WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~ (凸凹凹凸)
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第1話「唐突な開戦」

説明も無しにいきなりの展開が多いと思いますが、すみません。書きたくて書いてしまいました。

※注意
・閲覧する場合、お目めを暖かくして、生易しい気持ちで読んでください。
設定も合っているか合っていないか……。
・誤字脱字があるかもしれませんが、その際は気軽にコメントなどでお教え頂けたら幸いです。
・文章力が残念かもしれません。


WORLD TRIGGER~ 飛翔する遊星~

 

第1話「唐突な開戦」

 

 

 

 

 

 

 

 《三門市(みかどし)》、人口28万人。

 ある日この街に異世界(・ ・ ・)への(ゲート)が開いた。

 

 『近界民(ネイバー)

 

 後にそう呼ばれる異次元からの侵略者が(ゲート)付近の地域を蹂躙し、街は恐怖に包まれた。

 こちら(・ ・ ・)の世界とは異なる技術(テクノロジー)を持つ近界民(ネイバー)には地球上の兵器は効果が薄く。誰もが都市の壊滅は時間の問題と思い始めた。

 

 その時、突如現れた謎の一団が近界民(ネイバー)を撃退し、こう言った。

 

『こいつらのことは任せてほしい。我々はこの日の為にずっと備えてきた』

 

 近界民(ネイバー)技術(テクノロジー)を独自に研究し、こちら(・ ・ ・)()の世界を守るために戦う組織。

 

 界境防衛機関《ボーダー》

 

 彼らはわずかな期間で巨大な基地を作り上げ、近界民(ネイバー)に対する防衛体制を整えた。

 

 

 それから4年。

 (ゲート)は依然開いているにも関わらずか、三門市を出ていく人間は驚くほど少なく、《ボーダー》への信頼に因るものか多くの住人は時折届いてくる爆音や閃光に慣れてしまっていた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あー…………ハイハイ、あー……ハイ。ここが麓台町(ろくだいちょう)か。あの近界民(ネイバー)とかいう『空閑(くが)遊真(ゆうま)』が一番最初に目撃されたっていう」

 

「玉狛支部に居るんだろ? よく城戸(きど)本部司令が許したな。オレ怖くてたまんねぇのに」

 

「ホーゴとは違うんだよ。彼は」

 

 整えられた綺麗な公園にて、三人の青年が子供のように公園に設けられた動物のバネが付いた遊具に跨がりながらアイスを食べていた。

 一人は強力な天然パーマを逆らうかのように、女子が使うヘアアイロンで真っ直ぐにしたストレートヘアーの青年はバリバリと直ぐにアイスを平らげ、二人目は少し大きめの黒縁メガネが特徴的な青年は既に食べ終えていて、最後の三人目はチビチビと舐めながら食べている少し長身の青年、その三人組だった。

 

「はぁ……林藤さんに言われた通り、麓台町付近を探索したけど多量のトリオンが検出もしていない。……無問題だ」

 

「大変ねー。シシクっち」

 

 黒縁メガネの青年が本格的遊具に遊び始めると同時に、長身の青年はアイスを食べ終え、一人最新機種の携帯電話を駆使して一人唸っていた。

 この三人、ある調査を頼まれこんな日が昇っている時間帯に居られる訳なのだが、きちんと仕事をしなければ給料が貰えないのはどこも一緒なのである。

 社会人たる者として、しっかりと仕事をこなした上で銭をいただく。それが鉄則。

 

「宇佐美ちゃんが改造してくれたトリオン検索機の取り扱いは大丈夫なのかホムラっち」

 

「……やめろ、厨二っぽい名前で呼ぶな。俺は宍喰(ししくい)焔悟(えんご)という立派な名前がある。外で呼ばれるのはキツイ」

 

 焔悟(えんご)と呼ばれたのは天然パーマを気にする青年だった。直した筈の髪をいじったりしている。

 

「カネ君もちゃんとやれや。検索機は一個だけじゃねえだろ」

 

「カネ君じゃない……紺頼(こんらい)鉦胡(しょうご)だ!」

 

 鉦胡と呼ばれたのは長身の彼で、鉦胡は遊具から離れると携帯を取り出し、画面に映し出された数値を二人に見せる。

 

「そこで全力で遊んでる遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)のせいで大変なことになってる! 馬鹿が馬鹿みたいなトリオン量のせいで狂ってるのよ既に! 変態だな!」

 

「いや嫉妬系でしょそれ!? オレのあふれでるこのトリオンというカリスマ性に嫉妬しちゃってる系っしょマジで」

 

「安定のムカつき加減だな保護(ほご)くんよ」

 

「ホゴ言うなや!」

 

 ビュンビュンとバネを揺らして遊具で遊ぶ保護に、焔悟も鉦伍も蹴りでも入れてやろうか、と思い始めた頃。ちょうどなタイミングで焔悟に電話が掛かってきた。

 相手は玉狛支部でオペレーターを務める宇佐美(うさみ)(しおり)からだった。

 

『もしもし? 焔悟さん? もしかして林藤(ボス)に言われてた空閑くんと三雲くんが会ったっていう麓台町に行ってない?』

 

「…………もしかしなくてもそうだけど」

 

『あっちゃ~! それ昨晩言ってたことだったよね~。ごめんごめん~! もうそれ大丈夫だからやらなくていいよ』

 

 なに? と当然焔悟は訝しむ。そして同時に何かを予想していたのか、宇佐美が口が開く前に焔悟は先に問うた。

 

「……もしかしてそこに《空閑遊真》が居るんじゃねぇだろうな?」

 

『…………………………………………………………』

 

 沈黙。だが焔悟の頭の中では、あの平和的差別をするメガネ美少女が見事に固まってることを安易に想像出来てしまった。

 焔悟はあの少しだけ、というか我ら三人に対して少し適当な調査を頼む玉狛支部の支部長・林藤を思い出していた。あのチョビヒゲを。

 

(完っ全に忘れてやがったな!?)

 

 焔悟は嫌う天然パーマをヘアアイロンで真っ直ぐにしたであろう髪を問答無用に掻き、麓台町まで乗ってきたであろう自分の愛車にへと向かった。

 突然の行動に保護と鉦伍は呆気を取られるが、焔悟は口だけで『リ ン ド ウ』と動かしただけで二人に伝わり、早足に車に乗り込む。

 

「上等だゴラァ! 玉狛に帰るぞゴラァ!」

 

 焔悟は思いっきりアクセルを踏み込み、荒い運転で玉狛支部にへと喧嘩腰で帰路についていった。

 もっと安全運転で帰ってもらいたいと願う二人の青年だったが、この天然パーマが怒ったら手が付けられないのは熟知していた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「あちゃ~……林藤支部長のせいで焔悟さん怒っちゃってたよ~ヤダなぁ」

 

 そんな事を呟いたのは、ソファーに腰かけていた黒髪長髪で眼鏡が似合う少女、宇佐美(うさみ)(しおり)だった。

 

「あの、今電話した人って……」

 

 そう聞いてきたのは、またもや眼鏡をかけた人物で、名を()(くも)(おさむ)という少年からだった。その隣に大分小柄な可愛らしい少女の(あま)(とり)千佳(ちか)と、更に隣には少年だと言うのに白髪頭で口を『3』にしている子供然としている今さっき電話を掛けた三人が探していたであろう()()(ゆう)()の姿があった。

 なにやら休憩室のような場所で玉狛支部のメンバーが集まっていた。

 

「玉狛支部の残りのメンバーよ。小南(こなみ)ちゃんより早くボーダーに所属してた人たちなの。なんとレイジさんより年上の人たちなのです」

 

「そこ威張るところか?」

 

「がぁー! なによ! あたしより先にボーダーに居るからって偉い訳でもないじゃない!」

 

 宇佐美がエッヘン、と胸を張って説明するもそれが大雑把で三雲も雨取も半信半疑だ。筋骨整った逞しい体つきに無表情(ポーカーフェイス)を崩さない青年、木崎レイジは飲み物を飲みながら疑問に思った所をツッコむが、長く綺麗な髪を揺らしながらも感情を露にして叫んでいるのは、小南(こ なみ)桐絵(きり え)という美少女から発せられたものからだった。

 

「ふむ……その人たちは強いのか?」

 

 と、そこに疑問に思ってか、白髪の少年・空閑遊真がそんなことを聞いてきた。

 その言に答えたのは、木崎レイジと小南桐絵と同じ隊である烏丸(からすま)京介(きょうすけ)がコーヒーを片手に答える。

 

「有り体にいえば……強い。……だが、俺からしたら《未知数》だな」

 

「未知数?」

 

 なんとも言い難い答えだな、と思っていると、本人もそう思っているのか顔をしかめる。

 

「我らがエリートさんである迅さんも言ってと思うんだけど、玉狛支部は少数精鋭の実力派集団……と大言を吐いていますが、特にこの三人はある特殊的な実証結果を基づいたことで特化した実力者なんだよね」

 

「ほほう……! 興味ありますな」

 

 楽しげに笑みを浮かべて宇佐美の話に身を乗り出す遊真に、宇佐美はますます口を滑らせていく。

 

「ぬっふっふ! しょうがないですなぁ!」

 

「なんか宇佐美先輩生き生きしてますね」

 

玉狛(ウチ)の箔を付けたいんだろ……」

 

 レイジが沢山作られてあったサンドイッチを取りながら意気揚々と語ろうと立ち上がった宇佐美に目を向けて食べ、京介もサンドイッチを咀嚼して宇佐美の話を聞く。

 

「レイジさんたちが玉狛支部第一だとすれば、焔悟さんたちは『玉狛支部第零』なんて本部の方々に言われてたりするんだよ! 代表的なのがその玉狛第零の隊長を務める宍喰(ししくい)焔悟(えんご)さん! レイジさんと同じく接近戦から遠距離戦なんでもござれのオールラウンダー! でもどちらかと言うと接近戦に特別特化(・ ・ ・ ・)してるわ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「あらら? ご存じない三雲くん? う~ん……なんて言えば良いんだろ…………こればっかり実戦で見た方が良いかも」

 

「そうすよ。そんなに喋っちゃってまた焔悟さんに叱れるんじゃありません?」

 

「だ、大丈夫。バレなきゃ……………黙っててね烏丸京介くん?」

 

「なぜにフルネーム?」

 

 遊真がまだ聞きたそうにしていたが、止めた。

 

(よし。まだまだ強い人は居るみたいだな。生で戦闘見てみたいし、後は楽しみにしてよう)

 

 あちら側(・ ・ ・ ・)の世界(・ ・ ・)の住民、近界民(ネイバー)である遊真からすれば、こちら側の世界の強さというものに興味があった。

 向こう側では『殺されなければ死んでしまう』世界の住民。生きるために身につけた強者の実力を誇る遊真にとって、少しでもこちら側の『強さ』を確かめたかったのだ。

 だが、話だけでも情報を知っておけば対応ももちろん出来やすくなるのだが、遊真自らの目で確かめたい欲求もあったのだ。

 

(こなみ先輩も強い(・ ・)し、馬鹿に出来ないぞ)

 

 遊真がそんなことを考えているとは露知らず、三雲と千佳は宇佐美の手作りサンドイッチと、レイジや烏丸のトリガーの扱い方法などに集中していた。

 

