邪神たちが異世界から来るそうですよ? (一反目連)
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Yes!ウサギが喚びました!?
プロローグ


心地の良い朝を迎えた。

 

今日は誰かさんが抱き枕に変装して布団に潜り込んでいる訳でも無く、誰かさんが素っ裸で夜這いに来た訳でも無く、騒がしい取っ組み合いの声も聞こえない。

 

八坂(やさか)真尋(まひろ)はそう少しばかり寝ている頭で思った。

 

そして―――

 

「まっひろさぁーん!朝ですよぉ!」

 

―――今日も平穏に暮らす事は不可能だと改めて感じた。

 

「真尋さん!愛しのニャル子が起こしに来ましたよ!英語で言うとMorning call!」

 

「少年、今日は勤労感謝の日。少年に何かプレゼントをあげたい。という訳でデート……しよ?(ポッ」

 

「あ!僕も真尋くんとデートしたい!」

 

八坂真尋は完全に覚醒した眼差しで、ドアを吹き飛ばして部屋に入って来た美少女と言える見た目の三人――ニャル子、クー子、ハス太――を見やった後、ベッドの近くにある机の引き出しに手を伸ばした。

 

「真尋さん?はっ、もしかして私に何かプレゼントですか給料二ヶ月分ですか結婚指輪片手にプロポーズです………!!?」

 

―――ニャル子の言葉は真尋の取り出した小さな金属製の先の分かれているヘラのようなもの……フォーク(・・・・)を見て完全に止まった。真尋はフォークを三本取り出して構えると―――

 

「――お前ら!朝ぐらい静かにしろぉぉ!!!!」

 

―――ザスッ、と三人の頭に突き刺した。

 

「「「ギャフン!!!」」」

 

   *   *   *   *   *

 

「うぅぅ……真尋さんが朝から冷たいです……」

 

「諦めたら駄目だよニャル子ちゃん!諦めたらそこで試合終了なんだよ!」

 

「少年の特殊強ワザのフォーク投げは3DO版のザンギエフの空中デッドリードライブと同威力…」

 

さて、此処で彼女達の説明をしていこう。

八坂ニャル子――名字が同じだが、八坂真尋の姉妹でも許嫁でも無い。八坂真尋の家に住んでいる居候である。見た目は銀髪碧眼の長髪アホ毛付きの美少女だ。そして彼女はニャルラトホテプ―――クトゥルフ神話と呼ばれる架空の神話形態における邪神の一柱なのである。彼女だけでない。

八坂クー子や八坂ハス太もクトゥルフ神話におけるクトゥグアとハスターと呼ばれる邪神の一柱である。

 

ニャル子達は正確に言うと宇宙人で、ニャルラトホテプ星人、クトゥグア星人、ハスター星人という分類らしく、八坂真尋はとある事件から彼女達に出会い、何やかんやで今も尚、住み着かれているのだ。

 

「……なぁ、お前ら何時まで此処に居るつもりなんだ?」

 

「そりゃあ、真尋さんが死ぬまでですよ!出来る事なら私は真尋さんと一緒に一生を過ごしたいですね!」

 

「ニャル子、お前は千の貌を持つ者(ニャルラトホテプ)だろうが。お前の寿命が尽きるまでに僕の方が死ぬよ。」

 

彼女達は見た目がただの美少女とはいえ、立派に邪神であるため、強大な力を持っているのだ。

 

「僕も真尋くんと一生を添い遂げるよ!真尋くんが死んだら僕も死ぬ!!」

 

「それはそれでマズイだろ……、そもそもお前は()だろうが」

 

「愛の前に性別の壁なんて無いんだよ!」

 

なお、八坂ハス太は見た目美少女の男、所謂(いわゆる)(おとこ)()なのである。

 

「私はニャル子が此処に居るから此処に居る。ニャル子が死んだら私も死ぬ。ニャル子が星に帰ったら私も付いて行く…」

 

「私はアンタなんかとはお断りですよ!」

 

八坂クー子はクトゥグア星人の中でも変わり者でニャルラトホテプ星人である筈のニャル子に恋愛感情を抱いてるらしい。肉欲的にも。クー子の祖父が『ニャルラトホテプに恋するクトゥグアがいてもいい』等というとち狂ってる発言をしたからなのか、クー子はニャル子に遠慮無しでアタックしている。

 

   *   *   *   *   *

 

「それじゃあ、僕は買い物行ってくるからお前らは留守番してろ」

 

「何を言ってるんですか、私も付いて行きますよ!」

 

「ニャル子の居ない留守番なんてつまらない」

 

「僕も一緒に行くよ!」

 

「もう好きにしてくれ………ん?」

 

八坂真尋がポストを確認すると何時の間にか一封の封筒が入っていた。

 

「……?おかしいな、郵便屋は来てなかったと思うんだが…。ニャル子、お前なんか注文したか?」

 

「いえ、私は何も注文してませんよ。それに最近у.com(ヤマンソドットコム)は空間湾曲システムを使った技術で郵便物を注文者に直接送るシステムになったそうですし」

 

「少年、私とハス太も何も注文していない。それにその封筒には少年宛と書いてある」

 

確認すると確かに『八坂真尋殿へ』と書かれている。差出人や宛先の住所も書かれてない(・・・・・・・・・・・・・・・・)のに、である。

 

「………明らかに怪しいな」

 

「そうですね〜、でも安心して下さい!私が此処にいる以上、真尋さんが危険な目に合うことは無いでしょう!」

 

因みに、ニャル子は相手組織を潰すために真尋を囮にして敵を呼び出した事がある。おまいう

 

「…まぁ、見た感じただの手紙らしいし、内容を読まなきゃ判断できないしな」

 

真尋が封を切り、中の手紙を読む

 

   *   *   *   *   *

 

(なや)み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)(ため)すことを望むのならば、

 (おのれ)の家族を、友人を、財産を、

 世界の(すべ)てを捨て、

 我らの"箱庭"に来られたし』

 

   *   *   *   *   *

 

「わっ」

 

「きゃ!」

 

「なっ!」

 

八坂真尋は気づくと二人の少女と一人の少年と共に上空4000m程の場所にいた。

落下に(ともな)う圧力と自分が転移したことによりパニックになった。

 

「ど………何処だここ!?」

 

そして、八坂真尋は気づく。眼前に見える断崖絶壁に縮尺を見間違うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。

 

彼らの前に広がる世界は―――完全無欠に異世界だった。




「くっ!不覚を取ってしまうなんて!」

「あれは恐らく異世界へと転送するための何らかの仕掛けがあったと思われる」

「早く真尋くんを助けなきゃ!」

「しかし、私達が真尋さんの所へ行くのはかなり難しそうですね……」

「私も5チャンネルを使って何とか少年と同じ世界に行くための方法を探してみる」

「……ねえ、ニャル子ちゃん、クー子ちゃん」

「何ですか、ハス太くん」

「ニャル子ちゃんの輝くトラぺゾへドロンを真尋くんが持っていれば転移できるんじゃないかな?」

「「それだ!」」

「よっしゃー!これでニャル子もそちらに行けますよ!待ってて下さいね真尋さーん!」

「(真尋くんが輝くトラぺゾへドロンを開けなきゃ駄目なんだけどなぁ………)」


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第一話

今回も短いです。長文は書けません……(・ω・`)


あらすじ

 

ニャル子「真尋さんが攫われました!」

 

クー子「少年が皿、割れた?」

 

ハス太「真尋くんがお皿を割った?」

 

頼子「真尋くんのお皿が割れたのかしら?」

 

シャンタッ君「みー!」

 

真尋「なんだこの連想ゲーム……」

 

   *   *   *   *   *

 

「ニ゙ャア゙ァ゙ァァァ!!!」

 

上空4000mから落下した四人と一匹は、落下地点に用意してあった緩衝材(かんしょうざい)のような薄い水膜を幾重も通って湖に投げ出された。

 

「きゃ!」

 

「わっ!」

 

「うわっ」

 

ボチャン……八坂真尋は湖の中に飛び込んだ(不本意にも)お(かげ)で冷静になり、改めてこの状況を考えることができた。

 

(何処かに転移したのか……?今回は何か今までの事件とは毛色がちがう。取り敢えず今わかることは此処へ呼び出されたのは僕だけじゃないことから、僕が狙いという線は低いこと。また、宙高くから落とされたのに僕らは無傷、水膜か何かで守られた。このことから呼び出したのが何か生き物である場合、僕達を傷つけるつもりはないということ。このことくらいかな?)

 

八坂真尋が思考を終えると短髪の少女が服を絞りながら、

 

此処(ここ)………どこだろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

少女の呟きに軽薄そうな少年が応える。何にせよ、彼らの知らない場所であることは確かだった。

そして少年は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を搔きあげ、

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方を訂正して。―――私は久遠(くどう)飛鳥(あすか)よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女(あなた)は?」

 

「………春日部(かすかべ)耀(よう)。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。次に如何(いか)にも普通な感じの貴方(あなた)は?」

 

「僕の名前は八坂真尋だ。よろしく飛鳥、耀」

 

「ええ、よろしくね真尋君。最後に、野蛮(やばん)凶暴(きょうぼう)ほうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻(さかまき)十六夜(いざよい)です。粗野(そや)凶悪(きょうあく)で快楽主義と三拍子(そろ)った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様(じょうさま)

 

「そう。取扱(とりあつかい)説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

「僕は一体どこからツッコめばいいんだ………?」

 

   *   *   *   *   *

 

十六夜は少々乱暴な言い方で言う。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「取り敢えず、今僕たちのわかることは1.(いち)僕達は恐らく異世界からやって来た。2.()異世界であるため危険度は底知れないということ。3.(さん)呼び出されたときに水膜で僕達を落下の衝撃から保護していたことから、呼び出した奴は僕達に危害を加えるつもりは今のところ無い。こんなものかな?」

 

「………お前、こういう事に慣れてんのか?」

 

「僕は引き起こす側じゃなくて巻き込まれる側だけどな」

 

「で、結局どうするのかしら?」

 

 

「―――仕方がねえな。こうなったら、()()()()()()()()()()()()話を聞くか?」

 

四人の視線が物陰の一点に集まる。

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気づいていたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「………へえ?面白いなお前」

 

「というか僕の場合嫌でも気配察知はできなきゃ駄目だったしな………」

 

「お前どんな家庭に生まれてんだよ」

 

まさか十六夜も真尋が邪神ハンターの家系にいるとは予想だにしてないだろう。

 

「や、やだなあ御四人様。そんな(おおかみ)みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独(こどく)と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱(ぜいじゃく)な心臓に免じてここは一つ穏便(おんびん)に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

「断る」

 

却下(きゃっか)

 

「お断りします」

 

「駄目だ」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

黒ウサギはぱっと見おどけて見せている―――と、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、大分青みのかかった黒いウサ耳を根っこから鷲掴(わしづか)み、

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる(わざ)

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

「………。じゃあ私も」

 

「ちょ、ちょっと待―――!」

 

今度は飛鳥が左から。左右から力いっぱい耳を引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊(こだま)した。



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第二話

這いよれ! ニャル子さん4巻購入。
問題児たちが異世界から来るそうですよ?最新巻購入。
誤字脱字指摘感想お待ちしております。


前回のあらすじ

 

ハス太「やったね真尋くん、友達が増えるよ!」

 

クー子「爆ぜろリアル、弾けろシナプス」

 

ニャル子「バニッシュメント・ディス・ワールド!」

 

 

真尋「お前らあらすじ教えるつもり無いだろ」

 

   *   *   *   *   *

 

「――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしますとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないデス」

 

「いや、それは違うだろ」

 

黒ウサギの(わざ)と本気なのかわからないボケに対して真尋がツッコミを入れる。黒ウサギは大粒の涙を目に浮かばせながらも、八坂真尋の協力もあってなんとか十六夜・飛鳥・耀(問題児達)に話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。

 

「じゃ、さっさと説明してくれ」

 

「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!」

 

 

―――――黒ウサギの説明を大体省略―――――

 

 

「……成程、つまりは

1、僕たちは何かしらの恩恵(ギフト)を持ってるから集められた。

2、この世界では様々な種族が暮らしている。

3、この世界でのルールは基本的にギフトゲームと呼ばれる両者合意であれば賭け金何でもありのシステムである。

4、それでも当然悪いことは悪いこと。犯罪行為などが許されるわけではない。

――――こんな認識でいいのか」

 

「ええ、問題無いですね。さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなっていることに気づいた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

「………どう言った質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなのは()()()()()()。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

 

 

 

 

「この世界は………()()()()?」

 

 

「―――――」

 

飛鳥と耀も無言になって返事を待つ。

 

「――――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

そんな中、八坂真尋は……

 

(外界より……格段に……!?元の世界でも僕の平穏は無かったのに……!?SAN(サン)値が削れていく………)

 

人知れずこの先の気苦労を予想してSANチェックを受けていた。

 

   *   *   *   *   *

 

「……よし。ちょっと俺は世界の果てを見に行ってくる」

 

「あらそう。いってらっしゃい」

 

「ん、了解」

 

「――――いやいやいや、なんで十六夜は勝手に単独行動しようとしてんだよ。箱庭の世界は神魔溢れる危険だらけの世界だってわかってて言ってるのか?」

 

「当然わかってて言ってるんだぜ……っと」

 

「……あとで厄介事とか持ってくるなよ」

 

「………何を言ってるんだ?お前も一緒に行くぞ?」

 

「――――は?」

 

「あらそう。逝ってらっしゃい」

 

「どんまい、生きていれば良い事あるよ………生きてればだけど」

 

「ちょっおまっ!」

 

「ヤハハ、行ってくるぜ。おら行くぞ」

 

「ちょっ、引っ張んなあぁぁ………」




ニャル子「一体真尋さんはどうなってしまうのか!」

クー子「少年の冒険はまだまた終わらない……!」

ハス太「万太先生の次回作お楽しみに!」

シャンタッ君「みー!」

真尋「終わんねえからな!?」


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第三話

誤字脱字指摘感想評価その他諸々待っています。


あらすじ

 

ハス太「十六夜くんに連れられ三千里」

 

クー子「世界の果てまでイ〇テQ」

 

ニャル子「世界の中心で愛を叫びましょう!」

 

 

真尋「僕が向かったのは世界の果てなんだが」

 

   *   *   *   *   *

 

"世界の果て"。トリトニスの大滝の近隣。

ズドォォ…ン……!! 地震でも起きたのかと錯覚させるほどの音を出し、八坂真尋を抱えて飛来、跳んできた逆廻十六夜は着地した。

 

「―――っと、到着だぜ」

 

「―――」

 

「おお、中々いい眺めじゃないか」

 

「―――」

 

「いやぁ、空気がおいしいってこういう事を言うんだろうなぁ。そう思わないか、真尋?」

 

「―――お前なぁ!死ぬかと思ったじゃないか!」

 

真尋が声を荒らげて十六夜に文句を言う。

 

「僕を抱えて連れていくとか何なんだよ!僕は厄介事に巻き込まれるのはもう飽き飽きなんだよ!そもそもお前が走っていた速度はそこらのスポーツカーよりずっと速かったんだぞ!シートベルトもないし風圧で息苦しくもなるし!ふざけんなよ!」

 

「どうどう、落ち着け真尋」

 

「おまっ………。」

 

真尋が十六夜を見て―――正確に言うならば十六夜の後ろを見て絶句する。

 

「ん?」

 

そしてそれに気づいた十六夜が振り返ると、白くて長いモノが目に映る。二人の目の前に居たそれは―――身の丈三〇尺強はある巨躯の大蛇であった。

 

小童(こわっぱ)共、我の縄張りに何用じゃ?』

 

「"世界の果て"を見に来たんだよ」

 

『ほう………そうじゃ手土産に我と少しゲームをしてみないか?』

 

「―――ほう?」

 

『何、簡単で単純なただのギフトゲームじゃ』

 

「十六夜っ!これは受けなくてもいいんだからな!」

 

『―――まあ、我との勝負を(おそ)れてゲームをしないというのもいいじゃろう』

 

「あ゙?」

 

『小童共は水神の眷属の蛇神である我が怖いのじゃろう?怯えておるのじゃろう?』

 

「いいぜ、その喧嘩買ってやるよ………そん代わり負けても文句言うなよ」

 

「ちょっ、十六夜っ!?」

 

『ふふふ…さあ、試練を選べ小童!その余裕が何時まで持つのか見物(みもの)じゃな!』

 

「さて、()()()()()()()()()()()()()()()()!せいぜい失望させないでくれよ!」

 

   *   *   *   *   *

 

「ハッ―――ねんねしときな!」

 

十六夜が蛇神に踵落としを入れた直後、大地を揺らす地響きが森全体に広がる。そして巨大な水柱が立ち上がり、十六夜は体を濡らしながらも安否を確認するために後ろに跳躍して真尋の(もと)へ行く。

 

「真尋、お前は流れ弾とかで怪我してないか?」

 

「僕は一応平気だけど………十六夜は?」

 

「俺はあの程度の奴相手だったら傷一つ受けないぜ」

 

まだ体力なども余裕であろう十六夜が真尋と少し言葉を交えると丁度良く、黒ウサギが跳び出してくる。

 

「この辺りのはず………」

 

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

十六夜の声が聞こえた黒ウサギはワナワナと―――恐らく怒りで身を震わせ、思い切り振り返る。

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?」

 

「"世界の果て"まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

 

黒ウサギは少し落ち着いたのか十六夜達に傷が無いのか見始める。だが、行く前と変わったところなど十六夜と真尋が()(ねずみ)になっていることくらいである。

 

「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺に追いつけるとは思わなかった」

 

「むっ、当然です。黒ウサギは"箱庭の貴族"と(うた)われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

そこで黒ウサギが首を傾げる。そして考え込み始める。黒ウサギはそこで考えるのを一旦止めて話を再開した。

 

「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんたちが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

 

「水神?―――ああ、()()のことか?」

 

え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指さした川面(かわも)に浮かぶ白くて長いモノ―――蛇神だ。そして蛇神は鎌首を起こし、

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧(こぞう)ォ!!』

 

「蛇神………! って、どうやったらこんなに怒らせれるんですか十六夜さん!?」

 

「悪い、黒ウサギ。僕は止めれなかった………!」

 

申し訳なさそうな真尋と対照的にケラケラとおかしげに笑う十六夜は事の顛末(てんまつ)を話す。

 

「なんか(えら)そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

 

『貴様………付け上がるな人間! 我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

蛇神の甲高い咆哮(ほうこう)が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。普通に考えるとあの水流に巻き込まれたならば、人間の胴体など容易く千切れ飛ぶだろう。黒ウサギはすぐさま(かば)うために真尋の前に出たあと、

 

「十六夜さん、私の後ろに下がってください!」

 

黒ウサギの言葉に十六夜は鋭い目付きで答える。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が()()()、奴が()()()喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

真尋は此処でじゃあ何でその喧嘩に僕を巻き込んだとか、その他諸々(もろもろ)不平不満を言おうと思ったが、余計に場が(こじ)れると思い、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を(しの)げば貴様の勝利を認めてやる』

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。()()()()()()()()()()()()

 

此処で真尋は、その傲慢(ごうまん)(きわ)まりない台詞を聞いて現実逃避気味に「ニャル子辺りがその台詞、気に入りそうだな………」と思っていた。

 

『フン―――その戯言(たわごと)が貴様の最期(さいご)だ!』

 

蛇神の雄叫(おたけ)びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は遥か高くにまで舞い上がり、何百トンもの水を吸い上げる。竜巻く三本の水柱、それぞれが生き物のように(うな)り、蛇のように十六夜に襲いかかる。

 

「十六夜さん!」

 

黒ウサギが叫ぶがもう遅く、竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捩じ切り、十六夜の体を激流に呑み込む―――!

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

そしてその水柱を十六夜はただ腕の一振りでなぎ払う。

 

「嘘!?」

『馬鹿な!?』

 

驚愕する二つの声。そして真尋は一つの結論に辿(たど)り着く。

 

「(ああ、十六夜はニャル子達と同じように常識が通用しないんだな………)」

 

そして獰猛(どうもう)な笑いと共に着地した十六夜は、

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

大地を踏み砕くような爆音。胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神を高く打ち上げて川に落下させた。その衝撃で川は氾濫(はんらん)し、水で森が浸水する。

また全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

そして黒ウサギは彼らを召喚するギフトを与えた"主催者(ホスト)"の言葉を思い出す。

 

「彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」




2/20(金) 真尋君の心情を一箇所修正。


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第四話

誤字脱字指摘感想評価その他諸々待っています。


あらすじ

 

ニャル子「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!『真尋さんが十六夜に連れられたと思ったら何時の間にか蛇神と十六夜が闘っていた』。な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。十六夜TUEEEEだとか主人公最強物だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

 

クー子「逆廻十六夜が…最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も、最も恐ろしィィ、マギィーッ!!」

 

 

真尋「お前らうるさい」

 

   *   *   *   *   *

 

「と、ところで十六夜さん。その蛇神はどうされます?というか生きてます?」

 

「命までは取ってねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。"世界の果て"にある滝を拝んたら箱庭に戻るさ」

 

「ならギフトだけでも(いただ)いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」

 

「あん?」

 

「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが"力"と"知恵"と"勇気"ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど………十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも今より力を付ける事が出来ます♪」

 

黒ウサギが()(おど)りでもしそうな足取りで蛇神に近寄る―――

 

「なあ、黒ウサギ」

 

「はい?何でしょうか真尋さん」

 

「いや、気になったんだけどさ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「っ………!」

 

真尋の言葉に黒ウサギは痛い所を突かれた、とでも言わんばかりの顔をした。

 

「………真尋、お前って結構頭良かったのか?」

 

「おいこら十六夜、バカにしてんのか」

 

因みに真尋の学校での成績は中の上と上の下を行ったり来たりくらいである。

 

「何て言うかな………僕には黒ウサギが必死に見えるんだよ。僕らを喚ぶ理由が『この世界で面白可笑しく過してもらうため』っていうのにも引っ掛かってた。異世界へ喚ぶんだから手間も費用もかかって当然なのに。十六夜が冗談でコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒っていた事などから黒ウサギのコミュニティは弱小、または衰退しているコミュニティで、僕らはコミュニティを強化するために喚ばれたのかなって思ったんだ」

 

コミュニティの現状がバレてしまい、黒ウサギは俯いて無言になる。

 

「やっぱりそうだったか。で、この事実をひた隠しにしていたってことはだ。俺達にはまだ他のコミュニティを選ぶ権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」

 

「………………」

 

沈黙(ちんもく)()也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」

 

真尋と十六夜は手ごろな岩に腰を下ろして聞く姿勢をとった。黒ウサギは相変わらず(しぶ)い顔をしている。

 

「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺はさっさと他のコミュニティに行くだけだ」

 

「………話せば、協力していただけますか?」

 

「ああ。()()()()()()

 

十六夜はケラケラと笑いながらも目は笑っていない。真尋も真剣そのものな顔で聞く体制を取っている。

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお(なか)(くく)って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状(さんじょう)を語らせていただこうじゃないですか」




当作品では、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』を募集します。なお、宇宙CQCでなくても構いません。

(例1)
名称:私の宇宙CQCパート2ダッシュ『名状しがたいバールのようなもの』
使用者:八坂ニャル子
分類:宇宙CQC
詳細:バールのような細長い棒状の物を思いっきりフルスイングする。投げることも可能。

(例2)
名称:精神感応型無線誘導式機動砲台『クトゥグアの配下』
使用者:八坂クー子
分類:道具
詳細:使用者の思惟の流れに呼応して上下左右あらゆる角度から高熱のレーザーを浴びせることができる。


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第五話

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ニャル子「白雪の霊圧が、消えた……!?」

 

クー子「白雪…袖白雪(そでのしらゆき)……卍解(ばんかい)?」

 

ハス太「―――舞え、袖白雪…だね!」

 

 

真尋「どんどん遠くなっていくな」

 

   *   *   *   *   *

 

「何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん達のような強大な力を持つプレイヤーに頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか………!?」

 

「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」

 

話をし終えて深く頭を下げ懇願する黒ウサギ。しかし十六夜は気の無い声で返す。そしてたっぷり三分間黙り込んだ後、

 

「いいな、それ」

 

「―――――………は?」

 

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねえのか?失礼なこと言うと本気で余所(よそ)行くぞ」

 

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!」

 

「素直でよろしい。ほれ、あのヘビ起こしてさっさとギフト貰ってこい。その後は川の終端にある滝と"世界の果て"を見に行くぞ」

 

「は、は「あ、その必要は無いから」い……?」

 

黒ウサギが蛇神のところへ行こうとすると蛇神のいた方から真尋が大きな樹の苗を持ってやってくる。

 

「十六夜が三分間も黙っている間に僕が蛇神を起こして貰ってきたから。水樹ってやつの苗木らしいぞ」

 

そう言うと真尋は黒ウサギに水樹の苗を投げ渡し、黒ウサギはそれをキャッチする。

 

「ホントですか!?きゃーきゃーきゃー♪こんな大きな水樹の苗を貰えるなんて!コレがあればもう他所(よそ)のコミュニティから水を買う必要も無くなります!みんな大助かりです!」

 

「よかったな黒ウサギ」

 

   *   *   *   *   *

 

日の暮れた頃に噴水広場で十六夜たちと飛鳥たちは合流をして、飛鳥たちの話を聞いた黒ウサギは案の定ウサ耳を逆立てて怒っていた。

 

「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備をしている時間もお金もありません!」「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」「聞いているのですか三人とも!!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

口裏を合わせたかのように息ピッタリな三人の言葉に激怒する黒ウサギ。それを笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。見境なくえらんで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この"契約書類(ギアルロール)"を見てください」

 

「"参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及(げんきゅう)する全ての罪を認め、箱庭の法の(もと)で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する"―――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥たちのチップは"罪を黙認する"というものらしい。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は………その、」

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々(うんぬん)よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ………逃がせば厄介かもしれませんけれど」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

飛鳥の言葉にジンも同調する姿勢を見せ、黒ウサギは諦めたように頷いた。

 

「はぁ〜……。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

黒ウサギのその言葉に十六夜と飛鳥は怪訝(けげん)な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方(あなた)なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす二人。黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ、御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

 

「いいか?この喧嘩は、コイツらが()()()。そしてヤツらが()()()。なのに俺が手を出すのは無粋(ぶすい)だって言ってるんだよ」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「………。ああもう、好きにしてください」



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第六話

お気に入り100件突破。皆様、このような駄文だけで構成されているような小説にお気に入りを付けてくださり大変ありがとうございます。
誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

クー子「飛鳥『来いよガルド、武器なんか捨ててかかって来い、それとも何だ?怖いのか?』ガルド『テメェナンカコワカネ-ヨ!』」

 

ニャル子「耀『ただの案山子ですな』」

 

ハス太「容疑者は男、約200cm、髪は金、筋肉モリモリマッチョマンのタキシードを着た変態紳士だよ」

 

 

真尋「あながち間違いでも無い………のか?」

 

   *   *   *   *   *

 

黒ウサギは横に置いてあった水樹の苗を大事そうに()(かか)えると、椅子から腰を上げる。

そして、コホンと咳払いをした黒ウサギは気を取り直して全員に切り出した。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども………不慮(ふりょ)の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

驚いた黒ウサギはすかさずジンと呼ばれた少年の方を見る。彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと(さと)る。ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを(だま)すのは気が引けたのですが………黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも……あ、けど」

 

思い出したように呟く耀。ジンは必死の表情で問う。

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は………毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

ジンの表情が固まった。この箱庭では水の入手が大変困難なため、お風呂に入るというのは一種の贅沢なのだ。

その事を察した耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々(きき)とした表情で水樹を持ち上げる。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さん達がこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」

 

ジンは一転して明るい表情に変わる。これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。

 

「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が変われば文化も違うのね。今日は()()(じん)に湖に投げ出されたから、お風呂には絶対入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな()(あら)い招待は二度と御免(ごめん)だ」

 

「あう………そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ………あれ?真尋さん、どうされました?」

 

黒ウサギが驚愕しているような顔の真尋に気づく。

 

「いや………久遠や春日部も人を気遣うことが出来たんだな……と思って」

 

「「流石にそれは失礼じゃないかしら(かな)?」」

 

その二人の気迫に冷や汗をかきながら真尋は謝る。

 

「ああ、悪い………そう言えばジン、で良かったよな?」

 

「あ、はい。何でしょうか」

 

「部屋とかを用意するなら僕ら4人の分と追加で3人分用意しておいてくれないか?無理ならソファーにでも寝かせるけど」

 

この言葉の真意が分からない十六夜が真尋に問う。

 

「真尋、一体どういうことだ?」

 

「いや……後で僕の知人が来るかもしれない………いや、間違いなく来るから用意してもらおうかとね」

 

「は?お前の知人って世界を渡ることができるのか?」

 

「ほぼ間違いなく可能だ」

 

断言する真尋に全員が絶句する。そして真尋は思い出したように問う。

 

「あ、そう言えばコミュニティに向かわないのか?」

 

「あ、そうでした。ジン坊っちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 

十六夜達四人が首を傾げて聞き直す。

 

「"サウザンドアイズ"?コミュニティの名前か?」

 

「YES。ですが説明はまた後日します。早く行かないと閉まるかもしれませんし」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。さあ、急ぎますヨ!」

 

黒ウサギは普通の人基準の早さで走る。そして四人もそれに慌ててついて行く。

 

   *   *   *   *   *

 

走っていると黒ウサギの目に"サウザンドアイズ"の旗印が記された商店の旗が見える。

日が暮れて看板を下げる割烹着(かっぽうぎ)の女性店員に、黒ウサギは(すべ)り込みでストップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

………ストップをかける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の三分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと(わめ)く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑(ぶべつ)を込めた声で対応する。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「………う」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇(ためら)いもなく名乗る。

 

「俺達は"ノーネー」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

名乗ろうとした十六夜を妨げるかのように爆走して来た着物風の服を着た真っ白い髪の少女は黒ウサギにフライングボディーアタックをブチかまして、黒ウサギと共にクルクルクルクルと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあーーーーー…………!」

 

ボチャン。そして遠くなる悲鳴。

言葉を妨げられた十六夜は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

「というか十六夜はまだ箱庭(ここ)の通貨を持ってないだろ」

 

真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。そして呆れたような表情の真尋。場は益々(ますます)混沌に落ちていた。



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第七話

最近テストやら検定やらで更新できませんでしたが、ようやく終えたので更新しました。
誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ……?

