赤帽子と王の行く遊戯王5D's (ヒキヘッド)
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プロローグ

初投稿となります。
文章のおかしなところ、デュエルのルールの矛盾などあるかもしれませんが、これからよろしくお願い致します。


戦いの儀。そう呼ばれるデュエルが、今、俺の目の前で繰り広げられていた。

三千年前のエジプトの王(ファラオ)の魂──アテム──とその魂の入った千年パズルを組み立てた少年──武藤遊戯──のデュエルだ。

オベリスク・オシリス・ラーの三幻神、アテムの相棒とも言える《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》…それら全てを倒し、デュエルは今、武藤遊戯の勝利が決まろうとしていた。

 

「もう一人の遊戯君の場に、壁となるモンスターはいない…」

「サイレント・マジシャンの攻撃で勝利が…決まる…」

「遊戯…」

 

《死者蘇生》を使って神(オシリス)を蘇らそうとしたアテムだが、遊戯の《封印の黄金櫃》の効果で発動を止められていた。結果、今の状況は──

 

遊戯

LP:1000

場:《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500

 

アテム

LP:2500

場:なし

 

そして今は遊戯のバトルフェイズ。当然、ここからの展開は決まっている。

 

「…くっ……。サイレント・マジシャンのダイレクトアタック!」

「……」

 

遊戯の命令を受けて、サイレント・マジシャンがアテムに杖を向けた。

 

「サイレント・バーニング!!」

 

そして、杖から光が放たれる。

ピーというライフの0になる音が、このデュエルの決着を教えていた。

 

「う…く…うぅ……」

 

遊戯の勝利…それはアテムがこの世からいなくなることを意味していた。それを分かっているから遊戯は、勝者の方が膝を折って泣いていた。

 

「オレの負けだ、相棒…立て、勝者が跪いてどうするんだ」

「うっ…うぅ…」

 

敗者のアテムが、遊戯の元へと歩いていく。まだ泣いている遊戯の肩に、そっと手をのせる。

 

「オレがお前なら、涙は見せないぜ?」

「ボクは弱虫だから…ボクにとって君は目標で…君みたいに強くなりたくて……」

「お前弱くなんかない…ずっと誰にも負けない強さ、優しさって強さを持ってたじゃないか。オレはそれを、お前から教わったんだぜ…相棒」

「……!」

 

優しさという強さ…確かにそれは、遊戯の持つ強さと言えるな。アテムの方には、優しさは確かに少し欠けてる。

けれど遊戯は、優しさの塊と言ってもいいな。いじめていた相手を庇ったこともあり、命を賭けてアテムを守ったこともあった…そして俺も、あいつの優しさに助けられた。

 

「コナミ」

「……ん?」

 

アテムが俺を呼ぶ声がした。

いつの間にか、アテムが俺の前に来ていた。遊戯も立ってるから話はもう終わったんだろう。

 

「お前に、このデッキを受け取ってほしいんだ」

「なっ!? アテム、それは今使ってた…」

 

デュエルディスクからおもむろにデッキを取り出したかと思えば、それを俺に差し出してくる。

今、遊戯とのデュエルで使っていた、アテムのデュエリストとしての魂ともいえるデッキを。

 

「コナミ、お前は相棒の同級生で、ライバルでもあり…相談相手でもあり…最高のパートナーだった。そんなお前にこそ、オレがこの時代に生きていた証のデッキを持っててほしいんだ」

「アテム…分かった、お前の魂のデッキ、俺が受け取るよ」

「ああ、頼む。…不思議な事に、お前とはまた出会える気がするぜ」

「ははっ、変なフラグ建てんなよ。俺も死んだら過去に行くのかよ」

「いや、逆だ…未来で、また一緒にデュエルしてる気がな」

「……なら、その時を楽しみにしてるよ」

「おう!」

 

アテムのデッキをデッキホルダーに仕舞い、アテムと別れの餞別の意味も込めてハイタッチをする。そしてついでに──

 

「そうだ、俺からはこれをやるよ」

 

アテムの頭に強引に俺の被っている赤色の帽子を被らせる…ってやっぱり遊戯の髪型にはキツいか。

 

「これは…コナミの赤帽子か」

「デッキのお返しとしては安いけど、俺の魂みたいもんだからな」

「ありがとうコナミ…お前との繋がり、大切にするぜ」

 

キュッと帽子の先を押さえていつもの力強い顔で言ってくる。

そう言われると、嬉しくなるねこっちも。

俺が軽く笑って頷くとアテムは俺から離れる。

 

「ファラオの魂よ! ウジャト眼に王の名を!」

 

いつの間にかもう、アテムとの別れが近づいてきてるようだ。

イシズに言われてアテムは、変な眼の様なマークの入った壁に向かって自分の名を叫ぶ。

 

「…アテム!」

 

王の名を聞いた壁、いや扉が真ん中からゴゴゴという音と共に横に開いていく。

そしてアテムは、光の漏れるその扉に向かっていく。

 

「遊戯!」

「…!」

 

城之内に呼ばれた遊戯がその歩みをピタリと止めた。

 

「本当に行っちまうのかよぉぉ…あの世になんか行かなくていいんじゃねぇか、ていうか行くなぁぁ!」

「もう一人の遊戯…ううん、アテム。その光の向こうに、あなたの帰るべき場所があるのは分かってる…でも、ずっと一緒に仲間だったあなたがいなくなるなんて、意味がわからないよ!」

「杏子!」

 

本田、杏子とアテムの別れを悲しんでいる。だが、城之内だけは、涙を流しながらも力のこもった声で杏子の名を呼んだ。

 

「分からなくていいんだよ…わかんねぇから頭ん中で必死にそいつと過ごした時間…想いを…絶対忘れねーように刻み込むんだよ!」

「…っ!」

「だから…今はあいつを見送ってやろうぜ、あいつの未来へ」

「うん…忘れないよ、アテム…あなたのことを」

 

城之内の奴…良いことを言いやがる。忘れないようにか…アテムのヤロー、変なフラグ建てやがったからな、忘れたくても忘れられないが。

 

「遊戯! 王だろーがお前は遊戯だ! 千年経とうが俺たちはずっと仲間だ!」

 

城之内の言葉に、アテムの背中からでもあいつが喜んでるのがわかる。

 

「ああ!」

 

再び歩き出したアテム。俺たちに向けてサムズアップをしながら颯爽と光の扉の中へと入っていく。

 

「……またな、アテム」

 

消えていくアテムの背中に、俺からの最後の言葉。

そしてついに、扉が閉まり始めて、光が途切れた。

ここに、三千年前のエジプトの王の魂は、あるべき場所に帰ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから、数十年が経った。

俺の名はコナミ、現在20歳…ネオ童実野シティから外れた、サテライト在住。



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蘇りし王の魂

「……」

 

ガサゴソと、コナミは廃材の山を漁る。D・ホイールを強化するのに使える物は無いかと、毎日たいした収穫も無いがやってるのだ。

が、やはりいいものなど見つからない。

 

「……ん?」

 

今日はもう切り上げようかと思ったとき、廃材の隙間から金色の光が漏れているのに気づいた。

その光の発生源を求めて、さらにコナミは廃材をどけていく。段々と強さを増してくる光。太陽の光がうまく反射してるのだろうか。

 

「……!」

 

そしてついに、指先がその何かを捉えた。掴み心地からして鎖だろうか。そんなことを思いながら、コナミは無理矢理それを引っ張り上げた。

 

「これは……」

 

ようやく取り出せたその物は、昔よく見たことのある、かのデュエルキング武藤遊戯が肌身離さず持っていた──

 

「──千年パズル、か…?」

 

あのアテムの魂が封印されていた、千年パズルだった。

だがあれは、アテムと他の千年アイテムと共に眠ったはず。それがなぜこんなところにあるのか…コナミは不審に思いながらも、しかしその懐かしさを覚える千年パズルを、首にかけた。

 

「……ふっ、遊戯は、これをいつもつけてたのか」

 

手で持って感触を確かめながら、少し昔のことを思い出す。

 

「……っ!?」

 

だが、急に頭に痛みが走り、いくつもの映像が流れ込んでくる。

 

『羽賀、お前弱いだろ?』

『ブラック・マジシャン!』

『オシリスの効果発動! 召雷弾!』

『相棒!』

『憎しみはいくら束ねても……脆い!』

『バーサーカーソウル!』

『いくぜマハード! ブラックマジック!』

 

誰かの視点で、緑の髪をした変な奴がフルボッコにされる映像、魔法使いが攻撃する映像、白い龍と男を前にしている映像……いくつもの映像がコナミの頭を流れては消えていく。

そして──

 

『不思議な事に、お前とはまた出会える気がするぜ──コナミ』

 

懐かしい声を最後に、コナミの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『─ナ──!─コナ────コナミ!』

「っ…ん……?」

 

どこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。しかも懐かしい声で。

その声に起こされるように、コナミはゆっくりと目を開けた。

 

『目覚めたかコナミ。倒れてるからびっくりしたぜ』

「……! お、お前は……」

 

そんなバカな。今のコナミは、その思いでいっぱいだった。

今目の前にいて、自分の名を呼んでいてその正体は──

 

「──ア、テ…ム?」

『ああ、そうだが…って、そりゃ驚くに決まってるか。まさか、消えたはずの人間が目の前にいるんだからな』

「ああ…ちょ、ちょっと待ってくれ。状況を整理したい」

 

そう言ってコナミは、倒れた際にずれた帽子を直しながら、頭の中で状況を整理する。

・まず自分は千年パズルを拾った。

・頭にアテムの視点からの思い出が流れてきた

・頭の痛みに耐えれず気絶

・目覚めたら目の前にアテム

 

「……なるほど分からん! なんでここにいるんだよアテム!?」

『そう言われてもな…オレだって、なんでまた蘇ったのか分からないんだ』

「そ、そうか…そうだよな。ふぅ…でもとりあえずは」

 

残念ながらどちらにも原因は分からない。そうなると考えても無駄であろうと考え、一旦コナミはアテム復活の理由を考えるのをやめる。

そして、アテムの前に手を出し──

 

「おかえり、アテム」

『……ああ、ただいまコナミ』

 

アテムも手を出し、お互いに握手する。

 

「相変わらずコナミ、お前は不思議な奴だな。物や人に干渉できない、精霊の状態みたいな俺に触れるんだからな」

「あっ、その理由が分かったんだけどな…どうやら、俺の中にいる精霊の力のおかげみたいなんだ。これのおかげで、カードを実体化できるし、今みたいに精霊への干渉もできるんだ」

『なるほどな…じゃあ相棒たちといたときから、コナミの中に精霊はいたんだな』

「そういうことみたいだな。でも、あんな精霊ならいらねーって…」

『…?』

 

心底嫌そうな顔をしているコナミに、アテムは不思議そうな顔をするが、今はその話はする時じゃないと判断し、次の話に移る。

 

 

 

 

 

 

ここで少し、数十年経っても20歳というコナミについて説明しておこう。

コナミは遊戯たちが活躍した時代に、彼らと共にペガサスとの戦い・バトルシティでの三幻神を巡る戦い・奪われた三幻神を取り戻すためのドーマとの戦い・アテムの記憶を求めての三千年前のエジプトでの戦いなどを戦ってきた。ずば抜けた身体能力を武器に、城之内以上に肉弾戦要員でもあった。

そしてアテムの去った後は、双六の店でバイト。遊戯たちと一緒にのんびりとした生活を送っていく。

数年後、遊戯と共に旅をしていて精霊が自分の中にいることを知り、己の身体の秘密を知る──精霊の力により身体能力が上がっている・不老不死である、と。

不老不死は20歳の誕生日から始まるため、その日よりずっと20歳である。

その後、日本に帰るとコナミの事情を知った海馬の命令によりデュエルアカデミアへ入学する。入学させた目的は、デュエルアカデミアの実態調査だが。そこで遊城十代たちとの学園生活を送り、アカデミアでもいくつもの事件に巻き込まれるが解決へと導いた。

卒業後は十代と共に旅に出る。また自分が寝てる間に十代がパラドックスを倒しに行ったため十代の時代のコナミはいなかった。

旅の後は童実野町に帰り、双六の店でバイト。双六から店長の座を引き継いだ。

それから数十年…ゼロ・リバースによりネオ童実野シティとサテライトに分断されたが、コナミはサテライト側に店を構えていたためサテライトでの生活を送っている。精霊の力を使えばいつでもシティに行けるが、双六より受け継いだ店をおいていけないと思いサテライトに残っている。

その他にもチーム・サティスファクションの一員であるなど色々とあるが、それはまた別の機会に語ることにしよう。

 

 

 

 

「──って感じだな。アテムがいなくなってからだいぶ経つが、色々あったぞ」

 

場所を亀のゲーム屋─元双六の店─に移し、コナミはアテムに時代の流れを説明していた。

 

『みたいだな…だが、町がこんなに荒れるような事件が起きてるなんて……胸が痛むぜ』

「そうだよな…双六さんの店は、ミラフォで守ったから無傷だけど、逆に被害増やしちまったしな」

『他にいいカードがあったんじゃないか…』

「急だからしょうがねぇだろ?」

『そうだな…ところでコナミ。お前のデュエルディスクはどうしたんだ?』

「デュエルか……もう、十年以上やってないよ」

『なんだと…』

 

コナミはアテムから視線を外し、懐かしむようにショーケースのカードを眺めた。当然アテムは、コナミの発言に驚きを隠せない。

アテムの中でのコナミというのは、三度の飯よりデュエルが好きな生粋のデュエリストという認識なのだ。デュエルができれば何でもすると言うところがあるのが恐ろしいところだが、善悪の区別はつく奴だから不安視はしていないが。

そんなコナミが、まさか十年以上デュエルをしていない……アテムからすれば自分の復活よりあり得ないとしか思えない。

 

『どうしてやらないんだ、コナミ程のデュエリストが…』

「……アテムや遊戯たちや十代たちと一緒の時は最高だった。心が燃えるような、楽しいデュエルがいっぱいできた」

 

昔を懐かしむような声音で、呟くように言葉を紡いでいくコナミ。それをアテムは、静かに聞いていた。

 

「でも、三十年くらい前からかな…遊戯や十代ぐらいしか楽しくなるデュエルができなくなってな。他の奴らとはデュエルしてても圧勝、言っちゃ悪いが弱い。しのぎを削るようなデュエルができないと、やってても虚しさに襲われてな…。そんな状態でデュエルするのは、俺のデッキ……それに、こいつにも失礼だ」

『そいつは…?』

 

コナミがデッキを二つ取り出した。一つは長く使っていたと一目で分かる年季の入ったデッキ。もう一つは、一度か二度しか使っていないと思うぐらい綺麗なデッキ。

 

「お前から預かったあのデッキさ…基本はあの時のままだがいつも持ってた。でも、ふわふわした気持ちで、気持ちの入ってないデュエルを続けるのはダメだと思ってな…だから俺は、デュエルはやめたんだよ」

『……コナミ』

 

言うことは言ったのか、コナミはそれっきり俯いて黙ってしまった。

アテムもまた、無言でコナミを見ていた。

 

「……アテム?」

 

いきなり昔の自分のデッキを取ったかと思えば立ち上がるアテム。コナミの力で精霊と同じ状態のアテムは、現実世界に干渉できるのだ。

アテムの眼は、何かを決意したかのように鋭かった。

 

『デュエルしようぜ、コナミ。オレとなら、燃えるようなデュエルができるんじゃないか?』

「アテム……でも、今の俺じゃ……」

「おらぁぁコナミ! いい加減金払えやああ!」

「またお前か…」

 

いきなり店のドアが開き、男が怒鳴り声と共に入ってくる。

 

『コナミ、こいつは?』

「高橋秀行っていう、簡単に言えば土地代の金払えってしつこいんだよ」

「何をごちゃごちゃ言っとるんじゃあ! さっさと金を出すか、レアカードを出せやおらあ!」

「……」

 

アテムの見えない高橋からすれば、コナミは一人でブツブツと何かを言う奴にしか見えない。

右手の金属バットを向けながら脅してくるが、コナミやアテムからすればそんな物何ともない。冷静な顔色で高橋を見ている。

 

「ほおー、また無視するつもりか…それやったら、こうするだけじゃボケェ!」

「なっ!?」

 

入り口近くのショーケースに金属バットを振り下ろす。力任せに振り下ろされた金属バットの威力に耐えきれずショーケースはいとも簡単に割れてしまう。カードの上に散らばった破片が、カードに傷をつける。

 

「どうじゃあ、これでもまだださんつもりか!?」

『……コナミ、オレにお前の身体を貸してくれないか?』

「…! アテム…ああ、よろしく頼む」

 

アテムの表情からも声からも、怒りが見てとれる。そこから彼が何をするのか分かっているコナミは、彼に自分の身体を貸す。

デュエルのできない今の自分に変わってデュエルをし、高橋秀行に──罰ゲームを下さすため。

 

「っ!? なんじゃあ?!」

 

コナミの首から下げている千年パズルが突然輝き出す。コナミの額にはウジャト眼が浮かび上がり、表情が段々と鋭くなる。

そして──

 

「──おい、デュエルしろよ。カードを傷つけるような奴は、オレが許さないぜ!」

『そのセリフはヤバい気が…』

 

今ここに、伝説のキングオブデュエリストが、蘇ったのだ。




タッグフォースシリーズより、高橋秀行を登場させました。実際の高橋はこのような行為はしていない…はずですが、この小説内での話の展開上、高橋というキャラに作中のような行動を取らせました。
ゲーム内での高橋秀行はいいキャラなのでぜひタッグパートナーにどうぞ。


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王のデュエル

今回が初デュエルです。基本は闘いの儀のアテムのデッキですが、本文記述の通り一部変更してあります。
また、アテムとコナミの表に出ている人格の話は「」、精霊状態の話は『』で表記してあります。


「なんじゃあ急にでかくでやがって…しかもデュエルしろだあ?」

「お前がオレに勝てれば、この店のカードは全部持っていきな!」

「なんじゃと!?」

 

アテムからの思いもよらぬ提案に高橋は驚きを隠せない。店にあるのは少し流行からは遅れてはいるが、どれも今でもかなりの価値があるカードばかりだからだ。

 

「だがオレが勝てば、罰ゲームを受けてもらうぜ…カードを傷つけた、罰をな!」

「ほおおっ、オモロイやないかい…ええやろ、そのデュエル、受けてたったるわ!」

「なら、表にでな」

 

高橋は外に出て行き、アテムもまた、コナミのデュエルディスクを腕に取り付けデッキをセットして外に出る。

 

『アテム、頼んだぜ。お前の時代とはカードプールは変わってるから厳しいだろうが…』

「大丈夫だぜコナミ。オレは、そんなもので負けない…必ず、じいちゃんの店を傷つけた罰を与えるぜ」

 

静かに怒りを放つアテム。そしてアテムには、もう一つの目的があった。

元々はコナミとする予定だったが、自分のデュエルを見せること。そうすれば、コナミにもまた、デュエルの楽しさを伝えれるのではないか…そう思っているアテムは、高橋とのデュエルに闘志を燃やしていた。もしかしたら、久しぶりのデュエルに燃えているだけかも知れないが。

 

 

 

 

外ではもうすでに、高橋はデッキをセットして準備万端という風だった。

 

「待たせたな高橋。さあやろうぜ!」

「わしにデュエル挑んだこと後悔させたらあ! いくぞわれええ!」

「「デュエル!」」

 

数十年の時を経て、サテライトの一角でアテムのデュエルが行われようとしていた。

 

「オレの先行、ドロー!」

『おっとアテム、忘れてた。そのデッキ、基本はあの時のままだが、禁止とか神、後は防御系で他に良いカードがあったら入れ替えてるぞ』

 

この感触も久しぶりだ…そう思いながら、アテムは手札を確認する。確かに、コナミの言うとおり三幻神を抜いてることやその分を他のカードで埋めたこと、それから禁止制限に対応させたこと以外はあの時と変わってないようだ。

 

「手札を1枚墓地に送り、《THE・トリッキー》を特殊召喚! さらにモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

《THE・トリッキー》ATK2000

 

「わしのターンじゃあ! ドロ-!」

 

さて、高橋とやらのデッキは何なのか…そう思いながらアテムは、相手の動きに眼を見やる。

 

「わしは《エーリアン・ソルジャー》を召喚じゃあ!」

 

《エーリアン・ソルジャー》ATK1900

 

「エーリアン…?」

『Aカウンターって言うカウンターを駆使して戦うデッキだよ』

 

コナミがエーリアンデッキの情報を教える。だがアテムが、相手の情報を知るのは不公平と思ってるのを知ってるのであまり深くは教えないが。

 

「ソルジャーでセットモンスターを攻撃じゃー!」

 

エーリアンソルジャーが手に持つ剣を振り下ろす。

 

「セットモンスターは、《翻弄するエルフの剣士》! このカードは、攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されないぜ!」

「ぐっ、また古いカードを…カードを二枚伏せてターンエンドじゃあ!」

 

アテム

LP:4000 手札2

場:《THE・トリッキー》《翻弄するエルフの剣士》

  伏せ1

 

高橋秀行

LP:4000 手札3

場:《エーリアン・ソルジャー》

  伏せ2

 

「悪いがオレは、最近のカードは知らなくてね。ドロー!」

 

場にはモンスターが2体。生け贄は揃っている。

 

「オレはフィールドの、トリッキーとエルフを生けに──」

『おっとアテム。この時代だと、生け贄はリリース、生け贄召喚はアドバンス召喚って言うんだぞ』

「そうなのか? …2体をリリースして現れろ、我が切り札にして最強のしもべ、《ブラック・マジシャン》!」

 

パラドックスと共に戦った遊星もその呼び方をしていたなと思い出しながら、アテムは手札から1枚のカードをディスクにセットする。

そして光と共に、アテムのデュエルの相棒とも呼べる、《ブラック・マジシャン》が姿を現した。

 

《ブラック・マジシャン》ATK2500

 

「ぶ、ぶ…《ブラック・マジシャン》じゃとおお!? お前みたいな奴がそんなレアカードを…!?」

「ふっ…オレは魔法カード《黒・魔・導(ブラック・マジック)》を発動! オレの場に《ブラック・マジシャン》が存在するとき、相手フィールドの魔法・トラップゾーンのカードを全て破壊する!」

「な、なんじゃとおお!?」

 

ブラックマジシャンの杖からとんでいった魔力の塊が、高橋の場の伏せカードを破壊した。破壊されたのはミラフォースとドレインシールドだ。

 

「くっ、わしのフィールドががら空きじゃ…」

「さあいくぜ! ブラックマジシャンで、エーリアンソルジャーを攻撃する! ブラックマジック!」

 

主人の命を受けて、ブラックマジシャンが再び杖を振りかぶる。杖の先から飛んでいった魔力の塊は、ソルジャーの剣ごと破壊した。

 

「ぐおお…!」

 

高橋秀行LP:4000→3400

 

「オレはこれで、ターンエンドだぜ」

「まさかそんなレアカードを出してくるとはのお…わしのターン!」

『このままブラマジで押し切れればいいんだが…』

「へっ、いいカードを引いた…《エーリアンモナイト》を召喚じゃあ!」

 

高橋の場に謎の塊のようなモンスターが現れる。

 

《エーリアンモナイト》ATK500

 

『っ! 引きやがったかクソ』

「なんだあのモンスターは…?」

「こいつでわしの最強モンスターの登場じゃー! 効果により《エーリアン・ソルジャー》を蘇生させる!」

「…? モンスターを2体並べてどうするつもりだ…守備表示じゃないから壁にもできない」

『アテム、今の時代には新しい召喚システムがあってな──』

「なんじゃわれ、シンクロを知らんのか!」

 

シンクロ。そのフレーズを聞くと、アテムの頭に一つの記憶が蘇る。パラドックスとの対決で、遊星とパラドックスの使っていた──

 

「──レベルを足して特殊召喚するシステムか」

『知ってるのか…?』

「その通りじゃあ! レベル4のエーリアンソルジャーにレベル1のエーリアンモナイトをチューニング!」

 

空中に浮いたソルジャーの周りを一つの輪っかのような物が取り囲む。

そしてソルジャーと輪が一つになり新たなモンスターを呼び覚ます。

 

「シンクロ召喚、《宇宙砦ゴルガー》!」

 

《宇宙砦ゴルガー》ATK2600

 

「攻撃力2600…ブラックマジシャンを超えたか」

「さらにわしは、装備魔法《団結の力》と《デーモンの斧》をゴルガーに装備!」

 

《宇宙砦ゴルガー》ATK2600→3400→4400

 

『なかなかの攻撃力になったな…さて、どうするアテム?』

「……」

「そしてゴルガーの効果を発動! 表側の魔法・罠を手札に戻し、ゴルガーにAカウンターを戻した数乗せる! 装備魔法2枚を手札に!」

『これは…マズいな』

「カウンターをのせて、どうするつもりだ?」

「見て驚けぇ! ここでさらにゴルガーの効果を発動! フィールドのAカウンターを2つ取り除くことで、相手のカードを1枚破壊する!」

 

ゴルガーの上に現れた気持ち悪い見た目のカウンター。それを食べたゴルガーは、力を得たようにその力をブラックマジシャンに叩きつける。

 

「くっ、ブラックマジシャン!」

「これでお前の場はがら空きじゃあ! 再び2枚の装備カードをゴルガーに!」

 

再び攻撃力を増すゴルガー。その攻撃力は、アテムの初期ライフを超えている。

 

『これをくらえばアテムの負けだが……』

「あっけない終わりじゃのお、いけゴルガー! コナミにダイレクトアタックじゃー!」

「リバースカードオープン、《ガード・ブロック》! これでオレへの戦闘ダメージは0、そして1枚ドローする」

『そう簡単にくらうわけないんだよねー』

 

アテムの周りにカードの壁ができてゴルガーの攻撃を防ぐ。

 

「まだ勝ちを確信するのが早いぜ?」

「ぐぐっ、だがお前のフィールドは何も無い。わしの優位は変わらん!」

「甘いな、デュエリストには手札の数だけ可能性があるんだぜ、ドロー!」

 

アテム

LP:4000 手札3

場:なし

 

高橋秀行

LP:3400 手札0

場:宇宙砦ゴルガー(団結の力・デーモンの斧装備)

  伏せ1

 

アテムの手札は、さっきのガードブロックと合わせて3枚。フィールドは何も無いが、ここからどう巻き返すのか。

 

「いいカードを引いたぜ、魔法カード《思い出のブランコ》を発動!」

『お? それは俺が入れといたやつだな』

「これにより、墓地の通常モンスター──《ブラック・マジシャン》を復活させる! 現れろ、《ブラック・マジシャン》!」

 

場に現れたブランコが、キィキィと音を立てながら小さく揺れている。突然、不自然にブランコの揺れが止まる。ブランコを繋いでいる木の枝を見れば、そのうえに一人の男──《ブラック・マジシャン》がいた。

 

「変なとこから現れやがるのお…だが、そいつじゃわしのゴルガーに及ばない!」

「それはどうかな?」

「なに?」

(出ましたそれはどうかなー)

「手札よりさらに魔法カード、《千本ナイフ》を発動! オレの場にブラックマジシャンが存在するとき、相手モンスター一体を破壊する。やれ、ブラックマジシャン!」

 

ブラックマジシャンの後ろに大量のナイフが出現する。手で制して止めているが、アテムの合図を引き金にブラックマジシャンが杖をゴルガーに向ける。千本ものナイフがゴルガーに向かって飛んでいき、全てがゴルガーのあちこちに刺さる。

その痛みに耐えきれずか、ゴルガーは粉々に砕け散った。

 

「わしの最強モンスターがこうも簡単に…」

「さあ、今度はお前のピンチだな? いくぜ! ブラックマジシャンで直接攻撃! ブラックマジック!」

 

この攻撃が通れば一転してアテムの優位になる。

伏せカードが1枚あるが、そんなものに臆するアテムではない。気にせずにブラックマジシャンの攻撃を仕掛ける。

 

「ぐおおおっ!」

 

高橋秀行LP:3400→900

 

「メインフェイズ2でオレは、ブラックマジシャンをリリースし──《ブラック・マジシャン・ガール》をアドバンス召喚!」

 

師匠の魂を糧とし、その弟子であるブラックマジシャンガールが現れる。

その可愛さからデュエルモンスターズの世界では不動の人気のアイドルカードだ。

 

「ぶ、ブラックマジシャンガールじゃとおお!? ブラックマジシャンだけじゃなくそのレアカードまでもっとるんか!?」

『うまい、これで思い出のブランコのデメリットも回避できたな』

「オレはこれでターンエンドだ」

 

代わって高橋のターン。だがすでに伏せが1枚だけと打って変わって不利の状況である。

 

「わ、わしのターンじゃー! ドロー! 伏せカードの《地割れ》を発動! これでブラックマジシャンガールは破壊じゃあ!」

『あぁあマナちゃん…』

 

地面が割れ、そこから伸びてきた手にガールは引っ張り込まれる。

何気にガールファンのコナミは、つい彼女の精霊としての名前を呼んで嘆いてしまった。

 

「そしてわしのドローした、《エーリアンモナイト》を召喚じゃあ!」

「チッ、またそいつか」

「これでまたエーリアンソルジャーを復活、シンクロ召喚じゃあ!」

 

三度現れたエーリアンソルジャー。そしてまた簡単にシンクロ召喚の素材になっていく。

 

「《宇宙砦ゴルガー》をシンクロ召喚じゃー! そしてダイレクトアタック!」

「ぐっ…!!?」

 

アテムLP:4000→1400

 

「ハハハハ!わしのターンは終わりじゃあ!」

 

またアテムが不利になり、高橋が有利になった。そのことに高橋は高笑いしながらもう勝ちを確信したかのような表情だ。

 

「どうしたコナミい! お前のターンじゃ…まあ、手札0じゃ何もできず終わるのがオチだろうがのお!」

「さっきも言ったはずだぜ? 勝ちを確信するのが早すぎるってな…オレのターン!」

 

ここで逆転のカードを引かなければ負ける……それは誰もが分かる状況だ。

だがここでコナミは、謎の安心感に包まれていた。アテムなら、ここで逆転のカード──恐らくこのデッキ最強の、コナミの仕込んだあのカードを引くだろうという、安心感に。

 

「……ふっ、ありがとうコナミ」

『……やっぱり引いたか、さすがだな』

「ああ! 高橋、オレの引いたカードは……《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》!」

「な、なんじゃとお!? ここでその…だ、だがお前の墓地に光属性はいないはず」

「それはどうかな?」

「っ!?」

「オレは墓地の闇属性、《ブラック・マジシャン》と光属性──《マジシャンズ・ヴァルキリア》を除外し──」

 

アテムのディスクのセメタリーゾーンが光り、そこから二枚のカードが飛び出てくる。

深い闇を表す黒と輝く光を表す白がフィールドで混ざり合い、1つの形になろうとしていた。

 

「降臨せよ、《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》!」

 

場に現れたのは、鎧に身を包んだ騎士。その姿と手に持つ剣から、その強さが伺える。

 

《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》ATK3000

 

「ば、バカな…光属性なんぞいつの間に……っ!? あの時か!」

「そうさ、オレは最初のターンのトリッキーのコストとして、マジシャンズヴァルキリアを捨てていたのさ」

「この土壇場で、そんなモンスターを出しやがるとは…」

「バトルだ! いけ、カオスソルジャー! 《宇宙砦ゴルガー》を殲滅しろ!」

 

その場から飛び上がったカオスソルジャーは、落ちてくる力も利用してゴルガーに剣を突き刺した。

刺さった場所からピキピキとひびが入り、ついには全てが砕けた。

 

「ぐおお…またわしのゴルガーをお!」

 

高橋秀行LP:900→500

 

「まだだ。このカオスソルジャーは、相手モンスターを破壊したとき追加攻撃できる!」

「な、なんじゃとおおお!!?」

『なんでカードは知ってるのに効果知らないんだよ…』

「覚悟しな高橋。カードが受けた痛み…お前の身体に受けてもらうぜ! 《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》でダイレクトアタック!」

「ぐうううぬおおおっ!!」

 

高橋秀行LP:500→0

 

渾身の一撃と言ってもいい一発をくらった高橋は、ピィーというデュエル終了の音と共に吹き飛ばされた。

アテムの復活初デュエルは、アテムの勝利に終わった。




作中でとどめとなったカオス・ソルジャー─開闢の使者─はアテムは使用していませんが、コナミがアカデミア時代に神楽坂のデュエルを見て投入しました。


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いざシティへ

たくさんのご感想ありがとうございます。
これからも頑張らしていただきます。
今回は、デュエルシーンはなしです。


アテムの勝利。それはすなわち、高橋秀行への罰ゲームが確定したことでもあった。

 

「まさか、わしがコナミなんぞに負けるとは…」

「……」

 

吹き飛ばされた時に背中を打ったためか高橋は動かず倒れたまま呟いた。そこにアテムがゆっくりと近づいていく。

 

「さあ高橋、約束通り……罰ゲームを受けてもらうぜ」

「罰ゲームじゃとお…?」

『まあアテム、あんま酷いのはやめてやれよ? グリードぐらいのあんま害のない…』

 

俺の言うグリードとは、その昔牛尾という高校生にかけた、葉っぱやゴミがお金に見えるという罰ゲームだ。

 

「いや、こいつへの罰ゲームはもう決めてある…」

『……そうか、なら任せるよ』

「ああ…さて高橋。お前に、罰ゲームだ」

「……?」

 

アテムがゆっくりと手を上げて、人差し指を高橋に向ける。ここで、いつもなら額にウジャト眼が浮かび上がり何らかの罰ゲームが起きるが──

 

「今壊したあの店のショーケースの修理、それとあの店で無償で働いてもらうぜ」

『……ひょ?』

「は?」

 

アテムから飛び出た思わぬ提案についどこぞの虫野郎のような反応になってしまったが……つまり、

 

『バイトってことか?』

 

しかも無償でときた。これはさらに言えば──

 

「わしにあの店でただ働きせえってことか」

「ああ、オレはもうすぐしたらあの店をしばらく離れる。その間のお守りだ」

『……なるほど』

 

なるほど考えたな。このサテライトで長期間店をガラ空きにするなんてことをすれば、泥棒に入られて荒らされて大変なことになるのは目に見えてる。そこで、腕っぷしあり、デュエルの腕も立つ奴を置いておければ気兼ねなく動けるってもの。

 

「ふん、わしがあの店をさらにボロボロにさせたらどうするじゃ」

「いや、お前はそんなことをしない…デュエルをすれば、相手がどんな奴か何となく分かるもんだ。お前、根は良い奴だろ」

「……」

 

デュエルってそんなことまで分かるのか…ただ戦ってるだけの俺には分からん。ただこの高橋、確かに良い奴という見方もできる。サテライトで飢え死にしそうな奴に食料を分けて子分にしたり、子分の喧嘩に仲裁したり。そのおかげか子分が結構いて小さな派閥になってるぐらいだ。

 

「それにお前が、デュエルの前に決めた約束を破るとも思えない…罰ゲームをちゃんと受けてもらうぜ?」

「……分かった。男に二言はない、わしがあの店を、われらが留守の間しっかり守ってやる」

『ほへぇ』

 

思いの外あっさりと高橋の折れたことについ変な声が漏れたが…え、なにこいつさっきの要素と合わせたら良い奴にしか見えないんだけど。なんで俺のことだけ目の敵のように嫌ってんの?

 

「頼んだぜ高橋」

 

倒れてる高橋を起こすためにアテムが手をさしのべる。

その手を取って起き上がり、背中についた砂埃を払いながら高橋が何かを喋り出した。

 

「いつもの無言の気持ち悪いコナミならお断りだが、今日のわれからは違う何かを感じたわ…」

『えっ?』

 

何俺、普段喋んないから嫌われてたの?実際はこんな喋るのに…って今日アテムと会うまではしゃべり相手いないから基本無言、おまけにやっときたと思ったらこいつだから喋る気にならず顔だけで反応。声を出そうとすれば喋らなさすぎて声が急には出ずパクパク口が動くだけ…あ、無言野郎だわ。

 

「普段は喋らないのは相変わらずか」

「あ?」

「いや何でもない。さて高橋。さっきも言ったが、もうすぐ…予定では明日からオレはしばらくあの店を離れる。留守は頼んだぜ」

「任せとけい、わしと他の奴らできっちり守ったるわ」

 

軽く高橋の肩をポンとして、アテムは店へと、高橋はどこかへと歩いていく。俺は当然アテムの後ろをついていく。

 

「コナミ、身体は返すぜ。いきなり入れ替わってもらって悪かったな」

『気にすんなって、代わりにデュエルしてもらったしお互い様だ』

 

アテムが千年パズルを軽く握る。すると少し輝いたかと思うと、俺は俺の身体に戻っていた。

 

「ふぅ、でだアテム…」

『どうした?』

 

店の中に入り、いつもの俺の席であるイスに座って、デッキを眺めているアテムに問いかける。

 

「明日から店を離れるってどういうこった?」

『簡単だ、シティに行く』

「シティ? あそこへ行ってどうするんだ」

『これに出るんだ』

「……これは」

 

アテムがテーブルに広がってる1枚のチラシを取り出した。

 

「フォーチュンカップ開催…?」

『読んでみたら、でかいデュエルの大会だ。そこには各地から選りすぐりのデュエリストもいるし、今のキングのジャック・アトラスも戦うようだ。そこなら、コナミの求める心燃えるデュエルができるんじゃないか?』

「……ってもなぁ、シティに行くのも一筋縄じゃいかねーぞ?」

 

シティに行くとなると、パイプラインとかいうとこをD・ホイールで短時間で駆け抜けなくちゃならない。さらには向こうに着いたとしても、過ごす場所がなかったりセキュリティにバレたら速攻で終わりな状況がずっと続くんだ。

2日前に俺の昔の仲間の不動遊星は行ったらしいが…無事なのかなあいつ。

 

『それでもだ、行かなくちゃならない。それにオレには、なぜオレが蘇ったのか、それを突き止める必要があるんだ』

「……確かに、謎でしかないお前のことを調べるにはサテライトじゃ難しいな。シティなら、前で言う博物館もあるしやりやすいか」

『ああ、頼むコナミ。シティに行こう!』

 

シティとサテライトの情報量など、雲泥の差にもほどがある。どう考えてもシティの方が情報は手に入りやすいしここにいるよりよっぽどいい。店を守るっていう使命もアテムのおかげで解決している。

となると……。

 

「……っへ、分かったよ。いつ出発する? なんなら、今すぐでも出れるぜ」

 

当然答えはイエスだ。それに何より──シティなら、アテムのする心が燃えるような、二転三転する勝負が見れるかもしれない。

 

『コナミ…ありがとう。いつ出るか……今すぐなんて、そんなすぐに行けるのか?』

「普通は無理だけど…俺はカードの力を使えるからな」

 

少しだけニヤッとしながら、1枚のカードを取り出す。

 

『そのカードは?』

「《ポジションチェンジ》。実際の効果はモンスターの位置を変える物なんだが…」

 

喋りながら俺はディスクを展開し《ポジションチェンジ》をセットする。

そして次の瞬間、俺の姿は店の中ではなく、表に出ていた。

 

『っ……すごいな、簡単に言えば、テレポートか?』

「ま、そういうことだな。これを5枚ぐらい使えばシティにはあっという間だ」

 

本当なら《緊急テレポート》っていうカードを使いたいんだが…如何せん最近でた【サイキック】てカテゴリーのサポートカードのせいでサテライトじゃ入手困難だ。

 

『よしコナミ、行こうぜ! シティでオレの復活した理由を見つけ出し、再びコナミにデュエルの楽しさを思い出してもらう!』

「ああ、その2つがテーマってとこかな」

 

アテム復活の謎・俺のデュエルへの熱を再び……これが、今回のシティ突撃の目的となる。後者はまだできそうだが、前者は長い道のりになりそうだ。

 

「っと、一応あれに乗ってテレポートするか」

『あれ?』

 

店の横にあるガレージ。その中へと俺は入る。

中には俺の拾ってきたガラクタやら工具やら色々と散乱してる。

でもそんな中で、ガレージの丁度真ん中だけは、絶対不可侵領域を使ったかのように周りに何もなく1つのバイクだけがあった。

 

『こ、これは……バイクなのか!?』

 

けどそのバイクを見てアテムが驚きの声を上げる。

まあ宇宙に飛んでいくこともできるしその他諸々の特別な効果を着けてたら段々ごつくなって……今じゃバイク要素は2輪てことぐらいか。

 

「バイクっぽくないけどカテゴリーはバイクだよ。それにこいつは、D・ホイールっていうのさ」

『D・ホイール……』

「って言っても、これでシティなんか言ったら目立つから他ので行くけど」

 

ガレージの隅っこにおいてある布をかぶせたD・ホイール、そっちならまだ普通のだし問題ないだろう。

現在作成中だったが、基本的なところは完成してるしな。

 

「っし……じゃあ行きますか」

『ああ!』

 

布をどかしてD・ホイールに座る。アテムは俺の後ろにちょこんと座ってる……完全に精霊の状態にしてるから風の影響も受けなさそうだな。まあそうしてくれる方が俺も体力使わなくてすむから助かるが。

D・ホイールに乗って、俺は展開したままのディスクにまたカードをセットする。

 

「《ポジションチェンジ》発動!」

 

ヒュン、そんな音と共に俺とD・ホイールはガレージの中から姿を消した。



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シティのアカデミア生

今回は、タッグフォースシリーズから1人登場です。
この話のメインヒロインになるのか…コナミくんのハーレムの一人かは不明ですが……ハーレム苦手なので


「我、シティに到来!」

『大丈夫かコナミ』

 

シティに到着して、少しふざけてみたら呆れ顔でアテムに心配された。どうせなら少しははっちゃけたいじゃないか…。

 

『しかし、ここはすごいな。サテライトとの差が歴然としている』

「そうだな、ここまで格差があるとはね……っくしゅ!」

 

アテムと話してるとくしゃみが漏れた。仕方ない、あんな悲劇が起きたのが悪いんだ。

 

『大丈夫か? 早く着替えた方がいい、風邪を引くぞ』

「と言ってもなぁ」

 

実はここに来るまでのテレポートの間に、とんだ悲劇が起きていた。

テレポート三回目ぐらいに、空中に出たんだが……下は海、驚いてカードを使う暇もなく海へドボンだ。

おかげで現在絶賛ビショビショである。

 

「……」

「……ん?」

 

どこかから視線を感じる。

辺りはもう少し暗くなってきているが、シティで物盗りなんてでるのか?

 

「あ、あのう……大丈夫ですか?」

「……んあ?」

 

物盗りなんかでるのかなどと、サテライト的思考でジャケットの濡れたところを絞りながら乾かしてると、背中から誰かに話し掛けられた。

 

「まあ、大丈夫か……っくしょい!」

 

振り向くとそこには、喋り方と合わさっておっとりした女の子。

制服っぽいの着てるからアカデミア生か?

 

「あわわ! くしゃみでてますよぅ、早く着替えた方がいいですよ!」

「でもなぁ、暗くなってきたとはいえ、こんなとこで着替えなんかできないだろ?」

「あうぅ……あ、それなら向こうの公園の公衆トイレがありますよ!」

 

俺の一つ一つの行動とかに悩んだり驚いたりとリアクションをする女学生。なんだろうか……保護欲的なのをくすぐられる。

 

「それはいいな。悪いけどそこに案内してもらっていいか?」

「はい! こっちですぅ」

 

歩き出した女学生の隣に並んで、俺はD・ホイールを押しながら歩く。

 

「あっ、俺の名前はコナミだ。小さい波でコナミ」

「コナミさんですね! 私は宮田ゆまです!」

「宮田ね、了解」

 

とりあえず自己紹介。心の中でとはいえいつまでも女学生では申し訳ない。

 

「あうぅ……ゆまでいいですよぅ」

「いいのか? そんな初対面の奴にいきなり下の名前なんて」

「はい、私苗字で呼ばれるの慣れてないんです」

「そっか、じゃあよろしくなゆま」

「えへへ、はい!」

 

ゆまと呼ぶと、いつも呼び慣れた名前だから心地良いのか、嬉しそうな笑顔を浮かべながら、けど少し照れながら返事をしてくれる。

何この子すっごいポワポワしてるんだけど……謎の癒やしが与えられる。これがポワポワ系女子の力か…!

