今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。 (漣@クロメちゃん狂信者)
しおりを挟む

一人で二人
Eli, Eli, Lema Sabachthani?


はじめまして、そしておはこんばんにちは。ハーメルンには初投稿です。
駄作ですが、よろしくお願いします。

ちなみにタイトルの読み方は『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』
意味は『我が神、我が神、どうして私をお見捨てになったのですか?』
イエス・キリストが処刑される際に言った言葉とされています。


ボクは、生まれたときからバケモノだった

誰からも愛されない存在だった

 

 

“どうして、あんな子が生まれたの?”

…ごめんなさい

 

“あぁ、なんておぞましい。”

…ごめんなさい

 

“外見は勿論だけど、何なの?あの力は!”

…ごめんなさい

 

“まったく、気味が悪いったらありゃしない”

…ごめんなさい

 

“こっち来んな、バケモノが!”

……ごめん…なさい……

 

“私に触らないで!”

………………

 

“今年も凶作だ!”

………………………

 

“お前みたいな、バケモノがいるから!”

……………………………

 

“お前は存在してちゃいけねぇんだよ!”

………………………………………

 

“バケモノはさっさと”

 

 

【死ね】

 

 

…ねぇ、それ、ボクのせい?

みんながくるしんでいるのは、ボクのせい?

 

【理解出来ない、したくない】

 

むらがきょうさくにおちいっているのも、ボクのせい?

 

【ホントのホントに僕のせい?】

 

じゃあ、ボクがせきにんをとらなきゃいけないね

 

【僕はなんにもしてないよ?】

 

すごいでしょ、ボクね、ちゃんとしってるんだ

いけないことしたら、せきにんをとるものなんだよね?

 

【僕は必要ないのかな?それなら僕も…】

 

だから、ボクがせきにんをもって

みんなをシアワセにしてあげる!

 

 

 

【方法はとっても簡単】

 

みんなをカミサマのもとにつれていくだけ!

すてきでしょ?すてきでしょ?

 

【すごいでしょ?これなら僕を褒めてくれるかな?】

 

みんないっしょにカミサマのところにいけば、みんなシアワセ!

 

【お腹は空かない、喉は渇かない】

 

さびしくない、さむくない!

 

 

 

「もうボク()に会わなくて済むんだよ」

 

じゃあ、バイバイ!

 

「みんな、おやすみ。」

 

 

 

《良い(悪夢)を》

 

 

 

 

メラメラパチパチメラメラパチパチ

 

何かが燃える音がする。

 

あれ?僕は何をしていたんだっけ?

周りを見渡して見えたのは、燃える家々。

 

「…村が燃えてる。」

 

忌々しい、大嫌いな、あの村が!

 

そっか、僕はもうアソコに居なくてもいいんだね?

もう、アイツらに怯えなくていいんだね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん♪ふふふーん♪」

 

鼻歌を歌いながら歩く幼子

紅みがかった闇色と黒みがかった紫色のオッドアイ

奴らに切り裂かれてザンバラだけども、美しい銀色の髪

それを指でくるくると玩びながら彼は。

 

「キャハハハ♪」

 

狂ったようにくるくると回りながら詠い、踊り、そして嗤った

まずは、この世界を知らなければ。

あの村は孤立していたから、僕は何も知らない。

僕は死にたくない。

やっと解放されたのだ!あの人の皮を被った悪魔どもから、やっと!

 

あぁ、知りたい。識りたい。シリタイ!

 

この世の楽しみ

命の尊さ

生の喜び

 

自由を謳歌し、平等を遵守し、その矛盾に悩む。

それのなんと素晴らしいことか!

 

「…ねぇ、キミは知ってるでしょ?なら、僕に教えてよ!」

 

幼子は独りで喋り続ける

 

「キミの名前は何だっけ?え、僕?僕はね…うーんと、そうだなぁ…これからはラザールとでも名乗ろうかな!……“ジェミニ”?キミそんな名前だったっけ?まぁいいや。これからよろしくね、ジェミニ♪」

 

「……え、まずは何が知りたいかって?うーんとねー…あ、じゃあ、僕について教えて!それでそして、次はキミのことが知りたいな?身近なことから世界のことまで!知ってる範囲でぜーんぶ教えて!僕はなんにも知らないから(全部忘れてしまったから)!」

 

「そうだな、対価は何がいいかな?…あ!たまにこの体を貸すっていうのはどうかな?

キミも僕だし、問題ないよね!」

 

 

少年は、最後に笑って村を眺めて、踵を返して歩き出した。

 

 

 

 




はい、意味不ですね。お目汚しすみません。

因みに主人公の名前は、ラザロ(新約聖書中の人物。キリストの友人でマリアとマルタの兄弟。《ヨハネによる福音書》第11章によれば,病のため死去したが、その4日後、布教先から帰ったキリストが、墓の前で祈り呼びかけると、奇跡的に蘇生したという。癩病患者,乞食などの守護聖人とされる)からとっています。
キリストの死後も福音伝道に尽くし,プロバンスやブルゴーニュ地方でとくに崇敬されたラザロを記念した教会を「サン・ラザール」って言うんですね。それからとってます。


以下、主の設定です。
※ネタバレを含みます。

【僕】
名前:ラザール
年齢:6歳
性別:男
容姿:闇色と紫色のオッドアイ、銀髪で腰までロング
性格:素直、狂気(SAN値0:多分永続する)
備考:自分が普通じゃないことには気づいていたが、その聡さゆえに周りの人間も別の意味で頭おかしいことに気づいて、混乱しちゃってSANチェック。絶え間ない虐待と精神崩壊の末に「僕も狂っちゃえ☆」と開き直っちゃった系男子。

【ボク】
名前:ジェミニ(仮)
年齢:不明
性別:男
性格:快楽主義、狂気(多分狂化A+くらい。ただし話は通じる)
備考:ラザールの第2人格。ラザールの憎悪や悲哀が無意識のうちに押し込まれて出来た。作られた当初はバーサーカー(ガチ)であったが、ラザールご本人自体が狂っちゃったことで、ばーさーかー()と化した。

え?両方狂ってるなら人格はひとつに戻るんじゃないかって?
…ドロドロとした感情が基で生まれた人格が、そう簡単に消えるとでも?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予測は不可能、現実は奇なり

2017/10/25 改稿しました。


 

村を出た。行くあても目的もないけれど、兎に角あの場所から離れたくて、歩いて歩いて歩き続けた。

一日歩き続けて、夕方。もう直ぐ日も暮れてしまうからと、寝床を探す。

すると獣道を少し外れた森の中に、大きな洞窟を見つけた。

 

「まだ歩けはするけど、僕疲れちゃった!今日はここで寝よーっと!」

 

裸足で歩いていたせいで足の裏が痛い。気をつけて歩いていたおかげで血は出ていないが、緊張していたこともあって脹脛はむくんでいた。

 

「…?足を叩く…?優しく?んー?…え、揉んでもいいって?…こう?」

 

ジェミニの指示に従って、足を揉みほぐしていく。確かに畑仕事終わりにこんなことしてる人がいたなぁと思い出しつつ手を動かす。

 

しばらく続けているうちに日も暮れた。

少し洞窟の奥に進んで、壁に寄りかかって座る。

そして、伸びを一つして目を閉じた。

 

 

 

さて、そろそろ真面目な話をしようよ。

 

「ねぇ?ジェミニ♪」

 

【何から話せばいいか分からない。】

 

「じゃあ、僕が質問する事に答えてくれる?補足も含めてお願いね。」

 

【…いいよぉ?何から聞きたい?】

 

「じゃあ、先ずはぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

彼此、何時間ひとりで話続けているだろうか。

月は空の頂上にまで昇っていた。

ジェミニとの会話はまだまだ終わらない。

 

あぁ、なんて素晴らしい!

新しいことを知ることが、こんなにも楽しいことだなんて!

 

「へぇ、そうなんだ!初めて知ることばっかりだなぁ。」

 

今日はなんて楽しい日なんだろう!

立ち上がって、洞窟の外に出る。真っ暗だけど僕は夜目が利くし、外には月が出ているからぶつかったり、転んだりすることもなかった。

月を見上げて、ふと思い出す。

あぁ…そういえば、村でたまにキケン…なんとかがどうのって話してたなぁ。あれは何だったんだろう?防護柵がどうとか、武器の手入れがどうのとか言っていたけれど、結局知る機会はなかった。

 

「ねぇ、ジェミニ。キケンから始まる言葉って何かある?」

 

【は?キケンから…?】

 

「うん。村の奴らがたまになんか騒いでたじゃん。」

 

【…あぁもしかして危険種のことか?】

 

「“キケンシュ”…そうそう、それ!」

 

【危険種は…まぁ、読んで字の如く危険な動物モドキのことだな】

 

「動物となんか違うの?」

 

【んー、なんつーか…普通の動物とは違う習性や身体器官を持っていたりするな。身体構造も違うし、基本は凶暴で人も襲う。】

 

「へー…って“基本は”?例外でもあるの?」

 

【まぁな。】

 

「例えば?」

 

【ボクら】

 

「…は?」

 

【ほれ、丁度被験体が来たな。ちょっと体貸せよ。】

 

「え?」

 

有無を言わせず、体の感覚がなくなる。何もかもがガラスを一枚挟んでいるような感覚に切り替わる。

ボクの中から外を見ると、正面の少し離れた場所に大きなナニカがいた。

 

「おー…代われと言ったもののちょっとどころじゃなくヤバいかもしれん」

 

【え、ちょっとジェミニ!?】

 

僕はまだ死にたくないよ!?

 

「そりゃボクもだよ。」

 

《グルルルル》

 

体に響く唸り声が聞こえてきた。もしかしなくても、見つかってるし威嚇されてるよね。

 

【こんな呑気に話してて良いわけ?】

 

「あはははは♪ラザールったら可笑しいなあ。逆にボクにどうしろって?知識はあるが、体は6歳のガキだぜ?ボクにあれを倒せってー?

 

無理に決まってんだろ。」

 

真顔で言うことではない(確信)

まぁ、でも確かに普通に考えたら無理。

 

【アレ、なんて言う動物なの?犬っぽいけど違うよね?】

 

「あれが危険種。」

 

【へー…アレが…。】

 

正面にいるその危険種は、怖くて恐ろしく思ったけれど、それよりも何よりもただ美しかった。蒼く光る3つの目。2本の尾は静かに揺れていて、その落ち着いた風格は強者のそれだと思えた。毛並みは蒼みがかった銀色。狼のような生き物だけど、狼だなんて烏滸がましい。確かにこれは、動物では形容しきれない。

 

【スッゴく格好いいね、綺麗だし…】

 

「…いや、ちょっとこいつは普通じゃないからな…?でも、確かにカッコイイよなぁ…って、うわっ!」

 

僕の解析(観察)が済んだのか、その危険種は一瞬で僕との距離を詰め、その大きな前脚をものすごい速さで振り下ろしてきた。

 

「え…」【え…】

 

ドゴッ!!

 

轟音と共に地面が陥没したのを見た。

 

「あ、あっぶねぇ…って、うお!?」

 

間一髪避けたものの、息つく間もなく、今度は逆の前脚を横に薙いでくる。

 

【ジェ、ジェミニの噓つきー!僕には襲ってこないって言ったじゃん!?】

 

「いや、そうなはずなんだけどなぁ…。」

 

危険種の攻撃は絶えずボク目掛けて飛んでくる。ジェミニよく避けれるなぁ…。

そこでジェミニの雰囲気が変わる。

 

「んー…ボク、ちょっと怒っちゃったかも。いい加減にしろよ、このクソ犬。」

 

危険種の攻撃に合わせて、その前足を足場に木の上に着地する。

 

「…いいか、ラザール。ボクが実演するのは今回だけだからな?一回で覚えろ、よっと!」

 

ジェミニは木を蹴って高く跳躍すると、その危険種の鼻面目掛けて飛び降りる。

危険種がその大きな口を開けて、噛みつこうとしたその前に。

 

「…イヌが。ボクに向かって何をしている?さっさと……跪け!」

 

ボクはそう言って、危険種の額を蹴り上げた。

狼の目に映ったボクの顔は、狂ったように笑っていて。

そして、ボクの背後に浮かんでいた月は紅に染まっていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェミニ、ジェミニ!僕の能力について教えてよ!村の奴らにバケモノって言われてたこの力は何なの?犬も猫も鳥も、僕と目が合えば何でも言うこと聞いてくれたよ!でも…

 

…まさか危険種にまで出来ちゃうなんて……!」

 

チラリと僕の横を見ると…

 

《♪♪》

 

なんだかご機嫌な、あの危険種が。そう、あのセリフの後、本当に跪かれたのだ。その瞬間はさすがのジェミニも驚愕していた。

 

曰く、

 

【ホントに出来るとは思っていなかったんだが…。はぁ?なんでって、だってコイツ、危険種の中でも最上位の超級危険種だぜ?普通無理だろ。】

 

まさかの爆弾発言。

 

 

種族名称はフェンリルと言うらしい。此処より更に北の方の村では守護神扱いの所も有るらしく、【出来たらいいなー、位の気持ちだったんだが…】とは本人の談です。

 

「失敗していたらどうしたのさ…死んでたかもしれないんだよ?」

 

【あぁ、それは大丈夫。テイム出来ずとも多分逃げ切れたと思う。こいつ全然本気じゃなかったし?】

 

……。うん。慈悲はない、尋問のお時間です。

 

もう一度横を見る。

 

《??》

 

首を傾げて可愛らしくこちらを見ている危険種がいる。

 

「…はぁ」

 

思わずため息を一つ。

…神様、捕まえちゃったようです。

 

 

 




情報開示
一族名:テイマー
生ける生物たちと心を通わせ、従わせる。危険種も例外ではない。

テイム方法:テイム対象と瞳を合わせ、何でも良いので命令する。
目の無い生物に対しては、実力行使とか威圧とか実力行使とか…←
従えば成功。失敗の場合は…まぁ、戦闘続行するだけだよ←

一度失敗しても戦ううちに認めてもらえたりして、二度目、三度目で成功する場合もあるため、どうしてもテイムしたいのがいるときは粘り強く頑張る←
(ポケ○ンゲットだぜ!のイメージでどうぞ。)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そうだ、旅に出よう

今話は時間が結構飛びます。

2017/10/25 改稿しました。



この洞窟を拠点にして約2年が経過した。その間、僕は学んだ。学び続けた。時にジェミニに色々教えてもらって、時に自分で経験して。ずっとずっと、今まで何も出来なかった時間を埋めるように、貪欲に、浅ましく学び続けた。

 

料理の仕方

僕の能力とその使い方

危険種の種類

地理、地形

食料について

狩りの仕方

医術

薬草の見つけ方

薬の作り方

調合方法

 

そして、正があれば負もまた然り。

 

人を殺さない殺し方

人の色んな殺し方

力のコントロール

毒の作り方

戦闘術

 

 

ホントにいろんな事を教えてもらった。特に医術に関しては、かなり筋が良いと言ってもらえた。その際に、僕の両親の話を聞いた。僕はそれが何なのか知らない(両親を忘れてしまった)けれど、ジェミニはちゃんと知っていた(覚えている)から、一応聞いておいた。

 

僕の父は北方出の戦闘民族、母はテイムという特殊な力を持った一族の末裔だったらしい。でも母にはその力がほとんどなかったそうだから、僕は先祖返りという奴なんだろう。容姿も見事にその2つの民族の特徴を引き継いでしまったらしく、今までにない、かなり珍しい色合い。僕が村八分にされていたのは、特殊な力があっただけでなく、この容姿も相まってのことだろうとジェミニは言っていた。

 

ジェミニが医術にも僕の能力にも詳しいのは、父が医者だったから。母もわずかながら力を使えたから。そして、それを実際に見聞きしていたから。

 

更に驚いたことに、村の奴らは2人を信用していたらしい。でも僕が2歳のある日、母がうっかり溢してしまった。

「この子は、私よりも強いつながりがある。危険種すらも従えるようになるかもしれない。」と。

それをたまたま聞いてしまった村人は恐ろしくなり、村長に伝えた。そして、少しして、父と母を流行り病に見せかけて殺すと、僕を利用しようと考えた。でも、普通に育ててはどんなことになるか分からない。だから、僕から人としての尊厳を奪うことにした。暴力をふるい、口で罵倒し、肉体的にも精神的にも叩き潰すことで、従順な奴隷のようにしてしまおうと考えた。

 

ふふふ、ま、失敗したわけだけど。

それに、もうあんな奴らどうでもいい…。うん、どうでもいいんだ。

 

それに、特にここ1年は、本当に楽しい。独りじゃなくなったから。

 

「主、ご飯が出来たぞ~」

 

「あ、うん、ありがとう…カンザシ」

 

「ふっふ~、もっと褒めても良いのじゃぞ!」

 

「…よしよし♪」

 

ご飯を作ってくれたお礼にと、頭を撫でてやれば

 

「ふふふ~♪」

 

すごく、嬉しそうに…()()()()()

 

そんな彼女の名前はカンザシ。

 

超級危険種だ。もう一度言う、超級危険種だ。

カンザシは東方の国に祀られる九尾の狐らしく、僕と同い年くらいの少女に化けては、色々手伝ってくれる。その出来は、力の節約として耳と尻尾は出ているが、人間に変わりない。一見して彼女が危険種だなんて気が付かないだろう。

 

テイムしたときはすごかった…。遭遇は偶然だった。彼女は国のあまりの退屈さに小旅行と称して国を出奔してきたそうだ。その先にたまたま僕がいたというだけ。九尾の狐を見かけて、ジェミニが面白そうだと煽ってきて…出来ないだろうけど、試しにしてみようかという流れになって…だから、目を合わせて言った。

 

僕に付いておいで(ボクに従え)」って。そしたら…

 

《ドッキューーーンvV》

 

いや、ホントに。断じて冗談とかではなく本当にこんな効果音が聞こえた。

そうして結局、

 

「一生付いていきます、主!!」

 

めっちゃ好かれた。

 

 

という経緯やその他色々出会いがあって、今は1人(僕とボク)と5匹で生活している。

 

「皆、おいで!ご飯だって!」

 

《♪♪》

 

 

しかし、最近ジェミニやカンザシと話していて考えていることがある。

 

「みんな、ご飯食べながら聞いてくれる?あのね、少し前から考えていたことがあるんだけど……僕そろそろ此処をでて、各地を回ってみたいんだ。それで、僕は本格的に医術を学びたい。色んな医学書も読んでみたい。で、みんなはどうするかってことなんだけど…」

 

みんながジッとこちらを見つめ、次の言葉を今か今かと待っている。…が、しかし。

 

「みんなには、此処で待ってて欲しい。」

 

…この時の危険種達の空気を擬音語で表すなら、間違いなくこうだろう。

 

《ガーーーーーーンΣ(゚д゚lll)》

《ズーーーーーーンorz》

《ショボーーーーン(´・ω・`)》

 

決めたことではあるが、もの凄い罪悪感である。見るからにしょげている。くっ、なんて攻撃だ(可愛いんだ)

 

【おい、ラザール、言葉足らず過ぎるぞ…】

 

自分の発言を思い返してみてハッとする。

 

「ごめん、ごめん!ちょっと訂正!カンザシにはついてきてもらうよ!カンザシは人型になれるから助手してもらう予定。その方が人に溶け込みやすいし。ただ、全員集合は目立ってしまうからしばらくお預けっていうこと。…何処かに拠点を建てようって考えてる。だから、拠点が決まったらみんな必ず呼ぶ。そのためのカンザシでもあるから。それまで、ちょっとの間だけ、待ってて欲しい。」

 

少し待って、コクリと頷いてくれたみんな。

 

「ありがと…」

 

自分の話を聞いてくれたことに嬉しくなって笑った。

その日は全員でくっついて眠りについた。悪い夢は見なかった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、おはよう。…それじゃあ、行ってくるね!」

 

「うむ、主のことは妾に任せよ!!拠点を見つけ次第、妾の空間術で迎えに来る!お前らこそ人に目をつけられて、討伐されるような愚行を犯すでないぞ!」

 

少し寂しそうな他のみんなの頭を撫でて、さて。

 

「行ってきます♪」

 

 

 

最終目的地は帝都。

 

「世界を、見るんだ」

 

僕は、バケモノ。でも、それでいいのだ。

それが、僕だと、今なら受け入れられる。

 

「行くよ、カンザシ!」

 

…ジェミニもよろしくね。

 

すぐ後ろと頭の中で、

 

「【了解】」

 

声が響いた

 

 




主人公の父を軽率に北方出身にしたけれども、エスデス様と関わりがあったかは不明。というか民族が一緒かも不明。どっちみちラザールは父親を覚えてないから、解明されない。役に立たない設定かもしれない←

おまけ
テイムした危険種について、ぐだぐだ解説もどき

フェル:フェンリル
氷を操る狼さん。軽率に北方出身にしているが、幼少期のエスデス様と関わりはない。せいぜい存在を知っている程度だと思う。人の言葉を理解し、自分の意思を伝えられる程度には賢い。超級危険種。

カンザシ:九尾狐
狐火や空間を操る白い九尾狐。人に化けれるし、普通に会話が出来る。獣状態でもテレパス的な何かで会話は可能らしい。超級危険種。

オロチ:地纏蛇
影を操る白い蛇。種族的に本来は黒い体表をしているが、アルビノ的な何かで群れを追い出されて、主人公に拾われたんだと思う。種族は作者が適当にそれっぽく作ったオリジナル。多分特級危険種あたり。

マグル:マーグコンドル
鋭い爪と嘴をもつ鳥型危険種。漫画で見て気に入ったので、作者が急遽メンバー入りを決めた。二級危険種だけど、魔改造するかもしれない。

ニャル:マーグパンサー
ネコ型の可愛らしい危険種。まだ子供。これから大きくなるはず。三級危険種だけど、魔改造するかもしれない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自己証明

唐突ですが、スーパードクターって、格好いいですよね。



気づけば、旅を開始して数ヶ月。野宿をしつつ街を探し、図書館を求め、情報を集めエトセトラエトセトラ。度々出会う、危険種に襲われたという商人の怪我を治療したり、病気の人に薬を安めに売ったりしてお金を稼ぎ、生計をたてる毎日が続いている。

 

初めはかなり苦労した。

まず、僕が人に話しかけられない。話しかけたらまた暴力を振るわれるのではないか、また心無い言葉が飛んでくるのではないか…。不覚にも恐怖で緊張した。…不安で怯んだ。そんな自分を自覚して気付いた感情は、ただただ不快でどうしようもない苛立ち。

 

あぁ、僕は人が嫌いなのか。

 

そう思いつくのに時間はかからなった。

他人とまともな会話などしたことがない。村では一方的に罵られるだけだった。話しかけるのは僕に寄って来てくれる小鳥や犬猫たち。カンザシたちだって危険種だ。人ではない。こればっかりは、ホントに困った。こんなところで頓挫するとは思ってもいなかったから。

 

でも、僕だって諦められるものではない。だから、勇気を持ってカンザシと一緒に話しかけに言った。しかし、ここでもまた問題が。

 

僕はまだ齢8歳である…。

 

“金のない子供の乞食行為”

“こんなガキの売る薬なんざ誰が使うかよ”

“ハァハァ、オジサンのお家においで!”

“お医者さんごっこはよそでやってくれ”

 

などなど、何度言われたことか。(なお例外の3番目においては、カンザシが笑顔で夜中に出かけて行ったので、結末は推して図るべし。)

まぁ、そう思われるのは当たり前だろう。

 

だから、僕は頑張った。人嫌い故に少し口調は荒かったが、一人一人を説得してかかった。

 

例えば、怪我人には

「とりあえず治療させて。この怪我、僕なら5日で治すよ。あんたら商人でしょ?足は商売道具じゃない?途中までお前らと行く方向一緒だし、それまであんたらに付いていくよ。5日で治んなかったら、お代はとらないよ。ほらほらお得意の損得勘定してみてよ。僕はお得だとおもうけどなぁ?…なんなら僕の命でもかける?失敗したら僕のこと殺してもいいよ。…は?だって僕失敗なんて無様な真似しないもの。いいよね?いいね。はい、5日間よろしくねぇ!」

 

病気の人には

「僕に診せてくれない?そうだね、この状態なら…10日。10日で回復の兆候見せてみせるよ。僕もちゃんと10日間この町に滞在しよう。10日経っても回復の兆しがなかったり、悪化したりしたらお金は要らないし、僕を殺してくれても構わないよ。…なんでって…大事な息子さんの命を僕に預けるんだもん、このくらいの担保は当たり前でしょ。」

 

等々。暴論も暴論、型破り、唯我独尊、傍若無人、こじつけ、理不尽、屁理屈。何だろうが言って説得してやった。ここまでくると、人嫌いも一周回って開き直っていた。僕を下に見るなんて許さないってね。もちろん、ちゃんと治してみせましたとも。実力で証明してみせたよ。

 

 

 

だから、最初は僕を侮っていた馬鹿も僕を認めるしかなくなっていく。しかも、僕の顧客は商人が中心だったから、噂の広まりも速かった。商人特有のルートってやつなのかな。

 

そんな僕に付いたあだ名は『白兎』。

白衣を着てて、東国の兎みたいに薬を作ってくれるから、というのが由来らしい。僕が商人達を治す度に、彼らが行く先々で名前を拡散したらしく、僻地の町村や商人たちの間で、そこそこ有名になってしまった。

 

実力があれば、信用される。

信用されれば、コネが出来る。

コネあれば、信頼されて、

信頼されれば、物も金も情報も回る。

とにかく“お得”ということだ。

 

 

 

 

旅をしていて気づいたことがいくつかある。

まず、ジェミニの知識の凄さ。

この国は手術をほとんど怪我人に対してしかやらないらしい。病気を手術で治すと言ったら、手術で治せるのは怪我だけだろ!?なんて真面目に言われた。例の文句で説得して、治してやったけどね。でもジェミニの知識の一端は両親から聞いたものである。僕の両親は一体何者だったんだろうね。案外、両親もバケモノだったりしたのかなぁ?まあ今となっては知るすべもないけれど。

 

 

そして、この国はどうやら少しヤバいらしい。村の人は大臣の所為だとか言ってたね。圧政も圧政。そのおかげでか大臣とその一派は甘い蜜を吸いまくっているみたい。大臣も馬鹿だなぁ、どうせ搾取するなら、搾取されている当人たちが搾取されていると気づかないようにやらないと。カリスマ性ないのかな?これじゃあいつか破綻するよ、きっと。

 

……ま、大嫌いな人間が何をしようと別にどうでもいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ?街だ、やっと到着~♪野宿10日は流石にきつかったね~、カンザシ」

 

「そうじゃのぅ、主。この街に宿があればよいが」

 

「これだけ大きい街なら流石にあるんじゃないかなぁ。兎にも角にもお風呂!お風呂に入りたい。」

 

「まったくじゃ。まぁ、宿はなくともここには主と懇意の商人も多かろ。久々にゆっくりできそうじゃ。」

 

「そうだね。ま、その前にお仕事お仕事。お金がないと何にもできないからね。取り敢えず露店の許可貰いに行こうか。」

 

2人でふぅとため息を吐いて、僕らは街に入っていった。

 

 

 

 

 

「「ありがとうございました。」」

 

そう言って今日分の薬を売り終える。お客さんに聞くと、この街にはちゃんと宿があったので、今日は宿に泊まれる。人気だというふかふかのベッドに期待。

 

宿に着いて考える。この街には大きな図書館があるそうだ。明日行ってみる予定だけれど、とても楽しみ♪入館料は取られるらしいけどね。

しかし、心配は無用。意外と僕は金持ちなのだ。まず、道中エンカウントする危険種を狩っている。その素材を得意先の商人に売る。僕たちの売る素材は傷が少ないとにんきがあるそうで、相場より少し高値で買ってもらえるから、余計お金には困らない。さらに、圧政の影響か薬を買えない人がいるから、不本意ながら闇医者もどきである僕に頼ってくる人も多い。診療費も比較的安いから、僕の腕がいいことに気づいた人は普通の医者よりも僕のところに来る人もいる。え、逆恨み?そんなもの覚える隙もなく実力で叩き潰しますが何か?おかげで何故か最近“御兎様”なんて呼ばれるけどなんでだろうね、とかすっとぼけてみたり。

こんなわけでついでに体力もつくし、腕は鈍らないし、本で世界は広がるし、なんて素晴らしいサイクルなんだろうね。

 

 

 

とりあえず今日は疲れたから、寝ることにする。

 

「「おやすみなさい」」

 

 

 




次回、帝具ゲットだぜ。
オリジナル帝具で安定のチートが漂います。微妙にクロスオーバーっぽいです。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

欲望

帝具を手に入れるノ巻です。
若干スタイリッシュの帝具と似てる気がしなくもない…けど気にしたら負け。

2017/10/27 大幅に改稿しました。多分ストーリーが一番変わったのが今話だと思う。
作業BGMは「アイロニックメタファー」でお送りしました。


翌朝、図書館が楽しみすぎたのかいつもより早く起きた。

おはようございます。

宿で朝食をもらい、寝ぼけまなこのカンザシと一緒に食べる。食器を返した後は、図書館の開く時間まで部屋でのんびり薬を作りながら、2度寝を決め込んだカンザシの隣でまったりと過ごす。

 

 

【ラザール、そろそろ図書館開くんじゃないか?】

 

「…あ、そうだね。もうこんな時間か。じゃあ、行きますか!カンザシは…よく寝ているし、置手紙だけ残して置いて行こうか。…ジェミニ、ここの図書館には面白いのあるかなー?今まで見てきた図書館はジェミニに習ったものばかりで…正直退屈でつまんなかったから。ここにもなかったらそれこそ帝都に行かないとなさそうだよね。」

 

【そうだなぁ。帝都に行ったら店持って、あいつら呼ぶんだろ?】

 

「うん。」

 

【ま、兎にも角にも行ってみないと分かんねぇよ。さっさと行くぞ、ラザール】

 

「んー、分かったー。」

 

 

 

 

立派なお屋敷のような外観の図書館だった。外見通り館内は広い。幼児向けの本や各国の童話から専門家が読むような哲学書まで幅広くおいてあるようだ。ワクワクしながら入館料を払うべくカウンターに向かう。

 

「おじさん、入館料を払うのはここ?」

 

「お?…ガキか。子供がここに来るのは珍しいな…って、お前さん昨日露店やってた…」

 

「うん。旅のお医者さんでーす。腕は良いからなめないでよね。これでも商人たちのお墨付きだよ!」

 

「アッハッハッハ!!そうかそうか!なら1階の一般・児童書フロアが目的じゃねえな!2階と3階が専門書用フロアだ。2階や3階に行きてえなら料金の上乗せが発生するが…金はあるな?」

 

「もちろん。…はいっ!」

 

「あぁ、ガキだし端数はマケてやるよ。…ほれ、入館証だ。帰りに返してくれよ。本の複写と持ち出しは禁止だが、メモくらいなら構わん。インクは溢さないように気をつけろ。本を破いたり汚したりしたら買取りだ。一般書はともかく、専門書はかなり高額だぞ。」

 

「分かった。ありがと!」

 

そう言って、真っ先に階段を上る。一般書は最後。まずは医学書だ!

 

 

 

 

 

「…料理、拷問、応急処置、薬草全集、解剖術、心理、民間療法…うん、この辺かな?てかなんで料理がこの棚に?ジャンルの分け方おかしくない?」

 

【…何を料理するんだろうな((ボソッ】

 

「おい、やめろ。それ以上は残酷な描写が仕事をしちゃうよ。…まぁいいや、さっさと読んじゃおう。」

 

【あぁ、そうだな】

 

 

 

 

 

ハッと気がついて視線を上げると図書館の窓から夕暮れが見えた。机の上を見ると本のタワーが4つと少しほど聳え立っている。

 

「あれ、今何時…?」

 

【あと2時間程で閉館するな。お昼頃に一度カンザシが来たが、お前が集中しているのを見て宿に戻ったぞ。夕ご飯は少し多めに頼んでおくと言っていたが、どうせ聞こえていなかったんだろう?】

 

「え、全然気づかなった…カンザシに悪いことしたなぁ」

 

【気にしていないだろう。お前が集中すると何も聞こえなくなるのはカンザシも知っているからな。カンザシだって、お前じゃなくてボクが聞いているの前提で喋って行ったのだろうし。】

 

「取り敢えず帰りにお菓子買っていこうか。お詫びに。お昼も一人で取らせちゃっただろうし。」

 

そう言いながら立ち上がり、机の上のタワーを見る。さて、面倒だし手間だけど、本棚に戻しに行こうか。

 

本を片付け、新たな知識をノートにまとめていると、気が付けば閉館30分前。危ない危ない、そろそろ帰らねば。そう思って席を立った時、丁度カウンターにいたおじさんが階段から登ってきた。

 

「おぉ?まだいたのか。そろそろ閉めるぞ。忘れもんには気を付けてくれよ。」

 

「はーい。ごめんなさい。…よし、読んでなかった本は粗方読んだしOK。宿に戻ろう。明日は薬売らなきゃ♪」

 

「はは、入館料が結構するからな。お目当ての本はあったかい?」

 

「うん!見たことのない本もあって嬉しかっ」

 

そこまで言ったところで、後ろからガタリと音がした。

 

「何の音?」

 

「あー、本でも落ちたか?最近本を雑に扱う司書が多くてな。まったく、司書が

本を雑に扱うんじゃねぇよ…」

 

おじさんに付いて奥へ行くと本が数冊、床に落ちている。近くの本棚に空いている部分があるし、そこから落ちたのだろう。本を拾うのを手伝おうと思って、床に屈んで本に手を伸ばす。

 

一つだけ、やけに僕の目に付いた、紫色の古い本。

表紙には小洒落た黒い文字で、タイトルが書かれている。

パラパラと軽くページを捲る。

 

「《生を与えよ、死を奪えよ(死を齎せ、生を排せよ)》…これは医学書…!?」

 

【へー、こんなとこにも置いてあったのか。時間がないし、明日にでもまた来ようぜ。】

 

本当は読みたくて堪らなかったが、泣く泣くおじさんへと手渡す。

 

「おじさん、これも」

 

「おー、ありがとよ…って何だこの本。」

 

「へ?そこに落ちてたけど。」

 

「…タイトルが読めねぇ。何だこの本。こんな色の古い本、うちにはないはずだぞ。」

 

沈黙が下りる。本棚を見ると、確かに全て本で埋まっている。その紫色の本を入れるスペースなんてどこにも見当たらない。

 

「これでもこの図書館内の蔵書は全て覚えているんだ。こんな本、確かになかったはずだ。でも、表紙の文字すら読めねぇってのはどういうことだ?確かにこの国の文字で書いてあるはずだ、なのにどこか知らない異国語を読んでいるようで…」

 

「僕、表紙は読めるよ?普通に。むしろおじさん何で読めないの?」

 

「なんだと…?…あーったく、何だってんだ!」

 

「…ねぇ、おじさん。その本、読ませてくれない?」

 

「…はぁ、ほれ。」

 

「いいの!?ありがと!」

 

やったとウキウキして本を受け取り、近くの椅子に座ろうとしたら、首根っこを掴まれた。そのままおじさんは出口の方に歩き始める。

 

「うぇ!?何?ちょっと、まだ読んでないんだけど!」

 

「もう閉館時間だっつってんだろ。その本はやる。持ってけ。」

 

「へ!?」

 

「俺の記憶にないってことは、ここに登録されてる蔵書じゃねぇってことだ。…だから、俺は()()()()()()()()()し、()()()()()()()。…これでいいな。ただし、その本が例え呪いの本だったとしても、こっちで引き取らねぇからな。ほれ、さっさと帰れ。」

 

そのまま図書室の外に放り出される。

…つまり、この本は僕にくれるってこと?それを理解して、嬉しくなって振り返る。図書館の中に戻ろうとするおじさんの背が見えて、思わず叫ぶ。

 

「あ、ありがとう!」

 

「おう、またのご利用をー。」

 

ひらりと片手を上げて、おじさんは図書館の中に入って行った。

…よしっ。

 

【いいやつだったな。思わぬ収入だ。】

 

「そうだね。ラッキーだった。速く宿に戻って読もう。」

 

 

 

 

宿に戻って、カンザシに帰り道で買ってきたお菓子をお土産に渡す。夕飯を少し急ぎ目に食べて、少し部屋に籠るとカンザシに伝えると、小走りで部屋に向かう。

 

部屋に入り、カギを掛けて、椅子に腰かける。

やっぱり読めるんだよなぁ…。

そう思いつつ表紙を少し眺めて、そして本の表紙に手を掛けた。

 

 

…と同時に背中に走ったゾクゾクとした感覚。

 

この感覚を僕は知っている。

この感覚の名は、紛れもない。

『歓喜』だ。

 

ぺらりと表紙を捲る。

そして、頭に流れ込んでくる、『情報』。

呑まれる、呑まれる。情報の海に溺れそう。

でもそれが、その感覚が、どうしようもなく心地良い!!

 

もっと、もっと、もっと、もっと!!!

その程度じゃ足りない。もっと寄越せ!!

ほらほら、この程度なの?まだあるよね?出し惜しみしないでよ!

黙って、僕に『寄越せ』!!

 

 

 

「………ふふふふっ…♪」

 

ページを捲る、捲る。その手は止まらない。

 

「ふふふふっ♪」【ふふふふっ♪】

 

「あはははは♪」【アハハハハ♪】

 

「ジェミニ~、知りたいことが増えちゃった♪」

 

【知ってる範囲でなら教えてやるよ!ボクも楽しみが増えたからなぁ!!】

 

一人クツクツと嗤い続ける少年がいた。

その様子を、扉の向こうから一匹の狐が見て、一緒に笑っていた。

夕日に照らされ部屋に落ち込んでいた二つの影が歪んだ気がした。

 

 

 




★オリジナル帝具 ※ネタバレ含む

名称:生殺与奪《オペレメディカル》
概要:医学書に宿っていた寄生型?の帝具。宿り木になっていた医学書は帝具の本体ではない。エスデス様と似た感じ。エスデス様は血だけど、ラザールは細胞。宿した事により両の手の平に月桂冠を模したような紋章ができた。
能力:紋章からありとあらゆる医療器具(オペの器具、診察の器具など。メスとか注射器とかそういうの)を引き出せる。その大きさは自在であるため、攻撃にも使用が可能。一度に出せる器具の数は本人の力量次第。また、宿主の摂取したことのある薬や毒を引き出すことが出来る。(一通りの薬や毒を試す必要があるが、帝具の効果により毒の効果は一切出ず、勝手に中和される。アカメの呪毒は効かないが、呪毒の呪いにより解毒薬は作り出せない。)宿り木になっていたあの医学書は帝具によって中身が変わっており、帝具の宿主にのみに教えられる薬や毒の作り方などが記載されている。
奥の手:『細菌汚染』
“苦”“痛”“無”のいずれかの効果を及ぼす病を、半径500メートルほどの球状にバラまく。どれであろうと2分で死に至る。解毒するには1分以内に宿主の血液を摂取する必要がある。
“苦”…呼吸器系の侵食
“痛”…臓器破壊
“無”…感覚器官の侵食 とかそんな感じじゃないかな。
ちなみに、
イメージ:『ダブル○ージ』のミラ○ールちゃん。

少しクロスオーバーっぽいです。クロスオーバーが苦手な方はご注意を。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

医師としての僕
現在


2017/10/27 改稿しました。
作業BGMは「このピアノでお前を8759632145回ぶん殴る」でお送りしました。


朝、カーテン越しに差し込む日の光に目を覚ます。

 

あぁ、懐かしい夢を見た。丁度旅に出て、帝具を手にいれた頃の夢。学ぶことが楽しくて楽しくて仕方なかったあの頃の自分。

 

拝啓、過去の僕らへ。今僕は…

 

「主!おはようなのだ!今日も良い天気じゃぞ」

 

「おはよ…カンザシ。時間は?」

 

「まだ、大丈夫じゃ。ご飯を食べてからでも十分間に合う。」

 

「ん。分かった。じゃ、今日も頑張ろっか。」

 

ちゃんと医者をしています。

 

 

 

 

 

僕はラザール。年齢は現在15歳。職業は医者。数年前までは旅をしながら薬師をしていたけれど、ここ帝都に来てからは、旅を止め、医師としてメインストリートで活動している。白兎の名前は健在。商人たちからの信頼厚く、都民の皆さんから愛される診療所として、その地位を確立させている。安めな上に腕がいいと、かなり売れているんじゃないだろうか。

 

 

最近、お得意様が出来た。

ナジェンダというかっこいい女性の将軍さん。洞察力が鋭く、高をくくって油断していた時に、僕が帝具持ちだという事を知られてしまった。さらに僕の帝具が医療においてとても役に立つことが分かると、「軍の医務官にならないか」と誘われるようになった。薬の値段をサービスする事で、国に帝具持ちであることを黙っていてもらっているが…少々強引な気があって、正直しつこい。もちろん口には出さないが。

 

 

テイムした危険種も増えた。以前より2匹増えての計7匹が現在の数だ。カンザシには普段から店を手伝ってもらっているが、たまにオロチやニャルも店に出てくる事がある。ニャルはともかくとしても、オロチの方は、お客さんに初めは怖がられた。でも、大人しいことや外見が白蛇であったこともあり、今では御利益のありそうなこの店のマスコットペットとして受け入れられている。カンザシに至っては、半獣半人形態を我慢し、ちゃんと人に化けているため、もはや看板娘である。先日は34回目の告白を受けて、情け容赦のない「ごめんなさい」が炸裂していた。美少女に化けるのは構わないが、自重してくれ。

 

現状報告としてはその位である。

 

 

 

 

なんて、誰に話すでもなく寝ぼけた頭の中を整理していると、

 

「主~!!ナジェンダが来たぞ~!!彼氏連れでな!」

 

「んなっ!?おい、カンザシ、コイツは彼氏なんかじゃっ///」

 

「およおよ、ナジェよ、顔が赤いぞー?」

 

「カンザシ!!」

 

なんと言うか、正体を知っている身としてはシュールだとしか言いようのない構図である。タイトル:超級危険種に弄ばれる将軍、である。何も知らない人がタイトルを聞けば、その字の通り、劣勢の中血生臭い戦場で激しい戦いを繰り広げる将軍を思い浮かべるであろう。しかし、今の情景は、普通に女同士のじゃれ合い…恋バナである。何ということでしょう。こうして考えるとカンザシの変化能力は本当に恐ろしい。人語を解せる以上に賢い、一国を容易く葬れる生物が、人に溶け込めるのだから。内側からの崩壊だなんて笑えない冗談だ。

 

まぁ、今考えることでもないか。

 

「おはよう。そしていらっしゃい、ナジェンダおねーさん。そちらの人は?」

 

僕が問いかけるたことで、本来の目的を思い出したのか、ゴホンと咳払いをするナジェンダさん。正直今更取り繕っても、手遅れだと思う…。しかし、本人的には切り替えられたのか、改めてこちらを見て言う。

 

「あぁ、おはよう。今日は頼みがあってな。こいつは私の同僚で飲み仲間の…」

 

「ロクゴウだ!初めまして。」

 

「どうも。ラザールです。医者をやっています。」

 

「カンザシと申す!主の助手じゃ!」

 

「おお、よろしくな!」

 

紹介されたので、とりあえず適当に挨拶を交わす。快活そうな気のいいお兄さんって感じの印象を受ける人だ。

 

「…ナジェンダおねーさん。今日のご用は何かな?」

 

「…あぁ。えっとだな…とりあえずいつもの傷薬が欲しいのと…あと、このロクゴウの怪我を診て欲しいんだ。」

 

 

店番をカンザシに頼み、診療所の中の個室に2人を招く。椅子に座るよう促して、話の続きを聞くことにする。

 

…聞くことにしたんだが。ことの顛末を聞いて僕は呆然とするしかなかった。

 

「ロクゴウが意地っ張りだったんだ。ここまでとは思っていなかったんだ。ラザール、どうかこの馬鹿の傷を見てくれ…そして出来れば直してほしい。軍属の医者は皆匙を投げてしまった。もう頼れるのはお前くらいなんだ。どうか頼む、この通りだ!」

 

そう言って頭を下げるナジェンダさんとロクゴウさん。

……これは何と反応すればいいんだろうか。

 

「…えーっと、つまりまとめると…先日あった賊の討伐作戦中に、ロクゴウ将軍が腕を怪我した。しかし厄介な事に、賊の使っていた武器に毒が塗ってあった。直ぐに手当てを受ければ、そこまで悪化しなかったものを、部下の前だからとロクゴウさんがやせ我慢して傷を隠していた。帰還途中で流石に毒が回って倒れ、高熱を出して生死をさまよったが、何とか命は助かった。しかし、傷と毒を長時間放置していた影響で腕が動かなくなり、さすがの軍の医務官たちもお手上げ…という解釈であっていますか?」

 

「「……その通りだ。」」

 

「はぁ…」

 

「ラザール君、みなまで言うな。俺も流石にやらかしたとは思っているさ。でも命を懸ける場で、将が情けない姿を見せれば士気にかかわる。反省はしているが…後悔はしていないよ。言うなれば自業自得という奴だ。無理はしなくていい。」

 

「まったくですよ…ロクゴウ将軍、失礼を承知で言わせてもらいますが…本当にバカですね。」

 

「ゔ…」

 

「いや、「ゔ」じゃありませんよ。情けない将は確かに問題あるでしょうが、将が死んだら兵士はどうすればいいんですか?余計混乱しますよ。まったく…敵の武器に塗ってある武器が、自己回復でどうにかなるなんて優しいものでは無いことくらい、あなただって分かるでしょう?」

 

「まったくだ…もっと言ってやれ、ラザール。」

 

「いや、まったくです、返す言葉もございません…。ホントすいませんでした…」

 

「…ま、治しますけど。」

 

「「は…」」

 

「とりあえず腕を診せて下さい。ナジェンダおねーさんはカンザシとお話しでもして待ってて下さい。」

 

「は、え…!?わ、分かった!この馬鹿…ロクゴウを頼む!」

 

「ほらロクゴウさん、早く腕出して。」

 

「あ、あぁ、悪いな…頼むわ。」

 

ロクゴウさんの向かいに座り、腕を診せてもらう。…冷たい。硬い。日焼けした肌だから目立っていないけど、肌からも血の気がない。

 

「…ホントにバカですね。」

 

「あは、はは~」

 

酷い状態の腕。バカかと聞くと、空笑いをしつつ目をそらす。

 

「はぁ、今日来て良かったですね。あと少し遅かったら、腕切断からの義手接続になっていましたよ」

 

「…そうか…やっぱり無理…………おい、今なんつった。」

 

「まだ、治せますよ。」

 

「…マジか?」

 

「はい。」

 

軍の優秀な医務官たちに諦めろと言われたのだ。一介の町医者である僕の言うことなんて簡単には信じられないだろう。

だから、僕はまた口にする。あぁ、こんなこと言うのも久しぶりだな。

 

「試しに僕に治療させて下さい。そうですね…僕が治療して2日。2日で腕が動かないようでしたら…僕のこと、殺しても構いませんよ。人を守る軍人の腕です。そのくらいの担保はあって然るべきでしょう?」

 

この発言には流石に驚いたらしい。まぁ、治らないと思っていた上に急に命がどうのって言われるんだもの、そりゃ驚くよね。まぁ、それで動揺してもらうのが狙いなんだけど。

 

「…分かった。頼むよ。あぁ、でも治らなくても死なんでいいぞ。どうせ、一度治らないと言われたのだ。今更気になどしない。自業自得だしな。その時のことはその時考えるさ。」

 

…良識派か。ナジェンダさんと同じ。この人は敵になるかな?ま、なんだろうと仕事はちゃんとしないとね。

 

「じゃあ、ロクゴウ将軍。」

 

「ん?なんだ?」

 

「めっちゃ痛いのと、そんなに痛くないのとどっちがいいです?」

 

「は?痛くないに越したことはないだろうが…何が違うんだ?」

 

「完治するまでの時間ですかね。成長痛くらいの痛みで2日掛けて治すのと、めっちゃ痛いけど2時間くらいで治るのと、どっちがお好みです?」

 

「…そんなすぐに治んのか?どうやって…?」

 

「まぁ、ぼかして言えば、解毒薬と身体再生を促すお薬をちょちょいのちょいと配合して出来た薬を打つだけですね。薬については企業秘密ですが、安心安全、清廉潔白、怪しくない真っ当なものです。例え怪しく聞こえたとしても、うちで売ってる傷薬にも配合されてる成分なので今までのうちの評判聞いていれば安全性は納得は出来るかと。…どうします?やめます?」

 

「…だぁぁ!!男は度胸だ!痛くてもいいから一発で治せ!」

 

「承りましたー。…じゃあ、激痛との戦闘頑張って下さいね…ふふふ。お薬持ってきまーす。」

 

「…おう。(ヤバいちょっと早まったかも)」

 

席を立ち、薬棚がある…ということにしているカーテンの奥に行く。手袋を外して作るのは…

 

「オペレメディカル…解毒・再生ナノ、ディスポ5ml」

 

ボソリと呟き、紋章から薬入りの注射器を出す。調合したのは身体細胞を超再生させるナノマシンと()()()()使()()()()()()()()()()。問題ないのを確認して再び手袋をする。そして、注射器を持って、ロクゴウ将軍のもとへ。

 

「じゃあ、逝きますよ~。」

 

「え、いきなり!?つか、いくの字おかしくね…ってわあーーー!?」

 

五月蝿いので話してる途中で、ササッとアルコールを染み込ませた脱脂綿で腕を拭き、注射器を刺す。ゆっくりと薬を入れていき…

 

「うん、よしOK。あ、ロクゴウさん、猿轡要ります?多分冗談じゃなく痛いので…舌噛んだらヤバいですし、一応タオル置いておきますね。遠慮なく使ってください。」

 

「お、おう。」

 

「じゃ、暴れているのを見られるのも嫌でしょうし…僕はナジェンダおねーさんに報告してきますね。また、2時間後。」

 

「分かった。……っっっ!!!???」

 

後ろで何か聞こえたが、容赦なく部屋を出て、鍵を閉める。報告のためにカンザシと談話しているであろう彼女のもとへ向かう。

 

「ん?あ、ラザール!どうだ?あいつの腕は治りそうか?」

 

「うん。今日で治します~。…あ、多分そろそろ五月蝿くなるんで。多分2時間程。」

 

「は?それはどういう…」

 

ドンドンドンドン!!!!

 

いきなりの強打音にびっくりする2人。始まった始まった。まぁ、あの部屋には壊されて困るものはないし、静かになるまで放置だね、うん。

 

【お前ってホントドSっていうか…容赦ないよな。極端っつーか…】

 

お黙り、ジェミニ!

 

 

 

2時間後、僕とカンザシとナジェンダさんは、無事復活したロクゴウさんと昼食をとっていた。

 

「…まさか本当に治るとは……ありがとうな、ラザール君。」

 

「いえいえ、その代わりにお代をがっぽりもらいますから~。」

 

「なぁ、ラザール君、キミ、軍の医務官に…「なりません。」そんな即答しなくても…」

 

とまぁ、先ほどからずっとこんな感じだ。ロクゴウさんの腕は全快。ロクゴウさんはそれに感謝を述べつつ、僕を軍に誘う…の繰り返しである。

 

「本当にありがとう、ラザール。お前にはもう足を向けて眠れないな…mgmg」

 

「いいえー。それが仕事ですからー。mgmg」

 

「ふふん、主は凄いのじゃ!やっとナジェも理解しおったか!mgmg」

 

「なぁ、ラザール君ー!やっぱり軍に…mgmg」

 

「あーもう、しつこいんだよっ!」

 

騒がしい昼食だった…

そして、食べ終わると、ナジェンダがロクゴウを引きずって帰って行った。さて、僕らも午後の商売を開始するとしよう。

 

「「いらっしゃいませ。」」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現在・裏

前話の方を改稿したら、少し長くなったので分けました。
作業BGMは「惑星ループ」でお送りしました。


Gift[ギフト]。

意味は贈り物。しかし、他の国では別の意味にもなるという。

その意味は…。

 

 

 

カンザシSide

 

夜、妾は帝都の路地裏、ひっそりとやっている酒場に来ていた。店内は店主の意向から静かで、小さく音楽が鳴っているだけだ。酒場というよりはBARに近いだろうか。まぁ、メニューが酒場のBARだとでも思えばイメージしやすいだろう。

 

「こんばんは、今日の月は綺麗ですね。」

 

「……えぇ、今日の月は悲しい程に。」

 

待ち人が来たようだ。因みにこれは合言葉という奴だ。決して妾がナンパとやらをされたわけでも、妾の祖国でいう「愛している」の隠語を言われたでもない。そこは勘違いしてくれるなよ。

 

「…此度の貴方は子供なんだな。」

 

「えぇ、変かしら?」

 

妾の今の姿は、齢6歳程の幼女である。例にもよって変化しているが、普段とは顔だちも声も違うように化けているので、顔見知りに会ったとてばれることはない。会話からも分かるように妾がこの男と会うのは初めてではない。しかし、妾は毎回姿を変えて現れておるし、そもそも本性がアレなのだし、妾の正体が割れることは一生ないだろう。

 

「その成りでその話し方をされるの違和感があるな。まぁいい。今宵も取引といこうか。」

 

「…えぇ。はい、これが約束の物よ。」

 

そう言って妾は、持っていた袋から両手で抱えるほどの箱を取り出し渡す。男は箱を片手で受け取ると、蓋を開けて中身を確認する。

 

「確かに。効果のほどは?」

 

「身体の感覚を数倍に引き上げる。…主に痛覚をね。前回の物よりも強力になっているわ。貴方が前回流してくれた毒のおかげで、改良が追いついた。感謝しておくと開発者が。」

 

「そうか。これでこちらも助かりそうだ。中々口を割らないやつがいて、困っていたんだ。」

 

「そう…次はこちらの番だったわね。依頼よ。純度の高い銀が欲しいわ。その木箱程の量で構わないわ。お願いしても?」

 

「分かった。上に伝えておく。返事はまた後日。それにしても…アレは本当にダメなのですか?」

 

「くどいわ。私たちは、そういった類の薬だけは嫌悪しているの。…薬や毒はともかく、麻薬だけは絶対に作らないわ。」

 

「…医務官にもなる気は…」

 

「ないわ。」

 

「…それも、一応上に伝えておこう。」

 

「……」

 

主の言葉を思い出す。

〖依存性の麻薬は作れるし、実際に一度は作ってあるけど、売っていない。あくまでもボクらは医者だから。傷を癒すのが仕事だし…時に生かすか殺すか、どちらかを決めてやるのが役割だ。麻薬なんていうのはルールに反する。やる気はないよ。〗

 

そう、だから、主は店を出して、傷薬や風邪薬、病気の処方薬を作って売り、大怪我をした人や病人の手術などをして人を生かすのだ。

…例え裏で、拷問やら何やらの為に帝都からの依頼で毒薬や自白薬を作っていても。

 

全ては主と妾たちの平穏のため。

邪魔者は許さない。善人だろうが、悪人だろうが関係ない。邪魔者は邪魔者だ。もし、主の暮らしを脅かすなら、王だろうが大臣だろうが、将軍だろうが関係ない。殺してやる。

今はそのための布石打ちなのだ。いずれ来るかもしれないその時のために、この牙を、爪を、研ぎ澄ませておくべき時なのだ。罠を張り巡らせておくべき時なのだ。

 

〖そのためなら、人を生かそうが殺そうがどうでもいいよ。だってもともと、僕らは人間が嫌いなのだから〗

 

…主の命とあらば。

 

「では、今日は失礼するわ。また、次の満月にお会いしましょう。」

 

そう言って妾はBARの出口へ向かう。ドアに手をかけて振り向く。今日の最後の仕事だ。

 

さぁ、とびっきりの笑顔で!

 

「大臣によろしくお伝えくださいませ!!」

 

 

 

 

 




短くてすまぬ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まさかの襲来

2017/10/28 改稿しました。
作業BGMは「フィクサー」でお送りしました。


誰か…誰でもいいです。本当に。この際危険種でも動物でも何でもいいです。なので、頼むから!

 

「…夢だと言ってください。」

 

「ふむ、ここか。ナジェンダ将軍とロクゴウ将軍御用達の店は。まさか、店主が10代半ばだとは思わなかったが…良い目をしているな、少年よ。」

 

「……え、あ、はい。ありがとうございます。そして、いらっしゃいませ…?」

 

「何故疑問符を付ける。今日は客として来ている。気にするな。」

 

いや、気にするでしょ、普通。逆にどうして気にならないと思っているのか…。分からない…何考えてるのか分からない!将軍ってこんな人ばっかりか!

 

「えっと…取り敢えず…本日は何をお求めですか、ブドー将軍殿…。」

 

そうです。本日のゲストはこちら、帝国代表と言っても過言ではないこの方、ブドー将軍がいらっしゃっております。待って、待って。この人、確か軍でも一、二を争う実力者だよね…?(震え声)こんな「ちょっと雑貨屋行ってくるー」くらいの軽いノリでいきなり来られても困るんだけど!?

 

「うむ、ナジェンダ将軍にここの薬がよく効くと聞いてな。しかも、我が軍の医務官にも見放されたロクゴウ将軍の腕を後遺症も残さず治したと言うではないか。最近始まった異民族との戦で兵士たちの傷も絶えないのでな…丁度早く治せる薬を探していたのだ。」

 

「さ、左様ですか…では、傷薬をお買い求めで?」

 

「あぁ、頼む。出来れば小分けにして大量に欲しい。ナジェンダ将軍も言っていたが各兵団に配りたいのでな。」

 

「了解しました。城の方にお届けすれば宜しいですか?」

 

「あぁ、頼む。」

 

「か、畏まりました。」

 

思わず軽く敬礼した自分はおかしくは無いはず…。何というかこの方は威圧感が凄い。ただそこにいるだけでも緊張する。存在感が半端ない。

てか、紹介したのナジェンダねーさんかよ…。よし、次来たときシバこう。いつも迷惑被っているし、たまにはやり返してもいいよね!これで僕の帝具をバラすとか冗談でも言って来たら、その時は遠慮なく見切りつけれるしね!うん、それで行こう!

 

【おい…】

 

なぁに、ジェミニ?何か文句でも?

 

【…ナンデモナイデス(悪魔かこいつ…)】

 

 

 

「あと、ついでに傷の手当てを頼む。先日、エスデス将軍と手合わせをしたときに腕を怪我してしまってな…医務官にも手当てを頼んだのだが、なかなかに治らん。ナジェンダ将軍を信じてお主にも頼んで見るとしよう。」

 

「…唐突に来ますね。まぁ、仕事ですしやりますけど…。中へどうぞ。」

 

…ぷ、プレッシャー!!……これ、結果出せなきゃ僕の首が物理的に危ない!!

いつも通りカンザシに店番を任せて、ブドー将軍を個室へ案内する。椅子に座るように促して、着席したのを見届けてから、ふぅと一つ深呼吸。

 

「では傷を見せていただけますか?」

 

「…!(空気が変わった、か。面白い。)あぁ、これだ。」

 

そう言って将軍は、肩から腕にかけて巻かれていた包帯を取る。これは…凍傷?まるで雪山か凍土で怪我をしたかのような…抉られたような傷。エスデス将軍と手合わせって言ってたよな…エスデス将軍何者だよ。

 

【エスデス将軍とやらは氷か冷気か、そういったもんにまつわる何かがあるみたいだな。】

 

(そうだね。傷の形状的に…レイピアとかの刺突武器だね。帝具かな?)

 

【かもな。怖ぇ女だな。】

 

(敵になったら厄介かもね。)

 

さて、ブドー将軍の傷だけど…うん、結構深いし、困ったときのナノマシンだよね!ってことでいつもの通りに。

 

「ブドー将軍殿、結構なお値段を取りますが傷痕も一切残さず30秒で完治する薬とそこそこなお値段で1日前後で普通に治る薬、安くて3日ほどで治す薬、さ、どれがお好みです?

因みに安い奴は塗り薬、他のは注射です。ついでに、30秒の奴だとかなり痛いです。」

 

「ほぅ…?ではお手並み拝見と言うことで30秒で治るものにしてみるとしよう。金はあるしな。」

 

「……ロクゴウ将軍といいブドー将軍殿殿といい、どうして痛いの選ぶんです…?」

 

M?Mなの?僕、悪いけどそういう趣味はないからね?

 

【ナチュラルサイコパスが何を言う…】

 

ジェミニが何か言っているが、気のせいだろう。

 

「ロクゴウ将軍も何か選んだのか?」

 

「えぇ、痛まない代わりに2日かかる奴と激痛の代わりに2時間で治す奴とで、後者をセレクトしましたね。」

 

「くっ…ははははは!!あやつらしいな。」

 

「ふふふ、では少々お待ち下さい。薬を取ってきます。」

 

カーテンの奥、薬棚の前へ。はぁ、やれやれ。ま、さっさと終わらせようか。

 

「オペレメディカル、再生薬、ディスポ3ml」

 

薬の入った注射器を持ってブドー将軍のもとへ戻る。

 

「お待たせしましたー。じゃあ、ちゃちゃっとやってしまいますね。」

 

…無言は肯定かな?んじゃ、遠慮なく♪

 

腕の傷の近くに針を刺し、薬を入れる。…はい、終わり。カウント開始。

 

「…!?くっ、なかなかに痛いな。」

 

「ですよねぇ…作っておいて難ですけど、正直これを選ぶ人の気が知れないです。でも、不思議と軍人さんや鍛冶師の方々には人気なんですよねー」

 

「ほう?鍛冶師にもか?」

 

「えぇ、何でも鍛冶は時間と気合、集中力が命だとか。怪我なんかで時間を費やすのは惜しいということらしいです。よく分かんないですけど。」

 

「はっはっはっはっは!!その武器鍛冶は面白い人物だな!」

 

「普段は気難しいおじさんなんですけどねー、何故か怪我するとハイテンションになるっぽくて…ダッシュでここに駆け込んできますよ。結構この薬高いんですけど、ちゃんと儲かっているのかな?」

 

…そんなこんなで会話をしていればそろそろ30秒。…3、2、1、ほいっ♪

 

「治療終了です♪お疲れさまでした。この薬で叫ぶどころか顔色一つ変えない人は初めて見ましたよ。」

 

「…すごいな。正直眉唾か、誇張されているものと思っていたのだが…傷痕一つなし、か…。」

 

そこにあるのは怪我する前と変わらないであろう腕。注射器を片付けながら、チラリとブドー将軍の顔を見ると、…うん、無表情。ん?あ、でも目がちょっとだけ大きくなっているかも?一応驚いているのかもしれない。

 

「医者、名はなんという?」

 

「…ラザールと言います。…僕何かしました?」

 

怖い!無表情の人がいきなり名前を聞いてくるって超怖い!僕何かした!?冷静な声を心がけたが内心は大混乱中である。そしてこの流れ、前もどこかで別の人とやった記憶があるぞ…。そう、あれは忘れもしないナジェンダねーさんを初めて治療したあの時…確かあの時は……。…ふふふ、次の展開が読めた、読めてしまった。いや、まだワンチャンある、あるはず…

 

「ふっ、ラザールか…覚えておこう。……と言うことで、軍の医務官にならないか?」

 

 

オ マ エ も か !

 

何が「と言うことで」なんですかねぇ!?何処をどう思っての勧誘なんです!?

分かった、分かったよ!これで完璧に理解した!やっぱり将軍と名の付く人は過程を創り出す能力に欠如している!確かにね、結果は大事だよ?出さないと意味ないよ?でもね、過程だって大事なんです!!数学でいう途中計算です。大事なものなんですよ(大事な事なので2回言いました)

途中計算というもの(越権行為)は、凡才(臣下や国民)が抜かして良いものじゃないんです。途中計算(越権行為)抜いて(働いて)良いのは天才(王様)だけなんですよ!!

