HUNTER×HUNTER・IF (第7サーバー)
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ハンター試験会場 → ククルーマウンテン

英雄的な俺(ヒーロースピリット):相手が強ければ強いほど、悪ければ悪いほど、状況がピンチであればあるほど、それらを加点としてオーラの総量を増加する能力。
逆に失点を得るとオーラが減少する。
増加量に応じて必殺技が使えるようになる。

加点:上記参照。
失点:卑怯なことをするなどヒーローらしくない行為をする。

反英雄的な俺(ダークヒーロースピリット):“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”と根本を同じくしながらも、性質が反転した能力。

※オリ主の名前が作者の他の作品のと被ってるのは、作者の中でその名前が流行ってたから。
性格も違うし、別に同一人物とかではありません。


「――君、可愛いな」

「え?」

「少し話さない? 長いかも知れないハンター試験だ。同行者がいるのもいいだろう?」

「いえ、私そういうのは……」

「俺は“スター”だ。君の名前は?」

「……だから、私はあなたと話をするつもりは」

「仕方ないんだ。君が可愛いのが悪い」

「はぁ……。いいからもうどっかに行ってよ。これ以上私に関わると酷い目に合うわよ」

「大丈夫! 俺は君の全てを受け入れられる自信がある」

「……そう。これでも?」

「ん?」

「手」

「……蜂だな」

「蜂ね」

 

「「…………」」

 

「それで、君の名前は――」

「え、スルー?」

「虫と心を通わせられるなんて君が優しい証拠だ。俺はますます君に興味を持った」

「……“ポンズ”よ。ほら、名前がわかれば十分でしょ。これ以上私と関わりを持ちたければハンターになることね。仕事仲間としてなら話だってするわ」

「なるほど。まずは仕事優先ということか。ポンズはマジメなんだな。そういうところも魅力的だ」

「そ。わかってくれたなら離れてくれる? どんな試験になるかわからないし、あんまり目立ちたくないのよ」

「うー、残念だが仕方ない。ただ、試験中困ったことがあれば俺を一番に思い出して頼ってくれ」

「はいはい……」

 

 

~~中略~~

 

 

「ふんふふーん。お。君も可愛いな――えっ! 男!!?」

「……」

「ま、ままま、気持ちはわかるが落ち着け、“クラピカ”」

「私は落ち着いている」

「だから、その威圧感を収めろって言ってんだよ!」

「へー、ほー……ちょっと失礼」

「な、何をっ!!?」

「なるほど。確かに男だ……うげっ、男の触っちまった」

「貴様が勝手にしたことだろう!」

「というか、仮に女だったらセクハラだぞ」

「その場合は俺は嬉しいから問題ない」

「問題しかないだろう!」

 

「――ねえ、お兄さんもハンター試験受ける人だよね?」

「ん、そうだぞ。俺はスターだ。よろしくな」

「うん! オレはゴン。“ゴン・フリークス”! よろしくね!」

「そうか。そっちは?」

「オレは“レオリオ”だ」

「……クラピカだ」

「ゴンにレオリオにクラピカだな。覚えたぞ。ここで会ったのも何かの縁だ。しばらく同行してもいいか?」

「うん。オレはいいよ」

「そりゃよかった。ほら、ここってムサイ奴が多くて。そんな中で知り合った女性の受験者には同行を拒否られちまったしさー。まあ、そこがマジメで可愛くもあるんだが、話し相手がいないのも退屈だろ?」

「……その受験者は賢明な判断をしたようだ」

「クラピカ。やめとけよ」

「……わかっている」

「なんか嫌われちまったみたいだな」

「さすがにおまえの自業自得だが、こいつも時間が経てば機嫌も直るだろ」

「ふん……」

「――クラピカ。機嫌を損ねているのはわかるが、一つだけ言っておきたいことがある」

「謝罪は必要ない」

「いや、そうじゃなくてだな」

「?」

 

「ズバリ、“性転換”をする気はないか。責任は俺が取る」

 

「…………」

「ま、ままままま、落ち着け! クラピカ! こいつはアレだ! ただの冗談! さもなきゃ、きっとバカなんだ! マジメに反応すると損するぞ!」

「……くっ、わかっている」

 

 

~~中略~~

 

 

「辛そーだな、レオリオ。なんなら引きずって行ってやろうか?」

「そこはせめて背負って行くって言えよ!」

「男を背負うのはちょっと……」

「あーあー! オレだって男に背負われるのなんてごめんだぜ! なりふりかまわなきゃまだまだいけることがわかったからな! フリチンになっても走るのさー!」

「フ……む。なんだ、その目は」

「いや、本当に男なんだなーって。やっぱり“性転換”……」

「くどい!」

「わかったわかった。そんな睨むなよ。俺はゴンの方に行ってるからよ」

 

 

~~中略~~

 

 

「いつの間にか一番前に来ちゃったね」

「うん。だってペース遅いんだもん」

「あ、しまった。ポンズは――よかった。まだ余裕そうだな。いや、でも辛そうにしてくれてた方が逆に背負うことが出来たのか……」

「ポンズって?」

「走る前にちょっと話した女性の受験者のことだ。将来的には俺の彼女になる予定だ」

「へえー、そうなんだ?」

「オレが言えたことじゃないけど、あんたハンター試験に何しに来てんだよ」

「何言ってんだ。未知なる出会いを求めてこそのハンターだろ」

「なんか違くないか?」

「“キルア”は何でハンターになりたいの?」

「オレ? 別にハンターになんかなりたくないよ。ものすごい難関だって言われてるから面白そうだって思っただけさ。でも、拍子抜けだな」

「だったら“念”能力者の相手でもしてればいいだろ」

「“念”能力者?」

「スター、“念”能力者って何?」

「ん、俺も誰かに習ったわけじゃないから、自分がそうらしいってこと以外はよく知らないが――」

「――3人共、それくらいで。地上に出ますよ」

 

 

~~中略~~

 

 

「――ゴン、ついでにあんたも。もっと前に行こう」

「うん。試験官を見失うといけないもんね」

「そんなことより“ヒソカ”から離れた方がいい。あいつ殺しをしたくてうずうずしてるから。霧に乗じてかなり殺るぜ」

「む。“ヒーロー”の出番か」

「“ヒーロー”?」

「実は秘密だが俺は“ヒーロー”なんだ」

「え、ホントに!!? オレ、“ヒーロー”って初めて会ったよ」

「……信じるなよ、ゴン。こいつイタイ大人だ」

「ホントだっつーの。頑張りすぎてそういうことやりたかったらハンターになってからにしろって、現役のハンターとかに頼まれるくらいの“ヒーロー”っぷりだったぞ俺は」

「それ完全に自称だろ。やっぱイタイ大人じゃねーか」

「だから、スターはハンター試験に来たんだね!」

「そうなるな」

 

 

~~中略~~

 

 

「――レオリオ!」

「ゴン!」

「ポンズは問題ないな……」

「……まさか、あんたも行く気?」

「言ったろ。俺は“ヒーロー”なんだよ。まあ、基本的に女性しか助けないが……顔見知りの場合はその限りではない」

「それ人選んでるし、完全に“ヒーロー”じゃないと思うけど」

「まあ、“ヒーロー”は趣味だからな」

「趣味かよ!」

「とにかく後は俺に任せておけ!」

「任せるも何も……って行っちまったし、まあ、いいか」

 

 

~~中略~~

 

 

「やるねボウヤ▲ 釣竿? おもしろい武器だね★ ちょっと見せてよ◆」

「てめェの相手はオレだ!」

 

「――“ヒーロー”参上ッ!!!」

 

「ぐえっ……」

「あ、やべっ、巻き込んだ」

「レオリオ! スター!」

「危ない危ない▲ 君もボウヤと同じく仲間を助けに来たのかい?」

「その通り! 俺は“ヒーロー”だからな!」

「“ヒーロー”? その割にはその仲間を巻き込んでいたけど……★」

「それはお前が避けたからだ」

「そりゃ避けるよ◆ 君“念”能力者だろう?」

「そうらしいな!」

「らしい?」

 

「見ろ! これが俺の――“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”ッッッ!!!」

 

「……へえ。これはこれは。すごいオーラの量だね」

「おわっ、俺もちょっとビックリだ。――説明しよう! “英雄的な俺(ヒーロースピリット)”は相手が強ければ強いほど、悪ければ悪いほど、状況がピンチであればあるほど、それらを加点としてオーラの総量が増加する能力なのさ!」

「なるほど★ それが君の制約か▲ 細かい制約を色々と付けることでオーラの増加量を増やしている……自分の能力を説明するのもその一つかな◆」

「よくわかったな! “ヒーロー”らしく正々堂々とした行いをすると、さらに増加量は倍率ドン! となるのだ!」

「ふーん、そうかい★(強化系……単純だけどその増加量はバカに出来ない……いや、相手がボクだからだとしても多すぎる……特質系? 違う……増加じゃなくて制限……元々並外れたオーラの持ち主で、相手に応じて解放してると考えた方がしっくりくる★)」

 

「それに加えて必殺技も――」

 

「あ、それは今はいいや▲」

「何ィ……いいってなんだよ!」

「君達は全員合格だから◆ それに君、それだけのオーラを持ってる割に“天然もの”っぽいし、ここで全てを出し尽くすのも、もったいない★」

「見せ場なしだと……」

「やっぱりね▲ ボクの提案一つで引くってことは、制約として加点だけじゃなく失点もあるってことかな★ 例えば相手が和解や停戦を申し込んで来たら受けなければならないとか◆」

「……まあ、確かにそれは無視すると失点になるけどな。別に戦えないほどじゃないぞ。他の加点で打ち消せる程度だ」

「でも、やる気はないんだろう?」

「“ハンター証”は欲しいからな。そんなに時間をかけられない」

「ボクもだよ★ せっかくだ▲ 君とはそれなりの舞台でやりたいかな◆ “ヒーロー”なんだろう? 盛り上げればさらに強くなりそうだしね▼」

 

「……どうにも。結局、引きずって行くことになったな。レオリオ」

 

 

~~中略~~

 

 

「何で、みんな建物の外にいるのかな」

「――中に入れないんだよ」

「キルア!」

「よ。どんなマジック使ったんだ。絶対、もう戻ってこれないと思ったぜ。ヒソカのが先に帰って来たし、何かスゲェ威圧感みたいなのも感じたしよ」

「うん。ここにいる人達の匂いを辿ったんだ」

「匂いだぁ~~~? お前……やっぱ相当変わってるな」

「そうかなー」

 

「――で、何で中に入れないの?」

「見ての通りさ」

 

[本日 正午 二次試験スタート]

 

 

~~中略~~

 

 

「おかしい……! 妙だぞ!!? 明らかに奴の体積より食べた量の方が多い!」

「いや、そんなにマジで悩まれても……」

 

「二次試験後半――あたしのメニューは“スシ”よ!」

 

「スシ? スシって何だろ? ライスだけでつくるのかなー」

「道具とか見ると、他にも何か使いそうだぜ」

「スシってのは魚の切り身をライスにのせた料理だぜ。俺食ったことある」

「へえー、そうなんだ! レオリオ、クラピカ、魚料理だってー!」

「魚ぁ!!? ここは森ん中だぜ!!?」

「――声がでかい!!!」

 

「「「魚!!!」」」

 

「ちィっ、盗み聞きとは汚ねー奴らだぜ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「俺の番だな!」

「お。ようやくまともなのが来たわね。どれ――ん、おいしいわね、合格!」

「よっしゃ、いっちばーん!」

 

「スター合格だって!」

「おお。つくり方は見てたぜ。簡単だし、オレ達もとっとと合格しちまおーぜ」

 

「ちっ……一番乗りは逃したか。まあいい、ふっふっふ、これがスシだろ!」

「これも形はまあまあね。肝心の味は――ん、ダメね。おいしくないわ! やり直し!」

「な、なんだとー!!? スシなんてメシを一口サイズの長方形に握って、その上にわさびと刺身の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが! こんなもん誰がつくったって味に大差ねーべ! オレがハゲだからって差別してんじゃねーだろーな!」

 

「「「なるほど、そういう料理か!」」」

 

「はっ、しまったー!」

 

 

~~中略~~

 

 

「だからー、しかたないでしょ、そうなっちゃったんだからさ。一応合格者は1名いるんだからそいつだけ合格させればいいじゃない! はあ!!? この後の試験のことまで責任持てないわよ!」

「……」

「報告してた審査規定と違うってー!!? なんで!!? はじめっからあたしが“おいしい”っていったら合格にするって話になってたでしょ!!?」

「それは建前で審査はあくまでヒントを見逃さない注意力と――」

「あんただまってなー!!!」

「こっちにも事情があんのよ。テスト生の中に料理法をたまたま知ってる奴がいてさー。そのバカハゲが他の連中に作り方を全部バラしちゃったのよ」

「くっ……」

「とにかく、あたしの結論は変わらないわ! 二次試験後半の料理審査――合格者は1名よ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「残った43名の諸君に改めて挨拶しとこうかの。わしが今回のハンター試験審査委員会代表の“ネテロ”である。本来ならば最終試験で登場する予定であったが、いったんこうして現場に来てみると」

「――」

「なんともいえぬ緊張感が伝わってきていいもんじゃ。せっかくだからこのまま同行させてもらうことにする」

「次の目的地へは明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使い下さい」

「――ゴン! 飛行船の中探検しようぜ」

「うん!」

「元気な奴ら……オレはとにかくぐっすり寝てーぜ」

「私もだ。おそろしく長い一日だった。……そういえば、彼はどこに行った?」

「ん、スターか? あいつなら真っ先に女の尻を追いかけて行ったぞ。こんな状況でよくやるよ」

 

 

~~中略~~

 

 

「ねェ、今年は何人くらい残るかな?」

「合格者ってこと?」

「そ、なかなかのツブぞろいだと思うのよね。そいつらを一度落としといてこう言うのもなんだけどさ」

「でも、それはこれからの試験内容次第じゃない?」

「そりゃまそーだけどさー。試験してて気付かなかった? けっこういいオーラ出してた奴いたじゃない。“サトツ”さんどぉ?」

「ふむ、そうですね。新人がいいですね、今年は」

「あ、やっぱりー!!? あたし“77番”がいいと思うのよねー。スシの唯一の合格者だしさ。次点は“295番”のハゲ」

「私も彼はいいと思いますよ。他に注目しているというと断然“100番”ですな。彼はいい」

「あー、あのお子様コンビの1人ね。でも、あいつ、きっとワガママでナマイキよ。絶対B型一緒に住めないわ」

「そーゆー問題じゃないでしょ。“メンチ”ってば77番に口説かれたからって……」

「べ、別にそれが理由じゃないわよ! それで“ブハラ”は?」

「そうだねー、新人じゃないけど気になったのが、やっぱ“44番”……かな。彼と77番もだけど、“念”使いでしょ。素の身体能力も高いし……正直合格して当然。一次試験でもなんか小競り合ってたみたいだけど」

「あー、だいぶ離れてたのにあのオーラは凄かったわねー。桁が違うっていうか。でも、あれ77番の方でしょ?」

「そうなの? だけど、44番と戦うにはあれくらいのオーラが必要ってことでしょ? “念”の戦闘はそれだけじゃないけど、オレは勝てる気がしないなー」

「まあ、厄介よね。試験中もずーっとあたしにケンカ売ってんだもん」

「え、ホントー?」

「私にもそうでしたよ。彼は間違いなく要注意人物です」

 

 

~~中略~~

 

 

「お。キルア、汗だくでどうした――って、いてっ」

「なっ、耐えた……?」

「耐えたじゃねーよ。反抗期かお前は」

「何で!!? オレ本気で殺そうとしたんだぜ!!?」

「ん、そうなのか? 俺の“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”は反射でも発動するからな。普通の方法じゃ俺は殺せないぞ」

「“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”?」

「“念”だよ、“念”」

「……そういや、前にもそんなこと言ってたけど、“念”って何?」

「だから、俺も誰かに習ったわけじゃないから詳しくないけど“超能力”とかそういう類だよ。鍛え方があって、大抵の人間は使えるようになるらしいぞ。素質によってはスゴイ時間がかかるらしいけどな」

「“超能力”……? あんたはそれをどうやって覚えたんだよ」

「俺は何か普通に使えるようになってたからな。生まれ付きの才能っていうの?」

「ふーん。それ、ちょっと見せてよ」

「ちょっとならいいぞ」

 

「っ……!」

 

「いや、そんな飛び退くなよ。逆にビックリするだろ」

「……そ、それが“念”ってやつ?」

「ああ」

「兄貴や親父もたまにそんな威圧感を出してた……」

「じゃあ、その家族も“念”能力者なんじゃねーの? 俺も結構そういう奴らとは会うし、そこまで珍しくもない」

「ど、どうすればそれを覚えられる?」

「“念”能力者に聞けば?」

「だから、聞いてんだろ……!」

「ああ……俺じゃなくて他の鍛え方を知ってる奴だよ。お前の兄貴とか親父も知ってんじゃないのか?」

「……家は出てきた」

「リアル反抗期か……じゃあ、ハンター試験が終わってから試験官にでも聞けば?」

「試験官?」

「ああ。みんなそうみたいだからな。ひょっとしたら、ハンターは全員そうなのかもな。合格すれば教えてもらえるんじゃないか?」

「ハンターが全員……そう。ちょっとやる気出てきたかも」

「そうか。それはいいんだけどな――」

 

「いってー! なにすんだよ!」

 

「さっきのお返し。ちくっとしただけだから別にいいけども、殺そうとしてたんだろ? 出会い頭に俺を殺そうとするとか何考えてんだ。お前、俺に何か恨みでもあったのか」

「別に。ちょっと気がたってただけだよ」

「そんなことで殺そうとするなよ。お前は殺し屋かっての」

「そうだけど」

「あ、そうなのか?」

「うん。“ゾルディック家”って知らない? 結構有名な暗殺一家なんだけど、オレはそこの三男」

「ゾルディック? 聞いたことあるようなないような……」

「実家は観光地にもなってんだぜ。仮に誰かが捕まえに来ても全部返り討ちにするだけだからさ。だから、オレもハンターになったら家族を捕まえてやろうかなとかちらっとは思ってんだ。いい額になるぜきっと」

「へー、まあいいや。とにかく俺みたいなのじゃなきゃ死ぬんだからやめとけよ。特に美女とか美少女とかそういう相手には絶対にダメだ。そういう相手に手を出したりしたら俺がお前を凹るからな。男でムカつく奴なら別にいいけど」

「いいのかよ……まあ、わかった。いい情報教えてもらったしな。とりあえずその忠告は覚えとくよ。んじゃ、オレ、次の試験が始まる前にシャワー浴びときたいからさ」

「おう、後でな」

 

 

~~中略~~

 

 

「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点となります。さて試験内容ですが、試験官からの伝言です。生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間」

 

「――外壁をつたうのはムリみてーだな。怪鳥にねらいうち……」

「きっとどこかに下に通じる扉があるはずだ」

 

「お困りのようだなポンズ! 俺の助けが必要か? ならばさあ、俺の腕の中に! 俺が君を抱えてこの塔から飛び降りてみせよう!」

「……あなたバカでしょ。なんでそんなリスクの高い方法をとる必要があるのよ。ここにある扉を見つければいいだけじゃない」

「そんなの面倒だろ? 制限時間にしても72時間もあるしさ。飛び降りればすぐだぞ」

「それで怪鳥に襲われるのはごめんよ。それに、怪鳥はなんとかなるとして――そして、あなたが着地出来ると言ったって、それを信じられるほどの情報がないわ。だから、却下。私は自分の力でハンターになるから」

「扉ならそこに2つあるぞ」

「む。教えなくていいってば。……まあ、せっかくだから入るけど」

 

[絆の道 君達2人は ここからゴールまでの道のりを 手錠に繋がれた状態で乗り越えなければならない]

 

「愛の試練だな!」

「……あなた、わかっててやったんじゃないでしょうね?」

「まさか! 運命だったのさ。俺達の出会いはな」

「はいはいはいはい……とにかく、今から他の道を選び直すことは出来ないみたいだし、とっとと進むわよ」

「了解だぜ!」

 

 

~~中略~~

 

 

[生贄の間 ここが 絆の道 最後の分岐点です 2人のうちのどちらかを生贄としてこの部屋に繋ぐことでゴールへの扉が開かれます その1人は時間切れまでここを動けません ゴールへの扉を進めばおよそ3分ほどでゴールに着きます]

 

「なっ……」

 

[どちらもこの部屋に残したくない場合はスタートへの扉を進むことでスタート地点からやり直すことも出来ます]

 

「ここまで来てやり直せっての……? 確かに攻略は順調だったから時間はまだ結構あるけど……」

「……俺は残ってもいい」

「えっ!」

「だけど、ポンズが俺を信じてくれるなら、俺達はあの方法で確実に合格することも出来る」

 

 

~~中略~~

 

 

「おや……▲ 君、なんで外から入ってくるんだい◆」

「やり直して、飛び降りた」

「なるほど……★ だったら初めからそうすればよかったのに▼」

「今になって愛が実ったんだ」

「実ってない! あなたと戦ったりする可能性を考えて、そっちの方がマシだと思っただけよ!」

「いや、自分から残るって言っただろ」

「試験が終わってから難癖付けられる可能性だってあるじゃない」

「そこまで信用ないのか……」

「べ、別にそうじゃないけど……あーもーメンドくさい!」

「いいね▲ 青春してて◆ 楽しそうだ★」

「だろ?」

「私、あっち行ってるから! しばらく話しかけないでよ!」

「あらら◆ 行っちゃったね★」

「照れ隠しだ。何せしばらく経ったら話しかけていいんだからな」

「……前向きだね、君▼」

 

 

~~中略~~

 

 

『ご乗船の皆様、第三次試験お疲れ様でした! 当船はこれより2時間ほどの予定でゼビル島へ向かいます。ここに残った25名の方々には来年の試験会場無条件招待券が贈られます。例え、今年受からなくても気を落とさずに来年また挑戦して下さいねっ』

 

「ピィーピィー! お姉さん可愛いな」

「え、あ、ありがとうございます」

「このあと自由時間だろ? よければ一緒に過ごさない?」

「えっと、どうしようかな……って、はっ! ダメダメ! ダメです仕事中ですから!」

「そう言わないでさ」

「ダメですー! 誘うならハンター試験が終わってから誘って下さい」

「うー、残念。今回こんなのばっかだな」

 

 

~~中略~~

 

 

「よ。ポンズ」

「……何か用?」

「な、何だそのジト目は。まだ話しかけちゃダメだったのか?」

「別に……アンタはあのナビゲーターのコとでも話していれば?」

「そうか。嫉妬か」

「違うわよ! ……はぁ。で、何の用なのよ」

「ポンズは何番を引いたんだ?」

「……あなたじゃないわよ」

「“104番”……ああ、蛇使いのオッサンね。“バーボン”とかいう」

「へえ、よく覚えてたわね」

「男の名前はどうでもいいんだけど、記憶力はそこまで悪くない。ハンター試験が始まる前に“トンパ”が何人かにそんなこと言ってた」

 

「そう。それであなたは?」

 

「俺? 俺は“53番”」

「確か帽子の……」

「そう! 若干ポンズと似た服装をしやがって……お揃い気取りか! 許せん! 速攻で潰してやる」

「……まあ、それはどうでもいいけど。どうせ1週間は島から出られないんだから、速攻で潰してもあんまり意味ないわよ。それよりは相手が他のプレートを奪った時とかの方が予備にもなって効率がいい――って何?」

「ポ、ポンズが俺に助言を……こ、これは、まさか、愛の告白!」

「何でそうなるのよ!」

 

「2人でハンターになって幸せな家庭を築こう!」

 

「変なことを言わないでよ!」

「じゃ、マジメな話で手伝ってやろうか?」

「……別に、必要ないわ。私は自分の力でハンターになるから」

「そうか。とすると、次は最終試験か。最低でも1週間後……って長い! 手伝うとか抜きで一緒に行動しよう!」

「イヤ」

「そう言わずに。俺は便利だぞ。ノゾキ対策もお任せだ」

「それくらい自分でやるわよ。私のプレートを狙ってる相手だっているんだから。むしろ、アンタの方が危険っぽいもの」

「バカな……俺は紳士だぞ」

「へー、そう」

「信じてないにもほどがある! こうなればこれからゼビル島に着くまで俺の紳士っぷりをたっぷりと聞かせて――」

「そういうのいらないから。集中したいの。用が済んだならどっかに行ってよ」

「うー、いいよ! わかったよ! “80番”の“スパー”とでも浮気してやるからな!」

「はいはい、ご勝手に。この状況じゃどうせ相手にされないでしょうけどね」

「ち、ちくしょう! 俺の実力を見せてやる……!」

 

「……で、どうだったの?」

「イジメか! ここに帰って来た時点でわかるだろーが! おかしい……俺は自分で言うのもなんだがイケメンだし、普段はもっとモテるのに!」

「その普段の行動をハンター試験中にもやってるのがおかしいってことにいい加減気付きなさいよ……」

 

 

~~中略~~

 

 

「ぐっ……」

「矢には即効性のしびれ薬がぬってある。1週間はまともに歩くことも出来ないよ。水場はすぐそばにある。死にはしないさ。じゃあ――っ」

「はい、お疲れー。これで一気にプレート2枚。楽勝だな。んー……ゴン。こっちのプレート、いるか?」

「え、スター! よくオレがいるってわかったね!」

「ファンの視線には敏感なんだ」

「オレ、別にファンじゃないけど」

「わかってるわかってる、それでどうする?」

「いらないよ。オレは自分の力でヒソカからプレートを奪うから」

「ん、ゴンのターゲットってヒソカなのか?」

「うん」

「そうか。じゃ、それに集中出来るように心優しい俺が一つ助言してやろう」

「何?」

 

「(狙われてるぜ)」

 

「!」

「(この段階で仕掛けてこないってことは、まあ、日数もあるし様子見ってことだろうな。そう考えると狙ってくるタイミングはわかるだろ? それまでは特に気にすることもないと思うが……目的を達成しても油断しないことだ)」

「うん……ありがとう。参考になったよ。スターはこれからどうするの?」

「俺はこれで終わりだからな。まあ、俺を狙ってくる奴がいたら撃退するくらいで適当に過ごすさ」

「そっか。じゃ、オレはヒソカからプレートを奪うための特訓をするから、もう行くよ」

「おお。ゴン、頑張れよー」

「うんっ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「……スパー、死んでるのか。くそっ……なんて勿体ないことを! 誰の仕業だ! ――ハッ! ポンズは俺が守る!」

 

「ん。なぜかプレートが空から。俺はもういらないんだが……まあ、もらっとくか」

 

「やほ。“ヒーロー”参上」

「……バカ。なんで入ってきたの。ここはすでに罠の中よ」

「罠?」

「蛇よ。そいつが仕掛けた。肝心のそいつは死んじゃったから解除も出来ない」

「ふーん……ハッ! ということは俺達はこの薄暗い洞窟の中で二人きりということに! これは間違いが起こってもおかしくない状況!」

「そんなもの起こらないわよ! 言ったでしょ。私が悲鳴を上げたり倒れたりしたら、このコ達が近くの人間に襲いかかるわ」

「俺、別に大丈夫だぜ」

 

「……それ疑問なんだけど。なんで大丈夫なの?」

 

「“念”だよ。俺の“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”は反射でも発動するし、蜂の針程度じゃ刺さらない。これを破らない限り強化された俺の肉体は毒とかの薬品だって無効化するぜ」

「“念”? “念”って何?」

「ポンズのそれは違うのか?」

「私の……? これはいつからか出来るようになってたから……」

「お。俺と同じタイプだ。俺もそんな感じ。要はそういう他の人が簡単にはマネ出来ない――オーラによって構成される能力のことだ」

「これが“念”?」

「その蜂は本物だよな?」

「え、ええ。そんなの当然でしょ?」

「じゃあ、その蜂を収納したりしてるのがポンズの能力だな。俺はそういう不思議な感じじゃないが、“オーラの総量を増加”出来るんだ」

「そのオーラってのは言葉通りでいいの?」

「ああ。生命エネルギーとかそんな感じのヤツ。それが多いほど身体能力とかを強化出来る。他にも実際にバリア的な役割をしたりな。そして俺の能力は普通よりもずっと強いオーラを身に纏う能力」

「……それがこのコ達を気にしなかったり、あの塔から飛び降りても無事だった理由ってわけね」

「そうだな。これはそれぞれの個性に関わる話らしくて“念”は人によってかなり違う。俺とポンズのみたくな。まあ、なんかそういうのを設定する方法もあるらしいけど、俺はさっき言った通りいつの間にか出来るようになってたクチだからよく知らん」

「知らないって割には結構詳しいと思うんだけど」

「目にはしてるからな。その使い手同士が話してるのを聞いたり、俺を同類と見て話しかけてくるような奴とかもいたしさ」

 

「なるほど……。――まあ、そこら辺の話は今は置いておくとして、つまり、あなたなら蛇も問題ないってことね」

「そうなるな」

「じゃあ、どうにかして」

「うー、ほっぺにキスしてくれたら頑張れる気がする」

 

「「…………」」

 

「……はぁ。なんかがっかり。あなたってこういう状況でそういう条件をつける人だったんだ」

「まさか! くそっ、バーボンめ! 死んでまで迷惑をかけるなんて許せない! 蛇なんて俺が全部ぺいってしてやるぜ!」

「あ。ついでにそいつからプレートも取ってくれる?」

「任せろ!」

 

「ん~! やっぱ外っていいわねーっ!」

「俺のおかげだな。俺の」

「そうね。ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」

「お、おう! ふんふふーん」

「(……意外と単純?)」

 

 

~~中略~~

 

 

「……見られてるな」

「え、また? この前はあなたをターゲットとしてたから、今度は私かしら?」

「かもな。でも知り合いだ。プレートあまってるしちょっと交渉してみる」

「そう。わかった」

「つーわけで、ゴン、レオリオ、クラピカ! 俺とポンズのスイートな生活を邪魔した理由はなんだ!」

「変な風に言うな!」

「いてっ……てっきり受け入れてくれたものだとばっかり」

「ああいうことがあったから同盟関係を結んでるってだけよ!」

 

「ゴンの言う通りか……こんなにあっさりバレるなんてな」

「同盟関係……厄介だな」

「それで? 俺達になんの用だ?」

 

「「…………」」

 

「レオリオのターゲットがそっちの女の人なんだ」

「おい、ゴン! ――いや、誤魔化しても意味ねえか。そーいうこった。出来れば素直に渡してくれ。お前とも少しの間だが行動した仲だ。戦いたくねえ」

「……それだけか? 他の2人は?」

「私もゴンもすでに6点分のプレートを集めている」

「そうか。ってことは、ゴンはヒソカから?」

 

「「ヒソカ!!?」」

 

「うん、まぁ……。スターの忠告はちょっと無駄になっちゃったけど」

「ふーん、まあそっちの話はいいや。3点分のプレートがあればいいだけなら問題ない。俺が3点分あまりを持ってる」

「えっ! マジか!!?」

「マジだ。ほら、これやる」

「おお、ホントだ! これでオレもこの試験合格だ! 感謝するぜスター!」

「全部で4人のプレートを奪ったということか。すごいな……」

「まあ、俺のターゲットが狙ってた奴と、俺を狙ってた奴から奪っただけだけどな。あともう一つはなんか空から降ってきた」

「よくわからないが、ラッキーだったということか……? とにかく、これでここにいる者は全員合格ということだな」

「ああ。これで残すは最終試験だ。そして、ハンターになった暁には俺とポンズのバラ色の生活が――」

「ないから。全然まったくこれっぽっちもないから」

「ハンターになったら一緒になろうねって言ってくれたじゃないか!」

「だから変な捏造しない! 仕事仲間としてなら話くらいはするって言ったのよ!」

 

「……あいつもなんつーかよくわからない奴だよな。こんだけプレート集めてんだし、実力は確かなんだろうけど」

「そうだな……」

 

 

~~中略~~

 

 

[Q注目している相手と戦いたくない相手は?]

 

[A]

   44番・ヒソカ:「どちらも77番かな▲ 100番と406番もそうだけど、77番が一番強いし、状況によってはもっと強くなりそうなんだよね★ だから今やるのは、もったいなさ過ぎて◆」

 

   77番・スター:「247番ポンズ! なぜなら将来的には俺の彼女になるから! っていうか、あともう少しじゃないかなーって思うんだよな。他は男ばっかだし別に誰でもいいけど、ゴン達ともちょっと話したから、戦いたくないのはそこら辺だな」

 

  100番・キルア:「ゴンだね。あ、406番のさ。同い年だしさ。戦いたくないのは……77番かな。なんか“念”とかいうの使えるらしいからさ。あ、あんたも使えるんだろ? 教えてよ。――え、今はダメ? ケチだなー」

 

  192番・ポドロ:「44番だな。いやでも目につく。別の意味では77番も悪目立ちしているがな。戦いたくないのは406番と100番だ。子供と戦うなど考えられぬ」

 

  247番・ポンズ:「……77番かな。一応言っとくけど変な意味じゃないから。不本意だけど色々助けられた分、近くで能力見てたけど、なんか反則的だし、こっちの能力も見られてるからね。あれで頭が回らないわけでもなさそうだし、面倒かなって」

 

 295番・ハンゾー:「44番だな。こいつがとにかく一番ヤバイしな。戦いたくないのも、もちろん44番だ」

 

302番・ギタラクル:「100番。44番」

 

 404番・レオリオ:「406番だな。恩もあるし合格して欲しいと思うぜ。つっても、さっきの試験で言えば77番もそうだし、405番にも何かと助けられてるけどな。まあ、でもやっぱり406番とが一番戦いたくねーな」

 

 405番・クラピカ:「いい意味で406番。悪い意味で44番。……それと77番。――理由があれば誰とでも戦うし、なければ誰とも争いたくない」

 

   406番・ゴン:「44番のヒソカが一番気になってる。色々あって。う~ん、77、99、404、405番の4人は選べないや」

 

 77―

    |―

247―  |

      |―

295―  | |

    |―  |―

406―    | |

        | |―

100―――――  | |

          | |

302―――――――  |

            |―

192―――      |

      |―    |

405―  | |   |

    |―  |―――

 44―    |

        |

404―――――

 

「さて、最終試験のクリア条件だが、いたって明確。たった1勝で合格である!」

「……ってことは」

「つまりこのトーナメントは、勝った者が次々ぬけていき、敗けた者が上に登っていくシステム!」

「ジジイ! てめェ! なんでいきなり俺とポンズが戦うことになってんだゴラァッ!」

「ほっほっほ! 愛の試練というヤツじゃな」

「何ィ……愛の試練か」

「納得しないでよ!」

「――それに、おぬしの評価は高い。だから、おぬしには多くチャンスが与えられておるじゃろう?」

「ちょっと待ってよ。それって成績順にチャンスが与えられてるってこと?」

「うむ。まあ、大まかにではあるがな」

「それって納得できないな。もっと詳しく点数のつけ方とか教えてよ」

「ダメじゃ」

「なんでだよ!」

「採点内容は極秘事項でな。全てを言うわけにはいかん。まあ、やり方くらいは教えてやろう。まず審査基準。これは大きく3つ。身体能力値、精神能力値、そして印象値。これから成る――」

 

「――そして、重要なのは印象値! これは、すなわち前に挙げた値でははかれない“何か”! いうなればハンターの資質評価といったところか。それと諸君らの生の声とを吟味した結果こうなった。以上じゃ!」

「ジジイ! それってやっぱり俺とポンズを戦わせてみたかったってだけだろ! 俺は戦いたくないって言ったぞ!」

「うるさいのう。だから愛の試練じゃよ。それに別に殺し合えとか言っとるわけじゃない。――武器OK、反則なし、相手に“まいった”と言わせれば勝ち! ただし、相手を死に至らしめてしまった者は即失格! その時点で残りの者は合格。試験は終了じゃ!」

「ぐぬぬ……」

 

『それでは、最終試験を開始する! 第1試合スター対ポンズ!』

 

「……どうやら、トリックタワーの時の焼き直しね。ハンターになるためには今度の戦いは避けることが出来ないみたい。私もあなたとは戦いたくなかったけど本気で行くわよ」

「ポンズ……今度こそ愛の――」

「違う!」

「――そろそろ始めてよろしいですか?」

「ええ」

「よろしくない」

「…………よろしいですね。始めますよ?」

「よろしくないって言ってんだろ」

 

「スター! お前、立会人に難癖つけてないでとっとと始めろ! 後がつかえてんだよ!」

「うるせえ、レオリオ! 外野は黙ってろ!」

「何ィ!!?」

 

「……あのねぇ、いい加減にして。私もとっとと始めたいんだけど」

「おら、とっとと始めろよ! 号令かけるくらいで、何ちんたらやってんだ、審判!」

 

「……あいつ、マジサイテーだ」

 

「「「知ってた」」」

 

『…………それでは――始め!!!』

 

「っ――」

「“まいった”ーーー!!!」

 

「……え?」

 

「いやぁ、まいったまいった。俺の敗けだ」

「えーっと……?」

 

「おい」

「なんだ?」

「オレ、なんかこの光景どっかで見た覚えがあるんだが」

「あ、レオリオも? オレもだよ」

「一応オレも」

「奇遇だな。私もちょうど同じことを考えていた」

 

「おい、審判コール」

 

『……ハッ。――勝者、ポンズ! よってポンズはハンター試験合格とする!』

 

「おめでとう」

「……なーんか、すごく納得いかないけど、まあいいわ。重要なのはハンターになることじゃなくてハンターになってから何をするかだもの」

 

「ふふん。ざまあみろジジイ。てめェの思惑通りにはいかねェぜ。最後の試合まで後3戦の間は俺の自由意思でどうするか決めちまうもんねー。俺にチャンスを与えまくったことを後悔しろ」

「(ぬぐっ……こやつ、ムカつく)――ほっほっほ! まあ、おぬしがこうするであろうこともわしは読んであったがの。そもそも基本的には1人しか不合格者を出さないという点を見てわかる通り、おぬし達の力量は認めておる。後は最終確認みたいなものじゃ」

「へー、そこまで頭が回ってなかったことの言い訳じゃないの? 誰もが簡単に“まいった”を言うわけがないとでも思いこんでてさ!」

「そう思いたければそう思い込んでおればよかろう。おぬしの中ではそれを真実にしたいというだけじゃろう?」

 

「「…………」」

 

 

~~中略~~

 

 

『第4戦スター対ハンゾー!』

 

「次はあんたか。あんた、あの爺さんに反抗してんだろ? オレとの試合でもとっとと“まいった”してくれよ」

「……ああ、そうだな」

 

『それでは――始め!!!』

 

「まい――るか、ボケェ!!!」

「っ、ぐはっ!!?」

「てめェ、3時間もゴンを甚振りやがって! ムカつくんだよ、ハゲ!」

 

「よっしゃ! よくやったスター! そのまま蹴りまくれ!」

 

「ぐっ……てめェ、いきなりの速さに驚いたが、こ、この程度でオレがやられると思ったら――」

「“まいった”」

「なっ、なん……だと……!!?」

「ぷふぅ。殴られ損、蹴られ損でやんの。ざまぁ」

「こ、こいつ……!」

「おい、だから審判コール」

 

『……ハッ。――勝者、ハンゾー! よってハンゾーはハンター試験合格とする!』

 

「おめでとう。凹られたのに合格。さすが忍! 汚い! 汚いなー!」

「ぐ、ぐぐ……」

「あれ、キレるの? キレてるの? 忍って耐え忍ぶ者だって聞いたことあるんだけど、これくらいでキレちゃうんだー?」

 

「……ウゼェ。あれはウゼェ。オレもゴンのことでまだちょっとあいつにイラついてたんだが、さすがに可哀想になってきたぜ」

「あ、ああ。正直、私は今更ながらにスターを敵に回したくないと思ったよ」

 

 

~~中略~~

 

 

『第5戦スター対キルア! それでは――始め!!!』

 

「まい――」

「“まいった”。オレの敗けだよ」

 

「「「!!?」」」

 

「キルア! お前……」

「スターの言い分には付き合ってられないからね。最終試験を不戦勝ってのもつまんないし、実際、戦えばこっちの分が悪そうだし、妥当だろ?」

「む」

「まあ、これであんたも合格なんだから。文句言うことじゃないだろ?」

「やられたな。ジジイをやり込めてやることばっか考え過ぎてたぜ。……だが、先に言われちまった以上は仕方ない。今回はこれくらいで我慢するか」

 

『――勝者、スター! よってスターはハンター試験合格とする!』

 

 

~~中略~~

 

 

「よし、ゴンを殺そう」

 

「やっちまえキルア! どっちにしろお前もゴンも殺させやしねえ! そいつは何があってもオレ達が止める! お前のやりたい様にしろ!」

「……」

 

「“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”!」

 

「「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」」

 

「勝ち目のない敵とは戦うな……。お前が口をすっぱくして教えたんだよな? 試験でついでに家族間の問題に関わる気はなかったが、どうにもお前、ムカつくんだけど」

「……」

「ゴンを殺す? なら、殺す前に俺がお前を捕らえてやるよ。お前、殺し屋だし、俺はハンターになるんだから問題ないだろ?」

 

「くっ……」

「あ?」

 

「……しまった。なんかキルアの方が逃げちまった」

 

「あ、アホーーー!」

「うっせ! お前らこそぼけっと見逃してんじゃねェよ!」

「お前のせいで動けなかったんだろが!」

 

「ふぅ……それで、この場合はどうなるのかな?」

「そうじゃの……言ってなかったが、というか言う必要もないと思っておったが、最終試験会場はあくまでこの場所じゃ。そこから許可なく出て行くということは事実上の試験放棄。よって、キルアは失格。不合格者が出たので、他全員合格じゃ」

 

 

~~中略~~

 

 

「ククルーマウンテンか。聞いたことがねーな。お前らどこかわかるか?」

「あれ? なんかこれ、俺も行く流れになってない?」

「は、当然だろ? 最終的にお前のせいでキルアは出て行ったようなもんじゃねーか」

「おっかしいなー。俺は手助けをしようとしたつもりだったんだが」

「あんだけ威圧感を出してれば、そりゃキルアだって逃げるわ。正直オレもチビりかけたぞ」

「俺のせいじゃねーよ。思ったよりあいつ強くてさ。殺し屋だけあって人もたくさん殺してるみたいだし、ヒソカと対峙した時並にオーラの総量上がっちったよ」

「オーラ?」

「ああ。それより、ポンズ! ポンズも一緒に来てくれるよな?」

「え、なんで?」

「約束通り2人でハンターになったじゃないか!」

「なったけど……私、“幻獣ハンター”志望だし、あのコとも別に話したこととかないんだけど……」

「暗殺一家は幻獣!」

「違うわ」

「俺が幻獣!」

「……それは微妙に否定できないけど、あなたそれでいいわけ?」

「一緒にいたいんだ。ほら、俺は有益な存在だぞ。便利だ」

「う~ん……まあ、ギリギリ有益かなぁ……?」

 

「かなりの実力者っぽい上にあんなに押しててギリギリって言われるのもなんか切ないな……つーか、クラピカ。聞いてるか?」

「ん、ああ。彼らのことはともかく、ククルーマウンテンのことは後でめくってみよう」

「うむ」

 

 

~~中略~~

 

 

「おお……こりゃすげえな」

「え、ここが正門です。別名、黄泉への扉と呼ばれております。入ったら最後生きて戻れないという理由からです」

 

「あれ、幻獣?」

「そ、そうかも……?」

「捕まえてみようか」

「……い、いいよ。私がやりたいのは別にそういうのじゃないから」

 

「え、皆様、御覧いただけましたでしょうか。一歩、中に入ればあの通り無残な姿をさらすことに……」

 

「いいからそんなこと!」

「早くバスを出してくれー!!!」

「あんたら、何してんだ、早く乗って!」

 

「あ、えーと、行っていいですよ。オレ達ここに残ります」

 

 

~~中略~~

 

 

「むん! んぎ……ぎがが……押しても引いても左右にも開かねえじゃねーかよ!」

「上にあげるんだったりして」

「下にさげるってのは?」

「単純に力が足りないんですよ」

「アホかー! 全力でやってるっつんだよ!」

「まあごらんなさい。この門の正式名称は“試しの門”。この門さえ開けられないような輩はゾルディック家に入る資格なしってことです。――はっ!」

 

「――“試しの門を開けて入ってきた者は攻撃するな”ミケはそう命令されてもいるんです。1の扉は片方2トンあります」

「2ト……そんなもん動かせねーぞ、普通……ん、1の扉はだと?」

「ええ。ごらんなさい、7まで扉があるでしょう? 一つ数が増えるごとに重さが倍になっていくんですよ。力を入れればその力に応じて大きい扉が開く仕組です。ちなみにキルア坊ちゃんが戻ってきたときは3の扉まで開きましたよ」

「3……ってことは12トン!」

「……16トンだよ。ゴン」

「おわかりかね? 敷地内に入るだけでこの調子なんだ。住む世界が全く違うんですよ」

「うーん、気に入らないなー。おじさんカギ貸して」

「え?」

「友達に会いにきただけなのに試されるなんてまっぴらだから、オレは侵入者でいいよ」

「ムチャ言うなよ、ゴン。さっきの化け物見ただろ。片腕だけでお前以上の大きさあったぞ!」

「だって納得いかないんだもん。友達、試すなんて変だよ。絶対そんな門からは入らない」

 

「いや、それは違うぞゴン」

 

「違うって何が?」

「試すって言うのはただ門の名前がそうだってだけで、人の家に正門から入るのは普通のこと。常識だぞ」

「うっ、それはそうかも……でも……」

「私も同感だ。時間はある。1の門から入ることにしよう」

「うーん」

「――というか、悩むことか? レオリオが非力なだけだろ? 俺、普通に開けられると思うけど」

「何ィ!!?」

「え、ホント?」

「ああ、普通にやっても……まあ、力籠めると勝手に発動するけど」

「?」

「やってみるか」

「うん」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「……なっ、まさか、7の門まで……旦那様と大旦那様以外では初めて見た」

「はーっはっはっはっはっはっ! 見た、見た? どうだ、ポンズ! 惚れ直したんじゃないか?」

「ううん……むしろちょっと引いた。それと元から惚れてない」

「なっ……そんなバカな……」

「まさか、本当に開けてしまうとはな……いや、3の扉を開けたというキルアが逃げて、その兄も警戒していたのだから、考えられることだったか」

「オレもやってみる!」

「って、ちょっと待った。ゴンはハンゾーに左腕を折られて片腕じゃないか」

「そうだけど……意外と簡単なのかなって」

「簡単じゃねーって! こいつが異常なんだよ! ゴンだってオレが全力でやってたの見ただろ!」

「見たけど……」

「どっちにしろ、ちょっと鍛えた方がいいんじゃねーの? 1の扉も開けられないで、ハンターをやっていけるかちょっと不安だぜ、俺は。――あっ! ポンズは大丈夫だぞ。俺がついてるからな!」

