アルドノア・ゼロ~騎士道の名の下に~ (G.S)
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プロローグ

衝動に負けて息抜きがてらに書いてしまいました(笑)

ちなみに続くかどうかは正直アニメ次第です(笑)
この先の展開に内心ヒヤヒヤしてます。




 月で発見された地球と火星を繋ぐハイパーゲートと呼ばれる遺跡により火星の開拓が進み火星に独立国家ヴァース帝国が建設された世界。

 

地球と火星の関係は悪化し、1999年ついに地球にある豊かな資源を求めてヴァース帝国が宣戦布告を行う。迎え撃つ地球軍、しかし火星に存在した超古代文明アルドノアを搭載した兵器により地球軍は壊滅状態に陥る。

 

だが突如として起きたハイパーゲートの暴走により月が崩壊。火星と地球の双方が大惨事に見舞われ多くの犠牲の下に休戦協定が結ばれ仮初の平和が暫しの間訪れた。

 

しかしその十五年後の2014年、火星の第一王女アセイラム・ヴァ―ス・アリューシアが親善大使として出向かれた地球で暗殺されたという事件によって再び火星と地球、両国の戦争の火蓋が落とされる事になるのだった。

 

 

 

 

 

『我らアセイラム姫の切なる平和への祈りは悪劣なる地球人共の謀略によって無残にも踏み躙られた!』

 

揚陸城に設置されたモニターから一人の男の声が響き渡る。

 

彼は火星軌道騎士三七家門の一人のであり現ヴァ―ス皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァ―スの信用の厚い男。名をザーツバルム。

 

『誇り高き火星の騎士達よ、いざ時は来た!歴代の悲願たる地球降下の大任!義を以って今こそ果たすべし!!』

 

姫が無くなるや否や出されたこの声明は軌道騎士達の心を一つに纏めた。すなわち、地球を攻め侵略し姫の無念を晴らすという一つの意志に……その手腕、堂々たる姿は正に見事であると誰もが感じた。

 

だがこの時多くの火星人は知る由も無かったであろう。この事件の首謀者であり火星と地球の戦争を望んだ人物こそが、このザーツバルム伯爵だとは………………

 

 

 

 

 

 ここは新芦原市にある火星軌道騎士三七家門の一人クルーテオ伯爵の揚陸城。そこのカタフラクト収納庫では一人の騎士がコックピットに乗り込み出撃を今か今かと待っていた。

 

彼の名前はクリム・ウォーケン。赤茶色の髪を目元の位置まで伸ばした青年である。

 

「何故、何故なのだ地球人!何故我らがアセイラム姫殿下の命を奪ったのだ!!」

 

彼の目に溢れ出ていたのは自らが忠義を誓ったアセイラム姫殿下を亡き者にした地球人に対する義憤…………。今すぐにでも地球に住む野蛮人に正義の鉄槌を下したいと感じていた。

 

こんな事件が起きる前なら彼は地球に対してそのような感情を抱いてはいなかっただろう。見とれるほどに美しいその姿、そして地球人という身でありながらも我が主の使用人として懸命に働き、姫に自分以上の忠義を尽くしていた友人。そして何よりもあのアセイラム姫殿下があれほどまで興味を持ち目を輝かせていた――――そんな素晴らしい星をこれほどまでに憎む事になる理由はただ一つ――

 

「地球人め……!私が貴様らに鉄槌を下してやる。我が騎士道に誓って!!」

 

そう――彼は騎士だった。騎士道精神に溢れていた養父の背中を見て成長していた彼は心の底から騎士という者に憧れ自らも騎士であろうと努力した。そんな彼に養父も騎士の何たるかを教授し――彼もその教えを熱心に吸収し、さらに教授し――――と無限のループが続き、いつしか彼は胸の内に立派な騎士道を宿していた。まあ、その騎士道には彼の勘違いというか若干の偏見が入っているのだが…………

 

「そこにいたのかクリム」

 

そんな憤っている彼のカタフラクトの通信画面に現れたのはステッキを持った金髪の男性。彼の父親代わりであり彼が騎士の鑑として敬愛しているこの揚陸城の主クルーテオ伯爵だ。その主に彼は身を乗り出し鬼気迫る勢いで懇願する。

 

「クルーテオ伯爵!私にも出撃の許可を!」

 

「待て、お前にはこの揚陸城の守備を任せた筈だ」

 

しかしその懇願はすぐさま一蹴された。

 

それもその筈、彼が下した命令はこの揚陸城の守備……つまりはいずれ攻めて来るであろう地球軍からこの揚陸城を守り撃退する任なのだ。一度出した命令を撤回する事は他の者に示しがつかない。例え、自らの弟子――いや、だからこそ命令は厳守させなければならない、と彼は考えていた。

 

「しかし……!!」

 

「言った筈だ。新芦原には既にトリルラン卿が向かった。お前の出る幕は無い。大人しく待っていろ」

 

「クルーテオ伯爵……」

 

もうこれ以上言う事は無いと通信を切ろうとするクルーテオ伯爵。だが、自らの弟子らしからぬ悲痛な、そしてか細い声に思わず耳を傾けてしまった。

 

「アセイラム姫殿下は地球で命を落としたのです。友好を望んでいた地球で……」

 

俯いているせいで表情は見えないがその声色からは悔しさが滲み出ていた。

 

その気持ちは彼にも痛い程分かる。あの時姫様を止めていれば……何度も何度も自分に言い聞かせる度に生まれるのは後悔と地球人に対する、そして何よりも自らに対する怒りのみ…………

 

「彼女の素晴らしき高潔な志……それを奴らは踏み躙ったのです!ここでじっとなどしていられません。騎士として自らの手で奴らに鉄槌を下したく存じます。何とぞ、私に出撃の許可を!」

 

彼女は戦争など全く願っておらず、真の和平を望んでいた……それは十五年に渡るこの歪な関係に終止符を打つ事を意味していた。だからこそ、そんな心優しき姫の命を奪った地球人に自ら裁きを下したいと考えるのは騎士として当然ではないだろうか?確かに自分は師であり伯爵だ。だが、そのような物は騎士道の前では些細な事である。

 

だから彼は意を決する。上に立つ者としては正しい行為では無いかもしれない。それでも――――騎士としてこの決断は間違っていないのだ。

 

「…………スカイキャリアを出せ」

 

「伯爵……!!」

 

「お前の騎士道。確かにこのクルーテオが受け取った」

 

「クルーテオ伯爵、ありがとうございます」

 

そして彼は命令を下す。騎士として当然の義務を果たすように、と。

 

「我らが姫殿下の命を奪った業の深さ、地球に住む劣等民族共に知らしめてやれ!!」

 

「御意!!」

 

「スカイキャリアの準備整いました。」

 

クルテーオ伯爵からの命を承ると同時にクリムのモニターに伯爵とは別の人物が映る。彼はこの揚陸城にいる整備兵の一人、今回戦術輸送機スカイキャリアのパイロットを務めて彼を目的地まで連れて行ってくれる人物だ。

 

「大義である」

 

モニター越しの彼に感謝の言葉を述べて、彼は自らの愛馬を動かす。兜のような頭部に巨大な腕部。肩部にはまるでランスのように先の尖った円錐状の物体が設置されており、そして何よりも前面と後面にある頭部より下を覆い隠すほど巨大な黒色の装甲盤が目を引くカタフラクト。

 

「オルティス。出陣する!」

 

スカイキャリアの後部にあるカーゴに乗り込み彼は発進する。目指すは新芦原……アセイラム姫が亡くなった忌まわしき地だ。




キリの良い所で終わらせようとするとプロローグはいつも短くなってしまいます。何とかならないでしょうか?(笑)

カタフラクトの絵は…………あまり期待しないで待っていて下さい。何分絵心が無いもので…………

ちなみに次回の投稿は未定です。それでは。


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降り立つは二人の火星騎士

大変長らくお待たせしました!お気に入り登録をして下さった方々ありがとうございます!!

