ALDNOAH.ZERO~ある火星騎士の物語 (休載中) (jorjue)
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人物紹介


キャラクター情報の追加、追記はその都度行います。

2015年4月30日16:40、キャラクター情報を追加しました。

2015年5月2日23:45、キャラクター情報を追加しました。

2015年6月7日20:46、キャラクター情報を追加しました。

2015年7年20日15:10、キャラクター情報を追加しました。

2016年1月10日18:00、キャラクター情報を追加しました。

2016年02月04日20:21、キャラクター情報を追加しました。


人物紹介

 

 

 

 

《主人公》

 

ジョルジュ・バートン

4月18日生まれ、19歳、身長179cm、O型。

 

ヴァース帝国下級身分出身で軌道騎士37家門の1人。身分は伯爵。

 

二年前、まだジョルジュが男爵の頃に37家門の1人が密かに帝国を裏切る事件があったが、それを一人で数日の間に突き止め犯人逮捕に繋げた本人。そのずば抜けた頭脳により周りからは敬意や畏怖を込め『天才』と呼ばれる。地球侵略には最後まで反対していた一人。

搭乗カタフラクトはガラティン

 

 

 

 

界塚 伊奈帆

2月7日生まれ、15歳、身長164cm、AB型。

 

新芦原市の芦原高校に通う高校生。

 

ヘブンズ・フォールにより両親を亡くし、姉のユキに育てられ姉と二人暮らしをしている。家事全般が得意で中でも料理が好き。理的で滅多なことでは取り乱さない冷静沈着な性格なため表情に乏しい。洞察力がずば抜けており、微かな情報から勝利へ導く。

搭乗カタフラクトはKG-6 スレイプニール

 

 

 

 

スレイン・トロイヤード

1月11日生まれ、16歳、身長170cm、A型。

 

火星に住む地球人の少年。

 

元々は北ヨーロッパの出身だったが、事情により火星騎士クルーテオの配下に置かれている。アセイラムからの要望で地球の知識を教える教師役をしている。地球生まれのため周りの対応は悪いが、アセイラムはスレインに平等な立場で話すため彼女に最大の忠誠を誓っている。

そしてついに主たるクルーテオに秘密で謁見の間を使用し、皇帝陛下にアセイラム姫存命を伝え、ザーツバルムに知られてしまった可哀想な子。

搭乗カタフラクトは■■■■。現在は戦術輸送機スカイキャリア

 

 

 

 

アセイラム・ヴァース・アリューシア

9月20日生まれ、15歳、身長155cm、O型。

 

ヴァース帝国の第一皇女で、皇帝レイレガリアの孫娘。

 

全てのアルドノアを起動、停止できる存在。火星では珍しく地球人に対し偏見を持たない人物で地球人のスレインとも仲がいい。穏やかな性格だが皇女としてのマナーや護身術の教育を受けており、生身ではあるが伊奈帆を倒すことのできた数少ない一人。

なにやら伊奈帆らに我儘を聞いてもらっている。

 

 

 

《オリジナルキャラクター》

 

クラウディア・オライオン

8月29日生まれ、21歳、身長171cm、B型。

 

軌道騎士バートン伯爵の配下で、右腕的存在。身分は騎士。

 

ヴァース帝国の中でも屈指のカタフラクト乗りで、今の階級は実力でもぎ取ったと言ってもいいほど。元々は下級身分の出身だが、前述の理由によりバートン親衛隊隊長を務めている。カタフラクト操作技術は群を抜いており、特に機動、速度といった分野では彼女に勝てるものがいない。女性ではあるが少々大雑把で最低限の家事は出来るが料理だけは出来ない。独身。

戦略眼にも長けており、虎狼の陣をよく使う。

7話で、オートクレールの能力をフランベルジュの爆発で攻略し、撃退に成功する。

搭乗カタフラクトはリジェクト

 

 

 

 

シエル・クラムスコイ

10月25日生まれ、18歳、身長161cm、A型。

 

軌道騎士バートン伯爵の配下で伯爵の婚約者。身分は子爵。

 

ヴァース帝国で天才と言われるジョルジュにも出来ない多重並列思考が可能な人物。元々は貴族階級出身だが旧社会的な思想が受け入れられず、家を出奔。その道中、強姦に合うも間一髪の所で助かるも気力が尽き、道端に倒れていた所を当時16歳のジョルジュに拾われ、助命。その後、ジョルジュの思想やその安心感に惹かれるも平民と貴族という身分で苦しむも、翌年、伯爵位を得たジョルジュから思いを告げられ恋人になる。本作のヒロイン。ちなみに照れ屋。ジョルジュの過去を知る唯一の人物。

搭乗カタフラクトはメリクル

 

 

 

 

マリネ

7月31日生まれ、21歳、身長174cm、O型。

 

ザーツバルム配下の騎士。身分は騎士。

 

ヴァース最凶の戦士。ヴァース帝国へ狂信的に自身を捧げており、誰よりも役に立つよう努力をしてきたがカタフラクト操縦でクラウディアに何度も敗れるうちに彼女へ憎しみと殺意を抱いた。殺戮に対する努力は凄まじく今では、自身の部屋は基本整理整頓されてるが床や机には銃の部品やナイフ等がころがっている。常識人ではあるが破天荒で戦闘狂な為帳消しに。

7話で、クラウディアの策に嵌ってしまい療養中。

搭乗カタフラクトはオートクレール。

 

 

 

 

ヴァインシュタイム

4月21日生まれ、38歳、身長184cm、A型

 

ヴァース本国周辺で揚陸城を構える軌道騎士。身分は伯爵。

 

ヴァース帝国の皇室へ、建国当初から携わってきた軌道騎士。威厳と風格、統率力もあり軌道騎士37家門の中でも多大な発言力のある人物。一族はヘブンズフォールによりその数は全盛期の3分の1にまで減らされるも15年の間で力をつけた。その間にある野望を抱き、裏方で暗躍する。

 

 

 

 

 

クレイツ

12月1日生まれ、31歳、身長172cm、B型

 

ヴァース軌道騎士37家門の一人。身分は伯爵。

 

地球人に対する憎悪は比較的そこまででもなく、温厚な人物。その性格ゆえに幅広い人脈があり、その人脈は地球にまで伸びている。ただ、打算的な面があり、その人脈を作った自身の性格すら計算に入れる。

 

 

 

 

 

シャルル

7月10日生まれ、40歳、身長192cm、AB型

 

ヴァース軌道騎士37家門の一人。身分は伯爵。

 

長身の身長、服越しにからでもわかる隆起した筋肉から多大なる威圧感を与える人物。搭乗するカタフラクトも巨大で、自身の領民を守護する良識派。今回の戦争も乗り気ではないが領民の事を考え、参戦する。

 

 

 

 

カレル

2月9日生まれ、27歳、身長176cm、B型

 

ヴァース軌道騎士37家門の一人。身分は伯爵。

 

常に何を考えているかわからない、掴みどころのない人物。力ある者に媚びて力をつけ15年間生きてきたため、多少正確に難がある。地球人に対する感情はほぼ無いに等しく、興味すら持っていない。

 

 

 

 

ブラン

1月29日生まれ、26歳、身長167cm、O型

 

ヴァース軌道騎士の一人。身分は子爵。

 

マリネに並び残忍な性格を持つ人物。ある事件により、その悪名が広まった。後にカレルに興味を持たれ、後ろ盾を得た。ジョルジュの穴を埋める形で近々伯爵に位が上がる。

 

 

 

 

クロウ

19歳

 

バートン城のリジェクト専任整備士。賭博好きだが弱い。某国宰相を狙撃しそう(小並感)

 

 

 

《地球サイド》

 

界塚 ユキ

8月18日生まれ、21歳、身長168cm、B型。

 

伊奈帆の姉で地球連合軍の兵士。階級は准尉。

 

ヘブンズ・フォールで両親を亡くし、親代わりとして伊奈帆を育てている。が、家事全般を弟に任せていたので家事が苦手。更に朝も弱い。所謂ダメな姉。伊奈帆とは対照的で明るい性格。喜怒哀楽がはっきりとしているために慕われやすい。ニロケラスに追われているライエを救助し伊奈帆たちと合流するも、ライエを救出した際、左腕を負傷する。後に耶賀頼医師にアーマチュアを着けてもらうが調整が雑なために(笑)な事に。

搭乗カタフラクトはKG-7 アレイオン

 

 

 

 

網文 韻子

4月11日生まれ、16歳、身長165cm、A型。

 

伊奈帆の幼馴染で同級生。

 

学力が高く伊奈帆と学年トップを争うほど。生徒会に務めているが、貧乏クジを自分から引く性格なので押し付けられることが多い。明るく素直で、伊奈帆に好意を寄せているが本人が鈍いため気づかれてない。残念。

カタフラクト操作技術もなかなかのもので(悪)運もついてるラッキー(笑)な人。

搭乗カタフラクトはKG-6 スレイプニール

 

 

 

鞠戸 孝一郎

6月2日生まれ、37歳、身長183cm、O型。

 

ユキの上官。無能大尉。階級は大尉だがやはり無能か。

 

15年前、種子島がヴァース帝国の侵略を受けた際、ただ一人生き残った。その後、戦闘の詳細を記した『種子島レポート』を連合軍に提出するも事実を揉み消され、その経緯から連合軍にいながらあまり信用できてない。表面上の事しか知らない兵士からは戦友を死なせ生き延びた卑怯者等の罵倒を受けている。勤務中に酒を呑むなど不真面目な態度だが、軍人としては模範的。あれ、無能じゃ…

戦友ヒュームレイの苦しい最後を目の前で見させられPTSDを患う。

搭乗カタフラクトはKG-6 アレイオン

 

 

 

 

ライエ・アリアーシュ

8月24日生まれ、16歳、身長158cm、A型。

 

地球に済む火星人の娘。

 

ヴァース帝国のスパイとして地球へ潜伏しテロを起こした者の娘。父や仲間が暗殺の口封じとしてトリルランに殺害される現場に居合わせ、自身も抹殺対象として追われていたが、鞠戸らの部隊が発見しユキが救助した。伊奈帆たちと出会い、その後は彼らと行動を共にすることに。火星人だがヴァース帝国への憎悪は強い。普段は淡々としており、やや斜に構えた性格。

搭乗カタフラクトは■■-■ ■■■■■

 

 

 

 

カーム・クラフトマン

1月23日生まれ、15歳、身長175cm、B型。

 

伊奈帆の同級生で外国人。

 

明るくクラスに一人はいるお調子者。元々新芦原の生まれではなく、ヘブンズ・フォールで母国をなくしてしまい日本へ疎開してきた。火星人への敵意が強いがジョルジュを見て少々和らいでる。

搭乗カタフラクトはKG-6 スレイプニール

 

 

 

ニーナ・クライン

3月2日生まれ、15歳、身長158cm、O型。

 

伊奈帆の同級生で韻子とは仲良し、親友。

 

カームと同じく、ヘブンズ・フォールにより新芦原に移住してきた女の子。おっとりとした性格。鞠戸の呼び掛けに応じ、避難民の救助に向かうため操舵手に志願し揚陸艇に乗り込んだ。

 

 

 

 

箕国 起助

7月15日生まれ、16歳、身長170cm、A型。

 

伊奈帆の同級生でカームとは悪友。

 

愛称はオコジョ。なんとまだ生きている。

 

死ぬか生き残るかは私の今後の展開によるがな!(ゲスボ

 

 

 

 

耶賀頼 蒼真

7月2日生まれ、28歳、身長180cm、O型。

 

新芦原市の医者。

 

専門は外科と心療内科。だが結構なんでもできる人。

 

 

 

 

ダルザナ・マグバレッジ

12月29日生まれ、27歳、身長170cm、O型。

 

地球連合軍の将校。女性にしては珍しく、階級は大佐。

 

ジョルジュ曰く、とても優秀とのこと。

 

 

 

 

不見咲 カオル

5月14日生まれ、25歳、身長166cm、B型。

 

マグバレッジの補佐官で階級は中佐。モテない。

 

 

 

 

小林少佐

 

実は優秀だった人。そしてこの人物紹介で1番最初に亡くなった残念な人。

 

 

 

 

《火星サイド》

 

レイレガリア・ヴァース・レイヴァース

6月15日生まれ、70歳、身長185cm、B型。

 

ヴァース帝国現皇帝で、アセイラムの祖父。

 

本来、彼は火星に派遣された調査団の一人だったが、火星の古代文明の遺産からアルドノアの継承者として認められた。軍事、政治等であまりに強大な力を得た。が、アルドノアの存在により地球側が物資等に圧力を掛け、それに対抗すべく地球から独立、アルドノアの力でヴァース帝国を作り上げた。しかし、肉体的に弱っていた彼は病にかかり、息子のギルゼリアに皇位を譲る。だが、ヘブンズ・フォールに巻き込まれたギルゼリアは戦死、再び皇帝に復位する。

 

 

 

 

 

レムリナ姫

?月??日生まれ、??歳、身長???cm、?型

 

ザーツバルムが匿っているヴァース帝国の姫。ジョルジュも知らない。

 

 

 

 

クルーテオ

3月26日生まれ、37歳、身長187cm、A型。

 

軌道騎士37家門の一人。身分は伯爵。ヴァースきっての忠義に厚い男。

 

地球人を嫌うヴァース帝国の典型的な思想の持ち主。スレインの主人ではあるが、地球人である彼の扱いは悪い。アセイラムには忠実で、ザーツバルムとは友人関係。

搭乗カタフラクトは■■■■

 

 

 

 

ザーツバルム

8月7日生まれ、43歳、身長190cm、AB型。

 

軌道騎士37家門の一人。身分は伯爵。策士で腹黒い。

 

地球側のテロに偽装させたアセイラム姫暗殺の首謀者。さらにそれをきっかけに地球と戦争するべく仕向けた。クルーテオの友人。実は月面基地も彼の管轄で、37家門の中でも筆頭とジョルジュに言わしめるほど。策士でもありジョルジュに勝るとも劣らぬ権謀術数を張り巡らす。前述の理由により彼は地球との戦争を望む強硬派と言われる派閥を作りあげた。実はクラウディア並に腕のたつ配下が一人いるが現在は本国で待機している。

搭乗カタフラクトはディオスクリア

 

 

 

 

エデルリッゾ

5月23日生まれ、12歳、身長134cm、A型。

 

アセイラムの侍女。なのにアセイラムより弱い。残念。

 

アセイラムの世話係となった火星人の少女。地球人にあまりいい感情を抱いていない。そのためスレインに対しては厳しい目で見ている。が、年下なため口を出せない。

 

 

 

 

トリルラン

11月18日生まれ、25歳、身長185cm、O型。

 

ザーツバルムの兵士。身分は男爵。トリュフ、いやキノコで十分か

 

クルーテオの食客としてザーツバルムより遣われたキノコはクルーテオ勢の内部事情を探るスパイ…もといキノコで、暗殺者の一人。下の者にはネズミと呼び、上官には媚を売る典型的なモブ…もといキノコ。スレイン使い新芦原市へ出撃し実行犯の処理をするが、その場にいたライエを処理し忘れ、その後ジョルジュに一喝されて慌てて逃げる典型的なモ…キノコ。その後、ジョルジュより情報を貰った伊奈帆らによりニロケラスを撃破される。アセイラム生存を知り、スレインにアセイラム姫暗殺計画を話してしまい、自身の所持していた銃により死亡。さらに隕石爆撃で死体も消え去った。汚物は消毒だぁ~!

搭乗カタフラクトはニロケラス

 

 

 

 

ブラド

4月1日生まれ、44歳、身長182cm、B型。

 

クルーテオ配下の騎士。身分は騎士。抜刀おじさん。

 

飛び道具を無粋として嫌うブシドーな人。戦う際も刀で戦う。クルーテオの命でジョルジュを狙うが連合軍が邪魔だったために実は無双してた。

クラウディア程ではないが、剣の技量だけならおそらくヴァース最強。てか抜刀おじさんだからそれくらいねぇ…

7話では、自身の名誉を回復することに固執した事によら冷静さに欠け、策もないまま伊奈帆へ突貫し、戦死した。

 

フェミーアン

2月14日生まれ、28歳、身長173cm、A型。

 

軌道騎士37家門の1人。身分は伯爵。女性伯爵。

 

一人称が妾と、少々変わった言い方をする。好戦的で、種子島に侵入した伊奈帆たちに攻撃する。しかし伊奈帆の策でヘラスの拳を全て破壊される。奥の手を使うも、種子島の隠しドックに建造されていたデューカリオンの攻撃によりヘラスが大破。周りをフリージアン小隊に囲まれ蜂の巣にされて、戦死した。

 

 




OUTPUT RESTRICTIONS MODEL ALDNOAH DRIVE

Contraindicated TyPE-α《GUNGNIR》

Contraindicated TyPE-Γ《HAUTECLAIRE》

Contraindicated TyPE-Θ《DULANDAL》

Contraindicated TyPE-ζ《GALATINE》Jorjue-Burton

Contraindicated TyPE-ι,M《EXCALIBUR》----------



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兵器紹介

人物紹介同様、随時加筆、修正を行います。




兵器紹介

 

 

 

 

 

 

 

ガラティン

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…27.5m

動力源…アルドノアドライブ

武装…両刃実体剣、?

特殊装備…?

搭乗者…ジョルジュ・バートン

 

軌道騎士ジョルジュ・バートン伯爵専用カタフラクト。

5つある禁忌のアルドノアドライブの一つを使われてるカタフラクト。特徴的な背中にある6枚の橙色の翼は、無重力空間でリジェクトに勝るとも劣らぬ速度を出す。これにより本機が黄昏の機体と呼ばれる事となった。重力下での飛行は試されていないがスペック上は可能である。武器は両刃の実体剣が確認されているがそれ以外の武装が使われた、又開発記録上存在しない。が、この機体の試運転の際、試験宙域での太陽風に乱れが確認された。

イメージはSEEDのブーメラン、リフターのないジャスティスにデスティニーの翼が付いた感じを思い浮かべてくれれば。全体の色合いはボディ、腕部、脚部が白、銀、紺。頭部が金、銀、紫。翼は橙。剣は銀。

 

 

 

 

 

リジェクト

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…18.0m

動力源…アルドノアドライブ

武装…二連装式擲弾銃『フランベルジュ』、単発式携帯型拳銃『フォーゼ』、ソードトンファー、物理シールド

備考…メインブースター3機、補助ブースター8機、大型ブースター5機、小型ブースター10機

搭乗者…クラウディア・オライオン

 

軌道騎士クラウディア・オライオン専用カタフラクト。

スマートなシルエットが特徴のカタフラクト。特筆すべきは背中にあるメインブースター3機を中心に26もあるブースターで、ヴァース帝国製カタフラクト最高スピードをたたき出す事ができる。しかし、その操縦性は最悪で、少しスラスター操作を間違えるだけで機体の進路が大幅にズレる。しかし、速度に目を瞑れば優秀な機体で現在デチューンされたリジェクトの量産化計画が検討されている。イメージはブースターの増設されたガンダムUCのシナンジュ。全体の色合いは、全て紺、漆黒となる。

 

 

 

 

メリクル

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…20.0m

動力源…アルドノアドライブ

武装…分離式統制高速起動自律ビーム砲塔群『ヴァーミリオン』、単発式携帯型拳銃『フォーゼ』

備考…アルドノアドライブ最大保有カタフラクト

搭乗者…シエル・クラムスコイ

 

軌道騎士シエル・クラムスコイ子爵専用カタフラクト。

この機体最大の特徴として30もの自律兵装群が多数収納されている点で、その一機一機にアルドノアドライブが搭載されており、アルドノアドライブの余剰出力全てをビーム兵器の出力に当てられている。当然、ビームの熱によって自壊しないようプラズマコーティングが施されたりと、ヴァース帝国で資源的に最も手のかかった機体。故に機体も特殊で、携帯可能な拳銃以外に装備は『ヴァーミリオン』のみである。しかし、数にして30、一機あたりの砲門は4つあり、最大120のビームを展開可能。そしてこれは攻撃のみでなく防御にも使え、砲塔からビーム膜を展開し銃弾等を熱で溶かし、溶かした物質を限りなく薄めて物理的な膜として二重に貼ることも可能にした。まさに、ヴァース帝国の最新鋭の機体として十二分な性能を誇る機体。イメージは腕部がガンダムAGEのフェニキスになったSEEDのレジェンド。色合いは淡い青が入った黄緑、橙。

 

 

 

 

オートクレール

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…6.5m

動力源…アルドノアドライブ

武装…?、?

特殊装備…?

搭乗者…マリネ

軌道騎士マリネ専用カタフラクト。

非常に小柄で、ヒトに近いカタフラクト。スラスターも1つのみという常軌を逸したカタフラクトだが、この機体には禁忌のアルドノアドライブの一つが使われており、その能力のため小型化させたとのこと。その能力は空間の半永久圧縮。周りの物質を集め、分子同士を物理法則を無視したかのように出鱈目に結合させ、それを空間を歪ませるほど圧縮させ、自身の力場にするもの。その硬度はディオスクリアの比ではない。

イメージはデナン・ゾン。色合いは全身赤紫、武装は黒みのかかった赤。

 

 

 

 

スレイプニール

 

形式番号…KG-6

所属…地球連合軍

頭頂高…13.5m

動力源…ガスタービンエンジン

武装…75ミリマシンガン、75ミリハンドガン、グレネードランチャー、120ミリライフル、格闘用ナイフ、大型ライフル

搭乗者…界塚伊奈帆…網文韻子、カーム・クラフトマン、箕国起助

 

地球連合軍のカタフラクト。アレイオンの型落ち機で、練習用として使われる。アレイオンとの違いとして、アレイオンより装甲が削られているためウェイトが軽い。しかし削られてるというのは防御性能が落ちているということ、結果脆い機体となった。特徴すべきは脚部にある推進器と滑空用の大型安定翼で、これを使用すると短時間、低高度の飛行が可能になる。さらに、緊急時にはスタビライザーを盾として使用可能であるなど装甲が薄い分、安全性の確保が高まっている。またモジュール式脱出装置を備えているため緊急時はカタフラクトからの脱出が可能。色合いは橙。

 

 

 

 

アレイオン

 

形式番号…KG-7

所属…地球連合軍

頭頂高…13.5m

動力源…ガスタービンエンジン

武装…75ミリマシンガン、75ミリハンドガン、グレネードランチャー、120ミリライフル、格闘用ナイフ

搭乗者…界塚ユキ、鞠戸孝一郎、地球連合軍兵士

 

地球連合軍のスレイプニールを強化させた量産型カタフラクト。脚部にはスレイプニールよりも小型化された安定翼を持つ。全身に装甲が増強されているため防御力は強化されたがその分、機動性の面では重さにより悪化した。色合いは灰色。

 

 

 

 

ニロケラス

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…18.0m

動力源…アルドノアドライブ

武装…腕部クロー

特殊装備…次元バリア

搭乗者…トリルラン

 

軌道騎士トリルラン男爵専用カタフラクト。期待の4割程を占める腕部で直接攻撃する。しかし、この機体には全身に『次元バリア』という光を含めたすべての物理現象を吸収及び消滅させるバリアを貼れることができる。この能力は同時に、展開するとニロケラス側の視界が失われることを意味し、『鷹の目』と呼ばれる浮遊型外部カメラを上空に配置、視覚を得ている。だが、バリアで覆えない部位も存在する。地面との接地面や外部カメラのデータ受信部などがそれにあたる。本来であればバリア展開中、外部からはほぼ黒一色に見えるはずだが、バリアの上に上書きする形で光学迷彩を散布することで元の色合いを投影、バリアの隙間の発見を防いでいる。伊奈帆はそれら全てを考慮した作戦を立て、海にニロケラスを落とすことでバリアの隙間を見つけ、撃破された。

色合いは赤紫、緑。

 

 

 

 

ディオスクリア

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…31.0m

動力源…アルドノアドライブ

武装…?

特殊装備…?