「それ、逆にバカにされてる気がする」

「何言っても裏目!」

 

「ふーむ。もしよければ、一度私ら使用人の家に来ますか? 身体を鍛えるにはうってつけの場所ですよ。私もこの身体を維持しなければなりませんからね」

「お。そりゃいいじゃねえか! なあ、ゴン。扉さえ開けちまえば誰にも文句は言われねえ。堂々とキルアに会いに行けんだしよ」

 

「……そうだね。わかった。“ゼブロ”さん、頼んでいいかな」

 

「ええ、私から誘ったんですから。ゴン君達は観光ビザでこの国に?」

「えっと、そうだよ」

「そうですか。じゃあ、この国にいられるのは長くて1ヵ月ですね。君達の若さがあればあるいは1ヵ月で1の門を開けられるようになるかもしれない。まあ、既に開けている人間もいるし、そもそも何人がかりでも開けさえすればいいんですけどね」

「いーや! 1人で開けるぜ! つーか、3日で開ける! これでもオレ、腕っぷしでは地元じゃ負け知らずだったんだぜ。なのに、最近やられキャラみてーな扱いが多いしよ。ここで一気にレベルアップしてやる!」

「まあ、レオリオは医者になるのが夢なのだから、非力でも構わない気もするが」

「うっせ。オレが非力と思われるのが我慢ならねえって話だよ! 男のメンツの問題だぜ!」

「はは、元気ですね。それはそうとちょうど交替の時間です。ここで話してるのもなんですからそろそろ行きましょうか」

「おうよ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「ゼブロさん、“シークアント”さん、長い間、本当にありがとう」

「ええ。気をつけて行きなさいよ。電話では断られてしまったのだから」

「――うん」

「道なりに山を目指しなさい。屋敷は間違いなく山のどこかに建っているはずです。20年勤めていて、実は山まで行ったことがないんだよ。役に立てなくて、すまないね」

「とんでもない」

 

「む……」

「出て行きなさい。あなた達がいる場所は私有地よ。断りなく立ち入ることはまかり通らないの」

「来る前にちゃんと電話したよ。試しの門から通ってきたし」

「大声だったから聞こえてたわよ。断られてたでしょ」

「じゃ、どうしたら許可がもらえるの。友達だって言ってもつないでもらえないのに」

「さあ? 許可した前例がないから」

「じゃ、結局無断で入るしかないじゃない」

「そういやそうね。とにかく大目に見るとそこまでよ。ここを一歩でも越えたら実力で排除します」

「へえ……実力でね」

「え、やる気なの? 相手女の子よ」

「……いや、俺、別に異性と戦えないわけじゃないからな。それに子供は対象外だ。10代後半からだ」

「待って、スター、手を出さないで」

「ん? まあ、いいけど……」

 

「もう……やめてよ……もう、来ないで! ――いい加減にして! 無駄なの! わかるでしょ! あんた達も止めてよ! 仲間なん……」

 

「「「「――」」」」

 

「なんでかな。友達に会いにきただけなのに。キルアに会いたいだけなのに。なんで――こんなことしなきゃいけないんだ!」

 

「……ねェ」

「えっ」

「もう足……入ってるよ。殴らないの?」

「あ……」

「君はミケとは違う。どんなに感情を隠そうとしたって、ちゃんと心がある。キルアの名前を出したとき、一瞬だけど目が優しくなった」

「むっ」

「?」

「お願い……キルア様を助けてあげて」

「てい」

 

「「なんだ!!?」」

 

「ふふ、“ヒーロー”の前で女の子を傷つけられると思うとは愚の骨頂! ――ポンズ、見た? カッコいい俺の姿!」

「そういう状況じゃない!」

「……全く、職務を果たせないばかりか守られるなんて。どうにもダメなクソ使用人ね」

「お、奥様……“カルト”様……」

「奥様ってキルアの母ちゃんかよ!」

「ええ。そうです。――あなたがゴンね。“イルミ”から話は聞いています。3週間位前からあなた方が庭内に来ていることもキルに言ってありますよ。キルからのメッセージを直接伝えましょう」

 

『来てくれてありがとう。すげーうれしいよ。でも、今は会えない。ごめんな』

 

「――紹介が遅れましたね。私、キルアの母です。この子はカルト」

「キルアがオレ達に会えないのはなんでですか?」

「独房にいるからです。――キルは私を刺し、兄を刺し、家を飛び出しました。しかし、反省し、自ら戻ってきました。今は、自分の意志で独房に入ってます。ですから、キルがいつそこから出てくるかは……」

 

「まぁ、お義父様ったら! なんでジャマするの! だめよ! まだつないでおかなくちゃ! 全くもう、なんてこと。――私、急用ができました。ではこれで。また遊びにいらしてね」

「待って下さい。オレ達、あと10日くらいこの街にいます。キルア君にそう伝えて下さい」

「――わかりました。言っておきましょう。それでは……カルトちゃん、何してるの? 早くいらっしゃい」

「はい、お母様」

 

「……言っちゃなんだが、薄気味悪い連中だな。キルアが“自分から”ってのもウソくせえ。ゴン、このまま戻るのはしゃくだぜ。ムリにでもついていかねーか?」

「うん……でもそうすると、きっと彼女が責任とらされるような気がするから」

「あ、そうか」

「……私が……執事室まで案内するわ。そこなら屋敷に直接つながる電話があるから。“ゼノ”様がお出になればあるいは……」

 

 

~~中略~~

 

 

「先程は大変失礼いたしました。奥様から連絡があり、あなた方を正式な客人として迎えるよう申しつけられました。ごゆっくりおくつろぎ下さい」

「ここが屋敷じゃないのか?」

「ええ、執事用のすまいよ」

「心遣いはうれしいが、オレ達はキルアに会うためここに来た。出来ればすぐにでも本邸に案内してもらいたいんだが」

「その必要はございません。キルア様がこちらに向かっておいでですから」

「本当!!?」

「ええ、もうしばらくお待ちください。――さて、ただ待つのは退屈で長く感じるもの。ゲームでもして時間を潰しませんか?」

「俺は菓子が食いたい」

「……お持ちしろ」

「あなた、よくこの状況でそういうことが言えるわね」

「まあ、彼のことは置いておいてゲームとは?」

「――コインはどちらの手に?」

 

「「「「「左手」」」」」

 

「御名答。では、次はもっと早く行きますよ。――さあ、どちら?」

「また左手」

「すばらしい。じゃ、次は少し本気を出します」

「!」

「――さあ、どっち?」

「ん~、自信薄だが……多分右……」

「私は……キルア様が生まれた時から知っている。僭越ながら親にも似た感情を抱いている……。正直なところ……キルア様を奪おうとしている。お前らが憎い」

「……」

「さあ、どっちだ? 答えろ」

「左手だ」

「奥様は……消え入りそうな声だった。断腸の思いで送り出すのだろう。許せねェ。キルア様が来るまでに結論を出す。オレがオレのやり方でお前らを判断する。文句は言わせねェ」

「あ、お茶お代わり」

「ちょっ、空気読んで!」

「……いいか。一度間違えばそいつはアウトだ。キルア様が来るまでに全員アウトになったら……キルア様には“彼らは先に行った”と伝える。2度と会えないところにな」

「キルアは」

「黙れ。てめェらはギリギリのとこで生かされてるんだ。オレの問いだけにバカみてぇに答えてろ。――どっちだ」

 

「「「「…………」」」」

 

「右ー」

「……じゃあ、オレは左手だ」

「右」

「右」

「右手」

「まず1人アウトだ。――どっちだ?」

 

「「「…………」」」

 

「左ー」

「私は右手だ」

「左」

「左手」

「当たりは左手……これでまた1人アウトだ。――いくぜ」

 

「「…………」」

 

「左ー」

「じゃ、オレは右手」

「左手」

「残り2人だな。――どっちだ?」

 

「…………」

 

「右ー」

「……右手」

「おい!」

「レオリオ、大丈夫だよ。落ち着いて」

「――正解だ。やるな。じゃ、こいつはどうだ?」

 

「「「「!」」」」

 

「さあ……誰が持ってる?」

「後ろのこいつ」

「え……う、後ろの人」

 

「「「「「すばらしい!!!」」」」」

 

『ゴーン!』

 

「――キルア!」

「いやー、少し悪ふざけが過ぎました。大変失礼いたしました。しかし、時間を忘れて楽しんでいただけましたでしょう?」

「あ……もう、こんな時間たってたのか。いやー、あんた迫真の演技だったぜ」

 

「ゴン! あとスター! えーと、クラピカ! リオレオ!」

「レオリオ!」

「それと……誰だ?」

「……ポンズよ。私はこいつに引っ張って来られただけで、話してもないから覚えてなくても仕方ないけど」

「あ、あー! スターの彼女!」

「正解!」

「違うわよっ!」

「久しぶり! よく来たな。どーした、ひでー顔だぜ。片目ふさがってんじゃん!」

「キルアだって充分ひどいって!」

「早速だけど、出発しよーぜ。とにかくどこでもいいから。ここにいるとおふくろがうるせーからさ。じゃーな! あ、そうだ“ゴトー”。いいな、おふくろに何を言われてもついてくんなよ」

「承知しました。行ってらっしゃいませ」

 

「――ゴトーさん、キルアがいなくなったらさびしくなるね」

「いいえ……私共執事は雇用主に対し、特別な感情を持ち合わせておりませんので」

「うそつき!」

 

「ゴン君。さあ、どっちです?」

「左手でしょ?」

「……スター君はどう思いますか?」

「インチキしたから右ー」

「えっ?」

「フ……さすがです。ゴン君、世の中正しいことばかりではありません。お気をつけて。――キルア様をよろしくお願いします」

 

「えっ、えー??? どーゆーこと? スター、ゴトーさんは何をやったの?」

「ん、あれはコインを二枚持ってだなー……」

「あっ、あーっ! えっ、でも、それだとスターはそれをどうやって見抜いたのさ」

「“ヒーロー”は誤魔化せない!」

「えー……?」

 

 

~~中略~~

 

 

「――じゃ、私はここで失礼する」

 

「え?」

「キルアとも再会できたし、私は区切りがついた。オークションに参加するためには金が必要だしな。これからは本格的にハンターとして雇い主を探す」

「そうか……」

「クラピカ、ヨークシンで会おうね!」

 

「さて……オレも故郷へ戻るぜ」

 

「レオリオも!!?」

「やっぱり医者の夢は捨てきれねェ。国立医大に受かれば、“ハンター証”でバカ高い授業料は免除されるからな。これから帰って猛勉強しねーとな」

「うん、がんばってね」

 

「……えっと、じゃ、私も――」

「俺も一緒に行く!」

「え……まあ、別にいいけど……」

 

「えーっ! スターはオレ達と一緒に行こうよ!」

「そうそう! オレも“念”のことちゃんと知りたいしさ。スターがいれば“念”能力者の見分けつくんだろ?」

「えーい、うるさい! 素敵な女性とガキの誘い、どっちを受けるかと言われれば、俺は当然、素敵な女性であるポンズを選ぶ!」

「別に私が誘ったわけじゃ――」

 

「じゃ、ポンズも一緒に行こうよ」

 

「呼び捨てにすんなよ!」

「今更だし、別に呼び捨てでいいわよ」

「呼び捨てにしろよ!」

「あー、なんか思い出してきた。そーいえば、こいつこーゆー奴だったなー」

「それで、ポンズはどこか目的地とか決まってるの?」

「んー、ううん、それは別に。前に言ったかもしれないけど、私が目指してるのは未知の生物を発見したり保護したりする“幻獣ハンター”だから、候補はいくつかあるけど、そこじゃないと絶対にダメってものでもないのよ」

「そうなんだ。じゃ、やっぱり一緒に行こうよ!」

「……そもそもあなた達はこれからどこに行こうと思ってるの?」

「え、えーっと、まずはみんなで遊ぶ?」

 

「「「「…………」」」」

 

「ポンズとデートか。悪くない」

「悪いわよ!」

「――そーだぜ、ゴン! まずは特訓だろ? ヒソカに借りを返すって言ってたばっかじゃんか!」

「そうだけど……」

「お前なー。今のまんまでホントにヒソカを一発殴れると思ってんのか!!? 半年どころか10年たっても無理だっつーの!」

「う……」

「いいか、わかりやすくいうと、これがヒソカ、これがハンゾーな」

 

ヒソカ←-→ハンゾー

 

「ヒソカとハンゾーの力の差をこれぐらいだとすると……お前との差は……」

 

ヒソカ←-→ハンゾー←----------→ゴン

 

「ここ。かなりおまけでな。ついでにヒソカも使えるっぽい“念”については多分考慮に入れてない。若干補正入ってるかもしんねーけど」

「さっきも言ってたけど“念”って何? なんか前にも聞いたような気がするんだけど……」

「その話は後でな」

「そう。じゃ、キルアはどこなのさ?」

「オレか?」

 

ヒソカ←-→ハンゾー←---→キルア

 

「まあ……ここだろな(平常モードで)」

「へえ~、ハンゾーの方が強いの? じゃ、他のみんなは?」

「他? んー……」

 

スター

ヒソカ←-→ハンゾー←---→キルア←---------→ゴン←-→クラピカ←-→ポンズ←-----→リオレオ

 

「ちょっと待て! オレだけやけによえーじゃねーかよ! あとレオリオだ!」

「あー、はいはい……いや、だって、オレ、レオリオの強いとことか見てねーしさ。こんなもんじゃねーの?」

「オレはお前んとこの第2の扉まで開けたんだぜ! ゴン達は1の扉までだ!」

「え、そうなの? じゃ、ゴンと同じかちょっと弱いくらいじゃない?」

「それでも、ゴンより下なのかよ!」

「腕力以外は負けてんじゃん」

「ぐっ……」

 

「私もゴンより下か……」

「あー、あんたね。あんたはあの塔の時みたくキレてれば、ゴンよりは強いと思うよ。でも、普段は感覚とかで劣ってるのわかってるだろ?」

「なるほど」

「まあ、つってもてきとーだぜ? 強い奴ほど強さを隠すのもうまいからな。ハンゾーくらいまではあってると思うけど、それ以上のレベルになるとよくわかんねーよ。ヒソカは兄貴と同じくらいで親父以下だと思うけど、実際どーかな……?」

「そうなんだ。じゃ、スターとヒソカが同じくらいの強さってわけでもないの?」

「さあなー。それは本人に聞けよ」

「フ、俺に言えることは一つ。“ヒーロー”は敗けない!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「――まぁ、なんにしてもヒソカは相当強い!」

「うん!」

「並大抵のことじゃ、半年で一矢報いるのはムリだ」

「うん。だから特訓をするんだね」

「そーゆーこと!」

「でも、特訓ってどこで何をすればいいの?」

 

「それなんだが……ゴン、それにスターとポンズも。金はあるか?」

 

「……うーん、実はそろそろやばい」

「あるけど奢らないぞ。俺の金は俺とポンズのバラ色の生活資金だからな!」

「そんな生活しないから! それと私は、一応初期の活動資金として貯めていたお金ならあるわ。まあ、普通に生活して数年困らない程度だけど」

 

「堅実! マジメ! そんなポンズも魅力的だ!」

 

「はいはい、ありがとう」

「まぁ、そこのバカップルは置いておくとして、オレもあんま持ってない」

「ちょっ、誰がバカップルよ!」

「――キルア、お菓子なら買ってやる」

「え、マジ? サンキュー! ……ってそうじゃなかった。そこで一石二鳥の場所がある。――天空闘技場!」

 

「じゃあ、これでいったんお別れだな」

「そうだな次は――」

 

「「「「「「9月1日、ヨークシンシティで!!!」」」」」」




文字数の問題でちょくちょくカット、でも作者の中では短編なはず。


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天空闘技場 → くじら島

「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書き下さい」

「あ、俺は付き添いだから」

「私も」

「え、2人は参加しないの?」

「しないっつーか、ここで戦ってもな……」

「ああ、スターの実力じゃそうか。でも、あんたは?」

「私、別に殴りっこが好きなわけじゃないから」

「だけど、鍛えられるぜ? あんたこの中で一番弱いんだしさ。それに金だって稼げる」

「稼ぐならちゃんと仕事して稼ぐわよ。私は理由もなく暴力を振るったりしないの」

「鍛えるのも金を稼ぐのも充分な理由だと思うけど」

「見解の相違ね。そういうのは男の子の理屈」

「へーへー、そうかよ。……まあ、いいや。じゃ、オレ達だけ参加で(ゴン、格闘技経験10年って書いとけ。早めに上の階に行きたいからな)」

 

「――それでは、中へどうぞ」

 

「うわ~」

「なつかしいな~、ちっとも変ってねーや」

「え? キルア、来たことあるの?」

「ああ。6才の頃かな。無一文で親父に放り込まれた。“200階まで行って帰ってこい”ってね。その時は2年かかった」

「なんていうか暗殺一家だけあってスパルタね」

「ここはまだマシだって。対戦相手を殺しても試合中の事故として処理されるけど、基本的に殺人は御法度だしさ。それにオレより強い奴相手の時はなんの問題もないけど、むしろ弱い奴との手加減とかはここで覚えたしな」

「――とにかく、ヒソカクラスの相手と戦うにはそれ以上の階の相手と戦わなきゃダメだ。急ぐぜ」

「うん」

 

『1973番・2055番の方、Eのリングへどうぞ』

 

「あ、オレだ。う~、キンチョーしてきた」

「――ゴン、お前試しの門クリアしたんだろ? なら、もうさ。ただ思いっきり……」

「え? 本当に?」

 

「……どんな助言してあげたの?」

「見てればわかるって」

 

『それでは――始め!!!』

 

「う、うそぉ……巨漢が飛んでったわよ。あのコ、あんなに力あったの?」

「ははっ、あんたも出来るようになってるぜ。あんただって試しの門クリアしたんだろ?」

「え、ホントにー?」

「イヤそーな顔すんなよ。見た目ムキムキにもなってないし、逆に素質ある方だぜ?」

「俺はどんなポンズでも好きだが、そのままでいてくれていいぞ!」

「訊いてない!」

 

『2054番・2039番、Aのリングへ』

 

「うし」

「頑張ってね」

「こんな階層で頑張る必要ないっての」

 

 

~~中略~~

 

 

「こちらへどうぞ。このビルでは200階までは10階単位でクラス分けされています。つまり、50階クラスの選手が一勝すれば60階クラスへ上がり、逆に敗者は40階クラスへ下がるシステムです」

「100階をクリアすると専用の個室を用意してもらえるんだ」

「へぇー」

「まぁ、私達は“ハンター証”を使えば無料でホテルに泊まれるけど」

「う、オレは個室でいい……」

「ホント頑固だなー」

「いいの! むしろ専用の個室の方がいいじゃん!」

 

「――押忍! 自分、“ズシ”といいます! お2人は?」

「オレ、キルア」

「オレはゴン。よろしく」

「さっきの試合拝見しました。そちらのお2人が流派の師匠ですか? 自分は心源流拳法っス!」

 

「「「「…………」」」」

 

「違うけど……ってか、別にそーゆーのないよな」

「ええ!!? 誰の指導もなくあの強さなんスか……ちょっぴり自分ショックっス。やっぱり自分まだまだっス」

「――ズシ! よくやった」

「師範代!」

「ちゃんと教えを守ってたね」

「押忍! 光栄す。師範代、またシャツが」

「あ、ゴメンゴメン。そちらは?」

「キルアさんとゴンさん、それから――」

「スターだ」

「ポンズです」

「はじめまして。“ウイング”です」

 

「「オス!」」

 

「あ、キルア」

「何さ?」

「こいつ“念”能力者」

「えっ! なあ、あんた“念”能力者なのか?」

「え、ええ、まあ……」

「よし! だったら、オレに“念”を教えてくれよ!」

「えーっと……? “念”なら彼に教えてもらったらどうかな? かなりの実力者のように思えるけど」

「あ、俺そーゆーのムリ。鍛え方とか知らないから」

「鍛え方を知らない……? 天然の“念”使いですか?」

「そうなるみたいだな。“念”のこと自体は他の使い手に聞いたことがあるんだけど、鍛え方とかは聞いたことないから」

 

「なるほど……」

 

「つーわけで、あんたが教えてよ」

「いえ、それは……ふむ、君達はなんでここに?」

「えーと、まあ強くなるためなんだけど、オレ達全然金なくて。スターは菓子代しか払ってくれねーって言うし、小遣い稼ぎもかねて」

「キルアここの経験者なんです」

「そうですか……ちなみになにか目標とかあるのかな?」

「目標ってここでの?」

「それで構わない」

「そりゃ、行けるトコまでかな。まあ、前に来たときは200階で止めたから、それ以上は確実だけどな」

「200階で? そのクラスでは一度も戦っていない?」

「ああ、元々その時は親父の命令で来てたからね。そこで帰って来いって言われてた」

「なるほど……じゃ、そのお父さんはまたここに来ることに対して何か言いませんでしたか?」

「いや、そもそもここに来るって決めたの家を出てからだし、あ、家を出ることは許してもらったから、どこに来たって怒られることはないはずだぜ?」

 

「わかりました……では、また200階まで上がったら私のところに来て下さい」

 

「え、今教えてくんねーのかよ! ひょっとして疑ってる?」

「いえ、君が戦えるのであろうことはわかります。ですが、“念”は誰にでも教えてもいいというものでもないので、一応君達の戦いを見せてもらいます」

「そーゆーことね。……はぁ、わかったよ。とっとと200階まで上がってやるさ! なあ、ゴン!」

「え、オレも? オレ“念”ってなんなのかよくわかってないんだけど……」

「だから、教えてもらうんだろー? スターやヒソカクラスと戦えるようになるためには多分だけど必要なものなんだよ!」

「そうなの?」

「そうなの!」

 

「……ちょっといいですか?」

 

「はい?」

「私、ここには参加してないんですけど、出来れば私にも“念”を教えてもらいたいんですけど……」

「あなたも? ……ですが、あなたも使えるのでは?」

「私も彼に聞いただけですけど、彼と同じタイプらしくて」

「つまり、あなたも意識して“念”を覚えるために鍛えたことはないと」

「はい」

「……そうですか。では、彼らが200階まで上がれたら、その時にはあなたも2人と一緒に来て下さい」

「わかりました。ありがとうございます」

 

「俺も!」

 

「え、あなたは天然とはいえ必要ない気が……私より強い感じがしますし、教えることなんて」

「ダメだ教えろ! ポンズと2人きりで手取り足取りなんて俺は許さんぞ!」

「……はぁ」

「別に2人きりというわけでは……それにそんなことしませんよ」

「どうだかな! やましい気持ちがないなら俺にも教えられるはずだ!」

「……わかりました。ならその時はあなたにも一緒に教えます。まあ、教えるとは言っても、あなたの場合、意識せずに行ってるであろうことの確認というか説明みたいな感じになると思いますけど」

「ああ、それでいいぞ」

 

 

~~中略~~

 

 

「いらっしゃいませ。キルア様、ゴン様、ズシ様ですね。チケットをお願いします。――はい! こちらが先程のファイトマネーです」

「152ジェニー……」

「缶ジュース1本分スね」

「1階は勝っても敗けてもジュース1本分のギャラ。だけど次の階からは敗けたらゼロ! 50階なら勝てば5万はもらえるかな」

「5万か」

「けっこうもらえるっスね」

「100階なら100万くらいかな」

 

「「!」」

 

「150階を越えるとギャラも1000万を楽に越す」

「いっ……キルア、前に200階まで行ったんだろ? そのお金は!!?」

「4年前だぜ。のこってるわけないじゃん。全部お菓子代に消えたっつーの」

「200階だと一体、勝ったらいくらになるの?」

「んーとね、さっきも言ったけど、正確には、オレが最後に戦ったのは190階クラスだけど、そこで勝った時は2億くらいだったかな」

 

「「2億が4年で菓子代に……」」

 

「ハンターになると金銭感覚変わるって言うけど、あのコはそれ以前ね……お菓子代払うっての早まったんじゃないの?」

「ポンズが俺のことを心配してくれるなんて……今度こそ本当に愛の」

「違う」

「せめて言わせてくれ……」

「だって違うもの」

「うぅ……」

 

「おい、早く行こーぜ。オレ達、前の試合でダメージなかったから、きっと今日もう1試合組まされるぜ」

 

 

~~中略~~

 

 

「キルア、こっち! 見て! 6万ももらっちゃった。少し時間がかかったね」

「ああ、ちょっと手こずっちまった」

「けっこう強かったんだ?」

「いや全然。素質はあるよ。あいつ強くなる。でも、今はまだオレから見りゃスキだらけだし、パンチものろい。殴りたい放題だったよ。なのに倒せなかった。やっぱ“念”だよ“念”。あいつ多分それで防御しやがったんだ」

「“念”って防御の技だったの?」

「いや、そーゆーわけでもないんだろうけどよ。けど、攻撃にうつるためか、構えを変えたとたん、兄貴と同じイヤな感じがしたし間違いないぜ。まあ、それはあのメガネニイさんに止められたけどな」

「ふーん」

「ふーんってお前……」

「どっちにしても200階に行けば教えてもらえるんでしょ?」

「そりゃまーそうだけどよー。ちっとは考えるとかな……」

「あ、スターとポンズだ! おーい! こっち!」

「聞けよ!」

 

「おう。儲かったぞ」

「儲かった?」

「あ、スター! さては、オレ達の試合で賭けてやがったな!」

「ふふ、その通りだ! お前達のファイトマネーよりよっぽど儲かったぜ」

「なにー! こいつムカつく! わざと敗けてやろうか……」

「そうしたら“念”を覚えるのが遅くなるだけだぜ」

「ぐ……ちくしょー! お前の金でお菓子買い漁ってやるからな! ゴン! 行こうぜ!」

「あっ、待ってよキルア!」

 

 

~~中略~~

 

 

「……こんなに楽してお金って手に入れてもいいのかしら?」

「別にいいだろ。あって困るもんでもないし、希少生物の保護だとかそーゆーのは金かかるんだろ?」

「まあ、そうだけど……私、初期の活動資金とかそれなりに苦労して溜めたのよ? それがあっという間に倍々で膨れ上がってくんだもの。信じられないっていうか、金銭感覚おかしくなってる」

「あいつら全然負けないからなー。クラス的にそれも当然といえば当然だけど。ポイント予測して倍率上げなくても、持ってる金を全部賭けてるだけでも余裕だもんな。上限あるけど」

 

「つーか、それが納得いかねえんだよ! だから、なんでオレらのファイトマネーよりも断然多く儲けてんだ、スター!」

「金を稼ぐために必要なのは自分で動くことよりも真実を見極める目だってことだ。別にお前らに賭けなくたって他の奴でも俺は稼げるぜ。闘士は特権でもない限り賭けられないからお前らはムリだけどな」

「ぐぬぬ……」

「まあまあ、お前らだって億越えしたんだから充分だろ。それにこれでウイングとの約束も達成なんだから」

「そうだよキルア! これでキルアが気になってた“念”っての教えてもらえるじゃん!」

「……ああ、まあな。ちっ。確か連絡先聞いてたよな。とっとと連絡してくれよ」

 

「まずは、おめでとう。ゴン君、キルア君。君達の実力を疑っていたというわけではないけれど、それでもこうも簡単に200階に到達してしまうとは思っていませんでした」

「ああ、それはいいんだけど。あんたがそう言うから、オレ達まだ登録してないんだよね。登録今日中なんだけど」

「わかっています。まあ、それは彼か私が一緒に行けば問題ないでしょうが、一応君達には先に伝えておきたかったのでこうして呼びました」

「どういうことだよ?」

「あのクラスにいるのは全員“念”の使い手です」

 

「「!」」

 

「ですので“念”を知らない者はあまりに無防備。他の闘士による新人潰しとでもいうべき洗礼を受けることになります。前にあなたのお父さんがその時点で帰らせたというのも、この事実を知っていたからでしょう」

「……なるほどね。んで? “念”ってのはすぐに覚えられるわけ?」

「誰もに眠れるこの力を目覚めさせる方法は2つ。ゆっくり起こすか。ムリヤリ起こすか」

「違いは? 当然早い方がリスクがあるんだろうけど」

「その通り。ムリヤリ起こす場合に取る方法は、君達に私のオーラを送るというもの。私のオーラを君達の体内に一気に送ることによって、精孔というオーラを身体にめぐらせるための穴をこじあけます」

「それ、危険なのか?」

「……まずは見せましょう。――これが“念”です」

 

「「「!!?」」」

 

「壁にヒビ……! というか穴が! 触れただけなのに!」

「私のオーラを攻撃に使いました。オーラを送るというのはこういうこと。もちろん君達の身体を壊すことが目的ではないから手加減はするが、未熟な者、悪意のある者が行えば、死ぬことだってある!」

「だけど、ウイングさんは未熟でもないし、悪意もない。でしょ?」

「……それでもこれは外法。私としては君達にゆっくり起こす方を選んで欲しい」

「そっちだとどれくらい時間がかかるのさ」

「その本来の方法は瞑想や禅などで自分のオーラを感じとり、体中をオーラが包んでいることを実感した上で少しずつ開くもの。だから時間がかかります。天性の才能を持つと言えるズシで3ヵ月――しかし、君達なら1週間! あるいはもっと早く目覚めるかも」

「でも、今日中はムリなんだね?」

 

「おそらく……」

 

「んじゃ、決まりだな。保護者連れで登録に行くなんて冗談じゃないぜ。対等な関係なら問題ないけどな」

「うん!」

「君達はそう言うだろうと思ってました。もっと早くにこの事実を伝えてたとしても、何かと理由をつけてそうしていたでしょう」

「だろうね。仮にそっちの方法しかないって言われても、信じなかった可能性も高いよ。オレ、ウソを見抜くのとかけっこう得意だしさ」

「……それでは、上着を脱いでこちらへどうぞ。そして背を向けて下さい」

「お前! 色々ともったいつけておいて、結局ポンズにセクハラする気か!」

「アンタねえ……」

「いえ、ポンズさんの精孔は既に開いているので、オーラをとどめる技術“纏”を覚えるところからで問題ありません。あなたはそれも必要ありませんし、これをやる必要があるのはゴン君とキルア君の2人だけです」

「なら許す!」

「これで、今日中……登録には間に合うんだよな?」

「君達次第です。では、始めます」

 

 

~~中略~~

 

 

「や★」

「――なっ、ヒソカ!!?」

「彼がいるから大丈夫だと思っていたけど、ちゃんと“念”を覚えてからここに来たようだね◆」

「どうしてお前がここに!!?」

「別に不思議じゃないだろ? ボクは戦闘が好きで、ここは格闘のメッカだ▲ 君達こそ何でこんなトコにいるんだい? ――なんてね★ もちろん偶然じゃなく君達を待ってた◆」

「ストーカーかよ」

「そう言うなよ▲ 君“天然もの”だし、そういうこと無頓着っぽいから、もしも彼らが“念”を覚えずに来たら止めてあげようと思ってね★ う~ん、ボクって親切◆」

「まさか、そっちから現れるとは思わなかったよ。手間がはぶけた」

「くっくく★ “纏”を覚えたくらいでいい気になるなよ▲ “念”は奥が深い◆ はっきり言って今の君と戦う気は全くない▼ ……だが、このクラスで一度でも勝つことが出来たら相手になろう★」

 

「――それよりも、君▲ ここ……っていうか、250階のフロアマスターだったんだね★ かち合わなかったから気付かなかったよ◆ バトルオリンピアの方にはまだ参加したことないみたいだけど▼」

 

「「「えっ!!?」」」

 

「250階ってフロア的には一番上――最上階!!?」

「ホントなのかよ!!?」

「まあなー。ほら、俺“ヒーロー”だからさ。世界のあちこちを回ってたし、いろんなイベントごとに参加してたからな」

「何で言わなかったんだよ!」

「いや、別に聞かれなかったから。わざわざ言うことでもなかったしさ。ここを出たのはハンター試験のちょっと前だけど、お前らがいなければまた来なかったし、そうしたら登録切れでフロアマスターじゃないしな。まあ、そのまま251階の殿堂入り?」

「何だよそれ! つーか、ここのラスボス、お前かよ! ネタバレはえーよ!」

「まあ、現実なんてそんなもんだ。調べればすぐわかることだしな」

「握手とか写真とか頼まれてたのはそういうことだったのね。理由訊いても“ヒーロー”だからとか、余計なことしか言わなかったから無視してたけど」

「君とも戦いたいけど、ここじゃないかな▲ 君との戦いにはルールとか必要ないし、観客を虐殺しようとでもすれば、君もやる気になるかも知れないけど、微妙にボクの趣味とはズレる★ それにそれやるとボク自身今後動き辛くなってやっかいだ◆」

「そもそも俺にその気がないんだが。素敵な女性からの誘いならともかく、お前じゃな」

「ボクは本気の君とヤれるなら、“性転換”するのもアリだけどね★」

「うげっ……」

「冗談だよ★ 今の相手は君じゃなくてゴンだしね▲ じゃ、ゴン、ボクのところに来るのを待ってるよ◆」

「ああ! すぐに行ってやるさ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「お帰りなさいませ、スター様」

 

「「「「「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」」」」」

 

「おおー。うちは執事ばっかだから、こーゆーのもいいな~」

「この人達、スターが雇ってるの?」

「雇ってるつーか、フロアお付きのって感じだな。まあ、一覧から選んだりすることも出来るみたいだけど、俺、雇い雇われの関係って苦手でさ。やっぱ、女性とは基本的に対等な関係の方がいいね」

「へー……」

「何その全然信用してなさそうなジト目は」

「そう思うなら、何かやましいことでもあるんじゃないの」

「ないって! マジないって!」

「そう」

 

「うわー! 中も広いし、豪華ー!」

「確かにまんま、ホテルのVIPルームとかそんな感じだな。お! ゲーム機とかも全部揃ってんじゃん!」

「まあ、正直高さ以外は“ハンター証”使ってホテル借りるのとそれほど変わんないけどな。だから、わざわざ戻って来なかったわけだしさ」

「メイドもでしょ」

「まだ言ってるのかよ……」

「事実じゃない」

 

「“クラウディオス・E・T・スター”……歴代最強と名高い最速無敗のチャンピオンねえ」

「俺のことだな。ふふ、俺に興味津々だな、ポンズ!」

「別にー」

「えっ、ちょっと待って! スターってファミリーネームだったの?」

「ん、まあな。俺の名前ちょっと長いしさ。名乗る時はスターって名乗ってるんだ。そうだ! この機会にポンズは俺のことを“クー”って呼んでくれていいぜ! 特別な相手だけの愛称だ」

「……遠慮します」

「遠慮された!!?」

「オレが呼んであげるよ!」

「男はガキでもダメだ!」

「ええー?」

 

「お。ゴン! お前の戦闘日決定だってよ! こっちに回してもらってたから――ってか、はやっ。11日つったら明日じゃねーか」

「――たぶん明日は勝てない。でもいいんだ。早く実感してみたいんだ。この力で、一体どんなことができるのか」

「でも、本当によかったの? 2ヵ月間は戦わないで下さいって言われてたじゃない。怒られるんじゃないの?」

「う、ウイングさんには終わってから謝るよ」

「別にいいんじゃねーの。お前らと戦いたいって奴ら、たいしたことなさそーだったしさ」

「そりゃ、あなたにはそうかもしれないけど……」

 

「あれ……? そういや、スターって参加者なのになんで賭けに参加出来たんだよ?」

「フロアマスター特権。ほら、200階以上のクラスになると単純なファイトマネーはなくなるからな。まあ、ここにいれば一般に出回ってる物なら電話一つで何でももらえるから、金とかそんなに意味ないんだけど、今更八百長もないし解禁されるわけだ」

「ふーん……なるほどね」

「それでも、上限はあるぜ? 一試合で1億まで。VIPでもなければ1000万だから一桁上がってるけど、ここの住人が全財産とか毎回賭けたらさすがに回らなくなる可能性が高いからな。あと八百長ないって言っても自分の試合に賭けるのはNG」

「まあ、そんくらいなら大手のカジノとかの方がよっぽど稼げるもんな。強さ計れるからこっちの方が確率は断然高いかもしれねーけど」

「金稼ぐだけなら190階辺りでうろちょろしてるって手もあるぜ? やりすぎると目付けられて、最悪消されるけど」

 

 

~~中略~~

 

 

「右腕、とう骨、尺骨完全骨折、上腕骨亀裂、ろっ骨3ヵ所完全骨折、亀裂骨折が12ヵ所。全治4ヵ月だとさ。このドアホ」

「……ゴメン」

「オレに謝ってもしかたねーだろ。一体どうなってんだこの中はよ!!? あ!!?」

「うーん、あの攻撃でそうなるなんて、ゴンは器用だなー」

「あなたも感想間違ってるから。……はぁ。けど、“纏”を解くなんて、ホントやりすぎよ?」

「そうだぜ、もっと言ってやってくれよ! これじゃ普通に洗礼を受けたも同然じゃねーか! 一歩間違えば、お前もああなってたんだ! この程度で済んだこと自体幸運なんだぞ!」

「う~……でもさ。大丈夫かなって思ったんだよね。何回か攻撃を受けてみて……まあ、急所さえはずせば死ぬことは……」

「死ななきゃいいってもんじゃないでしょ……」

「そうそう――はいよー。開いてるぜ」

 

 

~~中略~~

 

 

「で。あのコは今度こそ2ヵ月間、試合禁止――というか“念”を禁止されたわけだけど……あなたはどうするの?」

「どうするって?」

「登録期限切れるんでしょ? フロアマスターじゃなくなれば、あのフロアも使用禁止じゃない」

「あ、そういやそうな。登録だけして不戦敗でもいいけど……せっかく、ここにいる上、無敗で通してんだし、一回くらい戦うか」

「そう、まあ好きにしなさいよ。私はここら辺の斡旋所とか回ってみるわ。思ってたより長くここにいることになりそうだし、仕事の一つもしないとね」

「“念”の修業は?」

「するけど……私もあのコ達と同じ条件でもいいかなって」

「余裕見せると置いて行かれるかもしれないぜ?」

「余裕じゃないわよ。それにあのコ達の才能も理解してるつもり。だからこそ、基礎で差がつくのは困ると思って。基礎の基礎“念”の前の燃える方の“燃”ってやつからしっかりやることにするわ」

「あー、ポンズのそーゆートコ、やっぱりすごくいいな」

「何よそれ……」

「ん、電話だ悪い。――クラピカか。どうした?」

 

『突然の電話ですまない。スターに少し聞きたいことがあるのだが』

「なんだ?」

『前に“念”というものについて話をしていただろう。それについて聞きたい。スターやヒソカは“念”能力者と呼ばれる者なのだろう?』

「ああ。それで“念”の何を聞きたいんだ?」

『まずは概要を。“念”とはその名称から察するに思いとか精神的なもののように感じるのだが、それで目に見えないものを見ることが出来るようになったりはしないか?』

「目に見えないもの? んー、たぶんそうだな。俺はいつも見えてるから、そう言われても困るけど、オーラとかは具現化したりしないと一般人には見えないらしい」

『オーラ……。つまり“念”とはオーラを扱う技ということか?』

「ああ」

『それはどうすれば覚えられる?』

「ん、“念”能力者の師匠を見つければいいんだよ。こっちもちょうどゴン達が教えてくれる人を見つけたところだ。俺は鍛え方とか知らなかったからな」

『そうか……ゴン達も』

「俺達、天空闘技場にいるけど、クラピカも来るか? 俺からその人に頼んでやるぜ?」

『……いや。師匠は自分で見つけることにする。どうやら、これは裏ハンター試験とでもいうべきもののようだからな』

「裏?」

『ああ、おそらくだが“念”が使えないという理由から斡旋所で門前払いを受けてな。スターの出す威圧感やキルアと話していたことを思い出して、こうして電話をかけてみたんだ』

「“念”が使えないと仕事を回してもらえないのか?」

『個人ならともかく、斡旋所を通す場合はそうだろうな』

「そうか。それで他に訊きたいことは?」

『いや、充分だ。ありがとう。助かったよ。そちらは何か困っていることはないか?』

「大丈夫だ」

『そうか。ではこれで。次は本当にヨークシンでとなると思う。それじゃあ、また』

「ああ、またな」

 

「――あ、終わった?」

「ああ。待たせてごめん」

「“念”のことを聞かれてたみたいだけど」

「それなんだが、なんか“念”が使えないと斡旋所で仕事を回してもらえないみたいだぜ? 裏ハンター試験とか言ってた」

「えっ、そうなの? んー……じゃ、斡旋所に行くのはちゃんと“念”を覚えてからの方がよさそうね……軽い仕事くらいは受けてみたかったんだけど」

「俺がなんか受けて来てやろうか?」

「それはしなくていいわ。基準条件は自分でクリアしないと意味ないから。しばらくは修行の日々ね」

 

 

~~中略~~

 

 

「いよいよ今日から“発”の修行に入ります。これをマスターすれば“念”の基礎は全て修めたことになります。あとは基本に磨きをかけ創意工夫をもって独自の“念”を構築していくだけです。それでは始めましょう」

 

     強

    / \

   放   変

   |   |

   操   具

    \ /

     特

 

 強化系:ものの持つ働きや力を強くする。

 変化系:オーラの性質を変える。

 放出系:オーラを飛ばす。

具現化系:オーラを物質化する。

 操作系:物質や生物を操る。

 特質系:他に類のない特殊なオーラ。※後天的に特質系オーラに変わるケースがある。

 

「これが属性の愛称を示す表。六性図です。近いものほど会得の相性がいい。例えば生まれもつオーラの質が強化系ならば強化系の能力の覚えが最も早く力がつきます。そしてとなり合う変化系、放出系も相性がいいので覚えやすい」

「じゃ、強化系なら特質系が一番覚えにくいってことか」

「その通りですが、特質系は元々覚えようと思って覚えられるものではありません。血統だったり特殊な環境で育ったりが作用する個性的な能力の総称とでも言いますか……この位置にあるのは後天的に特質系に変わる可能性が高いのがとなりの二つだからです」

「“天然もの”ってこと?」

「いえ、それも少し違います。“天然もの”というのはある人物が“念”を知らないで何かを極めたときに、実は知らず“念”を使っていたような、そんな誰にも師事せず独力でそこに辿り着いた者達のことを言います」

「俺とポンズのことだな! 俺とポンズの!」

「そこ強調しなくていいから」

「つまり強化系に目覚めてようが変化系に目覚めてようが、独力でなら“天然もの”ってことなわけね」

「そうです。まあ、“天然もの”といえば、特質系をイメージするのも間違いではありません。流派的に独自の道を突き進んでいるようなものですから」

「それで、自分のオーラがどの系統に属してるかなんて調べる方法があるの?」

「あります。――水見式。心源流に伝わる選別法です。“発”の修行としてもこれを用います。ここに手を近づけ“練”をおこなう。その変化によって資質を見分けます」

「水が……すごい勢いで増えてる!!?」

「“水の量が変わる”のは強化系の証。私のオーラが強化系の性質に属していることを示しています。――さあ、順番に試してみなさい」

 

「お!ゴンも強化系か」

「――葉っぱが動いてるっス!」

「“葉が動く”のは操作系の証です」

「おー」

「よっしゃ、次はオレだな。……何も変わんねーぞ」

「そうですね」

「もしかしてオレって才能ねー?」

「いえいえ、水をなめてみて下さい」

「……少し甘い……かな?」

「ホントだ。これ、ただの水じゃないの?」

「“水の味が変わる”のは、変化系の証です」

「じゃ、私ね」

「お、水の中になんか出てきた」

「“水に不純物が出現”するのは具現化系の証です」

「具現化系……」

「ポンズさんは蜂を自在に操るということで操作系かとも思いましたが、“念”で作った空間から蜂を取り出していたという解釈の方が重要で正しいようですね」

「俺が言った通りだな!」

「そうみたいね」

「ええ。蜂そのものを具現化させているというわけでもなさそうですからね。ただ、操作系よりの具現化系とは言えるかもしれません」

「ふーん……確かに一度見せてもらったけど、なんかすげー数出てきたもんな。その帽子に入ってるってよりは納得出来るか。蜂は普通の人でも訓練すればそーゆーこと出来るかもだしな。でもそれ、特質系よりじゃねーの? 覚えられないからか?」

「その通りです。まあ、具現化系と操作系は間に特質系を挟んでいるので、両方を覚える際の覚えやすさは、強化系を覚える際のそれと同じってことになるのですが」

「それ、私達だけ損してないですか?」

「そうっスよ」

「こればっかりは系統の特性なので仕方ありません」

「むぅ」

「それじゃ、最後は俺だな」

「あっ、ちょっと待ってくだ――」

 

「「「「あ」」」」

 

「うわ、なんかすげーこぼれた」

「床まで水浸しだぜ」

「スターも強化系なんだね!」

「はぁ……スター君は“練”を覚えてから“発”をしなくても、かなりのオーラが出せるようになってるんですから、加減して下さいよ」

「わりわり」

「まあ、見てわかる通り、オーラ量によってこれらの変化はより顕著に出るようになります。これから4週間はこの修行に専念し、それぞれ今の変化がより顕著になるように続けなさい」

 

「「「押忍!」」」

 

「はい」

「わかった」

「いえ、スター君はやらなくてもいいです。本気でやると大変なことになりそうなので」

 

※水見式オーラ選別法

 

グラスにたっぷりと水を入れて、その上に葉っぱ(軽くて浮くものなら何でもいい)を浮かべ“錬”を行う。

その時の変化で自分のオーラがどのタイプに属するかがわかる。

 

 強化系:水の量が変わる。

 変化系:水の味が変わる。

 放出系:水の色が変わる。

具現化系:水に不純物が出現。

 操作系:葉が動く。

 特質系:その他の変化。

 

「そういや、ヒソカの“念”能力が“オーラをゴム状に変える”変化系ってのはわかったけど、スターのはただオーラを強化しているって考えでいいのか?」

「……そうですね。キルア君は今、簡単にオーラを強化していると言いましたが、スター君の“念”は強化系の“極み”とでも呼べる能力です」

「“極み”?」

「例えば――個人の持つオーラの総量を100とします。それで攻撃力50、防御力50とオーラを割り振ると、それは全体攻防力50といわれる状態になります。その攻防力を変化させることを“流”と呼びますが、それが“念”を使った戦闘の基本体系です」

「つまりオーラを攻撃に使うか防御に使うかを戦闘中に考えながら変化させるってことか?」

「そうです。まあ、基本体系とは言っても戦闘で使えるレベルでそれをやるのは非常に難しく、上級者の技と呼べます。軽く解説するなら“凝”で相手のオーラを見ながら、“流”で相手に合わせて各部位のオーラ量を調整するといった感じです」