はぁ、はぁ…よし、一度落ち着こう。

 

「すみません…大変喜ばしい提案ではあるのですが、その、お断りさせていただきます。ナジェンダ将軍やロクゴウ将軍にも誘われてはいますが…やはり、もう少し此処で頑張りたいのです。」

 

当たり障りのない回答を返す。実際、ここは自分で契約して、自分で建てた家であり、診療所だ。簡単には手放したくない。まぁ、今以上の平穏があるならば考えるが、どう考えてもそれはない。「軍の医務官=宮仕え」「宮仕え=厄介事」である。しかも最近は反乱軍とかいうものが出来たというし、もし医務官になってその人たちに「有能な大臣派閥の人物」だと目をつけられでもしたら…想像に難くない。ここは全力で拒否する。

 

「…そうか。では、今日の所は諦めておこう。」

 

「申し訳ありません。」

 

ヘコリと腰から深く礼をする。

 

…って、“今日の所は”?

 

「諦めはしない。その実力、いづれ確実に帝国に生かして貰う。」

 

返ってきたのは恐ろしい答えでした

 

「………気が向きましたなら。」

 

「必ずだ。」

 

「………」

 

何も言えねぇ…

 

【ナジェンダ以上に強烈な人だね…ボクも吃驚だよ】

 

(ジェミニィィィィ!!体代わって!僕もう無理!無理ぃぃぃ!)

 

【え、無理。てか、ヤダ。…ま、気に入られて良かったね、ラザール】

 

(お、鬼ィィィィ!!)

 

【悪魔が何を言うか。馬鹿め、ボクはしばらく表に出ないからな!】

 

「何を一人で百面相している。兎も角、今日は引くが、その内必ずその力、帝国の為に役立てて貰うぞ。代はここに置いておく。では、失礼する。」

 

「…あ、ありがとうございまし…た…」

 

 

や、厄日だ…。僕が何をしたって言うんだ…。

 

…よし、とりあえず次にナジェンダねーさんが店に来た時、確実に絞める。誰が何と言おうと絞める。僕の気苦労を思い知るがいい!!

 

 

 

 

 

 

その後、診療所のお得意様にブドー将軍を含む軍人さん方が更に増加したことは言うまでもない。そして、また別のある日、診療所から苦し気な女性の声が聞こえたという。

 

 




ブドー将軍とロクゴウ将軍の口調が分かりません(∀`*ゞ)テヘッ
違ってたらごめんなさい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これが噂のツンデレですか?

2017/10/29 改稿しました。
作業BGMは「Mrs.Pumpkinの滑稽な夢」でお送りしました。
お昼ご飯のステーキ丼(ワンコイン)がとてもおいしかったです。


「明日は休みにしよう。」

 

「相変わらず、主は唐突じゃな…まぁ、別に構わんが。」

 

「ふふふ、それが僕だもの!」

 

いきなりだが、これが昨晩の夕食中の会話である。

 

 

 

そんなわけで有言実行。今日はお休みの日である。

そもそも僕は毎月5日程、気まぐれで休日を作っていた。しかし、ブドー将軍の来店以来、店の売り上げが今まで以上に右肩上がりになり、とても忙しかったのだ。休日を入れたかったが、客に軍人や憲兵が多いせいで、なんとなく休みを作りにくく、結局ここ2ヶ月程丸々無休で店を開いていたのだが…。

まず、休みがとれない日数に比例して、元々帝都…と言うか街の空気が身体に合わない生き物である危険種(うちの子)達のストレスが増加。そして僕とカンザシの負担も上昇。うん、これは休むしか無いよね。過労死はしたくない。

 

「と言うことで、皆自由にしていいよ!帝都の外に行っても全然構わないけど、人に見つからないようにね。」

 

と言うと、各々の鳴き声をあげて返事をしてくれた皆。可愛い。…が、次の瞬間には誰も居ない。カンザシの空間移動で移動したかな?こんなに即行動するってことは、よっぽどストレスが溜まっていたのだろう…ホントごめん。

 

まぁ、それはさて置き。

 

「さて、休みとったは良いけど、僕やることないや。」

 

【おい、なら何故休みにした。…買う物とかは無いのか?】

 

「だって、食材の買い出しとかは全部カンザシがやってくれてるし。」

 

【研究は?】

 

「あの医学書の中身は全部作り終わって、摂取済み。ジェミニだって僕なんだから知ってるでしょ?」

 

【………】

 

「ね、やることないでしょ?」

 

【…ないな。】

 

「元々今日は皆の為のお休みだからね。うーん、休みの日って何する日なんだろう?」

 

【さぁ?食材に限らず、なんか必要なものとかは無いのか?】

 

「んー…あ、強いて言うなら煙草かな…そろそろ無くなるし。」

 

【……前から思ってたんだが、15で煙管っていいのか?】

 

「肺に悪いからホントは駄目だろうけど、僕は大丈夫~♪」

 

【…その根拠は?】

 

「僕だから★」

 

【…せめて接客中に吸わないように棒付きキャンディーでも買っとけ。】

 

「えー、お客の前ではそもそも吸わないもの。それに、普段吸っているのは僕特製の薬草玉だから、むしろ体にいいよ?たまーにしか、煙草は吸わないからセーフだよね!」

 

【アウトだよ!!】

 

僕のオペレメディカルは細胞の一つ一つに宿っている。つまり、細胞に有害なものはすべて無効なのである。だから、煙草も体に影響を出さない。自己再生能力も人とは比べものにならないくらい早いし。ついでに言えば以上のことも含め、細胞単位でハイスペックになっちゃったからか、身体能力もハイスペックになってしまった。因みに、その原理で毒も無効化されている。

 

それにしても、棒付きキャンディーか…

 

「なるほど、それはいいかも。たまに接客中に口寂しくなることがあるし、丁度良いかもしれないね。」

 

【あ、あとついでだ。服買え。】

 

「…は?なんでさ。」

 

【オマエ、何で同じ服しか持ってないんだよ。同じのばっかり何着も買いやがって。たまには違うの何か買え。】

 

「そういわれても、センスのいいカンザシは外出てるし。僕はこの服でいいし。逆になんでそんなに種類が必要なの?気に入ったやつが数種類あればいいじゃん。」

 

【い い か ら 買 え。この出不精が!】

 

「Yes,sir.」

 

思わず即答。

速やかに財布と上着を手に取り、鍵をポケットに入れて、髪を結う。表は店なので、プライベート用の裏口から出ようと、足を向けた。

 

と、そのときだった。

 

【おい、ラザール。裏口…】

 

「うん。誰かいるね。この音は…殴打音?それにこの人数…集団リンチでもしてんのかな?ふふふ、医者の前で良い度胸だね。」

 

裏口に近づいて行くたびに大きくなる。とてもよく聞こえる。石が弾んだ音、人を殴る音、何かを蹴った音、人の喧騒、嗚咽、骨の軋み。

 

嗚呼、腹が立つ!

 

裏口の扉を開けて道を見回すと、少し離れたところに数人の男と小さな少女がいた。アレか。

 

「ねぇ、…医者の前で怪我人を出す気?何事かな?僕を納得させれるほどの理由があるなら言ってごらん?さっきから五月蠅いんだよ。それに目障り、さっさと失せな。営業妨害で訴えてもいいけど?」

 

「!!ちっ、お前ら行くぞ!」

 

「覚えとけよ、ガキが!!」

 

セリフからして既に弱そうだよね。それに、営業妨害も何も今日ウチお休みなの見なかったのかな?…あぁ、もしかしなくても馬鹿なのか。

 

【…はっ、雑魚が。弱い奴ほどよく吠えるとはよく言ったものだな。】

 

「チッ、ほんとだよ。」

 

そう言って、未だに蹲っている女の子の方に歩み寄る。お腹を押さえているし、手足には切り傷も見える。まだ血も新しい。それにこの子…。

 

「…ね、大丈夫?…あ、もしかして異民族の血入ってる?虐められてたのはそれが理由かな?」

 

泣いていた少女がこちらをキッと睨んでくる。年齢としては僕より何歳か下かな。先ほどの僕の発言が気に障ったようだ。…体はふるえているが。

 

「ふぅん、どこにでもくだらないことする奴はいるんだねぇ…ま、それはどうでもいいや。あーあ、ヒドい怪我。女の子に酷いことするなぁ。取り敢えずこっちおいで。治療するよ。」

 

そう言って手を差し出してみる。

 

 

 

 

一方、少女は驚愕していた。

 

“どうでもいい”と、彼は確かにそう言った。自分が異民族の血を持っていると分かっていながらだ。自分はこの血のせいで虐げられ、差別を受けてきた。苦しんできた。それなのにこの人は…私の異民族の血を一蹴して興味が無いと言ったのだ。

この人は私を差別しない…?信じてみてもいいかと思った。治療と言うのが嘘でもし私を殺す気でも、その時はその時。自分にはもう逃げる気力も体力もないのだから。

 

最後にこの人に賭けてみよう。

 

少女は差し出された手を取り、扉をくぐった。

 

 

 

 

女の子は僕の手を取った。案外すんなり信じてくれたもんだと少し驚いたが、治療が先だと、彼女を店に引き入れた。そして取り敢えず、少女を風呂場に突っ込む。傷が痛くても我慢して汚れを落とせと指示して、塗り薬やガーゼ、包帯の準備をする。

 

風呂から上がり、カンザシのシャツをワンピースのように着た少女の髪を乾かして、傷を見ていく。傷は思ったより多かった。

 

「わー…擦り傷、切り傷、打撲…骨折していないのが救いかな?しっかし細いな。ちゃんと食べてる?栄養失調もありそうか。」

 

差別受けてるみたいだし、食べれてる訳ないかと思いつつも傷を手当てしていく。そこでやっと、少女は口を開いた。

 

「…傷痕残る?」

 

やっぱり女の子だし気にするよね。

 

「残してなんてやるわけないでしょ。治療するからには完璧に治してみせるよ。」

 

「…そっか。…って、アンタ医者!?その成りで!?アタシよりいくつか年上なくらいでしょ!?」

 

「む、これでも将軍のお墨付きだよ。そして僕は15歳。」

 

「…アタシ、お金無いわよ。」

 

「んー?別に要らないよ?今日お店休みだし、これは完全に僕のお節介だし。」

 

「…そ。…お、お礼なんて言わないわよ!?」

 

「別にいいよ。……っと、はい、終わり。」

 

細い肢体にきっちりと綺麗に巻かれた包帯を見て、謎の達成感を感じた僕。……決して、変なそういう嗜好ではない、断じて。

 

「あ…ありがと…」

 

【………くっ!】

 

「ふ……あははははははは!やばい、お腹痛ぃ!あっはははは!」

 

「!?な、何よ!いきなり人のこと見て笑うなんて失礼ね!」

 

ヤバい、この子面白ろ…これが、属に言う

 

【ツンデレってやつか!あっはははは!】

 

「お礼言わないって、言った矢先にありがとうって…ふっ…くく…何という矛盾…ふくっ…ふふふふ。腹筋が攣りそう…」

 

「な!?べ、別にそんな!」

 

うわ、すごい顔真っ赤。挙動不審だし。

 

「ふふっ…いやいや、礼儀正しいのは良いことだよ。感謝と謝罪がしっかりと出来るのはとても素晴らしいことだからね…あー、笑った笑ったぁ。」

 

「そ、そんな笑わなくても良いじゃない!」

 

「ごめんごめん。」

 

 

まぁ、そんなこんなで始まり、結局1日中彼女とお喋りしていた。僕の旅行記だったり、彼女の故郷の話だったりと、なかなかに面白い時間だった。

夕方、もう帰るという彼女を見送ろうとして、彼女からもう一度、

「べ、別に嬉しかったとか思って無いんからね!…でも、ありがとう!」

というなんとも可愛らしい挨拶をもらったことを明記しておく。その時の顔はこれまたほんのりと赤く染まっていて、それにまたしても笑ったのはここだけの話。

 

 

…煙草と服はまた今度買いに行くとしよう。

今日はなかなかに楽しませてもらったよ。楽しい休日をありがとう。

 

 

 

 

___マインちゃん

 

 




マインちゃんを出してみた。幼少時代のマインちゃんは、若干定番っぽいツンデレに仕上げてみました。成長してアレなら幼少期はもっと定番な感じではないかという私の妄想の産物です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

急募:ドジっ子の対処法

2017/10/29 改稿しました。
作業BGMは「ライアーダンス」でお送りしました。


どうも、こんにちは。先日の買い物が、ツンデレ少女マインちゃんの襲来(リンチ被害)によって未遂に終わったので、また休みを取りました。しかし、今日は今日で問題が発生しています。

 

「カンザシ…なんで出かけちゃうかなぁ」

 

【昨日のうちにカンザシに伝えなかったオマエが悪い。まったく…ラザールはいつもどっか抜けるから困る。】

 

はぁという大きな溜め息が聞こえる。そんなに呆れないでよ…

そう、今朝カンザシに買い物の同伴をお願いしようと思ったら、彼女は既に家に居なかった。手伝って貰おう(適当に決めて貰おう)という僕の目論見は失敗してしまった。それにもかかわらず、この悪魔(ジェミニ)は、

【服、買いに行け。異論は認めない。いいから行け。とにかく行け。絶対行け。】

と仰せになりました。暴君ですね、ありえません。滅びの呪文を唱えたい。

 

「この悪魔め…」

 

【何か言ったか】

 

ジェミニさん怖いです。

 

「いや、何も」

 

【そうか。因みに言っておくが、ボクが悪魔ならお前は魔王だからな。】

 

「………」

 

【さっさと買いに出ろや。足を動かせ。行くぞ。】

 

「…御意~」

 

僕がジェミニに口で勝てるのはもう少し先になりそうだ。

 

 

 

 

 

「…こんなんでいっか。会計してさっさと帰ろ」

 

【早っ!?】

 

メインストリートに繰り出して5分、近くの服屋に入り、ジェミニの意見を聞きつつテキトーに服を購入。所要時間10分。うん、なんか面倒になったんで直感と好みとノリで選びました。

 

【オマエ…黒と紺しか無いじゃん。】

 

「悪い?僕の銀髪を考慮した上で、好きな色をセレクトしたんだけど?」

 

【目をかっぴらくな、怖ぇよ。寒色でいいからさぁ、もっとこう明るい色を着ろよ。水色とか灰色とかさぁ。ボクが言うのもなんだけど、顔は悪くないんだから…】

 

「……ジェミニって俺様口調のクセに一人称ボクだよね。」

 

【は?なんだよいきなり。…“俺”に変えてみるか?】

 

「そんな微妙な声出さないでよ。別にふと思っただけだし。なんて言ったっけ…今流行りのアレ、……あぁ、ギャップ萌?でいいんじゃね?」

 

【…オマエ適当過ぎねえ?】

 

「はっ、ジェミニの僕に対する通常運転がこれですけど?」

 

【…いつもゴメンナサイ】

 

「まぁ、いいや。さっさと帰ろ」

 

【帰った後どうするんだ?】

 

「昨日ちょっと思いついた毒配合してみようかと」

 

【……飲用?塗布?散布?】

 

「散布。神経型。」

 

《…オマエって案外狂ってるよな。》

 

「ジェミニもね。」

 

【いやいやいや、お前よりはマシだろ!?お前みたいに“ピー”を“バキューン”するような奴作ったり“ピチューン”を“ドッカーン”したりするようなことはやってねえもん!】

 

※過激な表現が含まれていましたので、加工してお送りしました。

 

「えー?あれはジェミニも大概ノリノリだったじゃん。それに、ジェミニだって“パーン”を“ドーン”して“チュド-ン”して笑ってたじゃない。」

 

※過激な表現((以下略

 

【…そうだったっけ?】

 

おい。なかったことにしようとしてるぞコイツ。

結論:同じ穴の狢。

 

という、会話を脳内でしつつ、帰路に着いていた時だった。

 

「あ痛!?」

 

僕より何歳か年上っぽい少女が目の前の何もないところで転けていた。取り敢えず、彼女が持っていた買い物袋からいくつか零れ落ちた物がこちらに転がってきたので、拾いあげてやる。近づいて声を掛けると、その少女は吃驚したような顔でこちらを見た。

 

「大丈夫ですか…?」

 

「あ、すみません…」

 

「いえいえ…あ、眼鏡どうぞ。」

 

「あ、道理で見えないと思いました…ありがとうございます。」

 

律儀にペコリと礼をする彼女。…が、腕に買い物袋を抱えそのまま礼をしたせいで、バラバラゴロゴロと再び物が転がり出てくる。

 

「あぁ!!また、落としてしまいました…すみません、本当にすみません…」

 

「あはは…」

 

…ドジっ子か。ツンデレに続き、これまた濃い人に出会ったものだ。僕が買い物の予定を作った日はよく人に会うなぁとしみじみ思う。

再び荷物を拾うのを手伝っていると、ふと彼女から漂ってきた香り。僕にとって馴染み深い、とても嗅ぎなれたこれは……

 

「あの…怪我とかは無いですか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよー?どうかされました?」

 

「いえ…貴方から血の匂いがしたような気がして。気のせいだったらすみません、女性に失礼なことを聞きました。」

 

分かりやすく体が硬直した彼女。そう、彼女から血の匂いがするのだ。彼女の血の匂いもするが、それよりも多くの、他人の血。…失礼な話、はじめは女性特有の月のものかとも思った。しかし、今の反応で確信する。きっと、彼女は人を殺している。

 

どこか纏うオーラの変わった彼女は問う。

 

「…貴方は、どちら様でしょう。」

 

「しがない医者です。血の匂いには敏感なんですよ。」

 

そう言うとジッと僕を見つめるが、彼女の中で何か納得したのだろう、気を抜いてため息をつく。纏うオーラも元に戻っていた。

 

「そうですか。…良かったです。実は腕と膝を怪我していまして。膝はよく転ぶのでいつものことなんですが、腕は昨日料理を手伝おうとしたら包丁を落としてしまって。なかなか血が止まらなかったので、多分その匂いではないかと。」

 

「なるほど。不躾にすみませんでした。職業柄見逃せなくて……良かったらコレ、どうぞ。お代は今日はサービスです。」

 

そう言って、塗り薬を渡す。

 

「え、良いのですか?…あ、ありがとう、ございます。」

 

キョトンとした顔で、若干戸惑いながら受け取った彼女。なんだか、妹のようだとちょっと失礼なことを思う。

 

「いえいえ♪…では、僕は失礼しますね。気をつけてお帰り下さい。」

 

「…シェーレです、私の名前。今度お礼しに伺います。お店の場所、教えてくれますか?」

 

正直驚いた。名前とか、一応人殺してるかもしれない人が言うと思わなかったし、殺し屋とか暗殺者ではないってことかな…?

 

「あぁ、この通りを真っ直ぐ交差点2つ分行った右手側です。僕はラザール。お礼はいいので良ければ今後ご贔屓に。」

 

そう言うと、小さくクスリと笑ったシェーレさん。

 

「分かりました。今後薬を買う際はそちらに伺いますね。では、また。」

 

「はい。また。」 

 

そう言って互いに背を向けて歩き出す。

一瞬、妹のようだと思ったけど、彼女はやっぱり姉かもしれないと少し思ったのは秘密である。

 

 

「あ痛!」

 

 

 

・・・歩き出して、すぐに後ろで誰かが転けた音なんて僕は聞いていない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾い者

2018/10/30 改稿しました。
作業BGMは「彗星ハネムーン」でお送りしました。


???side_____

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………

どのくらい走り続けているだろうか。森の中を私は駆ける。逃げなきゃ、私はまだ死ねない。死にたくない。森の中は木の根や岩が多くて、足場が悪い。枝や葉に時折引っかかって、肌が傷ついていくのが分かるが、今は気にしていられない。疲労の蓄積した足はもう感覚すらないが、止められない。止めてしまえば私は…!

 

「とにかく少しでも休まなきゃ…どこか場所は…!」

 

目についた、大木の陰に隠れるようにして一度立ち止まる。荒い息を必死に整えようとするけど、整うことはなく、むしろ悪化していく。

 

「どこだ!こっちか?」

 

「チッ!ちょこまかしやがって」

 

追っ手の声が近い。やり過ごせるか…

 

「あそこだ!いたぞ、逃がすな!」

 

!!見つかった!逃げなきゃ、なんとしても、逃げなきゃ…私はまだ、こんな所でなんて死にたくない!

 

 

 

 

_____元々、今回の任務は無謀だった。

 

 

-----「…は?敵地への潜入及びその殲滅!?い、いくら私が帝具持ちでもそれは…!」

 

-----「言うことが聞けないのか!?これは上層部での決定事項だ!決行だ、なんとしても成功させろ!」

 

-----「で、ですが、私の帝具は戦闘向きでは…」

 

-----「そんなことはどうだっていい!とにかく、今回のこの作戦は必要なのだ!つべこべ言わずに従っていろ!この国を直す為だ!人数は隊を組める最低限の人数で行け!いいな!」

 

 

あの無能な一部の上層部のせいで私の隊は私を残して全滅。敵もまだ残っている。しかもこの作戦…本当の目的はここから南に数百キロ先の帝国軍拠点の撃破。私達がしていたのは、帝国軍が応援要請をするであろう、傭兵のアジトの破壊。傭兵は、クライアントの為に殺しをする奴ら…帝国軍の奴らなんかよりも身体能力が高い。

 

私達の隊は、囮だった。

 

世直しをするために、今まで頑張って来たのに。世直し後の権力に目を輝かせている上層部は、部下の死など気にかけない。帝国となんら変わりないじゃない…。

 

「私は、捨て駒じゃない。負け犬になんてなってやるものか!」

 

だから、私は生きる。上層部の思惑通りに死んでなんかやらない!

 

しかし、現実は非情だ。ヒュッと何かが飛来する音がして、次の瞬間、私の足に走る激痛。

 

「あ゙……っっっ、が、ガイアファンデーション!!!!!!」

 

丁度運良く森の中。私は痛みを耐え、精神的に最後であろう気力を振り絞り、相棒の名前を叫ぶ。とっさにマーグパンサーの子供に変化し、木の洞の中に隠れる。

 

「いねぇ…チッ!逃がした!」

 

「まぁ、刺さったのは毒矢だ。その内死ぬさ。」

 

「情報が届く前に死ねばいいが…」

 

「ま、もう終わりだ終わり。アジトに戻ろうぜ。」

 

「そのアジトが今半壊してるけどな」

 

「ちげぇねぇや。」

 

豪快な笑い声を辺りに響かせながら、傭兵達は去っていく。同時に知った、私の足に刺さった異物。毒矢か。解毒薬…持ってないや。そう思ったところで変化が解ける。もう限界らしい。

 

あはは…私、ここで死んじゃうのかな…ヤダな…もっと生きたかったのに…。

涙が零れ落ちてくる。

死にたくない、死にたくない!なんで私が、どうして私が!あの無能が生きているのに、私がこんなことになっているのは何故!?あぁ、憎い。恨めしい、許せない。

 

憎悪に反して、体から力が抜けていく。重力に従って私の体はふらりと地面に倒れた。同時に瞼が重くなる。

 

“サヨナラ、世界。来世があるなら願わくば…”

 

幸せな世界を。

 

瞼が閉じる直前に目の前に誰かが居た気がした。埋葬位はしてくれるといいな。それを最後に私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラザールside_____

 

今日は臨時休暇をとって、少し遠出をしている。薬草や毒草の採集が主であるが、僕やカンザシのストレス発散も兼ねている。

 

 

「オペレメディカル!“クーパー”、“メッツェン”、80IN(インチ)!!!」

 

紋章から自分の身長とかわらない大きさのそれらを取り出し、ヤツ…三級危険種メランザーナに向かってダッシュ。そのまま、メランザーナを部位ごとに細胞単位で刻んでいく。葉、茎、根、そして口のついた花弁。緑色の体液を撒き散らしながら、バラバラに解体されていくメランザーナ。これほど派手にやっておきながら、僕には返り血…血か?まぁいいや。それが一切ない。この力にもだいぶ慣れたな。

 

「食人植物か…役にも立たん。そしてキモい。」

 

「主の薬にもならん癖に生意気な…」

 

「しかも所詮三級。雑魚いし…」

 

「当たり前じゃろう…主に勝てる危険種などおるものか。」

 

【いざというときはテイムすりゃ良いしな】

 

「うわー、改めて聞くと僕って結構ぶっ飛んでるよね。」

 

【今更だな】

 

メランザーナに辛口な評価を下すカンザシはどこか黒い笑みを浮かべ、地に散らばるメランザーナの残骸を足蹴にする。僕もどこか物足りなさを感じつつも、出した器具を紋章に戻す。メランザーナに火をつけて後処理をすると、僕たちは帝都への帰路につくことにした。

 

 

 

問題が起きたのはその帰り道だった。

 

「主、血の匂いがするぞ。それと……死の香りも。」

 

「…人の死体でも落ちてるの?」

 

「いや、まだ生きてはおるが、これではもうじき死ぬな。出血も多そうじゃし。」

 

「ふーん…まだ生きてんだ…じゃ、助けてみるか。カンザシ、匂いはどこから?」

 

「こっちじゃ!」

 

カンザシの鼻が察知した瀕死人を探し進む。そして、すぐに…

 

「居ったぞ!」

 

流石カンザシ。素晴らしいね。向かうと確かに地面に誰かが倒れている。

 

「わぉ。これはなかなか…全身打撲に切り傷擦り傷、おまけに足に毒矢。女の子にサービスし過ぎでしょ。…ま、治すけど。」

 

倒れていたのは、女の子。おそらくシェーレさんと同じ位の歳だと思われる。まぁ、それは後でで良い。処置が先だ。

まず彼女の足に刺さっていた矢を抜き、矢尻を舐め、毒を確認する。そして、オペレメディカルを発動。包帯を出し、彼女の足の傷を縛りつつ、輸液と先ほど体内に摂取したことで自動生成された解毒薬を出す。彼女に輸血を施しつつ、解毒薬を投与して、応急処置は一旦完了。

 

「カンザシ、空間転移お願い。診療所へ。」

 

「承知。」

 

 

僕らのまわりの景色が一瞬で変わる。変わった先は見慣れたいつもの白い壁。彼女を抱え、ベットに寝かせ、カンザシに彼女の体を拭いてもらいながら、細かい傷の処置をする。

 

「カンザシ、彼女の着替えお願いね。」

 

「了解じゃ。…あ、そうじゃ、主!コレはどうするべきかの?」

 

カンザシが見せてきたのは…これは、化粧箱?

 

「彼女のかな?取り敢えず預かっとくよ。」

 

カンザシからそれを受け取り、自室に戻る。少し疲れた。

一呼吸おいてジェミニの発言。

 

【その化粧品箱…帝具だな。】

 

わぉ、マジか。

 

「ってことは彼女、もしかして軍役してる?」

 

【いや、恐らく…】

 

軍役じゃないってことは…

 

「反乱軍?」

 

【多分な】

 

はぁ、また面倒そうなの拾っちゃったな…

 

【だが、まわりに仲間の姿がなかった。おそらく何かわけありだな。ま、気長に彼女の目覚めを待つしかないな。】

 

「そうだね…」

 

化粧品箱の帝具を机に置き、僕はベットへダイブ。

そして僕は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

???side____

 

ハッと気がつくと、そこは真っ暗な闇だった。足場もないここに私は浮かんでいる。ここは、死後の世界?

 

パタパタパタ……

 

背後で誰かの走る足音がした。振り返るとそこにいたのは…私?…いや、違う。そこにあったのは過去の情景とも言うべきモノだった。

 

幼い頃の私。両親と勉強している私。あの腐った太守に仕えていた私。太守を殺した時の私。革命軍に入った私。仲間と任務をこなす私。そして、……捨て駒にされたと気づいた時の私。

 

楽しむ私、怒った私、悲しむ私、喜ぶ私…いろんな私がそこにはいた。

 

それをみて湧き上がってきたのは、

 

“愛しさ”と“憎悪”

 

いや、もしかしたらソレよりももっとドロドロとして真っ黒な思いかもしれない。

 

 

 

____帝国が嫌いだった。

 

この腐った国が嫌だった。だから、私は革命軍に入った。世直しをするために、自分で決断したことだった。…でも、同士だと信じていた奴らに裏切られた。結果、仲間も私も死んだ。今でも鮮明に思い出せる…同じチームの皆が、斬り殺され、撃ち殺され、人によっては犯され、弄ばれたその瞬間が。あの時上がった皆の悲鳴だって耳から離れない。

 

………憎い。

帝国は確かに嫌い。でも、今はそんなのよりも革命軍の奴らが憎い!必要な犠牲だったのなら別にいいの。でも、今回のコレは!必要な犠牲なんかじゃなかった!許せない!

 

「帝国の前に…正すべきは革命軍内部だよ…ね」

 

あは…あはは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

「もしも、私が生まれ変わったのなら…その時は必ず…!」

 

“この世のすべてに報復を!”

 

全ては私の幸せのために…穏やかな日々のために!

そして、私の視界は暗転した。

 

 

「……んぅ?」

 

体が…痛い。それで私は目を開けた。その瞬間戦慄する。自分は生きているのか、と。何故?どうやって?まさか、あの状態で生きれる筈が…。頭を疑問で覆い尽くして、漸く自分がベッドで寝ていることに気がついた。周りは白い壁で囲われている。ここは、病院?

本当に何故、生きているのだろう?後ろ向きな考えとかではなく、事実として、私は死ぬはずだった。生きられる状況なわけがなかった。でも、今私が感じているこの痛みや風の流れ、薬の匂い、ベッドの感触…全てが私が生きている証拠で。私の視界に映るこれらは間違いなく現実で。

 

「私…生き…て…?」

 

発した声だって、酷く掠れてはいるが間違いなく私のものだ。取り敢えず、誰かいないか探しに行こう。痛みを覚悟してベッドで上体を起こしてみる。…が、

 

「あ、れ?」

 

私の怪我は一つや二つじゃなかった。足は勿論、腕やら脇腹やらも結構重傷だったはず。なのに、あれ?腕にも脇腹にも傷が無い。痛むのはあの時酷使したであろう筋肉だけ。足にも包帯は巻いてあるが、痛くない。毒矢が刺さったのだからそんな簡単に治るはずはない。まさか、足の傷が塞がるまで長く眠ってた!?だとしたら、あれから何日たってるんだろう?

 

「呑気にしてる場合じゃない!早く人を探して…」

 

そう言って立ち上がろうとしたとき、目の前のドアが開いた。

 

「おぉ、やっと起きよったか。」

 

…どちら様?

 

「…なんじゃその奇っ怪なものを見る目は!妾と主がお主を見つけねば、お主は死んでおったのじゃぞ!妾はともかく主には後で感謝せよ。」

 

「え、あの?あなたが助けてくれたんですか?」

 

「妾は見つけただけじゃ。治したのは主である。」

 

彼女が私の第一発見者らしい。で、彼女が仕えている人が私を治したと。

 

「ありがとうございました、見つけてくれて。」

 

正直内心“見つけなくて良かったのに”と思う自分がいる。だって、今の私は何にも出来ないから。自分にできるのは密偵や暗殺、潜入くらい。実際に正面きって戦う力なんて持っていない。今の私が生きていた所で…私は何も変えられない。国も革命軍も。それにきっと革命軍は私に死んでいて欲しいだろう。軍の仲間を捨て駒にしたとなれば、この件を知らない人…特に下っ端達はあの無能上司に牙を剥く。アイツらはそれを避けたい筈。……今、私に生きる意味はあるのだろうか。

 

「…気に入らん。」

 

「…へ?」

 

気に入らんって、初対面の人にしつれいじゃないかな?ん?さすがの私も怒っちゃうよ?……私何かいけないことしたかな?

 

「ふん、まぁ良い。…主を呼んでくる。寝て待っとれ。」

 

 

 

パタンと音をたてて彼女は部屋を出ていった。

 

「…気に入らん、か。私も、私が気に入らないよ。」

 

ポソリと呟いた言葉は白い壁に吸い込まれる。ベッドの上で膝を抱えるようにして座る。…主ってどんな人かな。取り敢えずお礼は言う。けど今の国に感化された腐った奴じゃなきゃいいな。でも、こんな酔狂なことをする奴なんて今時知れてる。

 

そんなことを考えているウチに人が近づいてくる気配がした。やっとお出ましみたいだ。

コンコンとドアを叩いた音の後、扉は開いた。

さて、どんなゲテモノ親父が来るのかな…と顔を上げたその時。私は心の底から思った。本気で思った。………ごめんなさい。と。

 

彼は膝よりも長い白衣を翻して颯爽と部屋に入ってきた。そして恐ろしく整った顔に陶磁器のように白く綺麗な肌。さらにはまるで宝石のような…でも鷹のように鋭い、闇に近い紫と優しい紫苑色のオッドアイ。それは少し長めの睫で美しく縁取られている。銀色の綺麗な長髪を左サイドで緩く結わえ、その口に薄く笑みを浮かべる彼。多分年下だけど、纏うオーラはそんなことを感じさせない。だからか、少年の筈なのに、まるで青年に少年の名残があるかのように感じられる。

 

…彼がゲテモノ?あり得ない。彼がゲテモノならこの世の中、皆ゲテモノだ。中身はまだ知らないけど、間違いなく外見は…天使。醜さとは対極の存在。美しさの体現。

本当に全身全霊で謝罪したい。

 

「…いきなり聞くけど、状況把握は出来ている?」

 

はっ!声を掛けられるまでたっぷり数秒、完璧見惚れてた…。大人なのに、恥ずかしいな。…声まで良いとか…反則だよ?とにかく、まずはお礼と返事を返さないと。

 

「え、えーっと…」

 

「…カンザシ?説明頼まなかったっけ?」

 

「う…す、すまぬ、主。」

 

「はぁ、まぁいいや。取り敢えず名前教えてくれます?おねーさん♪」

 

やっぱり年下か、と思いつつ私は彼に向き合った。

 

「チェルシーよ。助けてくれてありがとう。」

 

「ふーん。じゃ、チェルシーさん。今から状況説明するから一発で頭に叩き込んでね?」

 

はい?ちょ、唐突すきない!?

 

「僕はラザール。医者だよ。こっちはカンザシ。助手的な子ね。チェルシーさんを見つけた経緯としては、僕たちがたまたま薬草を取りに森へ行って、その帰り道でカンザシがチェルシーさんを発見。そこで僕が応急処置をして、ここに連れてきた。ここは帝都にある僕の店。一応診療所。今日はチェルシーさんを見つけて2日目。以上。何か質問は?」

 

ちょ、この子鬼畜!?端的かつアバウトに説明アリガトウ…無駄にわかりやすくて助かるわ。それにしても、まさかここが帝都だとは思わなかった。

 

「えーっと、はい。なんとなくは把握。強いて聞くなら、たった2日で私の傷が跡形もなく消えてるのは何故?ってことくらいかな。」

 

「それは…」

 

「それは…?」

 

「僕が天才だから☆」

 

…ウインク付きで返された。けど、気持ち悪さを感じないから恐ろしいよね。…コレがイケメンパワーか。若干誤魔化された感じはあるけど、嘘では無いんだろう。彼の顔には自信がありありと浮かんでいた。

 

 

…さて、身辺把握もしたところで。これからどうしようか。

 

 

 




伸ばしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶対的なモノ

2017/10/30 改稿しました。
前話の本編伸ばしました。代わりにこちらが少し縮みました。
せれでは、原作ブレイクをどうぞ( ・∀・)つハイッ




ラザールside____

 

拾った彼女が目を覚ました。

初めて見た彼女の目は、死んでいた。何故、こんな目をしているのだろうか。とても大切な何かを、諦めたような目だった。

 

「さて、チェルシーさんはこれからどうするの?」

 

「…そうだねぇ…どうしようかなぁ。分からないや…」

 

わざとらしく…無理したように笑う彼女。違う。そんなことが聞きたいんじゃない。

 

「チェルシーさん?」

 

「あは、どうしようかなぁ…」

 

…イラつくなぁ。今の彼女はまるで、壊れたお人形。でもね、僕は、そんな玩具(オモチャ)が欲しいんじゃない。

 

だから、

 

「おねーさん、今から、僕が質問するね?」

 

「…うん。」

 

使う。遠慮はしない。

 

「おねーさんは、僕の質問に出来るだけ答えてね?」

 

「…うん。」

 

優しいオクスリを君に。

 

「おねーさん、僕に教えて?おねーさんは、どうして、あんな怪我をしていたの?」

 

「…上司に棄てられたから」

 

死んだ君を、僕が使ってあげる。

 

「おねーさん一人が?」

 

「…仲間…志を共にした同じチームの人も、私以外皆」

 

君を生き返らせて、有効に操ってあげる。

 

「その仲間はどこ?」

 

「…死んだ。…アイツに殺された。」

 

「アイツって誰?」

 

「…上司のせいだ。でも、殺したのは傭兵団。」

 

「憎い?」

 

「…憎い、よぉ…」

 

ハラハラと涙を零して泣き出す彼女。いいよ。もっと泣いて。

 

「誰が?」

 

「…仲間を殺した傭兵達と私達を棄てた上司」

 

そして、

 

「それだけ?」

 

「…力の無い、私自身も」

 

僕にとことん溺れればいい。

 

「何が欲しい?」

 

「…力が欲しい。」

 

「本当に?」

 

「…本当は…誰かに、必要とされたいっ…!」

 

依存すればいいよ。

 

「どうして?」

 

「…存在意義が欲しい。」

 

「何故?」

 

「………、っあ゙…!!!」

 

我慢の限界、か。今まで耐えてきた分の感情が決壊したみたいだった。

 

「頑張ったね。偉い偉い♪」

 

彼女のうずくまるベッドに腰掛け、頭を撫でる。

彼女が泣き止むまでずっと、僕は彼女の側にいた。

 

 

 

 

 

チェルシーside_____

 

目を覚ますと…

 

「あ、起きたぁ?おはよー♪気分はどーお?」

 

彼ノ膝ノ上デシタ。

 

「え…………わ、わあぁぁぁぁ!?あれ、私!?ご、ごめんなさっ!?」

 

思わず挙動不審になるのも仕方ないでしょ!?だって、目を覚まして目の前に彼のビューティーフェイスがあるんだよ!?彼はイケメンというよりは美人の類に入る。なんかこう、すごい輝いてるんだよ…し、心臓に悪い…

 

「あはははは、スッゴい慌てようだねぇ。そんな時は深呼吸だよー」

 

「え、えと…ヒッヒッフー?」

 

「ぶふ…ククク…あはははは!!!そ、それラマーズ法!妊婦さんの出産の時のだよぉ!?はー、もう面白いなぁ♪」

 

ひとしきり笑った彼。そこまで笑わなくても…自分の発言への羞恥と彼の笑顔に思わず赤面してしまう。いくらテンパってるからってこれはないでしょ、私ィィィィ!!

 

「はー、まぁいいや。…それで、気持ちは楽になったかい?チェルシーおねーさん?」

 

そこで、ハッとする。眠る前まで、彼に質問されてた事に答えていた。お陰でなんだか…

 

「うん、何か心なしか軽くなった。ありがとう。」

 

でも、私の闇は晴れない。だって居場所は無いままだから。

 

「…皆が、ラザール君みたいに優しければ良いのにな」

 

口から零れたこの言葉は本心。

 

「…僕は、優しくなんてないよ。」

 

その声に驚いて、慌てて彼を見る。表情にあまり変化は無い、けど。彼の目は黒かった。色はあの紫のオッドアイだよ?変化は無い。でも、黒かった。黒く、見えた。

 

「…なんで優しくないと思うの?」

 

私はこの時から、きっと直感していた。

 

「…僕は自分が管理するモノには気を配るけど。でも、他のモノはどうでもいいから。僕に…影響が無ければ、どうでもいい。興味も、湧かない。」

 

「…ふふ、冷たいね?」

 

この時既に堕ちていた。

 

「うん。僕は冷たいよ?利用出来るモノは何でも利用するし、要らないモノは壊して捨てる。おねーさんの上司となんら変わりないかも?それでも、…僕に使われてみる?」

 

カチリと、ピースの嵌まる音がした。

 

「あはっ、あはははは♪…私、必要とされてる?」

 

「君が、その利用価値を僕に示し続ける限り、僕に差し出し続ける限り…僕は君を棄てない。」

 

背筋に走る快感。私はこれを望んでいた。

 

「大切に大切に…使ってあげる。愛でてあげる。必要としてあげる。愛してあげる。守ってあげる。君がそれを望むなら。」

 

“僕の狗になるかい?”

 

彼は私にそう問いかける。

 

 

“アイシテアゲル”

 

なんて素敵なんだろう。

 

“ツカッテアゲル”

 

なんて甘美な響き。

 

“ヒツヨウトシテアゲル”

 

まるで媚薬ね…

 

 

「…永遠の、限り無い忠誠をアナタに。」

 

私は彼のモノとなる。

 

 

なんて幸せなんだろう。

 

私は、アナタに従います…

 

___My Lord

 

 

 

 

 

 

ラザールside

 

あれから彼女は再び眠りについた。

 

僕には彼女が必要になった。だから、彼女を手に入れることにした。ただ、それだけ。

テイマーの血が流れる僕は、人の心を掌握しやすいようで、クスリなんかできっかけを作ってやれば…簡単に堕ちる。

 

はぁ、こうなったのも…

 

 

 

「ぜーんぶ、あんたのせいだよ…」

 

 

 

ねえ?ナジェンダおねーさん?

 

 

 

 

 

 

 

 

_____数日後、ナジェンダ将軍は反乱軍に寝返り…指名手配された。

 

 

 




と言うことで、チェルシーちゃんはノット反乱軍。タツチェル推しの方、ごめんなさい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

離反と嫌疑

2017/10/30 改稿しました。
作業BGMは「マダラカルト」でお送りしました。



事はチェルシーを拾う数日前に遡る。

帝国の兵舎に薬を届けに行くだいたいの周期も決まり、同時にナジェンダねーさんや、ロクゴウさん、……極々稀にブドー大将軍殿の来店の周期も定着しつつあった。

 

なのにも関わらず、彼女はいきなり店にやってきた。それも、深刻な面持ちで。

 

「ラザールはいるか?」

 

「おぉ、ナジェではないか!久方ぶり…でもないか。」

 

「…あぁ、カンザシか。済まないが、ラザールを呼んできてくれないか?話したいことがあってな…出来れば静かに話せるよう、一部屋借りたい。すぐ終わるが、如何せん、大事な話でな…」

 

「……うむ、了解したぞ。取り敢えず、主を呼んでこよう。」

 

「悪いな、頼む。」

 

 

周期を無視したナジェンダの来店、カンザシは嫌な予感を覚えていた。

 

元々、カンザシが覚える『嫌な予感』は“自身に起こる事”にのみ発動する一種の予知能力であった。が、ラザールに忠誠を誓い、ラザールに従い、ラザールの性格や好き嫌いをある程度理解するようになってからは、“ラザールと自分の双方にとって嫌な事”が起こる時に発動するようになっていた。

 

「(ふむ、ナジェンダが来てから感じた悪寒…ほぼ間違いなく…)」

 

___主にとって嫌な事が起こる。

 

 

「ともかく主に話さねば…と、丁度良い。主!」

 

運良く部屋から出てきたラザールをカンザシは呼び止めた。

 

「カンザシ?どうしたの?」

 

「主、ナジェンダが来た。」

 

「うん。…え、だから何?いつもの事……じゃないのか。何したの?」

 

「察しが良くて助かる。ナジェンダが来たのは別に良い。…が、同時に悪寒を連れてきた。」

 

「…はぁ。何か厄介な事が起こる予兆か。」

 

「溜め息を吐くのも分かるが、それよりも、ナジェンダが主に重要な話があると言っておる。…何の話かは分からんが、主にとって良い話で無いだろう事は確かだ。気をつけよ。」

 

「はぁぁ、了解。ありがと、カンザシ。じゃ、リビングででもお話伺いますかね…」

 

心底めんどくさそうな顔をして店頭に向かうラザール。

 

「…ろくな話じゃ無いだろうな…なんとなくだけど」

 

 

 

ラザールside____

 

「あぁ、ラザール。悪いな、いきなり。」

 

店の薬棚の前にいたナジェンダが僕を見つけるなり、こちらに来た。

 

「いらっしゃい。…で、話があるんだって?取り敢えず、家のリビングででも話そうか?」

 

「本当にすまん。」

 

「いえいえ、お得意様ですから、たまには話くらい聞いて差し上げますよ~♪」

 

ナジェンダを店の奥…僕の住まいに入れ、カンザシに店番を頼む。

 

リビングに入ると、既にお茶とお菓子の用意がしてあった。さすがカンザシ。仕事が早い。リビングに入るなり足元にすり寄ってきたニャルを抱き上げ、背中を撫でてやりながらナジェンダねーさんを席に勧める。

 

「改めて言わせてもらう。急に来てしまい、本当にすまない。」

 

「大丈夫だよー。…それで、話って?」

 

「…ラザールは…今の帝国について、どう思っている?私が将軍だとか、そう言うのは無視していい。お前自身の意見を、聞かせて欲しい。」

 

…何ソレ、心底どうでもいいんですけど。

 

「…んー…それはさ、医者としての僕に聞いてる?それとも僕自身、ただのラザール個人として聞いてる?」

 

「すべてを踏まえた上で、お前自身に聞いている。」

 

「ふーん…」

 

「…で、どうなんだ?」

 

思えばここが全ての分岐だったのだろう。これで察してしまった。…お得意様のナジェンダおねーさんはもう来ない。でも彼女は僕という医者に価値を見出している。彼女にとって僕は“何としても味方につけたい存在”。だからこそ自分の意見を言うわけではなく、僕の意思から聞き出そうとしている。僕を相手に発言を間違えられないから。

そこまで考えたところで僕は、ナジェンダという一個人として、彼女に嫌気がさした。もう駄目だと思った。

 

「どうでもいいよ。」

 

「…それはどういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味だよ?興味がない。それだけ。」

 

「い、今の帝国に疑問や不安は無いというのか!?」

 

「ないと言えば嘘になる。でも、あまり思うところがあるわけでもない。」

 

「それは何故だ?」

 

彼女はもう…僕の知る彼女じゃ無くなる。

 

「正直ね、僕に影響がなければ何でもいいんだ。」

 

「…なんだと?」

 

「僕は幼少時代を虐げられて生きてきた。その原因は大臣のせいじゃなくて、僕自身に関わることだ。だからこそ、この世の中は強くないと…実力がないと生きていけないことを知っている。僕はこの帝都に来て、この診療所を建てた。実力を見せた僕を誰も避けてこないことに歓喜さえ覚えたよ。……そもそも僕は良い奴じゃない。むしろどちらかと言えば悪い奴だ。貴女のレッテルを僕に貼り付けるな!」

 

「!!し、しかし!」

 

「さっきの問いに答えようか。…医者としての僕は“酷い病気、怪我、扱いを与えているなんて最低だ。”とか“悪政をしいているなんて無能かな?お馬鹿かな?”ってところかな」

 

「そ、そうか!なら「でも」…」

 

「ただの僕自身に聞いてるなら…僕はこう答える。“僕の生活さえ、乱さないなら、勝手にどうぞ?”、“アンタらのお陰で、平和に過ごせているよ。”、“幸せをくれてありがとう。”ってさ。」

 

それを聞いてナジェンダさんは茫然とした。有り得ないとでも思っていそうな…そんな顔。脳内お花畑な君らはいいよね…本当の不幸を知らないんだから。幸せを知っているんだから。ホント…綺麗事ばっかり並べやがって、ムカつくなぁ。

 

【ふっ…ククク…ナジェンダの奴も、思っていたより大した奴じゃなかったってことだな】

 

(まったく、見当違いも甚だしかったよ。)

 

 

 

 

「どうして、そう思うんだ?」

 

やっと声を出したと思えばそんなこと。…激しく面倒そうな気配。

 

「…だって、ズルいじゃない。皆、“幸せ”を知ってて、ズルい。」

 

「は?何を言って…「ナジェンダさんには分からないよね。」…は?」

 

「分かんないよ。貴女には一生、僕のことを理解なんて出来ない。出来てたまるか…何も知らない貴女に、僕の…僕らの苦しみが、悲しみが、葛藤が、痛みが、決心が!…理解なんて出来ない。させてもやらない!僕は、僕らはここに来て、やっと…いや、初めて、『平穏』ってものを知った!『日常』を知った、『幸せ』を知った!それを、壊すなんてことは許さない。」

 

「…お前は、ここに来るまで、一体どんな生活をしていた?きっと凄く貧しい生活をしていたのだろう?その原因こそが、元凶こそが、この「五月蝿い!」おい、私の話を!」

 

「もう帰って?アンタになんて言われても___僕は革命軍に手を貸すことなんてしない。」

 

「!!??」

 

話の核心を突いたであろう僕の言葉に彼女は驚き、目を見開いた。やっぱりそれが目的だったんだ…大方、僕の能力目当てだろうな。僕の帝具があれば、凄く有利になれるだろうから。

 

 

「ナジェンダねーさん、僕貴女のことは嫌いでは無かったんだけど…残念です。」

 

「っ!…今日は帰ろう。だが、私はお前を諦めはしない。お前の力が私たちには必要だ。…また来る。」

 

「…説得以外での来店は歓迎ですが、説得の為の来店でしたら追い返しますから。」

 

「~っ!また来る!」

 

椅子から立ち上がった彼女はリビングを出て帰っていった。

 

 

「…スパイ欲しいなぁ…探すか。」

 

【嵐が去ったと思えば、また嵐の予兆か…】

 

「まったく…カンザシの勘はよく当たるな…。」

 

【ボクの出番もこれから増えそうだ…】

 

「その時は頼むよ、ジェミニ」

 

【勿論。ま、表は任せるぞ、ラザール】

 

「分かってる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして案の定、ナジェンダねーさんは離反。僕も動くか。

 

「チェルシー、君には悪いけど、革命軍に戻れるかい?」

 

「それが、貴方の望みなら」

 

「スパイ活動をお願い。幸いにも僕は医者だ。帝都内なら会っても疑われない。だから、革命軍の動向を僕に教えて欲しい。」

 

「かしこまりました。すべてはあなたの望みの通りに。」

 

「ありがとう。」

 

側に控える彼女の頬をなぞり、キスを一つ落とす。身長は既に僕の方が高いから苦では無い。真っ赤になった彼女は少しキョドりつつも嬉しそうにはにかみ、笑った。

 

「お願いね。」

 

「はい!」

 

「これを、渡しとく。」

 

「ピアス…?」

 

「僕の、片割れ。右に付けといてよ。それが、君の守りになるように。」

 

「~っ!ありがとうございます!」

 

幸せそうに笑うチェルシー。頭を撫でてやりつつ、考える。

 

けど、その時、

 

「失礼致します。ここの店主はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 

既に歯車は軋んだ音をたてて回っていた。

 

 

「……チェルシー、行って。裏口に気配はない。そっちからなら出れるはず。」

 

「でも!」

 

「僕らは大丈夫だから。お願い、ね?」

 

チェルシーの頭をゆっくりと撫でる。すると彼女も絆されてくれたのか、少しを顔を歪めつつも頷いた。

 

「…分かりました。行って参ります。では、御武運を、マスター!」

 

「別に戦う訳ではないけど…うん、まぁ、ありがとう。気をつけてね。ヤバくなったら離脱して良いから!」

 

「はい!」

 

裏口のドアがパタリと閉まる。よし、チェルシーは行かせた。これで革命軍の方は大丈夫っと。じゃ、たった今生じた問題を片しますかね…カンザシが必死になって時間稼ぎをしてくれていたことだし、少し頑張るとしよう。

 

「はいはーい、僕ならいますよー♪」

 

と言いつつ、店頭に続く扉を開ける。

 

「…失礼ですが、本当に貴方が店主ですか?」

 

「…君達の新しい傷薬、支給してんの僕だよー?そこ疑っちゃう?警備隊なら普通、その辺しっかり確認してから来ない?」

 

「…それは、失礼しました。ですが、私は間違いがないか確認をしたいと思っているだけでして…」

 

ブチッ…

 

あー、ジェミニのこと怒らせちゃったー…

 

「……ボクがてめぇよりガキだからって舐めてんじゃねぇよ…そんなに不安なら、薬の受け取り係してる奴か…なんならブドー大将軍にでも確認してみるか?この馬鹿が…」

 

【ちょっとジェミニ~?急に勝手に出ないでよ~】

 

(あぁ、悪ぃ…今返す)

 

 

(まったくもう、久しぶりにびっくりした)

 

【だから、悪かったって。ほら、警備隊の奴らボクの殺気にビビって、まごついてんぜー、ふふふ…】

 

「…分かりました。あの、本題を話しても?」

 

「はい、どうぞ?」

 

先ほどの豹変した僕に驚いていたであろう、警備隊がやっと息を吹き返した。元に戻ったと感じたのか、ほっとした様子で本題を述べる。

 

「………」

 

 

_____貴方に反逆の疑いがかけられています。ご同行、願えますでしょうか?

 

 

…あー、こういう時ばっかりは、この察しの良さが嫌になる。はいはい、そういうことね…クソが!!

 

ナジェンダは最後にとんでもない置きみやげを残して行きました…

 

____反逆罪の嫌疑です。

 

 




ナジェンダ将軍離反~(*・ω・)ノシバイバイ

お礼↓
コメントを下さった方、評価をしてくださった方、ありがとうございます!コメントは極力すべてに返信するようにしています。これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王宮殿にて

2017/10/30 改稿しました。
ここまで改稿進めておいて難ですが、ちゃんと読みやすくなっていますか?
何かご意見等あれば、遠慮なくどうぞ。
今回の作業BGMは「指切り」でお送りしました。


 

皆さんに問題です。今僕はどこにいるでしょう?

正解はー…

 

「ナジェンダ元将軍が離反する直前まで、貴方の店に足繁く通っていたという目撃証言が多数ありましてね…無いと信じたいのですが…どうなんです?」

 

ショタ皇帝あーんどおデブな大臣の御前でした★

 

「えー、僕そんな疑われてるの…」

 

「皇帝の御前であるぞ!無礼な!」

 

「ちょっとそこの文官Aさん五月蝿ーい。僕今イライラしてんのー。」

 

「なっ!?」

 

なーんか、突っかかってくるこの文官A…凄くうざい!

 

「して、医師ラザール。何か弁解はあるか?」

 

まぁ、確かに無礼ではあったか。そろそろ真面目にやろう。あー、人間ってホントめんどくさい。

 

「はい、陛下。…離反する直前まで私の診療所をよく利用していたのは本当です。しかし、それはナジェンダ元将軍の離反とは関係無いことです。確信を持って言えます。」

 

「ふーむ、些か分かりにくいですなぁ…詳しい説明を聞きたいところです。」

 

「大臣も分からんと言っているなら、難しいのだろうな!医師ラザール、確信があると述べたな。詳細を述べよ!」

 

「はい、えっと…端的に言えば、むしろ僕…じゃなかった、私の方が革命軍に勧誘されておりました。ナジェンダ元将軍に共に来ないかと。」

 

玉間にいる全員がポカーンとした表情を向ける。さらには、「あ、勿論断りましたよ?」などと軽く言い仰せるラザールに、当たり前だ!と全員の心の声が一致した瞬間である。

 

 

「…ふ、ふむ、本来ならば疑わしきは徹底排除ですし、拷問を受けても致し方無い立場なのですが、貴方は酷く有能です…実際、今の帝国軍の支給薬の製造は殆ど彼の手腕によるものですし…」

 

「どうしたものか…医師ラザール、お前はナジェンダに何故勧誘されていた?ただ薬の効力が他よりも高いからという理由だけではあるまい?」

 

…この皇帝は思っていたよりも聡明らしい。さて、ここはどうするべきか…

適当に誤魔化す?それとも、全部暴露して平穏を確保?二つに一つだ…

 

が、その時…予想外の事態が起きた。

 

「貴様ら…先ほどから主の為と思い黙っておれば…主を死罪だなんだとのたまいおって…!!!!」

 

……カンザシの我慢の限界のようだ。しかも、本来の獣状態(僕よりちょっと大きい位のサイズだが。)でのご登場。まぁ、そりゃあ…

 

「な、なんだ、その獣は!」

「どこから入ってきた!?」

「皇帝陛下を守れーー!!」

 

テンパりますよね…

 

「ふむ、ラザール医師、その獣は何だ?」

 

そこでやっと少々お怒り気味のブドー大将軍殿が口を開いた。何故今まで黙っていた!でもありがとう!僕の生存ルートが貴方のお陰で開かれそうです。と言うことで…

 

「はぁ、全部お話ししますから、武器構えたまんまでいいので聞いてもらえます?」

 

全部暴露コースでいきますかね…

 

「大臣…ここは聞いてやった方が良かろうな?」

 

「そうですなぁ、彼は賢い。故に、我々に何のメリットもない話はしないでしょう。聞いてやるのが良いと私も思いますよ。」

 

賭けには勝った。まあ、とりあえず…

 

「カンザシ、威嚇するな。大丈夫だ。」

 

「グルルルル…しかし、主!」

 

「良いから。それとも、僕の命令には従えないと?」

 

「いや…承知した。」

 

よし、カンザシを抑え込むのに成功。後は僕が話す順番を間違えなければ、大丈夫な筈…。皆、大丈夫だよ、僕らの平穏を乱すような真似はさせないつもりだから…。ふぅ。カンザシのフワフワサラサラな毛並みを撫でてやりながら僕は口を開いた。

 

「じゃあ、お話ししますね…」

 

「うむ、発言を許可する!」

 

「まず、ナジェンダ元将軍についてですが…彼女は元々ウチのお得意様で、おそらく将軍様としては初めてのお客様です。最近は先ほどお話した通り、革命軍に僕を誘う為に通っていました。それは帝都を出た今も諦めてないようで、度々無記名でのお誘いの手紙が来ます。ぶっちゃけ来すぎて怖いです。」

 

「ナジェンダにストーカー気質があったとは長い付き合いの妾たちも知らなんだわ。」

 

大臣を含む全員が、少し青ざめた僕らに同情の目を向ける。あはは、まぁ、それはいいや。

そこで皇帝が質問をする。

 

「医師ラザール、話の腰を折ってしまうようだが、まずはその獣について聞きたい。それは敵か?」

 

武器を構える兵士たちに緊張が走る。

 

「あー、そうですね。これが僕を殺さない事で得られるメリットその1です。」

 

どういうことだと、怪訝な顔をする皇帝たち。

 

「この子の名前はカンザシ。種族名は九尾の天狐。…超級危険種です。」

 

「なっ!?」

 

玉間に動揺が走る。それはそうだ。超級危険種なんて従えられるモノではない。…が、僕は違う。

 

「僕はテイマーの血族です。自分の力量に沿い、動物や危険種と心を通わせ、従わせることが出来ます。」

 

「…ラザール医師は今どれほどの危険種を従わせている?」

 

ブドー大将軍殿の問いはごもっとも。

 

「超級が3体、特級が2体、二級、三級が1体ずつの、計7体です。」

 

超級3体。その発言に兵士が怯んだ。が、ここはさすがブドー大将軍。焦る事なく問いを続ける。

 

「従わせることが出来る限界は何体だ?」

 

「僕の力量次第です。」

 

「今は7体が限界なのか?」

 

「いえ、あと…500程は軽くいけます。1000は階級によっては微妙ですがね。」

 

平然としているのはブドー大将軍だけだった。兵士は皆呆然とし、大臣ですら若干の冷や汗をみせていた。次に問いかけてきたのは意外なことに皇帝陛下だった。

 

「先ほど、メリットその1と言ったな?と言うことは他にもあるのだろう?その2はなんだ?」

 

「…僕の帝具です。」

 

それにはすかさず大臣が反応する。

 

「帝具の名称と能力を教えてもらえますか?」

 

「【生殺与奪】オペレメディカル…これが僕の帝具です。能力は…実際見た方が早いですね。」

 

そう言って、僕は普段はずっとしている黒皮の手袋を外す。それに兵士が身構えるが…

 

「クスクス…今はそんな危ないものは出しませんよ……はい。」

 

そう言って、床に向けて器具を出していく。注射器、メス、クーパー、輸液、縫合糸、etc.…。それも本来の大きさで。

 

「なるほど、ラザール医師の診療所が潤っていたのは、器具を買う金が必要無かったことも理由の一つか。」

 

御名答です、ブドー大将軍。

 

「えぇ、それにこの帝具のすごい所は、僕の摂取した毒や薬を自動で生成出来る点にもあります。これを利用し、僕なりに新薬の合成なども行っていました。ブドー将軍の治療に使ったのもその新薬の一部にあたりますね。」

 

「ふーむ、なるほど。」

 

「それに…」

 

紋章から、攻撃用の注射針を出す。

 

「このように、器具のサイズの変更も自由ですので、物によっては攻撃用の武器にもなり得ます。こちらも出せる器具の量は僕の力量次第。器具の強度などもそれに左右されます。僕自身、護身術の類は嗜んでおりますので、弱くはないですよ。」

 

にっこりと笑って、いかにも僕は殺さずにいた方が良いですよとアピールをする。

 

「ふむ、では最後に聞きます。」

 

大臣から最後の質問らしい。

 

「何でしょう?」

 

カンザシの毛並みを変わらずに撫でながら、聞き返す。

 

「貴方が革命軍に行かなかった理由は何ですか?」

 

「あぁ、それは単純明快ですよ?___ただ、僕らの『平穏』が保証されない所に行きたくなかったからです。要するに保身です。」

 

「ふむ、そうですか…己の欲望に忠実であることは、時に何よりも信用出来る理由にはなりますし…8割方は信じても大丈夫ですかね…(後はどうやって彼を帝国に縛り付けるか…)」

 

 

 

と、その時、事件は起きた。

 

「へ、陛下?どうされました?」

 

何やら皇帝陛下がモジモジソワソワしている。どうしたのだろうかと思ったその時。

 

「医師ラザール、その危険種はお前の命令は絶対なのだな?安全なのだな?」

 

いきなり皇帝がそんなことを聞いた。頭にハテナを浮かべながらも、はい。と答えると…

 

「皇帝命令だ!その狐を余にも撫でさせろ!」

 

「………はい!?ちょ、陛下!?」

 

大臣が慌てる。なんか面白い。

 

「えぇ、僕は全然構いませんが…カンザシもいい?」

 

「別に構わんぞ?」

 

「良いそうでーす。…でもこのサイズじゃ警戒されるか。カンザシ手乗りサイズ。」

 

「承知。」

 

クルリと宙返りをすると、次の瞬間には僕の手乗りサイズにまで小さくなったカンザシ。

 

「大臣、ブドー大将軍殿。このサイズなら大丈夫ですか?」

 

「…狐だからか。まぁ、構わんだろう。そのサイズなら、もし何かあっても私が陛下を守れるだろうしな…」

 

「ブドー!…だ、大臣は!ダメか!?」

 

陛下の上目使い+潤目。断ったら大臣の何かが終わる。それを察知したらしい大臣は渋々と許可を出す。それに子供らしく目をキラキラさせて全開の笑顔を向ける皇帝陛下。そして、陛下は玉座から降り、こちらに走ってくる。

 

「医師ラザール、良いそうだ!撫でても良いか!?」

 

「ええ、どうぞ」

 

皇帝の小さな腕にスモールサイズなカンザシを乗せてやる。すると、

 

「わあぁぁぁ!ふ、フワフワだな!絹より何倍も素晴らしい肌触りだ!だ、大臣!ブドー!凄く可愛いぞ!」

 

…うん、子供らしく可愛らしい反応ですね。皇帝はカンザシの体に顔を埋めたり、頬ずりしたり、普通に撫でたりと、大変楽しそうにしている。確かにカンザシの毛並みは極上中の極上です。さらに、僕はそれを維持すべく、ブラッシングやトリートメント、彼女に使う石鹸にまで気を使い…((ry

ま、兎も角、皇帝陛下はカンザシを気に入ったようです。だからでしょうか、次に彼のした発言に僕は固まった。彼にはきっと他意はない。ただ、カンザシと過ごす時間が欲しくなっただけ…でも、

 

 

 

「よし、決めたぞ!医師ラザール、お前を」

 

 

 

 

_____帝都帝下直属医療部隊隊長に任命する!

 

 

 

これは何かおかしくないですか?

 

とりあえず…死ぬ方向からはそれた…が、どうしてこうなった!

