魔法少女リリカルなのは 集う英雄達  (京勇樹)
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ちびっ子冬也

おまけです
一部ネタバレがあります
それでもイイという方々、読み進めてください
かなりダークな表現があります


ワールドブレイク事件

または、JS・R事件が解決してから、数ヵ月後

隊舎が再建されて、隊員達は隊舎に戻っていた

そんなある日、フェイトと冬也は揃ってある倉庫に居た

なぜこの二人が倉庫に居るのか

二人が倉庫に居るのは、部隊隊長のはやてから機動六課が回収したロストロギアの確認を頼まれたからだ

 

「ごめんね、冬也……こんなことを頼んで」

 

「構わんさ……手は空いていたからな」

 

フェイトが済まなそうに言うと、冬也は微笑みながら返答した

そして、ある棚を確認していたら、不自然な空きがあった

 

「む………ん?」

 

それを探していると、冬也は足下に懐中時計が落ちているのを見つけた

 

「これか」

 

冬也が拾おうとすると、それに気付いたフェイトが慌てた様子で

 

「待って、冬也。封印が解けかけてるかもしれないから、迂闊には!」

 

フェイトが制止した時には既に、冬也はその懐中時計を拾っていた

冬也がフェイトの方に視線を向けた時、懐中時計の蓋が開き、針が逆回りに動き出した

 

「む!?」

 

「冬也!?」

 

部屋の中を強烈な光が襲い、フェイトは視界を覆った

少しすると光が収まり、フェイトはゆっくりと目を開いた

そして、フェイトの視界に入ったのは、ブカブカの服を着た一人の少年が居た

見た目年齢は9歳位だろうか

落ちている服から察して、冬也だろうとは分かる

しかし、フェイトは冬也の目に光が無いことに気付いた

嫌な予感がしたが、フェイトは取り合えず

 

「ねえ、それを渡してくれるかな?」

 

と問い掛けた

すると少年は、ゆっくりと懐中時計をフェイトに手渡した

フェイトはそれを受けとると、簡易封印を施してから

手を伸ばして

 

「掴まって?」

 

と言った

少年は言われた通りに、フェイトの手を掴んだ

それを確認して、フェイトは少年を抱き上げた

が、あまりの軽さに驚いた

 

(軽すぎる……!)

 

彼女は少年と歳の近いエリオとキャロを育てているために、平均体重を熟知している

しかしどう感じても、少年の体重は平均体重より遥かに軽かった

フェイトが驚愕で固まっていると、少年は首を傾げていた

それに気づいて、フェイトは笑みを浮かべて

 

「大丈夫だよ」

 

と言ってから、倉庫から出た

それから数十分後、フェイトははやてとなのはの居る部隊隊長室に居た

 

「ようするに、その少年はロストロギアによって若返った冬也さんってことか?」

 

「うん。懐中時計型ロストロギア、仮称リターンだね」

 

はやてからの問い掛けに対して、フェイトは片手で少年

冬也を抱えながら答えた

なお、今の冬也はエリオの予備の陸士服を着ている

そして、フェイトが表示させたウィンドウには件のロストロギアの詳細なデータが表示されている

 

「効果は対象の時間を一時的に戻すみたいで、持続性は対象によって変わるみたい。調べじゃあ、最低で一日から三日程まで」

 

フェイトがそう説明すると、はやて達は冬也に視線を向けた

それに気付いたのか、冬也はフェイト、なのは、はやての順に三人を見てから

 

「………僕の次の運用場所は、どこ?」

 

と問い掛けた

それが、この状態になった冬也の初めての言葉だった

それを聞いて、はやて達は息を飲んだ

幼い子供だというのに、絶望しきった暗い目

そして、余りにも軽い体重

何よりも、服を着せた時に見えた、夥しい傷痕

最後に、今のセリフ

そこから、三人はこの時の冬也がどういう扱いを受けていたのかを察した

冬也は兵器としと扱われていたのだ

それも、目が絶望に染まるほどに

歯を食い縛り、フェイトは微笑みを浮かべて

 

「しばらくは、戦場に出なくていいからね?」

 

と言った

すると、冬也は不思議そうに首を傾げ

 

「……兵器なのに?」

 

と問い掛けた

その端的な言葉に、三人は歯を鳴らした

フェイトに至っては、もし目の前に当事者が居たら、ザンバーで斬っただろう程に怒りの感情が湧いた

だが、冬也には気付かれないように笑みを浮かべて

 

「冬也は兵器なんかじゃない……人間だよ」

 

と告げた

だが冬也には分からなかったらしく、冬也はコテンと首を傾げた

それを見て、フェイトは微笑みながら空いてる手で冬也の頭を撫でた

冬也は撫でられるがまま、目を細めている

そんな光景を見ながら、はやてが

 

「そういえば、フェイトちゃん。片手で冬也さんを抱えとるが、重くないんか?」

 

と問い掛けた

その質問を聞いて、フェイトは一瞬顔をしかめてから

 

「はやて、抱いてみて」

 

と言って、はやてへと冬也を差し出した

それを聞いて、はやては

 

「ウチ、そんな力無いで?」

 

と言いながら、冬也を抱き抱えた

次の瞬間、はやては目を見開いた

そして、言葉を震わせながら

 

「ちょい待ちぃ……なんや、この軽さは(・・・・・・・・)?」

 

と呟いた

それを聞いて、それまで殆ど黙っていたなのはが驚いた様子で

 

「え? そんなに軽いの?」

 

と問い掛けた

なのはからの問い掛けに対して、フェイトは頷いてから

 

「これを見て」

 

と言って、ポケットから一枚の紙を取り出して手渡した

 

「これは?」

 

「先に医務室でしてきた、簡易的な診断書」

 

なのはが紙を広げながら問い掛けると、フェイトは端的に答えた

 

「診断書? ………っ!?」

 

フェイトの言葉の真意が分からなかったらしく、なのはは首を傾げた

だが紙を見た次の瞬間、なのはは目を見開いて固まった

そして、その診断書を握り潰した

 

「なのはちゃん……何キロやて?」

 

はやてが問い掛けると、なのはは肩を震わせながら

 

「体重………25㎏」

 

と答えた

 

「25㎏!? そんな、ありえへんやろ!! 後、10㎏近くはないとおかしいわ!」

 

なのはの説明を聞いて、はやては思わず声を荒げた

はやての知る限り、今の冬也の見た目年齢

9歳の平均体重は、おおよそ40㎏程だ

だが、今の冬也は約半分程しかない

そこから考えられるのは、栄養が極端に足りなかったことだ

事実、なのはが握り潰した診断書には栄養失調の文字があった

それを思い出したのか、フェイトははやてに抱かれてる冬也に顔を近づけて

 

「冬也……質問いいかな?」

 

と問い掛けた

そして、冬也が頷くと

 

「冬也の一日のご飯は、何回で、どのくらいだった?」

 

と問い掛けた

すると冬也は、迷わずに

 

「一日一回……このくらいの、レーション」

 

と小さい掌を広げながら答えた

それを聞いて、フェイトは爪が食い込む程に拳を握り締めた

冬也の説明通りなら、冬也に与えられた食べ物は通常サイズの半分のレーションだけ

しかも、それを一日一個だけ

足りない

足りるわけがない

冬也はそれを一日一個与えられただけで、苛酷な戦場に投入された

普通だったら、栄養失調で死んでしまう

しかし、冬也に与えられた能力がそれを許さなかった

それは

 

《魔力が続く限り、不死》

 

という能力

それに付随するように、超速再生と回復もある

だから冬也は、即死級のダメージを受けても死ななかった

死ねなかった

しかも聞いた話では、昔は痛覚もあったらしい

治ってる最中も、激痛が走っていたらしい

しかし、戦場では動きを止めたら被弾が集中するだけ

だから、痛くても動き続けないといけない

生きながらの地獄

生き地獄

そんな場所で、冬也は生き続けた

まともに人間の扱いをされずに、兵器として扱われて

その頃の冬也が、今目の前に居る

もう遅いかもしれないが、自分達に出来ることをしよう

三人はそう決めた

 



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ちびっこ冬也 2

本編じゃなくてすいません


はやての執務室から出たフェイトは、子供状態の冬也を抱えて、食堂に向かっていた

すると、前方の曲がり角

シャワールームの方から訓練上がりなのだろう

フォワード陣が現れた

そして、フェイトに気付いたらしく

 

「あ、フェイトさん」

 

とエリオが名前を呼んだ

エリオが名前を呼んだことにより、フォワード陣全員がフェイトに視線を向けた

そして、首を傾げた

 

「フェイトさん、その子供は……?」

 

「保護児童ですか?」

 

エリオと冥夜が問い掛け、ティアナは顎に手を添えて

 

(あの子供……なんか見覚えが……)

 

と思った

そして、フェイトが教えようとした

その時

 

《魔力波照合………冬也殿と判断します》

 

とクロスミラージュが告げた

それを聞いて、ティアナは右の拳で左掌を叩いて

 

「そう! 冬也さんよ! …………え?」

 

固まった

そして、数秒後

フォワード陣全員の叫び声が、隊舎に響き渡った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ロストロギアで、子供まで時間が………」

 

「そうなんだ……一応、データだと二日位で元に戻るみたいだけどね」 

 

フォワード陣に説明し終えるとフェイトは、自身の横の席に座らせていた冬也の頭を撫でた

今、全員が居るのは食堂である

丁度よく昼飯を食べに行こうとしていたので、ついでに説明したのだ

なお、冬也の分はフェイトが買った

 

「それで、戻るまでの間はフェイトさんが面倒を見ると?」

 

「うん。そうなってるね」

 

スバルの問い掛けに答えた後、フェイトは隣の冬也が料理を見て固まっているのに気付いた

 

「どうしたの、冬也?」

 

フェイトが問い掛けると、冬也はフェイトを見上げて

 

「これ、食べていいの?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、フェイトは頷いてから

 

「食べていいんだよ」

 

と答えた

なお、冬也の前にあるのは、無難にカレーである

フェイトの言葉を聞いて、冬也は不器用ながらもスプーンを握って食べ始めた

それを見てか、スバルが

 

「フェイトさん……この頃の冬也さんって……」

 

「………兵器扱いされてた頃だよ……」

 

スバルの問い掛けに、フェイトは辛そうに答えた

するとスバルは、少し俯いて

 

(私も、少し違ったらこうだったのかな………)

 

と思った

彼女、スバル・ナカジマは戦闘機人だ

それは、スバルの姉のギンガも同じだ

スバルとギンガは母たるクイントが存命だった時、ある研究所にて見つけられたのだ

そして、見つけた二人を保護したのが母

クイント・ナカジマだった

母と言ったが、実の母ではない

スバルとギンガの二人は、クイントの遺伝子を使って作られた戦闘機人なのだ

それを知ったクイントは、二人をまるで実の娘のように育てたのだ

普通の人と同じように

だが、もし保護されなかったらどうなっていたのか

恐らく、この冬也と同じように兵器として扱われていただろう

下手したら、フェイトやなのは達と敵対していたかもしれない

そう想像するだけで、スバルの体が震えた

すると、ティアナがスバルの頭に手を置いて

 

「たられば考えてるんだろうけど、そんなこと考えても仕方ないわよ」

 

と言った

 

「ティア……」

 

「今、スバルはここに居る……人として……それでいいじゃない」

 

「……うん」

 

ティアナの言葉を聞いて、スバルは微笑みを浮かべた

その十数分後、食事は終わった

そして、午後の訓練を冬也が見学することになった

 

「あれ、フェイトちゃん? 冬也さん連れてきたんだ」

 

「うん。見てみたいって言ってたから」

 

なのはの問い掛けに、冬也の手を引いてたフェイトが答えた

その間に、フォワード陣は訓練場に入った

今回はどうやら、廃棄都市らしい

シチュエーションとしては、廃棄都市を侵攻してくるガジェットとドールを迎撃

撃破するというものだろう

フォワード陣の動きは初めの頃とは違い、有機的で見事な連携だった

そして、その訓練は五分程で終わった

なのはは一連の動きを見て、ヴィータと何か話し合っている

フェイトは満足そうに頷いていた

すると、フェイトの手を冬也が軽く引っ張った

 

「どうしたの?」

 

視線を合わせたフェイトが問い掛けると、冬也は訓練場を指差して

 

「……あれ、僕にも出きる?」

 

とフェイトに問い掛けた

それを聞いて、フェイトはなのはに視線を向けて

 

「なのは、冬也さんも出きる?」

 

と問い掛けた

すると、なのはは

 

「うん、出きるよ。ただ、素手じゃなくて、この中からデバイスを選んでね」

 

と、予備らしいデバイスを納めた棚を出した

なお、冬也のデバイスたる夜叉は現在フルメンテナンス中だ

夜叉は独自の機能が多数あるので、フルメンテナンスに時間が掛かるのだ

 

「冬也。これの中からデバイスを選んでだって」

 

フェイトがそう説明すると、冬也は棚の中のデバイスを見てから

 

「じゃあ……これ」

 

と剣型のデバイスを選んだ

長さ的には普通の片手剣サイズだが、今の冬也には長く、背負っても剣先が地面に擦るだろう

それを見て、なのはが

 

「貸して、長さを調整するから」

 

と言って、冬也から剣を預かった

そして、丁度いい長さにすると冬也に渡した

冬也は少し振るうと、訓練場に入った

 

「難易度は、どうする?」

 

『いいよ……そっちの好きで』

 

冬也の言葉を聞いて、なのはは少し考えて

 

「じゃあ、難易度B。総数は二十で」

 

と告げた

そして、訓練が始まった

始まると、冬也は一目散にガジェットとドール目掛けて駆け出した

ガジェットとドールは接近してきた冬也を狙い、機銃やレーザー、ミサイルを放った

ミサイルは疑似的に再現したものだが、機銃やレーザーは本物だ

当たれば怪我をする

本来の冬也だったら、最低限の回避行動を取る

かすり傷程度は無視するが

だが、今の子供冬也は回避行動を取ろうとしなかった

 

「ちょっ!?」

 

「まさか!?」

 

ヴィータとなのはが驚いた直後、冬也の全身に攻撃が直撃した

だが、冬也は止まらなかった

血に塗れながらも、ガジェット・ドール混成部隊に肉薄した

そして、剣を振るった

それで一機のガジェットが爆散するが、飛び散る破片も無視

それで傷つくが、冬也は気にした様子もない

そんな冬也目掛けて、ドールが光剣を振り下ろした

その光剣を、冬也は剣で防がずに素手で掴んだ

それにより、冬也の左手が焼かれていく

冬也はそれを気にせず、右手に持った剣で真っ二つに切り裂いた

被弾無視

その分、攻撃と速さに魔力を割り振ってるのだ

しかし、防御無視を補って余りある能力

《魔力がある限り、回復する》

それを使っての、ごり押し

 

「なのは、止めて!」

 

「つっ!」

 

フェイトの叫び声を聞いて、なのはは反射的に従った

それによりシミュレーションは終わり、ガジェットとドールは消えた

それを冬也が不思議そうにしていると、フェイトが飛んで近づき

 

「冬也……今の戦い方はなに?」

 

と冬也に問い掛けた

すると冬也は

 

「……戦い方は、教わらなかったから、戦場で我流」

 

と答えた

それを聞いて、フェイトは歯噛みした

冬也の周囲に居た大人達は、誰も止めなかった

兵器だから、化け物だからと

むしろ、それを押したのだろう

だから、冬也はその戦い方を変えなかった

変える必要が無かったからと

死なないからと

フェイトは拳を握り締めて

 

「いい、冬也? そういう戦い方はしちゃ駄目……相手の攻撃は避けるか防御してね?」

 

「どうして?」

 

「冬也が痛くないし、そんな戦い方をしたら、私達も悲しいから」

 

フェイトの言葉を聞いて、冬也はしばらく黙った

そして

 

「…………わかった」

 

と頷いた

それを見て、フェイトは冬也を抱き上げた

 



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strikers編
集う英雄達


「うーん、なんだろこれ」

 

赤毛に小さい眼鏡を掛けた少年。ネギ・スプリングフィールドは、手に持っている木箱をいろいろな角度から見ながら首を傾げていた

 

その木箱には、ラテン語の書かれた札が貼られている

 

「さっきから何を唸ってるのよ、ネギ」

 

そんなネギの背後に現れたのは、この部屋の同居人の1人

 

足首あたりまで伸ばしたツインテールが特徴の少女。名前は神楽坂明日菜である

 

「ああ、明日奈さん。実は先日、クウネルさんから鑑定を依頼されたんですよ」

 

「鑑定~?」

 

「はい、この魔道具の鑑定です。なんでも、昔父さんが封印したらしいんですが、どんなものか忘れてしまったようです」

 

「ふーん、なるほどね~」

 

明日奈は、ネギの背後から手を伸ばして、木箱を”札ごと”掴んだ

 

すると、札が破けた

 

「あ! 明日奈さん! 魔法無効化能力《マジックキャンセル》!」

 

「あ!」

 

明日奈はネギに言われて、しまった! という表情をした

 

なぜ、封印の札が突如破けたのか

 

それは、彼女の能力<魔法無効化能力>に起因する

 

これは、彼女の体質的な能力で、善悪関係なく魔法を無効化してしまうのだ

 

それが、封印だとしても

 

「ど、どうしよう!」

 

明日奈は慌てて、木箱を机の上に置く

 

「と、とりあえず! 封印を!」

 

ネギは慌てて、近くに立て掛けてあった愛用の杖を握る

 

すると、ドアが開く音が聞こえて

 

「やっほー! ネギくーん! 遊びに来たよー!」

 

「ネギせんせー! 頼まれてた本、持ってきましたー!」

 

「これで、調べられるはずです」

 

「やっほー! なんか、スクープの予感がしたから来たよー!」

 

「お、おい! 放せよ! ロボ子!」

 

「放したら逃げるでしょう、千雨さん」

 

と、にぎやかに10数人の足音が響く

 

「あ、どうぞ!」

 

ネギは条件反射的に、意識を木箱から逸らして返事をしまった

 

すると、木箱が開き光が、視界を白1色に染めた

 

「まぶしい!」

 

「お嬢様!」

 

そして、光がやむと

 

そこには、誰も居なかった……

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「う、ううん……」

 

ある場所で、仰向けに倒れていた男が眼を覚ました

 

その男は、黒色を基調にした軍服を着ていて、方には英語で大きくUNと書かれている

 

「ここは、どこだ……?」

 

男、白銀武は起き上がると周囲を見回した

 

「これは、火事か?」

 

武は足元に転がっていた炭を見て呟く

 

武が居る施設は天井も、壁も黒く染まっていて人気もない

 

「俺は確か、桜花作戦が成功して、夕呼先生と話してて元の世界に戻る現象が起きたのは覚えてる」

 

と、周囲を見回しながら呟く

 

「うーん。ここがどこか分かればいいんだけど……、ん? なんだ、あれ?」

 

と、武はある方向に大きな物体が倒れてることに気付いた

 

「まさか……そんな!?」

 

武はその物体に気付いて、走り寄った

 

「武御雷《たけみかづち》……!」

 

それは、彼の世界で普及していた陸戦兵器のロボット

 

しかも、その機体は彼の知り合いが乗っていた機体だった

 

「まさか……」

 

武は大破状態の胸部によじ登って、コクピット横の小さい蓋を開けて緊急パスワードを入力した

 

すると、コクピットがせり出してきた

 

武はコクピットが完全に出たのを確認すると、中を覗き込んだ

 

「やっぱり、冥夜か!」

 

中には、白い強化装備を装着している藍色の髪の少女が寝ていた

 

武は中に入り込むと肩をゆすった

 

「冥夜! しっかりしろ! 冥夜!」

 

「う、あ……」

 

武がゆすると、少女の瞼が震えた

 

「う、……武? 武なのか!?」

 

冥夜と呼ばれた少女は、武に気付くと武の肩を掴んだ

 

「国連太平洋方面第11軍横浜基地A-01連隊第9中隊所属、白銀武少尉だ」

 

武は分かりやすく、自分の所属を告げながら敬礼した

 

「武なのだな……ここは?」

 

冥夜は安堵すると、武に問いかけた

 

「すまんが分からない」

 

武は首を振った

 

「そういえば、桜花作戦はどうなったのだ?」

 

「成功したさ……生き残ったのは、俺と霞だけだったけどな…」

 

「なに!? 鑑はどうした!?」

 

「純夏は…発作で死んだ」

 

「そうか……」

 

2人は俯いていた

 

すると

 

「皆さん! しっかりしてください! 皆さん!」

 

と、少年の声が聞こえた

 

武と冥夜は胸部から降りると、周囲を見回した

 

すると、少し離れたところに10数人の女子と赤毛の少年がいた

 

「えっと、君達?」

 

武は意を決して、話しかけた

 

「え? えっと、あなた達は?」

 

「ああ、すまない。俺の名前は白銀武」

 

「私の名前は、御剣冥夜だ」

 

「では、武さんと冥夜さんって呼びますね。僕の名前はネギ・スプリングフィールドといいます」

 

と、ネギは2人の名前を聞くと、礼儀正しく挨拶した

 

「それで、あの。ここは、どこですか?」

 

「すまんが…」

 

「俺達にもわからないんだ」

 

「そうですか……」

 

ネギは、武と冥夜から聞くと落ち込んだ

 

3人が俯いていると

 

「あー、君達?」

 

ネギたちは、声のした方向を見た

 

そこには、漆黒の死に装束と侍の鎧を合わせたような格好の男が居た

 

ただ、男の左肩と右足には折れた刃が刺さっていて、腹部には出血もあった

 

「あなたは?」

 

「ああ、すまない。俺の名前は神代冬也《かみしろとうや》と言う」

 

「僕は、ネギ・スプリングフィールドです」

 

「俺は白銀武だ」

 

「私は御剣冥夜です」

 

「よろしく。それでなんだが、ここがどこか分かるか?」

 

「いえ、すいませんが……」

 

冬也の質問に、ネギは首を振った

 

「そうか……それと、あそこに倒れてる少年は、君達の知り合いかな?」

 

冬也が指差した先には、右腕だけが露出している学生服を着て倒れている、黒髪ツンツン頭の少年が倒れていた

 

武が警戒しながら、近づいて確認する

 

「おいおい、コイツ。体が凄い冷たい! 早く温めないとマズイぞ!」

 

その少年は、体をひどく冷やしていて、早急に温める必要があった

 

「そうか、それはマズイな。さて、どう…伏せろ!」

 

冬也の警告に、武、冥夜、ネギの3人は機敏に反応して倒れるように伏せた

 

すると、全員の頭上を青い光線が走った

 

「なんだ!? BETA《ベータ》か!?」

 

武は頭を両手で覆いながら、声を上げた

 

「BETAというのは知らんが。恐らく違うな」

 

全員の視線の先には、楕円状の機械が浮いている

 

「なんだありゃ? シミュレーターのドローンに似てるが…」

 

「さあな。だが、友好的ではないのは確かだ」

 

「待ってください。あれだけじゃないようですよ…」

 

4人は周囲を見回した

 

気付くと周囲には、同じ物体が大量に存在していた

 

「このままでは、そこで気絶してる子達が危ないな」

 

「そんな! 僕の生徒たち…仲間たちには攻撃させませんよ!」

 

「よく言ったネギくん。さて、武と冥夜はそこに居ろ。俺とネギくんが対処する」

 

「そんな!」

 

「あんたは怪我してるじゃねーか! それに、子供に戦わせるなんて!」

 

「大丈夫です! 僕は戦えます!」

 

「この程度ならば、大丈夫だ。それに、君達は魔法は使えないだろ?」

 

冬也は腰の刀を抜きながら、問いかけた

 

「魔法?」

 

「聞いたことないな……」

 

「話してないのに、よく分かりましたね?」

 

「君から、魔力を感じたのでな」

 

「なるほど、ということは。あなたも魔法使いですね?」

 

「まあな。さて、来るぞ!」

 

冬也が言うと同時に、ガジェットが攻撃してきた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ある海上の上空を2つの人影が、高速で飛んでいた

 

片方は茶髪のツインテールに白を基調にして、青いラインが入ってる制服を着ている美女だ

 

この女性の名前は、高町なのはと言い。時空管理局では有名な魔法使いで、通称エース・オブ・エースと呼ばれている

 

もう片方は綺麗な金髪をツインテールにしている赤眼の美女だ

 

名前はフェイト・T・ハラオウンと言い、同じように時空管理局では有名な魔法使いだ

 

通称、心優しき閃光と呼ばれている

 

「ねえ、はやてちゃん。本当にあそこなの?」

 

なのはとフェイトの左側面には、通信画面が開いており、画面にはショートカットの茶髪が特徴的な美少女が映っている

 

名前は八神はやてという

 

『せや。元第8臨海空港跡地。そこで小規模やけど、数回次元震動を検知しとる』

 

元第8臨海空港跡地

 

そこは今から4年前の

 

新暦71年に起きた、大規模火災で廃棄された施設である

 

そこで起きたとある理由で、はやては自分の部隊を持つことを決意したのだ

 

そして、さまざまな協力者の支援もあって、足掛け4年後の今年

 

新暦75年にようやく、1年間限定だが部隊の設立が認められたのだ

 

それが、古代遺失物管理部機動六課なのだ

 

なのはとフェイトはそれぞれ、分隊長を務めている

 

2人が飛んでいると、新しい通信画面が開いた

 

その通信画面には、眼鏡を掛けた茶髪の女性が映っていた。名前はシャリオ・フィニーノ。通称、シャーリーである

 

『割り込み失礼します! なのはさん、フェイトさん。緊急事態です!』

 

「どうしたの?」

 

「なにがあったの?」

 

切羽詰った様子で言ってきたシャーリーを見て、ただ事じゃないと気付いたのだろう。なのはとフェイトは問いかけた

 

『元第8臨海空港跡地にガジェット反応です! 数は30! しかも、現在何者かと交戦中なんです!』

 

「ええ!?」

 

「映像まわせる?」

 

なのはは驚くが、フェイトは冷静に聞く

 

『はい! 映像まわします!』

 

シャーリーが映っていた画面が消えると、別の画面に映像が映った

 

その映像には、両手に刀を持って戦っている冬也と

 

雷光を纏って、まさしく光の速さで戦っているネギが映っている

 

「子供!?」

 

「それに、この男性。大怪我してる!」

 

なのはは、ネギが子供なことに驚き、フェイトは冬也が大怪我してるのに、戦ってることに驚いた

 

「でも、この2人……」

 

「うん。実戦慣れしてる……」

 

2人は驚くが、2人の戦いを見て眼を細める

 

それも仕方ないことだろう。ネギと冬也は高速で接近戦を挑んだと思った次の瞬間には、後退して背中合わせになって射撃魔法で弾幕を張って、結界を守っている

 

『なのはちゃん、フェイトちゃん。早く向かってくれるか?』

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

はやてに言われて、2人は速度を上げて目的地に向かった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「倒しても、倒しても減らないですね!」

 

「確かにな! だが、諦めるわけにはいかんだろ!?」

 

「ですね!」

 

ネギと冬也は背中合わせで、ネギは魔弾の射手《サギタ・マギカ》を放ち

 

冬也は、銃剣形態の2丁で銃撃を行っている

 

「しかし、この機械」

 

「なかなか、魔法が効きにくいですね」

 

2人は、ガジェットに魔法が効きにくいことに気付いた

 

そして、結界内部

 

「ちくしょう! 俺達にも魔法ってやつが使えたら!」

 

「ああ。彼らだけに戦わせないものを……」

 

武は拳を地面に打ち付けて、冥夜は悔しそうに呟いた

 

すると、武の懐からノイズが聞こえた

 

「なんだ?」

 

武は不思議に思って、懐に手を入れた

 

そして、出したのは

 

「無線機?」

 

「それは、国連軍で使ってたものだな」

 

小型の無線機だった。裏面にはUNの文字が書かれている

 

「そういや、持ってたな」

 

武は縋る思いで、スイッチを押した

 

「誰か、聞こえるか!」

 

すると

 

『へ? 誰ですか?』

 

と、若い女性の声が聞こえた

 

「よっしゃ! 繋がった! 俺の名前は白銀武と言います! 誰でもいいので、救援をお願いします!」

 

『白銀武くんだね? 今どこに居るか、分かるかな?』

 

武はそれを聞くと、もう1回周囲を見回すが

 

「すいません、わからないです。ですが、楕円形の機械に襲われてるんです! 今は、偶然出会った少年と男性が戦ってくれてますが、数が多いんです! それに、至急治療が必要な人も居るんです!」

 

武は1回周囲を見回して、場所を特定しようとしたが、無理だった

 

『わかった。武くんが居るのは、多分、元第8臨海空港跡地だね。もう着くから、頑張って!』

 

「はい!」

 

と、武が返事をした。その時だった

 

突如、天井を桜色の閃光が突き抜けた

 

「な、なんだ!?」

 

武は想像してなかったことに、驚いている

 

すると、天井の穴から2人の女性。なのはとフェイトが中に入ってきた

 

「スターズ1接敵《エンゲージ》!」

 

「ライトニング1、同じく接敵《エンゲージ》!」

 

なのはとフェイトは、冬也とネギの近くに着地して、魔法で攻撃を開始した

 

「さっき、通信をくれた、武くん! どこ!?」

 

なのはは砲撃をしながらも、視線を左右に巡らせて武を探した

 

「ここです!」

 

武は結界内で、手を振る

 

それをなのはは見ると

 

「(結構強い結界だ)しばらくその中でジッとしてて! その中なら安全だから!」

 

なのははそう言うと、砲撃に集中した

 

「はい!」

 

そして、数分後

 

「ガジェットの全滅を確認!」

 

なのはは愛機、レイジングハートを振りながら宣言した

 

「私達は、時空管理局機動六課の者です。大丈夫ですか?」

 

とフェイトは、冬也に近づきながら聞いた

 

 

 

こうして、魔法世界《ムンドゥクス・マギクス》を救った英雄、ネギ・スプリングフィールド

 

BETAから地球と人類を救った英雄、白銀武

 

仲間と世界を守るために、第三次世界大戦に身を投じた、上条当麻

 

自分の命を捨ててまで戦い続けた男、神代冬也

 

そして、機動六課が出会った

 

これは、4人の英雄とその関係者達。そして機動六課の1年間に起きた、ある事件の記録である

 




よろしくお願いします!!


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邂逅 前編

「私は、時空管理局機動六課のフェイト・T・ハラオウン執務官です」

 

「同じく、高町なのは一等空尉です。」

 

戦っていた4人は、戦闘が終了したのを確認していた

 

「時空管理局? 聞いたこと無いな。ネギ君に、武くんに冥夜嬢はどうだ?」

 

冬也はフェイトが告げた組織の名前が聞いたこと無かったので、3人に問いかけた(少女達は、未だ気絶中。体が冷えていた当麻は武とネギの上着を掛けることで対処済み)

 

「僕は聞いたことないです。御二人はどうですか?」

 

ネギは首を振ると、武と冥夜に聞いた

 

「俺も聞いたこと無いな」

 

「私もだ」

 

武と冥夜も、そろって首を振った

 

「そうですか……それで、えっと……」

 

とフェイトは、冬也を見る

 

フェイトが見ていた理由に、冬也は気付くと

 

「俺の名前は、神代冬也だ。好きに呼んでくれて構わん」

 

「わかりました。では、冬也さんと。で、冬也さん。そんな大怪我してるんですから、戦闘なんてしないでください」

 

とフェイトは、注意する

 

忘れていたかもしれないが、冬也は傍目からすれば大怪我しているのだ

 

「なに。この程度の怪我ならば、慣れている」

 

冬也は、抑揚の欠けた声で告げた

 

「それでもです」

 

冬也はそれを聞くと、フェイトを見ながら

 

「なに。俺の命なんて、安い……っ!」

 

冬也はフェイトの後ろを見て、眼を見開く

 

「? あの、どうし」

 

ました? とフェイトが言おうとした、その時

 

「「フェイトさん(ちゃん)! 後ろ(です)!」」

 

とネギとなのはが、杖を構えながら叫んだ

 

「え?」

 

フェイトが後ろを向くと、1機の人型機が、青い光刃を振り上げていた

 

フェイトは、それを避けようとするが

 

(駄目! 間に合わない!)

 

と、直感でわかってしまった

 

ネギとなのはは、射撃魔法で攻撃しようとするが

 

(僕の位置からじゃ、冬也さんとフェイトさんに当たる!)

 

(抜き撃ちでも、間に合わない!)

 

と、直感でわかってしまう

 

が、反応したのが居た

 

「どけ!」

 

と冬也が、右手でフェイトを右に突き飛ばした

 

その瞬間

 

肉を切り裂く音が響き、血液が噴出した

 

「「冬也(神代)さん!」」

 

ネギとなのはの叫びが重なった

 

フェイトは体勢を立て直しながら見ると、右肩から左下腹部に掛けて切り裂かれている冬也の姿があった

 

「冬也さん!」

 

とフェイトは、駆け寄ろうとするが

 

「このっ!」

 

冬也は左手で持っていた刀で、人型機の胸部を突き刺して、蹴り飛ばした

 

人型機は壁にぶつかり、爆発した

 

そして冬也は、膝を突いて倒れた

 

「冬也さん!」

 

フェイトは倒れた冬也を、慌てて抱き起こす

 

冬也の呼吸は浅く、速かった

 

「こちらスターズ1! 緊急事態です! 対象区域にて、次元漂流者と思われる人たちを発見! されど、1名が重傷! 大至急ヘリの出動を要請します!」

 

なのはは、切羽詰った様子で通信をしている

 

「なんで、こんな無茶を!」

 

フェイトは涙ぐみながら、問いただした

 

「な……に……この…行動が……慣れている……だけでな…」

 

冬也は息も絶え絶えに、応える

 

「え? 慣れてる?」

 

フェイトは冬也の言葉に、眉をひそめた

 

「そ…うだ……」

 

冬也はそこで、眼を閉じた

 

「そんな!?」

 

「「「「冬也(神代)さん(殿)!」」」」

 

冬也が眼を閉じたことに、フェイト、ネギ、武、冥夜の4人は慌てるが

 

<大丈夫ですよ。気絶しただけです>

 

と、女性の声が聞こえた

 

フェイトは声のした方向、冬也の右手を見た

 

そこには、赤い宝石が着いてる黒い腕輪が装着されている

 

「インテリジェントデバイス? 名前は?」

 

<これは失礼しました。私の名前は、夜叉と言います。主、神代冬也の専用デバイスです>

 

「うぉ!? 腕輪が喋った!」

 

「茶々丸さん以上だ……」

 

武は腕輪が喋ったことに驚き、ネギは呆然としている

 

「夜叉だね。それで、気絶しただけっていうのは、本当なの?」

 

<はい、間違いありません。証拠にバイタルも安定してます>

 

とフェイトの前に、データが表示された画面が出現した

 

フェイトはそれを確認すると、安堵の息を吐いた

 

(そういえば。さっき、自分の命は安いって言ってた。どうして……)

 

フェイトは冬也の言っていた言葉が、気になっていた

 

「フェイトちゃん。ヘリ、5,6分で来るって」

 

「わかった」

 

なのはは、フェイトが頷くのを確認すると、振り返って

 

「えっと。君達も、同行をお願いしていいかな? 色々と、お話を聞きたいから」

 

と、聞いた

 

「俺はいいぜ」

 

「私もだ」

 

武と冥夜は了承する。が

 

「えっと、僕もいいですけど。彼女達の保護もお願いしていいですか?」

 

と気絶している、少女達を心配そうに見つめた

 

「うん、いいよ。元々そのつもりだったし。ただ、人数が多いから、狭くなっちゃうけど。いい?」

 

「はい、大丈夫です。それに、僕も飛べますので」

 

とネギは、背中に背負っていた杖を見せた

 

「ありがとう。それと、あの大型の機械は後で別に回収しとくけど、いいかな?」

 

と、なのはが見たのは、大破状態の武御雷だった

 

「はい。お願いします」

 

冥夜は、深々と頭を下げた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

翌日

 

場所 機動六課隊舎  部隊長執務室

 

はやてが座っている机の上に、画面が出ていて、肩まで伸ばした金髪が特徴の優しそうな女性が映っていた

 

名前は八神シャマルと言い、名前で分かると思うが、はやての家族である

 

しかし、その正体は人間ではなく、はやてが持つ魔導書

 

<夜天の書>の守護騎士プログラムの一人なのである

 

「で、保護した人たちの様子はどうや? シャマル」

 

シャマルはここ、機動六課の医療官を勤めている

 

『えっと、武くんと冥夜ちゃん。それと、ネギくんは至って健康よ。それに、気絶してた子達も意識を取り戻して、元気よ。それと、体を冷やしてた少年もネギくんと、手伝ってくれた娘《こ》のおかげで治ったわ。ただ……』

 

シャマルの表情が、困惑した表情になった

 

「どうしたん?」

 

シャマルがそんな表情になるのが珍しいからか、はやても問いかけた

 

『えっと、驚かないで聞いてね? まず、この子』

 

と、新しい画面が映って、髪が緑色の表情が乏しい少女が映った

 

「この子がどないしたん?」

 

『えっとね、この子。絡操茶々丸《からくりちゃちゃまる》ちゃんね………ロボットなのよ』

 

「…………は?」

 

はやては思わず、眼が点状態になった

 

「いやいやいや、そんなアホな。ロボットって、もっとこう……ゴッツいものやろ? しかも、完全に人間サイズやで?」

 

はやてはどうやら、混乱の極みに達しているようである

『そうなんだけど、開発者の子。あ、その子の名前は葉加瀬聡美《はかせさとみ》ちゃんが証言してくれたの。間違いなくロボットですって』

 

シャマルも戸惑いながら、報告している

 

「………ホンマなんやなー。居るもんやな、天才って……」

 

はやては少し遠くを見ながら、呟いた

 

そして、視線を画面に戻して

 

「それで、もう1つあるんやろ?」

 

と、シャマルを見た

 

『ええ。この人なんだけど………』

 

と新しい画面が出て、映っていたのは冬也だった

 

「ああ。この人が、フェイトちゃんの命の恩人さんやね。この人がどうしたん?」

 

はやてはフェイトから報告を受けていたのか、軽い表情で見ている

 

『えっとね、この人。神代冬也さん、なんだけど……』

 

シャマルは手元の資料を見つめて、暗い表情になった

 

「シャマル?」

 

『この人の体中から、大量の薬物反応と葉加瀬ちゃん曰く、ナノマシンが検出されたの。しかも、人には有り得ない遺伝子まで』

 

それを聞いたはやては、眼を見開いた

 

「薬物反応にありえない遺伝子やて!? それに、ナノマシンって。あの極小の機械のことか」

 

『はい……最初、なんなのか全然わからなかったけど、葉加瀬ちゃんのおかげでわかったの』

 

それを聞いたはやては、顎に手を当ててしばらく考えると

 

「で薬物のほうは、どうや?」

 

『今は、検査結果待ちだけど。絶対ロクなものじゃないわね』

 

「わかった。検査結果が出たら、報告してな?」

 

『はーい♪』

 

シャマルが返事をすると、画面が消えた

 

それと同時に、空気が抜ける音がして、ドアが開いた

 

「高町なのは一等空尉、入ります」

 

「同じく、フェイト・T・ハラオウン執務官入ります」

 

入ってきたのは、なのはとフェイトだった

 

「ああ。なのはちゃん、フェイトちゃん。ごめんなー、疲れてるのに報告書書いてもろうて」

 

親しい間柄なのだろう。砕けた口調で話している

 

「にゃはは♪ これが仕事だもん!」

 

「そうだよ、はやて」

 

2人も同じように砕けた様子で喋りながら、近づいた

 

「それで、大声出してたけど。なにかあったの、はやて?」

 

ドアを越えて聞こえたのだろう。フェイトは、はやてが大声を出した理由を聞いた

 

「それがな……冬也さん、なんやけど……」

 

「冬也さんに、なにかあったの!?」

 

はやてが口ごもりながら冬也の名前を出したので、フェイトは詰め寄るように問いただした

 

「落ち着いて、フェイトちゃん。フェイトちゃんが思ってるようなことやないから」

 

「そう、よかった……」

 

フェイトが安堵の息を吐くと、はやてが真剣な表情をする

 

「冬也さんからな……薬物反応が出たんや」

 

「薬物……反応?」

 

「そ、それって……」

 

フェイトとなのはは眼を見開いて、はやてを見つめる

 

「彼は、人体実験の被験者っつうことや。しかも、ナノマシンまで検出されとる」

 

はやては両手を机の上で組んで、呟いた

 

「ナノマシンって、要するに小さい機械ってことだよね?」

 

「せや。保護した女の子が教えてくれたみたいや。しかも、人にはありえない遺伝子まで確認したそうや」

 

はやての言葉を聞いたなのはとフェイトは、口を引き結んだ

 

室内をしばらく、沈黙が覆った

 

すると、はやてが1回手を叩いて

 

「まぁ、暗い話はここまでにしよか」

 

と、朗らかに告げた

 

「そう、だね」

 

「うん。あ、これ、昨日の報告書だよ」

 

なのはとフェイトも賛同すると、報告書をはやてに提出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数時間後、シャマルからの通信で冬也と当麻が目覚めたことを告げられたはやては、全員を隊長室に呼んだ

 

「来てもらって申し訳ありません。私の名前は、八神はやてと言います」

 

とはやては、頭を下げた

 

はやての座っている机の右側に、フェイトとなのは

 

そして、左側にポニーテールにしているピンク色の髪の女性、シグナムと赤い髪を三つ網にした女の子ヴィータが居た

 

「いえ、保護してもらったのはこちらですし」

 

「逆にお礼を言いたいくらいだ」

 

ネギが告げると、当麻も続いた

 

「ふむ。八神はやて、だったか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「喋りづらいならば、慣れてるほうで構わんが?」

 

冬也が言うと、はやては驚いた表情をした

 

が、すぐに表情を崩して微笑んだ

 

「そうか? それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

と、1回咳払いをすると

 

「それじゃあ、改めまして。私の名前は八神はやてや。ここ、時空管理局古代遺失物管理部機動六課の部隊長を勤めさせてもらってます。よろしくな」

 

と関西弁で告げた

 

「時空管理局? 聞いたことねーな」

 

と、当麻は首をかしげた

 

すると、ネギと一緒に来た少女達も口々に

 

「私も聴いたことないわね」

 

「ウチもないなー、せっちゃんはどうや?」

 

「私もありません」

 

と言い出す

 

因みに、冬也、当麻、冥夜の3人は陸士を表す茶色い制服を着ている

 

理由は、冬也は着ていた服が血まみれだったから

 

当麻は、制服がボロボロだったため

 

冥夜は、最初着ていた強化装備では動きにくいと判断されたためだ(強化装備は、シャーリーが預かっている)

 

「ふむ、皆さんはどうやら、次元漂流者みたいやな。確認の為に名前と出身世界と出身国。それと、所属を言ってもらえるかな?」

 

と、はやてが言うと

 

「ふむ。では、俺からでいいかな?」

 

と冬也は、ネギたちに聞いた

 

ネギたちはうなずいた

 

「では、俺の名は神代冬也《かみしろとうや》だ。歳は20で、出身世界とは地球でいいのかな? 出身国は日本帝国」

 

「地球やて!?」

 

「でも……日本帝国って……」

 

「違うよね……」

 

冬也の出身世界と出身国と聞いた3人は、三者三様の反応を示しており、ネギたちも驚いている

 

「ん? あんたも日本帝国なのか?」

 

冬也の出身国を聞いた武が、問いかけた

 

「む? ということは、君達もか?」

 

「ああ、そうだ。だけど、魔法なんて知らない」

 

「ああ。戦術機ならば知ってるか」

 

「どういうことや……」

 

武たちの言葉を聞いたはやては、悩み始めた

 

「ふむ、パラレルワールドだな」

 

「そうか! 並行世界や!」

 

冬也の言葉を聞いたはやてが、手を叩いて納得した

 

「あのー。どういうことですか?」

 

「つまりは、IFの世界さ。武たちの言う戦術機が普及していたら、や。俺の場合は、デバイスが普及していたらといったようにな」

 

「あー。確か、世界は無数の選択肢で無限に別れてる。だったか?」

 

ネギは意味がわからなかったので、手を挙げて質問し、それに冬也が答え、武が理論を言った

 

「せや、まぁその話は置いといて。続きをお願いするわ」

 

「そうだったな。一応、以前は陰陽寮・焔に所属していた」

 

「陰陽寮・焔? それって、陰陽師のこと? あの、悪霊退散! とかの?」

 

「うむ。その通りだ」

 

すると、なのはと冬也の会話を聞いていたフェイトの顔が青ざめた

 

「悪霊……」

 

と呟くと、震えだした

 

「む? 彼女はどうした?」

 

「え? ああ、大丈夫や。フェイトちゃんは、幽霊とかが苦手なんよ」

 

「そうだったか。すまない」

 

「いえ…大丈夫……です」

 

すると

 

「えっと、それじゃあ。私は駄目でしょうか?」

 

と、白髪の少女が問いかけてきた

 

「へ? どういうことや?」

 

「それはですね……あ、名乗るのが遅れてしまいましたね。私の名前は、相坂さよ、と言います」

 

「ほいほい、さよちゃんやね。で、さっきの言葉はどういうことや?」

 

「はい。実は、私………幽霊なんです!」

 

さよがそう言った直後、部屋は静寂につつまれた

 

「「「「「は?」」」」」




はい、次話です!!


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邂逅 後編

駄文です


「実は私、幽霊なんです!」

 

「「「「「は?」」」」」

 

彼女、相坂さよの言葉を聞いた一部を除いた人たちが固まった

 

しばらくの間、沈黙が室内を支配した

 

そして、一番最初に復活したのは

 

「いやいやいや! 幽霊って、足あるやん!」

 

はやてだった

 

はやては高速で手を振ってから、さよの足元を指差した

 

確かに、彼女には足がきちんとあって影もあった

 

「あ、これは、特殊な道具を使ってるからなんです」

 

「道具やて?」

 

「はい! えっと、ネギ先生、朝倉さん。いいですか?」

 

さよは、訊ねるような視線をネギと髪をパイナップルみたいに纏めた少女の朝倉和美《あさくらかずみ》に向けた

 

「はい、構いませんよ」

 

「まぁ、体は受け止めてあげるよ」

と、2人が微笑みながら言うと

 

「では…」

 

と、さよは眼を瞑った

 

すると、彼女の体が傾いた

 

それを、朝倉が片手で受け止めた

 

「ちょっ!?」

 

はやてが慌てた

 

その瞬間だった

 

「ふぅ! これで、どうでしょうか?」

 

と、半透明なさよが、その場で浮いていた

 

「へ? え? え?」

 

はやては眼が点になって、倒れてるさよと浮いているさよを、交互に見た

 

「こっちの私が、本体なんです♪」

 

と、さよが笑うと

 

「………ふぅ」

 

と、フェイトが倒れた

 

「テスタロッサ!?」

 

「フェイトちゃん!?」

 

倒れたフェイトを、シグナムとなのはが、慌てて介抱し始めた

 

 

 

しばらくお待ちください。気絶した執務官を介助中です

 

 

 

「大変、失礼しました………」

 

と、起きたフェイトが頭を下げていた

 

「いえいえ。で、信じてくれました?」

 

とさよは、問いかけた(再び、体に入っている)

 

「まぁ、実際に見せられたら、信じるしかないやろ」

 

とはやては、手を組みながら納得している

 

「そういえば、冬也さんは、除霊とか言わないんですね?」

 

とネギが、問いかけた

 

「ああ。彼女からは、害意を感じないからな。不必要と判断した」

 

冬也は眼を閉じて、腕組みしながら答えた

 

すると

 

「いやー。本物の幽霊なんて、初めてみたわ~。ほんじゃま、自己紹介の続きをしよか?」

 

とはやては、続きを催促した

 

「それでは、俺で。んんっ! 俺の名前は、白銀武と言います。出身世界は地球で、出身国は日本帝国。国連太平洋方面第11軍横浜基地A-01連隊第9中隊所属の少尉です! 助けてくださって、ありがとうございました!」

 

武は敬礼しながら、感謝を述べた

 

「いやいや、当然のことをしたまでや……って、チョイ待ち。もしかして、あんさんら軍人かいな?」

 

はやては一回頭を軽く下げると、武に問いかけた

 

「はい。俺と冥夜は同部隊所属の少尉です」

 

「なるほど。道理で、立ち姿がしっかりしてる筈だ」

 

武の言葉を聞いて、腕組みしていたシグナムはしきりに頷いている

 

「私の名前は御剣冥夜と言います。出身世界は地球で、出身国は日本帝国。武と同じ部隊所属の少尉です!」

 

武に続いて、冥夜も敬礼しながら自己紹介をした

 

すると

 

「んじゃ、俺だな。俺の名前は上条当麻だ。出身世界は地球で出身国は日本。学園都市の学生だ」

 

と当麻が自己紹介すると、なのは達が驚いた表情をした

 

「あー! どっかで見たこと有る思うたら、あんさん。3年前の第三次世界大戦を止めた、上条さんやったか!」

 

と、はやてが手を叩きながら言った。すると

 

「3年前!? ちょっと待ってくれ! だったら、学園都市はどうなった!?」

 

「学園都市やったら、誰かわからんけど、政府にタレこみがあって、解体されたけど?」

 

「か、解体された!?」

 

「せや。生徒に対して非人道的な人体実験をやってたって、匿名のタレこみがあって、解体されたんや」

 

とはやては、言いながらパソコンを操作すると

 

「あー、ほれ、これが当時の新聞や」

 

と、当麻に画面を見せた

 

「うわっ! マジだ! 日付は、うぉ! あの大戦のあと、すぐかよ!」

 

当麻は画面を見ると、両目を見開いて驚愕している

 

「せや。それに、当麻さんも有名やで? ほれ」

 

はやては言いながら、キーボードを再び操作した

 

すると、画面が変わって当麻の顔が写った

 

「なになに? 世界大戦を止めてくれた英雄の彼を探してくれ? なんじゃこりゃ!?」

 

当麻は画面に映っている文字を読むと、頭を抱えている

 

「そりゃ、あの大戦の元凶を殴って倒したんや。有名にもなるで?」

 

とはやては、キーボードを操作すると

 

「あれ? でも、上条さん。死亡扱いになっとるで?」

 

と、眉根を寄せた

 

「なに? マジか?」

 

「マジマジ、大マジや。ほれ」

 

当麻は、はやてが見せた画面を覗き込んだ

 

「うわぁ、マジだ。あー、でも当たり前か? 3年も音沙汰無しだったら、そうなるか……」

 

当麻はそう言いながら、額に手を当てた

 

すると

 

「えっと……次は、僕でいいですか?」

 

と、ネギが問いかけた

 

「あ、ああ。いいぞ…」

 

「では。僕の名前は、ネギ・スプリングフィールドと言います。出身世界は地球で出身国はイギリスです。所属は麻帆良学園女子高等部の非常勤講師をしています」

 

と礼儀正しく、頭を下げた

 

「これまた、ご丁寧にどうも………待てい! 今、講師って言わんかったか!?」

 

はやては、ネギの言葉が信じられなかったからか、身を乗り出した

 

「はい。言いましたけど?」

 

ネギは首をかしげた

 

「ネギくん。幾つなん? 10歳くらいにしか見えないんやけど………」

 

「はい、実際10歳ですよ?」

 

「なんで、そんな年齢で先生をやってるん?」

 

「えっと、魔法使いの訓練の一環なんです。一人前の魔法使いになるための」

 

「そ、そうなん? でも、親御さんは納得しとるん?」

 

はやては、一般常識として問いかけた

 

すると、ネギは少し暗い表情になった

 

「えっと、僕。両親居ないんです」

 

「え?」

 

「本当よ。ネギの両親は行方不明なの」

 

ネギに代わって答えたのは、ツインテールが特徴の女の子だった

 

「えっと、あんさんは?」

 

「あ、ごめんなさい。私の名前は神楽坂明日奈です。今は一緒に住んでるんですけど。ネギの両親は行方不明なんです。唯一居たのは、お姉さんなんです」

 

明日奈はネギの頭に手を置きながら、説明した

 

それを聞いたはやては、少し悲しそうな表情をすると

 

「失礼なことを聞いて、ごめんな?」

 

「いえ、慣れてますので、大丈夫です」

 

と、ネギは朗らかに答えた

 

「それじゃあ、気分を切り替えて。続きをお願いしていいか?」

 

はやては、微笑みながら促した

 

 

 

すいませんが、ネギま! メンバーは後に別個で設定を上げますので、そちらを参照してください

 

 

 

そして、全員の自己紹介が終わって

 

「ふーむ、今調べたけど、日本帝国なんて確認出来へんし、麻帆良学園ってのも確認出来へん」

 

「ふむ」

 

「なるほど」

 

「それに、当麻さんに至っては、死亡扱いになっとる」

 

「そうなんだよな~」

 

はやての言葉を聞いた当麻は、頭を掻いている

 

「それで、物は相談なんやけど。帰る方法が見つかるまでの間。君達、私達に協力してくれへんかな?」

 

「はやてちゃん!?」

 

「はやて!? なにを!?」

 

はやての言葉を聞いたフェイトとなのはは、驚いた

 

「今の管理局には、平行世界に渡る方法がないんよ。それに、悪いんやけど、私達かて慈善事業やないんや。それに言うやろ? 働かざるもの食うべからずって」

 

とはやてが言うと

 

「俺は構わん。ただ飯ぐらいも気が引ける」

 

「俺も構いません。助けてもらった恩もありますし」

 

「私も構いません」

 

冬也、武、冥夜の3人は即答した

 

「僕もいいですよ」

 

「「「「「私達も!」」」」」

 

ネギが言うと、ネギの教え子達も頷いた

 

「俺もいいぜ。どうせ、帰る場所もなさそうだし」

 

と当麻は、肩をすくめた

 

「ありがとうな。ほんなら早速、この書類にサインを……」

 

とはやてが、机の引き出しから書類を出そうとすると

 

「主はやて。少しお待ちを…」

 

と、シグナムが前に出て

 

「ふっ!」

 

と、一瞬で冬也に、武器のレヴァンティンを突きつけた

 

「シグナム!?」

 

「なんのつもりや!」

 

「すいません、主はやて。この者に、聞きたいことがあるんです」

 

シグナムは冬也の首筋にレヴァンティンを突きつけながら、冬也を睨んだ

 

「なにかな? 騎士シグナム殿?」

 

なお、ネギたちも慌てて構えようとしたが、冬也が片手を挙げて制している

 

「貴様の体から漂う、血の匂いの意味を聞こうか。場合によっては………」

 

シグナムは眼を細めながら、レヴァンティンを首筋に当てた

 

「なに、簡単な話さ………俺が、人を殺したということさ………覚えきれないくらいね」

 

冬也は、瞳の奥に悲しい光を宿しながら、宣言した

 

「貴様…!」

 

「だが! これだけは言える! 俺は、守るために戦い続けた! そのことに後悔はしていない。もし、それで裁かれるというのであれば、俺は、この首を差し出そう」

 

冬也は表情を変えずに、宣言した

 

「…………」

 

「シグナム。冬也さんが言ってることは、本当だよ」

 

剣を突きつけているシグナムを止めたのは、フェイトだった

 

「テスタロッサ………」

 

「冬也さんは、会って間もないのに、私を助けてくれたんだよ? 文字通り、その身を挺して」

 

「そうですよ! 彼は怪我してたのに、僕の生徒達を守ってくれたんです!」

 

ネギはシグナムに詰め寄りながら、叫ぶ様に言った

 

「………」

 

「そうですよ! 俺達を放っておいたほうが、簡単に戦えたのに、守ってくれたんです!」

 

ネギに続いて、武も詰め寄った

 

「シグナム!」

 

最後に、フェイトが名前を呼ぶと

 

シグナムは、レヴァンティンを仕舞った

 

「ふむ。信じてもらえたということで、いいのかな?」

 

と冬也は、首を傾げながら聞いた

 

「テスタロッサとそこの少年達の話を、信じたまでだ。まだ信用したわけではない。もし、主はやての危険になると判断したら……」

 

言いながら、冬也を睨む

 

「ああ、判断するのは貴殿だ。騎士シグナム殿」

 

と冬也は、 首をすくめた

 

「………話を中断してしまい、すいませんでした。主はやて」

 

とシグナムは、はやてに頭を下げた

 

「謝る相手がちゃうやろ………」

 

はやては、額に手を当てながら唸った

 

「構わんさ、はやて嬢。これは、正確な判断だよ。身元不明者から、主を守る騎士としてな」

 

と冬也は、肩を竦めた

 

「すんまへんな。それじゃあ改めて、サインしてくれるか?」

 

とはやては、机の上に、人数分の書類を置いた

 

 

 

こうして、冬也、武、冥夜。そして、ネギたちの機動六課への協力が決まった



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設定

神代冬也(かみしろとうや)

 

年齢20歳

 

性別男

 

身長178cm

 

体重76kg

 

髪は黒く一房だけ背中半ばまで伸ばしており、それをゴムバンドで纏めている

 

どうやら過去にナニカあったようで自分の命を軽視して人を助ける行動をとる

 

魔力ランク SS+

 

陸戦ランク SS

 

空戦ランク SS

 

希少技能 全属性変換資質 陰陽師

 

使用魔法 ミッドチルダ 近代ベルカ

 

デバイス インテリジェントデバイスの夜叉(やしゃ)

 

複数の変形機構を有しているために実質的に冬也専用のデバイス

 

さらに特殊な機構を複数搭載している

 

かなり高位のAIを搭載しているようで、なんら人間と変わらない思考を持っており、独自の判断で行動する場合もあるようだ。

 

雰囲気としては、優しい女性のようで、冬也のことを心配している

 

得意戦闘 高機動近接戦闘

 

コールサイン アサルト1

 

 

白銀武(しろがねたける) 原作、マブラヴ

 

年齢 18歳

 

性別 男

 

身長 175cm

 

体重 75kg

 

以前の世界では戦術機というロボットの衛士(パイロット)だったため身体能力及び戦闘能力は高い

 

精神力が高く戦士としても優れている

 

魔力ランク S+

 

陸戦ランク SS

 

空戦ランク A

 

希少技能 無し

 

 

使用魔法 ミッドチルダ 近代ベルカ

 

デバイス インテリジェントデバイス 不知火(しらぬい)

 

以前の世界で搭乗していた戦術機を基にしている

 

得意戦闘 高機動近接戦闘

 

コールサイン アサルト3

 

御剣冥夜(みつるぎめいや) 原作、マブラヴ

 

年齢 18歳

 

性別 女

 

身長 170cm

 

体重  失礼だろう!!

 

武と同様以前の世界で戦術機の衛士だったため身体能力と戦闘能力は高く、特に刀を使った戦闘を得意とする

 

喋り方が少し昔風なのは彼女は本来将軍の家柄のためである

 

 

魔力ランク S+

 

陸戦ランク SS

 

空戦ランク A

 

希少技能 無し

 

 

使用魔法ミッドチルダ 近代ベルカ

 

デバイス インテリジェントデバイス 武御雷(たけみかずち)

以前の世界で最後に搭乗していた戦術機を基にしている

 

得意戦闘 高機動近接戦闘

 

コールサイン アサルト4

 

 

上条当麻(かみじょうとうま) 原作、とある魔術の禁書目録

 

年齢 15歳

 

性別 男

 

身長 170くらい

 

体重 68kg

 

第三次世界大戦を止めた少年

 

学園都市所属の生徒だったが、学園都市は解体されている

 

誰かの為に全力で戦える少年で、いつも命がけの戦いを経験してきた

 

魔力値 無し

 

陸戦 B

 

空戦 ?

 

希少技能 幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

デバイス イマジン

 

冬也とシャーリー、そして葉加瀬聡美のおかげで完成したデバイス

 

本来の魔法重視ではなく、科学重視で当麻のイマジンブレイカーでも壊れない

 

主には格闘戦を主体とするが、ネギの知識提供によって完成した魔法銃によって遠距離と中距離にも対応している

 

ポジション ロングアーチ5(はやての護衛)&食堂担当(本人が料理が得意というので)

 

 

ネギ・スプリングフィールド 原作、ネギま!

 

麻帆良学園女子高等部 非常勤講師兼軌道エレベーター開発主任

 

言わずと知れた、子供魔法先生

 

魔法世界(ムンドゥクス・マギクス)を救った英雄で、現在は火星のテラフォーミング計画に東奔西走する毎日だが、たまたま帰ってきた時アルビレオ・イマに、魔法具の鑑定を依頼されていたが、明日奈のミスにより、気付いたらミッドチルダに居た

 

年齢10歳

 

使用魔法 西洋魔法(ラテン語方式) 闇の魔法

 

アサルト分隊の副隊長を勤める  アサルト2

 

魔力値 SSS (事実上のEXランク)

 

陸戦 SS+

 

空戦 SS+

 

デバイス無し 一応通信機は持たされている

 

神楽坂明日菜(かぐらざかあすな) 原作、ネギま!

 

ネギとの元同居人

 

今回のテレポートの主犯格(?)

 

本来は魔法世界のお姫様だが、今まで地球で普通の女の子として育ったために、活発な少女

 

趣味は絵画(昔は、そうとう下手だったらしい)

 

希少技能 魔力完全無効化能力(マジックキャンセル)を有している

 

魔力値 不明

 

陸戦 AA+

 

空戦 ?

 

デバイス無し 通信機を持たされている

 

ポジション アサルト5

 

絡繰茶々丸(からくりちゃちゃまる) 原作、ネギま!

 

普通の人間に見えるが、本当はロボット

 

作ったのは、2人の天才少女

 

動力源は魔力とゼンマイ(!?)

 

現在は、ネギの秘書官を務める恋するロボット

 

魔力値 ?

 

陸戦 AA+

 

空戦 AA+

 

デバイス無し 本人がロボットの為に、通信も個人で可能

 

ポジション  ロングアーチ4

 

長谷川千雨(はせがわちさめ) 原作、ネギま!

 

眼鏡(度無し)を掛けている少女

 

電子機器の扱いに関してはアーティファクトもあって、天才的

 

戦闘向きではないが、後方支援向き

 

主にはロングアーチスタッフをしている

 

魔力 無し

 

陸戦 C

 

空戦 無し

 

 

桜咲刹那(さくらざきせつな) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒で明日奈の親友

 

長大な刀、野太刀を使う

 

神鳴流の使い手

 

近衛木乃香(このえこのか)の従者にして親友

 

少し涙もろい部分もあるが、芯の通ってる少女

 

半人半妖で、昔はそれを気にしていたが、ネギ達に受け入れてもらってからは気にしていない

 

陸戦 AA+

 

空戦 AA

 

魔力値 無し 代わりに気力を使える

 

ポジション ライトニング5

 

デバイス無し 通信機を持たされている

 

長瀬楓(ながせかえで) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒で頼れるお姉さん的な立ち位置

 

甲賀中忍の忍者

 

体術と忍術を混ぜ合わせた戦闘が得意

 

何時も、眼を細めているが、ここぞ! と言う時は、眼を開ける

 

通称 楓姉

 

~ござる が口癖

 

陸戦 AA+

 

空戦 AA+

 

魔力無し 代わりに気力を使える

 

デバイス無し 通信機を持たされている

 

ポジション スターズ5 (古菲(クーフェイ)と交代する場合もアリ)

 

古菲(クーフェイ) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒でもあり、格闘技の師匠でもある少女

 

中国拳法の八極拳の達人

 

クロスからショートレンジでの戦闘能力は、群を抜いて高い

 

~アルね。が口調

 

陸戦 AA+

 

空戦 ?

 

魔力値無し 気力を使う

 

デバイス無し 通信機を持たされている

 

ポジション スターズ5 (長瀬楓と交代する場合もアリ)

 

近衛木乃香(このえこのか) 原作、ネギま!

 

京都出身のはんなりお嬢様

 

常に京都弁で話している為、はやてとは話しやすいようだ

 

料理の腕は素晴らしく、明日奈とネギの3人で同居してた時は料理番を一手に引き受けていた

 

魔力が高く、言わば歩く魔力タンクレベルだとか

 

更に、回復魔法との適合率が高く、習得の難しい完全回復魔法もあつかえる

 

魔力値 SSSランク(事実上のEXランク)

 

陸戦 B

 

空戦 ?

 

ポジション 医療と食堂兼任

 

綾瀬夕映(あやせゆえ) 原作、ネギま!

 

ネギに恋する少女

 

ネギの生徒でもあり、頼れる参謀役の1人

 

情報収集特化型のアーティファクトを有しており、それを利用して冷静に戦える

 

とある理由で、記憶喪失になってしまったが、それが理由で魔法使いとしての資質を開花及びレベルアップさせた

 

ネギに師事しているために、戦闘方法はネギとまったく一緒

 

魔力値 A+

 

陸戦 A

 

空戦 A

 

デバイス無し 通信機を持っている

 

ポジション 基本的に非常用戦力として待機状態 (普段は魔法の勉強をしてたり、ザフィーラと一緒に居る)

 

宮崎のどか 原作、ネギま!

 

ネギの生徒

 

魔法世界では、トレジャーハンターとして活躍していた

 

アーティファクトを使いこなして、重要な情報なども手に入れることが出来る

 

戦闘はあまり得意ではないが、頭は良い為に常に考えるようにしている

 

魔力値無し

 

陸戦 C

 

空戦 ?

 

デバイス無し

 

ポジション 基本的に待機

 

早乙女ハルナ 原作、ネギま!

 

ネギの生徒

 

通称パル

 

漫画家志望の少女で、BL等も手広く書く

 

アーティファクトを使いこなして、近接戦闘をこなす

 

一応、艦長適正アリ?

 

ラブ臭なる物(?)を感じ取る能力を有している

 

魔力値 無し

 

陸戦 B(本人の直接戦闘能力は無いが、アーティファクトを駆使する)

 

空戦 C(上と同じ)

 

ポジション 基本的に待機

 

 

明石裕奈(あかしゆうな) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒でエージェントだった母親(既に故人)と魔法使いの父親の娘

 

2丁拳銃での戦闘能力は眼を見張るものがある

 

魔力値 無し

 

陸戦 B+

 

空戦 ?

 

ポジション 基本的に待機 (なのはに時々特訓をつけてもらっている)

 

 

和泉亜子(いずみあこ) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒

 

近衛木乃香を師匠と仰いで、治療技術を修行中

 

過去に何かあったようで、背中に大きな傷跡があるのと、血を見ると倒れてしまう

 

アーティファクトはドーピング系(見た目は巨大な注射器)

 

魔力値 無し

 

陸戦 C

 

空戦 ?

 

ポジション 基本的に医務室

 

 

佐々木まき絵 原作、ネギま!

 

ネギの生徒

 

昔から新体操をやっていたために、身体能力は総じて高い

 

リボンを使った捕縛やら眼を見張る技術を多数有している

 

明るい性格で、仲良し4人組ではムードメイカーのポジション

 

魔力値無し

 

陸戦 B

 

空戦 ?

 

ポジション 基本的に待機だが、時折バックヤードスタッフとして働いてる

 

 

大河内アキラ 原作、ネギま!

 

ネギの生徒で落ち着いた少女

 

何時も一歩惹いた位置で立っているので、客観的な判断も出来る

 

以外と力持ちで、ネギくらいなら片手で持ち上げられることが可能

 

魔力値 無し

 

陸戦 C(本人の性格が大きい)

 

空戦 ?

 

ポジション 基本的に待機状態だが、バックスタッフとして働いている場合も多々

 

 

朝倉和美(あさくらかずみ) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒であり、ジャーナリスト

 

パパラッチのあだ名を頂戴するほどで、イベント好き

 

何時もデジカメを片手に走り回っているらしい

 

戦闘向きではなく、基本的に情報収集が得意

 

相坂さよと組んでいる

 

 

相坂さよ 原作、ネギま!

 

ネギの生徒で、幽霊 無くなったのは1940年ごろらしい

 

隠密性が高く、偵察向き

 

時々、テンションがおかしくなる場合も確認されている

 

 

葉加瀬聡美(はかせさとみ) 原作、ネギま!

 

ネギの生徒

 

学年、いや下手したら学園トップクラスの成績を誇るほどの成績優秀者で機械工学が得意

 

茶々丸のメンテナンスやヘリのメンテも手伝っている

 

戦闘は専用の装備をすれば、なんとかレベル

 

主には、デバイスルームでシャーリーと一緒に居る



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契約と手伝い

文才が欲しいです、切実に………


「ほい、確かに。確認したで」

 

はやては、冬也達がサインした書類を確認して、微笑んだ

 

「ほな、次は検査やね」

 

「検査ですか? 冬也さん以外は至って健康ですが?」

 

はやての言葉を聞いてネギは、健康診断と思ったようで、首を傾げた

 

「ああ、チャウチャウ。魔力測定や」

 

「魔力測定、ですか」

 

「せや。民間協力者になってもろうたんで、どのくらいの魔力や希少技能があるか確認したいんや」

 

「なるほど、道理ですね」

 

「ほな、案内を」

 

と、はやてが案内の為に立ち上がろうとしたら

 

「あ、はやて。私がするから、いいよ」

 

と、フェイトが制した

 

「そうか? ほなら、頼んでええか?」

 

「うん、いいよ。それでは皆さん、着いて来てください」

 

とフェイトを先頭に続いて、全員、部隊長室を出た

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

部屋を出て、しばらく歩いていると

 

「あの、冬也さん……先日は、ありがとうございました」

 

「む? いきなりなんだ?」

 

冬也はフェイトが突然、感謝を告げたことに疑問を感じた

 

「あの、先日、命を助けてもらったので……」

 

「ああ、なるほどな。だが、俺にとってはあれが何時ものことでな」

 

冬也はフェイトが理由を告げると、思い出したようで、納得するが、気にするなと返した

 

「何時ものこと………失礼ですが、冬也さんは何時から戦ってるんですか? あの動きは、かなりの経験を感じましたが」

 

「む? 俺は、12年前から最前線で戦っていたな」

 

「12年前!? ちょっと待ってください! 冬也さんは20歳って仰ってましたよね?」

 

フェイトは、冬也が12年という長い時間を戦っていることに驚いた

 

「そうだが?」

 

「ということは……8歳から、戦ってたってことですか!?」

 

「そうだが、それがどうした?」

 

「私達より、早い………」

 

「む? 君達は幾つからだね?」

 

「フェイトでいいですよ。私達は9歳からです。けど、冬也さんの戦いは……」

 

「俺の戦いは……殺し合いだよ。互いの命を賭けて、殺しあった」

 

「…………そんな戦いを12年も……親御さんはなにをっ……」

 

フェイトは冬也の戦いを想像したのか、眼を見開いてから呟いた

 

「………殺させられたさ………」

 

冬也の言葉は、小さく、ほとんど聞こえなかった

 

「え?」

 

「いや、なんでも。俺の親は死んでたのでね。俺は、恩人との約束を果たすために、戦場に立つことを決めた」

 

「恩人との、約束…ですか?」

 

「ああ。俺を助けてくれた人との、約束でな。『誰かを守れる存在になれ』という、約束でな。俺は、それを守るために、戦場に立った」

 

「そう……ですか」

 

「ああ……」

 

そんな2人の会話を、後方を歩いていたネギと武、冥夜、当麻達も聞いていて

 

「あの人は、心が強いんですね」

 

「覚悟も持ってるんだな」

 

「ああ」

 

「神代も誰かの為に、戦ったのか……」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

「ここです」

 

しばらく歩いて、着いたのは

 

「医務室ですか?」

 

「うん。ここに魔力を測定する機械が設置されてるの」

 

と説明しながら、フェイトは扉を開けて、中に入った

 

「シャマル。居る?」

 

「はーい♪ 話は、はやてちゃんから聞いてるわ。皆さん、こっちにどうぞ」

 

とシャマルが指差した先には、大きな機械が設置されていた

 

「それでは、1人ずつでお願いするわね」

 

シャマルの指示通りに、1人ずつ検査を始めた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

しばらくして

 

「検査結果、出たわよ~」

 

とシャマルが、フェイトに検査結果の書かれた紙を手渡した

 

「ありがとうございます…………皆、凄いですね」

 

「ふむ、その手の検査は久しぶりでな。どうかな?」

 

「冬也さんを始めに、皆さん高いですよ。特にネギくんと木乃香ちゃんは、SSSランクで事実上のEXランク」

 

「EXランクってことは、測定不能ってことですか?」

 

「うん、そうだね。でも、疑問なのは、当麻くんと明日奈ちゃんだね」

 

「つーと、どういうこった?」

 

フェイトの言葉に疑問を感じた当麻が、質問した

 

「EXランクじゃない、測定不能ってなってる」

 

「もしかして、その機械。魔法かなんか使ってんのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「あー、だったら、無理だな」

 

「それは、どうして?」

 

「なんつーか、まあ。百聞は一見にしかずだな。俺に、簡単な魔法を一発放ってみ」

 

と当麻は、指をチョイチョイと動かす

 

「え? で、でも……」

 

と、フェイトが躊躇っていると

 

「ふむ、では。ウィンドカッター」

 

と冬也が、当麻に向けて風の刃を放った

 

「冬也さん!?」

 

と、フェイトが慌てたが

 

「ほいっと」

 

当麻が、右手で風の刃を叩くと

 

ガラスが砕けたような音がして、魔法が消えた

 

「え!?」

 

「魔法無効化!?」

 

「ほう」

 

「俺の右手はな、幻想殺し《イマジンブレイカー》って言ってな。あらゆる異能を消す力があるんだよ。それこそ、あんたらの魔法、超能力、神様の奇跡すらもな」

 

まぁ、右手限定だけどな。っと当麻は頭を掻きながら呟いている

 

「それでなんだ……あれ? ってことは、明日奈ちゃんも幻想殺しを?」

 

「いえ、あたしのは、魔法無効化能力《マジックキャンセル》って言うんです」

 

「魔法無効化能力?」

 

「そこからは、僕が説明しますね。魔法無効化能力と言っても、正確には魔力を直接分解するんです。範囲は、明日奈さんの意識で調整できますが」

 

「明日奈ちゃんの方が、範囲は広いみたいだね………」

 

フェイトは呟きながら、再び書類に眼を戻した

 

すると

 

「それじゃあ、デバイスルームに行こうか」

 

「デバイスルーム……ですか?」

 

「うん、みんなの為にデバイスを作るって、話し合って決めたんだ。それと、冬也さんのデバイスも預かってますよ」

 

「む、やはりそうだったか。すまんな、手間をかけたようだ」

 

「いえ、ヒビだらけだったので」

 

そして、フェイトを先頭に全員、デバイスルームに向かった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ここが、デバイスルームです。シャーリー、居る?」

 

「はーい! なんですか、フェイトさん」

 

と、奥から眼鏡を掛けた茶髪の女性。シャリオ・フィニーノ、通称シャーリーが現れた

 

「あのね、あのデバイスを彼に返してあげてほしいの」

 

「はい、いいですよ。修理も終わったので………どうぞ」

 

シャーリーは、机の引き出しから腕輪状態の夜叉を出して、冬也に渡した

 

「なかなか、面白い機構を搭載してるんですね。私でもわからないのが、有りました」

 

「む? もしや、君が直したのか?」

 

「はい。私がここのデバイスの管理とメンテナンスを請け負ってます」

 

「ふむ……良かったら、俺の知ってる技術を教えようか?」

 

「え!? いいんですか!?」

 

「ああ。どうせ、秘匿する理由がないからな」

 

「ありがとうございます!」

 

「はいはい、シャーリー。落ち着いて、今はこの子達のデバイス製作のほうが先決だよ」

 

「あ、そうでした…」

 

シャーリーはテヘヘと笑うと、姿勢を正して

 

「それでは、皆さん。なにか要望はありますか? その通りに作りますよ~!」

 

「えっと、その前に一つ質問いいですか?」

 

「はい、どうぞ!」

 

「そもそも、デバイスってなんなんですか?」

 

「ふむ。その質問には俺が答えよう。デバイスというのはな、俺達が使う魔法の補助をしてくれるんだ」

 

「補助…ですか」

 

「ああ。ネギ君とて、その杖と指輪を媒体にして魔法を使うだろ? その際に魔法を展開しやすくしてくれるのが、デバイスの役目なんだ。後は、防護服の役割もある」

 

「なるほど~」

 

「とまあ。今、冬也さんから説明があったように、君達の手伝いをしてくれるの」

 

「「「「「なるほど」」」」」

 

「あー、だったら、俺はいらねーや」

 

「僕も、要りませんね」

 

「「「「「私達も!」」」」」

 

当麻を始めに、ネギとネギの生徒達は拒否した

 

「それは、どうして?」

 

「あんた「シャーリーで」…OK、シャーリーには説明してなかったけど、俺の右手は幻想殺しつってな。あらゆる異能を打ち消してしまうから、使えないんだよ」

 

「僕の場合は、僕の戦闘スタイルに合わないと思うので。それと、彼女達に関しては、アーティファクトがあるので」

 

「アーティファクト?」

 

「はい。それじゃ、皆さん。お願いします」

 

ネギが言うと、全員頷いて

 

懐から、一枚のカードを出し

 

「「「「「出よ《アデアット》!」」」」」

 

と、唱えた

 

すると、カードが光った

 

光は一瞬で終わり、視線を向けると

 

「わ!? 服装が変わってるし、なんか、色んなアイテムを持ってる!」

 

そうなのだ。彼女達が着ていた服装は全て変わり、手に手に色んな形の道具を持っているのだ

 

「なるほど。様々な効果を持っている道具か……それらは、各個人の能力に合わせて選ばれるのか?」

 

「多分、そうだと思います」

 

「なるほど……興味深いな」

 

冬也はネギに質問し終わると、顎に手を当てて考え始めた

 

「えっと、それじゃあ。そっちの2人はどうする?」

 

とシャーリーは、武と冥夜に話しかけた

 

「そう言われてもな……」

 

「魔法なんて、使ったことないしな……」

 

と、2人が困惑していると

 

「じゃあ、2人は前の世界ではどういうポジションだった?」

 

「んお? 俺と冥夜は2人とも、突撃前衛(ストームバンガード)だったな」

 

フェイトの質問に、武が答えた

 

「突撃前衛? つまりは、最前衛ってこと?」

 

「はい、その通りです」

 

「その辺のデータに関しては、シャーリーさんが回収した私の強化装備にログ等が残ってる筈です。後は、機体に戦闘記録が残ってます」

 

「なるほど……」

 

「もしや、その機体に他の機体のデータも残っているのか?」

 

「はい、その通りです。世界各国の機体のデータが残ってます」

 

冥夜の言葉を聞いた冬也は、そこで少し黙考すると

 

「ふむ。だったら、そのデータを使って開発したほうが、良さそうだな」

 

「え!? そんなことが可能なんですか!?」

 

シャーリーは冬也の言葉を聞いて、驚愕している

 

「ああ。防御力が低い奴とか、機動力が低い奴等の為に作ったことがある。所謂、装甲式だな」

 

「なるほど~」

 

「それじゃあ、冬也さん。デバイスの開発を手伝ってもらっていいですか?」

 

「ああ。構わんよ」

 

と、冬也がうなずくと

 

「あ、それじゃあ、私も手伝っていいですか~?」

 

と、眼鏡を掛けた少女。葉加瀬が手を挙げた

 

「えっと、貴女は確か、茶々丸ちゃんの開発者の………」

 

「葉加瀬聡美と言います」

 

と、葉加瀬は軽く挨拶すると

 

「私も、機械関係は得意でして、お手伝いできると思いますよ」

 

「なるほど……」

 

「それに、この世界の技術にも興味ありますし、私も、技術提供します」

 

「わかった。それじゃあ、冬也さんと葉加瀬ちゃん。お願いできる?」

 

「構わん」

 

「はい」

 

こうして、冬也と葉加瀬は、デバイス開発に協力することが決まったのだった



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驚愕の部屋決定

当麻、どうなるのか


デバイスルームから、一路

 

再び、フェイトの案内で部隊長室に戻ってきた一同

 

「デバイス開発協力ありがとうな、冬也はん、葉加瀬ちゃん」

 

「いえいえ」

 

「構わんさ」

 

はやてがお礼を言うと、二人はたいしたことないと首を左右に振った

 

「それでや、武くんと冬也はんの部屋。それと、冥夜ちゃんの部屋は決まったんよ」

 

と言いながら、はやては引き出しから書類を2枚取り出した

 

「武くんと冬也はんは三人部屋で、この子と同室で、冥夜ちゃんは二人部屋でこの子と同室や」

 

と、はやては冬也たちに書類を渡した

 

「エリオ・モンディアルにキャロ・ル・ルシエ……両方とも10歳」

 

「おいおい…なんで、こんな子供が居るんだよ?」

 

書類を横から見た当麻が、驚いた表情ではやてに問いかけた

 

「管理局は慢性的な人員不足でな、優秀なら子供も採用するんよ」

 

「だからって、こんな子供を」

 

はやての言葉を聞いても納得出来ないのか、当麻は言葉を続けようとするが

 

「上条くん。その子達は、私が保護責任者なの」

 

フェイトが、当麻の前に立った

 

「フェイトが?」

 

「うん……その子たちね、親御さんに捨てられちゃって、それを私が引き取ったの」

 

フェイトは、悲しそうに眼を細めながら説明した

 

「なるほど…要は、この子達が望んだか。フェイトの手助けをしたいと」

 

「はい、その通りです」

 

冬也の言葉をフェイトは、頷いて肯定した

 

「あんたは、疑問に感じないのか?」

 

「俺自身が8歳から戦場に立っていたからな、特には感じん」

 

「俺達もだな、ソ連じゃ12歳くらいのガキが最前線に立ってるし」

 

「そうなのか………まあ、本人達が望んでるなら仕方ないか」

 

当麻は未だに、納得しきってないのか、苦い表情をしながら頭を掻いている

 

「問題は、ネギくん達と当麻さんやな」

 

「あ、そういやぁ、部屋が決まったのは3人だけだな」

 

「せや、ネギくん達は人数が多いからやし、当麻くんは男子寮に余りがないんよ」

 

「なるほど、確かに僕達は人数が多いですからね」

 

「俺は別に、ソファーでもいいんだが」

 

「当麻くん。部屋はちゃんと用意する。そうせな、気が済まん」

 

「はい………」

 

当麻の言葉に、はやてが凄むと、当麻は頷くしかなかった

 

すると、はやての言葉を聞いたネギが手を挙げて

 

「あの、僕達は大きな部屋に布団とかを人数分用意してもらえば、充分です。」

 

と、提案した

 

「そうか? 悪いなぁ、ほなら………この第三会議室でも、ええか?」

 

とはやては、案内図の一角を指差した

 

「はい、ありがとうございます!」

 

ネギが頷くと、はやては何か思いついたのか、イタズラを思いついた笑顔を浮かべた

 

(なあ、シグナム)

 

(なんだ)

 

(はやてがなんか、悪い笑顔なんだけど)

 

(あれは、イタズラを思いついたな)

 

ヴィータとシグナムが念話で話していると

 

「そや! 当麻はん。部屋なんやけど、ちょうどいい部屋があるんよ」

 

「お、マジか?」

 

「せや」

 

はやては相変わらず、悪い笑顔である

 

「場所は………私の部屋や!!」

 

思いっきり、爆弾が投下された

 

「はい!?」

 

「「……え?」」

 

当麻はどうやら、この世界でも女難の相のようである

 

はやての爆弾発言で室内は、しばらく静寂に支配されて

 

「はやてさん!? 本気でせうか!?」

 

一番先に復活したのは、当麻だった

 

「本気と書いて、マジや」

 

はやては、満面の笑みである

 

当麻が頭をかき抱いていると

 

シグナムが当麻の肩に、手を置いた

 

「上条当麻、あきらめろ。ああなった主はやては、最早止まらん」

 

シグナムは諦めた表情で、諭した

 

「止める気はないんでせうか!?」

 

「無理なんだよ。それと、当麻」

 

「なんでせうか……」

 

「もし、はやてに変なことをしたら………」

 

と、ヴィータが言った瞬間

 

ジャキィッ!!

 

当麻に、シグナムのレヴァンティンとヴィータのグラーフ・アイゼンが突きつけられた

 

「「ぶっ叩く!/たたっ切る!」」

 

シグナムとヴィータの眼に、光が宿っていない

 

「はい………」

 

当麻は気付けば、小さくなっていた(タバコの箱と同サイズ)

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ここが、冬也さんと武君が宿泊する部屋です」

 

と言いながらフェイトは、ノックをした

 

すると

 

『はーい! 今開けます!』

 

と、中から元気な声が聞こえた

 

そしてドアが開くと、そこには逆立った赤髪が特徴の少年が居た

 

「あ、フェイトさん。こんにちは!」

 

「うん、こんにちは」

 

「あれ? フェイトさん、後ろの人達は?」

 

「うん。今日から、エリオと同室になった人達で」

 

フェイトが言うと、冬也と武が前に出て

 

「民間協力者の神代冬也だ」

 

「同じく、白銀武だ」

 

冬也と武が交互に握手した

 

「僕はエリオ・モンディアルです!」

 

エリオは満面の笑みと共に、握手した

 

「急にごめんね?」

 

「いえ、大丈夫です。むしろ、こんな広い部屋で1人は寂しかったくらいですから」

 

「すまんな」

 

「悪いな」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「お願いね、エリオ」

 

「はい!」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

こちらは、女子寮

 

「ここが、冥夜ちゃんの部屋だよ」

 

なのははそう言いながら、ドアをノックした

 

『は~い! 今、開けます!』

 

中から女の子の声が聞こえると、ドアが空気が抜ける音と共に開いた

 

「あ、なのはさん! こんにちは!」

 

「こんにちは、キャロ。紹介するね、今日からキャロと一緒に住むことになった」

 

「民間協力者の御剣冥夜だ。よろしく頼む」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

冥夜が手を差し出すと、キャロも握手した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ほい、ここが当面の当麻くんの部屋や」

 

「お、お邪魔します………」

 

はやての案内で、当麻は部屋に通された

 

しかし、その顔には緊張感がアリアリと刻まれている

 

そして、部屋の中を見回すと固まった

 

「あ、あのー……はやてさん?」

 

「なんや? あ、敬語やなくってええで?」

 

そう言っているはやての顔は、かなり悪い笑顔である

 

「ベッドが、ひとつしかないんでせうが?」

 

当麻が震えながら指差した先には、大きなベッドが一つだけ置かれていた

 

「そりゃそうや、私とリインしか寝とらんし」

 

と、はやてが指差した先には、異様に小さいベッドが置かれている

 

大体、40cmくらいだろうか?

 

「で……私はどこで寝ればいいんでせうか?」

 

「ん? そんなん、私と一緒に寝ればええやん?」

 

はやては、相変わらず悪い笑顔である

 

はやての発言を聞いた当麻は、大きく後退して

 

「ほ、本気でせうか!?」

 

「本気と書いて、マジや!!」

 

はやてがドヤ顔で言うと、当麻は両手を床に突いてorsの格好になった

 



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実力試験 その1

翌日

 

場所 機動六課訓練スペース

 

「皆、おはよう!」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

なのはの挨拶に、なのはの前に立っている4人は元気よく挨拶している

 

尚、そのうち2人はエリオとキャロである

 

「今日は訓練を始める前に、紹介したい人たちが居ます。では、冬也さんからお願いします」

 

「先日から民間協力者になった、神代冬也だ。よろしく頼む」

 

「同じく、民間協力者の白銀武だ」

 

「同じく、御剣冥夜だ」

 

「上条当麻だ」

 

「ネギ・スプリングフィールドです」

 

「神楽坂明日奈よ」

 

「桜咲刹那です」

 

「長瀬楓でござる」

 

「古菲アルね!」

 

冬也が挨拶すると、全員それに続いた

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

全員の自己紹介に、フォワード陣は敬礼しながら挨拶した

 

「それじゃあ、次は皆が自己紹介してね」

 

「はい! 私はティアナ・ランスター二等陸士であります!」

 

「あたしはスバル・ナカジマ二等陸士です!」

 

「僕はエリオ・モンディアル三等陸士です!」

 

「私はキャロ・ル・ルシエ三等陸士です。この子は飛龍のフリードリヒです」

 

「キュクル~♪」

 

なのはが言うと、フォワード陣は右から順に名前を告げた

 

「おお! 龍だ!」

 

「なんと…」

 

「ほお、本物は初めて見たな」

 

「図書館島の地下で見たのよりは随分小さいけど、ワイバーン種ですね」

 

「おーう、これが龍か。初めて見たぜ」

 

等々、冬也達はキャロのフリードを見て驚いている

 

「後、他にも民間協力者の人たちは居るけど、そっちは各自で挨拶してね」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それじゃあ、まずは準備運動からはじめよっか!」

 

「「「「はい!」」」」

 

なのはが告げると、フォワード陣は元気に返事をした

 

こうして、訓練は始まった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そして、40分後

 

「「「「「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ」」」」」

 

そこには、フォワード陣プラス当麻がグダグダになっていた

 

「あ…あの…なんで、皆さんは……そんなに元気なんですか?」

 

比較的に体力に余裕があったのか、スバルが冬也達に問いかけた

 

「えっと、僕達は特殊な訓練を受けたので…」

 

「そうそう、着の身着のまま砂漠の中1週間サバイバルとか」

 

「ええ、南極での1週間サバイバルもありましたし」

 

「ジャングルでの1週間サバイバルもござったな」

 

「一番厳しかたのは、エヴァにゃんとの模擬戦だたアルね」

 

前3人のはどこかオカシイ

 

「俺は12年間最前線に立っていたからな、最適な体の動かし方はわかる」

 

冬也は経験故らしい

 

「俺達は軍人だったし、もっと厳しい練習をしたな。10キロのフル装備に30キロのリュックを背負って40キロのフルマラソンしたな」

 

「うむ、あれは厳しかった」

 

武と冥夜は、比べる基準がおかしい

 

「そ、そうですか……当麻さんは大丈夫ですか?」

 

「な、なんとか……」

 

スバルから声を掛けられた当麻は仰向けで、手をひらひらさせた

 

「それじゃあ、冬也さん以外は全員出てね? 今から実力を試したいから」

 

「高町一等空尉殿、ここでですか?」

 

「ふふっ、なのはさん、でいいよ。皆そう呼んでるし。それじゃあ、シャーリー!」

 

武の呼び方になのはは訂正を入れると、視線をシャーリーに向けた

 

「はーい♪ なのはさん監修機動六課特別空間シミュレーター、スイッチオン♪」

 

シャーリーは微笑みながら、空中投影式キーボードをタイピングした

 

すると、海上の開けたスペースに突如、廃都市が現れた

 

「うお!? なにもなかった所が、いきなり廃都市になった!?」

 

「す、凄い……」

 

「学園都市と同じくらいすげー」

 

等々ネギ達が驚いていると

 

「ほう……魔法と科学のハイブリットか」

 

「へぇ、分かるんですか?」

 

冬也の言葉に、シャーリーが視線を向けた

 

「ああ、俺の世界にも似た様な物が有ったからな。しかし、ここまでではなかったな」

 

と、冬也は感心しながら見ていた

 

そして、冬也以外が全員外に出ると

 

『冬也さん。聞こえますか?』

 

「ああ、聞こえる」

 

冬也は、廃都市を再現した中の中心に一人立っていた

 

『それでは、ガジェットの数はどうします?』

 

「任せる。好きにしてくれ」

 

と冬也は言うと、目を閉じた

 

場所は変わって、訓練スペースが一望できる高台

 

『任せる。好きにしてくれ』

 

冬也はそう言うと、目を閉じた

 

「だ、そうですけど。どうします?」

 

「うーん、それじゃあ。数は30。攻撃精度、回避精度をAで」

 

「はい」

 

「ちょっ!? 正気ですか!? あれを30って、しかも両方ともAは厳しいですよ!?」

 

なのはとシャーリーの言葉に、スバルが慌てて声を掛けるが

 

「大丈夫だと思うよ。彼、12年間最前線で戦い続けたらしいし」

 

「では、セット!」

 

「冬也さん。あなた達が今後戦うのは、これです」

 

なのはの言葉と同時に、冬也の周囲に大多数の楕円形の機械が出現した

 

「な!?」

 

「あの機械は!!」

 

「あの場所で出た機械じゃねーか!」

 

その機械は、ネギ達にとって見たのは2回目だった

 

「正式名称はガジェット・ドローンです。このガジェットが今後の私達の敵です」

 

それを聞いた冬也は、右手を肩の高さまで挙げると

 

『夜叉、セットアップ』

 

<承知、セットアップ!>

 

次の瞬間、左手の腕輪が光って、光が収まると冬也はバリアジャケットを纏っていた

 

「あのバリアジャケットは……」

 

「近接戦闘を重視してるみたいね」

 

「シグナム副隊長みたいに、片刃系の武装ですね」

 

すると、冬也の格好を見た刹那と冥夜の目元が細まった

 

「彼の格好は……」

 

「あれは、死装束ではないか……」

 

「死装束って、なんですか?」

 

二人の言葉を聞いたネギが、問い掛けた

 

「誰かが死んだ時に、その喪に服するために着る服です……」

 

「それを着るとは……誰かの形見なのか?」

 

「なるほど……」

 

と、3人が話していると

 

「それじゃあ、シミュレーション開始!」

 

と、なのはが告げた

 

すると、冬也を包囲していたガジェットは、開始の合図と同時に蒼い光弾を放った

 

冬也は目を細めるだけで、動かず

 

そして

 

冬也の居た場所が、爆炎に包まれた

 

「あぁ!?」

 

「直撃!?」

 

キャロとエリオの二人は、目を見開いて驚いている

 

「速いでござるな」

 

「ああ、我々の目でも影しか見えない」

 

しかし、ネギ達は冷静に見ていた

 

「え? それって、どういう意味ですか?」

 

「冬也さんは、とっくに避けてるよ」

 

ほら、あそこ。と言いながら、なのははある方向を指差した

 

『ふむ、完全に直っているな』

 

なのはの指差した先には、両手に刀を握った冬也が、無傷で立っていた

 

「えっ!? いつの間に!」

 

「早っ!」

 

ティアナ達が驚いてる視線の先で、冬也はゆっくりと、2本の刀を腰の鞘に納めた

 

その直後

 

数多のガジェットが、縦、横、斜めに切れて、爆発した

 

「い、いつの間に……」

 

「早過ぎて、見えませんでした……」

 

スバルとエリオが呟いていると

 

『ふっ!』

 

冬也は両腕を後ろに突き出した

 

すると、手首の辺りから細い物が飛び出した

 

「あれは……ワイヤーですね」

 

冬也の手首から伸びたワイヤーが、ガジェットの装甲に付くと

 

『ふっ!』

 

冬也はそれを、力づくで振り回した

 

それにより、数機巻き込まれて爆発した

 

「凄い……あんな方法で撃破するなんて……」

 

「想像つかないわね……」

 

すると、冬也は腰の2刀を抜いて剣先を下に向けるように交差させた

 

『忌剣……夜駆け!』

 

「忌剣!? まさか……」

 

「刹那さん? どうしたんですか?」

 

「彼は、草壁一族の生き残りなのかもしれません」

 

「草壁一族?」

 

「はい、陰陽師、安部清明の教えを守り、連綿と受け継いできた土御門一族、その分派。それが草壁一族なんです」

 

「なるほど……あれ? でも、生き残りって、どういう意味ですか?」

 

刹那の説明を聞いたネギは納得しかけるが、首をかしげた

 

「草壁一族は、当時、忌み嫌われてた魔法を取り込んで戦った一族でして、その魔法を使った剣技を作ったんです。それが、忌剣なんです。そして、妖刀を使うために、妖怪の血を取り入れたんです」

 

「妖怪の血を? でも、それって刹那さんと同じ半妖ってことですよね?」

 

「私のは鳥族《うぞく》の血なので、人に順応しました。しかし、草壁一族は鬼神の血を取り入れたんです。その結果……滅びました……」

 

「血に……飲まれたんですか?」

 

「はい……人から化け物に堕ちて、最後は同じ人に滅ぼされました」

 

刹那は辛そうに、俯いた

 

「うわっ! なにあれ!?」

 

スバルの驚いた声に、ネギたちは視線を戻した

 

すると、どうだろうか

 

冬也が、5人近くに増えていた

 

「幻術魔法!?」

 

「ううん、あれは純粋な高速移動だね」

 

「所謂、分身でござるな」

 

「ええ、あの様子だと、瞬動を体得してるようですね」

 

「瞬動って、なんだ?」

 

「地上での高速移動術です。達人クラスですと、必須の技術です」

 

当麻の疑問に、刹那が答えた

 

その瞬間

 

冬也の斬撃で、残っていたガジェットが全機爆発した

 

それを確認したなのはは、タイマーを止めた

 

「やっぱり強いね。2分半か」

 

「「「「2分半!?」」」」

 

なのはの告げた時間を聞いて、フォワード陣は全員驚いた

 

「あたし達は、半分の数で10分くらい掛かったのに………」

 

「強い……」

 

「うん、確かに強いね。それに、気付いた? 彼、近接戦闘のみしかやってないよ」

 

「「「「あ、そういえば」」」」

 

そう、冬也が使ったのは二本の刀とワイヤーのみ

 

しかも、魔法すら使っていない

 

「彼、相当強いね。実戦経験に裏打ちされてる」

 

なのはが感心していると

 

『終わりで、いいんだな?』

 

と、冬也が聞いてきた

 

「あ、はい。こちらに戻ってください」

 

『了解した』

 

冬也はなのはの指示に従い、バリアジャケットを解除してから、戻った

 

「それじゃあ、次はネギ君。お願いしていいかな?」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

なのはの言葉に、ネギはうなずいた

 

そして、入れ替わるように、ネギが訓練場に入った

 

「え? ネギくんも戦えるの?」

 

「はい、ネギ先生は私達の中では最強クラスの戦闘力を有しています」

 

「勝てるのは、明日奈殿くらいではござらんか?」

 

等々、刹那たちが話していると

 

「え!? 先生!? あんな子供が!?」

 

スバルが驚愕の表情で振り返った

 

「そうアルよ。ネギ坊主は私達の先生アルよ」

 

「ネギ先生はイギリス語に日本語、英語、ラテン語を話せます」

 

「うわぁ……天才少年だ……」

 

と、スバルたちが話していると

 

「それじゃあ、設定はさっきと一緒で始めるよ?」

 

『はい、大丈夫です!』

 

すでに、ネギがスタンバイを終えていた

 

「それじゃあ、シミュレーションスタート!」

 

『両腕解放! 千の雷! 固定、掌握! 魔力充填! 術式兵装、雷天双壮!』

 

ネギが呪文を唱え終わると、姿が変わった

 

その姿は、あの空港跡地で戦っていた姿だった

 

「うわっ!? なにあれ!」

 

「ネギさんの体が発光してます!」

 

スバルとキャロは、ネギの姿が様変わりしたことに驚いている

 

「はい。あれが、ネギ先生の最強モードです」

 

刹那がそう告げた瞬間だった

 

画面から、ネギの姿が消えた

 

「え!? 消えた!?」

 

「ど、どこに!?」

 

ティアナとエリオは、ネギを探し始めた

 

「早いな。6機か」

 

冬也が呟いた瞬間

 

6機のガジェットが、爆発した

 

「え!?」

 

「み、見えない!」

 

「私でも、見えないね。フェイトちゃん以上かな」

 

なのはは冷静に言っているが、内心、驚いていた

 

(フェイトちゃん以上なんて、初めてだよ)

 

「お前達、どこを見ている。上だ」

 

と冬也は、上を指差した

 

その先には、見失っていたネギの姿があった

 

「い、いつの間に……」

 

「早過ぎる……」

 

スバル達が呆然としていると

 

『千躰雷囮結界《せんたいらいがけっかい》!』

 

ネギが文字通り、千体に増えた

 

「ええ!? 増えた!?」

 

「ど、どれが本物!?」

 

スバルたちは、どれが本物のネギか確認しようとするが

 

「無駄だ、俺ですらわからん。あれは全て、雷による実体のある分身だ」

 

冬也の冷静な一言で、探すのを止めた

 

すると

 

『千磐破雷《チハヤブルイカズチ》!!』

 

千体のネギが雷光を纏いながら、地表に突撃した

 

それにより、土煙が視界を覆いつくした

 

そして、数瞬後

 

衝撃波が、到達した

 

「うわっ!」

 

「わぷっ!」

 

スバルとティアナは、腕で目元を覆って耐えたが

 

「わわっ!」

 

「あぁ!」

 

エリオとキャロは、衝撃波で倒れそうになった

 

しかし、それを冬也が片手で支えた

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「気にするな」

 

すると、訓練場の方の土煙が消えた

 

『えっと、終わったみたいなんですけど………』

 

「あ、うん。戻っていいよ」

 

ネギに返事しながら、なのははタイマーを見た

 

「早すぎる………約40秒だよ……」

 

「「「「40秒!?」」」」

 

スバルたちが驚いていると、ネギが戻ってきた

 

「え、えっと……どうでした?」

 

「十分すぎるよ……」

 

なのはが呆然としていると

 

「ネギくん」

 

「はい? なんですか、冬也さん?」

 

「さっきの魔法。なにを犠牲にして得た?」

 

冬也がそう言った瞬間

 

全員の動きが止まった

 

「なんのことでしょうか?」

 

「とぼけなくっていい。あれは本来、外に出して敵に害なす攻撃魔法を自分で取り込んで、その魔力と魔法の効果で身体能力を無理やり強化する魔法だろう?」

 

「…………」

 

「沈黙は肯定と取るぞ? 俺も過去に似たようなことをしたから、わかる。あれは、人間では不可能だ。俺も正直、死に掛けた」

 

「………」

 

「これは俺の推測だが………人間を辞めたな?」

 

「……ネギくん?」

 

冬也の言葉を聞いたなのはが、ネギに問いかけた

 

「………はぁ、正解です。凄いですね、冬也さんは」

 

「12年間最前線に居れば、嫌でもわかるさ」

 

冬也とネギが話していると、なのはがネギに近寄った

 

「ネギくん。どうして……そんな魔法を?」

 

「……力が必要だったんです。生徒の皆さんを……守るための力が……だから僕は、闇の魔法を習得したんです」

 

ネギは真剣な表情で、なのはに告げた

 

「まあ、後で明日奈さんたちに怒られちゃいましたけど」

 

「当たり前よ。何回心配したことか」

 

ネギの言葉に、明日奈はネギの頭に手を置きながら、憤然とした

 

「あはは……すいません……」

 

と、ネギが苦笑いしていると

 

「なのはちゃん、ごめんな~。待たせたわ」

 

と、関西弁が聞こえた

 

全員が見ると、はやてが来ていた

 

「あ、はやてちゃん」

 

「「「「八神部隊長!」」」」

 

はやてが居ることに気づいたなのはは、片手を挙げて、新人達は姿勢を正して敬礼した

 

「硬くならんでええよ。休め」

 

はやてはそう言いながら、なのはの近くに来た

 

「む、八神か」

 

「あれ、はやてさん?」

 

「はやて? なんでここに?」

 

冬也たちも気付いて、振り返った

 

「あ、それはね…」

 

「ええよ、なのはちゃん。自分で教えるから」

 

なのはが説明しようとしたら、はやてが遮った

 

そして、はやては当麻の前に立った

 

「当麻さん。あんさんの模擬戦の相手は……私や!」

 

「………ホワッツ!?」

 

 

 

どうやら、当麻の受難はここでも健在のようである



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実力試験 その2

短くってすいません!!


「はやてちゃん、当麻くん。準備はいい?」

 

『こっちはOKや』

 

『もう好きにしてください……』

 

なのはが聞くと、はやては普通に、当麻はうな垂れながら返事をした

 

「それじゃあ、ルールを確認します。どちらかが戦闘不能もしくは、降参を宣言したら終了です。ただし、はやてちゃんは飛行はなしね? 当麻くんが飛べないから」

 

『了解や』

 

「あ、数cmなら浮いてもOKだよ?」

 

『わかった』

 

「それじゃあ、スタンバイ・レディ!」

 

なのはが言うと、二人は構えた

 

そして

 

「試合、開始!!」

 

と、なのはが告げたと同時に

 

『おぉぉぉ!』

 

当麻がはやてに向かい、全速力で駆け出した

 

『ちょっ! いきなりかいな!』

 

はやては当麻の行動に慌てながらも、杖を構えた

 

『穿て、ブラッディ・ダガー!』

 

はやての周囲に、赤いクナイが数本、現れ

 

赤い尾を引いて、当麻に迫った

 

『っ!』

 

当麻はそれを、前転するように避けると、一気に体勢を立て直し

 

『おらっ!』

 

右手を振るった

 

はやては、それをバックステップで躱すと、一気に後退して杖を高々と掲げ

 

『響け、終焉の笛! ラグナロク!』

 

呪文を唱えた

 

「ちょっ! はやてちゃん! それはマズい!」

 

なのはが制止しようとするが、間に合わない

 

『ブレイカー!』

 

はやての杖先から、白い極太の光線が当麻に放たれた

 

当麻はそれを見ると、右手を正面に突き出し、左手で支え……

 

光線が、当麻に直撃した

 

が、少しの間

 

当麻は耐えていた

 

(消しきれねぇ!)

 

よく見ると、当麻の右手がラグナロクブレイカーを止めていた

 

しかし、あまりにも威力が大きいためにか、消しきれずに、腕がブレ続けた

 

そして、数秒後

 

爆発が起きた

 

『アカン……やり過ぎたかも……』

 

はやてはそう言いながら、爆発地点に近づいた

 

「はやてちゃん、幾らなんでもやり過ぎだよ!」

 

と、なのはが注意した

 

その時だった

 

『おぉぉぉ!』

 

服の至る所が破け、所々出血している当麻が、煙を裂いて現れた

 

「なっ!?」

 

『なんやて!?』

 

はやては予想外の事態に唖然として、当麻の接近を許した

 

そして、当麻が右腕を振り上げた

 

「む、待てよ? ……なのはよ」

 

「は、はい。なんですか?」

 

「確か、当麻の幻想殺しはあらゆる異能。魔法も打ち消す、だったな?」

 

「え、ええ。そう聞いてます」

 

「だったら……魔力で構成されてるバリアジャケットも消えるんじゃないか?」

 

「…………あ」

 

冬也の言葉に、なのはは顔を青くした

 

「当麻くん! 待って……」

 

なのはが、慌てて制止するが

 

止まるわけがなく……

 

『くっ!』

 

はやてはギリギリで、回避行動を取るが

 

当麻の拳が

 

はやてのバリアジャケットに、掠った

 

『危ない、危な……』

 

と、はやてが呟いた

 

その瞬間

 

はやてのバリアジャケットが

 

無惨にも、ちぎれた

 

「あー………」

 

「遅かったか……」

 

『……………』

 

『…………』

 

当麻とはやては茫然としている

 

少しすると、はやての顔はみるみる真っ赤に染まり、左手で胸元を隠した

 

当麻は何を言っていいのかわからないらしく、しばらく固まっていた

 

すると、はやてが杖を高々と掲げた

 

すると、当麻はなにを思ったのか

 

『ビュ、ビューティフォー』

 

すると、当麻の呟きが聞こえたのか、はやては真っ赤だった顔を更に赤くして

 

『~~~~っ!』

 

なんとも言えない表情をしながら、全力で杖を

 

当麻の頭目掛けて、振り下ろした

 

鈍い音が通信画面越しに、全員に聞こえて

 

新人達は一瞬、目を閉じた程の音だった

 

後に、シャマルはこう語る

 

『あんな大きいタンコブ、初めて見たわよ』

 

そして、シグナムは

 

『あんな顔の主は、初めて見たな』

 

 

ヴィータは

 

『なんか、嬉しそうだったな』

 

と語っている

 

補足だが、この時のことをはやてに聞こうとすると

 

その度に、顔を赤くして、全力で走り去るとか



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模擬戦とその後の………

言ってやる! 駄文だと!!

あ、いけね、アイツを忘れてた……


現在時刻 午前11時 場所 機動6課訓練スペース

 

廃墟ビル郡を想定して再現された、訓練スペースの中央で……

 

「なぜ、こんなことになっている……」

 

冬也はバリアジャケットを展開した状態で、唸っていた

 

なお、目の前には……

 

「えっと、やっぱり仲間になったからには実力を把握しないとね…」

 

バリアジャケットを展開して、苦笑いを浮かべているフェイトが居た……

 

話は今から、約10分ほど遡る

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ふむ、あとはここをこうすれば……」

 

と、冬也がデバイスを作っていた時だった

 

プシュー

 

「冬也さん、居る?」

 

空気が抜けた音が聞こえて、中を覗いているのはフェイトだった

 

「む? どうした?」

 

冬也は作業を一旦止めて、視線をフェイトに向けた

 

「ああ、よかった、実はね。ちょっと模擬戦をしたいんだ」

 

「模擬戦だと? しかし、フェイトのデバイスは確かメンテナンスに出してなかったか?」

 

「そうなんだけd…あ、ここに置いてあった」

 

フェイトが口ごもると、目の前の机の上に待機形態のバルディッシュが置いてあったのを見つけて、回収した

 

そして

 

「それじゃあ、今から訓練場に行って模擬戦しよう!!」

 

と、冬也の手を握って走り出した

 

「おい、ちょっと待て! 引っ張るな!」

 

冬也の抗議虚しく、フェイトは冬也の手を引っ張って走り出した

 

その時2人は気がつかなかったのだ、机から落ちたある札に……

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

『2人とも、準備はええか?』

 

通信画面には、はやての顔が映った、はやてを含めた6課メンバーの主なフォワードのメンツはデバイスルームに居るのだ

 

「私は何時でもいいよ」

 

フェイトは両手にバルディッシュを構えて言って

 

「もう、勝手にしてくれ…」

 

冬也は、半ば諦めかけた状態で言うと

 

『せやったら、模擬戦開始!!』

 

はやての合図とともに、2人は突撃した

 

場所は変わって、デバイスルーム

 

「ほう、テスタロッサに追いつけるとは、なかなかだな」

 

シグナムは画面を見ながら、冬也を褒めた

 

「あのフェイトさんと互角なんて…」

 

「凄いです…」

 

エリオとキャロは、冬也がフェイトと互角に戦えてることに驚いていた

 

しかし

 

「うーん、なんか忘れてるような……」

 

横ではシャーリーが腕を組んで唸っていた

 

「どうしました、シャーリーさん?」

 

「さっきから唸って、どうした?」

 

武と当麻は、唸っているシャーリーに気付いて声をかけた

 

「ああ、なんか忘れてるような気がしてねー、うーん、なんだっけ……」

 

と、シャーリーは唸りながら下を向いた

 

「ん?」

 

シャーリーは、なにか落ちていることに気付いて拾った、それには……

 

「あーーー!!」

 

<メンテナンス中>の文字が書かれていた……

 

「ど、どうしたんや? いきなり大声なんか出して」

 

はやては、大声を出したシャーリーを目を丸くして、見つめた

 

「思い出しました、フェイトさんのデバイス……まだ、整備中なんです!」

 

「「「「「ええーー!!??」」」」」

 

全員は、シャーリーの言葉に驚愕した

 

「しかも、今調べたんですけど……、非殺傷設定外れてるみたいです……」

 

シャーリーは、気まずそうに呟いた

 

「なんやって!? はよ、止めな!!」

 

はやては、機械をいじるが……

 

「あかん! 通信できへん! 誰か、訓練場に直接向こうて止めてきて! それと、医務室に行ってシャマルを向かわせて!」

 

「訓練場には俺が行きます!」

 

武はそう言うと、デバイスルームを飛び出した

 

「それでは、私が医務室に向かいます!」

 

「頼むな!」

 

また、場所は変わって、訓練場

 

「わかってたけど、冬也さん強いですね!」

 

「そういうキミもな! (バルディッシュの調子がおかしい、さっきから異音がする)」

 

冬也は、何回か打ち合った時にバルディッシュから異音がしたのに、気付いたのだ

 

「さて、そろそろ終わらせようか、夜叉!」

 

<承知、イクスプロージョン!>

 

夜叉の峰の部分の機構が作動して、2発の薬莢が排出された

 

「もうちょっと、戦いたいですけど、仕方ないですね、バルディッシュ!」

 

<イエス・サー! カートリッジロード!>

 

バルディッシュも2発カートリッジを炸裂させたが……

 

(まただ、また聞こえた! 今、確かにミシッって聞こえた!)

 

冬也は僅かな音を聞き逃さなかった

 

「行きます! プラズマ・ザンバー!」

 

何時もは鎌のフェイトのバルディッシュが変形して、雷光纏う大剣に変わった

 

(来るか!)

 

フェイトが大剣を構えたのを見て、冬也も身構えた

 

「疾風迅雷!」

 

その瞬間、フェイトの姿は消えて、冬也の背後に現れた

 

(間に合え!!)

 

冬也は急いで左手を後ろに回す

 

「貰いました!!」

 

フェイトは勝利を確信して、振り下ろした

 

大剣が当たった瞬間、土煙が上がり、フェイトの視界を埋め尽くした

 

「ケホッ! どうなったのかな?」

 

フェイトは、大剣を引き戻そうとしたが

 

グイッ!

 

「え!?」

 

フェイトは思いっきり引っ張られてバランスを崩した、普段ならばこうはならなかっただろう

 

しかし、今回は勝てたと思い油断したのだ

 

「すまない……」

 

その言葉を聞いた後に、フェイトの意識は深い闇の底に沈んだ……

 

第3者sideEND

 

冬也side

 

「むぅ……流石に治りが遅いか……」

 

俺は、右手で意識を失っているフェイトを抱えながら、左手を見た

 

そこには、焼け爛れた左掌が見えた

 

なお、真ん中には切り傷痕があった、フェイトの大剣を左手で受け止めたのだ

 

「ふむ、夜叉、幻影魔法で隠してくれ。それと、パワーアシスト機構で俺の左腕を動かしてくれ」

 

<承知しました、あんまり無理しないでくださいね?>

 

「ふむ、善処しよう」

 

冬也sideEND

 

第3者side

 

「冬也隊長! フェイト隊長! 模擬戦を止めてください!」

 

武が、そう叫ぶと(冬也を隊長と呼ぶ理由は、以前はやてが部隊を決めた時に、冬也を隊長とした第3の分隊を設立したためだ)

 

「む? 武か?」

 

武の目の前に、フェイトをお姫様抱っこで運んできた冬也が居た

 

「冬也隊長! 大丈夫ですか!?」

 

「ああ、問題ない。それより先に、フェイトを医務室に運びたいから、すまんな」

 

「わかりました、俺は皆さんに状況を教えてきますね!」

 

武は言うと同時に走り出した

 

「さてと、運ぶか……」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、医務室

 

「ええ!? フェイトちゃんと冬也さんが!?」

 

「はい、ですから、急いで訓練場に!」

 

医務室では、冥夜が状況を説明していた。シャマルは話を聞いて驚いている

 

「わかったわ、すぐに!」

 

と、シャマルが医療キットを抱えてドアに向かった、その時だった

 

「ふむ、入れ違いにならなくってよかったよ」

 

ドアが開いた先には、フェイトをお姫様抱っこしている、冬也が立っていた

 

「冬也隊長! お怪我は大丈夫なんですか!?」

 

「ああ、大丈夫だ。シャマル先生、フェイトを頼む。気絶してるだけとは思うが、念のためにな」

 

冬也は、抱えていたフェイトをシャマルに見せた

 

「わかったわ、そこのベッドに寝かせてくれる?」

 

「了解した」

 

冬也はシャマルの指示に従って、フェイトをベッドに寝かせた

 

すると、シャマルはすぐにフェイトに近づき、色々検査をすると

 

「大丈夫そうね、これならすぐに起きると思うわ」

 

と、冬也に向き直って言った

 

「ふむ、それじゃあ、俺は自室に戻るか…」

 

と、冬也が医務室を出ようと身を翻したときだった

 

「冬也さん、待った!!」

 

ドアの前で、なのはが立っていた

 

「なのはちゃん?」

 

「なのは隊長…」

 

「ふむ、なのは? どうしたのかな?」

 

なのはは、冬也に近づくと…

 

「冬也さん、バリアジャケットと幻影魔法、解除してください」

 

「気付いていたか……」

 

冬也は、なのはの言葉に苦笑いした

 

「当たり前です! いつもより動きが鈍いんですから!」

 

なのはは、思わず大声を出していた

 

「夜叉、リリース…」

 

冬也は夜叉に命じた

 

すると、バリアジャケットが解除されて…

 

「やっぱり…」

 

なのはの視線の先には、焼け爛れた左手があった

 

「冬也隊長!」

 

冥夜は顔を青ざめて、声を張り上げた

 

「医務室では静かに…って、どうしたの!?」

 

シャマルがフェイトにタオルケットをかけて戻ってきて、うるさくしていた3人に注意しようとした時、冬也が怪我をしているのに気付いた

 

「シャマル先生、冬也さんも治療を!」

 

なのはは、視線をシャマルに向けて頼んだ

 

「ええ、わかったわ!」

 

「むぅ、このくらいならば、ほっとけば……」

 

冬也は断ろうとしたが…

 

「「治療します!!」」

 

「はい……」

 

あまりの迫力に気後れした

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数分後

 

「まったく、あなたも無茶するわね。フェイトちゃんのプラズマ・ザンバーを掴むなんて」

 

シャマルは、冬也の左手の治療をしながら諌めた(なのはと冥夜は、冬也の現状を伝えに行った)

 

「ああでもしなければ、フェイトのほうが大怪我をしていただろうよ」

 

冬也は治療されている手を見ながら、呟いた

 

「気付いてたの?」

 

シャマルは驚いた様子で、冬也を見つめた

 

「ああ。時々バルディッシュから聞こえていた異音、あのままやっていたら、爆発でも起こしていただろう」

 

「ええ、実際その通りね、バルディッシュね、まだ整備中だったのよ」

 

それを聞いた冬也は頭を振った

 

「あそこに置いてあったのは、そういうことか」

 

そして、冬也はため息を吐いた

 

「はい、終わり、しばらくは引き攣《つ》るかもしれないけど、無理しないでね」

 

シャマルは治療が終わると、器具や包帯を片付ける

 

「すまない」

 

冬也は謝ると、あくびをした

 

「む、すまん、少し…眠る……」

 

冬也はそう言うと、イスに座った状態で眠った

 

「あらあら、眠るならベッドで寝て欲しいわね」

 

シャマルは、イスに座って寝ている冬也を見て苦笑した

 

「う、うん……」

 

ベッドに寝ていたフェイトの瞼が、震えた

 

「あら、起きたようね、気分はどう?」

 

シャマルは、起きたフェイトに近づき尋ねた

 

「あれ? シャマル? あれ? なんで私、医務室に?」

 

フェイトは状況が掴めないのか、周囲を見回した

 

「覚えてないのね? えっと、冬也くんと模擬戦したのは覚えてる?」

 

シャマルは、状況が掴めていないフェイトに聞いた

 

「うん、それで確か、プラズマ・ザンバーで切りかかって…」

 

フェイトは、そこまで言ってようやく思い出したようだ

 

「負けたんだ…」

 

「ええ、そうね。けど、冬也くんに感謝しないとね」

 

フェイトは、シャマルが言った言葉の意味が分からなくって首を傾げた

 

「感謝?」

 

「ええ、バルディッシュなんだけどね、まだ整備中だったのよ」

 

「え!?」

 

フェイトは、シャマルの言葉を聞いて驚いた

 

「しかも、非殺傷設定まで外れてたんですって。冬也くんは異音がしたのを聞いたらしいわよ?」

 

フェイトは、シャマルの言葉を聞いて顔を青くした

 

「え? ちょと待って、じゃあ冬也さんは!?」

 

フェイトは上半身を起こして、シャマルに尋ねた

 

「ん? あそこよ」

 

シャマルは、イスで眠っている冬也を指差した

 

フェイトは、イスで眠っている冬也を見て、息を飲んだ

 

冬也の左手には、真新しい包帯が巻かれていた

 

「そんな……」

 

フェイトは、ベッドからゆっくりと降りて、冬也の近くに寄った

 

「彼ね、左手に魔力を集中させて、ザンバーを掴んだみたいね。でも守りきれなくって、火傷したみたい、ああ、大したこと無いから、安心してね」

 

シャマルは、使用した薬品などを仕舞うと

 

「それじゃあ、私はみんなにフェイトちゃんが起きたことを伝えにいくから、ゆっくり休んでね?」

 

と、医務室から出て行った

 

第3者sideEND

 

フェイトside

 

「冬也さん……こんな無茶して……」

 

私は、眠っている冬也さんの左手を見ながら言った

 

その左手は、今は包帯で覆われており、痛々しい

 

「どうして、そんな無茶ばっかりするのかな…」

 

思えば、初めて会った時もそうだった

 

彼は、会ったばかりの私のためにその身を挺して、私を助けてくれた

 

今回だってそうだ、彼は装甲に覆われていない掌で、ザンバーを掴んでまで、模擬戦を止めた

 

「少し、不器用なんだね……」

 

そう、彼は不器用なのだ

 

そこで、彼が言っていた言葉を思い出した

 

『俺は12年前から最前線に居たからな』

 

つまりは、戦場しか知らない

 

すなわち、戦いしか知らない

 

一体、どれほどの理不尽や絶望を見たのだろうか

 

恐らく、それは私達には想像すら出来ないだろう

 

それなのに、人を守るために戦い続けた

 

自分を犠牲にし続けてまで、救ってきた

 

「そんなの、悲しすぎるよ……」

 

だったら、私にできるのは?

 

せめて……

 

「日常を教えてあげたいな……」

 

そう、本当に普通の日常

 

出かけたり、買い物したり、遊んだり

 

そういう日常を

 

彼は、そんな日常を経験しないで育ってしまった

 

だから、こんなに不器用なんだろう

 

「休暇になったら、彼を誘おうかな……」

 

私は密かに決意した……

 

 

 

 

因みに、この時外にはみんなが居て、後で微笑みながら見守られました……

 

恥ずかしい……



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二人の会話

駄文です。すいませんでした!!

ors


ある日の夜

 

場所  はやての部屋

 

薄暗い室内の窓際に当麻が一人立っていて、外を眺めていた

 

「俺も………とんでもない所に来たんだな……」

 

そう言っている当麻の表情は、懐かしんでいるのか……なんとも言えない表情をしていた

 

すると、空気が抜ける音がしてドアが開いた

 

「あれ? 当麻くん。まだ起きてたんか? もう12時過ぎとんで?」

 

「おう、はやてにリイン」

 

そう言って入ってきたのは、もちろん部屋の主である、はやてだ

 

その肩にはリインは乗っていて、眠そうにしている

 

「ほれ、リイン。寝るならベッドで寝てな」

 

「はいですぅ………」

 

リインはフワフワと飛んで、ベッドの近くに行くとパジャマに着替えて、早速寝たのだった

 

「で、当麻くん。なにしてたん?」

 

「んぉ? まあ、俺も波乱万丈な半年を歩んだなーと思ってな」

 

「ほうほう、どんな人生を?」

 

「ん~、最初のほうは覚えてないけど、錬金術師と戦って右腕が肩から切れたり」

 

「え?」

 

「学園都市最強のレベル5と戦って、全身から出血したり」

 

「えっと?」

 

御使堕し(エンゼルフォール)っつう入れ替え事件で、大天使が降りてきて、殺人鬼と戦ったり」

 

「はい?」

 

「それに、ローマ正教の宗教上でのシスターを助けたり、アビニョンでの暴動の原因と戦ったり」

 

「………」

 

「学園都市での大運動会でローマ正教の支配から、学園都市を守るために走り回ったり」

 

「………」

 

「学園都市に侵入してきた魔術師に着いてって、呪いを解いたり」

 

「こっちは単純な人助けやね……」

 

「世界に20人しか居ない聖人の一人と戦って、病院に入院もしたし」

 

「っていうか、病院の回数多くない?」

 

「後は………おお! イギリスの女王に呼ばれて、バッキンガム宮殿に行って、お茶をご馳走になって、話をしたな」

 

「ちょい待ちい! あきらかに、一般人が会えるレベルやない!」

 

「んでそこから、第二皇女と騎士派の引き起こしたクーデターに巻き込まれて、第二皇女と戦ったな」

 

「あー、あの事件かー………って、それも関わってるんか!?」

 

突っ込みのオンパレードである

 

「んで、あの第三次世界大戦だったな」

 

「なんで当麻くんが、第三次世界大戦のど真ん中に居たのか、すっごい気になるんやけど?」

 

はやての疑問も、もっともである

 

「まぁ、全部に共通してるのがな」

 

「ん?」

 

「俺がやりたかったからなんだ」

 

「当麻くんが、やりたかったから?」

 

「ああ、俺はな……俺の手の届く範囲で、誰かが傷つくのが……不幸になるのが、嫌だったんだ」

 

当麻の言葉にはやては、無言で当麻を見つめた

 

当麻の表情はとても真剣で、とても優しい表情だった

 

「だから俺はな、周りが言う無茶を何度もやったんだ」

 

当麻は言いながら右手を握って、窓から空を見つめた

 

はやてはその顔を見つめていた

 

(かっこええなぁ………ってあれ? なんや? なんか、胸がドキドキする……)

 

そう思うとはやては、両手で胸元を押さえた

 

「どうした、はやて?」

 

気付けば当麻が、はやての顔を覗き込んでいた

 

しかも、かなり近い

 

(ち、近っ!)

 

しかも、このタイミングではやては、あの一件を思い出した

 

以前、当麻の右手の幻想殺しによって、はやてのバリアジャケットが破れた、あの<腕試し>を

 

それを意識したはやての顔が、一気に真っ赤に染まった

 

(あ、あかん! 今確実にあたしの顔、真っ赤になっとる!!)

 

「どうした、はやて? 顔が赤くなってるが?」

 

顔が赤くなったはやてを心配したのか、当麻がさらに顔を近づけた

 

「だ、大丈夫や!!」

 

気付けばはやては、拳を当麻に繰り出していた

 

そしてその拳は見事に、当麻の腹部にクリーンヒットした

 

「ぐふぅ! ふ、不幸だ…………」

 

当麻の脳内では、なぜかゴングの音が鳴り響いていた………



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新デバイス

遅くってすいません


ある日の早朝訓練である

 

「はーい、早朝訓練終了!」

 

「「「「「お疲れ様でした!」」」」」」

 

ある日のなのはの早朝訓練は、最後にシュートイベーションをやって、エリオの一撃が当たったので終了となった

 

因みに、現在、冥夜と武は拳銃型と剣型のデバイスを練習用に利用している

 

「うん。皆、訓練の成果が出てきたね。いい連携だったよ!」

 

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

なのはは褒めてから、視線を横に移動した

 

「で、当麻くんは大丈夫?」

 

その先には、当麻がグデグデで寝転がっていた

 

「………だったら……集中攻撃を……しないで、ほしかった………」

 

「いやぁ、当麻くんが私の攻撃をことごとく消すから、ついついムキになっちゃった」

 

当麻の言葉に、なのはは苦笑しながら、ごめんね? と誤っている

 

その時だった

 

「ん? なんか、焦げ臭いぞ?」

 

と、武が鼻をスンスンとしながら言った。すると

 

「ん? あ! スバル! あんたのローラー!!」

 

と、ティアナがスバルの足元を指差しながら叫んだ

 

「へ? あ! やっば!」

 

と、スバルはしゃがんでローラーを脱いで抱えて、持ち上げた

 

「オーバーヒートかな? 後でシャーリーに修理してもらってね」

 

「はい……」

 

スバルは漏電して、煙が出ているローラーブーツを悲しそうに見ている

 

「ティアナのアンカーガンも厳しい?」

 

なのはは先ほどのシュートイベーションで、ティアナのアンカーガンが不発を起こしたのを思い出した

 

「はい、正直騙し騙しです………」

 

ティアナは、脇のホルスターからアンカーガンを抜いて見つめた

 

「んー、皆いいレベルまで来たし、そろそろ新デバイスに切り替えかなー」

 

と、なのはは視線を上に向けながら呟いた

 

「新?」

 

「デバイス?」

 

「うん、それじゃあ皆はシャワーを浴びて、ロビーに集合しようか」

 

「「「「「「はい!」」」」」」そして、訓練場から出て、6課隊舎に向けて歩いていると

 

「おお、武たちか」

 

と、冬也が森の中から出てきた

 

その後方からは、刹那と明日奈が続いて現れた

 

「冬也さんに刹那ちゃん。それに明日奈ちゃんは、何処から出てきてるの?」

 

「ん? 森だが?」

 

天然である

 

「そうじゃなくって……」

 

なのはは思わず、額に手を当てた

 

「冬也隊長は、どうしてそこから出てきたんですか?」

 

「そうそう」

 

「ああ、俺は剣術の修行だな。日課にしている」

 

と、冬也は夜叉の野太刀形態を手にしていた

 

「私達もですね」

 

「あたしは、刹那さんに教えてもらってたの」

 

「なるほど、納得しました」

 

と、歩きながら話していると

 

ブロロロロロ

 

と、聞こえてきたので、音のした方向を見ると

 

黒地の車がこちらに向かってきており、それに乗ってたのは

 

「おや、フェイトにはやてか」

 

六課部隊長の八神はやてと分隊長のフェイト・T・ハラオウンだった

 

「おはよう、皆」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「なかなか、良い車に乗っているな」

 

「ありがとう、冬也さん。これ、地上での移動手段なんだ」

 

フェイトは、窓から冬也を見上げる形で言った

 

「ところで皆、訓練はどうや? 順調か?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

はやての質問に、全員息をそろえて返答した

 

「でも、武さんと冥夜さんが凄いですよ」

 

「はい、援護の必要がまったくないんです」

 

「ええ、お互いの隙をカバーしてますし、むしろ、私達が援護されてますし」

 

ティアナ達は訓練中の武たちの連携を思い出しのか、興奮している

 

「あれが、俺達にとっての普通なんだよ」

 

「うむ。ああせんと直ぐに、BETAに殺《や》られてしまうからな」

 

武と冥夜は、ティアナ達の言葉にそう返事した

 

「そういえばBETAって、なんですか?」

 

スバルは武たちが言ったことが気になり、質問した

 

「ん? まぁ、簡単に言うと、宇宙生物だな」

 

「ああ、常に何万と押し寄せてくる我等の敵だった」

 

武と冥夜は複雑な表情で語る

 

「「「「「何万もの敵……」」」」」

 

フォワード陣は武たちの表情から察したのか、深くは聞かなかった

 

「それで、フェイトちゃん達、どこかにお出かけ?」

 

なのはは、フェイト達が出かける様子だったことを思い出して、質問した

 

「うん、ちょっと6番ポートまでね」

 

「教会本部でカリムと会談や、夕方には戻るよ」

 

フェイトとはやては、それぞれ行き先を告げる

 

「私は昼には戻るから、みんなで一緒に食べようか」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「ほんならな!」

 

と、はやてが手を振ると、車は走り出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

車を運転しながらフェイトは、はやてに話しかけた

 

「カリム・グラシアさんか、私は会ったことないけど、どんな人?」

 

「んー、なんつーか、お姉ちゃんみたいな感じやな。実は、機動六課を立ち上げる時に実質的な部分をやってくれたんは、ほとんどカリムなんよ? だから、私は人材集めに集中できた」

 

「そうなんだ、まぁ、イレギュラーも現れたけどね」

 

「せやな、もしかしたら、カリムに聞けば、なんか分かるかもしれへんし」

 

「冬也さん達のことを?」

 

「せや」

 

「うん、頼んだよ。はやて」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

聖王教会本拠地 カリム・グラシア執務室

 

「久しぶりや、カリム」

 

はやての目の前には、腰あたりまで伸ばした金髪に碧眼が特徴の優しそうな女性が居た。

 

この女性がカリム・グラシアである、聖王教会騎士団の騎士である

 

「ホント、久しぶりね、はやて。まぁ、座って」

 

と、カリムは向かいの席を指して、はやてに座るように促した

 

「カリムには、感謝しとるで」

 

はやては紅茶を一口含むと、そう喋った

 

「ありがとう。そう言われると、お願いもしやすいかな」

 

カリムは微笑みながらスプーンをまわした

 

「なんや、今日のカリムはお願いモードかいな」

 

すると、カリムは手のひらサイズのリモコンを取り出して操作すると、カーテンが閉じた

 

「……ちょっと、これを見てほしいの」

 

と、カリムがリモコンを操作すると、画面が現れて、映ったのは

 

「これは…新しいガジェット?」

 

画面は複数映っており、そこには破壊された残骸と、恐らく鹵獲したのだろう、新品同様のガジェットが映っていた

 

「ええ、今発見されているⅠ型のほかに二種類。新しいのが発見されてるの」

 

はやては、画面を食い入るように見つめている

 

「戦闘性能は、まだ不明だけど、コレを見て」

 

と、新しい画面が映った

 

「デカイね」

 

その画面に映っているガジェットの大きさは、大体2m強はある

 

「ええ、Ⅲ型は割りと大型ね」

 

「本局には、まだ報告しとらんやろ?」

 

「ええ、それよりも問題はこっち」

 

と、カリムがまたリモコンを操作して、映ったのは、血の様に赤い宝石だった

 

「これは……レリックやね。でも、まだ早いような」

 

「そうなの、だから直接会って話したかったの、どうするべきか、失敗は許されないから……」

 

カリムは俯いた

 

すると、はやては立ち上がり、窓際に近づくと、一気にカーテンを開けた

 

それにより、室内は明るくなった

 

「心配あらへん! 隊長やフォワード陣はもちろんやけど、今は頼もしい味方が居《お》る!」

 

と、はやては満面の笑みを浮かべた

 

「はやて…、ん? 頼もしい味方って、もしかして、この間連絡してくれた人達?」

 

「せや、神代冬也さん、白銀武くん、御剣冥夜ちゃん。それに上条当麻くん。それにネギくん達や」

 

「一応、名前は知ってるけど。そんなに頼りになるの?」

 

「うん、冬夜さんは、所謂《いわゆる》歴戦の猛者や。なんでも、12年間最前線で戦ってたらしいし、武くんと冥夜ちゃんは軍人やったみたいで、動きは新人達より良い。それに、当麻くんは幻想殺しを持ってて魔法が効かんし、ネギ君達は全員が特殊な道具を持ってるし、強い」

 

「へー、それは凄いわね。もしかして、その人たちについて調べて欲しいのかしら?」

 

「せや、お願いするわ。もしかしたら、カリムの<予言>で出るかもしれへんし」

 

「わかったわ、出来る限り調べておくわ」

 

「ありがとうな」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

女子シャワー室

 

「えっと、スバルさんのローラーブーツと、ティアナさんの銃って、ご自分で組まれたんですよね?」

 

キャロは、シャワーで汗を流しながらスバルとティアナに聞いた

 

因みに、キャロはスバルと一緒に浴びている、その右隣にティアナが入っている

 

「うん、そうだよ」

 

「訓練校でも前の部隊でも支給品って、杖しかなかったのよ」

 

スバルとティアナは、汗を流しながら返答する

 

因みに余談だが、キャロは入る際にエリオを誘ったが、エリオは逃げるように男子シャワー室に駆け込んだ

 

ネギは明日奈に捕まって、現在洗れている最中である

 

「私は、魔法がベルカ式な上に、戦闘スタイルがあんなだし。ティアもカートリッジシステムを使いたいからって」

 

「で、そうなると自分で作るしかないのよ。訓練校じゃ、オリジナルデバイス持ちって居なかったから、目立っちゃってね」

 

「あぁ! もしかして、それでスバルさんとティアさんはお友達になったんですか?」

 

キャロは話を聞いて納得したのか、そう聞くと

 

「腐れ縁と私の苦悩の日々の幕開けと言って!」

 

ティアナは苦労したのだろう、否定した

 

「えへへへ~♪ さて、キャロ。頭洗おっか!」

 

「お願いします」

 

と、スバルがキャロの頭を洗う準備をすると、ティアナはシャワーを止めて、タオルを取ると

 

「私、先に上がってるからね?」

 

と、出入り口に向かった

 

「「は~い!」」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、階段付近

 

「みんな、まだですかね?」

 

そこには、エリオのほかに冬也と武。それに当麻が居た

 

「まぁ、女は風呂は長いからな」

 

「うむ」

 

「そうだな」

 

「だけど、冥夜はそろそろ来るはずだぜ」

 

と、武が言うと

 

「すまん、待たせた」

 

と、丁度良く冥夜が現れた

 

「冥夜さん、早かったですね!」

 

「うむ、軍人として当然のことだ」

 

「15分か、俺達と大して変わらんな」

 

冬也は、近くに掛かっている時計を見ながら言った

 

「ああ、ティアナたちはもう少し掛かりそうです」

 

「わかった」

 

そして、冬也達はティアナたちが来るまで他愛の無い会話を続けた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

デバイスルーム

 

「うわぁ、これが……」

 

「私達の新デバイス…ですか?」

 

「そーでーす! 設計主任あたしと冬也さんとハカセちゃん! 協力はなのはさん、フェイトさん、冬也さん、ハカセちゃん、ネギくん、レイジングハートさんとリィン空曹長!」

 

「はぁ…」

 

スバルたちの前にある机の上には、白地に真ん中にオレンジ色の球体とXのマークがある白いカードに、スバルの魔力光と同じ空色のペンダントが浮かんでいた

 

「ストラーダとケリュケイオンは、変化無し、かな?」

 

「うん、そうなのかな?」

 

エリオとキャロの前には、2人が以前から使っているデバイスの待機形態である、腕時計と羽のような装飾が着いた腕輪が浮いている

 

「違いまーす!」

 

と、いきなり高さ30cmくらいの女の子がエリオとキャロの前に現れた

 

この女の子の名前は、リィンフォースⅡ《ツヴァイ》空曹長と言う、通称リィンである

 

因みに、正確にこの子は人間や妖精ではなく、ユニゾンデバイスなのである

 

余談だが、武と当麻は初めて会った時にリィンを妖精扱いして説教されたのである

 

「変化無しなのは、外見だけなのですよ!」

 

「リィンさん!」

 

「はいです♪」

 

リィンはキャロに返事すると、姿勢を正して

 

「2人はちゃんとしたデバイスの使用経験は無かったですから、感触に慣れてもらうために基礎フレームと最低限の機能で渡したです」

 

「あ、あれで最低限?」

 

「ホントに……?」

 

2人はリィンの言葉に驚いていた

 

「これは、ドックタグと…」

 

「髪留め?」

 

武と冥夜の前には、ダークグレーのドックタグと紫色の三角形の髪留め(フェイトのバルディッシュの色違い版)が浮いていた

 

「うむ、ドックタグのが武ので髪留めのほうが冥夜だ」

 

武と冥夜の近くに冬也が寄ってきて、説明する

 

「開発には、冥夜の機体、確か武御雷《たけみかずち》だったかな? あれの機体データを参考にさせてもらったよ」

 

「はぁ」

 

「あれ? じゃあ、このデバイスは誰のだ?」

 

と当麻が指差したのは、無骨な青い腕時計が浮いている

 

「それは、当麻のだ」

 

「俺の? だけど、俺が触ったら、壊れるぞ?」

 

「そこは大丈夫ですよ~。従来の魔法重視ではなく、科学重視ですので、当麻さんの幻想殺しでも壊れません」

 

「ああ、葉加瀬嬢の技術を中心に、俺の技術とこの世界の技術を融合して完成したんだ」

 

「はぁー。凄いな」

 

と、当麻が感心していると

 

「みんなが扱うことになる6機は、六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と経験の粋を集めて完成させた最新型。部隊の目的に合わせて、そして、エリオやキャロ、武さんに冥夜さん、スバルにティア、当麻さん。個性に合わせて造られた文句なしの最高の機体です」

 

リインが新デバイスの概要の説明を始めた

 

リィンは両手を挙げて、デバイスを中央に集めた

 

まるで、生きていて、尚且つ、喜んでいるかのように

 

「この子達は、みんなまだ生まれたばかりですが、いろんな人の思いや願いが込められてて、いっぱい時間をかけて完成したです。ただの武器や道具と思わないで大切に、だけど、性能の限界まで思いっきり、全開で使ってあげてほしいんです」

 

「うん。この子たちもね、きっとそれを望んでるから」

 

リィンの演説が終わると、デバイスは各々の手に飛んでいった

 

「それと、皆さんのデバイスにはリミッターが掛かっています」

 

「「「「「「リミッター?」」」」」」

 

全員はリィンの言葉に首をかしげた

 

「うん、みんなが今のデバイスを使いこなせるようになったら、順次解除していくから」

 

「うむ、特に武と冥夜、それに当麻は魔法に慣れてないからな。なおさらだ」

 

なのはと冬也が補足した

 

「そういえば、なのはさん達のデバイスもリミッターが掛かってるんですよね?」

 

スバルは、思い出したように聞いてきた

 

「うん。私達はデバイスだけじゃなくって、本人もだけどね」

 

と、なのはは補足説明した

 

すると、冬也が納得した表情でうなずき

 

「なるほど、なのは達から感じた違和感はそれが理由か」

 

「え? 冬也さんは気付いてたんですか?」

 

ティアナは、冬也の言動に驚いていた

 

「ああ、なのは達から感じる魔力は膨大なのに出力が低かったからな。おかしいと思っていた」

 

と、冬也は腕組みしながら語った

 

「リミッターが掛かってると、動きが鈍くなるとかあるんですか?」

 

武は疑問に思ったのか、質問した

 

「ううん、そういうのは無いかな。けど、そろそろ皆の訓練を1人でやるのは厳しいかな」

 

と、なのはが武の質問に返答した

 

その時だった

 

機動六課の隊舎内に、甲高い警報音が鳴り響いた

 

これが、機動六課の初任務の合図だった



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ファーストアラート その1

機動六課の隊舎内に、甲高い警報音が鳴り響いた

 

「これは!」

 

「第一級警戒警報!」

 

デバイスルームに居る全員に緊張が走った

 

「グリフィス君!」

 

なのはが名前を呼ぶと、新しい画面が現れた。その画面には、耳が見えるくらいで切りそろえられた水色の髪に眼鏡をかけた青年が映った、名前はグリフィス・ロウランである

 

『はい、なのはさん! 教会からの出動要請です!』

 

『なのは隊長、フェイト隊長、冬也隊長、グリフィス君! こちらはやてや!』

 

グリフィスが映っている画面の隣に、新しく画面が映り、そこに今は教会に行っているはやてが映った

 

『状況は?』

 

さらに、新しく画面が映り、運転中なのだろうフェイトの顔が映った

 

『教会騎士団の調査部で追ってた、レリックらしき物が見つかった。対象は山岳リニアレールにて移動中!』

 

「移動中って……!」

 

『まさか!?』

 

『そのまさかや。内部に侵入したガジェットのせいで、車両の制御が奪われてる。リニアレール内のガジェットは最低でも30体以上。大型や飛行型の、未確認タイプも出てるかもしれへん、いきなりハードな出撃や。なのはちゃん、フェイトちゃん、冬也はん、行けるか?』

 

「当然」

 

「私はいつでも!」

 

『私も!』

 

『スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、武くん、冥夜ちゃん、当麻くん、ネギ君たち、皆もOKか?』

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「おう!」

 

「何時でも大丈夫です!」

 

『よし、いいお返事や。シフトはAの3、グリフィス君は隊舎での指揮! リィンは現場に!』

 

『「はい!」』

 

『ほんなら……』

 

画面の向こうで、はやては凛とした表情で立ち上がる、それは確かに指揮官の貫禄があった

 

『機動六課フォワード陣出動!』

 

「「「「「はい(おう)!」」」」」

 

『了解! みんなは先行してて、私もすぐに後を追いかけるから!』

 

モニターが消えると、全員デバイスルームを飛び出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

現在、目的の山岳リニアレールに向けてヘリで移動中

 

「ぶっつけ本番になっちゃったけど、訓練通りにやれば大丈夫だからね!」

 

なのはは、機内に待機している全員に激励をする

 

「はい、頑張ります!」

 

スバルは気合十分とでも言うように、両手を握る

 

「危ない時はきちんとフォローするから、思いっきりやってみようね!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

すると、フォワード陣の中で1人だけ不安げに震えて、俯いている子が居た。

 

「大丈夫?」

 

エリオは、隣に座っている少女、キャロに話しかけた

 

「あ、ごめんなさい………大丈夫」

 

キャロは気丈に返事するが、握っている手は震えている

 

「キャロ」

 

と、冬也はキャロの頭に手を置いた

 

「え?」

 

「初めての出撃、怖いんだろ?」

 

冬也はキャロの視線の高さに合わせて、かがんだ

 

「それに、自分が持っている力も怖いんだろ?」

 

冬也の言葉を聞いたキャロは、眼を見開いた

 

「俺達が使っている力は強大で、簡単に人間を殺せる。実際に俺はすでに、数え切れないほど殺した」

 

「冬也さん……」

 

「けどな、力は力。使う人の心しだいで、善にも悪にもなる、俺はな、守るために戦い続けた」

 

冬也は、眼を細めながら喋った

 

「だからな、自信を持て、勇気を振り絞れ。そうすれば、力は答えてくれる」

 

冬也はそう言うと、立ち上がり

 

「後悔しないためにも、力を使え。そして、仲間を、力なき人々を守る。それが俺達の仕事だ。それに、もし怖くなっても、無線で繋がっている、1人じゃない、皆が居る」

 

「そうだぜ。俺達は仲間なんだ」

 

「お互いにカバーしあえば、大丈夫ですよ」

 

「冬也さん、当麻さん、ネギくん…………はい!」

 

キャロの眼に、光が宿った

 

「よし。そろそろ着くけど、みんな準備は良い?」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

すると

 

『なのはさん、空に未確認の新型を確認しました!』

 

それを聞いた、なのはと冬也は窓から外を見た

 

「戦闘機型のようだな」

 

「先に出てあれを何とかしないと、危ないね」

 

なのはは一瞬で考えると

 

「ヴァイスくん! 後部ハッチ開けて!」

 

操縦席に座っている、ヘリの操縦士、ヴァイス・グランセニックにお願いした

 

「了解です、なのはさん!」

 

ヴァイスは返事をすると、コンソールを操作してハッチを開放する

 

「私と冬也さんは先に出撃するけど、みんなは頑張ってね!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

なのはの言葉に、フォワード陣が頷いた

 

「なのはさん。僕も行きます!」

 

「私も同行します」

 

なのはの近くに、ネギと刹那が近づいた

 

「いいの?」

 

「はい、戦力は一人でも多いほうがいいですよ」

 

「うん、気持ちはありがたいけど……」

 

「それに、僕も飛べます」

 

と、ネギは背中に背負っていた杖を示した

 

「あ、うん。それは知ってるけど、刹那ちゃんは飛べないはずだよね?」

 

なのはは戸惑いながら、視線を刹那に向けた

 

「刹那さんでしたら、大丈夫です。刹那さん」

 

「はい、ネギ先生」

 

刹那は頷くと、両手を前で交差するように背中を丸めて、一気に広げた

 

すると、その背中に純白の翼が現れた

 

「純白の……翼…」

 

「綺麗……」

 

なのはは呆然としており、スバルたちは見とれていた

 

「私には、自前の翼がありますので」

 

「………わかった、無茶はしないでね」

 

「はい」

 

返事を聞いたなのはは頷くと

 

「スターズ1、高町なのは、行きます!」

 

と、空中に身を躍らせた

 

「ふむ、アサルト1、神代冬也、出る!」

 

なのはに続くように、冬也も飛び出した

 

すると

 

「アサルト2、ネギ・スプリングフィールド。行きます!」

 

「ライトニング5、桜咲刹那。参ります!」

 

更に、ネギと刹那も飛び出した

 

「レイジングハート!」

 

「夜叉!」

 

「「セットアップ!」」

 

<<セットアップ!>>

 

空中でバリアジャケットを展開すると、なのはと冬也は岸壁沿いに飛んでいった

 

「出でよ(アデアット)!」

 

刹那はカードを発動すると、和風メイドの服装になった

 

そして、ネギと刹那の二人も岸壁沿いに飛んだ

 

すると、途中でフェイトが合流した

 

「なのはと一緒の空で戦うのは、久しぶりだね」

 

「そうだね、フェイトちゃん!」

 

「ふむ、久しぶりの戦場に俺が居て、すまんな」

 

「僕達もすいません」

 

「いえいえ!」

 

「冬也さん達には期待してますね!」

 

「ふむ、ご期待に添えるとしようか!」

 

「ええ!」

 

「はい!」

 

そのまま冬也達は、ガジェットⅡ型の編隊に突撃した

 



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交戦開始

執筆が遅くってすいません


キャロside

 

機動六課に来てからの初めての出動

 

私は移動してるヘリの中で、震えていた

 

それは、私は自分の力が

 

竜召喚の力が怖かったから

 

特に、私の能力は故郷のアルザスでも秀でてた

 

それが理由で私は、アルザスから出ないといけなかったくらいだった

 

それから私は、色んな部隊を転々とした

 

そして、出動の度にフリードを暴走させてしまった

 

それが理由で、味方の人にケガを負わせてしまったのも何回もあった

 

けど、フェイトさんに会ってから変わった

 

私は優しい人達と一緒に居られるようになった

 

けど、自分の力が怖いのには変わらなかった

 

だから、今も震えてる

 

「大丈夫?」

 

気付けば、隣に座ってたエリオ君が心配そうに見てた

 

「あ、ごめんなさい………大丈夫」

 

私はそう返事したけど、まだ震えてた

 

すると、頭に誰かの手が置かれた

 

「キャロ」

 

私の頭に、暖かく優しい感じの手が置かれました

 

「え?」

 

視線を上に向けると、私の頭に手を置いてたのは、民間協力者にしてアサルト分隊隊長の冬也さんでした

 

「初めての出撃、怖いんだろ?」

 

そう言いながら冬也さんは、私の視線の高さに合わせて、しゃがんでくれた

 

「それに、自分が持っている力も怖いんだろ?」

 

っ! な、なんで?

 

知ってるの?

 

「俺達が使っている力は強大で、簡単に人間を殺せる。実際に俺はすでに、数え切れないほど殺した」

 

そう言ってる冬也さんの眼は、とても悲しそうだった

 

「冬也さん……」

 

気付けば、なのはさんも悲しそうな眼で冬也さんを見てる

 

「けどな、力は力。使う人の心しだいで、善にも悪にもなる、俺はな、守るために戦い続けた」

 

私の心しだい?

