魔法少女と一角獣 (牡蠣専用鍋)
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一角獣との出会い

 初めまして、牡蠣専用鍋です。
 初めての作品投稿で色々不安な点もありますが、どうぞよろしくお願いします。


「魔法は実在するんだ」

 

 俺、浜寺 涼(はまじ りょう)は無事中学生に進級した12歳の春、いつもは絶対入ってはいけないと言われた土蔵に呼ばれ、普段以上に真面目な顔をした父さんは開口一番に言った。

 

「…………は?」

 

 働きすぎて遂に頭がおかしくなったんじゃないかと疑いたくなる様な発言に胡乱な視線を向けると、父さんはそう思われる事が分かっていたと言いたげな顔で頷き語り始めた。

 

「まあ、いきなりこんなことを言われて意味が分からないと思うけど、今言ったことは事実なんだ。この世界には実際に魔法と呼ばれる『技術』が存在するんだ」

「ま、待ってよ! いきなり過ぎてわけ分かんないし、そもそも魔法って何さ? しかも今魔法っていう技術って言った? タネも仕掛けもあったら魔法じゃないじゃないか」

 

 なんとなくだけど父さんが言った事は、嘘ではないと感じる。

 だけどそれ以上に違和感を感じさせるのは、いつもの優しげだけど厳しそうな顔では無く、何かを覚悟したような父さんの表情だ。

 

「ハハハッ、まあな。確かに魔法っていってもテレビでやってるようなトランプとかお札を使うモノじゃない。もっと危険な、使い道を誤れば命を落としかねないモノだ」

 

 そう言って、有無を言わさず魔法について説明を始めた。

 

 (いわ)く、魔法とは魔力素と言われるモノを操作し、効果を発揮させる『技術』であること。

 曰く、魔法を使うには『リンカーコア』と呼ばれる特殊な魔力生成器官が必要であること。

 曰く、魔法資質にはランクがあり、F~SSSランクまで存在すること。

 曰く、この世界は次元世界と呼ばれ、時空管理局と呼ばれる組織が魔法の管理、運営をしていること。

 曰く、地球は第97管理外世界と呼ばれること。

 曰く、曰く、曰く…………。

 

 途中何度も休憩をしながらの説明は何時間にも(わた)って行われ、昼過ぎから始めた筈が、気付けば夕方にまで及んでいた。

 

「ふぅ……、こんなところか。大方教えたが、理解出来ない事とかはあるか?」

「いや、実際にこの目で見るまでは理解したくなかったけど、流石に自分が使えてしまえばね……」

 

 突然デバイスとやらを渡されて、俺自身の魔力で魔力弾を生成させられれば、もう疑う余地はどこにも無い。

 

「そもそも、何で父さんは魔法技術のない地球に住んでるのさ? 元々管理局とかっていう組織の技術者だったんだろ?」

「まあ、そうなんだけどな。色々あって辞めたんだよ」

「色々って何だよ……。父さんの事だからうやむやにするって事は、絶対に説明する気は無いんだろ?」

「察しが良くて助かる。それじゃあ本題に入るが、お前に渡したい物があるんだ。着いてきてくれ」

 

 その渡したい物が、俺が生まれてから一度も入ることを許されず、日頃から父さんがよく籠っていたこの土蔵に呼ばれた理由だと分かったので、何も言わずに着いていく。

 

「さあ、乗ってくれ」

 

 土蔵の奥には、先程の説明の中にあった、遠くの場所を行き来する為の転送ポートがあった。

 

「これはどこに繋がってるの?」

「父さんの研究室兼ハンガーへの転送ポートだ。今から飛ぶが、少し気持ち悪くなるかもしれん。丹田に力を入れとくと少しマシになるぞ」

 

 そう言ってポートを起動すると周囲が光に包まれ、飛行機の離着陸時特有の浮遊感と、これは転送時の感覚だろうか? 浮遊感とはまた違った感覚がクる。……慣れるのに時間が掛かりそうだ。

 そして5秒経つか経たないかの辺りで浮遊感が無くなると同時に、周囲を覆っていた光が消えると、如何にも研究室ですと言わんばかりの近代的な空間が広がっていた。

 

「凄い……、これが父さんの研究室?」

「ああそうだ。そして涼、お前に渡す物を作っている開発施設でもある」

 

 渡す物、研究、開発、まあこれだけ聞けばもう誰だって分かる。大方俺専用のデバイスか何かだろう。だけど先に進むほど険しくなっていく父さんの表情に素直に喜べずにいる。

 5分以上は歩いただろうか? 幾重にも張り巡らされた警備システムと、厳重にロックされた扉を何度もくぐるが、施設を誰ともすれ違うことも、会話1つ無く歩き続けて、一際頑丈そうな扉の前で立ち止まる。

 

「さて、この先にお前に渡す……いや、『託す』物があるわけだが、不思議に思ったんじゃないか? 何故誰ともすれ違わないのか、何故こんなにも厳重なロックが掛けられているのか……とかな」

「うん、普通こんなでっかい施設ならもっと人が居る筈だし、流石にここまで誰とも合わないのはおかしすぎる。それにただの研究所ならこんな厳重に警備も封鎖もする必要なんかない」

「流石は父さんの息子、その通りだ。そしてその理由の全てがこの扉の先にある」

 

 さっきまで扉を解除する為に使っていた赤いカードキーとは別の白いカードキーを懐から取り出すと、扉の横のコンソールに通し、パスワードを入力しモニターに目を近づけ網膜認証(?)をする。

 

「さあ、開くぞ」

 

 その言葉と同時に扉に長い一本角を生やした馬、『ユニコーン』の絵が浮かび上がり、ゆっくりと開いていく。

 完全に開き真っ暗な空間に光が灯ると、部屋の中央に約2m強程の身長の、真っ白な装甲を纏い額の中央から鋭い角を生やした人型が鎮座していた。

 

「これは……?」

「『ユニコーン』、UC計画というプロジェクトの産物だ。この施設にあった設計図やシステムを総動員して、ゼロから造りあげた機体だ」

「これを、父さんが?」

「そうだ、お前が生まれる以前、管理局に居た頃からずっと俺が1人で開発し続けていたんだが、先日漸く最終チェックが終わったんだ。……どれ、見てるだけじゃなく触れてみるといい」

 

 その言葉に従いゆっくりと近付きその純白の装甲に触れると、一見しただけでは何も分からなかったが、これが単なる機械ではない事だけは分かった。

 それと同時に、何故かは分からないが、この『ユニコーン』が自分の為に造られたのだという事を理解出来た。

 

コレ(・・)を、俺に……?」

「ああ、この機体は最初からお前の専用機として開発していたんだ。魔法技術と魔法とは別体系の科学技術の粋を結集させたこの機体をな」

「別の科学? 何でさ、魔法技術だけじゃいけない理由でもあるのか?」

「良い着眼点だ。その通り、魔法と科学の両方を合わせる必要があったのさ」

 

 父さんは説明好きなのだろうか、またも嬉々として説明を始めた。

 

 …………長かったのでまとめると

 次元世界の中には『虚数空間』という魔法が使えない特殊な空間があったり、魔法自体が効かない存在もいるのだそうだ。それに対抗、対処する為に『ユニコーン』には科学技術が使われているらしい。その逆も同様に、科学技術のみでは対処出来ない事象に対抗、対処する為、魔法技術は欠かせないそうだ。

 そして何より魔法と科学を融合させる事で、ソレ単体だけでは()し得なかったシステムが、この機体に積まれているらしい。

 

「うん、大体理解出来たよ。でもそのシステムって何なのさ?」

「『NT-D』だ。ニュータイプ・デストロイヤーの略称なんだが、既にその名前には意味が無いんだけどな、『ユニコーン』を完成させる為にはソレを積む必要があったんだ」

「『NT-D』……。一体どんなシステムなんだよ?」

「それはな…………っ!?」

 

 詳しい話を聞こうとした直後、大きな爆発音と揺れが施設全体に襲ってきた。

 

「な、何!? 何が起こったの、父さん!?」

「くっ、遂にここまで来たか……! 涼、今すぐ『ユニコーン』を起動させる。機体の前で手をかざせ」

「ええ!? ああもうっ、落ち着いたら全部話してもらうからな!!」

 

 爆発音とかからして、研究所(ここ)が襲撃されてるらしい事は分かった。それ以外にも聞きたい事は山ほどあったが、今は我慢して父さんの指示に従う事にし、おとなしく手をかざす。

 

「生体登録開始、同時に同調、起動準備開始」

 

 父さんが機体の横にあったコンソールを操作すると、手の平に合わせて小さい魔法陣が展開され、次に頭から足にかけて大きな魔法陣がCTスキャンの様にゆっくりと下りていく。

 

「登録完了。続いて同調、起動前最終チェック開始」

 

 魔法陣が消えると『ユニコーン』が粒子化され、俺を包むように粒子が展開されていく。

 

「同調、最終チェック完了。……これでもう、コイツはお前の言うことしか聞かん。お前を相応しい乗り手と判断すれば、『ユニコーン』は無二の力を与える。アルハザードへの道も拓かれるだろう」

「アルハザード……?」

「俺たち最後のアルの一族を縛り続けてきた呪縛。使いようによってはこの次元世界に良くも悪くも、決して小さくない影響を与えるだろう」

 

 また新しい単語が出てきたり、次元世界に影響を与えるだの規模の大きすぎる話に、理解が追い付かない。

 

「いつまでも過去の人間が世界の舵取りをしていてはいけないんだ。いつだって時代を動かすのは、その時代に『生きている』存在なのだから」

「なんだよ……、何なんだよそれ!」

 

 いつの間にか俺を包んでいた粒子の光も収まり、『ユニコーン』を身に纏っていた。それと同時に爆発によるものであろう炎がこのハンガーにまで及んでいる事に気が付いた。だけど、それよりも今の言葉を理解したくなくて、父さんに詰め寄る。

 

「明日の予定だって、来週の予定だってあるんだぞ! それをこんな所でワケの分からない内に死ぬみたいな言い方……、まともな人の死に方じゃあないよ!!」

「確かにそうなのかもしれない。しかし、これで良かったのかもしれん。希望を、可能性という希望を託せる。お前は重荷に思うだろう、恨むだろう。だが、いつかは託さねばならなかった。すまない…………」

 

 言いながら、俺に手を伸ばしてくる。その手は血に濡れていた。

 

「父さん……!?」

「俺の言った事を全く理解出来ないかもしれない。母さんがお前を生んですぐに死んで、母さんの代わりに俺が2人分の親の愛をもっともっと注がなければならないのに、お前を独りにする事が悔しい……」

「今更勝手過ぎるよ……」

 

 伸ばした手は『ユニコーン』の頬に触れ、純白の装甲を赤く染める。その手を包むように握ると、何故か父さんはゆっくりと離れていく。

 

「許してほしい……。お前とはもっと……」

 

(涼……。俺の望みは叶ったよ……、母さん、今……)

 

 何かを言いかけたが、不意に近くで爆発が起こり、父さんの姿が炎に包まれて消える。

 

「父さん!!!」

 

 熱と衝撃から操縦者を守る為だろうか、視界が黒く染まる。

 

「父さん……、俺、まだ言いたい事がいっぱいあったのに……」

 

 決して多いとは言えないが、とても楽しく、嬉しかった父さんとの思い出が、脳裏を次々と過ぎていく。その中でも特に胸に残っている、2人でソファに座り、ある絵を見せられていた時の思い出が甦る。

 

『貴婦人と一角獣』

 

 未だにその意味を知ることは出来ないし、これから知る事が出来るかは分からない。だけど、その時言われた言葉だけは覚えている。

 

(俺のたった1つの望み、可能性の獣、希望の象徴)

 

 多分、この言葉に全てが込められていたのだろう。今となっては確認を取ることも出来ないが。

 

「父さん……母さん……分かったよ。分かんない事ばっかりだけど、俺に前を向いて、進んでほしい事だけは分かった。だから、往くよ……!!」

 

 その声に呼応するように『ユニコーン』が起動し始める。

 そして、起動のカギとなる起動呪文が機体を通じて頭に浮かぶ。

 

 

 

 

『我、可能性の獣を従えし者なり。契約のもと、その戒めを解き放て。激情は明日(あす)へ進む(かて)に、希望は明日への道しるべに、そして何者にも屈さぬ不屈の魂は、燃え盛る心の炎と共にこの胸に!! この手に今日を、明日を、未来を越える力を!! ユニコォォォォォォォォォォン!!!!!!』

 

 

 

 

 叫びと共にあらゆる枷を解き放ち、唸りを上げる『ユニコーン』。

 直後、轟音が響き、俺の身の丈の2倍はありそうな、謎の4脚歩行ロボットがハンガーに侵入してきた。

 

「お前が原因か……!」

 

 こちらを敵と判断したのか、銃口を向けてくるロボット。

 

「お前がっ!!」

 

 『ユニコーン』のカメラアイに光が灯り、背中のブースターから出る青炎と共に、銃を撃たせる間も無くロボットに衝突する。強烈な衝撃が襲うが、それを無視して更にブースターを吹かす。

 

「ここから……ここからっ、出ていけええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 猛烈な推力に踏ん張りが効かなくなったロボットを、ハンガーの外に押し出そうとすると、後ろが壁だと分かったのか、ロボットは自身の背後に向けて魔力で砲撃を放つ。その直後に壁にぶつかるが、砲撃で脆くなっていたのか、壁を突き破って外に出る。

 突き抜けた先は、何処か別の次元世界なのだろう。薄暗く、陽の射さない惑星の平地だった。ロボットを弾き飛ばし、出力を調整しながらゆっくりと地面に降り立つ。

 

「父さんを殺した張本人……。父さんごめん、今だけは怒りに身を任せるよ」

 

 その言葉と同時に視界のモニター全体に『NT-D』という文字が浮かびあがり、全身に痛みが走る。

 

「うっ、ぐぅっ、うあぁぁああぁあぁぁ!!!」

 

 それを隙と見たロボットが砲撃を放つが、『ユニコーン』に当たる直前機体の目の前で砲撃が湾曲し、逸れる。

 その間に、装甲の隙間から赤い光を漏らしながら、『ユニコーン』は、足から頭にかけて、装甲を展開し『変身』していき、最後に象徴的な角が真ん中から割れ、V字のアンテナに変わる。

 そして背中の白い筒を引き抜くと、桃色の刀身、ビームサーベルを展開し、倍以上に増えた背中のスラスターノズルから炎を吐き出して、ロボットに急接近する。スピードに対処出来ずに反応が遅れたところで更に接近し、一刀のもと真っ二つに切り捨てる。

 

「やった……、とう……さん……」

 

 切り捨てたところで稼働限界時間を迎えた『ユニコーン』は、展開していた装甲を閉じて、元の白い一角獣に戻る。

 そこで俺の意識も限界を迎え、地面へ倒れこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、俺の戦いの1歩目、全ての運命が変わった日の出来事である。

 




 実を言うと最後のシーンをやりたいが為に、かなり駆け足になってしまい、矛盾点が出てくるかもしれません。
 後、早く原作キャラと絡ませたいんですよね。

 不定期になりそうですが、出来るだけ早く次の話を投稿出来たらなぁ、と思います。


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一角獣は知り、魔法少女は出会う

 こんばんは、牡蠣専用鍋です。

 何とか3日以内に投稿することが出来ました。

 あまり長いと言えませんし、クオリティが高いとも言いづらいですが、楽しんでいただければ幸いです。


 目を覚ますと、土蔵の転送ポートの上にいた。

 

「確か何処かの地面に倒れたんじゃ……」

 

 それに加え、身に纏っていた筈の『ユニコーン』も無くなっていた。慌てて周囲を見回すと、目の前に一角獣の絵が描かれたカードが落ちていた。

 

「もしかしてコレが『ユニコーン』なのか?」

 

 全身の痛みを無視してカードを手に立ち上がると、その通りだと言わんばかりの、波長を感じた。どうやら言葉は発せなくとも、意思を伝える事は出来るようだ。どことなくただの機械ではないと感じていたが、あながち間違いでは無かったらしい。

 

「そうか……。これからよろしくな、『ユニコーン』」

 

 こちらこそ、という意思と共にカードがキラリと光った気がした。

 

 

 

 土蔵から出ると、外は既に日も落ち、春の夜らしい肌寒い空気に包まれていた。

 

「さて、と」

 

 明りの点いていない家を見ると、改めて独りになってしまった事を、嫌でも理解してしまう。

 

「あ……」

 

 母や兄弟も居ない俺にとって、唯一の肉親である父さんを失った悲しみが襲ってくる。だけど泣くわけにはいかない。『ユニコーン』との契約の時、誓ったんだ。どんなに辛くても、苦しくても泣かないと。

 

「男は顔で笑って、心で泣くものだって、何処かの誰かも言っていたしな!」

 

 そうと決まれば明日の初登校の準備をしよう。ほんの少しだけ目尻から溢れた涙を拭い、準備に取り掛かった。

 

 後日判明するのだが、父さんが亡くなったのにも関わらず葬式1つ営まなかった……いや、営めなかったのは、俺を除いた全ての人の記憶から父さんの記憶が消えていたからだった。そうなると、中学生が一軒家に1人で住んでいる等、色々と問題が浮上する筈だった。しかし、かなり前から周到に準備を重ねていたらしく、徐々に父さんという存在を認識出来なくさせ、最後には存在していたという事実すら消し去るという魔法(?)を使用していたらしい。そして俺の境遇なのだが、幼くして両親を亡くした子供(俺)を遠縁の親戚が引き取ろうとしたが、思い出の詰まった家を離れたくないという理由から、ヘルパーの協力を受けながら生活している……、ということになっているらしい。

 何故『らしい』かというと、父さんの部屋を整理しようと入ったら、財産の入った通帳と判子と共に部屋のテーブルの上に置いてあった手紙を読んで知ったからである。

 これらの事を俺に一切気取られること無くやってしまうのだから、末恐ろしい父だ。

 それと同時に、魔法技術の無い世界で魔法を使うことの恐ろしさも知る事が出来た。

 

 

 だけどさ、少しぐらい父さんの死を悼ませてくれたっていいじゃないか……。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 気が付けばあれから2日経っていたが、学校では何事もなく過ごせたし、元々父さんと家事を分担しながらやっていたので、生活は特に困らなかった。

 

 そして肝心の『ユニコーン』についてだが、父さんの手紙の中に説明があり、少しだけ分かった事がある。

 機体の内部骨格、纏った際俺の身体に触れる部分に、『サイコフレーム』と呼ばれる、操縦者の意思を汲み取り機体の制御に反映させる特殊な素材が使われている事。この『サイコフレーム』には、共振することにより、通常では起こり得ない現象が起こる場合があるらしい。そんな何が起こるか分からない物を、全身余す所無く使っていて問題は無いのかと聞きたくなるが、『NT-D』や『アルハザードへの道』に関係するもので、コレが無ければただの重たい金属の塊と化してしまうのだそうだ。

 

 次に『NT-D』だが、発動すると装甲を展開、内部骨格の『サイコフレーム』を露出させ「こう動きたい」というイメージを受け取り現実に反映させ、機動性を大幅に向上させるらしい。それに加え、操縦者の反応が間に合わなかった場合機体自身が自動で行動しサポートするのだが、イメージを受け取らせる逆の現象、イメージの逆流が起こり操縦者を機体の処理システムの一部として呑み込んでしまう事から、強い意志を持ち続ける事が重要になるようだ。後、このシステムは『アルハザードへの道』に関係しているみたいだが、これに関しては良く分からなかった。何せ「時期が来ればいずれ分かる」としか書かれていないのだから。

 

 最後に武装について。これは戦いの道具であるが、決して私利私欲の為に悪用してはいけないと書かれていた。もちろん俺にはそんなつもりは無いが、第三者の手に渡る事だけは防がなければならない。そして、リストにあったのが、『ビーム・マグナム』、『ビーム・サーベル』、『ハイパー・バズーカ』、『頭部バルカン砲』、『シールド』の5種。どれも強力なもので、取り扱いには細心の注意が必要みたいだった。

 

「っと、もうこんな時間か」

 

 父さんの部屋にあった魔法技術の教科書を、覚えたてのマルチタスクの練習をしながら読んでいたら、時計の短針が9を指していた。

 

「そろそろ明日の準備でもするか」

 

(聞こえますか……、僕の声が……。聞こえますか……!)

 

 立ち上がった途端、頭の中に直接声が流れ込んできた。

 

 これは……思念通話!?

 

(聞いて下さい……、僕の声が聞こえるあなた、お願いです……! 僕に少しだけ、力を貸して下さい!)

 

 しかも無差別な広域念話である事から、相当に切羽詰まっているようだ。

 

(お願い……僕の所へ! 時間が、危険がもうっ……!)

 

 念話が途切れる。次の瞬間には『ユニコーン』の待機形態であるカード片手に駆け出していた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「『ユニコーン』、起動!」

 

 念話の発信源に向かう途中、流石に顔を見られるのは拙いと思い、『ユニコーン』を身に纏う。それによって機体がデバイスの役割も担ってくれるので、素人の俺でも小難しい魔法を使えるようになる。すぐさま夜中という点を考慮して背中のブースターではなく、飛行魔法を展開する。それと魔法技術の秘匿の為に、結界を張るのを忘れない。そして結界も飛行も全て『ユニコーン』任せにし、発信源に向かって全速力で飛ぶのだった。

 

 結界を張ったのならブースターを吹かしても問題ない事に気付いたのは、飛び始めた少し後だった……。

 

 

 

 

 少しの間飛ぶと、念話の発信源であろう動物病院が見えてきた。ブロック塀が少し崩れているところを見ると、まだ被害はそこまで大きくなってはいないみたいだ。そして小動物を抱いた女の子と、少し離れた所に、塀に突っ込んで抜け出そうとする黒い何かがいた。状況は小動物が発した念話を聞いた女の子が、黒い怪物に襲われそうになった小動物を間一髪助けたといったところだろう。敵味方のマーカーを視界モニターに表示させると、女の子と怪物の間に女の子を守るように降り立つ。

 

「え、えぇ!? 今度はロボット!? 何が起こってるの!?」

「あ、あなたも僕の声に応えてくれたんですか……?」

 

 怒涛の展開に戸惑い気味の女の子と、不安そうに確認を取ってくる小動物(?)。

 

「喋る動物……? とりあえず味方だ、安心してくれ。出来れば詳しい事情を聞きたいとこだけど、それはアイツを倒してからだ。……倒し方は分かるか?」

 

 怪物に向き直りながら味方アピールをすると、一応納得してくれたのか、小動物は簡単に事情を教えてくれる。

 

「はい! えっと、あれはジュエルシードの異相体といって、純粋な魔力の塊なので、魔力による封印をしなければ倒せません! その為のデバイスはあるのですが、僕には扱いきれなくて……」

「魔力、か。分かった、何とかしてみる。そこの君、危ないから下がってて」

「え、あ、はいっ!」

 

 早口で交わされる会話についていけてない女の子に注意を促すと、素直に従い電柱の陰に隠れる。丁度抜け出せたのであろう異相体が俺を視界に入れると、襲いかかってくる。

 

「『シールド』! 『ビーム・マグナム』!」

 

 デバイスの格納領域から、音声認証で左腕のハードポイントに『シールド』、右手に『ビーム・マグナム』を装備する。そして両足に力を籠め、盾を構え飛びかかってきた異相体を受け止めようと備える。すると衝突する寸前『シールド』が縦にスライドし、中心の円から対魔力フィールド、Iフィールドを展開し、魔力で構成されている異相体を弾き飛ばす。

 

「よし、次はマグナムを……!」

 

 言って、右手のマグナムをまともに着地出来ずに蠢いている異相体に向け、左手でサイドグリップを握り機体のサポートを受けて照準を合わせる。ロックオンマーカーが重なった瞬間、引き金を引く。

 

「ぐぅっ!」

 

 銃口にエネルギーが収束し特徴的な発砲音と共に猛烈な熱量が思念体を襲う。強烈な反動を抑えきれず照準が少しズレるが、掠めただけで思念体の体の大部分を消し去る。しかしただのエネルギーが弾である『ビーム・マグナム』では、やはり封印は難しかった。

 

「コイツは強力過ぎる……! 使いどころを見極めないとな」

 

 銃身の急速冷却が終わり使い切った(エネルギー)パックを排出、次弾を装填し空のEパックを格納領域に収納する。残弾を確認、残り4発。

 

(封印は難しい、なら封印方法を持ってる小動物に任せるか。何かするみたいだし、時間稼ぎをしよう)

 

 行動を決め異相体の動きを抑えながら、後ろの電柱の陰にいる女の子と小動物の様子を窺う。

 

 次の瞬間、雲を突き抜ける程凄まじい桃色の光の柱が発生した。

 

「一体何が起こってるんだ……?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 頭に響く声に導かれるまま、学校の帰りに動物病院に預けたフェレットを助けたまではいいものの、次々襲いくる怒涛の展開に頭の処理が追いつかない私『高町なのは』は、分からない事ばかりの中で自分にも出来る事は何か無いかと考えていた。

 

 私にも白い人みたいな力があれば……。

 

「あ、あの、フェレットさん! 私にも何か出来る事は無いかな……?」

 

 そういえばと、腕の中のフェレットさんがあの異相体を封印する為の物を持っているとか言っていたのを思い出して尋ねる。

 

「はい、あるにはあるのですが……」

 

 どうにも歯切れの悪い物言いに、焦れた私はフェレットさんに詰め寄る。

 

「なら教えて! ただここで見ているだけなんて嫌なの!」

「分かりました……。あなたに託します、『魔法』の力を!」

「ま、魔法……?」

 

 突然出てきたファンタジーな言葉に狼狽(うろた)えるが、それどころではないと思考を打ち切り、フェレットさんの首に掛かっていた小さな赤い宝石を受け取る。

 

「暖かい……」

「新規使用者登録モード! さあ、それを手に目を閉じて心を澄ませて、僕の言う通り繰り返して」

 

 仄かに暖かいソレに身を(ゆだ)ねるように握りしめ、耳に届く言葉を紡ぐ。

 

「我、使命を受けし者なり」

『我、使命を受けし者なり』

 

 手の中の宝石が熱を持ち始める。

 

「契約のもと、その力を解き放て」

『契約のもと、その力を解き放て』

 

 宝石が脈動する。

 

「風は空に、星は天に」

『風は空に、星は天に』

 

 胸が熱い。

 

「そして不屈の心は」

『そして不屈の心は』

 

 苦しい。

 

「『この胸に! この手に魔法を!! レイジングハート、セット! アップ!』」

 

 呪文と共に熱を、想いを、解き放つ。

 

≪Stand by ready. Set up.≫

 

 電子的な声が聞こえ、身体の内側から溢れた光に包まれる。

 

「なんて魔力だ……!」

 

 光が収まると、赤い宝石改めレイジングハートと共に空中にいた。

 

≪はじめまして、新たな使用者さん≫

 

「あ、はい! 初めまして!」

 

≪あなたの魔法資質を確認しました。デバイス、防護服(バリアジャケット)ともに、最適な形状を自動選択しますが、よろしいですか?≫

 

「え……と、とりあえず、はい!」

 

 いきなり杖と服をデザインしろと言われても困るだけなので、レイジングハートに一任する。

 

≪All right. Stand by ready. Set up.≫

 

 電子音声と共に今着ている服が分解され、赤い宝玉が金色の輪に繋ぎ止められた、白い持ち手の杖が構成される。

 

≪Barrier jacket set up.≫

 

 次にバリアジャケットの構成に入る。黒いインナー、金色のハードシェル装甲が胸部にある白いアンダーアーマーの順に構成され、その上に赤い宝玉を装着、宝玉に付属したウィングが展開、その後白を基調としたロングスカートのジャケットが魔力によって編まれ、仕上げに袖口の青いブレスガード、靴、頭に白いリボンが構成され、バリアジャケットが完成する。

 

「やった! 成功だ!」

 

 フェレットさんが喜びの声を上げ、私はそのすぐ傍に降り立つ。

 

「ふぅ……え、えぇぇぇ!?」

「大きい魔力に惹かれてそっちに行った! 逃げろ!!」

 

 驚く間も無く白い人から檄が飛んでくる。

 

「ふぇぇ!?」

 

 考えるよりも先に後ろへ飛ぶと、そのまま空中へと退避する。まさかいきなり襲われるとも空を飛ぶとも思わなかったのでさらに驚いていると、レイジングハートから声が掛けられる。

 

≪魔法についての知識は?≫

 

「全然! 全くありません!」

 

≪では全て教えます。私の指示通りに≫

 

「はいっ!」

 

 どうやって魔法を使ったらいいか分からなかったので、レイジングハートの言葉は頼もしいの一言に尽きる。

 

≪飛びます≫

 

 その声と同時に足に桃色に光る羽が現れ、飛びかかってきた異相体を避ける。

 

≪Protection≫

 

 しかし、素早く反転した異相体の突撃は避けられないと判断し防御魔法を展開する。その守りは先程の白い人と同じように異相体を弾き飛ばす。

 

≪良い魔力をお持ちです。では次に封印方法ですが、接近による封印魔法の発動か、大威力魔法が必要です≫

 

「えっと、それってどうすればいいの?」

 

≪あなたの思い描く『強力な一撃』をイメージしてください≫

 

「強力……そういえば白い人が凄いの撃ってたよね……。あれを再現できないかな?」

 

≪あなたがそれを望むなら≫

 

 なんとも心強い杖。なら後は私がそれをイメージするのみ。

 

「良かった、無事だったんだな。……それが封印の為の杖か?」

「白い人……、はい! あ、えっと、お名前……」

 

 異相体に襲われそうになっていたフェレットさんを助けて、胸に抱えた白い人が飛行中の私に寄り添い無事を確認してくれる。それといつまでも白い人なんて呼び方は失礼だと気付いた私は、窺うように聞く。

 

「……『ユニコーン』とでも呼んでくれ。それで、封印は出来るか? 俺の装備では純粋魔力体のアイツを消し飛ばすだけで、完全な封印は出来ないんだ。頼めるか?」

「ユニコーンさんですね! 私の名前は高町なのはです! 封印は任せてください! レイジングハートが出来るって言ってくれてる、なら何も問題はないの!」

「高町なのは……、覚えたよ。それじゃあ俺が動きを止める! その隙に封印魔法を頼む!」

 

 ユニコーンさんがその場に止まり、私はその少し後ろに降り立ち封印の準備に取り掛かる。

 

≪Cannon mode≫

 

 レイジングハートが丸みを帯びたフォルムから、鋭角的なフォルムに変化しトリガーユニットが増設され、杖というより大砲を彷彿とさせる。

 

「やろう、レイジングハート!」

 

≪All right. Master.≫

 

「直射砲!?」

 

 いつの間にかユニコーンさんの腕から私の傍に来ていたフェレットさんが驚きの声を上げるが、今はそれに構っている暇はない。

 

「来たぞ! 準備はいいか!」

「はい!!」

 

 建物の影を移動して、広い通りに出た私たちを見つけた異相体は、唸り声をあげて近づいてくる。

 

「『ビーム・マグナム』!」

 

 上空に待機していたユニコーンさんが手に持っていた銃から、強力なビームを撃つ。その一撃は異相体の体を地面に縫い付けるには十分すぎる威力だった。

 

「今だ、高町!!」

「はい!! レイジングハート!!」

 

≪All right. Divine≫

 

 杖の先に私の胸の奥から溢れ出た魔力が集まる。後はそれを解放するのみ。

 

「バスタァァァァ!!!」

 

 トリガーワードと共に引き鉄を引く。撃ち出された魔法は膨大な光の奔流となって異相体を呑み込み、封印を出来たという確かな手ごたえを感じる。

 

「はぁっ、はぁっ、やったの!?」

「はい! 封印成功です!」

 

 フェレットさんが成功したことを教えてくれる。その瞬間緊張で固まっていた体の力が抜け倒れそうになるが、ユニコーンさんが支えてくれたので倒れる事はなかった。

 

「よくやったな、高町!」

「はいぃ、よ、よかった~」

 

 ユニコーンさんの褒め称える声に私は安堵し、初めての魔法の使用で火照った体を冷ます為夜の風に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、私の戦いの1歩目、平凡な日常と魔法の世界を行き来するようになる日の出来事でした。




 どうでしたでしょうか?

 今回は主人公である涼の説明回と、なのはの魔法との出会い、ユニコーンとなのはの出会いですが、自分の語彙の少なさに苦労しました。

 次回もまた近いうちに投稿出来ればと思います。


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一角獣、魔法少女と手を組む

 こんばんは、牡蠣専用鍋です。

 前回から2日、結構早く投稿出来ました。

 では、第3話をどうぞ。


 ジュエルシードを封印し、レイジングハートの格納領域に収納した後結界を解除すると、結界の展開前に既に破壊されていたブロック塀以外が全て元に戻る。やはり技術と言っても魔法と言うだけあって、一体全体どんな仕組みで機能しているのかさっぱり分からない。とにかくここに居るのは状況的に(まず)いので、離れた所にある公園に移動する。その際認識阻害の魔法を使い、俺の姿を余程近くに寄らない限り認識出来なくさせる。

 

「さて、落ち着いたところで改めて自己紹介しようか。あの時は『ユニコーン』って言ったけど、それはこの機体の名前だし呼びづらいだろ? だから、えっと……バナージって呼んでくれ、よろしくな」

「バナージさんですね! 改めまして高町なのはって言います、なのはって呼んでください! よろしくお願いします!」

 この『ユニコーン』を纏っているのが俺だとバレるのは駄目だと頭のどこかで考えていたので、咄嗟に苗字の浜寺(はまじ)をもじった偽名を教える。少し罪悪感が湧くが、ここは無視する。

「僕の名前はユーノ・スクライアです。スクライアは部族名なのでユーノと呼んでください。二人とも先程はありがとうございました、このお礼は必ず、必ずします!」

 

 

 それよりもジュエルシードという魔法技術の産物が魔法技術の「ま」の字も無いこの地球に存在するのか、その原因と思しきユーノに問いかけようと思うが、なのはのような小さな女の子がこんな夜更けに外にいるのは問題しかない。

 

「とりあえず説明とかお礼とかは後回しにして一旦帰ろう。こんな時間にいつまでも外に出てたら親御さんが心配するぞ。話すだけなら明日でも出来るだろう?」

「はい、それじゃあユーノ君は私が連れて帰るけど……、ユーノ君はそれでいい?」

「はい、僕はそれで構いません。それになのはさんが僕を迎えに来たかったからという言い訳にもなりますし」

 

 なんと知恵の回るフェレットなのだろうか。

 

「なら俺はなのはを家まで送り届けるよ、帰り道で何かあったら大変だしな。けど、この姿を見られるワケにはいかないから、空から見守るだけだけどな」

「ううん、それでも十分嬉しいです。じゃあ行こうか、ユーノ君」

「はい」

 

 そう言って歩き出すなのはに合わせて、上空20(メートル)程の位置から追従し、彼女の家に到着するまで見守るのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 結果から言えば何事も無く送り届けられたのだが、玄関で待ち構えていたなのはの兄らしき人物が認識阻害魔法を掛け上空にいた俺を見つけ、鋭い殺気とも言える視線をぶつけてきた事だけが予想外だった。一体彼は何者なのだろうか……。それと1度背中を預け合ったからといって、正体を明かさない俺に家の場所を教えてしまうのはよろしくないと思うぞ。もし俺が悪用するような人間だったらどうする。……いや、決して個人情報云々で悪用するつもりは無いのだが。

 

 

 

 翌日、戦闘の疲れと『ビーム・マグナム』に細工を施す為、夜更かしをしていたせいで少し寝坊をしてしまったが、学校に遅刻する事は無かった。そして授業中にユーノからの念話が入るが、マルチタスクを使用し対応。途中のなのはの質問にユーノが答えつつ行われた説明内容をまとめると、こういう事らしい。

 

 ユーノは様々な世界の遺跡を発掘する考古学者で、別の次元世界で発掘した21個のジュエルシードを輸送する途中、何者かに襲われ地球に全てのジュエルシードを落としてしまう。それを回収する為この地に降り立ったのだが、レイジングハートと協力するも正規の使用者たる素質を持たないユーノでは扱いきれず、1つ目を封印出来たもののそこで力尽きてしまった。そこでこの地の魔法資質を持つ人に協力をしてもらおうと念話飛ばしたのが昨日の事だったが、まさかレイジングハートを扱える資質を持ったなのはと、魔法関係の案件に対処出来る俺が来るのは全くの予想外だったみたいだ。

 聞くところによると協力してもらうのは今回だけで、あとは自分の力で解決しようと思っていたユーノだが、なのはの強い意志と俺の説得によって、この件が片付くまで協力することになった。

 

 そもそもジュエルシードとは、手にした者の願いを叶える古代遺産(ロストロギア)なのだが、何故か叶える願いが歪められてしまうのだそうだ。その結果、周囲の魔力を取り込み異相体となったり、現住生物を取り込み怪物化してしまうらしい。まあ魔力で願いを叶えるという時点でまともに叶えるハズがないだろう。

 

 話の中ではもちろん『ユニコーン』をどうやって入手したのか、『ユニコーン』とは一体何なのかという質問があったが、父さんから託された遺産のようなもので詳しい事は俺自身よく分からないと伝えると、なのはは俺の正体に思うところがあるのか素直に聞き入れ、ユーノは遺産なのだからと渋々納得してくれた。

 

 というか、なのはもユーノもまだ9歳と年齢が2桁になっていないにも関わらず、中身は大人なんじゃないかと錯覚してしまう程思考が大人過ぎて非常に納得がいかない。

 

 

 

 協力を約束した日の下校時に、ユーノからジュエルシードが発動したとの知らせが入り、現場である神社に向かう。神社の階段前に着くと上った先にある鳥居の下になのはとユーノが居た。

 

「ここでいいか。『ユニコーン』、起動!」

 

 瞬間、胸ポケットのカードが粒子化し、俺の体が包まれ一瞬で装着が完了する。

 

「行くぞ、『ユニコーン』!」

 

 マスクの奥のカメラアイに光が灯り、ジェネレーターが唸りを上げて駆動を始める。飛行魔法を展開し、なのはの側に降りると驚きながらも嬉しそうな笑顔を向けてくる。

 

「バナージさん!」

「やあ、さっきぶり。まだ被害は大きくなってないみたいだな。今度のは……犬を取り込んだのか?」

 

 神社の境内には、黒く巨大化した4足の犬らしき怪物と、飼い主と思われる女性が倒れていた。

 

「そうみたいです。この様に現住生物を取り込んだ場合、純粋魔力体ではなく実体を持っているので危険度は異相体とは比べ物になりません」

「そうか。……封印方法に変わりは?」

「えっと、ありません。異相体と同じく封印魔法か、強力な魔力での強制封印が有効です」

「それを聞いて安心した。つまりやることは昨日と変わらないってことだな」

 

 言って、左上腕部のハードポイントに『シールド』、右手に『ビーム・マグナム』を装備する。まさかこんなに早くマグナムに施した細工が生かされる事になるとは思わなかったが、昨日の戦闘後すぐに実行した甲斐があるものだ。

 

「ユーノ、結界を張れるか? 倒れてる女の人がいるんだ。まず俺と怪物を結界に閉じ込めて時間を稼いでいる間に、なのはとユーノはあの人に怪我が無いか見てくれ」

「は、はい!」

「わ、分かりました! けど1人で大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、策もある。でも出来れば早めに合流してくれ」

「分かりました! では結界を張ります!」

 

 咄嗟に頭に思い浮かんだ案を二人に伝えると、素直に行動に移してくれる。大丈夫、時間を稼ぐだけじゃなくて倒してみせるさ。

 

 結界が展開されると僅かな違和感の後、俺と怪物が現実から隔離される。

 

「よしっ、やるぞ『ユニコーン』!」

 

 気合を入れると『ユニコーン』からも気合十分といった意思が伝わってくる。

 

 

 グルルルゥ……

 

 

 怪物の方も戦闘準備は万端のようで、四肢に力を籠め俺の喉笛を噛み千切らんと犬歯をむき出しにして唸っている。

 

 

 グォウ!!!