「基礎を組み合わせた応用編ってわけね」

「はい。そうやってオーラを細かくやりくりすることで、相手より優位な状況を作り出すというのが“念”を使った戦闘です。例え“発”で独自の技を開発したとしても、それが根幹をなすことには違いありません」

「だろうな。それで?」

「そう。それが普通のやり方。これを六性図で考えるなら、強化系はオーラ総量の100まで全てを攻防力に割り振ることが出来る。100%中の100%ですね。それが変化系だと80%までとなる。これが系統による違いです」

「それは自身を強化するってだけだとオーラを使い切れないってことか?」

 

「……わかる?」

「な、なんとか大丈夫っス」

 

「ええ。その分の違いを“発”によってそれぞれの系統ごとの技を開発することで補う。強化系は基本的にそうして己の肉体や武器の威力を強化するだけですから」

「なるほどね。“発”がなければ最強だけど、“発”によっては覆せるわけだ」

「そうなりますね。それぞれの系統間の差は20%くらいと考えていいでしょう。具現化系ならその攻防力に使えるオーラは総量の60%までということですね。それはそれぞれの系統の覚えやすさとも直結してます」

「ああ、さっき言ってたやつね。オレの場合は変化系100%、強化系80%、具現化系80%って感じになるってことだろ?」

「その通りです。そして他のどんな系統でも特質系は0%になりますが、それも先程言った通りですね」

「それで、それがスターの“念”とどう繋がるのさ」

「スター君の“念”はつまり言葉にするなら“反則的な強化”。他の人達がそうして100というオーラの総量の中でやりくりしているのを、200にして強引に押し通すようなもの。つまり攻撃力にも防御力にも100のオーラを割り振っているわけです」

「そりゃ確かに反則だな……」

「そうっスね」

「ええ。例えば“流”で右手だけにオーラを集めることで全体攻防力をある程度維持しながらも、右手の攻防力だけを上げる――なんて、過程はまるで必要なくなるということです。まあ、やればやったでその分多くのオーラがそうなるわけですが」

「すげーズリーじゃん! そんな“念”があるなら、誰だってそうすればいいんじゃねーの?」

「そうですね。――ですが、ここで資質の問題が関わってきます。“オーラの総量を増加”させるというスター君の“発”。それはスター君だから覚えられた、スター君の“個性”と言うわけです」

「……それは例えば同じ強化系のゴンやあんたでも覚えられないわけ?」

「真似事なら出来る可能性はあります。生涯かければ、オーラの総量の100を150に増加させる“発”を覚えられるかもしれません。でも、決して自力でその境地に辿り着いたオリジナルには敵わないでしょう」

「つまり、真似するくらいなら、自分に合った“発”を考えた方がいいってことか」

「ええ、そうですね。ただ、今はスター君の“念”を解説するということで上級者の話なども交えました。今の君達に必要なのはあくまで基礎力の向上。今から戦い方を考えるのはいいですが、考え過ぎて、それが疎かにならないようにね」

 

「「「押忍!」」」

 

「(彼らにはああ言ったが……制約と資質、それで本当にああもオーラの総量を増加させることが可能なのか? いや、しかし元々そうだとすれば彼にとって“念”とは“特別なもの”ではなく、ただの枷ということに……そんな人間いるわけがない。いるわけが)」

 

 

~~中略~~

 

 

「――さあ、それでは修行の成果を見せてもらいましょう」

 

「おお! すげー勢いだぜ!」

「よろしい。次、キルア君」

「おう。――いいぜ」

「すごく甘い! ハチミツみたいだよ!」

「まったく……たいしたものです。ポンズさんもやっておきますか?」

「はい」

「お、おお! ビー玉? いや、水晶か?」

「俺にくれっ!」

「え、いいけど……」

「やった! ポンズにプレゼントもらった。今度お返しするから」

「別にお返しなんていらないわよ」

「いや、する!」

「……じゃ、勝手にすれば」

 

「スター君は必要ありませんね。――よろしい。君達は今日で卒業です」

 

「「「!」」」

 

「そして、ゴン君。それから一応スター君とポンズさんも。裏ハンター試験合格! おめでとう!」

「え?」

「念法の会得はハンターになるための最低条件。なぜならプロのハンターには“相応の強さ”が求められるから。――しかし、悪用されれば恐ろしい破壊力となるこの能力。公に試験として条件化するのは危険。それゆえ表の試験に合格した者だけを試す」

「なんだよ。最初からオレ達に教えるつもりだったのかよ」

「ええ。一応君達であると確認を取るために時間をもらいました。ちなみに心源流拳法の師範はネテロ先生ですよ。君達のことは師範から色々聞きました」

「あのジジイか……」

「キルア君、ぜひもう一度試験を受けて下さい。君なら次は必ず受かります。今の君には十分資格がありますよ。私が保証します」

「……ま、気が向いたらね」

「ねぇウイングさん。他の人達が今どんなか聞いてる?」

「ええ。ハンゾーとクラピカは別の師範代の下、すでに“念”を会得しました」

「!」

「ギタラクル――イルミとヒソカは初めから条件を満たしています。レオリオは医大試験受験後に修行を開始するようです。ポドロは“練”の習得にかなり手こずってるようですね」

「みんながんばってるんだね!」

「だな」

「最後に一つ忠告です。明日の試合、くれぐれもムリをしないように!」

「はーい」

 

「――ズシ、あなたはあと4週間同じ修行です」

「押忍……!」

「自信を持ちなさい。あなたの上達の速さは並じゃない。10万人に1人の才能です」

「押忍!」

「ただ、あの2人が1000万人に1人の才能を持っており、スター君やポンズさんはすでに目覚めていたというだけです。まあ、スター君はその中でもかなり特殊ですが」

「押忍!(なぐさめになってないっス……)」

 

「――でも、絶対いつか追いついて見せるっス!」

 

 

~~中略~~

 

 

『ゴン選手! VS ヒソカ選手! いよいよ注目の一戦が始まろうとしております!』

 

「くくく、どうした? まだボクは開始位置から動いてさえいないんだけどねェ……◆」

「え、ホント!!? くそ~見てろよ」

 

『クリティカル! 2ポインッ! ゴン!』

 

『おおっと、試合開始から始めて動いた! 口元には薄く笑みを浮かべております! ここからが本当の勝負ということかー!!?』

 

『お!!? おお!!? おおー!!? 今のは一体何だったんだー!!? わからーん!!!』

 

「“念”について……どこまで習った?」

「? 基礎は全部」

「そうか、君、強化系だろ?」

「えっ、なんでわかるの!!?」

「くくく、君はカワイイなぁ★ ダメだよ、そんなカンタンにバラしちゃ▲」

「~~~うるさいな。なんで、わかったんだよ」

「血液型性格判断と同じで根拠はないけどね◆ ボクが考えたオーラ別性格分析さ★ ――強化系は単純一途★」

 

「(あってる……)」

「(あってる……!)」

「(あってるわね……)」

 

「ちなみにボクは変化系◆ 気まぐれでウソつき▲」

 

「(あってる……!)」

「(あってる……!!!)」

 

「ボク達は相性いいよ★ 性格が正反対で惹かれあう★ とっても仲良しになれるかも◆ だけど、注意しないと。変化系は気まぐれだから、大事なものがあっという間にゴミへと変わる▲」

 

「ヒソカ! 具現化系は! 強化系と具現化系の相性は!!?」

「アンタねえ……」

「操作系! 操作系も教えてくれるように頼んでほしいっス!」

 

『おーっと!!? あれはこの天空闘技場のチャンピオン、クラウディオス・E・T・スターだ!!! ヒソカ選手と知り合いなのでしょうか!!?』

 

「……具現化系は神経質▲」

「なるほど! マジメってことだな」

「(……私、そこまでかな?)」

「ちなみに強化系との相性は普通▼」

「ウソだ!」

「ホントだよ★ 六性図知ってる? 相性はあれの関係と同じ◆ 同じ系統だと同族嫌悪ってこともあるけどね▼」

「ウーソーだー!」

「君もしつこいね▲ じゃ、相性は普通で+も-もないんだから自分次第って言い換えてあげるよ★」

「自分次第か……なら、まぁ」

「……」

「操作系! 操作系も聞いて欲しいっス!」

「わかったわかった。じゃ、操作系は? つーか、全部教えろ!」

「ワガママだな▲ 操作系は理屈屋かマイペース◆」

 

「「(あってる……!)」」

 

「……あってますね」

「え、自分ってそう見えるっスか?」

「放出系は短気で大雑把▲ そして特質系は個人主義者、カリスマ性有りって感じかな★」

「なるほど……!」

 

※ヒソカのオーラ別性格分析

 

 強化系:単純で一途。

 変化系:気まぐれでウソつき。

 放出系:短気で大雑把。

具現化系:神経質。

 操作系:理屈屋、マイペース。

 特質系:個人主義者、カリスマ性有り。

 

「さて――じゃ、そろそろ再開しようかゴン。ボクを失望させるなよ」

「!」

 

『勝負再開!!! お、速い! 速い!!! 速ーい!!!!! 見せたヒソカ! 本気です!!!』

 

「あーあ、敗けたな、ゴン」

「え?」

「“凝”」

「! あれは……一体いつ?」

「性格分析でゴンを指差したとき」

「最初じゃない!」

「ちょっと時間稼ぎしてやったのにな」

「……聞きたかっただけでしょ」

「はははっ!」

「笑って誤魔化した!」

 

「これ“伸縮自在の愛(バンジーガム)”っていうんだ▲ よく伸び、よく縮む。つけるもはがすもボクの意志▼ もう逃げられないよ★」

 

「やっかいだぜ……! 思ったよりずっと性質の悪い能力だ……! ヒソカの“伸縮自在の愛(バンジーガム)”を防ぐためには、ヒソカの攻撃を全てよけなければならない!」

「防御もダメ……! ガードしても、その部分につけられてしまう!」

「……これ、攻略法とかあるの?」

「千切ればいいんじゃね?」

「それはスター君のオーラがあって初めて出来ることです。最低でもヒソカがそれにこめるオーラの総量を上回らなければならない。今のゴン君には到底不可能です!」

 

「(逃げられないなら、向かうまでだ!!!)」

 

『ダウン&クリーンヒット! プラス2ポイン、11-4! TKOにより、勝者ヒソカ!!!』

 

「大した成長だ▲ でもまだまだ実戦不足▲ あと10回位戦れば、いい勝負出来るようになるかもね★ あくまで天空闘技場の中でだけならだけど▼ だからもう、君とはここで戦わない★ 次はルール無しの世界で戦ろう▼ 命を懸けて▼」

 

 

~~中略~~

 

 

「――さて、ともかくこれでようやく目標クリアだな」

「うん」

「さあ、もうここには用がねーし、今度はお前ん家行こーぜ!」

「ホント?」

「おう、“ミト”さんにも会ってみたいしさ」

「それって、俺らもか?」

「うん、ぜひ来てよ! オレもみんなのこと紹介したいしさ!」

「ホントに私達も行っていいの? なんか邪魔じゃない?」

「そんなことないって! ミトさんだって絶対歓迎してくれるよ!」

「そう……なら、いいかな」

「ゴンの故郷ってどっかの島だよな?」

「そうだよ! くじら島っていうんだ! いいトコだよ!」

「島かぁ。ちょっと楽しみかも」

「ぜひ水着を用意して行くべきだ!」

「え、水辺の生物は……私の能力との相性も悪いじゃない」

「能力とかそんなの関係ない! 蜂のコ達だって休みたい日もある! なんかあっても俺が守るから、一緒に海水浴に行こう!」

 

「……必死だな、スター」

「ポンズもなんでスターに付き合ってあげないのかな?」

「さあな。……まあ、スターも美人とか見るとすぐ声かけるような奴だからな」

「そういえば、一番最初に会ったときクラピカにも声かけてた」

「えっ、何それ、オレ知らねー! 笑える話か?」

「えっとね……」

 

 

~~中略~~

 

 

「――ミトさーん!」

「ゴン!!?」

「ただいま! ミトさん」

「うん。おかえり、ゴン。――こっちの子達は?」

「えっと、友達のキルアと」

「ども」

「オレと同じ試験で合格した同期のハンターのスターとポンズ」

「初めましてポンズです」

「綺麗な人だ! 好きです!」

「は?」

「――ゴン、これからは俺のことを“お義父さん”って呼んでいいぞ!」

「えっ、何言ってるのスター?」

「始まったよ……どう考えてもこれだよな。スターがポンズに拒否られてる理由」

「……」

「あはは、なんかおもしろいお友達ね」

「初見で受け入れたー!!? 地味にスゲー!」

「ミトさんは酒屋を営んでるから、そういうのは慣れてるんだ」

「スターは酔っ払い扱いかよ」

「あ! 俺、洗濯物取りこむの手伝います!」

「えっ、そんなことしなくていいわよ。お客さんなんだから」

「大丈夫! 俺とミトさんの仲ですから!」

「そう? なら、お願いしようかしら」

「任せてくれ!」

「おお……ツッコまないで流した。マジでスゲーな」

 

「あーもー! 帰ってくるなら先に教えてよ。何にも用意してないわよ」

「いいよ、テキトーで」

「何言ってんの。せっかくお友達も来てるのに」

「いえ、おかまいなく」

「合格したって、電話くれてから全然連絡ないし、心配してたんだからね!」

「あ、何か手伝おうか」

「いーから座ってて」

「ならば俺が!」

「あなたも。洗濯物を取りこむのを手伝ってくれただけで十分よ。そーだ、ゴン。ゴハン作る間にお風呂入んなさいよ。あ、ポンズさんが先の方がいいかしら。それと、服も全部出しといて、洗濯するから」

「うん、あとで」

「今! 10秒以内! いーち」

 

「いつもあーか?」

「だいたい」

「ポンズに負けず劣らず素敵な女性だ!」

「……それ言われて、私にどんな返答を期待してるわけ?」

「結婚しよう!」

「しません」

「大丈夫! 俺は“ハンター証”の力ですぐにでも一夫多妻制が可能な国籍になるから!」

「そんなことに使うな!」

 

「「「「いただきまーす」」」」

 

「……試験、どうだった?」

「やっぱり大変だったよ。会場まで辿り着いたのがたった400人位で合格したのその中の9人だもん。そーだ、見て! これが“ハンター証”」

「ふーん、けっこう普通ね。……えい」

「わーーーっ! 何すんだよ、もーーー!」

「冗談よ。本気でやるわけないでしょ」

 

「アレ、ゼッタイ本気だったぜ」

「うん!」

「お弁当作ろうかー!!?」

「いいよ。森で何か採って食べる」

「よし! 俺達は海に行こうポンズ!」

「……えー」

「すごく行く気がない!」

「…………はぁ。まあいいわ。私達はちょっとお邪魔っぽいしね」

「やった!」

「はしゃがないでよ。子供じゃないんだから」

「子供でもいい。ポンズの水着姿が見れるなら!」

「……水着は着るのやめようかな」

「何ーーー!!?」

 

 

~~中略~~

 

 

「なるほど。んで、これがその箱な。――? あれ、これどーやって開けるんだ?」

「うん、色々試したんだけど、どうしても開かないんだよ」

「ちょっと、力、入れていいか?」

「いいよ。オレもやったから」

「――んがっ! ――ダメだな。フツーの箱じゃねーよ。ただの鉄箱だったら、溶接されてたってねじ開けられるのに」

「うん」

「スターもやってみろよ」

「ん、ああ」

 

「「「!!!」」」

 

「うお、なんだよ……」

「箱の中に……また箱が? っていうか今の光は何だったの?」

「……そーか! “念”だよ、“念”! ハンターになったら渡してくれってお前の親父が言ってたんだろ? そんでハンターになれば“念”を覚える! スターの“念”は反射でも出るっつーから、きっと何かに反応して出ちまったんだ!」

「ああ!」

「ただの鉄っきれだ。全然接着した跡もない。――このデザイン、見覚えないか?」

「これって――そうだ! ウイングさんがくれた“誓いの糸”に似たような模様が描いてあった!」

「ああ。あれも“念”を使うと切れるように仕込んでたって言ってたよな。どうやら“念”と似た力がこの模様にもあるみたいだな」

「うん!」

「その箱は空きそうか?」

「えーと、あ! もしかしたらここに“ハンター証”差し込むのかも」

 

「ビンゴ!」

 

「指輪と」

「テープと」

「ROMカード」

 

「――見ろ。指輪の裏にもあの模様。迂闊にはめない方がいいかもな」

「そお? それって“ジン”がオレに何かするかもってこと?」

「念のためさ」

「じゃ、まずテープ聞いてみる?」

「そだな。あ、ダビングの準備もな」

「え?」

「念のためさ」

 

『……よぉ、ゴン。やっぱりお前もハンターになっちまったか。それで一つ聞きたいことがある。お前、オレに会いたいか?』

 

 

~~中略~~

 

 

『……あー、一つ言い忘れたぜ。お前の母親についてだ。知りたければこのまま聞いてくれ。別にいいなら』

 

「いいのか?」

「うん」

「でも、もしかしたら何か手がかりがあるかも知れないぜ」

「ないよ。多分。勘だけど。――それに、言っただろ。オレの母親はミトさん! ゴハン食べよ!」

 

「「「…………」」」

 

「――ゴン! 止めたテープが勝手に動き出したぞ!」

「!」

「デッキにオーラが!!? “念”! “念”でテープを巻き戻してる!!!」

「まさか現在!!? どこかで!!?」

「まさか! “念”をこめたんだよ、10年以上前に! “停止ボタンを押したら巻き戻すよう”に!」

「なんで!!?」

「さーな――! 今度は録音……! そーか! 消す気だ! 自分の音声を!」

「ダメだ止められない! コードも抜いたのに!!?」

「悪いなゴン!」

「え!!?」

「壊すぜ!!! ――くそっ、ダメだ。“念”でガードしてやがる! スター!!!」

「フ、任せろ!!!」

 

「「「「あ」」」」

 

「……悪い。やりすぎた」

「あー! オレのラジカセ! テープも!」

 

「――ふー……。ダビング用のテープもぶっ壊れてる。こりゃダメだな」

「そっか。でも、スターが壊さなくても、もう聞けなくしてたってことだよね。なんでここまでする必要があったのかな」

「手がかりを残したくなかったってことだろな。音声からだけでも相当のデータが得られるから。身長、体重、性別、年齢、顔の造形やら、持病もわかるし、相手の心理状態だって読みとれる。背景の雑音から録音した場所を特定出来ることも多い」

「でも警戒したのはもっと別のことね」

「ああ」

「?」

「“念”能力だよ。機械よりはるかに優秀な解析が可能な“念”能力の持ち主がいてもおかしくはないだろ? 例えば声を聞いただけで相手の全てがわかる能力とか」

「そうか」

「手強いな」

「ん」

「きっとゴンの親父は恥ずかしがり屋なんだな。男がそれでも微妙なだけだが」

「だからあなたは感想がズレてるから」

 

「あと2つか。指輪はともかく、問題はこのROMカードだな。通常規格より小さいね。これ専用のハードがあるのかな」

「え? 知らねーの、ジョイステ」

「ジョイステ?」

「天空闘技場のスターの部屋にもあったじゃん。これはそのゲーム機専用のROMカードだよ。“ジョイステーション”っての」

 

 

~~中略~~

 

 

「“グリードアイランド”……か。知ってる?」

「いんや」

「スターとポンズは?」

「知らね」

「私もゲームはやらないから」

「でも、これでゲーム名もわかったから“トイ・ランド”で取り寄せることが出来るぜ。――それ!」

 

[該当店数は0軒です]

 

「あれ?」

「条件に合う店がないってことだな。即日配達希望にしたからかな? とりあえず売ってる店全部リストアップするか」

 

[該当店数は0軒です]

 

「どーなってんのかな」

「うーん。“トイ・ランド”に登録してる店には一つも在庫がない……つまり売り切れか、このゲーム自体市場に出回ってない可能性もある」

「市場に出てない……」

「つまり、個人がつくったゲームでさ。元々売りもんじゃないか、何らかの理由で発売禁止になってるゲームってこと。――とにかく調べてみっか。“ゲーム年鑑”なら今まで出た市販ゲームが全部載ってるから」

 

[グリードアイランド・ハンター専用ハンティングゲーム・制作発売元 株式会社マリリン]

 

「ハンター専用!!?」

 

[値段 5800000000ジェニー]

 

「――ごっ、58億!!?」

「何それ!!? ゲームソフトでしょ!!?」

「なんちゅーデタラメな値段だ!!?」

「販売個数の100コってのは少ないの?」

「っげー、少ねーよ。ゼッテーなめてる!!! ――でも、わかった。こりゃ完全な売り切れだ。当然だけどな」

「制作元に在庫はないのかな」

「問い合わせてみるか」

 

『“グリードアイランド”ですか。少々お待ち下さい。……そちらはもう絶版になっており、まして再生産の予定はございません。開発は子会社が行ったものですが、既にその会社はなくなっておりまして……』

 

「「うーん」」

 

「ダメだな。中古市場にも出回ってねーや」

「持ってる人を探し出してゆずってもらうしかないわけだね」

「正当な手段で行くと電脳ネットのオークションサイトに告知して、売ってくれる奴が名乗り出るのを待つってのがセオリーだけど」

「――だけど、お金はどーする?」

「う~ん、闘技場の金、2人合わせても8億くらいか」

「あと50億かァ」

「――スター! お前スゲー儲けてただろ。いくら持ってる? ポンズでもいいけど」

「私は……ちょうど50億くらい」

「おまっ!!? 私は関係ないですみたいな顔しといて、オレらの試合でそんな稼いでたのかよ!!? しかも、金なくなってねーってことはゴンが敗けた試合とかはそっちに賭けてたんだな!」

「あ、あはは……」

「スターは?」

「俺は500億。特権で一桁多く賭けられたからな」

「んがっ!!? こいつ……!」

「でもそれならよゆーで買えるね!」

「おいおいゴン。お前もハンターだろ。こーゆーのは自分で手に入れた方がいいんじゃないか? そっちの方が親父を見つけ出したときの達成感も増すぜ」

「あ! そうかも……」

「騙されんなよ。こいつ自分の金使いたくねーだけだぜ」

「はははっ!」

「……図星みたいね。必要なら私が出すわよ? 実際苦労しないで手に入れたお金だもの」

「さっすが、ポンズだな! スターとは違うぜ!」

「う~ん。お金をどうするかはあとで考えるとして、ダメもとで告知だけはしておこうかな」

「あっ、それは止めた方がいいかも……」

「え、なんでだよ。どうせアクセスなんてこねーだろ」

 

「ゲームソフトグリードアイランド求ム。値段応相談、と」

 

「「!!!」」

 

「な……何で!!? あっという間に1万件近くアクセスが……!」

「そうか……こいつら金目当てでニセモノ売りつけようとしてるんだ。額が額だからな……ポンズが言おうとしたのはこうゆうことか!」

「私もレスがこんなに早いとは思わなかったけどね」

「お手上げだな。これ一つ一つとなんて交渉してられねーぞ。第一本物か偽物かもオレ達じゃ判断つかねーし。もっとディープなトコに入りこめば情報も豊富になるけど。オレもあんま詳しくねーしな」

「ゲームと電脳ネットに詳しい人っていないかな」

「いた……両方詳しい奴。つーかアイツだったら“グリードアイランド”持ってるかも」

「本当!!?」

「でもやだなー、こいつに頼むの」

「誰、誰!!?」

「――あ、ゴトー? オレ、キルア。ブタくん呼び出して」

 

 

~~中略~~

 

 

「ワリ! 話の流れでカードのコピーと交換ってことにしちゃった」

「うん、かまわないよ」

「そのかし2つの有力情報得たぜ。まず一つ、ハンター専用のサイトがあるって」

「あ、そうか。“ハンター証”を使うんだね!」

「バカ、ここでやる気か! 自宅のパソコン使ったら住所がバレバレになるだろ。“ハンター証”狙いの子悪党がぞろぞろ島に集まっちまうぞ」

「あ、いけね」

「こうゆうのは公共のパソコンを使ってやるんだよ。ホテルとかサ店とかの。ま、何にせよアドレスがわかるまでサイトにアクセス出来ないけどな。――んで、もう一つがヨークシンのオークション」

「!」

「兄貴はガセかもって言ってたけど、ある人物がゲームを何十本も今年のオークションに流すって情報があるらしい」

「もしかして……その人物がジンかも?」

「ああ、そう考えるとあながちガセじゃないかもな」

「ただしどっちにしろ手に入れるためには、莫大なお金が必要なわけだね」

 

「……いいコンビよね」

「俺とポンズには敗けるけどな」

「どうかしら」

「うー、ポンズはおねーさんだな。その優しさを俺にも使って欲しい」

「周りを変えたければ自分が変わることね」

「……哲学だな」

「どこがよ」

 

 

~~中略~~

 

 

[ハンター専用サイト 狩人の酒場]

 

「あったぜ。“グリードアイランド”。いいネタ頼むぜ」

 

[グリードアイランドか。2000万いただくぜ]

 

「え?」

「さすがにタダじゃ教えてくれねーな。でもこの額ならしかたねーか」

「なんか金銭感覚麻痺してくるなー」

「私はとっくよ」

 

[OK。それじゃよく聞きな。グリードアイランドは“念”能力者が作ったゲームだ]

 

「「「!」」」

 

「“念”能力者しか出来なくて、ゲームの中に引きずりこむ……か」

「ゲーマーの夢だな」

「本当かな」

「ハンターサイトの情報だぜ。まず間違いない」

 

「「「!!!」」」

 

[ヨークシンシティで開催されるオークションには8月14日現在までに7本のグリードアイランドが競売申請登録されている模様。最低落札価格 89億ジェニー]

 

「はちじゅう」

「きゅうおく……」

「じぇにー」

 

「やっぱ上がってんよ、30億もー!!! スターの金使えば何とでもなるけどさー!!!」

「……人に頼るなとは言わない。だが、俺に頼るな!」

「こいつ……」

「ねェ、これってオレ達も参加出来るのかな?」

「あ? スターの金を掠め取るのか? 手伝うぜ!」

「違うよ。買う方じゃなく売る方でだよ」

「! ……そうか。オレ達も何かお宝を探して競売に出すんだよ! うまくいけば大儲け出来るかもな!!!」

「そう、うまくいくかしら……?」

「別にいいと思うぜ。そーゆーのも面白そうだろ」

「うーん。なんか私流されてるなぁ。私が目指してるのって“幻獣ハンター”のハズなんだけど」

「何事も経験経験」

「そうかな?」

「そうだって!」

「そっか……」

 

[総合入手難易度―G(易しい) 幻のゲームと呼ばれているが、あくまで一般人レベルでの話。公の競売に姿を見せ始めたことから“探す”意味での難度はもっとも易しいH、金額面を考慮に入れ総合はGとした]

 

「ふん……面白いじゃん。ゼッタイ手に入れてやろうぜ!」

「おう!」

「まず一般ネットのフリーマーケットとオークションサイトだ」

「そこで掘り出し物を見つけよう!」

「え、ネットでやるの?」

 

 

~~中略~~

 

 

「残り……いくら?」

「……2人合わせて1084万ジェニー」

「だから言ったのに……」

「くそー、あのジジイ、まんまとだまされたぜ!」

「最初の壺は2倍で売れたのにねー……」

「今、考えりゃそれが罠だったんだよ。小金を儲けさせて信用させてから大金をせしめる。詐欺の常套手段だもんなー」

「だから信用出来る公共サイトだけにしようって言っただろ!」

「んなもん8時間やって儲けがたった985ジェニーだぞ!!? 80億稼ぐのに何百年かかるんだよ!!!」

「減るよりいいじゃん!」

「おめーだって壺売れたとき、ノリノリだったじゃねーか!」

「やるか!!?」

「おお!!!」

「ちょっと止めなさいよ」

「ポンズは黙ってて!」

「つーか、あんたはどうだったんだよ?」

「え、私は1億プラスで51億ジェニーだけど」

「ぐっ……スターは!」

「30億プラスで530億」

「なんでだよ!」

「“ヒーロー”だからさ! 俺は真実を見極める目をデフォルトで装備してるのさ!」

「くっそー……! 言ってることはバカっぽいのによー!」

「キルア、2人のことはいいよ。今はオレとの勝負だ!」

「お、おー、やったら」

「オークションまでの残り2週間でどちらがいっぱいお金を稼げるか」

「おーお」

「542万ずつ持って、8月31日夜9時の時点で多い方の勝ち!!!」

「面白え。もし負けたら!!?」

「勝った方の言うことを一つ何でもやる!!!」

「乗ったぜ。カンプナキまでに負かしたら」

 

「ポンズ! 俺達もその条件で勝負しよう!」

 

「イヤ」

「だー! それじゃ、話が盛り上がらないだろー!」

「負けるとわかってる勝負をやるわけないじゃない」

「そこを何とか!」

「イ・ヤ! ――いちについて、よーい」

「無視しないでくれ!!?」

 

「「「ドン!!!」」」

 

「……あのコ達も元気ねー」

「勝負……」

「しないってば。私は今度こそ2週間で出来る簡単な仕事の一つも受けてるから」

「“念”の修業は?」

「やってるわよ? でも、“発”は一応元々出来てたから……まあ、少しアレンジとか加えたし、新技も考えてるけど」



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ヨークシンシティ

「うわーーー、早朝なのにすっごい人だよ!!! どっか見てみよーよ」

「あ~あ。4コーナーでムームーダンスがこけなきゃ12倍で入ってたんだよな~」

「バクチで一発当てようとするのがまず間違い」

「っせーな。お前こそ2週間で1万5千!!? 路上で空き缶置いただけでもそれよりは稼げるぞ!!!」

「勝ちは勝ちだもんねー。そのかわり、オークションの裏話やコツとか駆け引きなんか、かなり詳しくなったよ!」

「そーゆー自称中級者が一番痛い目あうんだよ」

「とにかく、勝負は俺の勝ち! 一つオレの言うこと聞いてもらうからね」

「へーいへい」

 

※それぞれの2週間での成果

 

 ゴン:542万 → 543万4997ジェニー

キルア:542万 → 2億86万 → 0ジェニー

ポンズ:51億 → 51億2000万ジェニー(初仕事・生態調査の報酬。仕事期間は10日)

スター:530億 → 700億2000万ジェニー(ポンズの仕事をコンビとして受け、合間に金を回してた結果)

 

「ところでリオレオとクラピカはどうだって?」

「レオリオは午後に着くって。クラピカは昨日から、もう来てるらしいけど、仕事中だから時間とれないかもってさ」

「そっか」

「もし空いたら連絡くれるって」

「オッケ。んじゃ電源オンにしといて――ってお前もケータイ買えよ!!! ハンターの必需品だろが!!!」

「あ、そーだった」

 

 

~~中略~~

 

 

「最低落札希望価格が89億ジェニーで所持金が500万? いいか? 君達。競売元のサザンピースってのはオークションハウスの最高峰だぞ。お前らの予算じゃ入場料にも足んねーぜ」

「いや、金はあんだよ。スターが払ってくれさえすりゃよ」

「いくら持ってんだ?」

「700億」

「ぶっ!!?」

「ついでにポンズも51億くらい持ってる」

「……マジか? お前ら、この半年そこらで何やってたんだよ」

「その話はいーんだよ。問題はポンズはともかく、スターがケチくせーってことなんだから。ポンズの金だけじゃ足んねーし、レオリオ、何とかしてくれよ」

「何とかって言われてもなぁ」

「ハンターサイトのお宝リストでは入手難度“易しい”だったぜ」

「……マジ?」

「入手するのに必要なのは金だけだからって」

「へっ、やっぱり金だよ。世の中、金!」

「てかさ。金で買えるようなものなら真の宝とは言えないってことだろ。この程度のものなら楽勝でゲットしてこそ。プロのハンターなんじゃねーの? お2人さん」

 

「「――」」

 

「何かいい方法がないか調べてみよ」

「きっとあるぜ。ヨークシンにゃ夢みたいな実話がゴロゴロ転がってるからな。経験談とかめくってみよーぜ」

「(単純バカ。レオリオも強化系かな)」

「放出系って可能性もあるぜ」

「なるほど。……ってオレ声に出してた?」

「そんくらいはわかるって。ここ2週間はそーでもなかったけど、何だかんだ一緒にいるわけだから」

「そか」

 

「? 何だろう“かわし”って」

 

[交わし 競売方法の一つ。物々競売の俗称。買い手側がそれぞれ物品を持ちよって公開し、売り手側はその中から一つ気に入ったものを選び競売品と交換するやり方。他にも競り、縛りなどがある]

 

「競売って色んなやり方があるんだね」

「競りってのは普通の競売だな。縛りってのはなんだろうな」

 

[縛り 競売方法の一つ。条件競売の俗称。売り手側が金品以外のある条件を示し、その条件に最も適した買い手に対して競売品を渡すやり方。ヤミ競売から発生し、公共競売にも規制付きで普及した。他にも競り、交わしなどがある]

 

「? 条件?」

「何のこっちゃ」

「そうか……こんな競売のやり方があったか」

「え?」

「行くぜ、お前ら。確実に儲かる競売方法を思いついた!!!」

 

 

~~中略~~

 

 

「さぁー、いらっしゃいいらっしゃい。条件競売が始まるよー!!! 競売品はこちら! 300万円相当のダイヤ! その店で買ったばかりの鑑定書付きだぜ! 落札条件は腕相撲! 最初にこの少年に勝った者に与えられます! 参加費用は1万ジェニー!!!」

 

「……考えたわね」

「でも、これ時間かかるぜ」

「そうね」

 

「それではオークションスタート!!!」

 

「よしオレがもらったァ!!!」

「オレもやる!!!」

 

「ハイハイ押さないで順番よー!!!」

 

「なあ、退屈だからテキトーなオークションでも見に行かないか?」

「行くのはいいんじゃない? でも私はあんまり興味ないからここにいるわ」

「えーっ! 一緒に行こーぜ!」

「また今度ね。どうせ“グリードアイランド”を手に入れるときに行くことになるんだから」

「ちぇー、わかったよ。俺1人で行ってくるよ。途中でナンパとかしてやるからな!」

「……勝手にすれば」

 

 

~~中略~~

 

 

「お姉さん、よければ俺と一緒に競売参加しない?」

「見てわかる通り連れがいるわ。また今度ね」

 

「……くそー! あんなサルだかゴリラだかなんて2人組より、俺の方がイケメンだろうに! 闘技場関連で誘い来てたから来てみたけど、ムサイ奴ばっかだし、来るトコ間違えたかな」

 

 

「どうしたの、クラピカ。一瞬心音が上がったわ」

「……いや、知り合いがいた」

「なら連絡する? それくらいは目を瞑ってあげるわよ」

「すまない……ダメだ。すでに携帯の電源が切られている。……まあ、彼なら例え何か起きても大丈夫だとは思うが」

「そう。なら信じるしかないわね」

「……ああ」

 

 

『皆様、ようこそお集まりいただきました。それでは堅苦しいあいさつはぬきにして、くたばるといいね』

 

「「「!!?」」」

 

「“俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)”!!!」

 

「あっけねェあっけねェ」

「ワタシの出番ゼンゼンなかたね」

「いくよ、“デメちゃん”。この部屋中の散乱した死体とその血、肉片および死人の所持品全てを吸いとれ!!! ついでに椅子も」

 

「いてっ……やべ、ふて寝してた」

「お」

「まだ息のある奴がいるよ」

「ん?」

「う……」

「もう1人いるね。意外と精度悪いね」

「うるせ」

「てめェら……何モンだ? ……まあいい……誰であろうと皆殺しだ。コミュニティが必ず!!! てめェらとその家族残らず、凌辱し! 切り刻み!!! 地獄の苦しみを味わわせてやるぜ……!」

 

「家族? なにそれ?」

 

「何だこの状況?」

「お前、頭悪いね。死ぬといいよ」

「いててっ」

「! オーラ上がたよ。こいつちょっとやるね」

「どうするの?」

「決まてる。殺すだけよ」

「お! 君、可愛いな。この後一緒に食事でもどう?」

「えっ、えーっと……」

「何考えてるか。あいつにこの後なんてないよ」

「あ、そっか」

「おっと」

「へェ、これよけるか。お前、ちょっと楽しめそうね」

「俺は楽しくない。そっちのメガネの娘と話したい」

「お前、ふざけてるね。せいぜいワタシを楽しませてもらうよ」

「おいおい、楽しむのはいいけど、あんま時間かけるなよ」

「わかてるね」

 

「――あれ? 何やってんの?」

「お。そっちはもう終わったのか?」

「いや、それがちょっと問題が発生してさ」

「問題?」

 

「ちっ……。こいつ、お前達来てからまたオーラ上がたね。条件がよくわからないよ。多対一に特化した能力か?」

「苦戦してるみてーだな」

「どこがね」

「オレに戦らせろよ。そいつ強化系だろ?」

「こいつはワタシが殺すね。先着順よ」

「そんなことやってる暇ないって。使えるならオレが戦るよ。このあとのためにちょっと強いの欲しかったんだ」

「ムリね。お前のアンテナじゃ刺さらないよ」

「え、そんなに?」

「そもそもそいつなんなの? 別に戦る気に溢れてるわけでもなさそーだし。ただの客なら放っておけば?」

 

「お! 君も可愛いな。名前教えてよ」

 

「……何アイツ」

「多分バカね。それはわかてたよ」

「確かにありゃ強化系かもな」

「だろ? なら、オレだ。一発勝負でどうだ? 時間ねーんだろ?」

「そうね。コイン次第では譲るよ。――どっち?」

「表」

「当たりね」

 

「よっしゃー! おい! てめェ! 次の相手はオレだ!」

 

「次の相手って何だよ。そんなことより、そっちの2人の名前と連絡先が俺は知りたい!」

「ならオレに勝ったら教えてやるよ」

「マジで!」

「ちょっと! 何勝手に約束してんのよ!」

「別にいいだろ。勝ったらっつったじゃねーか」

「そういう問題じゃない。人の名前を勝手に使うな」

「じゃ、貸し一つだ。それでいいだろ」

「……しかたないわね」

「よし、決まりだ! おい! 時間がねえからな! これからオレはてめェに一撃くらわす! それをてめェは避けるでも防ぐでもして生き残ったらてめェの勝ちだ! この場は見逃してやる!」

「そうじゃねェだろ! そっちの2人の名前と連絡先!」

「ああ……そうだったな。見逃す上にこの2人の名前と連絡先を教えてやる。それでいいな!」

「いいぜ!」

 

「……確かにアイツ、バカなのは確定だね」

「だな」

「賭ける? 何か意外と生き残る気がしてきた」

「そりゃムリだろ。ウボォーだぜ。手加減なんかしねェよ」

「じゃ、ワタシ、生き残る方に賭けるよ。これでもそれなりに本気で戦てたね」

「最近あんま戦ってないから鈍ってただけじゃねーのか? オレは当然、ウボォーの勝ちだ」

「オレもウボォーで」

「アンタ、生き残る気がしてきたって言ったじゃない」

「気はしたけどね。確率は高い方に張るよ。気になるならそっちに張れば? 何せあいつのお目当てなんだしさ」

「……ウボォーで」

「あははっ、堅実!」

「じゃ、私は彼に張るよ」

「あれ? 実はああいうのがタイプ?」

「ううん。ただ、誘われることとかってあんまりないから」

「“フランクリン”は?」

「“ウボォーギン”」

「だよねー」

 

「んじゃ、行くぜ! ――“超破壊拳(ビックバンインパクト)”!!!」

「“英雄的な拳(ヒーローパンチ)”!!!」

 

「! どうなった……!!?」

「……へ。やるじゃねェかよ。避けるでも防ぐでもなく、真っ向からオレと打ち合うとはよ。この勝負――てめェの勝ちだ!」

「当然だぜ! 素敵な女性が関係してるときの俺は超強い!」

「ウボォーと互角!!? ウソー!!? あいつのアレ小型ミサイル並みの威力あるんだぜ!」

「いるトコにはいるもんだな」

「ちょっと! アンタ何敗けてんのよ!」

「ワリーワリー。オレも驚いてる。オレはまだまだ強くなれるみてーだわ! やっぱ目指すは核ミサイルだな!」

「そこじゃないでしょ!」

「おお、でも約束だからな。名前と連絡先教えてやってくれ」

「くっ……!」

 

「“シズク”と“マチ”か俺はスターだ。あとで電話するから」

「うん」

「しなくていい」

 

「おい。そろそろ行くぞ」

「わかってる」

「どこ行くんだ?」

「アンタには関係ない」

「あんたもとっととこの場を離れた方がいいよ。ここに残ってると面倒なことに巻き込まれるから」

「そうか。ならそうする」

「おい。オレとも連絡先交換しようぜ」

「え、男はいらない」

「そう言うなよ。お前とのケンカ面白かったしよ。また戦ろうぜ」

「イヤだ。メンドくさい」

「じゃ、ケンカ1回に付きマチ達の情報ひとつ」

「乗った!」

「ウボォー! だから勝手に約束するな!」

「オレが知ってることを話すだけだ。問題ないだろ」

「だから、アタシをネタに使うなって言ってるんだよ……!」

「はいはい。それはあとでやってよ。今は脱出だ」

「ちっ……」

「これがオレの連絡先だ。つってもオレは基本的に電話持ち歩かねーから、オレの方からかけることになるだろーが」

「そうか。いいネタ頼むぜ!」

「ああ、んじゃな」

 

 

~~中略~~

 

 

「ん……クラピカからスゲー着信きてるな。なんだ?」

 

『スター! 無事だったか! 今どこに……いや、地下オークションで何があった!』

「地下オークション? ああ、なんだ俺の成功譚を聞きたいのか? つっても、まだ連絡先を交換しただけで」

『何を言っている! 会場にいた人間全てが消えたハズだ! お前はそこにいたんじゃないのか!!?』

「いや、俺寝てたから……あ、でもなんか掃除機で吸ってたな」

『掃除機!!? “念”能力か! 犯人は見たのか!!? 何人いた! その特徴は!!?』

「え、ああ(うーん、これは正直に答えるとマチとシズクがヤバイのか? 他はどうでもいいけど。けど答えなくてもすぐバレそうだしな。つーか、やっぱり犯罪者だったのか)……俺が見たのは7人だな」

『7人!!? 7人でこんな大それたことを!!?』

「そんで何やら、デカイのとかちっさいのとか、耳長いのとか、着物みたいな奴とかいる目立つ集団だったから、見ればすぐわかるんじゃないか?」

『そうか……。スターは交戦したのか?』

「ちょっとはしたけど戦る気なかったし、あいつらも急いでたみたいですぐ終わった。結構強かったぜ」

『なるほど……わかった。また後で連絡するかもしれないが、構わないか?』

「ああ。じゃあな」

 

 

~~中略~~

 

 

「おっ。スター、帰って来たか。オークションはどうだった?」

「ふっふっふ」

「……何よ」

「ズバリ2人の素敵な女性と連絡先を交換することに成功したぜ! 俺は!」

 

「「「「…………」」」」

 

「お前オークションに何しに行ったんだ? 連絡先を買って来たのか?」

「バカ言うな! 俺の実力だ!」

「ウソくせー……何か賭けでもしてムリヤリ聞き出したんじゃねーの?」

「そ、そんなわけないだろ」

「今どもったよな」

「うん」

「どもったな」

「……やっぱりね」

「ち、違う! 何だお前らその目は! 実力だ! 完全に実力で聞き出したんだ!」

「実力ねえ……まあ、何でもいいけどよ。こっちは腕相撲で275万ジェニー稼いだぜ!」

「……ビミョーじゃね?」

「まあな。後半はなかばやけになったリベンジャーしか挑戦してこなかったもんな」

「うん。もううわさが広まって誰も挑戦してこないよきっと」

「いいんだよ。はじめからそのつもりだったんだから。出来るだけ尾ヒレがついてた方が有難い」

「え?」

「腕相撲はエサまきさ。地中のモグラをおびきよせるためのな」

 

「――んじゃ、見てろよ。ちゃんと連絡先交換したってことを証明してやるからよ」

 

「「「「「…………」」」」」」

 

「……出ないね」

「着信拒否られてんじゃねーの?」

「あるいは偽の番号教えられたとかな」

「そんなことねーって! ちゃんとその場で交換したんだから!」

「すぐ後に番号変えられてたりしてな」

「き、きっと今は、手が離せないだけだ! もう1人の方にかけてみる!」

「諦めろよ、スター」

「俺は諦めない! ――かかった!」

「ウソ!!?」

 

『スター? 何か用?』

「ああ、電話するって言っただろ。今何してるかと思って」

『今はトランプ』

「トランプ? ひょっとしてマチもいる?」

『うん。代わろうか』

「――いいのか? じゃ、頼もうかな?」

『わかった。マチ、スター』

『ちょっ、アタシはいいって!』

『着信出ないからだよ。ちょっと話してあげるくらい別にいいじゃん』

『アンタ完全に他人事だからって』

『そりゃ、俺は男だし――! おい、ウボォーも本気だ』

 

「うるせっ!!? なんだよ今の音?」

『あ、ちょっと、ウボォーがケンカしてて……』

「またかよ? これだからバトルマニアは」

『――手伝おうか、ウボォーギン!!!』

『余計なお世話だ!!!』

『何かみんなで観戦するみたいな感じになってきたから切るね』

「え、ああ。じゃ、またかける」

『うん。またね』

 

「「「「「…………」」」」」

 

「――つーわけだ」

「いや、なんか騒がしかったことしかわかんねーから。そもそもあんまり相手にされてなさそーだしさ」

「そんなことない! またかけてもいいって感じだっただろ?」

「それはまあな。でももう1人の方にはなんか迷惑がられてなかったか」

「彼女は照れ屋なんだ」

「……きっと違うと思う」

「経験者は語る」

「ポンズは俺のこと好きだって!」

「……」

「き、嫌いではないよな?」

「……そうね」

「ほ、ほら見ろ! お前ら! ポンズは俺のこと好きだって!」

「いや、言ってねーだろ」

「さすがにムリがあるよスター」

「ゴンが言うってのはなかなかだぜ」

「こ、これからだ! これから! 俺達の冒険はこれからだぜ!」

「打ち切り漫画かよ……」

 

 

~~中略~~

 

 

「エレベーターで一番下まで降りな。すぐ始まる」

 

「おーお、殺気立ってるねー」

 

『さて、皆様。ようこそいらっしゃいましたー!!! それでは早速条件競売を始めさせていただきます! 今回の競売条件はァ、かくれんぼ!!! でございます!』

 

「かくれんぼ~!!?」

 

『それでは皆様、お手元の写真をごらん下さい! そこに写った7名の男女が今回の標的でございます!』

 

「あ」

 

「「「「!」」」」

 

「おい、このコ確か」

「うん! 腕相撲に来てた人だ」

「腕相撲?」

「あ、そっか、スターはいなかったっけ。スターがいなくなってから少ししてこの人も参加したんだよ。かなり強かった」

「へー……」

 