「だが、まさか雨取のトリオン能力がここまでとは知らなかった。超A級のトリオン量だ。忍耐力と集中力があって性格も狙撃手(スナイパー)向き。『戦い方』を覚えればエースになれる素質がある」

 

 この話の話題となっている小さな女の子である雨取千佳は、とある事情によりこの玉狛支部に入隊し、界境防衛機関(ボーダー)訓練兵(C級)になるべく、ツーマンセルでレイジに狙撃手(スナイパー)の手ほどきを受けていたのだ。

 レイジは驚いていたのは千佳の桁外れなトリオン量にだった。

 人間の動力源である生体エネルギー、それが『トリオン』であり、そのトリオンは『トリオン器官』とよばれる見えない(・ ・ ・ ・)内蔵(・ ・)で生み出される。そんなトリオンが、あの小さな女の子はA級ボーダー隊員より既に持っているのだという。それにはある程度ボーダーの内情を知っているであろうA級隊員であるレイジがそう言えばかなりの見込みがあるとされている。

 『おお~!』と皆が千佳に視線が集まれば、本人は照れていた。

 そんな賑やかになってきたところで、玉狛支部の玄関からドアが開かれた音がした。どうやら帰ってきたらしい。

 

「うぉーい! 誰も居ないのかー!」

 

 玄関先から少し進んだ場所から声が聞こえると、面白いように玉狛メンバー(三雲たち以外)が黙る。

 あれ? どうして? と不審がった三雲だったが、思わず返事をしようとした小南を宇佐美が超絶笑顔で口を両手で塞いだ。モガモガとする小南を余所に、宇佐美は三雲たちに『しぃ~……!』と小さく言うと、

 

「あ、あれ? マジで? 誰も居ないの? ぅお~い……」

 

 誰も返事しないことによって、留守なのか?! と焦り始めた声の主は急に小声になり、何かブツブツ呟きながら中に少しずつ入って来る。

 

「ぉ……ぉ~ぃ ぃるんだろぉ~? 何でだよ、何で誰も返事しないんだよ。こえぇよ、マジ留守か? 玄関開いてたし…………泥棒…………不法侵入…………変態…………川で挟んだ玉狛支部…………さ、さささ殺人犯っ!?」

 

 かなり怯えているような声で皆が居る部屋まで近付いてくる。

 と、部屋の入り口に烏丸と宇佐美がいつの間にか移動して、なにかをスタンバイしていた。一体なにをするんだろうと三雲たちが疑問に思っていると、ガチャリとドアが開かれる。

 

「ぉ~ぃ 」

 

「「わっ!」」

 

「わああああああああッッ!?!?」

 

 ガシャガシャガシャーッ! と入って来ようとした人は派手に驚きグルグルー! と体を横転させて床に尻餅をついていた。

 

「やーやー保護(ほご)さん。お帰り! 相変わらずの新鮮な驚きっぷりだよ!」

 

「いやー……マジすんません保護(ほご)さん。俺は驚かせる気は無かったんすけど、宇佐美先輩に唆されてて」

 

「あーっ! ずるいなとりまるくん!?」

 

 パクパクと唖然としてる『保護さん』こと、遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)はずれた眼鏡を直し、一息ついて、

 

「ムカ着火ファイヤーァァァァァアア!!」

 

「アハハハっ!!」

 

「小南先輩シールド」

 

「ちょっ!」

 

 キシャアッ! と奇声を上げ、奇行を及ぼうとした保護に宇佐美は爆笑して、烏丸も小さく笑みを浮かべて小南の背中に隠れる。

 その間、三雲たちの置いてかれ感も凄いが、それを見越したレイジが暴走しようとしている保護にがっちりとホールドさせて捕縛させた。

 

「落ち着いて下さいよ。遠吠さん」

 

「グググっ!? ぞれを本格的スリーパーホールドをぎめるばえに言えぼぉぉっ!!?」

 保護の首にレイジの立派な上腕二頭筋にてプロレスの絞め技であるスリーパーホールドからバックチョークに移行した辺りで気絶(ブラックアウト)しかけた。そこをすかさず助けに入ってくれたのは小南だった。

 

「あ、あんたら何してんの!?」

 

「悪い。つい」

 

「〝つい〟……じゃ、ないわよ! しかも悪いの全面的にこっちじゃない」

 

 小南は気絶しそうになった不憫な保護を抱き起こすと、虚ろな目で、

 

「キリ……エちゃん……オレ、オレ…………『なにかした?』」

 

「そ、そうよねっ!! うんごめん。大丈夫だから、これ日常茶飯事だから」

 

「日常茶飯事だったんですか!?」

 

「玉狛、怖いところです」

 

「フム……面白いな」

 

 もう呆然とするしかなかった三雲たちは各々思ったことを口走る。

 レイジ、烏丸、宇佐美が各々が保護に謝るが、ビビって小南の後ろに隠れている。

 

「慣れてくださいよ保護さん。これ日常茶飯事じゃないですか」

 

「そうだよ! いつの(・ ・ ・)間にか(・ ・ ・)日常茶飯事になってたんだよ! 怖ぇよ! なにを日常茶飯事にさせてんだよ! いつからだ!? 前からか!? そうですか!?」

 

「落ち着こう保護(やすもり)さん」

 

 まさか、小南に落ち着きを促せられるとはと保護が思っていると、目に入ったのは白髪の少年。

 

(この、目……)

 

 無意識に、真剣な顔となり空閑を見つめた。

 計り知れないトリオン量。肌から伝わる『何か』に敏感に感じ取った保護は、口を開いた。

 

「そうか。君が空閑遊真か」

 

「うん……あれ? 名乗ったっけ? ……あぁ、そうか。話に聞いてたのかな」

 

「そうだけど、それだけじゃない」

 

 『?』と困惑しているが、保護はそれ以上は語らず、レイジたちに向き直る。

 

「林藤支部長から話は聞いてたから、大丈夫。オレもレイジたちの補佐として、教えられるところを教えていきうと思ってる。改めまして言っておこう」

 

 レイジの固い筋肉に軽いパンチを打って、肩に手を回し、

 

「レイジや桐絵、京介よりも早くボーダーに所属し、玉狛で働いてた遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)だ。コイツらが言うように保護(ほご)って漢字書いて保護(やすもり)だからそこんトコ宜しくね!? そしてオレは、」

 

 とことんと溜めて溜めて、顔をグイッと上げ、大声で、

 

「お前らより年上だがんなぁぁぁーー!!」

 

「「「えぇぇぇーーっっ!!!」」」

 

 全力で情けない事を叫声(きょうせい)をして、早速三雲たちもどんな対応すれば良いのか困惑状態となっていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 玉狛支部に『(ブラック)トリガー』 がある事を、ボーダー本部は既に知っていた。それも堂々と知らされた形で。

 

「城戸指令の直接命令指揮権を利用して林藤さんを使ったのか」

 

 ボーダーの指揮系統は命令の重複を避けるため直属の上官のみが部下に命令できるようになってる組織の規則(ルール)を利用したのだ。

 

「君らも大変だなぁ。三輪くんの隊だと城戸さん派か……マジ大変だな」

 

鉦胡(しょうご)さん。そして焔悟さん……どうしてここに」

 

 玉狛支部に居なかった二人。紺頼(こんらい)鉦胡(しょうご)と宍喰焔悟が居る場所は、三輪秀次が率いるA級7位の『三輪隊』が玉狛支部を監視していた場所だった。玉狛支部をよく見渡せる場所で、狙撃ポイントとして最高な場所だったが、玉狛支部の隊員たちがそれを知らない筈がなかった。

 

「いや、さっきコンビニ行ったらさ。米屋くんに会ってねぇ。限定版の飲み物買ってあげたら教えてくれてねぇ。さっき君に上げた弁当もボクらの奢りだけと…………まぁ! 気にしないでねぇ!」

 

「汚い! それが良い大人のやることですか!?」

 

「古寺章平くん。大人って……大人って狡い生き物なんだよ……」

 

(なぜ悟ったような顔をなされているのですか鉦胡さん……)

 

 三輪隊の狙撃手(スナイパー)である古寺は眼鏡を掛けた真面目な少年。玉狛の人間と話していたり、ましてや仲良くしてしまっては隊長である三輪や隊にさえ迷惑を掛けてしまう。

 そう、たとえ肉汁が弾け、こんがりと茶色く仕上がった香ばしい匂いを放つ唐揚げ弁当に目が離せない訳じゃない! そう必死に誘惑を消そうとするも、横を見れば、

 

「いやぁ! ほんとに良いスか! 限定版ジュースに唐揚げ弁当! 最高!」

 

「ハッハッハ。飲めー食えー」

 

(米屋先輩ィィイ!!)

 

 さっそく買収に引っ掛かった先輩に古寺は情けなさを感じてしまうが、自分も危うい。空腹なのである。

 弁当など待って来れば良かったと後悔している。

 

「ハハハ、大丈~夫。食べ終えたら帰るし、三輪に見つからないようにしとくよ。だから食べな? 迅くんみたいにただ話したかっただけさ。ぼんち揚げは無いからねぇ」

 

 鉦胡は買ってきたコンビニの缶コーヒーを飲みながら、さりげなく古寺が覗いていた望遠鏡に目を向ける。

 

「朝早くから仕事熱心だね。玉狛支部が覗ける場所も限られてるから狙撃手(スナイパー)としては少々居辛かったんじゃない」

 

「モグモグ……えぇ……。なるべく居場所を悟られないような場所を確保し、そこから狙いを……って! 何聞いてるんですか」

 

「大丈夫だって、君よりボーダーに長く居るんだよ? 狙撃技術の話なら本部にいる(あずま)さんから聞いてるし、なんたってウチには『万能手(オールラウンダー)』が二人も居るからねぇ」

 

「えっ!」

 

「知らなかったの? 玉狛には……」

 

「おい鉦胡! 余計なこと言うなって」

 

「あれ?」

 

 不味いことを知られてしまったかも、と一人焦る鉦胡だったが、だがよくよく考えても別に問題は無いかなと結論つく。きっと焔悟が注意したのは別のことかもしれない。

 

「まぁ取り敢えず、君たち頑張ってよ。ボーダーの仲間同士。派閥とか面倒なのに絡まれてるけど、いつでも声掛けてきてね。あっ、お茶と菓子も置いてくからねぇ」

 

 それじゃ、と手を振って屋上の出入口から出て行った二人に、弁当を食べ終えた古寺と米屋は顔を見合わせ、互いの検討を言い合う。

 

「位置が相手側に割れたので場所を移動します。全体が見渡せる場所も大抵の場所がバレてると思いますが、移動しておきましょう。恐らくああやって会う(・ ・)だけでも十分こちら側の精神疲労を与えてくるのですから」

 

「程よく飴も与え、しっかりと鞭も打ってるってか? 章平、あの人たち未だによく分からんわな」

 

「まぁ、それはそうですが、襲撃とかされませんでしたし、眼中に無いって事じゃないですか?」

 

 あれ? と、米屋はコンビニ袋にゴミを入れて片付けている古寺に聞いた。

 

「古寺知ってたのか、あの二人の実力」

 

