咲-saki- 裏世界の住人 (アレイスター)
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プロローグ上

かなりリメイクしたので、新しい作品として投稿させていただきました。
かなり遅筆ですが、お付き合いいただけたらと思います。
ついでに私は麻雀あんまりやりませんので、知識がヘボいです。
間違っているところなどあれば、どんどん指摘してください。
お願いします。


「なぁ、おっちゃん。俺の相手してくんない?」

そう告げる少年―御堂 時雨がいるのは東京某所の地下

たばこの煙の渦巻く、雰囲気の悪い雀荘。

来る客のほとんどがマンション麻雀並みの高レートで打つため、政府には非公認の賭博雀荘。

当然、中にいる客のほとんどは中年のおっさんばかりで、そのほとんどが入れ墨や、いくつものピアスとガラの悪い男だった。

声をかけられた男は時雨の姿を認めると、少し驚いた様子だったがすぐに普段通りに戻り

「いいぜ。でも、ガキ、お前ここはどういう場所かわかってきてるんだろうな?」

「金のことなら心配ねぇよ、こう見えてそこそこ金はあるんだ」

時雨はパンパンと財布の入った方のポケットを叩いてみせる。

その答えを聞くと男はにやりと笑みを浮かべて

「へっ、そいつを聞いて安心したぜ、で、メンツは?」

「いんや、まだおっちゃんだけ」

「そうか、じゃあ、オレが集めてきてやるよ。そうだな……あそこの卓が空いたな。あそこで待ってろ。」

そういうと、男は打ってない男たちが集まっている集団の中へと向かっていく。

時雨はその言葉通り、卓について待つことにした。

 

 

「おい、お前ら、絶好のカモがきやがったぞ」

集団の中で男は声を上げた

その言葉にその場の男全員が反応する。

「ガキが来た。それもそこそこ金持ちだ。」

「まったく最近のガキはちょっと打てるようになったからってすぐこういうところに来たがる。まぁ、俺たちはそれのおかげでこうして財布が潤ってるわけだけどな」

ワハハハ、と全員がうれしそうに笑い声をあげる。

主導となっている男が少年のことを気にしてその声を静止させる。

「で、どうする?今回は誰が行く?」

「そんなもん、全員行きたいに決まってらぁ、なんせ金のなる木だからな、ガキは。」

「この中で金の無い奴が打てるっていうのはどうだ?」

「そりゃねーぜ、今日はタマタマ勝ってるけどいつもは負けてる奴だっているんだぜ?」

「主に自分のこと言ってるだろ、それ。自虐か?」

また笑いがあがる。

「しゃあねー、じゃんけんだ。じゃんけんで行くやつさっさと決めろ」

「チッ、いいよな、テメェは確実に行けるんだもんな」

「話持ってきてやっただけで感謝しろ」

じゃんけんで結局勝ったのは今日大負けした男と、たまたま今日だけバカつきしている男の二人だった。

そして、その二人と時雨に声をかけられた三人は時雨の待つ卓へと移動する。

 

 

「すまねーな、待たせちまって。さぁ、はじめよーぜ。」

三人が卓につく。

「レートは?」

「俺はいくらでも構わねーよ」

「ガキがいるからなー。点5くらいにしとくか?」

ふざけた口調で言う男にほかの男二人が笑う。時雨も笑った。

「はっ、面白いこと言うねぇ、オッチャン達。そんな点数でする気、無いんだろ?」

「「「………!!」」」

その鋭い一言に男たちは一瞬ドキッとする。

「おいおい、言ってくれるじゃねーか、ガキ。俺たちはお前のこと気ぃ使っていってやってるんだぜ?」

「顔に、カモから金を吸い上げるぜ、ヒャッホウ―って書いてあるぜ?」

「んだと!言いたい放題いいやがってクソガキが!!」

カッとなって飛びつきそうになる男に右手の制止が入る。

制止させたその男は自分の胸ポケットから一本のたばこを取り出し口にくわえて火をつけ

ゆっくりと息を吐き出した。

「そこまで言うからにはそれなりのレートでする覚悟があるんだろうな?」

「言っただろう?俺はそこそこ金持ってるって、アンタらの好きなレートでやってやるよ。」

少年の言葉を聞いた男たちは盛大に大笑いした。

「いい度胸だ、だったらデカピンでやろうじゃねーか」

その言葉を聞いた瞬間時雨の顔色があからさまに曇った。

「なんだ?怖気づいたのか?デカピンでするだなんて思いもしなかったか?ああ?泣き言いったって遅いぜ?お前がどんなレートでもいいって言ったんだからなぁ!」

「ガキが調子に乗ったこと言うからだぜ。本当の裏の世界の怖さってやつをとくと教えてやるよ。覚悟しろよ!」

べらべらとまくし立てる男たちをよそに時雨は大きなため息を吐き出して、小さくつぶやいた。

「……ガッカリだ。」

耳ざとく男たちが反応する

「なんだと!」

「ガッカリだっつってんだよ。ココが本当にこのあたりで一番のハイレート店なのか?デカピンくらいではしゃぐ客がいるなんて、思いもしなかったぜ」

「なっ!?」

時雨の言葉に毒気を抜かれて声も出ない。

「ごめん、やっぱ帰るわ、俺。そんなレートじゃ暇つぶしにもなりゃしねー。」

店を出ようとと席を立つ時雨。

「逃げるのか?クソガキ。」

「あ゛?」

「なんだかんだ言って、本当はデカピンが怖いだけじゃねーのかっつってんだよ、ごるぅあ!打てよ!テメェから誘ってきたんだからよ!」

いや、言ってないだろ、と一応時雨は心の中で突っ込んだ。

卓から離れようとしていた足を再び卓の方に戻し、もう一度椅子に腰かける。

「……いいだろう。」

そして、強く言い放つ

「ただし!やるならデカピンじゃなくてデカデカピンだ。」

今度は男たちの顔が明らかに時雨の時よりも大きく顔がゆがむ。

目線で会話を飛ばす

(どうする?)

(どうするも何もするにきまってんだろ!)

(でも、デカデカピンだぜ?もし負けたら……)

(ガキが強がってるだけだ、そんな高レートでガキが打ってきたとでもおもってるのか?)

(いや、でも……)

(それにいざとなりゃ)

手をクイクイと動かして見せる。

(なるほど。ガキ相手に俺ら、最悪だな)

グヘヘと今にも聞こえてきそうなあくどい笑み男たちは浮かべて、そして、自信満々に言った。

「やろうぜ、デカデカピンで」

「そうこなくっちゃな」

 

              ☆

 

 

対局はわずか3局でけりがついた。

結果は役満二回、満貫一回をツモって全員を飛ばした時雨の一人勝ちだった。

男たちは今でも信じられないといったように固まっている。

「じゃあ、一人25万。それともまだやるかい?」

男たちはおびえきった様子で卓に茫然と座り込んでいる。

「裏の世界の怖さ、だっけ?」

卓に身を乗り出して、男たちに問う。

「「「うっ!」」」

男たちの悲鳴が重なる。

「金、払えないならどうなるか、わかってるんだろうな?」

「頼む!金は必ず用意する。一日でいいから待ってくれ!」

「そんなの払うわけないだろ?逃げるだろ、お前ら」

「くっ!」

「正直だなー、お前ら」

(さぁて、こいつら、どうするかなー)

時雨にとって男たちからのはした金などどうでもよかった。

何度か、仕掛けられたイカサマを難なく崩し、さらに自分に優位なように配置を変える。

男たちはそんなことにはまったく気づいていなかったようだが……

すっかり委縮しきった男たちを心底楽しそうに眺めている。

とそのとき、また新たな入店者が訪れる。

5人くらいの男と一緒に、女の子、それも時雨と同じくらいの学生の年齢と思われる子が入ってきた。

長い少し茶色めの髪をポニーテールにまとめ、その吊り上った瞳はその少女の活発さを表すようだった。

「へー、あんな子もくるんだ。あれは何してんの?」

男たちは時雨の指差す方に顔を傾ける。

だが、誰も答えようとしない。

「教えてくれたら、さっきの負けチャラにしよっかなー」

その言葉を聞いた途端、三人が一斉に説明をしだす。

「おれは、聖徳太子じゃねーんだ、3人一緒に喋るな。心配しなくても負け分はチャラにしてやるから」

そんなつもりで言ったわけではなかったが、そう口にした途端、時雨の頭の中で、今とはまたちがった場所で出会った少女の言葉が脳をよぎった。

イカサマで手に入れた金なんて捨てちゃいなさい!そんなもの、嘘っぱちの金だわ。

その時は、金を集めるのに必死だったが今ではそのことがわかるような気がする。

「で、あの子はなんなんだ?」

「親の借金を返すために打ってる子さ。今日で5日連続だ。俺たちからしてみればけなげなもんだぜ、毎日借金返済のために打って。」

自分とおんなじだ……

年齢の違いや、環境の違いはあるかもしれないが、親の借金を麻雀で返すという行為は昔の時雨と全く同じだった。

「だが、あの子は弱い。話にならない。ちょっと役を覚えただけの初心者。それに、ここで行われる麻雀が普通の正当な勝負であるほうが珍しい。イカサマもバンバン仕掛けてる。そんな状態であの子が勝てるわけもなく、今で借金はもういくらか……」

「そんな奴がどうして、麻雀を選ぶ?他にも賭博なんていくらでもあるだろ」

「一勝。五日間のうちに一勝でもできたならそれで借金はチャラ、そういう条件らしい。ただし、一度も勝てなかったら」

「勝てなかったら?」

「お体でお支払よ。お前もわかるだろ、あのルックスだ。」

もう一度少女の方を見る。

もうすでに卓について打っている。

「ロン!」

少女は悔しそうに歯噛みする。

それでも、少女は諦めようとはしていない。

果敢に立ち向かっている。

昨日今日で詰め込んだ浅い知識だけで。

イカサマなんてされてることも知らずに。

そして、自分と同じ境遇。

時雨が少女に肩入れするには十分すぎるほどの素材がそろっていた。

「5日ってことは今日が最終日か」

「まさか、お前あれにちょっかい出す気か?」

その言葉に時雨は笑いを返すだけ。

ただし、その笑みは力のない笑みなどではない。

不敵に、強気に、負けることをしらない野獣のように口もとを釣り上げて笑った。

「やめとけ、あれはかなり有名な組らしい。下手したら命までとられるぞ」

「ここからは俺の問題だ。お前らにはもう関係ないだろ。情報サンキュー。」

そういって席を立つ時雨の背中を呼び止める声が聞こえた。

「負け分は、働いて返す。くさっても極道もんは仁義ってやつを通すもんだぜ」

「逃げ出そうとしてたやつが、よく言う」

 

 

 

 



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プロローグ中

随分遅くなりましたが、更新です。
かなり短いですが、ご容赦くださいませ。


「おらおら、どうした?もう後がねーぞ。」

周りから少女をまくし立てる声。

「わかってるわよ!これから私の親なんだから、まだ、負けとは決まってない……!」

目で睨み返すが、男たちにとっては少女の睨みなど可愛いものだ。

嫌な笑みを浮かべて、少女が負けるのを今か今かと待っている。

「早くしてくれよ、俺は、もう、朝からずっとビンビンにたっちまってよぉ」

ギャハハハと笑いの渦がその場を支配する。

「もう、リーチかけることもままならねぇっていうのに、どうやって勝つって?」

「うるさい!」

少女の点はもうすでに1000しか残っていない。

そして、これが南4局。

もし、誰かほかの人に上がられた時点で終局。

しかも、周りと開いた点差は少女の点数からわかるとおり一回二回でひっくり返せるような点数ではない。

そのうえ少女はトップで上がらなければ、ならないのだから勝ち目はほぼ0だった。

4人が順に牌を山から取っていく。

ゆっくりと、牌を手元でオープンさせる。

特別いい手とは言えない。

ドラなしで一気通貫を狙うか、安く早く上がるなら役牌をそろえて……と言った具合。

その手を見たすこし遠くの後ろから見ていた少女と打つ周りの男たちに少女の手を伝えるしぐさを見せる。

第一のイカサマはこれだ。

相手の手の内を打っている人間に知らせる。

振り込むことは、まずない。

そして、それはあっという間に迅速に執り行われた。

 

第二のイカサマツバメ返し。

 

ツバメ返しとは、あらかじめ自分の牌山の中に聴牌、和了となるものをまとめておき、隙を見て牌山と手牌を入れ替えてしまう技。

そのスピードは点数のことを気にして、どうするかを全神経を注いで考えている少女にはみえないほどに速いスピードで行われた。

 

ツバメ返しの成功とともに男たちはニヤっと笑った。

勝った……

心の声が漏れ聞こえるように見ている人間にはわかった。

だが、次の瞬間その笑みはかき消された

「見え見えのズルしちゃダメだぜ、オッチャン」

声を放った主は、少女と同じく、こういう場所にはあまり縁のないはずの一般高校生くらいの面持ち。

身長は大体170前後。

体格は、すこし細身と言ったところだろうか。

ポケットに手を突っ込み、自分よりも身長が高いはずの男たちを前にしても余裕の表情を浮かべている。

軽い感じで放たれた言葉に一番に反応したのはやはりその集団のボス(らしき男)だった。

男は、少年の方までゆっくりと歩いていき、真正面に立って言った。

「おいおい、ガキが、言いがかりつけてんじゃねーぞ」

「ぬるま湯につかるちょい悪風情が、俺をガキ扱いすんじゃねーよ……!」

さっきまでの軽い口調とは一転、少年から放たれた言葉は、つめたく、そして強い。

そして、何よりもその雰囲気が、こんなところとは比べ物にならないほどの威圧感をもち、その鋭い眼光が目の前に立つボスの男を凍らせた。

少年がすっと男の横を通り過ぎようとする頃にようやく、何かから目覚めたようにハッとなり、すぐに少年の肩をつかむ。

「チッ、おい待てよ!ガキのくせに舐めやがって、ぬるま湯、だと……!?

テメェ、俺を誰だかわかってて言ってんのか、あぁ!?」

怒りをあらわにする男に少年は見向きもせずに静かにこう告げた。

「……離せ」

その言葉は男の怒りをさらに増長させる。

「こ、のっ、どこまでも生意気なクソガキが!」

少年の方を思い切り内側に引き寄せ、それと同時に放ったもう一方の手が少年の顔面をとらえる

……はずだった。

「なっ……」

少年は男のそのパンチを片手で普通に受け止めていた。

男は、あまりの驚きにすぐにそのこぶしを引っ込める。

「何してる、お前ら!コイツをとっととやっちまえ!」

そして、何かにおびえるように叫ぶ。

しかし、少年に襲い掛かってくる男などだれ一人いない。

別に少年におびえて襲えなかったとか、そういうのではない。

もっとそれ以前の問題。

男たちがそこから姿を消していたのだ。

驚いたのは男だけではない、時雨もまたその状況には驚いていた。

(おっほぅ、あいつら以外とやるねぇ)

とりあえず、時間稼ぎをお願いしたのだが、どうやら時雨の負かした連中はそこそこの力の持ち主だったらしい。

「さぁ、どうする?」

今にも倒れそうな男に向かって時雨は余裕の笑みを浮かべてそう言った。

「な、何が目的だ?」

「目的?俺はただ、見え見えのズルしちゃだめだぜ、って言っただけだけど、ってこれは嘘くさいな。まぁ、嘘だしな。ハハハハッ」

一体なんなんだ、このガキは……と男は心で叫んだ。

だが、それに応えてくれるものはここにはいない。

彼を知る人間がこんなところにいるわけがない。

「率直に言おう、その子を俺に引き取らせてほしい。」

そこで、初めてずっと固まっていた少女が反応した。

「……あたし?」

「そう、お前だ。」

「そりゃ、困るな。その子はうちの大事の商品になる予定の子だからね。」

その声は、遠くの出入り口の方のドアから届いた。

「ボ、ボス!?」

「よう、こんなとこで会うなんてな。神前(じんぜん)。」

メガネをかけたスーツ姿の神前と呼ばれた男は、どちらかというと、専務という面持ちをしていて、計算高いような雰囲気があった。口調もどことなく丁寧さがある。

「ククク、やはり、君だったか。先ほどバカ強い高校生がココにいる、という情報を聞いてね。なんとなく君じゃないかと思っていたんだ。」

「ウソつけ、わざわざ餌までまきやがって。それにしてもよく俺がこっちに帰ってくることがわかったな。」

「僕ももう、いっぱしの組長だからね。その辺はもう、情報網があるのさ。

それとその子はうちの中でもかなりいい物件でね、もうすでに買い手もついている。だからその子を渡すわけにはいかないんだ。」

「おいおい、そこの部下たち、その大事な商品を肉○器にしようとしてたぜ?」

「しってるよ、まぁ、どうせ君がぶち壊してくれると思っていたから、特に心配はしてなかったよ。しいて言うなら僕が君と上手く鉢合わせられるかのほうが心配だったかな。

会えなかったら、君と打てないしね。」

神前のその眼には明らかにさっきまでとは違った先ほど見せた時雨と同じ鋭さがあった。

「つまりは、三年前の復讐ってわけか。ったくよ、まともな学生としてこれからだって時にしょっぱなから……。まぁ、学生になろうっていうのにこんなところに来ちまったオレがわるいんだけどよぉ……」

