分達が起こすことに思いを馳せながら愉悦の笑みを浮かべる。

 そして彼は、後に大々的に発表することになる重要な情報を彼女にもたらした。

 

「我々の主催する小中高生混合の選抜ガンプラバトル大会――KTBKバトルアイランドでね」

 

 

 ――それは、日本中全ての学生ビルドファイター達を震撼させることになる、新たなる戦いの狼煙であった。

 

 






 ソウシの傷の話がどこまで真実かはご想像にお任せします。
 ビルドバーニングゴッドの外見はまんまトライバーニングの背中にゴッドのスラスターが付いているみたいなのをイメージしていただけると幸いです。蒼穹な連中はまんまアレです。
 今回はダイジェスト的に流しましたが、空白の2日の間にトライファイターズサイドでは謎の覆面ファイターJIがセカイにアシムレイト同士のバトルを仕掛け、ほぼ原作通りの展開があったりなかったりしています。


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新たなる戦いとガンプラの島

 

 

 僕の名前はミナキ・ソウシ。極めて普通のガンプラビルダーだ。

 

 日常の中で特別なことがあった時、こうしてその記録を書き残しておくことが僕のささやかな趣味の一つだ。

 そしてこの記録が今、僕以外の誰かに読まれているのだとすれば――その頃には僕はもう、その場所には居ないのだろう。

 

 

 八月。夏休みの間に行われた全日本ガンプラ選手権中高生の部――あの時、僕のキュベレイMark-Nichit(ニヒト)はカミキ・セカイのビルドバーニングゴッドと相打ちになった。それと程なくして制限時間が切れ、両チームの間に二機のガンプラが残るままとなった決勝戦は大会史上初の「同時優勝」という形で幕を下ろした。

 しかしあの時、僕とセカイがどちらも倒れていなければ、規定により代表者同士の再試合が行われていた筈だった。……単独優勝のチャンスを逃してしまったのは、悔やんでも悔やみきれない僕のミスだと考えている。

 

 それでも、本枚高校は栄冠を相手チームと半分ずつ分け合うという形でガンプラバトル部創設以来最高の成績を収めることになったのだが――アスカ先輩もカリマ先輩も、当然ながら二人とも満足していない様子だった。

 しかし二人とも、アシムレイトの申し子としてセカイと決着をつけようとした僕の選択を責めるどころか健闘を称えてきたのだから、いつまでも頭を下げるわけにもいかないだろう。

 だから僕はこの悔しさを忘れず、来年の大会ではさらに上の成績を残すことを心に誓った。

 

 

 ――その、後日のことである。

 

 戦いは、終わった筈だった。

 選手権大会が終わったことによって、僕らのガンプラバトル部にもまたしばらくの平和が訪れると思っていた。

 そう思っていた矢先、大会が終了してから僅か三日後のことである。あのKTBK社がテレビ中継等によってメディアを通じ、全国のガンプラビルダーに向けて新たな戦いを告知したのだ。

 

「その名は――KTBKガンプラバトルアイランド!」

 

 元々、近年のKTBK社では年末年始頃にガンプラやナデプラに関する大きなイベントを行うことが恒例行事となっていた。

 しかし今回告知されたそれは今までのイベントの比ではないとキンジョウ会長が前置きした上で、会長の側近の一人であるミスター・ゼロが彼に代わってその詳細を語った。

 

 彼が語った「KTBKガンプラバトルアイランド」という言葉――それは来年の夏からオープンする予定の「ガンプラに特化した」アミューズメント施設の名称である。

 しかしそれだけならばかつてPPSE社がやっていたように、既に似たようなものは全国各地で開かれており、ガンプラバトル全盛とも言えるこの時代においては取り立てて珍しいものでもなかっただろう。

 

 しかし報道を見た者の誰もが震撼した理由の全ては、ミスター・ゼロが高らかに言い放ったこの一言にあった。

 

「このバトルアイランドでは――島そのものがキミ達のバトルフィールドとなる!」

 

 島がリングだと――KTBKという会社が作り出した嘘のような現実が、彼らの映し出したPVにあった。

 誰もが驚愕に目を見開いたそのPVを披露した後で、ミスター・ゼロはこの「KTBKガンプラバトルアイランド」にて、小中高生を対象とした選抜ガンプラバトル大会を開催することを宣言する。

 選抜の基準は全日本選手権を始めとするガンプラバトル大会において一定の活躍を見せた者が選ばれるのはもちろんとして、審査員の目に留まったビルダー達にはたとえ予選落ちであっても出場資格が与えられるのだと言い渡された。

 つまり予選はもう始まっており、もう終わっていた。僕達が行ってきた今までの戦いそれこそが、この大会の予選だったということだ。

 

 勿論、選手権の優勝チームの一つである僕らの元には、告知から三日と経たず一枚ずつ招待状が贈られてきた。

 その招待状と同封されていた手紙によると、今回の大会はチーム戦ではなく「個人戦」とのことだ。当日は受験シーズンと言うこともあり、あくまでも参加は任意だと書かれていたが……アスカ先輩もカリマ先輩も当然のように出場を決めていた。

 

 しかし二人とも、この大会にはザインとレゾンは使わないと言った。

 

 ガンダムMark-sein(ザイン)とジ・OMark-reason(レゾン)。この二機は元々、あまりにも癖の強い僕のキュベレイMark-Nichit(ニヒト)との連携を前提にした上で、僕が彼らの既存機体だったデスティニーガンダムとジ・Oを対象に特別な改造を施したガンプラだ。今回は個人戦の為ニヒトとの連携が必要無くなった故に、彼らがこの二機のガンプラを使う必要もなくなったという道理だ。

 そして何よりも、この二機を使いたくない理由として二人はこう言った。

 

「選手権ではお前が改造してくれたガンプラに助けられた。けど、今回のはチームの戦いじゃないし、自分が作ったガンプラで戦ってみるよ」

「まあ、今回は大会ってよりアトラクションって感じだし? あの機体は使う方のプレッシャーが強すぎるし、次は久々に俺のフルスクラッチMAが暴れてやんよ」

 

 他人の施しをあえて受け取ることなく、今度は自分で作った自分だけのガンプラで戦ってみたいという、彼らのビルダーとしてのプライドから来る言葉だ。そう言われてしまえば僕には返す言葉もなく、僕もまた今まで通りニヒトを使うことに対して強い躊躇いを覚えたものだ。

 

 元々、僕らの扱っていた「ザルヴァ―トルプラモデル」は、お互いの連携がなければ全力を出し切れない三位一体のガンプラだった。この際、個人戦用に僕も新しいガンプラを用意しておくのもいいかもしれない。そんなことを考え、実行しながら……僕らは大会当日までの時間を各々のペースで過ごした。

 チームメイトだが、戦えば容赦はしないと――そんな風に、僕らは気楽に笑っていられたのだ。

 

 大会当日の――その日までは。

 

 

 

 

 

 

 1月2日。元旦をそれぞれの故郷で過ごした翌日に、僕らは横浜の港から旅立った。

 「KTBKガンプラバトルアイランド」――そこへの移動に使われたのは、KTBK社が所有する豪華な船だった。船の中には日本中から集まってきた大会出場者の姿とテレビ局の報道陣の姿があり、僕らはここで選手権で戦った多くのライバル達との再会を果たした。

 もちろん、ガンプラ学園や聖鳳学園の姿もそこにあった。グラナダ学園のルーカスさんは外国の実家に居る為出場しないという話は残念だったが、見知った顔の登場に対してはどこか安心している自分が居た。

 

 久しぶりに顔を合わせたコウサカ・ユウマと世間話をしてみると、彼ら聖鳳学園もまたこの大会の為に新しいガンプラを仕上げてきたらしく、カミキ・セカイに至ってはガンプラ修行の旅にまで出ていたらしい。見ればカミキ・セカイと親しげに話しているキジマ・シアの姿が目についたが、彼と彼女はその修行の過程で親交を持ったらしいとユウマは言っていた。ガンプラ学園専属のビルダーが、彼にガンプラ製作のノウハウを叩き込んだのだそうだ。これは選手権以上に厄介な相手になりそうだと、僕は警戒を深めた。

 しかしキジマ・シアもまた僕のことを強く警戒している様子だった。セカイに話しかけようとする度に、彼の背後に隠れながら無言で睨みつけてくる彼女の視線は少々居心地が悪かったものだ。

 後から合流したキジマ・ウィルフリッドの話によると、自身の全国デビューとなった試合を散々な結果に陥れた僕らのことを彼女は怨敵として強く意識しているらしい。それは同じチームに所属していたアドウ・サガも同じ様子だった。彼も出場するようで何よりである。

 聖鳳学園との同時優勝とは言え、栄冠を掴んだことで周りから向けられる視線は以前までとは比べ物にならないほど強くなっている。

 この大会において僕が警戒するべき相手は数多く、選手権で戦った彼らはもちろんとして初対面の相手も同じだ。スレッガーは鉄板として、イズナ・シモンという男も相当手強そうだ。そして最も気になるという意味では、同じく船で会った「ビルダートJ」という男だった。

 奇抜な白いコスチュームを身に纏い、顔の上半分を仮面に隠したあの男からはファイターとしてただならぬ凄みを感じた。カミキ・セカイは彼のことを「ジュンニィ」と呼んでいたが……一体彼は何者なのだろうか? 各地の実力者の情報は軒並み集めていたと思っていたが、彼のデータに関しては何も無く、少々不気味に思えた。

 

 

 

 そんな多くの出会いと再会があった船の旅は数時間ほどで終わり、僕らはたどり着いた。

 

 KTBKガンプラバトルアイランド――ガンプラビルダーの「楽園」に。

 

 

 

 驚嘆。それが、その島に足を踏み入れた僕らが抱いた共通の感情だろう。

 ガイドの女性の案内に従って、舗装された海岸から林を越えて島の奥地へと入場すると、そこには見渡す限りの視界を覆い尽くす巨大な人工施設の姿があった。

 

 触れ込み通り、島その物が巨大なアミューズメント施設として作られていたのだ。

 

 ガイドの話によれば、この島は元々草木の刈り尽された文字通りペンペン草も生えていない荒れ果てた無人島だったものをKTBK社が買い取り、多額の投資によってガンプラバトルシティとして蘇らせたものなのだそうだ。

 この島がアミューズメント施設として一般公開を行うようになるのは数か月後になる予定らしいが、辺りを見れば実に子供受けが良さそうな娯楽施設が一帯に広がっており、それらを眺める小学生出場者の目は実に輝いていたものだ。

 

 しかしそれは、僕ら中高生も似たようなものか。

 

 施設の中では実物大のガンダム、Zガンダム、ZZガンダム、νガンダムが展示されており、その後ろには実物大のエステバリス(夜天光撃破後の目からオイルを流しているあの状態を再現したもの)までも展示されており、その異常に優れた出来栄えにはキンジョウ会長の並々ならぬ拘りと愛が感じられたものだ。それを目にしたユウマなどは感動のあまり涙を流しており、その姿に僕はKTBK社という会社が愛される理由と、日本の将来の不安を感じた気がした。

 

 しかし、驚くのはまだ早かった。

 

 

 

 ――娯楽スペースを越えてさらに島の奥へと進んだその時、僕らの世界は「宇宙」になったのだ。

 

 

 それは、比喩ではない。

 文字通り僕らが一定の位置まで足を踏み入れた瞬間、一瞬にして僕らの立っていた場所がプラネタリウムのような光景へと変化したのである。

 

 

 ――まるで、ガンプラバトルのフィールドのように。

 

 

 僕がそう思ったのとほぼ同時に、この異変に対してどこからともなく現れた一人の男が説明する。

 

 それは、目元をバイザーで覆い隠した黒衣の男――アワクネ・オチカだった。

 

 彼の登場と同時に、多くの者からはっと息を飲む音が上がった。

 アワクネ・オチカと言えば、KTBK社に所属するガンプラファイターの中で最も有名な男だ。僕らの扱っているザルヴァ―トルプラモデルのような異形のプラモデルがプラフスキー粒子に対応する為の基礎理論を構築した、異形ガンプラ界のパイオニア的存在として世界でもその名が知れ渡っているほどである。

 黒の貴公子。

 黒い幽霊。

 闇の偽王子。

 無職の勝利者。

 ロリコン。

 世界一酷い風評被害。

 その他諸々、無数の二つ名を持つ凄腕の実力者である。そんな彼は、どこか昔を懐かしむような口調で言った。

 

「……七年前、俺達は世界大会の決勝で不可思議な事故に遭った」

 

 それは、多くのガンプラバトルファンが忘れもしない出来事の体験談だった。

 ガンプラバトル選手権世界大会。三代目メイジン・カワグチとレイジ、イオリ・セイがぶつかり合った、幻と消えた決勝戦のこと。

 最高のガンプラ同士がぶつかり合った世紀の一戦を幻として消した「アリスタ暴走事件」のことは、当時その件に関わったヤジマ商事とKTBK社を通じ、今や全世界にまで知れ渡っている大きな出来事である。

 

「プラフスキー粒子の原石、アリスタの暴走。アリスタの暴走は天井を突き破るほど巨大なア・バオア・クーを生み出し、競技場その物を巨大なバトルフィールドに変えた。……今君達が居るこの場所はその事故を解析し、我が社が新システムとして生み出したものだ」

 

 かつての事故を一から解析し、新たなシステムとして活用する技術力。

 そして島その物をガンプラバトルのフィールドにしてしまうという、極めてダイナミックな発想。

 それだけでも、このKTBK社という会社のことをよく物語っていると思う。

 島がリングというこの状況を僕らは事前にPVを見て把握していた筈だったが……こうしていざ目の前で見せられると、心が動かずには居られなかった。

 

「もちろん、安全性は保証する。ここは世界一広く、世界一作り込まれているフィールドだ。ここでしか味わえない戦いと臨場感を、どうか楽しんでほしい」

 

 寡黙なファイターとして知られるアワクネ・オチカが、表情は変わらないながらも僕らに応援の言葉を送る。

 そして、次の瞬間だった。

 

「あ、あれは……」

「アビゴルズウァース! ルワ……黒騎士のアビゴルズウァースだ!」

 

 漆黒のガンプラが物凄いスピードでオチカさんを横切り、僕らの目の前を疾走していく。

 その続け様に、周囲に広がるプラフスキー粒子の宇宙から次々と漆黒のガンプラの姿が飛び出してきた。

 

「見ろ! あそこにもう一機!」

「この壮大にカッコいいBGMは……ショクツ・シークレッターのガンダムトロンべか!」

「まだだ! もう一機来るぞ!」

「ガウェイン! ミスター・ゼロのパラスアテネ、ガウェインだ!」

 

 アビゴルズウァース、ガンダムヒュッケバインMk-Ⅲ、パラスガウェイン。どれも世界大会では優秀な成績を収めている、KTBK社所属のガンプラファイターの機体である。

 そして目の前の男のガンプラもまた、僕らの目の前に広がる新次元の空間に介入しようとしていた。

 

「ラズリ、行けるか?」

《うん、今いくね》

 

 彼がどこかに居る誰かと言葉少なく通信を行った次の瞬間――最後の「漆黒」がその場に舞い降りた。

 

「ふつくしい……」

「ブラックサレナNT-1! やったー! 四人の変態が揃った!」

「変態じゃねぇよ紳士だ殺すぞ」

「落ち着けユウマ!」

 

 ブラックサレナNT-1。彼ら四天王の中で最も活躍を収めた名機の登場に、ある者は慄き、ある者は喜び、ある者は闘志を滾らせた。

 四機のガンプラは自らの作り込みの深さを見せつけるかのように僕らの周りを旋回した後、弾丸のような速さで視界の奥へと飛んで行った。その先にあるのは青い眠りを解かれた水の星――地球。

 

 

「……今日から五日間、ゆっくりしていってくれ」

 

 一瞬にして遠のいていった四機のガンプラの姿を見送ると同時に、アワクネ・オチカもまた踵を返し、プラフスキー粒子の闇へと消え去っていく。

 

 瞬間、僕らの周りを覆っていた宇宙空間は掻き消え、元のアミューズメント施設の景色へと戻っていった。

 

「ぼ、僕は行くぞ! あの人達の高みへ!」

「やめとけユウマ! アレは明らかに越えちゃあかんラインや」

 

 コウサカ・ユウマを筆頭に、彼ら世界レベルのガンプラの姿を間近に見たことによって興奮の冷めやらない様子の者は何人も居た。

 かく言う僕もまた、その一人だった。

 僕はキュベレイMark-Nichit(ニヒト)を、あの「マークニヒト」に極限まで近づけるためにとことん作り込んだと思っていた。

 しかし、彼らの機体を生で見てわかってしまった。ビルダーとしての本能が、格の違いを思い知ったとも言える。

 彼らと僕の作るガンプラのベクトルは、恐らく同じだ。

 しかし言葉には上手く言い表せないが……彼らと僕のガンプラには、決定的な何かが違っていたのだ。それはおそらく、彼らしからぬ様子で興奮しているコウサカ・ユウマも同じことを感じたのだろう。

 決して、ショックを受けたわけではない。

 今はまだ足りない。けれども、いつか必ずたどり着いてみせると意気込んでいる。

 

 

 ――そう、僕らは目指したのだ。果てしなき最高のガンプラへと至る、この欲望を抑えきれずに。

 

 

 

 

 

 






 ビルドファイターズと遊戯王のネタって凄い親和性が高いことに気づいた今日この頃。
 このお話では、個人的に原作で見てみたかった展開をやりたいと思っています。艦隊戦とか、vsメガサイズの改造機とか、長時間のサバイバル戦とか。


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残酷な天使と降り立つ堕天使

 

 

 僕の名前はミナキ・ソウシ。極めて平凡なガンプラファイターだ。

 

 KTBKガンプラバトルアイランド――ガイドに招かれて、僕らは漆黒の四機のガンプラが向かった側へと進路を取った。

 その先に僕らを待ち受けていたのは、東京ドームよりも巨大なアリーナの姿だった。

 アリーナの中に入ってすぐ見える位置には巨大なモニタースクリーンが広がっており、その下にはガンプラバトルに使用される操作スペースと思われしき設備がまばらに並んでいた。

 

《ようこそガンプラバトルアイランドへ。私はキンジョウ・ナガレ。君達をこの島の最初の客人として歓迎しよう》

 

 僕らの到着からほどなくしてモニタースクリーンが作動し、KTBK社会長キンジョウ・ナガレの薄く笑んだ映像がそこに映し出される。

 彼は今このアリーナの中には居ないようだが、リアルタイムで通信しているらしく、どこからかこちらの様子を見ている様子だった。そんな彼は開会の挨拶もほどほどに、立ち尽くす僕らに次なる指示を与えた。

 

《さて、まずは役員の指示に従って所定の位置についてくれたまえ》

 

 僕らはその指示に従い、運営側から事前に割り当てられていた各々の操作スペースへと向かった。

 操作スペースは概ね普段使っているガンプラバトルの物と同じ形であったが、見慣れた操縦桿の前には普段とは異なる形の小さな台座があった。

 それが何に使用されるものか想像している間に、キンジョウ会長直々の指示が聴こえてきた。

 

《今君達の目の前には、いつものと違う形の台座があるだろう? そこにGPベースを差し込んで、ガンプラをセットするんだ》

 

 いつもとは違う奇妙な雰囲気に包まれる中、僕らは小さく息を呑み込みながら彼の指示に従っていく。

 そして台座の上にガンプラを置いた――その時だった。

 

「お、おいこれ!」

「ガンプラが消えたぞ……!」

 

 僕らは驚愕に目を見開き、多くの者が狼狽えた。

 ざわめきに覆われたアリーナの中で、その様子を眺めていたキンジョウ会長が僕らに落ち着きを促すように言った。

 

《安心したまえ。君達のガンプラは今、システムによって安全に転送されただけだ。この世界で一番広く精巧な、最高のバトルフィールドへとね》

 

 転送――生のガンプラが一瞬にして、この場所ではないどこかへと送られたのだ。その転送先を、僕らは彼の言葉によって察した。

 僕らのガンプラが飛ばされたのは、このアリーナに入る前にアワクネ・オチカ達のガンプラが優雅に飛んでいた空間――即ち屋外に広がっている、バトルフィールド化されたこの島そのものなのだということを。

 

《不安だったら操縦桿を握り、いつものようにモニターを開きたまえ。君達のガンプラは、ちゃんと待機状態になっているだろう?》

「ほ、本当だ……」

「……焦ったぜ」

 

 操縦桿を握り、モニターを開くと。そこには普段のガンプラバトルと同様、カタパルトに接続され、発進待機状態のガンプラから広がっているメインカメラの映像がそこにあった。

 ここだけを見れば、普段のガンプラバトルと何ら変わりはないだろう。しかしガンプラは今屋外にあり、屋外にあるガンプラを室内であるこの場所から操縦するということは、今までのガンプラバトルとは違う操作感覚であった。

 ガンプラを屋外で動かすことの意味だが――それはガンプラの動くフィールドが従来のガンプラバトルの比ではないほどにとてつもなく広いということであり、それに伴って桁違いのスケールによる大規模なバトルロワイヤルを行うことを僕は予想していた。

 今にでも発進してみたいと逸る気持ちを抑えながら、皆がキンジョウ会長の説明を聞いていた。

 

《今日、君達に行ってもらうのは他でもない。この世界最大のバトルフィールドを使った、「サバイバルレース」だ》

 

 そう、僕はこれだけ大勢の参加人数の中から一定数のファイターを振るい落とす為に、まずはこの広大なフィールドを生かしたバトルロワイヤル形式の試合をするのだろうと予想していた。

 しかしその予想に反してキンジョウ会長が告げたのは、「サバイバルレース」というロワイヤルとは似て非なる戦いの形式だった。

 

《転送された君達のガンプラは、個人戦のロワイヤルのようにそれぞれランダムの場所から発進することになる。砂漠のフィールドだったり海のフィールドだったり、宇宙のフィールドだったり。尤もこの島の場合は、地球圏どころか木星とかとんでもない場所からスタートしてしまうこともあるかもしれないけどねぇ》

 

 ロワイヤル形式の場合、選手権の世界大会のようにガンプラの発進地点はファイターそれぞれ別の場所に設定されているのが一般的であるが、今回の試合に関しても同じらしい。しかし、サバイバル「レース」という言葉の響きからして、僕にはそのルールが腑に落ちなかった。

 

《とまあ、そんな感じに君達のスタート地点は別々に用意されている。そして君達には発進地点からゴールを目指してガンプラを走らせることになるのだが……さて、ここが問題だ》

 

 「レース」と名が着いた競技でありながら、ファイターのスタート地点がバラバラ。それでは、スタート地点の違いによってゴールまでの距離に差が開きすぎてしまうのではないかと――誰もが抱いていたその疑問に対する答えとして、キンジョウ会長は聞き逃せない情報を言い放った。

 

《実はそのゴール、どの場所にあるのかは僕にもわからない》

「え?」

《そう、わからないんだ。だから君達はまず、フィールド上から自分自身の手で情報を集めて手掛かりを探し出し、ゴールの場所を見つけるところから始めなくてはならない。そして、時間内までにゴールへたどり着くことが出来た者だけが、次のステージに進出出来るというわけだ。

 君達にはこれを、今日から三日間掛けてやってもらうことになるんだけど……泊まりの用意は出来ているよね? パンフレットにはそう書いてあった筈だけど》

 

 ゴールの場所を探すことから始めるガンプラのレース。それが、大まかに言ったこの試合の概要だった。

 それはまさに、サバイバルレースの名に相応しい戦場であろう。

 しかし、なまじフィールドは島全体と言う異常な広さだ。スタート地点にもよるが、ゴールまでの道のりは極めて長い筈だ。

 それだけ広いとゴールへたどり着くどころか、出場者のガンプラを見つけるのも一苦労になるのではないかと少なくない人数の者が疑問を抱いたことだろう。

 そんな僕らに向かって、キンジョウ会長は重要事項を告げた。

 

《そうそう、フィールドの中には君達の他にもNPC操作のガンプラ軍団や、僕の送り込んだ強力な刺客達が待っている。運が良ければアワクネ、ゼロ、ショクツ、クロキシと言った、君達の知っているファイターと戦うこともあるだろう》

「四天王も居るのか!?」

「まじかよ……小学生も居るのに」

「くくっ、面白ぇじゃねぇか!」

 

 それは、キンジョウ会長が行った説明の中で最もざわつきの多かった言葉だった。

 これだけの大人数と巨大ステージで競い合う上に、KTBK四天王までもが自分達の敵に回る。その話に、ある者は戦慄し、ある者は高揚を露わにする。しかしここに居るファイター達は皆日本中から集められた選りすぐりの実力者であり、後者の反応の方が圧倒的に多いだろう。

 ……僕の場合はどちらかと言えば、前者の方だったが。

 

《腕試しのつもりで彼らに挑むのも、無理に挑まないのもありだ。それと、ガンプラがやられた場合は、壊れた姿のまま君達の元へちゃんと転送されるから安心してくれたまえ。デスペナルティもあるにはあるけど、修理したり別の機体を用意すれば、一定時間後にまた再チャレンジすることが出来る。選手権みたいにやられた時点で脱落になったりはしないから、仮に始まって早々にやられることがあっても三日間は楽しんでいけると思うよ。

 それとエリアによっては色んなイベントを用意してあるから、こちらとしては選手権とは違ってMMORPGを遊ぶような気持ちで楽しんでもらえると嬉しいね》

 

 アミューズメント施設としてオープンされる予定のこのKTBKガンプラバトルアイランドは、あくまで利用者にガンプラバトルを楽しんでもらう為にあるのだと……彼はそれまでの飄々とした態度とは違い、会長の立場として相応しい表情を持って僕らに告げた。