アルドノア・ゼロ、最終回を迎えてしまいましたね。でもこの話はやってくつもりです!!……相変わらずの亀更新になると思いますが……

それではどうぞ!!


「ふぅー……」

 

月面近くにあるザーツバルム伯爵の揚陸城。そこでは部下からの報告を受け終わったザーツバルム伯爵が疲れた表情で深い溜息をつき虚空を見つめていた。

 

「お疲れですか、伯爵?」

 

そんな彼の後ろから凛とした声が発せられる。声の主が誰なのか分かっている彼はゆっくりと振り返り声の方向に顔を向けた。

 

「いや何でも無い、セレーネ。ただあちらで少々問題が起きたようだ」

 

そこにいたのは黒い騎士服を身に纏った幼さの残る顔立ちの女性であった。小柄な体躯やくっきりした目鼻立ち、絹糸のようにサラサラとした漆黒の髪が宙に靡いている姿など所謂美少女という部類に入るのだろう。ただ堅苦しい騎士服や鋭い眼光がそれらとはあまりにミスマッチしており近寄り難い雰囲気を放っている。

 

その少女セレーネは嫌悪感を包み隠さずに口を開いた。

 

「……ネズミを取り逃がしたようですね」

 

彼女も伯爵の協力者の一人だ。彼の様子から報告の内容を察したのだろう。

 

そう、彼が受け取った報告とは姫暗殺の実行役の抹殺に失敗したという実に不愉快な報告だったのだ。手筈も整え失敗などする余地が無いように組まれた計画でのミス…………最早怒り心頭を通り越して若干呆れてしまうほどの失態だ。

 

「あぁ、実に耳の痛い話だ。任した役目すら完遂出来ぬとは……我は人選を間違えたかな?」

 

「……大方ゲームか何かと勘違いしていたのでしょう。戯れに興じて役目を果たせぬとは…………使えない」

 

心底嫌そうな声色に思わずザーツバルムは苦笑する。

 

「今日はいつも以上に辛辣だな?それほどまでに今の状況は不満か?」

 

「…………」

 

彼女は何も答えない。しかしそれが逆に無言の肯定を意味していた。彼は一つ溜息をつくと彼女の方に歩みを進めながら語りかける。

 

「セレーネ、貴公の考えはよく分かる。だがしかし、今はまだ我々の出る幕ではない。地球の征服など所詮は我らが目的の第一歩でしかない」

 

「…………はい」

 

そう――彼らの目的は地球征服などではない。それはただの手段でしか無いのだ。彼らの真の目的――――それこそが彼らが姫の暗殺などという火星に対する大罪を犯した理由なのだ。

 

「肝心なのはその先、その先にこそ我らが宿願が存在するのだ。その邪魔をする者がいれば容赦無く潰す。その折には貴公の力、存分に頼りにしておるぞ」

 

「…………了解しました。しかしならばこそ早々にネズミを始末するべく動かした方が良いのではないでしょうか?後方の憂いは絶つべきです」

 

だからこそこんな所で足踏みなんてせず対処した方が良い……彼女らしい尤もな言い分にザーツバルムは先程まで通信を行っていたモニターの画面を睨みつけながら答える。

 

「確かに奴はネズミを取り逃がした。だが問題は無い、奴には隕石爆撃を行うまでの監視を命じた。それで町諸共ネズミを始末出来る」

 

「お言葉ですが伯爵。すぐにでも隕石爆撃を行うべきではないでしょうか?」

 

「何故かな?」

 

「簡単な事です」

 

その疑問に彼女は何の感情も孕まずにあっさりと答えた。

 

「ネズミと使えない駒の両方を始末出来ます」

 

常人なら背筋が寒くなるような冷酷な言葉……だが最早彼ザーツバルムはその程度では何も感じない。そのような物はとうに捨て去ったのだ、十五年も前に……

 

「このような簡単な仕事すら出来ぬものはただの邪魔です。後々裏切られても面倒ですし……実行役には消えて貰うべきだと考えます」

 

志を共にした仲間に対するものとは思えないほど冷淡な言葉……だが少女にとってはこれが普通なのだ。彼女にとって彼らは仲間などでは無く目的を果たすための道具に過ぎない、自分も含めて……

 

そんな彼女らしい冷徹な答えに彼は心底愉快そうに口元を小さく歪める。

 

「見事な考えだ。だがな、セレーネ。残念ながら貴公の意見は受け入れられないのだよ」

 

「……何故ですか?」

 

彼の言葉を聞いて不服そうに顔を顰めるセレーネ。そんな彼女に彼はまるで教え子に教鞭を振るう先生のようにその理由を告げる。

 

「まず隕石爆撃の軌道調整には数時間はかかる。あの周辺はクルーテオの揚陸城の近くだ、軌道調整には細心の注意がいる」

 

いくら誰がやったのか分からないようにやるとはいえ、揚陸城に隕石を直接落とすのには時期早々……クルーテオやその部下達にはまだ地球侵攻のために働いて貰わなければならないからだ。まああの堅物な城主には最終的には消えて貰うつもりだ、懐柔出来る余地が欠片も無い奴なんぞ邪魔になるだけ……彼はそう考えている。

 

「それに奴の機体《二ロケラス》…………そのバリアがある限り隕石爆撃などでは傷一つ付かぬだろう」

 

「《次元バリア》……それほど強力なカタフラクトを持ちながら失敗するとは…………本当に使えない道具ですね」

 

「フッ、そう責めるな」

 

その答えに一瞬納得した素振りを見せるも再び毒を吐くセレーネ、どうやらこの状況と使えない同志に相当ご立腹の様子……この瞬間を待ち望んでいた彼女にとっては前座でこのような問題が起きたのだから分からぬ事も無いが……。そんなセレーネを諫めつつもザーツバルムは頭の中では違う事を考えていた。

 

おそらく地球の占領は滞り無く行われるだろう。たった一機で一個師団以上の戦力を保有する、それほどまでに火星の――アルドノアの力は強大なのだ。双方に相応の被害は出るにしろ地球軍に勝ち目など端から無い。

 

『ようやく我らの宿願が叶う、か……』

 

そんな事を考えながら、彼はあの青き忌まわしき星に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

『クリム卿。あと十分程で新芦原市中央部に到着します』

 

「分かった。悪いがもう少し高度を下げてくれないか?街全体の様子を把握したい」

 

『了解しました』

 

その頃新芦原市から数十㎞離れた上空ではクリム駆るオルティスがスカイキャリアで移動していた。眼前の真っ白な雲のせいで実際の街並みを見れない彼はパイロットにそんな命令を下しそれに従いスカイキャリアが高度を下げる。覆い尽くすような真っ白な雲を突っ切った先には幻想的な光景が広がっていた。

 

先ず目に入ったのはどこまでも続くような広大な海だ。その色は揚陸城から見下ろしていた時の青いものでは無く闇のように暗い色だった。だがその闇の中に映る星々の輝き、闇と光のコントラスト……それはあまりにもうっとりするような見惚れる光景だ。思わずずっと見ていたいと思うような光景……しかし、クリムの視線は既にそこにはない。その視線はそこより手前の市街地に向いていた。

 

『道が入り組んでいるな……』

 

というのが彼の所感だった。高さも大きさもバラバラな建物が所狭しと並んでいる様子……これほどまでに障害物が多いと重力下での飛行能力を持たないオルティスでは街中に着陸しても視界を確保しづらい。下手をしたら味方機に出会い頭で会って攻撃をされる可能性もあるのだ。

 

だから彼は探す、視界を確保でき町からそれほど離れていない場所を――――

 

『あそこだな……』

 