 

真尋「そういえばお前らどうやって異世界の情報仕入れてあらすじ言ってるんだ?」

 

ニャル子「えっ、あー、その………」

 

真尋「ひょっとして………宇宙盗聴器、まだ僕に付いてるのか?」

 

ニャル子「ま、まっさか〜。そんなはずないじゃないですか〜、やだな〜真尋さんったら〜」

 

真尋「『宇宙嘘発見器〈バレるんですSYSTEM-∀99〉』の反応は……メーター振り切れてるな」

 

クー子「………いつの間にッ!?」

 

ハス太「えっと……僕は反対したんだよ?」

 

ニャル子「嘘おっしゃい!ハス太君だってノリノリだったでしょうが!」

 

クー子「少年……『それでも私は悪くない』」

 

ニャル子「ええい!括弧つけるな気色悪い!」

 

 

 

真尋「お前ら全員同罪だからな」

 

三人「……………はい」

 

   *   *   *   *   *

 

生憎(あいにく)と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁(かんべん)してくれ」

 

黒ウサギが白い髪の少女―――白夜叉と言うらしい―――を投げ飛ばしたり、十六夜がそれを足で受け止めたりした後、白夜叉に案内された。

五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側(えんがわ)で足を止める。

障子を開けて招かれた場所は個室というにはやや広い和室で、白夜叉は上座に腰を下ろして大きく背伸びをしてから十六夜達に向き直る。

何故か濡れていた筈の着物は既に乾ききっていた。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠(ほんきょ)を構えておる"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々(えん)があってな。コミュニティが崩壊(ほうかい)してからもちょくちょく手を貸してやっている(うつわ)の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「いや、自分で美少女って言うのかよ」

 

思わず素で突っ込んでしまった。それなりの地位にいる人(?)なのだろうが、人を揶揄(からか)うのが好きな人、つまり悪戯好きな人らしい。

黒ウサギの(となり)で耀が小首を(かし)げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁(がいへき)にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

黒ウサギが説明混じりに(えが)いた七つの層に分かれた円形の図、上空から見た箱庭の図を見た三人は口を(そろ)えて、

 

「………超巨大(ちょうきょだい)タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「お前ら案外(あんがい)図太い神経してるな」

 

うん、と(うなず)き合う三人とそれを突っ込む真尋。身も(ふた)もない感想にガクリと黒ウサギは肩を落とし、白夜叉は呵々(かか)哄笑(こうしょう)を上げた。

 

   *   *   *   *   *

 

この後色々合ったのでざっくり纏めると、

 

1、十六夜は神格を持ってないと判明。

2、白夜叉は元・東側の"階層支配者(フロアマスター)"だと判明。

3、問題児三人組それを知って、白夜叉に喧嘩をふっかける。

4、白夜叉が格の違いを見せつける。

5、問題児三人組降参して、春日部が白夜叉のギフトゲームに参加。

6、春日部ゲームクリア&鷲獅子(グリフォン)のギフトを手に入れる。

7、春日部のギフトは父親の造った木彫りによるものらしい。

8、←今ここ

 

「………成程、まとめても全く理解できない」

 

「おい真尋。何黙り込んでんだ?」

 

「いや……今更ながらほんとファンタジーだなと身に染みて、痛感してただけだ」

 

真尋とて、様々な摩訶不思議(まかふしぎ)な事件に巻き込まれた事があると言えど、この一日で濃い出来事が起こりすぎている。そうやすやすと納得も理解も出来るはずがなかった。

 

「―――――ちょいと贅沢(ぜいたく)代物(しろもの)だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

真尋が思考の海に潜っていた間に話は大分進んでいたようだ。

白夜叉が柏手(かしわで)を打つと、四人の眼前に光り(かがや)く四枚のカードが現れた。

 

海碧色(コバルトブルー)のカードに逆廻十六夜・ギフトネーム

 "正体不明(コード・アンノウン)"

 

葡萄色(ワインレッド)のカードに久遠飛鳥・ギフトネーム

 "威光(いこう)"

 

翠珠色(パールエメラルド)のカードに春日部耀・ギフトネーム

 "生命の目録(ゲノム・ツリー)"

 "ノーフォーマー"

 

銀鼠色(シルバーグレー)のカードに八坂真尋・ギフトネーム

 "時間干渉能力無効化体質"

 "輝くトラペゾヘドロン"

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。

黒ウサギ驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

 

「ち、違います!というかなんで御三人方そんなに息が合ってるのです!?このギフトカードは顕現(けんげん)しているギフトを収納できる(ちょう)高価なカードですよ!耀さんの"生命の目録"だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

   *   *   *   *   *

 

十六夜のギフトの異質であると白夜叉が感じている頃、十六夜がふと呟いた。

 

「そういえば真尋のギフトは何なんだ?」

 

問題児三人組の視線が真尋に向けられる。自分達は自らの才能(ギフト)を見せたにも関わらず、真尋だけはその片鱗(へんりん)すら見せていないのだ。

その事実に辿りついた問題児の行動は早く、春日部が真尋を押さえ込み、飛鳥が真尋の手に持つギフトカードを奪い取って投げ、十六夜がそれをキャッチする。

そして三人は十六夜の持つ真尋のギフトカードを覗き込んだ。

 

「"時間干渉能力無効化体質"……意外と普通?」

 

「もう一つあるけれど……何かしらこれ?」

 

二人はそのギフトの意味を理解できなかったが、

 

「―――"輝くトラペゾヘドロン"……だと!?」

 

まず十六夜が理解と同時に呟いた。それに黒ウサギと白夜叉も驚愕と畏怖で顔を歪める。

 

「おい、真尋………何故そんな物を持っている……!?」

 

理解できていない二人も場の空気が変わったことに、そして真尋の持つギフト―――その危険さを察して真尋に対して警戒し始める。

 

 

 

「……………あ、そうか。()()コレは凄く危険な代物だったな」

 

ぽつり、と真尋が場の空気を読んでないかのような声色で呟く。

 

「一から全て話すと時間かかるけど……取り敢えず説明させてくれ」

 

   *   *   *   *   *

 

「………まだ信じれないが、真尋はクトゥルフ神話の邪神や神話生物が宇宙人として存在する世界にいて惑星保護機構なんていう謎組織に仕えているニャルラトホテプを名乗る少女に保護されてその後なんやかんやでニャルラトホテプだけでなくクトゥグアやらハスターやらと一緒に生活している………と言うことでいいのか?」

 

「うん。それであってる」

 

何とか誤解を解くことのできた真尋は心底安堵している。

 

「まあ、確かに一応立体交差並行世界論ではこのように事柄(ことがら)が変に()じ曲がったようになる事例もありえはしますが………」

 

滅多に無い事例を前に困惑している表情の黒ウサギが呟く。そして白夜叉が真尋が取り出した黒い小箱……"輝くトラペゾヘドロン"を見て、真尋に問う。

 

「その言葉が本当ならばこれを開けると、そやつ………ニャル子とやらが出てくるのだな?」

 

「ああ、こんな時じゃ(異世界に喚ばれて)なければ開けたくないんだけどな」

 

そして、本当に嫌そうな顔をしながら真尋が輝くトラペゾヘドロンを開ける。

そこから闇が生まれた。

箱の中から黒い光という有り得ないものが放出される。明るくないのに目が焼けるほどの光量を感じる。矛盾したその現象に十六夜達は皆目を固く(つぶ)った。

箱は依然として闇を吐き続ける。次第に黒い光が周囲を暗く塗りつぶしていく。白い雪原と(こお)る湖畔の風景も、世界を水平に(まわ)る白い太陽も、何もかもを一切合切。

夜の(とばり)が降りたように何も見えない。それどころか何も聞こえない。自分の五感が本当に機能しているか怪しくなってくる。

そして、ガシャン、と音を立てて闇が壊れた。分厚い黒いガラスを(たた)き割ったかのように、視界を埋め尽くしていた黒色が粉々に砕け散っていく。

世界が色と音を取り戻す。

そして、真尋の(そば)に三人の人型が立っていた。

そのうち一人、白銀の長髪を(なび)かせた、美少女と呼ぶに相応(ふさわ)しい容貌(ようぼう)の少女が口を開く。

 

 

 

 

 

「いつもニコニコ真尋さんの隣に這い寄る混沌、八坂ニャル子!アザトースに代わって、お仕置きです!」

 

 

 

 

 

ニャル子の脳天にフォークが刺さった。



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第八話

すいません、大遅刻しました。
この小説の存在を半分くらい頭から抜かしてました。

………ごめんなさい、見栄はりました。4/5くらいです。

それは兎も角更新です。

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


前回のあらすじ

 

ニャル子「ドーモ、ミナ=サン。ニャルコです」

 

十六夜「アイエエエ!?」

耀「ナンデ!ニンジャナンデ!?」

白夜叉「ゴボボ-!」

 

真尋「おいこら、(ニンジャ)(リアリティ)(ショック)起こしてんじゃねえよ」

 

   *   *   *   *   *

 

「―――はっ!ニャル子にフォークを刺してから四ヶ月くらい時間が経った気がする!」

 

「何言ってんだ真尋?まだ30分くらいしか経ってねぇぞ?」

 

疑問符を頭に浮かべている十六夜。確かにニャル子がぶっ倒れて突然のことに機能停止した黒ウサギが復帰するまでに30分ほどしか経っていない。

 

「ああ、それはですね真尋さん。天国製症候群と言いまして、紅王症候群の先の恋愛列車症候群のさらに先にある病気なんですよ」

 

「あ、そうだ。黒ウサギ、もう大丈夫か?」

 

「真っ向からスルーですか、そうですか………」

 

アホ毛をへにゃらせ、目から滝のように涙を流すニャル子。だがニャル子の涙は落ちている小石よりも価値がないため頑固無視。

 

「えーと、この方がニャルラトホテプのニャル子さんナノデスカ?」

 

「合ってるぞ。おまえら、自己紹介しろ」

 

「はい………えーこほん、私はニャルラトホテプ星人のニャル子と言います。好きなものは真尋さん、趣味は真尋さんの妻、特技は真尋さんの恋人です!」

 

「私はクトゥグア星人のクー子、好きな人はニャル子と少年、職業はニャル子の妻兼少年の愛人」

 

「ぼくはハスター星人のハス太だよ!将来の夢は、その……真尋くんと合体することです!」

 

「こいつらはよく寝てもないのに寝言をほざくから気をつけろよな」

 

頭のおかしいことを言い出したので釘を刺しておく。

 

「真尋……三股は流石にどうかと思うぞ……」

 

「私達も毒牙にかけるつもりなのかしら………」

 

「………きゃーけだものよー(棒)」

 

「おいこら」

 

十六夜達、おまえらもか。

 

「まったく、ホントに困ったものですね〜真尋さん。私と真尋さんは既にお義母(かあ)様公認の仲だというのに、何処にクー子なハス太君が入り込める隙間があると思ってるんでしょうね」

 

「お前も原因だろうが誰が誰の義理だ僕とお前はそんな仲じゃないィ!」

 

頭と胃が痛い、この邪神(もんだいじ)どもが………ッ!

 

「………なんと言いますか、苦労しているんデスネ真尋さんも……」

 

「そうだな………」

 

黒ウサギと一緒に溜め息を漏らす。

 

   *   *   *   *   *

 

「そういえば白夜叉様、このニャル子さん達にもギフトカードを渡すことはできますでしょうか?」

 

「流石にわしもギフトカードをそう易々とあげることはできんからの」

 

「デスヨネー」

 

がっくし、とダメ元で聞いていたとはいえ黒ウサギは即戦力になり得る三人にギフトカードを渡せれないのが残念らしい。

 

「おいニャル子」

 

「なんです真尋さん?」

 

「お前の意味不明動機不明正体不明の奇天烈(きてれつ)極まりない宇宙CQCや宇宙製道具(謎アイテム)でどうにかできないのか?」

 

fmfm(ふむふむ)、わかりました。ニャル子にお任せください!」

 

そういうとニャル子はiaia(いあいあ)Phone(フォン)を取り出し、ポチポチと弄り始める。

 

「―――ん?携帯の電波は届いてないと思ったんだが」

 

「アレはニャル子達宇宙人が使う携帯だから世界の壁くらい超えれる電波使ってんだろ」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

ニャル子はしばらく弄り終えるとアホ毛を揺らしながらクー子とハス太に話しかけた。

 

「クー子、ハス太、どうやら色を選べるそうですよ」

 

「……じゃあ、私はニャル子とお揃いのがいい」

 

「あんたがよくても私がやですよ!それにお揃いの色は無理らしいですしね!ザマァwww」

 

「う〜んと、僕は黄色系統の色がいいかな?」

 

……ああ、なるほど。(ヤマンソ).com(ドットコム)か。

 

「にしても宇宙人(笑)(おまえら)のことだからてっきり『売り切れてました〜!』とかいうオチだと思ったんだがな」

 

宇宙人(わたしたち)の発音に悪意を感じたんですが……まあそれは()(かく)ですね、クー子の自宅警備時代の知り合いに『宇宙からの色を持つ交渉人』とやらがいるらしいので協力してもらいました。交渉人、英語で言うとネスゴシター!」

 

「それを言うならNegotiator(ネゴシエーター)だ。寝過ごしてどうする」

 

   *   *   *   *   *

 

"サウザンドアイズ"二一〇五三八〇外門支店を離れ、"ノーネーム"を目指して歩く。

 

「なんといいますか釈然としない感じデスが、まあイイでしょう」

 

「黒ウサギがおかしい訳じゃないから安心してくれ。(主に頭が)おかしいのはニャル子達だからな」

 

「真尋さんが冷たいです……、真尋さんのdr(デレ)期はいつ来るのでしょうか…」

 

「お前らの存在が消滅したら来るぞ」

 

僕のお前らに対する対応は正当なものだと思う、少なくとも僕にとっては。

 

「アハハ……と、見えてきましたね」

 

黒ウサギの言葉に注意を向けると、目の前に"ノーネーム"の居住区画の門らしきものが見える。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の(やかた)は入口から更に歩かねばならないので()(よう)(しゃ)下さい。この近辺はまだ戦いの名残がありますので………」

 

「戦いの名残?(うわさ)の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「素敵ネーミングって……」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

黒ウサギが躊躇(ためら)いつつ門を開ける。

そして、真尋達の視界には一面の廃墟が広がっていた。

 

「っ、これは………!?」

 

十六夜が木造の廃墟に歩み寄り、囲いの残骸を握る。

見た限り抵抗も無く、簡単に木材は崩れていった。

 

「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から()()()()()()()?」

 

(わず)か三年前でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

黒ウサギ達"ノーネーム"のコミュニティは―――まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていた。

 

そしてそれを見たクー子が一言呟く。

 

「……この光景を見て、〈理解〉してしまった貴方は1D20/1D100のSANチェック」

 

「おいこら、お前らが言ったら洒落にならないからヤメロ」

 

結局最後まで締まらないのであった。



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第九話

更新です。

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


前回のあらすじ

 

ニャル子「異世界の地平線に混沌を刻みなさい!」

クー子「邪神群がコミュニティに着任しました」

ハス太「これよりコミュニティの指揮を取ります」

 

真尋「取らせてたまるか!」

 

   *   *   *   *   *

 

"ノーネーム"・居住区画、水門前。

 

十六夜が手に入れた水樹を設置するために、僕らは貯水池へ向かっていた。貯水池ではコミュニティに所属しているのであろう子供達が水路の掃除に精を出していた。

 

「ご苦労様ですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

子供達が黒ウサギの元に群がり口々に喋り出す。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

「強いの!?カッコいい!?」

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。数は二〇人前後で、ヒトとは違う異種族の子供も見られる。

 

(結構教育とかは行き届いてるのかな?にしてもこんなに子供がいるのか……)

 

真尋は感想を心の中で呟く。真尋は子供が嫌いな訳ではない。むしろ好きな方と言えるため大丈夫だが、耀の方を見ると若干顔を(しか)めていたので耀は子供が苦手か嫌いかなのだろうと見当を付ける。

 

コホン、と仰々しく咳き込んだ黒ウサギは七人を紹介する。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、八坂真尋さん、八坂ニャル子さん、八坂クー子さん、八坂ハス太さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

飛鳥の申し出を、黒ウサギはこれ以上ない厳しい声音で断じる。今日一日の中で一番真剣な表情と声だった。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子達の将来の為になりません」

「………そう」

 

黒ウサギは有無を言わさない気迫で飛鳥を黙らせる。それは今日までの三年間、たった一人でコミュニティを支えていたものだけが知る厳しさだろう。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言い付ける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

二〇人前後の子供達が生み出した耳鳴りがするほどの大声(ハウリング)で真尋は思わず手で耳を抑えてしまう。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

「そ、そうね」

「耳が痛い………」

「皆さん、よろしくお願いしますね!」

「ん、よろしく」

「よろしくね〜」

 

笑っているのはヤハハと笑う十六夜と超能天気の大馬鹿なニャル子、元々子供らしい性格のハス太だけであり、他の三人はなんとも言えない複雑な顔をしていた。なお、クー子は普段通りの無表情だった。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

「あいよ」

 

長年水が通っていないと聞いた水路だが、骨格だけは立派に残っており、所々がひび割れていたり要所に砂が溜まっていたりしているが、充分に使える状態に戻されていた。そこで真尋が石垣に立っている耀達を見てみる。

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

「ニャ。ニャーニャ、ニャーオ。ニャー?ニャニャ」

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しいなら。何処に行けば手に入る?」

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

ふむ。龍の瞳、ねぇ………ただのコミュニティが強力であろう龍から手に入れれるであろうギフトを持っているのは考えにくいから………。没落前は結構強いコミュニティだったのだろうか。

 

「真尋さん真尋さん。龍の瞳がy.com(ヤマンソドットコム)で格安で売られてましたけど、買いましょうか?」

「いや、やめてくれ。絶対厄介なことになるから」

 

   *   *   *   *   *

 

十六夜達が作業を終わらせ、屋敷に着いた頃には既に夜中になっていた。本拠はかなり広めの一軒家に住んでいたとはいえ一般市民の真尋や耀にとっては巨大すぎるほどに巨大であった。そして耀は本拠となる屋敷を見上げて感嘆したように呟く。

 

「遠目から見てもかなり大きいけど………近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住む事になっております………けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

「そう。そこにある別館は使っていいの?」

 

飛鳥が屋敷の脇に建つ建物を指さす。

 

「ああ、あれは子供達の館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備の問題でみんな此処に住んでます。飛鳥さんが一二〇人の子供と一緒の館でよければ」

「遠慮するわ」

 

飛鳥は即答した。真尋でも子供が好きな方とはいえ、一二〇人という大人数の子供と一緒の館というのは勘弁したいものだ。そして十六夜達に言われて黒ウサギがしばらく使われていなかった大浴場を見て顔を真っ青にさせて、

「一刻ほどお待ちください!すぐに綺麗にいたしますから!」

と叫んで掃除に取り掛かった。それはもう凄惨な事になっていたのであろう。

七人はそれぞれに(あて)がわれた部屋を一通り物色し、来客用の貴賓(きひん)室で集まっていた。

 

「ニャ……ニャアニャーニャ?」

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」

「………ふぅん?聞いてはいたけど、オマエは本当に猫の言葉が分かるんだな」

「うん」

「ニニャ、ニャオニャニャーニャアニャ!ニャーニャニニャニャア!」

「駄目だよ、そんなこと言うの」

 

傍目にはニャーニャーとしか聞こえない猫の声に耀は反応している。耀と飛鳥が会話しているのを尻目に真尋は外に風を浴びに出かけることにした。

 

「ちょっと僕は外で風浴びてくるな。風呂は先に入っていていいよ。あ、ニャル子達はきちんと入れておけよ。僕が風呂に入っている時に来られるとフォークを刺さなきゃいけなくなるからな」

「あら、ニャル子さんはそんなに真尋くんのことが好きなの?」

「そうなんですよ、私は真尋さんのことをマジでぞっこんラブしてるというのに!」

「後ろにクラフトが付くようなラブはいらん」

 

ニャル子の言葉を聞いて扉の前で一応告げて、館の外へ向かった。



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第九.五話

あらすじ

 

ハス太「邪神、それは嘲笑(あざわら)う者」

クー子「邪神、それは愉悦(ゆえつ)(ひた)る者」

アト子「邪神、それは探索者(たんさくしゃ)の生活にクリープするチャーミングな傍観者(ぼうかんしゃ)!」

ニャル子「そう!これは1人の少年のため、命をかけて戦う邪神達の、超コズミックバトルストーリーなのである!」

 

真尋「阿鼻叫喚(あびきょうかん)を広げることになったら追い出すからな?………って、増えてる!?」

 

   *   *   *   *   *

 

女性五人は大浴場で体を洗い流し、湯に浸かってようやく人心地ついたように寛いでいた。大浴場の天井は箱庭の天幕と同じなのか、天井が透けて夜空には満天の星が見える。

 

「本当に長い一日でしたら、まさか新しい同士を呼ぶのがこんなに大変とは、想像もしておりませんでしたから」

「それは私達に対する当て付けかしら?」

「め、滅相(めっそう)もございません!」

 

バシャバシャと湯に波を立てら慌てて否定する黒ウサギ。耀は隣でふやけた様にウットリした顔で湯に浸かっている。そのふやけそうな顔で呟いた。

 

「このお湯………森林の中の匂いがして、凄く落ち着く。三毛猫も入ればいいのに」

「そうですねー。水樹から溢れた水をそのまま使っていますから三毛猫さんも気に入ると思います。浄水ですからこのまま飲んでも問題ありませんし」

「うん。………そういえば黒ウサギも三毛猫の言葉が分かるの?」

「YES♪"審判権限(ジャッジマスター)"の特性上、よほど特異な種でない限り黒ウサギにはコミュニケーション可能なのですよ」

 

そこにタオルで髪を纏めたニャル子が割り込んでくる。

 

「そうなんですか?あ、じゃあシャンタッ君とも意思疎通が可能なんでしょうか。私、気になります!」

「シャ、シャンタッ君ですか………?えっと、一体なんの種族の方で………」

「シャンタク鳥ですが、なにか?」

「それは、試した事がないのでなんとも言えないのデス………」

 

すると少しニャル子は考え込み、名案を思いついたと言わんばかりに手を叩いた。

 

「そうだ、試してみましょうか」

「え゙っ?」

 

ニャル子は頭のタオルの中から一つのカプセルを取り出す。そしてそのまま振りかぶり、床に向けて思い切り投げた。

 

「シャンタッ君、(きみ)に決めた!」

 

すると床に叩き付けられたカプセルから桃色の煙が吐き出され――――一匹の小さな生物が現れた。

 

「みー!」

 

現れた生物の顔は馬面……というには短く、河馬(カバ)のように見える。足は小さな鳥の足で、手は蝙蝠(こうもり)のような羽。身体は灰色の鱗で覆われている、不気味というには可愛く、可愛いというには不可思議な生物であった。

 

「あ、あれ?シャンタク鳥とはこんなにも小さな生き物だったでしょうか?」

「あ、それは今のシャンタッ君がエコモードだからですね」

「いえ、生物にエコモードがあるのはおかしいと思うのデスが」

「こまけぇことは気にすんな!」

 

ニャル子は一度風呂から上がると、チョコチョコと可愛らしく歩くシャンタク鳥(エコモード)を抱きかかえて再び風呂に入り、黒ウサギに近づいた。

 

「私はまだシャンタク鳥語の宇宙TOEICで合格点を取ることができてませんからね〜」

「もしかしてニャル子さん達って、既存の単語に適当に宇宙〜を付けてるだけなんデスか?」

「あっはっは、そんなわけナイジェリア!」

 