 元々、僕はそのつもりでここに来ていた。無論、勝ちには拘るつもりだが、選手権の時ほど張りつめた感情は無かったのだ。

 しかし、そんな気楽なことも発進後にはすぐに言えない状況になるだろうと、この時僕は予感していた。

 

《さて、ルールの説明はこんなものでいいかな? では、行こうか》

 

 ファイター達から溢れる空気の流れが選手権の時と同じそれになり、僕らは身を引き締めながら操縦桿を握った。

 そしてとうとう、開始の鐘が鳴り響いた。

 

《第一回KTBKガンプラバトルアイランド杯――開幕!》

 

 キンジョウ会長の宣言と同時に、僕らは動いた。

 そしてリアルタイムでテレビに中継されている巨大モニタースクリーンの映像は、会長の姿から一変して各ファイター達が駆る数百機ものガンプラの姿へと切り替わっていく。

 その時主に焦点を当てられていたのは、恐らくは選手権でも結果を出していたエースファイター達のガンプラであろう。

 

「コウサカ・ユウマ、ライトニングZガンダム――出ます!」

「ホシノ・フミナ、スターウイニングガンダム――行きます!」

「イズナ・シモン、デスティニーインパルスガンダム――ボックス!」

「カミキ・セカイ、カミキバーニング――行くぜ!」

「キジマ・シア、ポータント――行きます」

「サカイ・ミナト、トラファイオン――行くぜぇ!」

「発進っ! J(ジュン)アーク!」

「ガンプラめ! 鋼鉄ジーグが相手だ!」

「ゲキ・ガンガーV、レッツ・ゲキガイン!」

「ジムグレンキャノン、行くぜ!」

「ザクバスター、行きます!」

「ノビノ・ビタ、百式(ザンダグロス)、行くよ!」

 

 こうして、僕らはプラフスキー粒子の蔵から旅立った。

 新天地へ。

 希望(ガンプラ)代償(しゅうりひ)も知らず、進み行く者達を守れると信じて。

 何もかもを犠牲にする旅が、始まった。

 

「ミナキ・ソウシ、マークキュベレイ――出る!」

 

 僕はこの大会用に調整した汎用性の高い、新しいガンプラを出撃させた。

 機体名はマークキュベレイ――ベースはニヒトと同じキュベレイだが、今まで僕が扱ってきたガンプラとは違い、こちらは極めて平凡な改造機体だ。

 武装はビームガンにビームサーベル、ファンネルと言い、こちらも通常のキュベレイと何ら変わりはない。

 見た目も量産型キュベレイの機体の胸部や肩、膝と言った各所に結晶体を模したクリアパーツを装備しているだけの姿であり、ニヒトと比べれば地味な印象は拭えないだろう。

 その見た目通り、このガンプラはザルヴァ―トルプラモデルほどのパワーは無い。しかし、それぞれのステータスがバランス良く高いレベルでまとまっている安定した機体だ。

 燃費も良い為継戦能力に優れ、長時間の行動が想定されるこのレースにおいては最も適しているガンプラだった。

 

 

 蔵から飛び出した僕の視界に飛び込んできたのは、漆黒の闇に煌く無数の星々――そして、機体の下に広がっている凸凹に塗れた岩の世界だった。

 月面――僕のスタート地点は、多くのガンダム作品で舞台となったことのある有名なステージだった。

 

 ゴール地点の場所はどこにあるのかわからない。しかし、その手掛かりはこの戦いの中にあると会長は言っていた。

 僕はその手掛かりを探す為、ガンプラを真っ直ぐに前進させた。

 

 月面上を飛行すること数十秒後、程なくして僕のガンプラが出くわしたのは、この大会に出場しているファイターのガンプラではなく――ハイモックの軍勢だった。

 ハイモックとは、ガンプラバトル用に使用される対コンピュータ戦用無人機のことだ。今の時代、誰もがその機体の世話になったことはあるだろう。

 この大会の主催者であるキンジョウ会長は、このフィールドにはNPC操作のガンプラも配置してあると言っていた。これがそういうことなのだろうとすぐに察した僕は落ち着いてファンネルを展開し、襲い来るハイモックの群れへと挑んだ。

 KTBKが実力者と見込んだ出場者の相手をするからか、ハイモックの機体ステータスは割合高く設定されているようではあった。しかし、所詮動かす者がNPCでは大した張り合いも無かった。

 僕は前方のハイモック達をファンネルと右手のビームガンによるテクニカルな射撃で一機ずつ撃ち落としていくと、一機だけ後ろから回り込んできたハイモックに対して左手に携えていたビームサーベルを振り向き様に一閃し、爆散させる。

 そう少なくない時の間にハイモックの軍勢は残り三機程度にまで減っていき、全滅も時間の問題というところまで追いつめた。

 

 ハイモックの熱源とは違う遠くの場所に、機体のレーダーの感知領域に見慣れない反応が点滅したことに気づいたのは、その時だった。

 

「この反応……ガンプラではないな」

 

 突如レーダーの上に点滅してきた光の信号は、僕が七機目のハイモックを撃破した直後に発生したものだった。

 ガンプラの熱源とは明らかに違うレーダーの反応――その下には丁寧にも「NEXT」と表示されており、普段のガンプラバトルでは決して起こり得ない現象だった。

 そこで、僕はキンジョウ会長が言っていた競技の説明を思い出した。

 「ゴールの手掛かりは戦いの中にある」――その言葉から推理して、恐らくこの反応こそがその手掛かりだと見て間違いはないのだろう。

 

「ここへ行けと言うのか」

 

 敵を倒すことで浮かび上がってきたのはレースの終着点であるゴールへの手掛かり――一連の流れはまるでありふれたロールプレイングゲームのようで、ガンプラバトルにおいては今までありそうでなかった要素だった。

 僕は残りのハイモックを撃破した後で、すぐにその反応の元へ向かうことを決めていた。

 しかし残り三機のハイモックを葬ったのは僕のガンプラではなく――Zガンダムに似たシルエットを持った、トリコロールカラーのガンプラによる砲撃の光だった。

 

「相当、作り込んでいる機体だが……」

《その声……ソウシさんか。普通のガンプラだったから気付きませんでした》

「……そういうお前は、コウサカ・ユウマ。エステバリスではないのか」

《とっておきは残しておこうと思って。そちらこそ、ニヒトじゃないですね》

「この機体はマークキュベレイ。ニヒトよりも汎用性に長けた実戦向きな機体だ」

《僕の機体はライトニングZガンダム。Zガンダムをベースにした、正統派のMSです》

 

 ライトニングZガンダム――こちらの元へ駆けつけてきたのは、コウサカ・ユウマの新機体だった。

 彼の愛機はかの「機動戦艦ナデシコ」に登場するロボットを改造したガンプラとナデプラの融合体だった筈だが……彼も僕と同じで、今は出し惜しみをしているのだろうか。

 尤も、彼の新しいガンプラはスーパーエステバリスの前座と言うには豪華すぎるガンプラであったが。

 

「ガンプラ同士、目が合った。戦う必要があるな」

《いや、今は御免こうむりたいですね。そちらも、レースの勝手がよくわかっていない内に消耗したくないでしょう?》

「同感だな」

《話が早くて助かります。ここは一時休戦して、しばらく僕と手を組むのはどうでしょう?》

「共闘か……僕も同じことを考えていた」

 

 フィールド上でガンプラ同士が出くわしたからと言って、必ずしも戦わなければならないという決まりはない。

 これは多人数参加型の勝負だ。状況によっては複数のファイターを一人で同時に相手をしなければならないこともあり、それを踏まえれば味方は一人でも多いに越したことはなく、彼ほどの実力者ならば尚更だった。

 共闘――その場合、最も警戒すべきなのは味方と思っていた者に後ろから撃たれることだが……恐らく、このコウサカ・ユウマに限ってはそんな手は使ってこないだろうと考えていた。

 根拠は今まで見てきた彼の人柄と……これまで培ってきたファイターとしての勘か。

 そして彼のガンプラであるライトニングZガンダムが今、こちらに対してあまりにも無防備な隙を晒しているということも根拠の一つだった。

 そう信じこませるのもまた彼の狙いなのかもしれないが……疑心暗鬼に浸ればキリが無い。リスクを引き受けた上で、僕は彼に至っては信じるに値すると思ったのだ。

 

「了解。こちらとしてはゴールの位置が判明するまで協力を頼みたい」

《こっちもそのつもりです。ではよろしくお願いします》

 

 端的に言うと、僕は彼のことを良きライバルとして気に入っていたのだ。共闘を受け入れることに、異存は無かった。

 

 

 ――こうして、僕ら二人のガンプラは目的地へと向かった。

 

 向かう先は、勿論レーダーの端に点滅しているNEXTと書かれた光だ。

 この反応はユウマの方からも同じものが見えているようで、彼もまた一定数のハイモックを撃ち落とした後でこうなったと言っていた。

 やはり、これはゴール地点への何らかの手掛かりと見るべきか。これ自体がゴール地点だという可能性も無くはないが、ゲームはまだ始まったばかりだ。良きにしろ悪しきにしろ、エンターテイメント性を重視するキンジョウ・ナガレという主催者がファイターに対して簡単すぎる条件を設けてくるとは考え難かった。

 

 

 道中、散発的に現れたNPC操作のハイモックを危なげなく撃ち落としながら、数分後に僕らのガンプラは目的地であるレーダーの反応地点へとたどり着いた。

 そして僕らはそこにある物をレーダーではなく、モニターから自らの目で確認した。

 

「この場所は……」

《これは……月のD.O.M.E(ドーム)!》

 

 「D.O.M.E」――正式名称「Depths Of Mind Elevating」。

 ガンダム作品においては「機動新世紀ガンダムX」の最終局面に登場した施設の名だ。

 かの強力兵器として名高いサテライトキャノンにマイクロウェーブを送信するシステムの制御もこの施設によって行われており、「ガンダムX」作中でも重要な役割を果たしていたものだ。

 しかし、その実態は一人のニュータイプの男を遺伝子レベルまで分解し、部品としてシステム化した恐るべき施設である。ファーストニュータイプと呼ばれている彼の能力はシステム化されてもなお健在であり、意識を持った上で他のニュータイプと通じ合ったり、フラッシュシステムを介してビットMSを起動したりと言った具合に「ガンダムX」作中での活躍の幅は大きかった。

 僕らがたどり着いたその場所は、まさにその「D.O.M.E」を再現した基地施設だったのだ。

 

《これは……ゴールの場所をD.O.M.Eに聞いてみろってことか?》

「……既に、先客が居るな」

《先を越されたか……ん? なんだあれは……!?》

 

 モニターに映る景色には既に、僕らよりも先にこの場所に到着していたファイター達のガンプラの姿が何機かあった。

 しかし彼らのガンプラは、見慣れぬシルエットを持った一機のガンプラと交戦している最中だった。

 そのことに気づいた僕はメインカメラのズーム機能によってモニターを拡大し、基地の状況を調べ――目を見開いた。

 ユウマもまた、同じことをしていたのだろう。彼の姿が映る通信回線からは、驚愕に染まった声が聴こえてきた。

 

《そんな馬鹿な……っ、あれは……あの機体は!》

 

 複数のガンプラと対峙しながら、なお圧倒している巨大なガンプラが一機。

 

 細身ながらも威圧的な風貌を持ち、紫色の装甲に覆われているガンプラはその巨体からは考えられないほど軽やかな動きで、群がるファイター達のガンプラを次々と蹴散らしていた。

 ファイター達のガンプラの爆発によって巻き上がっていく硝煙の中で怪しく光る二つの眼光は禍々しく、対峙する者全てに恐怖感を植え付けるものだった。

 それは間違いなく、MSでもMAでもなかった。 

 それはガンダム作品ですらなく、ガンダム作品に非ずともガンダム作品に劣らぬ知名度を誇り……放送以来、後の爆発的アニメブームを引き起こし、後世のロボットアニメに多大な影響を及ぼしていった怪物的な作品に登場する機体だった。

 僕の人生の起点となった「蒼穹のファフナー」も、コウサカ・ユウマの未来を導いたという「機動戦艦ナデシコ」の制作にもまた、かの作品の影響が含まれていたという噂もある。

 

 故に、僕らはその機体の名前を知っていた。

 

「エヴァンゲリオンだと……!!」

 

 ――作品の名は「新世紀エヴァンゲリオン」、機体の名はEVA初号機。

 

 モニターに映っているあの機体は、ファーストガンダムよりも先に生まれた世界初のPG(パーフェクトグレード)モデルであった。

 

 先客のファイター達を全滅させた紫の巨人は、戦慄する僕らに対しておぞましい咆哮を上げた。

 

 

 ――それが、一つ目の関門だった。

 

 

《そう言えば、ファフナー序盤のノリってエヴァのパクr……》

「そこから先を言ってみろ。コクピットから叩き出すぞ……!」

《すみませんでした》

 

 ――君は知るだろう。ガンプラバトルも人生にも、人の価値観(コンプレックス)は付きまとう。

 

 それが世界の変わらぬ問いかけであり、答えは僕らの戦い――そのものなのだという事を。

 





 ポエム万能説。
 KTBKの刺客には四天王の他にもラルさん他前作の大物ファイターも何人か紛れ込んでいるので、学生達には笑えない難易度になっていたり。
 次回は再びユウマもといUMA視点です。


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人造人間とキメラと宇宙戦艦

 

 

 ○月×日 私はUMA……かつてガンプラビルダーと呼ばれた者

 

 KTBKガンプラバトルアイランド杯開催。

 この日をどれだけ待ち望んでいたことか。セカイの奴もこの日の為にガンプラの修行に銀髪美少女と一緒に励んでいたようで、その気合いも十分と言ったところか。

 フミちゃんの方は選手権の時とは違い、この大会をアトラクションとして楽しむことを意識しているようだった。シアちゃんには敵意むき出しだったが。

 しかしセカイの奴も、随分と立派なガンプラを作れるようになったもんだ。ガンプラビルダーとしては以前よりも何ランクも上がったように見えたが、元々の武闘家気質な性格は変わっていなかった。島でアワクネ・ユリちゃんと再会した時もすかさず宣戦布告を叩きつけていたところも、前と変わっていなくて少し安心した。

 

 さて、「島がリングだ!」のキャッチコピー通り、島その物が巨大なバトルフィールドでは、これまでにない大規模なサバイバルレースが繰り広げられた。

 それもゴールの場所は自分で探し出せ、という難題だ。そんな手探り感MAXな競技では初っ端からエステを使うわけにもいかず、僕はこの日の為に製作してきたもう一つの機体、ライトニングZガンダムで戦いに臨んだ。

 

 スタートして早々にミナキ・ソウシと合流し、共同戦線を張ることが出来たのは嬉しい誤算だった。彼が使っている機体が虚無の申し子じゃなかったのはもっと誤算だったけど、機体を替えても彼の能力は健在だった。

 正直、彼の指揮の恩恵を日頃から受けている本枚高校の面々には嫉妬を感じた。それぐらい、後ろに彼がいる戦闘は戦いやすかったのだ。

 

 そんなこんなで彼とのツインドックで無双していると、僕達は月のD.O.M.Eへとたどり着いた。

 

 そして遭遇した。EVA初号機、それもパーフェクトグレードモデルの奴と。

 

 この競技において、ガンダム作品以外の機体が出てくるのは最初から予想していた。だってKTBKだし……それはいいんだ。重要なことじゃない。

 

 ただ本当に……コイツの相手は骨が折れた。

 

 でかい図体をしているくせに動きが偉い俊敏だし、NPC操作のくせに動きが獣みたいに規則性が無い。スケール差もあってか乱射してくるバレットライフルは一発一発が戦略兵器みたいな威力だったし、何より厄介だったのは全方位へのバリア――「ATフィールド」の存在だった。

 ATフィールドと言えば、アニメ新世紀エヴァンゲリオンを語る上では外せない能力だろう。発動する際には正八角形の波紋っぽいものが発生するのが特徴だ。

 このバリアは正面からはもちろん、上や後ろからの攻撃に対しても発動され、アニメの作中では戦略核さえも威力を大幅に軽減していたほどだ。このガンプラバトルでも、そのチートっぷりは健在だったよ。畜生。

 

 しかし、あれと戦っている時のソウシは珍しくテンションが高かったものだ。

 やっぱりあれかな、自分の好きなアニメの元ネタ作品みたいなもんが相手だったから、いつもより張り切っていたのだろう。しかし戦いが終わった後で彼が言っていた「近年のロボットアニメは何かにつけてエヴァっぽい、エヴァのパクリと言われる……理不尽だとは思わないか?」という言葉にはちょっと同意したものだ。うん、僕もエヴァは好きだけど、一部のエヴァファンが行うしつこいぐらいの起源主張には少しイラっとするよな。

 

 ……まあ、そんなこんなでソウシは張り切った。僕も張り切った。ただ――あの初号機、アホみたいに強かった。

 

 サイズは反則級のPG。火力は圧倒的。防御も圧倒的。動きも俊敏……どうやって倒すんだよこの化け物。少なくとも、一対一で勝てる相手じゃなかったのは間違いないだろう。

 案の定、僕のライトニングZガンダムとソウシのマークキュベレイも破損は免れなかった。僕のライトニングZはまだマシな方だったが、ソウシのキュベレイはあれの攻撃で右半身全部を失い、機能停止する寸前まで追いつめられたほどだ。あの時は、僕も流石にヤバいと思った。

 そして月面に墜落していったキュベレイに向かって、エヴァが例の如くルパンダイブ。良い子のみんなのトラウマシーンの再現とばかりに、口を開けてキュベレイをムシャムシャしようとしていた。

 

 ――と、その時である。

 

「立ち上がれ! ソウシ!」

 

 通信回線から突如割り込んできた男の声。瞬間、エヴァとキュベレイの間にルガーランスっぽい何かが突き刺さり、エヴァの両足をくるぶしのところまで一瞬だけ結晶化させた。……自分で書いておいてなんだけど、意味わかんないなあの攻撃。

 そしてその声と同時に、センサーが新たな熱源を感知。僕達がメインカメラをそっちに向けると、月面の崖の上――そこに、ヒーロー然とした白いガンプラが立っていたのだ。

 

「お前はこんなところで朽ち果てるファイターではない!」

「キジマ・ウィルフリッド……!?」

 

 ――そう、みんな大好きキジマ・ウィルフリッドである。

 

 ガンプラ学園首席。選手権ではチームを六連覇に導き、貪欲に強さを追い求める姿はまさに武人。まあ勝ちすぎて慢心したのか、今年の大会では妹に単独出撃をさせる痛恨のミスでソウシ達に敗れることになったわけだが……それでも彼の強さは疑いようもない。純粋なガンプラバトルの腕は、今でも中高生ナンバーワンだと僕は思っている。

 そんなキジマが、新しいガンプラを駆って僕達の前に現れた。それも前大会で敗れたソウシに加勢する為にだ。まるで少年漫画みたいな展開に、不覚にもときめいてしまった。

 

「お前にも見えるだろう。見果てぬ先まで続く、我々の戦いのロードが!」

 

 ……と、なんかどこかで聞いたことのあるカッコいい台詞を吐きながらソウシを激励し、キジマのガンプラはエヴァ初号機に戦いを挑んだ。

 彼の機体は相変わらず白いカラーリングだったが、前大会まで使っていたトランジェントガンダムアルストロメリアとは細部が異なっていた。

 

 スマートでスタイリッシュで、動力源にGNドライヴを使っているところは変わらない。両手に収納式のクローを装備しており、ボソンジャンプによる瞬間移動能力を有しているのも変わらない。

 

 以前と比べて大きく変わっていたのは、ソウシのマークキュベレイのように、胸や肩と言った部位のところどころに結晶体のようなクリアパーツが着いていたところだ。

 それと武器。これがトランジェントの大剣から、ルガーランスっぽい何かに変わっていた。

 その姿は何と言うか――トランジェントガンダムとアルストロメリアとエインヘリヤルファフナーを組み合わせた、三作品のロボット要素が集まったような機体だった。

 

 僕がエアマスターとライトニングとスーパーエステバリスを組み合わせたのと同じように、彼もまた三作品によるクロスオーバー機を実現させたのである。

 それでいて無理なキメラによる外観のゴテゴテ感は無く、全体像をスマートに纏めているのが彼の製作技術の高さを表している。正直言って、くっそカッコ良いガンダムだった。

 

 敵ながら憎たらしいほどに惚れ惚れするその機体の名前は――

 

「エヴァよ、このジーベックガンダムが相手になろう!」

 

 ジーベックガンダム――ナデシコ要素と蒼穹要素を混ぜ合わせた機体としては、何とも的確かつシンプルなネーミングである。

 そして彼が戦いに加勢してから、戦いの形勢は変わった。

 

 

 ……とは言っても、やっぱりエヴァPGは強い。

 三対一に立ってこちらの手数は増えたのだが、それでもあのATフィールドを完全に打ち破ることは最後まで出来なかった。

 僕のライトニングZガンダムの切り札である火の鳥アタックもあんまり効果なかったし、ジーベックガンダムの同化アタックもすぐに解除されてしまう。ATフィールドは心の壁だから同化を拒んでいるんだとソウシは言っていた。……というかサラッとガンダムに同化能力を着けていたキジマに僕はびっくり。驚くのはまだ早いとルガーランスっぽい何かからグラビティブラストを発射していたのはもはやドン引きである。流石にガンプラ学園の首席は格が違った。

 ファイターの技量は、悔しいがキジマが三人の中で抜きん出ていた。最後までエヴァ相手に一度も被弾をしなかったし、決め手になったのも彼だった。

 彼は言った。

 ATフィールドにより実弾、ビーム問わず一切のダメージを受け付けない人造人間エヴァンゲリオン。

 しかしそれにも限界はある。いかに固い防壁を張ろうとも、防壁に使われるエネルギーは無限ではないのだと――そう言い放ったキジマの言葉に、ソウシと僕はようやく敵の弱点へと思い至ったものだ。

 

 PGエヴァンゲリオン初号機――HG基準の僕達の機体とは根本から性能が違うが、ガンプラバトルにおける動力は同じプラフスキー粒子だ。

 圧倒的な戦闘力とスケールに目が曇っていたが、どんな化け物であろうとも稼働時間には限界があるのだと。

 

 プラフスキー粒子の残量切れ――多くのスーパーロボットビルダー達が現在進行形で苦しめられているそれが、僕達を勝利に導いた。

 

 

 僕達はエヴァのATフィールドその物を攻略するのではなく、逆にATフィールドを使わせることによって粒子を消費させ、徹底的に粒子切れを狙う作戦へと切り替えたのだ。

 だからこそ僕は火の鳥アタックを連射し、ソウシはファンネルを一斉発射、キジマはトランザム同化グラビティブラストを撃ちまくり――約一名はおかしな火力で普通にATフィールドを突破していたような気がするが――そんなスパロボのボス戦みたいな荒々しい戦法は、本来燃費が良い筈の僕達の粒子残量までも限界寸前に追い込むほどだった。

 

 ――そして粒子残量ギリギリまで打ち尽くした結果、僅かな差でエヴァの粒子残量が底をついた。

 

 紫色の巨人はナイフを振り上げた態勢で沈黙し、ピタリと動かなくなったのだ。

 しかし相手はあのエヴァンゲリオン。動かなくなったと思ったらさらに凶暴になって暴れ出しかねないと判断した僕達は万場一致でとどめを刺すことに決め、最後は比較的粒子残量に余裕のあったキジマの手で撃ち抜かれることになった。

 さらばエヴァ。あれが爆散する姿にはちょっと胸が痛んだが、これはあくまでガンプラバトルだ。思い入れのある機体が砕け散る光景なんかは、今までだって飽きるほど見慣れたものだった。

 

 そうして、僕達は一つ目の関門を乗り越えた。キジマは新機体の力を存分に発揮出来てご満悦。ソウシはポエムを喋り。僕はなんか早くもやりきった感を出してしまった。それほどまでに、エヴァとの激闘は消耗が激しかったのだ。

 

 

 エヴァを倒した後、再びレーダーに矢印の反応が点滅した。それはD.O.M.Eの内部を示したものであり、モニターから確認出来る位置ではドームの方が僕達を招き入れようとしているように、月面の地下へと続くシャッターが開いていた。

 

 しかしこちらの粒子残量は既に危険域。これ以上敵は出ませんようにと祈りながら、僕達はD.O.M.Eの内部へと入った。

 

 そしたら何と言うことでしょう。

 

 

『私はD.O.M.E……かつて、ニュータイプと呼ばれた者』

 

 はい、居ました。

 D.O.M.Eの内部に進入すると、丁寧にも武装を解除したビットMSの群れがわらわらと僕達を奥まで案内してくれて、その先に到着すると突然プラフスキー粒子の光がブワーっと広がり、どこからかとてもいい声が聴こえてきた。

 なんというか、感激した。

 超感激した。

 一番好きなガンダムは? と聞かれたら、僕は「エアマスター」と即答するだろう。そして僕は、ガンダム作品の中でガンダムXが一番好きだ。打ち切りだったけど大好きだ。ナデシコで登場したXバリスもガンダムXの打ち切りを皮肉った機体らしいが、それでも好きなものは好きなのである。

 

 だからD.O.M.Eの声の人まで参戦してくれたのは……何と言うかファンとして涙が出た。まるでその時、ガンダムXのクライマックスシーンに自分が参加しているような気分になったからね。

 

 ――そして、D.O.M.Eは僕達に話した。

 

 いわく、エヴァの魂を鎮めてくれてありがとう。これで彼女も安らかに眠れるだろう――と。

 え? あそこに居たPGエヴァって実は本物ではなく、中の人の思念が生み出した魔物だったの? という今明かされる衝撃のオカルト設定に驚きながら、僕達はD.O.M.Eの話を聞いた。