 

「だからな、自信を持て、勇気を振り絞れ。そうすれば、力は答えてくれる」

 

あの力が……答えてくれる?

 

「後悔しないためにも、力を使え。そして、仲間を、力なき人々を守る。それが俺達の仕事だ。それに、もし怖くなっても、無線で繋がっている、1人じゃない、皆が居る」

 

冬也さんはそう言いながら、周囲に視線を向けた

 

すると

 

「そうだぜ。俺達は仲間なんだ」

 

当麻さん……

 

「お互いにカバーしあえば、大丈夫ですよ」

 

ネギくん……

 

「冬也さん、当麻さん、ネギくん…………はい!」

 

気付けば、私の心の中は暖かくなっていた

 

キャロsideEND

 

第3者side

 

「任務は二つ。まずは、ガジェットを逃走させずに全機破壊すること。そして、レリックを安全に確保すること。ですから、スターズ分隊、ライトニング分隊、アサルト分隊はそれぞれ分かれて行動します。スターズとライトニングは車両を前後から突き進んでガジェットを破壊しながら中央を目指してください。アサルトは私と一緒に行動して、先頭車両を確保するです。ちなみに、レリックはここ……七両目の重要貨物室。スターズかライトニング、先に到着したほうが確保するですよ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「なあ、リイン。俺はどうすんだ?」

 

「当麻さんはライトニングと一緒に行動です。ライトニング5が先程出撃したので、代わりにお願いします」

 

「あいよ、了解」

 

リインの言葉に当麻が頷くと、リインも満足そうに頷いて

 

「それに……」

 

と言いながら、その場でクルリと回った

 

すると、陸士隊服から白を基調にした騎士甲冑に変わった

 

「私も現場で管制をするです♪」

 

とリインは、出撃準備中のフォワード陣全員に微笑んだ

 

そうこうしていると

 

「隊長達が制空権を確保してくれたおかげで、安全無事に降下ポイントに到着だ! 準備はいいか!?」

 

とコクピット席に座っているパイロット、ヴァイス・グランセニックが大声で告げた

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「よし、いい返事だ! まずはスターズだ! 気ぃつけてな!」

 

「「「はい!」」」

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」

 

「スターズ4、ティアナ・ランスター!」

 

「スターズ5、長瀬楓!」

 

「「行きます!」」

 

「参る!」

 

三人はそう言うと、空中に身を踊らせた

 

「ぶっつけ本番になっちゃったけど、よろしくね相棒!」

 

「お願いね、クロスミラージュ!」

 

二人はそう言いながら、手中の新しいデバイスを見た

 

楓は懐から、一枚のカードを取り出した

 

「マッハキャリバー!」

 

「クロスミラージュ!」

 

「「セットアップ!」」

 

「出よ《アデアット》!」

 

<<セットアップ!>>

 

スバルとティアナの二人はバリアジャケットを展開して、楓は忍者服になっていた

 

「次! アサルトとライトニング! 当麻! ライトニングのチビ共を頼むぜ!」

 

「おうよ! 任された!」

 

ヴァイスの言葉に、当麻は右手の親指を立てて返答した

 

ヴァイスと当麻は馬が合うらしく、会ってすぐに意気投合したのだ

 

そして、6人がハッチの縁に立った

 

すると、エリオの隣に立っていたキャロが震えていた

 

それを見たエリオは

 

「一緒に飛ぼう」

 

微笑みながら、問いかけた

 

すると

 

「……うん!」

 

キャロは笑顔で、差し出されたエリオの手を掴んだ

 

「アサルト3、白銀武!」

 

「アサルト4、御剣冥夜!」

 

「アサルト5、神楽坂明日菜!」

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」

 

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」

 

「キュクル~!」

 

「ロングアーチ5! 上条当麻!」

 

「「「「「「行きます(行くぜ)!」」」」」」

 

そして六人は、同時に飛び降りた

 

「行くぞ、不知火!」

 

「共に参ろう、武御雷!」

 

「頼むぜ、イマジン!」

 

 

三人は落下しながら、己が相棒に挨拶すると

 

「ストラーダ!」

 

「ケリュケイオン!」

 

「不知火!」

 

「武御雷!」

 

「イマジン!」

 

「「「「「セットアップ!!」」」」」

 

<<<<<セットアップ!>>>>>

 

「出よ《アデアット》!」

 

エリオ達はバリアジャケットを展開して、明日菜は騎士鎧を纏った(麻帆良祭のを参照)

 

そして全員、無事にリニアレールの天井に着地した

 

「あれ? ねえ、このジャケットって」

 

「もしかして……」

 

「これは確かに、不知火だ……」

 

「凄い……まるで、武御雷になったようだ」

 

スバルとエリオが自分達が纏っているジャケットを不思議そうに見ていて

 

武と冥夜は驚嘆した様子で呟いている

 

当麻は終始、スゲースゲーと言っている

 

すると

 

「スターズとライトニングのバリアジャケットは各分隊長のものをモデルにしているので、クセはありますが高性能です。そして、アサルトのお二人のバリアジャケットは今まで無かったタイプです。冬也さんの言ってた装甲式から倣って、アーマードデバイスと命名しました」

 

「アーマードデバイス……」

 

楓と明日菜の二人以外は全員、自分の姿を見て固まっていた

 

すると、ティアナがハっとして

 

「皆、感動は後!」

 

と、言った瞬間だった

 

車内から、ガジェットがアームを伸ばしたり、光線を発射してきた

 

「うわっと!」

 

それをスバルは、危うげに避けると

 

「リボルバーシュート!」

 

天井を破りながら、ガジェットを撃破して、自身が開けた穴から内部に侵入した

 

こうして、機動六課の戦闘は始まったのだった



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少女の決意

場所 六課ロングアーチ

 

「スターズF、4両目で合流! ライトニングF、10両目で戦闘中!」

 

「スターズ1、ライトニング1、5、アサルト1、2、制空権獲得!」

 

「ガジェットⅡ型、散開開始! 追撃サポートに入ります!」

 

「各デバイス、動作問題なし……イマジンも不具合は検出されません……」

 

「レーダーにも新たな反応は確認されない。問題はない」

 

上からシャーリー、ルキノ、アルト、茶々丸、千雨の順で報告がロングアーチに聞こえた

 

すると、ロングアーチのドアが開き

 

「ごめんな! おまたせ!」

 

聖王教会に向かっていたはやてが、戻ってきた

 

「八神部隊長!」

 

「おかえりなさい」

 

「ここまでは比較的順調です」

 

「うん」

 

はやてが椅子に座った時だった

 

警報音が鳴り響いた

 

「ライトニングF、8両目に突入! っ! エンカウント! 新型です!」

 

画面には、はやてがカリムから聞いたⅢ型が表示されていた

 

 

場所は変わって、リニアレール内

 

「デカっ!」

 

当麻はあまりの巨大さに、驚いていた

 

「新型みたいですね」

 

エリオはストラーダを油断なく構えながら、呟くと

 

「キャロ、当麻さん! 援護をお願いします!」

 

と、ストラーダの穂先をⅢ型に向けて突撃した

 

「うん!」

 

「援護つったって……」

 

キャロは頷くが、当麻は躊躇した

 

すると

 

<大丈夫ですよ。マスター当麻>

 

「イマジン?」

 

<右足を見てください>

 

当麻はイマジンに言われた通り、右足に視線を向けた

 

すると右太股の辺りの装甲が開いて、中にグリップが見えた

 

「これか!」

 

当麻は直感的にグリップを掴み、引っ張った

 

すると出てきたのは、一丁の銃だった(見た目は、ネギの使ってた魔法銃)

 

「こいつは……銃か?」

 

<はい。協力者ネギさんの知識提供を元に、マイスター達が作った魔法銃です>

 

「なるほど……」

 

と当麻が頷いていると

 

「当麻さん!」

 

キャロの切羽詰まった声が聞こえた

 

「と、そうだった!」

 

<細かい照準は任せてください>

 

「あいよ!」

 

当麻は銃口をガジェットⅢ型に向けると、引き金を引いた

 

<魔弾の射手! 光の12矢!>

 

すると、銃口から光の矢が12本発射されて、ガジェットⅢ型に向けて飛翔した

 

キャロもそれに合わせて

 

「フリード、ブラストレイ! ファイア!」

 

自分の飛竜であるフリードに命じて、火球を発射させた

 

エリオはそれに気づくと、一気に後退した

 

その直後、矢と火球が直撃したが

 

「無傷ッ!?」

 

キャロは、自分と当麻の攻撃でも無傷のガジェットを見て驚いた

 

「当麻さん!」

 

「ああ! イマジン!」

 

<了解、グラップモード!>

 

エリオはそれを見ると、当麻に声を掛けた

 

当麻は意図に気づき、イマジンに命じて銃を仕舞い、格闘戦モードに切り替えた

 

「はあ!」

 

「おら!」

 

エリオはストラーダで突きを

 

当麻は拳を振るうが

 

二人の攻撃は、ガジェットの装甲で止められた

 

「堅い!」

 

「堅ぇ!」

 

二人の攻撃では、ガジェットの装甲表面で火花を散らすことしか出来ない

 

「あ、あの!」

 

「大丈夫、任せて!」

 

「キャロはそこに居ろ!」

 

二人は、心配そうに声を掛けてきたキャロにそう返した

 

その時だった

 

フィーン!

 

独特な音が響き、ストラーダとイマジンの表面の魔力

 

更には、キャロの足元の魔法陣が消えた

 

「AMF!?」

 

「こんな遠くまで!?」

 

「マジかよ!」

 

三人が驚いた時だった

 

ガジェットの三眼部分が光った

 

「くっ!」

 

「にゃろ!」

 

それを見たエリオは上に、当麻は右に避けた

 

すると、ガジェットはエリオを優先したらしく、ガジェットから発射されたレーザーはエリオを追撃した

 

しかも、レーザーは列車の天井を焼き切った

 

それだけで、出力が高いのが分かった

 

エリオがガジェットの反対側に着地すると、ガジェットも向きをエリオに向けた

 

その瞬間にエリオは、横に転がるように回避を行った

 

すると、エリオが居た場所をレーザーが通過した

 

「この!」

 

当麻はガジェットの気を自分に向けるために、再び殴り掛かったが、ガジェットは一顧だにしなかった

 

「うわッ!?」

 

「エリオ!」

 

どうやら回避の隙を狙われたらしく、アームの一撃を喰らったエリオが壁に激突していた

 

しかもガジェットは、そのままアームでエリオを掴んで、焼き切った天井から外に出した

 

「あ!」

 

それにキャロが気づくが、ガジェットはそのままエリオを空中に投げた

 

「ああっ!」

 

「エリオ!!」

 

ガジェットを追って屋根に登ってきた当麻が手を伸ばすが、虚しくも届かなかった

 

すると、キャロが走りだし

 

「エリオくーん!」

 

エリオを追って、飛び降りた

 

「キャロ!?」

 

当麻はキャロの行動に驚いて、目を見開いていた

 

場所は変わって、六課ロングアーチ

 

「ライトニング4、飛び降り!?」

 

「ちょっ!? あの子達、あんな高高度からのリカバリーなんて!」

 

キャロの行動に、アルトとルキノの二人が驚いていた

 

 

「いや、あれでええ」

 

はやては冷静だった

 

「え? ……あ、そうか!」

 

はやての発言にシャーリーは一瞬戸惑うが、キャロの”本来の魔法”を思い出して、納得した

 

「発信源から離れれば、AMFの強度も弱まる。使えるで……キャロのフルパフォーマンスの魔法が!」

 

そう言っているはやての顔は、確信に満ちていた

 

第3者sideEND

 

キャロside

 

私は投げられたエリオくんを追って、リニアから飛び降りた

 

自分でもなんでこんな行動が出来たのか、わからない

 

でも、脳裏に冬也さんの言った言葉が響いた

 

『力は力。使う人の心次第で、善にも悪にもなれる』

 

『だからな、自信を持て、勇気を振り絞れ。そうすれば、力は答えてくれる』

 

『後悔しないためにも、力を使え。そして、仲間を、力なき人々を守る。それが俺達の仕事だ。それに、もし怖くなっても、無線で繋がっている、1人じゃない、皆が居る』

 

そして、六課に来てからまだ一ヶ月しか経ってないけど、これまでの記憶がフラッシュバックしてきた

 

皆さん、笑顔で接してくれた

 

優しくしてくれた

 

それに、エリオくんは………

 

優しく、手を差し伸べてくれた

 

だから、守りたい

 

優しくしてくれた人たちを

 

暖かい居場所を

 

自分の力で守りたい!

 

その時、私の手がエリオくんを掴んだ

 

<イグニッション!>

 

その瞬間に、ケリュケイオンに魔力を通して落下速度を止めた

 

すると、私の近くにフリードが飛んできた

 

「フリード……今まで不自由な思いをさせてごめん……私、ちゃんと制御するから! 行くよ! 竜魂召喚!」

 

私が詠唱すると、足元に魔方陣が広がった

 

「蒼穹を走る白き閃光、我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜、フリードリヒ! ………竜魂召喚!!」

 

キャロsideEND

 

第3者side

 

六課ロングアーチ

 

「召喚成功!」

 

「フリードの意識レベル、ブルー!」

 

アルトとルキノは嬉しそうに、報告した

 

「凄い、あれが………」

 

「せや、キャロの実力。その一端や」

 

リニアレール付近

 

「な、なんだ?」

 

ガジェットの攻撃を躱した当麻は、リニアの淵に寄って下を見た

 

「あれは……フリード? って、デケェーーー!?」

 

当麻が驚くのも無理は無い

 

フリードは普段、約40cmほどの大きさしかない

 

しかし、今の大きさは約10m近くの巨体なのだ

 

驚くな、というほうが無理なのだ

 

フリードはそのまま、リニアレールの上まで飛んだ

 

「って、背中に乗ってるのは……エリオとキャロか! よかった、無事だったか!」

 

当麻はフリードの背中にエリオとキャロが乗っているのが見えて、安堵した

 

すると

 

「当麻さん! 今から砲撃を行うので、離れてください!」

 

と、キャロの声

 

「おうよ!」

 

当麻はキャロの言葉通りに、ガジェットの攻撃を避けながらガジェットから離れた

 

すると

 

「フリード! ブラストレイ、ファイア!」

 

キャロが命じると、フリードの口に子竜形態とは比較にならない大きさの火球が形成されて、発射された

 

フリードが放った砲撃は見事、ガジェットに直撃したが、効果はなかった

 

「硬い……」

 

「あの形状には、砲撃は効きづらいよ。僕とストラーダでやる!」

 

「うん!」

 

キャロはエリオの言葉に笑顔で頷いた

 

すると、エリオはフリードからガジェット目掛けて飛んだ

 

それを見たキャロは呪文を紡ぎ始めた

 

「我が乞うは清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を」

 

<エンチャント・フィールドインベント>

 

「武きその身に、力与える祈りの光を!」

 

<ブーストアップ・ストライクパワー>

 

「ツインブースト! スラッシュアンドストライク!」

 

キャロが発動した強化魔法はストラーダに宿り、桃色の魔力刃を形成した

 

「一閃必中! でえりゃぁぁぁぁぁ!」

 

エリオはそれをガジェットに突き刺すと、肩で担ぐように振り上げた

 

その結果、ガジェットは真っ二つに切れ

 

爆発した

 

「エリオ、ナイス」

 

気付けば、エリオの隣に当麻が立っていた

 

「当麻さん!」

 

「キャロ! ナイスだったぜ!」

 

「はい!」

 

キャロはフリードを、止まったリニアレールの上に着地させた

 

「しっかし、フリードもデカくなったな~」

 

「こっちが本来の姿なんです」

 

「そうなのか」

 

当麻はフリードを撫でていた

 

場所は変わって、少し離れた空中

 

そこには、冬也、ネギ、フェイト、刹那、なのはの姿があった

 

「ほう、あれがフリードの本来の姿か」

 

「はい……よかった、ちゃんと制御できるようになったんだね」

 

冬也の言葉に、フェイトは嬉しそうに眼を細めた

 

「ワイバーン種ですか。図書館島の地下でも見ましたよね」

 

「ええ、あれは緊張したのを覚えてます」

 

ネギと刹那はなにかを思い出したのか、シミジミと頷いていた

 

「あ、レリックも回収したみたいだね」

 

なのはが見ている通信画面には、レリックケースを運んでいるスバルの姿が

 

「あれがレリックケースですか?」

 

「うん。そうだよ」

 

ネギの質問になのはが頷いた

 

「今回はこれで終わりかな?」

 

とフェイトが、バルディッシュを下げた

 

その時

 

「フェイト、動くな」

 

「え?」

 

冬也が刀を一閃した

 

その時

 

ゴガギン!

 

鈍い金属音が響いた

 

「え!?」

 

「なっ!?」

 

フェイトとなのはは予想外の事態に、驚いた

 

「ふむ……今の衝撃は13mmアンチマテリアル弾か」

 

冬也は手の感触を確かめるように手を動かしながら、眼を細めた

 

「ど、どこから!?」

 

となのはが、警戒したら

 

「2時の方向、距離3000だ」

 

と冬也が刀で方向を示しながら、視線を向けた

 

そこには………

 

「な!? あれは、空港で見た人型機!」

 

「な、なんて数………」

 

元第8臨海空港跡地で冬也を切ったのと同型の人型機が、空を覆い尽くさんばかりに大挙して飛んでいた

 

「アサルト1よりロングアーチ!」

 

冬也はそれを確認すると、ロングアーチに通信をつないだ

 

 

 

 

機動六課の初出動は、まだ終わらないようだ



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対ドール戦 黒幕

更新が遅くってすいません!

戦闘描写が難しい………


場所 機動六課ロングアーチ

 

「あ、アサルト1、銃弾を弾きました!」

 

「なんだ!? 何処から現れやがった!? 急に反応が出たぞ!」

 

「恐らくは、光学迷彩かと思われます」

 

「敵反応、戦闘区域全域で増大中! 二百……二百五十……まだ増えます!」

 

機動六課ロングアーチは、突然の敵増援に驚きながらも管制を続けていた

 

「八神部隊長! あの人型は、ガジェットの新型でしょうか?」

 

そう聞いたのは、隊長補佐を勤めるグリフィス・ロウランである

 

「いや……多分、フェイトちゃんの報告にあった空港跡地で冬也さんを斬ったって奴やな……」

 

はやてはグリフィスの言葉を聞きながら、緊張した表情をしていた

 

すると

 

『アサルト1よりロングアーチ!』

 

その冬也から、通信が入った

 

場所は変わって、最前線

 

「アサルト1よりロングアーチ! 今から、アレに関するデータを送る! 夜叉!」

 

<承知、転送します>

 

冬也の命令を聞き、夜叉は転送を開始した

 

すると

 

『ちょい待ち、冬也さんはアレを知っとるんか?』

 

はやての質問に、冬也は顔をしかめて

 

「ああ、よく知ってるさ……あれは、俺の世界で使われてた対人兵器。スロータードール。通称、ドールだ」

 

「人形……」

 

冬也の言葉にフェイトは、辛そうな表情をしていた

 

通信画面の向こう側では、はやてが唸っていて

 

『よし! ほなら、指揮を冬也さんに任せてもええか?』

 

はやての言葉を聞いた冬也は、片眉を上げて

 

「その理由は?」

 

『やっぱり、敵を一番知っとる人に任せた方がええと思ったからな』

 

はやては毅然と言い放った

 

それを聞いた冬也は、しばらく黙考して

 

「分かった。引き受けよう」

 

と頷いた

 

『よっしゃ! ほなら……んんっ! ロングアーチより前線部隊総員に通達! ただいまより、前線での指揮権をアサルト1に一時譲渡します!』

 

「了解! 譲渡を確認した。これより、不肖ながらアサルト1が指揮を執る!」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

冬也の言葉に、全員は斉唱で返した

 

「スターズ3とレリックケースの死守を最優先とする! スターズ4はスターズ3を護衛しつつ前衛を援護!」

 

『了解!』

 

「スターズ5はアサルト3、4と共に、最前衛で機動撹乱戦法で対処!」

 

『『『了解!』』』

 

「ライトニング3は中衛、4は前衛の支援!」

 

『『了解!』』

 

「ロングアーチ5とアサルト5はライトニング4の護衛!」

 

『おうよ!』

 

『了解!』

 

「俺達、隊長陣とライトニング5は空の敵を掃討する!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「こいつらは汎用性と数が強みだ! 連携もしてくる! そこを留意しろ!」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

全員に指示を終えて、全員からの斉唱を聞くと

 

「全員、武運を祈る! 戦闘開始!」

 

冬也の一言で全員、戦闘を始めた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「はぁ!」

 

フェイトは裂帛の気合と共に、魔力刃を振り下ろした

 

それによりドールは真っ二つになり、爆発した

 

「よし、次!」

 

そう言った瞬間

 

爆煙を超えて、一機が突撃してきた

 

「な!?」

 

フェイトはそれに驚きながらも、魔力刃を振るった

 

 

横からの青い光刃がそれを防いだ

 

「え!?」

 

フェイトがそちらを向くと、そこにもドールが居た

 

そして気付けば、包囲されていた

 

「しまった!?」

 

包囲しているドールは全機、様々な銃口を向けていて、発射される寸前だった

 

だが

 

ドール群は、同時に光に貫かれた

 

「え?」

 

フェイトが呆然としていると

 

「ボーっとするな」

 

という声と共に、目の前のドールも切られた

 

そして、背後に冬也が現れた

 

「冬也さん!」

 

「無事でなによりだが、さっき言っただろう? 連携に留意しろと」

 

「そうでしたね。すいません」

 

冬也の言葉に、フェイトは素直に謝った

 

「なのはもだ! ネギくんに感謝しろ!」

 

冬也は背後に居たなのはにも大声で言った

 

そこでは、なのはの近くにネギが居た

 

「そうですね。ネギくん、ありがとう」

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

ネギはそう言いながらも、構えを解かなかった

 

そして、フェイトは視線を上に向けた

 

そこには、10機近い小型の菱形の物体が浮いていた

 

「まさか………ビット兵装!?」

 

「まだ試作段階だがな。いづれは、キャロにも同様の兵装を渡すつもりだ」

 

「なるほど……ポジション的に合ってますね」

 

冬也の言葉にフェイトは頷いていた

 

すると

 

『隊長! こちら武! こちらも戦闘を開始します!』

 

通信画面が開き、武の顔が映った

 

「了解した。無理はするなよ」

 

『大丈夫ですよ! こいつら、以前の帝都守備連隊に比べたら亀ですよ!』

 

「そうか……あまりやり過ぎるなよ?」

 

『それはむしろ、楓ちゃんに言ってくださいよ。あの子、本物の忍者ですよ! 速い速い』

 

二人は戦いの最中なのに、軽口を言い合っていた

 

フェイトはそれを見ていて、驚いた

 

軽口を言っている冬也もそして、通信画面の向こうの武もお互い戦っているのだ

 

それなのに、敵の攻撃は一発も当たらずに、むしろ撃墜している

 

蹴りで

 

斬撃で

 

魔法で

 

瞬く間に撃墜していっている

 

(これが………殺し合い経験者なの?)

 

冬也は12年間もの長い間、最前線で戦い続けていた猛者

 

武は元の世界では軍人だった。しかも、さっきの言い方では対人戦闘も経験している

 

そして、視線の端ではネギがドールの刀剣を白羽取りして折った後、蹴りで撃破している

 

刹那も高速飛翔しながら、刀でドールを切り刻んでいる

 

楓は分身するほどの速度で移動しては、巨大な手裏剣やクナイで攻撃している

 

明日菜は巨大な剣でドールを数体、纏めて斬っている

 

冥夜は武の援護をしているが、言葉も無しに阿吽の呼吸で連携している

 

そして驚いたのは、当麻だった

 

当麻もある程度、魔法を理解してからは自身の判断で行動して支援や直接攻撃をしている

 

自分やなのはは10年近くもの間、実戦を経験している

 

しかし、魔法には非殺傷設定がされているために、殺しは無い

 

確かに、相手の中には殺傷設定が外れている相手も居た

 

だが、冬也や武。当麻、冥夜、ネギ、明日菜、楓達は常に、殺し合いを経験していた

 

故に、全員の動きはあまりにも突出していた

 

冬也は経験ゆえに、動きに無駄が無く

 

武は複雑な三次元機動での撹乱戦法

 

当麻はイマジンもあるが、右手のイマジンブレイカーで相手の攻撃を無力化したり、ドールを無力化

 

ネギは人並み外れた魔力値と高速移動で戦っている

 

明日菜も魔力無効化能力でドールの攻撃を無力化したり、ドール自体の機能を停止させている

 

冥夜は機動に関しては武の劣化版らしいが、近接格闘が得意らしく、相手の追随を許さず

 

楓はその速度で撹乱してから、巨大な手裏剣で相手を胴体ごと切り裂いたり、攻撃を防いだり、クナイで首を飛ばしたりしている

 

全体から見れば、自分達は足手まといになっていた

 

今もビットが周囲を守ってくれている

 

(足手まといだけは!)

 

フェイトはなのはに視線を向けると、なのはも同じ思いだったらしく、頷いた

 

《行くよ、フェイトちゃん!》

 

《うん、なのは!》

 

2人は念話で会話すると、加速して戦場の真ん中に突入した

 

場所は変わって、リニアレール

 

「それはむしろ、楓ちゃんに言ってくださいよ。あの子、本物の忍者ですよ! 速い速い」

 

武は通信画面を見ながら、背後のドールを蹴りで撃破した

 

「いやいや、忍者ではござらんよ~」

 

楓はそうのたまいながらも、巨大な手裏剣でドールを串刺しにした

 

「そうそう! 私達は普通の女子高生!」

 

明日菜もそう言いながら、巨剣<破魔の剣>を振り回して、ドールを数体纏めて撃破した

 

「おらよ!」

 

当麻は殴って、頭部を破壊している

 

それを新人フォワード陣は呆然と見ていた

 

「これ………僕達、必要なんでしょうか?」

 

エリオは苦笑いしながら、呟いている

 

「必要ない気がするわね」

 

「でも、準備しておきましょう」

 

ティアナはクロスミラージュで頭を掻いているが、キャロは構えていた

 

すると

 

「悪い! 15機ほど抜けた! 頼む!」

 

そんな武の声が聞こえたと同時に、10数機がフォワード陣に向かってきた

 

「エリオ、前衛お願い!」

 

「了解! ストラーダ!」

 

<エクスプロージョン!>

 

エリオが命じると、ストラーダの機構が動き、薬莢が排出された

 

「ツインブースト! スラッシュアンドストライク!」

 

それと同時に、キャロはエリオに強化魔法をかけた

 

「一閃必中! セリャアァァァ!」

 

エリオはストラーダを構えて突撃すると、ドールを貫き、刃を持ち上げて切り裂いた

 

「クロスファイアー・シュート!」

 

ティアナが放った魔力弾は、回避しようとしたドールを追跡して直撃した

 

しかし、その爆煙を突破して数機現れるが

 

「フリード! ブラストフレア!」

 

キャロの命令に従い、フリードが炎球を発射して、溶かした

 

その炎を飛び越えようと、更に現れたが

 

「イマジン!」

 

<魔弾の射手! 雷の36矢!>

 

それに対して、当麻の放った魔弾の射手が直撃した

 

「悪い、離れすぎたな」

 

「いえ、大丈夫です」

 

当麻が着地しながら言うと、キャロが微笑んで受け入れた

 

すると

 

「ラストぉ!」

 

という武の声の直後、爆発音が聞こえた

 

「アサルト3よりロングアーチ! こちらのレーダーでは敵影は確認されず。そちらではどうか?」

 

『こちらロングアーチ。こちらでも敵影は確認されません。隊長陣ももう間もなく、戦闘を終了します。現状を維持して待機してください』

 

武の質問に答えたのは、シャーリーだった

 

シャーリーの言葉を聞いた武は、視線だけを隊長達が戦っている空域に向けた

 

そこでは確かに、戦闘も終局に向かっていた

 

最初よりも明らかに、爆発の回数が減っている

 

「了解。現状を維持しつつ待機します」

 

武はそう返事すると、通信を切った

 

「現状維持で待機ですか?」

 

「ああ。どうやら、隊長たちももうすぐ終わるらしい」

 

スバルの質問に、武は戦闘空域を指差しながら返答した

 

「本当だな。さっきよりも爆発が減ってる」

 

当麻も遠くを見ながら、頷いた

 

すると

 

『こちらライトニング1。そっちは大丈夫?』

 

通信画面が開き、フェイトが心配そうに聞いてきた

 

「こちらアサルト3。全員無事です。そちらは?」

 

『うん。こっちも大丈夫。今、冬也さんが最後の一機を撃墜したよ』

 

そう言った通信画面の向こうが、一瞬光った

 

「ということは、これで戦闘は終了ですか?」

 

『うん。後は、レリックを護送するだけだから』

 

「了解!」

 

武が敬礼すると、フォワード陣の全員もようやく安堵の息を吐いた

 

こうして、機動六課の初出動は多少のイレギュラーに見舞われたが、無事に終了した

 

 

 

場所 ???

 

『刻印№Ⅸ、護送態勢に入りました』

 

「……ふむ」

 

画面を見ながら報告を聞いていたのは、紫色の髪が特徴の白衣姿の男だった

 

『追撃戦力を送りますか?』

 

「いや、止めておこう。レリックは惜しいが、彼女達のデータが取れただけでも十分だ」

 

画面に映っている薄紫色の髪の女性が提案するが、男は断った

 

「それにしても……この案件はやはり素晴らしい。私にとっても興味深い研究材料が揃っている上に……」

 

男が操作すると、フェイトとエリオの姿が拡大された

 

「この子達を……生きてるプロジェクトFの残滓を、手に入れるチャンスがあるのだから………」

 

そこまで言うと男は、再び操作した

 

すると、冬也、武、冥夜、当麻、ネギたちが映し出された

 

「それにしても、彼らは何者だい? 正規の管理局員ではないようだし、デバイスと魔法体系も特殊みたいだが………」

 

『報告では、民間協力者のようです』

 

「ほう………民間協力者……」

 

男が興味深そうに呟いていると、背後から足音が聞こえてきた

 

「なんだ。あ奴も来ていたのか……」

 

そこに現れたのは、白髪の男だった

 

「なんだい? あれは、君の知り合いかい?」

 

「ああ。製作№666……私の最高傑作の七大罪の一人さ」

 

白髪の男は狂気に満ちた目で、冬也を見ていた

 

「ほう………七大罪ということは……彼が、最後の一人かい?」

 

「ああ………一度は死神と呼ばれた男………現在名は神代冬也さ」

 

そう言っている白髪の男の背後には、全身をローブで覆った6人の人影があった………

 

 

 

七大罪とはなにか

 

この男達は何者なのか

 

この時点では、まだわからない



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進展

久しぶりの更新です

仕事が忙しくって、書く暇が無いんです

ですが、最後まで書き続けます!


場所 機動六課訓練スペース

 

「おら、行くぞ! デリャァァァァァ!」

 

ヴィータは雄叫びを上げながら、グラーフ・アイゼンをスバルに向けて大きく振るった

 

「マッハキャリバー!」

 

<プロテクション!>

 

スバルが右手を突き出しながら相棒の名前を言うと、障壁が展開された

 

その障壁にグラーフ・アイゼンが当たり、激しく火花を散らした

 

しかも、威力も凄まじいらしく、防いでるにも関わらず、少しずつ後ろに後退している

 

「デリャアァァァァァ!」

 

ヴィータはその体格からは想像を超える力で、スバルを吹き飛ばした

 

「うわぁぁぁ! ガフッ!」

 

スバルは吹き飛ばされた勢いで、数メートル後退して木にぶつかった

 

「ふむ………」

 

それをヴィータは少し観察してから、スバルの方に歩きだした

 

「うぅ……痛たたた……」

 

スバルは背中をぶつけた為に、うずくまっている

 

「……なるほど。バリアの強度自体はそんなに悪くねえな」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

痛みを堪えながら、スバルはヴィータに近づいた

 

ただでさえ、ヴィータのほうが小柄なのに、スバルはローラースケートを履いてるので、尚更身長差が激しい

 

ただし、それを本人の前で言うと命の保障は出来ないので、あしからず

 

「私やお前のポジション……フロントアタッカーはな、敵陣に単身で切り込んだり、最前線で防衛ラインを守ったりが主な仕事なんだ。防御スキルと生存能力が高いほど、攻撃時間を長くとれるし、サポート陣にも頼らねぇで済むって……これはなのはに教わったな」

 

「はい! ヴィータ副隊長」

 

「受け止めるバリア系、弾いて反らすシールド系、身にまとって自分を守るフィールド系、この三種を使いこなしつつ、ポンポンふっとばされねぇように、下半身のふんばりと、マッハキャリバーの使いこなしを身につけろ」

 

「頑張ります!」

 

<学習します>

 

スバルとマッハキャリバーの返事を聞くとヴィータは、アイゼンを突きつけて

 

「防御ごと潰す打撃は、あたしの専門分野だからな……グラーフアイゼンにぶっ叩かれたくなかったら、しっかり守れよ?」

 

「はい!」

 

ヴィータの言葉に、スバルはやる気に満ちた笑顔で返答した

 

第3者sideEND

 

フェイトside

 

「エリオとキャロはスバルやヴィータみたいに頑丈じゃないから、反応と回避がまず最重要。例えば……こうやって……こんなふうに」

 

私はエリオとキャロの前で、スフィアから発射された弾速の遅い魔力弾をステップで避けた

 

「まずは動き回って狙わせない。攻撃が当たる位置に……長居しない……ね?」

 

次に私はマラソンくらいの速度で走りながら、スフィアの魔力弾を避けた

 

「「はい!」」

 

私は二人が返事したのを確認すると、次に移った

 

「これを低速で確実に出来るように出来たら……スピードを上げていく」

 

私が動く速度を上げると、スフィアも攻撃速度と弾速を上げてきた

 

そして私は、あえて止まった

 

すると、周囲のスフィアから一斉に魔力弾が発射され

 

私がさっきまで立っていた場所で、爆発が起きた

 

「「ああ!?」」

 

ふふ

 

二人は私に直撃したと思ったのかな?

 

「……こんな感じでね?」

 

私が二人の背後から声を掛けると、二人は驚いた表情で私を見てから私がさっきまで立っていた場所を見て

 

「す…すごっ」

 

さっき立ってた場所から、ここまでどうやって移動したのか分かり易いように、跡を残しておいた

 

「今のもゆっくりやれば、誰でも出来るような基礎アクションを早回しにしているだけなんだよ」

 

「「は、はい!」」

 

「スピードが上がれば上がるほど、勘やセンスに頼って動くのは危ないの……ガードウィングのエリオは、どの位置からでも攻撃やサポートをできるように。フルバックのキャロは、すばやく動いて仲間の支援をしてあげられるように。確実で、有効な回避アクションの基礎……しっかり覚えていこう」

 

「「は、はい!」」

 

うん、いい返事だね

 

私が満足していると

 

「あの……フェイトさん」

 

ん? エリオから質問は珍しいね

 

「どうしたの?」

 

「冬也さんや武さん達の動きは……どうなんですか?」

 

そう言ってるエリオの視線の先では、冬也さん対武くんと冥夜ちゃんという構図で模擬戦を行ってる

 

武くんと冥夜ちゃんは複雑な三次元機動で常に死角を取ろうとしてる動き

 

それに対して、冬也さんは踊るように動いている

 

「冬也さんの動きは経験に裏打ちされてる動きだね。武くんは直感もあるけど、常に死角を取ろうとしてる。冥夜ちゃんの動きはそれの我流昇華だね」

 

三人は激しい動きをしながら、模擬戦を行っている

 

だけど、私には冬也さんしか見えていなかった

 

なぜか、冬也さんの背中からは

 

悲しい雰囲気があった

 

それが強く深く、心を打つ

 

「フェイトさん?」

 

「ああ、ごめんね。つまり、冬也さんたちは経験に裏打ちされた動きなの。でも、エリオやキャロはまだ経験が浅いから、今は基本が重要なんだ。わかったかな?」

 

「「はい!」」

 

うん、元気だね

 

フェイトsideEND

 

第三者side

 

「はぁー……当麻さんは格闘技が上手いですね」

 

と感嘆した声を出したのは、茶々丸と格闘技の組み手をしているネギである

 

視線の先では、当麻が古菲に格闘技を教えてもらっている

 

「いやまぁ、今まで右手一本で戦ったり、学園都市の不良たちを相手に喧嘩してたからな」

 

当麻はそう言いながら、体を動かしている

 

「いや、実際に動きがいいアルね。飲み込みも早いアル」

 

古菲は感心したように頷いている

 

「あんがとよ。しかし、悪いな。教えてもらって」

 

「いやいや、あんな真剣に頼まれたら、断れないアルよ」

 

初出動の後、当麻はこのままじゃマズイと思い、翌日の朝連の前に古菲に『格闘技を教えてくれ!』

 

と頼んだのだ

 

その時の当麻の必死さに、古菲は感心して教えることにしたのだ

 

「そういえば、当麻殿は学園都市の学生と言ってたでござるな」

 

「そうだけど」

 

「それがどうして、大戦に?」

 

楓に聞かれると、当麻は頬を掻いて

 

「まあ、はやてにも言ったんだが……やりたかったからなんだ」

 

「当麻さんが」

 

「やりたかったから?」

 

当麻の言葉に、ネギ達は首を傾げた

 

「おう。俺はな、俺の手の届く範囲で、誰かが不幸になるのをほっとけないんだ」

 

当麻はそう言いながら、拳を握り、空を見上げた

 

ネギ達はその当麻の表情を見て、息を呑んだ

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、そこには色とりどりの魔力弾が動き回っていた

 

「うん、いいよティアナ。その調子!」

 

「はい!」

 

そこでは、ティアナをなのはが指導していた

 

ティアナの周囲で飛んでいる魔力弾は、色事に特性が違っており、それに対して瞬時に対処する訓練である

 

「ティアナみたいな精密射撃型は、いちいち避けたり受けたりしてたんじゃ、仕事ができないからね」

 

そう言ってなのはは、2色の魔法弾を飛ばす用意をした

 

「!? バレット! レフトV、ライトRF!」

 

<警告!>

 

後方から魔力弾が接近していて、クロスミラージュが警告を出した

 

「!?」

 

ティアナはそれを横に転がり、回避した

 

「ほら、そうやって動いちゃうと後が続かない!」

 

なのはは注意しながら、2発の魔力弾を発射した

 

<バレット、VアンドRF!>

 

ティアナが立ち上がると同時に、魔力弾の準備が完了した

 

ティアナは瞬時に銃口を向けて、魔力弾を発射した

 

「そう、それ! 足を止めて視野を広く…… 射撃型の真髄は?」

 

「あらゆる相手に、正確な弾丸をセレクトして、命中させる……判断速度と命中精度!」

 

なのはの問いかけに、ティアナは的確に答えた

 

「チームの中央に立って、誰より早く中長距離を制する。それが私やティアナのポジション、センターガードだよ」

 

「はい!」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

しばらくして

 

「はーい! 午前の訓練、終了ー!」

 

笛の音と共に、なのはの声が訓練場に響き渡った

 

「「「「ハア………ハア………ハア」」」」

 

フォワード陣は肩で大きく息をしながら、座り込んでいる

 

「個人スキルの練習だけど、ちょっとキツいでしょ?」

 

「ちょっとと……言うか……」

 

「……その……かなり……」

 

新人達は返事も疎らに、息を整えるので精一杯だった

 

「フェイト隊長は忙しいから、そうしょっちゅう付き合えないけど、私は当分お前らに付き合ってやるからな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ヴィータ副隊長の言葉に、スバルは苦笑いをした

 

訓練を思い出したらしい

 

「ライトニングの二人は特になんだけど、スターズの二人もまだまだ身体が成長している最中なんだから、くれぐれも無茶はしないように」

 

「「「「はい」」」」

 

「武くんや冥夜ちゃんは自分で出来るよね?」

 

「「はい!」」

 

フェイトの言葉に、全員が頷くと

 

「じゃ、お昼にしよっか」

 

「「「「「はい」」」」」

 

お昼ということになった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、隊舎前

 

「あ、皆おつかれさんや」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

シャワーを浴びるため寮に向かっていると、どこかに出かけようとしてるはやてとリインと出会った

 

「はやてとリインは外回り?」

 

「はいです。ヴィータちゃん」

 

「うん、ちょうナガジマ三佐と話してくるよ」

 

そう言うと、はやては顔をスバルに向けて

 

「スバル、お父さんやお姉ちゃんに、なにか言うことあるか?」

 

と聞くと

 

「いえ、大丈夫です」

 

スバルは手を振って遠慮した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって六課の食堂

 

とある一角のテーブルには、山と盛られたパスタとサラダがあった

 

最初はそれに驚いていた武達だったが、流石に慣れた

 

そんなメンバーは全員、さきほどはやてが言っていたスバルの父親の話で盛り上がっていた

 

「なるほど、スバルさんのお父さんと、お姉さんも、陸士部隊の方なんですね」

 

「うん、八神部隊長も一時期、父さんの部隊で研修してたんだって」

 

「へぇ」

 

エリオの質問に、スバルは食べながら喋っている

 

「スバル、食いながら喋んな。ああ! 飛んでるから!」

 

隣に座っていた武が、ナプキンでスバルの口元を拭いている

 

「すいません、武さん。昔から何度も言ったんですが……」

 

そんな武に、ティアナは申し訳無さそうに頭を下げた

 

「いや、大丈夫。慣れてるから」

 

「しかし……うちの部隊って関係者つながりが多いわね。確か隊長達も幼なじみ同士だったわよね」

 

武が手を振って答えると、ティアナがそんなことを言い出した

 

「あ、そうなんだ。まぁ、あの仲良しぶりを見てもわかるわね」

 

ティアナの言葉に、明日奈は納得していた

 

「確か……管理外世界の97番でしたっけ?」

 

「そうそう」

 

「地球を番号で聞くってのも、なんか複雑だな……」

 

「そうだな……」

 

エリオが言った97番というのは、管理局における地球の管理外番号である

 

それを聞いた武と冥夜は少し複雑そうな表情だった

 

「97番って、うちの父さんのご先祖様が住んでいた世界なんだって」

 

「え!? スバルさんって、地球生まれじゃなかったんですか!?」

 

スバルの言葉を聞いたネギは、本気で驚いていた

 

「うん、そうだよ? っていうか、どうしてそう思ったの?」

 

「いや、名前の響きとか、完全に日本のものだぜ? そりゃ、勘違いもするさ」

 

スバルの疑問に、当麻が手を振りながら答えた

 

「そういえば、なのはさん達とも似てますね。名前の響き」

 

「そっちの世界には、私も父さんも行ったことないし、良く分かんないんだけどね……あれ?エリオはどこ出身だっけ?」

 

「あ、僕は本局育ちなんで……」

 

「「あっ……」」

 

エリオの言葉に、ティアナとたまたま同席していたシャーリーが息を呑んだ

 

が、スバルはそれに気付いていない

 

「本局? ……住宅エリアってこと?」

 

「本局の特別保護施設育ちなんです。8歳までそこにいました……」

 

そこでようやく、スバルは気付いたようで、表情を曇らせた

 

《バカ》

 

《ご、ゴメン……》

 

ティアナが睨みながら念話で怒ると、スバルは素直に謝った

 

「あ、あの……気にしないでください。優しくしてもらってましたし、全然普通に幸せに暮らしていましたから……」

 

「そういえば、フェイトさんは、その頃からエリオの保護責任者だったんだっけ?」

 

「はい、物心を付いた頃から色々お世話になっていて、魔法も僕が勉強を始めてから、時々教えてもらってて、本当にいつも優しくしてくれて……僕は、今もフェイトさんに育っててもらってるって思ってます……フェイトさん、子供の頃、家庭の事で……ちょっとだけ寂しい思いをした事があるって……だから、寂しい子供や、悲しい子供の事、ほっとけないんだそうです……自分も、優しくしてくれる暖かい手に救ってもらったからって……」

 

エリオは喋るにつれて、表情が暗くなっていった

 

その時、エリオの頭と肩に手が置かれた

 

「当麻さん、武さん………」

 

当麻が頭に、武が肩に手を置いていた

 

「エリオ。お前がどこ生まれだろうが、どこ育ちだろうが、俺達には関係ねー」

 

「そうだぜ。ここに居るのは、俺達の仲間の《エリオ・モンディアル》って少年だ。」

 

武の言葉に当麻が被せるように言って、そこで二人は目を合わせて

 

「「俺達全員にとっては、それ以上でも以下でもない」」

 

と同時に言った

 

それを聞いたエリオは、驚いて固まった

 

すると

 

「そうだよ、エリオくん」

 

気付けば、ネギが近くに来ていた

 

「ネギくん……」

 

ネギとエリオ、キャロの三人は同年代ということで、仲良くなっている

 

「それを言うなら、僕の居た村は壊滅したし、僕はもう、人間を辞めてる」

 

「か、壊滅?」

 

「ネギ……」

 

エリオはネギの言葉に驚き、明日菜は悲しそうな眼で見ていた

 

「だけどね、明日菜さん達はそんな僕を受け入れてくれて、優しくしてくれた」

 

ネギはそう言いながら、目を細めた

 

「だから僕は、僕であろうと決めたんだ」

 

「ネギくんがネギくんであるために………」

 

エリオの言葉にネギは頷くと

 

「だからさ、エリオくんも遠慮せずに、笑おうよ」

 

そう言ってネギは、エリオに手を差し伸べた

 

気付くと、エリオを新人達が微笑みながら見ていた

 

それを見たエリオは

 

「はい!」

 

と、満面の笑みで返事をした

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、陸士108隊隊舎

 

「新部隊……なかなか調子いいみたいじゃねえか」

 

「そうですね……今の所は」

 

はやての前に座ってお茶を飲んでいるのは、白髪が目立つ男性だった

 

名前はゲンヤ・ナカジマ

 

ここ陸士108隊の隊長を勤めている男性で、スバルの父親である

 

「そんで、今日はどうした……古巣の様子を見にわざわざ来るほど、暇な身ってわけでもねえだろうに」

 

「えへへ……愛弟子から師匠への、ちょっとしたお願いです」

 

ゲンヤの問いかけにはやてが微笑んだ時だった

 

ブザーが鳴り、ゲンヤが許可をするとドアが開いて、現れたのは

 

「失礼します」

 

「ギンガ!」

 

「八神ニ佐! ……お久しぶりです」

 

腰まで伸ばしている青紫の髪が特徴の女性、ギンガ・ナカジマである

 

彼女は父親と同じ陸士108に所属しており、階級は陸曹である

 

ギンガはお茶をはやての前に置いてから、少し話しをして部屋からリインと一緒に出て行った

 

「お願いしたいんは……密輸物のルート捜査なんです」

 

「お前のところで扱っているロストロギアか?」

 

「それが通る可能性が高いルートがいくつかあるんです……詳しくはリインがデータを持ってきていますので、後でお渡ししますが……」

 

「まっ……うちの捜査部を使ってもらうのはかまわないし、密輸調査はうちの本業っちゃ本業だ。頼まれねぇことはないんだが……」

 

ゲンヤは少し怪訝そうにしながら、頭を掻いた

 

「お願いします」

 

「八神よ……他の機動部隊や本局捜査部でなくて、わざわざうちにくるのは、何か理由があるのか?」

 

「密輸ルートの捜査自体は、彼らにも依頼しているんですが……地上のことはやっぱり、地上部隊の方がよく知っていますから」

 

「まっ、筋は通っているな……いいだろう。引き受けた」

 

「ありがとうございます」

 

「捜査主任はカルタスで、ギンガはその副官だ……二人とも知った顔だし、ギンガならお前も使いやすいだろう」

 

「はい、六課の方はテスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になりますから、ギンガもやりやすいんじゃないかと……」

 

そのころ、ギンガはリインと自分の机で話していた

 

「そうですか、フェイトさんが……」

 

「そうです。六課の捜査主任ですから、一緒に捜査を当たってもらうこともあるかもですよ」

 

「これは、凄く頑張らないといけませんね」

 

とある理由からフェイトに憧れているギンガは、一緒に仕事できる事が嬉しいようで、笑顔だ

 

「はい!……あっ!そうだ、捜査協力に当たって、六課からギンガにデバイスを一機プレゼントするですよ」

 

「デバイスを?」

 

「スバル用に作ったのと同型機で、ちゃんとギンガ用に調整するですよ」

 

「それは……その……凄く嬉しいんですが……いいんでしょうか?」

 

申し訳なさそうにギンガが言う。

 

「大丈夫です! フェイトさんと一緒に走り回れるように、立派な機体にするですよ!」

 

「ありがとうございます! リイン曹長」

 

場所は戻って、陸士108部隊隊長室

 

はやてとゲンヤの二人の会話は、まだ続いていた

 

「スバルに続いて……ギンガまでお借りする形になってしもうて、ちょっと心苦しくあるんですが」

 

「なに、スバルは自分で選んだ事だし……ギンガも、ハラオウンのお嬢と一緒の仕事は嬉しいだろうよ」

 

ゲンヤはそこでお茶を一口含み

 

「しかしまあ、気が付けばお前も俺の上官なんだよな。魔導師キャリア組の出世は早えな」

 

「魔導師の階級なんて、ただの飾りですよ。中央や本局に行ったら、一般士官からも小娘扱いです」

「だろうな……おっと、すまんな。俺まで小娘扱いしてるな」

 

「ナカジマ三佐は、今も昔も尊敬する上官ですから」

 

「……そうかい」

 

はやては一時期、ゲンヤに師事して指揮などを習っていたのだ

 

その時、通信画面が開いた

 

『失礼します。ラット・カルタス二等陸尉です』

 

「おう、八神二佐から外部協力任務の依頼だ……ギンガ連れて会議室で、ちょいと打ち合わせをしてくれや」

 

『は!了解しました』

 

「……つうこった」

 

「はい、ありがとうございます」

 

はやてが笑顔で頷くと

 

「どうだい、これから飯でも」

 

「はい! 御相伴させてもらいます!」

 

ゲンヤの提案に、はやては満面の笑みを浮かべた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、時空管理局地上本部

 

「これって、ガジェットの残骸データ?」

 

「はい。とはいえ、今までとなんら変わらないですが」

 

そこのデータベースでは、フェイトとシャーリーが今まで撃破したガジェットの残骸データを調べていた

 

シャーリーがキーボードを操作すると、画面が変わり、いろいろなデータが画面に表示された

 

「あ、これは、ガジェットの内部機関?」

 

「はい」

 

画面には、撃破及び捕獲したガジェットの内部構造が映されていた

 

「これといって目だった物はありませんね」

 

そう言いながらシャーリーは、次々と新しい画像を表示させていった

 

すると、ある一枚の画像を見たフェイトの表情が変わった

 

「フェイトさん?」

 

「シャーリー、少し戻して。多分、回路関係」

 

「あ、はい」

 

フェイトの指示に従って、シャーリーは画像を戻していき

 

「えっと……回路関係って言うと……あ、ここらですかね」

 

「それ、止めて!」

 

フェイトの指示に従って、シャーリーは操作をやめた

 

画面には菱形の水色の物が映っていた

 

「なんですかね、これ? 宝石?」

 

シャーリーが画面を覗き込みながら呟くと

 

「ジュエルシード……」

 

フェイトが呆然とした様子で呟いた

 

「フェイトさん?」

 

「これは昔、ある理由で私となのはが取り合ったロストロギアだよ」

 

「へぇ~そうなんですか……って、どうしてそんなものがこれに!?」

 

シャーリーがフェイトの言葉に驚いている間に、フェイトはある物に気付いた

 

「シャーリー、ここ! ここを拡大して! なにか書いてある」

 

「あ、はい!」

 

フェイトが指差した場所をシャーリーは拡大した

 

「これは……名前ですかね? ジェイル……」

 

「ジェイル・スカリエッティ………」

 

フェイトは呟くと、手を伸ばしてキーボードを操作した

 

すると画面に一人の男が映った

 

髪は紫色で眼は黄色の白衣の男だった

 

「この男は?」

 

「私がある理由で、数年前から追いかけてる広域指名手配されている、次元犯罪者だよ」

 

そう言いながら画面を見ているフェイトの表情は、複雑だった

 

「シャーリー、データを纏めて! はやて達と話し合わなきゃ!」

 

「はい!」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「うん……うん、わかった。ほな、また後で!」

 

はやてはそう言うと、通信を切った

 

今現在、はやてはゲンヤ、ギンガの両名と一緒にクラナガンにある日本料理屋に来ていた

 

「部下からか?」

 

「はい、すいませんが、今日はこれで失礼します」

 

ゲンヤの言葉にはやてはそう言うと、伝票を取ろうとしたが

 

それはゲンヤが先に取り上げた

 

「そんな!?」

 

「仲間が待ってるんだろ? 早く行ってやんな」

 

「……ありがとうございます。あ、ギンガはスバルになにか伝言あるか?」

 

はやては嬉しそうに礼を陳べてから、ギンガに顔を向けた

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか」

 

はやては頷くと、椅子にかけておいたコートを取って

 

「それでは失礼します」

 

と、敬礼してから去った

 

「おう」

 

「お気をつけて!」

 

 

 

こうして、事態は発展していく



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出張任務! 行き先は……地球だと!?

はい、CD編です

更新が遅くってすいません


翌日

 

場所 ミッドチルダベルカ自治区 聖王教会 騎士カリム執務室

 

室内では、金髪ロングヘアーの女性、カリム・グラシアが書類仕事をしていた

 

すると、ドアがノックされた

 

「どうぞ」

 

と、カリムが促すと、ドアが開いて

 

「失礼します。騎士カリム。紅茶の用意が出来ました」

 

と、ショートカットにした赤い髪が特徴の女性

 

シャッハ・ヌエラが、紅茶セットが乗せられた台車を押して入ってきた

 

「今日はいい茶葉が手に入りました」

 

とシャッハは、慣れた手つきで、琥珀色の液体をカップに注ぎ、ミルクと砂糖を入れて、カリムに差し出した

 

「ありがとう。シャッハ」

 

カリムは書類仕事を一段落させると、紅茶を一口含んだ

 

すると

 

「先程の緊急呼出しは、なにかあったのですか?」

 

約1時間前、カリムは緊急呼出しされて教会騎士団の本部に向かっていたのだ

 

「ああ………これよ」

 

カリムは飲んでいた紅茶を置くと、ウィンドウを出した

 

シャッハはそれを覗くと

 

「なるほど……ロストロギア発見の報告ですか。しかも、管理外世界……」

 

と、顎に手を当てた

 

「そうなのよ。しかも本局の方からの依頼だから、断れなくって」

 

とカリムは、困った様子でため息を吐いた

 

「それで機動六課ですか? 六課はレリック専任ですのに」

 

シャッハも同意なのだろう。呆れた様子で、首を振った

 

「レリックである可能性も捨てきれないからって……今、本局の遺失物管理部の機動課も捜査部も動けないらしくって………教会騎士団の部隊でも、すぐに動かせる部隊は無いし………」

 

とカリムは、俯いた

 

「それで、場所は何処ですか? 遠い世界なのですか?」

 

「ああ、それは確認してなかったわね」

 

とカリムは、ウインドウを操作して、確認して

 

「え?」

 

「この世界は……」

 

と、二人揃って驚いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

場所は変わって、機動六課隊舎 デバイスルーム

 

「出張任務?」

 

「はい。緊急出動《アラート》が掛からない限りは、二時間後に出発するから、用意してください」

 

フェイトの言葉を聞いた冬也は、頭を掻いて

 

「とは言え、俺は私服なんぞ無いがな」

 

と呟いた

 

「あ……そういえば、そうでした」

 

冬也は基本的に陸士服を着用している

 

理由としては、冬也には一切、私服がないからで、唯一、私服と呼べるのはこの世界に来た時に着ていた服のみだった

 

がその服は、戦闘の影響で血まみれのボロボロになってしまった

 

そのために、冬也は私服が無いのだ

 

「ふむ……今回はヴァイス辺りに借りるか。身長は同じくらいだ」

 

冬也はそう言いながら、ため息を吐いた

 

すると

 

「あの……もしよかったら、一緒に買い物に行きませんか?」

 

とフェイトが、問い掛けた

 

「なに?」

 

「いつまでも私服が無いのは、さすがに問題がありますから」

 

フェイトの言葉に、冬也はしばらく黙ると

 

「……わかった。お願いする」

 

と、頷いた

 

「はい! では、休日を決めときますね」

 

「ああ」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

六課ヘリポート

 

「すいません! 遅れました!」

 

とリュックを背負ったキャロが、息を切らしながら走ってきた

 

「まだ大丈夫よ。隊長達も来てないし」

 

と、ティアナが言ったタイミングで

 

「みんな、お待たせや~」

 

と、はやてを先頭にゾロゾロと現れた

 

「「「「「「八神部隊長!?」」」」」」

 

「そうや♪」

 

全員が驚いていると、はやては鷹揚にうなずいた

 

「それに、シャマル先生に……ヴィータ副隊長にシグナム副隊長……」

 

「はーい♪」

 

「おう」

 

「ああ」

 

スバルが見回しながら言うと、三者三様に返事をして

 

「ネギ君に当麻さん。古菲も……」

 

「はい」

 

「おうよ」

 

「今回は私アルね!」

 

ティアナが呼ぶと、三人が頷いた

 

「私もいるですよー!」

 

と、はやての肩からリインが飛ぶながら大声を出した

 

「リイン曹長!」

 

「はいです♪」

 

 

リインに気付いたエリオが見上げると、リインは微笑んだ

 

そして、武はグルリと見回して

 

「なんというか………これまた大所帯ですね」

 

と、武が呟くと

 

「っていうか……ほとんどですよね?」

 

ティアナが呆然とした様子で、呟いた

 

「せや。隊舎にはグリフィス君を頭にザフィーラや楓ちゃん達が残ってるから、ある程度は対応可能や」

 

「今回はロストロギアが相手だから、動ける人は全員動かそうってことになったのよ」

 

はやての説明をシャマルが補足すると、フェイトが一歩前に出て

 

「それに、行き先もちょっと関係あってね……」

 

「行き先ですか? そういえば、どこなんです?」

 

と、冥夜が問いかけると、なのはが

 

「第97管理外世界……現地名称<地球>」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

なのはが告げた名前を聞いて、フォワード陣一同は一様に驚いた

 

「そこの小さな島国の小さな町。海鳴市。そこが今回の出張先だよ」

 

となのはが言うと、はやてが手を叩いて

 

「詳しいことはヘリで移動しながらや! 総員、搭乗!」

 

と、命じた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ヘリ内

 

「文化レベルB…魔法文化なし……次元移動手段なし……って、魔法文化ないの!?」

 

「ないよー。お父さんはご先祖様から魔力0だったし」

 

ティアナの驚きに、スバルがにこやかに言うと

 

「スバルさんは、お母さん似なんですね」

 

「うん!」

 

キャロの言葉に、スバルは満面の笑みを浮かべた

 

「いや、なんでそんな世界から、八神部隊長やなのはさん達みたいな高ランク魔導士が?」

 

と、ティアナが首を捻っていると

 

「突然変異というか……たまたまーな感じかな?」

 

と、はやてが微笑みながら答えた

 

「あ、すいません……」

 

「私もはやて隊長も、魔法とあったのは偶然だしね」

 

「「「「「へぇ~!」」」」」

 

なのはの言葉に、フォワード陣が声を上げていると

 

「はい、リインちゃんのお洋服」

 

とシャマルが、リインに服を差し出した

 

「わあ! シャマル、ありがとうです♪」

 

リインが嬉しそうにしていると、それを見ていたティアナが

 

「あの、その洋服は?」

 

と、首を傾げながら聞いた

 

「ああ、これ? はやてちゃんのお古よ。リインにピッタリなのが有ってよかったわ」

 

「あ、いえ。そうではなく………」

 

シャマルの言葉に、スバルが視線を服とリインに交互に向けた

 

「んー? ……ああ! そういえば、フォワードの皆には見せたことがなかったですね」

 

スバルの視線に意図を察したのか、リインはポンと手を叩いた

 

「あの……それってどういう……」

 

と、ティアナが聞いたら

 

「見ればわかるですよ」

 

とリインは、少し開けた場所に移動すると

 

「システムスイッチ! アウトフレーム、フルサイズ!」

 

と、リインが言った瞬間、リインの体が光った

 

そして、光が収まると

 

「と、このくらいのサイズにもなれるですよ!」

 

そこには、人間サイズのリインが居た

 

「「デカっ!」」

 

「いや、それでも、十分小柄だけど……」

 

スバルと武が同時に驚き、ティアナがそんな二人に突っ込みを入れた

 

そんな三人を傍目に、冥夜が近づき

 

「ふむ……リイン曹長の身長はエリオやキャロと同じくらいか」

 

と、手のひらを水平に動かして確認していた

 

「リイン曹長、かわいいです!」

 

「ありがとうです、キャロ♪」

 

キャロの言葉に、リインが笑顔を浮かべていると

 

「向こうじゃ、リインサイズの人間も、浮いてる人間もいねぇからな」

 

と、ヴィータが腕組みしていた

 

「いや、ミッドチルダでも居ないと思うぞ? ヴィータ」

 

そんなヴィータに、当麻が突っ込みを入れていると

 

「そういえば、そんなサイズになれるなら、そっちのほうがいいんじゃないんですか?」

 

と、スバルが問いかけた

 

「こっちの形態は燃費が悪いですし。なにより、魔力効率が悪いんです。だから、普段はあっちの形態でフワフワ飛んでるほうが楽なんですぅ」

 

「何事もうまくいかないんですね……」

 

リインの言葉に、刹那が眼を閉じて唸っていると

 

「はやてちゃん。そろそろ……」

 

「おっと、せやったな」

 

とはやてを筆頭に、数人が立ち上がった

 

フォワード陣が視線を向けると

 

「今から私達とネギ君を抜いた副隊長。それに当麻くんとシャマルは別行動をとります」

 

と立ち上がると、フォワード陣を見回して

 

「先に現地入りしとくな」

 

「「「「「お疲れ様です!!」」」」」

 

フォワード陣が敬礼したのを確認すると、はやて達はそこで別れた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

第97管理外世界<地球> 日本 海鳴市郊外の湖畔

 

その一画に光の輪が発生して、収まると

 

「はーい! 到着ですぅ!」

 

と、機動六課のメンバーが現れた

 

「わぁ~」

 

「ここが……」

 

「なのはさん達の…故郷……」

 

と、キャロ、エリオ、スバルが視線を周囲に向け、珍しそうにしていた

 

「そうだよ…ふふ、ミッドとそう変わらないでしょ?」

 

と、なのはが微笑んだ

 

「空は青いし……太陽も一つだし」

 

「山と水と…自然の匂いもそっくりです!」

 

「キュクイ~!」

 

「うん」

 

エリオ、キャロ、フリードの感想(一部疑問だが)に、なのはは頷いた

 

その時、こちらでは

 

「どうですか? 冬也さん。違う世界ですが、地球に来た感想は」

 

とフェイトが、冬也に聞いていた

 

「ふむ……確かに、平和でいい場所のようだ……だが、俺には無縁だったな」

 

そう言ってる冬也の表情は、眩しそうだった

 

「それって、どういう……」

 

「俺は基本的に、最前線か後方の研究所にしか居なかったからな………平和というものとは無縁だった」

 

フェイトの問いかけに、冬也は眼を細めながら返答した

 

そして、フェイトは悟った

 

(冬也さんは、本当に戦場しか知らないんだ………)

 

フェイトはその事実に歯噛みした

 

(8歳で戦場に立って、ずっと殺し合いを経験してきた……それって、大人は誰も助けてくれなかったってことだよね……)

 

それは本来、あってはならない事である

 

子供というのは、大人に守られて育つものだ

 

確かに、エリオとキャロは自ら望んで管理局に入った

 

だから、可能な限りフェイトは二人の周囲の環境を整えた

 

その甲斐あって、二人は純粋に育ってくれた

 

だけど、冬也はそれが無かった

 

だからか、歪んで育ってしまった

 

自分の身は省みず、誰かを守るためにその身を犠牲にし続けた

 

それが悲しくて、助けたかった

 

そして、対象は変わって

 

「武くんに冥夜ちゃん。違う世界だけど、こっちの日本はどうかな?」

 

となのはが、自然を眺めている二人に問いかけた

 

「とても平和ですね。羨ましいくらいです」

 

「ええ、私達の世界の日本は最前線でしたから」

 

と語っている二人の表情は、複雑な感情が混じっていた

 

「最前線って……」

 

「しかも、俺達の世界だと人類は滅亡の危機に瀕していました」

 

武の言葉に、なのはの眼が見開かれた

 

「人類が…滅亡の危機?」

 

「ええ……BETAとの戦争を始めて約30年で、人類は10億人にまで減少。ユーラシア大陸は9割近くが占拠されました」

 

なのはの疑問に、冥夜が拳を握りながら答えた

 

「そんな世界で、二人は戦ってたんだ………ところで、BETAって?」

 

なのはは二人が居た世界を思い、短く黙祷すると再度問いかけた

 

「簡単に言うと、地球外生命体とでも言うんでしょうね。正確には違いますが、それは今度話します」

 

と、武が言ったその時

 

山道を一台の車が走ってきた

 

「自動車? こっちの世界にもあるんだ」

 

と、ティアナが何気に失礼なことを口走った

 

「いくらなんでも、車くらいはありますよ」

 

「でも、あの車静かね」

 

と、刹那と明日菜が喋っていると、車が止まり

 

「なのは! フェイト!」

 

と、中から赤が少し混じった金髪をショートカットにした女性が出てきた

 

「アリサちゃん!」

 

「アリサ!」

 

三人は駆け寄ると、嬉しそうに肩に腕を回した

 

「なによー! 久々だったじゃない!」

 

「ニャハハハ…ごめんね?」

 

「仕事が忙しくって…」

 

アリサの言葉に二人が謝ると

 

「私だって大学が忙しいわよ」

 

とアリサが言うと

 

「アリサさーん!」

 

「リイン! 久しぶり!」

 

飛びついたリインをアリサが受け止めた

 

「はい! 久しぶりです!」

 

腰に抱きついたリインをアリサが撫でていると

 

「あ、紹介するね。こちらは私となのはの友人の」

 

「アリサ・バニングスです」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

と、自己紹介を軽く済ませた

 

「アリサちゃんが、この別荘地を貸してくれたんだ」

 

というなのはの言葉を聞いて、フォワード陣の視線が後方の大きなロッジに向けられた

 

「なのは、フェイト、はやての三人とは昔なじみでね。魔法のことを知ってからも付き合いが長いのよ」

 

そこまで言ったアリサは、誰かを探すように視線を左右に動かして

 

「そういえば、はやて達は?」

 

と、なのは達に問いかけた

 

「はやてちゃんとは別行動ですぅ」

 

「違う転送ポートからだから……」

 

「多分、すずかの所かな?」

 

と、三人は顔を見合わせた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、月村邸 庭

 

広い庭には、何匹も猫が居てまるで猫屋敷だった

 

そんな一画で、光の輪が広がって、近くにいた猫が逃げ出した

 

「あ、ごめんなぁ! にゃんこ達!」

 

逃げ出した猫に気付いたはやては、慌てて謝った

 

「猫ちゃんたち、久しぶり♪」

 

「おぉ…猫が大量に……」

 

「つか、また増えてないか?」

 

「ああ…見覚えの無い猫も何匹か居るな」

 

シャマルは近くの猫を撫でており、当麻は大量の猫に驚いてて、ヴィータとシグナムは増えてることに驚いていた

 

その時

 

「はやてちゃーん!」

 

と、一人の少女が駆け寄ってきた

 

「すずかちゃん!」

 

はやてとすずかと呼ばれた少女は抱き合って、再会を喜んでいた

 

「久しぶりや、すずかちゃん。元気やったか?」

 

「うん、元気元気!」

 

「いつもメールありがとうな? 後、にゃんこ達の写真。癒されるわぁ」

 

「ううん。はやてちゃんこそ、ありがとう………いつも気遣ってくれて」

 

「あ~もう、そんな……お家の庭を転送先に使わせてもろうてるんやし」

 

と会話を終えると、すずかは守護騎士のほうに体を向けて

 

「皆さんもお久しぶりです」

 

と、挨拶した

 

「ご無沙汰してます」

 

「お久しぶりです」

 

「すずかちゃん…ますます美人さんに~」

 

上からシグナム、ヴィータ、シャマルである

 

「あ、ありがとうございます」

 

シャマルの言葉に、すずかは一瞬頬を染めると

 

「でね、はやてちゃん」

 

「ん? なんや?」

 

「あれはなにが起きてるの?」

 

と、ある一画を指差した

 

「あれ…?」

 

はやてはすずかの指差した方向を見た

 

そこでは………

 

「あんたは……この三年間、どこで何をやっていたのか……とっくりと教えてほしいんだけどねー」

 

「そうです。と、ミサカは説明を要求します」

 

全身から放電している瓜二つの二人の少女に対して、当麻は見事なDO☆GE☆ZA☆を敢行していた

 

それを見たはやて達は、目を点にして固まった

 

「いや……これには色々とありまして……そもそも、なんで御坂さんがここに居るのでせうか?」

 

当麻はDO☆GE☆ZA☆をしたまま、御坂と呼ばれた少女。御坂美琴《みさかみこと》に質問した

 

「ん? お母さんの知り合いの家なのよ。で、お母さんがお父さんに会いに行ってる間は、ここに預けられてるのよ」

 

「な、なるほど……で、お前はもしかして……御坂妹か?」

 

返答を聞いた当麻は続いて、もう一人の少女に問いかけた

 

「はい、現在名は御坂美優《みさかみゆ》と申します。と、頭を下げます」

 

「御坂美優?」

 

と、当麻が首を傾げていると

 

「学園都市が解体された時に、家に引き取ったのよ。で、名義上、私の双子の妹って扱いよ」

 

「ほうほう……で、美優は体は大丈夫なのか?」

 

当麻は美琴の言葉に頷くと、美優に質問した

 

「はい。この町に冥土帰しが居ますので、定期的に検診してます。と、ミサカは説明します」

 

「冥土帰しって……ああ、あのカエル顔か」

 

当麻は手をポンと打ちながら納得した

 

そして、それを見ていた5人は

 

「どうやら、上条の友人らしいですね」

 

「だな」

 

「ああ! 彼が美琴ちゃんの言ってた上条君なんだ!」

 

「全身から電気を放ってたわね……」

 

と、各々感想を言っていたが

 

「…………」

 

はやてだけが、面白くなさそうな顔をしていた

 

そんなはやてに気付いたのか、すずかが近づいて

 

「がんばってね、はやてちゃん」

 

と、肩に手を置いた

 

肩に手を置かれた瞬間、はやての体がビクっと跳ねて

 

「ど、どどどど、どういう意味や!?」

 

はやては顔を赤くしながら、振り返った

 

「わかってるくせに♪」

 

とすずかは、更に近づいて

 

「彼、ライバル多そうだよ?」

 

と、呟いた

 

すると、はやては毅然とした態度で

 

「自力で振り返させたる」

 

と、言ったのだった



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捜査開始! そして、翠屋

遅くってすいません

冥夜と武の葛藤部分を書いてたら時間が掛かりました


地球 海鳴市郊外

 

コテージ

 

「さて……それじゃあ、改めて今回の任務を説明するよ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

なのはがモニターを表示しながら言うと、フォワード陣はうなずいた

 

「捜索域はここ。海鳴市の市全域……反応があったのは……こことここ。それと……ここ」

 

「移動してますね」

 

なのはが示した地点を見て、ティアナが呟いた

 

「そう。誰かが持って移動してるのか……独立して動いてるのかわからないけど」

 

ティアナの言葉に、フェイトが答えると、なのはが説明を再開した

 

「対象ロストロギアの危険性は、今の所確認されてない」

 

「仮にレリックだとしても……この世界には魔力保有者が滅多に居ないから、暴走の危険性はかなり低いね」

 

フェイトの説明をなのはが補足すると、フォワード陣は黙って聞いていた

 

「それじゃあ、副隊長達は後から合流してもらうとするから、先に」

 

と言った時、ドアが開いて

 

「すまんな。遅れた」

 

「ごめんなぁー」

 

シグナムを先頭に、はやて達が到着した

 

「あ、はやてちゃん。大丈夫だよ。今説明が………」

 

なのははそこまで言って、固まった

 

「当麻くんに、なにがあったの?」

 

全員の視線の先には、凄く疲れた様子の当麻が居た

 

「すみません、お願いします。なにも聞かないでください………」

 

「聞いてごめん。だから落ち着いて」

 

当麻の言葉と少し焼け焦げた服から、なのはは悟ったのか謝った

 

なお、当麻が着ている服ははやてが通販で買った物らしく、サイズはピッタリだった

 

当麻が、何時サイズを測ったのか聞いたら

 

「寝てる間に、チョチョイと!」

 

と、ドヤ顔で宣言していた

 

閑話休題

 

「それじゃあ、私と当麻くん。それとシャマルは設営しとるからなー」

 

はやてに見送られて、フォワード陣は出立した

 

なお、指示内容は以下の通りである

 

スターズ リインとなのは。ティアナとスバル及び古菲に別れて市内を捜索

 

ライトニング 市内各所にサーチャーを設置

 

アサルト ライトニングの手伝い。終了後はライトニングと共に市内の捜索へ

 

場所は変わって、市内

 

「リイン、久しぶりの海鳴市はどう?」

 

「う~ん、やっぱり懐かしいですぅ! ……なのはさんは?」

 

リインとなのはの二人は、懐かしの地元で話が盛り上がっていた

 

「私は懐かしいっていうより……あれ? 仕事中なのに戻ってきちゃった? ……みたいな感じかな?」

 

「あはは、なるほどですぅ」

 

そのまま二人は、楽しそうに会話を続けながら捜索を続けた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「つーか、ホントにミッドのちょっと田舎と、大差ないわね……街並みも人の服装も」

 

「う〜ん、私は好きだな〜こういう感じ」

 

ティアナとスバルの二人は、捜索をしながら市内の様子を見ていた

 

すると、一緒に来ていた古菲が

 

「私としては、むしろミッドが驚きネ」

 

と、古菲が呟いていると

 

「あ! ねえティア、あれってアイス屋さんかな?」

 

と、スバルが一角に車式のアイス屋を見つけた

 

「うん。そうかもね……って、任務中なんだから、買い食いはやめなさいよ! みっともない!」

 

「うぅ~、だってー」

 

と、スバルが未練タラタラに見ていたら

 

「はいはい、さっさと行くアルよー」

 

と、古菲がスバルの襟を掴んで引きずり始めた

 

「古菲、そのままお願い」

 

「了解アル」

 

「あー、アイスーー」

 

スバルの残念そうな声と、引きずる音が響いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「本当に、平和な所なんですね……」

 

「本当だね……」

 

「まぁ、確かに日本は比較的平和ですね」

 

エリオ、キャロ、刹那の三人は兄妹という感じで歩きながらサーチャーを設置していた

 

「キュク~~」

 

「あ、フリード。カバンから出ちゃ駄目だよ」

 

カバンの蓋が少し浮いて、フリードが出たそうに鳴くが、キャロが注意すると

 

「キュクル~~」

 

と、残念そうに鳴いて引っ込んだ

 

「早く終わらせて、フリードを出してあげましょう」

 

「「はい!」」

 

刹那の言葉に二人が頷くと、設置を続けた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「本当に平和なのだな、この世界は………」

 

「だな。でも少しばかり、平和ボケしすぎな感じもしないでもないがな」

 

という冥夜と武の言葉に、明日菜は苦い顔をして

 

「そういえば、あんた達は兵士だったのよね」

 

と聞いた

 

「ああ、そうだよ」

 

「うむ。我らの世界では日本は最前線だったからな」

 

二人は複雑な感情が入り混じった表情をしながら、頷いた

 

「大変だったのね、あんた達も………」

 

明日菜は感慨深げに頷きながら、呟いた

 

三人は注意深く歩きながら、サーチャーを設置していった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ふむ、久しぶりに来たが。少し変わったか?」

 

「そうですね。少しばかり、科学的な物が多いですね」

 

「あそこには、ドラム缶みたいなロボットがありますし」

 

「学園都市の科学技術とやらかな?」

 

アサルトとライトニングの隊長陣の四人は、ものめずらしそうに歩きながらサーチャーを設置していた

 

すると、なにかに気付いたのかシグナムが

 

「そういえば、別世界とはいえ神代とスプリングフィールドも地球出身だろ? どうだ?」

 

と、二人に問いかけてきた

 

「僕はイギリスのウェールズの隠れ村の出身ですが、麻帆良学園に雰囲気が似てるので、好きですね!」

 

と、ネギは嬉しそうに語るが冬也は

 

「俺は基本的に、最前線か後方の研究所にしか居なかったからな。こういう平和とは無縁だったよ」

 

と、無表情に語った

 

「なに?」

 

シグナムが肩眉を上げていぶかしむと、フェイトが慌てて

 

「あ、シグナム。冬也さんは本当に最前線しか知らないみたいなの……小さい時から」

 

と説明すると、シグナムは

 

「む、そうだったのか。すまない」

 

「いや、構わん」

 

と、話しながら設置を続けた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

その頃、ロングアーチ

 

「サーチャー動作確認、順調よ」

 

「ん。これなら、夜までに結構進むな」

 

「はい」

 

シャマルとはやてが機材の確認を行っていた

 

すると、ドアが開いて

 

「おーい、はやて! これで大丈夫か?」

 

なにやら設置していたらしい当麻が、はやてに確認を仰いだ

 

「はいはい、ちょう待っててな~」

 

当麻に呼ばれたはやては、パタパタと小走りで外に向かった

 

それを見ていたシャマルは

 

「まるで、夫婦みたいなやり取りね」

 

と、微笑んでいた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「なのは達、相変わらず頑張ってるみたいね」

 

「うん。晩御飯とかは、私達で用意しておこう? せっかくコテージなんだし……バーベキューとかいいんじゃないかな?」

 

アリサが運転する車の中、アリサとすずかは笑顔で話していた

 

「いいわね! なのはの生徒さん達、たっくさん食べそうだし。たっぷり買出しいっとこうか!」

 

「うん! それにしても」

 

「ん? どうしたのよ」

 

すずかが首を傾げると、アリサが問いかけた

 

「家で預かってる御坂さんの知り合いが居るなんて、思わなかったな~」

 

「御坂って………ああ、元学園都市の女の子?」

 

「そう。そういえば、アリサちゃんも預かってたよね? 白髪の男の子と小さい女の子」

 

とすずかが問いかけると、アリサは少し唸って

 

「確かに預かってるけど……ったく、あいつは朝から何処をほっつき歩いてるんのよ!」

 

と、少し怒っていた

 

「また? まぁ、夜には帰ってるんでしょ?」

 

「そうだけど……預かってる身にもなれってのよ……」

 

と、アリサはブツブツと文句を言いながら運転を続けた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

全員がサーチャーの設置が終わった頃

 

『ロングアーチからスターズとライトニング。それとアサルトへ』

 

はやてから通信が全員に入った

 

『さっき、教会本部から新情報が来てな。問題のロストロギアの所有者が判明したそうや。どうやら、運搬中に喪失。事件性は皆無やって』

 

『本体の性質も逃走のみで、攻撃性はないそうよ……ただし、大変高価なものなので、出来れば無傷で捕まえてほしいとのことよ』

 

はやての説明を、シャマルが補足した

 

最後にはやてが

 

『ってなわけで、気ぃ抜かずにしっかりやろ』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

はやての言葉に全員の斉唱が響き、通信は終わった

 

すると、なのはは

 

「手ぶらで帰るのもなんかな~」

 

と、ポケットから携帯を取り出して

 

「あ、お母さん? なのはです」

 

どうやら、実家に電話を掛けたようである

 

「「え?」」

 

それを聞いたティアナとスバルは、驚いた様子でなのはを見ていた

 

「にゃはは……お仕事で近くまで来てて……そうなの……うん、ホントすぐ近く。でね、部隊の皆にうちのケーキ、差し入れでもっていってあげたいから——」

 

と、なのはが話していると

 

「なのはさんの……お母さん」

 

「それは……存在してて当たり前だけど……」

 

スバルとティアナが呆然としていた

 

「生きてるのは当たり前ネ」

 

何気に失礼なことを言っていた二人を古菲が突っ込んでいたら、電話が終わったのか、なのはが振り向いて

 

「ライトニングとアサルトにも連絡したし、ちょっと寄り道しようか?」

 

「はいですぅ~♪」

 

なのはの言葉に、リインは嬉しそうに頷いていた

 

すると、スバルが手を挙げて

 

「あの……今、お店って……」

 

と質問すると、なのはは笑顔で

 

「うん、私の家。喫茶店なんだ」

 

「喫茶翠屋! ここら辺じゃ人気の喫茶店なのですよ!」

 

「「え、ええー!?」」

 

なのはとリインの言葉に、スバルとティアナは驚いていた

 

ちなみに、古菲は

 

「ほう、喫茶店アルか」

 

と、頷いていた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

一軒の喫茶店の前に、一台の車が止まった

 

「ここがそうなのか?」

 

車から降りながら、冬也がフェイトに問いかけた

 

「はい、なのはの実家が経営している喫茶翠屋です」

 

フェイトは車のドアを閉めると、喫茶店に入った(ネギ達は、シグナムが運転している車で来た)

 

「いらっしゃーい♪ フェイトちゃん、久しぶり~」

 

冬也達を出迎えてくれたのは、若い女性だった

 

「桃子さん。お久しぶりです」

 

フェイトは微笑みながら、挨拶した

 

すると、ネギが

 

「あの、フェイトさん。こちらの女性は?」

 

「ああ、ごめんね。こちらの方は、なのはのお母さんの……」

 

「高町桃子です、よろしくね♪」

 

フェイトに続くように、桃子が自己紹介すると、しばらく静まり

 

「「「「「お母さん!?」」」」」

 

ほぼ全員が驚いていた

 

すると、冬也が

 

「フェイトよ……」

 

顔をフェイトに向けた

 

「はい、どうしました?」

 

「この世界では、不老不死の研究でも成功していたのか?」

 

冷静に見えるだけで、冬也が一番混乱していた

 

「気持ちはわかりますが、落ち着いてください」

 

と、フェイトが落ち着かせていると

 

「お? フェイトちゃんか。久しぶりだね」

 

「久しぶり~」

 

スバルやティアナと話していた男性と眼鏡を掛けた女性が近づいてきた

 

「お久しぶりです。士郎さん。美由希さん。みんな。こちらは、なのはのお父さんとお姉さんの……」

 

「なのはの父で、高町士郎だ。よろしく」

 

「私が姉の高町美由希です。よろしくね」

 

「「「「「…………」」」」」

 

二人の自己紹介に全員、沈黙しかなかった

 

母親だけでなく、父親も姉も若かった

 

総じて、二十代にしか見えない

 

「フェイト……」

 

「気持ちはわかりますが、落ち着いてください」

 

冬也は再び、混乱の極みに達していた

 

「そういえば、お父さん。お兄ちゃんは?」

 

ふと思い出したのか、なのはが問いかけると

 

「恭ちゃんだったら、いったん二日前に帰ってきたけど、忍さんとまたロンドンに行ったよ」

 

と、美由希が返答した

 

「そっか、タイミング悪かったな~」

 

なのはが残念そうにしていると

 

「お兄さん……ですか?」

 

と、ネギが問いかけた

 

「そうだよ…っと、君は?」

 

「あ、失礼しました。僕は民間協力者のネギ・スプリングフィールドと申します」

 

士郎の問いかけに、ネギが挨拶しているとそれに続くように

 

「同じく、民間協力者の神代冬也」

 

「白銀武です」

 

「御剣冥夜です」

 

「神楽坂明日菜よ」

 

「古菲アルね」

 

「桜咲刹那です」

 

と自己紹介をした

 

「よろしくね。そうだ、コーヒーと紅茶でもどうかな?」

 

と、士郎が聞くと

 

「あ、すいません。それじゃあ、僕は紅茶でお願いします」

 

「む、俺はコーヒーを頼みます」

 

「俺もコーヒーで」

 

「私も」

 

と、ネギたちは頼んでいった

 

それをフェイトは微笑みながら見ていた

 

視線の先では、エリオとキャロがクッキーを食べている

 

すると、目の前にカップが出されて

 

「フェイトちゃんはコーヒーだよね?」

 

気付けば、士郎が居た

 

「あ、ありがとうございます」

 

フェイトは一瞬驚いたが、すぐに受け取り、口に含んだ

 

「おいしいです」

 

「それはよかった」

 

そう言いながら士郎は、柱に寄りかかった

 

しばらくの間、沈黙が続いて

 

「彼、何者だい?」

 

と、指差した先に居たのは冬也だった

 

「えっと、どういう意味ですか?」

 

フェイトは訳がわからず、首をかしげた

 

「さっき軽く握手してわかったが、そうとうの手練れだね。しかも、私と同じ、殺し合い経験者だね?」

 

士郎の鋭い指摘に、フェイトは一瞬驚くが

 

「はい。彼は八歳から最前線で戦ってきた人で、私達の中ではダントツの実戦経験保持者です。親は居なくて、自ら望んで戦場に立っていたらしいんです」

 

「八歳から……しかも、親無しか……」

 

フェイトの言葉に士郎は、しばらく黙ると

 

「危ういね」

 

と、呟いた

 

「危うい?」

 

フェイトが首を傾げると、士郎はうなずいて

 

「ああ。彼の眼にあったのは、深い悲しみと絶望だった」

 

「深い悲しみと絶望……」

 

士郎の言葉に、フェイトは視線を冬也に向けた

 

「あの歳であの眼が出来るんだ。彼、相当の地獄を歩いてきたんだろうね。故に、自分の身は省みない。違うかい?」

 

士郎の言葉は的を射ていた

 

冬也は大怪我をしながら、ネギたちを守り

 

怪我を押して、フェイトを身を挺して守った

 

フェイトが黙っているのを肯定と取ったのか、士郎は続けて

 

「彼を支える人物が居ないと、彼、死に急ぐよ?」

 

と語った



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鉄板焼きと真情

遅くってすいません


夕方

 

場所 海鳴市郊外湖畔のコテージ

 

「やっと着いたー」

 

「運転させて、すまんな。フェイト」

 

「いえ、大丈夫です」

 

全員二台の車から全員降りると、背伸びしたりしていた

 

すると、カバンから出てきたフリードが鼻をひくつかせ

 

「キュクー!」

 

「どうしたの、フリード?」

 

多少興奮した様子のフリードに、キャロが問い掛けていると

 

「なんか………」

 

「いい匂いが……」

 

と、フォワードの大食いコンビが気付いた

 

「ああ、はやてちゃんが準備してるのかもね」

 

と、なのはが言った時

 

坂道を車が走ってくる音が聞こえた

 

全員がそちらに視線を向けると、ちょうど一台の車が止まり

 

「ヤッホー!」

 

「みんな、お仕事してるか?」

 

「お姉ちゃんズ参上ー」

 

と、喫茶翠屋で別れたばかりの高町美由希を含めて三人現れたが

 

一人だけ、子供が居た

 

しかも

 

「犬耳と尻尾……ワンコ素体?」

 

「誰かの使い魔かな?」

 

と、ティアナとスバルが首を傾げていたら

 

「フェイトーー!」

 

「アルフ!」

 

アルフと呼ばれた少女は、フェイトに飛びついた

 

「フェイト、フェイト、フェイト!」

 

「元気そうだね、アルフ」

 

「元気!」

 

オレンジ髪に犬耳と尻尾の女の子

 

アルフはフェイトに抱き着いたまま、尻尾をブンブンと振っていた

 

すると、それを見ていた冬也が

 

「アルフだったか? 君はフェイトの使い魔なのか?」

 

と、アルフに問いかけた

 

すると、アルフはうなずきながら

 

「そうだ。あたしはフェイトの使い魔だ!」

 

と、胸を張りながら宣言した

 

すると、武が首をひねりながら

 

「あの、使い魔ってなんです?」

 

と、フェイトに問いかけた

 

「使い魔っていうのはね、魔導士が動物とかと契約して誕生する大切な相棒なんだ」

 

「なお、その契約内容は千差万別でな。ささいな理由でも構わん」

 

フェイトの説明を冬也が補足すると、アルフは武に近づいて

 

「で、アタシはフェイトと契約してるんだ! ちなみに、犬じゃなくって狼だからな?」

 

アルフの言葉に武は驚いた顔で

 

「犬じゃないんだ!」

 

「狼だ!」

 

アルフにとっては、至極失礼なことを口走った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

全員がコテージに近づくと、匂いが強くなり、ある音が聞こえてきた

 

そして、新人達の視線はその発生源に向けられて

 

「八神部隊長!?」

 

「八神部隊長と当麻が鉄板焼きを!?」

 

「料理なら私達がやりますから!」

 

と、驚きと遠慮から駆け寄るが

 

「ん? 構へんよー、料理は元々得意やしな」

 

「おうよ。それに、お前らは設置と捜索任務で疲れてるだろ? 任せとけ」

 

はやてと当麻の二人は、首を左右に振って料理を続行した

 

すると、先に戻っていたヴィータがウサギの人形を脇に抱えながら現れて

 

「はやての料理はギガウマだぞ? 遠慮しないであやかっとけ」

 

と告げた

 

すると、シグナムがシャマルに近づいて

 

「シャマルよ。お前は手出ししなかっただろうな?」

 

というシグナムの言葉を聞いて、シャマルは口を尖らせて

 

「当麻くんに止められたわよ………」

 

と、不満そうに呟いた

 

「なに?」

 

シャマルの言葉に、シグナムは視線を当麻に向けた

 

すると、当麻は苦い顔をしながら

 

「こんなもんを入れようとしたからな……全力で止めた……」

 

と、袋を取り出した

 

その袋の中には

 

虹色のキノコが大量に入っていた………

 

それを確認したシグナムは、両手を当麻の肩に置いて

 

「よくやった上条!」

 

当麻をほめていた

 

「一応事実確認するが、シャマル先生って料理は?」

 

「本人は否定するが、下手だ」

 

「違うもん! シャマル先生、お料理下手なんかじゃないもん!!」

 

シグナムの言葉に、シャマルは全力で否定するが

 

「黙れ。今まで何回、ザフィーラがお前の作ったモノを食べて倒れたと思っている」

 

シグナムの言葉を聞いた当麻が、視線をヴィータに向けて

 

「マジか?」

 

と聞くと、ヴィータは視線を上に向けて

 

「大マジだ………」

 

と、眼から一筋の雫を垂らしながら告げた

 

それを聞いた当麻は視線を動かして、なのはとフェイトを見た

 

「…………」

 

「…………」

 

二人はそろって苦笑い

 

最後に隣のはやてを見ると

 

「…………」

 

顔を上に向けて、敬礼していた

 

死んでない

 

ザフィーラは断じて死んでない

 

当麻は、そんな二人の反応を見て

 

(シャマルだけは絶対に、調理場に立たせないようにしよう……)

 

と、心に固く誓った

 

だが、当麻は知らない

 

後に、彼女の作ったモノが原因でトラブルが発生するなど……

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そして、調理が終わり並べられて全員食べ始めた

 

「うまい!!」

 

「そうだな。合成食材とは大違いだな」

 

「合成食材ってなに?」

 

武と冥夜の言葉を聞いたアリサが首をかしげながら、聞いてきた

 

「俺達の世界で普及している食材です」

 

「タンパク質を合成して作る食材で、風味などは本物に近い擬似食材です」

 

それを聞いたすずかは驚いた様子で

 

「私達と年も近いのに、君達は大変だったんだね……」

 

と、呟いた

 

すると、美由希、アルフと一緒に来た茶髪ショートカットの女性

 

エイミィ・ハラオウンが机の上を見て

 

「あれ? もう飲み物が無い?」

 

と、声を上げた

 

すると、それに同調するように

 

「およ? 冬也はんも居らへんな?」

 

と、はやてが周囲を見回した

 

すると、それを聞いたスバルが湖の方向を指差しながら

 

「冬也隊長でしたら、湖の方向に行きましたよ?」

 

それを聞いたはやては

 

「もしかしたら、ジュースを取りに行ってくれたんかな?」

 

と、首をかしげた

 

すると、フェイトが立ち上がって

 

「私も取りに行って来るよ」

 

と、湖の方向へと体を向けた

 

その時、エリオとキャロが立ち上がり

 

「フェイトさん! そんなこと、僕達が行きますよ!」

 

「そうです! だから、フェイトさんは休んでてください!」

 

と、フェイトを引き止めるが、フェイトはそんな二人を優しげに見下ろして

 

「ううん、大丈夫だよ。私よりも、エリオやキャロのほうが休んでて。アリサ、ジュースはどこに置いてある?」

 

フェイトが聞くと、アリサは湖の方向を指差しながら

 

「湖に浸けてあるわ! 近くに大きな岩があるから、目印として探して!」

 

「わかった、ありがとう!」

 

アリサに返事をすると、フェイトは駆け出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「バルディッシュ、冬也さんの場所は?」

 

<2時の方向、距離900です>

 

フェイトがバルディッシュに問いかけると、バルディッシュは簡潔に答えた

 

「ありがとう!」

 

<いえ、構いません>

 

フェイトはバルディッシュにお礼を言うと、バルディッシュに言われた方向に駆け出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「えっと………あ、居た。冬也さ……っ!」

 

フェイトは大岩の近くで冬也を見つけたので、声をかけようとした

 

が、それは止まった

 

理由は………

 

(な、なに? 今の……)

 

フェイトに眼に映ったのは、静かで穏やかな湖畔ではなく

 

燃え盛る炎

 

力なく倒れている人々

 

地面に突き刺さっている、数えるのが馬鹿馬鹿しい程の武器

 

そして、血が滴る刀を両手に持っている冬也

 

そう、あれはまるで………

 

(戦場みたい……)

 

だが、それもすぐに消えて、そこには普通の景色が写った

 

すると、冬也が振り向き

 

「ああ、フェイトか……どうした?」

 

と、微笑みながらフェイトに問いかけた

 

「冬也さんが居なかったので、探しにきたんです。ジュースも取りにきたんですが」

 

「そうだったか、すまんな………」

 

冬也は謝ると、視線を湖に向けた

 

フェイトは、そんな冬也の隣に立つと

 

「どうしたんですか?」

 

と、冬也に問いかけた

 

「いや、なにな……酷く場違いな気がしてな……」

 

「場違い……ですか?」

 

冬也の言葉に、フェイトは首をかしげた

 

「俺は、戦場しか知らず…戦うことしか知らず…傷つけることしか知らず…殺すことしか知らない……」

 

「それは……」

 

フェイトはなにか言おうと口を開いたが、結局、なにも出なかった

 

すると、冬也は視線を上に上げて

 

「俺は、この世界で…どうしたらいいんだろうな………」

 

と、悲しそうに呟いた……



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お風呂パニック!!

遅くってすいません!!
がんばりますので、見捨てないでください!
はやて×当麻の方達、この展開でどうだ!!


食事と後片付けが終わって、全員が集まったタイミングで

 

「さて、サーチャーの様子を確認しつつ、お風呂を済ませようか」

 

と、はやてが言い出した

 

「「「「「はい!」」」」」

 

フォワード陣が返事をすると

 

「まぁ、監視と言っても、デバイスを身に着けてれば反応を確認できるし」

 

と、言った

 

「最近は本当に便利だよね~」

 

「技術の進歩ですぅ!」

 

なのはのシミジミとした言葉に、リインが嬉しそうに言った

 

「あ、でも、ここにはお風呂なんてないのよね」

 

「季節柄、水浴びってわけにもいかないしね……」

 

アリサとすずかが、困ったように言うと

 

「ここは、あそこでしょ」

 

「あそこですな」

 

エイミィと美由希が楽しそうに、告げた

 

「それでは、六課一同! 着替えを用意して、出発準備!」

 

「これより、市内のスーパー銭湯に向かいます」

 

なのはとフェイトが行き先を告げると

 

「スーパー」

 

「銭湯?」

 

ミッド生まれにしてミッド育ちのフォワード陣は、首をかしげた

 

そんな会話の端で

 

「俺は水浴びで構わんのだがな……」

 

「風邪を引くかもしれないので、やめてください」

 

冬也の言葉に、フェイトが突っ込みを入れた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「いらっしゃいませ! 海鳴スパラクーアⅡへようこ……団体様ですか?」

 

受付嬢はあまりの人数の多さに、一瞬固まったが、気を取り直して接客を再開した

 

しかし、受付嬢が驚くのも無理はない

 

機動六課の人数は直前で二人増えて、三十人近く居る

 

もはや、どこかの学校のクラス並である

 

「はい。大人が二十二人で子供は……五人です」

 

はやてが子供と言うと、リイン、エリオ、キャロ、ネギ、アルフが手を上げた

 

その時、武はヴィータに尋ねるような視線を向けていた

 

「んだよ」

 

「いえ、別に」

 

武が何を言いたいのかわかったのか、ヴィータは不機嫌そうに睨みつけた

 

すると武は、視線を逸らした

 

「そんじゃあ、お会計は済ましとくから、皆先に入っといてなぁ~」

 

はやてが財布を取り出しながら言うと、全員入口を潜った

 

すると、先には二つのドアがあった

 

その上には、男と女と書いてある

 

エリオはそれを見ると、安堵のため息を吐いた

 

「よかった。ちゃんと男女別だ」

 

「広いお風呂だって! 楽しみだね、エリオくん!」

 

そんな様子のエリオに、キャロが声をかけるが

 

「あ、うん、そうだね。スバルさんたちと一緒に楽しんできて」

 

「え? エリオくんは一緒に入らないの?」

 

エリオの言葉に、キャロは悲しそうな表情でエリオを見つめた

 

「い、いや、ほら! 僕は男の子だし!!」

 

とエリオは慌てながら言うが、フェイトが残念そうな顔で

 

「……でも、一緒に入ろうよ」

 

「フェイトさん!?」

 

エリオにとって、無情な言葉を投げかけた

 

エリオは助けを求めるように、視線を周囲に向けて

 

「え……い、いや、あのですね! それはやっぱり、スバルさんとか、隊長さん達。アリサさんたちや美琴さんたちも居ますし!!」

 

そう顔を赤くしながら告げるが

 

「私は別にいいけど?」

 

ティアナは無頓着に

 

「てか、前から頭を洗ってあげようか? って言ってるじゃない」

 

なにを今更的に、スバル

 

「私らもいいわよ。ね?」

 

「うん」

 

別にどうってことない、という感じでアリサとすずか

 

「あたしたちも別に構わないわよね?」

 

「はい、姉さん。と、ミサカはうなずきます」

 

子供だから気にしないと、御坂姉妹

 

「軍では男も女もなかったぞ」

 

軍人ゆえに、気にしていない冥夜

 

「いいんじゃないかな? 仲良く入れば」

 

仲が良ければ万事OK! といった様子のなのは

 

「そうだよ……エリオと一緒のお風呂は久しぶりだし、一緒に入りたいなぁ……」

 

保護者ゆえに、一緒に入りたいフェイト

 

段々と、エリオの退路がふさがれていく

 

「で、でも! ネギくんもこっちに……あれ? ネギくん?」

 

先ほどまで隣に居たはずのネギが居なくて、視線を左右にめぐらせると

 

「ほら、ネギ! あんたはこっちよ! あんたはほっとくと、体洗わないんだから!!」

 

「あ、明日菜さん! 僕は向こうに!!」

 

ああ、なんという無情

 

ネギは明日菜にドナドナされていた

 

しかも、ネギという前例が出来てしまったので、エリオが入っても問題は無くなってしまった

 

そのことにエリオが震えていると

 

「あー……流石にかわいそうなので、止めてあげてもらえませんか?」

 

「ああ。それに、エリオはしっかりしてるんだ。恥ずかしいんだろ」

 

武と当麻が救いの手を差し伸べた

 

「まぁ、嫌がってるのをそちらに送る道理もないしな」

 

「むぅ……」

 

冬也の的を射た言葉に、フェイトは口を尖らせた

 

そして、男性陣がドアを潜って中に入ると、女性陣も中に入っていったが

 

「えっと……」

 

キャロは、注意書きと書かれた看板の一部を見ていた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「うわぁ! スゴーい! きれ~い!!」

 

「ほんと……」

 

初めての温泉にスバルは興奮していて、ティアナは呆然としていた

 

すると、なのはが近づいて

 

「スバル、ティアナ。おいで、お湯の使い方とか、作法とか教えてあげるから」

 

「「はい!」」

 

なのはの言葉に、スバルとティアナは素直に従った

 

「へぇ~、なんか随分と変わったなぁ」

 

「ああ、湯の数も増えているし、階層も一つ増えたようだな。任務でなければ、ゆっくり楽しめたんだがな……」

 

久しぶりに来たからか、ヴィータは興味深そうに見回していて、お風呂好きのシグナムは心底残念そうだった

 

そんな二人にシャマルが近づき

 

「いいじゃない。反応があったら、すぐに出られるようにすれば」

 

と言うが、二人は首を振って

 

「前線はそうもいかん」

 

「曲がりなりにも、副隊長だしな」

 

そんな二人の発言に、シャマルは苦笑いしながら

 

「はいはい……」

 

と、言った

 

その時、ドアが開いて

 

「あ、皆!」

 

「待っててくれたんか?」

 

会計を終えたらしい、リインとはやてが現れた

 

「うん」

 

「折角だから、皆一緒にって」

 

「あんがとうな」

 

なのはとフェイトに礼を陳べると、はやては視線を動かして

 

「いやぁ、しかし、圧巻やねぇ」

 

と、心なしか、狸の耳が見えた

 

「あ、はやてが親父モードに」

 

「まぁ、恒例だね」

 

アリサとすずかの発言に、なのはとフェイトは胸元を両手で隠して、はやてから離れた

 

「む! この気配は、黒子!?」

 

「あの方は別の町のはずですが? と、ミサカは忠告します」

 

美琴は視線を忙しなく左右に向けて、美優はそんな姉に突っ込みを入れていた

 

「む? 副司令?」

 

冥夜は首をかしげていた

 

その後も、主にプロポーション関係で話は盛り上がった

 

が、その時アルフがふと気付いた

 

「あれ? キャロが居ない……」

 

「あれ? 本当だ」

 

アルフの言葉に、エイミィも周囲を見回して気付いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、男湯

 

「鍵はこうして、こうだ。わかったな?」

 

「はい! ありがとうございます、当麻さん!」

 

当麻が、ロッカーの使い方をエリオにレクチャーしていたら

 

ガチャリと、扉が開く音がして

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

キャロが、男湯に現れた

 

「キャ、キャキャキャロ!?」

 

「あ、エリオくん! 皆さん!」

 

そんなキャロの姿に、エリオが顔を赤くして動揺していると、キャロが気付いて近づいてきた

 

「キャロ! こっちは男湯!」

 

「うん。係員さんに聞いたら、11歳までなら、男女共に子供は入っていいんだって。だからほら、この下は……」

 

キャロはそう言いながら、タオルを開けようとしたが、それを冬也が手を掴んで止めた

 

「キャロ、前は開くな。そのまま」

 

「あ、はい」

 

冬也の言葉に、キャロが頷くと

 

「キャロ、世の中にはな、危ない奴が居るんだよ」

 

なぜか、確信的に言う当麻

 

キャロは当麻の言葉に、首を傾げて

 

「は、はあ……」

 

と、言うことしか出来なかった

 

当麻の脳裏には、親友の青髪ピアスの姿が映っていた

 

その時、武がエリオの肩に手を置いて

 

「エリオ、諦めろ。こうなったら、お前が女子風呂に行くか、こっちでキャロと一緒に入るかの二択しか残されてない」

 

「はい……」

 

エリオを諭していた。そのエリオは、ダバーと涙を流しながら頷いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「エリオ、キャロ、こっちに来い。頭を洗ってやる」

 

「あ、はい」

 

「でも……」

 

冬也の言葉に、キャロは素直に頷くが、エリオはためらっていた

 

「遠慮するな。本来子供というのは、大人に甘えるものだ」

 

そう言ってる冬也の眼は、優しい光に満ちていた

 

だが同時に、悲しい光も満ちていた

 

「はい……では、お言葉に甘えて」

 

エリオは頷いて、椅子に座った

 

「先にキャロから洗おう。エリオは体を洗っていてくれ」

 

「「はい!」」

 

冬也の言葉を聞いて、エリオは体を洗い始めた

 

第三者sideEND

 

キャロside

 

「まずは濡らすぞ?」

 

「あ、はい」

 

冬也さんの言葉に私は、目を閉じた

 

すると、お湯が被せられて

 

「シャンプーを使うから、しっかり眼は閉じていろ。しみるぞ?」

 

「はい」

 

私が返事をすると、冬也さんは頭を洗い始めてくれました

 

その手つきは優しくて、とても暖かっくって

 

まるで、フェイトさんみたいで……安心できます

 

「隊長、手馴れてますね」

 

「なにな…俺の居た部隊には、訳ありの子供が多くてな。面倒を見ていたら、自然とな」

 

武さんの質問に、冬也さんが答えてますが……少し、悲しい感じがします

 

「キャロ、痛かったり痒かったりする所はあるか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「あったら、遠慮なく言えよ」

 

「はい」

 

冬也さんの言葉使いは少しぶっきらぼうだけど、優しいのがわかります

 

冬也さんみたいな人がお父さんだったら、いいのに……

 

「そろそろ流すぞ?」

 

「あ、はい」

 

あ、そうだ! 後でエリオくんと話してみよう!

 

キャロsideEND

 

エリオside

 

「よし、次はエリオだ。キャロは体を洗ってから湯船に浸かれ」

 

「「はい」」

 

冬也さんに呼ばれて僕は、キャロと入れ替わりに冬也さんの前の椅子に座った

 

「濡らすぞ」

 

「あ、はい」

 

冬也さんに言われて、僕は目を瞑った

 

すると、お湯が掛けられて

 

「洗うぞ? 痒かったり、痛かったりしたら言うんだぞ?」

 

「はい」

 

洗い始めてくれた冬也さんの手は優しくって、フェイトさんみたいでした

 

あの施設の人たちとは大違いで、暖かい感じがします

 

「どうかしたか?」

 

「え? なにがですか?」

 

「少し、悲しそうだったからな」

 

本当に優しい人だな……

 

「少し、昔を思い出しまして……」

 

「そうか……………エリオ」

 

「はい、なんですか?」

 

「悲しいなら、我慢しないで甘えていいぞ」

 

「でも……」

 

「我慢していると、笑えなくなってしまうぞ?」

 

冬也さんの言葉は優しいけど、どこか悲しい感じがします……

 

「はい、わかりました……」

 

やっぱり、冬也さんは優しいな……

 

冬也さんみたいな人が親だったら、いいのに……

 

「そろそろ流すぞ。目を瞑っておけ」

 

「あ、はい」

 

冬也さんに言われて、僕は目を瞑った

 

僕が目を瞑ったのを確認したのか、少し間があってから流してくれました

 

ん? キャロから念話?

 

エリオsideEND

 

第三者side

 

「ほれ、後は体を冷やさないように、湯船に浸かれ」

 

冬也がそう言い、タオルを用意していると

 

キャロとエリオがうなずいて

 

「「冬也さん!」」

 

同時に冬也を呼んだ

 

「ん? どうした?」

 

冬也は不思議そうな顔をしながら、二人を見やった

 

すると

 

「「冬也さんのことを、お父さんって呼んでいいですか?」」

 

二人のその発言に、冬也は固まった

 

いや、冬也だけでなく、武と当麻も固まっていた

 

少しすると、冬也が復活して

 

「……理由を聞いてもいいか?」

 

冬也が問いかけると、エリオとキャロが頷いて

 

「冬也さんは優しくて、暖かい感じがするんです!」

 

「だから、冬也さんみたいな人が親だったら嬉しいんです!」

 

嬉しそうに語る二人の言葉に、冬也は自嘲気味に笑うと

 

「優しいとは、久しぶりに言われたな……」

 

と、小声で呟いた

 

冬也は少し黙考すると、視線を二人に向けて

 

「戦うことしか知らぬ俺だが、呼びたければそう呼べ」

 

それは事実上の許可

 

二人は一瞬嬉しそうにすると、満面の笑みを浮かべて

 

「「はい!」」

 

嬉しそうに頷いた

 

そしてエリオとキャロは、顔を武と当麻の二人に向けると

 

「それで、あの……」

 

「武さんと当麻さんのことは、兄さんって呼んでいいですか?」

 

少し緊張気味で、そう告げた

 

武と当麻の二人は一瞬驚いたが、すぐに表情を戻して

 

「おう、いいぜ!」

 

「初めてだな。そんな呼ばれ方は」

 

と、笑って許可した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

冬也、武、当麻の三人が体を洗い終わって、湯船に入った時だった

 

「おっと、すいません」

 

「悪ィなア」

 

当麻が人とぶつかったのだが、その声に聞き覚えがあった

 

当麻がその方向に向くと、相手も振り向いたらしく、視線があった

 

その赤い眼と

 

「お前! 一方通行(アクセラレーター)!?」

 

「お前は! 上条当麻!?」

 

その人物は白髪に透き通るような白い肌。そして、赤い眼が特徴の細身の男子だった

 

「なんだ、当麻。お前の知り合いか?」

 

と、武が問いかけると

 

「ああ、学園都市の最強の超能力者。一方通行だ」

 

当麻が紹介すると、一方通行は億劫そうに

 

「一方通行こと、現在名は田神敦(たがみあつし)だァ。よろしく頼むぜェ」

 

と、名乗った

 

「田神敦?」

 

「あァ……学園都市が解体されて、引き取られる際に決めた名前だ……」

 

と、当麻の疑問に一方通行が答えた時だった

 

『ふはははははー! って、ミサカはミサカは笑いながらお風呂を泳いでみたり!』

 

『おぉ!? なんか、小さい美琴ちゃんがおる!?』

 

『む!? 上位固体! なぜここに! と、ミサカは問いかけてみます!』

 

『あんた、打ち止め(ラストオーダー)!?』

 

仕切りの向こうから、そんなやり取りが聞こえた瞬間

 

一方通行が勢いよく立ち上がりながら、首筋のチョーカーのスイッチを押して

 

「このクソガキァァァァァァ! 人様に迷惑をかけンじゃねぇって、何度も言ってンだろうがァァァァァ!!」

 

と、声を張り上げた

 

その直後

 

『ぐあ!? 耳元で声が!? って、ミサカはミサカはもんどりうってみたり!』

 

と、仕切りの向こうから声と同時に水音が聞こえてきた

 

一方通行は荒く息を吐きながら、チョーカーのスイッチを切って湯船に浸かった

 

そんな一方通行の肩に、当麻は右手を置いて

 

「お前も……苦労してんだな……」

 

と、優しそうに言った

 

すると、一方通行は苦い表情で

 

「わかってくれてあンがとうョ……」

 

と、呟いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

少しすると、エリオとキャロがあるドアに向かいながら

 

(冬也父さん、僕とキャロは外の露天風呂に行ってきます)

 

と、冬也に念話を送った

 

(わかった。なにかあったら、連絡を)

 

(はい)

 

返事をすると、二人は外に出た

 

数分後

 

外 露天風呂

 

「ふわー……綺麗だね、エリオくん」

 

「そうだね、キャロ」

 

二人は露天風呂に浸かりながら、星空を見上げていた

 

その時だった

 

二人が入ってきたのとは反対側のドアが開き、人影が三つ現れた

 

「あ、エリオとキャロ! ここに居たんだ」

 

「星空を見ながら温泉か? 風流だなぁ」

 

「これは、絶景やなぁ」

 

フェイトとアルフ。そしてはやての三人が現れた!!

 

「フェイトさん! それにアルフに八神部隊長!」

 

キャロは嬉しそうに近寄るが、エリオは顔を赤くして鼻近くまで潜った

 

「二人とも、後でこっちにおいで。頭を洗ってあげるから」

 

「はい!」

 

「ブクブクブク……」

 

二人は既に、冬也に一回洗ってもらっているが、キャロとしてはフェイトに洗ってもらうのは回数が少ないために嬉しかった

 

が、エリオとしては問題だった

 

お風呂ではタオルを巻いたまま入るのはマナー違反と、当麻に教わったので、エリオとキャロはもちろん、フェイトたち三人も巻いていない

 

それはつまり、裸ということだ

 

複雑な年頃のエリオとしては、どうしていいかわからなかった

 

(入り口では冬也父さんや兄さん達が居てくれたから、なんとかなったけど……ここでは孤立してる!)

 

と、そこまで考えた時だった

 

(そうだ! 念話で呼べばいいんだ! 父さん、聞こえますか!)

 

エリオは念話で冬也に救援を要請した

 

(む? エリオか。どうした?)

 

(すいません、緊急事態なんです! 早く来てください!!)

 

こうして念話してる間も、エリオはフェイトに引っ張られていた

 

「エリオ! どうしてそんなに恥ずかしがってるの!」

 

(お願いします! 早く助けてください!)

 

(わかった、待っていろ)

 

(お願いします!!)

 

エリオにとっての救世主が、動こうとしていた

 

男湯

 

「? 隊長、どうしました?」

 

武は突然立ち上がった冬也に問いかけた

 

「いやなに、エリオに念話で呼ばれてな。少し行ってくる」

 

そう言いながら冬也は、腰にタオルを巻いて湯船から出てドアに向かった

 

「あ、俺も行く」

 

と、当麻も冬也の後を追った

 

そんな二人を武は見送ると、ある看板に気付いた

 

「ん? なになに……この先の露天風呂は混浴です? ……あ、もしかして、エリオが呼んだ理由って……」

 

武はエリオが呼んだ理由に気付いたが、既に後の祭りだった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

外 露天風呂

 

「エリオー! いい加減、放しなさい!」

 

「いやです~!」

 

そこでは、まだ他愛無い争いが続いていた

 

(父さん、早く来てください!!)

 

と、エリオが願った瞬間

 

ドアが開く音が響き

 

「エリオ、なにがあった?」

 

「どうした?」

 

冬也の後に、当麻も現れた

 

「冬也父さん! 当麻兄さん!」

 

フェイトは、そのエリオの言った言葉で固まった

 

(え? 冬也さんがお父さん? それってつまり、私と冬也さんが夫婦ってこと? あ、アウアウアウ)

 

そこでフェイトの思考が停止して、結果

 

ボン! と音を立てて、顔を赤くした

 

「フェイト!?」

 

「おお、珍しい。フェイトちゃんが固まった」

 

そんなフェイトの様子にアルフは驚き、はやては珍しそうに眺めていた

 

その瞬間

 

冬也がエリオの腕を掴んで

 

「とりあえず、今のうちに戻るぞ」

 

「は、はい!」

 

エリオがうなずいたのを確認してから、冬也は駆け出した

 

一応言っておくが、良い子の皆はお風呂場では走らないようにしましょう

 

でないと

 

「あ、待ってくれ! 俺も!」

 

ツルッ!

 

彼、不幸の塊の当麻みたいになってしまうから

 

当麻は足が滑って、体が中を舞った

 

その先には、フェイトの様子を確認しようと近づいていたはやての姿が

 

「「え?」」

 

二人の視線が重なって、重い音が響いた

 

「あ、痛たたた……はやて、大丈夫か?」

 

そう言いながら、当麻は手を動かした

 

その瞬間、当麻の手に柔らかい感触が

 

「え”!?」

 

当麻は恐る恐ると、視線を動かすと

 

目の前には、顔を真っ赤にしたはやてが居た

 

しばらくの間、沈黙が世界を支配して

 

「当麻くん。なにか、言うことあるか?」

 

はやては顔を赤くしたまま、満面の笑みで拳を振り上げた

 

「えっと、その……ごめんなさっ!」

 

当麻の言葉は、最後までつむがれなかった……

 

その後、当麻は一時的に大人形態になったアルフによって、男湯に投げ込まれて、はやてとフェイトはなのは達によって回収されたのだった



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解決

なんだろう、文がおかしいような……


場所 海鳴市 海鳴スパラクーアⅡ

 

一悶着あったが、全員温泉から出た時だった

 

「む?」

 

「この感覚は……」

 

先に気づいたのは、冬也とネギの二人だった

 

その直後

 

「サーチャーに反応!」

 

シャマルのデバイス《クラールヴィント》が反応を告げた

 

シャマルの言葉を聞いたはやては、一回頷き

 

「みんな、休憩はここまでや! 機動六課出動!」

 

指揮官らしい、凛とした声で命令を出した

 

「「「「「了解!」」」」」

 

全員が敬礼すると

 

「お? お仕事か?」

 

「皆、頑張ってね」

 

「お姉ちゃん達は別荘で待ってるから」

 

そう言って、美由希達は車に向かうが

 

「まったく……またあんたは厄介事に首を突っ込んでるのね」

 

美琴は腰に手を当てて、呆れた様子で当麻に近づいた

 

「御坂……」

 

「ま、あたしから言えるのは一言だけよ」

 

そう言うと美琴は、右手を突き出して

 

「今度はちゃんと、無事に帰ってきなさいよ」

 

少し、涙目で告げた

 

それを聞いた当麻は、一瞬呆けたがすぐに表情を引き締めて

 

「ああ、必ずだ」

 

同じように、右手を突き出して軽く当てた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、河原

 

反応のあった場所に到着したフォワード陣は、目の前の光景に固まっていた

 

なぜかと言うと…………

 

「なに、これ……?」

 

「プニョプニョ……スライム?」

 

「なんか…かわいいです」

 

目の前には、緊張感を台無しにする効果音と共に、大量の緑色のスライムが居たのである

 

ちなみに、武と当麻。ネギの三人は

 

(((スライムかー……想像と全然違う……)))

 

脳内で、某竜探検のスライムを想像していた

 

全員が固まっていると

 

《本体は一つだよ》

 

《すぐに見つけて、すぐに封印しよう!》

 

《訓練通りにやれ》

 

《落ち着いてやれば、大丈夫ですよ!》

 

フォワード陣全員の前に、隊長陣全員が写った通信画面が開いて、激励を送った

 

「「「「「はい!」」」」」

 

フォワード陣が一斉に返事をすると

 

「おりゃあぁぁぁぁ!」

 

先陣を切ったのは、FA(フロントアタッカー)のスバルだった

 

スバルの勤めるFAは機動力と攻撃力の高さで敵陣に切り込み、防御力の高さで味方が来るまで持ちこたえるのが役目である

 

だが

 

スバルの繰り出した拳はスライムに当たったものの……

 

「うわわっ!?」

 

まるで、ボールを殴ったかのように押し戻されてしまった

 

「打撃無効化!?」

 

スバルが体勢を整えながら驚いていたタイミングで

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

エリオがストラーダで切りかかったが

 

刃はスライムを切り裂かずに、跳ね返されてしまった

 

「斬撃も効きません!」

 

前衛二人の攻撃が無効化されたのを見た後衛組は、全員構えて

 

「クロスミラージュ!」

 

「フリード!」

 

「イマジン!」

 

「不知火!」

 

「武御雷!」

 

一斉に、魔力弾や火炎弾。魔法を発射した

 

だが

 

「こちらの魔力弾も火炎弾も効果ありません!」

 

「魔法も効かねぇ!」

 

全弾命中したのに、スライムは無傷で姿を現した

 

「さすがロストロギア……見た目は可愛いですが、侮れません!」

 

とキャロが意気込んでいると

 

「ねえ、エリオ! アレ出来ないかな? ストラーダを地面に刺して、電気バリバリ~ってやつ」

 

スバルがエリオに提案した

 

「やってみますか?」

 

エリオもストラーダを構えながら、聞き返すが

 

「いや、それは、下手したら俺達も痺れるからな!」

 

武が冷や汗を滲ませながら、声を張り上げた

 

「そうよ! それに、電気で止まるかもわからないし、無傷でって指示よ……ダメージコントロールをし辛い攻撃はなし!」

 

悩んでいた前衛二人のアイデアを、ティアナが否定した

 

その時、当麻と戦況を見守っていた明日菜が自分の手を見て

 

((あれ? これ、俺(アタシ)イケるかも?))

 

と同時に、頭上に電球を灯らせた

 

「お前ら! ここは俺に任せて行け!」

 

「当麻兄さん!?」

 

当麻の言葉を聞いたエリオが、驚きに目を丸くした

 

「忘れたか? 俺の右手は幻想殺しなんだぜ?」

 

当麻が言うと同時に、イマジンの右手装甲が解除されて、右手がむき出しになった

 

「それに、私も居るんだからね!」

 

明日奈はそう言いながら、カードを取り出して

 

出でよ(アデアット)!」

 

右手に大剣<破魔の剣>を出した

 

「ああ、そういやぁ、お前は魔法無効化能力だっけか?」

 

当麻は明日奈の能力を思い出したのか、明日奈に問いかけた

 

「その通り! だから、アイツとの相性は抜群よ!」

 

そして、そんな二人の隣に

 

「私も残るアルよ!」

 

苦菲が立った

 

苦菲の手には既に、アーティファクトの伸珍徹自在坤が握られていた

 

「つーわけだ! ここは俺達に任せて、本体を探せ!」

 

当麻の言葉を聞いたティアナは、数瞬悩んだが

 

「わかった……すぐに封印してくる! 行くわよ!」

 

ティアナの決定に、全員頷いて本体を探すために移動を始めた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

分かれたフォワード陣は、スライムに攻撃しながら、本体を探していた

 

その内、撃った魔力弾が当たったスライムの一体の反応が他と違っていたことに、ティアナが気づいた

 

「こいつだけ反応が違う! こいつが本体?」

 

すると、キャロが構えて

 

「捕まえます! 錬鉄召喚! アルケミックチェーン!」

 

スライムを捕まえるために、召喚魔法を発動した

 

が、召喚された鎖はスライムが張ったバリアで弾かれた

 

「バリア!?」

 

「出力が高いです!」

 

予想外の出来事に、二人は驚くが

 

「だったら、やることは一つだろ! 冥夜、スバル、エリオ!」

 

武がいち早く立て直して、指示を飛ばした

 

「うむ!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

武と冥夜は、手に持っていた複合銃を背中の武装パイロンに戻して換わりに近接戦闘用長刀を持って

 

「不知火!」

 

「武御雷!」

 

<<承知!>>

 

カートリッジが排出されて、魔力が集まって

 

「「紫電……一閃!!」」

 

武は縦に、冥夜は横に長刀を振った

 

二人の攻撃が命中して、スライムのバリアにヒビが入り、それを確認したティアナが

 

「スバル、エリオ!」

 

二人に視線を向けると

 

「おう! エリオ、アサルトコンビネーション、行くよ!」

 

「はい! スバルさん!」

 

二人は構えると、全速力でスライムに接近して

 

「ストラーダ!」

 

「マッハキャリバー!」

 

<<エクスプロージョン!!>>

 

それぞれ薬莢が排出されて、魔力が跳ね上がり

 

「「ストライク・ドライバー!!」」

 

エリオの槍撃とスバルの拳撃が直撃して、ヒビが広がり

 

砕け散った

 

「ティア!」

 

「ティアナさん!」

 

「クロスミラージュ! バレットF!」

 

<ロードカートリッジ!>

 

バリアの破砕を確認した前衛二人が声を掛けると、ティアナはクロスミラージュを構えた

 

それを見たキャロも構えて

 

「我が乞うは、捕縛の檻。流星の射手の弾丸に、封印の力を!」

 

<ゲットセット!>

 

封印術式を、ティアナのクロスミラージュにセットした

 

「「シーリング……シュート!!」」

 

二人の声が重なり、魔法が発動

 

その結果、スライムは簡易封印されて、周囲に展開していたダミーは全て消えた

 

その後、キャロが自ら進んで完全封印処理をシャマル監修の下、行っていた

 

その時、空では

 

「ロストロギアの封印作業か……昔を思い出すね」

 

「にゃはは……そうだね。あとでユーノ君とメールしよう!」

 

フェイトとなのはが昔を思い出して、懐かしんでいた

 

「ユーノとは?」

 

冬也はなのはが出した名前を知らなかったから、二人に問いかけた

 

「なのはの最初の魔法のお師匠さんなんですよ」

 

「今は、無限書庫の司書長をやってるんだ」

 

「それじゃあ、優秀な魔法使いさんなんですね!」

 

二人の言葉に、ネギがそう言うと

 

「うん!」

 

なのはが満面の笑みで、うなずいた

 

「それならば、一度会ってみたいものだ」

 

冬也は純粋に会ってみたくなったのか、うなずきながらそう言った

 

こうして、今回の出張は幕を閉じることになったのである

 

場所は変わって、コテージ

 

「そっかぁ、もう帰っちゃうのかぁ」

 

「一晩だけでも……ってわけにもいかないか」

 

機動六課全員の前で、すずか達が見送りをしていた

 

「ごめんね……」

 

「今度は休暇の時に、遊びに来るよ」

 

なのはとフェイトは、早く別れることを残念に思いながらも、約束をしていた

 

「ってわけで、これからそっちにシグナムが届けるから」

 

その時はやては、通信画面を開いて、機動六課後見人のカリムに報告していた

 

『ありがとう、はやて。今回の早期解決は、部隊にとっては順調な成績よ』

 

『騎士シグナム、途中まで私が向かえに行きますね』

 

「はい、ありがとうございます。騎士シャッハ」

 

すると、カリムの視線がはやてに向いて

 

『でも、いいの? 少しくらい休んで、会ってきていいのよ?』

 

カリムが暗に言っているのは、この地に眠るはやての両親のことであろう

 

カリムの言葉にはやては、首を振り

 

「あたしの帰る場所は……機動六課や。地球(ここ)には、何時でも来れる……せやから、大丈夫や」

 

『そう……』

 

はやての言葉に、カリムは微笑んでいた

 

場所は変わって、コテージ内

 

コテージ内は当麻の指揮の下、掃除を行っていた

 

そんな中、ティアナの表情が少し曇っていた

 

そのことに気付いたスバルが近づいて

 

「ねぇ、ティア……せっかく任務成功したのに、なんでご機嫌ナナメなの?」

 

「いや……今回の私……どうもイマイチだと思ってね……」

 

スバルの問いかけに、ティアナは手を動かしながら返答するが、表情は曇ったままだった

 

「そんなことないって! ティアなら大丈夫だって!」

 

「ありがとう……」

 

スバルの激励にティアナは素直に謝辞を述べたが、心中では焦りが渦巻いていた……

 

 

そして、機動六課が帰った後

 

一方通行がポケットから携帯を取り出すと、操作して耳に当てた

 

「俺だァ……確か、お前が持っていった物の中に<アレ>があったよな?」

 

一方通行が、独自に動き出していた

 



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W黒のデート

とある方応募のオリキャラが登場です!
後々に設定にも追加します!


それは、剣術の修行をしていた冬也の所に来たフェイトの一言で始まった

 

「冬也さん、出かけますよ!」

 

「は?」

 

フェイトの唐突な一言に、冬也は首を傾げた

 

地球からの出張から戻った翌日

 

機動六課は出張の疲れを取るために、一日の休みとなった

 

とはいえ、待機休みではあるが

 

それを聞いた冬也は、いつもの森に入り剣術の修行をしていた

 

そこに冬也を探していたフェイトが現れて、いきなり告げたのである

 

「忘れたんですか? 出張に行く時に約束したじゃないですか」

 

首を傾げた冬也を見て、フェイトはため息混じりに告げた

 

「いや、覚えているが……今は待機休暇だぞ?」

 

待機休暇なのに、外出はマズいのでは? と冬也は思った

 

すると、フェイトは紙を掲げて

 

「外出許可なら、はやてから貰いましたよ」

 

掲げた紙には

 

〈外出許可書〉

 

と明記されていて、はやてのサインとハンコ

 

更に《通信回線は開いておいてね♪》

 

と書いてあった

 

それを冬也は数秒間見つめると、頭を掻いて

 

「わかった……ヴァイスに借りて着替えてこよう」

 

冬也はため息混じりに返答した

 

「では、私も着替えてきますね。玄関で待ち合わせでお願いします」

 

「わかった」

 

フェイトの言葉に冬也は頷くと、その場を後にした

 

十数分後

 

玄関には冬也の姿だけがあった

 

ヴァイスに借りた服は、黒いズボンに紺色のワイシャツだった

 

冬也が壁に背中を預けて、空を眺めていたら

 

「すいません。お待たせしました」

 

小走りでフェイトが現れた

 

フェイトが来たのを確認した冬也は、姿勢を直すと

 

「いや、大丈夫だ」

 

フェイトの隣に立った

 

「それでは、行きましょうか」

 

フェイトの先導に従い、冬也も歩き出した

 

余談だが、フェイトの服装は

 

黒のロングスカートに白いワイシャツ、ワイシャツの上に紺色のサマーセーターを着ていて、右肩にカバンをかけている

 

冬也はフェイトの先導に従い、駐車場に行くと、以前見た黒いスポーツカーに乗った

 

一応補足すると、冬也も運転は可能である

 

だがそれは、誰に教わったわけではなく、経験によるものである

 

さすがに、それでは運転を任せられないので、ミッド用の免許証は持っていない

 

尚、武と冥夜の二人は渡されている

 

二人は軍で正式に教育を受けているので、許可されたのだ

 

閑話休題

 

フェイトの運転で、車はミッド市街地に向かった

 

機動六課隊舎が建ってるのは、ミッド市街地から離れた海辺であり、市街地に向かうには車などの方法が有効なのだ

 

「運転すまんな、フェイト」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

フェイトの運転する車は、海辺を走り市街地に入った

 

そして、車を適当な駐車場に停めると二人は街中を歩き出した

 

「とはいえ、俺はあまり知らないのでな。案内も任せてしまうな」

 

「いえ、大丈夫ですよ。エリオとキャロもそうでしたから」

 

フェイトの言葉に冬也は頷き

 

「ああ、そういえば、フェイトが二人の親代わりだったか」

 

と、問い掛けた

 

「はい、二人とも私が引き取ったんです」

 

「なるほど、得心した。通りで二人の眼差しが信頼と尊敬が込められているはずだ」

 

フェイトの言葉に冬也は納得するように、頷いた

 

冬也の言葉にフェイトは、頬を染めて

 

「ありがとうございます……」

 

と、頭を下げた

 

そこから少し歩くと、ふとしたように、冬也が視線をフェイトに向けて

 

「そういえば、今回の目的地はどこなんだ? 俺はまったくわからないんだが」

 

そう問いかけると、フェイトはある方向に視線を向けて

 

「あそこですよ」

 

と指差した

 

そこには…………

 

UNIQ○O

 

とロゴが書かれていた

 

「ここか……」

 

「はい。ここは取り揃えが豊富で、困りませんから」

 

そう言うと、フェイトが中に入ったので冬也も入った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

その後、数着試着して選び服を購入

 

なお、試着の時に一回フェイトがカーテンを開けて、冬也の肌を見てしまい、フェイトが顔を赤くしていた(冬也は気にしてない)

 

ただ、冬也の傷だらけの肌をフェイトは見た

 

その傷は、火傷、裂傷、銃創、切り傷と様々で生々しかった

 

それを見たフェイトは数瞬、唖然としたが、冬也が声を掛けると顔を真っ赤にしてカーテンを閉めた

 

それからフェイトが思い出したのは、以前シャーリーから聞いた言葉だった

 

『冬也さんのデバイス、非殺傷設定が一切されてませんでしたし、プロテクション関連なんて一切登録されてません。なにより、装甲なんて、フェイトさん以下ですよ』

 

それを聞いたフェイトは絶句してから、納得もした

 

冬也の機動力と攻撃力の高さは、防御関連を捨てて、それらの魔力を全て回していたのだ

 

いわゆる、攻撃特化型

 

だが、それと同時にフェイトは思い出した

 

それは、先日に地球に出張に行った際になのはの父士郎が言った言葉である

 

『彼を支える人物が居ないと、彼、死に急ぐよ?』

 

という言葉

 

それを思い出したフェイトは

 

(出来る限り、私が冬也さんを支えよう。今は守られてばかりだけど、何時か必ず、私が冬也さんを守る)

 

と意気込んだ

 

そうこうしている内に、服の選定と勘定が終わり服屋を出た

 

それから少しすると、フェイトが腕時計を見て

 

「ちょうどいい時間なので、お昼にしましょうか」

 

と冬也に提案した

 

提案を聞いた冬也は頷き

 

「そうだな」

 

と、フェイトの隣を歩いた

 

場所は変わり、機動六課はやて私室

 

「なあ、はやて止めようぜ? 趣味悪いって」

 

「いやいや、せっかく親友が意識してる人物をデートに誘ったのに、覗かないなんて、出歯亀はやてちゃんの名が廃る!!」

 

当麻がはやてに苦言を呈するが、はやては眼を輝かせながら聞かなかった

 

その時、当麻は気づいた

 

冬也の視線が、サーチャーを捉えていたことに

 

それを確認した当麻は

 

「俺は止めたからな。そんじゃ」

 

と、手を振りながら部屋から退出した

 

当麻が突然部屋から出たのを不思議に思いながら、はやては視線をモニターに戻した

 

その直後

 

モニターに映っていた映像が途切れ、砂嵐のみになった

 

「な、なにごと!?」

 

とはやてが慌てていたら

 

(犯人はお前だな。はやて)

 

脳内に、冬也の言葉が聞こえてきた

 

(な、なんのことやら?)

 

はやては必死にごまかそうとするが

 

(とぼけるな。あの姿を消していたサーチャーを送ったのは、お前だろ?)

 

冬也の指摘に、はやては固まった

 

(なぜ気づいたかというと、戦場では姿を隠してる奴などザラでな。そういう奴を見つけるために、魔力の流れを見るようにしている)

 

(ま、魔力の流れを見るやと!?)

 

はやては冬也の言葉に驚いた

 

はやてや一般的な魔導士は、魔力の流れを感じることは出来る

 

そうでないと、効率的に魔法が使えないからである

 

しかし、魔力の流れを見ることはできない

 

魔力の流れを見ようとすると、膨大な魔力の流れに翻弄されるのである

 

それらの中から必要最低限の流れのみを見つけようとしても、脳が耐えきれないのである

 

それを平然と行ってる冬也に、はやては戦慄した

 

(それと、今回のことはフェイトに言っておくから、そのつもりで)

 

(ちょ!? それは勘弁!)

 

はやてが慌てて止めるが、念話は途切れた

 

念話が途切れたはやては、顔面を蒼白にして震えた

 

実は以前、学生時代にはやてはフェイトが呼び出され告白された時

 

出歯亀をしていたのである

 

だが、自分の些細なミスからそれがバレて大目玉を食らったのである

 

そして、その時にフェイトから『次やったら、本気で怒るからね』と言われていたのだ

 

その時の事を思い出し、はやては頭を抱えて

 

(あの時はファランクスシフトやったけど、今度はなにされるん!?)

 

と震えていた

 

場所は戻って、ミッド市街地

 

「冬也さん、どうしたんですか?」

 

フェイトは、背後斜め上を見ている冬也に問い掛けた

 

「いやなに、少し覗いてる奴が居てな」

 

「覗きですか?」

 

冬也の言葉に、フェイトは首を傾げた

 

フェイトは有名人なので、誰か見てたのかな? と思っていたが

 

「まあ、はやてなんだがな」

 

冬也のその言葉に、額に手を当てた

 

「またはやては……」

 

帰ったら、O☆HA☆NA☆SHI☆しなきゃね

 

とフェイトは心に誓った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

フェイトと冬也は昼食を食べ終わると、買い物を再開した

 

服を買ったら、次は私物である

 

冬也は背後に一房だけ、髪を伸ばしているのだが、それは簡素な紐で縛ってるだけなのだ

 

さすがに、それでは髪が傷むし見栄えも良くないと思い冬也に提案したら

 

『詳しくは知らんから、頼む』

 

と言われたのである

 

そのために、行きなれた店に向かっている途中である

 

その時、フェイトの視界に気になるものが写って、足を止めた

 

「これ……」

 

それは写真立てだった

 

淡い青を基本色にして、藍色のラインが入っている

 

どうやらデータチップ形式らしく、写真立ての隣には小さいチップもある

 

フェイトは、なぜかそれに目を奪われた

 

思わず、足が止まったほどだった

 

足が止まったフェイトを見て、冬也も足を止めた

 

そしてフェイトの視線を辿り、写真立てを見た

 

「なるほど、それが気になるのか」

 

と冬也が言うと、フェイトはハッとして

 

「あ、いえ! あのその……」

 

両手をパタパタと振りながら拒否しようとするが、しどろもどろになっていた

 

冬也はフェイトのそんな様子を見て、微笑みを浮かべると

 

「なに、俺にも感謝の念というのはある。待っていろ」

 

フェイトが制止する暇もなく、店の中に入っていった

 

一人になったフェイトは、背中を壁に預けて空を見上げた

 

空は快晴で、小鳥の鳴き声が耳に心地よかった

 

そしてフェイトは、先ほどの冬也の微笑みを思い出した

 

冬也は普段、ほとんど表情が変わらず、感情の起伏も乏しい

 

だが、よく見るとわかる

 

悲しそうな微笑み

 

優しそうな微笑み

 

ほんの些細な違いだが、フェイトにはわかる

 

そして、そこからわかるのは

 

(冬也さんは、本当はすごく優しい)

 

冬也が優しいということ

 

それは、今日一緒に居てもわかる

 

歩いている時、人とぶつかりそうになったが、冬也は自分の体を壁代わりにしてフェイトを守っていた

 

先ほど寄った服屋でも、自分のと一緒にフェイトの服の入った袋を持ってくれた

 

その何気ない気遣いが嬉しくって、冬也の優しさが手に取るようにわかった

 

そんな冬也に思いを寄せていた

 

その時だった

 

「彼女~! いま暇?」

 

「暇だよね~?」

 

フェイトの周りを、数人の軽薄そうな男達が囲った

 

フェイトはすぐさま、ナンパらしいと気づき内心で溜め息を吐いた

 

なにも、ナンパされたのは初めてではない

 

時々、街で買い物するとナンパされるのだ

 

中には、声を掛けた相手が時空管理局執務官であると気づき、離れた者も居た

 

だが、今声を掛けてきた男達は気づいてないのか、かなりしつこい

 

やんわりと断っているのに、何回も話し掛けてくる

 

どうしようかな? と思っていたら

 

「いいから来いよ!」

 

我慢の限界になったのか、一人がフェイトの腕を強く引いた

 

「あっ!?」

 

さすがに、強く引かれるとは予想していなかったフェイトはバランスを崩した

 

(倒れる!)

 

と、フェイトは思わず目を瞑った

 

が、フェイトの体は力強い腕に抱き支えられた

 

フェイトは驚いて、横を見た

 

すると、すぐ間近に冬也の顔があった

 

「大丈夫か?」

 

冬也に問いかけられて、フェイトはコクリと頷いた

 

フェイトが頷いたのを確認すると、冬也はフェイトを立たせた

 

その直後

 

「おいおい、誰だよあんた?」

 

「男に要はねーんだよ! とっとと失せろや!」

 

「彼女は俺達と遊ぶんだよ!」

 

と、男達が冬也に突っかかってきた

 

「彼女は俺の連れでな。今回は俺の用事に付き合ってもらっている」

 

と冬也が事実を簡潔に述べるが、男達は聞かずに

 

「ああ!? んなこと知ったことじゃねーよ!」

 

「彼女ー、こんな無愛想な奴と一緒に居るより、俺達と一緒に遊ぼうぜ!」

 

と男の一人がフェイトの肩を掴もうと、腕を伸ばしたが

 

「聞こえなかったか? 彼女は俺の連れだと言った」

 

その腕を冬也が掴んだ

 

すると、男は冬也の手を振り払い

 

「うぜー野郎だなぁ!」

 

と言いながら、腰に手を回し

 

「これで寝てろ!」

 

拳銃型デバイスを取り出し、銃口を冬也に突きつけて、近距離で魔法を放った

 

魔法は冬也の頭部に直撃して、爆発が起きた

 

「冬也さん!?」

 

フェイトは予想外の事態に、叫び声を上げた

 

「ハッハー! どうだ! 俺はランクAの魔導士なんだよ!」

 

と、男が得意気に声を上げていると

 

「ふん……軽い攻撃だな……」

 

煙が晴れて、無傷の冬也が現れた

 

「な!?」

 

男は無傷の冬也を見て、驚愕していた

 

冬也は手を軽く振り、煙を飛ばしている

 

そして、驚愕から立ち直ったのか

 

「な、なんで無傷なんだよ!? 確かに当たったはずた!」

 

と男は喚きたてた

 

そんな男に、冬也は腰に片手を当てて

 

「魔力密度が薄いし、構成がお粗末だ。こんなのでは、虫一匹すら殺せないぞ?」

 

と言い放った

 

それを聞いた男は、逆上したのか顔を真っ赤にして

 

「だったら! これで!!」

 

と、周囲に十個近くの魔力球を形成するが

 

「なんの騒ぎですか!?」

 

「街中での攻撃魔法は禁止だ!」

 

と茶色い制服を着た、二人の男女が駆け寄ってきたのが見えた

 

その姿を見た男達は、その二人がこの地区を担当している時空管理局陸士部隊の隊員と気づき

 

「ちっ! 逃げるぞ!」

 

舌打ちをしながらデバイスを仕舞い、男達は走り去った

 

男達と入れ替わるように、管理局員がその場に現れた

 

ただ、一人はフェイトの知り合いだった

 

「ギンガ!」

 

「フェイトさん! なにがあったんですか?」

 

その人物は、陸士108部隊に所属しているギンガ・ナカジマだった

 

どうやら、定時巡回中だったらしい

 

そんなギンガの隣には、若い男が立っている

 

ちょこんと立っているアホ毛が特徴的な男だ

 

ギンガが問いかけると、フェイトは状況を説明して、男達の特徴を告げた

 

すると、ギンガと男性局員は覚えがあるのか、ああと言って

 

「またあいつらね……」

 

「何回目だよ……」

 

と、呆れていた

 

「常習犯なの?」

 

と、フェイトが聞くと男性局員が

 

「はい、いつもトラブルを起こす奴らでして。何回も捕まえては説教してるんですが、学習しなくって……」

 

「そうなんだ……えっと、そういえば、あなたの名前は?」

 

ふと気になったのか、フェイトが名前を聞くと、男性局員は敬礼して

 

「これは失礼しました! マクシミリアン・G・マクダウェル陸曹です! 初めまして、テスタロッサ・ハラオウン執務官! マックスとお呼びください!」

 

と、名乗ると、ギンガが

 

「陸士訓練校時代からの同期なんです」

 

「これから度々、お世話になると思います!」

 

軽くマックスのことを紹介すると、マックスは頭を下げた

 

すると二人は、視線を冬也に向けた

 

その視線の意図を察したのか、フェイトは冬也を手で示して

 

「彼は民間協力者の神代冬也さん」

 

フェイトが冬也の名前を言うと、冬也は一歩前に出て

 

「神代冬也だ。よろしく頼む」

 

と、右手を出した

 

「陸士108所属のギンガ・ナカジマ陸曹です」

 

「同じく、マクシミリアン・G・マクダウェル陸曹です」

 

冬也は二人と握手をすると、一瞬首を傾げてから

 

「ナカジマということは、スバルの肉親か?」

 

と、ギンガに問いかけた

 

「はい。スバルは私の妹です」

 

「なるほど。似ているわけだ」

 

ギンガの一言に冬也は納得していた

 

その時、ふと気になったのかギンガが視線をフェイトに向けて

 

「そういえば、フェイトさんはなぜここに?」

 

と聞いた

 

「冬也さんの私物関連を買いに来たの」

 

「ああ、なるほど」

 

ギンガは納得すると、数瞬考えて

 

(いわゆる、デート中でしたか)

 

とギンガは、念話をフェイトに送った

 

(で、デート!?)

 

ギンガの一言にフェイトは顔を真っ赤にして、狼狽した

 

(違うんですか? 冬也さんカッコイいですし、フェイトさんでしたらお似合いですよ)

 

(あ、アウアウアウ……)

 

ギンガが冬也に視線を向けながら言うと、フェイトは顔を手で覆いたくなった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

それから冬也とフェイトの二人は、ギンガ達と別れて買い物を再開した

 

そして、髪留めも買えたので帰ろうと車を停めてある駐車場まで歩いていた時だった

 

「ああ、そういえばフェイト」

 

「はい、なんですか?」

 

「これを渡すのを忘れていた」

 

そう言いながら冬也は、小さい紙袋をフェイトに渡した

 

「これは……」

 

「俺からの感謝の念だ。受け取ってほしい」

 

フェイトは紙袋を冬也から受け取ると、中から小さい箱を取り出した

 

「開けても?」

 

「構わない」

 

冬也の許可を得て、フェイトは箱を開けた

 

中には、あの写真立てがあった

 

「すぐに渡そうと思っていたんだが、トラブルで渡せなかったからな」

 

フェイトはそれが嬉しくて、写真立てを胸に抱きながら

 

「ありがとうございます。大切に使いますね」

 

と、微笑んだ

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

それから二人は隊舎に戻り、荷物を部屋に持っていった

 

それからは、冬也の髪留めは黒いヘアバンドに

 

フェイトとなのはの私室には、新しい写真立てが置かれるようになった

 

なお余談だが、夜に部隊長室から悲鳴が響き渡り、真っ黒焦げで十字架に張り付けられているのが当麻によって見つかった

 

 




この次も番外編です
忘れていたアイツを出さねば……


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新戦力と下着泥棒

うん、こいつを忘れていたよ


ある日の早朝訓練が始まる前だった

 

「あ、そういえば……冬也さん。アレを皆に見せるんですよね?」

 

何かを思い出したらしく、なのはが視線を冬也に向けて問い掛けた

 

「ああ、そうだ。シャーリー」

 

冬也は頷くと、近くに居たシャーリーに声を掛けた

 

「はーい! それでは、システム、起動!」

 

シャーリーは頷くと、キーボードを叩いた

 

するとどこからか、空気を切り裂くような音が聞こえてきた

 

「何だろう、この音?」

 

その音を聞いて、新人達は首を傾げるが武と冥夜は顔を見合わせた

 

「この音は……」

 

跳躍(ジャンプ)ユニット?」

 

二人が不思議に思って、首を傾げた

 

その時

 

全員の上空を、20機近い人型機がフライパスしていった

 

それを見た新人達は、慌ててデバイスを構えて

 

「まさか、ドール!?」

 

「こんな所にまで!」

 

攻撃をしようとしたが、なのはが慌てて手を振って

 

「あー、待って待って! あれは違うの!」

 

新人達を止めた

 

止められた新人達が顔を見合わせていると、人型機がUターンしてゆっくりと降りてきた

 

その人型機群を見て、武と冥夜は目を見開いて驚いた

 

撃震(げきしん)瑞鶴(ずいかく)陽炎(かげろう)!?」

 

「それに不知火(しらぬい)吹雪(ふぶき)武御雷(たけみかずち)まで!」

 

それは、武達が元居た世界で普及していた陸戦ロボット兵器だった

 

「さて、お次は海の方向をごらんあれ」

 

新人達と武達が海の方向を見ると、海中から新たに4機現れた

 

「これは海神(わだつみ)!」

 

武達が驚いて見ていると、スバルとエリオが近づいて

 

「ねー、これはなんなの?」

 

「なんか、かっこいいです!」

 

と、二人に聞いた

 

二人はあっけに取られながらも

 

「これは、俺たちの元居た世界で普及していた戦術歩行戦闘機。通称、戦術機だ」

 

「本来は私達が乗るから、もっと大きく、大体18メートル程なんだが……」

 

武と冥夜はそう言うと、目の前の戦術機を見た

 

目の前の戦術機の大きさは大体、2メートル前後である

 

「隊長、これは……」

 

武が戦術機を指差しながら聞くと、冬也は頷き

 

「冥夜の乗っていた武御雷に残っていたデータを基に、葉加瀬の技術を中心に、俺の持っていた技術とミッドチルダの技術を混ぜて制作した」

 

「AIはデバイス用の簡易版を使ってるから、ある程度は自律行動が可能なんだよ」

 

冬也に続き、シャーリーがそう説明すると、スバルとエリオは感動した様子で戦術機を見つめていた

 

「今は起動したばっかりだから、まだ大した行動はできないけど、これから訓練すれば十分に戦力になるよ」

 

「と、いうわけで、これからも訓練を頑張ろう!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

なのはの言葉に、新人と武達は元気に返事した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

時間は経ち、昼

 

なぜか、実働班は全員、ある会議室に集まっていた

 

そんな状況下で、女性陣全員が、どす黒いオーラを放っていた

 

もし、効果音を当てるとしたら

 

ドドドドド……といった所だろう

 

(なあ、これは一体……なにがあった?)