搭乗者…ザーツバルム

軌道騎士ザーツバルム伯爵専用カタフラクト。リジェクトとの戦闘で、非常に強固な装甲を持つカタフラクトとわかっている。火星のカタフラクト全ての原点と言うべき機体で、この機体のもつアルドノアドライブの固有能力である他のアルドノアドライブを制御するという特性を活かし、アルドノアドライブの固有能力の判別に使われていた。しかし、その実験は非常に暴走の可能性もあった危険な物であったため、当時のディオスクリアに使われてた装甲は今では一割もない状態である。そして、この機体の存在により禁忌のアルドノアドライブを発見することができ技術力も向上した、正に時代の流れを感じさせるカタフラクトである。色合いは漆黒、赤。

 

 

 

 

アルギュレ

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…16.5m

動力源…アルドノアドライブ

武装…高熱量プラズマビームサーベル

搭乗者…ブラド

軌道騎士のブラド専用カタフラクト。機動性が高く、簡単に相手の懐に入り、刀による一閃を見舞う。ブラドの趣向により飛び道具を一切装備していない。武装は左右の腰部に一本ずつあるビームサーベルの発振器である非実体の刀を装備している。伊奈帆との戦いでは、高熱量という利点を最大限活用しビームサーベルで弾頭を弾く、斬るといった百戦錬磨たる彼のか技量により優位に進めていたが伊奈帆のガントリークレーンを使った策で頭部が半壊、わだつみの救援、カームと起助の銃撃により撤退を余儀なくされる。わだつみでの戦いでは、りアクティブアーマーを装着したスレイプニールに爆発でプラズマを吹き飛ばされ、その後自身の刀が海水との影響で水蒸気爆発を起こし、海の藻屑となった。

 

 

 

 

ヘラス

 

所属…ヴァース帝国

頭頂高…22.0m

動力源…ルドノアドライブ

武装 …ロケットパンチ、体当たり(変形後)

搭乗者…フェミーアン

軌道騎士フェミーアン伯爵専用カタフラクト。巨大な拳を6本装備されている。この拳にはフェミーアンの趣味によりソロモン72柱の悪魔の名前が付けられている。フェミーアンはこれらを眷属と呼び、眷属おばさんという呼び名を獲得した。それらをロケットパンチの要領で射出、遠隔操作することで攻撃を行う。ヘラスの拳は巨大分子で出来ており、拳は破壊できないため伊奈帆はこれらをHE弾によって進行方向を逸らすことで被害を抑えた。しかし、弾薬が限られるため伊奈帆は戦線に参加していたスレインのスカイキャリアに乗り、分子構造が戻る拳が開く瞬間、そして装甲のない真後ろからの射撃により拳を使用不能にさせる。拳がすべて破壊されたフェミーアンはヘラスを変形させ、ヘラス本体の体当たりを敢行。速力はスカイキャリア以上で、かなりの速度が出た。スカイキャリアに当たる直前、地中から現れたデューカリオンの砲撃、ミサイル攻撃により体当たりの対象をデューカリオンに向けるも、後ろをとったスレイプニールとスカイキャリアによりエンジンを破壊され、その後デューカリオンに轢かれ大破に陥る。そして周りをアレイオンに囲まれトドメを刺される。

 

伊奈帆が初めて焦りを見せた相手。流石は伯爵位の機体である。当時の地球軍に大気圏内飛行能力を持つカタフラクトはないため、伊奈帆らがいなければ後に紹介するソリスと同じくらい種子島は占領されていたのではないだろうか、という筆者の考えである。



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本編 (アニメ1期)
火星の天才-Genius of Vers-


文才もない、亀更新なダメダメですがAldnoah.zeroの小説を見なかったので作ってみました。駄文でもよければ…(笑)

誤字脱字あれば指摘お願いしますm(_ _)m


「伯爵!これを!ザーツバルム城から映像が!」

 

あるオペレーターが声を荒らげる。するとメインモニターからザーツバルム城からの映像が映し出された。

 

「アセイラム姫が…殺された!?」

 

目を疑う光景があった。姫を乗せたと思われる車両を護衛している車が次々と上空より飛来しているミサイルに吹き飛ばされ、姫を乗せた車は爆風により転倒。辛うじて車から出た姫目掛けて六発目となるミサイルが頭上より落ちた。

 

アセイラム・ヴァース・アリューシア。火星国家ヴァース帝国の第一王女。火星からの地球に対する親善大使として地球に降り立った姫。ヴァース帝国初代皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの血を引く者。レイレガリア皇帝が見つけた超古代兵器、『アルドノアドライブ』を自由に使える者。その力はヴァース37家門にも与えられ地球とは一線を超える力を手に入れたヴァース帝国は二代目皇帝、ギルゼリアによって2000年に宣戦布告、数機の火星の有人人型兵器、『カタフラクト』が種子島に降下、その直後に『ヘブンズフォール』、月のハイパーゲートの暴走により月そのものが割れ欠片が地球に降り注いだ。その爪痕は北アメリカ大陸のおよそ4割が消滅する程である。

 

そして伯爵と呼ばれた彼は火星騎士、37家門の1人でもある。アルドノアドライブが発掘されたことにより火星に移住した人々は地球人を見下す者が多い。しかし彼は37家門の一人といえど、地球人も火星人も人は人という考えを持つ珍しい思想の持ち主だった。その為選民思想の強い他の伯爵に比べ下級市民に評判が良い。

 

その彼のカンが告げている。これはおかしいと。

 

地球人も馬鹿ではない。皇族の血を引く姫を殺したりでもしたら戦争になるのは子供でもわかる。そしてその力は月を砕く力を持ち、宇宙に城を作れる技術もあり、その力は15年前の前哨戦でも知っている筈。完全に力関係はわかっているのに殺害など出来る筈がないのだ。

 

━━━━きっとこの件は火星騎士が裏を引いている

 

そう、彼のカンが告げていた。

 

 

『我らがアセイラム姫の切なる平和への祈りはッ!!悪辣なる地球人どもの暴虐によって無残にも踏みにじられた!!我らヴァース帝国の臣は!この旧人類の非道に対して断固正義の鉄槌を下さねばならない!!誇り高き火星の騎士たちよ!いざ時は来た!歴代の悲願たる地球降下の大任、義を以て今こそ果たすべし!!』

 

 

ザーツバルム伯爵の演説が耳に残る。

 

ー義を以て。

 

彼の意志はまだ固まらない。

 

 

 

 

彼の名はジョルジュ・バートン。37家門でも比較的若い伯爵だが人の上に立つ者としては37家紋の筆頭に近い立場のザーツバルム伯爵に並ぶ切れ者である。

 

2年前、本国で起きた37家門の1つに叛意ありとの噂があり独自で調べた結果、ものの数日で犯人を見つけ出した。当時はまだ男爵であり情報源も少ない中、その頭脳だけで犯人にたどり着いた実力を認められ叛意の疑いをかけられた者と成り代わって伯爵に上り詰めた。

 

「地球連合本部の位置を調べろ。分かり次第、連絡を取れ。私とクラウディア、シエルはニホン、シンアワラ市に向かう。現地の責任者に会い姫殿下の死を明らかにする。クルーテオ城に繋げ!」

 

オペレーターがパネルを操作、数秒後にメインモニターからクルーテオ伯爵が映し出される。

 

「このような時に何用だバートン伯爵?卿は地球人を疎まぬ人柄ゆえ止めに入ったか?」

 

「いいえ、クルーテオ卿。卿が降下したニホンという地のシンアワラ市。私がそこへ調査に向かいたい。そのために許可を出して頂きたいのです」

 

それを聞いたクルーテオの眉に皺が寄る。

 

「それは如何なる用件で?卿の頭脳は他の者を寄せ付けぬ物故、私には考えが及ばない。しかし!もし我が領地となる場に対する侵略行為とならば…」

 

「そんな馬鹿な事を私がすると思うかクルーテオ卿?私は姫の死に関する調査の許可を出して欲しいだけだ。それに私は領地など興味ない」

 

半分嘘だ。確かに領地は興味無いがそれは今に限った話だ。いずれはこの地球という地を火星や地球の民が歪まずに済む星にしたい。

そんなことは知らないクルーテオは案外簡単に許可を出した。

 

「私も調査に赴くつもりであったが火星きっての頭脳を持つ卿が調べた方が有益だろう、許可する。」

 

とのこと。あまり合理的な性格ではないクルーテオにしては珍しい事だ。伯爵の中でも忠誠心が強く、自身の揚陸城で持て成した責任感か、何はともあれ許可は取れた。

 

早速自らの『凶馬』へ向かう。ジョルジュ・バートン専用カタフラクト、『ガラティン』

彼の円卓騎士、ガウェイン卿が手にした聖王アーサーと起源を同じくする聖剣の名。一説には視界に入る全てがこの剣の間合いとも言われた剣の名を冠した黄昏の機体は二機の護衛を引き連れ日本、新芦原市へ向かう。

 

 

 

 

その頃、火星騎士37家門が1人。ザーツバルム伯爵は自室で本を読んでいた。だが頭の中は違った。

 

(やはりバートン伯爵は疑問を持ったか。姫の死をどう隠すか、トリルランでは役不足か…?)

 

そう、ザーツバルム伯爵こそ今回のアセイラム姫暗殺の黒幕だった。民を思う余り、皇族の煽動によりさらに困窮化した今の火星を変えるべく皇族を狙った張本人。

 

(しかしいくら奴が切れ者とてクルーテオやほか数名を除き全てが我が手の内。いくら奴とて無謀な戦に挑む愚行は犯すまい…いや、念を入れておくか?)

 

ザーツバルムは地球の戦力を大まかには知っている。伯爵が1人地球に渡ったところで大局を動かすには至らない筈。導き出された結論はバートン城を監視するに至った。

 

だがその時にはバートン城から三機のカタフラクトが出撃した後だった。

 

 

 

『伯爵、あと2km程度で新芦原市です』

 

「そうか、私はアセイラム姫殿下の殺害現場へ向かうがクラウディアは近くの地球軍へ姫様捜索の協力、シエルは私の護衛だ」

 

『『了解』』

 

クラウディアは元々ジョルジュと同じ下級身分出身だがそのカタフラクトの操縦技術によりジョルジュが自らスカウトし騎士の身分を与えたジョルジュの右腕的存在だ。

その操縦技術は機動性を重視し、大小合わせブースター26機もある自らの専用カタフラクト『リジェクト』のトップスピードを維持したままデブリベルトを突き進め、その中で1km先の全長10m程度の的に当てる程。

リジェクト自体、大気圏内での飛行能力がないためスカイキャリアで移動することになったが彼女の操縦技術ならば機体のスラスターのみで擬似的なホバー移動が出来るかもしれない。

 

そしてシエル。彼女はジョルジュの婚約者でありヴァース帝国で唯一の多重並列思考が出来る存在だ。故に彼女のカタフラクトの設計思想はある意味特殊だ。

『メリクル』、その設計思想は『多数の無人兵器による広域殲滅及び面制圧射撃に対する無人兵器による広域防御』。この機体には超小型の自律型無人兵器が搭載されているが逆に言えば武装はそれしかない。その自律型無人兵器一機一機にアルドノアドライブが搭載されておりこれを脳波によって操作、数にして30のこれらを攻撃やエネルギーフィールドとして防御に使用したり、腰部や肩、足へ収納し追加ブースターとしての使用もできる、ヴァース製最新のカタフラクトだ。

この機体の真骨頂は支援にある。無人兵器のサイズが小さい為に気付かれにくく、相手の虚を突きやすい。支援砲火にも使え、防御にも使える為、支援向きな機体だ。

 

新芦原市に着くとセンサーに反応があった。その反応はスカイキャリア。だがカタフラクトの姿はなく、着陸する様子もない。

 

(着陸する様子がないということは歩兵を下ろすわけではない…となればカタフラクトだがレーダー等のセンサーに反応はない。となれば『次元バリア』を装備したカタフラクト?…確か今クルーテオ城には『ニロケラス』に乗るトリルランが食客として駐留してたな?あのキノコ、何をするつもりだ…?)

 

結論に至ったあとの行動は早かった。シエルに『鷹の目』を捜索させ、自身もトリルランを先に問いただす事にした。そしてクラウディアには全速力でこの新芦原市から出ようとしている地球軍の揚陸艇へ向かってもらった。

 

 

 

 

「おや?これは可愛らしい子ネズミさんだ…逃さないぞォ~♪」

 

ニロケラスに乗るトリルランはかつて無いほど心が踊っている。ここへ来る前に地球の航空機に破壊の限りを尽くし、アセイラム姫を暗殺させた者を消滅させ、いま『可愛らしい子ネズミ』を追いかけていた。その愉悦に満ちた顔は若干の狂気を孕んでいる。

 

しかし、それも長くは続かない。

 

地球のカタフラクト、『KG-7 アレイオン』がニロケラスへ銃撃してきた。しかし、銃弾は命中こそしているもの装甲に当たる前に消滅しているようにも見える。

 

ここで一機のアレイオンが『子ネズミ』へ向かう。

 

「乗って!」

 

ライエ・アリアーシュにとってそれはどのように見えたのか。火星人として父が任務を果たし、迎えと思われた火星のカタフラクトに目の前で父や父の戦友を殺され、自らを殺しに来た火星カタフラクトから救いの手を差し伸べる地球のカタフラクト。彼女の心境は複雑だった。

何はともあれ自らを助けてくれるなら地球人でも関係ない。まだ若い彼女は地球人を蔑んではいないのだからこの行動は自然な物だろう。

 

「民間人確保!」

 

「グレーネード!」

 

アレイオンから先のマシンガンではなくグレーネードランチャーが発射される。マシンガンの弾とは違い爆発による破砕攻撃を目的とした弾でマシンガンとは破壊力が違う。銃口からグレーネードが発射され、ニロケラスに飛んでくるが爆発しない。

 

「なんなんですか!?あの装甲は!!」

 

一人の隊員が叫ぶ。確かに普通ならば装甲に弾が当たるはずだがこのニロケラスには当たる前に弾頭が消失している。

 

混乱している地球カタフラクト小隊にニロケラスが迫る。その巨体からは考えられない跳躍力を見せつけ、カタフラクト隊のいた場所へ着地、ハエのように煩く発砲する一機のアレイオンに向かい走り、その右手を払い、接触してしまったアレイオンの胸部から上を消失させる。不運にも、コックピットは天井を無くすだけで隊長と思われるパイロットは理解も及ばぬまま機体ごと消失した。

 

指揮官の戦死により隊員は為すすべもなく二機を残しアレイオン三機が消失した。

 

そして二機のうち、一機のアレイオンがナイフを持ち突撃を仕掛けてきた。だが…

 

「臆病に死ぬか…蛮勇に死すか、誇り高い選択をしているつもりかね?」

 

やはりナイフも消失されさらに腕まで消失される。脚部ブースターで後進をかける頃にはニロケラスの右腕が迫り、その腰部を消滅させた。

生き残ったアレイオンはニロケラスから逃げるべく離れる。しかしニロケラスの目的は逃げるアレイオンに保護されている火星人。その火星人を手放さない限り逃げ切る確率は皆無だ。

 

近くを走っていた護送車が逃げるアレイオンの通信を傍受していなければ彼女らは助からなかったかもしれない。だがニロケラスの鷹の目はそれをも容易く補足する。よって、護送車が彼女を保護するときには既にニロケラスはアレイオンに肉薄していた。

だが彼女らは幸運の女神に微笑まれたのだろうか。

 

「動くなニロケラス。それ以上の破壊及び殺戮行為は私が許さん」

 

天空から、黄昏の機体が降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ジョ、ジョルジュ・バートン伯爵!?何故こちらへ…!?」

 

「クルーテオ卿から聞かされていなかったのかトリルラン?私はクルーテオ卿よりこの地での姫殿下殺害の調査をすべく来たのだ。つまり一時的にとはいえこの地の管理者は私にある。これ以上、この地での破壊や殺戮行為を行うならば容赦はせん」

 

それを聞いたニロケラスの行動は早かった。クルーテオ城に戻るべくスカイキャリアを呼び戻しそのまま離脱した。

 

邪魔者は消えた。まずは━━━━

 

『そこの地球人、聞きたいことがある。私の名はジョルジュ・バートン。軌道騎士37家門の一人である。バートンの名に誓って諸君らに危害を加えないことを誓おう』

 

『私が聞きたいのはアセイラム姫殺害についてだ。この件は火星人の反逆者がアセイラム姫を暗殺した可能性が高い。殺害現場を見たものは何でもいい。気づいたことはあるか?』

 

そして、一人の学生が前に出た。

 

 

 

名前は、界塚伊奈帆。

 

 

 




どうでしたか?面白くなければ面白くないとそのままコメントへどうぞ。あと、アドバイス等のコメントは文才のない私にはありがたいのでおねがいしますねー。


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地球の一番長い日 -Beyond the Horizon-

遅くなって申し訳ないです。課題や先日発売されたGE2RBをクリアするのに時間かかってしまい…


それを一体、何人の人が見つけられただろうか。

少なくとも彼、界塚伊奈帆には見えたそれ。

 

「伊奈帆は?手伝ってくれるよね?」

 

この学生の中で唯一の女性、網文韻子は伊奈帆に問いかける。ほか二人の男子はあまり乗り気ではないようである。どうやら火星のお姫様を歓迎するパレードの運営か何かを手伝うのだろうがそれどころではないかもしれない。故に返答は

 

「今すぐここを離れよう」

 

「「「え?」」」

 

そう、それとは

 

「ミサイルが来る」

 

 

 

 

その言葉に遅れて発せられた爆発音。アセイラム姫の乗っているであろう車両の後方に位置する車がミサイルにより爆発、次いで両サイドの車両も爆散した。

 

その煙を抜け純白のリムジンが走り回る。

しかし、悪夢は終わらない。

 

 

ミサイルがまだ2発も追尾してきている。一発は躱したが2発目が車の近くに当たり、爆風により車が転倒した。

 

「みろ!車から誰か出てきたぞ!」

 

「姫はまだ生きている!」

 

それは頭上からくるミサイルが無ければ安堵の息を漏らしていたかもしれない。

よって、為すすべもなく3本目のミサイルがアセイラム姫に直撃した。

 

20:05、ニューオリンズを始めとした各国主要都市に衛星軌道に駐留していた揚陸城37機の内19機が降下、その衝撃により都市部の構造の脆かった建造物は軒並み破壊された。

変わり果て、更地になったそこには新たな支配者と言わんばかりに火星の揚陸城がその威容を愚かな地球人達に見せつけていた。

 

 

 

 

 

『とある地球軍兵士の戦闘記録』

 

F-15 パイロット:ALEX・F・SAUNDRES

 

あれは悪夢だった。目の前にいる敵の要塞から雨のようにミサイルが降ってきたかと思えばそれは海底にあるケーブルを狙っていた物だった。さらに空母から最後の通信には通信衛星も破壊されているらしい。完全に連絡手段がなくなった俺達はただ敵の要塞を叩くしかなかった。それが俺達の任務であり、侵略者から守る手段だった。だがアイツらはそんな俺達の決死の攻撃でさえあざ笑うかのようにどこからもなく撃たれた照射レーザーに斬られた。幸い俺は脱出装置が起動して助かったがほかの奴らはみんなあれに斬られて爆散しちまった…パラシュートが開いて海に落ちるまで、俺は仲間の断末魔が耳から離れず、目の前にいる敵の揚陸城に怯えるだけだった…チキショウ!俺はなんて無力なんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、伊奈帆は朝食の玉子焼きを作っていた。

予定として伊奈帆の唯一の家族である姉、界塚ユキの車で避難することになっているのだが…なかなか来ない。

仕方なく伊奈帆は姉へ電話する。すると一秒もせず繋がったではないか。

 

「ユキ姉、まだ家にはつかないの?朝ごはん食べた?」

 

「それどころじゃないわ!お姉ちゃん今待機任務かかって今動けないの!」

 

姉の界塚ユキは地球軍の軍人である。階級は准尉。カタフラクト操縦技術は中々だが時折寝坊するため階級があまり昇格しない、所謂デきる女の弱点というべきか。

 

「ユキ姉の車で避難する予定じゃなかったっけ?」

 

「え…もしかしてナオ君まだウチに居るの!?どうしてみんなと逃げなかったの!?」

 

「判断は臨機応変!いざとなったら自分を信じて決断する!お姉ちゃんいつも言い聞かせてるでしょ!?」

 

「ペニビ「何!?」何でもないよ。巡回中の輸送車に拾ってもらうことにする。玉子焼きは食べておくよ」

 

「気を付けてね…」

 

「ユキ姉こそ」

 

 

 

 

外を出ればいつもであれば通勤通学ラッシュで発生する車の渋滞や人だかりが無くなり、当たりには静寂が居座っている。

 

(あ、ちょっと苦い。焼きすぎかな?)

 

玉子焼きの味を確かめると同時に輸送車を探す。しかし車の音一つしないここはまだ走っていないようだ。

 

(あれは…?)

 

橋の下に女の子二人組を見つける伊奈帆。この状況で橋の下にいるということはこの状況があまり理解出来ていないのだろうか…一人は背を向けているから年齢は分からないがもう一人は明らかに10代いや、もしかしたら10最高に満たないかも知れない。

何はともあれ、見過ごすことはできないだろう。伊奈帆はその二人組に声をかけた。

 

「あの…早く逃げないと。新芦原全域に避難勧告が出てる」

 

返事はない。

 

「旅行者の人?言葉は…」

 

「すみません…」

 

手を差し延べた時だった。背を向けていたまだ若い女の子が伊奈帆の左腕を掴み、伊奈帆を地面に縫いつける様に左腕を背中に押し付けホールドさせた。

 

「…わかりますね」

 

「はい。無礼を承知でお願いしたいのですが、このままの体勢でお話いただいても?」

 

「どうぞ」

 

「私達は然るべき機関に赴き、自らの無事を伝えたいのです」

 

「大使館ですか?この状況で機能しているとは思えない」

 

どうやら外国人、それもその国の大物のようだ。どうやら付き添いの女の子は侍女といったところか。しかし…

 

「昨日のヴァース皇女暗殺事件依頼地球連合は「アセイラム姫は!!」」

 

声を急に荒らげた。伏せている体勢のため顔はあまり見えないがそれでも悲しみの顔であるのはわかる。声や性格からして予想できなかった。

 

「生きています。彼女はパレードに参加していません。慣れない地球の重力で体調を崩し、代わりのものが…勿論、尊い命が失われたという事実に変わりはありませんが…」

 

「心中お察しします…」

 

成程、確かにそう考えたらヴァース皇女は生きている。だが何故彼女はそれを知っているのか?さらにアセイラム姫と思われるドレスを身に纏った女性がミサイルによって殺害されたのもこの目で見た。そして彼女らがヴァース帝国の手先、つまりは情報を混乱させるために潜入させた人達かもしれない。ヴァース帝国に関連してる人には変わりないだろうが伊奈帆の判断は

 

「個性的な仮説だ」

 

そう簡単に信用できる話ではない。だが、彼女たちも人間だ。ここで見捨てるのは界塚伊奈帆個人としてできない。故に、

 

「もうすぐ輸送車がこっちにくる。友人にメールしておいたんです。貴方達の話を信用はできないけど…一緒に行こう」

 

それが、彼の『決断』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、韻子達の乗る輸送車が到着し伊奈帆達と近くで車がガス欠になり困り果てていた耶賀頼蒼真という、伊奈帆達の学校でカタフラクトを扱う兵科教練の教官、鞠戸孝一郎大尉の医者が乗り込んだ。

やはりというべきか彼女らは伊奈帆の男友達の目に入る。

 

「それにしても…ロシア?いや、北欧系か…?新芦原じゃあ珍しいな」

 

カーム・クラフトマンの行った言葉がきっかけで男子は彼女の話に持ちきりだった。

 

「男子…」

 

と、呪詛に近い言葉を発する韻子。

 

 

突如、車の前が巨大な鉄の塊で埋め尽くされた。それは『KG-7アレイオン』、地球の主力カタフラクトだ。兵科教練で使われてる機体、『KG-6スレイプニール』の発展型で装甲と出力が増えた機体だ。

 

 

『貴方達、何やってるの!?ここは避難完了してるはずでしょ!?』

 

それはとても聞き覚えがある声だった。

 

「その声…ユキさんですか?」

 

『韻子ちゃん!?もしかしてナオ君も…ああもう、どうして…』

 

馬鹿で阿呆で赤点のくせして進学を希望する(カーム談)箕国起助が通信機を取る。

 

『つかカタフラクト隊が出撃するてことは、敵がくるんすか?この街に?』

 

『そうよ!東京から熱源が近づいてる。このエリアも航空隊がやられたら交戦区域よ!引き返して!』

 

『でもフェリーに行く道はここを抜けないと!』

 

『兎に角!安全な場所を探して逃げて!』

 

珍しく(?)融通の聞かないユキである。

そんな会話を知らない熱源体はさらに新芦原に近づく。

 

 

 

 

地球連合軍日本支部は東京より接近する航空機を発見した。役割としては運送目的のようだが兵装も確認でき、運んでいるのは紫色の火星カタフラクト。進路は新芦原市、アセイラム姫暗殺の地へ向かっているのは明白だ。

だから迎撃に出た航空隊の隊長はまさかミサイル数十発が爆発より先に消失するとは夢にも思ってなかっただろう。敵航空機が発砲、予想以上に弾速が早かったのか回避が間に合わず主翼などに被弾、他の機体はコクピットやエンジンをやられ爆散している。

脱出装置を起動するも目の前から航空機が向かってくる。為すすべもなく最後の一人はミサイルと同じように消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火星カタフラクトが界塚ユキ准尉の乗るアレイオンを消失させるその時、別の火星カタフラクトが現れた。

そのカタフラクトは紫色の火星カタフラクトから地球人を守るような、少なくとも地球人をどうこうしようという素振りはない。

そんな黄昏の火星カタフラクトから声が発せられる。

 

『そこの地球人、聞きたいことがある。私の名はジョルジュ・バートン。軌道騎士37家紋の一人である。バートンの名に誓って諸君らに危害を加えないことを誓おう』

 

『私が聞きたいのはアセイラム姫殺害についてだ。この件は火星人の反逆者がアセイラム姫を暗殺した可能性が高い。殺害現場を見たものは何でもいい。気づいたことはあるか?』

 

そこで、界塚伊奈帆は記憶を整理する。

 

暗殺現場に使われたミサイルは6本。

 

ではそのミサイルはどこから飛来してきただろうか?

 

━━確か、車の進行方向の逆からではなかったか?

 

さらにあれは護衛の車とアセイラム姫を乗せた車と分かれていた。ということは近くに観測、若しくは誘導していた者がいるはずだ。

 

ミサイルとはいえ、新芦原市は海に面している。軍港もあるが地球側が発射したとは考えづらい。とすればビルや立体駐車場などからの発射だろう。

 

そしてこのバートン伯爵と名乗る火星人…火星人が姫を暗殺していると考えている。だとすれば…きっとこの話に興味を持つ。

 

伊奈穂はその黄昏の火星カタフラクトに近づく。

 

「僕とそこの女の子、あとそこに居る男子学生はあの現場にいました。暗殺の状況はそちらも知っているかもしれないけどミサイル6本による攻撃、ミサイルは車を追尾するように動いていた。きっと、近くに観測か誘導をしている人が居たんだ。あらかじめセンサーを車に付けるのは警備上不可能だ。そしてミサイルの飛翔距離もある。きっと近くのビルか立体駐車場で発射したんだと思います」

 

「ちょっ、伊奈穂!?」

 

「この火星カタフラクトは少なくとも今は僕達に敵対はしていない。なら、調べる方法の多い火星側に情報を共有すべきだ」

 

韻子は黙るしかない。正論ではある。が、相手は敵なのだ。恐ろしくもある。何にせよ、伊奈穂は動いた。後戻りなどもうできないのはこの場にいる全員が理解した。

 

 

 

 

 

(ジョルジュ・バートン伯爵…彼が私を暗殺なんてする筈がない。なら、ここで正体を明かした方が…!)

伊奈穂に連れてこられた二人の女の子の内、姉に見える方が立ち上がる。その行動に侍女は何事かと思いながらついていく。が、その侍女をジョルジュは知っていた。なぜならジョルジュはその侍女を侍らす人を知っている。だからだろうか、侍女を侍らすどこにでもいそうな容姿をする女の子に向かいアセイラム姫と呼んでしまったのは…そして、それが周りの地球人にも聞こえてしまったのは。

蘇るのは伯爵の位を得た際の晩餐会。元々生活基準が低いヴァース帝国ではあるがこの時は新たな37家紋のジョルジュを迎える祝いの場、食事も豪勢だった。そして、レイレガリア皇帝に付き添うアセイラム姫。そして、アルドノアドライブの起動権を貸し出す儀式。その時からジョルジュは皇家の忠臣であり続けると決意した。

そして彼は今、死んだと思っていた姫の生存に涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザーツバルムは衛星軌道から新芦原を監視していた。だがトリルランは退却し代わりに3機の火星カタフラクトがそこにはいた。その様子にザーツバルムは思わず舌打ちしてしまう。『ガラティン』、『リジェクト』、『メリクル』。バートン伯爵専用カタフラクトとその親衛隊とも言える二機。バートン伯爵は既に行動していた。後手に回ってしまったザーツバルムは彼の揚陸城監視は無意味と判断し、地球に降りた彼らを監視することにした。

 

(我の愛馬、ディオスクリアの複数のアルドノアドライブを制御するという特性が適用されなかった5つしかないアルドノアドライブの一つ、ガラティン…)

 

だが、弱音は吐いていられない。『騎士たるもの、牙剥くものを倒すのは凡庸、牙剥かせぬほどに格差を見せつける事程肝心』、バートン伯爵が自身に挑む、そんな事を考えさせないためにはどうするべきか?