「……奈良坂先輩からも聞いてたのし、東さんからも話など聞いてます。…………米屋先輩と話していた宍喰焔悟さん、あの方は攻撃手(アタッカー)だけでは無く、狙撃手(スナイパー)まで経験していると聞きました。しかも腕は東さん並だとか……。それなのに何故攻撃手(アタッカー)なのか不思議ですが」

 

 古寺が辺りを片付け終えると、米屋から大きく吐かれた溜め息に思わず怪訝な顔となる。

 

「む、なんですか。なにか間違ったところでも」

 

「いやいや、章平そこまで知ってて、焔悟さんの凄さを見逃してるとは………ってな」

 

 古寺は首を傾げると、米屋はいきなり槍型用に作られた『弧月』を出現させると、手軸を回すようにして鋒をイメージの相手を刻んで貫く一動作をおこなうと、ギュッと強く握り締める。

 

「あの人な、『遠征組』で、ボーダー内のA級1位の部隊『太刀川隊』の隊長であり、No.1攻撃手(アタッカー)の実力者。太刀川(たちかわ)(けい)がランク入りする前の、…………攻撃手(アタッカー)No.1だった人だったんだぞ」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「玉狛支部に、元No.1攻撃手(アタッカー)が所属しているんですか?」

 

「おっ、三雲くん。京介から話を聞いたのかい?」

 

 遠吠保護が残り物のご飯を食べていると、実力派超エリート迅に各師弟を組まされたことに笑い転げていた保護を無視し、レイジと雨取(あまとり)千佳(ちか)狙撃手(スナイパー)師弟と小南と空閑遊真の攻撃手(アタッカー)師弟は訓練先にへと向かったが、烏丸と三雲の師弟コンビはまだ上に居た。

 

「焔悟さんのことなんですけど、話しちゃって大丈夫でしか?」

 

「大丈夫でしょそれくらい。怒らないと思うよ」

 

 それじゃ、と保護がご飯の上に沢庵を乗せたまま三雲に向き合う。

 

「まず玉狛支部に少数の隊員が所属しているんだが、その誰もが『A級』レベル……って迅から聞いたんだったね?」

 

「ハイ。玉狛支部は少数精鋭の実力派集団って言ってました」

 

(ぇぇ~マジか! そんなハードル上げちゃったの迅ちゃん!?)

 

 ビクビクと、なぜかし始めた保護に烏丸が小さく笑みを浮かべている。

 

「あ、えっと、うん。まぁ、それは大言壮語っぽくならないよう務めようという迅ちゃんからのメッセージかもしれないしうん。…………そうだよ! オレたちはA級だぜ多分!!」

 

(え、えぇ~~!!)

 

「ぷくくく…………」

 

 やけくそ気味に言ってきた保護がとても可笑しくて、三雲は困惑し、烏丸はもう肩が動くほど笑っている。

 

「そこ! なに笑ってんだコンチクショウ! 後輩になめられるなんて……なんという屈辱」

 

「何言ってんすか、人を舐めるなんて真似できませんよ。気持ち悪い」

 

「物理的なこと言ってんじゃないのよ? そこん所は分かってるわね!?」

 

 ちょっとテンパるとオネェ気質になってしまう保護に三雲も段々と笑えてきそうになり、耐える。

 

「その、No.1攻撃手(アタッカー)……」

 

「……の話だったよな! そうだったな!」

 

 保護はバクバクと沢庵とご飯だけで済ませ、使い終わった食器を洗う。

 

「〝元〟をつけろよー? アイツ太刀川くんに遠慮して一番を名乗り出たくないらしいし、元から一番とか嫌がってた節があるし」

 

 洗い終えた食器の水滴を完全に拭き取り、食器棚に片付けると、電気ポットからお湯を急須に入れ、湯呑茶碗に注ぐ。

 

「その、焔悟さんという方は……」

 

「まだ玉狛(ウチ)に帰ってきてないなぁ……まぁ、いつか会えるだろうし、そんな良い話なんて聞けないぞ」

 

 三人分のお茶を注ぎ、保護はソファーに座り、三雲は戸惑いながらも対面に座り、烏丸は何となく真ん中の椅子に座った。

 

「太刀川くんがボーダーに入隊する前はね、玉狛にまた一人居たんだよね。【化物】が」

 

「は、えっ?」

 

 三雲が宍喰焔悟の話をするのかと思えば、検討違いが話が出てきたが、保護もそれを知ってか『まぁ聞きなさいって』と話を進める。

 

「その【化物】は、あっ、ちゃんとした人間だよ? まぁその【化物】と呼ばれる人にオレたち三人、宍喰焔悟、紺頼鉦胡、そしてオレこと遠吠保護がその【化物】に直属の指導の元鍛えられた。そしてらまぁ、死ぬほどきつくて堪らなかった。耐えられなかった。まじで」

 

 ズシン、保護から一切の表情が消え、それがどれだけ深刻だったのかすぐに伝わった。

 

「その人って、今は……」

 

「ボーダー本部に異動になり、今は『城戸派』なのか『忍田派』なのか、はたまた『玉狛支部』の支持者か……分からない。何を考えて行動しているのかさえね」

 

「……その人って、凄く強い人なんですか?」

 

「強いよ。なぁ、京介」

 

 話を振られた烏丸は、真剣な顔付きで頷く。

 

「そんな強い人に、そりゃ【化物】と呼ばれた人にオレたちは文字通り血ヘド吐きながら鍛えられた」

 

 保護は思い出したのか、いきなり顔面蒼白になりながらも話す。なにもそこまで無理して話さなくても三雲が思っていると、保護は気を取り直し、

 

「その人に鍛えられたオレたちは、『玉狛第零』としての階級を貰えた。まぁ、すぐに名の通り零の如く早くに無くなった部隊だったんだけど、そこで名を上げたのが〝宍喰焔悟〟だったのだ!」

 

「おぉ~」

 

「いやぁ、やっと本題に入れましたね。保護さん」

 

「うん。オレ話すの苦手だったからマジ焦ってたわ」

 

 この人も何気に素直ですぐに騙されそうな人なんだな、とそこで三雲は思った。

 

「元々、その【化物】に師事した焔悟は炙り焼くようにとことん接近戦をその人としていたよ。その【化物】も接近戦を得意とした人だったからなぁ。マジあれは鬼畜だったわ、引くわ」

 

 内容は省くけど、鬼畜だったよ。とまた蒼白になりながらも笑顔でそう言ってきた保護に三雲はどれだけその【化物】と呼ばれた人に鍛えられたのか、想像できなかった。

 

「きっと、今から太刀川くん達と戦ったらどうなるか分かんないんじゃないかな~」

 




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第2話「唐突な開戦②」

WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~

 

第2話「唐突な開戦②」

 

 

 

 

 時間帯は夜となり、近界民(ネイバー)による出現や被害を考え、住民を避難させ、今や無人となった『警戒区域』の町をまるで散歩でもするかのように一人歩いている青年が手に『ぼんち揚げ』の袋ごと持って食べながら、その表情は真剣そのものだった。

 

(んおぉー……俺のサイドエフェクトが動きだしたなぁ。こりゃ『第零』さんのお陰かな?)

 

 その青年。

 界境防衛機関《ボーダー》に二つしかないと言われた『(ブラック)トリガー』の持ち主であり、『S級』の実力派エリートを自称する男。

 (じん)悠一(ゆういち)が青い隊服をはだけるように着て、一応ボーダー隊員なんですよーと告げている格好だった。

 

「そろそろかな」

 

 そう言って、迅は食べていたぼんち揚を全部食べ終え、ポイ捨てなんてせずに綺麗に袋を折り畳んでズボンのポケット辺りに入れとく。後のカス掃除が大変だが、迅はその面倒さえ配慮に入れてまで持ってきていたのだ。だがそんな事を気にしてる場合でもなく、『警戒区域』だと言うのに電柱にある防犯灯が何故か電気が通っているが今は有難い。

 迅はその電柱に立っていれば、前方から多数の迫り来る疾走音が耳に届いてくる。

 

 

 

「止まれ!!」

 

 

 

 ズサッ! 表れたのはボーダー本部での『最精鋭部隊』のメンバーが揃っていた。三々五々と表情や心構えで臨んでいるように見え、バラバラだが目的をハッキリとした確固の気構えだった。

 

「迅……!!」

 

「そうか。なるほど、そう来るか」

 

「太刀川さん、風間さん久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「うーむ……今日も3勝7敗が最高か……。4勝の壁があるな」

 

「腕が上がってるのはあんただけじゃないのよ」

 

「ほう」

 

 プスプスと白い髪をアフロのように膨張している空閑遊真が『3』の口で、師匠相手である小南にあとちょっとで4勝への勝利を手に入れるべく、休憩の為、訓練室(トレーニングルーム)から出てすぐにあるオペレーターデスクに集まっていた。

 

「小南先輩から3本取れたら大したもんだろ」

 

「とりまる先輩も一勝負どう?」

 

「また今度な」

 

「えっ、ちょ! なんでとりまるは最初から先輩呼びなの!?」

 

 なにやら烏丸が椅子に座りながら弟子である三雲のトレーニングスケジュールを考えながら紙に書いていた。突然、迅に言われて師弟関係となったというのに真面目に三雲のことを考えていた。

 

「どうやっておまえの相棒を強くできるか、今はそれを考えるので手一杯だ」

 

 

 烏丸がその三雲のことで思い悩んでいる頃、場所が変わり、体力作りとして玉狛支部周辺の外周を走っているレイジに千佳、三雲の三人は夜ながらも頑張っていた。

 そこには玉狛支部に居座っているお子さま林藤陽太郎もカピバラの雷神丸に跨がり追走しながらゼェゼェ苦しそうにしている三雲を応援して付いて行っていた。

 余裕を持って背後を見ながらレイジが今の走り込みの説明をする。

 

戦闘(トリオン)体での戦闘に生身の筋力は関係ないが、トリオン体の操縦は生身を動かすときの『感覚』が元となっている。生身で『動ける感覚』を掴めばトリオン体ではその何倍も動けるようになる。生身の鍛錬を甘く見ないことだ」

 

「はい!」

 

「は……はひ…………」

 

「しぬな! おさむ!」

 

 レイジは走りながら後ろから付いてくる後輩たちを眺めて、ふと考える。まさか三雲の持久力がこんなにダメだとは。

 だが、三雲の言う通りレイジの弟子である彼女、雨取千佳は少なくとも三雲より顔を上げ、胸を張り、呼吸の取り方も見事に保って走っていた。持久戦に向いている。

 

(ふむ……)

 

 これは鍛え甲斐がある。

 ふとそう思ったレイジだった。三雲も雨取も、

 

 そして、そんな玉狛支部外周を走る二人をよそに、支部の中ではまた空閑と小南がオペレーターデスクで休憩していた。それだけの実力差が遊真とあるということ。

 

「そういえば、最近迅さん居ないね」

 

「なんかやることがあるって言ってたな。あの人」

 

保護(ホゴ)先輩も居ないし」

 

「んー……ホゴさんは部屋でアニメ見てるかゲームしてるかじゃないか」

 

 遊真が迅の姿が支部内でも見かけないのでふとそう思い、それにノートに書き写しながら烏丸も律儀に答えていると、ボトルに入った水分を補充していた小南が何気なく告げてきた。

 