 

 

 




捕まっちった☆テヘペロなお話でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝下直属医療部隊

2017/10/31 改稿しました。
ハッピーハロウィンです。お菓子くれなきゃイタズラするぞ。
ということで、作業BGMは「Happy Halloween」でお送りしました。



 

「医師ラザール!お前を帝下直属医療部隊隊長に任命する!」

 

「おお、それは名案ですなぁ!誠に陛下は聡明でいらっしゃる。」

 

「ラザール医師の腕の良さは私も知っている…問題はないな。」

 

ドドン!という効果音がつきそうな程に堂々と言い切った皇帝。ここぞばかりに同意する大臣。ブドー大将軍はいつだって皇帝の味方。

どなたか、お客様の中にツッコミのできる方はいらっしゃいませんか!?

 

「異論は認めん!これから頼むぞ、ラザール!」

 

皇帝の念押しに、もう逃げ場がないことを悟る。

…となると、ここからは切り替えて交渉を始めないとならない。片や悪徳されど行動の速い大臣、片や皇帝モンペの帝国最強の大将軍。先手を打たなければ、どんどん不利になっていくのは明白。

 

「では、烏滸がましくもいくつか頼みがあるのですが、聞いてはいただけないでしょうか?」

 

「うむ、こちらから頼むのだ。無理難題でなければある程度のことは聞こう!」

 

…なるほど。大臣の入れ知恵さえ無ければ、普通なのか。大臣がいなければ将来、名君と呼ばれていただろうな…勿体ないことだ。

 

「はい。僕がストリートに店を構えているのはご存知のことだと思います。」

 

「うむ、確かに。それは大臣から聞いておる。」

 

「自分で言うのも難ですが、なかなかに盛況な診療所であると思っています。一般のお得意様も多く、さらにそのほとんどが商人です。それに、治すために数日通ってもらっている患者もいます。簡単にあの店を捨て、こちらに就くのは正直医者として認められないことです。」

 

「確かに、周りの住民に聞けば、そこそこ大きな商団の通いも多いとか…陛下、今は何か条件を付けてあげた方が良いことと存じ上げます。」

 

まさかの大臣の援護射撃に少し驚く。…僕を手放さないことの方が重要ってことかな?…この様子なら、もしかしたら“ルナ”との関わりを暴露した方が、今後の大臣との付き合いの上で良いかもしれない。僕の手札を一枚失うことになるけど…背に腹は代えられない。あとで個人的に話す機会があることを祈ろう。

 

「うーん…ならばとりあえずは慣れるまで3日に一度の参内で許そう。良いか、慣れるまでだぞ!なれたら期間を広くするからな!」

 

わぉ。思ったよりもサービスいいねぇ。

 

「ありがとうございます。」

 

「ラザールは何歳だ?」

 

「?15ですが…」

 

何故にいきなり歳を聞く?まぁ、隠す事でもないので正直に答えるとぱあっと顔を明るくする皇帝。

 

「そうか!なら、王宮内にいる者達の中では比較的、余の歳に近いな!うん、なんだか嬉しいぞ!宮殿で余を見かけたら気軽に話しかけてくるが良い!」

 

「はぁ、畏まりました。」

 

どうやら皇帝に気に入られたようです。

 

 

 

 

 

そして、時間はとんで数日後。薬の納品も兼ねて初の参内をすると、待ち構えていたのはまさかの大臣その人でした。医療部隊に僕を紹介するため、大臣の先導に従い廊下を歩く。ついでに宮廷内に部屋を作ったからと、案内を受けながらお話をすることに。驚いたけれど、とてもナイスタイミング。

 

「有能なのは耳にしていましたが、まさか貴方が帝具持ちとは思いませんでしたよ。これから、陛下の為によろしくお願いします。」

 

「はい、精一杯務めさせていただきます。僕もまさか言うことになるだなんて思ってもいませんでしたよ…厄介事は徹底的に避けていくスタンスで今までいましたから。」

 

「ほほう、せっかく力があるというのに勿体ない。力があれば、それに見合った権力が欲しくなるものでは?」

 

「いえ、僕の場合は多分快楽主義な面が大きいんだと思います。基本的に自分本位に動きますから。」

 

「欲のない人ですねぇ。扱いにくいことこの上ないですよ。」

 

「いえいえ、逆に言えば興味さえ持てばとことんやり尽くしますよ。それに、これはこれで楽しそうだ。…あぁ、そうだ、大臣殿。」

 

「何でしょう?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。小さめの木箱一つでいいと頼んだにも関わらず、大きなものをそれも2つも。非常に助かりました!」

 

「!!!ククク…貴方だったんですか。それはよかったです。まぁ、とりあえずいつもクスリの納品ありがとうございますとでも言っておきましょうか。貴方のクスリは本当に素晴らしい。」

 

「こちらこそ、いつもご贔屓にありがとうございます。近々新作が出来ますが、サンプル、要りますか?」

 

「おや、それは是非いただきたいですねぇ…楽しみです。」 

 

「なら後ほどカンザシに取りに行かせます。今度お渡ししますね。」

 

「さすが、帝都一の医師。仕事が早い。」

 

「いえいえ、お世辞でも嬉しいですが、きっと上には上がいます。僕が帝都一だなんて。」

 

「世辞では無いですよ。変なところで謙虚ですねぇ…っと、さぁ着きました。ここが医療部隊の待機所兼事務所と言ったところですかな。」

 

「ほぉ…」

 

目の前には玉間程ではないが、そこそこ大きな扉。色は白。今日の僕は白衣ではなく、黒の白衣…黒衣?を纏っているので、なんだか対称的だ。

 

「準備は良いですか?入りますよ。」

 

「えぇ、大丈夫です。」

 

ガチャリ

 

見た目ほど重くないのか、意外と軽い音をたてて扉は開かれた。

 

「失礼しますよ。」

 

「こ、これはオネスト大臣!こ、このような所に本日は何用で…?」

 

「先ほど連絡は受けたと思いますが…明日以降、ここの隊長が代わります。それについて話にきました。」

 

「オネスト大臣。」

 

カツカツとヒールの音が聞こえ、大臣の前に堂々と一人の女性が立った。

 

「何でしょうか…アルエット殿。」

 

「……私とキリク元副隊長が明日以降どうなるのか、連絡を受けておりません。」

 

驚いた。てっきり“なんでいきなり来た奴が隊長になるんですか!?”とでも怒るのではないかと思っていた…。さて、命令に忠実なだけか、表向きの話か…ま、後者だと思うけど。

 

「あぁ、それは今後すべてラザール医師に一任する予定です。階級に関しても彼の指示を聞いてください。」

 

「…畏まりました。」

 

「ではラザール医師、挨拶してください。」

 

…あぁ、これ僕に丸投げされた感じかな?ふざけんなよ、大臣!

…とか思いつつ、一拍遅れたが僕は部屋に足を踏み入れる。

 

「初めまして?なんやかんやあって任命されました。ラザールです。よろしく…はしなくても良いけど仕事の妨害は許さないから、その辺だけはよろしくね?まぁ、やるなと言ってもやってくる奴はいるだろうからあらかじめ言っておくと…仏の顔も三度まで、とは言うけど僕は仏じゃないので2度目はありません♪」

 

にっこりと笑って言ってやる。

よろしくお願いしますなんて言うとでも思ったか、バァカ!お前らの顔で、よくわからん恨みつらみが籠もった視線にくらい気づいてんだよ。生憎と僕は実力主義だから。よろしくしたくなくても実力で認めさせてやんよ。覚悟しとけよ、馬鹿ども。

 

「…まだガキじゃないか」

「こんなのが明日から隊長!?」

「幸先不安ー」

「アルエットさんの方が絶対腕も良いよな…」

 

ボロクソ言ってくれてんじゃん…ま、いいや。

 

「言っておきますが、彼の腕は私とブドー大将軍も認めてます。それに、今の軍の支給品の薬は彼が制作したものです。あんまり舐めてると痛い目見ますよ。…それでは、ラザール医師、あとはお願いします。」

 

「はいはーい。承りましたー。」

 

大臣の発言に皆が驚き固まる中、大臣は出て行き、バタンと音をたてて扉は閉まった。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

数秒の沈黙。さて、それじゃあまずは…宣戦布告から!

 

「じゃ、これからよろしくお願いします。まぁ、しばらくは3日に一度しか来ないのでほとんど任せる形になりそうですが…舐めたまねしたら容赦はしません。そこんとこ覚えておいてね♪」

 

「…アルエットです。一応元隊長です。これからは貴方の補佐として動くことになると思いますので、よろしくお願いしま「あー、結構ですよ?」…は?」

 

再びにっこりと…今度はちょっぴり黒く笑って言う。

 

「認めてもいない奴に従いたくなんてないでしょ?それに僕にはちゃんと専属補佐いますし。僕を認めるまではここの決まりと仕事についてだけ教えてくれれば良いですから。あ、勿論他の皆さんについても同様です。僕を認めてくれるまで、僕を信用しなくても結構です。認めてくれた人にはそれなりの誠意をもって返しますが、それ以外の方は僕も信用はしませんから。…でも仕事が上手くいかないの、僕嫌いなんで。僕を困らせようとして変に嫌がらせをしてきた場合は…ね?まぁ、……分かりますよねぇ?」

 

ゴクリと誰かが息を呑んだ音がした。僕は今この空間の支配者。テイマー舐めんなよ?このくらいは朝飯前なのだ。

 

「あ、そうだ、その肝心の補佐呼ぶの忘れてた…カンザシ~?」

 

カンザシの名前を呼ぶと次の瞬間

 

ダダダダダダダ……バァン!!

 

走る足音と部屋の扉が勢いよく開かれる音が響いた。

 

「ハァハァ…こ、皇帝をまくのに、思ったよりもかかった。すまぬ、主!あのデブ…いや大臣に何かされていないか!?」

 

「ふふ、大丈夫だよ。カンザシ、挨拶。」

 

「承った。…初めましてとでも言っておこうか。我が名はカンザシ。好きなモノは主。敬愛しているのも主。従うのも主だ。よろしくは…した方が良いのか、主?」

 

「どちらでもいいよ。」

 

「うむ、なら主とよろしくした奴にのみよろしくしてやる。以上だ!」

 

「ということで、彼女が基本僕の補佐になるから、お願いねー」

 

シーーンと静まり返ったままの部隊員。…イラッとしたので、ガンッ!と壁を殴ってみる。ビクッと体を揺らした皆さん。

 

「へ ん じ は ?」

 

語尾にハートをつけるレベルの優しさで、かつ圧力をかけて聞く。

 

「「「「は、はい!…お願いします!」」」」

 

うん、よし!

 

「じゃ、早速だけど簡単に仕事教えてくれます?アルエットさんは僕、キリクさん?はカンザシにお願いします~。」

 

「「は、はい!」」

 

 

 

 

こうして無事に(?)隊長就任は完了したのだった。

 

 

 




帝下直属医療部隊
・作者の妄想によりつくられた部隊。多分エリート集団。
・皇帝を中心に、大臣とか将軍とかの健康を守る主治医たち。
・命令があれば戦場にも付いて行くことがある。

裏設定
帝下直属医療部隊とは別に、もう一つ医療官僚の部隊がある。そっちは普通の一般兵なんかをメインに診る医者たちの部隊。因みに、ラザールが支給薬作る前に支給薬を作っていたのはこの人たち。仕事が減って嬉しいようなプライドが傷つけられたような複雑な気分でいるとかなんとか。

オリキャラ登場ごめんなさい。
★アルエット
・医療部隊の前隊長
・女性
・美人だが本人に自覚はない。が、決して鈍感ではない。原因は、昔から義母に醜い子と言われ続けた事による思い込みからきている。
・基本ハイスペックだが、何故か掃除ができない。よく部隊の部屋を散らかす。
・結構な目利きで、ラザールのことは初見でただ者では無いことを見抜いていたが、納得は出来ていなかったため、ラザールに“認めるまでは補佐せんでよし宣告”を受けた。

★キリク
・医療部隊の前副隊長
・男性
・顔立ちは特に特筆すべきことはない(要するに平々凡々)
・アルエットの事が大好き(loveの方で)なので、ラザールがあんまり好きではない(イケメン撲滅的な方向で)。
・アルエットには劣るがこちらもかなりの目利き。ラザールのことを初見でなんかすごそうくらいには思っていた。が、イケメン撲滅的思考回路により、ラザールに厳しい目を向けていたという設定があったりなかったり。

★その他の皆さん
・イケメンから平々凡々まで様々な男性がいます。女性も同様。
・男女比は7:3くらい?帝下直属というだけあって多分人数はそんなに多くない。20人くらい?
・ラザールがただ単純に気に入らない人から周りに流されてるだけの人まで色々います。

…ま、そんなことすぐに言えなくなりますけどね(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話休題~日常~
少年の憂鬱


2017/10/31 改稿しました。
作業BGMは「ハロウ!ゴーストシップ」でお送りしました。
ドハマりしたので、しばらく作業BGMがこれに固定されます(笑)

前話から少し時間が飛んでいます。


今の僕のやりきれない気持ちを聞いて欲しい。

数十日前、いきなり帝都警備隊にひっとらえられた僕。何故か皇帝陛下の直属医療部隊に入れられ、隊長職に就く羽目になったことはご存知のことだと思う。そして、医療部隊の皆さんがそれをそんな簡単に納得出来ないことであろう事実も何となく察していることと思う。だから、あの日…僕は皆さんに宣戦布告した。

 

僕にとって、あれは一種の賭けであり、遊びだった。そう、何日で医療部隊員たちを掌握し、従え、僕好みで僕色な隊を作り上げるか。すべては僕らの平穏な生活のために。そういうゲームの筈だった。

 

なのに……

 

「あ、ラザール隊長おはようございます!今日連れてるのはマグルですか!」

 

「隊長おはようございます~!!朝からマグルちゃんを見れるなんて、今日は良いことがありそうです!」

 

「「「「「おはようございます!」」」」」

 

「…うん、おはよう。」

 

……どうしてこうなった!

 

「あら、隊長おはようございます。今日はマグル君が一緒なんですね。…って、カンザシ補佐はどこに?」

 

「おはようございます、アルエット女医。カンザシは陛下に見つかり、捕まりました。」

 

「そうですか…陛下はカンザシ補佐が大好きですねぇ。……補佐とあろう者が隊長の側を離れるなんて…いつか必ず私の方が補佐に相応しいことを分からせてやるわ…うふふ。」

 

後半の台詞はボソリと誰にも聞こえないように呟いたのだろうが、細胞単位でハイスペックな流石な僕には丸聞こえである。ちなみにカンザシの正体が危険種だと知っているのは皇帝陛下と大臣、ブドー大将軍だけ。実はロクゴウ将軍は勿論、ナジェンダさんもこの事は知らない。

…まぁ、それは置いといて。

このアルエット女医を見て、お分かりいただけただろう。僕は見事(多少の歪みはあれど)信頼を得ました。やったね…達成感皆無だけどな!!

 

 

 

信頼を勝ち取れたのにどうして僕がこんなに不満げなのかと言うと、この状態が、隊長就任からわずか10日で形成されてしまったからである。もっとかかると予想していたからこそのゲーム計画だったというのに。単純すぎて逆に不安だ。

 

ゲーム開始日…つまり隊長になった日の最初のお仕事は、いきなりだったけど怪我人の手当てだった。陛下直属の僕らが何故下っ端兵士の手当てかと言うと、単に人手が足りないからと、将軍経由でお手伝い要請が来たからだ。それに僕は直属隊員の数名を連れて行った。基本僕らは定期的に大臣、将軍方のカルテをチェックして、毎朝陛下の体調検査するのが仕事だ。あとは…季節や体調に合わせて食事バランスなどを料理人の人たちと一緒に考えたり、依頼に合わせて薬を調合したり、個人的に薬の研究をしたりするだけらしく…まぁ、ぶっちゃけ結構暇らしい。しかし、勿論そこは流石エリート。自主的に一般の医療部隊のお手伝いに行ったり、新薬の開発に努めたりしていて、素直に感嘆した。

 

 

話を戻すが、まぁ、要するに僕が兵士1人の手当てにかける時間や完成度が異常に良いことに気がついた直属メンバーは、僕を侮っていたことを恥じたらしい。結果、その時の僕を見ていたメンバーは僕を認めた。…ま、聞いた話だし、本当かどうかは知らんけどね。

 

そしてその次の日。僕は帝都メインストリートの自分の店で今まで通りに運営してた訳なんだけど…それを見にきた隊員が数名いた。あ、勿論僕を認めていない奴らね?多分、偵察でもしに来たんだと思う。で、またしても其処で僕の腕を見た隊員は以下略ということで僕を認めたそうな。

 

…というのが何度か続き、気がつけばたった10日で隊員全員に認められていた。元々人数が少ないのもあるだろうけれど、解せぬ!まだ僕指導っぽいこと何にもしてない!つまらない!理解はしても納得はしていない感じだ。

 

気分が晴れない。

 

「あとでフェルたちと昼寝でもするかな…。天気も良いし…中庭辺りでやるか。」

 

そして僕は今日の仕事を開始する。……はぁ。

 

 

 

 

 

アルエットside_____

 

私は、自分の腕と知識にそれなりに自信を持っていた。勿論、それを更に磨くための努力を惜しんだことはない。…けれど、直属医療部隊というエリート集団の隊長になった私は…やはり、どこかで慢心していたのかも知れない。彼が来て、そう思うようになった。

 

 

数十日前、いきなり、部隊宛てに急ぎの伝達が来た。聞けば…

 

『×日をもって、直属医療部隊隊長を新たにする。アルエット現隊長、キリク現副隊長はその役を外れることとする。』

 

耳を疑った。私たち直属医療部隊はこのどこかおかしな帝都の中、数少ない良識派に属していたと思う。勿論、大臣に消されないためにたまに賄賂程度は最低限おこなってはいたが、あくまで必要悪だと思える程度にだ。だと言うのに、隊長職の代替わり?しかも大臣の合意の上だという。正直、信用出来なかった。

 

大臣に連れられてやってきたのは…うん、見紛う事なき美少年だった。自分の方が年上の筈だが、纏うオーラは間違いなく私以上。更に個人的に言えば、皇帝陛下もかなりのカリスマの持ち主だと思っていたのだけれど、彼はこれほど上に立つのに相応しいと思える人はいないと本気で思える程のものを持っていた。先恐ろしい才能だと直感した。ガキだと見下そうとも思わなかった。しかし、大臣が連れてきた者であることに変わりはない。その美貌の裏はどれほど腐敗しているのだろうか、どうやって大臣に取り入ったのだろうかとみんなで疑っていた。

けれど、彼は私たちが疑っていたような人ではなかった。視野が広く、手が足りない所にすぐに気づいてヘルプに入るし、患者との対話も上手い。技術に至っては何も言えない程で、もはや神の如く。あの変態カマ科学者なんかよりもずっと繊細で綺麗な動きに見えた。…あの歳で身につくであろうレベルを裕に越え、『神ノ御手(カマ野郎の帝具)』にも遜色ない動き…私が見てきた医師の中では間違いなく一番の腕。加えて前述したあのカリスマ性。

 

“『補佐』として認められたい”

 

いつしかそんな思いが心の中にくすぶっていた。でも、彼の補佐の座はカンザシと言うやけに彼と息のあった存在のもので。いつか絶対その座を奪ってやると言う志のもと、私は今副隊長として彼の側にいる。

 

「絶対認めさせてやるんだから…!」

 

何故か椅子ではなく机に座ってカルテとにらめっこをする彼を横目に、私は書類の手を進めた。

 

 

 

 

 




初のアルエットさんsideでしたー。
アルエットさんは多分ナジェンダさんと同じくらいの年齢だと思う。

追加でテイムされた2匹
★シオン
・種族名:妖鴉
・特級上位種
・風を操る大鴉。マーグファルコンよりも少し大きい。
・赤い目、三本足、四枚翼の黒に近い濃い紫の鴉。
・東洋では八咫烏とも呼ばれているらしい。

★リン
・種族名:麒麟
・超級
・雷を操る聖獣
※作者のイメージとしては、モン○ンに出てくる麒麟まんまです(笑)

以上。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐の予感

2017/11/01 改稿しました。
本日の改稿作業は1話だけになります。すみません。
課題やってきます。



店というのは、営業を重ねることで客に理解される。“噂”や“評判”が流れることで出来上がる一種のブランドというわけだ。店が良い意味でブランド化すれば、俗に言う『常連』や『お得意様』が出来る。その『常連』や『お得意様』が出来たとき、店の品質は勿論、店の従業員やサービスをいかに上手くアピールするかで“成績”は大幅に変わる。“店の良さ”を知った人が増えれば増えるほど店の客足は増える。

 

すなわち、“情報”の集まる場となる。

 

特にこの帝都の中では、“良い店”は間違いなく“情報の中心”だ。

これはあくまで僕の持論だけど、間違ってはいないと思うんだよね。

 

 

 

「ちょっと、ラザール君聞いてる?」

 

「あぁ、すみません。ちょっとぼんやりしてました。で、何でしたっけ?」

 

「だから、ナイトレイドよ、ナイトレイド!私たちの友人がこの前、夜の帰り道で見かけたんだって!」

 

「見間違えかと思ったらしいんだけど、よく見たらあのアカメがいたんですって!怖いわ~!」

 

「アカメ…ですか?」

 

「あれ、知らないの?流れてる手配書見てない?」

 

「えぇ、すみません。最近軍の方が忙しくて…」

 

「ホント、ラザール君、可哀想!疑いかけられて、それを晴らすために軍属させられるなんて…」

 

「こんな良い子を…ラザール君、呉々もそのまま成長していってね!」

 

「あはは…」

 

今僕の目の前でマシンガントークを繰り出したのは、お得意様である20代前半頃のお姉さん三人組。女ってだけあって噂話が大好きみたいで、よく色んな情報を吐き出してってくれる良い人たち(絶好のカモ)だ。暗殺集団とあろうものが他人に姿を見られるなんて失態を何度も冒すものか分からないから信憑性としてはあまり高くはないが、火のないところに煙は立たない。頭に入れておいて損はないだろう。

 

「それに、この前!夜の路地裏で返り血を浴びたような姿の、あの手配書のシェーレって子、見た人もいるらしいわ!」

 

「ラザール君、軍属って理由だけでは狙われないかもだけど…気をつけてね!」

 

「…うん、そうだね。ありがとう、おねーさん方♪忠告のお礼に今日の薬代、ちょっと割引してあげるね♪」

 

「あら、そんなつもりじゃ無かったんだけど…いいのかしら?」

 

「いいの、いいの♪そのかわり、また何かあったら教えてよね。」

 

「「「任せといて!」」」

 

「ありがとう♪」

 

「はぁ、もうラザール君ったら商売上手ねぇ…」

 

「働き者だし…」

 

「オマケに美少年…」

 

「「「お婿に来ない?」」」

 

「あはは、おねーさん達位綺麗な人ならもっと良い人捕まえれるよ。それに、僕まだ15だし、結婚なんてまだまだ先だよ。」

 

「あら、残念」

 

「断られちゃった」

 

「ま、ラザール君ほどの良い男なら綺麗で可愛い子選り取り見取りだろうしねぇ…」

 

「ふふっ…それは無いよ。…って、あ。おねーさん達時間大丈夫?」

 

「「「…あっ!」」」

 

「ありがとう、ラザール君!」

 

「じゃ、また来るわね!」

 

「バイバーイ!」

 

「はーい。またのご来店お待ちしてます♪……ふぅ。」

 

彼女達の噂話は風より速いと思う今日この頃。実際、街にそれが広まるのが彼女が僕に教えてくれた日より遅かったりするし。女って怖いなぁ…助かってるけどさ。

 

「主、お疲れ様じゃな…。しかし、シェーレか…。前まで常連だったのに来なくなったと思えば、まさか暗殺家業とはな…普段の天然度合いを見ると信じられんよ。」

 

「まったくだね~。人生何が起こるか分かんないねぇ…。」

 

「本当にな…」

 

足元にすり寄るニャルがゴロゴロと喉を鳴らした。頭を撫でてやりつつ、カンザシと会話を続行していると、急にニャルが唸りだした。

 

「グルルルル…」

 

「ニャル?どうしたのだ?珍しい…主、ニャルに何かしたか?」

 

「何にも。……はっ!この唸り…まさか!?」

 

思い当たったその瞬間、後ろからものすごい勢いで誰かが抱きついて来た。…いや、誰かなんて分かってるよ…。相変わらずいきなり来るなぁ。

 

「イラッシャイマセ…レオねーさん…」

 

「あっれー?分かっちゃったか!まぁ、いいや。ヤッホー、ラザール少年!!お姉さんが来たぞぉ♪」

 

「レオーネ!貴様、主から離れろ!まったく…ニャルが唸っていたのはコイツが近くに来たからか!」

 

「ちょっとちょっと、お客に向かって貴様ってヒドいな~!ラザールからも何か言えよ!」

 

「主、こんな痴女の言うことなど聞く必要はない!」

 

「痴女って…カンザシだって着物着崩してるだろ!」

 

「貴様みたくそんな卑猥な格好ではないわ!大体、お主は露出が多すぎるのじゃ!」

 

「はぁ!?カンザシもだろ!」

 

「妾はお主ほど胸も足も出しとらん!」

 

「私がどんな格好をしようが勝手だろう!」

 

「黙れ、この露出狂女が!いいからさっさと主から離れろ!主が穢れるわ!」

 

「んだと!?やんのか?」

 

「上等じゃ、覚悟せい!」

 

「……二人とも、近所迷惑。そして五月蝿い。喧嘩するならどっか行け。邪魔だよ。」

 

「「すみません/すまぬ…」」

 

「まったくもう…はぁ。」

 

カンザシとニャルはレオねーさんことレオーネさんが嫌いだ。レオーネさん、見るからに猫っぽいし、イヌ科のカンザシとは相性悪そうだもんなー。

ま、苦手なのは僕もなんだけど。

出会い方からしておかしかったもの。ピエロもびっくりなインパクトだった。もともと彼女の性格が僕の苦手ゾーンっていうのもあるとは思うけど…。

 

 

 

 

 

彼女との出会いは、ある晴れた日のことだった。

 

「追われてんだ!ちょっとだけ匿ってくれ!」

 

そう言われて、あの日彼女は店に駆け込んできた。悪い人じゃなさそうだったし、切羽詰まった様子だったから、僕はとっさに店の中に彼女を隠した。…隠してしまったのだ。

 

「おい!いきなりすまんがこの女を見てないか!?」

 

何やら、怖いお兄さんやらおじさんやらが大量に(20人近いと思う)来て、僕に似顔絵を見せてきた。そこにはさっき匿った女性の顔があった。だから、誤魔化しつつも事情を聞くことにした。

 

「彼女ならアッチに走っていきましたけど…彼女何かしたんですか?」

 

「コイツ…レオーネはなぁ……金借りたまま返しに来ないんだよぉぉ!!」

 

「…ええと、つまり?」

 

「借金だ、借金。しかも多額。利子もついてえらいことになってる。オレらとしてもいい加減返済してもらわねぇと困んのよ。」

 

「……頑張って下さい。」

 

僕にはそれしか言えなかった。

いや、悪徳業者かもしれないと思いさり気なく聞いてみたが、利子もぼったくりとかではなく、正当性のある額。今時珍しい、闇金の香りのしない借金取りさん達だった。完全に女性の自業自得である。匿ったことにものすごい罪悪感を感じた。しかし、一度匿ってしまったのだ、今更ここにいますとは言えない。何故?…女の恨みは恐ろしいからだよ。よって、彼女が此処にいると今言えば彼女に恨まれること間違いないので、黙って彼らを送り出した。

そして、おじさんたちが視界から消えたあと、彼女も軽い感謝の言葉を述べて、帰って行った。

 

こうして借金取りに追われてた彼女を助けさせられたのが、彼女との出会いであった…自業自得の癖に。それ以来僕は学んだ。彼女に関わるとろくなことがない。

 

 

ちなみに彼女、レオーネさんは後日、何故かマインちゃんと一緒に、お礼も兼ねてと薬を買いにここに来た。二人が知り合いだったことに驚いた。マインちゃんに会ったのもかなり久々だったので吃驚したが、まぁ、それは置いといて。改めて知り合ったレオーネという女性は、とにかく僕の苦手なタイプだった。スキンシップは激しいし、金使い荒いし…何より自分の意志に正直に行動する。歪んだ僕にはかなり眩しい人間に思えた。それに…彼女の借金絡みの事件に何度巻き込まれたことか!

 

はぁ、今回は何の面倒事を持ってきたのかな…

 

 

 

 

レオーネside_____

 

『メインストリートにある“Eli”という診療所の医者の腕が良い。』

『他のところに比べて治療費も安い。』

『病を手術で治してしまう。』

『彼の手掛けた傷は痕を少しも残さず消える。』

 

“まさに神の子”

 

数年前にいきなり現れて店を開いたソイツは商人達から多大な信頼を受けていた。商人には人を見る目が肥えてる奴が多い。商人という商人に信用されているソイツはまだ10代前半というガキだった。最初は嘘臭いと思っていた私だったが、しばらくしてナイトレイドに加入すると、元将軍であるボスがあの店の常連だったという。聞けば、ボスだけでなくシェーレやマインもそうだとか。

 

「てかその店、この前私を匿ってくれた店じゃね?」

 

そう気づいた私は、マインが数日後に薬を買いに行くというからそれに着いていくことにした。礼も兼ねてな。どんな奴だろう。良い奴かな?狂った奴かな?今の帝国のように腐った奴じゃないことはマイン達の話から察したが、自分で確かめないことには確信できない。

実際に会った感想は、なんというか…天才美少年?行った時、奴…ラザールは帝都警備隊の奴の傷の手当てをしていて、その手際は速く的確。神の子なんて大袈裟だなぁとか思っていたが、あながち嘘では無いかもしれないと思わされた。天は人に二物を与えずというが、コイツは明らかに四物くらいは貰っていると思った。

 

何より驚いたのはあのツン:デレ=8:2(くらいだと私は思っている)のあのマインがデレ増量で接していたことだ。どうやって懐柔したんだ思ってマインに聞くと、昔助けてもらったのだとか。なるほどね。

 

ま、そっからはボスやシェーレに頼まれて店に薬を買いに行くことが増えた。ライオネル装備者の私にとっては薬なんてあまり塗る機会は無いけど、そんな私にも確かに納得させるだけの効力がラザールの薬にはあった。

だからか、ボスは彼にしょっちゅう手紙を出しているらしい。“革命軍に来てくれ!といった内容らしいが、一つ言わせてくれ。

 

ボス、あんたはいつからストーカーになった。

 

まぁ、腕はいいし、仲間に欲しいのは当たり前か…

 

「「はぁ……ん?」」

 

何故か私が溜め息を吐くと同時にラザールも溜め息。

 

「ラザール少年、何か悩みでもあるのか?」

 

「レオーネさんこそ、外見からして悩みなさそうなクセに溜め息ですか?」

 

「え、ひどい」

 

ラザール少年の後ろでうんうんと頷くカンザシに腹が立つ。最近、カンザシの影響かラザール少年も黒くなってきた気がする。クソ…すべてはカンザシ(とボスのストーカー疑惑)の所為だ!

 

 

 

「ま、いいや。それで?今日は何の用です?…借金絡みはお断りだよ?」

 

「違う!…まったくもう。今日はちゃんと薬買いに来ただけだから安心しろ。」

 

「へー、何をお買い求めで?てか、今“今日は”って言った?次は何かする気?」

 

「いつもの傷薬。小ケース3個と中ケース2個お願い。遊びには来るかもな」

 

「はーい……(来なくて良いんだけど)」

 

ん?何か今ラザール少年の心の声が聞こえた気が…気のせい?

そんなことを考えていた私だったが、次の瞬間言われた言葉に言葉を無くした。

 

「レオねーさん。」

 

「何だい少年?」

 

「ねーさんはさ…どうして…薬買うお金はあるのに、借金返すお金は無いの?」

 

ピシリとその空間の空気に罅が入る音がした(幻聴なはずがない)。そして、私の心に突き刺さる矢。あぁ、グサッと来たわ…。

 

「借金取りの人達、最近3日に一度は疲労回復の薬とストレス解消方法を教えて貰いにウチに来るんだけど」

 

「…何かごめん。」

 

「いや、そんなこと僕に言われても…。謝罪は僕じゃなくて借金取りさん達にどうぞ。」

 

「…お願い、もう止めよ?私のライフはもうゼロだ。」

 

「はぁ?」

 

「…ゴメンナサイ、ちゃんと返します、はい。」

 

返す言葉もございません。

そんな深刻なダメージを受けた私は、次の言葉に止めを刺される。

 

「…レオーネはニートなのか?」

 

「…はぁ!?んなわけあるか!」

 

「あー、なるほど!」

 

「ちょ、ラザール少年!?違う、違うよ!?」

 

「ニートで無いなら何の仕事をしとるというのじゃ!」

 

「えーっと…マッサージ師!それと…嫌な奴を反省させる仕事?」

 

 

「「…なんじゃそりゃ」」

 

ちょ、二人してそんな冷たい反応するなよー…

はぁ、今日はなんか疲れたなぁ…早くアジト帰って、温泉に浸かろう…。

 

 

 

 

ラザールside_____

 

その後、薬を受け取るとどんよりとしたオーラを出しながら帰って行ったレオーネさん。嵐の後の大嵐撃退完了。

 

 

そして、その日の夕飯中……

 

「嫌な奴を反省させる仕事ねぇ…モグモグ」

 

「恐らくは、腐っとる奴らをブチ殺してあの世で反省させる仕事、じゃろうな…パクパク」

 

「マインちゃんと仲良しな辺り、マインちゃんもソッチ系に行っちゃったんだろうね…モグモグ」

 

「それに、レオーネに染み付いた血の匂い。はじめは、どこかの殺人グループかとも思ったが…パクパク」

 

「…何か分かったの?モグ」 

 

「…今日のアイツからは、ナジェンダの匂いがした。恐らく、あやつ、ナイトレイド所属であろう。パク」

 

「…本当?ってことはマインちゃんもナイトレイド所属の可能性大か。それにしてもナジェンダさんか、……あー、嫌なこと思い出したわ。手紙また来たんだよなぁ…」

 

「ちっ、これからナジェのことはストーカーと呼んでやろう…まったく、主に心労ばかりかけさせよって…」

 

「あー、もうやだ。知り合いが敵って気ぃ抜け無いじゃん!こればっかりは大臣に感謝ー!」

 

大臣は僕が偶に軍属して医療部隊のお手伝いをしている、と言うことしか公表していない。つまり、僕が正式に直属の方の医療部隊の隊長になっちゃってることをみんなは知らない。軍には色々と箝口令強いてあるしバレる心配は殆どなし。まぁ、たとえ漏れたところでこちらで情報操作くらい出来る。僕の人脈なめんなよってことだね!

 

「…手札的にはこちらが有利、かな。」

 

「うむ…じゃが、油断せずにゆくべきじゃな…」

 

「勿論♪」

 

幸いなことにナジェンダねーさんには『僕の帝具はこの古びた医学書』で、『能力は注射器やメスなどの医療器具を出す』としか言っていない。『帝具の本体が僕自身に宿っている』ことも、『医療器具だけでなく薬や毒も出せる』ことも知らない。『細胞に宿っていることで身体能力が異常に上昇している』ことも知らない。

 

 

「まったく…これからが楽しみだなぁ♪」

 

きっと、僕と彼女たちは交わらない。僕達が奏でる音色はきっと不協和音でしかない。これは決定事項。覆されることは無いだろう。

 

まぁ、でも勝つのはコッチ。アカメちゃんとやらはともかくとしても、本当の闇を知らないナジェンダさんたちに、僕が負けることなどありえないのだから。

 

覚悟は良いかな?ふふふふふ♪

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カンザシの苦悩

2017/11/02 改稿しました。
作業BGMはまだまだ「ハロウ!ゴーストシップ」です。

今回はカンザシの愚痴大会です笑
短いよ!


帝都・王宮殿にて、ある日、カンザシは一人思い悩んでいた。

 

カンザシside____

 

妾の主は綺麗な奴じゃ。容姿は勿論のことじゃが、何よりその想いが綺麗なのじゃ。自分に正直…いや、違うな…忠実、か?自分の想いに、欲に、決定に、忠実じゃ。好きなモノはとことん愛でる。嫌いなモノは跡形もなく壊す。だから主の周りに“好き嫌い”は無い。何せ主は好きなものしか手元に置かないからな。ほら、アレじゃ、人に食べ物の好き嫌いがあるようなものじゃ。様々な料理を出されれば、人間は基本『好き嫌いなく、残さず食べなさい』と言うだろう。だが、それが主の場合だと、『好きなものだけ食べる』になっているというだけじゃ。

つまるところ、主は基本、白黒がはっきりついておる。気に入ったなら救う。気に入らないなら殺す。実に単純明快。その純白でいて同時に漆黒である主に妾は惚れた。優しくて同時に酷く残酷で、どことなくちぐはぐな主にな。…あぁ、勿論恋愛感情ではないぞ。妾が主に恋をするなど恐れ多い上、そもそも妾は人間ではない。俗に言う敬愛、親愛の類じゃろうな。

 

…要するに妾が何を言いたいかというと、主は最高の存在だということじゃ!

 

 

 

故に、害虫が多い。

 

綺麗な花には棘がある。美味い蜜には毒がある。美しさに釣られて、身の程を弁えない輩には死あるのみ。棘も毒も避けたところで今度は花自身に喰われてお終い。

 

 

………今までずっとそうだったのに。

帝都に来て、主に“お気に入り”がたくさん出来つつある。

チェルシーはまぁ良い。あの女は主を尊敬し、崇拝し、心酔しておる。裏切ることも無かろうし、主に着いてきた危険種に理解もある。主も彼奴を信頼しておるし、認めんわけにはいかないじゃろう。

 

 

 

…じゃがのぅ…何じゃ?他の人間共は!?

 

まず、マイン!あやつは主にキツい言葉ばっかり掛けよって何様のつもりじゃ!?あんな小娘と比べるまでもなく、主の方が圧倒的に強く、美しく、素晴らしい!主は今流行りの“つんでれ”じゃと言っておったが、主に“つん”は要らん!ただただ主を褒めそやしておれば良いものを生意気な!

 

次、シェーレ!人間的には好ましい部類ではあった。…じゃがな!?あやつは馬鹿か?馬鹿の子なのか?どうすれば人間あんな失敗ができるというのじゃ!?おかしいじゃろう!それにそれに、ナイトレイドなぞに加入しよって!加入したなら加入したで、何か一言連絡くらい寄越せ!『暗殺家業、始めました』とまでは言わん!じゃがな、せめて『諸事情により、しばらく行けません。いつもありがとうございました。』くらいは寄越しても良いじゃろう!?主への敬意が足りん!

 

次、レオーネ!痴女のクセに生意気な。以上!それ以上は言う価値もない!

 

次、ナジェンダ!帝国を出てからもなお、気色悪い手紙を寄越しよって!あやつはいつからストーカーになり下がった!?もはや人間として最低じゃろう!馬鹿者めが!

 

次、アルエット!貴様は良い度胸をしておるな!その度胸と根性は買うが、妾にあの様な態度を働くなど無礼も甚だしい!主の補佐はこの妾じゃ!医者としての主の隣は渡さん!舐めるな小娘が。

 

次、キリク!いけめんなるものの撲滅とはよく分からんが、主を敵視するとは何事じゃ!まぁ、仕事はしっかりしておるし、仕事面では主を尊敬しているようじゃから生かしておるが…反旗を翻したら即…ふふふ。

 

後は……あ、皇帝!いつもいつも妾を見つけては自室に連れ込み、モフモフさせろなど…妾を愛玩動物か何かじゃと思っておるじゃろう!?幼子であることとその権力故に我慢しておるが…はぁ。そして自室に連れ込むのは好いた女だけにしておけ…将来が不安じゃ。

 

それと大臣!とにかく痩せろ!主の最近の悩みの種はは貴様の体調管理じゃぁぁあ!まったく、権力を盾に主を軍に縛り付けておきながら、何じゃそれは!あぁもう思い出しただけで腹立たしい!小賢しい猪め!牡丹鍋にして食ろうてやろうか!

 

 

………。

 

はぁ、苦労が絶えん。癒やしが欲しい……妾の癒し……主か。よし、主の所へ行こう!ブラッシングしてもらいながら甘えに甘えてやる!そう決めるなり、妾は走る。あ、勿論人型でじゃぞ?

 

「~♪♪~~~♪」

 

楽しみじゃぁ♪

 

 

 

 

 

 

 

???side____

 

「……誰だろう。見ない人…侵入者?…いや、それは無理か。私が知らないだけだよね。」

 

そういって私はまた一つ袋からお菓子を取り出し、口に入れる。…うん、美味しい。

 

「おーい、何立ち止まってんだ?さっさとあのクズ共んとこ行くぞ~。さっさと終わらせて戻ろうぜ!」

 

「…うん。帝都のスイーツ店巡らなきゃ。」

 

「……うん、まぁ何でもいいや。」

 

「お前ら何してんだ~?さっさと行くぞ!」

 

「あ、悪ぃ!」

 

今日は久々に研究者達に呼ばれた。また、痛いことされるんだろうな~…まぁ、いっか。スイーツのために頑張ろう。

 

「おら、行くぞ~……クロメ。」

 

「うん。お菓子のために早く終わらせよ。」

 

またお菓子を袋から取り出し、一つ口に放り込んで、私は歩き始めた。

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命

2017/11/03 改稿しました。
3連休なんてないんや…(´・ω・`)

クロメちゃん登場回。


「薬を作って欲しいんです。」

 

「頭が高い。やり直し。」

 

「私、貴方の上司…」

 

「は?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

ある日、僕は大臣の元へ呼び出された。急に呼ばれて何事かと思い、いつもより少し早く行動して来てみれば言われたのはそんな一言。思わず言い返した僕は悪くない。

そんな大臣の今回の依頼であるが…はぁ?の一言に尽きる。

 

「ここだけの話ですが。数年前…特務機関・暗殺部隊の設立にあたり、100人の子供達を各地から集め、殺しの資質を確かめた後、上位7人は暗殺者としての英才教育を施し任務へ。その他の生き残った下位の者には薬物による能力の底上げを施した後、任務への投入を図る…という裏で大規模に行われたイベントがありまして。」

 

「…それ、イベントって言うの?実験の間違いじゃね?え、これ僕おかしくないよね?」

 

「まぁ、それは置いといて。普通、下位の者は利用価値無しと判断されれば口封じも兼ねて殺すことになっています。ですが、一部の下位メンバーは今もなお薬での底上げを行いつつ、暗殺部隊で働いています。それに最近問題が。その下位メンバー達が体調不良…要するに薬の副作用によってバタバタと倒れているのですよ。まぁ、原因は最近開発された肉体強化用の劇薬を摂取させていることによるものだそうですが。利用価値無し…と判断して殺してしまっても良いのですが、中には帝具の保持者もいて迷っていたのですよ。そしたら、どうせだったら賭でもしてみようという案がでまして。」

 

「…賭け?」

 

「今回アナタに依頼するのはそのための薬の制作です。…適応出来れば副作用もなく肉体強化の効果だけ残る。適応出来なければ死ぬ。そんな薬を作れませんか?」

 

「その劇薬作ってる科学者は何してるのさ?薬品開発なめてんの?」

 

作るだけ作って放棄ですか?責任て単語知ってます?ふざけないでほしいなぁ。

同時にこんな依頼をよりにもよって僕にしてくる大臣にも苛立ちが募る。

 

「ねぇ、大臣。僕は科学者じゃない、医者なんだよ。摂取する人間の事も考えずただただ強化薬作ればいいなんて言う格下の尻拭いを、この僕が!どうしてしないといけないのかな?」

 

「なかなか痛いところを突いてきますね…。貴方は何を怒ってるんです?」

 

「こんな使えない薬しか作れない科学者共にだよ!」

 

「ほう?それはどういう意味でしょう?参考までに教えてくれますか?」

 

「…そもそも薬のコンセプトがおかしいよね。強化して体調不良に陥る奴が大量にいるんじゃ、生産者にとっても被験者にとっても効率が悪すぎる。特に被験者側からすれば、いくら任務ではアドレナリン過多で問題なくても、任務終了後には緊張も切れてプツンと倒れてしまうでしょう。で、倒れたらまた薬を飲んで任務まで待機。馬鹿じゃないの?無駄が多すぎる。本人たちのモチベーション的にも非効率としか言いようがないね。」

 

「ふむふむ、では貴方ならどうしたと?」

 

「…被験体を厳選に厳選を重ねて、少数精鋭の部隊として発足。個人個人のバイタルを監査してその個人にあった強化薬を製造するかな。」

 

「その心は?」

 

「有能な人材を長く使うために決まってんでしょ。今のシステムじゃ使い捨ても使い捨て。一々新しい人材を補充して再教育だなんて時間と金と資源の無駄。なら最初から少数精鋭にしてしまって、数年に一度同じく厳選された新人を数人ずつ追加していく方が手間にならないし、最終的な質も上でしょ。経験っていうアドバンテージを持つ人も増えるだろうしね。」

 

「ふむ…一理ありますね。」

 

「で、結局僕はそのくだらないことに貴重な労力を費やさないといけないわけ?」

 

大臣相手に無謀なとか無礼なとか言われようが、僕個人として譲れないこともあるのだ。無礼とか今更だし、徹底抗戦させてもらう。いくら手綱が取り辛くても、僕の利用価値はまだ高いから。生死を問わず僕を失って得るデメリットが大きすぎるが故、大臣は僕を殺せない。ならそれすらも利用して手札に加えておかなければ。手札の効力が切れる前に。

 

「……いえ、依頼を変えましょう。改めて命じます。………」

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ、主?その変な依頼は。」

 

結局大臣の依頼を受け(させられ)、王宮内自室に戻るとベッドの上に腰掛ける。元の姿に戻り甘えてきたカンザシを撫でつつ、例の朝の大臣の要件を話すと返ってきたのはそんな答えだった。まぁ、普通にそうだろう…

 

「…本当にね。何を考えているんだか…僕に()()()()()()()()()()()()()だなんて。」

 

「…前に宮廷で、薬の匂いが染み付いておる者共を遠目に見かけた。そやつらかもしれんな。」

 

「…へぇ!面白そうな子はいた?」

 

「いや、妾は主の元へ急いでおったし………いや、1人おったかもな。まぁ、その1人しか見ておらんが…気持ちの良い禍々しさを放つ刀を持った、主より少し下くらいの年頃の女童が。」

 

「女童…って女の子?」

 

女の子を面白いと言ったカンザシ。珍しいこともあるものだ。それに、カンザシが心地よいと言った刀…恐らくは妖刀の類。もしかしたら帝具かもしれないね。カンザシは祠に祀られていたと言う二対の大脇差を武器の一つとして持っている。だからだろうか、カンザシは妖刀など所謂曰く付きのものに敏感だ。しかもカンザシのもつ妖刀は本当に禍々しいオーラを持つ。つまり、“カンザシが好む禍々しさ”=“たちの悪い・エグい・強い”の三拍子。要するに“最恐”だ。おぉ怖…まぁ、オペレメディカルの奥の手も、ある意味“最凶”かもしれないけれど。…あぁ、話が逸れてしまった。

 

「というか…大臣は阿呆か?普通、そんな都合の良いことができるわけあるまいに。確かに主であれば薬を作ることなど造作もないことであり、薬を使えばそのようなことは容易く成し遂げられることであろうが…」

 

「ふふふ…信頼されてんのかねぇ…。僕が作れることを否定しなかったから、依頼したんだろうし、利用された感があるのは否めないけど。ま、大臣には一応作ってみるとだけ返したし、気楽に行こう。そういう系統の薬は何年か前に制作済みだから、それを改良すればイケるし、楽勝楽勝♪」

 

「……偶に主がすごく恐いと思うのは妾だけじゃろうか。」

 

何かをポソリと呟いた彼女の声はバッチリ聞こえていたけど、敢えて聞かなかったことにした。…さて、改良改良♪僕は早速作業に取りかかった。

 

 

 

 

 

クロメside____

 

 

『暗殺部隊全メンバーに通達。帝都に至急戻られたし。後、次の命令まで待機せよ。』

 

いきなりそんな通達が来て、私たちは帝都・王宮に召集された。この前も来たばかりなんだけどなぁ…こんなにすぐ再び召集が掛かるだなんて何かあったのかなぁ?まぁ、それ私たちには関係のないこと。私は死ぬ気はないけど、私たちは代えの利く駒に相違ないのだから。最近私に渡された薬入りのお菓子。他の子にも何か渡していたし、それ関連の新薬投与か何かだろうと思っていた。

 

…けれど、私達が“あの部屋”に連れて行かれることはなくて。むしろ少し自由に過ごしていて良いと言われた。とうとう処分されるのかなとも思ったけど、それにしては様子がおかしい。科学者たちがどこか不機嫌そう。おもちゃを奪われた子供のような、隠す気のない苛立ちが顕著に顔に出ている。でも、もしそれが気のせいで、ホントに処分されるのだとしても、私はお姉ちゃんを斬るまでは死ねない。何としても生き残るまでのことだ。

 

 

そして改めて数日後。再び通達が来た。

 

『帝下直属医療部隊の医務室へ行かれたし。』

 

通達を受けた私達は騒然となった。“何故?”それしか頭には浮かんで来ない。私達暗殺部隊は、基本医者のいる医務室ではなく、科学者のいる研究室へと連れて行かれる。怪我だろうが何だろうがそれが変わることはなかった。なのに“医務室”。しかも皇帝“直属”の医療部隊。…ワケが分からないよ。しかし、通達は通達。私達に拒否権は無い。疑問と少しの不安を抱えつつも、私達は医務室へ向かった。

 

 

「ハーイ、いらっさーい♪」

 

死すら覚悟して医務室の扉を開けたその矢先、かけられたのはそんな言葉。勿論全員が瞠目、そして混乱。驚きの余り私たちは何も言えず、貝のように閉口してしまう。けれど、それも気にせずに白衣を着た少年は言葉を続けた。

 

(…え、少年?)

 

声の主を見つめる。初発の感想は綺麗な子。しかし、何度見ても、何度目をこすっても、年の頃がどう見ても私と同じかそれより少し上なくらいだった。

 

「ま、リラックスしてよ。ここには僕しかいないし。質問もあるなら今なら聞くよ?自由に発言していいですよー。」

 

「「「「「…………」」」」」

 

確かに周りを見渡しても彼と私達以外に人はいない。それを聞いて、少し余裕の出来たらしい暗殺部隊の一人が彼に問いかけた。

 

「あの…アナタは?それに、オレらは今日、何故ここに来させられたのでしょうか?」

 

「あー、自己紹介してなかったね!僕はラザール。少し前にここに就任した医療部隊隊長だよ。」

 

先ほどとはまた別の意味で驚愕した。彼は今確かに“隊長”と言った…?私と同年代であろう彼。どれほど高い実力があっての地位なのだろうか?

…と、私が思うのと同時に、暗殺部隊の一部の子達の目の色が変わった。…その目に映るのは“憎悪”と“嫉妬”。きっとその一部の子達は「自分たちが苦しんでいるときにコイツは…」とでも思っているのだろう。私も全く思っていないワケじゃない。でも、間違いなく…彼は“強者”だ。それを理解している私は、彼は“比較的まともだ”と判断する。

 

私達が医務室に入った時、彼は私達全員を瞬時に見渡していた。そこで彼は測ったのだろう、私達を。そして彼は“大丈夫”だと判断した。…そう、彼は“自分一人で十分潰せるから『大丈夫』だ”と、判断したのだ。ほぼ直感だが、遠からず当たっていると思う。現に彼は私達を警戒していない。警戒せずとも、向かってくれば殺せると。そう、暗に示している気がした。

 

「さて、ふざけるのはここまでにして、真面目に話そうか。今日君達がここに来たのは…まぁ、御察しの通り薬物投与のためです。」

 

暗殺部隊のみんなが処分じゃなかったことに安堵の顔をした。…けど、私にはそうは思えない。嫌な予感がする。そして、その予感は当たることになる。

 

「皆さんには、この薬を投与します。」

 

そう言って、彼は透明な液体の入った注射器を私たちに見せる。変に色が付いてないせいか、いつものよりも安全には見える。

 

「これは…そうだな、簡単に言えば皆さんがもう苦しまずに済むお薬です。これを今から全員に摂取してもらいます♪」

 

「それはつまり、オレらの体の副作用とかいったものが消えるということか!?」

 

「んー…まぁ、はい。そうですね。」

 

暗殺部隊の皆の顔が喜色に染まった…私と数人の子達以外は。

彼の言った言葉…『苦しまずに済む』…それは本当に助かるもの?私たちはそれを摂取して本当に()()()()()()()()

予感は的中。私達は次の彼の発言に一気に震えることになる。

 

「えぇ、苦しまずに済みます…ちょっと過激な運試し、ですけどね」

 

彼の顔は始めと変わらず、ただずっと微笑んでいた。一気に静まった室内。その顔は“不安”と“恐怖”に上塗りされた。

 

「あ、あの、運試し…って、どういうことですか?」

 

「ん?そのまんまだよ?運試しは運試し。全ては君達次第、運次第ってこと♪」

 

「え…だって、今苦しまずに済むって…」

 

「え?だって…副作用が消えても死んでも、どちらにせよ苦しみからは解放されるでしょ?」

 

 

彼の言葉にやっぱり…と納得。今回投与されるあの薬は…私たちを殺す薬!

 

「お、オレらを騙したのか!?」

 

「えー、何言ってるの?薬の詳しい説明する前に、アンタらが勝手に喜んだだけだし。過度な期待は厳禁ってね。」

 

憤りを露わにする暗殺部隊の皆にむかって彼はあっけらかんと言い放った。確かにその通り。彼の説明の途中で質問なんかするからこう。騙された気になるなんて被害妄想甚だしいよね。それに…本当に彼の言う通りなら…

 

「…その薬に適応出来れば…生きられる?」

 

「えぇ、勿論♪」

 

その回答に少し安心する。完全に信じたわけではないけど、言質は取った。私は死ぬわけにはいかない。お姉ちゃんと一緒にいるために、私は生きて…そしてお姉ちゃんを斬らないといけないんだ。副作用が消えるかもしれない薬……でも同時に、死ぬかもしれない薬…か。そして、彼は中断していた説明を再開する。

 

「じゃあ説明を再開するね?この薬は、君たちを厳選するために作られた薬だ。君たちの命の残量、筋力、実力、精神力、生きる意志…そういった君たちの“強さ”を計り、規定値以下の人間を殺す、そんな薬だ。皆さんの未来を…運命を測定する薬と言っても過言ではないね。で、この薬の効果だけど…説明は君たちが生き残ってからにしようか。生き残らないと説明する意味もないことだしね。まぁ、生き残ったところで悪い効果はないに等しいから安心して。この僕が誓うよ。何なら僕の命も賭けよう。」

 

どの道、この薬を投与されるのは決定事項。避けられないことだ。それに、私は死なない。絶対に!だから、この程度の薬を投与されることなんて、何も怖いことなんかじゃない。

 

 

でも…

 

「な、何言ってんだよ!そんなの…そんなのおかしいだろ!?お前何言ってんだよ!皆も何納得しかけてるんだ!お前が…お前らが殺しておいて…お前らが虐げ、殺しておいて!のうのうと何言ってんだよ!コイツは、この医者面した奴は!ふざけた持論を語って、自分を正当化するクソヤロウじゃねぇか!」

 

馬鹿はどこにでも湧くものだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決断せよ、証明せよ

2017/11/03 改稿しました。

今回もかなり内容が変わっています。一部台詞を別作品より引用しているととれるシーンもございます。お読みの際はご注意を。



 

………気に入らない。気に入らないのだ。彼らの、すべてが。

 

 

 

 

「な、何言ってんだよ!そんなの…そんなのおかしいだろ!?お前何言ってんだよ!皆も何納得しかけてるんだ!お前が…お前らが殺しておいて…お前らが虐げ、殺しておいて!のうのうと何言ってんだよ!コイツは、この医者面した奴は!ふざけた持論を語って、自分を正当化するクソヤロウじゃねぇか!」

 

一人の馬鹿が口を開いた。

 

薬の効力、薬を打たなければどうなるのか、それを僕は提示した。提示された彼らは、一部を除いて、絶望の目で僕を睨んだ。憎悪を隠しもせず、僕に向けた。何で僕が恨まれなきゃならんのさ?僕は依頼を遂行しているだけ。だってお仕事だもの。僕らの平穏のためだもの。恨まれる時点で平穏じゃないかもだけど、今大臣の庇護下を出れば、より平穏から遠のくだろう。それこそ御免被りたい。だから、僕は騙る。僕のキャラに合わないし、僕の主義でも無いけれど、騙る。

 

「……ねぇ、暗殺部隊の皆さん?アナタ達は一度は思った事はありませんか?大臣や上の連中を見て“彼奴は喰う側、使う側の人間だ”と。“自分達は喰われる側だ、その支配からは逃れられない”と。」

 

ハッとした顔で改めて僕に目を向ける暗殺部隊。ニコリと笑って僕は続ける。

 

「ふふ、あぁなんて…君たちは愚かなんだろうね!!悲劇のヒロイン気取りかい?いいご身分だねぇ。…いつまで被害者ぶってるの?」

 

全員の目が見開かれた。僕は今度は真顔で、彼らに鋭い視線を送る。射抜くように、僕は言った。彼らは顔に出していた。“自分達は喰われる側、それ以外に何がある?”と。だから、騙る。

 

「…君たちはどちらでもないよ。早く気づきなよ。…いや、本当はもうきづいているのかな?そもそも、世界は分かれちゃいない。だって、生きるっていうことは、誰かを何かを殺す行為に他ならないもの。他者を食らうことを放棄して、人は生きられない…わかってるよね?だって君たちは、沢山、沢山…殺してきたじゃないか!!任務の中で、沢山、沢山、食らって来たんじゃないの?…理解してるよね?人はいつだって加害者にも被害者にもなる。そこに境界線なんてありはしないよ。捕食者と被食者が分かれているなんて論理は、被害者面して悲劇の主人公ぶりたい弱者が考えた、くだらない軟弱論理だ。」

 

“ねぇ、いつまで目を逸らし続けるの?”

 

そう、暗に聞いたことに一体何人の人が気づいただろうね?

 

 

 

 

 

クロメside____

 

「いい加減理解して?生きるっていうのは、他の誰かを殺すってことだよ?」

 

彼の言葉を聞いて、納得せざるを得なかった。彼の冷め切った言葉に、態度に、私達は無言で返す。確かにさっき仲間が言った言葉はその通り、事実に変わりない。でも、暗殺部隊で生きてきた自分達に最も分かりやすい言葉で、彼は私達に教えてくれた。彼の言ったことは紛れもない、この世界の真理だ。

 

「何を!!俺はまだ死にたくない!俺はまだ戦えるのに、こんな処分まがいのことをされてたまるかよ!いつも薬物投与をしてくる科学者でもない!お前なんざいつだって殺せr…」

 

ドスッ……

 

先ほどの仲間(馬鹿)がそう叫んだ瞬間、何かが刺さったような音が響いた。嗚呼、この音はとっても聞き覚えがある。……何かが肉を刺し貫いた音だ。

 

「…少し、黙りなよ。医者だからってなめないでくれない?一つ、アンタに教えてあげる。君はここで退場するし、墓場までもっていくといいよ。“大切じゃない命なんてない。…つまり、大切じゃなかったら命じゃない”んだよ。僕にとってアンタらは大切な対象じゃない。それがどういうことか分かるよね。」

 

“大切じゃないなら何の遠慮もなく壊せるってことだよ”

 

そんな彼は机に座って足を組み…何かを投げたような形で腕を止めていた。彼を見ていた筈なのに…いつ何を取り出し、投げたのかも分からなかった。身体強化された私達の目で、何も見えていなかった。仲間に刺さっていたのは1メートル以上もある大きな注射針だった。刺さっている場所は丁度心臓の上(命を刻む場所)。仲間は倒れた。きっと苦しむ間もなく逝ったことだろう。

…彼に向き直る。彼は…無表情だった。けど、少し薄めたその目には激情の色がありありと浮かんでいた。…間違いない、怒っている。

 

「…そう、確かに今のは僕の持論に過ぎない。でもさ、この持論があながち間違ってないことは…アンタらが一番良く分かってるんじゃないの?ほら、最初に選別されたときになかったの?誰かが危険種に食われたことで自分が助かったことが。薬で体を弄られる時になかったの?誰かが前にその薬で死んだおかげで自分は改良薬で生き長らえたことが。今までの任務でなかったの?誰かが人を殺したことで、自分の手を汚さずに済んだことが。…ねぇ、どうなワケ?」

 

無性に怖いと思った。同時に彼を眩しいとも。彼は私達を理解した上で、敢えて持論を語った。彼は終始私たちを見渡していた。誰が今どう思って、何を考えているのか。その全てを見られていたような気がした。今こそ彼に“選別されている”と思った。

…決心して、スッと一歩前に出る。彼が少し驚いた後、薄く笑った。やはり彼は眩しい。闇夜に浮かぶ、月のようだ。光の中を照らし無理やり影を投影する太陽ではなく、暗闇の中に静かに影を浮かび上がらせる月光。不覚にも彼に少しドキッとしたけれど、それはあと。私は己の運命と対峙することを決めたのだから。

 

「暗殺部隊のクロメ…その薬、投与を希望する。」

 

それを聞いて、彼の雰囲気が戻る。そして、私に追従するように更に3人が宣誓する。

 

「…うん。みんな良い眼だね♪了解したよ。…で?他の皆さんはどうするの?僕は優しいから、ちゃんと選ばせてあげる。自分の運命に賭ける?それともこれから先の運命を諦める?お好きにどうぞ?」

 

あぁ、彼は大臣たちとは違う。普通なら私達はとっくに殺されてる。兵器が持ち主に反逆するなんて許されないもの。でも彼は私達に選択させる。彼はまさに残酷で優しい死神のようだ。

…少しして全員が心を決めたように投与を受け入れる旨を伝えると、彼は笑った。

 

「…じゃ、始めようか。君たちが賭けに勝つことを心より祈るよ!!」

 

彼がパンパンと手を叩くと、扉から6人の人間が入ってきた。3人は彼の後ろへ立ち、残りの3人は死んだ仲間の死体を片付けていく。死体を持った3人が部屋を退室すると同時に、彼と部屋に残った3人が机の上に並ぶ注射器を持つ。

 

「さ、覚悟ができた人からおいで。」

 

…私は彼の元へ迷わず足を進める。私に続き宣誓した3人も、私に続いて他の3人の医者の元へ向かった。腕を出してと言う彼に従い、左腕を差し出す。彼はそれ以上何も言うことなく、ただニコリと笑って、躊躇うことなく私の腕に注射針をさした。薬が体を巡り…少しして熱くなる私の身体。

 

「カンザシ、投薬された人を病室へ。医務官たちから許可は貰ってるから。」

 

「分かった。」

 

「ハ…ハ…」

 

熱い…熱い!苦しさに思わずドサッと地面に崩れ落ちた。…痛いよ。苦しいよ。辛いよ。…でも、死にたくないよ。負けたくないよ。

吐き気がこみ上げてくる。生理的に涙が零れる。苦しさで呼吸が出来なくて、口を閉じれない。口の端から唾液が伝って床に落ちる。五感が上手く機能しない。彼が何かを言ったのは分かったけど、なんて言ったの?誰かに抱き上げられた気がする。誰だろう、私を何処に連れて行くの?