彼とて彼ほどの天才ではないが火星屈指の策士である。ザーツバルムは策を練る。邪魔物を一掃し、己が悲願を叶えるために。




ある者は生きるため。ある者は自らの一族のため。二つの思いが交差するとき、大地が轟く轟音に震える。次回、反逆の学生たち。その叫びは絶望か、それとも。



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反逆の学生たち -Rebellion of Students-

いやぁ、キノコ狩りまで全て書き終えるのに時間かかってしまった…はぁ、文才ほしいなぁ…(涙)


地球の少年…界塚伊奈帆の報告を受け、ジョルジュはまず現場に先行しているシエルへ通信を開き近くのビル、または立体駐車場で大型の車を調査するよう命じた。

そしてアセイラム姫の生存を確信したジョルジュはコクピットから出て侍女を侍らす女の子の前で臣下の礼を執った。

 

「アセイラム姫殿下。軌道騎士37家門が1人、ジョルジュ・バートン只今お迎えにあがりました」

 

その発言に周囲は驚き、女の子は光学迷彩を応用した偽装を解除、真の姿を見せた。それはあの忌まわしいミサイルによって殺されたかに思われたアセイラム姫本人だった。

 

だが伊奈帆は未だに信じきれてなかった。火星の人なのは確かなのはこの光景でわかる。だが本当にこの人はアセイラム姫なのか?

 

「君の疑惑は最もだが、彼女…殿下は確かにアセイラム姫ご本人だ、少年」

 

「え…なぜ僕の考えていることが?」

 

「これでも人の上に立つ立場だ、配下の者たちの考えを聞いてくうちに聞かずとも最近は分かってきた」

 

なんてデタラメな人なのか…周りはそう思っても伊奈帆の抱く疑惑を何一つ答えていない。よって伊奈穂はさらに追求する。

 

「それで、彼女が本物と言える証拠は?たしか、ヴァース皇族はアルドノアドライブの起動権を持ち、配下の者に起動権を貸し与えていると聞いています。この人が狙われてる理由は大体の察しがついています。だから━━」

 

「私のカタフラクトを止めてみせろ、か」

 

伊奈帆の疑惑は最もだが、ジョルジュはあまり受け入れ難い提案でもある。既に地球は大き過ぎる損害を受けている。親衛隊が離れている今、姫がアルドノアドライブを停止させて彼らからの応報を受けた場合姫を守りきる自信はない。

 

「すでにこの地には私の親衛隊が存在している。一機をもしものためにここへ向かわせる。それでいいか?」

 

「妥当ですね。先のダンゴムシが引き返さないという保証もない」

 

ジョルジュが連絡してものの数分でリジェクトが到着し、ガラティンのアルドノアドライブは姫により一時的に停止。姫が本物とわかり、界塚伊奈帆の信頼を得た。

 

 

アルドノアドライブをもう一度起動してもらい、彼らを基地まで送り届けると丁度、ジョルジュはシエルの報告を受けた。

 

『ジョルジュ、あったわ。地球側か火星側かはわからないけどミサイルを積んでいたと思われるトラックよ。いま画像を送る』

 

それは既に証拠隠滅のため爆散されており、元の形状を留めてないが部品やミサイルの仕入先、消えて入るだろうが指紋や地球の少年…界塚伊奈帆の言っていた誘導先を受信する電子機器を調べれば割り出せるだろう。

この街の責任者はクラウディアが既に見つけて保護している。連合軍もこちらの意を汲んでくれ、調査にも協力的だ、悪いことにはならない。名前はたしかダルザナ・マグバレッジ大佐と…鞠戸孝一郎大尉だったか?

 

ダルザナ大佐は周りが見えているから指揮官としては優秀だ。是非とも協力していきたい人物だ。

そして鞠戸大尉は15年前のヘブンズフォールの目撃者で恐らくオルレイン子爵のデューカリオンと交戦し生還した兵士だろう。我々の力を知っているからこそ慢心を抱かない。PTSDを患ってなければ間違いなくエース級の実力がありそうだ。

 

姫様は地球の…界塚伊奈帆に興味を持ち、私自身危険な地にこれ以上姫を残らせたくはないが…姫の意向を汲むのも軌道騎士の務め。守りはシエルに任せ、私は揚陸城に戻るか…?シエルの防御能力ならば大抵の危機は逃れられるだろう…

 

 

 

 

そして、残る問題は

 

(あのトリュフをどうするかだな…)

 

必要以上に殺戮行為をしたあのトリュフいや、キノコのことだ、私が離れたら仕掛けてくるだろう。クルーテオに念を押すのもいいがあれはあれで堅物だ、わかってくれるかどうか…

そしてキノコの行動を咎めない主のザーツバルム伯爵は何をしているのか?姫暗殺により地球人を本気で滅ぼすつもりか…?あるいは彼が黒幕だとしたら?

 

 

━━揚陸城を降下させないのは地球全体を監視するため?

 

キノコをクルーテオ城に食客として送り込んだのはスパイ目的?スパイを排除させるため?はたまた両方か?

 

確かオルレイン子爵とザーツバルム伯爵は婚約していた筈では?ギルゼリア帝が強引に地球侵略を推し進めたからオルレイン子爵は死んだ、つまり皇族への禍根も持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、暴論だな。あの聡いザーツバルム伯爵がここまで幼稚な考えで動く訳が無い」

 

確かに皇族への禍根はあるだろうが、彼はレムリナ姫という御仁を匿っていたはず。レムリナ姫がどういう人かはわからないが彼女を立ち上げ新たな国を作るくらいのことをする筈。

この思い違いがジョルジュの人生最大の危機を招く事になるとは当人でさえ想像もつかなかっただろう…。

 

今は彼らの保護を優先する、並行して姫の生存を火星に伝え皇帝陛下に即時休戦を進言、か。

だが…ザーツバルム伯爵がどう動くか…間に合えばいいが。いや、まだ敵となったわけじゃないのだ。落ち着かねば。

 

そして、伊奈帆らを基地へと送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、伊奈帆らはジョルジュに基地まで送ってもらった。そして、伊奈帆があのカタフラクトを『足止めする』ためにアセイラム姫や界塚ユキが保護していたライエ・アリアーシュという女の子、網文韻子にカーム・クラフトマンを連れ、トレーラー一台を借りて学校に戻っていった。

ダルザナはカタフラクトが学校にある練習機しかなく、パイロットもいないこの状況を悔やんでいる。学生に頼るしかないこの状況を。だが手立てがそれしかないのも事実。鞠戸大尉の報告では紫色のカタフラクトは攻撃が一切効かない相手の様で、学校へ向かった貝塚伊奈帆もそれを考慮に入れた作戦を立てているという。どちらにせよ、

 

「彼らが無事に帰るのを待つしかないようですね」

 

こういう時こそ、上に立つ者として冷静にならなくてはならない。そう考えれるダルザナはやはり優秀な指揮官であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして学校へ向かった伊奈帆ら5人はアセイラム姫から聞いた火星の話をしていたが火星の実情を聞いた皆の顔は暗くなっていた。いや、二人を除き。ライエは父を殺され火星の話など聞きたくない、拒絶を見せ伊奈穂はいつもの通り表情が変わらない。あれでも彼なりに哀れんではいるのかもしれないが唯一伊奈帆の表情に見分けがつく姉のユキがここにいないので誰もわからない。

 

学校についた伊奈帆らはネットワークルームへ足を運んだ。大画面ディスプレイが設置されているこの部屋はまさに簡易的なブリーフィングルームとしての機能を果たしている。

 

「早速だけど、あのダンゴムシの撃退方法を皆で探りたい。鞠戸教官からアイツとの交戦データがあるからそれを見てみよう」

 

伊奈帆主導で始まった作戦会議では鞠戸教官ら数機のカタフラクトが為すすべもなくダンゴムシにやられた交戦データの見ることから始まった。

 

「やっぱりこの攻撃を受け付けないこれは何とかしないと…」

 

「韻子、それなんだけどアイツにはどんな攻撃も装甲も消してしまう。さらにこの機体は赤外線で狙っているのに反応もない。レーダーにも映らないこれはあらゆる物を消失…吸収する壁なんじゃないかな。バリアて言ってもいい」

 

「だけどアイツはどうやってユキ姉を追ってきたんだろう?」

 

それは鞠戸大尉の特攻も無意味なものになった後のこと。ライエを助けるべくユキ姉のアレイオンが市街地の物陰を利用して逃げてもあのダンゴムシは正確に追ってきていた。

 

「つまり…あいつは逃げた先までわかるってわけ?」

 

一言も喋らなかったライエが口を開いた。しかし伊奈穂の答えは否だった。

 

「それだと相手の先の行動を予測してることになる。そんなことができたら交戦している時に攻撃を外したりはしない。きっとほかのカメラかなにかの映像を見て動いているんだ。だから物陰に隠れても追ってこれたんだと思う」

 

まとめるとあのダンゴムシ…ニロケラスはすべてを吸収する無敵のバリアを持ち、外部に設置したカメラのデータを受信して行動を他の視点から見ているため隠れる事は不可能という事だ。

 

「だけど」

 

だけど?

 

「そんな奴にも弱点は必ずある」

 

伊奈穂の目に確信が宿る。

━━━既に作戦はできている。後は誘導するだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故バートン伯爵にあの地の調査を任せられたのですクルーテオ伯爵!?」

 

帰還したトリルランはすぐさまクルーテオのいる執務室へ向かった。自分にはザーツバルム伯爵からスパイの抹殺を命じられクルーテオの食客になった。トリルランの心境は瀬戸際まで追い込まれている。生きて名誉を掴めるか一族郎党皆死ぬか、なのだから。

そんな事など知らないクルーテオ。自分にも得手不得手があるのは理解している。堅物なのもザーツバルムが何度も指摘しており自覚はしている。だからこそ頭の回るジョルジュに任せた。クルーテオからしてみればトリルランの意見は筋の通ってない話だ。

 

しかし━━━

 

 

 

 

それは偶然だった。

 

「ならば私も調査隊にお加え下さい!」

 

発言したトリルランも言ってから気づいた…これは筋が通ってると。

長らく食客としてクルーテオに養われ、そのご恩を果たそうにもジョルジュに邪魔された。ならば自分が加わればいい。トリルランの目的はあくまで新芦原にいる子ネズミなのだ。

 

「ふむ…それならばバートン伯爵も喜んで引き入れてくれよう。許可する」

 

クルーテオも許可してくれた。これで邪魔者はいない。

 

そしてその30分後、クルーテオ城からニロケラスを積んだスカイキャリアが飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンゴムシを補足した伊奈帆らは出撃の準備を進める。あいつは僕らの居場所がわかっていない。つまり、イニシアチブはこちらが握っている…焦る必要はない。作戦通りにやればいい。

 

そして5人の少年少女はやってくる絶望に抗う。

 

トレーラーにはライエ、アセイラム姫…もとい変装アセイラム姫、伊奈帆が。スレイプニール2番機に韻子、3番機にカームが。

 

作戦開始の合図…赤玉信号弾を銃に込める伊奈帆。そして上空に向けて三発放った。意味は…『戦闘開始』

 

 

 

それを見たトリルランはその先を見る。するとトレーラーには仕留めそこねたネズミがいるではないか。

 

「見つけた…!カタを付けるぞ!」

 

ライエはこちらに向かってくるニロケラスを横目にトレーラーを走らせる。その後ろには韻子とカームのスレイプニールが。

 

時は来た。

 

「作戦開始」

 

伊奈帆の号令により二機のスレイプニールは上空に向けて煙幕弾を放った。それは、ニロケラスのバリアが鉄壁すぎて自身からのカメラも見えなくなる弱点を解消すべく上空に配置したカメラの視界を無くすためだった。

 

「おのれ!まさか…!?」

 

鷹の目をどう見破ったかは知らない。が、結果は視界を塞がれ移動できない。次元バリアがある限りニロケラスは無敵だがこれではネズミの処理ができない。次から次へと放たれる煙幕弾。

 

「このクソネズミどもがぁぁ!!」

 

トレーラーの補助席に座るアセイラムも煙幕弾を放とうとするが、使い方がわからない。見かねたライエが使い方を教える。

 

「セーフティーを外す、構える、撃つ。簡単でしょ?」

 

それを聞き、車の窓を開け大空へ銃を構える。乾いた音というより空気の抜ける音とともに弾頭は銃身から離れ、空中で炸裂、煙幕が広がる。

 

初めての事だったのか、嬉しがるアセイラム。

 

そんな中、ニロケラスを積んでいたスカイキャリアがこちらに転進してきた。

 

「トリルラン卿!これはいったい!?」

 

搭乗者のスレインは濁った空を見て駆けつけたようだ。

 

「トレーラーだ!」

 

いきなり何のことか、一時的な思考停止状態になったスレインの返事は

 

「…は?」

 

礼節を欠いた返事になるのも仕方ないことだろう。

 

「道を教えろ!奴はどこだ!」

 

漸く説明されトレーラーを探し出す。煙幕の中ではあるが広く見る『鷹の目』と違いスカイキャリアは戦術輸送機、索敵能力は並ではない。程なく、街の中心部に向かう車を見つけ出した。

 

 

 

 

 

だがそれも束の間、トリルラン卿に伝えた直ぐにカームのスレイプニールがスレインの乗るスカイキャリアに発砲してきた。だが、カタフラクト操縦技術の低いカームではマシンガンのエイムが上手ではないようで、スレインの榴弾砲により逆にスタビライザーがやられた。

 

「カーム!」

 

支援に入った韻子がグレーネードランチャーをスカイキャリアに発砲する。

すると主席の伊奈帆に噛み付く程の実力を見せた。命中率の低いグレーネードランチャーを見事スカイキャリアの主翼に命中させ、『コウモリ』を落とした。

 

『電圧チェック、油圧チェック、温度チェック、回転数ノーマー…』

 

暗いコックピットに、少年の声が響く。

 

『フォートレスフィードバック、チェッキングプログラムスタート…』

 

伊奈帆は淡々と機体をチェックする。ユキ姉の激励の言葉が綴られたシールを剥がし、ポケットにしまう。

 

『エジェクションシート正常、IFF確認…戦術データリンクアクティベート』

 

そして、戦神と名高いオーディンの愛馬の名前を借りた機体は目を覚ます。

 

『システムオールグリーン』

 

そして、伊奈帆のスレイプニールは目覚める━━

 

 

 

そんなことがあった中、トレーラーに肉薄するニロケラス。トレーラーは橋を通るルートを取り、ニロケラスのバリアを纏った腕に当たらないように必死に回避運動を続ける。しかし、ライエの限界が来たのだろう、反応が鈍くなり、車の振り戻しなどといった原因により後輪がニロケラスに触れてしまい、車が進まなくなった。

 

「…ここまで、ね」

 

しかし

 

「いいえ。まだ合流まで54秒、私が時間を稼ぎます」

 

時間を稼ぐ━━━

 

ライエは皮肉な顔をした。

自分は火星人で、お父さんを殺した同類。

火星人は、みんな敵。そう思っているのに今は火星人のアセイラムに助けられる状況なのだ。

 

そんなことは知らない変装したアセイラムはニロケラスの前まで歩みを進める。

 

「見苦しいな!今更になり命乞いをするか、地球人?」

 

「控えなさい!」

 

凛とした声が橋の上に響く。その声には確かな覇気が籠っている。

 

「目に余る狼藉、許しません」

 

そして、彼女は偽りの姿を解く。そこには、ヴァースの…

 

「ヴァース第一王女の名において━━」

 

「な…ッ!アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下!!」

 

ヴァース帝国の第一王女が、存在していた。

 

「下がりなさい!無礼者!!」

 

「バカな…!そんなバカなぁ!!?」

 

ニロケラスが後退する。そこにミサイルが降り注いだ。揚陸艇…伊奈帆たちを心配して鞠戸大尉がマグバレッジ大佐に進言し、救出に来たのだろう。しかし、ミサイルもやはりニロケラスのバリアにより触れた瞬間消えてしまう。

 

 

 

…だが、偶然放たれたミサイルが功を奏した。

 

ここで、伊奈帆の目的を話そう。伊奈帆はニロケラスの次元バリア攻略のためニロケラスの外部カメラの視覚データを奪い、時間を稼ぎ橋の上で待ち伏せる…理由は、

 

「ええっと…マスターアームスイッチ、ファイアコントロール…ダンパー下ろして…」

 

『韻子急げ!』

 

「ああ、もう!!ファイア!!」

 

韻子のスレイプニールのショルダーに格納されてたカタフラクト用の大型狙撃銃でニロケラスが立っている橋を砲撃する。1発目、命中…しかし橋の部分的な崩壊には至らず。2発目…命中、だが崩壊せず。だが6発目には橋がニロケラスの重さに耐えられずニロケラスの地面が割れ、ニロケラスとその部分の地面が落下した。落下先は川…つまり全周に水が次元バリアに干渉し、消失する。

 

 

『カーム』

 

「えっと…あ、足の裏?」

 

伊奈帆がカームに聞いている内容…それは次元バリアの隙間だ。そして、それは見つかった。

 

「見つけた!水が吸い込まれない…!背面装甲インテーク右下…ツメの隙間!!」

 

そして、伊奈帆のスレイプニールはニロケラスに肉薄する…右手にナイフを持ち、水が吸い込まれない、次元バリアの『穴』にナイフを突き刺す。すると、次元バリアに干渉されなかったナイフは確かにニロケラスの装甲を貫通した。

 

「お前のバリアに隙間があるのはわかっていた…例えば接地面。足の裏にバリアを張ったらお前は立つことすらできない。だから、そのバリアで全身を覆いきれない…そして、」

 

ナイフの切り込み口に、マシンガンの銃口を向ける。

 

「外部カメラのデータ受信部。バリアの隙間の一つさ」

 

伊奈帆はそのナイフで傷をつけた装甲を見つめ、確かな殺意を持ちマシンガンを放った。そして、ニロケラスのバリアは解除され、ゆっくり前から倒れる。

 

伊奈帆は橋の上を見る。そこには、姫が。

 

「火星の…プリンセス…」

 

何はともあれ、これで追撃はなくなった。だが、この地球上で逃げる場所など。一体どこにあるというのだろうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか…!」

 

スカイキャリアのパイロット、スレインはアセイラム姫の姿を見つけた。それは、姫のために動くスレインにとって、死んだと思われた主君が生き残っているのだから一先ず安心できただろう。

 

望遠鏡をしまうと川からトリルラン卿が現れた。おそらくニロケラスがやられた…?

 

「トリルラン卿!ご無事で!?」

 

「嫌味か貴様!今まで何をしていた!?」

 

「スカイキャリアの応急修理を…」

 

「案内しろ!さっさとここを離れるぞ!!」

 

「お待ちください!!アセイラム姫が生きておられます!」

 

この時のトリルランは冷静ではなかった。だから、つい言ってしまったのだろうか。ここで言わなければ運命は『あれほど』狂わなかっただろう…

 

「知っている!だから殺すのだ!!今度こそ、確実に!!」

 

…エ?

 

コイツハイマ、ナントイッタ?

アセイラムヒメヲ、コロス?

 

「どこまで愚かなのだ劣等人種!?アレを生かしておけば我らは一族郎党逆賊であろうが!!」

 

…ヒメノアンサツハ…ヴァースノダレカナノカ…?

 

固まるスレインを放置し、どこかへ向かうトリルラン。しかし、スレインはトリルランの腰にあるホルスターから銃を抜き取りトリルランに構えた。だが、その手は震えている。

 

「貴様、何のつもりだ?」

 

スレインは答えない。

 

「よこせ」

 

一歩、スレインに近寄るトリルラン。そして、引き金は弾かれた。

 

「ヴォォォォオオ!!」

 

腹部を打ち抜かれ、地面に手をつくトリルラン。そして、思考が戻ったスレインが問いかける。

 

「あの…パレードは…!!姫様を…暗殺しようとしたのは!!」

 

地球はやはりアセイラム姫を歓迎していた…そして、軌道騎士の誰かがアセイラム姫を暗殺しようとした…それを悟ったスレインに逆賊であるトリルランに容赦はせず、

 

「後悔…する、ぞッ…!」

 

その言葉が、トリルランの最後になりスレインによって死亡した。




忠義の騎士はその怒りに。真実を知った少年は主君のために動き出す。次回、騎士たちは。天才の騎士は、何を思い、どう動く。


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騎士たちは-the knights of purge-

なんとか4月が過ぎ去る前に投稿できました。

相変わらずの亀更新で申し訳ないです。
今後も月一回くらいの投稿になりそうです。下手したら2ヶ月に一回とか…(A;´・ω・)


トリルランを射殺したスレインは応急修理したスカイキャリアで新芦原を後にした。しかし、それと入れ替わるかのように宇宙から隕石爆撃が行われた。

主翼が完全な状態ではなかったため推力が下がっていたスカイキャリアには少々無茶な操縦になるが背に腹は抱えられない、スレインは速度を上げ爆風でバランスが取れなくなる前に脱出することに成功した。

 

同じ頃、伊奈帆たちのカタフラクトを収容した揚陸艇も隕石爆撃の影響を受けた海が大きな津波となり転覆しそうになった。

 

「なに!?」

 

「揚陸艇のレーダーが新芦原市上空に複数の巨大な質量を持った物体をキャッチしてました」

 

「隕石爆撃…!火星人め!!」

 

「間一髪でしたね…鞠戸大尉」

 

「ああ…しかし良かったのかね?例の火星騎士…バートン伯爵が今は一時的に管理してんだろ?そこに隕石爆撃…」

 

「…今考えても憶測でしかありません。まずは生き延びる術を見出しましょう」

 

そう、今地球の大半は火星の揚陸城やカタフラクトの圧倒的差により侵略の手が伸びている状況なのだ。目先のことより長期的に生き延びる術を考えなくてはいけない。

 

 

 

 

 

そして、その上空を飛ぶメリクルを操るシエルもまた、先の隕石爆撃を不審に思っていた。

 

(ジョルジュが一時的に管理した地をわざわざクルーテオ伯爵が爆撃する筈がない…爆撃は軌道上にいる軌道騎士によるもの…。だけど、わざわざクルーテオ伯爵を敵に回してでも爆撃する意味は?)

 

そこが疑問だった。アセイラム姫が仮にとはいえ死んだ地にわざわざ爆撃をする軌道騎士がいる筈がない…だが、姫の死を確実にしたいが為に爆撃したと考えるならどうだ…?

 

(ジョルジュに…相談、かな)

 

シエルもまた、姫の『我儘』に共感したのも事実。ジョルジュもメリクルの防御能力を買っておりシエルの特殊性も理解している。故に、慕い合う人からの命令は絶対だ。

 

「必ず守り通すよ、ジョルジュ…」

 

そんな呟きが、メリクルの中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、揚陸城に戻ったジョルジュは自身の城にある謁見の間へ向おうとしている時。

 

「伯爵、我が城に入港を求める航宙船が。ザーツバルム伯爵のブレイダルス号です」

 

「ザーツバルム伯爵だと?」

 

こんな時になんの要件だ…?今、一番姫の暗殺を企てた可能性が高いのはザーツバルム伯爵、あまり会う気にはなれないが…

 

「…まあいいだろう。入港許可を出せ。伯爵には私の執務室にご案内しろ」

 

「了解」

 

「それとシエルに連絡。『近く、襲撃がある』と。そしてクラウディアを揚陸城の守備に回せ。場合によっては揚陸城を降下させる。リジェクトならば大気圏降下も出来る」

 

さて━━もてなす準備は出来たぞザーツバルム伯爵。何の為に来たのかは計り知れぬが…謀略では私に部があるぞ…?