「どうせ、またなにかコソコソやってんでしょ? あいつの趣味『暗躍』だから」

 

 そして。

 

「ホゴさんは、…………やっぱりアニメ見てるのかしら?」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「うおっ、迅さんじゃん。なんで?」

 

「よぅ当真。冬島さんはどうした?」

 

「うちの隊長は船酔い(・ ・ ・)でダウンしてるよ」

 

「余計なことを喋るな当真」

 

 当真と呼ばれた少年。当真(とうま)(いさみ)はリーゼントを立派に整えた髪をいじり、待ち構えていた迅に疑問に抱くが、同じ『遠征組』にして《風間隊》の隊長であり、その集団の中で一番背が小さくもその無表情さと内面から伝わる気迫に気圧(けお)される雰囲気を纏った風間(かざま)蒼也(そうや)が厳しくそう言い放つ。

 

「こんな所で待ち構えてたってことは、俺たちの目的もわかってるわけだな」

 

うちの(・ ・ ・)後輩(・ ・)にちょっかい出しに来たんだろ?。最近、玉狛(うち)の後輩たちはかなりいい感じだから……ジャマしないでほしいんだけど」

 

「そりゃ無理だ…………と言ったら?」

 

「その場合は仕方ない」

 

 迅は(おの)が持つ、《(ブラック)トリガー》の黒塗りの柄尻に手を乗せ、臨戦体勢をとる。

 

「実力派エリートとして、かわいい後輩を守らなきゃいけないな」

 

 迅の微笑みながらの気迫に三輪が気に入らないように舌打ちを鳴らす。

 だが、逆に『面白い』と感じる者もその中に居た。

 

「なんだ、迅。いつになくやる気だな」

 

 笑みを浮かべていたのはボーダー内上位1位の座に着いている《太刀川隊》隊長・太刀川慶だった。

 

「おいおい。どーなってんだ? 迅さんと戦う流れ?」

 

 軽く冗談のように言った当真だったが、その可能性も十分過ぎるくらいある。手元にはいつでも狙撃できる狙撃手(スナイパー)用トリガー《イーグレット》を出現させられるようにしていた。

 だが、そこには冷たくも確りと芯が籠った声が遮った。

 

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』………隊務(たいむ)規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな? 迅」

 

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ、風間さん」

 

「…………!」

 

 迅の言い様に、風間は思わず思い悩む。だが、そんな虚言に物申すように、三輪が吠えるように食ってかかる。

 

「「立派なボーダー隊員」だと…………!? ふざけるなッ!! 近界民(ネイバー)を匿ってるだけだろうが!!」

 

近界民(ネイバー)を入隊させちゃダメっていうルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句を言わせないよ」

 

 その言葉に三輪も喉を詰まらせる。

 隊務規定あってこそ、『界境防衛機関(ボーダー)』として世間から危険視されていないのだ。軍規に並ぶ厳粛にして厳重な規則。守られなければ即時厳罰。それがあるから組織が成り立つ。幾ら《(ブラック)トリガー》の回収が名目があるとは言え、その命令を下した上の連中の規則(きめごと)に縛られるのは、隊員にとって数ある面倒事の一つと言える。

 だが、だからこそこの男(・ ・ ・)を城戸司令は指揮権を任せたのだろう。

 

「いや、迅。おまえの後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛での入隊手続きが住んでても、正式(・ ・)入隊日(・ ・ ・)を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない。俺たちにとっておまえの後輩は1月8日(・ ・ ・ ・)まではただの野良近界民(ネイバー)だ」

 

 太刀川も、レーダーに映らないようになるマント《バッグワーム》のオプションを切り、動きやすい格好である黒コートの隊服になり、悠然と告げた。

 

「仕留めるのになんの問題もないな」

 

「へぇ」

 

 同時に、三輪は前から太刀川が苦手だというその理由が分かった。太刀川慶と迅悠一のやり口が似ているからだ。

 

「邪魔をするな迅。おまえと争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する」

 

 風間も風間で、この不毛なやり取りにその冷静な考えで結論着いていた。

 

「本部と支部のパワーバランスが崩れることを別としても、(ブラック)トリガーを持った近界民(ネイバー)が野放しにされている状況はボーダーとして許すわけにはいかない。城戸司令は、どんな手を使っても玉狛の(ブラック)トリガーを本部の管理下に置くだろう。玉狛が抵抗しても遅いか早いかの違いでしかない。おとなしく渡したほうがお互いのためだ。…………それともその(ブラック)トリガーの力を使って本部と戦争でもするつもりか?」

 

「城戸さんの事情は色々あるだろうが、こっちだって事情がある。あんたたちにとっては単なる(ブラック)トリガーだとしても、持ち主本人にしてみれば命より大事な物だ」

 

 向こうが曲げられないように、こちらにだって曲げられない事情というものがある。

 

「あくまで抵抗を選ぶか……。お前も当然知ってるだろうが、遠征部隊に選ばれるのは()トリガー(・ ・ ・ ・)に対抗(・ ・ ・)できる(・ ・ ・)と判断された部隊だけだ。他の連中相手ならともかく、俺たちの部隊を相手におまえ一人だけで勝てるつもりか?」

 

 それなら何処までも甘く見ているつもりなのか、憤りを越え、呆れるものだ。風間は表情こそ一切乱れていないがふとそう思った。

 だが、遠征組に選ばれたことがある迅だ。

 

「おれはそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊。おれが(ブラック)トリガーを使ったとしてもいいとこ五分だろ」

 

 なら勝負は明らか。

 そこを退け、風間がそう言い放とうとしたが、迅は崩さぬ口角を上げた口で告げた。

 

「『おれ一人だったら』…………の話だけど」

 

「…………ッ!? なに……!?」

 

 ダンッ!!

 全員が上方から聞こえた着地音に目を向けた。するとそこに立っていたのは、

 

「嵐山隊現着(げんちゃく)した! 忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」

 

「嵐山……!」

 

「嵐山隊……!?」

 

 到着したその部隊は忍田派に属し、A級5位にして広報担当の役割をもこなし、「ボーダーの顔」としてメディア露出も多いことで有名である《嵐山隊》だった。

 隊長の嵐山(あらしやま)(じゅん)が迅の横まで降りると、嵐山隊紅一点の木虎(きとら)(あい)、嵐山隊副官の立ち位置である時枝(ときえだ)(みつる)も並び立つ。

 

「いいタイミングだ嵐山。助かるぜ」

 

「三雲くんの隊のためと聞いたからな。彼には大きな恩がある! 」

 

「木虎もメガネくんのために?」

 

「命令だからです」

 

「時枝も助かるぜ」

「頑張っていきましょう」

 

 さて、と迅は相手方を眺め、

 

「嵐山たちがいればはっきり言ってこっちが勝つよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる。おれだって本部とケンカしたい訳じゃない、。退いてくれると嬉しいんだけどな、太刀川さん」

 

「なるほど……『未来視』のサイドエフェクトか。ここまで本気(・ ・)のおまえは久々に見るな…………おもしろい(・ ・ ・ ・ ・)

 

 はぁぁぁぁ~ぁぁ、と盛大に溜め息を吐いた迅。

 やはりこの人はこうなるのかと、溜め息を吐かずにいられなかった。

 

「おまえの予知を……」

 

 太刀川は鞘からゆっくりと、抜刀する。

 光り輝く刀身を覗かせて、ゆっくりと、ただそれだけで、

 

「……覆したくなった」

 

 相手の身を(すく)ませる。

 

「やれやれ……そう言うだろうなと思ったよ」

 

 だが、迅とて引けない。

 ならば情け容赦無い戦いに移ろう。

 言葉ではなく、刀剣同士の斬り合いにて、勝者(けっちゃく)決める(つける)

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 そんな迅&嵐山隊(バーサス)遠征組&三輪隊の戦いが始まった時であろうその時、玉狛支部所属の隊員である宍喰(ししくい)焔悟(えんご)紺頼(こんらい)鉦胡(しょうご)も動いていた。

 二人共、迅と同型の隊服に似ており、それが玉狛支部所属の隊服なんだと彷彿させるが、色が分かりやすく、焔悟は迅よりも純粋は蒼色の上着隊服で、鉦胡も青色の濃紺(ネイビーブルー)の上着隊服。色もそうだが、個人的にオリジナリティに作られてるのかもしれない。焔悟の隊服は裾が短く、鉦胡の隊服は裾が長く作られていた。

 その青さが夜の街中、特に屋根での移動では黒に馴染む色で、目立たなく移動出来ていた。

 

「迅の《未来視(サイドエフェクト)》の邪魔にならない程度の手伝いをするつもりだが、(しょう)っさん保護(ほご)メガネにも連絡しといたか?」

 

「保護メガネはガチギレするから止めてけよ。…………ブッ! ブックフフフッフ!!」

 

「笑ってんじゃねぇか」

 

 迅たちが戦っている周辺まで跳んでやって来ると焔悟と鉦胡は辺りを警戒しながらも遠くから見渡せる場所にへと更に移動していた。

 

「遠征組以外の隊……狙撃チームとか来てたら完璧ボクら狙われるよね?」

 

「それならもう撃たれてるさ。狙撃手(スナイパー)用トリガーの射程範囲内にはもう来てる。当真が一番怖ぇけど、それは向こうに気を取られてるし、なにより城戸司令はトップチームを信じてんだろうさ」

 

 焔悟は攻撃手(アタッカー)用トリガーを装備している為、両手に何もない状態で双眼鏡を覗かせる。

 

「それに、危険になりそうだったら、鉦胡の〝サイドエフェクト〟が反応するだろ」

 

「それはそうだけど、反応するだけで対応はこっちでやらないといけないんだ。それがどこまで危険なのかも分からないというのに……」

 

「それはそうだが……おっ! 太刀川くんの旋空(・ ・)によって、距離を置いたな迅。それからどうすんだ」

 

「盗み見になんて、嫌な趣味してんな」

 

「君も来てんがな」

 

「遠征組は数が居るからバラけて玉狛支部に行ったらどうするの?」

 

分散す(バラけ)れば連携も出来ずに迅か嵐山隊に集中砲火受けてやられる。だからって一人や二人の少数を玉狛に行かせてもレイジ達ボーダー最強部隊《玉狛第一》に返り討ちだ。それなら太刀川くんや風間くんなど攻撃手(アタッカー)上位や、狙撃手(スナイパー)1位2位の当真や奈良坂くんを行かせても無駄だ。通れやしない」

 

「無粋な質問だったねぇ」

 

「堅牢なのは堅牢だけど、万が一がある。太刀川くんたちは『強い』んだ。確実なんて何処にも無いが、…………うん?」

 

「どったの?」

 

 焔悟は戦術面では太刀川や風間、他にも数人頭が切れる者が居るあの中で、遠方から別の部隊……というより数人が向かっているのに気づいたのだ。レーダー画面を正面に出現させ、確認の後、遠征組と三輪隊だけじゃない。と判断し、焔悟はすぐに眺めていたであろうマンションのベランダから降りた。かなりの高層マンションだったにも関わらず躊躇無く降りた。