 

 

 長い睨み合いに焦れた怪物は、地面が抉れるほど強く踏み込み突撃してくる。その予想以上の速さに対処が間に合わず咄嗟に構えた『シールド』で受け止めるが、Iフィールドを展開する間も無く体当たりをモロに受け後ろに吹き飛んでしまう。

 

「ガッ!?」

 

 いくらバリアジャケット代わりの魔力フィールドと機体が威力と衝撃を軽減するとはいえ、ピンポン玉のように吹き飛ばされては敵わず、肺の空気を無理矢理吐かせられる。幸いなことに吹き飛ばされただけで、機体のダメージはなんと(かす)り傷のみ、身体の方も異常を訴える部位は無い。なんとか体勢を整え視界モニターのマーカーに従い怪物を正面に捉える。

 

「マグナムは当たりそうにない……なら『ビーム・サーベル』で行く!」

 

 すぐさま『ビーム・マグナム』を収納、右上腕にマウントしてある一見しただけでは武器と分からない四角い筒を手に取り、『シールド』を左上腕から取り外し手持ちの盾として右手に持つ。

 

「そうだ、ビームじゃなくて魔力で刃を作れるか!?」

 

 聞くと、可能であると機体から返ってくる。

 

「よし、やってくれ!」

 

 そう言うと俺のリンカーコアの魔力が機体を介し、筒のビーム発生部分を通じて80cm程の魔力刃を形成する。

 

「やってやるぞ……!」

 

 気合一発、今度は遅れを取らないとばかりにこちらから仕掛けるが、それがいけなかった。いくら速くても動きが直線的であれば攻撃を読むのは簡単だ。俺の攻撃は軽いサイドステップのみで躱され、またもや体当たりで地面に転がされてしまう。機体、身体共にダメージは無いが精神的なダメージとして蓄積され、俺からまともな思考を奪っていく。

 

「このぉっ!」

 

 八つ当たりじみた攻撃が当たるワケが無く、先程と同じように軽く避けられる……事はなく、振られた『ビーム・サーベル』は怪物の脇腹を抉る。

 

 

 グギャゥッ!?

 

 

「!?」

 

 俺自身当たった事に驚き怪物を見ると、四肢に緑色の鎖が絡みついているのに気が付いた。

 

「すいません! 治療に手間取ってしまいました!」

「ごめんなさい! バナージさん、大丈夫ですか!?」

 

 なのはがバリアジャケットを纏いデバイスモードのレイジングハート片手に、ユーノを肩に乗せ飛んでくる。見るとユーノの手元の魔法陣から4本の鎖が伸びている。どうやら怪物の動きを止めたのは彼らしい。

 なのはとユーノを見て、味方のピンチに颯爽と駆けつけるシチュエーションなんて、まるで主人公みたいだなんて感想を抱く。調子に乗っていたさっきまでの俺の行動を思い出し、酷く情けない気持ちになる。

 

「すまない、俺は大丈夫だ。援護助かる、素早くて困っていたんだ」

 

 悔しくてつい強がって声を返してしまう。先程までの俺を見ていない2人は、いかにも余裕のありそうな俺の態度に頼もしそうな視線を向けてくる。これ以上その視線に晒されるのが嫌で、今も切られた脇腹の痛みに(うめ)く怪物に視線を向ける。

 

「ユーノは拘束魔法を使えるのか」

「はい、これでも結界魔導師ですから、サポートは得意なんです!」

「それは頼もしい。なら俺がアイツを引きつける、ユーノがさっきの鎖で拘束、なのはがトドメの封印。これでいこう。2人はこれでいいか?」

「はい、大丈夫です!」

「分かりました! 頑張ります!」

 

 捲し立てるように言うと、視線がさらに頼もしそうなモノになる。それがまた嫌になり、話を打ち切って攻撃を仕掛ける為『ビーム・サーベル』を構えると、2人もそれに倣う。

 

「やろう、レイジングハート!」

 

≪All right. Master. Mode Change. Cannon Mode.≫

 

「それじゃあ僕は木の上から拘束します!」

 

 なのはは地上でデバイスを砲撃形体へ移行し魔力の充填を始め、ユーノは少し離れた所の木に登りいつでも魔法を発動出来るように待機する。そんな素直に従う姿を見せられてはいつまでも不貞腐れてはいられない。一度深呼吸をして気持ちを入れ換え、集中力を極限まで高める。この時は気付かなかったが、装甲の隙間から赤い光が漏れ出ているのを2人は見ていたそうだ。

 

「…………仕掛けるっ!」

 

 地面から数cmだけ浮いた俺はブースターから青炎を吐き出し、怪物との約10mという距離を一瞬で埋める。接近時、俺から見た怪物の左側の地面に『頭部バルカン砲』を撃ち込む。俺の魔力で精製、機体で加工された青白い弾丸は、秒間5発の早さでこめかみに2門ある銃口から交互に発射され、狙い通り地面を抉る。それに釣られた怪物は予想通り本能的に左側、俺から見て右側に飛ぶ。前後に飛ぶ可能性はあったが、さっきまでの俺の攻撃からして軽く横に避ければ大丈夫だと思っているだろうということもあり、全ての条件がそろう。

 

「うおおおぉぉぉ!!!」

 

 雄叫びと共に僅かに右に軌道修正、すれ違い様に『ビーム・サーベル』を閃かせ、怪物の頭から尻尾に掛けて真一文字を刻む。

 

 

 グギャァァァァァ!!!!????

 

 

 先程以上の痛みに凄まじい悲鳴を上げ、警戒も忘れのたうち回る怪物。

 

「ユーノ!!」

「はい! チェーンバインドッ!!」

 

 待機していたユーノに指示を出すと待っていましたとばかりに緑色の魔法陣を展開し、そこから発生した魔法陣と同色の鎖は怪物の四肢をがっちりと拘束する。

 

「なのは! っ!?」

 

 最後の一撃を任せた彼女の名前を呼ぶが、俺もユーノも自分の役目を終えて一足先に安心していたのが仇となってしまう。なんと怪物は自身を拘束する鎖ごと充填中で動けないなのはに突撃を仕掛けたのだ。

 

「え、えぇっ!? も、もう少しなのにっ!」

「なのははそのまま封印の準備! ……俺が止めるっ! 『ビーム・マグナム』!」

 

 両手に持っていた盾と剣を投げ捨てマグナムを呼び出す。素早く照準、射線上に怪物以外が居ないことを確認し引き鉄を引く。銃口にエネルギーが収束し、更にその前に魔法陣が展開される。これこそが『ビーム・マグナム』に施した細工であり、威力が減少する代わりに魔力ダメージへと変換するというものなのである。魔法陣をくぐり魔力に変換されたビームは昨日と同様、強烈な衝撃と共に怪物の腹を貫き地面にその体を縫い付ける事に成功する。

 

「トドメだぁっ!! なのはっ!」

「なのは!!」

 

 今度こそは間違いも油断も無い。俺とユーノはなのはに託す。

 

「バナージさんとユーノ君が作ってくれた舞台、失敗するわけにはいかないの!! レイジングハート!」

 

≪Divine≫

 

 充填が完了する。

 

「バスタァァァァ!!!」

 

 杖の先から溢れた光は、狙いを外すことなく怪物に命中、ジュエルシードを強制封印する。光が通った後に残ったのは、暴走から解放された子犬とジュエルシードのみとなった。その青色の宝石をレイジングハートに収納することで漸く全てが終わる。

 

「や、やった……」

「ああ、成功だ……」

「バナージさん、ユーノ君……やったの!!」

 

 今回も無事に封印を出来た事を称え合う俺たち。後始末なんかもあるが、それよりも今は事が終わった安堵感に浸ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュエルシード探索2日目、現在の回収数……3個。終わりはまだまだ先らしい。これからどうなることやら……。




 如何でしたか?

 表現力やら文章力やらが足りなくて、上手く文章に変換出来ないのがもどかしいです。

 これからも頑張って更新していきたいと思います。

 ではまた次回も、よろしくお願いします。


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魔法少女の選択

 こんばんは、牡蠣専用鍋、略して牡蠣です。

 時間があったとはいえ、まさか1日で投稿できるとは思いませんでした。


 では、今回も楽しんでいただければ光栄です。どうぞ


 あれから倒れていた仔犬の状態を確かめると特に異常は見られなかったので、軽い記憶処理を施した女性の近くに置く。少しして目を覚ました女性は不思議そうに周囲を見回すと、仔犬を連れて境内から去っていく。

 

「……もう出ても大丈夫だな」

 

 近くに誰も居ない事を確認して物陰から出る俺達。

 

「あの、バナージさん。少しお話しませんか?」

 

 早くここから去りたかったが真面目な顔をしたなのはに呼び止められ、そうもいかなくなる。

 

「何かな? 俺からは何も無いんだけど」

「あ、あのっ、ありがとうございます!!」

「…………」

「昨日の事も今日の事もですけど、きっとバナージさんが助けてくれなかったら私だけじゃなくてもっと色んな人が危ない事に巻き込まれてたと思うの! さっきの女の人だってそう! 私とユーノ君だけじゃこの神社だって壊してたかもしれないの。だけどバナージさんが私たちの事引っ張ってくれたから、昨日と今日でもうジュエルシードが2つも集める事が出来たし……だから、えっと、その、ありがとう!」

 

 敬語すら抜けているが、感謝と尊敬の念だけは人一倍感じる。それが今の俺には嫌で嫌で仕方なくなる。

 

「何で……」

「えっ?」

「何でそんな風に言えるんだよ……? まだ出会って2日、そう2日だ。それしか経っていない俺をどうしてそこまで信頼するんだ……? どう考えてもおかしいだろ。たった2回背中を預け合っただけの関係、ましてや俺は個人的理由で正体を隠しているんだぞ!? しかも名前だってどう聞いても偽名じゃないか! そんな俺をどうして……?」

 

 これは完全なる八つ当たりだ。つい最近力を手に入れて調子に乗ってた奴が、その力を使いこなせず不貞腐れてる。その醜い感情を自分より小さななのはとユーノにぶつけている。それがますます嫌になる。

 

「それでも」

「それでも、何だって言うんだよ」

「それでも、助けてくれたの。たった二日、二回一緒に戦っただけでも、私を助けたことには変わりはないの」

 

 『ユニコーン』を纏って隠れている筈の俺の目を見て、真剣に話すなのはに何も言えなくなる。

 

「それに私、結構『カン』が良いんですよ? なんとなくですけど、バナージさんは悪い人じゃないって、信じても大丈夫だって思います。昨日会ったばっかりの私が言うのも変、ですよねっ! にゃはは……」

「『カン』、ね……」

「はい、『カン』ですっ」

「えっ、え?」

 

 ワケも分からず俺となのはを交互に見て首をかしげているユーノをスルーして、改めてなのはに向き直る。

 

「ハ、ハハハッ、それなら仕方ないな。何せ俺も『カン』はイイ方だからな」

「か、かんって何なんですかぁ……」

 

 元々正体もなんとなく隠しただけだし、今なら俺の『カン』も大丈夫だと言っている。でも小学3年生に説得される俺って……、と思ってしまう。

 

「うん、じゃあちょっとしたクイズを出そう」

「「クイズ?」ですか?」

「心を読む超能力者。これが分かったら俺の所へいつでもおいで」

 

 多分噂好きな友達あたりに聞けばすぐに分かるだろう。これはちょっとした意地悪なのだから。聞き分けの悪い子供の癇癪みたいなものに付き合わせるみたいで、申し訳ないとも思うがこれが最後だ。

 

「それと、敬語はいらないよ。それじゃあな」

 

 二人に何かを言わせる前に、飛行魔法と認識阻害魔法を使いその場から去る。

 

「強く、ならないとな」

 

 思った事をあまり口に出すタイプの人間ではないが、これだけは出さなければいけない。そうと決まれば帰ったら早速魔法について勉強しないとな。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「行っちゃったね、ユーノ君」

「う、うん。いまいち状況が分かんないけど、解決したって事でいいの?」

 

 まだ混乱してるユーノ君を肩に乗せて帰る。

 

「うん、これで私とバナージさんの間には固~い友情が結ばれるの! ホンネで語り合った人同士には切っても切れない友情で結ばれるってお姉ちゃんに借りた漫画にそう書いてあったし、それに敬語もいらないって言ってたし、間違いないの! 後はクイズを解いて直接聞きに行くだけ!」

「あ、あはは……」

 

 ホントは海辺でコブシをぶつけ合うんだけど、コブシの代わりに言葉をぶつけ合ったから、大丈夫だよね?

 

 

 

 後でお姉ちゃんに漫画について詳しく聞いてみたら、様子の変なお兄ちゃんに青い顔して連れて行かれたの。

 

 

 

 

 

 次の日の学校に向かうバスの中で、いつも一緒の友達のアリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃんに、バナージさんの言っていたクイズについて聞いてみた。

 

「心を読む超能力者ぁ? 何、そんな眉唾モノについて知りたいの?」

「えっと……なんとなく? それで、2人なら何か知ってるんじゃないかなーって」

 

 思った通りアリサちゃんには変な顔をされちゃったけど、すずかちゃんには心当たりがあるみたいで、真剣な顔をして考え事をしてる。

 

「それで2人は何か知ってる? どんな話でもいいんだけど……」

「はぁ……なのは、アンタ知らないの? 今あたし達の通ってる聖祥大付属小に、その超能力者が通ってるって噂」

「え、えぇ!?」

 

 思った以上に近くにいた事に大きな声を出しちゃって注目されてしまい、私は顔を赤くして縮こまる。

 

「でも、なんで超能力者なのよ。もう少し信憑性の高い名前にしろって思うわよね」

「にゃはは……。あれ、すずかちゃん?」

「え!? あ、ううん、何でもないよ。それよりもその人、今は中等部に通ってるみたいだよ」

 

 まさかこんなに早くバナージさんの正体の手掛かりが掴めるとは思ってなかったけど、これはとっても大きな1歩なの。

 

「で、どうすんのよ? その噂の正体を確かめに行くなら私も連れて行きなさいよね!」

「なんだかんだ言って、アリサちゃんも気になるんだね」

「別にそういうワケじゃないわよ! 中等部にアンタ1人で行かせたら心配だから……あ゛」

 

 わお、釣れちゃったの。

 

「い、いいから今日は噂を確かめに行くわよ! すずか、アンタも来なさいよ!」

「うん……」

「……すずかちゃん?」

 

 心ここに非ずといった感じのすずかちゃんが気になるけど、曖昧に笑い返すだけで流されちゃって詳しくは聞けなかったの。

 

 

 それから授業間休みと昼休みを使って、色んな人に心を読む超能力者の噂を聞いてまわって大体の予想を付けられた頃には、放課後になっていたの。帰ってないといいけど……。

 

「さあ! 噂の中等部に行くわよ!」

 

 真っ先に荷物をまとめたアリサちゃんが声をかけてきた。多分私より噂の正体が気になってるんじゃないかな?

 

「うん、行こう!」

「う、うん」

 

 先導するアリサちゃんに続くすずかちゃんと私。いつもの3人のパーティーで、いざ()かん! ってヤツなの!

 

「それにしてもひっどい噂よね。幽霊屋敷に住む心を読む超能力者の化け物……。これが全部1人に付いてる噂とか、実際ソイツは何者だって感じよね」

「うん……、何1つ良い話聞かなかったし……」

「化け物……」

 

 とことん人を(けな)す噂話にアリサちゃんはどこか不機嫌そうにして、私は納得がいかず、すずかちゃんに至ってはもうお通夜状態。こんなに言われてる本人はどんな思いでいるのかな……。

 

 

「あの、ここに浜寺(はまじ)(りょう)って人がいるって聞いたんですけど」

 

 男子中等部の校舎についた私達。アリサちゃんが近くにいた中等部の人に話を聞くと、途端にその人が不機嫌になるの。

 

「ハッ、アレに用かよ。なんか知らねぇがずっと教室から出て行かねぇんだよ、気持ち悪い。アレに関わるとロクな事にならないぜ。端の教室にいるから見るだけ見たらさっさと帰った方がいいぞ」

 

 そう言って校舎から出ていく中等部の人。アリサちゃんと私は呆気にとられて、すずかちゃんは俯いてしまう。

 

「な、な、何よあの言い方! 人をアレ(・・)呼ばわり!? バッカじゃないの!?」

「あ、アリサちゃん……」

「…………」

「噂話の確認だけするつもりだったけど、浜寺ってヤツに1度言ってやらないと気が済まない!! なのは! すずか! 行くわよ!!」

 

 そう言って廊下を走って行ってしまう。

 

「え、えと……すずかちゃん?」

「……化け物って言われて、あんなふうに言われて、辛くないのかな」

「私には、分からないよ。けど、会ってみれば少しは分かるんじゃないかな?」

 

 そう、まだ本人と会って話の1つもしてないの。それでその人の事が分かるワケが無い。だから私はすずかちゃんの手を取って歩き出すの。知るために、お礼を言うために。

 

 

「……アリサちゃん?」

 

 目的の教室の扉を開けたポーズのまま固まってるアリサちゃんを見て、不思議に思って近付き視線の先に顔を向けた瞬間、時が止まる。

 

 

 

 

「待ってたよ」

 

 

 

 

 教室の窓から射す西日に照らされたバナージさんいや、浜寺さんは今まで出会った全ての人たちとは違う、独特の雰囲気を纏っていたの。お兄ちゃんみたいにカッコイイわけでもなく、ネタにしてテレビに出る程醜い容姿でもない。なのに目が離せない。私には想像出来ない何かを経験し、決意に満ちた雰囲気に呑まれる。足が竦み、前に進めなくなる。

 

 

 

 それでも

 

 

 

 私は1歩を踏み出す。

 

 『カン』が言っている。これは可能性。定められた本来の道筋とは違う、先の分からない運命の渦に飛び込むようなもの。

 

 『カン』が言っている。これは希望。絶望の淵に立たされながらも、未来に向かって光を示すもの。

 

 私はさらに一歩踏み出す。

 

 『カン』が言っている。進め、戻れ、進め、戻れ、ススメ、モドレ。

 

 『カン』が言っている。感覚に頼るな、自分の『想い』に従え。

 

 

 私は、私は……

 

 

 

≪Master.≫

 

 っ!! レイジングハート!?

 

≪このタイミングで言うのは卑怯かもしれません。ですが、言わせてもらいます。貴女の選択がどのようなものであれ、私は貴女に従い、私としての責務を全身全霊を持って支えます。どうか、選択することを恐れないで下さい≫

 

 ………………そうだね、そう、どんな運命だって、レイジングハートやユーノ君。今、私の前にいる浜寺涼さん。そしてまだ見ぬ仲間達となら切り拓ける。

 

 レイジングハートはこれ以上何も言わない。この先を選択するのは私だから。浜寺さんは何も言わずに待っている。

 

 

 

 本来なら悲しい運命にある人達を救えるかもしれない。その代わりに失うものもたくさんあるかもしれない。

 

 

 それでも

 

 

 

 私は

 

 

 

 選択する




 第4話にして文字量激減。切りを良くしたらこんなになってしまいました。

 書いてみて日常パート用、戦闘パート用で書き方を変えるのもアリかな? とも思いました。試行錯誤をしてより良い小説に出来るよう頑張ります。


 ところで主人公って涼じゃないの? と思う方もいると思いますが、この小説は、少年『少女』の成長記。即ち魔法少女も主人公なのです。

 あとアンチ・ヘイト、独自解釈・設定タグで誤解されるかもしれませんがこの小説は
これも全て管理局ってヤツの仕業なんだ。
 ↓
おのれ管理局、ゆ゛る゛ざん゛
 ↓
悪の管理局は滅びた。
 ↓
や っ た ぜ
 というお話ではありません。あしからず。

 他にも質問等受け付けています。作中で説明することがあるものに関してはあたりさわりのない回答になると思いますが……。

 ではまた近いうちに投稿……できるといいなぁ。


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魔法少女と友達 一角獣、惑う

 こんばんは、牡蠣です。

 完成はしました。したのですが……。

 とりあえず、日常?パートは今回まで。次回は戦闘が入る予定なので、頑張ります。



 それでは、今回も楽しんでくれるとありがたいです。


「あなたが……バナージさんなんですよね?」

 

 私は最後の確認として、目の前にいる彼に問いかける。

 

「ああ、そうだよ。クイズ、簡単だったかな?」

「そこそこ、かな。友達と一緒に……アリサちゃんとすずかちゃんと一緒に色んな人に聞いてまわったからすぐに分かったよ。でも、あんまり楽しくなかったの」

「まあ、あんまりいい噂じゃないからな」

 

 そう言って苦笑いをして、人間らしい反応を見せたことで謎の違和感から解放される。漸く動けるようになったアリサちゃんとすずかちゃんがこちらに寄ってくる。

 

「あんたが……じゃなくて、あなたが浜寺って人なんですね。あれだけボロクソ言われてる人だから、もっと奇人変人を想像しちゃいましたよ」

「あ、アリサちゃん……」

 

 挑発的でからかうような言い方に、(たしな)めるような視線を向ける。

 

「期待に応えられなくて悪いな、アリサ・バニングスさん」

「え……どうしてアタシの名前を……」

「君、結構有名なの知ってる? それに月村すずかさんとなのは、3人でひとまとめのグループとして、だけどな」

 

 知らなかったの……。そんなに有名だったんだ……。

 

「その人を食ったような態度、それに一目見た時の変な感覚、そりゃあんだけ言われて当然かもね」

 

 早速敬語すら使わなくなったアリサちゃん。喧嘩腰に見えるけど、「でも」、と続ける。

 

「あんたは悪い人には見えない。少なくとも、アタシは嫌いじゃないわ!」

 

 うん、やっぱり彼女は凄い。1度見ただけなのにその人の本質を見極めてしまう、トンデモ才能の持ち主なの。

 

「そうか……。みんな俺を見ただけで変な顔して避けていくのに、そんなふうに言ってくる人は初めてだ」

 

 浜寺さんは柔らかな笑みを浮かべ、アリサちゃんはいつもの勝ち気な笑みを浮かべる。なんか通じ合ってるみたいで不快なの。

 

「あの……浜寺さん……」

「ん? どうかしたの?」

「あなたは、この学校で何て言われてるか知ってるんですよね? なら何でそんなに平気でいられるんですか? 辛くないんですか? どうして……」

 

 さっきからずっと俯いたままだったすずかちゃんが今にも泣きそうな顔で、私たちが話を聞いてまわってる間ずっと思っていた事を聞く。

 

「どうして、笑っていられるのか……か」

「っ! はい……」

「うーん、そうだな。決して辛いワケでも無いし、ずっと平気ではいられないよ」

 

 そう言われて、浜寺さんが何を言いたいのかよく分からなくなる。

 

「それにさ、どっかの誰かも言ってるじゃないか。顔で笑って心で泣くってさ」

「そんなに辛かったのなら文句の1つでも言い返してやればいいじゃないのよ!」

「言ったさ。言ってちゃんと聞き入れてくれる人がいれば、今頃こんな噂は流れてなんていない」

 

 私たちが何も言えなくなっていると、そのまま言葉を続ける。

 

「まあ、俺の噂よりも先に方を付けようか。月村さん、君が何かを隠しているようだけど、ソレが何かは知らない」

「っ!? そ、それ……なんで……?」

「だけど、ここにいる君の友達は、ソレを知って気味悪がって離れていくような人間か?」

「それは……そんなこと……」

 

 いきなり話題が変わったのもあって、2人が何について話しているのかは分からない。けど、すずかちゃんの抱えている悩みについてって事だけは分かるの。

 

「すずかちゃ「すずかっ!」……あう」

 

 出鼻を挫かれたからここはアリサちゃんに任せるの……。

 

「アンタ、アタシを馬鹿にしてない? 何かを隠しているのは知ってたけど、あえて聞かないでおいたのよ。だけどそんなに気にしてるのなら言ってやるわ!」

 

 『ビシィッ』と効果音が付きそうなくらい勢い良く人差し指をすずかちゃんの鼻先に突き付けると、実にらしく宣言し始めた。

 

「別に抱えてる秘密を今話す必要は無いわ! でもね、アタシはそんな隠し事くらいで友達やめるなら、初めっから親友なんかやってないわよ! ホラ、なのはからもガツンと言ってやりなさい!」

「わ、私も! すずかちゃんの事大切な親友だって思ってる! だから、えっと……なんて言えばいいんだっけ?」

「バカなのは! こういう時気の利いた言葉くらい言えるでしょうが!」

「で、でもアリサちゃんが言いたい事全部言っちゃって……」

「ふ、ふふふっ」

 

 なんだかんだで結局いつもの空気になってしまったけど、どうやら結果オーライ……なのかな?

 

「ま、話したくなったらいつでも言いなさいよね」

「うん、アリサちゃん、なのはちゃん、ありがとう」

 

 目尻に涙を溜めながらも笑ってくれたから、もう大丈夫みたい。

 

「浜寺さんも、ありがとうございます。もしかして、こうなる事が分かってて言ってくれたんですか?」

「さあ、どうだろうな。『カン』で言ってみただけだし」

 

 ニヤリと悪戯が成功したような顔で笑う浜寺さん。私は苦笑い、2人はポカンと口を開けててちょっとカワイイ。

 

「あ、アンタねぇっ! 馬鹿にするのも大概にしなさいよ! ちょっと見直したのに、もう敬意なんて払ってやらないんだから! アンタなんか涼って呼んでやる! さんなんか付けてやらないから!」

「アリサちゃん、落ち着いて。浜寺さんのおかげで私の悩みも解決したんだし、ね?」

「う~、納得がいかないわ。思ってたより悪くないっていうか、かなりいい奴みたいだってんだから余計にモヤモヤする!」

 

 色々言ってるけど、あれって感謝の裏返しみたいなモノなんだよね。何だっけ……つんでれ? 後でお姉ちゃんに聞いてみようっと。

 

「なのは! 何ニヤニヤしてるのよ~」

「ふぁ、ふぁいふうお~(何するの~)」

 

 からかった時毎回ほっぺた引っ張るはのやめてほしいの……。

 

「まったくもうっ。涼!」

「はいよ」

「えと、その……あ、ありがと! すずかの悩み解消してくれて! 悔しいけど私となのはじゃ何も出来なかったし……」

「気にしないでくれ、モヤモヤを抱えたままだと気持ち悪いしな」

 

 何てことはない風に言うけれど、一言二言であっさりと解決させる浜寺さんも浜寺さんなの。言葉の重みが中学生ってレベルじゃないの。

 

「はぁ、じゃあこれでアンタとアタシは友達よ!」

「……は?」

「アリサちゃん、話飛ばし過ぎだよぉ」

「浜寺さんも困ってるの」

「何よ、そんなにアタシと友達になるのが嫌なワケ?」

 

 そうじゃないんだけどなぁ……。

 

「いい? 1回しか言わないからよく聞きなさい! 涼、アンタはアタシ達の悩みを解決してくれた。んで、そのお返しにしてやれる事を考えた結果、友達になるってことにしたの。分かった?」

 

 それ、単に「アンタ友達居ないみたいだからアタシがなってあげる」っていう、とっても失礼な言い方なの。

 

「へぇ、言い方はちょっとアレだけど、悪気はないみたいだな。なら、俺達は友人だな、これからよろしく」

「えぇ、これからよろしくお願いするわ」

 

 またしても通じ合ったみたいに二人共笑い合ってる。でも、その笑い方があくどい……。越後屋とお代官なの……。

 

「それじゃあ知ってるみたいだけど、改めて名乗らせてもらうわ。アタシの名前はアリサ・バニングス。気軽にアリサって呼びなさいよね!」

「あ、えと、月村すずかです。すずかって呼んでもらって構いません。」

 

 すずかちゃん、しれっと自己紹介してる!?

 

「じゃあアリサ、すずか、これからよろしくな」

「え!? 私はスルーなの!?」

「冗談だよ冗談、なのはもよろしくな」

「ついでみたいな感じがするけど……涼さん、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 結果から言うと、私は涼さんに付いて行くことにした。それは何故かと聞かれると、『カン』が言う可能性と希望ってモノを見てみたかったからなのかもしれない。結局はまだまだ感覚に頼りすぎて、自分の想いを強く持ててないって事なのかな? でも、後悔はしないの。感覚でも想いでも、自分で選んだって事には変わりはないから。

 だから、今はまだ分からない事ばっかりだけど、私が出来る事を精一杯やるの。

 

 

 

 

「ところで、涼となのはは知り合いだったみたいだけど、一体いつ何処で知り合ったのよ?」

 

 

 とりあえずは、この言い訳から。

 

 

「ああ、その事な。この前なのはが夜の動物病院に、フェレットを迎えに行った時に会ったんだよ。女の子が夜道を1人歩きするのは良くないからって、途中まで送ってやって、その時自己紹介したんだ」

 

 

 考える必要は無かったみたいです……。とにもかくにも! 小学生兼魔法少女、高町なのは頑張ります!

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 あれから塾に行くというなのは、アリサ、すずかの3人を途中まで送った後まっすぐ帰宅する。数日ぶりに、誰かとたくさん喋ったからだろう。どことなく家が広く感じる。

 

「さてっと」

 

 身体の空気を入れ換えて、気持ちを切り替える。ここからは魔法の時間だ。

 

「『ユニコーン』、準備はいいか?」

 

 ……問題ないみたいだな。

 

「マルチタスクの思考全部をシミュレーション訓練に割り当ててくれ。俺はジュエルシードの探索に行く。何かあったらすぐに展開出来るよう、起動準備だけは頼む」

 

 ふむ、任せろ、か。まだまだ謎の多い機体だけども、頼りになることこの上ない。早速着替えて家を出る。誰かが回収していなければだが、後18個もある筈だから見つかるといいけどな。

 

 

 

 

 探索の結果、1時間程探査魔法を走らせながら歩いて1つ見つけ簡易封印に成功。こんな簡単に事が運んでいいものかと思うが、油断した時に限ってロクな事にならない。訓練を終了して注意力を上げておこう。

 と思ったらこれまたあっさり釣れた。魔法技術の存在しない世界だと理解しているようで認識阻害魔法を使っているから助かるが、いきなり上空から近付いて来るのは心臓に悪い。まずは人気の無い所まで行こう。

 

 

 すっかり日も落ちて人の居なくなった公園に着くと、なんと追跡者はあろうことか空から話しかけてきた。見られたらどうするんだよ……。

 

「あなたが手に持っている青い宝石、渡してください」

 

 丁寧な口調だが、有無を言わさない空気を纏っている。気付かないフリは出来ない。ならば話し合いに持ち込もう。そう思い声のした後方上空に視線を向けて、我が目を疑った。

 

「な」

「渡してください。さもなくば攻撃します」

 

 レオタード。そう、黒いレオタードなのだ。バリアジャケットの特性上、極限環境でもない限り最悪パンツ1枚でも大丈夫だ。しかしこれは『無い』。それに加え、そもそも隠す事を前提としていないスカート、際どさを引き上げるハイソックス、一応防御に使えない事もない謎マント。これを金髪ツインテールの『小学生程の女の子』が身に着けているのが問題なのだ。もしこれが一般人やそのテの奴らに見られでもしたら、目も当てられない惨事になること間違い無い。

 

「あの、聞こえてますか?」

 

 俺が一般人でもそのテの人間でも無かったから良いものの、これは流石に拙い。空飛ぶ少女に男子中学生。どう見てもヤバい絵面だ、主に俺が。まず間違いなく俺が国家権力のお世話になってしまう。それを回避する為には、この少女の格好を正す事からしなければ!

 

「あ、あの……話を……」

「あ、ああ、すまない。考え事をしていて呆けていたんだ。コレだろう?」

 

 ちょっとオロオロし始めた……可愛い。じゃなくて! 格納領域からポケットにジュエルシードを転送、それを取り出すと明らかにコレしか目に入ってない少女が降りてきて手を伸ばしてくる。

 

「待ってくれ、コレを渡す前に少しだけ話を聞いて欲しい。聞いてくれたら渡すから、な?」

 

 何が「な?」だよ! どこからどう見てもそのテの人間の言い方じゃないか……。

 

「……分かりました。話を聞くだけでいいのなら」

「え゛!?」

「え!?」

 

 おっといけない、先ずは少女の恰好を指摘しなければ。

 

「いや、何でもない。聞いて欲しいのは、君の格好についてだ」

「わ、私の? 普通は『聞きたい』じゃないんですか?」

 

 くそぅ、普通じゃない少女に普通について言われた……。

 

「正確に言えば君の格好について、俺が一言言いたいんだ」

「そうなんですか」

 

 そうなんです。

 

「まずどう見てもおかしい。この国でそのような恰好は、どんな事があろうとしないんだ。居たとしても、年に1、2回くらいしかしない」

「そ、そうなんですか……。かっこいいのに……」

 

 それカッコイイとか思ってたのか!? 落ち込む姿もまた……じゃない。

 

「か、カッコイイと思うなら、本当に重要な時にしかしてはいけないんだ。所謂勝負服というヤツだ」

「勝負服……!」

「因みにその恰好のコンセプトはどういうものなんだ?」

 

 何聞いてんだ俺。

 

「えっと、機動力を重視しつつそれなりの防御力を兼ね備えた万能型、です」

 

 マントを広げて全身を見せながら、得意げな顔で解説してくる。うん、いい眺め……ん? ちゃっかり情報ゲットしてしまった。

 

「お、おお、なかなかいいんじゃないか? 君がその恰好を本当に気に入ってるのは良く分かった。だからこそ、そういうのは見せびらかしちゃいけないんだ」

「分かりました。大事な勝負の時でしか着ません」

「後、この国では人は飛ばないんだ。だからさ、俺も含めてこの石を持っている人に近付く時は、飛ばずに、普通の服で話しかけるんだ。分かったかい?」

「はい、分かりました。飛ばない、勝負服は着ない、ですね」

 

 なんて素直な子なのだろうか。ていうか勝負服っていうフレーズ、気に入ったんだな……。

 

「よろしい、俺との約束だ。これはその証にやろう」

「証……はい!」

 

 そう言ってジュエルシードを差し出す。少女はそれを両手で大事そうに受け取ると、キリッとした顔を向ける。

 

「ありがとうございます。約束、必ず守ります……!」

「うむ、なら、敬語もいらないぞ。えっと……」

「フェイト・テスタロッサ、フェイトでいいで……いいよ」

「俺の名前はり……っ」

 

 何でこんな時に? いや、ここは従っておこう。

 

「り?」

「いや、何でもない。俺の名前はスズっていうんだ」

「スズ。うん、分かった」

 

 ただ単に涼の読み方を変えただけだが大丈夫か?

 

「それじゃあ、また?」

 

 首を傾けて聞いてくるフェイトに胸が高鳴っ……たら駄目だろ。

 

「えっと、向こうの方角に一つだけ家があるんだ。俺はそこに住んでる。話がしたかったらいつでも来るといい」

 

 え、何で家の場所教えてるんだよ。拙いだろ……え? 拙くない?

 

「あっちだね。それじゃあスズ、またね」

「ああ、またな」

 

 そう言って認識阻害魔法を使ってから飛び去っていくフェイトを見送る俺。

 

 

 ……あれ?

 

 

「ジュエルシード渡してしまった……」

 

 

 今日の探索は無駄になったということか!? なんてことだ。フェイトに会っておかしくなってしまったのか? 明日こそ気を引き締めなければいけないな。そうと決まれば……帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュエルシード探索、失敗。理由:フェイトに惑わされた結果、渡してしまったから。




 後書きにて一言、どうしてこうなった。

 順調に書き進めていた筈なのですが、気が付けばちょいと変態チックな道に逸れかけている事実。やはり戦闘が絡まない回はおかしくなるようです。

 これでいいのか? いいわけが無いでしょう。

 次回こそ、真面目に格好の良い戦闘がしたいです……。



 ではまた次回。


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魔法少女と一角獣と時々巨人

 こんばんは、牡蠣です。

 予告通り、今回は戦闘回です。原作では無い展開、オリジナル展開となっているので注意です。

 この先、原作とは違う展開がちょくちょく入ってくる事を先に宣言します。
 タグにオリジナル展開を追加しました。


 以上の事を把握しつつ、楽しんで頂けるとありがたいです。

 では、どうぞ。


 あれから数日の間、時々なのはとユーノも交えてジュエルシードの探索をしていたのだが、一切見つける事が出来なかった。何せ見た目は小さな菱形の青い石なのだ。もしかしたら珍しがって拾ったりする人がいてもおかしくはない。

 フェイトについては、いつでも家に来るといいとは言ったがまさか次の日に来るとは思わなかった。しかも理由はバリアジャケットの格好良さを分かってくれたから。余計彼女の事が心配になってしまった。アルフが理解してくれないとか言っていたが、多分身内なのだろう。まあ身内があんな際どい恰好を気に入ってるんだもんな、そのアルフさんとやらには同情しておこう。まずは恰好自体をどうにかするのではなく、露出から減らしていこうという事で、参考になりそうな絵を渡してあげた。何か間違ったものに目覚めさせてしまった気もするが、危険は無いようだし放っておこう。

 

 そして今、俺、なのは、ユーノの3人は夜の聖祥大付属小にいた。

 

「発動を感知した直後に結界を展開出来て良かった……」

「うん……」

「そうだね……」

 

 校舎の屋上に立つ俺達の前には、実に15mはあろうかという巨大な机と椅子の集合体の巨人だった。

 

「ユーノ、結界の強度を最大に。それと強度を維持しつつ広げられる限界まで広げてくれ」

「わ、分かりました!」

「今回はサポートに参加せずに、結界にだけ集中してほしい。そうすれば俺となのはは心おきなく戦える」

「はい、悔しいですけど、この姿じゃ足手まといになっちゃいますから」

 

 そう言って、ユーノは流れ弾を食らわないように校舎から離れていく。

 

「さあ、なのは。準備はいいか?」

「うん! 練習の成果、見せてあげるの!」

「ああ、期待してる。だけど油断はするな、思わぬところで足元を掬われるからな」

 

 力を付けてきて自信を持つのもいいが、自信がありすぎるのも駄目だという事をしっかりと言い聞かせる。

 

「それじゃあいくぞ! 『ユニコーン』、起動!」

 

 懐のカードが粒子に変換され、俺を包むとサイコフレームが全身を覆い、純白の装甲がフレームを覆うことで『ユニコーン』の展開が完了する。

 

「綺麗……。それじゃあ私たちも! レイジングハート!」

 

≪Stand by ready. Set up.≫

 

 赤い宝石から溢れた光がなのはを包み、次の瞬間には光の殻を破るように杖を一振り、所々にハードシェル装甲を持ち防御力を重視したバリアジャケットに変身する。

 

「相手は巨大だ、足を止めたらペシャンコにされると思え! 互いの位置確認を常に怠るな! 散開っ!」

「はいっ!」

 

 強大な魔力に気付いた巨人がこちらを向き、巨大な腕を振り上げる。俺が左、なのはが右にそれぞれ飛び立った直後、その腕は校舎を叩き潰す。

 

「まずは牽制、相手の様子を見ながらジュエルシードの位置を特定するぞ!」

「なら私からっ! レイジングハート!」

 

≪Divine Shooter.≫

 

「シュート!」

 

 なのはの周囲に展開された射撃魔法、4つの桃色の球体が、トリガーワードによって巨人に殺到する。

 

「上手くいったの!」

「それじゃ駄目だ、一旦離れるんだ!」

 

 命中し爆発するものの一切効いている様子も無く、射撃魔法を放ったなのはへ殴りかかるが、指示を飛ばしていたおかげで危なげなく回避する。

 

「『ハイパー・バズーカ』! 人型を攻撃するときは肘や膝の関節を狙うんだ!」

 

 生物相手には殺傷の可能性があり使えないが、ただの物体なら問題なくダメージを与えられる事からバズーカを展開、砲身がスライドし身の丈ほどの長さになる。弾種は破壊力を重視して炸裂弾を選択。まずは機動力を削ぐ為、右膝の裏に狙いを付け引き鉄を引く。腹に響く発射音と共に放たれた無誘導弾は狙い通り膝裏に命中し、片膝を突かせる事に成功する。

 

「なのは! 威力は低くてもいい、右肩にバスターだっ!」

「う、うん! レイジングハート、イケるよね?」

 

≪No problem. Shoot bullet. Ready.≫

 

 その音声と共に、なのはの左手の平に魔力が急速充填される。

 

「シュート!」

 

 どうやらあの射撃魔法は威力、照射時間は少ないが、代わりに衝撃力を重視した一撃らしい。それが2、3秒程度で撃てるのだから恐ろしい。その一撃は立ち上がろうと右手を突いていた巨人の肩に命中する。一瞬とはいえ力を籠めていたであろう腕が動かなくなれば、更に体勢を崩すのは目に見えている。予想通り、右半身を重点的に攻められた巨人は校庭に倒れ伏した。

 

「今だ! デカいのを撃て!」

 

 俺はバズーカの残りの弾、4発全てを撃ち込む。

 

「うん! ディバイーン!」

 

≪Buster.≫

 

 ん? 充填時間が恐ろしく早くなっている気が……。とにかく、炸裂弾の爆発と直射砲をモロに浴びる巨人が少し哀れに思えてきたが、生憎ここで手を緩める程優しくはない。

 

「涼さん、このまま一気に封印しちゃおう!」

「待てっ、今攻めるのが一番危険なんだ! うわっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 少し離れていた所から様子を見ていたなのはが、封印魔法を使うため近付いていってしまう。それを止めようとした瞬間巨人の内側から突風のように魔力が吹き荒れ、油断していたなのはは魔力の風に煽られ飛行魔法の制御を失い吹き飛ばされてしまう。構えていたおかげで被害の少なかった俺は、彼女を抱き留めつつすぐさまその場を離れる。

 

「ごめんなさい……」

「怪我は無いか?」

「う、うん。大丈夫」

「ならいいんだ。こういった失敗は次に活かせばいい。まだ戦闘は終わってないんだ、やるぞ!」

「ありがとう、涼さん……」

 

 まだやり直しは効くんだ。なら後は行動あるのみ。

 

「さっき魔力が心臓の辺りから出てたの、分かるか?」

「うん、という事はあそこにジュエルシードがある……」

「その通り。だけどあの巨人は机と椅子の塊で出来てるから、それを取り除いてジュエルシードを露出させてからでないと封印は難しい」

「でも私のディバインバスターなら、それを抜けるかもしれないの」

「ああ、だから封印の流れはこれまでと同じだ。俺が突破口を作ってなのはが封印。これでいくが問題はあるか?」

「ううん、大丈夫。今度こそやってやるの!」

 

 頼もしい返事が聞けたところで話し合いを終わらせる。巨人が立ち上がり突風が収まると、どことなく怒りを感じる。よくもやってくれたなと言った具合か。

 

「じゃあ頼んだぞ! 『ビーム・マグナム』! 『シールド』! 『ビーム・サーベル』!」

 

 右手にマグナム、左上腕に盾、左手にサーベルをそれぞれ展開し、突撃する。なのははその場から離れ、砲撃の充填を始める。

 

「俺は……ここだっ!」

 

 なのはの魔力に釣られそちらに向かおうとした巨人を足止めする為、声を張り上げて腹にマグナムを撃ち込み、すれ違い様にサーベルで脇腹を切り裂く。目の前の障害を真っ先に排除することに決めた巨人は、周囲を飛び回る俺を捕まえようと躍起になって腕を振り回す。

 

「くっ、三次元戦闘はキッツいな……」

 

 いくらシミュレーションで訓練したとはいえ、それを現実に反映させるのは難しい。もっと速く、もっと鋭く、もっと、もっと……動け!! 応えろ、『ユニコーン』!!