『落札条件は標的を捕獲し我々に引き渡すこと!!! そうすれば標的1名につき20億ジェニーの小切手と交換させていただきます!!!』

 

「……」

 

『期限はございません! 標的の生死も問いません! もちろん捕獲方法、その他、全て自由でございます! 捕らえ次第下記の番号まで連絡下さい!!!』

 

「1人20億……!」

「全員捕まえりゃ140億!!!」

 

『ただし参加費用としてお1人様、500万ジェニーいただきます。参加されない方はお帰りの際、係りの者に写真を御返却下さい!!!』

 

「おう、そうだ。これからFAXする!」

「ネットで情報集めろ! 有力なネタには賞金出すって言っておけ!」

 

「オレ達も急ごうぜ」

「慌てなくてもあんな連中にゃ捕まえられないよ。なにしろヤーサンでさえ手を焼いてんだから」

「どーゆーことだ?」

「さっきのさ。条件競売って言いながら、まるっきし賞金首探しだろ? マフィアが自分の力で捕まえきれてないって認めてるようなもんだよ」

「そうね」

「ああ。んでさ、あの会場! 特設リングがあったじゃん? 多分、最初の予定じゃあのリングを使って、お気楽なバトルか何かやるつもりだったんだぜ」

「その予定を変更してでもこいつらを探す必要が生じた……?」

「そ。どんなに時間と金をかけてでもね。500万ジェニーの参加料をとって競売の体裁をとりつくろってたけどさ。競売品が品物じゃなくて小切手って時点でもうおかしいと思わねー?」

「まさか……地下競売の品がこいつらに盗まれた……!!? そこでしかたなく競売を装って盗っ人の首に賞金をかけたのか!」

「そ。マフィアのお宝盗むなんてこいつら頭イカレてるだろ。でも、オレ達はそんな連中の心当たりがある」

 

「“幻影旅団”……!」

 

「……そういえば、クラピカはどうしてるんだろう」

「そういや、来てるハズなのに連絡が全然ないな」

「あ、俺連絡あったぜ」

「えっ、ホント?」

「昨日の夜からもう追ってるみたいだな」

 

「「「「!」」」」

 

「……出ないよ」

「仕事中か。あいつ一体何の仕事してるって?」

「ボディーガードって言ってたけどそれ以上は何も」

「おそらくVIPの護衛か。“緋の目”を追ってんだから当然、闇の要人だよな……」

「その人の護衛で地下競売に行って、事件に巻き込まれたのかも……」

「巻き込まれたってのは正しくねーぜ。相手が旅団ならあいつは積極的に介入するハズだからな。すでに団員の2、3人は捕まえてるかもしんねーしな!」

「だと、いいけど」

「……親父がさ」

「ん?」

「仕事で旅団の1人を殺ってるんだけどさ」

「何!!?」

「珍しくぼやいてたんだ“割に合わない仕事だった”って。それって標的に対する最大の賛辞なんだけどさ。そのときに言ったんだ」

 

『旅団には手を出すな』

 

「――3年くらい前の話だけどね」

「その話、クラピカにしたか?」

「してないよ。意味ないし」

「問題はオレ達がどうするのかってことだね」

「そゆこと」

「オレ、やるよ。虎穴に入らずんば……って言うもんね」

「――私はリスクが高いと思うわ。相手の方が人数も多いじゃない」

「そーだけどさ……何もしないではいられないんだ。それに全員と一度に戦うってわけでもないと思うから」

「とりあえずは情報収集してみるか。遠目にでも実物を見てみねーことにはよ」

「……わかってたけど、言っても聞きそうにないわね」

「まあ、こいつが一度言い出したらな」

 

 

~~中略~~

 

 

「ダメだな。めぼしい情報は留守録にもメールにも入ってない」

「こっちもだ。収穫なし。旅団1人につき20億って懸賞金は魅力だけど、見つけるのはキビしいかもね。賞金首探しに一番必要なのって、幅広くて確かな情報網だからなァ」

「そうは言っても、もう500万払っちまったしよ。何十億って金を一気に稼ぐ方法なんか他にあるか?」

「まーね」

「やっぱり賞金つけないと誰も進んで情報はくれないよ」

「でも、それやるとガセネタの量が爆発的に増えるんだよなー……」

「真偽を確かめるだけでえらい時間の浪費だぜ」

「だよな」

「そのためのお金くらいは私が出してもいいけど、行き詰ってることだし、先にサザンピースのオークションの“競売品目録(カタログ)”を買いに行かない?」

「おお、そうな! そろそろ手に入れておいた方がいいよな」

 

「「“競売品目録(カタログ)”?」」

 

「サザンピースはヨークシンで最も権威があるオークションハウスなんだ。その入場券を兼ねている“競売品目録(カタログ)”を買うには1200万ジェニー必要だ」

「そのサザンピースでは6日から10日までの5日間、競売をやってるけど、いつ、どの品物が競りに出されるかは、この“競売品目録(カタログ)”を見ないとわからないってわけ」

 

「「なるほど」」

 

「なるほどってお前らな……そのくらい来る前に調べとけよ」

「あはは……」

「たしかに」

 

「いらっしゃいませ!」

「“競売品目録(カタログ)”を買いに来たんだが」

「かしこまりました。お支払方法はいかがなさいますか?」

「銀行振り込みでお願い」

「俺が払う!」

「お。めずらしい」

「ポンズに払わせるわけにはいかないからな!」

 

「(……これ利用すれば、結構あっさり“グリードアイランド”買ってくれんじゃね?)」

「(さすがにそれは悪いよ)」

「(じゃ、あくまで最終手段ってことで)」

 

「――こちらが“競売品目録(カタログ)”になります」

 

「こちらに今年の競売品が全て掲載されております。この“競売品目録(カタログ)”にはカードが付いておりまして、これが入場券の代わりとなります。この1枚で5名様までなら6日から10日までの開催中、何度でも御入場いただけます」

「お。ピッタリだな」

「但し競売に参加出来るのは個人、団体共に一名義のみとさせていただいております。御名義はいかがいたしましょうか」

「いいぜ」

「ありがとう! ゴン・フリークスで!」

 

「グ……グ……“グリードアイランド”! あった!」

「お~」

「競売予定日は6日~8日までがそれぞれ1本ずつ。9月10日が2本。いずれも午後から。最低落札希望価格が89億……か。さて、これでいよいよあとは金を稼ぐだけだな!」

「“競売品目録(カタログ)”も含めて、これから使うお金は貸しでいいから」

「気にしなくてもいいのに」

「いいの! オレが払いたいんだ」

 

「――旅団の目撃情報提供料は本当に1500万でいいのか?」

「うん」

「じゃ、まず伝言サイトに登録して有力情報を待つ! 首尾よく情報が入って旅団の1人を捕えたら、今度はそいつを締め上げて、残りの団員の居場所を吐かせて捕まえる!!!」

 

「名づけて“芋づる作戦”!」

 

「(ださ……)」

「芋づる作戦、悪くないけどさ」

「(えっ)」

「ただ問題はさ。情報の条件を限定してもガセネタはとめどなくくるんだよね。意図的な偽証はもちろんのこと、見間違いってのが厄介だぜ」

「(あ、内容の方よね……)」

「それはある程度しぼれると思うぜ。目撃者が“どこ”で旅団を見かけたかによってな。あえて伝言サイトには場所の情報を流さないんだ。その上で“ヨークシンで見た”って情報が入れば本物の可能性が高いだろ?」

「確かにね……でも旅団がまだここにいるって保証はないよ」

「ああ。だがかなり高い確率できっとまだいる。何故なら陸・海・空・地下に至る全ての交通手段をマフィアが監視してるからな。盗んだ競売品を持って見つからずに脱出するのは不可能だ。――この街のどこかに奴らはまだ隠れてる……!!!」

 

「(俺、連絡取れるんだけど……どうするかな。何か言い出しづらい。他はともかくマチとシズクが問題だよな)」

 

 

~~中略~~

 

 

「? 何だろ。品物全部に変な紙がついてる」

「ここは値札競売市だよ。白紙の値札に買い手が金額を記入していくんだ。んで、規定時刻までに最高価格を書いた人が落札するんだ。ほら、人気の品はこんな風に後からどんどん価格が書き直されていく」

「ホントだ」

「手書きのレトロ感覚がけっこう評判の競売市だが、金額の折り合いがつけば規定時間を待たずに売ってくれる場合が多いらしいぜ。まぁ、競売と蚤の市が合体したようなもんだな」

「蚤の市っつーか、ガラクタ市っつーか、どれもこれも家の物置の中身そのまま持ってきただけって感じ」

「まあ一番庶民的な市の一つだからな」

「?」

「どしたゴン」

「おじさんこれって」

「ん? ほしいなら値札にいくらで買いたいか記入して。昼12時まで他に買い手がいなきゃ君に売るから」

「あ、うん、えーと」

 

「レオリオ……交渉うまいだろ? 何とかあれ、今すぐ手に入れてよ(お宝かもよ)」

「! (よし、まかしとけ)」

 

「何だ、ゴン。そのナイフ欲しいのか? あっちにもっといいデザインのあったぜ。ああ、でもあれは結構人気あったからなァ。なぁオッチャン。実はオレ達もう国に帰らなきゃいけねーんだ。これ、今売ってくれねーか?」

「んー? ……まぁ……他にまだ買い手もいないしな。金額によっては売ってもいいよ」

「そうだな。結構古そうだし100ジェニーで!」

「ダメダメそれじゃ売れないね」

「あっそ。じゃ、いいや。ゴン行こうぜ」

「ちょっと待った! 500でどうだ?」

「――300ジェニー!」

 

「間違いない。本物だ」

「一体何なんだ? これ」

「“ベンズナイフ”だよ。ベンニー・ドロン。100年くらい前の大量殺人鬼なんだけどさ。“ベンズナイフ”ってそいつのオリジナルブランドなんだ」

「――で、いくらするんだ?」

「番号によって全然値段は違うけど……安くて500万」

「マジ!!?」

「でも、よく知ってたな。ゴン」

「いやそんなこと全然知らなかったよ」

「じゃ、なんで?」

「うーん、ちらっと目に入ったときね、なーんか変な感じがしたんで。“凝”で見てみたんだ。そしたら微かだけどオーラが見えたから」

「ギョウ?」

「“念”の一種だよ。簡単に言うとものすごーく注意してみること。――本当だ」

「そうね」

「――ダメだ。オレには全然見えん」

「俺は常に見えてる」

「“錬”を磨けば見えるようになるよ」

「そうか……こんな方法があったか」

「え?」

「掘り出し物の探し方だよ。どの分野で活躍している人間でもずば抜けた才能の持ち主は本人も知らずに“念”を使ってる場合が多いってメガネニイさんが言ってただろ?」

「初期の俺とポンズのことな!」

「だからそういうの強調しなくていいから」

「このナイフみたいにオーラが漂ってる品物を見つけ出せば、それはすごい天才が作った可能性が高いってことだ」

「そうか。その方法なら鑑定の知識がなくても埋もれた逸品を見つけることが出来るね! それをもっとグレードの高いオークションにかけて高く売る! 名づけて――“念でぼろ儲け大作戦”!!!」

「(やっぱりださっ……)」

 

「よし! じゃオレは伝言サイトの情報チェックを担当するぜ。マジっぽいのがあったらケータイに連絡入れる」

「オレ達は早速他の掘り出し物を探しに行こうぜ!」

「じゃ、俺とポンズはデートを」

「しないけど、効率よく別行動ね」

「くっ……」

「それじゃ作戦開始!!!」

 

「「「「ゴー!!!」」」」

 

「ゴー……」

 

 

~~中略~~

 

 

「あ? “ゼパイル”? ふーん、じゃ、そっちは好きにやれよ。俺? 俺はテキトー。元々俺は金あるからそこまでやってる感じでもなかったしさ。ああ、何かあったら連絡する。じゃあな」

 

「お」

「げ」

 

「マチ! 偶然だな! いや、運命かも!」

「……偶然よ」

「何してたんだ?」

「別に」

「俺も同行していいか?」

「ダメ」

「そう言うなよ。飯でもどう? 奢るぜ」

「いらない」

「いいじゃねえか。奢ってくれるって言うんだから。それにこいつとも話しておきたかった」

「何でよ」

「ウボォーが気に入ってたからだ」

「……ちなみに、お前誰だ?」

「ああ、そういやオレは名乗ってなかったな。“ノブナガ・ハザマ”だ」

「?」

「……ちょんまげしてた奴よ。こういう感じに髪をまとめた」

「あ、あー! いたな! そんな感じの奴!」

「……オレの印象って髪型だけか?」

「あと服装」

「そうか……まあいい。とにかく場所を移すぜ。ちょうどいいトコがある」

 

「何か思ったよりオシャレな場所に連れてこられた」

「まあ、確かにコイツには似合わない場所だけど」

「うるせェな」

「うーん、何頼むかな。マチはどうする?」

「これだけでいい」

「いや、缶ジュースじゃん。俺の財布の中身は気にしなくても大丈夫だぜ?」

「別に気にしてないわよ」

「うー、なら俺が色々頼むからよ。すいませーん。このサンドイッチとピザとパスタと――あと、このヨークシンドリームジャンボパフェDX!」

「……ジャンボでDX?」

 

「「…………」」

 

「ほら、マチも食えよ」

「え、ああ……」

「オレは無視かよ」

「空気読めよ。トイレ行くとか言って3時間くらい帰ってくんなよ」

「てめェマジで露骨だな」

「ちっ。わかったわかった。ノブナガも食っていいよ。俺は彼女の男友達にも寛容な男だ」

「誰が彼女なのよ」

「友達でもねェしな」

「ああ、そういや、2人ってマジで旅団なの?」

 

「「――」」

 

「そりゃ、どういう意図の質問だ?」

「そのままだけど。実は俺の友達が旅団の賞金欲しがっててさ。ノブナガちょっと捕まってくれない? 金もらったら逃げていいから」

「アンタ……」

 

「……ぷっ、だーっはっはっはっはっは!」

 

「ノブナガ?」

「それをわざわざ本人に言うかね。ウボォーが気に入るわけだぜ」

「ウボォーっていうと……」

「アンタが戦ったデカイ方よ」

「ああ。あいつね」

「お前よ、ウボォーについて何か知ってることねェか?」

「知ってること? 男のことなんか知らねェよ」

「じゃ、“鎖野郎”ってのに心当たりねェか?」

「だから野郎ってことは男だろ? 俺が知るかよ」

「まぁ、だろうな。お前はあいつと正面から戦りあえるからな」

「……そうね」

「なんか引っかかることでもあんのか?」

「さあ? こいつのことはよくわからないわ」

「そうだな! 俺達はもっとお互いによく知りあうべきだ!」

「……こんなだしさ」

「だははっ、そりゃしょうがねェ」

 

「……ちょっとマジな話するとよぉ。ウボォーの奴が帰って来ねえ」

「んぐっ?」

「いや、食ってていいぜ。そんなわけでオレ達はウボォーを探してる。ここに来たのもそのためだ」

「むぐぐ……あいつ、やられたのか?」

「わからねェ」

「……おそらくね」

「おい!」

「自分で言ったんだろ。それを確かめるためにここにいるって」

「……ウボォーはただの怪力バカじゃねェ」

「わかってるよ。そんなことは」

「例え敵が苦手なタイプであろうが、対応出来るだけの経験と頭は持ってる」

「でも、ウボォーは戻って来なかった。今までアイツが集合時間に遅れたことがあったか?」

「だがお前も聞いたんだろ? 奴は“鎖野郎と決着をつけるまで戻らねェ”とハッキリ言ったそうじゃねェか」

「だからアタシも“おそらく”と言ってるんだ。間違いなくやられたとは言ってない」

 

「勘か」

「勘だ」

 

「チッ……オメェの勘は当たるからなァ」

「そうなのか! なら俺との未来を勘で言うと」

「……何もない」

「ウソだ!」

「別にウソなんか吐いてないよ。というかアンタこそ空気読みな。そういう気分じゃないんだ」

「――探し出してぶっ殺す。必ずな」

「あ?」

「“鎖野郎”のことだ」

「ふーん……」

「……団長はおそらくそいつを仲間にしたがってると思うけど」

「マチ。団長は“2人組で鎖野郎を探し出し連れてこい”としか言ってねェ。そんな時の暗黙のルールは忘れてねーだろ? 生死は問わず、手段は好きに。そうだろうが。おめェが勝手に団長の意図を解釈するのは構わねェが、それをオレに押しつけんのはやめろ」

「アタシはまだ何も言ってない。てめェの意見を押しつけてんのはアンタだろ?」

 

「あ」

 

「「あ?」」

 

「ヨークシンドリームジャンボパフェDX。お待たせしましたー。ご注文の品は以上でよろしいですか?」

「ああ。ありがと」

「それではごゆっくりどうぞー」

 

「「…………」」

 

「どした?」

「……これ、さすがにデカくない?」

「おお……いくらすんだ?」

「15000。別にたいしたことないだろ?」

「そりゃ、額はね」

「いや、よく知らねーが、菓子としてはたけーんじゃねーか?」

「そんなことねーよ。俺この半年で菓子代として7000万くらいタカられてるしさ」

「1人に?」

「ああ。もう1人いるけど、そっちはそいつに付き合ってるだけだから、その3分の1くらいだ」

「菓子に2人で1億かよ。どんな知り合いだよ……」

「それより、マチ」

「な――にすんのよ!」

「あれ、美味くなかったか?」

「それとこれとは話が別!」

「いや、パフェってこーやって食うものだろ。次、俺の番な。あーん」

「……そんなに食いたきゃ、腹が破裂するまで食え!」

「お、おー、腕の残像が見えやがる。マチも本気だな。――しかし、それに対応して食うとか人間業じゃねェ。こいつの想いはそこまでか……」

 

「くっ……やめだ! これじゃ、ただアタシが食わせてやってるだけじゃないか!」

「今更だな。ギャラリー出来てるぜ」

「散りな! 見せ物じゃない!」

「マチは恥ずかしがり屋だな」

「……そのフザケタ口、今この場で縫いつけてやろうか?」

「やめとけよ。意外とお似合いだったぜお前ら」

「あ゛?」

「――ノブナガ。俺はお前を誤解していたようだ。なんか追加注文するか?」

「いらねェよ。つーか、冗談だ冗談。そんなマジで睨むなよ」

「ちっ……」

「ノブナガ、俺の信頼を裏切ったな!」

「裏切ったも何も……って、何かメンドくせェな」

「だから、同行なんてさせなきゃよかったんだ」

「いや、さすがにそこまでじゃねェが……」

 

「……視られてんな」

「やっぱり? こっちはさっきのギャラリーとかとは違って素人じゃないね」

「ああ。どこかはわかんねェがオレ達を意識してる」

「あ、これ、俺の友達」

 

「「……はあ?」」

 

「さっき言っただろ。旅団の賞金欲しがってるって」

「ああ、そういやそんなこと言ってたな」

「……それで、どうするわけ? 一方的に視られてんのは気分悪いんだけど」

「ん、んー……ちょっと付き合ってやってよ。2人より弱いし、そのうち諦めるだろ。ノブナガが捕まってくれるならそれが一番だけど」

「やらねェって」

「諦めなかったら、殺すかもよ」

「本気で殺したかったらそれでもいいぜ。その時は俺が邪魔するだろうけど」

「……なら、いいじゃねェか。放っとこうぜ」

「本気?」

「ああ、こいつらは“鎖野郎”じゃねェよ」

「アンタの勘?」

「そういうお前はどうなんだ」

「……違う」

「じゃ、決まりだ。本気で目障りになったら追い払うか殺す。それまでは放置だ」

「わかった」

 

 

~~中略~~

 

 

「……アンタ、どこまでついて来る気?」

「え?」

「アタシら、これからアジトに帰るんだけど」

「行っちゃダメなのか?」

「普通来ないでしょ」

「だって、シズクもいるんだろ? シズクとも話したい」

「携帯で話せばいいじゃない」

「うー。そんなに俺を追い払いたいのか」

「そうね。アンタの友達も変わらず尾けてきてるみたいだしね」

「たいした奴等だ。さすがお前のダチって感じだな。シッポをつかませねェ。カンペキな“絶”だ」

 

「……確かに、かなりの使い手だね」

「ってか、そっちはそっちのじゃねェの?」

「あ? あー……そーゆーこと」

「どういうことだ?」

「わかんないなら気にしなくていいわよ」

「おい、マチ。お前、今オレのことバカにしたろ?」

「被害妄想」

「いーや、バカにした」

「しつこいね。これ以上しつこかったらそう思うかもね」

「ぬ……上手いこと言いやがったな」

「どうでもいいけど、アンタ、ホントにそろそろ帰りなよ。うちのバトルマニアはウボォーだけじゃないよ」

「他にもあんなのがいるのかよ」

「まぁ、タイプはちょっと違うけどね」

「かなり違ェよ。ウボォーみてェのはそういねェ」

「……そうかもね」

「うーん。わかった。なんかそっちも色々あるみたいだし、今日は帰る」

「おお、悪ィな。立て込んでないときならオレ達は歓迎するからよ」

「勝手に達でまとめるな」

「いいじゃねェか」

「よくない。アタシはアタシの気持ちを勝手に決めつけられるのは嫌いだ」

「あーはいはい。そりゃ、悪かったよ。じゃ、またな」

「ああ。マチ、また電話するから!」

「しなくていいって言ってる……」

「するから!」

「……勝手にしろ。多分出ないけどね」

「シズクにもよろしく伝えてくれ! それじゃ!」

 

「……変な奴」

「じゃなきゃ死んでるぜ」

「そりゃそうだ」

 

 

~~中略~~

 

 

「おう。レオリオ。どした?」

『どーしたじゃねェよ! お前“幻影旅団”のメンバーと一緒にいただろ! しかも和気あいあいとメシ食ったりして! どーいう関係だ!』

「ん、だから、オークションの時に連絡先を聞いてさ。今日は偶然街でマチとあったから。あ、ダジャレ言っちゃった」

『おまっ……連絡先聞いた女って、“幻影旅団”……何考えてんだ! 相手は超一級の犯罪者だぜ!』

「そーだけどさ。マチとシズクが可愛いから……」

『可愛きゃ許されるってことじゃねェだろ! あいつらはクラピカの仇でもあるんだぜ!』

「ああ、そうな。他は構わないから、マチとシズクは許してくんねーかな?」

『あのな、そりゃムリだ。あいつは一族丸ごと殺られてんだからよ。……それより、状況がわからなかったが、ゴンとキルアがお前といた奴らの後をそのまま追ってる。出来れば合流してくれ」

「ゴン達じゃムリだぜ? 諦めて帰ってくるんじゃないの」

『それはオレも感じたが……ゴンが簡単に意見を変える奴じゃないってのはお前だって知ってるだろ?』

 

「ポンズは?」

『オレの代わりに情報サイトのチェックをしてくれてるよ。元々あいつは乗り気じゃなかったし、オレも一度“幻影旅団”の実物を見てみたかった。ゴン達とも合流したかったしな』

「んー、でも合流するって言っても、もうどっか行っちまったぜ?」

『探せよ! ってか、ゴン達の方なら携帯の所在地モードでも使えばすぐ合流出来るだろ!』

「あー……って動いてる。この速さ車に乗ってる?」

『何!!? ちょっと待ってろ!』

「ん?」

『……ヤベェ。携帯に出ねェし、ひょっとしたら捕まったかも』

「待て、落ち着けよ。尾行してんなら携帯に出ないくらいのことはあるだろ。それに車の後を追うことだって」

『あ、ああ、そうだよな。とにかくスターは2人と合流してくれ! 本当ならオレが行きてーが、“絶”を使えないオレじゃ足手まといになる』

「はぁ、わかったよ。このまま帰るとポンズに怒られそうだし……レオリオはどーすんだ?」

『オレはゴン達に協力してくれてるっていうゼパイルって奴に会う。旅団の情報が入ったことで全部任せて来ちまったそーだ』

「そうか。わかった。じゃ、切るぜ。あとでな」

『おう! 2人のこと頼んだぜ、スター!』

 

 

~~中略~~

 

 

「“ヒーロー”参上!」

 

「「「あ?」」」

 

「スター!」

「……アジト壊すなよ」

「何でこいつがここにいるね」

「迎えに来たんだろ。このコ達とお友達だって話だしさ」

「そういうことじゃないね。何でここ知ってるか」

「“ヒーロー”だから!」

「どうせ携帯の所在地モードでも使ったんじゃないの。別に取り上げてないんだろ?」

「あ、お前! ネタバレ禁止!」

「ほら」

「つーか、そいつお前らと一緒にいた奴だよな? 誰なんだよ」

「オークションのときにウボォーと戦りあった奴がいるって話しただろ」

「……そういやなんか聞いた気もすんな。“鎖野郎”のことがあったからあんま覚えてねーけど」

「それで、そいつは“鎖野郎”と関係ないの?」

「ま、多分ね」

「一応調べてみる?」

「好きにすれば。そいつの記憶でバカになっても知らないわよ」

「あははっ、そりゃ困る。放っておきなよ。“鎖野郎”は単独で行動してるハズだから」

「ノブナガと同じ意見なわけだね」

「わざわざ子供なんかを使わなくても、ノストラード組を通じて情報はいくらでも入ってくる。一応、“鎖野郎”は組に所属してるわけだからね」

「そりゃそうだ」

 

「オレ達の標的は“鎖野郎”だけだ。それ以外は放っとけばいい」

 

「だ、そうだ。よかたな。お家帰れるね」

「あれ、何かすでに山場越えてた?」

「まあね」

「マジかよ。せっかく、マチとシズクの前でカッコいいトコを見せようと派手に登場したのに」

「そんなことでアジト壊すなよ」

「元々ボロイじゃん」

「確かに」

「あ、今更だけどお姉さんスタイルいいな。名前と連絡先教えてよ」

「またかよ」

「“パクノダ”よ。連絡先は秘密」

「えー」

「2人のを知ってれば十分でしょ」

「あいつ、オレ達を助けに来たんじゃねェのかよ……」

「あんた達、いつも一緒にいるの? 苦労するわね」

「ま、ね」

「スター、おもしろいし、頼りになるよ」

「でも、メンドくさいでしょ」

「それは……」

 

「――なあ、スター。そいつ、オレにくれよ」

「あ?」

「ボウズ、旅団(クモ)に入れよ」

「やだ」

「オレと組もうぜ」

「お前らの仲間になるくらいなら死んだ方がマシだ!」

「くくくく、ずいぶん嫌われたなァ」

「好かれる要素ないだろ。マチとシズクとパクノダ以外」

「スターは露骨だな」

「気安く呼ぶなよ。まず名前を名乗れ。いや、やっぱ男の名前はいらない」

「どっちさ。そこで完結しないでよ。オレの名前は“シャルナーク”。シャルでいいよ。――で、そっちから、“フィンクス”、“フェイタン”、フランクリン、“ボノレノフ”、“コルトピ”、ヒソカ」

「ヒソカ? あ、お前いたの?」

 

「あ」

 

「つーか、旅団だったのか」

「え、知り合い?」

「……天空闘技場で会ったんだよ★ 彼は250階のフロアマスター◆」

「へぇー! 通りでウボォーと戦りあえるわけだ!」

「それってすごいの?」

「そこのチャンピオンだよ。あそこは上の階層には“念”能力者が結構いるから、能力によってはオレ達も手こずるかもね」

「ふーん」

 

「そろそろ、帰るか」

「つーか、長ェよ。どんだけ馴染んでんだ……」

「おい、スター! そいつ」

「断られたんだから諦めろよ」

「団長が帰ってくるまで待ってくれよ。団長の御眼鏡にかなわなきゃ諦める」

「――団長って女?」

「男」

「よし、帰ろう」

「スター!」

「はいはい、また今度な」

「ボウズ、オレは諦めねェからな!」

「……変なのに気に入られたな。ゴン」

「だな」

「知らないよ。オレ、旅団には絶対に入らないから」

 

 

~~中略~~

 

 

「――で、どうする? これから」

「そりゃ何がしたいかによるさ。どうするかは」

「あいつらぶっとばしたい!」

「やっぱね」

「マチとシズクはダメだ! あ、あとパクノダも!」

「スター……」

「それでもいいよ! オレはノブナガとフィンクスって奴をまずぶっとばすから!」

「まあ、そりゃ、最初の主旨からはずれちゃいないけどな。奴ら3人くらいとっ捕まえて賞金せしめれば一気に60億だし。だけどそのためには“念”能力の向上が必須だぜ。奴らと対等に渡り合えるだけの潜在能力が“念”にはあるハズなんだ」

「あいつら結構やるぜ。通常時のオーラ的には全員ヒソカクラス」

「ああ、それはわかってるよ。けど、可能性はある。それを知るにはクラピカに聞くのが一番手っ取り早いんだけどな」

「え? 何で?」

「あいつらの仲間を倒したっていう“鎖野郎”がクラピカのことだからさ」

 

「え!!?」

 

「そうなのか?」

「やっぱり、気づいてなかったか」

「本当なのそれ?」

「十中八九な。会って聞けばわかるけど。もしそうならオレ達にもチャンスはある。クラピカだって“念”を覚えたのは同じくらいの時期なんだからな」

「おい。クラピカに会うのはいいが、俺とマチ達との関係は秘密だぞ。あいつマジギレしそーだから」

「わかってるよ。それで協力体制取れなくなってもやっかいだ。とにかく――オレ達の資質にあったオレ達だけの能力。でも、それ以上に旅団と同等以上に戦える能力が必要だ」

「その答えのカギを握ってるのがクラピカ」

「ああ」

「クラピカに会おう!」

「ああ、電話してみようぜ」

 

「……出ないね」

「仕事中なんじゃねーの?」

「待つしかないかな?」

「――なあ、だったら別行動でいいか?」

「何かしたいことでもあるの?」

「何ってオークションだよ。前回の時は旅団と遭遇して参加出来なかったしさ。まあ、それでマチとシズクに会えたから、むしろそれはよかったんだけど。せっかく来たのにまだ全然見れてないだろ。ほら、俺フロアマスターだから結構誘い来てんだよね」

「へぇー、そうなんだ?」

「なんなら2人も一緒に行くか?」

「いいの!!?」

「ああ。オークション参加中は携帯使えないけど」

「あぅ……うーん、なら、やめとく。クラピカがいつ時間が空くかわからないしさ」

「そうか。ポンズは――あんまり興味ないって言ってたんだよなー……。もうちょっとくらい物欲があってくれれば、色々プレゼントも喜ばれるのに。まあ、そういうトコも魅力的なんだが」

「……お前なんでもいいんだろ。物欲ありまくりだろう旅団員でもいいっつーんだから」

「可愛いは正義! そして俺は“ヒーロー”! “ヒーロー”は基本的に正義の味方! だから俺は犯罪者でも可愛かったり綺麗な女性の味方なんだ! 犯罪と悪は=じゃない! 例え=でも俺には関係ない! 俺は俺の正義を信じる!」

 

「「…………」」

 

「なるほどー……」

「納得すんなよ、ゴン」

「わかってくれたようで何よりだ。じゃ、俺は行くから」

「あ、うん」

「どこのオークションハウスに行くんだ?」

「ん? 場所は前と同じだよ。えーっと……そうそう、“セメタリービル”だな」

 

 

~~中略~~

 

 

「OKです。どうぞお通り下さい」

 

「よかったー。検問通れなくて困ってたの。ホントにありがとう」

「どういたしまして」

「ちっ……俺の方が先に声かけたのに、車持ってるからって。別にタクシーでよかったのによ」

「まあまあ、それなら同時に声かけたってことでいいじゃないですか」

「いいけどさー……」

 

「競売品の下見までも、まだ少し時間があるね。そっちで休んでようか」

「私はあちらにいますんで」

「ああ」

 

「――占いが得意なんだってね。えーっと、誰に聞いたんだけっかな」

「うん。得意だよ。えらい人にも頼まれるもん」

「マジか。だったら君と俺の相性をぜひ!」

「あ、あたしの占いって少し変わってて、そういうのじゃないんだー」

「そうなの?」

「うん。何か4つか5つの4行詩から成ってて、それがその月の週ごとに起こることを予言してるらしいの」

「らしいって……君が占ってんでしょ?」

「自動書記って言って、勝手に手が書いちゃうの」

「へェー、すごいね! 的中率は?」

「百発百中なんだって」

「ホント!!? オレも占ってよ」

「待て! ずるいぞ! 俺が先に頼んだだろ!」

「いいよ。2人とも占ってあげる。紙に自分のフルネーム、生年月日、血液型書いて」

 

「クラウディオス・E・T・スターに“クロロ・ルシルフル”。20歳と26歳……? へェー、あなたは結構年上なんだ。それにしても、2人共変わった名前だね」

「仲間には“ダンチョー”って呼ばれてるけど」

「あはは、何それ。もっと変」

「くっ……俺ももっとおもしろい愛称があれば……!」

「あはは、それはそれでおもしろいけど。――じゃ、占ってみるね」

 

『“天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)”!!!』

 

「“念”で占うのか。めずらしいなー、特質系ってやつ?」

「……え? 何か言った?」

「ん、だから」

「それより、占い終わったの?」

「あっ、うん。――ハイ! 出来たよ」

「見ていい?」

「どうぞ。あ、それとさっき言った通りだから、もう、一つ目の詩の出来事は終わってるかも」

「へェ……」

「こっちが俺のか」

 

何もかもが値上がりする地下室

そこで貴方は蜘蛛に出会う

生かすも殺すも貴方次第

欲深き夢の街で一人空白地帯に立っている

 

菊が葉もろとも涸れ落ちて

血塗られた緋の眼の地に臥す傍らで

貴方は2択を迫られる

表か裏か貴方はどちらも選ばない

 

幕間劇に興じよう

そこに貴方の探し物がある

けれど気軽に手にしてはいけない

それは眠れる蜂を起こす合図になるだろう

 

仮初の愛に惑わされ

貴方は深い霧の中を突き進む

抜け出ることは叶わない

真実は貴方の背中にあるのだから

 

「……意味がわかるようなわからないような」

「!!?」

「ん、おわっ、お前泣いてんのか?」

「はは、君の占いすごいね。当たってるよ。この一つ目の詩なんだけど」

「あ! ダメッ!!!」

「んあ?」

「あ、あたしね。自分の占い一切見ないの。なるべく自分が関わらない方が当たるような気がするから」

「なるほどね」

「俺には見せてくれてもいいぞ」

「ん? じゃ、君のも見せてくれたら」

「ほれ」

「……これは」

「意味わかるのか?」

「どうだろう。でも、オレのと少し似てるね」

「俺の見せたんだからお前のも見せろよ」

「ああ……っと、しまった。今何時? そういえばオレ約束があったんだった」

「え、えっと……」

「ちょっ、見せたくないからでっち上げてんじゃないだろうな!」

「そうじゃないよ。なら時間がないから一つ目だけ」

 

大切な暦が一部欠けて

残された月達は盛大に葬うだろう

けれど星の遣いを怒らせてはいけない

反転して蝕されてしまうから

 

「……似てないぞ?」

「他のがちょっと似てるんだよ」

「じゃ、そっち見せろよ」

「ごめん。ホントに時間ないから!」

「あ、こら!」

「大丈夫! オレ達、縁がありそうだから、また会ったときにでも話すよ」

「男との縁なんて嬉しくないんだよ!」

 

「……行っちゃったね」

「まあ、いいか。これで“ネオン”と2人きりだ」

「え、んー……スターも参加証持ってるんだよね?」

「ああ」

「ならいっか。――ね。あたし達もそろそろ行こうよ」

「そだな」

 

 

~~中略~~

 

 

「――ネオン!」

「あっ、パパ……」

「パパ? ってクラピカ!」

「スター!!? 何故お前が彼女と一緒に!」

「貴様、どこの組の者だ!!?」

「組?」

「お、落ち着いてパパ。スターはあたしをここに連れて来てくれただけで」

「ネオンは黙っていなさい」

「ボス、彼は大丈夫です。どこかの手の者ではありません。私と同期のハンターです」

「ハンターだと!!?」

「スター、ハンターだったんだ?」

「ああ。一応」

「しかし、それだけでは大丈夫だという理由にならんぞ!」

「そこは私を信じていただく他ありません。それに、この通り彼女が無事だという事実があります」

 

「……わかった」

 

「何? これって何か大変な状況なのか?」

「その問いに答える前にスター。彼女はお前がここに連れてきたということで間違いないな」

「ん、ああ。クロロって奴の車に乗ってきたけど」

「クロロ? 誰だ」

「さあ。俺が参加証がなくて困ってるネオンに声かけたら、あいつもかけて来てさ。それなら車で行く方がいいだろうなんて感じで」

「……その人物は今どこに?」

「少し前に約束があるとか言ってどっか行った」

「容姿の特徴は?」

「スーツなのに頭にバンダナ巻いてて、あと、耳飾りつけてる」

「では、何を話した?」

「ネオンを中心にしての普通の世間話だよ。オークションのこととかな。あとは占いをしてもらったけど」

「占い? 占いが目的か? ……いや。スター。その人物は“念”能力者ではなかったか?」

「そうだけど? どんな能力かまでは知らないけど、オーラ的には結構強そうだったな」

 

「――ボス。まずは彼女の安全確保が最優先。“センリツ”達に連絡します。御2人はこの場を離れて下さい」

 

「えーっ! やだよ! オークションに参加するのー!」

「ありません」

「えっ?」

「オークションがか!!?」

「その人物の目的は推察するしかありませんが、誰ともわからない“念”能力者が偶然彼女に声をかけ、占いをしてもらい、ただ立ち去るという可能性は少ない。ここにそういう人物としてスターがいる以上、もう1人は悪意を持って近づいた確率が高い」

「クロロさんが?」

「ええ。しかもすでに一度、そういう事態が起こっているのだから、又、起こってもおかしくはないでしょう。そうなればここは戦場です」

 

「――!」

「今、外から何か……」

「ええ。爆発音です。遅かった。御2人はいつでも脱出出来るように準備を。今は外ですが、最低1人は中に潜んでいるハズです」

「だ、大丈夫なのかっ?」

「そのための私です。――スター、状況によってはお前にも手伝ってもらうぞ」

「え、ああ……(よくわかんねーけど、マフィアとドンパチやってるってことは“幻影旅団”か? そういや、クロロ、“ダンチョー”って呼ばれてるとか言ってたし……あれ? “幻影旅団”ってクラピカの仇だよな。……鉢合わせたらヤバくね)」

 

「団長からだたよ。セメタリービルで暴れるから来い言てるね」

「実はもうすぐそこまで来てるけどな。他の連中は?」

「考えてること皆同じね。ゴミ掃除しながらビルに向かてるね。あと、団長が珍しく暴れ方に条件つけたね」

「なんて?」

 

『派手に殺れ!!! ――ただし、クラウディオス・E・T・スターに手を出すな!』

 

「クラ……何だって?」

「昼に来たあいつのことよ。団長の御眼鏡にかなたみたいね」

「ふーん……」

 

 

~~中略~~

 

 

「オイ一体外はどうなってんだ!!?」

「爆音がここまで聞こえてきたぞ」

「競売はいつから始まるんだ!!?」

「説明しろよ、オメェよ!」

 

「さすがに場が混乱してきたな……」

「行かないのか?」

「ああ。まだ、動けない。――すまない、電話だ。もしもし」

 

『あ、クラピカ!!? よかった、ようやくつながった!』

「ゴン!!?」

『今、大丈夫?』

「いや、悪いが忙しい。こちらからかけ直そう」

『ちょっと待って。じゃ1分だけ!!! 用件だけ言うから。――オレとキルア、旅団に会った』

 

「!!!」

 

『――っていうか、捕まっちゃったんだけど』

「何を考えてるんだお前達は!!! 相手がどれだけ危険な連中かわかってるのか!!!」

『かわって。――わかってたつもりだったけど……会って痛感した。確かに奴らは強い……今のオレ達だと手も足も出ない。だからクラピカの協力がいるんだ。オレ達も力になりたい』

「ふざけるな。お前達の自殺行為に手を貸す気はない」

『奴らのアジト……知りたくない?』

「……情報提供者はちゃんといる」

『団員の能力についてもわかったことがある』

「くどい! いいから旅団から手を引くんだ」

『奴等の1人を倒した“鎖野郎”ってクラピカだろ? あいつら血眼で探してるよ』

「……」

『お前がオレ達のこと仲間とも対等とも思えないなら、どんな手使ってでも協力してもらうぜ!!!』

『――クラピカ。あいつらの1人が俺達の前で泣いたんだ。仲間を殺した奴を許さないって。オレ……それを見たとき、無性にやるせなくて、許せなかった。オレ達も旅団を止めたいんだ。――頼むよ、クラピカ』

「こちらから、かけ直す」

 

「ゴン?」

「……ああ。旅団に会ったと、止めるのを手伝いたいと言ってきた」

「ふーん。どうすんだ?」

「……わからない」

「そうか」

 

「「!」」

 

「大丈夫か!!?」

「ダメだ、あいつら強すぎる!!! オレ達じゃ太刀打ち出来ねェ。ドのクラい、ツよいのカトイうとォオ、コノくらイイ! イ! イ! ――!!!」

「お」

「くそがァ!」

「あははははは! はははは! ――は?」

 

「あーあ、壊れちゃった。次の人間(マシン)探さなきゃ。ってか、スターがいた気もするけど、これくらいは問題ないよね?」

 

「スター! 無事か?」

「ん、ああ。大丈夫。操作系だな。今の」

「ああ……! どこに潜んでいるかわからない。操られないように注意しろ! 一度ボス達の下に戻る!」

「わかった(上か……)」

 

 

~~中略~~

 

 

「……大分静かになったようだな」

「今なら脱出出来そうですね」

 

「――おい。何か終わったみたいだぜ。オークション始めるって」

 

「「何っ!!?」」

 

「えっ! あたし参加したい!」

「クラピカ!」

「……確認します!」

 

「ああ。旅団のリーダーは殺られたらしいぜ」

「今は残党狩りだとよ。やはり、プロは違うな」

「……」

「くくく、役立たずのオメーらが脱出だとか騒いでる間にゾルディックの連中があっさり片付けてくれたらしいぜ? ってなワケでテメーももう用無しだ。占い女のケツにひっついとけボケがよ。とっととホテルでも何でも行っちまえよ。あ!!? それとも――」

 

「……あーあ。ありゃ、相当頭に血がのぼってるな」

 

 

「おや▲ 君、何しに来たんだい★」

「見学。オークションに参加してもニセモノ売りつけられそうだから」

「くくく、さすが◆ 君、ひょっとして常に“凝”とか“円”とか“隠”とかしてるの?」

「あ! マチ!」

「げっ、なんでアンタがここにいるのよ」

「俺達は惹かれあう運命なんだよ!」

「そんなものはない!」

 

「……」

 

「ヒソカ、そんなトコで突っ立って何してんだ?」

「……いや、つれないなぁと思って▼」

「あ?」

「“性転換”しようかな◆」

「はあぁ!!?」

「冗談だよ★」

 

「大体だなー、何でマチやシズクの死体を晒すんだよってこと! 俺にもコピー1体くれよ!」

「キモイこと言うな! そんなのアタシらの顔がすでに割れてるからに決まってるでしょ」

「“神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)”で作ったコピーは24時間で消えるよ」

「――24時間!!? ……いや、24時間か」

「考えるな! コルトピ、こいつに何言われても絶対に頷くなよ」

「お返しに俺のコピーあげるから」

「いるか!」

 

 

~~中略~~

 

 

「ただいまー」

「お。スターも戻ってきたか! ゴン達もちょうど戻って来たところだぜ!」

「酒飲んでるのかよ」

「夕方前にはもう始めてたわよ」

「レオリオ、確か未成年って言ってただろ」

「オレの国は16から、アルコールOKだぞ」

 

「……んなことがあったのか。おめーら、よく無事で帰ってこれたな」

「ま、スターがいなきゃヤバかったかもね」

「キルアはダメ!」

「あ、何だよ! ちょっと舐めるだけだって!」

「おいおい、いいじゃねーか、オレは12から飲んでたぜ」

「――キルア、子供の頃から飲んでると、あんな大人になるわよ」

「げっ、やめとく」

「おいぃ! さすがにそれはひでーだろ!」

「子供にお酒を勧める大人には言われたくありません」

「ぐっ……」

「“幻影旅団”ってのはそんなにヤバイ連中なのか」

「まあね」

「それはそうと、オークション行ってたんだろ? どうだった? 何か買ったのか?」

「いや」

「何だそうなのかよ……。ああ、そうだ。明日は朝イチから競売だぜ? オレはもちろん行くが、お前らどうすんだ?」

 

「「うーん」」

 

「本当は行きたいけど」

「クラピカに会って“念”を教わらなきゃ」

「何だ連絡とれたのか」

「うん、あっちからの電話待ちだけど」

「待てよ……今、“念”を教わるって言ったか?」

「え、うん」

「何でだよ、あいつだって“念”を覚えたの最近だろ!!?」

「ああ」

「それでもクラピカは旅団の1人を倒してるんだよ」

「……マジか!!?」

「何か秘密があるハズなんだ“念”にはさ。経験やパワー以外の“念”独特の強さがね」

 

「――! クラピカ?」

『……ああ。旅団を止めたいと言ってたな。その必要はなくなったよ。旅団(クモ)は死んだ』

「! もしもし、クラピカ」

「何だって?」

 

「――旅団が死んだって」

 

「ホントかよ!!?」

「ウソだよ」

「ウソかよ!!?」

 

「え、なんでスターはそんなことがわかるの」

「現場に居合わせたから」

「またかよ!」

「なら、クラピカに教えてあげないと! ――ダメだ、つながんない。電源切られちゃった」

「今回はメールしとけよ」

「……本当に教えてもいいのかな」

「え、何で?」

「気持ちはわかるけど、どうせいつかはバレるぜ。そのとき知らない方がマズイ場合だってある」

「でも旅団って結構人数いるんでしょ? いくら彼が1人倒してるからって、集まってるときを狙うことはないと思うけど」

「確かにな……奴等はオークションが開催されてるから集まってるんだろうし……終わればある程度はバラけるかも。でも、その事実を知ればクラピカは退かねェだろうな。今ならこの街にいるってわかってるからよ」

「うーん」

「とりあえず、メールはしとけよ。会いたいってさ。話すかどうかは会ってから決めてもいいだろ。どのみち、“念”のことは聞いておきたいんだから」

「あ、そうだね。じゃあ――」

 

『明日、デイロード公園で待ってる! ゴン・キルア』

 

 

~~中略~~

 

 

「お。――マチ! マチが俺に電話かけてくるなんて感激だな! 俺の声が聞きたくなったのか? それともデートの」

『団長がアンタに会いたいそうだ』

「ん?」

『アジトに来い』

「あ、ちょっ――切れた。団長ねえ……」

 