 鉦胡も後に続くが、この落下していく重力感は何度 体験しても肝を冷やされる。現実に生きてきた者に対して地面ほど密接してきた人生に新たな感覚を植え付けられたのだ。戸惑いや困惑が付いて回るのは大変ストレスになるのだが、それを代償に超人な力を手に入れたも同義であるのだが、それを理解してもやはりというか、結果は『怖かった』のだ。だが、無事に高層マンションから降り、風の抵抗を上手く利用して民家の屋根に見事着地するところには『慣れ』を感じさせられる。

 だが、鉦胡がそんなことを考えている内に、焔悟は次のことを考えていた。

 

(なんだ? 『玉狛』と『忍田派』が手を結んだことで本部隊員の3分の1戦力が遠征組より上回ったことを知られ、『城戸派』が新たに戦力を投下してきたのか? だが遠征組に続くA級隊員を投入するには幾らか骨が折れるハズ、そして何より情報が回ってくるハズなのに……)

 

 焔悟は次から次へと民家の屋根を蹴り飛びながらその少数迫りくる奴らのもとへ急ぐ。

 

(……嫌な予感だ)

 

「…………ッッ!? 右だ!」

 

 鉦胡の声に即座に反応し、攻撃手(アタッカー)用武器トリガーの軽量ブレード『スコーピオン』でそれを弾き落とした。

 

「ひあぁ~……落とされちったぁ」

 

「……………………」

 

「「ゲッ!?」」

 

 見事な対応をみせた焔悟だったが、鉦胡と共に攻撃してきた相手に思わず呻き声を洩らしてしまった。それほどの相手、それほどの苦手な相手たち。

 

「おっ久~! 愛する兄達(・ ・)たちの援護にきたプリティな妹達だっぜ~」

 

「……まさか、この人たちだったなんて……(とどろき)さんも相手が悪い」

 

 二人の前に立ちふさがったのは、誰かによく似る女剣士の二人だった。

 一人は格子状の目と、長いツインテールが特徴的な小さな女の子。オプショントリガーである《バッグワーム》を使わず、無用なトリオン消費をせずに警戒区域(こ こ)まで来たらしい。

 もう一人はとても長身の少女で、夜間でもあるのに、月明かりに映ったその立ち姿はとても凛としており、月下に咲く華のように、見蕩(みと)れて思わず息を小さく洩らしている。

 黒い髪は腰まで伸ばし、だと言うのに邪魔になっているのかと思えばそんなことを思わせない流麗な動きにまた見蕩れ…………、

 

「よそ見♪」

 

「「うおぉおーーっ!!」」

 

 その一人に視線を集中し過ぎたせいか、もう一人の小さなツインテールっ娘に容赦無い斬撃を振るわれる。

 間一髪のところで避けるが、拍子に顔から道路に突っ込んでしまう。いくら戦闘(トリオン)体だからとはいえ屋根から道路に向かって落ちていくのに中々怖かった。

 

「やっべぇ……相変わらず美女だ……。もう、美少女とかじゃなくて、マジ『美女』だ」

 

「よ、よそ見っ!」

 

 ズワァンッ! と光の一刀が鉦胡の雁首目掛けて一閃する。だがこれも間一髪避けられる……が、足場が不安定だった為に体勢が崩れてしまい、無様に屋根から落ちて塀と塀の間に挟まった。

 見事にハマってしまったのだ。いくらトリオン体でも手も足が動かせない状態に陥ったのだ。

 

「やべぇえ!! これマジやべぇえ!! 真っ二つにされるぅぅぅッッ!!!??」

 

「ほんとに馬鹿かこの人たちっ!?」

 

 勿論、()らせてもらう。

 彼女の攻撃手(アタッカー)用トリガー『弧月』が鉦胡の体全体を真っ二つに出来るよう横斬りに振るわれるが、

 

「貴女も余所見よ……」

 

 ガキィイン!! と激しい金属音がツインテールの少女の耳から伝わった。

 

「もっと惹き付けておけよ」

 

「いぃやぁ無理でしょォ!?」

 

 顔面押さえたままだったが、形を自在操れる『スコーピオン』で十字斬りをツインテールの少女に放ったのだが、それを事前に見越してか、黒髪長髪の美女が身の丈ほどある長刀の『弧月』で防いでみせた。

 そして、鉦胡の反応から見て、土壇場での連携だと判断する。

 

(この挟まり男だけでも!)

 

 だが既に鉦胡の姿も消え、反対側の道路に出ていた。

 

「言った通りでお願いね……」

 

「分かってるわよッ!」

 

 見事に二手に別れたこの一騎討ちに、早くも終わらせようと焔悟はスコーピオンを双剣にして長刀使いの美女に瞬速の連撃を繰り出していく。

 

「…………やはり、速い(・ ・)ですね」

 

「と言いながら受け流すかい!」

 

 笑みを浮かべる焔悟に対し、美女は長い弧月を巧みに動かし氷のような無表情顔で執拗に『頭部』『首』『胸部』に刺突(つき)を放つ。

 

風間(・ ・)ちゃんが来たってことは、やはり迅たちが防衛戦を敷くことを知ってたのかい!」

 

「いえ……、知りませんでした……」

「え、マジで?」

 

 そんな軽口を叩くが、一向に絶え間ない焔悟の連撃に早速動きが鈍くなってきた風間と名乗る美女がふと、隙を見せる。

 

(獲った)

 

 体勢を崩した美女にすかさずトリオン体での急所、胸部にある『トリオン供給機関』に向けて双剣で貫こうとするも、

 

(ぬがっ!?)

 

 ヒュンッ! と風を切る音が顔面のすぐ側で聞こえた。

 長刀使いの美女がまるで軽い物でも動かしたかのように手首と五指だけを動かし、長刀の『弧月』を円状に回転させ、逆に焔悟の首を獲ろうとしていたのだ。

 

「……難しいわね」

 

(うわぁ……)

 

 こんなえげつない方法を取るのは、あの(・ ・)風間と同じだった。

 

(まぁ、これなら倒せないことも……)

 

 そう考えていると、今度は完全にスピードを先手に取られ、予測不可能な長刀の動きに、

 

「シールド!」

 

 防御(ガード)用トリガーを発現させると、防御(ガード)範囲を極端に狭まり小さくして、防御の硬度を最高にさせて受け止めるが、

 

(あらら!)

 

「……む、ーっ!!」

 

 両手で柄を握り、思いっきり力を入れれば、空中展開させていたシールドが何故か動きだし、『なにィ!?』と驚く焔悟を、視界が揺れたと思えば体が重力を無視した勢いよく打ち飛ばす。女性とはいえトリオン体。人命救助にてその怪力が活躍する。フルパワーで動かせば巨大な岩盤や建物のコンクリートの瓦礫だって動かせる。

 

(そうか……コイツらの狙いはっ!)

 

 ガゴォン! ガゴォン! と家から家へと幾度も突き破り、貫き飛ばされながらも焔悟は相手の狙いをしっかりの捉えるも、その美女は無表情のまま駆ける力も弛まず押し通していかせる。

 考えあっての行動も、民家を破壊してまでやってしまっているのは若さ故に事後処理のことを考えていないことか、それとも知っての大胆不敵な行動か。焔悟的にも前者であって欲しかったが、この美女の性格を知っている。零度を(・ ・ ・)誇る冷静さ(・ ・ ・ ・ ・)を。

 最後の民家を大破させて、広い道路に出てやっと横跳びにして避けてみせると、そこには見知った顔がそこかしこに立っていた。

 

「ありゃ、エンゴさん?」

 

「…………やっぱか!」

 

 最初から、本当に戦闘が始まる前から『合流』を狙い、位置も把握きて決めていたのだろう。迅や太刀川、風間隊の隊員たちが対峙している場所にへと出た。

 

「……蒼伊(あおい)か」

 

「……お兄ちゃん(・ ・ ・ ・ ・)

 

 風間隊隊長であり、蒼伊と呼ばれた美女の兄であろう風間(かざま)蒼也(そうや)がそこに立っていた。

 

「何故ここに居る」

 

「えっと……その、お兄ちゃんに会いたくって……」

 

 さっきまでとは打って変わって、凛とした姿が和らげ、気恥ずかしそうに下を向く美女がそこに居た。

 風間隊の菊地原(きくちはら)士郎(しろう)歌川(うたがわ)(りょう)が迅や焔悟から守るように蒼伊の前に出る。

 

「蒼伊先輩、久しぶりですね。そして相変わらず(・ ・ ・ ・ ・)です。それ治した方が良いんじゃないですか?」

 

「おい、言い過ぎだぞ」

 

「こっちはこっちで甘いし……」

 

 風間隊も前から会っていたのか、蒼伊に気軽に話し掛ける。蒼伊は菊地原や歌川に軽くお辞儀をして、兄の風間蒼也の様子を伺うが、無表情なその顔は思考を読むことが出来ない。

 

「待てよ、(アオ)ちゃんが居るってことは……」

 

 そして、風間隊や太刀川の動きが止まると同時に、一陣の風が横切った。

 

「正面からか!」

 

「若いねぇ……」

 

 ガキィッ! と音が鳴ったと同時に武器で防ぎ、迅と焔悟にその〝二刀〟で襲ったのは栗色の長い髪をツインテールにした小さな少女だった。

 

(れん)っ! お前もか!」

 

「わたしもだ!」

 

 受け止められたが、そのまま二刀を即座に戻し、次の斬撃を放とうとするも、迅が右から焔悟が左からの重い一撃を横薙ぎに斬り払おうとする。

 だがそれを間一髪で見切り(・ ・ ・)、体をねじ曲げ曲芸よろしく宙で回転して焔悟の刃を砕け裂いた。

 

(……ッ!……受け太刀に弱いスコーピオンだけを狙った返しか! 油断ならん娘だ相変わらず)

 

 だが、それだと迅の刃が彼女を襲うが、

 

俺がいるぜ(・ ・ ・ ・ ・)?」

 

 迅の横顔まで迫った刃先を『予知』のサイドエフェクトで紙一重で避けるが、かなり危なかった。それほど目の前の少女に集中させられたということだった。

 

「太刀川妹に風間妹……強力な協力者が増えちまったぜ」

 

「えっと……………………………………悪ぃ」

 

 これにて局面が新たに変わる。

 迅と合流した焔悟に、遠征組と三輪隊、そして太刀川と風間妹達(シスターズ)の参戦。

 

 未来が変わった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「あっ、ぉ?」

 

 所変わって、二手に別れた嵐山隊の足止めを入った三輪隊二名に太刀川隊一名の計三名の戦闘場所にも新たなアクション起こっていた。

 

『どうした、(けん)?』

 

 マンションのベランダにて、狙撃ポイントに構えていた嵐山隊唯一の狙撃手(スナイパー)佐鳥(さとり)賢が遠方から煙が見えたことに冷や汗を垂らしていた。トリオン体によって備えられた内部通信で嵐山が何かあったのか確かめてきたが、今こちらも戦闘中、説明してもただ要領を得ないので『なんでも無いっす』とだけ返す。

 

「曖昧な理由で戦う連中だ。情けなんて描けるなよ」

 

「誰に言ってんのよコラ」

 

 拳銃(ハンドガン)を嵐山の頭部を狙ったまま、出方を待っている鋭い眼光を放つ三輪隊隊長・三輪秀次に、太刀川隊の火力担当にして《弾バカ》なんて呼ばれている出水(いずみ)公平(こうへい)が嵐山隊と対峙したまま動けないでいた。