 

「ウオォォッ!!」

 

 盾が邪魔、収納。撃つ、撃つ、切る、撃つ、切る、撃つ。

 

「もっと、もっとだ!!」

 

 弾切れ、収納。右手にもサーベル。加速、加速、加速。ひたすら切り刻む。ひたすら、ひたすら……。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「りょ、涼さん……?」

 

 勢い良く飛んで行った涼さんの様子がおかしい。最初はただ速く巨人の周囲を飛び回ってかく乱していただけだったのに、少しすると両手に光る剣を持って、身体から赤い光を撒き散らしながら残像が出るくらい速く動いてるの。頼もしいっていえば頼もしいけど、何故かとても怖い。涼さんが涼さんじゃなくなってしまうんじゃないかって思ってしまう。

 

「涼さん!!」

 

≪Master.≫

 

「っ!」

 

≪彼が心配なのは分かります。ですが、今あなたは封印を任された立場です。期待に応える為には、あのジュエルシードを封印するべきです≫

 

 レイジングハートに言われて気付く。そうだ、今は戦ってる最中なんだって。なら早く封印して元に戻ってもらうの!

 

「レイジングハート!!」

 

≪All right. Divine Buster Plus. Ready.≫

 

「チャージ完了!!」

 

 魔力をいっぱい注いで、遠くからでも封印できるくらい強いディバインバスターの準備が終わる。

 

「涼さん! 撃ちます!! ディバイィィン!!」

 

「バスタァァァァァ!!!!」

≪Buster.≫

 

 巨人目がけて、前よりもかなり太く大きく溜められた魔力が飛んでいく。それに気付いた涼さんは一瞬で遠くまで離れる。その直後、巨人の胴体をまるごと呑み込む。十秒程照射し続けた魔力が収まると机や椅子は崩れて、その場には強制封印されたジュエルシードがポツンと浮いていた。

 

「やった! 封印成功! あ、涼さん!」

「はぁっ、はぁっ……ここは……? っ! 封印は!?」

「成功したの!」

「そ、そうか。ふぅ……、終わったか」

 

 良かった……。もの凄く激しく動いてたからとても疲れているみたいだけど、あの嫌な感じはもうしない。

 

「ユーノ君!」

「やったね、なのは!」

 

 う、なんかその言い方嫌なの……。

 

「結界、もう解除しても大丈夫だぞ」

「あ、はい!」

 

 結界が解除されると、壊された校舎や机、椅子が何も無かったかのように元に戻る。何度見ても凄い魔法なの。

 

「今回は疲れたな……」

「うん……」

「はい……」

 

 それでも大きな被害もなく封印出来たから、これぐらいの疲れなんてどうってことないの。

 

「さあ、早く帰らないとな。なのはは明日、アリサとすずかとサッカーの試合観に行くんだろ?」

「あ! 明日の準備しないと……」

「認識阻害掛けてやるから、飛んで帰りな」

 

 言って、認識阻害、見えにくくなる魔法を掛けてくれる。

 

「ありがとう! ユーノ君、行こ。それじゃあ、またね!」

「今日もありがとうございました! また!」

「ああ、またな」

 

 手を振って別れて、飛んで帰る。今日は疲れたけど、訓練の成果が身についていってる実感がして、充実感もあるの。さて、明日に備えないと!

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 今日の戦闘は大変だった……。途中から速く動いて敵を切り刻む事しか考えられなかった。サイコフレームの元となった『サイコミュ』が、俺の意思を受け取った結果があの戦闘中の異常とも言える動きなのだろう。

 

「痛い……」

 

 鬼神の様に動けば、あまり鍛え上げているとは言えない俺の身体に反動が来るのは当たり前だ。とにかく、今日はもう帰ろう。身体を休めないと……。

 

 

 

 

 ジュエルシード、封印成功。現在の所持数はなのはが4つ、フェイトが1つ。この先できっと、なのはとフェイトはぶつかるだろう。その際、どうなるかは分からない。フェイトには彼女なりの集める理由があるのだろうから、もしかしたら協力出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。だから今は、目の前の出来事を1つ1つしっかりと解決していこう。そう目の前の……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトよ、何故俺の家にいるんだ……。




 如何でしたか?

 出来るだけ恰好良く書こうと努力した結果がこれです。全然格好良くないじゃないか! とも思われるかも……。

 何とか面白いものに仕上げられるよう努力します。

 今回あまり語れる事は少ないので失礼します。


 ではまた。


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黒い魔法少女と一角獣

 こんばんは、じわじわ増えるUAに喜びを隠せない作者、牡蠣です。

 あまり長々と語るのは良くありませんね。


 では早速第7話、どうぞ


 家に帰ると、玄関の前にフェイトが所在無さげに立っていた。端から見れば鍵をなくして家に入れず、家族の誰かが帰ってくるのを待っている鍵っ子の様だ。それよりも『ユニコーン』を纏ったまま玄関前に降り立つところだったから、早めに彼女の存在に気付けて良かった。待たせるのは悪いと思ったが、何故こんな夜遅くに出かけていたか聞かれた時の言い訳の為にコンビニに寄って来たが、ずっとその場で待っていたのだろうか?

 

「フェイト、こんな時間にどうしたんだ?」

 

 声を掛けると、木の棒で地面に何か落書きをしていた彼女は、俺の顔を見て『ほにゃっ』と笑う。うん、この笑みはクセになりそうだ。

 

「スズを待ってたんだ。アルフから手紙渡してくれって頼まれたのと、それと一緒にジュエルシードを探しに。それでこの近くでジュエルシードの発動を感知したんだけどすぐに消えちゃったから、多分私達以外にも回収してる人達がいるんだと思う。スズは何か知らないかな?」

「……いや」

 

 そう聞きながら手紙を渡してくるフェイトは、どことなく疲れ気味の様子。多分アルフさんとやらからの手紙に、ここに来させた理由とかが書かれているみたいだから、もらってその場で読む。

 

 それにしても読みづらい字だ。まあ違う次元世界の人間だし仕方ないよな。そう思いつつ読んだ手紙にはこう書かれていた。

 

「先に書いておくと、これを読んでいるのがフェイトの言うスズって奴だと思って書いてるよ。初めまして、アタシの名前はアルフってんだ、呼び捨てで構わないよ。この前はウチのフェイトが世話になったね、ありがとね。

 既にフェイトから色々聞いちまってるみたいだからここに書いちまうけど、アタシ達はジュエルシードを集める為だけにこの国へ来ているんだ。だけどあの子はまだ幼いし、ジュエルシード集めなんて言う大変な事にずっと掛かりっきりなのは駄目だと思っていたんだけど、アタシじゃ言っても聞いてくれなかったんだ。

 そんな時に経緯はどうあれ、別の事に意識を向けてくれた事には感謝するよ。そこでスズ、アンタをイイ奴だと見込んで頼みがある。時間の許す限りでいい、フェイトと一緒に居てあげてほしいんだ。今のままじゃアタシ以外誰とも関わらない、それはあの子の為にはならないと思ったんだ。

 それと少しだけでもあの子にこの国の『常識』ってのを教えてくれないか? どうにもそこらへんに疎くて手を焼いててさ、身内のアタシが言っても流されちまうみたいなんだよ。

 だけど、変な事教えたり手を出したりしたら、その喉笛噛み千切ってやるからね!

 

 勝手だけど、ホントに頼んだよ」

 

 ああ、勝手過ぎるよ……。アルフは馬鹿だ。フェイトから話を聞いただけの俺を信用するなんて、本当に馬鹿だよ。だけど、俺にとってこれは効果的すぎる攻撃だ。

 

 ……はぁ、仕方ない。

 

「フェイト、入りなよ」

「いいの?」

「こんな夜更けに女の子を門前払いするなんて、男のする事じゃないよ。あがったら先に手を洗っておいで」

 

 鍵を開けてフェイトを招き入れる。洗面所へ行ったのを確認すると電気を点けて、ついでにストーブにも火を入れる。いくら4月とはいえ夜は冷える。少しの間でも外にいた彼女ならば猶更だ。ついでに風呂も沸かしておこう。

 

「冷えたろ。今部屋暖めてるから、コレ食べて待っててくれ」

 

 コンビニのビニール袋から、まだ温かい肉まんを取り出して渡す。

 

「? これ、何?」

「何って……肉まんだよ。袋開けたらそのまま手で持って食べるんだ」

 

 まさか肉まんを知らないとは……。いや、彼女なら知らなくてもおかしくはないか?

 

「こう、かな……あむっ。……! おいひい!」

 

 余程気に入ったのか、顔を輝かせて小さな口で精一杯頬張る。一つ目が無くなるのはすぐだった。

 

「もう一個食うか? これはあんまんだけど……」

「え、あっ!」

 

 夢中で頬張ってたのを思い出して、頬を赤く染める。何なんだこの子は! ……可愛いじゃないか。

 

「ホラ、俺より年下なのに遠慮するなって。肉まん以外にもお菓子とかあるんだから、気にせず食べな」

「う、うん……!」

 

 そうやって笑ってくれるだけで、あんまんもあげた価値があるってもんだ。

 

「はむっ、あむっ!」

 

 精一杯どころか一心不乱に頬張る姿は、非常に庇護欲をそそる。……いかんいかん。

 

「……ふぅ。あ、もう無くなっちゃった……」

「まあまあ、また今度買って来てやるから。っと、あんこついてるぞ」

 

 頬についていたあんを人差し指で取ってやる。取ったのどうしよう……食っちまえ。

 

「ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。さて、そろそろ風呂が沸くだろうから、入っておいで。その鞄、着替えとか入ってるんだろ?」

「うん、でも、こんなにしてもらって申し訳ないよ……」

「だから遠慮するなって。フェイトは俺の妹分みたいなモンなんだから、これくらいお安い御用だよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 そう言って風呂場に向かって行って、程なくしてお湯の流れる音が聞こえてくる。

 

 あぁ、あの時俺に殺気を向けてきたなのはの兄(?)の気持ち、今なら分かる。こんな可愛い妹がいれば、シスコンになるに決まってる。そりゃ危害を加えるかもしれない奴がいたら、殺気を放つくらいワケないわ。

 

 

 

 んん!? フェイト、着替え持って行ったか!?

 

 

 

 

 

 もちろん下着1つ脱衣所に持って行かなかったフェイトは、浴槽に()かって上気した顔と共にバスタオルを体に巻いただけの、アブナイ恰好で茶の間に入ってきた。着替えるよう言って一旦外に出た俺は少し頭を冷やした後、茶の間に戻ってそわそわしている彼女に倫理とか諸々の常識を教え込む事となった。

 

 

 

 髪を下したフェイトは、小学校中学年程の女の子が放っていい色気ではなかったとだけ言っておこう。

 

 

 

 それにしても、フェイトはやはりどこかおかしい。見た目の問題ではなく精神的な意味で、である。心の壁みたいなものが薄いと言えばいいのだろうか? なのはと同じ九歳らしいが、それにしては身内以外の人間に対する警戒が無い。いや、あるにはあるのだろうが、意識的に警戒しないとソレが働かないのか。少しでも心に触れた瞬間警戒がゼロになり、身内と同じくらいの親愛、友愛を向けてくるのだ。下手したら死ねと言われればすぐさま実行に移せるくらい……。それはおかしいというレベルの話ではなく、最早異常と言っても過言ではない。

 アルフが心配するのも無理はない。もしこの子が悪人に言葉巧みに騙され、悲惨な目に遭ってしまったらと。知り合ってまだ数日の俺でこうなのだ。身内のアルフとでは比べものにならないだろう。

 

 待てよ? とすればフェイトの親はどうしてるんだ……? こんな善人と悪人の区別も付かないような子供を放って置くだろうか。普通そんな事あるわけがないだろう。しかし、もし仮にそうなのだとしたらそれは親なんてものではなく、赤の他人と変わらない。そう、いくらフェイトがソレを親だと慕っていてもだ。彼女の価値観に口を出すのは間違いだと思う。

 

 それでも、俺は彼女と関わってしまったのだ。少しでも守りたいと思ってしまったのだ。彼女の純粋すぎる心を、想いを、守りたいと思ってしまったのだ。

 

 今の俺に出来る事は少ない。かなり杜撰(ずさん)な隠し方とはいえ、『ユニコーン』でなのはと共にジュエルシードを集めている事を隠しているのだ。もしこれが最悪な形で露見したら、フェイトが受けるショックは大きいだろう。ならば、上手くやらなければいけない……。何でこんなふうに考えるのか、自分でも分からない。だけど、彼女の兄貴分だと自称したのだ。だったら、彼女の仮の兄として、彼女を守るんだ。

 

 

 

 っ!

 

 

 

 声が、聞こえた気がした。誰が何処から発したかは分からない。しかし、その声は今俺の腕の中で眠る少女を想う声だったのは確かだった。

 

 一緒に寝ている事に文句を垂れているみたいなのも、気のせいではないんだろうなぁ……。

 

「かあ……さん……」

 

 …………。今夜はフェイトが寂しくないようしっかりと抱きしめて寝よう……。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 翌朝、フェイトを起こさないように静かに布団を抜け、着替え、洗顔をし、愛用の白いエプロンを身に着け朝食の準備に取り掛かる。

 炊飯器は昨夜の内に準備しておいたので大丈夫。フライパンを熱し油を薄く延ばして、ちょうど良い温度になった所でベーコンを5枚投入。その間に冷蔵庫から卵を2つ、いや3つ取り出し、ベーコンが程よく焼けた所で卵を綺麗に割り、形が崩れていない事を確認しすぐさま蓋をする。少し経ったところで水を入れる。これで良し。

 野菜室からレタスを取り出し葉を2枚ほど千切る。軽く水洗いをして更に4等分に千切る。

 後は皿を用意して千切ったレタスを乗せて、フライパンを熱していたコンロの火を止める。ここからフェイトを起こせば余熱によって程よく半熟と完熟の中間の目玉焼きの完成だ。

 

「フェイトー、朝だぞー」

「うぅ、あさー」

 

 声を掛けて優しく揺すると、寝ぼけているようだが返事が返ってきた。二度寝は許さんとばかりにカーテンを開け放つ。うん、今日もいい天気だ。窓から差し込んだ光は寝ぼけ眼のフェイトに降り注ぎ、完全に目を覚まさせる。金色の髪が太陽の光を受けて光る様は、さながら天使のようだ。事実、フェイトは天使だ。

 

「まぶしぃ……」

「はい起きた起きた。朝ごはん食べて準備したら出かけるぞ。今日はピクニックだ!」

「ぴく、にっく……え? す、スズ!?」

「スズですよー。目は覚めたか? 着替えて顔洗ってきな。朝ごはん出来てるから、洗ったらリビングにいてくれよ」

「う、うん!」

 

 彼女の頭を一撫でし、台所に戻ると朝食の仕上げに掛かる。

 フライパンの蓋を開けると、湯気の後に端っこはカリカリ、黄身は半完熟のベーコン目玉焼きが顔を出した。

 

「よし!」

 

 いつも以上の完璧な出来に思わずガッツポーズ。形を崩さないように大皿に移して茶の間に持って行くと、ちょうど着替えを洗顔を終えて、髪の毛をツインテールにしたフェイトが入ってくる。

 

「そこに座ってて。今白ごはん持ってくるから」

「うん」

 

 多すぎず少なすぎず、茶碗に米をよそう。お盆に茶碗2つ、箸2膳とフェイト用にナイフとフォーク、コップ2つと牛乳を乗せて運ぶ。

 

「スズ、これは何?」

 

 配膳を終えたところで目玉焼きを指さして聞いてくる。

 

「これは目玉焼きっていう、簡単だけど奥が深い料理さ」

「めだまやき……」

「さあ、食べよう! 食べづらかったらナイフとフォークも使っていいからな」

「ありがとう。でも、箸を使うよ」

 

 そう言って箸を持って食べようとするが、それに待ったをかける。

 

「フェイト、この国では食べる前に食材に感謝して、『いただきます』と言ってから食べる習わしがあるんだ。忘れちゃいけないよ」

「分かった。それじゃあ」

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 

 やはりフェイトには箸は難しかったみたいだ。尚、目玉焼きは大層お気に召したようだ。

 

 

 

 

「行ってきます」

「おじゃましました」

 

 

 

 

 朝食と準備を終えた俺達は家を出て一路、海鳴公園を目指す。途中寄り道しながらぶらぶらと海鳴の町を歩くと、ちょうど良いお昼時に海を見渡せる海鳴公園に着く事が出来た。やはり雲1つない快晴の日曜日という事もあって、公園には家族連れがそこそこ多く見られる。

 

「ふぅ、結構歩いたな。フェイトは疲れてないか?」

「大丈夫だよ。それにとっても楽しかったから」

 

 町を歩いている間、一緒にいる俺も楽しくなるくらいにずっと楽しそうだったからな。案内した甲斐があるよ。

 

「それじゃあお待ちかねの昼ごはんだ!」

 

 背負っていたリュックから小さめの弁当箱と普通の弁当箱を取り出し、小さい方をフェイトに渡す。

 

「あ、えっと、いただきます」

「はい召し上がれ。俺も、いただきます」

 

 中身は同じ、真ん中を仕切りで分けて、半分をごはん、半分をおかずの卵焼きとから揚げとプチトマトの3種類の、本当に簡単な弁当だ。

 

「スズ! この卵焼き、おいしいよ!」

「気に入ってくれたか。なら俺の卵焼きも食べるといい」

「いいの? ありがとう!」

 

 それを始終ニコニコしながら食べてくれれば、こんなに嬉しい事はない。

 

 

 

 昼ご飯を食べ、公園を後にする。時間は3時か。そろそろだな。

 

「フェイト、今日は楽しかったか?」

「うん!」

「それは良かった。でもそろそろ帰る時間だ。アルフが帰りを待ってる筈だよ」

 

 その言葉にフェイトは表情を暗くするが、アルフの事を考えて、強く言い出せないのだろう。

 

「前にも言ったろう? 来たかったらいつでも来いって。流石に平日は無理だけど、昨日とか今日みたいな休日ならこうして一緒に居られるから、な?」

「うん……分かった」

「いい子だ。それじゃあ隣町まで送ろう」

「ううん、駅までで大丈夫」

 

 そう言うフェイトの顔は、昨日みたいな疲労やストレスの影も形も無い。うん、いい顔だ。

 

「そうか、じゃあここでさよならだな」

「うん、さよなら」

「っと、その前にコレを持って行きな」

 

 最後にリュックから白い箱を取り出す。

 

「これは?」

「シュークリームさ。甘いお菓子だよ。アルフと二人で食べな」

「うん、ありがとう!」

 

 大事そうに胸に抱えると、今日一番の笑顔でお礼を言ってくる。これ以上一緒に居ると、俺が離れたくなくなりそうだ。

 

「それじゃ、フェイト。『またな』」

「! うん、『またね』」

 

 再会の意味を強く籠める。感覚で気付いたフェイトは、それに合わせるように返してくる。これは……また一緒に行きたい……か。これ以上の会話は必要無いみたいだな。感覚を閉めた俺は手を振る。彼女もまた手を振って、改札を通っていく。

 

「ふぅ、さあ、帰ろう」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 あれから宛てもなく町を歩いていると、微かにだが地面が揺れている事に気付いた。地震か? と思っていると猛烈な異物感、ジュエルシードの発動を感知すると同時に、激しい揺れと爆発音と、メキメキという音が聞こえてきた。

 

「な、なんだ!? ジュエルシード!? あ、ああっ! 町が!」

 

 広範囲に突如発生した木による被害は、とても俺1人では、いや、ユーノと力を合わせても結界に閉じ込めるのは無理だ。

 

(なのは! ユーノ! ジュエルシードが!)

(う、うんっ!)

(こっちでも感知しました! 涼さんは今何処に!?)

 

 感知していたか。なら話は早い。

 

(今は外にいる! 集合場所はこっちで決める! ……ここでいいか!?)

 

 なのは達と俺の位置を感覚とサーチャーで軽く測って、少しなのは達の位置に近いビルの座標を念話で送る。

 

(分かったの!)

(今から向かいます!)

 

 念話が切れる。ぼーっとしている暇はない。俺は物陰に隠れて『ユニコーン』を緊急起動させる。

 

「行くぞ、『ユニコーン』」

 

 俺は全速力で合流地点へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しかった1日の締めくくりが、ジュエルシードの発動。

 俺達は古代遺産(ロストロギア)というものを、侮っていたのかもしれない…………。




 如何でしたでしょうか?

 今回はフェイトと涼の関係の進展でした。

 そして次回、町が木によって滅茶苦茶にされる、原作では覚悟回となっていますね。

 なのは、涼、ユーノの覚悟をしっかりと描写出来るよう頑張ります。


 ではまた次回に。


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魔法少女と一角獣と小動物と不屈の心

 こんばんは、牡蠣です。

 もっと早く投稿したかったのですが、遅れてしまい申し訳ありません。


 では、第8話をどうぞ。


 なのは達との合流地点に向かう途中、俺の魔力に釣られて木の枝が襲って来たが前から向かってくる必要最低限の枝のみを『ビーム・サーベル』で切り裂き、それ以外は全て速度で振り切った。合流地点のビルに着くと、程なくしてなのは達も屋上に上ってきた。

 

「お待たせしました! お願い、レイジングハート!」

 

≪Stand by ready. Set up.≫

 

 すぐさま変身すると、側に寄って来た。

 

「涼さん、町が……」

「ああ……。ユーノ、ジュエルシードはここまで強いモノなのか?」

「多分、これは人が発動させたんだと思います。強い想いを持った者が願いを込めて発動させた時、ジュエルシードは最も強い力を発揮するモノですから」

 

 想いか……。ふと考え込みそうになる思考を頭を振って打ち切る。

 

「っ……やっぱり、あの時の子が持ってたんだ!」

「やっぱりって事は心当たりが?」

 

 なのはが漏らした声に反応すると、申し訳なさそうに話し始める。

 

「うん。私、気付いてた筈なのに……。こんな事になる前に、止められたかもしれないのに……」

 

 町中に広がる木に目を向け自分を責め立てるなのはに、声を掛けずにはいられない。

 

「気にするなとは言わない。多分、俺だって誰かが持っているのを見かけても、何とかなるだろうって思ってしまうよ」

「涼さん……」

「なのは……、涼さん……」

「それはジュエルシードがここまでの被害を及ぼすモノだと、ちゃんと理解と把握をしていなかったから。ジュエルシードを侮っていたからだ」

 

 ゆっくりと、諭すようになのはとユーノ、そして自分自身にも言い聞かせる。

 

「なら、どうすればいいと思う?」

「それは……次からはこんな事にならないように、もっと頑張らないと……」

「そうだ。もうこんな大きな被害を起こさないよう、努力するんだ」

 

 そう、まだ俺達には次がある。

 

「言うだけなら簡単だ。だけど、俺達にはそれを可能とする力がある。力を扱う為の努力が出来る」

「力……」

 

 なのはは自分の胸に手を当て、レイジングハートを見る。

 

「今、俺達に出来る事はなんだ? ここで俯いている事でも、あの時ああしていれば、こうしていればなんて後悔に囚われている事でもない」

「今、私達に出来る事は……ジュエルシードを封印して、被害の広がりを止める事……」

 

 杖を握る腕に力が籠るのが分かる。これ以上言葉は必要ないみたいだ。俺も、これ以上逃げてはいられないな。

 

 

 俺を縛っていた枷が1つ、外れた気がした。

 

 

「……イケるな?」

「うん! ユーノ君」

「な、何っ?」

「こういう時、どうすればいいの?」

 

 俺達の様子を窺っていたユーノは、急に話しかけられて驚いていたが、どもりながらも教えてくれる。

 

「えっと、分かっていると思うけど、封印するには近付いての封印魔法か、魔力による強制封印が必要なんだ。その為にはまず、元となっているジュエルシードを見つけなきゃいけない。でも、これだけ広い範囲に広がっちゃうと、どうやって見つけたらいいか……」

「元を見つければいいんだね!」

「なのは、俺の知覚能力を貸そう」

「え? 2人共?」

 

 枷が外れたおかげだろう。俺が持つ人より鋭敏な感覚をなのはと共有出来ると、『ユニコーン』が伝えてくる。なのはの肩に手を置き集中する。それだけで後は機体が勝手にやってくれる。

 

「これが、涼さんが感じている世界……! これなら!」

 

≪Area search.≫

 

 杖を掲げ探知魔法を発動させると、全方位に魔力で作られた端末、サーチャーが飛んでいく。

 

「ううっ、声が……」

「余計な声は聞くな。ただ、ジュエルシードのみを知りたいと願うんだ」

 

 やはり感情の波がサーチャーを通して頭に響いてくるのだろう。軽いアドバイスに加え、俺の方からも流入する波をある程度までカットする。

 

「焦るな、なのはなら出来る」

「うん………………見つけた!」

 

 目を閉じて集中していた彼女は不意に顔を上げると、ジュエルシードがあると思われる方向を見る。

 

「かなり遠いな……」

 

 感覚を共有している俺にも、大体の位置が伝わってくる。

 

「ううん、大丈夫!」

「……え?」

「レイジングハート!」

 

≪Mode change. Cannon mode.≫

 

 杖を砲撃形態に移行させると、足元にいつも以上に大きい魔方陣が展開する。

 

「まさか……長距離砲撃!?」

「そうか、俺の感覚となのはの砲撃があれば!」

「その通りなの!」

 

 杖の排気口付近から魔力翼を広げ、補助バレルとして魔力リングが幾重にも展開される。

 

≪Divine Buster.≫

 

「シュート!」

 

 放出された魔力は寸分の狂いもなく直撃し、ジュエルシードは強制封印される。それと同時に町中に生い茂っていた樹木が跡形もなく消え去る。

 

 

 

 

 

 

「封印、成功ですね」

「うん……」

「だけどな……」

 

 町は道路が罅割れ、いたる所の窓ガラスも割れている。しかし建物が倒壊するような被害はなく、探知の際に感覚で探ったが重症者もいなかったのが救いだった。

 

「ユーノ、治癒魔法は使えるか? 俺には適性が無いみたいなんだ」

「あ、はい、使えますけど……」

「なら、ケガ人を治療しに行くぞ。それが今俺達に出来る事だ。なのは、ユーノを借りるぞ」

「分かりました!」

「え、え?」

 

 俺と俺の肩に乗ったユーノを交互に見るなのはに言う。

 

「なのはが封印を頑張ったんだ。出来るだけの後処理は俺達に任せて、今日はもう家に帰って休むんだ」

「でもっ」

「なのは、僕からもお願い。後は僕たちに任せて!」

「うぅ」

 

 責任感の強すぎるなのはの事だ。分かってはいても、素直に頷けないのだろう。しかしこれ以上渋られても困るので、少々強引にでも納得してもらおう。

 

「さっきも言っただろう、出来る事をやるって。補助用の治療はユーノにしか出来ないし、魔法隠蔽の為の記憶処理は俺にしか出来ない。今のなのはに出来る事は、ゆっくりと休んでジュエルシードの発動に備える事。だから、ここからは俺とユーノに任せて欲しいんだ」

「……分かったの」

「よし、それじゃあ家まで送ろう」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 なのはを家に送り届けた後、サーチャーと俺の感覚でケガ人を探して治療して回ってる途中、ユーノが話しかけてきた。

 

「涼さん、ありがとうございます」

「ん? 何がさ」

「これまでジュエルシードを集めてくれたり、なのはを励ましたりしてくれた事とかです。それ以外にもたくさん……」

 

 2人になるこのタイミングで言って来たってことは、なのはには聞かれたくなかったのか? いや、多分なのはの前で言ったら気にしてしまうからか。

 

「あー、まあ、俺達の中じゃあ俺が1番年上だし、2人を支えて引っ張っていかなきゃいけない、とか考えてるところがあったから、あんまり気にしないでくれよ」

「……やっぱり、涼さんはカッコ良くて頼りになりますね」

「は、え? いやいや、いきなり何言ってんのさ!?」

 

 急に自分の事を褒められたら誰でも驚くに決まってる。一度腰を落ち着けて話す為、何処かのビルの屋上に降り立つ。

 

「いきなりじゃないですよ。初めて会った時からです。犬の暴走体の時も巨人の時も今日のなのはの事だって……」

「……よしてくれよ。はっきり言うけどな、最初は義務感で助けていたんだぞ?」

 

 ユーノを肩から下ろして正面から向き合う。この際もう全部話してしまった方が楽だと思うから吐き出そう。

 

「俺が魔法を知ったのは、なのはよりほんの少し前の事だ。その時父さんからこの『ユニコーン』を託されたんだ」

「え、それじゃあ……?」

「ああ、その時に父さんも……な」

 

 ふと思い返せば父さんが死んだ時の光景が出てくる。だけど、今俺が言うべき事はその事ではない。

 

「まあそれで、魔法の『ま』の字も知らなかった奴が魔法を知って、強大な力を持てば、どうなるか分かるだろう?」

「はい……」

「もちろん誇示したいって思いもあった。だけど、俺はそれ以上に父さんから託されたこの力を、正しい事に使いたかった。小さい頃からさんざん言い聞かされてたからな。力は振りかざす物ではない。私利私欲の為に振るうソレは、ただの暴力だ……ってな」

「いい、人だったんですね」

 

 ホントに、超が付くくらいイイ父親だよ。

 

「だから最初は義務感だって言ったんだ。俺は力を持ってるんだから、助けないとってな。でも今日、町が滅茶苦茶になったりケガをする人を見て分かった。コレはそんな上辺だけの気持ちで関わっちゃいけない事なんだって」

 

 ジュエルシードを探している時、サーチャーを通して入ってきた感情。恐怖を感じてしまったのだ。

 

「それでも、俺は逃げない。逃げたくない。色んな理由があるけど、1番強い想いは、守りたいんだ。この町や、人を」

「涼さん……」

「義務感なんかじゃない。俺は、俺の意思でジュエルシードを集める。ユーノ、これからもよろしく頼む」

「はい……はい! 僕の方こそ、よろしくお願いします!」

 

 お互いに改めて決意を固めあう。

 

「じゃあまずは敬語をやめようか。いつもなのはと喋ってる時と同じ感じで話してくれよ」

「え、いいんですか? ああっ、違う。い、いいの?」

「ああ、俺達は仲間だろ? なら敬語なんか必要ないさ」

 

 言って、ユーノを肩に乗せる。

 

「さあ、他にケガ人が居ないか探しに行くぞ!」

「はい! ……じゃなかった。うん!」

 

 最後はちょっと締まらないなぁ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 家まで送ってくれた涼さんを見送ってから家に入る。

 

「ただいま~」

 

 そんなに大きな声ではないけど、耳聡く聞きつけたお父さんが走り寄ってくる。

 

「おかえりなのは。町の方で何か騒ぎがあったみたいだけど、大丈夫だったかい?」

「うん、大丈夫だよ。危ないみたいだったから、早めに帰ってきたの」

「そうか。ならもう今日は家でゆっくりしてるんだぞ。なんか疲れているみたいだしな」

 

 ありゃ、やっぱりお父さんは凄いの。

 

「うん、お父さんはこれから出るんだよね?」

「ああ、もう一仕事、頑張ってくるよ。それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃ~い」

 

 

 

 それから部屋に戻って着替えて、ベッドに倒れこむ。

 

「はぁ……」

 

 一息吐くと、今日の出来事が思い起こされる。サッカーチームの男の子がジュエルシードを持っていた事、発動したソレが町を滅茶苦茶にしてしまった事。そして、涼さんの感覚でジュエルシードを探している時に感じた強い恐怖。あれが何より私自身を責める。

 

「私は……なんで……」

 

 考えれば考える程後悔の渦に嵌っていく。膝を抱えてひたすら自問自答してしまう。

 

≪Master.≫

 

 それを遮ったのは相棒のレイジングハートだった。机の上に敷いたハンカチの上に載っている相棒に視線を向けると、チカチカと点滅しながら声を掛けてくる。

 

≪あなたは、あの時点で出来る最大限の行動を取りました。それではいけないのですか?≫

 

「そうだけど……それより前に何とか出来たかもしれないって思うと……」

 

≪起きてしまった過去は変えられません。故に『彼』が言う、今あなたに出来る事とは後悔ではなく反省し、ソレを明日以降の活動に活かす事です。違いますか?≫

 

 相棒の言葉は私の考えている事に対して的確に反論してくる。そうしなきゃいけないってことも分かる。でも、どうしても考えてしまう。

 

「違わない、違わないよ。けど!」

 

≪なら何故逃げているのです≫

 

「逃げてなんかっ!」

 

≪いいえ、今のあなたは逃げています。心の何処かでこう考えている筈です。こうして塞ぎ込んでいればその内『彼』が何とかしてくれると≫

 

「っ!!」

 

 分かってた。こうしていれば彼……涼さんが私の事を優しく励ましてくれるんじゃないかって。こうしていれば、その内ジュエルシードを全部集めてくれるんじゃないかって。

 だって彼は強い。いつもリーダーシップを発揮して私とユーノ君を引っ張ってくれたり、時には隣で支えてくれたりと、助けられてばかり。今日だってあの感覚の持ち主である彼が感じた恐怖の感情は私の想像以上に決まってる。なのに自分の事より私達の事を優先して励ましてくれた。

 だから、きっと私が居なくても何とかしてしまうんじゃないかって。私が……『いらない』んじゃないかって。

 

≪あなたは『彼』が1人で何でも出来るとお思いでしょうが、それは違います≫

 

「えっ?」

 

 思っている事を言い当てられたのと、直後にそれを否定されたことで素直に聞き返してしまう。

 

≪『彼』にも出来ない事はあります。その最たるモノがあなたには分かる筈です。『彼』はいつも、あなたに何を頼んでいますか?≫

 

 私に出来て涼さんに出来ない事……? いつも私に頼む事といえば……。

 

「……封印?」

 

≪その通りです。『彼』にはあなたのように長距離封印魔法を使えませんし、ジュエルシードを通常封印する事も難しいでしょう。出来て未発動の上に簡易封印処理を施せるレベルでしょう≫

 

「私に出来る事……」

 

≪あなたは『彼』と同等かそれ以上の魔法の才能をお持ちです。あなたにはあなたの、『彼』には『彼』の役割があります。今のあなたには何が出来ますか?≫

 

 今の私に出来る事は……。

 

「今日みたいな事が起きないように努力する事……」

 

≪答えは出たみたいですね≫

 

「レイジングハート……。ありがとう」

 

 色んな想いを籠めて、相棒にお礼を言う。

 

「ユーノ君が帰ってきたら、言いたいことがあるの。だからもう少しだけまってて!」

 

≪All right.≫

 

 最後にいつものように淡白な一言で会話を終える。なんだかんだで私の想いに応えてくれる、大事な大事な相棒。本当にありがとう。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 あれから30分程すると、部屋の窓からノック音が聞こえた。ふと窓の外に目を向けるとギョッとした。2階の部屋の窓の外に、白い一本角……涼さんが居れば普通ビックリするに決まってる。窓を開けると腕を伝ってユーノ君が部屋に入ってきた。足を拭くのは忘れない。

 

「え、えっと、おかえり?」

「ただいま、なのは」

「あれ、元気になってる」

 

 さっすが涼さん。一目見ただけで分かっちゃうみたい。

 

「あの、涼さん、ユーノ君。聞いて欲しい事があるの」

「なのは?」

「……分かった。ここで……良くないか」

「えっと、ここから入ってもいいよ」

「あー、おじゃまします」

 

 飛行魔法を上手く調整して窓枠にぶつからないように入ってくると、バリアジャケット(?)のユニコーンを解除する。靴は格納領域っていうところにしまったみたい。

 

「で、話って何かな?」

「うん、えっとね、今日の事を考えていたんだけど、レイジングハートに色々言われたの。それでね、私決めたの!」

 

 1度深呼吸して、レイジングハート、涼さん、ユーノ君の順番に見渡す。涼さんを見ていた時間が長かったのは気のせいなの。

 

「私、逃げない。私のせいで誰かに迷惑をかけるのは嫌だから。私は私に出来る事をする。自分なりの精一杯じゃなくて、本当の全力で。ユーノ君のお手伝いじゃなくて、私の意思でジュエルシード集めをするの。もう絶対、今日みたいな事にならないように」

「なのは……」

「そうか。もうユーノには言ってあるけど、俺からも。」

 

 涼さんは居住まいを正すと、私たちを見渡す。

 

「俺も、もう逃げるのはやめる。力を持っていても何も出来ないのは悔しいから。俺に出来る事を全力でやり(とお)す。この町や人を、みんなを守りたいから。だから、これまでも、これからも、よろしくお願いします!」

「私からも。これから、よろしくお願いします!」

「うん、僕からも、よろしくお願いします!」

 

 レイジングハートはクールにキラリと光って応える。

 

「これからは今までみたく、軽い気持ちじゃない。本当の本気、全力全開でジュエルシード集めをするんだ、頑張るぞ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

 

 

 

 

 

≪おー≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが私達が改めて団結した日の事でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはー? 誰か来てるのー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あ゛」」」

 

 おう……お姉ちゃん…………。




 如何でしたか?