 

壁際に居た冬也は、近くに集まっていた男性陣に問いかけた

 

(さあ? なんか、数日前からはやての雰囲気がピリピリしてたが……)

 

(僕もわかりません。最近、フェイトさんやキャロが少し怒ってましたけど……)

 

(俺も知らないぜ……ただ、シグナムの姐さんが、人を斬り殺しそうな雰囲気で怖かったなぁ……)

 

(それは、管理局としてはどうなんでしょうか……ただ、明日菜さん達も怖かったですね)

 

(自分にもわかりません……ただ、シャーリーや管制メンバーも怒ってましたね……)

 

(俺も分かりません。冥夜は険しい顔をしてましたが……)

 

冬也の問いかけに、男性陣一同は小声で返すと、全員首を傾げて唸った

 

その時

 

会議室のドアが開き、はやてが入りディスプレイの前に立った

 

はやてはそこから周囲に立っている女性陣の顔を見ると、両手を机に突いて

 

「みんな! よく集まってくれた!」

 

真剣な表情をしながら、声を張り上げた

 

女性陣全員は無言で、はやてを見つめている

 

「今回集まってもらったんは、他でもない……下着泥棒や!!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

はやての言葉を聞いて、女性陣全員は真剣な様子で返答するが、男性陣は首を傾げて

 

「下着……」

 

「泥棒……?」

 

と、目を合わせた

 

はやての話を要約すると、こうだった

 

数日前から、機動六課の女性陣の下着が何者かによって盗まれている

 

犯人はセンサーに一切反応されずに、機動六課の施設に侵入して下着を奪っているらしい

 

その事にとうとう、はやての我慢も限界に達して、人海戦術をすることを決定したのだ

 

時間は経ち、夜

 

場所 風呂場脱衣場

 

そこには数人の訓練着と下着、更には替えの服などが置いてあり、奥の風呂場からはシャワーの音と話し声が聞こえる

 

少しすると、通風口から小さい影が地面に降りて着替えの置かれてる籠にゆっくりと近付いた

 

そして、その影が籠に入ろうとしたその時

 

「今です!」

 

そのかけ声とほぼ同時に、掃除用具入れの中から苦菲が

 

壁からは布が取られて、楓と刹那の二人が

 

更に、奥の風呂場からはバリアジャケットを纏ったスバルとティアナが現れた

 

「っ!?」

 

現れた苦菲達に気付いた犯人は慌てるように身を翻し、ドアに向けて駆け出した

 

すると、犯人が魔法を使ったのかドアが開いた

 

それを見た刹那は、ドアの外に向けて口を開いた

 

「そちらに行きました!」

 

そして、犯人が廊下に飛び出すと目の前には当麻、冬也、武の三人が居た

 

三人は銃口を向けると

 

「魔法の射手!」

 

「ニードル・バレット!」

 

「風牙!」

 

魔法の弾幕を形成した

 

三人から放たれた魔法は、雨霰と犯人に殺到するが、犯人は小さい身体を活かして、器用に避けて、向きを変えて、冬也達が居ない方向に逃げ出した

 

冬也はそれを見ると

 

「行ったぞ!」

 

と声を張り上げた

 

犯人が曲がり角を曲がると、そこには

 

「逃がさないわよ!」

 

「逃がしません!」

 

明日菜とネギが居た

 

明日菜は手にハリセンモードの破魔の剣を持っていて、ネギは杖を構えていた

 

「ええい!」

 

明日菜が気合いと共にハリセンを振り下ろすと、いい音が響き犯人は地面に叩き付けられた

 

その隙をネギが、見逃すはずがなく

 

「魔法の射手! 戒めの風矢!」

 

ネギの放った魔法が、犯人を捕縛した

 

「ギャアアア!」

 

犯人の悲鳴が響き渡り、明日菜とネギは犯人に近付いた

 

そして、犯人を見て、ネギは驚き、明日菜は呆れていた

 

「カモくん!?」

 

「やっぱり……」

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「すいませんでした……」

 

機動六課女性陣の前で、ネギが土下座していた

 

その隣では、明日菜が紐に縛られたオコジョ

 

オコジョ妖精のカモを吊していた

 

「つまり……そのオコジョはネギ君の使い魔みたいなものなんか」

 

ネギの説明を聞いたはやてが聞くと、明日菜が頷き

 

「かなりエロい奴なのよ……ほらエロガモ! 挨拶しなさい!」

 

と、吊していたカモを怒鳴りつけた

 

「へ、へい! あっしの名前はアルベール・カモミールと申しやす!」

 

怒鳴られたカモは体を硬直させると、頭を下げた

 

「今回は本当にすいませんでした! 僕からもキツく叱っておきますので、許してあげてください!」

 

ネギは頭を床にこすりつけながら、懇願してきた

 

「エロガモ! あんたもよ!」

 

「す、すいませんでしたぁ!」

 

明日菜に叱られて、カモも必死な様子で頭を下げた

 

それを見たはやてはため息を吐いて

 

「まぁ、今回は大目にみよか……ただし、次は容赦せぇへんよ?」

 

と、カモに念押ししたのだった

 

「ありがとうございます!」

 

「すいませんでしたぁ!!」

 

この後、カモが奪った下着は全て返却された

 

こうして、下着泥棒騒ぎは解決したのだった

 

 

 

オマケ

 

「なあなあ、カモくんや」

 

部屋から去ろうとしたカモを、はやてが呼び止めた

 

「あ? なんだ、はやての嬢ちゃん」

 

呼び止められたカモは足を止めて、はやてを見上げた

 

「皆のサイズはどんなんやった?」

 

心無しか、はやての頭部にタヌキの耳が見えた

 

はやての問い掛けに、カモの目がキラーンと光った

 

「お!? なんだ、はやての嬢ちゃんもイケる口かい?」

 

「あったり前だのクラッカーや! おっぱいソムリエの名前は伊達やないで!」

 

カモからの問い掛けにはやては、意気揚々と答えた

 

すると、カモはどこからか、スクロールを取り出して

 

「ムフフフ……実はここに俺っちが調べたサイズが……」

 

と、スクロールを開こうとした

 

その時だった

 

「は~や~て~……」

 

「は~や~て~ちゃ~ん~……」

 

地を這うような声が聞こえ、一人と一匹はビシリと固まった

 

そして、まるで錆びたブリキ人形のように振り返ると

 

そこに居たのは、二人の修羅だった(バリアジャケット展開済み)

 

それを見た一人と一匹は、ダラダラと汗を流しながら

 

「なにかなぁ……二人とも」

 

「な、なんでい……お嬢さん方」

 

と、なのはとフェイトに問いかけた

 

すると二人は、デバイスを構えながら

 

「はやて……そういうことはやめてって、前にも言ったよね?」

 

「仏の顔も三度までって言うし……O☆HA☆NA☆SHI☆しようか」

 

そう言い放つと二人は目配せして、ある魔法の準備を始めた

 

「ちょっ!? それは十年前に二人が使ったあの!?」

 

「あからさまに室内で使う魔法じゃねぇ!?」

 

一人と一匹は慌てて逃げようとするが、そんな一人と一匹をバインドが拘束した

 

「ちょっ!?」

 

「お、お助け!?」

 

一人と一匹は近くに居た冬也に助けを求めたが

 

「すまん……巻き込まれたくないのでな……」

 

片手を挙げて、部屋から出ていった

 

「「そんなぁー!?」」

 

一人と一匹が絶望に涙を流していたら

 

「「N&F中距離殲滅コンビネーション! カラミティ・ブラスト!」」

 

二人から、逃げようのないほどに魔法の弾幕が発射された

 

「「ギャアアアァァァァ!!」」

 

会議室から、一人と一匹の盛大な悲鳴が機動六課の隊舎に響き渡った

 

なお、この後に一人と一匹は茶々丸によって医務室に放り込まれたそうな

 

 

 



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ホテルアグスタ編 その1

「それじゃあ、今わかっとる情報を教えておくな」

 

そう言ったのは、ヘリの天井に手を突いているはやてである

 

今現在、機動六課のメンバーはヘリに乗り、ホテル・アグスタに向かっていた

 

そのヘリ内部で、今回の任務の主旨と一連の主犯を教えていた

 

「これまでの一連の事件の主犯格は、この男……名前はドクター、ジェイル・スカリエッティ」

 

フェイトが名前を言うと同時に、全員の前にウィンドウが開いた

 

そこには、これまでスカリエッティが起こしたと思われる事件のデータとスカリエッティの全身写真が表示されていた

 

「この男はドクターの異名の通り、人体実験に異様な熱意を持ってる男で、これまでの事件関連で広域指名手配されてる次元犯罪者だよ」

 

そう言っているフェイトの顔は真剣な表情だが、目には複雑な感情が入り混じった光が満ちている

 

「今後は、この男を中心に捜査していくから、そのつもりでな」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

はやての言葉に全員は返事したが、キャロがシャマルの足下に積まれているケースに気づき

 

「あの、シャマル先生……そのケースは?」

 

と、ケースを指差して質問した

 

「あ、これ? フフフ……はやてちゃん達のお仕事着♪」

 

キャロからの質問に、シャマルは笑みを浮かべて、楽しそうに返答した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ホテル・アグスタ ロビー

 

そこでは、オークションに招待した客の受付を行っていた

 

「いらっしゃいませ」

 

受付を行っていたホテルスタッフは、視界に新たな客が見えると、頭を下げた

 

そんな男の視界に入ったのは、オークションへの招待状ではなく、管理局員を示すIDカードだった

 

「あっ!」

 

受付係は驚愕の声と同時に、顔を上げた

 

「こんにちは、機動六課です」

 

そこに居たのは、ドレス姿のはやて、フェイト、なのはの三人とスーツ姿の冬也と当麻。そして、赤毛の青年だった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

今回の機動六課の任務は、ホテル・アグスタで行われるオークションに合わせての警備だった

 

この任務に先立ち、機動六課からは副隊長のシグナムとヴィータ。並びに、楓が警備態勢の把握を兼ねて先行していた

 

そして、主力部隊の新人達が外に展開

 

隊長陣が内部から警備することになったのだ

 

だが、隊長陣が着ているのはドレスやスーツである

 

これは訳があり、ホテル・アグスタから管理局に警備の依頼があった際に指定されたのである

 

ホテル内部、特にオークション参加者の目に入る場所を警備する場合は正装姿のみ受け付ける

 

更に、大人数は受け付けないとしたのだ

 

これに困った管理局は、最近限定設立された機動六課に着目

 

機動六課の前線人数は民間協力者を入れても、約二十名足らず

 

しかも、部隊長のはやてと分隊長のなのはとフェイトの三人は、管理局でも飛びっきりの美少女である

 

それらの理由により、機動六課が選ばれたのだ

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ホテルロビー

 

ホテルロビーの端にはやて達、隊長陣と冬也と当麻。そして、赤毛の青年が居た

 

「うぉー……スーツなんて着たことないから、すげー違和感」

 

「俺もだ」

 

当麻の言葉に冬也は同意を示していた

 

当麻は学生だったため、普段から学生服しか着ておらず、冬也は戦場育ち故にこういったスーツは初めてだった

 

「当麻くん、似合っとるで」

 

「冬也さんも、スーツ姿が似合ってますよ」

 

そんな二人を、はやてとフェイトは誉めた

 

「あんがとよ、はやても似合ってるぜ」

 

「フェイトも、十分に似合っている」

 

当麻と冬也の二人はお礼としてか、それとも素直な気持ちか

 

はやてとフェイトのドレス姿を誉めた

 

誉められた二人は顔を赤くして

 

「あ、ありがとうな……」

 

「ありがとうございます……」

 

俯きながら、返答した

 

数秒後、はやては咳払いすると視線を赤毛の青年に向けて

 

「それにしても……驚いたで、ネギくん」

 

と、赤毛の青年こと、ネギに声を掛けた

 

「あははは……」

 

ネギは苦笑いで、返答するしかなかった

 

しかし、ネギの年齢は10歳で見た目も子供のはずなのに、目の前に居るのはどう見ても、十代後半の青年だった

 

なぜ、そんな姿なのか

 

それは、今から少し前である

 

回想開始

 

「ネギくん……本当に、このサイズでいいの?」

 

そう言いながらシャマルが差し出したのは、冬也並サイズのスーツだった

 

どう見ても、ネギには大きい

 

「はい、大丈夫です。カモくん、アレを」

 

「合点でさ、兄貴!」

 

ネギが言うと、カモはどこからか、ビンを取り出して

 

「青いアメ玉赤いアメ玉、年齢詐称薬ー!」

 

某機械猫調で名前を告げた

 

「なにソレ?」

 

「簡単に言いますと、変装アイテムです」

 

「青いアメ玉を舐めると大人に、赤いアメ玉を舐めると子供になれるんだよ」

 

なのはからの問い掛けに、ネギとカモが答えた

 

「メル○ちゃんか! メ○モちゃんか!」

 

ネギとカモの説明を聞いて、はやては思わず突っ込んでいた

 

余談だが、はやてが突っ込みを入れた時、隊舎に居た千雨も頷いていたとか

 

そして、スーツを着てから青いアメ玉を含んだのが、今のネギの姿である

 

以上、回想終了

 

そして、隊長陣は二人一組で行動することにした

 

はやてと当麻がロビーで

 

フェイトと冬也が一階と二階

 

なのはとネギが会場を

 

それぞれ回ることにした

 

「オークション開始まで、後どれくらい?」

 

《三時間二十七分です》

 

フェイトが問いかけると、バルディッシュは簡潔に答えた

 

すると、冬也が懐に手を入れて

 

「さすがに、このホテル全体は見きれないな……」

 

と呟くと、懐から人型に切られた紙束を取り出した

 

「冬也さん、それは?」

 

「まあ、見ていろ」

 

フェイトからの問いかけに冬也はそう答えると、持っていた紙束を空中にほうった

 

それにより、紙束は空中でバラけた

 

それを見た冬也は、口元に右手を持って行き、人差し指と中指を立てて

 

「オン!」

 

と、呟いた

 

すると、空中を舞っていた紙が様々な動物や虫の見た目に変わった

 

「やることはわかっているな?」

 

冬也が問いかけると、ソレらは頷いた

 

頷いたのを冬也は確認すると

 

「では、散れ」

 

冬也の命令を聞いて、ソレらは様々な方向に向かって消えた

 

「冬也さん、今のは?」

 

「今のは式紙だ」

 

フェイトからの問いかけに、冬也はスーツの襟元を直しながら答えた

 

「式紙……ですか?」

 

「ああ、陰陽道でいう使い魔みたいなものでな。簡単な命令なら遂行できる」

 

冬也からの説明を聞いて、フェイトは頷いて

 

「なるほど、そういうのもあるんですね」

 

「ああ、今のはホテル全体に散開させて監視を命じたんだ」

 

「なるほど、監視の穴を埋めるんですね?」

 

「その通りだ」

 

冬也とフェイトは話しながら、歩き続けた

 

「あれ?」

 

フェイトと冬也が曲がり角を通り過ぎると、そこに立っていた二人の男性のうち、金髪ポニーテールでメガネを掛けた男性がフェイトを視線で追った

 

「どうしました、先生?」

 

そんな様子が気になったのか、前に立っていた緑髪の男性が問いかけた

 

「ああ、いえ、別に……」

 

問いかけられた金髪の男性は、慌てて首を振った

 

場所は変わって、外

 

そこには、ティアナとスバルの二人が居た

 

(でも今日は、八神部隊長の守護騎士団。全員集合かぁー)

 

暇だったのか、スバルがティアナに念話を繋げた

 

(そうね……スバルは結構詳しいわよね? 八神部隊長や副隊長達の事)

 

周辺への警戒を怠らずに、ティアナはスバルに問いかけた

 

(うーん、父さんやギン姉から聞いたことぐらいだけど、八神部隊長が使っているデバイスが魔導書型で、それの名前が夜天の書って事。副隊長達とシャマル先生、ザフィーラは八神部隊長個人が保有しついる特別戦力だって事。で、それにリイン曹長を合わせて、六人揃えば無敵の戦力って事……まあ、八神部隊長達の詳しい実状とか能力の詳細は特秘事項だから、私も詳しくは知らないけどね)

 

聞いた話と言いながらも、かなり詳しくスバルは説明した

 

(レアスキル持ちは皆そうよね……)

 

スバルの説明を聞いたティアナは、少し声のトーンを落とした

 

(ティア、何か気になるの?)

 

ティアナの変化に気づいたのか、スバルが問いかけた

 

(別に……)

 

(そう、じゃあ、また後でね)

 

スバルは深く詮索せずに、そばを離れた

 

(六課の戦力は、無敵を通り越して明らかに異常だ……八神部隊長がどんな裏技を使ったのか知らないけど、隊長格全員がオーバーSランク、副隊長でもニアSランク……他の部隊員達だって、前線から管制官まで未来のエリート達ばっかり……あの歳でもうBランクを取ってるエリオとレアで強力な竜召喚士のキャロは、二人共フェイトさんの秘蔵っ子。危なっかしくはあっても、潜在能力と可能性の塊で優しい家族のバックアップもあるスバル)

 

ティアナはそこで一旦思考を止めて、視線を横に向けた

 

そこには、武と冥夜。そして明日菜が居た

 

(極めつけが民間協力者の人達……ネギは計測不能なほどの魔力とあの光速戦闘、明日菜は魔力完全無効化能力で魔法が効きにくいし、楓はありえない程の身体能力と独特の戦闘技術を有していて、古菲は凄腕の格闘家。刹那は刀捌きが優れている。武と冥夜は軍人だったから、卓越した戦闘能力と連携プレーで追随を許さない)

 

ティアナはそこでまた一旦思考を止めると、僅かにホテルに視線を向けて

 

(当麻は幻想殺しで魔法を完全に消すし、冬也さんはフェイトさんと互角の戦闘能力……やっぱり、この部隊で凡人なのはアタシだけか)

 

そこでティアナは俯いたが、すぐに頭を振って

 

(そんなの関係ない! 証明するんだ! ランスターの弾丸は全てを撃ち抜くってことを!!)

 

ティアナはそう意気込むと、警備に意識を集中させた

 

こうして、警備は始まった

 

この時は予想だにしなかった

 

この後に、襲撃とトラブルが起きようとは……

 

 



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ホテルアグスタ編 その2

静かな森の中、高台からホテル・アグスタを見つめている二人組が居た

 

一人は、長い紫色の髪が特徴の小柄少女で、もう一人は左手に大きな籠手を装備した大柄の男だった

 

「あそこか……だが、お前の探し物は無いんだろ? ルーテシア」

 

と男性は少女、ルーテシアに聞いた

 

そのタイミングで、ホテルの方向から小さな銀色の虫

 

ルーテシアの召喚獣のインゼクトが飛んできて、ルーテシアの指先に止まった

 

ルーテシアは数秒間そのインゼクトを見つめると、男性に視線を向けて

 

「ドクターのオモチャが、近づいてきてるって……」

 

と、静かに告げた

 

その時、ホテルの屋上に佇んでいたシャマルのデバイス〈クラールヴィント〉が反応を知らせた

 

「っ! クラールヴィントのセンサーに反応! シャーリー!」

 

シャマルはすぐさま、そのデータを機動六課のロングアーチに送った

 

場所は変わり、機動六課ロングアーチ

 

「来た来た! 来ましたよー! って、なにこの数!?」

 

シャーリーは表示された敵を示す光点(ブリップ)見て、驚愕した

 

「陸戦Ⅰ型48……陸戦Ⅲ型23……ドールは……け、計測不能!!」

 

「なんだこの数は! 攻城戦でもやるつもりかよ!」

 

「各員に通達します。今回は防衛戦です。敵がホテルに攻撃しないように守ってください」

 

ルキノと千雨は敵の数に驚き、茶々丸は展開しているフォワード部隊に指令を通達した

 

場所は変わり、ホテル地下駐車場

 

そこには、シグナムを始めとしてライトニング分隊と狼形態のザフィーラが居た

 

「エリオ、キャロ、刹那の三人は地上に出ろ! ティアナの指揮でホテル前に防衛線を構築する!」

 

「「「はい!」」」

 

シグナムの言葉を聞いて、三人は頷いた

 

それを確認したシグナムは、ザフィーラに顔を向けて

 

「ザフィーラは私と共に迎撃に出るぞ!」

 

「……心得た」

 

シグナムの言葉にザフィーラが応えると、エリオとキャロは目を見開いて固まった

 

しかし、それも仕方ないだろう

 

ザフィーラは元来、無口な性格であり、しかも機動六課隊舎に居る時は大抵、狼形態でいるのである

 

「ザフィーラって喋れたの!?」

 

「びっくり……」

 

刹那は顔には出していないだけで、同じように驚いているらしい

 

「守りの要はお前達だ……頼むぞ」

 

「う、うん!」

 

「……頑張る!」

 

「お任せを」

 

ザフィーラの激励に三人は、各々返した

 

三人の返事を聞くと、ザフィーラとシグナムはヴィータと合流するために駆け出した

 

場所は変わって屋上

 

そこでは、状況整理と把握を終えたシャマルが通信画面を開いていた

 

「前線各員へ、状況は広域防衛戦です。ロングアーチ1の統合管制と合わせて、私、シャマルが現場指揮を執ります」

 

『スターズ3、了解!』

 

シャマルからの通信を聞いて、スバルはホテル内部から出るために駆け出していた

 

『ライトニングF、了解!』

 

ライトニング分隊はエリオが一括して返した

 

『アサルトF、了解!』

 

アサルト分隊は武が一括して答えた

 

『スターズ4、了解!』

 

ホテル周囲を警備していたティアナは、通信に答えながら魔力アンカーをホテルの壁に発射して高い位置に着地して

 

『シャマル先生! 私も状況を知りたいんです! 前線のモニター、もらえませんか?』

 

そうティアナが聞くと、シャマルは頷いて

 

「わかったわ、クラールヴィントのセンサーをクロスミラージュと直結するわね」

 

と返答すると、クラールヴィントを見て

 

「お願いね、クラールヴィント」

 

〈了解!〉

 

クラールヴィントの返事を聞くと、シャマルは白衣から若草色を基調とした騎士甲冑を展開した

 

そしてシャマルは、合流しているだろうシグナム達に念話を開いて

 

(シグナム、ヴィータちゃん。お願い!)

 

二人に出撃を促した

 

促された二人は頷いて

 

(おう、スターズ2、ライトニング2。出るぞ!)

 

ロングアーチに出撃する旨を伝えた

 

すると、ロングアーチでシャーリーが

 

「レヴァンティン、グラーフアイゼン。レベル2承認!」

 

シグナムとヴィータのデバイスのリミッターを解除した

 

それを聞いた二人は、待機形態の愛機を掲げ

 

「レヴァンティン!」

 

「グラーフアイゼン!」

 

それぞれの愛機の名を呼んだ

 

〈〈起動!〉〉

 

二人が名前を呼ぶと、レヴァンティンとグラーフアイゼンは二人の騎士甲冑を展開した

 

騎士甲冑を纏うと二人は、吹き抜けから空へと飛んだ

 

「新人達の所には一機たりとも行かせねぇ、全部ぶっ潰す!」

 

ヴィータの言葉を聞いて、シグナムは笑みを浮かべ

 

「お前も案外、過保護だな」

 

と言うと、ヴィータは顔を赤くして

 

「うるせえよ!」

 

と、恥ずかしそうに反論した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ここは通さん! ゼオォリャアア!」

 

ホテル西側では、ザフィーラが接近してきたガジェットやドールを〈鋼のくびき〉で串刺しにして

 

「纏めて、ブチ抜けーー!」

 

森の上空からは、ヴィータが複数個の鉄球を打ち出し、ドールやガジェットを貫通させ

 

「紫電……一閃!」

 

森の中では、シグナムがヴィータの鉄球をすり抜けたドールを剣ごと切り捨てていた

 

そしてそれを、ティアナと共にモニターで見ていたスバルは

 

「副隊長達とザフィーラ、凄ーい!」

 

と、目を輝かせながら言い

 

ティアナは

 

「これで、能力リミッター付き……っ!」

 

そう言いながら向ける視線は、戦ってる味方に対して向けるものではなかった

 

嫉妬と焦り

 

この二つの感情がティアナの心中で渦巻き、ティアナは悔しそうに拳を握った

 

場所は変わり、ホテル内部

 

(フェイトちゃん。主催者んはなんだって?)

 

(外の状況は伝えたけど……お客の避難やオークションの中止は困るから、時間を遅らせて様子を見るって……)

 

オークション会場に居るなのはが念話で聞くと、通路を歩いていたフェイトは表情は変えてないが内心で頭を抱えていた

 

(そう……)

 

(少しは期待したんだがな……やれやれ)

 

フェイトの言葉に、なのはは心中で嘆息して冬也はホテルの対応に額に手を当てた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、森の高台

 

そこから男性とルーテシアは戦闘を見ていた

 

すると、二人の前に通信画面が開いた

 

そこに映っていたのは、六課が追っている男のドクター・スカリエッティだった

 

『ご機嫌よう、騎士ゼスト、ルーテシア』

 

騎士ゼストというのが、男性の名前なのだろう

 

「ごきげんよう……」

 

「……何の用だ」

 

ルーテシアはいつものように、感情乏しく返答したが、ゼストは不快そうに問い掛けた

 

『冷たいねぇ。近くで見てるんだろう? あのホテルにレリックは無さそうなんだが、実験材料として興味深い骨董品が一つあるんだ。少し協力してくれないかね? 君達なら、造作もない事の筈なんだが……』

 

「断る……レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」

 

スカリエッティからの願いをゼストはすぐさま、拒否した

 

しかし、それを予想していたスカリエッティは視線をルーテシアに向けて

 

『ルーテシアはどうだい? 頼まれてくれないかな?』

 

「……いいよ」

 

スカリエッティが聞くと、ルーテシアは僅かに間を置いて頷いた

 

ゼストとしては、スカリエッティのそういう所が気にいらなかった

 

スカリエッティは自分に頼んでも拒否するのを知ってるから、ルーテシアに頼む

 

そして、ルーテシアが拒否しないのも知ってる

 

そう考えるとゼストは、まるで自分がスカリエッティの手に遊ばれているようで嫌だった

 

『嬉しいな……ありがとう。今度ぜひ、お茶とお菓子をご馳走させてくれ。君のデバイス……アスクレピオスに私が欲しい物のデータを送ったよ』

 

「……うん」

 

ルーテシアが頷くと、スカリエッティは満足げに笑い

 

『では、よろしく頼むよ』

 

と言って、通信を切った

 

「……よかったのか? ルーテシア」

 

ゼストは魔法を使うためか、マントを脱ぎだしたルーテシアを見ながら問い掛けた

 

「……うん。ゼストやアギトはドクターを嫌ってるけど、私はそんなに嫌いじゃないから」

 

「そうか……」

 

アギトと言うのは、もう一人の同行者の名前なのだろう

 

どうやら、そのもう一人の同行者もゼストと同じようにスカリエッティが嫌いらしい

 

マントを脱いだルーテシアは、マントをゼストに預けるとキャロと同種のデバイスのアスクレピオスを装着した両手を広げて

 

「我は乞う。小さき者、羽ばたく者、言の葉に応え、我が命を果たせ……召喚インゼクトツーク」

 

呪文を唱えると、足下に魔法陣が広がり数本の触手が現れた

 

数秒後、その触手が弾けて中から夥しい数の銀色の虫が出現した

 

ルーテシアはその銀色の虫に視線を向けると

 

「ミッション、オブジェクトコントロール……いってらっしゃい……気をつけてね」

 

指令を伝えてから、銀色の虫群を見送った

 

 

この一手により、戦局は大きく動くことになる

 

 



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ホテルアグスタ編 その3

中途半端ですが、ここで投稿します!


シグナムとヴィータが森の中と上空で戦っていると、何処からか小さい紫色の光がやってきて、ガジェットとドールに宿った

 

シグナムとヴィータはそれに気付かず、ヴィータは鉄球を飛ばし、シグナムは切りかかった

 

が、ヴィータの鉄球は避けられるか防がれ、シグナムの一撃は完全に防がれた

 

「なに!?」

 

「動きが違う……有人操作に切り替わった!?」

 

ヴィータは驚き、シグナムは動きが変わった理由に気づくが、そのスキを突いて、二人の周囲をガジェットやドールが囲った

 

「しまった!?」

 

「くっ!」

 

シグナムとヴィータは脱出しようとするが、相手の数が多くて叶わなかった

 

そして、ガジェットやドールが攻撃しようとした

 

その時だった

 

シグナムを攻撃しようとしていたドール群を銀色のニードルバレットが次々と撃ち抜き、ヴィータを攻撃しようとしていたガジェットは斬撃によって真っ二つになった

 

「白銀!」

 

「冥夜!」

 

二人の視線の先には、それぞれ武器を構えた武と冥夜の姿があった

 

「シグナム副隊長、ヴィータ副隊長! 後退してください! 俺達が支援します!」

 

武の言葉を聞いて、ヴィータは

 

「なんでだよ! 今後退したら、この数がなだれ込むぞ!」

 

と、喰ってかかった

 

「既に、敵の召喚術士により、二十機近くの敵がホテル近くに出現しました! そちらのフォローに回ってください!」

 

冥夜の言葉を聞いた副隊長陣は、目を見開いた

 

「何時の間に!」

 

「ちくしょう!」

 

二人が歯噛みしていると、ガジェットやドールが攻撃しようとしたが、それを武と冥夜が阻止した

 

「行ってください!」

 

「ここは、俺達が!」

 

そう言って戦い始めた二人を見て、シグナムとヴィータは後ろ髪を引かれる思いだったが

 

「すまん……」

 

「二人とも、頼んだ!」

 

と言うと、ホテルの方向目掛けて飛んでいった

 

それを武と冥夜は、視界の端で確認すると

 

「行ったな」

 

「ああ……なあ、冥夜。この状況、佐渡島に似てないか?」

 

と、会話を始めた

 

「む? あぁ……確かに似てるな。だが、あの時と違うのは、私が居ることだ」

 

武からの問い掛けに冥夜は一瞬、首を傾げたがすぐに思い出した

 

「だな。そんじゃあ……俺の背中、冥夜に預けるぜ?」

 

と武が言うと、冥夜は笑みを浮かべて

 

「ああ……私の背も預ける!」

 

と宣言した

 

冥夜の宣言を聞いた武は、獰猛な笑みを浮かべて

 

「ああ……そんじゃあ……行くぜ!」

 

「うむ!」

 

それを合図に二人は、敵の真っ只中に突撃していった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、ホテル近辺

 

そこでも戦闘が繰り広げられていて、新人達は苦戦していた

 

「くっ……こいつら!」

 

「数が……多い!」

 

「しかも……動きが違います!」

 

「このままじゃ……!」

 

四人が苦戦している光景に、民間協力者組みも援護に向かいたかったが、ドールの数と連携に手一杯だった

 

「楓! あっちの援護に行けないか!?」

 

「すまぬ……こちらも精一杯でござる!」

 

「なんなのよ! こいつら、急に動きが良くなったわよ!?」

 

全員が苦戦していると、通信画面が開き

 

『今、シグナムとヴィータちゃんが戻ってきてるから、それまでなんとか持ちこたえて!』

 

と、シャマルの言葉が聞こえた

 

その声を聞いて、ティアナが顔を上げて

 

「守ってばかりじゃ行き詰まります! もっと攻めないと!」

 

と叫ぶと、隠れていた木陰から出て構えた

 

その直後、クロスミラージュのカートリッジが四発ロードされた

 

それをロングアーチで確認したシャーリーは

 

『四発ロードなんて、無茶だよ! デバイスもティアナも保たない!』

 

と、制止するが

 

「できます!」

 

〈問題ありません〉

 

ティアナとクロスミラージュは聞かず、発動の準備を続け

 

「スバル! クロスシフトA、行くわよ!」

 

「おう!」

 

スバルとのコンビネーションを強行した

 

クロスシフト

 

それは、スバルとティアナが訓練生時代に編み出したコンビネーションで、色々なパターンが存在する

 

そしてスバルとティアナは、このクロスシフトで成果を上げていた

 

だから、今回も大丈夫と思っていたし、なによりも、ティアナは焦りで正確な判断が出来なくなっていた

 

「オリャアアァ!」

 

スバルが突撃して敵を撃破しつつ、撹乱していると

 

「クロスファイアー……シュート!」

 

ティアナは、射撃魔法を発動した

 

「アアアア!」

 

ティアナが放った魔法は、次々とガジェットやドールを撃ち抜いていく

 

だが、集中力が途切れたのか、一発だけ僅かに軌道がズレた

 

そして、ズレた弾丸の先には……スバルが居た

 

「ん? ……っ!?」

 

スバルは後方から風切り音が聞こえたので、振り向いた

 

そしてスバルの視界に入ったのは、自分に迫るティアナの弾丸

 

その時になって、ティアナも自分の弾丸がスバルに向かってることに気づいた

 

「……っ!」

 

ティアナは自分の失態に目を見張り、スバルは予想外の事態に固まってしまった

 

そして、それを見ながら飛んでいたヴィータも

 

(ダメだ! 間に合わねえ!)

 

と歯噛みしていた

 

この時ヴィータの脳裏には、ある雪の日の光景がフラッシュバックしていた

 

その場の誰もが、最悪のパターンを思い描いた

 

だがその時、森の中から白銀色の弾丸が突き抜けてきてティアナの弾丸に直撃して、相殺した

 

ヴィータが弾丸が飛んできた先を見ると、そこでは武が右手の近接戦闘長刀でドールの斬撃を防ぎながら、左手に持った複合突撃砲を肩越しに向けていた

 

つまり武は、自身も戦いながら援護したのだ

 

そのことに、ヴィータは驚きながらも

 

「悪い! 助かった!」

 

と武に感謝すると、視線をティアナに向けて

 

「ティアナ! この……」

 

と、ティアナを怒ろうとしたが

 

『ヴィータ副隊長! 落ち着いてください!』

 

武に止められた

 

「なんでだよ! 今こいつは!」

 

止められたヴィータは、感情任せで武に喰って掛かった

 

だが、武は冷静に

 

『このような乱戦下では、フレンドリーファイアは起こり得ることです! 怖いのは混乱状態に陥った味方を怒って、恐慌状態になることです!』

 

武の言葉を聞いて、ヴィータはハッとした

 

『そうなったら、勝てる戦いも勝てなくなります!』

 

武は目の前のドールを蹴り飛ばすと、複合突撃砲のニードルバレットですぐさま蜂の巣にすると、横から接近してきたガジェットを長刀で切り捨てた

 

『ですから今は、落ち着かせるほうが懸命です!』

 

武の言葉を聞いたヴィータは、苦い表情になって

 

「すまねぇ。どうやら、感情的になってたみたいだ……」

 

と謝罪した

 

『いえ、誰でもなりますよ……後は、ティアナ!』

 

武が大声でティアナを呼ぶと、ティアナはビクッと反応して通信画面を見た

 

『大丈夫! 誰にでもミスはある! 大事なのは、繰り返さないことだ!』

 

「繰り返さないこと……」

 

ティアナが呟くと、武は頷いた

 

こうして喋っているが、武は未だに戦闘中である

 

この様子を見ていたロングアーチは、その武の戦闘力に驚いていた

 

「凄い……」

 

「敵の損耗率が、加速度的に……」

 

「データは知っとるが……ここまでかいな」

 

ロングアーチスタッフは武の実力に驚き、はやては改めて武の実力を知った

 

場所は戻り、ホテルアグスタ

 

「た……ける……?」

 

ティアナが名前を呼ぶと、武は頷いて

 

『大丈夫だ、ティアナ。ミスは誰にでもある! スバルは無事なんだ!』

 

武が励ますが、ティアナはまだ茫然自失状態だった

 

『これで、自分の限界はわかったな? もう、無茶はしないな?』

 

「限界はわかったけど……けど……今度は……」

 

武の言葉に、ティアナは自分の体を抱きしめながら震えた

 

『大丈夫だ! 味方の攻撃に当たるほど、俺達はバカじゃない! そうだろ、スバル!』

 

武が呼ぶと、スバルがティアナに近づき

 

「そうだよ、ティア! さっきのは、私もミスしたし!」

 

と、ティアナを励ました

 

『つーわけだ、ティアナ! 指示と支援を頼むぜ!?』

 

武が言うと、ティアナは深呼吸して

 

「OK! やってやろうじゃない! フォワード陣、行くわよ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

『『了解!』』

 

ティアナが号令を出すと、全員は斉唱してからフォーメーションを組んだ

 

その光景を見たヴィータは、微笑むと森の中に突撃した

 

場所は変わって、ホテル内部

 

「む?」

 

ホテル内をフェイトと警戒していた冬也が突如、視線を別の方向に向けた

 

「冬也さん? どうしました?」

 

フェイトが問い掛けると、冬也はネクタイを緩めて

 

「地下駐車場に侵入者のようだ……行ってくる」

 

と言うと、駆け出した

 

「冬也さん!」

 

フェイトは冬也を追おうとしたが、冬也は肩越しに

 

「フェイトは万が一のために、ここに居ろ!」

 

と大声で言った

 

その声にフェイトは止まり

 

「なにかあったら、連絡してくださいね!」

 

と、冬也を見送った

 

数分後、地下駐車場

 

薄暗い地下駐車場に居た警備員は、聞こえた不審な音の方に懐中電灯を向けた

 

「誰か居るんですか? ここは、立ち入り禁止ですよ?」

 

この地下駐車場は、一般用と違い、資材搬入用である

 

そのために、居るのは警備員やホテルスタッフくらいだった

 

それに、もし交代やホテルスタッフが来るならば、なんらかの連絡くらいは有るはずだった

 

だが、そんな連絡はなかった

 

それなのに、音が聞こえた

 

ゆえに、警備員として確認に向かった

 

が、そこで見たのは

 

「な、なんだ! お前は!」

 

警備員の目に入ったのは、人型のモノだった

 

人型だが、人間ではなかった

 

目は四つあり、口に当たる部位は確認出来なかった

 

その姿を見て、警備員は固まってしまった

 

そして、そのスキは致命的だった

 

その瞬間、人型は手甲に当たる部分を伸ばして鉤爪にすると、警備員に切りかかった

 

「うわっ!?」

 

警備員は逃げようとしたが、人型の動きが早く、あっという間に間合いを詰められた

 

そして、警備員が目を瞑った瞬間だった

 

「夜叉! セットアップ!」

 

〈承知!〉

 

という声が聞こえて、目の裏に強い光が差して、次の瞬間には、金属音が響いた

 

痛みが来ない警備員が恐る恐ると目を開くと、目の前には黒い背中が見えた

 

「お、お前は……」

 

警備員が問い掛けると、冬也は視線だけを向けて

 

「俺は警備に来ている機動六課の者だ! こいつは俺が引き受ける! お前は避難しろ!」

 

冬也の強い語気に警備員は頷いて

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

と、駆け出した

 

それを冬也は確認すると、目の前の人型を押し飛ばして

 

「夜叉、こいつは?」

 

と、自身のデバイスの夜叉に問い掛けた

 

〈恐らくは、キャロちゃんのフリードと同じ、召喚獣だと思われます!〉

 

夜叉の言葉に冬也は、興味深そうな視線を人型に向けた

 

「召喚獣とは、こんなタイプも居るのか……」

 

冬也が呟くと、人型の召喚獣は構えた

 

どうやら、先ほど切り結んだことで冬也の実力を把握したらしい

 

冬也は対照的に、両手をダランと下げている

 

型なき型

 

それが冬也の剣である

 

冬也は最前線で戦い続けてきて、その戦闘技法のほとんどは我流である

 

故に、決まった型はなく、変幻自在の剣技を繰り出す

 

しかも、その全ては一撃で命を刈り取ろうとする技である

 

下手な油断はまさしく、命取りである

 

人型の召喚獣は、それを理解したから、構えたのである

 

「ふむ……喋れないのか喋らないのかはわからないが、お前を逃がすわけにはいかないのでな……」

 

そう言って冬也が、僅かに足を動かした瞬間

 

「死なない程度に、痛めつけさせてもらう!」

 

気づけば、懐に冬也は入り込んでいた

 

人型の召喚獣は後退しようとするが、冬也の突きのほうが早く、壁に激突した

 

「ふむ……なかなか硬いな……だが、何撃まで保つかな?」

 

冬也がそう言って消えた直後、人型の召喚獣は壁を蹴って前に転がった

 

次の瞬間には、冬也の刀が壁を切っていた

 

「む……壁を傷つけてしまった……これは、はやてに文句を言われそうだ……」

 

冬也はそう言うと、体を人型の召喚獣に向けた

 

人型の召喚獣は構えていたが、少しすると背中の部分に羽を出現させた

 

「ふむ……キメラみたいな奴だな」

 

その姿を見た冬也は、半ば呆れた様子で呟いた

 

すると、人型の召喚獣は羽を高速で震わせて浮き上がり、鉤爪を突き出しながら高速で冬也に突撃してきた

 

「むっ!」

 

冬也はその攻撃を刀で弾き、軌道を逸らした

 

すると、人型召喚獣はそのまま直進してトラックの荷台に衝突

 

そのまま易々と貫通した

 

「む……あれは、当たったら危険だな」

 

その光景を見た冬也はポツリと呟いた

 

冬也のバリアジャケットは、フェイトより薄く、一撃が致命傷になりかねない

 

しかも、プロテクションも一切使えないために、刀で防ぐしかないのだ

 

冬也がそう考えていると、人型召喚獣は腕を引き抜き、再び突撃してきた

 

どうやら、一撃離脱戦法重視にしてきたらしい

 

冬也が人型召喚獣の攻撃を、刀を使って逸らした直後

 

人型召喚獣の周囲を煙が覆った

 

「む!」

 

さすがに怪しいと思い、冬也は腰を低くして身構えた

 

が、いくら待っても攻撃は来ない

 

「しまった……してやられたか……」

 

冬也はそう呟くと、風を起こして煙を飛ばした

 

すると、人型召喚獣の姿は消えていた

 

冬也はバリアジャケットを解除すると、通信画面を開いた

 

「こちら神代冬也。はやて、聞こえるか?」

 

『ホイホイ、聞こえるで。どうやった?』

 

通信画面にはやての顔が映り、冬也に問い掛けてきた

 

「地下駐車場に人型の召喚獣が侵入してきていたが、すまんな。逃がしてしまった」

 

『そうか……』

 

冬也からの報告を聞くと、はやては顔を暗くした

 

「どうやら、敵の狙いは密売目的のロストロギアだったらしいな」

 

『なんやて?』

 

冬也からの続報を聞いたはやては、顔をしかめた

 

「こちらに提供されているデータ以外のロストロギアがある、調査班を寄越してくれ」

 

『了解や。ついでに、持ち主に事情聴取やね』

 

「そうしてくれ……ああ、それと」

 

『なんや?』

 

「新人達のほうは、どうなっている?」

 

冬也が聞くと、はやては少し間を置いて

 

『少しトラブルがあったみたいやけど、持ち直して、もうすぐ終わりそうや』

 

「そうか……俺は持ち場に戻るぞ」

 

『了解や』

 

冬也は報告を終えると、階段に向けて歩き出した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、高台

 

そこに居たルーテシア達の所に、冬也と戦った人型召喚獣が現れた

 

「お帰り、ガリュー……手に入った?」

 

どうやら、ガリューというらしい

 

ルーテシアが問い掛けると、ガリューは恭しく頭を下げた

 

「それじゃあ……それはドクターに届けてくれる?」

 

ルーテシアが言うと、ガリューは頷いて黒い光になって消えた

 

「では行くぞ、ルーテシア……前線の魔導士達がいい動きをした」

 

ゼストが持っていたマントをルーテシアに渡すと、ルーテシアはマントを被った

 

そして二人は、その高台から去った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ホテル内部

 

「了解や」

 

はやてと当麻は、オークション会場の扉前に居た

 

「冬也はなんだって?」

 

「地下駐車場で敵と交戦したそうや。ただ、敵には逃げられたみたいやけど」

 

はやての報告を聞いた当麻は、安堵の息を吐いて

 

「そうか……新人達の方ももうすぐ終わるみたいだし、一件落着かな?」

 

「せやな……ん?」

 

同意したはやての視線の先に、白いスーツを着た長い緑色の髪が特徴の男が歩いてきていた

 

「そこのお嬢さん、お坊ちゃん。オークションは始まってますよ……入らなくっていいのかな?」

 

その男が声を掛けてくると、当麻ははやての前に出た

 

当麻としては、身元不明の男性をはやてに近付けるわけにはいかなかった

 

だが、そんな当麻の肩にはやては手を置くと首を振り

 

「ご忠告、ありがとうございます。けど、遊びやのうて、任務で来てるんや」

 

と言いながら、男性に近づいた

 

「ほう……」

 

はやての言葉を聞いた男性は、口元に笑みを浮かべた

 

はやてはその男性の顔を見ると

 

「ん……えい!」

 

と軽く拳を男性の腹部に叩き込んだ

 

「っと……この!」

 

はやての拳を腹部で受けた男性は、はやての頭に手を置いてはやての髪をぐしゃぐしゃと掻き回した

 

その二人の光景を当麻がポカーンと見ているなか、二人は当麻を置いてけぼりにして

 

「また任務を放り出して、サボっとるとちゃいますか? アコーズ査察官?」

 

「ひどいなぁ、はやて。僕だって任務中だよ……重要人物の護衛でね」

 

その二人の様子から、当麻は親しい間柄と推察して

 

「はやて、悪いが紹介してくれるか?」

 

と、はやてに頼んだ

 

「ああ、ごめんな、当麻くん。彼は時空管理局地上本部査察部所属のヴェロッサ・アコーズ査察官や。ロッサ、彼は民間協力者の上条当麻くんや」

 

はやてが互いに紹介すると、ヴェロッサが右手を出して

 

「よろしく、上条当麻くん。僕はヴェロッサ・アコーズだ。気軽にロッサって呼んでくれ」

 

「ああ、よろしく。俺は上条当麻だ」

 

当麻は自己紹介しながら、右手を出した

 

(さて、悪いけど……君の頭の中身……見させてもらうよ!)

 

ロッサがそう意気込みながら握手した瞬間、ガラスが砕ける音が響き渡った

 

その音を聞いたはやてはロッサを睨みつけ、ロッサは驚愕していた

 

「な!?」

 

ロッサが驚きの声を上げると、当麻が左手で頭を掻きながら

 

「あー……悪い、もしかして、なんか魔法使ってたか?」

 

と聞くと、はやてがロッサの頭にアイアンクローをかまして

 

「ロッサー……なにをしようとしたんかなぁー?」

 

と笑顔を浮かべながら、ギリギリと力を込めた

 

「待ってくれないかい、はやて? これははやての為を思ってって、ありえない! 僕の頭蓋骨が凄い勢いでミシミシ言って!?」

 

ロッサが悲鳴を上げるが、はやては無視して

 

「フッフッフ……なのはちゃん直伝のアイアンクローや……身体強化で握力を上げると同時に指先に魔力を集中させることで、威力を倍増させるんやで!!」

 

「グアアアァァァ!?」

 

あまりの光景にポカーンとしていた当麻は、ロッサの悲鳴と人から聞こえちゃいけない音を聞いて

 

「あー待て待て、はやて。落ち着け」

 

はやてを宥めることを始めた

 

 

 



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ホテルアグスタ編 その4

場所 ホテルアグスタ付近

 

戦闘後のホテルアグスタ付近では、管理局本部から来た調査隊がガジェットやドールの残骸を回収していた

 

その近くでは、フォワード陣が周囲を警戒していた

 

だがその中で、ティアナが暗い表情をしていて、それにスバルが気づき

 

「ティアー、あの誤射は大丈夫だったから、気にしないで! 私も相手との直線上を走っちゃってたし」

 

スバルがそう励ますが、ティアナの表情は優れず

 

「ありがとう……ゴメン、少しの間だけ一人にしてくれるかしら?」

 

とティアナが言うと、スバルは数瞬躊躇ったが

 

「うん……わかった。それじゃあ、後でね」

 

と手を振りながら、スバルは離れた

 

その数秒後、ティアナは俯いて

 

「あたしは……あたしは……っ!」

 

と、涙を堪えて歯を食いしばった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

その頃、ホテル内部では

 

「あ痛たたた……はやて、君は本当に遠距離型の騎士かい? あの威力は近距離型にも劣らないよ?」

 

とはやてのアイアンクローから解放されたヴェロッサが、側頭部をさすりながら語っていた

 

「フッフッフ……なのはちゃん直伝をナメたらあかんで?」

 

そんなヴェロッサの言葉に、はやては笑いながら拳を鳴らしている

 

すると、その騒動を止めた当麻が汗を垂らしながら

 

「なあ、さっきは何をしようとしたんだ?」

 

と、ヴェロッサに問い掛けた

 

するとヴェロッサは、苦笑いを浮かべながら

 

「ああ、思考捜査をしようとしたのさ」

 

と説明すると、当麻は首を傾げて

 

「思考捜査?」

 

と、頭上に?を浮かべた

 

すると、その疑問に答えるためか、はやてが

 

「ロッサの希少技能《レアスキル》なんよ。触れた相手の頭の中を読むことが出来るっちゅうな」

 

と当麻にも分かりやすいように、説明した

 

すると当麻は、納得した様子で

 

「ああ……だから、俺の右手で破壊されたのか」

 

と、手を叩いた

 

「そういうことだね。しかし話には聞いていたが、凄いね。幻想殺し《イマジンブレイカー》は」

 

と、ヴェロッサが関心した様子で頷いていると

 

「さて、ロッサ。なんで、当麻君に思考捜査をしようとしたんかなー?」

 

と、はやてが笑いながら問い掛けた

 

だが、そのはやての雰囲気は凄まじく、ヴェロッサからしてみれば、修羅に見えた

 

「い、いやね……はやての近くに現れた人物のことを知っとこうかと思っ……待って待って、ごめんなさい! だから、アイアンクローだけはぁぁぁぁ!?」

 

ヴェロッサが震えながら言うと、はやては笑顔のまま再びアイアンクローをかました

 

「フフフフ……そんな失礼なことを考えたんは、この頭かなぁぁぁ!?」

 

「グァァァァァ!?」

 

再びのその状況を当麻は、呆然と見ることしか出来なかった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

再び場所は変わって、ホテル付近

 

そこでは、冬也とネギが調査隊からの話を聞いていた

 

そして聞き終わると、調査隊は再び調査に戻っていき、冬也とネギはホテルに戻ろうとした

 

すると、フェイトと金髪翠目の青年が近づいてきて

 

「冬也さん、ネギくん。私これからエリオ達の所に行かないといけないから、彼の護衛任務を引き継いでほしいんです」

 

「それは構わないが……」

 

「彼は?」

 

フェイトの話を聞いた二人は、男性の名前を問い掛けた

 

「うん。彼は、無限書庫の司書長のユーノ・スクライアさん。ユーノ、彼らは民間協力者の神代冬也さんとネギ・スプリングフィールド君」

 

とフェイトが互いに紹介すると、金髪の青年

 

ユーノ・スクライアが右手を出して

 

「はじめまして、無限書庫司書長のユーノ・スクライアです」

 

と挨拶すると、二人はああと呟いて

 

「貴方がなのはさんの言ってた方ですね? 僕は民間協力者のネギ・スプリングフィールドです」

 

「同じく、神代冬也だ」

 

と、順番に挨拶した

 

「それじゃあ、彼の護衛任務の引き継ぎをお願いしますね」

 

「はい、承りました」

 

「承知した」

 

フェイトは二人が頷くのを確認すると、エリオ達の居る方向に駆け出した

 

二人はフェイトを見送ると、ユーノに話しかけた

 

「貴方がなのはさんの師匠のユーノさんですか……」

 

「話には聞いている。優れた魔導士だとな」

 

二人がそう言うと、ユーノは苦い表情を浮かべ

 

「いえ、そんなことは……」

 

と、顔の前で手を振った

 

するとそれを見た冬也が、片眉を上げて

 

「なぜ、罪悪感を持っているのかな?」

 

と、ユーノに問い掛けた

 

問い掛けられたユーノは、一瞬驚き

 

「どうして……そう思ったんですか?」

 

と、冬也に問い掛けた

 

「先ほどなのはを見た時、悲しそうな表情をしたのと今の声音からな……これでも、無駄に生きてきたのでね」

 

と冬也が言うと、ユーノは顔を下に向けて

 

「……僕となのはが出会ったのは……十年前のことです……」

 

ポツポツと、語りだした

 

今から十年前、なのはが九歳のごく普通の少女だった時、ユーノは彼女と出会った

 

その時ユーノは、彼の一族が発掘したロストロギア

 

ジュエルシードを管理局に運ぶ途中で事故にあい、それがなのはの住む地域に落下してしまった

 

ユーノはそれを回収するために奮闘するも、負傷

 

素質ある人にしか聞こえないメッセージを飛ばして現れたのが、幼いなのはだった

 

その後なのははユーノの言葉に従い、レイジングハートを起動

 

ジュエルシードを封印した

 

しかし、ジュエルシードは一つだけではなく全部で二十一個あった

 

なのはは確実に一個ずつ、ジュエルシードを回収していった

 

だが、その途中で母親の命令でジュエルシードを回収しに来たフェイトと敵対

 

何回もジュエルシードを賭けて争い続けた

 

そしてなのはは、命懸けの実戦を繰り返していくうちにメキメキと腕を上げていき、フェイトとの決闘になのはは勝利した

 

だが、フェイトの実の母親

 

プレシア・テスタロッサがフェイトがアリシア・テスタロッサのクローンと告げた

 

そして、プレシア・テスタロッサはアリシアを蘇らせるために失われた都、〈アルハザード〉へと旅立つことを結構した

 

これを、なのはと当時協力関係になっていた時空管理局のリンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンは止めるために、プレシアの本拠地であった時の庭園に突入

 

プレシアが召喚した自動人形を撃破しながら、プレシアと動力炉の下へと向かった

 

途中でフェイトが心身喪失状態から復帰してなのはと合流、共にプレシアの下へと向かった

 

フェイトはプレシアを説得しようとしたが、ブレシアはフェイトの説得を振り払い、アリシアの遺体の入ったカプセルと共に虚数空間へと消えていった

 

そして、フェイトは事件の裁判のために、使い魔のアルフと一緒に時空管理局本局へとリンディ達と共に向かうことになった

 

そして、なのはとフェイトは再会を約束して互いのリボンを交換して別れた

 

それから時は経ち、季節は春から冬へと変わった

 

この時すでに、少しずつ事態は動いていた

 

ある日、なのはとフェイトは再会した

 

しかし、それは平穏とは程遠かった

 

なのはは赤いゴスロリ調の騎士甲冑を纏った少女、ヴィータに襲撃されたのだ

 

フェイトとユーノ。そしてアルフはそれの援護のために、なのはの下へと駆けつけた

 

しかし、ヴィータの援護のために炎剣士シグナムと青い拳闘士のザフィーラが現れた

 

その後、六人は激しい空中戦を繰り広げていた

 

それを治癒と防御の結界の中から見ていたなのはは、傷を押して、自身の必殺技たるスターライト・ブレイカーを放とうとした

 

が、そのなのはの胸部を若草色の騎士甲冑を纏ったシャマルの腕が貫き、魔導士のコアたるリンカーコアを取り出された

 

そして、なのはのリンカーコアははやての持っていた魔導書

 

夜天の書、当時は闇の書と呼ばれていた

 

に蒐集された

 

そして、なのはは意識が朦朧とするなかスターライト・ブレイカーを放ち、その場で倒れた

 

それが理由でなのはは、数日間は前線から離れることになったが、リンディの提案に乗って、事件の解決に協力することとなった

 

なのはとレイジングハート、そしてフェイトのバルディッシュが治るまでの間はクロノと派遣されてきた管理局員が事件の対応に当たった

 

そんな中、レイジングハートとバルディッシュは自身から願い修理と同時に強化改修を行った

 

そして、レイジングとバルディッシュに行われた強化改修は

 

ベルカ式カートリッジシステムの搭載だった

 

このベルカ式カートリッジシステムは、フェイトやなのはの使うミッド式とは違う魔法

 

シグナム達の使うベルカ式で使うシステムだった

 

ミッド式は中遠距離戦を中心とした物に対して、ベルカ式は対人近距離戦を重視した魔法なのである

 

そのベルカ式魔法で使われているのが、ベルカ式カートリッジシステムだった

 

このカートリッジシステムは、弾丸の中に圧縮した魔力を封じ込めてあって、それを使用することにより、魔法の威力を爆発的に上げることが出来るのだ

 

だが、このカートリッジシステムは扱いが難しく、ミッド式魔法ではまだ安全性が確立されていなかった

 

それを利用することにより、なのは達はシグナム達と互角に戦えるようになった

 

だが、なのは達が戦っている間に時空管理局本局では提督であるグレアムとその双子使い魔のリーゼ達が暗躍していた

 

グレアムが画策していたのは、闇の書の封印だった

 

それ自体なら、ロストロギアに対する通常の措置だろう

 

だが、グレアムが行おうとしていたのは、はやて諸共、氷結させてそれを虚数空間の中に放棄するというものだった

 

グレアムはその為のデバイスも完成させ、リーゼ達に命じてなのは達の妨害すら行いフェイトのリンカーコアまでも蒐集させた

 

そして、一進一退で事態は進み

 

クリスマスの夜、ソレは起きてしまった

 

病院に入院していたはやての病室での、なのは達とシグナム達の邂逅

 

そして、病院屋上での戦い

 

その時なのは達は、シグナム達に重要な情報を教えようとした

 

だが、リーゼ達の攻撃によりなのは達とシグナム達は捕まり、シグナム達はリーゼ達の手により蒐集されてしまった

 

それにより闇の書は完成し、シグナム達のやっていた蒐集のことを知らなかったはやてはシグナム達が消えたことと、なのは達に変装したリーゼ達の言葉に絶望し、それが鍵となって闇の書の官制融合騎

 

この官制融合騎は後に、はやてが命名してリインフォースとなる

 

が覚醒し、はやての意識を乗っ取った

 

リーゼ達の仕掛けたバインドから脱出したなのは達は、この官制融合騎を止めるために交戦を開始するも、官制融合騎の圧倒的な力量に押された

 

その後も激戦は続き、官制融合騎はなのはの必殺技

 

スターライト・ブレイカーを放とうとしてきた

 

闇の書は、蒐集した魔導士の魔法を使うことが出来るのである

 

それを見たフェイトは、一度食らった経験からなのはの手を掴んで、官制融合騎から距離を取った

 

なのはのスターライト・ブレイカーは生半可なプロテクトでは防げず、距離を取って威力を弱めて防ぐしかないと判断したのだ

 

そして、官制融合騎から距離を取っていた時だった

 

バルディッシュが戦闘区域内たる封鎖結界内部に、一般人が取り残されていると告げた

 

二人はその一般人を守るために、その一般人の近くに着地

 

そして、見つけたのは

 

なのは、フェイト、はやての共通の友人たる月村すずかとアリサ・バニングスの二人だった

 

魔導士が展開する封鎖結界は、基本的に魔力を持つ者しか入れないのだが、ごくまれに一般人が巻き込まれる場合があるのだ

 

今回、アリサとすずかがそれに該当してしまったのだ

 

なのはとフェイトが二人を見つけたタイミングで、官制融合騎がスターライト・ブレイカーを放った

 

なのはとフェイトはそれを見ると、二人でそれぞれプロテクトを張ってその一撃を耐えた

 

そして、スターライト・ブレイカーが収まった後、エイミィの手によりアリサとすずかは封鎖結界から脱出した

 

そして再度の説得を行うが、官制融合騎は拒否

 

それを見かねたフェイトが切りかかるが、官制融合騎の手により闇の書の中に吸収されてしまった

 

それを見たなのはは動揺するが、エイミィが無事を伝えると持ち直して戦闘を再開した

 

なのはが戦っている間、闇の書に吸収されたフェイトは夢を見ていた

 

姉のアリシアが生きていて、消えたプレシアの使い魔だったリニスが優しくお越しに来てくれて、虚数空間に落ちた筈のプレシアが優しく笑いかけてくれた

 

それは、フェイトが夢見た光景だった

 

何度も願い、しかし、叶うことの無かった夢

 

フェイトはその夢で平穏に過ごすが、アリシアと二人きりになった時にその夢から出ることを告げた

 

そしてフェイトは、自身の相棒たるバルディッシュと共に現実世界へと舞い戻る

 

その頃、なのはは危機に陥っていた

 

なのはの放った砲撃はことごとく防がれ、官制融合騎からの攻撃によりなのははキズだらけになっていた

 

起死回生の一手もほとんど効果がなく、しかもなのはは一瞬の油断を突かれて、拘束された

 

官制融合騎は拘束したなのはに対して、巨大で歪な大剣を落とした

 

それがなのはに当たる直前、帰還したフェイトがその大剣をプラズマザンバーで両断した

 

その時、官制融合騎の中で眠っていたはやてにも変化が起きていた

 

フェイトが脱出した影響で、はやてが眠りから覚め、なにが起きたのか全て思い出したのだ

 

官制融合騎は再び眠るように懇願するが、はやてはそれを拒否

 

所有者権限を行使して、暴走していた防衛プログラムを停止させた

 

その時、管理局から駆けつけたユーノが停止している防衛プログラムを魔法で攻撃するように指示した

 

その指示を聞いた二人は、防衛プログラムに対してコンビネーション技

 

カラミティブラストを放った

 

それにより防衛プログラムは切り離しに成功して、はやてはシグナム達と共に帰還した

 

その時、リーゼ達とグレアム提督を拘束したクロノが到着

 

夜天の書を闇の書と呼ばせた原因

 

闇の書の闇をシグナム達と共に撃破することになった

 

そして、全員の技と時空管理局次元航行艦〈アースラ〉の共同作戦により闇の書の闇を消し去ることに成功した

 

だが、官制融合騎

 

リインフォースからの提案により、夜天の書を破壊することになった

 

それは悲しい別れだった

 

ようやく、幸せになれたリインフォースと、一人ではなくなったはやては会って間もなく、永遠の別れとなった

 

その後、なのは達は正式に管理局に所属

 

ユーノは、今回の件まで完全に放置されていた無限書庫の整理を手伝うことになった

 

そして時は経ち、ある日、悲劇が起きた

ある世界に赴いていたなのはが、未確認の敵の攻撃により重傷を負った

 

それまでなのはは、かなり無茶をしていたのだ

 

幼い頃から使っていた集束魔法と自己強化魔法

 

そして、ベルカ式カートリッジシステム

 

この三つにより、なのはの体には少しずつ疲労が蓄積していたのだ

 

その疲労が理由で魔法の威力が落ち、さらには、本人の動きを阻害した

 

本来のなのはならば、勝てたかもしれないし、避けられたかもしれない

 

だが、敵の攻撃を避けようとしたタイミングで体が動かなくなり、直撃をくらった

 

その敵は共に居たヴィータにより撃破されて、なのははすぐさま、本局の医療区画に運ばれた

 

そして、医師による懸命な治療を施されて、なのはは一命を取り留めた

 

だが、リンカーコアにキズが出来てしまった

 

リンカーコアはいまだに、未解明な器官で下手に手を出せなかった

 

そして、なのはは医師から告げられた一言を聞いて絶望した

 

それは、二度と空を飛べないかもしれないかもしれない

 

という、ことだった

 

それを聞いてからなのはは、周囲の人々も止めるほどのリハビリを始めた

 

まさしく、血反吐を吐く思いだったのだろう

 

そしてなのはは、そのリハビリの甲斐あって、再び空を飛べるようになった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「そして、今に至ります……」

 

長い語りが終わり、冬也とネギは沈黙していた

 

「なのはさんに、そんな過去があったんですね……」

 

「だが、それで納得がいった。時々なのはが体を庇う仕草をするのがな」

 

冬也の言葉にネギは頷くと、視線を冬也に向けて

 

「それに、なのはさんの教導もですね」

 

と言った

 

ネギの言葉に冬也は頷くと、ユーノを見て

 

「それで、ユーノはなのはが傷ついた理由を自分と思っているのかな?」

 

冬也の言葉に、ユーノは表情を歪め

 

「そう……ですね……なのはに魔法を教えなければ、なのはが傷つくことはなかったはずです……」

 

と、呟いた

 

「だが、お前が魔法を教えなければ、フェイトやはやてを助けられず、ここに居なかったはずだ」

 

冬也の言葉にユーノが顔を歪めていると、ネギが近づいて

 

「それに、そのことをきちんと話し合いましたか?」

 

と、ユーノに問い掛けた

 

すると、ユーノは首を振って

 

「僕にそんな資格は……」

 

と呟くが、ユーノの肩に冬也が手を置いて

 

「そんなもの、誰にだってあるし、誰にもない。それを言ったら、俺は生きてるだけで罪だ」

 

と言った

 

それを聞いたユーノは俯いて、拳を握った

 

すると、通信画面が開き

 

『現場調査と競売が終わったので、機動六課は撤収します! 総員、ヘリまで戻ってください!』

 

という、シャマルの指示が出された

 

そのタイミングで、三人の下にヴェロッサが来て、ユーノはヴェロッサと共に本局に戻ることになり、冬也とネギはヘリまで戻った

 

こうして、ホテル・アグスタの警備任務は幕を下ろした

 



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運命の分岐点

ここから、少しばかりオリジナル展開が混じります


ホテル・アグスタ警備任務の翌日

 

早朝訓練後だった

 

新人達は朝食を食べるために、談笑しながら歩いていた

 

その時、少し俯いていたティアナが顔を上げて

 

「あたし、訓練が終わった後に自主練するから……」

 

と告げた

 

すると、それを聞いたメンバーは

 

「私も付き合うよ、ティア」

 

「僕も付き合います!」

 

「わたしも付き合います!」

 

と次々賛同するが、ティアナは首を振って

 

「ううん、疲れてるだろうから、あたし一人でするわ……ありがと」

 

とやんわりと、拒否した

 

それを見ていた武は、既視感を覚えて、刹那や楓、古菲は危機感を覚えた

 

場所は変わり、休憩フロア

 

そこには、シグナム以外の隊長陣が集まって休憩していた

 

そして、なのはが飲み物を買って取り出した時だった

 

「なあ、ティアナになにがあったんだ?」

 

と、ヴィータが呟いた

 

ヴィータの呟きを聞いた隊長陣の視線が、ヴィータに集まった

 

「確かに、新人はもっと強くなりたい、って傾向が強ぇーよ。だけど、ティアナの場合は常軌を逸してる。一体、なにがあったら、ああなるんだよ」

 

ヴィータの話を聞いて、なのはとフェイトは辛い表情をした

 

そしてなのはが座り、フェイトに目配せすると

 

「あのね……ティアナには執務官志望のお兄さんが居たんだ……」

 

と、ウィンドウを開きながら話し始めた

 

「過去形ってことは、まさか……」

 

ネギが小声で問い掛けると、フェイトは頷いて、ウィンドウを全員の前に表示した

 

そこに映っているのは、ティアナと同じオレンジ色の髪が特徴の青年だった

 

「名前はティーダ・ランスター一等空尉。執務官志望の人で所属は首都航空隊。享年は二十一歳」

 

その頃、隊長陣は知らなかったが、新人達も同じことを食堂で話していた

 

なお、ティアナは手早く食べ終わると食堂を後にした

 

「ティアのお兄さんはね、優秀な空戦魔導士だったんだ。それがある日、地上部隊からの応援要請を受けて、違法魔導士の追撃を行ったんだけど相手の攻撃を受けて、墜落。それが原因で死んじゃって、しかも、相手には逃げられちゃったんだ……しかもね、元上官の人が酷い発言をしたの……」

 

スバルがそこまで言うと、それまで黙って聞いていたエリオと武が口を開いた

 

「酷い発言?」

 

「なんて言ったんだ?」

 

二人の問い掛けに、スバルは数瞬躊躇うと辛そうに

 

「首都航空隊として、あるまじき失態だ。死んででも捕まえるべきで、逃がすとは無能の証だ……って感じにね……」

 

スバルがそう言った直後、机を強く叩いた音が響いた

 

驚いて視線を向けると、冥夜が両拳を机に突いて立ち上がっていた

 

それを見た武は、冥夜の肩に手を置くと

 

「冥夜、落ち着け」

 

と、落ち着くように促した

 

「わかっているが……」

 

冥夜は憤りを露わにしながらも、ゆっくりと腰を下ろすと両手を握り締め、口を開いた

 

「亡くなったティーダ一等空尉は、守るために勇敢に戦ったはずだ。それなのに、その人を貶すなど……」

 

と冥夜が悔しそうに語ると、武が

 

「だな……それに、すぐに応援部隊を出さなかった上官にも責任がある」

 

と断言した

 

武の言葉を聞いたスバルは頷いて

 

「うん……武の言った通りに、その上官は責任と問題発言を問われて更迭されたんだけどね……ティア、その時の発言で傷ついちゃったと思うんだ……尊敬していた唯一の家族が死んじゃって、しかも無能扱いされて……」

 

「だからでしょうね。ティアナさんが強くなろうと焦っているのは」

 

スバルの言葉を聞いた刹那がそう言うと、楓が頷いて

 

「うむ……兄の代わりに、自分達の魔法は強いと証明したいのでござろう」

 

楓がそう言うと、武は頭を掻いて

 

「こりゃ、ティアナをちゃんと見といたほうがいいな。ほっとくと、ロクなことが起きない」

 

と言うと、全員は頷いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

新人達が話し終わったタイミングで、隊長陣も話し終わっていた

 

そして休憩を終わらせて、全員は自分の仕事や作業をするために休憩フロアを後にした

 

そして、なのはが一人で歩いていると

 

「なのは」

 

「なのはさん」

 

冬也とネギが、後ろから声をかけた

 

すると、なのはは振り向いて

 

「どうしました?」

 

と、二人に問い掛けた

 

問い掛けられた二人は、互いの顔を見て頷き

 

「なのは……新人達にお前の教導の意味を教えたらどうだ?」

 

と冬也が言うと、なのはは訝しげに

 

「どういうことですか?」

 

と問い掛けると、ネギが

 

「なのはさんに何があったのか、ユーノさんに聞きました」

 

と言うと、なのはは目を見開いて固まった

 

「不躾かもしれんが……なのは、お前は後悔しているんだろう? かつて、無茶したことを」

 

冬也がそう言うと、なのはは一回大きく深呼吸して

 

「そう……ですね……その通りです」

 

と認めてから、視線を二人に向けて

 

「私は、あの子達に無茶をしないでいいように、教導しています」

 

静かに、だが、ハッキリと告げた

 

すると、二人は確信したように頷き

 

「やっぱりですか……」

 

「俺達はユーノから話を聞いたから分かるが、あいつらは分かっていないだろうな」

 

冬也がそう言うと、ネギがなのはを見つめて

 

「なのはさん。なのはさんの今現在教の導は基礎を重視していますよね? ティアナさんはそれを不満に思ってると思います。理由としては、自分がちゃんと強くなっているのか分からないからです」

 

ネギの言葉を聞くと、なのはは苦い顔をした

 

「恐らくだが、無茶な自主練習すら始めてしまうだろう。それが理由で、無茶なことすらしてしまうかもしれない。だから、そうなる前に、話し合え」

 

冬也がそう言うと、なのはは胸の前で両手を合わせて

 

「はい……わかりました」

 

と、呟いた

 

なのはの返事を聞いた冬也は満足そうに頷いて、背を向けると肩越しに

 

「ああ、そうだ……ユーノとも話し合えよ。ではな」

 

と言うと、もと来た道を戻っていった

 

「ユーノ君とも?」

 

冬也の言葉を聞いたなのはが首を傾げていると、ネギがなのはの服を軽く引き

 

「ユーノさんは、なのはさんに魔法を教えたことを後悔してました」

 

と、なのはに告げた

 

告げられた内容を聞いて、なのはは固まって

 

「そんな……どうして……」

 

と、悲しそうに呟いた

 

「なのはさんに魔法を教えたから、なのはさんが大怪我を負ってしまったと、言ってました……責任を感じてるんだと思います」

 

「ユーノ君……違うのに……」

 

ネギの言葉を聞いて、なのはは目尻に涙を滲ませた

 

そんななのはを見て、ネギは

 

「なのはさん……なのはさんなら、大丈夫です。ですから、話し合ってください。僕達、人間は会話での解決が出来るんですから」

 

と言ったのだった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

時は経ち、深夜

 

夜間訓練も終わり、シャワーを浴びて、夕食を食べ終わった新人達は疲れから眠っていた

 

ただ一人を除いては

 

敷地内の一角で、ティアナは一人で黙々と自主練習をしていた

 

自主練習しているティアナの額や着ているTシャツには汗が滲んでおり、既に長時間に及んで練習していることがわかる

 

そして集中力が切れたのか、ミスしてティアナが動きを止めたタイミングで

 

「もう止めとけよ」

 

と声が掛けられて、ティアナが振り返るとその先には

 

「ヴァイス陸曹……」

 

ヘリパイロットのヴァイスが、缶コーヒー片手に立っていた

 

「ほれよ」

 

「ありがとうございます……」

 

ヴァイスが缶コーヒーを一つ投げると、ティアナは受け取り感謝してから開けて口に含んだ

 

「一体、何時間やるつもりだ?」

 

ヴァイスがそう問い掛けると、ティアナは顔をしかめて

 

「……見てたんですか?」

 

と、問い掛けた

 

するとヴァイスは、肩をすくめて

 

「ヘリの整備をしながら、スコープで時々な……」

 

と言ってから、コーヒーを一口含み

 

「で、お前は何時間やるつもりだ? 体を壊すぞ?」

 

と、注意した

 

すると、ティアナは飲み終わった缶コーヒーを置いて

 

「コーヒーありがとうございます……」

 

と、訓練していた位置に立つと

 

「限界まで続けます……自分、非才の身なので」

 

と言って、自主練習を再開した

 

それを見たヴァイスは、苦い顔をして頭しながら少し離れてティアナの自主練習を見始めた

 

その時

 

「やはり、無茶していましたね」

 

という、少女の声がした

 

声のした方向に、ヴァイスが視線を向けた先に居たのは

 

「刹那の嬢ちゃんか……」

 

眠っていた筈の刹那だった

 

「彼女に式神を付けて正解でした」

 

「式神?」

 

聞き慣れない単語にヴァイスが首を傾げると、刹那は頷き

 

「彼女の左側の木の上を見てください」

 

「あん?」

 

刹那に言われて、ヴァイスは言われた場所をよく見た

 

すると、そこには小さい刹那が居た

 

「ありゃあ……小さい刹那?」

 

「はい、あれが式神です。チビ刹那と言います」

 

刹那の説明を聞いたヴァイスは、感心した様子で頷くと

 

「つーか、まんまじゃねぇか」

 

と、呆れた様子でため息を吐いた

 

すると刹那は、苦笑いを浮かべて

 

「他に名前が思い浮かばなかったもので……」

 

と、頭を掻いて

 

「あれには、ティアナさんが外に出たら追跡するようにと、命令しといたんです。そして、ある程度超えたら、私を呼ぶようにと」

 

「そうかい……んで、お前さんは寝ないのか?」

 

刹那の説明を聞いたヴァイスは、刹那に視線を向けたて問い掛けた

 

すると刹那は、肩をすくめて

 

「私達は、一日二日寝なくても、活動出来るように鍛えてますから」

 

と、返した

 

「そりゃ凄いこって……そんじゃ、俺はそろそろ寝るわ。後は頼むぜ?」

 

「はい、承りました」

 

ヴァイスが背を向けながら言うと、刹那は頷いた

 

その後、ティアナは一時間程して部屋に戻り、それを確認した刹那も部屋に戻った

 

そして三日後、なのははフォワード陣をある一室に集めていた

 

「あの……なのはさん……訓練は?」

 

と、スバルが手を上げながら問い掛けた

 

理由としては、普段だったら既に早朝訓練の時間だからである

 

「今日はね、皆に聞いてほしいことがあるんだ……私の教導の意味を……」

 

なのはが真剣な表情で言うと、全員は姿勢を正した

 

そして、過去が語られる

 



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英雄の過去 S・T編

書いてる最中、若干トラウマが発症しかけやした……
武……よく、頑張った


「なのはさんの……教導の意味?」

 

スバルがそう呟くと、なのはが頷いて、なのはの隣に座っていたシャーリーが投影式キーボードを叩き出した

 

そして、新人達の前にウィンドウが開き映っていたのはどこかの学校の教室だった

 

それを確認すると、なのははポツポツと語り出した

 

今から十年前に起きたジュエルシード事件

 

その映像で、幼いフェイトが映るとエリオとキャロが驚いていた

 

「そんな、フェイトさん!?」

 

「なんで!?」

 

エリオとキャロが驚愕の声を出すと、シャーリーが頷いて

 

「当時、フェイトさんの家庭環境は複雑でね……何回かなのはさんと敵対したんだって」

 

そして、新人達は続いて映像を見て息を呑んだ

 

「集束砲!? こんな大きな!?」

 

「そんな……集束砲はただでさえ、負担が大きいのに、こんな小さな子供が……」

 

その映像では、大人ですら余裕で包み込むほどの巨大な砲撃を放つなのはが映っていた

 

その映像を見て、ティアナも息を呑んでいた

 

そして映像は進み、ヴィータやシグナムが映った

 

「シグナム副隊長にヴィータ副隊長まで!?」

 

と武が驚いていると、なのはが頷いて

 

「うん、シグナムさんやヴィータちゃんが深く関わった通称、闇の書事件。その最初の戦いで、私はヴィータちゃんに負けたんだ」

 

なのはの言う通り、その映像でも、なのははヴィータの一撃でレイジングハートが壊れ、バリアジャケットも破られていた

 

「その理由が、今なのはさんも使っているベルカ式カートリッジシステムなんだ」

 

とシャーリーが説明して、ウィンドウにもそのカートリッジシステムが拡大された

 

「そして私とフェイトちゃんは、シグナムさん達に勝つために、当時はまだ安全性が確立されてなかったベルカ式カートリッジシステムを搭載したの」

 

なのはの言葉に同調して、映像でも新しくベルカ式カートリッジシステムを搭載したレイジングハートとバルディッシュが起動していた

 

「カートリッジシステムを搭載したことで、なのはさんはシグナムさん達と互角以上に戦えるようになって事件は解決……だけど、そんな無茶をやって体に負担が掛からないわけがなかった……」

 

シャーリーはそう言いながら、キーボードを叩いた

 

そして、全員の見ていた画面に映りだしたのは、一面雪の世界だった

 

「短い期間での激戦の数々、安全性の低かったシステムの使用……そんな無茶をし続けた結果、私の体には披露が蓄積してね……ある日の戦いで、私の体は動かなくなっちゃって……」

 

なのははそこまで言うと、辛い顔をして口をつぐんだ

 

それを見たシャーリーは、なのはの気持ちを思ったのか

 

「その結果が……これ」

 

となのはの代わりに、ある映像を見せた

 

そこに映っていたのは、体中を包帯に巻かれてベッドに横たわっているなのはの姿だった

 

その映像を見て、新人達は全員目を見開いて固まった

 

心中では、あのなのはが落とされるなんて……と

 

「この時のケガが原因で、魔導士の命と呼べるリンカーコアに傷がついて、二度と飛べないかもって、医師に言われて、なのはさんは必死にリハビリをしたの」

 

そう言いながらシャーリーが再び操作して、映像が変わった

 

そこに映っているのは、歯を食いしばってリハビリをしているなのはだった

 

倒れて看護士が駆け寄るが、なのははそれを手で制して立ち上がった

 

その姿はあまりにも悲壮感で満ち溢れており、止めたくなるのも仕方なかった

 

その光景を見て、新人達は何も言えなかった

 

それで映像は終わりだったのだろう

 

ウィンドウが閉じて、それをなのはは確認すると目を閉じて

 

「確かにね……時には守るために無茶をすることも必要かもしれないけど、ティアナ」

 

なのはがティアナを呼ぶと、ティアナの肩が震えた

 

「ホテルアグスタでの誤射はさ……スバルを危険にしてまでも、無茶する必要はあった?」

 

そうなのはが問い掛けると、ティアナは目を見張って固まった

 

そして、なのはからの問い掛けにティアナが答えられないまま、その時間は終了した

 

十数分後、ティアナは海の見える高台のへりに一人で座っていた

 

座っているティアナの手には、拳銃形態のクロスミラージュがあった

 

ティアナがクロスミラージュを見ながら歯噛みしていると、足音が聞こえて

 

「隣、座るね」

 

と、なのはが座った

 

「なのはさん……」

 

ティアナがなのはを見ると、なのはは微笑んだ

 

「ごめんね、私の教導が地味で」

 

となのはが謝ると、ティアナは慌てて

 

「違います! あれは私が勝手に!」

 

と言うと、なのははティアナの頭に手を置いて

 

「私みたいに無茶しないで頑張れるようにって、基礎を重視して訓練してたんだけど、それが仇になってたね」

 

と言うと、ティアナは俯いた

 

「それに、非才ってティアナは言うけどね、それ間違ってるよ?」

 

なのはの言葉を聞いたティアナが顔を向けると、なのはは人差し指を立てて

 

「ティアナの歳と階級で、あの視野の広さと幻術を使えるなんてそうないよ?」

 

となのはが言ったタイミングで、新たに足音が近づいてきて

 

「そうだぜ、ティアナ」

 

座っていた二人が視線を向けると、そこには武が居た

 

「武……」

 

「武くん……」

 

二人が名前を呼ぶと、武はなのはの反対側に座った

 

「お前の視野の広さからくる的確な指示に、幻術を使った支援。前線の俺達にとっては頼りあるんだよ」

 

と武が言うが、ティアナは辛そうに

 

「でも、私は武みたいには……」

 

と呟いた

 

すると、武は空を見上げて

 

「俺みたいにか……」

 

と呟いてから、二人に視線を向けて

 

「まず、二人に言うことがある。俺は見た目通りの年齢じゃない」

 

と言うと、二人は首を傾げた

 

「それって、どういう意味かな?」

 

となのはが聞くと、武は鼻頭を掻きながら

 

「俺は前の世界で、何回かループしたんです」

 

「ループした……?」

 

武の言った意味が分からないのか、ティアナが訝しんだ

 

「俺は軍人と言いましたが、更に元を言えば、普通の学生だったんです。それがある日、違う世界に、パラレルワールドに飛んだんです」

 

「パラレルワールド……」

 

なのはが呟くと、武は頷いて

 

「俺の住んでた横浜は廃墟になっていて、通っていた学校のあった場所は基地になってました。俺はそんな世界を認められなくて、偶然にも残ってた家に籠もってました。だけどある日、俺の家に軍人が押し掛けてきて、俺は捕まり、基地に連行されました」

 

「なんで、連行されたの?」

 

なのはが問い掛けると、武は表情を変えずに

 

「後になってわかったんですが、その世界の俺は死んでたんです」

 

「死んでた?」

 

武の言葉を聞いたティアナが驚いた様子で首を傾げると、武は頷いて

 

「ええ、これもまた後でわかったんですが、その世界の俺は幼なじみを守ろうと敵に素手で殴りかかって、噛み殺されたらしいです」

 

武の言葉を聞いたティアナはその光景を想像してしまったのか、顔を逸らした

 

すると、なのはが武を見つめて

 

「その敵っていうのは、前に武くんと冥夜ちゃんが言ってたBETAなの?」

 

と問い掛けた

 

すると武は、感情が入り乱れた複雑な表情を浮かべて

 

「ええ……その地球の人類はBETAと30年以上もの長きに渡って、絶望的な消耗戦を強いられてました。開戦直後は60億居た人類は30年の間に10億人にまで減少、ユーラシア大陸はそのほとんどをBETAに支配されました」

 

「たった30年で……」

 

「そんなに……」

 

武の話を聞いて、二人は絶句していた

 

以前出張で行った地球の並行世界では、そんなことになっているとは思わなかったらしい

 

「俺はその世界で生き残るために、国連軍横浜基地の訓練生になりました。そこで、冥夜達に出会いました。とは言っても、元の世界ではクラスメイトでしたが……訓練生になった俺は最初、全員の足を引っ張ってばかりでした。けどそれでも、全員で頑張って様々な事を乗り越えました。そして、訓練生になって約2ヶ月後の12月24日、基地司令から解散を言い渡されました」

 

「なんで?」

 

武の予想外の言葉を聞いて、なのはは問い掛けた

 

「詳しい話はわからなかったんですが、夕呼先生、あ、副司令に聞いたら、国連軍上層部がオルタネイティブ計画を日本が主導の第四計画からアメリカが主導の第五計画に移ったからでした」

 

「オルタネイティブ計画?」

 

ティアナが問い掛けると、武は指を立てて

 

「国連が提案した対BETA計画です。最初は初めて確認された地球外生命体に対してのコミュニケーションでしたが、BETAが侵攻してきたのに合わせて、第二計画に移行しました。しかし、第二も上手くいかずに第三へ移行。その第三計画で、ある事実が判明しました」

 

「ある事実?」

 

なのはが問い掛けると、武は視線を上に向けて

 

「BETAは……人類を生命体と見てなかったんです」

 

武の言葉を聞いて、なのはとティアナは目を見開いた

 

「人類を……生命体として見てない?」

 

「なんで!?」

 

ティアナは呆然として、なのはが詰め寄るように問い掛けた

 

「これは、間接的に俺が問い掛けたんですが、BETAにとって生命体と呼べるのは、ケイ素を自己生成、自己増殖させられる存在らしいです。俺達みたいに炭素を中心とした生命体は機械と同じみたいです」

 

「ケイ素って、シリコン?」

 

なのはが問い掛けると武は頷いて

 

「ええ、炭素は加工しやすいから、生命体になるのは有り得ない。と言われましたよ」

 

と言うと、なのはとティアナは唇を固く結んだ

 

すると武は、頭を掻いて

 

「まあ、そこは飛ばして……俺は何回もループして、ある時、つっても、感覚としては二回目だったんですが、俺は歴史を変えることが出来たんです」

 

「歴史を変えた……」

 

なのはの呟きに武は頷いて

 

「ええ、俺の知らない事件が起きて、俺は決断を迫らせられましたが、決断出来ず、味方を窮地に陥らせてしまい、最終的には、援軍として来てくれたアメリカ軍が全滅しました」

 

「アメリカ軍が全滅!?」

 

武の言葉を聞いて、なのはは驚愕していた

 

「なのはさん、アメリカ軍というのは?」

 

ティアナが問い掛けると、なのはは呆然としながらも

 

「アメリカ軍っていうのは、地球では世界最強と言われてる軍隊なの。人数、装備、練度、どれを取ってもトップの……」

 

と説明すると、武が頷いて

 

「それは俺の居た世界でも、ほとんど一緒です。しかも、そのアメリカ軍が運用していたのは、対人戦を重視して作られた世界最強の戦術機でした。ですが、それをクーデター軍は一対一で撃破。そのクーデター軍のリーダーは俺達に随伴していた帝国近衛軍が撃破。それにより、クーデターは終結しました」

 

そこで武は一呼吸置くと、再び口を開いた

 

「その事件の功績があって、俺達は訓練生を卒業。晴れて正規兵になれました。そして、俺達の最初の任務は新概念OSの有効性実証の模擬戦でした」

 

そこで武は一旦区切り、大きく深呼吸した

 

「その模擬戦で、俺達はベテランに対して圧倒的に勝ちつづけました。しかし、その模擬戦の最中、基地にBETAが現れました」

 

「BETAが!?」

 

「なんで!?」

 

なのはとティアナが声を張り上げると、武は無表情に

 

「これは後に聞いたんですが、副司令の夕呼先生がワザと放ったんです。最前線の日本なのに、後方気分で腑抜けている幕僚と兵士達の気を引き締めるために」

 

武は説明するとまた区切って、俯きながら

 

「その戦いで俺は後催眠暗示と薬物投与があったとはいえ、錯乱状態に陥り、自分達の装備が模擬戦使用なのを忘れてBETAと交戦。一瞬の隙を突かれて、俺は撃墜されました」

 

撃墜されたという言葉を聞いて、なのはとティアナは目を見張った

 

恐らくは、武が撃墜されるという光景が想像出来なかったのだろう

 

武はそんな二人を無視して、話を続けた

 

「その後、BETA群は体勢を立て直した先輩方によってほとんどが掃討されました。そして俺は、大破した機体の前でうずくまってました。何のために訓練してきたのかと……その時、恩師が俺を励ましてくれたんです。俺はそれに感謝して、間違えてあだ名で呼んだことを謝ろうと振り返りました。そこには……」

 

そこまで言うと武は、辛そうに顔を歪めて口を噤んだ

 

その顔を見ただけで、二人はなにか起きたことを悟った

 

数秒後、武は重そうに口を開いた

 

「恩師が……生き残っていた小型種のBETAに頭を噛み殺されてました……」

 

その言葉を聞いて、なのはは手で口元を覆い、ティアナは固く目を閉じて顔を逸らした

 

「事情聴取が終わった後、俺はその世界から夕呼先生が開発した装置を使って元の世界に逃げ出しました……」

 

「それは仕方ないと思うよ……そんな辛すぎることを経験したら……」

 

武の話を聞いたなのはが励ますように言うと、武は頷いて

 

「そうかもしれません。ですが、俺は自分のことをちゃんと分かってなかったんです」

 

「……どういうこと?」

 

まだ若干顔の青いティアナが問い掛けると、武は涙を堪えるように目を閉じて

 

「俺が持ってきてしまった因果によって、元の世界の恩師がストーカーに殺されて……幼なじみが瀕死の重傷を負いました」

 

「そんな……」

 

「……っ!」

 

武の話を聞いて、二人は言葉を失った

 

逃げた先でも、再び恩師を失い、あまつさえ、幼なじみが瀕死の重傷

 

そんな悲劇を、誰が予想出来ようか

 

「それだけの被害を出して、俺はようやく逃げることをやめました。俺を縛っている因果と戦う覚悟を持って、俺は再び世界を渡って戦場に立ちました」

 

武はそこまで言うと、深呼吸して二人に視線を向け

 

「俺の話はここまでにしましょう。ティアナ」

 

呼ばれたティアナは、ゆっくりと武に視線を向けた

 

「俺は一人で解決しようと焦った結果、こうなってしまった。だけど、お前はまだ戻れる。お前は一人じゃないんだ。仲間が居る。仲間を頼れ……一緒に強くなるんだ」

 

「武……」

 

武はティアナの頭に手を置くと、なのはを見て

 

「それに恐らくだが、お前のために準備はしてあると思うぞ? なのはさん?」

 

武が問い掛けると、なのはは頷いて

 

「うん……ティアナ、クロスミラージュを貸してくれるかな?」

 

「あ、はい……」

 

言われたティアナは、クロスミラージュをなのはに渡した

 

「テストモード、リリース」

 

<了解!>

 

なのはが命じると、クロスミラージュが一瞬光った

 

それを確認すると、ティアナに返して

 

「言ってみて、モード2って」

 

と促した

 

促されたティアナは、クロスミラージュを構えると

 

「モード2……」

 

と呟くように言った

 

<了解、モード2!>

 

ティアナがモード2と言うとクロスミラージュが変形して、魔力刃を形成した

 

「これって……」

 

ティアナがそれを見て固まっていると、なのはが優しく語りかけた

 

「ティアナは執務官志望だからね、近接戦闘のこともきちんと考えておいたんだ」

 

なのはのその言葉に、ティアナは涙を浮かべて

 

「ありがとうございます……」

 

と感謝すると、大声を上げて泣き出した

 

その数時間後、機動六課の隊舎内に警報が鳴り響いた

 




長くなりそうだったので、ユーノとの話は次回に持ち越しです


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慟哭と告白、そして……

難産でした
ユーノとなのはの会話だけで、三千字近くですよ


機動六課 指令室

 

そこでは、メインスクリーンに映っている映像を、はやて達が真剣な表情で見ていた

 

「ガジェットⅡ型とドールの混成部隊か」

 

「はい。ですが、その数がかなり多く、更には速度も以前に比べて約二割程上がってます」

 

冬也の呟きを聞いて、シャーリーが振り向きながら教えた

 

すると、茶々丸が

 

「数はガジェットⅡ型が十二機編成×五で六十、ドールが軽く二百は居ます」

 

と、淡々と教えた

 

それを聞いたネギは軽く考えると

 

「この数から考えて、恐らくは性能試験といった所ですね」

 

と言った

 

それを聞いて、はやては頷き

 

「せやな、その可能性が高そうや。現場は広大な海のど真ん中で、周囲からはレリックらしき反応もあらへん」

 

と言いながら、メインスクリーンを睨んだ

 

メインスクリーンには、一定の範囲を旋回しながら高速で飛んでいるガジェットとドールが映っている

 

すると、はやての近くに立っていたグリフィスが

 

「性能試験もあるでしょうが、偵察ということも考えられます」

 

と言ってきた

 

それを聞いた当麻が

 

「それだったら、あんまし戦力は出さないほうがいいんじゃねえか? スカリエッティにこっちのデータを渡すみたいなもんだろ」

 

と言った

 

はやてはそれを聞くと、机の上で両手を組んで唸りだした

 

「そうなると、なのはちゃんやフェイトちゃんは出せへんなぁ……恐らく、スカリエッティとしては二人が気になるはずや」

 

と言うと、頭を掻いた

 

すると、それを聞いた冬也が

 

「だったら、出撃するのは俺とネギ君だけにしよう」

 

と言い、それを聞いたはやて達は驚愕した

 

そんなはやて達を無視して、ネギが口を開いた

 

「スカリエッティの目標が機動六課の偵察なら、最低限の戦力で対処するべきです。しかも、今まで使っていた技で」

 

ネギの言葉を聞いたはやては、数秒間悩みため息を吐いて

 

「確かに、それが良さそうや……」

 

と呟いた

 

すると、それを聞いたフェイトが

 

「はやて! たった二人じゃ!」

 

と非難じみた声を上げながら、はやてに迫った

 

すると、はやては片手を上げてフェイトを制して

 

「ただし、二人だけというのは許可できへん。故に、予備戦力として、フェイトちゃんとヴィータも同伴や」

 

と言った

 

すると、なのはが首を傾げて自身を指差しながら

 

「はやてちゃん……私は?」

 

と問い掛けた

 

すると、はやてはキッとなのはを睨み

 

「ヴィータから聞いとるで、なのはちゃん。最近、夜遅くまで起きとるそうやないか」

 

と言うと、なのははスッと目を逸らして

 

「な、なんのことかな?」

 

と白を切るが、フェイトが首を振って

 

「なのは、最近、ずっと訓練メニューを考えてるよね? 一時過ぎまで」

 

と言うと、ネギが

 

「なのはさん……それで朝早く起きてるんですよね?」

 

と問い掛けた

 

「はい。だいたい、5時過ぎには訓練場に居ますね」

 

ネギの問い掛けに、茶々丸が淡々と答えた

 

その答えに、ほぼ全員の非難めいた視線がなのはに集中した

 

なのはは必死に視線を逸らしているが、体は震えている

 

すると

 

「いや、別に一日二日くらい寝なくても大丈夫だろ」

 

と冬也が言った

 

その冬也の言葉を聞いて、全員の驚愕した顔が向けられた

 

「冬也さん……まさか……」

 

フェイトが恐る恐るといった様子で聞くと、冬也は

 

「一週間寝ずに、連続で戦い続けたことなら、何回もあるな」

 

と、まるで何でもないように答えた

 

それを聞いた全員は、ビシリと固まった

 

「敵の数が多くてな、殲滅するのに手間取った」

 

と冬也は淡々と言うが、他のメンバーは固まったままだった

 

すると、いち早く回復したはやてが手を叩いて

 

「ま、まぁ……出撃するのは、ネギ君と冬也はん。それに、フェイトちゃんとヴィータで決まりや。なのはちゃんは絶対に、出撃したらあかん。ええな?」

 

と告げた

 

すると、なのはは不満そうにしながら

 

「了解……」

 

と返答した

 

その後、冬也以外の隊長陣が退出すると、冬也ははやてに近付いて

 

「はやて、ユーノを呼んでおいてくれ」

 

と言った

 

「ユーノくんを?」

 

はやてが首を傾げて聞くと、冬也は頷いて

 

「なのはとユーノは話し合うべきだよ、手遅れになる前にな」

 

と言うと、指令室から退出した

 

それを聞いたはやては、数秒間悩むと通信画面を開いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

機動六課 ヘリポート

 

そこでは、機動六課の前線要員が全員集まっていた

 

そして、冬也が到着すると、冬也とネギ、フェイトとヴィータがヘリに乗り込んだ

 

ヴァイスは四人が乗り込んだのを確認すると、後部ハッチを閉鎖してヘリを飛び立たせた

 

ヘリが飛び立つと、新人達はなのはが乗っていないのを驚いていた

 

「今回、私は待機組の指揮でね。皆と一緒に残ることになったの」

 

全員の視線に気づいたなのはがそう言うと、新人達は納得した様子で頷いていた

 

すると、ドアが開く音がして

 

「ここに居た、なのは……」

 

という、若い男の声が聞こえてなのはは驚いた様子で振り向いた

 

そこに居たのは、金髪翠眼の男性だった

 

「ユーノくん……」

 

その人物は、無限書庫司書長のユーノ・スクライアだった

 

ただし、ユーノは少し腰をさすっていた

 

話は、冬也が退出した後まで遡る

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

はやては通信画面を開くと、口を開いた

 

「ユーノくん、()るか?」

 

はやてが呼びかけると、画面に逆さまになっているユーノが映り

 

『居るよ、どうしたの? はやてが通信をしてくるなんて、珍しいね』

 

ユーノはそう言いながら、手を動かしている

 

彼が居る無限書庫は、その名の通りに無限に広がっており、その空間内は無重力になっているのだ

 

そのために、空間に浮く形になるので時折、通信画面が開くと上下逆さまとかもあるのだ

 

「いやなぁ……ちょっと悪いんやけど、今すぐにこっちに来れないかな?」

 

はやてがそう言うと、ユーノは訝しむような目をして

 

『あのね、僕が無限書庫を離れるわけにはいかないのはわかってるでしょ? そんな無理を聞けるわけが』

 

とユーノが抗議気味に言っていると、画面下にオレンジ色の耳が映り

 

『OK、今からそっちに送るな』

 

という声が聞こえた

 

その声を聞いたはやては、少し驚いた様子で

 

「おろ、アルフ、()ったんか?」

 

と問い掛けた

 

すると、画面に少女形態のアルフが映り

 

『うん、今日はリンディ母さんに頼まれて、無限書庫の手伝いに来てたんだ』

 

と言うと、アルフはユーノに振り向いて

 

『ユーノ……あんたこの間から少し上の空だったじゃないか』

 

と言った

 

『いや、そうかもしれないけどね。僕がここを離れるわけには……』

 

とユーノが抗議していると、アルフはユーノの頭を両手で掴み

 

『問答無用』

 

と言ってから、顔をはやてに向けて

 

『それじゃあ、今から送るな』

 

と言った

 

すると、画面向こうからオレンジ色の光が溢れてきて

 

『ちょっとアルフ!? 僕はまだ!』

 

ユーノが慌てた様子で反論しようとするが、次の瞬間には消えて

 

「あ痛っ!?」

 

はやてから少し離れた地点に、ユーノが落ちてきた

 

『それじゃあな~。後は頼むな、はやて』

 

「ありがとうな、アルフ」

 

はやてが返答すると、通信画面が閉じた

 

通信画面が閉じたタイミングで、ユーノが立ち上がり

 

「あ痛たたた……アルフは乱暴なんだから」

 

と言いながら腰をさすると、視線をはやてに向けて

 

「で、呼んだ理由はなに?」

 

と問い掛けた

 

そして、はやては呼んだ理由を告げるとなのはの居場所を教えたのだ

 

場所は変わり、戦闘区域

 

そこでは、ヘリから冬也とネギが出撃した

 

「ネギ君。後衛は任せる」

 

「わかりました!」

 

冬也の言葉を聞いて、ネギは止まると右手を突き出して

 

「解放、魔法の射手、雷の1001矢!」

 

数えるのが馬鹿らしい程の矢を発射した

 

その矢は広範囲に広がり、複雑な軌道を描きながらガジェットやドールに殺到した

 

冬也はその矢の中を複雑な三次元機動をしながら、高速で切り込んでいった

 

それをヘリから見ていたフェイトとヴィータの二人は、固まっていた

 

「ねえ……ヴィータ。あの矢の中をあんな機動できる?」

 

フェイトが問いかけるとヴィータは首を振って

 

「無理だ……ある程度は操作出来るみたいだが、基本的には自動だから、下手に動いたら直撃を食らう」

 

と言うと、フェイトは頷いて

 

「だよね……しかも、ネギ君の魔法は非殺傷設定がないから……」

 

「一発食らうだけで、下手したら死ぬ」

 

そう話している二人の視線の先では、再びネギが魔法の射手を発射して、その弾幕の中を冬也が飛びながら刀を振るっていた

 

それはまさしく、圧倒的の一言だった

 

ガジェットやドールも反撃してくるが、二人はそれを難なく避けては撃破していった

 

その光景はもはや、一方的な蹂躙である

 

「てか、冬也の奴は後ろに目でもあるのか? なんで、あんな簡単に後方からの攻撃を避けられるんだ?」

 

「デバイスの警告だけじゃ、説明つかないね……」

 

そう言ってる二人の視線の先では、今まさに、冬也が後方からの狙撃を回避した所だった

 

更には、ネギが放った魔法の射手を体を捻って避けて、避けた矢は冬也の前に居たドールを吹き飛ばした

 

(これが、経験の差なのかな……)

 

フェイトは二人の無事を祈りながら、拳を握った

 

場所は変わり、機動六課敷地内の一角

 

そこでは、ユーノとなのはが二人並んで立っていた

 

どれほどの間、そうしていただろうか

 

なにか決意したのか、二人は同時に口を開いた

 

「「あの……」」

 

二人はそこで再び、黙ると互いの顔を見て

 

「なのはからどうぞ」

 

「ううん、ユーノ君から」

 

と二人して譲り合い、それが数回続くと

 

「「ぷっ……あははは……」」

 

と、揃って笑った

 

そして、少しの間笑い続けると

 

「こんなの……僕達らしくないね」

 

「そうだね……」

 

と二人は、互いに体を向けた

 

「それじゃあ、僕から話すね」

 

「うん……」

 

ユーノはなのはが頷いたのを確認すると、軽く深呼吸して

 

「なのは……十年前、なのはを巻き込んで……ごめん」

 

ユーノはそう言いながら、頭を下げた

 

「ユーノ君……」

 

「あの時、僕がなのはを魔導士にしたから、なのはに大怪我を負わせた……」

 

ユーノのその言葉を聞いて、なのはは首を振りながら

 

「違うよ! あれは、私が無茶をしたから!」

 

と言うが、ユーノはなのはの両肩に手を置いて

 

「僕が、きちんと攻撃魔法の練習をしていれば、解決できたかもしれないんだ!」

 

とユーノは涙を堪えながら、声を張り上げた

 

「そうすれば……なのはを巻き込まずに済んで……なのはが大怪我をせずに済んだんだ……」

 

それは、ユーノの心の慟哭だった

 

ユーノが俯いていると、なのはが

 

「あのね、ユーノ君……私ね……魔法に出会えて、良かったって思ってるんだ」

 

と優しく語った

 

「なのは……」

 

「ユーノ君に会えたから魔法に出会えて、フェイトちゃんやはやてちゃんと会えた……そして、今ここに居るの」

 

「なのは……」

 

そこでなのはは一旦口を閉じ、数秒間、間を置いた

 

「あのね、ユーノ君……私が無茶した理由はね……一人になりたくなかったからなんだ」

 

「一人になりたくなかったから……?」

 

ユーノがオウム返しに言うと、なのはは頷き、ポツリポツリと語り出した

 

それは、ユーノと出会うより更に前

 

なのはが六歳くらいの時だった

 

この時、父士郎が護衛の仕事で大怪我を負い意識不明になってしまった

 

しかも、その時期は折悪く、母の桃子が喫茶店を開業したばかりで、なのは以外の家族は忙しかった

 

その結果、なのはは一人になってしまった

 

しかもなのはは、幼いながらも家族が忙しいとわかっていた

 

だから、迷惑にならないようにと、わがままを言わず、周囲から見たら良い子の形で、一人で遊んでいた

 

それは、士郎が目覚めるまで続いた

 

その時になってようやく、高町家はなのはの異変に気づいた

 

わがままを言わず、明るい良い子のなのは

 

それに気づいた高町家は、それ以降は団欒を大切にするようにした

 

だがそれでも、なのはの中には孤独感が残っていた

 

誰かに必要とされたい。一人になりたくない

 

この思いが、なのはの中にくすぶっていた

 

そして、その思いが残ったままなのはは育ち、魔法に出会い、フェイトやはやて達に出会った

 

だがある意味、それがいけなかった

 

魔法があれば、誰かに必要とされる。一人にならなくって済む

 

そんな考えが、なのはの中に出来てしまった

 

だからなのはは、言われた指令を一切拒否せずにこなし続けた

 

この時なのはは気づいてなかったが、なのはの体は短期間で続いた激戦の疲労がたまっていた

 

そこにきて、度重なる任務により、更に疲労がたまり、その結果、あの事件が起きてしまった

 

そして、医師から告げられた残酷な宣告

 

その宣告を聞いたなのはは恐怖した

 

飛べなくなったら、必要とされなくなる、一人になってしまう

 

それが怖くて、なのはは必死にリハビリした

 

周囲の人達が止めるのを無視してまで、リハビリし続けた

 

その甲斐あり、なのはは再び飛べるようになった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「そして、今に至るってわけ……」

 

短いようで長いなのはの独白を聞いて、ユーノは白くなる程に拳を握りしめていた

 

(なんで気付かなかったんだ、僕は……っ!)

 

この時、ユーノの中にあったのは、自分に対しての怒りだった

 

ユーノはなのはが強くなっていくにつれて、自分は必要ないんじゃないのか? と思っていった

 

それは事件を解決するたびに強くなり、更にはフェイトやはやての二人が近くに居たことが拍車をかけた

 

そして、事件がきっかけとなり、ユーノはなのはと距離を取ってしまった

 

二人が居るから、僕が居なくてもなのはなら大丈夫だ。と

 

そしてユーノは知らなかったが、フェイトとはやての二人もミスをしていたのだ

 

二人は確かに、なのはを心配した

 

だが、なのはならば大丈夫だろうと思い、そんなに近くに居なかったのだ

 

それが更に、なのはの孤独への恐怖を後押ししてしまったのだ

 

ユーノはそれを察して、どうすればいいのか、必死に考え始めた

 

(どうする! どうすればいい!? いや……そんなの、決まってるよね……)

 

ユーノは決心すると、なのはを見つめた

 

「酷いよね……みんなは心配してくれたのに、私は自分のことだけ……だからね、ユーノ君……ユーノ君は気にしな」

 

なのはがそう言いながら顔をユーノに向けた瞬間、ユーノはなのはを抱きしめた

 

「ゆ、ユーノ君……?」

 

いきなり抱きしめられたなのはは、呆然とした様子で声を掛けた

 

「ごめんね、なのは……気づいてあげられなくて……」

 

「ユーノ君……?」

 

なのはが再び問いかけると、ユーノは強く抱きしめながら

 

「今まで、そばに居なくてごめん……離れてごめん……これからは、そばに居るし、なのはを支える……だから、もういいんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、なのはの目から涙が零れた

 

「あ、あれ……なんで?」

 

なんで涙が出てくるのかわからないのか、なのはは困惑していた

 

「寂しかったよね……怖かったよね……今は、泣いていいんだ……」

 

ユーノがそう言うと、なのははクシャリと顔を歪めて、ユーノに抱きついた

 

「ユーノ君……うわぁぁぁ……!」

 

それは、なのはが人前で初めて見せた涙だった

 

ユーノはなのはが泣いてる間、ずっと優しく頭を撫でていた

 

しばらくして、なのはは泣き止んだ

 

そして落ち着いたのか、なのははユーノに視線を向けて

 

「いいの、ユーノ君……私、こうなったらとことん甘えちゃうよ?」

 

と問い掛けた

 

すると、ユーノは頷いて

 

「いいよ。今まで、寂しい思いをさせてたんだ」

 

そう言いながら、再びなのはを抱きしめた

 

「ユーノ君……ありがとう……大好き」

 

「僕も大好きだよ、なのは……」

 

二人はそう言うと、互いの顔を見つめてから、唇を重ねた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数時間後、深夜

 

機動六課の駐車場にフェイトの車が止まった

 

「ふぅ……すっかり遅くなっちゃった……」

 

フェイトは車から降りるなり、そう零した

 

冬也とネギの二人が敵を殲滅すると、フェイトは回収班が回収した残骸の検証に立ち会っていたのだ

 

それが終わって、帰ってきたのが今だった

 

「食堂、まだ開いてるかな……さすがに、お腹が空いちゃった……」

 

フェイトがそう言いながら、隊舎に向かおうとした時

 

「あれ?」

 

視界の端に、人影が見えた

 

そちらに顔を向けると、冬也が隊舎から出てきたところだった

 

「冬也さん……?」

 

冬也はフェイトに気づくことなく、どこかへと歩き出した

 

「どこに行くんだろ……」

 

気になったフェイトは、後を追った

 

そして着いたのは、海が見える崖だった

 

冬也はそこで立ち尽くしていると、夜叉を腕から外して

 

「夜叉、人型形態」

 

と言いながら、空中にほうった

 

《了解》

 

夜叉が短く返答した直後、夜叉が光り輝いた

 

そして現れたのは、一人の少女だった

 

それを見たフェイトは、思わずまばたきをした

 

(あれ……? 冬也さんのデバイスは、インテリジェントの筈……ユニゾンじゃないよね?)

 

とフェイトが首を傾げていると、冬也が

 

「やはり、その姿なんだな」

 

と溜め息混じりに言い、少女が

 

「はい、マイスターが私の基ですから」

 

と言った

 

その少女の見た目は、大体十代前半で、軽くウェーブの掛かった茶髪にセルフレームのメガネを掛けている優しい雰囲気だった

 

(マイスターってことは、開発者? それが、あの姿の人?)

 

とフェイトが困惑していると、冬也が

 

「夜叉、アレを出してくれ」

 

「はい」

 

冬也の願いを聞いて、夜叉は両手を掲げた

 

すると、二人の前に一枚の写真が表示された

 

そこに写っているのは、七人の男女だった

 

(真ん中に居るのって、少し若いけど、冬也さんだ)

 

フェイトがそう思っていると、冬也が手を伸ばして

 

「クレア、ノエル、(ワン)、カイト、アラン、サーシャ……とうとう、俺だけになってしまったな……」

 

と冬也は呟いてから、空を見上げた

 

「死ぬ時は共に、同じ戦場で、と誓ったのにな……だが、すまん……まだそちらには行けそうにない。あの男を……ロンドを……殺すまではな……」

 

最後の言葉に純粋な殺意を感じて、フェイトの背筋に悪寒が走った

 

数秒後、冬也は唐突に振り返った

 

それを見たフェイトは、慌てて木陰に隠れた

 

「さて、そろそろ戻るか……夜叉」

 

「すいません、主。久しぶりにこの形態になったので、もう少し夜風に当たりたいと思います」

 

「そうか、わかった。きちんと戻ってこいよ?」

 

「わかっております」

 

というやり取りの後、冬也がフェイトの近くを通り過ぎた

 

(何時もだったら気づく距離なのに、気付かなかった……疲れてるのかな?)

 

と冬也の背中を見送りながら、フェイトが一人考えていると

 

「フェイトさん、いらっしゃるんでしょう? こちらへどうぞ」

 

と突然呼ばれて、フェイトは驚きながら振り向いた

 

すると、人型形態の夜叉が微笑みながら、おいでおいでとしていた

 

フェイトは数瞬悩むと、木陰から出て夜叉に近寄った

 

「この姿で会うのは、初めてですよね? 改めまして、夜叉です」

 

夜叉が自己紹介すると、フェイトは軽く会釈して

 

「人型になれたんだね……驚いたよ」

 

と言った

 

すると、夜叉はクスクスと笑いながら

 

「そうでしょうね……恐らくでしょうが、現在では私だけかと思います」

 

と言った

 

そんな夜叉を見ながら、フェイトは内心で首を傾げた

 

(まるで、本当の人間みたい……感情表現も豊かだし、声も機械音声じゃない……)

 

フェイトがそう考えながら見つめていると、夜叉が

 

「不思議ですか? まるで、人間みたいで」

 

フェイトの思考を読んだように、問い掛けた

 

するとフェイトは、慌てて

 

「あ、いやあの……姿もそうだけど、感情表現が豊かだし、声も機械音声じゃないから……」

 

と言うと、夜叉が

 

「それはそうです。私は、マイスターの姿や思考がベースになってます」

 

「マイスターってことは、開発者さんだよね? その開発者さんは?」

 

フェイトが問いかけると、夜叉は俯いて

 

「マイスターの雪音(ゆきね)様は……七年前に殺されました」

 

夜叉の言葉を聞いて、フェイトは固まった

 

「殺……された……?」

 

「はい……主の目の前で……」

 

「っ……!」

 

夜叉のその言葉を聞いて、フェイトは歯噛みした

 

そこから察するに、冬也は失う悲しみを知っている

 

それを思うと、フェイトは胸が締め付けられる思いがした

 

「主達を人間扱いしてくれた唯一の方だったのですが……」

 

呟くように言った夜叉の言葉を聞いて、フェイトは嫌な予感がした

 

「待って……それって、どういう意味?」

 

フェイトが問いかけると、夜叉は悲しそうに

 

「主達は……人間を基に作り上げられた……生態兵器です……」

 

という、衝撃的で悲しい事実を告げた



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機動六課の休日 その1

ようやく、ここまで来た……
遅くなってすいません
仕事が忙しいんです


なのはが自身の教導の意味を教えてから、数日後

 

機動六課訓練スペース

 

「はーい。午前の訓練終了!」

 

なのはの宣言が聞こえて、フォワード陣と当麻はなのは達の前に集まった

 

「実はね、今日の訓練が第二段階への判断日だったんだけど……」

 

となのはが言うと、フォワード陣と当麻は驚いていた

 

しかし、なのははそんな全員の反応をスルーして背後に居たフェイトとヴィータに振り向いて

 

「どうだったかな、二人とも?」

 

と問い掛けた

 

すると、フェイトが笑みを浮かべて

 

「合格」

 

と告げた

 

「「「早っ!?」」」

 

まさかの即決に、スバル、武、当麻の三人は驚いた

 

すると、ヴィータが前に歩み出て

 

「まあ、こんだけ訓練してんのに不合格になるほうが、問題だってこった」

 

と苦言を呈すると、なんとも微妙な表情を浮かべた

 

その直後、なのはが一歩前に出て

 

「それじゃあ、皆は後でシャーリーにデバイスを渡して、リミッターを解除してもらってね。それじゃあ、今日の訓練はここまで! 訓練再開は明日からとします!」

 

なのはの言葉を聞いて、フォワード陣と当麻は首を傾げながら

 

「明日から?」

 

「ってことは……」

 

と互いの顔を見合わせた

 

そのフォワード陣達の言葉を聞いて、なのはは頷くと

 

「今日の午後は半休とします!」

 

と告げた

 

それを聞いたフォワード陣は、満面の笑みを浮かべると

 

「「「「やったー!!」」」」

 

と喜んだ

 

こうして、機動六課設立以来、初めての休暇日は始まった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ある一室では

 

「お金は大丈夫? 足りないなら、お小遣いあげようか?」

 

フェイトが甲斐甲斐しく、エリオの世話を焼いていた

 

なお、エリオ本人はフェイトの言葉を聞いて

 

「いえ、大丈夫です。それに、フェイトさん。僕もお給料を貰ってますから」

 

と言いながら、手を振った

 

「え? ああ……そうだったね……」

 

エリオのその言葉を聞いて、フェイトは少し寂しい気持ちになりながらも成長を嬉しく思った

 

すると、そのタイミングでドアが開き

 

「すいません! 遅くなりました!」

 

私服に着替えたキャロが、慌てた様子で入ってきた

 

「ああ、その服を着てくれたんだ。かわいいよ、キャロ」

 

「ありがとうございます。フェイトさん」

 

フェイトがキャロの服を誉めると、キャロは嬉しそうに頭を下げた

 

そしてエリオはと言うと、私服姿のキャロを見てボーッとしていた

 

しかし、キャロと視線が合うと恥ずかしそうに頬を赤く染めた

 

場所は変わり、駐車場

 

そこでは、ヴァイスが一台の赤いバイクを整備していた

 

「あんまし、吹かし過ぎるなよ? プロテクターは?」

 

とヴァイスが言うと、そのバイクを借りる予定のティアナは

 

「自前のオートプロテクターがあります」

 

と答えた

 

整備が終わったのか、ヴァイスはポケットの中からキーを取り出してボタンを押した

 

すると、バイクのエンジンが掛かった

 

エンジンが掛かったのを確認すると、ヴァイスはハンドルを軽く捻った

 

すると、バイクのメーターが一気に上がった

 

「よし、いい調子だ……ほらよ」

 

バイクの調子を確認すると、ヴァイスはキーをティアナに投げ渡した

 

「ありがとうございます」

 

ティアナはキーを受け取ると、ヘルメットを被ってバイクに跨がった

 

すると、ヴァイスが

 

「しっかし……最近、お前は動きが良くなってきたよな」

 

と声を掛けた

 

「え?」

 

予想外の言葉にティアナは驚くが、ヴァイスは構わず

 

「前までのお前さんは、なんつーか……全部を自分一人でやろうとしてた。だけど、最近のお前さんは仲間に指示を出しながら、自分も最善を尽くしてる」

 

ヴァイスの話を聞いて、ティアナは苦笑いを浮かべて

 

「なのはさんと武から、喝を入れられましたから……」

 

「そうかい」

 

ティアナの話を聞いて、ヴァイスは満足そうに頷いた

 

「あの……間違ってたら、すいません……ヴァイス陸曹」

 

「あん?」

 

まさか問い掛けられるとは思ってなかったのか、ヴァイスは首を傾げた

 

「ヴァイス陸曹って、魔導士経験ありますよね?」

 

ティアナがそう問い掛けると、ヴァイスは頷き

 

「俺は武装隊の出だからな。ド新人に説教できるくらいにはな。まあ、ヘリ好きが高じて今はヘリパイロットだ」

 

と語った

 

それを聞いたティアナが俯いていると、ヴァイスがティアナの肩を軽く叩いて

 

「ほれ、相方と武達が待ってるんだろ? 早く行ってやんな」

 

「はい!」

 

ヴァイスが促すと、ティアナはバイクを玄関に向かわせた

 

再び場所は変わり、玄関

 

そこには、一台の車が止まっていた

 

「すいません、八神部隊長。車を貸していただいて」

 

と武が、はやてに対して頭を下げていた

 

「ええよ。たまには使わんと、車もガタついてまうわ」

 

武の言葉にはやては、手を振りながら返答した

 

なお、武の服はグリフィスから借りており、水色のワイシャツに青いベスト。紺色のジーパンを履いている

 

近くには冥夜も居て、冥夜の服はシグナムに借りた

 

黒のスカートに白いワイシャツ、紺色のベストを着ている

 

するとそこに、軽快な音と共にティアナが運転するバイクが到着した

 

「八神部隊長、お疲れ様です!」

 

ティアナはバイクを止めると、降りながらヘルメットを脱いで敬礼した

 

「ん、お疲れ様や」

 

挨拶されたはやては、片手を上げて挨拶した

 

すると、ドアが開き中からリインとスバルが現れて

 

「はやてちゃーん! お待たせです!」

 

「ごめーん! ティア、武、冥夜。お待たせ!」

 

それぞれの待ち人に謝っていた

 

「かまへんよー」

 

「遅いわよ、スバル! あんたが最後!」

 

はやてはリインからデータチップを受け取り、ティアナはスバルを注意していた

 

はやてはデータチップを確認すると、四人を手招きして

 

「ほい、これが皆の分の外出許可証や。デバイス出し」

 

はやての催促に従い、四人はデバイスを出した

 

 

するとはやては、データチップをデバイスに挿入した

 

するとウィンドウが開き、簡易版の外出許可証が表示された

 

「これで、四人の外出は許可されたわけや。ほんなら、楽しんできいや」

 

「「「「ありがとうございます!」」」」

 

はやての言葉を聞いた四人はそれぞれ頭を下げながら、感謝を述べると車やバイクに乗って

 

「それでは、行ってきます!」

 

「八神部隊長もよい休日を!」

 

と口々に言いながら、街に向かった

 

武達が出発した直後、フェイトと共にエリオとキャロが現れた

 

「八神部隊長!」

 

「お疲れ様です!」

 

エリオとキャロの二人が敬礼しながら挨拶すると、はやては頷きながら

 

「お疲れさんや。ほい……エリオとキャロの分の外出許可証や。デバイス出しい」

 

エリオとキャロははやての言葉に従い、デバイスを出した

 

するとはやては、コードで携帯端末と繋いでから、データチップを挿入した

 

数秒後、二人の前にウィンドウが開いて、外出許可証という文が表示された

 

「ほい……これで、二人も外出してええで。楽しんできいや」

 

「はい!」

 

「行ってきます。八神部隊長、フェイトさん!」

 

「気をつけるんだよ!」

 

「楽しんできてくださいです!」

 

エリオとキャロの二人は、フェイト達の見送りの下、二人で手を繋ぎながら歩いていった

 

フェイト達は、二人の姿が見えなくなるまで、三者三様に見送った

 

そして、二人の姿が見えなくなると、フェイトは背伸びして

 

「さってと……私は仕事に戻ろうかな」

 

と言うと、はやてが肩を掴んで

 

「フッフッフ……そうは問屋が卸さへんで……」

 

はやてはなんとも悪い笑顔を浮かべて、二つのデータチップを掲げた

 

「は、はやて? それは、もしかして……」

 

フェイトが冷や汗を流しながら聞くと、はやては頷き

 

「せや。フェイトちゃんと冬也はんの許可証や!」

 

なぜか、ドヤ顔である

 

「はやて……職権乱用って言葉……知ってる?」

 

「あ、ちなみに、なのはちゃんのもあるで」

 

フェイトの苦言を無視して、はやては三つ目のデータチップを出した

 

そんなはやてを見て、フェイトは深々と溜め息を吐いた

 

すると、はやてはパチンと指を鳴らして

 

「そうそう、ユーノ君に連絡したら、即行で休暇を申請してたで」

 

というはやての言葉を聞いて、フェイトは内心で

 

(ユーノ……釣られてる……)

 

と溜め息を吐いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「えぇー!? ユーノくんが来るの!?」

 

はやてから事の次第を聞いたなのはは、驚愕していた

 

「せやで。確か、十数分前やから……」

 

とはやてが言うと、なのはは腕時計を見て

 

「後、二十分! 着替えてくる!」

 

猛然と、自室へと駆け出した

 

それをはやては見送ると、そばに浮いているリインに

 

「リイン、このデータチップ渡してくれへんか?」

 

とデータチップを渡した

 

「はいです! なのはさーん! 待ってくださいです!」

 

データチップを持ったリインは、駆け出したなのはを追っていった

 

はやてはリインを見送ると、食堂に向かった

 

場所は変わり、食堂

 

そこでは、副隊長陣やネギ達が食事していた

 

冬也も最初は食堂で食べようとしていたが、フェイトが声を掛けて外出するために準備している

 

なお、ネギ達も外出許可証を発行するか聞かれたが、拒否していた

 

理由としては、今のところは困ってないかららしい

 

その時、はやてが入ってきて

 

「当麻くーん、注文やで~」

 

「ホイホイ……肉じゃが定食な。少し待ってろ」

 

というやり取りが聞こえて、数人が視線を向けるとはやてが当麻から食事を載せたプレートを受け取っていた

 

すると、はやてが近くに来た女性に声を掛けた

 

はやての言葉を聞いた女性は頷くと、当麻に声を掛けて、当麻は頷いてからエプロンを外して適当な食事を選んだ

 

そして、二人してテーブルに着いた

 

そのタイミングで

 

『続きまして、時空管理局地上本部中将のレジアス・ゲイズ中将の会見映像です』

 

というキャスターの声が聞こえて、はやて達の視線がニュース画面に向けられた

 

そのニュース画面には、恰幅がよくヒゲが特徴的な中年男性が映っていた

 

画面下部に名前が表示されており、レジアス・ゲイズと書かれている

 

すると、画面を見ていた当麻が

 

「なあ、はやて。このオッサンは?」

 

と、はやてに問い掛けた

 

「ああ、彼は時空管理局地上本部ツートップの一人のレジアス・ゲイズ中将や」

 

「ほー」

 

当麻が頷いていると、画面の中でレジアス・ゲイズはかなり過激な発言をしている

 

「かなり過激な人みたいだな」

 

「せやな。レジアス中将は昔から武闘派で有名やさかい」

 

当麻の言葉を聞いたはやてがそう言うと、なにかに気づいた当麻が

 

「なあ、あの三人は?」

 

と、画面を指差した

 

「ん? ああ、伝説の三提督やね。あのメガネを掛けた人が法務顧問相談役のレオーネ・フィルス相談役でアゴ髭が特徴のが、武装隊名誉隊長のラルゴ・キール元帥、で、唯一の女性が統幕議長のミゼット・クローベル提督や」

 

はやての説明を聞くと、当麻は感心したように頷き

 

「要するに、すごい人達なんだな」

 

と言うと、はやてはクスクスと笑い

 

「せやね。管理局の黎明期を支えた御方達やからな」

 

と答えた

 

こうして、待機組の時間は過ぎていく



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六課の休日 その2

機動六課の休日が始まり、ほとんどのメンバーはクラナガンに向かった

 

それは、この人物達も例外ではなかった

 

「ごめんね、ユーノ君。運転を任せて」

 

「大丈夫だよ。そういえば、なのはは免許を取ってないんだよね」

 

「う……仕事に熱中し過ぎた代償です……」

 

ユーノの言葉に、なのはは少し俯いた

 

因みに、ユーノは紺色のズボンに水色のワイシャツ、緑色のベストを着ている

 

なのはは水色のロングスカートに、白いワイシャツに薄桃色のサマーセーターを重ね着している

 

そして、二人が乗ってる車はユーノの車である

 

車としてはフェイトと同型のもので、色は青である

 

なお、なのはは軽く化粧がしてある

 

あの後、自室に戻ってから服を選び、超特急で化粧を終わらせたのだ

 

なお、その光景を見ていたリイン曰わく

 

『恋する乙女って、凄まじいですね』

 

とのこと

 

閑話休題

 

そして、二人の乗った車はクラナガンに入った

 

ユーノは見事な運転で、車を駐車した

 

「ユーノ君、運転上手だね」

 

「まあ、管理局員だからね。教官さんも厳しかったし」

 

なのはの言葉を聞いて、ユーノは苦笑いしながら返した

 

その頃、フェイトと冬也の二人は

 

「たまには、こういうのも悪くない」

 

「そうですね……」

 

自然公園でのんびりしていた

 

二人の近くには大きな噴水があり、水しぶきによって虹が出きている

 

冬也はその噴水を見ているが、フェイトは視界の端で冬也の顔を見ていた

 

それは、今から数日前のことだ

 

「冬也さんが……生態兵器?」

 

フェイトは夜叉から聞いた言葉が信じられなくて、呆然とした様子で呟いた

 

「はい……主……いえ、主達はある男によって産まれたばかりの時に世界中から誘拐されて、あらゆる手段をもってして、全身を改造されました」

 

人型の姿を取っている夜叉はそう言いながら、冬也を中心とした七人が映った映像に視線を向けた

 

「その男の目的は……全人類の殺戮」

 

夜叉の絞り出すようなその言葉を聞いて、フェイトは固まった

 

「まさか、冬也さん達は……」

 

フェイトの言葉はそれ以上続かなかったが、夜叉は頷いて

 

「主達は……人を殺すために、作り替えられたんです」

 

と言った

 

それを聞いたフェイトは、白くなるほどに拳を握りしめてから視線を夜叉に向けて

 

「その男の名前は?」

 

と問い掛けた

 

「その男の名前は……ロンドと言います」

 

夜叉は静かに、その名を告げた

 

時と場所は変わり、クラナガンのある一角

 

そこでは、武、冥夜、スバル、ティアナの四人が談笑していた

 

なお、四人の手にはそれぞれアイスがある

 

武と冥夜の二人は、スバルの持っているアイスを見て最初は驚いていた

 

なにせ、13個ほど積み重なっているからだ

 

まるで、アイスのタワーである

 

ティアナは慣れてるのか、至って普通だった

 

「いい街だな。ここは」

 

「そうだな。全員が笑顔だ」

 

そう言ったのは、武と冥夜である

 

二人は眩しそうにしながら、周囲を見回している

 

「そっか……武達がいた地球は、大変だったんだよね……」

 

というスバルの言葉に、武は頷いて

 

「ああ……俺たちのいた地球は、BETAによって滅亡しかけてたからな」

 

「アメリカなどの後方国では、こういった光景は普通だったかもしれんが、日本はどこも大変だった……」

 

武に続いて冥夜がそう言うと、スバルは一呼吸置いて

 

「そんな大変な世界で戦ってたから、武達はあんなに連携が凄いんだ」

 

と言った

 

「ああでもしないと、すぐに殺されるからな」

 

と武が言うと、冥夜が

 

「言っておくが、武は私達が所属していた部隊でも突出していたぞ」

 

と言った

 

「どういうことよ」

 

ティアナが問い掛けると、冥夜は

 

「私達が初めて経験した大規模作戦、その作戦で武はな、単機で陽動をやってのけた」

 

「単機で……?」

 

「陽動……?」

 

スバルとティアナが冥夜の言葉をオウム返しに言うと、冥夜は続けて

 

「因みに数だが、分かり易く言うと……ガジェットⅢ型が23、ガジェットⅠ型が48、ドールが四万近くで……その内、ガジェットⅢ型を20とⅠ型を30、ドールは半数近く撃破していたな」

 

と言った

 

それを聞いたスバルとティアナが呆然としていると、武は

 

「結局、最後は隊長に助けられたけどな」

 

と言った

 

しかし、スバルとティアナはそれを軽く聞き流して

 

「武って……」

 

「規格外なのね……」

 

と呟いた

 

場所は変わり、ある公園の一角

 

そこには、エリオとキャロの姿があった

 

そんな二人は、ある人物から提供された行動プランに従っていた

 

そしてエリオはキャロから、フリード以外に居るもう一体の龍のことを聞いた

 

名はボルテール

 

キャロと契約している龍で、キャロの故郷のアルザスを守る真龍である

 

エリオとしては会いたかったが、ボルテールはあまりにも巨大らしく簡単には呼べないという話だった

 

その話を聞いたエリオは、残念がりながらも納得した

 

真龍というのは、いわば神にも等しい存在である

 

その真龍を、簡単に呼ぶわけにはいかないのである

 

「だけど、本当にのんびりだね……」

 

「そうだね……」

 

二人はベンチに座ると、そう呟いてから途中で買った飲み物を飲んだ

 

そして一息つくと、二人は周囲を眺めて

 

「このまま、事件が起きなければいいんだけど……」

 

「そうだね……」

 

と呟いた

 

場所は変わり、とあるトンネル

 

「要請を受けて来ました。陸士108のギンガ・ナカジマです。状況は?」

 

陸士108に所属しているギンガは、事故という連絡を受けて隊舎から事故現場に来た

 

「おー! ギンガ、こっちだ!」

 

詳しい状況を聞こうと、現場に立っていた管理者に問い掛けたら、ギンガの知ってる声が聞こえた

 

「マックス! 来てたの!」

 

そこには、ギンガと同じ陸士108に所属している同期のマクシミリアン・G・マクダウェルこと、マックスが居た

 

「ああ、たまたま近くに居てな」

 

マックスはそう言いながら、ギンガに近づいた

 

「で、状況はどうなの?」

 

とギンガが問い掛けると、マックスは親指を横転しているトラックに向けて

 

「事故を起こしたのは、このトラックなんだがな……どうも、きな臭いんだよな」

 

と言った

 

「きな臭いって?」

 

「ああ……先に病院に搬送した運ちゃん曰わく、普通に運転してたら、いきなり荷台が爆発したらしいんだ」

 

ギンガから問い掛けられると、マックスは手元に持っている端末を見ながら言った

 

「爆発って……荷物は?」

 

「運んでたのは、飲料水のボトルや缶詰めばっかで、爆発を起こすのは無いんだがな……」

 

マックスはそこで言葉を区切ると、ギンガを手招いて

 

「こいつを見な」

 

と、道路に転がっている楕円形の機械の残骸を示した

 

ギンガはそれを見て、眉をひそめた

 

「これは……ガジェットⅠ型?」

 

それは、ギンガの妹のスバルが所属している機動六課が主に戦っているガジェットの残骸だった

 

「ああ……それと、お前ん家に因縁深いのが……それだ」

 

マックスが指差した物を見て、ギンガは目を見開いた

 

「これって……生体ポッド!?」

 

それは本来、存在してはいけないモノだった

 

そして、この時ギンガは気付いていなかったが生体ポッドから何かを引きずるような跡が蓋が壊れた排水溝に伸びていた

 

そして地下では、小さな女の子がボロボロの布を身に纏っていて、レリックケースを二つ縛った鎖を引きずっていた

 

すると、何かに躓いたのか女の子は転びレリックケースの一つが排水の中に落ちた

 

が、女の子は気にする様子もなく立ち上がり壁に手を突いて

 

「行かなきゃ……」

 

と言って、再び歩き出した

 

この女の子との出会いによって、機動六課が追ってる事件を巡る状況は加速する



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出会い

とある喫茶店では、近くを歩く人達から視線が向けられていた

 

理由は簡単

 

そこに居るのが、エース・オブ・エースの高町なのはと時空管理局無限書庫の若き司書長ユーノ・スクライアだがらだ

 

この二人はそれぞれ、かつて雑誌の取材も受けたことがあるので知らない人は居ないとも言い切れる人物である

 

そんな二人が、揃って喫茶店に居れば注目されるのは当たり前である

 

しかも、二人の仲むつまじさは恋人のそれである

 

それを見て、密かに泣いている者が居るので、狙っていたのだろう

 

その時、なのはの胸元にあったレイジングハートが光った

 

「ん? なんだろ」

 

なのははレイジングハートを手に取ると、ウィンドウを開いた

 

すると、そこに表示されているのはアラートという文字

 

「全体通信? エリオから?」

 

なのはは目つきを変えて、通信を開いた

 

それは、今から数分前のことである

 

市街地でエリオとキャロの二人が仲良く歩いていると、エリオが突如足を止めた

 

「エリオくん?」

 

キャロが不思議そうに名前を呼ぶと、エリオは周囲を見回しながら

 

「今、音がしなかった?」

 

と言った

 

「特に聞こえなかったけど……」

 

キャロがそう言うと、エリオは周囲を注意深く見ながら

 

「なんて言うか、ゴリと言うか、ゴトッっていうか……」

 

と言うと、少し先の路地に駆け込んだ

 

すると、少し奥の所のマンホールが動いた

 

「「っ!?」」

 

二人は驚きながらも、そのマンホールに近寄った

 

場所は変わり、ある基地

 

『ドクター、マテリアルを追っていたガジェットが撃破されました』

 

画面に映っている女性が報告しているのは、ドクターことジェイル・スカリエッティである

 

「ほう……局の魔導士かそれとも、当たりを引いたか」

 

『恐らくは後者かと……』

 

スカリエッティの言葉に、紫髪の女性

 

ウーノは同意を示した

 

「素晴らしい。娘達を回収に向かわせよう」

 

『わかりました。クアットロ達を向かわせます』

 

スカリエッティの提案に、ウーノがそう言った時

 

「ドクター……それ、あたしも行きたい」

 

と、通路から赤い髪の一人の少女が現れた

 

スカリエッティはその少女を見ると、軽く驚いた様子で

 

「ノーヴェ、君か」

 

と言った

 

赤い髪の少女、ノーヴェは

 

「そいつが本当に、あたし達の王になるなら、直接確かめたい……」

 

と言った

 

が、それに対して画面越しにウーノが

 

『ダメよ、ノーヴェ。あなたは、まだ専用武装が出来てないんだから』

 

「そうだよ、ノーヴェ。それに、もし本当にマテリアルだったら、直に私達の所に来るから、その時にしたまえ」

 

ウーノに続き、スカリエッティが言うと、ノーヴェは数秒間沈黙してから

 

「わかった……」

 

と言って、元々来た道に戻っていった

 

ノーヴェを見送ると、スカリエッティは画面に向き直り

 

「さて、念には念を入れて、彼らにも応援を頼むとして……優しいルーテシア、聞こえるかい? レリック絡みだ。少し頼まれてくれるかい?」

 

と、ルーテシアに対して通信を開いた

 

場所は変わり、市街地

 

「エリオ、キャロ、お待たせ!」

 

「皆さん!」

 

スバルが声を掛けると、エリオがスバル達に気づいた

 

「その子ね。また、ずいぶんとボロボロね……」

 

「だいたい、六歳くらいか」

 

「なぜ、こんな小さな子供が……」

 

「どうやら、地下水道をかなりの距離を歩いてきたみたいです……それと、これ……」

 

ティアナ、武、冥夜の三人の言葉を聞いて、キャロは分かってることを言うと、鎖に縛られたレリックケースを持ち上げた

 

それを見たティアナは、眉をひそめた

 

「ケースはもう一つ有った?」

 

レリックケースに絡まっている鎖には、もう一つケースが収まりそうな部分があった

 

「今、ロングアーチに地下水道を調べてもらってます」

 

と、キャロが言ったタイミングで、新たに四人が路地に入ってきた

 

「エリオ、キャロ!」

 

「すまんな、遅れた」

 

「状況は?」

 

と問い掛けてきたのは、フェイト、冬也、なのはの三人

 

ユーノは地面に寝かせられてる少女に駆け寄ると、体の色々な所を軽く触り

 

「幸いにも、大きな怪我は無いみたいだね。詳しくは、シャマルさんに看てもらおう」

 

と言った

 

なのははそれに頷くと、フォワード陣に視線を向けて

 

「みんな、悪いけど、休暇は一旦お預けだよ」

 

と言い、それに続くようにフェイトが

 

「ここからは、お仕事モードで頑張ろう」

 

と言うと、フォワード陣はそれぞれ姿勢を正して

 

「「「「「はい!」」」」」

 

と斉唱した

 

その数分後、シャマルとネギ達を乗せたヘリが近くのヘリポートに着陸した

 

ヘリから降りたシャマル達は、路地に来ると少女の診察を始めた

 

「うん……ちょっと衰弱してるけど、問題は無いわね」

 

シャマルがそう言うと、その場の全員は安堵した

 

すると、シャマルが視線をなのはに向けて

 

「悪いんだけど、なのはちゃん。この子をヘリまで運んでくれるかしら」

 

とお願いした

 

「あ、はい。わかりました」

 

となのはが、少女に近づいて抱き上げると

 

「あ、ユーノ君は機動六課隊舎に来てくれるかしら。はやてちゃんが、念の為に保護するって」

 

とシャマルが、ユーノに告げた

 

「あ、はい。わかりました」

 

ユーノはそれに頷き、なのはの後に続いてヘリに向かった

 

そして、ヘリが出発すると隊長陣と刹那は屋上に集まり

 

「あの子達、だいぶ逞しくなったね」

 

「ニャハハハ、もっと逞しくなってもらわないとね」

 

フェイトの言葉に、なのはがそう返すと冬也が

 

「では、俺達がやるべきことを終わらせるか」

 

「はい」

 

「そうですね」

 

冬也の言葉に刹那とネギがそう返すと、隊長陣が居た場所が光り、バリアジャケットを纏った隊長陣が空を飛んでいった

 

その頃、場所は戻りフォワード陣

 

フォワード陣が全員でデバイスを差し出すと

 

〈〈〈〈〈スタンバイ・レディ!〉〉〉〉〉

 

と一斉に、変身を促し

 

「「「「「セート・アップ!」」」」」

 

全員が一斉に、バリアジャケットを纏った

 

ヘリに乗ってきた明日菜は騎士鎧に、楓は忍者服に変わっている

 

そして、順番に地下水道に入ると

 

「「ゴー!」」

 

武とスバルの号令を合図に、フォワード陣は奥へと向かった

 

時は戻り、場所はベルカ自治区の聖王教会

 

そのカリム執務室では、二人の人物が会談していた

 

片方はもちろん、この執務室の主である騎士カリムだ

 

そして、もう片方は黒い髪に少し童顔気味の男性である

 

その男性が着ているのは、時空管理局次元航行部隊の提督を示す服である

 

名前は、クロノ・ハラオウン

 

フェイトの兄である

 

「それにしても、何時見ても、あなたのその姿は新鮮ですね。クロノ・ハラオウン提督」

 

カリムがそう言うと、クロノは軽く肩をすくめて

 

「制服姿が似合わないというのは、友人どころか、妻にまで言われる始末です」

 

と言うと、カリムは微笑みを浮かべて

 

「いえ、そのお姿も大変よく似合ってますよ。クロノ・ハラオウン提督」

 

と誉めた

 

「ありがとうございます。騎士カリム」

 

誉められたクロノは、軽く頭を下げた

 

すると、そのタイミングでドアが開き

 

「失礼します」

 

と断りながら、シグナムが入室した

 

「あら、シグナム。お疲れ様です」

 

「今、僕と騎士カリムの二人で機動六課の運営面を話し合っていた所だ。良ければ、君も混ざってくれないか?」

 

カリムとクロノが立て続けに言うと、シグナムは視線を僅かにカリムに向けた

 

どうやら、本当に混ざっていいのか聞いているらしい

 

「私からも、是非」

 

「わかりました」

 

カリムから言われて、シグナムが机に近づいた時、カリムの前にアラートという文字を輝かせながら、通信画面が開いた

 

「直接通信? はやてから?」

 

カリムははやてから通信がくるとは思ってなかったので、内心で首を傾げた

 

はやてからの通信内容を聞いて、カリムは険しい表情を浮かべながら

 

「小さい女の子が、レリックのケースを……」

と呟いた

 

『せや。どうして、小さい女の子がレリックを持ってたっていうのも気になる。恐らく、ガジェットや召喚師が出てくるから、市街地付近での戦闘は避けられへん……せやけど、迅速に確実に片付けなあかん』

 

 

はやての話を聞いて、カリムは頷いた

 

市街地付近での戦闘となれば、下手したら民間人に被害が出る可能性すらある

 

事態は緊迫していた

 

「近隣の部隊にはもう?」

 

『うん。市街地と海岸線の部隊には、既に連絡済みや』

 

クロノからの問い掛けに、はやては真剣な顔で答えると

 

『もしかしたら……奥の手も、出さなアカンかもしれん……』

 

と呟いた

 

「そうならない事を、祈るがな……」

 

はやての言葉に、クロノは同意した

 

はやてが言ったのは、冬也やネギ以外の隊長陣に施されているリミッターの解除である

 

すると、しばらく黙考していたカリムがシグナムに顔を向けて

 

「シグナム、貴女も向こうに戻っておいた方がいいわ」

 

と、六課に戻ることを提案した

 

「はっ、わかりました」

 

「シャッハに頼めば、すぐに送ってくれるわ」

 

シグナムが姿勢を正しながら頭を下げると、カリムがそう言った

 

「ありがとうございます」

 

カリムに礼を言うと、シグナムは退室した

 

場所は変わって、機動六課ロングアーチ

 

「来た! 来ました! ガジェットとドールです! 地下にガジェットⅠ型が十五……二十。ドールが五十。海上にガジェットⅡ型が十二機編成で五つの六十機。ドールが……百を超えてます!」

 

メインモニターに表示されていた情報を見て、シャーリーが悲鳴じみた報告をした

 

すると、はやてが唸りながら

 

「これは多いな……」

 

と呟くと、近くに居たグリフィスと当麻が

 

「どうします?」

 

「俺も出るか?」

 

と尋ねた

 

すると、通信画面が開いてヴィータの顔が映った

 

『スターズ2からロングアーチへ。こちらスターズ2、海上で演習中だったんだけど、ナカジマ三佐が許可をくれた! 今、現場に向かってる……それから、あと二人』

 

ヴィータの言葉に答えるように、新しく通信画面が開いてギンガとマックスの顔が映った

 

『陸士108部隊のギンガ・ナカジマとマクシミリアン・G・マクダウェルです。別件の捜査中だったんですが、そちらの事例とも関係がありそうなんです。参加してもよろしいでしょうか?』

 

思わぬ援軍に、はやては笑みを浮かべて

 

「うん、お願いや!」

 

と承諾した

 

そして、すぐに表情を改めると立ち上がって

 

「ほんなら、ヴィータはリインと合流、協力して、海上の南西方向を制圧!」

 

指揮官然とした凛々しい表情で、指示を出し始めた

 

『南西方向、了解です!』

 

指示を受けたリインから、返事が返ってきた

 

「隊長陣は北西部から制圧を!」

 

『『『『了解!』』』』

 

隊長陣は高速で飛行しながら、返事をした

 

「ヘリの方は……ヴァイス君とシャマルに任せるで?」

 

『お任せあれ!』

 

『しっかりと守ります!』

 

はやての指示を聞いて、ヘリに乗ってる二人は意気込んだ

 

「フォワード達はギンガたちと合流を目指しつつ、ガジェットとドールを殲滅しながらレリックケースの確保!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

フォワード達もはやての指示を聞いて、ギンガたちとの合流を始めた

 

「ギンガたちもフォワード達と地下で合流を。道々、別件の方も話を聞かせてな?」

 

『はい!』

 

『了解しました!』

 

こうして事件の解決に機動六課が動く中、市街地のとある一角では

 

『ヘリに確保されたケースとマテリアルは、妹達が回収します。お嬢様は地下の方をお願いします』

 

ウーノは市街地を見下ろしていた紫髪の召喚師、ルーテシアにそうお願いした

 

「うん、わかった……」

 

ルーテシアは表情を変えずに、コクリと頷いた

 

『騎士ゼスト様とアギト様は?』

 

「……別行動中」

 

ウーノからの問い掛けに、ルーテシアは淡々と答えた

 

ルーテシアの答えを聞いて、ウーノは心配そうにすると

 

『お一人ですか?』

 

と、ルーテシアに問い掛けた

 

すると、ルーテシアは首を振ってから手を伸ばした

 

「一人じゃないよ……」

 

ルーテシアがそう言うと、手にはめていたデバイス<アスクレピオス>から、黒い光の玉が出現した

 

「私には、ガリューが居る……」

 

ルーテシアはそう言うと、その黒い光の玉に頬ずりをした

 

『失礼しました。協力が必要でしたら、なんなりとお申し付けください。最優先で実行します』

 

「うん、お願い……」

 

ルーテシアの返答を聞くと、通信画面は閉じた

 

それを確認すると、ルーテシアが

 

「行こうか、ガリュー……探し物を見つけるために」

 

と言うと、黒い光の玉は細かく明滅して答えると、ルーテシアの姿は消えた



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地下と上空の戦い

『事故現場で私達が見つけたのは、生体ポッドと破壊されたガジェットの残骸でした』

 

『ポッドは大体、六歳くらいの子供が入れるサイズです……更には近くになにか重い物を引きずったような痕跡も確認しました。それと、この生体ポット……自分には見覚えがあるんです』

 

ギンガに続けて、マックスがそう報告すると、はやてと通信画面上のカリムが険しい表情を浮かべて

『はやて、私にも見覚えがあるわ』

 

「奇遇やな、カリム。私もや……」

 

二人はそう言うと、軽く頷いてから同時に

 

「『人造魔導士計画の生体ポッド……』」

 

苦い表情を浮かべながら、呟いた

 

その頃、地下水道

 

「人造魔導士計画?」

 

冥夜が聞いたことのない言葉を聞いて、首を傾げた

 

「そう。産まれたばかりの子供に薬物投与だとか、機械を埋め込んだりだとかをして人工的に魔導士を生み出す計画。それが、人造魔導士計画」

 

「倫理的な問題は勿論、今の技術じゃどうしたって色んな無理が生じる。コストも合わない……だから、よっぽど頭がどうかしてる連中でもない限り、手を出したりしない技術のはずなんだけど……」

 

スバルに続いて、ティアナが補足説明すると、武が唇を噛んで

 

「どの世界でも、そんなことをする馬鹿が居るのかよ……っ!」

 

怒りを滲ませた声を漏らした

 

「武、どういうことだ?」

 

武の言葉を聞いて、冥夜が問い掛けると、武は視線を向けて

 

「詳しくは、後で話す。今は、目の前の敵に集中しろ」

 

それを聞いた冥夜は、一瞬逡巡するが

 

「わかった」

 

と言って、視線を前に戻した

 

その時、ケリュケイオンが光り

 

〈警告、敵機接近!〉

 

警告を発した

 

「ガジェットとドールが来ます! ガジェットが6、ドールが12!」

 

「臨戦態勢! 周辺警戒!」

 

キャロの言葉を聞いて、ティアナが鋭く指令を出した

 

そのティアナの指令を聞いて、全員は背中合わせの陣形を取った

 

その直後、戦闘が始まった

 

場所は変わり、海上

 

「おっし! いい調子だ!」

 

「リインも絶好調です!」

 

敵機を撃破し続けているヴィータが上機嫌に言うと、リインも嬉しそうに両手を上げた

 

そんなリインを見て、ヴィータは微笑むと

 

「ガンガン行くぞ! さっさと片付けて、他のフォローに回らねぇと」

 

「はいです! ……ん? あれは……」

 

ヴィータの発言にリインは返事をすると、ある方向に視線を向けた

 

リインの視線を追い、ヴィータが同じ方向を見ると、そこにはかなりの数のガジェットⅡ型とドールの機影が見えた

 

「……増援?」

 

増援を見たヴィータは、違和感を感じて首を傾げた

 

その頃、少し離れた海上ではなのは達も違和感を感じていた

 

「これは……」

 

「……なに?」

 

「……なんだ?」

 

「……変な感覚です」

 

なのは達が口々に違和感を言っている上空では、三つ編みにした茶髪にメガネを掛けた女が居た

 

「フフフ……IS、シルバーカーテン。嘘と幻の銀幕芝居に踊ってもらいましょ♪」

 

女がそう言いながら右手を掲げると、右手が光った

 

場所は戻って、なのは達

 

なのは達が放った魔法は、次々とガジェットやドールを撃墜していくが、当たったと思いきや魔法がすり抜けていった

 

「実機と幻影の混成部隊?」

 

「これじゃあ、ちょっとキリがないね……」

 

フェイトの言葉を聞いて、なのはが愚痴を零すと、冬也達が近づいてきて

 

「俺でも見分けがつきにくい……」

 

「このままでは……」

 

「ジリ貧ですね……」

 

なのはと同じように、愚痴を零した

 

場所は変わって、機動六課ロングアーチ

 

「ガジェット及びドール反応増大! そんな……嘘でしょう!?」

 

「落ち着いて! もう一回観測! 誤認じゃないの!?」

 

悲鳴を上げたアルトに落ち着くように言うと、シャーリーは再度観測するように促した

 

「ダメだ! こっちじゃあ、全部本物って出る!」

 

「しかし、前線の隊長陣からは実機と幻影の混成部隊と報告が上がってます」

 

千雨が怒鳴るように言うと、正反対に茶々丸は淡々と事実を告げた

 

「八神部隊長、これは!?」

 

「マズいんじゃねぇか!?」

 

グリフィスに続けて当麻が言うと、はやては手を組んで険しい表情を浮かべた

 

数分後、海上戦闘区域

 

「なのは、このままじゃあ……」

 

「うん……防衛ラインを突破されない自信はあるけど、らちがあかないね……」

 

ガジェットやドールからのミサイル攻撃を防ぎながら、なのはとフェイトは苦い表情を浮かべた

 

その時、近くのガジェットとドールが爆散して冬也やネギ、刹那の三人が現れて

 

「現状では、手の撃ちようがないな……」

 

「ですね……相手の幻影、かなり精巧で見破れません」

 

「だからといって、このままでは……」

 

と険しい表情を浮かべた

 

その時、なのはが

 

「フェイトちゃん、冬也さん、ネギ君、刹那ちゃん達は、フォワード陣のフォローに向かって。ここは、私一人でなんとかするから」

 

と提案した

 

だが、それを聞いたフェイトが驚愕で目を見開いて

 

「なのは! 何を言ってるの!?」

 

と怒鳴るように問い掛けた

 

するとなのはは、追尾弾を放ちながら

 

「なんか嫌な予感がする……多分、こいつらは陽動……本来の目的は別だよ」

 

と言った

 

だが、フェイトは納得していないようで

 

「だからって、一人じゃ無理だよ! 私も残って、一緒に!」

 

と抗議するが、なのはは首を振って

 

「大丈夫。いざという時は限定解除すれば、こんな奴らには簡単に勝てるから」

 

と微笑んだ

 

それでも、フェイトは納得いかないらしく

 

「限定解除はいざという時の切り札なんだよ? 今使ったら、今度はいつ許可が降りるか!」

 

と食い下がった

 

その時、通信画面が開き

 

『その通りやで、なのはちゃん! なのはちゃんの案もフェイトちゃんの案も、部隊長権限で却下させてもらうで!』

 

ベルカ式のBJ、騎士甲冑を纏ったはやての姿が見えた

 

「はやて!」

 

「はやてちゃん、なんで騎士甲冑を!?」

 

まさか部隊長のはやてが、BJを纏って姿を見せるとは思わず、なのは達は驚いた

 

『嫌な予感がするのは、私も同じでな。クロノ君に頼んで、私の限定を解除してもらうことにしたんよ』

 

と言ったタイミングで、もう一つ通信画面が開き

 

『俺も居るぜ』

 

当麻の姿が映った

 

「当麻くん!?」

 

「当麻くん、飛行適性は無かったはず!?」

 

まさか、当麻が空を飛んでいるとは思わずになのはとフェイトは驚愕した

 

『イマジンの第二形態だとよ。なんでも、反重力(アンチグラヴィティ)飛行装置を使って、誰でも飛べるようになるんだと』

 

という、当麻の説明を聞いて

 

「葉加瀬、間に合ったか」

 

「ああ! 学園祭の時に茶々丸さんや、その妹さん達が使ってたアレですか!」

 

「そういえば、ありましたね」

 

開発に関わっていた冬也、同じ世界出身のネギ達は感嘆していた

 

『つーわけや、なのはちゃん達はヘリとフォワード陣のフォローに向かって。ここは、私がなんとかする』

 

というはやての言葉を聞いて、なのはとフェイトは数瞬黙考するが

 

「了解」

 

「お願いね、はやて」

 

と賛同した

 

「殿戦闘は任せてください」

 

「俺の得意分野だ」

 

「お任せを」

 

殿は冬也達が請け負うことになり、なのは達は行動を開始した

 

場所は変わって、ベルカ自治区 カリム執務室

 

「はやて、本当にいいのか? 今現在、使える限定解除は僕と騎士カリムの二人の二回のみだ。使いきったら、申請は簡単には通らないだろう」

 

クロノがそう言うと、はやては真剣な表情で

 

『使える力を使わないで後悔するより、使って後悔したほうがマシや』

 

と断言した

 

「わかった。ただし、市街地の近くだから完全解除は出来ない。解除出来るのは3ランクのみだ」

 

クロノのその言葉を聞いて、はやては数瞬黙考すると

 

『Sランク……それで十分や!』

 

意気揚々と言った

 

そんなはやての言動にクロノは軽くため息を吐くと右腕を前に出した

 

すると、青く発光している魔法陣が現れた

 

「八神はやて、限定解除2ランク承認。120分リリース」

 

クロノはそう言いながら、魔法陣を押した

 

すると、青かった魔法陣が赤に変わり、海上に居たはやてから白色の魔力が溢れ出した

 

その魔力の余波に、当麻は思わず手を掲げて目元を覆った

 

「スゲェ……これが、はやての限定解除か……しかも、まだ本気じゃないんだよな……」

 

当麻の呟きを無視して、はやては自身のデバイスたる夜天の書を開いた

 

「よし……久しぶりの遠距離広域魔法。いってみよか!」

 

はやてはそう言いながら、遠い戦域を睨みつけた

 

場所は変わって、地下水道

 

「空の上は、なんだか大変みたいね」

 

「うん」

 

フォワード陣はあれから数回、ガジェットやドールと遭遇し、全て撃破していた

 

その時、グリフィスからはやてが出撃したという情報を聞き、事態が大きくなってきていることを察した

 

「ケースの位置まで、もう少しです!」

 

キャロがケリュケイオンと共に確認して、全員に報告した時、少し離れた地点で爆発が起きた

 

突然起きた爆発に、フォワード陣は距離を取って、各々武器やデバイスを構えた

 

すると、爆煙の中からギンガとマックスの姿が現れた

 

「ギンガさん!」

 

「ギン姉! マックス兄!」

 

ギンガを直接知っているティアナと、マックスも知っているスバルは嬉しそうに二人に近寄った

 

「ここに来るまでの敵は、全て撃破してきたわ」

 

「一緒に、レリックを捜すぞ」

 

「「はい!」」

 

ギンガとマックスの言葉を聞いて、ティアナとスバルは嬉しそうに頷いた

 

そのギンガとマックスを、エリオとキャロが見ているとギンガとマックスが気づき、ギンガは微笑みマックスは人差し指と中指をピッとした

 

すると、エリオとキャロは敬礼し、それに倣って武と冥夜も敬礼して、明日菜と楓は頭を下げた

 

こうして、赤い結晶と一人の少女を巡る物語は加速していく



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地下と上空の戦闘 その2

展開が遅くってすいません


はやてが出撃して、隊長陣が後退戦闘を繰り広げていた時

 

地下では、フォワード陣とギンガ・マックス達が遭遇したガジェット・ドールの混成部隊と交戦していた

 

「はぁ! ぜぁ!」

 

エリオがストラーダを振り回し、ガジェットやドールを切り捨てては

 

「フリード!」

 

「キュクルー!」

 

キャロの指示に従い、フリードが火炎弾を発射して、ドールを焼き尽くし

 

「はあぁぁ!」

 

ティアナが気合いと共に、魔力弾を放ってドールを撃ち抜き

 

「冥夜!」

 

「任せろ!」

 

武と冥夜は、阿吽の呼吸で次々と蹴散らし

 

「楓ちゃん!」

 

「うむ!」

 

明日菜は破魔の剣で数機纏めて切り捨て、楓は持ち前の機動で攪乱しながらクナイを突き刺して撃破していった

 

「スバル、合わせられる!?」

 

「合わせる!」

 

「援護は任せな!」

 

ギンガが問い掛けるとスバルは意気込み、マックスは二人を援護するためにデバイスを構えた

 

〈行けますか?〉

 

〈問題ありません〉

 

そして、ブリッツキャリバーとマッハキャリバーが声を掛け合ったタイミングで、通路の先からガジェットⅢ型が転がって現れた

 

「トライ・シールド!」

 

ギンガはガジェットが放ったレーザーを、左手を掲げて三角形の楯を展開して防ぎ、右手を振りかぶった

 

すると、ガジェットⅢ型はアームを伸ばしてくるが、ギンガはそのまま右拳を叩き込んだ

 

ギンガの拳とガジェットⅢ型のアームが拮抗していると、ギンガの上をスバルが飛び越えてガジェットⅢ型の懐に入り込もうとした

 

だが、それを止めようとガジェットⅢ型の両側からドールが現れて、銃口を向けた

 

だが

 

「させるかよ!」

 

それをマックスが見逃すわけがなく、自身のショットガン型デバイスのシュトルムを向けて

 

〈スラッグショット!〉

 

威力と貫通性の高い魔力弾を連射して、撃破した

 

その間にスバルは、ガジェットに肉薄して左拳を叩き込むと

 

「ディバイーン……」

 

ガジェットⅢ型の内部で、魔力を溜めて

 

「バスター!!」

 

ゼロ距離砲撃を行った

 

その結果、ガジェットⅢ型は機能を停止した

 

その後、敵を殲滅させたフォワード陣はレリック反応のあった奥へと向かった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

そこは、広い空間だった

 

高さは軽く数メートルは有り、百人近くが入れそうだった

 

フォワード陣は散開して、レリックケースを探していた

 

「えっと……あ!」

 

その中で、キャロが先に目的の物を見つけた

 

「ありましたー!」

 

キャロが嬉しそうに声を上げて報告すると、全員がキャロに視線を向けた

 

その時だった

 

「ん? なんだ?」

 

武の耳に、何かを叩くような音が聞こえた

 

そのタイミングで、武の前にウィンドウが開いた

 

「敵性魔力反応接近? ……っ!」

 

ウィンドウの文字を見ると、武は視線を左右に向けて見つけた

 

空中に、僅かながら空間が歪曲している場所があった

 

「冥夜! 2時の方向、60度だ!」

 

武の指示を聞いて、冥夜は言われた方向に視線を向けた

 

そのタイミングを見計らって

 

「十字砲火!」

 

武と冥夜は同時に、突撃砲による砲撃を敢行した

 

だが、ソレは二人の砲撃を紙一重で避けると、四発の魔力弾を形成してキャロに放った

 

キャロは咄嗟のことに、反応が遅れて直撃をくらった

 

「きゃあぁ!」

 

「キャロ!?」

 

エリオは一瞬驚くが、先ほどの敵が倒れたキャロに近づこうとしているのに気づいて

 

「ぜああぁぁ!」

 

気合いと共に切りかかり、なんとか阻止した

 

だが、着地した直後に肩口から出血した

 

どうやら、敵の攻撃が当たっていたようだ

 

「エリオくん!」

 

「っ!」

 

エリオの負傷に気づいたキャロが近づこうとしたが、それをエリオは無言で制した

 

すると、全員の前に以前にホテルの地下駐車場で冬也が戦った、あの人型の召喚獣が現れた

 

その時、武の前に再びウィンドウが開いた

 

「交戦データ有り? 隊長が?」

 

武は確認すると、視線を人型召喚獣のガリューに向けた

 

その時、全員の背後に一人の少女

 

ルーテシアが現れて、落ちていたレリックケースを拾い上げた

 

「あっ!」

 

それに気づいたキャロが、ルーテシアからレリックケースを取り返そうとしたが

 

「……邪魔」

 

ルーテシアは短く呟くと、キャロに向けて魔力弾を放った

 

「くっ……きゃあぁ!」

 

キャロは咄嗟に防御魔法を発動したが、ルーテシアの魔力弾の威力が高く防ぎきれなかった

 

「キャロ!? うわぁぁ!」

 

エリオは吹き飛ばされてきたキャロと一緒に、近くの柱に叩きつけられた

 

「エリオくん、キャロちゃん!」

 

「大丈夫でござるか!」

 

明日菜と楓は、叩きつけられた二人にすぐさま駆け寄り、声を掛けた

 

武と冥夜がガリューを押さえていると、スバルが慌てた様子で

 

「こらー! そこの子! それは危ない物なんだよ! 触っちゃダメ! こっちに渡して!」

 

とルーテシアに言うが、ルーテシアは一瞥するだけで歩きだそうとしたが、歩みは直ぐに止まった

 

すると、ルーテシアの背後の空間が揺らめいて

 

「手荒なことして、ゴメンね? でもそれ、本当に危ない物なんだ」

 

隠蔽魔法のオプティック・ハイドで姿を隠していたティアナが、ダガーモードにしたクロスミラージュの魔力刃をルーテシアの首筋に当てていた

 

その状況にルーテシアが悩んでいると

 

(ルールー!)