 

 

 

 

 

 

 

「ザーツバルム伯爵、間もなくバートン伯爵の揚陸城に到着します」

 

「シャトルを用意せよ。連れは要らぬ。念のため、我の城に駐屯しているステイギス隊に出撃準備をさせよ」

 

「ステイギス隊を…ですか?」

 

「これから我が向かうのはあの天才たるバートン伯爵の揚陸城である。念を押して損はあるまい」

 

実際、ザーツバルムも内心恐怖していた。

おそらくバートン伯爵はもう暗殺の首謀者にアタリをつけているはず。そして、その首謀者たる我が疑いをかける者の本丸に向かうのだから。無論、自首するためではない━━

 

そんな事を思いながら、ザーツバルムはシャトルに乗り込みバートン城までの僅かな間を揺られながら覚悟を決めていた。時折『風』により揺れるのはまだ己の策に揺らぎがあるのだろうか。

 

そして、ザーツバルムはバートン城に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隕石爆撃による津波が収まり、カタフラクトに乗っていた伊奈帆らと放棄したトレーラーに乗ってスレイプニールに乗せてもらったアセイラムとライエは漸く狭いコクピットから出ることができた。

 

「姫様!こ無事ですか!?」

 

侍女のエデルリッゾがこちらへ走ってくる。

 

「ええ、ありがとうエデルリッゾ、私は大丈夫です。そちらの様子はどうですか?」

 

「バートン伯爵は一度揚陸城に戻りヴァース本星へ連絡を取ると…そして、護衛としてシエル子爵が上空で警護されています」

 

「そう…わかりました。ありがとうエデルリッゾ」

 

そして伊奈帆にも人が来る。それは久々に聞く姉の声だった。

 

「お疲れ様、ナオ君」

 

「ユキ姉…」

 

「本当によくやったわ。これも優秀で気立てのいい美人教官の指導の賜物ね」

 

周りにいた伊奈帆以外の人間もなんとも言えない空気になった…

 

 

 

「ニーナ!」

 

「韻子!?」

 

「助けに来てくれたの?」

 

「うん!フェリーの乗客名簿に韻子の名前がなかったから…」

 

そう、揚陸艇にはニーナを含め数名の学生が志願兵として乗り込んでいた。そこには2年や3年の先輩もいる。

 

「…街、無くなっちゃったね」

 

「絶対に、生き残ろうね…?」

 

その言葉はフラグだったのだろうか

鞠戸大尉は指摘する。目の前の航路を邪魔する残骸を…

 

「み、右!?右!?左!?右!?右!?左!?」

 

操舵手のニーナの混乱は寧ろ指揮官を冷静にさせた。

 

「急速排気」

 

障害物の下をくぐる形で事なきを得た一行だが、急な排気により歩いていた人はバランスを崩し倒れたりしていた。

 

「もう…操舵手はなにをしてるのよ…」

 

「ユキ姉、重たい」

 

「失礼ねぇ!お姉ちゃんは軽いんです!」

 

そんな姉弟の話をしながら食堂へ向かう最中に、アセイラム姫とその侍女エデルリッゾに出会った。

 

「あ…」

 

「アセイラム姫…」

 

「あ、伊奈帆さん!」

 

アセイラム姫はこちらに駆け寄ってくる。

 

「伊奈帆さん、あの時は『我儘』を言ってしまい…」

 

「お構いなく。どの道折れないだろうと思って諦めただけですから」

 

「我儘?」

 

ユキ姉は話についてこれてないようだ。無理もない。あの時、アセイラム姫の我儘を聞いたのは伊奈帆とエデルリッゾ、ジョルジュさんにシエルさんしかいない。

 

「ユキ姉はいなかった時の話だよ」

 

「何それ~!お姉ちゃん気になる!」

 

「ダメ。まだ話せない」

 

「ナオ君いつからそんなケチくさくなったの!?」

 

「ケチくさくないよ。こういうのは用心て言うんだ」

 

「あ、あはは…」

 

笑うしかないアセイラム姫とエデルリッゾの姿があった。

 

 

 

 

「改めてアセイラム姫。僕に何の用でしょうか?」

 

あの姉弟喧嘩から少し経ち、機関室に入るアセイラム姫達。その途中にライエさんを見つけ付いてきてもらった。理由は、彼女も『巻き込まれた』からだ。

 

「それは…私の事です。私は火星の軌道騎士の誰かにより狙われています…幸いにも、信頼できるバートン伯爵が私を早くに見つけてくれたのもあります、私の祖父たるレイレガリア皇帝…お爺様が私の無事を知ればこの戦争はすぐに終わります。あとは、私の命を狙った暗殺者を見つけるだけです」

 

「しかし…その暗殺者は地球に紛れ込んでいる。ですね」

 

一瞬、ライエの顔が暗くなる。しかし、話は彼女の表情など気にしないまま進む。

 

「バートン伯爵は火星きっての天才…きっと見つけ出してくれる筈です。しかし…」

 

「地球の方にいたら、見つけるのは難しいですね…とりあえず今は前みたいに変装してほしい」

 

「え…?」

 

「ここにいる人すべてが姫に手を出さないとも限らない。それに、今後の予防にもなる」

 

「わかりました。では、私のことはこれからセラムとお呼びください」

 

 

 

 

「耶賀頼先生がいてくれて、助かりました」

 

「アーマチュアの処理なんて久しぶりです」

 

ここ艦橋で、ユキは耶賀頼医師に骨折した左腕の補助器具『アーマチュア』を取り付けてもらっていた。一時的ではあるが、これで左腕を使える。

骨折したのはニロケラスに追いつかれた時。あの時、ユキの乗るアレイオンが転倒しその時に左腕を骨折した。基地に戻り応急処置はされてたがこの戦時下の中、あまり悠長にいてはいられない。

 

「くれぐれも無茶は控えてくださいね?あくまでも臨時ですから。痛みがないからといって負担がないわけじゃない。麻酔が切れた時、辛いですよ?」

 

「わかってますって!細かい調整は後でお願いしまっ《ガンッ!!》

 

「「「「「「…」」」」」」

 

説明しよう!界塚ユキ准尉はアーマチュアのつけられた左腕を振り回していたら、艦橋レーダー観測席の後ろにある手すりに思いっきり腕を当ててしまい手すりが見事なまでに凹んだのである!

手すり自体、硬い鉄でできているためどれくらいの衝撃が来たのかは想像もつかず、マグバレッジ艦長以下4名の白い目、そして耶賀頼医師の笑ってない目を受けた界塚ユキ准尉は

 

「…も、もう少し調整してもらおっかな…」

 

とか細い声で皆から顔を隠しながら呟いたことをここに記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルーテオ伯爵の所有する揚陸城を目前に、スカイキャリアに乗るスレインは心中穏やかではなかった。

今回で2度目の運搬だが1度目は途中帰還だった。あれはバートン伯爵がアセイラム姫暗殺の真相を解明するためとトリルラン卿より聞いたが、暗殺を目論んでいたトリルラン卿を信用もできないし、もしかしたらクルーテオ伯爵も暗殺者の一人かもしれない…。しかし考える暇もなくスカイキャリアは揚陸城に到着し、スレインはクルーテオのいる指令室へ向かわなければならない。

 

(まさかクルーテオ伯爵も暗殺者の一人なのか…?しかし、今までそんな素振りは見せなかった…いや、僕の知らないところで動いていたのかもしれない…)

 

未だ心が決まらないまま指令室についた。

 

「クルーテオ伯爵、只今戻りました」

 

「む…?トリルランはどうした?」

 

「トリルラン卿は…先の隕石爆撃に巻き込まれ、死亡しました…」

 

「何!?」

 

先の隕石爆撃…志同じくする軌道騎士の誇りも何もない、宣戦布告もなしに他人の領地を侵略するのは蛮族の行為…その事にクルーテオは激怒し、指令室にいるクルーテオ配下の兵たちはその怒りに皆口を閉ざす。

 

「クルーテオ伯爵、その、アセイラム姫は…?」

 

「バートン伯爵によれば、存命されている可能性が高いとのことだ」

 

「姫様が!?」

 

やはりクルーテオ伯爵は暗殺者ではない…いや、周りを安心させ、油断している隙に誰か密約を交わしている騎士達に暗殺させる気なのか?

 

「それよりスレイン、バートン伯爵から他の軌道騎士に姫様存命の報を知らせぬなとの伝事について、何か聞いておらぬか?」

 

「え?あ、いえ何も聞いておりませんが…」

 

「そうか。もう良い、下がれ」

 

「はっ、失礼します」

 

指令室を去ったスレインは自室に戻る。そこで一つ、賭けに出ることにしたのだ━━

 

 

 

 

「航宙船確認。ゲート開放…ブレイダルス号、こちらの誘導に従い、4番ハッチへ…」

 

「揚陸城、降下準備完了!降下予定地点、連合軍基地『イーストブライド湾岸基地』!」

 

「バートン伯爵、間もなく航宙船が着艦します。食事の準備は…」

 

指令室のオペレーターは緊張に包まれている。主が疑う者を城に迎え入れ、最悪攻撃されたまま地球へ降下するのだから恐怖しても仕方ないだろう。

 

『こちら航宙船ブレイダルス、ザーツバルム伯爵はシャトルにてそちらに向かわれる。こちらは最低限の武装のみでそちらに向かった為カタフラクトがない。ついてはそちらに護衛の機体を付けてもらいたい。こちらは揚陸城の外にて待機する』

 

「まぁ、よかろう。ある程度予想はしているが今回はザーツバルム卿、貴方の策に乗ろうではないか。護衛にリジェクトを出せ!航宙船には城の横につけさせろ!そして周囲の宙域の警戒レベルを最大!」

 

そして、ザーツバルムとジョルジュの見えぬ謀略戦が始まった。

 

(航宙船での入港ではなくシャトルでの入港は航宙船を入港させた際にすぐ揚陸城から離脱出来ないため。そしてこちらが地球降下を最悪敢行すると読んだ為!そして護衛を要請したのはこちらに攻撃の意思がないと見せつけるアピール、そして私の兵力を割く為!だが残念だなザーツバルム卿よ、それは既に私が読んでいる。さて、状況は変わった中でどう動く…?)

 

シャトルが到着し、ザーツバルムが姿を現す。その威風堂々とした姿に案内の者も緊張を隠せぬまま迎え入れた。

 

「ザーツバルム伯爵、長旅ご苦労様です。バートン伯爵がお待ちの執務室まで御案内させて頂きます」

 

「うむ、大儀である」

 

(この緊張…ふむ、やはり読んできたかバートン卿。一筋縄ではいかぬなら仕方ない、策を変えようではないか)

 

その思惑を頭の片隅に置き、目の前にはバートン伯爵の執務室がある。

 

「バートン様、ザーツバルム伯爵を御案内致しました」

 

「通せ」

 

扉は開かれ、その先にはバートン伯爵が姿を現す。

 

「バートン卿、今回は突然の来訪失礼を致した」

 

「お構いなく。こちらも調査の一区切りが着いたので」

 

「調査…それは、姫様の死…ですな?」

 

「ええ、私の読みではザーツバルム卿、貴方が一番疑わしいのですが…今回はハズレのようです」

 

(いきなり本題を出してきたか…ここは出方を見るべきか?)

 

(さぁどう動くザーツバルム卿?今のところ貴様は黒だがどうだ?)

 

「かの『天才』に疑いの目を向けられていたとは…いや驚きを隠せない…時に、バートン卿」

 

「どうされましたかザーツバルム卿?」

 

「月面基地は我の管轄になった。そこでだバートン卿。この月面基地を貴公に譲る用意がある」

 

(来た…!しかし、譲ってどうなるのだ…?罠なのは分かっている。なぜ『月面基地』を譲るのだ?なぜ…)

 

「月面基地を?しかし私の手には有り余る施設。私如き若輩者が指揮をしてよい場ではありません」

 

「待たれよバートン卿」

 

「む?」

 

ザーツバルムの存在感が大きくなっている。それはその一声がまるで大きな意味を含む言葉になる程に。

 

「月面基地には裏切り者が潜んでいる」

 

(バカな。裏切り者は貴様だザーツバルム卿)

 

「つまり、裏切り者を捕まえた経験のある私に月面基地を任せたい、と?」

 

「概ねその通りだ」

 

(裏切り者、まさか本当に…?いや、私が譲り受けたらこの揚陸城が手薄になる。ザーツバルム卿は其れを狙っているのか。我がガラティンの反則じみた能力を万全にさせない為に…)

 

そう、ガラティンのアルドノアドライブはその力が強すぎた為に通常のカタフラクトに比べ特殊すぎる。その特殊性故、搭乗者は今だバートン卿にしか扱えない代物だがその性能は並のカタフラクトや伯爵級のカタフラクトに比べ圧倒的だ。

 

「しかし、私にはやはり手に余る施設。ここは遠慮させて頂きます」

 

「そうか…要件はそれだけである。だがバートン卿、その頭脳は裏切り者を見つけるのには惜しいもの。力は貸していただくぞ?」

 

「それくらいならば、いつでも構いませんよザーツバルム卿」

 

「では、我はこれにて失礼させていただく」

 

そしてザーツバルム卿は執務室を出た。

 

 

 

 

 

「いいか!必ず動き出す!索敵範囲を限界まで伸ばせ!」

 

一方、シャトルに乗り込んだザーツバルムは指示を出した。それは

 

「バートン伯爵!ステイギスが上空より接近!」

 

「来たぞ!応戦!揚陸城降下準備!!」

 

それは攻撃指示だった。ステイギスが上空からマスター5機、子機が20機。そして下からは、

 

「下からもカタフラクト反応が!これは…ディオスクリア!?」

 

「なんだと!?いつ乗り込んだザーツバルム卿!」

 

おかしい。ザーツバルムはまだディオスクリアに乗り込むには時間のラグが少なすぎる。あれは罠ならば側面からか?

 

「そのディオスクリアは虚像だ!側面注意!」

 

虚像、それはおそらく近くの岩石に投写機を設置し、地球の光の反射を利用して形取った物だろう。カタフラクト反応はステイギスのコードをディオスクリアの物に似せたら誤魔化せるはず。

 

「右舷より、もう一機ディオスクリアが!」

 

やはりそうだったか。だがまともに相手する必要はない、リジェクトに牽制させればいいだろう。

 

「クラウディア!ディオスクリアを任せる!牽制させればいい!」

 

『了解!』

 

リジェクトのブースターが火を吹く。5秒足らずでトップスピードを叩き出し、ディオスクリアに攻撃を仕掛ける。しかし、ディオスクリアの厚い装甲により攻撃が通らない。

 

「やっぱり堅いな、ザーツバルム伯爵!」

 

『リジェクト…そしてその声はクラウディアか』

 

「ザーツバルム伯爵、カタフラクトの操縦で私に勝てると思っているのかい?」

 

『勝つ必要はない…負けなければ我の勝利だ』

 

「そうかい!!」

 

ディオスクリアはその厚い装甲によってリジェクトの攻撃をものともしない。リジェクトはディオスクリアの攻撃速度を上回るスピードで撹乱する。

互いに千日手になった時、ついに準備が整った。

 

「降下準備完了!」

 

「よし!リジェクトを呼び戻せ!揚陸城降下!ガラティンの準備は!?」

 

「ガラティン、いつでも出れます!」

 

「降下後、私も出る!総員、ショックに備え!」

 

こうして、バートンの揚陸城は地球に降下、しかし降下中に戦闘の損傷により機関室等で火災や爆発が起き、着地は出来たものの拠点としての機能をあまり果たせない状態になった。

 

 

 

 

 

そして、近くには地球軍の、正確には界塚伊奈帆らの姿があった。




地球に降りた天才は地球の少年と2度目の出会いを果たし、反逆者は虚偽の大義を示すべく奔走する。次回、イーストブライドの剣戟。策士の策に天才は闇を照らす。


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イーストブライドの剣戟-Swashbuckler of East bride-

なんかすぐ思いついたから早く投稿できた。やったね!

誤字脱字あれば指摘お願いしますね


新芦原市を脱した伊奈帆達はマグバレッジが部下に先行させて出航させた強襲揚陸艦『わだつみ』との合流地点、『イーストブライド軍港基地』に到着した。

 

「まだ『わだつみ』は到着してないようですね…」

 

マグバレッジが案じているのは『わだつみ』の姿がないことだ。先行して出航した筈なのにここにはわだつみの姿がない。

 

「今は考えても仕方ない、とにかく補給と整備を急ごう。…しかし、ここも放棄されたか」

 

「まだこの辺りの被害は少ないのに…」

 

「賢明な判断だろう、粘ったとこで被害が増えるだけだ。ならばとっとと逃げて戦力を温存させるに限る」

 

「…」

 

 

鞠戸の考えにマグバレッジは口を閉ざす。急に黙するマグバレッジに戸惑う鞠戸だが、整備を手伝うべく船へ向かおうとする…が、突如海岸の堤防に足を運んだ。

 

「鞠戸大尉?」

 

「…」

 

返事がない。軍人としては模範的だ、滅多なことはしないだろうとマグバレッジは発令所へ戻る。

 

 

 

「…ッ」

 

鞠戸は自身の手を見る。異常に震える手。

何時になれば、自分はこれを克服できるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「マグバレッジ艦長、揚陸艇です」

 

「通信はできますか?」

 

「ジャミングはありますが…問題ありません!」

 

「こちらダルザナ・マグバレッジ大佐、応答されたし」

 

『こちら強襲揚陸艦『わだつみ』所属、小林少佐。お待たせしましたマグバレッジ大佐』

 

友軍の船に安堵するブリッジ、だが『わだつみ』は…?

 

「ご苦労様です。不見咲は?」

 

『不見咲中佐の命令により我々はアパルーサ小隊と共に1番艦で先行、『わだつみ』到着までマグバレッジ艦長のサポート及び及び避難民の警護にあたります』

 

「了解しました。到着次第、補給と整備を急いでください」

 

『了解。…その、マグバレッジ艦長』

 

「どうしましたか?」

 

急に口篭る小林少佐の口から怪奇な現象が聞かされた。

 

『実は、わだつみのセンサーがある宙域で戦闘が起きているのをキャッチしました』

 

「戦闘?しかも宙域ですか…しかしわだつみのセンサーは宙域の戦闘をキャッチするほど高性能では…まあいいでしょう。そして、その宙域は?」

 

『…イーストブライド軍港基地、その上空です』

 

 

 

「…ッ!」

 

そして、シエルの乗るメリクルが超大質量の物体の落下を観測した。さらに、これはシエルにも馴染みあるもの。直ちにシエルはマグバレッジに回線を開く。

 

「マグバレッジ艦長!!」

 

『どうしましたクラムスコイ卿?』

 

尋常ではないシエルの慌てようを冷静になって聞くマグバレッジも驚く事が起きる。

 

「揚陸城が…ここに降下してきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザーツバルムの奇襲から難を逃れたジョルジュは新芦原市から1番近く、被害も少ないイーストブライド軍港基地を狙い降下した理由は地球の少年、界塚伊奈帆らに会えるからだ。ガラティンをすぐに用意できるようにしたのもそれが大きい。

 

だが、戦闘の影響か揚陸城の機能は60%まで下がっている。防衛機能にダメージが多く、さしずめ備えのない城と言ったところか。

落着地点はイーストブライド軍港基地から西へ3kmの荒野。ここならば建物もなく周りへの被害は少ない。

 

着地を確認したジョルジュは揚陸城を出撃、リジェクトには劣るが有り余る出力により全て機動系に回された推力は並のカタフラクトでは追いつけないものとなり、ものの1分程度で基地に到着した。

 

 

 

 

 

「あ、あれは…!」

 

「…」

 

補給作業を手伝っていたカームが声を上げ伊奈帆は口を閉ざしたままその機体を見やる。それは新芦原で助けてくれた黄昏のカタフラクト。

 

『また会ったな、界塚伊奈帆君』

 

「…ジョルジュ、バートン」

 

彼らは、互いに敵である筈なのに協力しあう『仲間』と再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザーツバルム様!バートン城が降下を開始しました!目的地は日本付近!』

 

「全軍を撤退させよ。我が到着後、謁見の間を使用する」

 

『了解』

 

勝った━━━

ザーツバルムが最初に得た感想はそれだ。

 

「フッ、火星の天才もこれまでか…月面基地にて我が直接手を下したかったが、これはこれでよかろう…」

 

月面基地にジョルジュが向かうようならそのままジョルジュを幽閉、その後密かに処理すればよかったがジョルジュは恐らく見抜いたのだろう、この提案を蹴った。

しかし、ザーツバルムにはまだ策があった。降下せざるを得ない状況にさせる事。揚陸城の設計上、上からの攻撃には弱い。ステイギス隊を上から攻撃させたのはその為。ディオスクリアの姿を下から映し出させたのは降下させないためだったが…罠と気づいたか。しかし航宙船を横に付けさせたのは間違いであったな。そうしなければ回頭も出来たであろうに…

 

どちらにせよ、これであやつの力を削ぐことは出来た。あとは仕上げ…

 

「どう抗うか、楽しみにしてますぞバートン卿…」

 

歪んだ笑みが浮かぶ顔を余所にザーツバルムは自身の揚陸城へ帰還する。

 

 

 

「伯爵、お疲れ様です!」

 

「大義である。我が愛馬の補給と整備、損害を調べよ」

 

「ハッ!」

 

「『謁見の間』を使用する!月面基地に連絡せよ!!」

 

『謁見の間』

それは、城などによくあるものではなく、月のハイパーゲートの技術を応用したもの。

量子テレポートにより、瞬時にヴァース本星に5感を送り、いつでも皇帝陛下の下知を聞けることができる装置。しかし、今回は具申、及び報告のために使用するのだが。

 

程なくザーツバルムは謁見の間に到着し、謁見の間の中央にある球体に手を当てると謁見の間からザーツバルムの姿が消え、ザーツバルムはいまヴァース帝国の中心たるレイレガリア皇帝の御寝所の前にいる。

 

「皇帝陛k…む?」

 

ザーツバルムは御寝所の中より聞こえる声に耳を傾ける。若い声だ。しかし、次の一言でザーツバルムの警戒は最大まで引き上がる。

 

『アセイラム姫は…生きておられます。僕が地球におりた際、地球のカタフラクトに守られた状態でその姿を見ることができました』

 

「っ!」

 

生きている━━アセイラム姫が。

これはまずい。バートン城の緊張はこれであったか。ここまでこれば辻褄が合う。

しかし、これは同時にザーツバルムにとって危機である。このままでは休戦、そして反逆者捜索に踏み切られる。なんとしても皇帝陛下を説得せね………!

 

(そうか、その手があったか…)

 

つくづく、我は女神に微笑まれる。

そしてザーツバルムの頭に策が閃いた。なぜ今まで出てこなかったのか、そう思える策が。これならばバートン卿とやりあう必要はない…

 

「では、失礼します」

 

恐らく何処かの揚陸城にいる兵士だろう。さらに地球でアセイラム姫が降りた地は日本、つまりクルーテオ城の物か。今はいい。まずは皇帝陛下を言いくるめなければ。

 

「皇帝陛下、37家門が一人、ザーツバルムでございます」

 

「うむ…入るがよい」

 

入室…やはり陛下の体調も悪くなっているか。

 

「皇帝陛下、此度は陛下の孫娘を地球の卑劣なる者共に奪われた事、お悔やみ申し上げます」

 

「うむ…大儀で、ある」

 

やはり精神的ダメージは大きいか。ならばこの話、食いつくはず…

 

「しかし陛下、このザーツバルム。真実を掴みましたぞ」

 

「ほう…真実とな?」

 

「はい。どうやら地球の反ヴァース勢力を煽動しアセイラム姫を暗殺させた人物がおりました…ヴァース帝国に」

 

「なんと…!?それは、真か?」

 

「はい、その首謀者は…ジョルジュ・バートン伯爵にてございます。私は先程、バートン卿に事の次第を問い質すべくバートン城に向かいましたが話を聞いた途端私を城から追い出し、私が乗っていた航宙船を攻撃してきました」

 

「なんと…かの天才が、我が愛娘を陥れた元凶だったとは…」

 

「陛下…この戦、私の独断により開戦の火蓋を切ってしまいました。しかし、今一度!皇帝陛下の名のもとに、暗殺などという卑劣な手段をとる地球の者共とそれを利用し姫様暗殺を企てたバートン卿に、どうか!大いなる裁きの声を…」

 

「ううむ、よかろうザーツバルムよ」

 

「有難く存じます、皇帝陛下」

 

これで、我の邪魔をするものは居なくなった。後はこのまま地球侵略、そしてジョルジュの始末だ…

 

「…時に、ザーツバルムよ」

 

「如何されましたか、皇帝陛下」

 

…先の兵との話か?

 

「話によれば、アセイラムは生きていると供述しているものがいる。それについて、貴公の所見を聞きたい」

 

成程、やはりその話か。

 

 

姫様は生きている。そして生きていようが死んでいようが今は問題ではない。問題は矛盾の無いよう話さなければならない。

 

「アセイラム姫が!?それが真であれば早急にバートン卿を討ち、姫殿下の身を保護せねばなりますまい…因みに陛下、その報告してくれた兵士の名は…?」

 

クルーテオ城にいるのは分かっている。が、名前を割り出せなければ意味が無い。

 

「名は、スレイン・トロイヤード。クルーテオに仕える者だ」

 

「なッ…!?」

 

『トロイヤード』…そうか。皮肉なものだな…

 

(そう思いませぬか?トロイヤード博士…)

 

 

 

 

 

そして、ザーツバルムは謁見の間を出た…

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、伊奈帆らとジョルジュは再会を果たし、お互い情報共有をしていた。

 

「成程、つまりザーツバルムという軌道騎士が姫殿下の暗殺を狙っていた、と」

 

「はい。そして、揚陸「揚陸城を攻められ、地球に逃れてきた。そうですね?」…その通りだ、界塚君」

 

「そっか、だからメリクルのセンサーと揚陸艇のセンサーが遥か上の宇宙での戦闘をキャッチしてたのね。そんな大気圏ギリギリで戦ってたらメリクルだと簡単に拾えちゃうし」

 

マグバレッジ艦長が首謀者の確認、ジョルジュと伊奈帆が説明、いつの間にかジョルジュの腕に抱きつくシエルが先程の原因不明の戦闘の理由を共有しあい、これからについて考えることになった。

 

「こうなった以上、ザーツバルム卿も手段は選ばない筈だ。私を反逆者に仕立て上げ、我々に攻撃の手を付けるはず」

 

「そうなればこちらはあなた方のカタフラクトに頼らざるを得ない…」

 

「…そうでもないかもしれない」

 

「界塚弟?」

 

どうやら界塚君に策が閃いたようだ。

 

「界塚君、どういうことかな」

 

「ジョルジュさんの揚陸城が近くにあるということは今のうちに火星のカタフラクトデータを僕たちで抑えること。そうすれば、弱点やどこに敵がいるかもわかるかもしれない」

 

「成程な、確かに火星カタフラクトの力は圧倒的だ。戦車じゃ話にならないくらいにな。だが、アレイオンや型落ちのスレイプニールでもどうにかなるというのは界塚弟が証明した。なら後は情報てわけか」

 

鞠戸が補足を入れ肯定した。しかし、

 

「すまないが…それは出来ない」

 

「え?どういうことですかジョルジュさん!」

 

韻子が声を上げる。同時に、周りにいた避難民や連合軍兵士も声を上げる。

 

「静かに!!」

 

マグバレッジ艦長の鋭い一声が周りにいた人達を黙らせる。流石に女性佐官の一喝は伊達ではないようだ。

 

「…私も説明もなしにその発言は受け入れられません。バートン卿、話してくれますね?」

 

やはりマグバレッジ艦長は優秀だ。この人が味方についてよかっただろう。故に答えは

 

「もちろん、ここには戦争に関係ない一般人もいる。私とて無抵抗の人々に銃を向けたくもない」

 

一区切りつけて、理由を話す。

 

「では話そう。まず、火星カタフラクトのデータについてだが、軌道騎士の伯爵一人一人が別個の軍隊を所有しているようなものだ。つまり、友好な関係でなければ情報は引き出せない。例外があるとすれば姫様や皇帝陛下のような、起動権を貸し出している皇族の方が起動させた物ならばデータが付与された状態になる」

 

「えーと、つまりどゆことスか?」

 

起助君はわからない人の気持ちを代弁してくれた。ふむ、簡単に言うとすれば…

 

「アセイラム姫や皇帝の人が起動させたものには全てのカタフラクトのデータがついてくる…逆に貸し出された人が起動させたものはデータがついてこない…そう言う事ですか」

 

「その通りだ、界塚君」

 

界塚君もやはり優秀だ。どうやら彼らは寄せ集めにしては切れ者ばかりの恐ろしい集団のようだ。

 

しかし、良きせぬことが起きた。

 

『バートン様!!』

 

どうやら揚陸城にいる兵からの様だ。

 

「ジョルジュだ、何があった」

 

話を聞きながらシエルにも見えるように浮遊ディスプレイをずらす。

 

『さ、先程皇帝陛下が地球とバートン様に向けお言葉を!!録画映像を回します!』

 

「シエル、姫様をこちらにお連れせよ!」

 

ジョルジュは浮遊ディスプレイを操作し、画面を大きくする。画質は多少粗くなるだろうが問題ではないだろう。

 

程なく、シエルに連れてこられたアセイラム姫と地球の人々で揚陸城から送られた映像を再生する。

 

『地球の者共、そしてジョルジュ・バートン伯爵、私はヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・エンヴァースである。此度のわが愛娘、アセイラムの暗殺について言っておかねばならないことがある』

 

「おじいさま…」

 

「姫様…」

 

姫の身を案じたくはあるが、皇帝陛下が私に何を仰せになられるのか…予想は付いているからこそ辛い時間になりそうだ。

 

『今回のアセイラム暗殺については、ヴァース軌道騎士のジョルジュ・バートン伯爵が地球の反ヴァース勢力を煽動し、地球を我がものにすべく動いたと聞いた。それによる証拠もザーツバルム伯爵より提出された。ヴァースの騎士たちよ!ヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・エンヴァースの名のもとに、地球を攻めよ!我が愛娘を奪った者共の地を、焼き払え!そして、バートン伯爵については全ての軌道騎士が貴公を許してはおらぬ。皇族に牙剥いた愚かな選択を悔やみながら果てるがよい!!』

 

そして、映像は切れた。

 

「…ッ!」

 

「姫様…」

 

今、姫様の心は痛まれておられるだろう。自らの肉親が、自身の味方を滅ぼしに来たのだから。

 

「ごめんなさい、バートン卿…貴方の方こそ、辛い立場になってしまい…」

 

「姫様、揚陸城でどうか休まれますよう…シエル、姫様を揚陸城の御寝所までお連れせよ」

 

「了解しました」

 

アセイラム姫はシエル、エデルリッゾにより揚陸城へ向かわれた。

 

 

 

…そして、ジョルジュの勘が警告音を鳴らした。

 

「まずいッ!」

 

「バートン卿?」

 

「マグバレッジ艦長、周囲警戒を!!ここは東京に近い!つまり…」

 

「まさか…東京を占領した揚陸城からのカタフラクトが!?」

 

「総員第一戦闘配置!周囲警戒を厳に!1番艦発進用意!」

 

ジョルジュの焦りをマグバレッジ艦長にも伝わり、小林少佐はカタフラクト隊と1番艦のクルーに準備を急がせた。

 

急な状況変化に韻子やカーム、起助は戸惑うが伊奈帆がいるならば何とかなるだろう。彼の冷静さは私に勝る物がある。指揮官として申し分無い。

 

『バートン様!』

 

「どうした!」

 

揚陸城からの通信だ。先ほどとは別の慌しさがある。

 

『イーストブライド軍港基地を北に2キロ付近にカタフラクト反応!先ほど、スカイキャリアと思しき反応があったため、クルーテオ城より運ばれたものかと!』

 

クルーテオ城から…タルシスか!?それならばこちらに分が悪い。タルシス相手では地球のカタフラクトも打つ手がない…

 

『こちらアパルーサ3-3!敵を発見!応戦します!』

 

「まずい、不用意に攻撃してはダメだ!相手の武装を確認してから包囲攻撃を!」

 

「アパルーサリーダー!相手の出方を見て応戦してください!不用意に攻撃してはいけません!」

 

マグバレッジ艦長の指示により地球のカタフラクト隊は慎重に攻撃するだろう。

この間にガラティンを起動させる!