 今回はなのはと涼と、ついでにユーノが覚悟を決めて、レイジングハートを含めた四人(?)が改めて団結しました。

 レイジングハートってこんなに喋らせていいのかなぁ。と思いつつも、喋らせました。


 


 次回、言い訳。

 お楽しみに……してくれると嬉しいです。

 ではまた。


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一角獣は苦労性

 こんばんは、牡蠣です。

 前回以上に更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。


 それでは第9話をどうぞ。


 拙い。テンションを上げて音頭を取ったら眼鏡を掛けたお姉さんが来てしまった。

 

「えーっと……どちら様?」

「あ、俺はなのはの友達の浜寺涼って言います。お邪魔しています」

「ご丁寧にどうも……。なのはの姉の高町美由希(みゆき)です」

 

 お兄さんのようななのはに近付く男は○す、みたいなタイプじゃなくて良かった。押しに弱そうな感じがするな。申し訳ないけど、ここは押し通させてもらおう。

 

(なのは、ここは俺に合わせてくれ。ユーノ、喋るなよ)

((は、はい!))

 

「実は今度なのはとアリサとすずかの3人に混ぜてもらうんですけど、その時何かお土産とか持って行ったらいいかなーって思ったんですよ。それでその事を相談してて、ちょうど話が纏まったところなんです」

 

 素早くなのはに目配せ。

 

「え、あ、そうなの! 今度の日曜日のお茶会の前の土曜日に、涼さんとお買い物行く事になったから!」

「お、おお、そうなんだ」

 

 あ、本当に3人で集まる予定だったのか。よし、いい感じに押せているぞ。このままなぁなぁにして早く帰らないと、例のお兄さんが来てしまうかもしれない。

 

「それだけ話しに来ただけだから、あんまり長居するのも悪いし帰ります」

 

 美由希さんが呆気にとられている間に、さっさと帰らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、そう言わずに…………なぁ?」

 

 

 

 

 

 

「あっ」

「美由希さん!? 『あっ』って何ですか『あっ』って!? ちょっと待って下さいなのはのお兄さん!」

 

 あ、やばっ! 今この人の逆鱗に触れたぞ!?

 

「ほう、なのはを呼び捨てとは、お兄さんとはいい度胸じゃないか。ちょうどこれから鍛錬しようと思っていたんだ。君も一緒にやろうじゃないか、ええ?」

「」

 

 フェイト、俺を守ってくれ……。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「スズ……?」

「どうしたんだい、フェイト?」

「ううん、なんでもない。スズがくれたシュークリーム、おいしいね」

「ああ、スズって奴はホントにイイ奴だねぇ……」

「うん!」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 あれからなのはとユーノの不安気な視線と美由希さんの憐みの視線に見送られ、引き摺られるようにして道場まで連れて行かれた。

 そこで待っていたのは鍛錬という名の地獄だった。竹刀を渡され、ひたすら打ち込まれ続けるだけの、単純故に非常に辛い時間。

 何だよアレ。俺は魔法で動体視力とか身体能力を底上げしていたのに竹刀が見えないって……。見えないから『カン』に頼って防ぎまくった。

 それがいけなかったのだろう。お兄さんがムキになって襲いかかってきた。しまいには俺の竹刀が弾けた。そう、折れたのではない、弾けたのだ。それにも関わらず打ち込んでくるお兄さん。仕方ないので限界まで全身に魔力を巡らせて、襲ってくる竹刀と木刀を受け流し、弾き続けた。

 ん? 木刀……? 俺木刀とか素手で捌いてたのか……。そりゃお兄さんも変な雰囲気になる筈だ。

 最終的に体力が無くなった俺の脳天に竹刀の一撃が入り、意識を失う事で鍛錬(?)は終了したらしい。何故らしいかというと、高町家のリビングにあるソファの上で目を覚ました後に聞かされたからだ。お兄さんはなのはにこってりと絞られた様子であった。

 

「フェイト……俺は生き残ったよ……」

 

 

 

 

 

「ごめんねぇ、恭也(きょうや)が迷惑掛けたみたいで」

 

 今俺の目の前にいるのは、なのはの母親の高町桃子さん。パッと見でなのはのお姉さんだと思ってしまった俺は悪くない筈。

 

「ああ、いえ……」

「それにしても、なのはに男の子の友達が出来るなんて、これはもしかして~?」

「もしかするかも~?」

「もう、お母さんもお姉ちゃんも変な事言わないでよぉ!」

 

 あの、ホントにやめてくれませんかね……。恭也さんの目が、目が……。

 

「あの、俺そろそろ帰りますんで」

「いやいや、待ちたまえ。今日はウチで夕ご飯でもどうかな?」

 

 突然後ろから声を掛けてきたのは、えっと……父親?

 

「あ、あなたは? 俺は浜寺涼です」

「なのはの父親の高町士郎です。なのはと知り合った経緯とか含めて、色々聞きたい事があるんだ」

 

 この人もか……。軽く肩に手を置いてるように見えても、全く立ち上がれないってどういう事だ。

 

「あー、はい、分かりました。えっと、本当にご馳走になってもいいんですか?」

「ええ、1人くらい増えても全然大丈夫よ。それにウチの家族全員、なのはと涼君の関係が気になるからね~」

 

 そうだよな。小学生と中学生が知り合うとかおかしいもんな。

 

「……わかりました。今夜はご馳走になります」

「涼さん、いいの?」

 

 どうやら家族には魔法については隠しているのか、困ったような視線を向けてくる。ふむ、ここは念話で言葉の裏も伝えとくか。

 

「なのはが気にする事じゃないさ」

(大丈夫だよ。魔法については上手く隠して話すからさ)

 

「涼さん……」

 

 あ、でもその頼もしそうな視線はやめてほしいかな。背後の圧力がヤバいから。

 

「あら~、見つめ合っちゃって~」

「なんとなくただの友達じゃないのは分かってたけど、ここまでとはねぇ~」

 

 桃子さんと美由希さんが俺となのはを見比べてニヤニヤしている。……これってもしかして男女的な意味で勘繰られているのか?

 

「そ、そんなんじゃないってばぁ!」

「なのは、こういうのはムキになって反論するから駄目なんだ。さらっと受け流さないと」

「うぅ、納得いかないけど、分かったの……」

「「ニヤニヤ」」

 

 でもこの生暖かい視線と、背後の威圧感はキツいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 結果から言えば、何とかなってしまった。いや、この場合うやむやになったと言うべきか。

 家に連絡しなくて大丈夫かと聞かれた時に、両親が居ませんと素直に答えてしまったが為に変な空気になったのが理由だろう。

 知り合った経緯も、聖祥大付属繋がりという事で納得はしたみたいだ。俺が悪い意味で噂になってると聞いた時の士郎さんと恭也さんは本気で怖かった。

 

 

 

「それじゃあ俺は帰ります」

「いつでもウチにいらっしゃいね」

「桃子さん……。ありがとうございます」

 

 試作とはいえ、店で出そうと考えているケーキまでいただいてしまった。

 

「君はちょっと変わっているけど、とてもいい子だというのは分かった。これからもなのはの事、よろしく頼むよ」

「はい、士郎さん」

 

 なのはのお父さんに認められてしまったのが謎だが、悪い印象を持たれなかったので良しとしよう。

 

「道場ではすまなかった。だが涼、お前はスジが良いから鍛えれば強くなれる。今度鍛錬しに来てくれれば、私情抜きで鍛えよう」

「はい、近いうちに行かせてもらいます」

 

 恭也さんはなのはが絡まなければいい人だという事が分かった。それに鍛えたかったので、これは渡りに船だ。

 

「いや~、どうなるかと思ったけど、何とかなって良かったよ」

「いやいや、美由希さんが最初に恭也さんを止めてくれれば、俺が痛い目を見る事無かった筈ですよ……」

 

 なんだろう、高町家の中で美由希さんが1番ちゃっかりしてる気がするぞ。

 

「涼さん! また来てね!」

「分かったよ。ああそうだ、俺の家と携帯の電話番号教えておくよ」

 

 いつもは念話で済ませがちだったので、普段の連絡手段として番号を書いた紙を渡しておく。

 

(念話はこうやって内緒話する時と、緊急時だけ使うようにしような)

(うん、分かったの!)

 

 良く分からないけど、一緒に食事してる時からずっと満面の笑顔のなのは。まあずっと落ち込んだままよりはいいか。

 

「お邪魔しました」

 

 一礼して家を後にする。

 

 

 

 さて、帰ったら『ユニコーン』について調べなおすか……。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「アルフ、行くよ」

「あいよ!」

 

 スズから特別な事情でもない限り昼間は魔法を使ってはいけないと言われたので、日が沈むのを待ってから夜の街の上空を飛ぶ。

 そういえば、何でスズは魔法の事を知ってるんだろう? あんまり意識していなかったけど、もしかしたら管理局と繋がっていたり……ううん、スズはあの組織の人間じゃない。次に会う時、聞いてみよう。相手の話を聞かずに決めつけるのは良くないってスズが言ってたし。

 

「ジュエルシードの反応は?」

「この先の山からだよ。発動はまだしてないけど、危ないかもしれないから早めに封印しちまおうよ」

「うん、そうだね。この町の人たちに迷惑は掛けられないから」

 

 私の少し後ろを飛ぶ使い魔のアルフは、どことなく嬉しそうに頷いて私に合わせて速度を上げる。

 

 

 

 

 

 

 ジュエルシードの封印は特に苦も無く終わった。周囲の魔力を取り込んで、後もう数分もしないうちに発動する寸前だったので助かった。

 念のために周囲に走らせていた探知魔法を打ち切って、一旦拠点のマンションに戻る。

 

「これで、3つ目……」

「イイ感じだね」

 

 スズから貰ったモノ、探索で見つけたモノ、先程封印したモノ。まだこの地に足を踏み入れてから一週間もしない内に、これだけ集められたのは十分な成果だ。

 

「残りは18個、出来れば全部集めたいところだけど、この町に他の魔導師がいるみたい」

「ああ、発動した筈のジュエルシードの反応がすぐに消えるわけないからね」

 

 管理局に見つかるわけにはいかない。もしその魔導師が局員だった場合、倒してでも奪わなければ……。

 

「早く集めなきゃ……」

「フェイト……」

「それに、この町にはスズも住んでるんだ。早く集めて安心させてあげないと……」

「フェイト……!」

 

 使い魔として繋がっている精神リンクから、アルフの嬉しいという感情が伝わってくる。何が嬉しいのか分からないけど、彼女が嬉しいと私も嬉しい。

 

「まだ探索を続けるけど、アルフは大丈夫?」

「ああ! アタシはまだまだイケるよ!」

「なら、さっきとは反対の方を探そう。バルディッシュ」

 

≪Yes sir.≫

 

 私の相棒に声を掛けて、探知魔法を発動させる。そのまま周囲を走らせながら、夜の空に飛び立つ。

 

「さあ、行こう」

「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 あの時以来入る事の無かった土蔵に足を踏み入れる。分かってはいたけど、ここに来ると気分が重くなる。

 

「転送ポートは…………使えないか」

 

 軽く調べるが、うんともすんともいわない。諦めて他に何か無いか調べる事にすると、本棚にある本の1冊が点滅しているのに気が付いた。

 

「入った時は光って無かった筈……」

 

 恐る恐るその本を手に取ると、俺の手を離れ転送ポートの中央に飛んでいく。そしてひとりでにあるページを開くと、映像が流れだした。

 

「……これを見ている頃には、俺はもうこの世には居ないだろう。そして涼、お前の元には『ユニコーン』があると思う」

「と、父さん!?」

 

 立体映像だと分かっても再び父さんの姿を見れたことに、驚きと喜びを隠せない。

 

「あらかじめ言っておく。これは録画した映像だ。その事を踏まえて、喋らずにコレを聞いて欲しい」

 

 思わず色々聞いてしまいそうになる衝動を堪えて、続きを見る事に専念する。

 

「1つ、この映像の流れる条件は、『ユニコーン』の最初の枷が外れるという条件になっている。2つ、他の枷が外れる事で解禁される映像がある。3つ、映像ごとに外れた枷に対応する能力の解説をする。主な内容はこの3つだ。という事で、まずは能力について解説をしよう。

 今回解放された能力は、感覚共有、クロッシングと言われる能力だ。感覚という言葉で分かると思うが、涼、お前の持つ特殊な感覚。相手の心や気配等を読む力を、触れた者と共有する能力だ。共有と言っても、どこまで共有するかはお前次第だ。

 フルに共有すれば相手もお前と同じ感覚を使えるが、聞こえすぎた声に心をやられる場合がある。気を付けろよ」

 

 クロッシング、か。良く分からないけど、この力にも色々と問題がありそうだ。

 

「次に、何故枷なんてモノがあるかだ。これはお前の実力や精神が十分でない場合、枷の無い『ユニコーン』が暴走してしまう事態を防ぐ為だ。ここまで言えば分かるだろう」

 

 過ぎた力は身を滅ぼすってヤツか。

 

「ああそれと、全ての枷が外れた時、『アルハザードへの道』が示される。お前の事だ。きっとその頃には力の使い方を間違えない人間になってるだろう」

 

 ん!? さらっと言ったけど、それって1番重要な事だろ!?

 

「…………俺達の一族の運命なんかに巻き込んでしまってすまない。だが、これだけは分かって欲しい。運命に負けるな。可能性は無限だ。諦めない限り、道はどこまでも続いていく」

「……ああ! もちろんだ!」

「1冊目の映像はこれで終わりだ。次の映像で会おう」

 

 その言葉の直後光と映像が消え、本は地面に落ちる。それを回収して、元にあった場所へ戻す。

 

「なんか最後まで父さんらしい映像だったな」

 

 久しぶりに父さんの喋っている姿を見て、少しだけ心が楽になった気がする。

 

「とりあえず、鍛えろって事だろ? やってやろうじゃないか」

 

 土蔵を出ると深呼吸をして、気合を入れなおす。

 

「『ユニコーン』、俺がお前の乗り手として相応しくなるまで、よろしく頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よろしくという意思と、少しだけ『ユニコーン』も嬉しそうなのが伝わってきた。





 今回は高町家との交流とフェイトの現状、『ユニコーン』の追加能力の解説でした。


 次回の投稿はあまり遅くならないよう、頑張ります。


 ではまた次回。


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魔法少女の心

 こんばんは、牡蠣です。

 今後は大体2~4日くらいの間隔で投稿していこうかと思います(ばらつき過ぎ)。



 では第10話どうぞ。


 昼間は学校に行って、放課後はなのはとユーノと一緒にジュエルシード探索をして、夜はシミュレーションでの戦闘訓練と基礎体力作りのトレーニング。この数日はこんなものだった。

 因みにフェイトは来なかった。そう、フェイトは来なかった。少々寂しかったが、彼女も彼女でジュエルシード集めをしているのだろう。ならば、またこの家を訪れた時に暖かく迎え入れるだけだ。

 後、なかなかジュエルシードが見つからない事に、なのはが焦りを見せていたのが気にかかる。これはしっかりと俺がフォローしなければいけないな。

 

「なのはー、こっちこっち」

「あ、涼さん、こんにちは!」

 

 今日は土曜日。約束していたなのはとの買い物をする為に町へ出ている。待ち合わせは11時に海鳴駅と決めてある。俺がなのはの家まで迎えに行っても良かったのだが、どうしても待ち合わせがいいと言っていたので、こうして待っていたのだ。

 尚、ユーノは留守番になったみたいだ。

 

「随分早いな。まだ15分も前だし、もっとゆっくり来ても良かったんだぞ?」

「ううん、待ち合わせの前に来るのは基本なの! それよりも、涼さんは早すぎるの。もしかして待ってたの?」

 

 あー、こういう時は何て言うんだっけ? ……ああ、そうだ。

 

「いや、ついさっき来たばかりだよ」

「そ、そうなんだ……」

「ちょっと早いけど、行こうか…………なのは?」

「ふぇっ!? な、何でもないの! い、行こう、涼さん!」

 

 なのはを見ると、両手で頬をぐにぐにとこねくり回していた。声に反応するとすぐにやめたが、口元が歪んでいるのが見え見えだ。

 やっぱりさっきのは気障ったらし過ぎたか? いや、嫌がっている様には見えないし……うーん、難しいな。『感覚』に頼るのも間違いだろうし、このままで大丈夫だろう。

 

「あんまりはしゃいで転ぶなよ?」

「むぅっ、そんなに急に転んだりは……きゃあっ!?」

 

 言ったそばから転びそうになるなのは。幸い距離は離れていなかったので、彼女の身体の前に腕を回す形で受け止める。

 

「言わんこっちゃない。魔法が絡まないと、運動の方は駄目みたいだな」

「あうぅ……」

「大丈夫か、顔が赤いぞ? もし体調が悪いなら、今日は帰った方が……」

「だ、大丈夫! 大丈夫だから、気にしないで!」

「そうか。それならいいんだ」

 

 心配したんだがこんなに威勢よく返されれば、気にしなくても良さそうだな。無理もしてないみたいだし。

 

「ほら、転ばないように手、繋いでおこう。それに今日の服は膝出てるんだから、気を付けるんだぞ」

「え、あっ!」

 

 改めてなのはを見ると、白い膝丈のシンプルなワンピースに薄桃色のカーディガン、肩掛けのポーチと実に春らしい出で立ちだ。どう贔屓目に見ても十二分に可愛らしいい。

 あ、これって声に出した方がいいんだっけか。

 

「なのは、服、良く似合ってて可愛いぞ」

「あっ……うん!!」

 

 良かった、笑顔になってくれた。今日は疲れ気味のなのはの心を休める日でもあるから、楽しんで貰わないとな。

 

「さあ、行こうか。まずはちょっと早めに昼ご飯を食べに行こう」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 一緒にご飯食べて、色んなお店を回って、小洒落たカフェで休憩して、またお店巡りをして……。アリサちゃんやすずかちゃんとのお茶会や家族でのお出掛けとも違う、なんていうか……ちょっぴり大人になった気分。とっても楽しくて、とっても心地がいい。それは多分、今も私の手を握ってくれている涼さんが居るから。

 何でだろう? 涼さんとはつい二週間程前に出会ったばかりなのに、こんなにも安心出来ちゃう。心の何処かで感じてた『ズレ』が無くなっていくような感覚。錯覚だと言われるかもしれないけど、今感じているこの『感覚』だけは手放したくない。

 

「……ん? どうかしたのか?」

「うぅん、何でもないの!」

 

 私以上に『感覚』が鋭い涼さんは、視線に気付いて気遣うように声を掛けてくれる。たったそれだけで嬉しくなる。お友達にも、お父さんやお兄ちゃんにも感じない不思議な『感覚』が身体中を駆け巡る。

 

「そうか。なら次は何処に行こうか? 明日の差し入れは買ったし、なのはの好きな所でいいぞ」

「えっと……海鳴公園!」

「分かった。それじゃ行こうか」

 

 2つ返事で頷いてくれる涼さん。でもその前に。

 

「あ、えっと……」

「! 荷物は全部持っててあげるから、行っておいで」

「あ、ありがとう」

 

 察しがいいのは嬉しいけど、こういう時は複雑な気分なの……。

 

 

 

 

「お待たせ~。じゃあ行こう?」

「ああ」

 

 お手洗いから戻ると涼さんが右手を差し出して、私はそれを左手で握って二人揃って歩き出す。特に何も無ければずっと手を繋いでいたから、自然と出来ちゃう。その事に気付いてまた嬉しくなる。多分、ううん、絶対涼さんはただ私が転ばないように心配してくれてるだけなのかもしれないけど、それでもいいの。今こうしていられるだけで幸せだから。

 

 

 

 

 

 

「おお、ちょうどいいタイミングで来れたな」

 

 私達が海鳴公園に着いたのは、夕日が海に反射してキラキラと光っていて、私が1番好きな海の時間。

 

「うん、何回見ても綺麗なの」

「そこのベンチに座ろうか。……はい、ここに座って」

「ありがとう、涼さん」

 

 涼さんがポケットから出したハンカチを私の座るところに敷いてくれる。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 しばらく海を静かに眺めていると、不意に涼さんが話し掛けてきた。

 

「今日、楽しめたか?」

「うん、もちろん! とっても楽しかったよ!」

「そうか……」

「うん」

 

 それだけ言って会話が途切れる。

 

「…………」

「…………」

「……ここ数日さ、ジュエルシードが見つからなくて焦ってたろ。だからさ、どうにかして心を休めてくれればいいと思ってたんだ。楽しんでくれて良かった」

 

 そうだったんだ……。確かにあの町のジュエルシード以来、1個も見つからないからもっと頑張らなきゃって思ってたけど、涼さんには全部分かってたみたい。

 

「もちろん、今日は俺も休もうと思ってたし、楽しかったぞ? なのはみたいな可愛い子とデートも出来たしな」

「ふぇっ!? え、あ、いや……うぅ……」

 

 あうぅ、夕日とあんまり見せない笑顔と一瞬だけ強く握った手の組み合わせは卑怯なの!! ふぇぇ、顔が熱いの……。

 

「うぅ~、じょ、冗談は嫌いなの……」

「あ、ああ、すまない。困らせるつもりは無かったんだ。えぇと、どうしよう、どうすればいい……?」

 

 本当に冗談だったみたい。本気だったら良かったのに……なんて思っちゃう私に、私自身驚いてる。だけど結構本気で困り気味の涼さんの様子で、顔はまだ赤いままだけど少し落ち着いたの。

 

「じゃあ少しの間こうさせてっ」

 

 言って、涼さんに寄り掛かる。テレビで見るようなカップルみたいに肩に頭を預けられはしないけど、これはこれで満足できるから別に気にしない。

 

「私、今日1日一緒にいて本当に楽しかったの。一緒にご飯食べて、一緒に服を見たり、一緒に同じものを見て、涼さんと一緒だったから……」

 

 あぁ…………そうなんだ、これってもしかして……。

 

「……なのは」

 

 ……優しい声音なのに、不安に駆られる。

 

「な、何?」

「その気持ちは、まだ表に出しちゃいけないモノだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は涼さんの手を振りほどいて立ち上がっていた。

 

「ま、まだ何も言ってないのっ! 涼さんが人の心をなんとなく読めるのは知ってるよ? でも、でも、この気持ちを出しちゃいけないって……!」

 

 自分を否定されて、まるでこの気持ちを『いらない』と言われた気がして、声を荒げてしまう。

 

「私は、私はっ!」

「聞いてくれ、『なのは』」

「うぅっ」

 

 だけど重圧すら感じるくらいに強く心を籠めて私の名前を呼んでくれた事で、少しだけ冷静さを取り戻せた。

 

「言い方が悪かった。出しちゃいけないモノなんかじゃない。『まだ出すべきではないモノ』だ」

 

 分かりやすく力を籠めて言ってくれるけど、まだ理解出来ない。

 

「感じてしまったから正直に言うが、気持ちと言うモノはその場の勢いで出すべきでは無い。植物で言えば、それはまだ種から出たばかりの『芽』だ。ここまでは分かるな?」

「うん……」

 

 丁寧に教えてくれたから分かる。気持ちは、心は……。

 

「つまり気持ちは植物と同じで、乱暴に扱ってはいけない。ゆっくりと、多くの時間をかけて育てるものだ。もし乱暴に扱ってしまったら、壊れて元に戻らなくなってしまう。気持ち……心が壊れるのはとても痛いんだ。痛くて、辛くて、心がこんがらがってそこで時間が止まっちゃうんだ。

 よっぽど心の強い人でもない限り、あの時ああしていればこうしていればっていう、後悔の念に囚われてしまう。そんな思いをなのはにはしてほしくないんだ」

「涼……さん……」

 

 涼さんの手が私の手に触れ、涼さんの『感覚』を共有する。何で理解出来るか分からないけど、分かってしまう。感じてしまう。

 私よりも小さい頃の涼さんが、制御の利かなくなって暴走した『感覚』を通して受け取った、黒く醜い感情の波に飲み込まれてしまった時の事を。

 

「なのはの気持ちは、好意は凄く嬉しい。でも、その気持ちはまだ、芽生えたばかりのモノ。もしかしたら友情に育つかもしれない。いや、恋情に、愛情に、憧れにも、尊敬にも育つかもしれない、色々な『可能性』の塊なんだ。

 だから今はまだ駄目だ。その気持ちを心に抱いて、大事に、大切に育ててほしいんだ」

「涼さん、涼さんっ」

「ごめん……。けど、『感覚』を共有してでもなのはには知っていてほしかった。だから、今はこれで許してほしい」

 

 涼さんが私の手を引っ張り、そのまま抱きしめられる。30cm近い身長差があって、私の頭がちょうど彼の胸に収まる。

 

「うん、うんっ」

「辛い『感覚』を与えてすまない。今だけは泣いてもいいんだ」

「涼さん……うぅ、うわぁぁぁぁぁぁん!!」

「ごめん、ごめんな。大丈夫、俺はここにいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 あれから泣き止んでベンチに座りなおした頃には、すっかり日も暮れて街灯が点いていた。

 

「……大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ……にゃはは……」

 

 笑って返そうと思ったけど失敗しちゃったの。

 

「本当に、ごめんなさい」

 

 急に立ち上がって、深々と頭を下げて謝ってくる涼さん。

 

「頭を上げてよ、涼さん。私はアレを感じた事を後悔はしてないし、むしろお礼を言いたいくらいなのっ。……ありがとう」

「なのは……」

「それに少しだけど、涼さんの事を知る事が出来たし……ね? 私は大丈夫!」

 

 今度こそちゃんと笑って伝えられたから、大丈夫。

 

「そうか。……そうか」

「うん! それと涼さんの言う通り、私の涼さんへの気持ちは大切にするの。だけど、いつまでも私の事を、自分よりも年下の妹みたいな女の子だって思ってると、痛い目を見るからねっ」

 

 私は私に出来る精一杯の大人っぽい笑顔を魅せる。

 ふっふっふ、一瞬だけど見惚れてたのは見逃さなかったの!

 

「それじゃ、帰ろう?」

「ああ、いつまでも居たら補導されるからな」

 

 私達はどちらからともなく手を繋いで公園を後にする。

 

 

 

 

 

 

 家に帰ってから、私の涙の痕を見たお父さんとお兄ちゃんの様子がとっても怖かったです。ちゃんと説明したから大丈夫……だよね?

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 なのはに俺の辛い記憶を見せて罪悪感に(まみ)れていたら、一瞬だけとはいえ、彼女の蠱惑(こわく)な笑顔に魅せられてしまった。

 

「うわぁ、拙い。頭から離れない……」

 

 彼女を引っ張っていたつもりが、実は操られてましたとか笑えないぞ……。あれは、あの雰囲気は拙い。確実に夢に出るぞアレ。

 

「……早く帰ろう」

 

 明日はまた別の約束があるから、寝坊しないように気を付けよう。そう思いながら家に帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、スズ」

「フェ、フェイト……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、お邪魔してるよ」

「!? …………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰るとフェイトとオレンジ髪のお姉さんが居ました……。どういう事だよ……。




 何だかだんだんとなのはのキャラがブレてきている気がしなくもないです。
 なのはが成長してるってことで…………駄目ですよね。

 頑張ります!


 ではまた次回にて


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一角獣と少女達

 こんばんは、牡蠣です。

 何とか宣言通り4日以内に投稿出来ました。



 それでは第11話、どうぞ。


 家に帰ったらフェイトが居るなんて、つい1週間前を彷彿とさせる展開だ。だがその隣のお姉さんは誰だよ。

 ……あ、もしかしてアルフ? 呼び捨てでいいって言ってたけど、こんなに年上の人だとは思わなかったぞ。一応敬語使っておこう。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてですね、アルフさん。スズです、よろしく」

「良く分かったね、アタシがアルフだって。それと敬語はいらないよ。ウチのフェイトがお世話になったんだ。逆にこっちが敬語使わないといけない筈なんだけどね、フェイトが普通に話した方がアンタが楽だって言うから」

 

 視線をフェイトに向けると、漫画を読んでいた顔を上げて俺達の様子を窺っていた。……それ買ったのか、家にもあったのにな。

 

「なるほど、じゃあアルフって呼ぶよ。遅くなったけど、よく来たな、2人共」

「うん、鍵の場所教えてもらってたけど、勝手に入って良かったの?」

「この前みたいに外で待たせるのも悪いだろうし、構わないぞ。部屋に荷物置いて来るから、そのまま寛いでてくれ」

 

 

 

 

 

「そう言えば夕飯食べたか? まだならウチで食べてくと良い」

「うん、食べていく」

「悪いね、ご馳走になるよ」

 

 茶の間に戻って2人に聞くと、フェイトは食い気味に、アルフは少し遠慮しながら食べていくと返事をもらったので台所に行こうとすると、背中から声を掛けられた。

 

「その前に1つ、聞きたいことがあるんだ。飯はそれからでも遅くは無いだろう?」

 

 ……魔法関連か。

 

「聞きたい事は、どうして魔法を知っているか……だろ?」

「そうだよ、話が早くて助かるよ」

 

 アルフの警戒が高まったのが分かる。いつでもフェイトを守れるよう、俺を攻撃出来るように備えているのがバレバレだ。

 ここはさっさとバラしてしまった方が正解か。

 

「父さんが遺してくれた知識だよ。魔法の知識はつい最近知ったばかりさ。正直に言えば、俺自身の魔力資質とか適性も大まかにしか知らない。これだけ言えば十分か?」

「嘘は……言ってないみたいだね。だけど分からないのは、一目見た時から感じてたその雰囲気さ。タダの一般人にしちゃ重すぎるプレッシャーじゃないか」

「あ、アルフ……」

 

 アルフの警戒が敵意に変わりフェイトが焦りを見せるが、俺がここで焦っては台無しになる。

 

「コレは生まれつきの力だよ。色んなモノを理解するっていうか……感じる力。コレのせいで普通の人には気味悪がられるんだけどな」

「……管理局は?」

「もちろん知ってる」

 

 即答した瞬間、アルフはフェイトの壁になるように立ち上がる。

 

「フェイト、やっぱりコイツは!」

「あ、アルフ待ってよ……!」

「知ってるだけだ。連絡手段の1つも持っていない。俺にあるのは魔法の知識と魔力だけだ」

 

 『ユニコーン』は明かせない。今の状況のまま『ユニコーン』装備の俺となのはとユーノに出会ったら、ロクな事にならないからな。

 

「…………」

「…………」

「ふ、2人共……」

 

 俺とアルフの睨み合いを、フェイトがオロオロしながら見守っている。

 

「2人には理由があって管理局に見つからないようにジュエルシードを集めているのは分かった。なら俺に出来るのはこれくらいだ」

 

 手の平にサーチャーを作って渡す。

 

「俺特製の常時展開型のサーチャーだ。俺が魔力の供給を止めない限り消える事は無いし、リンクすれば衛星型のビットとして自動で攻撃と防御をしてくれる」

「アタシ達に協力するって言うのかい?」

「そうだ。それにジュエルシードを封印出来なくても、探索は出来る」

 

 フェイトは嬉しそうにサーチャーを眺め回しているが、アルフは敵意は無くなったが少し悩んでいる。アルフもアルフで結構素直なんだな。もう少し押せば何とかなりそうだ。……まるで詐欺師みたいな思考だよな、コレ。

 

「俺が協力するのはフェイトの為だ。放って置けば自分の体調を無視して探し続けて、倒れるのが目に見えている。知ってしまったんだ、見てないフリなんか出来るもんか」

「スズ、アンタ……」

「私そんな無茶なんかしないよ?」

 

 不満気な声が聞こえたが、今は無視してアルフの言葉を待つ。

 

「……ハァ、分かった。一応信用はしてあげるよ。だけど、もしフェイトに危害が及ぶような事があれば……!」

「分かってる。手紙の事だって忘れちゃいないさ。安心してくれ」

「2人共聞いてる?」

「それならいいんだ。悪かったね、敵意なんて向けちまってさ」

「気にしてないよ。そういうのはもう慣れてる」

「ねぇってば」

 

 そろそろ放置もやめようとアルフに軽く目配せする。……よし、分かってくれたか。

 

「無視したのは謝る、今から美味い夕飯作るからそれで許してくれるか?」

「ごめんよ、フェイトからしたらそんなに難しい問題じゃなかったんだろうけど、アタシは心配だったんだ」

「……何か納得いかないけど、二人が私の事を心配してくれてたのは分かったから、もう気にしてないよ」

 

 ちょっと拗ねていたけど、すぐに機嫌を良くしてくれた。それどころか俺達の気持ちを感じたのか、嬉しそうにはにかんでくれた。可愛い。

 

「良かった。夕飯出来るまで待っててくれ。テレビ見ててもいいし、漫画読んでてもいいぞ。フェイトが読んでたやつならウチにもあるし、なんなら全部借りてってもいいぞ」

「ホント? ありがとう」

「……何から何まで悪いね」

「気にしなくていいさ。んじゃ、しばらく待っててくれよ」

 

 そう締めて俺は夕飯の支度に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 因みに夕飯の献立は、フェイトが卵焼きや目玉焼きを気に入ってくれたのを思い出して、かに玉がメインとなった。もちろん大好評でフェイトは言わずもがな、アルフもおかわりする程気に入ってくれた。

 やっぱり作った物をおいしいと言って、笑顔で食べてくれるのはとても嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 翌日の日曜日、俺は昨日買った物を手に月村家に足を運んでいた。その途中、なのはと恭也さんに出会ってしまった。

 

「あ、えと、お、おはよう、なのは」

「おはよう、涼さん!」

 

 ……気にしてないのか? いや、それにしては元気すぎる気もする。

 

「おはよう、涼。昨日はなのはと色々あったみたいだな?」

「お、おはようございます……」

 

 重い、重すぎる。絶対なのはの泣き顔の件だ。一体どう説明すればいいんだ……。

 

「もう、お兄ちゃん、あの事ならもう話したでしょ? 涼さんは悪くないんだから、その変な空気はやめてよ!」

「しかしだな……」

 

 こう言うって事はちゃんと説明してくれてたのか。頭が上がらない。

 

「私は私のやり方でこの気持ちと向き合っていくって、そう決めたの。だから……」

「な、なのは?」

 

 スルッと、ごく自然に、まるでそれが当たり前だという表情で俺の手を握るなのは。

 

「行こ?」

「……ああ」

 

 もしかして、俺は彼女に弱みを握られているのだろうか。

 

「くっ、なのはぁ……」

 

 恭也さん、今にもハンカチを噛みしめそうな雰囲気はやめて下さい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「恭也様、なのはお嬢様、浜寺様、いらっしゃいませ。浜寺様には御初に御目にかかります。メイドのノエル・K・エーアリヒカイトと申します。こちらは妹のファリン・K・エーアリヒカイトと申します。御気軽にノエル、ファリンとお呼び下さい」

「よろしくお願いします!」

「ご丁寧にどうも。ご存知でしょうが改めて、浜寺涼です」

 

 本物のメイドなんて初めて見たな。テレビの向こう側の事だと思っていたが、まさかこんな近くにいたなんてな。

 

 メイドの2人に案内されて着いた部屋には、すずかとアリサとすずかのお姉さんと思われる人がいた。

 

「いらっしゃい、なのはちゃん、恭也さん、涼さん」

「先にお邪魔しているわよ」

「3人共よく来たわね。貴方が浜寺君? すずか達から話は聞いてるわ。随分と面白い子みたいね。私はすずかの姉の月村忍、よろしくね」

 

 どこをどう解釈したら、面白いって評価になるんだ?

 

「どうも、浜寺涼です。よろしくお願いします。……出来れば変な目で見ないでくれると助かります」

 

 やはりと言うべきか、忍さんも普通の人とは違うようだ。最近は普通じゃない人ばかりに出会うせいで、変な威圧感みたいなモノには慣れてしまっていたのが功を奏したな。

 

「あら、気付かれちゃった。君がどんな人かこの目で見てみたかったのよ。気を悪くしたなら謝るわ」

「いや、別に気にしてはいないんで、構いませんよ」

「そう、なら私はこれで失礼するわ。恭也、行きましょう?」

「ああ」

 

 なるほど、そういう関係か。どうりで恭也さんの機嫌が良さげなわけだ。

 

「私と恭也は部屋にいるから、何かあったら呼んでね」

「ではお茶をお持ちしましょう。恭也様、なのはお嬢様、浜寺様、何か御希望は御座いますか?」

「いや、任せるよ」

「私もお任せで」

「俺もお任せします」

 

 ていうかいきなり家に上がって図々しく注文なんか出来る筈が無い。

 

「畏まりました。ファリン」

「はい、了解です!」

 

 綺麗に一礼して去っていくメイド2人と、腕を組んで去っていく2人を見送ってから、俺となのはは椅子に乗っている猫をどかして座る。

 

「おはよ~」

「うん、おはよう」

「おはよう」

 

 ……やっぱり俺の場違い感が凄いな。今更気付いてもどうしようも無いのにな。

 

「相変わらずすずかのお姉ちゃんとなのはのお兄ちゃんって、らぶらぶだよね~」

「あはは……、うん。お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってからずっと幸せそうだよ」

「ウチのお兄ちゃんは……昔に比べて、優しくなったかな。よく笑うようになったかも」

 

 俺が居なくても話はどんどん進むな。うぅむ、居心地が悪いぞ。あえて空気を読まないか……?

 

「そういえば、今日は俺も誘ってくれて、ありがとう」

「いえいえ、こっちこそ、来てくれてありがとうございます」

「お礼と言っちゃあなんだけど、お土産があるんだ」

 

 リュックから昨日買った物を取り出すと、3人に配る。

 

「これは……」

「お揃いのブレスレットなんだけど、そもそも家族以外にお土産とか贈り物とかするのって初めてだったから、気に入るかどうか……」

「いいえ、とっても嬉しいです! ありがとうございます!」

「ええ、涼にしてはイイセンスじゃない! ありがとう!」

 

 自分で選んだ事にしておくといいってなのはが言ってたけど、ちょっと心苦しいな。

 

「えっと、私も貰っていいの?」

「もちろん。日頃のお礼とかも籠ってるから、受け取ってくれると俺も嬉しい」

「……ありがとう、涼さん!」

 

 ちょっと悩んでいたが、ちゃんと受け取ってくれて良かった。

 

「涼、自分の分はあるんでしょうね?」

「一応買ってしまったんだが……、俺とお揃いなんて嫌じゃないか?」

「何言ってるのよ、アンタも私達の友達でしょうが。遠慮なんてしなくていいのよ」

「そ、そうか……少し照れるな」

 

 頼むからその微笑ましげな視線は勘弁してくれ……。

 

「ふぅ……ところで今日は、元気そうね」

「え?」

「なのはちゃん、最近少し元気無かったから……」

 

 どうやら2人にもなのはの様子はおかしく映っていたみたいだ。

 

「もし何か心配事があるなら話してくれないかなって……。二人で話してたんだけど」

「すずかちゃん……」

「でも、無理矢理聞き出すのも悪いかなって思ってたのよ」

「アリサちゃん……」

 

 本当、良い友達を持ったもんだよな。

 

「まあ今は言えないけど、その内ちゃんと説明するさ」

「って事は、涼も関わってるのよね?」

「ああ、だから心配するなって。何かあれば俺がなのはを守るから」

「涼さん……!」

 

 いけない。言葉を間違えた気がする……。

 

「へぇ……。なのはの騎士ってところかしら」

「いいなぁ、なのはちゃん」

「ふぇっ!? またなの~!?」

 

 仕方ない、笑って誤魔化すか。

 

「ははははっ!」

「もう! 涼さんも笑ってないで、もっと言い方ってあるでしょ~」

「ふ、ふふふっ」

 

 偶にはこんな時間も悪くないな……。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 場所を家の前の庭に移して猫と戯れていると、ここ数日感じる事の無かったあの感覚がやって来た。

 

(涼さん! ユーノ君!)

(ああ、感じた)

(ジュエルシードが……!)

 

 今度は大丈夫。気力も体力も完璧。なのはの調子も良さそうだ。

 

(ユーノ、ジュエルシードの所まで先に行ってくれ。何処かに行ったユーノを探すって理由で追いかけるから)

(分かった! それじゃ行くよ!)