 

自身の知り合いの声が、頭に響いてきた

 

念話である

 

(アギト……)

 

(おし! 無事みたいだな。いいか、アタシが合図したら、目を閉じろよ?)

 

(うん、わかった……)

 

アギトからの提案に、ルーテシアは従った

 

(いいか? 1、2の3!)

 

アギトがカウントした直後、ルーテシアは目を閉じた

 

その時、武の前に三度ウィンドウが開いた

 

「魔力値が上昇? これは!?」

 

武が驚いた瞬間

 

「スターレンゲ・ホイル!」

 

どこからともなく、声と共に一発の魔法が全員の中心に放たれた

 

魔法は地面に当たると同時に、強力な閃光と音響を放出した

 

全員がそれに固まっていると、ガリューが一瞬にしてティアナに肉薄して蹴り飛ばした

 

「きゃああぁぁ!」

 

蹴り飛ばされたティアナは、すぐに上半身を起こした

 

すると、ガリューは肩と手甲で防御の構えを取った

 

だが、ティアナは僅かに狙いをズラし

 

「っ!」

 

一発の魔力弾を撃った

 

だが、それにガリューは機敏に反応して主であるルーテシアを守った

 

すると、ルーテシアの前に役30センチ程の人間

 

リインと同じユニゾンデバイスの赤毛の存在が現れた

 

「ったく……アタシ達に黙って行くからだぞ。ガリューもルールーも」

 

現れたユニゾンデバイスは、ルーテシアに対して諭すような口調で話しかけた

 

「アギト……」

 

ルーテシアはそのユニゾンデバイス、アギトの名を呼んだ

 

「おう」

 

アギトは頷くと、手を腰に当てて胸を張り

 

「まあ、このアタシが来たからにはもう大丈夫だ! この烈火の剣製アギト様に、掛かってこいやぁ!」

 

アギトは威勢良く、フォワード陣に声を張り上げた

 

少し時は戻り、場所は変わって海上上空

 

『ロングアーチ1。シャリオから、八神部隊長へ』

 

「はいな」

 

ロングアーチの通信責任者であるシャーリーからの通信に、はやては元気よく返事をした

 

『ファイティングサポートシステム、準備完了です! シュベルトクロイツとのシンクロ率誤差、調整完了!』

 

「うん、了解や。ごめんな……精密コントロールとか長距離サイティングは、リインが一緒やないと、どうも苦手で……」

 

はやては広範囲型の魔導師ゆえか、精密コントロールが苦手だった

 

出来ることは出来るが、どうしてもおおざっぱになってしまう

 

その証拠に、以前に第八臨海空港で火災が起きた時には、はやてが放った氷結魔法が味方の魔導師にまで影響していた

 

しかし、今回は近くに市街地があるために精密性が要求される

 

リインが居ない時に、はやてが万全に魔法をコントロールするために開発されたのが、ファイティングサポートシステムである

 

『その辺は、こっちに任せてください! 茶々丸ちゃんや千雨ちゃんのおかげで更に精密性が上がってますから!』

 

シャーリーの言葉を聞いて、はやては微笑みながら頷き

 

「ほんまに、感謝やな……さて」

 

はやては意気込むと、夜天の書を開きシュベルトクロイツを掲げた

 

「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ!」

 

はやてが呪文を唱えると、掲げていたシュベルトクロイツの前にベルカ式の魔法陣が展開されてその周囲に、五つの魔力溜まりが出来上がった

 

『スターズ1、ライトニング1、5、アサルト1、2。安全圏まで退避完了!』

 

「おっしゃ! 第一波、行くよ!」

 

シャーリーからの報告を聞いて、はやては気合いを入れた

 

「フレース……ベルグ!」

 

はやてが魔法名を唱えると、五つの魔力溜まりから次々と魔法が発射された

 

そして、はやてが発射した魔法は少しずつガジェット・ドール混成部隊へと迫る

 

場所は変わって、機動六課ロングアーチ

 

「フレースベルグ、第一波。第一グループに接近中……着弾まで後十秒……五、四、三、二、一……着弾……消滅。続いて第二、第三グループに着弾!」

 

「波形パターンを確認……幻術との識別を始めます」

 

「実機のデータとの比較を始める」

 

シャーリーの報告に続けて、茶々丸と千雨がそう言いながら高速でキーボードをタイピングしだした

 

こうして、事件は加速していく



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地下と上空の戦闘 その3

地下での戦いは、佳境を迎えようとしていた

 

ルーテシアの実力が高く、人数の多いフォワード陣と拮抗していた

 

レリックケースはなんとか確保したが、フォワード陣は柱の影に隠れて話し合っていた

 

「これからどうする、ティア?」

 

「あの子達を捕まえたい所だけど、今はレリックケースの確保が先だしね……」

 

「それだったら、今こっちに来てるヴィータ副隊長を待った方がいいんじゃねえか?」

 

スバルとティアナの話を聞いて、マックスがそう言った

 

すると、ティアナは頷いて

 

「はい。ヴィータ副隊長を待って、指示を仰ぐべきですね」

 

ティアナがそう言ったタイミングで

 

『よし、お前達。いい判断だ』

 

そのヴィータから、通信が来た

 

「ヴィータ副隊長!」

 

『私も居るですよ!』

 

スバルが驚きの声を上げると、リインからも通信が来た

 

「リイン曹長まで……」

 

「今、お二人はどこですか?」

 

呆然としているスバルを無視して、ギンガが問い掛けた

 

そのタイミングで、弾幕を張っていたルーテシアにアギトが近づき上を向いて

 

「ルールー、何かが近づいてくる……魔力反応……デケェ!」

 

と、驚愕の声を上げた

 

その直後

 

「でぇりゃああああ!」

 

天井をぶち抜いて、ヴィータが現れた

 

しかも、ヴィータはそのままガリューにアイゼンを振るった

 

ガリューは両腕を交差させて防ぐが、ヴィータは満身の力を込めて

 

「ぜりゃああああ!」

 

雄叫びと共に振り抜いた

 

さすがに防ぎきれなかったらしく、ガリューは柱を壊して吹き飛んだ

 

その直後、リインがヴィータが開けた穴から飛び出してきて

 

「捕らえよ! 凍てつく足枷! フリーレン・フェッセルン!」

 

氷結系束縛魔法で、ルーテシアとアギトを覆うように捕まえた

 

ヴィータはそれを確認すると、肩越しに背後を見て

 

「おう……無事か、お前ら」

 

と、なんともカッコいいことを言った

 

「みんな、無事で良かったですよ~」

 

そんなヴィータの隣に、リインが安心した表情を浮かべながら飛んできた

 

「ヴィータ副隊長……やっぱ強ーい……でも、局員が公共の施設を壊しちゃっていいのかな……?」

 

「ま、まぁ……この辺はもう廃棄都市区画だし……」

 

呆然としたスバルの言葉に、ティアナがそう返すと

 

「……う、ぅん……」

 

キャロの瞼が、僅かに震えた

 

「あ、キャロ……」

 

「クキュルー!」

 

キャロが起きたことにエリオが気付くと、フリードが心配そうに鳴きながらキャロに近寄った

 

その時、撃破したのか確認しに行ったヴィータが

 

「ちぃっ! 逃げられた……」

 

「こちらもです! 逃げられました……」

 

リインもヴィータと同様に、ルーテシアとアギトに逃げられたことに気づいた

 

その数秒後、大きな揺れが起きた

 

「なんだ!?」

 

「地震か!?」

 

いきなり揺れたことに、武と冥夜が驚いていると

 

「大型召喚の気配があります……たぶん、それが原因です……」

 

エリオに助けられながら、キャロがそう言った

 

キャロの言葉を聞いたヴィータは、数瞬考えると、視線をスバルに向けて

 

「ひとまず脱出だ! スバル!」

 

「はい! ウィングロード!」

 

ヴィータの意図に気づき、スバルはウィングロードをヴィータが開けた穴に向けて螺旋階段のように展開した

 

「スバルとギンガが先行しろ! 私が最後に飛んでいく!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

ヴィータの指示に従い、全員は脱出のための準備を始めた

 

そんな中、スバルはティアナに近づいて

 

「ティア、この後も戦闘が続くことを考えると……」

 

「ええ、わかってる。考えがあるわ……」

 

スバルの言葉を遮って、ティアナはそう言うと、近くに落ちていたキャロの帽子を拾い上げ

 

「キャロ、ほら、帽子」

 

と手渡した

 

「あ、ありがとうございます」

 

キャロは帽子を受け取ると、頭に被った

 

「ねぇ、レリックの封印処理、お願いできる?」

 

「は、はい。やれます!」

 

キャロの返事を聞いて、ティアナは頷くと

 

「それとね、少し考えがあるんだ。手伝ってくれる?」

 

と、キャロに提案した

 

場所は変わって、上空

 

そこでは、はやてが次々と砲撃を放ち、ガジェットやドールを纏めて撃破していっていた

 

中には、はやてを撃破しようと接近してきたドールが居たが、当麻の二丁拳銃からなる弾幕により撃破された

 

「さあ、後何機や!?」

 

『9編隊……いえ、8編隊に減りました!』

 

はやての問い掛けにシャーリーが答えると、別のウィンドウが開き

 

『幻術パターンの解析、出来始めてます!』

 

『観測隊からの報告……複合識別作業、順調です!』

 

『現在、完成している解析データを体長陣と当麻さんに優先的に送信中』

 

『誤差範囲も想定して、複数のパターンを送信開始!』

 

アルト、ルキノ、茶々丸、千雨の順に報告した

 

各自の報告を聞いて、はやては笑みを浮かべて頷くと

 

「うん! さすがは、機動六課のオペレーター陣や!」

 

と言うと、シュベルトクロイツを構え直して

 

「さあ、ガンガン行くよ! 照準よろしく!」

 

『はい!』

 

はやての言葉にシャーリーは、笑みと共に答えた

 

更に場所は変わり、時空管理局地上本部

 

「なんだ? 何事だ!?」

 

と声を荒げたのは、時空管理局地上本部ツートップの片割れ

 

武闘派のリーダーたる、レジアス・ゲイズ中将である

 

そのレジアスに付き従っているのは、彼の娘にして副官を勤める、オーリス・ゲイズである

 

「これは今現在、廃棄都市区画にて行われている遺失物管理部機動六課の戦闘です」

 

オーリスがそう言うと、海上上空の戦闘映像が映った

 

「戦闘を行っているのは、SSランクの魔導士です」

 

「ん? ……地上本部にSS? ワシは知らんぞ!?」

 

レジアスが声を荒げると、オーリスは淡々とした口調で

 

「それはそうでしょう。本来の所属は海上本部の所属で、出向扱いです」

 

オーリスはそう言うと、新しくウィンドウを開いた

 

「今砲撃を放っているのは、機動六課部隊長の八神はやて二等陸佐です」

 

「八神はやて……あの八神はやてか!?」

 

オーリスの告げた名前を聞いて、レジアスは眉を上げた

 

「はい。その八神はやてです」

 

オーリスが肯定すると、レジアスは机を強打した

 

「中規模次元震の根源……犯罪者ではないか!?」

 

「八神はやて二等陸佐自身の執行猶予は終えていますし、今は精力的に働いております」

 

「同じことだ! 奴は犯罪者にすぎん!」

 

レジアスは声を荒げながらそう言うと、どっかりと椅子に座った

 

「問題発言です。公の場では控えてください」

 

「わかっている!」

オーリスの忠告をレジアスは聞き流すと、腕組みをして

 

「まったく……海の連中は何時もそうだ! 再発性を軽く見過ぎている!」

 

レジアスはそう言うと、画面に映し出されているはやてをじっと見てから

 

「機動六課の構成はどうなっている」

 

と、オーリスに問い掛けた

 

オーリスは頷くと、更に新しいウィンドウを開いた

 

「まず、部隊長として八神はやて二等陸佐。分隊長として、高町なのは一等空尉とフェイト・T・ハラオウン執務官。副隊長として、八神二等陸佐固有戦力の二名。これらを筆頭に各分野並びにバックヤードスタッフ並びにフォワード隊員は新人ばかりです」

 

オーリスの報告を聞くと、レジアスは鼻で笑った

 

「何かあったら、簡単に切り捨てられる編成だな。犯罪者には打ってつけではないか」

 

レジアスの言葉をオーリスは聞き流すと、また別のウィンドウを開き

 

「ここに、機動六課が保護した次元漂流者達による部隊も加わっております」

 

「次元漂流者の部隊か……どうせ、大したことはなかろう」

 

「そして、この部隊の創設には海上本部のクロノ・ハラオウン提督とリンディ・ハラオウン提督並びに、聖王騎士団所属のカリム・グラシアが許可を出しています」

 

オーリスのその報告を聞いて、レジアスは舌打ちした

 

「ちっ……英雄気取りの海の若僧が……」

 

レジアスはそう吐き捨てるように言うと、部隊構成とリンディやクロノ達の写真を睨みつけながら数秒間黙考してから

 

「今度、お前自らが率いて査察に行け。何か問題が一つでも有ったら、即査問だ」

 

レジアスはそう言うと、立ち上がり歩き出した

 

「そうすれば、海の連中に対するいい交渉カードになるかもしれんからな!」

 

「はい」

 

オーリスはそんなレジアスを見送りながら、静かに敬礼した

 

 



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動き出す勢力

中途半端ですが、投稿します


「マズいって、ルールー! これはマズいって!」

 

融合器のアギトは隣に立っている少女、ルーテシアを制止していた

 

理由は二人の視線の先に居る巨大な召喚虫

 

地雷王だった

 

地雷王の見た目は、トラック二台分ほどの大きさのカブトムシといったところである

 

そんな地雷王の能力は、角からの発電による攻撃と、地震の発生である

 

つまり、ルーテシアはフォワード陣を生き埋めにしようとしているのだ

 

それを知ったアギトは、必死にルーテシアを止めようとしているのだ

 

「下手したら、あいつら死んじゃうかもなんだぞ!?」

 

「……あいつらなら、この程度じゃ死なない」

 

アギトの忠告を聞いても、ルーテシアは静かにそう言い返した

 

「確かに死なないかもしれないけど、レリックケースはどうやって回収すんだよ!」

 

「……ドクターに頼んで、セイン辺りに回収してもらう」

 

アギトの言葉にルーテシアがそう返すと、アギトは眉根を上げて

 

「あんな変態博士を信じちゃいけないって! 口先はいいけど、なにを考えてるかわからないって!」

 

アギトが声を荒げてそう言った直後、二人の耳に轟音が聞こえた

 

二人が轟音のした方向に視線を向けると、地雷王の居る場所が沈み込んでいた

 

「やっちまった……」

 

その光景を見て、アギトはガックリと肩を落とした

 

そんなアギトを無視して、ルーテシアは視線を横に向けた

 

「……ガリューはケガ、大丈夫?」

 

視線の先には、肩のアーマーが砕けて右側胸部から出血しているガリューの姿があった

 

やはり、ヴィータの一撃は厳しかったようだ

 

「……戻っていいよ。アギトが居るから」

 

ルーテシアがそう言うと、ガリューは恭しく頭を下げて消えた

 

ガリューが消えたのを確認すると、ルーテシアは視線を地雷王に向けて

 

「……地雷王も、戻って」

 

いいよと告げようとした

 

だが、それより先に地雷王をピンク色の鎖が締め付けた

 

二人がそれに驚いていると、オレンジ色と青い魔力弾が二人に迫った

 

二人はそれに気づき、アギトは飛び上がって避けて、ルーテシアは飛び降りる形で避けた

 

そして、アギトが魔力弾の来た方向に視線を向けると、それぞれデバイスを構えているティアナとマックスが居た

 

「こんにゃろ!」

 

アギトは罵りながら、火炎弾を両手で精製して二人に投げつけた

 

だが、ティアナとマックスの二人は跳ぶことで軽く避けた

 

そして、ルーテシアが高架橋に着地すると、何かを叩く音と共に黄色い魔力光がルーテシアに迫り、気づけば、胸部にエリオがストラーダを突きつけていた

 

それを見たルーテシアは、後ろに飛ぼうとしたが

 

「動くな」

 

「大人しくしろ」

 

それは、武と冥夜により未然に防がれた

 

「ルールー!?」

 

ルーテシアが捕まったことにアギトが驚いていると、左右をスバルとギンガが挟み込んだ

 

そして、ゆっくりとした速度でリインが現れて

 

「ここまでです」

 

と言いながら、アギトを拘束した

 

アギトは脱出しようともがいたが、拘束は弛まず、諦めて地面に座った

 

すると、最後にヴィータが着地して

 

「子供を虐めてるみてぇで気が進まねーが、公務執行妨害の疑い、その他もろもろで逮捕する」

 

と宣言した

 

その頃、とある高層ビルの屋上に二つの人影があった

 

片方は三つ編みにした茶髪にメガネを掛けていて、もう一人は一房だけ長く伸ばした茶髪が特徴の少女達だった

 

二人は互いにお揃いのスーツを着ており、胸元にはそれぞれ、XとⅣという文字が刻印されている

 

「どーう、ディエチちゃん。ちゃんと見えてる?」

 

メガネを掛けた少女が甘ったるい声で問い掛けると、ディエチと呼ばれた少女は空を見ながら

 

「ああ……雲も無いし、空気も澄んでる」

 

と言いながら、遥か遠くを飛んでいる六課のヘリを見つめている

 

その距離は普通の人間ならば、見えない距離である

 

すなわち、彼女たちは普通の人間ではないという証拠である

 

「それで、いいのかい? 撃っちゃって。レリックケースは無事かもしれないけど、マテリアルはどうなるのかわからないよ?」

 

ディエチがそう言うと、メガネを掛けた少女は手をヒラヒラさせて

 

「構いやしないわ。それに,ドクターの話の通りなら、今回撃つ砲撃程度は防げる筈だし」

 

と言った

 

「了解。それじゃあ、準備を始めるね……」

 

ディエチはそう言うと、抱えていた巨大なモノから布を剥ぎ取った

 

姿を表したのは、巨大な砲だった

 

全長はディエチに匹敵するほど長く、砲身の太さは人の頭が入りそうだった

 

ディエチがそれを脇に抱えて座り込んだ時、メガネを掛けた少女の前にウィンドウが開いた

 

そこに映っているのは、スカリエッティ一味の一人、ウーノだった

 

『クアットロ、準備は大丈夫かしら?』

 

ウーノが問い掛けると、メガネの少女

 

クアットロはメガネを押し上げて

 

「あら~、ウーノ姉様。こちらは大丈夫ですよ~」

 

と答えた

 

クアットロの返答を聞いて、ウーノは無表情で頷き

 

『それは良かったわ。それよりも、ちょっとルーテシアお嬢様を助けて上げてほしいのよ』

 

ウーノがそう言うと、クアットロは人差し指を顎に当てて

 

「あ~……そういえば、チビ騎士達に捕まってましたねぇ」

 

と言ってから、鋭い目つきでウィンドウに視線を向けて

 

「フォローします?」

 

と問い掛けた

 

『お願い』

 

ウーノからのお願いに、クアットロは無言で頷いてウィンドウを閉じると

 

《セインちゃーん、聞こえるぅ?》

 

と、近くの仲間を呼んだ

 

《あいよ~、クア姉》

 

答えたのは、地面に潜っているセインである

 

《こっちから指示を出すわ。お姉さまの言う通りに動いてね~》

 

《了解~》

 

クアットロの言葉を聞いて、セインは移動を開始した

 

そして、クアットロは念話をルーテシアに繋いで

 

《はぁ~い、ルーお嬢様》

 

《……クアットロ》

 

ルーテシアはクアットロからの念話に、軽く驚いていた

 

なお、ヴィータ達が尋問しているが全て無視している

 

《なにやらピンチのようで……お邪魔でなければ、クアットロがお手伝いいたします》

 

《……お願い》

 

《はぁい、ではお嬢様。今からクアットロの言う通りの言葉を、目の前の赤い騎士に……》

 

クアットロがそこまで言うと、ルーテシアは視線をヴィータに向けた

 

《逮捕はいいけど……》

 

「逮捕はいいけど……」

 

ルーテシアが喋り出したことに、ヴィータ達は驚いて固まった

 

《大事なヘリは、放っておいていいの?》

 

「……大事なヘリは、放っておいていいの?」

 

ルーテシアが言い終わった直後、クアットロは何かを思い出し

 

《ああ……ついでに……あなたは、また》

 

「……助けられないかもね」

 

ルーテシアのその言葉を聞いて、ヴィータは反射的に視線をヘリが飛んでいった方向へと向けた

 

同時刻、機動六課ロングアーチ

 

「っ!? 旧市街地にて、高エネルギー反応を確認!」

 

「物理破壊型! 推定……オーバーSランク!」

 

シャーリーとアルトが悲鳴混じりに報告を上げた直後

 

場所は変わり、旧市街地

 

「IS、ヘヴィバレル……発射!」

 

ディエチが抱えていた巨大な砲から、極太の火線が発射された

 

それはあっという間にヘリに迫り

 

大きな爆発を起こした

 

場所は戻って、機動六課ロングアーチ

 

「……砲撃、ヘリに直撃?」

 

「そんなはずない! もう一回再捜査!」

 

「はい!」

 

アルトが呆然としていると、シャーリーが一喝して指示を出した

 

ちなみに、千雨と茶々丸は無言でキーボードを高速でタイピングしている

 

再び場所は変わって、高架橋

 

「そんな……ヴァイス陸曹が……シャマル先生……」

 

「ユーノ司書長まで……」

 

スバル達フォワード陣は呆然としているが、ヴィータは落ち着いていた

 

「ヴィータ副隊長、どうしてそんなに落ち着いてるんですか!」

 

冥夜が大声で問い掛けると、ヴィータは嘆息して

 

「そりゃあ、落ち着くさ……なにせ、あのヘリには、あたしが知る限り、最高峰の結界魔導士が乗ってる」

 

ヴィータがそう言っている頃、旧市街地

 

「うっふふのふー。どぉう? 私の完璧な作戦は」

 

人を小馬鹿にしたようにクアットロが笑うと

 

「クアットロ、少し黙って」

 

ディエチは爆発の起きた場所を見て、目を細めた

 

そして、爆煙の中から翡翠色の障壁に守られて飛んでいるヘリが姿を表した

 

 



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動き出す勢力 その2

はい、ここもオリジナル展開入ります!


爆煙の中から、翡翠色の障壁と共に現れたヘリを見て、襲撃者達は固まった

 

「本気じゃなかったとはいえ……マジ?」

 

砲撃を行ったディエチは思わず、そう呟いた

 

そして、ヘリの中では

 

「やれやれ……いきなり、随分な挨拶だね」

 

と、ユーノが呟いた

 

彼、ユーノ・スクライアの総合魔導士ランクはAAである

 

しかし、この総合ランクというのはその魔導士の絶対的な強さを表してはいない

 

彼、ユーノが得意としているのは後方支援系の魔法であり、その中でも結界系を最も得意とする所謂、結界魔導士である

 

更に、彼の最も評価すべき点はそのマルチタスクだろう

 

彼はデバイスを用いず、同時に複数の魔法を発動することが出来るのだ

 

その神懸かった技は、彼の職場である無限書庫で遺憾なく発揮されている

 

この無限書庫というのは、その名の通り無限に広がる書庫である

 

何時、誰が作ったのはわからないが、なんでも管理局が始まる前から存在しているらしく、有形書籍が乱雑に収納されている

 

この無限書庫が一部署として活用されるようになったのは、今から十年前に起きた通称《闇の書事件》が理由である

 

それまでは、現場からは情報は軽視されており、何か大きな事件が起きると対処は後手後手に回るのが多かった

 

だが、闇の書事件が起きた直後、ユーノが一人で無限書庫の中から重要な文献を発掘し、それを解読

 

前線で戦っていたメンバーたる、なのはとフェイト。更にクロノに教えたことにより、迅速に解決出来たのだ

 

なお、この時ユーノは一人で探したが、その時までは十人単位でチームを編成し月単位で探さないといけなかった

 

だが、ユーノは一人で僅か1ヶ月で有力な情報を探し出したのだ

 

しかも、闇の書事件の最終決戦時には自ら前線に立ちなのは達を支援

 

最後には、アルフとシャマルの二人と共同ではあるが、闇の書の闇のコアを衛星軌道まで転送するという離れ業をやってのけている

 

そして、その後は無限書庫の開拓と部署設立の立役者となり、19才という若さで無限書庫の責任者となった

 

そんな彼を、同じ結界魔導士は畏敬の念を込めてこう呼ぶ

 

《翡翠の守護者》と……

 

閑話休題

 

そして、予想外の光景だったからか襲撃者達が固まっていたら頭上から数十発に及ぶ魔力弾が迫ってきた

 

二人はそれに間一髪で気づき、隣のビルの屋上に飛んだ

 

その直後

 

「逃がさない!」

 

「ここで捕まえる!」

 

フェイトとなのはが着地、二人の頭上に冬也とネギが居た

 

それを見た二人は、あっという間に飛び出した

 

「すいませんけど、逃げます!」

 

「待ちなさい! 公務執行妨害、並びに、殺人未遂の疑いで逮捕します!」

 

逃げ出した二人を追って、四人は揃って飛んだ

 

「今日は遠慮します! IS、シルバーカーテン!」

 

クワットロがそう言うと、二人の姿が四人の視界から消えた

 

「はやてちゃん!」

 

「準備OKや!」

 

なのはの言葉に、はやては杖を高々と掲げて答えた

 

「了解!」

 

「反転する!」

 

はやての言葉を聞いて、四人はその場で後退した

 

「後退した?」

 

「なんで?」

 

四人が後退したことに、二人は首を傾げながら着地して前方に視線を向けた

 

そこには、はやてが居た

 

「闇に沈め……デアボリック・エミッショッン!」

 

はやてが発動した魔法を見て、二人は顔を青ざめた

 

「広域、空間攻撃!?」

 

「うそーん!?」

 

二人が驚愕している間に、はやてが発動した空間魔法は爆発的勢いで広がり、二人に迫った

 

「「うわぁぁぁぁ!?」」

 

二人は叫びながら、必死に逃げ出した

 

その結果、なんとか効果範囲からは逃げられたが、無傷ではなかった

 

そして、二人が安堵していると

 

「トライデント……」

 

「ディバイン……」

 

「魔法の射手……」

 

「ブラック……」

 

二人は四人に包囲されており、しかも四人は砲撃を放とうとしていた

 

包囲されていることから、二人はどこに逃げようか考えるのに固まっていた

 

その時

 

「クワットロ、ディエチ、ジっとしていろ!」

 

と彼女達にとっては、頼もしい声が聞こえた

 

その直後

 

「スマッシャー!」

 

「バスター!」

 

「戒めの風矢!」

 

「インフェルノ!」

 

四人が魔法を放ち、あっという間に直撃、爆発を起こした

 

それを見ていたシャーリーは、嬉しそうに

 

『ビンゴ!』

 

と言いながら、指を鳴らした

 

だが

 

「違う! 避けられた!」

 

『え?』

 

なのはの言葉を聞いて、シャーリーはキョトンとした

 

「当たる直前に救援が入った! 追って!」

 

『はい!』

 

フェイトの言葉を聞いて、シャーリー達はすぐさまキーボードを叩き出した

 

その時、フェイトが

 

「あれ……冬也さんとネギ君は?」

 

と二人が居ないことに気づいた

 

場所は少し離れて、数十秒後

 

主戦場から少し離れた廃棄都市区画に、突如として三人の姿が現れた

 

とはいえ、その内二人はディエチとクワットロである

 

そして、新たに現れた女は二人と同じような服装をしていることから、仲間だと分かる

 

その女は抱えていた二人を降ろすと、その二人を見下ろして

 

「さっさと立て、馬鹿者共が」

 

と吐くように告げた

 

すると二人は、緊張していたからか大きく息を吐き出して

 

「トーレ姉さまぁ、助かりましたぁ」

 

「感謝……」

 

と感謝していた

 

そんな二人の言葉を聞いて、トーレと呼ばれた女は腕組みしながら

 

「まったく……念の為に見にきて正解だった……お嬢達はとっくに脱出済みだ」

 

と苦言を呈した

 

トーレが話している間に、二人は立ち上がった

 

「では、撤退するぞ」

 

二人が立ったのを確認して、トーレがそう言った直後だった

 

「逃がすと」

 

「思いますか?」

 

いつの間にか、冬也とネギがディエチとクワットロの背後に現れた

 

二人が現れたことに驚きながらも、三人は振り返ろうとした

 

だが、それよりも早く

 

「がっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

冬也がディエチの頭部を峰で強打し、ネギがクワットロの脇腹に肘打ちを叩き込んでいた

 

そして、トーレが両手足の武装を展開しようとしたが、一瞬にして冬也は刀を、ネギは杖を突きつけ

 

「動くな」

 

「あなた方を捕縛します」

 

と宣言した

 

(こいつら、報告にあった民間協力者か!?)

 

二人を目視したトーレは、予想外の二人の強さに驚愕していた

 

その報告には、目の前の二人は良いとこS++と表記されていた

 

だが、二人からにじみ出ている威圧感(プレッシャー)はそれを遥かに超えている

 

しかし、それも仕方ないだろう

 

二人は今までの戦闘で、手加減をしていたのだ

 

これは、二人の考えだった

 

相手はおそらく、こちらの情報も容易く手に入れてくるだろう

 

だったら、迂闊に本気を出すのは危険だと

 

今回はそれが功を奏したのだ

 

そして、トーレは素早く視線でクワットロとディエチの状態を確認した

 

クワットロは脇腹を抑えて痛みに顔を歪ませているが、なんとか動けそうだった

 

だが、ディエチは近くの廃ビルに体をめり込ませて、意識を失っていた

 

その二人を助けようにも、冬也とネギの二人に隙が無いために動けない

 

しかも、そのタイミングで

 

「見つけた!」

 

「もう、逃がさない!」

 

フェイトとなのはが到着

 

僅かに遅れて、はやて、ヴィータ、当麻の三人がトーレの頭上を抑え

 

楓、明日菜、刹那の三人が後ろに着地

 

フォワード陣が包囲するように布陣した

 

この状況は、如何にトーレとは言えども完全に積みの状態だった

 

彼女はスカリエッティのメンバーの中では、かなり戦闘力が高いほうである

 

しかし、いくら彼女でもこの人数相手は分が悪かった

 

「皆さん、今の内に気絶している人の捕縛を」

 

「了解」

 

ネギの頼みを聞いて、気絶していたディエチをティアナがバインドで拘束した

 

その前にスバルが陣取り、なのはがクワットロへ、フェイトがトーレへと近づいた

 

まさにその時だった

 

「ふむ……念の為に残って正解だったな……」

 

という、男の声が聞こえた

 

それと同時にフェイトの足下の影から、まるで水の中から出てくるように黒いマントを纏った人物が現れた

 

しかも現れると同時に、影がまるで刃のように鋭くなりフェイトに伸びた

 

だが、瞬時に冬也がフェイトを突き飛ばしたことにより、フェイトは難を逃れた

 

だが彼女の視界に入ったのは、影により左腕が肩から斬り飛ばされ血が吹き出している冬也の姿

 

しかも、その冬也に対して更に現れた人物が蹴りを放ち、冬也はまるで砲弾のように吹き飛ばされて、廃ビルを三つほど突き抜けて、瓦礫の中に埋まった

 

「冬也さん!?」

 

あまりの光景にフェイトは冬也を助けようとしたが、それをネギが遮った

 

「フェイトさん、動かないでください!」

 

ネギの叫ぶような声で、フェイトは気づいた

 

周囲をいつの間にか、黒いマントを被った人物達が包囲していることに

 

しかも、フェイトは雰囲気で分かった

 

(この人達……冬也さんと同じくらい強い!)

 

故に、少しの隙が命取りとなる

 

(冬也さん……っ!)

 

フェイトは視線のみで、冬也が吹き飛ばされた方向を見た

 

だが、冬也が出てくる様子はなかった



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動き出す勢力 その3

ここでも、オリジナル展開です


フェイト達は、周囲に現れた人物達を見て固まっていた

 

全員、頭のてっぺんから足先まで黒いマントで覆われているので顔まではわからない

 

だが、全員が並大抵の実力ではないのはすぐに察した

 

声を聞くまで近付かれていることに気付かせず、冬也の左腕を斬り飛ばし、あまつさえ、ただの蹴りで人間を砲弾のように飛ばした

 

何より、全員から発せられている威圧感(プレッシャー)がハンパではない

 

少しでも気を抜いたら、一撃で殺される

 

そういう確信が、なのは達にはあった

 

すると、トーレの隣に新たに一人現れて

 

「今の内に、引け」

 

とトーレに告げた

 

声から察するに、年老いた男だろう

 

「……わかった。ディエチを回収してくれるか?」

 

トーレがそう言うと、その男は捕まっているディエチを一瞥して

 

「捕まるようなグズは知らん……」

 

と拒否した

 

「貴様っ!」

 

男の言葉を聞いて、トーレは激昂して男を睨んだ

 

男は、そんなトーレの怒気をサラリと受け流し

 

「簡単に捕まるような奴、我々の計画には不要だ……邪魔になるし、ああなっては簡単に取り返せん」

 

と言った

 

男の言葉を聞いて、トーレは唇を噛んで数秒間黙ると

 

「……わかった……ディエチは諦める」

 

と言うと、クアットロに肩を貸して立たせて姿を消した

 

男はそれを見送ると、なのは達を見回した

 

そして、近くに居たヴィータに気づいて

 

「貴様……闇の書の守護騎士の一人! 鉄槌の騎士か!?」

 

と声を張り上げた

 

男の言った《闇の書》という言葉を聞いて、ヴィータは目を見開いた

 

(こいつ、もしかして!?)

 

ヴィータがそう思っている間に、男は近くのビルの屋上に居たシグナムを見つけて

 

「そちらは、烈火の将か!」

 

と叫んだ

 

そして最後に、はやてが持っている夜天の書を見つけ出した

 

「ああ……なんという僥倖! 我が五十年の悲願……ようやく叶う!」

 

男はそう言うと、はやてを睨み

 

「我が一族を滅ぼした恨み……ここで晴らすぞ闇の書!」

 

と声高に宣言した

 

そして、男の言葉を聞いて、はやて達は固まった

 

目の前に居る男は、闇の書によって人生を歪められた人間の一人なのだと

 

そう思っただけで、息が詰まった

 

その時だった

 

冬也が埋まっていた瓦礫の山が吹き飛び、冬也が高速で飛び出してきた

 

「ロンドオオォォォ!」

 

冬也は叫ぶように男の名前を呼びながら、男に突撃した

 

その声から感じたのは、激しい憎しみ

 

(あの冬也さんが、感情を露わに!? それに、ロンド!?)

 

その名前は、夜叉が教えてくれた冬也達の人生を歪めた男の名

 

冬也が振るった刀は、男、ロンドの前に滑り込んできた人物によって防がれ、冬也はカウンターを叩き込まれて吹き飛んだ

 

しかし冬也は空中で体勢を立て直すと、フェイトの隣に着地した

 

「冬也さん……」

 

フェイトが心配そうに声を掛けるが、冬也は反応せずに持っていた刀を地面に突き刺し、ある方向に右手を伸ばした

 

その直後、右掌に斬り飛ばされた左腕が冬也の右手に収まった

 

冬也はその左腕を、無造作に切断面にくっつけた

 

その直後、くっつけた部分が光り輝きすぐに収まった

 

光りが収まったのを確認すると、冬也は右手を離した

 

すると、左腕はくっついており、冬也は確認の為か軽く左腕を回したり握ったりした

 

そして問題ないのを確認したのか、冬也は左腕を上に伸ばした

 

すると、もう一本の刀がどこからか飛んできた

 

冬也はそれを掴むと、地面に突き刺していた刀を抜いて構えた

 

「ロンド……」

 

「久しいな……傲慢(スペルビア)

 

冬也とロンドは互いの名前を呼びながら、互いを睨んだ

 

「十数年近くに渡って、貴様を殺すことだけを願ってきたよ……」

 

「やはり、貴様は駄作だな……貴様にその体と能力を与えたのは、我だと忘れたか? 親不幸者め」

 

冬也に対して、ロンドは吐き捨てるように告げた

 

「貴様が親など、まっぴら御免だ……それに、貴様を許せない理由が増えた」

 

冬也がそう言った直後、冬也の右腕が霞んだ

 

その直後、冬也を蹴飛ばした人物のマントが切り刻まれて、その人物の姿が現れた

 

鍛え上げられた肉体に、腰辺りまで伸びている黒髪

 

そして何より、特徴的な中国の民族衣装のようなバリアジャケットと顔を覆っている機械のマスク

 

その姿を見て、冬也が

 

「やはり、(ワン)か……」

 

と呟いた

 

「王さん……?」

 

その名前を、フェイトは知っていた

 

以前に写真で見た冬也の仲間の一人

 

だが、冬也は死んだと言っていた筈……

 

「貴様……一体、何回俺達を弄べば気が済むんだ!!」

 

冬也は叫びながら、左手の刀を突きつけた

 

「死体まで使うなど、大概にしろ貴様!」

 

と怒鳴った

 

冬也の言葉を聞いて、フェイト達は息を呑んだ

 

つまり、自分達を囲んでいる六人は死んだ冬也の仲間達

 

それを、ロンドが何らかの方法で操っているということ

 

「クックック……むしろ、誇りに思ってほしいね……死してなお、我の役に立てるのだからな!」

 

「貴様……っ!」

 

ロンドの言葉に冬也が拳を握り締めていると、ロンドは嘲るように

 

「しかし、いいのかな……隊長ががら空きだぞ!」

 

「なに!?」

 

ロンドの言葉に冬也は驚愕し、フェイトは気付いた

 

最初に影の中から現れた敵が、その姿を消していた

 

そして先ほど、ロンドは何て言っていた?

 

フェイトが顔をはやての方に向けると、その敵がはやての背後に現れていた

 

しかも、既に影を放とうとしていた

 

それに気づいて、ヴィータとシグナムが動こうとしたが、間に合わない

 

影がはやての胸部を穿とうとした、まさにその時

 

ガラスが砕けるような音が、その場に響き渡り、影が砕けた

 

影を砕いたのはもちろん、はやての護衛役の当麻だった

 

当麻は右手で影を壊すと、左手で影使いを殴り飛ばした

 

そして、右手を握り締めながら

 

「ロンド……お前に何があって、どんな思いで生きてきたのかは知らねえ……だけどな……神代達の人生をメチャクチャにして、はやての思いを否定して、何も思わないってんなら……お前のその、ふざけた幻想をぶち殺す!」

 

と大声で宣言した

 

当麻の言葉を聞いて、ロンドは額に手を当てながら

 

「ククク……何も知らないくせに、喚くな……貴様らを殺したいが、あ奴からの依頼は達成した……」

 

ロンドがそう言っている間に、いつの間にか六人全員がロンドの近くに集まっていた

 

「逃げるのか?」

 

「今はまだ、時ではない……時が来たら、戦ってやる……」

 

ロンドが言い終わった直後、七人を影が覆い尽くして消えた

 

「……シャーリー、追える?」

 

なのはが問い掛けると、通信画面が開いてシャーリーが残念そうにしながら

 

『ダメです……一瞬にして、反応をロストしてしまいました……』

 

と言った

 

それを聞いて、ネギが

 

「あれは恐らく、影を使った転移魔法かと思います……相手の技量がかなり高いので、魔力の漏れもなかったですし……」

 

と告げた

 

すると、はやてが気を持ち直して

 

「相手を逃がしたんは痛いなぁ……」

 

と呟き、それに便乗して

 

「ごめん、はやて……レリックも奪われた……」

 

と呟いた

 

すると、ティアナが手を上げて

 

「それなんですが……実は、私達で少しばかり策を練りまして」

 

と言いながら、キャロを手招きした

 

キャロはティアナの隣に来ると、被っていた帽子を脱いで

 

そこには、一輪の花が付いたカチューシャがあった

 

それを見てはやてが首を傾げていると、ティアナが指をパチンと鳴らした

 

その直後、花付きカチューシャはレリックへと変わった

 

「確かに、レリックケースは本物です」

 

「でも、敵に奪われた時のことを考えて、中身を取り出してレリックに直接厳重封印を掛けてから、敵と直接交戦する機会の少ないキャロの帽子の中に隠したんです」

 

スバルとティアナが続けて説明すると、はやては親指をグッと立てながら

 

「フォワード陣、ナイス判断や!」

 

と賞賛した

 

「それに、敵を一人捕縛したのは大きいですね」

 

武はそう言いながら、バインドで拘束しているディエチを見た

 

そして、なのは達は視線を冬也に向けた

 

冬也はロンド達が逃げてから、一言も喋っていない

 

だが、その背中から溢れんばかりに怒気を感じた

 

そんな冬也を、なのは達は初めて見た

 

冬也は常に冷静で、感情を表情に出さなかった

 

その冬也が、初めて怒りを露わにしてロンドに切りかかった

 

更に、ロンドが呼んだ《傲慢》という言葉

 

その事を冬也に聞くべきか、なのは達は悩んでいた

 

すると、フェイトが冬也に近づいて

 

「冬也さん……全て、聞かせてくれますか?」

 

と問い掛けた

 

フェイトが問い掛けると、冬也は深く深呼吸をしてから

 

「本当なら、俺だけで片を付けようと思っていたのだが……そうも言ってられなくなったな……」

 

と言ってから、全員を見回してから

 

「全て話そう……俺の……いや、俺達のことを……」

 

と言った



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英雄はかく語りき

多分、これが今年最後の更新かな?
もしかしたら、もう一作更新するかもですが
皆さん、よいお年を!


交戦した翌日

 

機動六課の主要メンバーは、とある会議室に集まっていた

 

集まった理由はもちろん、冬也からの話である

 

その冬也は、先の戦闘で左腕を斬られるという負傷を負ったが、シャマルの診察で多少の貧血はあるものの大丈夫という結果だった

 

そして、捕まえたスカリエッティの仲間

 

ディエチは能力封じの手錠を嵌めて、武装を取り上げた上で牢屋に当たる部屋に閉じ込めた

 

保護した少女は聖王教会系列の病院に搬送

 

現在も目覚めてないらしい

 

閑話休題

 

全員が静かに待っていると、ドアが開いてはやてと冬也が入ってきた

 

はやての姿を見て、全員姿勢を正して敬礼した

 

「固くならんでな、休んで」

 

というはやての言葉に、全員は素直に従った

 

そして、はやてと冬也の二人は揃ってモニター前に立った

 

「みんな、昨日はお疲れ様や。レリックの確保と女の子の保護。並びに、犯人一味の捕縛は大戦果や」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「けど、気を抜いたらあかんよ? まだ、スカリエッティの企みはよう分からんのや。最後まで気を引き締めていこう!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

全員の返事に満足したのか、はやては笑みを浮かべながら頷くと冬也へと視線を向けて

 

「それで、話してくれるんよね。冬也さん?」

 

と問い掛けた

 

問い掛けられた冬也は、それまで閉じていた目をゆっくりと開いて

 

「ああ……話そう」

 

と言うと、大きく深呼吸をした

 

「俺は正確には人ではなく、人型生態兵器……開発コード七大罪の一体、傲慢(スペルビア)だ」

 

冬也のその言葉に、ほとんどの者が息を呑んだ

 

「人型生態兵器……」

 

「つまり、戦うための兵器ってことなんですか……?」

 

エリオとキャロのその言葉に、冬也は頷いた

 

「そうだ……正確に言うと、人を殺すためだけに人間をベースに開発されたんだ」

 

「人を殺すためだけに……?」

 

「あの、ロンドって奴の狙いはなんなんや?」

 

なのはは呆然と呟き、はやては指揮官として努めて冷静に問い掛けた

 

「……ロンドの目的は……人類の抹殺」

 

冬也のその言葉に、ほとんどのメンバーが目を見開いて固まった

 

「奴になにがあったのはか、分からん……だが、奴は人類を滅ぼすために俺達を作った」

 

冬也がそう言ったタイミングで、夜叉がある一枚の写真を投影した

 

「開発コード七大罪……奴が作った人型生態兵器の中でも,選りすぐりの七体をそう呼んだ」

 

冬也はそう言いながら、夜叉が映し出した写真に視線を向けた

 

「この七人が……?」

 

ティアナが問い掛けると、冬也は頷き

 

「右から憤怒(イラ)王伊建(ワンイーキン)色欲(ルクスリア)のノエル・ミラー、嫉妬(インウィディア)のクレア・ミラー、真ん中の傲慢(スペルビア)の俺、暴食(グラ)のカイト・マッケンジー、怠惰(アケディア)のアラン・スペイサー、強欲(アワリティア)のアレクサンドラ・ノワルスキー……今、生き残っているのは俺だけだがな」

 

冬也はそう言うと、目を閉じた

 

すると、スバルが手を挙げて

 

「あの、生き残っているのは冬也隊長だけって、どういう……」

 

と言うと、冬也は薄く目を開いて

 

「この世界に来る直前、俺達はロンド率いる組織と戦争をしていてな……その戦争の最中、俺を除く六人は戦場で散った……」

 

と語った

 

「そして俺はロンドと戦い、ロンドの放った極大魔法を切り裂いたら強い光が起きて、気が付いたらこの世界に居た」

 

冬也の話を聞いて、はやては納得した様子で

 

「なるほど……それが次元震の原因なんやね……」

 

と呟いた

 

しかし、はやての呟きを無視して冬也は

 

「俺の目的は……ロンドを殺すこと……」

 

と言った

 

その言葉に、全員の視線が冬也に集まった

 

「俺達はその為だけに、戦い続けた……俺達みたいな存在を、二度と産み出さないために……十二年間、俺達だけでな……」

 

そう語っている冬也は、まるでどこか泣いてるように見えた

 

表情は何時もと同じなのに、フェイトには泣き崩れているように見えた

 

「だから、ここから先は俺の戦いだ。あいつらとは、俺だけで戦う」

 

冬也のその言葉に、全員は動揺した

 

「ムチャや! 相手は七人居るんやで!?」

 

「そんなの、大した差ではない。俺達は四十万の敵とも戦ったことがある」

 

はやての言葉に、冬也は冷静に返した

 

その数を聞いて、はやて達は息を呑んだ

 

あまりにも、数の差が激し過ぎる

 

四十万の敵に対して、たった七人で挑んだというのは前代未聞だった

 

「もし、戦場で俺を見つけたら、敵と判断しても構わない」

 

冬也はそう言うと、部屋から出ようとした

 

だが、その冬也の手をフェイトが掴んだ

 

「フェイト……?」

 

冬也が訝しむように目を向けると、フェイトは俯いたまま

 

「……ました」

 

何か呟いた

 

「なに?」

 

「私、知ってました」

 

「なんだと?」

 

フェイトの言葉の意味が分からず、冬也は眉をひそめた

 

「私……冬也さんが生態兵器だって、知ってました……」

 

フェイトの言葉を聞いて、冬也は目を見開いた

 

「なぜ、フェイトが知って……まさか、夜叉?」

 

冬也は自分の手首の夜叉へと、視線を向けた

 

〈私は、マイスター雪音様の意志を継いだまでです〉

 

夜叉がそう言うと、夜叉が光り輝いて次の瞬間には女の子の姿へと変わった

 

「お、女の子……?」

 

「夜叉って、インテリジェントだったよね……?」

 

少女姿の夜叉を見て、アルトとシャーリーは驚いていた

 

「皆さん、改めてはじめまして。私は主神代冬也のデバイスの夜叉です」

 

夜叉は全員を見渡すと、スカートをちょこんと摘みながら挨拶した

 

「あ、どうも……」

 

「うわぁ……凄い自然」

 

スバルは驚きながらも挨拶し返して、ティアナは驚きで固まっていた

 

「その見た目は、一体……?」

 

「夜叉さんの姿なんですか?」

 

エリオとキャロが問い掛けると、夜叉は自身を指差しながら

 

「この姿は私のマイスター、田原雪音様の姿です。マイスター雪音様の思考と姿が私の人型形態のベースです」

 

と説明した

 

「もしかして、私が解析出来なかった機能の一つ……?」

 

シャーリーがそう呟いていると、夜叉は頷いて

 

「すいませんが、アクセスを制限させてもらいました」

 

と言った

 

「本来は、私を含めて七機存在したんですが、今現在は私だけです」

 

夜叉のその言葉を聞いて、なのはが

 

「七機って、もしかして……」

 

と呟きながら、写真に目を向けた

 

「ええ……彼ら全員のデバイスもそうです。私、夜叉にメデューサ、金剛、イグニス、ビスマルク、マルーシャ、ソニック……皆、マイスター雪音様が開発した傑作機です」

 

夜叉はそう言うと、目を閉じた

 

「あの、その開発者さんは……?」

 

シャーリーが気になったのか、手を上げて問い掛けた

 

「マイスター雪音様は……今から七年前に亡くなりました……」

 

「俺の目の前でな……俺達が弱かったから、守れなかった……」

 

夜叉に続いて冬也がそう言うと、スバル達は息を呑んだ

 

「それに関してですが、マイスター雪音様はご自身の死を予見してました」

 

「……なに?」

 

夜叉のその言葉に、冬也は眉をひそめた

 

「マイスター雪音様の希少技能(レアスキル)……それが、予知夢です……マイスター雪音様は予知夢でご自身の死を見てました……そして、それを気にして主達が死に場所へ自ら立つことも予見してました……だから、私に伝言と願いを託しました」

 

「なに? 伝言と願いだと?」

 

夜叉の言葉を聞いて、冬也は驚いていた

 

雪音から伝言と願いが有ることを、知らなかったようだ

 

「ええ……その条件も、揃いました……今から見せましょう」

 

夜叉はそう言うと、両手を掲げた

 

すると、部屋の中心に画面が開き、夜叉と同じ顔の少女が映し出された

 

こうして、一人の少女の願いが語られる



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少女の願い

『えっと……もう録画始まってる?』

 

『はい、始まってますよ。マイスター雪音様』

 

同じ声だったが、後者は夜叉のようだ

 

『わかった。それじゃあ、んんっ……』

 

雪音は咳払いすると、姿勢を正して

 

『ふー君、久しぶり。これを見てるってことは、私は死んでるよね?』

 

と語り出した

 

「ふー君って?」

 

「雪音が付けた俺の呼び方だ。冬也の冬からだそうだ」

 

フェイトからの問い掛けに、冬也はそう返した

 

『しかも、まだ戦場に残ってて、戦う決意も揺るがない。そして、ふー君の隣に立つ人が現れたってことだよね?』

 

語っている雪音は微笑んでおり、自分が死ぬことを恐れている様子はなかった

 

『だから、その人にお願いします。私の代わりに、ふー君を支えてあげてください。ふー君は本当は優しい子なの……ただ、少し不器用なだけ……』

 

雪音はそう言うと、胸元で両手を組んだ

 

『ふー君は……ううん、ふー君達は生まれて直ぐに誘拐されて、体を改造されて、人殺しの方法しか教えられなかったの……しかも、自分の親を殺させて、自我を壊させようとまでした……だけど、ふー君達七人はそれに耐えた……拘束具で肉体の自由を奪われてガラス一枚隔てた状態で戦わされた……』

 

話し始めた雪音は泣いていた

 

まるで、自分のことを語るように

 

『ふー君は……助けられた際に従兄に当たる人も殺しちゃって……でも、その人が命懸けでふー君の拘束具を破壊した……ふー君の名前は、その人の名前を受け継いだ名前なの……だから、ある意味ではふー君の名前じゃない……だけど、今はふー君の名前……ふー君はその人と約束したの……誰かを守る存在になるって……』

 

雪音は涙を拭うと、訥々と語り出した

 

『ふー君はその約束を守るために、保護されてすぐに自ら戦場に立ったの……けど、そんなふー君に対して掛けられたのは罵倒だけ……誰もふー君を人と認めなかったの……化け物と、兵器と罵って……』

 

雪音の話を全員は無言で聞いていた

 

まるで、我が事のように

 

『それでもふー君は諦めずに、戦場に立ち続けた……どんなに傷ついても、どんなに罵られても、約束を守るためにって立ち続けた……』

 

そこまで言うと、雪音は再び泣き始めた

 

『だからお願いします……ふー君を一人にしないでください……そうしたら、戦場で死ぬのが見えるから……私にはお願いすることしか出来ませんが……どうか、お願いします……』

 

雪音が頭を下げた所で、映像は終わった

 

「……以上です」

 

夜叉はそう言うと、両手を下ろした

 

映像が終わったが、誰も喋らなかった

 

すると、はやてが冬也に近づいて

 

「冬也はん……一つ聞かせてもらうな……今の話は全部、本当か?」

 

と問い掛けた

 

問い掛けられた冬也はしばらく無言だったが、ゆっくりと目を開き

 

「ああ……本当だよ」

 

と肯定した

 

すると、はやては拳を握り締めて

 

「家族を殺させて……冬也はん達を操って人殺しをさせた……? とんだ外道やな、ロンドって男は……っ!」

 

と憤りを露わにした

 

そして気付けば、キャロやエリオは泣いており、ヴィータに至っては

 

「ふざけんなよ……そんな奴……すぐに捕まえてやる!」

 

と心の底から怒っていた

 

そんな中、フェイトは冬也にゆっくりと近づいて

 

「冬也さん……これでもまだ、一人で戦いますか?」

 

と問い掛けた

 

冬也はしばらく無言だったが、すると

 

「………ここで断ったら、雪音の思いを無駄にすることになるな……」

 

と言い、はやてに対して

 

「先の言葉、撤回する……共に戦ってくれるか?」

 

と問い掛けた

 

するとはやては、決意のこもった表情で

 

「当たり前や! あんな外道、ほっとける訳がない!」

 

と断言した

 

そして、はやてはメンバーを見渡して

 

「皆もええな? 絶対に、ロンドを捕まえて野望を阻止するんや!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

はやての号令を聞いて、その場の全員は力強く頷いた

 

はやては全員が頷いたのを確認すると、冬也に顔を向けて

 

「冬也はん……他の六人はどういう能力とバトルスタイルなんや?」

 

と問い掛けた

 

すると冬也は、表示されている写真を見ながら

 

「まず、王の能力は近接格闘特化型でな。肉体を鋼並の硬さに硬化出来る」

 

と説明を始めた

 

王というのは、冬也の隣に立っている長い黒髪が特徴の男だった

 

格闘家らしく、鍛え上げられた肉体が服の上からでもわかった

 

「サーシャは高機動特化型で、能力は風を操ることだ」

 

と次に指し示したのは、王の隣に立っている肩で切りそろえられた銀髪が特徴の女性だった

 

防具は最低限で、両手と両足に手甲と脚甲を付けているだけ

 

「アランは魔法戦特化型で、能力は影の操作」次に指し示したのは、王とは反対側に立っている男だった

 

如何にも魔法使い然としていて、長い杖を持っている

 

「ノエルとクレアは特殊能力型でな。ノエルは音。クレアは反射を使う」

 

と指し示したのは、右側に並んだ双子の女性だった

 

双子らしく顔つきはよく似ているが、髪の色が片や金髪でもう片方は茶髪だった

 

「カイトは遠距離戦闘を得意としていて、能力は魔力吸収だ」

 

と指し示したのは、金髪の男性だった

 

背丈や肉体的には普通だが、背中に背負っているライフル型の武器が特徴的だった

 

「以上が、俺以外の六人の能力だな」

 

冬也はそう言うと、全員を見回してから

 

「何か、質問はあるか?」

 

と問い掛けた

 

すると、なのはが右手を上げながら

 

「魔力吸収って、どういう能力?」

 

と問い掛けた

 

冬也は頷くと

 

「敵からの魔力砲撃や魔力弾なんかを直接吸収する能力でな、有効なのは直接打撃くらいだ」

 

と説明した

 

冬也の説明を聞いて、ほとんどのメンバーは驚愕した

 

なにせ、その能力は事実上の魔導師封じだからだ

 

だが、そんな中でネギ達は冷静だった

 

「ふむ……魔力は通じないアルか……」

 

「だったら、気は通じないんですか?」

 

古菲が唸っていると、刹那が右手を上げながら問い掛けた

 

「どうだろうな……気の使い手が居なかったから、わからんな」

 

刹那からの問い掛けに、冬也は首を捻った

 

「そこらへんは、実地でデータを得るしかないかと」

 

「ですね」

 

茶々丸の言葉にネギは頷いた

 

「とりあえず、俺から言えるのは、こいつらは並大抵の実力者では勝てないということだ……なにせ、俺達は全員がオーバーSランクだ」

 

と冬也が告げると、はやて達は息を呑んだ

 

七人全員がオーバーSランク

 

もはや、それだけで戦争すら可能とも言える戦力である

 

だが、全員は表情を改めて

 

「私達全員が揃えば」

 

「勝てない理由はありません!」

 

「全力全開で!」

 

「挑むだけです!」

「だって、俺達は」

 

「チームなのだから!」

 

フォワード陣の六人が続けて言うと、冬也以外の隊長陣も頷いた

 

「一応後で、俺が持っていり六人のデータを提出する」

 

冬也がそう言うと、はやては頷いてから

 

「お願いな……それじゃあ、今日はここまでや。解散!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

はやての宣言の後、メンバーは解散した

 

それから少しして、海が見える高台

 

そこに、冬也は居た

 

冬也の腕にも近くにも夜叉の姿は無く、冬也は一人だった

 

すると、靴音が近づいてきた

 

冬也は振り向くことなく

 

「フェイトか……どうした」

 

と言った

 

すると、近づいてきた人物

 

フェイトは冬也の隣に立ち

 

「冬也さん……正直に答えてください」

 

と言うと、少し間を置いてから

 

「あの人達……六人の人達を助けたいんですか?」

 

と問い掛けた

 

すると冬也は、フッと笑ってから

 

「あいつらは既に、死んだ存在だ……助けることは不可能だよ……だからせめて、眠らせてやりたいんだ……これ以上、戦う必要は……あいつらには無いんだ……」

 

「冬也さん……」

 

冬也の話を聞いて、フェイトは悲しそうな表情をした

 

恐らくだが、本来は助けたいだろう

 

だが、死んだ存在はどんな手を使おうとも蘇ることはない

 

だからせめてもの情けで、安らかに眠らせてやりたいのだ

 

それがせめてもの、同じ存在として出来る唯一の供養なのだから……



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少女の名前は

短いです


翌日、なのははシグナムが運転する車に乗っていた

 

「すいません、シグナムさん。わざわざ運転してもらって……」

 

「構わん。車は主はやての車だしな」

 

なのはが感謝していると、シグナムは運転しながらそう言った

 

すると、後部座席から

 

「あのさ……一つ質問があるんだけど?」

 

と、ユーノの声が聞こえた

 

「なんだ、スクライア?」

 

「なんで僕はこんな扱いなのかな!?」

 

シグナムが問い掛けると、ユーノはジタバタと暴れながら抗議した

 

しかし、抗議するのも仕方ないだろう

 

なにせ、ユーノは今現在、バインドでグルグル巻きに縛られた状態で後部座席に転がっているのだから

 

ちなみに、縛っているバインドの色はオレンジ色を中心に白と若草色だった

 

それから見るに、アルフとはやてとシャマル辺りが犯人だろう

 

「なんか、朝起きたら六課に居るし、気づいたらバインドで縛られてたし、しかもそのまま車に放り込まれたよね!?」

 

ユーノがまくしたてると、なのはは苦笑いを浮かべた

 

なんせ、彼女は友人達の手際の良さに驚くと同時に管理局員として悩んだからだ

 

確かに、愛しの彼氏と居れるのは嬉しい

 

だが、管理局員としては無限書庫司書長を拉致していいのかな?

 

と、悩んだのだ

 

ちなみに、今彼女達が向かっているのは聖王教会系列の病院である

 

理由は今朝方に教会から、あの女の子が目覚めた

 

という連絡を受けたからだ

 

その時、通信画面が開いて聖王教会騎士団に所属しているシスター・シャッハの姿が映った

 

「はい」

 

『すいません! こちらのミスで、あの女の子を見失いました!』

 

シスター・シャッハの報告を聞いて、シグナムは軽く目を見張ると真剣な表情を浮かべて

 

「わかりました。急行します」

 

と言うと、車の屋根の上にパトライトを出現させて車を一気に加速させた

 

そして十数分後、三人が乗った車は件の病院に到着した

 

すると、病院の玄関付近に居たシスター・シャッハが駆け寄ってきて

 

「申し訳ありません! こちらの不手際で、対象を見失いました!」

 

と勢いよく頭を下げた

 

「お気になさらず。して、状況は?」

 

シグナムが問い掛けると、シスター・シャッハは病院を見上げながら

 

「一般病棟に居た患者達の避難は完了し、隔離病棟の封鎖も完了しました。それに魔法の発動も確認されなかったので、まだ中に居る筈です」

 

と答えた

 

それを聞いて、なのはが

 

「それでは、私達が中庭を探しますので、シャッハさん達は内部を探してください」

 

と言った

 

「はい、わかりました!」

 

なのはの言葉を聞いて、シャッハは病院内に駆け込んでいった

 

それを三人は見送ると、中庭へと向かった

 

そして探していると、ユーノとなのはの近くの草村からあの女の子が姿を表した

 

女の子はなのはとユーノを見ると、怯えた様子で後退りした

 

その時だった

 

「逆巻け! ヴィンデルシャフト!」

 

という声が聞こえて、二人の頭上を一陣の風が駆け抜けて、女の子の前に着地して現れたのはシスター・シャッハだった

 

彼女はデバイスであるヴィンデルシャフトを展開しており、両手には武器である双剣を構えている

 

女の子はシャッハに怯えて、尻餅を突いた

 

シスター・シャッハはその女の子に対して、油断なくヴィンデルシャフトを構えながら

 

「お二人とも、離れてください!」

 

と言った

 

シスター・シャッハが怖いのか、女の子は涙を滲ませてシスター・シャッハから離れようとした

 

それに気づいて、なのはがシスター・シャッハの肩に手を置いて

 

「待ってください、シスター・シャッハ。怯えてるじゃないですか」

 

「ですが、あの女の子は危険かもしれないんですよ?」

 

なのはの言葉にシスター・シャッハが抗議していると、次にユーノがシスター・シャッハに歩み寄って

 

「だからと言って、怖がらせても意味はありません。僕達に任せてください」

 

と言った

 

数秒すると、シスター・シャッハはヴィンデルシャフトを下ろして

 

「わかりました……」

 

と言って、下がった

 

それを確認すると、なのはとユーノはゆっくりと女の子に歩み寄って

 

「ごめんね、怖がらせて」

 

「いきなり居なくなって、探してたんだよ」

 

と優しく語りかけた

 

そして、なのはが女の子を立ち上がらせてから砂を叩いて落としていると

 

「ママとパパ……居ないの」

 

と呟くように女の子は言った

 

「そっか……それは大変だね」

 

「だったら、僕達も一緒に探してあげるよ」

 

二人はそう言いながら、シスター・シャッハに念話を開始した

 

《シスター・シャッハ、この子のことは私達に任せてください》

 

《どうやら、両親が居ないから不安になって探していたみたいですね》

 

《そうですか……わかりました》

 

シスター・シャッハはそう返答すると、デバイスを収納して下がった

 

その間に、ユーノはなのはが途中で買ったぬいぐるみを使って女の子を慰めていた

 

そして、女の子が泣き止んだのを確認すると

 

「僕の名前はユーノ・スクライア。彼女は高町なのはって言うんだ。君の名前は?」

 

と名乗ってから、女の子に名前を聞いた

 

すると、女の子はぬいぐるみを抱き締めながら

 

「……ヴィヴィオ」

 

と呟くように名乗った

 

「そっか……うん、可愛い名前だね」

 

なのはが誉めると女の子、ヴィヴィオはようやく笑みを浮かべたのだった

 

それからなのははシグナムに連絡を取り、数分後に合流

 

ヴィヴィオの検査が終わるまで、待っていた

 

検査が終わると、ヴィヴィオは疲れたのかあてがわれた病室で眠った

 

眠っているヴィヴィオを見ながら、なのはは頭を優しく撫でていた

 

すると、ヴィヴィオは目尻に涙を滲ませながら

 

「ママ……パパ……」

 

と呟いた

 

ヴィヴィオの寝言を聞いて、なのははヴィヴィオの頭を優しく撫でながら

 

「ママはここに居るよ……」

 

と優しく語りかけた

 

すると、それまで黙って見ていたユーノはそんななのはを優しく抱き締めた

 

そして、なのははヴィヴィオを機動六課で預かることを決めたのだった



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呼び出し

なのはが病院に行った二日後

 

「えっと、今日はこれから聖王教会に行くんだよね?」

 

とフェイトが問い掛けると、はやては頷いて

 

「せや、機動六課のことで大事な話があるからな。それと、カリムから冬也さんやネギ君達を連れてきてって頼まれとるし」

 

と答えた

 

はやての言葉を聞いて、フェイトは頷いてから

 

「そういえば、なのはは帰ってきてるかな?」

 

と首を傾げた

 

フェイトがそう言った理由は、なのははヴィヴィオを迎えに聖王教会系列の病院に行ったからである

 

フェイトの疑問を聞いて、はやては時計を見ると

 

「時間的には、帰ってきてるはずや」

 

と言った

 

「それじゃあ、部屋かな……」

 

フェイトはそう言うと、通信画面を開いて部屋に繋いだ

 

その直後

 

『アアアアァァァァ! 行っちゃやだァァァ!!』

 

という、盛大な泣き声が響き渡った

 

予想外の事態に、フェイトとはやて、更には近くに居た冬也も固まった

 

ヴィヴィオの泣き声に隠れるように、なのはやスバル達の慰める声が聞こえてくる

 

「えっと……何事?」

 

フェイトが苦笑いを浮かべながら声を掛けると、なのはは通信画面に気づいて

 

『実は……』

 

と説明を始めた

 

要約すると、ヴィヴィオを連れて帰ってきた後、なのははヴィヴィオに出かけることを告げた

 

すると、ヴィヴィオは大泣きしながらなのはにしがみついて離れない

 

ということだった

 

それを聞いて、三人は途中でネギと木乃香の二人を伴って部屋へと向かった

 

「なのはちゃんでも、勝てない存在が居るんやねぇ」

 

部屋に到着して、正確な状況を把握したはやては苦笑いしながらそう言った

 

《お願い、助けて……》

 

どうしていいか分からないらしく、なのはは助けを求めた

 

すると、フェイトが歩み寄って落ちていたウサギのぬいぐるみを拾い上げて

 

「こんにちは♪」

 

と語り掛けた

 

「ふぇ……?」

 

ヴィヴィオは泣き止むと、フェイトに視線を向けた

 

すると、フェイトがヴィヴィオに語り掛けるがその様子は手慣れていた

 

《フェイトさん……手慣れてるわね……》

 

《もう、熟練の域だよ……》

 

ティアナの言葉にスバルが同意を示すと、エリオとキャロが

 

《フェイトさん、地球の方の御実家でカレルちゃんとリエラちゃんの面倒を見てますし……》

 

《なにより、アルフを小さい頃から面倒見てますから……》

 

と説明した

 

すると、ティアナが納得した様子で

 

《ああ……それに、あんた達の面倒も見てたしね》

 

と言うと、二人は恥ずかしそうに俯いた

 

そんな二人を見て、武が二人の肩に手を置いた

 

それから数分後、フェイトはヴィヴィオの説得に成功し、隊長三人と武、冥夜、ネギ、当麻の七人はヴァイスが操縦するヘリに乗っていた

 

「そういえば、俺達はカリムという人をよく知らんのだが、どういう人物だ?」

 

冬也がそう問い掛けると、はやては顎に人差し指を当てて

 

「そうやね……一言で言うなら、私のお姉ちゃんみたいな存在やな」

 

と説明した

 

そして、小一時間後、機動六課メンバーはベルカ自治区聖王教会のとある一室に到着した

 

その部屋には既に、カリムの他にフェイトの兄

 

クロノ・ハラオウンの姿もあった

 

機動六課メンバーが入ると、カリムが立ち上がり

 

「ようこそ、私は聖王教会騎士のカリム・グラシアと言います」

 

と名乗った

 

「俺は機動六課民間協力者の神代冬也だ」

 

「同じく、民間協力者のネギ・スプリングフィールドです」

 

「同じく、白銀武です」

 

「御剣冥夜です」

 

「上条当麻だ」

 

冬也が自己紹介すると、冬也に続いて協力者組は自己紹介をした

 

協力者組の自己紹介を聞くと、カリムは頷いてから

 

「はじめまして……今回は突然お呼びして、申し訳ありません。大事な話がありまして……こちらへ座ってください」

 

と言いながら、長机を示した

 

全員が長机に座ると、クロノが軽く会釈しながら

 

「僕は時空管理局次元航行艦隊提督のクロノ・ハラオウンだ」

 

と名乗った

 

クロノの名前を聞いて、冬也が首を傾げて

 

「ハラオウンとはもしや、フェイトの?」

 

と問い掛けた

 

すると、クロノは頷いて

 

「ああ、フェイトは僕の妹だ」

 

と言った

 

すると、フェイトが敬礼しながら

 

「お久しぶりです。クロノ・ハラオウン提督」

 

と挨拶すると、クロノも敬礼しながら

 

「そちらも、久しぶりだな。テスタロッサ・ハラオウン執務官」

 

と返礼した

 

すると、カリムがクスリと笑い

 

「ここに居るのは身内だけですから、固くならなくても大丈夫よ」

 

と言った

 

「と、騎士カリムが仰せだ」

 

カリムの言葉を聞いて、クロノがそう言うと

 

「じゃあ、久しぶり。お兄ちゃん」

 

フェイトがそう呼ぶと、クロノは気恥ずかし気に

 

「お兄ちゃんは止しなさい。お互い、いい年だろ」

 

と苦言を呈したが、フェイトは気にしていない様子で

 

「年は関係ないよ、お兄ちゃん」

 

と呼んだ

 

そのことにクロノが頭を抱えていると、なのはが一歩前に出て

 

「久しぶり、クロノ君」

 

と呼んだ

 

「ああ、久しぶりだな。なのは」

 

はやては最近会ったのか、軽く手を振って挨拶すると席に座った

 

それを皮切りに、機動六課メンバーは全員席に座った

 

全員が座ったのを確認すると、カリムは頷いて

 

「今回集まってもらったのは、この機動六課設立の理由……それをお話しします」

 

と言った

 

こうして、機動六課が設立された理由が語られる

 

世界の崩壊を防ぐために……



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英雄の条件 その1

武と冥夜のは作者の好きなシーンです


「私が皆さんを呼んだ理由……それは、私の希少技能に起因しています」

 

カリムはそう言うと、紙の束を持った

 

預言者の著(プロフェーテン・シュリフテン)……これは最短で半年、最長で数年先の未来……それを詩文形式で書き出した預言書の作成が出来ます。能力の都合上、二つの月の魔力が上手く揃わないと発動出来ませんから、ページの作成は一年に一度しか出来ません」

 

「預言の中身も古代ベルカ語で、解釈によっては意味が変わることもある難解な文章。次元世界に起こる事件をランダムに書き出すだけです」

 

そこまで言うと、カリムは二枚を戻した

 

「解釈ミスも含めれば、的中率や実用性は……割と良く当たる占い程度。つまりは、あまり便利な能力ではないんですが……」

 

カリムはそう言うと、苦笑した

 

「騎士カリムの預言は聖王教会はもちろん。次元航行部の上層部も読んでいる……とはいえ、参考程度だかな」

 

「ちなみに、地上部隊は読んで無いのがほとんどや。実質、ツートップの片割れがこの手の希少技能とかが大嫌いやからね」

 

クロノとはやてが続けて言うと、クロノは一拍置いてから

 

「そんな騎士カリムの預言能力に、数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている」

 

と説明した

 

カリムは頷くと、一枚の紙を浮かべて

 

「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。死者達が踊り、不滅の黒炎が舞う中、なかつ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る船も砕け落ちる……」

 

「それって……」

 

「まさか……」

 

カリムの言葉を聞いて、なのはとフェイトは瞠目した

 

そして、カリムは頷くと

 

「ロストロギアを切欠に始まる、管理局地上本部の壊滅と……そして、管理局システムの崩壊」

 

と告げた

 

カリムの言葉を聞いて、ほとんどのメンバーが息を呑んだ

 

だが、ネギや冬也。当麻等は目を細めるだけだった

 

それに気付かず、はやてが

 

「それを未然に防ぐために設立されたのが、機動六課ってわけや」

 

と語った

 

その数秒後、カリムが新しく一枚の紙を浮かばせて

 

「そして、ついこの間……これに関すると思われる預言の解読が終了しました」

 

と告げた

 

「なんやて?」

 

「本当か?」

 

はやてとクロノが問い掛けると、カリムが頷いて

 

「無限の欲望と世界を飲み干す大蛇が手を結び、数多の世界は破滅の炎に焼かれる。それを食い止めるは、四人の英雄。蒼き装甲を纏いし英雄。雷光を纏いし英雄。幻想を殺す英雄。反旗を翻した英雄……四人の英雄が手を結び、罪を従えし愚者と刃を交える……この四人が倒れし時、世界は終焉を迎える。以上です」

 

カリムの言葉を聞いて、はやて達は顔を見合わせて

 

「その四人って……」

 

「もしかしなくても……」

 

「間違いないやろうね……」

 

と言うと、冬也達に視線を向けた

 

条件的には武、ネギ、当麻、冬也の四人が合致する

 

「お前達。何か知っているのか?」

 

クロノが問い掛けると、はやてが頷いて

 

「その預言に出てきた四人の英雄っていうのは、恐らく当麻君達や」

 

と言った

 

「本当?」

 

カリムが問い掛けると、なのはが頷き

 

「まず、上条当麻君は右手に幻想殺しを持ってるの」

 

と説明した

 

「報告は聞いてるわ……確か、あらゆる異能を破壊する右手って……」

 

カリムがそう言うと、はやてが頷いて

 

「その通りや。おかげで、一回命を助けられたわ」

 

と言った

 

「そうだったのか……」

 

はやての説明を聞いて、クロノは神妙そうな表情を浮かべた

 

「それに、ネギ君は魔法を纏うことで雷化出来るんだ」

 

なのはがそう説明すると、カリムは首を傾げて

 

「どういうことかしら?」

 

と問い掛けた

 

すると、なのははネギに視線を向けた

 

ネギはなのはの意図を察したのか、無言で頷いた

 

すると、なのははウィンドウを開いて

 

「今から見せるのは、他言無用でお願いします」

 

と言った

 

クロノとカリムが頷くと、なのはは映像を再生した

 

それは、実力評価試験の時の映像だった

 

その映像では、ネギが両手に紫電が走る球を展開し、それを掌握した

 

『術式兵装、雷天双壮!』

 

「これは……」

 

「まさしく、雷光纏いし英雄……」

 

クロノとカリムが絶句していると、ネギの姿が消えて、僅か五十足らずで試験は終わった

 

「これは凄いな……」

 

「確かに、英雄と表記されるのも納得ね……」

 

二人が納得していると、次に武が

 

「恐らく、蒼き装甲を纏いし英雄ってのは俺かと……」

 

と言った

 

「君が?」

 

クロノが問い掛けると、武の隣に座っていた冥夜が

 

「私達が所属していた国連軍では、機体をUNブルーと呼ばれる色に塗装してました」

 

と説明した

 

「UNブルー……確かに、蒼き装甲には合致するな……」

 

「では、英雄というのは?」

 

カリムが問い掛けると、武が複雑な表情を浮かべて

 

「なのはさんやティアナには語りましたが……俺や冥夜が居た地球では……人類は絶滅の危機に瀕していました」

 

武の話を聞いて、クロノやカリム。更にははやてとフェイト、ネギも瞠目した

 

「冬也さんは……知ってたんですか?」

 

フェイトが問い掛けると、冬也は頷き

 

「武御雷のデータを見ていた中に、戦闘データも残っていてな……それを見てしまったんだ。シャーリーと一緒にな」

 

フェイトからの問い掛けに対して、冬也はそう答えた

 

「映像が残ってたんですか?」

 

冬也の言葉を聞いて、冥夜が問い掛けた

 

「ああ……夜叉に映像を記録してもらったから、今でも見れるが?」

 

冬也がそう言うと、、武は数秒間悩んでから

 

「隊長、その映像を写してもらってもいいですか?」

 

と問い掛けた

 

「良い機会です……知ってもらいましょう」

 

「……わかった。夜叉」

 

武の言葉を聞くと、冬也は夜叉を外して空中に放った

 

《承知……人型形態》

 

夜叉が人型形態になると、クロノとカリムは驚きで固まった

 

「デバイスが人の姿に……」

 

「初めて見たわ……」

 

二人が驚きで固まっているが、夜叉は軽く頭を下げて

 

「はじめまして、お二方……しかし、自己紹介は後ほど……今は映像を見せるのが先決です」

 

夜叉はそう言うと、両手を掲げた

 

すると、全員の中心にウィンドウが現れた

 

そして、ノイズ混じりに映像が始まった

 

「これは……」

 

「宇宙から見た、地球……」

 

「綺麗やね……」

 

なのは、フェイト、はやての三人が語っていると、画面に突如警告画面が現れた

 

『これはレーザー照射警告!?』

 

画面から聞こえてきたのは、冥夜の声だった

 

『どうなってんだ!? 重金属雲は!?』

 

『濃度不足です……敵は対レーザー弾をほとんど迎撃してません!』

 

続いて聞こえてきたのは、武と見知らぬ少女の声だった

 

『まさか……もう対処を!?』

 

『ムアコック・レヒテ機関、最大稼働!』

 

冥夜の驚愕の声に続いて、武の声が聞こえた

 

その時、角度が変わったのか、巨大な機体が画面に映った

 

『武!!』

 

冥夜の心配そうな声が聞こえると同時に、その巨大な機体を中心に光が拡散した

 

「話の腰を折るようで悪いが、あの機体と光は?」

 

とクロノが問い掛けると、武が視線を向けて

 

「まず、あの機体はXGー70d通称、凄乃皇・四型と言います。人類の決戦兵器で……あの光は地上から重レーザー級が放っているレーザーです」

 

と説明した

 

「レーザー! あれが!?」

 

なのはは武の説明を聞いて、目を見開いた

 

なのはが知ってるレーザーといえば、精々が太さ数ミリのものである

 

だが、地上から放たれているというレーザーは少なくとも2メートル近くはあった

 

その時だった

 

『Aー04! 我々に構わず、回避しろ!』

 

『そうだ! ここでAー04を失う訳にはいかない!』

 

Aー04というのは、恐らく凄乃皇のコールサインだろう

 

『ダメだ! 駆逐艦にそんな機動は出来ない!』

 

『やってみせる! 回避してくれ!』

 

『我々はAー04を失う訳にはいかないんだ! 早くしろ!』

 

武の言葉に対して、二人の男性が反論した

 

『ダメです! 下手に回避機動したら、それこそレーザーの袋叩きです! それだったら……』

 

『貴官らはコースを維持しろ!』

 

武の言葉に対して、ある一人の男性の声が聞こえた

 

『『『『っ!?』』』』

 

『い、一文字!?』

 

『第二戦隊旗艦、夕凪!? 無事だった!?』

 

多くの男性の驚愕の声と、男性の名前を呼ぶ声がして、最後に冥夜の驚愕の声が聞こえた

 

『ここは我々に任せて貰おう!』

 

その声の直後、凄乃皇の前に一隻のシャトルが割り込んだ

 

『まさか……凄乃皇の盾に!?』

 

『やめてください、一文字艦長! いくらなんでも無茶です!』

 

武の静止の叫び声が響いた

 

『人類を……頼むぞぉぉ!』

 

『やめてくれぇぇぇ!』

 

武の叫び声の直後、そのシャトルはレーザーの集中し爆散した

 

『一文字艦長ぉぉぉ!』

 

武の悲痛な叫び声の直後だった

 

『全艦、大気圏再突入装甲殻(リエントリーシェル)分離! 最大船速でAー04の前に出る!』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

という通達の直後

 

『切り離すぞ! 切り替えろ!』

 

『りょ、了解!』

 

冥夜の声の直後、一瞬暗くなったが直ぐに直った

 

その数秒後、目前を一隻のシャトルが飛んでいった

 

『そんな、あなた達まで!?』

 

『貴様らを無傷でオリジナルハイヴまで送り届けることこそが、我らが任務!』

 

『貴様ら人類の反撃の狼煙となる決戦部隊を運んだことは、我々駆逐艦乗りにとっては最大の名誉だ!』

 

『その名誉を誰にも傷つけさせやしない! そして、貴様らのことも傷つけさせやしない!』

 

『フランスを……ユーラシアを……っ……奴らの手から取り戻してくれぇ!』

 

男性達の言葉が終わる度に、一つ、また一つと友軍を示すIFFが消えていった

 

『皆さん……っ!』

 

『……了……解!』

 

冥夜と武の悲痛な言葉の直後、映像は途切れた

 



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英雄の条件 その2

ちょっと中途半端ですが、投稿します


「今の映像は……」

 

映像が終わると、クロノは視線を武に向けた

 

すると武は、目元を押さえてから

 

「……今のは、俺と冥夜が参加した最後の一大反攻作戦……桜花作戦です」

 

と言った

 

「桜花作戦?」

 

カリムが首を傾げると、武は頷いて

 

「ユーラシア大陸、中国は新彊、ウィグル自治区に存在するBETAの巣、通称、オリジナルハイヴを攻略する作戦です……」

 

武は複雑な表情を浮かべながら、説明を始めた

 

「そもそも、BETAとはなんなんだ?」

 

クロノが問い掛けると、武は一回冬也に視線を向けて

 

「冬也隊長、BETAに関するデータは残ってませんでしたか?」

 

と問い掛けた

 

すると、冬也は頷いて

 

「残っている……夜叉」

 

と夜叉に視線を向けた

 

すると、夜叉は頷いてから再び映像を映し出した

 

そこに映し出されたのは、生理的嫌悪感を増徴させる存在だった

 

「これは?」

 

カリムが問い掛けると、武は憎しみが籠った眼でその映像を見ながら

 

「こいつらがBETAです。正式にはBeings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of humanrace……人類に敵対的な地球外起源種の略称です」

 

「これが、BETA……」

 

武の説明を聞いて、なのはは泣きそうな表情を浮かべた

 

恐らく、以前武から聞いた話を思い出したのだろう

 

恩師が目の前で食い殺されて、元の世界に逃げたらまた恩師が殺されて、幼馴染が瀕死の重傷を負ったことを

 

「俺たちが居た世界では、第二次世界大戦において日本帝国は条件降伏をして終戦を迎えました。BETAが確認されたのはその数年後です。最初に確認されたのは、火星でした」

 

「火星!?」

 

「火星でBETAは確認されたんか!?」

 

武の説明を聞いて、フェイトとはやての二人が驚愕の声を上げた

 

火星は生物の生活環境には適しておらず、生物が住むには過酷過ぎるのを知っているからだ

 

「その後、BETAは月面にて確認されて、地球以外にて生命体を確認した人類は歓喜してBETAに対して何とかコミュニケーションを取ろうとしました……ですが、接触に向かった部隊からの交信が途絶。そして、最悪の事件が起きてしまいました……」

 

「最悪の事件?」

 

「それは、一体……」

 

カリムとクロノが問い掛けると、武は数瞬間を置いてから

 

「通称、サクロボスコ事件……月面に建設された恒久月面基地プラトーワンがBETAに襲撃されて全滅したんです」

 

と説明した

 

武の説明を聞いて、ほとんどのメンバーは目を見開いて固まった

 

「そして、そこを皮切りに人類とBETAの戦争が始まりました……」

 

「戦争……」

 

「人類とBETAのか……」

 

武の説明を聞いて、カリムとクロノは手を組んだ

 

「月は地獄だ……」

 

「その言葉は?」

 

武の呟きを聞いて、はやてが問い掛けた

 

「当時、月面にて指揮を執った将官の言葉です……一方的に被害が拡大する様を見て言ったそうです」

 

「それほどまでに酷かったということか……」

 

クロノが呟くと、武は頷いて

 

「しかし、戦線を維持出来ずに月面から撤退……その数年後、BETAの落着ユニットが先ほど説明したオリジナルハイヴの場所に墜落……そこから、人類の絶望的な消耗戦が始まりました……人類は僅か三十年で人口を六十億人から約十億人にまで減少……ユーラシア大陸は約九割がBETAに占領されました……」

 

「たった、三十年で……」

 

「そこまで、やられたんか……」

 

続く説明を聞いて、フェイトやはやて達は瞠目した

 

たった三十年で、人類がそこまで追い込まれたことに信じられなかったのだろう

 

「人類は国連を中心になんとか戦線を構築し、台湾、樺太、フィリピン、日本からなる極東絶対防衛線にて耐えてました……そして、2001年の12月25日に日本は佐渡島に存在したハイヴ……日本呼称で甲21号ハイヴ……通称、佐渡島ハイヴの攻略作戦にて人類は一斉に反攻に打って出ました……俺と冥夜が初めて参加した大規模作戦ですね」

 

武がそこまで言うと、はやてが首を傾げて

 

「国連が中心? ……アメリカが中心やないんか?」

 

と問い掛けた

 

「アメリカは確かに、戦力としては世界でも最大級です……ですが、世界ではアメリカは否定されてました……特に、日本ではね」

 

と語った

 

「アメリカが否定されていた?」

 

「どうして?」

 

フェイトとなのはが問い掛けると、それまで黙っていた冥夜が拳を握り締めて

 

「アメリカは……日本を見捨てた」

 

と憎しみが籠もった声で呟いた

 

「日本を……」

 

「見捨てた……?」

 

はやてとなのはは呆然と呟いた

 

「1998年……日本にBETA群が侵攻を開始……同年、佐渡島にハイヴが建設されるとアメリカは日米安保条約を一方的に破棄して、日本から撤退……そして2000年に発動された明星作戦にて、アメリカ軍は何の通告もなしに五次元破壊爆弾……通称、G弾を二発投下……結果、作戦区域に展開していた日本帝国軍、国連軍、大東亜連合軍に甚大な被害が出ました……確かに、G弾により横浜に作られたハイヴは攻略できました……ですが、それにより横浜は恒久的に重力異常が起きてしまい、草木一本生えない土地と化しました……」

 

「G弾……?」

 

「どういう代物なんや?」

 

G弾がどういうものか分からず、なのはとはやては問い掛けた

 

「簡単に言いますと、起爆した範囲の物質をえぐり取り、どこかに飛ばすんですよ……確かに、核爆弾と違って放射能は出ません……ですが、えぐり取られた物質はどこに行くのか分からず、しかも、恒久的に起こる重力異常により草木一本生えない土地に変わるんです……そんな物を何の事前通告も無しに投下されて、戦力を消し飛ばされて、それを我が物顔で戦果として言われて、挙げ句の果てにはそれを世界中のハイヴに対して集中運用しようと、アメリカは言ったんですよ……その結果が、地球の破滅に繋がると知らないで……」

 

「武くん、それは……」

 

武の話を聞いて、なのはは思わず立ち上がった

 

「構いません……まず、皆さんに先に言っておきます……俺は見た目通りの年齢ではありません」

 

武はそう言うと、以前になのはやティアナに語ったのと同じ内容を話した

 

そして

 

「ある世界では、アメリカ軍が主導した作戦でユーラシア大陸にG弾を集中運用して、ユーラシア大陸と日本列島が海に沈みました……」

 

と言い終わると、武は冥夜に視線を向けて

 

「ごめんな、冥夜……これが、俺の秘密だ……」

 

と言った

 

すると、冥夜は首を振って

 

「いや、言ってくれてありがとう……それに、その話を聞いて得心したよ……武は最初から普通ではなかったからな」

 

と納得していた

 

しかし、なのはと冥夜以外のほとんどが絶句していた

 

そのあまりにも、悲惨にして凄惨な話に

 

「何回もループしていたなんて……」

 

「あまりにも、酷すぎるやろ……」

 

フェイトとはやてはあまりの悲惨な事実に、涙を滲ませながら口元を手で覆った

 

だが、ネギと冬也はどこか納得した様子で

 

「それで納得しました……武さんの精神力の高さ」

 

「ああ……それに、適応力と戦闘力の高さもな」

 

と呟いた

 

「以上が、俺に関することです」

 

武がそう締めくくると、クロノは頷いて

 

「これで、幻想殺し、雷を纏う、蒼き装甲の各英雄は分かった……後は……」

 

「反旗を翻した英雄……ですね」

 

とクロノに続いてカリムが言い、二人の視線が冬也に集中した

 

「ああ……間違い無く、俺のことだろうな……」

 

冬也はそう言いながら、目を細めた



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英雄の条件 その3

「それで、反旗を翻した英雄というのは……?」

 

カリムが問い掛けると、冬也は少し間を置いてから

 

「まず前提として、俺は人ではない」

 

と言った

 

「冬也さん、それは……」

 

フェイトが立ち上がるが、冬也は片手を上げて制してから

 

「俺は人間をベースとした人型生態兵器……人間を殺すために作られた兵器だよ」

 

冬也の説明を聞いて、カリムとクロノは驚愕で固まった

 

「そして、俺を含めた人型生態兵器を開発したのが、先日現れた男、ロンドだ」

 

冬也が説明していると、夜叉がウィンドウを開いて写真を表示させた

 

「人型生態兵器……」

 

「そのロンドの目的はなんなんだ?」

 

クロノが問い掛けると、冬也は一瞬間を置いてから

 

「奴の目的は……人類の抹殺」

 

と語ると、クロノとカリムは絶句していた

 

「奴はそのために、俺を含めて人型生態兵器を作った……その中でも優秀な七体を七大罪と呼んでいた」

 

「七大罪?」

 

冬也の説明を聞いて、カリムが問い掛けた

 

「強欲、傲慢、暴食、嫉妬、怠惰、色欲、憤怒の名前を与えられた七体だ。俺は傲慢の名を与えられた」

 

冬也の説明を聞いて、カリムはハッとした表情を浮かべて

 

「まさか、罪を従えし愚者とは……」

 

と言うと、冬也は頷いて

 

「間違いなく、俺の他の六体とロンドのことだろうな」

 

と肯定した

 

「他の六体のデータは、後に提出しよう」

 

「ああ、助かる」

 

「そのデータがあれば、戦えます」

 

カリムがそう言うと、冬也は首を振って

 

「戦うのは止めておいたほうがいい」

 

と言った

 

「どうしてだ?」

 

「クロノ君、彼らは全員がオーバーSランクなんだよ」

 

クロノの問い掛けに対してなのはが答えると、クロノとカリムの二人は目を見開き

 

「全員がオーバーSランク!?」

 

「彼らだけで、戦争が出来るわね……」

 

と言った

 

「実際、俺達七体でロンド率いる組織と戦争をしていたよ」

 

「たった七人で、戦っていたのか?」

 

「あまりに無謀では……」

 

冬也の話を聞いて、クロノとカリムは心配そうな表情を浮かべた

 

「他に居たのは、同胞だが、戦いたくないと言った子供達でな……さすがに、戦場には出したくなかったよ……」

 

「子供達というのは、何歳位だったんですか?」

 

フェイトが問い掛けると、冬也は少し思い出すように時間を置いて

 

「大体、七歳位から十歳位だったか……俺達が面倒を見ていたよ……他の連中は、俺達を化け物呼ばわりしていたしな」

 

と答えた

 

するとフェイトは、膝の上に置いていた拳を握り締めた

 

優しい彼女としては、子供達ですら化け物呼ばわりした奴らを許せないのだろう

 

「この世界に来る直前、俺達七体は00作戦に臨んでいたよ」

 

「00作戦?」

 

冬也の告げた作戦名を聞いて、武が首を傾げた

 

「生還率0、生存率0から取った作戦名だよ」

 

「そんな……」

 

冬也の説明を聞いて、フェイトは悲しげな表情を浮かべた

 

「元々、俺達はロンドを殺した後は生きるつもりなど無かったんだ……だがどういう訳か、俺は生き残ったがね」

 

冬也がそう言うと、場は静まった

 

生き残るつもりは無かった

 

その言葉に、フェイトは怒りを覚えた

 

冬也は、雪音の想いを理解してないと

 

「ふざけないでください……っ!」

 

フェイトは静かにそう言いながら、立ち上がった

 

「む?」

 

フェイトの言葉が聞こえて、冬也は視線をフェイトへと向けた

 

そこに居たのは、怒りの表情を浮かべたフェイトだった

 

「冬也さんは、何もわかっていません! 雪音さんが、どういう想いであのメッセージを託したのか!!」

 

「フェイト……? 少し、落ち着きなさ」

 

妹の怒りを静めようと、クロノが声を掛けるが、フェイトはクロノをキッと睨んで

 

「お兄ちゃんは黙ってて!」

 

「はい……」

 

フェイトの眼力に負けて、クロノは大人しく椅子に座った

 

「雪音さんは、冬也さんを一人にさせない為に、あのメッセージを残したんですよ!?」

 

「だが俺は、人では……」

 

フェイトの言葉に冬也がそこまで言うと、フェイトは手を大きく振るって遮り

 

「誰が何と言おうと、冬也さんは人間です!」

 

と断言した

 

「そうでないと……雪音さんが可哀想ですよ……」

 

フェイトが涙混じりに言うと、冬也が困惑した様子で

 

「なぜ、そこまで?」

 

と問い掛けた

 

冬也の問い掛けに対してフェイトは数瞬すると、冬也を見つめながら

 

「私は……冬也さんが……好きですから」

 

と告げた

 

フェイトの告白に、冬也を含めたほとんどのメンバーは目を丸くしたが、クロノは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって

 

「待て、フェイト! いきなり、なにを!」

 

と叫ぶが、フェイトはそんなクロノに視線を向けて

 

「お兄ちゃん、今は黙ってて」

 

と告げた

 

この時、フェイトから尋常ではないプレッシャーが放たれており、はやては後に

 

『あの時のフェイトちゃん……阿修羅すら凌駕する存在感やったわ』

 

と言っている

 

そんなフェイトのプレッシャーに負けて、クロノはすぐにその場で正座して

 

「はい……すいませんでした」

 

と静かになった

 

何とも、威厳の無い兄であった

 

「それに、冬也さんが人ではないと言うのなら……私も人ではありません」

 

フェイトがそう言うと、なのはが立ち上がり

 

「フェイトちゃん、それは……!」

 

と声を荒げたが、フェイトは首を左右に振って

 

「なのは、いいの……」

 

と止めた

 

「どういうことですか?」

 

フェイトの言葉に疑問を覚えて、ネギが問い掛けた

 

「私は……アリシア・テスタロッサのクローンなの……」

 

フェイトのその言葉に、冬也を含めた四人が息を呑んだ



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人の定義

「クローン……なんですか?」

 

ネギが問い掛けると、フェイトは無言で頷いて、正座していたクロノに視線を向けた

 

視線を向けられた意図を察したのか、クロノは頷いた

 

そして、フェイトはネギ達に見えやすいようにウィンドウを開いた

 

そこに表示されていたのは、一組の親子だった

 

一人はフェイトによく似た、小さい少女だった

 

「フェイト隊長、この親子は……?」

 

武が指差しながら問い掛けると、フェイトは悲しげな表情を浮かべながら

 

「灰色の髪の女性が私の母さんのプレシア・テスタロッサで、小さい女の子がアリシア・テスタロッサ……私の元になった人」

 

と語った

 

そして、フェイトは訥々と語り始めた

 

今から約十数年前、プレシアとアリシアは二人で暮らしていた

 

プレシアはとある企業で新型の駆動炉の開発に携わっていて、アリシアは一人家で寂しく待っていた

 

だが、プレシアが帰ってきたら、アリシアは元気よくプレシアを出迎えてくれた

 

仕事が忙しく、帰りはいつも遅かったが、それでも幸せな日常だった

 

だがある日、無茶な命令で事故が起きてしまい、アリシアは亡くなってしまった

 

プレシアはそれを受け入れられず、アリシアを蘇らせようとした

 

それが、プロジェクト・FATE

 

クローニングによって作られた個体の脳に、元の個体の記憶を転写するという計画だった

 

それにより、フェイトは産まれた

 

産まれた当初、プレシアは喜んだ

 

アリシアが蘇ったと

 

だが日を重ねる毎に、プレシアはフェイトに違和感を感じた

 

利き腕の違いや、魔力の量と質

 

何よりも、アリシアが持っていなかった魔力変換資質だった

 

そのことを、プレシアは受け入れられなかった

 

そして、プレシアは産まれたフェイトを使って《P・T事件》を引き起こしたのである

 

「だから、私は自然に産まれた訳ではないんです……」

 

フェイトが語り終わると、会議室は沈黙に包まれていた

 

すると、当麻が頭をボリボリと掻いて

 

「それがどうしたよ」

 

と言った

 

「当麻くん?」

 

なのはが首を傾げていると、当麻が人差し指を立てて

 

「前に任務で海鳴に行った時さ、双子の姉妹に会ったろ?」

 

と問い掛けた

 

すると、はやてが頷き

 

「覚えとるで、全身から放電してた姉妹やろ? 確か、御坂美琴と美優ちゃんやったか」

 

と答えた

 

「そう……その妹の美優なんだがな……御坂美琴のクローンなんだよ……」

 

当麻の言葉を聞いて、なのは達は驚愕した

 

「しかも、一人だけじゃない。他にも約一万近く居るんだよ」

 

「そんなに居るんか!?」

 

続いた当麻の言葉に、はやては思わず立ち上がった

 

「ああ……そのクローンを作ったのは、学園都市なんだがな……」

 

「一体、なんのために……」

 

フェイトが呟くが、当麻は覚えてないと首を振って

 

「だけどよ、あいつらはそれでも生きてるんだよ……クローンだからどうした? クローンでも、一人の人間じゃねえか」

 

「当麻くん……」

 

当麻の言葉にフェイトが固まっていると、次にネギが立ち上がって

 

「冬也さんが人間じゃないって言うなら、僕ももう人間じゃないですよ」

 

と言った

 

「どういうことですか?」

 

カリムが問い掛けると、なのはに視線を向けて

 

「なのはさんが見せた先ほどの映像……あれは闇の魔法と言いまして、本来は外に放たれる筈の攻撃魔法を自身の体内に取り込んで、魔法の力で体を強化する魔法なんです……でも、適性が合わなければ下手したら、死に至る可能性がありますし、何よりも暴走すれば、闇に捕らわれます」

 

というネギの説明に、再び会議室は静かになった

 

「僕は三度の暴走によって、人ではなくなりました……どんな怪我を負っても、死ななくなりました」

 

「なに……?」

 

「死ななくなったって……つまりは、不死ですか?」

 

クロノは驚き、カリムはネギに問い掛けた

 

カリムからの問い掛けに、ネギは頷いて

 

「ええ……不老かはまだわかっていませんが、人ではなくなったことは確かです……でも、明日菜さん達は一人の僕として扱ってくれます」

 

と言うと、ネギはフェイトと冬也に視線を向けて

 

「だから、産まれや経緯なんて関係ありません。冬也さんは冬也さんで、フェイトさんはフェイトさんです」

 

と告げた

 

すると、今度は武が立ち上がって

 

「そうですよ……俺の居た世界では、遺伝子調整を施されて、人工ESP体が産まれていましたから」

 

と告げた

 

「遺伝子調整だと?」

 

クロノが首を傾げていると、冥夜も武に視線を向けて

 

「人工ESP体とはなんだ?」

 

と問い掛けた

 

「人工ESP体とは、俺と冥夜が関わったオルタネイティブⅣ以前に行われていたオルタネイティブⅢ計画で作られたある意味クローンです」

 

武はそう説明すると、視線を冥夜に向けて

 

「そして、霞がその人工ESP体だったんだ」

 

と説明すると、冥夜は驚愕の表情を浮かべた

 

「霞が、人工ESP体だと……?」

 

冥夜の言葉に武は頷き

 

「霞は人工ESP体の中では最後発だったらしくて、ハイヴに投入される前に第四計画に移行して横浜基地に来たんだ……冥夜はどう思う?」

 

武が問い掛けると、冥夜は毅然とした態度で

 

「確かに、産まれには驚いたが、それだけだ。社は社ではないか」

 

と語った

 

冥夜の言葉に武は頷くと、冬也に視線を向けて

 

「隊長、これが俺達の総意です。俺達は隊長を一人の人間だと認識しています」

 

と宣言した

 

武の言葉を聞いて、冬也は小さく

 

「まったく……この世界は優し過ぎる……俺みたいな存在を一人の人間として、認めてくれるとはな……」

 

と呟いた

 

すると、夜叉が歩み寄り

 

「マイスター雪音様も、主達を人として認めていたではないですか」

 

と告げた

 

「そうだったな……」

 

冬也は頷くと、視線を上げて

 

「人として扱ってもらって、嬉しかったな……忘れていたよ……」

 

と呟くと、僅かに涙を流した

 

それを見て、フェイトが歩み寄って

 

「忘れないでください……私達は、冬也さんを一人の人間として認識してますし、扱います……ですから、生きてください……雪音さんも、冬也さんの生存を望んでいる筈です」

 

と言うと、冬也の頭を抱き締めた

 

「だから、生きてください……亡くなった人達の分も、雪音さんの願いと一緒に……」

 

「ああ……ありがとう……」

 

フェイトの言葉を聞いて、冬也は微笑みを浮かべた

 

なお余談ではあるが、フェイトが抱き締めた瞬間にクロノが立ち上がったが、カリムの肘打ちを脇腹に受けて床に沈んだ



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得た情報

「すまんな……話の腰を折ってしまった」

 

あれから数分後、気を取り直した冬也はそう言いながら頭を下げた

 

なお、フェイトは落ち着いたと同時に恥ずかしくなったのか、今は赤くなった顔を両手で覆って部屋の隅で座り込んでいる

 

そしてクロノはなんとか復活したが、未だに痛むらしく、脇腹を抑えている

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

クロノに肘鉄を喰らわせた本人のカリムが、平然と答えた

 

「一応結論として言わせてもらうと、俺以外の六人とは、接敵しても交戦しないようにすること」

 

冬也の言葉にクロノが頷き

 

「分かった……通達しておく」

 

と言った

 

その後、機動六課のバックボーンが開かされたのだが、冬也はリンディの若さに驚き、はやて達や武達はバックボーンの一人に驚いた

 

その名はパウル・ラダビノット中将

 

地上本部のツートップの一人であった

 

これらが開かされて、会談は終了

 

機動六課メンバーは帰路へと着いた

 

なお、羞恥心で固まったフェイトはなのはが襟首を掴んで引きずっていった

 

そして、隊舎に帰ってきて

 

「査察?」

 

「せや……」

 

リインからの伝言を聞いて、はやては気落ちした様子で頷いた

 

「地上本部の査察は厳しいって聞くよ?」

 

「うー……突っ込み所満載な部隊やからなぁ……」

 

なのはの言葉を聞いて、はやては頭を抱えた

 

「なんとか切り抜けるしかないよね……」

 

フェイトの言葉にはやては無言で頷くと、三人揃って深々とため息を吐いた

 

そして、翌日

 

冬也達は牢屋へと来ていた

 

捕縛したスカリエッティのメンバーに対して、尋問を行うためである

 

「……やれやれ……頑なだな……」

 

冬也はそう言うと、ため息を吐いた

 

対象の少女、ディエチは幾ら問い掛けても喋らなかったのだ

 

名前を知っているのは、以前交戦した際にトーレと呼ばれていた女が呼んでいた為である

 

「のどかさんのアーティファクトを使えば、楽ですよ?」

 

ネギがそう言うと、冬也は首を振って

 

「出来れば、彼女の口から話してもらいたいんだ」

 

と冬也が言ったタイミングで、ドアが開き

 

「あ、ここじゃなかった……」

 

という声が聞こえた

 

冬也達が声のした方向に顔を向けると、そこに居たのは小さい女の子

 

ヴィヴィオだった

 

「ヴィヴィオ……ここには来るなと言っただろう?」

 

「ごめんなさい……なのはママがどこに居るか、わからなくって……」

 

冬也が注意すると、ヴィヴィオはそう言って俯いた

 

「やれやれ……仕方ないな」

 

冬也は首を振ると、ヴィヴィオを抱き上げた

 

しかしディエチは、ヴィヴィオの姿を見て

 

「……その子供は?」

 

と首を傾げた

 

どうやら、小さいヴィヴィオが居るのが不思議らしい

 

その事を冬也は不思議に思いつつ、ヴィヴィオがディエチに見えるようにして

 

「この子はヴィヴィオ……お前が先日、撃ち落とそうとしたヘリに保護された子だよ」

 

と説明した

 

その直後、ディエチは目を見開き

 

「そんな小さな子供が、マテリアル!? 私は、何も聞いてない……」

 

と驚いていた

 

「知っていたんじゃないの?」

 

同席していたティアナが問い掛けると、ディエチは首を振って

 

「私は知らなかった……」

 

と言って、俯いた

 

「どういうこと?」

 

「恐らく、性格が理由なんじゃないか?」

 

スバルの疑問に対して、冥夜がそう言った

 

「私の勘だが、ディエチは優しい性格なんじゃないか? だから、対象が子供だと知ったら攻撃出来ないと判断したんじゃないか?」

 

「なるほど、有り得るわね……」

 

冥夜の推論を聞いて、ティアナは納得した様子で頷いた

 

その間に、冬也はヴィヴィオになのはの居場所を教えて、向かわせた

 

そして、冬也が戻ってくると

 

「……私が知ってる限りなら、教える……」

 

とディエチが呟いた

 

「なに?」

 

「今までドクターを信じてきたけど……もう、信じられないから……」

 

冬也が首を傾げていると、ディエチはそう言って、ポツポツと喋りだした

 

数十分後

 

「……これは本当なんか?」

 

冬也が出した書類を見て、はやては眉をひそめた

 

「ああ……彼女が喋った内容に間違いない」

 

冬也がそう言うと、はやては両手を組んだ

 

そこに記載されていたのは

 

《時空管理局地上本部襲撃計画》

 

とあった

 

「確かに、ディエチちゃんやあの六人の戦闘能力を考えれば、難しいことやない……だけど、何が狙いなんや……」

 

「そこまでは分からないらしい……だが、恐らくは、これが中心だろうな」

 

はやての疑問に対して、冬也はそう言った

 

すると、はやては頷いて

 

「せやな……とりあえず、冬也はんは尋問を引き続き頼んでええか?」

 

「分かった」

 

はやての頼みを聞いて、冬也は頷いてから部屋を出た

 

なお、査察はなんとか切り抜けたが、戦術機のことを聞かれたので、設計データや稼働データを渡した

 

場所は変わって、地上本部の一室

 

「これは……」

 

「機動六課で試験運用されていた戦術機という無人兵器です。設計思想が異なるのか、かなりの種類がありますが、全て機動性は高いです」

 

ウィンドウを見たレジアスが唸っていると、オーリスが新たにウィンドウを開いて説明した

 

オーリスの説明を聞いて、レジアスはしばらく黙考すると

 

「このデータを技研に回して、各種類、この中隊規模とやらで作らせろ」

 

「よろしいのですか?」

 

オーリスが問い掛けると、レジアスは構わないと言ってから

 

「こんな木偶人形で人員不足が補えるなら、安価ではないか」

 

と言った

 

「わかりました……そのように、取り計らいます」

 

オーリスは敬礼すると、レジアスの執務室から出ていった

 

そして、運命の日は近づく



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新たな仲間

会談から数日後、冬也は整備室で作業をしていた

 

その傍らに居るのは、陸士の茶色い制服を着たディエチだった

 

今の彼女の立場は観察処分者であり、近くに六課所属の魔導師が居るなら、六課隊舎内は自由に行動して良いとなっている

 

そして冬也が今行っているのは、そんなディエチの武装の改修である

 

まず、持ち運びし易いようにと、砲身が伸縮

 

更に、非殺傷設定への対応である

 

それらの対応は本来ならば、シャーリーの仕事である

 

だが、今日はシャーリーは別の仕事があって、それが無理であった

 

その内容とは、訓練場でのことだ

 

今日からこの機動六課に、新しい仲間が来たのだ

 

「みんな凄いね! いつもこんなハードな訓練をしてるの?」

 

と言ったのは、スバルと一緒にストレッチをしているスバルの姉

 

ギンガである

 

「うん……大体はね。出動が掛かった日以外はずーっと訓練漬けで、時々で隊長達と模擬戦」

 

「つか、その隊長達との模擬戦が一番キツいんだが……」

 

スバルの言葉を聞いて、体を解しながらもう一人の新しい仲間

 

マックスが苦々しく言った

 

シャーリーはこの二人のデバイスをシミュレーターに対応させるために、訓練場に来ていたのだ

 

そして、柔軟も終わって解散しようとした時

 

「なのはママー!」

 

というヴィヴィオの声が聞こえて、全員は視線を向けた

 

その方向には子守役のザフィーラを置いて、駆け寄ってくるヴィヴィオの姿があった

 

「ヴィヴィオ!」

 

「危ないから、転ばないようにね!」

 

なのはは手を振りながら名前を呼び、フェイトはヴィヴィオに忠告した

 

その光景を全員が微笑ましく見ていると

 

「うん! あうっ!」

 

言われた傍から、ヴィヴィオは転んだ

 

「あっ! 大変!」

 

「待った! 綺麗に転んだし、地面も柔らかいから大したダメージは無いよ」

 

転んだヴィヴィオを見て、フェイトが慌てて駆け寄ろうとしたが、それをなのはが制止した

 

そして、その場でしゃがむと

 

「ほら、ヴィヴィオ。こっちにおいで。なのはママはここに居るよ」

 

と言った

 

なのはの声に反応してか、ヴィヴィオは顔を上げたが、グズり始めた

 

「なのは、ダメだよ。ヴィヴィオはまだ小さいんだから!」

 

見てられなかったのかフェイトはそう言うと、ヴィヴィオのほうに駆け出した

 

だが、フェイトが到着するよりも早く、別の人物

 

ディエチを従えた冬也が、転んでいたヴィヴィオを抱き上げて

 

「大丈夫か、ヴィヴィオ?」

 

と問い掛けた

 

「冬也さん、ありがとう」

 

先日の件がまだ恥ずかしいのか、フェイトは顔を赤らめながら冬也に感謝した

 

そして、近寄ってきたなのはは呆れた様子で

 

「まったく。冬也さんもフェイトママも優し過ぎです」

 

と言うが、冬也からヴィヴィオを抱き変わったフェイトは少し怒った表情で

 

「なのはママは厳し過ぎです」

 

と苦言を呈した

 

冬也は二人の会話が理解出来ないのか、首を傾げた

 

そんな一連の光景を見て、ザフィーラを愛でていた《ザフィーラは若干迷惑そう》眼鏡を掛けた童顔の女性

 

マリエル・アテンザことマリーが

 

「ねえ、あの女の子は?」

 

と近くに居たシャーリーに問い掛けた

 

するとシャーリーは笑みを浮かべて

 

「なのはさんとフェイトさんの子供」

 

と説明した

 

「へぇ……ええええっ!?」

 

マリーは一瞬納得しかけたようだが、すぐに驚愕の声を上げた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数十分後、食堂にて

 

「なぁんだ。そういうことかぁ」

 

慌てたマリーがなのは達に突撃しようとしたので、シャーリーは慌てて補足説明を食堂にて行った

 

「そう。なのはさんとフェイトさんが、ヴィヴィオの保護責任者になってるの」

 

二人が話し合っている視線の先では、なのはとフェイト、冬也とディエチ、更にはフォワード陣、ギンガとマックスが複数の机を使って食事していた

 

「うーん……相変わらず、いい腕だね。当麻は」

 

「本当に」

 

当麻作の料理を食べて、スバルとティアナがそう話し合っていると、なのはが当麻を手招きして

 

「上手い手を考えたね、上条くん」

 

と囁くように言うと、当麻はグッと親指を立てて

 

「上条さんの主夫力を舐めてはいけませんのことよ!」

 

と自信満々に告げた

 

なのはが誉めた理由は、ヴィヴィオが食べている料理にある

 

ヴィヴィオはまだ子供なので、定番でピーマンが嫌いである

 

それを当麻は、丸々のピーマンの中に肉を詰めたのだ

 

「うー……ピーマン嫌い!」

 

ヴィヴィオは涙を滲ませながら言うが、フェイトとなのはが

 

「ヴィヴィオ、好き嫌いしないの」

 

「ヴィヴィオが残すと、作ってくれた上条くんが悲しむよ?」

と言うと、ヴィヴィオはうーうー言いながら、少しずつ崩しながら食べ始めた

 

「……どうする?」

 

「……イタダキマス」

 

そんな光景を見ていて、エリオの皿にニンジンを移そうとしていたキャロも自分で食べた

 

「そういえば、冬也さんは嫌いな食べ物とかは無いんですか?」

 

フェイトが思い出した用に問い掛けると、冬也は一口飲み込んでから

 

「まあ、好き嫌い出来る環境ではなかったな」

 

と言った

 

冬也の話を聞いて、フェイトが悲しそうな表情をしていると

 

「ただ、雪音が作ってくれた料理はおいしかったな」

 

と懐かしむように呟いた

 

それを聞いて、フェイトは安心した表情で

 

「それは良かったです」

 

と頷いた

 

《なんでしたら、作った料理をお教えしましょうか?》

 

《お願い》

 

裏で、夜叉とフェイトがこんな念話をしていたのを、冬也は知らない



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運命への分かれ道

時は経ち、運命の別れ道たる意見陳述会の前日

 

機動六課隊長のはやては、全員に半日の休暇を与えた

 

ディエチから教えられた情報から、スカリエッティ達が襲撃してくるのが、終わる直前の早朝と分かったからである

 

だが、誰も外に出ないで隊舎で静かに過ごした

 

そして、全員考えてることは同じだった

 

なんとしても、未然に防ぐ

 

そして、午後に入るとはやてからの通達で、全員のデバイスのリミッターが解除されることに決まった

 

はやての決定を聞いて、なのはが難色を示した

 

だが、はやての万全を期したいという言葉を聞いて、渋々と従った

 

そして問題の配置だが、万が一を考えて冬也が隊舎に待機することが決まった

 

これは、ディエチが居ることも考慮した結果である

 

地上本部へは、他のメンバー全員が行くことになった

 

その中には、本来だったら交代メンバーの楓と古菲の二人も居た

 

そして、夜七時半

 

なのは達はヘリコプターで向かうために、屋上へと集まり乗っていった

 

その時、その屋上に寮母のアイナの付き添いでヴィヴィオがやってきた

 

「ヴィヴィオ? なんで、ここに?」

 

なのはが近づきながら問い掛けると、アイナが

 

「どうも、なのはさんが居なくなるのが不安になったみたいです」

 

と言った

 

すると、なのははどこか納得した様子で頷きながら

 

「そっか……この時間に居なくなるのは、初めてだったね」

 

と言いながら、ヴィヴィオの前でしゃがみ込んで、ヴィヴィオの頭を撫でながら

 

「大丈夫だよ。なのはママは、すぐに帰ってくるよ」

 

と言うと、ヴィヴィオは不安げではあるが頷いた

 

それを見て、なのはは頷くと立ち上がって

 

「アイナさん。ヴィヴィオをよろしくお願いします」

 

と頭を下げた

 

「はい。お任せください」

 

なのはの願いを聞いて、アイナは微笑みながら頷いた

 

そんな屋上では、フェイトが冬也と話していた

 

「冬也さん……隊舎をお願いします」

 

「ああ、任せておけ。必ず守ろう」

 

フェイトの願いを聞いて冬也がそう言うと、フェイトは冬也を見つめながら

 

「冬也さんも、絶対に生きてください」

 

と言った

 

フェイトの言葉に冬也は一瞬驚くが、すぐに微笑みを浮かべて

 

「ああ、了解した」

 

と答えた

 

あの会談の日以来、冬也に変化が起きていた

 

以前よりも笑顔が増えて、多少だが面倒見もよくなっていた

 

特に、エリオとキャロには気をかけている様子で、二人もそんな冬也に懐いているようだった

 

ちなみに、フェイトはその事に関しては、冬也が少し羨ましかったりした

 

閑話休題

 

そして数十分後、出撃したメンバー達は思い思いに居た

 

それはヘリパイロットだったヴァイスも同じで、ヘリに背中を預けて星空をぼーっと眺めていた

 

すると、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきて

 

「ヴァイス陸曹、差し入れです」

 

とティアナが、飲み物が入ったポットとビニール袋を片手にやってきた

 

「これ、差し入れです」

 

「お、ありがたいね」

 

ヴァイスはティアナから差し入れを受け取ると、サンドイッチを食べながらポットの蓋を使ってコーヒーを飲んだ

 

ティアナはそれを見てから、自分用の飲み物をポケットから取り出して

 

「あのヴァイス陸曹……気に障ったらすいません」

 

「ん?」

 

ティアナが小声で謝ると、サンドイッチを飲み込んだヴァイスが首を傾げながらティアナに視線を向けた

 

「シグナム副隊長から聞きました……ヴァイス陸曹は昔、武装隊でも凄腕のスナイパーで、エースだったって……」

 

ティアナのその話を聞いて、ヴァイスは一瞬動揺したが、すぐに何時もの飄々とした表情を浮かべて

 

「エースなもんかい。魔力量は少なくってバリアジャケットは形成出来ないし、ヘマでミスショットして、今じゃあ、銃すら持てないヘリパイロットだ」

 

と言った

 

「ヴァイス陸曹……」

 

ヴァイスの言葉を聞いて、ティアナは悲しそうな表情を浮かべた

 

すると、ヴァイスはティアナの頭に手を置いて

 

「俺のことよりも、自分のことを心配してろ。そんなんじゃあ、またミスショットするぞ?」

 

と言った

 

「わかりました。それでは、私は戻ります」

 

「おう、差し入れあんがとよ」

 

ティアナが敬礼してから走り去ると、ヴァイスはコーヒーを飲みながら

 

「全部、昔の話さ……そうだろ、ストームレイダー」

 

〈そうですね〉

 

ヴァイスの問い掛けに対して、ストームレイダーは淡々と返答した

 

こうして夜は更けていき、運命の時間は訪れる



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幕開け

意見陳述会が始まって、数時間が経過

 

ここまでは、至って静かに進んでいた

 

なお、機動六課のメンバーははやてと当麻、シグナムが会場に入り、なのはとフェイトが本部内で警備

 

残りのメンバーが外で巡回警備していた

 

なお、本部内に入っている隊長陣と当麻はデバイスの所持を許されなかったので、今はヴィータが預かっている

 

そして夜が明け、もうすぐで終わりという時だった

 

場所???

 

アジトの司令室らしき場所の椅子に座っていたスカリエッティが、クックックと笑い始めた

 

すると、キーボードを叩いていたウーノが

 

「楽しそうですね、ドクター」

 

と問い掛けた

 

すると、スカリエッティは椅子から立ち上がって

 

「ああ、楽しいね……なにせ、これから一世一代の祭の幕開けなんだからね!」

 

と言うと、声高らかに笑い出した

 

「不安要素はありますが……」

 

とウーノが心配そうに言うと、スカリエッティは気にしないと言わんばかりに手を振って

 

「ディエチのことだね? 構わないさ。あの子には、本命は教えていないからね」

 

と言って、メインスクリーンを睨んで

 

「彼らは配置に付いたのかい?」

 

とウーノに問い掛けた

 

「はい。先ほど、配置に付いたと連絡がありました」

 

ウーノが頷きながら言うと、スカリエッティは狂気を孕んだ笑みを浮かべて

 

「宜しい……ならば、始めよう!」

 

と宣言した

 

「はい……作戦、開始」

 

ウーノはそう言いながら、まるで音楽を奏でるようにキーボードを再び叩き始めた

 

場所は変わって、地上本部付近上空

 

そこには、クアットロが一人浮かんでいた

 

「フフフ……嘘と幻の銀幕芝居をご堪能あれ!」

 

そして、彼女のIS

 

シルバーカーテンが発動した

 

その直後、地上本部CIC

 

「なんだ?」

 

「通信が乱れてるぞ!?」

 

官制を担当していた局員が叫ぶと、指揮官が立ち上がって

 

「何をしている! 早く防壁を展開しろ!」

 

と命令するが、画面に警告を示す文字が表示されて

 

「ダメです! システム自体がハッキングされて、操作を受け付けません!」

 

「バカな……地上本部のシステムが、こうも簡単に……」

 

局員の悲鳴のような報告を聞いて、指揮官は驚愕で固まった

 

その時、天井からまるで水面から出てくるように手が出てきて、持っていた二つの物を落とした

 

それは落ちていく途中で爆発し、CIC全体を煙で満たした

 

爆発し煙で満たされた直後は咳き込んでいた局員達は、数秒もしたらその場で倒れた

 

どうやら、睡眠薬か何かだったらしい

 

全員が倒れたのを確認したのか、天井からセインが現れて、笑みを浮かべた

 

その頃になって、外で警備をしていた局員達がようやく気付いたらしい騒ぎ出した

 

それを尻目に、機動六課隊員達は行動を開始していた

 

「お前らはなのは達と合流を目指して、デバイスを渡してやってくれ!」

 

ヴィータはそう言うと、ティアナ達になのは達のデバイスを手渡した

 

「了解!」

 

ティアナ達が頷くのを確認すると、ヴィータは通信画面を開いて

 

「ロングアーチ!」

 

と通信を始めた

 

場所は変わって、ロングアーチ

 

「こちらロングアーチ! 今現在、地上本部に向かって五千を超えるガジェットとドールの混成部隊が向かっています!」

 

グリフィスがそう言うと、ヴィータは頷いて

 

『他に敵戦力は?』

 

と問い掛けた

 

グリフィスはシャーリーに視線を向けるが、シャーリーは無言で首を振った

 

「今のところは確認されてませんが、警戒してください!」

 

『了解した!』

 

グリフィスの言葉を聞いて、ヴィータは頷いてから通信画面を閉じた

 

こうして、長い長い戦いが始まった



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落日

スカリエッティが戦端を開いて、早三十分が経過

 

だというのに、大半の局員達は浮き足立ち、ガジェットとドールに良いように攻め込まれていた

 

中には、指揮官の機転で態勢を整えて迎撃を始めている部隊も存在した

 

だが、全体で見たら雀の涙でしかなく、劣勢なのは火を見るより明らかだった

 

しかし、その中で機敏に動き、多大な戦果を上げている部隊が存在した

 

それが、はやて率いる機動六課であった

 

機動六課メンバーは、己が技量と装備を最大限に活かして奮戦していた

 

だが、所詮は少数人数の部隊

 

結局は数に押されて、徐々に防衛線は後退していった

 

その頃、意見陳述会の会場となった部屋では

 

「何を手間取っている! ガジェットなど、さっさと殲滅しないか!」

 

とレジアス中将が怒鳴っていた

 

ガジェットが近づいたためか、地上本部のセキュリティーは無力化されて、逆に中に閉じ込められていた

 

しかも、途中で爆発音が鳴り響いて、送電も止まった

 

それによりドアすら開かず、中に居た高官達は孤立状態になっていた

 

そんな状況に苛立ちを募らせて、レジアス中将は歯を鳴らしていた

 

「だったら、現状を打破する策を考えたらどうだ?」

 

そう言ったのは、浅黒い肌に灰色の髪をオールバックにした初老の男性

 

パウル・ラダビノット中将だった

 

ラダビノット中将の言葉を聞いて、レジアスは憎々しげな視線をラダビノット中将に向けた

 

地上本部において、ラダビノット中将はレジアス中将と人望を二分している

 

レジアス中将は武闘派で知られ、かなり過激な策も打ち出す

 

それに対して、ラダビノット中将は見事な指揮能力と冷静な判断力を有しており、いざという時は次元航行部隊や各地上部隊との橋渡しをやり、非常に高い連携力を出すのを得意としている

 

しかし、最近ではレジアス中将の行動は目に余るという意見が多くなり、ラダビノット中将に鞍替えする高官達や部隊が続出しており、今回の意見陳述会はレジアス中将にとって、起死回生の一手を打つための場であった

 

だというのに、スカリエッティが戦端を開いたことにより、レジアス中将は窮地に立たされていた

 

何故ならば、スカリエッティの戦力に戦闘機人が居て、その戦闘機人の骨子を提唱したのが、何を隠そうレジアス中将なのだ

 

そして、戦闘機人に関する研究等は時空管理局では禁止になっており、禁止案を出したのが、他ならぬラダビノット中将なのである

 

更には、人造魔導師計画もレジアス中将が発案し、これもラダビノット中将によって禁止になっていた

 

レジアス中将は戦闘機人計画や人造魔導師計画を、時空管理局の慢性的な人手不足の解消のために提唱したのだ

 

しかし、ラダビノット中将は真っ向から反対した

 

確かに、人手不足は解消出来るかもしれない

 

だが、そのために人の倫理を捨てて、人体実験を容認するのは出来ない

 

ラダビノット中将のその言葉を聞いて、当初レジアス中将の計画に賛成していた高官達は道を踏み外していることに気づいた

 

その後はとんとん拍子で否決され、更には禁止となった

 

そこからは、レジアス中将は劣勢に立たされた

 

そして、起死回生の一手として、巨大魔力砲台

 

アインヘリアルを提唱

 

試作機三台までこぎ着けた

 

しかし、このアインヘリアルにもラダビノット中将は反対した

 

それは恐怖による統治だと

 

恐怖統治は長くは続かず、必ず反発を招くと

 

更に、人手不足の根本的な解決になっていないと

 

結果、アインヘリアル計画は紛糾したものの、試験的に導入を決定

 

そして、今日を迎えた

 

だが、アインヘリアルの運用すら危うくなってきていた

 

アインヘリアルの欠点

 

それは、威力が高い故に簡単には市街地に向けては撃てないこと

 

そしてもう一つは、チャージに時間が掛かることだった

 

具体的な策が思い付かず、レジアス中将が拳を握り締めていると

 

「ドアはまだ開かんのか! 君たちは普段何をしている!」

 

とラダビノット中将が声を張り上げた

 

すると、ドアの所に集まっていた局員の一人が

 

「ドアが予想以上に堅く閉まっていて、なかなか開きません!」

 

と返答した

 

局員の言葉を聞いて、ラダビノット中将は手を振るいながら

 

「壊してでも、開けろ! 設備の破壊を許可する!」

 

と命令を下し、局員が工具を取りに走り出すと、今度は壇上で白衣を着ている技術者に顔を向けて

 

「通信機の修理はどうなっているか!」

 

と問い掛けると、技術者の一人が振り返り

 

「今現在、最終調整中です! 後少々お待ちください!」

 

と答えた

 

意見陳述会に使われたこの会議室は、緊急事態には指令室としても使えるようにと別電源の大型の通信機が仕舞われてあった

 

だが、今までそのような事態が起きなかったためにメンテナンス等はされておらず、壊れていたのだ

 

ラダビノット中将はそれを知ると、会議室の管理者を叱責しながらも、会議室内に居た技術者達に修理するように命じたのだ

 

そして、その修理ももうすぐ終わる

 

ラダビノット中将はそう判断すると、視線をはやてに向けて

 

「八神はやて二等陸佐!」

 

とはやてを呼んだ

 

「ハッ!」

 

呼ばれたはやては当麻を伴い、ラダビノット中将に駆け寄った

 

すると、ラダビノット中将ははやてを見ながら

 

「確か、機動六課は何度かガジェットやあの人型機……確か、ドールと戦っていたな?」

 

と問い掛けた

 

ラダビノット中将からの問い掛けに対して、はやては頷くと

 

「ハッ! 幾度か交戦し、全て撃破してます」

 

と答えた

 

はやての返答を聞いて、ラダビノット中将は満足そうに頷くと

 

「では、八神はやて二等陸佐に、今回の防衛戦の指揮を任せたい」

 

と告げた

 

ラダビノット中将の言葉は流石に予想外だったらしく、はやては固まった

 

その直後、レジアス中将は机を思い切り叩くと

 

「ラダビノット、貴様は正気か!!」

 

と怒声を張り上げた

 

レジアス中将の怒声に、ほとんどの局員が固まるが、ラダビノット中将は意に介さずに

 

「アレらと交戦経験がある彼女達に任せたほうが、適任と判断したのだよ……それに、彼女達は以前から何度もガジェットの危険性を説いていたのに、それを無視していたのは誰だったかな?」

 

ラダビノット中将の言葉を聞いて、レジアス中将は憎々しげに歯を鳴らした

 

そう、過去に何度もはやて達はガジェットの危険性を説いていたというのに、その全てを無視していたのは、他ならぬレジアス中将だった

 

レジアス中将ははやて達が上げた報告書を読んでも、全てバカバカしい、倒すのは容易と言って放置したのである

 

だが、現実はどうだろうか?

 

ほとんどの局員は逃げ惑い、手も足も出ないで易々と地上本部に攻め込まれている

 

そんな中で、唯一まともに戦果を上げているのははやて率いる機動六課と繋がりが強かった陸士108部隊だけ

 

精鋭と呼ばれている空戦部隊ですら、空戦型ガジェットに突破を許している

 

それらの原因は全て、地上本部の守りが鉄壁という慢心から来ていた

 

そして、その慢心の中心が何者でもなく、レジアス中将だった

 

レジアス中将は間違いなく、今回の責任を問われるだろう

 

それを予想してか、レジアス中将はギリギリと拳を強く握り締めた

 

その時、技術者の一人が振り向いて

 

「ラダビノット中将、修理完了しました!」

 

と声を張り上げた

 

技術者の言葉を聞いて、ラダビノット中将は頷くと同時に幾つもの通信画面を開いて

 

「各部隊、状況を報告せよ!」

 

と言った

 

その直後、はやての前にも複数の通信画面が開いた

 

なのは、フェイト、そして機動六課隊舎からの通信だった

 

だが、機動六課隊舎からの通信は激しいノイズが走っていた

 

「グリフィス准尉!?」

 

『どうしたの、グリフィス! 通信が!?』

 

フェイトが問い掛けると、画面向こうのグリフィスは机に片手を突きながら

 

『こちら……動六……舎……こちらは……の激しい攻撃で……保ちません!』

 

という報告をしてきた

 

「よう聞こえへん! 繰り返せ!」

 

はやてがそう言うと同時に、ラダビノット中将が

 

「通信、クリアにならんのか!?」

 

と大声を上げた

 

「待ってください……! 今……!」

 

技術者がそう言った数秒後、先ほどよりかは鮮明に通信が繋がり

 

『こちら……機動六課隊舎のグリフィス准尉……こちらは今現……敵の大軍により……もはや、保ちません!』

 

と、グリフィスは六課が陥落するという絶望的な報告をしてきた

 

これが、スカリエッティの本当の狙いだった



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六課、陥落

なのは達が地上本部付近で戦っていた時、六課隊舎は所々で火災が起きていた

 

「ディエチ、どうなっている! こちらに敵戦力が来るとは聞いていないぞ!」

 

冬也が一体のドールを斬り捨ててから怒鳴るように問い掛けると、ディエチは火砲を放って数体纏めて吹き飛ばして

 

「ここを襲撃するなんて、私は知らなかった!」

 

と冬也の言葉に反論した

 

ディエチの言葉を聞いて、冬也は唇を噛むと

 

(ガジェットやドール程度ならば、大した手間ではない……だが、あいつらは厄介だ!)

 

と視線を上に向けた

 

そこに居たのは、鋼拳、反射、音と呼称することになった三人の姿があった

 

当初、フェイトが「名前呼びでもいいのでは?」と言ったが、冬也が「あいつらは既に死んでいる。それなのに、死んだ奴の名前で呼ぶのはあいつらへの侮辱になる」と言ったので、能力名を呼ぶことにした

 

そして、目の前の三人の他に、戦闘機人二人が居た

 

その二人を見て、ディエチが

 

「オットーにディード!? 目覚めたなんて……」

 

と驚いていた

 

「どういうことだ?」

 

冬也が問い掛けると、ディエチは少し驚いた様子で

 

「あの二人は、私が居た時はまだ、調整中で目覚めてなかった……」

 

と説明した

 

「能力は分かるか?」

 

冬也が問い掛けると、ディエチは首を振って

 

「ごめん……よく知らないんだ」

 

と答えた

 

すると、二人の背後から

 

「あの長髪の子は近接戦闘型、あの短髪の子は遠距離型みたいね」

 

「……私達で戦った所感だがな」

 

と声が聞こえた

 

「シャマル、ザフィーラ!」

 

「二人共、大丈夫!?」

 

冬也とディエチが問い掛けると、シャマルとザフィーラの二人は頷きながら

 

「なんとか……大丈夫よ……」

 

「うむ……」

 

と答えたが、二人は全身傷だらけだった

 

どうやら、戦闘機人二名と戦ったらしい

 

そのタイミングで、冬也の前に通信画面が開き

 

『冬也隊長、こちらグリフィス! 現在、防衛線を構築している戦術機部隊は、撃震が全滅、陽炎と吹雪が半壊、武御雷、不知火、海神が無事ですが、長くは保ちません!』

 

とグリフィスが報告してきた

 

グリフィスの報告を聞いて、冬也は舌打ちしてから

 

「向こうとはまだ繋がらないのか!?」

 

と怒鳴るように問い掛けた

 

すると、グリフィスは首を振って

 

『ダメです! 向こうでシステムがダウンしたのか、一切繋がりません!』

 

と報告した

 

グリフィスのその報告に、冬也が歯噛みしていると

 

「ディエチ……本当に裏切ったんだね」

 

「まさかとは思いましたが」

 

とオットーとディードが言うと、ディエチが

 

「今ならわかる! ドクターのしようとしてることは、間違ってる! こんなことしなくても、世界で生きていけるよ!」

 

と反論した

 

しかし、二人はディエチの言葉を無視して

 

「私達にとっては、信じられません」

 

「だから、僕達は世界を一回破壊する」

 

二人がそう言うと、ディエチはギリっと歯を鳴らして

 

「このっ……!」

 

と言うと、巨砲を腰だめに構えて

 

「よせ、ディエチ!」

 

「分からず屋ー!」

 

冬也が制止するが、極太の砲撃を放った

 

放たれた砲撃はオットーとディードの二人目掛けて疾走するが、砲撃と二人の間に人影が割って入った

 

割って入ったのは、茶髪の女だった

 

茶髪の女、反射はディエチの放った砲撃に対して、右手を一閃し、ディエチの砲撃に指先が触れた

 

その瞬間、ディエチの砲撃はまるで壁に当たったボールのように、ディエチへと迫った

 

「あっ……」

 

ディエチが自身の死を予想した直後、ディエチの前に冬也が踏み込むように現れた

 

冬也は野太刀形態にした夜叉を腰だめに構えて、左手の親指で鯉口を切ると、腕が霞むような速度で抜刀した

 

「忌剣、風切り!」

 

冬也の斬撃により、ディエチに迫っていた砲撃は真っ二つに斬れた

 

砲撃はそのまま、二人の後ろへと霧散しながら消えた

 

その直後、冬也の目前に大柄な男

 

鋼拳の姿があった

 

冬也は斬撃を放った直後の為に、回避が間に合わず、鋼拳の直撃を腹部に受けた

 

「ガアアアァァァッ!?」

 

その一撃で冬也は数メートル吹き飛び、六課隊舎の壁にめり込んだ

 

「ガフッ!? ……っ!」

 

強制的に息を吐き出されても、冬也はすぐに視線を前に向けた

 

だが、そんな冬也の顔を鋼拳の手のひらが壁へと押さえつけた

 

そして、冬也の限られた視界に見えたのは、右手をまるで弓を引き絞るように引いている鋼拳の姿だった

 

(この構えは、コイツの得意技にして必殺の!)