 その理由は単純に事前に知っていた嵐山隊メンバーの一人に《狙撃手(スナイパー)》が何処かに潜伏しているからだった。迂闊に射線が通らないようにしているからだった。

 

(ま、そんなんじゃ相手も狙撃場所変えて狙えるトコに移動されるだけなんだし……)

 

 ここは打って出る。

 そう決めたのは、遠征組にしてA級1位の部隊《太刀川隊》の中距離・援護補佐など専門にしてる《射手(シューター)》の出水が笑みを浮かべて、前に出た。

 

()るならさっさと始めようぜ。早くこっちを片付けて、太刀川さんに加勢しなきゃなんないからな」

 

 そう告げた出水の両手から、眩い光が洩れたと思えば、そこにあったのはトリオンで出来たであろう四角い〝キューブ〟。

 それは射手(シューター)独自の攻撃態勢前の準備動作だったのだが、これにて出水は名の通り両手が(・ ・ ・)塞がった(・ ・ ・)状態にもなった訳だが、まるで待っていたかように刹那的の嫌な射撃音がその場を支配した。

 狙いを定め、絶好のチャンスで射撃をしたのは、嵐山隊唯一狙撃手(スナイパー)の佐鳥賢。

 撃ち抜いた相手を確かめようと照準器(スコープ)を覗くと、

 

「……クハハ、なんちゃって。佐鳥、見っけ」

 

 反応早く、佐鳥は一気に身を低くしてその場のマンション部屋内部に引っ込み、外にへと駆け抜ける。

 

「うっわ、釣られた! 両攻撃(フルアタック)と見せかけて両防御(フルガード)かよ! 相変わらずイヤらしいな出水先輩は!」

 

 見事な出水の引っ掛けにより狙撃手(スナイパー)の居場所を見つけた三輪たちはすぐさま指示を出す。

 

「陽介、狙撃手(スナイパー)を片付けろ」

 

「オッケー♪」

 

「木虎!」

 

「カバーに入ります」

 

 合流した特殊武器、弧月槍型を手にした攻撃手(アタッカー)米屋陽介が七階建てくらいあるマンションに駆け登り、佐鳥を仕留めんとするが、木虎が拳銃(ハンドガン)で牽制の弾丸を放つ。

 背後から迫った弾丸を、一目見て大雑把に飛躍して避け、槍をマンションの壁に突き刺したとおもえば空中で止まり、同じく駆け登ってきていた木虎に横蹴りを食らわす。

 受け止めた木虎だったが、マンションの一室に蹴り飛ばされ、米屋も直ぐに追い、体勢を整えた木虎と改めて対峙した。米屋は邪魔な可愛い後輩から消すつもりになったらしい。槍を構えて、ただ相手を見て笑みう。

 『戦い』を楽しむかのように、

 

「おいこら、優等生。勝手に人ん家入っていいのか?」

 

「蹴り飛ばしたのそっちでしょ?」

 

 木虎藍も、女の妖しい瞳を照らし、(いざな)う妖しきその美貌(カオ)に、光刃(ヤイバ)を片手にまた(わら)った。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「そらぁ!」

 

「おっ!」

 

 ガキィンッ! 

 激しいトリオンによる武器の衝突音がその場に響く。だが、追撃は止まない。

 

「……弧月」

 

「ぬぐっ!」

 

 迅に対して太刀川慶と風間蒼伊(あおい)が、焔悟には太刀川(れん)と風間蒼也が相手取っていた。

 太刀川の斬撃に追うような剣筋で蒼伊の長刀の弧月がギリギリのところをなぞる。だが、迅は身に宿るサイドエフェクト《未来視》で剣筋を予知し、避け、それに応戦するような鋭い一撃をそれぞれに放つ。

 二人それぞれまた新たに、回避をしながらも攻撃に繋げる。

 

「流石は女版太刀川(・ ・ ・ ・ ・)さんと呼ばれるだけあって、一刀(ひとたち)一刀(ひとたち)が半端なく重いなぁ」

 

「……なら倒さ(やら)れなさい」

 

「それはごめん、だね!」

 

 踏み込み過ぎた蒼伊に迅は見逃さず、トリオン供給機関から脳に流れる伝達系を切断しようと首を狙ったが、

 

「だったらコイツだ!」

 

「あっぶねー! あぶねー!」

 

 太刀川の刺突(ツキ)が迅の脳天を貫こうと迫ったが、それさえも迅に読まれたが、

 

(おっと!?)

 

 ヒュウッ! と迅は斜めに崩れた体を器用に動かし、『ソレ』を避けた。迅を狙ったのは二つの弾丸だった。

 

『奈良坂さん、当たらないです!』

 

『いいかれ黙って撃て。迅さんには予知のサイドエフェクトがある。(かわ)されるのは仕方ない。当てるんじゃなく動きを制限させるつもりで撃て。迅さんの対処能力を攻撃の密度で上回るんだ』

 

 狙撃したのは、《三輪隊》の狙撃手(スナイパー)二人組の奈良坂透と古寺章介だった。

 インカムで連絡し合っていると、奈良坂はもう一人居るであろう狙撃手(スナイパー)に意識を向けた。

 

『当真さん、そっちはどうなんだ?』

 

 そう聞かれたであろうボーダーNo.1狙撃手(スナイパー)である《冬島隊》隊員の当真勇は敵の狙いを定めては、深いため息を溢す。再び息を吸い、狙いを定めては……深い深いため息を溢す。これを繰り返すだけだった。

 

『いやよぉ…………確かにおれは外れる弾なんか撃たねぇぜ? だけどよ、あの人の動きはなんだ? 向こう側(・ ・ ・ ・ ・)の奴らの動きだぞ……』

 

『なに……』

 

 あの自信に満ち溢れ、溢れ過ぎて(こぼ)れてしまい、その狙撃手(スナイパー)としてプライドが高過ぎた為に周囲にウザがられていたが、腕は本当に確かな男である当真勇。

 そんな男が『撃ち(づら)い』と思ったのは、もう一人の対戦相手にだった。

 奈良坂(ならさか)は狙いを変え、狙撃場所を改めて移動し、当真が狙いを定めていたであろう敵にスコープから眺めると、

 

(あれが、宍喰(ししくい)焔悟(えんご)さんの動き……《玉狛第零(・ ・ ・ ・)》の隊長(・ ・)の実力か)

 

 スコープから覗いたその先には、奈良坂が冷静に判断した実力差だった。

 ボーダー上位に入る攻撃手(アタッカー)を相手しながらも、しっかりと狙撃手(スナイパー)の射線も建物を利用して遮らせ、そんな狙撃対応をしている焔悟に気付き狙撃手(スナイパー)狙撃でき(う て る)るよう攻撃手(アタッカー)たちも射線が通る場所にへと移動させようとするが、そうすると焔悟の猛攻が連撃が上がり一層危険な状態にへと追い込まれてしまうのだった。

 それを全て考えた上で、相手の攻撃手(アタッカー)を射線の盾にして上手く立ち回る焔悟に狙撃手(スナイパー)組は初めて(・ ・ ・)相手をするあの熟練のボーダー隊員に舌打ちを鳴らしていた。

 

(なんというか、ここまで狙撃されるのが嫌なのか。誰だって狙撃されるのは嫌がるが、そんなの当たり前なんだが…………あの人はここまで徹底している)

 

 どんな隙間さえ、チャンスさえあれば狙撃できる自信を持つ当真に奈良坂。この二人が手を(こまぬ)くなどあり得ないと言われるほどの狙撃の実力の持ち主。なのだが、近界民(ネイバー)がいる世界に遠征しても尚、まだ『経験』というものが足りなく、こんな相手はまだ狙撃したことが無かった二人は苛立ちが止まらなかった。

 だが、それでも頭を冷やして冷やし尽くす。

 狙撃手(スナイパー)が焦る、それこそがこの戦場でどれだけの悪手となるか、二人は理解している。

 狙いだけを定め、ただ撃てるチャンスを待った。

 

「はぁっ!」

 

「よぉおっ!」

 

 そして、その現場では高速回転を加え、焔悟に絶え間ない連撃の嵐が風間から受けているのに対し、耐久力〝D〟の筈である『スコーピオン』でその全てを焔悟は受け止めていたのだ。

 それだけではなく、太刀川慶の妹・太刀川恋の二刀の《弧月》さえも耐えきって(・ ・ ・ ・ ・)いたのだ。

 バランス重視にして万能型の《弧月》。ボーダー内でも一番人気の万能ブレード。変形機能はないが基本の性能が高く、多くの攻撃手(アタッカー)やブレードが主力(メイン)万能手(オールラウンダー)に使用されている。

 だがそれはつまり、攻撃重視・奇襲型のトリガー《スコーピオン》より耐久力が高いことを示しているのだ。

だと言うのに、焔悟が扱っているであろうスコーピオンが丈夫過ぎる(・ ・ ・ ・ ・)。何度も斬り合うも一向にヒビさえ入らない始末。

 恋も何度も耐久力〝A〟である弧月で斬りつけようも、破壊出来ないでいたのだ。

 

相変わらず(・ ・ ・ ・ ・)、連係や個人の戦闘能力が高いな、蒼也。妬むよ」

 

「そうですか、こっちは貴方のトリオン能力を妬みますよ」

 

「だが、才能はお前の方が愕然と上だよコンチクショウ」

 

 焔悟は恋の突進力を生かし、勢いに乗せたまま足を引っかけ重心をずらして転ばせたと思えば、恋は器用に転んだ体をうねらせて跳び、無重力を感じさせるような回転を披露させ、その回転を生かした勢い中から光の刃がキラリと輝く。

 

 だが、

 

「斬り(やぶ)れ、流動(タイプ)斬馬刀(ザ ン バ)』」

 

 焔悟がそれを告げた瞬間、風間は一気に血の気が引いた。 見たことのあるそれを、

 だがその咄嗟のことに…………考えが生じる前に、

 

 

「頭を下げろォォォ!!」

 

 風間が大声を張り上げたことに驚きを隠せないでいたが、人間咄嗟の言葉に反応できるものだ。恋は風間に言われた通り直ぐに身を屈ませたが、ザクッ! と腕が斬られていた。

 

(な、なんで!?)