わざとらしくニャル子は目を逸らし、掠れてしまっている口笛を吹く。誰がどう見ても図星であった。

 

みー、みー(ご主人様をいじめないであげて)!」

「え、えっと………私はそんなつもりは無かったのデスが………」

「………やーい、先生に言いつけてやるー」

「耀さん!?」

 

純粋な性格ゆえに勘違いをしてしまい黒ウサギを止めるシャンタッ君とそれに乗っかる耀。そこに飛鳥が割って入る。

 

「それで、黒ウサギはあの珍妙な生き物との会話はできたってことでいいのかしら?」

「あ、はい。そうでございますね。クトゥルフ神群との会話はこれが初でございましたが、できて良かったのデスヨ」

みー(良かったね)!」

「フフッ、そうでございますね」

 

笑顔でシャンタッ君の言葉に返事する黒ウサギに飛鳥は少しばかり羨ましく思う。飛鳥だって年頃の女子なので、動物と会話することには少しばかりの憧れがあるのだ。

 

「ねぇ、黒ウサギ。私も動物と会話することができるようになりたいのだけど………」

「アハハ………そうなると動物と会話する為のギフトを賭けたギフトゲームに参加して勝ち取るか、資金を貯めてそのようなギフトを購入するかとなりますが、そのようにして手に入れたギフトでもこのシャンタク鳥のような特殊な種族には効かない可能性が高いかと思われますね」

「そう………」

「で、でも飛鳥さんも強力な"ギフト"をお持ちでいらっしゃいます!きっと十六夜さんが水樹を手に入れたように、飛鳥さんも素晴らしい"ギフト"を手に入れれると思うのデスヨ!」

 

そこで飛鳥が思い出したかのように黒ウサギに聞いた。

 

「あ、そういえば。水を生む樹………これも"ギフト"と呼ばれる物なの?」

「はいな。"ギフト"は様々な形に変幻させる事ができ、生命に宿らせることでその力を発揮します。この水樹は"霊格の強い霊樹"と"水神の恩恵"を受けて生まれたギフトでございます。もしも恩恵を生き物に宿らせれば、水を操る事のできるギフトとして顕現したはずデス」

「水を操る?水を生むのではなく?」

「それも出来なくはないですが、霊樹みたく浄水にするのは難しいです。それに水樹は無から水を生むのではなく、大気中の水分を葉から吸収して増量させているのが正しい解です。完全な無から有限物質を生むとなると、それこそ白夜叉様や龍ぐらい地力がないと」

 

そう、と空返事する飛鳥。そこにクー子がやってくる。

 

「ギフトゲームって、どんな種類がある?」

「そうですね、基本となる物はやはり力・知恵・勇気の内のどれかを競うものが多いですね。ただ、純粋な"運気"を試すギフトゲームも数多(あまた)に存在します。代表的なのはサイコロを使ったゲームでしょうか」

「運勝負ですか?運勝負なら私が負けることなんて一切ないと言っても過言じゃありませんよ!」

 

唐突なニャル子の言葉にポカン、とする黒ウサギ。そして黒ウサギはニャル子に対して忠告する。

 

「いいですか、ニャル子さん。純粋な"運気"を試すギフトゲームとなると、ニャル子さんが如何(いか)に強大な力を持っていたとしても勝つのは難しいんですよ?それにイカサマがバレた時点で反則負けになるんですからね?」

「ニャル子が運勝負に強いのは本当」

 

クー子がニャル子側に加勢する。

 

「ニャル子にかかれば大富豪でジョーカー革命ジョーカー革命返しジョーカージョーカージョーカー最後に2で上がることも、麻雀で手牌が全てドラか赤ドラになるか、ダブリー出してカン三連発からのツモで、嶺上(リンシャン)ツモ小三元(ショウサンゲン)混一(ホンイツ)混老(ホンロウ)対々(トイトイ)三暗刻(サンアンコウ)三槓子(サンカンツ)場風で裏ドラ乗っけてドラ三十二の合計五十二(ファン)でクアドラプル数え役満作って十二万八千点要求することも可能。というかやっていた」

「ニャルラトホテプ星人の中でもエリートな私は存在自体が切り札なため、自在にジョーカーを作り出すスキル。通称、極限の切り札(ジョーカーエクストリーム)を習得しているのですよ!」

「ごめんなさい、そこまでいくと恐らくニャル子さんはギフトゲーム出禁になると思うのデス………」

 

馬鹿なッ!と言わんばかりに驚くニャル子。そのようなゲームを根本から覆しかねない存在など当然のことながら、誰もゲームに参加させないようにする。誰だってそーする、黒ウサギだってそーする。黒ウサギはニャル子の手綱を握っている真尋に対し、少しばかりの同情を覚えたのであった。



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第十話

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ハス太「僕は、君たちの願い事をなんでも一つ叶えてあげる。何だってかまわない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ」

ニャル子「アト子ちゃん、ごめんね。私、魔法少女になる。私、やっとわかったの。叶えたい願いごと見つけたの。だからそのために、この命を使うね」

アト子「貴女は優し過ぎる………。忘れないで、その優しさが、もっと大きな悲しみを呼び寄せることもあるのよ」

 

真尋「一つだけ言わせてもらっていいか?何でお前(アト子)が此処にいるんだよ!」

 

   *   *   *   *   *

 

真尋が空を見ると、十六夜(いざよい)の月が浮かんでいた。()()()()()()()()()()()()()()()()()真尋は現実逃避気味に「異世界の飯が不味いっていうのは定番だけど、不味い飯は嫌だなぁ」などと考えていた。

 

「おい真尋、いい加減に歩けよ。引き摺って歩くのは意外と面倒なんだぜ?」

「じゃあ引き摺るなよ!十六夜の趣味は会って間もない人を巻き込んで何処かへ向かうことなのか!?」

「んな訳あるか………っと、到着だぜ」

 

十六夜は立ち止まり、真尋を掴んでいた手を離す。真尋は受身を取って周りを見渡すと、そこはコミュニティの子供達が眠る別館の前であった。

 

「十六夜、どうしてこんな所に連れて―――」

「何しに来たんだ、お前ら?」

 

真尋はその言葉が真尋に対して向けられた物では無いと即座に察し、そして周りに知らない気配が複数あることに気づいた。

 

「十六夜………」

「おーい………そろそろ決めてくれねえと、俺が風呂に入れねえだろうが」

 

ザァ、と風が木々を揺らす。十六夜は面倒くさそうな顔をしながら言葉を続ける。

 

「ここを襲うのか?襲わねえのか?やるならいい加減に覚悟決めてかかってこいよ」

 

しかし返事が来るわけでもなく、周囲には風が木々を揺らす音だけが響く。呆れたように十六夜は石を幾つか拾う。真尋が嫌な予感で止めようとするも遅く、十六夜は石を木陰に向かって軽く投擲した。

 

「待っ―――!」

「よっ!」

 

ズドガァン!と軽いフォームからは考えられないデタラメな爆発音が響き、同時に現れた人影は空中高く蹴散らされ、真尋は尻餅をつく。

 

「〜〜〜っ、もう少し物を考えて行動しろよ!」

「何言ってんだ、俺だって色々考えてるんだぜ?」

 

真尋の言葉を馬が念仏を聞くようにサラリと流す十六夜。そこに爆音を聞いて慌ててやって来たジンが十六夜に問う。

 

「ど、どうかしたんですか!?」

「侵入者っぽいぞ。例の"フォレス・ガロ"の連中じゃねえか?」

 

空中からドサドサと落ちてくる黒い人影と()(れき)

意識を失っていない者もいるようだが、立ち上がってくる様子を見せない。

 

「なんだ?揃いも揃って腰抜けばかりなのか―――!?」

 

十六夜が近づいて見ると、侵入者と思われる人型の者共は全員()()()()()()。そして闇の中から女性らしき人影が出てくる。

 

「―――久し振りですね、真尋さん。そちらの方々は初めまして、ですね」

 

それは真尋の知っている人物であった。日傘を差しており、着物姿で羽織を肩からかけている。瑞々しい黒い髪と対照的な雪のような白い肌が着物から覗かせている。一言で言うならば美人、ただし本性を知る真尋からしたら二度と会いたくないと言える人物であった。

 

「アトラク=ナクア星人、(しろがね)アト子と申します………どうぞ、よしなに」

 

彼女は紛れもなくクトゥルフ神群(ニャル子達の同類)であった。

 

   *   *   *   *   *

 

真尋は十六夜と侵入者達がしている話に注意を向けながら、アト子に向けて問いかける。

 

「―――で、お前まで何の為に箱庭(ここ)に来たんだ?」

「では、それを説明しますね。真尋さんはニャル子達の職業を覚えていますか?」

 

ニャル子達の職業と言えば、惑星保護機構の事だろう。ニャル子曰く「地球にある希少動物を保護する機構の凄いバージョン」、つまり文明レベルが水準以下の惑星を保護するための機構だという。―――が、しかし。ニャル子やクー子のような馬鹿が多く所属していたり、法律無視が普通のアウトローな人物だらけだったり、普段寝てばかりだったりリサイタルで死者を出したりする課長がいたりするため、真尋は心の中で「惑星保護()機構」という蔑称で呼んでいたりする。

 

「覚えているが………それがどうしたんだ?」

「今より地球時間で17時間43分25秒前に、日本人男性八坂真尋が異世界No.2046765、通称『箱庭の世界』へ転移させられる。その3時間57分10秒後、ニャルラトホテプ星人のニャル子、クトゥグア星人のクー子、ハスター星人のハス太が輝くトラペゾヘドロンを通じて『箱庭の世界』へ転移」

「………異世界までお前ら宇宙人は把握しているのかよ」

 

真尋は呆れたように言葉を零す。それにニッコリと笑ってアト子は答え、話を続ける。

 

「そうですね、イ=ス人によって半分以上の異世界はデータが残されていますよ。では、話を続けます。宇宙総理大臣はこの転移自体は珍しい事では無いため放置しようと考えたが、一つ懸念が生じてしまった」

 

宇宙総理大臣などという初耳の単語が出てきたが、どうせこれも一発ネタの如く出るだけ出たら忘れ去られると思われるのでスルーする。

 

「それは、『我らこの世界の住民と箱庭の世界の住民との戦争の可能性』」

 

真尋は突然言われたその可能性に狼狽える。そんな事になればクトゥルフ神群は大丈夫だとしても、母親の八坂頼子のような地球に住む人々はどうなるかわからないからだ。

 

「なっ、なんでそうなるんだ!?」

「惑星保護機構に所属するニャル子、クー子。また、その協力者であるハス太、この惑星保護機構屈指の実力者三人を誘い出して、惑星保護機構による守りを弱めて侵略行為をするために八坂真尋を召喚したかもしれない。と考えたみたいね」

 

言われてみれば当然とも言えるだろう。あの三人はアレ(あたま)アレ(おかしい)だけれど、実力だけは確かだからだ。

 

「だからそれを確かめるために真尋さんやニャル子達と面識のある私が派遣されたんです」

「………ん?それはおかしくないか、いくら緊急事態だとしても民間人を巻き込むとは考えにくいんだが」

「……………」

「……………」

「………弱みって、握っておくと便利ですよね」

「お前まさか脅迫したのか!?」

 

まさかの行動に出ていた。

 

「まあ、それはともかく。そういう訳で私がここにいるんです」

「取り敢えずは、理解した。それじゃあ僕がそんな事ないと保証してやるから帰ってくれていいぞ」

「嫌です」

「―――は?」

 

ポカン、という顔の真尋にアト子は綺麗なお辞儀をして一言。

 

「実は私、250年ほど有給休暇がありまして………」

「―――お前もかよ!」




一言だけ言わせてください。

実は筆者(わたし)、アト子が個人的に好きなキャラクターでして………。原作ではややモブくらいの立ち位置だったのですが、それでも出したくて………。

ゆるしてニャン♪

真尋「(ゆる)さん」


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第十一話

真尋君の影が薄い回です。

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ハス太「なんだかんだと聞かれたら」

クー子「答えてあげるが世の情け」

ニャル子「宇宙の破壊を(ふせ)ぐため」

アト子「宇宙の平和を守るため」

ハス太「愛と真実の(よこしま)(つらぬ)く」

クー子「コズミックホラーな協力者」

ニャル子「ニャル子!」

アト子「アト子!」

ハス太「ハス太!」

クー子「クー子!」

ニャル子「銀河間を駆ける幼馴染(おさななじ)みの四人には」

アト子「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ」

ハス太「な〜んてねっ!」

シャンタッ君「みー、みー!」

 

真尋「お前らはどう考えても宇宙の破壊を促進する側だろ」

 

   *   *   *   *   *

 

「―――そういう訳で、私もこのコミュニティで居候(いそうろう)させて貰えませんか?もし(ことわ)った場合、私は交戦の意識ありと判断して宇宙総理大臣に連絡を取らなければ………」

「やめて下さい!私としてもニャル子さん達の世界と戦争するなんて事はしたくないので大丈夫なのデスヨ………」

「脅迫するな」 サクッ

 

アト子が黒ウサギと交渉を始めて早々に脅迫を開始していたので、取り敢えずアト子にフォークを刺しておいた。そして痛みで(うずくま)ったアト子に一言。

 

「さてアト子。何か言い残す事はあるか?」

「これが(うわさ)の真尋さんのフォークの味ですか………これは中々に痛いですね………」

「そうか。変な事をやらかしたらまた刺すからな」

 

さて、と真尋は気を取直して黒ウサギに話しかける。

 

「で、アト子は取り敢えずニャル子達と同じ部屋にでも入れておいてくれないか?コイツは子供の教育に悪いところがあるからな」

「何をおっしゃいますか真尋さん!アト子ちゃんは宇宙高等学校でも()行優(こうゆう)(りょう)で通っていたんですよ!そんなアト子ちゃんが教育に悪いなんて酷いと思わないんですか」

(ちな)みに言わせてもらうが、最も警戒(けいかい)しているのはお前(ニャル子)とクー子だからな?アト子は僕も少しは信用に()宇宙人(じんぶつ)だと思っているぞ」

 

そこに耀がおずおずと手を挙げて真尋に問う。

 

「私から見てもアト子さんはまともそうに見えるんだけど………」

(だま)されるなよ、コイツ(アト子)は寝取る事でしか興奮できない体質の変態だからな」

「へ?」

 

耀がすっとんきょんな声を出す。そんな耀にクスクスと笑いながらアト子は告げる。

 

「私が(しょう)(がい)(ささ)げても良いと思う二つの物、一つはもの作り、そしてもう一つは―――そう、(りゃく)(だつ)(あい)(きわ)めることなのです!だからこそ、私はニャル子と真尋さんの仲を応援いたします。その後、最高のタイミングで寝取るためにも!」

「「「「「変態だーっ!?」」」」」

 

アト子の堂々とした宣言に思わず叫ぶ耀含む五人。真尋の方はここまで堂々と宣言されるといっそ清々しい物があるな………などと現実逃避を始めたのであった。

 

   *   *   *   *   *

 

―――箱庭二一〇五三八〇外門。ペリドット通り・噴水(ふんすい)広場前。

飛鳥、耀、ジン、そして黒ウサギと十六夜と三毛猫に、真尋と邪神四人組は"フォレス・ガロ"のコミュニティの(きょ)(じゅう)()(おとず)れる道中、"六本傷"の旗が(かか)げられた昨日のカフェテラスで声をかけられた。

 

「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘(けっとう)ですか!?」

「ニャ、ニャニャッニャーニャ!ニャアニャニャニャーニャ!」

 

ウェイトレスであろう(ねこ)(むすめ)が近寄ってきて、飛鳥達に一礼する。

 

「ボスからもエールを(たの)まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・()(たい)区画の全てでアイツらのやりたい放題でしたもの!二度と不義理な()()が出来ないようにしてやってください!」

 

ブンブンと両手を()(まわ)して応援(おうえん)するウェイトレスの猫娘。飛鳥は()(しょう)しながらも強く頷いて返す。

 

「ええ、そのつもりよ」

「おお!心強い()(へん)()だ!」

 

満面の()みで返す猫娘。だがしかし、急に声を(ひそ)めてヒソヒソと(つぶや)く。

 

「実は(みな)さんにお話があります。"フォレス・ガロ"の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」

「居住区画で、ですか?」

 

答えたのは黒ウサギ。飛鳥は小首を傾げて黒ウサギに聞く。

 

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」

「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」

 

舞台区画とはコミュニティが保有するギフトゲームを行う為の土地らしい。白夜叉のように別次元にゲーム盤を用意できる者達は(きわ)めて少ないため、必要なのだと。

 

「しかも!(さん)()に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してですよ!」

「………それは確かにおかしな話ね」

 

飛鳥達は顔を見合わせ、首を(ひね)る。真尋も目を閉じて思考を()(めぐ)らせる。

 

「でしょでしょ!?何のゲームかは知りませんが、とにかく気を付けてくださいね!」

 

熱烈なエールを受け、一同は"フォレス・ガロ"の居住区画を目指す。

 

「あ、皆さん!見えてきました………けど、」

 

黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様。

 

「なんだよこれ、なんで―――居住区が森になっているんだよ!」

 

叫ぶ真尋を咎める者はいなかった。そして鬱葱と生い茂る木々を見て、耀を初めとして皆が口々に呟き始める。

 

「………。ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」

「成程!熱帯雨林ですね、ジャングルですね、セルバなんですね!大事な事なので三回言いました!」

「僕はジャングルとは違うと思うんだけどなぁ?」

「というか、"フォレス・ガロ"のコミュニティには当然ガルドだけじゃなく様々な種族の方がいるので、コミュニティの本拠(ほんきょ)()(つう)の居住区だったはずです………それにこの木々はまさか」

 

ジンはそっと木々に手を()ばす。その樹枝はまるで生き物のように脈を打ち、(はだ)を通して(たい)(どう)の様なものを感じさせた。

 

「やっぱり―――"()()"してる?いや、まさか」

「ジン君。ここに"契約書類(ギアスロール)"が貼ってあるわよ」

 

飛鳥が声を上げる。門柱に貼られた羊皮紙には今回のゲームの内容が記されていた。



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第十二話

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


真尋「う~~フォークフォーク」

 

今フォークを求めて全力疾走している僕は市立(こう)(りょう)高校に通うごく一般的な男の子。

強いて違うところをあげるとすれば男に興味があるってとこかナ………名前は()(さか) ()(ひろ)

 

そんなわけで帰り道にあるデパートのフォーク売り場にやって来たのだ。

ふと見るとベンチに一人の若い男が座っていた。

ウホッ!いい男………

そう思っていると突然その男は僕が見ている目の前で学ランのボタンをはずしはじめたのだ………

 

十六夜「やらないか」

 

―――という同人誌を考えてみた」←クー子

ハス太「僕と真尋君のVer.(バージョン)もお願い!」

アト子「私そういうの嫌いじゃないから!」

 

真尋「命に代えてでも阻止して見せる………ッ!」

 

   *   *   *   *   *

 

『ギフトゲーム名 "ハンティング"

 

 ・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=

        ガスパーの討伐。

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具

        でのみ討伐可能。指定武具以外

        は"契約(ギアス)"によってガルド=ガス

        パーを傷つける事は不可能。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利

       条件を満たせなくなった場合。

 ・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の(もと)、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。

            "フォレス・ガロ"印』

 

「ガルドの身をクリア条件に………指定武具で()(とう)!?」

「こ、これはまずいです!」

 

ジンと黒ウサギが悲鳴のような声をあげる。真尋も横から(のぞ)きこみ、成程、と納得する。

 

「話を聞く限りだと余り頭の回らない奴なのかと思ってたんだけどな………」

 

ジンと黒ウサギを見て、飛鳥は心配そうに問う。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を(あやつ)る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ない事になります………!」

 

飛鳥が険しい顔で黒ウサギに問う。

 

「………どういうこと?」

「"恩恵(ギフト)"ではなく"契約(ギアス)"によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません!彼は自分の命をクリア条件に組み込む事で、御二人の力を(こく)(ふく)したのです!」

「すいません、僕の落ち度でした。初めに"契約書類"を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに………!」

 

そんなジンを見て、十六夜はニヤニヤとしながら告げる。

 

「敵は命()けで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば(おも)(しろ)くていいけどな」

「気軽に言ってくれるわね………条件はかなり厳しいわよ。指定武具が、何かも書かれていないし、このまま戦えば厳しいかもしれない」

 

そう呟く飛鳥は厳しい顔で"契約書類"を覗きこむ。それを見ながら真尋はふと、とある案を思い付いた。その案を実行可能かどうかニャル子に聞くと、

 

「いや、できると思いますけど………真尋さんって(たま)邪神(わたしたち)より凄い発想しますよね〜」

「ほっとけ」

 

できるのならやって貰おう。使えるモノは全て使うのが一番なのだ。という訳で真尋は決意を固めている飛鳥達に向き直り、告げた。

 

「僕に案があるんだけど、多分この案をやるだけでも勝率は上がると思う」

「へ?」

「えっとだな――――――」

 

話し終えると十六夜は爆笑し、それ以外の皆は何とも言えない微妙な顔をしていた。

 

   *   *   *   *   *

 

門の開閉がゲームの合図だったのか、生い茂る森が門を絡めるように退路を塞ぐ。光を(さえぎ)るほどの密度で立ち並ぶ木々や、下から()り上げる巨大(きょだい)な根によって、周りが認識しづらい状態になっている。これでは()()を突かれる可能性もあるだろう。(きん)(ちょう)した(おも)()ちのジンと飛鳥に、耀が助言する。

 

「大丈夫。近くには(だれ)もいない。(にお)いで分かる」

「あら、犬にもお友達が?」

「うん。二十(ぴき)ぐらい」

 

春日部のギフトは、(けもの)の友人を作れば作るほど強くなる。身体能力がずば()けて高いのはそのためだ。(きゅう)(かく)(ちょう)(かく)などの五感は十六夜よりも(すぐ)れているだろう。

 

(くわ)しい位置は分かりますか?」

「それは分からない。でも風下にいるのに匂いがないのだから、何処かの家に(ひそ)んでいる可能性は高いと思う」

「ではまず外から探しましょう」

 

三人が森を散策し始める。黒ウサギは"フォレス・ガロ"に大きなゲームを()()ける事は不可能だと言っていたが、たった一晩で()(かい)な森を作り上げたガルドの力は油断ならない物だろう。

 

「彼にしてみれば一世一代の大勝負だもの。温存していた(かく)(だま)の一つや二つあってもおかしくないということかしら」

「ええ。彼の戦歴は事実上、不戦敗も同じ。明かさずにいた強力なギフトを持っていても不思議ではありません。耀さんはガルドを見つけても(けい)(かい)(おこた)らないでください」

 

散策する二人とは別に、耀は一番高い樹に飛び乗ってガルドを警戒していた。そして耀が言葉を発する。

 

「………見つけた」

「あら、何処かしら?」

本拠(ほんきょ)の中にいる。(かげ)が見えただけだけど、目で確認(かくにん)した」

 

耀の(ひとみ)()(だん)(ちが)い、(もう)(きん)(るい)彷彿(ほうふつ)させるような金の瞳になっていた。

 

「そういえば(たか)の友達もいるのね。けど春日部さんが(とつ)(ぜん)異世界に呼び出されて、友達はみんな悲しんでるんじゃない?」

「そ、それを言われると………少し(つら)い」

 

しゅん、と元気をなくす耀を、飛鳥は苦笑してパンパンと(かた)(たた)き、三人は警戒しつつ本拠の(やかた)へ向かい始めた。

 

「にしても、真尋君って普通の人だと思ってたんだけどね………」

「そうね。あんな(さく)を思いつくなんて、意外と凄いのかしら?」

「黒ウサギは、裏切られたっ!みたいな顔をしていましたけどね………」

 

道中、話題に上がったのは真尋のこと。散々な事を言われているようだが、真尋はそれだけ(とっ)拍子(ぴょうし)もない案を出したのだ。『朱と交われば赤くなる』とはよく言ったものである。




ニャル子「次回、ガルド=ガスパー()す!」


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第十三話

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ニャル子「『邪神たちが異世界から来るそうですよ?』前回の三つの出来事!」

クー子「一つ!異世界間戦争(ぼっ)(ぱつ)(ふせ)(ため)アト子(しゅう)(らい)!」

ハス太「二つ!真尋君の(とっ)()な策に(ほん)(ろう)されるガルド=ガスパー!」

アト子「三つ!(なが)(ねん)(たん)(れん)を重ね、(つい)に大魔王ガルド=ガスパーを打ち破る!」

十六夜「四つ!大魔王を(うら)(あやつ)っていた真の敵、白夜叉が我々に()(ふさ)がる!」

 

黒ウサギ「なんで三つの出来事なのに四つ目があるんですか!?」

真尋・白夜叉「「オイコラ」」

 

   *   *   *   *   *

 

「見て。館まで呑みこまれてるわよ」

 

"フォレス・ガロ"の本拠に(とう)(ちゃく)する。(とら)(もん)(よう)(ほどこ)された(とびら)は無残に取り払われ、窓ガラスは(くだ)かれている。(ごう)(しゃ)な外観は()(そう)もろともツタに(むしば)まれては()ぎ取られていた。

 

「ガルドは二階に居た。入っても大丈夫」

 

内装もやはり(ひど)いものだ。といっても『()()()()()()です』のような某四角い建築ゲームの定番という意味ではないが。(ぜい)()くして作らせた家具は打倒(うちたお)されて散在している。流石(さすが)に三人はこの舞台に疑問を持ち始めていた。

 

「この奇妙な森の舞台は………本当に(ガルド)が作ったものなの?」

「………分かりません。"主催者(ホスト)"側の人間はガルドだけに(しば)られていますが、舞台を作るのは代理を(たの)めますから」

「代理を頼むにしても、(わな)の一つも無かったわよ?」

 

飛鳥のその疑問に耀が(こた)える。

 

「森は虎のテリトリー。有利な舞台を用意したのは()(しゅう)のため………でもなかった。それが理由なら本拠に隠れる意味がない。ううん、そもそも本拠を()(かい)する必要なんてない」

 

そう、それが一番の疑問だった。彼の野望の(しょう)(ちょう)とも言えるだろう、自己(けん)()のためのこの豪奢な本拠。その本拠を意味も無く無残な姿にするだろうか。三人は今までとは全く違う(きん)(ちょう)(かん)の中で散策を開始する。

 

「二階に上がるけど、ジン君。貴方(あなた)は此処で待ってなさい」

「ど、どうしてですか?僕だってギフトを持ってます。足手まといには」

「そうじゃないわ。そもそも、このゲームでは『プレイヤーがクリア条件を満たせなくなった場合、敗北とする』と記してあるのよ。三人(まと)まって行動して、三人とも行動不能になるような事になればそれで敗北なのよ?そんなヘマはやらかすつもりは無いけど………念の為、ね」

 

ジンはやや不満そうに飛鳥を見ていたが、取り敢えずは了承して階下で待つ事にした。飛鳥と耀は根に阻まれた階段を物音立てずにゆっくり進む。階段を上った先にあった最後の扉の(りょう)(わき)に立って二人は機会を(うかが)う。意を決した二人が勢い良く跳び込むと中から、