 

冬也がそう思った直後、鋼拳の拳がまるで、大砲のような音を伴って冬也の胸部に放たれた

 

鋼拳の必殺技

 

破城鎚

 

その一撃は、巨大な城を一撃で粉砕することが可能である

 

そんな一撃を胸部に受けて、冬也はボキボキという嫌な音が聞こえ、口からは鮮血が溢れた

 

それでも冬也は刀を振るおうとしたが、その前に鋼拳の追撃たる蹴りの一撃を頭に受けて、冬也の意識は闇に落ちた

 

この数分後、シャマル、ザフィーラ、ディエチの三人も倒れて、それと同時に地上本部に通信が繋がったのだ

 

そして更にこの数分後に、六課は完全に炎に包まれた

 



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急行

六課からの通信を聞いて、はやては部隊を三つに分けた

 

フェイト率いる、シグナム以外のライトニング隊は六課隊舎へ

 

ヴィータ以外のなのは率いるスターズ隊は、地下に向かって通信が途絶えたギンガとマックスの二人の捜索及び救援へ

 

そして、シグナムとヴィータ含めたネギ率いるアサルト隊は遊撃隊として行動を始めた

 

尚、アサルト隊はラダビノット中将の計らいにより、試験的に配備される予定だった戦術機部隊の指揮を一任された

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「冬也さん、返事をしてください! シャマル、ザフィーラ、ディエチ、グリフィス!」

 

「ロングアーチ、長谷川さん、茶々丸さん!」

 

フリードに乗っているエリオとキャロを先導する形で飛びながら、フェイトと刹那は隊舎に残っているメンバーを呼んだ

 

だが、隊舎側からは一切返事はなく、それが余計にフェイト達を不安にさせた

 

「フェイトさん、刹那さん! 僕達は置いて、先に行ってください!」

 

「お二人のスピードなら、すぐに到着出来るはずです!」

 

エリオとキャロが二人に先に行くように促すが、二人は首を振って

 

「それはダメ。二人は空中戦が出来ないんだよ?」

 

「私達が先行して二人が襲われたら、二人はまともに戦えません」

 

と拒否した

 

本当だったら、エリオとキャロの提案に乗って隊舎へと向かいたかった

 

だが、まだ幼い二人を残して先行する訳にはいかなかった

 

その時、フェイト達の前方に人影が二つ現れた

 

片方は、以前に廃棄都市区画で交戦したトーレ

 

そしてもう一人は、両手に巨大なブーメラン状の武装を持った茶髪のロングヘアーが特徴の少女だった

 

「お前達は……」

 

フェイトと刹那が身構えていると、トーレが手を伸ばして

 

「フェイトお嬢様、お迎えにあがりました」

 

「我々と一緒に、ドクターの所に来ていただきます」

 

とトーレに続いてもう一人が言うと、フェイトは激昂した様子で

 

「誰が行くものか!」

 

と叫んだ

 

すると、トーレは困ったような表情を浮かべて

 

「聞き分けの無い事を言わないでください。フェイトお嬢様と私達は、言わば姉妹のようなものではないですか。そして、ドクターは私達の親も同然」

 

とトーレが言った直後、フェイトはバルディッシュを突きつけて

 

「あんな男が親など、願い下げだ!」

 

と叫んだ

 

「フェイトさん、落ち着いてください!」

 

怒りで冷静さを失いかけていたフェイトに対して、刹那が落ち着くように促しながら刀を構えた

 

すると、トーレともう一人

 

セッテも構えて

 

「こうなったら仕方ありません……力ずくで連れて行きましょう」

 

「お覚悟を、フェイトお嬢様」

 

と宣言した

 

「覚悟するのは、お前達だ!」

 

「ここで捕まえます」

 

フェイトと刹那はそう言いながら、肩越しにエリオとキャロに視線を向けた

 

二人の視線を受けて、エリオは二人の意図に気付き

 

「フリード!」

 

とキャロの後ろから、フリードの手綱を引いた

 

するとフリードも、エリオの指示に従ってフェイトと刹那の横を通って隊舎の方向へと向かった

 

「エリオ君!?」

 

「フェイトさん達が足止めしてくれてる間に、隊舎へ行こう!」

 

キャロが驚いて振り向くが、エリオはそう言って隊舎へと向かった

 

場所は変わって、地上本部地下

 

「ギン姉……マックス兄……」

 

地下を走っていたスバルは呟くように二人の名前を呼ぶと、そこから加速した

 

それに僅かに遅れて、なのはに抱えられたティアナと、楓と古菲が現れた

 

「スバル! 先行し過ぎ!」

 

「ごめん! でも、嫌な胸騒ぎが!」

 

ティアナが叱責するが、スバルはそう返して更に加速した

 

「んー……やっぱり、こういう場所だとスバルのほうが早いね……」

 

「すいません、なのはさん……私が瞬動を習得しきってないから……」

 

なのはの言葉を聞いて、ティアナは申し訳なさそうにそう言った

 

「仕方ないよ。ティアナの瞬動の成功率、まだ三割位なんだから」

 

実を言うと、最近になってネギ達がティアナやエリオ、キャロに高速移動技の瞬動を教えていたのだ

 

だが、元々余り動かないキャロとティアナの二人は、未だに成功率は三割程程度

 

それに対して、エリオは元からかなり動くのと、高速移動を得意としていたので、あっという間にマスターしたのだ

 

「拙者達に任せるでござるよ」

 

「スバルを追いかけるアルね!」

 

なのはの両側に現れた楓と古菲がそう言うと、なのはは少し考えてから

 

「二人共、お願い」

 

と告げた

 

「ラジャアル!」

 

「了解でござる!」

 

二人は返事すると、あっという間に加速していった

 

「本当に速いなぁ……」

 

「しかも、限定的ながら空中戦も可能なんですよね……確か、虚空瞬動でしたっけ」

 

二人が呆然と呟いている間にも、スバルはどんどんと突き進んだ

 

そして広間に出た時、スバルの目に飛び込んできたのは

 

「ギン姉……マックス兄……?」

 

ボロボロになり、三人の戦闘機人により押さえつけられた二人の姿だった

 

三人の内、手空きだった一人

 

小柄な体躯に長い銀髪、右目に付けた眼帯が特徴の戦闘機人が振り向いて

 

「ほう……タイプゼロ・セカンドか……探す手間が省けた」

 

と言いながら、ナイフを構えた

 

だが、スバルにはそれは聞こえておらず、スバルの目はボロボロになっている二人に向けられていた

 

「ギン姉……マックス兄……」

 

呆然と呟いた時、スバルの足下に、魔法陣が現れた

 

だが、それは普段出現するベルカ式でも、ミッド式でもない、全く別の魔法陣だった

 

その直後、スバルの目が青から金色に変わった

 

「うああぁぁぁぁ!」

 

スバルが叫ぶと同時に、魔力の奔流が溢れ出した

 

そして、スバルが忌み嫌っていた力が発現する

 

再び場所は変わり、市街地

 

そこでは、ゲンヤ・ナカジマ率いる陸士108部隊が必死の防衛戦を展開していた

 

「ナカジマ三佐! 右翼が押されてます!」

 

「付近に手空きの部隊は!?」

 

部下からの報告を聞いて、ゲンヤは怒鳴るように問い掛けた

 

すると、ウィンドウを見ていた別の部下が

 

「陸士152部隊が居ますが、そちらも手一杯だそうです!」

 

と報告してきた

 

その報告を聞いて、ゲンヤは頭をガリガリと掻きながら

 

「こいつはいよいよ……進退極まったか……」

 

と呟いた

 

その時だった

 

『こちら、機動六課アサルト隊です! これより援護します!』

 

と子供の声が聞こえた

 

「なに!?」

 

ゲンヤが驚いて顔を上げた瞬間、数えるのが馬鹿らしい程の光の矢が降り注いでガジェットやドールを一掃した

 

あまりの光景にゲンヤが固まっていると、雷光を纏った子供

 

ネギが着地、それに遅れて武と冥夜、明日菜の三人が着地し、僅かに生き残っていたガジェットやドールを撃破した

 

すると、数秒後に夥しい数のロボットが次々と着地した

 

「こいつは……」

 

ゲンヤが呆然としていると、雷天双装を解除したネギが歩み寄って

 

「陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマさんですね?」

 

と問い掛けた

 

「ああ、そうだが……お前さんは?」

 

ゲンヤが問い掛けると、ネギは頭を下げながら

 

「僕は機動六課民間協力者のネギ・スプリングフィールドです」

 

と名乗った

 

そして、背後で警戒態勢を取っている武達に視線を向けて

 

「あちらに居るのは、同じく民間協力者の白銀武さん、御剣冥夜さん。そして、神楽坂明日菜さんです」

 

と紹介した

 

「なるほど……お前さん達が、八神の嬢ちゃんの所に居る民間協力者か」

 

ネギの紹介を聞いて、ゲンヤは納得した様子で頷いた

 

「ここは僕達が引き受けますので、後退して態勢を整えてください」

 

「だが……お前さん達だけじゃあ」

 

ネギの言葉にゲンヤは難色を示すが、ネギは笑みを浮かべて

 

「大丈夫です。僕達は簡単には倒れません」

 

と断言した

 

ネギの言葉を聞いて、ゲンヤは数秒間悩んでから

 

「わかった。すまねぇが、ここは頼む」

 

とネギに言った

 

「はい! お任せください!」

 

ネギが返事をすると、ゲンヤは部下達に後退の号令を下し、負傷者達に肩を貸しながら後退していった

 

「ネギ! 新手が来たわよ!」

 

明日菜がそう言いながら指差した方向には、数百機ほどのガジェットとドールの混成部隊が見えた

 

「陸士108部隊の方々が後退する時間的を稼ぎます! 武さん、冥夜さん! 戦術機部隊の指揮は任せます!」

 

「「了解!」」

 

「明日菜さんは僕と一緒に突撃します!」

 

「わかったわ!」

 

ネギの指令を受けて、武達は防衛戦を開始した

 

こうして、長い戦いは中盤戦に入った



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少女の叫び

フェイトと刹那の二人から離れて、エリオとキャロの二人は隊舎へと向かっていた

 

途中までは冬也の存在もあって、隊舎は無事だと思っていた

 

だが、隊舎の方角の空が真っ赤に染まっていることに、二人は気付いた

 

「そんな!?」

 

「フリード、急いで!」

 

キャロは顔を青ざめ、エリオはフリードに速度を上げるように促した

 

エリオの要請を受け入れて、フリードは速度を上げた

 

そして二人の視界に入ったのは、炎に焼かれている機動六課の隊舎だった

 

「隊舎が!?」

 

「冬也父さん、皆さん!!」

 

二人が呼ぶが、もちろん返事はなかった

 

よく見れば、折り重なるようにシャマル、ザフィーラ、ディエチが倒れており、隊舎の壁を貫通し、冬也が瓦礫に埋まっていた

 

その光景二人が驚いていると、二人の視界にある影が入った

 

それは、戦闘機型ガジェットの上に乗っているルーテシアと召喚虫のガリュー

 

さらには、ガリューに抱かれているヴィヴィオの姿だった

 

それを見た瞬間、エリオは歯を食いしばり

 

「ストラーダ! フォルムツヴァイ!」

 

と声高に叫びながら、フリードの背中から跳んだ

 

「エリオ君!?」

 

キャロが気づいて止めようとするが、エリオは気づかずにストラーダのブースターを吹かした

 

「ヴィヴィオを……離せえぇぇぇ!」

 

エリオが叫びながら突進すると、ガリューはヴィヴィオを一旦ガジェットの上に寝かせてから、背中の羽を高速で動かして飛翔した

 

「はあああぁぁぁ!!

 

「……」

 

二人は対照的に互い目掛けて突撃した

 

「ぜあっ!」

 

「……」

 

交差するように放たれた二人の初撃、打ち勝ったのはガリューだった

 

ガリューの一撃でエリオはバランスを崩し、それを見逃さずにガリューは追撃でエリオを蹴り飛ばした

 

「うあぁぁぁ!? っ……!」

 

蹴り飛ばされたエリオは真っ逆様に落ちるが、なんとかストラーダのブースターを吹かして、バランスを取り直した

 

そして、その場でグルグルと回ると、その勢いのまま、再びガリュー目掛けて突撃した

 

だが、この時のエリオは激情に駆られていて、何時もの冷静さは無くなっていた

 

だから気付かなかった

 

ガリューが、冷静にエリオの突撃の軌道を読み、カウンターのタイミングを計っていたことに

 

エリオは自分の間合いに入ると同時に、ストラーダを大きく突き出した

 

だが、ガリューはその一撃を左手の爪を使って逸らし、右肘をエリオの顎に叩き込んだ

 

「ガッ!?」

 

その一撃で、エリオは一瞬意識が遠のいた

 

そしてガリューは、トドメと言わんばかりに体を前転させると、エリオの後頭部に踵落としを叩き込んだ

 

「ガアアアァァァ!?」

 

その一撃でエリオは、完全に海中に没した

 

「エリオ君!」

 

そんなエリオを助けようと、キャロはフリードに命じてエリオが落ちた場所に向かった

 

この時キャロは、エリオを助けることしか考えておらず、周囲への索敵を怠っていた

 

だから、エリオを倒したガリューが背後に近づいたことに気付かなかった

 

(警告、背後です!)

 

「えっ!?」

 

ケリュケイオンの警告でようやく気づき、キャロは振り向いた

 

だが、時既に遅かった

 

ガリューはキャロに肉薄し、フリード毎キャロを蹴り飛ばした

 

「キャアアアァァァ!?」

 

ガリューに蹴られて、キャロはフリード諸共海に落ちた

 

数分後、キャロは小さくなったフリードを頭に乗せ、見つけたエリオを先に陸に上げると、燃えている機動六課隊舎を見た

 

そして、キャロの中に広がったのは、悲しみと絶望だった

 

また、自分達の居場所が壊されるという悲しみと、無力な自分に対しての絶望だった

 

そして、キャロはソレを召喚する

 

「竜騎……召喚……」

 

キャロがそう呟いた直後、キャロの足下に巨大な魔法陣が現れた

 

「ヴォルテール!」

 

キャロがその名を叫ぶと、魔法陣からその巨体が姿を現した

 

高さは優に10m近くあり、その姿はどこか、人間に近いものが有った

 

だが、決定的に違う所を挙げると、頭に有る角と背中から生えている巨大な黒い翼だった

 

この竜は真竜ヴォルテール

 

キャロの故郷、アルザスを守護する竜で、竜の中でも別格の竜である

 

「壊さないで……私達の居場所を……壊さないでぇぇぇぇ!」

 

キャロが涙と共に叫んだ直後、ヴォルテールは極太の火線を放った

 

その火線の名は《ギオ・エルガ》

 

ヴォルテールの放つ攻撃の中でも、最強の一撃である

 

その一撃で、周辺に居た大量のガジェットとドールは全て、一瞬にして跡形もなく蒸発した

 

破砕でもなく、溶けるでもなく、蒸発である

 

それだけで、その一撃の威力を物語っている

 

その後キャロは泣き続け、ヴォルテールはそんなキャロを守るために、その場から一歩も動かなかった

 

トーレとセッテの二人と交戦が終わった刹那とフェイトが来るまで



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目覚める力

「ギン姉……マックス兄……」

 

姉からの最後の通信が有った場所に到着したスバルが見たのは、三人の戦闘機人と音、吸収の五人の足下で血まみれで倒れている二人の姿だった

 

しかも、三人の戦闘機人の内二人は、途中で一度交戦した二人だった

 

そんな光景が信じられず、スバルは首を振りながら後退りして

 

「あ……あ……アアアァァァァ!!」

 

と叫び声を上げた

 

それと同時に、スバルの足下に普段展開しているのと違う魔法陣が展開された

 

それは、ディエチ達戦闘機人と同じ魔法陣だった

 

「スバル!?」

 

「これは、一体……」

 

僅かに遅れて到着した古菲と楓は、スバルの変わりように驚きながらも状況の把握に勤めた

 

そして、二人の視界に入ったのは、意識を失っているらしいギンガをトランクに詰めて逃げようとしている戦闘機人

 

ノーヴェとウェンディの姿だった

 

「返せ……! ギン姉を返せぇぇぇぇ!」

 

スバルは叫びながら、有り得ない速度で突撃した

 

それに反応したのは、スバルと同じ格闘型の戦闘機人

 

ノーヴェだった

 

「らあっ!」

 

「アアアァァ!」

 

二人は全く同じタイミングで、ほとんど同じ軌道を描いて回し蹴りを繰り出した

 

その結果、二人の蹴りは空中でぶつかり合い、二人のデバイスたるマッハキャリバーとジェットエッジが火花を散らした

 

その直後大きな爆発が起きて、二人は大きく吹き飛ばされた

 

「があっ!?」

 

「あぐっ!?」

 

二人はそれぞれ、真反対の壁にめり込んだ

 

「くっそがぁ……!!」

 

ノーヴェは悪態を吐きながら立ち上がろうとしたが、それより早くスバルが態勢を立て直し

 

「邪魔……するなぁぁぁぁ!」

 

と叫びながら、更に出力を上げた

 

そのタイミングで、ノーヴェは立ち上がってスバルに再び攻撃しようとした

 

だが、長い銀髪に右目に眼帯を付けた小柄な少女が一歩前に出て

 

「ノーヴェはウェンディと共に撤退しろ。タイプゼロ・セカンドは、姉が捕縛する」

 

と言った

 

「だけどチンク姉……アイツ、厄介な能力を持ってる! 触れられたらヤバい!」

 

ノーヴェは目の前の少女、戦闘機人チンクを心配してか、そう忠告した

 

するとチンクは、両手に何本もの投げナイフを出して

 

「大丈夫だ……姉ならば、触れずに戦える!」

 

と言うと、そのナイフを全て投げた

 

そのナイフを無視して、スバルはチンクに向かって突撃した

 

だが、スバルがナイフのど真ん中に来た瞬間

 

「IS……ランブル・デトネイター!」

 

とチンクが告げた直後、チンクが投げたナイフが全て爆発した

 

「ぐっ!?」

 

爆風に呑まれて、スバルは再び吹き飛ばされた

 

この時点で、スバルが展開していたバリアジャケットはボロボロだった

 

だがそれでも、スバルは止まらない

 

今にも逃走しようとしているウェンディとノーヴェを見ると、拳を握り締めて

 

「ギン姉!」

 

と叫ぶと、ウェンディ達の方へと向かった

 

「ウェンディ、ノーヴェ、早く行け!」

 

チンクはそう言いながら、指を鳴らした

 

すると、スバルの前にナイフが大量に現れて一気に起爆してスバルは爆発に呑まれた

 

チンクの言葉に頷き、ノーヴェは駆け出してウェンディはボードに乗ると

 

「IS、エリアル・レイブ!」

 

と言った

 

そして、ウェンディが乗ったボードが飛び去ろうとした

 

その時だった

 

一発の魔力弾がウェンディのボードと、ギンガの入っているトランクを繋ぐ鎖に直撃し、破壊した

 

「なっ!?」

 

まさか破壊されるとは思ってなかったのか、ボードを飛ばしていたウェンディは驚愕の表情を浮かべながら振り向いた

 

そして、魔力弾の飛んできた方向を見ると、撃ったのは、血に濡れた体を瓦礫で支えながら愛機を構えていたマックスだった

 

「惚れた女……渡すかよ!!」

 

マックスはそう言うと、トランクを掴むためか戻ろうとしていたウェンディに愛機を向けて撃った

 

〈バーストショット!〉

 

マックスが放った魔力弾は、ウェンディの少し手前で炸裂し、弾数を増やした

 

「うわっと!?」

 

避けきれないと判断したのか、ウェンディはボードから降りてボードを楯のように構えて耐えた

 

「ムチャをするアル!」

 

「だが、好都合でござる!」

 

吸収と音の二人と交戦していた古菲と楓の二人がそう言った直後、楓が分身をウェンディとトランクの間に向かわせた

 

そして、その分身体の楓は一本のクナイを天井に突き刺した

 

すると、人差し指と中指を口元で立てながら

 

「爆!」

 

と詠唱した

 

その直後、クナイの柄尻に結ばれていた糸の先に有った札が大爆発

 

天井を崩落させた

 

「しまったッス!」

 

ウェンディは楓の狙いに気付いたが、時既に遅し

 

崩落した天井が積み重なり、通路を塞いだ

 

すると、スバルと交戦していたチンクの前にウィンドウが開いて

 

『チンク姉、ごめんなさいッス! タイプゼロ・ファーストの入ったトランクを奪われたッス!』

 

とウェンディが言うと、チンクは舌打ちしてから

 

「仕方ない……撤退する!」

 

と告げた

 

だが、それより早くスバルが

 

「邪魔だあぁぁぁ!」

 

と雄叫びを上げながら、チンクに対して拳を繰り出した

 

回避が間に合わないと判断したのか、チンクは右手を前に出して、障壁を展開した

 

最初は拮抗したものの、数瞬後に耐えきれなくなって爆発した

 

「ぐあっ!?」

 

「ガハッ!?」

 

爆発により二人は大きく吹き飛ばされて、チンクは瓦礫に、スバルは壁に激突した

 

「ガッ……グッ……なんて一撃だ……」

 

チンクはそう言いながら立ち上がろうとするが、ダメージでかなかなか立ち上がれなかった

 

その間に、スバルが煙の中から現れたのだが、変わり果てた姿だった

 

バリアジャケットの上着とトレードマークだった鉢巻きが無くなり、左腕も半ばから千切れかけていて、中から金属やコードが露出していた……

 

「ギン姉を……返せよぉ!」

 

スバルはそんな様相になりながらも、まだ前に進もうとした

 

だがその時、スバルの近くに楓の分身体の一体が現れて

 

「落ち着くでござる! ギンガ殿は助けたでござる!」

 

とスバルに告げた

 

「えっ……?」

 

その言葉にスバルは呆然として、僅かに視線を動かした

 

すると、楓の分身体のもう一体が、ギンガをトランクから救出しているのが、スバルの視界に入った

 

「ギン姉……良かったぁ……」

 

スバルは安心した様子で呟くと、力が抜けたように座り込んだ

 

その間に、音と吸収、更にチンクは足下の影に沈むように姿を消した

 

それを確認した二人は、他に敵が居ないか確認した後に、ギンガ達の治療を開始

 

その時になって、遅れていたなのはとティアナが合流

 

二人はなのは達に仔細を説明した

 

なおこの戦いにより、スバルのデバイス

 

マッハキャリバーは致命的な損傷により機能を停止

 

しばらく修理に回されることが決まった



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強い決意

解放(エーミツタム)! 魔法の射手(サギタ・マギカ)! 光の千一矢(セリエス・ルーキス)!」

 

ネギが放った夥しい数の矢は、まるで絨毯爆撃の如き威力を発揮して、ガジェットやドールを次々と吹き飛ばした

 

「いい加減に、品切れになれってんだ!」

 

「ボヤくな、武! 我々が抜かれたら、被害が大きくなるぞ!」

 

武は愚痴りながら、一体のドールを蜂の巣にして、冥夜は諫めながら、長刀でガジェットを切り裂いた

 

その横では、明日菜が大剣を振り回して、数体纏めて斬り捨てた

 

だがそれでもなお、膨大な数のドールやガジェットが殺到してくる

 

戦術機部隊も陣形を組んで砲撃しているが、数の差が激しく、徐々に後退を余儀なくされていた

 

長くは保たない

 

ネギ達はそう予測しながらも、少しでも長く時間を稼ごうと奮戦していた

 

だが突如として、ガジェットやドールが動きを変えた

 

今まで破竹の勢いで侵攻してきたというのに、ガジェットやドール達が侵攻を停止

 

反転し、空高くへと舞い上がっていった

 

「なんだ……?」

 

「攻撃を止めた……?」

 

「どうして……?」

 

ネギ達が困惑していると、空に大きなスクリーンが表示された

 

そこに映っているのは、紫髪の男だった

 

「あいつは、確か……」

 

「ジェイル・スカリエッティ……!」

 

そう。その紫髪の男こそが、機動六課が追っているスカリエッティだった

 

『やあ、時空管理局の諸君! 今回の祭はどうだったかね? 今回のは、今まで淘汰された科学者達の恨みの一撃だと思ってくれたまえ』

 

スカリエッティはどこか愉悦が混じった表情でそう言うと、両手を広げて

 

『もし、今回私が動かした力が欲しいという方々が居るのなら、格安でお譲りしよう!』

 

と言うと、狂ったように笑い出した

 

それを聞いて、ネギ達は察した

 

スカリエッティは、目的を達したのだと

 

なおその放送は、地上本部でも聞こえていた

 

ほとんどの高官達が呆然とするなか、レジアスは目を見開き、ラダビノットは矢継ぎ早に指示を出していた

 

だが、はやては悔しそうに拳で机を叩いて

 

「まだや……まだ、終わってへん……!」

 

と画面の向こうで高笑いしているスカリエッティを睨んだ

 

「まだ、六課は終わってへんよ……!」

 

それは、強い決意が籠もった言葉だった

 

フェイトやキャロからの報告で、六課隊舎は壊滅し、残っていた者達もほとんど重傷だと聞いた

 

遊撃していたヴィータとリインも、接敵し交戦したゼストという男の攻撃で、アイゼンは破損し、リインは意識を失った

 

陸士108から出向してきたギンガとマックス、スバルの三人も重傷を負ったことは聞いた

 

だが、それがどうした?

 

隊舎が壊滅したのならば、代わりを見つければいい

 

隊員達も生きてるなら、治療すれば立ち上がれる

 

壊れたデバイスは、直せばいい

 

大事なのは、諦めずに立ち上がることだ

 

諦めたら、全てそこで終わる

 

だから、痛くとも、みっともなくとも、諦めずに立ち上がって、最後の最後まで戦おう

 

絶望しそうな事など、今まで何回もあった

 

諦めそうなことだって、何回もあった

 

だが、全員は諦めずに、絶望もしないで立ち上がってきた

 

守るために

 

己の維持(エゴ)を貫き通すために

 

何度も何度も立ち上がり、魔法を、刃を、拳を、血に塗れても振るい続けた

 

それがまた、一回増えるだけ

 

誰も諦めていない

 

誰も絶望していない

 

だから、また立ち上がれる

 

はやてはそう確信していた

 



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再起へ

スランプでして、筆が進みません


スカリエッティの襲撃から、三日後

 

場所、聖王教会付属病院

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

と泣きながら謝り続けたのは、包帯を巻いたのシャーリーだ

 

泣きながら謝っているシャーリーの肩に、見舞いに来ていたフェイトが手を置いて

 

「シャーリーのせいじゃないから、そんなに気にしないで。ね?」

 

と励ますが、シャーリーはそれでも泣き続けた

 

すると、病室のドアが開いて

 

「謝るべきは、俺達前線要員だ。シャーリーではない」

 

と声が聞こえた

 

フェイトとシャーリーが視線を向けると、そこに居たのは冬也だった

 

「冬也さん! まだ寝てないと!」

 

フェイトが心配そうに言うと、冬也は首を振って

 

「俺ならば大丈夫だ。俺は元々、回復力が大幅に上げられてるし、木乃香嬢が治療してくれた」

 

と言った

 

この二日間の間、意識を取り戻した木乃香は自分の怪我を治してから、機動六課メンバーを治療して回った

 

故に、今は疲労で眠っている

 

しかしその甲斐あり、重傷を負っていた冬也達は早々に回復した

 

シャーリーも後は検査のみとなっているが、大事を取っている形だ

 

なお、スバル、ギンガ、ディエチの三人は中央最新医療センターという場所に運ばれた

 

なぜかと言えば、この三人は戦闘機人だからだ

 

その中央最新医療センターでは、義肢化した人用の医療ブロックも存在するので、うってつけなのだ

 

なお、スバルとギンガの二人よりかはディエチは怪我は軽かったので、既に合流している

 

だが、ギンガの怪我は酷く、まだ意識は回復してないらしい

 

スバルに関しては、5日程掛かると連絡があったそうだ

 

あれほどの怪我を負ったのだから、仕方ないだろう

 

そして、はやては隊舎の代わりを探している

 

その後、少し話すとフェイトは病院から去った

 

そして翌日

 

機動六課隊舎跡地

 

そこでは一刻も早い復興へと向けて、瓦礫の撤去作業が行われていた

 

その中には、フェイトやディエチの他に軽傷だったティアナと無傷だったなのは、シグナムの姿も有った

 

なお、ヴィータも合流しようとしたのだが、ゼストとの戦闘でリインに守られたとはいえ、地面に叩き付けられたのだ

 

念の為に、検査入院している(ヴィータは不承不承だったが)

 

「なのは、大丈夫?」

 

フェイトはそう言いながら、現場検証に付き合っているなのはに問いかけた

 

なのは無傷だったために、すぐさま機動六課隊舎跡地に帰還

 

それからほぼずっと、瓦礫の撤去作業や現場検証に付き合っている

 

「うん、大丈夫だよ。元気元気!」

 

フェイトの問い掛けに対して、なのははそう返した

 

だがフェイトにはそれが、空元気にしか見えなかった

 

なにせ、なのはが帰還してきて一番先に向かったのが、非戦闘要員が避難している筈のシェルターだった

 

だが、そこは散々たる有り様だった

 

入り口を守っていた警備システムは無残に破壊され、シェルターの隔壁は突破されていた

 

そして、非戦闘要員全員は気絶していて、ヴィヴィオの姿は無かった

 

「わかった……だけど疲れたら休むんだよ、なのは」

 

フェイトがそう忠告すると、なのは頷いて

 

「うん、わかってるよ。フェイトちゃんは心配性だなぁ」

 

と返した

 

「それじゃあ、後でね。」

 

「うん」

 

二人はそう会話すると、それぞれ離れた

 

その後、なのはの足は自然とある場所へと向かった

 

そこは、なのはとフェイトに充てられた部屋だった

 

そこもまた、破壊しつくされていた

 

そして歩いていると、何かを踏んだ

 

なのはが足下に視線を向けると、踏んでいたのは、ウサギのぬいぐるみだった

 

それを見て、なのはは目を見開いた

 

それは、ヴィヴィオが何時も抱き締めていたウサギのぬいぐるみだった

 

なのははそれを胸に抱き締めると、声を押し殺して泣いた

 

それを見たフェイトは、沈痛そうな表情を浮かべた

 

だが、グッと胸元で拳を握り締めて

 

「このままじゃ、終わらない……」

 

と呟くと、フェイトは決意を込めた表情で歩き出した



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告白

当麻に関しては、若干オリジナルです


フェイトが再起を決意していた頃、はやては時空管理局本局に来ていた

 

目的は、以前に三人が乗っていた次元航行艦

 

アースラの整備状況を確認しに来たのだ

 

今そのアースラの周囲を、宇宙服を着た整備員達が動き回って整備している

 

「はやてが要請してきたから取り合ったけど、本当に使うのかい?」

 

そう問い掛けたのは、ヴェロッサである

 

何を隠そう、そのアースラは既に廃艦が決まっていた艦なのだ

 

「せや……アースラには、もう一働きしてもらいたいんや……移動司令部としてな……」

 

なのは達三人にとって、十年前から世話になっていた艦であり、思い出深い艦だ

 

「そっか……まあ、はやてが本気ならいいけどね……ああ、市街地での運用に関しては、ラダビノット中将が取り計らってくれたよ」

 

ヴェロッサがそう言うと、はやては頷いてから

 

「ほんまに、ラダビノット中将には感謝やね……今回の一件が終わったら、一回お礼言わな」

 

と言った

 

それを聞いたヴェロッサは、腕時計を見て

 

「っと……悪いけど別件があるから、僕は行くよ。アースラは明日には、整備を終えるそうだよ」

 

と言うと、離れていった

 

「ん、ありがとうなぁ、ロッサ」

 

はやてが見送るなか、ヴェロッサと入れ違いに当麻がやってきた

 

その手には、2つの缶がある

 

はやてが喉が乾いたと言って、当麻に頼んでいたのだ

 

そして、当麻ははやての隣に歩み寄ると

 

「ほいよ、午○の紅茶だったな」

 

とはやてに缶を差し出した

 

それをはやては、笑顔で受け取ってから

 

「ありがとうな」

 

と言ってから、開けて飲み始めた

 

ただしその視線は、今も整備されてるアースラに向けられている

 

それを見た当麻は、はやてと同じように缶コーヒーを飲みながらアースラを見て

 

「思い出のある船なんだっけか?」

 

とはやてに問い掛けた

 

すると、はやては頷いてから

 

「せや……十年前からお世話になってた船や……本当は廃艦なんやけど、また働いてもらうわ」

 

と話した

 

「そうか……」

 

はやての話を聞いて、当麻は相槌を打った

 

その時、はやては気づいた

 

今、二人が居る廊下には、他には誰も居ないことに

 

(これ、チャンスやんか!!)

 

実ははやて、当麻を意識していた

 

はやては機動六課の隊長であるので、結構多忙である

 

ゆえに仕事や会議が長引いて、夕食が深夜に及ぶことが多々ある

 

今から約二週間ほど前、はやては地上本部で会議に出席し、帰りが深夜の一時に及んだ

 

その時間となると、食堂ももはや閉まっている状態である

 

はやては空腹を堪えて、そのまま寝ようかと思った

 

だが、そこに当麻が現れて、料理を渡したのである

 

なんと当麻、はやてが帰りが遅くなると思い、待っていたのだ

 

その当麻に対して、はやては

 

「先に寝てて、良かったんよ?」

 

と言った

 

すると、当麻は腰に手を当てて

 

「一応、俺ははやての護衛役なんだ。これくらいやらせろ」

 

と返したのだ

 

そんな何気ない当麻の気遣いに、はやては惹かれていった

 

だから気づけば、はやては当麻を好きになっていた

 

だから時々遠回しにアプローチをしたが、当麻が鈍感過ぎて気づいてくれなかった

 

だったら、もはや直球勝負しかあるまい

 

「な、なあ。当麻君……」

 

はやてが緊張した様子で呼ぶと、当麻は不思議そうに

 

「なんだ?」

 

とはやてに視線を向けた

 

はやては当麻に向き直ると、深呼吸してから

 

「あんな、当麻君……大事な話があるんよ……」

 

と言った

 

そんなはやての話を聞いて、当麻は

 

(やっべー……とうとう、私、上条さんも年貢の納め時が来てしまわれたか?)

 

と思っていた

 

なにせ当麻としては、彼がこの機動六課に来てから度々はやてと何かしらのトラブルが起きていた

 

例えば

 

はやての私室には個人用のお風呂が有るのだが、はやてが入ってることに気付かず、当麻乱入とか

 

当麻がトイレから出たら、はやてが寝起きで下着姿だったとか

 

ようは、ラッキースケベが多発し、その度にはやての拳が炸裂していた

 

ただ当麻の経験からしたら、全て一発だけで終わる訳がない。と思っていた

 

だから、はやてが顔を赤らめながら深呼吸したのを見て、内心で身構えた

 

(やっぱり、インデックスみたいな頭ガブガブの刑ですかー!?)

 

と驚愕していた直後

 

「当麻君……君のことが好きです!」

 

とはやては告白した

 

それから、タップリ数秒間当麻は固まってから、周囲を見回し始めた

 

「……なにしてるんや?」

 

なかなか返事をもらえないはやてが問い掛けると、当麻は見回しながら

 

「いや、カメラと看板はどこかなぁって……」

 

と答えた

 

その直後、はやての眉間に青筋が浮かんで

 

「ドッキリカメラでも、ビックリカメラでもないわ! 本当の乙女の告白や!!」

 

と突っ込んだ

 

「う、嘘だぁ!! 上条さんは騙されないのことよ!? 絶対、どこかにカメラが有ると見た!!」

 

当麻はそう返すと、凄い勢いで周囲を見回した

 

次の瞬間、ブチィ! と、何かが盛大に切れる音が響いて

 

「乙女の純情を疑う奴は……」

 

はやてはそう言いながらシュベルト・クロイツを展開し、高々と掲げ

 

「夜天に代わってお仕置きやぁ!!」

 

と当麻目掛けて振りかぶった

 

「待ってください、はやてさんや! 私は確かに、幻想殺しなぞを持っておりますが、物理は防げないわけでー!?」

 

二人が落ち着くまで、少々お待ちください(ドッタンバッタン)

 

十数分後、二人はなんとか落ち着いた(当麻はボロボロ)

 

「ほ、本当に、告白だったんでせうね……」

 

当麻が息絶え絶えにそう言うと、はやては頷いてから

 

「せやで……まったく……疑うなんて、酷いやんか……」

 

と溜め息混じりに言った

 

すると、当麻はまるで産まれたての小鹿のように立ち上がりながら

 

「いやぁ……上条さんは、告白されたのは初めてなんですのことよ……」

 

と言った

 

それを聞いたはやては、内心で

 

(当麻君、何人の女の子を泣かせたんや……)

 

と呆れた

 

そして、当麻に体を向けてから

 

「それで、当麻君の返事はどうなんや? こっちは、恥ずかしい思いをして告白したんや」

 

と問い掛けた

 

すると、当麻は少し考えてから

 

「なあ、はやて……俺はな、記憶喪失なんだ……」

 

と喋りだした

 

「記憶喪失……やって?」

 

「ああ……あの年の夏休み……大体、8月からしか記憶は無いんだ……」

 

はやてが呆然と問い掛けると、当麻はそう説明した

 

「どうやら俺は、インデックスって女の子を守って脳の記憶野にダメージを受けたらしい……気付いたら、自分の学区の病院に居た……そして、あのカエル顔の先生……冥土帰しから説明を受けて、俺は演じることにしたんだ……上条当麻を」

 

当麻がそう言うと、はやては目を見開いて

 

「上条当麻を……演じるやって?」

 

と呟くように言った

 

すると、当麻は頷いて

 

「インデックスを悲しませないために、俺は記憶を失う前の上条当麻を演じたんだ……」

 

当麻が其処まで話すとはやてはゆっくりと歩み寄ってから、当麻の頬を優しく包むようにしてから

 

「だからどうしたん? それも当麻君やんか……」

 

と囁くように言った

 

「はやて……」

 

当麻が動揺して固まっている間に、はやては当麻を見つめて

 

「確かに、今の当麻君が演じたかもしれへん……けど、それは当麻君がその子を泣かせたくなかったからやろ? だったら、それも当麻君や……違うか?」

 

はやての言葉が予想外だったのか、当麻は俯いて

 

「だが俺は……インデックスだけじゃなく、周りの奴らを騙して……」

 

と呟くように言った

 

すると、そんな当麻の頭をはやては優しく抱きしめて

 

「確かに、当麻君は騙したかもしれへん……けど、それは周りの人達を悲しませたくなかったからやろ? その思いを、ウチは否定せんし、当麻君の思いを否定しようとする奴から当麻君を守ったる……だから、もうええんやないか?」

 

はやてがそう言った直後、当麻の目から涙が零れた

 

それは、当麻の心の涙だった

 

記憶を失う前の知人達を騙していた、という罪悪感から来る涙だった

 

当麻が歯を食いしばって泣いていると、はやては当麻の頭を優しく撫でながら

 

「今は、泣いてええんよ……な」

 

と囁いた

 

その言葉に甘えるように、当麻は静かに泣き続けた

 

そして当麻が泣いていた間、はやては当麻の頭を優しく撫で続けた

 

その後、当麻は泣き止むと

 

「返事は、落ち着くまで待ってくれ」

 

と返した

 

そしてはやてだが、当麻の頭を抱き締めた時に内心で

 

(あ、あかん! 今、凄い大胆なことをしとる! しかしここまで来たら、女は度胸や!!)

 

と自身を鼓舞していたのだった



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カウントダウン

大変お待たせしました
ちょっと、作者の精神がへし折れる寸前までいきましたが、少しずつ回復してきてます


地上本部襲撃から、約十日後

 

はやては、レジアスとオーリスの元を訪れていた

 

レジアスは責任を問われて、一切の指揮権を奪われて執務室に軟禁されていた

 

そして、レジアスが進めていたエインへリアルはラダビノット中将が引き継ぐことが決定

 

今は、その引き継ぎの真っ最中らしい

 

そういうことがあったからか、レジアスはかなり落ち込んだ様子だった

 

しかし、逆にオーリスはかなり落ち着いた様子だった

 

「つまり、スカリエッティと繋がっていたのは事実なんですね?」

 

「ああ、間違いない………」

 

はやての問い掛けに対して、レジアスは頷いた

 

それを聞いて、はやてはギリッと歯を鳴らして

 

「なぜ、スカリエッティと?」

 

まるで、睨み付けるようにレジアスを見た

 

すると、レジアスは窓から外を見て

 

「ワシなりに、正義を貫きたかったからだよ………だから、人造魔導士計画や戦闘機人計画を立案した………」

 

と呟くように言った

 

それに対して、はやてが何かを言おうとしたが、ノックが聞こえて

 

「はやて、そろそろ戻らないと」

 

と当麻が顔を覗かせた

 

はやては頷くと、レジアスに敬礼してから去った

 

そして、二人は歩きながら

 

「それで、皆は?」

 

「意識の戻ってないギンガさん、マックスさんとヴァイス。それと、ヴァイスを見てるザフィーラと最終調整中のディエチ以外は、全員揃ってる」

 

と話していた

 

あの地上本部襲撃事件以降、スカリエッティの動きは一切無かった

 

それが不気味でありながら、機動六課はアースラを用いてなんとか立て直した

 

そして、冬也の発案のフォワード陣のデバイスのアップデートも行われた

 

まず、スバル

 

装甲の強化と、主武装たるリボルバーナックルの強化で、リボルバーナックルには、直撃と同時に魔力の杭が射出される機構を追加

 

全体的に重量が上がったが、スバルは問題ないと言った

 

次にティアナ

 

ティアナは、クロスミラージュに大出力モードが追加

 

更には、銃剣形態時に使える魔法

 

ウィップ・エッジを冬也から教わった

 

このウィップ・エッジは、魔力で形成された刃が、まるで鞭のようにしなる魔法である

 

近接戦闘において、これほど有利な魔法は無いだろう

 

なにせ、避けたと思ったら曲がって追跡したり、背後から奇襲してくるのだから

 

三番目にエリオ

 

ストラーダ本体には、なんら追加はない

 

だがエリオの注文により、両肩に運動を阻害しないようにとスラスターが追加された

 

これは機動力の強化と、追加スラスターを用いた不規則なフェイントを行うためである

 

だが、まだ未成熟なエリオには負担の大きい機能であり、冬也やフェイトからは使用は控えるように言われている

 

最後にキャロ

 

キャロは攻防に使えるビットが追加された

 

このビット、全部で六機存在しており、一機だけでもそれなりに防御力と攻撃力を発揮する

 

しかし、フルに発揮するには、複数での運用が大前提である

 

六機同時に攻撃に回すと、なのはほどでは無いが、大出力の砲撃が可能であり、防御に回すと、通常のディバイン・バスターを防ぎきることが可能だ

 

とはいえ、それは幼いキャロに合わせてである

 

本来だったら、更に上を行く出力が可能である

 

だが、それだとキャロの体への負担が大きすぎるのだ

 

本当だったら、今の出力とて冬也とフェイトは反対したのだ

 

だが、キャロの強い要望により今の出力とした

 

そして今は、各々その新しい機能に慣れるためにアースラ内にて特訓中である

 

なお、はやて達隊長陣はクロノやカリム、ヴェロッサといった人物達から教えられた情報を吟味していた

 

スカリエッティはどうやら、古代ベルカに使われていたらしい兵器を使う気だと

 

だが、その兵器がなんなのかわからない

 

分からないことには具体的な案が練れないが、泣き言は言ってられない

 

だったら、あらゆる状況を想定して案を練ればいいのだ

 

スカリエッティの野望を食い止めるための存在

 

それが、機動六課なのだから

 

そして、ディエチが合流してきた時だった

 

スカリエッティから、通信が入った

 

それは…………

 

『やあ、時空管理局の諸君。あれからどうかな? 私は、新しい玩具を手に入れたよ……さあ、見たまえ! 古代ベルカの叡知にして、絶対の力!』

 

という内容の直後、新しく通信ウィンドウが開いて、ヴェロッサとシャッハの姿が映った

 

『カリム、はやて! こちら、アジトと思われていた場所を調べていたヴェロッサ! 洞窟内には、かなりの規模の施設を発見した! 更に、その付近から巨大な構造物が出現! 映像を転送する!』

 

ヴェロッサがそう言うと、新しく開いたウィンドウに巨大な船が映った

 

空中を飛ぶ、全長数百メートルを越える巨大戦艦だった

 

その戦艦を見て、カリムはイスを蹴倒す勢いで立ち上がった

 

カリムは、その戦艦の名前を知っていたからだ

 

「聖王の、ゆりかご…………」

 

聖王のゆりかご

 

それは、古代ベルカにおいて、戦乱を終わらせたという伝説の戦艦だった

 

ただし、その人戦乱を終わらせた後は、どこに埋葬されたのか分からず、今まで見つからなかったのだ

 

その伝説の戦艦が今、長い眠りから覚めて、牙を剥こうとしていた

 

そして、はやて達は気づいた

 

スカリエッティの映っているウィンドウから、ヴィヴィオの泣き叫ぶ声が聞こえることに

 

「ヴィヴィオぉ!!」

 

なのはが悲痛な叫び声を上げると、ヴィヴィオが

 

『助けて、ママぁぁ!!』

 

と泣きながらなのはを呼んだ

 

ヴィヴィオの泣き叫ぶ声を聞いて、なのは以外のメンバーの顔付きが豹変した

 

なんとしても、スカリエッティという外道を捕まえて、ヴィヴィオを助けると

 

その為には、ロンドも倒すと

 

そう決意したらしく、はやては立ち上がって

 

「総員、第一種戦闘配置! スカリエッティとロンドの野望をなんとしても防いで、ヴィヴィオを助けるんや!」

 

と号令を下した

 

「「「「「はいっ!(おうっ!)」」」」」

 

隊長陣やフォワード陣は敬礼すると、会議室から飛び出した

 

最終決戦を制するために



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出撃と潜入者

出番これだけの連中が………


出撃命令が出されて数分後、フォワード陣を含めて六課全員が集まっていた

これからフォワード陣はアルトが操縦するヘリにより、ガジェットやドール、更には地上に侵攻してくる戦闘機人の迎撃に向かうのだ

出撃前になのはが思出話(?)を語り、フォワード陣はヘリに乗った

ただ、なのはもスバルから激励を貰い、ヤル気に満ちていた

 

(絶対に、ヴィヴィオを助けよう!)

 

なのははそう意気込みながら、出撃ハッチ付近に立った

その時、なのはの近くに通信ウィンドウが開いた

そこに映っていたのは、なのはの愛しい恋人

無限書庫にて聖王のゆりかごの情報を探している、ユーノ・スクライアだった

 

「ユーノくん………」

 

『なのは、約束して………絶対に、帰ってくるって』

 

ユーノの言葉を聞いて、なのはは目を見開くと、微笑んで

 

「うん……絶対に、ヴィヴィオと一緒に帰るね」

 

と返すと、ウィンドウを閉じた

そして一旦目を閉じて深呼吸していると、格納庫にはやてがやってきて

 

「みんな。これが最後の出撃や。私かは言うことは、一つだけや………」

 

はやてはそう言うと、格納庫に集まっている全員を見た

そして

 

「全員で、無事に帰ってくるんや!!」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

はやての言葉に、全員は敬礼で返した

そして、フォワード陣がヘリに乗り、隊長陣はバリアジャケットを展開し整列した

全員の準備が整ったのを確認すると、はやてはキッと開いたハッチから外を見つめて

 

「機動六課、総員出撃!」

 

と号令を下した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わって、時空監理局地上本部のとある一室

 

『まったく……スカリエッティも困ったものだ……』

 

『ああ……時空世界の平和を維持するための先行投資をしたというのに……』

 

『そのための戦闘機人。そのための人造魔導師、そのためのゆりかご………』

 

と男達の声が聞こえた

彼らは通称、最高評議会と呼ばれる男達だ

だが、彼らは人の姿をしていなかった

そこにあったのは、三つのシリンダーにそれぞれ入っている脳髄だった

最高評議会の正体は、時空監理局を創設した三人の男達だ

最初、彼らも正義感の強い人物達だったのだろう

だが何時からか、彼らは自分達が居ないと次元世界の平和を維持出来ないと思い始めた

それが原因か、彼らの中で手段と目的が入れ替わってしまったのだ

しかし、人というのはいずれ老い朽ちる存在だ

だから彼らは、人としての体を捨てて、脳髄をシリンダーに入れて延命してきた

だが、それも限界が近づいてきている

だから彼らは、スカリエッティを産み出したのだ

ジェイル・スカリエッティ

開発コード、無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)

過去にアルハザードにて存在したという科学者の遺伝子を使って、スカリエッティは彼らによって産み出された

若々しく、凄まじい力を有する肉体を得て、時空監理局を使い、次元世界の平和を維持するために

その時、一人の女性局員が入ってきて

 

「失礼します。ホットメンテナンスの御時間です」

 

と言いながら、頭を下げた

 

『ああ、君か。今は会議中だから、手短に頼むよ』

 

その女性局員を見て一人がそう言うと、女性局員はニヤリと笑みを浮かべた

そして、最高評議会の三人が話し合っている内に彼女はシリンダーの台座のタッチパネルから整備を始めた

それから数十秒後だった

ガラスが割れるような音が響き渡り、ビチャビチャと液体が床に広がった

 

『な、何故だー!?』

 

一人が叫ぶが、整備していた女性局員は意に介していない

いや、むしろ、その彼女が犯人だった

彼女の右手の指には、鋭い金属製の爪が装着されていた

その爪を舐めていると、彼女の姿が変わった

長い茶髪は金髪に変わり、着ていた制服はピッチリとしたボディースーツへと

そして、そのボディースーツの胸元にはⅡという刻印が施された金属製のプレートがあった

 

『貴様っ! スカリエッティの!?』

 

『誰か! 誰か居ないのか!!』

 

彼女の正体に気づき、生き残っていた二人は助けを求めた

だが、彼女

戦闘機人の二番、ドゥーエは嘲笑うような笑みを浮かべて

 

「無駄ですよ。外との通信機能は破壊させてもらいました」

 

と言った

そしてドゥーエは、わざと足音を立てながら二人のシリンダーに近より

 

「ドクターからの命令により、貴方達を処分しに来ました」

 

『何故だ! 我々は、貴様らの……っ』

 

ドゥーエの言葉を聞いて一人が喚くが、ドゥーエは意に介さず

 

「それでは、ごきげんよう」

 

と言うと、無慈悲に爪を振るった

ドゥーエは最高評議会を殺したのを確認すると、最初とは違う女性局員の姿に変わって、その部屋から出ていった

戦闘機人、ドゥーエ

彼女の能力、ISはライアーマスクと言い、潜入任務に向いた能力だった

ドゥーエはその能力を活かして管理局に潜入

様々な情報をスカリエッティに流したり、障害となるだろう管理局員を暗殺してきた

そして、その任務も最終段階に来ていた

その内の一つが、今殺した最高評議会の抹殺

そしてもう一つが、とある高官の暗殺だった

自分達に深く繋がりのある、一人の将官を……………



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鷹の眼の再起

ヴァイス回なり


聖王病院、一般病室

その一室

そこで長く眠っていた一人の男が、ようやく目覚めた

 

「こ、ここは………?」

 

機動六課ヘリパイロット、ヴァイス・グランセニックは目覚めるとゆっくり周囲を見回した

そして、自分が居るのが病室だと理解したタイミングで

 

「起きたようだな……」

 

と渋い声が聞こえて、青い毛並みの狼

ザフィーラが姿を見せた

 

「ザフィーラの旦那……俺は、何日間寝てたんですかい?」

 

「約一週間だな……今、六課の殆どのメンバーは動き出したスカリエッティとロンドの迎撃に動いている」

 

ザフィーラの話しを、起き上がりながら聞いていたヴァイスは目を見開くと

 

「ヘリ無しにですかい!? クッソ! 俺は一週間も何を……っ!」

 

と憤っていた

ヴァイスが元気なのを確認したからか、ザフィーラはドアの方に向かいながら

 

「ヘリはアルト・クラエッタが操縦している……お前のデバイスは横の机に置いてある……」

 

と説明した

ザフィーラの説明を聞いて、ヴァイスは視界の片隅でベッド横の机の上に自分のデバイス

ストームレイダーの待機形態が置いてあるのを確認すると

 

「旦那は、どこに?」

 

と問い掛けた

するとザフィーラは、止まってから振り向いて

 

「私も現場に行く」

 

と答えた

それを聞いて、ヴァイスは目を見開いて

 

「旦那、怪我は!?」

 

と問い掛けた

それに対して、ザフィーラは尻尾を振りながら

 

「近衛木乃香が治してくれた……お前も、治っているぞ」

 

と教えた

ザフィーラのその言葉を聞いて、ヴァイスはようやく感じていた違和感の正体に気付いた

大怪我を負ったはずなのに、痛みを全く感じなかったのだ

しかも、六課隊舎に残っていた人数は少なくなかった

更には、出動していたメンバーも怪我を負ったはずだ

それら全員を治したのだとすると、木乃香の治療魔法の凄まじさが分かる

そして、ヴァイスが改めて体の調子を確かめている間に、ザフィーラは出ていった

それと入れ替わりに、一人の少女が入ってきた

肩辺りまで伸ばした茶髪に、右目を覆っている眼帯が特徴の少女

ラグナ・グランセニック

ヴァイスの妹だった

 

「お兄ちゃん……」

 

「ラグナ!? お前、なんで………」

 

ラグナの姿を見て、ヴァイスは驚愕していた

ザフィーラから聞いた通りならば、今ラグナがここに居るのはおかしい

管理局は今、ミッド全域に避難勧告を発令しているはず

その証拠に、病院全体が騒がしい

だというのに、管理局員でもないラグナが残れるわけがない

すると、ヴァイスが混乱してる理由を察してか

 

「あのね、はやてさんからお兄ちゃんがここに入院してるって聞いてね、無理言って避難を後回しにしてもらったの」

 

と説明した

それを聞いて、ヴァイスは心中ではやてに悪態を吐いた

余計な事をと

 

「ねえ、お兄ちゃん………お兄ちゃんは、何をしてるの?」

 

顔を合わせづらくて逸らしていたら、ラグナはそう問い掛けてきた

 

「ラグナ……?」

 

「お兄ちゃん………六課の皆さんは、戦場に出て頑張ってるよ? それなのに、お兄ちゃんはここに居ていいの?」

 

ラグナの真剣な表情を浮かべながらの言葉に、ヴァイスは押されていた

何も、言えなかった

 

「お兄ちゃん………私、知ってるよ? 一年前に私を誤射してから、お兄ちゃんはデバイスを持たなくなったって」

 

「つっ!」

 

ラグナのその話しを聞いて、ヴァイスは息を飲んだ

ヴァイスは約一年前まで、ミッド武装隊の随一の凄腕のスナイパーだった

そう、だった

ヴァイスが愛機たるストームレイダーを持たなくなったのは、約一年前に起きた事件が原因だった

違法魔導師が起こしたデパート人質立て籠り事件

その鎮圧に出動したのがヴァイスで、その人質がラグナだったのだ

人質がラグナだと聞き、ヴァイスは驚いた

しかし、いつも通りにやれば大丈夫だと自身に言い聞かせて狙撃態勢に入った

そして、ヴァイスは引き金を引いた

いつも通りだったら、放たれた魔力弾は犯人に当たる筈だった

しかし、やはり妹のラグナが人質にされたからか

動揺していたのか

はたまた、手が震えていたのか

魔力弾はヴァイスの想定していた弾道から逸れて、犯人ではなく

ラグナの右目に当たってしまったのだ

犯人は別のスナイパーによって倒れたが、ラグナはヴァイスの魔力弾が原因で右目に傷を負い、視力を失ってしまったのだ

そしてその日を境に、ヴァイスはストームレイダーを持てなくなった

ストームレイダーを持って人に向けると、体が震えるようになってしまったのだ

また、人質(ラグナ)を撃ってしまうと恐怖して

実際、六課隊舎が襲撃された時、ヴァイスは内部にてガジェットとドールの迎撃を行っていたのだ

しかし、ヴァイスの目の前にスカリエッティ一味の召喚魔導師

ルーテシア・アルピーノが姿を見せた時、ヴァイスは狙撃出来なかった

ルーテシアにラグナの姿を重ねてしまったのだ

理性では、敵だと分かっていた

しかし、どうしても引き金が引けなかった

そうこうしている内に、ヴァイスはルーテシアの魔力弾の直撃を受けて倒れたのだ

ヴァイスが俯いていると、ラグナは右目の眼帯を外して

 

「ほら、お兄ちゃん……右目、殆ど治ってきたの。今はまだ、薄暗くしか見えないけど………後、半年もすれば、完全に治るって」

 

と説明した

そして、ヴァイスに抱きついて

 

「お兄ちゃん……私ね、昔のお兄ちゃんが好きだったよ? 狙撃手のお兄ちゃんが………百発百中、鷹の眼って呼ばれてたお兄ちゃんが好きだったよ………」

 

と涙声で語りだした

 

「ラグナ………」

 

抱きついてきたラグナを、ヴァイスは優しく抱き締めた

 

「だから、戻って………狙撃手のお兄ちゃんに………っ」

 

ラグナのその言葉を聞いて、ヴァイスは視線を机の上のストームレイダーに向けた

 

(ラグナは怖いのを我慢してここまで来て、俺を叱咤激励してくれてる…………ここで立たなかったら、男じゃねえだろ!!)

 

ヴァイスは決意すると、ラグナを優しく起こしながら

 

「なあ、ラグナ……一旦、部屋から出てくれないか?」

 

と言った

 

「お兄ちゃん……?」

 

ラグナが不思議そうに見上げると、ヴァイスはストームレイダーとビニールに包まれて置いてある武装隊戦闘服を見ながら

 

「着替えたいんだ………隊服に……そして、戦場に行く!」

 

ヴァイスのその言葉を聞いて、ラグナは嬉しそうに笑みを浮かべて

 

「うん!」

 

と頷いて、眼帯を着けてから部屋から出た

そして数分後、着替えたヴァイスは廊下に出て

 

「ラグナ………情けない兄貴で、ごめんな……」

 

と言いながら、ラグナの頭を撫でた

 

「お兄ちゃん………」

 

「行ってくるな、ラグナ! ちゃんと避難するんだぞ!」

 

ヴァイスはそう言うと、ラグナに見送られながら駆け出した

仲間達が戦う戦場に向けて

鷹の眼として



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頼もしい仲間たち

この作品、strikersが終わったら、オリジナルストーリー入れて、イクス編、ヴィヴィッドに行こうかなと思ってますが、どうします?


「ごめん! 荒い操縦になるから、しっかり捕まってて!」

 

そう叫んだのは、操縦席に座っているアルト・クラエッタである

そして、彼女がそう言った通りに、ヘリは右に左に大きく揺れた

しかし、それは仕方ないだろう

なにせ、フォワード陣が乗ってるヘリを大量のガジェットとドールが追撃してきているのだから

しかも、レーザーや機銃、ミサイルを次々と撃っている

それらを避けるために、アルトは機体を大きく左右に動かしている

しかし、余りにも弾幕が厚すぎた

いくら廃棄都市区画を飛んで、相手の射角を制限したり盾代わりにしているとはいえ、限度があった

徐々に徐々に、ヘリは追い込まれていた

操縦席からは、アルトの必死な声が聞こえてくる

 

「このままじゃあ……っ!」

 

「いずれ、撃墜されるっ!」

 

と武と冥夜が言った直後

 

「前っ!?」

 

とティアナが叫び声を上げて、全員が前を見た

そこには、ヘリに銃口を向けているドールが居た

アルトもなんとか回避しようとするが、直感で間に合わないと分かった

だが次の瞬間、何処からか飛来してきた魔力弾がドールを撃ち抜いた

しかも前だけではなく、後ろから追ってきていたガジェットやドールも次々と撃ち抜いていた

武は射点を特定したのか、右側の窓から外を見た

すると、遥か先に青いヘリが見えた

しかも、ビルとビルの合間を縫うように飛んでいる

 

「まさか、あの青いヘリからか!?」

 

武が驚愕していたら、アルトにも見えたらしく

 

「ヴァイス陸曹!!」

 

と嬉しそうに叫んだ

すると、通信越しに

 

『お前らは、そのまま飛んでろ! 俺が援護する!』

 

とヴァイスの声が聞こえた

そう

青いヘリは、ヴァイスのヘリなのだ

ふとその時、下で戦ってる部隊が見えた

どうやら戦術機部隊を任されてるらしいが、押されていた

それを見て、武が

 

「アルトさん! 後部ハッチを開けてください!」

 

と声を上げた

それに対して、アルトが返答しようとした

その時だった

視界をオレンジ色の閃光が駆け抜け、それの衝撃波でか、大量のガジェットとドールが爆発した

 

「な、なに!?」

 

とスバルが驚きの声を上げると、今度は広範囲で電撃が走った

その電撃を受けて、ガジェットやドールは次々と爆発していく

 

「フェイトさん!?」

 

「いや、フェイト隊長は別方向に向かったはずだぞ!?」

 

電撃を見て、エリオが放っただろう人物を予想したが、それを冥夜は即座に否定した

なにせ、今自分達が向かっている方向と、フェイトが向かった方向はほぼ真逆だからだ

だったら、一体誰が電撃を放ったのだろうか?

全員が首を傾げていると、ウィンドウが開いた

そのウィンドウには、全身から電気を放っている二人の少女が居た

見た目が瓜二つの、見覚えのある少女だった

そう、以前に出張で行った地球の海鳴市で出会った少女達だった

 

「御坂さん!?」

 

名前を覚えていたティアナが、その名前を叫んだ

そう、電撃を放ったのは御坂美琴と美優の二人だった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、廃棄都市区画

そこに現れた二人

御坂姉妹は、自分達に向かってくるガジェットとドール群を見上げていた

 

「姉さん。大量の敵群が接近してきます。と、ミサカは報告します」

 

「そうね……数は、五十七ね」

 

美優の報告を聞いて、美琴はそう返した

ガジェットとドールは二人を危険と判断したらしく、夥しい数があらゆる方向から接近してきていた

なぜ、その数を正確に把握しているのか

それは、彼女達の超能力に起因している

彼女達の超能力

それは、電気使い(エレクトロマスター)である

この能力は非常に汎用性が高く、電気に関するならばあらゆる力が使えるのだ

直接電気を放ったり、電磁力を操り物体を操ったりできる

そして、その能力を入手した副作用と言うべきか

彼女達は常に、全身から電磁波を放出している

そしてその電磁波を、彼女達は知覚出来る

それはつまり、天然のレーダーなのだ

そんな彼女達に、死角は無い

 

「ったく……本当にあいつは、厄介な場所に行くわよね」

 

「ですね、姉さん。と、ミサカは同意します」

 

戦場だと言うのに二人は大して緊張した様子もなく会話しており、それぞれ準備していた

美琴はポケットからカエルの財布を取り出すと、中から一枚のコインを取り出した

美優は額に上げていたバイザーを下ろし、背負っていた巨大な四角い砲身を前に構えた

そして、先に攻撃を放ったのは美優だった

美優の持っていた砲身から眩い光が迸り、射線上に居たガジェットとドールを溶かした

それは、学園都市製の荷電粒子砲だった

美優の能力を使って粒子加速機を動かして、荷電粒子を溜めて撃つというものだ

そして、次は彼女だ

学園都市にて、たった七人しか居なかったレベル5の第三位

美琴は持っていたコインを真上に弾き上げると、右腕を真っ直ぐに伸ばした

美琴には、ある二つ名があった

コインがクルクルと回りながら、ゆっくりと落ちてくる

それは、美琴が最も多用した技から付いた二つ名だった

そして、コインが伸ばしてた腕の前に来た

その名は……

美琴は、そのコインを親指で強く弾いた

その直後、弾かれたコインは音を越える速度でオレンジ色の軌跡を伴って飛んでいった

電磁砲(レールガン)である

美琴の二つ名にして、最も多用した得意技

それが、レールガンだ

美琴が放ったレールガンで、直線上に居たガジェットとドールは軒並み吹き飛んだ

それを見ると、美琴は全身から電気を放電しながら

 

「さあ、どんどん来なさい!」

 

と声を張り上げた

なお、来たのは彼女達だけではない

ある防衛線では

 

「ナカジマ三佐、これ以上は!?」

 

「なんとしても保たせろ! こっから後ろは、まだ避難が終わってねぇんだ!」

 

悲鳴混じりに報告してきた部下に対して、ゲンヤはそう返した

ゲンヤ・ナカジマ率いる陸士108部隊は、その全戦力を展開して市民が避難するまで時間を稼いでいた

しかし、ガジェットとドールは撃破しても、次々と押し寄せてくる

部下達も怪我をしながらも頑張っているが、焼け石に水だった

突破されるのも、時間の問題だった

その時だった

一機のドールが、防衛線を突破

避難していた市民に、機銃の銃口を向けた

部下達は迎撃に手一杯で、撃破出来ない

ゲンヤは魔法を使えないために、攻撃出来ない

 

(こうなったら、この身を盾にしてでも!)

 

と飛び出そうとした

その時銀閃が走り、一瞬にしてドールがバラバラになった

 

「…………は?」

 

何が起きたか分からず、ゲンヤは呆然とした

すると、ゲンヤの目の前に一人の人物が現れた

左右で長さが違うジーパンに、腹部辺りで結ばれているシャツ

何よりも、ポニーテールにした長い黒髪と長い刀が特徴の長身の女だった

ゲンヤが呆然としている間に、更に大人数が現れた

私服姿に剣や槍、メイス、車輪や金貨袋といった物を持ったシスター達

それに、長い赤髪にタバコをくわえている神父に、金髪サングラスのアロハシャツを着た青年

その人数は、述べ数百人は居た

 

「ったくー……一方通行から聞いた時は驚いたぜよ。上やんが生きてるなんてにゃー」

 

「しかも、また戦場に居るとは……まったく……トラブルに巻き込まれる体質なのか……」

 

「僕としてはそれよりも、あの子を一回でも泣かせたことで焼き殺してやりたいんだがな」

 

と三人

土御門元春

神裂火織

ステイル・マグヌスが会話していると、小柄な銀髪が特徴のシスターが近寄って

 

「ほらほら! それよりも、当麻の為に戦うんだよ!」

 

と言った

それを聞いて、その場に居た全員は各々で得物を構えた

 

「んじゃま、一丁派手に行くぜよ!」

 

元春はそう言うと自動小銃を撃ち始めて、それを皮切りに神裂達もガジェットとドール群に攻撃を開始した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

また場所は変わり、市街地の外れ

そこを、ガジェットとドールの部隊が突き進んでいた

この部隊が進んでいるのは避難が終わった場所だったが、このまま進んだら管理局地上本部の裏に出る位置だった

そして、目的地が近づいてきたからか、部隊は武装を構えた

が、その動きが止まった

なぜなら、その前方に人影があったからだ

しかも

 

「わーい! ミサカが居れば、問題なくミサカネットワークが使えるって、ミサカはミサカは喜んでみたり!」

 

「わかったから、はしゃぐンじゃねェ……怪我するぞ」

 

と場違いな会話をしていた

進行の邪魔と判断したからか、ガジェット・ドール群は武装を二人に向けた

それを見て、白髪赤目の少年

一方通行(アクセラレーター)は、獰猛な笑みを浮かべて

 

「さあて……久しぶりの戦場だ……思っいきり行くぜェ!」

 

と言うと、首筋のチョーカーのスイッチを切り替えた

その直後、一方通行に膨大な数の砲弾やミサイルが撃ち込まれた

しかし次の瞬間、それらは全てガジェットとドールに跳ね返ってきた

その現象の原因が、ガジェットとドール群には理解出来なかった

それは、一方通行の名前となった能力

《あらゆるベクトルを操る》という能力が理由だった

それは、風力、火力、電力だろうがなんだろうが、一方通行の思い通りに操れるという規格外にして、学園都市にて一方通行が第一位として居られた最強の能力だ

一方通行は、ガジェットとドールが地に落ちるのを見て

 

「さて、こっから先は……一方通行だァァァァ!」

 

と叫んだ

 



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決戦 邂逅

「マズイ……皆とはぐれた……しかも……」

 

スバルは冷や汗を流しながら、目の前に佇む敵を見た

目の前に居るのは、筋骨隆々の長い黒髪の男

鋼だった

はっきり言って、格闘の腕は鋼の方が遥かに上だ

はっきり言って、勝ち目はほぼ0だ

だが、諦めてたまるか

そう意気込み、構えた

その時

 

《スバル、聞こえる? スバル!》

 

とティアナから念話がきた

 

《ティア! 無事!?》

 

《なんとかね……ただ、状況は最悪……廃ビルに居るんだけど、相手は戦闘機人が三人……しかも、結界で廃ビルに閉じ込められたわ》

 

スバルが問い掛けると、ティアナが報告してきた

どうやら、ティアナもかなりピンチらしい

 

《そっちもかぁ……私も、目の前に鋼が居る》

 

《そっちも最悪ね……けど、切り抜けるわよ》

 

《うん!》

 

スバルはティアナとの念話を終わらせると、拳を強く握り締めた

場所は変わり、少し離れた廃都市区画ではキャロとエリオの二人がルーテシアと交戦状態に入っていた

 

「ルーちゃん!」

 

「ルーテシア! こんなことはもう辞めて!」

 

二人が必死に語りかけるが、ルーテシアは無視

魔力弾を撃ってきた

それを、キャロはビットを使って防いだ

すると今度は、エリオが肩のスラスターを使って高く跳び

 

「せあっ!」

 

気合い一閃

上空から襲いかかってきたガリューの一撃を、ストラーダを振って弾いた

 

「ガリューっ!」

 

「…………」

 

エリオはガリューの名前を呼ぶが、ガリューは静かに構えた

それを見て、エリオは近くのビルの屋上に着地すると同時に構えた

再び場所は変わり、市街地

そこでは、武と冥夜の二人が大量のガジェットとドールを相手に激戦を繰り広げていた

武は右手に長刀を持ち、左手に複合突撃砲

冥夜も同じように武装を持って戦っていた

 

「武!」

 

「任せるっ!」

 

二人の会話は非常に短く、他の人が聞いても要領を得ないだろう

しかし、共に戦場を駆けてきた二人には充分だった

この世界だけでなく、本の世界でも二人は背中を預けあって戦っていた

言うなれば、阿吽の呼吸

武が冥夜の背後のドールを蜂の巣にしたら、今度は冥夜が武の上に居たガジェットを切り捨てた

互いの死角を知り尽くしているからこその、無言の連携

それを駆使して、二人はたった二人でガジェットとドール群を圧倒していた

そして二人でガジェットⅢ型を撃破した時、それまで怒涛のように押し寄せてきていたガジェットとドールの波が止まった

気付けば、周囲にも機影は残っていない

それを不思議に思っていると、少し離れた場所

十字路の中心に影が広がり、まるで水中から上がってくるように影が現れた

 

「影か……」

 

「武……」

 

恐らくだが、影が影を使った 転移魔法(ゲート)で残っていたガジェット・ドール群を別の場所に飛ばしたのだろう

そして、二人を倒すために姿を現した

といった所だろう

言うまでもなく、影は強敵だ

幾ら二人の連携が高いとは言え、勝てる見込みはかなり低い

だが、諦めない

 

死力を尽くして任務に当たれ

生有る限り最善を尽くせ

決して犬死にするな

 

二人の世界で所属していた隊の隊訓である

生きる為に最善を尽くし、もし倒れる時は後の仲間の為に手掛かりを残す

 

「冥夜、背中は任せるぞ」

 

「ああ、任せろ。武……」

 

短い会話を合図に、二人は影目掛けて突撃した

三度場所は変わり、ゆりかご付近の空域

そこでは、激戦が繰り広げられていた

ゆりかごから次々と出撃してくるガジェットとドールの大軍を相手に管理局精鋭と名高き空戦魔導師隊が次々と撃破していた

しかし、中にはガジェットかドールの攻撃を受けて落ちていく魔導師も居た

だが、彼らは諦めていなかった

何故ならば、その戦力の中に管理局でも最高峰と呼ばれるなのは達の姿が有ったからだ

位置を特定したガジェットとドールの出撃孔を、なのはやヴィータが自慢の魔法で破壊

更に、纏まっている大軍ははやてが広域空間魔法で空間を抉るように消し飛ばす

しかも、はやては空戦魔導師隊に指事も出していた

これは、ラダビノット中将の指事だった

今現在、スカリエッティ達を熟知しているのは他ならぬ六課だ

現場指揮をはやてに任せ、ラダビノット中将は他の管理世界の管理局員を随時呼び寄せては、部隊を臨時編制し出撃させていた

それが甲を奏し、一部では押し返してすらいる

そこから士気が向上し、徐々に空戦隊に合流してきている

 

「皆、気張ってや! ゆりかごに突入するルートを見付けるまでの辛抱や!」

 

「はっ!」

 

「必ずや、見つけてみせます!」

 

はやての鼓舞に、空戦魔導師達は気合いを入れて返答した

その時、はやては背筋に悪寒が走ったのを感じた

そんなはやては、直感に従ってある方向を見た

その先に居たのは、反射と呼ばれる女性だった

反射はゆっくりと、はやてに近づいてきた

それに気付いたのか、二人の空戦魔導師がはやての前に陣取り

 

「八神二佐、下がってください!」

 

「こいつは、ここで!」

 

とはやてが制止する間もなく、反射に攻撃した

二人が発射した魔力弾が反射に当たった途端、魔力弾は正に反射して二人に直撃

二人は墜落していった

それを見て、はやては歯噛みしてから

 

「当麻君、出番や!」

 

と当麻の名前を呼んだ

その直後、反射の背後に当麻が現れて

 

「っらあ!」

 

と右手を叩き込んだ

その一撃は反射されずに、反射の腹部にめり込んだ

その一撃を受けて、反射は体勢を大きく崩して落下した

だが、反射は直ぐに体勢を立て直すと当麻の前で止まった

すると当麻は、反射を睨んで

 

「お前の相手は、俺だ!」

 

と啖呵を切った

こうして、戦闘は激化していく



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頼れる先達達

鋼こと王の格闘戦闘能力は、Fateの葛木並だと思ってください


「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

スバルは気合いと共に、右拳を繰り出した

しかし、それを鋼は体を半身にするだけで回避

それと同時に、スバルの右腕を掴んで投げた

スバルは空中で身を捻って着地するが、右腕を軽く振った

 

(やっぱり、凄い強い……投げる時に、関節を壊されそうになった……)

 

鋼は投げる時に、スバルの右肘を逆にして折ろうとしていたのだ

しかし、それにスバルが気付いて、間一髪で腕を捻って回避したのだ

だが、まだ肘は無事である

それに、今のも覚えた

 

(だったら、腕を掴ませる隙を与えないようにすればいいだけ!)

 

スバルはそう意気込むと、鋼に一気に近づいた

そして、怒濤のように連撃を繰り出した

右手、左足、左手、右足

間断の隙を極力無くし、反撃させないようにした

その時、鋼の体勢が僅かに崩れた

 

(今だ!)

 

その隙を突いて、スバルは全力の右拳を叩き込もうとした

だが、スバルは疑うべきだったのだ

その隙が、意図的に作られたものかどうかを

 

「なっ……」

 

右拳を繰り出した直後、その右拳を鋼は左腕の肘と左足の膝で挟むように受け止めていたからだ

まさか、そんな受け止め方をされるとは予想すらしてなかったスバルは、驚愕で思考が停止してしまった

この時、スバルは手を振りほどいて離れるべきだった

だが、予想外の事態に固まってしまって、反応が遅れた

気付けば、鋼はスバルの視界から消えていた

 

《相棒!》

 

「つっ!?」

 

マッハキャリバーに呼ばれて、スバルは下を見た

そこに見えたのは、深く身を沈めた鋼の姿だった

次の瞬間

 

「ぐっ!?」

 

鋼はそこから、体諸とも右拳を天高く突き上げて、スバルの顎を打ち上げた

その一撃はまるで、巨大なハンマーで殴られたかのようだった

とてつもない力で殴られて、スバルの体は数mは浮き上がっていた

殴られた衝撃で脳が揺さぶられ、スバルの意識は少しずつ遠退いていた

少しずつ暗くなっていく視界で見えたのは、高く跳び上がって追撃するためだろう

右足を高々と上げた鋼の姿だった

 

(やっぱり、ダメなのかな……アタシは、泣き虫で弱いままなのかな……)

 

とスバルが諦めかけた

その時だった

 

《ウィング・ロード!》

 

と愛機が魔法を発動させたのだ

位置的には、丁度スバルの右足だった

そこに展開されたウィング・ロードにより、スバルの右足だけが前に動き、鋼の右足を更に上に弾いたのだ

それによって、鋼は空中で体勢を崩した

その直後

 

《右回転し、キャリバーショット!》

 

という愛機の言葉に体が従い、自分に背中を晒していた鋼に拳を叩き込んだ

鋼はその衝撃すら利用して距離を取り、華麗に着地

スバルは流れ動作で着地し、最初は何が起きたのかすら理解出来ていなかった

しかし、警戒した様子の鋼と振り抜いた状態の右腕に気付いて

 

「マッハキャリバー……もしかして、マッハキャリバーが?」

 

と呆然とした様子で、愛機に語りかけた

すると

 

《ここで、諦めるのですか? 相棒》

 

とマッハキャリバーが語りかけてきた

 

《あの日に語ったあの言葉は、偽りだったのですか?》

 

マッハキャリバーのその言葉で、スバルは思い出した

それは、今から少し前だった

食堂に集まっていたフォワード陣に、なのはが問い掛けたのだ

 

『その力で、何をしたいの?』

 

これに対して、スバルは

 

『助けたいんです……泣いてる人を、助けを求めてる人を。一直線に!』

 

と答えた

そう

助けたいのだ

自分で助けられる人達を

そして、同時に思い出した

それは、出撃する前に聞いた冬也の

 

『あいつらは、既に死んでいる……死んでまで戦う必要は無いんだ……だから、もし戦うことになったら……戦いから助けてやってくれ』

 

という頼みの言葉

スバルは改めて、相手たる鋼を見た

鋼は構えており、その構えは隙を感じさせない

だが、その構えは正確過ぎた

戦い始めた時に見た構えと、全く同じだった

拳の高さ

足の角度

足の向きまで

 

(冬也さんが見せてくれたデータだと、鋼の戦闘はまるで獣みたいで、けど正確無比だった……なにより、構えが変幻自在だった……)

 

そう

それは、数日前に冬也が見せた相手の戦闘データ

それを見ていて、今気付いた

今の鋼は、完全に機械に支配されていると

死んでまで、機械に支配されて戦わされている

しかも、敵だった相手に

 

(そんなの、嫌だな……)

 

スバルはそう思うと、拳を強く握り締めた

そして、愛機に

 

「マッハキャリバー……彼を、助けるよ」

 

と静かに、しかし強く告げた

 

《はい、相棒!》

 

スバルの言葉を聞いて、マッハキャリバーは強く返答した

スバルはそれを聞いて

 

「だから……ACSドライブ!」

 

《ACSイグニッション!》

 

スバルは、切り札を発動した

それは、スバルの憧れの人物であり教官

そして、自分の部隊の隊長であるなのはが使う切り札

アクセラレーション・システム

通称、ACS

ACSを発動した証拠に、マッハキャリバーからピンク色の翼が展開された

その直後、スバルから魔力が吹き荒れた

そしてそれに呼応するように、周囲の空気が震えた

 

「行きますよ、鋼さん……」

 

スバルが語りかけると、鋼は音が聞こえる程に拳を握り締めた

その直後、二人は同時に動いた

スバルはマッハキャリバーの回転を全開にして走り、鋼は高速で駆け出した

スピードはスバルの方が速い

だが、一撃の重さは鋼の方が上だった

スバルと鋼の拳がぶつかった直後に、衝撃波で近くの廃ビルの窓ガラスが砕け散った

 

「くっ!?」

 

僅かに体勢を崩したスバルだったが、直ぐに立て直して更に速度を上げた

スバルの目ですら、周囲の景色が霞むようにしか見えない

だが、そんな速度に鋼は反応しきった

鋼はスバルの一撃を避けると、通り過ぎたスバル目掛けて近くにあった廃車を投げた

それはスバルへの直撃コースだったが、スバルはウィング・ロードで上に回避した

だが、スバルは己の失態に気付いた

なぜならば、スバルの目の前に鋼の姿があったからだ

 

(しまった! あの廃車は、アタシの回避ルートを制限させるために!?)

 

鋼は左手を前に突きだし、右拳を弓を引き絞るようにしていた

その構えは、鋼の必殺技

 

(破城鎚!!)

 

回避すら間に合わない

と、スバルは体に力を入れた

その直後

何処からか飛んできた魔力弾が、鋼に直撃したのだ

更に

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

と烈迫の気合いと共に、鋼に横合いから拳が叩き込まれたのだ

完全に奇襲だったために、鋼は吹き飛んで廃ビルの壁を突き破っていった

そしてスバルを助けたのは、長い紫色の髪の少女だった

 

「ギン姉!?」

 

その人物は、まだ眠っている筈のスバルの姉

ギンガ・ナカジマだった

そしてスバルは、魔力弾が飛んできた方向に視線を向けた

そして、見えたのは頭に包帯を巻いたショットガン型のデバイスを持った一人の男だった

 

「マックス兄!!」

 

その人物もまた、未だに入院している筈の人物だった

七大罪三強の一角との戦いは、まだ始まったばかりだった




ちょっと、大事な話を割烹で上げます


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死闘 VS影

「冥夜!」

 

「任せろ、合わせる!」

 

影と交戦していた二人は、卓越した連携で攻撃していた

それは、事前に冬也から伝えられた情報から導き出した答えだったからだ

 

(0、2秒か!)

 

(なんとしても、その間に倒してみせる!)

 

0、2秒

それは、影の自動影防御の限界反応時間だ

つまり、一回影で防御したら次に防げるようになるまでそれだけの間があるということだ

その間に致命傷を叩き込めば、倒すことが可能だ

しかし、その0、2秒が難しい

武と冥夜の二人はその卓越した連携で攻撃を繰り出していたのだが、全てギリギリで防御されている

不知火と武御雷の計測では、ほんの0、1秒間に合っていないらしい

その0、1秒が遠く感じた

だが、やらなければいけない

予定では、もし会ったらフォワード陣全員で掛かる予定だった

だが、フォワード陣は散り散り

援軍は望めない

相手は格上だ

だが、それがどうした?

自分達が立っているのは、命懸けの戦場

自分達が負けたら、世界が崩壊する

そんなこと、させるわけにはいかない

させない為に影を倒し、スカリエッティを逮捕し、ロンドを倒す

その為に、今の限界を超えるしかない

自分達は、人類の剣であり楯たる衞士

しかも、自分達が担当するのは最前衛たる突撃前衛(ストーム・バンガード)

容易に退くことも、倒れることも許されない

ならば、自分達は敵を切り捨てるのが役割

だったら、諦めず突撃する

突撃前衛(ストーム・バンガード)コンビらしく

二人はそう意気込むと、猛攻を開始した

それは、幾多の訓練を共に乗り越え、激戦を共に駆け抜けたが故の阿吽の呼吸の連携だった

冥夜が斬りかかった直後に、武が横っ飛びしながらニードルバレットを連射

それを影は回避すると、足下から影をまるで槍のように尖らせて次々と二人目掛けて放った

その影の槍には強力な対物理と対魔貫通能力が付加されており、生半可な防御は容易く貫かれる

だから、武と冥夜は回避を選択し実行

散開すると、二人で挟み撃ちを敢行した

戦術機動陣形、平面機動挟撃(フラット・シザース)

その名前の通りに、相手に対して機動挟撃を仕掛けるのだ

二人は機敏に動き回り、影を挟み撃ちしようとした

だが、影はそれをさせまいと影を次々と射出

二人の迎撃を始めた

二人は迫ってくる影槍を、ギリギリで回避し続ける

しかし、何時までも避けきることなど出来ない

その証拠に、一発の影槍で不知火の左肩アーマーが大きく抉られた

その一撃で、僅かに左肩を負傷した

だが、その程度で止まる武ではない

冥夜は心配そうに見るが、止めなかった

今止めるのは、世界の命運を捨てるに等しい

だから止めなかった

だから、自分(冥夜)に出来ることは、目の前の敵を一刻も早く倒すことだ

 

「ハアァァァァァ!」

 

冥夜は烈迫の咆哮を上げながら、斬撃

無限鬼道流剣術、十六夜を繰り出した

下から下弦の月を彷彿させる斬撃を繰り出すのが、十六夜だ

影はその斬撃を影で防いだが、冥夜は直ぐ様別の業を繰り出した

無限鬼道流剣術、吹雪

これは、連続突きだ

冥夜は三段突きが精一杯だが、冥夜の師匠は五段突きが可能だった

それは、冥夜がまだ未熟だから

しかし、それは無駄ではなかった

一発

たった一発だが、影の自動防御をすり抜けて、掠めたのだ

掠めただけだったのは、影が首を傾けたからだ

それを見て、二人は行けると確信した

そこから、二人の文字通りの疾風怒濤の攻めが始まった

 

「ハアァァァァァ!!」

 

「オオォォォォォ!!」

 

二人は雄叫びを上げながら、次々と攻撃を繰り出した

冥夜が斬撃を繰り出したら、間髪入れずに武が砲撃を放った

武が砲撃を放った直後に、冥夜が振り下ろしの斬撃を放った

そういう風に、二人は影に攻撃の暇の与えずに攻撃を繰り返した

がむしゃらに

それによりほんの僅かずつだが、攻撃が影に入っていき、影の動きは鈍っていった

 

(このまま、倒してみせる!)

 

偶然だが、この時の二人の思考が一致した

そして、その時が来た

二人の攻撃で、影は全身を朱色に染めていた

しかし、二人も無傷ではなかった

武は左腕を血で濡らし、冥夜は右側頭部から出血していた

だが、二人は不思議と痛みを感じなかった

戦意が高揚してるからか、アドレナリンが大量に分泌されているのだろう

今は好都合だった

二人は手応えを感じていた

後もう少しで倒せると

しかし武の長刀は折れ、冥夜の複合突撃砲は破壊された

バリアジャケットを再構成すれば、予備の物を装備出来る

しかし、そんな暇は無い

そんなことをした瞬間に、二人の命は間違いなく喪われる

だったら、今ある装備で手を尽くす他はない

そして、そんなことは今更だった

二人はアイコンタクトを交わすと、同時に動いた

不知火と武御雷は、原型機体のデータから忠実に再現している

その為、速度は武御雷の方が速い

故に、冥夜が前に出た

その僅か後方に、武が付いている

 

「ハアッ!!」

 

冥夜は接近すると、長刀を振り下ろした

その一撃を影は半身になって回避

 

「シイッ!!」

 

それを見た冥夜は、長刀を切り返して右斜め上に振り上げた

しかし、その一撃を影は上半身を弓なりに反らすことで避けた

次の瞬間、冥夜の右脇から銃口が覗き、ニードルバレットが乱射された

それは回避しきれないと判断したのか、影は足下から影の楯を展開して防いだ

その瞬間、影の胸部から刃が突き出た

その一撃は、得意の機動で背後に回った武の短刀による一撃だった

では、先程の射撃はなんなのか

それは、武御雷の背部武装パイロンに装備された武が使っていた複合突撃砲の射撃だった

実は、不知火と武御雷の武装は相互に使えるようにされていたのだ

だから武は、冥夜の背後に回った時に持っていた複合突撃砲を背部パイロンに装着させると、腕部のナイフシースから短刀を抜刀

冥夜が連撃により自動防御を発動させた瞬間に、背中から一刺ししたのである

その一撃は、影の心臓を刺し貫いた

それにより、影を無力化した

こうして、二人は七大罪が一人

怠惰(アケディア)のアラン・スペイサーを倒した



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能力

少し中途半端ですが、投稿


ミッド各地でフォワード陣が接敵している頃、フェイトは聖王教会騎士団所属のシスター・シャッハと一緒にスカリエッティのアジトに乗り込んでいた

中に入ると、広大な廊下に出た

その廊下の両側には大量のポッドが設置されており、その中には様々な遺体が浮かんでいた

 

「これは……」

 

「スカリエッティの実験で犠牲になった人達です」

 

シャッハの言葉にフェイトがそう返した時、動きがあった

まず、天井の一部が崩落し、そこからガジェットⅢ型が出現

それに気付いた二人は散開しようとしたが、シャッハの足を床から生えた手が掴んだ

その直後、シャッハはヴィンデルシャフトを構えて

 

「はあっ!!」

 

と気合いと共に、床に一撃叩き込んだ

その一撃で床が崩れて、シャッハと相手たる戦闘機人

セインは一階下に落ち、その穴はガジェットで塞がれた

 

《シスターシャッハ! 無事ですか!?》

 

《大丈夫、軽傷です。目の前の戦闘機人を捕縛したら、すぐに向かいます》

 

フェイトが念話で呼び掛けると、シャッハはそう返した

崩落した瓦礫が頭に当たり、少し出血してる

だが、まだ戦えるようだ

そんなシャッハの前には、座り込んでいるセインの姿があった

どうやら、床を打ち抜くとは予想してなかったらしい

驚いた表情を浮かべている

 

《わかりました。御武運を》

 

フェイトはそう言うと、バルディッシュを構えた

フェイトの前には、あの時に相対した二人の戦闘機人

ドゥーエとセッテが居た

その二人は既に構えており、何時でも戦闘可能という状態だった

その時だった

コツコツという足音が響き、通路の奥から人影が現れた

白衣を着た長い紫色の髮が特徴の男

此度の事件の主犯の一人

ジェイル・スカリエッティだった

 

「スカリエッティ!」

 

「やあ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官殿」

 

フェイトが怒りの籠った声で呼ぶと、スカリエッティは恭しく一礼した

もう一人の主犯

ロンドの姿は無い

今、外で冬也と交戦している筈である

このアジトに入る少し前に、冬也はある方向を見て

 

『俺は、あっちに向かう』

 

と言って、離脱した

その後のシャーリーからの報告で、冬也はオーバーS級複数と交戦を始めたと聞いた

推定では、一人はロンドだろうと

複数と交戦開始したと聞いて、フェイトは冬也が心配になった

だが、突入するに当たり意識を切り換えた

自分とて、敵地に入るのだ

他人の心配をして、失敗をする訳にはいかない。と

そして、因縁の相手たるスカリエッティと邂逅した

フェイトの母親

プレシア・テスタロッサに、人造魔導師計画

プロジェクト・FATEを教えた張本人と

 

「こうして会うのは、初めてかな? 私が、ジェイル・スカリエッティだ」

 

「時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンだ。S級次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ……貴方を逮捕します」

 

スカリエッティが名乗ると、フェイトはそう告げてバルディッシュを突き付けた

しかし、スカリエッティは落ち着いた様子で

 

「フェイト・テスタロッサ……プレシア・テスタロッサの実子、アリシア・テスタロッサのクローン……プロジェクト・FATEの数少ない成功例……」

 

と語りだした

 

「しかも、まだ技術と理論が未熟だった10年前の成功例……しかし、プレシア・テスタロッサにとっては失敗だった……だからアリシアの名前ではなく、計画の名前……フェイトという名前を与えられた」

 

その内容を聞いて、フェイトは怒りがこみ上げてくるのを自覚した

それにより、バルディッシュを握る手に力が篭る

だがゆっくりと深呼吸して、何とか落ち着くように努めた

怒りで行動するのではなく、常に冷静に

そう意識して、目を開いた

その時、凄まじい轟音が響き渡ると同時に天井が崩落

条件反射で後退し構えたフェイトは、驚愕した

なぜならば、崩落してきた瓦礫の上に全身を真っ赤に染めた冬也が倒れていたからだ

 

「冬也さん!?」

 

フェイトが呼び掛けたタイミングで、天井の穴から新たに一人現れた

ロンドだった

 

「ああ、ロンドか……かなりやったようだね?」

 

「こちらより、自分のことを気にしたらどうだ? かなり入り込まれてるようだが?」

 

ロンドがそう言うと、スカリエッティは肩をすくめて

 

「確かに、予想より早くここまで入り込まれたね……だが、想定の範囲内さ」

 

と返答した

スカリエッティのその言葉に、ロンドはスカリエッティを睨んだ

そのタイミングで、冬也が一気に起き上がってロンドに刀を突き出した

だがその一撃を、ロンドは軽く回避

その直後、冬也の頭が弾けた

理由は、ロンドが片手で発動させた魔法だった

 

「冬也さん!!」

 

その光景に、フェイトは声を張り上げた

その瞬間、驚くべきことが起きた

弾け飛んだ冬也の頭が、あっという間に治ったのである

その光景を見て、フェイトは気付いた

冬也が出した六人のデータ

しかし、冬也のデータはなかった

だったら、冬也の能力はなんなのか

その光景から、フェイトは分かった

 

「高速再生……っ!」

 

それも、本来は即死級のダメージからも再生出来るほど

それが、傲慢という名前の由来だったのだ

 

「クハハハハ……相変わらずの回復力だな、傲慢」

 

「……」

 

ロンドが話し掛けたが、冬也は無言で刀を繰り出した

その時、フェイトは気付いた

冬也の目に、意思が感じられないのを

 

「それに、ゲシュペンストか……再生ごり押しの被弾無視攻撃……兵器なのを思い出したか!」

 

それを聞いて、フェイトは瞠目した

ゲシュペンスト

命を無視という意味のドイツ語

それは、冬也が兵器として運用されていた名残だった

 



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思い

この話し、オリジナル、イクスストーリー、ヴィヴィッドに入ります


「くっ!」

 

「……」

 

「ルーちゃんっ!」

 

「……」

 

廃棄都市区画の一角

そこでは、エリオとキャロの二人がルーテシアとルーテシアの召喚蟲相手に戦闘していた

最初は説得しようとした

だが、その途中で戦闘機人の一人

クアットロから通信が繋がり、ルーテシアに異変が起きた

その瞳に正気は無くなり、両目から涙を流している

何より、ルーテシアから異常な密度で魔力が放出されている

このまま戦い続けたら、ルーテシアの命に関わると二人にも分かるほどに

恐らくは、クアットロが何らかの細工をしたのだろう

ディエチから、クアットロは戦闘機人の中でも狂った個体と聞いている

人の命を、何とも思わない狂人だと

そんな奴から、早くルーテシアを助けたかった

 

「ガリュー! 君も召喚獣なら……ルーテシアを助けてあげて! ガリュー!!」

 

エリオが呼び掛けた直後、ガリューの両手首から爪が生えた

そしてよく見れば、ガリューの両目から血の涙が流れていた

それを見て、エリオは言葉を失った

 

「ルーちゃん……自分の我が儘で、召喚した子達を傷付けちゃ、ダメだよっ!」

 

キャロがそう呼び掛けた理由は、ガリューを含めた召喚蟲達にあった

召喚蟲達は全て、元の姿から変わっていて、血の涙を流していた

ルーテシアが暴走しているから、召喚蟲達もそれに影響されているのだ

このまま放置すれば、ルーテシア共々危ないのは目に見えている

ルーテシアが放った魔力弾をキャロが操るビットで防ぎ、キャロは反撃で魔力弾を放った

それはルーテシアではなく、ルーテシアを乗せて飛んでいた召喚蟲に当たった

それにより召喚蟲がバランスを崩し、ルーテシアは落下しビルの屋上に着地

その直後、ルーテシアの背後の空中に、魔法陣が出現

その中から、巨大な白い召喚蟲が現れた

その大きさは、優に十数mに達するだろう

それを見て、キャロが構えて

 

「天地貫く業火の咆哮……存るけき永久の大地の護り手……我が下に来よ黒き炎の大地の守護者!」

 

と詠唱を始めた

それは、彼女の故郷

アルザスを守護する真竜を呼ぶ呪文

 

「竜騎招来……来よ、ヴォルテール!!」

 

キャロがその名を呼ぶと火柱が上がり、その巨体が姿を現した

 

「白天王、ガリュー……殺して……そいつら全員、殺してぇぇぇ!」

 

「ルーちゃん……ヴォルテール!」

 

二人がそう言うと、二体の巨大召喚獣は激突した

この時、エリオとガリューは激しい機動戦闘を繰り広げていた

小回りでは空を飛べるガリューに利があったが、最高速度ではエリオが有利だった

 

「はあっ!」

 

「……」

 

エリオはその高い機動を活かして、上空からガリュー目掛けて突撃

ガリューはその一撃を最低限の動きで回避したが、気付けば、目の前にエリオの蹴りが迫っていた

先程の一撃

エリオは途中でストラーダを放していたのだ

そして、ガリューが避けたタイミングを狙って蹴りを放ったのだ

この一撃は回避出来ず、ガリューはビルの屋上に叩き付けられた

その隙に着地したエリオは、近くに刺さっていたストラーダの柄を握った

そして

 

「よく似てるんだ……僕達とルーって……」

 

と語りだした

 

「ずっと一人ぼっちで、誰も守ってくれなくって……誰も信じられなくって、何も分からなくって、傷付けることしか出来なくて」

 

それはまるで、囁くような口調だった

するとエリオは、キッとルーテシアを見て

 

「だけど、変われるんだ! 切っ掛け一つで、思い一つで、出会い一つで変われるんだ!」

 

と宣言した

 

「だから、ルーちゃん……貴女は、私達が止めるから!」

 

「白天王っ!!」

 

ルーテシアが呼び掛けると、白天王の腹部に凄まじい量の魔力が集まっていく

どうやら、魔力砲を撃つつもりらしい

その直撃を受けたら、エリオとキャロは無事には済まないだろう

だから

 

「ヴォルテール!」

 

とキャロはヴォルテールの名を呼んだ

すると、ヴォルテールの口元に炎が溜まっていく

それは、あの機動六課が陥落した時に放った一撃

ギオ・エルガだった

二体の巨大召喚獣の魔力砲が空中でぶつかり、凄まじい衝撃波が廃棄都市区画を襲った

近くのビルは倒壊し、遠く離れていたビルは窓ガラスが一斉に割れた

勿論だが、三人は既に離れていた

エリオはキャロと一緒にフリードに乗り、ルーテシアは地雷王に乗っていた

二人の近くにはいつの間にか通信ウインドウが開いていて、その向こう側ではフェイトがスカリエッティと対峙している

しかし、有利とは言い難い状況だった

スカリエッティの近くには戦闘機人が二人居る

ディエチから聞いた話しでは、一人はトーレ

フェイトと同じく機動戦闘特化型と分かっている

しかも稼働してからも長いらしく、その実力も高い

もう一人はセッテ

詳しくは知らないが、かなり高い機動性を有していることが分かっている

いくらフェイトとは言え、その二人を相手にするのは辛いはずである

その時、天井が崩落し誰かが落ちてきた

 

「冬也父さん!?」

 

それは冬也だった

そして、天井の穴から更に誰かが現れた

それは、冬也の仇敵

ロンドだった

冬也は血塗れで、長くは戦えないのが分かる

それを見て

 

「キャロ!」

 

「うん。早くルーちゃんを助けて、フェイトさん達の助けに行こう!」

 

と二人は行動を始めた

そして、二人は一人の少女を助ける



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交差

「本当に、数は多いな……明日菜さん、大丈夫ですか?」

 

「平気よ! まだまだ行けるわ!」

 

ネギが問い掛けると、明日菜は大剣を肩に担ぎながらそう返答した

今彼等が居るのは、まだ避難が完了していない市街地近くの廃棄都市区画だった

そこは激戦区で、ネギ達が展開する前に居た陸士208部隊は怪我人が多数出て、今は後退している

ネギ達の周囲には、夥しい数のガジェットやドールの残骸が転がっている

その時だった

空から、一人降りてきた

それは、六人の内の一人

 

「音……でごさるな」

 

「確か、攻防兼ね備えた敵アルね」

 

楓と古菲はそう言うと、それぞれ構えた

その直後、音は指を鳴らした

その瞬間、ネギ達の周囲のビルが倒壊

ネギ達の方に倒れてきた

 

「神鳴流奥義、斬岩剣!」

 

「爆裂螺旋剄!」

 

しかしそのビル群は、刹那と古菲が破壊した

 

「今のは……」

 

「恐らく、音でビルの基部を破壊したのでしょう」

 

「技の予備動作が少ないから、防ぎにくいなあ……」

 

「今までの中でも、戦い辛い敵でござる」

 

とネギ達が話していると、音は両手を構えた

どうやら、本気の構えのようだ

その瞬間、音の背後に楓がもう一人現れて、長い鎖を螺旋状に展開させた

その鎖には、何十枚という枚数の札が括り着けられていた

そして、楓の分身が消えた瞬間

 

「爆鎖爆炎陣!」

 

楓の技が炸裂した

鎖に括り着けられていた札

爆裂札が一斉に起爆し、凄まじい威力の爆発が起きた

その威力により、元々ヒビ割れていた道路は完全に陥没し、数M規模のクレーターが出来た

 

「これで倒せてたら、御の字でござるが……」

 

「そう甘くは、ないみたいだな」

 

そう言った楓と刹那の視線の先では、無傷の音が立っていた

 

「皆さん、一気に行きますよ!」

 

「了解!」

 

ネギの号令に従い、明日菜達は一気に音に向かって駆け出した

場所は変わり、地上本部

今そこで、シグナムは廊下を走っていた

その理由は、先に入った騎士ゼストを追っていたからだ

ゼスト・グランガイツ

シグナムが所属する部隊の先輩に当たる人物で、ベルカ式を使う騎士の称号を持つオーバーSランクの騎士である

どうやら、現在謹慎処分中のレジアス・ゲイズ中将の古くからの友人らしい

しかし、過去に最高評議会からの命令に従い、スカリエッティのアジトの1つに部隊を連れて侵入

全滅したらしい

その中には、スバルとギンガの母親

クイント・ナカジマも居たらしい

何のために地上本部に来たのかは分からなかったが、もし復讐が目的ならば止めるつもりだった

そして、レジアス・ゲイズの執務室がある階の廊下を曲がった時

 

「こっから先は、通行止めだ!」

 

とアギトが立ちはだかった

 

「旦那はただ、昔の友達と話したいだけなんだ! 復讐とかは考えてねえ!!」

 

アギトは涙を浮かべながら、そう訴えた

するとシグナムは、無言でレヴァンティンを抜いて

 

「はあっ!」

 

と一閃した

その一撃で、アギトが展開していた魔力障壁は砕け散った

 

「安心しろ……私たちはただ、過ちを起こさせたくないだけだ」

 

アギトの訴えに、シグナムがそう答えた

その直後、轟音が鳴り響いた

それを聞いて、シグナムは急いでレジアス中将の執務室に入った

そこで見たのは、机にうつ伏せになって死んでいるレジアス

本棚に力なくもたれ掛かっている、オーリス・ゲイズ

そして、レジアス・ゲイズの背後で血貯まりに倒れている戦闘機人だった

 

「これは……あなたが?」

 

とシグナムが問い掛けると、ゼストは渋面を浮かべながら

 

「そうだ……俺が弱く、遅かったから……」

 

と呟いた

その間にシグナムは、レジアスと倒れている戦闘機人

ドゥーエの死因たる傷口を見た

 

(レジアス中将の死因は、この戦闘機人の爪のようだな……逆に戦闘機人の死因は、騎士ゼストの一撃か……)

 

と死因を特定した時、ゼストが

 

「騎士シグナム……だったな?」

 

とシグナムの名を呼んだ

その呼び掛けに反応し、シグナムはゼストの方に体を向けた

するとゼストは、デバイスを構えて

 

「一騎打ちを希望したい……俺の、最後の戦いを」

 

と言った

すると、アギトが

 

「そんな! 旦那ぁ!?」

 

とゼストに近寄ろうとした

しかし、ゼストはアギトを睨んで

 

「来るな、アギト!!」

 

と制止した

アギトはその制止で止まり、シグナムは気迫に反応してレヴァンティンの柄を握った

すると、ゼストは

 

「これが、俺の最後の戦いだ……はあっ!!」

 

と、シグナムに向かって突撃した

シグナムはゼストの一撃を回避しながら、レヴァンティンを振るった

二人の一撃は互いに当たっていたらしく、シグナムは髪を纏めていたリボンが切られ、ゼストは左肩から出血した

しかしゼストはそれでも止まらず、槍を振りかぶって

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

と雄叫びを上げながら、突撃

シグナムは、空中で体を捻って壁を蹴りながら

 

「紫電……一閃」

 

と普段よりも静かに、その一撃を放った

二人の体は交差し、入れ替わった

シグナムは肩のバリアジャケットが弾け飛び、ゼストは持っていたデバイスが砕け、右肩から左腰が切り裂かれていて、倒れた

シグナムはレヴァンティンを納刀し、倒れたゼストに歩み寄った

 

「騎士ゼスト……」

 

「シグナム……感謝する……」

 

シグナムがゼストを抱き起こすと、ゼストは血を吐きながらそう告げた

そして、指輪をシグナムに渡しながら

 

「これに、俺が調べた限りのスカリエッティ達の能力が記録されている……」

 

と言った

 

「確かに、受けとりました」

 

シグナムがそう言うと、ゼストはアギトを見ながら

 

「シグナム……アギトを、頼む……」

 

と言った

 

「旦那!?」

 

「俺では、お前の能力は十全に活かせなかった……しかし、シグナムならば、活かせる筈だ……近い魔力光に、炎の使い手だ……すまんな、アギト……」

 

ゼストが謝ると、アギトは涙を流しながら

 

「旦那は、アタシのロードだった……謝るなよぉ……」

 

と言った

それを聞いて、ゼストはシグナムを見ながら

 

「心残りは、あの子のことだ……俺が助けたかったがな……」

 

と言った

どうやら、ルーテシアのことを言っているようだ

 

「ご安心ください……ルーテシアでしたら、私の部下達が、間もなく保護します」

 

「そうか……良かった……」

 

ゼストはそう言うと、窓から青空を見上げて

 

「お前達は、間違えるな……決して……俺達みたいに、なるな……」

 

と言って、その目を閉じた

こうして、一人の気高き騎士は旅立った



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振動拳

「スバル、コンビネーション行くわよ」

 

「うん、ギン姉!」

 

『援護は任せな!』

 

三人はそう言うと、スバルとギンガは突撃

マックスは、援護射撃を開始した

しかし鋼は、マックスが撃った魔力弾を全て左手だけで弾いた

その鋼に対して、ギンガとスバルは交差しながら接近

スバルは拳を

ギンガは蹴りを繰り出した

鋼はギンガの蹴りを受け流すと、スバルの腕を掴んでギンガの方に投げた

スバルとギンガはぶつかり、その隙を突いて鋼は二人に拳を

破城砲を放とうとした

しかしその一撃は、マックスが放った魔力弾により阻止された

鋼さ数発の魔力弾を弾くと、一発の魔力を掴んで投げ返した

 

「マジかよ!?」

 

それを見て、マックスは慌てた様子で跳んで回避

隣のビルの屋上に、着地した

その直後、鋼がマックスの目前に現れた

そして、鋼が一撃を繰り出そうとした

その時

 

「アイス・ピラー」

 

地面から巨大な氷柱が現れて、鋼に当たった

直撃だったが、鋼は傷ひとつ無かった

しかし、衝撃で鋼は後退した

 

「俺が、普通の砲撃型魔導師だと思ったか? 残念だったな……非常にレアだが、俺は二属性の変換資質を持ってるんだよ!!」

 

マックスがそう言った直後、その両手にショットガンが現れた

銃床と銃身が短めになっている

マックスは二丁のショットガンを器用に回しながら

 

「変換資質を部隊で知ってるのは、ゲンヤ隊長だけだ……さあ、行くぜ!!」

 

と言うと、鋼に肉薄

 

「デュアル・ファング!」

 

鋼に、至近距離で二属性による同時砲撃を撃った

その直撃に、鋼がバランスを失い、たたらを踏んだ

そこに、スバルとギンガが現れた

そして、二人で同時に拳を繰り出した

直撃を受けた鋼は、大きく吹き飛ばされた

それを確認したからか、ギンガが

 

「マックス、そんな能力があったのね?」

 

とマックスに視線を向けた

どうやら、訓練時代からの知り合いのギンガも知らなかったらしい

 

「切り札は、最後の最後ってな……ぐっ」

 

そこまで言ったマックスは、片膝を突いた

よく見れば、右脇腹に血が滲んでいる

どうやら、傷口が開いたようだ

 

「マックス! ……つっ!」

 

マックスにギンガが近寄った時、ギンガは頭を抑えた

そちらは、頭に巻いた包帯が赤く染まっていた

どうやら、戦いで傷口が開いたようだ

 

「ギン姉、マックス兄!」

 

そんな二人にスバルが近づいた時、鋼が姿を現した

その姿を見て、スバルは構えた

そして、背後で動けなくなった二人を見て

 

(私が守らないと……)

 

と心に決めた

すると、マッハキャリバーを見て

 

「行くよ、相棒!」

 

《ロード、カートリッジ!》

 

マッハキャリバーはスバルの意思を汲んで、カートリッジを数発ロードした

その直後、スバルの右目が金色に輝いた

それは、スバルが忌み嫌っていた戦闘機人の能力が目覚めた証拠

スバルが自ら意図的に、初めて使った

 

「行きますよ、王さん……あなたを、眠らせます」

 

スバルのその言葉を皮切りに、拳撃の応酬が始まった

互いに拳と足による攻撃を繰り返し、それを弾き、防ぎ、受け流した

互いに、その一撃は一撃必殺を狙っていた

スバルの戦闘機人としての能力は、振動拳である

振動拳はその名の通り、拳を超振動させるのだ

それにより、例え防御したとしても相手に大ダメージを与えることが出来るのだ

これは、相手が機械だろうが人間だろうが関係なく通用する

それが例え、死体だとしても通用するはずだと、冬也は言っていた

そしてなによりも

 

『もし、邂逅したら……眠らせてやってくれ』

 

と悲しそうに言っていた

だから

 

(もう、戦わなくていいんですよ……)

 

とスバルは思った

だから戦わなくていいように、鋼を眠らせる

そのために、倒す

 

「うおぉりゃあああ!!」

 

スバルは烈拍の気迫と共に、拳を繰り出した

逆に、鋼は黙って拳を繰り出していた

対称的な二人の攻防は、永遠に続くように思えた

しかしその終わりは、意外と早くに訪れた

その理由は、二人の戦闘の余波で二人が足場にしていたビルの半分が倒壊したのである

そのビルは、二棟を連絡橋を使って繋いでいたビルだった

スバルはその片方に、鋼と一緒にいた

廃棄区画であり、数年に渡って整備されていなかったからだろう

スバルと鋼の戦闘の衝撃に耐えきれず、倒壊したのである

勿論だが、スバルと鋼はその崩れていく中で離脱しながら戦っていた

その時だった

鋼が着地した瓦礫が、崩れたのだ

それにより、鋼は空中に放り出された

その隙を逃さず、スバルは一気に肉薄

 

「はあぁぁぁ!」

 

と気合いの声を上げながら、左拳を繰り出した

その一撃は、鋼によって弾かれた

しかし、それはスバルの策だった

鋼はスバルの一撃を弾いた拍子に、空中でのバランスを完全に喪失

 

「振動拳!!」

 

 

無防備になった鋼に、スバルは右拳を叩き込んだ

その一撃で、鋼の頭部を覆っていた機械のマスクが壊れて、鋼は倒れ伏した

ここから、機動六課の反撃の狼煙が上がる



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反射対幻想殺し

短くって、ごめんなさい


「危ねっ!」

 

反射の一撃を間一髪で回避した当麻は、冷や汗を流した

反射の戦法は、基本的に相手の攻撃を跳ね返すだけ

だがしかし、近接格闘戦闘が出来ないわけではない

だがその動きは

 

(古菲やネギ君ほどじゃねえ!)

 

と当麻は判断し、実際そうだった

だから当麻は、紙一重とはいえ回避出来ていた

そこから当麻は反撃を繰り出したが、それは回避されて腕を掴まれそうになり、慌てて腕を引いた

それは、冬也の忠告からだった

 

『反射に掴まれたら、即死と思え』

 

と言われたのだ

基本的に反射は、相手の攻撃を跳ね返すのみである

しかし、相手を掴んだら場合、機械の場合は電気の逆流が起き、人間の場合は血液が逆流するそうである

これは恐らく、相手の体内で反射を使ったからだと思われる

というのが、冬也の談だった

過去に当麻が一方通行と戦った時、一方通行も似たことをやろうとしていたが、当麻が勝った

だから理論上、当麻なら勝てる筈なのだ

だがしかし、相手は仮にもオーバーSランク

それに対して、当麻は右手以外はなんら一般人と変わらない

だから冬也は

 

『勝てないと思ったら、逃げろ。手が無いわけではない。俺が殺す』

 

とも言っていた

だが

 

「それが……どうしたぁ!」

 

と叫びながら、がら空きだった腹部に右手を叩き込んだ

 

「死なないからって、道連れ戦法で倒させるか! フェイトが泣くだろうが!!」

 

それは、フェイトから送られてきた冬也の能力からイマジンが導きだした、冬也が反射を倒す方法

冬也の使う魔法の中には、風を扱う魔法があった

その魔法により竜巻を作り出し、《中の空気が無くなるまで、冬也が足止めする》

というものだった

確かに、反射は死体だ

だが、当麻が腹部に右手を叩き込んだ直後、激しく噎せていた

つまり、反射も空気を吸っているということになる

だったら、空気を無くしてしまえば動けなくなるのは道理

そして空気が無くなれば、反射は死ぬだろう

足止めしていた冬也諸とも

だが冬也には、即死からすら再生する能力がある

ほぼ確実に、酸欠で死んでも復活するだろう

だが、幾ら復活するとは言っても、冬也が一度でも死ねばフェイトが泣くのが当麻には見えた

そして、当麻はそれが許せなかった

当麻は、誰かの泣くのが嫌だったから、右手を振るってきた

その相手がどれ程強大だろうが、右手で解決してきた

何度も何度も何度も

血に濡れながら、絶望を乗り越えてきた

 

「ああ、そうだ……」

 

当麻は右手で相手を殴りながら

 

「ここまでが、冬也にとっての長い長いプロローグだったのかもしれない……だったら!」

 

自分の思いを告げていく

 

「だったら、信じられない位のハッピーエンドじゃなきゃおかしいだろうが! あんただってそうだ!」

 

当麻の思いが込められた拳が

 

「死んでまで、戦わされる必要はないんだ!」

 

反射に叩き込まれていく

その時だった

 

『当麻君、後ろや!』

 

とはやてが警告してきた

後ろを見てみれば、当麻を狙っているドールが二体居た

当麻は既に、右手を大きく振りかぶっていた

回避も、防御も、間に合わない

思わず歯を食い縛った

その瞬間、その二体を弾丸が撃ち抜いた

すると、下から

 

「上やーん! 決めるぜよ!」

 

「決めちまえ、大将!!」

 

と二人の声が聞こえた

すると視界に、ウィンドウが表示された

一人は、金髪アロハシャツが特徴のクラスメイトにして、多角スパイ(ただのお喋り)

土御門元春

そしてもう一人は、何やらゴツい物を纏っているが、見覚えのある相手だった男

浜面仕上

二人の支援により、当麻の危機は去った

そして、右手は既に振り上げられていて、反射は当麻に殴られ続けたことにより、体勢を崩していた

チャンスは、今しか無かった

 

「ロンド……お前が、死人を使ってまで世界を破壊しようとするのなら……お前のその、フザけた幻想をブチ殺す!!」

 

当麻はそう言って、反射の顔面と渾身の一撃を叩き込んだ

その一撃で反射の顔に付けられていた機械の仮面が破壊されて、反射は真下に墜落

反射は、ビルの屋上に力無く横たわった



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双刀

短いです
ごめんなさい


「ああぁぁぁぁ!」

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

影と交戦していた武と冥夜は、正しく阿吽の呼吸で攻撃を繰り出していた

しかし、その悉くが影の自動防御で防がれていた

だが、ほんの少しずつだが、攻撃が影に近付いてきていた

最初は、数十cmは離れていた

だが今では、あと数cmまで近付いてきていた

しかし、影も後手に回ってるだけではない

影の槍により、二人は傷を負っていた

だが、二人は毛頭後退するつもりはなかった

今二人が居る場所の近くには、他に機動六課の戦力は展開していない

陸士部隊は展開しているが、一般の陸士部隊では影には勝てない

だから、後退するわけにはいかない

必ず、影を倒す

その思いで、二人は影に肉薄していた

アドレナリンの過剰分泌によるのか、二人の時間感覚は少しずつ早くなっていた

もし、近くに他の魔導師が居たら、残像を残しているように見えただろう

二人は空中機動をしながら、互いの足裏を蹴って加速

さらに、戦闘の余波で崩れて落ちてきた瓦礫も利用し、強引に方向転換していた

それにより、二人の体には凄まじいGが掛かっていた

普通だったら、その高Gで意識を失うだろう

だが、二人はならなかった

何故ならば、二人は衞士

戦術機のGは、今掛かっている3Gよりも重かった

特に、二人が担っていた突撃前衛(ストームバンガード)は、多大なGが掛かるポジションだった

更に二人は、8Gを耐えた記録がある

その8Gを耐えた二人が、たった3Gで意識を失う訳がなかった

なお余談だが、フェイトが経験した最大Gは4Gらしい

なおフェイトは後に

 

『もう、あんな高G戦闘はしたくないな』

 

と語ったそうな

閑話休題(話を戻して)

そして滔々、二人の攻撃が影に掠り始めた

最初は、髪を少し切ったくらいだった

だが、冥夜の斬撃が影の頬を掠めて、血が流れた

流れた血は、若干黒くなっていた

やはり、死体だからだろう

それを見た冥夜は

 

「死体を、無理矢理戦わせるか……外道な」

 

と呟くように吐き捨てた

武も同じ気持ちなのか、苦い表情だ

そして影は、二人を迎撃するために十数にも及ぶ影の槍を形成

それは地面から突出し、二人を刺し貫こうとした

だが、二人はそれすら利用した

影の槍を足場に、二人は更に複雑な多角機動を始めた

二人の戦闘は空中戦に入っていた

それに合わせてか、影も空中機動を始めていた

しかし、速度は二人の方が早かった

二人はその速度を活かし、影を多角的に攻撃していった

影は空中戦は不利と判断したのか、地面に降りようとした

だが、二人は自分達の有利なフィールドから降ろしてたまるかと、そんな暇を与えなかった

二人の戦闘機動は地上戦闘より、激しくなっていた

二人の反射速度や戦闘機動は、今までを遥かに凌駕していた

そして武の射撃が、影の右肩を撃ち抜いた

その武を狙い、影は数本の槍を放った

その内の半数は、冥夜が長刀で切り払った

だが、その内の一本が武の複合突撃機銃を刺し貫いた

そう、複合突撃機銃だけだった

気付けば武の姿は、影の真下に有った

そして武の両手には、逆手持ちの長刀があった

先に左手の長刀で、まず影の両手を切り飛ばし、そして右手の長刀で影の顔に装着されていた機械の仮面を叩き割った

それにより影は墜落していったが、それは冥夜がキャッチ

機動六課は、ロンドの戦力を着実に削っていた



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VS戦闘機人戦

「状況は最悪一歩手前……ってところかしらね」

 

《ですが、勝てます》

 

と言ったのは、ティアナとその相棒のクロスミラージュである

ティアナが居るのは、廃棄都市区画のあるビルの中だ

当初はそのビルから出ようとしたが、そのビル全体を覆う結界によって叶わなかった

しかも内部には戦闘機人が三名居た

相手の呼称から、ノーヴェ、ウェンディ、ディードと判明している

その三名の連携技量は高かったが、ティアナは善戦

しかし、一瞬の油断を突かれて足を負傷した

だが、勝つための道筋がティアナには見えていた

足の怪我から、チャンスは一度

しかも、タイミングは非常にシビアだ

だが、何故かティアナには出来るという思いがあった

それは恐らく、なのはとの特訓

更に、冬也が教えた魔法

その双方があるからだろう

 

「……さて、往くわよ。クロスミラージュ」

 

《了解》

 

深呼吸した後にティアナは立ち上がりながらそう言って、クロスミラージュも返答した

そしてある通路に出ると、三名が挟むような布陣で現れた

 

「ようやく見つけたぞ、幻術使い!」

 

「アタシ達の勝ちは確定的っすよ!」

 

赤い髪の二人

ノーヴェとウェンディはそう言い、長い茶髪に光剣二刀流の使い手

ディードは無言で構えた

その布陣は、少し前にティアナが足を負傷する理由になった布陣だった

確かに、その布陣は完璧とも言える

しかし、ほんの僅かな隙があった

それは、戦ったティアナだから分かった隙だった

その時だった

ビルを覆っていた魔力障壁

それが、消えたのである

 

「なっ!?」

 

「まさか、オットーが!?」

 

ノーヴェとウェンディは驚愕の声を上げ、ディードは目を見開いた

実はほぼ同時刻に、シャマルとザフィーラの二人がある廃ビルの屋上で地上に出ている戦闘機人の戦況把握と支援をしていたオットーが捕縛されていたのだ

そのオットーが捕まったことにより、ティアナが居たビルを覆っていた魔力障壁が消えたのだ

それにより、ノーヴェ、ウェンディ、ディードの三人は酷く動揺したのだ

その隙を突こうか、ともティアナは思ったが、三人は直ぐに

 

「こいつをぶっ飛ばして、オットーを助ける!」

 

「そうっすね!」

 

「つっ!」

 

とティアナに視線を戻した

それを見たティアナは

 

(当初の予定通りにやるしかないわね)

 

と思考を戻した

そして、そのタイミングを待った

それに併せて、緊張感が高まっていく

その時が来たのは、少しした時だった

合図になったのは、崩れ落ちた瓦礫だった

それが落ちて音を立てた瞬間、三人が動いた

その直後

 

「今!」

 

とティアナが、待機状態にしていた魔力弾を二発発射した

一発は、前方から迫るノーヴェの進行上の床に直撃し、穴を空けた

もう一発は、ウェンディが持っていた複合武装

ライディング・ボード

それの銃口に直撃

発射しようとしていた為に、貯まっていたエネルギーと相まって爆発

ウェンディはその勢いで壁にぶつかり、意識を喪失

ディードはそれに構わず、突撃してきた

そこにティアナは、右手のクロスミラージュを大出力モードに移行させて至近距離でディードに砲撃

ディードはその威力で意識を失ったのか、両手の光剣が手から離れて地面に落ち、床に倒れた

 

「ウェンディ! ディード!」

 

まさか倒されると思っていなかったノーヴェは、二人の名前を呼んだ

しかし、二人はピクリとも動かない

それにノーヴェが歯噛みしていると、ティアナが

 

「投降しなさい。もう、勝負は付いたわ」

 

と勧告した

するとノーヴェは

 

「今さら投降出来るか! それに、あたしらは兵器だ! 兵器が人間社会で生きられるわけねーだろ!」

 

と叫んだ

この時二人は気付いていなかったが、ディードの腕が動いていた

ディードは近くにあった光剣まで、少しずつ腕を動かしていた

そしてティアナは、その言葉を言ったノーヴェに反論しようとした

その時、ディードが光剣を掴み、一気に立ち上がってティアナ目掛けて振りかぶった

ティアナも気付いたが、防御が間に合わないと直感した

その時だった

 

「姉ちゃん! 頭下げぇや!」

 

と少年の声が聞こえた

それを聞いたティアナは、反射的に従い頭を下げた

 

「疾空黒狼牙!」

 

その直後、ティアナの頭上を越えて黒い影が走った

その影がディードに直撃し、ディードは倒れた

その光景が予想外だったのか、ノーヴェは固まっていた

それを見ていたティアナは、魔力刃を伸ばした

伸ばした魔力刃はノーヴェの顎を掠めるように当たり、ノーヴェは膝を突いた

その直後に、ティアナは穴を飛び越えた

そして、ノーヴェの首もとに戻した魔力刃を突き付けて

 

「例え兵器として産まれたって、人として生きていけるわよ……」

 

と言った

この時ティアナの脳内には、スバルとギンガが思い出されていた

それを聞いたノーヴェは、投降した

念のために両手を拘束し、ティアナはさっき声が聞こえた方向を見た

その先から現れたのは、一人の少年だった

その少年の見た目年齢は、大体ネギと同じ位だろう

だがその少年は学生服を着ていて、頭には犬耳が生えていた

しかもよく見れば、犬の尻尾もあった

 

「先程は、協力感謝します。貴方は?」

 

とティアナが問い掛けると、少年は尻尾を揺らしながら

 

「俺か? 俺は犬上小太郎や」

 

と名乗った

 



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音対雷

少し短いですが、投稿


「くっ!?」

 

「攻撃が見えないというのは、厄介でござるな!?」

 

音の攻撃を回避した古は渋面を浮かべ、楓はそう言いながらビルの壁を蹴った

音の攻撃は基本、シングルアクションで発動する

しかも、目に見えないために大きく回避行動を取るしかなかった

そして攻撃だけでなく、防御も見えない

だから、何処に隙があるか分からなかった

実際、古や楓。刹那も攻めあぐねていた

どうも小さな音すら自身の力にしているらしく、楓達の地面を踏み込んだ音や衣擦れの音すら使っていた

如何に戦闘力の高い古達とはいえ、そのような相手は初めてだった

その時だった

 

「まったく……何を手こずっているんだい?」

 

と声が聞こえた

その直後、真上から巨大な石柱が落ちてきた

それに気付いた音は、バックステップで回避した

 

「この石柱って……」

 

「冥府の石柱!?」

 

その石柱を見た明日菜とネギは、空を見上げた

そこに見えたのは、白髪に制服を着た少年だった

 

「フェイト!」

 

その少年の名前は、フェイト・アーウェルンクス

かつては敵だった少年である

少年とは言ったが、その正体は人ではない

創造主

始まりの魔法使いと呼ばれていた魔法使いによって、造り出された使徒だった

今は同じ目的のために行動している、同志である

そんなフェイトは、冷ややかに

 

「まったく……ネギは何をしているんだい?」

 

と言いながら、更に黒い剣を大量に作り出して音に対して発動した

音はそれを防いだり回避したりしていた

 

「相手が音なら、音より早く動けばいい」

 

フェイトの指摘に、ネギは即座に動いた

 

「両腕解放、千の雷。装填、掌握!」

 

それは、ネギの切り札

雷天双荘だった

相手は音

つまり、音の速度は越えられない

だが、雷天双荘は光の速度

音速は、光速には敵わない

雷天双荘を発動したネギは、一瞬にして音の背後に回り込んだ

そして、脇腹に肘打ちを叩き込んだ

その一撃は、音と交戦を開始して初めての直撃だった

その一撃を受けて、音は大きく弾き飛ばされた

しかし音は、飛ばされながらも技の発動態勢に入っていた

大きく息を吸い込み、そして口を開けた

その直後、それは放たれた

それは、不可視の攻撃

だがその威力は、凶悪だった

音からネギに向かい、破壊の音波が向かう

それに触れた物は、全て塵に帰る

ネギは一瞬回避しようとしたが、背後には古達が居た

相手の音波攻撃の範囲が分かりづらく、ネギは回避出来るかもしれないが、古達は回避出来るか分からない

そうやって僅かに迷っていた時、突如砂が舞った

それは、フェイトの魔法だった

フェイトは地のアーウェルンクスと呼ばれていて、地属性を得意としている

それにより、砂や石に関する魔法を使う

その砂により、音波攻撃の軌道と範囲が見えた

その直後、ネギの前に明日菜が踏み込み

 

「無極耐・太極斬!」

 

とその技を発動した

見た目は、大剣を乱雑に振っているだけに見える

だがその斬撃により、明日菜の魔法無力化能力を集中展開させているのだ

そして明日菜のその技により、音波攻撃は掻き消された

その瞬間を突いて、音は離脱しようとしていた

だが、砂によりほんの僅かだが、ネギを見失っていた

その直後

 

「桜花崩拳!」

 

ネギの全力魔法拳撃が、音に放たれた

その一撃は完全に不意打ちであり、音の防御は間に合わなかった

ネギの拳撃は直撃し、音は路面に叩叩き付けられた

その威力は凄まじく、ネギと音を中心に半径4m程のクレーターが出来た

音は魔力を腹部に集中させて、その拳撃に耐えていた

しかしネギは

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と雄叫びを上げながら、更に魔力を流し込んだ

その数秒後、爆発が起きた

 

「ネギぃ!」

 

と明日菜が心配そうに、ネギの名前を呼んだ

それから少しして、爆煙の中からネギが姿を見せた

 

「ネギ……」

 

それを見て、明日菜は安心したらしく胸を撫で下ろした

 



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突入戦闘

「次!」

 

なのはそう言いながら、ゆりかごの中を飛んでいた

当麻が反射と戦っている時に、空戦魔導師部隊がゆりかごに入れる場所を発見

はやての指示でヴィータと一緒に突入した

しかし、戦略目標だったエンジンルーム

そして、ヴィヴィオが居ると予想された玉座の間

その位置が、まったくの真逆だったのだ

玉座の間がゆりかご上部に対して、エンジンルームがゆりかご下部

だからなのはとヴィータは、戦力分散という愚を犯して別行動を開始

勿論ゆりかご内部には、ガジェットとドールが大量に居た

しかし、今更その程度の敵に止まるなのはではなかった

なのはは道中に現れるガジェットとドールを、次々と撃破

躍進劇を続ける

勿論、すぐにヴィヴィオを奪還出来るとは思っていない

だからなのはは、入った時点と進みながらあることを行った

それが実るのが早いか遅いのかは、なのはには分からない

だが、早ければ早いほど良い

 

(お願い、早く見つけて)

 

なのははそう祈りながら、通路を進んでいた

その直後

 

「ブラスターシステム、起動!」

 

と叫んだ

それは、なのはの勘からだった

だが、そのなのはの勘は正解だった

なのはは曲がり角を曲がった直後だったが、長い通路の先

そこに、火砲を抱えたドールが一機居た

しかもその火砲は、既にエネルギーが臨界

何時でも発射出来る状態だった

予測される威力から、普通だったらいくらなのはとは言えども迎撃は不可能

だが、それを可能にするのがブラスターシステムだった

本来だったら、10秒は掛かるチャージを一瞬にして完了

抜き打ちで、砲撃を放った

その砲撃は、ドールの放った砲撃と空中で激突

一瞬の抵抗の後、なのはの砲撃がドールの砲撃を飲み込んだ

結果、なのはの砲撃はドールを撃破した

ドールを撃破したことを確認すると、なのはは移動を開始した

すると

 

《主、大丈夫ですか?》

 

とレイジングハートがなのはに問い掛けた

 

「大丈夫だよ、レイジングハート」

 

となのはは言うが、レイジングハートを持っているのとは逆の手からは出血していた

その原因が、使用したブラスターシステムだった

ブラスターシステム

その概要は簡単に言えば、加速装置だろう

魔力の流れる密度と早さを桁外れに上げるのだ

もちろん、副作用もある

体に掛かる負担が大きいのだ

今とて、たった一撃撃っただけで左手の血管が破裂

出血している

長時間使えばどうなるのかは、なのはにも分からない

 

「今は、玉座の間に向かう!」

 

なのははそう言うと、再び進み始めた

そこに居るだろう、娘

ヴィヴィオを助けるために

場所は変わり、ゆりかご下部

ヴィータは一人、道中のガジェットやドールを叩き潰していた

元々入った場所が、少し下寄りだったのでヴィータのほうがエンジンルーム間近まで来ていた

そしてヴィータは、一機のガジェットを破壊した所で足を止めた

そしてポケットの中から、予備のカートリッジを取り出した

その数を確認すると

 

「うし、まだまだあるな」

 

と頷いた

その直後、グラーフ・アイゼンを後ろに振るった

すると、何も無かった筈の場所で何かが砕けた

そして見えたのは、下半身と上半身に別れたドールだった

 

「残念だったな、その機能のことは冬也から聞いてたんだよ」

 

ヴィータはそう言うと、鉄球を幾つか精製

そして、叩き飛ばした

別に、狙った訳ではない

放たれた鉄球は、次々と床や壁に命中

破片を激しく飛ばした

これは、葉加瀬が言っていたことだが

 

『こういった光学迷彩は、多少のダメージで直ぐに効果を失います。ですから、何でも良いですからダメージを与えてください』

 

とのことだった

ヴィータはそれを実行したのだ

すると、破片が当たったからだろう

次々と、ガジェットやドールが姿を現した

だがヴィータは、その中からあるガジェットに嫌でも視線が集中した

それはまるで、カマキリを彷彿させる形状のガジェットだった

そのガジェットは過去に、なのはに重傷を負わせたのと瓜二つだった

 

「はは……」

 

それを見たヴィータは、気付けば短く笑っていた

次の瞬間、そのガジェットにヴィータは肉薄

振り下ろしたグラーフ・アイゼンで、叩き割った

潰したのではなく、割っていた

ヴィータの振るった速度が早かったが故に、そうなっていた

そしてヴィータは、また笑うと

 

「アタシの前に出てきてくれて、ありがとうよ……」

 

と言って、もう一機のガジェットにグラーフ・アイゼンを振るった

その一撃を受けたガジェットは、まるで砲弾のように吹き飛んで別のドールに直撃

そのドールや周囲に居たガジェットを巻き込んで、爆発した

そしてヴィータは、獰猛な笑みを浮かべ

 

「おかげでテメェらを……遠慮なくぶっ壊せるんだからなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と叫びながら、更にグラーフ・アイゼンを振るった

その時のガジェットは、ヴィータが破壊した

だがそれでも、沸き上がる怒りが抑えられなかった

だからヴィータは、その怒りを利用した

怒りに飲まれるな

感情を制御し、力に変えてこそ一流

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その怒りをグラーフ・アイゼンに込めて、ガジェットやドールを破壊するのだった



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悲しき再会

短いです
ごめんなさい


数分後、なのはは広い空間に出た

その最奥には、巨大なイスに座る一人の少女が居た

俯いてはいるが、なのはが間違える訳がない

 

「ヴィヴィオ!!」

 

なのはが叫ぶように呼ぶと、ヴィヴィオは顔を上げた

その顔はまるで、何かを堪えてるようだった

なのはが一歩前に出た時、そのヴィヴィオの座るイスの横に人影が現れた

眼鏡を掛けた戦闘機人

クアットロだ

それを見た瞬間、なのはは誘導弾を発射した

だがなのはが撃った誘導弾は、全てクアットロをすり抜けた

 

(ディエチちゃんが言ってた、御得意の幻影か……)

 

だがそれは、なのはには予想出来ていたことだった

それは、ディエチから聞いていたクアットロの性格だった

クアットロの性格は、要約すれば人でなしだと

それも、安全な場所から人が苦しむ様を見て喜ぶ類いの人でなしだと

そして、今の時点で安全な場所はどこか

それは、突入してるのが二人しか居ないゆりかごに他なない

そして何より、今の幻影

ディエチからの話では、幻影を出すのには制限が有るという

その制限が、クアットロを中心にした半径500m以内だと

500mとなるとかなり広く、ゆりかごの外にも出る

しかし、クアットロの性格を考えるとゆりかごの中に居るとしか思えなかった

だからなのはは確信した

クアットロは、ゆりかご内部に居ると

すると、クアットロが

 

「あらあらぁ。いきなり攻撃だなんて、随分と野蛮ですねぇ」

 

と人を小馬鹿にしたように笑いながら言った

それに対して、なのはは

 

「自分だけ安全な場所に隠れて、高見の見物してる人に言われたくないかな」

 

と、返した

するとクアットロは、酷薄な笑みを浮かべて

 

「どうせ人なんて、雨後の筍みたいに増えるんだから、どうなったって、私の知ったことではないわねぇ」

 

と言った

それを聞いて、なのはは改めて確信した

 

(この女だけは、今この時に捕まえないといけない)

 

そして

 

(でなければ、何を仕出かすか分からない!)

 

と思った

するとクアットロは、ヴィヴィオの耳元に口を寄せて

 

「さあ、陛下……貴女のお母さんを奪った敵が来ましたわよ」

 

と言った

その直後

 

「うあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

とヴィヴィオが叫んだ

それは、痛みから来る絶叫だった

 

「ヴィヴィオ!?」

 

「助けて! 助けて、ママぁぁぁぁぁ!!」

 

なのはの呼び掛けに、ヴィヴィオが泣きながらそう言った

その直後、光の柱が立ち上った

それは、覚醒されたヴィヴィオの魔力柱だった

その魔力柱は数秒後に消えたが、そこには姿が変わったヴィヴィオが居た

その見た目は、スバルやティアナと同い年位だろうか

長い金色の髪はサイドポニーテールにされ、その身には黒を基調色にしたバリアジャケットを纏っていた

その姿はまるで、嘗て絵で見た聖王

オリヴィエ・ゼーゲブレヒトによく似ていた

 

「ヴィヴィオ……」

 

「返して……」

 

なのはが呼び掛けると、ヴィヴィオは涙を浮かべてそう呟いた

そして

 

「ヴィヴィオのママを、返してよぉぉぉ!?」

 

と叫ぶと、なのはに突撃してきた

そして、悲しき親子の戦いが始まった



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無限の欲望

冬也は回復力のごり押しで、ロンドに迫る

しかしロンドは、多彩な魔法で冬也を迎撃

それは、いたちごっこだった

だが、その時

 

「冬也さん! ダメぇ!」

 

とフェイトが叫んだ

すると、冬也の動きが変わった

ロンドの魔法を、刀で弾いたのだ

 

「なに?」

 

ロンドはそれに驚くが、更に別の魔法

火炎流を放った

その魔法は、冬也がまるで風車のように刀を回して防いだ

そして火炎流が途切れた直後、冬也の姿はフェイトの背後にあった

 

「冬也……さん?」

 

「やはり、フェイトか」

 

フェイトが声を掛けると、冬也から返事があった

どうやら、ゲシュペンストが解けたらしい

 

「どういうことか分からんが、フェイトの声が聞こえた……ゲシュペンストが発動している限り、相手を殲滅するまで止まらない筈なんだがな……」

 

「……愛、ですかね?」

 

冬也の言葉を聞いて、フェイトはそう言った

確かに、そうなのかもしれない

冬也がゲシュペンストに施していたのは、条件付けという一部の特殊な魔法に行うものだ

この場合、ゲシュペンストを発動した場合、デバイス側と本人が敵と判断した相手を殲滅するまで止まらない。という条件付けがされていたのだ

だが冬也は、フェイトの声を聞いて止まった

それは、フェイトの想い()が招いた結果かもしれない

するとスカリエッティが

 

「愛ね……君達みたいな、作り物がかね?」

 

と言った

そして続けて

 

「フェイト・テスタロッサ……君は、プロジェクトFATEで産み出された人造魔導師だ……その君が、二人の子供達を育てるのは、親の愛情をマトモに知らない子供達に愛情を教えるためかね? 君とて、マトモに愛情を知らないのではないのかね? そんな君が、愛か……ただの自己満足なのではないかね? 一人になるのが恐くて震えて。そうなりたくないから、あの子供達を手元に置いたのではないかね?」

 

と言った

その直後だった

 

『違う!!』

 

とエリオとキャロの声が聞こえた

気づけば、フェイトと冬也の近くに通信ウインドウが開いていた

そこには、二人の姿が見えた

その二人はどうやら、ルーテシアに勝ったらしい

ルーテシアを間に挟むようにして、フリードに乗っていた

 

『フェイトさんは、僕達に優しく接してくれた! 暖かい居場所をくれた!』

 

『フェイトさんが居たから、私達は今ここに居る! なのはさんや、ティアナさん、スバルさん、皆さんに出会えた!』

 

二人はガジェットに追われているのか、時おりレーザーや銃弾を避けていた

だがそれでも、通信ウインドウは閉じないでいた

 

『だから、フェイトさんの想いは本物です!』

 

『そうです、だから!』

 

二人はそう言うと、息を合わせて

 

『戦って!』

 

と言った

それを聞いて、フェイトは微笑んで

 

「ありがとうね、エリオ、キャロ。私は何回も迷ってきたから、また繰り返し悩むかもしれないし、立ち止まるかもしれない……けど、いいんだ!」

 

と言った

その直後、フェイトから魔力の柱が立ち上った

そして、バリアジャケットが変わっていく

羽織っていたコートが無くなり、更に長いスカートと袖も無くなった

そして両手首両足首には、羽が着いた

 

「真ソニックフォーム」

 

それこそが、フェイトの切り札

真ソニックフォームだった

装甲を限界まで削り、攻撃力と機動性に振ったのである

それは、冬也と全く同じコンセプトだった

そして、フェイトが普段使っているバルディッシュも二刀流形態に変わった

それを見て、スカリエッティの両隣に居た二人の戦闘機人

トーレとセッテが

 

「装甲が薄い!」

 

「当たれば、落ちる!」

 

と言って、動いた

確かに、もし攻撃が直撃すれば、フェイトは負けるだろう

だがそれは、当たればの話である

気付けばフェイトは、セッテの懐に肉薄していた

そして次の瞬間

 

「がはっ!?」

 

セッテは、フェイトの攻撃の直撃を受けて倒れた

そしてフェイトは、更に速さを上げた

すると、トーレが

 

「IS、ライドインパルス!!」

 

と自身の能力を発動し、フェイトとほぼ同速で動き始めた

二人が交差する度に、激しい衝撃波が周囲に撒き散らされる

その影響か、二人に傷が出来る

 

(速さは互角。ならば、身体能力で勝ってる私が有利!)