 

 念話で打ち合わせしてから、なのはの膝から飛び降りて走り去っていくユーノ。

 

「ゆ、ユーノ君!」

「どうしちゃったのかしら?」

「多分、目につく何かを見つけたんだろう。あいつは小さくてすばしっこいからな。俺となのはで探してくるよ」

「私達も手伝いましょうか?」

「いや、大丈夫だ。すぐ戻ると思うけど、よっぽど遅かったら携帯に電話してくれよ」

「分かったわ。2人共気を付けてね」

「ああ、なのは、行こうか」

「うん!」

 

 アリサとすずかを言いくるめて、なのはと共に林に入っていく。

 

 

 

 

 

 

「ユーノ、結界を!」

「うん! ……封時結界!」

 

 その一声でこの周辺が、通常空間とは隔絶される。流石ユーノだ。サポートの腕はピカイチだ。

 

「よし、『ユニコーン』起動!」

「私も! レイジングハート!」

 

≪Stand by ready.≫

 

 お互いの相棒に声を掛け、それぞれ白い膜と桃色の膜に包まれ、それを破る形で変身を完了させる。

 

「ジュエルシードは……あっちか! ユーノは結界の維持、俺達は封印。いつも通りやれば大丈夫だ、行くぞ!」

「「うん!」」

 

 気合の籠った返事を聞いて、俺達はジュエルシードの元へ向かう。向かったのだが……。

 

「こ、これは……」

「ね、猫……」

「た、多分、猫の大きくなりたいって想いが、成長じゃなくて巨大化として叶えられたんだと思う……」

 

 ある意味、正常に願いを叶えているとも言えなくもないってのが皮肉だな。

 

「……『シールド』」

 

 左上腕部に盾を展開して、猫の前に躍り出る。Iフィールドも展開済み。その直後、金色の光が襲い掛かってきた。

 

「涼さん? ……!?」

「これは……魔法の光!?」

 

 来たか……フェイト!

 

「……ロストロギア、ジュエルシード。頂いていきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、ここが勝負所だ。




 如何でしたか?

 今回はフェイトと魔法の繋がりを作る回でした。



 ではまた次回で。


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一角獣と力

 こんばんは、牡蠣です。

 申し訳ありません、投稿がギリギリ間に合いませんでした。

 出来るだけ執筆スピードを上げられるように努力します。



 では第12話をどうぞ。


「邪魔をするなら、倒します」

 

 普段の姿を知っているせいで、無表情にデバイスを向けてくるフェイトに違和感を感じる。とりあえずボイスチェンジャーを起動してから話し掛けよう。

 っていうかこれ標準装備なんだな……。最初から使っていれば色々楽だったんじゃないのか?

 

「待て、こちらに交戦の意思は無い」

「……退いて下さい」

「ジュエルシード封印後、対話に応じるのが条件だ。なに、そんなに時間は取らせない」

 

 少し悩む仕草をしたな? 付け入る隙はありそうだ。まずは俺のサーチャーを通して諭す事からだな。

 

(フェイト、内容はどうあれ、受けるだけでジュエルシードを封印出来るんだ。それに3対1は無理がある。ここは無駄な消耗を抑える為に提案を受けよう)

(スズ!? ……うん、言う通りにする)

 

 よし、話し合いには持ち込めそうだ。

 

「分かりました。でも、このジュエルシードは渡してもらいます」

「こちらの条件に同意すれば構わない。少し待ってくれ、そこに居る仲間に状況を説明する」

 

「なのは、ユーノ。猫の発動させたジュエルシードを封印した後に、話し合う事になった。この子について色々聞きたい事があるだろうが、まずは封印してからだ」

「わ、分かったの」

「う、うん」

 

 ひとまず2人には後で詳しい事を話そう。

 

「待たせたな。発動させたのが大人しい猫で助かった。普通に封印魔法を使うだけで済みそうだ」

「そう。……バルディッシュ」

 

≪Yes sir.≫

 

「ジュエルシード、封印」

 

≪Sealing.≫

 

 黒い斧型のデバイス、バルディッシュの先に集まった魔力を解放することで特に異常も無く封印が完了し、ジュエルシードは格納領域に収納される。

 

「それで、話って何ですか」

「君がジュエルシードを収集しているのは理解した。こちらもソレを収集しているのだが、この際その理由はどうだっていい。この町に被害をもたらさない為に、協力してほしい」

 

 出来るだけフェイトが得に感じるように言ってみたが……どうだ?

 

「少し時間を下さい」

 

(……スズ、どうすればいい?)

(フェイトはどう思ってるんだ? それを聞かないと何も言えないぞ)

(……受けたいとは思う。けど、この人たちが弱かったら協力する必要が無いとも思う)

 

 ……ああ、成程。弱いくせに首を突っ込んで、余計な被害を及ぼさないか心配なのか。

 

(だったら、実力を見せてもらえばいいのさ。フェイトが直接戦って判断すればいい)

(! そうだね)

 

「あなた達の実力が見たいです。弱い人と協力しても、意味ないですから」

「分かった、なら俺が相手をしよう」

 

 右手に『ビーム・マグナム』を展開して交戦の意思を見せると、フェイトもその手に持ったバルディッシュを構える。っと、その前にほったらかしの2人に説明しておこう。

 

「なのは! ユーノ!」

「「う、うん!」」

「これからこの子と戦う事になった!」

「え、ええ!?」

「何で!?」

 

 まあ、いきなり戦うとか言われたらそうなるな。

 

「この子に協力を持ち掛けたんだが、弱い人とは協力出来ないと言われてな。3対1も卑怯だからって事で、俺が1人で戦って実力を証明する」

「だ、大丈夫なの……?」

「心配するな、魔法は非殺傷に設定されている。余程強力なモノじゃなければ問題ない」

「気を付けてよ? 僕達は見ている事しか出来ないけど……」

「分かったよ。2人は流れ弾が当たらないように防御魔法で身を守っててくれ」

 

 不安そうな顔をしている2人の頭を軽く撫で、改めてフェイトと対峙する。

 

「それじゃあ始めようか」

「はい」

 

 初めての対人戦がフェイトか……。気が引けるがそんな事を思っていれば、一瞬で落とされると感覚が伝えてくる。

 

「君の強さは理解した。ならば、こちらから行かせてもらう!」

 

 その言葉と同時にマグナムを構え、抜き打ちの要領で撃つ。だがその一撃は軽く避けられてしまう。

 

「っ! 今のは当たれば危険……!」

「難なく避ける君もやるじゃないか」

「今度はこちらから行きます。バルディッシュ」

 

≪Photon Lancer. Full auto fire.≫

 

 電子音声の後にフェイトの周囲に発生した魔力スフィアから、電気を纏った直射弾が連続で発射される。しかし俺はその場から動く事無く、Iフィールドを展開した盾で全ての弾を着弾寸前に霧散させる。

 電気ということは変換資質持ちか! これは厄介だぞ……。

 

「遠距離は通じない……! なら!」

 

≪Scythe Form.≫

 

 斧の部分が柄と直角になるように開き光刃が展開され、鎌の形体となる。

 

「アークセイバー!」

 

≪Arc Saber.≫

 

 掛け声と共に構えたデバイスを振り抜くと、光刃がブーメランの如く迫ってくる。迎撃しようと後退しながらマグナムを撃つが、変則的な軌道を描くソレには当たらない。それに加えて誘導型であるらしく、追尾までしてくる。全力で逃げるよう『カン』が訴えるが、間に合わずに盾で受けてしまう。その瞬間光刃が『シールド』を噛む。

 

「今」

「しまっ」

 

≪Saber Blast.≫

 

 コマンドにより盾を噛んだ光刃が爆発し、電気を纏っていた影響で一瞬ではあるが受けた左腕が麻痺する。それに気を取られていたせいで、フェイトの接近を許してしまう。

 

「ハァァッ!」

「ぐぅっ!」

 

 振りかぶった鎌が見え咄嗟に痺れたままの左腕を掲げ防御するが、鎌という武器の特性で盾を越えて刃が『ユニコーン』の胸部装甲に当たり火花を散らす。

 

「くっ、やられたままだと思うなよ!」

 

 ガリガリと装甲を削る嫌な音を無視して、頭部バルカンを斉射する。当たりはしなかったが、少しだけ距離を離す事に成功する。

 

「っ! そんな所にも武器を!」

「仕切り直させてもらう!」

 

 さらに距離を稼ぐ為、マグナムの残り3発も全て撃ちこむ。ある程度離れたところで左腕の調子を確かめる。……よし、問題ない。

 

「やっぱり強いな……」

「……………」

 

 だがいくら相手がフェイトだと言っても、ここまでやられて黙っているわけにはいかない。

 

「やられっぱなしは嫌だからな! 『ビーム・サーベル』!」

 

 マグナムを収納し両手に剣を持つと、スラスターの出力にモノを言わせて突撃する。

 

「……バルディッシュ」

 

≪Axe Form. Blitz Action.≫

 

 フェイトの姿がブレたと思うと、視界から居なくなる。次の瞬間、背後に悪寒が走る。感覚に従い薙ぎ払うように右手の剣を振ると、間一髪で斧の一撃を防ぐ。

 

「うおおお!!」

 

 空いた左手の剣を、デバイスごと叩き切るかの如く振り下ろす。

 

「くぅ……ぅぅぅぅううああああ!!」

 

 不意打ちを防がれ追撃を食らったフェイトは押し込まれそうになるものの、全身から魔力を(ほとばし)らせて対抗する。桃色の剣と金色の光を纏った斧がぶつかり合い、周囲にバチバチという音と魔力の衝撃波を撒き散らす。やがて耐え切れなくなると、お互いが弾き飛ばされる。

 拮抗していたのは時間にして5秒にも満たない間だったが、体力、精神力共に大きく削られた。

 

「…………」

「…………」

 

 しばらく一定の距離を保ち睨み合いが続くが、それも長くは持たずに空気が弛緩する。

 

「どうだ? 少なくとも、無能ではないとは証明出来た筈だ」

「はい、あなたの実力は、全部ではないですけど理解出来ました」

 

(この人達を倒すより、協力して集める方がいいと思う)

(そうだな、そっちの方が楽だし早い)

 

 よし、良い方へ向かっているぞ。

 

「ですが、貴方達の持っているジュエルシードを渡して下さい。それが私からの条件です」

 

 そ、そう来たか……。そうだよな、最初からユーノと協力してない時点で気付くべきだった。本来はユーノの落し物なのに、それを知っていて尚且つ秘密裏に回収しようとしている事から、彼を襲ったのはフェイト達……正確にはフェイトを操っている人物なのだろう。

 

「それは……」

「そ、それは駄目だ! ジュエルシードは危険な物なんだ! 何かの目的の為に使うのはいけない!」

 

 ユーノがそう言った事でフェイトが少し残念そうな顔をした後、表情を引き締めた彼女がデバイスを突き付けてくる。

 

「なら私達はロストロギアの欠片、ジュエルシードを賭けて戦う敵同士です。覚悟して下さい」

 

 言葉と共に、強い敵意が向けられる。それを感じた瞬間視界が赤く染まり、あの日見た『NT-D』の文字が浮かび上がる。

 

「な、何!? これはっ……ぐああぁぁぁぁ!!??」

「っ!?」

「りょ、涼さん!?」

「どうしたの、涼さん!!」

 

 全身を締め付けるような痛みに、返事すら出来ない。ただ感じるのは、目の前の(フェイト)を倒すという『ユニコーン』の意思と、壊された枷だった。

 

(スズ、何が起こってるの……? 急にあの人が苦しみ出したんだけど……)

(…………)

(スズ……? スズっ!?」

 

 フェイトが呼んでる……痛い……応え(倒さ)なきゃ……違う、違う!! やめろ、やめてくれ!! い、意識が…………

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「涼さん……? 涼さん!!」

 

 最初は様子見のつもりだったんだと思う。それで私じゃ出来ないような戦いをした後、私達があの女の子の条件を呑めないと分かると、強い重圧を感じた。その瞬間涼さんの様子がおかしくなった。

 犬の怪物や巨人と戦った時にも見た赤い光が全身から溢れ、真っ白な装甲が足から頭にかけて開いていく。マスクの下から顔が現れ、最後に象徴的な一本角が割れて金色のV字アンテナに変わると、今までのユニコーンとは似ても似つかない姿に『変身』した。

 

「何……アレ……?」

「ぼ、僕にも何が何だか……」

 

 変わったのは姿だけじゃないと、私の『カン』が訴える。それと一緒に嫌な感覚が全身を駆け巡る。

 

「アレは……駄目だよ……。あの子がやられちゃう……!」

「な、なのは!?」

 

 飛び上がった私は涼さん――ううん、アレは涼さんじゃない――ユニコーンと女の子の間に割って入る。

 

「私は高町なのは! あなたは?」

「えっ? フェ、フェイト・テスタロッサ……」

「あのユニコーンは私達が抑えるから、フェイトちゃんは逃げて! アレから嫌な感じがするの! だから早く!!」

「う、うん」

 

 ユニコーンから発せられる嫌な感じはフェイトちゃんに向けられていた。だからまずは逃げてもらうように伝えると、素直に従ってこの場から離れて行こうとする。ユニコーンが追いかけようとしたけど、その前に私が立ち塞がる。

 

「駄目だよ、ここは通さないの!」

 

 止まってくれる事を期待したけど、駄目みたい。

 

「やろう、レイジングハート! ユニコーンを止めて、元の涼さんに戻ってもらうの!」

 

≪All right. Divine Shooter.≫

 

 私の周りに出来た5個の魔力弾が、目標に向かって飛んでいく。1つはバルカン、2つは剣で、2つは盾でそれぞれ打ち消されてしまった。でも標的を私に移すことに成功した。

 

「そう、こっちなの!」

 

≪Protection≫

 

 高速で近付いて剣を振り下ろしてくるけど、展開された防御魔法でしっかりと防ぐ。ついでに周りに仕込みをする。

 

「シュートバレット!」

 

≪Shoot Bullet.≫

 

 急速充填された一撃でユニコーンを吹き飛ばす。しかしすぐに体勢を立て直して突撃を仕掛けてくる。

 

「読めてるの! ……今!」

 

≪Restrict Lock.≫

 

 先に仕込んでいた所に来た瞬間捕獲魔法を発動させ、左腕と右足をガッチリと拘束する。

 前にユーノ君が犬の怪物を捕まえたのを見てて、便利そうだから教えてもらって練習してたけど、初めて使うのが涼さん相手って凄く複雑なの……。

 

「右腕と左足も!」

 

 四肢を固定されてもがくけど、そう簡単には破らせない。

 

「レイジングハート!」

 

≪Cannon mode.≫

 

 頭のバルカンの射程範囲に入らないように、背後に回り込んで杖を突きつける。

 

「零距離ディバインバスター! 涼さんを返してもらうの!」

 

≪Divine Buster.≫

 

「シュートッ!!」

 

 トリガーを引くと杖の先に溜めこまれた魔力が解放されて、ユニコーンを呑み込む。光の奔流が収まると、装甲を閉じて元の一本角に戻り、嫌な感じも無くなっていた。

 

「良かった……あっ!」

 

 意識を無くしていたのか、ユニコーンが解除されて地面に落ちていく。

 

「任せて! フローターフィールド!」

 

 先に落下地点にいたユーノ君が魔法陣を展開して、涼さんを受け止める。

 

「涼さん!」

「待って! 周りに誰も居ないから、結界を解除して助けを呼ぼう」

「え?」

「僕達じゃ意識の無い涼さんを運ぶのは無理だよ。理由は……木から落ちて意識を失くしてたって事にしよう」

「う、うん」

 

 そう言うユーノ君に従って、私はお兄ちゃん達に助けを求めた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、なのは達、つまり今日会った人達に囲まれていた。聞くところによると、木に登ったユーノを捕まえようとして落ちてしまい、意識を失っている所をなのはが助けを呼んでくれたらしい。詳しい事の顛末はなのはに聞いたが、どうやら俺を元に戻してくれたのも彼女みたいだ。感謝したが、苦笑いで返された。……何故だろう?

 その場にいた全員に謝ると、なのはは申し訳なさそうにし、アリサには怒られ、すずかには泣かれ、恭也さんからは軽く頭を小突かれた。忍さんには何も言われなかったのが逆に堪えた。

 

 それとフェイトにも途中から応答が通じなかった事についてしっかりと謝った。かなり心配を掛けたみたいで、機嫌を戻すのに大変苦労した。

 

 

 

 

 

 

 そして現在、俺は『ユニコーン』の暴走と無理矢理外された枷について知る為、土蔵に居た。

 案の定、以前の本が光を放っていた。

 

「『ユニコーン』についてちゃんと説明してくれるんだろうか……」

 

 本に触れると、前回と同じように転送ポートの上に自動で移動し、本が開かれる。

 

「……まずはこれが流れるのは、『NT-D』が強制起動したという条件を満たした場合だと言っておく」

 

 となると通常起動した場合もあるのか。……いや、それなら最初にアレを起動したときに流れる筈だ。とにかく話を聞いてみよう。

 

「そこで何よりも先に言っておく。どんなに研究しても『NT-D』の起動条件が分からなかった。開発者としてあるまじき失態だ、すまない」

 

 そうか……。残念ではあるが、2度起動しただけだが輪郭は掴めている。ここは流すべきではないだろうが、今は置いておこう。

 

「そしてこの枷が解放された事で、『支配権』を行使出来るようになった」

 

 …………? 一体何を支配するっていうんだ?

 

「『支配権』は名前の通り、支配する力だ。その力が古代遺産に対して作用することは分かっているんだが、どんな古代遺産に適応するかが分からなかった。研究時、手元に無かったというのもあるが、分からない事ばかりで本当に申し訳ない」

 

 古代遺産……ロストロギア……。ジュエルシードにはどうなるんだろうか……?

 

「この映像で最後に伝える事は、涼、力に呑まれるな。拒絶でもなく扱うのでもなく、受け入れるんだ。力は使う者の意思1つで、破壊の力にも創造の力にも変わる」

 

 受け入れる、か。そうすれば『NT-D』も……。

 

「これでこの映像を終わる」

 

 そこで本は光を失い地面に落ちる筈が、パラパラと捲れて、背表紙に近いページを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「涼……夜を……夜天を……探すんだ…………」

 その声と共にイメージが流れ込んでくる。本の表紙を見たところで俺は意識を失った。

 




 個人的に詰め込み過ぎたような気がするお話でした。

 次回以降も色々考えてありますので、しっかりと文章にしたいですね。



 ではまた次回で。


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一角獣の休日?

 こんばんは、牡蠣です。

 気付けば前回から1週間……。大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。


 とりあえず、今回からだんだんと原作から離れて行くような……。
 オリジナル展開のタグがあるから大丈夫ですよね?


 それでは第13話をどうぞ。













「うっ、痛い……」

 

 節々の痛みで起こされて、ふと気付く。

 確か昨日は土蔵で意識を失った筈なのに、何で布団で寝ているんだ?

 

 ……………………あれ、今何を考えてたんだっけ? 確か……夜天。そう、夜天だ

 

「夜天、か……」

 

 父さんが探せと言っていた存在。しかも本の最後辺りに記録されていたってことは、ギリギリまで記録するかしないかを迷っていたんだろう。そこまで悩む存在なら、きっと重要な意味を持つんだろう。

 

「アルハザード、夜天、ロストロギア。うーん……」

 

 これらが『ユニコーン』と関わり合いがあるのは分かる。けどそれ以外は全く分からない。こういう時は深く考えない方が得策だ。起きようとして、携帯がメールの着信を知らせる。

 

「なのは?」

 

 こんな朝っぱらから何だろうかと送られてきた内容を読む。

 

『おはよう~、昨日はあれから大丈夫だった? 色々無理させちゃったみたいでごめんなさい……。だから今日はあんまり無理しないで、学校お休みした方がいいと思うの。ジュエルシード探しも私とユーノ君でやるから、一日ゆっくり休んでまた明日から頑張ろう! それじゃあ行ってきます!』

 

 ……なのはらしいな。お言葉に甘えて今日は休もう。

 

『おはよう。体調は体が少し痛むくらいで、他は問題ないぞ。心配してくれてありがとう。なのはの言う通り今日は休む事にするよ。だけど、なのはもあんまり無理して体調壊すなよ? 家族の士郎さん達だけじゃなくて、友達のアリサやすずか達にも心配掛けるんだからな。お小言はここまでにして、いってらっしゃい。頑張ってな』

 

 こんなところでいいだろう。

 さて、何をして過ごそうか……。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「ア、ル、ハ、ザ、ー、ド……っと」

 

 身支度と朝食を終えて手持無沙汰になった俺は、何を思ったか携帯で検索を掛けていた。まあこんなので分かったら苦労しないけど……って。

 

「出ちゃったよ……」

 

 まさかとは思ったが引っかかるとは。何々……アブドゥル・アルハザード? クトゥルフ神話? ネクロノミコン……?

 

「全然関係無いじゃないか!」

 

 全く人騒がせな……ん? 無名都市に円柱都市? ふむ、都市……都市か。関係ありそうで無さそうな微妙な所だな。図書館に行って調べてみるか。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 図書館に来るのも随分と久しぶりな気がするな。前はよく父さんと来ていたから……っといけない、感傷に浸る所だった。えっと、探し物は神話系か。見つかればラッキー程度に探そう。他にも何か面白そうな本があったら、借りて行こうかな。

 

 

 

 

 

「クトゥルフ、クトゥルフ……あった」

 

 さして時間をかける事無く見つけられた。が、本の中身は良く分からなかった。その後も他の本を読み漁るものの、収穫は一切無かった。

 

「やっぱり関係無いのか? ……うん、無いな」

 

 むしろインスマスやらハスターなんかと関わりがあってたまるか! このアルハザードって名前も偶然みたいだし、逆に安心したよ。お昼時だしちょうどいいし、切り上げて帰るか。

 

 

 

 

 本を戻して何か借りようかと館内を歩き回っていると、3冊の本を膝に積み上げた車椅子の女の子が目に入った。バランスが悪くて今にも落としそうだな。手伝ってやりたいけど、俺が声を掛けると逃げられそうだ……。

 

「あうっ」

 

 ホラ落とした。館内スタッフとかに頼めばいいのに……。誰も気付かないのか? って周りには誰も居ないし。

 

「…………あっ」

「あっ」

 

 目が合ってしまった……。仕方ない、少し手伝ったらすぐに離れよう。

 

「手伝うよ。これは借りるのかい?」

「えっ!? アッハイ」

 

 ? イントネーションに違和感を感じる。

 

「ならカウンターまで持って行くよ」

「そんな、構いませんよ。1人で出来ますから」

「気にしないでくれ。大変そうだったから手伝うだけだよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 それにしても変わった子だな。俺を見ても何も言わないし。

 

 

 

 受付で貸出手続きをして一緒に図書館を出る。……しまった、別れるタイミングを逃した。早急にこの場を離れるとしよう。

 

「それじゃあ俺はここで……」

「ま、待って下さい!」

「え、あ、おう」

 

 帰ろうとした矢先に引き止められればどもりもする。声が裏返らなかっただけマシと考えよう。

 

「少し、付き合ってくれませんか? あ、いや、時間無いなら別に断ってもええんです」

「大丈夫だけど……君は俺を見て何も思わないのか?」

 

 少し意地悪な質問をしてみる。これで考えが変わればいいんだけどな。

 

「お兄さんを見て、ですか。ん~、不思議な雰囲気の人やけど、悪くないっちゅうかむしろ良い人やと思います」

「……君までそう言うのか」

 

 最近の俺が出会う人達は、どこかズレているんじゃないだろうか。今までの対応と全く違い過ぎてこっちが困るよ。

 

「はぁ……、んで、俺を誘った理由はさっき手伝ったお礼? もしそうなら本当に気にしなくていいんだぞ」

「いえ、それもあるんですけど、それだけじゃなくて……お兄さんを見た瞬間ビビッと来たっていうか、なんやおもろそうな気配を感じたっていうか……色々です」

 

 妙に『カン』が良いってもの追加だ。

 

「分かった、付き合おう。面白いかどうかは分からないけどな」

「ならまずは自己紹介やね。私、八神はやて言います。ちょお喋り方変なんは関西弁入っとるからなんで、気にせんで下さい」

「俺は浜寺涼って言うんだ。そんなに畏まる必要無いし、敬語もいらない。気軽に涼とでも呼んでくれ。よろしくな」

「ほんなら涼さんって呼ばせてもらいま……っと、もらうな? 私の事もはやてって呼んでええよ」

 

 なんだかまた1人妹が出来た気分になる…………いや、おかしいだろ! 初対面だぞ初対面。何和んでるんだよ。

 

「ふふっ」

「ど、どうした」

「いやあ、兄と妹みたいやなぁって」

「お、おう。そうなのか」

「うん、髪の色も目の色も同じやし、傍から見たら兄妹にしか見えんとちゃう?」

 

 ……まあ、否定はしないけどさ。

 

「でも俺とはやては初対面だろう。もっと言えば出会ってから1時間も経ってないんだぞ?」

「あ、そういえばそうやった。でもなぁ、えと、何て言えばええんやろ……初めて会った気がしないとか? 反りが合うって言うんか?」

「……波長?」

「そうそう、それもや。きっと私らは相性バツグンなんよ」

 

 コロコロ表情を変えながら、楽しそうに話すのを見てると和む。数少ない知り合いとはまた違ったタイプの子だよな。

 

「そういえば、はやての親は? こんな時間に車椅子の子を1人にするのはいくらなんでも……」

「あ、それは……」

 

 っ! やってしまった……、気を抜いたらすぐコレだ。触れてほしくない事だって察する事ぐらい出来ただろうに……。

 

「す、すまない、はやて。嫌な事を聞いてしまった」

「ううん、気にせんでもええよ。私な、両親居らんのよ。今より小さい頃に事故で……な」

「そうか……。実はな、俺も両親が居なくて、今は独り暮らしをしてるんだ」

 

 ああもう! なんで暗い話題を続けようとしてるんだ俺は!

 

「なんや私達って共通点多いなぁ」

「……本当に、不思議だな」

「ホンマ、不思議やね……っ」

 

 急にはやてが苦しそうにしだすのと同時に、奇妙な魔力反応を感じた。魔力も気になるが、今ははやての方が先だ。

 

「大丈夫か? こういう時はどうすればいい。もし本当に辛いなら救急車を呼ぼうか?」

「だ、大丈夫や……。時々こんな風に発作みたいなんが起こるんよ。……少しすれば収まるから、呼ばなくてええよ」

「本当に大丈夫なんだな? 詳しい事は分からないからあまり口出しは出来ないから、今ははやてを信じる。だけど少しでも悪くなったらすぐに救急車呼ぶからな」

「う、うん」

 

 このまま放置するのも嫌だが、さっきからずっと魔力反応が消えないのが気がかりだ。そっちを調べさせてもらおう。

 

「待っててくれ、水を買ってくる。無理だとは思うけど、ここを動くなよ?」

「くぅ……わ、分かった」

 

(『ユニコーン』、魔力反応は何処から出ている?)

 

 近くの自動販売機に向かいながら探査をする。ソナーと同じ要領で放たれた魔力の波は、別の魔力反応に接触し跳ね返ってくる。

 ……はやてから!? 何であの子から……まさか、リンカーコアがあるのか! いや、そうだとしても苦しんでいる理由が分からない。他に原因がある筈だ。

 

(他に反応は無いのか? もっと精度を上げるんだ)

 

 もう一度ソナーを放つ。今度は僅かな反応だろうが、隠蔽されていようが関係ない。『ユニコーン』のセンサー感度を限界まで高めている。そして帰ってきた反応は……1つ。

 

「待たせた。無理して飲まなくてもいいけど、出来るだけゆっくり飲むんだ」

「おおきに……」

 

 さっきよりは顔色も良くなっている。これなら問題なさそうだ。

 

「なあ、はやては何か不思議な物を持っているか? 使い方が分からない小物とか、アクセサリーとか」

「ふぅ……少し楽んなったわ。……不思議な物? 小物やあらへんけど、本ならあるで。さっき借りた本入れた鞄に入っとるよ」

「見せてもらってもいいか?」

「かまへんよ」

 

 許可を貰って車椅子の下に入れた鞄を取り出し中を見ると、一番奥に鎖で縛られた本を見つけた。

 

「これは……夜天!?」

「りょ、涼さんこの本が何か知っとるん!?」

「い、いや、この本を夜天って呼ぶらしいって事だけだ。詳しくは俺も知らないんだ」

「そ、そうなんか……」

 

 はやてが落ち込むが、それに構ってあげられる程の余裕はない。何故この本がここにある? 何故この本ははやてと繋がっている? 何故、何故……。答えの無い疑問が湧き続ける。

 

「涼さん? どないしたん?」

「はやて、この本は何処で手に入れた物なんだ?」

「何処って言われても、気が付いたらあったんよ。ずっとこの本と一緒やったし……」

「ふむ……」

 

 そういう機能を持っているのか? それよりもはやてにリンカーコアがあり夜天の本と繋がっている事を考えると、魔法について教えた方がいいのかもしれない。知識が無い状態で下手に魔法を使うのは危険すぎる。

 

「場所を移そう。……そこの公園でいいか」

「よう分からんけど、分かった」

 

 

 

 

 車椅子を押してあげようと思ったが頑として首を縦に振らないので、無理矢理押して近くの公園に入り腰を落ち着ける。

 

「もう、押さんでええ言うとるのに……」

「悪いな。それよりも、大事な話がある」

「な、何や?」

「これから話す事は冗談に聞こえるかもしれないけど、決して冗談でも無ければ騙すつもりも無い。それを踏まえた上で聞いてくれ」

「お、おう」

 

 俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのだろう。はやての表情に緊張が走る。深呼吸をして、心構えをした目を見て言う。

 

 

 

 

 

 

 

「魔法は実在するんだ」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「ほぁ~、凄い、凄いで!」

 

 図書館で会ったお兄さんこと涼さんから魔法についての説明とかをされて、実際にこの目で説明の為に張られた結界魔法を見て、私の『カン』は間違っていなかったんやと思うた。なんたって魔法に出会えたんやから!

 

「くぅ~、こりゃタマランで~!」

「は、はやて……?」

 

 おっとアカン、興奮してキャラがブレてもうた。落ち着け、落ち着くんや八神はやて、喜ぶんはまだ早いで。

 

「それで、魔法の才能が私にもあるんやろ?」

「ああ、それもかなり高いレベルでな」

「うんうん、ええで~」

 

 よっしゃ、才能もバッチリや。説明を聞いた感じやとファンタジーみたいな魔法とは違うみたいやけど、それでも凄い事には変わりはあらへん。

 

「もちろん空を飛んだり、ワープみたいなんも使えるんやろ?」

「転移は難しいけど、飛行魔法なら適性があれば使えるぞ。はやての魔力からして、そんなに苦労はしないと思う」

 

 言質取ったで! やっぱ魔法と言えば飛行やワープやね! 自分でもだんだん何を言ってるのか分からなくなってきてもうた。興奮のしすぎや、落ち着け~落ち着け~。

 

「けど、その前にその本が問題になってくる」

「この本が?」

 

 涼さんが夜天って呼んだ本。どうやらコレが私が魔法を使う上で、重要になってくるみたいや。

 

「まずこの本は魔導書と呼ばれる、魔法技術の塊なんだ」

「な、なんやて!?」

 

 そないな本を私が持っていたなんて……。何て運がええんやろか……!

 

「その本……夜天の魔導書って呼べばいいのか? その魔導書がはやてと繋がっていて、覚醒していないリンカーコアの魔力を無理矢理吸い取っているんだ」

「リンカーコアって魔法の才能の源やっけ。もしかしてそれが吸い取られているんが、私の発作の原因って事か?」

「多分……」

 

 何て事や……。そりゃ病院じゃ治せん筈や。

 

「なら、私が覚醒すれば治るんかな?」

「分からない。俺も魔法については専門家程詳しくないんだ。はっきりとした事は言えない」

「でも、覚醒すればリンカーコアもちゃんと動き始めるんやろ? 魔法を使いたい気持ちもあるけど、このまま何もせずにまた苦しい思いするのも嫌や」

 

 うん、決して魔法を使いたいって気持ちだけや無いんやで。

 

「いや、だけど…………ん?」

「どないしたん?」

 

 悩んでた顔から一転、何かに気付いたように魔導書を眺め回したり、表紙に手を置いて目を瞑る涼さん。何をしてるんかさっぱりやから、ただ見てる事しか出来ひん。

 

「はやて、この魔導書の封印はそう遠くない内に解かれる」

「ファッ!?」

 

 きゅ、急に顔上げたと思うたら何を言い出すんや!

 

「魔導書側から強制的に覚醒させられるより、こっちから覚醒してアプローチを掛けてみよう。そうした方が負担も少ないだろうし、コレについて色々と分かるかもしれない」

「そか! なら善は急げや! 今すぐやろう!」

「ああもう、分かったけど少し落ち着け!」

 

 空想の産物だと思っていた魔法が使えるようになって、病気も治るかもしれんのに、落ち着いていられるワケが無いやろ!

 

「まずは未覚醒のリンカーコアに少しだけ魔力を流して、半覚醒状態にしよう。車で言えば、走り出す前にエンジンを暖めるんだ」

「わ、分かった」

 

 差し出された手に、私の手を乗せる。うわぁ、ドキドキしてきた。これから魔法が使えるようになるんか……!

 

「それじゃあ流すぞ」

「んっ……!」

 

 胸の奥、発作が起きた時に苦しくなる場所に温かい何か――コレが魔力なんやろな――が流れ込んでくる。不思議な感覚が胸の奥で渦巻いて、だんだん熱くなっていく。

 

「もう片方の手も出してくれ。まだ循環が上手く出来ないみたいだから、俺がサポートする」

「うん……」

 

 何やろ……、頭がぼーっとしてきて、胸の奥が温かくて気持ちええ……。

 

「魔力を吸って、吐き出す感覚を覚えるんだぞ」

「吸って……吐いて……」

 

 あ、分かった。これならすぐに出来そうや。

 

「基本中の基本だけど、呑み込みが早いな。じゃあ1人で循環をしてみてくれ」

「よし、やるで……!」

 

 周りの魔力素を取り込んで、吐き出す。おお、慣れれば息をするのと同じ感覚でイケるで!

 

「よし、次は魔導書に魔力を流そう……っと少し待ってくれ、何かが起こってもすぐに対処出来るように準備しておこう」

「うん? 何かするんか?」

「ああ、『ユニコーン』、起動!」

「な、何や!?」

 

 何かの名前を呼ぶと涼さんの身体が光に包まれて、光の繭が割れると真っ白な体と頭に一本角が付いとるロボットになった。……は!? ロボットォ!?

 

「あ、ありのまま今起こった事をって違う! 何やそれ!? それも魔法技術の塊っちゅーヤツなん!?」

「お、落ち着けはやて。これは魔法と科学の融合体だよ」

「魔法と科学が両方そなわり最強に見えるとか言うんやろ!」

「言わないよ!!」

 

 はっ! アカン、つい興奮してネタに走ってもうた!

 

「とにかく! 何かあればすぐに俺が対処する。心配しなくていい」

「頼りにしとるよ! ほな魔力を流すで!」

 

 夜天の魔導書との繋がりを感じて、そこから今さっき出来るようになった魔力の循環をする。

 

「わ、わぁっ!? 光り始めたで! ほ、本が浮いたで!!」

「『カン』は大丈夫って言っているが……。はやて、俺の後ろに!」

「う、うん!」

 

 私が涼さんの後ろに隠れるのと、魔導書の鎖が千切れ飛ぶのは同時やった。鎖の破片がユニコーン(?)の装甲に当たって弾かれる。あ、危ない所やったで……。

 

「『シールド』、『ビーム・サーベル』」

「び、ビームサーベル!?」

 

 まさかお主、ガン○ムか!?

 

≪闇の書の起動を確認。封印を解除します≫

 

 うぇ? や、闇の書? これって夜天の魔導書やあらへんの……?

 

「闇の書!? そんな……これって夜天じゃないのか……?」

 

 涼さんと考えてる事まる被りや。

 そうこうしてる間にも闇の書が開かれて、ページが最初から最後まで捲られた後、また閉じて一層強い光が視界を覆う。

 

≪Anfang.≫

 

 多分「起動」って言っとるんやろな。それと一緒に私の中から魔力がごっそりと持っていかれた。って思うとったら地面にでっかい紋章? 魔法的に言えば魔法陣が現れた。

 

「これは……ベルカの?」

「ベ、ベルカ? きゃぁっ!?」

 

 目も開けられんくらい強く光ったせいで、ワケが分からんくなる。もう何なんやこの本は!

 

 

 

 

 光が収まると闇の書は静かに浮いとって、その奥には4人の男女が跪いとった。

 

 

 

 

「闇の書の起動を確認しました」

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にてございます」

「夜天の主の下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター。何なりとご命令を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、こりゃけったいなもんに巻き込まれた予感がビンビンするで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えばこれが、私の戦いっちゅーか冒険(?)の始まりやったんやな……。






 


 はい、色んなイベントすっ飛ばして、第3の女主人公との出会いでした。

 俺のはやてはこんなキャラじゃない! と言う方には大変申し訳ないです。
 ですがこの小説のはやてはこんな感じです。

 次回もゴタゴタしそうな気がします……。


 ではまた。


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一角獣の休日2?

 こんばんは、牡蠣です。


 今回は前回からの続きで、後編(?)となっています。




 第14話、どうぞ。












 夜天だと思っていた本、闇の書から出てきた4人。守護騎士ヴォルケンリッターとか言ってたな。どうやらはやてを主として認識しているみたいだが、ここで俺はどう動くべきだろう……?

 

「涼さん涼さん」

「な、何だ?」

「なんや、痛い人たちやな」

「何を言ってるんだよ……」

 

 守護騎士達に聞かれないように小声で話し掛けてきたと思ったら、とんでもない事を言い出すな。まあその気持ちは分かるけどさ。

 

「「「「…………」」」」

 

 俺達の出方を窺っているんだろうけど、ピクリとも動かないのは少しだけ気味の悪さを感じる。まるで人形みたいだな……。

 

「涼さん涼さん」

「今度は何だよ」

「あの人達、闇の書から出てきたように見えるんやけど、私らの味方なん?」

「そうみたいだ。まずは詳しい事を聞いてみる」

「た、頼むで……。さっきごっそり魔力持ってかれてん。えらいキツいんよ」

「何だって? 分かった、早めにこの状況を何とかしよう」

 

 よく見ると薄らと汗を掻いている。結構辛そうだ、早く休ませてあげないと。……話し合いに武器は必要無いよな? 『ビーム・サーベル』は仕舞っておこう。

 

「確認する。君たちはこの子、八神はやての守護騎士で間違いないな?」

「はい、間違いありません」

 

 桃色の髪の女の人が答える。多分この人がリーダーなんだろう。

 

「色々聞きたい事があるだろうが、まずははやてを休ませたい。俺が抱えるから、車椅子を持って付いて来てくれ。飛行魔法で移動するが、何か問題はあるか?」

「畏まりました。移動手段については問題ありません」

「これから休める場所まで行くけど、はやての家と病院のどっちがいい? もしくは他に何処か候補があればそこでもいいぞ」

「え、えと……私ん家で!」

「分かった。とりあえず高度を上げるから、方向を教えてくれ」

 

 そう言ってはやての身体を横抱きに持ち上げる。そして守護騎士の1人、如何にも屈強そうな男性が車椅子を持つのを確認してから、ブースターを使わずにゆっくりと上昇していく。

 

「わ、わぁ! 浮いとる、浮いとるよ! わぁー、わはー!」

「こ、こら、落ち着け! 落ちても知らないぞ!」

「あ、ご、ごめんな。でも飛んどるんやで!」

 

 車椅子生活をしている分、行きたい所に自由に行ける手段に強い憧れがあるんだろう。『感覚』を繋いでいないのに、強い喜びの気持ちが流れ込んでくる。

 

「気持ちは分かるけど、今は休むのが先決だ。家の方角はどっちだ?」

「んーと……あっちや!」

「了解、安全航行で行くぞ。結界を解除する」

 

 そうだ、移動の前に認識阻害魔法を掛けないと。

 

「守護騎士達!」

「「「「はっ」」」」

「ここは魔法文化の無い地だ。今から範囲型の認識阻害魔法を使って飛ぶから、範囲内から出るなよ?」

「「「「畏まりました」」」」

 

 凄く畏まっているのは分かるけど、全員同じタイミングで同じ回答をする様はちょっとなぁ……。

 

「涼さんって私よりも『あるじ』っぽいなぁ」

「……はやて、ニヤニヤするじゃない」

 

 

 

 

 念話で連携を取っているのだろう守護騎士に囲まれ、それから少しの間はやてのニヤケ顔に晒されながら飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 何事も無くはやての家に着き、お邪魔してリビングに腰を落ち着ける。移動中に眠ってしまったはやてが目を覚ました後、騎士達が自己紹介をして改めて確認を取っていた。

 

「えーと、桃髪ポニーテールさんがシグナムで」

「はい」

「金髪ショートボブさんがシャマルで」

「はい」

「白髪ケモ耳さんがザフィーラで」

「はい」

「三つ編み赤毛ロリがヴィータやね」

「ろっ……は、はい……」

 

 『はい』しか言わないのかと思ったら、見た目がはやてと同じかほんの少し幼いヴィータと呼ばれた騎士が、言われ様に対して少し不服そうにしている。

 

「後もう1人居った気がすんねんけど、誰やったかなぁ…………思い出せへんわ。まあ、とりあえずみんなの事は覚えたで。んでもって私が、ベルカっちゅう所の古い魔導書、闇の書の主ってワケなんかぁ」

「その通りです。ご命令頂ければ、今すぐにでも蒐集を開始致しますが……」

「蒐集ってぇのは、魔力の核……リンカーコアから魔力を吸い取るって事やろ?」

「はい。そして蒐集をし、闇の書の全ての頁を埋め完全なる主として覚醒すれば、強大な力を手にする事が可能です」

 

 うわぁ、魔法云々を抜きにしても胡散臭過ぎるぞ……。

 

「うっはぁ、何やそれ。新手の詐欺みたいな謳い文句やないの」

 

 し、思考がだだ被りじゃないか……。まあ、普通そう思うよな。

 

「んで、そうすれば私の足も治る……てか?」

「それをお望みとあらば」

「うむむ……でもなぁ……」

 

 まあ、どんな願いでも叶う~とか言われれば揺れるよな。まるでジュエルシードみたい……いや、コレはもっと性質(タチ)の悪い類のモノだ。

 

「私はあんまし気が進まへんのやけど……」

「だぁもうメンドクセェな! いいからさっさと命じろよ! どうせお前も今までの主みたいに力が欲しいんだろっ!?」

「ヴィータ!! 主に向かって何て事を!!」

 

 ……雲行きが怪しくなってきたぞ? というかだ。確かに今、『今までの主』って言ったよな?