モニターから彼が探し当てた場所は正面にある小高い丘だった。緑の芝生に覆われた小さな場所……それでもオルティス一体が降りるスペースは余裕である。彼はスカイキャリアのパイロットに命令を下した。

 

「あそこの丘で降ろしてくれ」

 

『新芦原市の中心部までは六十㎞ほど距離がありますが……よろしいのですか?』

 

「構わぬ。降ろしてくれ」

 

『了解しました。オルティス、ディスコネクト』

 

その言葉と共にスカイキャリアのカーゴから飛び出すオルティス。バーニアを噴かし芝生を揺らしながらゆっくりと地面に着陸した。

 

『それでは、御武運を』

 

踵を返すスカイキャリア、それを見送りながら彼はコックピットハッチを開けて外に身を乗り出した。夜空には沢山の星々が瞬き、その光が海面に映る。まるで鏡合わせのような美しい景色に感嘆の声を上げてしまいそうになった。

 

確か姫様は地球の青い空と海を大変気に入られていた筈だ、教育係の青年にどうして空も海も青いのか、と尋ねていらしたのを今でも思い出せる。確か「大量の空気と水が光りを屈折させて青く見える」だったか?きっと姫様はあの想い焦がれていた青い空と海を見れただろう、だがこの美しい景色は見れなかったに違いない。

 

姫様……地球はこれほどまでに美しい場所です。あなたにも見て欲しかった……

 

だがそんな言葉と共に沸々と湧き上がるのはもう姫様はおられないという虚しさとその姫の命を奪った地球人への怒り……ここに来て良かった、感傷的な気分にはなったが一層自分が何を為すべきかを再認識できた。彼はコックピットハッチを閉じてモニターを見つめる。

 

「まずは味方と連絡を取るべきだな」

 

レーダーには反応は無い。出撃したばかりで故障は考えられないのでおそらくはレーダーに反応しない機体なのだろう。彼はモニター越しの風景からその味方機を探す。

 

辺りを見渡すとその味方は容易く見つかった。明かりが消え濃紺一色の町並みの中に巨大な影が一つ、まるで異物のように混ざり混んでいるのを視認出来たからだ。そのまま標準をあわせてオルティスの額部に備え付けられた望遠カメラでその機影を拡大する。

 

カメラ越しに現れたのは紫色の巨体だった。大型アームを畳み込み左右に四つずつ目を有したカタフラクト――

 

「ニロケラス……確かアルドノアドライブの能力は次元バリアだったな。成る程、道理でレーダーに反応が無いわけか」

 

ニロケラス……クルーテオ伯爵の食客であるトリルラン男爵のカタフラクトである。能力である次元バリアとは機体を覆っている《多次元変換力場》という防御フィールドであり触れた物体を多次元物質に変換して三次元空間から排斥する――という正直理解が及ばないような理論で働くフィールドだが、分かりやすく言えば触れた物は何でも吸収、消滅させる最強の(バリア)である。

 

このバリアの前ではあらゆる攻撃は二ロケラスに届く前に消滅し、触れただけで相手を消滅させる……つまりこのバリアは最強の盾であると同時に最強の矛でもあるのだ。その恐るべき威力は所々に存在している抉られたような建物が物語っている。

 

逆に言うと二ロケラスにはこの盾以外の装備、火器は搭載されていない。その巨体を動かし、巨腕を振り回す事だけがあの機体の攻撃方法なのだ。

 

とにかく現状把握のためにも速やかに連絡を取るべきだ、そう判断した彼はニロケラスのパイロットに向けてレーザー通信を送るのだった。

 

 

 

 

 

その頃ニロケラスのコックピット内ではキノコのような特徴的な髪型の男トリルラン男爵が恨みがましい視線をモニターに散在している映像に向けていた。

 

彼はザーツバルム伯爵がクルーテオ伯爵の揚陸城に忍ばせていた息の掛かった部下であり、ネズミの抹殺という大任を任された人物だ。そんな彼が何故今現在何もせずに忌々しく画面を睨みつけているのか……その理由は十数時間前まで遡る。

 

揚陸城からスカイキャリアを駆って新芦原市に到着したトリルラント。彼はそこで待機していた”騎士の称号を得る事と引き換えに姫暗殺の実行役を買って出た同じ火星人”を予定通り自らの愛機で殺害。それによって無事任務は終了、と思われたのだがまだ一人女の子だけ残っていたのだ。

 

彼の機体ならその生き残りの少女をさっさと始末できたであろう。しかしその可憐な少女の姿に嗜虐心が働いてしまった彼はその恐怖で怯える少女をジワジワと追い駆け続けるだけで留めてしまった。

 

必死に自分から逃げ続ける少女を追い駆ける続けるという戯れ……だがその最中で彼は地球のカタフラクト部隊に遭遇。勿論そのカタフラクト隊は容易くに撃破したのだが交戦中に対象を保護、さらにはトレーラーに回収され、そのトレーラーにはトンネル内に逃げられてしまった。その上にザーツバルム伯爵からは厳しいお叱りの言葉、さらには命じられたのは残ったネズミの始末ではなく隕石爆撃までの監視…………名誉挽回の機会を与えられず屈辱を晴らせない事は彼の高すぎるプライドを大いに傷つけた。

 

「私の顔に泥を塗るとは、劣等人種共が……!!」

 

だが、はっきり言えば任務を果たせなかった理由は彼の傲慢さと嗜虐心のせい――つまりは自業自得なのだがそれを反省する気は彼には毛頭無い。怒りをバネに――――と言えば聞こえは良いが、ほとんど逆恨みに等しい感情で自分に抵抗し恥をかかせたあの連中を嬲り殺してやりたいと意気込んでいた。

 

「――ッチ!誰だ!こんな時に連絡を寄越す奴は……!!」

 

そんな苛立っている彼のコックピットに大きな音――レーザー通信の受信を知らせるアラームが鳴る。通信の相手はおそらくはザーツバルム伯爵、または形だけの上司のクルーテオ伯爵のどちらかだろう。その二人以外に自分に通信を送る人間に心当たりの無い彼はいつも通りの媚びるように上辺だけの礼に則った態度を示そうと彼は通信画面を開けた。

 

「トリルラン卿、お久しぶりです」

 

「なっ?!ク、クリム卿!!何故貴公が?!」

 

だが現れたのは全く予想外の人物――同じ揚陸城に住まう騎士クリムだった。

 

何故?どうして?沸々と疑問だけが頭の中に湧く。全く自分とは接点が無いこの人物が自分に連絡を寄越した理由を考えて彼は自分が思い浮かべる中で最悪の想像してしまって――――

 

「トリルラン卿。僭越ながらこのクリム、クルーテオ卿に許可を頂いてここに馳せ参じました」

 

その想像が現実のものになってしまった……

 

この状況はマズイ、と彼は内心焦り出す。自分は一応クルーテオ卿には”当地の責任者を拘束し姫暗殺の真相を明らかにする”という任を預かっているのだ。本来預かった任であるネズミを始末するところを誰か――それもよりによって我らの企みを知らないクルーテオ伯爵の腹心の部下に見られてしまったらそれこそ取り返しつかない展開になってしまう。だからこそ彼はそんな事にならないようにたった一人でこの新芦原市を訪れたのに…………

 

「それで責任者の確保はどうされました?報告はまだなのですが……もしまだでしたら微力ながらお手伝い致します」

 

有り難い申し出……だがこの事情を知らない男は自分にとっての厄介事の種に過ぎない、出来る事なら何も言わずに立ち去って欲しいぐらいだ。そんな感情を表面上は隠しながら答える。

 

「心配ご無用、私一人で事足りる。クリム卿は揚陸城に戻られよ」

 

本心では早々に立ち去れと言いたい所ではあるが流石にそれを言うのは体裁的にマズイ。だから普段目下の者に使うような傲慢な態度ではなくやんわりとした言い方をするトリルラン。だがクリムはその言葉に顔を顰める。

 

「お言葉ですが、悠長に構えている暇はありません。姫様の無念を晴らす事は急務、至急任務を果たすべきと存じます。勝手ながらお手伝い致します」

 

ーーッチ!そんな真面目臭い言葉に思わず舌打ちが出そうになるのを必死に耐える。自分は男爵で向こうは騎士、それなのに生意気にもこの小僧は説教を垂れる…!!