 

トーレはそう確信し、何度目かのターンをした

だがその時、目の前にはフェイトの姿があった

 

「なに!?」

 

驚いているトーレに、フェイトは容赦なくザンバーを繰り出した

トーレはその攻撃を、手首のインパルスブレードで防いだ

フェイトはその勢いを使い、上に向かった

トーレはバランスを立て直すと、上を見上げた

そこで見たのは、落ちてくる瓦礫を使って方向転換と加速してくるフェイトだった

 

「貴様!? 瓦礫や壁を利用して!?」

 

「はあぁぁぁ!!」

 

トーレはフェイトの一撃を防いだが、その瞬間にインパルスブレードが砕けて、フェイトの攻撃が直撃

トーレはそのまま、スカリエッティ近くの床に叩き付けられた

そしてフェイトは、スカリエッティに向かった

だがスカリエッティは慌てず、片手を上げた

そして指を動かすと、様々な方向から赤い紐がフェイトに向かう

それは、AMF効果を有した紐だった

フェイトはそれを、まるで踊るように機動しながらザンバーで切り捨てていく

そして間合いに入るとフェイトは、二刀をスカリエッティに振り下ろした

スカリエッティはそれを、両手で受け止めて

 

「ああ、やはり素晴らしい……この力、欲しかったなぁ! だがここで、その力を使ったからには君は、ゆりかごには向かえない! 私の悲願は止まらんよ!」

 

と言った

実はスカリエッティは、ディエチ以外の全戦闘機人達の子宮に、自身のクローンを入れていたのだ

そのクローンには、人造魔導師計画の技術を用いており、一ヶ月もすれば産まれ、更にはスカリエッティと同じ記憶と思考が約半年もすれば目覚めるようにされていたのだ

つまりは、誰も逃がしてはならないのだ

そして残る戦闘機人は、このアジトに居るウーノと、ゆりかごに居るクアットロだけ

だがウーノは、少し前にシャッハと一緒に来ていた監査官

ヴェロッサ・アコーズに捕縛されていた

つまり、後はクアットロのみ

そしてフェイトは、一度スカリエッティから距離を取るとザンバーを一度大剣形状にして

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

と雄叫びを上げながら、スカリエッティを横殴りにして壁に叩き付けた

そして、倒れたスカリエッティに近付くと

 

「ジェイル・スカリエッティ……貴方を、逮捕します」

 

と宣告した



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推移

フェイトがスカリエッティ達と戦っていた頃、ゆりかご内の玉座の間ではなのはとヴィヴィオが戦っていた

とはいえ、それは戦いとは言えないだろう

なにせ、なのははヴィヴィオにマトモに攻撃をしていないのだから

そしてなのはは、ヴィヴィオの一撃で壁にめり込んでいた

 

(予想よりも、一撃が重い……内臓に、ダメージが……)

 

なのはは自身のダメージを確認すると、すぐにそこから離れた

その直後、ヴィヴィオの追撃の拳が叩き込まれた

その一撃で、数mにわたり壁が陥没した

すると、音声で

 

『あの有名なエース・オブ・エースさんが、たかが子供に手出し出来ないなんてねぇ……可笑しくって、笑えるわぁ』

 

と聞こえた

その声は、間違いなくクアットロだった

その声になのはは

 

「臆病風に吹かれて、隠れて見ることしか出来ない人には言われたくないかな」

 

と言った

その直後、ヴィヴィオの高速の拳が迫った

だがなのはは、その一撃を受け流すと投げ飛ばした

その一撃は、いわゆる合気道に近い技だった

その技は、刹那から教えられた技だった

投げられたヴィヴィオは、空中で体を捻って着地した

その瞬間、なのはが

 

「ブラスタービット!」

 

と小型のビットを、三基召喚

そのブラスタービットは、ヴィヴィオを取り囲んだ

それを見たなのはは

 

「クリスタルケイジ! ロック!」

 

と魔法を発動した

それは、まずヴィヴィオの全身を魔力紐で拘束

更にその周囲を、魔力壁で囲んだ

この魔法は、なのはが使える相手を拘束するという魔法の中では、最高の魔法だった

だがヴィヴィオは

 

「この魔法は……もう、覚えた!」

 

と言って、自身を縛っていた魔力紐を引きちぎり、魔力壁を叩きだした

なのはは魔力壁を壊されないために、更に魔力を込めた

だが、なのはの体はボロボロだった

ヴィヴィオとの戦いもだが、ブラスターシステムの運用によるダメージが大きかった

今も、本当は倒れてしまいたかった

だが、倒れるわけにはいかない

クアットロを逮捕するために

何よりも、愛しいヴィヴィオを助けるために

同時刻

場所は変わり、下層のエンジンルーム手前

その通路を、ヴィータは全身を血だらけにしながら歩いていた

ヴィータは、現れたガジェットとドールを全て破壊した

しかし、大量のガジェットとドールと戦ったために、全身に傷を負っていた

その傷の深さは、本来ならば撤退しなければいけないレベルだった

だがヴィータは、それでも止まらなかった

ヴィータは今にも膝を屈しそうな体に鞭を打ち、エンジンルームに入った

 

「こいつが……このゆりかごのエンジンか」

 

そう言ったヴィータの前に有ったのは、巨大な深紅の結晶体だった

その結晶体からは、凄まじい魔力が溢れていた

それを睨んだヴィータは、アイゼンを持ち直して

 

「やるぞ、アイゼン!」

 

と声をあげた

 

《了解!》

 

アイゼンもそれに応えて、カートリッジを三連ロード

アイゼンは、ギガントフォームとラケーテンフォームが合わさった最終フォーム

ツェアシュテールングスフォームを発動した

そしてヴィータは、アイゼンを振り上げると

 

「ぶち抜けぇぇぇ!」

 

と怒鳴りながら、アイゼンを振り下ろした

アイゼンの先端のドリルが回転し、結晶体から激しく火花が散った

数秒後、爆発が起きてヴィータは吹き飛ばされた

 

「ぐあ……ちい、硬ぇ……」

 

ヒビすら入ってない結晶体を見て、ヴィータはそう舌打ちした

その直後、エンジンルーム内にて甲高い警報音が鳴り響き

 

《警告します! エンジンルーム内にて、攻撃的魔力を検知! 侵入者に対して、迎撃を開始します!》

 

と警告がされた

その直後、凄まじい数のスフィアが出現

それら全てが、ヴィータに狙いを定めた

それを見て、ヴィータは獰猛な笑みを浮かべた

 

「上等だ……行くぜ、ガラクタ共がぁぁぁ!!」

 

ヴィータはそう声をあげながら、スフィアに突撃した

再び場面が変わり、ゆりかご周辺では

 

「気張りや! ガジェットとドールの動きが鈍った! 後少しや!」

 

とはやてが指揮を執っていた

 

「はっ!」

 

はやての激励を聞いて、空戦魔導師達は気合いで答えた

だがはやては、内心では焦っていた

AMFの影響か、中に突入したなのはとヴィータの二人と通信が繋がらなくなっていた

そして、はやては決心した

 

「今から、私も突入します! 誰か、指揮を執ってください!」

 

はやてがそう言うと、通信ウインドウが開いて

 

『わかった、行け!』

 

とラダビノットが言った

それを聞いて、はやてが行こうとした時

 

『八神隊長、待ってください!』

 

とアルトから通信が来た

 

『今そちらに、リイン補佐をお連れしてます!』

 

それを聞いて、はやては待つことにした

はやては広範囲魔法を得意としているが、精密照準が苦手だった

それを補佐するのが、リインなのだ

特に、ゆりかご内は下手な一撃が致命的ミスになりかねないから

 

「ちょい、待ちいな。シグナムは……」

 

『それだったら大丈夫です!』

 

『シグナムには、強力な融合器が付いたです!』

 

はやての問い掛けに、アルトとリインはそう答えた

この時、少し離れた市街地上空でシグナムが一人でガジェットの迎撃を行っていた

そのシグナムは、アギトとユニゾンしていた

アギトとシグナムの属性は、共に炎

更には、魔力資質も非常に似ていた

その結果、二人のユニゾン率はとてつもない数字になっていた

それはまるで、長い年月を共に戦ってきたかのように

その二人の魔法により、百を越えるガジェットとドールの部隊は一撃で全滅

そしてアギトは、今まで感じたことのない充足感から涙を流していた

その二人により、その防衛線は維持されていた

そして、ヘリから出てきたリインとユニゾンしようとした

その時、数機のガジェットとドールがはやてに接近

攻撃をしようとしていた

空戦魔導師や、当麻は他の敵に押さえられていた

はやては、せめてリインを守ろうとした

その時、そのガジェットがまるでトラックにぶつかったかのようにひしゃげた

何が起きたのか分からず、はやては固まった

そこに現れたのは、スーツを着た一人の男性だった

その男性は、両手をズボンのポケットに入れていた

その男性が現れてから十秒と経たずに、近くに居たガジェットが一気に減った

それを見たはやては、その男性に

 

「貴方は、一体……?」

 

と問い掛けた

すると、男性は

 

「僕の名前は、高畑・T・タカミチ。ネギ君の同僚だね」

 

と告げた



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雌雄

結構、詰め込んだなぁ


「よく、動かなかったな……ロンド」

 

「私の究極目標は、人類抹殺……星を守るために命懸けで闇の書を封印したのに、奴等は我が一族を化け物と罵り、殺しに来た……私は命からがら生き延び、復讐の機会を待った……ようやくだ……違う星だろうが関係ない……私にとっては、人類というだけで殺すべき対象だ!」

 

ロンドはそう言うと、冬也に次々と魔法を放った

冬也はその魔法を、刀で次々と弾いていく

その後ろでは、フェイトが魔法でスカリエッティ達を拘束している

冬也は、フェイトを庇っていたのだ

仲間だからなのか、冬也にも分からない

だが、守らないと、と思ったのだ

ロンドの犠牲者を、これ以上増やさないように

もし出るなら、自分を最後にと

 

「人類を殺すために、私は貴様ら七大罪を作り出した。特に、貴様を含めた三強は私の力作だった……だというのに、貴様らは!」

 

「……つっ!」

 

ロンドは杖に魔力刃を作り出し、冬也に振り下ろした

その一撃を、冬也は刀を交差させて防いだ

その直後、二人を中心に半径3mほどのクレーターが出来た

すると、冬也は

 

「貴様、自身も改造したな……戦闘機人の技術か」

 

「次いでに言えば、人造魔導師計画とやらで、体から生まれ変わっている……あやつは、確かに天才だろうて!」

 

二人のその会話を皮切りに、高速戦闘が始まった

その速度は、先のフェイトとトーレの速さに迫るものだった

しかもその戦いは、全て必殺を狙っていた

互いの急所を狙い、刀と魔力刃が繰り出される

それを二人は直感で回避し、更なる追撃を繰り出す

それだけで、空気が震えた

魔力の衝突と、二人の人外の身体能力の衝突による衝撃

それが理由だった

この世界に来る前にも、冬也とロンドは戦った

その時は、冬也が優勢に戦えた

それは一重に、冬也の強化人間としての身体能力が高かったから出来たことである

だがその優位性は、今はない

今の冬也とロンドの身体能力は、完全に互角

勝つには、短期決戦

もしくは、経験によって押す

人生経験は、ロンドの方が上

しかし、実戦経験は冬也の方が上だった

冬也の戦闘経験は、約13年

それに対して、ロンドの実戦経験は、僅か数年足らず

その理由は、ロンドは兵器の開発に注力していたからだ

ロンドが戦場に出たのは、冬也達七人に押された末期だった

七大罪の力は、ロンドの予測を越えていたのだ

それが、ロンドを戦場に引っ張り出したのだ

結果、元の世界でロンドは焦りから惑星破壊魔法を冬也に使ったのだ

惑星破壊魔法

ビックバン・メテオ

ロンドが、人類を根絶やしにするために編み出した魔法だった

それを冬也は、自身の最強の一撃で迎撃

それが理由で起きたのが、管理局が言う小規模次元断層だった

それにより、冬也達はこの世界に来たのだ

元の世界がどうなったのかは、冬也達には分からない

そして冬也は、ここでロンドの執念を止めるつもりなのだ

自身の命と引き換えにしても

その為に冬也は、切り札も用意した

 

(だが何故だろうな……あいつ(フェイト)の顔を見れなくなるのは、嫌だな)

 

冬也はそう思いながらも、刀と魔法を繰り出した

自身の誇りと、死んだ仲間の思いを背負って

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「なんでだ……なんで壊れねえんだ!」

 

と叫んだのは、全身血塗れのヴィータだった

その傷は、一目で致命傷レベルと分かるものだった

だがそれでも、ヴィータは止まらなかった

守りたい人達が居るから

 

「こいつを壊さないと、はやて達が危ないんだ……だから、アイゼン!!」

 

《了解!!》

 

ヴィータの思いに答えるように、アイゼンは残っていたカートリッジを一気にロード

ヴィータは、アイゼンを高々と掲げた

よく見れば、アイゼンはヒビだらけだった

稼働出来ているのが、不思議だった

 

「砕けろぉぉぉぉ!!」

 

ヴィータはそう雄叫びを上げながら、アイゼンを振り下ろした

その一撃は、今までで最長のタイムでエンジンに叩き込まれた

ドリルが当たった場所は、激しく火花が散っていた

だがその時、アイゼンのドリルや頭部分が碎け散った

その直後、ヴィータの体は力なく落ちていった

ヴィータの見ている先には、エンジンが変わりなく動いていた

 

「はやて……皆……ごめん……」

 

それが悔しくて、ヴィータは涙ながらに謝った

その時だった

落ちていたヴィータの体が、優しく受け止められた

 

「謝ることなんか、ないよ」

 

ヴィータを受け止めたのは、はやてだった

 

「はやて……リイン……当麻……」

 

ヴィータの視界には、はやての他にはやてとユニゾンしているリインと、はやての近くに当麻が見えた

 

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン……その二人がこんなになってるのに壊れない物なんて……」

 

はやてはそこまで言うと、当麻と一緒にエンジンを見上げて

 

「この世界に有る訳がないやんか」

 

と言った

その直後、今まで無傷だったエンジンにヒビが広がり碎け散った

場所は変わり、管制区画

 

「エンジンが破壊された!? あのチビ騎士!」

 

とクワットロが悪態を吐いた

だがクワットロは、諦めずに

 

「まだよ。まだサブエンジンがある! それに聖王が居るなら、まだ負けでは!」

 

と言いながら、コンソールを叩いていた

その時、クワットロの視界の端に何かが見えた

それが気になり、クワットロはその方向に視線を向けた

そこに見えたのは、小さい人形を乗せた小さいガジェットに似た機械だった

 

「な、なにこれは……?」

 

とクワットロが困惑していると

 

「なのはさん! 見つけましたぁ!!」

 

とその人形

さよが喋った

 

『ありがとう、さよちゃん』

 

と言ったのは、クワットロが開いていたウインドウ向こうのなのはだった

その機械の正体は、朝倉和美のアーティファクト

渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)だった

なのははこれを、ゆりかごに入る直前に掴んで入ったのだ

その渡鴉の人見は、何らかの施設に入る時は誰かに入れてもらわないといけない

そしてなのはが入れた機体は、さよが操縦することが出来るやつだった

そしてなのはは、さよにクワットロを探させていたのだ

そしてヴィヴィオとの戦いは、時間稼ぎに注力していた

そして今、ようやくその時が来た

なのははさよから送られた情報を頼りに、狙いを定めた

 

「まさか、私を撃つつもり? 無理よ。ここまで、何層もの壁が……」

 

クワットロは狼狽した様子でそこまで言って、あることを思い出した

今から数年前に、なのはがやった壁抜きを

なのはは魔力を充填していたが、膝を突きそうになった

その時、なのはを支える手があった

驚いてなのはが視線を向けた先には、金髪の青年が居た

なのはの恋人

ユーノの姿が

 

「僕が支えるよ、なのは……一緒に撃とう」

 

「うん!」

 

ユーノの言葉を聞いて、なのははトリガーに指を掛けた

そして

 

「ディバイーン……」

 

二人で、なのはの代名詞とも言える魔法を

 

「バスター!!」

 

発射した

 

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 

クワットロは逃げようとしたが、直撃を受けて意識を失ったのだった



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親子

「クアットロ、撃破」

 

なのははそう言うと、視線をヴィヴィオに向けた

そして、歩み寄ろうと一歩踏み出した

その時

 

「ダメ……来ないで!」

 

とヴィヴィオが叫び、拳が繰り出された

その一撃はユーノの障壁で防がれたが、二人は後ろに押された

そして、二人が視線を向けると

 

「ダメなの……止まらないの……」

 

とヴィヴィオは涙を流していた

すると、ユーノが

 

「ヴィヴィオに歪な魔力の流れがある。多分、ゆりかごの戦闘システムかも」

 

と言った

それを聞いて、なのはは

 

「ヴィヴィオ……一緒に帰ろう……三人で」

 

と優しく声を掛けた

するとヴィヴィオは

 

「ダメなの……全部、思い出したの……」

 

と涙を流しながら言った

 

「私は、作り物だった……遥か昔に死んだ人のクローンだった……私には、パパもママも居なかった……!」

 

そう言ったヴィヴィオの目には、絶望の光が浮かんでいた

すると、なのはが

 

「違うよ」

 

と言った

それを聞いて、ヴィヴィオが

 

「違わない」

 

と反論した

 

「違う」

 

「違わないよ!」

 

ユーノの言葉に被せ気味にそう言うと、ヴィヴィオは

 

「私は作り物で! ユーノさんとなのはさんの子供じゃない! この時代の人間じゃない!」

 

と泣き叫んだ

すると、ユーノが

 

「確かにそうかもしれない……けど、僕達が知ってるのは君だ、ヴィヴィオ……」

 

と言った

それを聞いて言葉を失っていると、なのはが

 

「ねえ、ヴィヴィオ……ヴィヴィオは、どうしたいの?」

 

と問い掛けた

するとヴィヴィオは、泣きながら

 

「……居たい」

 

と呟いた

そして

 

「なのはママとユーノパパと一緒に居たいよ!」

 

と懇願するように叫んだ

すると、二人は頷き

 

「分かったよ」

 

「ちょっと痛いけど、我慢してね」

 

と言った

その言葉にヴィヴィオが頷くと、ヴィヴィオの体を翡翠色のバインドが拘束した

それを見たなのはは、ある魔法の準備を始めた

それは、なのはの切り札

なのはの不屈の気持ちから生まれた、最高の砲撃

 

「魔力ダメージを与えて、レリックを砕く……出来るよね、レイジングハート?」

 

《出来ます!》

 

使い手からの問い掛けに、愛機は自信満々に答えて残りのカートリッジを一気に全リロード

 

「スターライトー……」

 

集う魔力が、まるで星々の光が集まるようだから名付けられた名前

 

「ブレイカーァァァァァァ!!」

 

放たれた極光は、ヴィヴィオを包み込んだ

 

「アアアァァァァァァ!!」

 

ヴィヴィオは痛みに叫びながらも、逃げなかった

その時、ヴィヴィオの体の中から深紅の結晶

レリックが出てきて、スターライトブレイカーを浴びて砕け散った

その直後、爆発が起きてヴィヴィオの姿は見えなくなった

 

「なのは、大丈夫かい?」

 

「う、うん……なんとか」

 

ユーノにそう言うが、なのはは立つのも辛そうだった

ブラスターシステムの反動に、戦闘のダメージ

そこに更に、反動(リコイル)の強い収束砲の発射

はっきり言って、これ以上の戦闘は厳しいだろう

そんななのはを支えて、ユーノはヴィヴィオの方に向かった

スターライトブレイカーにより、ヴィヴィオが居た場所を中心に半径3m近いクレーターが出来ていた

その淵に行き、中心を見下ろした

その時

 

「来ないで……」

 

と幼い女の子

ヴィヴィオの声が聞こえた

煙が晴れると、ヴィヴィオが一生懸命立ち上がろうとしていた

 

「自分で、歩いて行けるから……大丈夫だから……」

 

ヴィヴィオはそう言いながら立つと、ゆっくりとなのは達の方に歩き出した

それを見て、ユーノとなのはは堪えられなくなったように二人で飛んだ

そして、二人でヴィヴィオを抱き締めた

 

「おかえり、ヴィヴィオ……」

 

「パパ……ママ……」

 

二人に抱き締められて、ヴィヴィオは嬉しそうに涙を流したのだった



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ゆりかご

ヴィヴィオを解放して抱き締めていると、なのはが撃ち抜いた壁の穴からはやてがクアットロを担いで現れた

どうやら、近くを通ったらしい

その時だった

 

『聖王陛下の戦意喪失……主駆動炉の反応ロスト……緊急隔壁閉鎖します!』

 

と放送が流れた

それを聞いて、全員は急いで脱出しようとした

だが間に合わず、閉じ込められた

しかも、AMFの濃度が上がって転移すら出来そうになかった

だがこれは、想定していたことだった

 

『ったく……管制してた奴が居なくなったってのに、セキュリティが固いんだよ』

 

と不機嫌そうな千雨の声が聞こえた

その直後、AMF濃度が低下

更に、閉まった隔壁も開いた

 

『アタシのアーティファクトを、舐めるなよ』

 

千雨のアーティファクト

力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)

その能力は、電子戦に特化している

その能力を使い、クアットロという管制者が居なくなったゆりかごの管制にハッキング

一時的にだが、防衛システムに介入したのだ

 

『とはいえ、長くは持たねえ! 急いで脱出しろ!』

 

「ありがとう!」

 

千雨の言葉を聞いて、ユーノが動いた

自身を中心に、転移魔法を発動

ゆりかご全体に居た全魔導師を、外に転移させた

それほどの広範囲かつ、正確無比の転移

ユーノにしか出来なかっただろう

天才的後方支援魔導師、それがユーノだった

なのは達が転移したのは、近くまで来ていたアースラの甲板だった

その甲板上では、海神が激しく対空砲撃をしていた

その弾幕の厚さは、正しく暴力的だった

その暴力的弾幕により、接近しようとしてきていたガジェットやドールは悉くが撃破されていく

だがその時、一機のドールがその弾幕を被弾しつつも突破

なのはに狙いを定めた

転移直後で、ユーノはすぐには動けない

はやてと当麻は、クアットロを下ろそうとしていた

そしてなのはは、ヴィヴィオを抱き締めていて反撃が出来なかった

それでもなのはは、ヴィヴィオを守ろうとヴィヴィオをしっかりと胸に抱き締めてドールに背中を向けた

その直後、そのドールはどこからか撃たれた弾丸に撃ち抜かれて墜落した

はやてがその発射点に視線を向けると、長身に褐色の肌

そして、長い黒髪が特徴の美少女が居た

その美少女

龍宮真名が居たのは、あるビルの屋上だった

そして龍宮の右手には、長大なライフルが握られていた

どうやら、それで狙撃したらしい

 

「誰や、あれは……」

 

はやてがそう呟いた直後

 

燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)!」

 

と強大な爆発が、大量のガジェットとドールを一掃した

 

「な……」

 

「今のは、炎熱系広範囲爆破魔法か……」

 

なのはは驚き、ユーノが冷静にそう解析した

すると、アースラの甲板に新たな人が現れた

何やら近未来のスーツを着ていて、胸元には

《超包子》の文字があった

 

「君は、一体……」

 

「誰や?」

 

ユーノに続いて、はやてが問い掛けた

すると、そのスーツを着た少女は笑顔で

 

「言うなら、ネギ坊主の愉快な仲間達ネ」

 

と告げた

彼女の名前は、超鈴音(チャオ・リンシェン)

ネギの生徒の一人だった少女だ

ただし、本人曰くネギの子孫とのことで、未来人という

しかし、詳細は一切不明の天才である

そこに、龍宮が現れて

 

「さて、あのガラクタ共を軒並み破壊すればいいんだな?」

 

と超に問い掛けた

すると、超は軽い調子で

 

「そうネ。殲滅するアルよ」

 

と告げた

それはまるで、近所のスーパーに買い物に行く

というような気楽さだった

その言葉を聞いて、龍宮は頷き

 

「わかった。依頼は果たそう」

 

と言って、何処からともなく重火器を取り出して構えた

そして、海神の迎撃を掻い潜って近づこうとしてくるガジェットやドールを次々と撃破していったのだった

そんな間にも、ゆりかごはゆっくりと上昇していく

そしてとうとう、宇宙に出た

そのタイミングで、宇宙に時空管理局の次元航行艦隊が一気に展開した

もし突入した二人が、駆動炉とヴィヴィオをどうにかしなかったら展開は間に合わなかっただろう

そして、展開した艦隊の提督はクロノだった

クロノは、ゆりかごがまだ特定の宙域に到達していないことを確認してから

 

「よし、間に合ったな……艦隊全艦、アルカンシェル発射態勢!」

 

と指示を出した

その指示に従い、展開した艦隊は切り札たるアルカンシェルの発射シークエンスを起動しようとした

だが次の瞬間、モニターが真っ赤に染まった

 

「何事だ!!」

 

とクロノが問い掛けると、一人のオペレーターが

 

「ダメです! 起動コマンドに異常発生! アルカンシェルが起動出来ません!!」

 

と悲鳴混じりに告げた

それを聞いて、クロノはすぐに気付いた

その原因が、スカリエッティのハッキングだと

 

「地上本部を襲撃された時に、地上本部のシステムを介してハッキングされていたのかっ!?」

 

そう

それも、スカリエッティの仕込みだった

スカリエッティは、ゆりかごを運用するうえでの障害は地上では巨大砲台、アインへリアル

そして宇宙では、時空管理局本局の次元航行艦隊のアルカンシェルだと判断していた

だから、アインへリアルはこの戦いが始まった時に真っ先に戦闘機人達により破壊されていた

そしてアルカンシェルは、地上本部のシステムがハッキングされた時に、そのシステムを介して次元航行艦隊の運用システムにハッキング

起動コマンドにウィルスを仕掛けていたのだ

しかし、気付いても時は既に遅し

ウィルスを駆除するにしても、簡単にはいかないことは明白だった

 

「万事休すか……っ」

 

とクロノが歯を食い縛った

その時

 

『いえ、まだです』

 

と通信が繋がった

その通信相手は、茶々丸だった

 

『そちらの艦隊のデータリンクにより、ゆりかごの位置を特定……完了……空飛び猫(アル・イスカンダリア)、起動』

 

と茶々丸が言った直後、ゆりかごの直上に巨大な猫が現れた

それが、茶々丸のアーティファクト

空飛び猫だ

その正体は、衛星兵器である

 

『照準完了……出力最大……発射!』

 

その言葉の直後、極太のレーザーがゆりかごに直撃

ゆりかごは、真っ二つに折れて爆発したのだった

 



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最終戦開幕

ゆりかごが破壊されて、一時は解決したかと思われた

しかし、まだ終わっていなかった

それは、フェイトからの通信で知らされた

 

『皆! 今、冬也さんがロンドと交戦してる!』

 

それを聞いて、動けるメンバーは急遽スカリエッティのアジトへと向かった

そして見たのは、冬也とロンドの人外域の戦いだった

回ってきた武装隊員達は、二人の戦闘に圧倒されていた

彼等にとって二人の戦闘は、手の届かない戦いだったからだ

ぶつかる度に起きる衝撃

魔力のぶつかりで起きる空気の震え

そして何より、二人の速度

その全てが、彼等から戦意を奪っていた

だが、そんな中で戦意を絶やさない一団が居た

それは、機動六課のメンバーだった

全員の中でマトモに動けるのは、スバル、エリオ、キャロ、はやて、シグナムとネギ達

それと、武と冥夜もだった

特にネギは、冬也とロンドの戦いに追随していた

ネギの速度は、正しく光の速度だった

ネギはその速度で、二人の戦闘に追い付くと冬也のカバーに入った

冬也は、一騎当千の強者

最小限のカバーで、最大効率の攻撃を繰り出した

例えば、冬也の背に隠れながらの魔法の矢の発射

それに気付いた冬也は不自然にならないように回避しながら、ロンドと戦闘

ロンドは、冬也の体に隠れた魔法の矢にも気を付けないといけなくなった

しかしそれでも、ロンドは強かった

ロンドはネギの放った魔法の悉くを迎撃

逆に、ネギに攻撃を行っていた

それを回避しつつ、ネギは

 

(この人、魔法使いタイプだけど……父さんと同レベルだ!)

 

と冷静に判断していた

ネギの世界での英雄にして、ネギの父親

ナギ・スプリングフィールド

そのレベルに到達すると、遠距離主体の魔法使いとはいえ近距離も難なくこなし、大軍相手を圧倒することすら可能となる

そして戦闘スタイルは、大きくわけて二つ

それは、遠距離主体の魔法使いタイプ

そしてもう一つは、ネギのような魔法剣士タイプである

魔法剣士は高速機動で相手を翻弄しつつ近距離戦闘をこなし、なおかつ短詠唱式による魔法攻撃をこなすタイプだ

なお、ナギやネギの師匠の一人

闇の福音と呼ばれる吸血鬼の真祖

ハイデイ・ライト・ウォーカー

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルレベルとなると、その戦闘スタイルによる差は無くなる

その理由は、経験からくる最低の効率による最大の攻撃

そして何よりも、その実力が伯仲するからだ

この世界の代表的なのは、なのはとフェイトの二人だろう

この二人は過去に、本来ならば遠距離主体のミッド式魔法で、近距離戦闘主体の古代ベルカの使い手だったシグナムやヴィータ達と互角に戦ったという記録があった

ネギの世界で分類すれば、なのはは魔法使いタイプ

フェイトは魔法使い寄りの、魔法剣士タイプである

それに対して、当時戦ったヴィータとシグナムは完全に魔法剣士タイプだ

それからも分かる通り、強いと分類は意味は無くなるのだ

そしてネギ達が中心となり、六課陣は動き始めた

 

「相手を倒そうとは考えないで下さい!」

 

「相手は、ネギ坊主と同等の強さを持つ戦略級とみなし、ネギ坊主と冬也殿の援護を!」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

刹那と楓の指示に従い、フォワード陣は布陣

ロンドに攻撃を開始した

なおこの場に来る前に、一同は和泉亜子のアーティファクト

不思議な注射器により、身体能力が大幅に上がっていた

なお、そのアーティファクトに関してフォワード陣はこう語る

 

『あんなデカイ注射器、初めて見たわ……』

 

『あんなに大きいと、何よりも恐怖を感じるんですね』 

 

とのことだった

亜子のアーティファクト

不思議な注射器は、魔法の薬物が容器内に充填されていて、それを対象に注入することにより、その対象の身体能力を劇的に上げることが出来るサポートタイプのアーティファクトである

なおその見た目は、約2m近い注射器で、それに比率するように針も太い

約2cm程である

そこまでくると、かなり怖かったようだ

特にエリオとキャロの二人は、古達に押さえられてやったのであった

そして、彼等の対ロンド戦が幕を開けた



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両雄決す

短いです
ごめんなさい



冬也とロンドの戦いは、正しく死闘だった

一撃一撃が必殺で、互いに急所を狙っている

しかしその一撃を互いに、受け流し、防ぎ、反撃していく

だがたまに、回避や防御しきれなかった攻撃が二人に掠る

しかし次の瞬間、その傷が一瞬にして回復する

冬也だけでなく、ロンドも再生した

 

「貴様……その回復速度は」

 

「そう、お前の能力だよ。傲慢」

 

冬也が確信めいた声音で問い掛けると、ロンドはそう返した

冬也の能力

つまりは、高速再生

それを、ロンドの体も備えているということ

それを知った六課のメンバーは、内心で舌打ちした

ただでさえ厄介なロンドの戦闘力に加えて、冬也並の再生能力

ただでさえ疲労している六課メンバーは、長期戦を覚悟した

しかし冬也は、更に攻め手を加速させた

 

「な!?」

 

(シャア)!」

 

ロンドは驚きで目を見開くが、冬也は無視して休む間もなく攻撃していく

ロンドは回避しきれなくなり、魔法での防御を多用し始めた

それを見たからか、冬也は更に攻撃を加速させる

するとロンドは

 

「防御が、間に合わんっ!」

 

と焦りだし、冬也の次の突きを上に弾くと顔に至近距離で魔法を発動しようとした

しかしその一撃は、横合いからのネギの蹴りで上に外されてその威力を発揮しなかった

その直後、冬也が振り下ろした刀でロンドの左腕を肩から切り落とした

その傷は、再生能力ですぐにくっついた

その瞬間、今度はロンドの右脇腹を切り裂いた

それすらも再生するが、そこから冬也が圧倒し始めた

ロンドを、防戦一方にし始めたのだ

その事態を、誰もが驚愕した

特にロンドは、一塩だった

 

「バカな、貴様と私ではそれほど差は無いはずっ!?」

 

ロンドはそう言いながら、冬也の袈裟斬りを障壁で防いだ

その一撃で障壁は砕け、砕けた障壁が四散

冬也の顔を掠めて、血が流れた

そして、治らない

それを見て、フェイトとロンドは気付いた

 

(まさか、あの攻撃速度は!?)

 

「貴様!? 再生に回す魔力を!?」

 

ロンドの驚愕染みた言葉に、冬也は

 

「そうだ……再生に回す魔力をほぼ0にして、それを身体能力の向上と攻撃に回した」

 

と告げた

冬也は元々、防御装甲や防御力はほぼ無いに等しい

その理由となっていたのが、高速再生だった

幾ら負傷しようが、即死級のダメージを負おうが即座に再生

前に進んで、戦い続けた

そしてその再生力は、回す魔力量に左右されていたのだ

普段を70とすると。例えば、相手の数は多く武装は強力だが、一人一人の力量は大したことはないならば、短期で終わらせることが可能となる

そこから、再生に80として、のこり20で戦って勝つことが出来る

しかし、相手は少数だが力量が高く長期戦が予想されるのならば、再生に回す魔力を30とし、残り70を身体能力強化や攻撃に回して戦う

という風に、随時変更していたのである

それにより、効率的に戦えた

そしてそれを支えたのは、約10年という戦闘経験だった

しかしロンドは、その能力に慣れてない

だから、常に再生に70として発動する魔法には50というオーバーワークになるのだ

それにより、何が起きるのか

それは

 

「バカな……強化された、魔力が……!」

 

魔力の枯渇だった

それを見た冬也は、ロンドの左肩から右脇腹まで切り捨てた

そしてその傷の再生は、遅い

その傷が理由か、ロンドは両膝を突いた

 

「そもそも、俺が刀で戦っているのも魔力を余計に消費しないためだ……終わりだ、ロンド」

 

冬也はそう言って、ロンドに刀を突き付けた

 



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両断

冬也は刀を突き付けていたが、違和感を感じていた

 

(こいつの魔力量からしたら、やけに早く魔力が尽きたな……)

 

ロンドの魔力量は、推定SSS

つまり、測定不能である

幾ら少し前から戦っていたとはいえ、それを含めても一時間程で戦闘不能になった

冬也の計算では、最低でも二時間は掛かると出ていた

しかし実際は、その半分だった

違和感を感じるな、と言われても無理な話しだった

その時冬也は、ある魔法を思い出した

それは、ロンドが前に居た世界で人類抹殺の為に編み出した魔法

それを思い出した冬也は、空を見上げた

そして、気付いた

太陽が、二つ有ったのだ

ミッドチルダは月は二つだが、太陽は一つだ

 

「太陽が、二つ!?」

 

「違う……片方は、魔法!?」

 

そう、その太陽に似た極大の球体がロンドが長い時間を掛けて準備していた魔法だった

 

「貴様……俺と戦う前からアレを準備していたのか!? ビックバン・ノヴァを!?」

 

と冬也が問い掛けると、ロンドはクックックと笑い

 

「ああ、そうさ……以前は、貴様達が予想以上の速度で侵攻してきたからな……だから今回は、作戦開始と同時に発動させておいた……惑星破壊魔法、ビックバン・ノヴァをなぁ!」

 

と告げた

惑星破壊魔法

ビックバン・ノヴァ

それは、極大なエネルギー体を対象たる星に撃ち込み、星の核たるマントル

それを暴走させて、爆発させるという魔法だ

しかし欠点として、発動するのに時間が掛かり過ぎるのだ

 

「貴様ならば分かるだろう、傲慢……あれは、前回と違い完成している……簡単には、止められんぞ!!」

 

ロンドはそう言うと、狂ったように笑い出した

すると、ティアナが

 

「貴方、なんでそこまで人間を滅ぼそうとするのよ」

 

と問い掛けた

するとロンドは

 

「ふん……我が一族は、地球では名の知れた魔法使いの一族だった……」

 

と語り出した

 

「今から約五十年前、我が一族は請われて闇の書を封印することになった……そして我が一族は、私を残してその命と引き換えに、闇の書の暴走を食い止めることに成功させた……だが、奴等は我が一族をバケモノと罵り、迫害した! 地球を救った我々をだ!」

 

その声には、憎しみが感じられた

そしてロンドの話しを聞いて、はやて達が辛そうな表情を浮かべた

ロンドもまた、闇の書によって人生を歪められた人間だったのだ

 

「だから私は、人間を滅ぼそうと決めた……その為に作り出したのが、七大罪だった……何千何万と犠牲にして作り出した最高傑作だった……しかし、各国の軍により世界中の研究所が襲われて、七大罪は解放された……その後、その七大罪が私に反旗を翻し、私の計画は崩れた……その後は、そいつら七人に本部を襲撃されて、傲慢と戦って……気が付けば、この世界に居た……例え違う星だろうが、人間に救われる価値は無い!」

 

とロンドが語り終わった直後、空に浮いていた極大球がゆっくりと落ち始めた

 

「アレを止めるよ!」

 

となのはの声に従い、六課は動いた

ゆっくりと落ちていくビックバン・ノヴァに対して、次々と攻撃を放った

しかし、全員の攻撃は表面で弾かれた

その理由は、至って単純

ビックバン・ノヴァに込められた魔力量が大きく、ビックバン・ノヴァの表面に強固な障壁が張られているのと同義になっているのだ

つまりは、生半可な攻撃では止めることは不可能ということである

すると、冬也が

 

「やはり、使うしかないか」

 

と言って、ポケットの中から一発の黒いカートリッジを取り出した

その見た目は、魔力カートリッジに酷似していた

 

「あれは、一体……」

 

とフェイトが疑問に思っていた

その時だった

 

『フェイトさん! あのカートリッジを使わせないでください!』

 

とシャーリーから通信が開いた

 

「シャーリー、どういうこと?」

 

『以前から、冬也さんが何か作っていることは知っていました……そしてつい先程、廃棄されたデータの修復が完了して、何を作っているのか分かりました……あのカートリッジの名前は、サクリファイス……自分の命全てを、魔力に変換する物です!』

 

シャーリーの説明を聞いて、フェイトは目を見開いた

そしてフェイトが目を向けた時、冬也は夜叉から残っていたカートリッジを全て排出し、その黒いカートリッジ

サクリファイスを装填しようとしていた

そして、冬也がサクリファイスを指で弾いた

その直後

 

「冬也さん、ダメ!!」

 

とフェイトが、そのカートリッジを掴んだ

 

「フェイト……だが」

 

「だからって、死んだらダメ! 他に、方法がある筈!」

 

冬也が視線を向けると、フェイトはそう言ってサクリファイスを地面に叩き付けて壊した

すると、バルディッシュが

 

《魔力譲渡》

 

と夜叉に魔力が流れ込んだ

その後、その場に居た全員のデバイスから魔力が夜叉に流れていく

 

「これは……魔力が」

 

《チャンスは一度きり……主、決めてください》

 

夜叉がそう言った直後、冬也の体を凄まじい魔力が覆った

それは、オーバードライブ

夜叉の最後の切り札の解放

そして、冬也の最後の魔法の発動だった

そして冬也は、夜叉を肩に担いだ

すると、その冬也の手をフェイトが優しく包み込んだ

そして冬也は、フェイトと目を合わせると

 

「一刀……羅刹!!」

 

と夜叉を振るった

それと同時に、夜叉から漆黒の魔力刃が伸びて、ビックバン・ノヴァと激突した

ぶつかった当初は激しく火花が散り、拮抗したかのようにビックバン・ノヴァの落下が一時的に止まった

しかし、またゆっくりとだが落下し始めた

ビックバン・ノヴァに押されているのだ

すると、押されている証拠にか二人の足下が陥没

二人の腕が、震え始めた

だが、二人は諦めない

 

『アアアアアァァァァァァァァ!!』

 

二人は揃って、雄叫びを上げた

すると、ビックバン・ノヴァの落下が停止

魔力刃が、ビックバン・ノヴァにめり込み始めたのだ

 

「ま、まさか!?」

 

その光景が信じられぬと、ロンドの目が見開かれた

そして

 

『切り裂けぇぇぇぇぇ!!』

 

二人の掛け声の直後、魔力刃がビックバン・ノヴァを両断

大爆発が起きた

そしてミッドチルダは、守られたのである



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跳躍者

「これで、お前の企みも終わりだ……ロンド」

 

冬也はそう言いながら、倒れてるロンドを見下ろした

 

「そのようだな……だがっ!」

 

冬也の言葉に、ロンドは一度は頷いた

しかし次の瞬間に指を鳴らした

すると、六課陣営は全員バインドで拘束された

 

「しまった!?」

 

「やべっ!?」

 

予想外のバインドに、六課陣営は焦った

すると、ロンドが

 

「確かに、もはや全人類の抹殺は不可能だ……だが! 貴様らだけでも道連れにさせてもらうぞ!!」

 

と言った

その直後、凄まじい魔力がロンドから溢れた

 

「貴様……自爆するつもりか!?」

 

「タダでは死なぬ! 諸とも死ねぇ!!」

 

目論みに気付いたシグナムの問い掛けに、ロンドはそう言って狂ったように笑った

しかし

 

「ああ、そう来ると予想していたよ」

 

と冬也が動いていた

冬也はロンドを羽交い締めにすると、一気に上昇を始めた

 

「貴様っ! どうやって!?」

 

「保険で、バインドブレイクを自分の体に仕込んでいた……貴様が自爆することを予想してな」

 

ロンドの問い掛けに、冬也は淡々と答えた

そして冬也は、離れる気配を見せない

 

「貴様ぁ! 離せ! 離せぇぇぇぇ!!」

 

「往生際が悪いぞ、ロンド……死ぬのは、俺達みたいな負の遺産だけで十分だ」

 

ロンドの言葉に冬也はそう答えて、最速で上昇を続けた

そして、上昇を始めてから数十秒後

六課陣営がバインドを外し始めた時だった

遥か上空で、凄まじい大爆発が起きた

その威力は、地上に居た六課陣営にまで衝撃が伝わったことから予想出来る

 

「冬也……さん」

 

それを見たフェイトは、両ヒザを突いた

幾ら超高速再生があるからとはいえ、生存は絶望的な威力だった

機動六課、唯一の犠牲者と誰もが思った

その時

 

「いやー、間一髪だたアルね」

 

と陽気な声が聞こえた

その声を聞いて、ネギ達は声のした方に振り向いた

 

(チャオ)さ……あ!?」

 

「フェイトさん! あっち!」

 

ネギは驚いた様子で目を見開き、明日菜がフェイトの肩を叩きながらある方を指差した

それを聞いたフェイトは、明日菜の指差した方を見た

そして、驚いた

その先に居たのは、まず胸元に超包子(チャオパオズ)と書かれた近代的なスーツを着た一人の少女

その少女の名前は、超鈴音(チャオ・リンシェン)

元ネギの生徒だった少女で、その正体はテラフォーミングされた火星の未来人である

なんでもネギの子孫らしいが、詳しい話は不明である

そして、その隣には

 

「冬也さん!!」

 

フェイトは嬉しそうに冬也の名前を呼びながら、冬也に飛び付いた

勿論冬也は、フェイトを受け止めた

 

「な、なんでなん? あの威力、助かるわけが……」

 

とはやてが驚いていると、超が

 

「その理由は、これネ」

 

と言いながら、二つの懐中時計を掲げた

 

「それは、なに?」

 

となのはが問い掛けると、超は

 

「こっちは、航時機。そしてこっちは、航界機……まあ、平たく言うなら、タイムマシンとワールドマシンってところネ」

 

と言った

それを聞いて、ネギ達以外の殆どが驚愕した

まさか、そんな代物を発明している人物が居るとはと

彼女、超は天才少女である

しかも、並大抵の天才少女ではない

それは、先の二つを発明したことから分かるだろう

更に彼女は、以前に無名とはいえ鬼神を操る機械を発明したことすらある

そのIQは、なんと200を越えているらしい

 

「まずタイムマシンを使て、彼の背後にまで接近して、そこでこのワールドマシンを使て、一旦並行世界に避難。そして、地上に降りてから戻てきたネ」

 

と難なくといったように言うが、彼女が居なかったら冬也は助からなかっただろう

すると、はやてが

 

「ありがとうございます。貴女が居なかったら、彼は助からなかったでしょう」

 

と言いながら頭を下げた

すると、超は

 

「いやいや。せめて、一つくらい見せ場が有って良かたネ」

 

と朗らかに返答した

こうして、時空管理局始まって以来の大事件

JS&R

または、ワールドブレイク事件は幕を下ろしたのだった



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未来へ

さて、次回からは第二章の開幕です
一応、オリジナルストーリーを予定


大規模戦闘が終結して、時は経ち新暦76年四月

今日、機動六課は終わりを迎える

 

「皆さん、一年間お疲れ様でした……今後皆さんは、様々な道を歩むことになるかと思いますが、頑張ってください……さて、湿っぽいのはここまでや。以上、八神はやてでした!」

 

はやてが檀上でそう演説すると、拍手が起きた

そして、数十分後

 

「わあ……綺麗……」

 

「これって、確か地球の……」

 

六課フォワード陣は訓練場に居た

そこはある場所が再現されていて、一面に桜が咲き誇っていた

 

「そう、桜だよ」

 

「地球の日本では、出会いと別れの季節。春に咲く花だよ」

 

と言ったのは、フェイトとなのはだった

すると、はやてが

 

「花見、最近してないなぁ」

 

と懐かしむように言った

やはり、忙しいからだろう

冬也は

 

「桜か……何年振りか」

 

と懐かしんでいた

聞いた話では、世界中の戦場を渡り歩いていたのだから、仕方ないだろう

その時だった

なぜか、シグナムとヴィータ。なのはの三人がデバイスを構えて

 

「それじゃあ、始めようか……全力全開、最後の模擬戦を!」

 

となのはが言った

 

「へ?」

 

「む?」

 

「はへ?」

 

それを聞いて、フェイトと冬也、ネギの三人は首を傾げたが

 

「なんだ、聞いてなかったのか?」

 

とシグナムが視線を向けた

すると、なのはが

 

「フォワード陣対隊長陣の最後の模擬戦! リミッターも外れたから、正真正銘の全力全開で!」

 

と意気込んでいた

それを聞いて、フェイトが

 

「聞いてないよ、そんなの!?」

 

と目を見開いて、驚いていた

すると、ヴィータが

 

「まあ、最後にはいいんじゃねぇの?」

 

と言って、アイゼンを肩に担いだ

その時、フォワード陣が

 

「やりましょう、フェイトさん!」

 

「全力全開での最後の模擬戦!」

 

「冬也隊長も!」

 

「お願いします!」

 

と言ってきた

それを聞いて、フェイトが固まっていると

 

「フェイト、俺達の負けだよ」

 

「やりましょう」

 

と冬也とネギが言った

それを聞いて、フェイトは

 

「ああ、もう……」

 

と溜め息を吐いた

そして、数分後

少し桜の樹の密度が変更されて、フォワード陣と隊長陣が対峙していた

よく見れば、ギンガとマックスも混じっている

そして、双方の準備が整ったのを見たはやてが

 

「レディ……ゴー!!」

 

と開戦を告げた

この後、約一時間程模擬戦は続けられた

その濃密な模擬戦の結果は、本人達のみが覚えている

この後の各員だが

 

ネギ達は、超の航界機で元の世界に帰っていった

そして、他のメンバーは以下となる

 

冬也

JS&R事件の解決に協力した功績と本人の力量

そして、試験を優にパスしたことにより二等空佐として時空管理局に所属

時空管理局初の攻勢部隊、強襲制圧部隊の隊長となる

その後、フェイトと共に義理の兄と母親に会いに行きある報告をする

その後、その義兄が黒焦げで艦の通路に転がっていたことは、その艦では七不思議の一つになる

 

武&冥夜

本人達の希望もあり、時空管理局に所属

本人達の力量も相まって、すぐに二等陸尉として強襲制圧部隊で冬也を支える部下となる

今では、名を知らぬ者は居ない連携で戦う

通称、双星という二つ名を得ている

どうやら同棲をしているらしい

 

当麻

なんやかんや、ドキッ地獄の鬼ごっこ大会が起きたものの一度地球に向かい、家族に無事を連絡

その後、高町家でデザートや料理の修行をなのはの母親から付けられて、ミッドに戻ると喫茶翠屋ミッドチルダ店を開店

その直後に、はやてと結婚した(その時、また地獄の鬼ごっこ大会が起きたが)

最近、はやてが幸せそうにあることを幼馴染みメンバーに報告し、驚愕したとか

 

ティアナ

フェイトの指導の甲斐あり、執務官補佐試験を合格

執務官試験の対策の傍ら、フェイトと共に経験を積む

近いうちに、試験を受ける予定

 

スバル

港湾特別救助隊からスカウトされて、所属

その突破力を活かし、様々な災害現場に突撃

被害者を救助している

 

エリオ

キャロと共に、辺境守備隊に所属

今では、龍騎士として有名になっている

最近、背が凄く伸びていて、それを見たキャロが

『エリオ君に、背伸び力を奪われました!』

と嘆いているとか

最近、友達になったある召喚使いの少女からアピールされているとか

 

キャロ

エリオと共に、辺境守備隊に帰属

龍召喚士としてだけでなく、守備隊の活動しながら様々な動植物の観察をしていて、知ったことを執筆

更には、物語の執筆を開始

最近では、ある学会の教授も参考にしているらしい

しかし最近、エリオがある少女にアピールされているのを見て、非常にヤキモキしているとか

 

なのは

ヴィヴィオを引き取り、育ての親となる

近所では、知らぬ者は居ない親子となる

なお、引き取った後に実家に報告に行ったら兄妹喧嘩が勃発

兄が、黒焦げになったとか

なお、ユーノと結婚

幸せな家庭を築きつつ、仕事にも精を出す

最近、新たに所属したヴィータと一緒に名物教官となる

 

はやて

海上警備隊の若き責任者となる

当麻と結婚し、賑やかな家庭の母親役が気に入っているようだ

ある日、ある報告をしに恩人達の許に向かったらしい

 

フェイト

執務官として、八面六臂の活躍をしながら冬也と結婚

なのは達が買った家の隣に、新しく家を購入

最近、義理の兄を黒焦げにしたとかしないとか

 

ギンガ

マックスの告白を受け入れて、付き合い始める

なお、そのことに関してゲンヤは

『別に、家族が増えるのは嬉しいことさ。ただ、公私は別けてくれや』

と言ったらしい

そして最近、妹が四人増えたことを喜んでいる

 

マックス

功績を認められて、地上本部守備隊に呼ばれたが拒否

ただし、曹長にはなったらしい

なおある日、ゲンヤと共に包帯だらけの日があったとか

そのことに関して、ギンガが

『予想通りの事態が起きただけよ』

と語る

 

こうして、ミッドチルダは大きな事件を越えた

しかし、また事件の足音が近づいていた



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空白章
新たな出会い


新章スタートです


新暦77年9月

 

「これで、最後……っと」

 

と言ったのは、武器密輸グループの捜査をしていたティアナだった

新暦77年4月

ティアナは、無事に執務官試験に合格

一人立ちし、初めて担当した案件だった

武器密輸グループ

そのグループは少し前に、ある管理世界の銀行を襲撃

多数の重傷者が出ていた

死者が出なかったのは、強襲制圧部隊が迅速に出動したからである

強襲制圧部隊は通常の指揮下には無く、独自に動くことが出来る部隊となっている

しかも、隊員の裁量で非殺傷設定の解除が許可されていた

一部の部隊からは毛嫌いされているが、今までにないスピーディーな出動と確実とまで言われる犯人の捕縛と事態の鎮圧性が民間からは高く評価されていた

しかし、それ故に求められる技量は非常に高いレベルである

まず、陸戦か空戦のどちらかでAA以上

更には、魔力を用いない戦闘技能の習得が必須とされた

それはさておき、ティアナはその襲撃グループたる武器密輸グループの捜査を最初の仕事とした

そして、地道な捜査を行い5ヶ月後

ティアナはその武器密輸グループが一堂は会する場所を特定し、全員が集まったタイミングで乗り込んだのだ

奇襲だったのと、ティアナの技量も相まって全員の捕縛に成功した

そして、その武器密輸グループが会議場所に使ったのが炭鉱だった洞窟だった

グループはそこの広い空間を、会議場所として利用していたのだ

 

「さてと……調査するわよ」

 

《了解》

 

ティアナの言葉を聞いて、クロスミラージュは返答した

ティアナの髪型は変わっており、以前はツインテールだった髪型は今はストレートにしている

もしかしたら、顧客データが秘匿されているかもしれない

そう思いながら、ティアナは長い髪を揺らした

そしてティアナは、更に奥に進んだ

 

「これが書類ね……」

 

奥に進んだティアナは、目論み通りに顧客データが記載された書類を発見

それを、バッグの中に仕舞った

その時

 

《奥右手に、魔法による隠蔽があります》

 

とクロスミラージュが言った

それを聞いたティアナは、言われた場所に近づき

 

「ここ?」

 

と岩壁に触れた

その直後、その岩壁に見えていた場所が金属製の扉になった

 

「これって……クロスミラージュ」

 

《ハッキングします》

 

それを聞いたティアナは、クロスミラージュと扉横のコンパネを接続した

そして、数秒後

 

《解錠しました、開きます》

 

とクロスミラージュは言って、ドアが開いた

その瞬間、ティアナは両手に構えながら中に入った

そして少しすると

 

「人の気配はしないわね……それに、やっぱり違法研究施設……」

 

と呟いた

ティアナが見たのは、規則正しく二列に並ぶ人間サイズのカプセル

そして、床を這う何本もの太いケーブルと壁に設置されている幾つかの巨大モニターだった

そこは、ティアナの予想通りの場所

違法研究施設であった

そしてティアナは、一番近くにあったモニターに歩みより

 

「……ダメね、電源が死んでるわ」

 

少し操作してから、そう告げた

その時だった

 

《奥に10m行った所に、高魔力反応検知》

 

とクロスミラージュが言った

 

「高魔力反応?」

 

それを聞いたティアナは、右手にクロスミラージュを持って向かった

そして見つけたのは、一人の青年が浮いているカプセルだった

それが、ティアナの運命に関わる出会いだった



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戦場での出会い

「この人、まだ生きてる!」

 

《解放します》

 

ティアナの言葉を聞いて、クロスミラージュは解放作業を開始

そして、数秒後

 

《開きます。注意してください》

 

とクロスミラージュが言って、カプセルの中に満ちていた液体が減り始めた

そして、液体が無くなると空気の抜ける音がしてから開き始めた

そして気付けば、その少年の手足には拘束具があった

それを見たティアナは

 

「モード2」

 

《了解、ダガーモード》

 

左手のクロスミラージュをダガーモードに変形させて、魔力刃を形成

その魔力刃で、拘束具を切断した

それにより、その少年はティアナの方に倒れてきた

それをティアナは受け止めた

その時

 

《警告! 後方!!》

 

クロスミラージュに言われて、ティアナは後ろに視線を向けた

そこには、数機のガジェットが居た

 

(しまった! 迎撃、間に合わない!!)

 

そう思ったティアナは、せめて少年を守ろうと思い抱き締めた

しかし、次の瞬間

 

「右腕解放、雷の投擲」

 

と耳元で声が聞こえて、爆発音が聞こえた

そこで、ティアナは気付いた

少年の目が開いていたことに

 

「君は……」

 

「今は、アレの撃破が最優先と判断する……」

 

ティアナが問い掛けるが、少年は淡々とそう答えた

確かに、聞いている暇はなさそうだった

ティアナは左手のクロスミラージュを戻すと

 

「悪いんだけど、前衛……いいかしら?」

 

と少年に頼んだ

すると少年は、拳を鳴らしながら

 

「問題ない」

 

と答えた

そして即席だが、コンビを結成

二人は戦闘を開始した

そしてティアナは、戦闘しながら少年の戦い方を注意深く観察していた

 

(あの動きに戦い方……ネギに似てるわね……関係者? そうなると、彼も転移者ってことになるけど……)

 

ティアナはそう思考しながら、魔力弾を発射

それにより、遠距離に居たガジェットのアームが破壊された

その直後、件の少年がそのガジェットに肉薄

拳を繰り出し、ガジェットのカメラ部分を破壊

そして蹴り飛ばし、別のガジェットにぶつけると

 

「左腕解放、光の12矢」

 

と12本の光の矢を発射

二機を纏めて破壊した

それを見て、ティアナは確信した

 

(彼、ネギと同じ魔法体系の使い手ね……しかも、万能型)

 

実際、少年は遠近関係なく戦えていた

器用貧乏という雰囲気ではなく、圧倒的戦闘力でガジェットを次々と破壊

しかしティアナは、ミスを犯していた

少年の観察に意識を向けすぎていて、攻撃が疎かになっていた

それに気付いたのは、間近に迫った一機の破損したガジェットだった

そのガジェットは、損傷が酷いのかかなり遅く近づいていた

他のガジェットの残骸に紛れて

 

《右前方!》

 

「つっ!?」

 

クロスミラージュの警告により気付いたが、時既に遅かった

ガジェットから一発のレーザーが発射され、ティアナの下腹部を貫いた

その一撃により、ティアナは片膝を突いた

 

(マズッた……敵は、まだ居るのに……)

 

ティアナはそう思うが、撃たれた場所が悪かったのか、視界が急速に暗くなっていく

その時だった

 

「両腕解放、地獄の業火……固定、掌握……術式兵装……業火の魔神」

 

と少年の声が聞こえた

が、そこでティアナの意識は途絶えた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「はっ!」

 

そして、ティアナが意識を取り戻すと見えたのは星空だった

すると

 

「気が付いたか」

 

と少年の声が聞こえた

そちらに視線を向けると、焚き火を挟んだ反対側にあの少年が居た

 

「まだ無理はするな。治療してから、そんなに時間は経っていない」

 

ティアナが起き上がろうとしたことに気が付いたようで、少年はそう言った

確かに、下腹部がまだ痛む

 

「優秀なデバイスだな。ショック症状に陥る前に、意識を落とさせるとはな。まあ、危険な賭けだったが」

 

どうやら、ティアナが意識を失ったのはクロスミラージュが介入したかららしい

すると、少年は

 

「それと、先に謝罪しておく。他意は無いからな」

 

と言った

その時になってティアナは、自分の格好に気が付いた

今の彼女は、下着姿だったのだ

それに気付いたティアナは、顔を赤くしながら少年を睨んだ

すると少年は

 

「治療の為だったんだ、仕方ないだろう」

 

と反論した

まあ、怪我したのにはティアナにも落ち度があった

先の戦闘、急だったのでバリアジャケットを展開していなかったのだ

その前の戦闘後、ティアナはすぐにバリアジャケットを解除していたのだ

そして、戦闘中の余所見

それらが重なり、被弾したのである

 

(次からは、バリアジャケットは展開したままにする)

 

ティアナがそう決意すると

 

「これを羽織っていろ」

 

と少年が、ティアナにボロボロだが毛布を掛けた

 

「ありがとうございます……ここは?」

 

「ここは、あの洞窟近くの廃集落だ。余程慌てていたのか、幾らか衣服や毛布が残っていたからな。使わせてもらった」

 

確かに、気付けば少年もボロボロだが服を着ていた

そして少年は、ティアナの近くを指差して

 

「気になるのなら、そこにある程度は見繕っておいたから。着ておけ」

 

と言った

見てみれば、そこには数着の服があった

同じようにボロボロたが、選り好みしている余裕は無いだろう

そして、ティアナは

 

「御世話になったようで、感謝します。私は、時空管理局執務官のティアナ・ランスターです。貴方の名前は?」

 

と自己紹介してから、問い掛けた

すると少年は

 

「研究者連中は、俺をUー8番と呼んでいたが……生前は裕也と呼ばれていた……まあ、好きに呼べ」

 

と言った

これが、一度死んだはずの少年

裕也とティアナの出会いだった



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ティアナの機転

「生前の名前……ということは裕也は、死んだのね?」

 

「ああ……最後は戦争で、敵の大将を刺し貫いたのは覚えているんだがな……気が付いたらな」

 

ティアナの問い掛けに、裕也はそう答えた

それを聞いて、ティアナは

 

(人造魔導師計画ね……)

 

と気づいた

そして

 

「つまり貴方は、兵士だったと?」

 

と問い掛けた

しかし裕也は、首を振って

 

「いや、俺は……生態兵器だった」

 

と答えた

それを聞いて、ティアナは

 

「人を殺すための、生態兵器?」

 

と二度問い掛けた

その問い掛けに、裕也は

 

「そうだ……効率的に人を殺すために、造り出された」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

(冬也さんと、同じか……)

 

と思った

そして

 

「そういえば、洞窟に居た犯人達はどうしたのかしら?」

 

と裕也に問い掛けた

すると、裕也は

 

「あの洞窟に放置している」

 

と端的に告げた

時間的には、撃ち込んだスタンバレットはまだ持つ

安堵したティアナは、少し考え始めた

 

(彼……裕也は、冬也さんと同じ人間兵器……それに、ネギと同種の魔法体系とかなり高度の戦闘技術を有してる……そして何より、その裕也をベースにした人造魔導師計画……管理局に知らせたら、確実に研究所か施設に入れられる……)

 

本来だったらティアナには、起きたことを詳細に知らせる義務がある

しかしティアナは、直感的に躊躇った

その最たる理由が、裕也の使った魔法技術だった

ネギ達が帰ってから、約一年

ネギ達が居なくなったことにより、その魔法技術を調べる機会を失っていた

中には、ネギを捕まえて実験しようと画策した輩も居たらしい

もし、裕也のことが知られたらどうなるか

JS&R事件後に不正をしていた汚職管理局員が大規模逮捕されたが、未だに残っているのはほぼ確実なのだ

もし、そんな輩に知られたら

そう考えたティアナは

 

「上司に連絡を取ってもいいかしら?」

 

と裕也に問い掛けた

すると裕也は

 

「構わないが」

 

と言った

それを聞いたティアナは、通信ウインドウを開き

 

「フェイトさん、今いいですか?」

 

と呼んだ

すると、私服姿のフェイトが映り

 

『どうしたの、ティアナ?』

 

と問い掛けてきた

今フェイトは、産休に入っている

冬也との間に出来た子供だ

妊娠が分かった時、フェイトは嬉しそうにしていた

フェイトはエリオやキャロの母親代わりだったが、妊娠したことにより本当の母親となったのだ

 

「実は、相談したいことが」

 

ティアナはそう言うと、裕也のことを言った

それを聞いたフェイトは

 

『うん……聞いた限りだと、間違いなくネギ君と同種の魔法体系だね。それに、闇の魔法まで使ってるなんて……』

 

と呟いた

するとティアナは

 

「闇の魔法?」

 

と首を傾げた

するとフェイトは、真剣な表情で

 

『いい、ティアナ。今から話すのは、秘密だからね』

 

と前置きしてから、闇の魔法のことを説明した

その使い方から効果

そして、リスクについて

すると、それを聞いたティアナは

 

「つまり……使っていく度に人間ではなくなると……そういうことですか!?」

 

と驚愕していた

ティアナの言葉を聞いたフェイトは、頷いて

 

『彼、生態兵器だって言ったんだよね? だったら、自分の命を捨ててるんだと思う……だから、闇の魔法を修得・使用してるんだと思う……』

 

と言った

それを聞いたティアナが黙っていると、フェイトが

 

『ティアナ、一つ聞くよ……死にに行こうとする人を、放っておける?』

 

と問い掛けた

すると、ティアナは

 

「放っておけません。それに、ようやく分かりました……」

 

と言って、焚き火の様子を見ている裕也を見た

正確には、絶望に染まっている裕也の目を見た

 

「彼の目は、あの子供の姿だった冬也さんによく似てます……絶望している目に」

 

ティアナがそう言うと、フェイトは頷いて

 

『良かった、そう言ってくれて……じゃあまずは、管理局には隠れていた民間人として連絡』

 

「その後に、あの違法研究所を見つけたことにする……ですね」

 

フェイトの提案にティアナは同意するように、そう言った

そして

 

「その後は……」

 

『多分、彼はかなりの魔導適性を持ってるはずだから、検査して民間協力者として登録……ティアナが保護して』

 

フェイトの言葉を聞いて、ティアナは頷いた

そして

 

「私が保護するんですね?」

 

と問い掛けた

すると、フェイトは

 

『うん。聞いた話じゃあ、前衛型。ティアナの補佐って立ち位置にしよう』

 

と言った

その理由は、ティアナにも分かった

それは、ティアナのポジションに起因する

ティアナの適性ポジションは、中距離から遠距離だ

一応近距離も出来るが、手練れが来たら負ける可能性が高い

しかしそれは、裕也が前衛をすれば解決する

裕也の腕前は、既に把握している

 

「では、そうします。後で彼と口裏を合わせます」

 

『うん、そうして。詳細に決まったら、また連絡して』

 

フェイトのその言葉に頷くと、ティアナは敬礼してから通信を終えた

そして、裕也に視線を向けて

 

「裕也、少し話があるんだけど」

 

と裕也を呼んだ

これが、ティアナの右腕的存在との出会いになる



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新たな名前

あの後ティアナは、裕也と綿密に話し合った

その結果裕也は、様々な世界を渡り歩く探検家で、たまたまこの世界に来た時に犯行グループが隠れ家に使った洞窟に隠れていて、犯行グループを捕縛に来たティアナに助けられた

ということになった

そして研究所に関しては、二人が偶然に発見

ティアナが中に入って調べていたら、ガジェットが出現

裕也の援護もあり、全て撃破した

という流れになった

それをフェイトに連絡したら

 

『うん。それでいいと思うよ』

 

とのことだった

その後ティアナは管理局に連絡を取り、鑑識班と護送班を要請

最初に着ていた執務官を示す制服は、破けたことにした

そして、犯人達を引き渡し鑑識班が研究所を調べる間にティアナは裕也と一緒に軽く休むことにした

休むために入ったのは、時空管理局の次元航行艦

そしてその艦を、ティアナは知っていた

中に入ると

 

「久しぶりだな、ランスター執務官」

 

と出迎えたのは、クロノだった

するとティアナは

 

「お久しぶりです。ハラオウン提督」

 

と敬礼した

するとクロノは

 

「たまたま此方に来ていてな……君からの要請が聞こえて、来たんだ」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

「ありがとうございます」

 

と感謝の言葉を告げた

そしてティアナは

 

「裕也……この人は私の上司、フェイトさんのお兄さん」

 

と裕也に言った

するとクロノが

 

「クロノ・ハラオウンだ。話しはフェイトから聞いているよ」

 

と言った

すると裕也は

 

「Uー8……裕也だ。よろしく頼む」

 

と名乗り、頭を下げた

それを聞いたクロノは

 

「やはり、人造魔導師計画か……」

 

と呟いた

するとティアナが

 

「間違いないかと……彼が入っていたポッドから、多少はデータが取れましたが……どうやら、一部上層部が暗殺や後ろ暗い仕事をさせるために、用意させたようです」

 

と言った

それを聞いたクロノは

 

「また、上層部が減るか……まあ、あの事件の直後が一番減ったがな」

 

と言った

そして、裕也に視線を向けて

 

「付いてきてくれ。君の魔導適性を調べよう」

 

と言った

そして裕也は、クロノとティアナの後に続いてある部屋に入った

そして、裕也の魔導適性を調べた

その結果

 

「まさか……古代ベルカとはな」

 

「しかし、彼の近接戦闘の手際を考えると……納得します」

 

ティアナはそう言って、クロスミラージュが録画していた戦闘映像を見せた

それを見たクロノは

 

「確かに……古代ベルカと相性がいいか……」

 

と呟いた

そしてクロノは、検査機の部屋から出てきた裕也に視線を向けて

 

「なにか、希望する形態はあるか?」

 

と問い掛けた

それを聞いた裕也は、少し考えてから

 

「二刀流と弓……それが使えれば」

 

と言った

それを聞いたクロノは

 

「分かった。技官に頼んでおこう」

 

と言った

その後ティアナと裕也は、宛がわれた部屋で休むことにした

ティアナは、捜査を始めてから久しぶりのシャワーを浴びた

そして、クロノが用意した制服を着た

その後ティアナは、裕也に宛がわれた部屋に向かった

 

「裕也、起きてる?」

 

とドアを開けてみたら、裕也は壁に背中を預けて目を閉じていた

その姿はまるで、常在戦場の戦士のようだった

そして、一歩部屋に入ったら

 

「ティアナか」

 

と裕也が目を開いた

 

「ごめんなさい、起こしたかしら?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

裕也はそう言って、立ち上がった

今裕也が来ているのは、余っていた武装隊の制服である

裕也の身長は高く、180近い

更に、冬也と同じく日本人特有の顔立ち

間違いなく、地球産まれだとティアナは思った

その地球だが、今は特別管理世界と呼ばれている

基本的には、管理局は介入は控えている

しかし、現地産まれの魔導師適性の有る者達が常駐し、何か異変が起きたら派遣することにした唯一の世界だ

なお今のところ、その世界に常駐しているのはハラオウン家のみだが

閑話休題

その後裕也は、ティアナの案内で艦内の食堂へ向かった

クロノが艦長を勤める艦では、大人数が勤めている

そのために、基本的に艦内食堂は24時間開いている

そこに向かうと

 

「おや、久しぶりです。ランスター執務官殿」

 

「お疲れ様です」

 

とスタッフがにこやかに声を掛けてくる

その一人一人に、ティアナが返答していたら一人の女性局員が

 

「そこの彼は?」

 

と裕也のことを問い掛けた

するとティアナは

 

「彼は、今回の捜査で保護して、今後は私の民間協力者になってくれる」

 

「裕也・カーバイド……よろしく頼む」

 

と紹介した

名前は、ティアナが考えた

その後、ティアナが料理を選択し、端の方の席に座った

そして

 

「食べていいわよ。今回は、私が払うから」

 

と言った

それを聞いた裕也は

 

「すまんな……助かる……それに、久しぶりにマトモな食事だな」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

(やっぱり……あの小さかった冬也さんと同じ境遇みたいね……)

 

と察した

それは、魔導適性検査の前に行った簡易的な体調検査からだった

裕也の身長は180程だが、体重が役55kgと身長から考えたら異様に軽かった

そこから察してはいた

だがやはり、改めて聞くと心に来るモノがあった

そしてティアナ達は、クロノの艦で時空管理局に帰還する



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確認と

その後ティアナと裕也の二人は、クロノの艦で時空管理局本局に帰還

捜査結果を、事務局に提出した

その書類を受け取った事務官は

 

「お疲れさまでした、ランスター執務官」

 

とティアナを労った

すると、ティアナは

 

「すいませんが、民間協力者の登録をしたいのですが」

 

と言った

それを聞いた事務官は

 

「承りました。その方は、そちらの人ですか?」

 

と、ティアナの後ろで待機していた裕也を見た

するとティアナは、裕也を手招きして

 

「裕也・カーバイドだ」

 

と名乗らせた

それを聞いた事務官は、少しすると裕也に一枚のカードを差し出し

 

「こちらが、貴方のIDカードです」

 

と言った

裕也がそれを受けとると、今度は受付台の上に機械を置いて

 

「続いて、生態データを登録します。手を置いてください」

 

と言った

その言葉の通りに、裕也はその機械の上に右手を置いた

すると、光が裕也の手を手首側から指先まで走った

それが収まると

 

「登録しました。これで、民間協力者が使える施設は全て使えるようになりました」

 

と事務官が言った

それを聞いたティアナが

 

「それで、上官は私で登録してください」

 

と言った

それを聞いた事務官は

 

「分かりました。登録の為に、ランスター執務官のIDカードをお貸しください」

 

と言った

それを聞いたティアナは、胸ポケットからIDカードを取り出して事務官に手渡した

それを受け取った事務官は、パソコンを操作した

そして、少しすると

 

「登録完了しました。お返しします」

 

とティアナに、IDカードを返却した

それを仕舞ったティアナは、裕也を見て

 

「着いてきて、裕也。デバイスを渡すから」

 

と言った

そして二人が向かったのは、時空管理局地上本部の技術研究所だった

ティアナはその一室に入ると

 

「マリーさん、居ますか?」

 

と声をかけた

中は相当散らかっている

それを見たティアナは

 

「あちゃぁ……こりゃ、修羅場の後かな……」

 

と頬を掻いた

すると裕也が

 

「そこの書類の下……人が埋まっているようだが」

 

と一ヶ所を指差した

それを聞いたティアナは

 

「書類を崩したの!? マリーさん! 大丈夫ですか!?」

 

と慌てた様子で、そこの書類を退かした

すると、その書類の下から緑色の髪の女性

マリエル・アテンザが出てきて

 

「ああ、ごめんね。ティアナちゃん……どうやら、仮眠を取ってた時に崩したみたい」

 

とティアナに謝った

そしてマリーは、立ち上がり

 

「うん。クロノ先輩から、話は聞いてるよ。とりあえず、試作品は出来てるから」

 

と言って、ある台の上に置いてあった一つのペンダントを取った

それを聞いたティアナが

 

「もう出来てるんですか?」

 

と驚いた様子で言った

すると、マリーは

 

「うん。冬也さんのをある程度コピーしたからね。ただ、まだ調整等があるからね」

 

と言って、それを裕也に手渡した

するとマリーは

 

「機体名は、白夜叉。術式は古代ベルカにしてあるわ」

 

と言った

裕也が受け取ったのを確認すると、ティアナが

 

「それじゃあ、テストの為に試験場に行きましょうか」

 

と提案した

そして三人は、技術研究所の保有する試験場に向かった

そして、そこでデータを収集

裕也用に調整

なお、裕也の適性は以下となる

 

陸戦AA++

空戦S++

魔力量S+

魔力変換資質 炎・雷

 

これを見たティアナは

 

「雷って……確か、電気の上位でしたよね?」

 

とマリーに問い掛けた

するとマリーは

 

「そうだね……確か、千人に一人位の確率の変換資質だね」

 

と同意した

電気の変換資質で有名なのは、フェイトだろう

なお、電気の変換資質は速度に優れているが、雷の変換資質は攻撃力に優れていることが分かっている

そこに更に、攻撃力に定評のある炎の変換資質

それを見たティアナは

 

「裕也は、完全に攻撃特化なのね」

 

と呟いた

そして、同時に

 

(そこも、冬也さんにそっくりなのね)

 

と思った

冬也も、攻撃力に特化している(最近、鎧部分が増えたが)

 

「それじゃあ、調整をお願いしますね」

 

「うん、任せて。明日、取りにきてね」

 

そこで三人は別れて、裕也は一度ティアナの家に泊まることになった

その前に、一度買い物に向かった

裕也の服やらを買うためだ

これに裕也は

 

『働いて返す』

 

と言った

どうやら、義理堅い性格らしい

そして、部屋に到着

ティアナは、裕也に

 

「今日は、ソファーで寝てくれるかしら?」

 

と言った

それを聞いた裕也は

 

「問題ない」

 

と返した

そこでティアナは、ハタと気付いた

 

(部屋に男の人を入れたの初めて)

 

こうして、二人の同棲が始まったのだった



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二人の始まり

翌日、ティアナはいい匂いで目が覚めた

そして、自分の寝室から出て見たのは、一人キッチンに立って料理している裕也だった

 

「裕也……」

 

「む、起きたか……すまんが、食材とキッチンを使わせてもらったぞ」

 

ティアナが声を掛けると、裕也は肩越しにそう言ってきた

それを聞いたティアナは

 

「それはいいんだけど……裕也、料理出来るの?」

 

と問い掛けた

すると、裕也は

 

「ああ。一人暮らしもしていたからな」

 

と答えた

そのタイミングで、裕也はフライパンを皿に重ねた

そして、出来た料理を乗せた皿を持って

 

「一応、恩返しの一環だな」

 

と言って、机の上に置いた

それは、見事なオムレツだった

ティアナが執務官になってから、久方ぶりの手料理だった

 

「うわ……」

 

ティアナも料理はするが、それなりだ

しかし、裕也の作ったオムレツは、儀礼な黄色だ

ほんの僅かにある焦げ色は、引き立て役

プロと言われても、信じられる見た目だった

 

「裕也……あなた、レストランで働いてた?」

 

「いや? 精々、喫茶店だな」

 

ティアナの問い掛けに、裕也はそう答えた

それを聞いたティアナは、内心で

 

(そこ、喫茶店という皮を被ったレストランじゃないわよね?)

 

と思いながらも、スプーンをオムレツに刺した

その中から出てきたのは、半熟の卵だった

それをティアナは、口に運んだ

 

「うわ、美味しい……」

 

それは、思わず溢れた言葉だった

すると、裕也は

 

「それは良かった」

 

と言って、微笑んだ

それを見たティアナは、顔が赤くなるのを自覚し、赤くなった顔を隠すために、オムレツを乗せた皿を持ったのだった

それから数十分後、ティアナの運転する車で地上本部に向かった

そして地上本部の転移ゲートで、本部に向かった

その本部に到着すると、マリーの部屋に向かった

そして見たのは

 

「マリーさん……また、徹夜ですか?」

 

目の下に、盛大なクマを作っていたマリーだったからだ

 

「いやぁ……あれこれ調整してたら、止まらなくなっちゃってね」

 

ティアナの言葉に、マリーは後頭部を掻きながらそう言った

どうやら、凝り性が発動してしまったようだ

ある意味、科学者らしいと言えば、科学者らしいだろう

 

「まあ、おかげで、納得のいく物には仕上がったよ」

 

マリーはそう言うと、机の上からデバイスの待機形態を取り上げて裕也に差し出した

裕也はそれを受け取ると

 

「感謝する。マリエル技士」

 

と言って、頭を下げた

すると、マリーは

 

「マリーでいいわよ。それに、私としてもいい経験になったしね」

 

と笑顔で言った

その後、裕也は本部に割り当てられていたティアナの執務室に向かった

やはり、まだ新人だからだろう

部屋の中は、かなり綺麗だった

そしてティアナは、上着をコート掛けに掛けて

 

「さて、裕也。今後貴方は、私の副官をしてもらいます。内容は、多岐に渡ります」

 

と裕也に説明を開始した

そして、裕也は

 

「ああ、そのようだな。書類の整理、何らかの手続き、戦闘のフォロー……俺に出来うる範囲で、こなそう」

 

と言った

それを聞いて、ティアナは

 

「ありがとう、期待してるわ」

 

と言うと、クロスミラージュを台にセット

そしてパソコンを起動し、今回の事件のまとめを開始した

既に、彼女の部屋の入り口には、クロノの艦の調査班からの報告書が入った書類が置かれていた

それに気付いた裕也は、それを取り

 

「ティアナ、これを」

 

とティアナに差し出した

 

「あ、もう来てたのね」

 

ティアナはそう言うと、書類を受け取った

そして、二人は仕事を開始

数時間後、ティアナは纏めた書類を提出したのだった

だがこの時、ティアナは気付いていなかった

自分が、大規模事件に巻き込まれ始めていたことに



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発展

ティアナは資料を纏めると、纏めた資料の入ったメモリースティックを事務官に手渡した

そして、新しい任務を選ぼうとした

すると、事務官が

 

「ランスター執務官、ハラオウン提督がお呼びしてました。重要か話があると」

 

と教えてきた

それを聞いて、ティアナは

 

「わかりました。ハラオウン提督は、今日は?」

 

と問い掛けた

すると、事務官は

 

「ハラオウン提督でしたら、今日は艦隊運用部でロウラン提督と話し合うようです」

 

と教えた

それを聞いて、ティアナは

 

「わかりました、向かいます」

 

と言って、背後で待っていた裕也と一緒に、艦隊運用部に向かった

すると、裕也が

 

「ハラオウン提督というのは、先日向かえに来てくれた方か」

 

と言った

すると、ティアナは

 

「そうよ。後ロウラン提督というのは、ハラオウン提督の上司の一人よ」

 

と説明した

そして二人は、時空管理局本局の次元航行艦隊運用部に向かった

そして中に入ると、一番近くの人物に

 

「すいません。ハラオウン提督とロウラン提督は、何処に居ますか?」

 

と問い掛けた

すると、その人物は

 

「お三方でしたら、第五会議室に居ますよ」

 

と言った

 

「ありがとうございます」

 

ティアナはそう言うと、裕也を伴って歩き出した

すると、裕也が

 

「お三方? ということは、もう一人居るのか?」

 

と首を傾げた

それを聞いたティアナが

 

「それだったら多分、リンディ・ハラオウン提督ね」

 

と言った

そして、目的の会議室に着いたらしく、ノックして

 

「ティアナ・ランスターです。彼も連れてきました」

 

と言った

すると、中から

 

『どうぞ』

 

と入室を促された

それを聞いたティアナは、ドアを開けて

 

「失礼します」

 

と裕也と一緒に入った

中には、先日出会ったクロノの他に二人の女性が居た

一人は、水色の髪に額に特徴的な模様がある女性

そしてもう一人は、一房だけ長く伸ばした紺色の髪に眼鏡を掛けた女性だった

その三人を見て、ティアナは

 

「お呼びとうかがいました」

 

と言いながら、敬礼した

すると、クロノが

 

「敬礼はいい。まずは、座りなさい」

 

と言って、二人に座るように促した

促された二人は、クロノに示された椅子に座った

すると、クロノが

 

「さて、裕也・カーバイド。改めて自己紹介しよう。僕は、クロノ・ハラオウン。時空管理局本局所属、次元航行艦隊の提督をしている。そして、こちらの人が僕の上司に当たる人。レティ・ロウラン提督だ」

 

と眼鏡を掛けた女性の名前を告げた

すると眼鏡の女性

レティ・ロウランは、軽く会釈してから

 

「初めまして、裕也・カーバイド君。私は、レティ・ロウラン提督よ。よろしくね」

 

と名乗った

それに裕也が頭を下げると、もう一人の女性が

 

「それじゃあ、私ね」

 

と言った

そして、その女性は

 

「私は、リンディ・ハラオウン。クロノの母親で、今は次元航行艦隊の提督であり、責任者ね」

 

と言った

それを聞いた裕也は、ゆっくりとティアナに視線を向けた

その理由を察したのか、ティアナは

 

「間違いなく、母親よ」

 

と小声で教えた

それを聞いた裕也は、視線を前に戻した

すると、クロノが

 

「裕也、ティアナ。母さんとロウラン提督に、裕也のことを説明してくれ」

 

と言った

それを聞いた裕也は、目を細めた

すると、ティアナが

 

「あのお二人なら、大丈夫よ」

 

と裕也に言った

それを聞いて、裕也は少しすると

 

「分かった。話そう」

 

と頷いた

それを聞いてティアナも、クロスミラージュが得たデータを表示

裕也の説明を補足した

そして、聞き終わると

 

「本当に、アルハザードの技術は、我が家に関わってくるわね……」

 

とリンディが言った

すると、裕也が

 

「アルハザードの技術とは、クローン技術のことか?」

 

と首を傾げた

すると、クロノが

 

「ああ、その通りだ。更に言えば、そのクローンに記憶を転写する技術もな」

 

と説明した

それを聞いた裕也が腕組みしていると、リンディとレティの二人が

 

「プロジェクトF……まだ続いてるのね」

 

「監査部に、怪しい資金の動きがないか調べてもらいましょう」

 

と話し合っていた

 

「プロジェクトF?」

 

「人造魔導師計画……裕也みたいな魔導師を、人工的に産み出す計画よ」

 

裕也が問い掛けると、ティアナがそう説明した

それを聞いて、裕也は

 

「愚かなことをしたものだ」

 

と言った

それを聞いた全員の視線が、裕也に集まった

すると、裕也は

 

「あの研究所、内部が大分崩落していたな?」

 

と裕也が問い掛けた

それを聞いたティアナが

 

「ええ……でもあれは、自然に崩落したんじゃないの?」

 

と言った

すると、クロノが

 

「いやあれは、鑑識班が言うには内部で攻撃魔法が使われたのが原因らしい。上手く偽装されていたそうだが」

 

と言った

それを聞いたリンディが

 

「まさか……」

 

と呟いた

それを肯定するように、裕也が

 

「人選をしたのかは知らないが、産み出した者の中に、どうしようもない輩が居るとは、考えなかったのか」

 

と言った

すると、レティが

 

「つまり……何処かに、その個体が紛れ込んでいると?」

 

と言った

それを聞いて、裕也は

 

「俺が記憶している限りだが、もう一人成功個体が居ると言っていた……そいつは確か、爆炎の使い手だった」

 

と言った

それを聞いたクロノが

 

「爆炎とは、厄介な能力を……」

 

と呟いた

そして、裕也を見て

 

「しかし、もう少し早くに言ってくれてもよかったんじゃないのか?」

 

と、少し批難するように言った

すると、裕也は

 

「眠らされていた影響なのか、記憶の一部に欠如があるようだ。それに、俺も思い出すのに時間が掛かった」

 

と言った

それを聞いて、リンディが

 

「クロノ、言ってもしょうがないわ。それよりも、その個体を探しだすほうが大事よ」

 

と言った

そして、裕也を見て

 

「それで、他に何か手懸かりはないかしら? なんでもいいの」

 

と言った

それを聞いて、裕也は少し黙考し

 

「覚えている限りだが、そいつは青い髪の女だったな……確か、番号は……N0」

 

と言った

それを聞いたクロノが

 

「青い髪の女か……」

 

と呟きながら、顎に手を当てた

すると、リンディが

 

「クロノ……確かこの半年、時空管理局の高級仕官が殺される事件が起きてたわね」

 

と思い出すように言った

すると、クロノは

 

「ええ……中には、腕のたつ護衛を連れていた将校も居ましたが……まさか」

 

とリンディの真意に気づいたように、腰を上げた

すると、リンディは

 

「ええ、可能性は高いわ……殺し屋、ナイトレイド」

 

と言った

それを聞いたクロノは

 

「もう一度、殺された者達に共通点がないか探します」

 

と言って、通信ウィンドウを開こうとした

しかし、それをリンディは制して

 

「ランスター執務官。貴女に、その事件の調査を依頼します。解決のためならば、次元航行艦隊は協力を惜しみません」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

「わかりました。その依頼、引き受けます」

 

と言ったのだった



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ティアナの懸念

この章は、短いです
そして、今回も短いです


「殺し屋ナイトレイド……人相、性別、年齢、一切が不明の凄腕の殺し屋……」

 

「犠牲になった将官達のデータだ」

 

裕也はそう言いながら、ティアナの机の上に一冊のファイルを置いた

ティアナは自身のパソコンで、件の殺し屋のデータを閲覧していた

とはいえ、その殺し屋

ナイトレイドのデータは、恐ろしい程に無かった

分かっているのは、相手が凄腕ということだけ

 

「ありがとう、裕也」

 

ティアナはそう言って、裕也が置いたファイルを手に取った

そのファイルには、ナイトレイドに殺された将官、約十数名の書類が纏められていた

 

「結構、犠牲者が多いわね……護衛を含めたら、五十人足らず死んでるじゃない……」

 

「その中には、フリーランスだが……ランクSに匹敵する魔導師も居たようだ……それが、これだ」

 

裕也はそう言って、別のファイルを置いた

それをティアナは取り、開いた

そして、数枚見て

 

「ランクAA+……それほどの魔導師が、一撃で……」

 

と唸るように呟いた

彼女は、その域の強さをよく知っていた

だからこそ、それを殺せるナイトレイドの強さに驚いた

ティアナは少し悩むと、裕也を見て

 

「裕也、どう思う?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、裕也は

 

「ほぼ間違いなく、N0だろう……」

 

と言った

それを聞いて、ティアナは

 

「でしょうね……ランクAA+なんて、シグナム副隊長並……それが、一撃でなんて……そうなると、戦闘機人かしら……」

 

と呟いた

そして改めて、ある一人の犠牲者リストを見た

そして

 

「もしかして……」

 

と言ってから、別の犠牲者リストを見始めた

そして、次々と犠牲者リストを捲った

すると

 

「やっぱり……」

 

と呟いた

すると裕也が

 

「何か分かったのか?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、ティアナは

 

「ええ……殺された将官達は、全員……穏健派……それも、ラダビノット大将と繋がりが強かった将官達ね」

 

と言った

それを聞いて、裕也は

 

「つまり、ナイトレイドは……」

 

「強硬派の誰かに雇われているか、その庇護下に居る可能性が高いわね」

 

裕也の言葉に、ティアナはそう言った

ティアナが言った、穏健派や強硬派とは

それは、新たに見つかった世界に対する姿勢の派閥である

穏健派は、出きるだけ相手の主義主張を尊重し、歩み寄る姿勢の派閥だ

それに対して強硬派は、相手の主義主張を無視し、その世界を強制的に時空管理局の支配下に置いて、あらゆる科学技術や、未知の魔導技術を接収しようという派閥である

以前は対等な比率で、中々対応が決まらないでいた

そして今は、代表だったレジアス中将の死去

更に、バックボーンだった最高評議会の消滅が重なり、その勢力は大分小さくなっていた

最早、見る影も無いと言っても、過言ではない

だが少なからず、残っている強硬派も居る

だが、いくら執務官とは言っても、簡単にその将官達を調査することは出来ない

だからだろう、ティアナは

 

「クロノ提督に、連絡を」

 

使える手は、全て使うことにした

嫌な予感がしたからだ

 

(これを見過ごしたら、何か取り返しのつかないことになりそう……それこそ、世界レベルで……)

 

ティアナはそう思いながら、クロノの顔が映った通信ウィンドウに

 

「クロノ提督、一つお願いが……」

 

と言ったのだった



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一歩

捜査開始して、数日後

 

「はい。これが、調査した結果だよ」

 

とティアナにファイルを差し出したのは、長い緑色の髪に、白いスーツを着た男性局員

時空管理局査察官、ヴェロッサ・アコーズだ

そのファイルを、ティアナは受け取り

 

「ありがとうございます、アコーズ査察官。助かりました」

 

と感謝の言葉を述べた

すると、ヴェロッサは

 

「いやいや。こういうのは、まさに僕向きだからね」

 

と朗らかに答えた

ヴェロッサは希少技能(レアスキル)で、触れた相手の思考を読むことが出きるのだ

その希少技能は秘匿性も高く、相手に気付かれずに、相手の秘密を調べることが出きるのだ

そしてティアナはクロノを通じて、ヴェロッサに強硬派の将官達の調査を依頼

ヴェロッサは、その調査結果を持ってきたのだ

そしてティアナが、軽く目を通していると

 

「そう言えば、ティアナちゃんが部下にしたっていう彼はどこだい?」

 

とヴェロッサが問い掛けた

するとティアナは

 

「裕也なら、今は技術部の所に行ってます。渡されたデバイスを、確認したいからと」

 

と説明した

それを聞いたヴェロッサは

 

「うーん、タイミング悪かったな。会っておきたかったんだけども」

 

と唸った

場所は変わり、技術部のある一室

 

「うん……これで、いいかな? ようやく、本来の部品が来たよ」

 

とマリーは言って、袖で汗を拭った

すると裕也が

 

「お疲れさまです」

 

と言って、コーヒーを注いだカップを置いた

それを持って、マリーは

 

「ありがとうね、裕也君」

 

と感謝の言葉を言ってから、コーヒーを一口含んだ

そして

 

「とりあえず、これで仕様書通りの性能は発揮出きるよ。ただ少しピーキーだから、気を付けてね」

 

と裕也に忠告して、デバイス

白夜叉を手渡した

それを受け取り、裕也は

 

「感謝します……どうも、一般デバイスでは思うように魔法が使えないので」

 

と言って、持っていた剣型デバイスをマリーに手渡した

するとマリーは

 

「まあ、君は色々と規格外だしね。仕方ないよ」

 

と言って、その剣型デバイスのチェックを始めた

すると

 

「うわぁ……魔力回路がショート寸前……それに、刀身も大分ダメージがある」

 

と漏らした

そして、少しすると

 

「あぁ……やっぱり、高い魔力出力に耐えられなかったかぁ」

 

と呟いた

そして、端末を操作してから

 

「これは、私が修理してから、返却しておくね」

 

と言った

それを聞いた裕也は

 

「ありがとうございます。助かります」

 

と感謝の言葉を述べた

その後裕也は、その部屋から退出

ティアナの執務室に戻ろうとした

その時

 

『裕也、今大丈夫かしら?』

 

とティアナから、音声通信が来た

すると裕也は

 

「今、そちらに戻っている途中だ」

 

と返答した

それを聞いて、ティアナは

 

『なら、まだ本局ね。だったら、第八転移ポートを使って、合流しましょう』

 

と言った

それを聞いた裕也は

 

「何か、進展したか」

 

と言った

すると、ティアナは

 

『ええ、大きな一歩になるわ』

 

と言った

それを聞き、裕也は

 

「了解した。急ぎ、合流する」

 

と言って、駆け足で目的の転移ポートに向かったのだった

 



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急転

裕也とティアナは合流後、ティアナの車である場所に向かっていた

 

「こいつが、重要参考人か……」

 

「ええ……時空管理局地上本部の准将……アラーム・ザッカート准将よ……」

 

アラーム・ザッカート准将

JS・R事件の時に死んだ、レジアス・ゲイズ中将の腹心の部下だった男である

彼も武闘派で、アインへリアルの試験配備に尽力した人物である

しかし、そのレジアスが死んだ後は不思議と大人しくなっていた

 

「アコーズ査察官の話では、彼の記憶にN0という名前があったそうよ……なんとか、証拠が見つけられれば……」

 

とティアナが、期待を滲ませた

その時だった

進行方向先で、爆煙が上がった

 

「あれは!?」

 

「ティアナ、先に行くぞ」

 

裕也はそう言うと、車のルーフを開け始めた

それを見たティアナは

 

「個人飛行の承認、お願いします!」

 

と時空管理局に通信をした

すると、一人の管制官が出て

 

『個人飛行、承認します!』

 

と返答した

それを聞いた裕也は、開いたルーフから飛び出して、飛んでいった

それを見送ったティアナは

 

「私も、急がないと」

 

と言って、ボンネットにパトランプを展開

車の速度を上げた

そして、数分後

 

「ここか……」

 

裕也は燃え盛る大きな家に付いた

そして、気付いた

その炎の中から、一人出てくることに

 

「貴様……N0か」

 

「へぇ……久しいな、U8」

 

それは、水色の髪の女

そいつが、ナイトレイドこと、N0だった

そのN0の手は、血に濡れている

 

「貴様……アラーム准将を殺したのか」

 

「ああ……用済みだと殺そうとしてきたからな。返り討ちにしてやったのさ」

 

裕也の問い掛けに、N0は楽しそうにそう答えた

それを聞いた裕也は

 

「そうか……」

 

と言って、瞬時にバリアジャケットを展開

それと同時に、刀で切りかかった

その一撃をN0は、素手で掴んで受け止めた

 

「はっ……非殺傷設定、だったか? そんなの、我々には不要だろう?」

 

「今の俺は、一応は管理局に所属しているからな……」

 

裕也の言葉を聞いて、N0は鼻で笑い

 

「忘れたか? 我々は兵器だぞ? だと言うのに、管理局に属する? 馬鹿が!」

 

と至近距離で、爆発を起こした

そのタイミングで、ティアナの車が到着

 

「裕也!?」

 

とティアナは、驚きの声を上げた

すると、N0は

 

「ほう……時空管理局の執務官か……」

 

とティアナに気付いた

そして、手を向けながら

 

「見られたからには……」

 

と魔力を高めた

だが

 

「疾!!」

 

と声がして、N0の右手が肘から跳んだ

 

「むっ!?」

 

「忘れたか……俺達は、あの程度では死なないと!?」

 

そう言った裕也は、至る所から血を流している

しかし裕也は、そんなことは気にせずに

 

「ティアナ。准将はあの中だ」

 

と轟々と燃え盛っている豪邸を刀で指し示した

そして、続けて

 

「先ほどこいつは、返り討ちにしたと言った……もしかしたら、まだ生きてる可能性がある」

 

と告げた

それを聞いて、ティアナは

 

「分かったわ……そいつの捕縛、お願いしても?」

 

と裕也に問い掛けた

すると裕也は、刀を肩に担いで

 

「問題ない、行け」

 

と言った

それを聞いたティアナは、瞬時にバリアジャケットを展開

炎の中に飛び込んだ

それを見たN0は、鼻で笑い

 

「あんな女一人で、どうにかなると?」

 

と問い掛けた

すると裕也は

 

「意外と、なるかもしれんぞ?」

 

と言って、構えたのだった



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焔の魔神

「准将! どこですか、准将!!」

 

燃え盛る炎の中で、ティアナは必死に声を上げていた

それは、微弱だが生態反応が出ているからだ

その反応を頼りに、ザッカート准将を探していた

その時、ガラッという崩れる音が聞こえて、ティアナは

 

「准将!?」

 

瓦礫に埋もれている、ザッカート准将を見つけた

ティアナは急いで駆け寄ると、瓦礫を退かし始めた

だがその時、ティアナは見てしまった

腹部に、大きな穴が空いていることに

 

「これは……」

 

「貴様は……機動六課の……」

 

ティアナが言葉を失っていると、ザッカートが息絶え絶えな声を漏らした

それを聞いたティアナは

 

「ザッカート准将、執務官のティアナ・ランスターです!」

 

と名乗った

するとザッカート准将は、ティアナを一瞥してから

 

「まさか……こんな最後とはな……」

 

と呟いた

そして、ティアナを見て

 

「いいか、よく聞け……あいつ……N0に指示を下していたのは……間違いなく、私……アラーム・ザッカートだ……私が、穏健派共を殺すように指示を出していた……勢力を拮抗状態に……戻すために」

 

と言った

 

「准将……」

 

 

「今の記録したな……デバイスよ」

 

《はい、間違いなく》

 

ザッカートの問い掛けに、クロスミラージュはそう答えた

それを聞いて、ザッカートは

 

「もう私は……長く持たない……そんな私よりも、N0を……止めるんだ……あいつは、人を殺すのを……楽しんでいる……そんな奴を野放しにしたら……大変なことになる……」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

「わかりました……准将」

 

と言って、立ち上がった

そして、背を向けて

 

「それでは……」

 

と言って、駆け出した

その直後、一際大きな崩落音が響き渡った

肩越しに見れば、数mもある瓦礫が崩れ落ちていた

ザッカートはそれを見ていたから、ティアナを行かせたのだろう

その時、外で大きな爆発音が聞こえた

 

「裕也!」

 

炎の中から出たティアナが見たのは、文字通り炎の魔神と化した裕也だった

それは、ティアナが突入した後まで遡る

裕也とナイトレイドは、油断なく対峙していた

するとナイトレイドは、裕也に切られた右腕を拾い

 

「まあ、この程度だったらな」

 

と言って、乱雑にくっつけた

すると、僅かに光ってからくっついていた

それを見た裕也は

 

「自己再生能力か……」

 

と言った

すると、それを聞いたナイトレイドは

 

「ああ……だが、これだけじゃないぜ!!」

 

と言って、左手を右から左に振るった

その直後、裕也の胸部から血が吹き出した

 

「これは……風の刃か」

 

「ああ……それが、アタシに与えられたIS。エアリッパーだ!」

 

ナイトレイドは、高い再生能力の他に戦闘機人として、風の刃を生成する能力を与えられたらしい

風による不可視の刃

それで、数多くの高ランク魔導師を葬ったのだろう

だが、裕也とて人造魔導師計画の一人

その程度で、倒れる訳がなかった

その後も裕也は、幾度となくナイトレイドと激突

出血傷を増やしていた

ふとその時

 

「しかし、このままでは無駄に血が流れるだけか……」

 

裕也はそう言って、両手に持っていた刀を消した

そして

 

「両腕解放……奈落の業火……固定、掌握」

 

両手に出した焔の球体を、掴んだ

その直後、裕也の体が焔と化した

黒い焔の化身に

 

「業火の魔神……」

 

「ははっ……いいぜ……楽しもうぜ、殺し合いをさぁ!!」

 

裕也の姿を見て、ナイトレイドはそう言いながら笑った

そして、二人は激突した

ティアナが戻ってきたのは、正にそのタイミングだった

そして、この事件は終局を迎える

 



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決着

ただ今、割烹にてスバルの相方募集中
詳しくは、割烹にて


(シャ)!!」

 

ナイトレイドは気合の声を上げながら、腕を横に振るった

風の刃の一撃は、裕也の腕を断ち切った

 

「裕也!?」

 

それを見たティアナは、驚愕の声をあげた

今裕也は、回避する素振りすら見せなかったのだ

切られた腕は、落ちる途中で火の粉となって消えた

それを見たナイトレイドは

 

「はっ! 回避が間に合わないのか!?」

 

と馬鹿にするように、声をあげた

だが次の瞬間、驚愕した

何故ならば、切られた右腕が再生したのだ

その右腕の調子を確かめるように、裕也は右腕を軽く動かしながら

 

「今の俺は、体が炎で出来ている……通常の魔法や物理攻撃では、倒せないぞ」

 

と言った

それを聞いたナイトレイドは

 

「反則くせえな!」

 

と悪態混じりに、両手の指を鳴らした

その直後、裕也の両腕が肩から切り裂かれた

だが、すぐに再生

裕也は、ナイトレイドに向かって歩き始めた

 

「この……近寄るな、化け物が!!」

 

ナイトレイドはそう言って、裕也に向けて次々と攻撃を繰り出した

だが、ナイトレイドが繰り出した攻撃は裕也に明確なダメージを与えられない

そして、裕也が目前まで迫ると

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

とナイトレイドは声を上げながら、爆裂を繰り出した

その威力は凄まじく、ティアナの主観ではなのはのスターライトブレイカーに迫っていた

 

「は、はは……幾ら化け物でも、これで……」

 

クレーターの中心部を見ながら、ナイトレイドはそう言った

だが、その直後

 

「炎の化身となった俺に……爆裂が通用すると思ったか!!」

 

と火柱が上がった

それを見たナイトレイドは

 

「なっ……」

 

と言葉を失っていた

それは、恐怖だった

自分の攻撃が一切通用しない、という恐怖

だがティアナは、別の恐怖を感じていた

それは、裕也から立ち上っている炎

それがまるで、裕也の命を薪にして燃え上がっているように見えたのだ

 

「裕也……!」

 

その間にも、裕也はナイトレイドに接近

そして、ナイトレイドの前に立った

 

「俺やお前みたいな兵器はな、存在するわけにはいかないんだ!」

 

裕也はそう言って、ナイトレイドの頭を掴んだ

その直後

 

「ガァァァァァァァァ!?」

 

とナイトレイドは絶叫した

その理由は、至って単純

ナイトレイドの顔が、裕也の炎で焼かれているからだ

ティアナの耳にも、肉が焼かれる音が聞こえる

だからティアナは、急いで走り出していた

時空管理局の執務官として、犯人を生かして捕まえるために

そして何よりも、裕也を止めるために

 

「裕也!」

 

ティアナは、裕也の名前を呼びながら裕也の腕に抱き付いていた

それにより、ティアナは両腕に炎による火傷がきた

だが、ティアナは放さないで

 

「殺しちゃダメ……そいつには、罪を償わせるから……!」

 

と言った

そして、強い意思の籠った目で裕也を見て

 

「それに、裕也は兵器じゃない……人間よ!」

 

と言った

それを聞いた裕也は、思わず固まった

するとティアナは

 

「私の知り合いに、戦闘機人が居るわ……でもその子とその子のお姉さんは、人として生きようとしてる……貴方は、どうなの?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、裕也は答えなかった

だが裕也の体は、炎の化身から普通の体に戻った

そして

 

「俺は……俺は……」

 

と繰り返し呟きながら、掴んでいたナイトレイドの頭を離し、俯いた

どうやら、どう答えていいか分からないらしい

そんな裕也に、ティアナは

 

「だったら、一緒に過ごしましょう……人として。一人の貴方として……」

 

と言いながら、俯いた裕也の頭を撫でた

その時になって、遠くからサイレンが聞こえ始めたのだった



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解決

「……以上が、今回の事件の顛末です」

 

「わかった。ご苦労だったな、ランスター執務官」

 

ナイトレイドを捕まえて数日後、ティアナは時空管理局本局のクロノの執務室に訪れていた

内容は勿論、今回の事件の報告だ

 

「また、上層部……しかも、准将か……」

 

「はい。調べた結果、ナイトレイドを発見し、受け入れたようです」

 

ティアナの報告を聞きながら、クロノはティアナが渡した書類を読んでいた

そして、読み終わったらしく

 

「なるほどな……改めて、ご苦労だった。ランスター執務官」

 

と言いながら、その書類を置いた

そして、ティアナを見て

 

「それで……彼はどうだ?」

 

と問い掛けた

クロノが言った彼というのは、裕也のことだ

 

「裕也なら、今は私の執務室に居ます……」

 

ティアナは、表面的なことを答えた

すると、クロノは

 

「大丈夫。フェイトから聞いた……闇の魔法、使ったんだろ?」

 

と問い掛けた

それを聞いたティアナは、一回目を閉じてから

 

「私が見たのは、一回だけ……なったのは、炎の魔神です」

 

と答えた

それを聞いたクロノは

 

「なるほどな……ナイトレイドが怯えていたのは、それか」

 

と頷いていた

捕まえたナイトレイドは、今は魔法と能力を封じる手錠をして、隔離医療施設に居る

裕也の炎により、顔に重度の火傷を負ったからだ

そのナイトレイドは

 

『炎……炎の魔神……』

 

と怯えた様子で、それだけを呟いているらしい

 

「それで、ランスター執務官は両手は大丈夫かい?」

 

「はい……そちらは、裕也が治してくれましたから……木ノ香さんにも匹敵する回復魔法でした」

 

クロノの問い掛けに、ティアナは両手の袖を捲った

確かに、火傷の痕すら残っていない

 

「攻撃魔法だけでく、支援魔法も使いこなすか……凄いな」

 

「裕也曰く、回復魔法は必死に覚えたそうです……助けられる命なら、助けたかった……と」

 

個人には魔法適性というものがあり、今のミッド世界ではミッド式魔法、近代ベルカ式魔法、古代ベルカ式魔法に大分することが出来る

それらの魔法も、攻撃魔法と支援魔法に分類することが出来る

その攻撃魔法と支援魔法だが、個人の性格や魔力資質でどちらかに適性が分けられる

例えばだが、なのははその性格から攻撃魔法と支援魔法両方が使えるが、比率的にはおおよそ攻撃魔法に6

支援魔法に4となる

そしてシャマルは、その性格から支援魔法に比率が置かれていて、攻撃魔法が約3

支援魔法が7となっている

なおシグナムは、攻撃魔法に8

支援魔法が2となっている

これらは全て、性格が中心要素になっているらしい

 

「そうか……彼の性格からでは、攻撃7に支援が3と見ていたが……」

 

裕也の性格は、冬也に近いだろう

普段は寡黙だが、時には苛烈になる

それを考えると、攻撃魔法に比率が置かれているのだ

 

「なんでも、生態兵器として様々な戦場を駆けていたそうですから……中には、助けられそうな人も居たかと」

 

「それが、彼に回復魔法を修得させた……か……」

 

二人は、裕也がどのような戦場を歩いたか知らない

だが、本来なら攻撃魔法に特化している裕也が回復魔法を修得する

それが、二人に裕也が歩いてきた戦場(地獄)を想像させた

生き地獄を

そして、しばらくしてクロノが

 

「それで、彼を正式に補佐官にすると?」

 

とティアナに問い掛けた

 

「はい。裕也は、疑いようの無いほどに有能です……戦闘技能も事務作業も」

 

「わかった……僕がラダビノット大将に根回ししよう」

 

ティアナの言葉を聞いて、クロノはそう言った

それを聞いたティアナは

 

「ありがとうございます」

 

と頭を下げた

そしてクロノは、開いた画面を見て

 

「ところで、ランスター執務官。休暇が貯まっているようだな?」

 

とティアナに問い掛けた

すると、ティアナは

 

「あ、はい。中々休む暇が無く」

 

と頭を掻いた

それを聞いたクロノは

 

「人事部から催促が来ているのは、知っているな?」

 

とティアナを見た

それを聞いたティアナは、短く呻き声を漏らした

 

「僕の所にも、休暇を取るように言ってほしいと連絡が来た……どうかな? 一週間位は、休まないか?」

 

「一週間も、よろしいんですか?」

 

「ああ……人事部が、その位は休ませてくれ。とな」

 

それを聞いたティアナは、自分が執務官になってから一度も休んでないことを思い出した

確かに、休むべきだろう

 

「わかりました。一週間の休暇を頂きます」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

そこで二人の会話は終わり、ティアナは敬礼してからクロノの執務室を退出した

そして、ティアナは自分の執務室に戻ったのだった



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二人の休暇1

「裕也、街に行くわよ!」

 

「む、む?」

 

執務室に戻ってくるなりの言葉に、裕也は思わず首を傾げた

いきなりだったこともあったが

 

「ティアナ……確か、忙しいと言ってなかったか?」

 

時空管理局の執務官という役職は、非常に少ない

時空管理局全体の人数の内、約1%にも満たないとされている

その理由が、試験の難しさだ

今や執務室として知られるフェイトだが、そのフェイトも実は試験で一度落ちている

その執務官試験は、年に一度行われる

その試験に参加するのは自由で、参加人数は毎年約100人は参加する

しかし、合格率は1%以下

何せ、執務官は危険な職務である

危険な敵地に一人で潜入し、敵を無力化し捕縛する

その敵がどういう罪を犯しているかも判断しなければならないために、法律にも詳しくないといけない

故に、試験はペーパー試験と実力試験の二種類が行われる

その二つを合格しない限り、執務官にはなれないのだ

なおその試験を、ティアナは一発合格している

 

「いいのよ。ハラオウン提督に、一週間の休暇貰ったから」

 

ティアナはそう言いながら、机の上に置いてあった車の鍵を取った

そして、再度

 

「それじゃあ、街に出るわよ」

 

と言ったのだった

そして十数分後、ティアナが運転する車は街中を走っていた

もちろん、服装は私服に着替えている

 

「裕也……確か、一人暮らししててバイトしてたって言ってたわよね?」

 

「ああ……それがどうした?」

 

窓の外を見ていた裕也に、ティアナは問い掛けた

そして、裕也の答えを聞いて

 

「貴方の教養も見させてもらったわ……貴方、学校に通ってたこと、あるわよね?」

 

と問い掛けた

すると、裕也は

 

「ああ……私立の学校に通っていたな……一応、生徒会の末席にも在籍したことがある」

 

と答えた

すると、ティアナが

 

「だったら……」

 

と言った

それは言外に、普通に生きることも出来たのでは?

と問い掛けていた

しかし、裕也は

 

「それは無理だな……何せ、俺は長くは生きられなかった」

 

と言った

 

「……え?」

 

予想外だったからか、ティアナは視線を裕也に向けた

すると、裕也は

 

「俺に施された強化施術……それは、著しく俺の寿命を短くした……どんなに頑張っても、約二十年が限界……そう言われていた」

 

と語った

それを聞いたティアナは

 

「……今は、どうなのよ?」

 

と声を震わせながら、問い掛けた

すると、裕也は

 

「調べてないから分からないな……」

 

と呟いた

それを聞いたティアナは、内心で

 

(今度、診察させましょう)

 

と誓った

そして、二人が乗った車が到着したのは、雑貨店だった

 

「雑貨店?」

 

「そ。貴方の生活用品を買うのよ」

 

ティアナはそう言って、躊躇いなく入店した

そして数十分後、二人して両手に買い物袋を持って出てきた

 

「手慣れていたな、ティアナ」

 

「兄さん、買い物下手だったからね」

 

裕也の問い掛けに、ティアナは買い物袋を車に積みながら答えた

そして、裕也を見て

 

「さて、次行くわよ!」

 

と意気込んだ

その後、二人は服も買いに行った

 

「裕也、背も高いしスタイルも良いから、何でも似合うわね」

 

「そうか?」

 

ティアナの誉め言葉に、裕也は首を傾げた

裕也の身長は約180ある

更に、裕也は全体的に細身だが、無駄なく鍛えられている体つきである

様々な服を着るが、ティアナの読み通りに何でも似合っていた

今だが、黒を基調にした長ズボンに紺色の半袖ワイシャツを着ている

その服を着たまま、一度帰宅することにした

二人の休暇は、始まったばかりである



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二人の休暇2

休暇一日目の夜

ティアナと裕也の二人は共にキッチンに立っていた

二人で夕食を作っているのだ

その時、ティアナが右手を僅かに上げた

すると、裕也が

 

「ん」

 

と胡椒を手渡した

 

「ありがとう」

 

そして、裕也が軽く左手を上げたら

 

「はい、ごま油」

 

とティアナが、ごま油の入ったビンを差し出した

裕也はそれを受け取り

 

「助かる」

 

と言った

二人の息は合っていて、ティアナはチャーハン

裕也は、中華風サラダを作っていた

そして二人は、作った料理を器に盛って

 

「それじゃあ、食べましょう」

 

「ああ。そうしよう」

 

と言って、席に着いた

そして、食べながら

 

「明日は、物件探すわよ」

 

とティアナが言った

 

「物件探し?」

 

「ええ……この部屋は一人暮らし用だから、二人で住むには狭いのよね」

 

裕也が首を傾げると、ティアナはそう言った

すると裕也は

 

「俺は寮にでも住ませてもらえば……」

 

「それで、裕也の能力を知られるわけにはいかないのよ……特に、闇の魔法を」

 

裕也の言葉に被せるように、ティアナはそう言った

寮内部は魔法の不正使用や魔法事故防止のために、魔力センサーとカメラが色んなところに設置されている

そのセンサーとカメラに闇の魔法が検知された場合、必ず調べようとする人物が現れる

ティアナはそう予測している

それだったら、自分と同じ部屋に住んでもらったほうが楽だ

しかし、今住んでいる部屋は先に述べた通りに一人暮らし用なので、二人で住むには手狭になる

だから、新しい物件を探すことにしたのだ

 

「明日は、知ってる不動産屋を巡るわよ」

 

ティアナはそう言って、チャーハンを食べた

翌日、ティアナと裕也の二人は朝から不動産屋を回っていた

 

「こちらはどうでしょうか?」

 

「……こちらの収納スペースは、どうなってますか?」

 

不動産屋が見せた間取り図を見ながら、ティアナはそう問い掛けた

すると、不動産屋は

 

「はい、こちらになっております」

 

とメモをティアナに見せた

それを見たティアナは

 

「んー……惜しむらくは、駐車場が遠いわね……」

 

と唸った

そして、少しすると

 

「すいません。今回は……」

 

と断り、不動産屋から出た

そして、外に出ると

 

「裕也、次に行くわよ……」

 

と言った

すると、猫を撫でていた裕也が

 

「ああ、わかった」

 

と言って、立ち上がった

それを見ていたティアナは

 

「裕也、動物に好かれるのね」

 

と呟いた

すると、裕也は

 

「不思議とな……」

 

と言って、車に乗った

それから、三、四件の不動産屋を見て回り、最後の場所で納得いく物件を見つけた

そして、二人は一件のファミレスで食事を終えると、引っ越しするための準備を始めた

 

「裕也はそっちお願い」

 

「わかった」

 

ティアナは自室の片付けを始め、裕也は居間の片付けを始めた

新居に向かうために



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事件遭遇

部屋を見つけた二日後、ティアナと裕也は引っ越しをした

今度の部屋は、前の倍近い広さだ

二人暮らしには、十分な広さである

そして、ある程度荷ほどきすると

 

「さてと、ご近所さんに挨拶ね」

 

とティアナは言った

そして、ご近所数部屋に回った後に

 

「それじゃあ、家具屋行くわよ」

 

と提案した

その意味が分からず、裕也は首を傾げた

すると、ティアナは

 

「貴方のタンスやらベッドを買うからに、決まってるでしょ」

 

と言った

そう言われたら、裕也に否やはなかった

ティアナの運転で、ティアナ御用達の家具屋に向かった

IKE○という家具屋だった

そこでティアナは、数点購入

翌日配送を頼んだ

そして、二人してレストランで少し遅めの昼食を取っていた時である

突如として、爆発音が聞こえた

それを聞いた二人は、視線を外に向けた

すると、少し離れた所にある一件の銀行

そこで、黒煙が上がっていた

それを見たティアナは

 

「休暇中だけど、見て見ぬ振りは出来ないわね」

 

と言って、立ち上がった

そして、レジで

 

「お釣りはいらないわ!」

 

と言って、お札を何枚か置いてレストランを出た

そして、二人してその銀行の方に向かった

すると中から銃声が聞こえて、中から数人の男達が現れた

しかもその手には、実弾銃が握られている

ティアナは執務官を示す身分証を呈示し

 

「大人しくしなさい! 私は時空管理局執務官です! 貴方達を逮捕します!」

 

と宣言した

すると、一人が

 

「うるせぇ! どけぇ!!」

 

と言って、持っていた拳銃をティアナに向けて撃った

その直後、激しい金属音がした

それは、裕也が銃弾を弾いた音だった

 

「なっ!?」

 

「こいつ!」

 

まさか銃弾を弾くとは予想していなかったらしく、拳銃を撃った奴は固まった

だがもう一人が、持っていた小銃を構えて発砲した

小銃の弾の威力と連射速度は、拳銃の比ではない

約一秒程の時間の間に放たれた数は、十発前後

だがそれすら、裕也はその両手に持った白夜叉の刀で全て弾いた

全て弾いたのを確認すると、裕也は

 

「今ので終わりか……?」

 

と問い掛けた

裕也の問い掛けに、強盗達は恐怖を覚えた

自分達の持っている武器の全てが、通じないように感じたのである

その時、裕也が不意に体を横にズラした

その直後、ティアナが両手に持ったクロスミラージュから数発の魔力弾が放たれた

放たれた魔力弾は、見事に強盗達に直撃

強盗達は動けなくなり、倒れた

 

「ありがとう、裕也。スタンバレットの複数生成、時間が掛かるのよね」

 

「構わん……それが俺の役割だ」

 

ティアナの感謝の言葉に、裕也はそう返答した

するとサイレンが鳴りながら、数台のパトカーが到着

中から、次々と局員が出てきた

どうやら、通報を受けて駆け付けたようだ

その中の一人に、ティアナは見覚えがあるようで

 

「ギンガさん!」

 

と嬉しそうにその名前を呼んだ

すると、その女性

ギンガ・ナカジマが

 

「ティアナ! 久しぶりね!」

 

と言った

すると、ティアナは

 

「あ、遅れましたが、ご婚約おめでとうございます」

 

と言いながら、頭を下げた

するとギンガは、恥ずかしそうに

 

「ありがとうね、ティアナ」

 

と言った

すると、ティアナは

 

「マックスさんは、どうしてるんですか?」

 

と問い掛けた

するとギンガは、思い出すようにしながら

 

「今日は確か、上級士官試験を受けに行ってるわ」

 

と答えた

すると、ティアナは

 

「あ、紹介が遅れました。先日から私の副官をしてくれてます、裕也・カーバイドです。裕也、こちらは陸士108部隊所属の、ギンガ・ナカジマさんよ」

 

と二人に紹介した

すると、ギンガは

 

「初めまして、ギンガ・ナカジマです」

 

と言いながら、右手を出した

すると裕也も、握手に応じながら

 

「裕也・カーバイドです」

 

と自己紹介した

その時、別の局員が近づき

 

「ギンガ陸曹長、犯人グループを全員捕縛しました」

 

と言った

それを聞いたギンガは

 

「その犯人達を、護送車に入れなさい。その後は、収容所に護送」

 

と指示を下した

それを聞いた局員は、敬礼してから離れた

それを見送ってから、ギンガは

 

「ティアナ、もしかして休暇中?」

 

とティアナに問い掛けた

するとティアナは、ここに居る理由をギンガに説明した

それを聞いて、ギンガは

 

「なるほど……運が悪かったのか、良かったのか」

 

と首を傾げた

そして、ある程度資料を纏めて

 

「それじゃあ、今度来てもらうことになると思うから、よろしくね」

 

と言って、現場検証をしている局員達に、指示出しに戻っていった

そして二人は、休暇に戻ったのだった



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休暇6日目、裕也とティアナの二人は仕事の準備に取りかかっていた

 

「ティアナ、これか?」

 

「あ、ありがとう」

 

裕也が差し出した物を受けとると、ティアナはそれをカバンに仕舞った

そして、ティアナは

 

「裕也、作られたIDは?」

 

と問い掛けた

すると、裕也は

 

「大丈夫、ここにある」

 

と胸ポケットから出した

それを見たティアナは

 

「なら、大丈夫ね」

 

と頷いた

その後も二人は、準備を続行

そして、夜

 

「んー……これで、大丈夫ね」

 

とティアナは、背伸びしながら言った

すると、裕也が

 

「ああ……明後日から、よろしく頼むな。ティアナ」

 

と軽く頭を下げた

 

「ええ、よろしくね」

 

そう返答した後、二人で夕食を作って食べた

そして就寝

したのだが

 

「これは……」

 

その日ティアナは、不思議な夢を見た

普通夢というのは、本人の記憶整理からなる思い出しである

しかしティアナは、そんな光景は知らなかった

今見ているのは、大型機内部

そのサイズは、管理局で採用されているヘリよりも大きい

内部には、よゆうで30人は乗れるだろう

しかし中に居るのは、僅か数名

しかも全員、仮面を装着している

その時、ジリリリリと警告音が鳴り響き

 

『予定降下ポイントに到着! 後部ハッチ、開放!』

 

と放送がされた

その直後ハッチが開き、広大な空が見えた

そこから、かなりの高高度に居ることが分かる

その時、一人の男が

 

「おら、先に行け。化け物が……俺達の安全を確保してこい」

 

と白地に血の涙を彷彿させる仮面を着け、頭から黒いマントを被った人物を、前に押した

すると、その人物は

 

「了解……」

 

と短く答えた

その声を聞いて、ティアナは驚いた

 

「裕也!?」

 

その声は間違いなく、自身の副官になった青年

裕也だった

しかも、今より若い

少年と言っても、差し支えないだろう

そして裕也は、ハッチの縁に立つと

 

「スエサイド1……降下する」

 

と言って、何の躊躇いもなく飛び降りた

しかも、最高時速300kmを記録するガンヘッドダイビングだ

その域の速度となると、グングンと地面が近づいてくる

そして、ある高度に達した時に着地態勢に入った

だが、一切減速せずに着地した

それを見たティアナは、絶句した

まさか、一切減速しないで着地するとは、予想していなかったのだ

普通、時速300kmで着地したら、人は無事では済まない

しかもそこに、次々と魔法や魔力弾が着弾

爆発を起こした

だが数秒後、マントが無くなっただけの裕也が爆発の中から現れた

そして、両手に刀を抜刀

最前衛の一人を、腰から両断した

そこから裕也は、一人で戦闘を続行

たった三十分程で、約100人の敵を殲滅した

それから十数分後、先程見た他の人員がパラシュート降下してきて

 

「よう、ご苦労だったな。化け物」

 

「後は、俺達が引き継ぐ。てめぇは消え失せろ」

 

と一方的に言って、剣や杖を構えて進んでいった

それを見送り、裕也はある場所に歩み寄った

そこには、裕也が胸元を刺して倒した敵の遺体があった

だがその敵は、大体10代前半の少年だった

裕也は、その敵の目を閉じさせると

 

「恨むなら、俺を恨め……呪うなら、俺を呪え……全て、背負おう……」

 

と言って、その戦場から離れた

その後もティアナは、裕也の記憶を見続けた

ある時は、敵に包囲された味方を助けるために単独で突撃した

だが、そんな裕也に掛けられた言葉は

 

「来るのが遅いんだよ、化け物が!?」

 

「なぜ、もっと早く来なかった!?」

 

「貴様が遅かったせいで、あいつは死んだ!!」

 

感謝の言葉ではなく、罵詈雑言だった

だがそれは、ティアナから見たら誹謗中傷に他ならない

裕也は、困難な作戦を成功させていた

むしろ、誉め称えられて然るべきだった

だが、誰も裕也の功績を認めなかった

 

「なんでよ……」

 

ティアナは思わず、そう呟いた

そうしている間にも、記憶は流れる

ある時には、制服を着て学校に通っていた

またある時は、エプロンを着けて喫茶店で働いていた

 

「本当に、喫茶店ね……」

 

ティアナがそう呟いた直後、突如として視界が炎に染まった

それは、大規模戦争だった

相手は、数万人規模の軍勢

それに対して、こちらはたった数百人

余りにも、絶望的な戦力差

しかしそれを、覆す戦術があった

裕也という戦術が、数と言う戦略を崩していく

だが、無傷という訳にはいかない

少しずつ、裕也は被弾していく

そんな時、敵地の真ん中で裕也は脚を止めた

それは、戦場に於いては致命的な隙

その隙を逃さず、裕也に魔法や魔力弾が殺到

大爆発を起こした

だがその直後、その爆発の中心地から炎の柱が立ち上った

それを見たティアナは、気づいた

裕也が、切り札を切ったのだと

 

「炎の魔神……」

 

ティアナがそう呟いた瞬間、煙を突き破って炎が走った

その炎に焼かれて、数十人の敵が火達磨になって倒れた

そして裕也は、更に奥へ進んだ

敵の首魁が居る、最奥へ

そして裕也は、使えば死ぬと知っていた魔導具を発動

その命と引き換えに、敵首魁を倒した

一連を見たティアナは、両手で顔を覆い

 

「報われないじゃない……」

 

と漏らした

その時、不思議な浮遊感と共に

 

『……アナ………』

 

と声が聞こえ始めた

そして数秒後

 

「ティアナ!」

 

ティアナは裕也に、揺すり起こされた

 

「ゆ……うや?」

 

「魘されていたが、大丈夫か?」

 

ティアナが肩で息をしていると、裕也は労るように言った

そして裕也は、ティアナの呼吸が落ち着くまで待ってから

 

「落ち着いたか?」

 

と問い掛けた

それにティアナが頷くと、裕也は

 

「朝食が出来たから、食べるぞ」

 

と言って、離れようとした

そんな裕也の腰に、ティアナは抱きついた

そんなティアナに、裕也は不思議そうに視線を向けた



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繋がり

次回から、(多分)イクス編です


「どうした、ティアナ?」

 

腰に抱き付いたティアナに、裕也は不思議そうに問い掛けた

すると、ティアナは

 

「報われないじゃない……」

 

と呟いた

 

「なにを言って……」

 

ティアナの言葉の意味が分からず、裕也は首を傾げた

するとティアナは、涙を流しながら

 

「裕也はあんなに戦ったのに、誰も認めなかった! 最後は、戦争を終わらせたのに……」

 

と言った

それを聞いた裕也は

 

「……なにを見た……」

 

と問い掛けた

それから、十数分後

 

「落ち着いたか?」

 

「……うん……」

 

裕也は問い掛けながら、ティアナの前に紅茶を淹れたカップを置いた

それまでの間に裕也は、ティアナが見た夢の内容を聞いた

すると裕也は、腕組みして

 

「まさか……あれか?」

 

と首を傾げた

するとティアナは

 

「どうしたの?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、裕也は

 

「あの研究所で、ガジェットの攻撃を喰らったのは覚えているな?」

 

とティアナに、視線を向けた

忘れる訳がなく、ティアナは頷いた

すると裕也は

 

「ガジェットを殲滅した後にティアナを治療しようとしたら、大分出血していたからな……俺の血を多少輸血したんだ……」

 

と言った

それを聞いたティアナが、驚いていると

 

「起きても、多少の魔力値上昇か回復力向上だと思っていたんだが……まさか、パスが繋がるとはな」

 

と呟いた

 

「パス?」

 

「ああ……ようするに、契約に近いな。俺が血をティアナに与えたために、精神的なパスが繋がったんだろうな……だから、俺の夢を見たんだ……」

 

ティアナが首を傾げると、裕也はそう説明した

そして、裕也は

 

「すまんかったな……嫌な夢を見させただろう……なるべく早く、忘れた方がいい」

 

と言った

それはまるで、自分は気にしていないという態度だった

それがティアナの琴線に触れ、ティアナは机に手を突いて

 

「裕也!」

 

と裕也を見た

いきなり呼ばれて、裕也は驚きで固まった

だが、ティアナは気にせず

 

「貴方は、絶対に幸せにならないとダメ! あれだけ奮闘したのに、あんなに戦ったのに! でないと報われない! そんなの、絶対に認めない!」

 

と裕也を指差した

更に、裕也が何か言う前に

 

「貴方は、私が幸せにする! これは、確定事項よ! あんな終わり方、認めるものですか!!」

 

と断言した

それを聞いた裕也は、椅子に座ったティアナに

 

「……なぜ、そこまで?」

 

と問い掛けた

するとティアナは

 

「納得いかないのよ、あんな終わり方に……それに、ほっとけないのよ」

 

と言った

それを聞いて、裕也は

 

「ティアナ……お人好しと言われたことないか?」

 

と問い掛けた

するとティアナは、鼻を鳴らして

 

「生憎と、言われたことないわね」

 

と返した

そして、裕也を見て

 

「それで、裕也はどうするの?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに裕也は、少ししてから

 

「よろしく頼む」

 

と右手を差し出したのだった



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イクスヴェリア編
不穏な幕開け


JS&R事件から、三年という年月が経った

その間に、幾つもの事件が起きて、解決されてきた

これは、その内の一つの話だ

 

「あっちだ!」

 

「急げ! 犯人を捕まえるんだ!」

 

轟々と燃え盛る炎の中、数人の管理局員達が走っていた

そして、その先では

 

「教えてもらいます……イクスは何処に居ますか?」

 

と問い掛けたのは、頭の半分を機械的なバイザーで覆った大柄な女だった

その前には、震える男が居た

 

「し、知らない! イクスなんて知らない!!」

 

男はそう言いながら、後退りした

しかし、女は男に歩み寄り

 

「知らないはずがありません……貴方は、イクスの居場所を知っている筈です」

 

と言って、右手で男の首を掴んで持ち上げた

その力は、女とは思えないものだった

 

「あ……がっ……!?」

 

男は女の腕を叩いて脱出しようとしているが、女の腕はビクともしない

その時だった

 

「そこまでだ!!」

 

「時空管理局だ! 被害者を解放し、投降しろ!!」

 

と管理局員達が現れた

彼等は持っていたデバイスを向けている

それを見た女は

 

「……兵士も、時が経てば変わるものか……」

 

と呟いた

だが、男を放そうとはしていない

それを見て、隊長らしい局員が

 

「スタン弾、撃てぇ!!」

 

と指示を下し、部下と共に撃った

だが、女は慌てずに

 

「左腕、武装形態……戦刀」

 

左腕を大太刀に変えて、全て弾いた

それを見た隊長は

 

「バカな!? 全て弾いただと!?」

 

と狼狽えた

すると女は、男を壁に叩き付けて気絶させて

 

「邪魔はさせません……」

 

と言って、局員達に肉薄した

場所は変わり、火災現場の外

その上空を、数機のヘリが飛んでいた

その内の何機かは、報道のヘリだった

その報道内容を聞いて、管理局のヘリを操縦していた女性パイロット

アルトが

 

「あーぁ……報道さん達、仕事が早いのは良いけど、ちゃんと規制は守ってるのかな?」

 

とぼやくように呟いた

すると、同乗者の女性

ギンガが

 

「まあ、彼等も仕事だから……守ってくれることを祈りましょう」

 

と言った

それを聞いて、もう一人の同乗者

マックスが

 

「たまぁに、規制を守らないバカが出るからな……そん時は、無理矢理にでも離させないとな」

 

と肩を竦めた

よく見れば、マックスの階級章が三尉を示している

どうやら、昇級試験を合格したらしい

 

「あんまり、やりたくないけどね……」

 

マックスの言葉を聞いて、アルトは呟くようにそう言った

その時、通信機が鳴り

 

『JXー704番機、着陸の許可が出ました。2番ヘリポートへ降りてください』

 

と告げてきた

それを聞いたアルトは

 

「了解。2番ヘリポートに着陸します」

 

と返答した

そして、ヘリは地上本部のヘリポートに向かい始めた

そんなヘリの中で

 

「この規模……嫌な予感がするんだよな……」

 

とマックスが呟いた

それを聞いて、アルトが

 

「……三年前みたいな事件には、ならないでほしいなぁ」

 

と言った

すると、ギンガが

 

「この規模だと、管理局本部の執務官が捜査してるはずだけど……知ってる人だといいわ……」

 

と呟いたのだった

 



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進捗確認

翌日、時空管理局本局のある一室

 

「……被害者はコーレル・マクマード……考古学者として知られており、今回の古代美術展の責任者となっています。前科はありませんが、以前から盗掘。盗掘品の密売。ロストロギアの違法売買の疑いにより、捜査対象となってました」

 

と言ったのは、ショートカットに揃えた髪が特徴の女性局員

ルネッサ・マグナスだった

その隣には、髪型をツインテールからストレートロングに変えたティアナが居た

 

「手口は、今までと同じ?」

 

ティアナがそう問い掛けると、ルネッサは別のウインドウを開き

 

「被害者と警ら隊員を殺害したのは、マリアージュで間違いなさそうです」

 

と告げた

それを聞いたティアナは、微笑みを浮かべて

 

「貴女が……ルネがそう言うなら、間違いないんでしょうね」

 

と称賛した

すると、ルネッサは

 

「ありがとうございます。光栄です」

 

と軽く頭を下げた

すると、ティアナが

 

「現地の捜査部隊は?」

 

とルネッサに問い掛けた

それを聞いたルネッサは、姿勢を正し

 

「港湾警備隊になっていますが、捜査窓口は現地の陸士部隊になっています……この方です……ギンガ・ナカジマ陸曹長」

 

と女性

ギンガの顔写真を表示させた

それを見たティアナは

 

「ああ……」

 

と懐かしそうに、微笑んだ

それを見たルネッサは

 

「お知り合いですか?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、ティアナは

 

「かなりね」

 

と答えた

それを聞いて、ルネッサは

 

「では、交渉はお任せした方がよろしいでしょうか?」

 

と首を傾げた

それを聞いたティアナは

 

「そうね、私がやるわ」

 

と答えた

そして、少し間を置いて

 

「ミッドに降りる準備は?」

 

とルネッサに問い掛けた

その問い掛けに、ルネッサは

 

「移動の為のチケットと、初日の宿泊場所は確保しました。簡単な着替えや身の回りの品は用意してありますが、必要な物が有れば、私がご自宅まで取りに行きます」 

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

「大丈夫よ」

 

と言った

そして、続けて

 

「それじゃあ、直ぐに発てる?」

 

と問い掛けた

 

「何時でも」

 

ティアナの問い掛けに、ルネッサは短くそう返答した

それを聞いたティアナは、頷くと

 

「それじゃあ、これから捜査拠点をミッド南西部に移動。マリアージュ事件の捜査を再開します……ルネッサ・マグナス執務官補。引き続き、同行補佐を願います。少し、負担が増えてしまいますが」

 

と言った

それを聞いたルネッサは

 

「了解です。ティアナ・ランスター執務官。カーバイド執務官補の分も、頑張らせてもらいます」

 

と言いながら、敬礼した

それから、数時間後

港湾地区、埋め立て地

そこには、三十人近くの子供達とマイクを持った一人の男性警備隊員が居た

 

『えー……我々港湾警備隊は、この辺りの海辺と港。海岸沿いの安全を守る部隊です。皆もよく見る、この制服を着た警ら隊員。お巡りさんね? それから、火事や事故の時に出動する防災担当、消防士さん。大まかに別けると、この二種類の隊員が我々の部隊で働いています。じゃあここまでで、質問のある子は?』

 

と男性警備隊員が問い掛けると、子供達は元気よく手を上げた

それを、少し離れた室内で見ていたティアナとルネッサは

 

「近くの学校の社会科見学でしょうか?」

 

「そうみたいね……三年生位かしら?」

 

と会話していた

そこに、一人の男性士官が入ってきた

顔に傷のある、大柄な男性だ

その男性は、室内を見回して

 

「あ? ナカジマ姉はまだ来てないのか?」

 

と首を傾げた

すると、ティアナが

 

「先程、少し遅れると連絡が有りました」

 

と説明した

それを聞いた男性士官は

 

「ったく……あいつは……」

 

と呆れた様子で、溜め息を吐いた

そこで、何かを思い出したように

 

「あ、失礼。港湾警備隊司令の、ボルツ・スターンだ」

 

と自己紹介しながら、敬礼した

すると、それに倣ってティアナとルネッサも

 

「初めまして、ティアナ・ランスター執務官です。こちら、私の副官の」

 

「ルネッサ・マグナス執務官補です」

 

と自己紹介しながら、敬礼した

すると、ボルツは

 

「執務官殿の話は、よく聞いてるよ。若いのに、ご活躍だそうで」

 

と言った

それを聞いたティアナは、遠慮した表情で

 

「いえ、まだまだ若輩です」

 

と言った

そのタイミングで、ドアが開き

 

「すみません! 遅くなりました!!」

 

とギンガが駆け込んできた

すると、ボルツは

 

「おう、遅いぞ! ナカジマ姉!」

 

と軽く叱責した

すると、ギンガは

 

「すみません!」

 

と再び謝罪

そして、息を整えてから

 

「ランスター執務官、お久し振りです」

 

と敬礼した

すると、ティアナも

 

「お久し振りです。ナカジマ捜査官」

 

と敬礼した

すると、ボルツが

 

「で、悪いな。別件が重なって捜査会議には同席出来ないんだが、警ら隊員の動員に関しては、こっちのナカジマ姉に権限を渡してある。事件捜査は二人で話し合って、良いようにやってくれ」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

「はい、ありがとうございます」

 

と頭を下げた

すると、ボルツは

 

「情報と経過、何か有った時の報告は、忘れずにしてくれると助かるね」

 

と言った

それを聞いたティアナは、軽く頷きながら

 

「はい、それは間違いなく」

 

と返した

そして、ギンガが

 

「今朝までのデータは、司令のデスクに送ってあります」

 

と言った

それを聞いて、ボルツは

 

「おう、後で見とく」

 

と言って、腕時計を見た

そして

 

「じゃあ、迅速な解決を期待する。頼むぜ? 執務官殿」

 

「はい。ご期待に答えます」

 

ボルツの言葉に、ティアナはそう返答した

そしてボルツは、ドアに向かいながら

 

「じゃあな、ナカジマ姉も。しっかりやれよ」

 

と言って、ドアを開けた

 

「はい! お任せください!」

 

ギンガの言葉に、ボルツは親指を立てて退室した

その後、ティアナとギンガは久しぶりの再会を喜びあい、ティアナはルネッサをギンガに紹介

しばらくは、捜査会議をしたのだった



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情報収集

会議を始めて、少しした時だった

外の訓練場から、何やら歓声が聞こえた

それが気になったのか、ティアナ、ルネッサ、ギンガの三人は外に視線を向けた

すると、訓練場を知った人影ともう一人が高速で動き回っていた

その二人が止まると、解説役の男性局員が

 

『はい! 凄いダッシュとボードテクニックを見せてくれた二人に、拍手!!』

 

と言って、それを聞いた子供達は拍手した

そして男性局員は、二人に近寄り

 

『はい。それじゃあ、二人の所属をお願いします!』

 

とマイクを向けた

すると、マイクを向けられた一人

スバルが

 

『はい! 港湾特別救助隊災害救助課レスキューフォース班所属のスバル・ナカジマ防災士長です!』

 

と自己紹介した

それに続いて

 

『同じく、レンヤ・ウエスタン防災士です!』

 

ともう一人が自己紹介した

すると、男性局員が

 

『所属長いねぇ』

 

と笑いながら言った

それを聞いて、スバルが

 

『あははは……じゃあ! スバル隊員でOK!』

 

と苦笑いを浮かべてから、そう言った

すると、レンヤ・ウエスタンも

 

『俺も、レンヤ隊員でいいぞ!』

 

と気楽に言った

それを聞いた男性局員は

 

『それじゃあ、スバル隊員とレンヤ隊員に、もう一回拍手!』

 

と言って、それを聞いた子供達は再度拍手をした

一連の光景を見たティアナが

 

「あの子……あんなこともしてたのね」

 

意外だな、といったふうに言った

それを聞いたギンガは

 

「スバル、子供受け良いからね。ああいうイベントに、引っ張りだこなんだって」

 

と説明した

すると、それを聞いたルネッサが

 

「お若い隊員のようですが、お二人のお知り合いですか?」

 

と問い掛けた

すると、ギンガが

 

「知り合いって言うより、私の妹で、ティアナの親友よ」

 

と微笑みながら、説明した

そこに、ティアナが

 

「私の一つ下だから……ルネと同い年ね」

 

と言った

それにルネッサが納得していると、ギンガが

 

「ティアナ、スバルに会ってあげて。あの子、会いたがってたから」

 

と言った

それを聞いて、ティアナは

 

「先に、今回の現場を見てからですね……」

 

と苦笑した

それから十数分後、ティアナは火災現場であり殺人現場たるビルに来ていた

そして、一枚の書類を見て

 

「……これが、被害にあった古代美術品の目録ですね?」

 

と一人の女性局員に問い掛けた

すると、その女性局員は

 

「はい。まだ精査している物も有りますが、概ね間違いないかと」

 

と答えた

それを聞いたティアナは、それを脇に抱えていたファイルに挟み

 

「そういえば、メモのような物が見つかったとも聞いたのですが……」

 

と言った

すると女性局員は、少し口ごもりながら

 

「メモというか……その、書き置きです……その……被害者の血で……」

 

と言った

それを聞いたティアナは、僅かに目を閉じてから

 

「拝見します」

 

と言った

そして、その場所に着くと

 

「こちらです」

 

とある壁を指し示した

それを見たティアナは

 

「……大きいですね……」

 

と呟くように言った

すると、女性局員は

 

「はい……鑑識班の調べでは、古代ベルカ文字で書かれているらしく、まだ解読までは……」

 

と言った

それを聞いたティアナは、壁の文章をジッと見て

 

「詩編の9……」

 

ゆっくりとだが、読み始めた

それを見た女性局員は、古代ベルカ文字を読めるティアナに驚いていた

そして、読み終わったティアナは

 

「恐らく、古文書か何らかの引用でしょう。こちら、撮影しても?」

 

と女性局員に問い掛けた

すると女性局員は

 

「あ、はい。大丈夫です……捜査に関する全権は、執務官に預けられていますので」

 

と言った

それを聞いたティアナは、懐からカード

待機形態のクロスミラージュを取り出して

 

「クロスミラージュ、撮影お願いね。なるべく鮮明に」

 

と言った

それを聞いたクロスミラージュは

 

《了解。お任せを》

 

と言って、写真撮影を始めた

それを見た女性局員が

 

「カード型ですか? 珍しいですね」

 

と言った

するとティアナは

 

「カメラじゃなく、デバイスです。後でこのデータは、こちらから聖王教会に送っておきます」

 

と言った

それを聞いた女性局員が頷いているが、ティアナは

 

(オットーかディード辺りの手が空いてたら、楽なんまけど……大丈夫かしら?)

 

と考えていた

そして一通り終わると、港湾特別救助隊の隊舎に向かったのだった



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再会

「どっこい……しょっと!」

 

「よっこいせ!」

 

スバルとレンヤの二人が、訓練フィールドの片付けをしていると

 

「やぁ、お疲れ!」

 

と案内をしていた男性局員が、二本のペットボトルを持って現れた

 

「あ、お疲れ様です!」

 

「お疲れ様です!」

 

二人が敬礼しながら返答すると、男性局員はペットボトルを手渡し

 

「いやぁ、悪いね? シルバーのエース達に、片付けまでやってもらっちゃって」

 

と言った

すると、二人は

 

「いえ、大丈夫です!」

 

「この位なら、いくらでも!」

 

と答えると、ペットボトルの蓋を開けた

そして、二人が飲み始めると

 

「今なら、レストルームには誰も居ない筈だから、ゆっくり休める筈だ」

 

と言って、男性局員は離れていった

二人はそれを見送り、片付け忘れがないか確認していた

その時

 

《相棒》

 

とマッハキャリバーが、スバルを呼んだ

 

「ん? マッハキャリバー、どうしたの?」

 

とスバルが問い掛けると、マッハキャリバーは

 

《お客さんです。メッセージが来てます》

 

と教えた

 

「お客さん? 誰だろ……」

 

お客が誰か分からず、スバルは首を傾げた

それから、数分後

 

「あ、ティア!」

 

「スバル!」

 

久しぶりの再会に、スバルは嬉しさの余りに飛び付いた

それをティアナは、受け止めると

 

「再会が嬉しいのは分かるけど、止めなさい。恥ずかしい!」

 

と注意した

すると、スバルは

 

「はーい」

 

と残念そうに離れた

そこに、少し遅れてレンヤも到着

二人から少し離れた場所で、待機していた

 

「だけど、どうしてミッドに?」

 

ティアナがミッドに居ることが珍しく、スバルは思わず問い掛けた

すると、ティアナは

 

「捜査よ。捜査……しばらく、ミッドに居ることになるわ」

 

と答えた

それを聞いたスバルは

 

「あ、あの火災関連? もしかして、繋がってる?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、ティアナは頷きつつ

 

「そうね。だから、何回かスバルに協力してもらうことになるかも」

 

と言った

それを聞いたスバルは

 

「そっか……あ、部屋はどうしてるの? ホテル?」

 

と問い掛けた

すると、ティアナは

 

「ええ。手伝いの子がホテルを取ったわ」

 

と答えた

それを聞いたスバルは

 

「だったら、私の部屋に来なよ! 下手なホテルより、セキュリティも万全だよ?」

 

と言った

それを聞いたティアナは、苦い表情を浮かべて

 

「んー……でもね……」

 

と言葉を濁した

すると、スバルは

 

「駐車場も有るし、部屋も大きいよー?」

 

とティアナの肩を叩いた

それを聞いて、ティアナは

 

「んー……ちょっと待ってて……手伝いの子に聞いてみるわ」

 

と言って、通信ウインドウを開いた

すると、サウンドオンリーと表示がされて

 

『はい』

 

とルネッサが出た

 

「あ、ルネ? ホテルなんだけど、キャンセル大丈夫?」

 

『はい。当日にキャンセルしても、キャンセル料金が出ない所を選びました』

 

ティアナの問い掛けに、ルネッサはそう答えた

それを聞いたティアナは

 

「流石、ルネは出来る子だわ」

 

と言った

 

『恐縮です』

 

「私の友達が部屋を貸してくれるって言ってるから、そっちに行くわ」

 

ティアナがそう言うと、ルネッサは

 

『分かりました。執務官の分はキャンセルします』

 

と言った

それを聞いて、ティアナは

 

「え、別に大丈夫みたいよ?」

 

と親指を立てるスバルを見ながら、そう言った

しかし、ルネッサは

 

『いえ、別口の捜査もありますから……別行動のためですから……』

 

と言った

それを聞いて、ティアナは

 

「ん……分かったわ。私の分はキャンセルで」

 

と言った

それを聞いて、ルネッサは

 

『分かりました。では、執務官はお休みください。ここ数日は、まともにお休み出来てないようですから』

 

と言った

それを聞いて、ティアナは苦笑を浮かべ

 

「そんな所ばっかり、見ないの……でも、ありがとうね」

 

『いえ、では』

 

ルネッサがそう言うと、通信ウインドウは閉じられた

それを確認したティアナは、振り向き

 

「じゃあ、お世話になるわ」

 

と頬を掻いた

すると、スバルは

 

「うん! あれ? そういえば、私が聞いてたのは男の子だったよね……?」

 

と首を傾げた

すると、ティアナが

 

「ああ、裕也ね……一個前の現場で、相手の起こした爆発で起きた落盤に巻き込まれてね……今は本局の医療フロアに入院してるわ」

 

と説明した

それを聞いて、スバルは

 

「そっか……早く復帰するといいね」

 

と励ました

それに頷くと、ティアナは

 

「そういえば、彼は?」

 

とレンヤを見た

すると、レンヤは敬礼しながら

 

「初めまして、ランスター執務官! レンヤ・ウェスタン防災士です! 執務官の噂は聞いてました!」

 

と言った

それに乗っかる形で、スバルが

 

「私のペアのレンヤ! 去年からペアを組んでくれてるの!」

 

と言った

それを聞いたティアナは

 

「へー……スバルと組めるんだ」

 

と感心していた

すると、レンヤは

 

「はい! まさか、自分があのスバルさんと組めるとは思いませんでした!」

 

と嬉しそうに言った

それを聞いたティアナは、スバルの肩を叩きながら

 

「この子、平気で突っ込んでいくでしょ? 大丈夫?」

 

と問い掛けた

すると、レンヤは

 

「はい! それを含めて、自分はペアですので!」

 

と答えたのだった

その後、三人は解散

スバルとレンヤは、一度本部へ

ティアナは、捜査協力する部隊への挨拶回りに向かったのだった

 



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その頃のライトニングコンビ

「はぁはぁはぁ! なんで、こんな星にまで管理局が!?」

 

と走っていたのは、両手でライフルを保持した男だった

そして男が転んだ時、男を影が覆った

 

「止まりなさい! この地域での狩猟行為は、保護法によって禁止されています!!」

 

と男に勧告したのは、フリードに乗ったキャロだった

そのキャロを見て

 

「飛竜に乗って監視って、原始時代かよっ!」

 

と悪態を吐いた

しかしキャロは、それを聞き流し

 

「繰り返します! この地域での狩猟行為は禁止されています!」

 

と再び、勧告した

それを聞いた男は

 

「冗談じゃねぇ! これから、ハンティングを楽しみたいんだ!」

 

と言って、ライフルの銃口を向けた

そして、照準装置がキャロをロックした

それを確認した男は、引き金を引こうとした

だがその時、草を掻き分けて走ってくる音が聞こえた

それを聞いた男は、反射的にそちらに視線を向けた

その先に見えたのは、鎗を持って走ってくる赤毛の少年だった

 

「こっちからも!?」

 

それを見た男は、流れるような操作でキャロから照準を解除

直ぐに少年

エリオを照準し

 

「ちいっ!!」

 

と連射した

普通ならば、発射された弾丸を避けることも防御することも出来ない

しかし

 

「はあっ!!」

 

男が撃った二発の弾丸は、エリオが振るった鎗

ストラーダによって弾かれた

 

「なっ!? 銃弾を弾いた!?」

 

「自然保護区域への不法侵入並びに、管理局員に向けての発砲……現行犯で、逮捕します」

 

男が驚いている間に、エリオは男が持っていたライフルを蹴り飛ばし、ストラーダを突き付けた

それを見たキャロは、通信ウインドウを開き

 

「ミラさん。こちら、キャロ・ル・ルシエ……今エリオ君が、最後の一人を逮捕しました」

 

と言った

すると、二人が所属する自然保護隊の隊長の一人たる、ミラ・バーレットが

 

『あいよ! 何回も言ってるけど、犯人を護送車に突っ込むまでが逮捕だからね? 気を抜かないように!』

 

と言った

それを聞いたキャロは

 

「わかりました!」

 

と返答した

そして、縄で縛っているエリオに視線を向けて

 

「エリオ君! 本隊と合流しよう!」

 

「了解、キャロ!」

 

と犯人を、フリードに頼んで運ぶことにした

そして、十数分後

 

「頼んだわよー!」

 

とキャロ達とミラは、犯人を詰め込んだ護送車を見送った

そして、見えなくなったのを確認すると

 

「やれやれ……今回は、大量だったね……」

 

とミラは、疲れた表情で言った

彼女も、自然保護隊では数少ない魔導師の一人である

キャロから通信がされる少し前まで、犯人を追い掛けていたのだ

 

「まあ、全員逮捕しましたし、密猟のブローカーがここは危険だと判断するのを信じましょう」

 

「まあ、計画者(ブローカー)がバカじゃないのを祈るわ……それと、お疲れ様、二人共……フリードもね!」

 

ミラがそう言うと、エリオとキャロは敬礼

フリードは咆哮を上げた

それを確認したミラは

 

「さて……二人に休暇を与えたいところなんだけど……」

 

と頭を掻いた

すると二人は

 

「大丈夫ですよ? 本も読めますし、研究も楽しいですし」

 

「僕も、フリードに乗って空を飛ぶのは楽しいです」

 

と言った

実はキャロは、新しく発見したことを本に纏めるようになっていた

その大半は動物なのだが、中には大発見も多数あり、それが最近、学者達に注目されてきていた

 

「まあ、二人のご両親もミッドに居ないからね……楽しくないか」

 

「まあ、プライバシー通信で何時でも話せますし」

 

「大丈夫ですよ」

 

ミラの言葉に、二人がそう言った

その時、二人の愛機

ストラーダとケリュケイオンがメッセージが来ていることを告げた

その相手は、スバルだった

その内容は、ミッドに遊びに来ないか?