 

 そして原因もすぐに分かった。

 

「な、なによ!! ソレ!」

 

「……チッ……」

 

 風間と恋が唖然として見たものは、

 

「これが《玉狛》の実力よォ……ナメんじゃねェぞコラ」

 

 焔悟の両手から巨大な光の大剣が出現していた。

 あれで周囲を斬り払ったのだろう。民家が綺麗に破斬されていた。

 完全に間合いが詰められた。

 この男、本当に情け容赦無く全力で挑んできた。

 《玉狛》で開発された本部未承認の近界民(ネイバー)技術(テクノロジー)を使った実験作で来たのだ。

 

「……仲間を護るため、実験作まで使いますか、宍喰さん」

 

「蒼也くんよ。侮るなよ? 玉狛はマジで『こんなことでそこまで本気に?』と思われるようなこと平然としてやるぞ? それこそが真の驚異だぜ」

 

 まったく。その通りだ。

 完全に太刀川の援護に向かえなくなった。それ以前にこちらが追い込まれた。風間は表情を変えないでいた、つもりだったのだが、自分でも気づかれずに口角が吊り上がっていた。

 それを見た焔悟は『オイオイ……マジかよ』と追い込んだつもりが、風間の知的好奇心を揺れ動かしてしまったことに後悔した。

 

 風間はスコーピオンを両手から両刃として出現させ、四つの刃を露にして構える。

 玉狛の実験作を見れる、体験できる。

 恥ずかしながら、冷静ながらも風間は高揚していた。

 

「勝負はこれからだ、宍喰さん」

 

 風間は姿を消した。



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第3話「唐突な開戦③」


※注意(まえ)書き※

オリジナルなオリジナル回。
苦手な方は、回れ右。右でも左でもかまわない。
まぁどちらでもかまわない。
かまわないというのなら、この回もかまわないということで。
おねがいしたい。

要するに、

文章というものは、むずい。


WORLD TRIGGER ~ 飛翔する遊星 ~

 

 

 

第3話「唐突な開戦③」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風間と焔悟の対決が始まったと同時に、迅悠一の方でも動きがあった。狙撃手(スナイパー)組から城戸司令より指揮を預かった太刀川に報告を受けたからだった。

 

『なに? 宍喰さんの実験作トリガーで対決を始めったって?』

 

『はい。民家ほどの高さを誇る巨大なスコーピオンの剣が出現し、風間さんが隠密トリガーにて隠密(ステルス)モードで対応しています。『カメレオン』を使われているので狙撃手(こ ち ら)も下手に手が打てない状態です』

 

 太刀川は風間の実妹である風間蒼伊(あおい)と、風間の指示で太刀川と行動を共にしている風間隊の菊地原と歌川もそこに居た。

 迅は四人もの相手をしているのだ。

 通信しながら、菊地原と歌川は迅に追撃を絶え間なく繰り出している。そこに特殊に作られた異色の長刀『弧月』で舞うように鋭い斬撃を放つ蒼伊に迅も苦笑いを浮かばせている。早く太刀川も参加したいとウズウズしているが我慢している。

 格子状の瞳が揺れる中、太刀川は耳に傾ける。

 

『もうそっちは任せるしかないな。恋も居るのか?』

 

『はい。よく見えない風間さんと巧妙に連係をとっていて、唖然としていたところです』

 

『ハハハ、じゃあそっちはもう狙撃手(スナイパー)活き(・ ・)はしないだろう。当真はもう居ないだろ?』

 

『……え………………チッ…………はい。いつの間にか居ません』

 

 普段真面目な奈良坂から聞こえた舌打ちにビクッとなった太刀川だったが、笑みを作って、

 

『あとで連絡来ると思うが、アイツは嵐山たちの方に向かったんだろ。アイツは放っといてこっちに来い。奈良坂に古寺』

 

『……奈良坂、了解』

 

『こ、古寺了解!』

 

 古寺の声が震えていたが、どうやら奈良坂と一緒だったのだろうか、かなりビビってたな。恐らく一緒に居たんだろう、と太刀川は予想して、今ある『駒』でどう(ブラック)トリガーを追い詰めるか思考を巡らした。

 

(迅と嵐山隊でも大変だったが、こちらには蒼伊と恋も来た。少しだけだが戦力も上がったっつーのに…………相手にはもしかしたら《玉狛第零》まで出張ってきたかもしれない。そりゃ玉狛が狙われてる訳だから来るのは予想していたが、《玉狛第一》のことも出てくることも予想しておくか? いや……もし出てきても玉狛支部がガラ空きになる、これはナシか……すると、)

 

 太刀川は弧月をトントンと肩に立てて、迅を見ている。こちらも油断大敵の相手だ。

 

(《玉狛第零》の残り二人も来ているよな? ならこれは完全に……)

 

 太刀川は苦い顔になるが、一向に笑み顔は変わらず、より一層深みのある微笑を作った。

 

(苦しいなぁ………苦しいが……これはこれで、楽しめる(・ ・ ・ ・)

 

 戦闘好き(バトルマニア)には絶好な日になると、太刀川は自分が指揮する立場だというのに、笑みが消えることはなかった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「というわけで、オレ(・ ・)も参加させてもらうよ」

 

「うへ~……マジで」

 

 つい先ほどまで、三輪隊の隊長である三輪秀次と、太刀川隊切っての《火兵》である出水公平が接近戦を得意とする槍使い・米屋陽介の援護をマンション内で戦闘をしていた嵐山隊の紅一点である木虎との対決がまさに決まったところだった。

 地形を巧妙に利用した木虎が米屋のトリオン供給機関を破壊したことで見事勝負が決したと思っていたが、これは二対二の対決ではなかった。

 それをよく理解していた米屋は、全て知った上で木虎のワイヤーを組み込んだ攻撃を受け、上手く誘導したことと緻密な連絡を出水と取ったことで連係が重なり、『射手(シューター)』であった出水は所謂(いわゆる)《弾丸》を種類数多く作れ、弾幕も激しいことに特化したクラス。空中での回避は絶望的で、弾種も『通常弾(アステロイド)』だが火力(パワー)速度(スピード)もある弾丸。

 冷静にこの弾を選んだ出水も結構えげつないが、これでは多種多様のオプショントリガーでも使わない限り避けれるものではなかった。

 だが、この様子を目視した時点で嵐山隊の副官(サブリーダー)的な存在、時枝が相変わらず半目ながらも見事に木虎をオプショントリガーの『(シールド)』で出水の通常弾(アステロイド)を防いでみせる。

 しかし撃った本人である出水でさえ『マジか』と焦ったというのに、そんな隙間も逃がさねぇ、と言わんばかりの銃声がそこを支配した。

 ボーダー内で堂々と一位の座に君臨するリーゼント、No.1狙撃手(スナイパー)の当真勇である。

 彼はなんと、マンション越しに時枝が飛び出してくることを予測して、何キロも離れ場所から狙撃したのだ。

 それが寸分違わず時枝の頭部を直撃し、続けて当真は獲物を逃がすまいと瞬時に木虎にも狙撃するが、撃たれながらも冷静過ぎる判断で木虎を空中で引っ張り、当真の凶弾から逃れられた。

 

 ボロボロになった米屋と時枝はむなしくトリオン体に組み込まれた機能トリガー『緊急脱出(ベイルアウト)』にて流星となって基地にへと送還された。

 互いに一人が脱落したが、数では互角となっている嵐山隊と三輪と出水、当真。

 そんな拮抗している慎重な場面だと言うのに、そこに一人の男の登場によって覆ることになる。

 

『オレ……参上ッ!!』

 

 二十歳過ぎだと言うのに日朝にでもやってるライダーの真似事をして登場してきたのは、こちらも玉狛支部所属の男。

 遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)だった。

 

 そして現在に至る。

 

「嵐山に木虎さん。ここは玉狛支部《不動の男》と呼ばれたこのオレ、遠吠保護の土壇場だ……そこで見てな!!」

 

「どうしましょう、嵐山さん。私無性にあの人を撃ち殺したいです」

 

「どうした木虎!?」

 

「あの馬鹿みたいな発言にも一気に、最高峰にイライラが溜まりました。早く撃ち殺したい」

 

「待て待て待て! ちょっと待て! ちょっ……遠吠さん! もう意地張ってカッコつけた発言よしてください。あの、ちょっとオブラートに包んで言いますが、かなりアホっぽいです」

 

「それ包んでる!? オブラートをちゃんと包んでるかい!?」

 保護は思いもしなかった味方から銃撃されるのではと警戒するが、三輪も木虎と同じだったのか血管浮き出るほどの苛立ちをみせていた。

 だが、出水はコンクリートの道路だと言うのに、堪えられないと言わんばかりに笑い転げて地面を叩いていた。

 

「わははははははははははははははっっっっ!!!! ひぃ~ひぃ~……ぶはぁ!! ぶははははははははははっっっ!!」

 

「テメェ笑い過ぎたコンニャロウ!!!」

 

 保護は近くに破壊されていた瓦礫を手にすると思いっきり出水に投げ捨てる。

 出水も『あぶねっ!?』と華麗に避けると、フーフーと息を整えるもやはり笑いが止まらなかった。

 

「ふう~ふ~……ぶふっ!? くくく……くはぁ! わははは!! だ、ダメだ! ぶは、ダメ、ダメだ! ツボるったぁ!! やべぇ! ぶははははは!!」

 

「なんなんだよマジでもぉぉぉぉぉ!!」

 清々しいほどツボにハマった出水は笑いが止まらなかった。

 

「【師匠】は相変わらずツボるっス……ぷくくく……いや、すんませ……ぷくくく、あぁー! くそ! わはははははははははははははは!!」

 

「思いだし笑いすんにゃぁああああ!!」

 

 笑われ過ぎて怒り心頭となる保護だったが思わず噛んでしまい益々出水の腹筋の崩壊に拍車を掛けた。

 

「わはははははははははははははは!!!」

 

「………………嵐山ァ、出水(アイツ)はオレが……殺る(・ ・)

 

「なんかもう好きにしちゃってください」

 

 嵐山も肩を竦めて笑い転げているボーダーNo.1の部隊(チーム)の一員である出水を見ながら、木虎にアイコンタクトを送っていた。

 これで嵐山隊は三輪と当真の二人を相手取れば良いことになったが、それをただ遠くから眺めているだけの男はそこに居なかった。

 

「……っ!?……遠吠さん!」

 

「うおっぉぉぉぉ!!?」

 

 嵐山が叫ぶ前に、保護は(メイン)(サブ)のトリガーホルダーに内蔵しているオプショントリガー、《(シールド)》を展開させた。

 

「ナマイキ当真がァ……」

 

 No.1の狙撃手(スナイパー)当真勇が愛用している銃は、長年ボーダーに勤めていた保護はその射線や威力などの情報は既に知っていた。

 

(やっぱり隙があったら狙撃し(う っ)てくる。だがアイツのプライドだから外す弾は撃ってこないと思ったけど……まさか!?……アイツまで苛立ったのか!?……そうだとしたらマジでショック!!)

 

 そう考えながらも、保護が狙撃されないよう射線を遮らせるよう民家の塀隠れるが、その前に三輪が前に出た。

 

「アンタには即刻消えてもらう」

 

 有無を言わせぬ気迫を纏って、三輪は拳銃(ハンドガン)を保護に向け、容赦無く放つ。

 連続して、笑いが流石にもう止まった出水が援護しようとトリオンキューブを両掌から具現化させると、出水はハッ! と何かを思い出す。

 

「しまったッ! 突っ込むな三輪! それはっ──────」

 

「しかし遅い」

 

 三輪は銃で撃ちながら突進していた為に、相手が避けた後、刀型のトリガー《弧月》で追撃するつもりだったのだろう。

 だが、それを見越して(・ ・ ・ ・)か、微小であったが、ふと出水からなにかポキポキッ! とまるでプラスチックが割れた音が聞こえた瞬間、足元に視線を向ければ、

 

(……!?……(トラップ)か!?)