 

……だがこの男の言い分は間違っていない。こいつの目的は自分と違い姫の無念を晴らす、ただそれだけなのだから……おそらく何を言ってもこの男は退かないだろう、ならば――――

 

「……そうだな」

 

「では、直ぐにで――」

 

「慌てるでないクリム卿。これほど広い場所、無闇に探しても見つかる訳がないであろう」

 

ならばこの男を利用すればいい。この男の忠義を逆に利用して自分の都合の良いように動させれば……最悪こちらには奥の手があるのだ、必ず上手くいく。そう決意したトリルランは自信を持って目の前の男に語り掛ける。

 

「我が彼奴(きゃつら)を見つける。この二ロケラスの”鷹の目”にこれほど適した役目はなかろう」

 

ニロケラスの”鷹の目”、その策敵範囲の広さはカタフラクトの中では随一だ。その事は周知の事実……だからこれを口実に奴の動きをこちらが指示すればいい、言い分としても我ながら最もらしい素晴らしい出来だ、と自画自賛するトリルラン。だがしかし目の前の男は厳しい顔をしていた。

 

「…………つまり私はそれまで待機していろ、という事でしょうか?」

 

不服か?と尋ねれば、はいと毅然とした声を返す。そのまま顎を触りながら考え込むと強い意志を含んだ目でこちらを見つめた。その姿に嫌な予感が脳裏を掠める……

 

「私が奴らを炙り出します」

 

「何をするつもりだ、クリム卿?」

 

思わず尋ねてしまうトリルラン。その問いにクリムはさも当然、何でも無い風に答えた。

 

「二ロケラスの”鷹の目”が未だ捉えないとすれば隠れている場所として考えられるのは地下、もしくはトンネル内……それらに片っ端から探りを入れます。そうすれば奴らは出て来るでしょう」

 

なっ?!その言葉にトリルランは思わず身を乗り出してしまう。そんな事をされてはーーーー

 

「待たれよ、クリム卿!焦らずとも――」

 

「お言葉ですがトリルラン卿。姫様が亡くなってからもう一日が経とうとしています、悠長に構えている暇などありません。例え強硬策であろうとすぐにでも動くべきです」

 

御免と一言入れて丘から降り立たんとするオルティス。このままではこの男は本当にしらみ潰しに探すだろう。そうすればあのネズミに会うのも時間の問題、もしあのネズミが姫暗殺を目論んだのが火星騎士だという事をあの男に喋れば――――最悪の展開を想像するトリルラン。こうなればあの最終手段を使うしかあるまい、トリランは語気を強めて最も有効的であろう説得を試みた。

 

「私はクルーテオ卿にこの地を任されたのだ!我が命に従わぬとはクルーテオ卿の命に従わぬも同じぞ!!」

 

「そ、それは…………」

 

その言葉に明らかに狼狽えるクリム、思った通りの反応に内心ほくそ笑んだ。これがトリルランが考えた最も有効であろう手だ、この男は主であるクルーテオ伯爵に心酔している。正確には彼の騎士道に、ではあるが…………

 

ともかくそんな彼が伯爵の命に背く事はありえない、そう確信を持っていた彼の作戦は見事に成功した。それに実際トリルランは伯爵に”当地の事は任せる”と言われたので満更嘘ではないのだ。モニター向こうの男は依然不本意そうな顔はしているが自分に従うだろう。

 

「…………失礼いたしました」

 

では、とクリムが通信を切ると同時に一安心と息を吐くトリルラン。本当に扱い辛い男だった。だがこれで奴もこちらの命令には従うだろう……とは言っても自分の役目は子ネズミの監視、向こうもわざわざ地上に死に戻りに来る筈が無い。時間を確認すればザーツバルム伯爵が言っていた時間まで後数時間程……

 

『さて……彼奴らの命もそろそろか』

 

自分の手で葬れないのは残念だがこれで引き籠もっている子ネズミも刃向かった愚かな地球人共も木端微塵に消し飛ぶ……その様を想像した彼は狂気の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

「それじゃあ作戦通りに」

 

トリルランが覗いている画面の一つ……トンネル内には七人の男女がトレラーの近くに集まっていた。同じ新芦原市に通う高校生の界塚伊奈帆、カーム・クラフトマン、網文韻子、そして赤い髪にパーカーを羽織ったライエと名乗る少女、今時日本では珍しい北欧系の少女にその少女に付き従っている小学生くらいの少女。そして左腕を首から掛けた包帯で支えている女性、伊奈帆の姉の界塚ユキだ。

 

この七人、正確にはユキを除いた六人はあのカタフラクト――二ロケラスと戦うためにここに集まった。勿論ユキはそれを止めようとした、無謀だ、そんな事をする必要は無いと……

 

だけど伊奈帆の目が絶対に行くと言っていたから……姉であるユキはあの目をした伊奈帆は止められないと知っているから……だから不安だけど彼らをこの行動を見守る事にしたのだ。

 

何故?どうして?何が彼らをそこまで駆り立てるのか――その理由は――――

 

「オコジョの仇は必ず取ってやらねえとな……」

 

伊奈帆達の友達……起助が目の前で殺された。あのカタフラクトによって……

 

最期を見たのは伊奈帆だった。伊奈帆の姉である界塚ユキを助けようと車上に出た所を車から投げ出された。必死でその手を掴んだ伊奈帆だったが健闘叶わず手は離され後ろから追っ駆けて来たそいつに衝突すると同時に起助は消えてしまった。

 

あまりにもあっさりした最期……だがそれに反し、恐怖で涙を浮かべ絶叫しながら自分の手から離れ宙を舞う友達の姿が伊奈帆の脳裏にはまだ鮮明に焼きついていた。

 

だからこれは友達の弔い合戦――そのために彼らはあのカタフラクトに挑もうとしている。

 

だが相手はたった一機でカタフラクト隊を全滅させた化け物、これまで集めた情報から建てた作戦が本当に通用するかどうかは分からない……つまり彼らが今から行うのは無謀極まり無い戦いだ。

 

それでも彼らは絶望して自棄になった訳では無い。あいつを倒してみんな無事生きて戻る……それがオコジョに対するせめてもの手向けになると信じて、表情こそ変わらないが伊奈帆は意を決してここにいる全員に宣言する。

 

「僕らであの火星カタフラクトを撃退する」

 

だが彼らはこの時は知らなかった。この新芦原市という小さな町にあの紫色のカタフラクトとは別にもう一体の(火星カタフラクト)が来ているという事を…………




敵が二体いる……だと(笑)原作以上に最悪な展開になる可能性が出て来ました!!果たしてどうなるのか……

でも伊奈帆がいるから何とかなる気がしない事も無いと言う……やっぱり伊奈帆君は凄いっすね!!