独り独り言のようにつぶやき、

時雨は大きくため息をつく。

「いいぜ、相手してやるよ。俺が勝てばその子を。お前が勝てば、俺をアンタの好きにして構わない。」

三年前の神前と時雨の対局。

両者とも、ある組織の代打ち。

結局勝ったのは時雨だった。

当時まだ中学生であった時雨に負けた神前は代打ちとしての名声を失い、さらには組から拷問を受け、そして放り出されたのだ。

中学生に負けるクズというらくいんまで押されて。

「君をどうこうするなんてこと僕にとってはどうでもいいことなんだよ。あれから僕もいろいろ努力してね、今では立派な地位を得た。

だけど、いつまでたっても僕の周りについて回るんだよ。当時中学生だった君に負けた代打ちという烙印がいつまでたっても。

だから、今日僕は君をつぶして、自分の地位を完成させる。」




すいません、本当は上下で終わらせるはずだったんですが
僕自身、思わぬ方向に話が飛んで行っちゃって……(^_^;)
おかげでまだ、麻雀ってこと以外咲の要素がないですね、
しかも、話自体は下世話で急展開。
気分を害された方は申し訳ありません。


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プロローグ下

これは、本当にプロローグなのかと思うこのごろです。
まぁ、咲の話がはいってきてないんだからプロローグだよねって思っておくことにしますので、皆さんもそう思っておいてくださると助かります
(……あ、でもそうすると、もうチョイプロローグってつづいてしまうなぁ、どうしようか(^_^;))


「さて、どういったメンツでやるつもりなんだ、神前?」

「メンツはすでにここにいるじゃないか、ちょうど4人」

関係者的立場にいる人間がぴったりと4人いる。

時雨を釣るための餌にされた少女。

グループの中でリーダー的存在だった男。

そして、時雨と神前。

確かに、メンツはそろっていた。

「いいのか?」

「うん?何がだい?」

神前は一切余裕の表情を崩す様子はない。

「いや、お前がいいのならいい」

まだ何か言いたげだったが神前の崩れぬ余裕に言葉を失い、黙って席に着く。

神前も卓へと向かってくる。

途中、立ちほうけていたリーダー(本当のリーダーは神前なので、っぽい奴というのが付く)に声をかけた。

「いつまで、ぼーっとしているんだい?いくよ」

「えっと、あの、ボス、あのガキは?」

かなり戸惑っているようで、言葉がやや詰まり気味である。

それも、そのはずだろう、目の前に現れたちょっと小生意気なガキ、という印象だったはずの時雨がまさかそんなすごい人物であっただなんていうことはこの中でも本人たち以外は知らない。

二年前、時雨は突如として裏の世界から姿を消した。

運命的に出会った少女に連れられて。

姿を消してから二年間時雨は九州でその少女の家族と一緒に暮らしていた。

二年という歳月は噂を消すには十分すぎる年月だ。

そして、噂が完全消滅するとともに彼は東京に戻った。

「君は、そのことを知る必要は無い。本人も知られたくないだろうしね。でも朝霧、先に言っておく。彼に君程度のイカサマは通用しない、下手なことはせずに正々堂々と打ちなさい。ほら行くよ」

どうやら、朝霧、というのがあの集団のリーダーっぽい奴の名前のようだ。

二人が席に座り、4つの席全てが埋まった。

「あんまりしゃべらねーな、大丈夫か?」

ずっと黙り込んだままでいる少女に時雨が声をかけた。

「……しゃべりかけないで」

時雨に対する少女の答えはこれだった。

「はぁ?俺、なんかお前にしたか?」

「ック、白々しい。アンタもどうせ、こいつらと同じであたしの買って何かの道具にしようとしてるんでしょ!そんな奴と話す言葉なんて何もないわよ!」

放たれた言葉に時雨は驚きを隠せないようで目を丸くしている。

その様子にこらえきれなくなった神前はついに大声で笑い出した。

「ちょっと、何がおかしいのよ!」

「どう勘違いしてるのかは知らないけどね、彼は純粋に君を助けようとしているんだよ?」

すこし、驚いたような顔をしたがすぐに冷静に戻って

「アンタたちの言葉なんて信用できないわ。どう考えたってそいつもアンタたちと同じじゃない!」

同じ、というのは人を売ったりするヤクザや極道と時雨がという意味だろう。

相手のボスである神前にあれほど親しげにはなしかけているのだから、そうとらえられても仕方ないかと言われればもしかしたら仕方ないのかもしれないが……

「だって、どうする時雨君?」

「俺の周りはいつでも素直じゃないやつであふれてるんだ、気にすることじゃねーよ」

「心が広いね、感心するよ。」

「フンッ、ちょーうれしい褒め言葉だぜ。」

「おっと、おしゃべりが過ぎたかな。じゃあ、そろそろはじめようか」

 

 

               ☆

 

 

対局が始まって少しばかり和やかになっていた雰囲気はその片鱗を一切残さずに消え去っていた。

そのあまりに強烈な支配されるような雰囲気はいかに高レートで打てるこの雀荘でも頭が一つも二つもぬけて凄いものだった。

当然、その空気を作り出しているのは神前と時雨。

打っているのはただの麻雀なはずなのに、まるで別世界で戦っているような雰囲気が二人にはあった。

その空気は途切れることなく東一局を流局にした。

親が、朝霧から次の時雨へと移った。

と、その途端、空気が明らかに変わった。

「……来たな」

神前は待ち構えていたかのようにつぶやく。

それまで、二人の間に拮抗していた空気が明らかに時雨の方が強まった。

中学時代、この圧力に神前はあっさりと握りつぶされた。

この、何を出しても和了られそうな恐ろしい雰囲気に

しかし、今回は違う。

何万局と打ち続けるうちに、自然と身についた勘がその支配を退けている。

「どうだい、僕も成長しただろう?」

以前打った時とは違う自分の中にある余裕に彼は少しの安心を得ていた。

これで、時雨とは対等だと。

そして、ついに親になった途端異常な強さを見せる時雨を親で流局にした。

半荘、親になるのは2回

その一回を乗り切ったと思うと、神前は少しほっとして心の中で息を吐いた。

「なかなか、やるじゃねーかよ」

向かいの席に座る時雨からも称賛の声が飛ぶ。

東3局もまた流局となり、次に神前が親となった。

神前は特にことさら自分が親になったからと言って強くなるわけではない。

だが、ことさらに弱くなるわけでもない。

……はずなのに

再び、時雨の支配が強まった

それも、先ほどの時雨が親の時とは桁が違うほどの。

このときに初めて神前は時雨の本当の力を目の当たりにした。

 

 

                 ☆

 

「……完敗だよ」

対局は終わってみれば、時雨と神前の差だけが3万点にまで広がっていて、残りの二人は当てられもあてることもしない空気同然のものだった。

神前の目には涙があった。

どれだけの努力をしてきたのか、どれだけこの日にかけてきたのか。

いつも飄々として、決して本当の感情を表に出さない神前が見せる涙からそれらを予想するのは簡単だった。

「勝者が敗者に声をかけるのはマナー違反かもしれねーが、間違いなく、お前は強くなってたぜ。」

そう言って立ち上がると、すぐ隣に座る少女に

「これで、お前は自由だ。どこへでも好きなところに行け」

少女は、何が起こったのかわからないように目を丸くしている。

どうやら、あの言葉は本気だったらしい。

(俺も随分悪人面なんだなぁ)

ちょっとショックだなと思いつつ、時雨は店を立ち去った。

もう雀荘には近づくまい、と思いながら。

外は、夕焼けに染められ赤色に染まっていた。

せわしなく、ビルがひしめき合い、ビルのど真ん中にある大画面では、新しい映画の情報なんかが大きく宣伝されている。

「ちょっと!」

そんな時雨の背中に聞き覚えのある声が聞こえた。

ふりかえってみると、先ほどの少女だった。

走ってきたのか息を切らしている。

「なんだ、礼か?そんなもんなら俺はいらねーぞ」

「そんなんじゃない!」

(そんなんって……)

少々戸惑っている時雨を

少女はじっとまっすぐに時雨を見つめる。

こうして、間近でみてみるとやはりかわいらしい少女だった。

そりゃ、高値で売れるいい商品だろうな、俺だったら1000万は出すぜ、などとバカなことを考えてしまったほどだ。

「その……さっきはごめんなさい」

そう言ってまっすぐ時雨に頭を下げた。

その声の大きさは夕暮れ時の人々の静けさから言ってかなりうるさいものだった。

その大きな声のおかげで注目を浴びた。

「もういいって、顔上げろ。」

時雨は焦って少女を起こそうとする。

少女も逆らわずにすぐに顔を上げる。

「謝ることが目的だったならもう用は済んだな。じゃあ、俺は帰るから。」

自分で言っててこのまま突き放すのはもったいなかったなぁと思いながら、時雨は歩き進める。

しかし、再び強い力で後ろに引っ張られる。

もちろん、引っ張ったのは先ほどの少女だ。

「何だよ?」

これ以上何があるんだ?といぶかしむようにして尋ねる。

「えっと、あの、その……」

とうの少女は、引き留めたにも関わらず、言葉が浮かんでいないようだ。

その慌てふためくさまは、時雨にとって中々キュンと来るものが有る。

小動物のような感じでとてもかわいかった。

「わ、私を一晩でいいので家に泊めてくれないでしょうか?」

時雨は少女の思わぬ言葉に目を丸くした。

少女の方も自分が言っていることを理解しているようでかなり顔が赤い。

「襲ってもいいの?」

「なっ!」

さらに顔を真っ赤にして絶句する少女。

さすがに悪いと思って軽く笑って

「冗談だよ、冗談。」

「ほんとに?」

いぶかるようにして少女は時雨を見上げる。

からかっていて楽しそうなので、明らかにわざとらしく時雨はさっと目をそらす。

「ちょっ!目ぇ逸らさないでよ!」

「エ?ナンナコト?」

「今そらしたじゃない!うぅ、やっぱりアンタもあいつらと同じなんだ!」

少し怒っている表情にも見えるが最初ほどの剣幕ではない。

「でも、お前、住むところないんだろ?」

「ウッ……」

痛いところを突かれて少女の顔がゆがむ。

「あぁ、春先とはいえまだ気温は低いし、野宿はつらいなー。

それに、外で寝れば俺みたいなやつに寝込みを襲われないとも限らないし。

臭いし、さげすまれた目で見られるし。あー、嫌だ嫌だ。

でも、まぁ仕方ねぇな。頑張れや。」

もちろんこの言葉が時雨の本心なんかではない。

ただ単なるほんのちょっとしたいたずら心だ。

友人何かとよくやる、冗談。

もしかしたら、少し時雨もまっすぐに手を差し伸べてやれるほど素直な性格じゃないだけなのかもしれない。

だが、少女は少年と親しい中でもなければ、もちろん友達なんかでもない。時雨のそんな性格など知る由もない。

それが、冗談だとわかるはずもないのだ。

背を向ける時雨に少女は不安げな様子を隠しきれずにあっ、とつぶやく。

だが、なんとなく少女にもわかっていた。

自分がどれだけずうずうしいことを言っているかということくらい。

だから、時雨が背を向けたことについても文句は言わない。

ただ諦めてその場を去ろうと決意したとき、少年の口から再び声が聞こえた。

「信じる信じないはお前の自由だ。ついてきたいなら、ついてこい。寝床くらいなら用意してやるよ」

その言葉が少女にとってはうれしかった。

だから、満開の笑顔で

「うんっ!ありがとう!」

と言った。

そのあまりに可憐な笑顔に時雨は一瞬時を忘れて見とれていた。




一応、これで長い長いプロローグは終了です。
これからが、やっと本番です。
遅筆なうえに、どう進んでいくかわからない迷走状態のこの作品ですが、
コイツ初心者なんだな、と生暖かい目で見ていただけると幸いです。
これからもよろしくです。


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プロローグラスト

時雨の帰宅もとい案内されてたどり着いたのはアパートだった。

外装は出来立てなのかかなりきれいではあったが、一室一室はとても広いとは思えなく一人暮らしがようやくであろうと予想されるような大きさだった。

(この狭さ、まさか、本当に襲う気じゃ……というか、本当に私の寝床あるのかな?)

少女の不安を察してか察さずにか、時雨の口から出たのは少女のとってあまりに衝撃のある事実だった。

「これ、全部俺の家だ。好きな部屋使っていいぞ。」

「ええーーーー!!?」

思わず声を上げてしまう。

外見が一般的に見てもまだ学生くらいの年齢だと思えるほど若い元気そうな顔立ちをしている分余計に驚きの量が大きかった。

「そんなに驚くなよ。」

「え、だって、これ、あんた一人のものなの?」

「そ、大家さんだな。絶賛住民募集中ってとこだ。早速一人埋まったがな。」

まるで、お前がな、と付け足すように少女の方に顔を向ける。

「でも、本当にいいの?こんなきれいそうなところに私なんか……」

すこし不安げになる少女に時雨はすこしニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて

「お体でお支払なさいますか?」

「し、しないわよ!」

「そこは強気だな。じゃあ、入れてやらない。」

「ちょ、ここまで来てそれは無いんじゃないの!?」

「ははは、冗談だ。さっさと入ろうぜ。俺もこれを見るのは今日が初めてなんだ。どの部屋に住むか決めないとな。俺も、お前も」

そう言って時雨がアパートの階段の方へと向かって歩き出すなか、小さな声で少女がつぶやいた。

「……裕香」

「ん?」

「私は裕香、牧野裕香。その、これから、よろしくおねがいします。」

照れくさそうに自己紹介。

時雨もそれに返す。

「俺は御堂時雨だ。よろしくな、裕香。気軽に時雨で構わないからな。」

「……わかったわ。時雨、でいいのね?」

時雨は敏感だったので、その対応から一発で読み取った。

裕香は明らかに自分に対して気が引けているということを。

自分のやったことを自覚していないわけではない。

だけど、そんな態度を取ってほしくてやったわけでもない。

だから、こう提案した。

「おう。それから、俺から一つだけお願いだ。」

「何よ?」

「普通に接してくれ。俺に恩義とか、そういうもんを感じる必要はまったくない。

今回のことは俺が好き勝手にやった結果だ。これからも、好き放題いろいろやるだろーけど、それは俺が好き勝手にやることだ。だから、そのことに対して恩義なんかは感じないでほしい。

ただ、普通に友達として俺とは接してくれ」

実はというと、このとき時雨はもう一つ裕香に対しておせっかいを焼く気でいた。

もちろん、言葉の通り時雨が勝手にやることだ。

そして、これは時雨にとってもとてもプラスなことだ。だから、これを恩義なんかに感じられてヘタに下手(したて)に出られるのは時雨も居心地がわるい。

時雨が求めているのはそんなものではないのだ。

少し、間をおいて裕香は一度深呼吸して

「ふーん、了解。じゃあ、こんな感じでいい?」

と言った。

なんとなく、時雨が変な気を使われたくない、ということだけは読み取った裕香はできるだけ普通に振舞って見せる。

深呼吸をしたのは、気分をリセットするため。

それでも、やはり恩義を感じないわけではない。

いつか、この恩は返す。

その思いはしっかりと胸の中にあるのだ。

裕香の対応に満足した時雨はニィッと笑って満足そうにいった。

「おう、ばっちりだ。じゃぁ、さっそく入るか、部屋に。俺も実はここ来るの、今日が初めてなんだよなー。」

何気ない会話をしながら、二人はアパートの中に入っていった。

 

 

                ☆

 

 

結局二人の使う部屋は二階の階段に近い方を裕香がその奥を時雨が使うということになった。

一階の方が出入りする時には楽だが、暗いし、何というか下は嫌だ、という共通意見の下二人共の二階行きが決定した。

そして、現在はと言えば

「うぅ、悔しいけど、おいしい」

「よくお前あれ食って腹壊さないな。胃袋どうなってんだ?」

時雨が裕香に料理を馳走していた。

最初から用意されていたテーブルに向かい合うように座り時雨のつくったパスタを裕香が食べている。

ゴミ箱に入っている黒い物体を見ながらあきれたような声を上げるのはもちろん時雨だ。

「今まで料理は全部お母さんが……作ってくれてたから」

「そういや、お前、親の借金のために打ってたんだっけ?」

「……時雨ってほんとデリカシー無いわね。普通、今この状況でそんなこと言う!?普通そっとしておくものでしょ!」

「気にするな、それが時雨クオリティーだ」

「どんなクオリティーよ!」

「まぁ、話したくないなら聞かないが、俺がお前と同じだったときはとりあえず誰かに大声で文句を叫びたかった。」

裕香は内心でとっさに声に出ないほど驚いた。

(お前と同じって、それって……)

その言葉のさす意味は話の流れから容易に察することができた。

「なんで急に死んじゃうんだよ!なんで借金残してんだよ!俺これからどうしたらいいんだよ!ってな。この通り全ての事実を抱え込めるほどすごい人間でもないからな。お前もそうなら愚痴の一つくらい聞いてやろうかと思ったんだが。余計なおせっかいだったか?」

(本当に時雨クオリティーね)

時雨だからできる行動なんだと改めて自覚した。

おかしな言葉があまりにもしっくりきてしまうものだから思わずおかしくて笑ってしまった。

「じゃあ、聞いてもらっちゃおうかなー。私、愚痴る時はねちねちしてて、すごく嫌な奴だから自分でも好きじゃないんだけど。」

すると、時雨は突然立ち上がって裕香の下に歩み寄る。

そして、自己紹介の時と同じように頭に手を置いて優しい顔で

「お疲れさま。よく、頑張ったな。」

そう言った。

それを言われた途端、裕香の中で様々な思いが込み上げてきて、涙があふれてきた。

「どうして!?どうして逃げちゃうの!?私一人だけ残して、全部私だけに押し付けて!?今までむけてきてくれた愛情はウソだったの!?こんなことのために私を育ててきたの!?急にいかつい顔した男の人がいっぱい家に来て、お前は売られたんだって!怖かった、味方も誰もいない、私だけ一人ぼっちで、心細くて。」

いつの間にか時雨の胸に抱きつくように飛び込んで、柔らかい手で時雨の肩を何度もたたいた。

まさか、抱きつかれるとは予想してなかった時雨は最初は戸惑ったが、それどころではないほどにつらそうな少女を見て、まるで昔の自分を見てるような気がして

そっと頭を撫でてやった。

その後裕香は泣きやんだかと思うと、力尽きたように眠ってしまった。

(参ったな、今日、日曜だし、明日からの学校の話もしときたかったのに年齢も聞いてないな、同じ高校生だといいが……)

時雨はポケットからケータイを取り出しとある学校へと電話をかける。

『はい、お電話ありがとうございます。白糸台高校 沢木です。』

「もしもし、沢木さん、俺です、時雨です。転入生、もう1人追加お願いできますか?」

            

 

                ☆

 

 

朝、目が覚めるときれいな部屋ののベッドの上で寝ていた。

(あ、そうだ、私、昨日時雨に泣きついて……寝ちゃったのか。結局襲ったりはされなかったのか。絶好のチャンスだっただろうに、って私何考えてるの!?)