 

……私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

目が覚めた時、私は病室にいた。

生き残っていたのは、私を含めてたったの6人だった。

 

 

 

 

ラザールside____

 

あの日、薬を投与してたった数十分後、息をしていたのはたったの10人だった。

そこから一人消え、二人消え、最終的に生き残ったのは6人。

 

彼らの体調管理は僕に一任されることになった。もともと彼らを管理していた科学者どもはまた別の暗殺部隊を作らされているらしい。大臣も懲りないね。まぁ、僕が失敗した時の保険でもあるんだろうけど。こういうことにおいて僕が失敗するなんてありえないのに。

 

目下の悩みは彼らへの対応の仕方かな。僕好みに調教しちゃおうかな。それとも普通に大臣に引き渡そうかな。…彼らはこれから、大臣にどう利用されていくのだろう。

 

…自嘲するように少し笑って、僕は死体処理の為に人を運ぶ。燃やされる死体を眺める目が少し寂しげだったことに僕を含め誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お転婆娘()とお説教

2017/11/04 改稿しました。
作業BGMは「フリィダムロリィタ」でお送りしました。

正義狂さんはまだ帝具入手前の設定。


クロメside____

 

王宮内の待機所にて、私達は身支度を整えていた。あの日の投与劇から7日、私たちが目覚めて5日。身体の検査と体力の取り戻しに明け暮れ、今日私達はそれぞれの地方に戻る。

 

「行くぞ。」

 

減ってしまった仲間。数少ない彼らは泣かなかった。あの薬を打つ前に彼の言葉を聞いたからかもしれない。あのときの彼の言葉は常人では理解も納得も出来ないものだっただろう。でも、逆に普通じゃないなら?大切じゃない命なんてない。つまり、大切じゃなかったら命じゃない。彼の言葉は少なくとも生き残った私達6人の心には響いた。私達は既に普通じゃない。腐ってはいないけど、彼も大概だなぁと思わずにはいられなかった。

 

部屋を出て門へと向かう廊下を歩いていると、朝から偶然彼に会った。

 

「おはよー、クロメちゃん達♪今日の調子は?」

 

「ん、問題ないよ。…お菓子が食べたいだけ。」

 

「「「「「お菓子以外は同感です」」」」」

 

「そっか、良かった♪クロメちゃんごめんね。お菓子はもう少しだけ我慢して!最悪明日からは食べてもいいから!とりあえず今日は我慢して!」

 

「…!分かった。」

 

…私は賭けに勝った。彼に会う度、それを実感する。お姉ちゃん、私生きてるよ。身体能力も変わっていない。それにもうじき、苦しまないで済むようになる。

…科学者達は私達生き残った6人に対する薬物実験から手を引くらしい。代わりにラザールからの投薬実験が始まるというが、彼はどうでもいい副作用しか出ないような薬しか作らないと言っていた。さらに投与の回数も激減する。

一番驚いたのは、副作用はなくなったが今まで削ってきた命を少しずつ出来る限り戻していくために、定期的にラザールの中和剤の投与が始まるということ。寿命に関しては諦めていたというのに!中和剤の投与は3ヶ月に1度のペースで通うことになるそうだ。その副作用も、1日熱が出る程度なようで、依然と比べればもう十分な程に幸せ。

……今はまだ本調子でなかったこともあって、お菓子を食べさせて貰えなかったけど、明日から解禁される。そして、明日から食べるお菓子は以前と違って薬が練り込んでないもの。もうあんな思いでお菓子を食べなくていいんだ。

 

「ラザール、ありがと。私達を楽にしてくれて。」

 

「……当たり前。だって僕は医者だもの。生かすか殺すか、どちらかしかやらない。」

 

「ふふふ、ラザールが死ぬ時は死ぬ前に私が斬ってあげるね?」

 

「……生きても死んでもいない君の人形の一つにはなりたくはないかな…」

 

そうはいうけど、彼は私の帝具にある程度の理解をしてくれた。私の気持ちを、分かるって言ってくれた。だから、彼が嫌がっても私はきっと彼を斬る。だって、彼を気に入っちゃったから。

…そろそろ行かなきゃ。

 

「じゃあ、ラザール本当にありがとう。…また3ヶ月後に来るね。」

 

他の皆も口々に感謝を述べる。

 

「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね?」

 

……なんだかお母さんみたい。

仲間達と顔を見合わせて、小さく笑う。行ってきますと手を振って、私達は城を出た。

 

 

 

 

 

ラザールside____

 

「…行ったか。」

 

「お疲れ様じゃな、主。」

 

「まったくだよ。……で、いつからそこにいた?」

 

「行ってらっしゃいの辺りからじゃな。」

 

「あ、そう。」

 

多分最近構ってあげられずにいた所為か、どことなくいじけオーラを醸し出すカンザシ。ハァ……悩みの種ってやつは一つ減っても、すぐに増えるなぁ…

 

【盛大にフラグという奴だぞ、ラザール】

 

「は?何言って…」

 

と、その時だった。

 

「た、隊長おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

この声は…キリクか。今度はなんだ?また書類無くした?それとも科学者連中に何か言われた?

 

「いた!隊長おおぉぉ!」

 

「五月蝿いよ、叫ぶな。シャラップ。」

 

叫びながらこちらに走ってくるキリク。全く…今度は何が……

 

「あの馬鹿娘がまたやらかしましたああああぁ!!!」

 

……あ゙?

 

「は?なんて?」

 

「だぁかぁらぁー!セリューのバカがまたやらかしましたああああぁ!」

 

……あんの腐れ正義狂っ!?なに人の仕事を増やしてくれてんだよ!?これで何回目だと思ってんだ!…はぁ、セリューの認識に戦闘狂タグ増やしとこう……

 

「……今行く。」

 

「ドンマイじゃの、」

 

「うー、カンザシ手伝ってー」

 

「あい、分かった。」

 

最悪だ……

 

 

 

 

医務室に到着した僕はすぐさまセリューのもとへ。

 

「うっ……ぐぅ…痛っ……」

 

痛みに呻いているようだが、自業自得であるからむしろ腹が立つ。…相変わらずエグい傷である。ま、僕らに回ってくるときは大抵こうだけれども。今回もこれまた面倒そうだ。処置をしていたアルエット女医に声をかける。

 

「アルエット女医、状態は?」

 

「はい、えーっと…右腕が約三分の二ほど千切れかけており左足は複雑骨折、肋骨もかなり折れており肺に何本か刺さってます。さらにいくつか内蔵破裂起こしていて、このままだと間もなく死にます。」

 

「うん、了解。…で?コイツは今回は何をしてこうなったわけ?」

 

「なんでも盗賊のアジトを見つけたらしく、帝具持ちでも無いのに無謀にも1人でそこに突っ込み、運良く相手に帝具持ちがいなかったこともあってなんとか帰還。そして一般に運ばれましたがお手上げで、ウチに回されました。」

 

「……コイツいっぺん死んだ方が懲りんじゃね?」

 

「…果てしなく同感ですが、今は治療が先かと。」

 

はぁ、わかってますよ…

 

「手術しまーす。手術室に運んでー?カンザシとアルエット女医は補助ねー。」

 

「「了解」」

 

 

 

 

 

「うん、よし。心拍、血圧異常なし!終わり!」

 

帝具様様である。造血剤こんなに投与したの初めてだよ。再生ナノマシン大活躍だったよ。器具持ちすぎて途中指攣りかけたよ。そして、最近ほとんど寝てなかったからか、スッゴく眠い。今ならお休み3秒行けるね。

 

「お疲れ様でした。」

 

「お疲れなのじゃ、主。」

 

「アルエット女医、カンザシ、あと頼む。僕もう無理。」

 

お疲れ様です、ゆっくり休め、なんて声が後ろから聞こえたけど、そんなことも気にとめられず、僕はフラフラしながら、王宮内の自室へ向かった。

 

「僕絶対そのうち過労死する…」

 

【大丈夫だ、人間何とかなるようにできてる。】

 

……ジェミニの馬鹿。労いの言葉一つくらい寄越せよ。

 

「僕は人間じゃなくて、ただのバケモノだよ…」

 

【…まぁ、それでも何とかなるさ……多分】

 

…もうジェミニには期待しない。丁度部屋に着いたので鍵を開けて中に入り、後ろ手で鍵を閉めつつベッドへ向かいダイブする。疲れた……ダイブして数秒で、既に僕の意識は消えた。…あの馬鹿娘、起きたら説教だな…と密かに決意しながら。

 

 

 

 

 

 

セリューside

 

「…やぁ、おはよう、セリューさん。で、何か弁解はあるかな?」

 

目が覚めると、そこには鬼が立っていました。

 

「お、オハヨウゴザイマス…ラザール医師。べ、弁解でございますか…?」

 

弁解…?え、何の?私、何かいけないことしましたっけ…?疑問符が起きたばかりでぼんやりした脳内を埋め尽くす。

 

「なんか分かってなさそうな顔してますねぇ…自分の行い、理解してますか?」

 

「え、えっとー………エヘ?」

 

般若のようなオーラを纏うラザール医師の覇気に押され、思わず笑って誤魔化す。しかし、原因が全然分かりません。思い出せません。えー…本当に私、何をしました?私はただ、正義を執行して、悪を滅しただけで……あ。

サーッと血の気が引いていきます。そうでした…またやらかしてしまいました。で、でもしかしですねぇと弁明を考えるが、目の前にいる見た目は天使、オーラは般若な美少年に震えが止まりません!

 

「あ、思い出してくれた?セリューさん♪」

 

「あのー、えっとー、す、すみませんでし…」

 

そこでブチリと何かが切れる音がした。

 

「謝るだけで済むなら、この世の中司法なんて要らないんだよ…って、前にも言ったよねぇぇぇ?セリューさん?」

 

「は、はい、えーっと…」

 

最早、何と返せば良いのか分かりません。

…しかしながら、私前にもいいましたが…

 

「…正義を執行して何が悪いんですか……?正義を執行して来たのに、何で怒られなきゃいけないんですか?」

 

「………」

 

あ、マズい…般若オーラがグレードアップして…。さすが、伊達に“怒らせてはいけない人Best10”に入っているだけあります。…って、それは今はどうでもいいんです!ど、どうしよう、これ、完全にブチ切れちゃってますよね…

 

「…セーリューウーちゃん♪…僕さぁ、前にも全くおんなじこと聞かれて、全くおんなじこと言わなかったっけ~?」

 

こ、声が低く…怖い怖い怖い!怖いですよ、ラザール医師!

 

「え、えーっと…?」

 

「言ったでしょ?正義正義って馬鹿みたいに狂ってないでちゃんと周りを見ろってさぁ…。で何?え?また何やらかしてくれてんの?馬鹿なの?死ぬの?僕らの仕事増やして楽しい?僕らの睡眠時間削ってること分かってる?ねぇこれワザと?ワザとなの?そんなに僕らを過労死させたいの?疲労蓄積させて殺したいの?わぁ良かったねその日は間もなく訪れると思うよ?ちゃんと遺書も書くつもりだよ?えぇちゃーんと書き残して逝ってあげますとも!“セリュー・ユビキタスが医療部隊の忠告を無視してやらかしまくったせいで死にました★”ってセリューさんに行った全ての手術と言う手術の記録と共に書き記してあげますとも是非とも感謝して((「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ、ホントスミマセンデシタ。」…ホントに分かってる?ねぇホントに分かってんのねぇ!?」

 

「もう、もうホントに!ホントに分かったので!頼むから一回落ち着いて下さい、ラザール医師!」

 

「……はぁ。」

 

……ふぅ。やっと落ち着いてくれたようですね…まさか息継ぎも無しにずっと喋り続けるとは。いや、それよりも、もう本当に……

 

「ご迷惑おかけしました…」

 

「チッ…全くだよ!」

 

そう言って懐から煙管を取り出したラザール医師。…はっ!煙草!?

 

「ラザール医師!ダメです!煙草は成人してからです!ラザール医師は医師でしょう!医師たるアナタがそれを破ってどうしますか!」

 

「僕は僕だ!僕こそが法律!だから良いんだよ!」

 

「ダメですダメです!医師なら分かるでしょう!煙草は肺が真っ黒になっちゃうんですよ!」

 

「んなことは知ってるし!てか、僕は煙草の害を受けないから良いの!」

 

「またそんな嘘をついて!いけませんよ!国の定めた規律を破ればそれは悪です!悪は断罪される存在です!ラザール医師も例外ではありません!ちゃんと規律は守らないとダメです!」

 

「嘘じゃねぇよ!」

 

力説したは良いけれど、今ので完全に気分が最低辺まで落ちた模様のラザール医師。うぅ…また何か言われそうですが、構いません!子供は子供のうちに正しい道へ導かなくては!

 

「そういえばさぁ…前から聞きたかったんだけど」

 

「私にですか?何でしょう?」

 

あ、もしかして私の正義談義でしょうか!もう、それなら早く言ってくれれば良かったのに!

……でも、返された言葉は違った。

 

「…セリューさんは、本当に正義?」

 

ラザール医師は…何を言っているのでしょう。

 

 

 

 

ラザールside

 

一通り説教した後に問いかける。

 

「セリューさんは、本当に正義?」

 

前からずっと気になっていた。帝都の店でも、よく彼女の話を聞いた。

“悪と判断すれば、必ず殺す”

“本当の悪に気づかない”

“結果でしか判断しない。経過だって大事なのに”

“正義に盲目”

“頭が足りない”

“狂ってる”

“おかしい”

“自身を正しいと疑わない”

“愚かな”

“正義に酔った殺人者だ”

“まるで…自分こそが正義だと言わんばかりだ”

 

セリューさんの街での評判は最悪。可愛い顔した悪魔だとまで言われてる。きっと彼女はそんな評判すらも知らないんだろう。彼女自身は…どう思っているのだろう。でも…僕が思うに。

 

「え?そんなの…決まってるじゃないですか!」

 

彼女はもう正義(正しい道)に戻れないほど、(迷路)に浸かってしまっている。

 

「私こそが正義です。悪を全て消すことが私の使命です!」

 

そして、彼女は嬉々として語る。“自分の父は逆賊に殺された。自分は悪を許さない。”と。彼女は、盲目の眼でただこの世界を見ていた。

 

 

「【…あぁなんて愚かしい。】」

 

彼女を見ていると腹が立つ。僕は村のみんなに暴力を受けていた。僕は世界に取り残されていた。僕は何もしていないのに殺されかけていた。そう、何もしていないのに。何も悪いことなんかしてないのに。ただ、生きているだけで“害悪”だと言わんばかりに迫害された。

彼女みたいな盲目な人は僕が最も嫌悪するタイプの人種だ。本当の事も知らないで、一度そうだと思えば、他の可能性を疑わない。そんな奴が、僕は嫌いだ。

 

だから…ちょっと虐めたくなる。

 

 

「ネェ、セリューさん」

 

「はい、何ですか?ラザール医師」

 

「人を殺すことは悪?」

 

「そんなの当たり前じゃないですか!」

 

「例えどんな理由があっても?」

 

「当たり前です。」

 

「…じゃあ、例えばの話ね?あるところに女とその子供が住んでいました。ある日、見知らぬ男がやってきて、その男に女は殺されました。子供は悲しみ、復讐を誓います。数年後、子供はその男を殺し、母の仇を取りました。…さて、この場合、その子供は悪?」

 

「…えっと…それは…悪人は裁かれてしかるべきで…死んで当然で……」

 

「ねぇ、セリューさんの正義と悪の定義って何?」

 

「せ、正義は悪を断罪…することで…悪は…」

 

「もし仮に、悪が命を奪うことだと仮定するなら…」

 

僕もセリューさんも…この世界の人みーんな『悪』、だよね?

 

「ねぇ、どうなの?仇討ちは悪?医療ミスは悪?物を食べることは悪?戦争で敵を殺すことは悪?…父親の仇を討とうとしている君も悪?」

 

ね、僕に教えてよ。

しかし、彼女は固まったまま動かない。偉そうにご高説わたれたところで、所詮はその程度。この世界の真理も分からない、ただの下賤。

 

「まぁ、いいや。とりあえず、お大事にね。」

 

「……は、い。」

 

「セリューさんはセリューさんのモノだからさ…僕にどうこうする権利は無いけど。僕の言ったことも考えておいてよ。考えた上でセリューさんが決めたことなら、僕はもう何も言わないからさ。」

 

「………はい。」  

 

さぁ、彼女はどんな結論に至るのか。僕はただそれを見届けるだけだ。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

同行も楽じゃないです

2017/11/04 改稿しました。



「着いてきてくれ。異論は認めん。」

 

「……マジすか……」

 

 

拝啓、街のお得意様方。

今日、僕は命の残量を感じ取りました。

よく考えれば分かることです。

僕は…若干働き過ぎかもしれません。

 

ことの始まりは、北西辺りの国境付近での戦が激化していると言う報告が入ったことだった。

 

「一部西の異民族を含む、北西方向の少数民族が集まり、北西の戦線が悪化しています!陛下、どうか御命令を!」

 

「うむ…革命軍の動きも目に見えて大きくなってきた今、北西の戦線を退かせる訳にも行かん。ここは速攻で終わらせねばなるまい!ブドー大将軍、其方に命ずる。北西の戦を我らの勝利でおさめて参れ!……これで良いのだろう?大臣。」

 

「えぇ、実に陛下は聡明であらせられますなぁ。」

 

「よし、ブドー大将軍、頼んだぞ!」

 

「お任せ下さい、陛下。」

 

「うむ!ブドー大将軍ならば安心だ!戦線に向かう上で何か必要なものがあれば、今申せ。何かあるか?」

 

「では…ラザール医師をお借りしていっても?彼の腕は最上級です。兵の死者も大きく減ることでしょう」

 

「うむ、余は構わぬ。大臣も良いか?」

 

「ブドー大将軍ならばすぐに戦を終え、帰って来られるでしょう。私も構いませんよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

………という会話が僕の知らないところで成され、同時に取引が成立したらしい。

 

 

 

と言うことで、現在進行形で戦地に赴く馬車の上に僕はいる。

 

「ラザール医師、何かあれば遠慮なく申して下さい。」

 

「…うん、ありがとう。兵士君。」

 

僕の周りに警備で着いてくれてる平兵士君たちの厚意が痛い。みんな優し過ぎてつらい。ガタガタと揺れる馬車で少し腰が痛くなってきたけど気にならないくらい胸が痛い。何でだろう……あ、周りにマトモに話を成立させられる人がいなかったからかぁ…。将軍は話聞かない人ばっかだし、陛下もカンザシをエサにしないと突拍子もないこと言いだすし、大臣は腹黒いし…僕もしかして結構苦労してる?そのうち、胃に穴空くかもね…なんて笑えない冗談だ。

まぁ、馬車に揺られて今日で4日。そろそろ拠点に着くだろう。目標は即死以外の死者0人!フフン、そして僕の給料をあげてもらうのだ!たまにはチェルシーやフェル達にに何か買ってあげなきゃだしね。え、カンザシ?カンザシは毎回ものを強請るから…たまにはお預けしなきゃね。

 

「ラザール医師、着きました!アレが拠点です。」

 

「おー、了解。ありがとー」

 

着いたのは石と一部木で作られた、小さなお城のような要塞。思ったより立派だった。ま、外見はどうでもいいや。医務室どこ、医務室!色々確認したいし、早く案内してー!

 

 

 

「…ふぅ。」

 

煙管をふかし、一息つく。今回はマグルとオロチが着いてきてくれているので、静かなものだ。薬は一部白衣の内側に仕込んで完了。他の前もって帝具で作って置いたものは、兵士さん達に頼み、運びこんでもらった。既に疲れ気味。最近寝不足だったし、仕方ない?

…あれ、でも…もしかしなくても、僕過労死まっしぐらルート辿ってない?だって僕、本来なら今日は休暇の日…あれぇ?何で僕ここにいるの…何で仕事なの…?

 

「ラザール医師、この度の同行、感謝する。」

 

「僕に拒否権なかったクセに……」

 

医務室を訪れたブドー大将軍が一応感謝らしい言葉を述べるが、僕はちょっと恨みがましい目と声で言い返してみる。周りの兵士さん達にギョッとした目を向けられたけど無視で。

 

「私としては3日程で片を付けるつもりでいる。思ったよりも敵が少なそうなのでな。その間は忙しいかもしれんが…まぁ、よろしく頼む。」

 

「……特別手当、陛下に進言しといて下さいよ。」

 

「ククッ…承った。」

 

あーあ、3日かぁ…帝都に戻れるのは…7~10日後位?頼むから、出来るだけ皆怪我しないでくれよー!

 

「戦争、か。」

 

人ってのは醜いものだね…

 

ポソリと呟かれた言葉は誰にも聞こえることなく、空気に溶けて消えていった。

 

 

 

特に特筆する事もなく3日が経った。ブドー大将軍は見事に有言実行。数名の捕虜が捕らえられ、後は…ま、分かるよね。そんなこんなでなんとか生きてた僕。疲労で死ぬかもとか思ってたけど辛うじて生きている。

 

そんな馬車の帰り道。帝都まての道のりが半分をきったあたりで、なんだか後ろが騒がしい。そう、丁度…捕虜が乗せられた車の辺りが。何だろうと思った瞬間に響いたのは悲鳴と絶叫。断末魔の叫び。しかも、どうやら敵ではなく味方のもののようだ。兵士が武器を構えた。どうやら捕虜が檻から抜け出したらしい。逃げるのは無理と判断したのか、一人でも兵を殺そうと暴れている。

 

「ラザール医師、伏せてて下さい!」

 

周りの警備をしている兵士さん達が言う。まぁ、ここはお言葉に甘えて置こうかと動いた時、

 

ダンッ!

 

何かが僕の背後に降り立った。兵士さん達が青ざめた顔でこちらを見る。あぁ、敵が飛んできたのか。じゃあ…僕は死ぬのか…

 

……な ん て、誰が言うか、バァカ!ただでさえイライラしているのに面倒事を増やしやがって!

 

即座に両手から針をだし、クロスして上からの攻撃を防ぐ。ギィンと音がしたあたり、敵が持ってるのは金属製の武器。兵士から奪った物だろうか。武器を受け止めたままそれを流し、敵がつんのめったところで肩に針を突き刺して、馬車の床に磔にする。響き渡る、敵の醜い叫び声。

 

「ギャーギャーギャーギャー五月蝿いな…僕に喧嘩を売ったんだ。覚悟はいいってことだよね?」

 

僕は笑って、もう片方の針も逆の肩に刺す。一層大きくなった叫び。…五月蝿い。仰向けで磔になっている敵の声帯の位置をメスで切る。

 

「帝都に着いたら喉は治してアゲルね?」

 

ニパッと笑った僕を、将軍を除いた全員が青い顔で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「ラザール医師は武術でも習っていたのか?」

 

帝都・王宮にて陛下に報告を終えた後、ブドー大将軍が僕に聞いてきた。

 

「いえ…何も。ただ、幼少期がサバイバル生活だったからか、野生の勘が人よりも僅かばかり鋭いだけです。」

 

「そうか…まぁ、良い。此度は本当に助かった。また頼む。」

 

「…どう致しまして。でも、次回からはご遠慮させてもらいます。」

 

言うなり背を向けた彼に届いたかは知らないが、僕はちゃんと断ったからね!

 

 

 

 

ブドーside____

 

あの時、私やエスデス将軍ならばともかく…他の者にあれだけの反応、反撃ができただろうか。あの時のラザール医師の反応速度は異常だった。常人に…あれだけの反応は普通は無理だろう。奴はサバイバル生活の中で身につけたのかもしれないと言ったが…

 

「…奴もまた将軍級の器、か。」

 

今の私はらしくもなくにやけているかもしれんが…

 

「楽しみで仕方ない。」

 

奴はいずれ間違いなく、戦場に来る。奴の中の野生が、医療だけで満足出来る筈がない。数年後を楽しみにしておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side____

 

数年後、とある山奥の村にて……

 

 

「んじゃ、行ってくるぜ、村長!」

 

「ウム…幼い頃から高めあってきたお前たちじゃ、その腕で出世のチャンスをもぎ取るんじゃ」

 

「任せてよ。村を豊かにしてみせるわ」

 

「そうすりゃ、飢えて死ぬこともないからな。まぁこのイエヤス様の名が知れ渡るまで10年てところだな!」

 

「イエヤスはきっと規則守れなくて打ち首ですよ」

 

「サヨ、手前ェ!ありそーなこと言うんじゃねぇよ!」

 

「自覚してんなら寝坊か方向音痴どっちか直しなさいよ!」

 

「元気は充分のようじゃな…」

 

「ではタツミ…最後の餞別じゃ、コイツを持って行け。肌身離さず持っていろ。きっと神様が助けてくださる。」

 

「あぁ!ありがとな村長!」

 

「んじゃ、行ってくるぜ!」

 

意気揚々と村を出た、3人の少年少女。

 

 

 

_____物語は動き出す。

 

 




今話の北西の戦線はオリジナルです。

非常におこがましいようですが、この小説の評価を募集しております。理由があるなら低評価を押して下さっても構いません。ただ、荒らしに来たというだけの低評価はご遠慮下さい。気が向いたらで構いませんので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始動
明と暗


2017/11/05 改稿しました。
作業BGMは「天才ロック」でお送りしました。

原作開始です。


タツミside____

 

「畜生…あの女ァァァ!!」

 

最悪だ!手っ取り早く仕官出来るって言うから金を渡したのに…金の持ち逃げとか!オレの村じゃ、そんな嘘つく奴いねーぞ…クソ!

 

オレは今日、この帝都に来た。が、帝都の兵舎へ向かい仕官するも、始めるならば一等兵からだと言われ追い返された。それで落ち込んでいた所に話しかけてきた(胸のデカい)女に、手っ取り早く仕官出来るコネがあると言われたオレはほぼ全財産を託し、女は金を持って去って行った。…持ち逃げしやがったことに気づいたのは、女と別れたずっと後だった。この帝都では騙される方が悪いのが常識だと教えられた瞬間だった。

金は盗られたが、諦める訳にはいかねぇ。帝都で出世して稼ぎまくって、あのド田舎なオレの村を救うって決めてんだ!それに、途中で別れたサヨとイエヤスも探さなきゃいけねぇ…

 

「まぁいいや。今日は野宿!何処でだって寝られるしな!」

 

帝都の路上の隅に腰を下ろし、背負う袋からコートを出す。明日はどうしようかな…いや、とりあえず今は寝よう。朝から土竜狩ったし、何よりもあのおっぱい女のせいで精神的に疲れた。

 

「ねぇ、アナタ地方から来たの?」

 

寝る体勢に入っていたオレに突如として声がかけられた。顔を上げるといかにもなお嬢様。

 

「もし泊まるアテが無いんだったら、私の家に来ない?」

 

お嬢様っぽいソイツはオレにそう提案してきた。確かに魅力的な話だが……

 

「…オレ、金持ってねーぞ…」

 

俺はさっき騙されたばかりだ。ここは慎重に…疑心暗鬼になるのも致し方ないよな。

 

「クスッ、持ってたらこんな所で寝ないわね。」

 

「アリアお嬢様はお前のような奴を放って置けないんだ。」

 

「お言葉に甘えておけよ。」

 

お嬢様だけでなく、護衛官?の人たちもそう言う始末だ。

 

「まぁ、野宿するよりゃいいけどよ…」

 

「じゃあ決まりね!」

 

そうしてやってきたアリアさんの家。優しい家主さん達に、一目で強いとわかる護衛官達…貴族であるアリアさんの父親が、オレの仕官のために口添えと、サヨとイエヤスの捜索も手伝ってくれるそうだ!すごくありがたい!なんだ…いるんじゃないか、帝都にもこんな優しい人たちが!結局オレはアリアさんの家にお邪魔している間、アリアさんの護衛を手伝うことになった。宿泊費分は働かねぇと!

ついてる。最後に良い人たちに助けられた。後はサヨとイエヤスだな。二人とも無事に帝都に着いてるといいんだけど、イエヤスに至っては方向音痴だしなぁ…。若干の不安を覚えつつも、オレは目を閉じ、眠りについた。

 

 

 

 

 

次の日、オレと護衛官はアリアさんの買い物の付き添いをしていた。そう、付き添いをしていたはず…なんだけど…

 

「お、お嬢様の買い物って凄いんですね…もうなんか量が面白くなってますよ」

 

「お嬢様に限らず女ってのは皆あんな感じだ。」

 

サヨはすぐに着物はすぐ選ぶんだけどなあ…そう思うオレの視線の先には山積みの買い物袋や箱が鎮座している。また別の店に向かったアリアさん達を眺めていると再び隣からかけられた声。

 

「それより、上見てみろ」

 

疑問に思いつつも見ると、あったのは高く聳え立つ巨大な城。

 

「で…でっけぇ!」

 

「あれが帝都の中心、宮殿だ。」

 

「へぇ!あれが国を動かす皇帝様のいる所ですか!?」

 

「…いや……」

 

すると顔を近づけて小声で話す体勢にしてきた護衛官。何だ何だ?護衛官に倣ってオレも顔を少し近づける。

 

「…少し違う。皇帝はいるが今は子供だ…その皇帝を陰で動かす大臣こそがこの国を腐らせる元凶だ…おっと、変な声を出すなよ?聞かれれば打ち首だ。」

 

「!?」

 

思わず叫びそうになったのをすんでのところで止められる。…ふぅ。一つ深呼吸をして、周囲に気をつけて問いかける。

 

「…じゃあ、オレの村が重税で苦しんでいるのも…?」

 

「帝都の常識だ。…他にもあんな連中もいるぞ」

 

そう言った彼が指差したのは壁に貼られた数枚の手配書。

 

「…ナイトレイド?」

 

「近年帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ。名前の通り標的に夜襲を仕掛け、帝都の重役達や富裕層の人間を狙う…一応覚悟はしておけよ」

 

殺し屋集団か。強いんだろうな…だけど、俺はアリアさんを守るだけだ!

 

「ハイ!」

 

そんな思いを込めて返事をした。

 

「あぁ、後…この帝都で数少なく信じられるものの一つが…ほら、あの店の店主の腕だ」

 

「店主、ではなく店主の腕ですか?」

 

「あぁ。」

 

指差された店は“Eli”と書かれた看板を下げていた。

 

「あの店は診療所だ。店主は凄腕でな…治せないものは無いんじゃないかって噂だ。元々は人としても素晴らしい奴だったんだが、その噂が祟って軍に徴収されてな…」

 

「あぁ、なるほど。それで簡単に信じられなくなったと言うことですか…」

 

「そう言うこった。まぁ、対応は前と全然変わってないし、警戒する意味はあるか分からんがな。ちなみに店主のことを陰では、帝都最後の良心なんて呼ぶ奴もいるぜ。金の無い奴の怪我もツケにして治してくれたり、スラムのガキ共に気まぐれに薬やったりな。本当、いい奴なんだ…薬とかもすげぇ効くしな。その辺のとは全然違うぜ。」

 

護衛官達が皆で頷き合っている。すげー人望だ。たしかに店の前には人がたくさんいる。帝都の中でも人気の店なんだろう。

 

「…って、あれ?軍に徴収されたんですよね。ならなんで店開いてるんですか?」

 

「あー…それがな…噂じゃあの大臣に交換条件出したらしいぜ。確かに強かで掴めねえガキだとは思ってたがまさかここまでとは思ってなくて、店に戻ってきた時はみんなして驚いたもんだ。今は5日に1~2回店に戻ってきて店やってるぜ。」

 

ちょ!?ちょっと待て…

 

「……ガキ?」

 

「あぁ、店主はお前と同い年かそれより少し年上って位か?」

 

「えーっ!?」

 

思わず叫ぶ。周りからなんだこいつという視線を一気にもらったが、話が衝撃的過ぎて気にならなかった。

 

「はははっ、やっぱり最初は驚くよな!けど冗談抜きで本当に凄い奴だから自然と信用されてったんだ。治療費も他と比べて圧倒的に安いからダメ元で試そうって奴も結構いてな。結果ソイツら皆店の常連になっちまった。」

 

「へ、へぇー」

 

話聞く限りじゃすげー奴みたいだ。薬か…必要となる機会も増えるだろうし、覚えておこう。そのうち行ってみようかな。

 

「ま、話はこれくらいにして…とりあえずアレ、何とかしてこい。」

 

アリアさんの方を見ると…ズモモォォォという効果音が聞こえそうな程に高く大きくなった買い物の箱。

 

「なんの修業ですか!?」

 

思わずツッコんだオレは悪くない…はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

no side____

 

その晩、真夜中にも関わらず廊下を歩くアリアの母。手には日記帳がある。その表紙を眺めつつ、彼女は笑う。

 

「さぁて、今日も日記をつけようかしら…。ふふっ、やめられないわね…この趣味は…」

 

そんな彼女の背後に迫る影。その影に気づかない彼女は次の瞬間、

 

「え…?」

 

「すいません」

 

巨大なハサミによって真っ二つに切断されていた。

 

ハサミを操っていた女はハサミを振って付着していた血をはらう。人を殺したにも関わらず、その顔には何の色も浮かんではいなかった。

 

 

 

 

 

その頃、部屋で眠っていたタツミは殺気に気づき目を覚ました。

 

「なんだ…?殺気!?」

 

側に置いていた剣を手に取り慌てて部屋を出る。廊下を走り出した彼が頭の中で思い出すのは今日のあの会話。

 

【帝都を震え上がらせている殺し屋集団】

 

まさか…!思い当たった彼がハッと気づき、窓の外を見ると、そこには5人の人影。

 

「ナイトレイド!!富裕層だからって此処も狙うのか!?」

 

青ざめつつも窓から下をみると、走り回る護衛官達の姿が見えた。加勢に行くか護衛に行くかを考えていると、ナイトレイドが動きだした。

 

黒い長髪の赤い目の少女と全身に鎧を纏った男が護衛官3人の前に降り立つ。

 

「…いいか、あの刀に少しでも触れるなよ」

 

少女の持つ刀を警戒しつつも、少女らに向かい襲いかかった護衛官達だったが、少女は一瞬にして先頭の男の首を斬った。鎧の男も手に持っていた槍を別の男に投げ、仕留める。残った一人の護衛官は少女と男に背を向け逃げ出すも、上にいた桃色の少女に銃で頭を撃ち抜かれ絶命した。

 

その間、ほんの数秒。

 

強いと認めていた護衛官達を一瞬で全滅させた少女達に本格的に危機感を抱いたタツミはアリアの元へ向かい走り出した。

 

「せめて、アリアさんは守らないと!」

 

 

 

 

同時刻、館内別室にて、アリアの父は獣のような女に首を締め上げられていた。

 

「助けてくれ…娘が…娘がいるんだ…!!」

 

「安心しろ。すぐ向こうで会える。」

 

「娘まで…情けは無いのか!?」

 

「情け…?意味不明だな。」

 

自身と娘の助命を請った男だったが女は手を緩めることなく非情に言葉を返す。男は次の瞬間には首を折られて絶命した。

 

 

 

 

館内に静寂が満ちた頃、館外、庭にて

 

「お嬢様、早くこちらに!」

 

「どうなってるの!?」

 

「とにかく離れの倉庫へ!あそこなら安心です!」

 

護衛官に手を引かれ、走るアリアの姿があった。

 

「見つけた!アリアさん!!」

 

そこにアリアを探していたタツミが合流する。ナイトレイドのことを話そうとしたタツミを遮り、護衛官は警備兵が来るまでの時間稼ぎをタツミに命じた。その無茶ぶりにギョッとしたタツミだったが、赤い目の少女が現れたことで、気を引き締めざるを得なくなり、少女に向き合い剣を抜く。

 

「くそっ、こうなったらやるしかねぇ!」

 

「…標的ではない。」

 

そう呟いた少女はしかし、タツミの肩を踏み台に背後にいる2人に向かっていった。…タツミを斬ることなく。それに驚いたタツミだったが、少女は気にも止めず2人に向かっていく。こちらに来たことに慌てた護衛官は手に持っていた銃を乱射するが、それを避けて接近した少女は護衛官の胴をその刀で一閃した。目の前で人を殺され、腰の抜けたアリア。アリアの前に立った少女は一言、ただ一言だけ発した。

 

「葬る。」

 

「待ちやがれ!」

 

その言葉と同時に少女に剣を振り下ろしたタツミ。その一撃は軽々と避けられたが、アリアはまだ斬られていない。やってきたタツミに対し、少女は言う。

 

「お前は標的ではない…斬る必要はない。」

 

「でもこの娘は斬るつもりなんだろ!?」

 

「うん。」

 

「うん!!?」

 

コクリと頷いた少女に驚き呆れたタツミ。そんなリアクションの激しい彼に少女は言った。

 

「邪魔すると斬るが?」

 

「だからって逃げられるか!」

 

「そうか……では、葬る。」

 

強い殺気と共に言われたその言葉に冷や汗が背筋に伝った。逃げ出したくなる衝動を抑えながらも、タツミは覚悟を決める。

 

「(少なくとも今のオレに勝てる相手じゃない…けど、そんなこと気にしてられない!そもそも、女の子一人救えない奴が…村を救える訳がない!!)」

 

同時に走り出したタツミと少女。激しく斬り合い、互いに剣を流すのを繰り返していた2人だったが…

 

ドッ!!

 

とうとう少女がタツミの肩に蹴りを当てた。それによって体勢の崩れたタツミ。その隙を見逃す少女ではなく、タツミの胸に少女の刀が立てられた倒れたタツミ。しかし、少女は彼に近寄らない。

 

「チッ…油断して近づいても来ねえのかよ。」

 

「手応えが人体ではなかった。」

 

「へへっ、村の連中が守ってくれたのさ」

 

タツミが懐から出したのは、村を出るとき村長から貰った彫刻だった。

 

「葬る。」

 

「わっ、ちょっと待って!お前ら金目当てか何かだろ!?この娘は見逃してやれよ!戦場でもないのに罪もない女の子を殺す気か!!」

 

再び向かってきた少女に呼びかけるタツミだが、少女は話を聞かない。もうダメだと思ったその時、

 

「ちょっと待った。」

 

ヒョイと少女の襟首を掴んで止めたのは獣のような耳と尾を持った黄色の女。

 

「何をする。」

 

止められたことに不満らしい少女が女に聞くが、女は笑いながら言う。

 

「まだ時間はあるだろ?この少年には借りがあるんだ。返してやろうと思ってな♪」

 

その時、その女が自身の金を持ち逃げしたあの女だと気づいたタツミが驚きと少しの怒りを露わにするが、女は気にした様子もなくあっけらかんと返す。そして…

 

「少年、お前罪もない女の子を殺すなと言ったが…」

 

アリア達が逃げ込もうとしていた倉庫に向かい扉の前に立った彼女は、その扉の鍵ごと蹴り壊し扉を開けた。

 

「これを見てもそんなことが言えるかな」

 

中には……

 

無惨に傷つけられ、殺され、薬漬けにされ、バラバラにされた人達が、吊られ、沈められ、磔にされ、檻に入れられ、瓶詰めにされて、並べられていた。

 

「見てみろ…これが、帝都の闇だ」

 

 

 

タツミside____

 

「これが、帝都の闇だ。」

 

そう言ったおっぱい女に倣い、倉庫の中を見た。…今日は満月だった。だから、真夜中でも辺りはいつもより明るくて…倉庫の中がよく見えた。いや…見えてしまった。

 

「…な…何だよ…コレ……!!」

 

「地方から来た身元不明の者達を甘い言葉で誘い込み、己の趣味である拷問に掛けて死ぬまで弄ぶ…それがこの家の人間の本性だ……」

 

その時、オレは…見つけてしまった…見てしまった…

 

「…サヨ?」

 

大切な大切な…幼馴染を。

 

「おいサヨ…サヨ─────…!」

 

全身が酷く傷だらけで…有ったはずの片足だって無くて…罪人のように吊られて…いつも豊かな表情を彩っていた顔は何も写していない。一瞬にして思考が停止した。

しかし、停止していたのも一瞬。

 

「おっと、逃げようってのは虫が良すぎるぜ、嬢ちゃん。」

 

アリア…さんは、逃げようとしていたらしい。何で逃げようとしたんだ…?でも、アリアさんはオレを助けてくれて……

 

「…本当に、この家の人間がやったのか?」

 

「そうだ。護衛達も黙っていたので同罪だ。」

 

改めて聞くも返ってきたのはそんな答え。

 

「う…ウソよ!私はこんな場所があるだなんて知らなかったわ!タツミは助けた私とコイツ等とどっちを信じるのよ!!?」

 

アリアさんが言う。

…オレは一体、どっちを信じれば……!!

 

 

「…タ……ツ、ミ?おい…タツミだろ…オレだ……」

 

聞こえた声にハッとする。聞こえてきた声。それは紛れもなくもう1人の幼なじみのもので…。恐る恐る、声のした方を見る。

 

「い…イエヤス…!?」

 

「俺とサヨはその女に声を掛けられて…メシを食ったら意識が遠くなって…気がついたらここにいた。そ…その女が…サヨをいじめ殺しやがった…!!!」

 

いたのは予想通り、イエヤスだった。けれど、イエヤスは、全身が何か…発疹?に蝕まれていて…一目で異常だと理解した。そして、イエヤスが言った、信用できる真実。泣き崩れたイエヤスは嘘なんてつく奴じゃない…。

 

サヨをいじめ殺した…?アリアさんが?

そして……

 

「…何が悪いって言うのよ!」

 

逃げようとしていたアリアさんを抑えていたおっぱい女の手を乱暴に振りほどいて、アリアさんは叫んだ。

 

「お前たちはなんの役にも立てない地方の田舎者でしょ!?家畜と同じ!!!それをどう扱おうがアタシの勝手じゃない!!」

 

本人の口から発せられた言葉で、それが真実であることを悟った。……サヨを殺した理由までもをアリアさんは頼んでもいないのにペラペラと話す。

 

…髪がサラサラなのが生意気?そんな理由?

…念入りに責めた?それを感謝すべき?

 

ふ ざ け ん な……!!!!

 

「善人の皮を被ったサド家族か…ジャマして悪かったなアカメ……」

 

「葬る…」

 

チャキリと刀を再度構える黒髪の女…

 

「待て」

 

待て…待ってくれ。

 

「まさか…まだ庇い立てする気か?」

 

呆れたような…怪訝な顔で聞いてくる女。

違う…違う。

 

「いや、………オレが斬る。」

 

ズドッ……

 

肉と骨の断ち切られる嫌な音を立てて、オレはサヨを殺した女を斬った。血をぶちまけながらドサッと落ちた女の体。……サヨ、仇はとったぜ…。

 

 

レオーネside____

 

「ふぅん…」

 

憎い相手とはいえ躊躇わずに斬り殺したか…。その事実に若干の感嘆を抱きながら、剣を収めた少年を眺めた。

 

「へへっ、さすがタツミ…スカッとしたぜ………………!?ゴフッ!!」

 

少年の知り合いらしき少年が、吐血した。少年が近づいて見るが……ルボラ病…しかも末期か。

 

「…ソイツはもう助からない」

 

アカメが言った。その少年も分かっていたんだろう。少年に一言残して…笑って逝った。気力だけでよくもったな…賞賛の限りだよ。

 

「…どうなってるんだよ、帝都は…」

 

悲痛な声で少年は問う。それに答えず、アカメは私に帰ろうと促した。………が。

 

「あの少年、持って帰らないか?」

 

「ん?」

 

「アジトはいつだって人手不足だ。運や度胸…才能もあると思わないか?」

 

少年の襟首を掴み、引きずって連れて行く。アカメは少し考えたが頷いた。だよなだよな♪引きずられながら、2人の墓を作ると叫ぶ少年に、あとで遺体をアジトまで運んでやるからと言って、少年を抱き上げる。…お姫様だっこで。

 

「やっと戻ってきたか」

「そろそろ引き上げないとまずいぜぇ」

「遅い!何やってたのよ!…って、何よそれ」

 

マインがお姫様だっこされている少年をどこか冷たい目で見る。

 

「仲間だ」

 

「はあ!?」

 

「アレ?言ってなかったっけ?」

 

ドサッと少年を落として少年を見据える。

 

「今日から君も私たちの仲間だ!!ナイトレイドに就職おめでとう!」

 

一拍置いて現状を理解したらしい少年が、何か喚いているが気にしない気にしない♪

 

「作戦終了。帰還する!!」

 

少年をブラートに預け、私たちは家の屋根を跳んで帰路につく。ふふん、これからが楽しみだなぁ♪

…一瞬、あのルボラ病に侵されていた少年は“彼”がいたなら助かっただろうかと、らしくもなく思ったがすぐさま頭を振って切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…もし私たちが消えた後のあの場所に、その“彼”がいたことに気づいていたなら、未来は変わっていただろうか。

 

 

 

 

ラザールside____

 

ふふふ…見ーちゃった、見ぃちゃった♪

 

「ナイスだよ、オロチ♪」

 

そう言って僕の足元で蜷局を巻く彼の頭を撫でる。しっかし、あの男の子…

 

「レオーネさんに目を付けられるとか…ホントご愁傷様。」

 

僕に似た苦労を彼もするのだと思うと若干同情する。昨日、借金取りの皆が『レオーネが金を返しに来たんだ!!』と、それはもうもの凄い幸せそうな顔で報告に来た。…『けどきっとまたすぐに借りに来るよなぁ…』って同時に落ち込んでったけど。

 

…え?なんで僕があのサド家族の家にいるかって?ふふん、オロチがナイトレイドを見つけたと教えてくれたから、急行したまで。

 

ここ数年の間、オロチとシオンにはよく働いてもらった。ナイトレイドを発見し次第、現場に隠れて急行、そして彼ら彼女らを独自に観察してきた。ナイトレイドの人数、武器、戦闘力、癖、依頼人の傾向、普段の姿、などなどそりゃあもう頑張った。…こら、そこ、ストーカーとか言わない。これは自己防衛のための正当なる行為です。情報収集と言いなさい。

まぁ、それは置いといて。オロチの力があるからこそ、これを利用してこの無茶な情報収集ができている。オロチは影を操る蛇。しかも、オロチは数少ない上位種。なんとなんと影の中に潜むことも出来るのだ。つまり、帝都の夜は彼の庭。闇一色なら無理だが、夜に適度に街灯の点く帝都は、夜でもちゃんと影が出来る。要するに、だから影から影へと自在に移動する彼は情報収集に最高の適性をもつってこと。

 

今回も同じ。影からナイトレイドを見つけたオロチが僕に知らせた。だから行ってみた。ただそれだけ。

 

「あーあ、これは酷いなぁ。」

 

倉庫の中に入り、中を見渡す。ここ数年で何度もこういうの見てきたけど…まぁ、なんて言うか。何度見ても、見ていて気分が良くなるようなものじゃないよね。

 

「さっきの子…」

 

床に寝かされている先ほどの男の子を見る。

 

「…ルボラ病末期…でも…ルボラ病は…」

 

右手の紋章から注射器を出す。

 

「…死亡から30分以内に心肺蘇生…尚且つ、僕特製ルボラ病抗生剤があれば……リン、お願い。」

 

男の子に注射を打ち、リンに電気で心肺に刺激を送り、心臓マッサージをする。

 

「蘇生は可能だったりして♪…ま、僕限定だけど♪」

 

ゴホッゴホッ……

 

先ほどまで息が無かったはずの男の子は咳を数回した後、静かな寝息をたて始めた。

 

「さすが僕。完璧♪」

 

人の蘇生まで出来ちゃうなんて、ホント僕ってオーバースペックだよね♪

檻の中にいる僅かに息のある人たちに抗生剤を投げてやる。…今見た蘇生を忘れてもらう薬も混ざってるけどね。だって死者の蘇生なんて広まったら厄介だし。僕の平穏ライフのためだし。人体には無害だし。大丈夫大丈夫♪

 

「あ、ありがとう…」

 

掠れた小さな声で言われたお礼。

 

「…いえいえ♪お大事に。」

 

それに笑顔で返し、彼らが薬で眠るのを待つ。

眠った後は、檻の中から彼と同じ位の背丈の少年の死体を引きずり出して、整骨整形。蘇生した少年と全く同じ顔にする。

 

「うん、完璧♪最早芸術だよね~♪」

 

【いいからさっさと帰るぞ。警備隊が来る。】

 

「分かってるよ、ジェミニ。じゃ、リン、またお願い。」

 

キュウと鳴いたリンの背中に跨がり、眠っている少年を抱える。リンの腹を軽く蹴り、リンは駆け出した。

さて、この少年にはいっぱい働いて貰わなきゃね。丁度欲しかったんだよね…彼みたいなタイプの配達員♪

 

【ホント、腹黒…どうしてこうなった…】

 

「んー?何か言ったぁ?」

 

【何も?】

 

まぁいいや。聞かなかったことにしといてあげます。さっさと診療所戻って彼の手当て、してあげなきゃ。

 

…え?彼を助けた理由?そんなの、ウチの薬の配達員にするためだってさっきも言ったよね?

 

 

 

 

 

 

…ま、()()()()()()()()()、あの新たなナイトレイドの少年への切り札にもなっちゃったかもしれないけど♪ふふふっ♪

 

 




原作突入。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

廻る

2017/11/05 改稿しました。



タツミside____

 

…あの忌々しい日から3日が経った。あの日のことを俺はきっと、一生忘れない。忘れられない。

あの日の翌日、ナイトレイドの奴らは本当に2人の遺体を持ってきてくれて、埋葬の手伝いまでしてくれた。オレはそれからずっと2人の小さな墓の前にいる。

 

【私達3人、死ぬ時は同じと誓わん!】

【おう!帝都で出世して金稼ぎだ!】

【俺達でこの貧乏故郷を救うんだ!!】

 

…とか言ってたのによ

 

「俺…一人になっちまったじゃねぇか……」

 

2人の前でしんみりしていると不意に頭に落とされた柔らかなモノ…。驚き飛び退くと、そこに居たのはあのおっぱい女。

 

「おおおおお!?いきなり何すんだよ!!」

 

「いつまでもウジウジしない!あれからもう3日だ。私達ナイトレイドの仲間になる決心はついた?」

 

…いやいやいやいや!?だから俺は、帝都で仕官して金稼ぎをしなきゃいけないんだって!そう思って反論しようとしたが、横から抱きつかれ不発に終わる。

 

「アンタ殺しの素質あると思うよー?お姉ーさんが保証してあげる♡」

 

「…素質うんぬんで迷ってるんじゃなくて…」

 

だってなぁ。殺し屋なんていきなり言われても…そんなすぐに踏ん切りがつくかよ…。すると、急に首に腕を回され、引きずられる。なんかデジャヴ!?

 

「ま、とにかく今日はアジトを案内してやるよ!」

 

「ちょ、首がっ!」

 

「ちなみにココは帝都から北に約10kmの山の中だ」

 

殺し屋なんだよな!?そんなオープンな感じでいいのか!?ツッコミたいところは山ほどあるが、とにかく頼むから首をホールドしている腕を何とかしてくれ!

 

 

~会議室にて~

 

「…え?まだ仲間に入る決心ついてなかったんですか?」

 

まず、最初に来たのは会議室。大きな机の一席についていた眼鏡の女が俺にそう問う。

 

「そうなんだよ、シェーレ。何かコイツに暖かい言葉をかけてやってくれ。」

 

眼鏡の女はシェーレという名前らしい。彼女はうーんと少し考えて…

 

「…そもそもアジトの位置を知った以上、仲間にならないと殺されちゃいますよ?」

 

…暖かすぎて涙が出るぜ。

よく考えた方がいいと助言するなり、彼女は手元の本に目線を戻す。何の本を読んでいるのかとチラッと表紙を覗いてみると、そのタイトルは【天然ボケを治す100の方法】。…やっぱ変人の集まりなのか。

謎の納得を感じるなり、丁度ピンクの服を着た少女が部屋に入って来た。

 

「あーっ!ちょっとレオーネ!なんでソイツ、アジトに入れてんの!?」

 

「だって仲間だし」

 

「まだ仲間じゃないでしょ!ボスの許可も下りてないんだから!」

 

クワッと苛立ちを隠しもせずにおっぱ…じゃない、レオーネ(?)さんに噛みつくピンクの少女。するといきなり、ギロッとこっちを睨むように見てきた。

じーっと眺められること数秒、少女はため息を吐くように話し出した。

 

「不合格ね。とてもプロフェッショナルなアタシ達と仕事出来る雰囲気じゃないわ…顔立ちからして。」

 

「なっ!?何だと手前ぇ!」

 

…何故ほぼ初対面の少女に全否定されなければいけないのか。苛立つまま、少女に怒声を向ける。

 

「気にするなよ、少年。マインは誰にでもこうなんだ…アイツ以外にはな。」

 

「フンッ!」

 

…このムカつくピンクはマインというらしい。それよりもアイツとは誰のことだろうかと一瞬気になったが、次に行くぞと言うレオーネさんの声で俺は後に聞くことにした。

 

 

~訓練所にて~

 

「どりゃああああ!!でやでやでやでやっ!!」

 

訓練所の区画に着くなり聞こえてきた声。な、なんか凄そうだ…

 

「ここは訓練所と言う名のストレス発散所だ。んで…ほら、あそこにいる見るからに汗臭そうなのがブラートだ。」

 

スゲェ槍捌きだと驚いたのもつかの間、訓練に一段落ついたらしいブラートさん(?)が俺達に気づいた。

 

「ふぅーっ、…お?何だ、レオーネじゃん!と、そこの少年は…あぁ、この間のヤツか!」

 

…なんで俺のことを知ってんだ?昨日会った中にこんな人いたっけか?疑問に思い聞いてみると、どうやら彼はあの日鎧に包まれてた人らしい。納得。

 

「ブラートだ!ヨロシクな!」

 

「ド…ドモ」

 

雰囲気に流されるまま握手をする。すると…

 

「気をつけろ、そいつホモだぞ♪」

 

…慌ててバッと離れる。

 

「オイオイ……誤解されちまうだろ?なぁ?」

 

否定はしないんですね…否定こそして欲しかった…。

 

 

~水浴び場にて~

 

水浴び場から少し離れた崖の上に彼はいた。どうやら、本来はレオーネさんの水浴びの時間らしい。所以、“覗き”と呼ばれる行為を彼は決行しようとしていたようだが…その対象である彼女は彼の後ろにいるのだ。そして次の瞬間ボキッという音をたてて彼の指は逝った。(殺られたとも言う。)やったのは勿論姉さん。…バカじゃなかろうか。

 

「懲りないなー、ラバ」

 

「クソッ、まだいける!どこまでも!」

 

「じゃあ次は腕一本な。…という訳で、このバカはラバックな!」

 

彼の腕を本来ながら行かないであろう方向に曲げつつ、姉さんは彼を俺に紹介する。…やっぱバカなのか。確かに腕を殺られそうになりながらも、コレはコレでアリかと豪語する彼はかなり残念な人だと思う。

 

「んじゃ、次は…河原かな?」

 

 

~河原にて~

 

「なんかもうお腹いっぱいなんだが…」

 

トボトボとした足どりで姉さんの隣を歩く。姉さん曰わく、次は美少女だから期待しておけ…との事。

 

「ホラ、あそこにいるのがアカメ。可愛いだろ?」

 

姉さんの指差す方を見る。…が、そこにいたのは

 

ゴリッ ベキッ バキッ

 

むしゃりと肉をむさぼり食う少女だった。しかも…

 

「!アイツが食ってんのエビルバード!?一人で殺ったのか!?」

 

エビルバード…一度村を襲えば、村を丸ごと食べてしまうほどの大食漢である鳥型危険種…。しかもエビルバードは特級危険種だ。危険種の中でも強い部類に入る。それを1人で…。感嘆なのか驚きなのか自分でもよく分からないため息が零れる。

 

「アカメはアレで野生児だからな!」

 

「レオーネも食え」

 

ポイッと姉さんに向けて投げられた肉。そして俺をじーっと見つめてきた。…なんだ?

 

「お前、仲間になったのか?」

 

「いや…」

 

「じゃあまだこの肉をやる訳にはいかない」

 

キリッとした決め顔で言い切ったアカメ。ぶっちゃけいらねえ…。つか、コイツ…俺を二度も殺そうとした…苦手だぜ。

 

「それにしても今日は奮発してないか?」

 

「ボスが帰ってきてる」

 

目線を横にズラす。するとそこにいたのは右腕が義手の女の人。そこからはまぁ…レオーネさんが土産をねだったり、姉さんが作戦時間オーバーで怒られてボスさんの義手がギリギリいったり、レオーネさんが俺をボスさんに推挙したり……って、全部レオーネさんじゃん!?つか、勝手に推挙すんな!

 

「見込みはあるのか?」

 

「ありますよ。…ってことで、とにかくやってみろってな!」

 

「時給も高い」

 

「バイトかよっ!」

 

思わずつっこんだ俺は悪くない。

 

「アカメ…会議室に全員集めろ。この少年の件を含め、前作戦の結果を詳しく聞きたい。」

 

…そして俺はまだまだ解放されないらしい。

 

 

 

「…成る程。」

 

会議室に戻り、集まったナイトレイド一味とオレ。ボスの名前はナジェンダさんと言うらしい。事情聴取を受け、大体のことを説明した。

 

「事情は全て把握した。タツミ…ナイトレイドに加わる気はないか?」

 

「断ったらあの世行きなんだろ?」

 

「いやそれはない。だが帰すわけにもいかないからな、我々の工房で作業員として働いて貰うことになる。」

 

…殺されはしないのか。でも…でも俺は…

 

「とにかく断っても死にはせん。それを踏まえた上で…どうだ?」

 

「……俺は…帝都へ出て、出世して、貧困に苦しむ村を救うつもりだったんだ。ところが、その帝都まで腐ってんじゃねぇか!」

 

「中央が腐ってるから地方が貧乏で辛いんだよ。その腐ってる根源を取っ払いたくねぇか?男として!」

 

ブラートさんが俺にそう言った。ナジェンダさんの話を聞くところによると、どうやらブラートさんは元々は優秀な帝国軍人だったらしい。帝都の腐敗を知り、仲間になったんだとか。

 

「俺らの仕事は帝都の悪人を始末する事だ。腐った連中の下で働くよりずっと良い。」

 

「でも、悪い奴をボチボチ殺していったところで世の中大きく変わらないんじゃないのか?」

 

それじゃあ、辺境にある俺の故郷みたいな村は結局救われねえ…

 

「成る程。ならば余計にナイトレイドがピッタリだ。」

 

「なんでそうなるんだ?」

 

曰わく、帝都のはるか南には革命軍のアジトがあるらしい。時の流れと共に大規模な組織に成長した革命軍の情報収集や暗殺などの裏を担当する部隊…それの一つがナイトレイドなんだとか。

 

「ナイトレイドは、今こそ帝都のダニを退治しているが、軍決起の際はその混乱に乗じ……腐敗の根源たる大臣を討つ!その役目を請け負っている部隊でもあるんだ。」

 

「大臣を…討つ!?そんなこと出来るのかよ!?」

 

「勝つための策は用意してある。その時が来れば…確実にこの国は変わる!」

 

「…その新しい国は…ちゃんと民にも優しいんだろうな?」

 

「無論だ。」

 

……成る程。スゲェ!!コイツらの仲間になれば、国を変えられる!辺境の村が苦しむことも、サヨやイエヤスみたいに死ぬ奴もいなくなる!

 

「じゃあ、今の殺しも悪い奴を狙ってゴミ掃除をしてるだけで…いわゆる正義の殺し屋って奴じゃねえか!」

 

期待と少しの憧れを込めて言ってみる。…が、

 

「「「ぷっ…アハハハハハハハハハハハハハハ」」」

 

返ってきたのは皆の笑い声。な、なんでだよ!話を聞く限りはそうだろ!?

 

「はー…タツミ。」

 

笑うのを止めたレオーネ姉さん達が真面目な顔で俺に言う。

 

「どんな名目をつけようが、ウチらがやってるのは殺しなんだよ。」

 

「そこに正義なんてあるわけないですよ。」

 

「ここにいる全員、いつ報いを受けて死んでもおかしくないんだぜ。」

 

…殺し、か。

 

「戦う理由は人それぞれだが、皆覚悟は出来ている。それでも意見は変わらないか?」

 

「報酬は貰えるんだよな?」

 

「ああ。しっかり働いていけば故郷の一つは救えるだろうさ。」

 

…帝都では就職難で稼ぐのには時間がかかる。その上、あんな最低な奴らがトップにいる。…ならば。

 

「だったらやる!俺をナイトレイドに入れてくれ!そういう大きな目的の為ならサヨやイエヤスもきっとそうしてる!」

 

そう、サヨやイエヤスだってこの国を変えて欲しいはずだ!なら、やるしかねぇ!

 

「村には大手を振って帰れなくなるかもよ?」

 

ピンク女…マインが挑発するように聞いてくるが…

 

「いいさ、それで村の皆が幸せになるなら」

 

「…フン」

 

「決まりだな…。修羅の道へようこそ、タツミ」

 

もう後には退けない。けど、後悔はしない。これが俺の選んだ道だ!

 

 

 

 

 

イエヤスside____

 

俺は真っ暗な空間に居た。ここはどこだろう?

 

…いや、あぁ、そうだった。俺は死んだんだ…。憧れの帝都は、夢見たような所ではなかった。あそこは悪魔の巣窟だった。それを知らなかった俺とサヨは呆気なく殺された。ははっ、情けねぇ…。

しかし、そう思ったのも束の間。急に俺の意識は浮上する。

 

俺の目にまず見えたのは白い壁と白い天井。

次に感じたのは柔らかなシーツの感触と薬のにおい。

 

死んだ筈の俺に流れ込む大量の感覚情報。…おかしい。こんなのあり得ねぇ…。でも…まさか生きてるっていうのか?

 

 

「おはよう。うん。君は生きてるよ。」

 

…あぁ、そうか。

 

「おはよう、ございます。」

 

今ので全部分かった。理解した。

 

「体の調子は?」

 

「大丈夫…です。」

 

あぁ、もう大丈夫だ。

 

「だろうね…じゃあ、明日からお仕事ね?」

 

「了解ッス。……マスター。」

 

あぁ、大丈夫、大丈夫。俺はもう…死を知ったから。

 

だから、生死を与奪する彼をこそ、俺は主と認めるんだ。

 

 

 

ラザールside____

 

「…じゃ、行ってくる!」

 

「うん、行ってらっしゃい♪」

 

「おう!この俺様に任せとけ!」

 

「ふふっ、気をつけてね」

 

そう言って僕はイエヤス君を送り出した。彼に頼んだのは北方に行っている軍の皆さんに薬を届けるお仕事。届けたら直接軍部に来るように伝えてある。自称方向音痴らしいので、地図とコンパスはちゃんと持たせてこまめに確認するように言ったが、大丈夫だろうか。本当に迷子になってしまった時用に、地図には危険種たちの生息地の分布も手書きで載せておいたが…まぁ、困ったときは人に聞けと言ったし、何とかなるとは思うけど…。

 

「主、あやつは使えるのか?」

 

「うん、多分ね。」

 

「ふむ…ならば妾は何も言うまい…主に害が及ばぬのなら、あやつのことは嫌いでは無いしな。」

 

「ふふっ、ありがとう、カンザシ」

 

「べ、別に…!主へのあの口調を許した訳ではないからな!勘違いするなよ、主!」

 

「はいはい。」

 

カンザシは可愛いなぁ…。僕の成長にカンザシの変化も合わせてあるからかカンザシはいつも僕の肩辺りの身長だ。実に頭を撫でやすい位置。カンザシの毛並みには気を使っているから変化時のカンザシの髪はサラサラ。撫でていて気持ちいい質感だ。フェルやリンもだけどね。

 

「さてさて、それで?あの新入りが入ったにも関わらず、ナジェ…もといストーカー女からの手紙は止まないと。」

 

「うん。止まない。止んでない。止む気配もない。…まぁ、なるようになるよね…アハハ…」

 

「主、目が死んだ魚の様になっておるぞ!頼むから帰ってこい!」

 

はっ!いけないいけない…ちょっとトリップしてた…

 

ま、何はともあれ配達員はゲットした。あとはあのナイトレイドの新人君に見つからないように、会わせないようにしつつ強化していくだけ!新人君への切り札でもあるからね♪

 

ふふふ…面白くなってきたなぁ♪

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特技は料理

2017/11/05 改稿しました。

今回は2人の不憫コックが頑張る話。


タツミside____

 

サヨ…イエヤス…俺、料理出来るようになってて良かったよ。おかげで…

 

「「「「「おかわり」」」」」

 

すっかりコック扱いだけどな…。

 

 

 

「くっそ!殺し屋なのに来る日も来る日も炊事かよ。」

 

手元のリンゴの皮を包丁で器用に剥きながら愚痴る。

 

「仕方ない。私はアジトでは炊事担当だからな。」

 

私についてるお前も当然炊事担当になるとパクパク葡萄を口に放り込みながら答えるアカメ。うん、成る程。味見や試食が無限だから炊事なんだな。試しに聞くと、そんなことないと返ってきたが、同時に再び口に葡萄を放り込んだ。…説得力ねえよ。

 

「やっぱり新入りにはその姿が一番サマになってるわね」

 

…ムカつくピンク女、マインが言う。思わず手に持っていたリンゴを握り潰してしまった。マインの方を向くとマイン以外にも何人かいた。なんでもこれから帝都で任務らしい。ボスにもこの前聞いたな…確かナイトレイドは表向き、帝都民からの依頼で暗殺をこなす組織で通ってるとかどうとか。

 

「ま、そういうことだから。あんたはアカメとお留守番!大人しくキュウリのヘタでも落としてなさい!」

 

マインが高笑いしながらそう言うが…コイツはなんでいつも必要以上に威圧的なんだよ。音符が付きそうなほどにご機嫌な様子で出かけて行ったマインたち。くっそ悔しい!