それでは次回の投稿も未定……ですが出来るだけ早くしたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。


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少年達と騎士

みなさんお久しぶりです!約3ヶ月振りの更新となります。

恐るべき亀更新……これもどれも全部私に文章力って奴が無いからなんです!誰か、誰か私に文章力をォォォ!!(泣)

それではお待たせ致しました。

さあ、みなさん!キノコ狩りの時間だーーッ!!(笑)


「作戦開始」

 

明朝……伊奈帆の声を合図に静かな空に突如赤い閃光が上空に上がる。数は三つ、その意味は戦闘開始。

 

当然ながら火星人であるトリルランもクリムもそんな事は知らない。だが向こうが何かしろの行動に出るつもりなのは明白であった。

 

『見つけたぞ、ネズミめ』

 

そしてその動きをニロケラスの鷹の目はいち早くキャッチした。オレンジ色のカタフラクト――現在は高校での兵科教練などで使用されている一世代前の地球製カタフラクト《KG6スレイプニール》が三機にトレーラーが一つ、そのトレーラーを殺し損なった子ネズミが運転しているのを見てトリルランは狂気の笑みを浮かべる。

 

「クリム卿、貴公はあのカタフラクトを始末しろ。私はトレーラーを追う」

 

了承するクリム。これで誰の目を気にする事も無くネズミを始末出来る。痺れを切らして自ら殺されに来るなど愚かな選択をしたものだ……彼はその程度にしか考えていなかった。

 

突如ニロケラスの視界が真っ白な煙に襲われなければ。

 

「なっ?!何が起きたのだ!!」

 

「カタフラクトから煙幕弾が放たれています!まさか鷹の目の存在に気づいているのか?!」

 

オルティスのモニターでは二体のカタフラクトが上空にライフルを向け煙幕弾を次々と撃っている姿が映っていた。

 

ニロケラスの鷹の目、その正体はUAV(無人航空機)という外部カメラである。バリア発動中は外界の情報が一切遮断されるニロケラス、その視界を確保するためにあるのが上空に打ち上げられた無数のカメラなのだ。

 

伊奈帆達がこの存在に気づいたのはニロケラスと初めて会った時、奴が死角である筈のビルの裏側からでもこちらの位置を正確に把握しているかのように追って来た事、そしてトンネルに入った瞬間にすぐさま追跡を諦めた事だ。奴の視界は別にある……そう考えた伊奈帆の予測は見事に的中した。

 

曇天のような空。カメラが捉えるのは真っ白な煙ばかり、視界を奪われたニロケラスの動きは一瞬で止まってしまう。

 

「あの小賢しいオレンジ色を止めます」

 

だがオルティスのメインカメラは正面にあるので上空の煙幕も意味が無い。勿論視界が取り辛いビル群の中に入っていくのは危険だが条件は向こうも同じ筈……彼は市街地を目指し自らの愛機を動かす。

 

その時、上空を一つの黒い影が通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

「い、一体何が……トリルラン卿!これは一体!」

 

黒い影スカイキャリアのコックピット内で幼さの残る顔立ちの少年の戸惑った声が響いた。彼の名前はスレイン・トロイヤード、クルーテオ伯爵の使用人でありトリルランをこの地まで運んで来た少年だ。

 

そんな彼はこの異常な空模様を見てトリルランに尋ねたのだが……

 

「トレーラーだ!」

 

「はっ?」

 

「道を教えろ!奴はどこだ!!」

 

返って来たのは自分の疑問に対する答えでは無くそんな怒声であった。全く訳が分からないが激昂しているトリルランのあまりの迫力に特に意味を考えずにその尋ねているであろうトレーラーを上空から探し出す。

 

「街の中心部に向かっているようです」

 

その言葉を聞いてトリルランはニロケラス動かす。自慢のバリアで建物(障害)を消しながらトレーラー目掛けて真っ直ぐに進んで行く様子をスレインが見ていると突如コックピットにアラームが鳴り響く。慌てて急加速するとさっきまで自分がいた場所を銃弾が通っていた。

 

「地球の……カタフラクト」

 

下を見るとそこには此方に向けてマシンガンを構えているオレンジ色のカタフラクト……そこで漸く彼は此処が戦場のど真ん中であった事に気がついた。そして自分はあのカタフラクトに狙われているという事も……

 

未だに続く銃撃。このままでは墜とされる……!そう判断したスレインはスカイキャリアを旋回させそのカタフラクトの正面に回り込んだ。そして――

 

「ご、ごめんなさい!」

 

と一言謝りスカイキャリアに搭載されている榴弾砲を発射。1発目、2発目、3発目とダンダンと地面を抉り、4発目はそのカタフラクトに命中……しかし、脚部のスタビライザーを盾のように展開させた事でそのカタフラクトは直撃を免れた、恐らくパイロットも無事だろう。

 

その光景に変な話だが内心スレインは良かったと胸を撫で下ろした。そもそも彼は戦士ではなくただの一使用人……当然ながら命のやり取りなんていう恐ろしいことをしたことも、またしたいとも思わないような善良な一般人なのだ。

 

それともう1つある。それは彼スレイン・トロイヤードは火星人ではなく地球人であるという点だ。

 

彼の父は科学者であった。物心ついた頃から母はいなく父と共に各国を回る生活……そんなトロイヤード博士がアルドノア研究のために最後に訪れた場所が火星だったのだ。

 

その後、父は亡くなり彼はクルーテオ伯爵に引き取られた。そのため彼は地球人でありながら火星に住まうという複雑な環境で生活することとなった。各国を回る父に付いていったため故郷と呼べる場所は無く地球という星への愛着は正直言ってしまえば希薄だが、自分と同じである地球人に攻撃するという行為に気が引けてしまうのは当然だろう。

 

「なっ?!き、機体が……!!」

 

しかしホッとするのも束の間、大きな衝撃がスレインを襲った。

 

それと同時にモニターは左翼の異常を示す。何とか持ち直そうと操縦棍を動かすも片翼が全く機能しないスカイキャリアでは高度を上げる事は最早不可能だった。

 

不時着の衝撃に耐えようと身構えるスレイン。そんな彼が最後に見たのは此方に向けて銃を構えている先ほど自分が撃ったのとは別のカタフラクト。

 

そしてそのカタフラクトに接近していく一体の火星カタフラクトの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ……!」

 

クリムは頭に血が昇ってくるのを感じていた。事は数分前、上空をスカイキャリアを飛んでいるのに気づいた事から始まる。

 

いくら火星の技術といえどもスカイキャリアは輸送機……武装は最低限の物しか搭載されておらず、こんな戦場にいるべきではない。早々に立ち去るように忠告しようと追い掛けようとした丁度その時だった。突如敵のカタフラクトがスカイキャリア発砲したのだ。

 

まあ彼らにしたら突然戦場に明らかに火星側の機体が現れたら援軍だと勘違いするだろう。つまり迎撃したのは当然の判断だと言える。

 

しかし彼は違った。武器を持たぬ者に攻撃するとはなんたる卑劣!卑怯!そのような非道をのさぼらせてよいのだろうか?否!例え天が許そうともこの騎士道が断じて許さぬ!!

 

「堪忍するのだな地球人!!」

 

「嘘?!」

 

「なっ?!もう一体!?」

 

ドスン、ドスンと地響きを鳴らしながら二機のスレイプニールに近付いて来るオルティス。それに気づいた二人は驚嘆の声を発した。

 

よりによって2体……それも今新しく現れたらこいつはあのダンゴムシとは違って何の能力を持っているのかは不明なのだ。そんな未知数の敵との遭遇とは彼らが最も避けたかった最悪のケースに違いなかったであろう。

 

それでも――

 

「韻子、プランBだ!」

 

それでも彼らが止まることはなかった。生き残るため、友達の仇を討つため……彼らに戦わないという選択肢は端から存在していなかった。それに彼らには戦うための手段もある……

 

プランB……それは敵側の援軍が来るという最悪のケースを想定した伊奈帆が建てた作戦だ。その内容を聞いた時はあまりの衝撃に二人揃って口をあんぐりとさせてしまったのは記憶に新しい。

 

だがその作戦には一つだけ懸念事項があった。

 

「でもカーム、機体が……」

 

それはカームの機体の損傷具合だ。というのも韻子にはこのプランBを行うのは必然的にカーム一人だけとなる。勿論できるだけのサポートはするつもりだがそれでも少なくない損傷を受けているカームのスレイプニールをあれと戦わせるのは心許無い。