 彼はそんなエヴァを倒してくれたお礼にと、僕達のガンプラにビットMS達のエネルギーを分け与えることによってプラフスキー粒子を補給してくれた。機体の損傷部までは直せなかったが、それだけでも大分助かったと言えよう。

 そして、D.O.M.Eは僕達にゴールの場所の手掛かりを教えてくれた。「ここを出発し、地球へ向かうといいだろう」的な言葉で。なんともアバウトな情報だったが、とりあえずゴールの場所は月には無く、地球にあることがわかったのはかなり大きな収穫だった。

 

 しかし、MSでここから地球へ向かうには時間もエネルギーの消耗も激しい。何より道中では先ほどのエヴァのような敵との交戦も想定される為、今しがた補給を受けたとは言え粒子残量の問題は深刻なものになるだろう。キジマのボソンジャンプを使うという手もあるにはあるが、あれはジャンプ先のイメージが必須な為、まだこの巨大フィールドの全体像が見えていない以上、使用するのは危険だという結論が出ていた。中々、ままならないものである。

 

 そんな感じで僕達が今後の動向に悩んでいると、こんなこともあろうかとD.O.M.Eさんは僕達に餞別を送ってくれた。

 

 

 僕達のガンプラを乗せる宇宙戦艦――ナデシコ級4番艦「シャクヤク」を。

 

 

 夢にまで見たナデシコ級への搭乗に、僕とキジマは歓喜した。

 正直、そっちかよという思いはあったけどNE。

 ビットMSに連行されて着いたのは地下のドックに収められている白い戦艦。うん、やっぱりナデシコ級は美しい。

 しかしこの艦を操縦するには、誰か一人が今のガンプラからこの艦にコントロールを移す必要があるとD.O.M.Eは言っていた。

 ナデシコファンとして僕が動かしたいところだったけど、艦の操作は戦術指揮能力の高さとキュベレイの損傷の激しさからソウシが行うことになり、僕のライトニングZとキジマのジーベックガンダムはシャクヤク内の格納庫へと乗り込むことになった。

 

 そして「全速前進DA!」と興奮したキジマの指示を受けたソウシの操作によって、遂にシャクヤクは出港したのである。

 

 あのシャクヤクが。

 

 ナデシコ本編では竣工前に破壊され、日の目を見ることのなかったシャクヤクが。

 

 残念ながらYユニットはオミットされているようだったが、シャクヤクは僕達の手によって念願の出港を果たしたのである。それはなんとも感慨深い光景だった。

 しかしあれだな、キジマ・ウィルフリッドもいけ好かない男だと思っていたが、話してみれば中々愉快な人である。今度は戦場以外で語り合いたいものだ。

 

 そうして成り行きで共闘することになった僕達三人のガンプラを乗せたシャクヤクがD.O.M.Eから飛び立ち、月を後にする。

 

 向かう先は地球。遠くに光る青の星を目指して、僕達は旅立った。

 

 ――それからほどなくして場内にアナウンスが響き渡り、一日目の競技は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~三人がエヴァと戦っている時の皆さん~

 

 

 セカイ 地球エリア「新宿」にてシアと合流し、共にラルさんのドムR35と交戦。

 

 フミナ ギャン子と合流、「グリプス2」周辺にて共にレディーカワグチと交戦。

 

 シモン 地球エリア「ベルリン」にてアスカと交戦。黒騎士率いるオーラバトラー部隊の乱入により決着つかずも、意気投合して共同戦線を組む。

 

 アドウ 地球エリア「サンクキングダム」にてスガと交戦するも、チョマー軍団の乱入によりうやむやに。

 

 ユリ  火星エリアにてミスター・ゼロ配下の騎士団と交戦、殲滅する。

 

 ミナト 木星エリアにてビルダートJやその他最強スーパーロボ軍団と共に「魔改31ガンプラ」を名乗る謎の変態ビルダーズと交戦。

 

 オチカ コロニー「アマテラス」内部で挑戦者が来るまで待機中。暇なので嫁といちゃいちゃしていたらタイミング悪くカリマ乱入。

 

 次回、カリマ死す! ガンプラバトルスタンバイ☆

 



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優勝候補と最強とアクシズ落とし

 

 

 

 俺の名前はアワクネ・オチカ。家族を愛するガンプラビルダーだ。

 

 

 一日目のプログラムが終わり、俺達の仕事もやれやれと言った具合だ。尤も俺の場合は戦った相手が一人しか居なかったし、そう疲れたわけじゃない。と言うか、ぶっちゃけ暇だった。まあ、おかげで嫁と色々と喋くったり出来たんだけどNE。

 しかしまあ、ナガレ会長も容赦無い奴だ。今回のサバイバルレースの難易度と言ったら、正直プロでもクリア出来るかわからんぐらいだった。

 島全体を使ったこのバトルフィールドには、ナガレが最初に言っていたようにKTBK社に雇われた腕利きのファイター達がボスイベントの如く各地に配置されている。俺やルルヤマ君にショクツさんにルワ……じゃなかった、クロキシさんと四天王もまた、全員がそんな感じに散らばって待機している状態だ。

 そして雇われのファイターは俺達KTBK所属の人だけじゃなく、ガンプラバトル選手権世界大会の常連も紛れているのだ。具体的には、ラルさんやリカルド、チョマーにマオ君にニルス君、レディー・カワグチさんやカイザーさんと言ったそうそうたる顔ぶれである。そして今のところみんなには内緒だが、あのメイジン・カワグチも当然待機していた。メイジンに関しては明日大々的に何かやらかすそうなので、子供達も大いに楽しんでくれるだろう。

 

 さて、一先ず今日の仕事はこれでお開きということで、俺は嫁のラズリちゃんと一緒に控え室の大広間へと戻ることにした。するとそこには既に先客が居たようで、こちらの姿に最初に気づいた伊達男が手を振って挨拶をしてきた。

 

「よう、アワクネ夫妻も来たか。お疲れ」

「リカルドさんも、お疲れ様です」

「どうもラズリさん。まあ、俺はまだ一人としか戦っていないし、そんなに疲れていないけどな」

「……そっちもか」

 

 彼の名前はリカルド・フェリーニ。イタリア最強ガンプラファイターの座を十年以上もキープしている、言わずと知れた実力者だ。そんな彼とは何度も世界大会で会っている縁か、歳が近いこともあって色々と良くしてもらっている。

 まあ、現役のコミュ障な俺にとっては貴重な友人という奴だ。実際、彼とはガンプラに対する考え方とか色々共感出来るところがあったり、中々話が合ったりする。「女の趣味(ロリコン)はちょっと理解できねーわ」とは前に彼に言われたが、俺は全く挫けない。だって俺はロリコンだけど、愛妻家だもの。

 

「しっかし凄いな、この島は。そこら中がバトルシステムになっているし、島のどこに居てもガンプラバトルが出来るんじゃないか?」

「実際、出来るように作られている。会長の最終目標はこの島に首都並の都市を作り、ガンプラが住民票代わりになるガンプラバトルシティを作り上げることなんだそうだ」

「ガンプラバトルが挨拶になりそうだな。凄い時代になったもんだ」

「しかもそこで行う新たなバトルスタイルとして、特殊なバイクに乗りながらガンプラバトルをするライディングガンプラバトルというのが考案中だ。……大真面目に」

「マジかよ!? 流石、金持ちはやることがでかいな。導入する時は言ってくれよ、テスターになってやるから」

「そう言えばバイク好きだったね、リカルドさん」

「まあな」

 

 俺よりもガンプラバトルの経験が豊富なリカルドから見ても、やっぱりこの島は異常に見えるようで安心した。……いやね、しばらくここで仕事してると感覚が麻痺してくるのよ。その内普通の町の方が異常に感じちゃうんじゃないかとおじさんは自分の将来が不安だ。その分娘と嫁には癒されていますがね。

 まあ、驚きはあれどリカルドも他のファイター達も、とりあえずはこの島のことを気に入ってくれているようで何よりだ。まだまだ島の半分ぐらいは試験段階で完全とは言えないが……将来的には、ここがガンプラ特区ニッポンとなる日も近いだろうとミスター・ゼロことルルヤマさんも言っていた。なんか盛大に失敗しそうなネーミングなのはご愛敬である。

 

 ――と、そんな感じに俺達三人が駄弁っていると、これまた見知った顔の男が二人もやってきた。

 

「お揃いですね、皆さん」

「フェリーニさんとは去年ぶりですか」

「おう、久しぶりだな。ヤジマ・ニルスに、独身(・・)のヤサカ・マオくん」

「大学出てから! 大学出てからが勝負ですから! まだ縁は続いています!」

 

 二十代前半の若い二人はヤジマ・ニルス君とヤサカ・マオ君。そう言えばこのメンバーではマオ君だけが独身になのか。まあ彼はまだ大学生だし、そういうのはもうしばらく後でも全然問題ないだろうが……なんというかリカルドの奴もからかい上手である。

 しかしあれだな、これだけのメンバーが一度に揃うのも中々珍しい。みんな世界大会の常連だから一年に一回は会っているが、世界大会以外の場でこうして会うのは初めてなんじゃないかと思う。

 

「しかしこれだけ揃っていて、イオリのセイはんが来ていないのは勿体ないですねぇ」

「そうだな。レイジとあの嬢ちゃんのことは仕方ないが、セイの奴には来てほしかったな」

「ジュリアンもな」

 

 あー何人かは来ていないが、そう言えばここに居る面々は、みんな第七回ガンプラバトル選手権に出場した強豪達でもあるのか。フッ、何を隠そうこの俺も嫁さえ居ればそんな彼らにもひけをとらんのだよ。嫁さえ居ればな!

 

「皆さん、こうしてせっかく集まったのですから、少しお話しませんか?」

「ん、何を?」

「この大会で、皆さんが注目している選手のこととか」

 

 そんなハイテンションなことを考えながら悦に浸っていると、ヤジマ・ニルス君が興味深い話題を提供してくれた。

 ……確かに、これだけの豊作年だと、当然目につく有望な学生ファイターの数は多い。今日の俺が唯一戦った選手であるカリマ・ケイ君も、中々の使い手だったし。

 

「いいですね、それ」

「なら俺から話そうか。今日俺が戦ったのは一人だけだったが、そいつが中々面白いガンプラを使う奴でな。ウイングガンダムゼロ炎って機体なんだが……」

 

 皆さんも割と乗り気でニルス君の提案に乗り、リカルドから順に自分の目に留まったファイター達を紹介していった。

 やれ誰が強そうだとか、誰が優勝しそうだとか。自分達がこの大会において脇役だからこそ好き勝手に語り合える、和気あいあいとした自由な議論タイムだった。

 

 見ての通りこの大会には俺達KTBKの社員が選んだ選りすぐりの変態、もとい実力者達が参加しており、十代の若い発想から生まれた機体はどれもバリエーション豊かなガンプラ達だった。

 

 俺がその中でもぶっ飛んでいると思ったのは、木星でマオ君達が戦ったと言う最強スーパーロボット軍団(仮)の存在だった。

 

「まさか、サテライトキャノンと真っ向から撃ち合おうとする子があんなに居るとは思いませんでしたよ。なんですジュンク・フォースって……あんなん絶対おかしいですわ」

 

 ――とは、実際に彼らと対決してみたマオ君の言葉だ。今の環境は火力が凄まじいからなぁ。サテライトキャノンに匹敵する武装とかも、今となってはそう珍しいものではなくなってしまったし――何と言うか今の時代は、続編ものの対戦ゲームにありがちなインフレ現象の真っただ中という印象だ。まあ、それでもマオ君にはサテライトキャノンの大火力をただ撃つだけじゃなくて器用に応用する特殊技能があるから、インフレに遅れを取るようなことはないだろうけどね。

 実際、マオ君は復刻版のガンダムX魔王を使って大多数のスーパーロボット軍団を相手に案外余裕で翻弄していたらしい。彼らにはガンプラのパワーがどれほど強くても、そのパワーに頼りすぎていてはいけないのだと良い教訓になっただろう。そうやって学生達を育てることも、この大会の目的の一つだったりする。

 しかしあのメイジンにも言えることだけど、マオ君や彼みたいな天才に年単位の経験を積ませると、やっぱりとんでもなく化けるもんよね。彼らにはいよいよ、嫁が居ないと勝てる気がしないや。

 

「うちはミナト君の実力は元からよく知っていましたが、一番驚いたのはビルダートJでしょうか……あれは近い将来、うちらのライバルになるかもしれませんねぇ」

「なんだその空が好きそうな名前……」

 

 色物強者勢揃い。このガンプラバトルアイランドの最初の招待客としては、彼らはこれ以上ない上客だろう。

 そして優勝候補を語る上で忘れてはいけないのは直近の選手権大会の優勝チーム、トライファイターズや竜宮城のメンバーだ。聞くにトライファイターズのエースのカミキ君はあのラルさんと交戦しておきながら、無事に生還を果たしたのだそうだ。そしてコウサカ・ユウマ君は竜宮城リーダーのミナキ君やガンプラ学園のキジマ君と組んでPGエヴァ初号機を破ったとか何とか……本当に、彼らは遠くない内にここの人達のライバルになるかもしれないね。俺もこの大会で、彼らと戦うことが出来たら嬉しいなって思ってたり。

 

「オチカさんとラズリさんは誰に注目していますか?」

 

 そんなことを考えていると、ニルス君が俺の方にも話を振ってきた。

 ククク……俺とラズリちゃんが誰に注目しているかだと? 愚問だな。そんなものは決まっているじゃないか。

 

「ユリちゃん」

「ユリちゃん」

 

 俺とラズリちゃんは口を揃えて即答する。うむ、流石だな俺ら。夫妻ながら素晴らしい相性だ。

 そう答えるとニルス君は心なしか引きつったような表情を浮かべ、リカルドは呆れ顔で頭を抱えていた。失敬な。

 

「俺の娘だからな。あの子が中高生を相手にどこまで戦えるか、気になるに決まっている」

「オチカと同じ。私もユリのガンプラを見てあげたり色々してたから、やっぱり気になる」

「そ、そうですか……」

「……まあ、この親ばか共ならそう答えるに決まってるな」

 

 ぶっちゃけ今もこの部屋を飛び出してさっさとユリちゃんのところへ行きたい。だけどがっつり大会の運営に関わっている俺が出場者のユリちゃんのところへ行くのは、公平性を欠くということで規則として認められていないのだ。そんな規則知ったことかと突っ込んでしまいたい気持ちは強いが、俺は嫁や娘の前では出来る男で居たいのだよ。ラズリちゃんだって我慢してるんだからね。

 

「俺も、あの子には注目していますよ」

「ルルヤマか……」

 

 と、そんなことを考えているとまた一人俺達の話にイケメンが参入してきた。

 細身な身体にモデルのような長い脚。端正整った中性的なご尊顔を持つ青年の名前はルルヤマ・ラン。ファイターとしての技量はもちろん、広報にテレビ出演にとありとあらゆる分野で活躍しているKTBK社随一の万能社員だ。だけどリアルの体力は無い。びっくりするほどのもやしっ子である。

 

「あんたは……ミスター・ゼロだっけ?」

「はは……みんなからは、そう呼ばれています」

 

 今はオフの状態の為その顔にはいつも被っている仮面は無く、しかし一度見たら忘れない特徴的なコスチュームはそのままであることからリカルドが正体を言い当て、ルルヤマ君が肯定する。

 自分が身に着けているゼロコスチュームにいかにも周りからこんなコスプレをさせられて困っていますみたいな表情をしているルルヤマ君だが、君が誰よりも仮装にノリノリなことを俺は知っている。だって楽屋裏とかでキレッキレのポージング練習とかしてるんだものこの子。

 そんなコスプレイケメンが、ユリちゃんのことについて熱く語り出した。

 

「実は俺の待機していたエリアに、あの子のガンプラが現れたんです。俺は小手調べに騎士団をけしかけてみたのですが、結果は全滅でした。間違いなく、昨年より遥かに強くなっていましたよ、アワクネ・ユリちゃんは」

「えっ」

「えっ」

 

 なにそれこわい。

 

 ……マジ?

 俺とラズリちゃんは口を揃えて思わず聞き返してしまったが、ルルヤマ君の話によるとユリちゃんの実力は俺が思っていたよりも数段上を行っていたらしい。

 去年は忙しくて、俺がユリちゃんのガンプラバトルを見たのは小学生の部の決勝戦だけだったからなぁ……他の試合も録画してもらったビデオから見ようと思ったんだけど、そうしようとするといつもユリちゃんが「つまらないから見ないで」って頑なに嫌がるもんだから中々見ることが出来ないのよ。

 それでも決勝戦だけは直に内緒で生で見てきたけど……それでもユリちゃんが黒の偽騎士団を倒したっていうのには驚きだった。

 

「……本当か? あいつらだって世界大会に行ける実力はあっただろう」

「ええ、本当です。彼女の成長スピードは、俺の予想以上でしたよ」

 

 黒の偽騎士団とはルルヤマ君の扮するミスター・ゼロのカリスマオーラに当てられて集まってきたへんた……もとい実力者達のことで、「撃墜王」タマキやら「扇動隊長」オーギやら「唯一聖剣」ウラベやら、全員が中々に濃い称号を持つ腕利きのファイター達である。

 元ネタで言うところの強キャラ担当の人が居ないのが唯一にして最大の難点である。

 

「俺の中では既に、この大会の覇者は決まっています。もちろん、どんでん返しも期待していますがね」

 

 そんなルルヤマ君は今日、間近でユリちゃんのバトルを見たことで何か確信めいたものを抱いたように言い切った。

 なんか、うちの娘が偉いべた褒めである。いやあ、我が娘ながら鼻が高い。そうか、これだけのファイター達が居る中で、ルルヤマ君はぶっちぎりの最年少選手であるユリちゃんを優勝候補筆頭に挙げるのか。ルルヤマ君も中々、人を見る目があるようで……

 

 ……あれ? ひょっとしてユリちゃん、もう俺より強くなってたりしないよね?

 

 

 

 しないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○月×日 逆襲のメイジン

 

 

 僕の名前はユウマ。地球は狙われている。

 

 ……はい、大会二日目の日記です。いやあ、エヴァ初号機は強敵でしたねぇ……。

 初日分の試合が終わった後は、選手達全員に自由時間が与えられた。とは言ってもこの大会ではダメージレベル設定が付けられていない為、大多数の人はガンプラの修理に勤しんでいた感じだが。

 僕のライトニングZもそれなりに傷を負ったが……スペアパーツもあったしそう酷い状態でもなかったので修復はすぐに出来た。一方でダメージの大きかったソウシのキュベレイは少々時間が掛かりそうだったので、僕は一人でブラブラとこの島の探索を行うことにした。

 まあ、一人でと言っても程なくすれば同じく好奇心に釣られて探索に出ていたセカイ&キジマ妹のご両人やフミちゃんと合流したりと、気が付けばトライファイターズプラスαのメンバーで探索を行っていた。

 ついでに、セカイ達とはチームメイトのよしみでお互いに情報交換を行っておいた。話によるとセカイとキジマ妹は地球の新宿エリアからのスタートだったらしく、二人は共同戦線を組んで手掛かりの捜索に当たっていたらしい。そうしていたら僕達で言うところのエヴァ的なポジションとしてラルさんのドムR35が登場し、二人のガンプラに襲い掛かってきたのだそうだ。

 ラルさんとガチ勝負が出来るとは、なんとも羨ましい奴である。しかしセカイも負けはしなかったがキジマ妹との二人掛かりでもラルさんを倒すことは出来なかったと聞いて、僕は青い巨星の恐ろしさを改めて再認識した。いつか僕も、あの人の高みに行きたいものだ。

 フミちゃんの方にはレディーカワグチが参戦してきたらしい。あれ? なんで皆さん普通にガンプラバトルしてるの? という疑問を抱く僕に、フミちゃんが無言のチョップを喰らわせてきた。解せぬ。

 僕達のところにガンダムどころか人造人間が出てきたのは、KTBK主催と言えど案外レアなケースだったのかもしれない。

 

 そんな風に駄弁りながら行った島の探索は、思っていたよりもかなり楽しめた。

 まだ試験段階だとはパンフレットに書いてあったけど、探索可能なエリアにもガンプラショップやナデプラショップに事欠かすことがなく、今日は見ていくだけにする予定がついつい色々買ってしまった。四月発売予定のMGダイテツジンをこんなにも早くフラゲ出来たのは収穫だったな、うん。

 

 

 ――さて、初日のことはこの辺りにして、そろそろ今日の大会のことを書くことにしよう。

 

 ナデシコ級4番艦「シャクヤク」に乗って月を旅立ったところから再開した僕達は、そのままD.O.M.Eの導きにより地球へと進路を進めた。道中ではNPCのハイモック達や、僕達と同様にサラミス級やナスカ級と言った戦艦を手に入れたファイター達と出くわして艦隊戦を行ったりもしたが、どれも割とすんなり退けることが出来た。

 いやね、シャクヤクまじっパネェ。グラビティブラストの一撃によって目標纏めて全部撃ち落としていく光景には、美しさのあまり目まいすら覚えた。回線越しに聴こえてくるキジマの高笑いがすんごいうるさかった。お前そんなキャラじゃなかっただろどうしちまったんだ。

 それはそれとして、流石ナデシコ級の性能はチート染みていた。これに相転移砲を付けなかったのは、運営側の良心だったのかなと思う。これはヌルゲーすぎて申し訳ありませんわと雑魚を寄せ付けない強さには僕も左うちわだった。

 

 ……まあ、そんなに甘くはなかったんですけどね。

 

 主にシャクヤクとキジマ機の無双によって、僕達は思いのほか簡単に地球圏へと到達した。プラフスキー粒子が再現した青の星の美しさはこれまたリアルな造形で、壮大なフィールドと相まって本物の宇宙空間を流離っている気分だった。

 そんな感じでシャクヤクのカメラから覗く地球の姿に見惚れていると、事件(イベント)は起こった。

 

【警告 地球に向けて、アクシズの接近を確認! 至急調査せよ!】

 

 僕達の操作すりウインドウ上に、甲高い警報音と共にその一文が表示された。

 レーダーを確認してみると、まだ遠くの方ではあったが「NEXT」というエヴァの時と同じ表示が動きながら(・・・・・)点滅を繰り返していた。

 

《ソウシ! 行くしかあるまい!》

 

 と、真っ先に声を上げたのはシャクヤクに同乗するキジマ・ウィルフリッド氏。選手権で直にやられたせいか、この人ソウシに対して偉い執心している様子だった。その姿には、なんか古き良き少年漫画のライバルキャラみたいな風格が漂い始めている気がすると僕はしょうもない感想を抱いた。

 

《アクシズの接近……そういうことか》

「そういうことでしょうね」

 

 この警告は、ガンダムファンなら一目で詳細に悟ることが出来るだろう。

 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア。アムロ・レイとシャア・アズナブルの決着の話であり、初代ガンダムシリーズの結末の物語。地球に巨大隕石を落とし、主人公が阻止するという話は、他作品でも度々オマージュされていることでも有名だ。

 おそらく今回のこれは、そういうことなのだろう。これはもう、キジマの言う通り行くしかなかった。

 地球ではなく、宇宙からスタートした僕達の特権である。こんな愉快なイベントに参加しない理由は無い。

 

 万場一致で可決し、地球へ降下する予定だったシャクヤクは進路を変更。衝突を阻止すべくアクシズに向かって全速前進した。

 

 ――そして、僕達はその光景と対面する。

 

 

 えっ、アクシズってこんなにでかいの? アムロさんやべぇ……

 

 

 最初にその姿を見た時、僕はあまりの目標の大きさに言葉を失った。

 今までも何度かガンプラバトルの舞台としてアクシズの姿を見たことはあるが、今回のそれは今までの比ではなかった。

 なんかもう、本来の設定サイズよりも何倍も大きいように見える。地球さん休ませるどころか無事死亡だよこんなの。

 その時の僕達は、この島ならではのスケール感に圧倒されていた。

 

 そんな、忌まわしい記憶を乗せて点火した状態になっているアクシズへとシャクヤクで近づきながら、僕とキジマが格納庫から発進の準備を行う。シャクヤクのモニターを拡大してみると、既にアクシズの周辺は大規模な戦闘区域になっている様子であり、戦艦やMSの爆発の光が各所に広がっていた。

 

《グラビティブラスト、発射!》

 

 シャクヤクを操縦するソウシが初撃として密集しているハイモックの群れに艦主砲を発射した後、同時に僕のライトニングZとキジマのジーベックガンダムが発進する。

 混沌とした戦場の中で、ソウシはとりあえず状況を見て艦を先行させながら、アクシズの破砕や軌道変更の手を講じてみると言っていた。僕達の割り当てられた役目は、専らその時間稼ぎと言ったところか。

 今更ながら、チームの頭の役目を後ろに任せておけるのはいいもんだと思った。トライファイターズでは割と個人技が多かったからそこまで神経を張り巡らせていたわけではなかったが、こうして目の前の戦いだけに集中出来るのはかなり助かる。

 

《なんだあの戦艦は……!》

《あっ、相転移砲だけ持っていかれた奴だ》

《そんなことより見ろよキジマの機体! 素通りしただけでモックをバラバラにしてるぜ!》

 

 先にアクシズの周辺宙域にたどり着いていたファイター達も、僕達の存在に気が付いて多種多様な反応を見せる。

 彼らは皆協力してハイモックと交戦していた様子で、こちらに対しても戦闘の意志は無いらしく、寧ろ通信回線から共闘を要請してくるぐらいだった。

 それもその筈。このアクシズのでかさである。そしてそのアクシズを守るNPC機の膨大な機体数である。シャクヤクを守りながら彼らの中に参入した僕が目にした圧倒的な物量は、かつてテレビ中継で見たアリスタの暴走事故現場の光景を彷彿させた。