 

「よし!じゃあ、次は私達も命を奪いに行こうか」

 

アカメが言う。あぁ、炊事の狩りってオチですね分かります。

 

 

 

「ほう、それで?結局タツミが捕まえたのは二匹と…初めてにしては上出来じゃないか。」

 

「服脱ぎ捨てて“上等!”って言ったんだって?」

 

夕飯の時刻、ボスとレオーネ姉さんに今日の狩りについて弄られた。ボスには褒められた(?)が、アカメはそれに対してまだまだだと言う。アカメは俺を全然認めねぇ。いっつも何考えてるかわかんねえし…やっぱ苦手だぜ!

 

「レオーネ」

 

するとボスが箸をテーブルに置き、真剣な顔でレオーネ姉さんに問う。

 

「数日前帝都で受けた依頼を話してくれ」

 

依頼!レオーネ姉さん、いつの間に…。

話を聞くと、標的は帝都警備隊のオーガという男と油屋のガマルという男らしい。なんでもオーガはガマルから大量の賄賂を貰っており、ガマルが悪事を働く度にオーガが代理の犯罪者をでっち上げ、その冤罪人を死刑にする事で、今までにいくつもの罪を隠して来たとか。今回その冤罪人として依頼人の婚約者が濡れ衣を着せられ、殺されたらしい。つまり、依頼はオーガとガマルの暗殺。晴らせぬ恨みをどうか…ってやつか。

 

「って、ワケだ。コレはその時の依頼金。」

 

ジャラッという重い音をたてて、大金の入った袋がテーブルに置かれた。

 

「その人よくこんなに貯めたな…」

 

袋を見て思わずそんな言葉が出た。

 

「性病の匂いがした…体を売り続けて稼いだんだろうな。」

 

そんなことって…。背筋に冷たいものが走った。事実確認としてレオーネ姉さんが油屋の屋根裏から有罪を断定済み。この依頼は今正式に受理された。

 

「悪逆無道のクズ共は新しい国に要らん。天罰を下してやろう。」

 

「ガマルを殺るのは容易だが、オーガはなかなかの難敵だぞ。」

 

『鬼のオーガ』。鬼と呼ばれるだけあり、その剣は犯罪者達から恐怖の対象とされている。普段は多くの部下と見回りに出ており、それ以外は警備隊の詰め所で過ごす。非番の日は役目柄詰め所を離れるわけにもいかず、宮殿付近のメインストリートで飲んでいる。

 

鬼…か。説明を聞く限りじゃ実行はソイツの非番の日にしか無理そうだ。それにボス曰わく、宮殿付近の警備は厳重らしく、指名手配中のアカメに頼むのは危険とのこと。マイン達を待つのが一番ベストな筈だが、アイツらが帰ってくる日は未定…。だったら…

 

「だったら、俺達だけでやり遂げようぜ!」

 

テーブルに手を叩きつけて椅子から立ち上がり、提言してみる。

 

「………ほう。お前がオーガを倒すと言うのか。」

 

…え?

 

「私も顔バレはしていないが、今の発言の責任はとって欲しいよなぁ…」

 

…ちょっと待ってくれ。ボスも姉さんもどうしてそんな楽しそうなものを見る目でニヤニヤとこちらに視線を向ける…

だが、

 

「今のお前には無理だ。」

 

アカメのヒドい言いようにカチンと来たオレは自分の意見を述べた。こうしている間にも濡れ衣を着せられ、殺される人がいるかも知れない…だったらオレはやる、と。大切な人が理不尽に奪われる…そんな思い、もう誰にもさせたくねぇ…!

 

「分かった。お前の決意、汲み取ろう。お前がオーガを消せ。」

 

「よく言ったタツミ!気持ちのいい覚悟だ!」

 

「…きちんと任務を遂行し、報告を終えて初めて立派と言える。この時点でいい気になっていては死ぬぞ。」

 

…言ったなアカメ!畜生…絶対成功してオレを認めさせてやる!

 

 

 

 

 

~同時刻~

 

ラザールside____

 

「さぁ、作れ!僕らの夕飯!」

 

「ざけんな!なんで俺だよ!」

 

「キリク…隊長の命令は絶対、ですよ。」

 

「いくらお前の頼みと言えども聞けねぇ!」

 

「主の命令を聞かぬことなど有り得ん!」

 

「知るか!」

 

「「「うっさい、作れ!」」」

 

「なんでだよ!」

 

反抗しつつも料理の手を緩めない辺り、なんだかんだで優しいよね。でも、今回のは当然だよ。だってキリクの書類手伝ってたせいで夕飯の時刻過ぎちゃったんだから。定時にもあがれないし。まったく…次からは何かペナルティー考えとかなきゃ。

 

「そもそも、キリク。アナタが書類を溜め込んでおくからこうなったんです!自業自得だわ!」

 

珍しくアルエット女医も少し怒り気味。

 

「口を動かす暇があるなら手を動かせ、怠け者が!」

 

カンザシはなんかスゴい攻撃的だね…どうしたの?まぁ、良いけどさ。

 

「あーあー、すんませんでしたー!はい、どーぞ!作ったんだから不味くても文句言うなよ!文句言うなら食うなよ!」

 

4人で囲んだテーブルに置かれたのは餡掛けチャーハン。だが…

 

「へぇ…!」

 

「まぁ…!」

 

「………!」

 

「どうだ!キリク特製No.6“餡掛けチャーハン・海の幸”!」

 

うん、めっちゃ美味しそう。餡の具はイカ、小エビ、揚げ鱈、木耳、玉ねぎ、人参、白菜とシンプルだが、そこら辺の下手な料理屋よりも断然美味しそう。

ということで

 

「「「いただきます」」」「流石俺!」

(※約一名フライング)

 

「…うん、美味しい」

 

え、めっちゃ美味しいんだけど何コレすげぇ!…あ、カンザシすごい悔しそうな顔してる。眉間に皺寄ってるぞ…大丈夫か?

 

「くっ…まさかキリクがここまで料理上手だったとは……!あ、私もちゃんと人並みには作れますからね、隊長!」

 

「チッ…旨いが同時にヒドく腹が立つのはなんでだ…!和食…和食なら負けんぞ!」

 

…うん、女性陣がなんか凄い闘志燃やしてるけど気にしない。

 

 

 

 

「ふぅ、ご馳走様でした」

 

「ご馳走様です。」

 

「……でした。」

 

「おー、お気に召したようで何よりでした」

 

あー、女性陣がキリクのニヤリ顔見てイラッとしてらっしゃる…。まぁ、腹立つわな…。

 

「じゃ、部屋に戻るね。キリクご馳走様でした。お休みー。」

 

「また明日ね。」

 

「ではのー」

 

「はいはい。」

 

食後のお茶をいただいて、一息ついてキリクの部屋を出る。アルエット女医とも廊下で別れ、僕もカンザシも部屋へと戻った。

 

あー、書類疲れた。キリクめ…次やったら本気でペナルティーだな…何にしようかな…。んー…まず拷問ルートと被検体ルートを作って…うん。明日にしよう。

 

そう脳内で自己完結しつつ、ベッドにダイブ。うん、眠い。おやすみなさい。

 

…あ、一応言っとくけど、僕だってお菓子作りなら負けないからね!

 

 




美味しいご飯が食べたい。あぁ、また体重が…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邂逅

2017/11/05 改稿しました。



タツミside____

 

俺らにも、田舎者として帝都に憧れを抱いていた時期があった────。

 

「憧れていた帝都もこうして見回してみると表情暗い人多いなー…」

 

つい先日、オーガ暗殺を成功させアカメと和解したオレ。しかし、その次に待っていたのはあのムカつくピンクとのパートナー生活だった。

 

「そりゃこの不景気と恐怖政治じゃね。」

 

そのムカつくピンク少女、マインとオレは今帝都メインストリートを歩いている。

 

「日中こうも堂々と歩いて平気なのか?」

 

ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「え、だって……顔割れてんのアイツ等4人だけだし。」

 

スッと壁に貼られた手配書を指差して示すマイン。上はアカメ、左はボス、右がシェーレなのは分かるけど……

 

「真ん中の奴誰だ?」

 

「ブラートよ。」

 

間髪を入れずに返ってきた答え。驚かずにはいられなかった。マインに聞くとイメチェンをしたらしい。史上最悪のビフォーアフターだ…。

 

「って訳だから、堂々歩けるアタシ達はここで任務よ。」

 

「…上等だ!そのためにオレを連れてきたんだろ?」

 

「よしっ!帝都の市勢調査開始っ!!」

 

「なんだか分かんないけど、おうっ!!」

 

こうしてオレらの市勢調査は始まった。……これから始まるオレの地獄を知らずに。

 

それからマインとオレは店を巡った。巡りに巡った。メインストリート中を縦横無尽に歩き回った。ウィンドウショッピングに始まり、小物屋、服屋、アクセサリーショップ…時に女性用の下着屋にも付き合わされ…

 

「ふーっ買った買った。やっぱり春はピンクの服が映えるわね!」

 

「…そうだね。」

 

「オフの時位羽根をのばさないとね♪」

 

「ソウダネ」

 

この“市勢調査”が始まってもう何時間経っただろうか。既に日は傾き始めていた。やっと買い物を止め、カフェに入ったと思えば、マインが言ったのはそんなこと。そして…

 

「よしっ!任務達成!」

 

「これただのショッピングじゃねえかあ!!」

 

ビシィッと鋭いツッコミをいれるオレ。朝から荷物持ちしながらコイツの買い物に付き合い、試着に感想を求められ、女性用下着の店にまで入る羽目になったオレの苦労は何だったんだ!!いい笑顔で「任務達成!」じゃねえよ!…が、

 

「頭が高い」

 

「おぶぅ!?」

 

何故かオレは平手打ちを喰らう。解せぬ…

 

「アタシが上でアンタが下!部下が口答えすんな!荷物持ちになれただけでもありがたいと思いなさい!」

 

平手打ちを喰らって椅子から落ちたオレを足蹴にしつつマインは言う。痛ぇ!苛立ちを覚えるものの、一応現時点で上司ではあるので我慢する。そんな時、カフェの外が騒がしいことに気づいた。

 

「なんの騒ぎだ?」

 

「帝国に逆らった人間の公開処刑でしょ…帝都ではよくあることよ。」

 

そこを見ると、まだ生きている人間が胸を釘で打たれた状態で十字架に吊られていた。五体満足の人なんて1人もいない。夥しい量の出血で辺りは血の匂いで充満している。生きている彼らの呻き声が辺りに響いていた。彼らの表情は絶望、悲哀、そして悔恨の念に満ちていた。

 

「な…なんて非道いことを…」

 

「ああいうことを平気でやるのが大臣…世継ぎ争いで今の幼い皇帝を勝たせた切れ者よ。…アタシは、あんな風にはならないわ…。必ず生き延びて、勝ち組になってやる!」

 

マインの暗い、しかし決意に満ち溢れた目をオレは見た。大臣か…一体どんな奴なんだ!?

 

 

「…アレ?マインちゃん?」

 

「ん?おお、マインか。久しいな!」

 

すると後ろから聞こえたマインを呼ぶ声。2人で振り返るといたのは、超絶美人な男の人と大和撫子風な美少女。マインの知り合いか…誰だ?

 

「ラ…ラザール!?」

 

やぁと片手をひらひらと振りながら近づいてくる2人。マインの方をチラリと見ると、それはもう見たこともないような笑顔だった。え、誰だよお前!?そんな顔のマイン、ボス相手にも見たことねぇぞ!?

 

「ど、どうしてここに?今日は王宮じゃないの?」

 

「うん、午後から休み貰ったんだー♪そしたら、カンザシが買い物したいって言うから…荷物持ち?」

 

「うむ、妾の買い物に付き合って貰っておったのだ♪ありがとな、主!」

 

「いえいえー。」

 

にこやかに会話をする2人。

 

「タツミ覚えときなさい!コレが女性の買い物に付き合う男の正しい態度よ!」

 

「……ハイ。」

 

何も言えねえ…。ところでなんだが……

 

「「マイン/マインちゃん、コイツ/彼は誰?」」

 

…見事にタイミングが合ったな。

 

「はあ!?アンタ知らないの!?」

 

「((ボソッ 主、マインの連れじゃぞ、きっと禄でもない奴じゃ…」

 

あの、美少女さん?マインには聞こえなかったみたいだけどオレには聞こえてるんですが…

 

「いい?飾りにも等しいその耳かっぽじってよく聞きなさい!彼はラザール!この帝都で一番の医者よ!隣の女はその助手のカンザシ。性格はアレだけど腕は良いわよ!」

 

「おい、マイン。妾の性格が何じゃと?」

 

「あはは…」

 

おい、ラザール…さんが苦笑してるぞ。気づけマイン。

 

「初めまして。ラザールです。マインちゃんが言うように帝都で医者やってます。一応軍の方にもよくお手伝いに呼ばれます。よろしくね?」

 

「あ、オレはタツミって言います。よろしくお願いします。あの、軍って?」

 

軍…って、帝都の軍だよな…敵なのか?けど、正直悪い奴には見えねえし…

 

「ああ、ラザールは腕が良すぎて軍に目を付けられてね…軍に徴収されて強制労働強いられてるのよ。」

 

「いや、強制労働ではないけど…」

 

どっちだよ、マインの言うこと本人否定してんじゃねえか。

 

「主はの、ナジェンダというストーカー女のせいでナイトレイドと関わりがあるのではないかと疑われてな…。腕も良いし、監視も兼ねて軍属させられておるのじゃ。…あ、妾の名はカンザシと言う。よろしゅう頼むぞ。」

 

「あ、どうもご丁寧に。タツミです。よろしくお願いします。」

 

カンザシさんが説明してくれたので理解した。…って、ラザールさんの軍属の原因ボスかよ!?あの人何してんだよ!

 

「え、ボ…じゃない、あの手配書の元将軍のナジェンダがストーカー!?」

 

どうやらマインも知らなかったらしい…にしてもボスがストーカー、ねぇ…

 

「あはは…まぁいいよ、今更だしね。じゃ、僕らはそろそろ帰らなきゃ。」

 

「あっそう。じゃあ、またね。今度店に行くわ。」

 

「はいはーい、待ってるよ。じゃあ、タツミ君もまたいつか。是非ともウチの店をご贔屓に♪」

 

「“Eli”という診療所じゃ。良かったら来い。ではのー」

 

そう言って2人は去っていった。てか、Eliって…あぁ!!アリアの護衛官の人が言ってた診療所!!ラザールさんが帝都最後の良心…なるほど。初対面ではあったけど、何となくわかる気がする。

 

「まさか会うとは思わなかったわ…2人とも相っ変わらず万人顔負けの美貌よね~…」

 

「マイン、何かオレと態度違いすぎなかったか…?」

 

「はあ!?アンタとラザールが同列な訳がないでしょ!アンタとラザール比べてどうすんのよ、天と地よりも大きな差よ!?」

 

ヒドい言われようだ…。てかマインの奴、ラザールさんに甘くねえか?いつものあのツンツンはどこに…

 

「何してんのよ、タツミ!アタシ達も帰るわよ!」

 

「お、おう!」

 

そうしてオレ達もアジトへの帰路についた。

 

…マインの荷物重ぇ!!

 

 

 

ラザールside____

 

マインちゃんと例の新入り君に偶然にも出会い、王宮への帰り道。カンザシはどこかつまらなさそうな顔だった。

 

「ふん、話した限りでは何処にでも居そうなガキじゃったな。」

 

「そうだね…でも、カンザシ。」

 

「分かっておる。見た目に騙されるな、であろう?」

 

分かっているなら何より。実際僕らだって人格が変わったように切り替わるんだ。普段の顔だけで他人を信じてはいけない。

 

 

「ラザール隊長!」

 

王宮に戻り、部屋向かう途中、アルエット女医が息を切らして此方へと走ってくるのが見えた。

 

「何かあった?」

 

そう聞くとアルエット女医はどこか青ざめた顔で僕に言った。

 

「午後にあった陛下と大臣達の会議にて…内政官のショウイ殿が罪に問われ、牛裂きの刑に処されると!」

 

「あーらら…ショウイさんが処刑かぁ…。あの人、今時珍しい良識人だったのに…。」

 

「はい。しかし、今の懸念は彼と懇意にしていた私たちに被害がないかと言うことです。部下達がそれで不安がって密かに騒いでます。」

 

「うーん…多分大丈夫だけど、一応僕から大臣殿に確認入れてみるねー。アルエット女医は皆を落ち着かせておいて」

 

「はっ、了解致しました!」

 

カツカツとヒールの音を響かせて元来た道を戻るアルエット女医。彼女達は気付いているのだろうか。

懇意にしていた者の死を悲しむよりも先に己自身の保身を考える時点で、既に自分達がもう元には戻れない程におかしくなってしまっているということに。

 

「カンザシ」

 

「何じゃ主?」

 

「シオンに夜の帝都の監視を頼んでおいて。」

 

「夜の監視はオロチの仕事であろう?どちらにも頼むのか?」

 

「いや、オロチには王宮内の情報収集にまわってもらう。僕らだけじゃ限界があるからね…それにオロチなら、万が一気づかれても影から出さえしなければ殺される心配もない。」

 

「うむ、了解した。」

 

さて、これからの荒波に備えて…

 

「地盤を固めていこうか。」

 

僕らを舐めないでよね…♪

 

 




ラザール君とタツミ、初の顔合わせ。そしてマインちゃんとタツミが知ってしまったナジェンダのストーカー疑惑。きっと2人のボスへの認識が微妙なものになるに違いない(確信)そしてラバックは嫉妬に狂う(理想)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗躍

2017/11/07 改稿しました。
急に忙しくなってきた。ヤバい。改稿間に合うかな。


タツミside____

 

“新しい依頼だ───お前たち。標的は大臣の遠縁にあたる男、イヲカル。大臣の名を利用し、女性を拉致しては死ぬまで暴行を加えている。奴を警護しおこぼれに与る傭兵5人も同罪だ。重要な任務だ───全員で掛かれ!!”

 

それが今日のオレ達に与えられた任務だ。マインがイヲカルの狙撃、オレがその護衛。他の皆は護衛5人の暗殺が今回の役割である。イヲカルの屋敷から離れた小高い丘の木の上でオレとマインは待機している。マインが銃の準備をしている間にオレは望遠鏡で屋敷の入り口を見張る。

 

「しっかし…アレがイヲカルの住む豪邸かー」

 

警備が凄そう、そしてデカい。それが第一印象だ。

 

「この距離なら普通に届くわね。自室から出てきたところを撃ち抜いてやるわ」

 

「オレの役目は狙撃後の護衛だな、任せろ!」

 

初めてのことなので若干緊張するが、それも学びの一環だと意気込む。…期待はしないと言われたが。一つ深呼吸をしたその次の瞬間、マインの纏うオーラが変わる。スゲェ集中力だ…こっちまで気迫が伝わってくる。ピリピリとした空気が場を包んでいた。

 

「出てきたわ」

 

「え、どこどこ?」

 

マインに言われて、慌てて望遠鏡を覗き込む。見ると確かに標的だった。でも…

 

「標的じゃない人達まで沢山出てきたぞ!」

 

「だから?」

 

だからって…まさか!無関係の人達まで撃つ気か!?焦って確認を取ろうとしたその瞬間にマインは引き金を引いていた。ギョッとして慌てて弾道を辿る。しかし、オレの考えは杞憂だったらしい。マインの撃った弾は正確にイヲカル一人の眉間を撃ち抜いていた。その正確さにオレは呆然とするしかない。

 

「アタシはね、射撃の天才なのよ!」

 

普段なら腹の立つ一言も、この実力を見せられた後なら納得である。取り敢えずここにいては見つかる。早々に撤退しようと、オレはマインと共に駆け出した。

 

 

 

「あーもう、別ルートは歩きにくいわね!」

 

マインがブツクサと文句を言うが、仕方無いだろう。それよりも追っ手はもう全滅したかな…?マインに聞いてみるが、敵は皇拳寺で修業してきた連中だからサクッとはいかないかもしれないという答えが返ってくる。確か皇拳寺は帝国一の拳法寺…大臣の護衛ともなると護衛の質もヤバいものだと実感する。

 

「アタシはね、血縁の力でやりたい放題とか…そういうのが一番ムカつくのよ」

 

「昔何かあったのか?」

 

「アタシは西の国境近くの出身で…異民族とのハーフなのよ。街では思いっきり差別されてさ…誰一人アタシを認めてはくれなかった。ゴミや石を投げられるなんて日常茶飯事。悲惨な子供時代だったわ…。帝都に行けば何か変わるかもって思って行ってみても、何も変わらなかった。寧ろ悪化してたわね。暴力を振るわれる毎日よ。でもね、そんなときに唯一差別もしないでアタシを助けてくれた人がいたのよ。…あんたも知ってる人よ?この前会ったでしょ、ラザールよ。…ラザールはアタシの恩人。革命軍以外の数少ないアタシの理解者。…私が革命軍に入った理由、何だと思う?」

 

そう聞かれるが、正直分からない。何だろうか…?

 

「革命軍は西の異民族と同盟を結んでいるの。新国家になれば国交が開き、多くの血が混ざって…アタシみたいな思いをする子はいなくなる!もう誰にも差別なんてさせないわ…!!それに、恩人であるラザールにとってもきっと住みやすい国になる!これがアタシなりの恩返しよ!」

 

「マイン…」

 

そんなこと考えてたのか…。色々あったんだな…。オレと似た動機だったことにも驚いたが、素直に感動した。…が、

 

「そしてアタシは革命の功労者として莫大な報奨金を貰ってセレブに暮らすってワケ!」

 

オホホホホと高笑いをし出したマイン。その一言で台無しだぜ…。

 

 

 

 

 

 

 

ゴキッ!

 

追っ手4人の最後の一人をレオーネは殴り殺した。

 

「あー…スカッと爽やか♡」

 

恍惚とした表情で場違いな発言をするレオーネ。

 

「なかなか強かったですね!」

 

シェーレは巨大なハサミをケースに収め、一息つく。

 

「妙だな…追っ手は5人だったはず…」

 

アカメは情報との差違を訝しみ、タツミとマインの無事を祈った。

 

…アカメの不安は現実に今起こっていた。

 

マインは追っ手の最後の一人と対峙し、マインの背後からの攻撃を庇ったタツミはかなりのダメージを負って地に崩れ落ちていた。すぐさま戦闘態勢に入ったマインはその追っ手に銃を構え連射するが、伊達に元皇拳寺師範代ではないらしく全てを完璧に避けられる。

 

「!そんな…!?」

 

「悪さして破門されちまってね!…ま、覚悟しろよ!」

 

「…冗談じゃないわ」

 

再び銃を構えるマインだが、この至近距離。不利なのはマインの方だった。万事休すかと思われた状況にしかし、起き上がったタツミが追っ手に切りかかり、マインから注意を逸らす。そして、追っ手の男の腰の辺りに抱きつき、男が動けないよう力を入れて固定する。

 

「今だマイン!撃て!」

 

「アンタ…まさか自分の身を犠牲にして…!」

 

「違えよ!…射撃の天才何だろ?信じてるぜ!」

 

その言葉に慌てて抵抗を始めた男。必死にタツミを引き剥がそうとタツミを殴り出したが、タツミの手からは力は増すばかりで緩む気配はない。

 

「フン…新入りのクセに…!やってやろうじゃないの!!!」

 

「ま、待て!!」

 

自身の助命を乞う男だったが、躊躇うことなくマインは撃つ。

 

「ぐ…あ、貴様ら…大臣の身内に手を出して…ただですむと思うなよ…!!それに、あの方が黙っちゃい、ね…ぇ……」

 

その言葉を最期に男は絶命し、地に臥した。それを見て、マインは息を切らしているタツミに近寄る。

 

「アンタ、ちょっとは根性あるじゃない。しょうがないから少しは認めてあげ…る!?」

 

良いシーンの筈が、KYにもビシリとタツミのデコピンがマインに炸裂し、マインは悶絶する。無論、マインは怒るが、

 

「いくらなんでも弾ギリギリすぎだろ…オレの頭が凄いことになってんじゃねーか!!!」

 

見ると確かにタツミの頭はシュウウウという音をたてて焦げていた。その後、いつも通りの言い合いを始めた2人。それを遠目に見つけて、アカメやレオーネが心配損故に呆れていたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイドが去った後、2人の女の姿がそこにはあった。

 

「はぁ!まったくさぁ…コイツ何余計な一言言ってくれてんのさ!」

 

女達は怒っていた。それこそ、マインのパンプキンによって死んだあの男の死体を何度も何度も、何度も何度も何度も。ぐちゃぐちゃになるまで蹴る程には怒っていた。

 

「アタシ達が彼の頼みを受けて、色々やってることバレたらそれこそ一大事なんだけど!アタシ達だけじゃなくて彼にだって大打撃だったよ!危ないなぁ…」

 

「それに私達も彼も、一度もコイツのこと認めたなんて言ったことすらないんだけど。何を根拠にいい気になってたのかしら…もう最悪。早くかえりましょ、メズ。」

 

「そうだね、スズカ。早く帰ってラザールに報告してあげよっか!」

 

「ご褒美…私のこといっぱいイジメてくれるかしら?」

 

「さぁね♪でもアタシもご褒美欲しいなぁ…頼んでみよっか♪」

 

「そうね…そうと決まれば、さっさと帰っちゃいましょ」

 

話はまとまったのか、ぐちゃぐちゃに潰れた男だったモノに背を向け、帰路につく2人の女。その表情は喜色に染まっており、先ほどまでの苛立ちの色は欠片も見当たらない。

 

彼女達の本当の主は誰なのか、知っているのは本人達だけである。

 

 

 

 

~帝都別所にて~

 

夜だというのに沢山の人間の足音が響いていた。足音の正体は帝都警備隊。

 

「なんとしてもオーガ様を殺した犯人を見つけ出せ」

 

それが最近の帝都警備隊員の口癖だった。先日、裏路地にて発見されたオーガの死体。オーガの両腕は切り落とされており、体の切り傷を見ても分かる、明らかな他殺だった。犯人は言わずもがなタツミであるが、帝都警備隊がそんなことを知る由もない。

そんな、夜中も休まず犯人探しを続ける警備隊たちであったが、ふと、路地裏に貼られた手配書をジッと見据える男を見つけた。…図体の良い大きな体に、使い古したボロボロのコートを纏った男が夜中に狭い所で手配書を見ている。…この上なく怪しい。

 

「オイ、そこのお前!怪しい奴だな!」

「そこを動くな!」

 

警備隊は男にそう忠告する。しかし、男はまるでそんな声が聞こえていないかのように無反応。ただ何かをぶつぶつと呟いている。

 

「俺と同じ帝具使い…殺し屋…愉快愉快。こんなのが暴れているのか」

 

「オイ、お前、聞いているのか!」

 

再度忠告しようとした警備隊員達だったが…次の瞬間にはその視界は宙を舞い、話すことなど出来なくなった。

 

「帝都は最高に過ごしやすい場所のようだ。斬っても斬っても人多い位だしなあ…愉快愉快。」

 

そう言って帝都の夜闇に消えた男。その跡には首を切り落とされた死体が転がっていた。

 

 

 

 

 




次からザンク編スタート


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

首斬り

2017/11/07 改稿しました。
最近のマイブームはほうじ茶ラテ。
お茶漬け食べたい。梅がいいな、紫蘇多めで。


タツミside____

 

「今回の標的は帝都で噂の連続通り魔だ。深夜無差別に現れ首を切り取っていく。数日前からもう何十人殺されたかわからん。」

 

新しい標的がボスの口から話された。殺された人の三割は帝都警備隊員だというから驚く。今回のも手強い相手になりそうだ。

 

「間違いなくあの“首斬りザンク”だろうね」

 

ラバックが言うが…首斬りザンク?なんだソレ?

 

首斬りザンク。

元は帝都最大の監獄で働く首斬り役人だったそう。でも、大臣のせいで処刑する人数が多くて…毎日毎日、繰り返し繰り返し、命乞いする人間の首を斬り落としていた。それを男は何年も続けるうちに、もう首を斬るのがクセになってしまい、監獄で斬ってるだけでは物足りなくなり終いに辻斬りになってしまったのだという。当時国から討伐隊が組織されたものの、それを察知したのか直後に姿を消していたその男が、今回この帝都に再び現れたのだという。

 

「危険な奴だな!探し出して倒そうぜ!」

 

拳を握って言う。そんな奴を野放しには出来ないからな!すると、兄貴がオレの頭に手を乗せて言う。

 

「待てタツミ。ザンクは獄長の持っていた帝具を盗み、辻斬りになったんだ。二人一組で行動しねぇと…お前危ないぜ?」

 

そしてそこからの顎クイ。今別の意味で危ない気がするのは気のせいじゃないはず。

暗殺は今夜に決定した。よし!やってやるぜ!

 

 

 

 

ラザールside____

 

「そちらは順調?」

 

暗い路地裏の中、今僕の目の前には最近噂の首斬りさんがいる。何故と思うかもしれないが、ちゃんと理由がある。

数日前、大臣の依頼で首切りに関する情報を店で集めるよう頼まれた。…のだが、正直面倒くさいことこの上ない。よって、本人に直接聞いて取引することにしたのだ。結果、少々ひと悶着あったものの利害の一致で交渉成立。今に至るというわけだ。

今日は、お昼のうちに話したいことがあったから、オロチに頼んで見つけてもらった。

 

「ひひ、順調だ。ありがとよぉ、おかげで毎日楽しいぜ。…ところで、前から聞きたかったんだがいいのかぃ?帝国の軍医とあろう者がこんなことをして」

 

「ううん、ダメだよ?本来ならね。だから内緒って言ったでしょ?」

 

「…俺がもし口を滑らせたらどうすんだ?」

 

「あはははは、変なことを聞くね!もし()()()()口を滑らせちゃったとしても大丈夫だよ。… 信 じ る 奴 な ん て 一 人 も い な い か ら 。」

 

「…いいだろう。ああ、実に愉快愉快。」

 

僕は彼に取引を持ちかけた。僕が殺して欲しい人間の居場所を教える。首斬りさんはその人を殺し、あとは自由に殺しまわる。首斬りさんは殺し甲斐のある人の首を斬るために、僕は僕の平穏を邪魔しそうな奴を摘むために。お互いにメリットのあるこの取引は概ね順調。あとは…

 

「ナイトレイドは多分今夜あたり来るだろうね。気をつけてね?」

 

「分かった。ああ、今から楽しみだなぁ」

 

そう言って去っていく首斬りザンク。楽しみなのはこっちだよ。ふふ、だって、()()()()()()()()()()()()()!!僕を殺そうと企んでいたんだよね?知ってるよ、あの子が教えてくれたからね!

 

「主。」

 

すると、いきなり僕の後ろから聞こえた声。

 

「カンザシか。どうしたの?空間転移使ってまで急いで。」

 

「例のアレ、出来上がったぞ。」

 

「本当?早いね!じゃあ、夜から早速練習してみようかなぁ♪」

 

「ふふ、しかし主は本当にすごいな。妾達がいるのに、自身もしっかり鍛えておる。」

 

「カンザシ、あのね?これは当たり前のことなんだよ?何事も一発で上手くいけば世話無いの。大事なのは一発を外した場合の二発目、三発目をどうするかなんだよ?僕にとっての一発目は駒達。二発目はチェルシーやイエヤス、カンザシ達。三発目は僕自身だ。大事な三発目の僕が弱かったらダメでしょ?」

 

「…そうか。まぁともかく、無理はするでないぞ。妾達はそれだけが心配じゃ…」

 

「その辺は大丈夫♪…ところで、彼女は?」

 

「うむ、やる気満々じゃ。さすが妾の親友といったところか?」

 

「そっか、ならいいや。今日はカンザシも着いて行くんでしょ?」

 

「うむ、女童にでも化けて行こうかと思っておる。」

 

「いいんじゃない?…ま、とりあえず一回帰ろっか」

 

「じゃな。周りの人間に見られると厄介じゃ、さっさと帰ろうぞ。」

 

そう言ってカンザシは転移を行使する。ああ、今晩が楽しみだ。診療所で待っていた“彼女”が大きな体を揺らし、クツクツと笑った。

 

 

 

 

タツミside____

 

夜になった。オレは今回アカメとペアで行動している。受け持った区画を見回るが、帝都住民は辻斬り怖さか誰一人外に出てこない。逆にやりやすい…とは思ったが、帝都警備隊はいつにも増して活発に動いているし同じか。

さて、ところでだが…

 

「アカメ、探す前に一つ聞いてもいいか?」

 

「?…!安心しろ、携帯食料は持ってきた」

 

なんだその万事解決!みたいな顔と立てられた親指は。

 

「いや、そうじゃなくて…帝具って何?」

 

「……こういうのだ」

 

チャッと自分の刀を見せてきたアカメ。うん、分かりません。オレの様子を見て、ハァと一息つくとアカメは話し出した。アカメの言うことを要約するとこうだ。

 

約千年前、大帝国を築いた始皇帝は悩んでいた。この国を永遠に守っていきたい…だが、自分はいずれ死んでしまう。結果、始皇帝は自国の全兵士と世界各地から最高の職人達を呼び寄せ、命じた。“国を不滅にするために叡智を結集させた兵器を作り上げろ”と。伝説と言われた超級危険種の素材、オリハルコンなどのレアメタル…兵士達はそういったものを集め、それらを使って職人達は作り出した。現代では到底製造できない48の兵器を。それを始皇帝は【帝具】と名付けた。帝具の能力はどれも強力で、中には一騎当千の力を持つものもある。しかし、五百年前の内乱によってその半分近くは各地に姿を消した。

 

「…つまり、皆が持っている武器も帝具なんだな?」

 

「ああ、ボス以外全員そうだ。」

 

アカメの帝具“一斬必殺”『村雨』。この妖刀に斬られれば傷口から呪毒が入り即座に死に至る。解毒方法もないとされている。

レオーネの帝具“百獣王化”『ライオネル』。ベルト型の帝具で、自身が獣化する。身体能力や嗅覚、視覚、聴覚が飛躍的に向上し、接近戦から索敵まで可能な帝具。

マインの帝具“浪漫砲台”『パンプキン』。精神エネルギーを衝撃波として打ち出す銃の帝具で、その破壊力は使用者がピンチになる程増していくという。

ブラートの帝具“悪鬼纏身”『インクルシオ』。鉄壁の防御力を誇る鎧の帝具だが、装着者に多大な負担がかかるため、並みの人間が身に着ければ死亡すると言われている。

ラバックの帝具“千変万化”『クローステール』。強靭な糸の帝具で、張り巡らせて罠や結界にもでき、拘束や切断も可能。異名通り千変万化な帝具。

シェーレの帝具“万物両断”『エクスタス』。大型鋏の帝具で、世界のどんな物でも必ず両断できる。その硬度故、防御の面でも高い優位性を示す。

 

「…また、奥の手を持つ帝具もある。例えばブラートのインクルシオは、素材に使われた危険種の特質を活かし、しばしの間その姿を透明化できる。」

 

「お、奥の手…強烈だな!」

 

「そうだ、強烈なんだ。故に、帝具を知る者ぞ知る、古来から続く一つの鉄則がある。」

 

「鉄則?それってどういう…?」

 

「帝具はその性能故に殺意を持ってぶつかれば例外なく犠牲者が出てきた。つまり、“帝具使い同士が戦えば必ずどちらが死ぬ”。これが鉄則だ。今回標的のザンクは帝具持ち…遭遇すれば相打ちはあっても両者生存の可能性は無い!…タツミ、気を引き締めろ。」

 

踵を返し、再び辺りに気を向けるアカメ。俺と歳も近いだろうに…アカメは今までどれだけの修羅場をくぐってきたんだろうか。

 

 

 

No Side___

 

帝都時計塔の上に首斬りザンクは立っていた。

 

「んーっ、辻斬りに加えて殺し屋も現れたと来たもんだ。全く物騒な街だねえ…愉快愉快♡」

 

帝具の能力でザンクは三手に分かれていたすべてのナイトレイドメンバー達を、すでに見つけていた。それらを眺め、何かを考えるザンク。

 

「さぁて…どの首から斬っていこうかなぁ。…と言ってももう決まっているんだが。それがあの軍医との取引だしなぁ…。でも、アイツと俺の目的が一緒で良かった良かった♡」

 

邪魔なんだと無邪気な笑顔で言ってきた少年を頭に思い浮かべるが、それもすぐに消える。…あぁ、今日も耳鳴りが止まない。

 

「何か恨みでもあるのかねぇ?…どうでもいいか。では、早速…美味しいモノは先に頂いてしまおう」

 

そう言ったザンクの視線の先には、アカメとタツミの姿があった。

 

 

 

 

タツミside____

 

さすがにホイホイとは出てこねーか…根気よく行くしかないな。アカメと区画を見回り初めてしばらく経つが、それらしい人影は見えない。今はアカメとベンチに座って休憩中だ。隣でアカメは緊張感もなくパクパクと携帯食料を口に運んでいる。相変わらずの食欲だ…。すると、ブルリと体が震える。これは…アレだ…うん。

 

「ちょっと失礼」

 

「トイレか。」

 

「…………」

 

……アカメにはデリカシーってモンが無いのか…?

アカメに見えない程度に路地裏に入り、用を足す。ハア、緊張してんなオレ…。オレはオーガという強敵とは戦ったが、帝具持ちとは戦ったことがない。本気でやらねぇと、殺られるのはコッチだ!オレは既に何度したのかわからない深呼吸をする。改めて気を引き締めていかねぇと。

 

ザッ……

 

足音が聞こえた。驚き、少し警戒しながらそっちを見やる。

そしてオレの頭は真っ白になった。

 

 

「サヨ………?」

 

 

 

 

 

 

カンザシside____

 

「その者にとって一番大切な者が見えるとはな…なかなかにえげつないのぅ。」

 

『ククッ…それを貴方が言うのですー?神墜ちのクズハ。』

 

そう言うのは妾の故郷で唯一の親友であった女。…クズハか。妾の名がカンザシになってまだ十年程だというのに、懐かしいと思うのは何故じゃろうか。

 

「その名で呼んでくれるな。今の妾はカンザシじゃ。妾の過去を聞いて尚、妾を親愛してくれる主がつけてくれた、この大切な名が妾の真名となったのじゃ。」

 

『ふーん。ま、アタイも名前、後で貰うけどな!』

 

そうコイツ、妾を探しにこの国に来たのじゃ。何というか…追ってくるほど親友想いだったとは思わなんだわ。しかし先日、妾が人間に仕えていると知るなり、主を殺そうと主の元にやってきた。…が、まさかの主に一目惚れという妾と全く同じ経緯を辿ってテイムされた。この世の中、何があるか分からんのぅ…。

 

「ふん、またしても長い付き合いになりそうじゃの。一応よろしゅう頼むとでも言っておこうか。」

 

『ククッ…こっちこそよろしくねー、えーっと?これからはカンザシ姉さん?…クククッ。姉さん呼びも懐かしいねぇ~』

 

「そうじゃのう。」

 

そう言って目線を街に戻す。さてさて、首斬りとクロメの姉とタツミとやらは何処じゃ……んんん??

 

「『え。』」

 

た、タツミとやらが首斬りに抱きつい…!?

 

『存外気持ち悪っ!!何アレ悪趣味!あの少年まさかの男色k((「黙れ」ごめんごめん!でもアレはない。』

 

真顔の我が親友に激しく同意する。おそらくタツミとやらは、幻覚で見た大切な者に感極まって思わず抱きついたんじゃろうが、端から見れば男同士の…否、ただの変態同士の抱擁じゃ…普通に引く。

 

『お、少年が首斬り見上げて固まった。幻覚解けた?』

 

「そのようじゃの…クククッ…」

 

『ん?どうした?なんか面白いこと聞こえた?』

 

「こんばんはって…クククッ」

 

『え?何?抱きつかれてるあの状態、あの状況でこんばんは?……ぶっふぉ!何それ、マジウケるんだけど!クッ…アハハハハ!!』

 

流石親友。妾の言葉足らずな説明で理解するとは。嗚呼、これはこれは…

 

「『面白い。』」

 

主が楽しみだと言った理由が分かった気がする。さて、どっちが勝つかのう…?

 

 




以降ネタバレ(カンザシの親友ちゃんの設定です。)
読みたくない方は高速スライドで逃げて下さい。






















★キノ
・超級危険種
・カンザシと同じ東方出身で、カンザシを姉のように慕うテンション高い系女子。
・八つの赤いの目に、黒い体の巨大な女郎蜘蛛
・話すときは念話なので『』で表示。人化するかは未定だが、したら通常の「」で表示。
・吐く糸は硬度に優れ、粘着力のある糸も出せる。クローステールのように千変万化だが、火に弱く火に触れればすぐに溶けてしまう。
・カンザシが攻撃に優れているのとは逆に、体の甲殻が高い硬度を有しているため、耐久型の戦法を取る。
・子蜘蛛を体内で大量に飼っており、基本攻撃は子にさせ(食らわせ)て、数で勝つ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

首無演舞興

2017/11/08 改稿しました。
雨が降っています。見るのは好きですが、お外には出たくないです。


タツミside____

 

ザンクに遊ばれている自覚はあるんだ…何度切りかかっても避けられる。…全てかわされる!くっそ!!心読むとか反則だろ!

 

「うっ!」

 

「愉快愉快。我ながら程よい傷を負わせたな」

 

ニンマリと口角を上げるザンクに、背筋が冷えるのを感じた。

 

 

 

 

 

サヨだと思っていたのはザンクだった。ザンクの帝具は額に付けられた目のようなモノ…“スペクテッド”と言うらしい。五つの能力があるらしく、その内の一つ、“幻視”とかいうヤツでオレはサヨの幻覚を見せられ、まんまとアカメと引き離されたわけだ。

既にオレの全身は傷だらけ。スタミナも切れてきたし正直ヤバい。けど、オレは諦めねえ、アカメは絶対に来る!それまでのせめて時間稼ぎくらい…!

ザンクが命ごいをしてみろと言う。時間稼ぎにはなるかも知れないぞと言ってくる。……ナメんじゃねぇ…そんな言葉に屈するほど弱かねぇんだよ!

 

「……ふざけんな!手前ぇみてぇな首を斬るしかねえ腐れ溝鼠に…命ごいなんかするわけねぇだろ!」

 

流石にイラッとしたらしい…ザンクの動きが固まった。安い挑発に乗りやがって…へへっ!…心が読まれてんなら、いっそシンプルに。この一撃に全てを懸けることにした。剣を一振りして、構える。

 

「傷が痛いだろうに。首斬りの達人が介錯してやろう」

 

「やれるもんなら…やってみろ!!行 く ぞ !」

 

何も考えずに、オレのもてる全力の力でザンクの懐に入り、剣をふる。振り返ると、ザンクの頬に入った切り傷が目に入る。今までは全部避けられていたが、初めてヤツに一太刀入れた…

 

「へっ、一発入れてやったぜ!何が首斬りの達人だ…斬り損なってんじゃねえか…笑わせんな、ヘボ野郎」

 

ザンクの一閃はオレの背中に走っていた。首じゃねえ。へへっ、ざまあみろ!オレの一言は奴のプライドをひどく傷つけたらしい…ヤツはオレに向かって来た。しかし、あいつは忘れている。俺には頼りになる仲間がいるんだってことをな!

その瞬間、オレとザンクの間に、空から見覚えのある刀が降ってきて地面に突き刺さる。急なことにザンクは走りを止める。上を見やれば、頼もしい少女の姿が見えた。神はまだオレを見捨てていない!

 

「良い悪態だ。精神的にはお前の勝ちだな」

 

「アカメ…!」

 

「ようやく見つけたぞ…待っていろ。すぐに終わらせて、手当てしてやる」

 

アカメの体から殺気が溢れ出した。

 

「ふん、悪名高いアカメと妖刀村雨…愉快愉快、会いたかったぞ」

 

アカメを見て本気で行くべきだと判断したらしい。ザンクが着ていたコートを脱ぎ捨てた。

 

「私も会いたかった。任務だからな」

 

アカメも刀を構える。次の瞬間、二人の刃がぶつかった。斬撃の応酬。剣戟の嵐。互いに引くことのない、どちらも速く強く…拮抗した戦い。ただ剣と刀がぶつかり合う音だけが辺りに響く。アカメが傷を負ったのを俺は初めて見た。普段の鍛錬でアカメの強さは知っている…これが、帝具使い同士の戦闘…!

 

ふと二人が攻撃の手を止めた。

ザンクは語る。今まで殺してきた人間たちの怨みの声が聞こえて止まない、早く地獄に来いと言う沢山の声が頭に反響し続けている、と。

 

「なぁ、アカメ。お前にも聞こえているだろう?オレは喋って誤魔化しているが、お前はどうしている?」

 

人を殺してきた二人…やっぱアカメも聞こえてんのかな…オレもいつか聞こえるようになるんだろうか…?

 

「聞こえない。」

 

しかし、アカメははっきりとそう言った。

 

「私には…そんな声は聞こえない」

 

「…なんと。お前ほどの殺し屋ならこの悩み、分かち合えると思ったんだが…悲しいねぇ!」

 

ザンクがそう言ったと同時に、アカメは目を見開き固まった。

 

「………クロメ?」

 

どうしたんだアカメ!呆然と目を見開くアカメ。まさか…あの時のオレみたいに幻覚を…!?

 

「無駄だ…一人にしか効かぬが催眠効果は絶大。愛しき者の幻影を視ながら…死ね!アカメ!」

 

どんな強いヤツだって…最愛の人を殺すことは出来ねえ。だから…もうダメだと思った。

 

だけど…アカメは、刀を振った。

最愛の者に容赦なく殺しかかったアカメにザンクは驚愕の叫びを上げる。何故だと問う。

 

「最愛だからこそ…早く救済()してやりたいんだ」

 

その意味は、オレには理解出来なかった。あんなアカメの目を…悲しみと決意に揺れる目を、オレは初めて見た。…今の攻撃でザンクの武器には亀裂が入った。あと数撃でザンクの剣は折れる。アカメがここぞとばかりにザンクに向かって行く。ザンクも死んでたまるかと鋭い殺気を放つ。互いに斬り合う二人。未来を読んでいるからかアカメに傷が増えていくが、どれも殺すに至らないものばかり。

 

そして、バキリと嫌な音をたてて、ザンクの剣はとうとう砕けた。

 

「葬る」

 

アカメがトドメとばかりに刀を構える。しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴキュキッ!

 

 

 

 

 

 

 

ザンクは死んだ。だけどアカメの攻撃でではなく…

 

「わぁ!凄いすごーい!ナイスだよ、エンサ!」

 

謎の第三者の介入によって。

 

 

危ないと判断したらしいアカメはザンクに向けていた攻撃を中止し、飛び退いた。

ドサリとザンクの体が倒れた。ドクドクとその死体からは血が流れる。ゴキリゴキリと骨の砕ける音がする。何が…起きた?目の前にいる巨大な蜘蛛とその頭に乗る幼い子供は…一体何なんだ!?思考を必死に巡らせる間にも骨の砕ける音…大蜘蛛の咀嚼音が響く。

 

____ザンクの死体に首はなかった。

 

 

 

 

カンザシside____

 

ザンクを殺せ

 

それが今回主から受けた命令じゃ。エンサ…妾の親友の力試しと、帝具の回収を兼ねてとお願いされた。首斬りにはアカメを殺したいと言っていたが、実際はどちらでも良いらしい。邪魔者は一つ一つ確実に消していかねば。

 

【クロメちゃんが殺したがっているからねぇ…。アカメ、邪魔だからさっさと退場はして欲しいんだけど…んー…だから、今はいいや。時間切れってことで処刑!】

 

全く、我が主は気に入った人間にはとことん甘いな…まぁ、それはさて置き。その様な事情によって妾は今ここにおる…幼女の姿でな!妾は狐じゃ。化けることなど造作もない!普段の人間の姿はタツミとやらに見られておるからな…口調を変えて、幼子の姿でいるならバレぬだろう。

 

「エンサー、てーぐは壊しちゃ、めっ!だからね!」

 

『ぶっ…クククッ、了解ー…ブハッ!ごめんやっぱ無理、その口調マジウケるんだけど!!アハハハハ!』

 

エンサ、後で覚悟しておれよ。アカメたちに聞こえていない念話だからといって調子に乗りおって!…おっと、アカメとやらからの殺気がウザイのう…。少し…威嚇してやるか。ふっとアカメに目を向け、僅かに微笑んでやると同時に殺気を飛ばす。

 

『あーあ、可哀想に。あの少年、すっかり怯えてるよー?少女の方も結構苦しそう。…何割飛ばしたの?』

 

「んー?アハハ!そこのお二人さーん!もしかして私のこと怖い?怖い?アハハハハ♪……まだまだ、こんなの序の口だよ?」

 

最後だけ声のトーンを落として言ってみる。

 

『カンザシ姉さん、怖い怖い!アタシまでゾクッと来ちゃったよ!』

 

嘘吐け。妾の親友がこの程度でビビるものか。

 

「お前…何者だ?その蜘蛛は…危険種か?」

 

アカメがようやく口を開いた。…けどのぅ

 

「……さぁね、自分たちで探してごらんよ♪んじゃ、帝具はもらってくね!ご主人様からの命令だし!バイバーイ♪……エンサ、帰るよ。急ご?」

 

『りょー』

 

エンサは長い8本の足を動かし音もなく動き始める。アカメを殺すのは命令されてないからな、退却して構わん。

 

「待て!」

 

「バイバイッ♪」

 

アカメに笑顔で手を振ると、妾達は路地裏に入り闇に消えた。まぁ、正確に言えば、夜の闇に溶け込むように、音もなく、ものすごい速さで、民家の屋根や壁を移動しているだけなのだが、ヤツらにはさも消えたかのように見えたじゃろう。

アカメが追ってくる気配はない。

 

『あのアカメとかいう女…深追いしてくるほど馬鹿じゃないみたいだね?』

 

走りながらエンサが言う。

 

「そのようじゃな…あの殺気を受けて相手の力量を測り、相手が攻撃してこないようだと知るや、負傷した仲間と得た情報を死守…三十六計逃げるに如かずとはこのことか。クロメがもてはやすから賢いヤツだと思っておったが…思った以上であったな。流石元暗殺部隊エースといったところか。」

 

『そうねぇ…。ま、それはいいや。早く帰ろー!アタシ、早く名前欲しい!』

 

「ククッ…そうじゃのう。妾も主に褒めてもらって、毛並みを整えて貰うのじゃ!よし、急げ!エンサ!」

 

『急ぐ!』

 

サカサカと足の動きが急加速する。こうして二匹の危険種は突風のごとく、しかし静かに気配を残さず、街を駆け抜けていった。

 

 

 




補足
エンサはキノの昔の名前です。カンザシでいうクズハがそれです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

譲れないもの

2017/11/10 改稿しました。
課題終わんねぇ…ほうじ茶ラテェ、ほうじ茶ラテが足りない…


タツミside____

 

夢を見た。靄のかかった真っ白い空間に…サヨとイエヤスがいた。だから楽しい夢なんだと…あの頃に戻ったんじゃないかと、一瞬淡い期待を寄せた。でも二人はオレを置いて離れて行った。何度呼び止めても…何度二人の名前を叫んでも…消えた二人が戻って来ることはなかった。

 

「…切ねぇ夢だったな……。」

 

アジトの自室で目覚めたオレは、先ほど見た夢を思い出すと…情けないことに少し泣きたくなった。沈んでいたオレだったがふと布団に重みを感じて横を見ると…オレのベッドにもたれて眠るシェーレの姿があった。

 

「ムニャムニャ…タツミ…タツミは今日から私の部下になるそうです…よろしくですぅ…ムニャ…」

 

……て、天然上司キタ…!…大丈夫なんだろうか。少しの不安を抱きつつも、タツミはシェーレを起こしにかかることにした。

 

 

 

~会議室にて~

 

「んーーっ…シェーレさんが上司で大丈夫かな」

 

シャクリとリンゴを囓りながらラバックは不安を口にした。何せシェーレは予想の斜め上を行くドジっ子である。戦闘時には頼れる仲間であるが、それ以外では役立たz…ゴホンゴホン、ちょっと抜けている彼女なのだ。不安にもなる。

 

「大丈夫だろ。シェーレはタツミを気に入るだろうし」

 

ナジェンダはそんなラバックに対して、何の不安もないとばかりに呑気にリンゴを囓りつつあっさりと返事をした。

 

「その心は?」

 

「タツミは年上受けがいいんだよ」

 

「ハイハーイ、次は私の部下って予約したぞーっ!」

 

「な?これも才能だよ」

 

「なんだよそれ!ズッリイなぁぁぁ!」

 

突如として会話に入ってきたレオーネの発言を聞いてラバックは羨ましいとばかりに叫んだ。そして…

 

「ふふ…殺し屋だけに年上キラー……どうだ!うまいこと言ったろ?」

 

凍りつく会議室。ラバックもレオーネも固まったまま冷や汗を流し動かない。

 

「………そうでもないか」

 

その空気に本人も気づいたのか、ナジェンダがボソリとそう呟いて誤魔化したことは言うまでもない。

 

 

 

~河原にて~

 

会議室が凍りついていた頃、タツミとシェーレは河原にて鍛錬をしていた。タツミがしていたのは鎧泳ぎという暗殺者育成用プログラムにも記された鍛錬法らしく、その名の通り、鎧を着て水の中を泳ぐというものだった。

 

「ところで…シェーレはなんでこの稼業に?」

 

先ほどからのシェーレの少々行き過ぎたドジっ子度合いに耐えきれずタツミが聞いた。

 

「ええっと……遡って説明しますと…」

 

 

シェーレside____

 

帝都の下町で生まれ育った私。幼い頃から何をしてもドジばかりだった私は、怒られからかわれの生活をしていました。しかし、そんな私にも親友がいて、その親友は決して私を馬鹿にするようなことはありませんでした。そんな親友との時間が私にとって唯一の幸福だったのです…。しかし、ある時その親友の元の彼氏がふられたことを逆恨みして家に殴り込んできました。そして、親友の首を私の目の前で絞め始めたんです。麻薬でおかしくなっているその男から、親友を助けなければと思った私は台所から包丁を持ち出し、驚く程冷静にその男を刺し殺しました。男は呆気なく死に、親友は震えていましたが、私の頭の中は寧ろクリアでした。その一件は正当防衛で片がつきましたが、しかし、親友と会うことは二度とありませんでした。

そして、後日。道を歩いていると男たちがいきなり襲ってきました。あの男の仲間だったらしい彼らは、「お前の親はさっき殺しておいた。あとはお前だ。」と言っていました。親が殺された…そう言われたのに私は驚く程平常心で。護身用として持っていたナイフで次々と男たちを殺していきました。

 

「そして、男たちを全員殺した時、私は確信したんです」

 

タツミにこんな話をして良いのかは躊躇われます…が、いつかは知ること…ですよね。私の生い立ちをジッと聞いているタツミを一別して、私は話します。

 

「…ネジが外れているからこそ殺しの才能がある。───社会のゴミが掃除できる。役に立てることが一つだけある───と。」

 

「…そんな事が……。思ったより重い話だった……」

 

「そうですか?」

 

「あぁ。…で、革命軍にはいつ?」

 

「そうですね…その一件以後、帝都で暗殺稼業をしていたところをスカウトされた…んでしたっけ?」

 

「いや、オレに聞かれても…」

 

「…ああ!そう言えば丁度その頃ですね。」

 

「何が?」

 

「えーっと、マインやレオーネから聞いていませんか?帝都一の医者の話。」

 

「えっと、ラザールさんのこと?」

 

「そうですそうです。丁度1人で暗殺稼業をしていた頃に彼に出会って…以後革命軍に入って指名手配されるまでは私も彼の店をよく利用していました。私はこの通りドジなんでよく転んで傷を作ってましたから…」

 

「ラザールさん、マジで顔広ぇな……」

 

「そうですね…おそらくアカメとブラート以外の人とは面識あると思いますよ?」

 

「え!?」

 

そんなに驚くことでしょうか…ですが、確かに彼は色んな意味で規格外ですよね。

 

「ですからタツミ。ラザールの前で口をスベらせないで下さいね?」

 

「オレがナイトレイドだってことをか?」

 

「全部です。彼はひどく頭の切れる人です。誰か一人でもバレれば芋づる式にメンバーが割れる可能性だってあり得ます。しかも、彼は今や軍属している身…バレれば大臣にもバレることと同義です。ですので…」

 

「き、気をつけるぜ……」

 

本当に大変です。…ラザール、私はいつかあなたとも戦わなくてはならないのでしょうか…

 

 

 

 

 

ラザールside____

 

「キリク、遅い。」

 

「は、はいぃぃぃ!」

 

「アルエット女医、散らかすな。」

 

「え?……あれ!?す、すみません!」

 

「カンザシ、なんでお菓子食べてんの?」

 

「んんん!?す、すまぬ、主!」

 

「はああああ……お前らいい加減にしろ」

 

思わず長いため息をつく。ホントなんなのさ…。キリクは書類出さないし、アルエット女医は部屋をいつの間にか散らかすし、カンザシは隣で呑気にクッキーつまんでるし…僕が真面目にやってるのが馬鹿みたいじゃん…。

 

「はああああ……((ボソッ真面目に仕事しない奴なんて、一回【放送禁止】して【モザイク】して【聞かせられないよ★】されればいいんだ…」

 

((コソコソ

「おい、ちょっとカンザシさん、隊長どうしちゃったワケ?!」

「隊長があんなになるの久々よ?…まさか!」

「そのまさかじゃ。またあのストーカー女から勧誘の手紙が来てのぅ…」

「ナルホド…そこに俺のサボリと…」

「私の散らかし癖と…」

「妾のおやつタイムが重なったからあぁなっておる」

 

「ねぇ、ちょっとそこの3人。何コソコソ話してんの?さっさと仕事しろ!」

 

「「「YES!Sir!」」」

 

はぁ…僕はいつになったらコイツらを仕事中に叱らなくてすむようになるんだろうか。畜生…全部全部ナジェンダさんのせいだ!!

 

 

コンコン

 

不意に響いたノック音。入室を促すと、入ってきたのは文官の人。

 

「失礼します!ラザール医療隊長殿はいらっしゃいますでしょうか?」

 

「はいはい、いますよー。何のご用ですかー?」

 

全く…今度は何ですかね…

 

「オネスト大臣がお呼びです!参上願います!」

 

「……りょーかい…」

 

あのクソ大臣…今度は何の用だ…いい加減僕の堪忍袋も限界なんだけどな。

 

「あー…怒ってる怒ってる……」

「隊長…お可哀想に…」

「主…妾達は仕事するぞ。頑張るぞ。だから主…生きて戻ってくるのじゃ…」

 

…他人事か。何か腹立つな。よし、カンザシは明日一日中皇帝に貸し出しの刑だね。

 

「はあ…行ってきまーす。」

 

「「お疲れ様です」」

「気を付けてゆくのじゃよ~」

 

 

 

~大臣私室にて~

 

「失礼しまーす。大臣殿ー、今度は何のご用ですかー?僕今スッゴい疲れてるんですどー?主にアナタの体調管理とか体調管理とかアナタからの依頼の情報収集とかのせいで。」

 

入室早々それかよ的な顔をされたが、何を言っても無駄だと判断されたのかため息一つで流される。今の僕には何を言っても無駄だと判断したのだろう。段々僕の性格が分かってきたようで何より。そのまま僕を怒らせないように励んでほしいものだ。

 

「すみませんねぇ…。ま、どうぞ座ってお茶でも。」

 

「お茶はいいので本題を。僕は早く寝たいんで。」

 

「………相変わらず生意気ですねぇ…本来なら打ち首事ですよ?」

 

「…ふふ、可笑しなことを言う。打ち首…ねぇ?僕の利用価値は高い。だからアナタはまだ僕を手放す気はない…殺せないでしょう?そう思っての行動ですよ。僕、馬鹿じゃないので。それに、もし本当に僕を殺したいなら、それこそ口外することなくいきなり羅刹四鬼でも使って問答無用で殺しに来るでしょう?大臣はそういうタイプだと思ってたんだけどな?」

 

「…分かっててやっている辺り、貴方も相当だとはおもいますがねぇ。」

 

「いえいえ、アナタには及びませんよ?……それで、本題は?」

 

早くしてほしい。僕は早く寝たい。だって5徹だよ?いくら眠気覚ましを使っていても、そろそろ限界なのだ。いい加減そろそろ寝たい。

 

「そうですね…まずは先日のスペクテッドの回収ありがとうございました。」

 

「どういたしまして。」

 

「呼んだのは単に伝えておこうかと思ったことがあっただけなのですが…そこまで言うならまた後日でもいいですよ?」

 

「…折角来たのに骨折り損とか嫌なんで。手短にお願いします。」

 

「そうですか、なら手短に。近いうちに…エスデス将軍を呼び戻すことになるやもしれません。」

 

「……わお。何故?」

 

「最近少々思うところありまして…あくまでももしかしたらですが、一応です。」

 

「……ってことは僕巻き込まれるんだ?」

 

「さあ?そこは貴方次第といったところですかね。しかし、彼女は少々予想外の行動をとることもありますからなぁ…私からは何とも。」

 

「そう…。」

 

「話は以上です。まぁ、貴方は基本自由にしていて構いませんが…私の邪魔にならない程度に動いて下さいね?」

 

「ん、りょーかいですよ、大臣殿?それでは、失礼しまーす。」

 

 

大臣の私室を出て、早足で自室に向かう。

 

(オロチの情報だと…確かナカキド将軍とヘミ将軍がちょっと怪しいって言ってたな…少々思うところっていうのはそれの事かな?そして、最近活発に動くナイトレイド…)

 

【確実に呼び戻すことになるだろうな…。何か手打つなら今の内だぞ、ラザール。】

 

(分かってるよ、ジェミニ。…とりあえずイエヤスの帰りを待つか。チェルシーにも一応手紙を書いて…)

 

 

全く厄介なことになってきた…けどこちらもめげるわけにいかない。

 

「思い通りになると思うなよ。」

 

全ては僕らの平穏のために。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

疑惑から確信へ

2017/11/10 改稿しました。


タツミside____

 

河原でシェーレの過去を聞いて数日後、オレの傷もようやく完治に至った。今日はボスの召集を受けて、ナイトレイドの全員が会議室に集まっていた。

 

「タツミ…そろそろ傷も癒えてきたか?」

 

「癒えてきたも何も全快したぜ!」

 

「ほぅ…やはりラザールの薬は効くな…。ならいい。とりあえず、ほれ。」

 

そう言ってボスがオレに手渡して来たのは本?

 

「これ、何の本?」

 

「開いて見ろ。」

 

言われて開いてみると、色々な道具のような絵とその解説が書いてあった。…あれ?このハサミどっかで見たような?…この刀もだ…どこで見たんだっけ…。……あっ!

 

「ボス!これ、もしかして!?」

 

「あぁ。それは帝具に関する文献だ。一部の帝具しか載っていないが、それだけでも頭に入れておけ。」

 

チラッと眺めただけでも色々な図が書いてあった。これで一部…?