 

 

 

 

 

 

 

『アパルーサリーダーよりアパルーサ小隊各機、敵の出方を見る。攻撃は慎重にせよ!アパルーサ3-3、敵の武装はなんだ!?』

 

『こちらアパルーサ3-3、敵カタフラクトは近接型、剣のようなものを使用してました!現在は右手前の壁に隠れている模様!』

 

『剣か…懐に入られる前に仕留めるぞ!奴が姿を表したら攻撃する』

 

『アパルーサ1-1了解!』

 

『アパルーサ2-2了解!』

 

『アパルーサ3-3了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ、飛び道具とは無粋な。だがこの『アルギュレ』に斬れぬ鎧などない。つまり…」

 

弾丸とて同じ事!

 

「アルドノアドライブ出力上昇、エネルギージョイント接続、ブレードフィールド展開…」

 

アルギュレの左腰部から鍔のようなものが出現する…この『刀』は紛れもなく全てを両断する刀…

 

「アルドノアドライブ出力最大、プラズマジェネレーター起動準備完了!!」

 

そして『刀』は静かで滑らかに、だが確実にアルギュレを隠していた壁を切り裂いていく。

壁が切り裂かれ、爆発する。一気に立ち込めた爆煙をアルギュレの『刀』は目の前に立ち込める煙を邪魔だと言わんばかりに払い、その剣風により煙が晴れる。そこには…

 

「抜刀…!!」

 

まるで、武者のような鎧をつけた西洋の騎士が立っていた。

 

 

 

 

程なくアパルーサ小隊はアルギュレに切り裂かれ、損害らしき損害を与える事も出来ずに壊滅した。

 

 

 

 

 

 

 

『マグバレッジ艦長、発進準備整いました。そちらは?』

 

「待ってください、機関室にて原因不明の故障発生!発進できません!」

 

「…小林少佐、先に沖へ出てください。そこから砲撃及びミサイル攻撃を」

 

『了解しました。ではご武『少佐!!』なん…ッ』

 

ノイズが走る。まさかと思いつつ1番艦へ目を向けるブリッジクルー。そこには、投擲されたのであろう『刀』がブリッジに深々と突き刺さっている1番艦の姿。

 

「艦長!」

 

「!?」

 

注意が1番艦へ向いていたのが不味かった。敵カタフラクトの『刀』は2本あったようだ。もう一本をこちらに投げようと振りかぶっているアルギュレの姿がそこにある。

 

「回避ッ!!」

 

間に合わない。だが、これしかない。

 

死を覚悟したマグバレッジは投げられた『刀』を睨みつけながら戦死━━━━!!

 

『させるか!』

 

不意に、右側…つまり沖のほうから黄昏の機体が現れた。右手に重厚な雰囲気を出している白金の両刃剣を持ち、背中には特徴的な推進翼が付けられた機体。

火星カタフラクトの原点たるディオスクリアの制御を受け付けないほど高い出力を持った、5つしかない禁忌のアルドノアドライブを装備した機体。

 

「ほう?自ら討たれに出たか、バートン伯爵。ならば望み通り、このブラドが伝説の聖剣を叩き折ってみせよう!主たるクルーテオ伯爵によい土産が出来る!」

 

百戦練磨の武騎士は、伝説の聖剣に挑み━━━

 

「その刀で私に挑むには些かこちらに分があるが…いいだろうブラドよ。貴様の流儀に合わせてやる。聖剣の名を戴いたこの『ガラティン』…百戦錬磨の騎士殿が相手ならば不足はない」

 

アルギュレは1番艦に刺さった刀を回収し聖剣へ向ける。

 

ガラティンは右手にある両刃剣を左腰へ当て、居合いの様な型を取る。

 

しかし、これは決闘ではなく戦争、イレギュラーは存在する。

 

 

 

 

銃撃音。決して弱くはないそのマシンガンの弾がアルギュレに襲い掛かる。

 

「なんだ!」

 

右を見るとそこにはオレンジ色の機体があった。今の銃撃はその機体からのようだ。

 

『界塚君か』

 

オレンジ色の機体…スレイプニールに乗り込んだ伊奈帆はコクピットに響くジョルジュの声に返答しながらアルギュレに銃撃を浴びせる。

 

「ジョルジュさん、韻子…仲間がクレーンに1人、カタフラクトに乗って敵カタフラクトの後ろにある荷物の後ろに二機います。ジョルジュさんの力は『まだ』見せなくてもいいのでは」

 

『…そう言う事か、いいだろう。しかし君たちだけで大丈夫か?』

 

「問題ありません。倒せなくても、戦闘出来ないような損傷にすればいい」

 

『わかった、気をつけろよ。彼の技量は私も知っている。手強いぞ』

 

「わかりました。では後ほど」

 

通信を切り、アルギュレに集中する。

マシンガンを連射するが全て一振で弾頭が破壊される。

 

 

今装填しているのはHE弾、これは弾頭の中に炸薬が詰まっている弾頭。あの『刀』に触れた瞬間弾頭が爆発したと考えるなら、『刀』の正体は高熱量のビームで出来た刀。

ならば…

 

「AP弾ならどうだ」

 

AP弾…これは硬い装甲を貫く弾種で、爆薬の類は入っていない。つまり、あの刀の熱量で誘爆せずそのまま貫通する鉛の弾。

これならば敵カタフラクトの装甲にダメージを与えれる筈。

 

 

 

「フン、考えたな…炸薬の入っていない弾なら宙で爆発しない…と」

 

不利な筈なのにほくそ笑むブラドはアルギュレを相手カタフラクトから見て横向きになるよう足場を変え、刀を相手に向けた状態にする。

 

「だが!」

 

発砲されるAP弾をブラドは剣先で弾くように刀を動かした。普通なら非実体剣なのですり抜ける筈なのに弾丸は弾かれているのを伊奈帆は冷静に自身の知識から似たような現象を引っ張り出す…

まず現象の内容は

 

「弾頭が蒸発して弾頭が弾かれてる…」

 

蒸発している点で言えばいくらでもあるが相手の刀は超高熱量の刃、熱量と関連する物といえば…

 

「ライデンフロスト現象か…なんて熱量だ」

 

弾が切れたマガジンを捨て、換装する伊奈帆を見てブラドは伊奈帆のスレイプニールに突撃する。

それにより、伊奈帆は懐に潜られた。間一髪で銃と右腕を失うだけで済んだが、二振目が来る。

 

「終わりだ…!」

 

「いいや、動きは見えている」

 

伊奈帆は残った左腕で白刃取りを応用し、アルギュレの右腕を掴み振り降ろしをさせなくした。

 

「なにッ!?」

 

驚いたブラドだが、すぐに冷静さを取り戻す。戦場で冷静さを欠いた行動は死に繋がる。百戦錬磨たるブラドだからこそできる落ち着きだ。

 

「面白い、その機体でどこまで耐えられるか、見せてもらおうか」

 

アルギュレは近接型のカタフラクト故に余分な出力は全て油圧系にある。つまり、人間で例えるならば筋力が凄いという事だ。

 

対してスレイプニールは装甲をできる限り削った機体で小回りが効く機体。力で対抗できる機体ではない。

スレイプニールの体制が徐々に下がっていく。これ以上は限界だろう。

 

だが伊奈帆は冷静だった。

この状況でも冷静な理由、それは…

 

「もう少し…右かな。よし、韻子」

 

『いっけぇえええ!!』

 

鈍い音が周囲に響いた。それはクレーンのアーム部分にあった硬い鉄でできた荷物が遠心力により勢いを増しアルギュレの左メインカメラに衝突したものだ。

 

突然の攻撃にブラドは憤る。まさか兵器ですらないものに遅れを取るとは思ってもなかった。さらに、メインカメラは左半分全てを潰したのかノイズがかかって見えない。

 

「おのれぇ…地球人が!!」

 

伊奈帆がその隙に斬られた右手から銃を回収し、発砲する。同時に…

 

「カーム、起助」

 

『待ってたぜ伊奈帆!』

 

『くらえ火星人!!』

 

そして戦局はさらに伊奈帆へ味方する。

湾岸方面からアルギュレが砲撃されたのだ。

 

「不見咲!?」

 

『マグバレッジ艦長。わだつみ、戦闘海域に侵入します』

 

「…不見咲君、君がモテない理由を教えましょうか?」

 

『…?焦らす方が良いと聞きましたが』

 

「それは相手がこちらに好意を持っていないと意味がありません」

 

緊張感のない会話で戦闘中なのだと忘れてしまいそうだが不見咲に限ってそれはない。彼女ほど職務に忠実な軍人はいないのだから。

 

「中佐、カタフラクト隊攻撃準備完了です」

 

「全機、構え」

 

カタフラクトがわだつみの看板やハッチから銃を構える。中には威力の高い狙撃銃を構えるカタフラクトもいる。

そして号令は下った。

 

「撃て」

 

 

 

アルギュレは文字通りの十字砲火を浴びている。その隙に伊奈帆のスレイプニールはわだつみに向かう準備の整った揚陸艇に乗り込み、カームと起助もそれに続く。

 

「待て!くッ、おのれぇぇえええぇぇえ!!!」

 

こうして、伊奈帆はアルギュレを撃退した。

 

 

 

 

 

「なるほど、わだつみが間に合ったのは偶然として近寄らせないようカメラを破壊したか…」

 

揚陸城に戻ったジョルジュは観戦中、シエルからアセイラム姫の『我儘』を伝え聞いていた。最初は実現不能と思っていたが界塚君らをみて考えを少々変えていくことになった。

 

「おかしいな、私は現実主義なのだがな」

 

「現実主義な人が貴族の娘に婚約なんてしないよ?」

 

「それもそうだな…」

 

ジョルジュの執務室には二人しかいない。故に盗聴の心配もないためシエルもアセイラム姫の我儘をジョルジュに話せた。返答は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいだろう、彼らになら任せられる。どのみち揚陸城も修理せねばならない」

 

「なら…」

 

「ああ、まずは彼らを支援しないとな。リジェクトはここに置いておくとして、私とシエルだな」

 

「私も?…揚陸城のみんなは大丈夫かな?」

 

「クラウディアが不在になってもここの兵は優秀だ。対応もできるし、カタフラクトもある」

 

バートン城はアセイラム姫の信任の元、兵力はザーツバルム城やクルーテオ城の3倍はある。その分食料も減るのだがジョルジュはスパイを恐れて食客を招いていないため、人員的には他の城と遜色ない程度なのだ。つまり、軍として完全に独立された、ジョルジュ派だけの軍なのだ。

 

(ザーツバルム…貴様が手段を選ばぬのなら私も相応の手を打ってやろう…事情があろうと貴様の思い通りにはさせん)

 

そして彼は隣に最愛の人を侍らせ執務室を出た。




策に嵌る天才は這い上がるべく手段を模索する。そして騎士は再戦を申し込むべく強襲する。次回、海上の憂い。少年の信念に、策士は牙を剥く。


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海上の憂い -Gloomy of the Sea-

最近ちょっと身の回りで大変な事が多く執筆に時間が取れなくなってきました…

失踪はしないので長い目で見て欲しいです。


「なんなのだ!あの機体は!?」

 

クルーテオ城に帰還したブラドは愛機、アルギュレを見つめながら先程戦った地球のカタフラクトを思い出す。アルギュレの頭部は見事に凹み、鎧を連想させる全身の装甲は銃弾による傷により無残な姿になり果てている。

 

「ブラド卿、ご無事で!?」

 

ブラドに声を掛ける人物がいる。スレイン・トロイヤード、確か主人たるクルーテオの召使い、そしてアセイラム姫の教師としてこの城にいる地球人だ。それはいい。しかし、こいつは今何と言ったか?無事だと?

 

「何が無事なものかッ!!我が名誉は地に落ちた!!それの何処をみて無事と言った!?」

 

「っ!」

 

スレインもこの城にいて長く、ブラド卿の人柄もある程度知っている。実力主義で滅多なことがない限り地球人だろうと侮辱しない。だが、そのブラドが憤っている姿をスレインは見たことがない。

 

「バートン伯爵、ですか?」

 

「いいや、オレンジ色の小賢しいやつにバートン伯爵との決闘に水を差され、バカにされただけだ…そんなことよりスレインよ、伯爵についていなくて良いのか?」

 

「それは…」

 

クルーテオ伯爵とは先程分かれたばかり。

 

 

 

 

 

 

『クルーテオ伯爵』

 

背後から薄汚い声が聞こえる。またあいつか。今度は何を言いに来た。

前回は姫の仇を討つなどと、身の程をわきまえぬことを言っていたが…

 

『私にも、アセイラム姫の仇を討たせてください』

 

はぁ、またそれか。どうやら躾がなってないようだな。

 

『貴様にその資格はないと言ったはずだが?』

 

左手に持つ杖でスレインの左頬を叩く。が、今回は様子が違う。

 

『私をッ!バートン伯爵の元へ出撃させてください!!クルーテオ伯爵!』

 

 

 

 

 

そう、『目論見』は執拗いの一言により失敗に終わりブラドが戻るまでここにいた。

 

「そうか…伯爵は身分に厳しいお方だ。貴様も武勲を上げたいのはわかるがそれは叶わぬぞ」

 

違う、武勲などいらない!!

 

「私は!ただアセイラム姫の事が…!!」

 

驚愕。ブラドの心境はいま、驚愕に満ちている。ブラドとて火星の生まれ、地球人を疎まないことはない。が、その地球人であるスレインが武勲でなく仇討ちを望んでいるとは思ってもいなかった。

しかし、ブラドはクルーテオの騎士。主の決定には逆らえない。

 

「フン…」

 

ブラドは静かに自身の部屋に戻った。

それを見つめるスレインはゆっくりと顔を上げ、アセイラム姫との出会いを思い出す。アセイラム姫に命を救われた、あの時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦死!?トリルラン卿が!?」

 

『ああ、無念だ。狼藉者が我が領地に行った隕石爆撃に巻き込まれて…』

 

謁見の間から出たザーツバルムクルーテオの連絡を受け、隕石爆撃の判断を後悔した。次元バリアを装備したニロケラスなら問題ないと判断した自分が愚かしい。なぜトリルランに連絡するという事が思いつかなかったのか?

 

そうだ、自分はバートンに執着しすぎていた。最早あやつに力は無いのだ。今は我が手にあの青き星を手に入れるために策を練らねばならないのだから。

そして、誰がトリルランの最後を見たか知らねばならない。あやつが下手な事を口走っていた場合、処理する必要がある。

 

『トリルラン卿は食客として尽くしてくれた。バートン伯爵の調査隊に加わろうと姫様の忠誠心も高い勇敢な人物だった』

 

「…それで、トリルラン卿の最後を見たものは誰だ?」

 

『私が飼い慣らしているスレイン・トロイヤードという地球人だ。隕石爆撃もこの者の証言だ』

 

「スレイン・トロイヤード…だと?」

 

これはまずい。繋がってしまった。陛下の御寝所で話していた内容が繋がってしまった。処理する必要があるが…トロイヤード博士…。

 

「クルーテオ卿、そやつに監視の目をつけておけ。バートン伯爵の息がかかったものかもしれぬ」

 

『なんだと?私の前ではその素振りは見せなかったが…むしろ姫様に無駄な忠誠心を持った狗だ、頭が回るとは思えないが…』

 

「バートン伯爵が足を見せないように指示をしていたのかもしれん。何にせよ、地球人だ」

 

地球人…そう言うだけでたいていの火星人は聞き入れる。

 

『…わかった、ザーツバルム卿。貴公の判断に従おう』

 

「ああ、何かあれば連絡してくれクルーテオ卿」

 

通信が切れた。同時に、クルーテオ城にいる『自分』の配下に通信を繋ぐ。程なくして、メインスクリーンに配下が現れる。

 

『お呼びでしょうか、ザーツバルム様』

 

「至急、ニロケラスの状態及びトリルランの死体を確認したい。それに、スレイン・トロイヤードの動向についてもだ…やれるな?」

 

『命令のままに』

 

すでに矢は放たれた。今の状況は辛うじて優位に立ってはいるが、足を見せたらいつでも転落してしまう程度の差だ。

 

「これは…呼び戻すべきか?」

 

ザーツバルムの『騎士』を呼び戻す…現状を打破するには良い機会か。確かに今は手を打たねばならぬ…。よし、

 

「月面基地へ繋ぎ、マルネを呼べ。バートン伯爵追撃に関する判断を一任させる」

 

「了解」

 

ザーツバルムも動き出す。いま、天才は窮地に立っている。今が攻め時なのだから出し惜しみはいけない。まずは揚陸城から攻め落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから伊奈帆たちは『わだつみ』に避難し、アルギュレ撃退を受け、伊奈帆は勲章を貰う機会を得た。

元々マクバレッジ艦長の推薦だったが、そこにバートン伯爵の後押しもあり、今回の授与に至る。

そして、アセイラム姫、バートン伯爵、シエルにエデルリッゾがガラティンとメリクルに乗りわだつみに乗艦した。マクバレッジ艦長は初め、懐疑に思っていたがあのまま揚陸城にいるよりはあちらを囮とし、こちらで動くというバートンの説明によりわだつみ乗艦を許可した。

そんなある時、韻子は表情の変わらないいつもどおりの伊奈帆を見つけ、話しかける。

 

「あ、伊奈帆!」

 

「ん…韻子か。どうしたの?」

 

いつもどおりの伊奈帆で安心する韻子は更に口を開く。

 

「どうしたの?じゃないでしょ!すごいじゃない、勲章なんて!マクバレッジ艦長直々の推薦で、えーと…あ!バートン伯爵?の後押しもあったんでしょ?」

 

「そうだけど…そんなに凄いのかな?」

 

「そりゃすごいよ!貰った人見たことないもん!」

 

確かに、貰った人は伊奈帆も見たことない。それは…

 

「それは「ずっと平和で、実戦がなかったからだよ」…鞠戸大尉」

 

「え?鞠戸教官?」

 

伊奈帆の説明を横から説明する鞠戸大尉。その言葉には軍人としての重みのある言葉だった。

 

「教官?ここは学校じゃないぞ網文」

 

「…スミマセンでしたー鞠戸大尉」

 

そう、ここは軍艦であって学校ではない。教官ではなく『大尉』なのだ。戦時下のなか、規律は厳しくしなければならない。

 

「これからは勲章も珍しくなくなるぞ?戦時下の中だ、名誉くらいしか出せる褒美はないからな…まぁ、名誉の為に死ぬってのも悪くない。惨めに死んだり…惨めに生き残るくらいなら、な」

 

…傍からみたら兵士でもない学校に絡んでる酔っ払いの図ではあるが、その言葉は『鞠戸大尉』として聞くと、重い言葉になる。

すると、後ろのドアが空き鞠戸大尉。引き止め役が姿を現す。耶賀頼医師だ。

 

「鞠戸大尉、ちょっと宜しいですか?」

 

「んぁ…?ったく、わーった。今行くよ先生」

 

 

 

 

 

その部屋は元々倉庫だったが、耶賀頼医師が病室にするべく改良した部屋だった。

 

「軍艦で開業かい、先生?」

 

「働かざるもの食うべからず、若者の夢を壊すのはあまり感心しませんね、大尉」

 

そう言い耶賀頼医師は鞠戸大尉に近づき匂いを嗅ぎ、大尉の胸ポケットに隠れていた酒を取り出し軽く振る。

 

匂いは大丈夫、酔ってはいない。ただし…

 

「少し飲みましたね?大尉」

 

「悪いかよ、先生。好きなときに飲ませろっつんだ」

 

「まあいいでしょう、酔っているわけではないようですので、問題は起こさないでしょう」

 

「…」

 

鞠戸大尉は口を閉ざす。いつもと違う態度に耶賀頼医師は『あの事』を聞いてみる。

 

「『種子島レポート』…ですか?」

 

「犯した罪は魂にこべりついて、いつまでも付きまとう…ましてや、裁かれない罪は…死ぬまで赦されることはない…そういった意味では、酔ってるのかもな」

 

鞠戸は首についている昔の戦友に付いていた物を手に取る。それはドッグタグ…名前は、ジョン・ヒュームレイ…15年前のヘブンズ・フォールの『直前』に戦死した鞠戸の罪。

 

「ヒュームレイさん…」

 

耶賀頼は呟く事しかできなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ジョルジュとシエルの火星騎士組はアセイラム姫の警護と同時に頭の中ではザーツバルムに対抗する策を練っていた。

 

(揚陸城の修理が完了したら何処か守りに適した地で持久戦を…いや却下だ、相手は国家。持久戦を展開してしまえばこちらが干上がる。さらに隕石爆撃によって一掃されてしまう。クッ、姫の無事を伝えたくとも月面基地はザーツバルムの管理下、頼みのクルーテオ卿もブラドを送ったということはこちらを敵とみなしている…少なくとも、今は無理だ…)

 

どうしても手段がない…このわだつみも備蓄が有り余っている訳ではない。生き残るには心細い…

さらに、向こうは上から追跡できる。範囲は限られているが、それからも上手く隠れなければならない。

 

今の所、バートン城からの通信情報により大気圏外の揚陸城の位置が送られ、そこから監視地域を逆算して航海しているが、いつまで持つか…

いかにガラティンといえ、大気圏内では十全の力をふるえない。メリクルは問題ないが、カタフラクトの大軍が来たら、性能によるが押し切られてしまう。

 

「バートン伯爵?」

 

そしてここはクルーテオの領地に近い。いや、クルーテオ領だろう。ブラドがまた来る可能性もある。早急に離脱を…ノヴォスタリスクの連合軍基地、だが補給なしでは難しい。どこか良い場所は…

 

ある。ここから近く侵略されにくい場…

 

「ジョルジュ、考え過ぎ」

 

急に、頭から痛みが伝わってきた。何事かと振り向けばシエルが拳を作りこちらを見ている。犯人はこいつに違いない。

 

「急に殴るなシエル。どうした?」

 

「どうしたじゃない、姫様がお呼びだったよ?」

 

「え━━」

 

シエルの後ろを見ると心配そうに見つめるアセイラム姫がそこにいた。

 

「バートン伯爵、やはり状況はよくありませんか?」

 

「…はい。我々も戦力はありますが、国家と戦うには些か以上に戦力不足。極力戦わないことを前提にしていかなければ海という制限の中、疲弊しきってしまいます」

 

そう、海とは広大な分、補給に困ってしまうのだ。はやく陸地を探そうにも軌道騎士の占領は始まっている。宛を探すにも一苦労だ。

 

「地球は我らにとって不慣れな地。やはり地球の民と逃げ延びるしかありません。彼らにとって私やシエルは強大な戦力。我々にとって彼らは案内人。協力していかなければ死んでしまいます」

 

 

 

そんな時だった。ジョルジュ達がいる休憩室にマクバレッジ艦長が寄ってきたのだ。

 

「バートン伯爵…それに、姫殿下まで…迷ってしまわれたのですか?」

 

それにバートン伯爵は今後のことを話していたと伝える。マクバレッジは何かを思い出したかのような顔をせ、

 