 

《その機体……ガンダムだけどユウ君?》

 

 そんな軍勢と相対するファイター達の中には、フミちゃんのスターウイニングの姿もあった。

 そしてその後ろには、フミちゃんと背中合わせで戦っているサザキ・カオルコ――通称ギャン子の新機体、ギャンスロット・アルビオンの姿もあった。

 

 ……ごめん、フミちゃん。ここは君との合流を喜ぶ場面なのに、ギャン子の機体に全部持ってかれたよ。ゼロさん、あんたの宿敵兼懐刀ここに居ました。

 

 

 ここまで来ると圧倒的な物量差なのに負ける気がしないというか、何というか。そんなことを僕は思った。

 キジマも居るしナデシコ級も居るしフミちゃんも他の優秀なファイター達も居る。問題は予想外なアクシズの大きさだけど、これだけの役者が揃っているなら何とかなるのではないかと――ハイモックを爽快に撃墜しながら、僕の心にそんな安心感が芽生え始めた。

 

 しかしそんなことを言ってられるのも、光を放ちながら「紅の彗星」が突っ込んでくるまでのことだった。

 

 

《地球に住むガンプラファイター達は、ガンプラバトルをスーパーロボット大戦としか考えていない! だから抹殺すると私は宣言したぁっ!!》

 

 

 紅の彗星、アメイジングレッドウォーリアより開かれた通信回線から突き刺さってきたのは、ぐうの音も出ない正論を叫ぶ絶賛ロールプレイ中のメイジン・カワグチの声だった。

 

 

 さっき僕は負ける気がしないと言っていたが、そんなことはなかったぜ。

 

 

 

 

 






 初代メイジンが遺した三体の「神のガンプラ」を巡るガンプラバトルシティ編は開幕しません。
 セイ君達がカードゲームをやっても、王様達がガンプラバトルをしてもなんか違和感が無い気がする今日この頃。


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逆襲のメイジンとガンプラの自由

 

 メイジン・カワグチ――言わずと知れた、現役最強のビルドファイターだ。彼が残してきた戦いの伝説は数多く、僕達は幼少時代からその戦いに魅了され、心を奪われてきた。

 

 そんな彼がこの日、アクシズ落としの首謀者として僕達の前に立ち塞がったのだ。

 

 その絶望感と来たら、僕達はこんなムリゲーを持ち込んだ大会の運営を呪うしかなかった。

 

《メイジン! 我々にガンプラの楽しさを教えてくれた貴方が、何故地球潰しを!?》

《スーパーロボットをガンプラバトルに持ち込む連中は、バトルの秩序を乱すだけの、ロマンに魂を縛られた者達だ! ガンプラバトルはビルダーのエゴ全部を飲み込めはしない!》

《ビルダーの知恵は、そんなものだって乗り越えられる!》

《ならば、今すぐオタクども全てにオリジナリティーを授けてみせろ!!》

 

 メイジンのレッドウォーリアが登場するや否や、真っ先にキジマのジーベックガンダムが彼を相手取り、熱い逆シャアロール合戦を行った。

 そして始まる、三代目メイジン対四代目メイジン候補の戦い。

 キジマとしては自分の目標でもある相手が目の前に現れたことで戦闘意欲が抑えられなかったらしく、僕達の加勢を拒むように二人の世界へと没入していた。

 

 片や、メイジン相手なら出し惜しみ出来ないと初っ端からトランザムを発動し、超高速戦闘を仕掛けるキジマ。

 片や、そんなトランザムジーベックを相手に素の機体性能だけで互角に打ち合うアメイジングレッドウォーリア。

 

 ……いや、メイジンはあれと戦ってすらまだ余力を残していると言った様子だ。世界最強の実力……その壁は、キジマの実力を持ってしても遠く先にあるのかもしれない。

 苛烈極まる二人の超次元戦闘はその余波だけで周りのハイモックやファイター達の機体を爆散したり結晶体にしたりしていて、この僕ですら援護に入ることが出来なかった。

 

《キジマがメイジンを食い止めている間に手を打つぞ》

 

 しかしいち早く冷静な思考を取り戻したシャクヤクのソウシが、全回線を開いてこの場に居る全てのファイター達に伝令を与えた。

 いわく、シャクヤクをアクシズ内に侵入させ、内部から破砕手段を探るとのことだ。確かにアクシズには戦艦を侵入させるスペースなど幾らでもあり、それもあの大きさなら敵の防衛網さえ抜ければ入り込むことは簡単だろう。敵の大きさは最大の武器であると同時に弱点でもある、ということか。

 しかし侵入した後は具体的にどうするつもりだ? とソウシに訊ねてみると、彼は「内部でニヒトのフェンリルを使う」とか言い出した。

「出た! ソウシさんの間違った消耗戦だ!」とどこからか声が上がったが、つくづくあの人の愛機への厳しさはぶれない。って言うかニヒト、キュベレイから乗り換えてシャクヤクに積み込んでたのね。

 

 彼の言う「フェンリル」とは要するにすっごい自爆装置みたいなもので、選手権でも猛威を振るったあの威力なら、爆破ポイントさえ選べば上手く破砕することが出来るかもしれない。

 実際これまで結果を出してきたソウシだからか、周りのファイター達の反応も悪くなかった。彼らは頼まれるまでもなく自ら進んでシャクヤクを守ろうと動いてくれて、それを見れば僕も協力しないわけにはいかなかった。

 しかし、なまじっか敵の数が多くアクシズの防衛網は強固だ。シャクヤクのディストーションフィールドもまた強力な防御装置だが、ハイモック達の武装はまるで最初からナデシコ級と相対することが前提だったようにどいつもこいつもが実弾兵器ばかりを装備しており、非常にやりづらい。

 懸命に敵の数を減らしていく僕達だが、これではアクシズの落下どころかメイジンを相手にするキジマの限界にすら間に合わないのではないか――そんな不安が僕達を襲い始めた、その時だった。

 

 辺りまばらに点滅していくボソン反応と共に、強力な援軍が次々と現れたのだ。

 

《ジーグビーム!》

 

 先鋒は、磁石の力を持つ小型MS。

 そのツインアイから放たれたビームがハイモック達を数機纏めて串刺しにするように撃ち落としていくと、今度はその横から、尋常じゃない速さの戦闘機が三機の編隊で躍り出てきた。

 

《こちらスカル小隊! 援護します!》

 

 戦闘機――からMSに変形した三機が戦場に現れると、彼らはそれぞれ卓越したコンビネーションで敵のハイモック部隊を一機ずつハイペースに蹴散らしていく。

 あの連中は確か、私立バルキリー学園のチーム「頭蓋骨」だったか。選手権ではメンバーの一人が不慮の事故の為に入院したせいで勝ち上がれなかったみたいだが、三人のメンバーが揃った彼ら本来の実力は優勝候補にもなる強力なチームだ。これが頼もしくないわけがない。

 さらにそこへ、アクシズ破砕には願っても無いスーパーロボット軍団まで押し寄せてきた。

 

《バスタービィィィィーームッ!!》

《ミサイル全弾ぶち込め! グレンキャノンもだ! いけぇ!》

 

 特にどう見ても神様にしか見えないザクバスターとジムグレンキャノン。恐らく単純な火力ならここに居る全ガンプラの中でもぶっちぎりのトップだろう。その分燃費が悪すぎてプラフスキー粒子が一瞬で切れてしまうのが弱点だけど、稼働している間の鬼神の如き活躍には手が付けられそうになかった。

 

《待たせたなユウマ! 真打ち登場や!》

 

 そしてそこに加わる、サカイ・ミナトの新しいスーパーロボット。

 あらゆる脅威から人類を守る為に新生したファイティングメカノイド――その名は最強機動トラファイオン。正式名称は最強機動ファイティングトライオン。三機のサポートメカと合体することで生まれたトライオンとは違い、こちらはサカイ単独での運用を前提とした完全な一人乗り仕様だ。その分単純なパワーはトライオンより少し劣化しているかもしれないが、機体の安定性やコストパフォーマンスは遥かに向上している。

 見た目の違いは胸のライオンのところが灰色の鳥のくちばしみたいのに変わっている程度の違いで本来はトライオンとあんまり変わらない――らしいが、何故かこの時その機体は緑色に輝いていた。

 

《トラファイオンの、エヴォリュアル・ミノフスキーパワーを見せてやるぜ!》

 

 既にMAXハイテンションに出来上がっていたサカイが叫ぶとトラファイオンの右手が握るハイパービームサーベルの刀身にどこからともなく集まってきた光が注ぎ込まれ、機体全長を遥かに上回る超巨大ビームサーベルが形成されていく。

 そしてそのビームの光が、緑から金色に変化していくトラファイオンの装甲と同じように金色に輝いていった。なにそれ怖い。

 

《究極超咆剣! ゴルディオン・ミノフスキィィィ!!》

 

 ちょっ、お前っ……お前の方が越えちゃいけないライン踏み越えているじゃないか!

 そんな僕の突っ込みも間に合わず、トラファイオンの振り下ろした金色のサーベルがハイモック達を纏めてGの字に切り裂き、次々と光にしていった。

 

《今だ! J(ジュン)

《よくやったトラファイオン!》

 

 その攻撃の直後、僕達の前に再びボソンジャンプの反応が現れ、一機のMAが新たに出現した。

 それはまるで、戦艦と見間違うほどの巨大なMAだった。全体が白い装甲に覆われているその機体の名前は、後で「J(ジュン)アーク」と呼ぶことを知った。おい。

 

《メガ・フュージョン!》

 

 Jアークのファイター、ビルダートJ(その正体は謎に包まれている)が高らかにそう唱えると、戦艦のようなMAが分離、合体を行い、MS形態へと変形していく。

 

《キング! ジュンダァァァァッ!!》

 

 無駄に壮大なプラフスキー粒子のエフェクトを周囲に散りばめながら、イノセ・ジュンヤ最強のガンプラが姿を現した。あっ、本名書いちゃった。まあいっか。

 

我流次元覇王流鳳凰拳(ジュンクフォース)!!》

 

 そしてキングジュンダ―というビルダートJのガンプラが、その右腕からセカイやライトニングZの火の鳥アタックに似た――似たって言うよりモノホン感があるが――火の鳥を模した必殺武器、「ジュンクフォース」を放った。

 ……あの威力で遠隔操作も出来るとかもうね。案の定火の鳥がキングジュンダーのところへ帰ってきた頃には目の前の敵はほとんど居なくなっていた。

 これまでに火力の凄まじいスーパーロボットは幾つも出てきたが、こいつに関してはベースにした機体が選手権なら出撃制限の掛かるサイコガンダムを基にしているからか純粋な粒子貯蔵量が通常のガンプラより多く、その為他のスーパーロボット達よりも燃費が良いのがセコイところだった。

 しかしコイツら、サカイの話によれば木星エリアに居たようだがどうやってここへ来たのか。いや、ボソンジャンプを使ったのだということはさっきの反応からわかる。しかし彼らの機体にはそんなシステムは組み込まれていない筈だし、仮に組み込まれていたとしてもどうしてイメージの薄い初めて訪れるこの場所に揃って跳躍することが出来たのかが、僕には解せなかった。

 そんな僕が抱いた尤もな疑問に、サカイの奴がウザいどや顔を見せて答えた。

 

《知らないのか? 木星にはプラフスキー粒子版のザ・パワーがあるんだぜ?》

 

 知りたくもなかった衝撃の新事実である。KTBKこの野郎。

 木星エリアからスタートした彼らは、そこで起こった大きなイベントによって特殊なエネルギーを手に入れたのだそうだ。あまりにもあんまりな説明の仕方だったが、それだけで把握出来てしまう自分がなんか嫌だ。まあ木星は神秘の領域だからね、SF的に考えて。KTBKが何も起こさないわけがないか。

 尤もそのプラフスキー粒子版ザ・パワーとやらは木星エリアでの戦いで消失したらしいが、全部使い切る寸前のところでこれまたイベントで手に入れた「チューリップクリスタル」を使い、ザ・パワー強化のボソンジャンプによってここへ飛んでいたとのことだ。……なんだろう、木星で何があったのか凄い気になるんだけど。

 しかしここに来て、彼ら最強勇者バカ軍団の存在は願ってもない戦力だ。思わぬ事態の好転に、今度はシャクヤクのソウシから作戦の変更を告げる声が聴こえてきた。

 

《スーパーロボット隊の合流により、方針を変更します。各スーパーロボット隊はアクシズに最大火力を集中し、リアルロボット隊は彼らの支援を》

《なんだと?》

 

 シャクヤク先行によるニヒトの自爆ではなく、今しがた合流したスーパーロボット達の大火力に任せたゴリ押し作戦への変更。

 それは一見脳筋な指令にも思えるだろうが、確かにこれだけの戦力が居るのなら一番効率が良く確実性が高いかもしれないと僕も思った。

 しかしいかにスーパーロボットと言えど、この作戦には避けては通れない問題がある。それに対して、僕がソウシに問い掛けるよりも先に、スーパーロボットビルダーの一人である戦闘のプロっぽい人が回線を開いて訊ねた。

 

《しかし戦術指揮官殿、ぶっ放すのは構わんが、俺達の機体は一発撃ったらすぐにエネルギー切れになるぞ?》

 

 そう、彼らスーパーロボットはいずれも通常のガンプラを遥かに上回る大火力を持っているが、共通して燃費が悪いという致命的な弱点がある。

 彼らの火力を一点に集中すれば、アクシズを外から削ることも出来るだろう。しかし彼らが完全にアクシズを砕き切るよりも早く、機体のプラフスキー粒子が底をついてしまうのは火を見るよりも明らかだった。

 しかしそこは同じスーパーロボットビルダーのソウシだ。そういった懸念事項には、きっちりとカバー案を用意していた。

 

《このシャクヤクには、ガンプラに粒子を供給する補給機能があります》

 

 シャクヤク万能説、ここに誕生である。

 しかしそれもその筈、機体の補給も出来ずして何が戦艦かというところだろう。そしてその機能はシャクヤクだけに搭載されているわけではなく、この戦場に居る他の戦艦所有者達からも声が上がってきた。

 

《俺のサラミスにもあるぞ》

《俺のムサイにもな。どうやらそれは、ここで手に入れた戦艦ユニットには標準装備されている機能みたいだ》

 

 それは、まるでこの戦いのバランス調整の為に運営側が用意したとしたとしか思えない、ナイスな機能だった。そうだよな、あんなに苦労してエヴァを倒したんだから、このぐらいのサービスはあって当然というものだ。

 この戦場で僕達大会出場者が保有している戦艦は、ソウシのシャクヤクとさっき出てきたサラミスとムサイの三隻だ。これらの補給機能を上手く使っていけば、スーパーロボットのエネルギー問題は何とかなるかもしれないと意見が一致する。

 しかしこうしている間にもアクシズの落下は刻一刻と近づいている。既に迷っている時間は無かった。

 

《なら、戦艦を所有している者はエネルギー切れした機体の回収に専念し、迅速な補給をお願い致します。スーパーロボット隊は戦闘継続が困難になり次第、付近の戦艦へ着艦してください》

《補給が終わるまでの時間は、どのくらい掛かる?》

《五分もあれば》

《よし、乗ったぜその話! ブレスト・ファイヤー!》

《なら躊躇は要らないな。サンダー・ブレーク!》

《何をしているセイバー! アックス! ボルテッカだ!!》

《ボルテッカだと? 気は確かかランス! 相手はアクシズだぞ? 第一俺達の機体はスーパーロボットどころかロボットですらないぞ、原作的に考えて!》

《馬鹿! わからんのか! ガンプラを改造し、愛情を注ぎ込めば俺達も立派なガンプラなのだ! 地球を死の星に変えてたまるか! 宇宙の騎士(テッカマン)をなめるなよっ!》

 

 方針は決定した。後はやるだけだ。

 元々アクシズという巨大なターゲットを前に、スーパーロボットビルダー達は揃いも揃って自慢の火力を試したくてウズウズしていた様子だ。ソウシの指令に異議を唱える人間は居らず、みんなノリノリウッキウキで戦略兵器をぶっ放していた。

 

《全軍に通達! 直ちにここの指揮は僕が取る。これより全大会出場者が友軍となり、シャクヤク、ムサイ、サラミスの三隻が諸君らの母艦となる!》

 

 話がまとまったことで、ソウシが有無も言わせない勢いでこの場の指揮を買って出る。

 本来敵同士である僕達は、誰もが後ろから撃たれても文句を言えない関係にある。しかしこうして暫定的にでもリーダーが決まったことにより、僕達は今アクシズという共通の大敵に立ち向かう一つの軍隊となったのだ。

 

 いいよね、こういうのは。敵に回すととことん恐ろしい連中が、今は物凄く頼もしい。メイジンという恐るべき敵が居る中でも、この連中との結束があれば勝てるかもしれない希望が湧いてきた。

 

《意外に強引なのね、あの人》

《今度、私のチームでも真似してみようかしら》

 

 しかし、ソウシも見た目以上にリーダーシップのある男だ。クールな印象とは違う意外な一面にフミちゃんも驚いていたが、彼が指揮を行うことに異存はない様子だった。

 もちろん、僕も同じだ。

 

《各MS隊はスーパーロボットと母艦の支援に当たれ! これより、総数67機によるアクシズ破砕作戦を開始する!》

《了解!!》

 

 そんな感じに、僕達はノリの良い皆さんと一緒に作戦行動に入る。

 僕達リアルロボットのファイターに与えられた役割はスーパーロボット達がアクシズに大火力を叩き込んでいる間、隙だらけの体勢でいる彼らを敵機から守ることにある。

 スーパーロボット達を取り囲もうとするNPCハイモック部隊を迎撃しながら、僕は彼らの破砕作業をスクリーンの横目に映した。

 

《ストナァァァァ! サァァァン! シャアアイィィィィンッッ!!》

《マッハドリルもだ! 続けていくぜ! スピンストーム!!》

 

 大きな星がついたり消えたりするように、アクシズの表面にどでかい爆発が次々と連鎖していく。

 うっかり直視しすぎるとモニター全面が光に飲み込まれてしまう、恐ろしい必殺兵器の数々だった。

 僕の扱う機体はどれもリアルロボット寄りだけど、その光景を見れば彼らがスーパーロボットに拘る理由も物凄くわかる気がした。

 

《反応弾は木星で撃ち尽くした……》

《なら、俺達も援護に専念するぞ! 艦とスーパーロボットを守れ! 一機たりとも接近を許すな!》

《了解ッ!》

 

 リアルロボットと、リアルロボット寄りの部隊が持ち前の機動性と継戦能力を生かし、エネルギーを使い果たしたスーパーロボットとそれを収容する戦艦を守るべく厳重な防衛網を敷く。自分達の役割がはっきりしている以上、その対応は迅速かつ冷静だった。

 

《ゴルディオン・ミノフスキィィィ!!》

《十連メガ粒子砲、発射ァッ!!》

 

 スーパーロボットに区分されるサカイのトラファイオンとビルダートJのキングジュンダ―もまた続けざまに超兵器を繰り出し、襲い来るハイモック部隊ごとアクシズの外壁を撃ち抜いていく。

 この戦場では、間違いなく彼らが主役になるだろう。しかし、僕達リアルロボットの活躍が無くては彼らの躍動もまたあり得なかった。

 

《スパロボ共に負けるな! 俺達も続くぞ!》

《ガンプラバトルは……ガンプラのもんだあああっ!!》

 

 もちろん、リアルロボットの一部にもサテライトキャノンやツインバスターライフルと言った戦略兵器級の威力を誇る武器が積み込まれている。いかんせん目標物が大きいがそんな彼らの火力も決して無駄でなく、アクシズの進行を大きく阻害していた。

 

《こちらザクバスター、着艦します!》

《あいよ! はは、サイズ差がリアルだったら収容できなかったな……》

《この機体は、ザクをベースにしているから小さいんですよね》

《俺のグレンキャノンもだ!》

《お前のはどう見てもジムだろうが》

 

 大技を叩き込み、エネルギーを使い切ったスーパーロボット達がそれぞれ待機中の母艦に着艦し、戦艦の持つ「補給機能」によって粒子供給を受けた後、約五分後に再び戦場へ舞い戻り、大技を叩き込んでいく。それは単純だが極めて強力な、スーパーロボットが持つ大火力のループ戦術だった。

 

《私達も負けていられません!》

《リアルモードで殲滅するわ!》

 

 スーパーロボット達が戦艦に収められている間、敵軍の足止め以上の活躍を見せていたのはフミちゃんやギャン子達の実力派ファイターだ。もちろん、僕だって負けちゃいない。邪魔なハイモックを片付けながら、隙を見てアクシズへの攻撃に加わっていく。

 

 そんな攻勢を繰り返すこと数十分。気づけば、アクシズの外装は元のサイズから半分近くまで抉れていた。

 

《すげぇ……アクシズがどんどん砕かれていく……》

《これがスーパーロボットの力……いや、僕達の結束が生んだ威力か》

《その通り!》

《カリマ?》

 

 さらに事態は好転し、混沌の戦場に遅れて増援が駆けつけてくる。

 中でも目を引いたのはソウシと同じチームのメンバー、カリマ・ケイのジ・Oマークレゾンの姿だった。

 

《カリマ・ケイ、デスぺナからやっと帰ってきたぜ!》

《……レゾンに乗ったのか》

《お披露目予定のMA、アワクネに壊されちまってな。まあこの戦況なら、こっちのが使えるだろ!》

 

 スーパーロボットはその火力にばかり目が引かれるが、カリマのスーパーロボットが持つ「イージス装備」は戦艦や味方機を守るにはこれ以上ないほど役立つ防衛システムだ。

 選手権の決勝戦でも散々僕達を苦しめてきた彼のサポート能力は、ここに来て僕達のピンチを悉く救ってくれた。

 

《アクシズの破砕状況、50%に到達!》

《いいぞ! 勝てる……勝てるぞ!》

 

 破砕状況をこまめにチェックしてくれたシキ三兄弟の誰かの声に、多くのファイター達が喜色を込めて歓声を上げる。

 地道だがド派手な僕達の破砕作業により、アクシズの大きさは元の半分にまで削られた。これだけやってアクシズの軌道が変わらないのはゲーム上の仕様なのかもしれないが、その進行ペースもまた間違いなく緩んでいた。

 これならば勝てる。地球に衝突する前に、アクシズを砕き切ることが出来ると……しかし、作戦の成功が見え始めたその時だった。

 

《スーパーロボット共め……これ以上はやらせん!》

《メ、メイジン!?》

 

 それまでキジマのジーベックガンダムが食い止めてくれたアメイジングレッドウォーリアが、通常の三倍の速さで戦線に復帰してきた。

 これだけの時間を食い止めてくれただけでも充分すぎるが、あのキジマを持ってしてもメイジンの機体には傷一つ付いていなかった。

 恐ろしい化け物。恐ろしい彗星である。

 

《くっ……ここにきて……!》

《そう、貴方達を待つ未来は既に、絶望だけなのよ》

《レディーさん!?》

 

 そして、戦場に加わったのはメイジンだけではない。

 レディーカワグチを始めとしてそんな感じに、ハイモックの軍勢に全滅が見えた頃になってこの時を待っていたように次々と世界ランクのガンプラファイターが現れたのだ。

 

《ガンプラバトルをするには条件がある。一つは、全てのスーパーロボットを排除すること。そしてもう一つは、今一度原点に立ち返ることだ!》

《ウイングガンダム……フェニーチェだと……!?》

《アクシズを落とす! これ以外、ガンプラバトルの秩序を取り戻す方法は無い!》

 

 それは、オッドアイのツインアイを闇に輝かせながら現れるリカルド・フェリーニさんのウイングガンダムフェニーチェ(復刻版)であったり。

 

《うああああっ!?》

《柿崎ぃぃぃぃぃぃぃ!!》

《っ……サテライトキャノンやと……? つうことは……木星から追ってきたのか!》

《うちらの世界に栄光あれ、やミナト君。魔王と勇者の第二ラウンドといきましょうか》

 

 ノーチャージで放つサテライトキャノンの薙ぎ払いでリアルロボット隊に甚大なダメージを与えて参上する、ヤサカ・マオさんのガンダムX魔王(復刻版)であったり。

 

《ビルダートJと言いましたか。アシムレイトの力をガンプラに取り込んだ未知の技術、僕にもう一度見せていただけませんか?》

《戦国アストレイ……フッ、ここが戦士の死に場所か》

 

 そしてプラフスキー粒子のエキスパートであり、ガンプラ業界最高の天才科学者、ヤジマ・ニルスさんの戦国アストレイ(復刻版)であったりと。

 彼らが皆それぞれの旧愛機を使っていたのは、僕達に対するせめてものハンディのつもりだったのだろう。しかし残念ながら、それでも個々の力では僕達は彼らに勝てる気がしなかった。

 

 この時、これまでハイモック軍団&アクシズ対スパロボ&リアルロボ連合となっていた戦いの構図は、世界最強ビルドファイターズ対スパロボ&リアルロボ連合の戦いへと移り変わった。

 敵の数に対して質で圧倒していたのが、さっきまでの僕達だ。しかしこの時から、質の面でさえ圧倒的に敵の側に傾いてしまった。

 そして何よりの問題だったのは世界最強のメイジン・カワグチその人に、他の誰よりも容赦が無かったことだ。

 

《うわああああああっ!?》

《うぎゃあああああっ!?》

《ひいいいいいいいっ!?》

 