 

「あ、あれが公園ですよ!」

 

元気な声で公園を指差してるゆま。……なんか、こんな元気な子を見てると、初期十代を思い出すなぁ、髪色も似てるし。

 

「サンキューゆま。今度会ったら礼するよ」

「そんないいですよぅ、人助けをしただけですから!」

 

何この子優しい……というか優しすぎる、悪い大人にだまされないか心配。

けど、ここまで案内してもらったしお礼はしたい。

 

「じゃあ、デュエリストID交換しようか。これで好きなときに呼んでくれ、荷物持ちでもチンピラ退治でも何でもするからさ」

「あうぅ……分かりましたぁ、じゃあこれが私のIDです」

 

デュエルディスクにはそれぞれIDがあって、それを使えば簡単に言えば電話できる。

ゆまのIDをディスクに覚えさせて……よし、これで大丈夫か。

 

「あっ、交換できましたよ! ありがとうございます!」

「いやいや、礼を言うのはこっちだから……っしゅ!」

「あわわ! 早く着替えてきてください」

「ああ、そうする……助かったよゆま、暗いし気をつけて帰れよ」

「はい! コナミさんも、風邪を引かないようにしてくださいね!」

 

最後は心配そうな顔をしながら、けど俺が頷くと手を振りながらどこかへと帰って行った。

 

『良い子だったな』

「うおっ!? びっくりしたー……確かにな」

 

いきなり出てきたアテムについ驚いてしまう。今まで消えてたのによ。

けどあんな純粋無垢な子を見てると、悪い大人に何かされないか心配だ。闇マリクとか闇バクラとかダークネスとか……後ユベルとか。

何事もなく成長してもらいたいものだ……って、こういうのフラグか。

 

「さて着替えるか」

 

D・ホイールのシートを開けて中から俺の装備一式を取り出す。

この中には緊急用の着替えやら色々と入れてるのだ。

 

「んじゃあ着替えてくるわー」

 

アテムにはホイールのお守りを任せて、俺は公衆トイレの中でお着換え開始だ。

「しっかし、まさかあいつが甦るなんて…」

『フ……ハハ………!』

「っと…今日はカードの力を使いすぎたか…」

 

着替えながら、せっかくアテムがいない今少しぐらい一人言を言ってみる。いや、周りからしたらアテムは見えないから普段から一人言言ってる奴だけど。

ジャケットも着ていざ行こうとしたとき、俺の中から声が漏れてくる。

普段は表に出て騒がないように俺の精霊を使える力を応用して心の中に抑えつけてるが、今日みたいに多くカードを実体化させたりアテムの一部を実体化させたりなど力を使えば、当然疲れが出てくる。

その時を待ってましたとばかりに、俺のこの力の源の精霊は表に出てこようとする。っても、少ししか声が聞こえないからまだまだ大丈夫そうだ。

 

「お前は大人しくしとけっての」

『ふ……ぎょ………!』

「あーうるせーなぁったく!」

 

黙らせるためにジャケットの胸ポケットの中の精霊のカードを軽くはたく。すると、声はすぐに止み静かになった。

 

「大人しくしといてくれよ、精霊界でデュエルするのはいいけどよ」

 

黙ったことを確認して、俺は濡れた服一式を袋に詰めて公衆トイレん出た。

 

 

 

 

「キャーー!!」

『っ!? コナミ!』

 

トイレを出た直後、どこかから悲鳴が聞こえる。

俺と同じくアテムがオレの方を少し切羽詰まった顔で呼んでくる。

今の声は……。

 

『コナミ、今のは……』

「ああ、恐らくさっきの……!」

 

アテムに答えようとしたとき、俺のデュエルディスクから通信を知らせる音が響く。

普段はライフの表示されるとこにでてる名前は……っち、やっぱり。

 

「ゆまだ!」

『みたいだな、行くぜコナミ! 悲鳴はあっちから聞こえた!』

 

本体である俺を差し置いて、アテムが悲鳴の聞こえた方へと駆けていく。

D・ホイールは……ロックもしてるし大丈夫か。

 

「待てよアテム!」

 

俺もまた、アテムを追いかけていく。デュエルディスクには、きっちりアテムのデッキをしながら。

 

 

 

 

 

 

遡ること十分前。

コナミと別れたゆまは一人自宅への帰路についていた。

 

「えへへ、コナミさんいい人そうでした」

 

先ほど人助けとして助けたコナミのことを思い出しながら、ゆまは歩いていた。

だが考えながら歩いていたせいかいつもの道と少し間違えてしまい見たこともない路地裏へと入ってしまっていた。

 

「あれ? どこですかここ……」

 

キョロキョロと辺りを見渡す。日も既に暮れてしまっていて、路地裏に女子高生が一人など、いくらシティと言えど当然──

 

「へへ、お嬢ちゃん。こんなとこに一人で来たら危ないですよ」

「そうだぜー、こんな悪いおじさんみたいなのにであっちまったら大変だぁ」

「あぅ……」

 

当然、この手のチンピラがやってくる。

ゆまの前と後ろから、一人ずつニヤニヤした顔で男が近づいてくる。

 

「おっと逃げようとしちゃダメだなぁ」

「ひっ……!?」

 

何とか逃げようと走る姿勢を取るゆまだが、前にいる男の取り出したナイフを見て足がすくんでしまう。

 

「大人しくしててくれよー、叫ばれて誰か来たら厄介だ」

「へへ」

「あう……うぅ……!」

 

段々近づいてくる男たちを交互に見ながら恐怖に襲われていく。

その時に、ゆまの頭の中にさっきの出来事が鮮明に思い出された。

 

『これで好きなときに呼んでくれ、荷物持ちでもチンピラ退治でも何でもするからさ』

「こ、コナミさん……」

 

チンピラ退治でも何でもする。そのフレーズがゆまの頭の中で何度も再生される。

まさかこんなすぐに連絡することになるなんて、そう思いながらもゆまはポケットのPDA─今で言う携帯電話のようなもの─を記憶を頼りに、コナミに連絡が行くことを願いながら操作する。

 

「コナミさんだってよぉ、それはお嬢ちゃんの大事な人かぁ?」

「あららー可哀想に。彼氏さんの前に俺らに傷もんにされちまうなんてな」

「うぅ……キャーー!」

 

ついにチンピラの手がゆまの肩を捉える。

そのことに、ここまで叫ぶことを我慢していたゆまだが、恐怖が最高潮に達し悲鳴がでてしまう。

 

「叫ばないでくれよぉ、痛くないからよ」

「そうそう、何なら段々きもちよ……ぐほっ!!?」

 

これでもかと言うぐらいににやけていた男の顔が歪んだかと思うといきなり後ろに吹き飛ばされた。

 

「こんな幼気な女の子捕まえて犯そうとするなんざ」

『人間の屑だな、貴様ら』

「こ、コナミさぁん……」

 

背負い投げをかましてチンピラの片割れを飛ばしたコナミが、今なおゆまの肩に手を置くチンピラを睨みながら、仁王立ちしていた。

コナミの姿を見て、ゆまの口から泣きそうな声が零れる。

 

「な、なんだてめぇ!」

「まずはその子から、手を離してもらおうか?」

 

指をポキポキと鳴らして威嚇しながらコナミが一歩一歩チンピラに近づいていく。

 

「く、来るな-! それ以上近づいて見ろ、この女がどうなっても知らないぞ!」

「……ちっ」

 

チンピラはゆまの首筋にナイフをあてがう。

いくら戦闘要員のコナミと言えど、人質を取られていれば迂闊に動けない。

ましてやゆまは女の子、ケガなんてさせるわけにはいかない。

 

「なら、こういうのはどうだ? デュエルで決着をつけるってのは?」

「デュエルだぁ? そんなもん、俺がやるメリットがねぇな」

「お前が勝てば……これをやるぜ?」

「なっ!? そ、そのカードは……!?」

 

力で押し切れれば楽だったがそうもいかない。そのためコナミの考えた方法はデュエル。

当然デュエルをするだけでは相手は乗らない。そこでコナミは自分の持つ最もレアリティの高いカードを取り出す。

 

「勝てばこれを、お前が負ければゆまを解放してもらう。そして──」

 

キランと一瞬千年パズルが輝く。

 

「負けたお前には、罰を受けてもらうぜ!」

 

コナミの人格に変わってアテムが表に出てくる。

ここからはデュエル、そのためアテムに身体を譲ったのだ。

 

『頼んだぞアテム』

「ああ、任せろ。あいつに死よりも恐ろしい罰ゲームを与えてやるぜ」

 

ゆまの首筋にナイフをあてがったまま男はデュエルディスクを展開する。

 

「へっ、そんなレアカードを頂けるなら乗ってやるよ。……俺は手がふさがってるから、女。代わりにカードをプレイしろ」

「は、はい……コナミさぁん」

「待ってろゆま……こんな奴、すぐに倒してお前を助けてやるぜ!」

 

左手はゆまの動きを束縛し右手はナイフの男は両手がふさがっていてカードをプレイできないためゆまにプレイさせるようだ。

 

「さあいくぞ、そのレアカードは俺の物だぁぁ!」

「お前に待ってるのは、罰ゲームだけだ!」

 

ゆまを救うためのデュエルが、今始まる。




作中登場のチンピラは完全なオリキャラ、噛ませ犬です。
少々話を進めすぎた感もありますが…タッグフォース内じゃハンデデュエルで大逆転クイズすればすぐにハート貯まるしいいでしょう←
また、感想内の返信でややこしい表記がありましたので、ここでまとめておきます。
1.この作品の5D’sの世界に“追加”として新たなメンバーで登場するのは、確定はコナミ・アテム・遊戯・DMキャラ一人の計4人です。ただここに、他の誰かが増える可能性もあることはご承知ください。
訂正:登場するのはGXキャラと書いていましたがDMキャラです、勘違いしてました。
2.コナミがデュエルするときが来れば、コナミはシンクロを使います。アテムに関してはチューナーは使いますが、基本はシンクロは使いません。ただこれも予定なので、変更の可能性はあります。


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シティ初デュエルは説明死

タイトルからネタバレ、「城之内、死す」並のタイトルバレですね。
しかしブラマジとトリッキーさんが過労死しそうだ……。
追記:デュエルの途中で間抜けすぎるミスをしていました。申し訳ありませんでした、頭の中だけでデュエルを組み立ててた故のミスです。少し無理やりですが辻褄の合うように変更しておきました。ご指摘くださった方、ありがとうございました。


「デュエル!」

 

「俺の先行だぁドロォォ!」

 

あの胸くそ悪いチンピラの先行でデュエルは始まった。ドローと言いつつも、引いてるのはゆまだけど。

 

「俺は手札から、《強欲な壺》を発動! 二枚ドローだ」

『なにっ!?』

「どうしたコナミ。普通のプレイングじゃないか」

『いや、今の時代、壺は禁止カードなんだ……それを使いやがるなんて』

「なに…? おい貴様、そのカードは禁止カードのはずだぜ!」

 

強欲な壺をサラッと流すアテムだが、あのアドバンテージの塊みたいなカードは禁止カードだ。そのことを教えてやると、アテムが場に出てる壺を指さす。

 

「ハッ、誰がルールなんて守るかよ! 勝てばいいんだよ勝てば!」

「貴様……デュエリストとしての誇りすらないのか!」

「そんなもんねぇよ! さらに《天使の施し》発動! 三枚引いて二枚捨てるぜ……」

『あのカードも、今じゃ禁止カードだ……』

 

間違いない、奴のデッキは禁止カードで溢れてる。これはアテムと言えど、苦戦するか……?

 

「《コマンド・ナイト》を召喚! さらに永続魔法《一族の結束》を2枚発動、これで俺の墓地は戦士族だけだから、《コマンド・ナイト》の攻撃力は合計2000アップだ!」

 

《コマンド・ナイト》ATK:3200

 

チンピラの指示に合わせて、ゆまがカードをディスクにセットしていく。

天使の施しで戦士族を捨てていたおかげで一ターン目から結束も使われてる…元が低ステータスの《コマンド・ナイト》が最上級モンスターを超える攻撃力、やっぱり《一族の結束》は強いな。

 

「さらに二枚伏せ、ターンエンドだ」

(くっくっく、俺の伏せは《魔宮の賄賂》に《次元幽閉》……防御は完璧だ)

 

何とも腹の立つニヤニヤとした顔をしながら、チンピラがエンドを宣言する。

次はアテムのターン。震えて怯えてるゆまのためにも、早く決着を着けたいな。

 

「オレのターン、ドロー! 《熟練の黒魔術師》を攻撃表示で召喚! さらに、手札を1枚捨てて、《死者への手向け》を発動! これで貴様の《コマンド・ナイト》を墓地に送るぜ! さらに魔法カードを発動したことで、魔力カウンターが一つ増えるぜ!」

「ちっ……リバースカードをオープンだ、《魔宮の賄賂》!そのカードの発動を無効にする!」

 

場に出てきたおっさんからアテムの場のミイラへと何かが渡され、アテムのカードは破壊された。あれは……《死者蘇生》か、確かにあの魔法には賄賂だな。

さらに賄賂の効果でアテムがカードを1枚ドローする。

残念ながら発動を向こうにされたからカウンターは乗らないが。

 

「ふっ、やはり防御カードだったか。さらに魔法カード、《大嵐》! これでお互いの魔法・罠は全て吹き飛ぶぜ! そしてさらにマジックカード《地割れ》を発動、《コマンド・ナイト》は破壊する!」

「なにっ!?」

 

場をおそう巨大な嵐が、アテムとチンピラのカードを吹き飛ばした。尤も、伏せのないアテムには被害はないが。

そして相手の破壊されたのは……なるほど、《次元幽閉》か。さっきの《魔宮の賄賂》と合わせて防御策は完璧だとでも思ってニヤニヤしてたのか。

そして起きる地割れ。その中から伸びてきた手がコマンドナイトを引っ張り込んだ。

 

「そして、これでカウンターが2つ乗る」

 

《熟練の黒魔術師》魔力カウンター:2

 

あと一つカウンターが乗れば、《ブラック・マジシャン》を呼べるな……。

 

「マジックカード発動、《増援》。これにより、レベル4以下の戦士族、《翻弄するエルフの剣士》を手札に加える」

 

よし、これで3つのった。アテムのエースが呼べる!

 

《熟練の黒魔術師》魔力カウンター:3

 

「ここで魔力カウンターの三つ乗った《熟練の黒魔術師》を墓地へ! 効果により、手札・デッキ・墓地から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する! 現れろ……《ブラック・マジシャン》!」

 

フィールドにいた《熟練の黒魔術師》が光に包まれる。

そして光が晴れると、そこにいたのはアテムのエースモンスター、《ブラック・マジシャン》。

 

「ちぃっ、2500はくらうしかないか……」

(だが俺の手札には《サンダー・ボルト》がある…これでとりあえずあいつの場はガラ空きにしてやる)

「はん、2500じゃすまないぜ? お前のライフは、このターンでゼロだ!」

 

おいおいアテム。お前はもう通常召喚もしてるし手札にはエルフと謎のカード……それじゃライフはゼロにできないぜー?(フラグ建設)

 

「《翻弄するエルフの剣士》を墓地に送り、《THE・トリッキー》を特殊召喚!」

『フラグ回収ってか』

「な、なんだと……!?」

 

《THE・トリッキー》ATK:2000

 

これで合計4500、奴のライフを超えたな。

 

「ぐっ……くっ……」

「覚悟しろ……トリッキーでダイレクトアタックだ!」

「ぐふっ!」

 

トリッキーが見事にゆまを避けるようにマジックででてきたトランプをチンピラに当てる。

 

チンピラLP:4000→2000

 

「とどめだ……《ブラック・マジシャン》!!」

 

アテムの命を受けて、飛び上がる《ブラック・マジシャン》。ゆまへのダメージを与えないために杖で直接チンピラを殴るようだな。

 

「ブラック・マジック!!」

『ただし物理……』

「ぎゃふっ!!」

 

チンピラLP:2000→0

 

ブラックマジシャンの攻撃を受けてチンピラのライフがゼロになる。

というか……あれは痛そうだ、頭に杖がバコンだからな。

何はともあれ、これで終わりだな……ゆまも助かるし。

 

「さあ、約束通りゆまは返してもらうぜ!」

「………ハッ、誰がそんな約束守るかよ!」

『あいつ!』

 

チンピラが、ゆまの首にナイフを突き立てる。

くそっ、あいつ負けたくせにゆまを解放しない気か!?

 

「どういうつもりだ貴様! デュエリストともあろう奴が、約束を破る気か!」

「ふん、俺は端からそんな約束守る気はないぜ! おら、さっさとさっきのカードを渡せ……そしたらこの嬢ちゃんは放してやるよ」

 

チッ、クソ野郎が……端っからカードが目的か。

だがゆまの命には代えられない……。

 

『アテム、カードをあいつに』

「だがこのカードは……」

『ゆまの命には代えられないだろ……渡すしかない』

『……ハッ!』

「なっ!?」

 

アテムが胸ポケットにしまったさっきのカードを取り出す。

しかし突然、チンピラの持つナイフがどこかへと吹き飛んだ。

今のは……魔力弾を誰かが飛ばしたのか?

だが、今しかチャンスはない!

 

『アテム! 俺と代わってくれ!』

「ああ!」

 

俺の言葉に呼応するかのようにキランと輝く千年パズル。

アテムが返事をするころには、既に俺が表に戻っていた。

 

「伏せろゆまぁ!」

 

戻ったかどうかなんて気にする前に、俺は駆け出す。

ナイフが拾われる前に、かつ腕力でゆまの首を絞められる前に、驚いて力の抜けた今の──あのチンピラを蹴り飛ばす!

 

「は、はい!」

 

ゆまがしゃがんだのを確認して俺は走りながら飛び上がる。

 

「おらぁぁぁ!!」

「ぐふぉぉ!!」

 

ものの見事にスピードに乗ったドロップキックがチンピラの顔面にめり込む。

その衝撃にチンピラは後ろへと吹き飛ぶ。

 

「っし、これで大丈夫だろ」

 

そして俺は着地。ゆまがちゃんと俺の言葉に反応してくれて助かった、下手すりゃ一緒に蹴り飛ばすところだったし……まあそんなへまはしないが。

 

「ぐっ……ぐふっ……」

 

チンピラの方はと言えば、見事にのびてる。

とりあえずこいつの方は……

 

「アテム、後は任せた」

『ああ、任せてくれ。ゆまの受けた恐怖と痛みを、あいつにも味わってもらう』

 

精霊状態ではあるが、アテムがチンピラへと近づいていく。

どんな罰ゲームをするのか……結構キレてるからな、ヤバい罰ゲームになりそうだ。

 

「っと、ゆま大丈夫……じゃないなこれ」

「……」

 

ゆまはと言うと、恐怖から解放された安心からか気を失っていた。

……仕方ない、さっきの公園のベンチに横にさせに行くか。D・ホイールも気になるし。

 

「ちょっと我慢してくれよー……」

 

ゆまの首と足の下から腕を回す。そして持ち上げて抱っこする。

つまりはお姫様抱っこだ。

おんぶしようにも、倒れてた体制的に厳しかったし……しょうがない。

 

「こいつ軽いな……女の子ってこんなもんなのか?」

「……」

 

アテムにチンピラは任せ、俺はさっきいた公園へと戻る。

俺の後ろからは、『罰ゲーム、ヘイト・バスター!』と言うアテムの声が聞こえてきた。

その罰ゲームの内容は……男からしたら最大の痛みであろうとだけ言っておく、何ならこの言葉にするだけでもキュッと痛むぐらいの……。




ということで、今回はTHE説明死というデュエルになりました。もっと長いデュエルを描くのはもう少し先になりそうです……ここまで、デュエルが少なく短く申し訳ないです。
そしてゆまへのフラグが建築中です。タッグフォースで言うところのハート1イベント中ですね。

また感想にて指摘があったのですが、十代たちGX組と同世代のゆまがこの時代にも登場していますが、この作品内ではGXの時代にはゆまなどタッグフォースキャラは存在しないという扱いになります。両方に存在させると年齢的に矛盾が起きるので。
なので、遊星たちが生まれた前後にタッグフォースキャラも生まれてきているという認識でお願いします。


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シティ初疾走は女の子と

今回はゆまとのハートイベント1の締めというところです。


「よっと……D・ホイールも何も問題はなさそうだな」

 

公園のベンチにゆまを寝かせ、俺はD・ホイールに座る。

まあ、サテライトじゃないんだし、このシティで盗られたりなんかそうないか。……あ、けどさっきみたいなチンピラはいるのか。

 

「んぅ……あうっ!?」

「お? 目が覚めたか?」

 

いきなり変な声と共に飛び起きたかと思えば、キョロキョロと辺りを見渡してる。

そして俺の姿を捉えて固まったかと思うと……

 

「こ、コナミさぁぁん!!」

「うえっ!? ゆ、ゆま!?」

 

目が潤みだし、涙が零れてきた。

まさか起きてすぐに泣くとは……こ、これはどうするべきか。

 

「大丈夫だゆま……さっきの奴らはボッコボコにしといたから」

 

少し腰を落として目線をゆまに合わせる。そして自分に出せる一番優しいと思う声音で、ゆまに話しかける。

 

「コナミさぁん……ひうぅ……」

「大丈夫……落ち着け、な?」

 

泣いてるゆまの頭にそっと手をのせて、優しく撫でる。確かあれだ、昔アカデミアでレイが泣いてるときに出くわして、「こういうときは、黙って女の子の頭を撫でるんですよコナミ先輩」みたいなこと言われたからな。

 

それから、黙って頭を撫でてゆまの気持ちが落ち着くのを待っていた。

 

「っ……あうぅ……も、もう大丈夫ですよぅ……」

「えっ? ……ああ、悪い」

 

落ち着いて涙も引いたのか、顔を上げて喋ってくる。

これはあれだな、もう頭から手を離せという。

 

「うぅー……いきなり撫でられたら、照れちゃいますよぅ……えへへっ」

「ふっ、もう大丈夫そうだな」

「わわわ!」

 

ようやく笑顔のでたゆまに、安心した俺はついゆまの頭をくしゃくしゃに撫でた。あっ……レイの時はこれして「先輩! 女の子は髪の毛をセットしてるんですからあんまり乱さないで!」みたいに怒られたんだった……。

 

「あうぅ……ありがとうございましたコナミさん! 助かりました!」

「お、おう……悪いな、もう暗かったし、送ってやるべきだった」

 

あれ? 機嫌悪くなったりするかと思ったけど何ともないな……レイだけだったかあれは。

けど、本当にそうすべきだった……シティだからと安心しすぎた。暗いんだし女の子1人で帰らすんじゃなかったな。

 

「大丈夫ですよっ! 元はと言えば変な道に入り込んだ私が悪いですから……いたっ」

「どうしたゆま?」

「いたた……首の後ろが何か痛いですぅ……」

「首? ちょっと見せてもらうぞ」

「はい!」

 

ゆまの背中側に回って、首を見る。ゆまが見えやすいように髪をかき上げてくれたときに何気にシャンプーの匂いにドキッとしたのは内緒だ。

 

「これは……さっきの奴のナイフが掠ったのかもな、少し切れてる」

「あうっ!? で、でも掠り傷ぐらいなら大丈夫ですよぉ」

「いやダメだ……こういうのはちゃんと治療しないとな。ちょっと待ってくれよ」

「……う? コナミさん何してるですか?」

 

女の子だし傷になっても嫌だろうし、ここはしっかり治療してやろう。

そう思いながら俺は、デッキホルダーの中からカードを1枚取り出す。

 

「それは……《ブルー・ポーション》ですかぁ?」

「そうそう、これで傷もすぐ治るぜ」

「コナミさん、それはカードだからデュエルの時しか使えませんよぉ」

「まあ見てろって」

 

取り出したのは《ブルー・ポーション》。ライフ回復系の魔法カードだ。

不思議そうな顔をしたゆまに、少し意地悪い笑みを浮かべながら、デュエルディスクにこのカードをセットする。

 

「えっ……えっ、ええっ??」

 

俺の手に突然ポンと現れたコップと壺に、ゆまがさっきよりもさらに不思議そうな顔をしてる。

 

「ほれ、飲んでみ?」

「ううー……いただきます」

 

コップに壺の中の液体を注ぎゆまに渡す。怪しそうにコップを見つめていたゆまだが、意を決してその液体を飲んだ。

 

「……あ、美味しいですっ!」

「美味いだけじゃないぞ? さっきの傷口触ってみ?」

「……えっ、ええっ!? 治ってますよぉ!」

 

ライフ回復系の魔法だから味は美味しいようだな。マズかったらどうなってたことやら。

そしてゆまが自分の首を触ってみると、今日一番驚いた顔をしている。

 

「よし、それで治療は終わりだ」

 

効果を終えたからか、ゆまの手の中のコップと俺の持つ壺が消えた。

 

「またいきなりきえました……コナミさんって、マジシャンか何かですかぁ?」

「そんな者じゃない、ただカードを実体化できるだけだよ」

「えっ……あうっ!?」

 

言われた意味を理解できなかったのか、頭に?マークを浮かべたような顔をしていたが、ようやく意味を理解してか、またまた驚きの表情に変わる。

 

「カードの実体化なんてそんなこと……あっ、じゃあ今してたっ!」

「そういうこと、さっきのも、俺が実体化させたってこと」

「わあぁ……すごいですぅ!」

 

さっきの《ブルー・ポーション》のおかげか、すんなりと実体化を受け入れたゆまは、キラキラした瞳で俺のことを見てくる。

……上目遣いにキラキラした瞳。このダブルコンボじゃ悪いこと考えててもやめたくなるな。

 

「まあ使いすぎると俺がへばるんだけどな」

「そうなんですか……」

 

使い終えた《ブルー・ポーション》のカードをホルダーへと仕舞う。

ゆまももう普通になったし、そろそろ帰らせてやらないとな。

 

「さあゆま、そろそろ帰るぞ。早く帰って、今日は休め」

「はい……あうっ!? もう8時ですよぉ……晩ご飯の時間過ぎてますよ!?」

「なら早く帰らないとな、親御さんも心配するぞー」

 

喋りながら俺は、D・ホイールのシートの中から予備のヘルメットをひとつ取り出す。

 

「ほらゆま」

「わわっ……これ、ヘルメットですか?」

「歩いてたら時間かかるだろうし、こいつで送ってくよ」

「えっ、いいんですかぁ!? 私、1回D・ホイールに乗ってみたかったんですぅ」

 

ヘルメットを受け取って俺の方を見てるゆまだったが、D・ホイールに乗れると聞いてまた目がキラキラ輝いてる。

 

「なら、ちょっと走ってから送るか」

 

早く家に帰してやりたいところだが、初めてD・ホイールに乗るなら、少しぐらい楽しませてやった方が良いか。

 

「はいっ! えっと……あうっ」

「……ん? どうしたゆま」

 

ヘルメットを被って、D・ホイールに座る俺の後ろに乗ったゆま。

だが変な声をもらしながらもじもじしてるらしい振動がシート上に伝わってくる。

 

「あうっ……うぅ……失礼しますっ!」

「っと……しっかり捕まっとけよ?」

「はい……」

 

いきなり大きな声を出したかと思えば、俺の前に回される手。背中にもゆまの温もりと何か柔らか……っ!? ダメだ、意識したらアウトだ……。

あっ……乗ってから少しもじもじしてたのは抵抗があったからか。さっきチンピラから助けたとはいえ、まだ出会って2時間ぐらい。見ず知らずだった男に抱きつくようなのは抵抗あるよなそりゃ……でも安全のためだし我慢してもらおう。

 

「よーし、レッツゴーだ!」

 

ゆまがしっかり捕まってるのを確認して、D・ホイールを走らせる。

肌に風を感じながら、シティの街を駆ける。

 

「うわぁ……すごいですっ! 速くて風も気持ちいいですよぉ!」

「すごいだろ? この風を感じながらやるライディングデュエルはさい……」

 

最高なんだぜ! そう言おうと思ったが、その言葉は出なかった。最後にしたライディングデュエルは、最高だったがそれは悪魔でもこの疾走感。デュエル自体は物足りないものだった……その事を思い出して、最高という言葉は俺が言うには相応しくない。そう思って言えなかった。

 

「わあぁ……私もやってみたいですっ!」

「あ、ああそうだな……D・ホイールを手に入れたら、やれるさ」

「その時は、コナミさん相手してくださいねっ!」

「……まあ、気が向いたらな」

「はいっ!」

 

きっと俺の後ろで、ゆまはさっきのようにキラキラした瞳でそのときを楽しみにしてるだろう。

だが俺は……その時には再びデュエルへの楽しさを取り戻せているか分からないから、曖昧な返事を返すことしかできなかった。

 

「よっしゆま! 家に送るから案内してくれ!」

「分かりました!」

 

ゆまの指示を聞きながら彼女家を目指してホイールを走らせる。

あ……そういえばアテム帰ってきてねぇ!?

 

 




というわけで、今回はただのリア充爆発しろ回でした。奇しくもバレンタインデーということで、少しは甘みを…。
上手く書けた自信はありませんが、二人乗りしてるゆまとか恥ずかしがるゆまを想像してニヤけて頂ければ幸いです。
次回はこの時間帯のアテムサイドになります。


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王と神官と弟子と

今回は、コナミとゆまが青春してる時のアテムサイドからです


コナミがゆまと共に走る少し前のこと。

時間は丁度、アテムがのびたチンピラの元に近づいたところまで遡る。

 

「貴様みたいな奴が、デュエリストであることが、腹が立って仕方ないぜ……」

「ぐぅっ……けほっ……」

 

アテムが腕を組みながらチンピラを睨みつける。

コナミの蹴りのダメージがあるのか、チンピラは未だに動けずにいた。

 

「さあ、負けたお前には、罰ゲームを受けてもらうぜ……ゆまへの痛みとデュエリストとしての恥を思い知れ!」

 

アテムが倒れたチンピラに、人差し指を突きつける。

 

「罰ゲーム、ヘイト・バスター!」

 

チンピラの周りが闇に覆われていく。

そして、その中で動く謎の影──《スカラベの大群》だ。

 

「ひいっ!? うあっ……あああ助けてくれぇぇぇ!!?」

 

それまでは周りをフワフワと動いて黒い影が、突然いくつもの影に散らばる。

そしてチンピラの、男の急所へと、スカラベの大群が突撃していく。何匹かのスカラベは男の左腕──デュエルディスクに群れる。

 

「ひいぃぃいっ!!? や、やめろぉぉ! やめてくれぇぇぇ!!」

 

スカラベの大群が、小さな歯を立てて肌へと突き立てる。急所を一気にいくつも噛まれれば、その痛みは……計り知れないだろう。

 

「これで、貴様ももう女の子を襲おうなんてことは思わないだろう……そのスカラベの幻想が消えるのは、お前の中の煩悩が消えたときだ!」

 

そう言って、アテムはチンピラから離れる。

彼の後ろからは、チンピラの叫び声が止まることなく響いてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

「コナミ、戻ったぞ……いないのか」

 

公園へと戻ったアテムだが、そこにはコナミやゆまの姿はない。さらには置いてあったはずのD・ホイールすらない。

 

「コナミの奴、どこに行ったんだ?」

『お師匠様ー、王様に伝えた方がいいんじゃないですか?』

『しかしマナ、今のファラオには我々の姿が見えてないんだ……コナミ殿の行き先を伝えようにも』

 

コナミを探すアテムの近くから、二人の声が聞こえる。

声の質的に、青年と少女だろうか。

声の聞こえてきた方、背後にアテムは振り向いた。

 

「っ……お前は、《ブラック・マジシャン》……? いや……マハードか!」

『ファラオ!? 私たちの姿が見えるのですか?』

『やったねお師匠様! やっと王様も私たちが見えるようになったんだよ!』

「そしてこっちは……マナか?」

『そうでーす、《ブラック・マジシャン・ガール》のマナです!』

 

声の正体は、アテムのデッキに眠る《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》の精霊。しかし彼らの場合は精霊というより、アテムのように甦った者たちという表現が正しいかもしれない。アテムがファラオとして生きていた時代のエジプト、そこでファラオに仕える神官の一人のマハードとその弟子のマナ。彼らの記憶を持っているからだ。

 

「まさか二人もこの世界にいたのか……てっきり闘いの儀で俺と共に帰ったのかと思ってたぜ」

『いえ、今の私たちはマハードやマナの記憶を持つ、いわば生まれ変わりです。ファラオの魂とはまた、別なのです』

「なるほどな……だからお前たちはこうして」

『そうだよ……そういえば、コナミとの旅も面白かったよー! 特にあの、十代くんと──』

『マナ、今は無駄話をしてる時ではない。ファラオにコナミ殿の行き先を伝えねば』

 

マハードから自分たちの状態を教えてもらい頷きながら納得するアテム。

そこにマナが喋り出そうとするが、マハードにより止められた。

 

「そうだマハード。コナミの行き先は?」

『はい。コナミ殿は今、先ほど助けたゆま殿を家へと送っています』

『それから、コナミからの伝言で──悪いアテム、ゆまを送るから公園で待っててくれ。できるだけすぐに戻る──だって』

「わかった……なら、ここで待っておくか」

 

コナミの伝言を伝え聞いたアテムはすぐそばのベンチに腰掛ける。

 

「マハード、マナ。やることもないし、コナミがどんな旅をしてたのか教えてくれないか?」

『あっ、いいねそれー。じゃあはいはーい、私から話します!』

『分かりました……マナ、あまりファラオに失礼のないようにしろ』

「気にするなマハード。今の俺はファラオでも何でもない。マナとは年も近いし、普通に喋ってもらう方がやりやすい」

『むっ、分かりました……マナ、任せたぞ』

『はーい! じゃあまずはー……あ、マスターの旅で──』

 

マナから話されるコナミと遊戯の旅の話。

その話をアテムは楽しそうに聞き、マハードはマナの話に付け足したりサポートをし、マナはマナで昔の思い出を話すのが楽しいのか次々に話していく。

アテムが時折質問しながら進む3人の会話の時間はあっという間に過ぎていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あそこですっ! あそこが私の家ですよぉ!」

「了解……っと、一応離れたとこに……」

 

少し遊びで走らせてからゆまの案内の元走ること5分ほど。ゆまの家に着いたようだ。

けどいきなり家の前に送って向こうの親に見られたらあらぬ誤解を生みかねない。ホイールも無駄に音がでかいしな。

そう思って少し離れたところでホイールを止める。

 

「ほらゆま、降りろ」

「はいっ」

 

俺に回されてた手がスルッと抜けて背中にあった温もりも離れる。……人肌って温かいんだな、うん。

 

「コナミさん、今日は助けてくれてありがとうございました!」

「いや……怖い思いもしただろうし助けるのも遅くなった。礼を言われることはないよ」

「でもでもっ! コナミさんが来てくれなかったら……だから、これ受け取ってください!」

「……これは?」

 

ゆまがデッキを取り出して、1枚のカードを抜き取った。

そしてそれを、俺に差し出してくる。

 

「私のヒーローさんですっ! それだけ4枚あるので、私からの感謝の気持ちですぅ」

「《E・HERO プリズマー》か……ふっ」

「どうしたんですかぁ」

「いや、昔の仲間にヒーローデッキを使う奴がいてな。そいつのことを思い出したんだ。サンキュー、このカード大事に使わせてもらうよ」

 

この明るさに髪の色……元々十代に似てるなぁと思ってたがデッキまで似てるなんてな。これもう娘って言っても通じるだろ……生憎十代は子供いないけど。

というか使うのはアテムになるのかこれは。ブラマジサポートに使えるか。

 

「そうなんですかぁ! 私も、元々このヒーローさんたちはある人からもらったんですよっ!」

「そうなのか?」

「はいっ! 今度デュエルするときは私のヒーローさんたちを見せてあげますよぉ!」

「っ……ああ、楽しみにしてるよ」

 

デュエルするときは来るのだろうか、来たとして俺はできるのだろうか。そう思って一瞬言葉に詰まったが、ゆまに気づかれたくない。

すぐにいつも通りを装う。

 

「じゃあゆま、またな」

「はいっ! 送ってくれてありがとうございますっ!」

「気にするなよ。……じゃあな、またいつでも連絡してくれて構わないぞ」

 

そう言って俺はホイールを発進させる。

チラッとゆまの方を振り返ると手を振ってるから、俺も片手をあげて応える。

 

こうして、シティにきてすぐに起きた事件は解決した。

 

 

 

 

 

 

 

「アテムーー!」

『それでその時コナミの精霊のカイ……あ、コナミ帰ってきた』

『遅かったなコナミ』

「いやー悪い悪い……ふぅ」

 

アテム……とマハードにマナもいるのか。彼らの傍にホイールを止めて降りる。

 

「そういやアテム、二人の姿見えるのか?」

『ああ、さっきから急にな』

『恐らく、現世に慣れてきたからだと思います。段々と身体が適応してきたため、我々精霊が見えるように』

『うんうん』

 

さっき遠目から見たときにアテムたちが会話してるように見えたからもしやと思ったが……ようやく見えるようになったか。

そしてマナがマハードの説明に頷いてるが恐らく適当だなこいつ。

 

「なるほどな……そういえばマハード。さっきはサポートしてくれて助かったよ」

『いえ、隙を窺っていて中々撃てませんでしたが……』

「あれでゆまを助けられた、ありがとな」

 

さっきチンピラのナイフを飛ばした魔力弾、あれはマハードが撃った物だ。あれのおかげでゆまを助ける隙を作ってくれた礼を言う。

 

『いえ、お力になれてよかったです』

「よしアテム、待たせて悪かったな。とりあえずは今日の寝床の確保といかないとな」

『そうだな。俺はどこでもいいが、肉体のあるコナミは探さないとな』

「とりあえずビジネスホテルみたいなとこを探すか」

 

とは言ったもののサテライトにいたためお金はあまりない。安いとこでも泊まれて1週間が限界か。まあ最悪カードの力を借りて寝れそうな所を出すが……《魔法族の里》とか便利。その代わり俺の疲れが取れないという本末転倒だが。

 

「まっ、とりあえずうろつくか」

『よし、行こうぜコナミ』

 

一足先にアテムがホイールに乗り込み、俺も乗る。

さて、どっかいい場所は見つかるかな……そう思いながら、俺はホイールを発進させた。




場面がころころ変わる内容となりました。何気にゆまにカードはもらったという伏線が……。
そしてもらったプリズマーは使うことになるのか……。


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盗まれたD・ホイールとカードショップ乗っ取り

今回はまだまだ原作介入せず……原作介入のためのフラグ作りとカードショップKURUMIZAWA(タッグフォース4~6のカードショップ)での話です。


『コナミ!』

「ふいぃ……」

 

昨日何とか止まるホテルを見つけた俺たちは眠りについた。

そして、今は朝……だというのに、のんびり眠る俺をアテムが揺さぶってくる。

 

『ダメだよ王様ー。コナミを起こすときはー……ていっ!』

「ぐへっ!?」

 

マナの声が聞こえてきたかと思うと、いきなり俺の鳩尾に衝撃が走る……ってか痛い。

当然そんなのくらって寝てられるわけも無く、俺は起きる羽目になった。

 

「っつーー……バカマナぁぁぁ」

『起きないのが悪いんだよーだ』

「こんにゃろぉぉ……覚悟!」

 

ベッドから起き上がって、不意打ちの形でマナへと飛びかかる。

そしてあわよくば……ニヒヒ。

 

『下心見え見えだよ変態』

「ぐげふっ……」

 

あわよくばなんて起きるわけが無く、マナの杖に叩きつけられる。

こいつ……さっきも杖でやりやがったな。

 

『はぁ……コナミのそういうところも変わらないな。だが、お前ももう中身は50はゆうに超えた年寄りだろ?』

「ぐぬっ、痛いとこを……でも俺はピチピチの二十歳だからな!」

『やーいおじいちゃーん』

「マナぁぁぁぁ!!」

『そこまでだマナ』

『いたっ!』

 

マナにまたもやバカにされてプッツーンと来た俺は再びマナに飛びかかる用意をする。

けどそこに出てきたマハードに頭をペチンと叩かれたマナと左手で見事に押さえつけられた俺。マハードの両手でマナVS俺は始まる前に終わった。

 

 

 

 

 

「さぁて、とりあえずはフォーチュンカップに出る方法を探すか」

『ああ、何とか出る方法を見つけるんだ』

 

朝の一幕が終わり、支度をして外へと出た俺たちの今の目的は、もうすぐ開かれる大きな大会のデュエル・オブ・フォーチュンカップへの出場。けどあれは招かれた人たちだけが参加できる大会……何も持ってない俺たちに出れるかどうか。

 

『そうだコナミ。カードショップに寄ってくれないか?』

「ショップ? 別に良いけど……この辺りで一番近いのはKURUMIZAWAって店だな。お? しかもここの店長マンション経営までしてるってよ」

 

ホテルでもらった《ここがおすすめ、シティの案内図!》とかいうシティのガイドマップを見ながらカードショップを探す。

胡桃沢って店長がやってるカードショップが一番近いな。

 

『なら、そこに行こうぜ』

「おうよ……あれ? 俺のD・ホイールは……?」

 

ホテルの駐輪場に止めてあったはずの俺のD・ホイールがない。駐輪場がいっぱいだったからはみ出たすぐ隣に置いたとはいえ……え、持ってかれたの?

 

「……あ、警備員さーん!」

「はい、どうかなさいましたか?」

「昨日あそこにD・ホイールが止めてあったんだけど……どこ行ったか知らない?」

「……あー、あそこにあったやつですか? あれでしたら、セキュリティが確認してどこかへ持って行かれましたよ」

 

チッ、まさかセキュリティとはな。俺のやつはオリジナルだからセキュリティからすれば怪しいことこの上ないだろうな……番号登録的なのもしてないみたいだし、詳しくは知らないけど。

 

「そうか……ちなみに、セキュリティに押収されたやつってどこにいくか知ってる?」

「そういった物はたしか……セキュリティ保管庫ですね、ここから徒歩ですと10分ほどの所にあります」

「そうですか、ありがとうございます」

 

……。

フォーチュンカップのデュエルにはライディング・デュエルもある。D・ホイールがないのは痛すぎる。これは、何とかして取り返すしか無いな。

 

『取り返すのか、コナミ』

「ああ、中に忍び込むのはカードを使えばできる……あんま使いたくはないけどな、チートすぎてつまんないし。それに、あれがないと移動も不便だしライディング・デュエルもできないからな」

『そうか……なら、今はカードショップとその保管庫に向かうか』

「ああ……運が良いことにカードショップの先に保管庫だ。先にカードショップへ行こうぜ」

 

残念ながら歩きという形になってしまったが……少しぐらいならいいか。シティの街並みもじっくり見れるし。

やることが一気に増えた気がするが、これはまた楽しいことになりそうな気がするぜ。

少しだけうきうきしながら、俺たちはまずはカードショップKURUMIZAWAに向かって歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここが……未来のカードショップか』

「昔と見た目は何も変わらないけどな」

 

歩くこと5分ほど。カードショップKURUMIZAWAに到着した。

アテムはと言うと、窓越しに見える中のカードを見てテンションが上がってきてるのが目に見えて分かる。

 

『早く行こうぜコナミ!』

「はいはい……ったく」

 

おもちゃ屋に行く子供かあいつは。

アテムに急かされて店の中へと入る。

 

「いらっしゃいませー」

 

ショーケースの中にはきれいに整頓されてレアカードが並び、カウンターの前にはパックが並ぶ。そしてカウンターには店員……いや、胡桃沢って名札を付けてるから店長か。

 

「……アテムの奴はパックに夢中だな」

『これにするか……いやこれか……うーん、どれにするか迷うぜ!』

 

杏子とデートしたときと同じ反応じゃないかあいつ……。

さて、俺も少し見るか……アテムのデッキに合うカードがあれば買いたいし。

 

「うーん……お? こんなカードが出てるのか」

『こっちの方が汎用カードが多いのか……』

 

俺とアテムが見続けてる時、店のドアが開く音がした。

チラッと見てみると、女の子が二人……って、あの茶髪の子は。

 

「あっ、コナミさんですぅ」

「ゆまちゃん、知り合い?」

「よーっす……昨日ぶりだな」

 

思った通り、片方はゆまだった。その横にはピンクの髪色の女の子。アカデミアの友達か?