寝ぼけてるんだ、と自分を言い聞かせて洗面台に顔を洗いに行く。

顔を洗って鏡で自分の顔を見た。

(本当のところ時雨って私のこと、どう思ってるんだろ?突然出会った私にここまでしてくれて。正直これって相当すごいことよね。売り飛ばされる場面から救ってもらって、おまけに家まで貸してもらって。)

とそこにピンポーンとチャイムが鳴る。

『時雨だけど、起きてるかー。今日から学校行くぞ。白糸台高校』

は?

言っている意味が裕香には理解できなかった。

白糸台高校と言えば有名私立でお金も随分かかる。

もちろん、お金を持っていない裕香が行けるようなところではない。

とりあえず、事実確認だと思い、ドアの方まで向かってドアを開けた。

すると、真っ黒な学ランに身を包んだ時雨の姿がそこにはあった。

「おはよう!」

小気味のいいリズムで元気よく右手を挙げて挨拶をしてくる時雨。

「お、おはよう。ってそれどころじゃない!なんで白糸台高校に私が行くことになるのよ!?」

「あ、もしかして高校生じゃなかったか?」

「いや、年齢的には今年から高校一年だけど。」

「よかった、なら問題ない。俺と同学年だ。制服は突然だったからまだないから中学の時の学生服とかって、無いな。じゃあ、いいや、そのまま行こう。」

「え、私まだ、髪とかまだ、キャッ」

「お前は、そのままで充分だから大丈夫だ!」

今日の時雨は異様にテンションが高い。

だが、それもそのはずで、時雨は小学校3年以来、学校に行っていなかったのだから。

親の死や麻雀はあまりに衝撃が大きく学校どころではなくなっていたのだ。

学校はいわば青春の場。

行けていない分そのイメージをより良いものとして持っている時雨にとって

今日の学校は楽しみで仕方なかった。

昨日とは打って変わって子供のような高いテンションにすこしギャップを感じ戸惑う。

そんな裕香にはお構いなしに手を引いてダッシュで階段を下りていく。

「ちょっとそんなに慌てなくても」

「これが落ち着いていられるかよ!今日からは新しい学校の幕上げだ!」




どうも、お久しぶりです。
ようやく学校の方のテストも終わり、
こんな私の拙作を書いてほしい、と言ってくださる方がいたので、続きを書かせていただきました。何分長い間が空いておりますので、すこしイメージが変わったと思ってもそこは暖かい目で見ていただけると幸いです。
書いてほしいというメッセージをいただいた時は本当に、喜びで爆発するかと思いました。
えー、本作は主には白糸台高校の風景を中心に進めていきますが、なにせ原作でも不明瞭な点が多い高校ですから結果が原作と違った形になったとしても仕方ないと思っていただいてこの作品での白糸台高校の風景を楽しんでいただけると幸いです。ですが、出てきているキャラについてはなるべく原作の方を尊重していきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
では、また、次からがようやく咲のキャラが登場する咲らしい本編のスタートです。咲のような展開になるかは、まぁ怪しいところですが。特に雀荘あたりがw
では、また次回の更新でお逢いしましょう。


感想お待ちしております。


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第一話  気配

ここからは前回にも言っていたように少しオリジナルな設定が入ってきます。
学校の麻雀風景とか、などなど。


白糸台高校の女子麻雀部は全国でもトップクラスの強さを誇る。

中でも、全国2連覇中の宮永照は別格の強さを誇り、最早プロでいてもおかしくないレベルだ。

麻雀になれば、その顔や性格からは考えられないようなおぞましい力を発揮する。

だが、彼女も普段はただの高校生。

普通に学校に登校し、普通にみんなと一緒にみんなと授業を受ける。

そして、それは登校中の一瞬の出来事だった。

先日発売されたお気に入りの作家が書いた小説を片手に2年以上通い続けている見慣れすぎた道を歩いている途中。

髪の毛をポニーテールに纏めた女の子の手を引き、白糸台高校の制服に身を包んだ少年が登校中の照の横を通り過ぎていった。

その一瞬、微かにだが照はその少年に反応した。

時々起こる現象だった。

長い間麻雀をし続けてきたうえで身についた勘とでもいえるかもしれない。

4月に入ってきた新入部員ですでにレギュラー入りを確実視されている淡の時も起こったが淡の時は隣を通り過ぎられた瞬間に冷や汗が頬に流れるほどにすごかった。

が、今回横を通っていった少年はそれほどではない。

にしても、2年で現在レギュラーの誠子あたりとはいい勝負をするかもしれない。

本来、弱い人間では反応すらしないのだからある程度の実力者だろう。

麻雀の人気があがり、麻雀部の実力者である照はその顔も広く始業式の挨拶などを担当させられることが多い。

今年の始業式も挨拶を担当したのだが、あのような男子は見たことがなかった。

それに、妙に制服も新しそうだ。

とすると、転校生だろうか?

すこし珍しいが無い話ではない。前の自分に学校が合わなかった、などの理由で転校してくる人間は少なからずいる。

麻雀に男女は関係ないので、白糸台は男女混合で打っているが、男子はどうも弱い。トップはいつでも同じメンバーのローテーションだ。しかも全員女子。

淡が入って少し新鮮さは感じたが、混合でやっていて、男女混合で楽しそうにやっているグループを見ると、時々男子がメンバーにほしくなった。

だが、並大抵の男子では自分たちの強さに立ち向かえない。

せっかくなら、麻雀部に入ってくれたらいいのになぁ。

少年は楽しそうに走っていく。

少年が見えなくなるのとともに、照は再び本へと意識を向けた。

……少年もまた照に反応していたことなど照は知る由もなかった。

 

 

              ☆

 

 

時雨は先ほどすれ違った女生徒―宮永 照の凄さに驚きを隠せなかった。

(これが全国のトップクラスか。普通の高校生とは迫力が違うな)

だが、時雨にはどうでもいいことだった。

なぜなら、別にもう麻雀にこだわる必要は無いからだ。

昔は借金返すのに必死だったり、そしたらヤクザに気に入られて逃げられなくなって打たされたりと切っても切り離せなかったが、今ではそうではない。

だから、その実力に感心はしてもそれ以上は無かった。

それよりも今の時雨にとっては目の前に大きくそびえたつ校舎の方が何倍も興味のそそられるものだった。

「おおー!これが学校か。懐かしいな!」

あまりに子供のようにテンションを高くする時雨の姿は、裕香にとってほほえましかった。

「懐かしいって、どれくらい学校行ってなかったの?」

「小3からずっと。だから7年ぶりか。」

その言葉に裕香は目を見開かずにはいられなかった。

軽々しく放たれた言葉。しかし、その重みを裕香はよくわかっている

つまりは7年間もの間親の借金に時間を費やしたことを意味するのだ、と裕香は思っていた。

実際は借金はほんの7日で返してしまうのだが、結局それにまつわることで時間を取られたことに変わりはない。

「アンタ勉強できるの?なんなら、私が教えてあげようか?こう見えて勉強は得意だったのよ?」

「そいつは頼もしいな。頼りにしてるぜ」

「任せなさい」

裕香は自慢げに胸を張ってたからかと宣言する。

「さーて、じゃあ、とりあえず、裕香の制服を調達してくれてる沢木さんのところに行くか。職員室にいるだろ。」

てくてくと早足で歩いて校舎に向かっていく時雨に再度裕香は問いかける

「ほんとにいいの?私がこの学校に通っても」

学校に通えるのは正直ありがたい。

だけど、その学費を支払うのは時雨だ。

奨学金は親がいない自分では借りることができない。

なんとなく、時雨の勢いに巻き込まれてついてきてしまったが、未だにそこのもやが晴れずにいた。

やはり気が引けた。

そんな裕香に時雨は少し怒ったような顔をして一発デコピン

「イタッ」

でこを両手で押さえて目に涙をにじませて時雨の方を見る。

「そういうのは無しだって、昨日言っただろ。裕香が気にするようなことじゃねーよ。」

「でも、やっぱり学校なんて……」

高校はもう、義務教育ではない。

裕香は働こうと思えば働ける年齢なのだ。

いつまでも、時雨に頼っているわけにもいかない。

だが、時雨は再び裕香に不機嫌そうな顔でデコピンをした。

また、イタッという声を上げてうぅ、と悲鳴のような声を上げる。

諦めたように、ため息をついて時雨は話始めた。

「これも一つなんだよ。俺の理想としていた学校生活の。その、友達と学校に一緒に登校する、っていうさ。どうでもいい話しながら、毎日登校できたらって思っててよ。もし、裕香がどうしても嫌なら無理にとは言わないが?」

本当に金のことなんて荒稼ぎしてきた時雨にとっては些事だ。

今の時雨にとって大事なのは、金よりも質量詰まった思い出の時間。

それを、裕香は理解したのかしてないのか、こう答えた。

「そこまで言うなら、仕方ないわね。通ってあげようじゃない。アンタの隣で、毎日。覚悟しなさい、アンタが嫌って言っても毎日連れてくからね!」

時雨は裕香の言葉で連想してしまった。

自分の隣に裕香がいて、学生バックを片手に登校している様を。

そして、とてもうれしい気持ちになった。

「じゃあ、土日も学校に行くのか?」

だが、そんなことはおくびにも出さない。

屁理屈も時雨の照れ隠しの一つなのかもしれない。

「そ、それは、ほら、あれよ、言葉のあやよ」

必死に弁明する裕香。

それを気分よさそうに聞きながら、時にまた屁理屈を入れながらも

二人は校舎へと足を進めていった。

 

 

 

                ☆

 

 

「初めまして。あなたが牧野 裕香さんね。私はこの白糸台高校の国語を教えています、沢木と言います。よろしくね。」

メガネをかけ、パンツスーツのやり手のビジネスマン、というのが沢木の第一印象だ。

が、外見ほど固い性格ではない。むしろ柔らかすぎるくらい柔らかい性格の持ち主だ。

「それで、制服は?」

「やっぱり新品はすぐには準備できなかったわ。ごめんなさいね。だけど代用品は用意したわ。」

そう言って、デスクの隣においてあった紙袋の中から、少し年季は入っているもののきれいに折りたたまれた白糸台高校の制服を取り出した。

「じゃーん!これ、私が現役だから8年位前まで使ってたやつなんだけど、裕香ちゃんには悪いけど今日だけはこれを使っといてもらえる?と言っても拒否権は無いけどね、うふふ♪」

「うふふ、だってよ、うわー、鳥肌が」

「時雨君、ひっどーい。ねぇ、裕香ちゃんもそう思うでしょ?」

「あ、あははは……」

「裕香を巻き込んでやるなよ、困ってんだろうが」

「あら、裕香、ですって。もうそんな仲なの?さっすが、たらしの時雨君ね。手が早いわ。」

「そんなんじゃねーって。……裕香もさっと引くのやめてくれ。元々そう呼んでくれって言ったのお前じゃねーか!?」

「いや、なんとなくノリで」

「ナイスよ、裕香ちゃん」

元気にハイタッチを交わす二人。

「じゃあ、俺は先に教室を見て回ってくる。二人で仲良くやってろよ」

そう言って、時雨は職員室を後にした。

「行っちゃったわね」

「そう、ですね」

「時雨君って結構ああ見えて闇が深いのよ。小さいころにいろいろ起きすぎた、あの子の場合。特に失うことに対しては、ね。だから、できるだけあの子のそばを離れないでいてあげてほしいの。元気に振舞って、余裕があるふうにみせてるけど、結構弱い子なのよ。もちろん、ずっとなんていうつもりはないわ。可能なはんいでだけ。せめて彼が普通に別れたら涙を流すだけで済むくらいのもとの精神を戻すまでは、一緒に」

言葉で聞いたことは裕香にはそれほどしっかり理解できなかった。

だけど、沢木が時雨のことを思っていて、時雨のことをわかっていることだけはわかった。

「もちろん、いつまでだって一緒にいますよ。あいつがいることを許してくれる限りずっと。」

そのあと、裕香は時雨の恥ずかしエピソードをいくつか聞いたり聞かなかったり。




ようやく第一話という形で入ることができました。
ココからは、できることなら麻雀の描写を増やしていきたいところではあるのですが、イマイチルールとか点数計算ができないため、おそらく、吹っ飛ばしたり、何かと無理やりもみ消す場合がございますが、ご了承くださいませ。
パソコンでやってると、役がわからない、点数計算が出来ない、でも、麻雀できちゃうんですよ、便利になったものです。
トイトイとか、テキトーにないたらできてる、とかそんなノリですw
……だからわからないんですよ
誰か、教えて!!!(涙目)
あと、感想などありましたら是非お願いします。


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第二話  麻雀部

またしても、感想をいただきました。
いやはや、大変うれしいものです。(´∀`*)
というわけで、書けるうちに書いておこうと思います。
春休みを存分に使って、頑張ります。


時間はまもなく8時半。

だんだんと学校の中も登校してきた生徒たちや教師たちでにぎわい始めていた。

黒板やら机、教室の雰囲気を存分に楽しんだ後、時雨は再び職員室へと戻り、自分のクラスでの紹介を待つ形となっていた。

「あ、そうそう、時雨君達ってまだどの部活入るか決めてないわよね?」

デスクでパソコンをカタカタと打ちながら沢木は二人に尋ねた。

「私は特に何も。」

「俺も特に決めてないな。そもそも部活って何やるかも知らねーし」

あぁ、そういえば、と沢木は思い出したような声を上げる。

「時雨君は小学校以来学校行ってなかったのよね」

デスクから立ち上がり、コピー機から吐き出された紙を時雨たちに一枚ずつ手渡す。

「部活の一覧と活動場所よ。あと、一応功績も打ち出しておいたわ。放課後にでも見回ってらっしゃい」

「さっすが、沢木さん。仕事が早いな。……おっ、麻雀部なんてのもあんのか、それに全国優勝ってこれ、スゲーな」

このとき、時雨はすれ違った女生徒―宮永 照のことをすぐに思い出した。

(へぇ、あんな怪物みたいな奴がゴロゴロいるのか。ちょっと興味がないわけでもねーな)

先ほどは、すごい奴がいるなー、程度で流したが、今の時雨の気持ちはそれとは違う。

時雨は世間の情報には疎く、現在、麻雀が人気の競技となり、もはや将棋のように普通の競技としてとりいれられていることを知らない。

時雨の常識では、麻雀は賭博競技。

中年のオッサンから、ものほんのヤクザまでの高い年齢層が法律で禁じられている賭けを前提として打つ悪の競技。

だが、高校に麻雀部があることを知って、その常識が一部崩れ去り、それが次は純粋な時雨の麻雀の強者を求める欲につながったのだ。

時雨は本来麻雀を嫌いなわけではない。

散々、自分をめちゃくちゃにしておきながら、嫌な思い出が多いくせに、それでもひょっこりと雀荘に首を出してしまうような人間である。

その行動の表す意味は、時雨が麻雀という競技を楽しむ人間なのだ、ということを表しているに他ならない。

だが、本当に嫌な思い出だけが麻雀に詰まっている者もいる。

「私、麻雀部だけはちょっと遠慮したいかも……」

時雨は幸いにして麻雀を楽しんでいたが、裕香はそうではない。

どこまでも非道な連中によって打たされた裕香に麻雀を楽しい競技だと思えるだけの心の余裕は残されていない。

「別に部活って俺たちが同じ部活に入る必要ないんだろ?まぁ、なんにしても決めるのは見てからだけどな。」

その一言を聞いて、裕香はすこしショックを受けた。

いつからかわからないが、裕香はいつの間にか時雨とは同じ部活に入るのを前提として考えていた。

だけど、それは時雨の中では違った。

別にただ、自分が勘違いしていただけだ。だけど、すこし切なかった。

「……うん、そうだね。よく考えたら時雨と一緒の部活に入る必要なんてないもんね」

そこで、チャイムはタイミングがいいのか悪いのか校舎内に響き渡った。

「ほら、クラスで紹介があるんでしょ。はやくいこ」

裕香はせっせと職員室を出て行ってしまう。

「あいつ、なに急いでるんだ?紹介する先生様がまだここにいるってのに。」

(せっかく一緒の部活に入ろうとしてくれてるのに、なんであんなこと言っちゃうかなー、時雨君は。)

この状況を唯一察していた沢木はため息をついて時雨に忠告する。

「ダメよ、そんなことばっかりしてたらいつか逃げられちゃうわよ?」

しかし、そのあまりに抽象的すぎる忠告に時雨は頭に?を浮かべるだけだった。

 

 

 

                 ☆

 

 

 