 

「ん~、確かに魔法を使(つこ)うてはみたいけど、わざわざ人様に迷惑を掛けるくらいなら、そないな力は要らんよ」

「……はい?」

「な、何を言ってんだよ……」

 

 ……凄いな。一瞬でそんな決断を出来るなんて、本当にはやては凄いよ。

 

「それにな?」

 

 真剣な表情のまま、この場にいる全員の顔を見回して息を吸う。

 

「『闇の書』なんて名前の魔導書が……まともなワケないやろ!」

「は、はやて?」

「あ、主?」

 

 これは……まあ、そうだな。

 

「いかにも完成させたらヤバい事起こりそうな気配がビンビンや! そんでもってヴィータ?」

「な、何だよ……」

「さっき今までの主とか言ったやろ。それって前にもこの闇の書を手に入れて、完成させた人がおるって事やないの?」

「そうだよ。この本を手にして、その力を欲しがった奴はいっぱいいる。その中にはもちろん完成させた奴だっていたさ!」

 

 待てよ? 完成させれば力が手に入る伝説級の魔導書なら、普通誰かに渡したりするか? ……これは追及しないといけないな。『カン』も何かを激しく訴えている。

 

「なあ、気になったんだが、闇の書を完成させたらどうなるんだっけ」

「それはさっきも言っただろ! すっげー力を手に……」

「違う、そうじゃない。完成させたその先だ。闇の書はどんな形で力を寄越す? どんな形で願いを叶える? 闇の書に一番近い守護騎士達はソレを見ている筈だ」

「さっすが涼さんや。言いたい事全部言ってくれたわ」

 

 そりゃどうも。さあ、どう答える。

 

「それは、えっと……わ、分かんねぇ……。シグナム達は?」

「……申し訳ありません。私にも見当がつきません」

「ええ、私も」

「私もです」

 

 やっぱりか。願いを叶える瞬間は見ていないと。

 

「加えて聞くが、はやてはもう1人いる気がすると言っていた。それについての心当たりはあるか?」

 

 多分だが、このもう1人が重要な気がする。

 

「……いえ、我らには心当たりはありません」

「なるほど。…………なら、俺の考えを言わせてもらう。質問は後で受け付けるから、まずは話を聞いてくれ」

 

 さっきのはやてと同じように、この場の全員の顔を見渡してから話し始める。

 

「この闇の書は意図的な改変、改悪をされているんだと思う。そしてそれを隠す為に、守護騎士達の記憶が消されている。この事から、闇の書の完成は何かは分からないが、とんでもない罠の起動スイッチになっているんだろう。そこでだ。ここで重要になってくるのは、はやてが言っていたもう1人の存在。俺が思うに、この人がカギだ。闇の書の異変や消された記憶の内容には、全てこの人が関わっている筈だ。……何か質問はあるか?」

 

 はやてを含めた5人全員が呆けた顔で俺を見ている……って、何で呆けてるんだよ。

 

「はっ……!? 長き転生の旅の中でも我らには気付けなかった、隠された真実を僅かな間で見抜き、その解決の糸口まで掴んでしまわれるとは……」

「卓越した慧眼、流石は聖獣様で有らせられます。このザフィーラ、守護獣として感服致しました」

 

 いやいや、持ち上げすぎじゃ…………ん? 今、変な単語が聞こえた気がするんだが?

 

「なぁ、聖獣って何の事だ?」

「聖獣とは伝説の獣、つまり『ユニコーン』の事でございます」

「『ユニコーン』が……? その、伝説って?」

「ああ! 説明が足りませんでした。我がベルカでは一角獣とは可能性の獣、希望の象徴、導きの聖獣として伝説になっているのです」

「な、何だって!?」

 

 ベルカでも『ユニコーン』が!? いや、それよりも可能性の獣、希望の象徴って……。ああ、くそっ! やらなきゃいけない事とか、整理しないといけない情報がごちゃごちゃし過ぎてモヤモヤする! 1つずつ片づけるしかない、思考を戻そう。

 

「すげー、ザフィーラがこんなテンション高いのなんて初めて見た……」

「いつ如何なる時代、姿であろうと聖獣の証たる一角を見逃す筈が無いだろう。一瞬でも本当にこの方が聖獣の繰り手かと思ってしまった事を、深くお詫び申し上げます」

「お、おう、許す……というかそこまで畏まらないでくれ。とにかく聖獣云々は置いといて、俺は蒐集自体には賛成だ」

「涼さん!? な、何言うとるんよ!」

 

 守護騎士達の雰囲気が一気に張り詰めるのと、はやてが焦って問いただしてくる。予想の範囲内だ。

 

「人の話は最後まで聞く。賛成とは言ったが、闇の書の完成には反対だ」

「……どういう事や?」

「これから説明する。シグナム、1つ聞くが闇の書は完成した時以外の記憶はあるんだろう?」

「ええ、完成後や今までの主の詳細、それと闇の書のもう1人以外の記憶については、ほぼ欠落は無い筈です」

 

 おお、予想以上に欠落が少ないな。これなら大丈夫か?

 

「闇の書の完成がトリガーになっているなら、完成までに闇の書側から何かしらの反応がある筈だ。今出来る事は少ない。だからまずは蒐集しつつ様子見をする。もちろん、他に解決方法があるならそれも試すつもりだ」

「なるほど、理解しました。ですが、主はやては蒐集行為を良しとしません。我らとしても主の意見は尊重したいのです」

「分かってる。俺だって何も人から奪い取れなんて言わないさ」

「なら、どうするのです?」

「俺達の探し物に協力してもらう」

 

 そう、まずはこの問題を解決しないと先へ進むのは無理だ。

 

「探し物……ですか?」

「そうだ。守護騎士は知らないだろうが、はやては聞いたことがあると思う」

「わ、私が?」

「……つい最近の海鳴市の巨大樹事件、聞いたことあるだろう?」

 

 俺に、いや、俺達にとって忘れてはいけない事件だ。

 

「あぁ、あれか! あの事件が何か関係あるんか?」

「あれは魔法関連の事件なんだ。……まずはこれを見てくれ」

 

 空中投影型のディスプレイを展開し全員に見せる。

 

「この宝石はジュエルシード。ロストロギアだ」

「ロストロギア!? 何故そのような物がこの地に!?」

「な、何や? そのロストロギアっちゅうんは?」

「ロストロギア、古代遺産とも言われる物なんだが……ああ、ロストテクノロジーって言った方が分かりやすいか?」

 

 少し言い変えると理解出来たみたいで、続きを促してくる。

 

「遺跡から発掘されたジュエルシードを輸送している途中何者かに襲われて、この地にばら撒かれてしまったらしい。今は俺と発掘した本人ともう1人の魔導師の3人で探索をしているんだ」

「なぁ、そのもう1人の魔導師って、まさか管理局と繋がってるんじゃないだろうな?」

「いや、繋がってはいない。元ははやてと同じような、魔法の素質を持った子だよ。年もはやてと同じくらいだぞ。発掘した本人も管理局とは直接の繋がりは無いみたいだ」

「ふぅん……。ま、どんな奴でもアタシらの敵じゃねーけどな!」

 

 ……何を張り合っているんだ?

 

「そこらへんも置いといて。このジュエルシードは持った者の願いを叶える、願望機のようなロストロギアだ」

「……そんなん小学生でも考えんで(笑)」

「言ってやるなよ、俺だって我慢したのに……。んで、コイツの正体は次元干渉型エネルギー結晶体……つまり、魔力を持っているって事。ここまで言えば分かるだろ?」

「ええ、魔力を持っているという事は、蒐集を出来ます……!」

「これなら誰にも迷惑が掛からんどころか、町の平和も守れるって事やね! くぅ~、面白くなってきたで!」

 

 よし、はやても納得してくれたし、守護騎士達も士気が高まっている。これならいけそうだ。

 

「協力……してくれるな?」

「もちろんや! なぁ、みんな!」

「はい、我ら全員、全力で協力を致します」

「おう、アタシらに掛かればそんなもんすぐに済むぜ!」

「ええ、私達に敵は有りませんもの」

「主や聖獣様の住まう地を守れるとは……守護の獣として力の及ぶ限り、協力させて頂きます」

 

 さて、纏まった所で自己紹介しないとな。このまま聖獣と呼ばれるとか、背中がむず痒くて仕方がない。

 

「ありがとう。改めて、俺の名前は浜寺涼だ。これからは一緒の目的を持つ仲間なんだ、聖獣様とか畏まった言い方なんてしなくていいから、涼って呼んでくれるとありがたい」

「分かりました。では涼と呼ばせて頂きます」

「アタシも涼って呼ぶから、ヴィータって呼べよな」

「それじゃあ私は涼君って呼ぶわね」

「……そう仰るのであれば、涼殿とお呼びします」

 

 よしよし、これで少しはマシになったぞ。

 

「ほんなら、主の私は守護騎士のみんなとは家族みたいなんになるんやし、私の呼び方もあんまり固いのは嫌やなぁ~」

「ぜ、善処します……」

「ま、呼び方は後回しや。それよりも、私は主としてみんなの衣食住、きっちり面倒見なアカンゆう事や。幸い住むとこはあるし、料理は得意や。後は、お洋服! ……て言いたいとこやけど、今日はもう遅いし明日にしよか」

「なら今だけ魔力で服を作ればいいんじゃないか? 流石にその恰好はどうかと思うぞ」

 

 ああ、ずっとツッコミたかったんだ。何で全員黒いインナーしか着てないんだよって……。

 

「魔力ってそんな事も出来るん!? 便利やなぁ……」

「……倫理的に問題があるのならば仕方ありません」

 

 あ、普通の服も知ってるのか。そうなら何でもっと早くに着替えなかったんだ。

 

「それじゃあ俺はそろそろ……」

「え、もう帰るん……?」

 

 …………その目には逆らえないよ。

 

「分かった、食べていく。でも6人分の食材は無いだろうから、今から買いに行こう」

「あ……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当は今日1日ゆっくり休む筈だったけど、こういうのも悪くない。いや、まあ闇の書とか新しい問題も浮上したけどさ。

 

 

 

 因みに夕食は、俺とはやての合作ハンバーグだった。夢中でご飯を食べていたヴィータは、とても可愛かったと言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日からは心機一転、頑張りますか!!




 おまけ ~変身?~


「なあなあ涼さん」
「何だ?」
「あのロボット、『ユニコーン』になる時の事なんやけど……変身ポーズとか決めへんの?」
「ぽ、ポーズ?」
「ホラ、仮面ラ○ダーとかみたいに!」
「え、ええ!? 別にいらないと思うけど……」
「アカン! 変身ポーズはやらなアカンよ! アレは戦う覚悟を決める為の儀式なんやから!!」
「儀式って、難しい言葉知ってるな……。でもそうか、戦闘用の思考に切り替える時に使えそうだな」
「せやろ? ほんなら1号から試してみよ!」


 という話があったりなかったり。


――――――――


 はい、というワケで原作が次元断層に飲み込まれましたね。


 書いてて思ったのは「フェイト陣営の勝率がほぼ0じゃないか?」でした。
 色々考えてはいますが、上手く文章に変換出来なくてもどかしいです。
 ですがそこは気合で頑張ります!




 ではまた次回で。


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魔法少女+一角獣+騎士+小動物=?

 こんばんは、牡蠣です。


 今回は少し長くなってしまいました。




 第15話、どうぞ。








 一夜明けた火曜日の放課後、俺はなのはとユーノを連れてはやての家を訪れていた。

 

「えと、ここが涼さんの言ってた協力者さんの家なの?」

「ああ」

 

 八神と書かれた表札の下にあるインターホンを押すと、すぐに家の中から声がした。

 

「はぁーい! あ、涼君ね、いらっしゃい」

「こんにちは、シャマル。皆との顔合わせの為に、昨日言ってた俺の仲間を連れてきたんだ」

「「こ、こんにちは!」」

「ええ、こんにちは……」

 

 なのはの魔力量を見て、少し警戒度が上がったか。無理もないけど、ここはフォローしておこう。

 

「玄関先で話すのもなんだろうから、上がらせてもらってもいいか?」

「え、ええ、どうぞ」

 

(俺の仲間なんだから、そう警戒するなよ。心配しなくても何も起こらないさ)

(ご、ごめんなさい。予想以上に大きい魔力の持ち主だったから……)

(気にするなよ。初対面なんだし、そんなもんさ)

 

「お邪魔します」

「「お、お邪魔します!」」

 

 何だか固いな。こっちにも声を掛けておくか。

 

「2人共、緊張しすぎだ。皆いい人達だから、気負う必要もないぞ」

「そ、そうだよね、うん」

「なのはに釣られて僕まで緊張しちゃってたよ」

「ユーノ君、それってどういう事なの?」

「え!? あ、これは言葉のアヤだよっ」

 

 ……大丈夫そうだな。いつもの調子だ。

 

「あ、いらっしゃ~い」

「お邪魔するよ」

「そんな固くならんでもええよ。そ、れ、よ、り、もっ! その子がもう1人の魔導師なん?」

「あ、た、高町なのはです! こっちはユーノ君! よろしくね!」

「初めまして、ユーノ・スクライアです」

「おおっ、ホンマにフェレットが喋っとる! あ、私は八神はやて言います。年も同じみたいやし、はやてでええよ」

 

 なのは達とはやてを会わせたのは正解だったな。初対面なのに上手くやれてる。それにどっちもいい子過ぎるくらいだし、この先も問題無さそうだな。

 

「これは……相当な量の魔力の持ち主ですね。涼の周りには不思議な縁でもあるように思えます」

「何を言うんだよ……ってシグナムか、何処に行ってたんだ?」

「風呂洗いです。この地では『働かざる者食うべからず』と言うそうですから」

 

 初めて見た時から思っていたけど、シグナムは超が付く程の真面目な人格らしい。守護騎士の将だから、これくらい真面目じゃないと務まらないんだろうな。

 

「ヴィータとザフィーラは何処に?」

「この周辺の地理を調べる為に出ています。もうすぐ戻る筈です」

「そうか、なら先に紹介するよ。昨日言ってた魔導師と発掘者の2人だ」

「こ、こんにちは、高町なのはです!」

「ゆ、ユーノ・スクライアです!」

「シグナムだ、よろしく頼む」

 

 凛とした雰囲気を放つが、ゴム手袋とスポンジを持っているせいでちょっと決まってない。

 

「私はシャマル、よろしくね」

 

 ちょうどお茶を淹れてキッチンから出てきたシャマルも自己紹介をする。

 

「ただいまー!」

「只今戻りました」

「お、2人共おかえり~」

 

 本当にタイミングが良いな。でもこれで全員揃ったか。

 

「涼、来てたのか! ……ソイツが昨日言ってた奴か? アタシはヴィータ、よろしくな」

「私は高町なのは! なのはって呼んでね。よろしくね、ヴィータちゃん!」

「私はザフィーラだ」

「はいっ、よろしくお願いします! ザフィーラさん!」

 

 さて、一通り顔合わせが済んだところで本題に入ろう。

 

「なあ、色んな所回ってる時に変な反応あったから調べてみたっけ、コレ見つけたんだけど……」

 

 そう言って、ヴィータが渡してきたのは件の探し物、ジュエルシードだった。

 

「お、おお、良く見つけたな! これで俺達の手元には6個集まった事になるな」

「へへっ、まあな! でもソレ、スゲー量の魔力が詰まってんのな。蒐集したら結構なページいきそうだぜ」

「……蒐集?」

 

 聞きなれない単語になのはとユーノが首を傾げている。……あ、言ってなかったな。

 

「はやて」

「うん、闇の書~」

「や、闇の書!?」

 

 はやての声に従って現れた魔導書の姿を見て、ユーノが驚きの声を上げる。

 

「ユーノ君、この魔導書が何か知っとるん?」

「知ってるも何も、闇の書と言えば指定遺失物扱いの危険なロストロギアじゃないか! 何でこんな所に!?」

 

 なるほど、大体理解出来たぞ。

 

「ユーノ、知っている限りでいい。闇の書に関する事を教えてくれ」

「え、あ、うん、分かった。今言った通り、闇の書は古代ベルカの時代のロストロギアで、管理局では指定遺失物として全次元で捜索されているんだ。それと完成した闇の書は、主ごとその周辺の管理世界を滅ぼすレベルの次元災害を引き起こすって言われてる。軽く本で読んだだけだから、これくらいしか知らないんだ」

「いや、十分だよ」

 

 やっぱりか。こんな強力な魔導書が知られていないワケ無いからな。

 

「やはり涼の見解は正しかったという事か。まさかそこまでの被害を及ぼすとは……」

「それだけの存在という事は、これまでの主の中にも闇の書の問題に気付いて、解決をしようと試みた人は居る筈だ」

「ですが今こうして我ら守護騎士が主はやての下に居るという事は、解決まで至らなかったと。そして闇の書の異変を隠す為に我らの記憶は消され、また愚行を犯す所だったのですね……」

「いや、まだ落ち込むのは早い。今回は起動直後から異常に気付けたおかげで、時間もあるから解決法も模索出来る」

「そう、ですね。」

 

 ほんの少しの間一緒に居ただけだが、今回の主であるはやてがとても優しい子であると理解しているんだろう。守護騎士にとっては感じるモノがあるようだ。

 

「それにユーノ、闇の書の今の主ははやてだ。決して悪用なんかしないさ」

「うん、それは分かるけど……」

「えっと、その闇の書っていう本が大変な事になってるんだよね? だったら私にも出来る事は無いかな?」

「なのは……うん、そうだよね。今僕がなのはに助けてもらっているみたいに、僕にも出来る事があるなら手伝わせてほしい!」

 

 俺が口を出すまでも無かったか。そうだよな、2人だってちゃんと考えているんだし、俺も気を引き締めないといけないな。

 

「今のなのはに出来る事は、ジュエルシードを集める事だ。砲撃での強制封印は今の所なのはにしか出来ないから、当てにしてるぞ。ユーノはなのはのサポート、それとシャマルと一緒に闇の書の解析をしてくれ」

「うん!」

「分かった!」

「よし、それじゃあこのジュエルシードを蒐集してくれ。どのくらいページになるのかを知らないといけない」

「分かりました」

 

 シグナムが闇の書へ蒐集の指示をすると、自動的に白紙のページを開く。

 

≪Sammlung.≫

 

 電子音声の後にジュエルシードから魔力を蒐集し始め、闇の書のページへ文字という形で蓄えられていく。ロストロギアと言うだけあってか次々とページが捲られていき、20に届くかという所で止まり闇の書が閉じる。

 

「大体19ページと少しか。思ったよりも稼げたな」

 

 感想を言いながら蒐集されたジュエルシードの状態を確認する。どうやら蒐集される前よりも全体の魔力総量は下がっているものの、全て無くなったわけでは無さそうだ。

 

「闇の書でも干渉出来ない部分……ブラックボックスって事か。それでも十分過ぎる量が詰まっているな」

「ふぅん……あ、そういやこのジュエルシードって何個あるんだ?」

「全部合わせて21個だ」

「それを全部蒐集出来れば、400はいくな! よぉし、ちゃっちゃと集めちまおうぜ!」

 

 勢い付くのはいいが、先にフェイトについて言っておかないと後々厄介な事になりそうだ。

 

「その前に俺達以外にもジュエルシードを集めている子についても話しておきたい」

「そ、そうなの! フェイトちゃんっていう黒い魔法使いの女の子が居るんだけど、その子とお話ししたいの! だから、えっと……」

「慌てなくてもいいんだぞ。なのはが言ったフェイトという魔導師が、今の所俺達とは敵対関係にあるんだ」

「敵? そんな奴、話すまでも無ぇ、アタシがぶっ潰してやるよ」

 

 言い方が悪かった、少し訂正しよう。でも何て言おう? 俺がフェイト達にも手を貸している事は言えないしな。…………なのははフェイトと話をして、出来る事なら力になってあげたいと考えているんだろう。ならその意を汲んで、そういう流れに持っていくか。俺もフェイトの事は心配しているんだ、なんとかしよう。

 

「待ってくれ、ただ倒すだけじゃ駄目だ。おそらくだが、フェイトはジュエルシードを集める為の手駒。倒せば余計に厄介になる」

「ではどうするのです? 我らはあまり口が達者とは言えません。説得となると……」

「分かってる。この中で一番の適任者はなのはだ。フェイトとは歳が近いみたいだし、説得をするのに適している。それになのは自身のやる気もある。上手くいけば、フェイトに指示を出している人物まで辿り着けるかもしれない」

 

 ここまで言って全員の反応を窺うと、なのはとユーノとはやては素直に賛成をして、守護騎士達は少し思案した後決定権をシグナムに託したようだ。

 

「……分かりました。その件は涼や高町に一任します。我らはジュエルシードの探索に力を入れ、そのフェイトという魔導師と敵対した場合すぐに連絡、時間稼ぎをしましょう」

「よし、これで大まかな方針は決まったな。それじゃあ確認するぞ。質問は後で受け付ける。カーテンを閉めてくれ」

 

 暗くなった部屋に空中投影型ディスプレイを表示し、箇条書きで確認していく。

 

・現地チーム:なのは、涼

・騎士チーム:シグナム、ヴィータ

・サポート:ユーノ、シャマル

・非常戦力:ザフィーラ

・本部:はやて

・基本方針:ジュエルシードの探索、蒐集

・フェイトと敵対した場合:騎士チームは現地チームを呼んで時間稼ぎ。現地チームは対話、交渉、説得。

 

「補足しておくとザフィーラは基本はやての守護で、緊急時にそれぞれのチームの救援に入ってもらう」

「畏まりました」

「サポートのユーノは現地チームと、シャマルは騎士チームと組んで常に3人で行動するようにしてくれ」

「分かった!」

「分かったわ」

 

 こんなところか。大体はこれを基に行動して、緊急時は合流すれば大丈夫か。

 

「なあなあ、私の役割って何なん? 本部って言われても、何をすればええのか分からんよ?」

「それを説明する前に、全員に言っておく事がある」

 

 その一言で部屋の空気が一層引き締まる。多分あんまりいい話じゃない事を察したんだろう。

 

「闇の書の事だが多分、いや、十中八九既に管理局に見つかっていると思う」

 

 守護騎士達の警戒度が急上昇し、物理的圧力を持っているレベルにまでなる。急な話に付いていけてないなのはとユーノだが、無視して続ける。

 

「理由はある。それは9歳にもならないはやてが1人暮らしをしている事。この時点で証明しているようなものだろう」

「それがどういった……まさか!」

「この日本じゃありえない。魔法で認識をずらさない限り、な」

「となると闇の書の起動も……」

「ああ、知られているだろうな。大方、起動を知って慌ててると思う。それと近い内に管理局がこの地に来るだろうな」

 

 シグナム以外の守護騎士も色々言いたそうにしているが、話をややこしくしないように黙っているんだろう。正直助かる。

 

「だからこそ、この中で一番重要な立ち位置にいるはやてを中心にするんだ。軽く見たが、はやての魔力の殆どは闇の書にあって、とても戦闘なんか出来る魔力量じゃない」

「そうやったんやね……。でも、管理局と交渉するってのは駄目なんか?」

「正直に言えばその方がいいのかもしれないが、基本方針のジュエルシードの蒐集を出来なくなるし、最悪の場合拘束されて身動きが取れなくなってしまうかもしれない。そうなると闇の書の異変を取り除く事も出来なくなる。後は…………あんまり言いたくないけど、はやてごと闇の書を強制封印する事になるかもしれない」

「そ、そうなったらはやてちゃんは……!?」

「っ」

 

 最悪の結果を想像して、言った本人の俺以外の顔が曇る。もちろんそんな結果にさせるワケが無いと伝える為に、わざと大きな声で話す。

 

「だからこそ!! はやてを助ける為に、管理局とは協力は出来ない。管理局側から見れば、これは魔法技術の乱用っていう罪になるかもしれない。それでも、俺ははやてを見捨てられない。知ってしまった、関わってしまったんだ…………助けられるかもしれない命を放ってはおけないんだ!」

「涼さん……」

 

 もう目の前で死なれるのは御免だ。そんなもの、何度も味わうようなモノじゃない。だから訴える。

 

「守護騎士達」

「「「「はっ!!」」」」

「協力、してくれるな?」

「「「はっ!!」」」

「するに決まってんだろ!」

 

 4人の顔を見回して頷き、なのはとユーノの方へ向きなおす。

 

「改めて言うが、2人は無理して付き合わなくていいんだぞ。俺達に付き合い続けたら、確実に犯罪者の仲間入りだ」

「で、でもっ……」

「僕は……」

「俺達に加わるか否か、この一線は凄く重要なラインだ。今すぐじゃなくていい、よく考えてほしい。どんな選択をしてもいい、後悔だけはしないでくれ」

「うん、分かった……」

「うん……」

 

 最後にはやてと向き合い、少しの間見つめ合う。

 

「勝手に話を進めてすまない。だけど……」

「昨日今日、もの凄い勢いで私の周りが変わってもうた。正直私自身も全然分かっとらんのよ。……けどな、少しだけ分かった事がある。私の事を思って、私の事を助けようとしてくれてるって」

「そうだ。このまま悲しい終わりを待つより、足掻いて、それでもって言い続けて、最悪じゃなくて最高の結末にしたいんだ」

「ありがとう、とっても嬉しい。その目は私の為にやらなくてもいいって言っても聞かんのやろ?」

 

 本当に嬉しそうに、だけど少しだけ困ったように笑う。

 

「よく分かってるじゃないか」

「中心の私が言うのもアレやけど、あんまり無理はせんでな?」

「ああ、それに俺達の目的はジュエルシードだ。上手くやれば余計な被害も迷惑も掛けずに済む」

「…………うん、ほんならええ。なんや、私自身の事やのに足を引っ張ってまうから、私が関われんのはもどかしいなぁ」

「それでいいんだ。はやてはゆっくりしていればいい。気が付いたら全部終わってるから」

 

 言いたい事は沢山あるのに、上手く言葉にならない表情で俺を見るはやての頭を撫でる。

 

「はぁ……涼さんも守護騎士のみんなも、無理して身体を壊すのだけは堪忍な?」

 

 俺と守護騎士の5人が頷くのを見て、はやてはなのは達と向かい合う。

 

「なのはちゃん、ユーノ君」

「はやてちゃん……」

「はやて……」

「今日初めて会ったばかりの私の為に、付き合わなくてもええんよ。まぁ、それは涼さん達にも当てはまるけどな」

 

 その言葉で決心が付いたのだろう。吹っ切れてはいないみたいだが、表情が全然違う。

 

「私……お話し、ほんの少ししか出来てないけど、はやてちゃんと友達になれたと思ってる。だから、私は私の魔法の力を友達の為に使いたい……!」

「なのは……。僕は……僕はっ……どうしたらいいのか分からない……! こんな僕自身が嫌だよ。だけどっ! だけど……何もしないのはもっと嫌だ!! だから、選ぶ。涼さん達に協力して、はやてを助けるって!」

「本当に、その選択でいいんだな?」

「……分からないよ。でも、後悔するかしないかは私が決める! だから涼さん、はやてちゃん、これからもよろしくね!」

 

 そうだよ、なのははこう見えて凄く強引なんだよな。

 

「ああ、こちらこそ! なのはの力、当てにしてるぞ」

「うん!」

「ユーノもだ。決めたんだろう?」

「う、うん!」

「なら、何も言わない。サポートは前で戦う俺達の生命線だ。サポートがあるから、俺達は安心して戦えるんだ。頼りにしているからな!」

「ま、任せて!」

 

 2人から心強い答えを聞いてから、最後にもう一度だけ全員と目を合わせる。

 

「確認する! 俺達の目的はジュエルシードを集めて、はやてを助ける事!!」

「「「はいっ!! 「「「うん!! 「おうっ!!」」」」」」

「ついでに色んな面倒事も解決して、最高の結末を目指す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目指すは誰にも文句を言わせない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるぞおおぉぉぉぉ!! 応っ!!!!」

『応っ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全無欠のハッピーエンドだ!!!!





 勢いに任せた結果が今回のお話でした。

 上手く纏められたような、纏まっていないような……。

 読んでる方々に面白いと思って頂ければ嬉しいです。



 ではまた次回……


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騎士と一角獣

 こんばんは、牡蠣です。

 スパロボのユニコーン、カッコイイですね。フル改造待ったなしです。
 魔法少女リリカルなのはViVidも放送開始しましたね。なのはさんとフェイトさん、あれで23歳なんですって。



 第16話です、どうぞ


 団結式(?)の後、既に日が沈んでいたので今日はもう遅いから、翌日またはやての家に集まる約束をして解散をした。

 そして自衛手段があるとはいえ、傍から見れば遅い時間に女の子が1人歩きをしているようにしか見えないので、俺が送り届ける事になった。家を出る時にまた戻ると伝える事も忘れない。

 

 

 

 

 

「送ってくれてありがとう、これから頑張ろうね!」

「ああ! ユーノ、俺や守護騎士が居ない時になのはが頼れるのはお前だけだ」

「うん、任せてよ!」

「イイ返事だ。それじゃあまた明日な」

「またね!」

「涼さんも気を付けてね!」

 

 手を振る2人に、振り返して答える。2人が家の門を潜るのを見てから、またはやての家へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 涼さんがなのはちゃんを送りに行った後、私はみんなの騎士甲冑を考えていた。

 

「ん~、騎士甲冑って言われてもなぁ……。甲冑って言ったら鎧兜みたいなんしか思い付かんよ?」

「甲冑でなくとも、服でも構いません。大まかなイメージさえあれば、後は各自で編み出しますので」

 

 服……服なぁ……。戦闘服……ニチアサ? いやいやアカンて、リアルで全身ピッチリスーツとかHENTAI以外の何物でもないで。仮面? これは……候補に入れとこ。

 

「むぐぐ………………あっ!!」

「早いですね、もう思い付かれたのですか?」

「うぅん、そこはまだやけど、私らのシンボルゆうか、エンブレムみたいなんがあったら良さそうやない?」

 

 うんうん、これは名案や。何だかチームっぽさが増す気がするで!

 

「エンブレム……旗印ですか、それは良いですね」

「それなら強そうなのがいいなぁ!」

「しかし採用するとしても、どのようなデザインにするかが問題だ」

「あ! それなら涼君のあの姿にしたらどうかしら?」

 

 涼さんの……ユニコーンか!

 

「流石やシャマル! それに守護騎士のみんなゆうか、ベルカにとってユニコーンって縁起のイイもんなんやろ?」

「そう……ですね。聖獣のエンブレム、我らにとってはこれ以上無い程のデザインです」

「聖獣の印を賜る事で、自らを戒める事にも繋がる。私は賛成です!」

「ザフィーラ…………まぁ、アタシもイイと思う。ってかなのはとかも合わせた全体的なリーダーも涼でいいんじゃねぇか?」

「そうねぇ、何だかんだで皆を仕切ってたもの。あ、私もエンブレムは賛成よ」

 

 リーダーもユニコーンの涼さんか! 元からなのはちゃん達のパーティーを仕切ってたみたいやし、確かに私達のリーダーにはピッタリやね。

 

 そんな風に噂をしてたら、涼さんがちょうど戻って来た。

 

「お邪魔します……戻るって言ったけど、勝手に上がって良かったのか?」

「かまへんかまへん! かなりイイタイミングや!」

「お、おう……で、何の話?」

「守護騎士のみんなの騎士甲冑……バリアジャケットて言うんか? それを考えてる途中に思い付いたんやけど、私達のエンブレムなんて作ってみたらどうかなーって……」

 

 私の話を聞いた涼さんは少し考え込む。やっぱり遊びでやるワケや無いし、こういうのはおふざけに思えるやろうから駄目かもなぁ……。

 

「あ、あのな? 私はみんなみたいに戦えないし、何か出来る事が無いかなって思って考えてみたんやけど……。駄目なら駄目って言ってくれてもええんやで?」

「ああいや、黙ってたのはそういう事じゃ無いんだ。寧ろいい案かもしれない」

「えっ?」

「意思統一の役割もあるし、エンブレム自体に術式を組み込んでGPSや、念話を飛ばす手間も取れない時のSOS発信の機能を持たせるとか……どうだ?」

「うん、うん! やっぱ涼さんは凄いなぁ!」

 

 そんな発想まで出来るなんて……言ってみて良かった!

 

「んで、どんなデザインにするかとかって決まってたりする?」

「その事ですが、我らの中ではユニコーンが満場一致で採用されたのです」

「そ、そうなのか……。あ、ベルカでは聖獣って言われてるんだったか。……じゃあこんなのはどうだ?」

 

 そう言って涼さんが懐から取り出したのは、円の中にユニコーンが描かれている、赤い線で縁取られた1枚の白いカード……カード?

 私を含めたみんながそのカードに釘付けになってると、コレがあの『ユニコーン』だって説明してくれた。

 

「うぇ!? それがあのロボットに変わるんか!? …………物理法則もあったもんじゃねぇな」

「は、はやて? 急に物騒な言葉遣いなんかしてどうした?」

 

 いや、誰でもそう思うハズや! どう考えてもそんな1cmも無いカードが、あんなロボットに変わるなんて思わんで。

 

「何でもあらへんよ。うん、確かにその絵はエンブレムにするのにピッタリやね。ソレを採用するって事で……あ~、そや! 今それに変身する事って出来るん?」

「もちろん、っていうかコレの相談をしたかったんだよ。流石にリビングで起動するのは駄目だし庭に出よう」

 

 

 

 家の周辺に結界を張った後、庭の真ん中に立った涼さんはカードを掲げると機体の名前を呼んだ。

 

「『ユニコーン』、起動!」

 

 光源も無いのに、キラリと光ったカードから白い粒子が出ると涼さんを包む。粒子は繭みたいに丸くなってから1秒も経たずに破られると、その場には『ユニコーン』を装備した涼さんだけが残った。

 

「う~ん、やっぱりその変身は意味不明や!」

「全身が装甲の甲冑……いえ、機械甲冑ですか」

「機械か……まともに見るのは初めてだけど、魔法技術が使われてるとは思えねぇぜ。しかも素の状態でも硬そうだ」

「やはり聖獣殿の姿は美しくも雄々しい。こんな間近で、直接この目でそのお姿を拝見できるとは……!」

「とっても綺麗なのは分かるわ。でもザフィーラ、貴方やっぱり様子が変よ?」

 

 私のザフィーラに対しての、寡黙で冷静なイメージが崩れ去っていく音が聞こえるで……。

 

「ハ、ハハハ…………コホン。この機体のスペックは俺でも全部把握してるワケじゃないし、詳しい事は言えないからそこらへんは勘弁してくれ。それで本題はここからだ。実はコイツには『NT-D』というシステムが組み込まれているんだが、それの実働試験に協力してほしいんだ」

 

 

 

 

 

 説明された『NT-D』ゆうシステムは、これまで2回しか起動してないらしい特殊なシステムだそう。しかも1度目は無我夢中で覚えてなくて、2度目は意識を失ってもうたらしい。

 そして涼さんが頼んできたのは、これからの戦いに備えてこの危険なシステムを少しでも知っておきたいから、起動して暴走してしまった時に止めて欲しいっていうモノやった。

 

「アレか、漫画とかで言えば強化イベントみたいなんか。私はええと思うし、そもそも止める権利もあらへんよ」

「そうか……守護騎士達はどうだ?」

 

 守護騎士達に聞くと、少しだけ4人で顔を見合わせた後に頷いた。

 

「賛成みたいやね。なら、私はみんなに騎士甲冑を考えてあげんとな。むむむ……とりあえずこんなんでどうや?」

 

 なんとなくやけど、みんなを一目見た時からこんな感じの衣装が似合いそうやなぁって思っとった大まかなイメージを、念話でビビビッと受け渡す。

 

「ほぉ……これは……」

 

 シグナムには桃色の髪に似合う赤紫のインナーや桃色掛かった白い上着、スカートアーマー、ガントレットとかの、如何にもな騎士装束を。

 

「おおっ!」

 

 ヴィータには赤いゴシックロリータの服に、買い物の時に一目惚れしたらしい『のろいうさぎ』をワンポイントであしらった帽子を。

 

「あら、かわいい~」

 

 シャマルには魔力の色と同じ薄緑色のロングスカートにコート、ナースキャップをモチーフにしたキャップを。

 

「……!」

 

 ザフィーラには道着をモチーフにした群青色の如何にもな戦闘着に、ガントレットとグリーブを。

 

 

 

 

 

 私のイメージを基に魔力で作り上げた騎士甲冑に、守護騎士達は満足してくれたみたいや。良かった良かった、これで満足出来ないとか言われたらデュエ……ゲフンゲフン。

 

「うん、みんな似合っとるよ。考えた甲斐があるってもんやな」

「主はやて……守護騎士を代表して感謝します」

「かまへんよ。それに、私の為に頑張ってくれようとしてるみんなに、これくらいしかしてあげられなくてごめんな?」

「主はやて……」

 

 あっ、アカン、湿っぽい空気になってもうたね。

 

「さて、準備は良いか?」

「ああ、起きろ、レヴァンティン!」

 

≪Jawohl!≫

 

「こっちもだ。グラーフアイゼン!」

 

≪Jawohl.≫

 

「もし怪我したら私がすぐに直すから、心配ご無用よ。ね、クラールヴィント?」

 

≪Ja.≫

 

「主はやてとシャマルへの被害は私が全て防ぎます。心置きなくお力を発揮して下さい」

 

 それぞれが剣、ハンマー、指輪のデバイスを呼び起こす。……魔法っぽいのがシャマルのクラールヴィントくらいしか無いのは気のせいなんか? とにかく、今は涼さんの頼み事に意識を向けよか。

 

「これなら暴走しても一瞬で落とされそうだな。よし、それじゃあ起動する! 念の為はやてとシャマルとザフィーラは下がっててくれ。一番いいのは結界の外に居る事なんだけどな」

「ご、ごめんな……。でも、間接的にも直接的にも私に関わる事なんや。出来るだけこの目で見ておきたいんや。良い事も悪い事もしっかり受け止める為に!」

 

 ちょう恥ずかしいけど、ちゃんと言わなアカン大事な事や。口に出さないと言葉は伝わらんもんな!

 

「……分かった。シャマル、ザフィーラ、特に問題は無いと思うが、はやてを頼むぞ」

「ええ、任せて」

「御意に!」

 

 涼さんは満足そうに頷くと、離れていった。

 

「それじゃあいくぞ……『ユニコーン』!」

 

 

 

 

『NT-D』、起動!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

『NT-D』、起動!