 

「はいっ! コナミさんはお買い物ですか?」

「まあ買うかは分かんないけど……見てるとこかな」

「……」

 

ゆまと話してると、横のピンク髪の女の子がすごく見てくる。というか目が怖いんですけど……。

 

「あっ、私の友達のツァンさんですぅ」

「僕はツァン ディレ、あんたは?」

 

僕っ子だと……!? このご時世にまさかそんな子がいるなんて……コナミ、目の中で小さい波が起きてます。

 

「ツァンな、俺の名前はコナミ。小さい波でコナミだかんな」

「ふぅん……まあ覚えといてあげる」

「ツァンさんは人の名前は忘れないんで大丈夫ですよぉ!」

「ちょっとゆまちゃん!」

 

ネタバレ的なのをしてきたゆまに、少し顔を赤らめたツァンがゆまの肩を軽く叩いてる。

 

「えへへ、ついぽろっと……そうだコナミさん! せっかく会いましたしデュエルしませんか?」

「デュエル、か……」

 

どうするか……いやどうするも何も今の俺はデュエルはしない。問題はどうやってこの誘いを躱すか。

 

「へぇ、ゆまちゃんとデュエルするんだ。じゃあ、ボクが審判してあげるよ」

「あっ、ありがとうございますぅ!」

 

ゲッ、マズいなこれは……やる流れになってる。これはアテムに頼むか。

その時、また入り口のドアが開く音がした。

 

「いらっしゃ……またあなたたちか」

「お邪魔しますわ庶民」

 

入ってきたのは少し褐色の肌をして黄色っぽい色の髪をした女の子と二人の黒服を着たSPのような男。

アカデミアの服着てるからあの子もアカデミア生か?

 

「あっ、メイ喜多嬉さんだ」

「誰だ? 知り合いか?」

「えーっと、喜多嬉コーポレーションの社長の娘さんですよぉ」

「ほぉー……つまりお嬢様ってことか」

 

お嬢様ともあろう人間が、言っては悪いがこんな普通なカードショップに何の用だろうか。

 

「今回こそ、こちらに判を押してもらいますわ。この店は頂きます」

「だからその件はお断りしてるでしょうに」

「おほほほ! 今回はそうはいきませんわ。既に不動産、この土地の持ち主やその他には話をつけてありますのよ。後は、あなたの判だけよ」

「そ、そんな……!?」

 

おっと……これはなにやら穏やかな話じゃ無いな。

この店を奪い取ろうってか。

 

「前にも言ったとおり、ここの近くにレアカードを取り揃えた新しいカードショップを作るのに、こんなところに庶民向けの店があられては邪魔ですわ。早く判を押してもらえるかしら」

「くっ……」

 

しかも自分とこの利益のために奪おうなんて……これは許せないな。

 

「あうぅ、店長さん可哀想ですよぉ」

「ボクもそう思うよ。そうだコナミ、あんた助けてきなさいよ」

「えっ!? ってもなぁ……」

『……コナミ、ここはオレに任せてくれないか?』

 

いつの間にか俺の近くに戻ってきていたアテム。まあ任せてくれと言うことは、やることは十中八九あれだろう。

 

「……! っし、任せろ!」

 

ゆまとツァンにはそう言うが、実際やってくれるのはアテムである。

 

「……よし、おいお前!」

「……あれ?」

『アテム任せたぜ!』

 

俺が引っ込みアテムが表へとでる。けどいきなり雰囲気が変わるんだから、すぐ近くにいる二人はまさにあれ?って顔をしてる。

まあこれが終わったら説明してやってもいいか。

 

「誰ですの、私にはメイ喜多嬉という名前が……何かしら庶民」

「悪いがこの店を、お前にやるわけはいかない!」

「今はこちらの庶民と話してますの。あなたみたいな庶民と話してる暇はありませんの」

「そういうわけにはいかないぜ……ここはオレの行きつけ、それを無くされると困るんだ」

 

行きつけって……初来店じゃないか。まあそんなツッコミは今は野暮だが。

 

「なら庶民、もうすぐ近くに出来るカードショップKITAKIに来ればいいですわよ。こんな辺鄙なところのカードよりももっとレアカードを置きますわ」

「ふっ、レアカードだけしか扱わないでステータスが低いからと切り捨てるような奴のカードショップに興味は無いね」

「なんですって……?」

「この店もレアカードを飾ってるが、カウンターにおいてあるカードファイルには単純に効果が強いカード、だが弱くてもこんな使い道があるとポップをつけて一見弱いカードも入れてある。そして初心者に向けた使いやすいカードを収録したオリジナルパックなどもある……」

 

そんないいファイルがあるのか……後で俺も確認させてもらおっと。

ってかアテムの奴、さっきの間に見まくってるんだな。

 

「そうですよぉ! それにここの店長さんは、私にカードのアドバイスをくれたりするんですよっ!」

「そうだ! ボクもここで六武衆デッキに合うカードをもらったんだ!」

「つまり……何が言いたいのかしら?」

「店への利益、金のことだけを考えてるあんたらと違って、ここの店はオレたちデュエリストのことを考えてくれている! そんないい店を、お前たちに渡すわけにはいかないぜ!」

「……」

 

熱弁を奮うアテムに対して、メイとかいうお嬢様は段々と冷めた目になる。

まるで人をバカにするような目だ。

 

「あなたの考えは分かりましたわ。……なら、こういうのはいかがかしら」

「何だ?」

「……私のデッキを」

 

手をパンパンと鳴らすと、側に控えていた黒服がデュエルディスクとデッキをメイに渡す。

デッキとかぐらい自分で持てよな……お嬢様ってのは楽で良いな。

 

「デュエルで決着を着けるというのは?」

「はん、元からオレが望んでた展開だ。そのデュエル、受けて立つぜ!」

 

アテムがデッキを取り出して、鋭い目でメイを睨みつける。

 

「ルールは、私が勝てばこの店は私喜多嬉グループの物」

「ならオレが勝てば、この店には二度と手を出さないでもらうぜ。店長、それでいいか?」

「あ、ああ……元はと言えば諦めかけてたところだ、頼む君……勝ってくれ!」

 

店長がお辞儀をしてアテムに頼む。それを見てアテムは少し笑った。

 

「安心しな店長……オレは、必ず勝つぜ!」

「大丈夫ですよ! コナミさんはすっごく強いですから!」

「ボクは強さはよく分かんないけど……こいつなら、何か勝つ気がするよ」

「はい……よろしくお願いします!」

「さあ……メイ喜多嬉、表にでな。デュエルだ」

 

アテムに言われて、俺たち全員が店の外へと出る。

何か最近のデュエル、絶対何かが賭かってるな……。

兎にも角にも、アテム復活第3戦はメイ喜多嬉との、カードショップを賭けた1戦となる。




というわけで、次回はデュエルとなります。今回のデュエルはここ二回のデュエルと比べて最長となることが確定しております。
また、作中登場の店長胡桃沢はタッグフォースにも登場してますが、パック紹介とフィギュアに喜ぶところしかないため、話し方やキャラ、及び店の設定は基本オリジナルですのでご了承を。
追記:アニメを見直してると、アニメにも少し登場して話してました。なので次回以降登場する時はそのキャラの感じにします。今回の話での胡桃沢は初対面の相手だから敬語ということでお願いします。


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VSメイ喜多嬉(前編)

今回は、メイとのデュエルとなりますが思いのほか長くなったので前後編に分けました。


「デュエル!」

 

店を出て、店の前の広い道でメイとアテムが向かい合う。

そして、カードショップKURUMIZAWAを賭けた1戦の開始を表すセリフが、二人の口から高らかに発せられた。

 

「私の先攻、ドローよ!」

 

さて、あのメイのデッキは何なのか……お嬢様なだけあってお高いカードを使うのか?

 

「手札から《マジカル・コンダクター》を攻撃表示で召喚」

 

メイの場に、緑のローブのような物を着た女性が現れる。その周りには、いくつかの透明な球体が浮かんでいる。

 

《マジカル・コンダクター》ATK:1700

 

さて、マジカルコンダクターということは……魔法使い族デッキか?

 

「そして魔法発動、《魔力掌握》。このカードは、場のカードに魔力カウンターを1つ乗せることができますわ。さらに《マジカル・コンダクター》の効果で、魔法が発動される度に2つ、魔力カウンターが乗りますわ」

 

マジカルコンダクターの周りの透明な球体の内3つが青く光る。

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:3

 

「《魔力掌握》のもう一つの効果。デッキから新たな《魔力掌握》を手札に加える」

「なるほどな……つまりお前は、このターンで9つの魔力カウンターが乗せれるのか」

 

っとアテム、そんなわけにはいかないんだよなぁ。それが可能なら《トゥーンのもくじ》三連打とかの意味がなくなるからな。

 

「これだから庶民は……そのようなことができれば強すぎるわ。このカードは、1ターンに1枚しか発動できないのよ」

 

その通り、《魔力掌握》は1ターンに1枚しか発動できないという制約がある。けど毎ターン何にでも魔力カウンターを乗せれるんだから、その効果は強力だ。

 

「そうか、ならお前の手札には、毎ターン魔力カウンターを乗せれるカードがあるんだな」

「そういうことですわ。さらに装備魔法、《ミスト・ボディ》を《マジカル・コンダクター》に装備しますわ。そして魔法が発動したので、魔力カウンターが2つ、コンダクターに乗りますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:3→5

 

マジカルコンダクターの姿が、段々と霧状になってくる。あれじゃ攻撃しても、ダメージが与えられなさそうだ。ついでに、周りの球体も2つ光る。

 

「《ミスト・ボディ》の効果で、私の《マジカル・コンダクター》は戦闘では破壊されませんわ」

「戦闘破壊の耐性か……そいつがお前のデッキのキーカードか」

「それは秘密です……カードセット、ターン終了よ」

 

さて、続いてはアテムのターン。戦闘への耐性がついた状態にどう立ち向かうか。

 

「オレのターン、ドロー! モンスターをセット。カードを2枚セットしてターンエンドだ」

「この前と違って消極的なターンですよぉ……」

「メイさんは次のターンで恐らく、高ステータスモンスターを出すから……耐えれるのかなコナミ」

 

確かにな……マジカルコンダクターに次のターンで7つになるのは確定している。何が出てくるのか……。

 

「私のターン! 手札から《魔力掌握》を発動し、効果で《マジカル・コンダクター》に魔力を、魔法発動によりさらに2つ乗りますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:5→8

 

これで8つ、大型モンスターを出せるだけの魔力カウンターは溜まった。

 

「ここで、《マジカル・コンダクター》の効果を発動! このカードの魔力カウンターを好きな数取り除くことで、その数と同じレベルの魔法使い族モンスターを手札から特殊召喚しますわ。私は、7つ取り除き──」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:8→1

 

7か……レベル7の魔法使い族というと……《ブラック・マジシャン》か。でもあのカードはさすがに──

 

「《ブラック・マジシャン》を特殊召喚!」

『──ひょ?』

「《ブラック・マジシャン》だと!?」

「《ブラック・マジシャン》って、昔のデュエルキングのエースカードですごいレアカードだ!」

 

うそーん……まさか持ってたのか。これは予想外だ。ツァンはまだしもアテムもまさかのモンスターの登場に驚いてるしな。

 

「おほほほほ! これが私のエースモンスターですわ!」

 

メイの場でアテムに杖を向けてるブラックマジシャン。いつもは味方だというのに、敵となると嫌なものだ。

 

「伏せカードが破壊系だと面倒ですわ。コンダクターを守備にして、バトルよ! 《ブラック・マジシャン》で裏守備モンスターを攻撃! ブラック・マジック!」

「くっ……伏せていたモンスターは、《クイーンズ・ナイト》だ」

「そのようなバニラモンスター、何の怖さもないわ」

「フッ……」

 

メイの言葉に、アテムは余裕そうに笑う。

まあまだ伏せカードが2枚に手札も3枚あるんだ、逆転ぐらい余裕だろう。

 

「カードを1枚セット、ターン終了よ」

 

アテム

LP:4000 手札:3

場:伏せカード:2枚

 

メイ

LP:4000 手札:2(内1枚は魔力掌握)

場:《マジカル・コンダクター》《ブラック・マジシャン》

  《ミスト・ボディ》(マジカル・コンダクターに装備中)

  伏せカード:2枚

 

「おっと、お前のエンドでオレは伏せカードを発動させてもらうぜ! 《正当なる血統》、これにより墓地の通常モンスター《クイーンズ・ナイト》を特殊召喚する!」

「ふん、そんなカード、何度出しても同じことよ」

「……オレのターンだな、ドロー! お前がバカにしてるこの《クイーンズ・ナイト》が、お前を倒すキーカードになるのさ! 手札から《キングス・ナイト》を召喚!」

 

アテムの場にクイーン・キングの二人の騎士が揃う。

こうなると、出てくるのはあいつだな。

 

「そんな低ステータスのカードがいくら揃っても……っ、その2体は!」

「そうさ、オレの場にクイーンとキングが揃ったとき、デッキより主君を守る騎士が現れる! 《キングス・ナイト》の効果により《ジャックス・ナイト》を特殊召喚!」

「一気に3体のモンスターだ並びましたよっ!」

 

クイーン、キング。二人の間に光が発生してそこに若い男の騎士が現れる。

これでアテムの場に絵札の三銃士が揃った。

 

「そして魔法カード《融合》! 場の三体の騎士を融合し──《アルカナ ナイトジョーカー》を融合召喚!」

 

場に出てきた渦に三銃士が吸い込まれ、1つの形になる。

アテムの場に現れるのは、さっきの三人とは比べものにならない迫力を持った騎士。

 

《アルカナ ナイトジョーカー》ATK:3800

 

「すごい……まだコナミのターンは2ターン目なのに攻撃力3800を出すなんて」

「忘れてましたわ……絵札の三銃士。こうも簡単に融合までいかれてしまうなんて。けれど魔法カードの発動で魔力カウンターが2つ乗りますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:3

 

「フッ、お前がバカにしたクイーンの力を含んだこの騎士が、お前の《ブラック・マジシャン》を切り裂くぜ! いけ、《アルカナ ナイトジョーカー》!」

 

アテムの場の《アルカナ ナイトジョーカー》がメイの《ブラック・マジシャン》へと剣を振りかぶる。

しかし、その剣がいきなり隣にいる《マジカル・コンダクター》へと向いた。

 

「なにっ!? どうした《アルカナ ナイトジョーカー》!」

「オホホホ! トラップカード《地縛霊の誘い》ですわ。これで庶民の攻撃は《マジカル・コンダクター》に向かうのよ」

「チッ、しかも《ミスト・ボディ》で戦闘破壊はされない……」

「そういうことよ、庶民の攻撃は私の《ブラック・マジシャン》には届かないですわ」

「あぅぅ……サポートカードの豊富な《ブラック・マジシャン》が残ってしまいましたよぉ」

「……カードを2枚セットして、ターンエンドだ」

 

ふむ、《ミスト・ボディ》と攻撃対象変更カードにより自分の主力カードを守るコンボか。

そして《ブラック・マジシャン》は残ってるから……ゆまの言うとおりサポートカードを駆使されれば厄介だな。

 

「私のターン! 手札より魔法カード《千本ナイフ》を発動。これで庶民の《アルカナ ナイトジョーカー》は破壊よ!」

「そうはさせないぜ、リバースカード! 《融合解除》!」

 

《ブラック・マジシャン》によって操られる千本ものナイフ。それが《アルカナ ナイトジョーカー》に向かっていき刺さろうとした瞬間、その姿が3つに分裂する。

 

「《融合解除》により絵札の三銃士が場に戻るぜ! これで対象を失った《千本ナイフ》は無効だ」

「くっ、上手く躱しましたわね……魔法が2枚使われたことで4つカウンターが乗りますわ」

 

ちなみにクイーンとキングは守備、ジャックだけは攻撃表示だ。

 

《クイーンズ・ナイト》DEF:1600

《キングス・ナイト》DEF:1400

《ジャックス・ナイト》ATK:1900

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:3→7

 

「けれど攻撃は残ってますわ……《ブラック・マジシャン》で《ジャックス・ナイト》への攻撃! ブラック・マジック!」

 

メイの《ブラック・マジシャン》が唯一の攻撃表示モンスターへと手の平を向けて衝撃波を飛ばす。

だが、アテムの場にはまだ1枚伏せカードが残っている。あれは恐らく【攻撃】という言葉に反応する──

 

「──リバースカードオープン! 《聖なるバリア ーミラーフォースー》! お前の攻撃表示モンスターは全て破壊される!」

 

やっぱりミラフォだ。アテムの場で開いた一枚のカード。そこから放たれた光が《ブラック・マジシャン》を襲い、成す術もなく破壊された。

 

「その程度、計算どおりですわ。メインフェイズ2で《マジカル・コンダクター》の効果を発動。魔力を7つ取り除き、《ブラック・マジシャン》を墓地から特殊召喚しますわ。さらに《魔力掌握》でカウンターが合計3つ乗りますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター7→0→3

 

「チッ……あいつがいると破壊しても復活されてしまうな」

「オホホ、庶民では何をしても無駄ですわ、ターンエンド!」

 

アテム

LP:4000 手札:0

場:《クイーンズ・ナイト》《キングス・ナイト》《ジャックス・ナイト》

 伏せカード:1枚

 

メイ

LP:4000 手札:1

場:《ブラック・マジシャン》《マジカル・コンダクター》

  《ミスト・ボディ》(マジカル・コンダクター)

  伏せカード:1枚

 

 



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VSメイ喜多嬉(後編)

2/21追記
途中でアテムの手札にミスがあったため、一部変更しました。大まかな流れは変わりませんが、ミスをしてしまい申し訳ありませんでした。


「オレのターンだ」

 

今メイの場には《ブラック・マジシャン》と戦闘には無敵の《マジカル・コンダクター》か。 ……コンダクターは《魔力掌握》も切れたしあまり警戒する必要ないが、問題はもう1体か。ここであのカードを引ければ……!

 

「ドロー!」

 

引いたカードにチラッと目をみやる。……引けたぜ、今オレの求めていた最高のカードが!

 

「ゆま!」

「は、はいっ!?」

 

ここまで静かにオレとメイのデュエルを見守っていたゆまへとオレは声をかける。

 

「お前からもらったこのカード……力を貸してもらうぜ!」

「あっ……はいっ!」

「ふん、何を引いたかは知りませんが庶民に逆転できるとでも?」

「できるぜ! オレは手札から《E・HERO プリズマー》を召喚する!」

「E・HERO……ゆまちゃんと同じカテゴリーのカード」

 

オレの場に現れたE・HERO。そのカードを見たツァンが少し驚きの声を上げるが……このカードならオレのデッキとの相性は抜群だ。

 

「プリズマーの効果発動! 融合デッキのモンスターを1枚見せることで、そのカードに記されている素材モンスターを1体墓地に送るぜ! 俺が選ぶのは《超魔導剣士ーブラック・パラディン》。このカードに記されている素材モンスター──《ブラック・マジシャン》を墓地へ!」

「っ!? 庶民が《ブラック・マジシャン》のようなレアカードを持ってると!?」

「はん、真に《ブラック・マジシャン》を使いこなすのはオレだ……その事を思い知らせてやるぜ! 永続トラップ発動!」

 

1ターン目から伏せられていたオレのカード。それが表になりその正体が明らかになる。

コナミが、オレが戦いの儀で旅立ってから数年後にペガサスに頼んで作ってもらったという世界に1枚しかないこのカード……ここが使い時だ。

 

「《永遠の魂》!」

 

オレのフィールドに、1枚の巨大な石版が現れる。

それは、遙か昔幾度となく見た決闘の時に使う石版とよく似ていた。

 

「永遠の……魂?」

「あの石版に描かれてるのって……」

「《ブラック・マジシャン》ですっ!」

『おぉー、ここで俺の作ってもらったカードか』

 

オレがいた証を──そのためにとコナミが作ってもらったらしいこのカード。他にもあるが、そのほとんどがオレのファラオとして起きた事件や事柄がモチーフになっていて、マハードやマナのサポートカードが多かった。そのどれも強力だが、これはその中でも効果は便利だ。

 

「《永遠の魂》は1ターンに一度、墓地の《ブラック・マジシャン》を復活させる!」

 

石版から淡く光がこぼれだし、段々とその光が強さを増してくる。そして光と共に石版から描かれた《ブラック・マジシャン》が浮き出してくる。

 

「現れろ、我が最強のしもべ《ブラック・マジシャン》!」

 

光に包まれていた絵から光が失われていく。光が晴れた時にそこにいたのは、腕を組み己と同じ姿をした相手の場の《ブラック・マジシャン》を鋭い目で見つめる、オレのエース《ブラック・マジシャン》。

バトルシティのパンドラの時以来の対ブラックマジシャンだ……必ず勝つぜ。

 

「すごい、あの《ブラック・マジシャン》が2体も揃うなんて」

「あなたもそのカードの使い手ということかしら」

「そうだ、オレの魂ともいえるこのカードで、お前を倒す! いけ、《ブラック・マジシャン》!」

『ファラオのためならば、我が命……!』

 

オレの場のマハードがメイの場の《ブラック・マジシャン》へと杖から魔力の塊を撃つ。……でかい口を叩いたが、すぐに破壊されてしまうのは申し訳ないが、次のターンには。

 

「ブラック・マジック!」

「迎え撃ちなさい《ブラック・マジシャン》! ブラック・マジック!」

 

メイの《ブラック・マジシャン》もまた、手の平を向けて衝撃波を飛ばす。

お互いの《ブラック・マジシャン》の攻撃がフィールドの中心でぶつかり合い、凄まじい衝撃がフィールドを襲う。

 

「……これで、オレたちの場から《ブラック・マジシャン》は消えたぜ」

「っ……けれど、私の場には戦闘では無敵の《マジカル・コンダクター》がいますわ」

「そいつを倒す手は俺にはない……ターンエンドだ」

 

メイの手札は一枚。今のオレの場なら簡単に覆されることはないはずだ……どう出てくる?

 

「私のターン、ドロー! ……オホホホホ!」

「あわわ、メイさんが壊れましたよぉ」

 

ドローしたカードを見た瞬間、メイが高笑いを始める。

この状況をひっくり返すカードを引いたというのか?

 

「私が引いたのは、《天よりの宝札》!」

「《天よりの宝札》か……ここでそのカードを引くなんてな」

「なんであんたはそんな冷静なのよ!? 宝札シリーズと言えば、強力だからずっと昔に生産中止になったインチキカードじゃないの!」

「……そうなのか?」

『そうなんだよ……ドロー枚数が多すぎて強力だからと、宝札シリーズは生産中止。手に入れるのは容易じゃなくなってるんだ。そのおかげか、禁止ではなく制限に留まっているが……お金持ちのお嬢さんとなるとそれも持ってるってか』

 

なるほどな。確かにオレの時代ではこういったカードがあってもまだ接戦となっていたが、今の環境を見てみれば昔よりデュエルに速効性がでている。こんな大量ドローカードが横行してたらデュエルが一方的になりそうだ。

 

「このカードで私の手札は一気に回復しますわ!」

「だがそれじゃあ、オレの手札も回復させることになるぜ?」

「使わないと、私の手札では逆転できないのよ……では、手札が6枚になるように引きなさい。そして魔力カウンターがさらに2つ乗りますわ」

 

天から降り注ぐ光が、お互いの手札にカードをもたらす。俺は6枚ドロー、メイは5枚ドローだ。

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:3→5

 

「ふふっ、これだけあれば間単にいけますわ……手札から魔法カード《ライトニング・ボルテックス》を発動! 手札を一枚捨てて、庶民のモンスターは全滅ですわ!」

「なにっ!?」

 

メイのフィールドに出てきたカードから、稲妻がオレの場のモンスターたちを襲う。

今のオレの場じゃ防ぐ手立てはない、オレのモンスター達は全滅した。

 

「そして魔法カード発動により、魔力カウンターが二つ乗りますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:5→7

 

「さらに魔法カード《魔法石の採掘》を発動しますわ。手札を二枚捨てて、墓地の魔法カードを手札に加えますわ……《天よりの宝札》を手札に」

「7つを超えてる……《ブラック・マジシャン》を出せるまでになったか」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:7→9

 

「ついでに、その厄介な永続トラップは破壊しますわ……手札から速攻魔法、《サイクロン》で《永遠の魂》を破壊しますわ! そして《マジカル・コンダクター》の効果を発動しますわ! 7つ取り除き、墓地の《ブラック・マジシャン》を復活させますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:9→11→4

 

《永遠の魂》は場を離れたらオレのモンスターを全滅させる効果があるから、メイはライボルを使う必要はなかったが……効果を知らないんじゃ、仕方ないか。オレとしては助かったがな。

そして再び場に舞い戻る《ブラック・マジシャン》。これでメイの場にはモンスターが2体……攻撃力はオレのライフを超えている。

 

「オホホホ! ここまでよくやりましたけど、これであなたは終わりですわ! 《マジカル・コンダクター》を攻撃表示に!」

「フッ、まだそうとは限らないぜ?」

「無理だよ……手札が6枚あっても、コナミの場はがら空きなのに……あの2体の攻撃を受けたら負けるよ!」

「あぅぅ……コナミさん頑張ってくださーいっ!」

「バトル! まずは《マジカル・コンダクター》でダイレクトアタックですわ」

「ぐっ……」

 

アテムLP:4000→2300

 

「これでとどめですわ……《ブラック・マジシャン》! ブラック・マジック!」

 

オレに手の平を向けて、今日何度目かの衝撃波を飛ばしてくる。

これを食らえばオレのライフは0……だが!

 

「それはどうかな! 手札から《クリボー》の効果発動!」

「《クリボー》ですって!?」

「あ、可愛いですぅ」

 

オレの目の前に茶色い毛玉のようなモンスターが壁として現れる。

《ブラック・マジシャン》が飛ばしてきた衝撃波を、その体がすべて受けてくれる。

 

「《クリボー》を墓地に送ることで、オレの戦闘ダメージを一度だけ0にする!」

「キィィィー! この攻撃を退けるなんて」

「ふぅ……なんとか耐えたわね」

「メインフェイズ2で《天よりの宝札》を発動しますわ。くっ、引きが悪いですわ……ターンを終了しますわ」

 

《マジカル・コンダクター》魔力カウンター:4→6

 

アテム

LP:2300 手札:6

場:なし

 

メイ

LP:4000 手札:6

場:《マジカル・コンダクター》《ブラック・マジシャン》《ミスト・ボディ》(マジカル・コンダクターに装備中)

  伏せカード:1枚

 

よし、このターンは凌いだ。後は……手札的に、もう一ターン凌がないとな。トラップカードを使おうとすれば嫌でも1ターン必要になる。だがこいつがあれば、何とか耐えれるか……。

 

「オレのターン、ドロー! 感謝するぜメイ。お前のおかげで、策がいくつも用意できてるぜ!」

「くっ……さっきのターンで倒せなかったことが悔しすぎますわ」

 

と言っても……このターンは準備。大して大きな動きはできないがな。

 

「カードを3枚伏せて、ターンエンドだ」

「ちょっと、モンスターを出さないの!?」

「あぅ……手札に魔法とかしかないんでしょうか」

 

今のオレの手札にあるモンスターは残念ながらレベル6と1……このレベル1のモンスターで次のメイの攻撃は凌げるぜ。

 

「ふふっ、三枚の伏せカード如きに臆する私ではありませんわ。制限カードのミラーフォースも既に使っている……総攻撃で勝ちですわ! 私のターン!」

「ならかかってこいよ? オレは、このターンを乗り切るぜ!」

「お望み通り……《マジカル・コンダクター》、《ブラック・マジシャン》! 庶民に一斉攻撃ですわ!」

 

メイの言葉と同時に、2体のモンスターが動き出す。

コンダクターは周りに浮いている透明な塊を飛ばし、《ブラック・マジシャン》はまた衝撃波を飛ばしてくる。

これを喰らえば負ける……だが!

 

「この瞬間、手札の《バトルフェーダー》の効果発動! オレがダイレクトアタックされるとき、手札からこのカードを特殊召喚できる! 来い《バトルフェーダー》!」

 

《バトルフェーダー》DEF:0

 

「たかが攻守共に0のモンスター、壁にしかなりませんわ。コンダクター、あのモンスターを破壊するのよ!」

 

メイが攻撃を指示するが、《マジカル・コンダクター》は攻撃する素振りすら見せない。

 

「どういうこと……なぜ攻撃しないの」

「フッ、《バトルフェーダー》のもう一つの効果さ。この効果で特殊召喚した時、バトルフェイズは終了される!」

「そんな効果が……キィィィ! モンスターをセットして、ターンエンド!」

「あんなカードを握ってるならさっさと言いなさいよねコナミ」

「ツァンさん、それ言っちゃうと相手にバレちゃいますよぉ」

 

2ターン続けてとどめを刺し損なった。その事にメイがイライラしてるが……このデュエルも、もう終わりだ。

 

「オレのターン、ドロー! ……メイ!」

「何かしら庶民。先ほどから気になってましたがあまり気安く名前を呼ばないでいただきたいわ」

「このターンで、お前を倒すぜ!」

「オホホホ! 私のライフを1も削れてないくせに……できるものならやってみなさい」

 

確かにまだダメージは与えられてないが……このターンで、4000のダメージを与えればいい話だ。

さっきのターンで準備は整った、さあ……反撃開始だ!

 

「まずは伏せカード《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地より蘇れ……《ブラック・マジシャン》!」

「またしてもそのカードを……」

「まだまだいくぜ! 手札を2枚捨てて魔法カード《魔法大学》を発動! 手札から魔法使い族モンスターを特殊召喚できる! 《バトルフェーダー》を生け贄とし──」

 

オレの場の《バトルフェーダー》が、フィールドに出現した大きな建物に吸い込まれる。

魔法を発動したことでコンダクターにさらにカウンターが乗るが……もはや関係ないぜ。

そして力を得た建物から、一人の女の子が出てくる。

 

「現れよ、《ブラック・マジシャン・ガール》!」

「うそっ、ブラマジガールまで持ってるの!? コナミってお金持ちなの……?」

『お師匠様、あっちにもお師匠様がいるんですけど』

『あれは私であって私でない……戦闘するときは気にせずやれ』

『はい!』

 

《魔法大学》(アニメオリジナル)

速攻魔法

手札を2枚捨てて発動する。手札から魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する(リリースが必要なモンスターは適する数をリリースして特殊召喚)。この効果で特殊召喚したモンスターはレベルが2上がり、攻撃力が500アップする。

 

オレのフィールドに揃った師弟コンビ。やはりこの二人がいると心強いぜ……よし、これで場は整った。

 

「そして《魔法大学》の効果により、《ブラック・マジシャン・ガール》のレベルは2つ上がり、攻撃力も500ポイントアップするぜ!」

 

《ブラック・マジシャン・ガール》ATK:2000→2500 レベル:6→8

 

「一気に2500もの攻撃力のモンスターを並べたのは評価できますが、それでは私を倒せませんわよ」

「焦るなよ……まだ手札には1枚カードが残ってるぜ! ライフを1000支払いマジックカード《拡散する波動》を発動! これにより、オレの場のレベル7以上の魔法使い族一体は、相手の全てのモンスターを攻撃できる!」

 

マナが自分の持つ杖を頭上に掲げる。すると杖に段々と魔力が宿っていっているのか黒い光を放ちだしている。

 

「《ブラック・マジシャン・ガール》に全体攻撃……けれど私の《ブラック・マジシャン》とは相打ちですわ」

「フッ……バトルだ! 《ブラック・マジシャン・ガール》で《ブラック・マジシャン》を攻撃!」

「コナミバカなの!? それじゃあ相打ちになって攻撃の回数が一回減るじゃないの!」

「そんなプレイングミスをするとは、所詮庶民ですわね」

 

先に《マジカル・コンダクター》を攻撃せず、同じ攻撃力の《ブラック・マジシャン》を攻撃したことに、ツァンは起こった様な声で、メイは嘲笑うかのように言ってくる……だが。

 

「それはどうかな?」

「どういうことかしら?」

「おかしいと思わないか? オレはまず、《ブラック・マジシャン》を墓地から出しているが……《ブラック・マジシャン・ガール》の効果を思い出してみな?」

 

オレに言われて、ゆまもツァンもメイも、マナの効果を思い出している。

 

「あっ! 確か墓地の《ブラック・マジシャン》の数だけ攻撃力が300ポイント上がりますよっ!」

「そうだった! でもそれだと……」

「なぜ先に《リビングデッドの呼び声》を使ったというのかしら……?」

 

3人ともマナの効果を思い出して、オレのプレイングに疑問を覚えている。

墓地にマハードがいればマナの攻撃力は2800、相手の《ブラック・マジシャン》を倒しつつさらに攻撃力は300上がり大きくアドバンテージをとることができた。

だがそれをしなかった……その答えは、今から教えてやるぜ!

 

「このカードを使うために、オレは先に《ブラック・マジシャン》を蘇らせたのさ。リバースカードオープン! 《ブラック・スパイラル・フォース》!」

「ブラック……なにあのカード」

「このカードは、オレの場に《ブラック・マジシャン》が存在するとき、そのカード以外のオレのモンスター1体の攻撃力を2倍にする!」

「に、2倍ですって!?」

 

《ブラック・マジシャン・ガール》ATK:2500→5000

 

「攻撃力5000……すごいですよぉ!」

「攻撃力5000で全体攻撃……そんなことが」

「さあいけ、《ブラック・マジシャン・ガール》! 《ブラック・マジシャン》を撃ち砕け、ブラック・バーニング!」

『お師匠様を攻撃するのは申し訳ないけど、本物のお師匠様の力を込めて……ブラック・スパイラル・バーニング!!』

 

マハードから力をもらい、いつも以上の魔力のこもった魔力弾をメイの《ブラック・マジシャン》へと放つ。

その巨大な力に耐え切れず、《ブラック・マジシャン》は跡形もなく消え去った。

 

「きゃああぁ!!」

 

メイLP:4000→1500

 

「そんな……こんな庶民に私が……?」

「これが最後だ……《ブラック・マジシャン・ガール》! 追加攻撃!」

『とどめのー……ブラック・スパイラル・バーニング!』

「っぅ……きゃあああぁ!!!」

 

メイLP:1500→0

 

マナの攻撃が通って、ライフが0になったことを表すピィーという機械音が響き渡る。

 

「オレの勝ちだぜ、メイ喜多嬉!」

 

この店を賭けた一戦は、オレの勝利という店側には最高の結末を迎えた。




ということで、《ブラック・マジシャン》が大活躍、ネオス並みの過労死をしそうなぐらい登場しました。

途中登場した《天よりの宝札》。こちらはアニメ効果となっております。
また本作品での、《天よりの宝札》・《運命の宝札》などの大量ドローカードを有する宝札シリーズは一部カードを除き、途中で解説したとおり、この時代には既に生産中止していて入手は困難となっており、持っているのはほんの一握りという設定です。そしてそのために制限止まりというご都合主義となっています。
アテムがシンクロを使わず当時のデッキを使うという設定上、こうしました。遊星たちに使わせたらいとも簡単に大量展開からのワンキルされそうですし……これに関しては、ご理解いただければと思います。


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助けた見返り

デュエル終了と同時に、俺が表へと出てアテムは引っ込む。

交渉とかの普通のときは俺がやるほうがいいだろうしな。

 

「さあメイ、お前が負けたんだ。約束は守ってもらうぞ?」

「キィィィ! 庶民如きに負けるなんて……」

「庶民だろうと負けたんだから約束守りなさいよ!」

「そ、そーだそーだー」

 

悔しがるメイに、ツァンが言ってゆまは……なにあれ煽りか?チンピラ集団の真っ先にやられるやつみたいな。

 

「どうしたメイ? まさかデュエリストともあろう者が約束を反故にするなんてことはないよな?」

「っ……わかりましたわ。約束どおり、この店は諦めますわ……行きますわよ。こんなところ、長居する必要はないわ」

 

二人の黒服を引き連れて、メイが俺たちの前から立ち去る。

ふぅ……何とかこの店は守れたか。全部アテムのおかげだが。

 

「いやー赤帽子君、助かったよ! ありがとう……君のおかげで店を守ることができた」

「いいってことよ」

 

店長さんが俺に握手しながら感謝の気持ちを伝えてくる。実は何もしてない俺からしたら複雑だけど。

 

「すごかったですよコナミさん! 最後のあの連撃カッコよかったですよぉ!」

「ふん、少しはやるじゃないの。ちょっとぐらい認めてやってもいいわよ」

「何でお前はそんな上から目線なんだ」

 

ゆまはまたあのキラキラした瞳で言ってくれているが、ツァンは少し上から目線……というかこれはあれか。あの……ツンデレ?とかいうやつか。

 

「なんか今失礼なこと考えてない?」

「い、いやそんなことないぞー?」

 

元から少し不機嫌そうな顔をしてるのが、今は完璧に俺をにらんでる。なんだこいつエスパーかよ……。

 

「まったく……けどあんた強いのね。シンクロも無しに、しかも使うのは結構昔のカード……おまけに伝説といってもいいぐらいのレアカードの《ブラック・マジシャン》まで持ってるなんて」

「あっ、そうですよぉ。それ気になってました。なんで持ってるんですか?」

「拾った」

「え?」

「カードは拾った」

 

ポーズを決めながら横ピース付きでドヤ顔で言う。

昔から持ってましたーって言おうにも20歳の俺が言っても、20年前でも高いこのカードを持ってるんじゃ説明にならない。

 

「うわぁ……」

「ちょっと、それ本気で傷つくからやめようか」

 

キメてる俺を、ツァンが痛いものを見るような目で見てくる。

ちょっとふざけただけなのにここまで変な目で見られるなんて。

 

「あんたが気持ち悪いポーズするからでしょ。けど、説明する気はないってことね」

「気持ちわ……まあな、訳ありってやつだ、そのうち話してやるよ」

「じゃあ、そのときを待ってますよぉ!」

 

ツァンさんが俺のライフを確実に削ってくる。生ける刃物だよこの子。

 

「あー、コナミくんだっけ?」

「そうっすけど……」

「この店を助けてもらったんだ、何かお礼をさせてくれないか?」

「お礼……別にそういうの目当てでやったんじゃ……あっ」

 

俺たち三人の話も一段落したところで、店長さんが俺に話しかけてくる。

お礼したいといっても、別にそれ目的でもないし断ろうと思ったが、ひとつ思い出した。確かこの人副業的なものとして……。

 

「確か店長さん、マンション経営してるよな?」

「ああ、してるよ。まだまだ住居人は少ないがね」

「そこで店長さん……一部屋俺に貸してくれないか?」

「……もしかしてコナミさん」

「住むとこないの?」

 

部屋を貸してほしいの一言だけで、2人になぜか住むところがないのがバレた。なぜだ、解せぬ。

 

「……ない。昨日こっちに来たからな」

 

まさかサテライトから来たなんて口が裂けても言えないからこれは隠すが。

 

「うわぁ……あんなレアカード持ってるのに住むとこないって、あんた何者よほんと」

「部屋を貸してくれか……ちょっと待っててくれよ」

 

店長さんが店の中へ戻る。一体何しにいったんだ?

 

「コナミさん家ないなんて昨日大丈夫だったんですかぁ?」

「昨日は近くのホテルに泊まったんだ、お金は少しならあるしな」

「お待たせお待たせ、ほら」

 

ゆまと喋ってると、店長が駆け足で戻ってきた。

その手には何かを持っていて、それを俺に渡してくる。

 

「これは……?」

「鍵だよ、マンションのね」

「えっ、いいのかこんな簡単に!」

「当然、本当ならいろいろと手続きしてもらうが……俺からしたら店を助けてもらって職も失わずにすんだんだ。これぐらいさせてもらうよ」

 

なにこの店長さん、見た目変なのに超優しい……けどこれは助かるな、手続きなんてことになったら俺に住民票なんかないからな。

 

「すまないな店長さん……助かるよ」

「気にしなさんな。ただ、少しは安くするけど家賃はよろしく頼むよ?」

「それは当然だ、きっちり払わせてもらうよ」

 

鍵を受け取りながら頭を下げる。家賃を払うのは当然だが……そうなると仕事を見つけないとな。

 

「じゃあ、すぐそこの建物が俺のマンションだから。部屋は2階の202号室だから、後で見に行くといいよ」

「了解。ほんとありがとう店長さん」

 

もう一度頭を下げる。店長さんは「ハッハッハ」なんて笑いながら、店へと戻って商売を始めていた。

 

「よし、保管庫行く前に部屋見に行こうかな」

「保管庫?」

「あっ……」

 

しくった。近くにツァンとゆまがいるの忘れてた。

間違えても保管庫にD・ホイールを奪いに行くなんて言えねぇ。

ここはどうするか……。

 

「いやー……そのぉ…」

「保管庫に行くなんて、何かあったんですかぁ?」

「うー……あっ、なんだあれはー!」

「えっ、なんですかっ!?」

 

ここは逃げるしかない、そう決めて古典的だがゆまたちの後ろを指差す。

それに釣られて、ゆまが後ろを振り返る……その瞬間に、走る!

 

「って! ゆまちゃん、そんなの嘘に決まってるでしょ!」

「あうっ!? あっ、コナミさぁん!」

「悪いな2人ともー! またどっかで会ったらよろしくなー!」

 

走って2人から離れながら大きな声で言う。まるで雑魚キャラの捨て台詞みたいな状態になってるけど……しょうがない。

 

「逃げられたか、くそー」

「あぅぅ……何か知られたくないことだったんでしょうか?」

 

悔しがるゆまと心配そうな顔をしたゆま。その2人をおいて、俺は予定を変更して先に保管庫のほうへと走った。

2人にはすまないけど、こっちの事情はまだ知られるわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

「ここが保管庫か……ほぉ、無駄にでっかい建物だことで」

『それに、入り口には見張りが2人いるな……普通に正面からは無理か』

「だな……ん? あの蟹みたいな頭の男は……」

 

保管庫の様子を見ていると、物陰から俺のように保管庫を見ている男の存在に気づいた。

すぐにその場から離れたから一瞬しか見えなかったが、あの姿は……。

 

「……これは、面白いことになるかもな」

『……?』

「よし、裏へ回ってみるか」

 

さっきの男が誰か、確かなことは分からないが、予想はできてるしこんな昼間にコソコソと様子を伺いながらすぐに立ち去る。恐らくあいつも、ここに何かを奪われて、それを取り戻そうとしてるんだろうな。

さて、正面からの突入が厳しいなら裏口やら換気口とかから侵入すればいい。

とりあえずはそういうとこがないか探さないとな。

 

「ふぅむ……っと、あった」

『換気口か……人一人は楽に通れそうだな』

「ああ、後はこの建物の見取り図でもあればいいんだが……ハッキングしようにもパソコンがないとな」

『なら、ネカフェに行くぜ』

 

……なぜだろうか。今のアテムにその昔の1コマ……「なら、サ店に行くぜ!」が思い出された。あのときのアテムには噴いたなぁ、遠目から見てたけど。

 

「ネカフェは……さっきのカードショップの近くにあるな」

 

まだシティの建物の位置が分からないから、地図を頼りに近場のネットカフェを探すと、さっきのカードショップの近くにある。丁度いいし先に部屋がどんなのか見てみるか。

こうして、ここに来てまだ少しだというのに、俺とアテムは新たに生まれた目的地へと向けて歩き出した。

 



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蟹との保管庫潜入

今回で一応原作介入…となります、一応ですが。


「よし……レッツ潜入だ」

 

時刻は深夜。辺りもすっかり暗くなり保管庫へ潜入するには絶好の時間となった。

あの後ネカフェに行き、この建物の見取り図。さらにセキュリティのデータベースをハッキングして、最近押収されたD・ホイールの保管場所や各部屋のパスワードなど、必要な情報は全て仕入れた。

昔から機械に強いおかげで簡単にハッキングもできたしな。

 

『コナミのバイクは、最上階だったな』

「ああ、その部屋への行き方も、入るためのパスワードも全部暗記してある」

『なら、いくか』

「おうよ」

 

音を立てないようにしながら、換気口の蓋を開け身体を小さくしながら入っていく。

チッ、思いの外狭いな……帽子脱げないようにしないと。

 

「……用務員が1人いやがるか」

 

当初の予定では、用務員が休憩する部屋に下りる予定で、丁度今そこに着いたんだが……運悪く1人用務員の人がいる。

無関係な人だから手荒なまねはしたくなかったが仕方ない……気絶してもらう。

 

「よっと!」

「っ!」

 

換気口の蓋を蹴り落とし、下へと下りて驚いた用務員の懐へと入り込む。

そしてここで鳩尾を──

 

「くっ!」

「なっ!?」

 

止められただと!?