 

「ギ………」

「――――………GEEEEEYAAA――」

 

「何だか、ごめんなさいね」

 

言葉を失った虎の怪物は、()()()()()()()()()()()()()()によって喉を切り裂かれ、あっさりと息絶えた。

 

   *   *   *   *   *

 

話はギフトゲーム開始前に(さかのぼ)る。

 

「そもそも、『指定武具でのみ討伐可能』という物の何が一番厄介なのか………わかるか?」

「………私の身体能力を活かせないという事?」

「いや、耀は別に肉弾戦限定で強いわけじゃないだろ?だからそれは違う」

 

耀の言葉を否定する真尋。十六夜が口を開く。

 

「指定武具の調達………か?」

「正解だ十六夜。その理由は一つ、指定武具が何なのかが分からない所、もう一つ、指定武具の場所が分からない所にある」

「で、策って何なのかしら?」

「つまり、だ。()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

その真尋の言葉に一同は顔を(しか)める。一同の心中を飛鳥が代表して真尋に告げる。

 

「それが出来ないから、指定武具の調達が難しいのでしょう?」

「それを可能とする裏ワザがあるんだよ。ニャル子」

 

真尋がニャル子に目をやると、壁に向けて歩き続けたり飛び跳ねたり奇妙な踊りをしていた。

 

「………ニャル子?」

「あ、ちょっと待ってて下さい。あの技は発動率0.2%切ってるので乱数調整しておかないと」

 

真尋がフォークを構えるとニャル子は1フレームの間に土下座を済ませていた。

 

「さっさとしろ」

了解(イエッサー)!いっきますよ〜、私の宇宙CQC体験版、『ニャル子の(わし)(づか)み』!」

 

ニャル子が()(くう)に向けて手を伸ばすと、虚空に穴が現れてその中にニャル子の腕が入った。

 

「ふんふん、うわっ、変なもの触った!気持ち(わる)ッ!………っと、これですね」

「いや、何触ったんだよ」

 

真尋のツッコミをスルーして、ニャル子は虚空の穴から一本の剣を取り出す。それは、()()()()()()であった。黒ウサギはそれを(ゆび)()して、真尋に問いかける。

 

「えーと、それは何デショウカ?」

「ニャル子が間違えてなければ、今回のギフトゲームの指定武具」

 

絶句する一同を余所(よそ)に、真尋は剣をニャル子から受け取ると、本拠の(しき)()内に投げ捨てる。

 

「さて、これで指定武具の調達は楽になったな」

「「「「「いやいやいやいや」」」」」

 

つまりはこういう事なのだ。『指定武具を先に()っちゃって』、『ゲームテリトリーに再配置して』、『ゲーム開始直後にもう一度入手したらいい』。とんでもないインチキであった。




原作ブレイク☆


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感想五十件突破兼ランキング入り特別編 ノーフェイス・ノーライフ

特別編です。先に言っておきます。

長いです。途方も無く長いです。
どの位長いかって言うと、普段の私の一話あたりの文字数は2500文字前後です。九.五話は3200文字位だった気がします。

この話は12000文字超えてます。繰り返します、この話は12000文字超えてます。

もっと短く収めるつもりでしたが、気付けばずるずると長くなり、この文字数です。

そして、面白くないと思います。ネタが薄っぺらく、突拍子も無い展開ばかりです。

そして本編とは一切関係ありません。この話は読まないで結構です。

それでも読んでくだされば幸いです。さらに楽しんで読んでもらえたならばもっと幸いです。

それでは、『ノーゲーム・ノーライフ』改め『ノーフェイス・ノーライフ』をどうぞ。


なお、この話は一巻の最後の辺りまで書いてあります。


ルーシア大陸、エルキア王国―――首都エルキア。

赤道を南におき、北東へと広がる大陸、その最西端の小さな国のまた小さな都市。

神話の時代においては、大陸の半分をもその領土とした国も、今や見る影もなく。

現在、最後の都―――その首都を残すのみとなっている小国であり。

―――もっと正確にいえば。

人類種(イマニティ)の最後の国でもある。

 

そんな都市の、中央から少し外れた郊外。

酒場を兼ねている宿屋という、()()にもRPGにありそうな建物の一階。

多くの観衆に囲まれ、テーブルを挟みゲームをしている一組の少女達がいた。

一人は十代(なか)(ごろ)(おぼ)しき赤い髪の、仕草や服装に上品さを感じられる少女。

そしてもう一人は―――。

赤毛の少女と同い年ほどだろうが、その雰囲気と服装から随分年上に感じられた。

葬式のような黒いベールとケープに身を包んだ―――黒髪の少女。

行われているゲームは……ポーカーらしい。

二人の表情は対照的で、赤毛の少女は焦りからか、真剣そのもの。

一方、黒髪の少女は死人を思わせるほどの無表情の中にも余裕が窺えた。

理由は明白―――黒髪の少女の前には大量の、赤毛の少女の前には、(わず)かな、()()

つまり―――赤毛の少女が(かん)(ぺき)に負け込んでいるのだろう。

 

「……ねぇ、早くしてくれない?」

「や、やかましいですわね。今考えてるんですのよっ」

 

―――そこは酒場、昼間っから()んだくれている観衆達が下品にはやし立て。

赤毛の少女の表情は更に苦悩の色に染まっていく。

だが何はともあれ―――随分盛り上がっている様子だった。

 

……―――。

その勝負が行われていた酒場の、外。

そう、既にその勝負は終わり、ある程度時間が経ったその酒場の外だ。

テラス席の端のテーブルに座っているのは一組の男女。

一人は女装をしたらよく似合いそうな、少しばかり中性的な顔つきの高校生ほどの少年。

もう一人は銀髪と碧眼が特徴的な、美少女という言葉が良く似合う大きなアホ毛の少女。

 

「真尋さん!酒場ですよ、英語で言うとビィー、エェー、アァァールゥ!!」

「なんでそんなにテンション高いんだよお前は……もう少し落ち着いてくれ」

「まぁまぁ、別にいいじゃありませんか―――で、何時までこの人達は此処にいるつもりなんでしょうか?」

 

アホ毛の少女は今まで忘れていたとでも言わんばかりに呟き、膝を抱えて座り込んでいる三人の中年と言える男性に目をやる。

 

よく見ると、テーブルの上には小さな白い直方体がばら蒔かれていた。

それは……どう見ても(じゃん)(はい)であった。

 

「―――インチキだ」

「なんですって?」

 

座り込んでいた三人の中年のうち一人が呟き、次の瞬間には怒号と言っても良いほどの声の大きさで叫ぶ。

 

「どう考えてもおかしい!どんなインチキ……いや、イカサマを使ったんだ!」

 

その言葉に同意するように抗議し始める他二人の中年。それをアホ毛の少女は聞き、悪い顔をして問いかける。

 

「じゃあ、証拠はあるんですか?」

 

途端に口を噤む三人の中年。そう、少女の言う通り一切の証拠は無いのだ。例え――ダブリー出してカン三連発からのツモで、嶺上(リンシャン)ツモ小三元(ショウサンゲン)混一(ホンイツ)混老(ホンロウ)対々(トイトイ)三暗刻(サンアンコウ)三槓子(サンカンツ)場風で裏ドラ乗っけてドラ三十二の合計五十二(ファン)でクアドラプル数え役満作って十二万八千点要求……なんて事になったとしても、証拠がない限りただの負け犬の遠吠えにしかならないのだ。

 

「さて、覚悟は良いですか?さあ!皆さん、【盟約】に誓って全財産の半分を私に献上しなさいな!クククッ、ハハハッ、ア〜ッハッハッハァ!」

「お前もう悪役にしか見えないな」

 

さて、このアホ毛の少女―――八坂ニャル子と、中性的な顔つきの少年―――八坂真尋は人類種(イマニティ)ではない。いや―――この世界の人間ではないと言った方が正しいだろう。では何故彼らが此処に居るのかを説明するためにも時を遡らせよう。

 

   *   *   *   *   *

 

ある休日の昼下がり、八坂家にて朝食を食べていた八坂真尋に、トラン〇ムでも使ったが如く速度で食べ終えた八坂ニャル子は口を開き、告げた。

 

「真尋さん、少し異世界に旅行に行きませんか?」

「嫌だ」

 

         〜Fin〜

 

 

 

―――と、此処で終わるわけではない。

突然ニャル子が告げた「異世界に旅行」という言葉は傍から聞けば、『(頭が)大丈夫?結婚する?』みたいな物である。しかし、ニャル子はそれを容易く可能にするであろう事を真尋は身に染みて実感していたのだ。

 

「つれませんね〜、行きましょうよ異世界!英語で言うと、ゴー・トゥー・ヘヴン!」

「天国に行ってどうする。というかどうして突然そんな事を言い出したんだ?」

 

真尋が問うと、ニャル子は胸元から一枚の便箋を取り出した。なお、この話はあくまで番外でしかないため読んだら問答無用で異世界行きとなる手紙とは別物である。

 

「実はですね、私の宇宙大学時代の同級生が『新世界の神になる!』と言ってマジにやったので『マジかよ…ありえねぇよ…』と思っていたらその同級生が唯一神を勤めている世界への招待状が届いたので息抜きにでもどうかと思いましてしかしながら私も真尋さんの身が心配なのでその同級生に確認を取ったところ『大丈夫だ、問題ない』との返事が返ってきたのでならば安心だと考え私は真尋さんを誘う事にしたのです」

「矢継ぎ早に喋るな、もっとゆっくり喋れよ!」

「ゆ っ く り し て い っ て ね[о]З[о]」

 

真尋がフォークを机に刺す。ニャル子のアホ毛は垂直に伸びたあとへにゃりとしならせる。

 

「ゴメンナサイ、刺すのだけは止めて下さい」

「まぁ、つまりはお前の宇宙大学の同級生が異世界の唯一神になって招待状を送ってきたってことでいいのか?」

「そうですね」

「じゃあ一人で行け。僕は勉強でもしておくよ」

 

朝食を食べ終え、自分の部屋に戻ろうとする真尋をニャル子はガシッと掴む。

 

「やめろ、厄介事の気配しかしないんだよ!」

「大丈夫です!同級生曰く『他者を傷つける事の出来ない世界』らしいので大丈夫です!!」

「……なに?」

 

そこで抵抗を止める真尋。漸く話を聞く姿勢をとったのだ。ニャル子も説明を始める。

 

「まず、同級生の彼―――テトはトルネンブラの少年なんですけどね?」

「トルネンブラは生きた音その物で、姿形は無いんだよな?なんで少年って断定できているんだ?」

「……トルネンブラは人型になる事ができまして」

「お前確か十二の上級邪神しか人型になれないっていってたよな?トルネンブラは強力な魔術が使えたわけでもないのにどうやってその祖先は宇宙の覇権を賭けた戦いに勝利したんだよ」

「……さて、話を続けますね」

 

目を明後日の方向へ逸らしながらニャル子は話を続ける。どうやら詳しくは考えてなかったらしい。

 

「変わり者であったテトはまず地球の音ゲーに興味を持ちました」

「まあ、確かに音ゲーはクオリティが高い物が割と多いよな。それで?」

「そしてそこからゲームという存在その物に興味を持ったのです」

「ふんふん、まぁ、少しは納得できるかな。で?」

「そして遊戯の神様として異世界の唯一神となりました」

「はいそこ、そこがおかしい。どうやってなったんだよ」

「なんでも現地(いせかい)のとある人間のおかげらしいですよ。死にましたが」

「お前なんでそういう風に一言余計なんだろうな」

 

真尋がため息を吐いている間にもニャル子の話は続く。

 

「で、私達の世界と酷似した世界から二人の人間呼び出したからそのついでに遊びに来ない?と誘われたので私が独断で了承しました」

「八坂百裂刺し!」

「ひでぶっ!」

 

ニャル子に百のフォークの刺し傷が付けられる。ギャグ補正のたっぷりな漫画のごとく即座に回復してはいたが、やはり痛いものは痛いようで涙を滝のように流すニャル子。

 

「酷いですよ、HEEEEYYYY、あァァァんまりだアァアァ!と叫びたくなるじゃあありま尖閣諸島!」

「くだらない、零点。なんで勝手に了承したんだよ……」

 

真尋はニャル子のギャグをばっさり切り捨て、ニャル子を()(ただ)す。

 

「いえ、テトは唯一神になってその異世界に【十の盟約】を作ったそうで、その内一つに『この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる』というものがあったので大丈夫だと判断しました」

「脅迫や詐欺、嫌がらせは禁止されていないんだな」

「あ」

 

真尋の指摘に今、気付いたと言わんばかりのニャル子。

 

「どうしましょうか、もう()()()()()()()()()()()()()し……」

「え゙?」

 

―――刹那。

 

食卓の近くに置かれたテレビの画面に微かなノイズが走り。

同時、ブレーカーが落ちたように、バツンッと音を立てて部屋の全てが止まる。

唯一―――テレビの画面を除いて。

そして―――

 

「な、なんなんだっ!?」

「あ、迎えが来たみたいですね」

 

部屋全体にノイズが走り始める。

家が軋むような音、放電するような弾ける音。

真尋が慌てて逃げようとしても、時すでに遅し。

 

テレビの画面以外の、部屋の全てが砂嵐に呑まれる中。

唐突に白い腕が生えてくる。

 

「なんなんだよ!これじゃ、トルネンブラじゃなくてイゴールナクじゃないか!」

「もう少し落ち着きましょうよ真尋さん」

 

画面から伸びた腕は真尋とニャル子を掴み。

抗う余地もない程の力でもって、二人を引きずり込む。

画面の中へ―――。

 

『ようこそ、僕の世界へ―――なんてね☆』

 

その声を最後に、気づけば真尋とニャル子は草原に立っていたのだ。そして真尋は一言呟いた。

 

「なんなんだよ、このクソゲーは………」

 

これが事の顛末なのである。

 

   *   *   *   *   *

 

「―――で、お前によって無理やり異世界に連れ去られた挙句、お前の賭け麻雀を見学させられて、二人一部屋の酒場の宿で貞操の危機と共に一泊させられた後、王城に連れ去られている僕に何か申し開きはあるか?」

「反省はしている、後悔はしていない」

 

―――そして、次の日となり、真尋とニャル子は王城へと向かっていた。何でもテトの呼び出したという二人の人間は王城にいるらしい。

 

「で、どうやって王城に入るつもりなんだ?」

「今は普通に空いていますよ。国王選定が終わって戴冠の儀を行うらしいので観衆が普通に集まっています」

「そうか……」

 

そして、真尋達がエルキア王城の大広間に入ると大きな声が聞こえた。

 

「例えばエルフと結託して魔法で優勝した奴を王にしたら、この国は終わりだろ!」

 

―――数瞬、思考を停止させた真尋は、『ああ、狂人(ニャル子)の同級生が呼び出したって人間だもんな。そりゃ、普通の人間なわけないか』という結論にたどり着いた。

 

「お〜、派手にやってますね〜」

「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」

「やっぱりこういう人間は見ていて楽しいですよね〜」

「僕は見ていて胃と頭が痛むから嫌いだな……」

「おっと、二人が中庭の方へ行くみたいですね!尾いていきましょう!」

 

そう言いニャル子はダッシュでテトが呼び出したという人間の元へ走る。それを見てため息を吐きながら真尋も着いていくのであった。

 

   *   *   *   *   *

 

真尋はできる限りゆっくりと歩き、中庭に向かう。そしてなにやら嫌な予感がし、走って到着すると―――

 

「だが

  断る」

 

二人の内青年の方がジョジョ立ちで立っていた。

黒髪の少女が青年に言葉を紡ぐ。

 

「―――理由を……聞かせて貰えるかしら?」

「ふふ、それはな……」

 

隣で感情の読めない顔で成り行きを見守っていた二人の内少女の方を抱き寄せて青年は告げる。

 

「この『  (くうはく)』が最も好きな事のひとつは―――」

 

「「「自分が絶対的有利にあると思っているやつに『NO』と断ってやる事だ…ッ」」」

 

青年の言葉に、ハモらせるように、乗る少女。

―――そして、その後ろで某異常や過負荷だらけの学園漫画の完全生徒会長の如くコピっているニャル子。

 

「えっ、誰?」

 

青年が口を開き、

 

「いつの間にッ!?」

 

アルビノの少女が驚き、

 

「なッ―――!」

 

黒髪の少女が絶句し、

 

「アフーム・ザー!!」

 

ニャル子の頭部にフォークが刺さり奇妙な声とともに倒れる。

 

「「「「……………」」」」

 

中庭は混沌で溢れかえっていた。

 

   *   *   *   *   *

 

「そうか、お前もテトに呼ばれたんだな」

「正確に言うならニャル子が呼ばれて、僕はその付き添いだけどな」

 

その後、どうにか再稼働した黒髪の少女―――クラミーというらしい―――は捨て台詞を告げて去っていった。そしてテトに呼ばれた二人―――青年の方は空、少女の方は白―――と、赤毛の少女―――ステファニー・ドーラという名で、死去した国王の娘らしい―――に謝罪をし、ある程度事情を説明するとどうにかなったらしい。

 

「で、一つ言っていいか?」

「なんだ、空」

 

「リア充死すべし、慈悲はない……ッ!」

「この世界では殺傷はできないけどな」

 

さて、そのように馬鹿話をしながら大広間に戻ると、玉座の前に立てられた小さなテーブルと、一対の椅子。

そしてテーブルの上には―――

 

「チェス盤……?」

 

戸惑った声を出したのは、空だった。

 

「そう、チェスよ。でもこれは―――ただのチェスじゃないわ」

 

そう言ってクラミーは小箱を取り出し、盤の上にコマをぶちまける。

―――すると。

三十二個、白黒十六個ずつのコマが盤の上を滑るようにして、勝手に定位置に付く。

 

「次に貴女は『そう、これは『コマが意思を持っている』チェス……』と言うッ!」

「そう、これは『コマが意思を持っている』チェス……ハッ!」

 

ニャル子の言葉に一瞬驚き、苦虫をかみつぶした

ような顔をした後咳払いをし、説明を続ける。

 

「更に貴女は『コマは自動的に動く。ただ、命じれば。命令のままに、コマは動く』と言うッ!」

「コマは自動的に動く。ただ、命じれば。命令のままに、コマは動く……ハッ!!」

 

またもや言い当てられ苛立ちを多分に含んだ顔でクラミーはニャル子を睨む。

 

「一体、貴女は何がしたいの?」

「場をしっちゃかめっちゃか掻き回すことがした……モゴモゴ」

「いい加減にしろ。すまん、クラミーとやら。こいつは存在感のある空気とでも思ってくれ」

「それ……無視できるものなのか?」

 

真尋がニャル子の口を手で塞ぎ、クラミーに対処法を述べる。と言っても空の言う通りで、あまり参考になりそうな物ではなかったが。

 

「あ、そうだ。なあ、これ途中で交代してもいいよな?」

「「―――?」」

 

訝しむのはクラミーと、白。

 

「悪いがこっちは二人で一人のプレイヤーなんだわ。それに、そっちが一方的に熟知してるゲームのようですし〜?内部の隅々まで、だろ?」

 

ケータイを手で弄びながら言う空の意図を図ろうと、目を覗き込むクラミー。そしてしばらく見たあと吐き捨てるように言う。

 

「―――どうぞ、ご自由に」

 

予想外に抗議の声を上げたのは―――白。

 

「……にぃ、しろが、負ける、と……?」

「白、熱くなりすぎ。普通のチェスならおまえが負けるなんて万に一つもない」

「……ん」

 

空の心からの本心と窺える言葉に、当然だとばかりに頷く白。

―――だが。

 

「これは普通のチェスじゃない―――"そいつが言ってる以上に"な」

「………」

「忘れるな。俺らは二人で一人、二人で『  』(さいきょう)な。オッケー?」

「……ごめん、なさい。気を、つける……」

「よっし!じゃーいっちょ暴れて来い!」

 

空はそう言って、白の頭を撫で―――そして耳元で囁くように言う。

 

「―――俺がイカサマを看破して打開策を練るまで、勝ち抜けてくれ」

 

こくりと頷いて白がゆっくりテーブルにつく。

小柄である白には若干低い椅子、その上にちょこんと、正座して席に着く。

 

「話は終わった?―――でははじめましょう、先手はそちらで結構」

「……―――」

 

白の様子を眺めていた空は真尋に話しかけようと思い、横を見る。

 

「なあ、真尋―――?」

 

そこには既に真尋とニャル子の姿は跡形も無くなっていて、虚空のみが存在した。

 

   *   *   *   *   *

 

所変わって森精種(エルフ)の国―――エルヴン・ガルド。

その森の中で魔法を使い、クラミーと『  (くうはく)』の戦い(ゲーム)を覗き見ている森精種(エルフ)の少女―――フィール・ニルヴァレンは、探知魔法に反応を感じ、即座に振り向いた。

するとそこには―――

 

「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、八坂ニャル子!只今、見参!」

 

異形の生き物(シャンタッ君)に乗ったニャル子と真尋が居たのであった。

 

「さて、貴女がクラミーとやらの協力者であるフィール・ニルヴァレンであってますよね!合っていたら叩きのめします、合ってなくても叩きのめします!」

「バイオレンス過ぎるだろ」

 

フィールは警戒レベルを上げた。何故クラミーに手を貸したのがバレているのか、先程までエルキア王国の王城にいた筈なのにどうやって短時間で此処まで来ることができたのか、そして―――

 

「あなたは、何者ですかぁ?」

「おや、私は先程名乗りましたよね?」

「いやニャル子。そう言う事聞いているんじゃないと思うがな?悪いな、フィール……さん?」

「いえいえ、大丈夫なのですよぉ……それで、何の目的で此処に来たんですかぁ?」

 

フィールがニャル子の方へ向き、問い掛ける。するとニャル子は嫌らしい笑みを浮かべて告げた。

 

「フィールさん、ゲームをしませんか?」

「……私はぁ、何かを賭けるつもりはないですよぉ?」

「それでも結構です。私は娯楽に飢えています。そう、英語で言うとォー、アイム、ハングリィー!」

「それだと『お腹が減っています』だな」

 

フィールは真尋とニャル子のやり取りを見つつ、考える。この人はただのバカなのか、それとも―――

 

「それで、何のゲームをするんですかぁ?」

「そうですね〜……そうだ、クラミーさんがやっているこのチェスなんて楽しそうですね!」

 

ニャル子はフィールが魔法で作った覗き穴を指差して、そう告げる。

 

「ルールの説明は、必要……じゃあないですよねぇ」

「そうですね。先手はフィールさんでいいですよ!」

 

……しかし、ニャル子とは何なのか。未だに分からない。ただテンションの高いバカのようにしか見えないが、これが演技なのかもしれないとも思えれる。

 

「―――e2ポーン、e4へ行ってくださいなぁ」

 

そしてファールのポーンが前に2つ進む。

 

「e7ポーン、e5へ」

 

ニャル子のポーンも前に2つ、予想外にもニャル子はまともにやっていた。

 

「g1ナイト、f3へどうぞぉ」

「b8ナイト、c6へ」

「f1ビショップ、b5へ行ってくださいぃ」

 

このオープニングのやり方はルイ・ロペスって言う奴だったっけ?もっとも良く使われる定石……だった気がする。ま、この調子ならニャル子が変な事やらかさずに終わりそうで良かった―――

 

「さて、真面目にするのはこのくらいでいいでしょう」

 

―――は?