一年四組

それが、二人の転入したクラスだった。

同じクラスに二人の転校生とは少し、異例のことではあったが、そこは沢木の手回しによって簡単に受け入れられた。

新しい転校生という情報にクラスはその話題一色。

「どんな人がくるんだろうねー」

金髪のロングヘアーを持つ日本人離れした美少女―大星 淡は机の冷たさをほおに感じながらクラスメイトの友人と話していた。

「ほんと、この時期に転校ってどんな人なんだろう?」

「麻雀が強い人だといいなー」

「淡ちゃんってば、また麻雀の話ー」

「わたしは麻雀に恋してるのだー!」

また始まった、といったようにクラスから和気藹々とした雰囲気で笑いの声が上がる。

外見も魅力的ながらその子供じみた元気のいい性格はとても評判がよかった。

そして、淡が麻雀の話題を持ち出したのはただ単に麻雀好きだからだけではない。

今朝、麻雀部の部室にいつものように遊びに行ったときのことだ。

てるー、こと宮永 照はいつも通りはやくから登校して部室で読書をしていた。

その照の話によれば、見たことのない生徒でそこそこ強そうな雰囲気を持った生徒がいる、ということだった。

そして、偶然にも自分のクラスには珍しい転入生が来る。

人物はほぼ同一とみて間違いなかった。

「すこし、興味があるから様子を見ておいて」

それが、照からのお達しだ。

ええー、私だけじゃ不満なのー?などといつものごとくじゃれ合っていたのは置いておくとして。

そんなことは淡にとってはどうでもよかった。

麻雀が強いか、弱いか、それには興味があった。

淡は割と自信家なほうだが(自分は麻雀年齢であれば100歳はあると思っている)その自分でさえ勝てないと悟った相手宮永照。

その照に興味を持たせた相手、実力がないとは到底思わない。

でも、少しがっかりしたことに照の見通しでは自分よりもはるかに実力は劣るらしいということ。

だから、さほど期待はしていなかった。

チャイムが校内に響き渡り全員が着席する。

間もなくして、担任である沢木が教室に入ってる。

二人の生徒をひきつれて。

一人は、少し柄の悪そうな雰囲気を身にまとった野性的な男子。

もう一人は髪をポニーテールにまとめ、整った顔立ちをしたわりと可愛い女子。

胸もそこそこあり、クラスの男子は転校生の女子に少なからず好意を抱くだろう。

男子の方は、ものすごくモテるといった雰囲気ではないが、部活が野球部やサッカー部ならいずれ有力選手になればもてるだろう、と言った感じだ。

(確かに照の言ってた感じで、ちょっとは感じるけど、そんなに強そうじゃないなー、残念。まぁ、でもこれくらいなら麻雀部にいてくれたら悪くないかも♪)

「今日からこのクラスに入ることになった二人です。右から」

「今日から世話になる、御堂 時雨だ。仲良くしてくれ」

(あそこの席の奴か。コイツはこいつで中々)

これが、時雨の淡に対する感想だった。

このクラスは一部を除いてそれほど意地の悪いやつがいるクラスではない。

彼には暖かい拍手が送られた。

「私は、牧野裕香です。これからよろしくお願いします。」

こちらの声援はさらに暖かい。主に男子からだが。口笛なんかも飛び交ってかなりいい感じで自己紹介は幕を閉じた。

そして、淡にとって運のいいことに照の言っていた麻雀がそこそこつよそうな転校生の少年はたまたま空いていた淡の隣の席に座ることになった。

そして、早速距離を近づけるために挨拶をする。

「大星 淡だよ。よろしくね、しぐれん」

「ん、んん、まぁ呼び方はなんでもいいか。さっきも自己紹介をしたが御堂 時雨だ。今日は教科書とかもらってないから授業中はずっと頼りにすることになるがよろしく頼むぜ」

(しぐれんは気に入らなかったのかな?私的にはなかなかいいネーミングだと思ったんだけどなー。まぁ、とりあえず近づくことには成功したしいっか)

その仲良くしている様を複雑な気持ちで裕香は遠目で見つめていた。

 

 

                ☆

 

 

昼休みになって、転校生恒例の質問攻めタイムが訪れていた。

しかし、訪れていたのは裕香ひとり。

時雨は、完全にスルーされていた。

「なんで、アイツにはあれだけ来て俺にはこねーんだ?」

「そりゃ、裕香可愛いもん。しぐれんも一人の転校生だったらあぁなってたと思うよ」

ニコニコしながら淡が机に座って説明してくれる。

「そういや、お前はいかねーのか?」

「私は、別に聞きたいこととかないし。あぁ、じゃあ一つだけしぐれんにしつもーん?」

「ん?俺にか?」

「そう、オレ。しぐれんは麻雀強い?」

いつの間にか淡の笑みは初めのニコニコしていたものから裏でよく見かけた獰猛な笑みへと変化していた。

クラスに入ってきたときよりも一層強い禍々しい、オーラ。

時雨は勝手にプレッシャーと命名していたりする。

登校途中にすれ違った少女も、麻雀を意識するとこんな感じであれよりもすごくなるのか、と思うと時雨の麻雀部への興味はさらにわいた。

(とはいえ、まだまだぬるいな。所詮は部活動のレベルか。少し教えといてやるか)

興味がわくと同時にその裏で培われた獰猛な性格の一部が一瞬だがあらわになった。

「プレッシャーってのはこうやってかけるんだぜ?」

ゾクゾクゾクッ

いままでに感じたこともないような恐ろしい空気。

身動きとれずに淡は頬から冷や汗を流した。

そして、おびえる少女を見て時雨は後悔した。

(しまった、攻撃的なプレッシャーにあてられてつい……)

だが、一瞬だったのが幸いしたのか淡はすぐに笑みを取り戻した。

「あはっ☆これはかなり強そうだね」

その言葉に時雨はホッと一息つく。

恐ろしく、おぞましかったがそれでも淡は笑った。

ただ単にその場を取り繕うために、笑ってごまかそうとして笑みを浮かべたのではない。

これほど強い人間がいたことがうれしかったのだ。

それほどまでに、大星 淡の麻雀の強さへの執念は貪欲だったのだ。

(これは、てるーにも報告しとかないとね)

てるーの実力、しぐれんは超えてるかもよ?




それでは、また感想の方お待ちしております。



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第三話 強さの兆し

前回の話はだいぶ好評だったのか、評価も増えて感謝の極みです。
その評価にこたえられるよう、いい作品にしていけるように頑張りたいと思います!
よろしくお願いします。

一つお知らせです。
打つシーンにおいてハーメルン様が牌の変換ツールをご用意してくださっておりますが、私の知識では至らないところが多すぎると思いますので
多少、戦ってるシーンなどは入れますが、極力短く、手牌は公開いたしません。
そういうシーンを期待してくださっていた方には申し訳ありません、できるだけそれ以外で面白くなるよう努力してまいります。


時雨は学校というものを勘違いしていた。

というより忘れていた、というのが正しいかもしれない。

青春の場である学校。

そんな理想を描いていたのは、ただ単なる時雨のマンガの読みすぎのせいであろう。

マンガでは、放課後部活に打ち込んだり、休み時間であったりと、都合のいい時間しか映し出されていないのだ。

しかし、それは学校で起こるほんの少しの出来事に過ぎない。

学校の本分、それは初めに裕香にも忠告されたように勉強なのだ。

特別賢くない、むしろバカな時雨にとってこの長い長い授業時間は理想とは程遠い地獄だった。

「あぁー、疲れたー」

ようやく本日最後の授業である国語が終わったところで、時雨は机に突っ伏した。

(あくびのしすぎで顎が外れるかと思ったぜ)

「おつかれー」

隣の席から元気のいい声がかかる。

顔もとてもニコニコ顔だ。

「お前、なんでそんなに元気なんだ?」

淡は元気のいいタイプだが、それほど賢いタイプには見えない。

勉強なんかは時雨と同じで苦手そうに見えるのだが

「ふふん、真面目に授業受けるなんて、しぐれんは真面目だねー。私には授業のともがいるのさ」

そう言って淡はポケットから見せつけるようにケータイを取り出した。

電源をつけてロックを解除するとすぐに立ち上がったのは麻雀のアプリ。

そして立ち上がった直後にでてきたのは赤く燃え上がったyou winという文字。

勝ったところでチャイムが鳴ったか、先生にばれそうになったかで無理やり電源を切ったのだろう。

「それよりさ、しぐれんはこれからなに……」

「時雨!」

淡の声をかき消すように響き渡る声。

声の主は、なんだか妙に不機嫌そうな顔をした裕香だった。

ずんずんと時雨たちの下によって来る。

「これから、私と部活見学に一緒に行くんでしょ!さっさとする!」

時雨の引き出しから配られたプリントをガッと抜き取って裕香は時雨を引っ張っていく。

「あ、え、ちょっと、裕香?……わるいな、じゃーな、淡。」

「うん、じゃーねー。」

淡は何を考えているのかわからない笑顔で二人を送り出した。

 

 

 

                ☆

 

 

 

「何、怒ってるんだよ?」

教室を出ると、すぐに引っ張る手を放してズンズンと一人先に競歩のようなスピードで歩いていく裕香に時雨は困惑していた。

「べっつにぃ~」

しかし、答えはこうだ。

別にと言いつつ怒っているのは丸見えだ。

裕香はただ悲しかったのだ。

時雨が自分のことを当てにしてくれないのが。

それ以前に、ただ雀荘で出会っただけの私に学校まで行かしてくれたということは学校が不安だったからなんだと思っていた。

だから、もっと自分に頼ってくると思ってた。

なのに、休み時間には席で突っ伏したり、大星と会話したりとまったく自分の下に寄ってこない。

確かに、クラスメイトに囲まれていたというのはあるが。

それでも、時雨がこっちに来そうなそぶりを見せたらすぐに抜け出せる用意はあった。

こんなのは、八つ当たりだ。

だけど、なんだか腹が立った。

もちろん、時雨にそんな裕香の思いがわかるわけでもなく、どうやったら機嫌を直してくれるかで、頭を悩ませつつただひたすら歩いていく裕香についていく。

(ここはひとつ胸でももんで適当に空気を茶化すか。一回もんでみたかったし。いや、でもそれをするとむしろ悪化するか?)

時雨はどこまでも残念な思考回路のバカだった。

そんなことをあれやこれやと時雨が考えていると不意に裕香が口を開いた。

「お、大星さんと、どんな話してたの?」

(ようやく口を開いてくれた、これはしっかりと答えねば。ん?どんな話してたっけ?)

「覚えてないな、しいて言うなら麻雀の話かな」

さっき、話していたこと以外、頭に残っていなかったのでとりあえずそう答えておいた。

そこで、裕香の眉はぴくっと動いた。

裕香の見る限り、時雨と大星はとても仲よさそうにしゃべっていた。

その内容は麻雀。

朝も、時雨は麻雀部に対して関心を示していた。

(麻雀は好きじゃないけど、時雨のためなら……!それに、時雨のあの実力ならこの学校の人たちの実力にガッカリして止めるかもしれないし)

「じゃあ、今日の見学は麻雀部にしましょ」

「ええ!?お前、麻雀部だけはいやっつってたじゃねーか。別に俺に合わせて無理する必要はねーぞ?」

「うるさいわね、気が変わったのよ。」

(まぁ、時雨とあえたっていう面では、麻雀も悪くないしね)

そんなことを、裕香はふと頭の片隅で考えていた。

 

 

 

                ☆

 

 

 

白糸台高校麻雀部部室。

そこで、宮永照は淡から予想もつかない答えを聞かされていた。

「すごいんだよー、もう、殺されちゃうかと思った」

どこの世界の話だ。

威嚇だけで、殺されるとまで予感させるなんて……

淡は軽いテンションで話すものの思ったことをありのままに話す。

そのまま淡のテンション通りで聞いていれば殺されるかと思った、なんて言われたところで冗談にしか聞こえないが、照はそうは思わない。

淡がこういう以上、本当に死ぬとその一瞬思ったのだろう。

「てるーの最高の実力しらないから何とも言えないけど、もしかしたら、あっちの方が強いんじゃない?」

あくどく、にやっと淡が笑った。

楽しみな証拠だ。

「バカなことをいうなよ、淡。照より強い奴なんて高校にいるわけないだろ。」

この白糸台高校麻雀部の部長でありシャープシューターの二つ名を持つ弘世 菫(すみれ)があまりの淡のバカげた発言に文句を言う。

「ええー、私はただ、おもったことを述べただけですよー」

他人の意見などどうでもよさそうにもとの能天気な淡に戻って、ドーンとソファーに座り込む。

麻雀自体が普及してきたこともあってか、白糸台の麻雀部の部室はかなり広いし豪華だ。

雀卓は8台。

それをすべておけるスペースがあることもさながら、さらに待っている間のんびりしゃべれるような談話室のようなスペースが用意されていたりする。

基本的に実力差で卓の位置が決まっており、しゃべる相手も次第に固定されてくる。

淡は一年生ながら初めの実力テストのような打ち合いで実力を見せつけ、挙句の果てにレギュラー陣を出向かせて打ち破った超人一年生だ。

誰一人として、淡が三年の部長やレギュラー陣とため口でしゃべっていることに異議を唱える者はいなかった。

「じゃあ、人数もそろったし、私たちも打ちましょうか。」

照 淡 誠子 菫の四人が談話スペースをでて卓に向かう。

皆が打っていて卓は空いていなかったが、レギュラー陣がきたことで一つ、すぐにあけてもらえた。

全員が卓についた時、麻雀部の扉がガラガラと音を立てて開いた。

「麻雀部は、ここでいいんだな」

照はそこに立つ少年を見た瞬間、すこし笑った。

淡はもっと純粋に喜びを表現するように立ち上がって

「おっ、しぐれん!それに裕香も、やっほー。」

大きく時雨に手を振った。

「おお!大星じゃねーか、お前、やっぱり麻雀部だったのな」

淡が時雨たちの下へとよっていく。

「あれが、さっき淡が言ってた?」

「うん、そうみたいだね」

菫と照は時雨を値踏みするように遠目から三人の様子をうかがっていた。

「どしたの?」

相変わらずのスマイルで問いかける。

「裕香が言ってただろ、部活めぐりだよ。」

「それで、麻雀部に来てくれたんだ!じゃあ、せっかく来たんだし打と打と。しぐれんに見合った最高のおもてなしをしてあげるよ。裕香はどうする?こっちは普通の人間じゃ入ってこられないよ?」

裕香は感じ取った。

淡からでたその明確な圧迫感を。

それとまったく同じものを時雨からも一度感じたことがある。

雀荘で打っていた時だ。

あの時ほどじゃないにせよ、麻雀の経験者じゃない自分が入れる域じゃないことはわかった。

正直、のけ者にされるのは癪に障ったが、これほどまでに差があるのでは仕方が無いと諦めた。

「私は時雨たちが打っているのを見学しとくことにするわ」

その対応はいたって普通だった。

だが、それはその差がわかるものだけの話だ。

淡が裕香にプレッシャーをかけたことくらい、時雨がわからないはずはない。

そして、裕香が淡のプレッシャーに反応したことも。

それは、時雨にとっては意外だった。

ココにいる人間の何人が今のプレッシャーをわかるだろうか。

さすがに、時雨のように他人から他人のプレッシャーがわからないのは仕方ないにせよ、自分に向けられたプレッシャーに気付くことも普通はできない。

だって、淡はそのプレッシャー以外においてはいつも通りのスマイルなのだから。

半ば無理やりだが、強い人間ばかり(しぐれにとっては半端な奴らばかりだが)と打っていたおかげで少し裕香にもわかるのかもしれない。

だとしたら、すごい、すごすぎる成長だ。

裕香があの中途半端組で打っていたのはたった5日。

最後には俺が一度プレッシャーを卓にいる全員にかけたが、それだけだ。

(余ってる部屋の一つを麻雀部屋にしてもいいな)

もし、裕香が麻雀をやる気になったら、全力でサポートしよう。

絶対、彼女は化ける。

時雨がそう確信した瞬間だった。

「納得いきません!」

照たちとは違う卓で打っていた男子生徒の一人が声を上げた。

「急に来た新入生が大星さんやレギュラー陣と打つなんて、納得できません!」

それに便乗して不満の声が次々と上がる。

「あちゃー、先走りすぎちゃった……」

淡は面倒なので理解していないが、ココの麻雀部は完全に実力で割り振られている。

ランクこそA、Bなどとつけられていないものの、それぞれに班があり、レギュラーは別格にして班ごとに与えられている卓の数も違うほどに強さで差別されている。

その光景を見ていた照は一瞬止めに入ろうかとも考えた。

自分も早く彼と打ってみたい。

自分が感じただけでも、おそらくはあそこにいるランクの人間には負けるようなレベルじゃないのだから。

だけど、止めるその手を再び自分の下へ戻した。

彼のこの言葉で

「じゃあ、お前らに10連勝できたら、レギュラー様と打たせてもらう。これで、文句はねーか?」

「ふんっ、そんなものできてから言ってもらおうか!ここがどれだけの実力者のそろった学校か噂だけではわからないらしい」

「男子はそんなに強くないんだろ?」

にべもない言葉である。

「グッ……だが、ランク分けは男女混合で行われている。男女の実力の違いは最早関係ない!」

どうやら、この生徒は淡と仲良くしている時雨のことが気に入らないらしい。

それとも、裕香のような美少女を平気でつれていることが、だろうか。

まぁ、どっちにしろ時雨には関係のない話である。

「あーわかったわかった。こっちは10回も打たなきゃならねーんだ、さっさと……」

――始めるぞ

このとき、時雨は淡に見せた程度のプレッシャーをレギュラー陣のいる卓にかけた。

まるで、あとで打つ挨拶代りと言わんばかりに

このとき照は、淡の言っていた殺されそうな感じをまさに体験していた。

 

 

 

 

 