完璧に不意を突けたしただの用務員に止められるとは……。

だが、ここで大声を出されては厄介だ。早く無力化しないとな。

 

「らぁっ!」

「お前は……待て!」

 

幸いまだ懐にいるんだ、顎に強い衝撃を与えて脳振盪を……そう思って拳を上げようとした時、俺の手を掴んでその用務員の人が言ってきた。

……ん? 今の声は……。

 

「遊星……か?」

「そうだ……どうしてここにいるんだコナミ」

 

やっぱり遊星だ。

不動遊星。元々俺と同じでサテライトにいたが、昔の仲間にカードを盗られたらしく、そのカードを取り戻すためシティへと、俺がこっちに来る2、3日前に行った……らしい。

 

「どうしてって……シティに来たんだけど、俺もここにD・ホイールを盗られてな」

「そうか……まさかお前もこっちに」

「って、遊星お前……マーカー付けられてるってことは捕まったのか?」

 

遊星の顔をよく見てみると、左の頬に黄色いラインが入ってる。

サテライトでよく見た、マーカーだ。

セキュリティに捕まるとつけられて、これがあるとどこにいても調べられるとバレるという厄介な物だ。

 

「ああ、ジャックとデュエルをしている時に……」

「あいつと戦えたのか……今じゃあいつもキングだもんなぁ」

「……コナミ、無駄話をしてる暇はない。俺もお前もD・ホイールを取り戻す必要があるんだ」

「っと、そうだった……俺のは最上階にあるんだ」

「俺のもだ……」

「なら、一緒に行くか」

 

図らずも強力な仲間ができた。リアルファイト、デュエルの2つを取ればハイレベルな遊星が一緒となると楽になる。遊星のデュエルの腕はかなり高い。是非とも1戦交えたくなるレベルだ。まあ会ったときはもう俺がデュエルをやらないから戦わなかったが……こいつとなら熱いデュエルはできると思ってる。

リアルファイトは言わずもがな、さっきの俺のアタックに反応できるんだからな。

 

「行くぞコナミ」

「了解した……」

 

用務員室を出て、目的地である最上階へと俺と遊星は向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで、このパスワードをカタカタと……」

 

道中何の問題もなく間単に最上階の、俺と遊星のD・ホイールの収容されている部屋の入り口へと着いた。

調べてきた解除コードのパスワードを打ち込めば……。

 

「開いたぞ!」

「よし、俺たちのホイールを探そう。……こっちだ」

「なるほど、地図ってか」

 

遊星の手にはタブレットのようなものが握られていて、見てみると自分を表す矢印と四角い……中にあるこの木製の箱を表してるのか。その二つが表示されている。

遊星についていくと、ある箱の前で立ち止まった。

 

「これだ、この中に俺のがある……」

「お? 奇遇だな、ここの隣が俺の……っ!?」

 

運がいいことに、遊星のD・ホイールが入った箱の隣が俺のが入ってる。

中に入ろうと思ったとき、突然俺と遊星がライトに照らされた。

 

「へっへっへ……驚いたぜ。何かやるかと思ったら、天下のセキュリティ保管庫に忍び込むなんてな。盗られた物を取り返しに来たってか?」

「こいつは、俺と仲間のものだ!」

 

向かい側の箱の上にセキュリティが数人。俺らの左右からも何人ものセキュリティがいやがるな。

箱の上にいる中でも、リーダー格と思われる男が喋ってる……んだが。なにあの男に対する既視感は。

 

「違う、ここに保管されてるものはネオ童実野シティのものだ。……あ? 前にいなかった奴もいやがるな」

「うーん……お!」

 

セキュリティの男の目が、遊星から俺に移る。

そしてその瞬間、俺の頭の中にある記憶が蘇った。あれは、初めてのアテムの罰ゲーム、グリードを食らった……そうだ!

 

「牛尾か!」

「テメェ、何で俺の名前を知ってやがる……」

「あのチンピラ野郎がセキュリティかぁ……世の中何があるか分らん物だなぁ」

「何をグチグチ言ってやがる、テメェも共犯だ。2人まとめてしょっ引けぇ!」

 

牛尾哲。確かそんな名前だ。その昔、アテムが初めて姿を現して、祝・初罰ゲームを受けた俺より一つ先輩の男だ。あの時は風紀委員なんて言いながらいじめをやってた奴だったが……それが今じゃ悪人取り締まりか。

っと、そんな呑気なことを考えてる場合じゃない! いつの間にか左右からセキュリティが突撃してきてる。

 

「コナミ! D・ホイールだ!」

「あっ、了解だ!」

 

ピョンとジャンプして俺のホイールの入った箱に入る。

 

「ハッ! そういうのをなぁ、袋のねずみって言うんだよ! 観念しろクズ野郎共!」

 

牛尾の声が聞こえてくるが無視だ。今は逃げるのが先だからな。

D・ホイールに座って不備がないか確認する……よし、動くな。

メットを出してる余裕はない、このままいくぜ!

すぐ近くからエンジン音が聞こえてくる、遊星も発進するところだな。出るなら今しかない!

 

「なっ!? あいつらD・ホイールで……うおっ!?」

 

箱をぶち壊しながら外へと飛び出る。丁度遊星も出てきたところだ。

隊員たちを轢かないようにしながら遊星の後を追ってホイールを走らせる。

 

「チィッ、逃がすか!」

「残念だったなぁ! フハハハハハハ!!!」

 

その昔聞きなれた海馬の高笑いのように笑いながら、D・ホイールを加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊星! このまま脱出するのか?」

「ああ、俺は今ある所に隠れてる。とりあえずはそこに向かう!」

「分かった、俺はカードショップKURUMIZAWAってとこの近くのマンションの202にいるんだ。何かあったら来てくれ!」

「分かった……」

 

D・ホイールについてるモニターと通信を利用して会話しながら走る。幸い今はセキュリティも追いついてきてない、状況を報告しとくにはうってつけだ。

 

「このまま真っ直ぐいけば……ぐっ!?」

「遊星!?」

 

いきなり飛び出してきたD・ホイールにタックルされて遊星のホイールのバランスが少し崩れるが……大丈夫そうだな。

今タックルしてきたのは……チッ、牛尾の野郎か。

 

「バカめ! 俺から逃げられると思ってんのかよー!」

「しつこい野郎だなぁ、また罰ゲーム食らわすぞコノヤロー!」

「いい加減観念したらどうだクズ野郎共!」

「……」

 

牛尾のことは無視して、遊星はホイールを加速させた。いきなり加速されるとついていくのも一苦労だな……。

 

「おいおい、ちょっとはしろよぉ。会話のキャッチボールってやつをよ! それとも」

 

突然俺と遊星のD・ホイールのモニターに映像が映る。

 

「一応デュエリストなら、俺とカードで語り合うか?」

「なに?」

「フィールド魔法強制発動! 《スピード・ワールド》セットオン!」

『デュエルモードオン、オートパイロットスタンバイ』

 

画面に展開されていくこれは……。

 

「ライディングデュエルか!?」

「コナミ……お前デュエルは」

『コナミ、オレが出るぜ!』

「……!」

 

まさかデュエルになるなんてな。仕方ない、任せたぜアテム!

一瞬キランと千年パズルが光る。

さあ、数十年の時を経て、遊星もいるがアテムと牛尾の対決の開始だ。

 

 




というわけで、牛尾さん登場+デュエルとなりますが、このデュエルは途中で終わるということを先にお知らせしますのでデュエルシーンはほぼなしとなります。


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自分のデッキへの執念

「遊星、デュエリストとして、目の前のデュエルを逃げるわけはいかない! やろうぜ!」

「コナミ……? 分かった。そのデュエル、受けてたとう!」

「ハッ! さあ――」

「「デュエルだ!」」

 

オレにとっては初めてのライディングデュエル。それがまさか、あの遊星とのタッグになるなんてな。

 

「ルールは、ライフは4000でお前らは2人で4000だ。俺のターンはテメェら一人一人の後に一ターンずつもらうぜ」

「つまり、遊星→牛尾→俺→牛尾……こういうことか」

「ならば、先攻はもらう! 俺のターンだ!」

 

遊星・コナミSC:0→1

牛尾SC:0→1

 

まずは遊星からだ……確か遊星は低ステータスのモンスターを並べてシンクロ召喚を駆使して戦うデッキだったはず。

だが今の遊星はあの時よりも少し幼い……いや、経験が浅いと言ったところか。そんな印象を受けるな。

 

『アテム。ライディングデュエルのルールは昨日教えたから把握してるよな?』

「ああ。この《スピード・ワールド》の中ではいつもの魔法を使えば2000のダメージ……使えるのはSpの魔法カード。そして各ターンに一つカウンターが乗る、こんなところだったな」

『ああ。だからいかにスピードを貯めれるかが鍵になる』

 

《スピード・ワールド》

フィールド魔法

このカードはいかなるものによってもフィールドを離れない。

Sp(スピードスペル)と名のついた魔法カード以外の魔法カードをプレイした時、自分は2000ポイントのダメージを受ける。

お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用のスピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。(お互い12個まで)

また、1度に受けたダメージに対して、お互いのプレイヤーは自分用スピードカウンターを1000ポイントダメージにつき1つ減らす。

 

「シンクロ召喚、《ジャンク・ウォリアー》!」

『お? いきなりあのカードか』

 

《ジャンク・ウォリアー》ATK:2300

 

コナミと話してる間にデュエルが展開されている。

《クイック・シンクロン》と《レベル・スティーラー》というカードを駆使してのシンクロのようだな。

 

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「俺のターンだ、ドロー!」

 

遊星・コナミSC:1→2

牛尾SC:1→2

 

「手札から《サーチ・ストライカー》を召喚! カードを2枚伏せてターン終了だ」

 

《サーチ・ストライカー》ATK:1600

 

伏せが2枚……オレも使うことのできる攻撃力2300の《ジャンク・ウォリアー》がいるんだ。あの2枚、確実に防御カードだな。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

遊星・コナミSC:2→3

牛尾SC:2→3

 

「オレはスピードカウンターを2つ取り除き、《Sp-おろかな埋葬》を発動! デッキから《バスター・ブレイダー》を墓地に送るぜ」

 

遊星・コナミSC:3→1

 

「罠を張ってるだろうが、臆さず攻めるぜ! 《ジャンク・ウォリアー》で牛尾のモンスターを攻撃!」

「その程度、簡単に防げるぜ! リバースカード《和睦の使者》! これで俺のモンスターは破壊されずダメージも0だ!」

「チッ……だがこれで、お前の防御カードは1枚消えたぜ。カードを3枚伏せてターンエンドだ」

「ハッ! 結局赤帽子のクズはモンスターを出さずに終わりか! オレのターンだ!」

 

遊星・コナミSC:1→2

牛尾SC:3→4

 

「手札から《ジュッテ・ナイト》を召喚。さらにレベル4の《サーチ・ストライカー》にレベル2の《ジュッテ・ナイト》をチューニング!」

「奴もシンクロ召喚を……!?」

「シンクロ召喚、《ゴヨウ・ガーディアン》!」

 

《ゴヨウ・ガーディアン》ATK:2800

 

攻撃力2800……オレのリバースカードで対処できる予定の攻撃力を超えられたか。

 

「いくぜぇバトルだ! 《ゴヨウ・ガーディアン》で、《ジャンク・ウォリアー》を攻撃するぜ!」

「そうはさせない、トラップ発動《くず鉄のかかし》! これでお前の攻撃は無効だ!」

 

《ジャンク・ウォリアー》の前に突如として現れたかかしが牛尾からの攻撃を防いだ。

しかもそのかかしは、再び伏せられた状態へと戻った。

 

「そして《くず鉄のかかし》は墓地へ送らず、再びセットされる」

 

なるほどな、つまりは毎ターン1度は攻撃を防げるカードか……なかなか強力だな。

 

「チィッ、俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

「……まずはこのまま、あそこを抜けて脱出だ」

 

遊星によって送られてきている、モニターに表示されてるこの建物の地図。それを見ながら遊星の指示を聞く。どうやら少し先の所を抜けるようだな。

 

「いくぞコナミ!」

「おう!」

 

遊星が加速したのを見て、オレもホイールを一気に加速させる。

 

「……よし、あそこを抜けるぞ!」

「わかっ……遊星! ゲートが降りてきてるぜ!」

「クッ……間に合うか!」

『あれは間に合わないか……アテム、そこの手札置いてる横の赤のボタン押してみ?』

 

通ろうとしているところを塞ぐように壁のようなものが降りてきている。あれに道を塞がれては、オレたちの予定が崩される。

そんなときに、後ろからコナミの声がする。

 

「赤のボタン……これか?」

 

コナミに言われたとおりに、赤緑青とある三つのうち赤のボタンをポチッと押してみる。

 

「なにぃっ!?」

「っ!」

『コナミ特製、ターボシステムだ!』

 

押した瞬間に、今までで最も早い速度になる。遊星の後ろについて走っていたのが、簡単に追い抜いて……

 

「よし、抜けた!」

『しまった! 遊星とはぐれちまった!』

 

閉まる直前に、何とかオレは通ることができた。

だが、オレのような急加速のない遊星とは塞がれた壁によりはぐれてしまった。

 

「どうするコナミ……」

『俺たちはデュエルから離脱したと判断されたみたいだな……見てみろよ、モニターからフィールドの状況を映す画面が消えてる』

 

コナミに言われてみてみると、さっきまで表示されていたデュエルフィールドの様子が消えている。おまけにオートパイロットやら何やら全てが止まっている。

 

「消えてるな……牛尾は遊星に任せるしかないか」

『そうするしかないか。とりあえず俺らはここを抜けよう。多分他のセキュリティもあっちに人員が割かれてるはずだ』

「分かった」

 

デュエルを途中で投げ出してしまったことが悔しいが、こうなっては仕方ない……遊星なら、あいつなど簡単に倒してくれるはずだ。

オレとコナミはこのままここを抜けて部屋へ戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……なんとか何事もなく戻ってこれたな」

 

D・ホイールはマンションのガレージにとめて、また盗られないように魔法カード《魔法族の結界》で防いでるから大丈夫だろう。

そして今は部屋の中。昼間に仮眠をとったとき以来のこの部屋だが……。

 

「何もないな」

『それはそうだろ、何もいじってないんだからな』

 

あるのはベッドとテーブルのみ。テーブルの上には俺の荷物(主にカードと食料)があるだけで、後はまっさらだ。キッチンにはレンジとかトースター、鍋とかはあるから一応の料理はできる。

 

「まあ魔法カードとかを駆使すれば生活必需品は用意できるからいいけどよ」

『コナミー、お腹空いた!』

「うおっ!? いきなりでてくるなよマナ……そこから好きなレトルト食品とっていけよ」

『えー……またレトルトか』

 

いきなりでてきて後ろからマナが話しかけてくる。

腹減ったと言われても、サテライトから持ってきたレトルトのカレーかインスタントラーメンぐらいしかない。マナからすれば5日連続レトルトだから文句を垂れてるが……。

 

「贅沢言うなよな、まだ働くところもないからお金も稼げないし、今日はやることいろいろあったんだから」

『早く見つけてねー……一応私女の子だよ!』

「へいへい……って、そういうセリフはその笑顔で作ってるレトルトカレーに飽きてから言ってくれるか」

『えへへっ』

 

グチグチ文句は言ってるくせにニヤニヤしながらレトルトカレーを作ってる。

あれじゃ後三日は大丈夫そうだな。

 

「にしても、遊星の奴大丈夫なのかねぇ」

『あいつのデュエルの腕なら、大丈夫だろう』

「まああいつ強いからな…・・・って、何でアテムは遊星のこと知ってるんだ?」

 

さっきはデュエルのせいで聞けなかったが、考えてみれば遊星とアテムは初対面のはずだ。なのにアテムはまるで前に遊星のデュエルを見たことがあるかのような口ぶりだ。

 

『何で……コナミ、お前も共にパラドックスを倒したはずだぜ? 遊星、十代、オレ、コナミの4人でな』

 

俺の質問に頭にクエスチョンマークを浮かべているのはアテムだ。何でお前覚えてないんだといわんばかりの言い方だが……。

 

「パラドックスって誰だ? しかもそのメンバー……どうやって揃うんだよ」

『……そうだった! あの時いたコナミは遊星と一緒に来たと言っていたな。ならまだコナミはあの戦いを知らないのか』

「おーい、アテムー?」

『いや、何でもない。オレが遊星を知ってる理由は……今からそう遠くない未来に分かるさ』

「んー……まあそういうなら分かったよ」

 

結局どういうことだか分からんが、遠くない未来に分かるってんならそれまで気長に待つとするか。

さてと……今日は一日中動きっぱなしだったしそろそろ寝るかな。明日は特に予定もないからぐっすり寝れるし……フォーチュンカップに関してはどうしようもなさそうだしな。

一つ気になるのは遊星の安否なんだが……ちゃんと逃げれたかな。

 

「ん? アテム何してるんだ?」

 

気づけばアテムが、俺が持ってきたカードを広げ、自分のデッキも広げている。

 

『昼間はあまりできなかったから、デッキ編集の続きだ。オレがいた時代からカードも増えてるしな、今のカードを把握もしておきたい』

「あー、確かにな……それに今の時代にシンクロなしで上級モンスター主体ってのはきついからな」

『そのことなんだがな』

 

シンクロ。その言葉に、アテムが俺の方を向いて少し真剣な顔をしている。

 

「どうかしたか?」

『オレは、シンクロのシステムを使う気はないんだ』

「おいおい、さすがにそれはきついぞ?」

 

シンクロを使わない。それは今の時代ではかなり厳しくなる。上級モンスター並みのモンスターがあっさり出てくるし、効果も強力なのが多い。シンクロなしで今の時代を勝ち抜くとなると……。

 

『確かにそうだろう。だが、オレにも初代デュエルキングというプライドもあるんだ。それに、今から見たら昔になるオレの力が、この環境ではどこまで通じるか……それを試したいんだ』

「……なるほどな」

『それと、今まで使ってきたカードたちを、いきなり新しいカードに変える。それにも抵抗があるんだ』

 

確かに、シンクロをしようとすればチューナーを入れたり、他にもシンクロサポートとかを入れることになる。

多分今のアテムの心境は、シンクロが導入された直後のデュエリストと同じだろう。あの時も、数々のデュエリストが最初はシンクロというものに抵抗を覚えていた。だが、シンクロが拡大してからは誰もがそっちへ移行して生け贄モンスターを駆使して戦ったりしていたデュエリストは消えていった。

さすがに、遊戯や海馬、城之内といった他のデュエリストとは一味も二味も格が違うデュエリストはシンクロなしでも変わらぬ強さを見せていたが。

 

「それなら、アテムのやりたいようにやろうぜ。俺も、シンクロなしでどこまでいけるのか、お前のプレイングで見てみたいからな」

『ああ! それにコナミ……オレは昔と変わらないデッキで戦うことで、お前にもう一度デュエルに目覚めてほしいんだ』

「アテム……」

『新しい力に頼るんじゃない。もともとあった力を駆使してお前の言う心が燃えるようなデュエルをして、そしていつかはコナミ……もう一度、お前とデュエルしたいんだ』

 

ったく……この男は。泣かせてくれるじゃないか。

恐らくチューナーとかは使うだろうからアテムの発言に少しの矛盾は生じるだろうが……けれど、確かに俺も昔の、と言っては失礼だが、過去のデュエルキングがあのときのままで戦うとこの世界ではどうなるのか。それを見てみたい。そしてその中できっとこの男は、アテムというデュエリストは俺の求めるデュエルを見せてくれるはずだ。

 

「アテム、頑張れよ。そして俺にもう一度……デュエルの楽しさってやつを見せてくれ」

『任せろ!』

 

アテムと拳を軽くぶつけ合う。

このなんともない行動が、この話を俺たちの約束ということにしてくれたんだ。

 

『おーおー、青春してますなぁ』

「っ! 茶化すなよなマナ」

 

レトルトカレーを食べながら、マナがニヤニヤしながら

 

『フッ、たまには、こういうのもいいだろ?』

『いいですねー。十代君とかマスターがいなくなってからコナミ一人だとこういうこともなかったからね』

「一人だとつまらない男ですみませんねー」

『アハハハ、コナミ拗ねてるー』

 

マナが拗ねるなよーと言わんばかりに、ニヤケ顔で俺の口にスプーンに盛ったカレーを押し込んでくる。

ったく、いきなり入れるなよな……お? というかこれは……間接キッスではないか、ざまあみろ翔、お前のアイドルの唇は間接的にいただいた。

 

『変なこと考えてそうだけど、こんなことするのもう何十回目よ』

「あ、はい」

『よし。コナミ、デッキ編集を手伝ってくれないか?』

「任せとけ! 作るからには当然負けないデッキ……この時代でも十分にやっていけるだけのを作り上げようぜ!」

 

と言っても、アテムならどんなデッキも使いこなしてくれそうだがな。昔のあの時代とはいえ、あんな重いデッキを手足のように使いこなすんだからな。

 

「とりあえずは、今のデッキの状態から見るか」

『そうだな。まずは……』

『うんうん……コナミのあんな楽しそうな顔、久しぶりに見たなぁ』

 

マナの呟きを聞いて、俺とアテムはデッキ作りに没頭していくのだった。




ということで、少し原作介入とアテムの自分がシンクロを使わない理由……中々上手く書けませんでしたが、これはコナミ視点のため、アテムの心情までは描かず。アテムがどういう考えでシンクロを使わないのか、その本当の心はまたどこかで描きたいと思います。


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アカデミアの教師

「ふわぁ……もう何時だこれ」

「朝の八時だな」

『すぅ……すぅ……』

 

マナが俺の寝るはずのベッドで堂々と眠り、俺とアテムはテーブルの椅子に座りながらデッキ編集と新カードの確認。

だが、気づけばもう明るい。というか、八時まで気づかないってのもどうなんだよ。

 

「でも、かなりデッキは仕上がってきたな」

『ああ。だが驚いたぜ……《ティマイオスの眼》やその効果で出るモンスターが登場してるなんてな』

「それは俺に感謝しろよー? 特別に、ペガサスに頼んで作ってもらったんだからな」

 

あれはアテムが消えてからだったな。アテムがいた証に、そしてエジプトが起源のこのデュエルモンスターズになら、その昔エジプトでアテムがファラオとしていたときに起きた出来事をカードにしたり、《ティマイオスの眼》とかの特別なカードを特別にカードとして描いてほしい。俺はそう、ペガサス会長に頼んだ。

限定一枚だけという条件で、特別にあの人は作ってくれた。俺や遊戯に貸しがあったってのもあるだろうけど。

そのカードたちはすべて俺がもらい、こうして今ではどういうわけかアテムの手で、デッキの中に入れられたんだ。

 

『ああ、あの時のような特別な力はないが、効果はどれも強力だ。ありがたく使わせてもらうぜ』

「おう……さあて、ちょっと寝るかな。動き出すのは昼からでいい……誰か来たか?」

 

いざ寝ようと思って動いた瞬間、部屋にインターホンの音が響く。こんな朝っぱらから誰がくるんだ?

 

「あっ……おはようございますコナミさん!」

「ゆま……おはよーさん」

 

ドアを開けるとそこには、アカデミアの制服に身を包んだゆまがいた。しかも手には通学鞄と……弁当箱か?それらしき物を包んだような袋も見える。

 

「えっと……コナミさん住むとこもないって言ってたのでご飯大丈夫かなって思って……お弁当作ってきました!」

「弁当? 俺にか?」

「はいっ! あの……迷惑でしたか?」

 

満面の笑みで言っていたかと思うと今では申し訳なさそうな顔をして俺の顔を窺ってる。

まさか弁当を作ってきてくれるなんてな……。

 

「迷惑なんてそんなわけないだろ? サンキュー、ありがたく食べさせてもらうよ」

「は、はいっ! 喜んでもらえてよかったです、えへへ」

 

お礼を言いながら、ゆまの頭に手を置いて軽く撫でる。

ゆまもまた満面の笑みになって少し恥ずかしそうに笑ってる。

やっぱりこの子可愛いよなぁ……いや変な意味じゃなくて子供っぽい的な意味で。

 

「あっ、私もう学校の時間なので……いってきます!」

「おう、頑張ってこいよー」

 

手を振りながら去って行くゆまに俺も手を上げて応える。

アカデミアかぁ……昔はあんな離島にあったのに今じゃ町中にあるもんな。今の子供たちはいいことで。

 

『コナミー?』

「うっ!?」

 

後ろから、声だけでもうニヤニヤしてるのが伝わってくる。そんな言い方で女の子の声がする。

マナめ……いつの間に起きやがった。

 

「なにかなマナさん」

『青春してたねー?』

「ハッハッハ、私にそんなことがあるわけないだろう、嫌だなぁ全く」

 

弁当箱は背中で隠しながら部屋の中へと戻っていく。

 

「そのお弁当、私も半分ちょうだいね?」

「……はい」

 

ご丁寧に実体化して「いつでも杖で殴って脅せます」という威圧と共に言われたら答えは一つ。イエスだろ。

まあせっかくだし皆で分けた方がいいか、今日の昼飯はこれだな。

 

『そういえばコナミ。新しい仕事に教師はどう?』

「教師-?」

『だってコナミ、昔クロノス先生の勧めで取ってたよね?』

「あー、そんなこともあったなぁ」

 

あれはアカデミアを卒業する前に進路相談か何かで。

クロノス先生から、「シニョールコナミ、教師になる気はないノーネ?」とか言われたんだよな。

あの時は元々やることも決めてなかったし、卒業したらとりあえずはまた双六さんの店でバイトの予定だったし……なんならまた遊戯の旅につき合おうかなとも思ってたな。あいつある意味俺より人外なことしてたし。

と、とにかくなにも決めてなかったから何となく教員免許は取ったんだよなぁ。

 

「そうだな、教師ってのもよさそうだな」

『まあそんな昔のが今でも有効か分かんないけどね』

「あー、それはあるなぁ……というか俺、就職なんかできるのか? サテライトから出てきたのに」

 

考えてみれば俺に住民票的な物はあるのか? 昔は海馬とペガサスが裏で手を回して俺の経歴とか住民票は問題ないようにしてくれてたんだが……ちょっと気になるな。市役所的なとこのデータベースに侵入して経歴書き換えとくか。

 

「ふわっ……」

 

……寝てからやろう。ついでに今日はノーパソでも買いに行くか、ネカフェばっかも行きたくないし……お金足りるかな。

既にふたたびベッドに寝転がったマナを一瞬見て、仕方なく俺はベッドにもたれるようにして眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございますっ!」

「みんなおはよー。このクラスの担任だった先生が、家庭の都合でこのアカデミアをやめられたので、新しい先生が見つかるまでは、私がこのクラスの朝と帰りのHRに来ますね」

 

デュエルアカデミア高等部。

そのとある教室での朝のHR。みんなが席に座り教壇に立つ教師からの連絡などを聞いている。

だが、どうやら今までの担任がいなくなったらしく、普段は初等部担当の加藤友紀がこのクラスの臨時の担任となっている。

 

「それでは出席を取りますねー……青葉あげはさーん」

「……はい」

「いますねー……海野幸子さーん」

「あっ、加藤先生。海野さんはお仕事でお休みですっ!」

「はーい。じゃあ次はー……大庭ナオミさーん」

「はい」

「はい、出席っと……」

 

そこから次々と名前を呼んでいき出席の確認をしていく。

 

「ツァン ディレさーん」

「……はい」

 

前日コナミと出会ったツァンも、このクラスの一人だった。

 

「えー、宮田ゆまさーん」

「はいですっ!」

「はーい。じゃあ最後、レイン恵さん」

「ん……」

 

このクラスの最後の一人、レイン恵が静かに挙手して応える。

全員で20人のこのクラスは、海野幸子のみ欠席という出席状況であった。

 

「えー今日も一日頑張って行きましょうねー。それと、アカデミアからのお願いなんですが……」

「お願い?」

 

アカデミアからのお願いという言葉に、生徒たちが少し反応する。

 

「皆の周りに、プロデュエリストとか教員免許を持っててデュエルも強い! みたいな人がいたら教えてくれないかな? デュエル実技担当の先生がいないから……先生たちの方でも、求人してはいるんだけど」

 

こんなことを生徒にお願いすることは間違ってるかもしれないが、現在デュエルアカデミアは教師不足。そのため、こうしてスカウト的なやり方で人材を求めているのだ。

 

「デュエルが強い……あっ!」

 

デュエルが強い。その言葉だけに反応して、ゆまの頭の中に1人の男が思い浮かぶ。自分の危機を救ってくれて、カードショップも救ったデュエリスト──

 

「コナミさん、家がなかったなら仕事もありませんよね……」

 

──コナミの姿が。

教員免許を持っているという条件など頭から省き、デュエルが強いという理由だけで、ゆまは学校が終わればコナミにこの話をしに行こうと決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「デュエルアカデミアで教師ぃ!?」

「はいっ!」

 

時刻は3時過ぎ。マンションの前の道をアカデミア生がチラホラ通ってると思ったら、このマンション目がけて走ってくる1人の女の子がいた──ゆまだ。

何やら用事があるかのように急ぎながら走ってきて、ベランダから見えない死角に入ってどこに行ったのかと思えばインターホンが鳴り。

出たらそこにいたのは少し息を切らしたゆまで。

とりあえず部屋に上げてお茶を恵み、息が整ったと思えばゆまの口から出てきた言葉は──

 

「コナミさん! デュエルアカデミアで教師しませんか!」

 

そしてさっきの俺のセリフへと戻る。

というか、なんでいきなり教師に……。俺の疑問に答えるように、ゆまが笑顔で話し出した。

 

「実は、前までデュエル実技担当の先生がアカデミアを辞めてしまったんですよぉ……それで先生が足りないから、知り合いにデュエルの腕が立つ人がいれば紹介してほしい! と言われまして」

「ほおーん……それで、俺のとこに?」

「はいっ! コナミさん、デュエルの腕は抜群ですから!」

「でもさゆま……それって教員免許いるんじゃないのか?」

「あ……」

 

教員免許。その言葉を聞いてゆまが固まった。しかも「あ」って……まさかそこだけ聞いてなかったか忘れてたのか。

 

「そ、そうでした……教員免許を持っててデュエルの腕が抜群が条件でしたよぉ」

「ちゃんと聞いとかないとなそれも……まあ、俺教員免許持ってるんだけどな」

「へ?」

 

頭を抱えだしたゆまに、少し意地悪い笑みを浮かべながら言うと、ゆまは驚いたような表情になった。

まあまさか持ってると思わないよな、絶賛無職の人間だし。しかも住むとこが昨日までなかった謎の人間だし。

 

「こ、コナミさん教師できるんですかぁ!?」

「できるぞー、1度もやったことないけど」

 

そうなんだよなぁ、免許取ったけど教師として働いたことはない。アカデミア在学中に取ったけど、その間にダークネスとの戦いはあるわ卒業したら結局十代と旅して最後は双六さんから店引き継いで店長だしな。

店長なってから何十年かしたらゼロ・リバースが起きて店に今まで来てた子供たちの姿もなくなって。あの時はまだ子供たちの純粋なデュエルを見て心が弾んでたが、子供たちが来なくなるわ、その時にはもうデュエルはほとんどしてなかったのもあって、最後にはあんなことにもなって本格的にデュエルは止めたんだが。まあ客がほとんど来なかったからそれはいいけど。

っと、話がそれたな。

 

「すごいですよぉ! コナミさん、アカデミアの先生になりましょうよっ!」

「うーん……」

 

うーんなんて言ってるけど心は決まってる。応募一択だろこんなん。公務員になれるチャンスだし、昼間に俺の住民票的なのは作っておいたし。何もかもネットで管理すことの恐ろしさがここに現れてるねぇ全く。

つまりは履歴書みたいなのも書けるし就職するのも問題なし。

なのに考える振りをする理由は……即答するとか恥ずかしいからである、アカデミアの子の前でぐらい見栄張りたいじゃないか。

 

「よし、なってみるかな」

「わぁ、頑張ってくださいねコナミさん! えっと、これがアカデミアの番号ですよ」

 

ゆまが制服のポケットから生徒手帳らしきものを取り出しながら、それに書かれてるアカデミアの電話番号を見せてくれる。

えーっと……ふむふむ、よし、メモはできた。

 

「サンキューゆま。今晩にでも電話して面接してもらうよ」

「はいっ! それから、コナミさんが受かれば担当になるのはデュエル実技っていうのになると思いますっ!」

「デュエル実技? ってことは……デュエルのこと担当ってことか」

「そうですよ! 私たちにデュエルのプレイングを教えたり、後、時にはデュエルもするんですよぉ!」

「ほ、ほう……」

 

デュエルのルールを教えるのは簡単だろうし俺の得意分野ではあるな。店をやってるときに子供たちに色々教えてたし……けどデュエルするのはちょっと問題だな。アテムに負担が大きくなりそうだ……いや、デュエルできるからありがたいかもな。

 

「まっ、とりあえずは受からないとな。あっ、そうだゆま」

「はい……?」

 

少し首を傾げるゆま……なんだが中々可愛い、絵になるな。こんな可愛い子がいて同級生のうらやましいこと……俺のときなんかアテムラブの杏子に獏良ラブのミホに城之内ラブっぽい舞に、後はお兄ちゃんライクの静にマハードラブ?っぽいイシズに……俺の周りの女の子はほとんど好きな人いたからな。

アカデミアになると明日香はボンッキュッボンッの神スタイルだが強気だし3年生のころには完璧十代に惚れてたし、レイは言わずもがな十代ラブ……なんだよ、どうせ俺は誰からも特別に好かれてませんでしたよー。

っと、また話が逸れた。ゆまにあのことを言わないと。

 

「弁当、サンキューな。美味しかったよ」

「あっ……美味しかったならよかったですぅ、えへへ」

 

台所で乾かしていた弁当箱を持ってきて、ゆまに手渡す。

昼飯に美味しくいただいたが……マナに8割方持っていかれた。食べれたの玉子焼きと白飯を少々だからな。けど玉子焼きは俺好みの醤油の味が濃くて美味かった。

 

「ほんと助かったよ」

「好きで作っただけですよぉ、気にしないでください!」

「そうか……っと、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」

「あうっ……そうですね」

 

時間は5時か。まだ外も明るいが……前のこともあるし。

 

「せっかくだし、家まで送ってくぞ?」

「そんな悪いですよ! 一人で帰れますからっ!」

「弁当くれたお礼だって、またD・ホイールに乗れるぜ?」

「あうぅ……じゃあお言葉に甘えて……」

「んじゃ、行こうぜ」

 

ゆまのかばんと弁当箱を持って、一緒に部屋から出る。鍵は……閉めなくてもいいか、盗られるものもないし。

ガレージに止めてあるホイールに乗り込み、前のように後ろにゆまが乗り手を回してくる……やっぱり暖かい。

 

「ちゃんと掴まっとけよー?」

「はいです……」

 

少しゆまの抱きついてくる力が強まって、必然的に密着度が増すわけで……と、変なこと考えずに発進させないと。

邪な考えは頭の片隅においておき、俺はゆまの家へと向けてD・ホイールを発進させた。

 

『いってらっしゃーい』

 

……帰ったらまたマナにからかわれるな。




次回は、アカデミア教師になるための面接という形になります。実技試験をするなら誰と戦うことになるのか……!
また途中で住民票の編集やらしてますが、コナミ君は万能というご都合主義。コナミ君は遊星以上に機械に強いです。
そして、途中でコナミ君がデュエルをやめたきっかけのフラグのようなものが……これは後々明らかになりますので。これに関してはまだまだとってつけたような理由が出まくるかと思いますが。


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実技面接 VSゆま(前編)

対戦相手は誰なのか、タイトルバレです。


「――では、これで面接を終わります」

「ありがとうございました」

 

昨日ゆまに教師の仕事を紹介され、彼女を送ってからアカデミアに電話したところ、

 

「あっ、それでは明日の朝9時に、アカデミアの方にお越しください。その際履歴書と……」

 

などといろいろ言われてあっさりと面接が決まり、朝から面接を受けてたった今終わった。

教師に面接なんてあるのかとかなんか複雑なシステムなんじゃないかとか思ったが、何でも今このアカデミアは絶望的に人員不足らしく、やむを得ず面接で臨時の教師を求めているらしい。

まあそのおかげであっさりと俺の仕事が決まりそうなんだが。

 

「では、続いては実技の試験となりますので、デュエルフィールドの方へ案内します」

「……ひょ?」

 

えー、面接だけで「ちょろいぜ」とか思ってたのに実技もあるのかよ……まあデュエリスト養成学校だから仕方ないか。

でも結構大事なデュエルがあれか、アテムのデッキを組みなおしての初陣か。

 

「こちらになります」

「はい……」

 

面接官の人先導の下、このアカデミアにあるデュエルフィールドへと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうしてこうなった……」

「えへへ、コナミさん、よろしくお願いしますっ!」

 

場所はデュエルフィールド。昔のアカデミアと同じように、中央にデュエルリングで周りを囲うように椅子がある。そこには大量の生徒がいるし……なにこれ、俺のデュエルは見世物ですか?

というか一番謎なのはデュエルリングにディスクを構えて立っているアカデミア生の一人・・・…ゆまである。

どう見てもデュエルする準備が整っていて、デュエルする流れである。

 

「アカデミアの教師になる以上、本校生徒よりは強くあらねば困ります。まだまだ発展途上の生徒に負けるようなクズは本校には必要ないのです」

「……なるほど、分かりました」

 

俺の近くに来た変なおっさん。名札を見ればハイトマンと書いていて教頭のようだ。

しかし負ければクズなどと……気に食わないな。

 

「本校はエリートの集まりを目指しているのです。せっかく前飛ばしたのに、クズはこれ以上増やしたくありませんのでね……」

「あー、確かにそうですねぇ。クズよりもエリートの方がいいですもんねぇ」

「よく分かってますねぇ」

 

とりあえずは今は合わせておくが……こいつ、エリート思考だな。まさに出会った頃のクロノス先生だ。

しかも今ポロッと信じられないことを言ったな……「せっかく飛ばしたのに」か。どうやら俺の前にいた先生はゆまが言っていた家庭の事情か何かじゃないようだな。

……許すまじ。

 

「ハイトマン教頭……で、よろしいんですかね?」

「そのとおり、私が本校の教頭ハイトマンであります」

「ここの世話になる前に言わせてもらうよ……お前は、いつか俺が倒す」

「は?」

 

まだデュエルはできないが……いつかまたやるときがくれば、こいつは必ず俺が、コナミとして潰す。

一瞬呆けたハイトマンをおいて、俺はリングにあがる。

リングに上がる数段の階段の一歩目に足を触れた瞬間、俺の人格は入れ替わる。

 

「さあゆま、やろうぜ! オレとお前の初デュエルだ!」

「はいっ!」

 

ゆまと約束した今度デュエルしてくださいというのは奇しくもこういう展開で叶ったんだが……本当の俺じゃなくてアテムだから少し申し訳ないな。あっ、でも彼女が見たのはアテムのデュエルだけか……なら俺が…いやでもなあ、約束したときは俺だし……ま、まあ俺がまたデュエルするようになったなら真っ先に彼女と戦おう。……こんなプラスに考えるようになったのは、こいつのおかげか。

 

「デュエル!」

 

ゆまと同時に高らかに宣言するアテムの後ろ姿を、俺は少しの懐かしさと共に見た。その昔アテムや海馬たちの激戦をこうやって後ろから見てたときは単純にワクワクしてたなぁ……今じゃ心から楽しめないのに。

でも、アテムが来てから日に日にデュエルを楽しめてる気がする。いや、元々見る分にはそれなりに楽しんでたか……けど心の底からワクワクするようなことはなかった。プロデュエリストばっか見てた所為もあるかもだが。

それが今じゃアテムのデュエルの度にどうなるのかワクワクさせられてるんだ。少しづつ、俺も昔に戻ってきてるのかもしれない。

 

『アテム、ゆま……俺を楽しませくれるような激戦を期待してるぜ』

 

小さく呟いた俺の言葉は、アテムの「ドロー!」と言うセリフにかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

「手札から魔法カード、《予想GUY》を発動! 俺の場にモンスターが存在しないとき、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる! 現れろ、《クイーンズ・ナイト》!」

 

《クイーンズ・ナイト》DEF:1600

 

「そのカードはこの前のメイさんの……!」

「そしてオレは、まだ通常召喚を行っていない。《キングス・ナイト》を召喚」

 

《キングス・ナイト》ATK:1600

 

オレの場に前回のように2人の騎士が揃う。こうなれば、次に出るのは当然――

 

「――クイーンとキングが揃ったからジャックが出ます」

「その通りだぜ、来い、《ジャックス・ナイト》!」

 

前と同じくオレの場に集う絵札の三銃士。しかし今回は融合はない……

 

「オレはターンを終了するぜ」

 

このターンはゆまがどう出るかの小手調べの場は作れた……手札には《クリボー》があるから1ターンでとどめを刺されることはないはずだ。

 

「私のターンです、ドロー! 手札から《E・HERO エアーマン》を召喚します」

 

《E・HERO エアーマン》ATK:1800

 

「プリズマーから予想はできたが……やはりヒーローデッキか!」

「はいっ! 私のヒーローさんです! エアーマンの効果でデッキからHEROと名のついたモンスターカード、《E・HERO バブルマン》を手札に加えます」

 

召喚時にヒーローを持ってくるカードか……あれ1枚で融合素材モンスターは手札に揃うってことか。

後は融合がなければ助かるが……。

 

「さらに手札からマジックカード《融合》を発動します!」

「チッ、握っていたか」

「場の《E・HERO エアーマン》と水属性の《E・HERO バブルマン》を融合して」

 

ゆまのフィールドに現れた大きな渦が、手札から出てきた2体のモンスターを吸い込む、渦の中で混ざり合った2体が、1体の融合モンスターとして現れる。

 

「《E・HERO アブソルートZero》を融合召喚します!」

 

《E・HERO アブソルートZero》ATK:2500

 

「アブソルートゼロ……?」

『これはまた……初っ端から厄介なのが出てきたぞアテム』

 

コナミがそう言ってくるが……あのモンスターには強力な効果があるというのか?

 

「バトルです! アブソルートゼロで《キングス・ナイト》に攻撃です! 瞬間氷結―Freezing at moment―!」

「っ……この程度じゃ何ともないぜ」

 

アテムLP:4000→3100

 

「うふふっ、まだありますよっ! 速攻魔法《マスク・チェンジ》!」

『あのカードまで握ってやがったのかよ……』

 

コナミの声音が、少し余裕のないものに変わる。あの速攻魔法……チェンジということは他のモンスターに変えることでバトルを行えるようにする魔法か?

 

「このカードは私のフィールドのHEROと名のついたモンスターを墓地に送って、そのカードと同じ属性のM・HEROカードを特殊召喚します!」

「M・HERO? まだ他にもヒーローのシリーズがあるのか!」

「そうです! 私の場のアブソルートゼロをリリースして、水属性のM・HERO、《M・HERO ヴェイパー》を変身召喚!」

 

ゆまの場のアブソルートゼロの姿が光に包まれて新たなヒーローへと変身する。

 

《M・HERO ヴェイパー》ATK:2400

 

そのヒーローの姿を見たゆまが嬉しそうに声を弾ませる。

 

「カッコいいですよっ!」

「ハッ、オレからしたらまだまだ地味だぜ! もっと腕にシルバーでも巻いてみな!」

『ちょ……っぷ……くくっ……』

 

コナミが笑いをこらえてるが……やはりコナミもあのヒーローはあまりカッコいいと思ってないということか。むしろあの程度じゃまだまだ地味だな。

 

「むっ、カッコいいんですからねっ! ここでフィールドを離れたアブソルートゼロの効果が発動します! このカードがフィールドを離れたとき、コナミさんのモンスターを全滅させます!」

「なにっ!? 《サンダー・ボルト》の効果と同じだというのか!?」

 

オレの場に突然水が噴き上がり、その水圧にオレの場の残った2体の騎士たちが流されてしまった。

コナミが警戒していたのはこういうことか……発動条件は簡単なのにその効果は禁止カードの《サンダー・ボルト》。しかも今回の場合はバトルフェイズ中に《マスク・チェンジ》を使って新たなモンスターを出しているからバトルは続行されるのにオレのフィールドはガラ空き。

……これは、厄介な相手だぜ!