 紅の彗星、メイジン・カワグチがものっそい速さで擦れ違うと、本作戦の要であるスーパーロボット達を次々と真っ二つに切り裂いていく。

 そして彼はそのスピードを緩めることなく、こちらの旗艦シャクヤクに向かって一気に轟沈せんと突っ込んできた。真っ先に頭を潰そうとするその行動には、彼のアクシズ落としに掛ける本気さが窺えた。

 このライトニングZガンダムは、WWバリスほどではないが高い機動性を持っている。そこに彼を足止め出来る可能性を見出した僕は、無理は承知の上でシャクヤクを守るべく彼に挑んだ。

 以下がその時僕が行ったメイジンとの会話のやりとりである。

 

「コウサカ・ユウマか。スーパーロボットを操るファイターなどは、ガンプラバトルの異分子だということが何故わからんのだ! アドウ・サガに負ける前の純粋さを、存分に思い出せ!」

「僕は今でも純粋だ!」

「どこが!? 今の君こそ、その技術を無駄に消耗しているとなんで気がつかん!」

「貴方こそッ!」

 

 接近し、衝突していく激しい鍔迫り合いの中で、僕は少しだけ手ごたえを感じていた。

 合宿の時、彼に指導してもらった時は彼の影すら追えなかったものだが、僕も幾度とない戦いの中で間違いなく成長していた。メイジンと相対する中で、自分で自分が強くなったのが身体全体からわかるようだった。

 

 しかしそれでも、やっぱり本気を出したメイジンは僕の遥か先に行っていた。

 

 メイジンに食らいつこうとした僕の操縦の無茶が祟り、ライトニングZの関節部を甚大な負荷が襲う。そして消耗しすぎたエネルギーは機体性能の著しい低下にもつながり、逆シャアのサザビーの如くビームサーベルのパワーダウンを起こしてしまった。

 そうなればもはや足止めすら満足に出来ず、動きの鈍った僕のライトニングZの四肢をメイジンが達磨状態に切り裂き、一気に戦闘不能へと追い込まれた。

 すぐにとどめを刺そうとしなかったのは、彼なりの慈悲だったのかもしれない。

 

《私の勝ちだな! 今計算してみたが、アクシズはこのまま地球の重力に引かれて落ちる! スパロボビルダーの頑張りすぎだ!》

 

 あの……ロールプレイだよねメイジン? 本気でスーパーロボット憎んでいるわけじゃないよね? と疑ってしまうほど、彼の勝ち誇った台詞には鬼気が迫っていた。

 もちろん、それでも立ち向かう人も居た。

 

《ふざけるな! たかが石ころ一つ、鋼鉄ジーグで押し出してやる!》

《させん!》

《おっと、やられちまったぜ》

 

 残ったスーパーロボット達が枯渇寸前の粒子を押してまでアクシズに打って出ようとするが、レッドウォーリアの精密な射撃がそれを阻む。

 これまで上手く行っていた作戦はメイジン達の登場により台無しにされ、アクシズの進行スピードも元のペースを取り戻してしまった。

 このままではアクシズを砕くどころか、こちらの機体が全滅してしまう恐れすらあった。各所からスーパーロボットファイター達の断末魔が聴こえる度に、僕達の心を絶望が襲った。

 

《マズいぞ! スーパーロボットが次々とやられてる……!》

《こちらムサイ! 救援を! 救援をっ! うあああああああ!?》

 

 フェニーチェのバスターライフルがムサイを貫き、魔王のサテライトキャノンがサラミスを消し飛ばす。

 戦艦が墜ちれば艦内で補給を受けていたスーパーロボット達諸共、このバトルフィールドから弾き出されてしまい、一気に戦力が減っていく。

 

 そして気づけば、残る母艦はシャクヤク一隻だけとなっていた。そして戦場に出ている数少ないスーパーロボット達は皆リカルドさんやヤサカさん達の相手に手が一杯で、アクシズに向かうことが出来る機体は先ほどの磁力ロボットがバンバラバラにされたことで0機となった。

 

《もうだめだ……》

 

 どこからか、諦めの入ったそんな声が上がったのも無理もないだろう。

 どう見てもこの戦いに勝ち目は残されておらず、僕もまた戦闘能力を失ったライトニングZのメインカメラから地球が無くなるのを黙って見ていることしか出来なかった。

 

《……戦場に残った全機体に告げる。ただちにシャクヤクと共に、この宙域を撤退しろ》

《撤退だと!?》

 

 そして、暫定指揮官であるソウシもまた、作戦の成功を諦めたような撤退の指示を下した。

 ここまで来て……と当然のように異議を唱える声が上がる。気持ちとしては僕も同じだった。

 たとえガンプラバトルというゲームの中でも、地球を破壊されるわけにはいかない。この際ライトニングZを自爆させて、少しでもアクシズを止められれば……という思いで僕が操縦桿を握り直した、その時だった。

 

《カリマ、艦を頼む》

《おい、ソウシ!》

 

 シャクヤクの中から、唯一万全な状態のスーパーロボットであるキュベレイMark-Nichit(ニヒト)の姿が射出されていく。

 満を持しての出撃、と言ったところか。ソウシにそんな気は無かったのだろうが、最後の希望とばかりに艦を飛び出していった彼のガンプラは最高にカッコ良く見えた。

 

 しかし、いかにニヒトと言えど、一機の力だけではあのアクシズを砕き切ることは出来ない。

 

 ならばどうするのか――僕はすぐに察した。ソウシはこの時、自分が最初に考えた策を実行しようとしていたのだ。

 

《内部に突入し、フェンリルを起動する!》

 

 そう言って、ソウシのニヒトはスタビライザーをオレンジ色に輝かせながら全速力でアクシズに向かっていく。あれは機体の全リミッターを解除し、玉砕を覚悟した姿だ。

 猛スピードでアクシズの内部に侵入していくニヒトに、僕は彼の本気を見る。

 しかしメイジンのレッドウォーリアもまたそんな彼の動向を放っておく筈もなく、彼は他の機体には目もくれずにニヒトを追ってアクシズの内部へと飛び込んでいった。

 

 戦場の舞台をアクシズの内部に移した二人はその場で最後の決戦を繰り広げる――のだが、当然ながら達磨状態のライトニングZでは彼らの機体を追い掛けることが出来ず、悔しながら僕には彼らの戦いを見守ることすら出来なかった。

 

 しかしソウシが切り忘れたのか、僕との通信回線は開いたままだったので、戦闘中の二人の会話は全てコクピットの中で聞き取ることが出来た。

 以下が、その会話の内容だ。

 

《最後の手段が自爆とはな! 選手権での戦いもそうだったが、君は何故そこまで自分の機体を粗末に扱う?》

《粗末か……そう見えても仕方ないが、僕は一度としてそんな扱いをしたつもりはない》

《なに?》

《僕らスーパーロボットビルダーはいつ如何なる時も過酷な道を選び、決して後悔はしない。それは自分が信じた道の過酷さこそを望んでいるからだ。たとえそれが邪道であったとしても、僕らは目指す。自分自身で選んだガンプラ道、あなたの言うガンプラの自由を!》

《自由と言う言葉を履き違えるな! モラル無き力はただの暴走と変わらん! 決められたルールの中で思考錯誤を重ねて高みを目指す、自由とはそういうものの筈だ!》

《僕達は決してルール違反を犯していない! スーパーロボットも、新たな世代が見出したガンプラの可能性の一部の筈だ! 今ここにあるガンプラバトルを信じてください!》

《若いな少年! だが、私は……》

 

 ごめんソウシ、聞き取ることは出来たんだけど、ちょっと何言ってるのかわからないや。あれだ、ガンダムシリーズ特有の論点がわからなくなる会話である。

 しかしそんな言い回しでも彼の意図はメイジンに伝わったらしく、メイジンは少々間を置いた後でこう言った。

 

《……私はガンプラバトルにおいて、ガンプラの自由さ以上に大切だと思っていることがある》

 

 彼は逆シャアロールをやめると、神妙な口調で語り出した。

 その言葉はメイジン・カワグチとしてと言うよりも、一人のガンプラファンであるユウキ・タツヤとしての言葉のように僕には聴こえた。

 

《互いのファイターを称え合い、互いのガンプラに敬意と愛情を捧げることだ。自分と相手の扱う機体がどのような成り形、性能であったとしても全てを愛し、認めていく心……ガンプラバトルは、決して勝利だけが全てではないのだ。キジマ・ウィルフリッドとも行った問答だが、あえて君にも聞こう。

 君は今、君自身が扱っているその機体をどう思っている?》

《もう一人の僕自身だと思っています》

《……ならば、これからは自分自身のことも、ガンプラのことも大切にするといい。愛故の虐待ほど、性質の悪いものは無いからな》

 

 それはどこか、ソウシ以外の誰かにも向けているような言葉に聴こえて、僕の心にも深く染み渡っていく言葉だった。

 もしかしたら彼は、メイジンは僕達にガンプラへの情熱を試したかったのかもしれない。しんみりとした空気の中で、僕はそんな気がした。

 

《君達は純粋すぎる。ガンプラに限界が無いことを、自分達の発想だけで知りすぎてしまった……しかし、そうでなければガンプラバトルを楽しむ資格も無いということか》

 

 そしてメイジンは、いつものメイジンに戻る。

 

《ならば私は、あえて言おう!》

 

 通信回線越しに聴こえてくる、ガンプラの駆動音。

 それは彼のレッドウォーリアがソウシのニヒトを突き飛ばし、メイジンの機体が自らアクシズの重要機関へと飛び込んでいく音だった。

 

《ガンプラは――――自由だッ!!》

 

 全チャンネルを解放し、メイジンが声高らかに叫ぶ。

 その直後だった。

 

《世界の舞台でまた会おう! 若き星たちよッ!!》

 

 アクシズの内部から全体へと亀裂が走り、轟音と共に大爆発が巻き起こる。

 

《メイジーーン!!》

 

 爆発に吹き飛ばされながらアクシズを脱出するニヒトの中で、ソウシが光の中に消えていったであろうレッドウォーリアの姿に叫ぶ。

 今、この時――世界の全てのガンプラを愛する最強最高のガンプラビルダーはアクシズに散ったのだ。

 

 冷静に考えると酷いマッチポンプなんだけど、そんなの関係ねぇ。僕も思わず彼の名を叫んでいた。

 

《アクシズが……崩壊していく……》

《これで、終わりか……》

 

 ソウシのニヒトに代わって弾けていったメイジンの特攻によって、アクシズは粉々に砕け散っていく。

 地球は救われたのだ。リカルドさん達もいつの間にか姿をくらましており、これでようやく長い戦いは終わったのだと皆が胸を撫で下ろしていた。

 

 ――だが、最後の最後で満身創痍の僕達を事件が襲った。

 

《これは……!》

《どうした、シキの末っ子》

《次男です……いや、そんなことよりも大変だ!》

 

 破砕状況をチェックしていた解析班のシキが、砕かれた筈のアクシズを見て驚愕の声を上げる。

 メイジンの特攻によって完全に破壊されたと思っていたアクシズだが――未だ、地球に降り注ぐ脅威は去っていなかったのだ。

 

《砕かれた破片の一部が、尚も地球に向かって降下中! それも……大きいのが三つ!》

《何だと!?》

 

 爆風に隠れて見えなかったアクシズの破片の一部が、物凄い速さで地球の引力に引かれて落下している。

 その破片は三つとも元のサイズから考えればかなり縮んでいるが、それでも一つでも地球に落ちればどれほどの被害をもたらすかわからない大きさだった。

 僕のライトニングZは動けない。アクシズの爆発に巻き込まれた、ソウシのニヒトも同じだ。

 他のMS隊も新艦長カリマのシャクヤクと共に急いでアクシズの破片へと向かっているが、既に破片は大気圏突入の段階を迎えていた。

 

《ヒイロー!! はやく来てくれー!!》

 

 間に合わない……苦々しい思いでそう叫んだ誰かの言葉は、まさに僕の心境と同じだった。

 こんな時、ガンダム作品の主人公ならなんとか出来るのかもしれない。しかし僕達には、そんな奇跡を起こす力は無い。

 

 ――しかし奇跡は無くても、必然は起こる。

 

 それを証明するように、落下していく破片の元へ複数の機影が集まっていくのをレーダーに確認した。

 

《こわします》

 

 そして数秒後、感覚の短いボソン反応と同時に現れた一機のMS――アワクネ・ユリちゃんの扱う白いガンプラが破片の一つを微塵に斬り刻み、跡形も残さず消滅させていった。その剣技は遠目であった為によく見えなかったが、通信で聴こえてきた一言から彼女がやってくれたことだけははっきりとわかった。

 はっと息を呑む僕達。しかしアクシズの破片は後二つ残っており、そちらも既に大気圏に突入していた。

 

《神樹ガンプラ流! 鳳凰覇王拳っっ!!》

 

 だが、救世主は地球にも待ち構えていたのだ。

 残りの破片の一つを、大気圏内から現れたガンプラ――セカイのカミキバーニングが放った火の鳥が焼き払い、豪快に消し飛ばす。……まったく、やっぱり美味しいところを持っていくなアイツは。出来ればもっと早く来てほしかったが、この際贅沢は言えない。

 

 そして残る破片は一つ……だったが、こちらの心配も既に必要無かった。

 

 このイベントに出遅れた鬱憤を晴らすように、地球エリアに待機していたファイター達が次々と破片を迎撃しに向かってきたのだ。

 

《ダイターンでアクシズの破片を押すんだよ!》

《やるぞアスカ! この光は、俺達だけが生み出しているものじゃない!》

《これがマークデスティニーの力だ!》

《ゲキガンソォォォド!!》

《カンタムパーンチ!》

《やあああってやるぜえええっ!!》

 

 

 ――とまあ、そんな感じに一つの破片に次々と色物達が殺到していく様子は、一見みんなで協力し合っていて感動する光景なんだけどとてもカオスだった。

 

 そんな彼らが最後の破片を破壊し終えると、今度こそアクシズの破砕作戦は全て完了した。 

 

 

《動けるか、ユウマ?》

 

 こんなことなら僕もWWバリスで出るんだったな、と出し惜しんだことを悔やみながら宇宙を漂っていると、ソウシがボロボロのニヒトで迎えに来てくれた。機体ダメージを見るに、あれはアクシズの爆発と言うよりもメイジンとの戦いで負ったものと見た方がいいだろう。彼もまたメイジンにこっぴどくやられたようで、なんかこの戦いもあの人が最後までやりたい放題だったなと振り返る。

 

 ……だけど、すごく楽しかったと思う。そんな小学生並の感想を抱く僕だが、ここまで来たら感想を多く語る必要も無かった。

 ライトニングZを抱えてもらいながら、ニヒトがこちらに信号を発しているシャクヤクの元へと帰還していく。

 その時、ソウシが言った。

 

《帰ろう、メイジンと僕らが愛した地球へ》

 

 

 イイハナシダナー……。

 

 イイハナシカナー? と思いながら、僕は意味ありげだが実際特に意味の無い微笑みを彼に返した。映画だったら、ここでエンディングテーマが流れて物語を締めている頃だろう。それぐらいの疲れと言うか、達成感が僕達にあった。

 

 

 そうしてシャクヤクに着艦するとほどなくして場内にアナウンスが流れ、大会の二日目が終了した。

 

 

 

 





 あっ、メイジンの台詞は半分ぐらい演技です。
 無印ビルドファイターズの(復刻版)ガンプラは、それぞれのファイターが当時の機体を再現した模造品みたいなものです。


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レース終了のお知らせと因縁の対決

 

 ○月×日 サバイバルレース完! 優勝するぞUMA

 

 

 世界は広い。僕自身、これまでの戦いで相当強くなった気でいたけど、まだまだ世界の壁は遠く厚いのだと実感させられた。

 しかし、今回の貴重な経験を生かして僕もいつか必ず彼らの高みに上り詰めてみせる! 改めてそう意気込むほど、昨日は本当に濃い一日だった。

 

 そして昨日の夜、ソウシが僕を含めたアクシズの破砕作戦に参加したメンバー達を全員一室に集めて会合を開いた。

 

 その中で出てきた話によると、なんとソウシの奴、あのメイジンのレッドウォーリアから散る間際にレースのゴール地点の情報を送られていたのだそうだ。

 メイジンならきっとこうすることを望んでいるだろうと、彼は明日を迎える前にその情報をアクシズ破砕作戦のメンバー全員に伝えてくれたのである。

 

 そしてメイジンから与えられた一つの情報――それは、このサバイバルレースのゴール地点が地球の「ジャブロー」にあるということだった。

 

 ジャブローとは、説明するまでもなくガンダムファンなら誰もが知っているだろう。ガンダム作品で言えば、ファーストガンダムの一年戦争以前からZガンダムのグリプス戦役初期までの地球連邦軍の総司令部に当たる場所だ。南米アマゾン川流域の広大な熱帯雨林のジャングルの中にあるとされ、地下の巨大な鍾乳洞を利用して作られた軍事施設である。

 その地下空洞は大小複数の空洞を連結したもので、個々の洞穴は全高18メートルのMSが活動出来るほど広く大きい。

 基地の出入り口はジャングルの植物などでカモフラージュしている為に位置が特定しにくく、対空砲や迎撃ミサイル等防衛火器類も万全であり、基地単独でも長期に維持できる物資を蓄えており高い自給能力を備えてもいる。また、本部の吉は強固な地盤の深地下にある為、通常兵器はもちろん核兵器による爆撃にも耐えるなど、文字通り難攻不落の要塞として完璧な防御力を誇る連邦の要だ。

 

 そのジャブローの鍾乳洞基地こそがこのサバイバルレースのゴールなのだと、ソウシは全員の前で語った。

 

 それを信じるも信じないも各自の自由、とみんなに気を遣っているつもりなのかソウシは前置きしていたが、真偽は明日になればわかることだとも言っていた。面倒くさい奴である。

 しかしそこまで言われれば誰も信じないわけにはいかず、そもそもアクシズ破砕作戦で結束し、僕も含めすっかり周りと打ち解けていた一同が拒絶する筈もなかった。

 僕も含めて、アクシズ破砕作戦に集まったファイター達はどいつもこいつも単純な連中ばかりだったのだ。

 

 

 そして迎えた当日。サバイバルレース最終日であるこの日、僕達はジャブロー降下作戦を実行した。

 

 宇宙から各MS、各戦艦が大気圏を割って地球へ降下していく光景は壮観であり、いつ妨害が来ないか気が気でなかった。

 

 因みにジャブローの正確な座標だが、情報収集に定評のあるソウシやシキ三兄弟らが一晩で調べてくれました。本来敵同士である筈の僕達だが、結束を知った僕達に互いを出し抜くような感情は今更持ち合わせていなかった。

 

 しかし、勝負はまた別である。

 出し抜きはしないが、仲良しこよしに戦場の中でなれ合うこともない。

 

 自分以外のゴールするファイターを少しでも減らす為には当然昨日の味方が今日の敵になることもあり、礼節として降下中こそお互いに手出しはしなかったが、ジャブローに降下した先では早速多数のガンプラが入り乱れる乱戦状態となった。

 

 

 尤もそれは、ジャブローを守る巨大NPC軍の登場により再び共闘関係を結ぶ形になったりするのだが、このサバイバルレースでは慣れた流れだった。

 

 ジャブローの地下、そこがゴールだというソウシの情報を決定付けるように、ジャブローの地には基地を守る恐ろしい軍勢が僕達のガンプラを待ち構えていた。

 

 それは、七年前の世界大会にも出てきたメガサイズモデルのザクⅡであったり。

 加えてメガサイズモデルのガンダムであったり、PGシリーズのMS全種フルコースであったり、各ガンダム作品で猛威を振るったビグザムやサイコガンダム、カイザーさんのαジールやデストローイ等の巨大殺戮兵器達であったり、ボスユニットみたいな機体が雑魚敵の如くずらずらと並んでいる見るも絶望的な光景だった。

 

 

 ――結論、あんなんどうやっても倒せません。

 

 

 大きいからって調子に乗ってんじゃねーぞ! 鋼鉄ジーグが相手だ! と言って突っ込んでいく奴も中には居たが、サイズ差というのはいかんともしがたいものがある。

 確かに今の火力がインフレしている環境なら、巨大兵器の一機や二機落とすことは難しくないだろう。しかし一機や二機程度の数を落としたところで、その程度、あれだけの敵からしてみれば屁でもない戦力だろう。逆に、燃費の悪い僕達のガンプラに残りの敵と戦える余力はまず残らない。

 

 しかし忘れちゃいけない。これはスーパーロボット大戦ではなくサバイバルレースなのだ。

 

 勝利条件はあくまでもゴール地点への到達であり、敵の全滅ではない。極端な話、敵の機体全部を無視しても、ゴールにさえたどり着けばそれで勝ちは勝ちなのである。

 ……まあ、それが簡単に出来るなら苦労は無いって話なんだけどNE。

 

 案の定、巨大MS、MAの軍団の防衛網を突破するのは至難の業だった。

 全機を無視して突っ込むなど不可能。そんなことをすれば僕達の機体は即座にハチの巣だ。

 だから、ある程度の機体は倒し、防衛網に穴を空けるのは必要不可欠だった。

 

 僕達はその戦いの中で、各自の持てる力の全てを出し尽くしたと言ってもいいだろう。

 

 激戦の中で絆を深めた多くの強敵(とも)やガンプラ達が散っていき、頼みのシャクヤクも遂に撃沈してしまった。

 

 ソウシはニヒトのリミッターを解除し、僕もスーパーエステバリスWW(ダブルウイング)フレームを解禁した。

 そうして続いた出し惜しみの無いハードな戦いは、体感的には一週間ぐらいぶっ通しで戦っていたようなグロッキーな気分だった。

 

 その中で敵の防衛網に生まれた、ほんの少しの隙だった。

 

《こうなりゃ体当たりだ! 死ねぇ!!》

 

 ……どことも知れない誰かが、乱戦の中でメガサイズザクの一機に致命傷を与えたその瞬間。

 僕はただでさえ機動性に特化したWWエステバリスのRGシステムを作動し、機体が持てる全推進力を持って、敵巨大兵器達の防衛網を潜り抜けていった。

 

 そして考えることはみんな一緒だったようで、僕の他にも同時にソウシやキジマ等、十数人ものファイター達がメガサイズ軍団の砲撃を振り切ってきた。

 

 もちろん、それからも敵軍の砲撃の嵐はやまなかったが、一番の難所さえ抜ければ後はゴールまで直行するだけだった。

 

 そして疾走の果てに僕とソウシ、キジマの三人は遂にジャブローの鍾乳洞基地、その中へとたどり着いたのである。

 

 ……周りにも最低限の援護はしたつもりだけど、残念ながら二人以外のファイターは僕のWWフレームの速度に着いてこれず、不本意だが置き去りにする形になってしまった。

 しかし、こればかりは競争なので先に行った僕達のことを悪く思わないでほしいものだ。

 

《ゴール! 1着、コウサカ・ユウマさん! 2着、キジマ・ウィルフリッドさん! 3着、ミナキ・ソウシさん! おめでとうございます!》

 

 アクシズの時と同じく、これまた設定より遥かに広い景色が見える鍾乳洞基地にたどり着いたところで、そんな感じに通信回線から緊張を和らげる女性アナウンスの声が響いてきた。

 とにもかくにも、死に物狂いでゴールを目指していたから順位とかあまり気にしなかったけど、このサバイバルレースは僕が一番乗りだったらしい。まあ、何よりも速さを追究しているこのガンプラを使っておいて、速さで負けるわけにはいかないからな。先に着いた僕達は、しばしの安息に浸りながら次の完走者が来るのを待っていた。

 

 

 最初にナガレ会長が説明していたが、大会ではこのレースで完走したファイター達だけが、大会四日目以降に行われる次のステージへと進出出来るのだそうだ。そしてその次のステージというのには特に定員が決まっているわけではなく、時間内にレースをゴールすることさえ出来ればたとえ何百人だろうと次のステージへの進出資格が得られるらしい。

 しかし最悪の場合にはゴール者が0人という可能性もあったわけだが、そんなことにはならなくて一応の面目は立ったというところか。後でテレビでこの大会のことが全国放送されるみたいだし、番組的にもゴール者は多い方が美味しいだろう。だけど、アクシズのところとかどんな感じに放送されるんだろうね。僕もガンプラバトル板で実況しながら見てみるとしよう。

 そのテレビ放送についてだが、レースを1位で通過した僕はもちろんとして、ソウシやキジマもテレビ局からインタビューを受けたりしていた。現場の雰囲気を出したいとかという粋な計らいからか、普通に壇上で行うのではなく、通信回線越しにガンプラの操縦席で受けたインタビューである。

 僕は「敵同士でありながら、時に助け合うことが出来た。ここに居る全員に支えてもらった1位通過です(キリッ」ってな感じなことを喋った気がする。しかし、ああいうのは照れくさいものだ。僕も将来の為に、どんな時でもいつもの調子でインタビューを受けるメイジンや、KTBK四天王のことを見習わないとな。だけどゼロさんを見習うのはなんか嫌だ。こんなことを考えしまう僕は間違っているんだろうか。

 

《ゴール! 4着、ビルダートJ?……さん! 5着、アワクネ・ユリさん! おめでとうございます!》

 

《ゴール! 6着、イズナ・シモンさん! 7着、アスカ・シンさん! おめでとうございます!》

 

 そうして僕達がインタビューを受けている間にも、次々とゴールするファイターの人数が増えていった。

 こうして名前を挙げていくと、みんな勝ち上がってきたのが妥当と言えるところの顔ぶればかりだ。気になっていたアワクネ・ユリちゃんの実力はまだはっきりとは見ていないが、次のステージで見られそうで楽しみだ。

 

 しかしここで7人まで出揃って以降、しばらくの間ゴールするファイターは出てこなかった。

 僕はもちろん、フミちゃんやセカイのことも気にして君達も早く来いYOとガンプラのセンサーに注意を払いながらソワソワと待っていたのだが、二人とも中々現れない。現れない。

 

 確かに、振り返ってみればこのサバイバルレースはファイターとしての実力ももちろん必要だったが、運や頭脳と言ったものもかなり重要な要素を占める競技だったように思う。

 だからたとえ申し分ない実力があるファイターでもゴールまで到達出来ない場合はかなり多く……いや、あのスガさんやアドウの奴がここまで来ていないところを見れば、寧ろその場合の方が多いのだろう。

 だからフミちゃんやセカイがゴール出来なかったのも、ただ二人の運が悪かっただけなのだろうと、レースの制限時間が残り1分を切ってきたところで、僕の頭には二人に対するそんなフォローの言葉が浮かんできていた。

 

 しかし、僕はしばらくチームを組んでいなかったから忘れていた。

 

 カミキ・セカイがここ一番で発揮する、理不尽なまでの底力という奴を。

 

《うおおおおおおおおおっっ!!》

 

 基地の入り口を豪快に吹き飛ばしながら、セカイのカミキバーニングガンダムがようやくその姿を――って、あれ? なんか機体変わってない? カミキバーニングの機体に、ポータントやスターウイニングのパーツみたいなものがついている!?