 

「フィールさん、こっからは私は本気出していきますが、覚悟はよろしいですか?」

「え〜と、どういうことですかぁ?」

「見れば分かりますよ」

 

ちょっ、ニャル子―――

 

「 分 裂 !」

 

ニャル子は分裂し、十六のチェスの駒ほどの大きさのニャル子達と、中学生程にまで縮んだニャル子に分かれた。そして―――

 

「ア〜ンド、 合 体 !」

 

チェス盤にちびニャル子達が跳び乗り、ニャル子のチェスの駒のそれぞれと合体……いや、融合し始めた。

 

「完成、これが私の宇宙CQCver.α!不定形生物(スライム・ビーイング)より伝授された身体変質術(メタモルフォーゼ)!……って、あれ?」

 

―――フィールと真尋は無修正融合シーンによってSAN値が減少してしまい、失神していた。

 

   *   *   *   *   *

 

その後、ニャル子から聞いた話によると失神してしまったならしょうがないと言わんばかりに早々に『宇宙CQCver.α』を解除して、チェスの駒も勝手に動かし相手に何もさせないまま勝利を収めたらしい。

 

「いや〜、SAN値減少の事をすっかり忘れていましたよ。ニャル子ったらうっかりさん☆」

 

目覚めた僕に告げたそのニャル子の言葉を聞き、無意識に3本ほどフォークを刺したのは、不可抗力と言う奴だろう。

 

そして王城へ向かうと、王城の門の前には一人の少年が立っていた。その少年を見て、ニャル子が口を開く。

 

「おや、久しぶりじゃないですか」

「うん?―――あ、ニャル子ちゃんか。久しぶりだね」

 

そのやり取りで真尋は察した―――否、察してしまった。そう、この少年こそが……

 

「真尋君は初めまして、が正しいよね。こんにちは、僕は『テト』。唯一神なんて物をやっているよ」

 

真尋は内心、胃に穴が空いたかもと思い始めていた。

 

「あれ?マヒロさんにニャルコさんじゃないですの」

 

声をかけられてそちらを向くと、赤毛の少女、ステファニー・ドーラがいた―――ただし。

過剰ではない程度に―――あざとすぎない程度に露出の多いメイド服を身に纏って。

 

「……空達の仕業か?」

「……何も聞かないでくれると有難いですわ」

「そうか……」

 

似た者(くろうにん)同士、通じる物があった二人は、この少ない言葉の会話だけで充分であった。

 

「あ、そうですわ。ソラ達なら今大議堂にいますけど、どうするんですの?」

「そうですね〜……そろそろ私達も帰らないといけませんし、その報告も兼ねて会いに行きましょうかね。そちらも行きますよね?」

「うん、そうだね。彼らにはお礼も含めて色々話したい事もあるしね」

「……??とりあえず、わかりましたわ。ソラ達に報告してくるので、待ってて下さいな」

 

ニャル子とテトのやや際どい言葉は幸運にもステファニーには理解できなかったが、真尋は冷や汗をかいていた。

 

「お前ら……ギリギリ過ぎるだろ」

「大丈夫ですって、一応結界も使ってましたし」

 

なら、いいんだが……と思っている隙にニャル子とテトは勝手に王城に入る。―――って、

 

「何やってんだお前ら!」

「いえ、待つのもつまらないですし、私達の方から勝手に出向こうかと」

「そうだね。(きゃく)(じん)を待たせる方が悪いのさ」

(きゃく)(じん)と言えるのはお前らだけだ!少なくとも僕は普通の人間だって事を分かっていてくれ!」

 

真尋の言葉を流しつつ、どんどん進む二人。そしてそれにつられて着いて行ってしまっている真尋。気付けば、既に大議堂の扉の前まで来てしまっていた。

 

「僕は―――無力だ」

「じゃあ扉を開きますよ〜、オープン・ザ・セサミ!」

 

ニャル子は言葉だけで扉を開ける。いつもの超技術か何かだろう。中を見るとステファニーと『  (くうはく)』の二人が言い争う……というより、ステファニーに『  (くうはく)』の二人が叱られているようであった。

 

「あはははは、中々楽しいことになってるみたいだね」

 

空と白、ステファニー、そして大臣であろう人々が居揃った大議堂に。

コツ、コツ、と―――歩いて、入ってくるテト。

その顔を空と白は見て、口を開く。

 

「……よお、自称神様じゃん。どったの?」

「やだなぁ。自称じゃなくて、紛れも無く神様なんだけど」

 

たはは、と頭をかいて、テトは言う。

 

「そういや名乗ってなかったかな―――『テト』……それが僕の名前。よろしく『  (くうはく)』さん」

 

テトの言葉に空と白、真尋とニャル子の四人を除いた全員の毛穴が開き、ぶわっと汗が噴き出す。

大臣であろう人達は血の気の引いた顔で、ステファニーは今にも崩れ落ちそうに体を震わせていた。

だが、そんな一同を気に留める様子もなく。

 

「どうかな、僕の世界。気に入ってくれたかな?」

「ああ、いいセンスしてるよ。うちの傍観主義者(か み さ ま)に爪の垢煎じて飲ませてやりたいぜ」

「……こくこく」

 

そう、軽口を叩く空と白。

それを聞いているテトは笑顔で。

 

「それは何より。さて……とりあえず人類種(イマニティ)存亡の危機は回避出来たみたいだね」

「ああ、お望みどおりにな」

 

皆が、え?という顔をするのを見て、真尋はこいつら、気付いてなかったのか……と思う。

 

「たまたま一番近くにあった街が、たまたま人類の最後の国で、たまたま国王決定戦を行ってた……なんて。まさか偶然なんて野暮なこと、言わないっしょ?」

 

そう不敵に言う空に、テトは気分よく笑って言う。

 

「あはは……でも勘違いしないで。僕も基本傍観主義だよ。特定の種族に肩入れはしない―――ただまあ、今回はちょっと、私情が入ったことは認めてもいいかな」

 

テトは、ふてくされたように、退屈そうに床を蹴って、言う。

 

「僕の言葉覚えてるかなぁ……"全てがゲームで決まる世界"―――って」

 

―――ああ、と。その言葉の意図を汲んで、空が先回りして言う。

 

「……なるほど。唯一神の座さえ、ゲームで決まるってことか」

 

「「―――なっ―――」」

 

―――と、感心した様子の白とニャル子を除いた、その場にいる全ての人間が絶句する。

そして唯一、テトは楽しそうに笑って、言う。

 

「正解♪わざわざ【十六種族(イクシード)】に設定したの、そのためだったのにさ」

 

「……全種族を制覇するのが、おまえ―――つまり『神への挑戦権』か」

 

気分よく笑って、テトが答える。

 

「いいねーその頭の回転。異世界から来たばかりとは思えない順応性だよ」

「そりゃどーも♪」

 

真尋はテトと空の会話を適当な所でシャットアウトし、ニャル子に話しかける。

 

「―――なあ、ニャル子」

「はい、何でしょうか……」

「安全だと判断した、って言っていたよな」

「……私のログには無いですね」

「言 っ て い た よ な?」

「…………ゆるしてニャン☆」

「赦さん」

 

ニャル子の頭部にフォークを刺す、まだ刺す、更に刺す、親の敵と言わんばかりに突き刺しまくる。

 

「今回はずっと此処にいる訳じゃないから、これで許してやる。次は無いからな」

「うぅ……私だってここまで殺伐としているとは思ってなかったのに……」

 

空とテトは話を丁度いい所で切り上げて、真尋とニャル子の方を見る。

 

「なあ、真尋」

「ん?何なんだ空」

「何でお前、いや、ニャル子もなんだが、テトと一緒にいたんだ?」

「門の前で鉢合わせた」

 

ふーん、と言ったあと、空は続けて言葉を告げる。

 

「じゃあ、何で(テト)の正体を知って、平然としているんだ?」

「既にニャル子から話を聞いていたからだな……って、そういえば話をしてなかったよな?」

 

真尋はようやく理解した。つまりは、真尋までニャル子やテトのお仲間だと思われていたんだろう。

 

「近くに神がいるような事には慣れている……って、なんかこれだとニュアンスが違う気がするな……」

「某東の方の幻想の郷に住む風祝なのか?」

「誰が東〇谷早〇だ。あー、ニャル子、自己紹介したらわかりやすいと思うから自己紹介してやれ」

「イエッサー!」

 

ニャル子は一歩前に出て、仮〇ライダーの変身のポーズを決めながら言う。

 

「いつもニコニコ真尋さんの隣に這い寄る混沌、八坂ニャルラトホテプ―――です☆」

超大物(無貌の神)じゃねえか!?」

 

流石の空も驚きを隠せずにいる。

 

「ちなみに僕の家にはニャル子以外にシャンタク鳥、クトゥグア、ハスターも居候している」

「いや、どんな家庭だよ」

「こくこく!」

 

そして、真尋はざっくりと説明してやる。

 

「テトが元・トルネンブラで、ニャル子の同級生で、招待状が来たから、息抜き代わりに旅行で来たって―――どういうことだよ……」

 

空も流石に理解するには時間がかかるようだ。そんな空に僕は告げる。

 

「そういう訳だから、そろそろ僕は帰るからな」

「いや、もっとゆっくりしてくれてもいいぞ?」

「『こんな世界(とこ)に居てられるか!僕は帰らせてもらうぞ!』というのが今の僕の心情なんだが」

「真尋……死ぬのか……」

「惜しい人を亡くしてしまった」

「はいはい、それじゃあな」

 

空と白の軽口も程々に流しておいて、テトに話しかける。

 

「それじゃあそろそろ帰してくれないか?」

「いや〜、真尋君も結構頭回るみたいだし、いっそのことこの世界に永住しないかい?」

 

サクッ

 

「それじゃあそろそろ帰してくれないか?」

唯一神(この僕)の頭にフォークを刺して、テイク2に普通に移るあたり、流石だね……」

「真尋さんは某鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼すら恐れおののく容赦無さを持ち合わせていますからね……」

 

真尋は空と白の方へ向き直り、一言告げる。

 

「それじゃあな、機会があれば家に遊びに来い。一応歓迎くらいはしてやる」

 

空と白はキョトン、という顔をした後、流れるようにケータイを取り出し、写真を撮って、保存した。

 

「ファイル名、『ツンデレ中性的顔立ち少年』。これはこれでイけるッ!」

 

白の言葉に顔を赤くした真尋がフォークを投げるべくポケットに手を突っ込んだ直後―――ニャル子と真尋の視界は暗転した。

 

   *   *   *   *   *

 

気付けば、真尋とニャル子は自宅の居間に立っていた。

 

「いや〜、楽しかったですね!真尋さん」

「畜生……ケータイ壊す事が出来なかった」

 

真尋が蹲り、羞恥に悶えているとドタドタと足音が聞こえてくる。

 

「「「真尋君(少年)、大丈夫だった!?」」」

 

来たのは頼子と、クー子、ハス太であった。

 

「皆―――あ、そういえば今まで何してたんだ?」

「『邪神二人と邪神ハンター二人のCoC』のミゴ生中継をしていた」

「本気で何やってんだ!?」

 

邪神二人は、クー子とハス太だ。邪神ハンター二人は、恐らく頼子と教授と呼ばれる人物であろう。そしてミゴ生中継っていうのは、宇宙版の某笑顔動画こと、ミゴミゴ動画の生放送の中継を指しているのだろう。

意味はわかるが、理解は出来なかった。割とマジで。

 

「今より5時間前に此処を震源地とした危険域の次元震が観測されて、心配になって来てみたら真尋君とニャル子ちゃん居ないし!セラエノ図書館まで行って調べたんだからね!」

「ハ、ハス太……悪かった」

「私だって少年を心配した」

「クー子……お前、いい奴だったんd」

「少年が居なければ、誰が私にご飯を作ってくれるのか!」

「自分で作れよ」

 

ああ、この騒がしい環境。僕はようやく戻ってこれたんだな……。感傷に浸るのもいいが、まずは―――

 

「―――ただいま、皆」

 

「「「おかえりなさい!」」」

 

―――僕とニャル子のあの世界での話を語って聞かせてやろう。




〜後日談〜

―――数ヶ月後。

ピンポーン

「あら、誰かお客さんかしら?見てくるわね」
「うん、わかった」

……いや、何だか嫌な予感がするような―――気の所為、だよな?

「一体誰でしょうね〜。夏休みに入ってますし、暮井さん辺りが遊びに誘いに来たんでしょうか?」
「この間行ったばかりなのに来るのかなぁ?」

「真尋く〜ん、貴方の知り合いらしいわよ?」

「余市さんでしょうか?」
「そうかもな、行ってみる事にするよ」

「余市、今日遊びに行くかっ誘いなら乗るけど……」
「真尋、遊びに来たぞ」
「……久しぶり!」
「人違いです」

バタン(扉を閉める音)、ガチャ(鍵を閉める音)、カチャカチャ(チェーンロックをかける音)

「―――さて、今日は家族で一緒に団欒でもしようか」
「あら、お客さんはいいの?」
「うん、隣の家と間違えたみたいだよ」

そう、気の所為だ、目の錯覚だ。『  (あの二人)』がこの世界(此   処)に居るなんて有り得ないんだ。

「クー子、今日の昼飯の希望はあるか―――」

「つ、強いッ!貴様、このゲームやり込んでいるなッ!?」
「答える必要はない」
「『  (くうはく)』に負けは無いのッ!」

―――さて、現実逃避もここまでとするか。

「何で来たお前ら」
「何でって……テトを下したって報告も兼ねて遊びに来た」
「コクコク!」

……成程。

「良かったなお帰りはあちらです」
「え〜と、これだな」

ピッ
『機会があれば家に遊びに来い。一応歓迎くらいはしてやる』
ピッ

「このボイスレコーダーに証拠音声は残っている。さて、一泊泊めてくんない?」
「〜〜〜ッ、はぁ……。わかったよ、昼飯は何がいい?」

「「うっし!」」


さて、最も新しい神話も終わった。ならば後は書き記すだけ、その仕事は―――少年(八坂真尋)に任せるとしよう……。


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第十四話

誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ハス太「真実はいつも一つ!」

クー子「じっちゃんの名にかけて」

アト子「以上、証明終了です」

 

ニャル子「犯人はヤス」

 

 

真尋「おい、やめてやれよ………」

 

   *   *   *   *   *

 

(けもの)(ほう)(こう)が聞こえた直後、ゲーム終了を告げるように、木々は()(さん)した。樹によって支えられていた(はい)(おく)(とう)(かい)していく音を聞きながら、真尋は平然と風より速く走ったりなどは出来ないため、黒ウサギと十六夜だけで飛鳥達を迎えに行く。

 

「私が聞いた限りだと誰も怪我をしている様子はありませんが、確認しなければ不安でたまりません……」

「大丈夫だろ。真尋のあの策で上手くいかなかったら、そりゃアイツらの責任だ」

「黒ウサギ!こっちだよ!」

 

風より速く走る二人は瞬く間にジン達の元に駆けつけた。飛鳥達と廃屋の前で待っていたジンは二人を呼び止める為に叫ぶ。

 

「ジン坊っちゃん、飛鳥さん達に何か不調などは………」

「大丈夫だよ、黒ウサギ。飛鳥さんも耀さんも怪我は全くない。完全勝利だ」

 

黒ウサギはジンの言葉を心の中で(はん)(すう)し、ウッキャー!と、奇声を上げて喜ぶ。

 

「やりました、やりましたよ!」

「ああ、良かったな黒ウサギ」

「これは真尋さんにもお礼を言わなくてはいけませんね!では黒ウサギは真尋さんに感謝を伝える為にもお先に本拠に戻らせていただきますね!」

 

テンションを上昇させたまま、黒ウサギは本拠に戻っていく。それを見送った十六夜はポツリ、と呟く。

 

「………これは後で思い出して(しゅう)()(もだ)えるタイプだな」

「あら?では後で(いじ)ってあげないとね」

「蒸し返されて、顔を真っ赤に染めた黒ウサギを激写」

「やめてあげてください!」

 

   *   *   *   *   *

 

その後、十六夜による演説も終えて、本拠に戻る。

真尋とニャル子達は自室で(くつろ)いでいる―――より正確に言うならば、真尋が自室で寛いでいた所にニャル子達が突入して来た、が正しい―――と、真尋達の耳に()ぜるような(ごう)(おん)が届く。

 

「なっ、なんなんだっ!?」

「中庭の方から聞こましたね、行きましょう真尋さん!」

 

急いで向かった真尋達が中庭へ到着すると、そこには金髪の少女と黒ウサギ、そして十六夜が中庭から屋敷に戻ろうとし―――後ろから褐色の光が()し込んだ所であった。

 

「お前ら、後ろだ!」

「あの光………ゴーゴンの()(こう)!?まずい、見つかった!」

 

レティシアが(しょう)(そう)の混じった声を出す。そこにニャル子が猛ダッシュで突っ込み、叫ぶ。

 

「今日の私は最初っからクライマックスですよ!宇宙CQCエンハンサー!」

 

ニャル子は即座に身体を変質させていく。

少女タイプの身体を分解。より戦闘に適した身体に再構成。

瑞々しい肌色だった(やわ)(はだ)(しっ)(こく)の硬質に組み換えていく。

身につけていた可愛らしいワンピースも全て取り払い、夜空よりも深い黒い装甲に変換させる。

その表面を赤黒いラインが走る。

男受けするように見目(うるわ)しく設定した()(れん)な少女の顔は今は必要ない。

その代わりに、激しい戦闘でも大事な頭部を保護するように、フルフェイスタイプの装甲を。

全身も耐熱、(たい)(じん)、耐衝撃仕様のボディアーマーに。

しかし機動性は十全に発揮できるように全体的には細身のシルエットを取る。

 

「必殺!私の宇宙CQCパート2ダッシュ改―――」

 

瞬く間に金髪の少女より前に出て、褐色の光に接近したニャル子が、黒色の棒状の物を両手で握り、

 

「―――シュトレゴイカバールのようなもの!」

 

思いっきりフルスイングした。

褐色の光目掛けて。

ぐちゃ。

そんな音を立てて、褐色の光が崩れていった。そして、真尋は見てしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()崩れていく光景を。

真尋は顔を蒼白に染め、体から冷汗が噴き出すのを気合で止めて、ニャル子に告げる。

 

「―――ニャル子、そのバールもう二度と使うな」

Why(何 故 に)!?」

 

真尋が周りを見渡すと、黒ウサギと金髪の少女はSAN値減少によって失神しており、(しゅう)(げき)(はん)はニャル子の投擲したバールがぶつかったのか、たんこぶを作って倒れていた。

 

   *   *   *   *   *

 

襲撃犯は意識が覚醒する前にクー子がどこからか取り出した荒縄で手馴れた手つきで縛り上げていく。イス香の時にもクー子が縛り上げたらしいが………一体何処からそんな知識を仕入れて、何時練習をしたのだろうか。

 

「さて、尋問をするためにも起こしますか。ほら、ちゃっちゃと起きなさい!」

「ぐっ………」

 

ニャル子がバシバシと頬を張ると、騎士のような風貌をした襲撃犯は呻き声を出して目を開ける。

 

「貴方達は一体何が目的の何処に所属しているどういう(やから)なんですか?早く言わないと指の十本や二十本くらい折っちゃいますよ〜」

「ふん、"名無し"風情がよくも大きな態度を取れたものだな。痛い目にあいたくなければ早い所我らを開放することだ!」

 

騎士のような風貌の男は、鼻を鳴らしながら言い放つ。その様子を見たニャル子は、キョトン、とした顔になって真尋に問いかける。

 

「―――すいません、真尋さん。この人達って、ひょっとして馬鹿なんですか?」

「なんだと!?」

「―――逆にここまでプライドが高いのも珍しいな」

「貴様ら、我ら"ペルセウス"を愚弄するか!」

 

自身のコミュニティをバラす騎士(笑)達。これには十六夜も苦笑いして「こいつらアホだろ………」と呟く。

 

「この程度の拘束、抜け出し……て………。な、何故だッ!?」

 

騎士(笑)達は何かギフトを使ったのか軽く身体が光る。しかし状況は一切変わらず、騎士(笑)達は拘束されている状態のままである。

 

贋作(レプリカ)とは言えど、ヘルメースの靴の恩恵(ギフト)、"タラリア"だぞ!?盗賊の神でもあるヘルメースの加護が付いたこの靴を持っているのに、何故抜け出せれない!」

 

ああ、ペルセウスだし、そう言うギフトを持っていてもおかしくないな。と、真尋は納得する。

 

「で、クー子。あの縄に何かギフトでもついているのか?」

「違う、これは私の宇宙CQC番外、触手が巻くが如き髪の捕縛術」

「なるほど、ではこれで散々馬鹿にしてくれた襲撃犯(こいつら)をじっくりと、料理(じんもん)できますねぇ〜」

 

漸く眺めていた真尋は、考えるのを止めると十六夜と黒ウサギを連れて本拠に戻り始めた。後ろから聞こえた断末魔は聞かなかった事にして………。



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第十五話

遅れました?多分遅れました。第十五話です。
誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ルイオス「ニャル子!ニャル子!ニャル子!ニャル子ぉぉおおおわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ニャル子ニャル子ニャル子ぉおおぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん。んはぁっ!八坂ニャルラトホテプたんの銀髪ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!小説12巻のニャル子たんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!アニメ2期放送されて良かったねニャル子たん!あぁあああああ!かわいい!ニャル子たん!かわいい!あっああぁああ!OVAも発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!ぐあああああああああああ!!!OVAなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…ニ ャ ル 子 ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ドリームランドぉああああ!!この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のニャル子ちゃんが僕を見てる?表紙絵のニャル子ちゃんが僕を見てるぞ!ニャル子ちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のニャル子ちゃんが僕を見てるぞ!!アニメのニャル子ちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはニャル子ちゃんがいる!!やったよクー子!!ひとりでできるもん!!!あ、コミックのニャル子ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!あっあんああっああんあアト子様ぁあ!!ハ、ハス太ー!!珠緒ぉおおああああ!!!シャンタッ君ァぁあああ!!ううっうぅうう!!俺の想いよニャル子へ届け!!ニャルラトホテプ星のニャル子へ届け! 」

 

―――という悪夢を見ました」←ニャル子

 

真尋「流石に同情する」

 

   *   *   *   *   *

 

ニャル子達が尋問を行っている間に、真尋達は飛鳥達を呼ぶ事にした。そして、白夜叉に事情を聞くために"サウザンドアイズ"二一〇五三八〇外門支店へ向かう事にした。しかし、あまり大勢で行くのもどうなんだと真尋が言ったので、行く人数を絞る事にし、ジャンケンを行なった。その結果、ジンと耀、クー子とハス太は残り、十六夜と黒ウサギ、真尋とニャル子、そして飛鳥で行く事になった。

 

夜も更けて、空は星が輝く星月夜となっていた。爛々と輝く満月が箱庭を照らしている。

街灯ランプは(ほの)かな輝きで道を照らしているが、周囲から(ひと)()らしいモノは一切感じられない。道中、十六夜は足早なまま空を見上げて呟く。

 

「こんなにいい星空なのに、出歩いてる奴はほとんどいないな。俺の地元なら金とれるぜ」

「そうだな。僕の所でも十分商売として成り立たせる事が可能だと思うよ」

 

十六夜の言葉に真尋も同意する。真尋だって現代人であるため、このような満天の空は二人にとって新鮮に感じられるのである。対照的に、戦後間もない時代から来た久遠飛鳥にとって、この夜空を不思議に思ったらしく、疑問を口に出す。

 

「これだけハッキリ満月が出ているのに、星の光が(かす)まないなんておかしくないかしら?」

「箱庭の天幕は星の光を目視しやすいように作られてますから」

「そうなの?だけどそれ、何か利点があるのかしら?」

 

飛鳥にとって、太陽の光から(きゅう)(けつ)()などの種を守るというのは理解できるが、星の光を際立たせたところで意味があるとは思えれなかったのだろう。その疑問に黒ウサギは(あせ)るような小走りだった歩調を(ゆる)め、答えようとする。

 

「ああ、それはですね」

「おいおいお嬢様。その質問は()(すい)だぜ。"夜に()(れい)な星が見れますように"っていう職人の心意気が分からねえのか?」

「あら、それは()(てき)(こころ)(づか)いね。とてもロマンがあるわ」

「………。そ、そうですね」

「いや、違うんなら違うって言っても良かったんだからな?黒ウサギ」

 

黒ウサギはあえて否定しなかったのを見て真尋は一応ツッコんでおく。そして"サウザンドアイズ"の門前に着いた五人を(むか)えたのは例の()(あい)(そう)な女性店員だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

「黒ウサギ達が来る事を承知の上、ということですか?あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデス」

「………事の(しょう)(さい)は聞き(およ)んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

定例文にも似た言葉に黒ウサギは憤慨しそうになるが、店員の彼女に文句を言っても仕方がない。店内に入り、中庭を()けて(はな)れの家屋に黒ウサギ達は向かう。中で迎えたルイオスと(おぼ)しき青年は黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。

 

「うわお、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスって(ずい)(ぶん)エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛(かわい)がるぜ?」

 

ルイオスは地の性格を(かく)()()りも無く、黒ウサギの全身を()め回すように視姦してはしゃぐ。黒ウサギは(けん)()(かん)でさっと(あし)を両手で隠すと、飛鳥も(かべ)になるよう前に出た。

 

「これはまた………分かりやすい()(どう)ね。先に断っておくけど、この()(きゃく)は私達のものよ」

「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って(ちが)いますよ飛鳥さん!!」

 

突然の所有宣言に(あわ)ててツッコミを入れる黒ウサギ。そんな二人を見ながら、十六夜は(あき)れながらもため息をつく。

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は(すで)に俺のものだ」

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃいッ!!!」

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

「売・り・ま・せ・ん!」

「黒ウサギさんは売り物じゃありませんよ!(ちゅう)(せん)の商品なんですから!」

「そうですそう、って違います!あーもう、()()()なお話をしに来たのですからいい加減にして下さい!黒ウサギも本気で(おこ)りますよ!!」

()鹿()だな。怒らせてんだよ」

 

スパァーン!とハリセン(いっ)(せん)。今日の黒ウサギは短気だった。(かん)(じん)のルイオスは完全に置いてけぼりを()らっている。五人のやり取りが終わるまで()(ぜん)と見つめ、(とう)(とつ)に笑いだした。

 

「あっはははははははは!え、何?"ノーネーム"っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうならまとめて"ペルセウス"に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。そこの頭痛そうに抱えてる君も何か芸とかできるの?」

 

ルイオスの唐突な振りに真尋は驚きつつも少し考え、ニャル子達の方を向く。

 

「動くなよー」

「「「「「えっ?ど―――」」」」」

 

どういう事?―――と聞く前に真尋はフォークを射出する。バラバラに射出されたフォークは見事五人を縫い付けるようにして壁に刺さった。

 

「っと、こんな感じだな。お前ら頭冷えたか?」

「「「「ハイ………」」」」

「というか真尋さん、私だけ頭に一本刺さってるんですが………」

 

ニャル子の言う通り、ニャル子のみ頭部に一本、フォークが刺さっていた。その言葉に真尋は笑顔で答える。

 

「馬鹿だな、刺してんだよ」

「当ててんのよ、みたいに言われても全く嬉しくない、何これ不思議です………」

 

ニャル子は滝のような涙をルー、と流す。それを見てルイオスはまた笑い出す。

 

「あはは!すごいな!君、絶対大道芸人としてもやっていけるよ!何だったら君ら全員僕のコミュニティが(しょう)(がい)(めん)(どう)見るよ?勿論、ウサギの美脚は僕のベッドで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらくけど」

「お断りでございます。黒ウサギは礼節も知らぬ殿(との)(がた)(はだ)を見せるつもりはありません」

 

嫌悪感を()き捨てるように言うと、(となり)で十六夜がからかう。

 

「へえ?俺はてっきり見せる(ため)に着てるのかと思ったが?」

「ち、違いますよ!これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しにすると言われて(いや)(いや)………」

「ふぅん?嫌々そんな服を着せられてたのかよ。………おい白夜叉」

「なんだ()(ぞう)

「私も一言だけ………」

 

キッと白夜叉を(にら)む十六夜と、顔を(けわ)しくしたニャル子。三人は(すご)んで睨みあうと、同時に右手を(かか)げ、

 

(ちょう)グッジョブ」

(ちょー)イイです最高(さいこー)です!」

「うむ」

 

ビシッ!と親指を立てて()()()(つう)する三人。一向に話が進まず、ガクリと(うな)()れてしまった黒ウサギと、胃痛と頭痛に苦しむ真尋の元に、家屋の外から店員の(たす)(ぶね)が出される。

 

「あの………()来客の方も増えましたので、よろしければ店内の客間に移りましょうか?みれば割れた食器の()(へん)も散らかっていますし」

「そ、そうですね」

 

一度仕切り直す事になった一同は、"サウザンドアイズ"の客室に向かうのだった。



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第十六話

第十六話です。
誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ニャル子「諸君、私は虐殺が好きだ。諸君、私は拷問が好きだ。諸君、私は処刑が大好きだ。

 

平原で、街道で、草原で、凍土で、砂漠で、海上で、空中で、泥中で、湿原で、異世界で、

 

この世界で行われるありとあらゆる虐殺行動が大好きだ。

 

諸君、私は戦争を、宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)な拷問を望んでいる。

諸君、私に付き従う大隊戦友諸君

君達は一体何を望んでいる?

 

更なる拷問を望むか?

情け容赦のない糞の様な処刑を望むか?

鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の魑魅魍魎を殺す嵐の様な虐殺を望むか?」

 

ハス太・クー子・アト子・十六夜・飛鳥・耀『虐殺(ジェノサイド)拷問(トーチャー)処刑(エクセキューション)!』

 

ニャル子「よろしい、ならば戦争(ギフトゲーム)だ」

 

 

真尋「やめろよ、やめろよぉ………」

 

   *   *   *   *   *

 

()(しき)に招かれた三人は"サウザンドアイズ"の幹部二人と向かい合う形で座る。長机の対岸に座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギを見続けていた。黒ウサギは()(かん)を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。

 

「―――"ペルセウス"が私達に対する無礼を()るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」

「う、うむ。"ノーネーム"の元・仲間であったヴァンパイアが"ノーネーム"の(しき)()に来て、それらを()(かく)する際における数々の暴挙と暴言。そしてそれによって仲間が負傷した事。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の(いか)りはそれだけでは済みません。"ペルセウス"に受けた(くつ)(じょく)は両コミュニティの(けっ)(とう)をもって決着をつけるべきかと」

 

八坂真尋は黒ウサギの意図、つまり両コミュニティの直接対決が狙いだと、すぐに気付くことができた。何故なら、誰も負傷などしていないからだ。そして、負傷したと偽る事のできるのは、この中で一人しかいない………。真尋はニャル子に視線を向けると、ニャル子は「任せとけ!」と言わんばかりのサムズアップを真尋に送った。

 

「"サウザンドアイズ"にはその(ちゅう)(かい)をお願いしたくて参りました。もし"ペルセウス"が拒むようであれば"主催者権限(ホストマスター)"の名の(もと)に」

「いやだ」

 

唐突にルイオスは言った。

 

「………はい?」

「いやだ。決闘なんて(じょう)(だん)じゃない。それにそれに君のお仲間が負傷したって(しょう)()があるの?」

「あります。ニャル子さ―――」

 

黒ウサギはニャル子の方を向き、固まる。真尋もニャル子の方を向き、固まる。どういう訳か、ニャル子の姿が無いのだ。

 

「あ、あれ?ニャル子さんは―――」

「ただいま戻りたましたよー!」

 

そして、ニャル子が西瓜(すいか)大の大きさの球体が入っていると思しき唐草模様の風呂敷を二つ持ち、何故かクー子とハス太、アト子も連れてやって来た。

 

「ニャ、ニャル子さんは何をしていたのですかー!これじゃあ私の計画も台無しではないですか!」

「黒ウサギ、ゲロってるゲロってる」

 

真尋の指摘にしまった!という顔をする黒ウサギ。そしてそれを見てルイオスは大笑いし、

 

「あっははは!で、嘘で塗り固めた計画がバレた次はどうするのかな?"ノーネーム"さん」

「そ、それは―――」

「えーと、黒ウサギを言葉()めするのは後に回してもらっていいですか?―――」

 

狼狽える黒ウサギを他所にニャル子がルイオスに話しかけた。

 

「―――ボンボンマジ()()坊ちゃんさん」

 

―――奇妙な呼び名と共に。

 

「よしちょっと待とうか今誰を何て呼んだ?」

「?ボンボンマジ下衆坊ちゃんさんをボンボンマジ下衆坊ちゃんさんと呼んだだけですが」

「僕の名前を()(めい)()()つ定着しそうな呼び名で呼ぶな。僕の名前はルイオスだ」

「失礼、()みました」

「違う、(わざ)とだ」

「かみまみた!」

(わざ)とらしい!?」

「神でした」

「お前神格持ちだったのか!?」

 

何処かで見たことのあるやり取りを見つつ、真尋は「あ〜、ボンボンマジ下衆坊ちゃん、ね。確かに定着しそうだ………特に十六夜達を見ると特に、な」と十六夜達の(わる)(だく)みをしている様な顔を見て考えていた。

 

「と、本題を見失うところでした」

「お前のせいでな」

「シャラップ!では、本題です………ボンボンマジ下衆坊ちゃんさん、貴方のコミュニティ"ペルシアン"にギフトゲームを申し込みます!」

「僕の名前はルイオスだしコミュニティの名前もペルセウスだ。………ギフトゲームはいやだって僕はそこのウサギにも言ったんだけど?」

 

そこにアト子が笑顔でルイオスへ近づく。

 

「おお?君も清楚な感じでいいじゃん。それにそこの後ろに居る小動物的な子も、無表情な感じの君も、う〜ん、この子達も欲しいな………」

「………ふふ、そのお気持ちは、本当に嬉しいです。殿(との)(がた)にそのように(おも)われるという事は、女(みょう)()に尽きます。ですけど―――」

 

アト子が鈴の転がるような()()とした声音で笑うのを見て、「あ、なんかこれって既視感(デジャビュ)」と真尋が思う。―――そして、アト子は跳躍する。

 

「え?」

 

ルイオスの間の抜けた声が出てくる。

アト子の着物の(そで)から伸びるのは、幾重(いくえ)にも(たば)ねたアトラク=ナクアの(よう)()だ。

それがルイオスへ殺到し、巻き付き、その身体を空中へ引き上げていく。そして、いつの間にか八本の蜘蛛の足に変貌していたアト子の脚がドリルのように回転し、

 

「―――身の程を知るのね、豚」

 

冷酷な言葉と共に。引き寄せられたルイオスの(たい)()(つらぬ)―――

 

「アト子、やめろ!」

 

―――こうとするところで、真尋は止めた。アト子は真尋の方を向くと、ルイオスに巻き付けていた糸を(ほど)き、脚を元に戻して着地する。

 

「真尋さん………どうなさいましたか?」

「お前ら、(いく)つか確認させてくれ。まず一つ、お前らは"ペルセウス"に(けん)()を吹っ掛けにきたんだよな?次に、お前ら()()()()()()()んだ?」

 

そこで黒ウサギ達の視線はニャル子の持つ二つの風呂敷に集まる。ニャル子はどう見ても悪役な笑みを浮かべて、一言。

 

「真尋さん、分かっているんですよね?」

「ああ、"ペルセウス"という有名な英雄のコミュニティ、そんなコミュニティが挑戦権を賭けたゲームを()()()()()()()()()。ニャル子が持っている物が二つだから、ゲームは恐らく海魔(クラーケン)とグライアイの試練辺りだろうな」

()()()()!」

 

ニャル子の意味不明な賛辞を適当に受け流しつつ、真尋はルイオスの方を向き、告げる。

 

「―――で、ルイオス。挑戦権を持ってこられたら受けなきゃいけないよな?」

 

真尋の言葉にルイオスはニャル子の持って来た二つの宝玉―――"ゴーゴンの首"の印のある、紅と蒼の宝玉を見つめて盛大に舌打ちした。

 

「ハッ………いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思いあがったコミュニティに身の(ほど)を知らせてやる為のもの。二度と逆らう気が無くなるぐらい(てっ)(てい)的に………()()()()()()()()()。その後でウサギでも銀髪美少女でも大和撫子でも手に入れてやるよ」

 

突然の展開に戸惑いながらも、黒ウサギは慌ててルイオスに向けて言い放つ。

 

「え?えっと、それでは"ノーネーム"と"ペルセウス"。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます!」

 

   *   *   *   *   *

 

後日、ギフトゲームが行われる事となり、黒ウサギ達は"ノーネーム"への帰路を歩いていた。そこで十六夜がニャル子達に告げる。

 

「にしても、そんな面白い事やるなら俺も誘ってくれればよかったんだが?そこんところどうなんだニャル子」

「あ、十六夜さんにとって物足りないと感じるような敵なので、気にしなくていいと思いますよ」

「十六夜の戦闘力と海魔(クラーケン)、グライアイの戦闘力の差は倍以上ある」

 

クー子の注釈に十六夜は笑い、問いかける。

 

「なんなんだ?クー子には何処ぞの超戦士みたく戦闘力を数値化して視認できる道具があるのか?」

「ある。その名も『星々から(うたげ)に来たりて(むさぼ)るスカウターⅡ』。(ヤマンソ).com(ドットコム)製の最新スカウター。これを使えば戦闘力から身長体重体脂肪率握力腕力脚力スリーサイズあらゆるステータスを数値化して視認できる」

「なんだそれ、本気で欲しいぞ!」

 

そう笑いつつ、獲物を狙う獅子のような目でクー子の持つスカウターを見る十六夜。そこで、ふと気付いたかのように十六夜は真尋に話しかける。

 

「そういえば、真尋。お前結構ペルセウスの話について知っていたみたいだが、なんでそんなに知っているんだ?まさか異世界に来る(こんな)事が起こると予想していた訳じゃないんだろ?」

「ああ、それか………」

 

真尋は苦笑いしつつ言った。

 

「僕の所にニャル子達が襲来してきたのは知ってるよな?それで、僕は他の邪神群が来てもそれなりに対処が出来る様に少しイメージトレーニングしてたんだよ。で、気付いたんだ」

「何にだよ?」

「クトゥルフ神群以外の神群が襲来するという、最悪の可能性。それで、僕は他の神群について調べたんだよな………」

 

遠い目をして真尋が語る様子を見て、十六夜も流石に同情してきた。

 

「あと、大体の話は(すで)に結構(おぼろ)げになっているからな?ペルセウスの話を覚えているのは僕もあんな風になりないな、っていう英雄視みたいなものだ」

「どういう事だ?」

「僕もペルセウスみたいに力を持ってしてニャル子達を追い返せたら良かったのに、ってことだよ。なぁ、ニャル子?」

 

真尋の刃の様に鋭く氷の様に冷たい視線に、ニャル子達は身体を震わせる。

 

「今回はまあ、いい方向に向いたから良しとしよう。けど、次勝手な単独行動をしたら、どうなるかわかるな?」

「「「「レバーに(めい)じておきます………」」」」

 

その様子を見て、十六夜達は「既に力を持ってこいつら(ニャル子達)を従わせる事はできてる気が………」と思ったが、考えない事にした。




10/18 12:05 誤字修正


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第十七話

第十七話です。
誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

ハス太「箱庭の星が輝く(かげ)で」

十六夜「ボンボンマジ下衆坊ちゃん(ルイオス・ペルセウス)の笑いが木霊(こだま)する」

クー子「星から星に泣く人の」

飛鳥「涙背負って組織(ペルなんとか)の始末」

アト子「冒涜旋風イアイアー」

ニャル子「お呼びとあらば即参上!」

 

真尋「せめてきちんと呼んでやれよ………」

 

   *   *   *   *   *

 

"契約書類(ギアスロール)"文面

 

『ギフトゲーム名"FAIRYTALE in PERSEUS"

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          八坂 真尋

          八坂 ニャル子

          八坂 クー子

          八坂 ハス太

          銀 アト子

 

 ・"ノーネーム"ゲームマスター

               ジン=ラッセル

 

 ・"ペルセウス"ゲームマスター

            ルイオス=ペルセウス

 

 ・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打

        倒

 

 ・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターに

       よる降伏。プレイヤー側のゲーム

       マスターの失格。プレイヤー側が

       上記の勝利条件を満たせなくなっ

       た場合。

 

 ・舞台詳細・ルール

  *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の

   宮殿の(さい)(おう)から出てはならない。

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけな

   い。

  *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスタ

   ーを除く)人間に姿()()()()()()()()()()()

   。

  *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、

   ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

  *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失う

   だけでゲームを続行する事はできる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。

            "ペルセウス"印』

 

   *   *   *   *   *

 

"契約書類"に(しょう)(だく)した直後、十人の視界は間を置かずに光へと()まれた。次元の(ゆが)みは十人を門前へと追いやり、ギフトゲームへの入口へと(いざな)う。門前に立った真尋達が()り返ると、白亜の宮殿の周辺は箱庭から切り(はな)されていた。未知の空域に()かぶ宮殿は()(はや)、箱庭であって箱庭でない場所なのだ。

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

白亜の宮殿を見上げ、胸を(おど)らせるような(こわ)()で十六夜が(つぶや)く。その呟きにジンが(こた)える。

 

「それならルイオスも伝説に(なら)って(すい)(みん)中だという事になりますよ。流石(さすが)にそこまで甘くは無いと思いますが」

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の(こう)(りゃく)が先でございます。伝説のペルセウスと(ちが)い、黒ウサギ達はハデスのギフトをもっておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

 

黒ウサギが人差し指を立てて説明する。このギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。宮殿内の最奥まで"主催者(ホスト)"側に気づかれず(とう)(たつ)せねば、戦うまでもなく失格となる。"契約書類"に書かれたルールを(かく)(にん)しながら飛鳥が難しい顔で復唱する。

 

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター―――ジン君が最奥にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら大きく分けて三つの役割(ぶん)(たん)が必要になるわ」

 

飛鳥の(となり)で耀が(うなず)く。その様子を見て、真尋は呟く。

 

「………いや。役割分担しなくても、どうにかなるかもな」

「「「「え?」」」」

 

その真尋の呟きに(おどろ)く一同。真尋は不敵な笑みを浮かべて、一言だけ告げた。

 

「まあ、すぐにわかると思うぞ。僕達の仲間には―――公式チート(ニャル子達)が居るんだからな」

 

   *   *   *   *   *

 

―――白亜の宮殿は混乱に陥っていた。門が蹴り破られた音がして、ゲームが開始されたはずなのだが………()()()()()()姿()()()()()()()()

 

「お、おい………どういう事だ?」

「門を蹴破った音はした。だから逃げたって事は無いだろうが………」

 

白亜の宮殿でざわめきが広がる。すると突然―――轟音が響いた。そして、二階へ上がるための階段が崩れ落ちる。その光景をみてしばし放心した後、"ペルセウス"の騎士の一人が一つの事実に気づき、叫ぶ。

 

「敵は既に潜入していた!あいつら、姿を消すギフトを持っているぞぉーー!!」

 

その事実は、"ペルセウス"の騎士の持つ前情報では無かった、ギフトの存在を相手が持つという事実であった。

 

   *   *   *   *   *

 

「―――名付けて『宇宙CQCApocrypha(アポクリファ)、風に乗りて歩む風王結界(インビジブル・エア)』ってところかな?」

「よくやった、ハス太。褒美にたこ焼きをやろう」

 

さて、これはクー子が言った通り、ハス太の力である。真尋がハス太の能力である『風を操る能力』、これを使って某英霊が聖杯求めて戦うエロゲの某腹ぺこ王の能力のうち一つを再現してもらったのだ。因みに気配を消す為に、ニャル子にはあの割と万能な『結界』を張ってもらっている。

 

「これは邪神の私から見ても台無し感が(はん)()じゃないですね………」←ニャル子

「本来鬼畜ゲーだった物をチートツール使ってぬるゲーにしたような気分」←クー子

「ぼ、僕は真尋君がオルタ化していても見捨てたりしないからね!」←ハス太

「流石真尋さんですね。私達(邪神群)すら思い付かない鬼畜の(しょ)(ぎょう)を思い付くとは」←アト子

「おいおい、俺は血()(おど)る戦いを(しょ)(もう)しているんだが?」←十六夜

「神聖なる戦いを(けが)された、みたいな気持ちね」←飛鳥

「ラスボス戦で絶対に勝利を掴む事ができる最強装備を使った、みたいな感じ」←耀

 

………どうやら、この案は(おおむ)ね不評のようだが。

 

「でも確実に勝ちたいならこの位しなきゃ駄目だろ。戦いは(たの)しむ物じゃなく、本来()()されるべき物なんだ。全力を尽くして自分達の()(せい)を少なくするのが一番だろ」

 

真尋の言葉は実際正しいと言えるだろう。あくまで、その常識が問題児達に欠けているというだけである。

 

「四階到達。下の奴らが上がってこれないように壊すぞ」

「真尋さん、本気で下衆いですね………やりますけど」

「少年の意外な一面に私のハートがときめきメモリアル」

 

真尋の言葉を聞き、ニャル子は宇宙CQCパート2ダッシュ『名状しがたいバールのようなもの』で、クー子は精神感応型無線誘導式機動砲台『クトゥグアの配下』で、それぞれ壊す。

 

「よし、さっさと上に上がるぞ―――」

「真尋さん、伏せて下さい!」

 

ニャル子の言葉に真尋は咄嗟(とっさ)に伏せると、何かが頭上を通過した気がした。

 

「なっ―――」

「階段を壊せるってことは、その近くに敵が居るはず、と考えたんでしょう!中々に頭の回る人が居たみたいですね!」

 

なるほど、そこは考えてなかった。十六夜と耀は苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 

「私の五感でも察知できなかった―――」

「つまり、レプリカのハデスの兜ではなく、本物を使っている奴がいるって事だろうな」

 

十六夜に対してニャル子は問い掛ける。

 

「別に気配を完全に遮断しているだけで、攻撃が摺り抜けるとか、そういう訳では無いんですよね?」

「ああ、ハデスの兜にそんな効果は無いはずだが………頼めるか?」

「私を誰だと思っているんですか?―――かの有名な無貌の邪神を嘗めないでください」

 

ニャル子が耳に手をやると、頭上のアホ毛が垂直に立つ。そしてニャル子はカッと目を見開く。

 

「私の宇宙CQCデジタルリマスター版!言いようもなく呪われたアホ毛!」

 

ニャル子の頭上のアホ毛が複雑怪奇な軌道を描き、しなるようにして不可視の敵を叩き付け、吹き飛ばす。

 

「どうですこのアホ毛の威力は!」

「………本当にそのアホ毛、攻撃用に転換できたんだな」

「え、いやいや私実際そう言いましたよね!?」

「信じてなかった」

「あァァァんまりだァァアァ!!」

 

真尋とニャル子の間に生まれた素頓狂(すっとんきょう)な空気とは裏腹に、不可視の敵の方は吹き飛んだ先にクレーターを作り出し、気絶してしまうほどの威力があったようだ。真尋は不可視の敵に近づき、兜を取るとジンに投げ渡す。

 

「ジン、念の為にそれ付けておくといいと思うぞ」

「あっはい………」

 

   *   *   *   *   *

 

八人は、白亜の宮殿を真っ直ぐ突き進んで最奥、最上階に着いた。最奥に(てん)(じょう)はなく、まるで闘技場のような簡素な造りだった。真尋はハス太に目線をやると、ハス太は不可視化を解除する。

 

「皆さん………!」

 

最上階で待っていた黒ウサギは(あん)()したように八人の姿を確かめてため息を漏らす。眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、見下ろす(ひと)(かげ)があった。

 

「―――ふん。ホントに使えない(やつ)ら。今回の一件でまとめて(しゅく)(せい)しないと」

 

空に浮かぶ人影には、確かに(つばさ)があった。膝まで(おお)うロングブーツから、(ひか)(かがや)(つい)の翼が。―――ん?

 

「………いや、その理屈はおかしい」

「は?」

「ヘルメースの靴のギフト"タラリア"は本来サンダルの形のはずだよな?なんでロングブーツなんだよ」

 

真尋の()(てき)に数刻ばかりの(せい)(じゃく)(おとず)れる。その後、ルイオスは口を開く。

 

「………そういえば、一体何故なんだ?」

 

決戦まで(わず)かとなったにも関わらず、何とも言えない微妙な雰囲気が(ただよ)い始めた。



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第十八話

第十八話です。
誤字脱字指摘感想評価、また、『ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうCQC』、その他諸々待っています。


あらすじ

 

〜♪(何処からともなく軽快な音楽)

 

3人「「「ハイハイハイハイハイ……アーカム、路地裏同盟!」」」

ツル子「ハイ、そういう訳でですね、すっかり出番の少ない私達なんですけども、こういう形で頑張っていこうかな、と思いましてですね」

頼子「出番が無いなら無いで楽でいいじゃないの」

ツル子「な、何を言っているんですか。そんな姿勢でこの厳しい業界を生き残っていけるんですかキミィ!」

頼子「別に生き残ってもねぇ……」

ツル子「ぼんやりしてると後ろからバサリだぁー!」

頼子「いい度胸ね(チャキッ」フォークを構える。

ツル子「ヒイッ!何でこの人メンバーにしたのかなぁ〜!」

ルーヒー「安心しなさい、計算通りよ」

3人「「「……………」」」

3人「「「アーカム、路地裏同盟!」」」

 

〜♪バサァ(軽快な音楽と共に幕が閉まる)

 

真尋「何やってんだ、母さん達………」

 

   *   *   *   *   *

 

「―――まあ、どうでもいいか」

 

バサッと、翼が羽ばたく。たった一度の羽ばたきでルイオスは風を追い()き、落下速度の数十倍の勢いで十六夜達の前に降り立った。

 

「なにはともあれ、ようこそ白亜の(きゅう)殿(でん)・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。………あれ、この台詞(せりふ)を言うのってはじめてかも」

 

それは(すべ)()()達が(ゆう)(しゅう)だったからだ。今回のように準備が整わない(とつ)(ぜん)(けっ)(とう)でさえなければ、ここまで真尋達の(もく)()()通り事が進む事は無かっただろう。十六夜は(かた)(すく)ませて笑った。

 

「ま、不意を打っての決闘だし、少しばかり(こす)い手を使ったからな。(かん)(べん)してやれよ」

「フン。名無し()(ぜい)を僕の前に来させた、それも全員だ。この時点で極刑ものさ」

 

ルイオスの翼がもう一度羽ばたく。彼は"ゴーゴンの首"の(もん)が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る(ほのお)の弓を取り出した。そのギフトを見て黒ウサギの顔色が変わった。

 

「………炎の弓?ペルセウスの武器で戦うつもりはない、という事でしょうか?」

「当然。空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」

 

真尋はその炎の弓を見て、考えこむ。

 

「………アポロンの持つ黄金の弓のギフトか?そうだとしたら矢は即死の効果のついた金の矢のギフト?いや、男性を(ひん)()(おとしい)れる疫病の矢のギフトか?しかし、シェキナーの弓のギフトの可能性も無くはないか………。一番可能性が高いのはアポロンの黄金の弓のギフトのレプリカ辺りだろうな。矢のギフトは無いと考えてもいいかもしれないけど………」

「おぉ………なんだかんだ言って、真尋は結構詳しいんだな」

 

十六夜の言葉に真尋はハッと意識を戻す。

 

「悪い、少し考え込んでいたな」

「いや、別に構わないぜ。で、ボンボンマジ下衆坊ちゃんよ、答え合わせしてやれ」

 

あ、十六夜もルイオスの呼び名それでいくつもりなんだな。

 

「違う、僕の名前はルイオスだ」

「失礼、噛んじまったぜ」

「違う、(わざ)とだ」

(かん)()食ったぜ」

「おまっ、もしかして僕の()(ぞう)の洋菓子が無くなった犯人はお前だったのか!?」

「山分けだったぜ」

「共犯者がいたのか!?」

 

もしかして、このやり取りは毎回の恒例になるのだろうか。ルイオスが咳払いをして場の空気を戻す。

 

「ゴホン、このギフトはお察しの通り、アポロンの弓のギフトのレプリカだ。先代のツテがあって、借りている物だよ。空が飛べるのに同じ土俵で戦う()鹿()はいないだろう?あと、お前(十六夜)には後で詳しく事情を聞かせてもらうからな」

 

何気に洋菓子の件を気にしているルイオスは、()()鹿()にするように天へと()い上がる。だが戦いの意思はまだ見られない。(かべ)の上まで飛び上がったルイオスは、首にかかったチョーカーを外し、付属している(そう)(しょく)(かか)げた。

 

「メインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま"ペルセウス"の敗北になる。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」

「っ………!!」

 

黒ウサギの顔に(あせ)りの色が出る。それと裏腹にルイオスは笑うと、掲げたギフトが光り始める。星の光のようにも見()(ちが)う光の波は、強弱を付けながら一つ一つ(ふう)(いん)を解いていく。そして、光が一層強くなると、ルイオスは(どう)(もう)な表情で叫んだ。

 

「目覚めろ―――"アルゴールの魔王"!!」

 

光は褐色に染まり、八人の視界を染めていく。白亜の宮殿に共鳴するかのような(かん)(だか)い女の声が(ひび)(わた)った。

 

「ra………Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

それは()(はや)、人の言語野で理解できる叫びではなかった。(ぼう)(とう)こそ(うた)うような声であったが、それさえも(ちゅう)(すう)(くる)わせるほどの不協和音だ。現れた女は体中に(こう)(そく)具と()(ばく)用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の(かみ)を逆立たせて(さけ)び続ける。女は(りょう)(うで)を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて(さら)なる(ぜっ)(きょう)を上げた。黒ウサギと真尋は(たま)らず耳を(ふさ)ぐ。

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

「な、なんて絶叫を」

()けろ、黒ウサギ!!」

 

え、と(こう)(ちょく)する黒ウサギ。十六夜は黒ウサギとジンを()(かか)えるように()退()いた。直後、空から(きょ)(だい)な岩(かい)が山のように落下してきたのだ。二度三度、と続く落石を避ける十六夜達を見てルイオスは高らかに(あざけ)った。

 

「いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」

「―――全く、その通りですね。ギフトを使わなきゃ飛ぶ事すらままならないんですから」

「………なっ!?」

 

ルイオスが慌てて声のした方向―――背後に目をやると、真尋を抱えているニャル子、クー子、ハス太、アト子がいた。

 

「さて、ボンボンマジ下衆坊ちゃん。貴方の罪を数えなさい!そして(つい)でに私の罪も(なす)り付けてやりますよ!」

「お前本当に公的機関の人間か?」

「邪神なので(モー)(マン)(タイ)です」

 

ルイオスは少しの間呆けた顔をするが、突然笑い出す。

 

「………ク、クク、ハハ、ハハッハッハッハ!!」

 

ルイオスは邪悪な笑みを顔に浮かばせて叫ぶ。

 

「僕が君達―――クトゥルフ神話の邪神への対策をしてないと思ったのかい?今回は僕にツキが回っていたんだよ!」

 

ルイオスの言葉を理解できないでいると、ルイオスは笑いながら驚愕の事実を告げる。

 

「―――このギフトゲームで、()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「なっ―――!」

 

黒ウサギが絶句する。真尋は何やら()(しょう)に嫌な予感がしていた。

 

「来い!―――ニャルラトホテプ!」

「「「「「……………はっ?」」」」」

 

闘技場の一部の空間が(ゆが)み、真尋達にとって何処かで見た事のある姿がみえる。銀色をした長髪、整った顔立ち、長いアホ毛。そう、それはまぎれもなく―――

 

「―――久しぶりだな、ニャル子」

「にい………さん?」

 

―――ニャルラトホテプ星人、ニャル子の兄である、ニャル夫だった。………人選間違えてる気がするんだが。

 

「おい、真尋!そいつ知り合いか!?」

「あぁ、あいつは―――ムグッ」

「いいえ、全く知り合いではありません!ただの野良ニャルラトホテプでしょう!」

「お、おぅ………」

 

十六夜が真尋に問い掛ける。真尋が答えようとすると、ニャル子が手で口を塞ぎ、代わりに答えた。

 

「ニャル子………私はお前に対する恨みを募らせてきた。そして私はこの箱庭で修行を重ね、魔王の称号を手に入れたのだ!"無貌の魔王"の力、見るがいい!!」

 

ニャル夫はそう告げると変身し、アルゴールの魔王を遥かに超える巨躯の異形となる。

 

「ニャル子」

「ええ………修行を重ねたのは本当っぽいです。前よりも力が倍増していますね。やはりニャル夫兄さんの宇宙籍を抹消したのが悪かったのでしょうか、いや、ニャル夫兄さんの初恋の人にニャル夫兄さんの無い事無い事伝えたのが駄目だった?」

「うん、どっちも駄目だろうな。で、どうするんだ?前よりも強くなってるんだったら少し厳しくないか?」

 

問題ありません、とアト子は懐から金色に光る物体を取り出した。

 

「これはかの有名なアーサー王が使っていた剣、エクスカリバー―――」

 

その金色に光る物体は全体的にスリムな形をしており、先は曲がっている。真尋にとって見慣れた形で―――

 

「―――を模して作った、約束された勝利の釘抜き(エ ク ス カ リ バ ー ル)です」

「予想していたが、何で素直に剣の形にしないんだよ!」

 

―――詰まるところ、バールであった。

 

「兄さ………野良ニャルラトホテプは此処で噛ませ犬の如く消え去るといいですよ!」

「来いニャル子!俺は剣で一突きされる程度じゃ死なんぞ!」

 

☆ご愛読ありがとうございました!Shoggoth先生の次回作をご期待ください!」

「勝手に打ち切りにしようとするな、クー子」



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ただのFGOの短編

ふと書きたくなっただけの短編です。
2000文字位なので本当に短いです。

それでも宜しければどうぞ。


【side.???】

 

「―――」

 

―――声が、聞こえた。

 

「―――と―、―――と――の――」

 

―――誰かの、声が。

 

「――は―が――――――」

 

―――酷く、(あせ)った様な。

 

「―――つ――――を」

 

―――何かに、(すが)る様な。

 

「――――は――、―――り――」

 

―――助けを、()う様な。

 

「――に―る―――は――――」

 

―――希望を、求める様な。

 

「―――。―じ―。―――。閉――。――よ」

 

―――涙声の様な。

 

「―――す――に――」

 

―――怒鳴り声の様な。

 

「――、―――れ――を―――る」

 

―――叫び声の様な。

 

「――――」

 

―――笑い声の様な。

 

「―――。―――は―――に」

 

―――(しゃが)れ声の様な。

 

「――――は―――に」

 

―――高音の様な。

 

「――の―――に――、―――」

 

―――中音の様な。

 

「―――に――――ば―――」

 

―――低音の様な。

 

「――を―――」

 

―――女声の様な。

 

「―は――――の―――る―」

 

―――男声の様な。

 

「―は――――の―――る―」

 

―――ああ、やっとわかった。

 

「―――の――を――――」

 

―――私という存在が。そして、

 

「――――よ―――れ」

 

―――彼こそが、私の主人(マスター)だ!