 

「まだ私のバトルフェイズは続いてます! ヴェイパーでコナミさんにダイレクトアタックします!」

「……ライフで受けるぜ!」

「……えっ!?」

 

ゆまのモンスターの攻撃を、オレは《クリボー》を使わずそのまま受ける。

 

アテムLP:3100→700

 

ライフが一気に1000を下回った。ゆまからすれば過去2回の戦いを考えればまさかこんな簡単に攻撃が通ると思わなかったのか驚きの攻撃をあげる。

 

「《クリボー》や《バトルフェーダー》はなかったんですか」

「いや……オレはコイツを呼ぶためにあえてダメージを受けたのさ! オレの場にカードが存在しない場合に直接攻撃を受けたとき、このカードを特殊召喚できる! 我が痛みを糧に現れろ、《冥府の使者ゴーズ》!」

 

オレの目の前に禍々しい黒い渦が発生する。そしてその中から、1人の男が出てきた。

 

《冥府の使者ゴーズ》ATK:2700

 

「そんな条件で出てくるモンスターが……!」

「勉強不足だぜゆま。さらにゴーズの効果は続く! オレが受けたダメージと同じ分の攻撃力を持つカイエントークンを特殊召喚する!」

 

ゴーズの隣にまたさっきのような渦が起きる。

ゴーズの力により生まれた新たなトークンによりオレの場には一気に高攻撃力のモンスターが2体並ぶ。

 

カイエントークンATK:2400

 

「うぅっ、一気に私が不利ですよぉ……カードを1枚伏せてターンエンドです」

「オレのターンだ、ドロー!」

 

ゆまのフィールドには攻撃力2400のモンスターが1体。オレのゴーズで倒せる。それに手札からモンスターを出せば一気にとどめまでいける。

だが……

 

『あの伏せカード、気になるよな』

「ああ……《激流葬》のような召喚反応型だと、オレに防御策は用意できない。攻撃反応型なら、モンスターを出して一斉攻撃をすれば、またオレに防御策は用意できない」

『それならここは、モンスター出さずの様子見の攻撃にするか?』

「それがいいな……ここは、石橋を叩いて渡るぜ。バトル!」

「っ!」

 

バトルの宣言をするとゆまの表情が少し歪む。あの伏せは召喚反応型だったのか?

だが、どれにせよ今取れる行動は1つ!

 

「ゴーズで《M・HERO ヴェイパー》を攻撃する!」

 

ゴーズの攻撃をゆまは何もせずただ受けた。あのカードは攻撃反応型でもなかったのか?

 

ゆまLP:4000→3700

 

「カイエントークン、ダイレクトアタックだ!」

「あうぅぅっ!」

 

ゆまLP:3700→1400

 

この攻撃もやはり通した。ならあのカードは……

 

『ブラフだったか、警戒しすぎたなアテム』

「そのようだな……だが、あっさり決まったんじゃ面白くないだろ?」

『まあな。けど、警戒しすぎてとどめを刺せなかったのが次のターンでどう返ってくるか』

「……オレはカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

次のゆまのターンでいかにオレの今の場を消してくるのか……それを楽しみにしながら、オレとコナミは、ゆまがカードを引く姿を見つめた。




次回でゆまとアテムのデュエル決着となります。今のヒーローは簡単にワンキルしそうだから怖いorz


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実技面接 VSゆま(後編)

皆さんからの感想のほとんどでマスクチェンジからのアシッドじゃないことに優しさを感じてて今のデュエルの恐ろしさを痛感←


アテム

LP:700 手札3枚(内一枚はクリボー)

場:《冥府の使者ゴーズ》カイエントークン(ATK2400)

  伏せ1枚

 

ゆま

LP1300 手札2枚

場:伏せ1枚

 

 

「私のターンです、ドロー! コナミさん。私のこのセットしたカード……コナミさんの行動を阻害するカードだと思いましたか?」

「ああ、そう思ったが……どうやら、違うようだな」

「はいっ! 私の伏せていたカードは、《融合準備》! このカードは私のエクストラデッキの融合モンスター1体をコナミさんに見せて、そのカードに記されている融合素材モンスター1体をデッキから手札に加えることができます! 《E・HERO フレイム・ウィングマン》を見せて、《E・HERO フェザーマン》を手札に加えます! さらにもう一つの効果、墓地の《融合》を手札に戻せます!」

「あのカード1枚で、素材と融合が加えられるのか……あれも、オレのデッキと相性がよさそうだぜ」

『フェザーマン、風属性となると……あちゃー』

 

コナミがまたも声を上げるが……水のヒーローがあるのならば。

 

「そして今加えた《融合》をそのまま発動します! 手札の《E・HERO スパークマン》と風属性のフェザーマンを融合!」

「やはり、水がいるなら風のヒーローもいるのか」

「融合召喚、《E・HERO Great TORNADO》!」

 

フィールドに強風が吹きつけてくる。その吹き付ける風の中に、黒いマントを靡かせたモンスターが降り立つ。

あれが、風属性のヒーローグレートトルネードか。

 

《E・HERO Great TORNADO》ATK:2800

 

『っぅぅ、風強すぎるだろおい』

「ああ、こんな風じゃあ目も開けにくいぜ」

 

カードは場に降り立っているというのに、フィールドでは未だに風が吹き付けている。

まだ何か、あのカードには秘密があるということか?

 

「ここで、グレートトルネードの効果が発動です! このカードが融合召喚されたとき、相手フィールドのモンスターすべての攻撃力を半分にします! タウン・バースト!」

「オレのモンスターの攻撃力を半減させるだと!?」

 

強い風を受け続けたためか、ゴーズとカイエンが寒そうに蹲りだした。冥府の使者とはいえ、この強風には耐えられないか。

効果を適用したからか、さっきまでの強風がピタリと止まった。

 

《冥府の使者ゴーズ》ATK:2700→1350

カイエントークンATK:2400→1200

 

ヒーローと風属性というゆまのヒーローデッキならばいとも間単に出せるであろうあのカード。

出ただけでオレのモンスターが一気に低い攻撃力になってしまうとなると、いくらモンスターで圧倒的に展開しててもあっさりと倒される。

グレートトルネードが出れば、一気に形勢を逆転されることになるのか……。

 

「うふふっ、この攻撃が通ればコナミさんの負けですよっ!」

「フッ、オレはまだ負けないぜ! かかってこいゆま!」

「はいっ! グレートトルネードで、《冥府の使者ゴーズ》を攻撃! スーパーセル!」

「――リバースカードオープン! 《ガード・ブロック》! この効果により、オレへの戦闘ダメージはゼロとなる!」

 

ゴーズが破壊されてその超過ダメージがオレを襲う。だがオレの目の前に現れたカードでできた壁が、オレへの衝撃を防いでくれる。

 

「さらに《ガード・ブロック》の効果で、カードを1枚ドローする!」

「やっぱり凌ぎますよね……けど私の場には攻撃力2800のグレートトルネード、コナミさんは攻撃力が半減したカイエントークン。でも念には念を入れて……マジックカード《ミラクル・フュージョン》を発動! フィールドと墓地からモンスターを除外して、E・HEROの融合を行えます!」

「手札に素材が揃っていなくても、あれなら墓地のカードを再利用できるということか」

「墓地の《E・HERO エアーマン》と光属性のスパークマンを除外します!」

 

ゆまのフィールドに現れたM字型の裂け目に、ゆまの墓地から吸い込まれた2枚のカードが飛び込んでいく。

段々とMの字は小さくなり、裂け目が消えると同時に強い光がオレの視界を奪う。

 

「っ……そいつが、光のヒーローということか」

 

光が消えて目を開けると、さっきまでいなかったモンスターが1体増えていた。白を基調とした色をしているがその後ろには妙な輪と八つの剣のようなものが浮いていた。

 

《E・HERO THE シャイニング》ATK:2600

 

「はいっ! 《E・HERO THE シャイニング》を特殊召喚です! さらにこのカードは除外されているE・HEROと名のついたモンスター1枚につき、攻撃力が300ポイントアップします!」

「今除外されているのはさっき除外したエアーマンとスパークマンか……」

「そうです! よって攻撃力は3200になります!」

 

《E・HERO THE シャイニング》ATK:2600→3200

 

「私はカードを1枚伏せて、これでターンエンドです!」

「攻撃力3200に2800……これを倒さないと、ゆまには届かないぜ! オレのターン!」

 

オレの手札には最初のターンから握っている《クリボー》に、今《ガード・ブロック》で引いた《増殖》がある。

ここであのカードを引ければ……!

 

「ドロー! ……フッ、来てくれたぜ、この場を一掃するカードが!」

「この場を一掃ですか……? 《ブラック・ホール》か何かを引いたんですか?」

「それは、今から見せてやるぜ! 手札から《クリボー》を召喚する!」

 

《クリボー》ATK:300

 

「《クリボー》を召喚……?」

 

オレの場にポンと飛び出てきた小さな茶色の毛むくじゃらなモンスター。

普通は攻撃されたときに効果で戦闘ダメージを防ぐこのカードの通常召喚に、ゆまは驚き、このデュエルを観戦しているアカデミア生からも落胆の声や中にはバカにする声も聞こえてくる。

 

「《クリボー》は効果を使えば強力ですけど、ただ出すなら壁にもならない攻撃力ですよ?」

「確かにな。攻撃力だけなら悪い言い方をすれば雑魚だ。だが……どんなカードも、合わさればその強さを発揮する! 魔法カード《増殖》を発動!」

「《増殖》……あっ、トークンを生み出すカードですか!」

「その通りだぜ! 《クリボー》を生け贄に捧げる。クリボーよ、4体のクリボートークンへと増殖せよ!」

 

《クリボー》の姿が4つに増殖する。これでオレの場はクリボートークンとカイエントークンとトークンでいっぱいとなった。

 

「モンスターでカードゾーンがいっぱいに……でもそれだと、私のヒーローさんたちは倒せませんよ!」

「それはどうかな?」

「え……!?」

「クリボーは繊細なモンスターでな……触れたら爆発してしまうのさ。手札から速攻魔法、《機雷化》を発動!」

「機雷……化?」

 

《クリボー》がゆまの場の3枚のカードに突撃していく。グレートトルネードとTHEシャイニングは鬱陶しそうに手で払いのけるが、その手が《クリボー》に触れた瞬間――

 

「く、クリボーが爆発しました!?」

 

――クリボーは爆発し、ゆまの場のカードを木っ端微塵に破壊する。

昔はこのサポートカードもなしに使えたのが、今じゃしっかりとこんなサポートカードが出てたなんてな。オレのいた時代からカードも増えまくっているな本当に。

 

「《機雷化》の効果。オレの場の《クリボー》とそのトークンをすべて破壊し、その数だけゆまのカードを破壊するぜ!」

「破壊されたのは4枚……だから私の場が全滅。でも、ここでTHEシャイニングの効果が発動します! このカードが破壊され墓地に送られたとき、除外されているE・HEROと名のついたモンスターを2枚まで手札に戻せます! エアーマンとスパークマンを手札に戻します!」

「手札へのサルベージか……《ミラクル・フュージョン》と合わせれば効果は最大限に発揮できるな。だが、ゆまのフィールドはがら空きだ! カイエントークンでダイレクトアタック!」

 

ゆまLP:1300→100

 

さっきのグレートトルネードの効果で攻撃力は半減しているが、それでも残りライフを100にまで削ることができた。そしてゆまの手札はモンスターが2枚。

攻撃力では負けているから、オレの残りの2枚でかわすしかないな。

 

「カードを2枚伏せて、ターン終了!」

「私のターン……ドロー! 来ました、コナミさんを倒せるカードが! 私の、全力のプレイです!」

「面白い……見せてみな、ゆまの全力を!」

「はいっ! 手札から《E・HERO ブレイズマン》を召喚! このカードは召喚に成功したときデッキから《融合》を手札に加えることができます!」

「くっ、これで手札に《融合》が……さらには素材となるヒーローは3枚もいることになるのか」

 

今のゆまの持つヒーローは、風のエアーマン・光のスパークマン・炎のブレイズマン……炎のヒーローはまだ出ていないが、ここで呼ぶというのか?

 

「コナミさん。私の、最強のE・HEROで、あなたを倒します!」

「最強のヒーロー?」

「手札から今加えた《融合》を発動します! 手札の《E・HERO エアーマン》・《E・HERO スパークマン》、場の《E・HERO ブレイズマン》の3体のE・HEROモンスターを融合!」

「3体のヒーローによる……融合だと!?」

 

ゆまの手札と場のカードをすべて駆使した、おそらく彼女の渾身の融合。

それにより生み出される融合モンスターの姿が、段々と明らかとなってくる。

 

「融合召喚! 《E・HERO Core》!」

 

《E・HERO Core》ATK:2700

 

「こいつが……ゆまの最強のヒーローと言うことか。E・HEROコア……!」

「バトルです! E・HEROコアで、カイエントークンを攻撃します!」

「最強のヒーローと言っても、オレの伏せカードを警戒せずに攻撃するのは良策とは言えないぜ! リバースカードオープン、《聖なるバリア ―ミラーフォース―》! ゆまの攻撃表示のモンスターは全滅!」

 

オレのフィールドで表となった罠から、光の壁が張られる。それに突撃してきたコアは、無残にも破壊された。

これで、ゆまのモンスターは消えたが……何の効果もないとは思えないな。

 

「コナミさんがミラーフォースを伏せているのは読めてました! コアは破壊されますけど、ここでコアの効果が発動します!」

「やはり、破壊されたときに効果を発揮するカードだったのか!」

「はいっ! このカードは破壊されたとき、墓地のレベル8以下のE・HERO融合モンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚します! 来てください、《E・HERO アブソルートZero》!」

 

死してなお新たなヒーローを呼ぶのが、あのコアという融合モンスターの力か。

さらに蘇ったのはアブソルートゼロか……場を離れたらオレのモンスターを全滅。だが、今はそんなことよりも問題は……。

 

「そして今はまだ私のバトルフェイズです! アブソルートゼロで、コナミさんのカイエントークンを攻撃します! 瞬間氷結―Freezing at moment―!」

「……これがゆまの全力の攻撃か!」

「はいっ! この二段構えが、私の全力です!」

「ミラーフォースを見抜いて追撃の策を用意していたのは見事だぜ! だが、オレはお前が見抜いていることを見抜いていた!」

「あうっ!?」

 

この前のデュエルでも、オレはミラーフォースを使っている。そのデュエルを見ていたゆまが、それを見抜いて単純な攻撃を仕掛けてくるとは端から思っていない。案の定、ゆまは追撃できる方法できた。

だが、それを見抜いていたオレは当然……。

 

「オレにはまだ、リバースカードが残っているぜ! 伏せカードオープン! 《魔法の筒)》!」

「マジック……シリンダー……!?」

「このカードは、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にし、その攻撃力分のダメージを、相手に与える! 自らの全力をその身に受けてみろ、マジックシリンダーよ、アブソルートゼロの攻撃を打ち返せ!」

 

オレの場に出現した二つの筒。その右側に、アブソルートゼロからの攻撃が吸収される。

そして、左側の筒から光に包まれたアブソルートゼロの攻撃がそのまま、ゆまの元へと撃たれる。

 

「きゃああああぁー!!」

 

ゆまLP:100→0

 

「オレの勝ちだぜ、ゆま」

 

ゆまのライフが0になると共に、ソリッドビジョンがすべて消えていく。

 

「いいデュエルだった、ゆま。最後の破壊されてももう1体での攻撃は見事だったぜ」

「あうぅ……そう言ってもらえてうれしいですけど……」

 

デュエルに負けたのがショックなのか、ゆまは少し俯き気味になっている。

 

『アテム、お疲れさん。こっからは俺に任せておけ』

「……ああ」

 

コナミに言われて、オレは意識を沈める。

そして、オレの人格は奥へと引っ込み、コナミが表へと出てくる。

後は任せたぜ、コナミ。

 

 

 




ということで見事アテム勝利…ラストのシリンダーはあっけなかったかなと思いますが。
このデュエルにおいて、先にシリンダーを打てば勝ててますが、この作品のデュエルでは各カードの効果は確かめず、攻守及び強力なモンスターなら効果を予測して、それだけの情報で戦っています。なので今回のアテムは、コアに何らかの妨害効果があるのではと推測して先にミラフォというプレイングをとっています。これからもこういった謎のプレイングはあることになると思いますが、シナリオを盛り上げるための戦法となるので、ご理解下さい。


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デュエルは楽しむもの

少し間が空きましたが、今回はゆまとのデュエル直後の話からとなります。



さて、今現在の状況だが。

知っての通りゆまを見事アテムが倒した。のだが、ゆまはと言うと負けたことがショックなのか落ち込んでる。

 

「あうぅ……また負けてしまいましたぁ」

「ゆま」

「……コナミさん?」

 

落ち込むゆまの傍に歩み寄り、その頭にポンと手を置く。

 

「デュエルに負けてショックを受けるのは分かるが、負けたことを糧にして次に活かす努力をするべきだぞ」

「それは分かってますけど……でも、私これで6連敗なんです。ツァンさんやナオミさんや他の皆さんとやってもここ最近いいとこまでいっても、やられちゃうんです」

「6連敗がなんだよ」

「えっ……?」

 

誰にどうやられて6連敗したのかを思い出したのかゆまの顔色がどんどん曇っていく。

ゆまのデュエルの腕はかなり高い方と思うんだが、それなのに連敗となると、他の奴らがゆまよりさらに上手ということだろうか。

っと、それよりもだ。6連敗ぐらいじゃ落ち込んでたらダメだって教えないと。

 

「昔俺の仲間に、それはそれはデュエルが雑魚い奴がいてな。最初は攻撃力が高いからとかいって適当に組んだフルモンデッキだったんだ」

「そんな人が……」

 

あれはまだ俺が本当の高校生だったころ。その頃のことを思い出しながら、ゆまにその男のエピソードを話していく。

 

「でもな、そいつはとある人にデュエルとは何かを教えてもらい、そこから何度も何度も色んな人とデュエルをしたんだ。その間何回、何十回と負け続けた。だがそいつは、決して諦めずにひたすらデュエルをし続けたんだ」

「……」

「負けて落ち込んでも、凡骨とまで呼ばれるほどの腕なのに、またすぐに前を向いてデュエルをして、ついにはとある大きな大会でベスト4に食い込むほどの実力者となった。確か俺の記憶が確かなら、そいつは最大26連敗してる」

「26回も連続で負けたんですか!?」

 

そうなんだよなぁ。まさかそんなに負けるとは思わなかった。

まあその内15敗をつけさしたのが俺なんだが。

 

「でもな、そいつが何でそこまでの実力者になれたか分かるか?」

「……諦めなかった、からですか?」

「そうだ、負けた悔しさを糧にして次に進んだんだ。でも何よりも、そいつはデュエルを楽しんでたんだ」

「楽しむ?」

 

そう、まるで十代のようにデュエルを楽しんでた。むしろ、あいつの方が楽しんでたな。どんな苦境に立たされようとも自分のデッキと運を信じて突き進んでたな。……今の俺と大違いだな。

 

「デュエルを楽しめ、ゆま。勝つことも時には必要だ。だが、何よりも楽しむこと、これが大事なんだ。勝つためにデュエルをする、そんなデュエリストにはなってほしくないんだ」

「……はい」

「負けて落ち込むのもいい、それで悩むのもいい。それを乗り切ってデュエリストはまた強くなるんだ。あのデュエルキングと呼ばれたデュエリストだって、負けを乗り越えて強くなっていったんだぞ? だから、6連敗なんか気にするな。そんなの気にせず、自分のデッキを信じて、デュエルを楽しめ。それで突き進め、そうすればデッキが勝利という結果で応えてくれる」

「……コナミさん」

 

ゆまが雷にでも打たれたかのような衝撃を受けた顔をして俺を見てくる。

アテムとデュエルしている時は自分のヒーローが出る度に喜んでたから楽しむということはできてるようだけど、言ってやった方がさらにいい結果に繋がると思って言ったけど……大成功かな。

 

「私、もっとデュエルを楽しみます! 最近勝ち負けにばっかり囚われてました……もっと自分のヒーローさんを信じます!」

「おう、その意気だ。……さて、俺はおさらばするかな、デュエルは終わったし」

 

最後にゆまの髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。これでゆまが、さらにワンランク上のデュエリストになったら俺としたら喜ばしいな。

と、俺は退散してもいいよな。面接は一通り終わったんだし。

 

「あー、武藤コナミさん。あなたの面接結果は明日電話で連絡するので、今日はお帰り頂いて結構です」

「おっ、分かりましたー」

 

俺の面接を担当してくれていた面接官が俺に言ってくる。

まあ、デュエルの内容も問題ないし、面接の方もちゃんと答えれたし多分受かるだろ。

 

「そいじゃゆま。こっからも授業やら頑張れよ」

「はいっ! ありがとうございました!」

 

ゆまが頭を下げながらお礼を言ってくるが……大したことはしてないよな。今の俺が言って良いものじゃないアドバイスだし。

さて、退散だ。あの教頭も何やら俺を睨んでるし。

 

『むぅ、今回は私の出番がなかった』

『仕方ないだろ、マナを引けなかったんだから』

『あーあー、ヒーローと戦うの十代君の時振りだから戦いたかったのに』

「我が儘言うなよなー。さすがのアテムもカードを好きには引けないぞ」

『……まあな』

 

え、なんだよアテムさん今の間は。まさか引けるのか!?

ま、まさかなぁ……戦いの儀でマハードを引くのを予想してたとかそんなの知らない忘れた。

アテムとマナとぐだぐだ話しながら、俺はアカデミアから出て行った……次に来るのは、教師としてかな。

 

「うふふ……あのボウヤ、面白いわね」

「っ!?」

『んー? コナミどうしたの?』

「いや……何か寒気が。気のせいかな」

 

いきなりどこかから妖しい視線を感じて体がブルッと震えた。

なんだこの嫌な予感は……何事もなければいいんだが。

 

『こういうときのコナミは必ずフラグ回収するけどね』

「やかましいわ!」

 

茶目っ気たっぷりにマナが横ピースのポーズつきで言ってくるのを一蹴する。

まったく、変なこと言いやがって。

けど昔からこういうときはいいことないからなぁ……いやいや、この考えがよくないことをもたらすんだ。

もっとポジティブにいかなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふいー……あれ? このD・ホイールは」

『この赤い色……遊星のじゃないか?』

 

アカデミアから帰ってきてガレージに入ると、隅っこの方にひっそりと一台のホイールが止まってるのが見えた。

アテムの言うとおり、あれは遊星のだな。俺のいるとこは教えたから来たのか?

 

「とりあえず部屋に行くかな。鍵開けてるから中にいるだろ」

 

ホイールを止めて、俺の部屋へと向かう。遊星のホイールがあるのに肝心の人がいないとなると、部屋番まで教えといたから入ってる可能性もあるな。

 

「たでーまー」

「……帰ったか、コナミ」

「おう、やっぱりいたな」

 

ドアを開けると、奥から足音と共に一人の男が来る。まあ遊星なんだけど。

 

「昨日は大丈夫だったか?」

「俺はな、遊星こそデュエルは大丈夫だったか?」

「ああ、しっかり倒した。だが、あの後俺は軽く事故を起こして、とある双子の家に匿ってもらっていた」

「おいおい、事故なんて珍しいな。で、元気になったから俺のとこに来たってとこか」

 

遊星のライディングテクニックはお世辞抜きに巧い。多分チーム・サティスファクションの中では安定感は一番だった。その遊星が事故るなんてな。

まあ元気そうな様子を見るに、一日休んで体も問題ないからその双子のとこを抜け出してここに来たってとこか。あっ、抜け出したとは限らないけど。

 

「そうだ。それと、俺は今度行われる……この大会に出る」

 

遊星がジャケットの内ポケットをガサゴソと探り、一枚の紙を取り出した。招待状ってとこかな。

というか今度行われる大会って……。

 

「まさか遊星、フォーチュンカップか?」

「その大会だ。治安維持局の副長官、イェーガーという奴が今日の夜中に俺にこれと、この写真を渡してきた」

 

招待状の下にあるもう一枚の紙、それは写真だった。

写ってるのは――

 

「ラリーたちか。これはつまり、出なければこいつらがどうなっても知らんぞと」

「ああ、皆は治安維持局に人質にとられた。俺はラリーたちを救うために、この大会に出る」

 

先ほどから俺と遊星の言うラリーとは……あとはタカやナーブって奴らもいるんだけど。

とりあえずこいつらは、サテライトでの遊星の仲間だ。俺もそれなりに仲はいい……と思ってる。

その仲間たちが拉致られた……かはわからんが何かあるとなれば、仲間思いの遊星が見捨てれるわけはないか。

 

「そういや、決勝まで行けばジャックとデュエルか」

「……」

「あいつから、“あの”カードを取り返すチャンスだな」

 

現在のキングことジャック・アトラス。こいつは、昔はチーム・サティスファクションの仲間だ。

だが、ある日に遊星の持つエースカード―スターダスト・ドラゴン―を奪い、シティへと出た。

元々遊星がシティにきたのもあいつからそのカードを取り返すためだ。

 

「いや、ジャックからスターダストはもう返された」

「は?」

「今朝俺の所に来て、俺に返してきた。スターダストと共に、俺に決勝まで勝ちあがれということだろう」

「なるほどねぇ……」

 

ジャックからしたら、エースを持たない遊星を倒しても価値はないということか。

そして、エースを持つ遊星を倒したときこそ、真のキングになれるとでも思ってるのか。

まあジャックからしたら最大のライバルの遊星を倒してこそか。

 

「なら遊星、スターダストと一緒に決勝でジャックを倒して、治安維持局とジャックを後悔させてやれ」

「ああ! それでコナミ、お前はこれからどうするんだ?」

 

遊星が話を変えて、俺の予定を聞いてくる。

どうするかなぁ……俺、というかアテムはフォーチュンカップに出たいが、遊星が出るとなると話は別だな。どちらが勝つかはわからないがアテムが勝ったら何かヤバい気がする……これからのこの街の存続に関わるぐらいのヤバさを感じる、俺のこういう勘は当たるんだよなぁ。

なら俺がやることは今のところないか……。

 

「とりあえずは仕事先も決まりそうだし、働くかな。そいで、遊星のデュエルでも見に行くよ」

「そうか……俺は今から、ダイモンエリアというところへ、こっちで匿ってもらってる奴と一緒に行く」

「ダイモンエリアー? どこだそれ」

「サテライトとシティを繋ぐ船がでてる場所だ。俺の仲間の雑賀という奴が、そこにいる奴にその船に乗るアポを取りに行く。それに俺もついていくんだ」

 

ちょっと待てよ、雑賀っていうと……確か何でも屋って言われてる奴の名前じゃないか? サテライトにいる時にシティから来た奴が言ってたはずだ。

その何でも屋を味方にするなんて、さすがは遊星だな。

 

「よし、俺もそれについて行っていいか?」

「構わないが……なら、今すぐ出るぞ」

「問題なしだ、どうせ今日はやることなかったんだ」

 

「なら出発しよう」という遊星と共に、部屋を出てガレージへと向かう。

ダイモンエリアか……サテライトと繋ぐってことはマーカーつきのサテライトには行きたくないみたいな連中がうじゃうじゃいるんだろうな。

まあリアルファイトになれば負けることはないし、変な事態にはならないだろう。

 

「んじゃ、案内任せたぜ」

「ああ、だがまずは、雑賀のいるところに行く」

「了解」

 

ホイールを発進させた遊星に続いて、俺もホイールを発進させる。

ダイモンエリア……あれ? そういやなんたらの魔女が出るのって……。

 




ということで、次回は原作キャラ登場フラグ及びタッグフォースからもまた1人キャラがでます…というかこの話で喋りだけ登場しましたが。
途中のコナミのデュエルの話は中々上手く書けず少ししつこくなりましたが…コナミはデュエルは楽しんでやるのが信条だってということです。また途中の某凡人のデュエルについては作者の勝手な見解ですので。


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黒薔薇の魔女と決闘竜

また間が空いてしまいましたが……今回は黒薔薇の魔女の某あのキャラの登場です。


「ここがダイモンエリアかぁ」

 

遊星とその仲間という何でも屋と呼ばれる雑賀、後は遊星がセキュリティに捕まってるときに収監所で出会った氷室と矢薙のじいさんと共にダイモンエリアへとやってきた。

けど、周りも見ればマーカー付きの見るからに荒くれ者という連中がデュエルをしたり喧嘩したりと荒れ放題だ。

どうやら雑賀は、きっちりサテライト行きの船に乗る話をつけたらしく、現在俺たちはこの場所をうろうろとしている。

 

「……ん?」

「……お?」

 

遊星がいきなり立ち止まる。

すぐ先にデュエルをしてる奴らがいるらしく、そいつらを取り囲むように観衆がわんさかといる。

そして観衆の左側を見た遊星、右側を見た俺が声をあげる。

遊星が見てるほうには緑色の髪をした少年とメガネをかけた少年。

そして俺の見る方にいる、あの服装は……アカデミア生じゃないか、しかも女の子二人組み。こんなとこに来たらダメだろどう考えても。

 

「ゆ、雪乃さぁん……こんなところ来たら危ないですよぉ」

「うふふ、今話題の黒薔薇の魔女、見てみたいじゃない」

 

一人は紫っぽい髪の女の子。なんか大人っぽい見た目をしてるな。

そしてもう一人は……栗色の髪でー、ほんわかオーラを出しててー?

……って。

 

「ゆまじゃねぇかぁぁぁぁ!!!」

「はうっ!?」

 

女の子2人組の元へと走って行き、ゆまの肩を掴む。

まさかこんなとこにゆまがいるわけないと頭からゆまの可能性を消していたが、どう見てもゆまだ。

全く、こんなとこにいるなんてな。

 

「ったく、こんなとこで何してんだ?」

「あわわ、コナミさん!?」

「あら、あなた確か……」

 

っ!? な、なんだ今一瞬走った寒気は。

この紫髪の女の子に見られた瞬間走ったが……気のせいかね。

 

「お前は初対面だよな。今度からほぼ間違いなく教師としてデュエル実技を教える、コナミだ。んで、アカデミア生ともあろうお二人が、こんなところに何の用だ?」

「コナミね……お姉さんは藤原雪乃よ。よろしくねボウヤ」

「あうぅ……あの、今ここで話題の黒薔薇の魔女という人を探しに来たんです」

 

ボウヤておい。生きた年数だけなら俺はもうクソジジイだぞおらぁ……はぁ。

さて、黒薔薇の魔女ねぇ。昨日新聞で読んだだけだが……。

確かこのダイモンエリアにたまに出てきて、デュエルした相手を傷つけるとかいう奴だったな。

こんなところに現れる奴が精霊の力を使うのか、それか闇のデュエルをしてるのか……アテムとデッキ作りながら息抜きに喋ってたな。

まあそれはおいといて。

 

「そんなことアカデミアの生徒が、それも女の子がしたらダメだろ……って言うところだろうが、こういうとこから色んな経験をして強くなるんだ。危険は避けながら行動するんだぞー」

「はいっ!」

「ふふっ、お姉さんの魅力に周りの男は群がるから危険はやってくるのよ」

「お、おう」

 

なんだこの子は……自分に自信があるのか? まあバランスのいい体に顔も美人で妖艶なフェロモン的なのでてるし……初対面の孔雀舞的な。

 

「ま、魔女だぁぁ!」

「えっ!?」

「魔女が出たの!?」

 

いきなり、男の声が響き渡る。

今の焦ったような声に、すぐ近くからは風圧も感じる。

どうやら、本当に出たようだな。たまにしかでないのに今日出るなんて、俺も運がいいのか悪いのか。

 

「ゆま、雪乃! お前らは危ないからここにいてろ!」

「こ、コナミさん!?」

 

ゆまと雪乃をおいて、この風圧の発生源のほうへと走る。

 

「遊星!」

「コナミか」

 

少し走ると、どうやらデュエルをしてるらしく観衆が群れていて、男とフードを被って顔には変な仮面を被った奴が戦っている。観衆の中には遊星たちもいた。

 

「っておい遊星! お前腕が光ってるぞ!?」

「これは――」

「シンクロ召喚!」

 

仮面女が何らかのモンスターを出す。声からやはり女であることがわかるな。

そして、モンスターがでる反動か、地面にひびが入り辺りの建物も軋みだす。おまけに風もさっきより強くなっている。

何を出したか見ようにも、魔女の辺りは砂埃で覆われていて肝心のモンスターが見えない。

 

「うわぁぁ! 逃げろぉぉ!」

「お、おいお前ら待て!」

「うおっ!? 棘か!?」

 

恐怖に飲まれて観衆のほとんどが逃げ出していく。

さらに地面が割れて、大量の太い棘が襲ってくる。

あぶねぇな……俺や遊星ならうまくかわせるが矢薙のじいさんなんか――やっぱ転んでるし。

 

「コナミさん!」

「私たちをおいていくなんてボウヤも罪ね」

「なっ!? お前らあっちにいろって言っただろ!」

「ぐっ!?」

「あんちゃん!」

 

おいてきたはずのゆまと雪乃がすぐ傍に来てることに驚きを隠せない。チッ、咆哮が聞こえてくるから恐らく魔女のモンスターはドラゴンだ。砂埃も晴れてきてもう姿もシルエットは見えてきた、やはりドラゴン系のモンスター。

あんなのが攻撃したら、ここにいる全員がどうなるか……。なのにこの2人までくるなんて。

この2人をどうするかと考えようとしたとき、遊星が片腕を抑えてうずくまる。さっきの光ってたとこが痛むのか?

 

「これは……!」

「痣か?」

「これがシグナーの印だよ、龍の痣なんだ」

「おいおい、遊星の腕に変なのができてるじゃないかよ」

 

遊星の腕に、妙な形をした赤い痣が浮かんでいる。矢薙のじいさんはシグナーとか言ってるが……なにかあるってことか?

 

「くっ!」

「おい遊星!?」

 

いきなり遊星が魔女のいるほうへと走っていく。痛そうにうずくまってたくせにどうしたっていうんだ?

遊星の後を追って俺たちも走る。

 

「だからお前らはあっちにいろって!」

「こうなったらどこにいても危ないですよぉ!」

「そうよ、それならお姉さんたちを守ってみなさいボウヤ」

 

ったく、この2人は……まああちこちに棘があるから危険と言えば危険か。

 

「……っ! お前も……」

 

ついに砂埃が晴れて、再び魔女の姿がくっきり見える。紅色っぽい髪の毛がフードの隙間から見える。

仮面のせいで表情は見えないが、遊星の腕の痣に視点が動くとギリギリ聞き取れるぐらいの声で何かを言った。

 

「お前も……?」

「お、おい遊星」

 

遊星がフラフラと魔女のほうに歩いていく。

あんな無防備に近づいたら危険だろ!

 

「忌むべき印だ!」

「なっ!?」

 

魔女の上を飛んでいたドラゴンが、口から炎を吐き出してくる。

あんなの食らったら死ぬじゃないか……くそっ!

 

「頼む出てくれよ――《月華竜 ブラック・ローズ》!」

 

魔法や罠を探してる暇はない、それにあの炎には精霊の力のような不思議なパワーを感じる。

それに対抗するには一か八か、ディスクを展開させて一枚のシンクロモンスターをセットする。

モンスターカードを使うのは、カードが見えなくなった時からだからもう十何年ぶりだが――

 

「なんだこのドラゴンは……!」

「出てくれたか!」

 

炎を遮るようにその進む先に現れた赤を基調とした色のドラゴン。

まさか、出てくれるなんてな……これも俺が変わってきたからだろうか。

 

「久しぶりだが頼んだぜ! ローズ・レクイエム!」

 

俺の思いに応えてくれているのか、小さく吼えてブラックローズが魔女のドラゴンと同じように口から炎を吐く。

拮抗した力がぶつかり合い、その瞬間にその力は爆発する。

 

「くっ……!」

「2人とも掴まってろよ!」

 

その衝撃で、凄まじい風圧が襲ってくる。

俺の傍にいたゆまと雪乃を抱きよせ、俺が2人を庇うように踏ん張る。

こんな風圧、精霊の力がないと耐えられないな……!

 

「……終わったか」

「っつぅ~~……2人とも大丈夫か?」

「は、はい……あぅ」

「抱き寄せるなんて大胆ね……少しドキドキしちゃったわ」

「あっと、悪いな」

 

2人を抱き寄せてた腕を放す。緊急だったから仕方ないよな、うん、決して邪な気持ちなんかないし。

 

「あれ? いないぞさっきの」

「姿を消したか……」

 

再び舞い上がった砂埃も晴れて、辺りを見渡すとさっきまでいた魔女は消えていた。

さて、俺ら3人は大丈夫だったが他の奴らは……。

 

「コナミ、無事だったか」

「ああ、他の皆も大丈夫そうだな」

 

遊星が声をかけてきて無事だとわかり、すぐ近くには雑賀、氷室、じいさん、少年二人と全員揃っている。

なんとか全員無傷だったか。

 

「痣が……」

「消えてる!?」

「なんだってー!? もったいない!」

「あの魔女にも、痣がある」

「なにっ!?」

 

……話についてけない。一体何なんだ痣やらシグナーやら。

遊星の奴変なことに巻き込まれてるのか?

 

「俺の痣を見たとき、お前も、と言っていた」

「あー、言ってたな。あれはそういう意味か」

「そんなの聞こえたんですか?」

「2人ともすげぇ……」

 

え、緑髪少年よ。デュエリストならあれぐらいは聞き取れないとだろ。

というか誰だこの2人は……まあ後で聞けばいいか。

 

「それよりもあんちゃん!」

「うん? どうしたじいさん」

「さっきのドラゴン! ありゃなんだい!」

「そうだコナミ。あんなカード、見たことがない」

「あー、あれかぁ……」

 

どう説明するかなぁ。

実はこのカードは、ペガサスが俺にくれた世界に一枚しかないカードだ。

シンクロ召喚。この新たな召喚方法を考えたのはペガサスと遊星のお父さんの不動博士って人だ。だが、元はといえばシンクロのきっかけとなったのは、俺のある発言なのだ。まあそれはおいといて。

そしてシンクロ召喚が段々と形になってきて、ペガサスはある12枚のシンクロモンスターのカードを作った。

遊星の持つ《スターダスト・ドラゴン》、キングであるジャックの持つ《レッド・デーモンズ・ドラゴン》、そして所有者不明の《ブラック・ローズ・ドラゴン》・《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》・《パワー・ツール・ドラゴン》・《ブラックフェザー・ドラゴン》。まずはこの6枚。この6枚は、ペガサス曰く奇跡のカードらしい。どんなに汚れても気づけば綺麗になるし、折れてもすぐに直ってると……「まるで、いつか正しい者の手に渡るのを待っているかのようデース」とか言ってたな。

次に、残りの6枚。これは全て俺が持っている。ペガサスが「コナミボーイのおかげでシンクロは生まれました。この6枚は、先ほどの6枚と呼応するように作ったカード……私の直感が、あなたに持たせるように言っていマース」とか言ってくれた。

それぞれの名前は、《閃光竜 スターダスト》・《閻魔竜 レッド・デーモン》・《月華竜 ブラック・ローズ》・《妖精竜 エンシェント》・《機械竜 パワー・ツール》・《玄翼竜 ブラック・フェザー》。物の見事に最初の6体と呼応している。

そして、最初の6枚なんだが、これはペガサスがどこかへと流した。カードというのはデュエリストに導かれるものと言って世界のどこかに撒いたのだ。

とまあこんな長い説明はしたかないから……。

 

「昔外国のでかい大会に出た俺の父親が優勝商品にもらったのを頂戴した」

「……そうか」

 

俺の説明に、少し納得いかなそうな顔をした遊星だが今は深く聞くつもりはないのか、それっきり黙って腕を組んでいる。

一瞬沈黙になったと思いきや、さっきから正体不明の少年の一人、緑髪の少年が元気な声で話しかけてくる。

 

「コナミって言うんだ! 俺は龍亜! こっちは友達の天兵!」

「よ、よろしくお願いします」

「おう、よろしくなー。俺はコナミだ」

 

龍亜に天兵か、覚えとかないとな。

さてと、魔女も消えたしさっさと帰るか。この2人もこんな所にいつまでもいさせられない。

 

「じゃあ遊星。俺はこいつらを連れて帰る。明後日の大会頑張れよ、客席から応援してるわ」

「ああ、任せておけ」

 

遊星と軽く頷き合って、ゆまと雪乃の方を向く。

ったく、こいつらは……こんなとこに来るなんて今思うと大問題じゃないかよ、俺は別にいいけど。

 

「ほら2人とも、さっさと帰るぞー。明日も学校だろ?」

「はい……コナミさんさっきのモンスターすごかったですよっ!」

「うふふ……《ブラック・マジシャン》に加えて、あんな不思議なドラゴンまで。ボウヤのこと、もっと知りたくなったわ」

「一端の学生がそんな変な言い回しすんな。ほれいくぞー」

 

黒薔薇の魔女。たまに現れるというそいつと出会ったこのエリアでの出来事は、仲間たちには大した被害もなく終わった。

ただ1つ怖いのは、雪乃の俺への視線が何とも言えない恐怖心と震えを与えてくるようになったということだ。

 

「ふふっ……」

「……うぅ」

「コナミさん?」

 

……ものすごく嫌な予感がする。




作中登場した閃光竜スターダストの『せん』及び閻魔竜レッドデーモンズの『えん』は変換できないため上記の漢字にさせていただきます。
またシンクロ召喚の誕生した経緯はこの作品ではコナミの言ったようになっていますのでご了承ください。


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闇の力の襲来

お久しぶりです、長い間更新をストップしていて申し訳ありませんでした。また、ちまちまと更新していきたいと思います。
コメントやメッセージ等で応援してくれた方々、返信はしてませんがすべて読ませてもらってます、ありがとうございます。


「いいかお前らー。アカデミア生の座席はここだからなー、見にくいからって他の席に行くなよー。見つけた奴から全員ハイトマンの隣または傍に座らせるからな」

「えぇ!?」

 

こいつら驚きすぎだろ……ったく、移動する気満々だったな。しかも超嫌がってるし、教頭嫌われすぎだろ。

さて、現在の場所はスタジアム。今日はフォーチュンカップの日だ。そして俺はアカデミアの教師として、生徒を引き連れ観客席にいる。

あの黒薔薇の魔女との次の日、見事に教師として採用。ゆまの言ってた通り、デュエル実技の担当になり、非常勤教師として週3でアカデミアで働くこととなった。そして担任のいなくなったというゆまや雪乃にツァンのクラスに、今日だけは担任としてなっている。

デュエルアカデミアはさすがデュエルの学校なだけあって、こんな大きな大会の日には校外学習の感覚で観戦しにくるらしい。強者のデュエルを見ることは自分の実力を上げることに繋がるとか何やらで。

その結果、俺はこのクラスを引きつれアカデミア生用の座席に彼らを座らせている。彼らが好き勝手しないようにの監視役だ。

 

「まずは一回戦。龍可って女の子とボマーって人ですよっ!」

「龍可? なんかそれっぽい名前聞いた気が……」

 

全員を見渡せるように生徒たちの一番上の席に座っている俺の横には、ゆま。教師なり立ての俺に色々とアドバイスをしてくれている。

しかし龍可ねぇ……龍亜によく似た名前だな。

 

「コナミ先生」

「ん? お前は確か……委員長の原麗華だっけ?」

「はい。先ほどから、藤原雪乃さんの姿が見えていません」

「雪乃が?」

 

ったく、あの無駄にフェロモン放出女生徒め。こんな時にまで男漁りか?