 

 

 

 

 コマンドワードを言うと過去2回と同じく、視界モニターが赤くなり『NT-D』と表示された後、全身を締め付けるような痛みが襲ってきた。

 

「ぐううぅぅぅぅ!!」

 

 痛い……が、今回は機体側からの強制起動ではなくパイロット側からの任意起動であるからか、思考にかなりの余裕がある。そのおかげで、この痛みは俺と『ユニコーン』の繋がりを強くする為だと理解した。

 

「涼! 大丈夫ですか!?」

「も、問題……ない!」

「オイ、ホントに大丈夫なのかよ……」

 

 声を掛けられ返事を返した事で、周囲にも注意を向けられるようになった。改めて自分の状態を確かめてみると、装甲が展開し露出した部分が赤く発光している。露出したのはサイコフレームだと分かってはいるが、何故赤く発光しているんだ? ……まあいい、とりあえず暴走する気配は無さそうだし、痛みも大分マシになってきた。

 

「起動は成功した。状況を整理する、少し待ってくれ」

「分かりました」

 

 機体に簡易チェックを命じて異常は無いか調べると、『ユニコーン』の姿が全く違うモノになっている事に気付く。全身を白い装甲に覆われていた姿が、『NT-D』発動後は全身の装甲が展開され、頭部に至ってはマスクのような部分が無くなり『顔』が露出している。さらに『ユニコーン』の象徴的な一本角は、2つに割れてV字型のアンテナになっている。

 自身の姿の再確認の次は視界モニターの変化に目を向ける。主な変化は視界の端にある数字だった。1秒毎に減っている事から、このモードの制限時間だと分かる。この状態を維持できるのは最大で300秒程、約5分だが、何もしていないのに激しく体力を消耗している事を考えると、3分程度が限界だろう。

 装甲の展開、制限時間、この2つから考えられるのは……機体のリミッターを外しているのか。

 

「この姿でいられるのは精々3分程度だが、リミッターを外しているから性能は段違いみたいだな」

「リミッター解除……使いどころが重要になりそうですね」

「っていうか、NT-Dって何の略なんだ?」

「これはニュータイプ・デストロイヤーの略らしい」

「ふぅん……ならさ、アタシらのデバイスのモードみたいに、デストロイモードって呼べばいいんじゃねぇか?」

 

 ふむ、確かに『NT-D』はシステムの名前だし、これからはそう呼ぶか。……ん? はやて?

 

「涼さーん!! その顔ー!! ガンダムやー!!!」

「が、ガン……ダム……!?」

 

 機体の状況画面をよく見なくても、今の『ユニコーン』の『顔』はまんまガンダムだと気付く。って何で言われるまで気付かなかったんだ!?

 

「どういう……事だ……!?」

「涼、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない」

「いや、どう見ても問題だらけだろ」

 

 大丈夫ったら大丈夫だ。…………ふぅ、落ち着いて考えよう。多分だが、サイコフレームの露出が出来れば良くて、顔は父さんの好みなんだろう。家には色んなガンダムの漫画とかDVDが置いてあるくらいだし。……まあ俺も嫌いじゃないし、顔に関してはスルーしよう。

 

「とりあえずデストロイモードは維持にかなり体力使うから、元の……ユニコーンモードに戻しておくよ」

「特に異常が無くて何よりです。暴走しているとはいえ、涼を墜とすのは気が引けますから」

「ああ、俺としても余計な手間を掛けなくて良かった」

「おう、そんじゃま、いっちょアタシと戦ってみるか!」

「ヴィータ!?」

 

 驚くシグナムを無視して、デバイスを構えるヴィータに対して俺は何も言わずに距離をとる。

 

「『ビーム・マグナム』! 『シールド』!」

「涼!? ……ハァ、分かりました。私としても涼の実力は見ておきたかったですから」

「なのはの事も見てやって欲しかったけど、時間が時間だからな。明日でも問題ないだろ。俺はまだ強いとは言えないし、鍛えてもらうつもりで行くからな!」

「おう、いつでも来やがれ!」

「よし……行くぞ!」

 

 その言葉を合図としてマグナムを撃ち込み、突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、俺ははやての家の庭に頭から突っ込んでいた。

 強いとは分かっていたけど、腹にブースト付きのハンマーをブチ込むのは無いじゃないか…………。







 守護騎士達のバリアジャケットは原作と変わりはありません。
 それと今回でユニコーンが『NT-D』を『一応』、任意起動出来るようになりました。

 エンブレムに関しては、νガンダムの盾に描かれている物をイメージして頂ければいいかと。



 それではまた。


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一角獣達の休日

 こんばんは、牡蠣です。

 祝! UA10000超え!
 多くの方に閲覧して頂き、感謝の極みです。これからも頑張って更新していきたいと思います!


 それでは第17話、始まります。


 あれから数日、放課後にジュエルシード探索とその後に模擬戦でのトレーニングを繰り返していたら、あっという間に週末になっていた。

 しかし探索では人手が倍以上になったにも関わらず、1つも見つける事が出来ていない。残りのジュエルシードの数が11個と、約半分になっているからかなかなか見つからないな。そろそろ探し方を変えるべきだろうか……?

 それと模擬戦に関してだが、流石歴戦の騎士の一言に尽きる。俺となのははヴィータと戦っては墜とされ、シグナムと戦っては墜とされ、タッグを組んで挑んでは墜とされ、挙句の果てには2対1でハンデを貰っても勝つ事は出来なかった。だが墜とされた数だけ得られるモノもあった。闇雲に攻めるのではなく相手の視線や身体の動きに気を配り、それに合わせて攻める事で相手の呼吸を乱すといった戦法等、シミュレーションだけでは学べない多くの事を学べた。

 そうして墜とされながらも成長していく俺となのはを見ていたヴィータ曰く、

 

「テメェらの学習速度は早すぎる。1回墜とす度に動きが段違いに良くなるとかバケモンかっつーの」

 

 らしい。俺達はただ単に反省会や考察をして、お互いを高め合っているだけだというのに、全くもって酷い言われようだ。

 

 そんな事がありつつも日が経ち週末の今日、士郎さんが経営している喫茶店がゴールデンウィークには忙しくなるから、その前の週の休みを利用して温泉旅館へ宿泊するというイベントに誘われていたので、ついでとばかりに八神家の参加も許可を貰って同行していた。

 今回の旅行は高町家の5人、月村家+メイドの4人、アリサとその執事(?)の2人、八神家の5人(ザフィーラは人型で参加)、俺の合計17人という大人数になったのだが15人を超えたおかげで団体の大幅割引が掛かったらしく、高町家の皆さんからは良くやったとお褒めの言葉を頂いた。

 それと流石に人数が多いので、乗用車ではなくマイクロバスを使っての移動になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「『伝説の剣』を装備した『炎の剣士』でダイレクトアタックや!」

「あぁ~もう! また負けたぁ!」

「まあまあ、アリサちゃん。次は勝てる…………と思うの」

「な、なのはちゃん、最後の一言は我慢しようよ……」

「ふ た り と も !」

「まぁまぁ、アリサちゃん。今回は私のデッキの回り方が良かっただけや」

「今回『も』、でしょうが! うぅ、アタシのレッドアイズが~」

 

 

 

 

 

 まぁ、はやてもアリサとすずかと仲良くなれたようで何よりだ。……仲良くなる為の道具が少しおかしい気がするが、気にしたら色々と駄目なんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 窓の外を眺めつつ、アリサの執事(もしかしたら専用運転手?)の運転するマイクロバスに揺られる事約1時間。目的の旅館へ到着した。

 

「こんな近場に旅館があったなんて気付きませんでした……」

「ウチも数年前にここを見つけてから、毎年皆で来ているんだよ。来年以降も来ようと思っているから、その時は涼君やはやてちゃん達も一緒に来ような」

「……はい!」

 

 本当にこの人達は……いや、言うのは野暮か。

 

「それじゃあ恭也! ザフィーラさん! 男は荷物運びだ!」

「分かってるよ」

「分かりました」

「ほら、涼君もだぞ」

「はい、もちろん手伝いますよ」

 

 

 

 

 

 

 女性陣には先に休んでもらって荷物を運び、落ち着いた所で全員で先に温泉を楽しもうと浴場に向かった。……ユーノ? アイツは男だ。俺達と一緒に入ったに決まっているじゃないか。後、士郎さんは喫茶店の店長の筈なのに何故全身に傷痕があるのだろうか気になったが、聞いてもはぐらかされると感じたので何も言わずに忘れる事にした。

 入浴後は全員で昼食を摂り次第各自自由行動となり、士郎さんと桃子さんは夫婦2人で、恭也さんは忍さんと恋人同士で、メイドの2人と執事兼運転手の鮫島さん(名前を教えてもらった)は近くに居ながらゆっくりとしてもらった。なのは達小学生陣と美由希さんと守護騎士は卓球やらマッサージ器やら決闘やらと休みを満喫していた。特に守護騎士達にとって、こういった行楽は初めてだろうという事で、予め全力で楽しむように言っておいて良かった。

 俺? 俺は今……

 

「おや、スズじゃないか! こんな所で会うなんて、ホント奇遇だねぇ!」

 

 アルフと遭遇していた。用事が無い時はサーチャーの魔力供給以外をカットしていたのが仇になったか。ホント何でこんな近くに居るんだよ……。

 

「アルフ……まさか、ジュエルシードが?」

「さっすがスズ、理解が早くて助かるよ」

 

 やっぱりか。となるとこの近くにあるって事になるが……。

 

「ところでフェイトは何処に?」

「あぁ、その事なんだけどさ、スズからも言ってくれないかい?」

 

 聞くと、フェイトはジュエルシード集めに精を出してばかりで全然休もうとしないのだとか。無理しないでと言ってはいるが、ちゃんと休んでるから大丈夫と言って聞かないのだとか。それに加えて俺に手間を掛けたくないからと、連絡もしていないときた。

 はぁ……全く、なのはといいはやてといいフェイトといい、どうしてこう抱え込む子ばっかりなんだよ。しかも俺に相談も無しとは……少し頭を冷やしてもらおうか?

 

「アタシが言っても聞かなくて困ってたんだ。色々面倒そうな奴も出てきたし、ここら辺で一旦ガス抜きくらいしてほしかったから、ホントに頼むよ」

「分かった、俺からも言おう。それにここは温泉があるし、休むのにはうってつけだ」

 

 早速通信をしようと、サーチャーの位置がフェイトの近くにあるのを確認して回線を開く。

 

「アルフ、どうしたの……す、スズ!?」

「やぁ、フェイト、元気?」

「う、うん……私は元気だよ……?」

 

 あ、コレ駄目なヤツだ。つい1週間前には見えた笑顔に力が無い。やはり俺から積極的に関わらないと駄目なんだろうな。ある程度把握はしていたが、ここまで消極的な性格だったとは……。ああもう、何で自分を省みないんだ!

 

「フェイト、俺達の居る場所は今の通信で分かってるな?」

「うん……」

「来い」

「……え?」

「聞こえなかったか? 来いって言ったんだ」

「でもこの近くにジュエルシードが……」

 

 思った通りに渋るか。有無を言わさずに来てもらおうと思ったが、少しだけ譲歩しよう。

 

「探すだけならサーチャーだけでも大丈夫だろ。その周辺に俺のサーチャーを基点にして、いくつかフェイトのサーチャーを設置するんだ」

「わ、分かった……!」

 

 漸く俺の雰囲気の違いに気付いたんだろうな。慌ててサーチャーの設置に取り掛かっている。

 それを眺める事約1分、設置完了みたいだ。

 

「出来……ました」

「よし、それじゃあこっちに来てくれ、少し話がある」

「わ、分か……りました」

 

 …………怒られると思っているのか? とにかく、一旦ここまで来てもらおう。話はそれからだ。

 通信を切ると、アルフが申し訳なさそうにしていたのでフォローを入れる。

 

「来たらまず最初に温泉に入ってもらおう。何をするにしてもお湯に浸かって一息吐かないと、出来る話も出来なくなるからな」

「本っ当にありがとねぇ」

「気にするなって。フェイトの事を心配しているのはアルフだけじゃないんだ」

「ああ、そうだったね。それじゃあアタシはフェイトを迎えに行って、温泉に入ってくるよ。スズはどうするんだい?」

「俺は友達の家族と来ているから、一旦戻るよ。何も言わずに長時間居ないと心配させるからな。また後でな」

「また後で……ああそれと、フェイトの邪魔になりそうな魔力を持ったチビッ子が居たから、もし会ったら気を付けなよ」

「あ、ああ、分かった」

 

 まさかなのはとすれ違っていたとは……危ない所だった。

 

 

 

 

 

 

 なのは達の所へ戻ってから40分程過ぎたあたりで、アルフから風呂から上がって部屋に落ち着いたと念話が入り、今から行くと返したところで、厄介な事にシャマルに気付かれてしまった。やはり補助のエキスパートには隠し事は出来ない。ここは逆に事情を伝えて協力してもらおう。

 

「なるほどねぇ。なのはちゃんは分かるけど、涼君がその子に拘る理由が分からなかったけど、今の話を聞いて納得したわ」

「上手くすれば俺達の側に引き込めると思うんだけど、今俺が『ユニコーン』だって事がバレると面倒なんだ」

「要は口止めでしょ? 皆には黙っているから大丈夫よ」

「助かるよ。それにしても……」

「ん、何かしら?」

 

 浮気現場を目撃した某家政婦みたいだという思考が漏れているのは……。

 

「い、いや、何でもない」

「そう? なら私は戻るわね。フェイトちゃんの説得、頑張ってね!」

「お、おう」

 

 もしかしなくても、シャマルはこの数日で昼ドラに嵌ってしまったのか? 出歯亀根性が見え見えなんだよなぁ……。

 とにかく、気を取り直してフェイト達の所へ行こう。……先に売店で何か買ってからだな。

 

 

 

 

 

 

 教えてもらった部屋に入ると、俺の姿を見た浴衣姿のフェイトが一瞬嬉しそうにした後申し訳なさそうに正座をし、それを見たアルフは苦笑して俺を迎える。

 

「細かい事は抜きにして、俺が何を言いたいか……分かるな?」

「はい……」

「そうか、なら……こうだ」

「? ……あうっ!?」

 

 額にデコピンをお見舞いすると、ちょっと赤くなった額を抑えて涙目になる。悪いとは思ったが、ちゃんと分からせてやらないとな。

 

「痛いか? だけど、フェイトが無理をして心配を掛けた俺とアルフの心はもっと痛いんだ」

「ご、ごめんなさい……。でもジュエルシードを早く集めないと」

「まだ言うか」

 

 俺の周りに集まる子の特徴に頑固ってのも追加だ。本当にもう……。

 

「集めるなとは言ってないんだ。少しでいいから休めと言ってるんだ」

「でも、休んでる間にあの白い2人が集めてるかもしれないし……」

 

 やはり俺達と敵対関係になった事が原因か。なら、ここから切り込めば何とかなるか?

 

「そこまで思い詰めるなら、何でわざわざ敵同士だって言ったんだよ」

「だって、なのはって子の肩に乗ってた使い魔が駄目だって言ったから……」

「そこでもっと話し合えば、戦わずに済んだんじゃないのか?」

「そうだけど……。すぐ後にスズとは通信が切れるし、白い一本角の人は様子がおかしくなるし、それどころじゃなくなっちゃったんだもん」

 

 あぁ、そういえばそうだった! うっかり失念していた……。あの後フェイトを宥めるのに苦労したじゃないか。

 

「その事に関しては、本当に済まなかったと思っている……。とりあえずもう一度だけでも話し合わないか? ちゃんと話し合えば向こうも分かってくれる筈だ」

「確かにアイツらは協力してくれとは言ってたけど、信用出来るのかい?」

「出来ると思う。理由は簡単だ。あの3人は町に被害を及ぼさない為に協力してほしいと言っていた。という事はこちらから話し合いの席に着けば、少なくとも話は聞いてくれる」

 

 俺の言葉を聞いて少し悩んだアルフは、明確な反対をしなかった。どうやら反対はしないが、最終的な判断はフェイトに任せるみたいだ。

 

「私は……出来ればあの子達とは戦いたくない……。でも、ジュエルシードは譲れない」

「なら、その想いをぶつければいい。何も言わないで、自分の中だけで思っていたら何も変わらないんだ」

「スズ…………うん、そうだよね。決めつけてるだけじゃ駄目だって、独りよがりじゃ駄目だって言ってたもんね。次にあの子達と会った時、頑張って話してみる」

 

 よかった……、なんとか渡りをつけられたぞ。後は、おそらく……いや、確実に今日の夜、なのはの側で対峙した時が勝負だ。戻ったら話し合いの最中に邪魔の入らないよう、守護騎士達全員に話をつけておこう。

 

「よしっ、次にやる事は決まったな! この話はここまでだ。フェイト、頑張れよ。困ったらすぐに俺かアルフに頼って良いんだからな」

「うん、ありがとう、スズ。アルフもね」

「お礼なんていらないよ。アタシはいつでもフェイトの味方さ!」

「うん……うん!」

「それじゃあ少し遅くなったけど、お昼にしよう。まだ食べてないだろ」

 

 頷く2人に、来る前に売店で買ってきたペットボトルのお茶とお弁当を渡す。温めてから来たが、冷めてなくて良かった。

 

「生姜焼き弁当とカツ丼弁当だ」

「おおっ、肉! 貰っちゃってもいいのかい?」

「どうぞどうぞ」

「あれ、スズは食べないの?」

「俺はもう食べたからな。気にせず食べてくれ」

 

 

 

 

 

 

 2人が弁当を食べるの傍で取り留めもない話をしながら寛いでいると、気が付けば1時間も過ぎていた。

 

「俺はそろそろ戻るよ。ジュエルシードを見つけたら連絡してくれ。多分だけど、あの子も来る筈だ」

「! 分かった、見つけたらすぐに連絡する」

「おう、それじゃあまたな」

「うん、また」

「またね」

 

 

 

 

 

 

 皆の所へ戻ると卓球大会を開催していたのだが、すずか対ヴィータとシグナム対美由希さんの対決が白熱しすぎて、戻って来た事に気付かれなかった。幸運と言えば幸運なんだが…………解せぬ。

 最終的に温泉に来たメンバー全員での卓球大会に発展したが、荒れに荒れた大会は結局大人組が優勝を争ったそうだ。早々に負けた俺を含めた子供組は、部屋で決闘大会を開いていたのだが、こちらもこちらで大変だったとしか言えなかった……。

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べた後再び温泉に入り、早めに寝る事になった。そして全員が寝静まった夜の11時頃、ジュエルシードの反応を感じ取った。仮眠として浅い眠りについていた意識が覚醒し、魔導師としての思考に切り替わる。

 

(全員、感じたな?)

(『うん!』)

(『はい!』)

(よし、それじゃあ今回は俺となのはが前に出る。シグナムとヴィータは緊急時の戦力。ユーノとシャマルは結界の展開、維持。ザフィーラとはやてはここを動かないでくれ。……行動開始!)

(『了解!』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備は万端、フェイトの方も話し合いの方向に意識を持っていけた。後は上手く説得するだけだが、この纏わりつくような『感覚』は一体……。警戒だけは怠らないで、いつでも全員に指示を飛ばせるようにだけはしておこう。




 作者的に、なのはは『青眼の白龍』、はやては守護騎士をモチーフにしたファンデッキ、すずかは『ヴァンパイア』軸(まんま)、アリサは『真紅眼の黒竜』デッキ(凡骨並感)かなぁ、と。……はい、完全に脱線しました、すいません。



 今後とも『魔法少女と一角獣』をよろしくお願い致します。

 それではまた次回で。


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一角獣達と黒い魔法少女

 こんばんは、牡蠣です。

 前回から間が空いてしまいました……。




 第18話、どうぞ。




 ジュエルシードの反応がした地点に向かう途中、サーチャーを通してフェイトが封印をしたところを見る。

 

「どうやらフェイトが封印したみたいだな。とりあえず暴走する事は無くなったか」

「後はお話しするだけなの!」

 

 その言葉に頷き、飛行速度を上げる。

 

 

 

 1分もしない内にフェイトとアルフの下へ降り立つと若干の敵意はあるものの、ちゃんと話し合おうとしていると感じられる。

 

「フェイトちゃん……」

「……あなた達を待っていました」

 

 なのはとフェイトはお互いに色々言いたい事があるみたいだが、どちらも変な所で口下手なせいか上手く言葉になっていない。ここは俺が橋渡しをしよう。っとと、ボイスチェンジャーを忘れるところだった。

 

「そうか……で、用件は何かな?」

「話が、あります……」

「俺達と話す事というと……ジュエルシードについて、だな?」

「はい」

「分かった、だがこちらからも聞きたい事がある。先に聞いても構わないか?」

「……はい、構いません」

 

 まずは向こうが警戒しているであろう管理局との繋がりを否定しよう。そうしなければ落ち着いて話も出来ないからな。

 

「では聞くが、君達は……管理局と繋がっているのか?」

「「涼さん!?」」

「……?」

「……どういう事だい?」

 

 フェイト達の警戒度が上がったが、予想外の言葉に驚いたなのはとユーノを見て逆に困惑する。ここまでは思い通りだ。

 

(なのは、ユーノ、ここは俺に任せてくれ。これはフェイトとゆっくり話せるように場を仕立てる為だ。上手くいけばあの2人と敵対しなくて済むかもしれない)

(……分かったの。こういう時は涼さんに任せれば大丈夫って信じてるからね!)

(うん、そうだね。僕たちは大人しくしてるよ)

 

「答えてくれ。もし君達に管理局との繋がりがあった場合、ここで倒さなければならない」

 

 言って、少しだけ敵意を向けると、大体の事情を理解してくれたようだ。

 

「いいえ、繋がっていません。それに私達も同じです。あなた達が管理局と繋がっていたら、倒さなくちゃいけなくなります。でも、今の言い方からすれば、繋がりは無いみたいですね」

 

 よし、これでいいだろう。

 

「お互い、何か事情があるようだな」

「そう、ですね」

 

 少し迷うように視線を彷徨わせると、念話で相談をしてきた。

 

(スズ、これって信じてもいいのかな……?)

(俺は大丈夫だと思う。面と向かって話したフェイトはどう思った?)

(私は…………信じたいって思った)

(そう決めたのなら、俺もアルフも従うよ)

(スズに先越されたのは癪だけど、その通りさ。使い魔のアタシはご主人様に付いて行くだけだよ)

 

 アルフって使い魔なのか!? 特殊な関係だと思ったが使い魔とは思わなかった…………じゃない。今は話し合いに集中しないと。

 

「どうした?」

「い、いえ、何でもないです。……私達がジュエルシードを集めているのは、母さんが集めて欲しいって言ってたからです」

 

 母さん、か……。この歳で母親が居ない筈は無いとは思っていたが、ジュエルシードの収集に1枚噛むどころかフェイト達に収集を命じた存在だったとは。

 

「俺達に話しても良かったのか?」

「私はあなた達の事を信じたいって思いました。だから話したんです」

「そう言われたら、俺達の事情も話さない訳にはいかないな」

 

 話そうとした直前で、なのはに手を引かれる。何事かと思って見ると、自分自身の口から話したそうにしていた。

 

「分かった、ここからはなのはに任せるよ」

「うん!」

 

 ユーノを俺の肩に乗せて後ろに下がると、なのははバリアジャケットは展開したままレイジングハートを待機状態へ戻す。……話し合いに武器は必要ないって事か。

 

「私達がジュエルシードを集める理由はね、最初はユーノ君の落し物だったから。だけどついこの前、はやてちゃんっていう子と知り合って変わったの」

「……変わった?」

「うん。はやてちゃんは闇の書っていう魔導書の主さんなんだけど、その本のせいで足が動かなかったり発作が起きたり、とっても大変な思いをしていて、私達はそれを何とかする為に集めてるの」

「ジュエルシードは願いを叶えるロストロギアだから、ソレに願う為?」

「うぅん、それは駄目。何でかって言うとね、ジュエルシードは願い事を叶える時にその願いを歪めて叶えちゃうの。だから私達が本当に欲しいのはジュエルシードの中にある魔力なんだけど、えと、その魔力は……」

 

 なのは自身良く分かっていないみたいだし、補足してやらないとな。

 

「魔力を蒐集したら使えなくなるんじゃないかと思うだろうが、ジュエルシードから魔力を蒐集しても機能に異常は無いんだ」

「そう! それでね、魔力を集めた物なら渡せると思うんだけど……ユーノ君は、フェイトちゃん達に渡すのは反対?」

「ジュエルシードは危険な物だけど……。フェイト達が悪用するようには見えないし………………うん、反対はしないよ」

「良かったぁ……。という事だから、どうかな? 私達と一緒に集めない?」

 

 言われた言葉に悩むフェイトだが、俺やアルフに相談はしてこない。どうやら自分の意志で決めるようだ。

 

「……分かった。前とは事情も違うし、今のあなた達とは協力したいと思う」

「フェイトちゃん……!」

「でも、その前に…………」

「あ……うん、そうだね!」

 

 唐突にバルディッシュを構えるフェイトに、レイジングハートを展開して構えるなのは。……ってどういう事!? この一瞬で2人の間に何があったんだよ!? まるで意味が分からんぞ! アレか! ポケモンの如く、目と目が合ったらとりあえず戦う的なヤツなのか!?

 

「この前は涼さんがフェイトちゃんと戦ったでしょ? だから今度は私の番! だから涼さんとユーノ君はそこで見てて!」

「お、おう」

「わ、分かった……」

「アルフも、手を出さないで」

「あいよ。フェイトはフェイトのやりたいようにやりなよ」

 

(スズも、アルフの側で見てて)

(分かったよ)

 

 トントン拍子で進んでいく状況に若干混乱しつつも、周りに被害が及ぼさない為にシャマルに念話を入れる。

 

(何か嫌な予感がする。結界を頼む。)

(分かったわ。ついでに緊急用の妨害魔法も準備しておくわね)

(助かる。それと魔力反応の探知を常に走らせておいてくれ)

(結界の中はもちろん、外もある程度なら何もしなくても探知は可能よ。他に何かある?)

 

 結界は張ったし、脱出用の手段も準備した。外からの割り込みにもすぐに対処出来るようにもしたから……。

 

(……そうだ、旅館の周辺に探知妨害って掛けられるか?)

(何をそこまで警戒してるのか分からないけど…………出来たわ)

(警戒するに超したことはないさ。それに嫌な予感程頼りになって、頼りにしたくないモノは無いだろう?)

(フフッ、そうね。フェイトちゃん達を含めた結界内の全員の状況は把握しておくわ。気を付けてね)

 

 さり気ない気遣いに、礼を言ってから通信を終わる。ちょうど向こうも戦闘準備が終わったようだ。

 

「魔法は非殺傷、クリーンヒットが1撃入ったら終わり。これでいいよね?」

「うん、問題ない。……バルディッシュ」

 

≪Yes sir.≫

 

「それじゃあこっちも……レイジングハート!」

 

≪All right. Mask equip.≫

 

 マスク……? と思っていたらなのはの顔に、額に一本角があるマスクが展開されていた。

 ……もう突っ込まないぞ。何で『ユニコーン』の顔を模してるのかとか、そもそも何でマスクなんか装備したんだとか、突っ込みどころしかないけどここは我慢だ。

 

「カッコイイ……」

 

 え!? カッコイイ!? いや、我慢、我慢だ。

 

「でしょ? 涼さんのユニコーンと同じなんだ!」

「ユニコーン……」

 

 頼むからこっちを見ないでくれ……。出来れば感想を求めるのもやめて欲しいかな。

 

「お揃い感出てて……い、いいんじゃないか……?」

「やった!」

 

 もう勝手にしてくれ……。

 

「結界は張ってあるから被害は気にしなくていいぞ」

「うん! それじゃあ始めよう!」

「うん……!」

 

 お互いがデバイスを構えた瞬間先程までの緩い空気が無くなり、周囲は一触即発の雰囲気に包まれる。そのまま少しの睨み合いの後、魔力弾のぶつけ合いから戦闘が始まる。

 

「ディバインシューター!」

 

≪Divine Shooter.≫

 

「フォトンランサー!」

 

≪Photon Lancer.≫

 

 直射型で弾速、連射速度共に高いフォトンランサーがなのはに向かって多数押し寄せるが、ほとんどを飛行魔法の制御で回避し直撃する物のみを、先に展開して身体の周囲を衛星のように回っていたディバインシューターで撃ち落とす。かなりの弾速だったが、しっかり見てから回避、迎撃している事から、動体視力の高さが窺える。

 

「今度はこっちの番だよ!」

 

≪Divine Shooter Combination.≫

 

 普段は4発展開するところを6発に増やし、4発を自身で誘導操作しかく乱、意識誘導に使用し、残り2発を自動誘導、必要に応じて誘導操作する形で当てていく攻撃バリエーションだが、フェイトも負けてはいない。即座に自動誘導の2発をランサーで迎撃、残りの4発に向かって突撃し、機動性を活かしてデバイスで直接叩き切る。

 僅か30秒にも満たない攻防だったが、お互いの技量を図る目安になったようだ。

 

「やっぱり強い……。でも、私だって伊達に何度も墜とされてるワケじゃないの!」

「前に少しだけ戦う所を見たけど、それ以上に強くなってる……。だからって私も負けるわけにはいかない……!」

「行くよ、フェイトちゃん!」

「行くよ、なのは!」

「フラッシュ!」

 

≪Flash Move.≫

≪Blitz Action.≫

 

「インパクトッ!」

「っ!」

 

 2人の姿がブレた次の瞬間デバイス同士が激突し激しい光と火花を散らす。少しして光が収まると、距離をとって肩で息をしていた。

 

「まだまだだよっ!」

「まだっ!」

 

 再び高速で接近しデバイスをぶつけ合い、そのまま(もつ)れ合うように飛びながら激突する2人。1度大きく旋回し、一際大きい打撃音と激突後、ゆっくりと下りてくる。

 

「……惜しかったな」

「うん……負けちゃった……」

 

 悔しそうな声のなのはのバリアジャケットは、胸の部分が破れて焦げていた。遠くからだったが機体のアシストのおかげで最後の一撃の際、フェイトはバルディッシュを斧から鎌の形態へ切り替え、以前俺の盾越しに装甲を削ったように杖を越えて胸に一撃を入れていたのが見えた。

 

「でも、あの時みたいに砲撃を撃ってないし、次は分からない」

「フェイトちゃん……」

「そうだな、今戦ってみて悪かった点は……なのは自身、分かってるよな?」

「うん…………よしっ、戻ったら反省会なの!」

 

 思う所は多々あるだろうが、今は自分の事よりフェイト達との関係に目を向けられる。本当に良い子だよな……。

 

「っ、涼さん!」

(涼君!)

 

 ずっと黙っていたユーノと監視をしていたシャマルから同時に名前を呼ばれ一瞬狼狽えるが、即座に意識を切り替える。

 

「来るか!」

「え、えっ?」

「何が来るの……?」

 

(シャマル、この場の全員、フェイトとアルフも含めて念話の対象にいれて構わない。どうなっている?)

(結界が侵食されているわ。無理矢理こじ開けようとしているみたい。もって後1分て所かしら)

 

 1分か……結構余裕があるな。これなら何とかなりそうだ。

 

「今聞いた通り、結界が破られようとしている。この場に管理局員が侵入しようとしているらしい」

「えぇっ、もう!?」

「管理局!?」

「一体何がどうなっているんだい!?」

 

 俺とユーノを除いた3人はそれぞれ驚くが、構ってはいられない。

 

「これから緊急用の妨害魔法を発動させてこの場を脱出する。この近くに旅館があるだろう? 探知妨害を掛けてあるから、そこに向かうぞ」

「うん!」

「分かった!」

「で、でも……」

「そうだよ、いきなり言われても……」

 

 渋られるのも予想の内だ。

 

(フェイト、アルフ、ここは従っておこう。素直に付いて行けば、管理局に見つかる事無く逃げられるぞ)

(そう、だね。分かった、付いて行こう)

(仕方ないね)

 

「説明は後でする。とにかく今は逃げるのが先決だ。付いて来てくれ」

「分かりました」

「分かったよ」

 

 2人の了承を得た直後転移反応を捉え、青い魔法陣と共に黒いバリアジャケットの少年が現れる。

 

「こちらは時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。管理外世界(シャマル、やれ!)での魔法行使は(全員目を瞑れ!)禁止されている! 詳しい事情を聞かせ(クラール・ゲホイル!)てもらおぅわっ!?」

 

 長ったらしい口上を垂れ流しているクロノとやらには悪いが、管理局に関わるつもりは無い。問答無用で妨害させてもらう。

 

「今だ」

 

 全員が頷くのを確認して、先頭をなのは、最後尾が俺の順で旅館へ向かった。

 

 

 

 

 

 旅館へ着くと、入り口の前でシグナムとヴィータとシャマルが待っていた。はやては流石に外に出歩かせる訳にはいかないし、ザフィーラはその警護にあたっているから2人の姿は無い。

 

「涼、大丈夫でしたか?」

「全員特に問題なしだ。シャマルのおかげだな」

「サポートの腕なら誰にも負けないんだから! なのはちゃん、どこも怪我してない?」

「あ、大丈夫です!」

「旅の鏡越しに見てたけどよぉ、動きが良くなった分、戦術に無駄があるみてぇだな」

「うっ、それはそのぉ……」

 

 なのはが守護騎士達と話し始めてしまった為、フェイト達が所在無さ気にそわそわしている。

 

「フェイト、アルフ」

「な、何ですか?」

「何だい?」

「これからは仲間として、共にジュエルシードを集める……と考えていいんだな?」

「はい……!」

「アタシはフェイトの使い魔だし、ご主人様と共に在るだけさ」

 

 返事は変わらない、か。これ以上は隠し通すのも無理が出てくるし、仲間となった以上隠すのもいけない。…………よし。

 

「先に謝っておく。済まなかった」

「な、何を言ってるんですか?」

「いきなりそんなこと言われても困るよ……」

「……『ユニコーン』、解除」

 

 『ユニコーン』が粒子化しカードへ形を変え、胸のポケットへ収まる。

 

「ス、スズ……!?」

「あ、アンタ……!!」

「……敵対する可能性がある以上、言い出せなかったんだ。本当に済まない!」

 

 頭を下げる。これだけで今まで2週間以上騙していた事を許してもらえるとは思わない。それでも下げ続ける。

 

「私達となのは達の手を組ませようとしてたのは、スズ……だったんだね」

「ああ」

「頭を上げて」

 

 視線の先にいるフェイトは、色々な感情が入り乱れた何とも言えない表情をしていた。

 

「えと、何て言えばいいんだろう……? スズが本当に私を想ってくれてたのは分かるんだ。だから怒るに怒れないんだよね……」

「フェイト……」

「だから、アタシがケジメをつけてやるよ。1発、ぶん殴ってやるから覚悟しな!」

「分かった…………ガッ!?」

 

 右頬にアルフの拳が突き刺さる。これは……痛い。想いが乗っている分感じる痛さも強い。

 

「涼さん!? な、何するの!」

「いいんだ、なのは」

「で、でも!」

「いいんだ。これはケジメなんだから」

 

 立ち上がってなのはや守護騎士を目で制し、再びフェイト達と向かい合う。

 

「大丈夫……?」

「ああ、むしろ隠し事が無くなってスッキリしている」

「そう……なら、いいけど……。先に言うけど、私達はスズやなのはの仲間をやめないよ」

「フェイト……」

「むしろスズの事を知れて良かったと思ってる」

 

 なんていうか……心が広すぎるよ……。

 

「これからも、よろしく頼む」

「うん、こちらこそよろしくね」

「はぁ、アタシだけ除け者は嫌だしね。よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なのは達にはなんて説明しようかな……。

 

 こらそこシャマル、ニヤニヤしない。




 今回も何かごちゃごちゃしているような気がしなくもないです。

 主人公は知らない事ですが、ユニコーンの仮面は守護騎士含め全員展開出来ます。
 一本角の集団……何これ怖い。

 エンブレムは基本左肩に付いていて、装甲の展開の都合で『ユニコーン』は盾に、赤いエンブレムなので騎士甲冑が赤いヴィータだけ白いエンブレムで、ザフィーラはノースリーブの道着っぽいヤツなので、胸の位置に付いています。




 ではまた次回で。


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一角獣と名前

 こんばんは、牡蠣です。


 まさかこんなに遅くなるとは……。大変お待たせしました。

 先に言ってしまうと、今回は次回に向けての準備回(?)となっています。



 第19話、どうぞ。


 あれから殴られた頬をシャマルに治療してもらい、詰め寄るなのはを抑え守護騎士達の追及をフェイトと出会った経緯から説明する事でなんとか収め、全てが終わる頃には深夜の1時を過ぎていた。

 ついでに茶化す気満々だったシャマルには罰として探知妨害とは別に、周辺に異常が無いかの監視任務を与えておいた。睡眠を摂らせない訳ではないし、これ位なら罰の内にも入らないだろう。

 

 翌日、散歩をしていたら出会ったと言ってフェイトとアルフを紹介すると、フェイトは小学生とすぐに打ち解け、アルフは高町家の面々から強者のオーラを感じ取ったのかウズウズしていた。ここにも戦闘好きが居たか……。

 

 

 朝食を食べた後は昼の帰る時間まで自由時間になり、俺とフェイトは小学生組と一緒に部屋に居た。

 

「俺は別に見てるだけでもいいんだが……」

「ええからええから! そんな事言わずにやってみぃ? 1回やれば分かるから、な?」

 

 何だよその誘い方……。怪しい勧誘にしか聞こえないぞ。

 

「ホラ、フェイトちゃんもやるの!」

「え、でも……」

「はい、『ブラック・マジシャン』デッキ」

「え、う、うん…………あ、可愛い……」

 

 ああ、フェイトが流されてしまった……。くっ、これが数の暴力というヤツか! その期待に満ちた視線はやめてくれ!

 

「……わ、分かったよ。やるからそんなに見ないでくれ」

「ふふっ、最初からそう言えばいいのよ!」

「アリサちゃん、顔が悪いよ……」

「すずかちゃん、さり気ないどころかモロに煽っとるで」

 

 すずかってもしかして……いや、何でもない。何でも無いからその目は勘弁してくれ。

 

「ほい、『HERO』デッキ」

「お、おう」

 

 ヒーローねぇ……。如何にも主人公が使っていそうな名前のカードだな。

 

「それじゃあ涼さんとフェイトちゃん、向かい合ってジャンケンしてな」

「「ジャンケン、ポン」」

 

 

 

 

 

 カードゲームは楽しかった……が、カード同士の組み合わせ等がこんなにややこしいとは思わなかった。それを苦も無く考えて遊ぶとは、彼女達の頭はどうなっているんだ……?

 

 

 

 

 

 部屋の中で遊んでばかりではいけないので旅館の周辺を散歩していると、あっという間に帰る時間となった。帰りの支度は全員済ませてあり、来た時と同じく男性陣で荷物をマイクロバスに積み込む。それと都合が良かったので帰りはフェイト達も一緒だ。

 鮫島さん(何でも出来る凄い人)が運転するマイクロバスで解散場所の高町家まで行き、鮫島さん(こういう人をダンディと言うんだろうな)以外の全員が降り荷物も降ろすと、鮫島さん(一体いつ休んでいるのだろうか)はアリサと月村家の面々に時間になったら迎えに来る旨を伝えて颯爽と去って行った。……格好良い。

 

 

 夕方まで遊んだり談笑して、陽が沈む前には解散となった。夕食を食べていかないかと誘われたが明日は学校があるからと、断る理由としては弱かったが桃子さんと士郎さんが察してくれたので助かった。そして帰り際、なのはに夜になったらこれからの事を話し合う為通信を入れると伝えて、八神家一同とフェイト達と共に高町家を後にする。

 

 

 

 

 

 俺は一度家に荷物を置きに帰った後、隠蔽魔法を使って姿を見えないようにして八神家へ飛んで行くと、ちょうど良くフェイト達も交えた夕食の時間に入る所だった。先にお互いをよく知らない守護騎士達とフェイト達の自己紹介を済ませてから食卓を囲むと、食器の片付けが終わる頃には敬語が取れる位に打ち解けていた。

 ふと時計を見ると8時半を指していた。……先になのはに連絡を入れておこう。

 

「さて、そろそろ頃合いか」

 

 その一言で全員の雰囲気がガラリと変わる。

 

「それじゃあこれからの事について話し合おうと思うが、その前に……」

 

(はい、こちら高町なのはです!)