 

だがそんな不安そうな表情の韻子を安心させるようにカームはハッと鼻を鳴らして不敵に微笑んだ。

 

「こんなん屁でもねえぜ。俺に任せて先行け、韻子!」

 

「でも……」

 

「いいから!大丈夫だ、逃げ回るだけなら得意だって!!ほら、急がねえと遅れるぞ!!」

 

「…………気をつけてね」

 

韻子のスレイプニールはその場を後にして伊奈帆に指示された予定ポイントへと走って行く。この場に残されたのは自分のスレイプニールただ一機……手負いのそれを動かしてカームは目の前の敵に銃を向ける。

 

「……どういうつもりだ?」

 

だが銃を向けられた当の本人クリムは応戦の構えを取らず眼を細め怪訝な視線を対峙しているスレイプニールに投げ掛けた。

 

というのも彼らの作戦を知らない彼からしたら二対一で戦える状況をわざわざ自ら手放すという愚かな行為にしか思えなかったからだ。

 

勿論例え二体同時に攻めて来たとしても彼には絶対に勝てるという自信はある。だがしかし、だからこそ数の有利を自分から捨てた意味が分からない。

 

何か意図があるのでは?彼はそれを理解しようと精一杯考える。考えて考えて考えて――――

 

「そうか…………」

 

そしてある一つの結論に辿り着いた。一人だけ残された敵、この一対一という状況……まさか……いや、これはそうとしか考えられない!彼は眼を大きく見開き嬉しそうに口元を綻ばさせた。

 

「成る程――――――――

 

 

 

 

 

決闘か!一対一の勝負を所望とは……!!この地にも同じ志を持つ者がいて私は嬉しいぞ!!」

 

…………全く持って勘違いではあったが。だがこうなってしまった彼は止まらない。まさかこのような地にも我らと同じ高潔な志(騎士道)を持つ者がいようとは……!!その志の前では火星人や地球人など関係無い!全力で最大の敬意を払わなければならないだろう!!

 

そんな勘違いを寸分も疑いもせずオープン回線を開いて彼はその勇敢なる敵に名乗りを上げた。

 

「我こそは火星軌道騎士三十七家門が一人クルーテオ伯爵が騎士、クリ――」

 

「うるせえぞ火星野郎!!」

 

だがそんな事はお構い無しと名乗りを上げる前に撃ちまくるカーム。(本人にとっては)突然の不意撃ちを食らいオルティスは無数の弾丸を浴びる事となる。

 

「クソッ、かてえ!」

 

「おのれ……!名乗りを上げる前に攻撃するとは不粋な……!!」

 

しかしオルティスの身体には傷一つつける事も叶わなかった。堅牢なオルティスの装甲はマシンガンから放たれた75ミリの銃弾を見事に全部弾く。

 

機体は無傷……だが彼の怒りは頂点に達していた、騎士の戦いに騙し討ちとは……!!許せん!!クリムは怒りのままにオルティスの巨大な両腕の指先をカームが乗るスレイプニールに向けた。

 

「受けよ!忠義の嵐!!」

 

そこから放たれたのは弾丸、指に設置された計10個の砲門が火を噴き次々と弾を吐き出していく。

 

「へぇ?…………マズッ!」

 

まさか指が銃口になっているなんて……予想外の攻撃に思わず驚くカーム。しかし、あまりにも呆気に取られ過ぎて反応が遅れてしまったのは痛恨のミスだった。回避運動を行わず直立不動のまま…………つまり彼は動かない的と同じなのだ。このままでは蜂の巣になることは想像に難くないだろう。

 

「…………あ、あれ?」

 

「クッ!やはり駄目か……!」

 

だがその弾が届くことはなかった。弾はスレイプニールを逸れて建物や道路に穴を開けていく。

 

……はっきり言うと外れたのだ。というのも実は彼――クリムは射撃が大の苦手なのだ。訓練も全体的に高成績を修めていたのに射撃が全てを引っ張り主席を取り逃がしたという苦い経歴を持つほどのノーコン……

 

まあ彼のこの欠陥には幼少期に養父クルーテオ伯爵から教わった”飛び道具など無粋、接近戦こそ戦場の華”という言葉を真に受け接近戦の特訓しか行わなかったというのが大半を占めているのだが……それをさておき。

 

片や当たることの無い攻撃、もう片や当たっても効かない攻撃……このままでは戦いは平行線になることは誰から見ても明白であった。

 

「ならばこれで……!」

 

これ以上撃ち続けても埒が空かん!クリムはオルティスに装備された第2の武装を使用する。それは肩に設置されていた先が鋭く尖ったスパイク……それが正面を向き射出された。

 

「貫けぇぇ!!」

 

それはまるでミサイルのような恐るべき速さでカームのスレイプニール目掛けて飛んでいく。その威力は先ほどの銃弾の比では無い、直撃すればスレイプニールなど木っ端微塵に砕けてしまうだろう。だが――――

 

「――――よっと!」

 

だがカームは機体を90度旋回させてそれを回避した。

 

確かに速度こそ脅威ではあったが真っ直ぐにしか飛ばない飛び道具を避けれない道理は無い。案の定少し回避運動を行っただけでその飛び道具はあさっての方向へと飛び去っていった。

 

だがそこで彼は気づく、そのスパイクが飛んでいた跡を辿るように一本の細いワイヤーが通っていることに

 

「なっ?!クソッ!」

 

後ろを振り返るとそこに見えていたのは予想通り自分に迫り来る巨大な先端だった。まさか追尾式!……だが気づいた時にはもう遅く避けることなどできない。その巨大なスパイクは右脚を貫きスレイプニールは前のめりに倒れてしまう。

 

片脚を失いながらも起き上がろうとジタバタするスレイプニール。そんなスレイプニールにオルティスは伸ばしたリードを素早く引き戻し回収しながらその指先を向けゆっくりと歩いて来た。

 

「さらばだ、地球人」

 

「うおおぉぉぉ!!!」

 

「なんと?!」

 

止めとばかりに至近距離で弾丸を撃つオルティス……だがカームは咄嗟にスレイプニールの大腿部に設置されている巨大な翼――スタビライザーについているブースターを逆噴射させてその全てを避け切る。ガリガリとその身と道路を削りながら機体はもの凄い速さで後退していく。

 

「―――――クッ!無駄な足掻きを!!」

 

その後を追い掛けるべくオルティスを進ませるクリム。だがそんな横から来た衝撃――韻子のスレイプニールが放った長距離ライフルの弾がそれを邪魔した。

 

小癪な……!そう思い応戦しようと試みるが如何せん距離がありすぎて届かない。仕方無いので建物の陰に入りそれをやり過ごしていると今度は白い煙が辺りを包み込む。カームが残りの煙幕弾を全部発射したのだ。

 

「しまった……!」

 

視界を奪われ一瞬で敵を見失ってしまうクリム……煙が晴れた時にはあのカタフラクトの姿は何処にも見当たらなかった。あの煙に乗じて何処かに逃げられたのだ。まんまと逃走を許してしまった彼は自分の不甲斐なさに歯噛みをした。

 

だがそこで彼は気づいた。それは自分の目の前に広がる抉られた道路……結局立つことができなかったスレイプニールが移動する際につけてしまった足跡のようなものだ。

 

「フッ……頭隠して尻隠さずという奴だな」

 

ある少年から教えて貰った覚えたての諺を呟きクリムは引導を渡すべくその跡を追った。

 

その先に待ち受けているものも知らずに……

 

 

 

 

 

削られた跡を追っていくこと数分、辿り着いたのは軍の基地だった。人気は無くあるのはカタフラクト用の格納庫や弾薬庫……目的であるオレンジ色のカタフラクトはその格納庫の外壁に寄り掛かるようにして倒れ込んでいた。

 