 ……ってな感じに、そんな驚きに僕が目を見開かせるのもお構いなしに、セカイが制限時間残り1秒というところでギリギリゴールへと到着した。

 

《ゴール! 8着、カミキ・セカイさん! おめでとうございます! そして、ただ今を持ってKTBKガンプラバトルアイランド杯ファーストステージ、ガンプラサバイバルレースを終了します! 皆さん、本当にお疲れ様でしたー!》

 

 アナウンスのお姉さんによる労いの言葉に癒されたのは内緒だ。

 そうして計8人のファイターが、過酷なレースを勝ち抜きゴールインを果たしたのである。

 

 スーパーエステバリスWWフレームを操る僕ことコウサカ・ユウマ。

 ジーベックガンダムを操るキジマ・ウィルフリッド。

 キュベレイMark-Nichit(ニヒト)を操るミナキ・ソウシ。

 サイコガンダムキングジュンダーを操るビルダートJ。

 ベルティゴ思兼神(オモイカネ)を操るアワクネ・ユリ。

 デスティニーインパルスガンダムを操るイズナ・シモン。

 ファフナーマークデスティニーを操るアスカ・シン。

 そして、TRY(トライ)バーニングガンダムを操るカミキ・セカイ。

 

 以上が、主催側から発表されたそれぞれの機体名とファイターの名前だ。

 目新しいところを挙げればユリちゃんの機体は噂通り、ベルティゴベースの改造機で。シモンは弟が完成させたというデスティニーインパルスを使っている。アスカ・シンの機体はノーコメント。そして僕が最も目を引いたのは、セカイがこのレース中にカミキバーニングから乗り換え――正確には改造したガンプラ、「TRYバーニング」である。

 後で聞いた話によると、セカイはレースの終盤までギアナ高地エリアに居たらしく、そこでキジマ妹と一緒に次元覇王流の師匠と戦ったらしい。師匠、まさか師匠じゃないだろうなと思ったらドモンだった。お茶吹いた。

 

 ……それは置いておいて。

 

 セカイとキジマ妹、そして宇宙から合流してきたフミちゃんも加わり、三人掛かりで挑んだ壮絶な死闘の果てに、なんとか師匠を倒すことに成功した。しかし、死闘の代償は大きくカミキバーニングもスターウイニングもポータントもみんな戦闘継続が困難なほどにボロボロになる。

 刻一刻と迫っていくレースの終了時間。もはやこれまでかと諦めかけたセカイに、なんとキジマ妹が自らの機体パーツを使って、カミキバーニングの修理を開始した。ポータントには修理機能が施されていたのだそうだ。

 それを見て、フミちゃんが「だったら私のパーツも使って」とスターウイニングのパーツもセカイに託し、カミキバーニングは二人のガンプラによって強化再生! 新たにセカイ、シア、フミナという三位一体(トライ)の力を宿した「TRYバーニング」へと生まれ変わったのだ。

 

 そしてTRYバーニングは全速力で飛翔。制限時間は非常にピンチだったが、通りすがりのラルさんや通りすがりの謎の食通に手伝ってもらったりしたことにより、ギリギリゴールに間に合ったというのがセカイの周りで起こった出来事らしい。

 

 戦いの中で新たな機体を受け継ぐという王道みたいな展開は……正直くっそ羨ましい。はっきり言って超カッコいいんだけど、と思わず嫉妬したくなるほどだ。

 

 しかし、これは個人戦であり、今の僕から見ればそんなカミキ・セカイだって倒すべき敵だ。

 アイツが手にした新しい力で、この大会を無双させるわけにはいかなかった。

 

 ……そう言うのも、メンバーが決まったことで次のステージの詳細が、ナガレ会長の口から直々に発表されたことが要因である。

 

 発表会場はレースのゴールとなったこのジャブロー基地。そこで彼は自身の操るアカツキ専用エステバリスと共に颯爽と現れると、わざわざ大会出場者の全ガンプラの回線に向けて高らかに言い放った。

 

 いわく、次のステージがこの大会のファイナルステージ。

 いわく、ルールはシンプルな一対一のガンプラバトルトーナメント。

 いわく、舞台はこのジャブロー鍾乳洞基地で行われるとのことだ。

 そして優勝者には初代KTBKガンプラバトルアイランド杯チャンピオンの栄誉と、「キング・オブ・KTBK」の称号が贈られるとのことである。KTBK社を就職先の一つに考えている僕としては、是が非でも頂きたいところだ。

 

 形式はトーナメント。それはMMORPG的な変則ルールで行われたサバイバルレースとは違い、選手権にも似たオーソドックスな対戦ルールである。

 選手権と違うのは、ダメージレベルの設定がされていないことと、対戦の組み合わせを決める方法にあった。

 

 対戦の組み合わせは抽選ではなく、レースで先にゴールした人から順番に、戦う相手を指名していくというルールだったのだ。

 

 これに一番喜んでいたのはキジマだ。逆に不満そうだったのは、この中で最後にゴールしたセカイだった。彼らからすればこの大会が始まる前からもずっと戦いたい相手が居たからか、その反応も当然だろう。

 しかしこのルールに従うとなると、一番最初に対戦相手を指名する権利は最初にゴールした僕にあるわけで。

 

「セカイ、僕と戦え」

 

 ――そんな感じに、僕は割とすぐに対戦相手を決めて指名した。

 

 その理由はアイツの姉のミライさんのことや、てめえ二人の美少女と一緒にレースするどころか二人のパーツを使うとか羨ましいじゃねーかこちとら全員同行者男だったんだぞ、という妬みの感情なんかでは断じてない。うん、そんな不純な理由なわけないじゃないかー。

 

 僕がセカイを指名したのは、単純にアイツと僕ではっきりと白黒付けたかったからだ。

 

 それは決して、今に始まった感情じゃない。 

 チームメイトとして一緒に戦い、どんどん強くなっていくアイツの成長を間近で見ていく中で……僕は一人のファイターとしてアイツと決着をつけたかった。それだけだ。

 セカイとしてはユリちゃんと戦えなくて不満かと思ったが、意外と乗り気だった。ずっと戦いたがっていたのはきっと、僕だけじゃなかったんだろう。

 

 

 あと、次のキジマの指名は予想通りソウシだった。よほど、選手権での敗北が悔しかったのだろう。

 ビルダートJことイノセ・ジュンヤは、選手権舞台裏での雪辱を果たす為に迷うことなくユリちゃんを指名した。(かわいそうなことに、事情を知らない人達からはロリコン認定されていた)

 残ったシモンとアスカ先輩は自動的にこの組み合わせに決まったわけだが、デスティニー使い同士の戦いがどうなるかは非常に見ものである。

 そしてこれら僕達の指名を元に、エステバリスに持たせた筆を起用に使うナガレ会長の手によって、トーナメント表が決定した。

 

 

【第一回戦

  第一試合 コウサカ・ユウマ VS カミキ・セカイ

  第二試合   ビルダートJ VS アワクネ・ユリ

  第三試合  イズナ・シモン VS アスカ・シン

  第四試合 キジマ・ウィルフリッド VS ミナキ・ソウシ 】

 

 

 ――という具合に。二回戦は、上から順に一回戦の勝者同士で行われる形だ。

 僕は第一試合からの出番になるわけだが、試合自体は明日行われるそうで流石に今日はこれでお開きとなった。

 

 ……さて、これを読んでいると、日記書いてる暇あったら明日の準備しなさいよ! とは自分でも思う。

 でもガンプラの準備は終わっているし、こんなものでも書いていないと落ち着けないのがこの夜の僕の隠せない心境だった。

 

 だけど、明日は勝つ。

 僕のガンプラ愛と、ナデシコ愛に懸けても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○月×日

 

 

 僕は負けた。

 

 優勝しろよ、セカイ。今のお前なら、きっとユリちゃんに勝てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 トライってタイトルだから、主人公の後継機はパーツを借りた無印最終回オマージュを兼ねてこんな感じになるのかなーと思っていたりしました。
 色々とやりたい放題やりすぎてしまったと反省している本外伝ですが、恐らく次回で終わりそうです。カオスになりましたが、なんとか落ち着くべきところに落ち着けられればと。


 【思兼神対神樹炎】こう書くと、すっごい厨っぽい(恍惚)


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格闘マニアと鬼畜ロリとガンプラバトル

 

 

 彼らの一回戦は、波乱の連続だった。

 第一試合のコウサカ・ユウマ対カミキ・セカイの試合から、終始目を離すことが出来ない激しい攻防が繰り広げられたものだ。二人の腕は選手権の頃よりもさらに磨きが掛かっており、彼らのチームメイトであるホシノ・フミナすらも驚かされるばかりだったほどである。

 特に凄まじかったのは、セカイの新機体であるTRYバーニングの恐るべき性能か。

 それでも、途中まで優勢だったのはコウサカ・ユウマのスーパーエステバリスの方だった。ユウマが自身の手で生み出したオリジナルの特殊フレーム、WWフレームを持つスーパーエステバリスの機動性は「アシムレイトの力を持つガンプラ」である、TRYバーニングの全推力を持ってしてもなお上回っていたのだ。

 防戦一方というほどではないにしろ、そんなWWバリスの機動力から繰り出されるラピッドライフルとエアマスターバスターライフルの二丁拳銃による銃撃は元来近接戦闘を得意としているTRYバーニングに苦戦を強いり、着実にセカイを追い詰めていた。

 

 ――しかし追い詰められながらもセカイは、水のような静かな心の中で、ユウマが見せたほんの僅かな隙を逃さなかった。

 

 神樹ガンプラ流、バーニングバーストダッシュ――ゴッドガンダムのゴッドフィールドダッシュを元に編み出したセカイの新技によって一時的にスーパーエステバリスの動きに追いついたTRYバーニングが、瞬時に彼の二丁拳銃を一刀で両断する。

 そうして彼の手から厄介な火器を奪ったことによって、セカイはユウマを自身の土俵へと引き摺り込んだのである。

 

「いくぞユウマッ!!」

「来い! セカァイッ!!」

 

 白熱していく戦いの中でボルテージが最高潮に達した二人が近接戦闘を繰り広げ、お互いの出せる全力でぶつかり合った。

 これに観戦者達が驚いたのは、執念めいた意志さえも窺えるユウマの強さである。セカイが最も得意とする近接戦闘においても、彼のガンプラの体捌きは決してTRYバーニングのそれに劣らなかったのだ。

 そして彼らの決着の行方は、お互いのガンプラがそれぞれに持つ最強の武器へと委ねられた。

 

「流派神樹ガンプラ流の名の下に! 俺のこの手が真っ赤に燃えるぅッ!」

「勝利を掴めと轟き叫ぶぅッ!!」

 

 まるで本物のガンダムファイターのように気迫を込めた叫びを上げながら、二人のガンプラは衝突する。

 

「今爆熱するのは二人とこの俺! 鳳凰! 天驚おおおおけえええええええんッッ!!」

 

「RG! ダブルビルド・ゲキガンフレアアアアアアアアッッ!!」

 

 ガンプラと拳法の融合。

 ガンプラとナデシコ愛の融合。

 激突する力と力。ディストーションフィールドと共に浸透させた粒子エネルギーを両手に注ぎ込んだスーパーエステバリスが、TRYバーニングの放った神の如き不死鳥の炎を押し込んでいく。

 

 まるで機動武闘伝Gガンダムの作中で繰り広げられたドモン・カッシュ対シュバルツ・ブルーダーの戦いの如く、彼らの戦いはジャブローの鍾乳洞基地ごと粉々に吹き飛ばす大爆発と共に幕を下ろしたのである。

 

 そして、爆発の煙が晴れた時――そこに立っていたのは、カミキ・セカイのTRYバーニングだった。

 

 死闘を繰り広げた二人のファイターに、力の差などありはしなかった。

 二人のガンプラはどちらも戦闘続行が不可能なほどのダメージを受けていたが、先に砕け散ったのがユウマのスーパーエステバリスであり――その時間差が、二人の勝負を分かったのである。

 

 こうして第一試合は、カミキ・セカイが二回戦進出を決めることとなった。

 一方で試合に敗れたが壊れたスーパーエステバリスを抱えて「次は僕が勝つ!」と今回の勝者に対して堂々と宣言するユウマの姿は、まるでいつぞやのどこかの誰かさんのようだとヤジマ・ニルスが微笑んでいたという余談である。

 

 

 

 彼らの後に続くのは第二試合、ビルダートJ対アワクネ・ユリの対決だった。

 勝った方が次の二回戦でセカイと戦うことになるこの試合の運びは、一部の者を除いては誰もが我が目を疑ったことだろう。

 

 ビルダートJのサイコガンダムキングジュンダーはサバイバルレースでも圧倒的な強さを誇り、メイジンのアクシズ落としにおいてもその殲滅力によって絶大な貢献を果たしていた筈だ。

 

 そんな彼と彼のガンプラでさえも――アワクネ・ユリの操る「ベルティゴ思兼神(オモイカネ)」には傷一つ付けることが出来なかったのである。

 

 まるで未来を予知しているかのように、彼女はビルダートJの操作する機体の動きを見切っていたのだ。

 

「これでも……届かねぇのか……!」

「いえ、そんなことはありませんよ。この前より、ずっと面白い勝負でした」

 

 幼い少女のガンプラが、圧倒的な技量の差で巨大MSを追い詰めていく。試合前の予想とは打って変わって一方的に蹂躙していくだけの試合に、場内は静まり返った。

 だがそれでも、ビルダートJは最後まで勝負を諦めず、最大の秘策、最後の賭けとして「ジュンクフェニックス」なる大技を発動したが――惜しくも届かなかった。

 

 そうして結局一度も被弾することなく、第二試合はアワクネ・ユリが勝利を収める結果となった。

 ビルダートJもまた十分すぎるほどの力量を持ったファイターであったが、今回ばかりはただ相手が悪すぎたのだと……特別席からその試合を観ていた細身の仮面の男が一人、怪しげな笑みを浮かべていたとかなんとか。

 

 

 第三試合は、イズナ・シモン対アスカ・シンの対決である。

 機体名はデスティニーインパルスとマークデスティニーという、共に「デスティニー」の名を冠するガンプラである。そんな彼らの攻防は、イズナ・シモンに軍配が上がった。

 元々、素組のガンプラでも並のファイターを凌駕する実力を持っていたシモンだ。そんな彼が弟によって専用のチューニングを施された機体を扱ったのだから、デスティニーインパルスを操るシモンの実力は選手権の時の比ではなかった。

 アスカ・シンもまた彼に劣らぬ腕を持ってはいたが、シモンがボクシングで培ったパルマフィオキーナクロスカウンターが炸裂し、最後は紙一重の差でマークデスティニーが力尽きる終幕となった。

 

 試合の後には「良いバトルだった」とがっちり固い握手を交わす二人の姿はまさしく中高生大会における見本となるべき爽やかな光景であり、観戦していたメイジン・カワグチもまた席を立って「見事であった!」と二人の健闘を拍手で賞賛していたものである。

 

 

 

 ――そして第四試合、キジマ・ウィルフリッド対ミナキ・ソウシ。

 

 

 キジマの機体は選手権での敗北以来、改良を重ねに重ねた新型のガンプラ――ジーベックガンダム。

 ソウシの機体はその豪快さとテクニカルさで、あらゆる敵を無に帰す英雄の一角――キュベレイMark-Nichit(ニヒト)

 片やガンプラ学園最強のファイターと、片やそんな彼をチーム戦で撃破した戦術指揮官。

 一対一の方式であるこの戦いでは技量の差によりキジマが優位か……というのが主な前評判であったが、実際の試合内容は完全に互角と言っても良いものだった。

 

 単純な正面からの戦いでは、確かにキジマのジーベックガンダムに軍配が上がる。

 しかしソウシのマークニヒトは、このジャブロー地下というフィールドの特徴を生かした地の利を得ていたのだ。と言うのも、基地施設の内部であるこのフィールドでは同化ケーブルによって周辺に配置されている機銃を強化利用したり、密閉空間を生かした「地盤を巻き込んだ同化攻撃」をしたりと、ソウシの得意とする戦術がフィールドの恩恵を受けていた為かまさにやりたい放題だったのだ。

 

 そんな知略と精神を張り巡らせたギリギリの戦いの中ではキジマとて苦戦を強いられたが、彼は狼狽えるどころか嬉々として彼の戦術に立ち向かい、その全てを自らの手で粉砕しては大喝采を上げていた。

 

「流石だと言いたいが、甘いぞソウシ!」

「なに!?」

「対ザルヴァートルプラモデルに特化した、このジーベックガンダムを見くびるな!」

 

 今のキジマにとって、ミナキ・ソウシこそが今まで戦ってきた誰よりも手強いと感じるファイターであった。

 彼はキュベレイMark-Nichit(ニヒト)という一見パワー系のガンプラを扱いながらも、その戦い方は緻密な戦術と技巧を用いた柔の戦いである。

 故に、キジマもまた彼の対策は事前から考えていた。

 彼から「蒼穹のファフナー」のBDをレンタルしたのもまた、彼を倒す為に講じた対策の一つだったのだ。

 

「楽しいなソウシ! これぞ私の求めていたガンプラバトルだ! 私は私に敗北を与えたお前を……私のメイジンロードを閉ざしたお前を許しはしないッ!

 ……そうとも、私にとってお前は唯一無二の宿敵(ライバル)だ! 私はこの戦いに勝利して初めて、メイジンの道へ戻ることが出来る!」

 

 自分こそが四代目のメイジン・カワグチへ至るのだという悲願。そこに求められるのは、何者をも粉砕する勝利への執念だ。

 対するミナキ・ソウシの戦いは、メイジンの在り方とは似て非なる「負けない戦い」である。

 自分自身のガンプラさえも盤上の駒のように操り、こちらに気持ちの良いガンプラバトルをさせない。テクニカルな戦法でこちらの力を削ぎ、どんな条件からも対等な勝負に、最悪でも相打ちへと持っていく。

 選手権で自分が負けたのは、慢心だけが原因ではない。キジマはたとえ万全の状態で挑んだとしても、あの時の自分がソウシに勝ち切れたとは思わなかった。

 

「勝利だけが、メイジンの道か!」

「私の戦いのロードに、敗北は要らん!」

「敗北の痛みが怖いかキジマ? それが僕の与えた祝福だ!」

「ソウシッ!」

「キジマァァァッッ!!」

 

 最高に高めたプラフスキー粒子の光で最強の力を手に入れたと自負するキジマは、その実力を極限を越えて引き出した。

 

 そうして混沌を極め続ける二人の戦いはジャブロー一帯を結晶体に変えるまで続き、キュベレイMark-Nichit(ニヒト)の粒子残量が先に底を尽いたことで決着がついた。

 

 ――勝者はキジマ・ウィルフリッド。

 

 彼は遂に、選手権での雪辱を晴らしたのだ。

 

 

 

 

 ――そして、後日。

 

 事実上の決勝戦と言える、空前絶後のガンプラバトルが幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カミキ・セカイ、TRYバーニングガンダム――いくぜ!」

 

 KTBKガンプラバトルアイランド杯、第二回戦。

 カタパルトから射出される赤と白の機体は、カミキ・セカイが仲間と共に完成させた新たなガンプラ「TRYバーニングガンダム」である。その誕生経緯はサバイバルレースで大破したカミキバーニングガンダムをホシノ・フミナのスターウイニングとキジマ・シアのポータントのパーツを使って修理、改良を行った、まさに彼らの絆を組み合わせたガンプラと言っても良いだろう。

 異なるガンプラを強引に組み合わせた為か造形はややアンバランスだが、機体性能に不備は無い。それどころか彼ら三人のガンプラはまさに奇跡とも言えるバランスで絶妙に嚙み合っており、原型となったカミキバーニングをも上回る性能を発揮していた。

 その絆の力により死闘の末、優勝候補の一角であるコウサカ・ユウマのスーパーエステバリスを下したのが先日のセカイの一回戦のことである。

 TRYバーニングガンダムの持つ武装はカミキバーニング同様、リアスカートにマウントされている一本の太刀のみ。後はセカイの本領たる次元覇王流拳法が、近接戦闘に特化したこのガンプラの長所を最大限に生かしていた。

 セカイはそんなTRYバーニングの、カミキバーニングの時よりもスムーズになった機動でジャブローの鍾乳洞を飛行しながら、自身が待ち望んでいた試合がようやく始まったことへの高揚に浸る。

 

 

「やっと、借りを返す時が来たな」

 

 トーナメントの第二回戦を迎えたこの日――対戦相手の名前はアワクネ・ユリ。

 ビルダートJ――イノセ・ジュンヤとの激闘を制し、この試合に駒を進めた世界最強の小学生ファイターであった。

 

 そんな彼女の操るガンプラの名は、ベルティゴ思兼神(オモイカネ)。未だこの大会で一度も被弾したことのない、白百合のように優美な姿をしたガンプラである。

 ベルティゴと言えば「機動新世紀ガンダムX」に登場するMSであり、作中では「フラッシュシステム」を用いた十二基の「ビット」によるオールレンジで主人公のガロード・ランを苦しめてきた機体であり、後に彼らと共に戦うことになる名機だ。

 外見は長い鶏冠と槍のような両腕が特徴であり、腕はキュベレイのように変形させて肩と一体化させることが出来る。ビット使用時にはこの形態に変形して射出するのだが――アワクネ・ユリのベルティゴ思兼神はまだ、その姿を見せたことがなかった。

 

 ……と言うのも、彼女はここまでこの大会で一度も「ビット」を使っていないのだ。

 

 彼女がこれまでに扱ってきた武装は手首後ろから射出されるオーソドックスなビームサーベルが一本だけであり、他の武装はビットは愚か、射撃武器すらも使っていなかった。

 それは彼女があえて射撃武器をオミットしたからなのか、使う必要が無かっただけなのかは定かではない。しかし少なくとも、彼女が「ビームサーベル一本だけで」この大会を勝ち抜いてきたことだけは確かだった。

 

《まっていましたよ》

 

 その彼女――アワクネ・ユリのベルティゴ思兼は器用に鍾乳洞内をホバーリングしながら、セカイの到着を待ち構えていた。

 純白の色彩は原作のベルティゴと同様。しかし格闘戦を重視している為か、全体的に原作のベルティゴよりもシャープな外見をしており、小回りの効きやすい細身な造形をしていた。

 彼女のガンプラを改めて間近で見て、セカイは自身の闘気が心の底から沸き上がってきていることを自覚する。

 彼女との最初の戦い――最初の敗北から数か月を経て、遂にリベンジの機会が訪れたのだ。

 

「ああ、俺も待っていた。俺はずっと……君と戦う日を楽しみにしていた!」

 

 セカイの脳裏に蘇るのは、彼女と初めて出会った夏休みの合宿の日のことだ。

 その時の屈辱と衝撃と、喜びは今も忘れてはいない。

 屈辱はたった七歳の女の子に為すすべも無く敗れたことへの感情であり、衝撃は自分の次元覇王流が手も足も出なかったことへの感情であり……そして喜びは、自分の知らない世界にはとんでもない強者が居るのだという、武道家特有の闘争心である。

 そんな思い出を振り返り、セカイは目の前の少女に訊ねる。

 

「なあ、俺ってあの時より強くなったか?」

《まだ戦っていないのに、そんなことわかりません。自信があるってことはそうなんじゃないですか?》

「それもそうだな……じゃあ、今見せてやるよ!」

 

 鍾乳洞内でホバーリングしつつ、静かに向かい合う二人のガンプラ。

 既に試合開始のゴングは鳴り響いている。もはや思い出話に浸る語らいは、不要だった。

 

「これが、俺達のガンプラだ!」

 

 セカイが吠えると、TRYバーニングのクリアパーツが輝き、激しい炎が噴出する。

 TRYバーニングガンダムの特殊機能、「アシムバーストシステム」の発動だった。

 

 「いきなりバーストだと!?」と、観戦席から聴こえるのは、このシステムのことを熟知しているコウサカ・ユウマが驚く声だ。

 アシムバーストシステム――かつて封印されたアシムレイトの原理をガンプラのシステムとして取り込み、パワーアップ効果のみを再現した機体の強化能力である。

 ファイターの精神の高ぶりによって機体の性能を最大三倍まで上昇させることが出来るこのシステムはトランザムシステム以上の持続時間を持っているが、当然ながら永続的に続くものではなく、その限界時間を過ぎれば粒子の消耗によりパワーダウンもしてしまうハイリスクハイリターンのものだ。言わばこれは、セカイにとって切り札のシステムだった。