「伯爵、補給地が見つかりました。そこで一度補給をしたいのですが、バートン伯爵の見立てを聞きたい」

 

「…この状況下で、火星騎士の侵略対象になりやすい地を避け、この海域からそう遠くもない…『種子島』ですね?」

 

それを聞き、驚きながらこちらを向くマクバレッジ艦長。どうやら正解のようだ。

 

「伯爵のその慧眼には慣れるしかありませんね…言葉も出なかった」

 

「大袈裟ですよ、マクバレッジ艦長」

 

本当に敵にならなくて良かった、と本気で思うマクバレッジ艦長。互いに若くして軍を率いる立場にある以上、その実力に敬服せざるを得ない。自分より若いのに自分以上の戦略眼を持つのだから。

 

「それで、種子島でも大丈夫でしょうか?」

 

「私は大丈夫だと思いますよ。あの地に揚陸城を降下させるのはいくらなんでも難しい。ならば、あそこは一度別の地に降りてから制圧せざるを得ない。スカイキャリアもそこまで物資を運べるわけじゃない…恐らく敵の手に落ちてはいないでしょう」

 

そして、次の目的地が決まったことによりわだつみはヘブンズフォールの中心部、種子島へ向かうこととなった。皮肉にも、恐怖に怯える鞠戸を乗せて…

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ…あはははははは…」

 

月面基地のある一室。その部屋は銃のパーツが散乱しているが、それにさえ目を瞑れば騎士として恥じない一室であるだろう。尤も、その人はその限りではないが。

 

その男はある女性を恨んでいた。火星のために捧げたこの身より有能な彼女に。

 

「ようやく会えるなァ…クラウディア?」

 

ある一枚の写真…そこには若き日のヴァース最強と最凶が揃って写っている写真が。

 

「感謝しますよ、ザーツバルム様…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このマリネ、あのクラウディアを討ち取りヴァース繁栄という大望を成し遂げることができる…ッ!!」

 

月面基地に格納されたその機体は限りなくヒトに近かった。だが、その性能はヒトならざるもの。

 

『サー・マリネ卿、周囲にデブリが多いため発進まで暫くお待ちを「デブリ如き問題にならねぇよ。出るぞ」なッ、サー・マリネ卿!お待ちを!!』

 

月面基地を出たその機体は全長6m程度の超小型カタフラクト。装甲も申し訳程度の厚さしかなく、スラスターも1つしかない本来なら作られるはずの無かった機体。それが運用されてる理由はそのアルドノアドライブにある。

 

この血を連想させる赤紫のカタフラクトのアルドノアドライブは…俗に言う禁忌のアルドノアドライブなのだ。

 

目の前に巨大なデブリが迫る。が、マリネは歪んだ笑みを浮かべ何もない空間を『蹴った』。

すると赤紫のそれは巨大なデブリの真上に位置する空間に現れ、さらに何もない空間を『強く蹴る』。

するとスラスターも無しに有り得ない加速を得て地球に向かっていった。

 

「じゃあな。オレの部屋はあのままでいい。いままで世話になったな」

 

『サー・マリネ卿!!』

 

そしてヴァース最凶の騎士は自らの主の元に向かう。5つしかない禁忌のアルドノアドライブを搭載したマリネ専用カタフラクト『オートクレール』は青き星を大いなるヴァースにさらなる繁栄へと捧げるべく黒き宇宙を跳ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クラウディア卿!ここは我らに任せ補給を!』

 

「わかった、しばらく任せる!!」

 

イーストブライド軍港基地近くに降下したバートン城はクルーテオ城からの執拗な攻撃に耐えつつも着々と逃げる術を整えていた。それは揚陸城をもう一度宇宙へ移動させ、別の場所へ降下させるというものだ。

 

だが、別の場所が見つからずどうしようかと悩んでいた兵士たちだがジョルジュの指令文にはノヴォスタリスク連合軍基地。地球の人々はここへ避難し、現状を維持しているとのこと。だが、地球の周回軌道と揚陸城の上昇、さらに降下させるとなるとどうしてもズレが生じてしまいうまく降下できない、というのが計算上の数値で証明されてしまった。

 

そして今、クルーテオ勢の4度目の攻撃を凌いでいた。だが、向こうと違いこちらは補給にも限りがある。食料については問題ないのだが弾薬が足りてない。

 

「もう少しで上昇する準備は整う!それまでの辛抱だ!一発一中を心がけろ!」

 

揚陸城に入るなり檄を飛ばすクラウディア。それにより城内の兵士の士気も上がり防衛という名の攻めにも勢いが増している。

 

クラウディア得意の陣形で、防衛と見せるよう敵を誘い後退する前衛部隊に対し、誘いに乗った敵を狙い撃つ後衛隊。崩れたところをクラウディア率いる親衛隊が速度で攪乱、これを繰り返すことでこちらの損害を減らしつつ敵を減らす虎狼の陣により今までを凌いだ。しかし、攻撃の要たる弾薬が不足しているため満足に戦えてないこの戦況に不安を持つ兵士も少なくはない。だが、このバートン城にいる兵士は精鋭の中のよりすぐりを集めた部隊、判断力まで鈍ることはない。

お陰で負傷者はいるが戦死者なしという状況だ。

 

だが、それで戦況が良くなっている訳ではない。やはり補給が満足にできていない為に皆の疲労は少なくない。

 

(やっぱり私達でも補給ができてないとなると辛いか…だが、もう少し耐えてくれ、みんな…!!)

 

それと同時に、クラウディアは銃撃が鳴り響く中、自身の主たるジョルジュの心配もあった。いくらシエルが共にいても本領を発揮できないのでは心配にもなる。

 

(大いなる我らが星よ、ジョルジュ様とシエルをお守りください…)

 

「クラウディア卿!リジェクトの補給終わりました!」

 

「了解だクロウ!今行く!!」

 

ヴァース最強の乗り手は自らの主を憂う暇もなく、銃弾の雨が降る空を飛ぶ。




策士は最凶を呼び出し、最凶は最強を屠らんと自らの牙を研ぐ。騎士は宿敵に刃を突き立てんと再戦の火蓋を切る。次回、最凶の申し子。不吉なる騎士には、血塗られた生き様が相応しい。


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最凶の申し子 -Heaven-sent Child of Disaster-

なんかスランプ酷いな…

まぁ、更新遅いけど…ゆっくりしていってね


それは突如降ってきた。

 

伝説の聖剣の名を冠するも真逆の意味合いを持つ色に塗られた機体、オートクレール。それが、バートン城から800m地点に単体で降下してきた。

カタフラクトの装甲は高密度だ。確かに単独で大気圏へ突入することはできる。が、それは機体の強度を度外視した方法だ。ディオスクリア並に重装甲な機体ならばほぼ無傷で済むだろうがオートクレールはその真逆。装甲は確かに全身を覆うものだが通常の量産兵器に比べると薄すぎる。

 

だが、そんなことはこのオートクレールには通用しない。この機体のアルドノアドライブの恩恵が受けられる限り、オートクレールは本当の意味でディオスクリア以上の超高密度な装甲を『増やせる』のだから。

 

 

「何!?」

 

クラウディアはその彗星のように降ってきたカタフラクトを見やる。まだその当たりは砂埃が舞って状況が分かってない。だが彼女の第六感が行動を優先させた。左へ急速に機体をずらす。すると同時に砂埃の中から岩の嵐が先程あった機体の位置へ降り注いだ。リジェクトは速さを求めた機体のため、装甲に凹凸がある箇所は背面装甲くらいだ。正面への被弾を極力避けねばならない。

 

『流石だなぁ、クラウディア。ヴァース最強と言われてんだ、そんくらいしてくんないと嬲るのに精が出ねぇぜ?』

 

自分いや、この戦域全体に呼びかけて話しているその声をクラウディアは知っていた。訓練兵時代、自分を越えようとあらゆる手を使い挑んできた男。

 

クラウディアの戦い方を正道とするならばその男の戦い方は邪道…

 

『会いたかったぜェ…クラウディアァ!!』

 

「マリネッ、貴様ぁ!!」

 

互いに策士を主君に持つ最強と最凶はそれが必然かのように銃口を向け合い、二人にしか許されない戦争がはじまった。

 

初手を取ったのはリジェクト。その圧倒的加速力で抜き打ちのソードトンファーによる斬撃を与えようとオートクレールの懐へ潜り込み、一閃を放つ。

 

「なっ!?」

 

だが、それはオートクレールのすぐ手前の、何もない空間に手応えを感じた。

 

マリネはその光景に口元を歪める。初手を譲り、隙を見せてしまったリジェクトはいま、オートクレールの餌食になる。

 

『アルドノアドライブ出力上昇、周囲の微分子濃度を収縮…』

 

オートクレールの両腕から円盤が展開され、急速に回転する。すると、オートクレールの周囲の空間が徐々に渦巻き状に歪みはじめた。

 

「なんだ…それは…」

 

『クラウディア様!』

 

クラウディアが歪みはじめた空間をみているとら揚陸城からの通信が来た。

 

『あの機体の周囲へその周りにある分子が移動し、一定空間内の分子量が急激に増え始めています!さらに…』

 

「さらに、どうした!?」

 

『ほ、本来結合するはずのない原子や分子が結合し、光をも多重屈折する密度、いえ、それ以上の高密度な空間による壁が出来ています!!』

 

なんてことなのか…この機体は物理法則をねじ曲げることを平然とやってのけているのだ…

 

『さぁ、クラウディア…4年前の続きと行こうじゃねぇか…!!その最強、俺が砕いてやるよ!!』

 

リジェクトはありえない軌道で後進をかける。このカタフラクトは規格が違う。禁忌のアルドノアドライブの力は物理法則をも無視するのか。だが、これを超えねばバートン様の負担が増えてしまう。

 

「私とて…負けるわけにはいかない!マリネ!」

 

フォーゼを撃つリジェクトに対しオートクレールは回避することもなく、左指を飛んでくる弾丸に向ける。やはり弾丸は指にあたる直前で爆発、オートクレールには当たらない。だが、衝撃までは抑えれなかったのか若干よろける。しかし、それも一瞬でありさらに、爆風によりリジェクト側からはよろけるオートクレールを見ることができなかった。よって、オートクレールに追撃は来なかった。

 

煙が晴れ、やはり無傷のオートクレールをみてフォーゼを腰に仕舞い、フランベルジュを構える。あれは拳銃の威力では突破できない。瞬間的な攻撃力が高い擲弾銃のフランベルジュならば突破出来るかもしれない。

 

フランベルジュを構える。狙いは血塗られた死神、対してオートクレールも背中にあった推進翼と思われた部分を外し手に持つ。それは剣のようで、禍々しいオーラを放つ。だが、クラウディアは気押されなかった。先に動いたのはリジェクト、思い切り後進をかける。いきなりの加速Gに意識がブラックアウトしかけるがそれが許されない相手が目の前にいる。

それを見たオートクレールは追いかけては来るが全速力ではなさそうだ。スピード勝負は負けると考え程々にしているのだろうか。

マリネの気は知れないが、クラウディアはリジェクトの左手にあるフランベルジュを見て、オートクレールに向け放つ。しかし、オートクレールは手に持つ禍々しい剣を向かってくる弾丸に向け一閃、すると弾丸はあらぬ方向へ飛んでいく。その先には、バートン勢のカタフラクト。

 

「う、うわぁぁぁあ!クラウディア様ぁ!!」

 

そして無残にも、胴体に当たった凶悪な火薬の量を内包している弾丸は胴体に命中した。その際に空気を震わせる程の爆発を起こしたため、塵一つ残さなかった。

 

『アッハハハハハハハハハ!!!楽しいよ!楽しいなぁクラウディアァァァ!!』

 

オートクレールが再度迫る。だが今回は周りに岩塊を纏わせ突撃体制をとっている。その右手にはあの禍々しい剣を、左手はリジェクトに乗ったクラウディアの首を掴むような執念を表すように、リジェクトへ向けられている。

 

「ッ、マリネェ…」

 

自分の放った弾丸が味方を殺したショックを気力で押し込み、全力でリジェクトを後進させる。殺人的なGをその身で受けるも、今は気を抜けない。少しでも気を抜いたら、あの禍々しい剣に殺られてしまうだろう。フランベルジュはおいそれと使えない、ソードトンファーでも恐らくあの空間の壁に防がれてしまう。威力の低いフォーゼでは突破もできないだろう。

万事休す。今のクラウディアではあれを突破できない。そうと分かれば負けない戦いをすればいい。

 

『…アァン?』

 

その声はマリネ。目の前にはフランベルジュをこちらに投げつけるリジェクト。

 

『はっ、なんのつもりかは知らねぇが…』

 

オートクレールは剣を振りかぶり、

 

『俺の前にゴミを投げ棄てるな』

 

フランベルジュを両断した。

 

瞬間━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガッ━━━━!?』

 

 

 

 

 

 

 

そこら一帯が轟音に包まれた。

 

(フランベルジュはまだ1発しか撃っていない。一発であの破壊力ならば中に残ってる弾頭全てが爆発した破壊力は計り知れない。オートクレールの空間の壁は空間内の分子密度を増やして圧縮、出鱈目に結合させて強固な壁にしている。ならば、それ以上の破壊力で結合崩壊させて穴を開ければ出鱈目に結合された分子は元に戻る!!)

 

現に、歪んで見えたオートクレールの姿ははっきりとした姿に見えている。

 

「今だ!カタフラクト隊、叩き込め!!」

 

クラウディアの鋭い一声がバートン勢のカタフラクトに動きを与えた。オートクレールは今、『丸裸』なのだ。

 

オートクレールは動かない。いや、動けない。いくら性能が良くても、動かすのが人である以上パイロットがやられては鉄の塊も同然だ。

 

オートクレールに大量の弾丸がばら撒かれる。

が、それを許さないのがクルーテオ勢のカタフラクト。

 

『マリネ卿!』

 

突如戦闘に介入したため敵味方の識別がつかなかったがザーツバルムの騎士、マリネ卿と主たるクルーテオより教えられたクルーテオ勢は丸裸であるオートクレールの壁になる。

 

『マリネ卿を保護した後、全軍我が城に退避せよ!体制を立て直す!』

 

オートクレールがスカイキャリアに収納され、クルーテオ勢が撤退する。同時に、バートン城の修理が終わった。それは即ち。

 

『揚陸城、大気圏離脱準備完了。いつでも打ち上げれます』

 

「よし!全カタフラクト収容次第、宇宙へ上がる!そして、バートンに指示を仰ぐ!急げよ!」

 

ここに、最強と最凶の二人だけの戦争は幕を閉じた。この20分の戦いだけで、双方の死者合わせて180もの命がここに散った。

 

 

 

『ブラド卿、あと数分で目標船に到着します』

 

「うむ、大儀である。私を降下後、上空を旋回して周囲警戒に当たれ」

 

伊奈帆の策により凹んでしまった頭部を予備パーツで補ったアルギュレに乗ったブラドは、クルーテオの命によりバートンの乗る強襲艦へ襲撃をかけるべく、あのオレンジ色の機体により落ちた自信の名誉を挽回すべく、ズームにより見える船を忌々しく見る。

 

(待っていろ、我が宿敵。貴様の首を持って我が名誉を…!!)

 

意気込みは十分、あとはあそこにある人形どもをひとつ残らず切り伏せるのみ。そして、バートンを引っ張りだし、主たるクルーテオに捧げる。それが騎士たる彼の役目。

 

『ブラド卿、到着しました。降下します』

 

そして、復讐の武騎士は宿敵と相対すべく決戦の地へ降下した。

 

 

 

『上空に敵航空機!!総員戦闘準備!』

 

わだつみの艦内に襲撃を知らせる放送が流れる。船内の民間人は軍人の慌ただしさにこれから起きる惨状に恐怖し、軍人はカタフラクトの準備や艦砲へ向かい迎撃体制を取る。

 

『アルダニティ小隊、発進準備!二番エレベーター上昇!』

 

『アルダニティリーダーより各機、HE弾は使うな!AP弾で応戦!』

 

「鞠戸大尉!?そいつはまだシステムチェックが終ってません!」

 

「こっちでやる!お前は他の機体のチェックをしていろ!!」

 

コックピットに乗り込み、システムチェックを行う鞠戸。

 

「フォースフィードバックチェッキングプログラム、スターッ!?」

 

突如、視界がぼやける。そして、15年前のあの光景や悲鳴が聞こえる。

 

「━━━━━━!!」

 

戦闘は鞠戸のそれを無視するかのように継続する。

 

 

「ふん!」

 

手に持つ刀で艦砲1つを切り伏せ、艦橋を背にして敵を見やる。

 

『くたばれ火星人!』

 

『まて!奴の背後を見ろ!野郎…』

 

「艦橋を盾に…!」

 

『アルダニティ44、敵に回り込め。プランBだ。やれ!』

 

『了解!』

 

アルギュレの右側に忍び寄る1機のアレイオン。そして、アルギュレの右手に掴みかかり、右手にもつ刀を封じる。

 

「ほぉう?」

 

『捕まえた!やれ!』

 

『アルダニティ22、今だ!関節を狙え!アルダニティ33はサポート!』

 

『了解!』

 

コンバットナイフを手に持ち、アルギュレに肉薄するアレイオン。なるほど、武器を封じてしまえばあとは裸の鉄塊だ。だが…

 

いったい、誰が『刀は一本しかない』と言ったのだろうか?このとき、アルダニティリーダーは右手と左手を封じる策を取らねばならなかった。

 

「馬鹿め!」

 

アルギュレの右腰から新たにブレードフィールドが展開される。そして、それを左手に持ち、抜刀━━!!

肉薄したアレイオンは紙のように容易く二つになり、爆発する。

 

『逃げろ!アルダニティ44!』

 

その指示は数秒遅く。

 

アルダニティ22と、アルダニティ44は斬り捨てられた。

 

「ふっ…!」

 

ブラドは、この瞬間を楽しんでいた。

 

 

 

 

「戦況は!」

 

ブリッジに若い声が響いた。声の主はドアにいるジョルジュ。

 

「ダメです。相手のビームサーベルを扱う技量がケタ違いです。銃がまるで役に立たない」

 

マグバレッジ艦長が俯きながらそう答えた。そう、あの火星騎士のビームサーベルの操作が驚異的すぎる。

 

「他にパイロットは?」

 

「グラッドン小隊、パーセル小隊が残ってますが、システムチェックが間に合わず…」

 

「貝塚君は?」

 

「貝塚弟ですか?」

 

「艦長!貝塚准尉からです!」

 

『艦長!タクティカルスーツの使用許可を!』

 

「…なんだ、わかっていたか、貝塚君」

 

「バートン伯爵?」

 

ジョルジュの呟きを聞き取ったマグバレッジがどうしたのかと問うがジョルジュは「何でもない」と返す。あまり気には留めず、貝塚准尉へ視線を向ける。

 

「マグバレッジ艦長、タクティカルスーツだが…使用させてあげてください。どうやら、彼なら何とかやれるようだ」

 

「…」

 

沈黙を是と受け取ったジョルジュはブリッジを出て、食堂へ向かう。食堂には一般人がいる。まずは彼らと姫を安心させねばならない。それが、今彼のやるべき事だ。

 

 

「…ふぅ。どうやらなんとかなるようですね」

 

「艦長?」

 

マグバレッジは火星のカタフラクトを見る。あの全てを両断する刀をもつカタフラクトに、バートン伯爵と貝塚弟はどう攻略するのか、不謹慎ではあるが、彼女はその好奇心に心を支配された。

 

 

 

「つまらぬ…」

 

これほど脆いとは…このような雑魚では我が名誉を回復する事は不可能だ。

刀を艦橋へ向ける。

『オレンジ色の奴を出せ!こんなガラクタでは話にならん!!』

 

ふと、アルギュレの足元を見る。すると傷のない胴体部分を見つけた。

 

「…あまり、気は進まぬが…これも戦争だ。悪く思うなよ」

 

右の刀を仕舞う。そして、空いた右手でその胴体部分を掴み、左の刀で腰部に突き刺した。そして…

 

徐々に、上へ切り裂いていく。

 

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』

 

中にいたパイロットの悲鳴が響く。しかし、ブラドは殺すつもりは無いのか、そのまま両断するわけでもなく、パイロットにギリギリ当たらない場所で刃を止め、胴体を投げ捨てる。中にいるパイロットは死んではいないはずだ。

 

 

 

数分前。

 

伊奈帆は格納庫へ向かっていた。だが、進む先にはライエが待っていた。

 

「…死にに行くのは勝手だけど。あなた、お姫様の騎士か何かのつもり?」

 

「別に。そういうわけじゃないよ。それにあの人の騎士はバートンさんだ。ただ…」

 

 

 

「僕たちが生きるために…これは戦争だから」

 

 

 

いつもと変わらぬ表情で告げる伊奈帆。しかし、ライエには思う所があったのか、伊奈帆が通り過ぎてもその場を動けなかった。

 

 

『マスタースイッチ、オン。燃料電池、ヒートアップ。イジェクションシート正常、ベイルアウト機能チェック…問題なし。IFF確認…スレイプニール、起動』

 

「スレイプニールが!?まさか、なお君!?」

 

「何してるの!降りなさい!」

 

『ユキ姉こそ。負傷兵だろ?』

 

事実を言われ、椋れながらも「パイロットが足りないの!」と言えるユキの神経はやはり弟には甘いからなのか?しかし、そんなことを気にする伊奈帆ではない。

 

『なら僕が出たって同じだ。パジャマどこ?』

 

「…?えっと、パジャマ?」

 

『アップリケのやつ』

 

 

そして、マグバレッジ艦長の許可が出て、スレイプニールは一番エレベーターにて上昇する。鮮やかで、無骨なオレンジ色が隠れるも存在感が尚高まったタクティカルスーツを装着した姿を、アルギュレに見せる。

 

 

『現れたな…我が宿敵!』

 

そして、食堂も異色を放つスレイプニールをみてざわめく。

 

「あれってもしかして…」

 

「伊奈帆!?」

 

「タクティカルスーツで防げるかよ!」

 

そのカームの指摘は正しい。アルギュレの刀は全てを両断する。故に、重くなったスレイプニールはただの案山子だ。

 

『この刀に斬れぬ鎧はない!一瞬でカタをつける!!』

 

アルギュレは伊奈帆の乗るスレイプニールに目掛けて突貫する。スレイプニールから放たれる弾丸を積み重ねた経験で以て、未来予知に等しい動きで躱していく。そして、アルギュレの刀は遂に巣レイプニールを捉えた。それを、伊奈帆はスレイプニールの左腕で防御体制を取る。直後、スレイプニールの左腕が爆発した。

 

「伊奈帆さん!!」

 

アセイラム姫の叫びと同時に、煙が晴れる。そこには、斬られて無傷なスレイプニールと、右腕を掴まれたアルギュレが、そこにあった。

 

「っしゃ!!」

 

カームはガッツポーズをして、韻子は冷や汗をかきながらモニターを眺めながら、呟いた。

 

「なるほど、そういう事ですか…不見咲、わかりますか?」

 

「いえ、なぜあの刀の攻撃を防げたのかは…」

 

 

 

「でも、なんで刀の攻撃を防げたんだ、伊奈帆のやつ!?」

 

「…りアクティブアーマー」

 

カームの疑問に、後ろの壁にもたれ掛かってたライエが答える。

 

「爆薬で出来た装甲板。本来は爆発で敵の砲弾を跳ね返すものだけど…」

 

「貝塚弟は、それを利用して刀のプラズマを爆発で吹き飛ばしているようですね…」

 

アルギュレの左手にある刀が、スレイプニールに襲いかかる。しかし、スレイプニールの右腕の装甲により、それも防がれ、両手を封じられてしまった。

 

『おのれ!小癪なぁあ!!』

 

『コントロール、船を傾けてください』

 

貝塚弟からの要請…意図はわからないが、ここは従う方がいい!

 

「不見咲!」

 

「バラスト注水!ウェルドッグ、ハッチ開放!」

 

すると、船が傾いた影響によりアルギュレがスレイプニール側に引っ張られる。

 

『くっ、離せ!』

 

ブラドは刀の出力を限界まで上げて、スレイプニールの足を溶断しようと試みる。しかし、それは寧ろ、

 

『好都合だ』

 

伊奈帆の策を早めるも同義だった。スレイプニールの脚部大型安定翼を逆方向へ向け更に加速、アルギュレはその推進力に引っ張られる。

 

『バックパック投棄よし…ベイルアウト』

 

そして伊奈帆はスレイプニールが海に落下する直前に、機体から脱出、スレイプニールとアルギュレは海に沈む。そして…

 

 

 

巨大な爆発が起きた。

 

 

 

「伊奈帆さん!?」

 

「なんだいまの!?」

 

「あ、あれ!みんな見て!」

 

ニーナが指を指す。その先にはパラシュートがついたコックピット部分。恐らく、伊奈帆が乗っている。

 

「水蒸気爆発。あの刀の膨大な熱エネルギーが海水を急激に蒸発させ、その高圧水蒸気の衝撃が奴を破壊した」

 

そして、海からアルギュレの残骸が次々に浮かび上がり、敵を撃破したことが証明された。

 

「貝塚伊奈帆、意外に使える子ですね」

 

不見咲の発言にマグバレッジは小さく溜め息をついて、

 

「不見咲君…君が持てない理由を教えましょうか?」

 

落下したパラシュートは海に着水、外に出た伊奈帆はわだつみを見る。

 

「素直な性格は好まれるのでは?」

 

そして、わだつみからボートが伊奈帆に近づく。乗っていたのはライエ。彼女が手を差しのべると、

 

「君のは素直ではなく、遠慮がないというのです」

 

伊奈帆は、その手を受け取り、ボートに乗り込んだ。

 

 

 

「グッ…!!」

 

視界はまだ定まってない。苛立ちのあまり、壁を叩いてしまう。

 

鞠戸のそれは、鞠戸を縛るかのように過去を思い出させる。それは、彼が乗り越えるまで縛り続けるだろう。

 

 




少年の行動が策士を焦らせる。
天才の騎士は宇宙から見下ろし、狂気の騎士は空を見上げる。
記憶に縛られた男に、6つの殺意が降りかかる。
次回、忌々しき島。策士の目は、悲壮に歪む。


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忌々しき島 -Hateful Island-

スランプ真っ只中ですが、短くても投稿しないといけない使命感に駆られてなんとか。

短くて申し訳ないです。次回戦闘回だから許して!私のライフはもう0よ!