「……抵抗せぬか」

 

何かの策かと思い慎重に近づいてみるが動く気配は少しも無かった。諦めたのか燃料切れか……どちらにせよ一思いにやるのが礼儀というものであろう。そのまま近づき銃口を向ける。

 

「……さらばだ」

 

五つの砲門が一斉に火を噴く。スレイプニールは機体を穴だらけにしてさっきまでの抵抗が嘘のようにあっさりと爆発した。

 

「…………」

 

何ともあっけない、という感想を抱いてしまった。姫様の命を奪い、我らを敵に回したのだからそれなりの戦力があるのだろうと予想していたのだが正直拍子抜けだった。…………本当に我々と戦う覚悟があったのかと疑問に思ってしまう程には……

 

…………考えても仕方がない。ともかく1機は倒したのだ、後は残りの2機を倒しトリルラン卿に合流すればいいだろう……そう思い踵を返しそうとしたその瞬間だった。

 

「なっ?!」

 

思わず声を発してしまう程の衝撃が彼を襲った。突如彼の周りで爆発が起きたのだ。それも1つや2つではない……数十もの爆発が一斉に、だ。

 

敵襲?!そう思い周りを見渡すがこの場にはカタフラクトどころか人っ子一人もいない。何処だ、何処から狙ってきた……!!メインカメラだけではなく索敵能力をフルに使って探ってみるがその攻撃の発生源を見つけることはできなかった。

 

「まさか――――」

 

ハッとして咄嗟に上空を見上げる。そこには青い空をバックに白い筒状の物体が後ろから火を噴きながらこちらに向かって墜ちようとしていた。あれは――――

 

「ミサイル、だと?」

 

その正体は無数のミサイル。それらが一斉にこちらに向かって飛んできていた。それを見て彼はその攻撃の正体がこちらの索敵範囲外――海からの攻撃だと気づいた。

 

しかし1つだけ分からないことがあった。何故、どうして奴らはこちらの位置を把握できている?海の向こう側からこの障害物が並ぶ街中のこちらの位置など分かる筈が―――――

 

「――ハッ?!まさか……!」

 

そこで漸く彼は気づいた。奴らの不自然な動きの正体を……つまり自分は逃げている奴を追いかけているようで実は誘い込まれていたのだ。

 

さらにここは軍の基地、燃料やら弾薬やらが大量に保管されているここでミサイルが爆発すれば――――結果は火を見るより明らかだった。

 

「なんとぉぉぉっ!!」

 

そんな叫び声をバックにミサイルは着弾し爆風と共に熱を吐き出す。その熱は周囲の燃料や火薬に着火、それによって発生した爆炎はオルティスを包み込むのであった。

 

 

 

 

 

 

所変わって先程攻撃を行っていた揚陸艇……そのブリッジではさっきまで基地であった場所から大きな黒煙が立ち昇っているのを全員が静かに見つめていた。

 

「……やりましたかね」

 

「…………さあ」

 

心配そうに呟いた界塚ユキの言葉に艦長であるダルザナ・マグバレッジが答える。

 

この船の目的は新芦原市に取り残されてしまった避難民の救助だった。それはここにいる界塚ユキが誘導してくれたので滞りなく無事完了したのだが、問題はその後、ユキが言った思わず耳を疑ってしまう言葉であった。

 

それがあの火星カタフラクトの撃退するというもの……さらに驚くべきは彼女の弟――界塚伊奈帆が立てた作戦だ。

 

周到に敵を調べ相手の能力を把握、それから予測される敵の能力と最も有効であろう手段、更にはイレギュラーにへの対策まで……どれもがただの一高校生が考えた物とは思えない見事なもので思わず脱帽してしまうほどであった。

 

そして先ほど敵の援軍というイレギュラーに対して伊奈帆の作戦を実行したのだ。

 

それが敵を地球軍新芦原市基地に誘導し、基地諸とも爆破させるというものであった。座標は分かっているので後は発射角の計算をし待機、そして先ほど敵の誘導成功の信号弾を確認した彼女は攻撃の指示を出し現在に至る。

 

まあ本来なら軍の基地への攻撃なんて許されざる行為なのだが、もうあの基地は放棄することが決定していたのは幸いだった。おそらく伊奈帆もその点を考慮してこの作戦を立てたのだろう。

 

本当に末恐ろしい少年ですね、とマグバレッジは未だ見たことない界塚伊奈帆という少年に思いを馳せていた。

 

「安心するのはまだ早いぞ」

 

だがその沈黙を壊すように哀愁漂う男の声が響いた。全員が声を発した方向を振り向く。

 

「鞠戸大尉……」

 

「あいつらのカタフラクトには常識なんて通用しない。謂わば化け物だ」

 

染々と、どこか遠くを見るような瞳で呟かれた鞠戸の言葉は一気に周りの空気を重くした。それもそうだろう、彼は言外にあいつはまだ倒せていないと言っているようなものだからだ。

 

勿論彼はここにいる全員の不安を煽るためにそんなことを言った訳ではない。彼は知っているのだ、火星(奴ら)の恐ろしさを……

 

だからこそ、その言葉は周りに影響を与える重みを持っているのだ。

 

「……みなさん、次の準備に取り掛かって下さい」

 

ともかくあの敵は後回しだ。伊奈帆の作戦のお陰で敵の合流という最悪の状況を防ぐことができたのだ、このチャンスを逃す手は無い。

 

マグバレッジの指示で全員が次の作戦へと取りかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

味方がそんな危機に陥っているとは露知らずトリルラン駆るニロケラスはトレーラーを追いかけて橋の上を進んでいた。

 

速度は互角……だがこちらが腕を振り回してもトレーラーは紙一重で避け切る。巨大なカタフラクトとは違い小回りが効くトレーラーは狭い橋を縦横無尽に動き回るためニロケラスは捉える事が出来ないでいた。

 

「ちょこまかと……!私をコケにするかッ!!」

 

頭に血が上ったトリルランは橋の一部を抉り取りトレーラー目掛けて飛ばして来る。

 

必死に回避するトレーラー……しかし無数の一つがフロントガラスに激突し怯んだ所をニロケラスが腕を振り落としトレーラーの後部が消滅してしまう。

 

「……逃げて」

 

額から血を流しながらライエは助手席の少女セラムに話し掛ける。自分を見捨てて逃げれば助かる、と……

 

何故なら彼女は知っているからだ。あのカタフラクトの目的は自分だと……

 

トリルランが言っていた子ネズミ……それは彼女ライエ・アリアーシュなのだ。彼女の父ウォルフ・アリアーシュはアセイラム姫暗殺の実行犯のリーダー的存在だった。

 

だからあいつがここにいるのも、ここにいるみんなが危険に晒されているのも私のせいだ。二人一緒に逃げることが無理なら、せめて無関係の貴女だけでも……

 

「いえ、合流予定時刻まで後。時間を稼ぎます」

 

しかし、セラムは柔らかい声色の中に断固とした意思を含ませてその申し出を拒否した。

 

そのまま彼女はトレーラーから降り立ち自分たちを追い掛けてきたニロケラスを見据える。

 

「命乞いとは見苦しいな、地球人」

 

「控えなさい!目に余る狼藉、赦せません」

 

トリルランは目の前の少女に嘲りを孕んだ言葉を投げ掛けるが、少女から期待していたような言葉は返って来なかった。

 

では何故わざわざ出て来たのか……その理由はすぐ分かることとなる。

 

「ヴァ―ス第一王女の名において……」

 

彼女の身体から眩しい光が溢れ出す。その光の正体は光学迷彩……アルドノアの恩恵で技術が革新的に発展した火星に於いてのみ許された技術だ。

 

そしてその光が晴れ、現れた少女の姿を見てトリルランは驚愕した。

 