 

「いっくぞおおおっ!!」

 

 彼がそんな諸刃の剣とも言えるシステムを開幕早々に発動したのは、この試合を短期決戦で決めるという覚悟の表れ――もあるが、単にそこまでしなければアワクネ・ユリを倒すことが出来ないということを理解した上での思い切った作戦だった。

 アシムバーストシステムにより、雄々しい炎に包まれたTRYバーニングが弾丸のような速さで接近し、リアスカートから太刀を抜刀する。

 修行の成果を遺憾なく発揮する、彼の目にも留まらぬ一閃は――彼の接近と同時に引き抜かれたベルティゴ思兼神のビームサーベルによって交錯し受け止められた。

 

《いいふみこみです》

「……ふっ」

 

 挨拶代わりの一太刀を涼しい顔で受け止めながら、アワクネ・ユリが僅かに微笑む。セカイが闘気の笑みを浮かべるのは、同時だった。

 

《あたらしいガンプラはどうですか?》

「ああ、最高だ!」

 

 通信回線から聴こえてくるアワクネ・ユリの問いに、セカイは迷いなくそう答える。

 TRYバーニングガンダムの性能はカミキバーニングのそれを上回り、昨夜の修繕ではミキシングに定評のあるコウサカ・ユウマの監修も受けた為にさらなる進化を見せていた。

 その性能は、まさに底が無しである。このTRYバーニングならば、どんな相手にも勝てるという確信がセカイにはあった。

 

「今だって、びっくりしてるぜ! ガンプラは、こんなに強くなるんだって!」

 

 ベルティゴ思兼神との鍔迫り合いから一旦距離を取ったTRYバーニングが、さらなる加速を掛けて旋回し、再び切り込んでいく。

 燃え盛る炎と共に派手な動きで迫る彼のガンプラに、ベルティゴ思兼神は必要最小限の動きで応じ、再び太刀とビームサーベルをぶつけ合った。

 

「このTRYバーニングは、本当に最高の機体だ……でも俺は、まだなっちゃいねぇっ!」

 

 火の粉と火花が飛び散るつばぜり合いの中で、TRYバーニングがアシムバーストで大幅に向上した腕力で太刀を押し込み、セカイが叫ぶ。

 しかしその言葉はどこか彼らしくなく、自身に対して嘲けるような響きが込められていた。

 

《どうしてですか? わたしと、こんなに戦えるじゃないですか?》

「違うんだよ……!」

《?》

「シアと修行したりして、一人でガンプラを作れるようになったと思っていた……だけど実際、まだ俺には、みんなの助けが必要だったんだっ!」

 

 両手持ちで振り抜いたTRYバーニングの太刀は、単純なパワーではベルティゴ思兼神のそれを上回っていた。

 しかし、どちらが押しているかと言われれば、大半の者がベルティゴ思兼神と言うだろう。

 アワクネ・ユリは一瞬だけビームサーベルの刃を切ると、行き場の無くなった彼の太刀を空振りに終わらせ、返す刀が襲い掛かるよりも早くベルティゴ思兼神の右足でTRYバーニングを蹴り飛ばしたのである。

 彼女はそんな、まるでかつてのリカルド・フェリーニが披露していたような格闘技術を見せた後、しかし追撃には向かわずTRYバーニングの挙動を窺った。

 そんな彼女に、即座に体勢を立て直しカウンターの構えに入っていたTRYバーニングのセカイが語る。

 

「シアが、先輩が、ユウマが……みんなの手で完成させたのが俺のTRYバーニングだ!」

《ふむふむ》

「俺一人で作り上げたガンプラじゃ、まだまともに戦えそうにねぇ……すげぇよ、ユリちゃんは。そんなに強い奴と戦えて、俺は嬉しい!」

《うれしいんですか?》

 

 アシムバーストを発動したことで爆発的に性能が上がっている筈のTRYバーニングを相手にしながらも、彼女はまだ涼しい顔をしている。

 モニター越しに映る可愛くも憎たらしい表情を見て、セカイは彼女がまだほんのウォーミングアップの段階に過ぎないことを察する。そんな彼の頬には、ほのかに笑みが漏れていた。

 一方でアワクネ・ユリが、そんな彼の態度に首を傾げる。

 

《自分よりも、強い人がいるのがうれしいんですか? 変わってますね》

「へへ、俺は次元覇王流の武道家だからな。相手が強ければ、強いほど燃えるんだ!」

 

 何事も、セカイが勝負に望んでいるのは勝利の一点ではない。

 それはひたすらに勝利に拘り、メイジンを目指しているキジマ・ウィルフリッドとは似て非なる在り方であろう。

 彼にとっては戦いの中で、自分の極限を極め続けること――純粋に戦いを望むことこそが、セカイの本質だったのだ。

 

 だからこそ、彼は敗北を長く引き摺らない。

 

 確かに以前ユリに完膚なきまでに叩きのめされた時はショックが大きかったが、その翌日にも彼は立ち直り、負けた原因を冷静に分析するぐらいには切り替えることが出来ていたのだ。

 その切り替えは、正しく彼をガンプラビルダーとして成長させていた。一度の大敗が、彼を強くしたのだ。

 相手が強く自分が追い込まれるほど、カミキ・セカイは今までにない高みへと昇ることが出来る男だった。

 

《そういうことですか。あのびるだーとJさんがどうして楽しそうに戦っていたのか、やっとわかりました》

 

 セカイの言葉に、納得したように相槌を打つユリ。

 ビルダートJ――彼女と一回戦で戦った男もまた、今のセカイと同じ顔をしていたものである。

 仮面を外し、一人のファイターとして純粋に死力を尽くした彼はまさに武人だったと言えよう。機体の持てる全ての力を用いてユリに挑み、最後の一撃として放った彼の「ジュンク・フェニックス」にはあのメイジン・カワグチさえも唸ったほどだ。

 それでも結果的にはユリのガンプラに傷一つ付けることが出来なかった彼だが、その顔は憑き物が落ちたように晴れやかなものだった。

 気持ちの良い敗北と言うのは、きっとああいうものを言うのだろう。

 

「ジュン兄は、俺よりもずっと立派な武道家だった。だから、ジュン兄も君と戦えて嬉しかったんだよ。……いや、武道家とか、そういうのはもう関係ないか。ユウマや先輩だって、俺達と同じ筈さ」

《なかまのこと、よく知ってるんですね》

「ああ! みんなすげぇファイターなんだぜ? ユウマは最初ちょっと変な奴だなって思ったりしたけど、今は二人とも尊敬してるんだ」

《コウサカさんなんかは自分でやっつけてしまったのに、いまさらそんけいなんてできるんですか?》

「そりゃそうさ! 今回は俺が勝ったけど、俺達に力の差はないし。師匠も言っていたけど、ライバルっていうのはお互いに尊敬しあうもんだろ?」

《そういうもんですか》

 

 二人のガンプラは、お互いのファイターが対話中でもその動きを緩めることはない。この会話の最中でさえ異次元的な機動で一進一退の鍔迫り合いを繰り広げる二機の激闘は、一見互角に見えるものだった。

 しかし操縦する二人の表情を見れば明らかにアワクネ・ユリの方が余裕そうであり、セカイの方には僅かながら息切れが見え始めている。

 

《わたしにはそういうの、傷の舐め合いみたいで嫌ですね》

「……うん?」

 

 剣をぶつけ合い、密着した状態から、ユリのベルティゴ思兼神が胴部に蹴りを入れてTRYバーニングを突き飛ばす。

 セカイが慌てて体勢を立て直した頃には既に、彼女の機体は彼の背後へと回り込んでいた。

 

《たたえあったって、あっさり負けてしまったら意味ないじゃないですか。強い相手と戦えれば、負けても満足なんですか?》

 

 問いながら、彼女は何の容赦もなくビームサーベルを振り下ろしてくる。

 背後からTRYバーニングの機体を縦一文字に切り裂こうとするベルティゴ思兼神のスピードは、セカイがこれまでに戦ってきた誰よりも速く鋭い。

 しかし、セカイもまだ負けていない。まるでガンプラの機体越しに彼女の呼吸を感じ取ったかのように、彼はこれまでの反応速度を超えた動きで、身を翻してその斬撃をかわしたのである。

 その一瞬だけ、アワクネ・ユリが少しだけ驚きの表情を浮かべた。

 

《やりますね》

「……勝負だもんな。そりゃ、やっぱり勝ちたいさ! だから、負けたらまた強くなって戦うんだよ! 何度でも……何度でも繰り返してな!」

《……作り上げてもこわして、またこわしてってかんじですか。それはそれでたのしいのかもしれないですけど、たんたんと迎えうっているほうはあんまりたのしくないですね》

 

 TRYバーニングが返す反撃の太刀を蝶のように舞う動きでひらりとかわした後、ベルティゴ思兼神が地底湖の上に足のつま先をちょこんと当てて待機する。

 それは一見無防備で、戦闘中に晒すには隙だらけの格好に見えるが……セカイは直感的に、今の彼女に迂闊に飛び掛かればあえなく返り討ちに遭うと確信していた。

 アワクネ・ユリが得意とする戦法は、剛よりも柔。格闘技で言えば、主に敵の力を利用したカウンターである。スーパーロボットが大技を放った直後に見せる一瞬の隙などを完璧に突き、相手に何が起きたかも悟らせぬままその機体をバラバラにしてくる。これまでの分析でわかったことだが、アワクネ・ユリは現代のガンプラバトルに蔓延る大火力軍団にとって、まさに天敵とも言えるスーパーロボットキラーなのである。あのビルダートJもまた、そんな彼女のカウンターによって散っていったものだ。

 そんな天才少女が目を瞑りながら、これまでの戦いを振り返るように言い放った。

 

《ぶっちゃけると私、ガンプラバトルで満足したことなんてほとんどないです》

「え……?」

 

 それは残念そうに、という顔でもない。ただそれが当然のことのように、彼女は全くの無表情である。

 彼女はガンプラバトル選手権の小学生チャンピオンだ。そしてこの大会でも、これまでの激戦を無傷で勝ち抜いてきた正真正銘の実力者である。

 僅か七歳の身でそれほどの強さを持ち、誰の目に見ても順風満帆なガンプラ人生だと思えよう。しかし、当の本人は何の喜びも感じていない様子だった。

 

《もちろん、この大会でも満足していませんよ? ぶっちゃけ不満です。不満足じょうたいです》

「なんでさ?」

 

 一方セカイは、この大会を最も楽しんでいるファイターの一人と言っても良いだろう。多くの強者達と渡り合い、新たなガンプラも得て……らしくなくほんのりと「恋心」も抱いたりして、彼はこの大会で多くのものを勝ち取っていたのだ。

 そんな彼だからこそ、彼女の発言が解せなかった。

 ガンプラバトルを心から楽しんでいるカミキ・セカイには、アワクネ・ユリのそれが悲しい言葉に聴こえたのだ。

 

《いちども本気を出さないまま勝てるたたかいなんて、面白くないじゃないですか》

 

 彼女はまだ、全く本気を出していなかったのだ。

 戦闘時の息遣いから、感づいてはいたことだ。彼女がこの大会でビームサーベル一本しか使っていないのもやはり、搭載されている武器がそれしかないのではなく、彼女が意図して手加減していたからなのだろう。

 ……まったくもってしょうもない、誰がこうも育ててくれたのか知らないが酷い幼女である。

 

「じゃあ、今はどのぐらい本気なんだ?」

《ちょい本気くらいです。ハンバーガーふたつぶんくらい》

「ええ? まっじかぁー……」

 

 手加減の程度をよくわからない例え方で表現するユリの言葉に、セカイが悔しげに唇を歪める。

 セカイは以前よりも、大きく腕を上げてこの試合に臨んだつもりだ。それでもまだ、彼女との力の差は大きいのだろう。

 ここまでとてつもない天才を見ていると、いっそ笑うしかないだろう。中高生と小学生という大きなハンディがありながら、逆に小学生が本気を出さずして中高生を圧倒するなど普通はあってはならない。プライドの高いガンプラ学園の面々が聞いたら怒り狂いそうな発言だなぁと、セカイは他人事のようにそう思った。

 だがそのセカイとて、一ファイターとして今のユリの言葉に感じるものがない筈が無い。

 

「でも、俺だって力を出し尽くしちゃいないぜ!」

 

 機体から噴き出す炎の量がさらに溢れ、両手に炎の太刀を携えたTRYバーニングがセカイの咆哮と共に飛び出していく。

 セカイの心には今、怒りとは言わないまでも激しい感情があった。

 彼女の心に何の悪意もないのはわかっている。

 ここまでコケにされて、悔しいと思う感情ももちろんある。

 しかし何よりもセカイの中で大きかったのは、彼女がガンプラバトルを楽しんでいないことに対する悲しみだった。

 

「ライバルが居ないんだな! 君には!」

《いませんね。これでもあなたには期待していたんですけど、こんなもんでしょうか?」

 

 これほどの強さを持ちながら……いや、これほどまでに強いからこそ、彼女は心の底からガンプラバトルを楽しむことが出来ないのだろう。

 中高生にすら手に余る実力者なのだ。彼女と同じ小学生の中に彼女とまともに戦えるファイターは居ないことは、容易に想像出来る。

 競技というものは、一人では成り立たない。共に高め合うライバルが居るからこそ楽しめるものであり――それが居ないことをさも当然のように言ってのける彼女のことが、セカイには寂しかった。

 だからこそ。

 ならばこそ――セカイの思いは一つだった。

 

「生意気言うなって。師匠が言っていた……そうやって慢心していると、足元をすくわれるって!」

《おやや?》

 

 ベルティゴ思兼神のビームサーベルと打ち合うTRYバーニングの斬撃が、これまでよりも一層激しくなる。

 セカイの気迫を込めた攻撃に、少しだけ彼女が表情の色を変えた。

 

「俺が本気にさせてやるさ!」

 

 乱暴に太刀を振り回し、一度打ち合えば即座に後退し、鍾乳洞の壁を蹴って再び斬りかかる。ひたすらにヒットアンドウェイを繰り返すTRYバーニングの動きは一見が出鱈目に見えるが、その攻撃はこれまでとは違い、アワクネ・ユリのベルティゴ思兼神に防戦を強いていた。

 

《この動きは……》

 

 彼のそれは本当に出鱈目に機体を動かしているのではなく、機体性能を型に嵌まらない動作で引き出しているに過ぎない。その戦法は、他でもないユリにとって見覚えのある――かつての彼女の父、アワクネ・オチカの戦いに似た動きだった。

 しかし、セカイのそれは決して猿真似などではない。彼はただ無意識のうちに、彼女の動きに全力で着いていこうとしているうちに、自然とこの戦法を編み出していたのだ。

 TRYバーニングの炎が、三倍に膨れ上がる。

 

「俺のガンプラも……TRYバーニングも言ってる気がするんだ! 俺達の戦いに、限界はないって!!」

 

 ――そして五十回目のつばぜり合いの瞬間、TRYバーニングが繰り出した膝蹴りが、初めて彼女のガンプラに届いた。

 

 

「いいぞ、いけるぞセカイ!」

「そこだセカイ! フックだ! アッパーだっ!」

 

 蹴り飛ばされたベルティゴ思兼神が鍾乳洞の壁に叩き付けられ、ギャラリー達が沸き立つ。その中でも目立ったのは、一回戦でセカイが下したコウサカ・ユウマとユリが下したビルダートJ、もといイノセ・ジュンヤの声であろう。

 この戦いを見ているのは彼らだけではない。会場に詰め掛けた大会出場者達全員――多くのガンプラ馬鹿達が彼らの戦いに熱中し、奮い立っていた。

 そんな熱狂の中で、セカイが叫ぶ。今この時だけは拳法もチームも関係なく、彼もまた一人のガンプラ馬鹿だった。

 

「俺は君の高みに行く! 俺が君の……ライバルになってやる!!」

《…………》

 

 次元覇王流聖槍蹴り――ノータイムで放った拳法の一撃を、セカイはこの試合で初めて隙を見せたベルティゴ思兼神へと放つ。

 素の状態でも大型MAの装甲を真正面から蹴破る程の威力を誇る一撃はこの時、アシムバーストによって底上げされた機体性能によりさらなる力を発揮していた。

 その蹴りが叩き込まれた壁が鍾乳洞の地盤諸共崩壊し、基地内全体が大地震のような揺れに襲われるほどである。直撃を喰らえば、彼女のガンプラとてひとたまりもないだろう。まさに一撃必殺と言える一撃は、通信回線越しに見えるアワクネ・ユリの表情を変えた。

 聖槍蹴りを紙一重でかわしたベルティゴ思兼神が、地盤の崩壊により落下してくる天井を避けながら、赤いモノアイを光らせる。

 その瞬間、セカイは彼女のガンプラから強烈なプレッシャーを感じた気がした。

 

《……ビット》

 

 呟くように放たれたユリの声と同時に、ベルティゴ思兼神が優雅に回転しながらその肩部から複数の小型銃器を射出する。

 ビット――ガンダムX作中ではフラッシュシステムを介すことで脳波コントロールされ、重力下でも使用することが出来る小型無人ビーム砲端末である。作中設定のベルティゴが内部に搭載しているビットは計十二基であったが、この時彼女のベルティゴ思兼神が繰り出したのはざっと見てもその二倍は多かった。

 

「ファンネルか!」

《ファンネルではありません、ビットです》

 

 縦横無尽に鍾乳洞内を駆け巡る大量のビットが急速に迫り、休む間もなく四方からビームの雨が降り注いでくる。

 彼女がこれまでビームサーベルしか使っていなかったのは、やはり意図して手加減していたからだったのだ。

 その事実に怒りを覚える一方で、セカイは彼女がようやく手の内を見せてくれたことに喜びを抱く。

 しかし、それはそれとしても彼女のビット兵器の扱いはまさにガンダム作品の劇中に登場するニュータイプそのものであり、銃器一つ一つが生き物のように動いてくるオールレンジ攻撃の前にセカイのTRYバーニングは近づくことも困難であった。

 

「くっ……! そんなのありかよ!?」

 

 全く容赦の無い彼女の本気のオールレンジ攻撃はTRYバーニングの機体だけではなく、周囲の壁や天井にも降り注がれていく。そして幾度となくビームが当たった箇所を軸に壁や天井に亀裂が走り、先ほどセカイ自身が繰り出した聖槍蹴りと同じように、この鍾乳洞基地の地盤を諸共崩していった。

 

《ガンプラバトルは、格闘技じゃないんですよ》

「冷めたこと言ってるんじゃないぜっ!!」

 

 このまま避け続けていれば、崩壊していく鍾乳洞の生き埋めになる。ガンプラバトルは地形を生かすのがセオリーでもあるが、彼女のそれはあまりにも豪快過ぎた。

 さらに不幸なことに、この時セカイは気付かなかったがTRYバーニングの機体から炎の噴射が止まった。

 

 アシムバーストシステムが、とうとう限界時間を経過してしまったのだ。

 

 それによって強度の低下したTRYバーニングの太刀がビットのビームに貫かれて砕け散り、セカイのガンプラの手から瞬く間に武器が無くなっていった。

 

「セカイ!」

「セカイ君!」

 

 パーツと言うの名の力を貸してくれた少女達が、悲鳴の混じった声を上げる。

 ビット兵器を解禁したアワクネ・ユリの前に、セカイは確実に追い込まれていた。

 

 ――しかし、セカイの心は穏やかだった。 

 

 圧倒的なユリの力を前に、なすすべもないというこの状況で彼がその心に抱いたのは、焦りでも苛立ちでもない。

 ビームや瓦礫の雨が今まさに自分の機体を押し潰そうとしている今も、セカイの心は激情の中でもどこか穏やかだった。

 

 ――その精神状態が、彼に新たな境地を拓かせる。

 

「次元覇王流うううっっ!!」

《!》

 

 TRYバーニングの機体が、金色(・・)に変わる。

 それは機体に意図して予め搭載していた機能でも、狙って起こしたわけではない。

 どういう原理なのかもわからない。しかし彼の金色に染まった瞬間、彼のガンプラを貫こうとしたビームは遮断され、瓦礫の雨は焼き払われた。それは確固たる事実だった。

 

「あれは……アシムバーストじゃない!」

「明鏡止水……いや、ハイパーモードだ!」

 

 試合を見ていた誰かが、TRYバーニングの姿を指して言い放った直後である。

 彼の突きだした両手の拳から「火の鳥」が羽ばたき、鍾乳洞諸共ベルティゴ思兼神のビットを消滅させていった。

 

 ――セカイの放った神樹ガンプラ流奥義により、ジャブローの地下基地は跡形も無く消滅したのである。

 

 しかしそれでも、セカイのガンプラもユリのガンプラも健在だった。

 

 セカイは自分の居る場所には影響しないよう器用に計算して技を放ち、ユリは発射の瞬間、神がかり的な直感とも言うべきか咄嗟にベルティゴ思兼神が隠し持っていたもう一つの機能、「ボソンジャンプ」を使って事前に外部へと脱出していたのだ。

 

 そうして鍾乳洞基地の消滅から逃れた二人のガンプラは、お互いの戦場をジャブローのジャングル、空へと移していった。

 

 

「はあああああっっ!!」

 

 太刀が折られてしまった今、TRYバーニングが今扱える武器はかつてそうだったように自分の手足だけだ。徒手空拳でベルティゴ思兼神とぶつかり合い、ベルティゴ思兼神もまたビットを思わぬ方法で失った今、ビームサーベルによる接近戦を余儀なくされていた。

 一進一退の攻防を繰り広げる、両者のスピードは全く同じだ。

 全く同じスピードで二つのガンプラが動き、そこから瞬間移動するように最大推力を持ってTRYバーニングはベルティゴ思兼神に、ベルティゴ思兼神はTRYバーニングに向かって一直線に突進していく。

 

 舞台が広い空中に移ったことで、もはや互いの機体を縛るものは何も無い。

 

 金色の尾を引く流星と白亜の尾を引く流星とが正面からぶつかり合うように、互いにぶつかり合ったガンプラは一度離れ合ったものの再び衝突し、旋回し、雲を突き破りながら螺旋を描くように上昇していく。

 高度をさらに引き上げた二人のガンプラはやがて成層圏へと突入し、青い水平線を目下に魂を燃やすような死闘を繰り広げた。

 

「俺のこの手が、真っ赤に燃える!」

 

 白熱する攻防の中で、機体性能の限界を超えたTRYバーニングの両手が赤く燃え上がる。

 その瞬間、再びTRYバーニングの機体から炎が噴出し、日輪の光が彼を取り囲んだ。

 

《勝利をつかめととどろきさけぶ……!》

 

 少女が合いの手を入れながらも攻撃の手を一切緩めず、擦れ違いざまにTRYバーニングの胴部を蹴ってこの成層圏から叩き落そうとする。

 だがその瞬間、TRYバーニングの機体が四機に増えた(・・・・・・)

 

《まさか……っ》

 

 プラフスキー粒子を応用した、ゴッドシャドーのような炎の分身術である。

 TRYバーニングと同じ炎を宿した分身達は超高速で旋回し、ベルティゴ思兼神を攪乱していく。

 驚きながらも即座に鋭角的な軌道を描き、五秒の間で全ての分身を斬り伏せてみせたユリであったが、その頃にはTRYバーニングの真っ赤に燃える両手が、必殺の一撃を放とうとしていた。

 

「くらえええええっっ!!」

 

 ――石破鳳凰天驚拳。

 

 両手のゴッドフィンガーと、神樹ガンプラ流の奥義を組み合わせた渾身の一撃。

 TRYバーニングの両手の平から火の鳥として放たれた炎を一撃は、プラフスキー粒子で作られた地球の空を赤く染めた。

 

 

 

 






 ユウマ君も、キジマ君も、良かれと思って個性を濃くしようとしました。
 良かれと思ってハイパーモードの扱いを伝説の戦士っぽくしておきました。
 良かれと思ってロリを鬼畜にしてしまいました。
 今回で終わらせるつもりが、戦闘が随分と長くなってしまったので最終回は次回に持ち越しになります。


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愛と勇気と素晴らしきガンプラバトル(終)

一年経ちましたが、ひっそりと外伝最終回投下です。


 

「やった……!」

「セカイの奴、勝ちやがった!」

 

 成層圏で巻き起こった大きな爆発に、セカイの勝利を確信したギャラリー達が沸き立つ。

 多重の分身により注意を逸らし、背後から放たれたTRYバーニングガンダムの鳳凰天驚拳は、アワクネ・ユリのベルティゴ思兼神とて回避は困難であろう。

 必殺の一撃は、間違いなく彼女のガンプラを捉えた筈だと――ごく少数の者以外の目には、誰もがそう見ていた。

 

 しかし当のカミキ・セカイ自身は、とても勝者には見えない苦々しい表情が浮かんでいた。

 

「……届かなかったか……っ!」

 

 爆煙が晴れた時、その場所には既に敵の姿は影も形も無かったのである。

 しかしTRYバーニングの背後――先ほどまで居た場所とは正反対の場所に、彼女のガンプラは軽度に損傷した姿で佇んでいた。

 

 ボソンジャンプ――彼女、アワクネ・ユリの両親が編み出した画期的な転移システムである。

 

 

《今のは、けっこう惜しかったですよ》

 

 彼女が未だ健在であるという状況に対して、TRYバーニングはアクションを起こさない。

 しかし彼女は、無防備なTRYバーニングの背中をビームサーベルで貫こうとはしなかった。

 

 この戦いにはもはや、その必要がなかったからだ。

 

 ――既にTRYバーニングの粒子残量は、0に尽きていたのだから。

 