結局、前書きでわざわざ注意書きしときながらそういう描写が毛ほどにもありませんでしたね、すいません。
まぁ、でも読んでいただけていたらわかるかと思いますが、次回は絶対書く感じの終わり方にしてるので、そのときに前書きの注意を再び思い出してください。
面倒かけて、申し訳ないです。

あと、これは普通に話を書いてての私の感想なのですが、だんだん麻雀の域を超えた描写が増えてきたなーと思っています
調子に乗りすぎはいかんな、自重せねばと思っておりますが、みなさんはどう思っているのか少し気になっている次第です。
もしよろしければお聞かせください。

普通に感想もお待ちしておりますのでよろしくお願いします。


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第四話 圧倒

今回は前回行っていた通り麻雀のシーンを一話まるまる入れました。


こころして読んでください


今までの中で、一番面白くない可能性が高いです。


「ロン。5200で、お前の飛びだ。これで、10連勝だな?」

全局半荘で打ったのにもかかわらず決着には1時間と掛からなかった。

そして、どの局として最後まで打たれた局はなかった。

菫がシャープシューターと呼ばれるのであれば、時雨はいったいどう呼べばいいのだろうか。

それほどまでに彼の狙いは正確で残酷だった。

やられた人間は心がさぞかし折れたことであろう。

外から見ていた淡達でさえ何が起こっているのか理解が追い付いていない。

理解不能な打ち方にやたらと正確な狙い撃ち。

「てるー、どうだった?」

照には、そのあまりに高い観察力から照魔鏡と呼ばれる相手の本質を見抜く目がある。

10局も打っているのだ、いつも東一局で見極めてきた照が何もつかんでないわけがない。

淡達にはそんな無駄に根拠のない安心感があった。

「…………ない」

だが、淡達の当ては完全に外れとなった。

「ダメ、まったく、わからないわ」

照にとってもこんなことは初めてだった。

本来ならばある程度固定されているはずの牌の切り方や狙い方、相手を気にする視線、リーチが来た時に出る態度、そのどれもが対局ごとに変化する。

時雨の演技がうまいのか、それともすべてが時雨なのか

どちらにしても結局時雨を把握することができなかったのは確かだった。

「照でもわからないのか……!」

菫は照の力を信頼している。

ゆえに、それに対しての驚きは尋常じゃなかった。

だが菫とは全く違った反応を示したものが一人。

「ええー!?てるーでも無理なの!?」

目をらんらんと輝かせて喜ぶ淡。

「でもやっぱり、それくらいじゃないと面白くないよね、てるー?」

淡が挑戦的なのはいつものことだが今回は

「そうね、とっても楽しみだわ」

冷静な照にもそれが移ったように照は燃えていた。

そして、得体のしれない化け物は目の前に立っていた。

「それじゃ、約束通り、打とうぜ、レギュラー様たち」

悪魔、いや、魔王の笑みを浮かべながら

 

 

 

                ☆

 

 

 

当然というのか、時雨の代わりに外れたのは誠子だった。

全員が山から牌をとり終わって対局が始まる。

「今回は打ってる相手が相手だし、我慢する気もないから最初から全力でいくね☆」

そして淡は牌を横向けにして河におく。

淡お得意のダブリーだ。

そして、彼女にはもう一つ絶対安全圏があるので、打っている全員が五向聴以上の手牌になっている……はずだ。

照はじっくりと時雨の動向を見ていた。

もちろん、凝視しているのではない。さりげなく、様子をうかがう程度に。

先ほどのうち方は確かに強力だったが、まだ自分に及ぶほどではないと照は踏んでいた。

菫も本気を出せばあれくらいはやって見せるだろう。

だが、いまだに何も見えないのは気になる。

だから、この東場を使ってじっくりと見極めよう。

照はまだまだ余裕を保った状態でいた。

だが次の瞬間照は自分が何を見ているのかわからなくなった。

(わ、たし?)

ほんの一瞬自分を見ているような錯覚に陥った。

見ているのは時雨なはずなのに……

動揺している照をよそに場面は進んでいく。

「カン」

淡のカン。これもほぼおなじみと言っていい。

その言葉で頭を現実に戻された照は再び時雨に集中する。

だが、それ以来どう、と言った様子もなく、だが何かつかめるわけでもなく淡の和了の声が上がった。

「ツモ ダブリー 裏が乗って3000 6000」

相変わらずとんでもない裏の乗り方だ。

このツモによって菫が親の東一局は終了した。

(今さっきのはいったい……?)

照の頭の中に疑念が残ったまま東一局は終了した。

 

 

                ☆

 

東2局は淡の親だ。

この調子だと淡の一人勝ちになりかねない。

さきほどの打ちっぷりから言っても時雨が何もしかけてこないとは思えないが

とりあえず今は何もしてこないようだ。

そう気持ちを切り替えて照は意識を時雨から自らの牌へと移動した。

(落ち着いて、いつも通りに。私は、強い……!)

自分に喝を入れて手牌を広げる。

相変わらずの絶対安全圏によって手牌は5向聴。

そして、またも淡のダブリー。

だが、淡はカンをするまではあがることがない。

「ポン」

その声は右隣にいる時雨から発せられた。

「ポン」

またも時雨だ。

5向聴以上から始まっているはずの時雨から二度も。

照の手牌はまだ3向聴。

時雨のポンが照には何かの前触れに思えてならなかった。

だがそのポン以来時雨は何も行動は起こさなかった。

それを狙って照は次々と手をそろえていく。

始めは、安手から、ゆっくりと

「ロン 1000点」

あがり続けて彼が出る間も無く終わらせる。

得体のしれない時雨に照は焦りを感じていた。

 

 

                ☆

 

 

東3局の親は照。

時雨はそんなこと毛ほどにもしらないが淡と菫は照の圧倒的な和了(ホーラ)率を知っている。

照の久々に見る闘志をみて菫はヘタすればこの局で終局になるかもしれないな、と思っていた。

こうなってしまえば絶対安全圏など意味をなさない。

絶対安全圏は確かに手ごわいが、淡自身、それほど和了るのがはやいわけではない。

そして、照は例え5向聴で始まったとしても牌に愛されているかのように必要牌が集まっていき

「ツモ 1000オール」

今回も自分たちをまったく寄せ付けない。

先ほどの彼のうち方には目を見張ったがやはり照ほどではなかったか、と菫は少しほっとした。

だが、菫には一つの違和感があった。

それは、あまりに静かすぎる時雨の存在だった。

 

                 ☆

 

 

東3局三本場

照の勢いは止まることを知らず、誰も寄せ付けないように和了り続けた。

点数差はもはや2万以上。

毎回の無策のダブリーで淡の点数はすでに一万を切っている。

だが照の心には安心が毛ほどもなかった。

あるのは、早く上がらないと、という焦りのみ。

その気持ちは照が和了るごとに強くなっていた。

なぜなら

時雨はこの状況においても飄々と笑っているからだ。

突き放せば突き放すだけ、照は追い込まれていっていた。

どれだけ突き放しても表情を変えない時雨に恐怖していた。

早めにかたをつけないと。

あと一息で、勝てるんだ。

そして、またしても淡のダブリー。

自分の手牌は一巡まわってきて4向聴

そして、また一巡まわってきて3向聴

――2向聴

その時、照は自分の心の奥底を誰かに見られているような感覚に陥った。

その感覚はほかのプレイヤーが照の照魔鏡を受けているときのそれに他ならなかった。

「カン」

それを宣言したのは淡ではない。

時雨だ。

だが、照には淡がカンをしているように見えた。

(まただ、また……)

「見えるっていうのも、怖いもんだよな」

不意に時雨が口を開いた。

他の二人は何を言っているのかわからない、と言った様子だったが照だけはわかっていた。

「俺みたいな道化には格好の獲物だぜ?」

その言葉で今までのがすべてワザとだったことに照は気づいた。

始めに見た時に照が自分自身を見たように錯覚したのも

先ほどのカンが淡のものに見えたのも

すべて……

(この子、本当にヤバい)

だが、淡のように時雨が和了る気配はなくまた一巡回ってきて手牌は1向聴

(あと一巡でいいから耐えて……!)

ここで和了れなかったら勝てないことを照は本能で悟った。

だが、残念ながら照の願いは天に届かなかった。

「ツモ 裏が乗って 4000 8000」

淡が和了る。

このとき、完全に空気が変わっていた。

和了った淡に流れが行っているのではない。

それは、菫も気づいていた。

淡だけがのんきにうれしそうに点棒を握っている。

淡はこの空気を支配する支配者によって和了らされたに過ぎない。

完全なる支配空間。

この空間が出来上がって

時雨が負けたことはかつて一度もなかった。

 

 

               ☆

 

 

東4局、親は時雨

時雨にとってこの対局は終わったも同然だった。

だが、正直な感想としては強かった方だと時雨は思っていた。

特に宮永照は別格。

どうやら自分のことをやたらと気にしてくれていたようなので少し遊んでみたりもしたが

もしも、もっと場数を踏んでいたならば勝負はどうなったかわからないだろう。

淡は本当に純粋に麻雀を楽しんでいた。

強いものを求める割にはなかなか無策なところが多い、天然と言われる部類の人間なんだろう。

だが、その天然素材はなかなかのものだ。

常にダブリーを駆けられる超人的な運。

さらに不思議なことに周りの牌のそろいが悪くなるらしい。

始めの方は時雨ももろに受けていた。

もう一人は……まぁあんまり特徴的ではないな。

だが、冷静だ。

決めつけも多いようだが基本見る目は冷静そのもの。

照には一枚劣るが、別の方向にその冷静さがいかされればもしくは化ける可能性もないとは言えない。

そして久しぶりの普通の麻雀。

すこし緊張感に張りつめていたが、やはり賭けが絡むときほどではなく

時雨自身も純粋に楽しんだ。

主に宮永照で。

「次は、もうちょっと強くなっとけよ」

まだ対局が終わってないのにもかかわらずそんな言葉を時雨は吐いた。

いや、時雨の手牌を見ていたならば終わったと思っても無理はないのだが……

「随分と自信満々だね、しぐれん。だけど、正直しぐれんにはがっかりだよ。もうちょっと強いかと思ってたのにさ」

淡だけは唯一なにも時雨についてこの対局中に勘付いていなかった。

これは、淡が鈍感、なだけではない。

「お前は裕香にちょっと圧力かけてくれたからな。少し大きなしっぺ返しを食らってもらうぞ」

(あの圧力がわかることが知れたのは収穫だったが、せっかく少しだけ前向きに考えていてくれた裕香が淡のせいでまた麻雀はいや、なんて言い出したらどうしてくれるんだ!)

そう、時雨はそのことを少し怒っていたのだ。

思いもよらないところでの一撃、つまり不意打ちは何よりも効果覿面だ。

ゆえに隠した。

「何言ってるかわからないけど、まあいいや。リーチ」

相変わらず、ありえない強運と無策がかさなったダブルリーチ

「ロン」

そして時雨は自らの牌をオープン。

「字一色、大四喜。四暗刻単騎 240000点だ。」

「あれ?絶対安全圏が効いて……ない?」

その手牌には誰もが驚きを隠せなかった。

そして、目論見通り一番驚いていたのは淡だった。

 




どうだったでしょうか?
初めての挑戦、ということかなり不安です。
文章もいつにもまして乱雑になっているなーと自分で読んでいても思います。
これでも、私なりに努力はした方なんです!
でも、咲の小説を書いているのに咲の本分である麻雀のシーンがこれじゃぁ、なぁ……とこの先に不安を感じる思いです。

できればまた、アイデアやアドバイスなどをいただけると幸いです。

普通の感想もまたいただけると元気が出ますので、書いてやろう!という方は是非よろしくお願いいたします。



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第五話  苦悩

その日の夜。

宮永照の頭の中は、時雨との対局をぐるぐると再生し続けていた。

照にとってあれほどまでに完璧な敗北は初めての経験だった。

昔、妹と打っていた時に何千局と打つうちに何度か負けることはあった。

しかし、そんなのは何千局と打っていれば当然と言えば当然の結果で……

とそこまで考えたところで自分はどうなのか?と考え直した。

もし、妹の時のように何千局も打てば自分も時雨に勝てるのか、と。

照が出した答えはNOだった。

少なくとも今の状態では。

だが、今日の対局、時雨のことを意識しすぎて実力が全部発揮できなかったのもまた事実だった。

あまりにあっさり負けてしまったために自分を守るための言い訳かもしれない。

……もう一度打ちたい。

そして、素の力でどれだけ自分が時雨に対抗できるのかが知りたい、そう思った。

「照、お風呂湧いたわよ。さっさと入っちゃいなさい」

照の部屋からそう遠い場所ではないリビングから母親の声がした。

照の家はただいま別居中で、照と母は東京で、妹と父親は長野で暮らしている。

昔はよく4人で家族麻雀をしてお年玉を賭けたりもするほどにこの家は麻雀一家だった。

だが、ある日そんな関係は一瞬にしてつぶれた。

親の間で何があったのか照は知らないし、知る気もない。

だが、彼女は妹―咲とだけはもう一緒にいたくなかった。

本当は自分よりもはるかに才能を持っているのに、誰よりも麻雀が好きなはずなのに、周りに合わせて自分を隠してあたかもつらそうに麻雀を打つ咲。

そんな彼女の姿は麻雀一筋で生きてきた照とってはこの上ない屈辱だった。

そういえば、と照はもう一つのことを思い出す。

そして、彼女はベットから立ち上がり、風呂場、ではなく母のいるリビングへと向かった。

「母さん……」

「何かしら?」

洗い物で忙しいのか照の方には顔もむけずに問い返す。

「今日、学校で麻雀、負けちゃったんだ……」

「あら、珍しいわね。新しく入ってきた大星ちゃんかしら?」

「ううん、今日初めて来た男の子。多分転校生。重ね役満の240000点で淡が飛ばされて終わったわ。」

その瞬間、照の母―宮永 悟の手が一瞬だが止まった。

だが、すぐさままた洗い物を再開する。

だが、二人暮らしでそれほど洗い物が出るわけでもなく、洗い物はほどなく終了した。

タオルで手を拭いて、洗い物をする際にとんだ水をふき取ってから照に椅子に座るように言った。

対面する形で座って悟は話を再開させた。

「なんで、そんなことを母さんに言うの?それとも何かしてほしいことでもあるのかしら?」

昔、照は一度だけ母親がとんでもない気配を漂わせていたことに気付いた。

だが、そんなはずない、と打ち消した。

だって悟は家族麻雀でも常に下位にいて金を奪い取られる方だったのだから。

だけど、今悟った。

今、対面している母親は正真正銘の化け物だったということを。

「私はもっと強くなりたいの。誰にも負けないくらいに遥か高みへ。」

強さに固執する理由は自分でもわかっていた。

咲だ

咲の存在がどこまでも自分を焦らせているのだ。

あんな表情をして打つような妹にだけは負けたくない。

だけど、何千局と打つ中で何度かまみえた咲の真骨頂は自分なんかでは到底止められるものではなかった。

だからこそ余計に負けられない

だが、悟はその熱い闘志を包み込むかのように柔らかな笑みを浮かべた。

そこにさっきまでの圧力はもうない。

「あなたは、もう少し気楽に麻雀をやるべきよ、照。」

「でも、そんなのんきこといってちゃ私……」

「あなたが咲を意識してたことは知ってるわ。でもね、二人とも同じ私たちの血を引いた子なのよ?そんな大きな才能の差はでないわよ」

「でも、明らかに私は咲には才能で劣ってる……!」

「あー、ダメダメ。相変わらず頭が固いわね。そういうところはお父さんそっく

り。じゃあ、迷える愛しい娘のために一つだけヒントをあげるわ」

 

―あの子は、咲はどんな時、その才能を輝かしたのかしら?

 

照がそのことを考えようとしたとたんに悟は立ち上がり

考え事はお風呂に入りながらにして頂戴、と照をリビングから追い出したのだった。

だがしかし、風呂場でどれだけ考えても咲がその才能を輝かしたタイミングの共通点が照にはわからなかった。

ついでにのぼせて一時間ほど動けなくなったというのは、照には珍しいおまぬけな一面であった。

 

 

               ☆

 

 

 

同日夕方

時雨と裕香は麻雀部を出て行った後、裕香のものが何もそろっていなかったため日用品を買いにデパートへと来ていた。

「一応、食材とか洗面用具はそろえたから、あと必要なのは……服だな。」

その言葉を聞いた途端、裕香が過剰に反応した。

「服!?買っていいの!?」

目をキラキラさせながら時雨に問いかける裕香。

「新しいも何も、お前何にももってねーんだろ?」

うんうん、と激しく首を上下運動させる。

「いや、なんなら裸で過ごすっていうのも……」

顎に手を当ていやらしい目つきで裕香の体を下からなめるように見る。

裕香は悪寒を感じてとっさに手で体を押さえ、時雨をキっと睨む。

「冗談だ。じゃあ、買いに行くか、つっても俺わからねぇからなぁ。

それに、下着とかも買うなら俺はいたって邪魔だしな。ちっこいけどゲームセンターで暇つぶしとくから、決められたら呼びに来てくれたら金は払ってやるよ。」

そう言って、視界に入るか入らないかの隅の方にある小さいゲームセンターを目指して歩き出そうとする時雨を裕香が止める。

「えーっと、その、せっかく買ってくれるんだから、服くらいは、その、一緒に選んでよ」

視線は時雨と真逆方向に向き、恥ずかしいのか顔を文字通り真っ赤にして言葉も区切れ区切れで裕香は言う。

予想外の誘いに時雨は驚いた。

だが、同時に少しうれしかった。

「よっしゃー!任せとけ。下着から全部ばっちり見て選んでやるよ!」

「ちょ、下着は自分で選ぶから来ないで!服!服だけだからね!」

デパートの中でその声は大きく響き渡り、買い物中の客の視線を集めた。

そして、自分が口走った言葉を思い出して裕香は顔を真っ赤にした。

 

 

 

               ☆

 

 

 

レディースコーナーに到着すると、裕香は人格が変わったように店の中の服を片っ端から見て周り、ポンポンと服を手に持っていった。

考えなしにとって言っているように見えるほどそのスピードは速く、理解のない時雨には何が起こっているのかさっぱりわからなかった。

そして、1時間ほど回ってようやく一段落した時には手には20点以上の服がのせあがっていた。

(こいつ、確か一緒に選んでよって言ってたよな?)