流れるような金糸、純白のレースがふんだんに使われたドレス、それに強い意志を覗かせる翡翠色の瞳を持つ彼女の名は―――――

 

「ア、アセイラム・ヴァ―ス・アリューシア姫殿下?!」

 

そこにいたのは暗殺された筈の火星第一皇女アセイラム姫だった。彼女は一歩前に出て覇気を込めて目の前の二ロケラスに毅然と言い放つ。

 

「下がりなさい!無礼者!」

 

「馬鹿なッ?!そんな馬鹿なぁッ!!」

 

もし彼が優秀な男であればアセイラム姫、そしてライエも命を落としていたであろう。この戦争の発端であるアセイラム姫が生きていたとなれば彼らにとっては最大の障害、最悪その生存が明るみに出れば長年に渡る計画が瓦解することは明らかだからだ。この場で殺さないなんていう選択肢を選ばないような余地は無い筈であった。

 

だがしかし――――彼は所詮小物であった。冷静な判断力も決断力も持たない彼はただただ取り乱し、後ろに下がることしかできない、その光景は見るものが見ればさぞ滑稽に見えるであろう。

 

そしてその絶好のタイミングを狙ったかのように揚陸艇からミサイルが放たれた。

 

 

 

 

 

 

その頃、新芦原市にある地球連合軍の基地……先ほどミサイル攻撃を受けた此所に広がるのは無惨な姿に成り果てた建物に焦土……そしてそこに佇んでいる一体の巨人――オルティスだ。全身は爆炎を受けて黒焦げ……その姿は最早の行動不能、一歩も動くことはあたわず――

 

「…………危なかったな」

 

――という事は無かった。モノアイに光が灯ると同時にオルティスはその巨体をゆっくりと起こす。その満身創痍の見た目に反してコックピット内の計器は何の異常も来たしていないかった。それもこれもオルティスの甲冑の硬度の高さとアルドノアの力のお陰……それがなければ流石に行動不能、最悪消し炭になっていたであろう。

 

それにしても……

 

「一刻も早くトリルラン卿と合流しなくては……」

 

相手の戦力をみくびっていた……先ほどの攻撃で冷静になった頭でならそう断言できる。戦力と言ってもそれはカタフラクトの性能という訳では無い。彼らの最大の武器――それは戦略に連携……個々の戦いしか知らない火星騎士には想像もつかないような戦い方だ。

 

そんな彼らがただ逃げるためだけに出て来た筈が無い、少なくとも先ほどの爆撃は確実にこちらを倒しにきていた。次元バリアの攻略方法など皆目検討もつかないがそれでも…………奴らはニロケラスを倒しにきている、そんな確信が彼にはあった。

 

レーダーは次元バリアの前では意味を為さないので探すには目視に頼るしかない。クリムはオルティスのメインカメラをせわなく動かす。

 

暫くするとそれらしきシルエットが橋の上をいるのを発見。望遠カメラで覗くと今まさに二ロケラスがミサイルによる攻撃を受けている瞬間だった。

 

当然ながら次元バリアの影響でミサイルは二ロケラスに触れると同時に消滅するが、それが本命ではないことがさっき彼らに一杯食わされた彼にははっきりと分かった。

 

そして今度はミサイルとは別方向から銃弾が放たれた。弾は二ロケラスの肩に向かって飛んで行くがそれも先ほどのミサイル同様バリアで消される。

 

それでも銃撃は続いた。一発、二発と最初に当たった位置からずれ、遂には二ロケラスを完全に外し橋に命中した。しかし全く外れたというのに銃撃の勢いは抑まることはない、乱射にも近い間隔で撃ち続けられた銃弾は次々と橋を削っていき――――

 

ま、まさか!!奴らの狙いは――――

 

「トリルラン卿!すぐにそこを離れ――」

 

だがその言葉は届くことなかった。銃弾でボロボロになった橋は二ロケラスの重量を支える事が出来ず足元が崩壊、二ロケラスは真っ逆さまに落下した。

 

だが彼の瞳は既にそれを映していなかった。その視線は先ほどまでニロケラスが追い掛けていたトレーラーの近くにいる一人の少女に釘付けとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、橋の下では水に浸かり動きが鈍くなっている二ロケラスを一機のスレイプニールが睨みつけていた。

 

そのパイロット――界塚伊奈帆は最後の一手を打つべくこの近くにいるもう一人に無線で声を掛ける。

 

「カーム」

 

その人物とは先ほどまでもう一体の火星カタフラクト――オルティスを相手していたカーム。彼の近くにはあの基地から拝借した軍用バイクが一台置かれていた。

 

「まったく……人使いが荒いぜ伊奈帆」

 

そんな軽口を言いながらも手を止めず小型の偵察機を操り二ロケラスの周囲を探る。二ロケラスの周りは次元バリアの影響で水が吸い込まれる。だがある一ヶ所だけその現象が起きていない所があった。そしてそれこそが伊奈帆が予測した完全無敵に見える二ロケラスの唯一の弱点……

 

「見つけた!水が吸い込まれない、背面装甲インテーク右下、爪の隙間!!」

 

その場所を聞くやいなや伊奈帆のスレイプニールはナイフを構え走り出す。そして突き出されたナイフは寸分違わずその場所を刺し貫いた。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「お前のバリアに隙間があることは分かっていた。例えば接地面、足の裏にバリアは張れない。そんな事をすればお前は立つ事すら出来なくなる。お前のバリアはその無敵さ故全身を覆うことが出来ない」

 

有り得ないとばかりに目を見開くトリルラン、伊奈帆は淡々と説明する。

 

ニロケラスの次元バリア……その弱点は()()()()()()()()()()という点にある。つまりそのバリアは吸収するものを選ぶことができないのだ。

 

だから意図的にバリアの隙間を作る必要が生まれるのだ。1つは地面との接地面である足の裏、そこにバリアを張ってしまえば次元バリアが地面を吸収してしまいニロケラスの身体は沈んでしまう。

 

そしてもう1つは……

 

「外部カメラのデータ受信部、バリアの隙間の一つさ」

 

そのまま装甲を斬り裂き、銃口を向ける。

 

「友達の分だ」

 

鳴り響く無数の発砲音……マズルフラッシュと同時に放たれた弾丸は全て無防備なニロケラスを撃ち抜く。ニロケラスは撃たれるたびにその身を振動させ、機能が停止すると同時に前のめりに倒れ込む。幾人もの命を奪った恐るべき敵は漸く倒されたのであった。

 

ほっと安堵の息を吐くと同時に上を見上げる伊奈帆。するとそこにはライエと――見知らぬ少女が立っていた。

 

いや――伊奈帆は一度彼女を見た覚えがあった。それはあの時――火星の第一王女のパレードの時に要人護送用のリムジンから出て来て飛来したミサイルの直撃を受けた人物――

 

「火星の……プリンセス」

 

同刻、その少女を同じように見つめている者が二人もいようとは流石の伊奈帆も知る由は無かったのであった。

 

 

 

 

 





やはり伊奈帆には勝てなかった(笑)




さてここら辺でオルティスの武器をおさらいしてみましょう。

①指から銃撃;そのまんまです(笑)しかしノーコンの彼にとっては牽制程度にしか使えません(笑)弾の無駄遣いです(笑)

②肩から飛び出すスパイク; モチーフはコードギアスに登場するスラッシュ・ハーケンです。オート機能で追尾するのでノーコン(笑)の彼が重宝しているという設定があったりします。

③硬い装甲;とにかく硬いです。マシンガン程度なら弾き返せますがあの爆発に耐えきったのは別の要因だったりします。

さて……もうそろそろオルティスのアルドノア能力が明らかになるのではないでしょうか。もしかしたらもう気づいてしまった方もいるのでは……とちょっとビクビクしてます(笑)

それでは次回の投稿は未定……だけど出来るだけ早く更新したいな~もうそろそろ夏休みだし……


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