「……なんでアタシばっかこういう役回りなのよ!」

「くっく、気に入られてるんだろ?」

「知らないわよ!」

 

菊が葉もろとも涸れ落ちて

血塗られた緋の眼の地に臥す傍らで

選択は星の遣いに託される

逆らうのもいいだろう手足を失い高みへ行ける

 

「――というわけで、お前の意見を聞きたい」

「意見?」

「この“星の遣い”と言うのはお前のことだろう」

「俺がスターだからか? 安直じゃないか?」

「だが、他に思い当たる者もいない。それにお前の一つ目の占いでは蜘蛛を生かすも殺すもお前次第と書かれていた」

 

「「「!」」」

 

「……とはいえ、これはオレを殺す詩じゃない。何故ならオレの占いはその後も続くからだ。しかし、無視は出来ない。この占いの通りだと、パクノダとシズクとシャルナークが死に、他にも何人か死ぬか戦線離脱するかする可能性がある」

「パクノダとシズクが! それは困る!」

「……一応、オレの名前も呼んで欲しいなー」

「しかし、こんなのでよくわかるな」

「一つ目の詩から暦がオレ達のことを表してると読みとれるからな」

「一つ目……ああ、あれね」

 

大切な暦が一部欠けて

残された月達は盛大に葬うだろう

けれど星の遣いを怒らせてはいけない

反転して蝕されてしまうから

 

「そこから考えると、菊が菊月(9)で、葉が葉月(8)で、涸れるが水無月(6)をそれぞれ暗示している。これはオレ達、旅団(クモ)のナンバーのことだ。さらに涸れ落ちるが枯れ落ちると掛かり、死を示すとみていいだろう」

「おおー」

「ちなみに“緋の眼”はオレ達の誰かじゃない。こいつが“鎖野郎”のことだと思われる」

「“緋の眼”……思い出した。目が赤くなる連中ね」

「生き残りがいたということか」

「そいつも死ぬってことか」

「わからんぜ。血だらけで地に臥してるだけじゃあ」

「――じゃ、その結末がこいつに託されるってわけか?」

「オレ達のこともね」

「俺大人気だな」

「……こんな奴にかかってると思うと、頭がイテェな」

「どちらにしろ、このまま“鎖野郎”と闘り合うわけにはいかなそうだね」

「おい!」

「考えてもみなよ。最低3人。最高では団長以外全員。そうなれば戦力半減どころじゃない。オレやノブナガの能力はいくらでもかわりがきくけど、シズクとパクノダはレアなんだ。旅団としては失うわけにはいかない」

「……」

 

「そうだ。シズクとパクノダは大事だ。こいつらと違って」

 

「……自分で言っといてなんだけど、ちょっとくらいは気にしてよ」

「断る!」

「いっそ清々しいほど男にはシビアだね」

 

「――今日が9月の第一週目の土曜日。今日中に本拠地(ホーム)に戻れば、来週、“鎖野郎”に会うことはまずないだろう。だが、その選択がこいつの怒りを買えば、反転してオレ達は蝕されることになる。これは“緋の眼”を太陽と掛けてのことだろう」

「追う側の“日食”から追われる側の“月食”に変わるってことか……まあ、“月食”なら太陽じゃなく星のスターに殺られるってことかもだけど」

「ここでこいつを消すってのは?」

「ムリでしょ。それが一つ目の詩の怒りを買う行為だとしたら、その所為で反転することになる。少なくとも今週中……いや、来週もか。は手を出せない」

「ちっ……メンドくせー」

「確かにね。でも、スターはウボォーの“超破壊拳(ビックバンインパクト)”と真っ向から打ち合えるんだ。戦闘力は侮れない」

「はぁ、どこまでも面倒な存在ね。アンタ」

「照れるな」

「褒めてない」

 

「で、どうなんだ? オレ達は本拠地(ホーム)に帰ってもお前の怒りを買わないのか?」

「男が帰るのは別に。マチとシズクとパクノダには残って欲しいけど」

「……これ、困ったね。一つ目の詩だけならともかく、二つ目と合わせて考えると、オレ達だけ先に帰った場合、その所為でシズクとパクノダが“鎖野郎”に狙われて死ぬ可能性がある。でも、オレだけ帰るとオレが死ぬかも。2人が死ぬよりはマシだけど」

「とりあえず、シャルに何人かつけて帰す?」

「だから、それが致命的な失敗になりかねないんだろ? 分散自体するべきじゃない」

「3人が死ぬのが占いの結果なんだから、どちらかでも死なない状況なら占いは成立しないんじゃないの?」

「どっちが、正解かわからないだろ。それより、こいつだって、シズクとパクノダは殺したいわけじゃないんだろ? だったら、全員で帰っても怒りを買わないんじゃないか?」

「かもしれないけど。問題はこの一文がどこまで適用されてるのかってことだよ。団長はスターの怒りさえ買わなければ帰って大丈夫って考えのようだけど、ちょっとした不満でも比喩的に怒りとして書かれてる可能性だってある」

「じゃ、それで帰った結果、何かが回り回って、来週、オレ達を追いかけてきた“鎖野郎”と鉢合わせて……なんて状況も考えられるってことか」

「そーゆーこと。それに“鎖野郎”だってウボォーを殺れる実力があるなら、オレ達全員で戦っても、オレ含めた3人は道連れに出来るってことかも知れない」

「なら、どうすんだよ。この情報だけじゃどうとでもとれるぜ」

 

「あ! スターを本拠地(ホーム)に連れて行くってのは?」

 

「同じだろ。来週の詩だと、こいつはその場にいたとしても選択を託されるだけだ。そんで逆らった場合は何人かやられる」

「あ、そっか。うーん、いい案だと思ったんだけどなぁ」

 

「「「…………」」」

 

「結局この占いだけじゃ今までの案のどれかを採用するしかなさそうだね……」

 

「――まあ、待て。俺に革新的なアイデアがある」

 

「なんだ?」

「俺はマチとシズクとパクノダの3人の内1人でも俺の傍にいるのならば不満を覚えない。つまり怒り状態にはならない。だから死ぬ予言のないマチが残って、他は全員で帰ればいい」

「おお」

「おおじゃない! 死ぬ3人が全員そっちに固まってれば、“鎖野郎”と戦闘になった際、道連れになる可能性があるって話だったでしょ!」

「……いや、意外とアリじゃないの。スターがこの街に留まるなら“鎖野郎”が追いかけてきても、その傍らにはいないって風にもとれる。それなら占いは成り立たないかも」

「それは楽観しすぎじゃないか? こいつは結局選択さえ出来ればいいんだから、それを知った結果の行動が選択ってことなら離れてようが意味ないぜ」

「でも、さっきまでの案の中で一番安全な可能性が高いのは、やっぱり全員で行動することだと思うんだよね」

「待てよ。それでいいなら、お前らは三方向に別れた方がいいだろ。“鎖野郎”が単独なら、3人全部殺るのは不可能だ」

「それはそうだけど、それだとそもそも占いが成り立たなくなって死ぬ人間が変わるだけかもしれない」

「成り立たないなら誰も死なない可能性もあるじゃねェか」

「うーん、それは“鎖野郎”がオレ達を追跡出来るかどうかにかかってくるね。オレは追跡出来ると思う」

 

「理由は?」

 

「占いで3人死んでるからさ。オレとシズクとパクノダが3人で組むって状況はあんまりない。全員で鉢合わせたんじゃなければ、普通に考えて、最低1人は狙い撃ちされた可能性が高い」

「なるほど……数が減るとその分不利だってことか」

「そう。それで占いを成り立たなくする方法なら、さっきのが一番かなって。最少人数の1人で事足りる。それで、仮にマチの方に“鎖野郎”が現れても、スターが撃退してくれるだろうしさ」

「コイツ任せ?」

「イヤそーな顔しないでよ。これでスターはオレ達を殺すことはあっても殺されはしない実力者だ。そして気に入ってるマチを殺すことは多分ない」

「ないな。絶対ない」

「……これを信じろっての?」

「ふむ……なら、オレもこっちに残るか。オレはこいつに逆らっても少なくとも死なない程度には対処出来るハズだ。元々“鎖野郎”に殺られるような予言も出ていない。お前らは残る全員で本拠地(ホーム)に帰れ」

 

「★」

 

「待ってくれ! なら、オレも残してくれよ団長! この状況なら団長には最低2人はついてるべきだ。“鎖野郎”だって狙うなら少ない方を狙うに決まってる!」

「……いいだろう。但しオレ達は“鎖野郎”を探さない。次週がすぎるまでは、例え“遭遇しても生き残ること”を優先する。これは本拠地(ホーム)に戻る者達も絶対遵守だ」

「わかったぜ。その後なら殺ってもいいんだな?」

「ああ。相手が相応の実力者だと正確に認識した上で、殺れると思える状況ならな」

「了解だ」

 

「ちょっと待て! 男2人はいらん! 2人きりじゃないなら俺は不満だ!」

 

「アンタ……」

「……お前とマチが話してる間はオレ達は離れている。それなら問題ないだろう」

「うー、マチが女性らしく可愛らしい服装でデート一回してくれるなら」

「してやれ、マチ」

「ちょっ……何でそんなこと!」

 

旅団(クモ)のためだ」

 

「くっ……で、でも服装は自由でいいだろ。女性らしくとか可愛らしいとか、よくわかんないって」

「スカートが基本で」

「アンタ、調子にノルなよ……」

「お、落ち着け、マチ! スターを怒らせたら反転するから! というか、そこまで無茶じゃないっていうか、ある意味なんでも言えるこの状況でなら、充分紳士的な条件だって!」

「だははっ、それくらいいーじゃねーか。お前、普段はホントにそーいうのと無縁なんだしよ。いい機会だろ」

 

「あ゛?」

 

「あいつの考え理解不能ね。どうせならもっといいのを選べばいいね」

「まあ、趣味は人それぞれだからな。あいつは何でもいい雑食系っぽいしよ」

「アンタラ……」

「どうやらみんなも俺達の仲を祝福してくれているようだ!」

「マチ! 堪えて! マジ堪えて!」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

『死体は偽物(フェイク) ★ ̄Д ̄†』

 

 

~~中略~~

 

 

「――マチ! 次はあっち行こうぜ!」

「はいはい……って、おい引っ張るな!」

 

「……意外とお似合いだな。マチも楽しそうだ」

「だから、そう言ったじゃねェか。……ウボォーのあと、あいつでもいいと思うぜ。まあ、オレとしてはゴンの方と組みたいんだがな」

「さっき話しに出た子供か。そうだな、考えておく」

「おお!」

 

「? ……ねえ! 団長達の気配を感じないんだけど!」

「ん、そうだな……。ようやく、気を使ってくれたんかな?」

「バカ! 異常事態よ! ――電話、団長!」

 

『マチか。デート中すまないな』

「団長、無事?」

『今のところはな』

「――何があったの?」

『ヒソカが裏切った』

「! ヒソカが!!?」

『現在追いかけっこの最中だ』

「すぐに応援に――」

『いや、お前はノブナガの方に行ってくれ』

「ノブナガ?」

『“鎖野郎”だ。ヒソカと組んでる』

「なっ、アイツ……!」

『オレはヒソカを撒いてからそっちと合流する。最低でもそれまで持たせろ。ノブナガ1人じゃ止まれない。スターにも協力を頼め』

「……わかった。団長、ヒソカはやっかいな奴だ。気をつけて」

『ああ。知ってる』

 

「何だって?」

「……ヒソカが裏切った。“鎖野郎”とつながってた。団長はヒソカと、ノブナガは“鎖野郎”と戦りあってる。アタシはノブナガの応援に行く。アンタにも手伝ってもらうわ」

「“鎖野郎”ね……」

 

『――つーわけで、助けてくれ。俺がピンチだ。\(・-・)/』

 

「キルア、誰から?」

「ああ、自業自得のバカから。このままだとクラピカと鉢合わせるから何とかしてくれって」

「どうするの?」

「そうだな……お仕置きもかねてポンズに頼むか。少しは痛い目に合わせないとな」

 

『“蜂の弾丸(ビービーショット)”』

 

「――蜂の大群!!?」

「足止めか! “鎖野郎”がヒソカと組んでたってことは、基本単独であっても、旅団員と1対1で戦るために、他にも協力者を用意しててもおかしくない!」

「ちっ……蜂ごとき細切れにしてやる……!」

「待った、ここは俺がやる!」

「スター!!?」

「操作系の能力者か知らないが、俺のオーラは蜂の針程度じゃ刺さらない! マチを1人にするのは心苦しいけど、速攻で片付けてすぐ追いかける! マチはノブナガを!」

「……アンタがノブナガの心配をするなんてね」

「いや、してない。ノブナガが殺られた場合のマチを心配してるだけだ」

「……ふっ、なら納得! ここは任せた。すぐに来い!」

「了解!」

 

「……行ったか。おーい、ポンズ。もういいぞ。…………ちょっ! もういいって! 刺さんないけど、これだけ数いると迫力が、迫、迫――おいー!!?」

 

『“移動する蜂の巣(ウォーキングハイブ)”』

 

「これで少しは懲りた?」

「ヒドイ……」

「どっちがよ。超一級の犯罪者――しかも、知り合いの仇とわかってて仲良くなろうとする方がでしょ」

「嫉妬か」

「違う! ――で、これからどうするの?」

「うーん、ノブナガはどうでもいいんだけど、マチがなぁ……」

「……全然懲りてないみたいね」

 

 

~~中略~~

 

 

「“束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)”」

 

「……ぐっ! これがウボォーを殺った鎖か!!?」

「知っていたか。しかし、それでもこうして捕まるのだから、彼の死はお前達に何の教訓ももたらさなかったらしいな」

「てめェ!!!」

「無駄だよ。旅団一の怪力を持つであろう彼でも、この鎖を切れずに屈した……!」

「くそォォオォォ!!!」

「お前が今感じているであろう悔しさ、憤りを、私もこの5年間、ずっと感じ続けてきた。贖いの時だ。――!」

 

「ノブナガ!」

 

「“念糸”……変化系の能力者か!」

「マチ! お前1人か!!? なんで来た! 団長は!!?」

「その団長命令! アイツは他のと戦ってる!」

「(アイツ……?)」

「そうかよ! そいつの隠された鎖に気をつけろ! 捕まると強制的に“絶”にされる! “凝”を怠るな!」

「黙れ……っ!」

「ぐあぁっ!!?」

「強制的な“絶”……! 似たようなこと予想してたのになんで捕まってんのさ! このバカ!」

「全くだ」

「ちっ」

 

「――さて、少々やっかいな状況だが、切り札(カード)は私の手の中にある。お前が動くよりも早く、そして容易く私は彼を殺すことが出来る」

「オレのことは構うな! こいつを殺……ぐあぁあああっ!!?」

「黙れと言った」

「……それで? 何がアンタの望み?」

「“律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)”。――これは戒めの楔。私が定めた法を破れば、即座に鎖が発動し、対象の心臓を握り潰す!!!」

 

「……その条件は?」

 

「1つ、今後、“念”能力の使用を一切禁じる。2つ、今後、旅団員との一切の接触を絶つこと。この内容でお前達2人に楔を刺す。(状況が変わった。この状況なら奴等を無力化することが最善の一手! ヒソカが旅団(クモ)の頭を潰せばそれで終わる!)」

「ま、マチ! ルールだ! 旅団(クモ)が生きることを優先しろ! やられたのはオレのミスだ! こ、こいつはどうあってもここで殺っておかないとダメだ! ぐあぁあああああっ!!!」

「返答はお前がしろ。お前から先に楔を刺す!」

「(旅団(クモ)が生きることを優先ね……。そりゃ当然そうだけど、今週がすぎるまでは、例え“遭遇しても生き残ること”が優先、だろ?)」

 

「返答を! これ以上待つ気はない!」

 

「……一つ聞きたい」

「なんだ」

「今後というのはこの場を離れてからだな? この場には旅団員が2人いる」

「そうだ。その解釈で合っている」

「マチ!!! やめろ!!!」

「……わかっ」

 

『そこまでだ!!! ――“鎖野郎”! そちらと同じくこちらもお前の仲間を捕獲した!!!』

 

「――何っ!!?」

 

「「!!?」」

 

「す、すまねえ、クラピカ……!」

「レオリオ!!?」

『見ての通りだ! 私はその場に姿を現さない! けれど彼はすでに私の手の内だ! 人質交換と行こう!』

「くっ……お前も旅団(クモ)か……!!?」

『どうかな? だが、私の顔はまだ割れていないのでね! 追われるリスクは起こさないさ!』

「くそっ……!」

「(スターの野郎……! いきなり呼び出したと思ったら、こんな役! オレは今回、後方支援だぞ! ノリノリでやってんじゃねーよ、てめェ!)」

 

「「(アイツがやった……!)」」

 

『――では、肝心の人質交換方法だが、お前の鎖を使う』

「私の鎖だと……?」

『ノブナガに楔を刺せ。内容はお前の仲間が無事に解放されなければ死ぬ。私も同じ条件をお前の仲間にすでに付与している』

 

「なっ……!」

「(ハッタリだろ……)」

「(ハッタリね……)」

 

『どうした! 条件は同じだ! 早くしろ!』

「……条件を追加する」

『何?』

「24時間の間、私に対して旅団員による一切の攻撃を禁止! お前の姿が見えない以上私の方が不利だ! 解放した瞬間に攻撃されるのも困る! その条件の追加がOKなら人質交換に応じる!」

『……いいだろう。ウソはわかるぞ! その条件で楔を刺せ!』

 

「(アイツ……オレが対象だからって……くそっ、一連の状況から考えて、マチはオレを無視して攻撃はしないだろう。だからと死んでもそれは特攻ではなく裏切りと同義! これで、解放されても“鎖野郎”に手が出せなくなる……!)」

「“律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)”……!!!」

 

『よし! では、お前の仲間を解放する! 解放されたからと攻撃するなよ! お前がいくら強くても私達3人から彼を守り抜くことは不可能だ!』

「そんなことはわかっている……! 早くレオリオを解放しろ……!」

『――いいぞ、行け!』

 

「すまねえ……」

「いや、今回は私の作戦ミスだ。団長ともう1人以外に旅団員が潜んでいるとは思わなかった。無事で何よりだ(あとはヒソカ次第だが……こちらで起きたことがあちらで起きないとも限らないか。私の情報が洩れて、不利になったことだけは確かだな)」

 

「……今回は痛み分けだ! だが! 顔は覚えたぜ! てめェは必ずオレが殺す!」

「こちらの台詞だ」

「チッ……マチ、団長のトコに行くぜ!」

「……ああ、急ごう!」

 

「よ。マチ! 無事で何よりだ」

「アンタか……」

「スター! てめェ、余計なことしやがって! お前のせいで“鎖野郎”に手が出せなくなったじゃねェか!」

「何言ってんだ。お前が捕まったのがそもそもの原因だろ」

「それに関しては全面的に同意」

「ぐっ……!」

「で、クロロは?」

「……携帯には出ない。所在地モードで向かってる」

「そうか」

 

「ん、お前達か……」

「団長! 無事みたいね……ヒソカは?」

「何とか撒くことに成功した」

「そう。アイツ……裏切るなんて!」

「そっちはどうなった?」

「……痛み分けだ。オレがヘマしちまった。24時間は“鎖野郎”に攻撃を仕掛けられねェ」

「相手にルールを強いる能力か。よくそれで済んだな」

「コイツのおかげだ。“鎖野郎”の仲間を捕らえてそれで済ませた」

「なるほどな……」

 

「「…………」」

 

「少し話でもするか」

「ああ。オレもそうしたいと思っていた」

「……団長?」

「ただの確認だ。こいつが相対した“敵”に関してのな」

 

「――俺のことは聞いたか?」

「ああ。お前も“鎖野郎”の知り合いらしいな」

「そうなるな」

「……だが、お前はオレ達を生かした。お前の立ち位置なら1人2人は殺れたにもかかわらず」

「別に俺はお前達に恨みがない。むしろマチとかシズクとかパクノダとはよほど仲良くしたいと思ってるぜ」

「なるほど……それは擬態ではないわけだ」

「当然だ」

 

「……くっく、どうやらオレ達は今回、お前の掌の上で踊らされていたようだな。お前は確かに表も裏もどちらも選ばなかった」

「当たる占いだ。だから言うぜ。“鎖野郎”に積極的に手を出すな。俺は男なら結構簡単に殺せる」

「“鎖野郎”も男だろ」

「ただの知り合いじゃなく……友達や仲間なら別だ」

 

「フ……なら“幻影旅団”に入る気はないか?」

 

「ないね。マチとシズクとパクノダが自主的に俺を誘惑でもしてきたら考えるけど」

「ハハハハハッ! それは難しそうだ。……いいだろう。お前に逆らうと手足を失うらしいからな。“鎖野郎”には正体不明だが、“強い協力者”がいると団員には説明する。その正体が不明なうちはこちらから仕掛ける気はないと」

「それでいい」

「だが、当然“鎖野郎”がオレ達に仕掛けてくれば応戦するし、“強い協力者”の正体が判明した結果、団員がそいつと戦うことを選べば、オレは止めない」

「いいぜ。返り討ちにするだけだ」

「フフ……オレ達以上にあくどい奴を見たのは初めてだ」

「バカな! 俺は“ヒーロー”だぜ? 反転することは出来るけどな」

 

「……話は終わったの?」

「ああ。どうやら、話を総合した結果、“鎖野郎”は単独だが、何人か協力者はいるらしいな。ヒソカとスターが捕まえた奴、それにもう1人」

「もう1人?」

「そうだ。ヒソカよりもやっかいな奴だ。オレも危うくやられるところだった」

「団長が!!?」

「ああ。正体も不明。そいつの正体がわかるまではこちらから積極的に“鎖野郎”に手を出さない」

「ちょっと待てよ! ようやく“鎖野郎”の顔がわかったんだぜ! 能力だって見た! 次は必ず殺れる!」

「そのチャンスが今回だったんだ。お前が捕まった時点で終わりだ。それとも次はその協力者に捕まって同じ言い訳をするか? これ以上のワガママは許さない。殺りたければ、協力者の正体を暴け」

 

「ぐっ……わかった……!」

 

「これからどうするの?」

「“鎖野郎”もバカじゃない。顔と能力を知られた以上、姿を消すだろう。ヒソカはオレが1人じゃなければ仕掛けてこないハズだ。今週一杯はこのまま過ごして、一応スターの選択に従う姿勢を見せた上で本拠地(ホーム)に帰る」

「そう……わかった」

「うんうん! それでいい! マチとはデートの途中だったしな!」

「……」

「な、なんだ? やり直しは正当な要求だぞ!」

「ああ……今回は助かった。一応感謝する」

 

「「「…………」」」

 

「な、何よ。みんなしてそんな珍獣を見るような目でアタシを見るな……!」

「マチがデレた!」

「デレてない! 助けられたって言っただけだ!」

「いやー……何つーか、貴重なもんを見たぜ」

「ノブナガ、アンタまで言うか!」

 

「(スター……恐ろしい奴だ。全ては自作自演だと言うのに傍目にはウソが見えない。いや、全てが真実なのか。これは、油断すれば本当に食われるかもしれないな)」

 

 

~~中略~~

 

 

「お。クラピカ」

「スターか。ちょうどよかった。私はこれから少し姿を消す」

「あ、それ大丈夫だぜ」

「……何?」

「旅団だろ? 俺が1人(言葉で)凹って、忠告しておいた。“鎖野郎”の傍には俺がいるって」

「なっ……」

「旅団員を倒せる人間が2人。それにヒソカも裏切った。これで旅団(クモ)も簡単には動けない」

「スター、お前は……」

 

「(上手くやったみたいだね、スター)」

「(つーか、やってもらわなくちゃ困るっての。あいつのせいでややこしくなってんだからよ)」

「(ああ、その通りだ。今回のことでオレはクラピカから足手纏いに思われてるかも知れないんだからよ!)」

「(……それは、実際そうだろ。まだ“纏”しか使えねーんだからさ)」

「(しょうがねーだろ! 今は勉強優先! まずは試験に受かってからなんだからよ!)」

「(薬品関係なら、少しは教えられるわよ)」

「(おお。サンキュー。わかんねートコあったら聞くわ)」



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グリードアイランド①

「――で? “グリードアイランド”を俺に買えって?」

「当然。バラされたくなければね」

「ちっ……ゴンが何かいい方法思いついたんじゃないのかよ」

「そうなんだけど……確実じゃない以上は買った方がいいってキルアが」

「余計なことを……」

「クラピカに寝込むまで“念”を使わせた奴が何言ってんだよ」

「あれは俺関係ないだろ? 元々そういうリスクを背負ってたってだけでさ。むしろ俺のおかげで手早く話が纏まったんだろうが」

「はいはい。それをクラピカに言えるなら、買ってくれなくてもいいよ」

「ぐぬぬ……」

 

「あ、あはは……とにかく、ようやくって感じだね。オークションへの参加!」

「まあな。そういや、お前らは結局あれからいくら稼いだんだ?」

「あ、えっと、全部合わせて4億ジェニーくらいかな」

「……89億には遠いな」

「うるさいな。旅団がどーだかで色々あったんだからしょうがねーだろ。スターがまともに協力してくれりゃ何とかなったのによ。結局懸賞金も取り下げられちまうしさ」

「あー、そうかもな。まあいいや。他にはどんな物が出るんだったか……」

「開始まで、あとどの位くらいかな」

「10分くらい。どっかでお菓子売ってねーかな」

「その金も俺が払うんだろ?」

「当然」

 

「「おお~」」

 

「よかったな。正装してきてさ。みんなタキシードにドレスだぜ」

「普段着で来てたら、すごくうくトコだったね。……でも、結構みんなこっち見てるよ」

「ポンズのドレス姿が可愛過ぎるからだな!」

「――そ、そんなんじゃないって。視線を集めてるのはそっちの2人でしょ」

「ま、基本的に子供の来れるトコじゃないからな」

 

「「ん?」」

 

「おっ」

 

「「…………」」

 

「マチ! マチも来てたのか!」

「……まあね」

「ドレス姿が素敵だ!」

「あっそ」

「……」

「マチはお前のためにスーツじゃなく、ドレスを着たんだ」

「おお!」

「違うだろ! まだ占いが続いてるかも知れないからってだけだ」

「つまり、こいつのためだろ」

「くっ……」

「オメーら、縁があるな! 入団する気になったか?」

「――しないよ! ってか、何でお前らがここにいんのさ!」

「オレ達は純粋に競売を楽しみに来ただけだぜ」

「うそつけ!」

「ホントだよ。他の奴等はもう本拠地(ホーム)に帰ってるしな」

 

「(お、おい……こいつらって……)」

「(そう。下手に騒がない方がいいわよ)」

「あ、ああ……」

 

『それではこれより、サザンピースオークションを開催いたします!!!』

 

「お、来たぜ……」

「うん!」

 

『続いての品。幻のゲーム“グリードアイランド”!!! 皆様、中央のスクリーンにご注目下さい!!!』

 

「オイ……変だぞあれ。コンセントが入ってないのにパワーが点灯してる」

 

『もうお気付きの方もいらっしゃいますでしょう! このハードは電力を使わず、不思議な力で動いております!』

 

「……お前の親父が持って来たわけじゃないみたいだな」

「うん、そうだね」

 

『――このゲームのゲームオーバーはプレイヤーの現実の死を意味します。ゲームオーバーとなったプレイヤー2名の遺体は止まったゲーム機のそばに横たわっておりました』

 

「なるほど……おもしろそうだ」

「そう? リスクばっか高そうだけど」

 

『このゲームは大変危険です。安易な購入はお勧めしません。覚悟のある方のみ御参加下さい!!! ――それでは、10億ジェニーから、お願いします!!!』

 

『11億出ました!』

『15億出ました!』

『105番、倍!!! 30億!!!』

『71番、さらに倍!!! 60億!!!』

『16番、さらに倍!!! 120億!!!』

 

「挙げた手の形で金額を表すんだね」

「ああ。進行役がその中から瞬時に一番多く提示した者の金額を発表するんだ」

「これは何を表すの?」

「ばっ――!」

 

『201番、さらに倍!!! 240億です!!!』

 

「えっ」

「バカ!!! そりゃ“前の人と同じアップ”の合図だ!!! コールされたが最後、間違いでしたじゃ済まされねーんだぞ!!!」

「ゴン、お前……人の金だと思って……」

 

『他、ありませんか?』

 

「え~、ど、どうしよう!!?」

「別にいいだろ。これくらいならスター払えんだしさ」

「マジか……!!?」

 

『16番、250億出ました!!!』

 

「……どうやら、あいつらの狙いはあのゲームらしいな」

「理解出来ないね。たかがゲームだろ?」

「いや、オレも興味がある。“念”能力によって作られたゲーム。それを実現するためにはかなりの能力者が集まる必要が会ったハズだ。プレイヤーも“念”能力者だけ。“レアもの”がいるかもしれない」

「……じゃ、買うの?」

「ばーか、オレ達は何だよ」

「なるほどね……」

「ふっ、そういうことだ」

 

『71番、255億!!!』

『16番、305億出ました!!! 他、ありませんか?』

 

「……ゴン、行け」

「え、いいの?」

「あいつ、ニュースに出てた奴だろ。最悪でも資金を減らしとけ。今回のオークションで“グリードアイランド”の出品数は7本。あとで買える可能性が高まる。――サインは覚えたよな?」

「うん。任せてよ……!」

 

『201番、さらに倍!!! 610億出ました!!!』

 

「「「「…………」」」」

 

「え、何?」

「お前……買えちまった場合のこと考えろよ! 俺の金、全部使う気か!」

「……あ。ゴメン」

 

『さあ! 他、ありませんか?』

 

「「「「「…………」」」」」

 

『16番、615億!!!』

 

「ほ~、助かった~」

「……あいつの予算が見えてきたな。今回はこれで十分だ」

「うん、ついでだからオレの考えた方法も試してみない? 上手くいけば買う必要なくなるしさ」

「だな!」

 

 

~~中略~~

 

 

「615億……ですか。予想以上に高くつきましたな。今後もそうであるなら、1本は渡してしまった方がいいかも知れません」

「うむ……だが」

 

「あのー、オレ達ハンターなんですけど、“グリードアイランド”のゲームクリア協力しますよ」

「コラコラ、ボウヤ達。“バッテラ”様は忙しいんだ。ふざけるのはよしなさい」

「ふざけてないよ。これでもプロハンターなんだ!!!」

「……先程最後まで競っていた相手ですね。おそらく後ろの青年が少年達に付き合っている感じでしょう」

「うむ……“ハンター証”はあるのかね?」

「はい!」

「なるほど……3人か。君もハンターだったのか」

「はい!」

「……私がハンターを雇ってゲームのクリアを目指しているのは事実だが、依頼対象は厳選していて、今は募集の段階だ。プレイ人数が限られているからね」

「プレイ人数が限られてる……? “競売品目録(カタログ)”の説明書には確か無制限って書いてたけど」

「プレイするためには何人でも出来るがね。実際はゲームデータをセーブするだろう? そのためにメモリーカードが要るんだが、一つのメモリーカードには1人分のデータしかセーブ出来ないんだよ。セーブ前提なら一つのハードで8人が上限だ」

「そういえば、メモリーカードの30ブロック全部“グリードアイランド”でうまってたね」

 

「――君達、なぜそれを知ってるんだね?」

 

「あ、オレ達“グリードアイランド”のセーブデータ持ってるんです」

「!!! 君達……プレイしたことがあるのか!!?」

「いえ、データだけ手に入れたんですけど」

「しかし君達もさっき見ただろう? ゲームの最中は“念”でガードされてリセットもカードを抜くことも出来ないんだよ? もしも、そのカードが本物ならばゲーム機から抜くために、もう一つアイテムが必要なんだがね」

「もしかして」

「あの指輪か!!!」

「! ……どうやら、審査対象としての資格はあるようだね」

「“念”は使えるんだろう? ちょっと“練”を見せてもらおうか」

 

「「はい!!!」」

 

「……どうだ? “ツェズゲラ”」

「ダメですね……。この2人ではプレイしてもプレイさせるだけ無駄です。逃げまわったあげく死ぬのがオチですな」

「やってもみないで何でわかるのさ!!?」

「やってからじゃ、遅いんだよボウヤ。――死ぬからと言ったが、むしろそれは、まだありがたい。ダラダラと延命されるのがやっかいでな」

「?」

「あのゲームはプレイヤーが中で生きている限りリセットはおろかメモリーカードを抜くことも出来ない。つまりゲームの中で前のプレイヤーが生きてる限り、新たなプレイヤーはメモリーカードを差すことが出来ないわけだ」

「セーブ出来ないってこと?」

「そう、要するに後発プレイヤーは例えクリアしても、現実に戻ればそのデータが失われてしまう」

「私は今日競り落とした分も入れて、32本の“グリードアイランド”を所持している。今もその中で私が雇ったハンターがプロ、アマ含めて100名ほどプレイしている。――が、しかしその半分かもしくはそれ以上、すでに投げている」

「?」

「要するにゲームクリアはおろか現実世界に戻ることすらあきらめて、ずっとゲームの中で生き延びようとしているのだ……! ――だから挑戦者は厳選する。我々が求めているのは最低でも“現実に戻れる”アイテムを入手し、帰還出来るだけの力を持つ者だ」

「だから何で、オレ達がダメだってわかるのさ!!?」

「しかも、何でこいつにそんなことわかるんだよ!」

「それは彼がプロのハンターで“グリードアイランド”の経験者だからだ」

 

「「!」」

 

「オレはこの半年で五回“グリードアイランド”と現実を往復している。その経験上言わせてもらえば、“現実帰還”のアイテム入手難度は10段階で下から4番目くらいだが、お前達程度の“念”では、そこに向かう途中でゲームオーバーだな」

「ツェズゲラさんはクリアしたの?」

「……いや。今、大体8割……といったところだ。それはオレが非効率なプレイをしてるせいだが、ま、君らには関係ないことだ」

「(ムカ……)」

「審査が終わればまたオレはゲームに戻る。次、こちらに戻るのはクリアした時だろう」

「審査?」

「私はこのオークションで“グリードアイランド”7本全てを落札する。と同時に有能なプレイヤーを広く募集している! すでにネットで告知していて、多くのハンターが名乗りを上げている。高い競争率となるだろう」

「要するに……その審査に参加して資格を勝ち取れってことだね?」

「――その通り。審査日は9月10日! オークションが終わってすぐだ。集合場所はここ、サザンピース」

 

「ふ、くくく……はーっはっはっはっはっはっ!」

「スター?」

「ど、どうした? ついに壊れたか?」

「親切な説明どうも! だが、“グリードアイランド”は俺達がクリアする! だから、当然1本は俺が買わせてもらうぜ! 俺は2000億くらいまでなら払える!」

 

「「何……!!?」」

 

「え……」

「(ハッタリだろ)」

「何で急に喧嘩腰なのよ……」

「俺より弱い奴に上から目線で来られるのは嫌いでね!」

「子供か!」

「オレが弱い……?」

「ああ、弱いな。ゴン達は大丈夫だぜ。俺がついてるし、何よりすぐ強くなるから! 最後に――俺の“練”を見せてやるよ!」

 

「「!!!」」

 

「すっげ……やっぱ、こいつのオーラ、マジ半端ねー。アレも使ってねーのによ」

「……うん!」

「行くぜ!」

「べー!」

「……災難だったねオッサン。あいつのキレどこ、ゴン以上にわかりづらいんだよな。女が関わってないと特に」

 

「い、今のが“念”……? 使えない私でもわかったぞ……私に向けられていたと言うわけでもないだろうに……ツェズゲラ、彼は……」

「……バケモノです」

「ゲームは、クリアは大丈夫なのか……!!?」

「ええ……“グリードアイランド”は“念”が強ければクリア出来ると言うわけでもありません。有利なのは変わらず我々です……! ポッとでの新人に負けるわけがない……!」

 

 

~~中略~~

 

 

「あー、ムカツく!!! 言いたい放題言ってくれちゃって、くそー」

「でもまぁ、あのアゴヒゲの言うことも、もっともだぜ」

「どーゆーこと?」

「そう、つっかかるなよ。オレ達毎日ずっと“纏”と“練”だけやってただろ? スター頼りってのも情けない話だし、そろそろ次の段階を考えてもいい頃だと思うんだよな」

「次の段階?」

「“発”。つまり必殺技さ!!!」

「あ、お前らまだそーゆーのないんだっけ?」

「そうだよ。スターとポンズは元々あったからいいけど。オレ達は考えるトコからだからね。――でも、クラピカが“念”を修得したのもオレ達とほとんど同じ時期。もちろん、その技のためにクラピカは命がけのリスクを負ってる。反動で寝込んでるしさ」

「クラピカは、旅団に対して無敵に近い能力を得る代わりに、重いルールを背負ったんだもんね……」

「オレ達はそんなわけにいかない。もうちょっとゆるい条件で使える能力にしないとな」

「うん」

「――かといって、リスクが軽すぎると、すげー能力は使えないから、重すぎず軽すぎず、かつ自分の系統に合ってて、実践的であり、応用の効く! そんな能力を考えるんだ!」

 

「…………」

 

「まあ……そうなるわな。ま、色々言ったけど一つずついこうぜ。まずどんな能力にしたいかだな」

「どんな能力……か」

 

「…………」

 

「おいっ」

「難しいよ~」

「何でだよ! 何か、あるだろ。バクゼンとでもこんな能力がいいなってのが」

「うーん、とにかくすごい能力」

「全然ビジョンが見えねーな。ゴンは強化系なんだからさ。基本は、やっぱ何かを強める能力がいいわけだよ」

「そりゃあ、オレ自身を強めるのがいいよね」

「だとすると次は、お前の何をどう強めるかってことだな」

 

「…………」

 

「いたいなー。キルアはどうなのさ。何かあんの?」

「とっくにあるよ。だから、お前の方決めようとしてんだろ」

「ホント? どんなの!!?」

「ヒミツ。早くためしてみたかったけど、ここんところバタバタしてたしな」

「そっかー」

 

「ゴン、オレは今日から必殺技習得に向けて特訓するぜ。ま、お前はゆっくり、どんな能力がいいか考えてろよ」

「うーっ……そうだ! スター! スターも俺と同じ強化系だよね! スターの能力ってあれ実際のところどうなってるの? ウイングさんに何となくは教えてもらったけど」

「お、それはオレも聞きたいな」

「私も」

「ん、どうって言われても……あれは、そう、“ヒーロー”になる能力だ。だから、相手が強ければ強いほど、悪ければ悪いほど、状況がピンチであればあるほど、それらを加点としてオーラの総量が増加する」

「あっ! そういえば、何か聞いたような覚えがある。初めてヒソカと対峙したときにそんなこと話してたような……」

「正々堂々とした行いにはさらに加点が付く。ヒソカが強いことはオーラの増加量でわかったから、自分の能力を説明することでさらに増やしたんだ。オーラが増えるとそれに対応した必殺技なんかも使えるようになるからな。スゴイパンチとかビームとか」

「へぇー!」

「……つまり、誓う方の誓約じゃなくて制約の方……細かい条件付けをして、段階的に上げてるわけか。敵が弱ければ素で勝てるし、強ければオーラを増加して対応出来る。よく出来てるな。それって説明した際に能力を知られる以外のリスクはないの?」

「卑怯な行いをしたり、相手の言い分を無視したりすると失点になって逆にオーラが減少する」

「マジで? なら、どんな相手とも正面から戦うしかないってことかよ」

 

「――だと思うだろ? だが、俺には裏技がある」

「裏技?」

「俺はもう一つ能力を持ってるのさ」

 

「「「えっ!!?」」」

 

「反射でも発動する“英雄的な俺(ヒーロースピリット)”に対して、意識しないと使えない“反英雄的な俺(ダークヒーロースピリット)”。根本を同じくしながら反転した能力。それ以上の詳細は秘密だが、ま、ここまで言えば大体わかるだろ」

「うーん……?」

「卑怯な行いをしても失点しないってことだろ? 相手がそっちだと思ってれば、スイッチすることで不意もつける」

「フ……」

「はぁー……さすがに“天然もの”のままで天空闘技場のチャンピオンになっただけはあるな。――ま、とにかくオレも特訓開始だ! ゴン、あんまりモタモタとしてっと、一気に置いてくぜ!」

「う~、わかってるよ! オレだってやってみせるさ!」

 

 

「それで――どうすんだ、団長。スター達も誘うのか?」

「いや。自分で買うとハッキリ宣言してたからな。これは本拠地(ホーム)に戻ってから、やりたい人間でプレイしてみることにしよう。スターもこれをやるつもりなら、オレ達が帰っても問題ない」

「“グリードアイランド”ねえ……」

 

 

~~中略~~

 

 

「よっしゃ! “グリードアイランド”GETだぜ!!!」

「うん、やったね! ……でも、あんまり競ってこなかったね」

「ハッタリが効いたな」

「別にハッタリってわけじゃないぞ。ある程度ならすぐ稼げるし、天空闘技場の副賞とか売ればそれなりに金を作れる。総資産的にはあんなもんだ」

「へぇー、そうなんだ!」

「まあ、それはともかく、早速帰ってプレイするか?」

「あ、それなんだけど……クラピカとレオリオも、もう少ししたらこの街離れるだろうし、それからじゃダメかな。必殺技も覚えてから行きたいしさ」

「なるほどな……! じゃ、10日ってのはどうだ? あいつらも審査はその日だとか言ってただろ?」

「俺はそれでいいぜ」

「私もいいけど……それだと鉢合わせしたりしないかな? どういうゲームなのかわからないけど」

「いいよ! それならオレ達が成長した姿を見せるだけだ!」

「そーゆーこと」

「……あなた達と一緒だと、リスクとかを計算するのがバカらしくなってくるわね」

「大丈夫! ポンズは今のままでいい! とても魅力的だ!」

「はぁ……あなたがその一番の原因なんだけど」

 

 

~~中略~~

 

 

「じゃ、やるか。――誰から行く?」

「オレ!」

「いいぜ。1プレイヤー側が埋まってるから、マルチタップでちょうど4人までだな。ゴン、セーブデータ使うだろ?」

「あ、そっか! ここに差せばいいの?」

「そう。指輪もはめておいていいんじゃないか? 別にヤバイもんでもないみたいだし。ってか、それでこっちの抜けるのか?」

「やってみる?」

「勝手にやったら迷惑でしょ。まあ、オークションに出てるんだから、帰還出来ずにいるんだろうけど」

「……変なことになっても面倒だから、止めとくか」

「そだね。――じゃ、やるよ」

「おお」

「“練”」

 

「「「!」」」

 

「おお~、ホントに消えたな」

「これでゲームの中に入ったってことよね?」

「だろうな。それで、次は誰が行く?」

「オレ、いい?」

「いいぜ」

「うん」

「んじゃ、お先。――“練”」

 

『“G・I(グリードアイランド)”へようこそ……』

 

「おお! それっぽい!」

『あなたは初めてプレイする方ですね。まずは登録名をどうぞ』

「俺はスター! クラウディオス・E・T・スターだ! それで、君は?」

『スター様ですね。私は“イータ”です。このゲームの案内人を務めております。お見知りおきを』

「へえ! イータか! 君がこのゲーム作ったのか?」

『……そういった質問にはお答え出来かねます』

「あ、そうなの? じゃ、いいや。ゴン達もう来てるよな。どこにいるんだ?」

『他のプレイヤーの方でしたら、すでにゲームの説明を聞いて旅立たれました。それではこれよりゲームの説明をいたします。スター様、ゲームの説明を聞きますか?』

 

「→ はい」

 

『このゲームではこちらの指輪をはめることで、誰でも2つの魔法が使えるようになります。“ブック”と“ゲイン”です』

「え、これくれるの?」

『はい。どうぞ』

「こ、これはまさか……」

『?』

「いわゆる、逆プロポーズというものでは……!」

『……違います。その指輪は初めてプレイする方には全員にお渡ししています』

「ですよねー」

 

『それでは、指輪をはめた手を前に出し“ブック”と唱えて下さい』

「“ブック”――おお! 何か出た!」

 

『このゲームでは入手したアイテムを全てカード化することが出来ます。これはそのカードを納める(バインダー)になります。このゲームの目的は、その本を完成させることです!!! ――最初のページを開いてみて下さい』

「む」

『カードはまだ1枚も入っていませんが、それぞれのポケットに番号がふってあります。そのポケットには同じ番号のカードしか入れることが出来ません。これを指定ポケットと言います。ページをどんどんめくって下さい。すると』

「むむ」

『その番号がないポケットにはどんな番号のカードでも入れることが出来ます。それをフリーポケットと言います。指定ポケットは“No.000”から“No.099”まで100コあります。それに対し、フリーポケットは45コです』

「むむむ」

 

『指定ポケットに入る“No.000”から“No.099”までのカードをコンプリートすること!!! それがこのゲームのクリア条件です』

 

「クリア……クリアするとなんかご褒美とかあるのか? 例えば、そう! イータの好感度がMAXまで上がるとか!」

『はい。このゲームを見事クリアなさいますと、クリア報酬として――なんと!!! コンプリートした指定ポケットのアイテムカードから3つを選んで、現実世界に持ち帰り、使用することが出来るようになります!!!』

 

「『…………』」

 

「何だ……。魔王倒して超絶美人のお姫さまと結婚出来るとかの方がよかったな」

『……選んだものによっては、それに匹敵する、あるいはそれ以上の幸運を持ち帰ることが出来ることを約束します』

「マジで! ……あ。ちょっと待った!」

『?』

「――あのさ。俺ってこのゲームに4人で参加……つーか、他にもプレイヤーがいると思うんだけど、誰かがクリアしたら、ゲームって終わりなのか?」

『いえ。ゲームを続ける意志のあるプレイヤーが1人でもいる限り“G・I(グリードアイランド)”は終わりません』

「それって、クリアしても参加出来るってこと?」

『はい。ただし、一度クリア報酬を手にしたことのあるプレイヤーは、例え登録名を変えたとしても、もう一度クリア報酬を得ることは出来ません』

「クリアした人間の仲間がクリアするのはいいんだろ?」

『はい。クリア条件を満たしていれば、それは問題ありません』

「なるほど。じゃ、俺がクリアしたらゴン達がクリア出来なくなるとか、その逆もないわけだ」

 

『そうなります。――説明に戻りますが、アイテムは入手すると同時にカードに変わります。しかし、このままではカードとして本に納めることは出来ても、アイテムとしては使えません。なので、再びアイテムに戻したい場合は“ゲイン”の魔法を使います』

「ほう」

『但し! 一度“ゲイン”でカード化を解除されたアイテムは二度とカード化されませんので注意して下さい』

「ほほう」

『“ゲイン”で一度カード化を解除したアイテムは二度とカード化出来ないと言いましたが、あと2つ! カード化出来ないケースがあります。1つはそのアイテムの“カード化限度枚数”がMAXになっている場合です!』