あまりの独走っぷりに疑問を感じずにはいられなかった。

だが、どうやら時雨の出番というのはここかららしい。

たどり着いたのはカーテンのかかった個室、つまりは試着室だ。

「……覗かないでよ」

ジト目をしながら時雨に忠告する。

「俺だって堂々と公然猥褻はしねぇよ。」

ならいいけどと言ってカーテンを閉める

(本当に信用ねぇな。まぁ接し方的にこの反応は当然か)

1分ほど待った後そのカーテンは開いた。

勿論、時雨が開けたのではない。

ブラウスに紺のジャケットを上から着て、下はひざ上のベージュ色のスカートのカジュアル系のコーディネイトを決めた裕香の姿がそこにはあった。

(出会った時からそうだったけど、裕香って……)

――本当に可愛いよな

その姿を見て心底そう思った。

制服姿でも十分そうだったが、こういう私服姿になると中々にうまい組み合わせも相まってさらに彼女の魅力を引き立たせていた。

「どう、かな?」

顔を赤らめ、俯きながら訪ねてくる姿はさっきまでの雰囲気からのギャップもあってさらに魅力的に感じた。

「……お、おう!いいんじゃねぇか」

一瞬言葉も忘れて見とれていたが、我を思い出してとっさに生返事をしてしまう。

だが、裕香も生返事がわからないほどに緊張していたようで、よ、よかった、と少しうれしそうにはにかんだのだった。

だが、そんな展開になったのも初めだけで、その後、何着も着替えていくうちに、少し前までの雰囲気に戻っていた。

この後裕香は下着も買いに行ったが、当然時雨はついてこさせなかった。

 

 

                 ☆

 

 

「いつの間にか、もうこんなに暗くなってのね」

外に出ると、入ってきた時とは打って変わって星空が見える夜へと変わっていた。

明るい街灯が夜の街を明るく照らし出している。

二人とも両手いっぱいに荷物を抱えている。

「さっさと帰ろうぜ。晩飯も作ってやらなきゃならねーしな。作れない誰かさんのためにな」

「言ったな、見てなさい、アンタなんかすぐに追いぬかして、私が料理をふるまってあげるわ」

「いつになるんだよ、それ」

冗談めかして笑いあう。

街灯に照らされた道を帰る途中、ふと空を見上げて裕香は言う。

「きれいねー。いつぶりかしら、こんな景色を楽しめるなんて」

それもこれも全部時雨のおかげなんだな、としみじみ思う。

「裕香に星空を楽しむ感性があったことに驚きだぜ」

「失礼ね、あるわよ。」

そのまま歩き続けること5分、時雨たちの帰るべきアパートがその姿を現した。

今日の買い物で裕香は新たな生活がはじまるんだ、ということを強く感じていた。

「時雨」

だから改めて伝えておこうと思う。

「ん?」

この感謝の気持ちを

「その、ありがとね。これからよろしく!」

その言葉の持つ意味をなんとなくでだが時雨も理解した。

「あぁ、よろしくだ、裕香!」

このとき、時雨も裕香もお互いの距離が縮んだ気がしたのだった。

 

 

 




前話では、随分と多くの方が間違いを指摘くださったおかげで、なんとか正しい形で持って行けたのではないかな、と思います。
本当にありがとうございました。

今回の話を書いていて、改めて自分は麻雀の描写を書くのが苦手なんだなぁと再認識しました。

また、感想などございましたらぜひぜひお願いします。


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第六話  校長

「アレが、転校生か……けしからーん!」

白糸台高校の校長室で窓越しに望遠鏡をのぞきながら声を荒げる男がいた。

その場所にいることからこの学校の校長なのだろう。

しかし、校長というわりには若い顔立ちをしており、髪は8:2分け。

スッと望遠鏡を目から遠ざけ、机の上に置くと、机に脚をクロスする形で踏ん反りが得るように椅子に座った。

「即刻退学だぁ!朝から私のモロ趣味の女の子と楽しく登校だなんていい度胸だ。

沢木君、今日は彼らと面会のはずだね?」

矢継ぎ早に言葉を繰り出して、よく息が続くものだと、沢木はいつも思っている。 

「はい。放課後に。」

この校長―江角 洋介はこの学校に赴任してわずか2年で校長にまでのし上がった超のつく天才だ。

だが、彼の身内の中での普段の態度はまるでわがままな子供の態度のそれと同じだということをこの一年で学んできた。

表にはあまり出ない人間だから、その実体はあまり知られていないようだが。

「フンっ!まったく誰のおかげでこの学校にいるのか、理解してもらう必要があるな!それと昨日の麻雀部騒動は彼らによるものらしいが……そんなに彼らは麻雀が強いのか?」

「裕香ちゃんの方はともかく、時雨くんの方は、相当な実力者でしょう。」

それは、あの女子レギュラーチームを倒した時点で疑う余地のないものだろう。

「だが、中学のころに麻雀大会に出ていたことも無ければ、どこの中学出身でどこの高校から転校してきたのかも不明。不明な点の多い奴だ……ふーん。」

にやっ、と口もとを釣り上げて江口があくどく笑った。

だが、その笑みをコロッと一転させて沢木の方を見た。

「それより沢木先生、今夜、夜景の美しいレストランのチケットが取れたんですが、あのクゥソォガァキと御嬢さんの相手が終わった後に、どうですか?」

江角が丁寧な口調に代わる時は、わがままモードから紳士的な態度に変わることが多い。仕事や初対面の人間への相手の時はほとんどこれだ。

クソガキというところが激しく強調されていたところを見ると、相当に時雨のことが気に入らないらしい。

なんとなく、この二人をぶつけてみるのは面白いと思い沢木は発破をかけるようなことを口にした。

「ごめんなさい、私、時雨君の方が好みなんですぅ。それでは、失礼しまーす。」

陽気に去っていく沢木を後ろ目に江口は再び大声を上げた。

「くっそぉぉおお!退学だ!即刻退学だぁ!私の平穏な暮らしを邪魔する虫は排除だぁぁあ!クソッ……痛っ!なんで固定型なんだ、ココの机は!気に入らない、気に入らない!、すべて撤去だぁ!」

足の痛みに目に涙を浮かべながら盛大に宣言したのだった。

 

 

                 ☆

 

 

「うぅー!やっと授業終わったぁ」

「お前、ずっとケータイで麻雀やってただけじゃねぇかよ」

大きく伸びをして、喜びにひたる淡に時雨がツッコむ。

「教師の目を欺いてゲームやるのって結構肩凝るんだよ?それよりもさぁ、しぐれんは今日も当然、麻雀打ちに来てくれるんだよね?勝ち逃げなんて許さないんだからっ!」

さも当然のように言う淡に時雨はこういった。

「……俺はもう、あの麻雀部にはいかねぇぜ。」

「え?」

「お前らは、弱い。圧倒的に弱い。弱いお前らと打ってても俺はつまらねー。もし、俺と打ちたいなら、それ相応の賭け素材を持ってくるか、強くなることだ。俺が認めるくらいにな!」

そう言い残して時雨は裕香の下へと行こうとする。

「……どうしてそんなことが言えるの?私たち本当はもっと強い!この前だってちょっとしぐれんの実力確かめたかったから手加減しただけ!もう一度でいいから打ってよ!」

大きな声を張り上げる淡にクラスがどよめきをみせる。

それは、普段の淡いとはあまりにもかけ離れていたからだ。

「……ちょっと手加減しただけ、か。うらやましい限りだ。」

そんな淡に向かって憐みの眼を持って時雨は向き合った。

「俺たちの世界じゃ、そんなの、許されなかったぜ?」

敗北=死。

そんな場面を時雨は幾度となく経験してきた。

それゆえに、その言葉の重みが淡に届いたのかもしれない。

淡はそれ以上、何も言わなかった。

淡の放心姿を見て寄ってきた時雨に尋ねた。

「どうして、行ってあげないの?」

「お前には関係ねぇだろ。それにお前も麻雀いやがってただろ。」

「私が理由なら、行ってあげて。私はそんなこと気にしないから……」

「俺の言ったことは本当だ。あんなのじゃ、打ってても面白くないんだ。それだけだ……」

だが、内心時雨は少し後悔していた。

自分の世界のルールを理由に使ったことを。

ここはあんな場所とは違う。

一緒にしてはダメなんだと。

だから、少しだけ言葉を追加した。

「3人で俺を狙い撃ちする作戦でも立ててから、かかってこい。」

そう言って二人は教室を出た。

「優しいね♪」

「うるせー」

二人は昼休み、沢木に連絡を受けていた通り校長室へと向かった。

 

 

                ☆

 

 

部室で淡は教室で時雨に言われたことを説明した。

「って、いわれちゃったー、あはは……」

淡のその言葉にいつもの元気はない。

笑い方もやはりぎこちない。

「負けは許されない、か……」

照は言い訳をしていた自分を恥ずかしく思った。

初対面だから、相手の力を見誤っていた、と理由をつけてもう一度闘わないと分からないから闘ってみたい、そう考えていた自分が。

でも、時雨と打ちたい、という気持ちは今も変わっていなかった。

だが、今度は自分が彼にどこまで食らいついていけるか、という考えはなく、純粋に勝ちたいと思っていた。

照は今初めて、悔しいという気持ちを自覚した。

いままで無敗の自分が軽くひねられたことが悔しかったのだ。

言い訳は、もう抜きだ。

だが、時雨の言っていた3人ではなく自分一人で勝ちたい。

自分の力だけで

だが、今の状態では勝てない。

だとすれば、方法はただ一つ、母の言っていたことの意味を探すしかない。

「私、今日は帰るわ」

照は部室を出て行った。

5人が4人になった。

ソファーで寝転んで足をばたつかせていた淡が質問した。

「私のうち方って、何がダメなのかな?いっつもてるーにも負けちゃうしさ。

この前だって飛ばされたのは私だったし」

「麻雀年齢100歳のお前がそれを私たちに聞くのか?」

部長の弘世が挑発するように言う。

彼女も、まったく名も知らないような人間に負けたことにいら立ちを覚えているのだ。

「私もそう思ってたけど……」

「お前は、考えなしに打ちすぎなんだ。運がいいのをいいことに自牌ばかりを見すぎだ。もっと周りの動きや空気を読め」

「だって読むまでもなくみんな飛んじゃうし……」

「……なんか腹立つな、お前」

淡は不幸なことに自分を打ち負かす超人がいない中で今まで育ってきた。

井の中の蛙状態だったのだ。

周りが弱すぎた彼女は一度麻雀を止めた。

時雨の言っていたことがそのまま彼女にも当てはまった。

―弱い奴と打っててもおもしろくねー

だが、この学校に来て照と出会った。

自分でも勝てないと思えるほどの超人とであったのだ。

そして、こうして今は麻雀部にいる。

だが、まだ一度として照にすら勝てていない。

強いところに胡坐をかいている間に成長しようとする気をなくしていたのだ。

照と打つことを自分は楽しんでいるが、照はいったいどうだろう?

これからも一向に成長しない自分とまだ打ちたいと彼女は思うだろうか?

照は自分より強い時雨と出会って、まだ強くなろうとしている。

今の彼女なら打ってくれたとしても強くなった照はどう思う?

自分は今の照よりも弱いのにこの実力に胡坐をかいていていいのか?

いや、ダメだ!とその考えをばっさりと否定する。

私は麻雀が好きだ。

だから、まだまだ強い人たち……時雨や照に自分と打ってほしい。

「じゃあ、教えて。どうやって考えて打ってるのか!」

「いつになく、本気だな。いいだろう。座れ」

4人が卓についた。

だから強くなる!

もう、打っててつまらないなんて絶対言わせない!

そう強く思った。

 

 

 

                 ☆

 

 

「私が校長の江角です。どうぞ、以後お見知りおきを」

現在、校長室にいるのは、時雨、裕香、沢木、そして江角の4人。

「俺は御堂だ。」

「私は牧野 裕香です。」

「かぁぁあ、やはりこちらの御嬢さんは礼儀というものをわかっていらっしゃる。

それに対して御堂君、君は年配の人にはです、ます、をつけるように教わらなかったのかね?」

お得意の早口でさっそく時雨を攻め立てる。

「悪いなぁ、そんなこと教えてもらう間もなく蒸発されたもんで」

「それにしたってこれだけ大きくなれたんだ、当然一人の力でそうなったわけではあるまい?だとすれば当然君にそういうことを教えてくれる大人がいたはずだ、違うかい?」

相変わらず、どこで息継ぎをしているんだろうと思うほどに長い文章をよくも噛まずにいえるものだ、と沢木は一人感心する。

「ぜんぜん習わなかったけど?むしろ理屈は力でねじ伏せられたね。3つ下の奴に敬語なんて使われたことなかったぜ?」

「それは君が居候という立場だったからだろうが!だが今の私と君との立場関係は学校の校長と生徒だ、つまり君が私を敬うのは当然であってそんな口をたたかれるいわれはない!敬意の払えない生徒はうちにいらない。即刻出て行きたまえ」

ビシッと時雨に指をさす。

「じゃあ、そうするか。」

「え?」

時雨の言葉に疑問符を浮かべたのは江角だった。

江角はこの放課後になるまでインターネットと人員を用いて時雨のことを調べ上げていたが情報はまったく得られなかった。

そんな得体のしれないやつが沢木の力まで使ってこの学校に入ってきたのだ、何か大きな理由があるとみて当然だろう。

「学校はもっと面白いところだと思ってたんだが、割と面白くなかったしな。裕香も退学でいいか?」

「あ、いや牧野さんを退学にするとは一言も……」

その反応を見て時雨はピンと来た。

「俺がこいつの金は出しているんだからな。俺が退学ならこいつも道ずれだ。それに、俺たちを受け入れてくれる学校の校長のために手土産も持参してたのになぁ」

時雨はポケットから通帳を取り出す。

そして、机の上に放り投げる。

江角はちらっと確認した直後に大きく目を見開いたまま固まった。

そのすぐ後に机から時雨がその通帳を取り上げる。

江角の視線は通帳から外れない。

「いやぁ、実に残念だ。それじゃあ、失礼。行こうぜ、裕香」

「ちょっと、待ちたまえ」

立ち上がって江角は二人が出ていこうとするのを止める。

「いやぁ、敬意を払えないのは家庭の事情があってのことだ、仕方が無い。これからそういうことをぜひともわが校で御堂君には身に着けてもらいたい。そういうことを学ばせるのが学校というものだ。いやはや、先ほどは私の失言だった。御堂君、牧野さん、これからもわが校の一生徒として勉学に励んでくれたまえ」

時雨はそれを呼んでいたかのようにニヤっと笑うと

再び江角のもとまで歩いていき

がっしりと江角の手を握った。

「物わかりのいい人で助かったぜ。」

その手には先ほどの通帳がしっかりと握らされている。

「じゃあな」

晴れやかな笑顔で江角は二人を送り出した。

そして、その後

「一 十 百 千 万 十万 百万 一千万!!きたぁぁぁあああ!!新しい車でもかっちゃおっかな~♪」

手放して喜んだ。

一方、校長室を後にした時雨たちも同じことを話していた。

「ねぇ、あの通帳、いくらいれてたの?」

「一千万」

「一千万!?」

「どうだ、恐れ入ったか!」

偉そうにする時雨に裕香は心底ため息をついて

「いや、いろんな意味で恐れ入ったわ……」

とつぶやいた。




書いているうちにだんだんマンネリ化といいますか、話の進むスピードがだんだんと重くなってきているように感じます……。

あと、今回の校長誰かに似ていると思うのですが、わかりますかね?
ゼヒわかった方は教えてくださいませww

勿論のことですが普通の感想もお待ちしておりますので、ぜひお寄せください!