 

「―――天秤の守り手よ!」

 

―――今、私が行きますよ!

 

【side.三人称】

 

そこは、地獄だった。

―――否、地獄の様だ、の方が正しいだろう。

 

燃える家々、焼ける道路、崩れ落ちた屋敷。

骸骨の怪物、人影の怪物。

どれも、人の潜在的な恐怖心を刺激する。

 

そして、その怪物共は、輪になって立っている。

―――三人の、人を囲む様にして。

 

「何で……こんな目に……!」

「先輩、指示を!」

「―――ッ!」

 

一人は白髪の女性、一人は背の丈はある大盾を持つ少女、一人は黒髪の少年。

 

「此処で、召喚をする」

「なっ―――無茶よ!」

「しかし、戦力が絶対的に足りない!運が良ければこの状況を―――そして、この先の事を、どうにかできるかもしれないんだ!」

「―――」

 

白髪の女性―――オルガマリーは、悩む。

確かに黒髪の少年の言う通り、このまま戦闘を行っても圧倒的戦力差で間違いなく負ける。

しかし、召喚をしたとしても助かるとは限らない。

悩みに悩んだオルガマリーは、言葉を発す。

 

「―――なさい」

「……何ですか?」

「必ず、この状況を打破出来るサーヴァントを召喚しなさい!」

「―――わかりました」

 

大盾を持つ少女―――マシュ・キリエライトが盾を置くと、視界は蒼い、電脳的な世界へ飛ばされる。

 

そこで黒髪の少年は、言葉を紡ぐ。

 

【side.黒髪の少年】

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公」

 

―――ただ祈った。

 

「祖には我が大師■■■■」

 

―――生きていたい。

 

「降り立つ風には壁を」

 

―――笑っていたい。

 

「四方の門は閉じ、王冠より出で」

 

―――この最低最悪の、

 

「王国に至る三叉路は循環せよ」

 

―――クソったれな世界を、

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」

 

―――破壊し尽くす様な、

 

「繰り返すつどに五度」

 

―――そんな、サーヴァントを。

 

「ただ、満たされる刻を破却する」

 

―――絶対に負けない、

 

「―――告げる」

 

―――最強無敵な、

 

「―――告げる。汝の身は我が下に」

 

―――そんな、サーヴァントを。

 

「我が命運は汝の剣に」

 

―――お願いだから、

 

「聖杯の寄るべに従い、この意」

 

―――来てくれ、来て下さい。

 

「この理に従うならば応えよ」

 

―――生き残ってしまった、

 

「誓いを此処に」

 

―――凡人な、一般人な、

 

「我は常世総ての善と成る者」

 

―――普通に生きる筈だった、

 

「我は常世総ての悪を敷く者」

 

―――最悪の不運を持ってしまった、

 

「汝三大の言霊を纏う七天」

 

―――この自分を、

 

「抑止の輪より来たれ」

 

―――弱い魔術師である自分を、

 

「天秤の守り手よ!」

 

―――助けてくれる奴を!

 

【side.三人称】

 

―――眩い光に包まれる。

全てを塗り潰す様な、光が。

しかし、何故―――

 

―――視界が、真っ黒なのか。

まるで、光その物が、黒いような―――

 

光が収まると、視界は元に戻った。

―――再び、地獄の様な、燃える街へと。

 

そして、傍らにはたった一人の、

鎧を身に付けている訳でもない、

武器を持っている訳でもない、

見麗しいだけの、少女が増えていた。

 

その少女は周囲を見渡すと少年に向き直る。

そして、こう告げたのだ。

 

「いつもニコニコマスターの隣に這いよる混沌、

サーヴァントキャスターです☆」

 

―――先程までの、空気(シリアス)は霧散した。

 

 

 

                 続かない。




サーヴァントキャスター……一体何ラトホテプなんだ……(棒)


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第十九話

遅れました。FGOとか短編とかFGOとかテストとかFGOとかFGOで忙しかったのです。―――はい、すいませんでした、私が悪かったです、マジごめんなさい。
それは兎も角、第十九話です。


あらすじ

 

恋が始まるには、

    ほんの少しのSAN値があれば十分です。

 ニャルンダール(一七八三―一八四二 ンガイ)

春―――()(づき)。私、ニャル子の心は希望に満ちあふれていました。しかし、桜並木の道を進むと―――目の前の桜の木で、一人の男性が首を吊っていたのです!

ニャル子「いけません!」

ぎゅぅ

ニャル子「命を粗末にしてはいけません!」

ニャル夫「〇×△◇∀♀‰※!!」

男性はじたばたしますが、男性の使っている縄はアト子ちゃんの特別製なのでそう簡単に千切れません。

ニャル夫「おい!台本と違っ、は、離せ、意識が遠の―――………」

男性が完全に動かなくなると、私はその男性から離れて、ぽつりと呟きました。

ニャル子「()りました」

 

真尋「()るなよ」

 

   *   *   *   *   *

 

「………嘘、だろ?」

 

真尋の呟きが静寂の中に響きわたる。その言葉はその場に(たたず)む全員に共通する感想だったのかもしれない。そして十六夜が真尋に変わって言葉を引き継ぐ。

 

「こればかりは俺も驚きだ。まさか―――」

 

十六夜は、ニャル子の目の前にいるニャル夫に目を向ける。

 

「―――戦闘シーン全省略で即座に速攻で完全無欠に封殺されるとは、小物臭全開とはいえど、思わなかったぜ」

 

ニャル夫は、それはもうあっさりと倒されていた。黒ウサギが『魔王って、何だっけ(白目)』などと思うレベルで完敗していた。

 

「仕方が無いでしょう。何せ(にい)s……いえ、あの野良ニャルラトホテプは、魔王の力を模倣しただけの劣化版の力しか持ってなかったみたいですからね。そのくらい私でもできますよ」

「………馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!これじゃあ、僕の計画が台無しじゃないか!」

 

ルイオスはヒステリックに叫ぶ。余程衝撃的だったのだろう。そしてその直後、轟音が響きわたる。

 

「なっ―――!」

「ハッ、何だ全然手応えねぇじゃねえかコイツ(アルゴール)!」

 

それは、十六夜がアルゴールを吹き飛ばした音であった。ルイオスは苦しげに顔を歪ませ、(ろう)(ばい)して叫ぶ。

 

「き………貴様、本当に人間か!?一体どんなギフトを持っている!?」

 

十六夜はニヤリと笑いながら、その疑問に応えようとギフトカードを取り出す。

 

「ギフトネーム・"正体不明(コード・アンノウン)"―――ん、悪いな。これじゃ分からないか」

 

飄々(ひょうひょう)と肩を(すく)ませて笑う。余裕を見せる十六夜の背中を見てジンは慌てて叫んだ。

 

「い、今のうちにトドメを!石化のギフトを使わせては駄目です!」

 

星霊アルゴールの本領は、身体能力でなく世界を石化させるほどの強大な呪いの光にある。だが、自分の力でねじ伏せたいルイオスは、更に正面対決を望んだ。

 

「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!奴を倒せ!」

「RaAAaaa!!LaAAAA!!」

 

(うた)うような不協和音が世界に響く。()(たん)に白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がった黒い()みから、蛇の形を模した石柱が数多(あまた)に襲う。十六夜は()けながら思い出したように呟く。

 

「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」

 

ゴーゴンには様々な魔獣を生みだした伝説がある。そもそも"星霊"とはギフトを与える側の種でもあるのだ。今や白亜の宮殿は魔宮と化している。周囲が見えていないのか、狂気じみた形相でルイオスは叫んだ。

 

「もう生きて帰さないッ!この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!貴様にはもはや足場一つ許されていない!貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの!このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場は無いものと知れッ!!!」

「僕も巻き込まれているのかよ!?」

 

ルイオスの絶叫と、魔王の謳うような不協和音。そしてルイオスの粛清の対象として巻き込まれた事に対する真尋の嘆き。魔王の(うた)に合わせて変幻する魔宮は白亜の外壁を、柱を、()(かつ)の如き姿に変えて襲い掛かり、十六夜の体を覆う。千の蛇に呑み込まれた十六夜は、その中心でボソリと呟いた。

 

「―――……そうかい。つまり、()()()殿()()()()()()()()()()()?」

 

「「「え?」」」

「お嬢様方、避難しろよ」

 

ジンと黒ウサギ、そして真尋は、嫌な予感がした。十六夜は無造作に拳を挙げた瞬間、真尋は十六夜の意図に気付き―――その直後、拳は振り下ろされた。

 

千の蛇蠍は一斉に砕け、十六夜の周囲から霧散する。直後に宮殿全域が震え、闘技場が崩壊し、瓦礫は四階を巻き込んで三階まで落下した。

 

「わ、わわ!」

「ジン坊っちゃン!」

 

崩壊に巻き込まれそうになったジンは黒ウサギに受け止められ、

 

「ニャル子!」

「アイサー、真尋さん!」

 

真尋及び飛鳥と耀はニャル子達の力を借りて避難する。

翼を持つルイオス達は上空に逃げていたが、その惨状に息を呑んでいた。闘技場には宮殿内と違い、常時防備用の結界が張られている。それこそ山を打ち砕くほどの力がなければ、この最上階を崩落させる事など出来ないはずなのだ。

 

「……馬鹿な……どういう事なんだ!?奴の拳は、山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」

 

上空で怒りとも恐怖ともいえる叫びを上げるルイオス。残った闘技場の足場から見上げる十六夜は、やや不機嫌そうに声をかけた。

 

「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?」

「………っ……!」

 

まだ宮殿の怪物は生きている。だが、相手には擬きとはいえ魔王を倒す邪神群に、全く種の解らない恩恵(ギフト)を使う人間がいる。間違いなく負け戦になるだろう。

ルイオスは屈辱に顔を歪ませ―――スッと真顔に戻る。そして極め付けに凶悪な笑顔を浮かべ、

 

「もういい。()()()()()、アルゴール」

 

石化のギフトを解放した。

星霊・アルゴールは謳うような不協和音と共に、褐色の光を放つ。これこそアルゴールを魔王に至らしめた根幹。迫り来る褐色の光を十六夜は、真正面からアルゴールの瞳を捉え―――

 

「―――――………カッ。ゲームマスターが、今さら狡い事してんじゃねえ!!!」

 

褐色の光を、()()()()()()

………比喩は無い。他に表現のしようもない。アルゴールの放つ褐色の光は、逆廻十六夜の一撃でガラス細工のように砕け散り、影も形もなく吹き飛んだのだ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

ルイオスが叫ぶ。叫びたくもなるだろう。階下から戦況を見守っていたジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げていたのだから。

 

「せ、"星霊"のギフトを無効化―――いえ、破壊した!?」

「あり得ません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

真尋はそれを聞き、得心が行った。きっと、この箱庭では、ギフトを無効化するという事はさほど珍しくは無いのだろう。但し―――それは武具や道具の形を取るのだろう。そうなると十六夜の"正体不明(コード・アンノウン)"はギフト無効のギフトとなる。しかし、十六夜は人智を超えた身体能力を持つ。つまり、その二つの能力が両立したギフトとなるのだ。それは、明らかに矛盾している。

 

「さあ、続けようぜゲームマスター。"星霊"の力はそんなものじゃないだろ?」

 

軽薄そうに挑発する十六夜。だがルイオスの戦意はほとんど涸れていた。"箱庭の貴族"はおろか、"白き夜の魔王"でさえ知らない出所不明・効果不明・名称不明と三拍子揃った、正真正銘の"正体不明(コード・アンノウン)"。それだけでなく、星霊と同程度―――もしくは、それ以上の力を持つクトゥルフ神話の邪神が4柱もいるのだ。

呆然としているルイオスの前に、黒ウサギがため息交じりに割って入る。

 

「残念ですが、これ以上のものは出てこないと思いますよ?」

「何?」

「アルゴールが拘束具に繋がれて現れた時点で察するべきでした。………ルイオス様は、星霊を支配するには未熟すぎるのです」

「っ!?」

 

ルイオスの瞳に灼熱の憤怒が宿る。………しかし、否定の声は上がらなかった。それはつまり、黒ウサギの言葉が真実であるという事だろう。

 

「―――ハッ。所詮は七光と元・魔王様。長所が破られれば打つ手なしってことか」

失望したと吐き捨てる十六夜。これで勝敗は決し、黒ウサギが宣言したら終わり、と真尋は思い―――十六夜が、この上なく凶悪な笑みを浮かべてる事に気付く。

 

「ああ、そうだ。もしこのままゲームで負けたら………お前達の旗印。どうなるか分かっているんだろうな?」

「な、何?」

 

不意を突かれたような声を上げるルイオス。十六夜達はレティシアを取り戻すために旗印を手に入れるのでは無かったのか。

 

「そんなのは後でも出来るだろ?そんなことより、旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込む。―――そうだなぁ。次はお前達の名前を戴こうか」

 

ルイオスの顔から一気に血の気が引いた。そこで真尋は一度ため息をつき、言葉を連ねる十六夜のもとへ歩く。

 

「その二つを手に入れた後"ペルセウス"が箱庭で永遠に活動できないように名も、旗印も、徹底して貶め―――」

「そこまでだ、十六夜。勝負は決しただろ」

 

真尋は十六夜を止める。十六夜は苛立ちを隠さず、真尋を睨む。

 

「―――真尋、邪魔するのか?」

「目的を忘れるな。僕らの目的はあくまで元・仲間の救出であり、彼らを貶める事じゃない」

「………チッ、貸一だからな」

 

十六夜と真尋は暫く睨み合い―――十六夜が引いた。不機嫌そうに十六夜は背を向けて歩き出す。その様子を見て安心したように息を漏らすと、黒ウサギは宣言した。

 

「この勝負、"ノーネーム"側の勝利です!」

 

こうして、勝負は決した。

 

   *   *   *   *   *

 

レティシアの受難はむしろそれからだった。所有権が"ノーネーム"に移ったまでは本当に良かったのだ。"ペルセウス"に勝利した十人はレティシアと共に大広間に着いた途端、問題児三人は口を揃えて、

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

「え?」

「え?」

「え?」

「………え?」

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方達はホントにくっ付いてきただけだったもの。あ、真尋くんと、ニャル子さん達は除くわよ?」

「うん。まあ、私の仕事が敵の捕捉くらいしか無かったのは残念だったけど」

「しょうがないわ。自重しない策士が此処にいたのだもの」

「つーかラスボス倒したの俺だろ。所有権は飛鳥と耀と真尋と俺で等分2:2:3:3でもう話は付いた!」

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

「というか僕それ聞いてないんだが!?」

 

もはやツッコミが追いつかないなんてものじゃない。黒ウサギだけでなく、当人(強制)である真尋も、ついでに言うとジンも完全に混乱していた。唯一、当事者であるレティシアだけが冷静であった。

 

「んっ………ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れた事に、この上なく感動している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

「レ、レティシア様!?」

 

焦っている黒ウサギに、嬉々としている飛鳥。少し嬉しそうにしている耀に、人の悪い笑みを浮かべる十六夜。その様子を見た真尋は、言葉を聞き流し―――やがて、考える事をやめた。



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あれ、魔王襲来のお知らせ!?
第二十話


取り敢えず、二巻に入ったので邪神の方は暫く休み、窓付きの方の執筆に移りたいと思います。ご了承下さい。―――まあ、窓付きの方は何日投稿できるかわかりませんが。


ニャル子「私は邪神の子!宇宙CQCエン!ハン!サー!」

クー子「私、参上!」

ハス太「最初に言っておく!僕はかーなーりー強い!!」

アト子「その命、邪神(か み)に返しなさい」

頼子「通りすがりの主婦よ!覚えておきなさい!」

ルーヒー「さあ、お前の罪を数えろ!」

クー音「絶望がお前のゴールだ!」

イス(るぎ)「ひとっ走り付き合えよ」

イス香「追跡!撲滅!!いずれもマッハ!!!偉大なるイス人イス香!!」

十六夜「逆廻十六夜、タイマン張らせてもらう!」

飛鳥「貴方の定めは、私が決める」

耀「さあ、ショータイムだ」

白夜叉「さあ、メインディッシュだ!」

テケリさん(友情出演)「ここからは私のステージです!」

ルルイエ・ルル(友情出演)「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと、私を呼ぶ!聞け!悪人ども!私は邪神の少女!魔海少女ルルイエ・ルル!!」

 

ルイオス「(’ω’)うわぁぁぁ!!(絶望)」

 

真尋「やれやれだ」

 

   *   *   *   *   *

 

―――箱庭二一〇五三八〇外門居住区画・"ノーネーム"本拠。真尋の私室。

召喚された日から時は進んで一ヶ月後。窓に露がまだ残る、やや肌寒い時間帯。八坂真尋は日々鋭敏になっていく自身の直感の告げる嫌な予感で、意識が覚醒した。

寝た姿勢のままで真横に一回転すると、つい一瞬前まで真尋の頭があった位置に、小動物ほどの大きさの何かがダイブした。

むいー、むいー。そんなくぐもった音がする。

真尋が横目に音の出所を見ると、何時ぞかの朝のように、シャンタッ君が枕にトペ・スイシーダをかましていた。

 

「シャンタッ君、おはよ」

みー!

 

シャンタッ君が真尋を舐めて起こそうとする事は、既に慣れているため挨拶だけして体を起こし、大きく伸びをしてから耳を澄ませてみる。

外からは、チュンチュン、と小鳥の鳴く声。

隣の部屋からは、ドアを控えめに叩く音が三回、続けて四回―――

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。

 

「……………いや、叩きすぎだろ!?」

 

即座に着替えを済ませ、廊下へのドアを開けた。

 

「真尋、おはよう」

「おはよう、耀。ノック多くなかったか?」

「細かい事を気にしてたら禿げるよ」

「そうだとしたら僕はとうの昔に禿げてる」

 

廊下へ出ると、そこには問題児三人組の一人、春日部耀が立っていた。耀の隣にいる少女は、年長組の一人だろう。耀がノック連打をしていた部屋は確か問題児三人組の一人、久遠飛鳥の部屋であるはずだ。

 

『真尋くんもいるの?用意できたし、入る?』

「ん、構わないのか?」

『別にいいわよ?』

「そっか。じゃあ……失礼します」

「失礼します」

「し、失礼します」

 

部屋に入ると、飛鳥はすっかりお気に入りとなっている赤いドレスを身につけて、ベッドに腰掛けていた。

 

「ごめんね、飛鳥。せっかく作った朝食が冷めたら勿体ないと思って……」

「い、いいのよ春日部さん」

「うん、今は怒ってもいい場面だと思うぞ」

 

唇を引きつらせながら耀に笑いかける飛鳥を見て、真尋は軽く同情した。そして耀は割烹着を着た狐耳の少女の背中を軽く押す。狐耳の少女は緊張した面持ちで朝食の載ったカートを押し、ぎこちない動きのまま飛鳥に一礼して、

 

「り、り、り………りりとおんもします!」

「はい?」

「リリ、落ち着いて」

 

……多分、「リリと申します」と言いたかったのだろう。そう真尋は見当をつけておく。

 

「ああ、以前クッキーを持ってきてくれた時の?じゃあこの食事とお茶は貴女が?」

「は、はい。飛鳥様はハーブを好まれると聞きましたので、菜園で採れるものを一式用意しました。特に朝の目覚めが良いものを用意しましたのでその……喜んでもらえたらなあって………」

 

はにかみながら笑い、ハッと口調を改めようと慌てるリリ。その様子に真尋は微笑ましく感じていた。

 

「―――それに、ニャル子さん達も手伝ってくれて」

「リリ、その食事をこっちに渡すんだ。適切な手段での廃棄処理をする」

「ふぇっ!?」

 

真尋の言葉に驚くリリ。なお、この時の真尋の目は真剣その物であった。

 

「ちょっと真尋くん。それ、私の朝食なんだけど?」

「飛鳥達には言ってなかったな……ニャル子達は、料理が駄目なんだ」

「え?でも凄く手際良く料理してましたよ」

「うん、私も見てたけど凄く上手だった」

「それは知ってる。少なくともニャル子やアト子は料理が得意だというのは理解はしてるんだ」

 

真尋の言葉に頭上の疑問符を増やす三人。真尋はただ、と前置きを入れて言葉を続ける。

 

「食材が地球産の物じゃなかったりするから、SAN値が下がる可能性がかなり高い」

「真尋くん、処理お願い」

 

飛鳥は真尋に料理を手渡した。

 

   *   *   *   *   *

 

真尋が朝食を埋め立て処理した後、真尋とリリで新しく朝食を作り直した。その時、耀と飛鳥が真尋の料理の手際良さに少なくないショックを受けたりしたが、余談である。

 

「―――本拠から貯水池までの道を戻り、脇の街道の先に、とってもとっても、凄くおっきな農地があったんです。牧場もあって、季節の変わり目には二度の収穫祭を行っていました。今は滅んじゃって死んだ土地ですけど………昔の特別菜園場には有名な霊草とか、マンドラゴラとか、その他にもたくさんたくさん素敵な農園があって………!」

 

今、飛鳥達は"ノーネーム"の農園の話をしている。"ノーネーム"には元々大きな農園があったらしい。滅びてるとはいえ、今でも"ノーネーム"の領地は膨大と言える程度にはあるのだ。それだけ"ノーネーム"となる前は強力なコミュニティだったのだろう。

 

「じゃあ目下の目標は土地の再生という事にしましょう。黒ウサギにも相談を―――」

 

と、飛鳥によって話がまとまりかけた時。ヒラヒラと窓の外から一枚の手紙が降ってきた。

 

「………あら?」

 

何処か、既視感のある投書に瞳を瞬かせる飛鳥と耀。そして、何となく―――しかし、確実に。嫌な予感をひしひしと真尋は感じていた。

リリは大きく息を呑んで叫んだ。

 

「す………凄いです!"サウザンドアイズ"の(いん)()が押された(ふう)(ろう)なんて初めて見ました!コレは白夜叉様が直々に印を押した、ギフトゲームへの招待状ですよ!」

「白夜叉から?」

「あのフロアマスターの?」

 

リリの言葉を聞き、顔を見合わせた後その瞳を喜色に染める飛鳥と耀。真尋は、「また、厄介事か……」と人知れずSANチェックを受けていた。

 

   *   *   *   *   *

 

飛鳥が満面の笑みで走り出し、到着したのは本拠地下三階の書庫であった。

 

「十六夜君!何処にいるの!?」

「………うん?ああ、お嬢様か………―――」

 

十六夜の眠そうな声から飛鳥は位置を特定し―――散乱した本を踏み台にして、十六夜の側頭部目掛けてシャイニングウィザードで強襲した。

 

「起きなさい!」

「させるか!」

「グボハァ!?」

 

飛鳥の蹴りは、盾にされたジン=ラッセルの側頭部に見事命中し、寝起きを強襲されたジンは三回転半して見事に吹き飛んだ。

 

「ジ、ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!?大丈夫!?」

「………。側頭部を膝で蹴られて大丈夫な訳ないと思うな」

「というか、飛鳥何やってんだ………」

 

ジンが強襲を受けた事に混乱しながらも、駆け寄るリリと顔色一つ変えずに合掌する耀の言葉はもう、飛鳥の耳に入らないようだ。ジンを吹っ飛ばした飛鳥は特に気にも留めず、腰に手を当てて叫ぶ。

 

「十六夜君、ジン君!緊急事態よ!二度寝している場合じゃないわ!」

「そうかい。それは嬉しいが、側頭部にシャイニングウィザードは止めとけお嬢様。俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」

「「って、(ジン)を盾に使ったのは十六夜さん(十六夜)でしょう(だろ)!?」」

 

ガバッ!!と本の山から起き上がるジンと共に真尋はツッコミを入れる。

 

「大丈夫よ。だってほら、生きてるじゃない」

「デッドオアアライブ!?というか生きていても致命です!!飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも散々」

「御チビも五月蝿い」

 

スコーン!っと、十六夜の投げた本の角がジンの頭にクリティカルヒット。ジンは先程以上の速度で後ろに吹き飛び失神。真尋はそろそろ胃痛で気絶しそうだった。

 

「………それで?人の快眠を邪魔したんだから、相応のプレゼンがあるんだよな?」

「いいからコレを読みなさい。絶対に喜ぶから」

「うん?」

 

不機嫌そうな表情で、開封された招待状に目を通す十六夜。

 

「双女神の封蠟………白夜叉からか?あー何々?北と東の"階層支配者(フロアマスター)"による共同祭典―――"火龍誕生祭"の招待状?」

「そう。よく分からないけど、きっと凄いお祭りだわ。十六夜君もワクワクするでしょう?」

 

何故か自慢げな飛鳥に、プルプルと腕を震わせて叫ぶ十六夜。

 

「オイ、ふざけんなよお嬢様。こんなクソくだらないことで快眠中にも拘らず俺は側頭部にシャイニングウィザードで襲われたのか!?しかもなんだよこの祭典のラインナップは!?『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な"主催者"がギフトゲームを開催。メインは"階層支配者"が主催する大祭を予定しております』だと!?クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」

「ノリノリね」

 

獣のように身体を(しな)らせて跳び起き、颯爽と制服を着込む十六夜を見て、真尋の胃痛は益々強烈になった。

 

「ま、ままま、待ってください!北側に行くとしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してから………ほ、ほら!ジン君も起きて!皆さんが北側に行っちゃうよ!?」

「……北………北側!?」

 

失神していたジンは「北側に行く」の言葉で跳び起きるのを見て、真尋は疑問を抱く。―――何故、それで跳び起きるのか。もしかして、"火龍誕生祭"の事を事前に知っていた……?