「ほうほう」

 

『“カード化限度枚数”とは、あらかじめこの島に存在するアイテムに設定されたシステムで、その上限値に達した場合、他のプレイヤーはたとえそのアイテムを発見し手に入れてもカード化することが出来ません!』

「その場合は交渉だとか、通常とは別の方法でカード化されたアイテムを手に入れる必要があるわけだな」

『その通りです! そしてもう1つ、カードを手に入れてから1分以内に本に納めなかった場合です! その場合、カードは自動的に解除され、アイテムに戻ってしまい、この場合も二度とカード化は出来ません!』

「なるほど……よくわかったぜ! で、この本はどうやって消すんだ?」

『本を消したい場合はもう一度“ブック”と唱えて下さい。――では、これらの点に十分注意して、本の完成めざし、がんばって下さい』

 

「任せろ! ――じゃ、ゲームスタート!」

 

『あ、最後に最も重要な注意点です』

「……まだあるのか。まあ、イータと一緒にいられるならそれはそれでいいけども」

『もしもプレイヤーが死んでしまった場合、本と指輪は破壊され中のカードは全て消滅しますので御注意下さい』

「あ、そういうのは大丈夫だから」

『それでは、早速ゲームを開始していただきますが、今までの説明が“G・I(グリードアイランド)”の全てではありません。詳しい情報はゲームを進めながら御自分で入手して下さい。――それでは健闘をおいのりいたします。そちらの階段からどうぞ』

「おお! じゃ、またなイータ!」

『……はい。また』

 

「お。来た来た。おせーよ、スター」

「おお。みんな同じスタート地点からか」

「みたいね」

「じゃ、行こうよ!」

「ふーん、見渡す限り草原だな」

「ああ。――で、とりあえずどっちかに行こうと思ってるんだけど」

「俺はどっちでもいいぜ」

「うん。2人が決めていいよ」

「そーか? じゃ、どっちに行くかせーので」

 

「「ホイ!」」

 

「よーし、ジャンケン!」

 

「「最初はグー!」」

 

「くそォ」

「よーし! こっちへGOー!!!」

 

「で、どうだった?」

「え?」

「“ブック”! お前のセーブデータさ。カード何枚くらい入ってた?」

「それがさ。メッセージだけだったんだ」

「マジ? 何かヒントもなし? ――ってことは、結局、ゼロからスタートかぁ」

「うん。ジンはゲームを楽しめって」

「ゲームの中って実感は全然ないけどなー。“ブック”!」

「キルアはこのゲームのルール聞いてどう思う?」

「うーん。まだ全く未知数って感じだな。どうやって、アイテム入手するのかもわかんないし。とにかくまずは情報収集しないと」

「町の発見だね」

 

 

「――ということで、オレの他にやりたい奴はいるか? 1プレイヤー側が埋まってるから、あと3人だ」

「団長、オレを連れて行ってよ。あと、シズクとコルトピ」

「えっ、私?」

「ボクも?」

「……ちょっと待てよ。オレだって興味あるぜ。暇潰しにはちょうどよさそうだ」

「ワタシもね。元々少し狙てたよ」

「あ。それは大丈夫。みんなが集まる前に話聞いてたからちょっと調べたんだけど、クリア目的のためにセーブしさえしなきゃ、全員でも入れるから」

「へえ、そうなんだ……」

「仮にクリアする場合でも、その場合はセーブ出来るプレイヤーがクリア条件満たせばいいだけだしね」

「そうか。それで何か気になることでもあるのか?」

「うん、まあね。あくまで、ハンターサイトやネットで得られる情報からの推測だけど……上手くハマれば“G・I”の全てを手に入れることが出来るかもしれない」

「……ほう。いいだろう。お前達は連れて行く。他は誰だ?」

 

 

~~中略~~

 

 

「どした?」

「上から音が」

「!」

 

「「「!!?」」」

 

「ここは……スタート近くの平原か。――ってことは、君達ゲームは初めてかい? ん?」

「さて、どうかな? 本を持ってるってことはあんたもプレイヤーだね」

「キシキシまぁね……ふーん、キルア君とゴン君、それにポンズちゃんとスター君か」

 

「「「「!!!」」」」

 

「(こいつ……気軽にポンズの名前を呼びやがって)」

「ねェ、何で名前がわかったの?」

「さぁて、何でかな~? ――あべしっ!!?」

 

「「「!!?」」」

 

「もったいぶってんじゃねェよ、てめェ! つーか、気軽にポンズの名前を呼ぶな!」

「ナイス、スター!」

「はぁ……」

「え、えー……さすがにいきなり殴るのはどうかと思うんだけど……」

「甘いぜゴン。こいつが何かオレらの知らないことで、いろいろ調べたり企んでたのは間違いない。ここで情報を得ておくべきだ」

「うーん、そーかなー……」

「てめ……」

「おっと。没収。何かアイテムでも使う気だったんだろーけど、そうは行かないぜ。知ってること全部話せ」

 

「……ふーん、“呪文カード”ねえ。その“衝突(コリジョン)”とかいうのを使って俺達の下に飛んで来たわけだ」

「あ、ああ」

「んで、“盗視(スティール)”でキルアのフリーポケット内を見たと」

「そうだ……」

「……どうやらそれがこのゲームの基本戦術みてーだな。他のプレイヤーが“ブック”を出したら、自分も出して、“呪文カード”による攻撃を“呪文カード”で対応する。知らなきゃ、一方的にされるトコだぜ」

「“呪文カード”の効果範囲は?」

「近距離呪文は、半径20m。遠距離呪文なら、島中どこでもだ……」

「“呪文カード”の入手方法は?」

「魔法都市マサドラで買うことが出来る……一袋3枚入りで1万ジェニーだ」

「OK。他に聞きたいことがある奴いるか?」

 

「――いや、ないぜ。あとはこいつのカード全部もらってくだけだ」

 

「ちょっと待って! そこまでしなくていいよ。カードは自分達の手で集めようよ」

「ゴン……」

「だって、そっちの方が絶対楽しいよ! 他のプレイヤーを襲って全部のカードを手に入れることが出来たって、そんなのクリアしたって言えないでしょ?」

「そうだな。つーか、それだと楽すぎるしさ」

「それは、あなたくらいでしょうけど……まあ、そうね」

「……何だよ。オレだけ悪者みてーじゃん! わかったよ。それでいいよ。主要な“呪文カード”の内容は覚えたしさ。直接危害を与えるものがないなら何とでもなるからな」

「じゃ、行こうぜ」

「オレ達に“呪文カード”使うようなマネするなよ。こいつ、20mくらいなら一瞬で詰めれるぜ。たぶんな」

「あ、ああ……

 

 

~~中略~~

 

 

「あ! あった! 街だよ!」

 

「懸賞の街アントキバ……だって」

「はぁー。これ全部、色んな商品がついてるんだね」

「しっかし、スゲー数だな……たずね犬、見つけてくれた方に“呪われた幸運の女神像”さし上げます、か。どっちだよ……」

「なあ、それってあれじゃね?」

 

「「「あっ!」」」

 

「追え! 追え!」

「――やった! 捕まえた!」

「このコを指定の場所に連れて行けばいいのね?」

 

「ありがとうございます。これがお礼の“呪われた幸運の女神像”です」

 

「「「「おー」」」」

 

「“呪われた幸運の女神像”ゲットだね!」

「でも、これがナンバーだろ? 三桁だぜ。クリア条件には関係ねーな」

「ゲーム的には売ったりすればいいんじゃないか?」

「そだな。フリーポケットは45コしかねーし、ホントのフルコンプはムリだしな」

「とりあえず、こんな感じでカードを集めればいいのね」

「うん。その辺の石とかでもカードになるし、おもしろいよね! ――あっ、あれ見て!」

 

「――アントキバ月例大会行事表か」

 

「9月はジャンケン大会だってさ」

「つーか、実際そうでも、ゲームの中が9月とは限んないじゃん」

「あ、そか。――スイマセン。今日って何月何日でしたっけ」

「9月10日だよ」

 

「……同じだね」

「だな」

 

「毎月15日開催か……9月の優勝賞品が“真実の剣”」

「あの賞品って重要なアイテムなのかな?」

「おそらくな」

「月一度しか手に入れるチャンスがない賞品が重要じゃないってこともないわよね」

「そっか」

「まあ、でも別にここでしか手に入らないとも限らないからな」

「あ、確かにそういう考えも出来るわね」

「5日後だけど……参加する?」

「当然。ジャンケンなら誰でもチャンスあるからな」

「参加するのはいいけど、それまでどうする?」

「じゃ、せっかくだから待つ間、いろんな懸賞に挑戦しようよ!」

「情報収集もしなきゃいけないしな」

「先に“呪文カード”手に入れた方がよくない? 5日あれば、マサドラに行って戻って来ることも出来るんじゃないかな? “再来(リターン)”を手に入れれば、それで戻って来ることも出来るしさ」

「あー、それもアリだな」

 

「「…………あ」」

 

「その前に何か食べよっか……」

「なら――腹ごしらえと情報収集と懸賞品。一石三鳥でいくか」

 

「30分以内に完食すればお代はタダ! さらに“ガルガイダー”プレゼント! ――それではスタート!」

「ねェ、オッチャン。月例大会ってどのくらいの人が参加するの?」

「ハハハ、しゃべってるヒマがあったら、急いで食べた方がいいアルよ。――まあ、その月によって違うアル。参加者が10人以下の月もアルし、逆に9月は誰でも勝つチャンスがあるから1000人以上集まるアル。ワタシも参加するアル」

「倍率1000倍以上かー」

「ところでさ。マサドラへの行き方って知ってる?」

「マサドラ? 何だそりゃ?」

「じゃあ、この街で一番もの知りの人って誰?」

「もの知り? 何だそりゃ?」

 

「「…………」」

 

「アイヤーやられたアル。見事、5分と10分と13分で3人共、完食!」

「……あなた達、よくあんなに食べられるわねー」

「商品持ってくるアル」

 

「あのオジサン全然、言葉知らなかったね」

「ちがうって、これはゲームの中なんだから、あいつはゲームのキャラクター。要するに特定の質問にしか答えられないキャラなんだよ。それ以外の質問や会話には“○△? 何だそりゃ”としか返答しないんだ」

「え? じゃ、どうするの?」

「ま、しらみつぶしに街の人、全員に聞いてくしかないかなァ」

「え~~~、そんな大変なゲームってあんの!!?」

「RPGは大抵そんな感じだと思うけどな」

 

「お待たせ。賞品の“ガルガイダー”3枚アル」

「“No.1217”……四桁かよ」

「こっちの“F-185”ってのは何のことかな? 他のでも気になってたんだけど」

「オウ、君達カード初めてか。異国の人アルか。左の数字はアイテムのカードナンバーで、右の方は、記号がアイテムの入手難度のことアル。難易度ランクは10段階あって、Fは下から3番目アル」

「3番目? Aの上があるってこと?」

「そうアル。Aの上はSとSSアル。記号の横の数字は、そのアイテムの“カード化限度枚数”のことアル」

「えーと、つまりこのアイテムカードは……」

「レアアイテムではないな」

「ま、そんな簡単にはそういうのは手に入らないでしょ」

「それもそだな。そいじゃ、ごちそーさま」

「アイヤ。待つアル。巨大パスタ。確かに、タダなった。でも他に注文したサンドイッチや飲み物は有料ね。2040ジェニーアル」

「あ、そっか。スター、金」

「ここでも俺にタカるのかよ、お前。――じゃ、これで」

 

「……何ソレ?」

 

「ん?」

「この島ではお金、この状態(カード)でないと使えないアル。それ、この島ではただの紙クズ」

「……マジ?」

「2040ジェニー! カードで」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「――もしもし、ケーサツアルか?」

「わーっ! ちょっと待った!」

 

「くそー、金まで、カード化してんのかよ。さっき手に入れたの、どっかで売っときゃよかったんだよ!」

「そういや、襲ってきた奴の本のフリーポケットに金が入ってた気がするな」

「今更すぎる情報ね……」

「“呪文カード”とかのことばっか気にしてたもんね。でもさ、おつりってどうするんだろーね?」

「え?」

「だって、フリーポケットの数って45コしかないでしょ?」

「あ」

「端数は捨ててくしかないな。万札だけフリーポケットに入れといてさ」

「何かそういう財布的なカードとか、システムがあるんじゃないの?」

 

「……かも。どっちにしてもまだまだここの情報がいるみてーだ。それまでは結構シビアに入手アイテムとかしぼらなきゃなんないかもな。それ以前にこのゲームで、基本的にどうすれば金が手に入るのかもわかんないけど。何せスターの金が使えねーからな」

 

「元から俺に頼るなって!」

「普通はどうすんの?」

「ま……モンスターを倒すと、もらえたりすんだけど」

「え? 何で怪物がお金持ってんの?」

「オレに聞かれても知らねーよ」

「無視すんな!」

 

「コラー! ちゃんと働くアルー!!!」

 

「「「「はーい!」」」」」

 

 

~~中略~~

 

 

「もう少しあの店で働けば、お金、稼げたんじゃない?」

「ヨークシンの後でよくそんな気になるな、お前は。オレ達4人で皿洗い1時間して2040ジェニーだぞ。オレはやだ」

「天空闘技場みたいなトコがあればいいんだよな」

「だよなー。ゲームなんだし、カジノの一つくらいはありそうだけど」

 

「……交換(トレード)ショップってトコで、カードを金に出来るみたいだな」

「じゃ、今持ってるのは全部金にしちまおーぜ。このままじゃメシも食えないし、ホテルにも泊まれない。当然、マサドラ行っても“呪文カード”なんて手に入れられねーしよ」

「そうね。さすがに石ころとかは交換出来ないと思うけど」

 

「“呪われた幸運の女神像”10万ジェニー、“ガルガイダー”3枚で9万ジェニーね」

「おー。思ったよりいい額になるな。10万ジェニーのカードとかあるのな。それに、メシ食うときあそこで食えば、3万ジェニー手に入るじゃん」

「そうだね!」

「……毎回あの量を食べようって発想になるあなた達にビックリだわ。いつものことだけど」

「だけど、金の心配はそこまでしないでもよさそーだ」

「だな。とりあえず島の地図手に入れよーぜ。マサドラへの行き方もわかんねーしさ」

「お金は店に貯金すると、盗まれる心配がなく便利だぜ」

「あ? 聞いてねーよ」

「デフォルトで言うよーになってんじゃね」

「どうする?」

「……それっておろす場合どうすんのさ」

「入金した店からおろせるぜ」

「そこだけかよ! 使えねー。移動したら無意味じゃん」

「まだ、フリーポケットには全然余裕あるし、止めとこうか」

「そうだな」

 

No.100:島の地図:G-400:島の形だけが示されている地図。実際に行ったり、情報を仕入れることで、中身が自動的にうまっていく魔法の地図。

No.101:島の地図:D-70 :街や地名などが細かく記載されている地図。特産情報や、おすすめスポット、裏道マップなどお得情報、満載!

 

「20000と650000か……」

「どっちに、する?」

「100番!」

「……つーか、そっちしか買えねーもんな」

「だって、自分で埋めてった方が楽しいじゃん」

「このポジティブ小僧が……」

「私ならお金を貯めてでも情報が記されてる地図なんだけどね……」

「そんな堅実さが――」

「以下略」

「(魅力的)――って、略された!!?」

 

「ありがとうございましたー」

 

「“ゲイン”!」

 

「「「「…………」」」」

 

「うーん、やっぱ、これじゃ、わかんないな」

「シソの木ってのがスタート地点よね?」

「まあ、この地図にはそことアントキバしか載ってないからなぁ」

「聞いてみようよ」

交換(トレード)ショップでは情報も売ってたわよね」

「戻るか」

 

「マサドラの場所なら3000ジェニーになります」

「高ーよ。少しまけろよ」

「3000ジェニーになります」

「これもか……」

「もう、それでいいわよ」

 

「――この街から山を越えて、北へ80km程、まっすぐ行くと湖がある。その湖沿いに北西へ向かえばマサドラに着くハズだ。途中2つ小さな町があるから、そこで休むといい」

「80kmなら急げば、1日で着くよな」

「ハンター試験の時のマラソンを思い出すわね」

「あっ、そんなこともあったな」

「そこまで生きて、たどりつけばな」

「?」

「山は山賊の棲み家があって、旅人は身ぐるみはがされる。運良く、山賊に遭わなくても、山を越えた先は、怪物がワンサカ出るからな」

 

「山賊!」

「怪物!」

 

「――よーし、ガゼンRPGっぽくなってきたぜ!」

「見たい、見たい、怪物! 早く行こ!」

「ちょーっと、待った! それなりに時間経ってるし、行くなら明日の朝になってからの方がいいんじゃない?」

「えーっ! 早く見たいよ、怪物! ポンズだって、“幻獣ハンター”なんだから興味あるでしょ」

「それはそうだけど……ううん、だからこそよ! わざわざこうして注意してくるんだから、危険な生物だっているハズ。時間的な余裕くらいは持っておくべきよ!」

「……ま、正論かもな」

「うー……でもー」

「いいじゃんか。その分、今日はこの街の懸賞関係見て回ろーぜ。ゴンも挑戦したがってただろ」

「あっ! そっか、そっちもあった! うん! だったら今日はいろんなの挑戦して、明日はマサドラに行って、怪物を見よう!」

「……何か、マサドラに行く理由が違う気がするけど……ま、いっか」

 

 

~~中略~~

 

 

「メシも食ったし、そろそろマサドラに――」

 

「キャアアア!」

「ウワァァ」

「ヒイッ」

 

「「「「!!!」」」」

 

「何があったんだろ!」

「!」

 

「異国の者だ」

「むごいのォ……」

 

「異国の者って……プレイヤー?」

「ねェ、何があったの?」

「突然体が爆発したんだ。内からボーンとよ!」

「!」

「消えた……!」

「現実世界に戻ったんだろ。(ゲームオーバー)さ」

「“念”かな……?」

「多分な。昨日の奴の話じゃ、“呪文カード”にプレイヤーに直接危害を与えるものはないハズ。さすがに普通の爆弾ってこともねーだろ」

「――“爆弾魔(ボマー)”だよ。プレイヤー狩りさ」

 

「「「!!?」」」

 

「……あんたは?」

「お前らと同じプレイヤーだ」

「プレイヤー狩りって?」

「このゲームには“カード化限度枚数”ってシステムがあることは聞いただろ? しかも貴重なカードほど、その数が少なくなる。つまりプレイヤーが増えれば増えるほど、限りあるカードが自分に回ってくる確率が下がるってことさ」

「逆に言えばプレイヤーが減れば減るほど、カードの配分が増えるってことか」

「ああ。それで、あんな残虐な真似をする過激な連中が出てくる。オレ達は逆……数で勝負し、決して血は流さない」

「?」

「――オレ達と組まないか? 確実にゲームクリア出来る方法がある……!」

「確実にゲームクリア出来る……!!?」

「ああ。興味があるならついてきてくれ。この先にオレの仲間もいる」

 

「(どうする?)」

「(う~ん、ウサン臭いな。こいつがそのプレイヤー狩りじゃないって保証もないんだし、オイシイ話にはのらない方がいいと思うけど)」

「(私も同感ね……)」

 

「男の誘いに興味はない!」

 

「「「…………」」」

 

「いや、断るのはいいんだけどさ……」

「君達は昨日から参加したプレイヤーだろう?」

「もしかして、スタート地点でオレ達を見てた1人?」

「ああ。監視と勧誘……それがオレの任務だからな。君達はいきなりのことでありながら、他のプレイヤーを撃退するということをしてみせた。だからその場で勧誘したくもあったが、慎重を期して、1日ひととなりを見せてもらった」

「ふーん。でも、そりゃそっちの都合だろ。オレ達は別に他のプレイヤーの力を必要としてない」

 

「――今日、あらたに19人のプレイヤーが参加してきた」

 

「!」

「それって……」

「ああ、バッテラの審査に通った奴等だな……!」

「知っていたか。さっき殺られたのも、その中の1人だ」

 

「「「!!?」」」

 

「まだ、ゲームに参加してから数時間もたってないだろ……!!?」

「それがこのゲームの危険度だ。情報の足りない初心者は絶好の標的と言うわけだ。君達は最初から4人で行動しているから少しはマシだろうが。このゲームでの情報は生死に直結する。そして、オレ達ならその正しい知識を与えることが出来る」

 

「「「…………」」」

 

「オレ達は今日参加した連中にも声をかけている。そいつらも含めてオレ達の狙いをこれから広場で詳しく説明するつもりだ。仲間になるかならないかはその話を聞いてから判断してくれていい。どうだ? 話だけでも聞く気になったかい?」

「行ってみようよ。情報はいっぱい、あった方がいいよ」

「う~ん、まあ……広場なら」

「男の誘いは――」

「はい。面倒だから、あなたは黙ってて」

 

 

~~中略~~

 

 

「これで全部か、あの2人組は?」

「アッサリ断られた。話も聞かないそうだ」

「そうか。じゃ、始めようか」

「今、あっちで1人プレイヤーが殺られた。君達と時を同じくして来た人物だ」

「!」

「この4人も見ていた。腹がふっとんでたよ。“爆弾魔(ボマー)”だ」

「筋肉質のがっちりした黒髪の奴だよ」

「奴か……」

「まず君達が一番心配していることを解決しておこう。彼の死は“呪文カード”によるものではない。このゲームの呪文の中には人を殺傷する類のものは一つもない。ゆえに君達がかけられた呪文で負傷したり、ましてや死ぬことなどありえない」

 

「(他の人達もオレ達みたいなことがあったのかな?)」

「(ああ。それで呪文をくらったんだろーな)」

「(天空闘技場の洗礼みたいなものね)」

「(確かにそんな感じだな)」

 

「呪文は全部で40種類! 攻撃型、移動型、防御型など様々だが、君達が受けた呪文は調査型に属するもの……“追跡(トレース)”か“密着(アドヒージョン)”のいずれか。一言でいうと、呪文をかけられたプレイヤーは情報を奪われる」

 

「(ここら辺は聞いた通りだな)」

「(うん。要は貴重なカードを手に入れたら、それを察知して現れて、“強奪(ロブ)”とかで奪って行くんでしょ?)」

「(それの危険なのがプレイヤー狩りだな)」

 

「このゲームが世に出て、すでに10年以上……状況はどんどん悪化している」

「……3つ」

「?」

「このゲームでアイテムカードをゲットする方法は大きく分けて3つ。わかるか?」

「自分で探す!」

「ああ、それが1」

「他のプレイヤーと交換する」

「そう。それが2」

「そして、3が他プレイヤーから奪うか」

「その通り。なかなか優秀だな。細かく分ければ、まだあるが、大きくはこの3つ。しかし、その3つの内の3番目……奪う者が急激に増えている。自力で探すこと、交換することをやめた者達の増殖……原因は入手難度と“カード化限度枚数”という制度!」

 

「――相手を殺してしまったら指輪は消滅し、カードは奪えない。当初このルールはプレイヤー同士の殺し合い防止が目的だったハズ。しかし、状況がどんどん煮つまり、ヤバイ連中が台頭してきた。おそらく今は末期……!」

「オレ達がその状況にピリオドを打つ!!! 同志を募り、ゲームを攻略する!!! ――協力してほしい」

「方法は? カードを得る方法は大きく分けて3つ。1、自力探索。2、交換。3、奪取。どれに入るんだ? 聞かなくても察しはつくがな……」

「……3だ」

「厳密にいえば1、2、3。全部使うが、とくに3が重要ってことだろ」

「何だよ。じゃ、結局腕ずくで奪うのか!!?」

「違う! 少なくともオレ達は暴力を使わない!!! あくまで大別すれば“奪う”という表現の中に入ってしまうということだ!!!」

「じゃ、一体どうやって他人のカードを取るんだ!!?」

「だからこれから説明……」

「呪文。呪文で奪う。だろ?」

「もしかして来たことあんのか?」

「初めてさ。だが、少し頭を使えばわかることだろ」

「正解だ。呪文を使ってカードを集める!!! 全40種類の呪文の中には攻撃と防御の呪文がある。カードを奪う呪文。それを防ぐ呪文があるんだ。その呪文カードを、オレ達が独占する……!!!」

 

「――おそらく、今回の勧誘で仲間集めは打ち切る。勝負に出たら約1ヵ月……それで必要なカードは全て集まる……!!!」

「どうする? イエスかノーか」

 

「報酬は? あんた達、肝心なトコをいってないだろ。ゲームをクリアしたらその報酬はどう分けるんだ?」

「説明しよう。君達、バッテラ氏の依頼で、ここに参加したんだろ」

「承知の上での勧誘か……」

「ああ。20人近くのプレイヤーが一気に参加することなどそれ以外に考えられないからね。オレ達もそうだ。バッテラ氏に雇われプレイしている」

「ゆえにクリア報酬は500億!!! それを仲間全員で山分けする」

「あとで揉めないように明言しておくが、君達一人一人の取り分はおそらく2億前後になるだろう。5年前の計画当初から参加していた10人で200億。残りの300億を、役割の危険度や参加してからの長さなどで大小をつけて分ける」

「――今回で仲間の募集は打ち切り。オレ達、監視・勧誘要員もカードの収集にあたる。そうすれば“呪文カード”の集まりは飛躍的に早まる。目標までの残り500枚前後の“呪文カード”。遅くとも2ヵ月で集まる。つまり、あと3ヵ月でクリア……!!!」

「3ヵ月か」

「もちろん仲間に入ってくれたら、君達に、今かかっている呪文も解除する。呪文にかかったら一度ゲームの外に出ないと解呪出来ないんだ。呪文以外に自力でゲームを脱出するためには、ある場所に行き、ある条件をクリアする必要がある」

 

「(それが出来ない奴等が未帰還者ってわけか……)」

「(仮に彼らがそのための“呪文カード”をすでに独占、あるいはほぼ独占状態なら、私達も帰るためにはその方法を使うしかなくなるわね)」

 

「入るぜ」

「!」

「開始時に説明を聞いてて思ったことだが、これではっきりしたぜ。このゲームを確かに単独……あるいは2、3人でクリアしようと思ったら、何年がかりになる。500億が2億になるのは正直キツイが、3ヵ月でクリアっていう期限付きなのは 魅力だしな」

「あんたはどうだい?」

「……一つ聞くが、自力でオレが貴重なアイテム……例えば、入手難度SSのアイテムカードをゲットしたとして、それを“仲間”に提供したら、少しは報酬が上がったりするのかい?」

「もしもSSランクのカードなら5億で取り引きしている」

「OK。入ろう」

「――さて、君達はどうする?」

 

「「「「…………」」」」

 

「オレはいい。自力でプレイするから」

「ま、そうなるわよね……」

「リーダーがそう言うんでね。オレもパス!」

「ちょっと待て! リーダーなんていつ決めたんだ!」

「そこ突っかかるなよ」

「あんたもか?」

「当然だろ。3ヵ月で2億を稼ぐためにそんなクソつまらなそうな作業なんてやってられるかよ。俺達はこのゲームを楽しみに来たんだぜ?」

 

「君はどうする?」

「……」

 

「ま、結局そーゆーことだよな。オレ達とじゃ楽しみ方が違いすぎる」

「うん。こわいのはゲームじゃなくてプレイヤーの考え方だよ。他の人を傷つけてまでカードをとろうなんて」

「それをやりかけたオレが言うことでもないけど、状況が違えばオレはアリだと思うぜ」

「キルア、本気で言ってんの?」

「だからこそのハンター専用ゲームだろ?」

「でも……」

「殺しはなしさ。オレだってそこは賛成だよ。でも、例えばプレイヤーが互いにカードを1枚ずつ出し合って、ルールを決めた上での戦闘で勝った方が相手のカードをもらえるってのはどうだ?」

「あ、アリだ」

「な? これも大別すれば奪うってことだけど。ただの力ずくとは全然違うだろ? ――ま、とにかく、あんな奴等放っといて、オレ達はもっとゲームを楽しもうぜ」

「……うん! キルア、ありがと! キルアと一緒にここに来れて……ううん、キルアと会えて、オレ本当によかったよ!」

「やめろよバカ。恥ずいだろ」

 

逆だよ。

 

「なんで? オレ、ホントにそう思ってるんだよ!!!」

 

ゴン、オレなんだ。

ゴン、オレ。

お前に会えて、本当によかった。

 

「私達、お邪魔じゃない……?」

「俺達もイチャイチャすればいいだけだぜ!」

「しない」

 

「なるほど、怒ったのはそーゆーワケ。――それにしてもいいわねェ。若い男のコの無垢な友情。なーんか、ムチャクチャにしてやりたい気分……!!?」

 

手を出したら、潰す。

 

「……フ、私が気圧されるとはね。あのコ達の保護者ってわけか。でも、イヤがられると逆にかまいたくなるのよねェ。――彼、イケメンだしね」

 

 

~~中略~~

 

 

「――よーし、出発!!!」

 

「待って下さい!」

「あ、確かあの時いっしょにいた……」

「はいっ、あの……」

「私を仲間に入れて下さい!」

「あーごめん。ムリ」

「ど……どうしてですか!!?」

「ジャマだから」

 

「――」

 

「ちょっと言いすぎよ」

「だって事実だろ。あっちから行ってみっか」

「あ、うん」

 

「はっ――待って下さーい! 足手まといにならない様にがんばりますから! ちょっと……待って……コノ、待ちやが……って下さーい!」

 

「北にまっすぐ行けば目的地、んで、途中、山賊に気をつけろってことはだ」

「北にまっすぐ行けば、山賊に会えるってこと?」

「正解。ゴンも、大分ゲーム語がわかってきたじゃん」

「へへー。……で、どうする? アレ」

 

「――」

 

「ほっとけほっとけ。山賊が出たらドサクサで撒けばいいよ」

「それは、ちょっとヒドすぎない?」

「何言ってんだよ。あいつだって“念”能力者だぜ。やばかったら逃げるくらい出来るだろ」

「……あなたは何も言わないのね」

「ん?」

「女の子が相手なのに」

「年上すぎるからな」

「年上? 年下じゃなくて?」

「ん、ああ。そういや、そだな。何で俺、年上って言ったんだ?」

「……頭、大丈夫?」

「ヒドイ心配をされた!!?」

 

「思ったよりついてくんなァ……」

「うん。オレ達けっこうとばしてるよね」

 

「「「「!」」」」

 

「山賊……!」

 

「「(闘るか!)」」

 

「「「助けて下さい!!! お願いします!!!」」」

 

「「――」」

 

「島の風土病です。微熱から始まって、徐々に高熱になっていき、遂には死にいたります。その期間は約1ヵ月」

「対処法は薬で熱を抑えるしかありません。しかし薬の効き目は約1週間。それが切れると、また熱が上がると言った具合で、この薬がとても高く、もう我々の手元には1銭もありません。すでに全員が病にかかり、満足に山賊業も出来ない始末」

「……それはむしろ出来なくていいんじゃないの?」

 

「(伝染病……?)」

「(っていう設定だろ。あくまで)」

 

「このままではこの子は2、3日中に死んでしまいます! 何とかお金を恵んでいただくことは出来ないでしょうか!!?」

 

「(これも……ゲーム語だよね。訳すとどうなるの?)」

「(金をくれればお得なアイテムとか、情報とか提供しますよってことだな)」

 

「えーっと、いくらくらいあればいいの?」

「村中かき集めたのですが、どうしても200000ジェニーほど足りなくて」

 

「(……ほぼ、あり金全部……だよね)」

「(多分、事前にこっちの経済状況わかってんな)」

「(ここで、お金使うと“呪文カード”買う分がなくなりはするけど……)」

 

「あのっ、あたし、半分くらいなら何とか出せますけど」

「あーいいから。ちょっと黙っててくれる?」

「(こいつ……)」

「……わかりました。200000ジェニーお渡しします。いいよね?」

「ああ」

「そうね」

「好きにしろ」

「本当ですか!!?」

「ううっ、ありがとうございます。何とお礼を言っていいか」

「はい」

「本当にありがとうございます。これでこの子も助かります!」

「う……」

「!!? どうした息子よ!」

「寒い……寒いよ父さん」

「しっかりしろ! 親切な旅の方がお金をくれたぞ! 明日には薬が手に入る。がんばれ!!!」

「寒いよ……寒いよ……」

「ああっ、何てことだ! このまま体が冷えてしまったら、この子は今夜中にも死んでしまう! こんなとき子供服があれば!!!」

 

「「…………」」

 

「あのーオレの服でよかったら」

「おおっ、本当にいいのですか!!? あなた方はまるで天使のようだ!!! いくら言葉を尽くしてもこの気持ちは伝えきれません!!!」

「いや、お礼なんていいんで(情報かアイテムよこせって)」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「なんもなしかい!!!」

「これはあれね。人助けに見返りは求めてはいけないという教訓的な」

「くそー、なめやがって」

「ホントに身ぐるみはがされたね。一気に一文無しかー」

「まー、でも、山降りればようやく怪物が出るからな。怪物、倒して、カード化して交換(トレード)ショップで売ればガンガン金は貯まってくハズだしな」

「いよいよ本格的なバトルが開始するわけだね」

「マサドラ行って“呪文カード”買って、月例大会までに戻らないとな」

「ま、お手並み拝見させてもらうぜ」

「こっちこそ。修行の成果、見せてもらうよ」

 

 

~~中略~~

 

 

「おおっ」

「山を抜けたね」

「岩石地帯か。怪物もそうだけど、敵プレイヤーの不意打ちも警戒しないとな。――行くぜ!」

「うん!」

 

「「うおおおーーー!!?」」

 

「いきなり出るレベルの敵か!!? これがよ!」

「ひーふーみーよー、すごい沢山だよ!」

「一気に危険地帯ね……!」

「ポンズ、怖いなら俺の腕の中に!」

「そういう状況じゃないって!」

 

「わっ(すごい風圧! 直撃くらったらヤバイかも)」

「(ゴンのパンチでもダメージなしか……何発当ててもきりねーな。数も多いし、一匹につき一撃で動きを封じるには)――ゴン!!! 目を狙え!!!」

 

『グオォオオ!』

 

「――“ブック”! 納めないと無駄になるぞ!」

 

「えいっ!」

「そりゃ!」

「ていっ!」

「やあっ!」

 

「ビンゴ!!! 目が弱点だ!」

「しかも、こいつら攻撃パターンが2通りしかないよ!」

 

「……ふうん。動きには無駄が多いけど……なかなかだね。そして……あれは1人モノが違うな……」

 

「ふん。みかけ倒しだったな」

「何匹かカード化から戻っちゃったね」

「別にいいだろ。こいつらだけでフリーポケット埋めても仕方ない」

「“一つ目巨人”……これで難度Gみたいね」

「ああ。でも、いけるぜ……! 怪物にちゃんと弱点とクセがある。こっちが冷静に理詰めで対処すれば、正解にたどりつけるよう設定されてる。山賊のときはかなり不安になったけど」

「ジンがつくったゲームだもん。まっとーに決まってるよ」

「ハイハイ、そーだったな。――よーし! この調子でマサドラ目指すぜ!」

「オー!!!」

 

「「どわーーー!!?」」

 

「大きい……! ナニコレ!!? カエル! トカゲ!!?」

「――こんにゃろ! って全然効かねーよ! マジビクともしねー!」

「さっきのみたいに弱点があるんじゃないのっ?」

「トカゲの弱点なんて知るかよ! あーもー、ちくしょー! スター、何とかしてくれ!」

 

「おりゃ!」

 

「……一撃かよ」

「“メラニントカゲ”……難度Eだってよ」

「E!!? あれで!!?」

「マジかよ! Aランクくらいあんのかと思ったのによ!」

「弱点は背中にあるホクロ。押されるだけで気絶するって書いてある。“ブック”!」

「だー! そんなんわかるかよ!」

交換(トレード)ショップとかで情報を仕入れておけばよかったのかも」

「あー、そーゆーヤツね。……まあ、スターには弱点とか関係なかったけど」

 

「!」

「あれ……! ゴン!!!」

「大丈夫。ぜーんぜん痛くない。こいつ弱いよ!」

「けど……」

 

「「「速い!」」」

 

「(ダメだ、反応しきれない……!)」

「ぐっ」

「くそ~~~!」

「とにかく、つかまえなきゃ!」

「楽々GET」

「くぬっ……こいつムカつく……ってもう一匹いるぜ!」

「スター今度は手を出さないで!」

「“マリモッチ”……難度D。弱点とかは書いてないな。自分達でどーにかするしかないみたいだ」

「上等!」

 

「――あっ、逃げやがった! 待て、くそ!」

「あー、もうちょっとだったのにィ!」

「うーん……これは……」

「けど、まぁ、あんな奴ばっかの方がマサドラに早く着いていいな」

「そうだね」

 

「「「(シャボン玉!!?)」」」

 

「くっ」

「わっ」

「きゃ」

 

「――逃がすか!」

「スター、捕まえたのか!!?」

「ああ。“バブルホース”難度Cだ」

「今のがC? どういう基準なのかよくわかんねーな」

「やっぱ、捕まえづらさじゃないの? このシャボン玉、威力はないけど、音と爆風は凄いし、気を取られるとすぐ逃げられる」

「? 何か赤い方は触っても割れないね?」

「ダミーかな? それとも特定の条件下で発動するのか……とにかく、先に進もーぜ!」

「うん!」

 

「わっ、またかよ!」

「トカゲ! でも今回は弱点がわかってるよ!」

「おお! スター、オレ達がやるからな!」

「はいはい」

 

「……結構。時間かかっちゃったわね」

「斑点が多いんだよ!」

「変な動きしてるのはわかったんだけどね」

「次また出たらスターがやれよ! オレ、トカゲはもーいい!」

 

「おわー!」

 

「こいつ何もしないね」

 

「蜂! ポンズ、何とかしてくれよ!」

 

「また、効かねー! スター!」

 

「お」

「今度は手強そうだね」

「これは正統派かな」

「んー?」

 

「“凝”!」

 

「?」

「あのコ、まだついてきてたんだ」

「ホラ、よそ見すんな! “凝”だよ! 出来るの!!? 出来ないの!!?」

「(出来るけど)」

「(何かあのコの雰囲気が全然……?)」

 

「「「!」」」

 

「見えただろ? その鎧の騎士は傀儡で、いくら攻撃しても効かないよ」

「(スターならぶっとばして終わりそーだけど……)」

「(こっちか!)」

「お」

「カードゲット! “リモコンラット”。難度Hだって!」

「“凝”出来るじゃないの。何で言われるまで、やらなかったの? ずっと見てたけど、あんた達、一度も使ってないよね?」

「いや……まぁ……な」

「うん」

「忘れてたわけね」

「怪物相手で“凝”が必要だとは思わなくて」

「そういう思い込みがダメなのよ」

「何やってんだ?」

 

「「「?」」」

 

「何ボサッとしてんだよ! あんた達も“凝”!!!」

「(一体何なんだよこいつ)」

「何が見えた?」

 

「「「数字の1」」」

 

「よろしい! いいこと? これからは私が指を一本たてたら、すかさず“凝”! そして何が見えたか大声で言うこと! それ以外にも何か怪しい雰囲気を感じたら、何をおいても“凝”! いいね!!?」

「何かこのまま同行するよーな流れだな……」

「そうだよ! 大体あんた、普段からずっと“凝”をやってるみたいだけど、何で全部力押しで解決してるのさ! 弱点とか完璧に無視じゃない!」

「いや、だって、倒せるから……」

「あんたがそんなだから、このコ達がそういう戦闘の初歩を覚えないんだよ!」

「俺のせいかよ!!?」

「そーよ! これからは私がコーチしてやるからね。特別にタダでいいよ。そのかわりビシビシ鍛えるから、そのつもりでね!!!」

「はぁ? 寝ぼけんなよ、オマエ、一体何を……」

 

「「数字の5」」

 

「正解! 2人は腕立て200回」

「あ?」

「罰ゲームだよ。早く! 遅かった奴がやるんだよ」

「つーか、俺もコーチするのかよ?」

「あんたはちょっと意識を改善するだけさ。今だって見えてたのにわざと言わなかっただろ」

「そんなの頼んでない……」

 

「いいからやれ!」

 

「ふざけんな誰が――ぶへっ!!?」

「わー、キルア!!?」

 

 

~~中略~~

 

 

「57才!!?」

「ババァじゃん!!! ――ぐはっ!!?」

「ホントに年上だったんだ……」

「やはり“ヒーロー”は誤魔化せない!」

「“念”を覚えて約40年! あんた達よりずい分先行ってるし、コーチしてやるって言ったんだから有り難く受ければいいだわさ」

「こっちの意向は無視かよ!!!」

「文句あんの?」

「当然だろ! 大体あんた何者だよ!!!」

 

「そうか。自己紹介がまだだったわね。あたしは“ビスケット・クルーガー”。プロハンター! よろしく!!!」

 

「ハンター……まあ、このゲームに参加してるんだからね」

「堅苦しいのは苦手だから、呼ぶときは“ビスケ”でいいわよ。そのかわり教えを乞う身としてあたしの言いつけは絶対守ること」

「だから、呼ばねーし、乞わねーよ! どんな奴かもわかんない人間にモノ教わるほどせっぱつまってないよオレ達。ゴンも何か言ってやれよ!」

「そーだね。オレ達にはウイングさんがいるしね」

「あ、そーだ。そうそう。確かにスターは教えるのに向いてないけど、オレ達にはちゃんと別に師匠がいるからいいよ! その人以外に教わる気ないね!(ウソ)」

「師匠? ウイングって今言ったけど、もしかして、ひよっこウイング? メガネをかけた寝グセボウヤでしょ? 服の着方をいくら注意しても直らない、あの」

「知ってるの!!?」

「知ってるも何もあたしの教え子だわよ。ウイングは」

「へェー、すごいや」

「……」

「あいつが師匠とは驚いたわねェ。月日の経つのの早いこと。ま、ウイングは覚えが悪い分、教える方には向いてるかもね。あ、てことは、あんた達もプロハンターなんだ?」

「あ、キルアは違うけど」

「裏試験でしょ?」

「そう」

「懐かしいわね。また、試験官やってみたいもんだわ。ま、あんた達にしてみたら、師匠の師匠なわけだから、教わるのに何の不足もないでしょ?」

 

「……確かに資質はあるね。今の話が本当ならだけどさ」

 

「なかなかガンコだわね。ま、好きだけどそーゆーコ。ただ……“ブック”!」

「?」

「あ! オレ達が戦ってきたの全部ある!」

「あんた達より強いのは間違いないわ。そして、あんた達は最初の巨人以外は自力攻略出来なかった」

「トカゲもしたっつの!」

「あれはこいつに弱点を教えてもらってでしょ。あんた達がこれらのカードをゲット出来ないことが問題じゃないの。簡単にゲット出来る奴等がこのゲーム内に沢山いることが問題なの。あきらかに戦闘面であんた達より上の連中が山程いる」

「あ……」

「説明を受けた“爆弾魔(ボマー)”とかいう奴然り、その中に邪悪なプレイヤーがいて、この時点で遭遇して、こいつと分散させられたらあんた達死ぬよ。それでも現状はさし迫ってないって言える?」

「……」

「ま、言ってることは間違いじゃないわね……。この世界では“念”じゃなくても“呪文カード”っていう一定の効果を出せるものがあるわけだから……相手も人数がいた場合、対処しきれない可能性は否定出来ない」

「そだね」

「そもそも、私達だっていつも一緒にいるわけじゃないもの」

「それは遠回しにいつも俺と一緒にいたいと――」

「違うから」

 

「……わかったよ。しゃーねーな。あんたのコーチを受けてやる――ってーな! 殴るなよ!」

「堅苦しいのは苦手だけど、せめて教わる側のポーズくらいはとりなさいよ」

「ちっ……」

「教わるのは別にいいけどさ。まずはマサドラに行くぜ? そのあとはアントキバの月例大会にも参加する」

「あー、ジャンケン大会ね。まあ、それくらいはいいわよ。但し、そのあとはずっと修行するわよ」

 

 

~~中略~~

 

 

『最初はグー! ジャンケン!』

 

「「ポン!」」

 

『優勝決定ーーー!!! キルア選手おめでとうォーーー!!!』

 

「イエス!」

「く~、左かァ。まさか決勝でいきなり両手を使ってくるなんて思わなかったよ」

「対ゴン用の秘密兵器。名付けて“スイッチ必勝法”! ……ま、スターが参加してたら後出しで、対応出来ちまうけどな」

 

『おめでとう! 優勝商品の“真実の剣”です!』

 

「! 見ろよ、ゴン」

「カード“No.83”! 指定ポケットのカードだ!」

「オッケー、まず1枚ゲット! 早速、“複製(クローン)”使っとこうぜ! 枚数ないけど、初めての指定ポケットカードだしな!」

「うん! あ、アレはどうする?」

「使っちまおう。あいつらが求めてるだろうし、Sランクのカードなんて持ってたら狙われやすい」

「そうだね。誰に使う?」

「ゴンでいいぜ。“複製(クローン)”した方はスターに渡しとこう。あいつならそうそう不覚取らねーだろうし。……多分」

「あ、でもそれなら、“複製(クローン)”はあとで使った方がよくない?」

「なんで……って、ああ! そうな。その方がいいかもな!」

 

「会場からずっと尾けてきてるな」

「うん。予想通りだね。大会だったから、オレ達がこのカードを手に入れたのは大勢に見られてたしね」

「つっても、問題ねーけどな」

「“堅牢(プリズン)”が出たのはツイてたわよね」

「この先は手に入りづらくなるだろーけどな」

「まあ、でも、放っておけばいいと思うぜ。仮にあいつらがゲームクリアしても、それで終わるわけじゃないみたいだから、それならそれで、そのあとに解放されるだろ」

「あ、そうなの?」

 

「最初の説明で聞かなかったか?」

 

「うん」

「だったら、俺が質問したから教えてくれたのかもな。別に隠すような情報でもないだろうから」

「ま、結構前のゲームだからな。ゴンがプレイする前にクリアする奴が出てゲーム終了なんて可能性も考えれば、そうなるだろ」

「そっか」

「他に何か質問したことってあんの?」

「ん、彼女の名前とか」

「そういうのじゃなくて!」

「……」

「そうだな……あ。ゲームクリアすると、指定ポケット内のアイテム3つ選んで持って帰れるって」

「え、それって現実にってこと?」

「ああ」

 

「……なるほど。それがあのバッテラって奴が狙ってることかもな。クリア報酬に500億出すわけだぜ。この“真実の剣”だって現実ではかなりのお宝だぜ。それがBランクだ。SとかSSならよっぽどのモンってことだろ」