 

「今回は回収できなかったが…回収すれば帝具は革命軍本部に送る。解析し、貴重な戦力になるだろうからな」

 

殺し屋チームだが、帝具集めもサブミッションとして存在しているってことか。

 

「ザンクのような敵が帝具持ちの場合、本来ならば奪取…最低でも破壊が望ましかったのだが…」

 

でも、今回は謎の闖入者によって回収も破壊も不可能だった…。

 

「結局、あのデカい蜘蛛と女の子は何だったんだ?」

 

「密偵チームが情報を集め探しているが分からん。これからも現れる可能性もあるし、次に会ったら捕獲…無理なようなら最悪始末する必要も出てくるかもしれないな…」

 

まだほんの幼い少女だった…でも、敵かもしれないのか…。なんだか悲しいな。

……ところでなんだが、

 

「話は戻るんだが、ボス。一番強い帝具って何だ?」

 

これすげぇ気になる。一番強いのってどれなんだ?

 

「用途や相性、使い手の力量で変わるだろうが…だが敢えて言うなら…“氷を操る帝具”だと私は思う。幸い使い手は北方異民族の征伐に言っているがな。それに…」

 

「それに?」

 

「…場面によってはラザールの帝具もなかなか手ごわいだろうしな。」

 

ラ、ラザールさん!?

 

「え、何!?ラザールさんも帝具使いなのか!?」

 

「はぁぁ!?聞いてないよ!?」

 

「ちょ、それ私も聞いてないわよボス!」

 

「俺も聞いてねぇぜ!ナジェンダさん!」

 

……え?

 

「お?言ってなかったか?」

 

「ボス。ボスが話したのはおそらく私と2人でいた時だぞ。」

 

「何!?…ゴホン、あー…改めて報告するが…ラザールは帝具持ちだ。以上。」

 

「「「詳細を求む!」」」

 

「あー、いや、私もよく分かっていないんだよ。」

 

話が急展開過ぎて付いていけない…どういうことだ?

 

「私が知っているのは、彼の持つ帝具が“オペレメディカル”なる名称であること、彼の持つ古い医学書が帝具であること、原理は知らんが注射器やメスなどの医療器具を自由に出せること。それだけだ。昔詳しく聞こうとしたが…黒い笑みで新薬の実験体になってみるかと聞かれてな…以来、聞くことを諦めた。」

 

あの時の新薬の色が色々とおかしかったらしい。賢明な判断だとマイン達が頷いている。

 

「だが、あいつはひどく頭が切れるし、薬や毒の知識は尋常じゃなく多才だ。是非とも仲間にしたいんだが……」

 

ふと、マインと目があった。お互いに頷く。

 

「なぁ、ボス…」

 

「この前ラザールに会ったんだけど…」

 

「なんかナイトレイドのナジェンダからの勧誘がしつこくて怖いって言ってたんだが…」

 

「ボス…一体何をしたの…?」

 

レオーネ姉さんやラバックも気になっていたらしい…一体何をしていたんだ、ボス!

 

「いや、別に…ただ……5日に一度の割合で手紙を出したり、ラザールが外に薬草なんかを取りに行く情報を得たらそこに行って直接勧誘したり、たまに郵便でナイトレイドのマークの入った“ナイトレイドに就職する上での利点百箇条”を送りつけたり……あぁ、あと最近だと…」

 

 

「「「「もういいです!(ラザール頑張れ!)」」」」

 

 

ボスはストーカーだ(確信)。

 

 

 

 

 

 

ラザールside____

 

ゾクッ……

 

「?どうした主?」

 

「何か今スッゴい嫌な予感というか悪寒というか…いや、なんでもない。」

 

店での接客中、ふと走った怖気。杞憂だと良いんだけど…なーんか嫌な感じが。

 

「おい!聞いてんのかい!」

 

「ハイハイ、聞いてますよー?で、どうしたんです?」

 

「だからよぉ…またレオーネがぁ!」

 

「あー…うん。ドンマイです。」

 

「ドンマイじゃねえよぉ!見ろよ、オレの頭!まだ35だってーのに白髪が七割だぜ!」

 

「オレも最近抜け毛が増えた!」

 

「オレは蕁麻疹が出るしよぉ!」

 

「………(僕にどうしろと?)」

 

「「「あ゙ぁ!?何か言ったか?」」」

 

「いえ、何も?とりあえず皆さんは気分転換に何か好きなことでもパァッとやった方が良いですよ。」

 

「でもよぉ…働かねえと家族養う金がよぉ…」

 

「「うんうん。」」

 

「…………」

 

だから、僕にどうしろと!?レオ姉さん、頼むからお金早く返してあげて!僕はカウンセラーじゃないんだよ!?もうそろそろ限界なんだよ!

 

「まぁ、とりあえず…はい。」

 

「「「…?これは?」」」

 

「ハーブセットです」

 

「「「ハーブ?」」」

 

今3人に渡したのは店で売ってるハーブセット。家の部屋に香として置くも良し、調理して食べるも良し、お茶にして飲むも良しの万能リフレッシュリーフである。

 

「美味しいハーブティーのレシピもあげますから…家族みんなでほっこりしてください。今日は特別にタダであげますから…ね?」

 

「「「ラ…ラザールゥゥゥゥ!!」」」

 

おじさん3人が目をウルウルさせてこちらを見ている。正直気持ち悪((ゴホンゴホン。

 

「ありがとよ!」

「このお礼はいつか必ず!」

「また来るぜ!あ、あと…」

 

 

 

「「「レオーネ見つけたら足止め頼むぞぉ!」」」

 

「……はぁい」

 

疲れるなぁ…。もうホント…ナイトレイドって関わるとろくなことが無いよ。3人と入れ替わるように、今度は包みを持った人が入ってきた。

 

「ラザールさん。お届けものです。」

 

………お届け…もの…、だと!?

 

「なぁ、主…妾、なんだかとてつもなく嫌な予感がするのじゃが…」

 

「ハハ…奇遇だね、僕もだよ。」

 

包みを受け取りお礼を言う。届け人が帰った後…

 

「「…………」」

 

何故か正座で包みと向き合う僕とカンザシ。

 

「あ…開けるよ?準備は良い?カンザシ」

 

「う、うむ…。」

 

かつて無いこの緊張感…この包み、きっと差出人はナジェンダさんだと思うんだ…。カサリと包みを開いていく…出てきたのは……

 

表紙に“読め”と書かれた分厚い冊子。表紙の文字はどうかと思うが、思ったよりも普通だったことにひと息吐く。

 

「さて…」

 

「問題の中身じゃが…」

 

「「…………」」

 

うん、見たくない。このまま燃やそうかな…

 

「主…燃やすか?」

 

「燃やしたいね。でもほら、何か情報とか書いてあったら…ね。」

 

この前の“ナイトレイド就職の上での利点百箇条”はなかなかにアレだったけど、逆に考えれば利点と逆のことすればナイトレイド就職する人減るってことだよね?せいぜい利用させていただきますと大臣が言ってました。

まあ、うん。とりあえず…

 

「…読むよ?」

 

「うむ、主気をつけよ!」

 

勇気を出してペラリとページを捲った。そして…

 

パタン

 

「…………よし、燃やそう。」

 

僕は見なかったことにした。

 

「カンザシ、火。」

 

「!?!?」

 

「火。」

 

「う、うむ!」

 

「僕は…何も…見ていない。」

 

燃える冊子を眺めつつ、僕は忘却を決定した。

 

そう、僕は何も見ていない(震え)

 

 




ラザール「冊子の中身が気になるって?…世の中には知らない方が良いこともあるんだよ?…え、それでも知りたい?……冊子の中身は『ナイトレイド 入れ』が小さくページいっぱいに、一見真っ黒いページに見えるレベルで書かれていたよ…もはや呪いや洗脳の域じゃね?もうこれ頭おかしいでしょ。はぁ、早くくたばってくれないかな。」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意

2017/11/13 改稿しました。
時間空いちゃってすみません。課題が…課題が押し寄せてくるんや…同時に中間試験が始まるんや…。私の骨を誰かは拾ってくれると信じています。


ラザールside____

 

ある日のこと、帝都宮殿・謁見の間にて将軍、文官たちに緊急招集がかかった。

 

「申し上げます!ナカキド将軍、ヘミ将軍の両将が離反。反乱軍に合流した模様です!」

 

その報告を受けて官吏たちがざわめく。

 

「うろたえるでないっ!所詮は南端にある勢力…いつでも対応できる!反乱分子は集めるだけ集めて掃除した方が効率が良い!…で良いのであろう大臣?」

 

「ヌフフ…さすがは陛下、落ち着いたモノでございます。遠くの反乱軍より近くの賊。今の問題はコレにつきます。帝都警備隊長は暗殺される。私の縁者のイヲカルは殺される。やられたい放題…!!悲しみで体重が増えてしまいますっ…!!

…仕方がありません。先日北を制圧したエスデス将軍を帝都に呼び戻します。ブドー大将軍が賊狩りなど彼のプライドが許さないはず。しかし、彼女はそのブドー大将軍とも並ぶ英傑。異民族40万人を生き埋め処刑にした氷の女です。安心でしょう。それまでは無能な警備隊に活を入れなさい!最早生死は問いません。一匹でも多く、賊を狩りだし始末するのです!」

 

 

それを僕はオロチの影を通じて聞いていた。距離に制限はあるが、この王宮内なら何の問題もない。一人の文官の影にオロチを潜らせ、僕の影とオロチの潜伏している影を繋げる。オロチがここ最近で出来るようになった能力だ。変異種の名は伊達じゃないってね。

 

部屋で会話を聞きながら、僕は一人静かに口角を上げた。予定通り。

でもなぁ…確かに予定通りだけどさぁ…やっぱり帰って来ちゃうのか…噂の彼女。そっかぁ……ははっ、また仕事が増えるなぁ……クッソがぁ!!

 

サヨナラ、僕の束の間の平穏ライフ。ま、しょうがないね…所詮仮初めの平穏だもの。そろそろ高をくくって、本腰入れて未来の平穏を確保しに行きますか。

 

「カンザシ、お前にもそろそろ動いてもらうよ。」

 

「ふふふ、やっとか。待ちくたびれたぞ。」

 

「えー、ご主人、アタイはまだー?カンザシ姉さんだけー?」

 

「勿論、キノにも働いてもらうよー?…ここから始まるのは、本気でホントの総力戦なんだから。」

 

さて、取りあえずは…僕がいないからって肉を食べて会議に出ていた大臣にお説教するところから始めようか!僕の仕事を増やす馬鹿にはお仕置きが必要だよね?

 

 

 

タツミside____

 

オレは今、レオーネ姉さんと一緒にスラム街を歩いている。色々な店の人が姉さんに話しかけて来るのに驚いた。しかもみんな顔が生き生きしているんだ!姉さんは雑草魂って言ってる。まぁ、確かに生まれた頃から酷い貧乏なら逞しくもなるってもんか。

 

「にしても姉さん凄い人気だな…」

 

「私の生まれ育った場所だからな!ホームだホーム!これでもマッサージ師として腕がいいと評判…」

 

姉さんが喋っている途中から何かが走ってくる音が後ろから近づいてくる。ふと、後ろを振り返った。…10人程、顔の怖い男達がもの凄い速さでこちらに向かって走っていた。

 

「いたぞっ、レオーネだ!」

「溜まったツケを払ってくれ!」

「博打で負けた金精算しろ!」

「兄貴からちょろまかした金返せゴルァ!」

「いい加減覚悟しろ!」

「ウチから借りた金返せ!」

「利子ついてえらいことになっとんぞ!」

「さっさと払え!」

 

「そしてこれ以上……」

 

「「「「「「「ラザール(さん)には迷惑を掛けさせねぇぞ!」」」」」」」

 

え!?ちょっと姉さんこれどういうこと…って居ない!?って、あ!もう逃げてるし!待てよ姉さん!走って姉さんに追いつき、並んで逃げる。

 

「どーだ、面白い所だろ?」

 

逃げながらも笑顔で言ってくる姉さん。

 

「姉さんが殺しの標的にならないかが心配だよ!」

 

洒落にならないぜ…そのうち本当に姉さんの暗殺依頼が来そうだ…。

後ろの男達が加速した。ヤバい。捕まったら殺られる気がする!わき目もふらず逃げる逃げる。

 

 

しばらくして後ろの足音も止み、撒いたと思う。しかし…

 

「ヤバい…はぐれたー…そして道も分からない!」

 

夜には仕事もある!帰れないのはマズイ!困惑と焦りのあまりオロオロと怪しい動きをしてしまう。どうしよう…どうすればいいんだ!

 

「ややっ?私の正義センサーに反応有り!そこな君!何かお困りですかな?」

 

後ろからかけられた声。あ、この人に道を聞けば!後ろを振り返る。…その服、どっかで見たような?

 

「帝都警備隊セリュー!正義の味方です!」

 

ビシッとした敬礼までされた。…警備隊か。オーガが率いていた奴だよな…?

 

「キュウウン キュウーン」

 

!?…セリューさんの抱いていた、ぬいぐるみだと思っていた犬みたいな奴が鳴いた。生き物なのか?

 

「コロちゃんお腹空いたの?ガマンしてね!」

 

「…あの、それは?」

 

「帝具“ヘカトンケイル”…ご心配なく!確定悪以外には無害ですから!」

 

…帝具!?よく見ればコイツ…文献に載っていたヤツだ!!

 

「ところで何を困ってたんです?」

 

「あ、いや…道に迷ってしまって。元居た酒場の名前は分かるんですが…」

 

「それは大変!パトロールがてらお送りしますよ!」

 

彼女に手を引かれて道を歩く。助かったが少し複雑な気分だ…。

その後は怪しまれないように当たり障りの無いような話題を振りながら歩いた。思っていたよりも優しい子で、なんだか心が痛い気が…いや、これは甘えだな。自分が決めた道なんだ。やった責任を押し付けちゃいけない!

 

酒場に着き、お礼を言って彼女と別れた。

 

「…帝具使いの警備隊員。ボスに報告しとこう」

 

 

 

夜になり帝都の色町に来た。今日の仕事は姉さんと二人でここの店の一つを破壊すること。その店はクスリ…麻薬の類を使って女を薬漬けにし、カラダを売らせている。クスリの売買に関わっているヤツは皆殺しだ。……まさか店への潜入方法が姉さんのライオネル強化による高速突入だとは思わなかったけど。しかも気づかれてないし…でもこれ潜入って言うのか?まあ、そんなムチャをしつつも店の屋根裏に入り込んだ。

 

「ふいーっ、到着到着!さーて、お仕事して借金返さないとね!」

 

姉さんが足下の天井板を外した。そのまま二人で下を見下ろすが……ヒドい有り様だった。

 

沢山の綺麗な女の人がいたが…真ん中に置かれた大きなお香のせいだろうか?誰も彼も目の焦点が合っておらず、筋肉が弛緩しているのかダラリと脱力している人が多かった。それなのに皆が皆、恍惚とした表情で床に転がっている。思わず口を手で覆う。

 

その時、部屋に入ってきた2人の男。コイツらは今回の暗殺のターゲット達のようだった。その二人が、床に転がっていた女の一人を殴ったのが見えた。…“壊れている、廃棄処分だ”という言葉と共に。

 

「依頼通りのヒデェ奴らだな…許せねぇ!」

 

「今殴られた子…スラムの顔なじみだ…!ムカツク…さっさとアイツ等始末しよう!」

 

「了解…オレもシェーレの話で麻薬関係には腹立ってんだ…」

 

そこからは早かった。護衛が何人かいたが、どれもとるに足らない奴らだった。ひたすら向かって来る奴を切り捨て、標的に向かう。

 

「標的は密売組織一味…お前たちも同罪だ…!」

 

姉さんも敵の急所に拳や蹴りを叩き込み、骨を砕き、中には体に風穴があいたやつもいた。助けてくれと、自分がしてきたことを棚に上げて、みっともなく命乞いをしてくる奴がいたが…興味もない。オレらが欲しいのはお前たちの命だけだ。

 

「お前ぇら、何者だ…!?」

 

密売組織のボスと見られる奴が姉さんに首を絞められながらも問う。

 

「ろくでなしさ…。だからこそ…世の中のドブさらいに適してるのさ!」

 

心臓の位置にキレイに拳と衝撃を叩き込み…胸に風穴を空けて、奴は死んだ。

 

────任務完了。

 

 

仕事が終わり、帰路につく。

 

「なぁ、壊れた女の子達…これから一体どうなるんだ?」

 

それだけが疑問だった。姉さんはそれはオレ達の領分じゃないって言うけど…でも…

 

「…スラムに元医者のじいさんが居るんだが…これがまだまだ腕がいい。事情を話して診てもらうさ。若い女の子大好きだから喜ぶだろ」

 

姉さん…!スラムの顔なじみがいたからだなんて理由付けてるけど…照れ隠しだな、うんうん。顔も耳まで真っ赤だし。

 

「助かる可能性があるに越したことはないからな!」

 

「どんな理由だっていいよ。そこに少しでも希望があるなら」

 

紛れもない本心だけど、ちょっとクサかったかな?

 

「…タツミ。前から思ってたけど…お前のそういう顔、可愛いなぁ…」

 

そしてぺろっと耳を舐められる…舐められる!?魚みたいに口をパクパクさせながらも何も言えないでいると

 

「ふふ!文字どおり、おねーさんがツバつけておいた!いい男に育てばおねーさんのモノだ!」

 

なんつー恥ずかしいことを…!

 

「ところで姉さん。壊れた女の子達、全員そのスラムのおじいさんに頼んで大丈夫なのか?結構な人数だぞ?」

 

「ふふん、何言ってるタツミ!もう一人居るだろ?帝都に凄腕の奴が!おねーさんのツバつけてある第一号でもあるがな!」

 

「……まさか」

 

「ご明察♪」

 

…ラザールさん、すみません。

 

オレはそうとしか言えなかった。

 

 

「さて、別働隊の二人も無事かな?」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



2017/11/13 改稿しました。


帝都

~某所にて~

 

帝都に建つ立派な屋敷…その中でその館の主、薬の密売を手がけていたチブルという男が死んでいた。

 

 

「チブルって標的、用心深いにも程があったわ」

 

「でも無事に片づいて何よりです」

 

タツミとレオーネの別動隊としてチブルを暗殺すること。それがマインとシェーレの今回の仕事だった。2人は無事にチブルを殺し、見つかる前にと夜の公園を走っていた。

しかし、公園の半ばまで来た頃、急に2人は上からの殺気を感じ横に跳ぶ。今までの経験と、勘と本能によるとっさの判断。それが2人を謎の攻撃から救った。

 

「(何コイツ…気づかなかったわ…!)」

 

「(気配丸出しの警備隊員とは違うようですね…)」

 

上からの攻撃は警備隊員と思われる女からの強烈な蹴りだった。2人は体制を立て直し、戦闘態勢をとる。彼女がただ者ではないことをその雰囲気から感じとった。

不意に彼女は懐から折り畳まれた紙を取り出し、広げる。

 

「…やはり。顔が手配書と一致…ナイトレイドのシェーレと断定!…所持している帝具から連れの女もナイトレイドの可能性大…否、ほぼ確定だな…。夜毎身を潜め待っていた甲斐があった…。やっと…やっっっっっと巡り会えたなナイトレイド!」

 

帝都警備隊の彼女からの殺気が増していく。彼女の目は見開かれ、口は歪んだ弧を描いていた。

 

「私は、帝都警備隊、セリュー・ユビキタス!絶対正義の名の下に悪を此処で断罪する!」

 

セリューのとなりに立つ犬のような存在が牙を剥き出し唸りをあげる…まぎれもなく帝具ヘカトンケイルである。

 

帝具同士の激突は、その威力故に確実に“死”を呼び込む。この戦いもまた例外ではない。3人の直ぐ側に聳える時計台の針の音が響く。束の間の静寂だった。

 

 

 

 

 

「…正体がバレた以上、来てもらうか死んでもらうしか無い訳なんだけど…」

 

マインが問うように呟くが、セリューの目の色は変わらない。

 

「賊の生死は問わず…ならば私が断罪する!!手配書のシェーレは抹殺、もう一人は捕縛が望ましいが…二人死んでも構わない。逃がすよりは確実に処刑する!…パパは凶賊と戦い殉職した。そして、お前らナイトレイドは私の師である隊長を殺した…!絶対に許さない!」

 

「殺る気満々て訳ね…なら…先手必勝!」

 

マインはトリガーに手を掛けそして銃を連射する。しかし、セリューは避ける気配がなかった。するとマインとセリューの間に割り込んできた小さな影。

 

「キュアーッ!」

 

セリューを庇うように立ちはだかるが人の脛程の丈しか無いソレに何が出来るのか。マインは仕留めたと思った。いや、思っていた。土煙が晴れたその先には牙を剥いた巨大なソレがいた。マインの撃った弾は全て、巨大になったソレ…ヘカトンケイルの腹に当たっていたのがその弾痕から判断できる。しかし、その弾痕も驚異的な再生力ですぐに消えてしまった。

 

「!マイン、やはりアレは帝具です!」

 

「みたいね…しかも生物型ってやつか」

 

気を再度切り替えたマインとシェーレ。セリューはしかし、それを確認するでもなく腰のホルスターから旋棍銃(トンファガン)を抜き、連射する。しかし、2人も腕の立つ殺し屋である。難なくそれを避け、戦闘態勢を崩さない。瞬時にセリューはマイン達とのこの距離で戦っても効果が薄いと判断し、ヘカトンケイルに指示をくだした。

 

「コロ!捕食!」

 

牙がズラリと並んだ口を大きく開け、ヘカトンケイルはシェーレに向かって跳んだ。シェーレは動かなかった。ただ、自分に向かってくるヘカトンケイルにエクスタスの刃を開き、タイミングを合わせて両断する。

 

「すいません。」

 

無表情にシェーレは呟き、エクスタスについた血を払う。そしてセリューに向かって歩を進めようとしたが、背後から感じた強烈な気配に立ち止まり振り向く。そこには、パチパチと音を立てて再生していくヘカトンケイルが立っていた。再生を終えたヘカトンケイルが再びシェーレに向かおうとした。しかし、マインがヘカトンケイルの背後から急襲し、セリューの立つ位置まで飛ばす。

 

「文献に書いてあったでしょ、シェーレ!生物型は体の何処かにある核を砕かない限り再生し続けるって」

 

マインがシェーレに忠告する。心臓が無い故にアカメの村雨も効かない。なかなかに面倒な相手である。その上、今ここにはその帝具の所有者がいる。帝具の力はこれだけではないはずだとマインは気を引き締めた。

 

「コロ!腕!」

 

「キュウウウ…」

 

案の定、セリューの指示でヘカトンケイルの両腕が長く、筋肉質なものになっていく。

 

「何アレ…気持ち悪い!」

 

「コロ!粉砕!」

 

セリューはマイン達を指し示してヘカトンケイルに命じる。ヘカトンケイルは元の待機状態の可愛らしさとはかけ離れた声をあげて、2人へと向かって突進してくる。物凄い速さで避ける隙など与えないとばかりに、その巨大な拳を何度も振り上げ振り下ろす。シェーレがエクスタスの硬度を利用してその拳を耐えるが、その拳は重く、防御が長くは持たないのが明白だった。

 

ピィィィィィ!

そして、甲高い音が鳴る。帝都警備隊が持つ呼び笛を吹かれ、援軍を呼ばれた。

 

「嵐のような攻撃…援軍も呼ばれた…これはまさに…ピンチ!!」

 

マインの使う帝具パンプキンは使用者の精神エネルギーを元に撃ち出す。そして一番の威力が発揮されるのはピンチに陥った時だ。マインは高く跳躍し、ヘカトンケイルの上から威力の増したパンプキンを撃ち放つ。急な火力の上昇にセリューは驚く。ヘカトンケイルも既に再生を始めてはいるものの、先ほどよりも再生に時間を要するのは明らかだった。

 

「もう再生を始めてる…なんて生命力よ!」

 

「ハッ…帝具の耐久性をナメるな…!」

 

辺りにはパンプキンの一撃によって土煙が充満していた。そしてセリューはマインとコロに注目していた。だからこそ、シェーレの接近に気が付かなかった。

 

「帝具は道具…使い手さえ仕留めればすぐに止まります!」

 

その声でセリューはようやく始めから自分が狙いであったことに気づく。その好機をシェーレは見逃さない。

 

「エクスタス!!」

 

エクスタスの奥の手を発動したシェーレは、その発光に乗じて一気に距離を詰める。しかし、セリューは帝具を手に入れても自身の鍛錬を怠ったことは無かった。それすなわち、彼女自身も決して弱くはないということ。エクスタスの奥の手である金属発光をくらい、目が霞んでいる状況でも尚、セリューはシェーレの攻撃を防ぎ続ける。

 

己の主人が攻撃され、更に押され気味であることに気づいたヘカトンケイルがセリューに加勢しようとそちらに向かおうとするが、こちらはマインが逃がさない。ピンチではなくなってきたことで倒しきることは無理でも、それでも十分に足止めは可能だ。そう判断したマインは、ヘカトンケイルを牽制し続ける。

 

マインがヘカトンケイルの注意を引いていたその頃、シェーレはセリューの両腕を切り落としていた。腕を捨てて致命傷を避けたことにシェーレは驚愕するが、腕を失ったことでセリューの体勢は崩れていた。次で仕留めんとシェーレがセリューに向かって駆ける。しかし、戦いはタダでは終わらない。

 

「正義は…必ず勝ぁぁぁつ!!」

 

腕の切断面から現れた銃口…それはセリューが警備隊隊長であったオーガから与えられた切り札だった。人体改造。それが彼女には施されていた。辺りに銃声が響く。

しかし、シェーレはそれを冷静に防ぎ、セリューの腕から覗く銃口を切り飛ばす。勝負は見えたと、そう思われた。

 

正義は絶対正しいはずだった。でも、彼に言われて疑問ができて、考えたこともなかった正しいはずの自分の正義を、初めて見つめ直した。考えて考えて…何度も悩んで。自分の中で何かが変わった。でもいくら正義の定義を考えても、変わらないことがただ一つだけある。正義は負けない、その思いだけは自分の中で変わらない。

 

(だから、正義の私は負けられない!私の負けは、自分の正義の否定になるから…!たとえ私が死んでも、正義だけは貫き通す!)

 

だから、今だけはただ自分の為だけに戦う。父と恩師の仇討ちのため、そして、自分のプライドを守るため。セリューは叫ぶ。

 

「コロ!狂化《奥の手》!」

 

その言葉に呼応し、赤く染まっていく毛並み、更に巨大になった図体。そして、放たれた耳が潰れそうになる程の咆哮。マインとシェーレはその咆哮の大きさに思わず動きを止めて耳を塞ぐ。

 

それが間違いだった。

 

その隙をヘカトンケイルは見逃さない。

ヘカトンケイルの巨大な手にマインは捕らえられた。

 

「しまっ…、」

 

「マイン!」

 

シェーレが慌ててマインを助けに向かうが、状況は止まってはくれない。

 

「コロ!握りつぶせぇ!」

 

マインを捕らえる手に力が込められる。ボキリと嫌な音を立てて骨が折れる音がした。それでも手に込められる力が緩まることは有り得なかった。もうダメかとマインは思った。しかしその瞬間、マインは急な浮遊感を感じ落下した。

 

「間に合いました!」

 

シェーレがマインを捕らえていたヘカトンケイルの腕を切り落としていた。

 

「シェーレ!」

 

マインは安堵と感謝を込めて相方の名を呼んだ。しかし、次の瞬間にはその笑顔は凍りつく。

 

 

 

 

音もなく、シェーレの胸に華が咲いた。

 

真っ赤な真っ赤な嫌な色。嫌なほどに嗅ぎなれた、鉄臭い匂いを辺りに振り撒いてその胸元は赤に染まる。まぎれもない、マインには見慣れた銃痕だった。銃の撃たれた先に目を向ける。予想通り、いるのは警備隊の女。その口から覗く銃口。彼女の人体改造は、腕だけではなかった。すべては正義のために。

 

「体が…動かな…い」

 

「正義…執行!」

 

動けずにいるシェーレに巨大な口が向かっていた。

牙がズラリと並ぶヘカトンケイルは無情にもシェーレの体を食いちぎった。

 

「しぇ…シェーレェェェェェ!!」

 

マインは睨んだ。満足感で満ちた目をして微笑むセリューを真っ直ぐに、ただ憎悪の光を宿して、歯を食いしばって睨んだ。不意にたくさんの足音が聞こえてくる。セリューの呼んだ警備隊が到着したことを理解した。

 

「マイン…逃げ…て下さい…!」

 

「シェーレ!?」

 

「逃げて…マイン!エクスタス!!」

 

上半身になっても尚動いたシェーレは奥の手を再度発動した。

 

(…マインだけは絶対に逃がす!)

 

躊躇うマインにシェーレはただ微笑んだ。マインとシェーレの付き合いは長い。マインにはそれで十分だった。マインはシェーレに背を向け駆け出した。涙で前など見えていない。それでもマインは足を止めることはなかった。

 

自分に背を向け逃げるマインを見てシェーレはただ一言呟いた。

 

「最後に…お役に立てて良かったです…」

 

「コロ!早くトドメを!」

 

セリューが発光に目を眩ませつつも叫んで命じる。

 

ナイトレイド…私の居場所。楽しかったなぁ…。すいません、タツミ…そしてラザール。もう貴方たちに…

 

シェーレは笑った。涙を零し、少しの申し訳なさを込めて天を仰いで…笑っていた。ここで私は終わる(死ぬ)

 

…そう、思っていたのに。どうしてあなたがここにいるんですか…?

 

「ラ、ザ……、ル…?」

 

「申し訳ないと思うなら…今からでもいいよ?僕に尽くして。」

 

「……え…?」

 

「カンザシ、シェーレお姉さんの下半身持ってきて。」

 

「うむ。」

 

シェーレの意識はそこで途絶えた。

 

さいごに見えたのは、地に気を失って倒れるセリューと向かってくる大量の警備隊員。そして、闇の中でも輝く白銀の髪を持つ男の姿だった。

 

 

 

~ナイトレイドアジト~

 

タツミside____

 

シェーレが死んだ。

 

任務から姉さんと一緒に帰ってきたオレ。アジトで皆でマインとシェーレの帰りを待っていた。でも、帰ってきたのは満身創痍のマインだけだった。頭に血が上り、冷静じゃなくなったオレは仇討ちを考えた。兄貴の蹴りをくらい正気に戻ったが、胸にくすぶりだしたこの感情は深くなるばかり。よく見るとメンバーの皆が皆、拳を握りしめ耐えているのが分かった。皆悲しいんだ。皆憤ってるんだ。でも我慢してる。オレも今は…我慢するしかない。

 

「アイツは任務で…私たちのこれは報い…そんなことは分かってるわ…。だけどアイツはシェーレを殺した。そしてこれからも私たちを狙う…。だから、アタシが殺る。セリュー・ユビキタス…アイツはアタシが必ず…必ず撃ち抜く!」

 

涙を流しながらもマインの目は決意に満ちていた。

 

「シェーレの死は決して無駄ではない。これで帝国も分かった筈だ。やはり帝具には帝具だと。これからは帝具使いとの戦いが増えてくる。逆に言えば集めるチャンスだ!更なる死闘の始まりだ!全員、心に火を灯せ!私達は必ず…革命を成し遂げる!」

 

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 

 

 

~帝都外壁外~

 

帝都の外壁からいくらか離れた岩山の上…飛竜に乗った4つの人影があった。

 

「ただいま、帝都」

 

蒼い長髪をたなびかせ彼女は呟いた。

 

帝都を見据えるその目には、愉悦と期待が入り混じっていた。

 

 

 




原作改竄…テヘ(*'-')


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騙し騙され

2017/11/14 改稿しました。
シュークリーム食べたい。カフェオレと一緒に。



ナジェンダside____

 

マインからシェーレの訃報を聞き、会議室にシェーレを除いた全メンバーを集めた。こういう時は皆でいた方がパニックにならずに済む。案の定、各々怪我の手当てをしながら落ち着く時間ができたからだろう、割り切れなくとも少しは気持ちの整理が出来たようだった。

それにしても。

 

「何か引っかかるな…」

 

「どうした?ボス」

 

「いや、何か見落としていることがあるような…」

 

「「「「「「???」」」」」」

 

……マインが戻って来た直後には気づかなかったが、少し落ち着きを取り戻し始めた今、何かが腑に落ちない。何だ?私は何を見落としている?

 

「…それにしても、ラザールの薬はやっぱりよく効くわね。酷い怪我だったのに、もう血が止まったわ。傷痕もこれなら残らないかも!」

 

「そうだな~、これなら思ったより早めに治るりそうだ!早く治せよ、マイン」

 

「えぇ!手当てありがとう、レオーネ」

 

「ふっふ~、どういたしまして。」

 

 

……それだ。

自分の体から血の気が引いていくのが分かる。震え出しそうな指先を必死で抑え込むが、冷や汗が止まらない。

 

「どうして気づかなかった!?……これはかなりマズい!」

 

「?何がですか、ボス?」

 

「…ナイトレイドのメンバーが、バレた可能性がある。」

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

「どっ、どういうことよ、ボス!」

 

「そうだぜ、ナジェンダさん!俺らがバレた?今回のでマインちゃんの面は割れただろうが、まだ俺とレオーネ姉さん、タツミはバレてねぇハズだろ?」

 

「……お前ら、今まで誰と一緒に“Eli”に行ったことがある?」

 

「……まさか!!」

 

アカメは気づいたようだ。他のみんなはまだそこまで頭が回っていないのか、不思議そうに首を傾げている。

 

「…ラザールだ。クソっ!そこまで気が回っていなかった…私の失態だ!マイン、お前は誰と一緒に行動しているとき、ラザールに会った!?」

 

「え、えっと?レオーネとタツミ…って、あっ!!」

 

「ラバックは!?」

 

「お、俺は…えーと、レオーネ姉さんとだな…。…あぁっ!?」

 

「えっ、何!?どういうことだよ!」

 

タツミはまだまだ未熟だな。アカメに説明してやれと目配せする。

 

「タツミ、今回マインの面が割れたのは分かるな。そのマインが行動を共にしていた人間となるとそれはどういった間柄だ?」

 

「…あっ!?」

 

「やっと分かったか…」

 

そうだ。今回、マインが見つかったことで連鎖的にメンバーが割れた。ラザールがこれに気づかないワケがない。マズい、これはかなりマズい。ラザールは無理やりとはいえ大臣の膝元にいる。報告の義務のもと、これが大臣に知られれば…私達はかなり不利になる。革命軍にも多大な被害が及ぶだろう。

 

「……なんとかしなければ…。」

 

「…とりあえず、あたしが明日帝都を見てくるよ。大丈夫そうだったら、ついでにEliの様子も見てくる。」

 

「レオーネが適任か…頼んだぞ。」

 

「勿論!」

 

私達は気づかない。机の裏に巣を張っている一匹の蜘蛛がいたことを。

私達は知らない。この蜘蛛がとある危険種の支配下にあるということを。

私達が…知るわけがない。たかが蜘蛛としか思わない存在が、彼に情報を伝える手駒だったなど。

 

私達には、何も知る由もなかった。

 

 

 

 

~帝都王宮地下・拷問階~

 

表向きは静寂を保つ王宮。しかし、唯一常に騒がしい所がある。

 

“地下拷問階”

 

大臣に逆らった者やそれに関する大罪を犯した者が落とされる、巨大な“拷問部屋”である。男も女も関係ない。目を抉られ、四肢を潰され、肉を削がれ、爪を剥がされ、胴を貫かれ…その非道なまでの行いは言い出せばきりがなく、悲鳴が止むことはない。だというのに、最近とある医師の研究の副産物として大量の種類の毒薬、媚薬、麻薬などが卸され拷問はより最悪・凶悪なモノとなりつつあった。

 

「オラァ!もっといい声で鳴けやぁ!」

 

「オネスト様に逆らう奴はこうなるんだ!!」

 

筋肉隆々の大男達が口々に叫びながら、悲鳴絶叫を上げる者達に鞭打ち、休める間もなく次々と拷問をかけていく。

 

「何をしている…お前達を見ていると気分が悪くなる。」

 

不意に部屋中に一人の若い女の声が響き渡った。拷問官たちが睨むように声の主を見やる…が、直ぐにその顔は青ざめる。立っていたのは蒼い長髪を持つ美女。…拷問官なら誰もが知るエスデス将軍であった。後ろに控えるのは、彼女が率いる直属の部下であり、有能者。通称:三獣士。

それを見とめるなり次々と土下座を繰り出す拷問官たち。先ほどの威勢はどこへやらである。

 

「お戻りになられていたのですね!」

 

「お帰りなさいませ、エスデス様ぁ!」

 

彼女は拷問官たちの言葉に一つ頷いて返した。

 

「あぁ、つい先ほどな。しかし…何だコレは?拷問が下手すぎる。本当に気分が悪い。この大釜の温度はなんだ?すぐに死んでしまうだろう。」

 

そう言うなり、パチリと指をならす。その瞬間、温度が高いと指摘を受けた大釜の上には氷の塊が発現し、重力に従って釜の中へと落下した。

 

「…少し温くした。これ位が一番長く苦しむぞ」

 

「「「は…ははぁ!勉強になりますぅ!!」」」

 

 

再度土下座で床に頭を擦り付ける拷問官たち。その顔に浮かぶのは敬愛と憧憬、そして恐怖。拷問官たちの土下座は4人が拷問部屋から居なくなった後もしばらく続いてた。

 

 

~王宮・玉座謁見の間~

 

謁見の間には3人の人物がいた。幼き皇帝、跪くエスデス将軍…そして、相変わらず医師に隠れて食を貪るオネスト大臣である。

 

「エスデス将軍!北の制圧、見事であった。褒美として黄金一万を用意してあるぞ」

 

「ありがとうございます。北に備えとして残してきた部下に送ります。喜びましょう。」

 

その返答を聞き、うむと一つ頷いた所で皇帝が困ったように眉を寄せて続ける。

 

「戻ってきたばかりですまないが…仕事がある。帝都周辺にナイトレイドを始めとした凶悪な輩が蔓延っている。これらを将軍の武力で一掃して欲しいのだ。」

 

 

それを聞いたエスデス将軍は僅かにその雰囲気を変える。例えるなら、獲物を狙う猛禽類のような。その鋭く好戦的な光を隠すかのように彼女は瞳を閉じると、微笑みながら皇帝と大臣に“お願い”する。

 

「ご命令とあらば。しかしながら、それにあたってお願いがあります。」

 

「申してみよ!」

 

「ありがとうございます。賊の中には帝具使いが多いと聞きます。帝具には…帝具が有効。6人の帝具使いを集めて下さい。兵はそれで十分。帝具使いのみの治安維持部隊を結成します。」

 

「将軍には三獣士と呼ばれる帝具使いの部下がいたな…更に6人か?」

 

「陛下、エスデス将軍になら安心して力を預けられます。」

 

今まで空k…じゃなかった、傍観を貫いていた大臣が口をやっと開いた。

 

「手配出来そうか?」

 

「もちろんでございます。まことエスデス将軍は忠臣にございますな。」

 

ニコリと人畜無害そうな笑みを浮かべるオネスト大臣。ラザールがこの場にいたならば、ほぼ間違い無く鳥肌ものである。

 

「苦労をかける将軍には別の褒美も与えたいな…何か望むものはあるか?」

 

子供特有の無邪気な笑顔でエスデス将軍に問いかける皇帝。彼は爵位や領地を挙げたが…返ってきた答えはその斜め上を行くものだった。

 

「そうですね…敢えて言えば……恋をしたいと思っております。」

 

凍りついた。無論、彼女の帝具とは何ら関係ない。…が、文字通り凍りついた。エスデス将軍はドSである。ドS中のドSである。他人の蹂躙こそが快感のあのエスデス将軍が恋…!?呆然とするのも当たり前である。

 

「…そ……そうか!そうであったか!将軍も年頃なのに独り身だしな!(恋!?ど…どうすれば!?)」

 

「し…しかし、将軍は慕っている者が周囲に山ほどおりましょう?(恋!?正直彼女には全然似合っていない言葉ですよ!?何をいきなり言っているんですか、この人は!!)」

 

内心激しくテンパっている2人であったが何とか返事を返していく。

 

「あれはペットです。」

 

しかし、彼女の答えにあえなく撃沈する。困り果てる皇帝。白目の大臣。そして、皇帝の出した答えがコレである。

 

「こ…この大臣などはどうだ?いい男だぞ!」

 

「……ちょ、陛下ぁ!?」

 

「お言葉ですが、大臣殿は高血圧で明日をも知れぬ命…」

 

「こ…これでも健康ですよ、失礼な!……ゴホン。では将軍はどのような者が好みなのですかな?」

 

それを聞いてエスデスは胸元から一枚の紙を取り出した。

 

「…ここに私の好みを書き連ねた紙があります。該当者がいれば教えて下さい。」

 

「わ…分かった。見ておこう。」

 

そうして波乱の謁見劇は幕を閉じた。

 

 

~王宮・廊下~

 

謁見の間を後にしたオネストとエスデスは廊下を歩いていた。

 

「相変わらず好き放題のようだな。」

 

「はい。気に食わないから殺す。食べたいから最高の肉を頂く。己の欲するままに生きることのなんと痛快なことか!」

 

「…本当に病気になるなよ?」

 

「…大丈夫ですよ…数年前から口うるさい母親のような専門医が出来ましたからね…。」

 

「…噂の直属医療隊の者か?」

 

「えぇ。そういえばエスデス将軍はまだ会ったことが無かったですね…。この機会に会ってみては?」

 

「そうだな…其奴のお陰で拷問の薬が充実したと聞いた。近々礼も兼ねて足を運んでみるとしよう。……しかし、妙なことだな。私が闘争と殺戮以外に興味が湧くとは。」

 

「生物として異性を欲するのは当然のことでしょう。その気になるのが遅過ぎる位ですよ。そんなに違和感を感じるようなら、その医療隊長に相談してみては?彼はひどく有能ですから。」

 

「そうか…まぁ今は賊狩りを楽しむとしよう」

 

「それですが。帝具使い6人は要求がドS過ぎます。」

 

「何とかできる範囲だろう?」

 

互いに獰猛な笑みを浮かべ顔を見合わせる2人。やがて、大臣の口角がつり上がり取引を持ちかける。

 

「揃える代わりと言っては難ですが…私、居なくなって欲しい人達がいるんですよねぇ」

 

「フッ…悪巧みか?」

 

その日の夜、王宮から出ていく三獣士の姿があった。

同時にとある部屋から、一日中何かに悩む声が聞こえていたという。

 

「…はぁ、彼には色々役に立ってもらっていますし、頼んでいることも多い。彼を入れるのは避けた方が……いや、しかし帝具使い6人ともなれば簡単に死なせるわけにもいきませんし……彼を入れるべきか否か…。」

 

 

 

 

ラザールside____

 

エスデス将軍が帰ってきた。陛下の謁見後、邪魔者を消してほしいな♡(意訳)という大臣のお願いを彼の将軍様は聞いたらしい。彼女の部下が夜中のうちにどこかへ出かけて行ったのを見た。

しかし、その大臣のお願いリストの中に、面白そうな娘を見つけた。皇拳寺皆伝の達人らしい。…うん、使えそう。

 

「…というわけでお願いしてもいい?オロチ。大臣からさっき許可は貰ってきたから。」

 

((コクリ

 

「ありがとー♪あと、はい、これ。もし彼らに襲いかかられたらコレ渡してね。」

 

シャー?

 

「うん。よろしくね。連れてきたらカンザシにひき渡して。状態によってはカンザシと色々やらないとだから。」

 

シャーシャー♪

 

「うん、ありがとー♪じゃあ、行ってらっしゃい。気をつけるんだよ!」

 

そうして影の中に入っていったオロチ。あの仔なら上手く三獣士の手をかいくぐって連れて来れるだろう。

 

「カンザシもよろしくね?」

 

「うむ、心得た。」

 

さて、僕も大臣に“お願い”しに行きますかねぇ…。あー、面倒!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手札は出揃った

2017/11/16 改稿しました。
英語つらんい。人生ツムツム~(゚∀゚)アヒャ



~帝都近郊~

 

とある村の中を通過する車があった。今の時勢、馬車を始めとした移動手段を持てる者など9割以上が貴族である。さらに、車の周りに配備された多くの兵士達。中に重要な人物がいるであろうことは明白だった。

 

「この村もまたひどいな…民あっての国だと言うのに。」

 

「そんな民を憂い、毒蛇の巣である帝都へ戻る父上は立派だと思います。」

 

車の中にいた老人、チョウリが呟いた。チョウリの言葉にその娘であるスピアも頷く。

 

「命欲しさに隠居している場合では無いからな…国が滅ぶ。こうなったらワシはあの大臣ととことん戦うぞ!」

 

「父上の身は私が守ります!」

 

チョウリはこの国の元大臣である。このすでに腐りきり、今にも崩れそうな国を立て直さんと密かに決心し、娘と護衛を連れて馬車に飛び乗り、帝都に向かう道中であった。チョウリは手に持つ杖を力を込めて握り、スピアもまたその手の槍を力強く抱きしめた。

 

 

車が村を通過し街道も半ばに入った頃、事件は起きた。

 

「!…なんだ…?」

 

スピアが真っ先に異変に気づいた。原因は車の通る道のまっすぐ先に立つ3人の男。男達の持つ雰囲気は一般人や旅人の持つようなものとは真逆であり、それに気づいたスピアはすぐさま指示を出す。

 

「総員戦闘態勢!奴ら、ただ者ではない!」

 

「…また盗賊か!?治安の乱れにも程がある!」

 

チョウリの叫びを背後に、スピアは車の戸を開け、槍を持って外へ出る。

 

「今までと同じように蹴散らす!油断するな!」

 

スピアが周りの兵士達に呼びかけ、自らも槍を構えて前線に立つ。

 

「……ダイダラ」

 

「おう!」

 

3人の中の初老の男が、斧を持った大男に声をかける。大男はそれに応じると背負った斧に手をかけ、一歩前に出た。

 

「行くぞっ!」

 

スピアの発したその声でスピアと兵士達は大男に向かって行った。……しかし、勝負は一瞬。

 

「おらぁ!」

 

ダイダラと呼ばれた大男の斧のたった一薙で兵士は全滅。スピアも槍を折られ、その腹から血がだくだくと流れる。

 

 

帝具“二挺大斧”ベルヴァーグ

 

大男の持つそれは紛れもない帝具であった。

 

「…うぅ………」

 

自身の槍術が届きもしなかった…。腹に負った傷は深く血は止まらない。何とか立とうにも、内臓まで達していそうな傷の痛みに膝を折る。手で押さえてはいるが痛みは増すばかりであり、やがてスピアは地にうずくまってしまった。

 

「へぇ…お姉ちゃんなかなかやるねぇ。ダイダラの攻撃で死なないなんて。…でも、これから起こることを考えると…死んどいた方が楽だったかもね?」

 

いつの間に近寄ってきたのか、残る一人の少年が目の前に立っていた。少年は懐から短剣を取り出しスピアに向ける。

そして、その直後。

 

「主の命令は…何をおいても絶対ですので」

 

スピアの隣に転がってきたのは、彼女の父親の首。

 

「…父、上?」

 

スピアの顔色は青を通り越し、真っ白くなっていた。

 

「えいっ!」

 

少年がスピアの肩に短剣を深く突き刺した。その痛みに悲鳴を上げるスピア。しかし少年の動きは止まらない。少年は肩に刺した短剣を抜くと今度は逆の肩に突き刺す。それも抜くと、次は太腿、掌、足首、そして腹。

 

「さて、そろそろいいかな~?美人の皮を集めるの趣味なんだ!お姉ちゃんの顔、貰うね?」

 

大量の出血で意識朦朧とした彼女は何も返せない。

顔に解体用のナイフを伸ばす少年だったが…そのナイフは彼女には届かなかった。

 

不意に少年の手首に迫った黒い影。少年、ニャウは反射的に手を引き、後ろに下がる。異変に気づいた大男、ダイダラと初老の男、リヴァもそちらに駆け寄る。そして目を見開いた。…先ほどまでニャウがいた場所には大きな蛇がいた。真っ白の鱗、刃のように鋭い尾…そしてその口に咥えられた手紙。

 

「「「(………え、手紙?)」」」

 

場違い感が半端ない。何故手紙?てか何の手紙?いや、そもそも誰宛てだよ?一瞬でアイコンタクトを交わす3人。当たり前だが答えは出ない。

 

「…なんだコイツ?危険種か?手紙は何か分からんが、取りあえず経験値は大量にもってそうだ!」

 

「ちょっとぉ…その女の皮まだ剥いでないんだけど!何なのこの蛇!?」

 

「…おい待て。分からないからと言って無視をするな。手紙を咥えているのだ、確認せざるを得ないだろう。」 

 

真っ白な大蛇はリヴァをリーダー(常識人)と認めたのか、驚いたことに彼の前に来て手紙を差し出した。それを受け取り手紙の裏に押されていた蝋印を見つけると、リヴァは思わず目を見開く。

 

「リヴァ?」

 

「…大臣からだな。拝見しよう。」

 

それを聞き、残った2人も目を見開く。叫びそうになったのを押さえるように、両手で口を塞ぐ。リヴァは手紙を開き、読み進めていくが、読んでいくうちにその顔には困惑と疑問が浮かんでいく。しかし、やがて一息吐いて頷くと、とりあえずは納得しておこうと気を切り替える。

 

「了解した。構わん、行け。」

 

シャー♪

 

律儀にもペコリと一礼して瀕死のスピアに向かう大蛇。そしてスピアの襟首をパクリと咥えると、彼女を影に引きずり込むように影に入り消えていった。それに目を丸くした3人だったが、すぐに冷静さを取り戻す。…ダイダラとニャウはせっかくの獲物を横取りされて少々怒り気味であるが。

 

「ちょっと、リヴァ!どういうこと!?せっかくコレクションが増えると思ったのに!」

 

「おいおい、リヴァ!あの蛇は大量の経験値を持っていそうだったっていうのに何で行かせた!?」

 

獲物を取られ──2人の獲物の対象は違うが──やはりご立腹のニャウとダイダラはリヴァに詰め寄る。

 

「これを読め。」

 

スッと差し出された例の手紙。ニャウはそれを受け取り、ダイダラと一緒に読み出した。

内容を要約するとこうである。

 

“とある諸事情に寄り彼女はまだ利用価値がありそう!医療部隊の預かりにすることにしたよ!依頼しておきながらゴメンね!この手紙を届けたモノが彼女を連れ帰るそうなので引き渡してね!殺しちゃだめだからね!大臣との約束だよ!──大臣オネストより☆”

 

かなり簡潔に要約したが、内容は間違っていないので悪しからず。

 

「…えぇ…これホンモノ?リヴァ」

 

「手紙に蝋で大臣の印が押されていた。間違い無くホンモノだ。」

 

「ちぇ…せっかくの経験値だったってのに…。まあいいか。今回殺したのは15人ってとこか?よーし、とりあえずはこの経験値が俺を更なる強みへと導くぜ!」

 

「ニャウ、ダイダラ、ビラを撒くぞ!手伝え!」

 

「「了解~」」

 

大臣からの命令なら仕方ないと3人はあっさりと気を切り替える。

 

「大臣もめんどくさい手使うよな…政敵排除はいつもみたく罪を着せろよ」

 

「ブドー大将軍の庇護化にいる文官にその手は通じんよ」

 

「あーそっか!それで俺達の出番か!」

 

「ダイダラ、それ前の現場でもリヴァが説明してたよ?ちゃんと覚えてなよ~!」

 

「…そうだったか?」

 

「はぁ…まぁいい。ビラも撒いた…帰還するぞ!作戦成功を祝い料理を作ってやる!」 

 

それを聞き、大量の冷や汗を流し出したニャウとダイダラ。何を隠そうこの男、料理が壊滅を通り越して殺しにかかってくるのだ。奴の料理はポイズンクッキングではない、デスクッキングである。それを食べる?冗談じゃない!

 

「い…いやいやいやいや、それは要らない!要らないよ、リヴァ!?」

 

「そ、そうだぜ!?あの味は帝具並みの破壊力だろ!?」

 

「そう遠慮するな」

 

「してねぇよ!エスデス様ですら数秒気絶した不味さだぞ!?」

 

「今度は大丈夫だ。隠し味にエビルバードのヨダレを入れてみた」

 

「どこがだ!?入れんなそんなもん!」

 

微妙な雰囲気で帰路につく3人。

3人の後ろにはまいたビラがたくさん落ちていた。

 

ビラには、ナイトレイドのロゴの傍に「ナイトレイドによる天誅」と、ただそれだけが書いてあった。

 

 

 

 

ラザールside____

 

「!お帰り、オロチ。連れてきてくれた?」

 

((ゴトン

シャーシャー♪

 

帝都の店の自室でお茶を飲んでいると、オロチが帰ってきた。口に咥えていたスピアちゃんを病人用ベッドに落とすなり、僕にすり寄って来る…可愛いなぁ、もう!お礼も込めて首下を撫でると嬉しそうに尾を振った。

 

「お疲れ様。今日はもう休みな?ナイトレイドの方にはキノが行ってくれてるし、大丈夫だから。」

 

シャー…

 

分かったとばかりに頷くと、やはり疲れていたのかオロチは一鳴きして僕のベッドに埋もれて眠り始めた。

 

さて…かなりの傷で気絶してるし出血多量だけどちゃんと生きてるね…絶妙な瀕死だ。

 

「やったのは三獣士の中だったら…ニャウさんかな?リヴァさんはやらなさそうだし、ダイダラさんは一発で殺しちゃうだろうし。」

 

オペレメディカルで作った薬や包帯、輸血を使い、スピアちゃんを治療していく。

三獣士にはつい先日、本当に偶然顔を合わせた。先日の正午、ニャウさんとダイダラさんがいきなり王宮の医務室に駆け込んで来たと思ったら気絶したのだ。原因は食中毒。後から来たリヴァさんに話を聞くと、リヴァさんはただエスデス将軍と2人に作った料理を振る舞っただけだと言う。…んなわけねぇと思い、その後治療して目覚めたニャウさんとダイダラさんにも話を聞くと、見た目だけは普通のダークマターを食べてしまったとだけ言われたのだ。なるほど、察した。その後は2人と一応エスデス将軍用にも薬を渡して帰って行ったんだけど…うん、改めて思い返すとスゴいカオスだね!

 

まあそんな思い出話は置いといて。

 

「よし、治療終わりっ♪」

 

うんうん、相変わらず完璧!さすが僕!

 

【自画自賛か…はぁ。】

 

お黙りジェミニ。

 

【ま、これでいい感じになったんじゃねぇの?】

 

そうだね…。

 

チェルシー イエヤス シェーレ スピア

 

この4人と危険種達が僕の手札。

これの他に、羅刹四鬼のメズさんとスズカさんが協力者。更に他にもボチボチと協力者はいる。文官武官問わずね。

どこぞの変態科学者とは違って改造実験(改悪)なんてされていない純粋な戦力。超級危険種達と鍛錬してきたチェルシーやイエヤスはもちろんのこと、テイムした中でも名付きの危険種達はもはや将軍級の人間相手に殺り合える位の力はある。

 

僕の平穏への一歩は今日きっと、更に前へと進んだ。

 

「僕をナメてると痛い目みるんだからね…覚悟してなよ…ナジェンダねーさん♪」

 

ケラケラカラカラと僕は嗤った。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1回恋愛相談室

2017/11/16 改稿しました。
先が見えてきました。改稿作業もあと少し、ファイト一発。

作業BGMは「プロトディスコ」でお送りしました。




チェルシーside____

 

「あーぁ、つまんないな…」

 

自分の真っ赤に染まった手を見て思わず呟く。

 

私は革命軍に戻った後、そのまま地方のチームにとばされた。私を駒として死地に送った上の奴が粛正済みだったのは残念だったな…私が殺してやりたかったのに!

 

地方のチームに与えられていた任務は、地方軍に薬を配達し回っている配達員がいるという噂の真偽確認と、いた場合の配達員の捕獲または排除。つまり、イエヤスの暗殺だ。そんなのさせるわけ無いでしょ?だから、マスターを通じて帝国に情報を送って、チームを壊滅させた。私はまたまた唯一の生き残りってわけ。ま、別任務で情報収集に行ってたのは本当だし、別に嘘は吐いてない。その後ついでにイエヤスについての情報を削除!噂は嘘だったことにして処理する。これでイエヤスは大丈夫。

 

 

ガイアファンデーションのボックスからアメを取り出し口に入れる。もちろんマスターがよく食べているものと同じアメだ。お揃いのアメを舐めながらマスターからもらったピアスに指で触れると、それだけで幸せな気分になれる。もうマスターなしでは生きてはいけないだろうなぁ。チームの仲間を殺したのに痛まない心。だって私の仲間はマスター達だもん。当たり前だよね。

 

「はぁ…早く帰りたいな…。」

 

とりあえず、あと数日したらチームが皆殺しにされてたって本部に連絡入れて…やることは盛り沢山だ。まぁでも、頑張れば頑張った分ご褒美増えるし!もう一度、耳につけられたピアスにソッと触れる。マスター…私もっともっと頑張って、もっともっと役に立って見せますから…もっともっと愛して下さいね?

 

「あははっ…私も大概狂ってるなぁ…。さて、お仕事お仕事♪」

 

そして私は本来の任務地だった場所へ向かって歩き出した。勿論足跡も証拠も残さない。だって私はプロだからね!

 

 

 

レオーネside____

 

エスデスは一人街を歩いていた。今日の仕事はエスデスについての情報収集…もとい偵察であった。……だったはずなんだが、私の脳は怯えに支配され、体は今カタカタと震えている。…エスデスが一人で宮殿の外に出ているのだ、襲う絶好のチャンスだと普通なら考えるだろう。しかし、幾筋もの汗が私の頬を伝い落ちる。

 

獣化している今だからこそ分かるのだ。…単独行動は刺客を誘い込む罠だと!エスデスから滲み出る“匂い”は紛れもなく禍々しいまでの殺意。悔しいけど…ここは本能に従い退く!隠れていた屋根から隣の屋根に跳び、その上をエスデスとは真逆の方向へと走り出した。

 

つい先日、ボスから皆に聞かされた悪い知らせ。一つ、地方のチームとの連絡がつかない。二つ、エスデスの帰還。三つ、大臣によるナイトレイド偽装による犯行。

エスデスの偵察を任されたし、あわよくばなんて考えたけど…クッソ…隙あらば倒そうなんて甘かった…!エスデスがコレなら三獣士ってヤツらも…!タツミもブラートも、アカメもラバも頼むから無事で帰ってこいよ…!私は足を速め、アジトへ急いだ。もうあの女の偵察なんて御免だ!

 

 

 

エスデスside____

 

「む?誘いに乗らなかったか…残念だ。」

 

新しい拷問を試したかったんだがな…。買った菓子をペロリと舐める。…美味いな、名物と言うだけはある。任務が終わったらアイツらにも食わせてやるかな…。

 

「……!?」

 

その時感じた強い気配。先ほどまでの小物とは比べものにはならない、強者の気配だ。思わずバッとその方向を見やる。これは強敵だな?口の端がつり上がるのを抑えられない。誰だ…今の気配はどいつだ?その答えはすぐに得られた。

 

「…もしかして、そちがエスデスかのぅ?」

 

「!!…あぁ、そうだが…どこかで会ったことでもあったか?」

 

コイツだ。先ほどの強い気配…間違いない。手合わせしたいと今にも襲い掛かりそうな体を抑え、努めて冷静に返す。

 

「いや、無いはずじゃぞ?つい先日、おぬしの部下には会ったがな…三獣士じゃったか?腹を壊して医務室に駆け込んで来よったヤツらは。」

 

「あぁ…リヴァの飯か…。医務室ということは、お前は…」

 

「名乗っておらんかったな…妾はカンザシ。直属医療部隊隊長補佐についておる。」

 

直属医療部隊…隊長補佐……ということは拷問薬のレパートリーを増やしてくれた者の補佐役か。

 

「そうか、先日は私の分の薬まで世話になったな。感謝する。隊長にもそう伝えてくれ。」

 

「うむ、承った。」

 

さて、本題に入るか。

 

「ところでだが…カンザシと言ったか?お前…強いな?」

 

「さぁのぅ。妾は医務官補佐じゃし?」

 

「私には分かるぞ?お前は…そうだな、その刀を使って私の一歩程下といった所か?」

 

カンザシとやらが腰に差している二本の刀…かなりの業物だな。帝具には及ばないが何かありそうだ。ただならぬオーラを感じる。

 

「…ふむ、まぁ実力がそうかは知らんが戦えはするな。」

 

「だが、お前まだ何か隠しているだろう?」

 

「…ほぅ?」

 

指摘した瞬間彼女の雰囲気が変わる。

 

「…そうじゃな…隠している力を使えばそちとしばらくは殺り合えるじゃろうな。」

 

「なるほど?それは是非手合わせ願いたいものだな」

 

誘いをかけてみるが、彼女は意味ありげな笑みを一つ浮かべただけだった。む、残念だな…断られてしまった。

 

「手合わせは御免被る。妾とてまだ死にたくはないのでな。それに妾よりも主の方が強い。…傲るなよ、小娘。」

 

コイツよりも強い奴がいるのか…!おそらくは例の隊長殿だろうがな。これはますます会うのが楽しみだ!それより…

 

「ほぅ、私が小娘とな?それはどういう意味だ?」

 

「言葉通りじゃよ。妾からしてみればそちはまだまだ年紀が足りん。実際、妾の方が何十倍も年上じゃろうしな。まぁ、傲ることなく精進せぃよ。」

 

…何十倍?聞き間違いか?いや、確かに何十倍と言った…。

 

「…お前、一体いくつなんだ」

 

「………同じ女とは言えど女に年を聞くのはでりかしーと言うものが無いぞ」

 

スゴい目でこちらを見るカンザシ。これは…

 

「…そうか、なら聞かなかった事にしてくれ。」

 

「うむ、それでよい!」

 

判断は間違ってはいなかったらしい。

 

「それよりも、おぬし今から時間はあるか?これから主と合流するのじゃが…言伝を預かっておいて難だが、礼は直接言った方が良かろう?」

 

それは願ってもいないこと。

 

「是非同行させてもらおう。」

 

見回りは多少後回しにしても問題あるまい。

 

 

 

 

 

ラザールside____

 

今日はこの前情報を流してくれたチェルシーに贈り物でもあげようかとカンザシと街へ出ていた。途中、カンザシが何かに気づいたらしく、いきなりいなくなったので、一度店に戻った訳なのだが…

 

「ここか…ブドー大将軍も認めいると言う診療所は。」

 

何故ここにエスデス将軍がいる…。何故カンザシはキラキラした目でニヤニヤとこっちを見ている…。あんの狐…愉快犯の血が騒いだか!…まぁ、いいけどさ。でもさすがにいきなりすぎると思うんだ。

 

「ほう…確かにカンザシの言うとおり…強いな。私とほぼ同格か…?」

 

「…僕は医者ですよー」

 

「主、棒読みじゃぞ。もうバレておる、諦めよ」

 

わー、マジかー…てかなんでカンザシはそんな気安い関係になってるの!?そしてエスデス将軍その手はなぁに?ってちょっとなんで僕の頬撫でてるの!?え?ちょっと手つきがエロ…じゃなくて、ホントに何!?そして何故密着してくるの!?恋人じゃないんだしこの距離感はちょっと男としてはキツいんですけど…って、え、ちょ、カンザシ?目が怖いよ?なんで僕を睨んでいるの?元はと言えばお前のせいだし、君が頼りだから頼むからエスデスさん止めて…ってちょ、なんで回れ右して店から出てくの!?え、マジで?ちょ、カンザシ!?