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第七話 誘拐

4月も後半に差し掛かり、夏の暑さが少しずつ顔を出す頃。

どこともわからない密室の暗闇で、宮永照は見知らぬ大人たちに囲まれていた。

手足はロープで縛られ、照は身動き一つできない。

「そろそろ、観念したかぁ?」

「………」

「チッ、いつまでも強がってんじゃね――ぞ!」

男のけりが見事に照の腹部を捉える。

グッと声にならないような悲痛の叫びをあげながら照は横倒れの状態になる。

倒れている照を男は無情にも髪を引っ張り上げて顔を向けさせる。

「俺たち、そんなに気が長い方じゃねぇんだ。さっさとしねーと……」

行動で体現するように照の服の腕の部分をビリッと音を立てて引きちぎる。

半袖のほんの少ししかない腕の部分を引きちぎられて、肩からは下着の一部が見える。

「まだまだ、テメェをいたぶる方法なんて五万とあるんだ。早いうちに折れるのが人生を楽しく生きる術だぜ?」

周りの男たちとともに下卑た笑いを高らかに飛ばす。

「もう、手ぇ出しちゃっていいっすか?高校生なんて俺、もう……」

「まだだ。まだダメだ。俺たちの目的忘れんじゃねぇぞ。それにこいつさえ使えばそんな店くらいいくらでも行けるようになる。」

「へーい」

少し残念そうに部下らしき男は声を上げる。

「………」

この状況に置いてなおまだ照は無言を通し続けた。

「チッ、まだ折れねぇのか……強情な奴だ。明日もまた来る。いくぞ」

そう言って、男たちは姿を消した。

鍵のガチャとかかる音を聞いたあと、照は肩から力を抜いた。

ふぅと自然に息が漏れる。

(ちょっとやりすぎちゃったなぁ)

照が手を出していたのは、賭博麻雀と言われるもの。

といっても照は賭博していたのではなく、ただひたすらに強い人間を求めていきついた先がそこだったのだ。

そこの人たちも人相こそ悪いものの、自分が賭博をしない、ということを誰も攻めはしなかった。

その人たちに囲まれていたせいで照は自分がどういう場所に来ているのかを忘れてしまっていた。

いくら人相とのギャップが激しい人がいい人が多くたって、人相通りの奴もいる。

照の強さを自らの欲望に―金儲けのために使おうとする今の連中のように。

ココに閉じ込められてからもうすでに3日。

来ると同時にご飯と水は少しだが供給してくれるため死なずにはすんでいるが、状況は最悪だ。

親には間違いなく心配をかけているだろうし、部員にだっておそらく心配させてしまっているだろう。

それに何より自分があとどれほどこの状況に耐えられるか、自信がなかった。

蹴られた腹部がジンジンと痛む。

彼女は精神的にも肉体的にも疲労しきっていた。

(お願い……誰か、助けて……)

照の頬を一粒の雫が流れ落ちた。

 

 

 

                ☆

 

 

 

時雨が宣言したあの日から一週間が経過した。

時雨が最後にフォローの言葉を入れておいたおかげか淡は今もいつもの調子で時雨と会話をしている。

だが、まだ挑めるほど強くないらしく、挑んでくる様子は一つもない。

そして、放課後にその出来事はおきた。

一人の女子生徒が教室の前のドアを開けて、きょろきょろしたかと思うと、時雨の姿を見つけると迷わず時雨の方へと向かってきた。

時雨は一度打った人間はある程度の期間は忘れない性質だった、ゆえにその女子生徒が麻雀部で自分で打った人間だということは一発で分かった。

「君に少し聞きたいことがある。すこし時間いいか?」

その表情は真剣そのもの。

コイツが一番初めの挑戦者か?とすこしわくわくしつつ女子生徒―弘世 菫の要求に応じる。

向かった先はもちろんのごとく麻雀部だった。

だが、彼女は卓に座る様子もなく、時雨を奥の談話室のようなスペースへと案内した。

「なんだ、俺と勝負する気になったんじゃなかったのか。」

少し残念そうに口をとがらせながら時雨は言う。

「私では、君には勝てないことくらいもうわかっている。」

「あきらめの姿勢はよくないぜ?」

「いや、あきらめてはいない。だが、君に勝つのは淡たちに勝ってもらって麻雀部へ入部してもらってからでも遅くはないだろう?」

「あら?俺、負けたらここに入部することになってるんだ。初耳だぜ」

「そんなことより、だ」

話題を強制的に打ち切り、菫は本題を時雨に切り出した。

「君が打たない、と言ったあの日以来、照がまったく麻雀部に来なくなった。」

「へぇ」

強さを求めての行動だということは言うまでもない。

勝とうとしている姿勢を見せていることがわかって少しうれしくなる。

それで?と続きを促す。

「麻雀部に来ないだけの間は良かったんだ、だけど、ここ三日間、学校にすら登校していないんだ。」

「連絡は?」

「ケータイはまったくつながらない。家にも帰ってないそうだ。」

「警察は?」

「もう、捜索願いは出している!……だが、見つからないんだ……。正直見当外れだと分かってはいたが、もしかしたら何か知っているかもしれないと思って君に聞いてみたんだが、やはり何も知らなさそうだな」

菫は顔を俯けた。

(もしかして、これ俺のせいか?)

頭の中に浮かんだ言葉は疑問形でこそあったが、時雨はすでにその疑問に最初から答えを出していた。

――間違いなく責任の一端が自分にあるということを

「もう帰っていいぞ。すまなかったな、呼び出したりして」

菫の顔には万策尽きたといったようなどうしようもない感があふれていた。

おそらくは時雨が最後の希望だったのだろう。

「まぁ、待てよ。」

落ち込んで、動けない、と言った表情だった菫の顔がうつろに時雨に向けられた。

そして、次の時雨の言葉でその顔に少しの光が戻ることになる。

「もう少し情報が欲しい。協力してやろうじゃねぇか、照探し」

少しの間なにか思案するようにでこに片手を当てて目をつぶる。

「いや……だが、無理だ。もうほとんどアイツの情報は聞いて回った。だが、無理だったんだ。君になにもできることは」

「やってみなくちゃわかんねーだろ、そんなの。」

時雨は特別人探しが得意なわけではない。

だが、経験が無いわけでもなかった。

主に悪人探しだったわけだが。

その経験のせいか、それとも時雨の今までの人生の濃さが物語っているのか、その言葉には何とも言えぬ頼もしさがあった――ように菫には思えた。

「とりあえず、情報が足りねーな。アンタ、照の家に連絡取れるんだよな。だったら今から行くから連絡取っといてくれ。あ、家知らねーから案内よろしく。」

「はぁ!?君はなにを……」

あまりに突然すぎる常識はずれの行動に驚嘆の声を上げる。

「だから情報が足りねーんだよ。探すにもアテがなしじゃどうしようもねーだろうが」

それに対してヤレヤレと言ったように時雨は答える。

「だからと言ってわざわざ家に行く必要は……。」

「いや、それは俺の興味だ」

「はぁ!?」

二度目の驚嘆の声。

「平和な日常であれほどの逸材を育てた親がどんななのか、興味があるんだ。」

「今はそれどころじゃ……」

「だから、これはついでだ。気にするな。」

ため息交じりに菫は自分のケータイから照の家へと連絡をかけた。

そしてこれまた予想外なことに照の母も時雨が来ることをあっさりと了解した。

 

 

                ☆

 

 

教室に戻るとすぐに裕香が何があったの?と聞いてきた。

「ん、あぁ、ちょっとな。悪いが今日は一人で帰ってくれ。俺は少し用事ができた。」

「それってあの麻雀部の人のこと?」

「半分正解。麻雀部の人間のことであることに変わりはないが、呼び出してた人のことじゃない。赤い髪した人のことだ。」

「ふーん、時雨ってああいう人が好みなんだ。」

へぇ、ふーん、と何度も時雨に痛い視線をぶつける。

だが、時雨はよくわかっていないようで好み?と聞き返す。

「で、これからどこに行くの?」

「その赤い髪の人の家だ。」

「なっ……」

裕香は思わず絶句する。

たっぷり二秒間ほど制止した直後にものすごい剣幕で裕香は言った。

「私も行くっ!」

どういう意図があって裕香が言ったのか時雨には理解できなかったが、それでも時雨は

「ダメだ。」

こう言った。

「何でよ!?」

これは本当に時雨のただの直感でしかない。

だが、それでもほんの少しでも可能性があるのならそれを裕香には見せたくなかった。

時雨は照が誘拐されているのではないか、疑っていた。

というより、菫もこれは疑っているはずだ。

問題はこの先。

麻雀で

ということだ。

裕香はまだそれを見せられて平然としていられる精神状態には戻っていない。

もしかしたら一生そんな日は来ないのかもしれない。

というよりそんな状況を何度も見ることもないのだろうが。

だが、時雨とかかわればその話は別となる。

時雨はそんな状況が日常茶飯事の世界につい二年前までいたのだから。

そして、だからこそ直感していたのだ。

答えに詰まっていると幸運なことに菫が教室のドア付近から時雨を呼んでくれた。

「なにをやっている、早くいくぞ」

それを好機として時雨はじゃあな!と言って菫とともに裕香の視界の外から消えた。

「……バカ!帰ってきたら、ちゃんと説明してよね」

目の前にいない誰かさんに向かって裕香はつぶやいた。

 

 

               ☆

 

 

「いやー、助かったぜ」

「まったく、なんで私が手助けなど……」

結局あれは幸運などではなく菫の配慮によるものだった。

なにか言いにくそうな顔をしている時雨を気遣ってわざと大きな声で呼んだのだ。

「あの子はいったいなんなんだ?」

「まぁ、いろいろあってな。一緒のアパートに住んでるんだ。」

「ほぅ、幼なじみという奴か」

「……そういうことにしておいてくれ。」

説明するのが面倒になり、そこで断ち切る。

照の家には10分と足らずについた。

照の家はごく一般的な二階建ての家で表札には宮永と書かれていた。

駐車場は無く、駐車場となるようなところには代わりに小さな庭がある。

植物などが煉瓦とうまくコラボしていて、かなりおしゃれな雰囲気な家でかつ

家庭的な雰囲気を持つ家だった。

菫がインターホンを押す。

すると、すぐに随分と若そうな女の人の声が聞こえた。

「菫です。」

あ、はいはい、今行くわと言い残してブツッとキレる。

時雨はその声をどこかで聞いていた気がしていた。

そして、姿を見た瞬間時雨は完全にその人物を思い出した。

「お前、≪氷の魔女≫か!」

「≪帝王≫……!?」

二人は完全に同時にそう言ったのだった。

 




最後の部分は、はたらく魔王さまに影響を受けたのかなぁ
そういうシーンを書きたいと思ったのはおそらくあれを見たからでしょうねw

また、感想お待ちしております!


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第八話 捜索

他の方の作品を読んでいたら我慢できなくなってしまい試験中にも関わらず手を付けてしまいました(^_^;)

試験――そんなものはなかった……(遠い目


長野ではよく強い人間にはその闘牌スタイルに見合った二つ名がつけられていた。

時雨は代打ちとして来ていたためそれほど長い期間はいなかったのだが、どの対局であっても結果がすべて圧勝であったことからすぐにあだ名が付けられた。

それが≪帝王≫

誰もが時雨の前では無力に消えるほどの絶対的力の持ち主であると認めていた。

≪帝王≫に対抗できる人材が長野にもしいるならそれはただ一人。

その人こそ≪氷の魔女≫と呼ばれていた悟だった。

彼女もまた長野では群を抜いて強いことで有名で、何よりも有名だったのは名前の由来の能力ともいえる不思議な現象<凍結>

彼女の前では牌が思うように動かなくなる。

どれだけ牌を切ろうとも全く手が進まない。

その場でただ一人進んでいるのは、凍結している主である悟一人。

二人は周りの計らいによって必然的に出会った。

そして二人は対局をした。

時雨はよそ者なだけあって応援は悟に集まった。

当然二人の対局には賭けが生じていたが、時雨に賭けている人間は少なかった。

だが、皆の期待とは正反対の現実が目の前で繰り広げられた。

結果は悟の惨敗。

結果だけを見れば確かに惨敗だった。

だが、時雨は対局中今までにないほどのプレッシャーを身で感じていた。

そして、悟は本気で挑んで負けるという経験を時雨にさせられた。

二人の中で、お互いの存在はかなり強烈なものとして残っていたのだった。

ゆえに玄関で一目見た瞬間に思い出した。

悟はとりあえず立ち話もアレだからということで菫と時雨を家の中に案内した。

リビングの4人掛けのテーブルに悟と向かいあう形で二人が座る。

「それにしても随分大きくなったわねー」

「俺もお前があんまりにも昔のまんまなんで一発で分かったぞ」

「あら、うれしいわ」

悟は頬に手を当てて淑女のように微笑んでみせる。

「なんだ、二人は知り合いだったのか?」

初対面のはずの二人があまりになれなれしく話しているのを見て菫は思わず疑問を口にした。

「まぁな。ちょっと昔に別の場所であったことがあってな」

あまり菫にそっちの方のことを悟られたくはないので適当にボカして事実を言う。

特に菫も詮索するつもりもないようで、そうなのか、とあっさり引き下がった。

「にしても、あなたが照を負かした転入生だったとはね。そりゃあの子に勝ち目はないわね」

「いい線はいってたと思うぜ。まさかお前が親だとは予想外だったけど、やっぱり化け物の親は化け物ってことだな」

「あら、どういうことかしら?」

「いや、怒るなって。ほめてるんだぜ?」

「怒ってないわよ、全然」

まるで含みどころなんてありませんよ?と言った笑顔で答える。

その次に

「……そろそろ本題に入りたいんだが」

あまりに話が前に進まないので菫が割って入った。

その言葉で思い出したように声を上げた。

「そうだったな、ってか≪氷の魔女≫も自分の娘が居なくなってるっていうのに何のんきに俺としゃべってんだよ。」

「そうね。で、あなたは私に何が聞きたいの?」

悟は時雨たちが来るまでは不安で何も手につかない状態にあった。

それどころか食欲すらわかず、本当に危険な状態にあったのだ。

だが、時雨を見て、話しているうちに不思議とそれらの不安は消えた。

それは、時雨のその若い年にして幾度となく危機を乗り越えてきたために身についた余裕が悟を不安の淵から救ったのかもしれないし、ただ単に時雨の存在に驚いて少し現実から目をそむけたままにしていただけなのかもしれない。

だが、確実に時雨の存在が彼女から不安を一瞬でも取り除いたことは確かだった。

「お前の娘がいなくなる直前にどこに行ったのか。大体タイミング的に予想はついてるんだけどな。詳しくわかるところまで教えてくれ」

「あなた、照を探すの?」

なんとなくわかっていたがそれでも悟は聞いてしまった。

「俺にも責任はありそうだからな。」

「……わかったわ。照はあなたの予想通り雀荘に行ったわ。でも、日をまたぐごとに場所を変えてる様子だったわ。それもどんどん悪い方に」

「……タバコか」

「ええ、まぁタバコだけじゃないけどね。」

「他にも?」

「どんどん照の表情が険しくなっていったわ。多分私の言ってた意味が分からないっていうのもあったんでしょうけど」

「何を言ったんだ?」

「あなたに言ってもわからないわ。とりあえず照が強くなるための道をかなり抽象化して教えたわ」

悟は少し後悔していた。

もっとましな教え方があったのではないか、と。

抽象的に教えたのは、こうなることも意図しての結果のことだった。

おそらく、何も考えずに強さを求めるなら多くそして強い相手と打つのが妥当。

そうなれば、きっと雀荘やどこかに行くことなどわかりきっていたのだ。

悟が測りきれていなかったのは照の強さに対する執着心。

その結果、照は悟の予想を超えて無茶をして、今こうなっている。

後悔しても意味はないがそれでも、こんなことになるならもっと具体的に教えておくんだったと思う。

「まぁ、聞き取りはこれくらいにするか。別に元から聞き取りなんぞ当てにはしてなかったからな。」

「はぁ!?」

今の行動を全否定する言葉が時雨の口から飛び出し、思わず菫は素っ頓狂な声を上げる。

「あぁ、もし良い情報が取れたらそれはそれでもちろんありがたかったんだが。無くてもともとのつもりだからな。それにいっただろ、ここに来たのは俺の興味だって。」

じゃあ、何のためにここに、という言葉を菫はのど元まで来てどうにか抑え込んだ。そんなもの俺の興味だって言われて終わりだ。

時雨はすっと席を立ちあがって言った。

「じゃあ、またな≪氷の魔女≫。次はお前の娘も交えて対局しようぜ。先輩もお疲れさまでした。」

そして部屋を立ち去ろうとドアの方へと足を進めていく。

そして、その姿を見て菫が立ち上がったすぐ後にもう一度時雨が言葉を発した。

「3日、3日以内に見つけてやるよ。」

そして、時雨が家のドアを閉めるガタンッという音が家の中に響いた。

 

 

 

               ☆

 

 

 

時雨が再び裕香と出会ったここらあたりで一番のハイレート雀荘へと足を運んでいた。

カランと場の雰囲気に合わない小気味良い鈴の音とともに扉を開けてその中へと入っていく。

その時雨の姿を確認した瞬間、ビクついたものが数名。

その姿を見た瞬間少し安堵したように時雨は微笑み、そしてそいつらめがけて歩いていった。

「おい、お前ら神前のところのもんだな?ちょっと頼みがあるんだが」

そう言って数人のうちの一人からケータイを拝借して神前と名簿にあるものを選択して電話をかけた。

4コール目で電話相手は受話器を上げた。

「もしもし」

「よう、久しぶりだな、神前」

ブーーッッとなにかを吐き出すような音が聞こえた。

そして、少したってから落ち着いた神前が再び言った。

「どうして君の声が北野の電話から聞こえてくるのかな?」

「ちょっと頼みたいことがあってな」

「ほぅ、頼みたいこと?」

興味深そうに時雨の話を聞く心の体制を神前は整えた。

「ここ最近変わった出来事がなかったか?特にこの一週間で、調子に乗りだした組とかな」

「……少し待ちたまえ。調べてやろう。」

電話越しからカタカタとキーボードをたたく音が聞こえる。

スピードは相当速くかなり手馴れているようだ。

「一つだけ、君の言った条件に該当する組があったよ。ちょうど僕の組にもケンカを吹っかけてきているね。」

おそらくはその組の連中が照をさらっている奴らとみて間違いないだろう。

「そいつらの根城わかるか?」

「当然さ。だけどそこからは有料だ」

クククッと笑い、時雨を面白がるように言葉で挑発する。

「もちろんお前の言う有料は金、じゃないんだろ?」

「当り前さ。と言っても僕にも利益のある話だ。1回の対局で勘弁しておいてあげるよ。」

「お前、まだ俺に執念燃やしてるのか?」

「君に勝てばどれだけ僕の名前にハクが付くか君自身はあまり理解していないようだね。こっちの世界の半分は動くよ。君はそれだけのことをしてきたんだよ。」

「まぁ、負ける気はねぇが一回くらいなんてことねぇな。じゃあ、教えてくれ。」

……俺の敵の居場所を

その言葉はいつもの飄々とした時雨からは想像もできないほど獰猛で、禍々しく、辺りにいた神前の部下は恐ろしさに震え上がった。

これが世界を半分動かした人間の――時雨の本当の姿であり恐ろしさであることを、神前も電話越しに理解し背筋を凍らせていた。

 