「どっかで目当てのアイテムがあるってことを知ったのね」

「だろうな」

「あたしの目的もそれだわさ」

「そうなの?」

「ま、もちろん500億も欲しいけど、ここにしかないって石があるらしいんでさ」

「石?」

「宝石か?」

「そう。指定ポケットカード“No.81”、“ブループラネット”。あんた達は?」

「あ、オレ達もゲームクリア目的だけど。実は、このゲーム、オレの親父とその仲間が作ったものなんだけど」

「へェー」

「その親父を探してて、手掛かりを得るためにここに来たんだ」

「ふむ」

 

「ジン・フリークスって言うんだけど、知ってる?」

「ジン!!? そりゃあ、知ってるわさ。有名人だからね。そぉお、あんたの父親なの。残念ながら居場所の手掛かりになりそうなことは知らないわねェ。ただ、ネテロ会長が言ってたんだけど、“念”能力者としては間違いなく世界の5本指に入るって話だわさ」

 

「「!」」

 

「それにしても……見てるだけで襲ってこないね」

「オレ達が人数いるからかもな。こんなトコでこそこそやってるような奴等だしな。――お」

 

「そんな奴等だけだと思って欲しくないな。ここからが本当の決勝戦なんだぜ?」

「……“ブック”!」

「遅い! “窃盗(シーフ)”、使用(オン)! ゴンを攻撃! “真実の剣”を奪え!」

「無駄だよ」

「何っ!!?」

「“堅牢(プリズン)”、手に入れちゃってたんだよね」

「まさか!」

「んで、こういう状況ならさすがに今度はこっちの番だよな?」

 

「「“窃盗(シーフ)”、使用(オン)!!!」」

 

「「「“掏摸(ピックポケット)使用(オン)!!!」」」

 

「――しまっ!」

「よっしゃ! スター!」

「速っ――マズイ! 距離を詰めろ!」

「遅いぜ。“同行(アカンパニー)”、使用(オン)! マサドラ!」

 

「よっし! カード5枚ゲット! うち2枚は指定ポケットカードだぜ!」

「他プレイヤーに襲われた場合の対処方法、ちゃんと考えておいてよかったわね」

「ああ。カード効果にのとった、この方法ならゴンも納得したしな」

「それだとオレがワガママばっかり言ってるみたいなんだけど」

「実際そうだろ」

「おい、あんまり気を抜くなよ。追ってきたら同じ手で今度はアントキバに飛ぶ!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「……来ないね」

「リスクを考えたんだろーな。オレ達が奪ったカードがダブりとかだった可能性もある」

「まあ、もう“窃盗(シーフ)”はないし、別にいーか」

「で。どーだった? オレの方はクズカードだ。ランク的にはそこまで悪くねーけどさ」

「オレのも」

「私も」

「やっぱ、そこまで上手くいかねーか……。本命の2人は?」

「あたしは……“No.27”、“顔パス回数券”って書いてあるわさ。ランクはB」

「おー。どんな場所でも入れるって書いてあるぜ。なんかそーゆーイベントがあったらアイテムとしても使えそーだな」

「スターは?」

「……これは!!?」

「な、何だ!!? スゲーレアカードでもきたのか!!?」

 

No.021:スケルトンメガネ:B-27:物が透けて見えるメガネ。メモリで強弱の加減が出来る。唯一、魔法都市マサドラの“呪文カード”の袋だけは透かすことが出来ない。

 

「「「「…………」」」」

 

「――ゲイ」

「没収!!!」

「あーっ! 男のロマンが!」

「何か言った?」

「い、いえ……何も言ってません」

 

「(こえー)」

「(ねえ、ポンズ、何であんなに怒ってるの?)」

「(わからないならそのままでいーわさ)」

 

幕間劇に興じよう

そこに貴方の探し物がある

けれど気軽に手にしてはいけない

それは眠れる蜂を起こす合図になるだろう

 

「くっ……今日は9月15日! 9月の第三週! あの占い、こういうことか!!?」



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グリードアイランド②

大切な暦が一部欠けて

残された月達は盛大に葬うだろう

けれど星の遣いを怒らせてはいけない

反転して蝕されてしまうから

 

菊が葉もろとも涸れ落ちて

血塗られた緋の眼の地に臥す傍らで

選択は星の遣いに託される

逆らうのもいいだろう手足を失い高みへ行ける

 

幕間劇に興じよう

新たに仲間を探すもいいだろう

向かうなら東がいい

きっと待ち人に会えるから

 

狩人狩りを始めよう

考え方は悪くない

愛でるべき宝に届かずも

季節違いの彼岸桜が花開く

 

「さてと、欲しい情報は大体手に入れた」

「答えが出たのか?」

「うん。間違いないよ。このゲーム“G・I(グリードアイランド)は、仮想世界ではなく、現実世界のどこかで行われている……!!!」

「どーゆーこと?」

「全ては“念”能力で説明出来るんだ。街の人々は“ゲームマスター”によって操作、あるいは具現化された人形。島のモノも重要なアイテムは具現化されたモノだろう」

 

「どうしてわかる?」

 

「コルトピは相手の“念”能力まではコピー出来ない。シズクの掃除機は例え無生物でも“念能力で具現化された物”は吸えない」

「確かにボクは“カードからアイテムに変える能力”まではコピー出来ない」

「私の場合、その制約で敵の罠とか見破ったりするから」

「確信を持ち始めたのは団長達がゲームに飛んだとき。みんなの肉体まで消えただろ? もしも本当にゲームの中へプレイヤーが入っていくとすると、考えられるのは魂が肉体から離れてゲーム機に入るってことで、体はその場に残るはず」

「……仮想世界に体を持ち込む必要はなく、条件的に肉体と魂の分離のような生命に関わるものよりは、プレイヤーを強制ワープさせたと考えた方がしっくりくるということか」

 

「そう! オレ達は現実世界にいる!!! ――これだけ大がかりな舞台。地図が本当ならこの島全体でコトリタナ共和国くらいはある。“ゲームマスター”は1人じゃない……!」

 

「確かに、その条件でこのゲームを成立させるためには、強力な“念”能力者が複数人必要だな」

「なるほどねー……で、だからどう……なの?」

「ここからが本番。他のプレイヤーから(強制的に)聞いたこのゲームのクリア報酬覚えてるか?」

「何だっけ?」

「忘れる? フツーそういうこと。コンプリートした指定ポケットのアイテムカードから3つ選んで、現実世界に持ち帰り、使用することが出来る」

「そう。それは島の外でもアイテムが有効に使えることを示している。このゲームが現実のどこかで行われているなら、わざわざ時間をかけてクリアしなくても、簡単に持ち帰れるかもしれない。3つといわずお宝全部」

「なるほど」

「やる価値あるね」

「100種類のアイテムのうち、まだオレ達は数種類しか知らない。なるべく早く全て把握したいトコだな。他にどんな便利で貴重なアイテムがあるか……」

「……よし。当面の目標は変わらず、“呪文カード”、“神眼(ゴッドアイ)”の入手。あとは……フィンクス達との合流だな」

 

 

「ちっ……こいつも安い方の地図か」

「でも“呪文カード”沢山、持てたね。“衝突(コリジョン)”便利よ。1人でしか使えないけど」

「んじゃ、いったん別行動にするか。1週間後に、マサドラ集合ってことで」

「OK」

「どっちが多くプレイヤー殺すか競争な」

「いいけど。カード奪ってから殺るよ」

 

 

「……あのさ、マチ」

「何?」

「気になるならあなたも行けば?」

「べ、別に気になってなんか……!」

「そう? その割にはここ数日何度もゲーム機の周りで見かけるけど」

「そんなのみんながいつ帰ってくるかわからないからってだけよ」

「別に誰かがいないのなんていつものことじゃない。ヨークシンで全員集まったのも3年2ヵ月ぶりよ」

「……わかってるわよ。ただ、団長からの命令もないから暇してるだけ」

「だから、暇なら行けばいいじゃない」

「そこまで暇じゃないわよ!」

 

「「…………」」

 

「何かごめん……」

「ううん。別にかまわないわ」

 

 

「――ハッ! 誰かが俺のことを噂している気がする!」

「気のせい」

「そ、そろそろ機嫌を直してくれよ。実際使ってないだろ」

「……そうね」

「あ! そうだ! それよりも重要なことがある!」

「何よ」

「“呪文カード”の袋を服の中に張り付けておくんだ! 俺が見るのはいいが他の奴に見られるのは――って何故か蜂に囲まれてる!!?」

「忠告ありがとう……そんなことばっかり考えてるから、対処方法もすぐに思いつくのね」

「ご、誤解だ! 俺は紳士――」

「どこがよ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「修業はこの岩石地帯でやるわ」

「ま、妥当だな。要はここに出るモンスターを1人で倒せるようになればいいんだろ?」

「それは最低限の目標ね。あたしはウイングみたく甘くないわよ。覚悟はある?」

「はい!」

「ええ」

「そっちは?」

「大丈夫」

「ん、じゃ、早速はじめるか――!」

「?」

「座って。本出して適当に雑談してるふりを。あたしの背後に敵がいる」

「!」

「気配を探ろうとしないで! 敵に緊張が伝わる。何か話してて」

 

「……ねェ、何で気付いたの?」

 

「殺気。敵はあたし達、殺す気だわよ。わずかだけど漏れた殺気、女子供ばかりで油断したんだわね。そのことからも敵が結構、場数を踏んでることがわかる」

「え、強くないぞ?」

「……だから、あんたは自分の感覚で考えすぎなのよ! 子供の“念”能力者は実は相当いるけど、戦闘に向く能力者で、しかも手練れの子供なんてほんのわずか。ベテランなら誰でも経験上それを知っているのよ」

「知ってたって強くないことに変わりないだろ」

「敵は経験豊富さゆえにあたし達を見て油断した! でも、すぐに自分を諌めて気配を消した! 僅かな殺気とそれを消した早さ。総合して言えば“相手の気配”から敵の手強さを感じとることが出来るんだわさ」

「? 気配消えてないぞ」

「だー! あんた一々うるさい! あんた的にはそうでも、このコ達は敵の位置を感じられてないんだわさ!」

「そうなのか……」

 

「……どうすればいい?」

 

「あんた達の意見は?」

「このまま5人で行動する」

「“呪文カード”で街に飛ぶか、スターに追い払ってもらう」

「同じく」

「……それじゃ、修行になんないでしょーが!」

「え、オレ達に何とかしろってこと?」

「それはムリ。あんた達じゃまだこの敵には勝てないわね」

「じゃ、どうすんだよ」

「まずはあたしが接触する。それからどうするかは敵次第だけど、あたしの戦い方を見てなさい。学べることはあるハズよ」

 

「くくくくくく。切ってやったぜお前の髪……オレはな。愛用のハサミで切った人間の髪の毛を、食う! ことで! 本人さえ知り得ない肉体の情報を知ることが出来る。肉質……病気の有無、遺伝的資質、強さ、お前の身体を全て把握し、その上で存分に……」

 

「この変態がーーーッッッ!!!」

「げぼぅ!!?」

「てめェ、例え相手がスゲー年上でもそれはダメだろが! 一応俺にも教えろや、ゴラァ!!!」

「…………あんた」

「うおっ、強い」

「あたしはあんた達に戦いを見てろって言ったハズなんだけど……?」

「いや、だって、ほら……髪は女の命という言葉もあるらしいから」

「その気持ちは評価しないでもない。だが、相手が望んでもいないことをやっても好意を得られないことを覚えておきな」

「フ、バカな! 俺は“ヒーロー”だ! 俺はこういう感情に突き動かされる場面において、相手に嫌われるかもしれないからで行動をしなかったことはない!」

「……思った以上にバカみたいだわね。あんた」

 

「ゲッホ、ガハッ……」

「起きなさい。カード、全部出して。――チャンスをあげる」

「……」

「2週間! そこの3人の攻撃をかわすこと。それが出来たら見逃してやる。もしも、決定打を浴びて悶絶したり起ち上がれなくなったら、やっぱりあんたを殺す」

「!」

「攻撃を……受けなきゃいいんだな?」

「ええ」

「奴等がどうなろうと……攻撃さえ受けなきゃいいわけだ?」

「その通りだわね。但しルールが一つだけ。岩壁にかこまれたこの空間。ここから出ないこと。破れば失格。その場合も殺す」

 

「ポンズの髪を食っても殺す。絶対に完全に完膚なきまでに殺す」

 

「……ま、それも一応覚えておきなさい。多分、本気だから」

「あ、ああ……」

「オレ達は?」

「あんた達もここから出てはダメ。ここから出たり2週間以内にあいつを倒せなければ、あんた達には罰を与える」

 

「ただし、ポンズのトイレやシャワータイムは許可する」

 

「……許可する。それ以外に一つだけあんた達にも条件を付ける。同時に攻撃を仕掛けていいのは2人まで。見た感じ3人同時の攻撃は決まる可能性が高いから」

「ポンズの“発”も使用禁止。“女王蜂の毒(ポイズンパフューム)”を使えば多分あっさりと条件を達成出来るから」

「そうなの? ……ならば使用禁止。初めてまともなことを言ったわね」

「俺はいつでもまともだ!」

 

「(“女王蜂の毒(ポイズンパフューム)”って何? 名前で何となく想像つくけど)」

「(その通りだと思うわよ。私の武器は元々蜂と薬品だからね)」

「(そうなんだ。何でスターはそれ知ってるの?)」

「(実験台。まあ、あいつは治癒力とか免疫力も強化してたのか、オーラでバリア的に防いだのかで効かなかったけど)」

「(へー)」

 

「あんた“ビノールト”だわね」

「……ああ」

「賞金首ハンター、ビノールト。しかし、奴自身も賞金首! 好物は人の肉。特に20才の女の肉がいいんだっけ?」

「22才だ」

「てめェ、やっぱり生かしては――」

「“左遷(レルゲイト)”、使用(オン)! スターを攻撃!」

「ちょっ、おまっ」

「あんたがいるとややこしいから、2週間ほど帰って来ないでいいわさ。適当に冒険でもしてな」

「バカなーーー!!?」

 

「「「…………」」」

 

「飛んで行っちゃったねスター……」

「まあ、あいつも味方の動きには警戒してなかったというか、あるいはボケとして状況を受け入れたのかもな」

「“呪文カード”ですぐ戻って来るんじゃない?」

「あれで、スターも状況は理解してるハズさ。自分の存在があんた達の成長を阻害してるってことをね」

 

「――ビスケ! てめェ、何しやがる! “同行(アカンパニー)”を持っていたからいいようなものを……」

 

「「「「…………」」」」

 

「で、誰が状況を理解してるって……?」

 

「――“左遷(レルゲイト)”、使用(オン)! スターを攻撃!!!」

 

「ぬわっ、ビスケー!!!」

 

「おー、逃げてる。超逃げてるぜ、あいつ。“呪文カード”の攻撃ってあんなに逃げられるもんなんだな」

「あ、ビスケに邪魔された」

「貴様ーーー!!!」

 

「いいから、2週間は帰ってくるんじゃないわさ! “呪文カード”がもったいないでしょーが!」

「ならば、ポンズ! 生きて帰ったら結婚――」

 

「……あいつもボケに全力捧げてるなー。わざわざ変なフラグ残していったぜ」

「ポンズ、スターが帰って来たら結婚するの?」

「するわけないじゃない……」

 

「さ。邪魔者もいなくなったことだし、始めるわよ。――始め!!!」

 

 

~~中略~~

 

 

「どこだよ、ここ……。地図――って、地図はゴンが持ってんじゃねェか……ん?」

「お?」

 

「「…………」」

 

「――何だ、お前もプレイしてたのかよ」

「ああ。そーゆーお前は、フィンクスだっけか?」

「そうだ。よく覚えてたな。女連中以外興味ねェのかと思ってたぜ」

「興味はないが、それくらいは覚える」

「そうか」

「そうだ」

 

「「…………」」

 

「よお。ちょっと勝負しねェか?」

「勝負?」

「これ最後の“衝突(コリジョン)”だったんだよ。無駄になるのはごめんだし、お前と戦りあってみたいってのもある」

「俺は別に戦いたくない」

「そう言うなよ。他の奴等と違って命は取らないでやる。お前を団員にしようなんて声もあることだしな。ただ、俺が勝ったらお前のカードは全部もらう」

「……なら、俺が勝ったら、マチ達のことを教えてもらうぜ」

「あ?」

「ウボォーギンって奴とその内容でケンカをする約束をしてた。でも、あいつは死んだんだろう? だから、お前が代わりを務めろ」

「……おいおい。その名前を出されたら手加減はしてやれねェぜ?」

「問題ない。あいつにも言ったことだが、素敵な女性が関係してるときの俺は超強い!」

「上等!」

 

「くっ……てめェ、バケモンか。いったい何回腕を回せば、オレの“廻天(リッパー・サイクトロン)”が効きやがるんだ」

「仕方ないだろ。お前の攻撃力が上がる度に、俺のオーラも増加するんだから」

「千日手ってヤツかよ……! あーくそっ! なら、手数で圧倒してやるよ……! いくら反射で防御出来るっつっても、限界があんだろ!」

「知らねェよ。限界が来たことはない!」

「そうかよ!!!」

 

「おい……もう3日だぜ。てめェ、いい加減倒れろよ」

「やだね。お前こそ降参してマチ達のことを教えろ」

 

「「…………」」

 

「……チッ。やめだやめ! これ以上戦ったら、切り札を使わざるを得ねェ! そうしたら殺しちまうからな!」

「あ? お前が死ぬの間違いだろ」

 

「「…………」」

 

「まあ、とにかくだ。オレはフェイタンとも勝負してんだ。てめェとばかり戦ってられねェ」

「敗けを認めるんならマチ達のことを教えろよ」

「オレは敗けてねェだろ。てめェもオレを倒せなかったんだから、これは引き分けだ」

「ふざけんな。お前の都合で止めたんだから、俺の勝ちだ」

 

「「…………」」

 

「ふぅー、なら一つだけ教えてやる。マチ達は――つーか、オレ達全員、流星街の出身だ」

「流星街?」

「知らねェか? 世界のゴミ捨て場だ。オレ達の本拠地(ホーム)もそこにある」

「つまり、そこに行けばマチ達に会えると!」

「いや、どいつもこいつも世界中飛び回ってるからな。そんな頻繁に帰るわけでもないし、行けば会えるってもんでもねェ」

「何だ……使えない情報だな」

「情報は情報だろ。んじゃ、オレは行くぜ。団長達もここに来てるから会ったらよろしくな」

「マチ達は!」

「ん、ああ、シズクなら来てるぜ」

「それを先に言え! そっちの方が重要だろーが! そうとわかってれば、お前と3日も戦りあってねェよ!」

 

「知るかバカ。じゃあな。“再来(リターン)”、マサドラ!」

 

「あ、待て! “同行(アカンパニー)”で俺をシズクの下へ――くそっ! 勝手な奴め! ……とりあえず、俺もアントキバかマサドラに……いや、“漂流(ドリフト)”でどっか別の街に行ってみるか……ん?」

 

「おや」

 

「……おいおい」

「お前もここに来てたとは奇遇ね。ちょっと勝負するか。あの時の決着をつけるよ」

「今度はお前かよ……!」

「?」

 

 

~~中略~~

 

 

「きゃん! メガネメガネ……」

「これだろ? 大丈夫か」

「あ、ありがとうございます……」

 

「あイタ! ちょっとドコ見て歩いてんのよ!」

「ああ、ゴメン。怪我は――じゃなくて、そっちこそ気をつけろよ! お前の方からぶつかって来たんだろ!」

「何ですってーっ!」

 

「いーじゃねーかよ。つきあえよ」

「放して! 大声出すわよ!」

「へっへっへっへっ」

「出すなら出せよ。誰も助けちゃくれないぜ」

「この街にはオレ達、ダンダ団に逆らう奴なんていねーのさ!」

「“ヒーロー”参上!!!」

 

「――何て、素晴らしい街だ。恋愛都市アイアイ!」

 

仮初の愛に惑わされ

貴方は深い霧の中を突き進む

抜け出ることは叶わない

真実は貴方の背中にあるのだから

 

「じゃ、団長、“神眼(ゴッドアイ)”で全部の指定ポケットカードの内容を確認出来たことだし、そろそろ戻ろうよ」

「……そうだな。いや。オレはここに残ろう。1人くらいは残っていた方がいいだろう。カードも預かっておく」

「あ、そっか。ゲームを出るとセーブデータのない人間のは消えるんだっけ」

「セーブ出来てもフリーポケットのは消えるらしいけどね。それにゲームに10日以内に戻って来ないと指定ポケットのカードも消える」

「でも、どうせ全部奪うんだろ?」

「それはそうだが……これほどのゲームを作り上げた連中だ。何かしら対策を取っている可能性もある」

「なるほど……。確かに保険はあった方がいいかも知れませんね」

「ああ。それから、ノブナガが望むなら、ここに連れてこい」

 

「ノブナガ?」

 

「“No.31”、“死者への往復葉書”を使う。すでにシズクの本で“複製(クローン)”を使ったから問題ない」

「あ……団長の占い、最後の一つはこれのことか……」

「だろうな。だからこその保険でもある。他の奴も使いたければ、そのときに言ってくれ」

「……は、いらねェよ。あいつが葉書なんて書くタマかよ」

「その通りね。でも、ノブナガは使うかもしれないね」

「特に仲良かったからね……。わかったよ、団長。ノブナガに伝えておく」

「ああ。任せた」

 

狩人狩りを始めよう

考え方は悪くない

愛でるべき宝に届かずも

季節違いの彼岸桜が花開く

 

 

~~中略~~

 

 

「そういえば……スター、帰ってこないね」

「ん、ああ。そうな。もう、2週間経ったよな。ま、あいつのことだから無事だとは思うけど」

「どうせ。バカやってるんでしょ」

「だろーな。でも、この穴掘りいつまでかかかるかわかんねーし、あいつひょっとしてクリアしちまったりしてな」

「え~~~っ! それは困るよ!」

「ま、“カード化限度枚数”とかあるし、そう簡単じゃねーだろーけど。気になるなら、“交信(コンタクト)”でもしてみるか?」

「あっ、そっか! それで連絡とれるんだよね!」

「ここじゃ、ケータイ使えねーからな」

「やろうやろう! ビスケ、いいよね!!?」

「ま、それくらいならかまわないわさ。確かにこうも音沙汰がないと逆に不気味な感じだしね」

 

「“交信(コンタクト)”、使用(オン)! スター!」

 

『ん、ゴンか? どーした?』

「どーしたって、スター、今何してるの? もう、2週間経ったよ」

『え、ああ……修業は終わったのか?』

「ビノールトのとはね。あいつ自首するって。今はマサドラまで穴掘りしてるトコ」

『そうか』

「スターは? カードどのくらい集めたの?」

『――フルコンプしたぜ』

 

「「「「えっ!!?」」」」

 

『恋愛都市アイアイの彼女達の心はすでに俺のものだ!』

「……え? 恋愛都市?」

『ふ、くくく……はーっはっはっはっはっはっ! ここはいいところだぞゴン! しかし困難な道のりでもあった! 何故なら、彼女達との恋が成就すると彼女達はカードになってしまうからだ! そこで俺は考えた! どーしたと思うゴン!』

「えっ、どーしたの?」

『“ゲイン”によって、カードを諦めることで、再び彼女達と出会ったのだ!』

「あ、そーか」

『それだけじゃないぞ! 彼女達の中には全く別のアイテムに変わってしまう者達もいた! そればっかりは“ゲイン”を使ってもどうにもならない! どーしたと思うゴン!』

「えっ、えーっと……」

『ふふふ、イベントは一度消化しても、またその場所を訪れれば始まるという特性を利用したのさ! そして、カード化するギリギリを見極めて退く! これによって、他の誰よりも好感度が高い状態でありながら、彼女達の存在を維持出来るのだ』

「な、なるほどー」

「無駄にハイスペックだな。あいつ……。普通そんなこと思いつかねーし、実行しねーし、成功しねーよ」

『今やこの都市は完全に俺のためのハーレムだ! うわはははははっ!!!』

 

「「「「…………」」」」

 

「オレ達が修行してるって言うのに、あいつ……」

「ま、まあ、スターらしいよね」

「どこまでも自分の本能に忠実な男ね……」

「……」

 

「「「ひっ!!?」」」

 

「……ちょっと、行ってくるね。いいわよね? ビスケ」

「は、はい! 好きにしていいです!」

 

「“磁力(マグネティックフォース)”、使用(オン)! スター!」

 

「「「…………」」」

 

「こ、怖かったわさ……」

「あーあ、スター死んだな。いや、死なねーけど。死んだ方がマシかも」

 

『え、ポンズ? おー、久しぶりだな! って、ちょっ!!? 何故にいきなり臨戦態勢!!? まっ、待て! 待った! ひぎゃーーー!!?』

 

「「「…………」」」

 

「……あ、“交信(コンタクト)”の効果、切れた」

 

 

~~中略~~

 

 

「じゃ、あたし達は修行を続けるから、恋愛都市アイアイには近づかないで、あんたはちゃんと冒険しなさい」

「わかった……次はどれくらいだ」

「……そうねー、今やってるこれが終われば、今度はここにいる怪物を捕まえさせるから、1ヵ月ってトコだわさ」

「そうか。ビスケ、これを」

「あら、これは……」

「“No.4”、“美肌温泉”。好きな場所に作って疲れを癒してくれ。言っとくが、ガキだからってポンズとの混浴は許さないからな。それと、他のプレイヤーの覗きだとか、“呪文カード”で飛んでくるような事態には気をつけろ」

「“呪文カード”をどう気をつければいいかはわからないけど、わかったわさ」

「ちなみに、俺にはこっそりポンズの入浴時間に“交信(コンタクト)”してくれていいぞ。そうしたら、偶然を装って駆けつけるから」

 

「……あんた、さすがに殊勝な態度になっているかと思えば」

 

「冗談だ。俺だってバカじゃない。それでポンズが怒るであろうことは知ってる」

「あんたは十分バカだけどね」

「ポンズにはくれぐれもくれぐれもよろしく。タイミングを見計らってこれを渡してくれ」

「今度は何さ? “No.20”、“心度計”? 12時に合わせると平静な精神状態に戻る……あんたが使いなさいな」

「俺はいつでも平静だ」

「……手の施しようがないってことだわね」

「頼んだぞ、ビスケ。俺とポンズのバラ色の生活はキューピッド役のお前にかかってる!」

「そんな大げさなことじゃないでしょーに……あんたがこれ以上バカなことしなければいいだけの話さね」

 

 

~~中略~~

 

 

「お」

 

「……ホントにすぐ会うしさ」

「ん、何のことだ?」

「何でもないわよ」

「そうか。それより、マチ! マチも来たんだな。来てないって聞いてたんだけど」

「……まあね。シャルの話で旅団の大部分が参加することになったからね」

「シャル……シャルナークとかいう奴か。そいつの話?」

「そ。“G・I(グリードアイランド)”は現実で行われてるってね」

 

「そうなのか?」

 

「らしいよ。ここから持ち帰れた石の成分とか調べてたわね。それが終わったら実際にゲームを使わずに来るんだって」

「へー」

「それで、団長以外みんな帰ってきて、団長が1人だから、ノブナガとアタシが来たのよ。ま、ここにまでヒソカが追いかけてきたりはしないだろうけどね」

「クロロもこのドリアスにいるのか?」

「さあね。別に待ち合わせ場所とか決めてたわけじゃないから、ノブナガは北にアタシは南に来ただけよ」

「じゃ、俺と行動しようぜ」

「何でよ」

「一応、俺の方がここには長くいるんだから邪険にすることないだろー。“呪文カード”とかもマチより持ってると思うしさ」

「……まあ、そういうことなら」

 

「よし! じゃ、さっそくギャンブルをしに行こう! ここはギャンブルの街なんだから!」

「――おい! アタシは団長との合流を」

「クロロだってギャンブルしてるかもしれないだろ」

「む……ヘリクツを」

 

「よっしゃ! “No.79”、“レインボーダイヤ”、ゲット!」

「へぇー、ギャンブルって簡単なのね。旅団にいるとカジノに盗みに入ることはあっても、普通に参加したりは基本的にしないからね」

「ギャンブルで本当に運がいるのなんてあんまりないぜ。目の良さとか手の速さとかあれば大抵は勝てる」

「ふーん」

 

No.079:レインボーダイヤ:A-20:7色に光り輝くダイヤ。このダイヤを渡して、プロポーズすれば、100%成功する。

 

「「…………」」

 

「――ゲイ」

「没収」

「やはりか! やはりダメなのか!」

「あんたわかりやすいのよ……。わざとやってる部分もあるのかも知れないけど」

「この想いは本物だ!」

「あーそう……」

 

 

~~中略~~

 

 

「団長!」

「ん、マチか」

「ちっ……空気読めよ。何でいるんだよ」

「スターも一緒か。相変わらず仲が良いな」

「だろ!」

「……団長、そういうの止めて欲しいんだけど」

「くっく……ノブナガは一緒じゃないのか?」

「スタートでは一緒だったから、すぐに飛べるよ」

「そうか」

「なあ、クロロ。お前どれくらいカード集まった? ダブりとかあったら交換しないか?」

 

「そうだな……“ブック”! オレはこんな感じだ」

 

「げっ。お前もうこんなに集めたのか? 7割以上集まってるぞ」

「他の連中が戻ったときに全部カードを預かったからな」

「にしてもだろ。これに何年もかけてる奴等も沢山いるって話だぜ」

「そうか。だがカードを独占してる連中がいるらしくてな。ここから先が難しい。“衝突(コリジュン)”も、もうないしな」

「あー、あいつらかな? あるいはツェズゲラか……」

「知ってるのか?」

「ゲーム始めてすぐの頃、何かセコイこと考えてる奴等には会ったぜ。さっきの何年もかけてる奴等。“呪文カード”独占して、ゲームクリアするとか言ってた」

 

「……なるほど」

 

「ツェズゲラってのは確かオークションのときの奴だね」

「そういや、マチ達も立ち聞きしてたっけ。このゲーム内ではまだ会ってないけど、8割攻略出来てるとか言ってたからな」

「ふむ……やはり、マサドラで張った方が効率がいいか……。だが、あそこには“離脱(リープ)”狙いの雑魚プレイヤーも多いからな……」

「何だよ、お前プレイヤー狩りとかしてるのか? 普通にゲーム楽しめよ」

「普通にか……今更だな。オレが求めてるのは入手難度の高いSやSSのカードか、“カード化限度枚数”の上限が低く、独占されたのであろう難度Aのカードだけだ」

 

「難度B以下で必要なのはないのか?」

「B以下のカードなら金さえ用意すれば、交換(トレード)ショップで買える」

「え、マジで? 売ってなかったぞ。どっか特定の街か?」

「いや。同じ交換(トレード)ショップで50回以上買い物するだけでいい。得意客となってあっちから話を持ちかけてくる」

「へぇー! いいことを聞いた! これで男のロマンである“スケルトンメガネ”を再び入手することが出来る!」

 

「「……………」」

 

「いてっ。ちくっとした。何故俺を針で刺す!」

「そのカードは知らないけど、それがどんなものなのかは名前とあんたの反応から想像がついたんでね。メガネをかけてアタシの前に現れたら殺す」

「ヒドイ!!?」

「どっちがだ」

 

「くくく……話を戻そう。オレは“神眼(ゴッドアイ)”のカードでクリア条件になっている指定ポケットカードの内容は全部見た。そこに並ぶカードの入手難度はB以上。1枚だけDだが……つまり、それ未満のカードは必要すらない」

「じゃ、俺の金稼ぎ手伝えよ。俺も難度Bのカード全部手に入れるから」

「……」

「おい! 何で、団長がアンタの手助けをしてやる必要があるんだ」

「入手難度の高いカードを狙えばいいだろ? それならクロロにもメリットはある。ただ途中で手に入った金になるカードは全部俺がもらうだけだ。入手難度の高い方も“複製(クローン)”でもらうけど」

「……相変わらずだな。いいだろう。お前の実力は知ってるからな。どうせ、シャル達の結果待ちでヒマだったんだ。ノブナガと合流したら、入手難度SS、“No81”、“ブループラネット”を狙う! これは持っている奴はいるがまだ独占されていない」

「持ってる奴がいるってことは、“複製(クローン)”持ってるチームにでも回ったらアウトか」

「ああ。ある意味では時間との勝負だ。“カード化限度枚数”はわずか5枚で、すでに持ってる奴が2人いるからな」

 

 

~~中略~~

 

 

『もしもーし。スター、オレ、ゴンだけど』

「おう。修行終わったのか?」

『あ、それはまだあるみたいだけど、ここの怪物は全部捕まえることに成功したよ!』

「そうか」

『スターの方はどう? また変なことになってない?』

「またってお前な……ま、いいや。ふっふっふっ! 聞いて驚け! 俺はビスケが狙ってた入手難度SS、“No81”、“ブループラネット”を手に入れたぜ!」

『!』

『ほ、本当!!? あたしに寄越しなさいよ、スター!!!』

「ハハハ! いいぜ。そう思って2枚手に入れた」

『おお! スター! あんた気が利くじゃないのさ! 見直したわよ!』

「はーっはっはっはっはっはっ! 任せろ!」

『なら、ちょうどいいわさ。あんた一度戻って来なさいよ。これからゴン達に新しいこと教えるから、あんたも一緒に聞いておきなさい』

「ん、そうか……ああ、わかった」

 

「――あの子供達のトコに戻るのか?」

「ああ」

「そういや、ゴン達も来てやがるんだよな。修行してるって……ちったー強くなったのか?」

「そりゃ、なってるだろ。ならなきゃ修行する意味ないぞ」

「おお! それもそうだな。旅団(クモ)のためにもどんどん強くなれって言っとけよ」

「お前もしつこいな」

「オレはあいつが気に入ったって言っただろ。ヒソカの代わりは入ったが、ウボォーの代わりはまだいねーんだ」

「ん、新しい奴が入ったのか?」

「ああ、そのうちオメーも会うことになるかもな」

 

「ふーん……マチ! マチは俺と一緒に来るか?」

「はぁ? 何でよ……。行かないわよ」

「バカな」

「アンタの頭がね。何で行くと思ってるのよ」

「うぅ……わかったよ。1人で戻るよ」

 

「――スター。未だにシャル達から連絡が来ないということは、あいつらは失敗したんだろう。これでオレ達もゲームをクリアする必要が出てきた。あいつらが戻り次第、カードを独占してる奴等を攻める。そのときに連絡する」

 

「あ? そういうのはそっちで勝手にやれよ」

「オレはそいつらと接触してない。少なくともお前がその話を聞いたという奴の名前はリストになかった。どいつがそいつらの仲間かわからない以上、中心人物でもあるだろうそいつのトコに飛ぶのが一番早い」

「メンドくさいなー」

「マチ、お前もスターに頼め」

「……グダグダ言わずに手伝いな」

「任せろ!」

 

「「「…………」」」

 

「……とにかくそういうことだ。また連絡する」

「おお。じゃあまたな、マチ! ――“磁力(マグネティックフォース)”、使用(オン)! ポンズ!」

 

「ポンズ……?」

「ん、気になるのか?」

「別に……」

 

 

~~中略~~

 

 

「よ。約1ヵ月ぶりだな」

「スター!」

「おお。ポンズ! 俺に会えなくて寂しかったか?」

「ううん」

「またまた」

「ううん」

「またまた……」

「ううん」

「ま、またまた……」

「……ちょっとだけね」

「だよな! 俺も寂しかったぞ!」

 

「……何か、思ったんだけどさ。あれってポンズのぜいもあるよな」

「え、そうかな?」

「そうさね」

「そうだって、絶対! いつも完全には拒絶しないじゃん」

「それは、ポンズもスターのことが好きだからでしょ?」

「……うーん?」

「難しい問題ね。スターも本当にポンズ一筋ならよかったんでしょうけど」

「ああ、やっぱそれが一番のネックだよな」

 

「…………そこ、聞こえてるからね」

 

「「「!!?」」」

 

「そ、それよりもスター! “ブループラネット”! 早く寄越しなさい!」

「ああ。“ブック”!」

 

「「「おおー」」」

 

「これが、“ブループラネット”! ……って、カードの状態じゃ実感ないわさ。戻してもいい?」

「“複製(クローン)”あるのか? 俺はもうないぞ」

「同じく」

「オレもだよ。修行ばっかで“呪文カード”買い足してないもん」

「当然、私もよ」

「そんな……手にしても、愛でることが出来ないなんて……」

「クリアしてからのお楽しみにしなよ」

「……そうね。でも、普通に本に入れておいて大丈夫なものなの? “堅牢(プリズン)”なんてないわよ」

「SSを奪われるのはイタイよな」

 

「これ」

 

「これは?」

「“No.84”の“聖騎士の首飾り”だ。これを身につけてる間中は“反射(リフレクション)”の効果を得られる」

「へェー! そんなのも手に入れたんだ?」

「人数分あるぜ」

「ホントに!!?」

「そんなに“複製(クローン)”持ってたのか? それともイベント繰り返した?」

「いや。ランクB以下のカードは、同じ交換(トレード)ショップを50回以上利用することで買えるようになるんだ」

「そうなの!!?」

「ああ。ま、これはランクDだから、“堕落(コラブション)”と“妥協(コンプロマイズ)”で増やしたんだけどな」

「“妥協(コンプロマイズ)”? それって、他プレイヤーがいないとダメじゃなかった?」

「ああ。他のプレイヤーに協力してもらった」

「ふーん……」

「つーわけで、一応ランクBの指定ポケットカード32種はコンプしたぜ」

 

「「「おおー!」」」

 

「何か面白そうなアイテムがいっぱいあんなー」

「うー……! オレも集めたい!」

「ま、これは一応手に入れといたってだけだからな。修行が終わったら、店とか利用しないで出来るだけ自分達で集めようぜ」

「うん!」

「……メガネかけてたり不審な動きをみせたら、ヒドイからね」

「わ、わかってるって! どいつもこいつも……俺ってそんなに信用ないのか」

「どいつもこいつも……?」

 

「――さ。カードもいいけど、そろそろ修行を再開するわよ」

「何するんだ?」

「今日からは防御の修行に入る」

「防御?」

「!」

「それは……」

「そうよゴン。あなたが使ってる技だわさ。“纏”、“絶”、“練”、“発”、“凝”を全て複合した応用技。“硬”」

「ゴンってこんなこと出来るようになってたのか?」

「あ、うん。ここに来る前にウイングさんに電話してそこからヒントを得て……」

「体中のオーラを全て体の一部に集め、攻撃する! それゆえ通常の攻撃をはるかに上回る威力がある。あたしが“硬”を込めた拳で攻撃する。あんた達はこれを全て受けて防ぐこと! よけてはいけない!!!」

 

「「「…………」」」

 

「顔色を見ると察したようだわね。その通り。オーラで覆われた体はとても防御力が高い……しかし、それより“硬”での攻撃力ははるかに高い。つまり、普通にガードしても深いダメージを受ける!!! どうする?」

「こっちも“硬”を使う!」

「うん。半分正解。“硬”に対して“硬”! これならば、よほど“念”能力のレベルが違わない限り、防御が成功すれば無傷で済むだろう。しかし、もしも“硬”でガードした個所以外に攻撃がヒットすれば、即、破壊だわよ」

「全身を“硬”にする。矛盾してるけど、そんな意味だろ? 実際スターはそんな感じのことをしてるみたいだしさ」

「その通り。“纏”と“練”の応用技“堅”。全身を通常よりもはるかに多いオーラで覆い防御する。“硬”よりは防御力が落ちるが、これが最も実践的な防御! 訓練を積めばオーラの総量も上がり、防御力も増す。ゴン“練”をやってみて」

「うん!」

「この状態をずっと維持するのが“堅”! その状態であたしのパンチをガードして」

「? (遅い……?)」

 

「「「!!!」」」

 

「おー、スゲー飛んだ」

「ゆっくりだったからって体の力を抜いたわね? “堅”まで解けてたら、顔潰れてたわよ。これが“硬”のみの力……! この威力に肉体の力である拳本来のスピードと破壊力をのせれば、さらに攻撃力は数倍、数十倍にもなる!」

「!」

「最初は今みたくゆっくり打つけど、いつ打つかは言わない。“堅”の状態で出来る限り耐えてみなさいな」

 

「く……」

「ゴン!!?」

「……うん。約2分ってトコだわね」

「(知らなかった……! “練”を持続するのが、こんなに大変だなんて。スターはいつだって自由自在なのに!)」

「それなりの実力者と戦おうと思ったら、最低30分は“堅”を維持しないとお話にならないわよ! ――試しにスター! あたしの“硬”を防いでみなさい!」

「ん、ああ」

 

「――破っ!」

「(速っ、殴った!)」

「(でも効いてない……! ビスケが殴る直前にスターのオーラが一気に増加した……!)」

「なるほど……動きもしないとはね。連続でいくわよ」

「お、おお、おおっ?」

 

「「動いた!」」

 

「む」

「(スターも手を使い出した……この状況だと制約的にこれ以上のオーラの増加は出来ねーのか? どっちにしてもスゲーオーラだけど)」

 

「……こんなトコね。今のでまだ10分。あたしも完全に本気ってわけではないとはいえ、あたしは“硬”で一部位だけを強化してたことに対して、スターは手こそ使ったものの、全て“堅”だけで対応してた。これにはさすがにあきれるしかないわね」

「“堅”だけで? “硬”を防ぐには“堅”でいいんだろ?」

「そうね。ベターではあるけどベストではないってところかしら」

「あ、そうか! “流”!」

 

「「ああ!」」

 

「あらま。知ってるの?」

「ウイングさんにスターの“念”のことを聞いたときに、ちょっと説明されたんだ。普通は“流”でオーラをやりくりするのに、スターは全部オーラを増加することで押し通してるって」

「なるほど。確かにその通りだわね。スターの“発”は“超上質な堅”! それを基本としている。それを可能にするのは、状況によって何回も“練”を重ねられるという“反則的な強化”! 修行でどうにかなることじゃない。完全に個人の資質による特性ね」

「やっぱ、そうなのか……」

「ええ。ウイングにどこまで聞いたのかわからないから説明するけど、“念”での実戦では基本、“堅”=全体攻防力を維持しながら、“凝”と“流”によって、一部位のオーラだけを増加することで自分に有利な状況を作っていく」

「“硬”まではいかない“硬モドキ”の部位を作るってことだろ?」

「そーゆーこと。ちなみにあたしはさっきのスターとの戦いではわかりやすく“硬”の状態で“流”をやってたけど、それは見えてたわよね?」

「……ま、何とか」

「ビスケの動きが速すぎて」

「拳に足にと色々やってたのはわかったけど」

「おほほ。あたしも久しぶりに結構マジでやったからね。スターがあんまりにも堅いものだから、ちょっと滾っちゃってね。いやー、あたしもまだ若い」

 

「(充分、ババアだろ)――ぐはっ!!?」

 

「とにかく、この境地に至るにはまだまだ時間がかかるけど、一応見せておきたかった。あんた達はこれを見たからって、諦めるタイプの性格してないでしょ?」

「とーぜんだぜ!」

「うん!」

「……ま、実力が違いすぎるのはとっくにわかってたことだしね」

「なら、まずは“堅”を30分維持することから! もちろん、今までやってきた他の修行も並行しながらやるからそのつもりで!」

 

「「押忍!」」

 

「はい」

「えーっと、俺は?」

「基本的には好きにしていいわさ。でも、あんたもこれ以上カードを集めると、ゴン達との差が出来すぎるし、ここにいてもいーかもしれないわね。そもそも、邪魔だったのはビノールトに過剰反応してたからだもの」

「悪は滅びた」

「そのあとはあんたが恋愛都市で遊んでたせいで、ポンズとの関係が悪化してたからだけどね」

「反省はしてる。後悔はしてない」

「……じゃ、何に対して反省してるか言ってみな」

「1日の終わりには必ずポンズの下に帰るべきだった……スケジュールは厳しく、“呪文カード”がなくなろうとも、俺には出来たハズだ!」

「はぁ……」

「確かにあんたは筋金入りだわね。ま、それでいいと思ってるなら、あたしから言うことは何もないわさ。好きにしなさい」

 

 

~~中略~~

 

 

「よーし、休憩!」

 

「「「ありがとうございましたー!」」」

 

「“堅”の修業を始めてから、“流”をマスターするまで、2ヵ月かからず……たいした進歩だわね。“流”だけでも2ヵ月はかかると思ってたのに、あきれるばかりだわさ」

「ふふふ、任せろ」

「……あんたは変わってるのか、変わかってないのか、よくわからないけども」

「ふっ、わかりやすいところで言えば、“美肌温泉”の効果でお肌がスベスベになったぜ!」

 

「「「「…………」」」」

 

「さて――これなら最終段階に入っても問題ないわね」

 

「「「!」」」

 

「無視された!!?」

「最後は系統別の修行!」

 

「「「3!」」」

 

「ピンポーン、引き分け! スターは腕立て10万回」

「何故に!!? 俺がちゃんと見えてるってのはわかってるだろ!」

「いいからやりなさいよ。10分以内ね」

「ぐぬー……!」

「10分って……」

「1秒間に166回以上ね。166回じゃ足りないけど」

「ゴンは強化系、キルアは変化形、ポンズは具現化系だったわね。自分の系統だけを修業してもいいんだけど、それだとどうしても応用のきかない使い手になってしまうし、効率もよくない。理想は山型!」

「?」

「自分の系統を中心に、そのとなりの系統も鍛える。その時間のことよ。ゴンだったら強化系に3、変化系、放出系に2、具現化系、操作系に1ってことね。特質系は元々別だし、具現化系と操作系はやらなくていいから実際には、そっちが0って感じだけど」

「六性図の関係のことね」

「そ。実はバランスよく他の系統の修行もやると、自系統の覚えも早くなるの」

 

「「「9!」」」

 

「ピンポーン、引き分け! スターは腕立て10万回追加。時間は変わらずで」

「何ィ!!?」

「――それじゃ、始めましょうか」

 

「「押忍!」」

 

「はい」

「ぐぬーっ……!」

 

「系統別修行、強化系の場合レベル1、石割り。――こんな感じで石で石を割っていくの。1日に1個の石で1000個の石を割れたらクリア。ポンズは具現化系だからこれはやらなくていいわ」

「え、でも、強化系は戦闘の基本なんじゃ……」

「そうなんだけどね。系統別の修業は1日1系統が原則! 基礎修行が疎かになっては意味ないからね。具現化系の場合は初めのうちは具現化系3、変化形2で十分。ただ、特質系を挟んでるとはいえ、ポンズは操作系よりだから、操作系も1って感じかね」

「そうなんですか……」

「それらが終わってようやく強化系0.5くらいのもんよ。具現化系は元々生粋の強化系とかとは戦い方が違う。特にあんたの場合、“自在に蜂を喚び出す”具現化系、その“蜂に命令を聞かせる”操作系、“蜂毒の性質を変える”変化形とすでに纏まっている」