 

『あっ、雪乃ちゃんならさっきあっちに行ってるのを見たよー』

 

マナがひょっこり現れて雪乃が行ったという方向を指差している。あっちの階段を登ったら表にでるしか行くとこないはずなんだが。

 

「……わかった。じゃあ原、こいつらのこと見ててくれ。その辺を探してくるよ」

「分かりました」

 

マナの指差すほうへと、俺は向かった。生徒たちが何かしでかすかもだが……さっきの脅しがあるから大丈夫だろう。

ったく、あいつどこに行きやがったんだ?

 

「うーん……原さん、コナミさんが心配なので私もついていってきますね!」

「えっ、ちょっとゆまさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちか?」

『うん。雪乃ちゃんの気配はこっちの方かなぁ』

「おいおい、何だよその頼りない言い方は」

 

結局スタジアムを出て辺りをプラプラして5分ほど。雪乃の姿は見当たらず、マナの力を借りて雪乃のことを探している。

ってかこっちの方にあるのは公園ぐらいじゃないのか?

 

『あっ、いたよー』

「お? 確かにあの後ろ姿は雪乃だな。ゆきのー」

「……」

 

俺が呼ぶと、雪乃はゆっくりと俺のほうを向いた。

 

「っ!?」

 

だが、どう見てもいつもとは違う。頬のとこに濃い紫色のマーカーのようなものが入っていて、目の白目の部分が黒くなり、瞳が黄色くなっている。

それにオーラもいつもと違う……これは、どういうことだ?

 

『コナミ、雪乃ちゃんから不吉な力を感じるよ』

「ああ、いつもの雪乃とはまったく違うぜ」

「あっ! コナミさーん! そんなとこにいたんですねぇ!」

「ゆ、ゆま!?」

 

向かい合う俺と雪乃。その雪乃の背後、俺の視線の先からとことこと歩いてくるゆま。

まずい、こんな何か危険な香りがする雪乃に、あいつを近づけるわけにはいかねぇ。

 

「……!」

「なにっ!?」

 

突然、俺たち三人を包むように青い炎が起こる。

さらにゆまには黒い霧のようなのが襲い掛かりその体を拘束している。

なんだこの炎は……しかも雪乃にも変化がおきてやがる。

 

「おいおい雪乃。いつからお前は腕に光るタトゥーを入れるようになったんだ?」

「デュエルしましょうボウヤ」

「デュエル?」

 

ずっと無言だから話さないのかと思いきやいつものように話してくる。だが、その声音にはいつもの妖艶さがない。

 

「悪いが、こんな変なとこでデュエルをするつもりはないね」

「ボウヤに拒否権はないのよ?」

「えっ……!?」

 

ゆまの体がいきなり動かされ、その体が炎の真上にと持っていかれている。下から器用にさっきの霧が支えている。

 

「受けなきゃ、ゆまを焼き殺すってことか?」

「物分りがよくて助かるわ。さあ、どうするのかしら?」

「……チッ、仕方ないか。待ってろよゆま、すぐに助けてやる!」

「は、はい……」

 

雪乃から少し離れて、デュエルをするのに十分なスペースをとる。

あの雪乃がこんなことをするとは思えない。あの目とこの炎から考えると、何か別の力に操られていると考えていいだろう。

デュエルで倒せば元に戻るはず……デュエルの力ならそれができるはずだ。

 

「さあやろうぜ雪乃。その気味悪いマーカーと腕の光、取り除いてやるぜ!」

「うふふ、デュエルよ」

 

雪乃がデュエルディスクを展開させていく。

それを見ながら、俺も自分の意識を沈めていく……。

 

「お前に取り付くその闇、オレが消し去るぜ! デュエル!」

 

デュエルは任せたぞアテム。雪乃とゆまを助けてくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレの先攻、ドロー! 手札から《磁石の戦士α》を守備表示で召喚!」

 

《磁石の戦士α》DEF:1700

 

「オレはこれで、ターンを終了する」

 

藤原雪乃。どんなデュエルをするかは知らないが、その実力はアカデミアでも常に上位に入っているらしい。そんな女のデュエルだ。いくら操られていようと油断はできないぜ。・

 

「それだけなのねボウヤ、私のターン」

 

雪乃がデッキからカードを一枚引く。さあ、お前のデッキはどういうのだ?

 

「いい手札だわ……手札から《高等儀式術》を発動。このカードは、儀式召喚に必要なリリースに、デッキの通常モンスターを使えるわ。デッキから《ネオバグ》2体を墓地へ」

「レベルの合計は8か……なにがくる」

「出番よ、《終焉の王 デミス》!」

『デミスとかマジかよおい……』

 

雪乃のフィールドに巨大な男の姿が現れる。

《終焉の王 デミス》……確かあのカードの効果は、かなりの恐ろしさのはずだ。

 

「デミスの効果を発動。ライフを2000ポイント支払い、このカード以外の場のカードを全て破壊するわ」

「クッ、ライフ2000を必要とするとはいえ、フィールドをリセットする効果だったな……」

「あわわ、これは雪乃さんの必勝パターンですよぉ!」

 

雪乃LP:4000→2000

 

「ふふっ、さらに《甲虫装甲騎士(インセクトナイト)》を攻撃表示で召喚するわ」

 

《甲虫装甲騎士》ATK:1900

 

攻撃力2400のデミスに1900のインセクトナイトか。

なるほどな、雪乃のデッキはデミスによるフィールド一掃からもう一体のモンスターによるワンターンキルか。

この時代には昔に比べて儀式召喚に必要なカードを集めるのは容易いようだしな。

 

「これであなたは負け……だけど、ボウヤには《冥府の使者ゴーズ》がいたわね。もう一枚出しておこうかしら」

「なに、まだ手札に何かいるというのか!?」

「ふふふ。墓地の昆虫族である《ネオバグ》2体を除外して、《デビルドーザー》を特殊召喚!」

 

《デビルドーザー》というと……確か今雪乃がやったように墓地の昆虫族2体を除外して出せるカードだったな。さっきの《高等儀式術》と組み合わせれば、一気にモンスターを展開できるということか。

だが、ゴーズを警戒してのプレイングのようだが……今のオレの手札にはないな。

 

「バトルフェイズよ。まずはインセクトナイトで直接攻撃」

「その直接攻撃の時に、オレの手札のこのカードが効果を発動するぜ! 《バトルフェーダー》!」

「そのモンスターは……?」

「ナイスですコナミさん!」

 

オレのフィールドに現れたモンスターがインセクトナイトの攻撃を防いでくれる。

こいつがいなかったら、ワンターンキルされていたのか……フッ、アカデミア上位の実力は伊達じゃないってことだな。

 

「このカードは、相手からの直接攻撃を受けるときに手札から特殊召喚できる。そして、このターンの雪乃のバトルフェイズは終了する!」

「うふふ、焦らすんだから……私はターンエンドよ」

『あっぶねぇな……こんな詰め込みみたいな手札によくピン刺しのそいつがいたな』

「助かったぜ……オレのターン、ドロー!」

 

ふぅ、今の雪乃のターンは軽く凌げたが、次もそうとは限らない。

しかも今のあいつの場は攻撃力が高いモンスターが3体。次のターンをかわすカードは、今のオレの手札にはない。その代わり、コナミの言うように仕組んだんじゃないかと言うぐらいマハードやマナのサポートカードが豊富にある。

ならやることは1つ……。

 

「このターンで、お前を倒す!」

「あら、そんな強気なことを言って……うふふ、できるものならやってみなさい」

「ああ! まずは手札から《増援》を発動し、デッキからレベル4以下の戦士族、《E・HERO プリズマー》を手札に加えそのまま召喚する!」

 

《E・HERO プリズマー》ATK:1700

 

ゆまからもらったこのカード……また、ゆまを救うために力を借りるぜ!

 

「オレはエクストラデッキの《呪符竜(アミュレット・ドラゴン)》を選択し、このカードに記されてる融合素材モンスターの、《ブラック・マジシャン》を墓地へ送り、プリズマーの名前は《ブラック・マジシャン》となる!」

「《ブラック・マジシャン》を墓地へ送るのが目的ね……!」

「そうだ、さらに手札からマジックカード《思い出のブランコ》を発動! 墓地の通常モンスター1体を特殊召喚する! 蘇れ、《ブラック・マジシャン》!」

「コナミさんのエースですよ!」

 

《ブラック・マジシャン》ATK:2500

 

オレのフィールドに降り立つマハード。残念ながら、今は精霊のマハードが宿ってないから単なるカードだが。

雪乃の場に伏せカードはない、まだまだ好きにやらせてもらうぜ。

 

「師である魔術師がいるとき、弟子がその姿を現す……魔法カード《師弟の絆》を発動! オレの場に《ブラック・マジシャン》が存在するとき、デッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を守備表示で特殊召喚する!」

 

《ブラック・マジシャン・ガール》DEF:1700

 

光の渦の中から、可愛らしいローブに身を包んだ魔術師、マナが現れる。

だが、まだデミスを倒せるカードは場にはない。

 

『王様ー、今の私たちじゃ雪乃ちゃんを倒せませんよー』

「ああ、だからこのカードを使うのさ。ドーマとの戦いを共に戦い、コナミとペガサスにより生まれ変わったこのカード――《ティマイオスの眼》を発動!」

「っぅ!? な、なにこの力は……!」

 

場に出たカードから、1体の巨大な竜が現れる。

その竜は、自らの存在を示すように大きな咆哮を轟かせる、その音に驚いたのか、雪乃に取り付いている何かが一瞬雪乃の体から出てきてその小さな姿を見せた。

あれは――

 

『蜘蛛、ですよ王様』

「蜘蛛? そいつが雪乃を操っているのか……《ティマイオスの眼》の効果! 俺の場の《ブラック・マジシャン》と名のついたモンスターを墓地へ送り、そのカード名が記されたモンスターを融合素材として使用されている融合モンスターを、エクストラデッキから特殊召喚する! 《ブラック・マジシャン・ガール》を墓地へ!」

 

光の粒子と化したマナ。その光が、ティマイオスの胴部分の所へと飛んでいく。

段々とその光は形を成していき、その姿を現す。

ティマイオスに跨って姿を見せたのは、《ブラック・マジシャン・ガール》。だがその着ているものが、いつもと違う。

 

「現れよ、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》!」

 

竜騎士。その名に相応しく、マナの着ているものは鎧となっている。手に持っていた杖は剣となり、ティマイオスに跨り鋭い眼光で雪乃の場を睨み付けている。

 

《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》ATK:2600

 

「竜騎士の……ブラックマジシャンガール……!?」

「このカードが、お前を倒す切り札だ!」

「ふふっ、お姉さんの《デビルドーザー》は攻撃力2800……ボウヤのカードたちじゃ敵わない、わ」

 

蜘蛛による力が弱まっているようだが、まだ力尽くで操ろうとしているのか、雪乃の息が乱れている。

待っていろ、もうすぐその洗脳は解いてやる。

さて、雪乃の言うとおり攻撃力では《デビルドーザー》には及ばない……だが。

 

「それはどうかな?」

「うふふ……何かしらその挑発的な言い方は」

「《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》は、オレの手札を一枚捨てることで、フィールドの表側表示のカード1枚を破壊する! 《デビルドーザー》は消え去るぜ!」

「そんな!?」

 

ティマイオスが《デビルドーザー》に向けて吼える。そして怯んだところへすかさずマナが斬りかかり、《デビルドーザー》をいとも簡単に切り裂いた。

これで、雪乃の場のモンスターたちは簡単に倒せるデミスとインセクトナイトのみ。

 

「さあ、これでオレのカードが総攻撃をすればお前の負けだ……バトル!」

 

オレの宣言に、マハード、マナ、プリズマーが戦闘に入る姿勢をとる。

 

「まずは《ブラック・マジシャン》でデミスを攻撃! ブラック・マジック!」

 

マハードが手を振りかざし念力のようなものを使ったのか、急にデミスが苦しみだし、場から姿を消した。

 

雪乃LP:2000→1900

 

「さらに《竜騎士 ブラック・マジシャン・ガール》でインセクトナイトを攻撃だ!」

「うぅっ!」

 

雪乃LP:1900→1200

 

ダメージを受けるにつれて、段々と雪乃の苦しみが強くなってきている。黒い光、恐らくはあいつに取り付く闇らしきものが体から溢れてきている。

 

「雪乃に取り付く闇よ、消え去れ! プリズマーでトドメのダイレクトアタック!」

「あああぁぁぁあっ!!」

 

雪乃LP:1200→0

 

『出たぞアテム!』

「ああ! 頼んだぜマナ!」

『はい! ブラック……バーニング!』

 

雪乃のライフが0になると共に、辺りを覆っていた炎は消えゆまも解放される。

さらに雪乃の腕の痣が消えてそこからさっき一瞬見えた蜘蛛が姿を現す。

精霊状態になったマナがその蜘蛛を、杖の先で潰した。

 

『そこは魔力でドーンとかじゃないんだな』

『そんなのしたらお師匠様に怒られるからね……うん、もうさっきの蜘蛛の力も消えたよ』

「ありがとうマナ……コナミ、バトンタッチだ」

『おう、サンキューアテム』

 

オレの意識を沈めて、コナミが表へと出る。

しかし、さっきの蜘蛛は一体……人を操る闇の力、まるでマリクの持っていた千年アイテムの力のようだ。

もしかしたら、オレたちの知らない所で強大な何かが動いてるのかもしれないな。

 

 




ということで、今回はアテムVS雪乃でした。
一体雪乃に何があったんだー(棒


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黒薔薇の魔女

「うーん……目立った外傷はなさそうだな」

「はい、足元は熱かったですけど、火傷とかがなくてよかったです」

 

気絶している雪乃をベンチに寝かせ……おんぶして運んだらなぜかゆまにすごい顔をして見られたんだがあれか、「ちゃっかり女子高生の体を堪能する変態さん」とでも思われたのだろうか。だとすれば激しく遺憾である。

で、雪乃は未だ気絶していて、その間にゆまの体に火傷や傷はできてないかなど調べる。まあ何ともなかったからよかった。熱を感じるだけで体に外傷を与えるほどの力はなかったとかか?

 

「けど、さっきの雪乃さんは何だったんでしょうか……?」

「さあな……ただ、嫌な予感がする」

「コナミさん……?」

 

あの闇の力、あんな小さな蜘蛛一匹に宿ってるだけなのに中々強力だった。あの力の本体となると、覇王の時の十代並みじゃないか。だが、あんなに闇の力は強いのに、ゆまや俺の体に傷やダメージが起きたりはしなかった。ならあの力は、見かけ倒しで中身はほぼない、弱い闇だったのかもしれない。

けど、そんな強いのといつか戦うことになると思うと……俺もデュエルをできるようにならないといけないかもしれないな。

 

「ん……」

「お? 目が覚めたか」

「雪乃さん? 大丈夫ですか?」

 

寝てた雪乃が少し動き、その目がゆっくり開いてくる。

きょろきょろと視線が動くが、俺とゆまを捉えると小さく口を動かした。

 

「ボウヤにゆまさん……ここは?」

「覚えてないんですか? さっきここで」

「なんだよ雪乃、忘れたのか? スタジアムの熱気でしんどくなったとか言って外に出て公園を少し歩いてたら、運悪くサッカーボールが頭に直撃して気を失ってたんだぞ」

 

ゆまにかぶせるように言う。まあ闇の力だなんだなんて、信じてもらえなさそうだしな。ここは誤魔化しておく。

 

「そう、だったの……確かに、少し頭が痛いわね」

「あ……そ、そうですよぉ!」

 

我ながら無理のある話だが、どうやら信じてもらえたようだな。

闇に操られていた後遺症か頭痛があった様で助かったな。ゆまも俺の考えに気づいてくれたのかうまく合わせてくれたし。

 

「おっと、もうだいぶ時間が経ってるじゃないか。ほれ、早くスタジアムに戻ってデュエルを見に行くぞー」

「ええ……あっ」

「おいおい、大丈夫か?」

 

時計を見れば、スタジアムを出てからかなり経ってる。中のデュエルも進んでることだろう。

俺に言われて、起き上がってベンチから立ち上がった雪乃だが、急に動いたせいかふらついて倒れそうになった。

それを抱きかかえるように支えたが……まだ体の調子が戻りきってないのか?

 

「よっと」

「えっ、ちょっとボウヤ!」

「ギャーギャー騒ぐなよー? どうせまだ体が言うこと利かないんだろ?」

「むぅ……」

 

少し強引にだが、雪乃をおんぶする。俗に言うお姫様抱っこの形のほうが楽なんだが、さすがにそんなのしたら周りからの視線で殺される。

というか、またゆまが俺を見ている……やめてください、変態じゃないんです。

 

「ボウヤにしては、上出来よ……」

「素直にありがとうって言えよなぁ」

 

雪乃から回される腕の力が少し強ま……え、ちょっ、これ首が絞まるから!

これ以上何か言えば絞め殺すということか、こえー。

 

「ほらほらコナミさん! 早く行かないとですよ!」

「おいおい、子供かお前は」

 

ゆまがいきなり俺の手をつかんだかと思うと、そのまま引いていく。まるで子供に引っ張られる父親のようだ。ならおぶられてる雪乃はその妹とか……?

片手を取られたはいえ、雪乃位なら軽いから片手で支えれるから問題はないんだが。

「えへへー」と笑うゆまに引っ張られるように、背中には雪乃の温もりを感じながら、今なお熱い戦いが繰り広げられているであろうスタジアムへと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「観客席に戻ってデュエルを見てみると、仲間の男が棘のような物で縛られて宙に浮かされていた」

「な、なんでソリッドヴィジョンなのにプレイヤーを縛れてるんですか!?」

 

どうやらちょうどキングであるジャックへの挑戦権をかけた決勝戦が行われているようだ。

片方は予想通り遊星。それに戦っているのは……女性か。おぉー中々の巨乳、明日香やマナに負けず劣らず、むしろトップじゃないかあれは?城之内と共に拝みたかったものである。

 

「むっ、コナミさん目が変なとこを見てますよぉ」

「うえっ? ああ、いやほら……遊星の対戦相手がどんなプレイヤーか見てただけだぞ、うん」

 

危ない危ない、さらにゆまからの評価が下がるところだった。しかしあんなに大胆に谷間をさらすなんて、何でデュエリストはあんなに大胆なのか。

 

「ボウヤも子供ねぇ……私の胸なら、いくらでも見せてあげるけど?」

「おいおい、生徒が教師を誘惑するんじゃないぞったく」

「釣れないわね……けれど、何で観客の人たちはこんなに脅えていたりブーイングを飛ばしているのかしら?」

 

そうなのだ。雪乃の言うとおり、さっきから観客が目に見えておかしい。脅えている人や元気に応援してる人がいるかと思えば「魔女は消えろー!」などブーイングの嵐でもある。

これはまさか……。

 

「魔女って……もしかして、あの人が黒薔薇の魔女かしら?」

「あの魔女がなんでこんなとこに……選ばれたものだけが出場されるのに呼ばれるなんて、何とも怪しいことで」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよぉ!」

 

ゆまに言われるんだが……所詮は観客の俺じゃあどうしようもない。それに遊星なら大丈夫だろ、棘に縛られて今目の前で地面に叩きつけられたが大丈夫だ、大丈夫なはずだ。

 

「十六夜アキ、か……黒薔薇の魔女って異名からはかけ離れた名前だな」

 

スタジアムにあるモニターには、戦っているデュエリストの名前とライフが表示されている。

十六夜アキ。どうやらそれが、黒薔薇の魔女の正体らしい。見た目はさっき言った通り巨乳だし目が少し釣り上ってて怖い印象を与えるが、どれを除けば美形だ。雰囲気的にも可愛いよりは綺麗といった感じか。

さてと、デュエルのほうに目を向ければ、さっきから少し変わり……遊星の場には《ジャンク・ウォリアー》がいるな。対する十六夜の場には《コピー・プラント》と《ダーク・ヴァージャー》がいて、永続トラップの《アイヴィ・シャックル》があって遊星のモンスターは全て植物族となってるな。

っと、どうやら十六夜がシンクロするようだな。

 

「シンクロ召喚! 咲き乱れよ、《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」

「で、出たわ! きっとあれが、黒薔薇の魔女のエースよ」

「あれが……っ!」

 

俺の腰のデッキホルダーの中でカードが暴れている。きっと、今十六夜の場に出たあのカードに反応してるんだろうな……俺の、月華竜が。

 

「《ブラック・ローズ・ドラゴン》で、《ジャンク・ウォリアー》を攻撃! ブラックローズフレア!」

「墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動! このカードを墓地から除外することで、《ジャンク・ウォリアー》の戦闘による破壊を無効にする!」

「だが、戦闘ダメージは発生する」

「リバースカード、《スピリット・フォース》! 俺への戦闘ダメージを、一度だけ0にする!」

 

ブラックローズドラゴンから発せられた紫色の炎がジャンクウォリアーを襲う。

だが、遊星が見事にそれをかわした……が、遊星の前に現れた障壁は炎を受け流してしまい、観客席のほうへと流れてくる。

チッ、よりによってなんで俺らアカデミアのほうにくるんだよ!

 

「マナ、いけるか?」

『私は攻撃力2000だよ!? 早く何か防御カード使おうよ!』

「だよなー、これでいいか」

 

適当に取り出したが、出てきたのは《ミスト・ボディ》。これをマナにつけといたらいいか。

 

『え、ちょっとコナミ!?』

「マナ、お前のことは忘れない……」

 

全ての炎をマナに受けてもらう。まあ装備カードのおかげで体が霧状になってるから問題ないだろ。

一瞬体が消えたかと思ったが、すぐに元通りになる。すげぇな、これもしかして最強の防御カードじゃないか。

と思えば霧を貫通してくるから炎はそのまま俺たちの方へ来てしまう。あらら、こりゃ駄目だな……スピリットバリアでダメージ0にしとくか、マナがいるから条件は満たしてるしな。

 

『いったぁ、絶対後で後悔させてやるからね!』

「お前の攻撃力が低いのが悪い、以上」

 

ズバッと言うと、怒ったマナが俺を殴ってくるが霧状の体では俺には当たらぬ、フハハハハハ!

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラップカード、《コズミック・ブラスト》! 俺の場のドラゴン族シンクロモンスターが場を離れたとき、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「今場を離れた《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力は2500、これが決まれば!」

「あのボウヤの勝ちね」

 

デュエルは進み、クライマックス、というかトドメだな。

遊星の《スターダスト・ドラゴン》が十六夜の《ブラック・ローズ・ドラゴン》のフィールドを全て破壊するとかいうリセット効果を発動したのを無効にした。そして遊星がトドメとなるトラップを、今発動させた。

 

十六夜LP:1900→0

 

「決まったな、遊星がキングであるジャックとの対決だ」

「すごいですよぉ!」

 

喜んでるゆまとハイタッチ……ん?

……鬱陶しいな、観客がブーイングを始めた。

 

「魔女は消えろ!」

「ざまぁみろ!!」

「……」

『酷い奴らだ。確かに十六夜はオレたちを危険な目に遭わせたが、デュエルの中身はすばらしいものだったぜ』

「ああ……それに、彼女はあの力をうまく使えていないようにも見えるぞ。人を傷つけるために使わなければもしかしたら……」

『あの男は……?』

 

アテムがデュエルリングを指差している。

誰かが十六夜の元へと近づいてる……誰だ、あの男は。

十六夜にコートをかけた辺り、知り合いだろうか。いや、デュエル中は狂ったかのような形相の十六夜アキが安心しきった表情で身をゆだねているあたり、かなり信頼されている人物なんだろうな。

 

「あの男、怪しいな。一筋縄じゃいかないって感じの中身をしてそうだ」

 

俺の直感がそう告げている。あの男、中々に曲者だろう。

まっ、今は何もできないんだし、今は遊星のジャック戦を楽しみにするか。

 

『コナミ、オレは決勝が始まるまで外をうろついてくる』

「お? 分かった……1時間ぐらいしたら始まるからな」

『ああ』

 

アテムがマナを連れて、表へと出ていく。

マナまで連れていくなんて、何かあるのかね?まあ今は、決勝を控えてワクワクして騒いでる生徒たちが何かしないように監視しておかないとな。

 



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コナミの過去

今回はコナミのデュエルできなくなった理由回です。
マナの口調が難しい……。


場所は、さっきまでオレと雪乃がデュエルをしていた公園。

今の姿は一般人には見えない透明な精霊の状態だが、ベンチにオレと《ブラック・マジシャン・ガール》の精霊、マナが座っている。

 

『マナ、そろそろ話してもいいんじゃないのか? 一体、コナミに何があったのか……』

『そうですよね……さっきの謎の闇の力も迫ってるかもしれないってなったら、コナミの力が必要だよね』

『ああ……コナミのデュエルの腕は、オレや海馬にも引けを取らないものだった。それに、普段はあんなふざけた奴だが、カード知識やカードを組み合わせたコンボの知識が豊富でデュエリストの性格や考えを読み取る力もあり、先を読むということに関しては、オレたちの中でも群を抜いていた』

『確かにね。デュエルアカデミアでデュエルしてる時も、相手が出したカードのちょっとした情報からすぐにどんなデッキか判断してうまく立ち回ってた』

 

「歴史に名前は残したくないからなぁ」なんて言って、バトルシティやKCグランプリなどの大きな大会には参加はするものの、本戦にはいかなかったりわざと負けたりと、デュエリストからしたら舐められていると取られる行動をよくしていたが、その実力は本物だ。あの海馬ですら、コナミの腕は認めていたからな。

そして、さっき雪乃を操っていた闇の力。蜘蛛が憑りついていたようだったが、あんな小さな蜘蛛でかなりの大きな闇を持っていた……近いうちに必ず、オレたちの脅威になるはずだ。そうなると、やはりコナミの力が必要だ。

そのためにも。

 

『マナ、話してくれ。コナミがデュエルをしなくなった、その理由を』

『分かった……。でも、真実は意外とあっさりしてるんだよ』

 

そう言って、マナは少し遠くを見ながらゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは、コナミが十代君との旅も終えて双六さんの店を継いで、それから数年ぐらい。

その頃のコナミは、店に来る子供たちにデュエルを教えたりしてたんだ。でも、デュエリストとしての本能が、強い人との戦いを求めてた。

そこでコナミは、毎晩プロデュエリストが大会をしてるスタジアムの出口に張り付いて、出て来るプロに戦いを挑んではあっさりと勝ってた。10連勝して勢いに乗ってる新人でも、安定した勝率のベテランでも、ランキング上位にいる人でも、そのすべてを、倒してた。それも、さっき言った通りあっさり。

相手が成す術なく勝ったり、展開されても次のターンでそれ以上に展開したり、私が見ててコナミが負けるんじゃないかって追い込まれてたのは見たことがなかった。

そんなのが続いてたからかな。コナミはデュエルを楽しめなくなってた。ただ強い人を求めてデュエルをつづける。でもやりがいがないからまたつまんなくなって……それがずっと続いてると、コナミの中にある考えが浮かんできたんだよ。

 

「闇のデュエリストとか操られた奴らは強かった。ならダークネスとかグールズとか、そういうのを復活させればもっと熱いデュエルができるんじゃないか? それに何より、真剣に戦える」

 

いつもみたいなふざけた感じじゃなくて、真剣にそう、私やお師匠様に言ってきた。

でもそういう人たちをまた復活なんてさせたらどうなるか。そんなの考えなくてもわかる。どれも世界が滅びるんじゃないかってなるような大事件に発展してもおかしくないことばっか、その元凶を復活なんてしたら大変なことになる。

だから私たち精霊はコナミを止めようとしたんだけど、全く止まらずに、ダークネス復活の方法を探してた。

だから私は、コナミの中に宿る精霊に協力を求めた。いつもはコナミの傍にいないで精霊界にいる、精霊界の王様――

 

「ふぅん、あのバカめ。俺様との勝率を五分の癖に何が強い奴がいないというのだ」

 

――《正義の味方 カイバーマン》に。

 

「でもカイバー君、コナミは本気だよ。あれじゃ、大変なことになる」

「あいつがデュエルを楽しまなくなった時から、こうなることは予想していた。この俺が、それの対策をしてないと思ったか?」

「じゃあ、何か考えてるの?」

「当然だ! あいつには、デュエルができている素晴らしさを身をもって思い知らせてやるのだ」

 

そう言ってカイバーマン……カイバー君は現実世界に出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《正義の味方 カイバーマン》……口調と名前といい海馬みたいな奴だな」

「それはそうだよ、海馬君が自分の遊園地のマスコットキャラとして作ったのをカード化したんだから」

「そうなのか。それで? カイバーマンは、どういう方法に出たんだ?」

「あ、えっとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界へと出たカイバー君は、寝てるコナミのとこへ出たんだ。コナミの精霊なんだから近くに出てくるのは当然だしね。

でも私は、カイバー君が何をするかなんて知らないから聞いた。

 

「コナミ寝てるけど……どうするの?」

「寝ていたのは予想外だが、デュエルをする手間が省けたわ。俺の計画は単純だ、コナミにカードを見えなくさせる」

「えっ、カードを!?」

 

カードを見せなくする。確かにそうすればデュエルはできなくなるけど……けどそれだと、別の意味でコナミがおかしくなるんじゃ。

コナミは出会う人のほとんどに「三度の飯よりデュエル」「デュエルがあれば他はいらないだろ」「デュエルバカ」みたいに言われるほどに、デュエルを愛してる。その愛情は精霊を私たちが身をもって知ってる。

そのコナミから、カードを、デュエルを奪うなんて。

 

「そうだ。そして、再び見えるようになる条件は二つ。一つがまたデュエルを楽しんですること。もう一つが、その力を誰かを守るときに、助けるときに使うことだ」

「なるほど……」

「だが当然、一つ目はいいが二つ目の条件は秘密だ。コナミの心に再びデュエルへの正しい想いの灯がともったとき、デュエリストとしてのコナミは帰ってくるのだ!」

 

あっさりと言ってるけど、そんな簡単に達成できるのかな。

やっぱり心配。今のコナミは狂ったかのようにダークネス復活の方法を探したり闇のデュエルのやり方なんてのいうを調べまくってる。それは、やりがいのあるデュエルがしたいから。そこからデュエルを取れば、逆効果もありえるんじゃないかって考えてしまう。

 

「そしてそれをやるやり方は、このカードたちを使う」

 

そういって取り出したのは、《催眠術》と《記憶破壊者》の二枚のカード。

……名前からして、やることがすぐに見えちゃった。

 

「一応聞くと……どうするのかな?」

「ふぅん、愚問だな小娘。まずは《催眠術》によりコナミに、デュエルを楽しめないとカードが見えないと思わせる。次に《記憶破壊者》を使い、この数日のコナミの記憶を消し去る。そうだな……この前の雑魚デュエリストを倒したとき以降を消しておけばいいだろう」

 

カイバー君が言った日は、コナミが闇落ち思考に入る前日のこと。確かにその日ならいいかな、コナミが変になることもなさそう。

けどそんな上手くいくのかな……いつもあるデュエルの過程をすっ飛ばしてると途端に不安になる。

 

「安心するがいい小娘。この俺の作戦に失敗などないわ! 《催眠術》発動!!」

「えっ!? ちょっとまだ心の準備ができてないよ!?」

「フハハハハハハハ!!」

 

話もまだ終わってないのに、持っていた《催眠術》のカードを頭上にかざすと、発動したのか光が起きて辺りを覆う。

響き渡るカイバー君の高笑いに、消え去らない不安を抱えたまま、結果はどうなるのか心配してた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、全部上手くいったんです。ただ色々ミスもあって、目覚めたコナミは元通りだったんですけど、その時はまだカードを見えなくなってるって素振りがなかったんです」

「なに? それだと、作戦は失敗なんじゃないのか?」

「ううん、成功してたよ。その日の夜、コナミはいつも通りデュエルを挑んだんです。そしてカードをディスクにセットすると――」

 

あの時のコナミの顔は今でも覚えてる。生きる希望を失ったような、自分のすべてを無くしたような。

 

「――ソリッドビジョンにその姿が出なかったんです」

「なるほどな……」

 

コナミには、手に持つカードたちは見えていた。それはカード名を宣言してプレイしてたから確か。でも、ディスクにセットしても、コナミはその姿を認識できなかった。

私や相手プレイヤーにはちゃんと見えてたから、ソリッドビジョンの故障じゃないのは確か。だけどコナミには全く見えてなかった。私やお師匠様とかの精霊は見えてたから、デュエルをするってなると見えなくなるみたい。

その日のデュエルは中断してコナミは部屋に帰った。それで、どうしていきなりカードが見えなくなったのか、その原因を考えてた。

 

「王様、何て言ったと思いますか? コナミ、自分にカードが見えなくなった原因として」

「そうだな……デュエルを楽しんでないから、罰が当たったのかもな。とかか?」

「すごい、正解です」

 

「デュエルを楽しまないで、自分が満足するためだけにデュエルをする。そんな俺に、精霊たちが見限って罰を与えたのかな」、コナミはそう言った。

さすがのコナミも、大好きなデュエルができなくなったのは堪えたみたい。それに隠してるつもりだろうけど、カードをセットしても反応がなかったっていうのはトラウマになってる。だから今、コナミはデュエルをすることを恐れてもいるはず。

 

「フッ、あいつの考えそうなことだからな。だからコナミは、デュエルを楽しみたいと、そう思ってるということか」

「たぶんね。コナミもどこかで分かってるんじゃないかな。デュエルを楽しめないと、また自分にはデュエルはできないって」

 

催眠術の影響か、それともコナミの直感なのか。わかんないけど、コナミは自分のしなきゃいけないことは分かってたんだ。でも、楽しもうにもほかの人のデュエルは胸躍らない。だから何もできないで時間だけが過ぎて……けどそこにアテムの復活。

コナミの気持ちも少しづつ変わってるかもしれない。この前のブラック・ローズを出せたのが一番の変化。魔法カードとかは使えたけど、モンスターカードだけはずっと出せなかった。なのにあの時、しっかりとコナミはその姿を見ていて、攻撃の命令を出した。

あの時のコナミは、みんなを守ろうっていう思いがあったから。カイバー君の出した二つの条件をクリアしてたんだ。ただ、すぐにブラック・ローズが消えたから、まだ完全に戻ってるってわけじゃないんだろうね。

でも、何もできないで先に進めなかったころと比べると大きな一歩だよ。このまま順調にいけば、きっとまたコナミは――

 

「――デュエルができるようになる、だろうな。そのためにも、オレがやることは一つだ」

「そうですね。王様がやることは、いつも通りデュエルをすることです。コナミはそのデュエルを通して、あの頃の熱い思いを取り戻してくれるはずだよ」

「ああ!」

 

王様が強く拳を握る。必ずコナミにデュエルを楽しませてみせる、そんな思いを込めたような、力強い拳。

結局コナミがデュエルできなくなったのは、私たちコナミの精霊のせい。けど、またコナミにはデュエルをしてもらいたい。今のデュエリスト達なら、コナミだって手ごたえのある勝負をできるはず。あの時みたいな考えにはならないだろうし、またなったとしても、今ならコナミには仲間がいてくれてる。あの頃にだってマスターに十代君とかはいたけど滅多に会わなかった。でも今は、王様がいる。それに遊星君やゆまちゃんだって。

皆がいれば大丈夫。だから、ずっとコナミのそばにいた私は、またコナミがデュエルできるようにサポートしないとね。

 

「決まったぁぁぁぁ!! シティの新たなチャンピオンは、不動遊星だあああぁぁぁああ!!!」

『あ……』

 

いきなりスタジアムから花火が上がって、少しだけど中の実況の人の声が聞こえてくる。

そして沸き起こる歓声。外にいる私たちにもしっかり聞こえてくる。

 

『どうやら、遊星が勝ったみたいだな』

『みたいだね。さってと、コナミのとこに戻らないとね! 私の居場所は、あそこだから』

『そうだな……行こうぜマナ』

 

一段とコナミを復活させるためのやる気を漲らせた王様。ポーカーフェイスを装ってるけどきっと心の中ではそうなってるねあれは。私も私で、さらに気合いを入れたけど。

王様に続いて私も、スタジアムの中へ…きっと今、湧き上がる生徒を抑えようと必死なコナミの元へと戻っていく。




というわけで、コナミがデュエルができなくなった理由はカイバーマンやマナ達コナミの精霊による作戦でした。
ご都合主義すぎる展開ですが、最初から精霊によってそういう状態になったというのは考えてたので。


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サテライトへ

《新チャンピオンはサテライト出身?》《地に堕ちたキング、ジャック・アトラス》《現れた黒薔薇の魔女!スタジアムを破壊し姿消す》《空に現れた謎の赤き竜!ソリッドヴィジョンシステムに不備か?》

 

「ふわあぁぁ……どの新聞も昨日の大会のことばっかだな」

 

昨日のフォーチュンカップ。遊星対ジャックのデュエルは途中に変なことは起きたが、遊星が見事に勝利を収めた。

変な事というのは、遊星のエースモンスター《スターダスト・ドラゴン》とジャックのエースモンスター《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の二体がぶつかり合ったとき、空に巨大な赤い竜が現れ、ライディングデュエル中のスタジアムを眩い光が覆った。俺は帽子をうまく利用して見えたが、どうやら二人は何らかの映像を見ていたようだ。俺には何が見えたかまではわからなかったが、恐らく見ていた。俺の観察眼と勘からの判断だけど。

 

『だねー……でも遊星君のコメントがないから逃げたのかな?』

「そうだろうな。サテライト出身であんま歓迎されないだろうし、変な事を言えば袋叩きにあうかもだし」

『ほえー、怖いねぇ』

 

マナが新聞をパラパラめくりながら言う。まあそんなもんだろうからな……ただでさえサテライト民を嫌う傾向があるのに、カリスマ的存在のジャックを倒したんだ。コアなファンからは叩かれるだろうな。

それをわかってるのとあとは単純にめんどくさいからだろうな。

 

「はぁぁ、紅茶うめ」

『紅茶ならもうちょっと優雅に飲もうよ、じじくさい』

「ぐふっ……マナ、中身は50か60か70か80かもう分かんないけどじじいの見た目若者にそんなこと言うのは傷つくだろ」

『あっ、ごめーん』

 

てへっなんて感じに舌をだしながら謝ってくる。うむ、可愛いから許す。ちなみに俺の年齢なんてもう知らぬ、25ぐらいから数えるのやめたしな。

朝ごはんに適当に焼いた食パンに紅茶、それをのんびり食べながら過ごしてると、部屋のドアがノックされる音がした。

 

「お? 誰だこんな時間に……」

 

まだ朝の八時だというのに……うーん、見当もつかないな。今日はアカデミアも休みだから通学してくるゆまとかでもなさそうだし。

 

「はいはーい……って、これはこれはチャンピオン様ではないですか」

「やめてくれ、そんな大層なものではないさ」

 

いたのは、昨日キングとなった時の人遊星だった。

まあ茶化すように言ったけど、遊星はあんま言われるのは嫌だろうな。

 

「ハハッ、悪い悪い。んで、こんな朝からどうした?」

「ああ……まずは、上がらせてもらう」

「ほいほい」

 

ここは玄関だからな、こんなとこで立ち話もなんだよな確かに。

部屋の中へと遊星と入って、一つだけぽつんと置かれてるテーブルを挟んで座る。

 

「では、仕切り直して……こんな朝からどうしたんだよ」

「昨日、いや今日の夜中。俺はダークシグナーという奴に襲われた」

「ダークシグナ-? 遊星たちシグナーとかいう奴の悪い版ってか?」

 

シグナー。この前黒薔薇の魔女に襲われたときに遊星の腕が光って変な模様が浮かんでたんだが、何でもそれがシグナーとやらの証らしい。シグナーとは何かは詳しくは知らん。

で、それの悪い版が登場か……。

 

「恐らくそうだろう。そいつの目は黄色く、頬には紫のマーカーのようなものが」

「黄色い瞳に、紫のマーカー……? 遊星、俺もそれに心当たりがあるぞ」

 

遊星の言葉に割って入って復唱すると、それに当てはまる人物がすぐにでてきた。その特徴に当てはまる奴と、昨日戦ってるからな。

 

「なに!? コナミも、ダークシグナーを知っているのか?」

「名前は当然今知ったけど……昨日の大会中、俺の生徒が一人どっかへ行ってな。見つけると、そいつの状態も今遊星が言ったのと全く同じだった」

「あの最中にか……それで、どうだったんだ?」

「そりゃしっかり元に戻せたぞ。デュエルで倒したら元通り……後俺が知ってるのは、操ってたのは蜘蛛みたいな小さい闇の力の塊だ」

 

昨日のことを思い出しながら、遊星に伝えていく。

雪乃を操っていたのは間違いなくあの蜘蛛、闇の力だろう。

 

「そうか……恐らく、俺を襲った奴と黒幕は同じだろう」

「かもな。んで、これだけか?」

「そうだ、一応気をつけるように伝えに来た。まだ奴らの目的が分からないから、俺と関係のある人たちは何かあるかも知れない」

「うーん……それで言うなら俺よりサテライトの奴らだろ。俺ならまだ自分でなんとかなるけど、ラリーとか危なくないか?」

 

事実デュエルとなればそうそう負けないし肉弾戦を挑もうものなら俺がフルボッコにしてやる。

となると、心配なのは龍亜とかのシティの奴らとサテライトの遊星の仲間のラリーや後は昔の仲間のクロウとかか。

もっと言えばシティだとすぐニュースになるのに対してサテライトなんか人が一人ふたり消えたって誰にもバレない。なら、ラリーたちの方が気がかりだよな。

 

「それは俺も分かってる……だから、今日か明日にサテライトへ一度戻るつもりだ」

「ほぉん……なら、俺も一回戻ろうかな。店の方も気になるし」

 

元はと言えばシティに出てきたのはフォーチュンカップに出るため。それが終わったんだし目的は一段落した。都合の良いことに明日明後日はアカデミアは休みだから俺の仕事もない。一度店がどうなってるのかも気になるし帰るか。

 

「そうか……なら、詳しくはまた夜に連絡する。念のためいつでも出れる用意だけしておいてくれ」

「りょーかい」

 

軽く敬礼をしながら了承する。まあディスクさえ持ってたらいいし今からでも行けるんだけどな。

出してやった紅茶を少しだけ飲んで、遊星は部屋から出ていった。

ふぅむ……ダークシグナーか。

 

「どう思う? アテム」

『やはり、オレたちが危惧していたことが起きるかもしれない。きっとここから、さらに厄介なことになるはずだ』

「だよなぁ……はあぁぁ、やっぱり俺と誰かがセットになると何か事件が起きるんだな」

 

まあ過去の出来事のどれもが、俺というよりはアテムを巡っての争いとかアカデミア時代には十代を巡っての事件、今なら遊星やジャックというシグナーを巡る事件と……あれ? これってもしかしてあいつらが主役で俺は脇役か?

ライバルポジションには……遊戯には海馬、十代には万丈目やら明日香、遊星にはジャック。

……やっぱ俺の立ち位置なくね? ま、まさか俺も本田や三沢のような空気キャラに!?

いや待て大丈夫だ……バトルシティの時にはバクラに狙われまくってたし海馬からもライバル認定されてるし、アカデミアの時も十代に一番近しかったのは俺のはず。今は俺の状態的にあんまだけど、それでも遊星の相談役的ないいポジションには立てているはず。

 

「……俺の立ち位置ってなんだぁぁぁぁ!!!」

『いきなりうるさいよコナミ』

 

急に立ち上がって叫ぶ俺に、耳を押さえながらジト目を向けてくるマナ。いきなりなのは謝るけども……いや、変に考えすぎたな、うん。大丈夫だ、今の俺はアテムのライバルポジションだ、そうだ。

 

「悪い悪い……よっし! 夜までは何もなさそうだし、今のうちに仮眠でも取っておくかな」

『まだ起きてから1時間も経ってないが……』

「それを言っちゃおしまいだろ……夜中に動き回るかもだし、今の内に体力を蓄えておくのさ」

 

キリッて感じにキメ顔をしてアテムに言う。マナのジト目がさらに強くなった。

いやまあやることないし……寝るっしょ? おやすみ皆、夜になれば勝手に目覚めるさたぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……7時か」

 

朝の9時過ぎから二度寝をした俺であるが、少し重い頭となぜか重い太ももの感触に耐えながら時計を見る。ふむ、今の時間は7時。19時ではなく7時。夜の7時ではなく朝の7時。

つまりこれが意味するのは、

 

「俺は一日中寝てたってのかよ!?」

 

ほぼ24時間つまり一日中寝ていたということだ。

えー…自分でやったとはいえ寝過ぎだろ。首やら腰やらバキバキだし……って、こんなに寝てたらいつもならマナがキレてくるのに。

 

「スー…くぅ……」

「……お前まで寝てんのかよ」

 

起きてから頭が重いのは寝過ぎだからですんだが、太ももが重いのはこいつのせいか。なぜに俺の足を枕にしてるのか……しかも格好がいつものやつだから色々と見えそうでニヤニヤしてしまう。

安心しきって眠るマナに、今にも服から零れそうな胸、肉付きのいい太もも。これはまさか……!