『65Bブロック、異常ありません』

 

『63Cブロック、異常ありません』

 

「城から逃げ出した形跡はない!必ず探し出せ!」

 

指令室でクルーテオは配下の兵にスレインの拿捕を命じた。しかし、部屋に向かってもスレインが見つからないため城内を捜索させている。が、一向に見つかる気配はない。

 

 

スレイン拿捕には理由があった。以前、彼は主たるクルーテオの許可なく謁見の間を使い、スパイ行動をしていたとザーツバルムからの通信により伝えられていた。

 

『そなたの使い…確かスレインと言ったな?クルーテオよ、其方は彼の者に皇帝陛下へ何を伝えていたのだ?』

 

『ザーツバルム…?それは真か?私はあやつに謁見の間の使用などさせてはいないぞ?』

 

『なに…?』

 

ザーツバルムがクルーテオと情報交換しようと通信した時にスレインが無断で謁見の間を使用したのが発覚した。

 

 

「あやつめ…勝手に謁見の間を使うとは…!見つけ次第処刑せよ!」

 

そして、捜索されている身のスレインはいま、エレベーターに乗りブラドを運んでいたスカイキャリアに乗っていたパイロットを尋問していた。

 

「地球人が…ヴァッ!?」

 

うつ伏せにされたスカイキャリアのパイロットがスレインへ憎らしげに言った一言はスレインの無慈悲な銃声により遮られ、代償として左足を撃ち抜かれた。

 

「質問に答えてください。あなたがブラド卿を運んでいました。そしてあなたはブラド卿を倒したカタフラクトを見たはずだ。そいつは何色のカタフラクトだった?言え!」

 

「オ、オレンジ色だ!黒い追加装甲を着けていたが、ま、間違いなくオレンジ色だ!ほ、本当だ、信じてくれ!!」

 

「わかりました。では、貴方はここで暫く眠っていてください。ご安心を。ただの睡眠薬です」

 

抵抗するパイロットにスレインはポケットから睡眠薬を染み込ませたハンカチを相手の鼻と口にあて、眠らせる。そして丁度そのとき、エレベーターが格納庫に到着した。

 

(姫様は生きている…地球の人々がアセイラム姫を暗殺したところで利点はない…無闇に戦争を起こすはずが無い。そして、僕が動いたことで『何か』が動き出した。だけど今はこの状況を乗り切らないと僕は兎も角、アセイラム姫にも危険が…!)

 

そんな思いを抱きつつ、スカイキャリアを強奪し機体のシステムを立ちあげる。そして、強引にスカイキャリアの射出コードを入力、スレインを乗せたスカイキャリアは揚陸城から飛び立った。

 

「クルーテオ伯爵!逃亡者発見!スカイキャリアを乗っ取ろうと…い、いえ!既に発進した模様!」

 

「我が揚陸城よりスカイキャリア発進を確認!」

 

「おのれ…あの下郎め!どこまで私をいらつかせるのだ!!スカイキャリアの用意をしろ!タルシスででる!」

 

直後、スクリーンにザーツバルムの姿が映し出される。

 

『待たれよクルーテオ卿』

 

「ザーツバルム卿!このような時に何用だ!?」

 

『少々落ち着かれよクルーテオ卿。あの小僧に追撃を気付かれ行き先を変えられては困る。あの者がどこへ行くか知りたい』

 

「何…?つまり、炙り出すということか?」

 

『流石はクルーテオ卿、その通りだ。案ずるな、我が上から追跡しよう』

 

「…いいだろう、任せるぞザーツバルム卿」

 

『…近々、我が城へ赴くがよい。不可抗力とはいえ、少々貴公は神経質になりすぎている。饗そうぞ』

 

そして、ザーツバルムからの通信は切れた。

 

「ふぅ…姫の事、バートンの事と、今のあやつには余裕が無いな」

 

姫を直前まで警護し、裏切り者と仕立てあげたバートンを信頼し姫の調査を譲った事と、クルーテオのプライドが失態を認めたくないからの結果だろうか。あるいは責任感か。今のクルーテオは手柄を欲しているのだろう。バートン城を攻めたのも自らの失態を晴らすためなのだろう。

 

が、あれ以上好きにやらせてしまえば…

 

「我の計画に突き当たるやもしれんな。不穏分子は消さねばなるまいか…」

 

ザーツバルムは、私室までの道のりで策を考える。

 

「…オルレイン、漸くお前の無念を晴らせる。待っておれ 」

 

その孤独な呟きは、通路の奥へ消えて行った。その背中は、軌道騎士筆頭としての背中ではなく、何かに取り憑かれた、小さなものだった。

 

 

 

 

 

スカイキャリアを強奪したスレインは追撃のない事に不自然と感じながらも、オレンジ色の機体について考えていた。オレンジ色の機体とアセイラム姫は一緒にいた。地球の兵器はアレイオンという鷲色の機体。オレンジ色のカタフラクトの目撃例は非常に稀。つまり、いまアセイラム姫はブラド卿を討ったオレンジ色のカタフラクトと共にいる。そして…

 

「オレンジ色のカタフラクトを載せた船は…タネガシマ、たしか、ヘブンズフォールの爆心地…そこに進路をとっている。おそらく、そこで何かがある」

 

確証はない。だが、もう戻れない。ここに行くしかない。姫様を助けるために。

 

 

 

 

そして、スレインの目的である船は一般人から徴兵、軍服が支給される事になった。そしてブリーフィングルームにて今回の徴兵に対し説明を行っていた。

 

「我が艦はこれより、種子島基地に向かい補給及び整備を行います。その後、ロシアの地球連合本部に向かいます。私からは以上です」

 

マグバレッジ艦長が下がり、横に控えていたジョルジュが前に出る。

 

「全員、楽にしていい。知ってる人も多いだろうが私はジョルジュ・バートン、火星人だ。早速だが、今回の徴兵に不満のある者は手を挙げろ。素直に上げてもらって構わない。こちらから何かする、という事は無い」

 

すると1人、手を挙げる。そこからまた一人、二人と増え最終的には半分程度が手を挙げている。

 

「そうか…確かに日常がいきなり、非日常になった。その感覚は正しいものだ。しかし、相手…火星の民は死に物狂いでこちらに挑むだろう。限られた資源、工業は発達するが文化は衰退してしまった火星の民は、地球という星がなければ希望もなかっただろう。今回の戦いは、一人の軌道騎士が起こした戦争だ。既に、火星人の占領下にある土地もあるだろう」

 

ここにいる日本人は、クルーテオの支配から逃れてきた人々だ。やはり、思う所はあるだろう。

 

「だが、こちらにはアセイラム姫がおられる。姫の無事が火星まで届くかはわからない。だが、姫の生存を示せば大義は君達にある」

 

ジョルジュは静かに左手を挙げ、ゆっくりとその手を拳にする。

 

「君達は生き延びるんだ。これ以上、この無益な戦争の犠牲を増やしてはならない!アセイラム姫殿下の願いは人と人が手を取り合うこと!いま、こうしていがみ合うことではない!君達はこれより兵士となる。だが、私やマグバレッジ艦長は君たちを見捨てることはしないだろう!死にものぐるいで生き延びるんだ!」

 

その言葉に、いまここで兵士となった彼らは震えが止まる。恐怖がないわけではない。現に、2列目の席に座る彼はまだ怖気ついている。だが、彼らは生きることを忘れない。幸いカタフラクトとは従来の兵器と違いパイロットの生存率を高めるために色んなギミックがある。

 

「解散!各自、配布されたマニュアルをよく読み、生きることを最優先に考えろ!」

 

そして、彼らにとって一生忘れれない言葉が、心に刻まれた。

 

 

 

 

 

「なんでパイロットじゃなくて整備員なんだよ…」

 

「だってカームは赤点じゃん」

 

「整備だって立派な仕事よ!整備員がいないとカットは動かないんだから」

 

「そうだぜカーム!ま、俺は索敵に回されたけどな!」

 

「オコジョも人のこと言えないじゃんか!」

 

先のブリーフィングから数十分、伊奈帆たちは格納庫にいた。伊奈帆と韻子は配給されたカタフラクトの確認、カームは整備に回されたため元々格納庫に、起助は次の交代まで時間があったためだ。そしてそこに、

 

「まあそう気張るなって。この15年、実践を経験したやつは俺達や火星の奴らを入れて皆死んだ…てことは、だ。俺達や敵さんもみんな、童貞さ」

 

鞠戸大尉が現れた。

 

「みんなじゃありません。鞠戸大尉は生き残った。そうでしょ?」

 

それを大尉は皮肉げに呟く。

 

「スコアブック上は違う。俺の書いた種子島レポートは握り潰された」

 

「種子島…レポート?」

 

ふぅ…と一息ついて、鞠戸は説明する。

 

「15年前、ヘブンズフォールで崩壊した月の破片が一番最初に落ちた場所、だがな、月より先に火星の奴らが来た」

 

火星のカタフラクトは人形とは思えない、あまりにも大きいカタフラクトと戦闘機の二機が種子島に舞い降りた。化物じみた性能を持つ火星カタフラクトに時代遅れの戦車で挑んだ地球軍は全滅、奇跡的に生き残った鞠戸大尉は直後に起きたハイパーゲートの暴走、時空震動によりヘブンズフォールを目撃して種子島レポートを書き上げた。

 

「物的証拠は月の破片から奴らのカタフラクト、すべてを吹き飛ばし無くなった。つまり、この種子島レポートは俺が恐怖で書き上げた妄想となり、俺はやっかみを受けているのさ」

 

「だけど事実だったじゃん。火星の奴ら、俺達の技術を超えてるぜ。だろ伊奈帆?」

 

「どっちにしても同じだよ。僕達にはアルドノアドライブがない」

 

「アルドノアドライブなぁ…やっぱ凄いんだろ?」

 

「オコジョ、凄いなんてものじゃなかっただろ…」

 

(アルドノアドライブ…)

 

自身の乗るスレイプニールを伊奈帆は見上げる。アルドノアドライブ、それはオーバーテクノロジーという枠にすら入らない人知を超えたものなんだろう。だけど、関係ない。

 

「どのみち、僕達は僕達の最善を尽くすしかないよ。頑張ろう、韻子、カーム、起助」

 

「おう!こうなりゃ、整備はまかせろってんだ!」

 

「カーム、整備したことあるの?」

 

「…」

 

「へへ、どうしたカーム?」

 

「お前にそんなふうに言われるとむかつくな!覚悟しろオコジョ!」

 

彼らは、彼らなりにこの状況に潰されないようにしているのだろう。いずれ、彼らの中からも犠牲が生まれるかもしれない、この状況を。

 

 

 

アセイラム姫は、外にいた。物資コンテナを椅子替わりに、海を見ていた。

 

「…綺麗。これが、海」

 

そこに、影が生まれる。後ろを振り向くと、情報端末を持つ伊奈帆が立っていた。

 

「いらしてたのですか、伊奈帆さん」

 

「ええ。…やはり、青い空は珍しいですか?」

 

「はい。本当に綺麗。…地球は美しいですね」

 

空を見ていたアセイラムはまた、伊奈帆の方を向く。目線は情報端末に。

 

「お勉強ですか?」

 

「はい。復習を少し。役に立つかはわからないですが」

 

「…なぜか聞いても?」

 

「僕らはアルドノアドライブを持っていませんから」

 

…沈黙。アセイラムは口を開けても、言葉は発せなかった。伊奈帆のアルドノアドライブがない、これに何を復習していたのかを察してしまったから。

 

「どんなものですか、アルドノアって」

 

何とか言葉を返そうと、意識を持ち直す。

 

「…アルドノアは、ヴァース…あなた方が火星と呼ぶ惑星で見つかった超文明のテクノロジー。それを初めて接触した私のお爺様…レイレガリア・ヴァース・エンヴァースが、アルドノアを目覚め、その力によってヴァース帝国を作り上げた…。」

 

ふと、アセイラムは立ち上がり青い空に浮かぶ雲を見つめる。

 

「アルドノアは、遥かな時を経て、起動させたお爺様を正当な使用者と認識して、アルドノアの起動因子をお爺様の遺伝子に焼きこみました。故に、アルドノアを起動できるのはお爺様、そしてその子孫のみ。騎士はお爺様と種じゅうの契りを交わし、お爺様はアルドノアの起動因子を貸し与えました。騎士はその力で城とカタフラクトを作り上げ、植民地を統治していまのヴァース帝国を作り上げました。そして、次に求めたのが…地球」

 

雲を移していた瞳は、瞼によって見えなくなる。

 

「光を屈折し、海と空が青く見えるほど沢山の水と空気を持つ…私たち人類発祥の地。ごめんなさい、伊奈帆さん。私達ヴァースの民がこの美しい星を…」

 

「それは違う」

 

「え?」

 

「セラムさんが謝る必要は無いです。それと、空が青いのは屈折ではありません。レイリー散乱の影響です」

 

「え?でも、光の屈折だとスレインが…」

 

「空が青いのはレイリー散乱、雲が白いのはミー散乱。その人の勘違いです」

 

この言葉が、大きな意味を持っていたと伊奈帆が認識するには、まだこの時わからなかっただろう。これが、伊奈帆を縛る言葉であり、意志となり、アセイラム姫を探す切っ掛けになるとは。

 

 

 

同じ頃、鞠戸大尉もまた外にいた。その左手にまだ栓の空いてないウイスキーを手にして。そして、左腕を上げ、振りかぶる。

 

「まだ日は高いですよ」

 

後ろから声をかけられた。よく聞く声だ。

 

「これは俺の分じゃない、もう飲めないやつの分さ!」

 

ウイスキーは鞠戸の手から離れ、空を飛ぶ。すると鞠戸はズボンのポケットからドッグタグをとりだす。そこに刻まれた名前はヒュームレイ。鞠戸の戦友だった男。

 

「ヒュームレイさんに、ですか」

 

「そしてこいつが俺の分」

 

内ポケットから、自分の酒を取り出す。

 

「精進落としだ。先生もやるか?」

 

「はぁ…わかりました、いただきましょう」

 

「私にももらえますか?」

 

後ろから声をかけられる。声の主はマグバレッジ艦長だった。

 

「種子島レポート…噂だけは聞いてました。だけど、私は出鱈目だと思ってはいない。だから、鞠戸大尉。貴方を余計に許せない」

 

「…許せない?」

 

「種子島での戦闘、私の兄も参加していました。戦死…いえ、見放されたんです、あなたに」

 

「マグバレッジは私が引き取られた里親の名前。旧姓はヒュームレイ。貴方の親友は…私の兄だったんです!」

 

「…ッ!?」

 

 

 

『ヒュームレイ!大丈夫か!?ヒュームレイ!!』

 

『ま、鞠戸ぉぉ!助けてくれ!足が!足がぁぁああ!!』

 

『ヒュームレイ!待ってろ、いま引っ張り出してやる!!』

 

『だ、ダメだ!足が砲弾に引っかかって!!うわぁぁあ!!』

 

『ヒュームレイ!!』

 

 

 

「あ、ああああ!!」

 

「鞠戸大尉!」

 

空から拳が落ちてくるのを、マグバレッジと耶賀頼医師は鞠戸のPTSDの発作に気を取られ気づかなかった。あれは、火星のカタフラクトの攻撃━━━

 

わだつみに、衝撃が走る。

 

 

 

 

 




蘇る15年前の傷跡。それは感傷に浸る間もなく、無情にも戦いへと繋げさせる。そして、その島で見たものは何か。次回、再開。天才の存在が、悲劇を覆す。


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再開 -Reen counter-

みなさん、あけましておめでとうございます(遅い)

出来れば年越し前に上げたかった…

今回はヘラスとの戦闘回です。

楽しみにしていた皆様、遅くなってすみません…


わだつみに、衝撃が走った。

 

「種子島上空に敵機!」

 

「対空戦闘!外洋に出る!最大船速、面舵一杯!」

 

種子島に着いて、安心できた矢先だった。そこは既に敵の支配下だった。この何も無いような地をも敵は侵略していた。

 

『こちら第18ブロック!ミサイルが着弾!爆発はありません!不発弾のようで…い、いえ!生きてます!うわぁぁああ!!』

 

着弾したのはミサイルではなかった。腕だ。巨大な拳が艦の装甲を破り、内部からケーブルを引きちぎった。

 

「油圧ケーブル切断されました!不見咲副長!」

 

「堤防と衝突コース!」

 

「各員、衝撃に備え!」

 

2度目の衝撃に一般人は声すら出ない。さらに、被害は衝撃だけでは収まらず、船底には亀裂が入り、堤防に衝突した側面からは浸水が始まった。

 

 

 

 

 

 

拳が種子島の高台にいる何かへ向かい、装着される。それは、カタフラクトだった。だが、設計思想はいままでのニロケラスやアルギュレとは何か違うものだ。

 

「あれが、バートン伯爵と共にしている地球の船か…妾の領地に断りもなく入るとは…いや、地球の民にはわかるはずもないのう…妾の眷属で可愛がってやろうぞ?」

 

カタフラクト、ヘラスを操る軌道騎士37家門の1人、フェミーアン。女性でありながら過激な彼女を相手にわだつみは挑む。

 

 

 

 

 

 

「不見咲、艦載機を出撃させてください!」

 

艦橋へ来たマグバレッジの指示で、フリージアン小隊、マスタング小隊、さらにはジョルジュの演説を聴き志願した義勇兵によるバレッゼ小隊の計12機が出撃準備に入る。

 

『フリージアン小隊、発進準備!1番エレベーター上昇準備!』

 

アナウンスが流れる中、伊奈帆は支給されたアレイオンに搭乗するも、メインシステムが起動しない。

 

『カーム、こいつ起動しない!』

 

「悪い、システムチェック中だ!まだ出せない!」

 

仕方なく、伊奈帆はあたりを見回す。すると、目に入ったのはオレンジ色の練習機。

迷わず、スレイプニールへ向かい、起動シークエンスを始める。

 

「フォースフィードバックチェキングプログラム、スタート。エジェクションシート正常、IFF確認。戦術データリンク、アクティベート。マスタング2-2、レディ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、艦橋では

 

「マグバレッジ艦長」

 

「アセイラム姫…」

 

アセイラム姫が現れた。後ろに、ジョルジュを引き連れて。侍女のエデルリッゾは居ないようだが。

 

「マグバレッジ艦長。この戦い、バートン伯爵に指揮を取らせて頂けませんか?」

 

「なっ…!?」

 

不見咲が、声を上げる。それもそうだろう。自軍の指揮を、他国の人間に任せるからだ。ジョルジュ、有能だと言うのは聞いているが、見たことのない人からしたら有り得ない発言だからだ。

 

「…姫殿下、それは何故でしょうか。ここには、ヴァースにとって、重大な何かがあってのことでしょうか?」

 

「ここからは私がお話しましょう、マグバレッジ艦長」

 

「バートン卿…」

 

「君たちは開戦後、地球の兵士の中で最も火星のカタフラクトと交戦経験があるだろう。だが、それは一対多だ。多対多の戦闘のノウハウは、ここ30年間ほとんど無い。あんな事を言った手前、彼らを見捨てることは出来ないのだ」

 

正論だが、不安が残る。確かに、マグバレッジやほかの皆は多対多の戦闘を経験したことはない。

 

「安心してくれ。私とて軍人だ。さらにあの機体はヘラス。策はある」

 

悩んだ末、マグバレッジ艦長は、

 

「…わかりました」

 

「マグバレッジ艦長!?」

 

答えを出した。

 

「不見咲、私も未だ不安はあります。しかし、彼は火星の兵器を知る人間でもあり、指揮官という立場である以上、この状況は分かっているはずです」

 

マグバレッジはジョルジュへ顔を向け、

 

「指揮を任せます。私は船の指揮を」

 

「ありがとうございます、マグバレッジ艦長」

 

ジョルジュ橋の窓から種子島に居座るヘラスを射抜くような視線を向け、

 

「取舵40、湾口まで突撃せよ。ヘラスの拳は巨大分子で出来ているため破壊は困難だ。HE弾の爆発で軌道をずらせ」

 

「フリージアン小隊は艦首、マスタング小隊は艦尾に展開、バレッゼ小隊は待機だ」

 

「湾口まで、あと800!」

 

「敵の拳は上空からも来るぞ!対空監視気を抜くな!」

 

『こちらフリージアン4-4!弾が切れた!援護を!』

 

軌道をずらし、衝突を避ける策は平面での戦闘ならば問題はなかっただろう。しかし、上空から来る拳には意味が無かった。

 

『マスタング2-2、上だ!』

 

引き金を引く。しかし、射撃プログラムの通りに行かず、弾は当たらない。

 

(外れた?真上の射撃に対応出来てない?)

 

その光景を見たジョルジュは思い至る。

 

(違う、あれは貝塚君のミスではないな…重力によって有効射程が減っているのか!)

 

平面での射撃ならば放物線に沿って放てばいい。しかし、真上の標的には重力が弾頭に常時最大でかかる。

 

(だけど、あっちは重力によって加速している。この距離で当てないと、進路を逸らしきれない!当たれ!)

 

伊奈帆の祈りは届かず、引き金を引くも弾は出ない。

 

「弾…切れ」

 

「面舵一杯!船にあたってもいい!機体に当てるな!」

 

拳と伊奈帆の乗るスレイプニールの距離が100を切ったその時、考えもしなかった方角から砲弾が飛んできた。

 

「んん~!!…あれ、生きてる?」

 

韻子の呟きを皮切りに、伊奈帆たちは飛んできた砲弾の方向を見る。そこには、

 

「あの船に、アセイラム姫が…」

 

「火星の、輸送機…」

 

「スカイキャリアだと?なぜヘラスの邪魔を…?」

 

火星の戦術輸送機、スカイキャリアにのったスレインが、わだつみを見て、オレンジ色のカタフラクト、スレイプニールを見て、この戦闘に介入することを決意した。

 

 

 

 

 

 

「敵の増援?バートン卿?」

 

「いえ、増援ならばこちらを撃つはず。なぜヘラスを撃ったのかはわかりませんが…」

 

(どういうことだ…私がここにいるのはすべてのヴァース兵に伝わったはず。とすれば、こちらの事情がわかっている…?)

 

それは、パイロットにも理解ができないものだった。

 

『俺達を助けてくれた…?』

 

『伯爵の軍なのか?』

 

そんな中、マスタング小隊は淡白だった。

 

『仲間割れ…?』

 

『いや獲物を取り合ってるだけかもね…』

 

『はぁ…どっちでもいいよ』

 

『伊奈帆?』

 

伊奈帆のスレイプニールはヘラスへ銃口を向ける。

 

『敵の敵なら、味方でなくとも役に立つ』

 

 

 

 

そして、フェミーアンはというと、激昂していた。それもそうだろう。自身が勝ち取った領地を奪い取られでもしたら他の伯爵からの圧力がかかる。クルーテオの領地に隕石爆撃が降り掛かったのと同じだ。

 

「妾の地で、勝手は許さぬぞ!行け!我が眷属たち!」

 

ヘラスの拳は6本。その全てがたった一つのスカイキャリアに襲い掛かる。

 

それを視認したスレインは機体を上昇させ、拳が当たる前にペダルから足を離し、失速させた。

だが、急に失速し、ほぼ垂直にきりもみ落下している機体のGはとんでもなく、数秒後に意識を失う。

 

それを見逃すフェミーアンではなく、拳を開き鷲掴もうとしたが、開いた拳の内側に銃弾が命中し、爆発する。撃たれた拳は海へ墜落、弾道の先には、

 

「オレンジ色のカタフラクト…!援護してくれるのか?」

 

一方、墜落した拳を他の拳で拾うと、指が破壊され、使えなくなっていた。

 

「ボーディスの指が!…おのれ、列島民族の分際で…!こうなれば船を先に!」

 

2本の拳が船から距離をとる。

そして、それを見たジョルジュは新たに指示する。

 

「ウェルドック、ハッチ開放せよ。一般人を揚陸艇にのせるんだ。艦尾にいるマスタング小隊へ迎撃命令!」

 

「フリージアン小隊、港でスカイキャリアの援護、バレッゼ小隊はフリージアン、マスタング両部隊の支援!」

 

ウェルドックが開いたことに気づいた伊奈帆は心で感謝し、ハッチの中から拳を迎え撃つ。今度は平面での射撃、リロードは済ませてある。射撃プログラムの指示通りに、照準を合わせトリガーを引く。韻子はエレベーターから出てきた狙撃銃をユキに渡し、スポッターを務める。

 

伊奈帆の放った2発目の弾丸が片方の拳に当たり、海に墜落する。そして、ユキの狙撃銃から放たれた弾丸は若干左へ傾き艦橋を外す。そして、わだつみが停泊している少し先の崖にぶつかる。

だが、その崖が崩れると空洞があった。

 

「隠しドッグ?」

 

「マグバレッジ艦長、機関は生きていますか!?」

 

「…!操舵手!?」

 

「生きてます!」

 

「船体は!?」

 

「傾斜角2度…行けます!」

 

「機関最大!前進一杯!前方の崖の中で難を逃れる!貝塚君!」

 

ジョルジュは通信機を取り、伊奈帆へ通信を繋げる。

 

『攻略法は君の考えている通りでいい。だが、あのスカイキャリアは撃ち落とすな。我々の事情を知る者がいるかも知れない。丁重に迎え入れろ!』

 

「…マスタング2-2、了解」

 

まさか、自分宛に通信をしてくると思ってなかったせいか、呆気に取られるも気を取り直しスレイプニールをウェルドックから港へ向ける。

 

戦いは、まだ始まってすらいない。ここから、やっと対等な戦いになる。戦神の愛馬は圧政者へ向け、戦いに挑む。

 

「劣等民族が…妾に対し何たる無礼な!!」

 

ヘラスの使える拳を一斉発射。それは変則的だが、正確に伊奈帆のスレイプニールや韻子たちのアレイオンに向かう。

 

『3時方向、来るわ!』

 

「問題ない」

 

その拳はスレインのスカイキャリアが砲弾に撃ち落とされ、僅かに残った拳はユキのアレイオンにより落とされる。

 

(このままじゃ、ジリ貧だ。船はドッグの中、補給は望めない。なら、拳を無力化させるしかない。拳の装甲は硬く、破壊は困難。なら、ブースターを破壊するか、あるいは…)

 

画面に表示される画像を見て、伊奈帆は決意する。

 

「ユキ姉、敵のカットを直接攻めよう」

 

『何言ってるのなお君!?あんなのに適うわけないじゃない!』

 

『そうだよ伊奈帆!ここは火星の戦闘機に任せたら…?』

 