 

 だが駆けた抜けた足が止まらず、微小のトリオンキューブのようなものを複数個踏みつけてしまう。

 すると、予想を越えた爆発が三輪を襲った。仕留めたか、と思っているとA級隊員である三輪がそんは初歩的な罠に引っ掛かるほど鈍ってはいなかった。

 だが、何故引っ掛かったのか。

 まず1つは、

 

「ぐははははぁぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!?」

 

 配置させている場が余りにも保護と近い場所にあったからだった。これだと配置させた本人さえ巻き込まれる範囲だというのに、問答無用に起動させた。

 

「このォ!!」

 

 三輪から放たれた弾丸を(シールド)で守っていた保護だったが、微小だというのに弾丸《炸裂弾(メテオラ)》並の爆撃を受けた二人は既にボロボロになってしまった。

 戦闘(トリオン)体である身体の至るところからヒビが割れていて、そこから微量ながらも戦闘(トリオン)体から漏れでるトリオンが霧散させていっている。

 

(シールド)がボロボロだぜ」

 

戦闘(トリオン)体が……クソッ!)

 

 舌打ちをする三輪だが、ちゃんと保護との距離を離して保つ。これを自然に行えるからこそ名誉あるボーダーA級隊員。

 そして出水も、数日とはいえ遠征に行っている間、この人・遠吠保護の性格や戦い方を少し忘れていた。

 ボーダーに入隊した頃、お世話になったこの人の戦い方を。

 出水はトリオンキューブを発現させると、数秒も経たない内に弾種を決め、編成させ、加工させ、凝縮させ、そして、定める。

 

『後方に飛べ三輪! ドデカイの送るぜ』

 

 そう言った途端に、出水は自らの頭上に弾丸を浮かせると、一気に保護にへと放った。

 

師匠(・ ・)これはどうだかぁ!!」

 

 笑顔を広げて向け放つ。無数の弾丸が保護を襲う。

 

(馬鹿が! なにを興奮してそんな大弾を! 何を考えてる出水)

 

 巻き込まれないよう三輪は大きく後退すると、前方から出水が放った炸裂弾(メテオラ)に負けないくらいの光弾が輝いていた。

 それを同じく眺めていた嵐山が木虎と共にその場から急いで退避していた。

 

「急げよ木虎! あっ、佐鳥にも連絡してくれよ! もう狙撃とか考えないで急いでこの場から退避しろって!! 完全に忍田本部長と城戸司令、それに鬼怒田さんや特に根付さんから完全なペナルティを貰うぞこれは!」

 

「い、一体どうしたと言うんですか嵐山さん。ここは一気に三輪、出水、当真隊員を撃破するには絶好な───」

 

「佐鳥合流!! いやぁ、嵐山隊集まって大丈夫なんですか? 当真さんに狙い打ちされないかヒヤヒヤっスよ」

 

 疾走している嵐山たちと合流し、並走しながらも佐鳥は何処かその高揚している気持ちを隠さないで陽気に話しかけてくる。

 佐鳥曰く、ボーダー始まって以来の《射手(シューター)》師弟の対決が始まるとか、ここら《警戒区域》が更地になってしまうとか、そんなことを説明してくる。

 

「待ってください。あの人……玉狛の?」

 

「そうだ。玉狛支部の《第零》の火力担当、遠吠(とおぼえ)保護(やすもり)さん。木虎がさっき感じてた通り、少しふざけてるところやアホっぽいところがあるが、ボーダーNo.1の部隊《太刀川隊》の火力担当の出水に匹敵するトリオン量の持ち主にして《射手(シューター)》」

 

「そんで、出水先輩の射手(シューター)の師匠なんスよね。あそこまで弾丸の種類を扱えるのはボーダー内であの二人しかないと思うね」

 

「……本当かどうか信じがたいです」

 

 自分の目で見ていないから信じない。

 そう告げる木虎に嵐山と佐鳥は苦笑いを浮かべて、木虎に言う。

 

「なら木虎、そろそろ振り向いて聞いてみろ」

 

「そして見てみろよ後輩。これが、莫大なトリオン量の持ち主同士の戦い方を」

 

 嵐山が止まったことで、木虎も後ろを振り返る。

 すると、そこで聞こえ、見たものは。

 

「……ぇ……ぁ……ぁ……な、こんなの馬鹿げている」

 

 目にした先には、まるで映画やニュースなどでしか知らなかったであろう紛争地域を思わせる爆撃音が数キロ離れたここからでも聞こえてきた。

 聞こえるだけじゃない。離れた場所からとはいえ、高層ビルが地上から放たれたトリオンの光弾が撃ち抜かれたかと思えば、次は轟音を共に崩落するビルの姿が見えてしまった。

 後先のことなど考えない圧倒的物量同士のぶつかりあい。そして比喩的に扱う弾圧ではない本物の『弾圧』。

 

 弾丸と弾丸が削り合うかのようにぶつかり合う衝突音が遠くまで離れたここまで聞こえてきた。

 そして同時に思ったことが、

 

「こ、ここまでやりますか? 相手を制圧させるだけならもう充分なんじゃ……?」

 

「だから木虎の言っている通りだよ?」

 

「えっ?」

 

 興奮気味に佐鳥は遠く聞こえる射手(シューター)の師弟対決に笑いながら言う。

 

「ボーダー始まって以来の莫大なトリオンを持った射手(シューター)の対決に、力量が互いに拮抗(・ ・)しているからああ(・ ・)なっちゃってんだよ。だから勝負がつかない。もうあの二人が対決しちゃったら周囲が破壊し尽くされるぞ」

 

 そして嵐山も苦笑しながら頭を掻いた。あそこ近隣の建造物の破壊は全部ボーダーが支払うんだろうと考えると、許される行動じゃない。

 だがここは『警戒区域』。

 戦う場所として提供してくれた三門市の一部。

 

「あぁ。始末書祭だぞ。あの二人」

 

 きっと忍田さんや鬼怒田さんに怒られるだう。そうおもいながら、嵐山は二人を連れて移動していった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「「炸裂弾(メテオラ)!!」」

 

 ガガガガガガッッ!! と荒く削られる音だけがその場に響いたと同時に、爆発音が続いた。

 地には幾つもの爆発により抉られたクレーターが幾つもの出来上がり、それが目に入らないのか問答無用に光弾の弾幕が激しくなる。

 片方が《通常弾(アステロイド)》を放てば、片方が《炸裂弾(メテオラ)》を放ち、《変化弾(バイパー)》を放てば《誘導弾(ハウンド)》で返す。

 まさに射手(シューター)同士の戦いをしている二人。

 

「トリガー……『将棋盤(クリーク・ダオメン)』!」

 

 そんな拮抗した戦闘していた出水と保護は、これでは埒があかないと感じ、保護は『実験作トリガー』を発動させた。

 発動する際、(メイン)(サブ)のトリガーホルダーの二つを持っているが、保護は新たに木製に(かたど)ったトリガーホルダーだった。木面が波打つように浮き出て、本物の木で出来たホルダーに見えていた。

 それを(サブ)ホルダーをオフにするやすぐに『実験作トリガー』を起動(オン)にさせたらしい。

 

「おいおい! ズリぃぞホゴさん!」

 

「うるせぇ! 死に晒せェェェ!!」

 

(完全に悪役じゃねえか!)

 

 見た目は変わっていない保護に警戒を抱くが、出水は、前にこういった『嘘』をつかれたことがある。いくら戦闘している今とはいえ、逆に言葉に乗せられたという場合もあるかもしれないが、今は警戒に越したことはない。

 射手(シューター)としては、接近戦を苦手とするため後退する出水だったが、保護は迷わず突っ込んできた。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

 もちろん、そんな馬鹿正直な直行に出水がなにもしない筈もなく。迎え撃つように両手に浮かばせた顔一つ分くらいの大きさのトリオンキューブを分解させ、無数の小型キューブにさせるとそれを容赦なく保護にむけて乱射する。

 ヒュンヒュン!! と風を切る嫌な音をさせながら迫り来る《通常弾(アステロイド)》に、保護は冷や汗を流しているが、やはり走りを止めない。

 

(あの実験作トリガーが怪しい。こんな正面から迫って大丈夫な訳がな───)

 

 そう誰もが思い訝しむ保護の行動を予測していると、更にその予想を越え、

 

歩兵は前へ(フォルン・ゾルダート)

 

 そう告げた瞬間、保護の前方には超小型のだが、トリオンによって作られた《人形》が突如出現したのだ。

 乱射してきた出水の通常弾(アステロイド)を変わりに受けたその《人形》はある程度ダメージを受けてから、その場で霧散する。

 爆発する訳でもなく、まるで空気に溶けて無くなるかのように静かに消えていった。

 その現象に、出水は一瞬にして焦りを覚えた。

 

(なぁ! まだ試してないから分からんけども! これ多分弾撃(・ ・)が効かなねぇ!)

 

 出水は後ろを確認することもせず、なんでもいいから下がることだけに考えた。

 出水はこの遠吠保護の『実験作トリガー』に危惧を覚えたのだ。

 

「ダッハッハッハッハーー!」

 

(あのバカ笑いにはムカツクがっ! おそらくあのトリガーは俺との相性が悪いと思う!)

 

 ドヤ顔で後退する保護に、やはり撃破されてもいいから突っ込むかと一瞬過ったが、逃避に心掛けた。

 

「ホゴさんのそのトリガー見たいけど、俺たちの目的は〝(ブラック)トリガー〟の奪還だ。だからこのバトルはまた……」

 

 また今度しよう。そう言おうとした出水だったが、また何か保護の口が遠目から動いたのを見た。

 

(あんだよ……! またなにか!)

 

 通常弾(アステロイド)を防がれたから、次は炸裂弾(メテオラ)でも放とうかと思っていた所に、保護の周囲に何かが光だしてきた。

 よく目を凝らし、戦闘体となった視覚で確認する。

 

(………………はぁ?…………)

 

 保護のドヤ顔の周囲には、光輝く多種多様の剣と槍が出現していた。

 

「そ、それトリオン(・ ・ ・ ・)で作ったのかよ? ありえねぇだろ?」

 

「カハハハ! 技術者(エンジニア)さんは偉大なり!」

 

 そして、その光の剣と光の槍は、また新たに作られた《人形》に持たされた。数は四。

 《人形》は人の形だが、顔面は鼻も口も無い。あらゆるパーツを無くしたような、美術室に置いてあるような人形のような歩兵たち。

 

「まだ数は出せる。お前だって『将棋』やったことあるだろ」

 

 前に出る。

 保護は決して美形と言えるほどではない顔だが、今は真っ直ぐな目で笑いながら出水を見る。

 

「九騎の歩兵駒(ドール)をオレはまだ出せる」

 

 出水は薄ら笑いしか出てこない。

 

「香車も桂馬も、飛車も角行も、銀将も銀将もある」

 

 ピクピクと顔の筋肉も痙攣してきた。

 

「さてと、どォする?」

 

 出水は戦意が無くなった訳じゃないのも分かっているし、まだまだ余力も残してある。保護の『実験作トリガー』の性能を知る為に最後まで足掻いてみるのも考えた。

 だが、仮にここで戦って勝てたとしてもトリオン切れは間違いないと判断できる。それだけの対決が約束される相手だと出水は理解もしている。だからこそ、

 

「うん。もう別にいいんじゃね?」

 

 出水は笑って、両手を上げた。

 

「参った、ということで」

 

 保護も笑って、手打ちの証として出水にドロップキック食らわして決着がついた。

 

 

 

 

 





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