という誘いだった

それを聞いたミラは

 

「行ってくる?」

 

と問い掛けた

すると二人は、嬉しそうに

 

「はい!」

 

と頷いたのだった

 



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シスターズ1

翌日、朝

ベルカ自治区聖王教会本部

そこの敷地内を、一人の長い茶髪が特徴の少女

ディードが歩いていた

そしてディードは、楽しそうに談笑している老人の一人に歩み寄り

 

「ディレットさん、御体の調子は良さそうですね」

 

と声をかけた

すると、その老人は

 

「ほっほ、聖王様のお導きじゃて」

 

と朗らかに答えた

実はその老人は、少し前に体調を一度崩してしまい、心配していたのである

 

「その様子なら、来週のクッキーパーティーは大丈夫そうですね」

 

「ああ。あんたら駆け出しシスターには、まだまだ負けんさ」

 

「期待してます」

 

ディードはそう言うと、軽く目礼してから離れた

駆け出しシスターというのは、ディード達を指している

今保護観察処分中の戦闘機人の内の三人は、聖王教会でシスターとして所属しているのだ

とはいえ、一人疑問符が着くのだが

そして、ディードが一人の子供に声を掛けた時

 

《ディード、今いいかな?》

 

と聖王教会所属となった二人目から、念話が繋がった

ディードの双子の姉妹、オットーだ

 

《オットー、どうしたの?》

 

《話しが二つ。ご機嫌な話と仕事の話。どっちから聞きたい?》

 

ディードが問い掛けると、オットーはそう返した

それを聞いたディードは

 

《ご機嫌な話から》

 

と言った

ここで場所は変わり、聖王教会騎士団本部のある給湯室

そこに居るオットーだが、シスター服……ではなく、燕尾服

つまり、執事の格好をしていた

その理由だが、どうやら彼女はシスター服というよりも、スカートが肌に合わないらしい

それは恐らく、彼女がボーイッシュなのが理由の一つとして挙げられるだろう

だから、シスター服ではなく燕尾服を着ているのだ

 

「今日届いた茶葉、今年の中で一番の出来だ。お茶の時間を楽しみに」

 

ディードの問い掛けに、オットーは紅茶の準備をしながらそう返答した

今彼女がしているのは、シスター・カリムのための紅茶の準備である

もはや、シスターよりも執事としての仕事の方をしているという自覚もある

 

《それは良かったわ……それで、仕事絡みは?》

 

「ランスター執務官からの依頼だ。古代ベルカに関する文献の捜索だ。ただ、僕の知識に該当するデータが見つからないんだ」

 

ディードの再度の問い掛けに、オットーがそう言った

すると、ディードは

 

《それは困ったわね……そうなると、騎士カリムの預言書と同じか、それ以上か……》

 

と困ったように言った

それを聞いて、オットーは

 

「だから僕は、この後に無限書庫に調べものに行こうと思ってる」

 

《その方がいいわね……そうなると、外出許可は?》

 

「これから……というより、今から」

 

オットーはそう言うと、紅茶セットを乗せたカートを押し始めた

向かう先は、カリムの執務室である

 

「どうぞ」

 

「失礼します、騎士カリム」

 

カリムが促すと、オットーがカートを押して入室してきた

そしてオットーは、紅茶を注ぎながら

 

「今日の茶葉は、今年の中では一番の出来です」

 

と言った

それを聞いたカリムは、書類にハンコを押して

 

「それはいいわね」

 

と言った

そして、オットーからカップを受け取ると、匂いを嗅いで

 

「ん……いい香り……」

 

と言った

そして、オットーに視線を向けて

 

「オットーも、執事姿が板に付いてきたわね」

 

と誉めた

それを聞いたオットーは、恭しく一礼しながら

 

「恐縮です」

 

と返した

そして、少し間を置くと

 

「それとこの後なのですが、外出許可を頂きたいんです」

 

とカリムに言った

それを聞いたカリムは、不思議そうに

 

「いいけど、どうしたの?」

 

と問い掛けた

すると、オットーは

 

「ランスター執務官からの依頼で、無限書庫に調べものをしに行きたいんです」

 

と説明した

それを聞いたカリムは、微笑みを浮かべて

 

「そう、いってらっしゃい」

 

と言った

それを聞いて、オットーは

 

「補佐と護衛は、シスター・シャッハ不在のため、ディードがすることになっています」

 

と語った

すると、カリムは

 

「シャッハとセイン、キチンとしているかしら?」

 

と窓の外を見た

その頃、その二人は

 

「あー……暑い……」

 

多くの信徒や同じ修道騎士達と共に、砂漠を歩いていた

 

「サバクツノゼミも元気に鳴いていますし、午後になるにつれて、もっと暑くなりますよ」

 

「マジですかぁ、シスター・シャッハ……」

 

シャッハの言葉を聞いて、セインは肩を落とした

今彼女達を含めた修道騎士隊は、同僚達と共に聖地巡礼をしている信徒達の護衛中である

 

「信徒の方達の中には、年老いた方も多くいます。ですが、元気でしょう? それなのに、貴女はなんですか」

 

「あたしゃ、一部機械なんですがね……」

 

シャッハの言葉に、セインは小声で反論した

そしてシャッハは、セインを見ながら

 

「それに、さっきからなんです? チラチラと後ろを見て」

 

と指摘した

それに対し、セインは

 

「あぁ、いや……」

 

と言葉を濁した

そんなセインを叱ろうと、シャッハが口を開こうとした

その時

 

「待った、シスター・シャッハ! ちょっちストップ」

 

とセインが制止した

しかも、シャッハが問い掛けるよりも早く

 

「一回荷物下ろすよ」

 

と言って、背負っていたリュックサックを下ろして、後ろに走り出した

 

「後ろ! 真ん中辺りのご婦人!」

 

とセインが声を掛けたのは、中心付近を歩いていた一人のお婆さんだった

年齢は、70代後半と言ったところだろうか

 

「顔色悪いけど、大丈夫?」

 

「あぁ……平気だよ……つっ」

 

セインの言葉に返答した直後、そのお婆さんは倒れそうになった

それを、セインが間一髪で支えて

 

「やっぱり……」

 

と呟いた

 

「本当に大丈夫だよ……」

 

お婆さんはそう言うが、余りにも顔色が悪い

 

「婆ちゃん、無茶はいかんよ」

 

「んだんだ。シスターに背負ってもらいな」

 

そのお婆さんの言葉を聞いたらしく、近くに居た人々が口々にそう言った

そこに、遅れてやってきたシスター・シャッハがやってきて

 

「どうやら、軽度の熱中症のようですね。シスター・セイン」

 

とセインを見た

その意味を理解し、セインは

 

「あいよ。ほれ、お婆ちゃん」

 

とお婆さんに背中を向けて、しゃがんだ

そして、お婆さんを背負うと

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

と言って、歩きだした

そして、ふと後ろを向いて

 

「次の休憩所までは、後少しだから! 水や飲み物もたくさん用意してあるからねぇ!!」

 

と教えたのだった

 



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シスターズ2

ゲンヤさん、然り気無く昇進


ミッド郊外、海上保護施設

通称、ホーム

その大浴場

そこには、戦闘機人の四姉妹が入浴していた

 

「おやぁ? どうやら、お外は雨模様っすね?」

 

と最初に外の天気に気づいたのは、湯船に浸っていたウェンディである

そのウェンディの言葉を聞いて、体の泡を流したチンクが

 

「そのようだな……今日は、不安定と言っていたからな」

 

と天気予報を思い出しながら、そう言った

すると、ディエチが

 

「嫌だなぁ……雨だと、星空が見えない……」

 

と残念そうに言った

彼女は最近、天体観測に嵌まっているので、星が見たかったようだ

それを聞いて、ノーヴェが

 

「まあな……」

 

と言葉少なげに、同意した

すると、スピーカーから

 

『はーい♪ 入浴中の、チンク、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディ♪ ナカジマ家四姉妹へ』

 

と女性

マリエルの声が聞こえた

呼ばれた四人が顔を上げると

 

『今日は早めに上がって、部屋かロビーに集まることをオススメしまぁす』

 

と言った

その理由が分からず、四人が首を傾げてた

 

『ちょっと遅い時間だけど、皆のお義父さんがお土産を持って、来てくれましたよ♪』

 

と言って、思わずウェンディは上半身を出して

 

「パパリン♪」

 

と嬉しそうに、言った

すると、チンクとディエチが

 

「魏父上か……」

 

「お義父さん……忙しいんだから、そんなしょっちゅう来なくていいのに……」

 

と言った

そして、最後にノーヴェが

 

「ま、まあ……さっさと上がろう……」

 

と恥ずかしそうに言った

それに同意してチンクが頷くと、四人は続々と湯船から出た

場所は変わり、放送室

 

「という訳で、四人共すぐに上がってくると思いますよ」

 

とマリエルが言うと、その後ろに居たゲンヤが

 

「ありがとうな、マリエル技官」

 

と感謝の言葉を言った

そして、マリエルが放送機材を止めると、放送室から出て廊下を歩き始めた

ふとその時

 

「……でも、本当……ナカジマ二佐は凄いです」

 

と呟くように、マリエルが言った

それを聞いたゲンヤは

 

「おぉ? なんだいきなり」

 

と首を傾げた

すると、マリエルは

 

「スバルとギンガだけでなく、四姉妹の保護者になっただけでも凄いのに……四人共、もうすっかりなついてます」

 

と賞賛した

するとゲンヤは、頭を掻きながら

 

「そうか? ノーヴェ辺りは、まだ距離感あるけどな」

 

と普段の言動を思い出しながら、そう言った

すると、マリエルは

 

「全然です。あれは、十分個性の範疇ですよ」

 

と教えた

それを聞いて、ゲンヤは

 

「だといいがな……」

 

と嘆息混じりに言った

すると、マリエルは

 

「あの子達が人間として生きていくための、大事な土台……それをこんな短時間で作ってくれたこと……本当に感謝してるんです」

 

と言った

それを聞いて、ゲンヤは

 

「土台?」

 

と首を傾げた

するとマリエルは、指を立てながら

 

「帰る家と、家族ですよ」

 

と言った

それを聞いて、ゲンヤは納得しながら

 

「まあ、このホームも良いところだが……早いとこ、自由に暮らせるようになれば一番いいんだがな……」

 

と言った

それを聞いて、マリエルは

 

「ですね……まあ、きっともうすぐですよ」

 

と明るく言った

そして、二人がロビーに到着しゲンヤが同意するように頷いた直後

 

「わーい! パパリン!!」

 

とウェンディが、ゲンヤに飛び付いた

 

「おっと、こらっ! ウェンディ!」

 

一応、過去から注意している行動なので、ゲンヤは軽くウェンディの頭を叩いた

すると、歩いてきたチンクが

 

「すまないな、義父上……はしゃいでしまって」

 

と頭を下げた

 

「お、おお。チンク、二日ぶりだな」

 

どうやら、ディエチの言葉の通り、そんなに期間を空けずに来ているようだ

するとウェンディが

 

「パパリン! 今日のお土産はなんすか?」

 

と問い掛けてきた

 

「あ? 食いもんだよ。つか、パパリンは止めろよ! 恥ずかしいっ!」

 

ウェンディの問い掛けに答えつつ、ゲンヤはウェンディにそう言った

するとウェンディは

 

「えぇー、いいじゃないすっかぁ。パパリン」

 

と残念そうに文句を言った

そこに、遅れてディエチがやってきて

 

「お仕事お疲れ様、お義父さん」

 

と労った

 

「おぉー、ディエチ……すまんが、これを頼む。ウェンディが重い」

 

ゲンヤはディエチに挨拶すると、持っていた紙袋を差し出した

ウェンディは、ゲンヤが重いと言ったのを聞いて

 

「重いとはなんすかぁ、乙女に向かってぇ」

 

と文句を呟いた

その間に、ディエチは袋の中を見て

 

「あ、ケーキだ」

 

と表情を綻ばせた

ディエチの言葉を聞いて、チンクが

 

「ありがとう、義父上。スイーツは大好きだ」

 

と言った

それを聞いたゲンヤは

 

「だよな」

 

と笑みを浮かべながら、チンクの頭を撫でた

そして、ノーヴェに気付き

 

「おう、ノーヴェ。お前も来るか?」

 

と問い掛けた

するとノーヴェは、顔を赤らめながら

 

「いいよ、恥ずかしい……つか、降りろウェンディ……お義父さんが……困ってるだろ」

 

と後半は小声で、ウェンディを注意した

その一連の光景を見ながら、床下収納式机を上げたマリエルは

 

(うん……やっぱり、ナカジマ二佐なら大丈夫)

 

と確信し、ロビーから静かに退室

ホーム常駐の保護官の居る部屋に向かったのだった

 



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アサルト達

「ほぉ……エリオとキャロが、ミッドにか」

 

「ああ。休暇を貰って、来るんだとよ」

 

と会話していたのは、強襲制圧部隊隊舎の副長執務室でコーヒーを飲んでいた武と冥夜の二人だった

今や二人も、時空管理局では知らぬ者は居ないと断言出来るほどに有名になっていた

 

「それに、スバルとアルトの二人も休暇だったな?」

 

「ああ。マリンガーデンに連れていく予定だとよ」

 

武はそう言うと、書類に判子を押して

 

「いやぁ、俺も休暇だったら付き合ってたんだがなぁ」

 

と言った

それを聞いた冥夜は、深々と溜め息を吐いて

 

「武……自分達の休暇の日程位、覚えておけ……」

 

と忠告した

それを聞いた武は、少しの間冥夜を見てから

 

「不知火?」

 

とパソコンの横に置いてある愛機

待機形態の不知火弐型に、視線を向けた

すると、不知火弐型は

 

《どうぞ》

 

と武の目の前に、カレンダーを表示させた

そして武は、そのカレンダーの日付を指で確認していき

 

「あ、俺達は明日休暇だったか」

 

と言って、自分の後頭部を軽く叩いた

そして、何かに気付いたように冥夜に視線を向けて

 

「もしかして、隊長が俺達を残らせたのって……」

 

と言った

それに、冥夜は

 

「休暇が近かったからだ」

 

と言った

それを聞いた武が、頭を掻いていると

 

「まったく……武は変わらぬな……」

 

と呆れた様子で呟いた

それを聞いた武が、苦笑いを浮かべると

 

「だがな、武……我等はもはや、一等陸尉……元の世界で言うならば、大尉階級だぞ? 自覚を持ってもらわねば困る」

 

と小言を言い始めた

すると、武は

 

「いやな、一応分かってはいるんだがな? こう、なんていうの? 頭に入ってこないっていうかね?」

 

と言い始めた

それを聞いて、冥夜は二度溜め息を吐いて

 

「それを、自覚していないと言うのだ。武……」

 

と呆れた表情を浮かべた

その指摘に、武は頭を下げた

そして、頭を上げると

 

「んで、どうする?」

 

と短く問い掛けた

その問い掛けに、冥夜は

 

「ふ……分かりきっていることを、今更聞くな」

 

と、笑みを浮かべながら答えた

それを聞いた武は

 

「んじゃ、スバルに連絡するな」

 

と言って、スバルに連絡しようとした

まさにその時、武の目の前に通信ウインドウが開き

 

『やっほー、武。今大丈夫?』

 

とスバルの声がした

あまりのタイミングの良さに、武は軽く笑いながら

 

「OK、OK! ナイスタイミングだ、スバル!」

 

と言った

すると、ウインドウ向こうから

 

『え、何々? どういうこと?』

 

と困惑した声が聞こえてきた

すると、冥夜が

 

「我等も明日休暇でな。どうせ、その確認だろ?」

 

と言った

それを聞いて、スバルが

 

『本当!? グッドタイミング過ぎ!!』

 

と嬉しそうに言った

そして武は、新しい書類を取って

 

「つうわけだ。明日、俺達も参加するからな」

 

と言った

すると、スバルは

 

『うん! だったら、明日の朝9時に第三空港前に来れる?』

 

と聞いてきた

 

「おお、行ける筈だぜ」

 

スバルの問い掛けに、武は書類を確認しつつ答えた

こうして、彼等の夜は更けていくのだった



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集合するのは

翌朝10時頃、ミッド第三空港前

 

「えっと……」

 

「確か、この辺に居るって……」

 

と周囲を見回していたのは、赤毛の少年と長いピンク色の髪の少女

エリオとキャロだった

すると、そんな二人に

 

「おーい! エリオ、キャロ!!」

 

とスバルが呼び掛けた

その近くには、アルト、武、冥夜の三人も居た

それを見た二人は

 

「皆さん!」

 

「お久し振りです!」

 

と三人に駆け寄った

 

「うん……お久し振り……っていうか、二人共かなり身長伸びた!?」

 

近寄ってきた二人を見て、アルトは驚愕で目を見開いた

すると、キャロが

 

「あ、はい。私はそんなには伸びてないんですが、エリオ君がかなり」

 

と言って、目線がかなり変わったエリオを見た

するとエリオは、苦笑しながらも

 

「えっと……少し……」

 

と言った

それを聞いて、武とスバルが

 

「いやいや、少しじゃないだろ」

 

「そうだよ! 私だって、少しは伸びてるのに……ほら!」

 

と、エリオの近くに立った

すると、それを見たアルトと冥夜が

 

「あははっ! スバルと頭半分しか変わらないね!」

 

「男子三日会わざらば……という奴だな」

 

と朗らかに言った

その光景は、六課時代の休憩フロアメンバーだった

実際には、ここにティアナが更に居たのだが

すると、エリオが

 

「あ、皆さんにお土産が有りますよ」

 

と言った

それを聞いて、スバルが

 

「え! 何々!?」

 

と興味深そうに問い掛けた

しかし、そんなスバルを冥夜が

 

「こら。今は移動する方が先だろう」

 

と嗜めた

六課時代は、それはティアナの役割だったが

すると、冥夜の言葉を聞いて

 

「っと、そうだね! 二人共、荷物忘れないようにね」

 

とエリオとキャロに言って、駐車場に向かった

すると、その先の車を見て

 

「この車……アルトさんのですか?」

 

とキャロが問い掛けた

するとアルトは、その車の屋根に手を置いて

 

「そうなの! 掘り出し物のヴィンテージカー! 探すのも修理するのも、苦労したした!!」

 

と自慢気に語った

すると、キャロが

 

「丸くて、可愛いですね」

 

と誉めた

 

「でしょう!? この車種、もう生産されてなくってさぁ……中古屋さんで程度の良いの見つけた時、思わず即決しちゃったよ!!」

 

キャロの言葉に、アルトは思わず力説した

その間、エリオはその車の近くに停めてあった二台のバイクを見て

 

「この二台は……武さんと冥夜さんのですか?」

 

と問い掛けた

すると、問われた二人は

 

「おう」

 

「そうだ」

 

と言葉短めに、肯定した

それを見たエリオは、再度二人のバイクを見て

 

「お二人とも、同じバイクの色違いなんですね」

 

と言った

すると、武と冥夜の二人は

 

「いや、実はな……」

 

「たまたまなのだ」

 

と言った

二人がそのバイクを購入したのは、なんと一日違いだったのだ

それは少し前

二人は一日違いの休暇の際に、それぞれ同じ店で色違いのバイクを購入

そして、同じ日に配送されたのだ

同じバイクの色違いと知ると、二人は同時に笑いだした

やはり軍人だからか、趣向が同じだったのだ

無駄が極力なく、効率的なバイク

そして色だが、武のが青地に白銀色のラインが入っていて、冥夜が紫色の中に紺色のアクセントが入ったものである

そして二人の荷物を車に乗せると、一行はミッド湾岸区の食べ歩きツアーに向かったのだった

 



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遭遇

午前11時

ミッドチルダ南西地区

そのある飲食店にて、久し振りに再会したフォワード陣+アルトは

 

「っあぁー! ここの料理、美味しいねぇ!」

 

「はい!」

 

当初の目論み通り、食べ歩きツアーを敢行していた

その中心になっていたのは、六課時代からの大食いコンビのスバルとエリオだった

二人は今食べている料理を絶賛すると、その料理とは違う料理を食べ始めた

すると、アルトが

 

「いやぁ……相変わらず、ビックリする量を食べるねぇ……」

 

と呟いた

すると、それに同意するように、武が

 

「本当になぁ……俺ですら、そんなに食べないぞ」

 

と言った

そこに、キャロが

 

「いっぱい食べれば、大きくなれるんですかね?」

 

と軽く首を傾げた

すると、それを聞いた冥夜が

 

「キャロは無理するな。食あたりを起こすからな」

 

と忠告した

すると、先ほどの料理を食べたスバルが

 

「これ、追加注文しようか!」

 

と提案

それを聞いたエリオは

 

「いいですね! すいません! この料理、大盛で追加お願いします!」

 

とエリオは、食べきったお皿を掲げて追加注文した

それに対する店員の返事を聞きつつ、スバルとエリオは目の前にある自分達の注文した主食を食べ始めた

それを横目に、他の三人はマイペースに自分達の料理を食べていた

その時、ノイズが聞こえてから、放送で

 

『ご来店のお客様にお知らせします。ただ今、ヴェルウィードホテルにて、火災が発生しました。それによる延焼の心配はございませんが、その近くの道路には交通規制がかかり、一部道路は大変混雑しております。詳しくは、管理局からの情報をご確認ください。繰り返します……』

 

と聞こえた

それを聞いたアルトが

 

「ヴェルウィードホテルって……南西地区じゃ、一番大きいホテルじゃん!」

 

と驚きの声を上げた

すると、キャロが

 

「ヴェルウィードって確か、来る途中で見た真っ黒なホテル……でしたよね?」

 

と首を傾げた

それを聞いたスバルは

 

「うん。5つ星のホテルだよ……確か、防災設備は最高クラスのだったはず……」

 

と思い出すように言った

そして、机の上に置いていた愛機に、視線を向けて

 

「マッハキャリバー!」

 

と呼び掛けた

するとマッハキャリバーは、即座に情報にアクセスし表示した

 

「防災隊は、既に出動済み……火災レベル……4!?」

 

表示されたデータを見て、スバルは目を見開き

 

「大火災じゃん!?」

 

「急ぐぞ!!」

 

アルトは驚愕し、冥夜は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった

すると、エリオとキャロは

 

「スバルさん!」

 

「手伝います!!」

 

と申し出た

それに便乗するように

 

「私も非番出動が掛かるかもだから、一回戻る! 魔導師達は先に行きな! 料金は払うから!」

 

とアルトが言った

それを聞いたスバルは、立ち上がりながら

 

「ありがと、アルト! 後でお金払うから!」

 

と言って、出口に向かって駆け出した

すると、既に走り出していた武が

 

「エリオ! エリオは俺のバイクの後ろに乗れ! キャロは、冥夜のバイクだ!」

 

と指示を出していた

それを聞いた二人は頷きつつ、武達の後に続いた

そして、十数分後

 

「到着した部隊から、順次突入! 装備は特殊水冷弾と特殊火災用消火剤! 一度帰投した部隊は、それらを補給した後、水分補給をしてから再度突入! 怪我した奴が出たら、治療! それ以降は適宜指示を出すから、指示を仰げ!」

 

ヴェルウィードホテル近くの公園に施設された司令部から、港湾特別救助隊の司令

ボルツが声を荒げながら、指示を下していた

そこに、一人の男性局員が駆け寄り

 

「非番待機と休暇組への非常呼集並びに、近隣局員への応援要請完了! それと、前線からの報告を纏めました!」

 

と言って、ボルツに書類を手渡した

その書類を一読すると、ボルツは悪態混じりで

 

「この犯人、相当性格が悪いな! 粘着性の高い燃焼材に、爆発力の高い爆弾の二段打ちをしてやがる!」

 

と言った

すると、それを聞いた一人の女性局員が

 

「それは……前回と同じ手口です!」

 

と言ってきた

それを聞いたボルツは

 

「別行動中のソードフィッシュ隊に伝えろ! 自己判断で適宜行動を許す! 迅速に、要救助者を助けろ。とな! 後、たまには分隊長らしく判断もしろ。とな!」

 

と言った

それに通信士が返答するのを聞き流しながら、ボルツは燃え盛る黒いホテルを見上げて

 

「……嫌な予感がしやがる……」

 

と呟いたのだった



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突入

ヴェルウィードホテル内部

上層階

 

『スバルさん! こちらエリオ! 現在25階、中央付近にて消防隊と瓦礫を破砕突破!』

 

『こちら、キャロ! 22階右階段! こちらも同じくです!』

 

エリオとキャロからの報告を聞いたスバルは、落下してきた瓦礫を回避して

 

「了解! 火の勢いは!?」

 

と二人に問い掛けた

 

『もの凄い勢いです……!』

 

『こちらもです。まるで、竈の中みたいに真っ赤です!』

 

二人の報告を聞きながらスバルは、二人の正確な位置をマップで把握

そして、新しく通信ウィンドウを開いて

 

「武! 冥夜!」

 

と端的に、二人を呼んだ

すると、音声のみで

 

『こちら武! 26階にて、要救助者発見! 避難路の確保中!』

 

『こちらは24階で、瓦礫の撤去中! 破砕突破は出来ん!』

 

と報告してきた

それを聞いたスバルは

 

「了解! 各員、フラッシュオーバー……突発的な爆発に注意!」

 

と注意勧告をすると、一旦通信を閉じた

そして、別のウィンドウを開き

 

「黒くて、かなり粘っこい燃焼材に、階段とエレベーターの爆破……相手は、その手の違法魔導師か質量兵器を所持してる……」

 

と真剣な表情で呟いた

そこに、ティアナからの通信が繋がり

 

『スバル! 聞こえたら返事をしなさい!』

 

と言ってきた

それでティアナからの通信に気付き、スバルは

 

「ティア! 今何処!?」

 

と問い掛けた

すると、ティアナは

 

『今ようやく、ヴェルウィードホテルに到着するところよ!』

 

と言って、その詳細な位置をマップで表示させた

それを見たスバルが頷くと

 

『今回の犯人。高い確率で、私達が追ってる犯人だと思うわ! それなら、まだ犯人は中に居る筈よ! 被害者と一緒に!』

 

と言ってきた

それを聞いたスバルは、目を見開き

 

「被害者!?」

 

とティアナに問い掛けた

すると、ティアナは

 

『ええ! 恐らくは、最上階に居るわ!!』

 

と教えた

ほぼ同時刻、ヴェルウィードホテル最上階

その一室

そこも激しく燃えていて、その部屋に泊まっていた男は頭の半分を機械質なバイザーで覆われた女

マリアージュに、迫られていた

 

「教えてください……貴方は、イクスの居場所を知っている筈です……」

 

マリアージュが機械的に問い掛けると、男

古代遺跡盗掘家、ベルカ・ディランは

 

「知らねえ! イクスなんて物は知らねえよぉ!?」

 

と震えながら、マリアージュに答えた

するとマリアージュは、更に一歩迫り

 

「知らない筈はありません……イクスは我等が王……近年では、トレディア・グラーゼが堀当てた」

 

と言った

それを聞いた直後、ベルカ・ディランは

 

「トレディア!? やっぱり、あのジジイか!!」

 

と悪態を吐いた

すると、マリアージュに視線を向けて

 

「イクスなんて物は知らねえが、トレディアの居場所なら知ってる! 今の通信コードもな!」

 

と言って、ポケットに手を入れた

すると、マリアージュは

 

「教えてください」

 

とベルカ・ディランに問い掛けた

するとベルカ・ディランは、端末を取り出して

 

「あの爺さん、ここ五年程音沙汰も無かったんだが、先月に急に連絡してきたんだ! なんでも、前に失敗した戦争を、また起こしたいんだとよ!」

 

と語りだした

 

「戦争……」

 

「ああ……詳しいことは知らねえよ? 元々あの爺さん、妙なことを言う奴だったんだ。ただ、金払いは良かったからよ!」

 

それを聞いたマリアージュは、一度頷いて

 

「今の居場所と、通信コードは?」

 

と問い掛けた

すると、ベルカ・ディランは持っていた端末を掲げて

 

「居場所は先週までだが、再開発地区の、Kの267に居た! 通信コードは、この端末に!」

 

と言って、マリアージュの足下に投げた

それをマリアージュは拾い上げて、衣料品店から盗んだのだろうコートの上着に入れて

 

「確認しました……情報提供に感謝します……では……」

 

と言って、何処かへと去っていった

其を見送ったベルカ・ディランは

 

「た、助かった……あの爺さん……どんな厄介事に首を突っ込んだんだ?」

 

と言って、脱出を始めようとした

だがその時、何か思い出すように

 

「待てよ……? イクス……」

 

と呟きながら、首を傾げた

そして、少しすると

 

「もしかして、アレのことか!?」

 

と言った

その直後、ベルカ・ディランは頭を抱えて

 

「が、ガアァァァァ!? あ、頭がアァァァァア!?」

 

とのたうち始めた

それから数十秒後、その部屋にスバルと合流したレンヤが突入してきて

 

「要救助者発見!」

 

「男性一名! 大丈夫ですか!?」

 

とベルカ・ディランに近づいた

するとベルカ・ディランは

 

「た、助けてくれ! 死にたくねぇぇ!!」

 

と懇願してきた

それを聞いたレンヤが

 

「もう大丈夫です! 今から、バリアを張ります!」

 

と教えた

その直後、スバルがドーム形のバリアを形成

脱出ルートの確認を始めた

だが

 

「た、助けてくれ! ちくしょう! 手、手が勝手に!?」

 

とベルカ・ディランの困惑した声が聞こえて、二人は振り向いた

すると見えたのは、何処から取り出したのか

ナイフを逆手持ちにした、ベルカ・ディランの姿だった

 

「ちょっ!? な、ナイフ!?」

 

「スバルさん! バリアの解除を!!」

 

スバルは驚き、自身のデバイスたるバルグレンを構えた

だが

 

「あがぎゅっ!?」

 

ベルカ・ディランは、自身の咽にナイフを突き立て、倒れた

 

「そんな……なんで……!?」

 

スバルは瞠目し、レンヤは悔しそうに歯を食い縛ったのだった



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マリアージュの正体

ヴェルウィードホテル裏手

そこは火が殆ど無く、それに伴って消防隊員も居なかった

そこに、非常ドアを蹴破ってマリアージュが出てきた

マリアージュは、着ていた服を脱ぎ捨てて

 

『僚機達……我らの王と創主トレディアは、ここには、居ない……探せ……』

 

と呟いて、一歩踏み出した

その瞬間、マリアージュの両手両足を光が縛った

 

『これは……捕縛魔法……』

 

「一応勧告します……無駄な抵抗をやめて、投降しなさい」

 

マリアージュが現状を把握していると、靴音を立てながらティアナが現れて、投降するように勧告した

するとマリアージュは、そんなティアナとバインドを見て

 

『なるほど……これは、脱出は不可能のようだ』

 

と機械的に言った

それを聞いたティアナは、油断無く構えながら

 

「賢明な判断ね……マリアージュ、貴女を連続放火殺人罪で逮捕します。抵抗しなければ、貴女には弁明の機会が……」

 

と何時もの、事務的なことを言おうとした

しかし

 

『我らマリアージュは、破軍の兵……マリアージュが、虜囚の辱しめを受けることは無い……』

 

とマリアージュが言った直後、片手が弾けた

それを見たティアナは、驚きで目を見開き

 

「なっ……腕から出血!?」

 

と声を上げた

しかし、すぐに怪訝な表情に変わって

 

「いや、違う……黒い粘着質な液体に……?」

 

と呟いた

そう言っている間にも、マリアージュの体は少しずつ崩れていく

だがマリアージュは、平然と

 

『創主トレディアとイクスを探し出せ、僚機達よ……例え我が身朽ちようとも、生み出した炎は……天を焦がす』

 

と言った

この時点でティアナは、マリアージュの体から流れ出していた液体の正体に気付いた

それは

 

「燃焼剤……!」

 

ティアナがそう言った数瞬後、爆発が起きた

そして数十秒後、少し離れた地点に、ティアナは呼吸を荒く座り込んでいた

そこに、ルネッサが駆け寄り

 

「ランスター執務官! ご無事で……治療は……」

 

と問い掛けながら、肩に掛けていたバッグを地面に下ろした

それに対して、ティアナは首を振りながら

 

「ちょっと危なかったけど……大丈夫よ……」

 

と答えた

それを聞いたルネッサは

 

「あれは……一体……」

 

と激しく燃え上がっている炎を見た

するとティアナは

 

「ねえ、ルネッサ……マリアージュは一度捕まえたけど、体が崩れて自爆しました……今も燃えてます……って言ったら、信じる?」

 

とルネッサに問い掛けた

すると、ルネッサは

 

「ランスター執務官の言葉なら、私は信じます」

 

と言って、ティアナに肩を貸して立たせた

すると、ルネッサは

 

「これで……この事件は、終わるのでしょうか……」

 

と呟いた

だが、それを聞いたティアナは首を振って

 

「終わらないわね、確実に……」

 

と確信していた

それを聞いたルネッサが、問い掛けるように視線を向けると

 

「さっきのマリアージュ……自分のことを、破軍の兵……それに、僚機達とも言っていたわ……あれは明らかに、量産し使い捨てにされることを前提にされてた……つまり、マリアージュはまだ居る……」

 

と言った

そして

 

「それに、マリアージュが言っていたトレディアとイクス……この二つが、マリアージュに深く関わりがある……ルネ、聞いたことある?」

 

とルネッサに問い掛けた

するとルネッサは、僅かに間を置いてから

 

「いえ、聞いたことありません」

 

と返答した

それを聞いたティアナは

 

「そう……」

 

と言ってから、僅かに黙考した

そして

 

「その二つを、本局に照合するように依頼。もし出なければ、無限書庫で検索を」

 

「は! すぐに!」

 

ティアナの指示を受けて、ルネッサは走っていった

それを見送ると、ティアナは

 

「……  。今、動けそう?」

 

と何処かに、通信を繋げたのだった



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無限書庫1

翌日、時空管理局地上本部

その施設の一つを、一人の少女が歩いていた

なおその頭には、一匹のフェレットが乗っている

しかしその少女

ヴィヴィオは慣れた様子で歩き、ある扉の前に到着

そして、懐から取り出したIDカードをスラッシャーに通した

すると、機械音声で

 

『IDカード、確認しました。続いて、音声確認をどうぞ』

 

と促された

それを聞いたヴィヴィオは

 

「えっと ……高町・S・ヴィヴィオです! 無限書庫に調べものに来ました!」

 

と言った

すると、また機械音声で

 

『音声、確認しました。ようこそ、ヴィヴィオ司書』

 

と言われて、ドアが開いた

そのドアを潜ると

 

「おはよう、ヴィヴィオー」

 

「おはようさん、ヴィヴィオ」

 

「司書長、よろしくなー」

 

と男女数人の司書達が、気軽に声を掛けながら飛んでいた

無限書庫内部は、一部を除いて無重力区画に成っている

その中では、飛んだ方が移動が速い

その全員に返答しながら、ヴィヴィオは目的の人物を見つけて

 

「オットー! 来たよー!」

 

と声を掛けた

すると、資料を確認していたオットーは視線をヴィヴィオに向けて

 

「ああ、陛下。御足労いただき、申し訳ありません」

 

と頭を下げた

すると、ヴィヴィオは

 

「もう……何回言ったか覚えてないけど、陛下って呼ぶの辞めてってば」

 

と文句を言った

 

「はあ……」

 

「私は、普通の9歳の女の子! 陛下とかじゃないから!」

 

ヴィヴィオのその言葉に、オットーは苦笑を浮かべて

 

「普通の女の子は、史上最年少で無限書庫司書の肩書きを持って居ないと思いますが」

 

と言った

無限書庫

それは、時空管理局が設立されるより前からあるとされる書庫だ

そして無限書庫は、その名前の通りに、無限に本を所蔵している

失われた技術が使われているらしく、有形書籍を次々と収集している

最も古いのは、今から約三千年前の物が見つかっている

 

「もう! ちょっと読書好きな、9歳の女の子! 特別扱い禁止!!」

 

オットーの指摘を受けて、ヴィヴィオはそう声を張り上げた

だがオットーは、気にした様子もなく

 

「了解です、陛下」

 

と恭しく、頭を下げた

それを受けて、ヴィヴィオは

 

「もう、意地悪ぅ」

 

と頬を膨らませた

それを聞いたオットーは

 

「滅相もない」

 

と返答した

それを聞いたヴィヴィオは、僅かに睨んでいた

すると、オットーが

 

「あの……ところで……その頭の上のフェレットは、もしや……」

 

とヴィヴィオの頭の上のフェレットを指差した

すると、ヴィヴィオは

 

「うん、ユーノパパ」

 

と答えた

そう、そのフェレットはユーノの別の姿なのだ

ユーノは肉体の傷や魔力値が限界になると、フェレットの姿になって治癒作用を上げる魔法が自働で発動するようにセットされているのだ

そのフェレットの姿になっている理由は……

 

「なんか、大量の資料が請求されて、それを徹夜で纏めたんだって……三日間掛けて」

 

ヴィヴィオがそう言うと、オットーは

 

「その資料請求をしたのは……」

 

とヴィヴィオに問い掛けた

すると、ヴィヴィオは

 

「うん……クロノ提督……」

 

と苦笑いを浮かべた

それを聞いたオットーは、思わず

 

「そのクロノ提督は……」

 

と漏らした

それを聞いたヴィヴィオは、僅かに目を逸らして

 

「……今朝、なのはママが……OHANASIしに行くって……」

 

と語った

それを聞いたオットーは、内心で

 

(無事を祈ります、クロノ提督……)

 

と敬礼していた

なおその頃、ある艦内では一人の提督がボロボロで見つかったとか……

 

「それで、資料検索の進捗はどう?」

 

気を取り直したヴィヴィオの問い掛けに、オットーはヴィヴィオに見えやすいように資料のウインドウを開いて

 

「それが、中々上手く……行かなくて……」

 

とすまなそうに言った

それを聞いたヴィヴィオは

 

「まあ、昨日聞いた条件じゃあ、絞り混みが難しそうだからね……」

 

と同意した

すると、オットーは

 

「はい。トレディアにイクス……時代は古代ベルカで、ロストロギア関連で調べてほしいと」

 

と言った

それを聞いたヴィヴィオは

 

「これまた、物騒だね……」

 

と渋面を浮かべた

すると、オットーが

 

「はい。ランスター執務官からの依頼です」

 

と告げた

その直後

 

「え、ティアナさんから!?」

 

とヴィヴィオが驚いた

 

「あれ? 言ってませんでしたか? そうです」

 

「早く言おうよ! そうすれば、私も昨日の内から泊まり込みで調べたのに!」

 

オットーの言葉に、ヴィヴィオは両手を上げて抗議した

すると、オットーは

 

「それはそれで、御家庭に心配を掛けるかと……」

 

と苦言を呈した

しかしヴィヴィオは

 

「ティアナさんには、前にお世話になったから、力になりたいの」

 

と言った

そして、キッとした表情で

 

「よし! 高町・S・ヴィヴィオ! 全力全開で調べちゃう! 検索魔法陣七式、展開!!」

 

と言って、幾重にも魔法陣を展開した

そして

 

「条件検索! イクス、トレディア! 時代は、古代ベルカ全般!」

 

と告げた

それを聞いたオットーは

 

「かなり重いですが、大丈夫ですか?」

 

と問い掛けた

すると、ヴィヴィオは

 

「しっかりご飯食べたから、大丈夫!」

 

と言った

そして

 

「検索、開始!」

 

と言ったのだった



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無限書庫2 ある親子

「んー……それっぽいのは幾つか見つかったけど、やっぱり古代ベルカ語かぁ……」

 

「はい……これは、意味付けが難しいですね……」

 

ヴィヴィオの呟きを聞きながら、オットーはそう呟いた

 

「それに、どれも決定打にはならなさそう……」

 

「はい……今軽くやっただけですが、どれも……」

 

そこまで話すと、二人は唸り始めた

すると、オットーが

 

「せめて、解読がもう少し上手くいければ……アギトさんの知識を貸していただければな……」

 

と呟いた

するとヴィヴィオが

 

「アギト? アギトなら、ルールーの所に行ってる筈だよ?」

 

と言った

 

「そうなのですか?」

 

「うん。シグナムさんが研修に行くから、休暇で行くって言ってた」

 

オットーの問い掛けに、ヴィヴィオはそう答えた

それを聞いたオットーは

 

「だったら、繋がるかな」

 

と呟いた

その頃、ある開拓世界

その空港を、大荷物を背負った子供

アギトが歩いていた

そこに

 

「アギト」

 

とアギトを呼ぶ声

呼ばれたアギトは、その声のした方向に視線を向けた

するとその先では、一人の少女

ルーテシアが、手を振っていた

 

「ルールー!」

 

「久しぶり」

 

アギトは荷物を近くに下ろすと、ルーテシアに飛び付いた

そんなアギトを受け止めたルーテシアは、アギトが下ろした荷物を見て

 

「これまた、凄い荷物だね」

 

と言った

するとアギトは、その荷物を叩いて

 

「あたしと八神家一同からのお土産! 何回かお世話になってるからさ」

 

と言った

その時、近くにルーテシアの母親

メガーヌが居ないことに気づいて

 

「あ、あれ? お母さんは?」

 

と問い掛けた

するとルーテシアは、思い出しながら

 

「買い物にに向かったよ。アギトが来るから、ご馳走を作るって」

 

と言った

それを聞いたアギトは

 

「それは嬉しいけど、荷物どうしよう……」

 

と呆然とした

すると、ルーテシアが

 

「駐車場に車が停めてあるから、積んでおこう」

 

「おう!」

 

ルーテシアの提案を聞いて、アギトは頷いた

それから、約一時間後

 

「はい、いらっしゃい」

 

「お邪魔しまーす!」

 

メガーヌが運転する車で、アギトはアルピーノ家

またの名を、ホテルアルピーノに到着した

荷物を居間に置くと、ルーテシアが

 

「マフィン焼いてあるから、待ってて」

 

と言って、奥に入っていった

 

「うん!」

 

それを見送ったアギトは、居間にある本棚に気付いた

 

「また、本の数増えたな……古代ベルカの文化と歴史……聖王の歴史……ルールーは本が好きだなぁ」

 

「ふふ。学習意欲が強いみたいね……誰に似たのかしら?」

 

アギトの呟きを聞いて、メガーヌはニコニコと笑みを浮かべていた

すると、マフィンを持ってきたルーテシアが

 

「知識のつまみ食い……はい」

 

「ふわぁ、焼き立てだぁ! あたしは知識より、おかしのつまみ食いが好きだ!」

 

ルーテシアに出されたマフィンを、アギトは食べ始めた

そこに、通信が繋がり

 

「ん? 外部から、通信?」

 

とメガーヌが言うと、ルーテシアが

 

「はい、アルピーノです」

 

と出た

そこに、ヴィヴィオの顔が映り

 

『ごきげんよう、ルールー』

 

と挨拶してきた

そして、調査は進展する



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無限書庫3

「どうしたの?」

 

『実は、ある事件の調査を手伝ってるんだけど……どうも上手くいかなくて』

 

ルーテシアの問い掛けに、ヴィヴィオはそう答えた

するとルーテシアは、紅茶をアギトのカップに注いで

 

「ロストロギア関連?」

 

とヴィヴィオに問い掛けた

ヴィヴィオが頷くと、ルーテシアは

 

「時代は?」

 

と再度問い掛けた

するとヴィヴィオは

 

『先史ベルカなのは間違いないよ』

 

と答えた

それを聞いたルーテシアは

 

「興味沸いた。原文データ、送れる?」

 

とヴィヴィオに問い掛けた

するとヴィヴィオは

 

『ちょっと待ってて、許可貰ってくるから!』

 

と言って、通信画面から姿を消した

その後に、オットーが

 

『久方振りです、ルーテシアお嬢様、アギトさん』

 

と挨拶してきた

すると、アギトが

 

「おっす、オットー」

 

と片手を上げた

それに続くように、ルーテシアが

 

「久し振り、オットー」

 

と手を振った

その時、ヴィヴィオが戻ってきて

 

『許可貰ったから、送るね!』

 

と言いながら、操作

データをルーテシアに送った

 

「来た……えっと……ここがこうで……」

 

データを受け取ったルーテシアは、解読を開始

そして、少しすると

 

「イクス……? っいうのを、探してるの?」

 

とヴィヴィオに問い掛けた

それを聞いたヴィヴィオは、頷いてから

 

『うん……マリアージュっていう犯人が、殺人を繰り返してるの』

 

と言った

それを聞いたルーテシアが

 

「マリアージュ……待って、確か前にキャロが見つけた希少本の掘り出し物に、記載が……」

 

と言って、奥の本棚に向かった

 

「マジか!?」

 

それが予想外だったのか、アギトは驚いていた

するとヴィヴィオが

 

『あ、ティーカップとマフィン……ごめん、お茶の真っ最中だった?』

 

と申し訳なさそうな表情をした

するとアギトが、親指を立てて

 

「気にすんな、マフィンは逃げない!」

 

と快活に言った

そこに、一冊の本を持ったルーテシアが来て

 

「えっと……あった、ここ」

 

と、その翻訳文をヴィヴィオに見せた

 

「死者の兵、マリアージュ……自らが殺した敵を取り込み、数を増やす……その王、冥府の炎王……イクスヴェリア……」

 

『つまりは……増殖兵器!?』

 

『古代ベルカに、そのような技術が……』

 

ルーテシアの説明を聞いたヴィヴィオとオットーは、驚いていた

するとアギトが、腕組みしながら

 

「まあ、アルハザードが現役だった頃だからなぁ」

 

と同意するように頷いた

そして、ルーテシアが

 

「だから、イクスヴェリアで調べてみて」

 

とヴィヴィオに言った

それを聞いたヴィヴィオは

 

『うん……えっと、キーワード検索……冥府の炎王、イクスヴェリア……っと、出た!』

 

と検索し、一冊の本が手元に来た

それを開き

 

『冥府の炎王、イクスヴェリア……破壊と炎を撒き散らす邪智暴虐の王……』

 

と呟いた

そして、ある一ヶ所を見て

 

『最近は、トレディア・グラーゼという人物が、発掘した!?』

 

と驚いた

その名前も、探していたのだ

 

「ん……キナ臭いね……」

 

とルーテシアが言った

その直後

 

「あ! トレディア・グラーゼって、あたしら知ってるじゃんか!!」

 

とアギトが声を上げた

すると、ルーテシアが

 

「どこで?」

 

と首を傾げた

するとアギトは、少し怒った様子で

 

「ほら! あの変態博士の所!!」

 

と告げた

それを聞いたルーテシアは、少し思い出すように

 

「ドクターの所?」

 

と言った

アギトだが、スカリエッティのことを嫌っているのだ

ルーテシアはそれ程ではないのだが

すると、オットーが

 

『ドクターの? 僕が知らないということは、生まれる前ですか……』

 

と呟いた

それを聞いたヴィヴィオが

 

『オットー! 見つけた資料を、すぐに纏めちゃおう! ティアナさんに送らないと!!』

 

と意気込んでいた

それを聞いたオットーは首肯

ルーテシアが

 

「私達も、翻訳も手伝うね」

 

と言った

するとヴィヴィオが

 

『ありがとう! よぉし! 全力全開で終わらせよう!』

 

とガッツポーズをして、宣言したのだった



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捜査官達

「ありがとう、オットー。最高の情報よ」

 

と言ったのは、オットーから情報を教えられたティアナである

するとオットーは

 

『それと、トレディア・グラーゼという人物ですが、どうもドクターが知っているようです。チンク姉様が知っていましたので、確実性は高いです』

 

と告げた

 

「分かったわ。スカリエッティには、こちらで当たるから。オットー達は引き続きお願いね」

 

『はい。では』

 

それを最後に、オットーとの通信を終えた

するとティアナは、すぐにギンガと通信を開き

 

「ギンガさん」

 

と名を呼んだ

すると、音声のみでだが

 

『オットーから報告を聞いたわ。今から、スカリエッティの居る第一軌道上拘置刑務所に行くために許可を取りに行くわ』

 

と言ってきた

それを聞いたティアナは

 

「頼みます。私は本局で、トレディア・グラーゼのことを調べます」

 

と言って、ギンガとの通信を切った

そして、雨が降り始めた夜空を見上げて

 

「スバル……また巻き込んじゃったなぁ……」

 

と呟いた

その頃、そのスバルだが

 

「あー、疲れたぁ……」

 

とようやく、自分のアパートに到着していた

エレベーターから降りると、廊下を歩きながら

 

「あー……夜の11時過ぎてる……流石に、エリオとキャロの二人は寝ちゃったよね……」

 

と呟いた

そして、自分の部屋に着くと

 

「あれ……なんか、いい匂い……」

 

と呟いた

そこに

 

「あ、お帰りなさい。スバルさん」

 

とエリオが出迎えた

その後に

 

「スバルさん、遅くまでお疲れさまです」

 

とキャロが現れた

その二人を見て、スバルは

 

「二人とも、起きてたの?」

 

と驚いていた

すると、二人が

 

「はい、スバルさんがお疲れだろうと思いまして」

 

「ご飯を作ってました」

 

と言いながら、スバルとリビングに向かった

そこには、大鍋に入れられたシチューと、籠に積まれた幾つもの焼きたてらしいパンが机に置かれていた

 

「わあ……!」

 

「保護隊でも好評のキャロ特製シチューと、焼きたてパンです」

 

「パンはタネがまだ冷蔵庫にありますから、明日の朝にも焼きたてを食べられますよ」

 

と二人が言うと、スバルは感激した表情で

 

「二人とも、ありがとう!!」

 

とエリオとキャロを、抱き締めた

それから、約半日後

ギンガの元に、チンクが現れて

 

「姉上……私も、ドクターと話をさせてはもらえないだろうか?」

 

と問い掛けた

すると、ギンガは

 

「え、ええ……私が居るから、大丈夫だとは思うけど……」

 

と言った

それを聞いたチンクは、軽く頭を下げながら

 

「すまないな、姉上。感謝する」

 

と言ってきた

すると

 

「それ自体は構わないけど、珍しいわね。チンクがそんなことをお願いしてくるなんて……」

 

とギンガは、若干困惑していた

それを聞いたチンクは

 

「今回の件……どうも、妹達にも深く関わっていくような気がしてな……嫌な予感がするんだ……」

 

と言いながら、眼帯をそっと撫でた

それを聞いたギンガは

 

「分かったわ、少し待ってて。今から、チンクの分も面会の許可を貰ってくるから」

 

と言って、地上本部に入っていった

チンクはそれを見送ると、空を見上げて

 

「あの事件以来になるか……ドクターに会うのは……」

 

と呟いた

その後、許可を得て戻ってきたギンガと共に、チンクはスカリエッティが居る、第一軌道上拘置刑務所に向かった

今回の事件の最重要人物のことを、知るために



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スカリエッティ

第一軌道上拘置刑務所

それは、第一管理世界たるミッドチルダの宇宙の、静止衛星軌道上に四つある刑務所の一つ目である

その軌道上刑務所には、地上の刑務所には収容出来ない重犯罪者が収容されている

その内の一人が、大規模都市型テロを引き起こした、ジェイル・スカリエッティである

ギンガはチンクの分の許可も得ると、その軌道上刑務所と直結の転移ポートで、第一軌道上刑務所に入った

そして、管理者の一人帯同のもと、スカリエッティと面会した

 

「ドクター……ジェイル・スカリエッティ……」

 

「やあ、タイプ・ゼロ・ファースト」

 

ギンガが名前を呼ぶと、スカリエッティはギンガをそう呼んだ

スカリエッティにとってギンガは、製作者不明の試作機の一機に過ぎないらしい

その直後、通信画面が次々と開き

 

『今さら、私達に何のようかしら?』

 

『話すことなど、何もないと言ったのだがな……』

 

『地上がどうなろうと、知ったことではないしねぇ』

 

と声が聞こえた

それは、他の三つの軌道上刑務所に収容されているナンバーズ三名

ウーノ、トーレ、クァットロの三名だった

すると、ギンガの後ろからチンクが前に出て

 

「久しいな、ドクター、ウーノ、トーレ、クァットロ……変わりないようで、何よりだ」

 

と挨拶した

すると、スカリエッティは

 

「チンク、懐かしいね」

 

と嬉しそうにした

そして、両手を広げて

 

「変わりないさ。このガラス張りの牢獄は、意外と快適でね。むしろ、不摂生だった食生活が改善された位さ。その影響で、クァットロが少し太ったがね」

 

と語った

するとクァットロが

 

『あぁん、酷い! もう戻しましたぁ!』

 

と抗議した

するとチンクは、改めて通信画面の三名を見て

 

「セッテは……ああ、あいつは最終ロットだから、知らないか……」

 

と一人納得していた

そのセッテだが、今は軌道上刑務所ではなく、地上の刑務所に収容されているらしい

最終ロット故に、荷担した行動が少ない

というのが、理由のようだ

更に言えば、ある部隊に監視を含めて所属することになるという

それ自体は、スカリエッティは気にしていない

スカリエッティは逮捕されて裁判が行われる前に、ナンバーズ全員に

 

『自分達の道は、好きに決めなさい。私は気にしない』

 

と言ったのだ

それを聞いて、チンクを含めた七人が、ナカジマ家の義理の娘になったり、シスターになったりした

そしてセッテだが、最終ロットと言うだけあって、戦闘機人としての完成度は非常に高い

しかしその反面、その精神年齢は幼かった

更に言えば、セッテはスカリエッティの計画を殆ど知らなかったのだ

だからセッテは、最初は軌道上刑務所に収容されたが、少しすると地上の刑務所に移動となった

そこに、ある部隊の指揮官が面会に訪れて、スカウトしたのだ

セッテの戦闘技能は、非常に高い

それをただ腐らせるのは、惜しいと

最初は戸惑ったものの、やはり必要とされたのは嬉しかったらしい

とりあえず、一度その部隊で研修を受けることとなった

今は、その手続きの最中だとか

閑話休題

 

『けど、今さら何のようだ。司法取引には、応じないと何度も言ったはずだが』

 

「今日は違うようだよ、トーレ……どうやら、地上で事件が起きているようだ」

 

トーレの言葉にスカリエッティがそう言うと、ウーノが

 

『今地上で起きている事件に、私達が関与している訳が……』

 

と言いかけた

するとチンクが

 

「その事件だが、下の妹達も関わることになりそうだ……」

 

と言った

すると、スカリエッティが

 

「ふむ、まあいいだろう。今日は気分もいい……私が答えられることなら、答えよう」

 

と鷹容に頷いた

それを聞いて、チンクは

 

「今地上では、マリアージュがイクスヴェリアを探している。重要人物は、トレディア・グラーゼだ」

 

と言った

それを聞いて、トーレが

 

『トレディア・グラーゼ? あいつか』

 

と言った

すると、ウーノが

 

『ああ、あの賛同者……』

 

と思い出すように言った

そして、クァットロが

 

『マリアージュって、アレでしょ? あの昆虫並みの知性しか無い出来損ないのポンコツ兵器』

 

と酷評した

すると、ギンガが

 

「その人物の詳細情報を」

 

と促した

すると、スカリエッティが

 

「ウーノ……彼の情報を、簡潔に」

 

と言った

するとウーノは

 

『はい……トレディア・グラーゼ、活動家。ヴァイゼンのオルセア自治区にて、反管理局運動を指揮。今から約五年前に、ある遺跡にてイクスヴェリア並びに最初のマリアージュを発見……』

 

と語りだした

そこまで聞くと、チンクが

 

「そこまでは、私も覚えている……」

 

と腕組みした

すると、ギンガが

 

「そこまでは、こちらも把握しています……問題は、トレディア・グラーゼとイクスヴェリアの今の居場所……」

 

と言った

その時

 

『ストップよ、タイプ・ゼロ・ファースト……ここから先は、交渉材料……』

 

とウーノが言った

管理者が身構えたが、それをギンガは視線で静止

そして、スカリエッティを見て

 

「差し支えなければ、その内容を」

 

と問い掛けた

するとスカリエッティは、指を一本立てて

 

「出所の確かな、ベルカの赤ワインを一本……それだけさ」

 

と言った

それを聞いたギンガは、困惑した表情を浮かべた

すると、トーレが

 

『ドゥーエの死を悼む位、バチは当たるまい』

 

と言った

それに便乗するように、スカリエッティが

 

「私が作った最高傑作……その一人、ドゥーエの命日が近いだろ? そのためさ」

 

と言った

そのレベルならば、ギンガにも即決出来るレベル

だからだろう、ギンガは少し考えて

 

「分かりました……後で、私名義で届けさせます」

 

と言った

それを聞いたスカリエッティは、嫌らしい笑みを浮かべて

 

「ありがとう、タイプ・ゼロ・ファースト」

 

と言った

その直後

 

「ギンガです、ギンガ・ナカジマ」

 

と我慢出来ない様子で、そう言った

その時、チンクの携帯端末が鳴って

 

「すまない」

 

とチンクは、通信画面を開いた

すると、ディエチの姿が写り

 

『チンク姉、今どこ!?』

 

と彼女としては珍しく、慌てていた

 

「軌道上刑務所に来ている。ギンガも一緒だ」

 

「どうしたの!?」

 

ギンガが問い掛けると、ディエチは

 

『海上施設で、大規模火災! お父さんから私達にも出動要請が出た! ニュース、見られる!?』

 

と言ってきた

それを聞いたギンガは、ニュースが見られるウィンドウを開いた

そこに見えたのは、まるで海が燃えているような光景だった

 

「海が、燃えてる!?」

 

それを見たギンガは、思わず声を上げた

 

『急いで戻れる!?』

 

「少し待て!」

 

ディエチの言葉に、チンクはそう返答した

それを聞いたスカリエッティは、ニヤリと笑ってから

 

「どうやら、急ぎのようだね。ウーノ」

 

とウーノの名前を呼んだ

すると、ウーノは

 

『トレディア・グラーゼがイクスヴェリアとマリアージュを発見したのは、先程映っていた場所……海上施設、アクアリウム内部……』

 

と言った

正に、現場が真相に迫る場所だったのだ

そして、スカリエッティが

 

「そして、トレディア・グラーゼだが……ふ……四年前に死んだよ……マリアージュに食われてね」

 

と言って、ギンガは驚いた

ならば、今マリアージュに指示を出しているトレディア・グラーゼは何者なのかと



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冥府の炎王

「特救はツーマンセルで行動! 他は分隊で行動するように厳守!」

 

と通信で指示を下していたのは、特別救助隊司令のボルツ・スターンだ

そこに、通信士が賭けより

 

「連絡が着いた非番のチームから、到着してきました!」

 

と報告してきた

それを聞いたボルツは

 

「臨時の部隊を編成し、随時突入させろ!」

 

と指示を下した

それを聞いた通信士は、敬礼して指示を伝えに走った

そこに、ボルツの副官が現れて

 

「全非番に招集掛けました。近い者達から、随時到着します」

 

と告げた

 

「そうか……ったく、厄介な場所を燃やしやがって!」

 

副官の報告を聞いたボルツは、悪態混じりにそう言った

すると、副官は

 

「はい……幸いにも営業時間外でしたから、中には客は居ませんでしたが……従業員が多数取り残されています」

 

と手元の書類を見た

どうやら、アクアミュージアムの関係者からの証言を纏めてあるらしい

それを聞いたボルツは、頷いてから

 

「各班に、報告を厳命! どんな些細でもいい! 必ず報告させろ! 油断はするな!」

 

と命令した

そこに

 

『ソードフィッシュ隊、再出動!』

 

と通信音声が聞こえた

その頃、アクアミュージアム内部

 

「熱っ!? 室内の温度が、軽く五百度を越えてる……! こんなの、バリアジャケットも長くは持たない……!」

 

と言ったのは、スバル達と一緒に突入したエリオである

その後ろには、相方のキャロの姿もある

 

「まるで、竈の中みたいに真っ赤……!」

 

と二人が言った直後、通信画面が開き

 

『二人共! 厳しくなったら、一度離脱してバリアジャケットの再構築だよ!』

 

とスバルが言ってきた

 

「はい!」

 

「つっ! 近くに要救助者の反応!」

 

スバルの言葉にエリオは頷き、キャロはケリュケイオンが表示させたマップデータから近くに要救助者が要ることに気づいた

場所は再び変わり、ソードフィッシュ隊

スバルとレンヤ

 

「こちらソードフィッシュ1! 地下Dフロア! 延焼無し! 室内500度オーバー!!」

 

『了解! フラッシュオーバーに注意!』

 

スバルが司令部に報告している間、レンヤは注意深く周囲を警戒していた

マリアージュのことを聞いていたからだ

 

「……流石に、この近辺は生命反応は見られませんね」

 

「うん……けど、まだ取り残されてる可能性が有る……見逃さないで」

 

スバルのその言葉に、レンヤは無言で頷いた

すると、二人のデバイスが同時に

 

《報告!》

 

《生命反応感知!》

 

と告げて、それをマップに表示させた

だが同時に、二人の頭上の天井に亀裂が走った

 

「亀裂! 崩落!?」

 

『ソードフィッシュ隊、緊急離脱しろ!』

 

スバルの報告に、通信士がそう言ってきた

しかし、レンヤが

 

「ですが、生命反応が!」

 

と反論した

そこに、場違いにも一人の少女が現れた

まるで、入院患者が着るような病衣を着た幼い少女だった

 

「女の子……?」

 

とスバルが呟いた

その直後、スバルとレンヤの二人を崩落と爆発が襲った

それからどれほど経ったか

 

(痛ぅ……頭、打った? 視界が……それに、耳も聞こえない……早く、回復を……!)

 

とスバルは、自身の修復機能を最大限に稼働させた

そこに

 

「……の、大丈夫ですか? 聞こえますか? 見えますか?」

 

と儚い印象の声が聞こえてきた

そして気づけば、スバルを覗きこむように、先ほどの少女が居た

 

「つ……うん! 大丈夫! 見えるし、聞こえる!」

 

少女の問い掛けに、スバルはそう言いながら身を起こした

そして、周囲を見て

 

「レンヤ!」

 

と呼んだ

その直後、スバルの近くの瓦礫の中から

 

「こ、ここです!」

 

とレンヤが姿を見せた

それを見たスバルは

 

「怪我は?」

 

と問い掛けた

すると、レンヤは

 

「軽度の打撲程度です。問題ありません!」

 

と答えた

そこまで確認して、少女は立ち上がり

 

「良かった……その様子なら、大丈夫そうですね」

 

と言って、二人に背を向けた

それを見て、スバルは

 

「待って! どこ行くの!?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、少女は

 

「逃げます……あの子達に見つからないように」

 

と答えた

それを聞いたスバルは、思わず少女をジッと見て

 

(この子……なんか、おかしい……こんな所で、裸足だし……)

 

と考えた

そして、ある一つの答えに行き当たり

 

「もしかして……イクス?」

 

と問い掛けた

それを聞いた少女

イクスヴェリアは、驚いた表情で振り向き

 

「え……」

 

と呟いた

その直後、膝から力が抜けたように倒れた

 

「た、倒れた!?」

 

「大丈夫!?」

 

それを見た二人は、慌てた様子でイクスヴェリアに駆け寄った

するとイクスヴェリアは、上半身を起こしながら

 

「体が、上手く動かない……なんで? 設定外の目覚めかたをしたから?」

 

と混乱していた

それを聞いた二人は、顔を見合わせてから

 

「えっと……よく分からないけど……」

 

「やることは、変わりませんね」

 

と喋った

そして

 

「私達は、特救……特別救助隊です!」

 

「災害現場から、要救助者を助けるのがお仕事です!」

 

と宣言

イクスヴェリアが視線を向けると、敬礼しながら

 

「港湾特別救助隊所属、スバル・ナカジマ防災士長です!」

 

「同じく、レンヤ・ウェスタン防災士です!」

 

と名乗った

すると、スバルが

 

「お嬢さんのお名前は?」

 

と優しく問い掛けた

すると、イクスヴェリアは

 

「イクスヴェリア……」

 

と呟くように、答えた

これが、彼女との長い付き合いの始まりだった



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真犯人

「うん……やっぱり、イクスだったね……私の知り合いが、貴女のことを探してるの。マリアージュっていう凶悪犯から、守るためにって」

 

イクスヴェリアの名前を聞いて、スバルはそう言った

それを聞いたイクスヴェリアは、申し訳なさそうにうつ向いた

それを見たスバルは、イクスヴェリアを抱き上げた

 

「あ、あの……なにを……」

 

「しっかり掴まっててくださいね。脱出しますよ! レンヤ!」

 

「はい!」

 

イクスヴェリアを抱き上げたスバルは、レンヤと共に脱出を開始した

その頃、地上の消防隊が展開している駐車場に、一台の車が停車

中から、ルネッサが出てきた

ルネッサは、轟々と燃えているマリンガーデンを見て、ニヤリと笑みを浮かべた

そこに、サウンドオンリーと表示された通信ウインドウが開き

 

『ルネ、聞こえてる?』

 

とティアナの声が聞こえた

それを聞いたルネッサは、ハッとして

 

「はい、聞こえています。ランスター執務官」

 

と答えた

そして

 

「今、どちらに?」

 

と問い掛けた

すると、ティアナは

 

『見える位置に居るわ。1時の方向、距離300って所に居るわ』

 

と告げた

それを聞いたルネッサは、言われた方向に視線を向けて、目を細め

 

「……あ、確認しました」

 

と右手を上げた

言われた方向と位置ら辺に、右手を上げて振っているティアナを見つけたからだ

すると、ティアナが

 

『今から内部に突入して、イクスヴェリアの確保に向かうわ』

 

と言った

それを聞いたルネッサは

 

「そんな……危険では?」

 

と言った

 

『大丈夫。災害救助部隊に居たことあるから、慣れてるわ。それに、今が最後にして最大の好機……今イクスヴェリアを保護すれば、マリアージュのことが分かるはずだから』 

 

ルネッサの言葉にティアナはそう答えると、マリンガーデンに突入した

それを見送ったルネッサは

 

「行かれたか……」

 

と呟くと、車のトランクの中から大きめのバッグを取り出して、開けた

 

「耐熱防護服……問題無し……弾薬……残り十分」

 

ルネッサはそのバッグから取り出した耐熱防護服を着ると、中から実弾拳銃を取り出した

彼女は魔力を有しておらず、管理局許可を得て実弾拳銃を装備しているのだ

 

「稼働マリアージュは、残り78……」

 

そう呟くと、暗い瞳でマリンガーデンを見ながら

 

「これは、明けの星だ……再び起きる戦いで、破壊と再生を……」

 

と呟いた

その数秒後、後ろから一発の魔力弾がルネッサに直撃した

 

「がはっ!?」

 

撃たれるとは思っていなかったルネッサは、大きく吹き飛ばされた

そして、困惑した表情で

 

「撃たれた……? 後ろから!?」

 

と呟いた

そこに

 

「独り言は、演技じゃなかったんだ……」

 

とティアナの声が聞こえた

それを聞いたルネッサは、動かない体を何とか動かして、声が聞こえた方に体を向けた

そこには、右手にクロスミラージュを持ったティアナが居た

 

「ランスター執務官……!? 先ほど、中に……!」

 

と驚いていると、ティアナは

 

「私の学生時代からの、得意技……」

 

とだけ呟いた

それを聞いたルネッサは、察したように

 

「高速移動……いえ、幻術……」

 

と言った

それを聞いたティアナは、頷いて

 

「そ……あっちが、偽物で、こっちが本物……」

 

と言って、クロスミラージュを向けた

それを聞いたルネッサは

 

「お見事です……」

 

と賞賛した

先ほど撃ち込んだのは、スタンバレット

動けないのは分かっているので、大人しくしながら

 

「何時、私が怪しいと?」

 

とティアナに問い掛けた

すると、ティアナは

 

「108隊舎の時……トレディア・グラーゼの名前で出た時……少し寂しそうにしてた……」

 

と言った

それは、あのホテル火災の後だった

ティアナとルネッサは、陸士108部隊の隊舎に寝泊まりして、会議していた

その際に、故郷の話に繋がり、トレディア・グラーゼの名前が出た時に、ほんの僅かにルネッサの表情が変わったことを、ティアナは見逃さなかったのだ

 

「だから、調べさせたわ……ルネ、一緒に居たんでしょ? トレディア・グラーゼと」

 

「……血は繋がっていませんが、親子でした……」

 

ティアナの問い掛けに、ルネッサはそう呟いて語りだした

ルネッサの産まれ故郷、ヴァイゼンは長い間紛争が起きていた

最初は民族紛争だったが、管理局が接触してからは、反管理局と管理局肯定派で争っていた

そしてトレディア・グラーゼは、その反管理局派の幹部の一人だったのだ

 

「動機は、彼の意思を継いだの?」

 

「……端的に言えば、そうですね……」

 

ティアナの問い掛けに、ルネッサはそう言うと、再び語りだした

ルネッサはその戦いの最中に、流れ弾で負傷し、部隊とはぐれた

そこに、人権団体が現れてルネッサを保護

ルネッサは、ミッドに来た

最初は、平和な世界を信じようと思った

だが、結局変わらない世界だと分かった

人間は、何処でも戦い、傷付けあい、殺しあう

特に、三年前のゆりかご事件でそう痛感したそうだ

そして、トレディアが発掘したマリアージュとイクスヴェリアの存在を知ったルネッサは、今回の事件を計画

人々に、知ってほしかったそうだ

戦う意味の虚しさを

 

「……もっと、貴女と話し合うべきだったわ……」

 

「話し合っても、変わらなかったかと……」

 

ティアナの言葉に、ルネッサはそう答えた

その後、ティアナはルネッサを護送隊に引き渡し、本来ならばまだ入院中のはずの裕也と共に、マリンガーデンに向かったのだった



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接敵と捜索

イクスヴェリアを背負ったスバルは、レンヤが先導する形で脱出を試みていた

爆発での影響かは不明だが、通信が出来ない

その為に、頭に叩き込んだ地図を思い出しながら進んでいた

 

(というか……右足、ヒビ位入ってるかも……)

 

とスバルは、軽く顔をしかめた

すると、レンヤが

 

「スバルさん、大丈夫ですか?」

 

と問い掛けてきた

そのレンヤに

 

「なんとか大丈夫……レンヤは先行……出来るなら、瓦礫の破砕突破を」

 

と指示を下した

それを聞いたレンヤは、頷いてから速度を上げた

小回りという点ではスバルの方が上だが、最高速度はレンヤの方が速い

だから、レンヤを先に行かせたのである

最近は、それがデフォルトになってきている

すると、イクスヴェリアが

 

「あの、ダメです……下ろしてください……」

 

とスバルに言ってきた

だがスバルは

 

「やぁです! 素直に背負われててください」

 

と拒否した

 

「でも……」

 

「というか、なんで私は敬語で話してるんだろ……」

 

スバルが苦笑を浮かべると、イクスヴェリアが

 

「王、ですから」

 

と言った

それを聞いたスバルは、どこか納得した様子で

 

「あ、やっぱり王なんだ」

 

「……冥府の炎王……そう呼ばれてました」

 

スバルの言葉に、イクスヴェリアはかつて呼ばれていた称号を告げた

冥府の炎王、イクスヴェリア

古代ベルカに実在した王で、邪知謀逆の王として知られている

戦力は、死体で作るマリアージュ

相手を倒す度に、戦力が増える

それにより、幾多の国に侵略したとされる

 

「じゃあ、陛下って呼んだ方がいいですか? 聖王はそう呼ばれるの、嫌がるけど」

 

スバルがそう言うと、イクスヴェリアが

 

「聖王? あのベルカの聖王ですか?」

 

と驚いていた

 

「はい、そうですよ。友達なんです」

 

とスバルが言うと

 

「嘘です……だって、前に目覚めた時は、古代ベルカそそのものが無くなってたのに……」

 

「あ、それは確かに……けど、本当ですなんですよ。何代目かは分からないけど、聖王の血を引いてるんですよ」

 

イクスヴェリアの言葉に、スバルはそう返した

するとイクスヴェリアは

 

「……本当なんですか?」

 

とスバルに問い掛けた

 

「本当です……ゆりかごなんて言う物騒なのとは、バイバイしました。今は、お義母さんと仲良く平和に過ごしてます」

 

スバルがそう言った直後、レンヤから

 

『こちら、レンヤ! ダメです。最短ルートは、瓦礫によって塞がれてて、破砕突破すれば海水が流れ込む危険性が高いです!』

 

と音声通信が来た

それを聞いたスバルは、少し考えてから

 

「分かった! 一度戻って、迂回ルートを探すよ!」

 

と指示を下した

そこに

 

『見つけました……』

 

と声が聞こえた

そして、スバルの後と左右の通路から次々とマリアージュが姿を現した

それを見たスバルは

 

「イクス……王なら、命令とか出来ないんですか?」

 

とイクスヴェリアに問い掛けた

するとイクスヴェリアは

 

「無理です……命令権は、操主のみしかありません……恐らく、別の場所に……」

 

と首を振った

それを聞いたスバルは、イクスヴェリアを下ろして

 

「だったら……倒して進むだけです!」

 

と言って、イクスヴェリアを囲む結界を張った

それを見たイクスヴェリアは

 

「保護バリア? 私にだけ!?」

 

と驚いていた

するとスバルは、微笑みながら

 

「そこで待っててくださいね? すぐに終わらせるから」

 

と言って、マリアージュに向き合った

そして、マリアージュとの戦いが幕を開けた

一方、その頃外では

 

「裕也……大丈夫?」

 

とティアナが、傍らに立つ裕也に問い掛けていた

今しがた、消防隊員を襲撃しようとしていたマリアージュを撃破したところである

 

「大丈夫だ……流石に、全力戦闘は無理だが……この程度ならば、まだ行ける」

 

ティアナの問い掛けに、裕也はそう答えた

本来ならば、裕也はまだ入院している筈なのだ

それを裕也は、ティアナからの要請が来たことを理由に病院を強引に退院し、調査

そして、今は戦闘に参加している

裕也の全力戦闘を知っているティアナにも、今の裕也の動きが遅いことは分かっていた

だから、心配で声を掛けたのだ

 

(大丈夫って言ってるけど……息が荒い……それに、普段よりも動きに無駄がある……早く、終わらせないと……)

 

呼び出したのが自分だから、責任を感じているティアナは、そう思った

そこに

 

「おーい! ティアナー! 裕也ー!!」

 

と声が上から聞こえた

それを聞いた二人は、視線を上に向けた

すると、こちらに近付いてくる人影があった

今は民間協力者として行動している、ウェンディだ

 

「ウェンディ!」

 

ティアナが手を振ると、ウェンディは軽やかに着地して

 

「裕也は、大丈夫なんすか?」

 

とティアナに問い掛けた

すると、裕也は

 

「全力戦闘は無理だが、まだ戦える」

 

と答えた

だが、ウェンディは戦闘機人だ

その目は、裕也の体のダメージを見抜いていた

 

(本来なら、まだ戦える傷じゃないっすね……)

 

そう判断したからか、ウェンディは

 

「アタシの方は見つけた要救助対象は全員助けたっすから、しばらくは一緒に行動するっすよ!」

 

と言った

しかし、すぐに苦い表情を浮かべて

 

「ただ、少し前からスバルの位置が把握出来ないんすよ……生態反応はあるから、要救助対象と一緒に居るのは分かってるんすが……」

 

と言った

それを聞いたティアナは、ウィンドウを開いて

 

「見て、これ。ここの詳細マップデータ」

 

と二人にも見えやすいようにした

 

「この地図と私の経験と勘……それで、今のスバルの位置はおおよそ分かるわ」

 

「マジですか!?」

 

ティアナの言葉を開いて、ウェンディは驚きで目を見開いた

するとティアナは、自信ありげに

 

「マジで。着いてきて」

 

と言って、走り出した

 



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新たな

「凄い……あの数を、一人で……」

 

と呟いたのは、スバルの奮戦を見たイクスヴェリアだった

マリアージュと戦闘が始まり、十数分

スバルは、二十近く居たマリアージュの殆どを撃破

最後の一人を見て

 

「ラスト一体……!」

 

と気炎を吐いた

すると、そのマリアージュは

 

『なるほど……貴女は、中々強いようだ』

 

と言って、左腕を上げた

そして

 

『左腕武装化……戦槍』

 

その左腕を、長大な槍に変化させた

だがスバルは、そんなの関係無いと言わんばかりに

 

「リボルバー……キャノン!!」

 

カートリッジをロードし、拳を繰り出した

だがその一撃は、マリアージュが掲げた槍に受け止められた

 

「つっ!? 止めた!?」

 

止められると思ってなかったスバルは、目を見開き固まった

そこに

 

「防災士長、気を付けて! その子は、軍団長です! 他の子より、ずっと強い!!」

 

とイクスヴェリアが、忠告した

それを聞いたスバルは、連撃を叩き込もうと左手を強く握りしめた

だが、その間に

 

『右腕武装化……対戦車炸裂留弾砲』

 

と呟き、スバルを蹴り飛ばした

蹴られたスバルは、僅かに動きを止めたものの、直ぐに態勢を建て直し、軍団長マリアージュに視線を向けた

そして見えたのは、自分に指向されている大口径砲弾の砲口

 

「実弾兵器!?」

 

「防災士長! 逃げてぇ!?」

 

イクスヴェリアが声を上げた直後、スバルが居た場所で大爆発が起きた

 

「あ……あぁ……なんて、ことを……」

 

その光景に、イクスヴェリアは涙を流した

その間に、マリアージュはイクスヴェリアの前に歩みより

 

『戦車すら一撃で破壊する威力です……生身の人間に、耐えられるわけがありません』

 

と機械的に喋った

そして、イクスヴェリアを見て

 

『ご帰還をお待ちしてました、我等が王よ……貴女が居なければ、我等が進軍は成り立たない』

 

と告げた

それを聞いたイクスヴェリアは、涙目でマリアージュを見ながら

 

「進軍なんて、しなくていい……私達はもう、この世界に居ちゃいけないの!!」

 

と叫んだ

 

『イクス……』

 

それを聞いたマリアージュは、神妙そうにイクスヴェリアの名前を呼んだ

そこに

 

「うぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!!」

 

とスバルが、爆煙を突き破って、現れた

しかも、左手でマリアージュの槍を破壊した

 

『私の戦槍を破壊……この威力、まさか……』

 

破壊された衝撃で、マリアージュは数歩後退

折られた槍を見て、そう呟いた

しかし、その間にスバルは

 

「相棒! 全ロード!」

 

と指示を下していた

マッハキャリバーは、その指示に従いカートリッジを全てロード

そしてスバルは、右手を大きく引き絞り

 

「振動拳!!」

 

最大威力の一撃を、叩き込んだ

その一撃で、軍団長マリアージュを撃破した

するとスバルは、荒く呼吸しながら

 

「ごめんね……本当なら……無力化程度で捕まえたかった……んだけど……」

 

とイクスヴェリアに、謝罪していた

スバルの言葉に、イクスヴェリアは

 

「構いません……あの子達は、行動不能になると自爆します……防災士長のせいではありません」

 

と返答した

そして気づいた

スバルの左腕、そこから金属製の骨格やケーブルが露出していることに

 

「人工骨格……貴女も、兵器なんですか?」

 

イクスヴェリアの問い掛けに、スバルは頷き

 

「そう……だね……鋼の骨格に、人工筋肉……私も兵器かもしれない……」

 

と呟いた

そして、何処かから布を取り出して

 

「けど……今は人間……だよ」

 

軽く止血すると、イクスヴェリアに近寄った

そこに

 

「スバル……さん……ご無事で……」

 

とレンヤの声が聞こえた

その声を聞いて、スバルは声のした方向を見て、息を飲んだ

確かにレンヤが居たが、背中には折れた刀が突き刺さり、右肩から人工骨格が露出していた

 

「レンヤ……レンヤも……」

 

「はい……俺も、スバルさんと同じ……戦闘機人です……」

 

スバルの問い掛けに、レンヤはそう答えた

レンヤ・ウェスタン

彼もまた、戦闘機人だったのだ

詳しい経歴は、今は割愛させてもらう

 

「すぐに合流するつもりでしたが……十数体のマリアージュと交戦することに、なり……」

 

「ん、分かった。今は喋らなくていいよ」

 

レンヤは報告しようとしたが、スバルは遮ってレンヤの全身を確認した

見た目の大きな怪我は、背中の刀と人工骨格の露出した右肩だろう

他にも、細かい傷が幾らかある

出血量から、早く治療をした方がいいだろうことは明白だ

 

「よし、脱出するよ!」

 

スバルはそう言って、脱出を目指した

 



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脱出と終結

「ふう……裕也、大丈夫?」

 

「なん……とかな……」

 

ティアナの問い掛けに裕也はそう答えたが、息は荒い

すると、ウェンディが

 

《マズいっすよ、ティアナ……裕也の怪我が……》

 

《分かってるわ……もうすぐよ》

 

とティアナと念話していた

そして三人は、マリンガーデンのある場所に到着

するとティアナは、通信画面を開き

 

「スバル! 聞こえてるなら返事をしなさい、スバル!」

 

と呼び掛けた

その数秒後

 

『ティア! こちらスバル!』

 

とスバルから、返事がきた

 

「良かった……こっちの通信、届いてるわね?」

 

『うん! 聞こえてるし、見えてるよ!』

 

「居た! 距離はあるけど……きっちり真下!」

 

ティアナとスバルは安堵した表情でやり取りし、ウェンディはティアナの勘が当たっていたことに驚いていた

その間に、ティアナはクロスミラージュを構え

 

「これから、私が邪魔な壁やら何やらを吹き飛ばすわ……そうすれば、脱出……出来るわね?」

 

『うん!』

 

スバルの返事を聞いたティアナは、カートリッジを四連ロード

裕也は油断なく周囲を見回すが、ウェンディは

 

「ちょっ!? ティアナが壁抜きって、まさか!?」

 

と驚いていた

この時、スバル達の方では

 

「スバル! まるで、星が集まるように……!」

 

とスバルが背負っていたイクスヴェリアは、集まる魔力光を見て、驚いていた

どうやら、彼女は初めて見る光景のようだ

その言葉を聞いて、スバルは肩越しにイクスヴェリアを見た

するとイクスヴェリアは、魔力収束を見て

 

「不思議です……あれは、破壊の技の筈なのに、安心感を覚えます……」

 

と呟いた

それを聞いたスバルは

 

「はい、私もそう思います……」

 

と同意した

そこに、レンヤが

 

「念のために、対衝撃防御します」

 

と言って、スバルの前に立った

その直後、放たれた砲撃

なのはから受け継いだ砲撃の極致

スターライト・ブレイカーが、スバル達の脱出経路を切り開いた

 

『進路、クリア……スバル!!』

 

「ウィング・ロード!!」

 

ティアナの言葉を聞いたと同時に、スバルはウィング・ロードを展開

最速で駆け出した

そして、すれ違い様に

 

「ありがとう、ティア! このまま、上空で待機してるねー!!」

 

とエコーを伴いながら、上空に走っていった

それをティアナは見送るが、ウェンディは驚いた表情で

 

「すっげぇ……ティアナ、スターライト・ブレイカーなんて何時のまに覚えたんすか!?」

 

とティアナに聞いていた

するとティアナは、荒い呼吸を直しながら

 

「覚えたのは、六課時代から……形になったのは、最近……しかも、まだまだよ……」

 

と答えた

ティアナがなのはからスターライト・ブレイカーを教えられたのは、JS&R事件が解決した後だった

なのははティアナが執務官を志望していることを知っていたので、対集団用魔法としてスターライト・ブレイカーを教えていたのだ

しかし、当時のティアナでは使いこなせなかった

だからティアナは、任務をしながら訓練を繰り返し続けて、最近ようやく形になったのである

 

「さてと……後は、残りのマリアージュをやっつけるだけだけど……」

 

とティアナが言った時、頭上に一隻の大型艦が現れた

漆黒の塗装が施された、戦艦が

その形状は、時空管理局が配備しているXL級艦に非常に酷似している

しかし、その至る処から普通のXL級には装備されてない武器が多数あった

それは、時空管理局にしては珍しい実弾兵装

そんな艦を配備しているのは、時空管理局の中でも一つの部署のみ

時空管理局初の攻勢部隊にして、唯一実弾兵装の運用が許可された部隊

強襲制圧部隊である

その旗艦、エクセリウムの艦低部ハッチが開き、次々と装甲式デバイスを纏った隊員達が降下を開始した

それを見たティアナは

 

「来たわね……」

 

と呟いた

その直後、ティアナの近くに通信ウィンドウが開いて

 

『悪い、ティアナ。遅れた』

 

と武から、通信が来た

それを聞いたティアナは

 

「いいえ、ナイスタイミングよ。武」

 

と返した

強襲制圧部隊が動いた理由

それは、ティアナが要請したからである

ギンガからの報告を聞いたティアナは、このマリンガーデンにかなりの数のマリアージュが居ると予想

だからティアナは、マリンガーデンに到着する直前に出動を要請したのだ

要請してから、約十数分

かなりの早さで、出動してきた

 

『マリアージュの掃討、こちらで引き受ける。火災は任せたぞ!』

 

「了解」

 

ティアナが返事すると、通信は終わった

状況から察するに、突入したのだろう

 

「私達は突入して、まだ要救助者が取り残されてないか、確認するわよ!」

 

「了解っす!」

 

「了解した」

 

ティアナの指示を聞いて、二人は頷いた

これから約十数分後に、マリアージュの全滅を確認

そして、火災発生から数時間後に、火災は鎮火したのだった



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病院での一幕 1

マリンガーデンの火災から、二日後

ある病院のある一室

そこに、スバルとレンヤが居た

二人とも、入院していたのだ

しかし、スバルの方が先に治療が完了

スバルはリハビリも兼ねて、レンヤの病室に来ていた

 

「えっと……レンヤも、私やギン姉と同じ……」

 

「はい、戦闘機人です……」

 

スバルの問い掛けに、レンヤはそう答えた

 

「でも、私達以外で居たなんて……」

 

「俺は、JS&R事件の際に保護されました……スバルさんに」

 

「へ、私に!?」

 

レンヤの言葉に、スバルは驚いた

あの事件の最中は、色々と精一杯だったので細かい所は今一覚えていないのだ

 

「まあ、あの時は忙しそうでしたからね……無理はありません……ですが、スバルさんに助けられたのは確かです……俺は、ある高官が出資していた違法研究所で作られた戦闘機人でした……」

 

その高官は、JS&R事件の後にレンヤの存在が証拠となり、逮捕された

 

「実は、ゲンヤさんとも顔見知りなんです……あの海上隔離施設に居たので」

 

「そうなんだ! ということは、チンク達とも?」

 

スバルのその問い掛けに、レンヤは頷いた

そして

 

「その後俺は、スバルさんに憧れて訓練校に入学しました……そのバックに付いてくれたのは、クロノ・ハラオウン提督でした……」

 

「クロノ提督が……というか、私に憧れて!?」

 

レンヤの言葉を聞いて、スバルは顔を赤くした

まさか、自分を憧れるとは思っていなかったのかもしれない

 

「はい……あの研究所で俺は、実験動物(モルモット)扱いでした……もう、生きるのも嫌になって……研究所が崩れた時は、ようやく死ねるとすら思ってました……けど、そこにスバルさんが来て、助けてくれました……まだ生きてる……きっと、助けるからって……それを聞いた俺は、助かっていいんだって……安堵しました……」

 

「そ、そうなんだ……ごめんね、あんまり覚えてなくて」

 

スバルが頭を下げると、レンヤは

 

「いえ、あの事件の規模では仕方ないかと……それで訓練校卒業後は、306救助隊に所属……その隊長の推薦を得られて、特救に配属となり、スバルさんの部下になれました」

 

と語った

そこまで聞いたスバルは

 

「えっと……ごめんね、隊長らしく出来なくて」

 

と頭を掻いた

すると、レンヤは

 

「いえ、スバルさんの明るさには助けられてますから。大丈夫です」

 

と答えた

確かに、スバルの明るさはかなりのものだ

特救でも有名である

 

「そ、そっか……」

 

スバルは気恥ずかしいのか、朱に染まった頬を掻いた

そして、少しすると

 

「その……今の俺では、まだ頼りないかもしれません……ですが、必ずスバルさんの役に立てるように頑張ります……ですから、スバルさんの隣に立たせてください」

 

と言った

それはまるでプロポーズのようで、スバルは顔を真っ赤にしながら

 

「う、うん……待ってる……」

 

と答えるのが精一杯だった

この時、スバルの相棒たるマッハキャリバーは

 

(黙って見守るのも、相棒たる私の役目……しかし、レンヤ殿……大胆ですね……)

 

と考えていたりしていた



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病院での一幕 2

「うぅ……」

 

と呻き声を漏らしたのは、ベッドに寝転がりながら頭を抱えているスバルである

傷を直したとは言え、まだ機械部分の微調整等が残っている

故に、まだ入院中だった

提出する書類は、音声入力で作成済み

そんなスバルだが、レンヤに言われたことが気になって頭を抱えていた

スバルは今まで、異性からのストレートな好意の言葉を受けたことがなかった

それも、同年代からは特に

 

「どうしようぅぅぅ……」

 

とスバルが、ベッドの上で転がっていると

 

『スバル、入るわよ』

 

とティアナの声が聞こえた

次の瞬間、入ってきたティアナは

 

「……なにやってるの?」

 

と転がっていたスバルを見て、ティアナは少し呆れていた

 

「ティア!? あ痛っ!?」

 

ティアナの声を聞いたスバルは、ベッドに手を突いて体を起こしたのだが、突いた場所が淵だったので、手が滑ってベッドから落ちた

しかも頭を打ったらしく、頭を抱えて痛みに悶えている

それを見たティアナは、呆れて溜め息しか出なかった

そして、数分後

 

「まあ、元気そうなら良かったわ」

 

「うん、ありがとう」

 

リンゴを剥きながら言ったティアナの言葉に、スバルは頷いた

そして、リンゴを乗せた皿を机に置いて

 

「で、何があったのよ?」

 

とティアナは問い掛けた

その質問内容は、先ほどまで身悶えていた理由だ

その問い掛けに、スバルは顔を赤くしながら

 

「その……レンヤと話をしたんだけどね……」

 

「うん」

 

スバルの言葉に、ティアナは頷いた

そしてスバルは、レンヤが戦闘機人だとティアナに教えた

 

「なるほどね……彼も……」

 

「うん……私は覚えてないんだけど、ゆりかご事件の時に助けてたんだって……」

 

「なるほどね……」

 

スバルの言葉に頷いた後、ティアナはスバルを見つめて

 

「で、本題は?」

 

と問い掛けた

長い付き合いなので、スバルが違うことで悩んでいることに気づいたようだ

 

「……実は……」

 

少しの間黙っていたが、ティアナが退かないと思ったのか、レンヤが言った言葉を教えた

そして、喋り終わったスバルは、その時のことを思い出して、二度頭を抱えて悶え始めた

一通り聞き終わったティアナは

 

(スバル……そういえば、ある意味で箱入りか……)

 

と思い至った

クイントに引き取られたスバルとギンガだが、空港火災までスバルは、あまり外に出るような性格ではなかった

更に言えば、空港火災を経ても、少しの間はコミュニケーション能力が高いとは言えなかった

高くなったのは、訓練校時代にティアナと同室になってからだ

当時、ティアナも自ら話し掛けることはしなかった

当時のティアナは、優秀な成績で卒業すると躍起になっていて、他のことは適当に済ませるつもりだった

しかし、スバルがティアナにしつこく話し掛け続けて、ティアナが折れた形で付き合いが始まったのだ

その経験が、スバルのコミュニケーション能力を高めたと言えるだろう

 

「うあぁぁぁぁぁ~……」

 

(まあ、こんなスバルは見たこと無いから、暫く見ていたいけども……)

 

ティアナはそう思うと、溜め息を吐いてから

 

「何時ものあんたらしく行ったら?」

 

と言った

それを聞いたスバルは、視線をティアナに向けた

すると、ティアナは

 

「聞くけど、彼のことはどう思ってるの?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、スバルは

 

「……頼もしいと思ってるよ……レンヤなら、背中を預けられるし……」

 

と言った

それを聞いたティアナは、コクりと頷き

 

「嫌いじゃないなら、いいんじゃないかしら? 彼は、スバルの隣に立ちたい……つまりは、パートナーになりたいって言ったのよね?」

 

と言った

それを聞いたスバルは、顔を真っ赤にして

 

「そ、そうだけど……」

 

と尻すぼみに言った

すると、ティアナは

 

「だったら、付き合っちゃいなさい」

 

と言った

その言葉に、スバルは顔を真っ赤にしたまま固まった

それ幸いにと、ティアナは

 

「嫌いじゃなく、頼もしく思ってる。更に言えば、背中を預けられるとすら思ってる……だったら、後は度胸よ」

 

と言った

それを聞いたスバルは、暫くしてから

 

「ティア……やたら実感込もってない?」

 

と首を傾げた

すると、ティアナは

 

「まあ、それなりに」

 

と僅かに、視線を外した

因みに、ティアナとスバルは一歳差

ティアナのほうが歳上である

 

「で、どうするの?」

 

ティアナがそう問い掛けると、スバルは少ししてから

 

「……いってきます」

 

と病室から出ていった

それを見送り、ティアナは

 

「ちょっと、強引だったかしら?」

 

と首を傾げた

そこに、マッハキャリバーが

 

《いえ、相棒はあれ位が丁度いいかと》

 

と言った

この数分後、ある病室で雄叫びが上がり、それに驚いた看護師がその病室に突入

雄叫びを上げた病室の主を叱るという珍事件が起きる



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次代へ

マリンガーデンの火災から、数日後

 

「んー……っはぁ……ようやく、オフシフトだぁ……」

 

とスバルは、何時もより少し遅くに起きた

事件の影響で、流れに流れていたオフシフト

実に、二週間振りだった

 

「さってと、何しようかな……」

 

スバルはそう言いながら、首を傾げた

そこに、通信が鳴ったので

 

「はい、スバルです」

 

と出た

通信相手は、ティアナだった

 

『あ、スバル? 私、本局行きのチケット取れたから、明日には本局に戻るわね』

 

「了解。お互い、大変だったね」

 

スバルは本心から、ティアナにそう言った

事件が解決した後、ティアナは暫くの間は色々と走り回っていた

その理由は、ティアナの部下になっていたルネッサが、今回の事件の首謀者だったからだ

一度はティアナの責任問題になりかけたが、ティアナ自らが犯人たるルネッサの逮捕をしたこと

更に、捜査が的確だったことから、なんとか免れた

その後は、裕也の再入院の手続き、捜査に協力してくれた関係各所への挨拶回りで、走り回っていたのだ

 

『本当にね……あ、スバル。今日はオフシフトだったわよね?』

 

「そうだよぉ? 二週間振りのオフシフトだよ!」

 

ティアナの問い掛けに、スバルはそう答えた

なお、レンヤもオフシフトだが、何やらやることが有るとのことで、別行動を取っている

 

『ならさ、今夜は外食にしない? 捜査を助けてくれたお礼がしたいし』

 

「お礼とか、気にしないでいいのに。でも、外食は了解!!」

 

スバルがそう言うと、ティアナは短く笑い

 

『じゃあ、今夜ね』

 

「うん、またね!」

 

と通信を終えた

そして、夜まで何をしようか

とスバルが考えた時

 

「っと、また通信だ。はい!」

 

すぐに、通信が繋がった

相手は、マリエル技官だった

 

『スバル、今大丈夫?』

 

「はい、オフシフトですから」

 

スバルがそう言うと、マリエルは

 

『それじゃあ、言うね……イクスが、目を覚ましたの』

 

「ほ、本当ですか!?」

 

マリエル技官の言葉を聞いて、スバルは嬉しそうにした

マリンガーデンから救出後、イクスヴェリアは海上隔離施設で眠り続けている

眠り続けている理由と原因は、一切不明

恐らく予定外と設定以外の目覚めかたをしたために、何らかの異常が起きたと思われる

原因を特定しようにも、今の科学技術では迂闊に調べられなかった

それゆえに、何時起きるか分からない

とスバルは聞いていた

だが、僅か数日で起きたことが嬉しかった

しかし

 

『けどね……よく、聞いてね……』

 

マリエルのその言葉に、どうしようもなく、胸騒ぎがした

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

少しして、海上隔離施設の一角

そこで、ヴィヴィオとイクスヴェリアが楽しそうに話している

それを見ながら、スバルはマリエル技官から聞いた話を思い出した

今回起きれたのは、偶然に過ぎない

起きれて、夕方まで

その後は、何時起きれるかは分からない

 

「……世界って……理不尽だよ……」

 

スバルは、そう呟かずにはいられなかった

何故、優しいイクスヴェリアが、こんな目に遇わなければならないのか

イクスヴェリアはもう、十分に辛い思いをしたのに、と

その後スバルは、イクスヴェリアが目覚めるまで待ち続けると約束した

見せたい場所や物

連れていきたい場所があるから

もし自分達の代で起きなかったら、子孫にその役割を継がせると

そう約束して、スバルはイクスヴェリアが眠るまで一緒に居た

こうして、時と世界は回り続ける

新たな世代(ヴィヴィッド)へと



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ヴィヴィッド編
新学期


ただ今、活動報告にて新作に関するアンケートをしています
皆さん、どうぞご参加くださいませ


「おはよう、ヴィヴィオ」

 

「おはよう、なのはママ!」

 

起きてきた愛娘

高町・S・ヴィヴィオに、なのはは朝の挨拶をしてから朝食を置いた

すると、ヴィヴィオは

 

「あれ? ユーノパパは?」

 

と首を傾げた

何時もなら一緒に朝食を取る父親たるユーノが、居なかったからだ

すると、なのはが

 

「ユーノ君なら、今朝早くに出たよ。新しい未開拓地域が見つかったんだって」

 

と教えた

それを聞いたヴィヴィオは、納得した表情をしてから朝食を食べ始めた

JS&R事件から時は経ち、今日からヴィヴィオは(ザンクト)ヒルデ魔法学院初等科の四年生になる

それを祝してか、朝食のオムレツには祝4年生とケチャップで書かれてある

 

「ヴィヴィオ、今日は早く帰っておいで。そうしたら、良いことあるかもよ?」

 

「? 分かった」

 

疑問に思いながらも、ヴィヴィオは頷いた

そして朝食後、二人は一緒に家を出た

なのはは車で管理局に出勤し、ヴィヴィオはランニングを兼ねて学院まで走った

門に到着するとヴィヴィオは、そこで友達を見つけた

 

「リオ! コロナ!」

 

『ヴィヴィオ!』

 

ヴィヴィオが呼んだ二人

リオ・ウェズリーとコロナ・ティミルの二人も、ヴィヴィオに気がついたらしい

ヴィヴィオに駆け寄ってきた

リオは短く切った黒髪に、八重歯が特徴的な活発な子

そしてコロナは、少し長く伸ばした茶髪と利発さが印象的な子だ

その後、三人揃ってクラス分けを見て

 

「また私達!」

 

「同じクラスだね!」

 

「うん!」

 

と嬉しそうに、ハイタッチした

それを、回りから見られていることに気づいた三人は、少し恥ずかしそうにしながら教室に向かった

この二人と出会ったのは、この学院に来てからである

コロナは、一年生の時にクラスメイトになり、ある魔法が切っ掛けになった

そしてリオは、三年生の時に出会った

それ以来、ほぼ三人で行動を共にしている

そして、始業式が終わった後

 

「んー……この後は、どうするの?」

 

「私は、家に帰って家の手伝いかな?」

 

リオの問い掛けに、コロナはそう答えた

すると、ヴィヴィオは

 

「私も、家に帰るかな」

 

と言いながら、携帯を操作していた

その携帯を見て、コロナが

 

「そう言えば、ヴィヴィオってデバイス持ってないよね?」

 

と問い掛けた

聖ヒルデ魔法学院はその名前の通り、魔法を習うところだ

故に、一部例外を除き、ほぼ全生徒がデバイスを所持している

 

「うん。なのはママが、厳しくって……」

 

とヴィヴィオは言いながら、メールを作成していた

なのはが言ったのは

 

《基礎を習得するまでは、専用デバイスは必要ありません。もし必要な時は、レイジングハートを貸して上げるから》

 

だった

そしてそれは、今まで守られてきている

しかし、やはり欲しいのは事実だった

そうすれば、通信やメール作成が一気に楽になるのに

とヴィヴィオは思っていた

 

「それで、なんて送ってるの?」

 

「うん! お世話になった人達に、今日で私は四年生になりました。これからも、全力全開で頑張ります! ってね♪」

 

問い掛けてきたリオに、ヴィヴィオは笑顔でそう言った

そしてヴィヴィオは、二人と別れて帰宅した

 

「ただいまー!」

 

「お帰り、ヴィヴィオ」

 

そんなヴィヴィオを出迎えたのは、なのはではなくフェイトだった

 

「あれ? フェイトママ!?」

 

「うん♪」

 

「ああ、帰ったか」

 

新たに聞こえた声の方向を見れば、椅子に座って新聞を読んでいる冬也の姿があった

最近冬也は、時々眼鏡を掛けている姿が散見されている

別に視力が悪いわけではなく、意識集中のために掛けているそうだ

 

「冬也パパ、久しぶり!」

 

「ああ、久しいな」

 

ヴィヴィオが嬉しそうに飛び付くと、冬也は優しくヴィヴィオの頭を撫でた

なお、なぜフェイトと冬也のこともママとパパと呼んでいるのか

どうやら、六課時代に世話になったことが理由で親という認識になったらしい

だから、二人のこともママとパパと呼んでいるのだ

そして二人は、高町家の隣の家に住んでいる

 

「そういえば、アリシアは?」

 

「ん? そこで寝てるよ」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、フェイトはソファーを指差した

そのソファーでは、一人の子供が寝ていた

フェイトと冬也の子供、アリシア・T・ハラオウン

今年で三歳になる、二人の愛娘である

 

「ふわぁ……可愛い……」

 

そんな寝ているアリシアを見て、ヴィヴィオはホニャリとしながら頬を優しく突っついた

そこに

 

「いやぁ、ごめんね。フェイトちゃん! ユーノ君の車が、いきなり故障しちゃって!」

 

となのはが帰ってきた

どうやら、ユーノが使っていた車が故障したので、迎えに行っていたらしい

 

「大丈夫だよ、なのは。ユーノも、災難だったね」

 

とフェイトが労うと、ユーノは

 

「本当に、災難だったよ……いきなり、動かなくなるなんて……」

 

と呟いた

そして、ヴィヴィオを見て

 

「ヴィヴィオ、四年生おめでとう」

 

と言って、一つの箱を手渡した

 

「ふえ? これって……」

 

とヴィヴィオが困惑していると、なのはが

 

「開けてみて、ヴィヴィオ」

 

と開けるよう促した

それを聞いたヴィヴィオは、四人が見守っている視線の先で、ゆっくりと箱を開けた

そして中に有ったのは、一つのウサギのぬいぐるみ

 

「……ぬいぐるみ?」

 

なぜぬいぐるみが入っているのか分からず、ヴィヴィオは呆然と呟いた

すると、冬也が

 

「そのぬいぐるみは、アウタースキンだ。中は、至って普通のデバイスのAIコアが入っている」

 

と教えた

実はこの時、ヴィヴィオの持っていた箱の中からそのウサギのぬいぐるみがよじ登って出て、ヴィヴィオの顔の高さで浮いていた

それに気づいたヴィヴィオは、思わずなのはの後ろに回り

 

「動いた!? 飛んだ!?」

 

と驚いた

よく見れば、ウサギのぬいぐるみはガーンという表情を浮かべている

喋れないようだが、ジェスチャーや顔の表情で分かりやすい

 

「この子は、まだ生まれたばかりなんだ。だから、ヴィヴィオが名前を着けてあげて」

 

なのはがそう促すと、ヴィヴィオは近寄ってきたぬいぐるみを優しく掴んで

 

「えへへ……実は、もう決めてた名前が有るんだ」

 

と呟いた

そして庭に出ると

 

「デバイス使用者認証……高町・S・ヴィヴィオ……使用魔法、近代ベルカ、ミッドのハイブリット……」

 

と登録を開始した

それを四人は、優しく見守っている

 

「デバイス名は、セイクリッドハート……愛称はクリス!」

 

その名前を聞いて、なのはは少し恥ずかしそうに、フェイトは嬉しそうにした

そしてヴィヴィオは、新しい愛機

クリスを掴んで

 

「セイクリッドハート……セットアップ!!」

 

と早速、セットアップした

すると、幼いヴィヴィオの姿が変わり、成長した姿

ゆりかご事件の時の聖王としての姿になった

 

「やったー! 成功したよ、なのはママ!!」

 

「おー! 良かったねぇ」

 

ヴィヴィオが喜んでいると、なのはは拍手した

それを旦那sも微笑ましく見ていたが、冬也はフェイトが静かなことに気づき

 

「フェイト?」

 

と声を掛けた

すると、フェイトはへたりこんだ

それを見た冬也は、なのはに

 

「……なのは」

 

と声を掛けた

その直後

 

「あ」

 

となのはが声を漏らした

それを聞いたユーノは察したらしく、額に手を当てた

その光景を、ヴィヴィオが不思議そうに見ていると

 

「なのはぁ! ヴィヴィオが! ヴィヴィオがぁ!?」

 

となのはに飛び付いた

するとなのはは、焦った表情で

 

「あ、安心して、フェイトちゃん! これは、大丈夫だから!」

 

と説明を始めた

それを見たヴィヴィオも、気づいたらしく

 

「なのはママぁ! なんでフェイトママに教えてなかったの!?」

 

と問い掛けた

するとなのはは、少し視線を逸らしながら

 

「いや、その……つい、うっかり」

 

と溢した

 

「うっかりってぇぇ!?」

 

「昔から、変わらないね。なのはは……」

 

ヴィヴィオはなのはに怒り、ユーノは昔を懐かしみながら呟いた

そんな騒ぎの中、一度も起きなかったアリシアは、意外と大物になるかもしれない

こうして、新世代の物語りが始まった



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会話と約束と

ゆりかご事件を経て、ある家族は幸せに過ごしている

 

「って思ってたのに……なんでこうなってるの!?」

 

「あははは……」

 

フェイトの言葉を聞いて、なのはは苦笑いを浮かべた

なおユーノと冬也の二人は、正座して首から《知ってたが、言いませんでした》という看板を下げている

 

「えっとね、フェイトママ。確かにこの姿は、あの聖王としての姿だけど、中はヴィヴィオのままだよ?」

 

そんなフェイトに、ヴィヴィオが顔を見ながらそう言った

そして

 

「前から、何回も変身魔法の練習をしてたの。やりたいことがあるから」

 

と語った

それを聞いたフェイトは、完全ではないが納得することにしたようだ

すると、ヴィヴィオが

 

「それに……ママ達が今のヴィヴィオ位の時には、相当やんちゃしたって聞いたよ?」

 

と問い掛けた

 

「にゃははは……」

 

「そ、それは……!」

 

その言葉に、なのはとフェイトは赤面した

すると、ユーノが

 

「そうだね。結構、やんちゃしたね」

 

「ほう。これは確かに」

 

と冬也に、映像を見せていた

どうやら、過去の映像を見せているようだ

 

「待って、ユーノくん!?」

 

「い、何時のまに!?」

 

それに気付いた二人は、慌てた様子でユーノに視線を向けた

そしてこの後、高町家は夜のお散歩に出てフェイトと冬也は家に帰ると

 

「……という訳なの……」

 

フェイトは、通信で環境保護隊の二人

エリオとキャロの二人と話し始めた

冬也は、夜叉の簡易メンテ中である

 

「二人は知ってた?」

 

『はい。話だけは』

 

『それとなく、ですが』

 

フェイトの問い掛けに、エリオとキャロはそう返した

すると二人は

 

『まあ、ヴィヴィオも一生懸命練習してたみたいですし』

 

『大丈夫ですよ、フェイトさん!』

 

と朗らかに言った

その頃、散歩に出た高町家は

 

『ふっふふーん! やっぱり、この身長はいいなあ♪』

 

と上機嫌なヴィヴィオが、スキップしていて、それをなのはとユーノが微笑みながら見ていた

するとなのはが

 

「ねぇ、ヴィヴィオ」

 

とヴィヴィオを呼んだ

 

「なに? なのはママ?」

 

呼ばれたヴィヴィオは、振り向きながら首を傾げた

するとなのはは、真剣な表情で

 

「分かってると思うけど、魔法はイタズラに使わないようにね? 使い方を間違えたらどうなるか、ヴィヴィオも知ってるよね?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、ヴィヴィオは頷き

 

「うん、知ってる……ゆりかご事件……マリアージュ事件……あんな事になる……」

 

と答えた

ヴィヴィオがある意味中心だったゆりかご事件

そして、ヴィヴィオと同じ古代ベルカの技術が関わった事件たるマリアージュ事件

その両方は、魔法が深く関わっている

 

「だから、絶体に間違った使い方はしないこと……いいね?」

 

「うん、約束する!」

 

なのはの言葉を聞いて、ヴィヴィオはそう力強く返答した

すると、なのはが

 

「誓う?」

 

と言葉短く問い掛けた

その問い掛けに、ヴィヴィオは

 

「星と夜天と雷光。そして、刀と翡翠に誓って」

 

と答えた

それを聞いたユーノは、軽く笑って

 

「それは、絶体だね」

 

と頷いた

再び場所は変わり、ナカジマ家

そのリビングでは、四姉妹

チンク、ディエチ、ウェンディ、ノーヴェの四人が、ギンガからの通信を聞いていた

 

「傷害事件?」

 

『被害届けが出てないから、正確には未遂だけどね』

 

今日ギンガは、夜間シフトなので陸士108隊の隊舎に居る

そこから通信してきていた

 

『誰もが、有名なインストラクターや格闘家なんだけど、路上で挑まれて、負けてるの』

 

「あたし知ってるっす! ストリートファイトっすね!?」

 

ギンガの話を聞いて、ウェンディは興味津々と言った様子でそう言った

すると、そんなウェンディの頭にディエチが手を置いて

 

「ウェンディ、五月蝿いよ?」

 

と注意した

 

『まあ、ウェンディの言う通りね。それで相手は、この子』

 

ギンガがそう言うと、新しくウィンドウが開いて、一人の人物を写し出した

遠くから撮影されたらしく、少しボヤケている

 

「ふむ……バイザーで顔は分からんか……だが、珍しい髪だな……薄緑色か?」

 

とチンクは、画面を見ながら首を傾げた

すると、ギンガが

 

『その相手だけど、覇王インクヴァルトって名乗ってるらしいの』

 

と言って、それを聞いた四人は軽く驚いた

覇王インクヴァルト

その名前は、歴史を勉強しているならば知らぬ者は居ないと断言出来る名前だったからだ

 

「だけど、結構使われる名前だよね?」

 

『ええ……けど、使っている技が、どうも古流の物らしいの……だから、気をつけてね?』

 

ディエチの指摘に頷くと、ギンガがそう言った

すると、それを聞いたノーヴェが

 

「大丈夫だ。逆にボコッてやる」

 

と答えた

それに頷き、ギンガは

 

『それと、最近……その覇王が現れた場所に、一人の人物がよく目撃されてるの』

 

と言った

それを聞いたノーヴェが

 

「あ? 二人なのか?」

 

と首を傾げた

だが、ギンガは首を振って

 

『ううん、関係ないと思うわ。ただ、一応留意していてほしいの。その人物が、これ』

 

と更に新しく、ウィンドウを開いた

そこに写っていたのは、後頭部で括った赤髪に頬に十字傷

そして、腰に刀を差した人物だった

 

「この子に関しての情報は?」

 

『殆ど無いけど、通称で流浪人……って呼ばれてるみたい。かなりの刀の使い手みたい』

 

ディエチの問い掛けに、ギンガはそう答えた

これは、古代ベルカを巡る鮮烈な物語の始まりだ



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邂逅

翌日、ミッド主街区のある一角

 

「じゃーん! 私のデバイスのクリスだよ!」

 

「おぉー!」

 

「可愛いね!」

 

ヴィヴィオが御披露目すると、リオとコロナの二人はクリスを見ながらそう言った

そこに、ノーヴェが

 

「悪いな、ヴィヴィオ。今日は大所帯になった」

 

と謝ってきた

何故なら、ノーヴェの他にディエチ、ウェンディ、ティアナ、スバルの姿があったからだ

 

「大丈夫だよ、ノーヴェ」

 

ヴィヴィオがそう言うと、目的地に向かった

目的地は、複数建設されている大型体育館

その一つだ

そこに入ると、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、ノーヴェの四人は運動着に着替えた

そして、軽いスパーを始めた

それを見て、スバルが

 

「うわ……ヴィヴィオ、結構やる……」

 

と素直に驚きの声を漏らした

 

「本当……」

 

とティアナも驚いていると、ディエチが

 

「ヴィヴィオ、結構特訓してきたからね」

 

と言いながら、タオルを用意した

そして、ある程度するとノーヴェが

 

「んじゃ、本番行くか」

 

とヴィヴィオに言った

それを聞いたヴィヴィオは、クリスを呼んで

 

「バリアジャケットは、トレーニングウェアをベースにして」

 

と言った

それを聞いたクリスが敬礼すると、ヴィヴィオは掴んで

 

「セイクリッドハート、セットアップ!」

 

とセットアップ

聖王モードになった

そして、少し開けた場所に向かって

 

「すいません」

 

「使わせてもらいます」

 

と近くの人達に断ってから、相対した

そして数秒後、激しめの組手を始めた

 

「お、おお……」

 

「ヴィヴィオ、やるわね……」

 

スバルは驚き、ティアナは素直に感嘆した

すると、ウェンディが

 

「ノーヴェが基礎から教え続けてきたっすからね!」

 

と自慢気に言った

それは、ヴィヴィオが聖ヒルデ魔法学院に通っていたある日、ヴィヴィオは一人で格闘技

ミッド呼称ストライクアーツの訓練を、一人でしていた

しかし、独学なために色々と未熟な面があった

そこに、ノーヴェがアドバイスをしたのだ

構えかたから、体の動かしかたを

その結果、ヴィヴィオはノーヴェに師事を仰ぐようになり、今に至る

ヴィヴィオがやりたかったことというのは、格闘技(ストライクアーツ)のことだったのだ

その後、夕方近くまで組手を繰返し、帰ることにしたのだが、ノーヴェのデバイス

ジェットエッジに、通信が入り

 

「ディエチ、ウェンディ、悪いが、チビ達を送ってくれねぇか?」

 

とノーヴェが言った

 

「どうしたの?」

 

「消防隊からで、調整した装備の確認だとよ」

 

ディエチが問い掛けると、ノーヴェはそう言った

それを聞いたウェンディは

 

「任せるっす!」

 

とサムズアップして答えた

そこでノーヴェは一人別れて、消防隊の隊舎に向かった

そして数時間後、ノーヴェが暗い街中を一人歩いていると

 

「ストライクアーツ有段者……ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」

 

と声が聞こえた

その声を聞いたノーヴェは、近くの街灯を見上げた

その一番上に、ギンガから教えられた人物

覇王、イングヴァルトが居た

 

「……噂の覇王か」

 

「そう名乗っていることは、否定しません」

 

覇王はそう言うと、バイザーを外したすると、見えたのは虹彩異色症(オッドアイ)だった

 

(まだ若いな……)

 

顔と声の感じから、ノーヴェはその覇王がまだ幼いと言える年齢だと思った

そして

 

「名乗れよ……アタシは、お前の名前を知らないんだが?」

 

と問い掛けた

すると、覇王は

 

「申し遅れました……私の名前は、ハイディ・E・S・イングヴァルト……と申します」

 

と名乗った

その名前と虹彩異色症の色合い

それは、ノーヴェの知識に該当があった

 

(こいつの特徴は、確かに覇王と一緒だが……血縁が生き残ってたのか?)

 

ノーヴェはそう思いながら、肩に掛けていたショルダーバッグを下ろした

そして、覇王に

 

「お前さんの話は、姉から聞いてる……なんで、ストリートファイト(こんなこと)を続けている?」

 

と問い掛けた

すると、覇王は

 

「……私の中では、古代ベルカの戦争はまだ終わっていません……」

 

と言った

 

「あ?」

 

「……まだ、終わってないんです……そして、私の悲願を叶える……今を生きる古代ベルカの血を引く者達を全て倒し、覇を唱え、覇王流が最強だと証明するんです……」

 

ノーヴェが眉を潜めると、覇王は複雑な感情が籠った声でそう言った

それを聞いたノーヴェは、歯を鳴らして口を開こうとした

その時だった

 

「すまんが、そいつの相手……こちらに任せてもらっても?」

 

と新たな声が聞こえた

その声を聞いた二人は、ほぼ同時に声が聞こえた方向を見た

すると、ある一つの街灯の下にその人物は居た

後頭部辺りで纏めた赤い髪に、頬に十字傷

そして、腰に刀を履いた若い少年が

 

「お前は……」

 

「敢えて名乗るなら、流浪人……か……その覇王を探していたんだ……同じ古代ベルカの血を引く者として……ね」

 

ノーヴェの問い掛けに、その少年はそう言うと、覇王と対峙した

すると覇王は、傷みを堪えるような表情を浮かべながら、左手を側頭部に当てて

 

「流浪人……」

 

と少年を睨んだ

これが、古代ベルカを巡る鮮烈な物語の始まり



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覇王対流浪人

「……貴方は……」

 

「……飛天御剣流の使い手……流浪人……とだけ」

 

覇王の問い掛けに、流浪人はそう言って構えた

その構えを見て、ノーヴェは

 

「あれは……居合いか……」

 

と呟いた

次の瞬間、二人同時に動いた

 

「なっ!?」

 

二人が動いたということに、ノーヴェは驚いた

居合い

つまり、抜刀術は基本的に後の先

カウンターで戦うのが基本で、自分から動くことは滅多にない

だが、流浪人は自分から動いた

次の瞬間、二人が交差通り過ぎた二人は、一瞬にして反転した

その直後、二人のバリアジャケットの一分が弾けた

覇王は、脇腹

流浪人は、左肩の辺りのバリアジャケットが弾け飛んだ

しかし二人は、気にしないと言わんばかりに動いた

先に攻撃を繰り出したのは、間合いに優れる流浪人だった

流浪人は、素早く抜刀

斬撃を覇王に繰り出した

その一撃を覇王は、間合いを計ったらしく僅かに足を止めて空振りさせた

 

「入るっ!」

 

とノーヴェが言ったと同時に、覇王は拳を突き出そうとした

だが、覇王は一気に後ろに飛んだ

その瞬間、第二撃を流浪人が放っていた

 

「なっ!?」

 

ノーヴェが驚いた理由は、流浪人が第二撃を放ったからだ

本来、抜刀術というのは一撃の威力が高いために一撃を放った直後というのは隙だらけになり、第二撃は無いからだ

だが、流浪人は第二撃を放っていた使ったのは、鞘だった

 

「飛天御剣流……双龍閃……初見で回避されたのは、初めてだ……」

 

流浪人はそう言って、再度刀を納刀した

 

「飛天御剣流……私の覇王流と同じ、古武術ですね……」

 

「そうだな……」

 

覇王の問い掛けに、流浪人はそう答えながら腰を落とした

その時

 

「っと、ボーッとしてる場合じゃなかった!」

 

とノーヴェは、ジェットエッジを取り出した

 

「ジェット! 今すぐ、スバルかティアナさんに繋げ!」

 

《了解》

 

ノーヴェの指示を受けて、ジェットエッジは通信画面を開いた

少しすると、音声通信だったが

 

『はいはーい! ノーヴェ、どうしたのー?』

 

とスバルの気楽そうな声が聞こえた

音声通信なのは、スバルが夜間宿直だからだろう

 

「スバル! 今すぐアタシの居る場所にティアナさんかギンガ姉さんを寄越してくれ!」

 

『な、なに? いきなりどうしたの!?』

 

いきなりノーヴェがまくし立てたからか、スバルの狼狽した声が聞こえた

しかしノーヴェは、それを無視して

 

「今アタシの目の前で、あの噂の覇王と流浪人がヤりあってんだ! 今なら、二人を纏めて捕縛出来る!」

 

と言った

この時、覇王と流浪人は超高速で刃と拳を交えていた

二人が交差する度に、激しく火花が散る

 

「ちいっ……中々の威力だな……腕が痺れるっ」

 

「そう言う貴方も、中々の斬撃ですね……っ!」

 

二人は互いの技を称賛しながらも、更に加速していく

 

「覇王流……」

 

「飛天御剣流……」

 

二人は己の流派の名前を言った直後、姿が消えた

 

「鉄槌!!」

 

「龍巻閃・旋!!」

 

二人の技は、互いに直撃した

覇王の拳は、流浪人の背中に

流浪人の斬撃は、後頭部に直撃した

やはりその威力は重かったらしく、二人の体はフラフラしている

 

「ぐっ……」

 

「つう……」

 

それでも二人は、決して膝を折らなかった

恐らく、気合いだけで立っているのだろう

そこに

 

「はい、そこまで!」

 

「大人しくしてもらおうか」

 

と二人の背後に、人影が現れた

片方は、今や名の知れた執務官たるティアナ

そしてもう一人は、そんなティアナの右腕たる裕也だった

ティアナは覇王の側頭部に銃口を突き付けて、裕也は背後から首筋に刃を当てていた

 

「……時間稼ぎ、成功か……」

 

流浪人はそう言った直後、体が前のめりになった

それを見た裕也は、素早く流浪人の体を受け止めた

そして、顔を歪めた

 

「……背骨が歪み、肋骨もヒビが入ってるな……」

 

裕也がそう言った直後、流浪人のバリアジャケットが消えた

そして見えたのは、制服姿の少年だった

その制服を、ティアナは知っていた

 

「聖ヒルデの制服? っと」

 

ティアナが呟いた直後、覇王も膝を突いたのでティアナが受け止めた

すると、覇王もバリアジャケットが消えて、見えたのは更に幼い見た目の少女だった

 

「この子も、聖ヒルデの……?」

 

「さて……どうする?」

 

二人の制服を見て、ティアナと裕也は顔を見合わせた

すると、ノーヴェが現れて

 

「とりあえず……運ぶしかないだろうな」

 

と言ったのだった



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目覚め

翌日、ティアナ宅

 

「……ん、ここは……」

 

「お、起きたみたいだな」

 

覇王と名乗っていた少女が目を覚ますと、近くから声が聞こえた

声が聞こえた方を見ると、少女が挑戦しようとしていた相手

ノーヴェが、ベッド近くの椅子に座って本を読んでいた

するとノーヴェは、本を閉じてから

 

「体の調子はどうだ? アインハルト・ストラトス?」

 

と問い掛けた

すると少女、アインハルトは

 

「多少痛みますが、問題ありません」

 

と事務的に答えた

それを聞いたノーヴェは、アインハルトに

 

「しかし、制服姿で来るとは……すっとぼけた奴だな」

 

と意地の悪い笑みを浮かべながら、そう言った

それを聞いて、アインハルトは

 

「仕方ないじゃないですか……あの場所に行くまでに、かなり時間が掛かるから、着替える時間が無かったんです」

 

と頬を染ながら、反論した

その反論に、ノーヴェは笑いながら

 

「一応説明しとくと、ここはアタシの姉貴の友人の家の一室だ」

 

と説明した

その時

 

「お、起きたー?」

 

とスバルが、器用に頭の上にもお盆を乗せて現れた

 

「ノーヴェ、頭の上のやつ取って」

 

「あいよ」

 

言われた通り、ノーヴェはスバルの頭の上に有ったお盆を取り、それをアインハルトの前に置いた

他の二つは、量がかなり多い

どうやら、スバルとノーヴェ用らしい

 

「向こうはどうだ?」

 

「そっちは、ティアと裕也が相手してる。さっき目を覚ましたみたい」

 

ノーヴェの問い掛けに、スバルはそう答えた

どうやら、もう一人たる流浪人も目覚めたらしい

 

「えっと、アインハルト・ストラトスちゃんだよね? 私は、ノーヴェの姉のスバル・ナカジマ。なんであんなことをしてたか、聞きたいんだ」

 

「なんでも、こいつの中じゃあ古代ベルカの戦争が終わってなくて、古代ベルカに連なる強い奴を片っ端から倒したいんだとよ」

 

スバルがアインハルトに問い掛けると、ノーヴェがそう言った

しかし、直ぐにアインハルトが首を振り

 

「正確には、違います……私の覇王流こそが、最強と示したいんです……でないと、何も守れないから……!」

 

と涙ながらに訴えた

それを聞いた二人は、顔を見合わせた

同時刻、別室にて

 

緋村剣士郎(ひむらけんしろう)……で、あってるわね?」

 

「はい、その通りです」

 

ティアナの問い掛けに、流浪人こと剣士郎は、素直に頷いた

そして、ティアナは

 

「なんで、あんなことを?」

 

と剣士郎に問い掛けた

すると、剣士郎は

 

「……もう終わった古代ベルカ戦争……それに囚われてるあいつを……どうにかしてやりたかったんです……同じ古代ベルカ流派の使い手の一人として……」

 

と答えた

すると、ティアナの背後に立っていた裕也が

 

「ノーヴェさんから聞いたが、飛天御剣流……とやらの使い手のようだな……それも、かなり卓越した」

 

と問い掛けた

すると、剣士郎は

 

「俺と彼女は、恐らく同じタイプでしょう……過去の人物の記憶と技術を継承しているタイプ……まあ、多少の差はあるでしょうが」

 

と言った

それを聞いて、ティアナは

 

「つまり君は、先祖の記憶と技術を受け継いでいる……そういうことね?」

 

と問い掛けた

その言葉に、剣士郎は頷き

 

「その通りです……その記憶の中に、うっすらとですが、覇王に関する記憶がありました……聖王と縁深かった覇王の記憶が……」

 

と語った

 

「ふむ……」

 

「なるほどね……だから、あの子を止めたかったのね?」

 

ティアナの問い掛けに、剣士郎は頷き

 

「何時までも、過去に囚われたままでは、前に進むことが出来ないから……」

 

と言った

それを聞いた二人は、顔を見合わせてから

 

「とりあえず、この後は近くの管理局施設に来て、色々と書類を書いてもらうことになるけど……」

 

「その後は、どうする?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、剣士郎は

 

「登校しますよ……一応、図書館の司書もしていますから」

 

と答えた

 

「真面目ね」

 

「いいことだ」

 

剣士郎の言葉を聞いて、二人は満足そうに頷いた

実は、アインハルトも同じことを言っていて、この後にティアナの車で送ることになる



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二人の鎖

アインハルトと剣士郎の朝食が終わると、スバルの車で近くの管理局施設に向かった

二人はそこで、なぜ今回のことをしたのかを聞かれ、そして反省文を書いた

特にアインハルトは、被害届は出されていなかったとは言っても、やったことはほぼ傷害罪に当たる

剣士郎はそんなアインハルトを止めるために、許可区域外で魔法の無断使用と更には夜間の出歩きをしていた

そのことに関して、反省文を書いた後は廊下で椅子に座っていた

その時初めて、アインハルトは剣士郎が自分と同じ学校に通っていると気付いたのだが

 

「……一応言っておくが、クラスメイトだからな?」

 

剣士郎のその言葉に、固まった

その反応に、剣士郎は

 

「やっぱり、覚えてなかったか……更に言うが、初等部の頃にも何回か同じクラスになって、図書館でも顔を合わせてるぞ」

 

と追い討ちした

その言葉に、アインハルトはまるで錆びたロボットフィギュアのようにギギギと顔を反らした

そこに

 

「ほれよ」

 

とノーヴェが、アインハルトの首筋に缶ジュースを押し付けた

それに驚いたアインハルトは、椅子から跳ねるように飛び上がって構えた

そんなアインハルトに、ノーヴェは

 

「意外と抜けてるな、覇王様」

 

と意地の悪い笑みを浮かべた

その後、二人に缶ジュースを手渡すと、ソファーに座った

そして、アインハルトと剣士郎を交互に見て

 

「しっかし、お前ら本当にまだガキだったんだな……聖ヒルデ魔法学校中等科一年のアインハルト・ストラトス。同じく、緋村剣士郎」

 

と言った

確かに、既に二十歳間近のノーヴェからしたらまだ子供だろう

しかし、ノーヴェが驚いたのは他にもあった

 

「そんなガキが、あんな動きが出来るとわな……」

 

それは、二人の体捌きだった

アインハルトだけでなく、剣士郎の動きもノーヴェからしたら、歳不相応だった

 

「……個人差は有りますが、俺も彼女も、過去の人物……俺は、古代ベルカ戦乱期に人斬り抜刀斉と呼ばれた先祖の記憶と使っていた流派……飛天御剣流に関する知識を受け継いだんです……」

 

剣士郎はそう言って、アインハルトを見た

すると、アインハルトは

 

「……私は、戦乱末期の覇王イングヴァルトの記憶を中心に技を……」

 

と言った

それを聞いたノーヴェは、一度頷くが

 

「待て……人斬り抜刀斎だと?」

 

と剣士郎を見た

人斬り抜刀斎

その名を、ノーヴェは知っていた

実を言えば、姉妹の一人

ディードは、その人斬り抜刀斎の技術を使わせる予定だった

しかし、その人斬り抜刀斉の遺伝子データと記録が余りにも不確かで、廃案になったのだ

その人斬り抜刀斎と呼ばれた人物が、剣士郎の先祖

 

「……その傷は?」

 

「記憶を受け継いだ人のみに出る物です……恐らく、先祖が受けた傷でしょう……強い恨みと執念が込められた傷は、簡単には消えないそうですから……普段は、これを使って隠してますが」

 

ノーヴェの問い掛けに答えながら、剣士郎は肌色の掌サイズの薄い湿布のような物を貼った

確かに、傷は見えなくなった

それを見たノーヴェは、アインハルトに視線を向けて

 

「で、お前さんは……古代ベルカの王の血筋を倒して、最強を目指す……だったか?」

 

と問い掛けた

すると、アインハルトは頷き

 

「でなければ……彼の無念が報われません! 愛した人を守れなかった、助けられなかった彼の無念が!」

 

と慟哭した

そこから剣士郎は、アインハルトが戦乱末期の覇王の記憶を受け継いでいると気付いた

そしてそれが、アインハルトを縛っている原因だとも

 

「……なあ、お前さ……ストライクアーツの世界一、目指さないか?」

 

ノーヴェのその言葉に、アインハルトは固まったのだった



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登校と調べもの

「ん? ヴィヴィオー、何してるの?」

 

とヴィヴィオに問い掛けたのは、午後の授業のために調べものをしていたリオだ

そんなリオの前では、ヴィヴィオが一冊のハードカバーの本を開いていた

 

「ノーヴェからメッセージで、私と会わせたい人達が居るんだって。で、その人達のことを知るために、古代ベルカ戦乱期を調べてるの」

 

「へー」

 

ヴィヴィオの返答に、リオはヴィヴィオの前に置かれてある本の内の一冊を手に取った

表紙には、古代ベルカ戦乱期の清次と書いてある

そこに、数冊の歩を持ったコロナが現れて

 

「ヴィヴィオ、これ、新しく見つけた本だよ」

 

とヴィヴィオの前に置いた

すると、コロナは

 

「んー……何時もの司書の先輩が居なかったから、探すのに、少し時間掛かっちゃった」

 

と背伸びした

するとヴィヴィオが

 

「え、居なかったの?」

 

と驚いていた

すると、コロナは

 

「うん。先生に聞いたら、何かの事件に巻き込まれて遅れて登校するんだって」

 

と答えた

それを聞いて、リオが

 

「無事なんだ、良かったぁ。あの先輩、優しいし」

 

と微笑んだ

すると、ヴィヴィオも

 

「うん! 一緒に本探してくれるしね!」

 

と嬉しそうに言った

そしてヴィヴィオは、ある項目を見て

 

「あ、これかな? 覇王イングヴァルト……戦乱末期に彗星の如く現れて、末期では最強と称された王の一人……」

 

と読み始めた

その頃、職員用駐車場に二台の車が止まり、中からそれぞれアインハルトと剣士郎が出てきた

すると、そんな二人にノーヴェが

 

「もうやんちゃはするなよ?」

 

と忠告した

それに対して、剣士郎は

 

「俺は、彼女がしなければしませんよ」

 

と答えた

そして、校舎に向かいながら

 

「しかし、皆勤賞は無くなったか」

 

と剣士郎が呟いた

それを聞いたアインハルトが

 

「……狙ってたんですか?」

 

と問い掛けた

その問い掛けに、剣士郎は

 

「まあ、初等部の頃から取ってたしな」

 

と答えた

 

「……真面目なんですね」

 

「ストラトスも真面目じゃないか。何回か、包帯を巻きながら登校してただろ?」

 

剣士郎がそう言うと、アインハルトは少し間を置いて

 

「……アインハルトで結構です。クラスメイトなのでしょう?」

 

と言った

それを聞いた剣士郎は、不思議そうにアインハルトを見てから

 

「分かった。俺のことも、剣士郎と呼んでくれ。アインハルト」

 

と言った

そして放課後、高町家

 

「……」

 

ヴィヴィオは一冊の本を黙って読んでいた

そこに、家事を一段落させたなのはが近寄り

 

「何読んでるの?」

 

とヴィヴィオに問い掛けた

するとヴィヴィオは

 

「古代ベルカ戦乱期……それも、末期に関する本」

 

と答えた

 

「戦乱末期か……あれだよね? 覇王イングヴァルトが出てる」

 

「うん……それだけじゃなくて、人斬り……人斬り抜刀斎も活動してた時期だね……」

 

なのはの言葉に、ヴィヴィオはそう言った

 

「私は話でしか知らないけど……かなりの剣の使い手なんでしょ?」

 

「うん……一説には、一人で護衛を含めて王を斬殺したって書かれてる」

 

なのはの問い掛けに、ヴィヴィオは頷きながら答えた

なのはは地球産まれで、それほどミッドの歴史に詳しいわけではない

だが、ユーノからある程度話を聞いていたのだ

そこに

 

『ただいまー』

 

とユーノの声が聞こえた

 

「おかえり、ユーノ君」

 

「おかえり、ユーノパパ」

 

と二人が出迎えると、ユーノは

 

「ん? ヴィヴィオは何を調べてるんだい?」

 

とヴィヴィオの後ろから、本を見た

そして

 

「古代ベルカ戦乱期……それも、末期か……一番資料が少ない時期だね」

 

と呟いた

古代ベルカ戦乱末期

その時期は様々な事情から、有形資料が少ない時期なので、未解明な部分が多々あった

 

「ねえ、ユーノパパ。人斬り抜刀斎って知ってる?」

 

「人斬り抜刀斎……ああ、聖王家が放ったっていう……」

 

ヴィヴィオが問い掛けると、ユーノは少し思い出すように呟いた

すると、なのはが

 

「聖王家が?」

 

と首を傾げた

 

「うん。元々はどうも、守護騎士だったって説が有力だね……聖王家に連なる家系を守る騎士……それが、人斬り抜刀斎の原形だって……」

 

ユーノはそう言って、ある映像を見せた

そこには、赤い髪を揺らす後ろ姿が映っていた



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改めて

古代ベルカ、緒王時代

それは、天地統一を目指した諸国の王達による戦いの歴史

聖王女、オリヴィエ

覇王、イングヴァルト

この二人は、そんな時代を生きた王族の人間

いずれ優れた王とされる二名の関係は、現代の歴史研究においても謎のままになっている

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

放課後、ある喫茶店

 

「お前ら、せっかくの休暇なんだろ? 別にこっちに付き合う必要はなかったんだぞ?」

 

「あははー」

 

ノーヴェの苦言に、スバルは笑った

その机には、ノーヴェとスバルの他にティアナ、裕也、レンヤの姿があった

するとティアナが、ノーヴェの言葉に

 

「二人のことも、気になるしね」

 

と言った

すると、スバルがジュースを一口飲んでから

 

「そうそう」

 

と同意した

なお裕也は、眼鏡を掛けて本を読んでおり、レンヤは何があったのか、机にうつ伏せになっている

 

「まー、それはありがたくもあるけどよ……問題は」

 

ノーヴェはそう言って、立ち上がりながら振り向き

 

「なんで、そっちは全員揃ってるんだよっ!?」

 

と突っ込みを入れた

その先のテーブルには、ノーヴェが呼んだチンクの他にウェンディ、ディエチ、オットー、ディード、セッテの姿があった

 

「えー、別にいいじゃないっスかー」

 

「時代を越えた聖王と覇王の出会いなんて、ロマンチックだよ」

 

ウェンディはサンドイッチを食べながら言い、ディエチは少女的観点から

 

「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし」

 

「護衛としては、当然」

 

聖王教会から来た二人は、ヴィヴィオの安全上のために

 

「私は、武副隊長から休暇を言い渡されて、暇だったので、たまたま出会ったから着いてきました」

 

セッテはどうやら、暇潰しを兼ねて来たらしい

すると、チンクが

 

「すまんな、ノーヴェ。姉も一応止めたのだが……」

 

と片手を挙げながら、ノーヴェに謝罪した

なお、チンクが自分のことを姉と言うのは、町中で歩いていると、妹と勘違いされるからである

するとノーヴェは、深々と溜め息を吐いてから

 

「来ちまったのは仕方ない……いいか? 変なチャチャは入れるなよ? ヴィヴィオやアインハルト、剣士郎は色々とデリケートなんだからな?」

 

と忠告した

すると、ウェンディとディエチは

 

「はーい」

 

と元気に返事をして、オットー、ディード、セッテの三人は無言で親指を立てた

そんな妹達の姿に、チンクは汗を垂らしたのだった

その時

 

「お待たせー!」

 

とヴィヴィオが、リオとコロナの二人と一緒に来た

 

「おお~? なんか大勢居る」

 

予想外に多く居たからか、ヴィヴィオは少し驚いた様子だ

すると、ノーヴェが

 

「悪いな、ヴィヴィオ。予定外に増えた」

 

と片手を挙げて、謝罪した

すると、ヴィヴィオは

 

「大丈夫! それより、相手の人達は?」

 

と問い掛けながら、椅子に座った

 

「ああ。さっき電話があって、もうすぐで……」

 

『お待たせしました』

 

ヴィヴィオの問い掛けに、ノーヴェが答えてる途中で、新たに二人の声が聞こえて、全員が声が聞こえた方を向いた

そこには、ヴィヴィオと同じ意匠の制服を着たアインハルトと、男子の制服を着た剣士郎の姿があった

すると、ヴィヴィオが

 

「あれ!? 図書館の!!」

 

と剣士郎を見て、驚いていた

そんなヴィヴィオに、剣士郎は

 

「何時もご利用、ありがとうな」

 

と笑顔を向けた

そして、二人して

 

「アインハルト・ストラトスです」

 

「緋村剣士郎です」

 

と名乗った

そんな二人に、ノーヴェが

 

「なんか飲むか?」

 

とメニューを見せた

しかし、二人は首を振りながら

 

「お構いなく」

 

「大丈夫です」

 

と答えた

この時、ヴィヴィオはアインハルトを見ていた

碧銀色の髪に、ヴィヴィオとは色が違うが、虹彩異色症の眼

そして何より、儚い印象の少女だった

とてもではないが、ノーヴェから聞いていた古代ベルカの流派の使い手とは思えなかった

すると、アインハルトと目が合い

 

「初めまして、アインハルト先輩。高町・S・ヴィヴィオです」

 

と挨拶しながら、右手を差し出した

アインハルトは握手に応じながら

 

「アインハルト・ストラトスです……」

 

と再び名乗った

そしてアインハルトは、ヴィヴィオを見ながら

 

(ああ……この(ロート)(グリューン)の眼……確かに、彼女の血筋です……)

 

と記憶の中の聖王女、オリヴィエとヴィヴィオを重ねていた

それに気付いたのか、ノーヴェが

 

「さて、早速だが、移動するぞ!」

 

と声を上げたのだった



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想い

そして、一同が向かったのは、区民センター内のスポーツコートだ。

ノーヴェがそこの管理者と知り合いで、今回はその内の一室を貸し切りにしてもらったのだ。

 

「じゃあ、あの! アインハルトさん! よろしくお願いします!」

 

「……はい」

 

トレーニングウェアに着替えた後、ヴィヴィオは元気に言うが、アインハルトは静かに頷いた。

 

諸王戦乱期に、武技においては最強を誇った一人の王女が居た。その名は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

後の、《最後のゆりかごの聖王》。

かつて覇王と呼ばれた、《覇王イングヴァルト》は、そのオリヴィエに勝つことが出来なかった。

 

『それで、時代を越えて再戦……か?』

 

それは、朝方にまで時を遡る。

 

『覇王の血は、長い歴史の中で薄れていますが、時折……その血が色濃く甦ることがあります』

 

『先祖帰り……か』

 

あの管理局施設で、アインハルトはその心中を語っていた。

彼女の家系は、確かにかつての古代ベルカの王の一人たるイングヴァルトの家系で、アインハルトはその血が色濃く出ていた。

 

『碧銀の髪や、この色彩(青と紫)の虹彩異色……覇王の身体資質と覇王流(カイザーアーツ)……それらと一緒に、少しの記憶もこの体は受け継いでいます』

 

それを聞いたノーヴェは、以前にユーノから聞いたある説を思い出した。

 

『どうも、強い後悔や心残りがあるまま亡くなると、それを子孫が引き継ぐことがあるみたいなんだ……隔世遺伝してもね』

 

と。つまりは、覇王イングヴァルトは強い心残りがあったまま、亡くなったということを意味している。

 

『私の記憶にいる《彼》の悲願なんです……天地に覇をもって、和を成せる……そんな《王》であること……』

 

アインハルトはそこまで言うと、涙を流しながら

 

『弱かったせいで、強くなかったせいで……彼は彼女を救えなかった(・・・・・・・・・・・)……守れなかったから! そんな数百年分の後悔が……私の中にあるんです……』

 

と静かに叫び、そしてそのアインハルトの言葉に、剣士郎は目を伏せた。

どうやら剣士郎も、かつての記憶に思いがあるようだ。

 

『今が、かつての時代と違うのは分かってます……だけど、やるせないんです! 私の拳を……彼の思いを受け止めてくれる人が、誰も居ない!』

 

そう言ったアインハルトは、両手で顔を覆った。どうやら泣いているらしく、小さいが嗚咽も聞こえる。

それを聞いたノーヴェは、静かに、しかし力強く

 

『居るぞ。お前の拳を受け止めてくれる奴は』

 

と確信した表情で、そうアインハルトに告げた。

それを聞いたアインハルトは、涙ながらに

 

『……本当に?』

 

とノーヴェに問い掛け、放課後にあの喫茶店に来るように言われたのだ。

そして時は戻り、今。

アインハルトとヴィヴィオは、コートに入るとラインの位置に立った。

それを確認したノーヴェが

 

「射砲撃や拘束といった魔法は無しの、格闘オンリー。四分1ラウンド! 一撃入れたほうが勝ち……それで、いいな?」

 

と二人に、ルールを確認した。

それに二人が頷くと、ノーヴェは片手を上げた。それと同時に、二人は構えた。

アインハルトは僅かに腰を落として静かに、対称的にヴィヴィオは、軽くステップを踏みながら構えた。

 

「レディ……ゴー!!」

 

とノーヴェが手を振り下ろした直後、ヴィヴィオは一気にアインハルトに肉薄していた。

予想外の速さに、アインハルトは驚いたが、ヴィヴィオの一撃は両腕を交差させて防いだ。

そこから、ヴィヴィオにラッシュが始まった。

それを見た剣士郎が

 

「歩き方で分かっていたが、かなりの力量だな……」

 

と驚いていた。

すると、それを聞いたリオが

 

「ヴィヴィオ、訓練頑張ってるから!」

 

と胸を張った。

そこ、無い胸と言わない。まだ、将来は分からないから。

話を戻して

剣士郎は、二人の戦いの様子を見ていたが

 

(確かに……手数は高町ちゃんが圧倒的だが……ストラトスは全て捌いているな……)

 

と冷静に見ていた。

端から見たら、ヴィヴィオの方が有利に見えなくもない。しかしアインハルトは、ヴィヴィオの怒涛のラッシュを冷静に見極め、全て捌いていた。

そこに、アインハルトの技量の高さが伺える。よほどの鍛練を積んだ証拠だ。

そしてアインハルトは、ヴィヴィオの拳を受け流しながら

 

(まっすぐな技に、きっとまっすぐな心……)

 

ヴィヴィオの目を見ていた。

ヴィヴィオの目に有るのは、純粋な光だ。

 

(だけど、この子は……だからこの子は……)

 

アインハルトはヴィヴィオが繰り出したフックを、しゃがんで回避し

 

(私が戦うべき、《王》ではないし……何より……)

 

掌打を、ヴィヴィオの体に入れた。

その一撃でヴィヴィオは大きく吹き飛ばされて、危うく壁にぶつかるかと思われた。

だが、いつの間にか回り込んでいたオットーとディードが受け止めて、着地した。

するとヴィヴィオは、どこか興奮した表情を浮かべながら

 

(凄い!)

 

とアインハルトを見た。

しかしアインハルトは、どこか悲しげな表情で

 

(……私とは、違う……)

 

ヴィヴィオに背を向けた。

それを見たヴィヴィオは、慌てた表情で

 

「す、すいません! 私、何か失礼を!?」

 

とアインハルトに問い掛けた。しかしアインハルトは、肩越しにチラリと見ながら

 

「いいえ……」

 

と短く答えるだけ。

しかしヴィヴィオは、それでは納得せず

 

「じゃ、じゃあ、あの……わたし、弱すぎました?」

 

と問い掛けた。

それに対して、アインハルトは

 

「いえ、趣味と遊びの範囲内(・・・・・・・・・)でしたら、充分すぎるほどに」

 

と返した。

その言葉に、ヴィヴィオが動揺していると

 

「すいません……私の身勝手です……」

 

と謝罪した。

しかし、ヴィヴィオは何処か納得しきれず

 

「すいません! 今のスパーが不真面目に感じたのなら、謝ります! 次は、もっと真剣にやります! だから、もう一度やらせてもらえませんか? 今日じゃなくてもいいです! 明日でも……来週でも!」

 

と申し込んだ。

それを聞いたアインハルトは、困惑した表情でノーヴェに視線を向けた。

するとノーヴェは、乱暴に頭を掻いて

 

「あー……そんじゃまあ……」

 

と言葉を漏らしながら、二人を見た。

流石に、このままというのは後味が悪い、そう判断したノーヴェは

 

「来週またやるか? 今度はスパーじゃなく、練習試合でさ」

 

と提案した。

それを聞いたウェンディとディエチも賛同し、リオとコロナも楽しそうに頷いた。

そして、アインハルトも

 

「……分かりました。時間と場所は、お任せします」

 

と言って、ロッカールームの方に歩きだした。

そのアインハルトに、ヴィヴィオが

 

「ありがとうございます!」

 

と頭を下げた。

そして、分かれ道で

 

「悪い、ヴィヴィオ。気を悪くしないでやってくれ」

 

「全然! わたしの方が、ごめんなさいだから!」

 

とノーヴェとヴィヴィオは、小声で会話して別れた。

この時、剣士郎がメモ用紙をヴィヴィオのデバイス、クリスに手渡していた。

そして帰宅した後、ヴィヴィオは

 

「うー……」

 

とヴィヴィオは、ベッドにうつ伏せになっていた。

そんなヴィヴィオに、クリスがメモ用紙を見せた。

 

「ふえ? 緋村先輩から?」

 

それを受け取ったヴィヴィオは、メモ用紙を開いた。

すると、几帳面な字で

 

『ストラトスは少し生真面目過ぎる故、深く考え過ぎてしまう。それと、君が遊びで格闘技をやっていないことを、俺は理解している。だから俺から言えるのは、今の君に出来る最高の技を、ストラトスに見せてやってほしい』

 

と書かれてあった。

それを見たヴィヴィオは、ムクリと起き上がり

 

「よしっ! やるぞー!!」

 

と気合いの声を上げて、来週の練習試合の為に訓練を始めたのだった。



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それぞれの朝

そして、数日後の早朝。場所は、近くの公園にて、ヴィヴィオとノーヴェが走り込みをしていた。

 

「悪いな、ヴィヴィオ……この間」

 

「いいよ……あの先輩、何かあるんでしょ?」

 

走り込みを終えると、ノーヴェはヴィヴィオに謝罪し、ヴィヴィオは確信した様子でそう問い掛けた。

 

「……あいつはな、ヴィヴィオと同じ、古代ベルカの血統なんだ……しかも、あいつは正統な血筋……覇王の血筋だ」

 

「覇王……聖王と縁が有ったっていう……」

 

ノーヴェの説明を聞いて、ヴィヴィオは呟くように、読んだ本の内容を思い出した。

 

「あいつな……ご先祖の記憶を持ってて、それで悩んでるんだ……後悔にまみれた過去の記憶に……」

 

「……それって、緒王戦乱期の?」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、ノーヴェは頷いた。

 

「でも、救ってやってくれとか、そーゆーんでもねぇんだよ。まして、聖王や覇王がどうこうでもない」

 

「わかるよ、大丈夫」

 

ヴィヴィオはそう言って、噴水に視線を向けた。

もしかしたら、ゆりかご事件に思いを馳せているのかもしれない。

 

「でも、自分の生まれとか何百年も前の過去の事とか……どんな気持ちで、過ごしてきたのとか……伝えあうのって難しいから、思いっきりぶつかってみるだけ!」

 

ヴィヴィオはそう言うと、ノーヴェに向き合って

 

「仲良くなれたら、教会の庭や会わせたい子が居る……」

 

と呟いた。それを聞いたノーヴェは

 

「庭か……あそこはいいな……」

 

と頷いた。そして

 

「悪いな。お前には、迷惑かけてばっかりだ」

 

と軽く謝った。

だが、ヴィヴィオは

 

「迷惑なんかじゃないよ! 友達として信頼してくれるのも、指導者(コーチ)として教え子(わたし)に期待してくれるのも、どっちも凄く嬉しいもん!」

 

と満面の笑みを浮かべた。

そしてヴィヴィオは、グッと拳を掲げて

 

「だから、全力全開で頑張る!」

 

と宣言した。

ほぼ同時刻、アインハルトは目を覚ました。

その原因は、見ていた夢だった。ご先祖たる覇王イングヴァルトの後悔の記憶。

愛する聖王を止められず、死に行くのを見送ることしか出来なかった、一番辛い記憶。

 

(いつもの夢……一番悲しい、覇王の記憶……)

 

アインハルトは起き上がると、全身の姿勢を確認するために使っている姿見の前に立ち、拳を姿見に突き付けた。まるで、自身に問うように。

それから、時は経ち正午過ぎ。

場所は、廃棄倉庫区画。

既に、ヴィヴィオ達は到着していた。そこに

 

「お待たせしました。アインハルト・ストラトス、参りました」

 

スバルやティアナ達に連れられて、アインハルトが現れた。

その後ろには、剣士郎もいる。

 

「来ていただいて、ありがとうございます。アインハルトさん!」

 

ヴィヴィオがそう言いながら頭を下げると、アインハルトは複雑そうな表情を浮かべた。

その流れを変えるためか、ノーヴェが周囲を指差しながら

 

「ここは、救助隊の訓練でも使う場所でな。既に話は通して、施設の破壊許可は貰ってある。だから、二人とも本気でやっていいぞ」

 

と教えた。それを聞いたヴィヴィオは、近くを浮いていたクリスを掴み

 

「もちろん、本気で行くよ」

 

と宣言した。その直後

 

「セイクリッド・ハート! セットアップ!」

 

ヴィヴィオは、バリアジャケットを展開し、アインハルトに相対した。

それを見たアインハルトも

 

「武装形態」

 

と短く呟き、バリアジャケットを展開した。

それを見たリオが

 

「おお! アインハルト先輩も、大人モードだ!」

 

と興奮していた。

そしてノーヴェは、二人がバリアジャケットを展開したのを確認してから

 

「いいか? ルールはこの前と同じで、魔法無しの一本勝負だ」

 

と二人に確認した。

 

「はい」

 

「大丈夫」

 

二人が頷くと、ノーヴェは高々と片手を上げて

 

「試合、開始!!」

 

と宣言した。



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新たな一歩

ノーヴェが試合の開始を宣言した直後、最初に動いたのはヴィヴィオだった。

ヴィヴィオは前回と同様に、一気に肉薄すると拳を繰り出した。

だが、その拳の重さは前回の比では無かった。一撃を貰ったアインハルトは、大きく後ろに飛ばされた。

 

「つっ!?」

 

その一撃にアインハルトは驚愕し、視線をヴィヴィオに向けたのだが、その時既にヴィヴィオは再び肉薄していた。

それを見たアインハルトは、牽制を含めてショートフックを放ったが、ヴィヴィオはしゃがんで回避し、アインハルトにボディーブローを直撃させた。

 

「ぐっ!?」

 

「まだ!!」

 

アインハルトは一度距離を取ろうとしたが、ヴィヴィオはそれを許さず肉薄した。

 

(なぜこの子は、こんなに頑張る……? シショウの前だから? 友達の前だから?)

 

(前はダメだったから、きちんと伝えるんだ……これが、私のストライクアーツだって!!)