 

「お触りのチャンスなのでは」

『何言ってんのさ』

「ぐはっ!」

 

起こさないように小さな声で呟いたはずなのに、なぜか目を閉じたままのマナの手が動きいつものステッキで頭を殴られる。

くっ、こやつまさか……

 

「寝たふりとかずりーぞ!」

『変態なコナミなら寝てる私を見たら襲うかなぁって思って試しただけだよ』

 

Vサインをしながら言ってくる。いやいや、俺が本気でそうしたらどうすんだこいつは……あ、できませんねヘタレなんで、てへっ。

 

「かわいくねぇ奴……あ、ヤベ。遊星から連絡きてんじゃないのか」

 

マナをどかしてテーブルの上に置いてるデュエルディスクを手に取る。

電話的な機能もついてるからあいつからの連絡はこれに来てるはず。

 

「うおっ!? な、なんだ着信か」

 

確認しようとした時に、いきなりディスクからピピピと着信を知らせる音が響く。タイミングが良いのか悪いのか……っと、遊星からか。

 

「はいはーい、こちらコナミだ」

「遊星だ、すまないコナミ。連絡が遅れた」

「いや大丈夫だぞ」

 

大丈夫すぎてます、なぜなら俺は寝過ごしているからな。

けど遊星が遅れるなんて珍しいな、何かあったんだろうか。

 

「今、サテライトに来ている」

「は? なんだ、もうあっちへ帰ったのか?」

「昨日、あの後色々あってな……すまないが、今から来れないか?」

「余裕で行けるぞ-、どの辺にいるんだ?」

 

5分もあれば用意はできるし、ポジションチェンジのカード何枚かで行けるだろうしな。

後はどの辺にいるか分かればすぐ行ける。

 

「今から俺のアジトへ行くつもりだ。そこで落ち合うか?」

「了解だ、じゃあ1時間もしない内にそっちに行くよ」

「分かった」

 

ピッという音と共に通話が終わる。さて、サテライトに行くためにちゃちゃっと準備するか。

 

 

 

 

 

「なんで俺が着いた場所がよりにもよってこういうことの起きてるところなんだ」

 

ポジションチェンジで移動し続けてサテライトへ無事帰還。今回は海にボチャンなんてこともなかった。

が、それよりも厄介な問題が目の前で起きてる。

 

「待てクロウ! 大人しくつかまれ!」

 

少し先から聞こえてくるDホイールの走る音。二台走ってるようだが…どう見ても、遊星と、昔の仲間の一人クロウという奴だ。

ちなみに俺は今、遊星とクロウは並走していて、その後ろから遠隔操作されてる小さい変な機械が追いかけていて、さらにその後ろを走ってる。ここならあの変な機械に俺の姿が写されることもないしな。というか、あれ絶対セキュリティのだろ……クロウの奴、また何か悪さしやがったのか。

 

「仕方ない、どうせデュエルするだろうから……俺はセキュリティの人間が乗ってる車でも探すか」

 

遊星たちとは別の道へと変えて、適当に走ってセキュリティの奴らのいるところを探す。遠隔操作してるんだろうから、そう遠くにはいないはずだが……

 

「みーっけ」

 

ニヤッと口角を釣り上げる。

さぁて、しばらく動けなくなってもらおうかな。

都合の良いことに、今からデュエルをするようだ。セキュリティの男二人がデュエルディスクを構えたからな。

なら、まさか今セキュリティの車に悪戯をする奴がいるはずないと警戒心は薄いはずだから……

 

「ちょこっと、悪戯をさせてもらうぞ」

 

音を立てたらバレるためDホイールから降りて、小走りで車の前のタイヤのとこまで行く。しゃがめばここは死角だから見えないはずだ。

 

「後はこれを……」

 

俺のジャケットの内ポケから七つ道具の一つ、先の鋭く尖った針を取り出す。俺特製だから強度やら鋭利性は抜群である。

タイヤにプスッと差し込む。

……よしよし、空気は抜けてるな。

そして同じ行動を他の三つのタイヤにもやっていく。

 

「うっし、完璧だ」

 

一仕事終えて少しニヤニヤしてしまう。確実にデュエルはこいつらが負けるだろうし、そうなれば次は強攻策でこれで追っかけて捕まえるなんてしようとしても、生憎車は動かない。

動かないときの焦る顔が容易に想像できてニヤニヤが止まらない。

 

「っと、撤退撤退」

 

中から爆発音と叫び声が聞こえたから、恐らくデュエルが終わったんだろう。

なら俺は引き上げて遊星たちと合流だ。

 

 

 

 

 

 

「おーいゆうせー!」

「コナミ」

 

さっきの場所から少し走ってみると、瓦礫の上に二人分の人影が見えた。と言っても、あんな特徴的な髪型したのが二人もいたんじゃすぐに分かるけど。

聞こえるように声を張り上げて名前を呼ぶ。まあ遊星とクロウだな。

 

「ふぅ、やっと着いた」

「すまなかったなコナミ、いきなり呼んで」

「いや、問題ない。それよりも……クロウ!」

 

遊星が軽くわびてくるが気にするなという意味で手を軽く上げる。というか楽だったしな基本は。魔法カードを駆使してサテライトに来る簡単なお仕事です。

っと、それよりも、クロウだよな。

 

「コナミ! 久しぶりだなテメー」

「お前こそ、またマーカー増えたんじゃねぇか?」

「ちょっくら遊びすぎただけだぜ」

 

グータッチやらハイタッチやらなにやらしながら少し言葉を交わす。と言うかマジでマーカー増えてるなこいつ、また色々してたんだな。まあそれは後で聞こうかな。

 

「にしてもお前ら、なんでいきなりセキュリティに追われてるんだか」

「気づいていたか」

「まあな、着いたらDホイーラー二人が何かに追われてたからな。クロウが何かしたっぽいが……」

 

チラッとクロウの方を見て意地悪く笑う。

セキュリティがクロウという名前を呼んでたんだからそれしかないはずだし。

 

「ハハハ、ガキ共のためにカードをパクっててな。こいつのせいで、すぐに場所がバレちまう」

 

そう言って恨めしそうにマーカーを指さす。あー、確かマーカーにはGPS機能みたいなのがあるから、セキュリティがその気になれば居場所なんかすぐにバレるのか。まあ、それでも逃げてる辺りはさすがはクロウか。

 

「マーカーってのは厄介だねぇ本当に。……そういや遊星、いまからどこ行くんだ?」

「今からは、クロウのアジトに向かう。ラリーたちもそっちに向かってる」

「なるほどな。なら、さっさと行こうぜ」

「よっしゃ、ならコナミ! 久々に走ろうぜ!」

 

軽やかにDホイールに乗り込んで、ニヤリとしながら俺を挑発するように見てくる。

面白ぇ、俺に挑もうってか!

 

「受けてやるぞクロウ……俺の走りで振り切ってやる!」

「言ったなテメー……クロウ様のブラックバードには勝てねぇぜ!」

 

帽子型ヘルメット(つまりいつもの帽子)も被ってるから準備は万端。

後はここからスタートしてどちらが先に――

 

「先に行かせてもらう」

「なっ!?」

「卑怯だぞ遊星!!」

 

ゴールするのかって争いのはずが先に遊星に行かれる。

あんにゃろー……絶対抜いてやる!

 

「行くぞクロウ!」

「ああ! 待てやゆうせー!」

 

俺とクロウも少し遅れて出る。ここからならまだ巻き返せるはずだ。

 

「ひゃっはぁぁぁぁぁ!! ひやっはははは!!!」

「変な声出しながら走るんじゃねえよコナミ!」

「フッ……」

 

久々に三人で走ったら楽しいから仕方ないじゃないか、たまには叫びたくなるのさ。

 

「いえやっはぁぁぁぁ!!」

『はぁ、どうして男の子ってあんな暑苦しいのかなぁ』

 

マナの呆れたような声を背に、俺たちはDホイールを走らせた。

 



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因縁の王の復活《前編》

「コナミ-!」

「うおっと、ラリー。久々だな」

 

あの後軽く3人で走り回り、クロウのアジトへと着いた。

Dホイールを降りると、恐らく遊星やクロウの到着を待っていたのであろうタカやラリーといった遊星の仲間がいた。

んで、今ラリーに走ってきて抱きつかれた。まあ俺のカード屋によく来てたしなぁ。デュエルも教えてやったし、懐かれてるんだろな。

 

 

「遊星、無事だったか」

「ああ。俺とクロウで、セキュリティは倒しておいた」

「ついでにあいつらの車をつぶしておいてやったぞー」

 

遊星に話しかけた男……あ、雑賀だ。こいつもこっちに来てたんだな。

確か遊星がフォーチュンカップを戦ってる時にラリー達が治安維持局に人質として取られてるのを助けたんだったかな? そのままこっちに居座ってるってとこか。

 

「セキュリティの車を!?」

「すげー! さすが伝説のチームの暴力野郎だ!」

 

そして俺の発言に、どこから湧いてきたのかあちこちから子供が押し寄せてきて、純粋な瞳を輝かせながら俺のことを見てくる。というか誰だ俺を暴力野郎なんて物騒な呼び方したのは。その時はデュエルできないのを補うためにひたすら力仕事だったからな。潜入したり襲ったり。そのせいか? 俺がそんな名前で呼ばれてるのは……解せぬぞ、ったく。

っと、まあこいつらからしたらセキュリティは天敵だろうしな……それの車になにかした俺はいい目で見られるのか。それにラリーと同じで俺のとこでデュエルをたまにしてたしな。俺の評価は高いのだろう、きっとそうだ。

子供好きな俺からしたら好かれるのは嬉しすぎる。

 

「どんなふうにしたのか聞かせてー!」

「コナミこっちー!」

「おいおい、あんま引っ張るなって」

 

ちょっと心の中でニヤニヤしていると、子供たちに腕を引かれていく。しょうがない、ゆっくりと俺の活躍を聞かせてやろうじゃないか。

遊星とかクロウの話も聞こえる距離だし問題ないだろ。

 

「あれ? そういや、いつも俺につっかかってくる奴がいないな」

「岬お姉ちゃんのこと? お姉ちゃんならあっちで……あれ? いない、どっか行っちゃったのかな」

 

ジャッカル岬。こいつも時たま俺の店に来てデュエルをしていたやつで、ある時に沢山の男に襲われてるのを俺が助けてやると、「余計なことすんな」みたいなこと言ってきてそれ以来なぜか敵視されてる。助けたのに解せぬ。

で、そいつは俺を見るとすぐ殴りかかってきたりするから今回も来ると思ってたら……今はいないのか?さっきまではいたみたいなのにな。

まあいいや、とりあえず俺のさっきの活躍を語ろうかな。子供たちから尊敬のまなざしで見てもらえるぞやっほい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ、シグナーとダークシグナーか」

 

今は深夜頃。あの後、子供たちと雑談したり、その後には遊星の話を聞いて大体の状況は分かった。

なんでもこの世界では、5000年周期で赤き竜のしもべ的シグナーと、冥界の王とかいう奴のしもべみたいなののダークシグナーというのが戦っているらしい。そして、シグナーが負けると世界が滅びる……。

なんていうどっかの誰かが聞けば「バカバカしい、非ぃ現実的だ!」などと一蹴されそうなことになっているらしい。

そしてそのシグナーの証は、腕に痣としてついている変な模様。それがあるのが分かっている、つまり現状分かっているシグナーは、遊星・ジャック・十六夜アキ、そして龍亜の双子の妹だという龍可。5人いるらしいがもう一人のことはいまだ不明らしい。つまりは俺の可能性も……!

 

『コナミにこの世界を託すとか嫌だね』

「失礼だなこんにゃろー」

 

寝転がる俺の横でふわふわと浮いているマナがサラッと俺を罵倒してくる。いやいや、俺のおかげで世界を救ってくれる奴をやる気にさせてたりするからね?アテムとか十代とかさ、俺の活躍も少しはあるはずだ。

 

「コナミ、起きてるか?」

「んあ?」

 

ソファで寝転がっているんだが、近くで寝ているクロウが小声で話しかけてくる。

なんなんだ一体……というか寝ろよクロウ。

 

「遊星の奴、一人で行くはずだ。俺たちも行くぜ!」

 

グッと拳を握るクロウ。まあそんな気はするな、遊星のことだし。きっと俺たちを巻き込めないとか考えてるはずだ。

でも……

 

「悪いクロウ。俺はついていけない」

「なっ!? どうしてだよコナミ!」

「静かにしろよ、子供たちが起きるだろ? ……もしダークシグナーが現れたとして、卑怯な手を使う可能性もある。そうなると、ここにいるラリーや子供たちを取られれば遊星が不利になる。だから俺は、ここで皆を守るんだよ」

「そういうことか……その可能性は考えてなかったぜ。コナミ、ガキどもは任せた! 俺は遊星のほうにつく」

「任せとけ、しっかり守ってやる」

 

もう一度任せたぜ!と言ってクロウは出ていく。

……よし、Dホイールの音もしたし、大丈夫だろう。

 

「マナ、分かるか?」

『うん……すぐ近くに闇の力があるね。それも、かなり大きい』

 

俺がここに残った理由はこれだ。日が暮れてからずっと近くに闇の力の気配がある。

こんなのをほって戦力と呼べるのが少ないここを離れるわけにはいかないからな、俺ならこの力にも対抗できるはずだし。

 

「行くぞマナ」

『うん』

 

子供たちを起こさないように忍び足で外へと出る。

さて、闇の正体は何なのかね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すこし歩いて着いたのは周りに障害物と呼べるものがあんまりない広場のようなところ。

あからさまに闇の気配を放ちやがって……誘ってるのか?

 

「怪しいぞこれは」

『うん、どう考えても私たちをおびき出してるよ。コナミ、気を付けて』

「わかってる……っ!」

『来た!』

 

突然、今までゆるやかに吹いていた風が強くなり俺の体に吹き付ける。さらに黒い煙のようなものが辺りを覆う。

この闇の感じ、さっきからのもので間違いない。

そしてゆっくりと煙は俺の前に集まっていき、段々と人の形を作っていく。

 

「おいおい……嘘だろ? こいつは……」

『そんな、こんなことってあるの?』

 

煙でところどころ見えにくいが、その人型、この闇の感じ。それら全てから形成される人物を、俺とマナ……もっと言うならばアテムはよく知っている。

だがあいつは死んだはず……なのに、今俺の前でその姿を、ついに見せた。

 

「なんでお前が……」

『甦ったんだ、バクラ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コナミの前で段々と明らかになっていくこの闇の正体。それはオレからすればまさに因縁の相手。

ファラオの時に幾度となくオレの前に立ちはだかった男。

 

「ヒャハハハハ!! 俺様は甦ったぜ、王様よぉ」

「バクラ……!」

 

オレを見て高笑いをする盗賊王バクラ。3000年前のエジプトで、オレがファラオとして君臨していた時代に数々の財宝を奪い、7つの千年アイテムを奪おうとしてきた奴だ。だがこいつはオレや相棒が完全に消滅させたはず。なのに、なぜここに……それもあの時からもう何十年も経っているのになぜ今頃。

 

「王様が甦って俺様が甦ってもおかしくないだろ?」

「……」

『ん? アテム、よく見てみろ! バクラの目を!』

「目? ……っ、それは!」

 

暗くてあまり見えなかったが月の光にその姿が照らされて、その姿が浮き彫りになる。

目の白目の部分が黒くなり逆に黒目の部分が白目となっている。

つまり、それが意味するものは――

 

「バクラ、貴様ダークシグナーか!」

「ククク、そんなもののらしいな。だが、俺様からしたらそんなものどうだっていいのさ、テメェをつぶすチャンスを得れたんだからな」

「だが、なぜお前がダークシグナーとして現れた! お前は消えたはずだ」

「ククク、ダークシグナーってのはいいものだぜぇ? 死んだときに誰かに未練があると、邪神とやらが甦らせてくれてダークシグナーとなるのさ」

「その相手は、オレということか」

 

バクラにとってオレは恨んでも恨んでも許せない存在だろう。そんなオレが甦り、そのことに気づいて再び憎しみの炎を燃やしたバクラを冥界の王が利用した……そんなところか。

だが、こいつがまたこの時代に出たとなれば、やることは一つ。

 

「バクラ、デュエルだ! オレが勝って、お前を消し去るぜ!」

「上等だ、俺様もお前を倒すために甦ったんだからな!」

 

デッキをセットしてデュエルディスクを展開する。

この戦いに負けるわけにはいかない……バクラを、ここで止める!

 

「デュエル!」

「デュエルだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まったアテムVSバクラ。

バクラが甦ったのはダークシグナーとして、冥界の王とやらも厄介なことをしてくれたもんだ。

だが、負ければ当然死ぬことになるだろう。いや、もしかしたら死なさず生き地獄を見せるなんてこともあるかもな。

とりあえずは、アテムが勝つのを祈るしかない。

 

「わかってるだろうが、これは闇のデュエルだ。負けた方の魂は冥界の王の元へ還元されるぜ」

「そんなことは百も承知だ!」

「ならいい。俺様の先攻だ、ドロー! 手札から《可変機獣 ガンナードラゴン》を攻撃表示で召喚! このカードはレベル7だが、攻守を半分にして妥協召喚できる」

 

《可変機獣 ガンナードラゴン》ATK:1400

 

バクラの場に、機械でできたドラゴンだ現れるが、その効果によってその大きさは元のよりも半分のサイズになっている。

にしても、バクラがあんなカードを使うなんてどういうことだ?

 

「どうしたバクラ。前のお前のデッキと違うみたいだな」

「俺様のデッキはまだ手元にねぇのさ。だから、さっき不良っぽい銀髪女を消してデッキを拝借したのさ」

『ん? 銀髪……ガンナードラゴン……まさか!?』

「どうしたコナミ」

『あいつ、もしかしたら俺の仲間を消したかもしれない』

 

銀髪に不良、この時点でかなり絞られるのにそこにデッキを奪ってその中から出てきたのがガンナードラゴン。間違いない……さっきどこかに消えたって言われてたジャッカル岬のデッキだ。あいつのデッキを奪ったのかバクラめ……ただ恐らく、一部のカードを入れてるだろうがな。

 

「なんだと? ……バクラ、どうやらお前は、オレらの仲間を消したようだな」

「あぁ? それはすいませんねぇ、ククク。俺様を倒せば、戻ってくるかもなぁ! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

できるものならやってみなと言わんばかりにニヤッと笑う。チッ、アテムがギャフンと言わせてやるからな。

 

「許さないぜバクラ……オレのターン! 場には1400のモンスター……なら、これでいくぜ! 《磁石の戦士β》、攻撃表示!」

 

《磁石の戦士β》ATK1700

 

アテムのフィールドには磁石の形をしたモンスター。α、γと揃えるとそれはそれは強いのになるんだが、それが中々できないんだよなぁ。

さて、攻撃力なら余裕で勝ってるが……岬のデッキなら伏せは恐らくあのカード。

 

「バトル! 磁石の戦士でガンナードラゴンを攻撃!」

「かかったな、リバースカード《スキルドレイン》! このカードは、フィールド上のモンスターの効果をすべて無効にする!」

「なにっ!? ということは……」

「そう、ガンナードラゴンは元の攻撃力2800になるぜ!」

 

《可変機獣 ガンナードラゴン》ATK1400→2800

バクラLP4000→3000

 

スキルドレインによって、ガンナードラゴンのサイズがみるみる内に大きくなっていく。

やっぱり、スキドレかよ……大抵のデッキに刺さるが、アテムのデッキなんてモロにその被害がでるな。

 

「ぐあっ!? くっ、やはり痛みは実体化してるか」

 

アテムLP4000→2900

 

「オレはカードを三枚伏せてターンを終了する」

 

先手を奪ったのはバクラ。ただ、これは闇のデュエルだ……ライフが残っていても体にダメージが来るから、肉体的にも堪えるからライフだけを見てたらダメだ。

現在アテムのフィールドはがら空き、スキドレで効果が無効にされる……これは、予想以上に厄介なデュエルになりそうだな。

バクラのカードを引く姿を見ながら、俺は流れてくる冷や汗を軽く拭った。

 




ということで、過去にDMキャラより登場と言っていた(元々はGXキャラと書いてましたがミスしてました)キャラは盗賊王バクラです。
ダークシグナー編のボス的キャラなので頑張ってもらいます。
ただ問題はバクラのデッキ……orz


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因縁の王の復活《後編》

「俺様のターン、ドロー! 《不屈闘士レイレイ》を召喚!」

 

《不屈闘士レイレイ》ATK2300

 

『あいつもスキルドレインのおかげでデメリット効果が消されてるぞ』

「なるほどな……あのデッキはスキルドレインによって効果を無効化して自分を有利にするビートダウンか。その召喚にオレのリバースカードが起動する! 《激流葬》。モンスターが場に出たとき、フィールドのすべてのモンスターを破壊する! 消え去れ!」

「チィッ! めんどくせぇカードを……一枚セットしてターンエンド!」

 

よし、バクラのモンスター陣は一掃できた。今が攻める好機だな。

と言ってもスキドレがやっぱり邪魔だ……あれのせいでアテムがうまく動けないかもな。

 

「オレのターン、ドロー! 《熟練の黒魔術師》を召喚し、ダイレクトアタックだ!」

「トラップ発動、《ドレインシールド》。テメェの攻撃を無効にしてその攻撃力分ライフを回復するぜ!」

 

バクラLP3000→4900

 

「ありがたく頂戴するぜ」

「クッ、躱されたか……カードを伏せて、ターンを終了する」

 

アテム

LP2900

手札:1

場:《熟練の黒魔術師》

  伏せ3枚

 

バクラ

LP4900

手札:3

場:《スキルドレイン》

  伏せ1枚

 

「俺様のターン! さぁて、ちょっと暴れさせてもらうかククッ。《バイス・ドラゴン》を特殊召喚、テメェの場にモンスターがいて俺様の場にいないとき特殊召喚できるが、攻撃力は半分。だがそれもスキルドレインで無効だ。さらに手札から《神獣王バルバロス》を妥協召喚、同じく攻撃力は3000になるぜ!」

 

《バイス・ドラゴン》ATK2000

《神獣王バルバロス》ATK3000

 

「一気に高攻撃力のモンスターが二体……!」

「いけ、バイスドラゴン! 魔術師を噛み潰せ!」

「そうはさせない、《聖なるバリア -ミラーフォース-》! お前の攻撃表示のモンスターをすべて破壊するぜ!」

「悪いがそれぐらい読めてるぜ、《魔宮の賄賂》! このカードで、王様の発動したトラップカードの効果を無効にする!」

「ならばオレはこれだ! 《トラップ・ジャマー》、バトルフェイズ中に発動したトラップカードの発動を無効にする!」

「クソがっ!」

 

罠と罠の応酬。その果てに残ったのは、アテムのミラーフォース。これで、もう一回バクラのフィールドモンスターは一掃できたぞ。

 

「チィッ……2枚伏せてターンエンドだ」

 

悔しさからか、歯ぎしりをしながらターンを終える。

このターンでなんとか大ダメージといきたいどころだな……って、さっきから俺は変なフラグを建てすぎてるか。

 

「オレのターン! 《磁石の戦士α》を攻撃表示で召喚!」

 

《磁石の戦士α》ATK1400

 

「いくぜバクラ、消えたジャッカル岬の痛み、その身で受けるんだな! 磁石の戦士と熟練の黒魔術師でダイレクトアタック!」

 

「ぐうぅぅっ!」

 

バクラLP4900→1600

 

熟練の黒魔術師の魔力弾と磁石の戦士の剣がバクラの体を痛めつける。

っし! これでさっきの回復された分も削れたしボードアドバンテージも有利だ。

 

「……ククッ」

「ん? ……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

どうしたんだ?バクラの奴、俯いたまま動かない。

いや、わずかに動いてる。肩が小刻みに震えてる。

 

「ククッ、ヒャーハッハッハッ!!」

「……なにがおかしいんだ」

「このターンで俺様を仕留め損ねたことが、テメェの終わりだ。エンドフェイズ、《終演の焰》発動!」

「あのカードは……?」

『確かトークンを二体生み出すカードだ。発動ターンはセット以外の召喚を禁じられるが、速攻魔法だから相手のターンに使えばそのデメリットは回避できる』

 

後は確か闇属性以外にはリリースできないとかだっけな。

だが、あれをバトルフェイズに使っておけばアテムの攻撃を躱せていたのに……。

 

「生け贄素材、か」

『そういうことだろうな。気を付けろよアテム……バクラのデッキトップから、凄まじい力を感じるぞ』

「もうおせぇんだよ。テメェらはここで終わるんだ! 俺様のターン!」

 

バクラがカードをドローした瞬間、あいつの顔がニヤリと歪む。

今引いたカード……なんだこの力は、この感じはまるで――

 

「――神?」

 

そう、神。アテムの持つ三幻神のような、強大な力が感じ取れる。デッキの中に眠っていた時でもわずかに感じ取れたその力は、バクラの手に来た途端さらに増してる。

 

「ククク、俺様はリバースカード《死霊ゾーマ》を発動! これで俺様の場に罠モンスターのゾーマが現れる!」

 

《死霊ゾーマ》DEF500

 

バクラのフィールドに現れたのは効果の強力な罠だけどモンスターのカード。相手に戦闘破壊されるとその攻撃力分のダメージを与えるという中々に強力な効果だが……こんなところで使うなんて、やっぱりリリース要員か。

 

「さぁ、テメェらに見せてやるぜ……邪神をな」

「邪神だと……?」

『なにっ!? まさかそんなわけが……!』

 

邪神。その単語を聞いた瞬間嫌な予感が体を駆け巡る。

だがあのカードは、俺と遊戯たちで旅をしてる時に封印したはずだ……。

 

「フィールドのトークン二体にゾーマを生け贄にささげ!」

「っ!?」

 

バクラの手札にあるたった一枚のカード。それを天高く掲げる。

その力を開放する時を待ちわびていたのか、カード自身が光を放つ。

 

「地面が割れているだと……!?」

『この力、やっぱりそうなのか!』

 

ゴゴゴというでかい音と共に地面にひびが入り、地震が起きたように大気も揺れている。

俺たちの頭上だけで不自然に暗雲が立ち込めてきて、不吉な感じをひきたたせる。

そしてバクラはついに、その召喚するカードの名前を宣言する。

 

「《邪神ドレッド・ルート》、降臨!」

「邪神……ドレッドルート?」

 

ディスクにカードを置いてすぐ、割れた地面からゆっくりと巨大な何かが姿を現してくる。

間違いない……この姿、力は――

 

『まさか、またその姿を見ることになるとはな――邪神さん』

 

邪神。それはアテムの持つ三幻神の対となる存在だ。今出てきた《邪神ドレッド・ルート》に《邪神イレイザー》《邪神アバター》の三体がいて三邪神と呼ばれる。

三邪神とは、過去に俺と遊戯で世界中を旅しているときに戦った。ペガサスが封印していたのを何者かに奪われたらしく、最後には戦って俺の記憶の中でもトップ3レベルの激戦だったが……まあそれはおいておいて。

結果的には、俺と遊戯のコンビで再びペガサスのもとへと返して封印された。

だからこそ、今ここに邪神がいるとかありえないはずなのにな……。

 

《邪神ドレッドルート》ATK4000

 

「この力……オベリスクの様だな」

「クククッ、こっちのほうが、凶悪だと思うぜ? ドレッドルートの効果発動!」

 

その姿を完全に現したドレッドルートから、黒い瘴気のようなものがフィールドを覆う。

そしてアテムのモンスターたちが、怯えているのかその体を小さくして震え上がっている。

 

《磁石の戦士α》ATK1400→700

《熟練の黒魔術師》ATK1900→950

 

「どういうことだ!?」

「ドレッドルートは恐怖を持って場を制圧するのさ! こいつが場にいるとき、テメェのモンスター共は攻守が半減するぜ! 当然、”神”の名をもつこいつに、ほかの効果は効かないぜ」

 

神にはモンスター効果と罠は効かず、魔法は一ターンのみ。そのせいで、バクラのスキルドレインはドレッドルートには無効。その結果、アテムのモンスターは攻撃力が半分になっている。

 

「クッ、これじゃあオレのライフが……!」

「さぁて王様よ。邪神の力を受けて消えちまいな! ドレッドルートで《磁石の戦士α》を攻撃! フィアーズ・ノックダウン!!」

 

ドレッドルートがその巨大な拳を、アテムの場のモンスターへと振り下ろしてくる。

この攻撃を食らえばアテムのライフは……!

わずかな希望を胸に、アテムのセットしてるカードを確認する。

 

『《次元幽閉》と……《永遠の魂》……』

「オレの……負けだ」

『アテム!』

「クッ……コナミ!!」

 

アテムLP2900→0

 

ドレッドルートの攻撃による衝撃で、地面にひびが入っていき、砂埃で辺りが覆われる。

何も見えなくなり、デュエルの終了を告げるピィーという音をかき消すように、大きな声でアテムが俺の名前を呼ぶ。

 

「コナミ! どうやらオレはここで、ゲームオーバーだ。だがお前なら、きっと奴を、バクラを倒せるはずだ!」

『アテム……!』

「信じてるぜコナミ……オレの、相棒」

 

俺の体から、いくつもの黄色い粒が空へと飛んでいく。これはきっと、アテムの魂。

そして魂を失った体は、死人と同じ。立っていることもできず、地面へと倒れこんだ。

 

「ククク、ヒャーハッハッハッハ!!!! ついにやったぜ、あの鬱陶しい王様を消し去ってやったぜ!!」

 

バクラの高笑いが響き渡る。砂埃が晴れて、倒れる俺の体を見てその笑いがさらに大きくなる。

 

「ヒャッハッハッハ!!! どうしたコナミさんよぉ? 早く姿を見せて俺様に挑めよ。俺様に勝てば、俺様のせいで消えていった奴らの魂はみーんな帰ってくるぜ?」

『っ!? ジャッカル岬やアテムの魂が……』

 

だが、今の俺にはデュエルは……無理なんだ。

すまないアテム……お前から信じてもらったってのに。

 

「……っち、デュエルができなくなったってのはまじもんの話かよ。くだらねぇ……お前はまた、別の機会に消してやるよ。じゃあな、根性なし野郎」

 

またしても、あの腹の立つ高笑いをしながら、バクラの体はゆっくりと闇に同化していき、ついにその姿を消した。

 

「……」

 

俺の意識を体へ戻し、もぞもぞと動いて起き上がる。

さっきのダメージが体には残っていて、中々思うように動かず仰向けに倒れてしまう。

 

「根性なし野郎、か……」

 

バクラに言われた言葉が頭の中で繰り返される。

そうだ、今の俺は大事な仲間がやられたってのに、過去のトラウマに負けて何もできなかった根性なし。

こんな俺に、一体何ができるっていうんだ。

 

「うっ……鉄片が腹に刺さってるじゃんかよ」

 

どうやら倒れたときに、運悪く尖ったのが刺さったようだ。っち、体が動かないときに運の悪い。

ジワーッと俺の服が血に染まっていき、地面にも血が流れていく。

このままじゃ死ぬっていうのに、頭は至って冷静。いっそこのまま死んでしまえば楽なのにな……。

 

「コナミ!?」

 

昔から俺の傍でよく聞いてきた女の子の声が聞こえる……マナ、か。

だがその姿を確認する前に、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 




ということで、アテムさん敗北。粘りもなくあっさり負けましたが、当然対バクラの山場はまだ先ということです……ここからはコナミ君に頑張ってもらいましょう。
なお、作中登場の神・邪神は全て原作・漫画・アニメ効果基準です。決してヲーやドジリスにはなりませんのでご安心ください。


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コナミの救世主

「コナミさん……」

 

今は朝の8時頃。宮田ゆまの前には、ベッドで寝ているコナミがいた。

アカデミアも休みということでのんびり寝ていたところ、夢の中に《ブラック・マジシャン・ガール》のコスプレをした女の子が出てきて、

 

「ゆまちゃん! コナミが大変なの!」

 

と言われて、嫌な予感がしたゆまは慌ててコナミのアパートに来たら、こういう状況となっていた。

コナミの腹には包帯が巻かれていて、うっすらと血で滲んでいた。その夢に出てきたさっきの女の子、マナはコナミはDホイールを運転してて転んでお腹を怪我したと、ゆまには説明していた。ゆまからすれば、夢に出てきた人がコナミの家いて驚いたのだが。

既に治療はすんでいるが、マナが一人では看病をカバーできないのと、マナからゆまへの気遣いでもあった。

そのマナはというと、今包帯を買いに行っているため、部屋には眠るコナミとゆまの二人だ。

 

「うっ……」

「大丈夫ですか……?」

 

コナミが少し苦しそうに声を漏らした。それを見てゆまは、コナミの頭を帽子越しにだが、ゆっくりと撫でた。

そのおかげか、コナミの状態がまた落ち着いた。

 

「コナミさん、早く起きてくださいよぉ」

 

頭をなでながら、もう片方の手でコナミの手を握る。心配するゆまの目から涙がこぼれて、コナミの手の甲に雫が落ちる。

 

「ん……ゆ、ま……?」

「あ! コナミさん! 目が覚めましたか?」

 

ゆっくりと目を開けるコナミ。それに気づいたゆまは、涙を拭って彼を覗き込む。

 

「ここは……俺の部屋か?」

「そうですよ。コナミさん、夜中にDホイールでこけて怪我したらしいですね」

「夜中……! アテムは、うぐっ!?」

「ああ、駄目ですよぉ! コナミさんお腹を怪我してるんですから~」

 

意識が覚醒すると、夜中のことを思い出して飛び起きるが、腹の傷はまだ癒えていないため、コナミの体を痛みが走る。当然痛みに耐えきれず、ゆまに支えられながらまた寝転がる。

 

「……そうだ。さっき、アテムは……」

 

ギュッと、枕元にあった千年パズルを握りしめる。いつもならそうすればアテムが反応してくれるが、今はただのパズル。コナミの手にはただ冷たい感触が伝わるだけだった。

 

「くっ……俺に、デュエルができたら」

「コナミさん? コナミさんはデュエルできますよぉ?」

「違う……俺には、デュエルはできないんだ」

「え……どういう、ことですか?」

 

コナミからの言葉に、ゆまは驚きを隠せない。ゆまからすれば、コナミは救世主、ヒーローのようなものだ。そのヒーローの武器はデュエル。それで自分の危機に助けに来てくれたり、雪乃を元の状態に戻したりと、目の前でいくつものデュエルをしていた。たまに力ずくでやっていたときもあったのだが。

なのに、そのコナミが言うのは「自分にはデュエルはできない」というもの。

 

「ゆま……信じられないかもしれないけど、この話を聞いてくれ」

「……はい」

 

そうしてコナミは、ゆっくりと語りだした。

自分の心にいたもう一人の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、その千年パズルに、アテムさんの魂が存在していたってことですか?」

 

喋る前に、ゆまに何枚か回復系のカードを取ってもらって自分に使っておく。痛みも引いて傷もなくなったからもう大丈夫だが、さすがに血が不足して貧血気味なのはどうしようもない。《天使の生き血》は持ってないしなぁ。

と、それはいい。体はだいぶ楽になったので、ベッドに座りながら彼女に話したのは、千年パズルの中にアテムがいることと、そのアテムの正体は遠い昔のエジプトの王であること。それから、軽く二人でやったこととかを説明した。さすがに俺とアテムは昔からの仲良しなんだなんて言えないけど。

 

「そういうことだ。んで、俺とアテムは意図的にお互いの意識を入れ替えてたんだ。普段は俺だけど、デュエル中はアテム、みたいにな」

「な、なるほど~……確かにデュエル中のコナミさんって、いつもの阿保っぽい感じじゃなくなりますもんね! こう、キリッとしてる感じです!」

「ぐふっ……」

 

阿保っぽいに軽く傷つきかけたところで、ゆまがキリッて言いながらポーズを決めてその可愛さについ萌えてしまったぞ……なんだこの子は素晴らしいもっとやれー。

というか俺って普段は阿保っぽいのね、そうなんだ。

 

「こ、コナミさん?」

「なんでもない……うん。んでだ、ここからが大事な話だ。今、このパズルの中に、そのアテムの魂はない」

「えっ!? な、なんでですかぁ?」

「昨日の夜中から、俺はサテライトに行ってたんだ。昔の仲間と一緒にな? それで、夜中になーんか嫌な予感がして見回ると、案の定悪者がいたんだ」

「悪者、ですか? でもサテライトならそんな人いるんじゃないんですか?」

「まあな、言っちゃ悪いが落ちぶれた人の集まりだからな。でも、そんなちゃちなものじゃない。そいつは、アテムからしたら因縁の相手。ファラオとして君臨してた時に戦った盗賊王バクラって奴だったんだ」

「盗賊王バクラ……あっ! アカデミアの授業で聞いたことがありますよぉ! 確かとある王様の墓荒らしをしたり王宮に襲撃したとか!」

 

ほう、今のアカデミアじゃそんなことを勉強するのか。でも俺が実際に経験したのはバクラの作ったゲームの話だしなぁ……史実じゃあの時と全く違うだろうから、あんまあてにしたらダメだろうな。

 

「そうそう、そいつだよきっと。んで、闇の力が働いてバクラはダークシグナーとして甦ったんだ」

「ダーク、シグナー?」

 

ゆまが「なんですかそれは?」という感じに首を傾げる、可愛いからやめてください、アテムを失ったショックで軽く人に飢えてるんです。

って、ゆまにはダークシグナーの説明はしてなかったのか。

 

「ダークシグナーってのは、俺もよくわかってないんだが、冥界の王とかいう超悪者が、誰かに恨みを持って死んだ奴を甦らせて復讐させる奴のことを言うんだ。その特徴は、頬に紫色のラインに、瞳が黄色だ」

「それ……雪乃さんがそれでした! じゃあ雪乃さんも……?」

「いや、あの時の雪乃は単純に操られてた。ダークシグナーたちに良いように使われたんだ。きっと俺たちが見つけてなきゃ、手あたり次第誰かを襲ってただろうな」

 

でもあの時の雪乃は人体にダメージを与えるほどの力はなかったんだよなぁ……ゆまが熱さを感じてたから全くないということもないだろうが、きっと力そのものが軽いもんだったんだろうな。

 

「むむむ……」

 

珍しく、ゆまが俯きながら手をぎゅっと握って震えている。

基本元気なゆまの姿しか見てない俺からしたら違和感しかない。

 

「その悪い王様許せませんよぉ!」

「うおっ!?」

 

いきなり、顔を上げたかと思うと叫ぶ。興奮してるのかグイグイと俺に寄って来てさらに言葉をつづける。

 

「雪乃さんは私の大切な友達です、その人を操ってしかも誰かを襲うなんて……絶対許せないです!」

「わ、わかるぞ俺も。でもとりあえず、少し離れような?」

「え? ……あ、ご、ごごごめんなさい!」

 

気付けば俺とゆまの顔がものすごく接近してて、カップルならキスするレベルにまで来てる。俺がしたらビンタされてマナからは杖でしばかれるが。

指摘してやると、ゆまは顔を真っ赤にして離れる。まあゆまも思春期真っ只中の女の子なんだからその辺は気を付けてもらいたいな、うん。俺の理性的にも。

 

「いやいいよ別に。んでだ、話が逸れたがこれが一番大事だ。アテムがいないのは、そのバクラに昨日負けたからだ」

「負けたんですか!? アテムさんって、あんなに強かったのに……」

 

自分の前でいくつものデュエルを見事に勝ってきたアテムというデュエリストが負けたということにゆまは驚きを隠せてない。俺だって負けたとか信じられないしな……邪神が出て来るなんて予想外過ぎたんだ。

 

「どんな強い奴も負けるときはあるからな。そして、そのデュエルでは負けた者の魂は消える。だからアテムは、ここから消えたんだ」

「そんな……でも、アテムさんを取り戻すことはできないんですか?」

 

アテムを取り戻す。それはできる、バクラが言うことが本当ならだが。

まあ過去の経験から言って、恐らく本当だろう。闇のデュエルの特徴は、負けたらその姿を奪われたり死へと直結するが、その元凶を倒せば奪われた者は戻ってくることだ。千年アイテムや光の結社やダークネスやら。ただ問題は……俺にはそれができない、ということか。

 

「あることにはあるぞ。ただ、今のバクラを相手に勝てるのかが問題だけどな」

「つまり……デュエル、ですか?」

「そういうことだな」

 

デュエルでバクラに、つまり邪神に勝つ。あのカードに勝とうとなると、恐らく遊星やジャックでも厳しいだろう。そうなると、アテムが消えた今、誰があいつを倒せるのか……。

 

「……やります。私が、そのバクラって人と戦います!」

「なっ!? バカなこと言うな! ただのアカデミア生が、闇のデュエルをするなんて危険すぎる!」

「でも! コナミさんの大事な人を、助けてあげたいんです……それに、私の友達の雪乃さんもいいように使われかけたんです。私、許せません!」

「ゆま……」

 

いつものふんわりとした雰囲気と違って、今のゆまの顔は気迫迫るものがある。こいつも、こんな顔できるんだな……やる気が漲ってるぞ。

でも、ゆまは単なるアカデミアの生徒、一般人だ。闇のデュエルなんてものとは無縁の生活を送ってきてるんだ。そんなこの子を、こんなことに巻き込んでいいのか……。

 

「……」

 

ジッと俺を見つめるゆま。

……そうだよな、ゆまはこんなにも真剣なんだ。なら、俺がこいつにかけてやる言葉は一つ。

 

「任せたぞゆま。バクラを、倒してくれ」

「っ! ……は、はい!」

「ただし!」

 

俺に認められてうれしそうに返事をするゆま。その後に、少し大きめの声を出すと、ビクッと肩を揺らす。

 

「デュエルは俺もサポートさせてもらう。それから、しばらくは俺からのデュエルの特訓だ」

「わかりました! でも、特訓ですか?」

「そうだ。確かにお前のデュエルの腕は高い。だがそれは、所詮アカデミアという小さな枠の中でだ。外に出ればお前以上のデェエリストはゴロゴロいるんだ」

「……はい。それは分かってます」

「そこでだ。かつてアカデミア四天王の1人と謳われた俺が指導してやろう!」

「アカデミア四天王?」

 

任せておけとばかりに胸を張って言ったが、一つ失言だなこりゃ。

アカデミア四天王とか遥か昔なのにおかしな話になっちまう、とりあえず誤魔化すか。

 

「な、なんてな。この前アカデミアの図書館で見たフレーズを使ってみただけだ。まあ、付け焼刃になるけど、できる限り闇のデュエルへの準備とかいろんなテクニックを教えていくぞ」

「冗談ですよね、びっくりしたじゃないですかー。はい! よろしくお願いしますコナミ先生!」

 

こうして、俺とゆまの師弟関係が生まれた。元から教師と生徒なのにまさかの個別授業的なのまでスタートだな。

だが、ゆまに全部任せるなんてできない……闇のデュエルへの耐性もない普通の女の子なんだ。俺も、できる限りのことはしていかないとな。

 

「さあコナミさん! 時間が惜しいですよぉ! 今から特訓しましょう!」

「おいおい、俺はまだ病み上がりだぞ。まっ、もう動けるからいいか……っし! 特訓といこうぜゆま」

「はい!」

 

ベッドから立ち上がり、黒のTシャツを着て椅子に掛けられたいつもの赤ジャケットに腕を通す。

帽子はしっかり被ってるし、用意は完璧だな。

特訓が楽しみなのか、ニコニコしてウキウキのゆまはすでに玄関で「コナミさーん」って俺を呼びながら手招きしてる。

フッフッフ……俺の特訓を甘く見てるなゆまめ。終わるころには笑っていられるかな?