長い間書かないとやっぱり衰えますね。
次からはもう少し間隔を短くして頑張っていきたいと思います。


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第九話 破壊

「ちっ、まだなのか!!!」

屋敷の大広間で一人の男が叫んだ。

中にいるどの男よりも年老いており、やたらエラそうな態度であることからその組織の頂点であることがうかがえる。

「あと少しですよ。もうほとんど意識は無いです。今日で……」

一人の男が顔をひどくあくどく笑っていった。

その顔は悪人の顔そのもの。

恐ろしい人間というのには二通りあって、一つはどこまでも冷静であること。

何をしても心を揺らさず、どんな状況であっても決して間違った行動はしない。

そして、この男はもう一つの方。

どこまでも悪事を楽しむ人間なのだ。

その顔を見て組長を少し安心したように笑った。

「フフッ、そうか。早くしてくれよ……。俺にだって時間はあまりないんだからな。最悪、今日は死ぬ手前までならやって構わん」

その言葉を聞くと粘つく笑みを浮かべて男は立ち上がった。

「じゃあ、ちょっと最後の仕上げに行ってきますよ」

会話していた男以外にも何人かが立ち上がりその部屋を出て行った。

数分して、男たちはすこし狭い目の蔵へと到着した。

その蔵には一人の少女が今にも死にそうな弱り切った状態で突っ伏していた。

「そろそろ、限界だろ?」

「なーにお前ほどの腕なら大丈夫だ、決してミスなんてしねーよ」

男は少女に近づきながら諭すように言う。

「………」

だが、少女は何も言わない。

次の瞬間、男の足が少女の弱り切った腹をとらえた。

鈍い音を立てて、少女は転げた。

「今日はさぁ、死ぬ直前までならアンタをやってもいいって許しが出てんだよ」

男は嬉々として語る。

「だがよぉ、オレこういう仕事って初めてだから死ぬ直前ってどこだかわかんねーんだよなぁ」

再びけりが入る。

少女の口から声にならない悲鳴が上がる。

そして、男は容赦もなしに少女の髪をひっぱりあげる。

「だがまぁ、何も言わねーならそれでもかまわねーけどよっ!」

少女は投げ飛ばされる。

手足が縛られているせいで、顔から地面へと叩きつけられる。

それがどれほどの痛みであるかさえ感じられないほどに少女はすでに憔悴しきっていた。

男は少し前まではこういった性格ではなかった。

上からの命令で照に代打ちをさせることだけを考えて行動していた。

だが、男は気づいてしまった。

他人をいたぶることへの楽しさに。

つい最近までは普通の高校に通い、普通に部活に入り普通に生活をしていた少女が一週間以上もこの拷問のような生活に耐えられていたのはひとえに彼女の

 

 

麻雀への愛

 

 

だがそれも限界に来ていた。

体は動けないほどに傷つき、精神は何も考えられないほどに弱り切っていた。

口を動かすことさえ、もうすでに難しい。

悔しい、と思った。

少女は最近になって同じような感情を一度抱いていた。

それはは部活で初めて大好きな麻雀で圧倒的な力の差で負けた時。

今と同じで何もできない。

屈服しそうになっている自分が悔しかった。

何もできない自分に腹が立った。

でも、それでももう耐えられない。

そう思って口を開きかけた時だった。

何かが大きな音を立てて破壊され、外の光が少女を照らしたのだ。

「お待たせ!」

そこに立っていたのは一人の少年。

ポケットに手を突っ込んで、足を大きく上げていることから彼がドアをけ破ったのだろう。

その声を少女は聞いたことがあった。

「なんだ、テメェは!」

男たちが一斉に怒声を上げる。

「……もう、お前らに名乗る名前は捨てたよ」

ゆっくりと少年は歩み寄っていく。

なぜか男たちはその少年に気圧されたように後ずさった。

いつの間にか少年は少女の下まで来ていて、少女の縄をほどいた。

「あーあ、随分傷だらけになって。ほんと意地っ張りだな。でも……」

 

 

――よく頑張りました。先輩

 

 

その少年の言葉はとても優しく少女の折れそうな心を優しく包んだ。

「アナタ、一体、なにも、の……?」

不思議とそんな言葉が少女の口から出ていた。

「それは、もう一回アナタが起きた時に。今は、眠っていてください」

その言葉に誘導されるままに少女――宮永 照は目を閉じた。

 

そして、その直後

「ちっ、なにドラマ広げちゃってんだよ、ごるぁ!」

男が怒声を上げた。

「アンタら意外と空気読める奴らだったんだな。わざわざ待たせちまって悪かったな。」

少年――御堂 時雨は高らかに笑った。

「チッ、ふざけやがって……!お前ら、コイツは関係ねぇぶっ殺しちまえ!」

男が声を上げたのとほぼ同時のタイミングで一斉に男たちが時雨へと突っ込んでいく。

そして、一番早くに時雨の下に到達した男は迷いなく大きく腕を振り上げて時雨へと襲い掛かった。

だが、次の瞬間、にわかに信じがたい光景がそこにいた男たち全員の視界の中で起こった。

鈍い音を立てて飛んで行ったのは時雨、ではなく襲い掛かった男の方だったのだ。

あまりに予想外の光景に全員の動きが止まる。

「フッフフフフッ」

時雨は気味悪く笑った。

少し顔を下向けているせいで表情が見えず、それが男たちにとっては余計に気味悪いものに思えた。

「何年ぶりだろうなぁ。こういうの」

そして表情が見えた時、男たちはその気迫だけで一歩退いた。

そして次の瞬間

「ぐふぅ……」

一人の男がまた倒れこんだ。

一人、また一人とやられていく。

威勢の良かったリーダーらしき男はすっかりと弱気になって、足をガクガクと震えさせてその場にしりもちをついた。

「……なんなんだよ、コイツは」

「殺すなんて生ぬるいことだけじゃ、俺はすまさねぇぞ。生き地獄を体験させてやるよ、覚悟しろよ……!」

 

 

                 ☆

 

 

蔵が騒がしいということで、何も考えずに出てきた組長はそこで信じられない光景を目にしたようだった。

たった一人の少年に十数名の組のメンバーがまるで赤子のようにひねられていた。

だが、さすがは組長と言ったところか、すぐに冷静に立ち直って支給組織のメンバーを全員集めようとケータイを取り出した。

が、そのケータイは第三者によってはじかれ、踏みつぶされることであっけなく粉々になってしまった。

怒りのまなざしで、手の伸びた方向を見ると吊り上った目にメガネをかけ雰囲気はどこか気品さを感じられる男が立っていた。

その人物は組長も知る顔だった。

「神前……貴様……!」

「そんな顔しないでくださいよ。僕はあなたの組を救ってあげたのですよ?」

「なにを!?」

「いやーしかし、随分な暴れようですねぇ。予想通り昔のままだ。」

蔵の中を覗き込みながら感心、と言った様子で見ている。

「あいつを知っているのか。……まさか貴様の差し金か……!」

神前は何を言ってるんだと言わんばかりに、言い返した。

「彼を呼び寄せたのはあなたですよ?」

またしても組長から驚きの声が上がる。

確かに、彼からしてみればそのつもりは全くないのだろう。

「アナタはこちらに来てから日が浅いようですから、彼を知らないのも無理はありませんね。あの少年はね――――だったんですよ、つまりあの少年を敵に回すということは、アレを敵に回すのと同義というわけです。」

それを聞いた瞬間、組長の顔から色が消えたように真っ青になり、冷や汗が顔からぽたりと落ちた。

その表情を見て満足そうに神前は笑った。

「では、そろそろ僕は去りましょうかね。彼の実力が落ちていないこともわかったことですし。」

そう言って神前は待たせておいた車に乗ってその場を立ち去った。

言うまでもなく、その組織はわずか一日にして壊滅。

だが、破壊した人物は割り当てることが出来なかった。

時雨だったということを知っているのは、神前と照だけだった。




時雨の正体は少し伏せておくことにします。
私は名詞を考えるのが大の苦手ですから、思いついてないだけなんですけどねw
なんとなく、紹介はしたかったので名前は伏せてということで。
文字数が少ないとかはきにしちゃだめよwww


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第十話 発見

またしても随分と間隔があいてしまいましたOTL
せっかく前回の話で感覚を取り戻したと思ったのですが……
まぁ、くよくよしていても仕方ないですね!
正直ダメ文章なのは前から同じだと思いますので、暖かい目で見守ってやってください!


意識が自分の体に戻り、スーッと目を開けると真っ先に目に入ったのは白い天井だった。

なんとなく、雰囲気からして病院であるということは察しがついた。

体は痛すぎて、とても動かせる状態ではない。

そこまで思考が働いた時点で照は自分が今までどういう状況にいたかを思い出し、謎に包まれた少年時雨のことを思い出した。

(私……助かったの?)

にわかには信じがたいことだった。

だが、事実自分はこうして病院のベットでこうしてのんびりと体を動かすことなく思考にふけってられるのだから助かったのだろう。

とりあえず誰か呼ぼうと思って首だけを起こした瞬間、照はあまりの驚きに声を上げそうになった。

自分から右斜め前には椅子に座った時雨がぼんやりと夜空を見つめている姿があった。

時雨を見た途端、照は顔が熱くなるのを感じた。

『よく頑張りました、先輩。』

その言葉が自然と脳内で再生される。

照が起きていることに時雨が気づく様子はない。

(何か考え事でもしてるのかな?)

イロイロと聞きたいことをとりあえずは心の奥に抑え込んで向こうが気づいてくれるまで待つことにした。

幸いにして向こうが気づくのにそう長い時間はかからなかった。

「よう、具合はどうだ?」

時雨がいつもの調子で照に言った

「お、おかげさまで」

まだ、熱が冷めず少しろれつが回っていない。

「そうか、じゃあ俺は帰るとするか。あんまり遅いと裕香に文句言われそうだしな。」

そう言ってゆっくりと立ち上がる。

大きく伸びをして、ふぅと一息つくと、派手に登場したときと同じようにポケットに手を突っ込んで帰ろうとした。

このまま何も言わないと普通に出ていきそうな雰囲気だったので、どうにかして引き留めようとして、そのままの感情が口に出た。

「待って」

「まだ、何かようか?」

あくびをしならが眠そうに返す。

「起きるまでわざわざ待ってたの?」

まぁな、と短く返す。

「怒らないの?」

「はぁ?」

予想外の質問に素っ頓狂な声が時雨の声から飛び出る。

「だって、私、アナタにすごい迷惑をかけたわ。身勝手なことして、拉致されて、たぶん助けに来てくれたってことはあなたなりに責任を感じていたからでしょう?

だったら……」

「随分と賢いな、お前。あれだけのことがあって今もまだ傷は痛いだろうに、よくそこまで分析できるな。冷静すぎて逆に怖いわ」

時雨のその声はどこか冷たかった。

その言葉に少し照は傷つき、すこしむっとした。

「じゃあ、冷静なお前ならもう思い出してるんだよな?俺に聞きたいこと、あるんじゃねーの?」

再び時雨は座りなおした。

「あなたはいったい何者なの?」

「お前、それ本当に知りたいか?」

時雨の眼は真剣そのものだった。

時雨にとってそれはとても重要なことで、軽々しく話せる内容ではない。

照はあまりの真剣なまなざしにひるんだ。

だけど、それでも知りたいとその時の照は思った。

普段ならきっと話したくないなら話さなくていい、と多少気を使いつつ、と言ったテンプレートなことを言っただろう。

だけど、照は時雨のことが知りたかった。

「教えてほしい」

時雨は目を丸めた。

「聞きたいのか?」

思わずそう聞いてしまうほどに時雨は驚いていた。

「ダメ、かしら?」

照が先ほどの時雨と同じように真剣なまなざしで時雨を見つめる。

時雨は、すっと話を始めた。

「俺は小学生のころから親の借金を返すためにある組の代打ちとして麻雀をやってきた。負ければ、命を取られるような対局も何度もあった。今、生きていられるのは奇跡みたいなもんだ。ケンカは組の連中と遊び程度に鍛えたもんだから、アイツらみたいに素人なら大丈夫だが、本来はそんなに強くはない。お前たちと違って俺は小学校も途中だったし、中学も通ってない。ひたすらずっとそういう世界で麻雀をやってきた人間なんだ。」

時雨のそれほど多くない身のうちばらしだけで照の中ではかなり多くのことに合点がいった。

時雨の余裕のあるふるまい。圧倒的な麻雀の強さ。そして、自分を助け出せるだけの実力も。

「まぁ、念を押しといてなんだが俺の話はこれくらいだ。俺が何者かって聞かれたら今はただの高校生。麻雀にかかわりさえしなければ、本当にただそれだけなんだ」

少しばかり空白の時間が流れる。

そして、再び時雨の口から言葉が発せられた。

「じゃあ、俺からも質問だ。どうしてそこまでして俺のことを聞きたかったんだ?」

照は答えに困った。

自分自身、どうしてそこまでして時雨の過去を知りたかったのかわかっていないのだ。

「じゃあ、もう一つ質問だ。なんでそこまで冷静でいられるんだ?どうして取り乱さない?」

こういう状況の人間を多く見てきた時雨にとって照の今の状態は異常以外の何物でもない。

取り乱さず、暴れず、何をするわけでもなく、本当に冷静にまるで何事もなかったかのように話をしている。

その対応はまるで照が人間ではないかのように時雨には思えた。

だが、照がこうして普通にしていられるのには理由があった。

あの時……

何もできなくて、悔しくて、苦しかったとき

あのまま、自分があのままの感情を抱いたまま倒れこんだならば間違いなく自分は人間不信になっていただろうと思う。

だけど、優しくささやいてくれた時雨の言葉はそれまでも苦しい感情を吹き飛ばしてくれた。そこに時雨がいると思うだけで安心が出来た。

それが倒れる直前、最後に抱いた感情だったからこそ自分はこうして冷静でいられたんだと照は思う。

だが、それを包み隠さず話すのはかなり気恥ずかしかった。

だけど、大事だと思ったからこれだけは言った。

「あなたのおかげよ」

「俺の?」

「うん」

その安心しきっている顔を見ていたら時雨も納得するしかなかった。

「そっか。」

あなたのおかげ、ということを話した途端照は急に何か気持ちが軽くなったような気がした。

そして、軽くなったついでにもう一つ時雨に話したくなった。

「一つ、私の話聞いてもらってもいい?」

「なんだ?」

「私にはね、一人妹がいるの。咲っていうんだけど。すごく気を遣う子で家族麻雀をしてる時でもいつでもまわりに影響を及ぼさないように±0を狙ったりするの。

すごいでしょ?ふつう狙えるものじゃないわ。だけど、いつも麻雀しているときのあの子は辛そうで。それが私にとってはつらかったし、腹が立ったの。絶対あの子は普通じゃない強運を持った子なのに、絶対強いはずなのに、いつも本気は出さないで、つらそうに打って。私は麻雀が好きでこんなに打ってるのに、それでもそんな咲にすら勝てないような気がする。ううん、勝てないわ。でも、私はだからこそ咲には負けたくなかった。だから絶対的な強さが欲しかった。で、こっちに来てずっと打ってるうちに強くなったと思った、絶対的な強さまでになった。そう思った時にあなたがきたのよ。全然自分がまだまだだな、って思い知らされた。それで、どうにかして強くならなきゃって焦って雀荘に言って、拉致されて、結局こうなっちゃった。」

照は苦笑して見せる。

「やっぱり私って麻雀の才能ないのかな?」

照は今までに見せたことのないような不安な顔をしている。

「心配するな。お前は強くなるよ。その気になればどこまでだって」

それは偽らざる時雨の本心だった。

「ホント?」

少し笑顔になりながら照は聞いた。

「うそ」

「えぇ!?」

「冗談だ。」

ハハハッと軽快に時雨は笑った。

「もう!こっちは真剣なのに」

「俺はシリアスが嫌いなんだ。もっと明るく楽しもうぜ、麻雀もな」

その時、照は悟の言っていた言葉を思い出した。

『咲はどんな時にその才能を輝かしたのかしら?』

咲が強かったのは決まって自分と二人の気兼ねのないとき。

咲はとても楽しそうに、私と本当に勝ち負けなんて関係なしに楽しそうに打ってた。無邪気で、純粋に。

自分に足りなかったものにようやく照はたどり着いた。

「ありがとう。とっても参考になったわ。」

「へっ、そうかよ」

わかっててあえて時雨はそのような言い回しをしたのだろうか?

だとしたらどこまでも計り知れない強さを持った人だ。

だけど不思議と挑戦的な言葉が口からは出ていた。

「次は負けないわ」

「才能どうのって言ってたやつがよく言うぜ。」

随分いい顔になったな、と時雨は思った。

「もう、大丈夫!」

「私って麻雀の才能ないのかな?」

ワザとらしい真似を時雨がしてみせる。

「もう!そんな言い方してない!」

憤慨して、足はまだ動かせないので手だけをバタバタと動かしている照は冷静な時とは打って変わって元気でかわいらしかった。

時雨はそんな照の頭に手を置いて

「良い顔してるぜ。今のお前。」

そういって時雨も笑って見せた。

そして、さっと身をひるがえして

「監禁プレイお疲れさん。また来週学校でな」

そう言い残して時雨は病室を後にした。

照は顔を真っ赤に染めていた。

 



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