《みとめます。あなたはわたしのライバルです。ほんとうにおどろきました。こんな気持ちになったのは、はじめてです》

 

 ハイパーモードが解除され、力なく宙を漂うTRYバーニングの姿を見つめながら、アワクネ・ユリが回線越しにしみじみと語る。

 彼女はこの戦いで、ついにその全力を発揮した。

 その態度には何の悪意もなく、カミキ・セカイというガンプラファイターが自身の予想を大きく上回る実力者に成長したことを素直に祝福していた。

 

《それにしても、すごいです。そのばーすとしすてむ? が切れたと思ったら、ハイパーモードになるなんて……やることがいちいちめちゃくちゃですね、セカイさんは》

「いや、君の方だと思うんだけど……」

《それほどでもないですよ。私はただ、粒子のうごきをみてセカイさんのうごきをよんでるだけですから》

「なんだそれ……なんか、まるで別競技だなぁ」

《私から見たら、セカイさんだっていんちきですよ。いんちきけんぽうもいいかげんにしてほしいです》

「はは、そうかい……」

《……でも、私はきらいじゃないですよ。セカイさんの戦い方》

 

 次元覇王流拳法をガンプラバトルに突き詰めた新たな拳法へと昇華させ、神樹ガンプラ流として編み出したのが今のセカイの戦い方だ。

 そんな彼の実力は今や大抵のファイターよりも上にあり、この大会でも間違いなく上位に食い込んでいた。

 だがそれでも、上にはまだ上が居た。強さに終わりが見えないほどまでに、ガンプラバトルという世界は広くて壮大なものなのだ。

 

 だが、それは悔しくとも、悲しいことではない。

 

 寧ろセカイは、このガンプラバトルの果てない道に喜びを抱いていた。

 そして、今回のアワクネ・ユリとの戦いを通じて改めて思ったのだ。

 

「色んな戦い方があって、色んなガンプラがあって……やっぱり楽しいな、ガンプラバトルは」

 

 この大会でもセカイは色々なファイターと出会い、様々なガンプラと戦ってきた。

 オーソドックスに汎用性の高いガンプラもあれば、接近戦や砲撃戦、機動力と言った一点に特化したガンプラもあり、機体の特性は無限大だ。中にはコウサカ・ユウマやミナキ・ソウシのようなガン……プラ……?と反応に困る機体もあるが、それらを含めても共通しているのはファイターの誰もが自らのガンプラに対し、惜しみない愛情を注いでいるということだ。

 

 愛情を込めたガンプラで、勇気を持って戦う。

 

 チーム戦ではそこにチームメイトとの友情も合わさって、愛と勇気と友情の王道的な物語になる。

 そうして自分達で紡いでいくその物語が、セカイは好きだった。拳法一辺倒だった自分にたくさんのものを与えてくれた、ガンプラバトルが好きだったのだ。

 そんなセカイの改まった告白に、ユリの目が僅かに緩む。

 

《……本物のガンプラばかですね、セカイさんは。でも、わたしもそうみたいです。みんなばかで、ばかばっか》

 

 ここに居るのは子供も大人も含めて、ガンプラとガンプラバトルに魅入られた馬鹿者達ばかりだ。

 それは一見滑稽に見えるかもしれないが、彼らの生きる熱くも綺麗な世界に、ユリもまた満足げに笑っていた。

 

《今だから言いますけど、じつはわたし、あんまりガンプラバトル好きじゃなかったんです》

「……だろうな」

《いえ、ガンプラは好きなんですよ。きれいですし、かっこいいですし、おもしろいです。でも……》

 

 セカイの語ったガンプラバトルへの思いに感化されたのか、ユリが自らのガンプラバトルへの思いを語り出す。

 実はそれほどバトルが好きではなかったという彼女の胸中は、戦いの中でガンプラの拳を通じながら何となく察していた。

 セカイのガンプラがハイパーモードに覚醒して以降はそうでもなかったかもしれないが、それまでの彼女はどこか淡々としていて、子供らしく楽しんでバトルをしているようには見えなかったからだ。

 そんな彼女が、自らの思いを激白する。

 

《この大会みたいに、別のアニメのロボットばかり出てる大会は嫌いなんですよ。だいだい大嫌いです》

 

 はっきりと、彼女はそう言い切った。

 その瞬間、「おい! オチカが倒れたぞー!」と、観客席の一部で何やら騒がしい声が上がったが、セカイの意識はユリに向いている。

 しかし、そう言えば……と、今のユリの発言を聞いて、セカイは彼女を取り巻いている家庭のことを思い出す。

 

 ガンプラバトルの環境にスーパーロボットが顔を出すようになった切っ掛け――それを最初に作り出したと言われている、彼女の父のことだ。

 

 ブラックサレナNT-1のアワクネ・オチカ。闇の偽王子と呼ばれている、KTBK社きっての実力者であり、有名人である。

 

「……もしかして、お父さんのこと嫌い?」

《お父さんのことは好きですよ? でも、ブラックサレナはあんまり好きじゃないですね。とてもかっこいいきたいだと思いますけど、アキトには、くらくてこわいのはにあわないって思います》

「あっ、それは俺も思った! 劇場版の続きがあったら、怖い鎧も外せたかもしれないのになぁ」

 

 彼らの愛する「機動戦艦ナデシコ」というアニメに関しては、チームメイトのコウサカ・ユウマに散々布教された為にセカイもある程度把握している。

 ユウマによって劇場版まで見せられたセカイの感想としては「激しく続きが気になる」という率直な思いであり、ユウマほど熱狂的ではないものの最後まで楽しんで見ることが出来たアニメである。

 そんなナデシコの内容を思い出しながら、回線越しに映るユリの顔を見てセカイは思い出す。この子の姿、ホシノ・ルリに似ているなぁ―……と。だから何だと言う話ではあるが。

 

《わたしはまだきたいしてますよ、ナデシコの続編。それとおなじくらい、セカイさんにもきたいすることにします》

「うん……? それってどういう……なんかユリちゃん、例え方がわかりにくいなぁ……」

《そうですか? むむ……こみゅにけーしょんというのは、むずかしいですね》

 

 小生意気で、掴みどころのない性格の彼女に、セカイは苦笑を浮かべる。

 ただそんな彼女も、全力を出して戦ったこの試合には、ある程度満足しているようだった。 

 

「……たのしかったですよ。またやりましょう」

 

 彼女が微笑みながら言い放ったその言葉を最後に、場内アナウンスから勝負の決着が言い渡される。

 

 

 ――勝者、アワクネ・ユリ。その結果は、以後も続くセカイのガンプラバトルロードを語るには欠かせないものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイターの数ほど、そこにはガンプラがある。

 ガンプラの数ほど、そこには見果てぬ夢がある。

 

 バラエティーに富んだ各々のガンプラは、ファイターにとって魂そのものだ。他の誰かに否定されようとも、自らの愛するガンプラから誇りを忘れることはない。

 

 ――今なら言える。たとえ方向性を違えようとも、僕らはガンプラを作り続けるだろう。

 

 新しいガンダムシリーズが始まる度、新しいアニメが始まる度、僕らは期待を抱き、物語の続きを求める。

 

 いつの日か物語が終わった時、その物語が「好きだった」と振り返る為に。

 

《ソウシ、準備はいいか?》

「問題は無い。いつでも行けます。カリマはどうだ?」

《こっちもOKだ。進化した俺達の力、あいつらに見せつけてやろうぜ!》

「……そうだな」

 

 因みにファフナーは続編アニメの製作が決定している。極めて楽しみな内容だ。

 そして――次はナデシコ、君の番だ。

 

「キュベレイMark-nichit(マークニヒト)、発進する!」

 

 あり得ないと言われても、それでも追い求めてしまうのが人の性だ。

 

 だから、愚かでいいのだろう。ここもまた、楽園の一つなのだから――。

 

 まだ見ぬ希望を胸に、僕らは新たな世界へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アワクネ・ユリが優勝を果たしたKTBK杯から三年が過ぎた。

 

 

 大会によって得た貴重なデータを基に、KTBKアイランドはさらなる発展を遂げ、今現在島にはKTBK社のキンジョウ・ナガレ会長の悲願であるガンプラバトルシティが建設されていた。

 シティの規模はまだ都市と呼べるほどのものではないが、ガンプラによるガンプラの為のガンプラバトルの町がそこにあった。

 

 そしてこの日、シティ完成を披露するデモンストレーションとして、全国各地から選抜されたチーム戦によるサバイバルバトル大会が催されていた。

 

 どこもかしこもガンプラ一色に染まっている町の中には、かつて共に戦場を駆け抜けたチーム「トライファイターズ」の姿もある。

 

「ガンプラバトルシティか……チーム戦でのサバイバルマッチには、これ以上ない舞台だろうな」

 

 町の全てがフィールドとなり、ガンプラと共に戦場を駆け抜ける新感覚のガンプラバトル。 

 年月の移り変わりにより進化していくガンプラと同じように、彼らを取り巻く戦いの舞台もまた大きく変化していた。

 これから先の将来、このガンプラバトル界隈がどこまで変化を続けていくのか――コウサカ・ユウマの心に溢れる少年心は、決して失われるものではなかった。

 

《セカイ君、ユウ君もいける?》

《ああ!》

「準備OKです」

 

 高等部の部活で度々顔を合わせてはいたが、こうして三人で出撃するのも随分と久しぶりな気がする。

 年間に何度か開催されるKTBK社主催のイベントなどではかつてのアイランド杯のように他校のファイターと組むこともあったが、何だかんだでこのチームが最も居心地が良いとユウマは感じていた。

 そしてそれは、他の二人もまた同じ考えのようだった。

 

「機体はそれでいいのか? セカイ」

《ああ、このチームでシアの手が入ったガンプラを使うのも、先輩に悪いからな》

「……気を遣っているのか遣っていないのかわからないな、お前は」

《そうか?》

 

 あれから三年が経った今、三人が扱っているガンプラもまた環境に合わせて変化を続けていた。

 特にセカイの扱う新型の「カミキバーニングガンダム・ブルー」は通常時の見た目こそ以前扱っていた「カミキバーニングガンダム」と変わらないが、その内部にはセカイが三年前のアワクネ・ユリとの戦いで掴んだ感覚を基に会得した「アシムレイトの力を持ったガンプラのハイパーモード」などという、反則的なパワーアップ能力が詰め込まれている。

 その力を発動した機体は通常のハイパーモードとは異なり、黄金ではなくプラフスキー粒子の浸透がより視覚化された「青」へと変色していく。蒼炎を纏ったガンダムの外見から、セカイはそのシステムを「ハイパーモード・ブルー」とシンプルに名付けたものだが……何が何やら、どこぞの超戦士のような変身に見えてユウマには頭が痛かった。

 しかしそんな超絶パワーアップを果たしたセカイの実力は確かな物であり、ビルダーとしてもファイターとしても男としても三年前とは比べ物にならないほど強くなっている。これまでの大会でも多くの実績を積み重ねてきている今、ユウマにとって彼は憎たらしくも頼もしいチームメイトであった。

 

 ちなみに彼を巡る三角関係の方だが、そちらは昨年度の冬にガンプラ学園の銀髪が完全勝利を収めたという情報がラルさんから聞き及んでいる。

 どうにもクリスマスイブに彼の方からドモン・カッシュばりの告白をかましたらしい。意外なことに、彼女とはあのアイランド杯で行動を共にしていた頃から恋心を抱いていたらしい。

 

 鈍感系主人公のように見えて、決める時は決めよるわ!と思わず感心してしまったユウマだが、野次馬気分で馬に蹴られたくもない。

 ユウマ個人としては彼に先を越されたことが悔しくないこともなかったが、そういった感情は幼馴染で部長な先輩から夜な夜な愚痴を聞かされる度に無くなっていた。自分より悲しい目にあっている人間を見ると、一気に冷静になるという奴だ。

 

 閑話休題。

 

 そんなこんなで失恋する羽目になったチームの部長だが、だからと言ってガンプラバトルで私情を持ち込むことはない。ホシノ・フミナは、ついでにギャン子もであるが、彼女らは強い少女であった。

 失恋がきっかけになったのかはわからないが、フミナもまたあれからメキメキと実力を伸ばし、今では二代目レディーカワグチ候補の一人として注目される掛け値無しに優秀なファイターへと成長している。

 カミキ・セカイにホシノ・フミナ……三年前から続くこのチームはたとえ一人が卒業しようと、その絆は不滅だった。

 

《やっぱりこの三人が一番ね……トライファイターズ、出撃!》

 

 フミナの機体とセカイのカミキバーニングブルーが先行してカタパルトから射出され、ユウマの番が来る。

 ユウマは操縦桿を握りながらすぅっと息を吐き、戦士の目でスラスターを噴かした。

 

「ユー・ゲット・トゥー・バーニング……いくか!」

 

 YOU GET TO BURNING ――「君は闘える」という意味の励ましの言葉は、ユウマにとって今も変わらず大好きな、とあるアニメのオープニングテーマにもなっているフレーズだ。それは彼の座右の銘でもあり、最近は出撃前にそれを唱えるのがルーティーンになっていた。

 その言葉で気を引き締め直した後、ユウマは愛機を駆って戦場へ繰り出した。

 

「コウサカ・ユウマ、エステバリス――行きます!」

 

 作り上げても壊して、また作る。その繰り返しで何度も修復や改造を重ねてきたフレームを纏いながら、彼の翼は力強く羽ばたいていく。

 

 

 ――とある偽王子の為に色々と混沌になってしまったガンプラバトルであるが、ビルドファイターズの情熱は今も昔も、どの世代であろうと変わりはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆さん、こんにちは。アワクネ・オチカです。

 

 いやあ、ナガレが言っていたガンプラバトルシティ、本当に始まってしまいましたねー。多くのファイターがガンプラを操り、町中に散らばっている拠点を制圧したりされたりするのが今回のルールだ。

 こういったガンプラバトルのイベントでは、マンネリ化を防ぐ為に色んな特殊ルールを設けてみたりするわけだけど、今回のはファイターも町中を移動する分通常よりスポーツ的な要素が強いかもしれない。健康的で良いことだ。

 

 ……でも、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。

 

 今の俺にとって重要なのは、何を隠そう俺自身やKTBK四天王の面々もまた、各々にチームを組んで大会に出場しているということだ。

 選抜したファイターは十代から二十代前半の若い子が多めになっているけど、お馴染みの世界ランカーの面々も何人かは選手として参加していたりする。ただ彼らのチームにはガンプラ教室で面倒を見た小さな子供なんかが入っていて、そこがある程度のハンディキャップにはなっている。

 大人も子供も入り乱れたファミリー要素の強いイベントにしようっていうのが、ナガレ会長の提案である。

 そして我がチームにもそう、一部の層からは未だにロリコンの危険人物と称されているこの俺のチームにも、一人、子供のファイターが入っているのだ。

 

 うちの娘がな!

 

《星のきらめきはひとの思い……ガンプラのかがやきは、人のゆめ……でしょうか?》

 

 子供枠のくせしてチート性能。

 俺の娘なのに超天才肌。

 かわいい(かわいい)。

 そんな我が娘ことアワクネ・ユリは、今回のイベントに招待されたファイターの一人であり、俺のチームの一員だ。だってね、ユリちゃんがどうしてもお父さんと組みたいって言うんだもん。俺も最近忙しくてユリ分が足りなかったんだもん。その忙しさと来たらもうね、録り溜めておいた「鉄血のオルフェンズ二期」を見る時間さえないぐらいだ。あれが放送終了したの、一年前だってのによう。

 

 あっ、そうだ。鉄血で思い出したがユリちゃん、結構あれにハマっているらしい。俺は一期までは見ることが出来たけど、確かに面白かった。だけど内容と言うか設定がちょっと小さい子向けじゃなかったから、ユリちゃんには俺やラズリちゃんが編集したのを見せたんだっけな。

 

 ユリちゃんはその「鉄血のオルフェンズ」の作中で、どうにも俺の見ていない二期に登場したガンダムに惚れ込んでいるらしく、今はそのガンプラを愛機にしてガンプラバトルを楽しんでいる。

 

「……娘の成長が怖くなる。これが、父親と言うものか……」

《オチカ、ユリはまだ十歳。今からそんなこと言ってたらダメだよ》

「そうだな……そうだよな……!」

 

 いやにしても、あの時は驚いたなぁ。初めて組み立てるガンプラを、いきなりパテやプラバンで整形するどころか、「バエル宮殿」だっけ?本体のガンダムを作る前に、まず第一にアニメの作中に登場していたらしいガンダムの収容施設から作り出したんだもん。その発想からして、やっぱりこの子ただもんじゃねぇぞ……って改めて確認したわ。

 

《チーム「散らない華」、はっしんです。あっ、お父さんから先にどうぞ》

「ああ」

 

 そんな天才娘と組んだ父親としては、情けないところは見せられないよな。

 こう見えても、俺だって散々実戦で鍛えてきたんだからね。ラズリちゃんのバックアップが無くたって、今では世界大会出場ぐらい楽勝のレベルになっている……と思いたい。

 

「アワクネ・オチカ、ブラックサレナ、レッツ・ゲキガイン!」

 

 操縦桿を握り、俺が惚れ込んだ――俺達夫婦で完成させた最強のガンプラで出撃する。

 俺のブラックサレナは誰が見たってガンプラだ。だからこれをガンプラバトルに使っていようと、娘に嫌われてなんかいないんだいっ!

 

《アワクネ・ラズリ、ベルティゴ思兼神、いきます》

 

 ガンプラバトル恐怖症も今では昔の話だ。カタパルトから俺のガンプラが射出されたと同時に、俺の嫁――年数の経過を感じさせない合法ロリこと麗しきラズリちゃんが、ユリちゃんから返還されたガンプラを操って空に飛び立つ。

 返還された、っていうのも変な言い方ではあるんだけどね。ベルティゴ思兼神を組み立てたのはラズリちゃんだけど、設計したのはユリちゃんで、実際に扱っていたのもユリちゃんだ。だから俺もラズリちゃんもあのベルティゴはユリちゃんの物だよって言っていたんだけど、ユリちゃんの方はあくまでもあの機体は「借りていた」って認識だったらしい。

 

 なんでも「自分の力だけで作ったガンプラでバトルをすること」が、ユリちゃんの譲れないポリシーなんだそうだ。

 

 俺としては俺とラズリちゃんやかつてのレイジ君やイオリ君みたいに、人と協力し合いながら完成させたガンプラで戦うのも良いことだと思うけど、その辺りの考え方はユリちゃんは違うらしい。まあ、その考え方は人それぞれなものだから、どっちが正しいとかそういう話ではないんだろうが。

 

 ただ、ユリちゃんは自分の力で作ったガンプラを、自分が動かして戦うことに憧れていたのだ。

 

 工具の使い方を俺やラズリちゃんから教わったユリちゃんに、ようやくSD以外のガンプラを作っていいと許可してあげたのは、あの子が九歳になってからのことだ。

 あの時にユリちゃんが見せてくれた眩しい笑顔と「お父さん大好き」の言葉は、今の俺から溢れ出る究極の原動力になっている。

 

 そんなこんなでユリちゃんは自分一人の力でガンプラの改修計画から仕上げまで着手し、「鉄血のオルフェンズ二期」に登場する白いガンダムとその収容施設を作り上げた。

 完成したそれは初めてとは思えない完成度で……正直に言うと、親の俺が可愛げないと思うぐらい見事なものだった。俺が最初にHGを作った時なんて、素組の時点でパーツを壊すわ無くすわと散々だったんだけどね。物づくりの才能に関しては、ラズリちゃんの才能を受け継いだんだと思う。

 

 ……あれ? 見た目も才能もラズリちゃん似じゃあ、俺要素無くね?

 

 ――と、我が娘から溢れる母要素の強さに戦慄した俺だが、もちろんそんなユリちゃんにも俺に似ているところはある。

 それはまあ、口下手な為に何かと勘違いされる性格ということも一つだが……

 

《アワクネ・ユリ、ガンダム・バエル……集います》

 

 ――自分が惚れ込んで作り上げたガンプラには、とことん一途だということだ。

 

 

 

 ガンダム・バエル――「鉄血のオルフェンズ」の二期をまだ見ていない俺には、その機体がどんな活躍をしたのかはわからない。

 ただ、良くも悪くもゴテゴテした特殊能力満載機が多い最近のガンダム作品にあって、最低限の武装で十分だと言わんばかりの機体コンセプトは正直、素晴らしいと思う。うん、ブラックサレナに通じるものがあって俺も好きだなバエルは。すげぇよユリちゃんは……お目が高い。

 二枚のウイングから織りなす高機動で戦場を駆け巡り、決して折れない剣はMAの装甲さえ容易く両断する。読ませてもらった説明書には確かそんなことが書いてあった気がするが、元々機動性に重点を置いて無駄な武装を嫌う傾向のあるユリちゃんには相性が良い機体に見えた。

 

 そして何より……デザインが良い。

 

 それはMSおいて誰にでもわかる、単純明快にして一番の長所だ。

 今までのガンダムとは差別化されていながら、ちゃんと王道を捉えていて、全体像をシンプルに纏めて白色の美しいカラーリングに彩られている。

 ユリちゃんの好きな白百合の花みたいで綺麗だと、完成したそれを一目見て俺も思った。

 

 ……で、そのガンダム・バエルを完成させたユリちゃんは、ベルティゴをラズリちゃんに返した後でこう言った。

 

「アワクネ・ユリの下に、こんどこそバエルはよみがえったー! わるいロリコンさんはダメです」と。

 

 意味ありげに放たれたその言葉に、何のことかとラズリちゃんに聞いてみたら、どうにも困った表情を返されたものだ。あれは、どういう意味だったんだろう? わるいロリコンさんって俺のことじゃないよな? オルフェンズのアニメを見ればわかるんだろうか。

 

 まあ、それはそれとして俺が言いたいのはうちの娘かわいいということだ。

 妬ましくはその魅力が他のファイターにも広まってしまい、以前ユリちゃんがバエルを使った初陣で大立ち回りをした時は、客席からワラワラとたくさんのビルダー達が集まってきたことが記憶に新しい。

 

『バエルだ! アグニカ・カイエルの魂だ!』『そうだよ! 俺達はこんなバエルが見たかったんだ……!』『スーパーロボット軍団を相手に、バエルが単機で無双する!』『これは従うしかねぇわ』『バエルを持つロリの言葉に背くとは……』『ガンプラバトルの正義は我々にありいいいい!』

 

 ……うん、アグニ会なる謎のビルダー連合が押し寄せてきた時は何事かと思った。あいつら何者だったんだろう?

 翌日、多くのホビーショップの店頭からバエルの在庫が無くなったというのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 ――さて、そんな話はさておきそろそろ敵が見える。

 

 このガンプラバトルシティで初めて相まみえる相手チームは……なんてこったい。

 あそこに居るのはユリちゃんが初めてライバル認定したカミキ・セカイ君の居るチーム、トライファイターズじゃないか。今期は優勝おめでとうございます。

 

 

《いくぞユリちゃん! 勝負だ!》

《セカイさんですか、ちょうどいいですね。あなたにも見せましょう。純粋な力だけがせーりつさせるうんたらかんたらを》

《いきなりオチカさんのチームが相手か……胸を借りるとかは無しです。勝ちに行きますよ!》

「……それでこそだ」

 

 相手側はガンダムタイプが二機、エステバリスが一機。

 一方こちら側は白いのが二機と黒いのが一機。どちらのチームにも「ガンダム」と「ナデシコ」の機体がある。

 だが、そんなカオスな戦場でも「全力で遊ぶ」ことには変わりない。

 職業としてガンプラバトルをする俺達も、クラブを通して頂点を目指す子供達も、俺達の心を掴んで離さないガンプラの魅力は何も変わらなかった。

 

 

「ガンプラバトル!」

 

 

 この機体を使っている俺が言うのも説得力に欠けるかもしれないが――それでも俺は、ガンプラが好きだと言い続けたい。

 

 

「「レディー・ゴー!!」」

 

 

 自分らしく誇らしく、俺達のガンプラバトルは今日も明日も続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんな、未来の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【外伝 大惨事スーパーロボット大戦TRY】

 

      THE END(今までありがとうございました!)

 

 

 




 ここまでお読みいただきありがとうございました!
 本編より長くなってしまいましたが、これにて外伝は完結です! 

 この外伝では感想や評価コメントの方で要望のあった「他のスーパーロボット」も見たい、という言葉を受けて始めてみたものでしたが、書いてみると自分の中でしっくりこないところもあってか、私の技量では複数のロボを上手く扱いきれなかったのかなぁと思っています。
 言い訳になってしまいますが、外伝の方は最初から「本編はスッキリ完結させたし、外伝の方は自重を外して全速前進DA!」のつもりで気楽な気持ちで書き始めたものではありました。その為に自分の好きな要素を考え無しにぶち込んでみた次第であり、その浅慮さから本編と比べて「コレジャナイ感」を感じた方も居たかと思います。
 私自身、外伝の最後をどう着地させればいいか見えなくなってしまい、最終回まで一年掛かってしまいました。本当に申し訳ない。アイデアをくれたバエルおじさんと団長には感謝するしかありません。あと私はガンダム・バエル大好きです。言われるほど活躍していないわけでもないと思うの(´・ω・`)

 今後トライを題材にしたガンプラ系の作品を書くことがあったら、「バエル(原作仕様)」「バエル(MA遠隔操作能力持ち)」「バエル(初期構想のパンチングスタイル)」というそれぞれ三体のバエルを操るアグニカ高校を主役にした謎短編なんかを書くことがあるかもしれません。もちろん誰かが書いても構いません。もう誰かが書いているかもしれませんが。

 それでは、お疲れ様でした!





 


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