「いや、その方が危険だ。あの戦闘機がいつ敵になるかわからない。今のうちに協力させる。それに、さっきからあの三面六臂は同じ攻撃を繰り返している。きっと、あれしか武器がないんだ。そして、船はドックの入口を塞いだ。破壊するには威力が求められる。ロケットの威力は加速した距離で高まる。だけど、距離を離せば、少しズレただけで大きく進路が変わる。誰かが狙撃し続けてる間に攻めれば、問題ない。こっちにも勝機がある」

 

『なお君…』

 

「韻子、ハンドガン借りるよ」

 

韻子のアレイオンからハンドガンを借りた伊奈帆は真上に向け発砲、上空のスカイキャリアの注意を向け、湾岸に向けスレイプニールを走らせる。

 

『オレンジ色…そういうことか!』

 

意図を理解したスレインはスカイキャリアをスレイプニールの前につける。そして、スレイプニールは、敵であるはずのスカイキャリアのハッチに何のためらいもなく乗り込む。

 

『ちょっ、伊奈帆!』

 

『うそでしょ…?』

 

2人の心労を気にせず、伊奈帆はスカイキャリアに回線を開く。

 

『接触回線オープン。手短に行こう。そちらの兵装は?』

 

いきなり回線を開かれ、戸惑うも協力してくれる相手をわざわざ不快にさせないよう、スレインは返答を決意する。

 

「…榴弾砲の残りが20発ほど。そちらは?」

 

『HE弾9発。…それで最後だ。』

 

『なお君やめて!それは火星の『ごめんユキ姉、あとで。』…ぅぅう!!』

 

「…あの、味方の方は大丈夫なんですか?」

 

あまりに酷い切り方に、思わず聞いてしまった。

 

『大丈夫だと思っておこう。いまはそれよりあのカタフラクトの対処が先だ』

 

「へ、ヘラスの拳は巨大分子で出来ています。どんな弾でも、破壊できません!」

 

『いや、指が破壊された拳がある。指が開く時は、分子構造が戻るんだ。これなら、ひきつけて狙えば行ける。』

 

「し、しかし!」

 

それは難しい。拳を開くという事は、掴まれる瞬間を指す。そのつかまれる間の短い時間に指を当てるのは至難の技だ。

だが伊奈帆はその抗議を無視するかのように警告する。

 

『来るぞコウモリ!』

 

「コウ…ッ!?」

 

ヘラスの拳が迫っていた。

 

 

 

 

 

伊奈帆はスレイプニールの向きを変え、迫る拳へ向ける。銃口は拳の中央、タイミングは一瞬。

 

開いた━━

 

発砲する。

 

━━命中。

 

「これなら、コウモリが引きつける間に行けるか…」

 

スレイプニールの腕にあるワイヤーを追撃に来た2本の拳の片方に発射、巻き付ける。

 

そして、伊奈帆の意図を読み取ったスレインはスカイキャリアを左右に振る。すると、ワイヤー越しに拳もつられもう一つの拳に命中する。そして追い討ちをかけるようにスカイキャリアの銃座から砲弾が迫り、命中した。

 

 

 

『相変わらず無茶なんだから…前進するわよ』

 

『いいんですか!?』

 

『いいのよ…あの子の無茶って、たいてい正解だから…はぁ、私の心配を考慮に入れてほしいくらいよ』

 

ユキと韻子、伊奈帆に振り回されつつも伊奈帆を信頼している2人はため息をつきつつ、空中でドックファイトを続ける彼を助けるために機体をヘラスに向け、前進する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、隠しドックへ向かったわだつみは退艦をほぼ終え、ジョルジュとマクバレッジが今後について話し合っている。

 

「食料は当分大丈夫でしょう。伯爵の城より援助を頂いた分を入れ、2ヶ月は余裕でしょう。ただ、」

 

「身動きが取れない。地球は自転するため、宇宙にある揚陸城からの衛生スキャンからは、逃げられない。船の修理は?」

 

「あそこまでやられてしまっては船にいるスタッフでは…」

 

二人が悩んでいたその時、不見咲が若干の驚きを顔に表し二人を呼んだ。

 

「艦長!急ぎ、艦長と伯爵に見ていただきたいものが…」

 

「…?」

 

 

 

 

「しっかしオコジョ、伊奈帆とユキさん、韻子は大丈夫だと思うか?」

 

「カームらしくないな、伊奈帆がいるんだろ?多分大丈夫だろ?」

 

「こっちからだと苦戦はしないとは思うんだけどな。ニーナはどう思う?」

 

「祭陽先輩と同じ…かな?よくわかんない」

 

「なんだそりゃ…とりあえず俺も祭陽と同意見だ」

 

「詰城先輩と祭陽先輩は大丈夫、なら安心だな!」

 

「あーっと、ライエさん?だったけ?君はどう思ってるんだ?」

 

「…何の話?」

 

ここはドックの貨物室、わだつみを放棄した今、操舵手やレーダーから整備にいたるまで、皆暇なのだ。よって、今この場にいない伊奈帆や韻子がどうなっているか話してる。そこに通りかかったライエに起助が話を振った。

 

「…あいつなら負けないと思うわ」

 

「な、なら伊奈帆君たちも大丈夫だね!」

 

ライエはいま、複雑な心境だった。ヴァースにはこんな話が盛り上がらないから、いや、自分が不器用だから。

全ての元凶のお姫様はみんなに受け入れられた。それは人柄だから?身分?じゃあ私もみんなに火星人と言って受け入れられるか?

 

 

 

 

…怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ!

 

 

 

 

 

…私は火星人とも地球人とも仲良くなれない…私はここにいていいのか?今すぐ外に出て、あの戦いに巻き込まれた方がいいんじゃないか?

 

(…エ?)

 

だけど、死ぬのは怖い。それと同じくらい周りも怖い。

 

(ラ…エ!)

 

何か、聞こえる。

 

「ライエってばー!聞いてるの?」

 

現実に戻った。

 

「ご、ごめん、聞いてなかった…」

 

「大丈夫?汗すごいよ?耶賀頼先生に見てもらおうよ?」

 

ライエの腕をつかみ引き寄せるニーナ。

 

「え、ちょっ、え!?何!?」

 

「だーかーら、耶賀頼先生のとこ!」

 

「大丈夫、大丈夫だから!?」

 

「つべこべいわないー」

 

 

…なんだか、いまは何も考えない方がいい。

 

 

 

 

 

 

尚、とりのこされた男子達は呼び出しがあるまで立ち竦んでいた。

 

 

 

 

 

「なんだ…これは…」

 

その頃、隠しドックの最深部では、ジョルジュが驚愕していた。目の前にある物が、天才を動揺させた。

 

「これは、一体どういうことだ!なぜデューカリオンが!こんなところに!」

 

「不見咲、これは一体…」

 

「検討もつきません。この施設は一体…?」

 

「…恐らく、火星の技術を盗もうとした結果でしょう」

 

声に震えはあるが、その声の主はジョルジュだ。

そこに後ろから声がかかる。

 

「クレーターだ」

 

「クレーター?」

 

「ここに落ちた隕石は10や20じゃ足りない。ある隕石は入り江を作り、ある隕石はドックを建設した。それが」

 

「ここさ。この機体は俺の15年前の悪夢さ…」

 

鞠戸の足が震えている。やはり、動かないとわかっていても怖いのだろう。

 

「では、鞠戸大尉の種子島レポートはこの事実を隠すために…?」

 

「いえ、あれも含まれているでしょう…」

 

ジョルジュがアレに指を指す。その先には…

 

 

 

 

 

 

 

 

空でコウモリと拳が飛び交う。

 

『後方より、さらに2機!』

 

「進路1-7-5、海岸線に沿って飛んで。…ユキ姉、聞こえる?」

 

「都合のいい時だけ頼るんだから!進路そのまま!」

 

「装甲のない真後ろからなら、エンジンを撃てる」

 

 

 

「ボーディス…マラクス…ロノウェ…ハルファス…ラムウ…ヴィネ…妾の子らを…よくも!!」

 

『合図で突撃するわよ』

 

『…はい』

 

「ならば奥の手!」

 

ヘラスがあらぬ方向へねじ曲げられたり折りたたまれたりする。変形を終えると、スカイキャリア以上の速度で空を飛んだ。

 

『はあ!?』

 

『とんでったー…』

 

女子2人とは違い、伊奈帆とスレインは混乱に陥った。

 

「なんだあれは!?」

 

『僕も知りません!』

 

「距離をとった、加速してくるぞ!」

 

『狙撃で軌道は逸らせますか?』

 

「あのサイズ、ライフルじゃ無理だ!」

 

『失速させます!気をつけてください!』

 

「来るぞコウモリ!」

 

『黙っていてくださいオレンジ色!』

 

「…オレンジ」

 

スカイキャリアを失速させ、下に避ける。当たらず、通り過ぎるへラスはその巨体に見合わない旋回性能によりきりもみ落下するスカイキャリアを射程に入れる。

 

『引き起こしが!』

 

「…また来た。何か策はあるかコウモリ」

 

「同じ手は食わぬぞ!」

 

迫り来るヘラス。

 

『…ダメです、間に合いません!』

 

スレイプニールをヘラスに向ける。だが、策はない。

 

 

 

 

 

それは、地中から放たれた。そして、

 

 

 

 

 

 

 

ヘラスの側面が

 

 

 

 

 

 

 

爆発した。

 

 

「何事!?」

 

爆発し、続くミサイルの対処に追われるヘラスを間一髪で助けられた伊奈帆は地中から浮遊する船を見る。凡そ現代の科学では到底浮くはずのない質量を持っているはずの船は確かに浮いていた。

 

「飛行艇…いや、戦艦か」

 

そしてスレインは、アルドノアで動く船と読み、艦橋を見る。そこには、

 

 

 

「見つけた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アセイラム姫!」

 

 

 

 

 

数分前、艦内に侵入したマグバレッジ達は2分もせずに艦橋へ侵入した。

 

「艤装を確認、燃料、武器、弾薬の確認を急いでください」

 

「艦長、なぜこんな立派な船が出撃もされず放置されてたのですか…?」

 

「予備の電源、生きてます!パワーが来たら行けます!」

 

「燃料は…えっ、わかりません!」

 

「なんだその報告は!?」

 

「燃料計がないんです!」

 

「なるほどな…」

 

ちょうど艦橋へ入ったジョルジュはその報告で納得がいった。この船は…

 

「アルドノアで動く船ですね。あのデューカリオンのアルドノアドライブを移植したのでしょう」

 

「しかし、アルドノアドライブを動かせるのは火星の人々…」

 

「姫様が生きておられてよかった、これで何とかなるかもしれません。私は姫をお連れします」

 

そして、アセイラムを連れてきたジョルジュが艦橋に来て、地球初のアルドノアドライブ運用兵器、「デューカリオン」が動き出す。

 

 

 

 

 

「馬鹿な…アルドノアを持たぬ地球人が…何故そのようなものを…!」

 

フェミーアンのヘラスはデューカリオンに進路を向ける。だが、それは彼女の命運を尽きさせた。

 

ヘラスの背後にスカイキャリアとスレイプニールが近づく。

 

装甲のない真後ろからなら、エンジンを狙える

 

フェミーアンが気づいた時には遅かった。エンジンをやられ、変形が維持出来なくなる。そして、地上に落ちたヘラスはデューカリオンの穂先に衝突する。

 

速力、質量で圧倒的に上回るデューカリオンの衝突に耐えられるわけもなく、ヘラスは大破。

 

「おのれ…まだっ!?」

 

周りにはアレイオンがいた。

 

これは戦争だ。つまり、死人はつきものだ。

 

 

数秒後、ヘラスは爆発四散、フェミーアンは戦死した。

 

『こちらフリージアンリーダー、敵カタフラクト撃破!』

 

 

 

 

 

 

 

スカイキャリアでスレインはデューカリオンの中にいるアセイラムをみて、一息ついた。

 

「アセイラム姫…よかった、生きていた…」

 

 

『姫は死んだ。なのに…なぜ探している?』

 

 

「えっ…?」

 

 

『君は姫が生きていたのを知っていた。何故だ?』

 

 

スレインは冷や汗をかく。ここで選択肢を間違えたら、僕は殺される。そんな、確信があった。

 

 

『答えろ』

 

 

「僕は、オレンジ色、貴方を探していた。あの街から。そこで姫様を見た。姫は地球の生まれである僕に偏見は無かった。僕は、姫を利用するものと、姫を殺すものを許さない」

 

『…』

 

 

 

 

 

ここで、殺すべきか?

 

真意はわからない、だが、姫を大事に思っているのは確かだろう。

 

だが、不穏分子に代わりはない…

 

『だが、あのスカイキャリアは撃ち落とすな!』

 

ジョルジュはそう言った。

あの人は火星人。だが、いい人だ。

 

このコウモリは、どうなんだろうか。

 

「コウモリ」

 

『…なんでしょうか、オレンジ色』

 

「お前の名前は?」

 

『…スレイン・トロイヤード』

 

「スレイン・トロイヤード…僕は君を信用できてない。だが、姫に対する気持ちはわかった。今は見逃す」

 

スレインと伊奈帆の緊張は収まった。

 

『オレンジ色、僕はあなたの事が嫌いだ』

 

「僕もだよ、コウモリ」

 

二人は、デューカリオンに戻る。嫌いという点で分かりあった二人に会話はなかった。




塗り替えられた運命に二人の少年は向き合う。一人は嫌悪感を、もう一人は興味を。その裏で、火星では内部分裂が始まる。次回、鳥と月。過去に囚われたものの弱さ、それは事実の誤認だ。


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鳥と月 -Light of the Blue Ster-

今回はオリジナルの軌道騎士中心で、内容も薄いです。オリジナル要素が本格的に入った回です。


デューカリオン内部の一室にて、一人の女性の意識が覚醒する。

体の倦怠感は酷く、起き上がることも難しい。

辛うじて、目は開けた。

 

(ここは…どこなのでしょう…)

 

見覚えのない部屋。光の無い空間。最後に見た記憶との不一致。

 

「かえ…らなく…ちゃ」

 

小さく、とても小さく声は部屋の中で響いた。

 

 

 

 

 

 

「やはり、ザーツバルム伯爵だけでは荷が重いのではないか?」

 

「確かに、虫けらの中にも藪蛇は存在する…クルーテオ卿のサー・ブラドやトリルラン男爵が既にやられている」

 

「なんと…ではやはり、あの天才の仕業か…?」

 

「そこまでは分かりません。ですが、我々も互いに手を取り合わなければ損害が出るということか…」

 

「それでは、やはり?」

 

「ああ、皇帝陛下に謁見する他ない」

 

ヴァース帝国の所有宙域に点在する揚陸城、その一つに、密会は行われていた。

 

城の主はヴァインシュタイム伯爵。招かれた客は5人。

 

マリルシャン伯爵、カレル伯爵、シャルル伯爵、クレイツ伯爵、そして、爵位を失ったジョルジュの穴を埋める時期伯爵候補の1人、ブラン子爵。

 

次に口を開いたのはマリルシャン伯爵だった。

 

「ならば早急に準備せねばなりますまい。ザーツバルム伯爵に勘付かれる前に」

 

「確かに。幸い我が城は本国にほど近い場所にある。早々に気付かれる心配はないだろう」

 

「確かに。クレイツ卿はどう思いか?」

 

「…ザーツバルム伯爵が地球を占領する前に、こちらの結束を確かにしなければならないでしょう。その当たりはお任せあれ。我が家名にかけて…!」

 

「わかりました。ブラン子爵、貴方には伯爵になって頂くために私も根回ししましょう」

 

「痛み入ります、カレル伯爵」

 

「さて、これ以上我が城に居ては周囲に怪しまれるやもしれん。今宵はこれにて終いにいたそう。シャルル卿、構わんな?」

 

「もちろんですヴァインシュタイム卿。では、次回は5日後に、通信で」

 

密会が終わり、クレイツ伯爵は自身の城に戻る際、先の密会で疑問を抱いていた。

 

(カレル伯爵…あのブランを伯爵に仕立てあげ何をするつもりだ…奴は、地球に月の破片を降り注がせようとした奴だぞ…リソースとする地球を殺すやつを信じろと…?)

 

「どうやら、私は私で動くしかない、という事か…」

 

 

 

 

 

「ヴァインシュタイム様。ご客人、お帰りになりました」

 

「ご苦労、コーエル卿。入るがいい」

 

皆が去り、私室で読書するヴァインシュタイムに、使いのコーエル卿が室内に入る。

 

「皆様を纏めるのは難しく思いますが」

 

「まぁな。我らは言わば、別個の軍隊だ。それを纏めるのは一筋縄では行かないだろうな。旨みもなければこんな話を出すわけもない」

 

「旨み…でございますか?」

 

「ああ。ザーツバルム伯爵が失脚すれば奴の発言力は大いに減るだろうさ。そして、いまはあの番犬も月面基地にはいない。確か、月面基地の守りはバルークルス卿がザーツバルム伯爵から任されている筈。彼はマリルシャンの知己、旨みで釣ればいいさ」

 

「マリネ卿の存在で手の出しにくかった月面基地…どうやら、天才に感謝しなければなりませんね」

 

「あとは、クレイツ伯爵がどう動くか、だ」

 

本を閉じ、二人は部屋を出る。向かう先は指令室だ。

 

「マリルシャン卿に連絡を取る。コーエル卿は地球の方を頼む」

 

「仰せの通りに」

 

二人はT字路で別れる。地球とは別に、ヴァースでも変化が訪れようとしている。その結果が、血に染まることになったとしても、彼は喜んで戦乱へ叩き落すだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その動きはザーツバルムに筒抜けであったとしても。

 

「やはり本国は我とジョルジュの不在をいいことに…ここまで露骨では寧ろこちらが罠に嵌められているか疑ってしまう。他には?」

 

『いえ、現在判明している新情報はこちらで最後です』

 

「そうか…引き続き監視をせよ。深入りは禁物だ」

 

『了解』

 

そう、ザーツバルムの内偵は軌道上に点在する騎士のみならず、本国にも存在していた。無論、全ての揚陸城なに忍び入る事が出来なかったのは、バートン城に内偵がいない事でも明らかだが、それでも反ザーツバルム派の軌道騎士全てに点在する。

 

「さて、そろそろ地球の者共に手を拱くのは終いだ…地球へ向け、総攻撃、か」

 

(それと同時に、バルークルス卿への忠告、マリネの状態、スレイン・トロイヤード…)

 

歯車は正常だ。ならば、これを狂わせぬようにしなくてはいけない。手持ちのカードは少ないが、効果はある。発言力のある今のうちに根回しをしなければならない。

 

 

 

だが、気になることもある。

 

「バートン城…宇宙に上がり所在がわからぬのが少々厄介だな…」

 

そう、宇宙に上がったバートン城の事だ。アルドノアドライブが停止していないことからジョルジュが生きているのは確実、そして向こうの兵力はあまり削れていない。大局的に見て、彼らの存在はあまり気にしなくてもいい。だが、相手はこのザーツバルムを持ってして適わぬ頭脳の持ち主、18で伯爵にまで登りつめた天才だ。

 

「だが、今かまっていられないのも事実で、あるか…」

 

覚悟を決め、己の決定を見つめ直す。既に矢は放たれた。なればあとは己を信じるのみ。

 

「我が同胞らへ回線を繋げよ━━!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デューカリオンのブリッジは平和そのものだ。そこにいるのはカームに韻子、ニーナ、祭陽の4人。

 

「これがブリッジ…空飛ぶ戦艦、デューカリオンねぇ…」

 

「ニーナ、これどうやって飛んでるの?」

 

「種子島で見つかった、火星のカタフラクトのアルドノアドライブを移植して飛ばしてるの。高度計も見ないといけないから大変だよー…」

 

「アルドノアドライブは、お姫様が動かしたの?」

 

「うん、アルドノアの光て凄かったよ?ね、カーム」

 

「ああ。韻子は戦闘中だったしな。もう見れないんじゃないか?綺麗だったぞー?」

 

「二人してずるいー!いいもん、私はそんなのに興味ないしー!」

 

「またまたぁ、嘘はいけないぜ韻子?」

 

「もー!知らないし!…あれ、そういえば、伊奈帆は?」

 

「あん?伊奈帆なら確か火星人と話してるんじゃなかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が、コウモリ…」

 

「貴方が、オレンジ色の…」

 

二人は、デューカリオンの格納庫にいた。互いに気に食わない、だが、興味がある伊奈帆が会いに行った。すると、スカイキャリアの主翼にスレインを見つけた。

 

「正直、僕は君を信用しきれていない。姫は死んだ。なのに探していた。それだけで警戒する理由になり得るから」

 

「…僕は暗殺者の仲間じゃありません」

 

「なぜそう言い切れる?」

 

「僕は、地球の生まれだからです」

 

「…地球の?」

 

眉を顰める伊奈帆。スレインが乗っていたスカイキャリアは火星の兵器、事情を知らない伊奈帆にはスレインが火星へ連れてかれたことは知らない。故に、真偽が測れない。

 

そこに、

 

「スカイキャリアはこちらにあると聞いたのですが…」

 

アセイラムの声が格納庫に響いた。

 

「アセイラム姫!」

 

「ッ!」

 

「貴方は…!」

 

反射的に伊奈帆の体が動く。右手はスレインの左腕を掴み、後ろへ回す。それを軸に伊奈帆は自身をスレインの背後へ。スレインの腰から銃を抜き取り、拘束した。

 

「ヴッ…!?オレンジ色、何を!?」

 

「伊奈帆さん!?」

 

格納庫にいた人間全ての視線が集まる。

 

「セラムさん、この方と知り合いですか?」

 

それでも伊奈帆の鉄面皮は崩れず、声のトーンも変わらずセラムに問う。

 

「え、ええ。スレイン・トロイヤードといいます。地球のことを沢山教えてくれた、私の友達です。ですので伊奈帆さん、手を離してあげてください」

 

どうやら、地球生まれは本当のようだ。なら、一定の信用はできるか。そう判断した伊奈帆はスレインから手を離し、銃を返す。

 

「疑って済まない、コウモリ…いや、スレイン・トロイヤード」

 

「すまないと思うならやらないで下さい…えっと、」

 

「界塚伊奈帆」

 

「…貴方の、名前ですか?」

 

「ああ。まだ完全に信用出来てないけど」

 

「…そうですか」

 

そう簡単には納得してくれない人として、スレインの記憶に残る。今はアセイラム姫に話さなければならない。

 

 

 

「何事だ?」

 

「バートン伯爵!?」

 

そこに、天才までもがこの場に現れる。スレインはジョルジュの目前に畏まる。

 

「君は?」

 

「スレイン・トロイヤード、クルーテオ伯爵の使い…でした」

 

「クルーテオ卿の…?」

 

「はい。クルーテオ城より抜け出し、アセイラム姫を探していました。伯爵はトリルラン卿を使い、姫様を暗殺しようと!」

 

「なっ…!」

 

アセイラムは思わず声を出してしまった。それが事実だとすれば、暗殺を目論んでいたクルーテオの城に長い期間いたアセイラムに何か良からぬことを企んでいた可能性もある。

 

「…この場で話すには些か宜しくない。姫殿下、スレイン、場所を移すぞ。伊奈帆君は艦長達を呼んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『久しいな、マリルシャン卿』

 

「そうですね、バルークルス卿…月面基地の管理は大丈夫なのですか?」

 

『数日前、マリネ卿がザーツバルム卿に呼び戻され、戦力は減ったが、地球人にここを攻め落とす余力はないだろう、問題ない』

 

(情報通り、番犬は地球に行ったようですね…誘いを掛けるなら今しかありません)

 

(ザーツバルム卿の読んだとおり、誘いに来たな…情報を引き出すにはいい機会だな)

 

「バルークルス卿、単刀直入に言いましょう。ヴァインシュタイム伯爵はご存知ですね?」

 

『ああ、ザーツバルム卿がいなければ彼が軌道騎士のまとめ役になるやもしれん御仁だ』

 

「それは話が早い…ヴァインシュタイム卿と、地球を取りませぬか?」

 

『なに?しかし、今はザーツバルム卿が指揮を執っているではないか。何かあったのか?』

 

(誘いの裏はなんだ…?ヴァインシュタイム卿と、何を企んでいる…?)

 

「ヴァインシュタイム伯爵は、近々侯爵になられます」

 

『なに…?しかし何故ヴァインシュタイム卿なのだ?確かにあの御仁は力がある。が、ザーツバルム卿や人望のあるクレイツ卿がいる中で、何故彼なのだ?』

 

「ザーツバルム卿は、皇帝陛下を流言で惑わそうとしている。その彼が指揮する地球侵略は、信用できませぬ!」

 

(ザーツバルム卿を失脚させるのが目的か。だが、それは手段でしかないな、望みがわからん)

 

『だがマリルシャン、ヴァインシュタイム卿の真意がわからん。ザーツバルム卿を失脚させた所で、軌道騎士が混乱するだけだ。この大事な時期に、混乱させるのは望ましくないぞ』

 

「大事な時期だからですよバルークルス卿。姫殿下の弔いに、裏切るやもしれぬ奴に任せては37家門の威光に陰りが増します」

 

(…口を割る気はないらしいな、ならば、ここらが潮時だろう)

 

『検討はしておくぞマリルシャン卿。オリンポスの砂嵐に抗う気は無い。風を読ませてくれ』

 

「わかりました、良い返事を期待しますよ」

 

そして、マリルシャンとの通信を切ったバルークルスはため息をつく。いい印象は受けないが友と呼べる者が、

風を読み間違えた事に、頭を悩ます。だが、それは新たにモニターに映る人物の姿で強引に整理を付ける。

 

『難儀であったようだな、バルークルス卿』

 

「ザーツバルム卿…本国は、予想していた以上に荒れている。あれではアセイラム姫殿下も嘆くことであろう」

 

『バルークルス卿、今は本国の動きも大事だが、そちらに余計なネズミが入らぬかどうか、監視の目を光らせよ』

 

「承知している。…マリネ卿が出撃されてから、基地内の兵士から緊張の糸が解れた印象を受けた。少々、自身の騎士に一言言ってやってはどうだ?」

 

『フッ、善処しよう。バルークルス卿、何かあれば我に連絡を』

 

「そちらも、有事の際にはこの月面基地の戦力を差し向けよう」

 

モニターは黒に染まる。ここからは時間との勝負。

 

(我がヴァインシュタイム家の悲願が叶うが先か、)

 

(我が復讐が成功するが先か、それとも━━)

 

 

 

 

それとも、全てが無意味になるのが先か。




少年2人は一人の少女のために戦いを決意する。その中で、一人の少女は、裏切りの娘と相対する。次回、響く銃声の向く先は。青い星は、朱に染まる。


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