少し意地悪な笑みを零しながら、玄関で待つゆまの元へと行った。

 



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キャラ設定《ダークシグナー編途中現在》

とりあえず現段階での、主にコナミの設定です。
基本この小説において、アニメ通りの部分は割愛ないし省略、簡略化しているため、読む際にいきなり話が飛んだりすることがありますが、読者の皆様が「アニメを見て大まかな流れは把握している」という前提で書いています。そして情景描写が薄いのは作者の力不足です、申し訳ありません。そこはアニメを見て脳内補完をお願いします。


・主人公

 

『武藤コナミ』

 

・年齢:実年齢は不明だが、自分で作った戸籍上は二十歳としている

 

・精霊:《ブラック・マジシャン・ガール》のマナ、《正義の味方 カイバーマン》など。マナは元々武藤遊戯の精霊だが、基本マハードは遊戯に、マナはコナミに付いていっている。

 

・詳細:武藤遊戯、海馬瀬人らが活躍した時代から生きる赤帽子赤ジャケットという風貌の青年。5歳の頃に童実野町に一人で倒れているのを双六が助けて、世話になることになる。その際に苗字を武藤にしている。遊戯とはすぐに仲良くなり、二人で童実野高校へ入学。いじめられる遊戯とは違い、コナミは城之内や本田とは仲良くしていたが、遊戯が強くなるためにといじめているのは見過ごしていた(やりすぎた場合は制裁を与えていたが)。城之内とは悪友であり、よくエロ戦車を使って女子のスカートをめくったりAVを貸しあったりと、表には出さないが内心では女子の胸や足を見ていたりとむっつりスケベな要素があるようだ。どういうわけか鍛えてもいないのに強靭な肉体をしていて城之内以上に喧嘩が強くその身体能力はかなりのものだった。出会ったほぼすべての仲間から「デュエルバカ」などと称されるほどデュエルが好きである。精霊の力を自由に使うことができ、カードを実体化させられるが、「使いまくると人生つまらないしあんま頼らない」という考えから無駄うちはしない。記録上に自分のことが目立って残るのを嫌うため、大きな大会ではわざと負けたり手を抜いたりと、舐めプをすることも多々ある。自身が精霊の力に目覚めてからは、その傾向が強くなり大きな大会には全く出ていない。

また恋愛方面に関しては経験がゼロである。というのも、彼の周りにいた女性は、杏子はアテムが好き、舞は城之内、静香はライクの意味だが城之内とその時代では相手すらできず。次にアカデミアでは、明日香は十代、レイも十代、ももえやジュンコはイケメン好き、鮎川先生は吹雪と今回もまた春は来ず。レイからは良き先輩として慕われていたが、十代をおとすためにうまく使われたり、なぜか「女の子にはこうやった方がいい」「こういうところがダメなんです」などアドバイスとダメ出しを受けまくった。結果、コナミここまで春は訪れず。長い期間傍にいるマナに対しては恋愛感情など微塵もなくとも女性としては見ているのでセクハラじみたことを多々行うがすべてマナにより鎮圧されいる。ちなみにマナ自身もコナミへの恋愛感情はゼロである。

また大事なところでミスをしたり活躍をしないことに定評がある。途中で一瞬輝くことはあっても最後の最後は遊戯やアテム、十代などに活躍の場を譲ったり取られている。結局華のある主人公勢には勝てないのだろうか……とコナミ自身もたまに考えることがあり「まさか自分は脇役か!?」と思うことが多々ある。しかしバクラから宿敵扱いされたり一部敵キャラから注目されたりと不運なことも多い。

 

性格:基本的に軽くふざける。一つのことからいろいろな可能性を考えたりと考え込むことも多い。ただ、ふざけてると言っても仲間思いで、自己犠牲の精神も持っていて相手のこともしっかりと考えている。考え込む癖はあるが、失敗や悲しい出来事を引きずることはあまりない。むしろそれをしっかりと記憶に残してそれを抱えて次のことを考える。自己嫌悪して塞ぎ込んだりすることはあまりない。そのため作中のアテムが消えたときも、悲しくはあるがそれを抱えて前を向いている。

 

・デュエルスタイル:カードの知識やコンボの知識などが豊富でその知識はGXの三沢をも凌駕していた。さらに昔から周りの人のことを観察していたために人間観察が得意なので、相手の僅かな反応から考えを読み取っていた。その二つを駆使して相手の行動を先読みしてプレイすることに長けていた。しかし決してデータ重視ではなく、時には思いのままプレイしたり直感的にプレイしたりと一辺倒なデュエルはあまりしない。ただ欠点としては、先を読み過ぎて考え込むために慎重になることである。

 

その他の特徴

・一度寝ると何か大きなことがない限り基本寝続ける

・家の鍵を閉めるなんてことはしない

・他者を見下す者には厳しい(自分は見下さないとは言っていない)

・赤帽子と赤ジャケットは部屋に5着、Dホイールの中に1着といくつかの予備を持つ

・ペガサスにシンクロ召喚のヒントとなることを呟いたりもしている

・決闘竜6体を持っている

・精霊の力により不老不死である

 

・時系列上のコナミの動き

ペガサスの開いた大会へは謎の体調不良に襲われて参加することはできなかった。この時に、コナミの中で眠る精霊が目覚めようとしていたためその副作用である。

 

バトルシティ編。コナミも一人の参加者として戦っていた。だがコナミは目立ったり記録上に自分の名前が残るのを嫌がったためパネルカードは6枚集めることなく途中で棄権した。それでもデュエルタクティクスはアテムや海馬も認めるほどで、二人からはライバル視されていた。バトルシップには仲間として乗り込みアテムたちのデュエルを見守った。またバトルシティ予選中に運悪くバクラと当たりフルボッコにしたため、バクラから激しく恨まれている。その後も、アテムを狙うついでのようにコナミも狙われまくった。

 

ドーマ編。遊戯の魂が奪われ絶望するアテムから離れず、何も言わず彼を守り続けていた。アテムが立ち上がった後は彼と共にドーマの刺客たちと戦う。ダーツとの最終決戦ではアテム・海馬・コナミの三人が組むということも起きた。

 

エジプト編。この時コナミは、遊戯達と共にアテムの記憶の世界へと飛び出した。アテムの名前を探すために向かった先でバクラと対したときは、遊戯と組んで2対1のデュエルをした。

アテム対遊戯の最後の戦い。二人のデュエルを、仲間たちと共に見届けた。そしてアテムが去るときに彼の使ったデッキを預かり、自分は赤帽子を送った。

 

アテムが去った後。コナミは双六の店を手伝っていた。そして高校卒業後、プロからの誘いを受けていたが断り、遊戯と共に世界を旅することにした。その旅先で邪神の力に遭遇し、邪神を操るデュエリストがいると思われる日本、童実野町へと帰った。そこで出会ったのは天馬月行と天馬夜行の二人。(漫画版遊戯王Rのアテムがおらずコナミがいるという変更点と一部ストーリーの変更で、基本はRと同じ。機会があればその話も書きたいと思っています)奪われた杏子の魂を取り戻すため、コナミたちは、邪神との戦いへ進んでいく。

 

邪神封印後。再び遊戯と旅を再開する。旅をしている時に自分の中に眠る精霊が目覚めて、精霊界でその精霊とデュエルをして見事勝利。その精霊のデッキをもらい、コナミはそのデッキを使うようになる。その日はちょうどコナミの二十歳の誕生日で、この日よりコナミは不老不死となり精霊の力をつかえるようになった。またコナミのデッキを巡り海馬と一悶着起きるのだがそれは割愛する。

 

旅から帰ってくると、海馬に自身の事情を説明する。すると海馬より命令され、デュエルアカデミアの実態調査という目的でアカデミアへと入学する。時期はちょうど三幻魔との戦いが始まる直前だった。コナミの意向でオシリスレッドへと入り、十代とはあっという間に仲良くなる。アニメと違い大徳寺先生の代わりとして七精門のカギを預かりコナミも三幻魔との戦いへ巻き込まれていく。

 

光の結社編。十代がエドに負けてカードが見えなくなって姿を消したとき、明日香たちと共にオシリスレッドの寮を守る。ちなみにコナミは、セクハラじみた行為を繰り返したりデュエルでは適度に手を抜いたりしていたためクロノスからの評価は十代並みであった。十代帰還後は光の結社の一員となっていた万丈目を倒して取り戻し、十代は明日香を取り戻した。その後十代が斎王と戦い勝利してコナミはその間見守るだけだった。

 

プロフェッサーコブラによるデスデュエル~異世界編。体力お化けのコナミはいくらデュエルしてデュエルエナジーを吸われようと関係なく、大好きなデュエルを思う存分満喫していた。だが事の重大さに気づくと、十代達と共にコブラを探し研究所へと向かう。コブラ対十代のデュエルを見守り、みんなと共に異世界へと飛ばされる。いつも見る精霊界とは別の異世界のためコナミは戸惑ったが、特に問題はなく、持ち前の体力を生かして何体もモンスターを出して力となった。十代達がアカデミアを出てる間は、万丈目達と共にアカデミアを守る役になる。次々と仲間がゾンビ状態になる中、コナミはデュエルせずひたすら殴って鎮圧していった。その後ユベルに操られたマルタンと戦う十代とヨハンをまたしても見守り、十代達と共に元の世界へと戻る。

 

ヨハンを取り戻すため異世界へ~覇王十代編。無事元の世界に戻ったコナミ。だがヨハンを犠牲にしたことに傷つく十代を励まし、仲間たちと異世界へと向かう。一人突っ走る十代に不安を覚えるが、彼に付いていき彼の良き相棒として戦っていた。だが、《暗黒界の狂王ブロン》との戦いで明日香・万丈目・吹雪・剣山が消えてしまい、絶望する十代。その時のコナミは、遅れてその場に到着したため巻き込まれず、闇に堕ちていく十代を見つめていた。そして、覇王となった十代。覇王として世界を侵略をしていくその傍らでは、コナミがその右腕として共に戦っていた。

 

覇王十代が敗北し元の十代に戻り、カイザー・エド・翔と共にヨハンを探していく。融合をつかえなくなった十代と戦い、コナミは彼を本当の意味で元に戻すことに成功する。そして十代対ユベルに操られたヨハン。コナミも参加し二対一となる。そしてユベルが出て来るとデュエルを十代に託し自分はデュエルを降りる。

 

ダークネス編。この時のコナミは十代の帰りを待ちながら、寮の自分の部屋でだらだらと生活を送っていた。十代帰還後、ミスターTと名乗る男に絡まれ久々のデュエルに力を出したコナミにワンキルされる。そして過去にアカデミアにいた藤原という男のことを知り、十代と共にダークネスとの戦いへ巻き込まれていく。藤原VS十代・ヨハンが繰り広げられている時、コナミは童実野町で伝説のデュエリスト三人と共にダークネスの刺客と戦っていた。

 

アカデミア卒業後。クロノスの勧めで教員免許を取得している。その後コナミは十代と旅を初めて、一段落すると双六の店で働き始める。子供たちにデュエルを教えたりする傍らで、強者とのデュエルを求めてプロデュエリストたちにデュエルを挑み勝利し続ける。そしてデュエルに満足できなくなり闇堕ち寸前の所を、カイバーマンによりカードが見えなくなるという荒療治で救われる。なお、もしそのまま闇落ちした場合はTF4でいうところのダグナールートまっしぐらである。この時から、コナミはデュエルの時にはソリッドヴィジョンに映る自分のカードは見えなくなった。

 

ゼロリバースによりシティとサテライトへと分断されるとき、コナミは店をサテライトよりへと移転させていたため、サテライトで店をやっていくことになる。なお店へのゼロリバースからの被害はコナミが《聖なるバリア ―ミラーフォース―》を発動したことでゼロだったが、それにより店の周りの被害は増大した。

その後遊星、ジャック、クロウ、鬼柳達チーム・サティスファクションと出会いメンバーに加入し、デュエルはできないため実践要員として活躍した

 

そして現在。コナミは千年パズルを見つけ、アテムと共に新たな戦いへと身を投じていくことになる。

 

『武藤遊戯』:言わずと知れたデュエルキング。現在の所在は不明だが、基本精霊界や十二世界を旅して調査しているので精霊界の影響によりあまり年を取っていないようである。

『アテム』:言わずと知れたデュエルキングにして3000年前のエジプトのファラオ。なぜかネオ童実野シティとなった現在に甦り、コナミと共に行動する。

『遊城十代』:アカデミアの生ける伝説。コナミ以上に精霊の力を使いこなしていたと思われる。圧倒的なドロー力で多くのデュエリストと激戦を繰り広げてきた。

『不動遊星』:シグナーの1人で元チーム・サティスファクションメンバー。《スターダスト・ドラゴン》をエースモンスターとしてジャンクシリーズを操る。

 

その他の主な登場人物

『十六夜アキ』:シグナーの1人。サイコデュエリストというカードの力を実体化してプレイヤーにダメージを与える力がある。コナミ曰く「過去最高のボディを持つクール美女」。《ブラック・ローズ・ドラゴン》をエースモンスターとして植物族モンスターを操る。

『ジャック・アトラス』:シグナーの1人でシティに君臨する絶対王者、キング(元)である。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》をエースモンスターとしてドラゴン族を基本にパワーデッキを操る。

『クロウ・ホーガン』:後のシグナーの1人。《ブラックフェザー・ドラゴン》をエースモンスターとしてBFシリーズを操る。

『龍可』:シグナーの1人。デュエルはあまりしないが、精霊の姿を見ることができる。

『龍亜』:龍可の双子の兄。《パワー・ツール・ドラゴン》をエースモンスターとしてD(ディフォーマー)シリーズを操る。

『マナ』:《ブラック・マジシャン・ガール》の精霊で、その正体は三千年前のエジプトに生きたマナの生まれ変わりである。最初は遊戯の精霊だったが本人の意志でコナミの方へ付いていく。コナミからよく胸を触られかけるがすべて阻止ししている。

 

ヒロイン枠

『宮田ゆま』:アカデミアの生徒。ヒーローデッキを操るまるで十代の女の子版のような子。コナミに何度も危機を救われ、コナミを自身のヒーローのように思っている。

『藤原雪乃』:アカデミアの生徒。高校生とは思えない大人っぽさと妖しい言葉遣いで男を手玉に取る。コナミのデュエルに惹かれてコナミをマークしている。デッキは《終焉の王デミス》を切り札としたデミスワンキル。

『ツァン ディレ』:アカデミアの生徒。ここまで登場回数は一回だが一応ヒロイン候補である。WRGPからはさらに登場するはずである。六武衆シリーズを操る。

 

ライバル・敵

『バクラ』:ダークシグナーとして甦ったアテムの宿敵。バトルシティでコナミにデュエルで完敗して以来コナミをアテム並みに敵視している。使用デッキは不明だが、現在は三邪神を操るデュエリストである。

 

 

 

 

 

作中用語解説

 

・精霊:デュエルモンスターズの精霊の事である。限られた人にだけ見えて大体そういう人には自身の持つカードから精霊がいる。

・精霊の力:万能、ご都合主義の塊である。この力を完璧に使えるのはコナミ・十代・遊戯・アテムぐらいであろう。ディスクにカードをセットすればそれを実体化させることができる力のこと。ただし好きに何枚も使えるわけではなく、一枚使うたびにかなりの体力を消費する。コナミでも、使えて20枚が限界である。ただしカードの種類によっても体への蓄積疲労は変わるので、一概に「この人は○枚使える」と決めつけはできない。ライフ回復系のカードを使うと、人の目に見える傷などを治すことは可能だが、出ていった血や骨の復元などはできない。また心臓病やがんなどの病気を治すことはできない。ただし普通の傷などに使えば治せるが、使いすぎると人間の自然治癒の力を弱めるため使いすぎることは後々響くので注意が必要。

精霊界:《正義の味方 カイバーマン》が王となって統治している世界には、コナミはすきに行くことができる。他にもいろいろな世界があり、全てを探すのは不可能ともいわれる。この世界では、精霊の加護で成長速度が遅くなるのでずっと過ごしていると浦島太郎状態になってしまうかもしれないので注意が必要。そのため遊戯は未だ30になっているとかなっていないとか。

宝札シリーズ:《天よりの方札》《命削りの宝札》《運命の宝札》などの大量ドロー効果を持つシリーズ。その強すぎる効果から生産中止となっていて入手は困難。そのために制限止まりなのでアテムやコナミからすればラッキーである。

 

 

 




以上が26話現在での設定です。何か抜けてる気しかないんですが、随時更新していくと思います。次にキャラ設定または時系列整理などをするのはダグナー編終了またはWRGP開始ぐらいを考えています。


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アルカディアムーブメントへ

場所は公園。近くには大きなビルがいくつかあったり、住宅街もあったりとさすがシティと言った感じだ。

その中でも一際大きなビルがあるが……なんだろなあそこは。

 

「なあゆま、あのビルって何のビルなんだ?」

「はぁ、はぁ……ふえ?」

「っと、悪い悪い。少し休憩するか」

「は、はい!!」

 

忘れてた、ゆまには今腕立て伏せさせてるんだった。闇のデュエルははっきり言って肉体的にも強くないとやっていけないからな。ましてや相手は邪神の攻撃、パンピーじゃ一瞬でやられちまう。

ということでさっきからひたすら筋トレである。まあそろそろ休憩を入れなきゃゆまがデュエルの前に死んじゃうからちょうどいいか。

休憩をもらえるのを待ってたのか、嬉しそうに瞳を輝かせながら近くのベンチへ行って倒れこむ。

いきなりハードすぎたかなこれは。

 

「ほれ、これ飲んどけ」

「あっ、ありがとうございますぅ」

 

買っておいたスポドリを渡す。水分補給もしっかりしとかないといけないからな。

さて、さっきのことをもう一回聞いとくか。

 

「んでさゆま。あのビルって何のビルなんだ?」

「んく、んっ……はぁ。えーっと……あっ! アルカディアムーブメントって会社のビルですよぉ!」

 

相当のどが渇いてたのか、一気に半分近くを飲んでるぞ……まあそれはいいや。

アルカディアムーブメントってまた……横文字使えばかっこいいとか思いやがって。

 

「そこは何をするとこなんだ?」

「あんまりいい話は聞かないですよ。サイコデュエリストっていうのを研究してるらしいんです。確か、デュエルをすると痛みが実体化するらしいです」

「ほぉ……闇のデュエルの優しい版か」

 

にしてもサイコデュエリストなんて、そんな差別されそうな名前付けるなよな。デュエルの力を実体化できる人が時たま現れるのは仕方ないんだし、むしろ偉大なデュエリストたちは少なくとも精霊と心を通わせてるってのに。

 

「それで確か、トップの人の名前がディヴァインさんって人で……あっ! この前フォーチュンカップに出てた十六夜アキさんもそこのメンバーですよ!」

「なに?」

 

あの巨乳クール女……確か杏子や明日香に匹敵するナイスバディをしていたはず。クッ、近くで拝みたい!

こんなとき我がパートナー城之内ならどうするか……見ないか、否見に行く! なら俺も……

 

「よしゆま! 休憩がてらあのアルカディアムーブメントに行くぞ!」

「えっ!? どうしたんですか急に?」

「サイコデュエリストは痛みが実体化するんだろ? なら、軽めの力を持ってる人と戦えれば実践の中で鍛えれるだろ?」

「確かにそうですよぉ! でもそれって危険なんじゃ……あそこいい話ないんですよ?」

「それは大丈夫だって! いざとなれば俺が」

「あー! コナミだ!」

 

いるしなって言おうとしたら、男の子の声がした。この声……あ、龍亜か?

 

「コナミー! ゆま姉ちゃーん!」

「よっすー、龍亜。こんなとこでどうしたんだ? って……龍可に氷室にじいさんまで」

 

珍しい四人組だな……なぜか正装までしてるし。あ、俺まだ龍可と会ったことはないのか。

いきなり名前呼んじゃったけど大丈夫か?

 

「ようコナミ。昼間からアカデミアの子とデートか?」

「いいねぇ若いって!」

「で、デート!?」

「おいおい、変な事言うなよ。デュエルの特訓だよ」

 

氷室の発言にゆまが真っ赤になる。あらぬ誤解をかけないでもらいたいね全く。生徒と恋愛関係になんかなったらアカデミアを首になるし。

 

「えっと、あなたがコナミさん?」

「ああ、初めましてだよな龍可。俺はコナミだ」

「初めまして、龍亜の妹の龍可です。龍亜から、遊星と並んでよく話に聞いてます」

「へぇ、それは嬉しいな。あっ、別に無理して敬語にしなくていいぞ? 普段通り話してくれ」

「でも……」

「いいからいいから、俺は気にしないからさ」

「……ん、分かった」

 

仕事の話とかじゃない限りは敬語で話されるの苦手なんだよなぁ……それに龍可は子供なんだし、あんま俺の顔色とか窺わずに好きに話してもらう方が気が楽だしな。

かと言って若者に超ため口で話されるとイライラはする、何俺超面倒くさい奴じゃん。

 

「んで、なんできっちり正装してこんなとこにいるんだ?」

「俺らは今から、アルカディアムーブメントに行って十六夜の協力を仰ごうと思ってな」

「シグナーのアキ姉ちゃんが仲間になったら、最強だよ!」

「なるほど……なあ、それ、俺らも一緒に行っていいか?」

「いいけど……コナミとゆま姉ちゃん大丈夫なの?」

「私は大丈夫ですよぉ! ちょうど私たちも、そこに行くつもりでしたし!」

 

そうそう。むしろ龍亜たちが来てくれてラッキーだ。アポも何もとってないから、下手したら門前払いを食らってたかもだし。まさに渡りに船だ。

 

「そっかぁ! なら一緒に行こう! コナミがいたら、怖いものなしだよ!」

「ハッハッハ、そんなに褒めるな」

「あんちゃんがいれば、サイコデュエリストなんてのも怖くないねぇ」

『コナミが全員から頼りにされてるなんて珍しい……』

「えっ!? ブラック・マジシャン・ガール……?」

 

ったく失礼だなマナめ。いきなり出てきたかと思えばそれかよ。俺だって頼りにされてたし! デュエルアカデミアにいたときは十代からどれだけ頼られたか。

って、今龍可の奴なんて言った?

 

「……え?」

「うん……」

 

俺の横に浮かんでるマナを指さしながら龍可を見ると、しっかりと頷いた。

……龍可って、精霊見えるのね。

あ、確かに龍可の頭の上にクリボーみたいなモンスターがいるな……リボンがついてるから《クリボン》とかだったりして。

 

「なるほど……」

「どうしたのさコナミー、龍可のこと見つめちゃって」

「むぅ、コナミさん。そういうのはロリコンって言うんですよ?」

「はあっ!? それは冤罪だ! 今のはただボーっとしてただけだ!」

「へぇー」

 

ゆまが怪しいと言わんばかりに俺をじっと見てくる。

ろ、ロリコンなんて冤罪をかけられたままなのは激しく遺憾だ、何か言い訳を考えなくては。

 

「なんちゃって、冗談ですよ」

「へ?」

 

ペロッと舌を出しててへぺろっえ感じのポーズをとるゆま。

……一本取られたなこりゃ。可愛いから許す。

 

「ったく、先生をからかうなよ」

「えへへ、ごめんなさい。さっきの特訓の仕返しです」

「ほら、さっさと行くぞ。約束の時間まであんまないんだからな」

「おっと、悪い悪い。それじゃ、行くか」

「おぉー!」

 

龍亜とゆまが手を上にあげて声を上げる。なんだこの二人仲良いな……それかテンションとかノリが似てるのか?

まあいいか……なんにしても、運よくアルカディアムーブメントに入れるんだ。サイコデュエリストとかいうのに関しても、少し調べてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイフとフォークは外側からだったかな?」

「飯食いに来たんじゃないぞじいさん」

「けど帽子のあんちゃんは……」

「ああ?」

 

アルカディアムーブメントに着くと、応接間のような部屋に案内されてそこで豪華なご飯にありつけてる。

金持ちの家にある部屋みたいだなここ……広いしテーブルも椅子も豪華。何よりも……

 

「うまい! ゆましっかり食えよ? こんな豪華な飯そうそう食べれないぞ!」

「……コナミさん」

 

フォークとかの使い方のマナーなんて知らん、とりあえず小奇麗なレベルで肉を切って食べる。ついでにバンも放り込む。うめぇ……たまにはこういう高価なものも食べないとな。

ゆまから俺の食いっぷりに呆れたような声が聞こえるがこんなに美味しい飯が悪い。

 

「面白い話ですねぇ。そのダークシグナーと呼ばれる連中がこの童実野シティを狙ってると」

「そうそう!」

 

そんな中、龍亜はここのトップのディヴァインという男にさっきからシグナーとダークシグナーの事を元気に話してる。せっかくのご飯を食べずにもったいない……。

ってか、この男この前のあいつだな。フォーチュンカップで十六夜が負けたときにコートをかけて連れて行った奴。つまりは十六夜がよほど心を許してる男ということか。

 

「そのダークシグナーと戦うのがシグナーなんだ! だから、アキ姉ちゃんの力を貸してほしいんだ! 同じシグナーの姉ちゃんなら、遊星を助けられるよ!」

「なるほど……それで、遊星君からの連絡は?」

「まだだ」

 

遊星”君”ねぇ……やっぱなーんか胡散臭いんだよなぁこいつ。さっきから物腰の柔らかい紳士って感じを装ってるが、何となく感じ取れる。こいつの中にある深い闇が……。

 

「うーん……いいでしょう。我々の力を全面的にお貸ししましょう」

「ほんと!?」

「やりましたよコナミさん!」

 

あっさりとオッケーしてくれたか。まあ面倒な交渉をする手間が省けたからいいけど、何か裏があるような気がしてならない。

会った時に一瞬、龍可を舐めるように見たのも引っかかるし。昔からの経験上怪しい奴はとことん疑うからな俺は……悪いが、腹の内ではまだディヴァインは信じられないな。

 

「ええ。アルカディアムーブメントは純粋にサイコデュエルの研究を行っているのですが、最近はよくない噂をたくさん立てられて困っていたんです。我々が皆さんのお力になれるなら、喜んで!」

「やった!」

「よかった」

「そうだ、彼女を呼んできます。すぐに戻ります、失礼」

 

十六夜を呼んでくる、そう言ってディヴァインは部屋を出ていく。

……ということはついにあの人を近くで拝めるのか!?キタキタこれは来てる……城之内、お前の分まで俺はナイスバディを拝むぜ!

 

「やりましたねコナミさん! えへへ」

「え、ああ、そうだな。よし、今の内に食べとこ」

「コナミさんはさっきから食べてますよぉ」

 

それは言ったらダメだよゆまさん。

……うめぇ。冷めても美味いとか持って帰りたいぞこれ。ちょっ、誰かタッパー持ってきてください。

 

「へっへーん、どうよ! やっぱりあの人悪い人じゃないんだよ!」

「こんなにとんとん拍子話が進むとはのぅ」

「意外だな。だが、油断しない方がいいかもしれない」

「氷室の言うとおりだ。言っちゃ悪いが、あいつは怪しいぞ」

「あーやだやだ。大人は疑い深くって。さぁて! 俺も料理食べるぞー!」

 

龍亜君、大人になると人間の汚い部分ばかり目につくからそうなっちゃうんだよ……俺なんか昔から人間観察してるから人の表情とかからすぐ読み取ろうとしちゃうし。

ん?なんだこの変な音……天井からか?うっすらと空気の漏れるような……!

 

「えっ!? こ、コナミさん?」

「しっ。そのまま息を止めて寝たふりをしてろ」

「は、はい……っすぅ」

 

横に座るゆまを後ろから押して机に突っ伏すようにさせる。周りからゆまだけを見れば、寝てるように見える状態だ。

ゆまが思いっきり息を吸い込む。さて、早めに来てくれないとヤバいな……。

 

「コナミ-、いきなりどうした……の、あれ? なんだか眠く……」

「ちょっと龍亜……はれ、わたし、も……?」

 

龍亜と龍可が急に机に倒れて、龍亜からはいびきも聞こえてくる。

 

「おい! 二人ともどうした!」

「わしもなんだか眠く……」

「じいさん! うっ……」

 

続いて氷室とじいさんも倒れる。二人からも、すぐにいびきが聞こえてくる。

やっぱり、睡眠ガスをまいてやがったな。いくら警戒してるとはいえ呼吸はしてなきゃならないからな、無力化するには最適だ。まあ水中で5分以上息を止めれる俺には効かんわ。

っと、俺も倒れておかないとな。俺だけぴんぴんしてたら怪しまれる。

 

「すぅ……んん」

 

え?ちょっ、ゆまさん寝てますやん……さすがに息が続かなかったか。

まあ仕方ない、俺は起きてるし皆に何かしようとしてたら止めればいいか。

 

「……眠ったか」

 

部屋の入り口の自動ドアの開く音がする。今の声はディヴァインか……それに足音からして、5人のモブか。

なるほど、眠らしてどっかに連れていく気だな。

 

「龍可。君はいずれアルカディアムーブメントに入れようと思っていた……まさに君は、飛んで火にいる夏の虫、だな」

「それはどうかな?」

「なにっ!?」

 

部屋に入るなりぶつぶつと何かを言っているが、気持ち悪いし俺は寝たふりをやめて声を出す。

それはどうかな?とかデュエル以外で使うとか思わなかったぞ。

立ち上がってディヴァインに向かい合う。やっぱりモブは5人か。

 

「俺たちを眠らしてどうするつもりかな、この野郎」

「この部屋の中で眠らないなんてな……ならば、力でやるまでだ。やれ」

 

脇にいた5人の手にいきなり剣が出て来る。あれは……《サイコ・ソード》か。

へぇ、サイコデュエリストってこんな風に力を出せるのか。俺や十代の力と同じようなもんじゃないか。ただその力を周りからは恐れられて正しく使えてないから、こんな風にぐれちまってるのかね。

 

「おいおい、そんな物騒なもんで何をする気だ? そっちがその気なら俺も……」

「デュエルディスクを構えてどうするつもりだ? 我々サイコデュエリストと違って、お前のような一般人がカードの力をつかえると?」

「悪いが俺は、一般人なんてものとはかけ離れた存在なんだよ! 出番だぞマナ!」

『はいはーい! ブラック・バーニング!』

 

俺の前にぼんっという音と共にマナ、《ブラック・マジシャン・ガール》が出て来る。

というかいきなりそんな攻撃するのかよ!? あ、威力は小さいな。

 

「バカな!? あの《ブラック・マジシャン・ガール》が実体化しているだと!?」

「今の内に皆を……うおっ!?」

「……」

 

まずは軽い子供二人を助けようとしたが、横から剣が振り下ろされてくる。

チッ、さすがにマナ一人で全員を相手にするのは無理か。仕方ない、こいつぐらいは俺がやってやるか。

 

「ほれ、かかってこいや」

「……!」

「甘いぞー、ほれ」

「うぐっ!」

 

またまた剣を振り下ろしてくるが、あんな単調な攻撃避けれるに決まってる。さくっと避けて鳩尾に拳を一発。

これで解決だ。さて、今の内に……って!

 

「ずりーぞお前ら!」

 

気付けば全員外に運ばれてる。チッ、さすがに攻めながら守るなんて技はできないな。向こうは数はいくらでもいるだろうし。

 

「仕方ないか……マナ! 一旦逃げるぞ!」

『うええ!? でも皆がまだ』

「今は無理だ……お前はちゃんと逃げとけよ。《ポジションチェンジ》!」

 

毎度おなじみの魔法カードを使ってこの場を逃げる。

悪いな皆……またすぐに助けるから少しの間待っててくれ。

 

「コナミ……何者だあいつは」

 




遊戯王の小説と思えないぐらいデュエルがない……デュエル担当さんがいないため、もうしばらくデュエルなしとなります。本格的にシグナーとダグナー対決が始まれば入れれるはず……!


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不吉な前兆

また前回から間が空きましたが、のんびりと更新再開していきたいと思います。


カードの力をうまく利用して何とか自宅へと戻ることはできた。

アテムに続いてゆまたちまでいなくなるとか、俺じゃなきゃ心が折れてるだろこんなの。

と言っても、ゆまたちを助けるのはまだ簡単だ。場所がわかってるしな。

 

「ひとまず、休憩がてら久々にカードショップの店長のとこに行ってみようかな」

『コナミ独り言多いよ……それに、どうして今すぐ助けに行かないの?』

「今はまだ警戒されてるだろうからな。それに暗くなってからの方が動きやすい、外でもカードの力を使っても人目に付きにくいし」

『なるほどねー』

 

と、マナと話しながらカードショップKURUMIZAWAに着いた。

考えたら部屋借りてから初めてだな来るのは。せっかく借りたってのに失礼だったかもな。お礼も言っておくか。

 

「てんちょー、久しぶりー」

『うーん、誰もいないみたいだね』

「そうみたいだな」

「ウッヒョー!! それは、幻のブラック・マジシャン・ガールフィギュア!!」

「……いるみたいだな」

『だね。というか私のフィギュア?』

 

いないから引き返そうかと思った時、奥の方から店長の声が聞こえた。というかなんだこの嬉しそうな声は。

とりあえず奥に行くかな、なんか嫌な予感というか見てはいけないものを見てしまう気がするが。

 

「てんちょー」

「ん? あんたはあの時の赤帽子じゃないか」

「久しぶりだな。んで、そっちの人は?」

 

奥に行くと、パソコンを前にして店長は座ってた。そしてその傍に何か紙の束を持った丸眼鏡をかけた女性がいた。あんな渦巻き模様で視界悪くないのか?

 

「こいつはカーリーだ。俺にちょっとした頼みごとをしてきたんだ」

「ほぉん。ってことは、店長も裏じゃちょっとした仕事してんだな」

「えっと、カーリー渚、新聞記者です!」

「俺はコナミだ。んで、あんたは何を調べてたんだ?」

 

カーリーね、覚えとくか。何か長い付き合いになりそうだし。

覚えてすぐに、ヒョイっとカーリーの持ってる紙を覗き込む。なになに……へぇ、アルカディアムーブメントについての調査結果か。

それに店長のパソコンの画面には遊星・ジャック・龍可・十六夜の画像、それも腕に光ってるシグナーの痣の画像だ。これらの情報を基に考えてみると……

 

「ふむ、記者としてシグナーとダークシグナーについて調べて一大スクープを発見して一躍有名に! って考えか?」

「うーん……ちょっと違うけど、そんな感じなんだから」

 

と言っても素人にそんな詳しくは調べられないだろうな、もっと言えばシグナー本人ですらたいしてわかってないんだし。

 

「それじゃあ、これで交渉成立ね!」

「ああ、いいぞ」

 

カーリーが鞄から出した……あー、さっきのフィギュアはこれか。うん、ブラマジガールだ。中々いい出来じゃないかこれは。というか店長の周りは女の子のフィギュアばっかだし壁はポスターだらけ……オタクだったんだな。

ブラマジガールは可愛いからわかるが……クランとかピケルってロリコンなのでは。

 

「じゃあねコナミ! 私はちょっとやることがあるんだから!」

「ああ、じゃあなー」

 

カーリーは小走りで店を出ていった。

まあ、当然そのまま帰ってもらうわけにはいかない。何をするのか気になるし、アルカディアムーブメントについて調べて乗り込みでもされたら困る。

 

「んじゃあ店長、俺もどっか行ってくるわ」

「ああ、またいつでも来てくれ」

 

さあて、ちょっくら追いかけますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、アルカディアムーブメントって、ほんと碌な噂がないわね」

 

小さな車に乗ってさっきもらった紙を読んでるカーリー……その見てるのを窓ガラス越しに覗き込む俺。あれ、これ俺通報されたらヤバいやつやん。

というかなんだあれ……履歴書みたいになってるな。

 

「なるほど、アルカディアムーブメントの被害者達か。多すぎるだろおい……やっぱあそこは健全じゃないな」

 

俺には全く気付かないようで、カーリーはパラパラと紙をめくっていく。

すると、誰か女性のページになったところでピタリと止まった。誰だこの人……有名人か?

 

「ミスティ・ローラねぇ、見たことすらないや」

「……よし!」

「え? ちょっ!?」

 

見てた紙の束を助手席に放り投げたかと思えば、いきなり車が発進する。

当然車の真横にいる俺からしたら危険極まりない。仕方なく後ろに下がるが、カーリーの車は既に遠くにいた。

 

「あーあ……結局何するつもりか聞けずじまいか。しゃーない、俺も一人で調べるかな」

 

けど嫌な予感がするな……カーリーの奴大丈夫だろうか。アルカディアムーブメントに乗り込んで変な事をしたりしなけりゃいいけど。

なんて、変なフラグは建てたらダメだよな。もっとポジティブに……と行きたいけど、あらゆるリスクを考えちまうからな俺は。困ったものである全く。

 

「よし、夜まで俺なりにアルカディアムーブメントについて調べるか」

『なら私はさっきのミスティって人について調べてみるね』

「ああ、頼んだマナ。とりあえずは部屋に戻ってネットに頼るか」

 

夜まで後5時間ぐらいか。できる限り情報を集めておかないとな。

頼むからダークシグナーは大人しくしててくれよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ。あれ……?」

「すぅ……すぅ……」

 

私が目を覚ますと、そこはソファーの上です。あうぅ、頭がボーっとします。

えっと……あっ!そういえば、コナミさんに息を止めとけって言われて息を吸ったら急に眠くなったんでした。

あれからどれくらいの時間が……。

 

「目が覚めたのね」

「えっ? あぁ!? い、十六夜さんですか!?」

 

いきなり声をかけられて、そっちを向いてみると、いたのは今回の龍亜君たちが仲間にしようとしてた十六夜アキさんでした。

な、なんで私の目の前に?

 

「ん……ぁっ、ゆま、さん」

「龍可ちゃん! 大丈夫ですかぁ?」

 

私の横には龍可ちゃんも眠っていたようです。起きたときに聞こえた寝息はこの子のですか。

ならここは一体、どこなんですか……?

 

「アキさん、ここは」

「黙って見てなさい」

 

ひうっ……十六夜さん怖いですよぉ。龍可ちゃんの質問を遮るように「見てなさい」って言いましたけど、何かあるのかな?

十六夜さんは私たちの方を見ないで、ずっと

窓ガラス越しに何かを見てるようです。

あの先でなにかやってるんでしょうか?当然見ないことには始まらないので私と龍可ちゃんは十六夜さんの隣へ行きます。

 

「えっ……あれって」

「龍亜!?」

 

その窓ガラスの先は、上から見下ろせる形になっていてそこには龍亜君と、さっきのディヴァインさんがいます。

二人ともデュエルディスクを構えていて、でも龍亜君にだけは変なヘルメットと足には鎖が繋がれてます。

 

「あ! 龍可、逃げろ-!」

「無駄だよ。こちらの声は、向こうには届かない」

「クソー……龍可をどうするつもりだ!」

 

龍亜君が何かを言ってるようですが、窓ガラスに防音効果があるのか全く聞こえません。

ということはこっちの声も聞こえませんよね。

 

「アキさん、龍亜に何をするつもりなんですか?」

「ディヴァインは、龍亜にサイコデュエリストとしての資質があるのか、今からデュエルをして計ろうとしてるのよ」

「そんな……ディヴァインさんはサイコデュエリストだから、痛みが実体化するんじゃないですか?」

「そうね。でも、それを身に受ければ龍亜の中の力が目覚めるかもしれない、ディヴァインはそう考えてるのよ」

 

龍亜君はまだ子供なのに……サイコデュエリストの力がどんな物かはわかりませんけど、子供に耐えれるとは思えないです。

龍亜君……頑張って。

デュエルを始めて、カードをドローする龍亜君を見つめながら、私はそう応援するしかできません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「清掃員の振りをしてアルカディアムーブメントに潜入しようと思ったら、なぜかもう清掃員は足りてると追い出されたでござる」

『おかしいねー。せっかくコナミが今日担当の清掃員を休ませておいたのに』

「ほんとだよ。おかげで俺の成り変わり作戦がおじゃんだ」

 

一体誰だよー、俺が裏で練った作戦を簡単に潰したのは。事前に欠席連絡入れて今日は代わりに○○さんに行ってもらいますって今日はシフトを外れてる人の名前まで出して根回ししたのに。

ちなみに、現在は夜でそれも結構遅めだ。今言った通りアルカディアムーブメントに潜入する計画を立てていたのに誰かわからない、恐らくこの休みになったのを狙って誰かが成り変わったんだろうが、見事に潰された。何で俺のこの見事な計画を邪魔されねばならんのだ。

 

「くそ、相手はサイコデュエリストが多いからできるだけ俺も精霊の力とかは使いたくないから潜入したかったけど……裏口とか探してみるか。それか警備員室的なとことかからこそっと」

『ディヴァインとかいう人がコナミの力を感知できたりしたら厄介だもんね』

「ああ。俺が精霊の力を感じれるみたいに、サイコデュエリストにもそういう感じのがあるかもしれないからな。用心に越したことはない」

 

まあさすがに捕まったりすることはないけど、できるだけ穏便にいきたいし。精霊の力使うのも結構しんどいし。

一般人が使えばあまりにも疲れるからしばらく動けないレベル……かもしれない。

 

「ん?」

『何今の音?』

 

いきなり、俺の遥か頭上で何かが割れるような音がした。今のはガラスとかの割れた音か?

 

『こ、コナミ! あれって人じゃない!?』

「はぁ? いきなりなんだ……なっ!?」

 

マナが指さす方を見ると、確かに人がいた。いや、いただけじゃない。その人は、地上へと向かって落ちていた。視線を上に上げれば……アルカディアムーブメントの最上階の窓が割れている。

……ディヴァインの仕業か。

 

『コナミ! 早くあの人を助けに行かないと!』

「ああ!」

 

人の落ちた方へ向かわなくては。

そう思って走ろうとしたとき、突然地震が起きる。さらに辺りに紫色の炎が現れて、壁となって俺の行く手を遮った。いや、俺の前だけじゃない。後ろにも……ん?ここだけじゃなくて、道みたいにずっと続いてるぞこの炎は。

って、さらには雷かよ。なんだこの不吉な事が起こるような前兆は……!

 

「マナ、空へ飛んで、上からこの炎の形を見てくれ」

『え? 分かったけど……いってくるね』

 

マナがふわっと浮いて空へと飛んでいく。無差別に作られたというよりは、何らかの目的をもって出てきたと思われるこの炎。

周りを見渡しただけでも、まるで迷路が作られるようにいくつもの炎の壁ができてる。

 

『コナミー! なんか、変な絵になってるよ!』

「絵? 一体何の絵なんだ?」

『えっとー……鳥?みたいな感じ』

 

戻ってきたマナから聞かされたのは、炎で作られているのは鳥みたいな絵であるということ。

鳥か……まあそれはいい。問題はこの炎が、見覚えしかない。この前の雪乃が操られていた時に出ていた炎、あれと全く同じだ。

ということは、だ。

 

「ダークシグナー、か」

『かもね。あっ! それとコナミ、さっきの人が落ちたって思われるとこに大きな穴が開いてたんだけど……』

「けど? どうかしたのか?」

『何でかわかんないけど、そこには誰もいなかったよ』

「なんだって!? おいおい、何だよそのホラーは……」

 

ダークシグナーと思われる奴が現れてるかもしれないってのに、次はさっき落ちていった人が消えた。おまけに天変地異ときたか……こういう時って絶対いいことないよな。

 

「マナ、急いでアルカディアムーブメントに行くぞ。嫌な予感しかしない」

『うん! でもあそこに行くまでの道が炎に邪魔されてて中々行けないよ!』

「チッ、ならお前は空から最短の距離を案内してくれ!」

『了解!』

 

早くゆまや龍亜達を助けないと。あんなとこにいるのは危険なのにこの状況だ……何があってもおかしくない。

急いでアルカディアムーブメントに行くためにも、マナにナビゲーターの役割を頼む。

地上からじゃどういう風に炎が走ってるのか分からない以上、マナに上から見てもらった方が楽に行けるはずだ。

 

『とりあえず、こっち!』

「分かった」

 

マナの声に従って、俺はアルカディアムーブメントに向かって走り出した。

 

 

 



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