 

「えーっと、エスデス将軍とははじめまして、ですかね?」

 

「そうだな、はじめましてだな。」

 

「えっと、とりあえずちょっと距離が近いので離れてくれるとありがたいなぁなんて…」

 

身長が同じ位なので顔が近いんです…離れて下さいお願いします。

 

「ラザールと言ったか?お前、年はいくつだ?」

 

「歳ですか?えーっと、おそらく推定18~19くらいかと。」

 

「そうか…」

 

「…どうかしました?」

 

そう聞くとエスデス将軍はやっと僕から離れてくれた。そのまま近くにあった店のベッドに腰掛け、足を組む。そして耳を疑うような言葉を口にした。

 

「いや…最近恋をしたいと思っていてな…」

 

「…………恋、ですか?」

 

………え、ちょっと恋?鯉ではないよね?恋だよね?え、あのエスデス将軍が?恋?何事なの!?

 

「あぁ、それでな…よくよく考えてみるとラザールが…私の好みのドストライクにほぼ一致することがたった今証明されてな…」

 

ちょっと顔を赤らめたエスデス将軍。……うん、流そう。流す方向でいこう。勘違いだと嵌める方向でいこう。そうしよう(錯乱)

 

「…それ、僕口説かれてます?」

 

「…かもな。だがなにぶん初めてなのでな…これが恋かと聞かれると分からん。お前のことは嫌いではなく、寧ろ好きの部類に入るということは分かるんだが…これは恋なのか?」

 

いや知らねーよと言いたくなるのを必死に耐え、僕はエスデス将軍の矛先を変えることにする。

 

「…エスデス将軍は今恋に恋しているのでは?」

 

「…恋に恋?」

 

よし、食いついた!隠れてガッツポーズをしつつ話を続ける。

 

「年頃の娘さんによく見られるのですが…“恋愛したい”“運命の人に出会いたい”“彼氏が欲しい”などと言った想いから、相手が誰かも分からないのに、とにかく“自分好みの人と恋がしたい”と強く思う方がいるんです。そういう人は大抵“恋することに恋い焦がれている”人なんですよ。」

 

「ふむ、なるほど。よく分からん。」

 

「ふふ…けど僕らの場合は恋愛というよりも親愛…親友の意味合いが強い気がします。なんだか親近感が湧くんですよね…何故でしょう?」

 

「あぁ、それはあるな。…とりあえず保留にしておこう。」

 

勝った!心の中でガッツポーズをした僕は悪くない。とりあえずカンザシは後でオシオキしなきゃね…ふふふ。

 

「とりあえず少しはスッキリした。感謝する。」

 

「いえいえ♪また何かあればいつでもどうぞ」

 

「あぁ、また来よう。王宮の方でもよろしく頼むぞ。…そうだ、本題を忘れていた。ラザールの作った拷問薬のおかげでレパートリーが増えた。おかげで毎日楽しいぞ。感謝する。」

 

「ぶっちゃけあの薬たちは僕の研究の副産物なので…寧ろ処分の手間が省けてこっちが楽させてもらってますから気にしないで下さいな。」

 

「ふっ…ではな。」

 

 

そうしてエスデス将軍は帰って行った。……はあああぁぁぁ、心臓が痛い。

よし、とりあえず……

 

「カンザシ?」

 

「………な、なんじゃ?」

 

やっぱりいた。ふふふ♪

 

「…………………おいで?((ニコッ」

 

「………わ、妾用事を思い出して………」

 

「………………おいで?」

 

「……………い、行ってくるぞ……」

 

「………逃がさないョ?」

 

お前のオシオキは決定事項だ。その罪、その身をもって分からせてやる。

 

 

その後、店からカンザシの大きな悲鳴が響いたとか…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

策謀
特殊警察


2017/11/17 改稿しました。


三獣士が竜船での要人の暗殺に向かって数日、彼らは死体で帰って来た。

 

早朝だと言うのに軍用墓地の一角に佇む女がいた。

 

「…リヴァ、ニャウ、ダイダラ…お前達は負けた…。つまり弱かったと言うことだ。弱い者は淘汰されて当然だ…仕方ない部下共め。」

 

手に持っていた花を墓に供え、その十字架に手を置く。

 

「仕方ないから…私が仇を取ってやろう。…帝具使いの新しい部下は今日到着か…」

 

そう呟いた彼女の顔に、先ほどまでの憂いの色は一切としてなかった。

 

 

 

“何とか7人集めましたが、配属を動かせる者となるとやはり地位の低い者かクセのある者に限られます。悪しからず。…ああ、7人なのは三獣士がいなくなった分です。特別に一人追加しておきました…が、少々難ありなのです。というか現在進行形で説得中なんですよ…。まあおそらく大丈夫だとは思いますが…後はお任せしますよ。”

 

昨日大臣に言われた言葉…ふふ、楽しみだ。口角を吊り上げ、最後に並んだ3つの墓を一瞥すると彼女は踵を返した。

 

「さて、どんなのが来るか知らんが…ちょっと遊んでみるか。」

 

 

 

 

ウェイブside____

 

俺はウェイブ。帝国海軍で戦っていた海の男だ。この度、帝国の特別警察から招集がかかった。栄転ってヤツだ。失礼があってはいけないと母ちゃんが持たせてくれた土産の海産物も、絶品揃いとぬかりない俺は海賊や海の危険種と戦ってきた男だ!さぁ、いざ新たな職場へ…!!

 

…そう決意を新たにしていた先ほどまでの自分を、ぶん殴りたい。特別警察の集合場所になんとか辿り着き、入室する。しばらくしてメンバーと思しき人物たちが集まりだすと、この会議室は混沌と化した。

 

ひとり、お菓子を貪り食う少女、クロメ。

ひとり、白衣を着たオカマ、Dr.スタイリッシュ。

ひとり、犬?を連れたオカマを慕う女、セリュー。

ひとり、怖い仮面?をつけた大男、ボルス。

ひとり、唯一マトモそうな優男、ラン。

そして、この俺、ウェイブ。

 

クロメはジッと犬もどきを見つめ、たまにオカマを睨むように横目で見る。

オカマはセリューと談笑しつつ、その他を観察。

セリューはオカマと談笑しつつ、犬もどきとじゃれ合い。

ボルスさんは茶の準備に給湯室へと消えた。

ランはそんなヤツらをニコニコと眺める。

……なんだこれ。渡されたボルスさんからの茶をちびちびと飲みながら、やり過ごす時間…つらい!この混沌とした空気の中、まだ来ていない奴を待っているが…頼む、誰かツッコミ要員をくれ!それか上司!早く来てくれ…!

 

 

そんな胃痛に耐えていた時だった。ガチャリと音を立てて、会議室の扉が開いた。そこにいたのは仮面を付けた背の高い女。その女はこの会議室を見渡すと口を開いた。

 

「なんだ…、お前達見ない顔だ!ここで何をしている!」

 

「おいおい…俺達はここに集合しろって…」

 

言われてるんだ、と続けようとした言葉は仮面をつけた奇妙な女闖入者に消された。女の蹴りをマトモにくらい、壁まで吹き飛ぶ。この女…強い!

俺に蹴りを入れると、次はラン。俺に入れた蹴りを見ていたからか、女の蹴りを器用に避ける。ランに集中していると見たセリューは女を背後から急襲するが、その殺気でばれて、床に投げ飛ばされた。

 

そして…

 

「ふざけられても、こちらは加減出来ない」

 

お菓子を咥えたクロメが刀を抜き、女の仮面を砕いた。

 

「…それが帝具八房か。流石の斬れ味だ…」

 

「「「「え、エスデス将軍!?」」」」

 

どうやら彼女が上司だったらしい…。美人だが…上司までなんか変だぞ!?

 

「ふふ、悪かったな。驚いたか?普通に歓迎してもつまらんと思ってな…少し趣向をこらしてみた。」

 

「荒々しいのは慣れてますから…」

 

「むしろご指導ありがとうございます。」

 

「よし!では、早速だが陛下と謁見しに行くぞ」

 

趣向を凝らす場所がおかしいと突っ込もうとした瞬間、まるで買い物にでも行くかのような気軽さで発されたのはそんな言葉。…え?

 

「えぇぇぇ!?い、いきなり陛下と!?」

 

「初日から随分と飛ばしてるスケジュールですね…」

 

どうやら驚いたのは俺だけではないらしい…良かった…俺の感覚がずれている訳ではなさそうだ。

 

「あの、エスデス将軍。聞いていた話では、今回招集された帝具使いは7人だとか…あと1人がまだ来ていないようなのですが…?」

 

「あぁ、その件だが、大臣に6人揃ったら謁見に来てくれと言われていてな…おそらくそこで会うことになるのだろうな…」

 

「「「「………」」」」

 

残りの1人も厄介そうだと俺は察した。

 

 

 

「ところでエスデス様、アタシ達のチーム名とか決まっているのでしょうか?」

 

オカマ…もといドクターが尋ねる。確かに特殊警察だけだとなんかこう…味気ないよな。

 

「…うむ、我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織…ゆえに、“特殊警察 イェーガーズ”だ。」

 

「イェーガーズ…ふふん、なかなかスタイリッシュな名前ね…気に入ったわ!」

 

「悪を狩る…ふふふ、今からとっても楽しみです!」

 

なんだかあの2人が怖い。

 

「そうか。では、謁見に行くぞ!」

 

エスデス将軍のスルースキルも高い。そして陛下と謁見…あぁ、緊張する…。俺の胃痛はしばらく止むことはなさそうだ…

 

 

 

謁見の間にて、俺たちは玉座に座る陛下に向かって跪き、名を述べる。

 

「陛下、本日ここを以てイェーガーズ発足とさせて頂きます。」

 

「うむ、お前達の働きに期待しておるぞ!」

 

幼いと言うのに陛下はハキハキとしていた。王は生まれながらにして王と聞くがあながち嘘ではないんだろうな。

 

「…して、大臣。7人目はどうなったのだ?」

 

エスデス将軍がその質問をしたその瞬間、大臣はふっと遠い目になった。…え。

 

「…えぇ、ちゃんといますよ…頑張りましたよ…説得。つい三時間程前にやっと納得してもらえましたよ…。…はぁ、いつまで拗ねてるつもりですか?自己紹介してください。」

 

後半は誰かに呼びかけるように言っていた。すると、すぐ側の柱の影から気配を感じた。すげぇ隠密力だ…でもきっとおそらく変人…やべえ、見るのが怖い。だが、そんなことも言っていられないので、思い切ってそちらを見やる。するとそこにいたのはロングヘアーの女だった。

 

「…大臣殿、私に命令していいのはマスターだけなんですが……チッ、まぁいいです。」

 

大臣に向かって舌打ち……!?この女…勇者か!?俺が内心悶絶する中、彼女の自己紹介が始まった。

 

「…帝下直属医療部隊隊長付きでした…スピアです。別によろしくする気はないですが、仕事はしっかりこなしますので安心してください。正直移動は嫌なんですが…はぁ、マスターの顔に泥を塗るわけには参りません。それに、大臣殿の話に釣られた私も私ですし…。」

 

「「「「「「「………………」」」」」」」

 

絶句。…としか表現できねぇ……

 

「…そうか、ちなみに話に釣られたとは?」

 

「あ、それは…」

 

その時、スピアさんの話を遮って、いきなり勢いよく扉が開かれた。そこにいたのは1人の男。白銀の髪、紫と闇のオッドアイ、たなびく白衣、そして、美しい容姿─────を、怒りに染め上げた男だった。

 

「はぁはぁはぁ……ねぇ。」

 

走って来たのか乱れた息が色っぽい…って待て待て、そんなことは今はどうでもいい!怒っているからか、発せられた声は容姿から想像した声よりもずっと低く、ゾッとするような声音だった。

 

「ああ、きましたか…ラザール医療隊長。」

 

「あは、そうだね…よくわかんない勅命書がついさっき!いきなり!急に!届いたよ。あははは、まあ、それはあとで聞くとして…ねぇ大臣殿、僕に何か言うことはない?」

 

「言うことですか?その勅命書について位しかないで…((ダァン!………え。」

 

大臣に向かって投げられた…なんだアレ…デカい…注射針?ってはぁ!?大臣に向かって投げたのかアレ!?反逆者か!?

 

「ラザール…どうしたの!?」

 

「ラザール医師、落ち着いてください!どうしたんですか!?」

 

「あら、珍しく荒れてるわね。」

 

「マスター、何かされたんですか!?」

 

クロメ、セリュー、ドクター、スピアさんが次々に男に問いかける…って、え、知り合い!?

 

「あ?…あぁ、クロメちゃんにセリューちゃん…あとマッドサイエンティストのオカマ…あ、ボルスさんも居る…お久しぶりだね。エスデス将軍もこの前ぶりです。……でもごめん今それどころじゃないの。」

 

ゆらりと大臣の方へ歩き出したソイツ。いつの間にやら、後ろには男の補佐官と思しき女性もいた。…男と同様に顔を怒りに染め上げていたが。

 

「ねぇ、大臣…僕言ったよね…“食べ過ぎ注意”って。“間食止めろ”とも言ったよね…?」

 

「…言われましたねぇ」

 

大臣の顔が真っ青である。対して、ラザールと呼ばれていた男の顔は笑顔である。しかし、目は笑っていない。声も低い。怒られていない俺も怖い。

 

「…なんで?」

 

「…は?」

 

「…僕忠告したよね…何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!…なのに、何コレ?血液検査の結果……悪化してんじゃねぇかゴラァ!!!前のに増してえらいことになってんぞ!?テメェ、また隠れて大量にモノ食ったな!?」

 

「妾達の仕事を増やすなと…何度言えば理解するのじゃ!それに主の指示を無視なんぞしよって!それで病死でもされれば主の責任になるのじゃぞ!妾達は止めていたというのに!そのような理不尽…されてたまるものかぁ!!」

 

「スミマセンモウ間食シマセン」

 

「ねぇその言葉もう何回目?ねぇ何回目?いい歳した大人がそれでいいの?自分の言葉に責任も持てないの?馬鹿なの?死ぬの?」

 

「主の言うことは絶対主の言うことは絶対主の言うことは絶対主の言うことは絶対主の言うことは絶対…」

 

ヤバい、なんか泣けてきた。コイツら…苦労してんだなぁ…くっ。

 

「ラザールお疲れ…元気出して?」

 

「あーうん、クロメちゃんありがとう…。…で?何?この勅命書。はっきり言っていい?僕のこと…殺す気?」

 

……はい?

 

 

 

 

ラザールside____

 

僕は今謁見の間にいる。見覚えのある人もいるが気にしない。

 

「とりあえずここに僕が来た理由をご説明しましょう。そう僕は、つい10分前まで!いつものように仕事をしていました。丁度陛下と大臣の血液検査結果が出たところでした。陛下、問題なし。好き嫌いもなくお食事を摂られているようで何よりです。これからも健康的な生活を続けていきましょう。」

 

「う、うむ!」

 

「し・か・し!!大臣、貴方はダメだ。問題ありです。なんです、コレは?怒りと驚愕のあまり、貴方に会いたくて会いたくて震えていた時、文句を言いに行こうと思い立ったその時!文官に手渡された勅命書。その時の僕の気持ちが分かりますか?」

 

「」

 

僕から目を逸らしてダラダラと冷や汗を流す大臣。話を聞くときは相手の顔を見て、でしょう?圧を送って目をこちらに向けさせる。

 

「…それでこの勅命書は何ですか?エスデス将軍がいらっしゃるということは、貴方関連ですよね?説明を求めます。…はぁ、僕そろそろ過労死出来る自信が出てきたんだけど…はぁ…。あ、取りあえず大臣は今日から間食禁止です。料理人にも言っておきます。もし、料理人を脅して無理やりに作らせたり、罰を与えたりした場合…覚悟はよろしいですね、大臣殿?」

 

「ハイ、タイヘンモウシワケアリマセンデシタ。」

 

「「「「「!!??」」」」」

 

なんだか周りの人達が呆然としている。

 

【…ちょっとからかってみるか?】

 

ナイスアイデア、ジェミニ!たまには意趣返し(憂さ晴らし)しないとね?

 

 

「…ハッ!まさか僕に死んで欲しいとか!?だからこの仕事量だったのか!?…カンザシ、僕ら殺されそうになってたんだね!死ぬ前に気づけて良かった!今なら逃げれるよ!どこ行く?」

 

「!?え、主!?」

 

いきなり話を振られ困惑していたカンザシだったが、僕の目を見て愉快犯だと悟ったらしい。次の瞬間、カンザシの目も愉悦に染まる。

 

「きっと皆僕らに死んで欲しいんだよ!だからこの仕事量だったんでしょ!?それ以外考えられないよ!」

 

「なるほど!そ、そうじゃったのか…!ならば早く逃げねば…殺されるということか!…ハッ!だからここにエスデスが!?」

 

「ヤバいね…大臣、本気で僕らを殺る気だ…!」

 

「クッ…ここは戦うしか…!」

 

「「「「ちょっと待て!」」」」

 

「ラザール医師!あなたは何か勘違いをしている!」

 

「そ、そうだ。大体私がここにいるのは新部隊発足の挨拶を陛下にしに来たからであって、ラザールを殺す為ではない!」

 

怒涛の返答が来たので、演技をやめて不機嫌面に戻る。それにしても、反応が思ったより面白くないなぁ。つまんない人達。

 

「え、何そんなマジレスしなくていいよ?────冗談だし。」

 

「本気でとったか。からかい甲斐のある…いや、でも反応がありきたり過ぎるな。訂正、つまらん奴らじゃな。」

 

全員がずっこけた様に見えたが気にしない。

 

「それで?結局何なんです、この勅命?“兼任命令──本日を以て医師ラザールに特殊警察特別補佐官に命ずる。尚、可能な範囲で直属医療部隊隊長の任も行うこと。”特殊警察とか初めて聞いたんですけど。」

 

まぁ、オロチから情報は貰ってたから嘘だけど。この情報は大臣から貰っていないから知らないふりをしないといけない。

 

「ゴホン…まぁ、その書面にある通りですよ。あなたにはエスデス将軍率いる新部隊、特殊警察イェーガーズに所属してもらいます。」

 

「イェーガーズ…あぁ、スピアが行かされたとこね。…って、それじゃあ補佐せざるを得ないじゃん…」

 

「はぁ、相変わらず計算高いのぅ、大臣。」

 

「しょうがないよ、カンザシ。だって大臣だし。頑張ろうか。」

 

「そうじゃのぅ…大臣だし。妾は主について行くぞ。」

 

「それはどういう意味ですか!?…まぁいいです。よろしくお願いしますね。」

 

「「了解した。」」

 

2足の草鞋も大変だなぁ。めんどくさい。

 

 

 

ウェイブside____

 

謁見を終え、会議室に戻ってきた俺達。とりあえず改めて自己紹介をすることになった。

 

「と、言うわけで巻き込まれました。直属医療部隊隊長のラザールと申します。よろしくねぇ♪」

 

何と言うか…比較的まともそう!是非ともよろしくしたい。先ほどとは打って変わって口調は緩いが、これが普段の彼なのだろう。軽いのではなく、ゆったりとした落ち着いた話し方だ。

 

「補佐のカンザシじゃ…。よろしゅう頼むぞ。まったく大臣め…主にまたしても迷惑を…」

 

後半に目を瞑れば、こちらもそこそこにまともそうである。何より美人だ。目の保養である。…ところで何時から俺の判断基準はまともかまともじゃないかになったんだろう。

 

「エスデスだ。知っているだろうが位は将軍。まぁ、改めてよろしく頼む。」

 

「クロメ。()()()()()()所属。ラザールとカンザシは久しぶりだね。他の皆もよろしく。」

 

「ウェイブだ!帝国海軍からきました。よろしくお願いします!」

 

「ランです。以前は教師をしていました。よろしくお願いします。」

 

「スピアです。直属医療部隊隊長付きでした。マスターが来た以上、前言撤回、全力でよろしくさせていただきます。よろしくお願いします。」

 

「セリュー・ユビキタスです!帝都警備隊から来ました!この度、悪を断罪する部隊に来れて嬉しく思っております!よろしくお願いします!」

 

「焼却部隊のボルスです。誰かがやるべき仕事ならしっかりやります。よろしくお願いします。」

 

「…科学者、兼“医者”のDr.スタイリッシュよ!皆さんどうぞよ・ろ・し・く♡」

 

うぇ…やっぱりオカマなのか。ずっと科学者だと思ってたけど医者でもあるのか。

というかなんで医者の所強調?てかラザールも医療部隊ってことは…医者2人?

 

そんな思考に入ったその瞬間、ゴングは鳴った。

 

「にしても久しぶりねぇ、ラザール君?一応よろしくとだけは言っておくけど…まぁ、精々頑張ってね?」(無能なんだから精々足引っ張らないようにしときなさい。)

 

「ふふ、安心してよ。僕の仕事は陛下と大臣の体調管理と皆の怪我の手当て、皆と大臣との連絡が主らしいからさ♪…むしろ、貴方の方が気をつけて下さいね?正規メンバー唯一の支援型なんですから♪」(そっちこそ、支援型なんだから大人しくしといたら。)

 

「あら?心配してくれてるの?嬉しいわぁ。…ま、無用な心配だけど♡」(余計なお世話よ。)

 

「忠告はしましたからね?…只でさえ猫みたいに気まぐれなんですから、他メンバーの迷惑にはならないように頑張って下さいよ?」(女々しいカマ野郎が。盛りのついた雌猫みたいに浮かれてるのは結構だけど、僕らに面倒かけさせないでよ?)

 

え、何この2人…仲悪いのか?なんか…副音声が聞こえる気が…!

 

「始まった…名物、2人の戦争」

 

「クロメ、知ってんのか?」

 

「知ってるも何もこの2人の仲の悪さは有名。特に暗殺部隊には。」

 

まじかよ。…そんな2人の戦いはまだ続く。

 

「ふん、さっきから口が達者ねぇ…年上は敬いなさいよ。」

 

「はぁ?それはコッチのセリフ。位が上なのは僕の方。見下してんじゃねぇよ?」

 

「私は科学者でも医者でもあるの!あんたの出番なんかないから引っ込んでなさい。」 

 

「は?僕は貴方を医者と認めたことなんてないですよ?科学と医療は似て非なるものです。どっちつかずの貴方なんかに医療に関わって欲しくもない。貴方こそ科学者の側面が大きいんだから、大人しく研究室にでも引きこもってなよ。」

 

睨み合う2人。口調変わってるし…怖ぇ。

 

「ふん、元通りに治すだけで探求心も向上心も欠片もない後進者のくせに、調子に乗らないでくれないかしら!」

 

「はっ、貴方たちが改造という名の改悪しか出来ないだけでしょう?実験の本当の意味も分からない、頭の軽いクズ共に言われたくないものですね!」

 

「改()や改造の何が悪いのよ!」

 

「何でもかんでも弄くればいいってモンじゃないんだよ!ホントに馬鹿なんじゃないの!?」

 

2人の背後に竜虎が見える。今にも取っ組み合いを始めそうな2人を見て思う。

 

((((((あぁ、これを犬猿の仲と言うのか。))))))

 

「…2人共落ち着け。殺し合いなら後にしろ。」

 

おお…鶴の一声…!助かった…2人共怖かったぜ…。

 

「…私としたことが…つい熱くなっていたわ」

 

「チッ…ふぅ、すみませんでした。ちょぉっと腹立たしかったものでつい。」

 

絶対ちょっとじゃねぇ…!

 

「ふむ、では…パーティーでもしようか。」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

いきなり突拍子もないことを言い出す隊長。

 

「確か、ウェイブの土産があったろう?皆で食事でもと思ってな。」

 

ナイスアイデアだとは思うが…それを今言うのか?

 

「おお!魚か!では鍋にでもするかのぅ?主、妾は調理にまわるぞ!」

 

「うん、よろしく!」

 

「ふむ、他に料理の出来る者は?」

 

「海鮮の扱いだけなら…」

 

「家でよく作るので大丈夫です」

 

え、俺とボルスさん!?料理出来るメンツおかしくね!?…こうして俺とボルスさんとカンザシさんの調理タイムは始まった。

 

俺の苦悩はまだ続く。

 

 

 

 

エスデスside____

 

料理を待つ間、他メンバーと談笑する事にした。恋をしたいと言えば、全員に衝撃が走ったように驚かれた。それはそうだ。私自身も驚いた変化だからな。

 

「そうだ、そう言えば首切りから回収した帝具があるとか。未だ適合者が見つかっていないのだろう?」

 

「あ、それは聞いたことあります。折角悪から回収出来たのにもったいないですよね…」

 

「ふむ、確かにな…。よし、使える人材を探しつつ余興でもするか」

 

うむ、なかなかいい考えかもしれんな…!後で大臣に相談してみるとしようか。とりあえず今は楽しむとしよう。

 

 

 

「(…余興ねぇ?嫌な予感がするのは僕だけ?とりあえず、その余興が終わるまでは僕の能力は隠しておくとしようかな…。)」

 

「(…直属医療部隊隊長ですか…。大臣とのやりとりをみるにかなりの権力がありそうです。私の目的の為には権力が要る…今度話してみるとしましょう。)」

 

 

思考を巡らす2人に私が気づくことはなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憎き男

2017/11/19 改稿しました。

シノアリスにハマりました。能登さんの人魚姫可愛ええ…。でもシンデレラちゃんといばら姫ちゃんも好き…。沼が深いね!



ラザールside____

 

突如始まった鍋パーティーであったが、意外と盛り上がっていた。海上戦と地上戦の違いにエスデス将軍は興味深々でウェイブを質問ぜめにしていたし、コロに興味深々だったクロメちゃんはセリューちゃんに突撃していたし、ボルスさんはカンザシと料理について語っていた。僕とランさんは静かにお茶を飲んでそれを眺めつつ、同時に鍋に怪しい液体を入れようとするオカマ野郎をスピアが物理的に止めていた。

 

そんな混沌としたパーティーも夜も更けてきたし、そろそろお開きにした方がいいだろう。ボルスさんは妻子持ちだし、早めに切り上げて家に帰してあげたい。

カンザシに目配せをして、エスデス将軍に声をかけ、片付けを始める。

 

片付け終わったものから順次解散となり、現在、鍋パをした部屋に残っているのは、僕とランさんだけである。家庭のあるボルスさんを無理やり家に帰し、帝都に慣れないウェイブさんを自室に無理やり戻すため、後片付けを引き受けたカンザシを僕は待っていた。さて、ランさんは片付け終わったにもかかわらずここに何故残っているのかな?

 

「…ラザールさん」

 

「…何ですか?」

 

不意に読んでいた本をパタンと閉じ、真剣な顔でこちらに目を向けたランさん。

 

「いえ、ただ少し…お話がしたくて」

 

「…へぇ、何のお話?」

 

優し気な柔らかい笑顔に隠してはいるが、その視線はこちらを探るような鋭いものだ。しかし、探るといっても欲に塗れた目ではない。僕がどういう人物か見定めようとするかのような、真剣な眼差し。しかし、こちらをしばらく窺った彼はふと笑みを消し、真剣な面立ちでこちらに向き直った。

 

「……いえ、貴方には直球に言った方がいいようですね。」

 

「!!ふふ、よく分かったね。その判断は正解だ。」

 

お互いにふふふと笑い合う。しかし、それは談笑という雰囲気では決してなかった。

 

「その様ですね…それならはっきり言わせてもらいます。ラザールさん、私と取引しませんか?」

 

「取引?」

 

「えぇ、謁見の時の貴方を見て、ラザールさんはかなりの権力を有していると判断しまして…協力を仰いでみようかと思った次第です。」

 

「そんなこと言っちゃっていいの?僕、悪い奴かもよ?」

 

「ふふ…確かに貴方が善良なる人物なのかは、私にはまだわかりません。…Eli、でしたか?帝都に入ってまだ数日ですが、噂は何度も耳にしています。しかし、大臣殿に対してのあの発言力…矛盾甚だしいと、疑問を持ちました。失礼ながらパーティーの間、貴方と会話をしながら観察していましたが……少なくともここにいた誰よりも、貴方は未来を見ている気がしたのです。同時に思いました、メリットさえあるならば、貴方と取引できるのではないかと。」

 

「ふぅん…そこまで観察されてたかぁ」

 

「気を害されたのならすみません。」

 

「ううん、大丈夫だよ。気にしないで。……むしろ気に入ったよ!思った以上に爪を隠した人だね、ランさんは!いいなぁ、有能だ(使える)なぁ!あぁ、貴方がそんな決意に満ちた目でさえなければ…僕のもの()にしたかったくらいには惜しい人材だよ!!あははははは!!」

 

笑い出した僕を見て、驚愕の色を顔に浮かべるランさん。うん、でも彼は使えるよなぁ…あぁ、ホントに惜しいよ!

 

「…すみません。私には果たさなければいけないことがあるので…。」

 

「うん、わかってるよ。だから僕は貴方を誘えない。ううん、誘わない。…ランさんのこと気に入ったし、一応聞こうか。取引の内容は?あ、聞いて断ることになったとしても口外はしないから安心していいよ。」

 

「…情報が欲しいんです…とある人物の。」

 

「それだけ?」

 

「欲を言えば、第二の目的の為に出世のお手伝いもしてくれるなら嬉しいんですけどね…そこまで高望みする気は無いです。とにかく今はその人物の情報が欲しいんです…情報がないなら、探す手伝いをお願いしたい。帝都には私の後ろ盾となる人が…伝手となる人がいませんから。勿論、対価として私に出来る範囲のことならお手伝いさせて頂きます。自分で言うのも難ですが、有能なのは保証しますよ。」

 

なるほど、つまり…

 

「僕がランさんの探し人の情報を探す。その対価をランさんが体で支払うと。」

 

「…誤解を招きそうな言い方ですが…まぁ、合ってます。」

 

「ちなみに、ランさんが探して欲しい人ってランさんの何?」

 

「……私が、殺す存在です。」

 

「へぇ…殺したい、じゃなくて殺す存在なんだ?」

 

「えぇ、必ず…私が殺します。」

 

その言葉で十分。

 

「ふふ、あはは、あははははは!良いねぇ…やっぱり面白いよ、ランさん♪」

 

「…それで、お返事は?」

 

「ふふ、良いよぉ…やってあげる。ついでだし、出世のお手伝いもしてあげるよ!まぁ、僕に出来るお手伝いなんて貴方が官吏達の目に留まりやすくなるように動いてあげること位だけどね♪それでも良いなら良いよ?何より面白そうだしねぇ♪」

 

「自分から提案しておいて聞くのもおかしいですが、良いんですか?こんな簡単に頷いて。」

 

良いんだよ、僕ランさんのこと気に入ったから。ふふ、本当に面白い。普段は柔和で強かなランさんが必ず殺したい人って誰かな?どんな人かな?あぁ、すでに楽しみ!

 

「良いのじゃ。主は気に入った人間には寛容じゃからな。」

 

いつの間にか片付けを終えて戻ってきたらしいカンザシが僕の代わりに答える。ふふ、さすがカンザシ、よく分かってるじゃないか♪てなワケで早速始めますか♪

 

「ランさーん、探して欲しい人の名前はー?」

 

「…チャンプという男です。子供達を残虐に殺す外道です。」

 

…ロリショタコンか。変態か。変態なんて滅んじまえ!不名誉だけど、経験論に基づく意見だからね?意味なく言ってるわけじゃないからね。

 

「なるほど、変態ね。って訳だからカンザシ~!」

 

「途中交代はありかのぅ?」

 

変態と聞いて昔の僕のショタコンほいほいぶりを思い出したのか眉をひそめるカンザシだったが、どうやら行ってもらえるようだ。

 

「勿論♪途中でシオンと交代させるよ。お願いしても?」

 

「全ては主の意のままに。ランよ、そやつの特徴など、分かることがあれば教えてくれるかの?」

 

「はい、その男は子供に異常に執着していて…ピエロのような格好をしていました。背は一般男性よりは高いかもしれません。太っていて、大人に対して威圧的です。」

 

「「………」」

 

「…?どうかしましたか?」

 

「…のう、主。」

 

「うん、カンザシ。分かってる、分かってるから思い出させないで。」

 

「…ランよ、思ったよりも発見は容易いかも知れんぞ…」

 

「!!本当ですか!?」

 

「うむ…妾たち、その男に数年前に会ったことがあるからな。」

 

「!!??」

 

「…あれは…嫌な…記憶…うぅ、胃が痛いぃ…」

 

「会った、ことがある?どういうことですか!?」

 

思わずといった面持ちで声を荒げたランさん。カンザシ、僕にあいつの説明をさせる気…?と目で訴えて、カンザシに救援を求める。その目を受けたカンザシも、あれは嫌な事件だったとばかりにげんなりとした表情になったが、溜息を一息吐くと口を開く。

 

「妾たちが帝都に来る前じゃ…、主が8つか9つの頃じゃっただろうか…。奴はその旅の途中で出会った。幸い何事もなく逃げおおせたが…主の容姿と当時の年齢からして…分かるな?あとは察しろ。」

 

アッ…という顔で悟ったらしいランさんは、こちらに同情した視線を向けてくる。

 

「…何事もなかったんですよね?無事で何よりです…子供は未来の象徴…生きるべき存在なのですから。」

 

「…ちっ、嫌なこと思い出したな。やっぱりあの時殺しておくんだった…」

 

「仕方あるまい。当時の主の年齢と背丈、力量、質量…そこから考えても、あの時殺すのは難しかった。なれば今度こそ殺せばよい。」

 

「いや、カンザシ…ランさんの獲物だから…殺したくても殺しちゃダメだから…我慢我慢。」

 

「む、…そうじゃったな…。ところで話は戻るが、妾が不在中の妾の代わりはランに頼むのか?」

 

そうだ、カンザシがいないと書類が!…ハッ!ランさんの対価発動は今か!

 

「…ランさん、書類整理得意ー?」

 

「えぇ、得意かは分かりませんが、人並み以上には出来ますよ。」

 

「「……天使か。」」

 

天使がいる…僕らの救いがここに!

 

「え?」

 

「ウチの隊は僕たち無しじゃ回らないから…」

 

「いつも主と妾が苦労しておる」

 

なるほどと頷くランさん。

 

「では、ラザールさん。取引は…」

 

「成立♪よろしくね、ランさん」

 

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。」

 

「詳しいことはまた後日取り決めよう。ここじゃ安心して話せないからね。」

 

「はい、また後日…」

 

誰にも知られず、たった今ここに密約は成された。

コレが未来にどう影響を及ぼすのか、それは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

~数十日後~

 

「なぁ大臣。何故エスデス将軍は…恋がしたいと言い始めたのだろうか?」

 

ショt…少年皇帝の言葉に、ケーキをホールで口に運ぼうとしていた大臣はその動きを止めた。…ちなみにホール食いしようとしているケーキは糖類80%OFFの野菜ジュースをベースに使った野菜ケーキである。ラザールの許しが出た数少ないデザートである。…大臣はかなり不服そうであるが。

それはさて置き、皇帝の問いももっともである。大臣であるオネストにも彼女の心理は読み切れない。

 

「…誰でも年頃になると異性が欲しくなるものです。ノウケン将軍など戦場に10人の愛人を連れて行っている程ですぞ。ところがエスデス将軍は戦う為に生まれて来たような人間…今までは花より戦だったのでしょうが、今になってやっと、そっちの欲も出てきたのでしょう」

 

「…なるほど。それは相手も見つけてやりたいが…」

 

「プライドの高い人ですからな、自分の要求を満たしていないと納得せんでしょう。」

 

「うむ。だがいないぞ…こんな男は…」

 

大臣の言葉を聞き、皇帝は懐からエスデス将軍の好みを綴った紙を取り出し、大臣に見せた。そこには…

 

その1、何よりも将来の可能性を重視します。将軍級の器を自分で鍛えたい。

その2、肝が据わっており、現状でも共に危険種の狩りが出来る者。

その3、自分と同じく、帝都ではなく辺境で育った者。

その4、私が支配するので年下を望みます。

その5、無垢な笑顔が出来る者がいいです。

 

 

「一番目でほとんどの人間がアウトだからなぁ…」

 

「将軍級の器というのが難ですな…」

 

この二人の結論が、見つからなかった場合は最終的にラザールを生贄にしようということでまとまったのは言うまでもない。

 

 

 

そんな本日は快晴。絶好の大会日和である。

 

 




次回、エスデス主催都民武芸試合!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

都民武芸試合

2017/11/20 改稿しました。

我が県では昨晩のうちに、雪が少し積もりました。今も雪が降っています。明日の朝が怖いなぁ…。
ニュースで東京都民の皆さんが、気温10℃で寒い寒いと言っているのを見て、「…10℃しか?10℃“も”あるんだろうが!軟弱なアーバンっ子共め!」と謎の上から目線なコメントを朝一番に発しました、作者です。正直、都会の電車は軟弱すぎると思うの。雪降っただけで止まるとか有り得ない。コッチなんて豪雪の中でも学校ですよ。公共交通機関の運転手さん、いつもありがとうございます。



ウェイブside____

 

今日は武芸試合が開かれる。天気は快晴、最高の大会日和だ。大会では僭越ながらこの俺が、会場審判を勤めることとなった。初の公式のお務めだ!やり遂げて見せるぜ!

 

武芸試合が始まり、もう何十組という戦いを見ているが、正直微妙だ。なかなか目を引く人はいるが、帝具を使えるほどかと言われると…悩まざるを得ないというか。ちらりと特別観戦席を見ると、エスデス隊長が暇そうに欠伸をしている。どうやらお気に召す人間がいないことに飽きてきているようだ。

 

…おっと、また一つの試合が終わるな。

 

「勝者、呉服屋のノブナガ!」

 

試合の決着に湧き上がる会場。こういう熱気は嫌いじゃねぇ。さて、次の組は……、次が最後か。ノブナガさんが退場し、次の挑戦者が会場に上がる。

 

「東方、肉屋のカルビ!西方、鍛冶屋のタツミ!」

 

会場の中央に2人が向かい合うように立つ。肉屋のカルビさんは、背の高い筋肉隆々のおっさん。一方のタツミという少年は、俺よりも少し年下の…言っちゃ難だがカルビさんと比べると小さいうえにひょろく見える。カルビさん…いや、なんか腹立つ言い方するおっさんだし、もうおっさんでいいや…がデカい態度で少年を挑発するが、少年は怯える様子もなく相手を見つめている。

 

「はじめっ!」

 

俺が開始の声を上げると、二人は同時に動き出した。

拳を振り上げながら少年の方に突進するおっさん。それは、おっさんの図体からは予想できないほどに素早い。だが、少年も見切っていたのか拳の落ちるタイミングと同時に飛び上がってそれを回避し、負けじとおっさんの顔面に踵を叩き込む。しかし、おっさんの方もそれを見越している。少年の蹴りを腕で防ぎ、反撃の構えをとると、またすぐに殴りかかりに突進していく。…先ほどまでとはレベルの違う試合。双方とも強い。これは司会者としても俺個人としても見ていて楽しいな!観客席も盛り上がっている。

 

二人はそれから何度か攻守が入れ替わりながらも卓越した戦いを繰り広げていた。しかし、とうとうその均衡は破れる。少年がおっさんの連撃を上手くいなしてその勢いを殺し、その懐に入ったのだ。そこからは早かった。おっさんの腹に思い拳を入れた少年が、体勢の崩れたおっさんに足払いをかけ、その頭に回し蹴りを叩き込んだのだ。

 

戦闘の続行は…不可能だな。

 

「そこまで、勝者、タツミ!」

 

俺は、タツミの勝利を宣言した。

 

 

 

ランside____

 

武芸試合中、エスデス隊長の脇に控えていた私は、タツミという少年の戦いで隊長の目つきが変わったのがわかった。

 

「あの少年、逸材ですね隊長」

 

「…あぁ」

 

?どうも隊長の返事が生返事のような気がします。少年に再度目を向けると、少年らしい純粋な笑みを浮かべて嬉しそうに拳を握りしめている。何が隊長の気に触ったのだろうか?

 

「…見つけたぞ」

 

不意にゆらりと隊長が立ち上がった。

 

「帝具使いの候補ですね。」

 

彼ならば納得も出来ます。

 

「いや、それもあるが…別の方でだ。」

 

一体何のことでしょうか…。しかし、私がそれを問う前に、隊長は会場に降りていきます。

 

「タツミ…といったな。いい名前だ。」

 

「ど、どうも…」

 

少年…タツミといいましたか…は、完璧に緊張と不安が入り混じってます。それはそうですよね。いきなり帝国最強の一角が目の前に来たんですから。私も隊長の行動に驚いています。何をする気でしょうか。褒美をやろうと言うエスデス隊長ですが、胸ポケットから何か取り出しました。そしてそれを少年の首にガチャッと………ガチャッと?

 

「タツミ、お前を今から…私のものにしてやろう」

 

頬を赤く染めて少年を眺める隊長は、なんと言いますか、普段と全く雰囲気が違っていて…そう、まるで“恋する乙女”の顔でした。しかし、隊長は隊長です。タツミ君の首につけた首輪の鎖を引き、引きずるように連行します。混乱しながら待てと叫ぶタツミ君に手刀を落とし、強制終了させた後に彼を担いで連行する様はなんともまぁ違和感がありません。そして、気絶させたタツミ君を抱きしめて一言。

 

「私の部屋で語ろう…二人きりでな…」

 

…ラザールさんがいればきっとこう言ったことでしょう。

“首輪に鎖に強制終了…エスデスさん…一歩ズレればそれヤンデレですよ…”、と。

ふぅ、とりあえずエスデス隊長が退場してしまいましたし、ウェイブさんに大会の閉会宣言をしてもらって、さっさと会場の片付けを始めるとしましょう。

 

 

 

ラザールside_____

 

エスデスさんはいつ、ヤンデレに目覚めたのだろうか。試合中、ずっと医務室で武芸試合に出ていた人たちの処置をしていた僕は、その一連の流れをたった今オロチから聞いた。試合が終わって片付けが始まり、やることのなくなった僕は部屋でのんびりお茶を飲みつつ考えていた。

 

「首輪に鎖、意識を強制終了させてからのお持ち帰り…エスデスさん、それ一歩ズレればヤンデレですよ…」

 

とりあえずどうしよう。タツミ君には僕の帝具の能力を知られたくない。イェーガーズのみんなにまだ帝具の話してなくて良かった。本当に僕の勘冴えてて良かった…!多少はバレるだろうけど、それでもあくまで“多少”。隠す所と隠さない所を上手く分けて話せば問題はないだろう。

 

それにしても…絶対ナイトレイドのみんな混乱しちゃってるだろうなぁ…あー、可哀想。

 

「ねー、そう思わない?シェーレちゃん」

 

「そうですねぇ…アカメたちは真面目なので、タツミの素性がバレて捕まったのではないかと余計に考えていそうですねぇ」

 

僕の向かいで一緒にお茶を飲んでいたシェーレちゃんに聞くと、帰ってきたのはそんな答え。へぇ、アカメちゃんってそんな真面目な子なんだ。

 

「んー、まぁとりあえず、タツミ君に会ってくるかな…。きっと今ごろ混乱と憎悪で頭の中グチャグチャだろうしね。ふふふっ♪」

 

「憎悪、ですか?」

 

「ん?だって一応彼ら目線では、シェーレちゃんはセリューちゃんに殺されてるんだよ?絶対ドロドロしてるって!」

 

「なるほど。それはありそうですねぇ…」

 

「でしょう?…じゃあ、とりあえず行ってきまーす♪」

 

「私もお茶を飲み終わったら、Eliの方へ帰りますね。行ってらっしゃい。」

 

「うん♪じゃあ、また今度ね。顔はちゃんと隠していくんだよ。」

 

「分かってますよぅ…ラザールに助けられてからというもの、私のうっかりが激減したんです。今さらそんなミスはしません。」

 

「…そう言ってこの前新薬を完成早々、転んで床にぶちまけたのは誰だったかなぁ…?まぁお願いね、シェーレちゃん…」

 

「…はい。」

 

シェーレちゃんはやはりシェーレちゃんなのだ。確認ないと若干不安なのである。不安を感じつつも僕は部屋を後にして、イェーガーズの職務室に足を向けた。

 

さて、タツミ君はどんな顔をしているのかな?

 

 

 

タツミside____

 

「というわけで、イェーガーズの補欠となったタツミだ!」

 

どうしてこうなった。…どうしてこうなった!?

現在オレは、鎖の付いた首輪を付けられた上、体をも鎖で拘束されながら椅子に座っている。もちろん、鎖の端を持っているのは噂のエスデス将軍。なお、ここはオレにとって敵陣ど真ん中なわけで…超怖い。オレ何かやらかしたか!?ナイトレイドだってバレたのか!?一体何が起こっているんだ!!

 

「市民をそのまま連れて来ちゃったんですか!?」

 

「暮らしに不自由はさせないさ!それに部隊の補欠にするだけじゃない…感じたんだ。タツミは…─────私の恋の相手にもなると。」

 

マジかよ…てか何だよ恋の相手って!ラバの話を聞く限りじゃ、冷酷非情で拷問大好きな氷のドS女王様って思ってたのに!恋って!予想外過ぎるわ!!

 

「それでなんで首輪させてるんですか?」

 

「…愛しくなったから、ついカチャリと。」

 

「ペットじゃなく正式な恋人にしたいなら、違いを出すために外されては?」

 

「…………………………それは確かにな…外そう。」

 

だいぶ長考だったが、イェーガーズの黒髪イケメンと金髪美形のおかげで首輪と鎖が解かれた。…ありがとう…本当にありがとう!!

 

その時、部屋の扉が開いた。だ、誰だ?今度は何が来るんだ?誰か助けてくれぇぇぇ!!

 

「失礼しまーす、薬補充に来ましたよー…って、は!?タツミ君!?」

 

……神は俺を見捨ててはいなかった!!天の助けが来た!

 

「ら、ラザールさんんんん!!」

 

「?マスター、お知り合いですか?」

 

「タツミ、ラザールと知り合いか?」

 

エスデスさんとイェーガーズの金髪ロングの女性がそれぞれに聞く。

 

「え、うん。たまに薬買いに来てくれるし…で、どうしてタツミ君が此処にいるの?」

 

「大会に出場して、相手に勝ったら何か連れてこられました…」

 

「あぁ、拉致られたのね…ドンマイ」

 

ラザールさん、そんなはっきり本当の事を…てか、さっきから貴方をマスターと呼んでいた金髪ロングの美人さんがコッチを睨んで来るのですが…

 

「ラザール!タツミは私の恋の相手になるかもしれん!お前とはまた違う感じの感覚で…お前とはこう、対等でありたいと思うのだが、タツミは何というか愛でたい感じだ!」

 

「え……」

 

ラザールさんが固まる。…ハッ!まさか、ラザールさんはエスデスさんが好きなのか!?だからショックを受けて!?まずい、誤解を解かないと!

 

「あの、ラザールさん…オレは!!」

 

「タツミ君」

 

弁明をしようとした所でラザールさんが真面目な顔で俺に話かける。本当に誤解なんですと思いつつ耳を傾ける。…何だろうか?

 

 

 

ラザールside____

 

みんなのいる部屋に入ると、タツミ君が天の助けとでも言うかのようにコッチを見てきた。

 

【…あー、愉快犯の血が騒ぐー(棒)】

 

おい、ジェミニ…とツッコミを入れようと思ったが、刹那、僕も思い至る。そして、ジェミニも囁いてくる。この状況…超カオス!これは楽しまなければ損だ…と。…即実行。ごめん、僕、欲望に忠実なんだ☆

 

「あの、ラザールさん?」

 

「…タツミ君、君は…一体何股してるんだい?」

 

タツミ君の一言を遮った僕の発言に、ピシリと空気…いや、ここの空間が凍った。主にエスデス隊長さんのオーラで。

 

「………え゙、ラザールさん?一体何を言ってるんですか!?」

 

「ほぅ?ラザール、それはどういうことだ?是非とも聞きたいな。」

 

イェーガーズの面々が恐怖と興味と好奇心で耳をすませるのを内心笑いつつ、僕は話す。あ、言っとくけど話すことは全部本当のことだからね?

 

「いえ、ただ店に来るときは大抵女性(レオーネさんかマインちゃん)が一緒で…しかも可愛い幼なじみ(イエヤス曰くサヨちゃん)がいたとか聞いたし…そして今回、絶賛現状証拠でエスデス隊長といるし……君、一体何人の女性を手込めにしてるの?本命誰!?まさか、全員俺の嫁的なハーレム作ってるんじゃ……!?てか、エスデス隊長までその毒牙に掛けるって、タツミ少年はどんだけ勇者(愚者)なの!?」

 

シンと静まり返った部屋。嘘は言ってない…嘘はな。故に大丈夫だ、問題ない。ただちょっと弄ってるだけだから!僕のビックリ発言から最初に立ち直って口を開いたのは、やはりエスデス隊長だった。

 

「タツミ、今の話は本当か?」

 

「え゙!?い、いやいやいやいや、違いますよ!?」

 

首を全力で横に振るタツミ少年。いやぁ、弄り甲斐があるなぁ。ねぇ、ジェミニ?

 

「ほう、違うと?では一体どういう関係なんだ?」

 

オカマ科学者野郎がワクワクしている。キモい。が、みんな興味深々である。

 

 

「え、店に一緒に行くのは職場の同僚(ナイトレイド)で、幼馴染(サヨ(とイエヤス))は確かにいますが既に他界してますし、エスデスさんには拉致られただけですし!!」

 

「えー、つまんないのー!四角関係五角関係上等な、ドロッドロな恋模様展開を店のお客さん達と予想してたのにー…。噂は所詮噂だったか。全ての女性を捌く君の身体データとか面白そうだなぁとか思ったんだけど…主に精力的な面で(笑)」

 

「(笑)じゃないですよ!ラザールさんそんなこと考えてたのかよ!?要らん誤解を与えないでくれ!」

 

「あら、それなら私も興味あったのに…噂なの。残念ねぇ…」

 

「「「お前もか!!」」」

 

僕とタツミ少年とウェイブ君のツッコミが被る。相変わらずこのオカマ科学者野郎はぶれないな。…あーでも楽しかった!

 

「ふむ、まぁ噂でも事実でも問題はないな!」

 

……え、エスデスたいちょー?

 

「例え他に女がいたとしてもそいつ等に負ける気はない。負けるとも思わん。タツミが多少欲が強かろうが受け止めてみせよう!」

 

「は!?///」

 

エスデス隊長の宣言とタツミの純粋な赤面にビックリ9割、残りの1割はすこーしだけほんわかしたようなイェーガーズメンバーたち。確かに、エスデス隊長が、まさかここまで一途に恋をしているとは思ってませんでしたよ…。

 

「あら、隊長ったら男前ね!いつか赤裸々ベッド事情、もといのろけを聞ける日を楽しみにしてるわ!」

 

おい、オカマ科学者何口走ってやがる!?

 

「任せろ!」

 

「ちょぉ!?」

 

エスデス隊長も乗るな!

からかいが思わぬ方に転じたが…まぁ、後悔はしていない。

 

【結論:助けは助けではなかった、ということだな。】

 

そうだねぇ。ふふふ、あー楽しかった♪

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初任務

2017/11/24 改稿しました。

どうぶつの森ポケットキャンプ始めました。初代どう森しか知らないので、なんだか仕様が新鮮で楽しいです。



ラザールside____

 

僕たちはタツミ少年を交えて、雑談に興じていた。セリューちゃんがタツミ少年の頭を撫でた時のタツミ少年の顔!傑作だったなぁ…。憎い、苦しい、何故…疑心と不満と憎悪を一緒に煮詰めて、甘い色付きの砂糖でコーティングしたような。愛想笑いの真髄を見た気がするよ!

 

「失礼します!エスデス様!」

 

その時、温かい空気()を遮るように急に開かれた扉。一人の平兵士さんが書類を持ってやってきた。何かあったっけ?

 

「御命令にあったギョガン湖周辺の調査が完了しました!」

 

「…このタイミング、丁度いいな。お前たち、初の大きな仕事だぞ。」

 

全員の雰囲気が切り替わる。その目つきは冷たく、気配はナイフのように鋭く…あぁ、さすが、氷の女王様が率いるのにはぴったりだ。

テーブルの上に地図を広げ、全員で囲むように眺める。

 

「最近ギョガン湖に山賊の砦が出来たのは知っているな?」

 

「勿論です!帝都近郊における悪人達の駆け込み寺…苦々しく思っていました。」

 

「うむ、ナイトレイドなど居場所が掴めない相手は後回し。まずは目に見える賊から潰していく。」

 

「敵が降伏してきたらどうします隊長?」

 

「降伏は弱者の行為…そして弱者は淘汰されるのが世の常だ。」

 

話は淡々と進んでいく。ま、今回はタツミ少年がいるし、僕は戦場には出ない方向でいく。僕の分もスピアに動いて貰うとしよう。

 

「出陣する前に聞いておこう。一人数十人は倒して貰うぞ。これからはこんな仕事ばかりだ。きちんと…覚悟は出来ているな?」

 

真面目な顔で問うエスデス隊長。張り詰めた空気の中、タツミ少年が息を呑んだ。彼もナイトレイドと言う暗殺集団の一人なのだ、このような雰囲気には慣れていると思ったのだけど…やっぱり知人か他人かの違いは大きいのかな。

 

すると、イェーガーズのメンバーたちが口を開いていく。

 

「…私は軍人です。命令に従うまでです。このお仕事だって…誰かがやらなくちゃいけないことだから」

 

ボルスさんの声にいつもの思いやりはない。

 

「同じく…ただ粛々と命令を実行するのみ。今までもずっとそうだった。」

 

クロメちゃんの姿に震えはない。

 

「俺は…海軍に大恩人がいるんです。その人にどうすれば恩返しになるかって聞いたら、国のために頑張ってくれればそれでいいって…。だから俺やります!勿論命だってかける!」

 

ウェイブ君の目に迷いはない。

 

「私はとある願いを叶える為にどんどん出世していきたいんですよ。そのためには手柄を立てないといけません。こう見えてやる気に満ち溢れていますよ。」

 

ランさんの顔にいつもの優しさはない。

 

「私は父と師を殺した狂賊共を…悪を断罪するために、ここにいます!そのためなら命なんて惜しく有りません!私の絶対正義の名の下に、私は戦います!」

 

セリューちゃんの決意に揺らぎはない。

 

「アタシの行動原理は至ってシンプル、それはスタイリッシュの追求!!かつて戦場でエスデス様を見たときに…思いました。あまりに強く…あまりに残酷…ああ…神はここにいたのだと!そのスタイリッシュさ!是非アタシは勉強したいのです!!」

 

……変わらず変態だけど、目は真剣。スタイリッシュまでもが普段の愉悦を潜める。

 

「私は…正直国とかどうでもいいです。でも、マスターがそれを望んでいる限り、私はその望みを叶える為に働きます。マスターは私の恩人…一生尽くすと決めています。他ならぬマスターの為に、私はここにいる。そのための行動に迷いはありません!」

 

僕の駒たるスピア。その誓いは、忠誠は不動。

 

「ラザール、お前はどうだ?」

 

え、これ僕も言うの?んー…まぁ…無難に言っておくかなぁ。

 

「僕は、平穏無事な生活を送りたい。大臣に徴兵されて、その夢は断たれたけれど…でもね、諦めたわけじゃないんだよね。取り敢えず、今の世の中は物騒過ぎるからさ、物騒な世の中を更に物騒にしてくれている奴らを排除したい訳。大層な理由なんてない、ただの僕のエゴ、自己満足。国なんかじゃない、ただ自分自身の為に僕は動くよ。例えそれが人殺しのサポートだろうが何だろうがね。」

 

それを聞いて驚いたような顔をしたタツミ少年。ふふふ、僕が善人だとでも思ってたのかな?世の中、打算と陰謀だらけ。真の善人なんて居やしないのにね。

 

「皆迷いが無くて大変結構…そうでなくてはな。それでは出撃!行くぞタツミ!補欠として皆の働きを見ておけ!ラザールも来い!初の大きな仕事だ、補佐役とは言えお前もメンバーだ!着いてこい!」

 

えー、僕も?…うん、まぁ、動かなきゃいいか。了解ですよ、エスデス隊長。

取り敢えず、タツミ君の首が締まっているので、引きずっていくのはやめてあげませんか?

 

 

 

 

 

スピアside____

 

やってきたギョガン湖。門の前には数人の見張り。砦の中には気配がいっぱい。…大仕事ですね、面倒な。しかし、このような仕事をきっちりとやり遂げてこそ、マスターに喜んでいただけるというものです。マスターはナイトレイドには帝具の情報を、大臣らには危険種の情報を、そして両方にマスター自身の戦闘力を、一部秘匿しています。この場にマスターが立てない以上、私がマスターの名を背負っているのです。すべて私に掛かっています。

 

「ふぅ…」

 

深呼吸をして、自分の手に持つ槍を力強く握る。マスターはエスデスとタツミと共に別所から戦いを見ていると言っていた。…見てて下さい、マスター。このスピア、しっかりと勤めを果たさせていただきます。マスターから与えられた、私の相棒と帝具と共に!

 

「地形や敵の配置は頭に叩き込みましたが作戦はどうしましょうか?」

 

「正義は正々堂々…正面から!」

 

…マスター、作戦は“正面突破(みんな頑張れ)”、つまりはワンマンプレイで行くそうです。それでいいのか、イェーガーズ。しかし、このようなやつらに時間を割いている暇もありません。初任務ですし、私たちの動きや性格、そして帝具を見るためのお試しというやつですね。

 

砦に向かって歩を進める、私達。

 

「敵だ!皆集まれ!!」

 

敵の声がします。気づかれたようです。まあ、こんなに堂々と正面に向かって気づかない方がおかしいんですけど。

 

「おいお前たち、ここがどこだか知っててきてんのかぁ!?」

 

「正面からとは良い度胸してんじゃねぇか!!」

 

「生きて帰れると思うなよ!!」

 

「うっはー!可愛い女の子もいるんじゃねぇか!」

 

「たまんねぇな!連れ帰って楽しもうぜぇ!」

 

…ゲスが。この体は足の先から髪の一本に至るまで全てマスターに捧げている。それに私より年下の2人までいやらしい目でジロジロと…二十歳を超えたセリューはともかく、クロメに至っては十代半ばだ…ロリコンか、気色の悪い。

 

「まずは、私とドクターの帝具で道を開きます。アイツらは完全悪…皆殺しで問題ありません。コロ、5番」

 

すると、セリューの帝具ヘカトンケイルが巨大化し、セリューの腕に噛みついた。セリューの血がわずかに飛び散る。義手に代わってセリューの右腕に装着されたのは巨大なドリルでした。…マスターの治療を拒んで手に入れた力がそれですか。少しだけイラッとしつつも、そのアバウト過ぎる換装法を遠い目で眺める。

山賊たちは、そのおかしな光景に慄きつつも、セリューへ襲いかかっていく。…遅いな。

 

「ドクターから授かった新しい力…“十王の裁き”!!───正義閻魔槍!!」

 

セリューの突進を食らった山賊たちはそのドリルに貫かれ、削られ、千切られ、その体を肉塊へと変えられていく。運良くドリルに巻き込まれずに済んだ山賊たちも、追撃のごとく飛び出したヘカトンケイルに喰われ、その餌となった。

 

それを見て、門の付近にいた山賊たちが慌て出し、門を閉じる。…邪魔ですね、よし。

 

「うざったいですね。門を私が開けてきましょう。少々お待ちを。」

 

「は!?おい、スピア!?」

 

「一人で問題ありません。すぐに終わります。」

 

戸惑うウェイブの声を無視して走り出し、セリューの隣へ追いつく。

 

「セリュー、門を開けてきます。少し待っていて下さい。巻き込みたくはありませんので。」

 

「私の方にそれが可能な装備もありますし、私の遠距離武装の方がスピアさんたちにとって安全かと思いますが…」

 

「確かにそうかもしれませんが…私の方が速いです。」

 

「え?」

 

セリューが驚いたようにこちらを見た瞬間、私は地を蹴り…門を蹴り破った。この間、約一秒弱。人がまばたきをするほんの一瞬です。

 

帝具“神速演武”ヴィスティヴァル。空を舞い、鋼鉄をも砕く脚力を齎すブーツ型の帝具です。蹴るものに制限はなく、水上に立つことも出来ます。空気を蹴れば、滞空は出来ませんが空を駆けることもある程度可能。また《奥の手》も存在します。私の槍術と非常に相性が良い帝具です。これを授けてくれたマスターには感謝しきれません。私の持つ槍もマスターが帝都で仲の良い武器屋の特注品で、かなりの業物です。この私に隙など存在しません!

 

「開きました。お先に失礼しますね!」

 

私が一瞬で門の前に行ったのが見えなかったのでしょう。驚いたようにこちらをみる皆さんに一言言って私は砦内の山賊の殲滅を開始しました。

 

 

 

 

ウェイブside____

 

門を開ける、そう言って一瞬で門を蹴破ったスピア。門付近にいた山賊たちを見事な槍術で薙払うと、彼女は先に行くと言って砦内に入っていった。

 

「二人とも見事な殲滅力ですね。」

 

ランが感心したように言う。同意しかないな。もうアイツら二人でいけんじゃね?とか思った俺がいる。

 

「ふふ、セリューの“十王の裁き”はね、アタシが作り出した兵器よ。」

 

ドクターが?…そう言えばこの人、医者兼科学者っつってたな。ラザールさんとのバトルが印象的過ぎて忘れてたけど。

 

「“神の御手”パーフェクターは手先の精密動作性を数百倍に引き上げる、んもう最高にスタイリッシュな帝具なのよ!」

 

それはスゲェ!何でも精密に正確に作れちゃうって事だよな。普通にスゲェ。

 

「アナタ達が怪我しても、死んでない限りはアタシが完璧に治療してあげる♡体に武器までくっつけちゃうオマケ付きよ♡」

 

「武器は遠慮しておきます。」

 

全くだ。てか武器を付けられる危険性を考慮すれば黙ってラザールさんとこ行った方が安全だよな…。二人のバトルを聞く限り、医療の腕は同じ感じみたいだし。…ここにスピアがいなくて良かった。今のスタイリッシュの物言いを聞いていたら完璧怒り狂っていそうだ。てか、それより…

 

「支援型の帝具ならドクターには護衛が必要じゃ…?」

 

「うふふ、その優しさはプライベートにとっておいて♡……出てきなさい!強化兵の皆さん!!」

 

ドクターの合図に音もなく現れた沢山の強化兵。気づかなかった…。武器も作れる応用性の高い帝具。ドクターはいつか帝具と並ぶスタイリッシュな武器を造るのが夢だと言った。

 

「あの、話している間にクロメさんがもう突入してしまいましたが…」

 

「あの小娘、人の話聞きなさいよ!」

 

いつの間に…クロメ、恐ろしい子。まぁ、そうだよな。雑談は此処までだ。ここからは仕事の時間だ。

門から砦の内部へと入る。…戦闘開始!!

 

 

 

 

ラザールside____

 

焼け落ちた山賊たちの砦。こちらに被害はゼロ。向こうは全滅。ふふ、思ったよりイェーガーズは強いみたい。スピアも渡した帝具を完璧に扱えるようになっている。良い子良い子♪

 

「すげぇ…」

 

呆然としつつ、タツミ君が呟いた。

 

「タツミ…お前は私が育てる。これくらい出来るようになるぞ。」

 

「なんだか…いやに優しいんですね。」

 

「聞いていたイメージと違うか?実は私もこんな気持ちは初めてなんだ。…だが、悪くない。」

 

………黙り込んだタツミ君。その目に浮かぶのは疑問と挑戦、そして…決意っぽいなにか。

 

【……まさかとは思うが、ナイトレイドに勧誘でもする気か…?】

 

は?それはないでしょ!…ないよね?でももし、そうなのだとしたら。タツミ君、君は……

 

「…思ってた以上に馬鹿だな…」

 

小さく呟いた僕の言葉は誰の耳に入ることもなく、風に流れて消えていった。

 

 




▼ヴィスティヴァルの名前の由来
ヴィテス(仏語で“速さ”)+スティヴァーリ(伊語で“ブーツ”)でヴィスティヴァル←
コラ、そこ!安直とか言わない!アバウト乙とか言わない!…作者も分かってるから(´・ω・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

求めるものは何だっけ

2017/11/24 改稿しました。

蕎麦とうどんならうどん派です。讃岐うどんも稲庭うどんも好きです。でも麺類って言われると、ラーメン派です。具に海藻さえ入ってなければ、味は何でも好きです。…ただし、俗にいうスイーツ系ラーメンは除く。なんでごはんとスイーツを一緒にしようと考えたのでしょう…食事もおやつも美味しく食べてこそでしょうに…。

弟に騙されました。…餅ならまだしも、白米に砂糖使うなよ!しかも具が鮭かよ!不注意ならともかく故意って…もう、馬鹿!(深刻な語彙力の欠如)
不味かったです。




タツミside____

 

マズいマズいマズい!!これはかなりヤバいぞ!