 

「ちょ、ちょっと待ってください皆さん!北側へ行くって、本気ですか!?」

「ああ、そうだが?」

「何処にそんな蓄えがあるというのですか!?此処から境界壁までどれだけの距離があると思っているんです!?リリも、大祭の事は皆さんには秘密にと―――」

「「「秘密?」」」

 

重なる三人の疑問符に、硬直するジンと真尋。振り返ると、邪悪な笑みを浮かべる耀・飛鳥・十六夜の問題児三人組。

 

「………そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張っているのに、とっても残念だわ。ぐすん」

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」

 

隠す気の無い悪意を前にし、真尋は黒ウサギを呼ぶべく叫ぼうとして―――

 

「おっと、真尋には眠ってもらうぞ」

 

―――十六夜の容赦ない一撃に、視界がブラックアウトした。



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第二十一話

窓付きの方が思い付かなくなり、気分転換にこっちを書き始めたら一話分完成したので、投稿します。窓付きの方も牛歩くらいのペースで進めていますのでご安心下さい。


あらすじ

 

アト子&ハス太「「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」」

ニャル子&クー子「「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」」

 

真尋「いっぺんに喋るなやかましい!!」

 

   *   *   *   *   *

 

「―――はっ!」

 

真尋が目を覚ますと、何処かで見覚えのある気がする天井―――いや見た事がある。これはサウザントアイズのコミュニティの天井だ!

 

「十六夜達は!?」

「む、ようやく起きたか」

 

声が聞こえたので体を起こし、その方向に目をやると白夜叉が鎮座していた。

 

「彼奴らなら既に行ったぞ?」

「―――もしかして、此処は北側なのか?」

「うむ」

 

肯定を示す返事に項垂れる。そんな真尋のいる部屋に向かって足音が近付いて来た。段々足音が大きくなり、襖が勢い良く開けられる。

 

「真尋君、大丈夫!?」

「真尋さん、ご無事ですか!?」

「少年、怪我は無い?」

 

今までで散々見慣れた三人組―――ニャル子、ハス太、クー子だった。取り敢えず真尋は大丈夫だ、と伝えて立ち上がる。

 

「………ニャル子?」

「はい、何でしょうか?―――はっ、もしかしてプロポーズですか!?真尋さんの安否を心配してくれる私に魅力を感じ、ついにデレてくれましたか!?」

「―――お前ら、どうやってここに来た」

 

三人、全員が黙り込む。目を逸らし、口笛を吹いて、ニャル子に至っては比喩抜きで瞳がクロールしている。

 

「だ、大丈夫ですよ!(ギリ)違法ではないので!」

「ギリ!?ニャル子、お前ギリって言ったよな!?」

「も、モーマンタイモーマンタイ……」

 

冷や汗をダラダラと垂らす―――但し床はまるで濡れてない―――ニャル子を暫くジト目で見て、溜息をつく。

 

「まあ、今回は来てくれてありがたいくらいだからな。今は言及しないでおいてやる」

「アリガトウゴザイマス……」

 

この問題は後回しにして、店舗の出口へ向かう。出口にはすっかり顔馴染みになった割烹着の店員が立っていた、若干疲れた表情で。……店員には近い内に本気で謝罪しに行かなきゃいけないかもな。店員には軽く会釈をして店舗から出ると―――頬を熱い風が撫でた。

 

「これは………」

 

天を衝くかと言うほどの赤壁(境界壁)、それを削り出すように建築されたゴシック調の尖塔群のアーチ、鉱石の彫像に巨大な凱旋門。まさしく異文化の街であり、異世界の街であった。

 

「あ、真尋。起きたんだ」

「ん?」

 

余りにも異質な街に放心していた真尋は、声を掛けられてようやく耀が居た事に気付く。

 

「耀か……十六夜と飛鳥は?」

「逃げた。私は黒ウサギに捕まったから此処で待機してたの」

 

真尋は考える。十六夜と飛鳥が大人しく街を見歩くだけで済むだろうか、と。結論―――ありえない。言うならば、ニャル子と一緒に過ごして1週間平穏に過ごす程度(レベル)でありえない。実際、何時の間にかニャル子達の姿が消えているし。絶対に、何かやらかすだろう。と、そこで白夜叉に呼ばれる。

 

「おんしら、ちょっとこっちへ来てくれ」

「「?」」

 

   *   *   *   *   *

 

「耀には既に告げたと思うが、北側(ここ)で大きなギフトゲームがある」

「そうなのか?」

「うん」

 

お茶を啜っていた耀に確認する。大きなギフトゲーム、というのがどこと無く不穏な気がするが、余り深く考えるとフラグになるので思考放棄する。

 

「そして、耀。おんしに出場して欲しいゲームがあるのだ」

「私に?」

 

耀は和菓子を頬へリスのように膨らませて詰め込み、小首を傾げる。……他種族の力を使える耀だからといって、本当にリスの力を使っている訳ではないだろう。無いと信じたい。真尋がそんな事を考えている間に、白夜叉は着物の袖からチラシを取り出して見せた。

 

『ギフトゲーム名"造物主達の決闘"

 ・参加資格、及び概要

  ・参加者は創作系のギフトを所持。

  ・サポートとして、一名までの同伴を許可。

  ・決闘内容はその都度変化。

  ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用

   を一部禁ず。

 ・授与される恩恵に関して

  ・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望す

   る恩恵を進言できる。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミ

    ュニティはギフトゲームを開催します。

           "サウザンドアイズ"印

             "サラマンドラ"印』

 

「………?創作系のギフト?」

「うむ。人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトの事だ。北では、過酷な環境に耐え忍ぶために恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合う為のゲームがしばしば行われるのだ。おんしの持つギフト---"生命の目録(ゲノム・ツリー)"は技術・美術共に優れておるからの。それで、おんしなら勝ち抜けると思うのだが……」

「そうかな?」

「うむ。幸いなことにサポーター役として真尋もおる。本件とは別に、祭りを盛り上げる為に一役買って欲しいのだ。勝者の恩恵も強力なものを用意する予定だが………どうかの?」

 

うーん、とあまり気乗りしないように小首を左右に折る耀。龍には興味があっても、ゲームそのものには興味が無いらしい―――が、ふっと思い立ったように質問した。

 

「ね、白夜叉」

「なにかな?」

「その恩恵で………黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

小首を傾げて白夜叉に尋ねる耀だが、真尋は代わりに答える。

 

「―――それは、やめておいた方が良いと思う」

 

耀は真尋の返答に驚きの色を浮かべ、不機嫌そうな顔になる。

 

「真尋には聞いてない」

「―――いや、真尋の言う通りかもしれんな」

「えっ………?」

 

白夜叉が頷くのを見て、信じられない物を見たかのように目を見張る耀。真尋は言葉を続ける。

 

「そもそもで恩恵で仲直りしようとする、という発想自体歪んでいる」

「そんなっ!」

「仲直りしたいなら、きちんと謝って仲直りしたいと伝えればいいんだ。恩恵(も の)渡しておしまいって訳にはいかないだろ」

 

耀は真尋の容赦ない言葉に顔を歪ませる。耀が反論しようとするのを真尋は言葉を被せるようにして遮る。

 

「ッ!で、でも………」

「デモもストもあるか!仲直りしたいなら謝ってその旨を伝える!―――そして、仲直りした後で贈り物したらいいんだよ」

「え?」

「僕は贈り物自体は悪くないと思ってるからな。ただ、仲直りの手段に使うのは駄目だと思っただけで、仲を深めるのに使う分には問題ないだろ」

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔の耀に真尋はしどろもどろになりながら告げる。

 

「別に同情とかじゃないからな?僕はサポートを拒否してないんだから、手伝ってはやるよ。ただ、無様な姿を見せるなよ」

「……………ツンデレ?」

 

真尋の言葉は、まさに耀の言うそれであった。白夜叉も笑いを堪えて肩が震えている程度には、様になりすぎている。

 

「え、いや……違うからな!?」

「………うん、わかってるよ」

「その顔、絶対わかってないだろ!」

 

部屋は穏やかな雰囲気に包まれる。外は既に陽は昇りきり、昼を廻り始めていた。

 

 

 

「で、聞きそびれたんだけど、本件って何なんだ?」

「斯々然々」

「………は?魔王?」



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第二十二話

本っ当に久し振りの投稿。
大変お待たせしました。いえ、理由は勿論ありますよ?FGOでイベントが立て続けに起きていたり、趣味のTRPGに没頭してたり、受験が近くなって大変だったり、新作を執筆したいと考えて頑張っていたり……
はい、言い訳ですね。ごめんなさい。
それは兎も角、最新話です。どうぞ。

え?窓付きの方?……頑張ります。


あらすじ

 

魔王「私は魔王―――」

 

白夜叉「ヒャア!ロリっ子だぜェ!」

ニャル子「十二歳以上は―――年増である!」

ハス太「ッエーイ☆」

クー子「全く、小学生は最高だぜ!」

 

真尋「お前らそこに正座しろ!」

 

   *   *   *   *   *

 

―――境界壁・舞台区画。"火龍誕生祭"運営本陣営。

巨大で真っ赤な境界壁を削り出すように造られた宮殿、そこから奥へ繋がる通路を進むとゲーム会場へと到着する。

 

「ニャアアアア!!ニャ、ニャア!ニャニャアアアア!!」

 

三毛猫の鳴き声……いや、猫の応援の声が舞台に響く。三毛猫の向いている先には、"ノーネーム"の少女と同じく"ノーネーム"の少年―――春日部耀と八坂真尋、"ロックイーター"の自動人形(オートマター)・石垣の巨人との戦闘であった。

 

「これで、終わり…………!」

 

耀は鷲獅子のギフトを操り、石垣の巨人の背後へ飛翔すると、その後頭部を蹴り崩す。加えて耀は自分の体重を"象"へ変幻させて巨人を押し倒した。

 

「ニャアアアアアア!ニャオオオオオ!ニャアアアア!」

 

三毛猫が耀の雄姿に雄叫びをあげる。その雄叫びの意味が解る耀は、三毛猫に目配せと片手を向けて微笑を見せた。そこで宮殿の上から見ていた白夜叉が柏手を打ち、観衆の声を止ませる。

 

「最後の勝者は"ノーネーム"出身の春日部耀及び八坂真尋ペアに決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは……ふむ。ルールはもう一人の"主催者(ホスト)"にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

白夜叉が振り返り、深紅の髪を頭上で結った幼い少女へ宮殿のバルコニーの中心を譲った。彼女こそ、龍の純血種―――星海龍王の龍角を継承した、新たな"階層支配者(フロアマスター)"、"サラマンドラ"の幼き頭主・サンドラであった。観察してみると、緊張した面持ちのサンドラに白夜叉が語りかけていた。緊張も少しばかり解れたサンドラは大きく深呼吸して、挨拶を始めた。

 

「ご紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故もなく、進行に協力くださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましては御手持ちの招待状をご覧ください」

 

招待状に書き記された文章は、直線と曲線に分解されて別の文章へと変わっていった。

 

『ギフトゲーム名"造物主達の決闘"

 ・決勝参加コミュニティ

  ・ゲームマスター・"サラマンドラ"

  ・プレイヤー"ウィル・オ・ウィスプ"

  ・プレイヤー"ラッテンフェンガー"

  ・プレイヤー"ノーネーム"

 ・決勝ゲームルール

  ・お互いのコミュニティが創造したギフトを

   比べ合う。

  ・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が

   許される。

  ・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者

   の手で行う事。

  ・総当たり戦を行い勝ち星が多いコミュニテ

   ィが優勝。

  ・優勝者はゲームマスターと対峙。

 ・授与される恩恵に関して

  ・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望す

   る恩恵を進言できる。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミ

    ュニティはギフトゲームに参加します。

           "サウザンドアイズ"印

             "サラマンドラ"印』

 

こうしてその日の大祭はお開きとなり、日も傾き始めて街を巨大な境界壁の影が覆い始めたのだ。

 

   *   *   *   *   *

 

「お風呂へ駆け足ッ!!今すぐです!」

 

境界壁の展望台・サウザンドアイズ旧支店で飛鳥を待っているとそんな一喝が聞こえてきた。

 

「飛鳥か?どうした―――」

「その様な薄汚れた格好で"サウザンドアイズ"の暖簾をくぐろうなどとは言語道断!衣類を此方へ!洗濯します!(ほつ)れは修繕してあげますから感謝なさい!―――は、なんです?生傷?そんなものはお風呂に入れば治りますッ!!さっさと身を清めてください!お店が汚れてしまうでしょうが!」

「え、ちょ―――」

 

真尋が唖然としてる間に、飛鳥はいつもの女性店員に連行されてしまった。

 

「………よし、もう少し待つことにするか」

 

真尋は湯殿から聞こえる騒がしい声も、白夜叉が走って湯殿に入った後の殴打音も、全て無視して待つことに決めた。

 

「いやー、満喫しました。やはりOMATSURIは最高ですねー!」

「ん?ニャル子か―――何してたんだよ」

 

真尋がニャル子の声を聞いてその方向を見ると、浴衣に金魚の入った袋、お面と綿菓子というある意味場違いな格好のニャル子がいた。

 

「いえ、ちょっとクー子と一緒に屋台巡りをしてました」「少年、戦利品があるけど見る?」

 

そう言ってクー子が戦利品とやらを出していき……そこで真尋はふと疑問を感じた。

 

「お前らが祭を満喫してたのは分かった―――で、お代はどうしたんだ?」

 

サッ、と目を背ける邪神二柱。無性に嫌な予感をして、邪神二柱を問い質す。

 

「まさか、とは思うが……無理矢理ギフトゲームを申し込んで、あの手この手で騙し取った……なんてことは、ないだろうな?」

「まま、まさかそんナコト、アルワケナイジャナイデスカー」

「おい、クー子。あの嘘発見器―――『宇宙嘘発見器〈バレるんですSYSTEM-∀99〉』を貸せ」

「少年、無理矢理は良くないよ?」

 

涙目上目遣いで見てくるクー子に真尋は微笑む。

 

「 つ べ こ べ 言 わ ず 貸 せ 」

「う、うん……!」

 

笑顔とは本来攻撃的な意味を含むというが、成程。真尋の笑顔に気押されたクー子は急いで真尋に嘘発見器を渡した。

 

「それじゃ、聞くぞ。お前ら、お代はどうした?」

「え、えーとですね……その、何と言いますか」

「御託はいい。結論を言え」

 

ダラダラと冷や汗をかき、目が泳ぎまくっているニャル子にじっ、と冷たい目線をやる。

 

「……一部は私達のへそくり、大半は白夜叉さんの名義でツケときました」

「よし分かった。僕はそれ伝えに行くからお前らそこで正座して待ってろ」

 

真尋は即座にその場から離れ、湯殿と隣り合った場所にある来賓室へと向かった。

 

   *   *   *   *   *

 

「ふむ、話はわかった。この事に関しては後程、無償でおんしらに依頼を受けてもらう事で許そう」

「その依頼の数と、その『おんしら』に僕も入ってるかどうかについては後で聞かせて貰うからな」

「……簡単には騙されてはくれないか」

 

軽く白夜叉と真尋の攻防が起きた後、レティシアと女性店員は来賓室から離れた。今は十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、ジン、白夜叉、真尋、ニャル子、クー子、そして尖り帽子の精霊がこの場に残っている。

 

「それでは皆のものよ。今から第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めません」

「始めます」

「始めませんっ!」

 

白夜叉の戯言に十六夜が悪乗りし、黒ウサギが速攻で断じた。飛鳥がそれを見ながらふと思い出したようにして聞く。

 

「そういえば、黒ウサギの衣装は白夜叉がコーディネートしているのよね?じゃあ私が着ているあの紅いドレスも?」

 

それを聞いて真尋もあの衣装が黒ウサギのお下がりだということを思い出した。

 

「おお、やはり私が贈った衣装だったか!あの衣装は黒ウサギからも評判が良かったのだが、如何せん黒ウサギには似合わんでな。何よりせっかくの美脚が」

「白夜叉様の異常趣向で却下されたのです。黒ウサギはあのドレスはとても可愛いと思っていたのですが………衣装棚の肥やしにするのも勿体ないと思った次第で。飛鳥さんは赤色がとても似合うので良かったのですよ」

 

成程、そう言うことだったのか。真尋は納得すると同時にふと言葉を漏らす。

 

「飛鳥のその服って、確か結構良い素材何だよな?」

「ええ、動きやすいし、結構頑丈だから助かってるわ」

「……よし、後でその服を貸してくれないか?」

 

ガタッ、と椅子を引いて真尋から離れる飛鳥。真尋は疑問に思い、自分の言葉を思い返して―――顔を赤く染めた。

 

「いやっ、ちがくてっ!その服をアト子に調べて貰って、飛鳥以外の奴用に量産して貰おうかと!」

「そ、そうなの……?わかったわ、真尋君は十六夜君や白夜叉さんとは違うみたいだし、大丈夫よね」

 

思いの外、すんなりと納得してくれた飛鳥。日頃の行いの差が大きく出たようだ。

 

「のう、私はアト子とやらについて詳しく聞いた覚えが無いのだが……」

「私もアト子さんについては、その……(寝取り趣味)ってことと、ものづくりが好きという事しか聞いてませんのデスが?」

「アト子は、あー………ニャル子達の幼馴染みで、宇宙一のアパレルメーカーとやらの令嬢らしい。で、ニャル子達の日用品とかは大体アト子が作ってるらしいから腕も保証できる」

 

白夜叉と黒ウサギに軽く説明してやると、一応理解してくれたようだ。

 

「僕も一応作って貰った物があるけど、見るか?」

「あれ?真尋さん何時の間に作って貰ってたんです……か……」

 

真尋はポケットからほんのりと黄色に染まった三ツ又の小さな道具―――即ち、フォークを取り出した。

 

「僅かな情報から母さんの使っていた『シビレフォーク』を再現できるなんて、中々だと思ったよ。まだ数が心もとないけどこれでニャル子(じゃしん)達以外に心置きなく刺すことができるな!」

 

笑顔の真尋を見て、十六夜と飛鳥と耀は『もう絶対怒らせないようにしないと………ッ!』と固く誓った。



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第二十三話

あらすじ

 

ニャル子「ようこそハコニワパークへ!」

クー子「私はクトゥグアのクー子だよ」

ハス太「すっごーい!」

アト子「貴方はフォークを投げるのが得意なフレンズなんですね」

 

真尋「ご要望に答えて、フォークを投げるぞ?」

 

「「「「ごめんなさい」」」」

 

  *   *   *   *   *

 

「さて、アト子殿の話は横においてだな。実は明日から始まる決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ」

「あやや、それはまた唐突でございますね。何か理由でも?」

「うむ。おんしらが起こした騒ぎで"月の兎"が来ていると公になってしまっての。明日からのギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているらしい。"箱庭の貴族"が来臨したとの噂が広がってしまえば、出さぬわけにはいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。別途の金銭も用意しよう」

 

聞けば成程と、頷ける話だ。

 

「分かりました。明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります」

「うむ、感謝するぞ。………それで審判衣装だが、例のレースで編んだシースルーの黒いビスチェスカートを」

「着ません」

「着ます」

「断固着ませんッ!!あーもう、いい加減にしてください十六夜さん!」

 

白夜叉の虚言に悪乗りする十六夜に、怒髪天を衝く勢いで食いかかる黒ウサギ。その時、全くの無関心だった耀が思い出したように白夜叉に訊ねる。

 

「白夜叉。私達が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

「あ、そうだな。一応聞いても良い情報なら教えてくれ」

「うむ。"主催者"が相手の情報を語るのはフェアではない故、教えられんな。教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」

 

白夜叉が指を鳴らすと、昼間のゲーム会場で現れた羊皮紙が現れ、同じ文章を浮かび上げる。そこに記された参加コミュニティを読むと、何故か飛鳥が驚いたように目を丸くした。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"に―――"ラッテンフェンガー"ですって?」

「うむ。この二つは珍しい事に六桁の外門、一つ上の階層からの参加でな。格上と思ってよい。詳しくは話せんが、余程の覚悟はしておいた方がいいぞ」

 

白夜叉の真剣な忠告に、真尋と耀は頷く。それを尻目に、十六夜は"契約書類(ギアスロール)"を睨みながら物騒な笑みを浮かべた。

 

「へぇ………"ラッテンフェンガー"?成程、"ネズミ捕り道化(ラッテンフェンガー)"のコミュニティか。なら明日の敵はさしずめ、ハーメルンの笛吹き道化だったりするのか?」

 

それは余りにも安直だろう、と真尋は声を挙げようとする。しかしその言葉は、飛鳥の隣に座る黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声にかき消された。

 

「ハ、"ハーメルンの笛吹き"ですか!?」

「まて、どういうことだ小僧。詳しく話を聞かせろ」

 

二人の驚愕の声に、真尋と十六夜は思わず瞬きをする。白夜叉は幾分声のトーンを下げ、その質問の真意を話し出した。

 

「ああ、すまんの。最近召喚されたおんしらはしらんのだな。―――"ハーメルンの笛吹き"とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ」

「何?」

「魔王のコミュニティ名は"幻想魔道書群(グリムグリモワール)"。全二〇〇篇以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出した、驚異の召喚士が統べたコミュニティだ」

「しかも一篇から召喚される悪魔は複数。特に目を見張るべきは、その魔書の一つ一つに異なった背景の世界が内包されていることです。魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと強制力を持つという、絶大な魔王でございました」

「―――へえ?」

 

十六夜の瞳に鋭い光が宿るのを見ながら、真尋は考える。魔王の下部コミュニティであった"ハーメルンの笛吹き"と、今回の話に出てきた"ラッテンフェンガー"は何らかの関係があるのか。真尋の結論としては―――ある、だ。

もし関係のない者のコミュニティだとしたら、かつて魔王と関わりのあったコミュニティ、それに準じた名前にする必要がない。どういう意図にしろ、その名前にした理由があるはずだ。

 

「けどその魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはずなのです。………しかし十六夜さんは"ラッテンフェンガー"が"ハーメルンの笛吹き"だと言いました。童話の類は黒ウサギも詳しくありませんし、万が一に備えてご教授して欲しいのです」

 

黒ウサギの緊張した顔は、もしも魔王が現れた時のことを警戒してのものだろう。十六夜はしばし考えた後、悪戯を思いついたようにジンの頭をガシッと掴んだ。

 

「なるほど、状況は把握した。そういうことなら、ここは我らが御チビ様にご説明願おうか」

「え?あ、はい」

 

真尋の頭に一瞬疑問符が浮かんだものの、そういえばジンは十六夜と一緒に色々と調べごとに励んでいたな、と思い出す。真尋も一応聞いておこうと姿勢を正したところで、ニャル子が極めて似合っていない真面目な顔で話しかけてくる。

 

「真尋さん、少し話がしたいんですけど―――ついてきてくれませんか」

「………マトモな話だったら、ついていってやる」

「ありがとうございます。すいません、ちょっと私と真尋さんは外の空気を吸ってきますね?」

 

そう言ってニャル子は席を立ち、真尋もそれについていく。サウザンドアイズ旧支店の外まで行くと、ニャル子は少し悩む様子を見せ、口を開く。

 

「―――嫌な予感がするんです」

「僕はいつも嫌な予感しかしてないけどな」

「いえ、そういう意味ではなく………大切なことを見落としているような、忘れてしまってはならないものを記憶から失っているような………真尋さん、気をつけてください。真尋さんを失ったら、私は―――何をしてしまうか、分かりません」

「………それは」

 

ニャル子は、どこか悲壮的な顔で真尋を見つめた。真尋、ニャル子、飛鳥………各々が違う思惑を抱えたまま、その場は解散となった。

 

  *   *   *   *   *

 

―――翌日。真尋と耀はギフトゲームに備え、舞台袖で待機していた。真尋はゆっくりと深呼吸をし、試合に向けて気合いを………

 

『うおおおおおおおおおお月の兎が本当にきたあああああああぁぁぁぁああああああ!!』

『黒ウサギいいいいいいい!お前に会うために此処まできたぞおおおおおおおおおお!!』

『今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!』

 

………入れることに失敗した。余りにもアレ(馬鹿)な、観客の声に気合いも緊張感と共に抜けていってしまった。

 

「大丈夫、真尋?」

「………うん、まあ、多分」

 

真尋の脱力した様子を見て、ジンとレティシアから次の対戦相手である"ウィル・オ・ウィスプ"の情報を確認していた耀から、心配の声がかかる。

 

「情報ありがとう、二人とも。あとはケースバイケースで臨機応変に対応するね」

 

耀の何処か抜けたような言葉に、ジンと真尋は苦笑いする。そして、黒ウサギによってゲームは進行し、試合開始の頃合いとなった。

 

『それでは、入場していただきましょう!第一ゲームのプレイヤー・"ノーネーム"の春日部耀と、"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 

耀は三毛猫をジンに預け、通路から舞台に続く道に出る。その瞬間―――耀の眼前を高速で駆ける火の玉が横切った。

 

「YAッFUFUFUUUUUuuuuuu!!」

「わっ………!」

「おっと」

 

その勢いに仰け反った耀を、真尋が支える。頭上を見れば、火の玉の上に腰かけている人影―――ツインテールの髪に白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを揺らす少女。彼女が、愛らしくも高飛車な声で嘲った。

 

「あっははははははははは!見て見て見たぁ、ジャック?"ノーネーム"の女のこの無様な様子!ふふふ。さあ、素敵に不適にオモシロオカシク笑ってやろうぜ!」

「YAッFUFUFUUUUUuuuuuu!!」

 

ドッと観客席の一部からも笑いが起きる。それをまるで気にも留めない耀は、ポツリと呟くような小さな声で告げた。

 

「見て見て、真尋。私みたいにこうして支えてくれる男も居ない万年ボッチが馬鹿みたいな笑いかたしてるよ」

 

空気が凍る。顔を赤くして、口を金魚のように開閉させるだけとなったアーシャを見て溜飲が下がったのか、耀は満足そうに頷く。

 

「はぁ………耀も余り相手側をからかってやるな。そもそも、僕は耀のそういう対象ではないだろ?」

「うん」

「たとえ相手が先に挑発まがいことをしたとしても、一々応戦する必要はないんだからな。"ウィル・オ・ウィスプ"の、アーシャだったか?悪かったな」

「お、おぅ………?」

 

アーシャが毒気の抜かれたような顔をして呆けてるのを確認すると、真尋は黒ウサギに視線で合図する。

 

『あっ………それでは第一ゲームの開幕前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります。ギャラリーの皆さまはどうかご清聴の程を』

 

両者の挑発がうやむやになり、何とも言えない空気となった会場もあらゆる喧騒が消え、はりつめた空気となった。




中途半端な所ですが、一旦区切り。


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