(ユーノです!)

 

 2人を待とうと言う直前に通信回線が開き、展開済みの空中投影ディスプレイに随分とやる気に満ちた表情が現れる。

 

「よし、全員揃ったな。………………新たに協力者も増え、管理局も出てきた事で俺達の状況も一筋縄ではいかなくなった。そこで、改めて状況整理と行動方針の確認をしたいと思う。何か他に意見や質問はあるか?」

 

 問題が無ければ進めようと思った所でフェイトの手が上がり、目線で促す。

 

「分かり切ってる事を聞くと思うけど、この中のリーダーってスズで合ってるよね?」

「ん、まあ、そうだな。こうやって纏めたりするのがリーダーだって言うのなら、俺がリーダーって事になるな」

 

 そうか、あんまり意識していなかったけど、俺ってこの集団を纏めてたんだな……。

 

「そう…………うん、分かった。私達は出来るだけスズ達に協力する」

「ありがとう。俺達もフェイト達に出来る限りの協力を約束しよう」

 

 お互いに頷き合い、俺は全員を見る。反対意見も無いようだし、本題に入ろう。

 

「まず現在の俺達の基本的な役割や方針はこんな感じになっている」

 

 新たにディスプレイを展開し全員に見えるように、この間書いたものを少し修正して表示する。

 

・現地チーム:なのは、涼(スズ)

・騎士チーム:シグナム、ヴィータ

・サポート:ユーノ、シャマル

・非常戦力:ザフィーラ

・本部:はやて

・基本方針:ジュエルシードの探索、蒐集

 

「これに新しくフェイト達が加わる」

 

・協力者:フェイト、アルフ

 

「ここでちゃんと分かっていて欲しいのは、フェイト達の目的はジュエルシードで俺達の目的はジュエルシードそのものではなく、その中にある魔力だ。この利害関係が一致しているからこそ、俺達は協力関係でいられるんだ」

「涼、それはこの場に居る全員が分かっていると思います。ですが今我らが対処せねばならない件は……」

「焦るな、シグナム。まずは周りではなく、足元の地盤を固める事が先決だ。この国では『急いては事を仕損じる』と言うし、何事も焦っては見えるものも見えなくなるぞ。何より、はやてを護る守護騎士の将が焦ってどうする」

「っ! 申し訳ありません……」

 

 やはり以前話した、闇の書が管理局に見つかった場合の事を考えてしまっているせいで、シグナムだけじゃなく全員が焦りを隠せていない。まずはその焦りを少しでも解消する事から地盤固めを始めよう。

 

「皆が気にしている管理局についてだが、俺の意見を言わせてもらう。元々監視されていた闇の書の起動を確認して、この地に局員を送り込んだんだろう。しかし監視していたのを知っていたのは一部の局員だけなんだと思う。だからいきなり管理外世界で危険なロストロギアが見つかりましたーって報告が入っても、信憑性などの問題で大部隊を送り込む事なんて出来ないんだろう。現に俺達の前に姿を見せた局員はたったの1人。実際に闇の書が確認されない限り、追いつめられる事は考えにくい」

「なら、闇の書を表に出さなければ良いだけなのでは?」

「いや、それだけじゃ駄目だ。報告があった世界に魔導師が居た……これだけでも増援を求める理由になる。遅かれ早かれ向こうは人海戦術を執ってくるだろう。故に、ここからは時間との勝負だ。ジュエルシードの存在を管理局に悟られる前に全て集める」

 

 焦りすぎる必要のない理由の説明と、大雑把だが次にやるべき事を決めた事で大分落ち着けたようだ。

 

「具体的には今までのように分かれて探索するのではなくて、見つけ次第全員で早急に封印する。そして封印完了したら多重転移でその場を離脱。基本行動はこれでいく、何か質問はあるか?」

 

 見回すと、大人しく話を聞いていたヴィータが手を上げていたので目線で促す。

 

「全員でソッコー封印して離脱はいいけどよ、肝心のジュエルシードが無きゃどうしようもないだろ」

「その事だが……フェイト、今ジュエルシードは何個持っている?」

「えっと、全部で5個だよ」

「俺達の分と合わせると11個、残りは10個か。まだ半分もある筈なのに見つからないという事は、残りのいくつかは海に沈んでいるんだと思う」

「まさか、海の中を潜って探す……とか言わねぇだろうな?」

 

 じっとりとした視線で訴えてくるが、そんな馬鹿な事させる訳がないだろ。

 

「海に魔力を流して強制発動させるんだよ。これだけの戦力があれば、残りの10個が同時に発動しない限り問題は無い」

「ふぅん……で、魔力を流すのは誰がやるんだ?」

「私が、やる」

 

 頼もうとした所で、本人が名乗りを上げた。頼む手間が省けて助かったが…………何だろうな、この感じ。

 

「私の電撃変換資質があれば、広範囲に魔力を流せる」

「……フェイト、頼めるか?」

「頼まれなくてもやるよ。母さんが、待ってるから」

「そうか……」

 

 『母さん』と呼ぶ瞬間、フェイトの表情が硬くなるのを見逃さなかった。やはり、1度彼女の母親に会ってみる必要があるな。

 

「テスタロッサが発動を行うとして、封印の間に管理局が手を出して来たらどうするのです? 戦闘に入る事も考えるべきでしょうか」

「そうだな……乱入されたとして、向こうが敵対行動を取らない限り此方からは手は出さない」

 

 となると昨日の妨害は早計だったか? いや、あの選択は間違ってはいなかった筈だが…………考えるのは後だ。

 

「分かりました。では、いつ行動に移しますか?」

「今日、これからだ」

「……は?」

「これから、封印に、向かう。問題があれば言ってくれ」

 

 早ければ早いほど良いとは言ったが、早すぎて逆に驚いてるな。

 

「…………我らは構いません」

「私達も大丈夫」

「……なのは達はどうだ? 無理なら言ってくれ。万全の状態でなければならないからな」

 

(私は大丈夫! ユーノ君は?)

(僕も大丈夫だよ)

 

 流石に急すぎたかとも思ったが、反対はされなかったから良しとしよう。

 

「ああそうだ。先にフェイトの持っているジュエルシードを蒐集しておこうか」

「分かった」

 

≪Put out.≫

 

「シグナム、蒐集を」

「はい」

 

≪Sammlung.≫

 

 バルディッシュから排出された5個のジュエルシードの魔力が、闇の書にページとして蒐集されていく。数分もしない内に全て蒐集し終えて、ジュエルシードはバルディッシュに収納される。

 

「それじゃあ俺達は行くが、はやてはここで待っていてくれ」

「……うん、分かった。気を付けてな? 怪我とかしたらあかんからな? ……ちゃんと、帰って来てな?」

 

 戦う力が無いせいでとても歯痒い思いをしているのは分かるが、こればかりは俺にはどうにも出来ない問題だ。だから、必ず帰る約束をする。

 

「もちろん、全員無事に帰ってくるさ! ザフィーラ」

「はっ!」

「今回はシャマルも連れて行くから、留守を頼むぞ。俺達が居ない間が、裏に居る奴らの絶好のチャンスとなる。……抜かるなよ」

「この命に代えましても、主はやてをお護り致します……!」

 

 力強い返事に頼もしさを感じる。大丈夫だとは思うが万が一にも問題起こったとしても、彼が何とかしてくれるだろう。

 

「あ、後な……名前、考えたんよ」

「名前?」

「せや、名前。守護騎士とかの名前はあっても、涼さんやなのはちゃんやフェイトちゃん達を含めた名前って無かったやろ?」

「……聞かせてくれ」

「……『ラプラス』」

「『ラプラス』…………うん、良い名前じゃないか」

「ほんまに……?」

「ほんまに」

 

 皆の顔を見る限り、結構好印象のようだ。はやてには名付けの才能でもあるんだろうか?

 

「というワケで、これから俺達の集団名を『ラプラス』と呼称する。異議は?」

『ありません!』

『無いよ!』

((異議無し!))

 

 改めてはやてに向き直ると少し恥ずかしそうにしていて、思わず頭を撫でてしまった。

 

「おっと、それじゃあはやて、ザフィーラ、行ってきます」

「行ってらっしゃい! 皆、気を付けてな!」

「ご武運を」

 

 2人の言葉に手を上げて応え八神家を後にし、俺達はなのはとユーノとの集合地点である海鳴公園に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、今夜は『ラプラス』としての初戦だ。派手に行こうか!!




 組織名、決定です。
 正直『ロンド・ベル』と『ラプラス』のどっちにしようか迷いましたが、『ラプラス』に決めました。

 フェイト達も加わり、結構な大所帯と化してきました。
 戦力過多? いえ、知らない言葉ですね……。

 ちゃんと釣り合いは取れるよう工夫はするつもりです。


 ところで、設定とかって需要あるんですかね? 丸々1話使って書く程の価値が有るのやら、無いのやら……。


 ではまた次回で。


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ラプラスの初陣

 こんばんは、牡蠣です。


 何とか5月に入る前に更新出来ました。




 第20話、どうぞ。


 なのは達と海鳴公園で合流した後、改めて今回の封印方法について話す。

 

「手順はこうだ。始めに広域結界を近辺の海全体に展開後、フェイトが海に魔力を流してジュエルシードを強制発動させる。発動後フェイトはシャマルの所へ補給に行く事」

「分かった」

「次に発動したジュエルシードに対して封印作業を行うんだが、強制発動させているから簡単にはいかないだろう事が簡単に予想出来る。そこで全員にポジションを割り振った。ディスプレイに出すから確認してくれ」

 

 お馴染みの空中投影ディスプレイを展開、全員の役割を表示する。

 

・フロントアタッカー:シグナム、ヴィータ、アルフ

・ガードウィング:涼(スズ)、フェイト

・センターガード:なのは

・フルバック:シャマル、ユーノ

 

「何が起こるか分からないから、フロントの3人は少し……いや、かなり危険な担当になるが切り込み役をお願いする」

「分かりました」

「ハッ、ベルカの騎士をなめんじゃねーよ。危険なんざ慣れっこだっつの!」

「任せなよ。その為の力さ!」

 

 心強い返事に頷いて返し、説明を続ける。

 

「ガードウィングの前にセンターガードについて説明する。このポジションはなのは1人だが、重要なポジションでもある。近距離は別として、中・長距離からの火力はなのはがトップだと言えば分かるか?」

「うん! みんなが注意を引きつけてる間に、遠くから大きいのを撃って封印するんだよね?」

「そう、メインの封印役だ。期待してるからな」

「分かったの!」

 

 気合十分で精神面、身体面の両方ともが非常に良い状態だ。これなら封印もスムーズにいきそうだな。

 

「次にさっき飛ばしたガードウィングについてだ。このポジションはフロントとセンターの間に位置する役割で、フロントの切り込みのサポートやセンター……なのはのデカい一撃を放つまでの被害を抑えたりと、機動力と判断力が求められる」

「スピードには自信があるから、きっちり役割を果たすよ」

「焦って前に出過ぎるなよ。リスクは負いすぎない事だ」

「うん、分かった」

 

 フェイト以外にも言える事だが、必要以上に頑張り過ぎる嫌いがあるからな。予め抑えるよう言っておけば少しはマシになるだろう。

 

「最後にフルバックだが、シャマルとユーノでは動きが違う事を先に言っておく。シャマルには結界の維持、フェイトへの補給、全員の状態把握、緊急時の妨害工作、そして一番重要な旅の鏡を使用してジュエルシードを回収する事。やる事が多いが、担当している本人なら重要性を理解している筈だ」

「ええ、後ろは任せて、封印に集中してくれて大丈夫よ」

「任せたぞ。ユーノには負傷したメンバーの治療、バインドでの捕縛といった前に出ての補助を任せる。シャマルと連携して常に味方の状態を良好に保ってくれ」

「分かった! それじゃあこの姿のままじゃ駄目だね」

 

 そう言ってなのはの肩から降りて魔法陣を展開するとユーノの身体が光に包まれ、シルエットが小さなフェレットの形からなのはと同じくらいの大きさまで変化した。そして光が収まった後その場に居たのは、金髪碧眼の美少年だった。

 本来の姿は人だって分かっていたけど、まさかこんな美形だったなんてな……。

 

「え、え、ええええぇぇぇぇ!? ユ、ユーノ君が、フェレットが男の子にぃ!?」

「あ、あれ? この姿をなのはに見せた事無かったっけ?」

「最初っからフェレットだったよぉ!」

「え、え~と…………あ、そうだったね……」

 

 あたふたしている2人を見ているのもそれはそれで楽しいが、今はそんな事している場合じゃないか。

 

「色々言いたい事や聞きたい事はあるだろうけど、今は置いといてくれよ」

「あ、ごめんなさいっ」

「ごめんなさい……」

「ちゃんと反省してくれたなら良いんだ。さあ、気を取り直して次にいくぞ。全員、戦闘準備だ!」

 

『はい!』

『おう!』

『うん!』

 

「『ユニコーン』、起動!」

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

「レヴァンティン!」

「起きろ、アイゼン!」

「クラールヴィント!」

 

≪≪Set up.≫≫

≪≪≪Anfang.≫≫≫

 

 アルフとユーノ以外のメンバーが自分の相棒に声を掛け戦う為の姿に変わる。

 

≪≪Mask equip.≫≫

≪≪≪Maske Ausrüstung.≫≫≫

 

 デバイスの電子音声に続いて今度は全員が『ユニコーン』を模した仮面を装備する。

 なのはだけじゃなかったのか……。いや、集団感出てていいんだろうけど、一角獣の仮面はちょっとなぁ……。しかもフェイトとアルフも付けてるし。

 

「その、仮面って……」

「ああ、この仮面をしても視界がふさがれる事は無いので、問題ありません」

 

 そうじゃないよ!! 違う、そうじゃないんだ……。

 

「はぁ……。うん、もういいや。この件は置いておこう」

 

 そうでなければ色んな意味で持たないよ。

 

「ではこれより、ジュエルシードの封印を開始する! 全員、ポジションと役割は確認したな? 同じポジション同士だけじゃなく、全員が連携を怠らなければスムーズに事が運ぶ筈だ。気を抜かずに行くぞ!」

 

『了解!』

 

「行動開始!」

 

 その言葉で全員がそれぞれの役割を果たす為に飛び立つ。さあ、やるぞ!

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 後方のビルの屋上に降り立ったシャマルが結界を展開したのを確認した後、上空に待機していたフェイトが魔法の発動準備に取り掛かる。

 

「私の出番だね。アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ、今導きの(もと)降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス……! 行くよ、サンダーフォール……!」

 

 局所的な天候操作によって発生した雷雲から放たれた雷撃は海面に触れると同時に魔力流を発生させ、海中にあるジュエルシードを強制発動させる。

 

「シャマル、反応は幾つだ!?」

 

(ちょっと待ってね……6……7……全部で8つよ!!)

 

 8つ!? 半分あれば儲けものだと思ったが……いや、今は封印が先だ。

 

「(全員、警戒を怠るな! ジュエルシードが発動するぞ!)」

 

 口頭と念話で伝えた直後、激しい光と共に海面が荒れ始める。ゆっくりと浮き上がってきた8つの小さな欠片……ジュエルシードの周りに莫大な量の海水が集まり、ボールの形を経由して超巨大な人型に変化し、両目にあたる部分が光る。

 

「デ、デケェ……!?」

 

 人型と言っても、以前戦った椅子と机の集合体とは比べものにならない程大きい。以前の巨人が15m程であったが、今回の巨人はその倍、30mはあろうかという巨大さだった。

 

「あの大きさだと、掠っただけで墜とされるぞ! 常に動き回って安全な位置を確保しろ!」

 

『了解!』

 

 指示を飛ばし、俺自身もフロントの3人よりも少し離れた位置に着く。

 

「なのは! 安全圏からの砲撃支援に徹しろ! 小さいのは要らない、最初から全力全開だ!」

「任せて!」

 

 デバイスを砲撃形態に変化させ後方に下がるなのはを確認し、マグナムとシールドを装備する。同時に近付いた魔力に反応した巨人が腕を振り上げる。それを見たアルフは巨人の腕に鎖状のバインドを巻きつけるが、数瞬だけ持ったものの千切られてしまう。当たり前だ、あの大きさを拘束出来るわけがない。

 

「アルフ、ユーノはバインドに専念しろ!」

「あいよ!」

「分かった!」

 

 指示を受けた2人は、巨人の頭上から幾重にも展開された魔法陣から何本もの鎖を巻き付け始める。

 

「あれだけデカければ攻撃は絶対当たる! 逆に小さいのは意味が無い! シグナム、ヴィータ! ファルケンとギガントを許可する! タイミングを見て放て!!」

「はいっ!」

「おうっ!」

 

 最大攻撃を許可した2人は巨人に向かって突撃していく。後は臨機応変に動いてくれるだろう。

 

(ディバインバスター、1発目、行きます!)

 

 念話の3秒後、直径約2m程もある桃色の光線が巨人の肩に命中し爆発と煙で上半身が隠れるが、煩わしそうに振り回した腕に掻き消される。そして巨大な腕によって発生した竜巻の如き風圧に、1番近くに居たフロントはもちろん、そこそこ離れた位置に居た俺すらも吹き飛ばされてしまう。

 

「ぬあっ、ぐっ!? 効いてねぇのか!? おい、涼! コレどうすんだ!!」

 

 体勢を立て直し一時退避してきたヴィータが混乱気味に聞いてくる。でもそんな簡単に何とかする方法を思いつくワケ無いだろ!

 

「少し時間をくれ。対処方法を考える」

「もう初っ端からギガント使うぞ?」

「構わない。判断は任せる。戦闘経験はヴィータの方が上なんだ、俺よりも効果的なタイミングは分かるだろ?」

「ハッ、言うじゃねぇか! なら好きにやらせてもらうぜ!」

 

 気合を入れなおしたヴィータはデバイスを両手で握り、大砲の様な音と共に空を蹴って巨人に向かって行く。

 

「スズ、お待たせ」

「補給は十分か?」

「うん、殆ど全快。全力戦闘も大丈夫だよ」

「良し、俺達も行くぞ!」

「うん!」

 

 俺は左、フェイトは右に分かれてフロントのサポートに入る。行き掛けにマグナムを撃ち込むが、命中した左胸の海水を蒸発させながら貫通するだけで、すぐに元通りになる。

 

(皆、ジュエルシードの位置が分かったわ! 頭部の目に2つ、鳩尾に1つ、へそに1つ、両肩に1つずつ、両膝に1つずつよ!)

 

 濁った海水のせいで、光る目の様な部分以外ジュエルシードの所在が分からなかったが、シャマルの解析で残りの全てを把握出来た。

 

「(全員聞いたな? まずは右肩のジュエルシードを狙え!)」

 

『了解!』

 

(2発目、右肩狙い、行きます!)

 

 先程と同じ様に念話の3秒後、桃色の光線が狙い違わず巨人の右肩に命中。先程と違う点は、光線がマグナムの様な単発式ではなく照射式である点。

 

(なのは!?)

(このまま1つだけでも封印出来れば、少しは楽になると思うから!)

 

 確かにその考えは間違ってないと思うが……。

 

(シャマル! 封印したジュエルシードを旅の鏡で回収出来るか!?)

(やってみるわ!)

 

 俺達の意図を察したのか、急に巨人がもがき始める。それに対していち早く動いたアルフとユーノは、鎖の本数を増やして拘束力を強める。数秒もしない内に貫通した光線を見て、とりあえず1つは封印出来たと思ったが、事はそう上手くは運ばない様だ。

 

(ダメ! 封印は出来たけど、魔力を帯びた海水のせいで封印が強引に解かれてるわ! 回収しようにも魔力流に邪魔されて、上手く空間に干渉出来ないの!)

 

 やはりか……。どうする? 封印は出来てもすぐに解かれる。旅の鏡での回収も出来ない。魔力を帯びた海水。強度はマグナムか、ディバインバスターの照射で貫通可能。

 巨人の動きは鈍重だが、挙動1つ1つが致命傷になりかねない。全員大なり小なり魔力を消費しているが、全力戦闘はまだ可能。

 

「こうなりゃギガントでぶっ潰してやる!」

 

 マルチタスクで援護射撃をしながら考え事をしていると、痺れを切らしたヴィータが高度を上げて魔法陣を展開し、大威力魔法の準備に入る。それを見た巨人は足を止めたヴィータに向かって左手を伸ばす。

 

「ヴィータを援護だ!」

「私が! レヴァンティン! ロード、カートリッジ!」

 

≪Explosion!≫

 

 指示を聞いたシグナムがデバイスである剣を鞘に納めると、電子音声と共に刀身の付け根にあるダクトパーツをスライドさせ、圧縮魔力の詰まったカートリッジをロード、排莢する。

 

「飛竜、一閃!!」

 

 裂帛の気合と共に蛇腹剣の形態へと変化したレヴァンティンに、シグナム自身の炎熱変換資質による魔力付与が加わった炎の竜巻とも言える一撃が、巨人の左手首を表面だけでなく内側をも切り刻み、その手首から先を切り落とす。

 

(3発目、支援行きます!!)

 

 間髪入れずに顔に直撃した砲撃によって、巨人の視界が塞がれる。まさに絶好のタイミングだ。

 

「今だ! やれ、ヴィータ!」

「おう! アイゼン! ロード、カートリッジ!!」

 

≪Explosion. Gigantform.≫

 

 柄部とハンマーヘッドの接続部にあるシリンダーを2回スライドさせカートリッジをロード、ハンマーヘッドを巨大な角柱状へ変形させる。ヴィータの身の丈程もあるソレを勢い付けて振り上げる。

 

「轟天爆砕!」

 

 魔力を注ぎ込み、巨大なハンマーヘッドを10倍近い大きさまで更に巨大化させる。加えて3発目のカートリッジもロード。流石に危機を感じた巨人はヴィータ目がけて拳を突き出すが、既に致命的な一撃は放たれていた。

 

(おせ)ぇ! ギガントッ! シュラァァァァク!!!」

 

 振り回された際の加速、膨大な質量、膨大な魔力の3つが組み合わさり、その名の通り全てを叩き潰す『巨人族の一撃』と化した一撃は、一瞬の抵抗も許さず水の巨人を海面に叩きつける。それによって人という形を失った巨人は直径10m程の球形になった。

 

 

 オオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!

 

 

 ジュエルシードの集合体が堪らず上げた、声にならない魔力の叫びによって空間全体が軋みを上げ、その近くに居た俺達は身動きが取れなくなる。

 

(今なら全部のジュエルシードが1ヶ所に集まってるから、封印のチャンスよ! 誰か動ける!?)

(私がやります!!)

 

 後方に下がって砲撃に専念していたおかげで、唯一被害を免れていたなのはが名乗りを上げる。

 

(頼めるか!?)

(まっかせて! 特訓の中でレイジングハートと考えた、知恵と戦術、最後の切り札の使い所! 今がその時だよ!!)

 

 遥か後方の上空なのにも関わらず、巨大な桃色の魔法陣が見える。一体何をする気だ!?

 

(使い切れずにばら撒いちゃった魔力を1ヶ所に集めるの!)

 

 その言葉通り、薄紫色、赤色、薄緑色、橙色、金色と色付いた魔力が、なのはの下へ集められていく。

 

「ま、まさか……」

「収束……砲撃……?」

「アイツ……!」

「全員、動けるようになったか!? なった奴から緊急避難だ!!」

 

 まるで星の様に光る魔力球に底知れぬ危険を感じ、全員に避難を指示する。

 

「私は大丈夫。アルフ、動ける?」

「あ、ああ、なんとかね」

「なら先にシャマルの所まで行っててくれ」

 

 フェイトとアルフはお互いを支え合い、避難し始める。

 

「ユーノ、シグナム、ヴィータ、大丈夫か?」

「私は何とか。涼は大丈夫ですか?」

「俺は問題ない」

「アタシも大丈夫だ」

「僕も大丈夫」

 

 残った3人の復帰を確認した所で、空が桃色に染まる。

 

「ん、ん!?」

「拙い……!」

「オイ、急げ!」

「わわ、待って!」

 

 脈動する魔力球を見て、ジュエルシードの集合体には目もくれずに避難する。

 

≪Starlight Breaker.≫

 

(これが私の全力全開! いくよ! スターライト! ブレイカー!!)

 

 全員が避難し終わった所で、臨界を迎えた魔力球に放出口が作られる。ディバインバスターとは比べ物にならない程の威力を持った星の光の如き光線は、ジュエルシードの集合体に着弾後ドーム状に光が膨れ上がる。

 アレが全部ダメージの効果範囲なんだとしたら、恐ろしいにも程がある。

 

「…………シャマル」

「え、ええ、封印完了よ」

 

 ビルの屋上から眺める桃色のドームは、なのはの能力の高さを物語っていた。呆気にとられている中、シャマルが驚きと緊張の混じった声を上げる。

 

「これって……!? 涼君!」

「どうした」

「強制転移反応! 結界をこじ開けて侵入するつもりよ! 場所は……なのはちゃんの真上!? あ、ちょ、涼君!? ジュエルシードは回収しておくわよー!!」

 

 次の瞬間、俺は返事をする事すら忘れて飛び出していた。

 管理局(あいつら)、よりにもよって動けないなのはを狙いやがったな!?

 

「なのはぁっ!!」

「りょ、涼さん? えっ……?」

 

 困惑気味のなのはの直上に、黒い影が現れる。スラスターを最大出力で吹かし、咄嗟に展開した『ビーム・サーベル』で切りかかると、向こうも俺が持つ剣と似たような剣で迎え撃つ。

 

「お前はっ……!?」

「っ!」

 

 鍔迫り合いになり相手の姿を確認した瞬間、訳が分からなくなった。困惑を悟った相手は鍔迫り合いをやめ、俺を弾き飛ばす。

 

「黒い…………」

「なのは、下がれ!!」

 

 そう、俺の前に現れたのは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒い…………ユニコーン…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒の装甲に、金色の角を持った…………ユニコーンだった。




 ラプラスの戦闘を監視していた管理局員達がヤヴァイと思ったランキング
 ※シャマルの妨害によって音声は取れませんでした。

8位:ユーノ(金髪の少年)
7位:アルフ(オレンジ色の髪の女性)
6位:シャマル(緑色の魔導師)
5位:涼(一本角のロボット)
4位:シグナム(ポニーテールの剣士)
3位:フェイト(黒い魔導師)
2位:ヴィータ(赤い魔導師)
1位:なのは(白い魔導師)

 尚、艦長さんは全く違うランキングになった模様


 因みに30m級は大体ジャイアントロボや、ビッグオー、グレンダイザー、ガオガイガーレベルの大きさです。



 評価して頂けるのは嬉しいですけど、低めの評価を頂くとやっぱり悔しいですね。
 高評価はもちろん低評価をも糧にして、小説の質の向上に努めていきたいと思います。


 ではまた次回で。


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白と黒

 こんばんは、牡蠣です。


 気が付きゃGWが終わっていました。まるで意味が分からんぞ!?

 仕事しかしていないと言うのに……。



 第21話、浅からぬ因縁の始まり……?


 ジュエルシードを封印し終わって油断していたなのはの直上に現れた黒いユニコーン。迎撃が間に合って良かったが、コイツは一体何者なんだ? 父さんが開発した『ユニコーン』と瓜二つの姿と武装、ますます思考がこんがらがる。

 ……兎に角、今はなのはを護らなければ。『感覚』を研ぎ澄まし、相手の一挙手一投足を目で見るのではなく、心で感じ取る。

 

「何者だ、答えろ」

「……」

「だんまりか。……もしや時間稼ぎか?」

 

 それなりに感情を表に出さない訓練を積んでいるみたいだが、『感覚』の前には無力だ。当たりだと伝わってくる。戦闘後で疲弊した所に介入して、他の局員を結界内に入れる時間を稼ぐと言った所か。

 

(涼さん……? こ、怖いよ……?)

(なのは、下がれ)

(で、でも……)

(下がれ)

(う、うん……。涼さんも、気を付けてね)

 

 なのはを怖がらせてしまった。後で謝ろう。

 ……くそ、冷静になれ。なのはが安全圏に退避するまでの時間を稼がないといけない。

 

「やらせない!」

「!」

 

 全身を覆う装甲で顔は見れないものの、なのはを墜とそうとする意志を感じ、俺はバルカンを斉射し切りかかる。

 相手は俺と同じ『シールド』で弾丸を全て防ぎ、右手に持ったままの『ビーム・サーベル』で剣を受け、ビーム同士のぶつかり合いによって周囲に紫電を撒き散らす。

 

「…………」

「くっ!」

 

 空いた左手にマグナムより1回り小さいライフルを展開し、俺の腹に突き付け発射する。発射されたビームを間一髪盾で受ける事が出来たが、Iフィールド展開が間に合わずビームの影響で盾が赤熱し、少しの間盾が使えなくなってしまった。

 察した相手はすかさず盾に向かって蹴りを放ち、スライド機構を潰しIフィールドを展開不可にしつつ距離を空けると、ライフルを収納しマグナムを展開、構えるのが見えた。俺も対抗して盾を収納しマグナムを展開して構える。

 

「!」

「!」

 

 同時に放たれたマグナムは衝突した瞬間のみ拮抗したが、相手のマグナムはビームの照射時間が長く、俺が放ったビームが掻き消されてしまう。

 

「魔力変換の魔法陣が無い!? くそっ、間に合え!!」

 

 左肩にある補助スラスター、アポジモーターを焼き切れるのを覚悟で全力で吹かす。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!??」

 

 急激な稼働によってスラスターの噴出孔が一部融解、さらに制御が甘く下半身が数瞬遅れて回避した為、残った左足の膝から先がビームに当たってしまう。装甲が融解しサイコフレームが一部露出するが、素肌が露出する前にビームの範囲外に出る。感じた事無い痛みと衝撃、ビームの纏う紫電による感電と、『感覚』を限界まで高めていた影響で意識が飛びかける。

 

「ぅぅぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 気を抜けば狂いそうな程の痛みを雄叫びで無視し、マグナム発射後の姿勢制御中の相手に再度マグナムを撃つ。左足から嫌な音が聞こえたがこれも無視する。

 

「!?」

 

 向こうもギリギリで盾のIフィールドを展開し防御するが、その隙を見逃すほど甘くは無い。

 

「『NT-D』!! 『ユニコーン』、俺に従えぇぇ!!」

 

 俺の声に応え、『ユニコーン』はシステムを起動する。視界が赤く染まり、鋭敏な『感覚』が更に研ぎ澄まされる。続いて装甲が下半身から順次展開、象徴的な角がV字アンテナに変わり、一瞬だけサイコフレームが淡い緑の光を放ち赤く光る。相手のマグナムを受けた影響で左膝から先の装甲展開が不完全だが、この際関係ない。倍以上に増えたスラスターを全力稼働させ、赤い光の線を描きながら接近する。

 

「なっ!?」

 

 聞こえた声は何故か聞き覚えのある声だと思いながらも、マグナムを受け切った盾が全損し、左腕から煙と火花を出している相手に向かって突撃していく。

 

「トンファー!」

 

 音声認識で両腕前腕部にマウントされている『ビーム・サーベル』のホルダー部分が180度回転し、ビーム発生器部を前方に向け『ビーム・トンファー』が展開する。トンファーが展開している両腕を振りかぶり、あとは振り下ろすだけという所で、両肘が水色の輪に捕らわれる。

 

「バインド!?」

「!」

 

 俺だけでなく黒いユニコーンを纏った相手も水色の輪で拘束される。

 

「そこまでだ!」

 

 つい昨日も対峙した少年が、俺と黒いユニコーンの間に現れる。

 

「提督の固有戦力とは聞いていたが、やり過ぎだぞ! マグナムの使用は禁止されていた筈だ! 襲い掛かったこちらにも非があるが……白い『バンシィ』の乗り手も、剣を引いてくれ」

 

 『バンシィ』? あの黒いユニコーンは『バンシィ』と言うのか。

 

「……了解した」

 

 ビームを消し、ビーム発生器を収納する。

 

「感謝する。詳しい事情を聞かせて貰いたい。同行してくれ」

「……」

「スズ」

「スズ君」

「!」

 

 迷っていると後ろから声が掛かり、シグナムとシャマルが近付いて来る。

 

(何故来た! 下がれと言っただろう!)

(私とシグナム以外の皆は結界内から撤退させたわ。それに涼君、左足が大変な事になってるわよ?)

 

 改めて左足の状態を見ると装甲が融解し、『NT-D』を使用した際に無理矢理展開した事で最早原型を留めていない。痛みを無視出来ているのは『NT-D』を起動しているからだろう。

 

(すぐに治療したいから『ユニコーン』を解除してほしいけど……ここじゃ無理よね)

(とりあえず、同行しよう)

(よろしいのですか?)

(他の皆は撤退済み。俺達3人なら大抵の状況は何とかなる。ここは同行して、管理局の持っている情報を集めよう。ついでに足の治療も並行して頼む)

 

 納得した2人の同意を得て、執務官とやらに向き直る。……と、その前に両肘のバインドが邪魔だな。……解析完了、解除。

 

「なっ……一瞬で侵食から破壊を!?」

「この程度なら俺達の仲間の方がもっとマシなバインドを展開するぞ?」

「何だとっ……!?」

 

 つい身内自慢をしてしまった……。いや、だってなぁ……。実際なのはのバインドはもっとややこしい構成だし。

 

(お話はそこまでにしておいてもらってもよろしいでしょうか?)

 

 俺の物ではない空中投影ディスプレイが現れ、映し出された大人の女性が剣呑になりかけた空気を払拭する。

 

「そうですね。そちらの『バンシィ』にやられた足の治療もしたいですし」

 

(ご同行して頂ければ治療施設の提供を致しますが?)

 

「ええ、お願いします」

 

(ではクロノ執務官、この方々をアースラまでご案内して頂戴)

 

「了解。……それじゃあ転移する。余計な抵抗はするなよ?」

「分かっているさ」

 

 執務官が展開した術式に乗って、アースラと言う場所まで転移する。

 

 

 

 

 

 アースラの転送ポートに着いた所で、俺が『NT-D』を維持出来る限界時間が来てしまった。サイコフレームの光が失われ装甲とアンテナが閉じ、全身から脱力感と筋肉痛、左足からは激痛が走る。飛行魔法を維持して、地面から数cmだけ浮いていられたので、倒れずに済んだのは幸いだった。

 

「ぐぅ!?」

「スズ! シャマル、治療を!」

「分かってるわ! スズ君、左足だけだせる?」

「や、やってみる……。左脚部、強制解除(パージ)

 

 『ユニコーン』は俺の意を汲んで、左の大腿から先の装甲を粒子化してくれた。

 

「これは……酷い……」

「まずは折れた骨を復元するわ。動かないでね。お願い」

 

≪Ja.≫

 

 シャマルはベルカ式の魔法陣を展開し、両手を俺の左足に翳す。彼女の魔力がクラールヴィントを通して治療の効果を生み出し、折れて捩れた足の骨を瞬く間に元の状態へ戻していく。

 

「次」

 

 焼け爛れたと言いうより、溶けたと言うべき皮膚と筋肉の治療に取り掛かる。翳した手はそのまま、俺は何が起こっているのか分からない内に筋肉はもちろん、皮膚までもが元通りなる。

 

「凄い、な……」

「もちろんよ。これが私の本領なんだから」

 

 足の痛みが突然無くなった事に驚いてぽつりと洩らした感想に、シャマルは得意げに返し念話で言葉を続ける。

 

(それに涼君の身に何かあって悲しいのは、はやてちゃんやなのはちゃんだけじゃないんだから)

(……済まなかった)

(分かればよろしい!)

 

「まさか医務室に行くまでも無く、治療を終わらせてしまうとは思いませんでした」

 

 仮面の奥で微笑んでいたが、言葉を放った執務官に向き直る。

 

「私達の大事な仲間に、貴方達の手を触れさせる訳無いですもの」

「なっ」

 

 何の抑揚も感じられない声で返したシャマルは、いつもの柔らかな雰囲気とは一転、慈悲すら持たない冷酷な雰囲気を纏っていた。

 

「執務官、案内しろ」

 

 俺の一歩前に出たシグナムまでもが、まるで触れたら切り捨てると言わんばかりの威圧感を放っていた。

 

「っ……わ、分かった。付いて来いっ。『バンシィ』、お前の処分は後で決定する。自室に戻っていろ」

 

 言われた本人は、執務官が歩き出した方向とは別の方向へ歩き去った。

 

「スズ君、大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない」

 

 さっきの雰囲気が嘘のように無くなり、心配そうな声で話し掛けられ戸惑ってしまった。

 駄目だな、集中し直さないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、現地の魔導師3人を連れてきました」

「お通しして下さい」

 

 応接室と思しき部屋に通された俺達は、内装を見て唖然としてしまった。赤い敷物に座布団、番傘といった茶屋の様な内装に加え、鹿威しと来たもんだ。近未来的な廊下を歩いていたと思ったら、急に昔の茶屋風の部屋に通される。これで驚かない方が驚きだ。

 

「どうぞ、お掛けになって下さい。クロノ執務官はこちらへ」

「はい」

 

 今は治っているが、正座出来ない俺の為に腰掛け椅子が用意されている所は好感が持てる。

 

「出来ればバリアジャケットと、『バンシィ』を解除して頂けませんか?」

「突然襲い掛かって来た相手に無防備になれと言うつもりか」

「それとも貴方達は何の対策も無しに敵地に乗り込めるとでも言うつもりかしら」

 

 椅子に座る事無く、いきなり辛辣な事を言った2人に俺は驚きを隠せない。

 

(2人共、落ち着いてくれ)

(いや、しかし……)

(確かに文句はある。だけどそれ以上にやらなきゃいけない事があるだろう)

(それは……はい……申し訳ありません)

(ごめんなさい……。私情を優先しすぎていたわ)

(なのは達にも言ったけど、反省しているならそれでいいんだ)

 

 艦長と呼ばれた女性は、会話の区切りがついた事を察して話し始めた。

 

「その件は、私の監督不行き届きが原因です。大変申し訳ありませんでした」

「……謝罪を受け入れます。それにもう怪我は治っていますので、この件はお仕舞いにしましょう」

「寛大な措置、感謝致します。では改めまして……私は時空管理局提督、この次元航行艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです」

「ご丁寧にどうも。俺は『ラプラス』のリーダー、スズです」

「『ラプラス』メンバー、シャマルよ」

「同じく、シグナムだ」

 

 この人……『感覚』を使っているのに物凄く読み取りづらいぞ!? この若さで提督って言う位だから、色々な修羅場を(くぐ)ってきたんだろう。…………ちょっと待てよ? その隣に居る執務官の名前もハラオウンとか言ってなかったか?

 

「クロノ執務官もハラオウンと……」

「ええ、息子です」

 

 ま、まじでか……。あー、桃子さんという例があったわ。有り得なくは無いか。

 

「そうですか……。っと、申し訳ありませんが、バリアジャケットとこの『バンシィ』の解除は認められません。理由は先程も言った通りです。艦長である貴方なら、俺達の考えはお分かりでしょう?」

「ええ、それはもう」

 

 笑みを崩さない分余計にやり辛い。しかもこっちが少しでも油断した瞬間、そこを起点に切り崩す気だって意思を隠しもしない。本当に顔が隠れてて良かったと思うよ。

 

「では本題……俺達の事について、管理局の事について、話し合いをしましょうか」

「あら、お早いのね」

 

 うっさい! 舌戦なんてした事無いから、こっちはいっぱいいっぱいなんだ! マルチタスクフル活用で対応しても、やられる気しかしないんだよ……!?

 

(舌戦というか情報戦は初めてだから、もしもの時は手を貸してくれ……)

(任せて頂戴。出来る限りのサポートはするわ)

(わ、私はこういった事は苦手なので、補佐に回ります……)

 

 シグナムは戦闘専門だから仕方ない。シャマルには頭が上がらない……。

 

 …………よし、逝くぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか……なるかなぁ……?




 対『バンシィ』の前哨戦みたいな感じになってしまいました。

 戦闘描写が物足りなさを感じます。もっとじっくりねっとり描写したいのですが、そうなると文字数が半端無い事になりそうなんですよね。
 いっその事、戦闘のみの回を設けるとか?


 次回は……次回も? 主人公の胃にダイレクトアタックしそうな説明回ですかね。早く『バンシィ』と戦わs(ry



 ではまた次回で。


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