 

「それを着てるってことは、お前ナイトレイドの奴だな?なるほど、胡散臭い山には胡散臭い奴が潜んでるぜ!!」

 

オレはピンチに陥っていた。

 

 

事の始まりは数時間前。ギョガン湖の任務を終え、兵舎に戻ったイェーガーズとオレとラザールさん。何故かは分からないけれど、昨夜一晩をエスデスさんの部屋で明かした俺(決して疚しいことは何も無い)は、エスデスさん、ウェイブ、クロメと四人でフェイクマウンテンに来ていた。昼はウェイブと、夜はエスデスさんと組んで探索することになり、俺はウェイブとの行動の際に隙をみて逃げることにした。

 

そして、先ほど危険種との戦闘に乗じて逃げ出すことに成功した……と思ったんだが。ある程度離れたところで、オレのインクルシオと同じ、鎧型の帝具を纏った奴(おそらくウェイブだと思う)に見つかってしまった。

とにかくエスデスに追いつかれるとマズい!早く離脱しないと!そう思って、戦う姿勢をとってフェイントをかけ、その隙に逃げようとしたのだが……結果は失敗。

 

「逃がさないぜ?腹括って戦いな!」

 

ウェイブ(と思しき奴)に回り込まれてしまった。相手は俺よりも戦い慣れていて、向き合っても攻撃の隙がない。くそっ、どうすれば…!

 

そう思ったその時だった。

 

フッと、上から何かが落ちてきた。ソレは地に接触すると同時に勢いよく煙を吐き出す。…煙玉?一体だれが!?

その煙が俺と相手の鎧型の両方に触れた。

それと同時に俺達は意識を失ってしまった。

 

 

ラザールside____

 

マグルに頼んで特製の煙型記憶置換薬の入った筒を落としてもらった。2人が意識を失うと同時に僕は急いでウェイブ君の元へ行き、中和剤を打ちこむ。これでウェイブ君は大丈夫。ちょっと記憶が曖昧なだけで、目を離した隙にタツミ君を逃がしちゃったことになる。

そして問題のタツミ君。

 

「…僕はイェーガーズに入れられて、調薬係をしている。僕は大臣に脅されている…」

 

そうタツミ君の耳元で繰り返し囁きながら、背中にタツミ君を背負い、川沿いを下るように歩き出す。

しばらくして、川辺の少し開けた場所に着くと、僕は背からタツミ君を降ろした。

 

「…アカメちゃん、いるんでしょ?」

 

ガサリと茂みが揺れ、木影からアカメちゃんが出てくる。オロチ、ナイス探知。

 

「…タツミを返してもらう。」

 

「勿論。そのためにわざわざフェイクマウンテンから離れてる此処まで運んで来たんだから。感謝してよ♪」

 

「…何故だ。ラザールと言ったか?お前はイェーガーズなのだろう?」

 

「…そうか、君には直接会ったことがなかったね。クロメちゃんから話は聞いていたから、初めて会った気がしなかったや。はじめまして、僕はラザール。アカメちゃんだよね?聞いているかもしれないけど、改めて君に言っておこうか。…僕は医者だ。戦闘員じゃないよ。少なくとも今はね。つまり君と戦う理由も必要性がない。」

 

「……ボスが、お前を探していた。こちら側に引き入れたいと。しかし、私はお前と話したことがない…私にはお前が分からない。だから、率直に聞こう。何が目的だ。」

 

「さっきの回答で納得いってないって顔だね。じゃあ、君が信じられるように…敢えてこう言おうか。タツミ君がウチにいると、僕がしていることの邪魔になる。…要するに利害の一致って奴さ。あと、僕の目的だっけ。そんなのみんなに言ってるけど、平穏に暮らすことだけだよ。そちら側に行かない理由?…僕の望みは、ナイトレイド側についたところで解決できる問題なのかな?」

 

「!!お前は…!」

 

「タツミ君、さっきウェイブ君と戦って何発か食らっているよ。早く連れ帰って手当てしてあげて。悪いけど、そろそろウェイブ君が起きるから僕が手当てしてる暇はない…今回は見逃すから行って。さ、早く。」

 

「…信じたわけではない。しかし、私も今回だけは感謝しておく。」

 

アカメちゃんはそう言うと、タツミ君を担いで森の中に消えていった。

 

 

…僕の目的の曖昧さにも気が付かないで。

 

「ふふっ…ありがとう、タツミ君、アカメちゃん。逃げ出してくれて、助けに来てくれて、本当にね!お陰でインクルシオに直接細工が出来たし、マーキングも出来た…ふふ、あはははははははは!!!」

 

「ご主人、これで良かったの~?」

 

「うん、助かったよ。運搬とマーキングありがとう、キノ。帰りもよろしく!」

 

「ぜーんぜん、大丈夫~!これ位任せて任せて~♪」

 

人型をとって隠れていたキノ。キノの背に乗って隠密行動してタツミ君を追ってたんだよね。…それにしても、あのオカマ科学者、タツミ君を追うみたいなんだよね…ま、記憶置換したし。最悪アイツが死んでも大丈夫でしょ。

 

『ご主人~、帰りましょー!』

 

おっと、そうこうしてる間にいつの間にか、本来の大蜘蛛に戻っていたキノ。さて、カンザシが僕のアリバイ工作をしているとは言え早く戻らないと。帰るよ、キノ。

 

 

翌日───

 

「…あの…本当に申し訳ありませんでした。このウェイブ深く反省しております。」

 

朝ナイトレイドの会議室に行くと、ウェイブ君がエスデス将軍の拷問ライト版を受けていた。何でもタツミ君を逃がした上に偶然遭遇したナイトレイドをも逃がしてしまったとか。へ、へぇ~…(棒)

 

「タツミを逃がしたのも注意散漫だがそれより何より…ナイトレイドを逃がしたというのが情けない。クロメ、石!!」

 

「んっ!」

 

ゴトッという音を立ててウェイブ君の足に乗せられた石。ウェイブ君は現在進行形で木製のトゲトゲした台の上に正座させられており、膝下から脛、足の甲までピンポイントの刺激が走っているはずだ。自分の体重+石の重みだ…激痛だろう。その上に今5個目の厚い石盤が重ねられた。これはツラい(確信)

 

「インクルシオならば中身は百人斬りのブラートだろう。ナイトレイドの中でも要注意人物だが、だから逃げられていいということにはならん。クロメ、火!!」

 

「んっ!」

 

今度は上半身裸のウェイブ君の背中に蝋燭を垂らされる。…変態なご趣味の方が使う、性的玩具の低温蝋燭ではなく、ガチの蝋燭。これは熱い(確信)

 

「今回はあと水責めと鞭打ち程度のお遊戯で済ませてやるが…次に失態を犯したら、私自らお前を処罰する。肝に銘じておけ。」

 

「…ハイ。」

 

……怖っ。若干罪悪感もあるし、拷問終わったらウェイブ君治してあげようっと…。すると、ガチャリといきなり開けられた扉。入ってきたのはフェイクマウンテンを捜索しに行ったセリューちゃん。

 

「隊長!!申し訳ありません!フェイクマウンテンを山狩りしてもタツミも賊も見つからず!コロでも追跡は不可能でした!」

 

「ヘカトンケイルの本分は戦闘だろう。気にするな。スタイリッシュの方はどうだったんだ?」

 

「独自に動かれているようですが…まだ連絡は入りませんね。」

 

「まぁ、望みは薄いか…」

 

………何だろう。嫌な予感がする。

 

「主、妾嫌な予感がするのじゃ…」

 

「奇遇だね…僕もだよ。……エスデス隊長、ちょっと僕も動いていいかな?なんか嫌な予感がするんだよね…。」

 

「…まぁいいだろう。許可しよう。」

 

「ありがと。」

 

「あの、隊長…そのタツミ君の件なのですが…先ほどのお話では彼が反乱軍に入る可能性があるとおっしゃっていましたが…」

 

「あぁ。大胆にも私を誘ったほどだからな。」

 

あぁ、やっぱり誘ったんだ、タツミ君。馬鹿だなぁ…この人がソッチに行くわけないじゃん。愉しい愉しい殺戮が出来るのはコッチ側なんだもの。反乱軍なんて現状を破壊する場所に彼女が行くわけ無いよ。

 

「もし彼が敵として現れた場合、私達はどのように対処すればよろしいのですか?」

 

「正直…タツミのことは今でも好きだ。……だが。それよりも部下の命が優先だ。生け捕りが望ましいがいざとなれば生死は問わん。」

 

「了解しました。」

 

「悪に染まっていた場合は裁くしかありませんもんね!」

 

「了解でーす。…んじゃ、僕は今日はこれで失礼しまーす…カンザシ、スピア、行くよ。」

 

「「御意に。」」

 

 

部屋を出て、自室に戻る途中の事だった。何かを考え込んでいたカンザシが重々しく口を開いた。

 

「……主、少し良いかの?大事な話があるのじゃが。」

 

「?いいけど…どうかした?」

 

嗚呼…嫌な予感がする。

 

 

王宮内の部屋に戻ってきた。依然としてカンザシの表情は暗い。聞きたくないという思いと、聞かなきゃという思い。相反する意識が僕の中で暴れている。しかし、他ならぬ彼女の頼みなのだ…聞かなければいけない。

 

「それで話って?」

 

「うむ。…主、落ち着いて聞いて欲しい。妾は…あとわずかで一度この世を去らねばならぬ。」

 

「…は?」

 

呼吸が止まった。呼吸の仕方を忘れてしまったみたいに。…幼い頃からの、僕の大切な……か…ぞく……なん…で…、

 

「…?…る…、………じ、………主!!!」

 

遠ざかっていた意識がハッと戻る。…苦しい。どうやら本当に呼吸をしていなかったみたいだ。…心臓がバクバクと音を立てているのを感じる。僕は生きている…息をする、しないと。カンザシは不安げにこちらを見ている。…しっかりしなければ。

しばらくして、少し呼吸が安定してくると、話を聞く余裕が出来てきた。でも、体に力は入んないし、ぐったりと頭が重く感じる。よろけながらもベッドに腰掛け、カンザシに続きを促す。

 

「…ごめ…ケホッ、取り乱した…。それで…どういうこと…カンザシ。」

 

「妾は、九尾の天狐じゃ。…じゃが、東方の出身では別名もあっての。妾の別名は千年九尾。名前通り、千年生きるとされておる。確かに妾は千年以上生きる…しかしじゃ、それは魂の話なのじゃよ。…百年程ならともかく、千年はこの肉体の方が保たぬ。これも妾が強い神通力を持つが故。故に、妾は約二百年程ごとに転生するようになっておる。魂はそのままに、肉体を新たに生み出して蘇るのじゃ。」

 

「つまり…?」

 

「あと十数日ほどで、妾は一度死ぬ。…この肉体が朽ちる。じゃが、少しすれば…まぁだいたい二月程度かの…転生し、妾は再び蘇る。何、僅かばかり、妾が旅に出ているとでも思っておけばよい。妾の主は、主じゃからな!転生して魂が体に馴染み次第、すぐに主の元へ帰ってこよう!」

 

「…カンザシ、死なない?戻ってくるの?」

 

「うむ、勿論じゃ!言い方が悪かったのぅ…すまぬ、主。死ではなく転生と言えば良かったのぅ。何の問題もない。」

 

どうやらカンザシは死なないらしい。ちゃんと帰って来てくれるらしい。…良かった。カンザシは僕がテイムした二番目の危険種。かなりの古参だ。僕が幼い頃から側にいる、母であり、姉であり、妹でもある大切な存在。

 

「できるだけ、早く帰って来るんだよ?」

 

「承知。」

 

スピアも後ろで涙ぐみながらうなずいている。…あ、そうだった。まだやることはあるんだった。いけないいけない。

 

「…さて、いきなりのことに思わぬハプニングはあったけど、やらなきゃいけないことがあるよ。スピア、カンザシ今回は2人に動いて貰う。」

 

「分かりました。それで私達は何をすればよろしいのですか?」

 

「……Dr.スタイリッシュを殺す。」

 

「ほぉ?救いに行けではなく、殺しに行けとな?」

 

「うん。そうだよ。……アイツは邪魔だ。僕とアイツが馬が合わないって言うのも勿論あるけど、さすがにそんな理由で人を殺す程子供なつもりもないよ。」

 

「では何故?」

 

「……僕の勘だよ。アイツは生かしておくと、きっと将来…僕らが自由になって本当に平穏に暮らせる日が来た時障害になる。…邪魔なんだよ。」

 

「それは…排除しないとですね。」

 

「うむ、そうじゃのぉ…話して解決出来る奴でもなし。仕方ないじゃろう。」

 

「うん。それでね、2人にお願い。タツミ君にはもう暗示をかけたけど…他の奴にも言ってきて欲しいんだ。“僕が無理やり働かされてる”ってね。あくまで疑心を持たせる程度でいいんだ。ナイトレイドが僕らに目を向けたり、襲ったりすることを避ける為に言ってきて欲しい。」

 

「「了解」」

 

「あ、あと。スタイリッシュは必ず2人が殺して。そして帝具を回収してきて頂戴。ナイトレイドもきっとパーフェクターを狙ってる。けど、アレはちょっと与えてみたい子がいる。」

 

「…もしかしてリデルにかの?」

 

「うん。あの子は賢い。きっとパーフェクターを扱える。」

 

「ではマスター、確認ですが、私達はドクターをこの手で仕留め、パーフェクターを奪う。そして、それをわざと目撃させることでナイトレイドにマスターが無理やり働かされていると伝える…ということでよろしいですか?」

 

「うん、完璧。よろしくね、2人共♪」

 

「「御意!」」

 

 

 

 

 

2人が部屋を出た後、リデルを呼ぶ。

 

「お呼びデスカ」

 

「リデル、その体はどう?」

 

「…そろそろダメデス。ヨワイし、バカですカラ。」

 

リデル、彼?彼女?は二級危険種。個体名は“ワイズパラサイト”。寄生虫の危険種だ。他の個体に侵入し、脳を喰い、体を奪って自分の体にする。本体自体は強くないものの、非常に高い知能を持つ。過去、エイプマンという特級危険種に寄生したワイズパラサイトが正体をバラすことなく一国の半分を落としたという話もあるくらいだ。二級とはいえ、体を得たワイズパラサイトの厄介さは特級や超級にも劣らないだろう。

僕は奪ったパーフェクターをこの子に使わせてみようと思っている。現在は地下にいた犯罪者の若い男に入っているが…リデル曰わく弱くて馬鹿らしいから物足りないだろうし…

 

 

___誰かいい奴いないかなぁ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

別れ、分かたれ、また会う日まで。

2017/11/24 改稿しました。
改稿作業も残り僅かです。




ナイトレイド・アジトにて。タツミが無事に帰ってきたことで、ナイトレイドでは酒盛りが始まっていた。

 

「いやー、タツミが無事帰ってきて良かったなぁぁ!ぷはーっ!酒が美味いっ!」

 

「つか未だに信じられん。あのエスデスがタツミに惚れたなんて…どこまで年上キラーなんだっ!!」

 

「趣味悪いわねぇ…コレのどこがそこまでいいわけ?」

 

「タツミ、お前ももっと食え!」

 

レオーネ、ラバック、マイン、アカメとも、相変わらずの運転でタツミの帰還を喜んだ。

 

「しっかし、ラザールはいったいどういうつもりなのかしら?」

 

「…さぁなぁ…でもラザールがタツミを逃がしてくれたんだよな…。それに、ナイトレイドの顔ぶれも分かっているはずなのに、未だ指名手配の紙は出ない。…内緒にしててくれてるってことだよな?それは助かるけど…」

 

「ラザールは何考えてんのか分かんない時がある…黙っててくれてんのはありがたいけど、内心何か企んでる気もしちまうんだよなぁ…」

 

「……私は今回、そのラザールという奴に初めて会った。交わした会話は少ないが…油断してはならないと、ただそれだけは感じ取れた。」

 

「でもラザールさん、確かにイタズラ好きっぽくって向こうで散々弄られたけど…でも悪い人だとは思えなかったんだよな…。イェーガーズに来るのだって薬の納入でだけだったし。」

 

各々が今回の件について語るが、特に怪しいこともない。ただラザールが何を考えているのか、それが分からないということしか分からなかった。

 

 

やがて全員が眠りにつく。

 

「うふ、召集をかけた駒が揃い次第…スタイリッシュに侵攻開始よ♡」

 

アジトの外で笑う人影に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

深夜、ナイトレイドは襲撃を受けていた。Dr.スタイリッシュによる急襲。大量の強化兵と数人の能力に特化した存在の全てがスタイリッシュにより手がけられ、作られた“駒”だった。しかし、ナイトレイドも弱くない。歩兵である強化兵達を薙払い、殲滅するのみ。強き者もまた駆逐していく。

 

それをスタイリッシュは、不満と愉悦を混ぜたような表情で崖の上から眺めていた。すると“耳”と呼ばれた男が、不意に何かに気づく。

 

「……空だ……何かが…何かが近づいて来ます!スタイリッシュ様!」

 

「え?それはどういう…」

 

いい終える前にそれは現れた。空を飛翔する危険種。行く先はナイトレイド…仲間のもと。

 

「特級危険種のエアマンタ!?」

 

「人が乗っています!あ…アレは!!元将軍のナジェンダです!他にも3名程乗っている模様!」

 

「なーんてスタイリッシュ!特級危険種を飼い慣らして乗り物にするなんて!!」

 

「感心してるばあいじゃ有りませんよ!?」

 

「────ふ、ふふふ!ちょっとびっくりしたけど、これはむしろ好都合よ…どいつもこいつもまとめて実験材料にしてあげる!アタシの切り札でね!!」 

 

そして、懐から赤い球体を数個取り出すと床に叩きつける。

 

「活きのいい実験材料にこんな新薬投入したくないんだけど…これ自体作るのスッゴく手間かかる貴重品だし…でも仕方ないわっ!味方がこんなにやられてるんですものっっ!それに今はこちらが風上。使うなら今しかないものね…」

 

そう言って、スタイリッシュは妖しい笑みを浮かべた。

 

 

 

一方、ナイトレイドは…

 

「おいっ!どうしたんだ皆!!」

 

インクルシオを装備したタツミ以外が地面に倒れこんでいた。

 

「この感じ…竜船の時みたいな催眠術!?」

 

「いや、これは……毒、か…」

 

痺れるような毒に侵されながらも、ナイトレイドは抵抗していた。それでも強化兵の数は多く、ジリジリと距離をつめてくる。もうだめかと思った次の瞬間、上から人が降ってきた。

 

「……え?」

 

驚きと同時に呆然とするタツミ達だったが、エアマンタの上にいる存在を認めて仲間と理解し、安堵する。

 

「今私達が降りると何かヤバそうだ。まずはここから指示を出す!さぁ!目の前の敵を駆逐しろ!“スサノオ”」

 

「分かった。」

 

エアマンタの上から発せられたナジェンダの命令にコクリと頷きを返し、スサノオと呼ばれた降って来た男は沢山の刃が円形に並んだ棍のような武器を構え、敵に向かって走り出す。突き、払い、殴り……ほとんどの強化兵が沈んだ頃、その死体達が爆発した。

 

風上の丘の上にいたスタイリッシュの仕業である。

 

「ふふっ、特別仕様の人間爆弾よ!まったく…生物である以上、あの毒が利かないなんてあるわけないのに…。未知の帝具だと困るし、残念だけど…これ以上は研究素材は要らないってことで死んでちょうだい」

 

爆発による煙が晴れると、男は体を欠損し、地に膝をついていた。───しかし。

 

バチバチッ!!

 

男の体から音が鳴る。───再生。そして再び動き出した体。

 

「…まさか、あの男!!生物型の帝具…帝具人間!?」

 

さすがのスタイリッシュと言えども驚きが隠せない。思わず悲鳴に近い叫びをあげる。

 

「スサノオ!南西の森に敵が潜んでいるぞ!逃がさず潰せ!」

 

「分かった!」

 

「スタイリッシュ様!ここがバレました!」

 

「仕方ないわ!ここは無理せず一旦逃げるわよ!」

 

しかしナジェンダは乗ったエアマンタを急下降させ、その影響でスタイリッシュは風に煽り飛ばされ、逃げられない。その間にスサノオとインクルシオを纏ったタツミ、なんとか動けたレオーネが逃げ道を塞いだ。

 

「くっ、なんてことよ!…しょうがないわ…ここは腹をくくってぇ!!」

 

スタイリッシュが懐からピンクの液体の入った注射器を取り出し、腕に刺そうとしたが、それは未遂で終わった。

 

 

 

 

「そうじゃな。腹をくくって」

 

「死んで下さい。」

 

森の中から音もなく現れた二人の刃によってスタイリッシュは心臓を貫かれ絶命したのだ。その二人の声には聞き覚えがある。特にタツミに至っては今朝まで聞いていた声なのだ。忘れているわけがなかった。

 

「ふむ、ここがナイトレイドのアジトじゃったか。通りで見つからぬ訳じゃのぅ…」

 

「そうですね。…あ、目さん、耳さん、鼻さん………あなた達も殲滅対象です。」

 

首を落とされ、3人もまた死んだ。ゴロリと首が転がる。エアマンタが地に着地し、そこから飛び降りてくる3つの人影。そのうちの一人…ナジェンダが問うた。

 

「………カンザシ」

 

「…くふっ、久々じゃのぅ、レオーネ。やはりおぬしもナイトレイドじゃったか?」

 

「……お前、いったい何をしに来た。」

 

「……おや、ナジェもか…、いやナジェではない…ストーカー女め!おぬしはもっと久々じゃなぁ…!!おぬしのせいで主と妾が苦労しておるよ!!」

 

「カンザシさん、落ち着いて…」

 

「これが落ち着いていられるか!!こやつのせいで主と妾達は帝都で大臣に目を付けられたりイェーガーズの手伝いをさせられたりしておるのじゃぞ!!」

 

「殺しましょう。カンザシさん、許可を。」

 

「……変わり身早すぎじゃろ、スピア」

 

「おい、漫才は後にしろ!カンザシ、お前が何故ここにいる!?そして何故、一応…本当に一応だが!…仮にも仲間であるスタイリッシュを殺した?」

 

「…ふむ、何故、か…。そんなもの、分かっておるじゃろう?妾は主の命令以外では動かぬ。妾の全ては主に捧げると決めておるでな。…こっちのスピアものぅ」

 

「お久しぶりですね、タツミ君。ナイトレイドの皆さんは初めまして。イェーガーズ所属、スピアと申します。────が、それはあくまで表向き。大臣に無理やり配属させられただけで、私もカンザシさんと同じくマスター…ラザール様の為以外に動く気はありません。以後お見知りおきを。」

 

キャラ濃いなぁ…と思いつつ、二人を眺めるナイトレイドの面々。それはお前らもだろうと冷たい目を向けるカンザシとスピア。どっちもどっちな無言の争いはナジェンダが切った。

 

「…で、カンザシ。何故だ?何故ラザールはお前らに命じた?」

 

「……おぬしらは、主が大臣に仕えたくて仕えておると思っておるのか?」

 

「……まさか!?」

 

「ふふっ、マスターは、平穏に暮らせる場を探し求めておいでです。Eliはナジェンダ元将軍を始めとした皆さんを通じ大臣に知られたせいで、平穏ならざる場となってしまいました。」

 

「なればどうするか?簡単じゃ。平穏を邪魔するモノを排除し、再び自由の身となればよい。その為にスタイリッシュは邪魔じゃった。無駄に鋭い男じゃったからのぅ。…ん?あやつ、男か?」

 

「一応男ですよ…多分、きっと。」

 

「そうか。まぁ、そういう訳じゃ。それに…主と仲悪かったしの。」

 

「えぇ。マスターに無礼でした。死ねと何度願ったことか。」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 

「…カンザシ、理由は分かったが…お前の連れ、なんか怖くないか?」

 

「…主に心酔してからこうなったのじゃ。妾に言うな。」

 

すると、カンザシがスタイリッシュの側にかがみ込み、腕に装着されていた手袋を奪う。

 

「!!カンザシ、それをどうする気だ!?」

 

「主の命令じゃ。安心せぃ、主に献上するだけじゃ。大臣には何も言わんし、コレも見せん。勿論、アジトの場所もメンバーものう。じゃが、妾達が仕留めたのじゃ。この帝具は妾達が貰っていく。」

 

「死体はあげますから、お好きにどうぞ。所詮科学者ですし、死体から読める情報の一つや二つくらいはあるかと。」

 

「ふん、ではの~」

 

そう言い残して、二人は森の中へ消えて行った。ナイトレイドは誰一人として動けなかった。

 

「ナジェンダ、追わなくてよかったのか?」

 

「あ、あぁ。…仕方ないさ。」

 

「カンザシ…アイツ…」

 

「なんか…衝撃的過ぎて、なんも言えねえ。」

 

「………ふ、ふふふ、ふははははははは!!」

 

しばらく沈黙していたナイトレイド勢だったが、唐突にナジェンダが笑い出したことでその沈黙も破られた。

 

「!?…ど、どうしたんだ、ボス!?」

 

「ふはは…そうか、ラザールは大臣の仲間ではないのか!!ならば…」

 

「…なぁ、タツミ。私、ボスの次の言葉分かるぜ。」

 

「俺もだぜ…姐さん。」

 

「私もよ…」

 

「俺もだぜ……せーの」

 

「「「「「絶対、仲間にしてみせる!!」」」」」

 

 

「フハハハハハ!!待っていろ、ラザール!!勧誘の手は止めんからなぁ!!」

 

「「「「(やっぱりか…)」」」」

 

ナジェンダの高笑いと共に、複数のため息がその場に響いた。

 

 

 

 

ラザールside____

 

ゾクッ!!

 

「っ!?」

 

「どうかしましたか?ラザールお兄様」

 

「いや、なんか悪寒が……。それよりそのお兄様って止めない?リデル。いくらその新しい体が10歳の女の子だからってさ…」

 

「ですが、暗殺者ですし。この体も長くは続かなさそうではありますが、前のよりはいいですね。新鮮だし、そこそこ強いです!」

 

「……新鮮?」

 

「死体ですから。」

 

そういうことか。リデルに与える体、早く探さないとね。

 

「主~、ただいまなのじゃ~♪」

 

「ただいま帰りました、マスター。」

 

二人が帰ってきた。二人の分の紅茶を入れつつ、聞く。

 

「結果は?」

 

「「妾(私)が失敗するとでも?」」

 

……ふふ、そっか…。

 

「二人共ありがとう。お疲れ様。」

 

「ほいとな。主、例の帝具じゃ。」

 

「ふーん…コレがパーフェクターね…。前任者がアイツだし一回拭いてから渡すね、リデル。」

 

「分かった!ありがとう、ラザールお兄様!」

 

「だから、それ止めない?リデル。」

 

「いやー♪」

 

ボンッ!!急ににカンザシが宙返りし、煙に包まれる。煙の中から現れたのは……

 

「ラザールお兄様♪」

 

「……カンザシ、幼女に化けてまで嫌がらせ?」

 

「まったくですね。大人のカンザシさんを見てますから、なんとなく気持ち悪いです。」

 

「(スピアがこうなったのは確実に主の毒舌が原因か。)」

 

「「何か言った(言いましたか)?カンザシ(さん)」」

 

「……二人共怖いのじゃ。」

 

カンザシが怒られたのは言うまでもない。

 

 

 

そして、この晩人知れず…カンザシは姿を消した。

 

「はぁ、何も言わずに行くとは姉さんらしいや」

 

「…いってらっしゃい…カンザシ。…さ、キノ。カンザシがいない間は君に働いてもらうよー!」

 

「はぁーい…」

 

本当に待っているから。早く帰ってきてね…カンザシ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな仲間

2017/11/25 改稿しました。

わーい、改稿作業終了ー!



 

タツミside____

 

帝都から南東へ800㎞。垂直に切り立ったテーブルマウンテンは数十種点在し、それぞれが独自の生態系を形作っている。危険種のレベルも高く、人間が住むには適さない……まさに“秘境”。そこに俺たちナイトレイドは来ていた。カンザシさんやスピアさんは報告しないと言っていたが、念には念を入れて一度拠点を移すことにしたのだ。

 

「秘境だからこそ、潜伏にはもってこいだ。新しいアジトに相応しい場所は、今革命軍の偵察隊が帝都周辺を探ってくれている。それまで私達はここでレベルアップといこうか。」

 

しかし、俺たちがここ、マーグ高地に潜伏と鍛錬のために来て数十分だというのに、既に俺は不安になっている。

 

「さて、改めて新規メンバーを紹介しよう。まずは……アレ?」

 

自己紹介を始めようと声を掛けたボスだったが、ボスの視線の先には誰もいない。

 

「わぁ!アカメちゃんって近くで見ると本当に可愛いんだぁ♡」

 

「な!?…なんだいきなり。」

 

ボスが探していたと思しき女性は、俺らの背後にいた。何故かアカメに絡んでいる。

 

「おい、チェルシー…」

 

「はーい、何ですか?…あ、自己紹介かな?…こほん。私はチェルシー。これからよろしくね♡あ、アカメちゃん!はい、コレあげる」

 

「!!!……歓迎するぞ」

 

アカメに手渡されたのは棒つきのキャンディー。ああっ!アカメが餌付けされた!すごく嬉しそうにしている。きっと長旅で腹が減っていたんだ!

 

「でもチェルシー…さんはマイン達以上に殺し屋には見えないな…」

 

大人びつつも可愛らしい容姿、動きやすさを損なわない程度にまとめられたセンスのよい服装、武器の類を持たない佇まい…。端から見ればザ・女の子!って感じの女性だ。思わずポツリと呟く。それが聞こえていたらしいボスが補足を入れてくる。

 

「見た目で判断するなよ。彼女はアカメと同じくらい仕事を成功させてきた凄腕だぞ。」

 

…マジで!?とてもそうには見えないが…ボスがそう言うからにはそうなんだろうな。

 

 

「そしてこっちが本部から譲り受けてきた私の新しい帝具、“電光石火”スサノオだ。自動で動く生物型だから負担が少ない…今の私でも使えるわけだ。ふふふ…スサノオは凄いぞ。」

 

あの時上から降ってきて、敵を殲滅させた人(帝具?)だ。とても頼もしくみえる!

…そう思ったのだが。スサノオ…さん?は数十分前から何やら家事を始めていた。なぜ今?何故このタイミング?しかし、段々とオレらの居住地と思しき家が出来ていくのを見て何も言えない。建築と同時進行で昼飯も作っているから、文句どころかすげえの一言しか出なかった。

 

「や、確かに凄いんだけどさ…なんスかコレ?」

 

「家事をしているようにしか見えないんだが…」

 

やっとのことでラバックと二人、ボスに問いかける。

 

「ふふ、その通り!スサノオは元々要人警護のために作られた帝具だ!戦闘力はもちろん、要人をつきっきりで守れるように家事スキルが完備されている!掃除洗濯何でもござれ!作れる料理のレパートリーは1000種類にも及ぶ!!───まぁ、戦闘方面でも切り札はある。なぁ?」

 

「あぁ。」

 

スサノオ…さんもボスに頷き返した。とにかく凄い帝具のようだとしか、オレには理解できなかった。

 

 

そして最後…

 

「最後…俺が自己紹介すりゃいいのか?あーっと、俺の名前はヴィン。よろしくな。顔と背中に火傷があるが、幼少期に色々あってな…その時負ったヤツだ。あまり気にしないでくれると嬉しい。」

 

…普通にいい人だ。顔の火傷と高い身長のせいで強面に見えるが、よく見れば優しそうな顔をしているし、声音も穏やかである。

 

「あぁ。それと言っておくが…俺は革命軍と一部手を組んでいるだけだから、途中別行動をとるかもしれん。その時はすまんが、よろしく頼む。」

 

「その“その時”とかいうのの説明はしてくれないわけ?」

 

「…とある奴を探してるんだ。もしソイツを見つけたら、例え任務中でもそっちに行くかもしれない。俺にとっては…悪いが任務よりそっちが大事だからな。…この国を良くしたいという信念は同じだから革命軍にいるだけで、どちらかと言うと革命軍は情報を、俺は戦力を貸し合っている状態というのが正しい。すまないな。だが、他に情報を漏らすことは絶対にしない。それは断言しよう。」

 

「その人の名前とかは分かんないのか?」

 

「…ソイツは当時、名無し(アノニマス)と呼ばれていた。今は名前を付けるか変えるかしているはずだ。だから昔の面影を頼りに探すしかない。幸いにも目立つ容姿はしていたからな…。その容姿も変えられていたら厄介だが…諦めはしない。必ず見つける。」

 

「そう、見つかるといいわね。」

 

「ありがとよ。ま、それ以外の志は革命軍と一緒だ。安心してくれや。」

 

俺たちに3人の仲間が増えた。

 

 

 

チェルシーside____

 

夜。スサノオが作った仮組の家の自室で私は手紙を書いていた。

 

新たな仲間は帝具スサノオとヴィンという男。スサノオはきっとカンザシとスピアがマスターに伝えたはず…。しかし、ナジェンダの言い方からしてスサノオには奥の手ありの可能性大。そしてヴィンという男…顔と背中に大きなひどい火傷の跡あり。腰に鎖の両端にナイフの刃がついたような武器を持っており、恐らくあれが帝具。

 

思い浮かぶだけの情報を箇条書きにまとめ記していく。多分そろそろカンザシかスピアがマスターに言ってオロチを寄越してくれるはず…

 

シュー……

 

…ナイスタイミング。私の影から現れたオロチの頭を撫でる。と、そこでオロチが手紙を咥えていることに気づく。

 

「マスターから?何だろう…」

 

“カンザシが一時的に、やむを得ない事情により故郷に帰ることになった。しばらくカンザシに頼み事は出来ないから注意すること。”

 

カンザシさんが…?…カンザシさんがいないということは、空間転移術による緊急集合や緊急連絡が通らないということ…報・連・相は早めにねってことだよね。なら、こちらからの手紙に書き加えてっと…。

 

“緊急連絡先が欲しいです。オロチを私の方から呼ぶ手段か、その他可能そうな手立てをくれると助かります”

 

「よし、お願いね。」

 

丁寧に封をして、オロチに手紙を差し出す。オロチは口に手紙を咥えると、闇に溶け込むようにして、再び影の中に消えていった。

 

「…体は白いのにどうなってるのかな?相変わらず不思議。」

 

さて、次の報告はいつになるかなー…ま、バレないように情報を集めていく感じで行くしかないよね。今日は疲れたし、さっさとお風呂入って寝てしまおう。

 

「マスター、誉めてくれるかな…」

 

おやすみなさい、マスター。

 

 

 

 

セリューside____

 

Dr.スタイリッシュが消息を絶ち、数日。Dr.の家宅捜査や研究室の探索を行うが何も情報が出てこない。恩人を失った私は落ち込み、エスデス隊長やランさん、ボルスさんといった方々はDr.に関する情報を探し続けていた。

 

────また、失った。

 

先ほど、隊長が来て慰めてくれた。必ず根絶やしにしてやると、約束してくれた。…Dr.の残してくれた材料にはまだ余裕がある。追加や改良は無理だが、現状維持ならまだなんとかなるだろう。

 

「でも私は専門家じゃない。誰か…メンテを手伝ってくれる人を探さないと…。」

 

でも、今はそんな気力も湧かず、イェーガーズの自室にあてられた部屋でぼぅとしていた。不意にノックが鳴る。仕方なく重い腰を上げて扉を開けると、立っていたのはスピアさんだった。

 

「セリューさん」

 

「…あ、スピアさん。どうしました?とりあえずどうぞ入って下さい。」

 

部屋に招き入れ、お茶を出す。

 

「こんな時間にいきなり訪ねてきてすみません。」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ!それでご用件は…」

 

「…大切な人が、亡くなるのは辛いですよね。」

 

唐突に、何の脈絡もなく告げられた言葉にドキリとした。そして、湧いてきたのは怒り。貴方に何が分かるのだと、理由もなく喚き散らしたくなった。しかし、次に彼女が発した言葉に、私は固まるしかなかった。

 

「…私は、父を目の前で殺されました。犯人は、エスデス隊長の部下であった三獣士です。」

 

「……え?」

 

「父は…オネスト大臣の、一代前の大臣でした。民がオネスト現大臣の圧政に苦しんでいると感じた父は、大臣に反旗を翻そうとしたのです。…セリューさんにとって、私の父は悪に見えますか?」

 

 

「私は……悪ではないと、思います。勿論、善でもないですが…」

 

…悩んだ末に私はそう口にした。確かに反旗を翻したのは悪だ。実際、私が出会っていたら、上から下された命令のままに、捕らえるか殺すかしたと思う。

でも…自分の意志を貫いたその姿勢、目標を達成すべく実際に行動に移したその決意は決して嘘ではなかったはず。

 

「人としては間違ってはいないのではないでしょうか。人間らしいと言いますか…私が言えることではないんですけどね。えへへ。」

 

「そう、ですか。……まぁ、私はずっとそう思っていましたけどね。」

 

「……はい?」

 

さっきまでの重い雰囲気はどこへやら、急にいつもの調子に戻ったスピアさん。一体何がしたいんですか!?

 

「…だから、今日来たんです。セリューさんを慰めに?」

 

「どういうことですか?」

 

「セリューさんも…行動してみてはどうですか?私は父を尊敬しています。あなた自身、私の父のような“人間らしさ”を悪としないのなら、一度やってみる価値があると思うんです。そうですね…例えば、ウェイブ君にイタズラを仕掛けてみるとか。」

 

「はい!?」

 

話に脈絡がなさすぎでワケが分からない。なぜ、意志を貫くことがイタズラに繋がるんですか!?

 

「つまりですよ。一回、とても簡単なことで良いんです。何か決めてください。そしてそれを実行してください。あなたは今とても落ち込んでいます。昔の私を…父を殺され無力感に苛まれていた時の私にそっくりでイライラします。私は父を守ると決めて槍を握りました。でも守れなかった!」

 

「!!」

 

「でも今、私は…今度は新たな大切な人である、ラザール隊長に忠誠を誓い、力になると決めました。そのために私は今頑張っています。だから…セリューさんも頑張れる筈です。あなたはとっても強いんですから。」

 

「あ……」

 

パパが、師匠が、Dr.が浮かぶ。皆が私に頑張れと言ってくれた…。昔の情景が見える。

 

「……スピアさん。今日だけ、今日だけは…落ち込んでいてもいいでしょうか…」

 

「…知りません。私は何も見ていませんから。」

 

「ふふ、そうですか。…ありがとう、ございます。」

 

頬を何かが伝う感覚がした。

 

 

 

ラザールside____

 

セリューちゃんの方にはスピアが行った。セリューちゃんにはリデルがどこまでやれるか確かめるのに、協力してもらうつもりだからね。ここで潰れられちゃ困る。

 

だが、それよりも問題は……

 

「ご主人…?」

「マスター…?」

「ラザール…どうしました?」

 

キノ、イエヤス、シェーレが心配そうにこちらを見るが、反応する余裕がない。

 

───ねぇ、なんで生きてるの?

 

───あの日、全部燃やした筈なのに

 

───もう、無かったことにした筈なのに

 

僕を……いつも殴ってきたね。踏みにじってきたね。虫を食わせにきたこともあったっけ。僕に油をかけて火をつけた時もあった。爪を剥がされたことも、骨を折られたことも、水に沈められたこともあった。未遂だったけど目をくり抜こうとしたこともあったね。

 

────全部、全部、覚えているよ?

 

「ふ、ふふ、あはははは……、……なんで生きてんだよ、害虫風情が。」

 

今僕はどんな目をしているだろう。キノたちの反応を見るに、かつてない程冷たい目をしているのかな。あぁ、でも殺気を抑えるので精一杯なんだ。怖がらせちゃってごめんね、みんな。

 

「そんなに完璧に殺されたいなら…もう一度…今度はちゃんと殺してあげる。」

 

〖ヴィン〗、チェルシーの報告にあった名前。僕を虐げたあの忌まわしい村の村長の息子の名前。特徴にある火傷の痕…僕が放った炎に焼かれたんだよね?探し人の特徴…()()にオッドアイズ、動物と話せる稀有な力…ふふ、幼い頃の僕の容姿じゃないか!火を放った後、僕の髪はその色素を失った。はじめは少しショックを受けたものだったけど、まさかそれが役立つ日が来るなんてね!

 

忘れる予定だったのに、忘れたかったはずなのに、僕は結局忘れることが出来なかった。ただ、思い出さないように、他の記憶で上書きした。いつか、忘れなかった意味が分かるその日まで、悪夢なんてなかったのだと思い込むことで自分を守った。

 

…だから、ちゃんと全部覚えているよ。

確か年は僕の7つ上。いつも取り巻きを含めて6人グループでいたよね。取り巻きの名前はアルテ、リリア、シーク、ミンナ、ダグだったかな。忘れない…忘れられるわけがない。

 

「ふふ、さぁ…僕も動く時が来たかな…」

 

 

 

 

「今度こそボク()が、完璧に殺してやるよ。」

 

 




新話は11月中に投稿予定。どんなに遅くても来週中には確実に投稿します。草稿メモは手書きで残ってるんですけど、これからパソコンに打ち込んでいかないといかないし、課題とかもあるので、すみませんがちょっとお時間いただきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

置き土産

11月、間に合った…?
一回サイト止まって、データ吹き飛んで、バックアップなしで打ちなおしたので、一回心折れました。疲れた。



タツミSide___

 

「これが新しいアジトか!」

 

帝都から北東15km地点。とうとう新しいアジトが完成したと聞き、オレ達はマーグ高地を出た。

マーグ高地では、スサノオことスーさんの建てた一軒家を拠点に、危険種を狩ったり、手合わせをしたり、情報をまとめたりと、鍛錬を兼ねた忙しい毎日を送っていた。途中、チェルシーのズバッとしたもの言いにマインと腹を立てたことも、ヴィンの時折傲慢になる態度に苦笑したこともあった。でも、それも仲間を思ってのことだったと知った。

チェルシーは地方チームの唯一の生き残り。ヴィンも家族や友人を村ごと燃やされてしまったそうだ。キツイもの言いも唯我独尊といえる態度も本音ではあっただろうが、でも同時に、今度こそは守らなくてはという虚勢でもあったのだ。…オレらは死なない、絶対に。

 

 

「戻ってきて早速だが、今回の標的は例の新型危険種どもだ。」

 

新型危険種。群れで行動するケースが多く、わずかながら知性も見うけられるという。そいつらはその身体能力の高さもあって、人や家畜を貪欲に食らっているらしい。早急に駆逐しなくてはいけないが、如何せん数が多くイェーガーズも動いているという。鉢合わせないよう夜間を中心に俺達も駆除に動くことになった。

 

最初、チェルシーは、イェーガーズに任せれば良いのに皆甘い、と不服そうであったが、こちらの思いも分かっているのだろう。早々に折れて了解していた。

途中、ちょっとしたハプニングもあったが、オレは改めて気合を入れたのだった。

 

 

 

 

ラザールSide___

 

「元人間だね。あーあ、どうせ作るならもっと綺麗に作ればいいのに。醜いよなぁ…。」

 

「そうか…」

 

王宮内、イェーガーズの頓所にて、僕はランさんと一緒にエスデスさんへの報告に訪れていた。内容は、最近噂の新型危険種について。イェーガーズ総出で、仮死状態のまま捕獲してきた新型危険種。それらが科学者連中と僕に半々で分配されて、それを解剖・解析したその結果、辿り着いた答えが“元人間”という結論だ。

 

「身体的特徴が近しいとは思っていましたが…まさか本当に…」

 

「人間を危険種にする…こんな真似が出来るのは帝具使いのみだろう…」

 

「僕個人の偏見と推測で言いますけど…製作者はあのオカマ科学者だったんじゃないかなぁと思ってます。新型の出現は、アイツが行方不明になってからしばらくしてのこと…なーんか陰謀感じちゃうよねぇ。」

 

「私が彼の研究室を調べた時、やけに淡白だと思いました。これに関しては、ラザールさんも呼んで協力していただいた上で、同じ意見に至っています。」

 

「アイツ、あぁ見えてかなりマッドなんだよ?もっと色んな実験をしていたはず。」

 

「なのに研究室の中はおとなしい…彼はどこか別の場所に、秘密の研究所を持っていたのではないでしょうか?今回の新型危険種はそこから流出したのではないかと思います。」

 

ランさんと一緒にオカマ野郎の研究室に行った時、違和感が拭えなかった。というか違和感しかなかった。僕とは違った意味で狂ってるアイツが、こんな簡単で単純でつまらないものしか作っていないわけがない。この程度の研究で満足していたはずがない。それに…

 

「エスデスさん、ランさん、お二人は知ってます?…研究者や科学者が一番大切に隠すものが何か。」

 

「…分からないです。」

 

「何だというのだ?」

 

「実験材料の保管所ですよ。」

 

「「!!」」

 

アイツの研究室にも自室にもなかったもの。ホルマリン漬けの生物やラットの一つや二つ、あってもおかしくないのに、何一つなかったのだ。あったのは、いくらかのカルテと調合途中の薬品サンプルだけ。

 

「一番厳重で、巧妙で、頑丈にするはずの場所、それが保管所です。ねぇエスデスさん、ランさん、あの新型はそんな場所から本当に自力で出てきたんですかねぇ?」

 

「なるほど…誰か、謎の第三者に解き放たれた可能性があるということか。」

 

「この件、私ももう少し調べておきます。」

 

「任せたぞ。ラザール、何かあればランに協力してやれ。この問題、根が深いかもしれん。」

 

「了解です。」

 

 

 

エスデスさんと別れ、キノと合流。ランさんを伴い、僕の部屋で作戦会議をすることにした。内緒話は安全地帯でしないとね。まずは、オカマ野郎について調査結果の精査から。数パターンに分けて推測し、場合分けしていく。

それが一段落したところで、お茶を入れて()()に興じることにした。

 

「ラーンさん♪」

 

「はい、何でしょう?」

 

「…見つけたよ、例の奴。」

 

ガタッと大きな音を立てて、思わずといった面持ちで椅子から立ち上がったランさん。

 

「本当ですか!?」

 

「うん、本当。」

 

そう返すと、ランさんは大きく息を吐きだして、こちらを見据えた。その顔は、無と言っても過言でないほど表情が抜け落ちていた。

 

「あの男は…今何処に?」

 

「それなんだけど…これからちょーっと厄介なことになりそうなんだよねぇ…ね、キノ。」

 

キノに目配せして報告を促す。

 

「そうだねぇ、ご主人。ラン君、結論から言えば、あの男は今帝都に向かってきているよ。心配せずとも近々出会えるだろうね。…でも、問題が発生した。」

 

「何かあったのですか?」

 

「その男、大臣の息子の食客として、帝都に来るみたいなんだー。ちなみにその息子は女を殴って犯して殺して喜ぶクソ野郎でーす!…マジで死ね。まぁ、それでなんだけど…その息子、他にも食客がいるみたいで、何か企んでるっぽいんだよねー。」

 

「シオンが聞いた限りだと、“面白いオモチャが手に入った”、“少しこいつらで遊んでおくか…楽しませてくれよ”、“あいつ等が揃ったら始動だ”等々一人話していたらしいよ。独り言多いよね、寂しい奴…。てかこの発言的に新型解き放った犯人こいつじゃね?」

 

「!?…その情報は何処から?」

 

「あー…今は黙秘で。」

 

「…分かりました。とにかくあの男は帝都に来るのですね?ならば良いです。来たらすぐにと言いたいところですが…深刻な状況です。様子を伺いつつ…必ず私が殺します。」

 

「うん!頑張って!僕の分も代わりにやっちゃって良いからさ。」

 

「はい、それでは遠慮なく。」

 

「…ふふっ、どうぞよろしく、共犯者さん。」

 

「えぇ、こちらこそ。」

 

 

 

「ところで、前から気になっていたのですが…」

 

ランさんによって、話が突如切り替わる。雑談(仮)を終え、雑談(真)を再開することにしたようだ。

 

「なぁに?」

 

「ラザールさんの私室の本棚、童話が多いですよね。しかも、同じタイトルが数冊ずつも…童話、お好きなんですか?」

 

「…子供の診察をする時なんかに役に立つんだよ、意外とね。」

 

「表紙が全て違うみたいですけど、同じタイトルのものに何か違いが?」

 

「普通の子供向けの童話は白い表紙のやつ。ハッピーエンドの物語。他の色が表紙のものは、“もしも”の物語。トゥルーエンドやダークサイドとも言われたりするね。」

 

「トゥルー…真実、ですか?ダークは…闇?」

 

「あれ、ランさん読んだことない?読み比べると意外と面白いんだよ」

 

「え、ですがダークと言うからには怖い話なのでは?」

 

「まぁね。…そうだな、ヘンゼルとグレーテルは知ってる?」

 

「確か、二人の兄妹が口減らしに森の奥に捨てられ、偶然見つけたお菓子の家で魔女に出会い、最終的に悪者だった魔女を倒してそこで幸せに暮らす…といった内容だったかと。…かなり省略しましたが。」

 

「うんうん、そんな感じ。で、例えばだけど…“もしも”の世界線において、“ヘンゼルは存在しなかった”り、“お菓子の家は幻だった”り、“魔女の正体は両親だった”りするんだよね。」

 

「…それは、なんというか…」

 

「ふふ、気になるなら読んでもいいよ。…僕は子供向けのハッピーエンドよりは暗い方が好き。」

 

「どうしてですか?」

 

「だって…」

 

 

____裏側まで幸せな話なんて、この世にあるわけないでしょ?

 

 




次回更新は、ごめんなさい、未定です。
12月中に出したいとは思っているんですが…。
確実に言えることは、前みたく1年も音信不通にはなりません(`・ω・´)←


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

搾取と救済

お待たせしました。スマホで打ったのなんて初期の頃以来ですよ…。取り敢えず嘘吐きは回避しました!だって1年経ってない!だからセーフですよね!!…え、アウト??



運命は残酷だ。されど恐れるな。情けは人の為ならず。因果応報。運命は…自分の行いは自分に返ってくるようにできている。良いことが起こるも悪いことが起きるも…全ては自分次第なのだから。

 

 

チェルシーSide

 

「家畜、家畜、家畜!どいつもこいつも良い顔をしておる。搾取されるだけの豚共め。…そうは思わぬか?しかし、ラザール医師の部下に君のような美しい女性がいたとは!さてさて、彼も男というわけですなぁ。」

 

「…家畜は貴様だ。汚いゴミムシめ。」

 

私は毒針を男の首に突き刺し、その息の根を止める。男の名前はゲバゼ。この街で財政官をしていた男だ。最近体調が悪いということで、高い金を積み、生意気にもマスターを呼びつけようとしたゴミだ。まぁ、この程度、マスターが行くまでもない。マスターが殺していいとゴーサインを出したこともあり、丁度ナイトレイドの任務が重なっていた私が此処に派遣された。男は私が来たことに驚いたようだったが、すぐに気色の悪い好色な笑みで迎え入れてきた。…ま、その脳内の妄想が実現する間もなくたった今ご臨終したわけだが。

 

「知ってるかな。豚は綺麗好きなんだよ?お前が豚と罵った人々のなんて美しいことか。その美しさを知らないお前の方が、私には可哀そうに思えるんだけど。…マスターだって、だからきっとお前を死んでもいい人間だと判断したんだろうね。」

 

私の呟きに屍は何も返さない。…当たり前か。

 

「さて、仕事完了。…そろそろイェーガーズが来るかな?さ、撤収撤収!!」

 

 

 

その数分後、イェーガーズは目撃する。街を見下ろす大きな椅子の上で、苦悶の表情で息絶えた死体を。その正面のガラスには赤い文字でこう書かれていた。

 

“死による救済を。魂の行きつく先は神のみぞ知る。”

 

 

 

 

 

 

 

「―――――って訳で罠だったって話。危なかったーっ!」

 

ナイトレイドのアジトの戻った私は、ある程度の脚色を交えながら任務の報告をしていた。

 

「その状況で無事ってアンタもしぶといわね。」

 

「飼い猫が居たからね。それに交じってしのいだのよ。」

 

報告ではイェーガーズとの鉢合わせをぎりぎりのところで回避したことになっているけど、実際はパパッと終わらせて街に居た白兎信奉者のところへ薬を届けていた。でもまだ内緒。少なくとも今はナイトレイドとして動かないといけないんだから。

 

「…アタシじゃ切り抜けるのは難しそうね。悔しいけど便利ね、その帝具。」

 

「マインには厳しいかもね。ま、これからも私に任せてくれればいいよ。…だからしっかりお留守番してなさい、補欠♡」

 

「い、一瞬でも感動したアタシが馬鹿だったわ!!仲間に対してなんて侮辱!!人として許せないわ!」

 

「…お前も俺に似たようなこと言ってたけどな。」

 

あぁ、マインっていいなぁ。揶揄い甲斐があって楽しいし、単純だから話を逸らしたいときにホント便利。ほら、今だって…

 

「しかし、イェーガーズは私たちに狙いを定めてきているな。」

 

「新型危険種も粗方仕留めた。残りの目ぼしい敵はナイトレイドだけだからな。」

 

「このままではマズい、か。」

 

話は次の作戦へと移る。安寧道教主補佐・ボリックの暗殺。そして同時にイェーガーズとの全面対決。確かにこのままでは後手後手でいつか捕まってしまうかもしれない。ならばいっそ、ここで仕掛けるということか。

 

「帝都郊外に奴らを誘き出し、奴らを叩く。…見知った相手でも戦えるな?タツミ。」

 

「…やるよ。標的以外でも戦うことになれば全力で行く。迷いはない!」

 

…ふふっ、…オトコノコ、だね。真っ直ぐ、前を見て走り出そうとしてる。でもそういう輝きは、今の私には眩しすぎるかも。

…ここら辺が妥当かな。さて、こっからは私の腕の見せ所。マスターのお役に立つ情報を下さいなっと。狙いは勿論一択。

 

「そうだ。ヴィン、そういえば貴方の探し人は見つかったの?」

 

「…いや、連日情報収集を兼ねて帝都を含め近隣の町を歩いているが、今のところ目ぼしい情報はないな。」

 

「へー、そういや村を焼かれたって言ってたけど、そいつは何で村を燃やしたわけ?」

 

マインナイス!!やっぱりこういうのがあるから、仲間っていうのはいいわ。気が緩んで口が軽くなる。特に人が多い時に何気なく聞くとそれが顕著。よっぽど内緒にしたいことじゃない限りはホイホイ答えてくれる。周りの目、怖いものね。

 

「…おそらく復讐なんだと思う。」

 

「…ほう。復讐とはまた物騒な言葉だな。」

 

「…何処の人間も異質を嫌うのは同じだろう。俺の村は閉ざされた山々の中、そしてその森の奥にあった。言い伝えなんかも沢山あったしな。そんなところにある日やってきた部外者の旅人の医者夫婦…末路なんて分かりきってるだろう。」

 

「まさか…!?」

 

「村八分ってやつだな。…外に出た今だからこそ、俺だって間違っていた部分があったんだってわかる。話し合ってわかることがあるっていうのも理解してる。だが、当時の俺らは…拒絶以外の方法を知らなかった。村を燃やしたのはその夫婦の息子だ。奴の怒りは最もなんだろうな。…でも割り切れねぇんだ。だって聞こえっちまった…耳に今も残ってるんだ。両親の呻き声が、幼かった友人たちの叫び声が!薄れゆく意識の中でも聞こえたんだ、アイツの笑い声が。」

 

なんだ。自業自得なんじゃない。なら復讐だなんてどの口が言うの?マスターの受けた苦しみは、貴方にまだ返ってきていないのに!

 

「確かに俺らは酷いことをしたんだと思う。でもそれは村のやつらの命を奪うほどのものだったのか?分からないんだ。だから探す。探してアイツに問い詰める。俺の家族の死が生んだ価値を。友人たちの死んだ意味を!」

 

「ヴィンさん…」

 

 

 

この男の真意に気づいた人間は、この場に何人いるんだろう。

 

マスター駄目だよ。こいつ分かってない。懲りてない。自分が優位だと信じて疑っていないよ。マスターの受けた苦しみを全然知らないよ。この男が知りたがっているのは“真実”じゃない。あくまでもこいつが求めるのはマスターからの“謝罪”だ。

 

“いつだって惨劇を生み出すのはね、自分を正義と疑わない奴なんだよ”

 

嗚呼、マスターのいうことは本当ですね。こいつは…いつかのセリューのよう。セリューよりも過激でないだけ。セリューよりも即座に行動しないだけ。でも、根っこは同じ。俺は正しいと言い張る子供なんだろう。

 

こいつの村のやつらはそう言ってマスターにどれほどの傷を与えたんだろう?考えても、マスターは多くを語らないから分からない。でもマスターの体に残る沢山の傷。今のマスターはよっぽどの深手でもない限り自然治癒でも傷痕なんて残らない。…ということはだ。今も残る痕はマスターが帝具を入手する前に負った傷ということなんだろうね。

 

 

「「必ず殺す。」」

 

私とヴィン、不覚にも重なった言葉は誰にも聞かれず、空気へと霧散していった。

 

 

 

 

 

 

ラザールSide

 

「隊長、ナイトレイドのアカメやマインと思われる人物が東のロマリー街道沿いで目撃されたそうです。」

 

その報告がもたらされた時、確かに自分の中の何かが壊れる音がした。

 

「…イェーガーズ全員を招集しろ。」

 

その命令に返事を返したのか、それすらも全く覚えていない。

思想も理念も目的も、何もかもが違う僕らと彼ら。この衝突もきっと運命なんだろうね。僕らの行動が招いた一つの結果。僕の誤魔化しもここまでなんだろうね。そろそろ、この宙ぶらりんな現状も限界ってことだ。

…この戦いが終わったら。僕も徐々に動いていかなくては。

 

でも兎に角、今は。

エスデス将軍の後ろを着いて行きながら、僕は呟く。

 

「さ、殺し合おうか。」

 

あの日の続きをしよう。僕の苦しみ、ボクの痛み。全部返してやるから。僕の優しさを拒んだのはお前。他の奴らは皆カミサマのもとへ行ったというのに。苦しみのない世界へ行ったというのに。お前だけが此処に残った。なら、文句は言えないよね。だってボクはちゃんと用意してやったもの。大嫌いなお前にも救済()を送ろうとしてやったもの。

 

あーあ、寂しいな。こういう時いつも寄り添ってくれた彼女が居ない。どうして今だったんだろう。

 

「…カンザシ、早く帰ってこないかなぁ。」

 

 

 

 

僕らの歩みは止まらない。それはいずれ、終点へ。

 

 




短いけど許して下さい。あとで改稿入るかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

燃ゆる火種

今回区切りがつかなかったせいで短いです。すみません。


ラザールSide

 

ロマリー街道。帝都から東へ進んで行くとある大きな町ロマリーから伸びる大きな街道だ。

カンザシがいなくなって数ヶ月。数日前より増え始めたナイトレイドの目撃証言を受けて、僕を含めたイェーガーズは帝都を出た。馬による長距離の移動は痛いし疲れるし大変だけど、そんなことも言っていられない。まったく、僕は軍人じゃないっていうのに。文句を言いながらも辿り着いたこのロマリーにて、イェーガーズはこれからの作戦を練っていた。

 

「東か、南か…」

 

「東にはキョロク、南には反乱軍の息のかかった都市…いずれにしてもきな臭いですね。」

 

「地方まで手配書が回っていないとは言え、このタイミングで姿を現し、この街で二手に分かれたのを目撃されている。都合が良すぎるな?」

 

「ハイ、高確率で罠、でしょうね。」

 

「わざと人目について、僕たちを帝都から誘き出した…大いにあり得る話だねぇ?」

 

「ナジェンダはそういう奴だ。燃える心でクールに戦う。」

 

何かを懐かしむように呟いたエスデス隊長殿は、ある意味ナジェンダという人間を信頼しているのだろう。あのナジェンダが何も企んでいないわけがない、決して甘く見ていい奴ではない、ってね。

 

「私はセリュー、ラン、ラザールと共に東へ。ナジェンダを追う。クロメ、ボルス、ウェイブ、スピアはアカメが向かったと思しき南へ進め。常に周囲への警戒を怠るな。不利な状況にあるならば退却して構わない。

帝都に仇なす最後の鼠だ、着実に追い詰め仕留めてみせろ!!」

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

「30分後に出立する!各自準備をしておけ!」

 

その指示のもと、各自が町に散らばった。ランさんは情報収集に。ボルスさんやセリューちゃんは武器のチェック。ならば、僕も準備はしておかなきゃ。情報収集に向かうように見せかけて、路地裏に入った僕はオロチを陰から呼び出し、肩に止まっていたマグルに伝令を頼む。

 

「マグルはチェルシーのところへ。もう潜入は良い、クロメちゃんたちに何かあったらサポートだけして退却するように伝えろ。その後はスピアに付いてて上げて。何かあったら連絡するように。」

「オロチは待機中のキノの元へ。ヴィン…あの害虫にちょっとちょっかい出してきてって伝えて。嗚呼、勿論キノが不利な状況に追い込まれたら退却ね。殺せそうなら殺してもいいけど、あの害虫は僕が殺して(救って)やりたいからさぁ…」

 

行け。

そう命じた瞬間、力強く羽ばたいて空へ消えたマグルと尾を地に叩きつけて影の中へと潜り消えたオロチ。

 

大丈夫、大丈夫。僕はもう弱くない。もう一人じゃない。僕の平穏は崩させない。邪魔者は殺す、殺せる。

大臣はね、勘違いしている。僕の平穏はこの現状じゃないってこと。僕は一度だって今が平穏な生活だなんて言ったことはないんだよ?いいよ、まだ貴男は殺さないから。だって貴男には利用価値がまだ残ってる。だからね、

 

「さ、一つずつ、消していこうか!」

 

僕はお前らとは違う。僕は人間じゃない。他ならぬ、人間が僕をバケモノと呼んだのだから。

 

 

「マスター、お時間です。」

 

「…スピア」

 

「はい、マスター。」

 

「よく視てきてね。」

 

「…はい、お任せください。」

 

「うん、じゃあ行こうか。集合時刻はちゃんと守らないとね。」

 

「そうですね。セリューに怒られるのは御免です。」

 

僕は裏路地に背を向け、歩き出すスピアもその後ろをついてきた。…いつも通り。合流地点には既にほとんどが揃っていた。…いつも通り。

 

「…時間だ。全員揃っているな?それでは出立する!南は任せたぞ。」

 

「はい。そちらも健闘を祈ります!」

 

「マスター、それでは行ってまいります。」

 

「うん、気をつけてね。」

 

「マスターこそ、どちらが囮でも何かしらの妨害はあるでしょう。どうかお気をつけて!」

 

…この時。

あの男との再会が近づいてきていると、僕も少しピリピリしていたからこそ、らしくもなく聞き損なった。ここで僕が気づけていたなら、彼女は狂わずにいてくれたのだろうか。

 

「…害虫は駆除しなくてはいけない。マスターの心を曇らせる害虫は抹殺しなくてはいけない。そうでしょう?マスターには私、笑っていてほしいです。例えマスターに恨まれたとしても…私は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…否、彼女がもうとっくの昔に狂っていたことに気づけたのだろうか?

 

「父を見殺しにしたマスターには笑っていてもらわなくては困るのです。だって、苦しんでいる人になんて、たとえ相手がマスターでも、復讐できませんから。」

 

「大好きで、大嫌いなマスター。愛してます、信じてます、好きです、大好きです。だから…憎くて憎くてしょうがない貴方を、私が殺します(愛します)。」

 

貴方はどうして、父を救ってはくれなかったのですか?ねぇ、私のカミサマ(マスター)

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。