「はい」

「これ以上は望みすぎというものさね。扱い切れなくなるのがオチだ。“堅”と“流”の修行でも十分。“待ち”の戦い方を基本とするあんたは、むしろそれを使わないように頭を使ってこそだわさ」

「わかりました。ただ、一つ聞きたいのだけど……」

 

「何?」

 

「その……彼には蜂の針が刺さらないか……あるいは治癒力とか免疫力の強化で対処されてしまったのだけど……強化系のそういう人物を相手にする場合はどう戦えばいいのか……」

「それはキッパリあいつが異常なだけだけども……ま、そういう場合は蜂に使用するオーラを上昇させて対応するしかないね。ま、それは強化系や、下手すれば放出系に関することだから、あんたには向かないと思うけど」

「……」

「ただ、そこまで考え込まなくても、普通は針が刺さるし、毒も効くから。今は速さや精度を上げることだけを考えてなさいな」

「そうよね……わかった」

「(……近くにバケモノがいると大変だわね。蜂だってオーラで操作してるなら、まったく刺さらないことはないし、一匹の奇襲で決めるとか、逆に数がいるのだからオーラの薄い部分を狙うなどで対処出来るのが普通なんだけど……相手がアレだからねェ)」

「じゃ、ビスケ。私には具現化系の修行方法を教えてくれるのよね?」

「そうさね……(初めてそうだと知った“念”能力者がアレなのは運がよかったのか悪かったのか……どうあってもアレを基準として見てしまうのだから)それじゃ、系統別修行、具現化系の場合レベル1――」

 

 

~~中略~~

 

 

「最初はグー……! ジャン! ケン!! グーーーッ!!!」

「おーっ」

「なるほど」

「次ね! 最初はグー! ジャン! ケン!! パーーーッ!!! ……ビスケ。どうやったら“念”を飛ばせるの?」

「……修業!」

 

「グーが強化系、パーが放出系――ってことは、チョキは変化形?」

「うん」

「ジャン! ケン!! チーーーッ!!! ……で、ズバッと岩とか切りたいんだけど」

「なるほど。刃状に変化するわけね。なかなか理にかなってるわね(発想はガキだけど)」

「拳に“念”を込めるとき、どうしても時間がかかるでしょ? どうせならその間何かしっくりくる方法がないかってずっと考えてたんだけど。ジャンケンの話を聞いたとき、ピーンときたんだ。オレ結構ジャンケン好きだし」

「ん。その直感はとても重要よ。“念”能力のとりわけ特殊技ってのはフィーリングが大事なの。“自分に合っている”っていう認識がね。系統別の修業をしながら何か見つけてくれればいいと思ってたんだけど、あんたは大丈夫だわね」

「あー、ゴホン!」

 

「「「!」」」

 

「ま……今はこの程度だけど、充電すれば結構、電力上がるぜ。オレも準備はOK! あとはどんな応用技にするかじっくり決めるだけ……!」

「すごいや、キルア! 電気ウナギみたい」

「たとえワリーぞ」

「(……この年でオーラを電気に変化させるなんて……おそろしい……でも、それ以上に哀しいコ……日常が地獄だったハズ……今こうして笑顔でいられるのが奇跡的なほどの……ホントにいいコンビ……いい仲間なのね)」

 

「――じゃ、今日は休みにしようかしらね。ちょっと早いけどパーティーでもやる?」

「え?」

「みんなの国ではどんな祝い方をするの?」

「祝いって……?」

「んふふ、修行に夢中で気づかなかったでしょ? もうすぐ、外の世界は新年よ」

 

「「「――」」」

 

「知らなかった? ゲームの中も外と同じ時間の流れ……つまり、リアルタイムなの」

 

「「しまった……!」」

 

「ん?」

 

「クリスマス!!!」

「ハンター試験!!!」

 

「ん?」

「え?」

 

「クリスマスって何?」

「恋人同士がデートをしたり甘い1日を過ごす為の祭日だ」

「……違うでしょ。確か宗教的なシロモノだったハズ」

「いや。それでいいんだ! 世界を回った俺にはわかる! そっちの方が正しい!」

 

「ふーん……って、それはいいや。ハンター試験だよ! ハンター試験!」

 

「よくないぞ!」

「あ、そか。もうそんな時期だ」

「そろそろ申し込まないと間に合わないよ!」

「むむむ……」

「んー、せっかく修行が面白くなってきたトコなのになー。でも、ハンター試験は年一回だし」

「ねェ今日は何日?」

「12月29日。試験申し込みの〆切は12月31日いっぱいだから、確かにヤバいわね」

 

「それまでにはゲームの外に戻らなくちゃ」

 

「どうやったら外に戻れるんだっけ?」

「えーと、たしか“ハメ組”の奴が“ある場所へ行って、ある条件をクリアする”とか言ってたな。まあ、呪文でも戻れるみたいなこと言ってた気も……スター持ってないのか?」

「……“離脱(リープ)”ならないぞ。ほぼ独占されてるんじゃないか。そうじゃなきゃそんなに帰れない奴が出るハズないだろ」

「まあ、あんたから見たら実力が足りなくて帰れないって発想にはあんまりならないかも知れないけど……」

「?」

「とりあえず、マサドラまで行ってみようか」

「賛成!」

 

「国外へ出る方法なら3000ジェニーになります」

「聞いとくか」

「西へ50kmくらい行くと、この国唯一の港があるんだが、そこの所長がとにかく嫌な奴で、旅行者が島を出るときには、無理難題をふっかけるそうだ。まぁ、裏金をたっぷり渡せば見逃してくれるそうだから、大金を用意して港に行くことだな」

「大金って……?」

「所長のそのときの気分次第って話だ」

 

「――ムカつくんだよ、てめェ!」

「あ、バカ……」

 

266:通行チケット:B-150:“G・I(グリードアイランド)”から出るときに必要な券。所長から金で買うか所長を倒すと入手出来る。ちなみに無理難題をいくら聞いてもチケットはくれない。

 

「「「「…………」」」」

 

「ふっ……“ヒーロー”は誤魔化せない!」

「ゼッテー、偶然だろお前」

「“ヒーロー”は誤魔化せない!」

「ハイハイ。それじゃ、ソッコーで合格して戻ってくるぜ」

「うん! ドーレ港のそばの一本杉のある山に“キリコ”って魔獣が棲んでるから、オレの友達だって言えば、今回の会場まで連れて行ってくれるよ」

「え、第三次試験終了時点で、試験会場無条件招待券が贈られるハズよ」

「あっ、そうだっけ……」

 

「いいよ。せっかくだし、そのキリコってのに会ってみるよ」

「うん!」

 

「いいこと? 系統別修行は、変・強・変・具・変のローテーションでやるのよ」

「ああ。……そういや、スターはよかったのか?」

「よくない。クリスマスにポンズとデートしたかった」

「そうじゃなくてさ。天空闘技場の登録すぎちまったんじゃね?」

「ん? あ、あー……別にいいよ。殿堂入りが決定しただけだ。バトルオリンピアの参加状だって送られてくるし、何ならまた登録し直すことだって出来なくはないからな」

「そか。じゃ、行ってくるわ」

 

「んじゃ、あたし達はマサドラに戻って修行を続けようかしらね」

「押忍!」

「はい」

「クリスマス……」

「あなた、まだ言ってたの?」

 

『他プレイヤーがあなたに対し“交信(コンタクト)”を使用しました』

 

「ん?」

『スター、オレだ。準備が整った。来てくれ』

「誰?」

「“ブループラネット”とかのときの協力者だ」

「へぇー。あんたが男とツルむなんて珍しいわね。まあ、女性のプレイヤーの数が少ないだけかもしれないけど」

「どうするの?」

「……一応行くか。行かなくても、勝手に来るだろうしな」

「そう」

「じゃあ、あたし達はさっき言った通りマサドラに行ってるわさ」

「わかった」

 

 

「――来たか。スター」

「ずっと呼び出しがなかったから、俺の手はいらないのかと思ってたんだけど」

「こいつらに言え。“ゲームマスター”の1人にアイジエン大陸に飛ばされたらしいんだが、寄り道する奴が多かったようでな」

「パクノダと……ボノレノフってのがいないけど。あ、あとノブナガもか」

「留守番」

「ちっ……そういうのは男を残せよ」

「ノブナガは普通に帰ったよ。“鎖野郎”の協力者を探すって」

「ふーん」

「正直、ノブナガには向いてないと思うんだけどね。オレでもさっぱりわかってないんだから」

「それは今はいい。スター、“同行(アカンパニー)は持っているか?」

「くれ」

 

「――じゃ、あんまり気は乗らないけど、行くか。“同行(アカンパニー)”、使用(オン)”! “ニッケス”!」

 

 

~~中略~~

 

 

「「「!!?」」」

 

「ん、何だこの状況……?」

「……どうやら、裏切りが発生したようだな」

「こんな洞窟で引きこもってる奴等なんてそんなものね」

 

「あ、あれは! “G・I(グリードアイランド)内でも特に好戦的なフィンクス、フェイタン組……! こんなに仲間がいたのか……!」

「何で、こんな時に……!」

 

「何かいつの間にか有名人になってるな」

「どうでもいいね。全部殺すだけよ」

「殺したらカードが手に入らねェんじゃないのか? 殺っていいならオレがやるが」

「お前ら。誰でも彼でも殺す殺すって、こういうときはまず交渉をしてだな」

「……それ以前に、こいつら勝手に死にそうじゃない? あれ形状的にみて爆弾でしょ?」

「“爆弾魔(ボマー)”とかいう奴か……限定的だが使えそうだな。そいつは捕まえろ」

「了解」

 

「くっ……! “離脱(リープ)”、使用(オン)!」

 

「お。1人逃げたぞ」

「奴が“爆弾魔(ボマー)”か」

「今のゲーム外に逃げる呪文だね。追いかけるのは難しいかな」

「それならスタート地点で張ってればいいんじゃない?」

「……とりあえず、放っておけ。まずはこっちを片付ける。“呪文カード”を使おうとした奴は殺していい」

 

「「「!!!」」」

 

「待ってくれ! 奴を追いかけさせてくれ! このままじゃ爆弾が爆発しちまう!」

「いや待て! 今そのまま出たら本内の“呪文カード”が消える!」

「じゃ、どうするんだ!!?」

 

「うるさい奴等ね……。団長、何人か殺してもいいか」

「待て。そいつがレアカードを持っている可能性もある。――そこのお前、状況を説明しろ」

 

「そんなことしてる場合じゃ――」

「――話せ」

 

「「「!!?」」」

 

「オレが話そう……」

「……いいだろう。他の奴は騒ぐな。騒げば殺す。最悪カードの独占さえなくなればそれでいい」

 

「「「!」」」

 

「こうして仕掛けてきた以上、オレ達のことは知っているな」

「ああ」

「オレ達は指定カードを90種集め、“呪文カード”も必要なものはほぼ独占していた。そして次が他の有力プレイヤーとの最後の直接対決になるだろうと思っていた。しかし、奴が裏切った」

「“爆弾魔(ボマー)”だな」

「ああ。奴は“爆弾魔(ボマー)”の単語をキーワードに、オレ達の身体に触れることで知られず爆弾を仕掛けていた。そしてその事実を説明することで奴の能力“命の音(カウントダウン)”が発動した」

「それがその爆弾か」

「そうだ。解除方法は奴の身体に触れながら“爆弾魔(ボマー)捕まえた”と言うこと。但し、奴にはそれとは別に“一握りの火薬(リトルフラワー)”という手で掴んだものを爆発させる能力もある」

「なるほど」

「奴の要求は当然ながら、全ての“指定ポケットカード”を得ること。奴の手元には9種あり、オレ達は全員で81種持っている」

「なら、それをオレ達に寄越せ」

 

「なっ――! 待てよ! だからそんなこ――!!?」

 

「バカな奴ね。騒げば殺すと団長が言ったハズよ」

「てめェら、どっちみち死ぬんだ。なら、オレ達にカードを渡しても同じだろ」

 

「「「!!!」」」

 

「……カウントが人によって違うな。……心拍数か」

「心拍数?」

「ああ。本来のカウントは6000といったところだろう。平常時なら人によるが、約1時間で尽きる計算だろう」

 

「「「!!?」」」

 

「た、助けてくれ……死にたくない……」

「カードは渡す! だから、命だけは……!」

 

「そうかい。なら、カードを渡す奴はこっちに来な。ま、カードを渡したトコでオレ達に関係ない爆弾はそのままだがな」

 

「「「!」」」

 

「“ジスパー”のカウントがすでに3500を切っている……。こいつにはリミット以上に時間がない。取引だ。カードは渡す……! だから、“爆弾魔(ボマー)”を倒して……ジスパーを助けてくれ……! あいつなら“大天使の息吹”を持ってるんだ……!」

「そんなの、知ったことないね。ここで死ぬか、あとで死ぬかの違いよ」

「待てよ。助けてやろーぜ。カードくれるって言ってるんだからいいじゃん。クロロだって“爆弾魔(ボマー)”捕まえたいとか言ってたしよ。互いの条件はあってるだろ」

「……」

「どうするの団長。占いはとっくに終わってるし、コイツの意見には別にもう逆らっても問題ないけど」

 

「……スター。どうあってもこいつらは助からない」

 

「何でだよ」

「“爆弾魔(ボマー)”はゲーム外に飛んだ。ここから出る場合50以上の港から場所を選択出来るらしいが、スタート地点……ゲーム機のある場所に戻る場合は、それぞれが作動させた場所に戻ることになる。オレ達は奴と違う場所から始めた」

「――つまり、“爆弾魔(ボマー)”を追えない?」

「そうなる。奴もオレ達の姿を見てから逃げた以上、すぐに戻ってくるということもないだろう。おそらく奴も単独犯ではないだろうが、プレイヤーが大幅に減るだけで良しとするハズだ。1時間以内ではどうにもならない」

「“爆弾魔(ボマー)”――“ゲンスルー”の居場所ならわかっている……! バッテラの古城だ……!」

「……それがわかっていたところで、間に合わないことに変わりはない」

「くっ……!」

 

「ジスパー以前の問題だ……! このままじゃ、オレ達も……!」

「無駄に騒ぐな……! 殺されるぞ……!」

「でも、例えカードを渡してもオレ達も死ぬんじゃ……!」

 

「……爆弾を解除するだけなら他にも方法がある」

 

「「「!!?」」」

 

「ほう……」

「オレは“除念”が出来る。オレの能力は秘密にしておきたかったが、このままじゃ、それ以前の問題になりそうだからな」

「“除念”って何だ?」

「ああいう風に残るタイプの“念”を消し去る能力のことさ」

「へえ、でもそれなら多分俺も出来るぞ」

「は?」

「要はアレを握り潰せばいいんだろ? 爆発が外に影響を与えないようにして」

「……」

「くっく……どうにも簡単に言ってくれるな。オーラで包んで握り潰すにしても相当な高等技術のハズなんだがな」

「お前もう何でもアリね」

「俺は“ヒーロー”だからな!」

「スターだからって言葉で何でも納得出来そうで困るよ」

 

「――いいだろう。2人の“除念”を望む者は、その前にまず“呪文カード”を全て差し出せ。“除念”が終わったとたんに逃げ出そうとされては面倒だ」

 

「くっ……!」

「オレは差し出すぜ! 金よりも命の方が大事だ!」

「お、オレもだ!」

 

「待ってくれ! ならばジスパーを治せる能力者はいないか!!? このままじゃ、本当にジスパーが!」

 

「「「…………」」」

 

「……マチ、お前の“念糸縫合”は?」

「ムリに決まってるだろ。腕が千切れ飛んだとかならともかく、顔が潰れた奴の何を縫えって言うのさ」

「だよなぁ。おい、そいつはムリだ。諦めろ。代わりに“爆弾魔(ボマー)”は団長も狙ってるし、オレ達が倒して、仇は討ってやる。安心してカードを渡しな」

「くっ……! ジスパー……!」

「……」

「そいつ次第だけど、まだ手段はあるぜ」

「! 本当か!!?」

「まさか、お前他人の回復まで出来るのか?」

 

「いや。自分ならともかく、他人の回復は出来ない」

 

「そうか。本当に何でもアリなのかと思ったぜ。――じゃ、どうすんだ?」

「“No.62”、“クラブ王様”のカードを使う。あとは“心度計”でも使って、平静を保たせ、そいつが死ぬ本当にギリギリまでその店内に入れておくんだ。その店内での1時間は外での1日。その間に俺達がゲーム外で“爆弾魔(ボマー)”を捕らえてくる」

「なるほど……バッテラの古城の近くの港に出れば、確かに1日以内に“爆弾魔(ボマー)”を確保することは可能かもしれない。どうする、団長? 正直、オレ達がそこまでしてやる意味があるのかは疑問だけど」

「頼む! カードは全部渡す! だからジスパーを! ゲンスルーを倒してくれ!」

 

「……よし。いいだろう。フィンクス! フェイタン! シャルナーク! お前達がゲーム外で“爆弾魔(ボマー)”を追いつめろ」

「追いつめる?」

「おそらく、フィンクスとフェイタンの姿を見れば、奴ないし奴等はここに逃げてくる可能性が高い。そこをオレとマチとスターの3人でスタート地点であるシソの木を張り、捕らえる」

「逃げなかったらオレ達がやっちまっていいんだよな、団長」

「ああ。その場合はお前達に任せる」

「私達はどうするんです?」

「シズク、コルトピ、フランクリンの3人はこいつらを見張っておけ。不審な動きをする奴がいたら殺していい」

「了解だ団長」

 

 

~~中略~~

 

 

「“爆弾魔(ボマー)”捕まえた。――ふぅ、これで“念獣”も消えた」

「結構簡単に終わったな」

「まあ、こんなものだろう」

「は、早くジスパーに“大天使の息吹”を!」

「へえ……まだ生きてやがったか。しぶとい野郎だ」

 

「“ゲイン”!」

 

『わらわに何を望む?』

 

「俺の女になれよ!」

 

「「「「「アホか!!!」」」」」

 

『む?』

 

「……今のは気にしなくていい。このジスパーの怪我を、悪いトコ全部治してやってくれ」

 

『お安い御用。では、その者の体、治してしんぜよう』

 

「う……」

「ジスパー! 大丈夫か!!?」

「あ、ああ……迷惑をかけたな。本当に……これでゲームクリアは」

「いい! いいんだ! 生きているならそれでいい!」

 

「ゲームクリアへの道を失ったかわりに、“G・I(グリードアイランド)”において、それ以上に大切なことに気づいたという話だな」

「ベタな話ねえ……」

「私、意外とそういうの嫌いじゃないですよ」

「原因の半分はオレ達だけどな」

 

『では、さらばだ』

 

「ああっ、せめて連絡先を!」

「カードだろ」

「なら、もう1回使おう!」

「コイツの頭は治せるのかしら?」

「“複製(クローン)”! ……ダメですね。やはり、他プレイヤーが“引き換え券”を持っていたみたいだ。奪られたよ」

「何ィ!!?」

「そうか。まあいい。さて、オレ達は約束を果たした。残りの指定ポケットカードも全て渡してもらおうか」

「……ああ。わかった」

 

「これで90種か……。あと少しだな」

「これからどうするの?」

「そりゃ、“呪文カード”もくさるほど手に入れたし、他プレイヤーから残りのカードを奪えばいいだろ」

「それは逆に非効率かも知れないよ。有力プレイヤーを狙い撃つならともかく。ここまでカードが揃ってると大抵のプレイヤーは欲しいのを持っていない可能性が高い」

「じゃ、どうすんだ」

「普通にイベントをクリアしてカード集めろよ。あ、“大天使の息吹”を奪った奴は男だったら攻撃していいぞ」

「コイツは……」

 

「……なあ、そいつらはどうするんだ?」

「“爆弾魔(ボマー)”か……。3人組の能力では使えないな。一応“一握りの火薬(リトルフラワー)”の方は奪ったが、これもそこまで使える能力でもない」

「別にこのまま解放していいんじゃないの。本当の“レアもの”以外は本拠地(ホーム)においといても邪魔だしさ」

「“発”が使えなくなってるとはいえ、さっきの奴等じゃ報復はムリだな。今なら弱ってるからイケるかも知れないけどよ」

「それもこいつら次第ってことで」

 

「――スター、お前は本当に“大天使の息吹”以外の指定ポケットのカードはいらないのか?」

「ああ。それはゴン達の修業が終わったら一緒に集める約束をしてるんでね。……まあ、本当はいくつか欲しいのがあるんだが、使うとマチとかに怒られるしさ」

「当然だ」

「まあ、どうしても必要になったらもらいにくる」

「そうか。戻るのか」

「このあと、新年の軽いパーティーをやる予定なんでな」

「パーティーねえ……」

 

「マチとシズクは参加してくれていいぞ!」

 

「えっ、あ、えーっと……」

「……考えなくていいわよシズク。しないから」

「バカな」

「だからアンタの頭がね。何で行くと思ってるのよ」

「くそぅ……わかった、わかったよ。1人で戻ればいいんだろ!」

「逆ギレか」

「別に、逆でもない気も……いや、何でもない」

 

 

~~中略~~

 

 

「え、“ハメ組”が?」

「ああ。“正体に気づいてなかった爆弾魔(ボマー)”に裏切られてな。“爆弾魔(ボマー)”はぶっとばしてきた」

「そうなんだ……」

「これで、“呪文カード”の独占は消えたし、少しはゲームが正常化したかもな」

「“ハメ組”の人達は生きてるんだよね?」

「生きてはいるな。目的失ってこれからどうするのかは知らないけど」

「そっか……」

 

「それより、パーティーしようぜ! パーティー!」

 

「えっ、でも、キルアがいないのに……」

「キルアが帰ってきたらまたやればいいだけの話だろ」

「あ、そうだね!」

「よし! “No.63”、“バーチャルレストラン”を使おう!」

「それって、本当に食べてるわけじゃないんでしょ? 空しくならない?」

「本物の料理も混ぜておけばいいんだよ。頼めばどんな料理でも出てくるんだぜ。パーティーにぴったりだろ」

「まあ……そうかな?」

 

 

~~中略~~

 

 

「あっ、おかえりキルア!!! 試験どうだった!!?」

「もちろんソッコー合格! むしろ帰ってくるのに時間かかってしんどかった」

 

「「イエー!!!」」

 

「誰か知ってる奴とかいなかったのか?」

「あ、ゼパイルのおっちゃんが来てたぜ。不合格だけど。あとは見たことあるよーな、ないよーな奴が何人かいたような気もするけど、今回の合格者オレだけだから」

「そうなんだ」

 

「――えっ、“ハメ組”が?」

「うん、そうみたい」

「へぇー、ちょっと離れてただけで状況が変わるもんだな」

 

「ジャン! ケン!! パーーーッ!!!」

「お。おお~」

「次ね。最初はグー! ジャン! ケン!! チーーーッ!!!」

「お。切れた」

 

「やったーーー!!! 出来たーーー!!!」

 

「えっ、まさか初めて成功!!?」

「違うよ! これで5度目の成功だもんね」

「ふーん……で、失敗の回数は?」

「うっ……。でも、成功率は上がってきたもんね。10回に1回は出来るようになってるよ! ……多分」

「それはいいとしても、お前、今の技、使う前さ。毎回、あの掛け声言うの?」

「え? うん、だってじゃなきゃ必殺技っぽくないでしょ」

「うーん、まぁ……な。けど、敵にモロバレになるわけだろ? スキもすげーでけェし。掛け声の間に敵に攻撃されたらどうすんだよ」

「よけながら言う」

「よけきれなかったら!!?」

「それでも言う」

 

「――おい、あいつあれでホントに大丈夫なのかよ!!?」

 

「そりゃ、ま、色々と不安はあるわさ。でも、何よりあのコが気に入ってるみたいだし、意外と理にかなっててやられる方はイヤだと思うよ。短距離攻撃(グー)、中距離攻撃(チョキ)、長距離攻撃(パー)の3択。鍛えれば相当手強い武器になるわさ」

「……俺の必殺技とちょっと被ってるのが問題だ」

「それは仕方ないでしょ。強化系は、武器を使ったりしないなら、パンチ力の強化、キック力の強化って感じで、何だかんだ同じようなことを考えることが多いから。――ところで、あんたの方はどうなのよ」

「オレ? まぁ色々考えたんだけど……結局これにした」

「なるほど……電気とコレか……よく考えてるわね。いい武器になりそうだわね」

「だろ? 色んな技開発中だぜ」

「ふむ……ポンズは元々“発”に関しては纏まってたし、あんた達、ここまでよくがんばってきたわね。んじゃ、そろそろ始めようか」

「押忍! まずは基礎からだね」

「修業じゃないわさ。始めるのは――本格的なゲーム攻略!」

 

「「「!」」」

 

 

~~中略~~

 

 

「どうだい、でかいだろう? この大木にだけ棲むという伝説の“キングホワイトオオクワガタ”。普段はコロニーの奥深くにいて姿さえ見せない。捕獲の方法はただ一つ! ヤツが姿を現す夕方に木をぶったたいて落とす!!!」

「(他にも方法あると思うけど……罠とか)」

「(まー、ゲームだからな)」

「たたくポイントはここ!!! ハデに揺らそうと思ったらハンパな力じゃダメだぜ。本命のクワガタを捕れたのは、今のところたった7人だ」

「結構いるんだね。成功した人」

「かっかっか、挑戦者はその何千倍といたんだぜ?」

「敵がいるわけじゃないし、全力でぶったたいてみなさいな」

「うん」

「オイオイ素手かよ? ハンマー貸すぜ?」

 

「最初はグー! ジャン! ケン!! グーーーッ!!!」

 

「!!!」

 

「――おおっ、虫の雨だー!!! すっげー大漁! カブトもカミキリもいっぱいいるよ」

「いた! “キングホワイトオオクワガタ”!!!」

「こっちにもいたぜ!」

「もう1匹発見ー!」

 

「~~~」

 

「入手難度A!!!“No.53”、“キングホワイトオオクワガタ”のカード!!! 3枚ゲット!!!」

「いやー、長年この森の番人やってるが、たった一撃で3匹も捕った奴は初めてだぜ」

「でも、手加減しちゃった」

「え?」

「全力で殴っちゃったら木の方が痛んじゃうかもしれないって思って」

 

「ここで、このカード集められるだけ集めようぜ」

「え?」

「トレードの材料になる。成功者が7人しかいないって言ってただろ。このカードに挑戦したけど、入手出来なかった奴、山ほどいるハズだからな」

 

「――ダメだ」

「“カード化限度枚数”、30枚なのに結局、最初の3枚しかカード化出来なかったね」

「先にこのカードをゲットした7人の中にも同じこと考えた奴がいたんだろーな」

「そう考えると、3枚手に入っただけでもラッキーよね」

「OK、じゃ、次行こうか」

 

「ここに監禁している少女を返せ!!? ボウヤ、何を証拠にそんなことを言ってるんだ? この屋敷には限られた数人以外誰も出入り出来ないんだ。その少女とやらもね。もしも忍び込もうものなら、幾重にも張り巡らされた罠が君達を襲う!!!」

「……」

「君達では少女の部屋を突き止めることさえ出来ず、息絶えることだろうな」

「語るに落ちてるよ、こいつ」

 

「見つけたぜー。地下4階の隠し部屋にいた」

「何ーーー!!? おのれァーーー!!!」

「少女シリーズ、“No.46”、“金粉少女”、ゲット!!!」

「門番はランクFだ」

 

「「…………」」

 

「――ゲイ」

「止めなさい」

「はい……」

 

「――あれ? 明日って15日じゃなかったっけ」

「あっ、アントキバの月例大会!」

「ついでだしやっていこうぜ!」

「今は防御カードもいっぱいあるしね!」

 

『優勝はァーーー、キルア・ゴンペアでーーーす!!!』

 

「“聖騎士の首飾り”、自力でゲットォー!!!」

 

「……ねェ、そういえばさ。この首飾り、触ったものの呪いを解いてくれるんだよね」

「ものってか、カードの呪いだな」

「あ……そうか。じゃ、ダメか……」

「何か思いついたのか?」

「もしかしてあの村の人達の病気って、呪いじゃないのかなーって思ったから」

「あの村って……?」

「あー、あー、あいつらね。あんた達を身ぐるみはいだ連中。――でも、カードじゃないからダメだわね」

「……いや。やってみる価値あるな」

 

「オレ達を信用して、命を預けてくれますか?」

「無償で我々に全てを捧げてくれたお方々……! 信じましょう!!!」

「!」

 

No.163:病気の村人:F-150 → No.263:元気な村人:C-50

 

「おおー、治ったぞ!」

「ありがとうございます! ぜひ、お礼にこれを……!」

「やった!」

 

「“No.75”、“奇運アレキサンドライト”ゲットーーー!!!」

 

「……人助けに見返りは求めてはいけないという教訓かと思えば、いいことをすれば最終的には報われる話だったわね」

「そうみたいだ」

 

「“No.90”、“記憶の兜”、ゲット!」

 

「“No.82”、“天罰のつえ”、ゲット!」

 

「よーし、これで半分!!!」

 

「「50種類目、ゲット!!!」」

 

「たった1ヵ月でもう半分集まったよ!」

「大分、地図もにぎやかになってきたわね」

「でもこっからキツくなるぜ、きっと。今まで獲った指定ポケットカードは、全部ランクA以下だろ。ランクS以上のカードは、情報入手の段階からかなり困難ってことだぜ」

「そういえば、交換(トレード)ショップで買える情報もランクAまでだったね」

「んじゃ、どうすんのよさ」

「確実なのは“道標(ガイドポスト)”なんかで場所を特定して、そこからは地道な聞き込みだろーなァ。……まあ、他にもう1コ、いいアイディアがあんだけど」

「え? 何?」

「“リスキーダイス”を振って、大吉出してから“宝籤(ロトリー)”を使う!」

 

「「「却下!」」」

 

「そのコンボだとランクAまでが限界だって聞いたぜ。“宝籤(ロトリー)”だけなら、ランクS以上が出ることもあるらしーけどな」

「え、マジ!!?」

「他にもキルアみたいなこと考える人がいたんだね」

「ちぇー、いい案だと思ったのにな」

「あんたは気をつけないと、ギャンブルで身を崩しそうね」

「ハハハ! そうなったら黒服を返り討ちにするから問題ないぜ」

「……止めなさい」

 

「一つ気になったんだけどさ」

「ん?」

「“G・I(グリードアイランド)”の中には何百人っていうプレイヤーが来てるんだよね。なのにオレ達が今まで獲ってきたアイテムを全部カード化出来たの変じゃない?」

「どういうこと?」

「だって、指定ポケットのアイテムをカード化する限度枚数って、ランクBでも、たった30枚くらいでしょ。オレ達より先に来た人達がとっくに集めててもおかしくないのに」

「確かにな……けど、逆も考えられるぜ。このゲーム内でまともにプレイ出来てるのは、30人(組)に満たない……!」

 

 

「――これで、95種か」

「あと5種のうち、2種はツェズゲラ組が独占してることがわかってるよ」

「あいつら、オレ達の姿を見るとすぐ逃げやがるからな」

「こそこそするしか脳のない連中ね」

「それ以外の3種のうち“No.000”は他の99種を集めると入手条件を満たすという話が濃厚。だから残りは“No.2”、“一坪の海岸線”と“No.75”、“奇運アレキサンドライト”」

「“一坪の海岸線”はランクSSだからまだしも、“奇運アレキサンドライト”はランクAなんだから見つかりそうなものですよね」

「持ってる奴もいるみてェだしな」

「何か見落としがあるということか」

「……そういや、スターの方はどうなってるかな?」

「スターか……オレ達よりカードを集めているとは思えないが、そういう状況でこそ関わってくるような男だからな。一度連絡を取ってみるか……」

 

 

~~中略~~

 

 

「あ? “奇運アレキサンドライト”? ああ、持ってる持ってる」

『……本当に持っているとはな。なら、トレードしないか。オレ達が持ってるカードなら、ほとんどの予備を持っている』

「トレードか……。そっちは何種まで集まったんだ?」

『95種だ』

 

「(95……! スゲー! もう、クリアしちまいそうじゃん!)」

「(そうだね。この場合ってどうするのがいいのかな?)」

「(そりゃ、独占するか、ふっかけるかの2択だろ。まあ、独占するにしても、他にも持ってる奴が何人かいるっぽいけど)」

「(じゃ、高ランクのカードとトレードするのが一番いいわけだわね)」

 

「SSランクのカードのダブりはあるのか?」

『お前が持ってないのだと“一坪の密林”を2枚持ってる。“一坪の海岸線”の方はオレ達を含めてまだ誰も手に入れていない。ソウフラビに存在していることだけは、“神眼(ゴットアイ)”でわかっている』

「なら、“一坪の密林”と交換だ」

『いいだろう。――ついでに提案がある。“一坪の海岸線”をオレ達と共同で探さないか』

「共同で?」

『お前……いや、お前達は、オレ達が入手出来ずにいた“奇運アレキサンドライト”を入手していた。お前達がオレ達とは違う観点から物事を見ることが出来ると同時に、運もある証拠だ。それに、どのみちお前達にも必要なカードだろう』

「ちょっと待ってろ。――どうする?」

 

「オレはいいよ!」

「オレも。これでSSが全部揃うなら楽だしな」

「なら、あたしも賛成だわさ」

「私もいいわよ」

 

「聞こえてたか? 全員OKみたいだ」

『わかった。これから、オレ達がそちらに飛ぶ』

「ああ」

 

「――って!!?」

 

「「「“幻影旅団”!!?」」」

 

「え、幻影旅団ってあの? どういうことだわさ!」

「……何だ。説明していなかったのか?」

「ん? そういえばそうだったか」

「何で旅団がここに……!」

「オレ達の今のターゲットがここのお宝だというだけの話だ。お前達も指定ポケットカード類を見れば、オレ達が狙ってもおかしくないものが並んでることくらいは理解出来るだろう?」

「それは……」

「スターの奴、まだ旅団とツルんでたのかよ……」

「だから、どういうことだってのさ! 説明しなさい!」

 

「かくかくしかじか」

 

「……バカだバカだとは思っていたけど、超一級の犯罪者まで口説いていたとはね」

「まあまあ。ここはゲームの中だから、現実の法律は適応されないだろ」

「はぁ……そういうヘリクツは得意なのね」

 

「とりあえずトレード。ほら、“奇運アレキサンドライト”」

「――確かに。“一坪の密林”だ。確認してくれ」

「ああ。問題ない」

 

「それじゃあ、“同行(アカンパニー)”でソウフラビまで飛ぼうぜ」

「ちょっと! そのまま協力するってことでいいの? あんた達はどうなのさ」

「え、うーん……まあ、カードを入手する間だけなら」

「つーか、オレ達がイヤがってもスターは行くだろ。だったらとっとと、“一坪の海岸線”を手に入れちまった方がいいぜ」

「……そう。あんた達がそういうなら、いいわさ」

 

「話は纏まったようだな。――“同行(アカンパニー)”、使用(オン)! ソウフラビ!」

 

 

~~中略~~

 

 

「ここがソウフラビか」

「へぇー、結構、デカイ街だな」

「とりあえずは聞き込みをする必要があるな」

「オレ達が調べたときは情報が得られなかったんだ。スター達が何か気づいてくれるといいんだけど」

「ふーん」

 

「結構、人が多いなー」

「どんどん話、聞いていこうよ」

「そうだな。端っこの家から順々に聞いていこう。中には何回か訪れないと重要なことを教えてくれないキャラとかいるしな。下手すると何週間も進展しないこともあるから覚悟しておけよ」

 

「「おー!!!」」

 

「あ、ねえ! 情報提供者が見つかったわよ」

「マジ!!?」

 

「“一坪の海岸線”を探すのはやめなされ。命がいくつあっても足りないぞ」

「何か知ってるなら教えろ」

「知らんな。知らないのが一番安全なんだ」

 

「言葉だけさ。わかるのはな……おそらくそれ以上知った奴は、この世にいれなくなるのさ」

 

「あっちにも提供者がいたぜ」

「スゲー数だな」

「だけど、有益な情報とまではいかないわね」

「おかしいな。オレ達が調べたときは全く手掛かりさえ話さなかったのに。どこでイベントスイッチが入ったんだ?」

「時間的な条件とかじゃないの? この時期しかイベントが発生しないとか……」

「んー、どうかな。とにかく聞き込みを続けよう」

 

「あんた達にもう少し仲間がいればね……。“レイザー”と14人の悪魔とも戦えるかもしれないのに……」

 

「レイザー……!」

「誰?」

「“ゲームマスター”の1人だよ。オレ達がゲームを使わずにここに侵入しようとしたら現れて、“ゲームマスター”だけが使える特別呪文で排除された」

「ゲームを使わずにってどういうこと?」

「気づいてない? ここは現実だよ。“G・I(グリードアイランド)”はあくまで現実にある島にオレ達をワープさせるためのものだ」

「え……え? じゃ……え!!?」

「この島にある物や人物、ゲーム的なものは、全てこの島限定という制約の下で“念”能力によって作られたものだろうね」

「! ここが、現実……」

「気づかなかった」

「疑いすらしなかったわさ」

「ええ……」

 

「――それより、今はレイザーと14人の悪魔だ。どうやら、“一坪の海岸線”のイベントスイッチは人数によっては入るようだな」

「うん」

「え、どういうこと?」

「オレ達が前にここを調べたときは8人だった。今回は13人。だからイベントスイッチが入った。おそらく10人以上くらいから入るようになっているのだろう。けどまだ足りない。だからイベントそのものは起こらない」

「ああ……! レイザーと14人の悪魔……15人必要ってことだね!」

「だろうな」

「あと2人か……俺達、他に協力関係にあるようなのいないよな。残りの旅団呼んでこいよ」

「いや。“除念師”を覚えているか? あいつは頭のいい男だ。オレに奪われる可能性があると見て、自ら旅団の協力者になった。まだここにいるハズだ。あいつに連絡してもう1人連れてきてもらう」

 

「オレは“アベンガネ”だ。こっちは“ゴレイヌ”」

「よろしくな。“一坪の海岸線”の“カード化限度枚数”は3枚。それぞれが1枚ずつって条件で間違いないな?」

「ああ」

「よろしく! オレはゴン! それで、こっちはキルアで――」

 

「――これで揃ったな。もう一度“同行(アカンパニー)”を使うことでシステムに人数を把握させる! おそらく、それこそが“一坪の海岸線”のイベントスイッチ……!」

 

「あんた達になら……話してもいいかもしれないわね」

「ぜひ聞かせてくれ」

「海賊が仕切ってるのよこの街は。この海域のどこかに“海神の棲み家”と呼ばれる海底洞窟があると言い伝えられているの……」

「……」

「“一坪の海岸線”はそこへの入り口……様々な財宝が眠っているといわれる。その海底洞窟の伝説を聞きつけて、数年前15人の海賊がこの街にやって来た。――レイザーと14人の悪魔……!」

「そういえば、確かにあの野郎は言ってやがったな。自分を倒せば手に入るアイテムもあるってよ……!」

「街の漁師は全員拷問を受けて殺されたわ。この街で“一坪の海岸線”の場所を知る者は全て。私の父と兄も。もしも海賊を追い払ってくれたら、あなた達に教えてもいいわよ。兄から聞いた“一坪の海岸線”の場所……!」

「わかった。教えろ。海賊の居場所」

 

「――何だ? テメェら、今日はオレ達の貸し切りだ。帰んな」

「今日もだろ? へへへへ」

「この街から出て行ってもらおう」

「つーか、てめェらじゃ話にならねェ、レイザーの野郎を出しな!」

 

「「「……ガハハハハハハ!!!」」」

 

「久しぶりに聞いたセリフだな! しかも船長(ボス)の名前まで出すとはな!」

「前にそのセリフを言った奴はそこの海辺で骨になってるぜ!」

「今すぐペシャンコにしてやりてェが、全ての決定権は船長(ボス)にある。相談なんて言わずによ。腕ずくでやってみろよ」

「!」

「オレをこの“土俵”から外に出せたら、船長(ボス)に会わせてやるぜ?」

 

「「「…………」」」

 

「ぷおっ――!!?」

「邪魔だバカ。こんなまだるっこしいことしてねェで、とっととあの野郎の場所に連れて行きな……!」

「……ついて来な。船長(ボス)に会わせてやる」

 

「(やっぱ、旅団の奴等スゲーな)」

「(うん、そうだね)」

「(確かに……初めてこうして実物を見るけど、全員、あたしと同等かそれ以上の使い手だわさね)」

「(ひぇーっ……)」

 

 

~~中略~~

 

 

「灯台を改造した要塞。ここで密航船をチェックしてるんだ」

 

「……ホウ。まさか本当に正面から乗り込んで来るとはな」

「会いたかったぜ。レイザー……! オレ達をコケにしてくれやがった借りは返す……!」

「そうか。じゃあ早速本題に入るが、勝負しよう。互いに15人ずつ代表を出して戦う。1人1勝。先に8勝した方の勝ちだ。勝負のやり方はオレ達が決める。それでお前達が勝てばこの島を出て行こう。どうだ?」

「いいだろう」

「よかろう。勝負の勝負形式(テーマ)はスポーツ!」

「あァ? スポーツだ? ガチバトルじゃねェのかよ!」

「そうだ。ここにいるメンバーが、それぞれ得意なスポーツでお前達に勝負を挑む」

「チッ……マジかよ」

「我慢しな。これはゲームのイベントなんだから」

「んなコトわかってる……!」

 

「オレが一番手だ。オレの勝負形式(テーマ)はボクシング。さぁ、誰がやるんだ?」

「フィンクス、バトりたいなら行ってくれば?」

「わかってると思うが、闘れるのは1人一試合だ。1人で何勝もすることは出来ないぜ」

「だとよ。オレはパスだ。オレは野郎と闘る」

「一つ確認するけど、“念”はありなの?」

「もちろんさ。オレ達はバリバリ使うぜ」

「ふーん」

 

「――で。誰が行く?」

「誰でもいいぜ。どうせあの野郎以外は雑魚だ。とっとと終わらせろ」

「行く人がいないならオレが――」

「待った! ゴンはラスボスと闘りたいだろ。ここは旅団の連中に任せようぜ」

「ラスボス? それってレイザーでしょ? フィンクスが闘るって……」

 

「(勝負の種類と数のトリックさ)」

「(どういうこと?)」

「(今回の勝負形式(テーマ)はスポーツ。スポーツってことは種目によっては人数がいるものだって多いだろ? あいつ、きっとこっちが7勝したら、8人必要な勝負を提案して引っくり返すつもりだぜ)」

「(ホントに?)」

「(ああ。おそらくだけどな。何せSSランクのイベントだ。いざとなれば自分1人でも勝てるルールにしてるハズ。言ってしまえば、他は数合わせさ。そこまでにほとんど決着がついてたら、それはそれで終了だしな)」

「(そっか。ってことは)」

「(ああ。7勝してからが勝負だ)」

 

「行く奴いないの? なら、アタシが行こうか?」

「ちょーっと待った! 何でマチが行くんだ。殴り合いなんててめェらの誰かが行けよ!」

「心配しなくてもマチの腕力はオレ以上だ」

「そうじゃねえだろ、クロロ! どうせマチがスポーツするトコを見られるなら殴り合いなんてものじゃなくて、もっと華麗な感じのが見たいって言ってるんだ! そういうわけで、当然ポンズとシズクもNG!」

「あたしは?」

「ビスケは別に……冗談! 冗談だって! とにかく男が行けよ!」

「つーか、お前、マチにどんな幻想抱いてんだよ」

「相変わらず意味不明ね」

 

「……黙れ。団長、アタシが行くから」

「ああ」

「待ってくれー!!! ――おふっ、何か糸に縛られた。しかも意外とギチギチだ!!?」

 

「女が相手だからって手加減はしないぜ」

「必要ない」

「ハッ、そうかい。ボクシングのルールは知ってるか?」

「拳で敵を殴り倒せばいいんだろ」

「その通りだが、あと他に特別ルールがある。“念”で創り出したものなら道具もあり!」

「別にそれでいいよ」

「安心しろよ。オレはこの拳で戦う。“念”なら武器もありってのは、むしろおたくらのためのルールさ」

「そう。どっちでもいいよ」

 

『1ラウンド、3分間、判定なし! どちらかがKO負けとなるまで、何ラウンドでも続ける。――ファイト!』

 

「女とはいえあんたが相当な実力者だってことはわかる! 最初から本気で行くぞ! ――シッ!」

「拳の瞬間移動。悪くないけど決定的に遅すぎるよ」

「ば、バカな……!」

「そして、これで終わりさ」

「ぐっ……はっ……!」

「――それで、場外の場合はどうなるんだい?」

 

『そちらの勝ちで問題ない。KOにより! 勝者、マチ!!!』

 

「……次はオレだ。勝負形式(テーマ)はサッカーのリフティング」

「簡単そうだからボクが行くよ」

「コルトピか。いいだろう」

「なめてると怪我するぜ。ルールを説明しよう。相手よりも長い時間リフティングしていた方の勝ち。“念”ありで、相手への攻撃もありだ。手で球を触る以外はな。それと、球が味方に当たっても負けだぞ」

「わかった」

 

『勝者、コルトピ!!!』

 

「次はオレだァ!!! 勝負形式(テーマ)は相撲!!!」

 

『勝者、フランクリン!!!』

 

勝負形式(テーマ)は卓球!!!」

 

『勝者、アベンガネ!!!』

 

勝負形式(テーマ)はボウリング!!!」

 

『勝者、シズク!!!』

 

勝負形式(テーマ)はレスリング!!!」

 

『勝者、ゴレイヌ!!!』

 

勝負形式(テーマ)はフリースロー!!!」

 

『勝者、シャルナーク!!!』

 

「これで、7勝! あと、1勝だな!」

「――よし、次はオレがやろう」

「ようやく出てきやがったか……!」

「さて……オレの勝負形式(テーマ)は、8人ずつで戦う……ドッジボールだ!!!」

「(やっぱり……!)」

 

「「「!!?」」」

 

「これがオレのメンバーだ」

「“念獣”……って、具現化系じゃないの? あいつ放出系だって言ってたよね」

「体から出てんだから放出系でもいーんじゃねェか。何でもいいぜ。こっちのメンバーは残ってるオレと団長、フェイタン、そんでお前ら5人か」

「何だかんだで俺達残ってたな」

「オレとゴンはそもそも狙ってたからね」

「正直、ちょっと圧倒されてた」

「あたしゃ、楽が出来るならそれでもいーかなって」




かつての作者はここで力尽きたようです。
なのでとりあえずここまで。
戻ってきた時に気分が乗ってたら続きを書くこともあるかもしれません。
ここまでお付き合いくださった方はありがとうございます。
それではまたその時に会いましょう。


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