 

ヴィヴィオは自身の気持ちを込めて、アインハルトに繰り出した。

アインハルトは両腕を交差させて、その一撃を防いだが、余りの重さに押し飛ばされた。

 

「くっ!?」

 

アインハルトはバランスを崩しかけたが、すぐに建て直して構えた。

そこに、ヴィヴィオは更に連撃を叩き込もうとしたが、アインハルトは蹴りで牽制。腰を落として、構え直した。

アインハルトからしたら、ヴィヴィオの実力は予想外だった。

しかし、全体的な腕前はアインハルトの方が上。

アインハルトは一瞬の隙を突いて、ヴィヴィオの顔に拳を叩き込んだ。

その一撃に、ヴィヴィオは態勢を崩すものの

 

「ああぁぁぁ!!」

 

雄叫びを上げながら、アインハルトに拳を繰り出した。

だがアインハルトは、体のひねりを使ってヴィヴィオのその一撃を受け流し

 

「覇王……断空拳!!」

 

必殺の拳を、ヴィヴィオに叩き込んだ。

直撃を受けたヴィヴィオは、廃屋に激突した。

それを見たノーヴェは、右手を上げて

 

「そこまで! 勝者、アインハルト!!」

 

と勝者を宣告した。

その時、ティアナが

 

「ねえ、あそこって確か……剣士郎居なかった?」

 

とスバルに問い掛け、それを聞いたスバルはダッと駆け出した。

そして

 

「陛下は問題ありません。少しすれば、目を覚ますかと」

 

「彼もだね……幸い、頭も打ってない」

 

スバルの手により、ヴィヴィオと剣士郎が廃屋から救助されて、ディードとオットーが診断していた。

ヴィヴィオは、剣士郎がクッションになって大したことはなく、剣士郎はヴィヴィオと廃屋に挟まれたことによるダメージで、気絶していた。

 

「なんて、運の悪い……」

 

「というより、緋村先輩はなんであそこに……」

 

巻き込まれた剣士郎に、コロナとリオはそう呟いた。

すると、ノーヴェはアインハルトに

 

「どうだった、ヴィヴィオは?」

 

と問い掛けた。

それに、アインハルトは答えようとしたが、突如として足から力が抜けて倒れそうになった。

 

「あらら」

 

それを、ティアナが咄嗟に支えたが

 

「す、すいません」

 

とアインハルトは謝罪し、立とうとしたが、どうも上手く立てなかった。

 

「無理しなくていいよ」

 

と倒れそうになったアインハルトを、今度はスバルが支えた。そんな自身に、アインハルトが困惑していると

 

「ああ、ヴィヴィオの攻撃が効いてきたんだな。最後に、ヴィヴィオのフックが顎にカスってたのが、時間差で来たんだな」

 

とノーヴェが指摘した。

そう、ヴィヴィオはアインハルトの拳が直撃したのとほぼ同時に、ヴィヴィオはフックを繰り出していたのだ。

その一撃はアインハルトの顎を掠めていて、直撃こそしなかったものの、時間差でダメージが足に来たのだ。

そしてアインハルトは、スバルに支えられながらも

 

「……前回の言葉を、謝罪します……遊びと言ったことを……」

 

と言いながら、ヴィヴィオを見た。そして、何とか立てるようになったので、ヴィヴィオの近くに膝を突いて

 

「……改めまして、アインハルト・ストラトスです……以後、よろしくお願いします」

 

と名乗りながら、ヴィヴィオの手を握った。

それを見たノーヴェが、意地の悪い笑みを浮かべながら

 

「それ、起きてる時に言ってやれ」

 

と言ったが、アインハルトは

 

「……今は、恥ずかしいので無理です……」

 

と顔を赤くした。

こうして、新たな始まりが幕を開けた。



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朝の一幕

ヴィヴィオの朝の日課はジョギングで、今日もまた走り

 

「ゴール!」

 

と家の前に到着した。

そこに

 

「ああ、ヴィヴィオか」

 

と冬也が出迎えた。

 

「冬也パパ! 今帰ってきたの?」

 

「ああ……土壇場で、出動が掛かってな……その分の書類を纏めてから、引き継ぎをしたんだ……」

 

ヴィヴィオが問い掛けると、冬也は疲れた表情でそう説明した。それを聞いたヴィヴィオは、心配した表情で

 

「無理しないでね? フェイトママとアリシアが待ってるんだし」

 

と言って、冬也に近寄った。

それを聞いた冬也は、ヴィヴィオの頭を撫でながら

 

「ありがとうな、ヴィヴィオ……分かっているさ……」

 

と微笑んだ。

アリシアがフェイトと結婚してから、冬也は家族や親しい人限定でたが、よく感情を表情に出すようになっていた。

このことに関して、フェイトは

 

『長い間抑制された感情が、ようやく表に出るようになってきたんだよ』

 

と微笑んでいた。

いい変化だと言えるだろう。長年自身を兵器と定義して戦場をさ迷い続けた一人の存在が、ようやく人間に戻ったのだから。

すると、冬也が不意に欠伸して

 

「すまん……やはり、五日はマトモに寝てないからな……これから、仮眠を取る……」

 

「早く休んで」

 

冬也の話を聞いて、ヴィヴィオは思わず言葉が出た。

流石に、五日は予想外にも程がある。

そして冬也は、鍵を開けて家に入った。

それを見送ったヴィヴィオは、自宅のドアを開けて

 

「ただいまー!」

 

と声を上げた。

その後ヴィヴィオは、準備と朝食を終えると、なのはとユーノの二人と一緒に家を出た。

 

「ヴィヴィオ。そう言えば、新しいお友達が出来たんでしょ? 紹介してほしいなぁ」

 

「んー……友達って言うか、先輩なんだよねぇ」

 

なのはの言葉に、ヴィヴィオは少し困った表情を浮かべながら、そう答えた。

すると、ユーノが

 

「ああ、ノーヴェから聞いてるよ。少し特殊な子達と知り合ったって」

 

と思い出すように告げて、それを聞いたなのはが

 

「あ、一人じゃないんだ」

 

と少し驚いた表情で、そう言った。

その頃、フェイトは自宅で

 

「それじゃあ、休暇は貰えたんだね?」

 

『はい! 今日、引き継ぎが終わりました!』

 

『ちゃんと、合宿に行けます!』

 

通信で、エリオとキャロの二人と話していた。

すると、エリオが

 

『あの、冬也義父さんは……』

 

と聞いてきた。

 

「ああ、冬也は今朝帰ってきてね。今は仮眠中……なんでも、五日は寝てなかったらしくって……」

 

『あ、もしかして……あの武器密売組織をやったのって……』

 

フェイトの言葉に、キャロが何かを思い出すように顔を上に向けた。

すると、フェイトは

 

「それもあるけど、昨日の夜に実弾装備の一団が、開拓地を襲ったみたいでね……その鎮圧に出てたの」

 

と説明した。

それを聞いて、エリオは

 

『冬也義父に、お疲れ様でした。と言っておいてください』

 

とフェイトに頼んだ。

場所は変わり、ヴィヴィオは

 

「あ、アインハルトさん! 緋村先輩!」

 

「ヴィヴィオさん」

 

登校した時に、アインハルトと剣士郎に出会った。

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます」

 

「ん、おはよう」

 

二人に挨拶すると、二人から返答がされた。

新しく知り合ったアインハルトと、以前から知っていた剣士郎と談笑しながら、歩いていると

 

「あー、ヴィヴィオちゃん」

 

「はい? なんですか?」

 

「ヴィヴィオさんの教室は、あちらでは?」

 

剣士郎とアインハルトが、進行方向と真逆を指差した。

そこでヴィヴィオは、自分が中等部の校舎の入り口に居ることに気付いた。

 

「うわわっ!? しまった!? 遅刻しちゃう!!」

 

指摘を受けて、ヴィヴィオは反射的に時間を見た。

少し急がなければ、遅刻してしまう時間だ。

それに気づき、ヴィヴィオはその場で反転し、駆け出そうとした。すると

 

「遅刻しないよう、頑張ってください」

 

「転ばないようにな」

 

とアインハルトと剣士郎が、声を掛けた。

それを聞いたヴィヴィオは、素早く振り向いて

 

「はい、ありがとうございます!」

 

と返答してから、駆け出した。

そして教室に到着し、リオとコロナに会ったのだが

 

「大変だよぉ! 試験だよぉ!」

 

「そうなんだよねぇ」

 

只今聖ヒルデ魔法学院は、一学期末の期末試験真っ最中だった。

 

「けど、これを乗り越えたら、楽しい合宿が待ってるよ。頑張ろう?」

 

『おー!』

 

コロナの言葉の後に、三人は揃って拳を上げた。

そして学生組は、試験に勤しむのだった。



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合宿の準備

試験日から、数日後。

 

「という訳で!」

 

「三人揃って!」

 

「優等生です!」

 

初等部三人の試験結果が返されて、三人は見事にA評価を貰っていた。

 

「お見事!」

 

「これで、心置きなく行けるね!」

 

三人の報告に、なのはとフェイトは嬉しそうにそう言った。そして、フェイトが

 

「それじゃあ、リオちゃんとコロナちゃんは、一緒に家に行って、ご家族に話さないとね」

 

と言って、二人と一緒に居間から出た。

それを見送ったなのはは、ヴィヴィオに

 

「ヴィヴィオ、今の内に荷物を纏めてね」

 

「あ、そうだね!」

 

なのはの言葉に、ヴィヴィオはクリスと一緒に部屋に向かっていった。それを見送ったなのはは、視線を僅かに上に向けて

 

「ノーヴェは、説得出来たかな……」

 

と呟いた。

時は少し遡り、ナカジマ家。

 

「ズルいッスー! 私も行きたかったッスよー!!」

 

「だー! やかましい!!」

 

駄々を捏ねながら腰に抱き付いたウェンディを、ノーヴェは引き剥がそうと全力を出していた。

 

「ノーヴェとディエチが行くなら、アタシも行きたかったッスよー!!」

 

「アタシらだけじゃなく、ウェンディまで休んだら当麻の旦那の店が回らなくなるだろうが!」

 

駄々を捏ねるウェンディを引き剥がすと、ノーヴェはソファから立ち上がった。そこに、ディエチが

 

「私は剣士朗君を連れてくるけど、ノーヴェ。あの子への説明と説得はしたの?」

 

と問い掛けた。

それに対して、ノーヴェは

 

「これからだな。まあ、大丈夫だろ」

 

と自信ありげに答えた。

そして、数分後

 

「合宿……ですか?」

 

『おう、どうする?』

 

ノーヴェの通信を聞いていたのは、アインハルトだった。

 

「しかし、私は訓練が……」

 

『だから、その訓練のための合宿なんだって。ヴィヴィオ達だけじゃなく、現役管理局員の訓練も見れるぞ?』

 

「現役の……」

 

ノーヴェの説明に、アインハルトは少し揺れ始めた。

それを感じ取ったのか、ノーヴェは更に

 

『現役の中でも、執務官や教導隊の人。オーバーSランクが何人か来るから、参考になるぞ』

 

「オーバーSの訓練風景……!」

 

ノーヴェの説明に、アインハルトは思わず言葉を漏らした。

 

『んじゃ、30分位したらそっちに迎えに行くから、荷物纏めておけよ!』

 

「あ、あの……!」

 

アインハルトが何か言おうとした矢先に、ノーヴェからの通信は切れた。

 

「……」

 

最初は虚空で手をフラフラさせていたが、アインハルトは

 

「……纏めましょう」

 

と諦め半分、興味半分といった様子で部屋の隅にあったボストンバッグを開いた。

その頃、ディエチは

 

「えっと……聞いた住所は……」

 

と剣士朗の家に向かっていた。

そして、着いた場所は主街区の外れ。そこにあったのは、小屋に見える一軒の小さな家だった。

 

「……ここ、だよね……」

 

とディエチが固まっていると、小屋のドアが開き

 

「ああ、すいません。お待たせしたようで」

 

と剣士朗が出てきた

その右肩には、既にボストンバッグがある。どうやら、丁度荷物を纏めて出てきたようだ。

 

「ううん、大丈夫だけど……一人で住んでるの?」

 

「ええ、まあ……俺が最後の生き残りなので」

 

「最後って……」

 

剣士朗の説明に、ディエチは驚いた。

最後の生き残り。つまりは、剣士朗は一人で生きているということになる。

 

「まあ、俺の一族は怨みを買いすぎていた……ということですよ……さあ、行きましょうか」

 

剣士朗はディエチに説明しながら、カギを掛けた。

その言葉と時間から、ディエチはあまり話す時間が無いことに気づき

 

「そうだね。乗って」

 

と車のドアを開けた。

剣士朗は荷物を後部座席に入れてから、助手席に座った。

その数十分後、高町家

 

「あ、ヴィヴィオ。御客さんが来たみたいだから、出迎えてあげて」

 

「御客さん?」

 

なのはに促されて、ヴィヴィオは玄関に向かった。すると、丁度チャイムが鳴り

 

「おっす、ヴィヴィオ」

 

「やっほ、ヴィヴィオ」

 

とノーヴェとディエチが入ってきて、そのすぐ後に

 

「し、失礼します」

 

「失礼します」

 

とアインハルトと剣士朗が入ってきた。

 

「アインハルトさん! 剣士朗さん!」

 

その二人を見たヴィヴィオは、目を輝かせた。

そこに、冬也が現れて

 

「ヴィヴィオ、中にいれてやれ……すまんな、君達」

 

とヴィヴィオを諫めた。

 

「あ、うん! そうだね。どうぞ、入ってください!」

 

我に帰ったヴィヴィオは、アインハルトと剣士朗を中に入れた。それとすれ違う形で、冬也は外に出たのだが、そのすれ違い樣に冬也と剣士朗の目があった。

そして居間にて

 

「あ、君達がヴィヴィオと新しく友達になったって子達だよね? 初めまして、私は高町なのは。よろしく。あ、お話しいいかな?」

 

となのはが、アインハルトと剣士朗に捲し立てていた。

だが、フェイトが

 

「ほら、なのは。時間が無いんだから、そういうのは後回しにして」

 

となのはの肩に手を置いた。

 

「はぁい」

 

フェイトに諫められて、なのはは退散。そこにユーノが現れて

 

「なのは、なのは達の荷物を積んでも?」

 

となのはに問い掛けた。

 

「あ、うん。お願い」

 

「ん、了解」

 

なのはの言葉を聞いて、ユーノは居間から去り、居間に残ったメンバーは最後の準備を始めたのだった。



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ホテルアルピーノ

「それじゃあ、それで人数は確定なのね?」

 

と問い掛けたのは、開拓世界カルナージに住む数少ない住人。メガーヌ・アルピーノだ。

 

『はい。今から向かいますので、お願いします』

 

「はーい。待ってるわねー」

 

ユーノの話を聞いたメガーヌは、朗らかに笑いながら通信を閉じて

 

「さーて、食材の買い出しに行かないと行けないわねー♪」

 

と楽しそうに、玄関に向かった。

その頃、外では

 

「ねえ、ガリュー……私、自分の才能が怖いかも」

 

とメガーヌの娘、ルーテシアが楽しそうに自身の成果を見ていた。

 

「何せ、今回のお出迎えは過去最高……まず! ホテルたるロッジは、去年から大幅にパワーアップ! 部屋の広さ、数、過ごしやすさは大向上! 目玉は改築中に掘って出てきた温泉をノリノリで使った露天風呂! 次に、アスリート御用達! 自然を活かしたアスレチックにレイヤー建築による擬似市街地の再現により、様々な訓練が出来る! 更に、未だに増改築中! さあ、どんな宿泊客も、ドーンとおいでませー!!」

 

屋根の上に上ったルーテシアは、そう言うと高笑いした。そこに、メガーヌが現れて

 

「ルーテシアー! お母さん、食材の買い出しに行ってくるから、魚や山菜採ってくるのお願いねー」

 

と朗らかにお願いした。その前に、屋根の上に登ってることを怒ってほしい。

良い子の皆は、決してマネしないでください。大変危険です。

 

「はーい、ママー!」

 

メガーヌのお願いを聞いたルーテシアは、返事をすると屋根から降りた。

その頃、ミッドチルダの次元港では

 

「あれ、エリオとキャロはどうしたんですか?」

 

「二人ならば、直接カルナージに向かうそうだ」

 

「えっと……忘れ物は無いよね……」

 

「はやてちゃんから預かってた荷物も、預けたし……大丈夫だと思うよ」

 

御一行が、カルナージに向かうために色々と確認していた。

そんな中で、ヴィヴィオは

 

「アインハルトさん、剣士朗さん、今回の合宿中よろしくお願いしますね!」

 

とアインハルトと剣士朗に、朗らかに話し掛けていた。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「ん、よろしくな」

 

「えへへー♪」

 

二人と握手したヴィヴィオは、嬉しそうに笑みを浮かべた。

アルピーノ親子が住む開拓世界カルナージは、ミッドから次元航行船で片道四時間掛かる世界で、ミッドとの時差は約七時間となっている。

その世界で、全員は訓練を兼ねた旅行である。

 

「いらっしゃーい!」

 

「ホテルアルピーノにようこそ!」

 

『お世話になりまーす!!』

 

親子が出迎えると、ミッド組は一斉に頭を下げた。

そこに、薪を抱えたエリオとキャロが現れて

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

「お久しぶりですー」

 

と全員に挨拶した。

すると、ヴィヴィオが

 

「アインハルトさん、剣士朗さん。こちらの二人は、フェイトママと冬也パパの家族。エリオ・モンディアルさんとキャロ・ル・ルシエさんです」

 

と紹介した。そこに、ルーテシアがいたずらっ子な笑みを浮かべながら

 

「一人チビッ子が居るけど、あたし含めて三人同い年」

 

と教えた。

 

「一応、1.5cmは伸びてます!」

 

ルーテシアの言葉を聞いて、キャロは少し意地になりながら抗議した。最近のキャロの悩みは、身体的な悩みであり、身長はエリオに、胸はルーテシアに成長力を奪われてる。と、フェイトに嘆いていたとか。

 

「初めまして、アインハルト・ストラトスと言います!」

 

「緋村剣士朗です」

 

と二人が、エリオ達に名乗った時、近くの草むらを掻き分ける形で魚の入った籠を背負った蟲人、ガリューが現れた。

その直後、ガリューの姿を見たアインハルトとクリスが反射的に構えたのだが

 

「あ! 大丈夫ですよ、アインハルトさん、クリス! この子は、ルールーの召喚蟲なの!」

 

とヴィヴィオが静止。そして、ルーテシアが

 

「私の家族のガリュー。大丈夫、優しい子だから」

 

と教えた。

すると、アインハルトが

 

「す、すいません! そうとは知らず!」

 

と謝罪した。

 

「まあ、最初は仕方ないよ」

 

「うん! 私も、最初は驚きましたから!」

 

アインハルトの謝罪を聞いて、ルーテシアとヴィヴィオはアインハルトにそう言葉を掛けた。

すると、エリオが

 

「剣士朗君、だったね? よく構えなかったね?」

 

と剣士朗に問い掛けてきた。

 

「はい、彼から害意を感じなかったので、大丈夫と判断しました」

 

「気配から察したんだ。凄いね」

 

「まあ、一応剣士なもので……」

 

エリオが褒めると、剣士朗はそう言いながら、軽く頭を下げた。

そこに、ノーヴェとディエチが現れて

 

「おら、お前ら! 水着に着替えて、川に行くぞ!」

 

「遅れないでね」

 

と声を掛けた。

こうして、楽しい合宿が始まった。



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一日目 前半

「いっちばーん!!」

 

「あ、リオずるーい!!」

 

「待ってよー!」

 

と初等部三人娘が川に飛び込む中、アインハルトが

 

「あの、ノーヴェさん……私も訓練に行きたいんですが……」

 

と小声で、ノーヴェに言った。

だが、ノーヴェは

 

「いいから、行ってこい。それに、あいつらの水遊びは結構ハードだぞ?」

 

と言って、アインハルトを送り出した。

 

「アインハルトさーん!」

 

「水、気持ちいいですよー!」

 

ヴィヴィオ達に呼ばれたこともあり、アインハルトは水着の上に羽織っていたパーカーを脱いだ。

その時、ようやく剣士朗とディエチが来た。

剣士朗は普通のトランクスタイプの水着を履いていて、上には長袖タイプのTシャツを着ている。

そしてディエチは、水色を基調としたビキニで腰にパレオを巻いている。

 

「お、ディエチに剣士朗か。お前らも泳いできたらどうだ?」

 

とノーヴェが話している間に、アインハルトがヴィヴィオ達と泳ぎ始めたのだが

 

(あれ?)

 

アインハルトは、ヴィヴィオ達に、追い付けなかった。

 

「ん、気付いたか」

 

「……中々、速いですね」

 

「本当にね」

 

確かにアインハルトの身体能力は高く、総合的に見ればヴィヴィオ達より上だろう。

しかし、そのアインハルトですら水中ではヴィヴィオ達より一歩劣っていた。

そして、泳ぎ疲れたアインハルトが川岸の岩に腰かけて休んでいると

 

「あいつら、週に1度はプールに通って泳いでいてな。しなやかな筋肉が着いてるんだ」

 

とノーヴェが教えた。

 

「私も救助隊に入ってから知ったんだがな、陸上と水中では必要になる動きが全然違くて、その分使う筋肉もまた違う」

 

「なるほど……つまり、経験差ですか……」

 

アインハルトの言葉に頷くと、ノーヴェは遊んでいた三人に

 

「お前ら! 水切りを見せてくれ!」

 

と言った。

 

「はーい!」

 

「……水切り?」

 

三人は揃って片手を挙げて、アインハルトは不思議そうに首を傾げた。

すると、ノーヴェが

 

「まあ、水中用の遊びだが、ついでに打撃力のチェックも出来るんだ」

 

と教えた。

その時、最初にコロナが水中で拳を振るうと、約1.5m程の水柱が出来上がった。

次にヴィヴィオが、約2m程の。最後にリオが、約2.5m程の水柱を作った。

 

「……なるほど、回転させてるのか」

 

と呟いたのは、剣士朗だった。

すると、ヴィヴィオが

 

「アインハルトさんもやってみてくださーい!」

 

とアインハルトを呼んだ。

呼ばれたアインハルトは、川に入ると

 

(水中では、通常の動きは難しい……だから、足から腰、腕へと回転の力を伝えて!)

 

と考えながら、拳を振るった。

すると、約3m程の水柱が出来上がった。

 

「おー!!」

 

「凄い! 3mは行きましたよ!」

 

とヴィヴィオ達は喝采するが、アインハルトの水柱は三人とは違って直ぐに崩れた。

 

「……あれ?」

 

とアインハルトが不思議そうにしていると、ノーヴェがパーカーを脱いで

 

「あー……アインハルトは、最初から早すぎるんだな」

 

と言って、川に入った。

よく見れば、クリスも居る。

 

「いいか、最初はゆっくりから始まって、徐々に加速させながら振り抜くんだ……」

 

ノーヴェはそう説明しながら、分かりやすくするためかゆっくりと足を振り上げた。

そして

 

「んで、あとは一連の動作をやると」

 

ノーヴェの蹴りで、川底が見える程に水柱が出来上がった。

 

「さ、やってみ」

 

ノーヴェに促されて、アインハルトは川に入って、先のノーヴェの教えを反芻しながら拳を振るった。

すると、先ほどよりも高い水柱が出来上がった。

 

「おー凄い!」

 

「さっきより高ーい!」

 

「あ、あの、ノーヴェさん……まだやっても?」

 

「おう、いいぞ。体冷やすなよ」

 

アインハルトにそう言いながら、ノーヴェは川岸の岩に腰かけた。すると、自分の肩の上にクリスが居ることに気づき

 

「ん? お前も、遊んできたらどうだ?」

 

と薦めた。

しかし、クリスがジェスチャーをすると

 

「え? なになに?」

 

「入れ物がぬいぐるみだから、濡れたら飛べなくなる……だって」

 

「あー……お前も、苦労してるんだな」

 

ディエチの翻訳を聞いて、ノーヴェは苦笑いを浮かべながらクリスの頭を撫でた。

そんな最中、剣士朗は眩しそうに四人を見ていた。

その頃、アスレチックフィールドでは

 

「そっか、仲良くやってるみたいで良かったぁ」

 

「ですね」

 

「うむ」

 

なのはの言葉に、スバル、冬也、セッテ、祐也、レンヤが頷いていた。

今しがた、ノーヴェからの通信を聞いたのだ。

しかし、アスレチックフィールドに来ている筈の人数と比べると、半分程しか高台に居ない。

すると、なのは、冬也、スバルの三人が高台から下を見ながら

 

「それで、皆は大丈夫? 休憩時間伸ばそうかぁ?」

 

と問い掛けた。

 

「大丈夫でーす!」

 

「ば、バテてなんて、いないよ……!」

 

ティアナとフェイトがそう返答するが、説得力皆無だった。



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覇王について 1

時は経ってお昼

 

「皆さーん! お昼ご飯の準備が出来ましたよー!!」

 

というメガーヌの言葉が聞こえて、続々と集まる合宿メンバー達。しかし、そんな中の二人。ヴィヴィオとアインハルトの二人がプルプルと震えていることに気付き

 

「あらあら、二人はどうしたのかしら?」

 

とメガーヌは不思議そうにした。

すると、ノーヴェとディエチが

 

「いや、こいつらな」

 

「他の子達が上がってもずっと水切りをしてたみたいなんですよ」

 

と説明した。ようするに、体が冷えたのだろう。

二人の説明を聞いたメガーヌは、困った子達ねといった風体で苦笑を浮かべた。

その後、訓練組も合流して

 

『いただきまーす!』

 

と一斉にご飯を食べ始めた。

 

「うわっ、美味しい!」

 

「本当!」

 

「このソースがまた、素材の味を引き立てるわね!」

 

「ふっふーん! 我がホテル自慢のソースです!」

 

一日目のお昼は、バーベキュー形式のお昼で、焼きたての肉や野菜に全員は満足していた。

そして、お昼が終ると子供達による皿洗いの手伝いがあり

 

「その……ヴィヴィオさん達は、何時もあのような練習を?」

 

とアインハルトが、ヴィヴィオに問い掛けた。

するとヴィヴィオは、アインハルトから渡されたお皿を拭きながら

 

「いえ、そんな何時もって訳じゃないんですよ。最初は、スバルさんから格闘の基礎を教わって、一人で練習を始めたんです」

 

と語りだした。

 

「そこから独学で頑張ってたら、ノーヴェが声を掛けてくれたんです。そんなんじゃ、体を壊すぞって。そこから、時間作ってくれては教えてくれるようになって……気付けば、リオとコロナも一緒に面倒見てくれるようになったんです……優しいんですよ、ノーヴェって」

 

「……わかります……少し羨ましいです。私は、ずっと独学でしたから」

 

アインハルトのその言葉に、ヴィヴィオは悲しい表情を浮かべるが

 

「でも、今度からは一人じゃないですよね?」

 

とアインハルトに言った。

が、顔を赤くして

 

「あ、もちろん練習的な意味ですよ!?」

 

と恥ずかしそうに言った。

それに感化されたのか、アインハルトも恥ずかしそうに

 

「あ、はい。そうですね!」

 

と皿洗いに意識を向けた。

 

(古流武術と近代格闘……この二つは、交わることは無いけど……)

 

(それでも、近くで一緒に……)

 

二人は同じことを考えたのか、手を拭いてから軽く拳をぶつけた。

その後、ある一室にて

 

「あ、ルーちゃん。その本って」

 

「そ……アインハルトに見せたい本で、諸王時代の覇王……クラウス・G・S・イングヴァルトの回顧録」

 

とルーテシアが、一冊の本を出していた。

その本の表紙には、若い男性の絵が描かれてある。

短く切り揃えられた碧銀の髪に、青と紫色のオッドアイ。彼こそが、アインハルトの先祖にして覇王と呼ばれしクラウス・G・S・イングヴァルトだ。

 

「ベルカの歴史に名を残した武勇の人にして、初代覇王。クラウス・G・S・イングヴァルト……彼の回顧録。もちろん原本じゃなく、後世の写本だけどね」

 

ルーテシアはそう言いながら、本を開いた。

その本を覗き込み、リオは不思議そうにするが、コロナは

 

「ルーちゃん、アインハルトさんのことは……」

 

と視線を向けた。

 

「ノーヴェから、大体はね……覇王家直系の子孫で初代覇王の記憶を伝承してるって」

 

ここで場面は変わり、皿洗いが終わったアインハルトとヴィヴィオが、お皿を戻しながら

 

「記憶といっても、覇王の一生分全てという訳ではないんですが」

 

とアインハルトが語りだした。

 

「途切れ途切れの記憶を繋ぎ合わせれば、(クラウス)の生涯を自分の記憶として思い出せます……彼にとっての思い出は、そのまま私の記憶になるんです……乱世のベルカは、悲しい時代でしたから……」

 

そこまで語ったアインハルトは、遠い過去に思いを馳せつつ

 

「厚い雲に覆われた薄暗い空と枯れ果てた大地……人々の血が河のように流れても、終わらない戦乱の時代……誰もが苦しみ、乱世を終わらせたいと願いながらも、だけどもその為には、力をもって戦うしかなかった時代……そんな時代に生きた覇王としての短い生涯の記憶とたくさんの心残り……」

 

とそこまで語ったが、ヴィヴィオが少し悲しい表情を浮かべていることに気付いて、慌てて

 

「すみません、せっかくの旅行中に暗い話で」

 

と頭を下げた。

 

「いえ、そんな……」

 

「その、もちろん悲しいことばかりでもなかったんですよ? 楽しい記憶、幸せな記憶もちゃんと受け継いでいます。例えば、オリヴィエ聖王女殿下との日々とか」

 

アインハルトがそこまで言うと、ヴィヴィオが

 

「オリヴィエって、クラウス殿下と仲良しだったんですか?」

 

と問い掛けた。

オリヴィエとクラウスの関係に関しては、考古学者達の議題の一つに挙げられるのだ。

 

「仲良しとは、少し違うような気もしますが……オリヴィエとクラウスは、共に笑い、共に武の道を歩む同士だったことは確かです」

 

アインハルトはそう言いながら、青空を見上げた。



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覇王について2

「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト……聖王家の王女にして、後の《最後のゆりかごの聖王》……クラウスとオリヴィエの関係は、歴史研究でも諸説あるんだよね」

 

ルーテシアは、そう言いながら覇王回顧録のページを進めた。

すると、コロナが

 

「そもそも、生きた年代が違うって説が主だよね」

 

と言って、ルーテシアもそれに一度は頷くが

 

「でも、この本だと、二人はまるで姉弟みたいに育ったってなってる」

 

とページに指を這わせた。

そこに、リオが

 

「オリヴィエって確か……ヴィヴィオの……」

 

複製母体(オリジナル)だね」

 

リオの言葉を補足するように、ルーテシアは告げた。

だが、オリヴィエの絵を見て

 

「まあ、肖像画とか見る限り、あんまり似てないし……普通に、《ヴィヴィオのご先祖様》の認識で、いいと思うけど」

 

「だよね」

 

「だね」

 

ルーテシアの言葉に、リオとコロナは同意するように頷いた。

すると、コロナが

 

「でも、なんで聖王家の王女様とシュトゥラの王子様が仲良しだったんだろうね?」

 

と首を傾げた。

 

「あ、そういえば」

 

二人の言葉を聞いて、ルーテシアは本をパラパラとめくり

 

「オリヴィエが、シュトゥラに留学って体裁だったみたい。シュトゥラと聖王家は国交があったしね」

 

と二人に説明した。

それに二人が頷いていると、ルーテシアが

 

「ただ、オリヴィエは確かにゆりかご産まれの正統王女だけど、継承権は低かったみたいだし……ようは、人質だったんじゃないかな?」

 

と自身の考えを告げた。すると、リオとコロナ、更には一緒に居たクリスもガタガタと震えながら

 

「せ、戦国時代の人質って、アレだよね……」

 

「逆らったりしたら、殺しますって……」

 

「そうそう、それ」

 

二人の言葉を笑顔で肯定するが、ルーテシアはあるページを開き

 

「でも、二人には関係なかったみたいだね……途中は、オリヴィエとのことばかり」

 

と言って、あるページを開いた。

そこには、椅子に座るオリヴィエとその傍らに立つクラウスの絵があった。

場所は変わり、ヴィヴィオとアインハルト

 

「クラウス殿下にとって、オリヴィエはどういう人だったんですか?」

 

「そうですね……明るく、太陽のような人でした……彼女と一緒に居ると、自然と笑みが溢れるような……暖かく感じる……何より、魔導と武術が強い方でした」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、アインハルトは昔を思い出すように語った。

恐らく、クラウスの記憶を振り返ったのだろう。

しかし、少し暗い表情を浮かべ

 

「ただ、そんな彼女も乱世の最中に命を落とされました」

 

と告げた。

 

「ゆりかごの運命通りに……ですよね」

 

ヴィヴィオのその言葉に、アインハルトは頷いてから

 

「覇王は……クラウスは、その運命を止められませんでした……皮肉な話ですが、彼女を失って、彼は強くなりました。全てをなげうって武の道に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて……」

 

とそこまで言うと、空を見上げた。

 

「それでも……望んだものは手に入らないまま、彼も短い生涯を終えました」

 

「望んだもの……?」

 

ヴィヴィオが首を傾げると、アインハルトは振り向いて

 

「本当の強さです……守るべきものを守れない悲しみを、もう繰り返さない強さ……彼が作り上げ磨き続けた覇王流は、弱くなんかないと証明すること……それが、私が受け継いだ悲願なんです」

 

と宣言し、それを聞いたヴィヴィオは悲しさを覚えた。

すると、我に返ったらしく

 

「……すみません、自分の話はかりで」

 

とアインハルトは、顔を赤くしながら頭を下げた。

すると、ヴィヴィオは両手を振りながら

 

「ああ、いえ、そんな!」

 

と言ったが、そこから先が言えなかった。

 

「昔話ですので、あまり気にしないでください」

 

「はい……あ、みんなの所に戻りましょうか」

 

「はい」

 

ヴィヴィオの提案で歩き始めたが、会話はなく、ヴィヴィオの雰囲気は僅かに暗い。

それにアインハルトは気づき

 

(しまった……私の話で、ヴィヴィオさんが悲しい顔を……これまでのやりとりで、思いやりの深い子だというのは、分かっていたのに……何か、ヴィヴィオさんが喜ぶような話は……)

 

と頭を抱えた。

だが

 

(何も思い付かない!?)

 

自分の話題性の無さに絶望した。

 

(困った、どうしよう……!?)

 

とアインハルトは、何とかしようと必死に考えていた。

そこに

 

「お、ヴィヴィオ! アインハルト!」

 

とノーヴェの声が聞こえた。

 

「あ、ノーヴェ!」

 

「ブラブラしてんなら、向こうの訓練を見学しに行かねーか? そろそろ、スターズが模擬戦形式で訓練始めるんだってさ」

 

ノーヴェがそう言うと、ヴィヴィオは満面の笑みを浮かべて

 

「アインハルトさん、見に行きませんか?」

 

と言った。

 

「はい」

 

ヴィヴィオの提案に、アインハルトは頷きながら

 

(ああ、よかった……笑顔が戻った……)

 

と内心では、安堵していた。

だからか、ノーヴェに

 

「ありがとうございます、ノーヴェさん」

 

と小声で、感謝の言葉を述べた。

だが、言われたノーヴェとしたら、何のこっちゃ。である。

そしてノーヴェは、ルーテシア達を呼んでから

 

「ああ、そういやあ二人共。剣士朗を見なかったか?」

 

と二人に問い掛けた。

 

「ふえ? 緋村先輩? 見てないよ?」

 

「私も見てません」

 

二人のその返答に、ノーヴェは

 

「あいつ、どこに行った?」

 

と首を傾げた。

場所は変わり、森の中。

 

「んー……後は、ここら辺になるけど……」

 

とディエチが、剣士朗を探していた。

そして、ある場所で

 

「ん……この音は……?」

 

ディエチは、激しい金属音を聞いた。

 

「あっち……?」

 

ディエチは、音のした方向に行ってみた。

少しすると、まだ建設中らしいアスレチックフィールドの一角に入った。

 

「ルーテシア、まだ広げてるんだ」

 

ルーテシアがまだ改築中だと気付いたディエチは、そのことを苦笑した。

その時、影が走った。

 

「ん?」

 

頭上を見上げたディエチが見たのは、空中で刀と爪をぶつけ合っている剣士朗とガリューだった。

 

「な……」

 

ガリューは羽を高速で動かして、空中を駆けていく。

そこに、まだ伐られていなかった大木の幹を蹴って剣士朗が追い付き

 

「飛天御剣流……龍昇閃!」

 

刀の峯に手の甲を当てて、刃を上にして飛んだ。

その一撃をガリューは、爪を斜めにして受け流した。だが剣士朗は、ガリューの上にあった枝で強引に方向転換し

 

「龍墜閃・惨!!」

 

切っ先を下にして、ガリューに突撃した。

その一撃を、ガリューは辛うじて回避した。それにより、剣士朗は地面に猛スピードで迫る。

 

「危ない!」

 

ディエチは思わず声を挙げるが、剣士朗は空中で姿勢を入れ換えて着地し

 

「……ディエチさん?」

 

ディエチに気付いた。

 

「なに、してるの?」

 

「ガリュー殿に手伝ってもらって、体を動かしてました……ガリュー殿、ありがとうございました」

 

ディエチの問い掛けに答えながら剣士朗は、刀を納刀。そして、近くに着地したガリューに頭を下げた。

すると、ガリューも爪を収納してから胸元に右手を当てて頭を下げた。

そして、剣士朗は

 

「それで、ディエチさん。どうしました?」

 

とディエチに問い掛けながら、首を傾げた。

 

(さっきまでの雰囲気と、全然違う……さっきまで、まるで人殺しの雰囲気だったのに……)

 

ディエチはそこまで思うと、一度頭を振ってから

 

「剣士朗君を探しに来たの。何処にも居なかったから」

 

と言った。

それを聞いた剣士朗は、バリアジャケットを解除し

 

「それはすいませんでした」

 

と素直に謝罪した。

そして、デバイスを仕舞い

 

「では、戻りましょうか」

 

とディエチに言って、戻ることにした。



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訓練風景

「ヴィヴィオさんのご両親方も、模擬戦に?」

 

「はい! ガンガンやってますよ!!」

 

ヴィヴィオがそう言うと、アインハルトはミッドで見たなのはやユーノ達を思い出しながら

 

「皆さん家庭的で、ほのぼのとした方々で、素敵だと思ったんですが……魔法戦にも参加されるなんて、少し驚きました」

 

と言った。その直後、ノーヴェが吹き出した。

 

「ノーヴェ、笑いすぎだよぉ」

 

「わ、悪い……ぶふ……」

 

ヴィヴィオに指摘されるが、ノーヴェの笑いは収まらない。それを視界の端で見ながら、ヴィヴィオは

 

「えと、参加というかですね……なのはママは、航空武装隊の戦技教導官なんです」

 

と説明した。

その時になって、ようやく訓練場に到着。三人が見たのは、激しい訓練光景だった。

 

《セイクリッドクラスター!》

 

拡散弾(クラスター)来るよ、皆!」

 

「オーライ! カウンター、行くわよ!!」

 

ティアナが言った直後、裕也、レンヤ、スバルが突撃を開始。それを、なのはが迎撃しようとするが

 

「シュートッ!!」

 

それをティアナが迎撃。残った弾幕を、三人は回避しながらなのはに肉薄し

 

「おおおおりゃっ!!」

 

「しいっ!!」

 

「ぜらぁっ!」

 

それぞれ、拳、刀、斧を繰り出したが、それはなのはの前に現れたユーノが、一枚の障壁で防ぎきった。

それを見たアインハルトは驚いていたが、視界の端に見えた物に気付いて顔を向けた先には

 

「あれは、アルザスの飛竜……!?」

 

エリオとキャロが跨がったフリードだった。

 

「キャロさん、竜召喚士なんです」

 

「で、エリオさんは竜騎士!」

 

「で、フェイトママは空戦魔導師で、執務官。冬也パパは強襲制圧部隊の隊長。ユーノパパは、無限書庫の司書長をやってます」

 

アインハルトが呆然と見上げていると、リオ、コロナ、ヴィヴィオの三人が説明した。

そのタイミングで、アラームが鳴り

 

「はい、一旦終了!」

 

とユーノが告げた。

 

『ありがとうございました!』

 

「四人はこの後、ウォールアクトだっけ?」

 

ティアナ達が感謝の言葉を言うと、なのはが杖を収納しながら問い掛けた。

 

「はい!」

 

「フェイトさんとエリオも一緒です!」

 

四人の予定を確認したなのはは、キャロに視線を向けて

 

「じゃあ、キャロはわたしとやろうか?」

 

「お願いしまーす!」

 

返答したキャロは、フリードから降りると準備を始めた。その間に、バリアジャケットを訓練着に切り替えたメンバーはウォールアクトを開始していた。

なおユーノは、壊れた市街地の修復を始めた。

 

「皆さん、ずっと動きっぱなしですね……」

 

「そうだな」

 

「魔法訓練も凄いですが……あんな、フィジカルトレーニングまで……」

 

なのはとキャロは魔法弾の射出訓練をしていて、スバル、レンヤ、エリオの三人は背中に重しを背負ってロープを登ったり降りたりし、フェイト、ティアナ、裕也の三人はロープを登りながら用意された的を撃っている。

そして、冬也はセッテと突入訓練をしている。

相手はどうやら、払い下げの戦術機のようだ。

 

「局の魔導師の方たちは……皆さんここまで、鍛えていらっしゃるんでしょうか……」

 

「ですね」

 

「まあな」

 

アインハルトの問い掛けに、ヴィヴィオとノーヴェは頷いた。

 

「スバルとレンヤは救助隊だし、ティアナは凶悪犯罪担当の執務官。裕也はその補佐……冬也の旦那とセッテは相手のど真ん中に突っ込む強襲制圧部隊……程度の差はあるが、命に関わる現場だしな……力が足りなきゃ救えねーし、自分の命だって守らなきゃならねー」

 

「ノーヴェさんも、救助訓練はガッツリやってますもんねー」

 

リオの言葉を聞いてノーヴェは、顔を赤らめた。

その時、アインハルトはウズウズと体が疼き始めていたのを自覚した。

すると、ヴィヴィオがそんなアインハルトの袖を引いて

 

「抜けて、一緒に訓練しませんか? 見てると、体が疼きますよね」

 

とアインハルトを誘った。

その時になって、剣士朗がディエチと共に現れた。その姿を見て、ノーヴェが

 

「お前、何処で何してたんだよ」

 

と剣士朗を小突いた。

 

「ガリュー殿と手合わせしてました」

 

「ったく……」

 

剣士朗の話を聞いて、ノーヴェは溜め息を吐いた。



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温泉へ

すまぬ、新潟と山形の親戚の為に、色々とやってたら書く暇が無かったよ


ヴィヴィオとアインハルトが離れると、コロナとリオが

 

「ヴィヴィオとアインハルトさん、やる気モードになっちゃったね」

 

「あたし達も、頑張らないと!」

 

と気合いを入れていた。

そこに、ルーテシアが

 

「実はね、コロナ。ナイショにしてたけど、例のアレ。もう完成してるんだ」

 

とコロナに告げた。

 

「ほんと!?」

 

「ほんと。後は、コロナが起動調整するだけだよ」

 

ルーテシアの話を聞いたコロナは喜び、ノーヴェ、ディエチ、剣士郎は首を傾げた。

すると、ルーテシアの話の意味に気付いたらしくリオが

 

「アレって、もしかして……!?」

 

とコロナに視線を向けた。

するとコロナは、満面の笑みを浮かべて

 

「ルーちゃんお手製。わたしの、インテリジェントデバイス!」

 

と教えた。

 

「コロナ専用のカッコカワイイやつ!」

 

「お嬢が組んだのか!?」

 

「す、凄いね……」

 

まさかインテリジェントデバイスを組んでいたとは思わず、ノーヴェとディエチは素直に驚いていた。

すると、コロナもデバイスを取り出して

 

「これは、あたしらも負けてられやいね。ソル!」

 

《そうですね、リオ》

 

と愛機たるソルと確認しあった。

 

「よーし! あたしも、明日の練習では、新魔法とか披露しちゃうもんね!」

 

『おおーっ』

 

「まあ、頑張れ」

 

リオの宣誓を聞いて、ノーヴェ、ディエチ、コロナルーテシアは笑みを浮かべながら拍手。剣士郎は見守っていた。

その頃、ヴィヴィオとアインハルトは少し離れた森の中でミット打ちをしていた。

 

「どーです? こういうミット打ち、練習になります?」

 

「古流の型打ちとは、だいぶ勝手が違いますが……」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、アインハルトはそこまで答えると、一気に連打を繰り出した。

そしてアインハルトは、軽く呼吸を調えてから

 

「良い練習になります」

 

と告げた。

 

(アインハルトさん、やっぱり凄い)

 

ヴィヴィオは腕の痺れを感じながら、アインハルトに羨望の視線を向けた。

そして、足の位置を確認してから

 

「では、どんどんどうぞ!」

 

とアインハルトに促した。

その頃、ホテルアルピーノ大浴場では

 

「ふふ……皆、元気ねぇ」

 

とメガーヌが、掃除用のデッキブラシを片手に持ちながら、なのは達をモニターで見ていた。

 

「本当にねぇ」

 

そんなメガーヌの言葉に同意したのは、大量の野菜や卵を持ったセインだった。

彼女は聖王教会から、配達に来ていたのだ。

 

「ありがとうね、セイン」

 

「いやいや。あたしは上司からの指示に従っただけだからね」

 

「そんなこと言っちゃってぇ! 本当は、皆と遊びたいくせにぃ!」

 

セインの話を聞いたメガーヌは、屈託の無い笑みを浮かべながらセインの肩を突っついた。

 

「いやまあ、そうなんだけどね! だからまあ、ちょっと温泉サプライズの一つでも仕掛けて、皆を驚かせてみようかな、って思ってるけどね」

 

セインはイタズラ子供みたいな笑みを浮かべながら、どうしようか考え始めた。

時は進んで、夕方。

 

「はーい! 午後の訓練終了!」

 

『お疲れ様でした!』

 

なのはの言葉を合図に、特訓は終了した。

そこに、見学していた子供組も向かい

 

「お疲れ様でーす!」

 

と声を掛けた。

 

「あー、おつかれー」

 

「あれ? アインハルトとヴィヴィオは?」

 

二人が居ないことに気付き、ティアナが問い掛けた。

 

「二人なら、一緒に練習中です」

 

「多分まだ、夢中でやってると思いますよ」

 

とリオとコロナが言った通り、二人はまだ森の中でミット打ちをしていた。

今は入れ替わり、アインハルトがミットを装着し、ヴィヴィオが拳を繰り出していたが。

その後、二人とも合流し

 

「やっぱり、ずっとやってたんだ」

 

「あははー。ちょっと気合い入っちゃって」

 

コロナの言葉を聞いて、ヴィヴィオは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。

その後ろでは、ノーヴェが

 

「近代格闘のミット打ちも、中々良いだろ?」

 

「はい。良い練習になりました」

 

とアインハルトと会話していた。

するとヴィヴィオは、その中になのは達が居ないことに気付いて

 

「ママとパパ達は、まだ?」

 

「少し残って、練習の仕上げだって」

 

「四人で飛んでるんじゃないかな?」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、エリオとキャロが答えた。

するとルーテシアが、ピッと指を立てて

 

「さて、お楽しみはまだまだこれから! ホテルアルピーノ新名物、天然温泉大浴場に集合!」

 

と告げた。

そして、十数分後

 

「あー……すっごいいい湯加減ー……」

 

「ほんとですー……」

 

先に体を洗い湯に浸かっていたティアナの言葉に同意しながら、キャロも湯に浸かった。

その頃、ヴィヴィオ達はルーテシアの案内で

 

「あっちの岩造りのところが、熱いお湯ね」

 

「わーい! 熱いの好きー♪」

 

ルーテシアの指差した先の岩造りの温泉の方に、リオは嬉しそうに向かっていった。それを見送りつつ、ルーテシアは

 

「で、向こうの滝湯はぬるめだから、のんびりきるよ」

 

と別の方を指差した。

 

『滝湯!?』

 

コロナとヴィヴィオが見た先には、見事な滝湯があった。

 

「新しく作ってみたんだけど、けっこうオシャレじゃない?」

 

「凄い、すごーい!」

 

「あ、ちょっと温めで気持ちいい」

 

「ゆっくり楽しんでねー」

 

ルーテシアの言葉に従うように、ヴィヴィオ達は好きなように温泉を楽しむことにした。



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温泉トラブル

「湯加減、どう?」

 

ヴィヴィオ達から離れたルーテシアは、スバル達の方に近付いて、問い掛けた。

 

「もおサイコー」

 

「まったくだ」

 

スバルに続くように、ノーヴェが同意した。

そしてノーヴェは、軽く周囲を見回して

 

「しかし、アレだな……前に来た時より、またパワーアップしてんな」

 

とルーテシアに言った。

特に、温泉関連が桁外れに拡充されている。

 

「建築デザインとか設備設計って楽しいんだよね。ま、この温泉もロッジも、お遊びレベルだけど」

 

ルーテシアはそう言いながら、ロッジと温泉の設計図を表示させた。

 

『いやいやいや!』

 

ルーテシアの言葉に、スバルとノーヴェは思わず手を振ってしまった。

お遊びのレベルを越えている。

 

「まあ、みんなに評判いいのは嬉しいな。みんなが泊まりに来てくれて、笑顔になってくれたら、すごく嬉しい」

 

「んなもん、めちゃめちゃ笑顔だっつーの」

 

「ほんとほんと♪」

 

ルーテシアの言葉に、ノーヴェとスバルは笑顔で答えた。

その時だった。

 

「ふえっ!?」

 

とキャロが、驚いた表情で立ち上がった。

 

「キャロ、どうしたの?」

 

近くに居たティアナは、キョロキョロと周囲を見回していたキャロに問い掛けた。

 

「何かこう、柔らかいものがもにょっと……」

 

キャロがそう言った直後、ティアナももにょっと触られ

 

「ひゃっ!?」

 

と悲鳴を上げながら、思わず立ち上がった。

 

「居る! 何か居るッッ!!」

 

「なんだかぬるっと!!」

 

温泉から出ると二人は、体にタオルを巻いてから、たまたま近くに来たルーテシアに

 

「ルーちゃんルーちゃん!」

 

「湯船の中で、何か飼ってたりしてないッッ!?」

 

と問い掛けた。

 

「えー? 飼ってないよ? 温泉に住むような珍しいペット飼ってるなら、真っ先に紹介してるし」

 

(確かにそうだ!!)

 

ルーテシアのその言葉に、二人は思わず納得してしまった。

そんな騒ぎが聞こえたらしく、コロナが

 

「なんだか、騒がしいね?」

 

「? 動物でも出たのかな?」

 

コロナに続きヴィヴィオが言った直後

 

「はわわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

ヴィヴィオとコロナが、ほぼ同時に何かに触られた。

そして、アインハルトも胸を何かに触られた感触がして

 

「つっ~!!」

 

思わず目を閉じた状態で、水切りを放った。

もしアインハルトが目を開けていたら、水切りの射線上から人影が出ていたことに気づいていただろう。

 

「……あ、水切り出来ました……」

 

(あー、びっくりした……アレが、噂に聞いてた覇王っ子か……しかし、セインさんの敵じゃーなかったね)

 

そう、今起きている事態の犯人はセインだった。

セインの固有能力の、ディープダイバー。その能力は、岩石や金属といった無機物の中を、まるで水中のように移動することが出来る能力だ。

そんな移動方法のために、水中を移動することが得意なのだ。

 

(ふっふっふ……みんな驚いてるねぇ)

 

そしてセインは、指先の小型カメラで慌てている触った一同を見て、笑みを浮かべていた。

そうして

 

「あっ!?」

 

「ふえっ!?」

 

「うわっ!?」

 

ルーテシア、スバル、ノーヴェの三人を一気に触った。

 

(わはははは! 残るは、あとひとーり!! ヴィヴィオの友達の元気っ子!)

 

そして最後にターゲットしたのは、今になって騒ぎに気付いたリオだった。

 

「がおーっっ!!」

 

と声を上げながら、セインはリオの胸を背後から鷲掴みにした。その時、更衣室。

 

《緊急事態発生》

 

籠に置いてあったリオのデバイスが、遠隔起動した。

 

《強化システム、セットアップ》

 

「ええっ!?」

 

セインとリオの回りの温泉が魔力で吹き飛ばされて、セインは驚きで固まった。

そんなセインの腕を、バリアジャケットを纏ったリオが掴んだ。

しかも、目元には涙を滲ませている。

リオはそのまま、セインをグッと持ち上げ

 

「いいっ!?」

 

「やーーッ!!」

 

自己防衛本能の顕れなのか、リオはセインの腹部に絶招炎雷炮という、魔力付与蹴りを放ち、セインを天高く蹴り飛ばした。

 

「なんだ、セインか」

 

「だろうと思った」

 

天高く蹴り上げられたセインはそのまま、水柱を高く上げながら温泉に落下した。

 

「リオー!」

 

「リオ、大丈夫っ!?」

 

そんなリオに、ヴィヴィオとコロナが駆け寄り

 

『ティアナ、凄い音がしたが、何があった?』

 

「イタズラシスターがやらかしただけよ」

 

『ああ、なるほど』

 

ティアナのその答えに、音声通信で裕也の納得した声で答えた。

それほどに、セインのイタズラに慣れているのだ。

そしてセインは、湯面に浮かび

 

「……誰か……あたしの心配も……」

 

「自業自得です、セイン姉さん……」

 

そんなセインを、遅れてやってきて体を洗っていて難を逃れたセッテが回収したのだった。



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和解と馳せる思い

「まったく……ダメだよ、セイン。お風呂場でこういうイタズラしちゃぁ。怪我したら大変なんだからね?」

 

「女の子同士でも、セクハラは犯罪なんだからね?」

 

と石畳に正座させたセインに注意しているのは、スバルとティアナである。

その三人を中心にして、女湯に入っていた全員が集まっている。

 

「私が営業妨害で訴えても、捕まるよ?」

 

「うぐっ……」

 

「こんなんがアタシより年上かと思うと、涙が出そうになるわ……」

 

「うぅっ……」

 

「すいません、セイン姉さん……フォロー出来ません」

 

ルーテシア、ノーヴェ、セッテの三人の言葉に、セインは体を震わせて

 

「うぁーん! アタシだって、怪我しないように配慮したっつーの! これでも聖王教会のシスターだぞ!? それに、皆が楽しそうにしてるのに、アタシだけ荷物を宅配したら帰るだなんて、寂しいじゃかいかよぉ! 自慢じゃないが、アタシはお前達ほど、精神的に大人じゃないんだからな!!」

 

と泣きながら、指を差した。

 

(開き直った……)

 

(本当に自慢じゃねぇよ……)

 

「セイン姉さん……」

 

そんなセインに、ティアナとスバルは内心で軽く驚き、ノーヴェは突っ込みをいれて、セッテは額に手を当てて呆れていた。

すると、キャロがリオを連れて

 

「セイン、リオに謝った方がいいと思うよ?」

 

「あ、そうだった」

 

キャロの言葉で思い出したようで、立ち上がった。

そして

 

「いや、おどかしてごめんな」

 

とリオに頭を下げた。

 

「ああ、いえ! アタシも、思いっきり蹴りを入れてしまって……」

 

リオも咄嗟とはいえ、技を思い出した直撃させたことを謝った。

それを見ながら、アインハルトが

 

「ヴィヴィオさん、あの方は……」

 

とヴィヴィオに問い掛けた。

するとヴィヴィオも、アインハルトが何を聞きたいのか気づいたらしく

 

「あの人は、聖王教会のシスター。ノーヴェのお姉さんに当たるセイン。イタズラ好きだけど優しい人です」

 

とセインのことを軽く教えた。

 

「ねえ、セイン。このことをシスターシャッハとシスターカリムに教えない代わりに、料理作らない? そうすれば、二人に掛け合って、今日は泊まれるようにしてあげるよ?」

 

「マジ!? その位なら、幾らでもやる!」

 

ルーテシアの出した交換条件を聞いて、セインはそう意気込んだ。それを見たノーヴェが

 

「ったく……お嬢は甘いなぁ……」

 

と溜め息混じりに言った。

 

「ふっふっふ。タダで良い料理人をゲットした」

 

そんなノーヴェに、ルーテシアはピースしながら自慢気に胸を張った。

 

「まあ、本当にセインの料理は美味しいからね」

 

「だね」

 

ティアナとスバルはそう話しながら温泉に浸かり、その後に水着を脱いで温泉に浸かったセインが

 

「あ、後でこの温泉貰ってもいい?」

 

とルーテシアに問い掛けた。

 

「その位ならいいけど、どうして?」

 

「ん? 教会で眠ってるイクスの体を拭いてあげようかなって。温泉の雰囲気だけでもね」

 

ルーテシアの問い掛けに、セインは笑みを浮かべながら教えた。

 

「そういやぁ、イクスの護衛は?」

 

「今日は、シャンテがしてる筈だよ」

 

とノーヴェとセインが会話している横で、ティアナが

 

「それにしても、リオも大人モード出来るんだ?」

 

と問い掛けた。

 

「ヴィヴィオやアインハルトさんのとはちょっと方式は違うんですが、一応同系の身体強化魔法なんです。格闘魔法戦用に、自己流で組んでみました」

 

『へー』

 

リオの説明に、話を聞いていた一同は感心の声を漏らした。すると、気になったことがあるらしいスバルが

 

「凄い蹴りだったけど、あれはストライクアーツ?」

 

と問い掛けた。

その問い掛けに、リオは

 

「うちの実家の方の格闘技なんです。子供の頃から習ってて」

 

と話した。

 

「へー」

 

「変換資質あるの? 炎と電気が、両方出てたけど……」

 

「一応、両方です……」

 

『えーーっ!?』

 

「それ、凄い!」

 

キャロの問い掛けにリオが恥ずかしそうに言うと、セイン、スバル、ティアナの三人は驚いた。

まず変換資質自体がレアスキルなのだが、リオは更に稀少な二属性変換資質保持者だった。

確率としては、約10万人に一人という確率らしい。

 

「リオさんも、凄いんですね……」

 

「変換資質は知ってましたが、大人モードは初めて見ました」

 

アインハルトの呟きに、ヴィヴィオは同意したように話した。すると、コロナが

 

「リオね、ヴィヴィオとアインハルトさんに触発されて、頑張って完成させたんだって。本当は、明日の練習会で見せて、びっくりさせる予定だったみたいだけど」

 

「いや、十分びっくりしたした!」

 

コロナの説明を聞いて、ヴィヴィオはそう言いながら思わず手を左右に振った。

すると、アインハルトが

 

「練習会……?」

 

とコロナの言った練習会という言葉に、あることを思い出した。

 

(そうだ。たしか、日程表に……)

 

それは、次元航行船で聞いた話。

 

「そうです、練習会! オフトレツアー二日目恒例行事! 大人も子供も皆混ざっての、陸戦試合(エキシビション)!!」

 

「なになに、明日の話ー?」

 

「そー!」

 

ヴィヴィオの声が聞こえたらしく、リオが近寄ってきた。

 

「あたしは初体験だから、すっごい楽しみ!」

 

「前回凄かったんだよ、八神司令達が大活躍!」

 

「今回はちょっと人数が少ないから、1on1の機会が増えそうだねー」

 

「チーム分け、どうなるのかな?」

 

「うーん、燃えてきたー!!」

 

リオ、コロナ、ヴィヴィオの三人が楽しそうに会話していると、アインハルトが

 

「試合で戦うんですか……? 皆さんや、ヴィヴィオさんのご両親達と」

 

と問い掛けた。

 

「はい! 二組に分かれてのチームバトルで、相手チームを全滅させるまでの勝負です」

 

「大人チームは最大出力に制限が付きますが、それ以外は全力です」

 

「純粋に、戦技と戦術の勝負です」

 

ヴィヴィオとコロナが交互に説明すると、アインハルトの脳裏に大人組の練習光景が甦り

 

(あの凄い人達と、闘える!)

 

と興奮した、

 

(あの人達に、覇王(わたし)の拳は届くのかな……いや違う、届かせるんだ! どんな相手にだって、私と彼の覇王流を)

 

アインハルトはそう意気込むと、拳を握り締めた。

そこに、ヴィヴィオ達が

 

「組み合わせはまだ分かりませんが、敵チームになっても負けませんよ!」

 

「あたしもです!」

 

「あたしもー!」

 

と宣言した。それに対して、アインハルトも

 

「望むところです」

 

と拳を掲げた。

その頃、訓練場ではフェイト、冬也、なのは、ユーノの四人が集まっていて

 

「これが、明日の組み合わせ?」

 

「うん、ノーヴェが作ってくれたの」

 

「ふむ、綺麗に割り振っているな。同ポジションか近ポジションの接戦になるな」

 

「だね」

 

青チーム

フルバック ルーテシア

センターガード なのは

ウィングバック ユーノ

ガードウィング エリオ リオ レンヤ

フロントアタッカー スバル ヴィヴィオ 剣士郎

 

赤チーム

フルバック キャロ

センターガード ティアナ

ウィングバック コロナ

ガードウィング フェイト 冬也 セッテ

フロントアタッカー ノーヴェ アインハルト 裕也

 

「負けないよ、なのは」

 

「私だって!」

 

振り分け表を見たフェイトとなのはは意気込み、冬也はユーノと何らかの確認をしていた。

その頃、ホテルアルピーノのキッチンでは

 

「ごめんね、エリオ君、剣士郎君。手伝ってもらっちゃって」

 

「いえ、女の子達はお風呂長いですから」

 

「この量を一人で作るのは、厳しいですよ」

 

料理をしていたメガーヌの手伝いを、エリオと剣士郎がしていたのだった。



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試合開始

翌日、早朝。

 

「んー……ん、いい天気」

 

起きたルーテシアは、背伸びしながら晴れ渡っている青空を見上げた。

そこに、コロナが現れて

 

「ルーちゃん、おはよ!」

 

「おはよー、コロナ」

 

と挨拶。そしてルーテシアは、コロナの手の中にあるデバイスを見て

 

「ブランゼルの調子はどう?」

 

と問い掛けた。

 

「うん。さっきも一緒に練習してたんだけど、凄くいい子! 賢いし、わたしに合わせてくれるし!」

 

「それはよかった」

 

作った本人として、作ったデバイスがちゃんと機能しているか気になったのだ。

 

「綺麗な名前を貰ったんだから、ご主人様のために頑張るんだよ?」

 

《はい、創主》

 

そこまで話すと、二人は歩き始めて

 

「朝ご飯食べたら、さっそく試合だねぇ」

 

「ねー」

 

と間近に迫った試合のことを話し始めた。

 

「青組の人達なんか、朝練しながらミーティングだって」

 

「あははー」

 

ルーテシアが言ったのは、なのは、エリオ、スバル、レンヤのことである。

四人は朝練しながら、動きのことを話し合っていた。

 

「二人でナイショで練習したコロナの魔法……みんなに見せてびっくりさせちゃおうね!」

 

「うん、ルーちゃん!!」

 

どうやら、二人は周りに秘密にしていることがあるようだ。

 

「まあ、今回は敵チーム同士だから、わたし自ら叩き潰しちゃうかもだけど」

 

「えー!? つ、潰されないもん! がんばろうね、ブランゼル!」

 

《頑張ります!》

 

そして、約一時間後。

 

「はい、全員揃ったね」

 

市街地フィールドの一角に、試合に参加するメンバーが全員揃っていた。

 

「じゃ、試合プロデューサーのノーヴェさんから!」

 

「あ……あたしですか?」

 

フェイトがノーヴェを見ながら言うと、ノーヴェは狼狽した。どうやら、予想外だったようだ。

 

「えー……ルールは、昨日伝えた通り。赤組と青組の二つに別れたフィールドマッチです。ライフポイントは、今回もDSAA公式試合用タグで管理します。あとは皆さん、怪我の無いように正々堂々頑張りましょう」

 

『はーい!』

 

ノーヴェの説明に、全員は一斉に挨拶した。

そして、赤組と青組に別れて

 

「では、赤組」

 

「元気に行くよ!」

 

「青組も!」

 

「せーの!」

 

『セーット! アーップ!!』

 

赤組

フェイト GW LIFE2800

冬也 GW LIFE2800

セッテ GW LIFE2800

ティアナ CG LIFE2500

キャロ FB LIFE2200

コロナ WB LIFE2500

ノーヴェ FA LIFE3000

アインハルト FA LIFE3000

裕也 FA LIFE3000

 

青組

ルーテシア FB LIFE2200

なのは CG LIFE2500

エリオ GW LIFE2800

リオ GW LIFE2800

レンヤ GW LIFE2800

ユーノ WB LIFE2500

ヴィヴィオ FA LIFE3000

スバル FA LIFE3000

剣士郎 FA LIFE3000

 

「序盤は、同ポジション。または近いポジションてで戦う筈だ」

 

「多分、均衡した戦いになる筈だから、1on1に集中!」

 

「赤組には、突破力の高い子達が揃ってる」

 

「最初は、様子見しつつ臨機応変に!」

 

と両方が軽くミーティングを終えると、ウィンドウが開き

 

『両方とも、準備はいいかしら?』

 

とメガーヌが問い掛けてきた。

メガーヌの問い掛けに両チームは頷き、それを見たメガーヌが

 

『それじゃあ、試合開始ぃ!』

 

て告げると、メガーヌの後ろに居たガリューが銅鑼を叩いた。

 

「エリオと試合するのは久しぶりだなぁ。油断すると、撃墜されちゃうかも」

 

「気を抜くなよ、フェイト」

 

「隊長、先に行きます」

 

「行くぞ、ストラーダ! 今日こそ、フェイトさんに勝つ!」

 

「よーし! いっくぞー!」

 

「相手はかの強襲制圧部隊かぁ……やるか!」

 

フェイト、冬也、セッテVSエリオ、リオ、レンヤ

 

「どっちがちゃんとチームをバックアップ出来るか」

 

「負けないんだから」

 

ルーテシアVSキャロ

 

「うっし、行くか」

 

「いざっ!」

 

「やるか……」

 

「行きます!」

 

「今回ティアは敵だけど、やるよー!」

 

「……」

 

ノーヴェ、アインハルト、裕也VSヴィヴィオ、スバル、剣士郎

 

「あはは……お手柔らかに」

 

「胸を借りるつもりで行きます!」

 

ユーノVSコロナ

今、両チームの選手が激突する。



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試合1

一番最初に接敵したのは、裕也と剣士郎だった。

 

「さて……」

 

「参る……」

 

裕也が剣士郎を視認した直後、裕也は目を見開いた。剣士郎が消えた。否、消えたと誤認するほどの速度で動いたのだ。

だが裕也は、勘の域で刀を上に振り上げた。その直後、激しい金属音が鳴り響いた。

 

「飛天御剣流、龍墜閃……」

 

「速い……!」

 

驚きながらも裕也は、剣士郎の刀を弾いた。しかし剣士郎は、そこから

 

「飛天御剣流、龍巻閃・凩!」

 

「縱回転!?」

 

剣士郎は弾かれた勢いを利用し、縱回転の一撃を放った。その一撃で弾き飛ばされて、裕也はビルに激突した。

 

裕也LIFE3000→残LIFE2500

 

「なんという腕だ……まるで、戦争経験者だ……そうか……」

 

裕也は何かに気付いたのか、一気に剣士郎に突撃。刀を突き出した。が、その一撃を剣士郎は軽くいなして

 

「飛天御剣流、龍巻閃!」

 

自分の体をまるで独楽のように回転させて、裕也の首を狙って一撃を放った。その一撃を裕也は、前転するように回避し立ち上がった。

 

「やはりか……その剣は……戦乱を知っているか……その目も……」

 

「……」

 

裕也が指摘したのは、剣士郎の目だった。剣士郎の目は、光が感じられなかった。その目は、少し前の裕也や昔の冬也と同じだった。

戦いを駆け抜けて、希望を無くした目。

 

「……先祖から受け継いだ技だけでなく、記憶……それが、その目と気配を可能としているか……」

 

「行くぞ……!」

 

その宣言の直後、剣士郎の姿は裕也に肉薄していた。

ほぼ同時刻、ヴィヴィオとアインハルトも接敵。交戦を開始した。

 

「行きますよ、アインハルトさん!」

 

「お手合わせ願います」

 

(私とアインハルトさんの戦績は、2戦2敗……だけど、今度は魔法アリなら!)

 

今までは魔法を使えなかったヴィヴィオは、今回は魔法も使える。今回は肉薄してみせる。そう意気込んだヴィヴィオは

 

「はっ!」

 

まずは、右ストレートを繰り出してアインハルトの意識を割こうとした。だがアインハルトは、その一撃は軽く受け流し

 

「ふっ!」

 

ヴィヴィオの腹部を狙い、膝蹴りを繰り出した。だがその一撃に、ヴィヴィオは即座に反応。左手を膝に当てて防ぎつつ、素早く後退。

 

「ロック!」

 

アインハルトを狙い、バインドを発動した。しかし、アインハルトはそのバインドを跳躍して回避。

近くのビルに着地、それを狙い

 

「セイクリッド……バスター!」

 

ヴィヴィオは、速射砲を放った。

 

(速射砲!?)

 

辛うじて直撃を回避したアインハルトだったが、無傷ではなかった。

 

アインハルトLIFE3000→残LIFE2700

 

(よし、追撃!)

 

その隙を逃さず、ヴィヴィオは誘導弾を布陣させた。

それを見たアインハルトは、構えた。

 

「覇王流……」

 

(よし、防御にしろ回避にしろ、隙が生まれる!)

 

そう思ったヴィヴィオは、その誘導弾を一気に放った。

 

「エセリアルシフト……ファイア!!」

 

多数の誘導弾がアインハルトに迫るが、アインハルトは慌てずに

 

「覇王流……」

 

なんと、誘導弾を全て受け止めた(・・・・・・・・・・)

 

「いぃっ!?」

 

まさか受け止められるとは思わず、ヴィヴィオは驚いた。しかし、既にヴィヴィオはアインハルトに向けて駆け出していた。

 

(まさか、この技は!?)

 

「旋衝破!」

 

ヴィヴィオが気付いた直後、アインハルトは受け止めていた誘導弾をヴィヴィオに投げた。

 

(反射技!?)

 

その誘導弾には耐えたヴィヴィオだったが、その隙に肉薄し拳を振り下ろした。

場所は変わり、観戦していたセインとメガーヌ達。

 

「うおお!? 今のは何!?」

 

反射技(リフレクト)ね……古代ベルカの使い手なら、理論上は可能よ……」

 

困惑するセインにメガーヌはそう説明するが、内心では

 

(けど、あんな技を可能にするなんて……どれ程苛烈な修練をしたの……)

 

とゾッとしていた。

その時、アインハルトが苦しそうにして、バリアジャケットの右肩辺りが弾けた。

 

「うぇ!? 何が!?」

 

「あら、気付かなかった? さっき、アインハルトちゃんが拳を振り下ろした時、ヴィヴィオちゃんのカウンターの拳が当たってたのよ? 当たり所が違ったら、アインハルトちゃんも倒れてたわ」

 

メガーヌはそう説明しながら、アインハルトが拳を振り下ろした場面をスロー再生した。確かに、ヴィヴィオの拳が右肩に当たっていた。

すると、メガーヌが

 

「そういえば、帰らなくていいの?」

 

「お昼作ったら帰る!」

 

メガーヌの問い掛けに、セインはそう答えた。

場面を戻して、アインハルトとヴィヴィオ

 

(やはり、薄々分かっていましたが……ヴィヴィオさんは、迎撃(カウンター)タイプ!)

 

アインハルト残LIFE2400

 

アインハルトはヴィヴィオの戦闘スタイルに気付き、そしてヴィヴィオは

 

(凄い! まさか、あんな技が有るなんて!)

 

と興奮しながらも、更にアインハルトと戦おうとした。

そこに

 

『はい、ヴィヴィオ。一回後退して』

 

とルーテシアから、後退指示が出された。

 

「えー!?」

 

『残LIFE300しかないのに、追撃はしない! スリートップの一人が欠けたら、戦略上大変だから!』

 

「はーい!」

 

ルーテシアの指摘を受けて、ヴィヴィオはルーテシアの位置まで戻ることにした。そのヴィヴィオを追撃しようとしたが、通信ウインドウが開いて

 

『アインハルト、なのはさんをお願い。妨害するだけでいいから』

 

「承りました」

 

ティアナからの指示を受けて、アインハルトはなのはの方に走り出した。

試合はまだ、始まったばかりである。



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試合2

「はあぁぁぁぁ!」

 

「っらあ!!」

 

と気合いの声を上げながらぶつかったのは、スバルとノーヴェだった。

二人は同時に拳を繰り出し激突させると、その衝撃を利用して逆回転の蹴りを繰り出した。

 

「やるね、ノーヴェ!」

 

「まあな! 仕事はともかく、格闘技は」

 

「とは言っても、アタシもお姉ちゃんだから!」

 

「負けない!」

 

「負けねー!」

 

二人は会話しながら交戦を続けていたが、ふとその時

 

「お、アインハルトがなのはさんに迫ったな」

 

とノーヴェが溢し、それを聞いたスバルは視線を僅かにずらして見た。確かに、アインハルトがなのはと交戦を始めていた。

なのはは迎撃の為に、戦域全体に向けていた誘導弾をアインハルト一人に集中させた。

しかしアインハルトは、その弾幕を拳で全て弾いて肉薄。拳を繰り出した。

その初撃を、なのははデバイスで防いだが、そこからはアインハルトのラッシュが始まった。すると

 

「ああ! アインハルト、気を付けて! なのはさんの近接封じが!?」

 

と心配そうにした。

 

「スバル……お前、敵チームだろ……」

 

自分との交戦を忘れてアインハルトの心配を始めたスバルを見て、ノーヴェは呆れた様子で肩をすくめた。

その間に、アインハルトは次々と拳を叩き込んでいく。その時だった、アインハルトの一撃でなのはのガードががら空きになった。それを見たアインハルトは、一歩踏み出しながらなのはの顎を狙って右フックを繰り出した。

だがその一撃は、なのはのバインディングシールドで防がれ、更に右腕は拘束された。

 

「あぁ……捕まっちゃった……なのはさんの近接封じの必勝パターン……」

 

アインハルトは何とかバインドを引きちぎろうともがくが、そこは歴戦の魔導師のなのは。ちょっとやそっとじゃ、千切れない。

 

「そうじゃねぇだろ、アインハルト……教えたことを思い出せ……」

 

そのノーヴェの言葉が届いたかのように、アインハルトの動きが変わった。

先ほどまでは、全身がバラバラの動きだったが、足から腰、腰から腕へと動きが繋がっていく円の動き。

それらが連動し、バインディングシールドだけでなく、なのはが撃った砲撃すら迎撃した。

 

「うそ……」

 

「っし!」

 

その光景に、近くで戦っていたメンバーも驚いていた。

まさか、あのなのはの一撃を打ち破るとは、と。しかし、直ぐ様なのはの第二撃でアインハルトは戦闘不能になる大ダメージを負った。

 

アインハルト

残LIFE 80 100以下のために、行動不能

 

それを、少し離れた位置から見ていたユーノは

 

「最近の子達、凄いなぁ……どんどんと高みに登っていくね……」

 

と呟いた。そんな彼の前には、巨大な人型。コロナが作り出したゴーレム。ゴライアスがチェーンバインドで拘束されていた。

 

「コロナちゃんのゴライアスも、中々の能力だね……まさか、10本以上で縛っても動こうとするなんてね」

 

「お話には聞いてましたが……凄いですね……」

 

そして、ゴライアスを産み出したコロナは、そのゴライアスの肩の辺りで一緒に拘束されていた。

 

(ヴィヴィオから、話には聞いてた……結界型魔導師の中でも、最高峰の魔導師……翡翠の守護者……ここまでだなんて……)

 

ユーノと接敵、交戦開始したコロナは、ヴィヴィオに昔誉められてからずっと練習していた創成魔法と操作魔法の合わせ魔法で、ユーノに攻撃を繰り出した。

しかしユーノは、慌てもせずにゴライアスの攻撃の悉くを障壁で防御した。

デバイスを使わないで、その類い希なる並列思考のみで魔法を次々と繰り出すユーノは、正に結界型魔導師の中では最高峰に位置する魔導師だった。

障壁、バインド、転移、それらを駆使してコロナを翻弄し、気づけば多方向からのバインドでゴライアスと一緒に縛られていた。

 

「さて、なのはも自由になったし……って、あ」

 

そんな時、なのはの後頭部にオレンジ色の魔力弾が命中した。

 

高町なのは

残LIFE 2200

 

「あー……今のは、ティアナか……っとと!?」

 

ユーノがなのはを襲った魔力弾の主に気付いた直後、戦域全体に魔力弾が次々と撃ち込まれた。

それは、ティアナの得意魔法のクロスファイア・フルバーストだった。

そして、ここから戦況は激変することになる。



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試合 3

ティアナのクロスファイアにより、青チームは軒並み回避か防御を余儀なくされ、膠着状態が崩れた。

 

「ちいっ!?」

 

「ふっ!」

 

青チームFAレンヤ・ウェスタン 残LIFE2200

赤チームGW神代冬也 残LIFE2300

 

ティアナのクロスファイアは間一髪で防いだが、その後に冬也からの鋭い一撃でダメージを受けて、そこからは防戦一方になっていた。致命傷は全て未然に防いでいるが

 

(反撃する暇が、無い!)

 

時々ヒヤリとする一撃に、レンヤはどうすることも出来ずに居た。その近くでは、フェイトがエリオと交戦していたが

 

(エリオ、強くなったなぁ。何回も全力で打ち込んでるけど、中々一撃入れられない)

 

青チーム GWエリオ 残LIFE2300

赤チーム GWフェイト 残LIFE2250

 

互角の戦いになっていた。

フェイトは何度も大ダメージを狙って攻撃を繰り出したが、その殆どをエリオは回避か見事に受け流した。

 

「はあぁぁぁ!」

 

「ふっ!」

 

そして、防戦一方にならずに、エリオはストラーダを振り回していた。

そんな中、行動不能になっていたアインハルトをキャロが召喚魔法を使って自分の近くに転移させると、治療を始めた。

 

「今回復中だから、動かないでね。その中なら、大抵は安全だから」

 

「はい……」

 

しかも、青チームの奇襲を考慮してか、アインハルトを障壁で覆っていた。

その中で、アインハルトは

 

(まだ戦える……あの人達と、まだ戦いたい!)

 

と拳を握りしめていた。

三度場面は変わり、スバルとノーヴェの戦域だが

 

「ノーヴェ、アインハルトに教えてたんだ。私達の母さんの得意技……アンチェインナックルを」

 

「アタシが教えたのは、基礎だけ。後は、あいつが物にしたんだよ」

 

スバルの問い掛けに、ノーヴェはそう答えた。

アンチェインナックル。それは、スバルやギンガ、ノーヴェの遺伝子上の母親になるクイントが得意としていた技で、円の動きを使って、拘束されても即座に脱出からの攻撃を可能にした技だ。

その基礎を、ノーヴェは川で遊んだ際に水切りという形で教えた。

 

「そっか……でもさ、ノーヴェ……私との1on1ほったらかして、どこに行く気!?」

 

「あ? んなの決まってるだろ。お嬢の所だよ!」

 

スバルと戦っていたノーヴェだが、ある時、強引にスバルとの交戦を切り上げると青チームの奥の方に走り出したのだ。

 

「上手くいけば、お嬢だけでなくヴィヴィオも短時間で倒せるしな! っつーわけで……うははははは! スピードなら、アタシのジェットエッジの方が上だ! 追い付けるなら、追い付いてみやがれ!」

 

「あっー!?」

 

ノーヴェはまるで何処ぞの走り屋のようなセリフを言うと、更にスピードを上げて走り出した。

ほぼ同じ技能と能力を有するノーヴェとスバルだが、一撃の重さではスバルに軍配が上がるが、速さではノーヴェに軍配が上がる。

これは二人の戦闘スタイルの違いからだが、スバルは密着状態での自身の身体能力から来る爆発力の高い攻撃が得意なのに対して、ノーヴェは機動性を活かした戦いを得意としている。

それは、デバイスにも現れている。

スバルのマッハキャリバーは一撃の重さを上げるためなのと、衝撃から内部機構を守る為に装甲が増しているのに対して、ノーヴェのジェットエッジは機動性を獲得するために装甲は必要最低限にして、最高速度を上げる改修が施されていた。

その差が、今出てしまっていた。それを、開いたモニターで見ていたルーテシアが気付いて

 

「あ、ノーヴェが突っ込んでくる」

 

と呟いた。

 

「ルールー! 回復、もう十分でしょ!?」

 

ルーテシアが開いていたモニターを、少し離れた位置から見ていたヴィヴィオは、待ちきれないと言った風に問い掛けた。

 

青チーム FAヴィヴィオ 残LIFE2850

 

「うん、そうだね。それに、作戦も発動しましょうか」

 

ヴィヴィオの残LIFEを確認したルーテシアは、ニヤリと笑みを浮かべながらそう判断した。

そうしてルーテシアは通信ウインドウを開き

 

「青チーム全員に通達。予定より早いけど、作戦を開始します」

 

と宣告した。



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試合 4

『ティアナさん! ルーちゃんが何やら企んでます!』

 

「あの子の企みって、ちょっと洒落にならないのが多いのよねぇ」

 

キャロからの通信を受けて、ティアナは苦笑いを浮かべた。その直後、一部のメンバーが二対一の状況に追い込まれた。

 

『2on1!?』

 

「ちょっとルーテシア、私とキャロを無視するなんて、いい度胸じゃない?」

 

『ふっふっふ。度胸じゃなく、作戦です』

 

ティアナの言葉に、ルーテシアは不敵な笑みを浮かべながら答えた。確かに、それにより切り込んでいたノーヴェがヴィヴィオとスバルに挟まれ、フェイトはエリオとなのはに挟まれ窮地に陥っている。そこから各個撃破という流れになれば、不利になってしまう。

それを理解したアインハルトは、まだ回復が終わっていないが出撃しようとした。だが、それに気付いたキャロは

 

「大丈夫。赤組の仲間は、弱くないから」

 

と笑みを浮かべながら、アインハルトを制止した。

その時

 

『悪い、ルーテシア! 冬也さんに抜かれた!!』

 

「あちゃあ……まあ、あの人は仕方ないかなぁ……予想より、大分早かった……」

 

レンヤと交戦していた冬也が、その攻撃力の高さを活かしてレンヤを突破。そして

 

「無事か、フェイト」

 

「大丈夫だよ、冬也さん。信じて待ってたから」

 

そのまま、フェイトと合流。フェイトの後ろで、構えた。

 

「あちゃあ……こうなる前に、フェイトちゃんを倒したかったけど……流石は冬也さん。噂に違わぬ突破力」

 

「けど、一番驚いたのはフェイトさんの防御です……こっちの攻撃の殆どが、防がれました」

 

冬也が合流したのを見たなのはが頭を掻きながら言うと、同意するようにエリオがそうなのはに告げた。それは、見ていたなのはも思ったことだった。

フェイトは高機動を活かして攻撃を回避することを念頭に置いて戦術を組んでおり、それに伴ってバリアジャケットの防御力はかなり低い。それにより、下手な位置に攻撃を受ければ一撃が致命傷になることも有るのだ。

だからフェイトは、更なる機動を編みだし続けた。

そして最近、冬也と模擬戦を繰り返した際に相手が自身と同等の機動性を有していると、必然的に近接戦闘となり、相手の攻撃力が高い場合は致命傷に繋がり易くなる。

そこで考えたのが、自身の防御技の向上。

格闘戦に関しては、ある程度は自信がある。しかし、そこで満足しなかった。暇が見つかればシグナムや冬也と模擬戦を行い、近接戦闘での防御の向上に努めたのだ。

その甲斐あり、二対一という不利な状況で冬也が来るまで耐えてみせたのだ。

 

赤チーム GWフェイト 残LIFE2200

同チーム GW冬也 残LIFE2300

青チーム GWエリオ 残LIFE2200

青チーム FBなのは 残LIFE2150

 

状況は、二対二になった。しかも、戦況は拮抗状態になった。だが、そこに

 

「僕を忘れないでほしいね」

 

何処からともなく、ユーノが姿を現した。

 

青チーム WBユーノ 残LIFE2400

 

「ユーノ君……」

 

「なのは、交代しよう。ティアナが動きそうだから」

 

「わかった」

 

ユーノの言葉を聞いて、なのははそこから移動を始めた。冬也は敢えて、見逃した。否、動けなかった。

 

「流石だな、ユーノ……抜け目ない」

 

冬也は称賛しながら、刀を一閃。その直後、冬也とフェイトを縛ろうと隠蔽されていたチェーンバインドを斬った。

 

「いつの間に、幻術系まで?」

 

「少し興味が有ったからね……けど、気付かれたか」

 

「……ティアナに比べれば多少、空間に揺らぎがな」

 

「なるほど……要練習だね」

 

冬也の言葉に、ユーノは肩を竦めた。

 

「さて、どうも終わりが近いみたいだし……始めようか」

 

「ああ」

 

その会話を最後に、双方は動いた。



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試合 5

徐々に戦域が中央に集まっていくなか、ティアナとなのはは支援しつつ隠れながら、ある魔法の準備をしていた。

それは、砲撃の極地。なのはが切り札として開発し、ティアナも受け継いだ集束砲。

 

『青チーム各員、そのまま中央付近で戦ってください!』

 

『準備出来次第、ブレイカーで一網打尽にします!』

 

スターライトブレイカー。

戦域全体に散った魔力を集め、高密度で放つ砲撃の極地。

奇しくも、なのはとティアナは同じ選択に至っていた。

両チームの全員は、そのオーダーを遂行するために徐々に中央に集まってきていた。

 

「はっ!」

 

「しっ!」

 

そのうちの一ヶ所、そこでは裕也と剣士郎が激しく打ち合っていた。

二人の刀がぶつかる度に、激しく火花が散る。

裕也は剣士郎に抜刀術を使わせないために、積極的に打ち込んでいた。勿論だが、一度見た技を簡単に受ける気はない。

 

(飛天御剣流は抜刀術が基本のようだからな……これならば……)

 

そう思いながら、裕也は刀を振るった。そして驚いたのは、剣士郎の読みの鋭さだった。

剣士郎はほぼ正確に、裕也の攻撃を見抜いて的確に防御又は弾いていた。

刺突を払い、袈裟懸けに刃を合わせてきた。

裕也は決して、剣速は遅いというわけではなく、寧ろかなり早いと自覚している。しかし剣士郎は、反応しきっている。

 

(恐ろしい才覚だな)

 

裕也はそう思いながら、左から右へと薙ぐように刀を振るった。その一撃で、剣士郎は少し後ろへと押し飛ばされた。次の瞬間、剣士郎が一気に駆け出した。

 

「むっ!?」

 

「飛天御剣流……」

 

剣士郎がそう呟いた時、裕也は驚愕で目を見開いた。

何故ならば、自身目掛けて9つの斬閃(・・・・・)が見えたからだ。

 

「まさか!?」

 

九頭龍閃(くずりゅうせん)!!」

 

そして次の瞬間には、裕也は剣士郎の技を受けて吹き飛び、壁に激突していた。

 

『裕也!?』

 

ティアナの心配する声が聞こえてくるが、裕也は

 

「大丈夫だ、まだ動ける……」

 

と答えた。

 

赤チーム

FA 裕也 残LIFE1200

 

一撃、否、ほぼ同時の九撃で、裕也は一気に半分以下にまでLIFEが減っていた。

 

「凄まじいな……まさか、一瞬にして九撃を叩き込むか……避ける隙がまったく無かったし、防御も出来なかった……」

 

そう語った裕也に出来たのは、致命を僅かに避けることだけだった。裕也は攻撃が当たる直前、体を僅かに動かして致命部位に当たるのを避けたのだ。

 

「だが、まだ動けるからな……第二ラウンドだ!」

 

裕也はそう言うと、瓦礫の中から出て剣士郎に向かって突撃した。

その光景を見ていた観戦組は

 

「え、今の何撃だったの?」

 

セインは剣士郎の攻撃が全部で何撃だったのか、分かっていなかった。だが、メガーヌは

 

「私の見間違いじゃなければ……全部で9撃よ……9撃を、一瞬にして入れた……」

 

と説明した。

 

「9!? マジで!?」

 

「ええ……多分、それが九頭龍閃……上段唐竹割り、袈裟懸け、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、右切り上げ、左切り上げ、下段逆風、刺突……剣術の基本的な攻撃の九撃を一気に……ほぼ同時に放つのが、九頭龍閃……」

 

「マジかぁ……」

 

メガーヌの説明にセインは呆然としているが、メガーヌは剣術としては破格の技を放った剣士郎に驚愕していた。

 

(口で説明するのは簡単だけど、実践するとなると話は別……アインハルトちゃんだけでなく、彼も……一体、どれ程の苛烈な修練を……)

 

まだ幼い二人が、高い熟練が必要な技を使ったことに、メガーヌはやるせなさを感じた。

場面は再び変わり

 

「赤チーム各員、そのまま戦線を維持! もう間もなく、スターライトブレイカーが、発射出来ます!」

 

『そうすれば、一網打尽に出来ます!』

 

二人の砲撃魔導師の切り札が、完成されようとしていた。放たれれば、間違いなく決着が着くだろう。

そして、時は来た。

 

「赤チーム各員に通達!」

 

『今から、スターライトブレイカーを発射します!』

 

二人の前には巨大か魔力球が浮いていて、周囲にも魔力球が精製されていた。

 

「スターライトブレイカー・FS(ファントムストライク)

 

『スターライトブレイカー・MR(マルチレイド)……』

 

『発射!!』

 

そして、二つのスターライトブレイカーが、中央付近で激突。大爆発を起こした。

それを見ていた、セインは思わず

 

「これ、なんて最終戦争……?」

 

と呟いた。すると、メガーヌが

 

「まあ、ブレイカー同士がぶつかればねぇ」

 

と苦笑していた。なおメガーヌはアリシアを抱いているのだが、今の大爆発に伴う大音響でも起きる様子すらない。

間違いなく、将来は大物になるだろう。

 

「さてと……両チームの生き残りは……」

 

ブレイカーの影響が落ち着くと、メガーヌは生き残りが居るかどうか確認を始めた。

 

「な、なんとか……生き残った……」

 

と呟いたのは、瓦礫の中から出てきたティアナだった。

 

赤チーム

CG ティアナ 残LIFE 110

 

本当に極僅かで、ティアナは生き残っていた。

ティアナは戦況マップを開くと

 

「えっと……生き残りは……私の他に二人……」

 

マップには、未だに戦える状況の人物が表示されている。その中の一つが、素早くティアナの方に移動を始めた。

 

「この速さ……まさか、スバル!?」

 

「じゃなくて、ヴィヴィオです!!」

 

「ウソっ!? なんでほぼ無傷!?」

 

青チーム

FA ヴィヴィオ 残LIFE 2300

 

視界に入ったヴィヴィオがほぼ無傷という事態に、ティアナは驚いた。そして、ヴィヴィオが助かった理由だが

 

「へっへー! どうだ、特救魂!」

 

「ああー……ちくしょう、負けた」

 

ティアナのスターライトブレイカーが当たる直前に、スバルが庇ったことで生き残ったのだ。

 

青チーム

FA スバル 残LIFE 50 100以下のために行動不能

 

赤チーム

FA ノーヴェ 残LIFE0 撃墜

 

「というわけで、ティアナさん! 勝負です!!」

 

「来なくて、いいんだけど!」

 

突っ込んでくるヴィヴィオに対し、ティアナは迎撃を始めたが、ヴィヴィオは巧みに防ぐか回避してティアナに接近。拳を構えた。だが

 

「させません! 覇王流、空破断(仮)!」

 

そこに、アインハルトが現れて、ヴィヴィオを迎撃した。

 

「アー!」

 

アインハルトの攻撃を受けたヴィヴィオは、ゴロゴロと地面を転がっていった。

 

青チーム

FA ヴィヴィオ 残LIFE 1850

 

「ティアナさんはやらせません」

 

とアインハルトは言ったのだが

 

「ごめーん、アインハルト……実は、既にヤられてたり……」

 

「ええっ!?」

 

赤チーム

CG ティアナ 残LIFE0 撃墜

 

実は先ほど、アインハルトが迎撃に動いた時、ヴィヴィオは単発の誘導弾をティアナに発射しており、それが直撃していたのでティアナは撃墜されたのだ。

そしてこれにより、アインハルトとヴィヴィオの一騎打ちとなったのだ。



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試合 終

「いざ、勝負!」

 

「参ります!」

 

二人は同時に動いたが、先に拳を繰り出したのはアインハルトだった。しかしヴィヴィオは、冷静にアインハルトの拳を回避。それだけでなく、素早く右フックを放っていた。

 

(やっぱりそうだ……この子のスタイル……冷静な判断力とギリギリまで攻撃を引き付けられる胆力……そして何よりもその目……その3つからなる、ヴィヴィオさんの戦闘スタイル……カウンターヒッター!)

 

アインハルトは考えながらヴィヴィオに攻撃を繰り出していたのだが、ヴィヴィオはその全てを冷静に対処。それだけでなく、アインハルトの顔面に拳を叩き込んでいた。

卓越した目と相手の攻撃を、ギリギリまで引き付けられる胆力。そして何より、ヴィヴィオの高い学習能力。それらが合わさり、カウンターヒッターという戦闘スタイルが出来上がった。

 

赤チーム

FA アインハルト 残LIFE 1080

VS

青チーム

FA ヴィヴィオ 残LIFE 1850

 

アインハルトはヴィヴィオに右ストレートと左上段蹴りを連続して放つが、ヴィヴィオは巧みに防いだ。しかし、アインハルトの一撃は重かったらしく、防御をした腕が痺れる。

 

(アインハルトさんの一撃、重い!)

 

だが、アインハルトの攻撃はそこで止まらなかった。

アインハルトは、僅な隙間に拳を滑り込ませて、ヴィヴィオの腹部に拳を叩き込んだ。

 

青チーム

FA ヴィヴィオ 残LIFE1550

 

しかし、状況は未だにヴィヴィオの方が若干有利と言えた。ヴィヴィオの攻撃の威力はアインハルトに比べれば低いものの、僅かな隙を的確に突いて攻撃していく。

アインハルトはヴィヴィオに比べて、当たった手数は少ない。だが、一撃一撃が重いために、ヴィヴィオのLIFEを大きく削る。

そして、二人が戦い始めて僅か二分。

 

赤チーム

FA アインハルト 残LIFE580

VS

青チーム

FA ヴィヴィオ 残LIFE550

 

もう、一撃で決まってもおかしくない域にまで来ていた。それは二人も理解していて、僅かな隙も見逃さないと相手を見ていた。

そして先に動いたのは、アインハルトだった。

アインハルトは左ストレートを繰り出し、それをヴィヴィオはしゃがんで回避。アインハルトは素早く膝蹴りを繰り出したが、それをヴィヴィオは受け止めて

 

「一閃必墜……」

 

右拳に、魔力を集中させアインハルトの顎を狙ってその技を繰り出した。

 

「セイクリッドスマッシュ!!」

 

その一撃は、アインハルトの予想していなかった不思議な加速で、アインハルトの顎を的確に命中。それを受けたアインハルトは、グラリと倒れ始めた。

 

(勝った!)

 

倒れ始めたアインハルトを見て、ヴィヴィオはそう確信した。しかしその瞬間、アインハルトの左回し蹴りがヴィヴィオの側頭部に命中。

二人は同時に倒れた。

 

赤チーム

FA アインハルト 残LIFE0撃墜

VS

青チーム

ヴィヴィオ 残LIFE0 撃墜

 

それを観戦していたメガーヌが

 

「はい、試合終了~」

 

と朗らかに、試合の終了を告げた。

 

赤チーム 戦闘不能6 撃墜3

青チーム 戦闘不能5 撃墜4

 

試合結果は、引き分けとなった。

その頃、裕也と剣士郎は

 

「やれやれ……末恐ろしい使い手だな……」

 

「結局、勝てませんでしたが……」

 

赤チーム

FA 裕也 残LIFE50 なのはのブレイカーにより、行動不能

 

青チーム

FA 剣士郎 残LIFE0 ティアナのブレイカーはギリギリ耐えたが、裕也の放っていた魔力弾により撃墜

 

「しかし、君はまだ奥の手を隠しているだろう?」

 

「それは、そちらもでは? 本気の貴方とは、戦いたくないですよ」

 

制限が解除されると、二人はそう会話しながら立ち上がった。すると裕也は

 

「さて……一度戻ろうか……休憩後、ここを直して第二戦だ」

 

と語った。それを聞いて、剣士郎が

 

「……第二戦?」

 

と首を傾げた。

 

「ん? ヴィヴィオかディエチ嬢から聞いていないのか? 今日は、三回戦うぞ?」

 

実は同時刻、ヴィヴィオがアインハルトに同じことをアインハルトに言っていた。

 

(まだ戦える……あの強い人達と、戦える!)

 

ヴィヴィオの説明を聞いたアインハルトは、興奮しながら拳の握りしめていた。どうやら、武闘家として疼くらしい。

そして一同は、メガーヌやセインが用意した料理を食べた後にレイヤー建築を修復。その後、第二戦を開始した。

第二戦目はマッチアップ相手が変わったが、また引き分け。

そして第三戦目は、チーム構成を変更。白熱した戦いを繰り広げたのだった。



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進む道

試合が一通り終わって、約一時間後。子供部屋では、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルトの四人がアーウーと唸っていた。

 

「か、体が重い……」

 

「う、動きません……」

 

「もう、自分の限界を無視するからだよ?」

 

そんな四人に、ルーテシアがクリスを撫でながら苦言を呈していた。すると、僅かに上半身を起こしたコロナが

 

「る、ルーちゃんは、なんで普通なの?」

 

「そこはそれ、年長者なりの分配(経験の差)でね」

 

コロナの問い掛けに、ルーテシアは余裕綽々と言った表情でそう答えた。そのタイミングで、ドアが開き

 

「はーい、疲労抜きのジュース持ってきたわよー」

 

とメガーヌとなのはの二人が入ってきた。その手には、ジュースが入ったコップが乗ったおぼんがある。

 

「あ、なのはママ!」

 

「はーい、皆のぶんもあるからねぇ」

 

最初にヴィヴィオに手渡すと、なのはは順番にリオ、コロナ、ルーテシア、アインハルトに渡していった。

その時、メガーヌはルーテシアが見ていた画像に気づいて

 

「あら、DSAA?」

 

とルーテシアに問い掛けた。

 

「そう。ヴィヴィオ達も、参加条件はクリアしてるし」

 

DSAAというのは、次元世界全体で行われる魔法戦競技大会で、規模だけでなく歴史もかなりある大会である。参加条件は、10歳以上で魔法技能を有していること。そして何より

 

「クラス3以上のデバイスを有していること……ああ、ヴィヴィオちゃん達は持ってるわね」

 

『はい!』

 

メガーヌが視線を向けると、ヴィヴィオはクリスを、コロナはブランゼル。リオはソルフェージュを見せた。

だが、アインハルトは

 

「私は……持っていません……古式ベルカ用のデバイスとなると、中々……」

 

と言葉を濁した。だがそこに

 

「ふっふっふ……そこは、私の交友関係を舐めてもらっては困りますなあ……私の親友の家族は、一人を除いてベルカな大家族!」

 

と自信満々に告げた。その頃、ミッド南西部の海岸付近の八神家にて

 

「はっくしょん!」

 

とはやてが、くしゃみをした。

 

「うー……誰か噂しとるな?」

 

「どうした、はやて?」

 

「だーうー?」

 

当麻と二人の子供の優が問い掛けると、はやては微笑みながら

 

「大丈夫やで、当麻、優」

 

と答えた。

場所を戻り、テラスにて剣士郎は椅子に座って満月を眺めていた。

 

「……平和だな……」

 

と呟いていると、隣にディエチが近寄ってきて

 

「隣、いい?」

 

と問い掛けた。

 

「大丈夫ですが……」

 

「ありがとう」

 

ディエチの問い掛けに剣士郎が答えると、ディエチは剣士郎の隣に座った。そして、少し間を置くと

 

「裕也さんから聞いたけど、剣士郎君ってかなりの剣の腕前なんだよね?」

 

「えぇ、まあ……先祖の技術と記憶を受け継いでますので……」

 

「その傷痕も、それに関係してるの……?」

 

ディエチが指差したのは、左頬の十字傷。剣士郎はそれを撫でながら

 

「ええ……緒王戦乱期に先祖が負った傷です……恨みが籠った攻撃で負った傷は、消えにくいらしいです……人斬り抜刀斎は、恨まれた存在でしたから」

 

と答えた。

 

「人斬り抜刀斎……データでは、百人以上の要人や兵士を斬殺したって……」

 

「詳細な人数は知らない……けど……屍山血河を作った……戦争だったからかもしれないけど……何人も斬った……血の河を作った……屍の山を作った……自分の体から、血の匂いしか感じなくなる位に斬っていた……」

 

そう語る剣士郎は、年不相応に感じられて、気付いたらディエチは抱き締めていた。

 

「……大丈夫……今は、平和な時代だから……自分を、追い込まないで……」

 

「ありがとうございます……」

 

ディエチの優しい言葉に、剣士郎の目付きが鋭いものから落ち着いたものに変わった。その光景を、少し離れた位置から冬也が見ていたのだった。



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三日目

合宿の三日目は、のんびりと過ごすことになった。未開拓の星たるカルナージは、自然豊かな地域が広大に広がっている。

 

「……いい風だ……」

 

剣士郎は一人、ある丘の木の幹に背中を預けて座っていた。周囲は森が生い茂り、時々鳥の鳴き声が聞こえる。

そよそよと流れる風が、剣士郎の髪を撫でる。

 

「緋村先輩!」

 

「一緒に、お昼にしませんかー!?」

 

剣士郎が青空を見上げていると、剣士郎を呼ぶ元気な声が聞こえてきた。視線を向けると、ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人が駆け寄ってきていた。

剣士郎は立ち上がると

 

「ああ、今行こう」

 

と返事をして、三人の方に歩み寄っていった。

 

「やっほ、緋村君。改めて、高町・S・なのはです。よろしくね」

 

「ユーノ・S・高町です。よろしく」

 

「緋村剣士郎です。お二人の名前は、予々から聞いてます」

 

なのはとユーノの二人が名乗ると、剣士郎はそう言って頭を下げた

 

「試合、映像で確認したけど、君、凄かったね。あれほどの剣術……中々見ないよ」

 

「確かに、あの裕也までが途中は押されてたしね」

 

なのはの言葉に、ユーノが納得した様子で頷いた。

 

「いえ、途中からは様子見で戦っていました……彼も、本気ではなかったことが伺えます」

 

受け取ったお茶を一口飲むと、剣士郎は一拍置いてからそう言って頭を振った。

 

「まあ、裕也君も凄腕の剣士だからね……もしかしたら、剣士郎君の腕を見たかったんじゃないかな?」

 

なのははそう言って、剣士郎にサンドイッチやおかずが乗ったお皿を差し出した。

 

「まあ、今はのんびりしましょう! こんなに、いい天気なんですから!」

 

「……そうしよう」

 

ヴィヴィオの言葉に、剣士郎は頷いてから食事に意識を向けた。

その頃、少し離れた河原にて

 

「冬也さん……水が、気持ちいいよ」

 

「ああ……ルーテシアは、よくもここまで開拓したものだ」

 

フェイトと冬也の二人が、のんびりと河原で過ごしていた。エリオ、キャロ、ルーテシアの三人は別の河原で釣りやら何やらするということで別行動の最中である。

 

「アリシアはメガーヌさんが面倒を見てくれてるし、久しぶりに二人でゆっくり出来るね……」

 

「ああ……最近は、俺も忙しかったからな……すまんな……」

 

「仕方ないよ。強襲制圧部隊は、今や次元世界全体で有名だからね……少し寂しいのは、事実だけど……」

 

フェイトが寂しそうに言うと、そんなフェイトの頭を冬也が撫でた。

 

「近いうちに、部隊が再編されて、新たな隊長格が決められる……そうすれば、少しは俺の手も空く筈だ……」

 

「無理はしないでね、冬也さん……アリシアだって、最近はパパの帰りを待ってることが増えたんだから」

 

「ああ、必ず帰るさ……今は、フェイトが居る場所が俺の帰る場所だからな……」

 

冬也はそう言うと、フェイトを両腕でゆっくりと抱き締めた。

そうして、三日目はゆっくりと過ごしていくが、お昼を少し過ぎた時

 

「えっと……これで、繋がったはず……っと……あーあー……聞こえますか?」

 

『おーう、聞こえてるぞ。ルールー! 久しぶりだな』

 

「やっほ、アギト」

 

ルーテシアが開いた通信画面の向こう側には、ルーテシアの親友の融合騎たるアギトの姿があった。

 

『マイスターに用だろ? 少し待ってな』

 

アギトはそう言うと、通信画面から姿を消した。

それを見たルーテシアは、背後に居たアインハルトに

 

「ちょっと待っててね、今から紹介する人なら、古式ベルカ式のデバイスも開発出来るからね」

 

と言った。

その直後、通信画面にタヌキのお面が映って、アインハルトは固まった。その瞬間、タヌキのお面を被っていた人物。はやては、後頭部を叩かれた。

 

『痛いわぁ、当麻君……なにすんの?』

 

『いきなりボケるからだろうがっ! 見ろ、あの子固まってるじゃねぇか! 早く外す!』

 

『もう、お笑いを分かってないんやから……』

 

当麻に怒られたはやては、ぶつぶつと文句を言いながらお面を外して

 

『やっは、ルールー。元気そうやね』

 

とルーテシアに挨拶した。

 

「お久しぶりです、八神司令。お子さんは、元気ですか?」

 

『元気やよー。今は……あー、寝てるなあ……起きてたら、見せてたんやけど』

 

ルーテシアが問い掛けると、はやては横を見てからそう言った。どうやら、子供は寝ているようだ。

 

「それは、また次回に」

 

(この方が、時空管理局海上警備隊隊長……八神はやて司令……)

 

アインハルトがはやてを見ていると、はやてが

 

『その子やね? 話は聞いてるよ。アインハルト・ストラトス……ちょっとヤンチャしてたけど、今は格闘技に一生懸命……そういう子なら、喜んで協力するよ』

 

と笑みを浮かべた。

 

『それで、何か要望はあるか?』

 

「それなんですが、この子のようなデバイスがいいです。純粋に、自分自身の格闘技で戦いたいので」

 

はやての問い掛けに、アインハルトはヴィヴィオから借りたクリスを掲げた。

 

『なるほど、補助型ですね』

 

『となると……スバルみたいなタイプはアカンってことやね』

 

『スバルさんの、めっちゃ重いからなぁ……』

 

何やら思い出したらしく、はやて、リイン、アギトの三人は遠い目をしている。

スバルのマッハキャリバーだが、見た目とは裏腹にかなりの重量を誇っており、スバルは軽々と振り回しているが、はやてが持とうとしたら、全然上がらなかったのだ。

 

『まあ、とりあえず……クリスの組み上げ時のデータをベースに、組み上げてみようか? 何か、デザインに希望は?』

 

「あ、お任せします」

 

素人が口出しすべきではないと思い、アインハルトははやて達に任せることにした。



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帰宅

合宿の日程は全て終了。四日目、荷物を纏めた一同は

 

『お世話になりました!』

 

とホテル・アルピーノを去ることになった。

 

「はーい♪」

 

「また来てね~」

 

朗らかに笑うアルピーノ親子に見送られて、一同は帰路に着いた。流石に疲れたのか、子供達は次元航行船内では眠っていた。

そして、ミッドの次元港に到着すると

 

「はあ、楽しかったぁ!」

 

「本当だねぇ」

 

「おーい、自分の荷物取れぇ」

 

楽しそうに会話するリオとコロナに、雑多に荷物が載ったカートを押しながら来たノーヴェがそう言ってきた。

それを聞いた子供達一同は、自身の荷物を回収。それを見たのか、フェイト、冬也が

 

「はーい、子供達は送るから車に乗って」

 

「ディエチ。剣士郎を頼むぞ」

 

と告げた。剣士郎は一人、違う方向に住んでいるので、どうしても送るのに一手間掛かるのだ。

 

「分かりました」

 

三々五々散っていく中、剣士郎はディエチと一緒に荷物を持って立っていた。

少しすると、ディエチが

 

「剣士郎君、そろそろ出発しようか」

 

と剣士郎に声を掛けた。だが剣士郎は、腕時計を見ながら

 

「あ、いえ。今日は、知り合いが迎えに来てくれる手筈になっているんです」

 

と答えた。

 

「知り合い?」

 

「はい。そろそろ来る筈なんですが……」

 

剣士郎がそう言って、腕を下ろした時

 

「おーい、緋村ー!」

 

と剣士郎を呼ぶ声が聞こえた。二人が振り向くと、こちらに駆け寄ってくる人物が居る。短く切り揃えた黒い髪に、なのはやはやてと同じ日本人特有の顔立ち。そして、改造してあるらしい動き易さ重視の和服を着た若い女性だ。

 

「こちらです、四乃森(しのもり)さん」

 

剣士郎が手を挙げると、四乃森と呼ばれた女性は軽い足取りで剣士郎達に歩み寄り

 

「いやぁ、ごめんねー。遅くなった」

 

と謝ってきた。

 

「いえいえ、時間通りです」

 

「えっと……」

 

現れた女性にディエチが困惑していると、剣士郎が気づいて

 

「ああ、すいません。この人は……」

 

と紹介しようとした。だが

 

「初めまして、私の名前は四乃森紫埜(しのもりしの)。一応、緋村の保護責任者ってことになってます」

 

と先に、自己紹介した。

 

「剣士郎君の……すいません、私の名前はディエチ・ナカジマです。今回は、急にすいません」

 

「いやいや。緋村、友人が居なかったから、心配してたんだ」

 

ディエチが頭を下げると、紫埜は快活な笑顔を浮かべながら剣士郎の頭に手を置いた。確かに、ディエチが知る限り、剣士郎に友人が居るという話は聞いていない。

そこを心配していたようだ。

 

「しっかし、緋村……あんたも隅に置けないねぇ? こんな美人さんと、何時知り合ったんだい?」

 

「まあ、やむにやまれぬ事情というものがありまして……」

 

紫埜が剣士郎にヘッドロックを掛けながら問い掛けると、剣士郎は当たり障りの無い形でそう答えた。

 

「ほー……?」

 

「その嫌な笑みはなんですか?」

 

「いぃやぁ? べつにー?」

 

剣士郎がジト目を向けるが、紫埜は飄々と笑って誤魔化した。そして、ディエチに近付いて

 

「今後も、緋村をよろしくね。こいつ、自分から近づこうとしない癖に人恋しいって奴だから」

 

とイヤらしい笑みを浮かべながら、ディエチに言った。

 

「は、はぁ……」

 

「あぁ、それと……機会があったら、旅館葵屋をご贔屓に。私か緋村の名前を出してくれれば、割引になるように手配しとくから」

 

「あ、葵屋!? あの高級老舗旅館の!?」

 

紫埜が告げた名前を聞いて、ディエチは驚愕した。

旅館葵屋、ミッド郊外にある高級老舗の旅館兼料理屋だ。以前に家族で行きたいね、という話をしていたが、全員の予定が中々合わないのと、やはり高級なので一回も行けていない場所だ。

 

「そうそう。時々、緋村にも板前やってもらったり、お皿を焼いてもらったりしてるんだ」

 

「え、剣士郎君。陶芸もやってるの?」

 

紫埜の話に、ディエチは驚きの視線を剣士郎に向けた。

 

「あ、はい……僕の収入源です。一応、比古清十郎の名前で一般にも卸してます」

 

「え、あの比古清十郎!?」

 

比古清十郎の名前なら、ディエチも知っている。ディエチが買い物に行くあるデパートには、陶器を専門に扱う店があるのだが、そこで時々、10万を超す陶器が売りに出されることがあった。その作者の名前が、比古清十郎だった。

 

「意外と身近に、有名人が居た……」

 

なのはやフェイト、冬也達も有名人だが、それとはまた違うベクトルの有名人の正体に、ディエチは驚きを禁じ得なかった。

 

「さてと、そろそろ帰るよ。緋村」

 

「はい。では、ディエチさん。また」

 

「う、うん……」

 

去っていく二人を見送るとディエチは

 

「……葵屋かぁ……」

 

と呟いたのだった。



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閑話 クリスマス

間に合わなかった、ごめんなさい


クリスマス。それは、地球のある聖人を奉る日がお祭りとなった日であり、地球の文化が多数入ってきているミッドでも、イベントと化している。

街路樹は様々なイルミネーションが施され、その街中をカップル達が練り歩く。その中を、一人の女性が歩いていた。

流れる金髪に、黒を基調とした服、掛け値なしの美女。フェイトだ。

フェイトの足取りは軽く、その表情からも今を楽しんでいることが伺える。

 

(久し振りに、休暇が取れたし……それに、冬也に出会える♪)

 

時空管理局執務官のフェイトは、執務官として非常に多忙である。それは、執務官の人数が少ないのも起因しているが、今は割愛する。

そんなフェイトは、実に2ヶ月振りに休暇が取れ、しかも旦那たる冬也も同じく2ヶ月振りに休暇が取れて、今日会うことになっている。

それが嬉しいから、御機嫌に歩いているのだ。

娘のアリシアは、今日は親友のなのはに預けており、心配することは無い。

 

(えっと、この先の公園で待ち合わせ……あ)

 

曲がり角を曲がった先の一つの少し大きめの公園、そこに、冬也は居た。フェイトと同じく黒を基調とした服を着ており、最近よく掛けるようになったメガネを掛けてベンチに腰掛けながら、本を読んでいた。

それが凄く様になっていて、フェイトは思わず見惚れて固まった。しかし、すぐに気を持ち直すと一歩足を踏み出した。すると冬也も気づいたらしく、本に栞を挟んでからメガネを外して懐にしまい、立ち上がって

 

「フェイト」

 

と手を振ってきた。

 

「冬也」

 

「行こうか」

 

「うんっ」

 

冬也が手を差し出すと、フェイトはその手を握った。クリスマスという日は、まだ始まったばかりだ。休日を楽しもう。フェイトはそう思った。

二人は歩き始めると、まずはあるショッピングモールに向かった。

 

「冬也、新しく服を買おうか」

 

「ふむ……そうだな、そうしよう」

 

フェイトの言葉を聞いた冬也は、少し悩んだ後に肯定するように頷いた。そして、ある服屋に入ると、二人は数着身繕い、試着。その中から、互いに似合うのを見付けると、それを購入した。

その後、近くのレストランに入ると、少し遅めの朝食を採ることにした。

雰囲気が地球の翆屋に少し似ていて、フェイトとしては少し懐かしいように思えた。

 

(最後に行ったのは……六課の出張の時か……また行きたいな)

 

もう約一年以上行っていないなのはの実家が営む、喫茶翆屋。近い内に行こうとフェイトは決めた。

朝食を終えた後、二人はまた街を歩き始めた。そこからは少し目的もなく歩き、ペットショップ、インテリアショップと巡って行った。近い内にペットを飼いたいという風に話し合い、インテリアショップでは新しくアリシア用の椅子でもと寄ったのだ。

ペットは現在考えてる最中で、椅子の方は見つけたものを配送してもらうように手配した。

それが終わると、二人はまた街中に繰り出すが

 

「すまんが、フェイト。俺に着いてきてくれるか?」

 

と冬也が首を傾げた。フェイトからしたら断る理由が無かったので、二つ返事で了承。フェイトは冬也の後に着いていった。そうして向かった先は、バス停。それもミッドの郊外に向かうバスのものだ。

 

「冬也、どこに行くの?」

 

「なにな……偶然見つけた場所でな」

 

フェイトの問い掛けに、冬也はそうぼかして言うだけで、明確には言わなかった。そして、バスに乗ってから十数分後。

 

「ここだ」

 

「ここは……水族館?」

 

降りたすぐ先に見えたのは、真新しい水族館だった。

 

「ああ……スバルから教えられてな……約2ヶ月程前にオープンしたばかりらしい」

 

「なるほど」

 

スバルが知った理由だが、スバルの所属する特別救助隊は大きな施設が出来た場合は、そこの防災設備がちゃんとしているか、どういった防災設備なのかを把握するために視察するのだ。そして、その水族館を知ったスバルは、その水族館のことを冬也に教えていたのだ。たまには、二人で行ってくださいと。

さらに、スバルは少し前に偶然にもその水族館のペアチケットを入手したのだが、予定が合わないために冬也に譲っていた。その好意に甘えて、冬也はその水族館。

セレスミュージアムに来たのだ。

 

「わあ……綺麗……」

 

「そうだな」

 

水族館だから当たり前だが、大小様々なサイズの水槽に、何百という種類の海の生き物が、優雅に泳いでいる。その水槽の中を見て、フェイトは素直に感嘆の言葉を漏らし、冬也は同意していた。

その時、スピーカーから

 

『只今より、外の第三水槽により、イルカ、オットセイ、シャチのショーを行います! 御覧になる御客様は、是非ご来場くださいませ』

 

と聞こえてきた。それを聞いた二人は、その水槽に向かった。すでにそこには、大多数の客が来ていて、ほぼ満席状態だったが、最上段の通路近くに二人で座れる場所が残っていたので、そこに着席した。

その直後、ショーが始まった。

 

「わあ……!」

 

「ほう」

 

ステージを滑って現れた二頭のオットセイに、水槽の中から現れた二頭のイルカと一頭のシャチ。そこに、ステージ下から現れるスタッフ。

 

『皆様、ようこそお越しくださいました! 只今より、当水族館の愉快な仲間達によるショーを披露します! 最後まで、ごゆっくりと御覧くださいませ!』

 

スタッフがそう言って頭を下げると、五頭も揃って頭を下げた。そこから、見事なショーが始まった。二頭のオットセイによる、キャッチボール。空中に次々と出される魔力の輪を、次々とくぐる二頭のイルカ。

シャチによるリフティングとスタッフと連携しての水上ショー。

それらを次々とこなしていく。

 

「イルカとシャチは頭が良いって聞くけど、オットセイもなんだね」

 

「そのようだな。きちんとスタッフの合図に従って動いている」

 

二人は五頭の頭の良さに驚きつつ、ショーを最後まで見た。その後、ふれあいスペースで亀を触ったりしながら、ゆっくりと過ごした。

そして夕方、セレスミュージアムから出てバスに乗り、帰路に付いた。そうして自宅の前で待っていたなのはから寝ていたアリシアを受け取り、家に入った。

そして、アリシアをベッドに寝かせると

 

「フェイト」

 

「なに?」

 

呼ばれたフェイトが振り向くと、冬也はフェイトの手を持ち上げて

 

「メリークリスマス」

 

と言いながら、一つの小さな箱をその手の上に置いた。

 

「これって……」

 

「クリスマスプレゼントだ……あまり、会えなかったからな」

 

フェイトが驚いている中、冬也はその箱の蓋を開けた。中には、ふたつのペンダントがある。片方は蒼く、もう片方は朱い。

 

「なんでも、ふたつで一つのペンダントらしくてな……フェイト、後ろを向け」

 

「う、うん」

 

フェイトが背中を向けると、冬也は朱いペンダントを首に掛けた。

 

「フェイトの眼が、綺麗な赤だからな……似合うと思って買った……」

 

「ありがとう、冬也……」

 

冬也の言葉に、フェイトは眼を潤ませながら感謝の言葉を述べた。そして入れ替わる形で、今度は冬也の首に蒼いペンダントをフェイトが着けた。

 

「蒼は、冬也が好きな色だよね。黒と並んで」

 

「ああ……落ち着く色だ……」

 

フェイトの言葉に、冬也は同意するように頷いた。

 

「改めて、今日はありがとうね、冬也」

 

「ああ……」

 

フェイトは幸せそうな表情をしながら冬也に抱き付き、冬也もフェイトを抱き締めた。

こうして、クリスマスは過ぎていった。



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DSAAへの道

DSAAリーグマッチ。簡単に言えば、全次元世界で行われる格闘大会である。格闘世界と地域で予選が行われ、それを勝ち抜けた選手がミッドチルダ都市本戦に出場し、優勝を目指すのだ。

これに優勝すれば、間違いなく10代最強ということになる。

そして今年、ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人は出場条件をクリアしたので、参加することを決意。更に、アインハルト、剣士郎も参加することとなり、ノーヴェを代表としたチームナカジマとして参加することを決めた。

 

「チーム名に関しちゃ、よく考えろって言ったんだがなぁ」

 

「ふふ、ノーヴェが教えてるんだがら、いいんじゃない?」

 

ナカジマ家居間にて、ノーヴェがパソコンを使ってトレーニングメニューやらを決めていると、お茶を淹れたディエチがノーヴェの近くにお茶を置いた。

 

「そうは言うけどよぉ……気恥ずかしいんだよなぁ」

 

「まあまあ。それで、メニューは決まった?」

 

ディエチが問い掛けると、ノーヴェは幾つかのウインドウを開いて

 

「まあ、なんとかな……あいつらは、まだ幼い……幼い内に無理をさせたら、確実に体を壊しちまう……見極めが大事だ」

 

と目元を揉んだ。それを聞いたディエチは、微笑んで

 

「そうだね……確かに、それは大事だよ」

 

と、ノーヴェの頭を撫でた。そして、頷きながら

 

「それじゃあ、私も色々と手伝おうかな。お菓子の差し入れとかね」

 

と言った。その直後、ウェンディが現れて

 

「あたしも手伝うっす!」

 

と手を上げた。だが

 

「ウェンディはいい、邪魔」

 

「なんでっすかー!?」

 

「はいはい、ノーヴェもそう言わないの」

 

一気に騒がしくなった二人を見ながら、ディエチは微笑んだ。その頃、ミッド郊外の南西部海岸線

 

「む、少し早く来過ぎたか」

 

「遅くなるより、いいんじゃないかしら?」

 

たまたま休暇だったギンガ運転の車で、チンクとアインハルトは八神家に来ていた。その理由は、アインハルトのデバイスが出来たから、取りに来てほしいということだった。

 

「む、あそこに有るのは……移動式のドーナツ屋か」

 

「あら、いいわね。買いましょうか」

 

そんな中、チンクがトラックを改造したドーナツ屋を見つけて、ギンガも甘いのが好きなので買うことにしたが、それを尻目にアインハルトは砂浜に近づいた。

そこには、一人の少女が居た。全体的に小柄で、年齢はヴィヴィオと同い年だろうか。中性的な見た目なので、下手したら少年に間違われるかもしれないが、アインハルトはその骨格から少女だと分かった。

その少女は、砂浜に立てられているターゲットに拳を突き込んでいる。

 

(あのスタイルは……我流でしょうか? 近代格闘をベースにしてはいるようですが)

 

アインハルトがそう思っていると、その少女はターゲットから少し距離を取った。

 

(あの距離……遠距離攻撃でしょうか?)

 

とアインハルトが疑問に思った、その直後、一瞬にしてその少女はターゲットと間合いを詰めて、蹴りでターゲットを破壊した。

その威力に、アインハルトはゾッとした。

 

「あああぁぁぁぁ!? やっちゃったぁ!? 折角ヴィータ師匠とザフィーラ師匠が建ててくれたのに!?」

 

その少女、ミウラ・リナルディは自分が壊したターゲットを拾うと

 

「うぅ……上手くいかないなぁ……」

 

と悩み始めた。そこに、ドーナツが大量に入った袋を片手にギンガとチンクが現れて

 

「どうしたの、アインハルトちゃん」

 

「む、ミウラではないか。声を掛けるか?」

 

とアインハルトに問い掛けてきた。しかしアインハルトは

 

「いえ、やめておきます。どうやら、鍛練中のようですから」

 

と首を振った。そしてアインハルトは、ギンガとチンクの先導で、八神家に入った。

これが、アインハルトの相棒となるデバイスとの出会いとなる。



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新たなデバイスと黒の少女

突然転勤することになりまして、新たな場所では携帯の使用制限がありまして、遅れました


「はーい、いらっしゃい!」

 

「いらっしゃーい!」

 

「いらっしゃいですぅ!」

 

到着したアインハルト達を、はやて、リィン、アギトの三人は朗らかに出迎えた。机を挟んで、対面にアインハルト達は座り

 

「しかし、予想より早く完成しましたね」

 

「まあ、DSAAに出るんやろ? 少しでも慣れた方がええと思ったからなのと、久しぶりに古代ベルカ式のデバイスを組んだから、楽しくなってなあ。ついつい」

 

チンクの問い掛けに、はやては朗らかに笑いながら答えた。すると、リィンとアギトが

 

「楽しかったですぅ」

 

「だな」

 

とはやての言葉に、同意した。よほど楽しかったらしい。

 

「それで、出来たのがこの中や」

 

はやてはそう言って、ひとつの箱をアインハルトに手渡した。

 

「あ、開けても?」

 

「ええよ」

 

初めて本格的なデバイスを持つからか、アインハルトは緊張しながら箱をゆっくりと開けた。そして箱の中にあった、いや、居たのは、一匹の猫だった。

 

…………猫?

 

そんな言葉が、はやて達の脳内に聞こえた。

 

「ええぇ!? なんだ、今の!? 皆の心の声!?」

 

「も、もしかしてダメでしたか?」

 

アギトは驚き、リィンは不安そうにアインハルトに問い掛けた。すると、チンクが

 

「ああ、いえ。動物型とは思っていなかったので」

 

と少し慌てた様子で、はやて達に答えた。それを聞いて、はやてが

 

「その見た目にしたんわな、覇王のことを調べたからなんよ? 覇王の居たシュトゥラには、大型の猫科の動物。雪豹が居ったんやろ?」

 

とアインハルトに問い掛けた。

 

「はい……確かに、シュトゥラには多数の雪豹が居ました……鍛えて使役すれば、優秀な兵士にもなりました」

 

と答えていると、中で寝ていた猫型デバイスが目覚めて、伸びをしてからアインハルトを見た。箱の重心が変わったことでアインハルトも気付き、視線が会うと

 

「にゃあ」

 

と可愛く鳴いた。

 

「まだその子には、名前が無いから。アインハルトが決めてあげてな」

 

「あ、はい」

 

「それじゃあ、庭に行って展開ですぅ!」

 

「そこから、微調整するぞ!」

 

リィンとアギトの言葉に促されて、アインハルトはリィン達の先導で庭に向かった。そんな中、ギンガがはやてに

 

「そういえば、当麻さんはどうしたんですか? 今日は、お店はお休みですよね?」

 

とはやてに問い掛けた。するとはやては、ニッコリと笑みを浮かべて

 

「当麻君なら、今はミウラ達にお菓子の差し入れをしに行ってるんやないかなぁ?」

 

と告げた。

その頃、八神家から少し離れたある公園の一角にて

 

「ふっ! しっ!」

 

黒を基調としたジャージを着た人物が、一人で軽く走りながらシャドーをしていた。そこに

 

「おーい、ジーク! 差し入れ持ってきたぞー!」

 

と当麻が、バスケットを掲げながらその人物に声を掛けた。その直後

 

「ほんま!? って、あわわわわ!?」

 

ジークと呼ばれた人物は、派手に転んだ。

それを見た当麻は、深々とため息を吐いて

 

「やれやれ……本当に、ジークがDSAAの優勝者なのか、疑問に思えてきた……」

 

と言いながら、ジークに歩み寄った。そうして、ようやく起き上がったジークに

 

「ほれ、顔を洗ってこい」

 

と頭に、タオルを置いた。

 

「はーい」

 

タオルを受け取ったジークは、近くの手洗い場たる水道の方に駆けていった。

 

ジークリンデ・エレミア

流派 エレミアクランツ

最高成績 DSAA都市本戦優勝

前回、試合会場に現れず、不戦敗

 

そしてアインハルトは、新しいデバイス。アスティオンことティオをはやてから貰ったのだった。



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忠告

アインハルトがデバイスを貰った、翌日の早朝。

 

「つーわけで、アインハルトとデバイス。アスティオンの相性は抜群らしい。まるで、長年連れ添った相棒みたいにな」

 

「へー。それは凄いねぇ」

 

ノーヴェとヴィヴィオは、ある場所に向かいながら会話していた。その会話内容は、アインハルトが貰ったデバイスに関してだ。そして二人は、その目的地たるベルカ自治区の聖王教会に到着し

 

「それじゃあ、アタシはセイン探して話してくるな」

 

「うん、わかったー」

 

と入り口付近で別れた。ノーヴェは中庭の方に向かい、ヴィヴィオは通路に沿って本館に向かった。その時

 

「お、陛下ー。イクスのお見舞いかい?」

 

と一人のシスターが呼び掛けてきた。

 

「あ、シャンテ! そうだよ!」

 

そのシスターの名前は、シャンテ・アピニオン。まだ若いが、正式なシスター兼騎士だ。

 

「そかそか、イクスも喜ぶよ」

 

ヴィヴィオの言葉に、シャンテは朗らかに笑った。すると、ヴィヴィオが

 

「そういえば、ノーヴェに聞いたんだけど。シャンテもDSAAに出るんだって?」

 

と問い掛けた。

 

「そうだよー? ただまあ、シスター・シャッハに無断で出場したから、めっちゃ怒られたけどね……」

 

実はシャンテは、シスター・シャッハからまだ出場させる訳にはいかないと言われていたが、我慢が出来ず参加申請書をセインに頼んで出させたのだ。そのことに関して、シャンテだけでなくセインも、シスター・シャッハに一緒に怒られている。

 

「無断だからだよー」

 

「いや、ごもっとも」

 

ヴィヴィオの苦言に、シャンテは苦笑いを浮かべるしかできなかった。その時二人は、少し広い庭に出た。すると、ヴィヴィオが

 

「そういえば、シャンテはどんな技を使うの?」

 

「いやいや。ライバルに簡単に見せる訳が……ってああ、この技なら大丈夫か」

 

一回断ろうとしたシャンテだったが、何かを思い出したようにポケットの中からデバイスの待機形態を取り出した。シャンテのデバイスは、シスター・シャッハと同じ双剣型のアームドデバイスである。

 

「あ、シャンテ。私もデバイスを展開するー!」

 

「ああ、ごめん。どうぞどうぞ」

 

シャンテが構えると、ヴィヴィオが思い出したように言って、それを聞いたシャンテは一旦構えを解いた。

 

「クリス、コンパクトモード! よし、大丈夫だよ!」

 

「え、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫! 見えないけど、変わってるから」

 

先ほどと変わっていなかったためにシャンテが思わず問い掛けると、ヴィヴィオは軽く答えながら構えた。

 

「そう? じゃあ、行くよっ!」

 

構えたシャンテは、一気に駆け出した。最初は真っ直ぐだったが、すぐに体を左右に不規則に動かして姿を消した。そして、ヴィヴィオの後ろに姿を現したのだが

 

「アクセル」

 

ヴィヴィオはなんと、即座に反応してシャンテが振り下ろした双剣の刃に拳を叩き込んだ。

 

「あ、危なっ!? 姿が見えなかった!?」

 

(なんて子だ! 見えなかったのに反応した上に、刃に拳を叩き込んできたよ!?)

 

ヴィヴィオとシャンテは、二人して驚きながらも更に拳と双剣を繰り出していく。二人の攻撃がぶつかる度に、激しい音が周囲に響き渡る。

 

(なるほど……陛下のデバイス……あのうさ吉が頑張ってるんだ……魔力のリソース配分が上手いんだね)

 

攻撃していく中で、シャンテはクリスの特性を見抜いた。そして、何度目か分からない激突後、二人は互いに距離を取った。すると、シャンテが

 

「陛下……今から技を繰り出すから、防御だけで」

 

「? いいけど……」

 

シャンテの提案に、ヴィヴィオは頷いた。するとシャンテは、双剣を交差させるように構えて

 

「双輪剣舞……」

 

と呟いた。その直後、ヴィヴィオは自分が切り裂かれる幻想を見て、一気に後ろに跳んだ。

 

「流石陛下……幻視(みえ)たんだ……」

 

「うん……防御毎斬られた……」

 

シャンテの言葉にヴィヴィオは、両手を軽く上げながら答えた。それを見てシャンテは、構えを解いて

 

「それじゃあ、ここらで終わりにしよう。下手に続けて、怪我したら大変だし」

 

「そうだね」

 

と二人が構えを解いて、デバイスを待機形態に戻した直後だった。シャンテの体を、バインドが拘束した。それも、亀甲縛りで。

 

「はいー!?」

 

「し、シャンテ!?」

 

「シャンテ……」

 

「私達護衛役に話を通さずに模擬戦とは……いい度胸です」

 

二人が驚いているところに現れたのは、オットーとディードの双子だった。

 

「二人とも、私が誘ったの!」

 

「それは何となく察していますが、問題点はそこではないんです」

 

「陛下はイクス樣のお見舞いに来られたのでしょう? それなのに、陛下自身がお怪我をされたらイクス樣が心配されますよ?」

 

「う、はい……」

 

オットーの正論に、ヴィヴィオは反論する余地なく頷くしかなかった。確かに、お見舞いに来たのに怪我をしていたのでは、心配させてしまうだろう。

 

「それに、模擬戦するのは構いませんが、私達のどちらかを控えさせてからやってほしいですね」

 

「ディード! 言ってることとやってることのギャップ!」

 

言ってること=模擬戦の肯定。やってること=シャンテの吊し上げ。確かに、ギャップが凄い。

 

「陛下、そろそろ行かないと、面会の時間が過ぎてしまいますよ」

 

「あ、それはダメだ……じゃあね、シャンテ」

 

「はーい、イクス樣によろしくねー」

 

吊るされたままヴィヴィオを見送るシャンテ、中々に図太いようだ。すると、木にロープを縛ったディードが

 

「シャンテ、どういうつもりですか?」

 

とシャンテに、鋭い視線を向けた。

 

「どうもこうも、忠告だよ。今のままじゃ、直ぐに負けるって……大会常連や上位に当たったら、直ぐに負けて……最悪、挫折しちゃう……陛下のそんな姿、私は見たくないよ」

 

シャンテは、既に遠くなっているヴィヴィオの背中を見ながら話し始めた。

 

「そもそも、陛下の魔力資質は前衛格闘型じゃない……せめて、中距離から遠距離の後方型……あのうさ吉も頑張ってるみたいだけど、まだロスがある……下手したら、相性が悪い可能性がある……」

 

とそこまで語った時、ディードがシャンテの額を小突き

 

「そんなこと、ノーヴェ姉さまを含めて、周囲の方々のほぼ全員が察しています。それでも、陛下の意志に委ねているんです……陛下のやりたいように挫けそうになったら、私達が支えてあげたり、背中を押してあげればいいんです」

 

と語った。それを聞いたシャンテは、少し間を置いてから

 

「あのさ……私は何時まで、吊るされてなきゃいけないのかな?」

 

「今こちらに、シスター・シャッハが向かってきています」

 

「そんなっ!?」

 

シャンテの明日はどっちだ。

 



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特訓開始

「おー! この子が、アインハルトさんのデバイスですか!」

 

「可愛い!」

 

「はい、アスティオンと言います」

 

数日後、集まった一同はアインハルトのデバイス。アスティオンに熱中していた。雪豹型だが、見た目からは猫にしか見えないのだから、仕方ないだろうが。

 

「おーい! 大会から、予選の日程が来たぞ!」

 

「え、本当!?」

 

「うん、これだよ」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、ノーヴェと一緒に来ていたディエチが大会委員会と書かれた封筒を開き、中から便箋を取り出した。

 

「予選は、今から約二週間後だね」

 

「それを踏まえて、今のお前達が行けるところだが……初等科三人は、いけて地区戦だ……」

 

「うぅ……」

 

「アインハルトと剣士郎は、地区戦本選ってところだ」

 

ノーヴェのその言葉に、アインハルトと剣士郎は目を細めた。ノーヴェは今まで何回もDSAAを見てきたために、大会出場選手の平均的実力を知っている。それと比較して、嘘偽りなく告げたのだ。

 

「だから、これから弱点を克服する練習をする……まず、お前ら。これを着けろ」

 

ノーヴェがそう言って差し出した箱には、リストバンドが入っていた。

 

「何処に着けてもいいの?」

 

「ああ。利き手じゃなくてもいいぞ」

 

ヴィヴィオの問い掛けに、ノーヴェがそう答えると、一同はそのリストバンドをそれぞれ手首に装着した。最初は不思議そうに首を傾げていたが、着けてから数秒後、一気にズシリと来た。

 

「な、なにこれ!?」

 

「お、重い……っ!?」

 

「これは……なるほど、魔力負荷ですかっ」

 

「お、剣士郎。大当り」

 

剣士郎の呟きを聞いて、ノーヴェは指を鳴らした。

 

「そのリストバンドはな、マリエルさんが開発してくれた特別製でな。かなりの魔力負荷が掛かるようになっている。お前らは、まだ子供だからな……筋力的負荷は、体を壊す可能性が高すぎる。せめて、第二次成長期を越えるまでは、筋力的負荷はなるべく避ける方針で行く」

 

ノーヴェがそこまで説明すると、どうやら慣れてきたのか、一同は立ち上がり始めた。それを確認してから

 

「んでだ、特別講師を用意した」

 

「リオお嬢様の特訓相手をすることになりました、ディードです」

 

「同じく、コロナお嬢様の特訓相手となりました、オットーです」

 

それまで少し離れた位置に居たオットーとディードの双子が、近寄ってきて挨拶してきた。

 

「でアインハルトなんだが、今日は相手の都合が悪くてな……だから、剣士郎と特訓してくれ。剣士郎もだ」

 

「分かりました」

 

「心得ました」

 

二人が頷いたのを確認すると、ノーヴェは

 

「そんじゃあ、特訓開始だ!」

 

と宣言した。なお、ヴィヴィオの相手はノーヴェだ。そしてアインハルトと剣士郎の特訓には、ディエチが監視役として就くことになった。

 

「コロナお嬢様には、ゴーレム創主としての欠点……創造潰し対策を学んで頂きます」

 

「お願いします!」

 

「リオお嬢様の春光拳は、武器も使うと聞きます。では逆に、武器への対処を身に付けて頂きます」

 

「わっかりました!」

 

双子はそれぞれ、コロナとリオの二人と訓練を開始。そして、剣士郎とアインハルトはディエチ監視の下で訓練を開始することにした。

 

「アインハルトは、刃物相手に慣れるため。剣士郎は、拳相手に慣れるための訓練だよ」

 

「分かりました」

 

「承知しました」

 

「ヴィヴィオは、あたしとスパーリングだ。お前の利点の目を徹底的に鍛えるぞ!」

 

「オス!!」

 

ノーヴェの言葉に、ヴィヴィオは気合いの声を挙げながら構えた。こうして、チームナカジマの訓練は始まった。



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特訓風景

大会に向けて、特訓を始めた日の夕方。

 

「た、ただいまぁ……」

 

「おかえりー……だいぶお疲れみたいだね?」

 

特訓で疲れたヴィヴィオを、料理中だったのかエプロンを着けたままのなのはが出迎えた。ヴィヴィオは靴を脱ぎながら

 

「大会に向けて、特訓を始めたからねぇ……ふぇぇ、疲れたぁ……」

 

と言って、一度座った。それを見たなのはが

 

「だったら、先にお風呂に入ったら? その間に、料理を仕上げちゃうから」

 

と提案し、ヴィヴィオもそれを了承。ノタノタと歩きながら、お風呂に向かった。そして脱いでいると

 

「あ、着替え……」

 

と着替えを持ってくるのを忘れたことに気付いた。だが、クリスがジェスチャーで

 

「ん? 持ってきてくれるの? ありがとう、クリス」

 

クリスが持ってきてくれるということで、ヴィヴィオはそのままお風呂に入った。それを見たクリスは、ヴィヴィオが脱いだジャージと下着を洗濯機に入れてから、部屋に着替えを取りに行った。その間に反芻するのは、今日の特訓。それを繰り返し見ながら、どうすべきか考えていた。

その時、お風呂の中では

 

「ふあぁぁぁ……疲れたねぇ……」

 

『本当にねぇ……』

 

『でも、弱点克服や自分の利点強化は大事だよ』

 

ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人が音声通信していた。正確に言えば、更にアインハルトも参加している。

 

「アインハルトさんは、剣士郎さんと模擬戦してたと聞きましたが……」

 

『はい……彼は凄まじい剣士でした……何故、今まで気づかなかったのか、と自問したい位に』

 

『アインハルトさんがそう言うってことは、相当なんですね?』

 

『はい……こちらの攻撃は、悉く先読みされて防がれるか避けられました……それだけでなく、あの抜刀術……全てが、二段構え……避けたり防いだりしても、第二撃が即座に放たれている……対処が難しいですね』

 

「アインハルトさんがそんなに言うなんて……剣士郎さん、そんなに強いんだ……」

 

アインハルトの話を聞いて、ヴィヴィオは少し驚いた。ヴィヴィオからしたら、アインハルトはかなり強い格闘家だ。そのアインハルトですら、剣士郎の腕を賞賛している。

 

『抜刀術ならば、私が知る限り最も強い方かと』

 

「はへー……」

 

そうこう話ながらも、ヴィヴィオは体を洗い終わり入浴を終えた。そして、夕食を食べていると、なのはが

 

「特訓、頑張ってるみたいだね?」

 

と問い掛けてきた。

 

「うん。今のままじゃ、直ぐに負ける可能性が高いって言われてね。だから、少しでも勝率を上げるために」

 

「そっか……うん、頑張ってね。なのはママも、出来る限りの手伝いするから」

 

「ありがとう、なのはママ」

 

そうして、夕食後。ヴィヴィオは疲れからか早々に寝てしまったが、クリスは居間の掃除をしているなのはに近付いた。

 

「ん、どうしたの?」

 

クリスに気付いたなのはが問い掛けると、クリスはジェスチャーで会話を始めた。

 

「え? 教導隊での特訓風景の映像? 有るけど、どうするの? ……ふんふん……それを見て、ヴィヴィオの特訓に活かしたいと……うん、わかった。そういうことなら、見せてあげるね。レイジングハート!」

 

《はい。見繕って見せますね》

 

「うん、お願いねー」

 

そうして、使い手(ヴィヴィオ)愛機(クリス)の双方で大会に向けて特訓を開始。一方その頃

 

「剣士郎から特訓の申し出なんて、珍しいね」

 

「最近は、中々猛者と出会えませんからね……たまにはと」

 

剣士郎は紫埜と相対しており、その紫埜は両手に小太刀を持っている。小太刀二刀流。それは、紫乃森家に代々伝わる剣技である。

 

「それじゃあ……往くよ」

 

「はい……いざ!」

 

『参る!!』

 

その掛け声と同時に、二人は凄まじい速度で駆け出した。



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出場者達

新暦79年度、第27回インターミドルチャンピオンシップ。参加申請締め切り日から、数日後。ベルカ自治区外れ。

ダールグリュン邸。そこには、古代ベルカからその血を(ほんの僅かに)引く一家。ダールグリュン家が住んでおり、その一室で一人の少女。DSAAに於いて雷帝の二つ名を与えられた少女、ヴィクトーリア・ダールグリュン。愛称ヴィクターが一人で特訓していた。

そこに、専属の執事、エドガーが入室し

 

「お嬢様。大会委員会から、大会の出場枠通知が参りましたよ」

 

と伝えた。しかしヴィクターは、特訓を続行しながら

 

「開けてちょうだい」

 

と告げた。

 

「そう仰ると思って、既に開封を。お嬢様は地区予選6組。エリートシード第1枠ですよ」

 

「そう……ジークは出てる? それから、あの不良娘は何組?」

 

問い掛けながらヴィクターは、ようやく特訓を終えたらしく器具から離れた。それを見たエドガーは、持っていたタオルと飲料水の入ったボトルを手渡し

 

「ジークリンデ様は、去年途中欠場されていますからね。エクストラシードは無くなっていますが、それでも予選1組の第1枠です」

 

と説明した。それを聞いたヴィクターは、安堵した表情で

 

「そう。今年もちゃんと出るならいいのよ。あの子はあの子で、色々心配だったから」

 

と告げた。そこまで聞いたエドガーは、ヴィクターに見えやすいように、トーナメント表を掲げながら

 

「ハリー選手は、予選5組第1枠ですね」

 

とヴィクターが言った不良娘の位置を、指差した。

 

「よぉし! ちゃんと出てるのね! あのポンコツ不良娘との決着は、都市本戦でつけるわよ!」

 

エドガーの指先を見たヴィクターは、お嬢様らしからぬ声を挙げてから意気込んだ。それを聞いたエドガーは、ニコニコと笑みを浮かべながら

 

「勝ち抜いていかないといけませんねぇー」

 

と軽く受け流した。

 

ヴィクトーリア・ダールグリュン(17)

スタイル 雷帝式

希少技能 神雷

魔法 古代ベルカ・ダールグリュン式

DSAA参加履歴5回

最高戦績 都市本戦準決勝(3位入賞)

 

ミッド市街、ハリー・トライベッカ宅。

 

「リーダー、流石っす! 今年は第5組の第1枠っすよ!」

 

「凄くもねぇよ……それは、去年の順位で決まることだ」

 

後頭部で纏めた黒髪に小さなサングラスを着けた少女、ルカを背に乗せながら腕立て伏せをしている人物。砲撃番長(バスターヘッド)の異名を持つ、ハリー・トライベッカは、マスクを着けた金髪少女。リンダの言葉に、腕立て伏せをしながら首を振った。そしてリンダは、改めてトーナメント表を見て

 

「あ、あのお嬢様は第6組の第1枠っすね」

 

「あ、バカ!?」

 

リンダの呟きを聞いた高い身長に、長い黒髪が特徴の少女、ミアがまるで失言を諌めるように声を漏らした。ハリーだが、喜怒哀楽が出やすい性格であり、些細な切っ掛けで泣いたりする。そして昨年のDSAAでハリーは、ヴィクターと当たり負けている。ミアはリンダの言葉でハリーが泣くと思ったのだ。

しかしハリーは、泣かずに

 

「……今年こそは勝つ……あんなズルズルの泥沼の末の敗北じゃなく、きっちりとな!」

 

と気合いの声を挙げながら、腕立て伏せを続行。それを見た三人は、顔を見合わせて

 

「やっぱ、リーダーはカッコいいわ」

 

「ホントホント」

 

「だよな」

 

と納得した様子で、頷いていた。

 

ハリー・トライベッカ(15)

市立学校高等科二年生

スタイル 我流魔導戦

スキル 近接射砲撃戦

魔法 ミッド式

参加履歴 3回

最高戦績 都市本戦5位入賞

 

ミッド市街地、公園の一角

 

「あ、居た居た」

 

「ん? ディエチ?」

 

ノーヴェ、オットー、ディードの三人が何やら会話していると、そこに籠を持ったディエチが現れた。

 

「どうしたんだ?」

 

「差し入れと……これを持ってきたの。早く見たいだろうからね」

 

ノーヴェが問い掛けると、ディエチは籠を掲げた後に懐から一通の便箋を取り出した。大きく、DSAA運営委員会と書かれてある。それを見たノーヴェは、溜め息混じりで

 

「んな、急がなくてもよかったのに」

 

と言って、ディエチから受け取った便箋を開けて、中からトーナメント表を見た。

 

『…………え』

 

トーナメント表を見た四人は、揃って驚いた。そこに

 

「ゴール!」

 

「リオ、ズルい!」

 

とヴィヴィオ達が、走ってきた。

 

「……元気だね」

 

「疲労抜きのスロージョグだって言ったのに……」

 

走ってきたヴィヴィオ達を見て、ディエチは呆然と。ノーヴェは額に手を当てて、呆れていた。

 

「そんなわけで、特訓を続けてもう一ヶ月。いよいよ、地区予選の始まりだ」

 

「あの、緋村先輩は……」

 

剣士郎が居ないことを不思議に思ったらしく、コロナが手を挙げた。すると、ディエチが

 

「剣士郎君なら、今はミカヤさんの所だよ」

 

と説明した。その頃、ミッド南部、天瞳流抜刀術、第4道場。

そこで師範代を勤めるのが、ミカヤ・シェベルである。

 

「まさか……師範から聞いていたあの飛天御剣流の使い手と出会うとはな……」

 

ミカヤはそう言いながら、剣士郎を見た。

 

「天瞳流抜刀術の始まりは、古代ベルカの時に見た飛天御剣流だったと聞く……隙の無い二段構えの抜刀術……まさか、この目で見れる機会に恵まれるなんてな……人斬り抜刀斉とは、抜刀術を極めたが故に与えられた二つ名と聞いている……さあ、私にその腕前を見せてくれ」

 

 

「……飛天御剣流、緋村剣士郎……行きます」

 

同じ抜刀術の使い手同士が、今邂逅した。

 

ミカヤ・シェベル(18)

天瞳流抜刀術 師範代

スタイル 抜刀居合

魔法 近代ベルカ

参加履歴 7回

最高戦績 都市本戦3位入賞

 

高町・S・ヴィヴィオ(10)

スタイル ストライクアーツ

スキル カウンターヒッター

魔法 近代ベルカ&ミッドハイブリット

 

コロナ・ティミル(10)

スタイル ゴーレム創成

スキル ゴーレム操作

魔法ミッド式

 

リオ・ウェズリー(10)

スタイル 春光拳&ストライクアーツ

希少スキル 炎雷変換資質

魔法 近代ベルカ

 

ルーテシア・アルピーノ(14)

スタイル 純魔導戦

スキル 召喚・治癒

魔法 ミッド&ベルカハイブリット

 

アインハルト・ストラトス(12)

スタイル 覇王流

スキル 断空

魔法 真正古代ベル

 

緋村剣士郎(12)

スタイル 飛天御剣流

スキル 抜刀術

魔法 真正古代ベルカ

 



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開幕

特訓開始から、数日後。

 

「だけど、コーチっていうのも、なかなか大変だね。トレーニングメニュー作りに、食事や休息の指導までするんだ」

 

「まーなー」

 

お茶を注いだディエチは、膨大な資料を見ながらメニュー作りに励んでいるノーヴェの前にカップを置いた。

 

「なにせ子供だからな。体に負担を与えて壊したら元も子もねぇ。健全な成長を邪魔しねぇように、なおかつ技術と根性はつくように、だ」

 

「なるほどね……うん、じゃあ私も手伝うね。差し入れとか」

 

「ありがとうな」

 

ノーヴェは感謝しながら、ディエチが淹れたコーヒーを飲んだ。すると、ノーヴェの後ろに居たウェンディがノーヴェに抱き付き

 

「アタシも手伝うッス!」

 

と宣言した。だがノーヴェは、そんなウェンディの頭を押さえて

 

「お前はいい、邪魔になる」

 

とにべもない。

 

「酷いッス!?」

 

「ノーヴェ、大丈夫。私がちゃんと見張るから」

 

「アタシの扱いの改善を要求するッスー!」

 

『却下、普段を省みなさい』

 

「なんでぇぇぇぇぇ」

 

二人の言葉に、ウェンディは両手両膝を突いた。そこに

 

「ウェンディ、五月蝿い!!」

 

「ぎゃふん!?」

 

ギンガが投げたフライパンが直撃し、ウェンディは沈黙したのだった。

更に数日後、ミッド空港にて

 

「さあて、お久しぶりのミッドチルダ! 暴れますよー!!」

 

ルーテシアが大会に参加するために、ミッドに来ていた。その迎えに来たのは、ウェンディとセインの二人だ。

 

「でもその前に、お世話になってる人への挨拶回りね」

 

「さすがルーお嬢様。しっかりしてるッスね!」

 

「んじゃ、車に乗ってー」

 

ルーテシアはセインの言葉を聞いて、セインの車の後部に荷物を乗せた。そして、翌日。地区予選当日。

 

「うわぁ……凄い人数……これ、全員参加者なんだ……」

 

「うー! 緊張してきたぁ!!」

 

ヴィヴィオ達は、地区予選が行われるドームに来ていた。もう少ししたら、大会開幕の宣言が始まるだろう。

 

「迷子にならないようにねぇ?」

 

「選手は、あっちから並ぶだとよ」

 

ディエチとノーヴェがそう言うと、ヴィヴィオとリオが他の選手が集まってる場所を見た。そこに

 

「ノーヴェ」

 

「旦那」

 

ザフィーラが現れた。

 

「いよいよ、予選も始まりだな」

 

「ああ、ホントに」

 

「ザフィーラ、ひさしぶり!」

 

ザフィーラに気付き、ヴィヴィオはザフィーラに近付いた。

 

「ああ、ちょうどいい。ミウラをちゃんと紹介したことはなかったな……ミウラ!」

 

「あ、はい!」

 

ザフィーラに呼ばれ、近くの席で荷物を確認していたミウラが駆けてきて

 

「あ! ヴィヴィオさん、ですよね? はじめまして、ミウラ・リナルディです!」

 

「はじめまして! お噂はかねがね!」

 

「本当ですか? ありがとうございます! ずっとお会いしたかったんです! ヴィヴィオさん、わたしの兄弟子の当たる方ですから!」

 

「いえいえいえ、ミウラさんのほうが年上ですし! わたしは、ザフィーラに教えてもらってたのも、ほんのちょっとだけですから」

 

そこから、ミウラとヴィヴィオが楽しそうに会話を始めた。それを見ていたザフィーラとノーヴェは

 

「うちのも大概だが、ミウラもテンション高いねぇ」

 

「ミウラも大きな大会は初めてだからな。まあ、いざ試合が始まったら緊張でガチガチに固まるだろうから、こうやってほぐしておかないとな」

 

「あ、そういうタイプか」

 

とコーチの視点で会話していた。そしてノーヴェは、はしゃいでいるリオと歩いてきているコロナ、アインハルト、剣士郎を見てから

 

「うちのは、全体的にはしゃぎ過ぎでねぇ。まあ、楽しんでるのはなによりなんだけど」

 

と肩を竦めた。

 

「覇王の子は落ち着いてるじゃないか」

 

ザフィーラはそう言いながら、平然とした様子で歩いているアインハルトを見た。

 

「ああ、アレ?」

 

とノーヴェが視線を向けた時。

 

「おい、アインハルト」

 

「え。ぶっ!?」

 

なんと、アインハルトは柱にぶつかった。

 

「アインハルトさんっ!?」

 

コロナはまさかアインハルトが柱にぶつかると思っておらず、驚いていた。

 

「表に出ないだけで、緊張はしてるんだよ。強さとこの手の舞台慣れは、また別物なんだよなぁ」

 

「よくわかる」

 

まさに実演があったからか、ザフィーラは腕組みしながら頷いていた。そしてノーヴェは、アインハルトに手を伸ばしているコロナと剣士郎を見て

 

「うちで落ち着いてるのは、コロナと剣士郎の二人だな。この手の度胸は、あの二人だろうな」

 

と言った。その時、スピーカーで

 

『参加選手の方々は、中央に集まって並んでください』

 

と放送があった。それに従い、参加選手達は中央に整列。それを確認したからか、スタッフが

 

『それでは、昨年度都市本選ベスト10選手、エルス・タスミン選手に、激励の挨拶をお願いしたいと思います』

 

と言って、檀上に上がったエルスに、マイクを渡した。

 

『エルス・タスミンです。年に一度のインターミドル。皆さん、練習の成果を十分に出して、全力で試合に臨んでいきましょう。私も頑張ります! みんなも、全力で頑張りましょう! えいえい!』

 

『おーーーーーー!!』

 

最後の掛け声に合わせて、選手達も気合いの声を上げながら拳を突き上げた。

こうして、大会は開幕した。



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予選

大会が始まり、数十分が経過。その間ヴィヴィオは、ミウラと談笑していた。そんな時、放送で

 

『ゼッケン367と554の選手は、Cリングに向かってください。続いて、1066と1084の選手はEリングに向かってください』

 

と促された。それを聞いて、ミウラが

 

「よ、呼ばれちゃいました! き、緊張してきました!!」

 

とガチガチになった。そんなミウラを見ながら、ヴィヴィオは

 

「ミウラさんなら大丈夫ですよ、頑張ってください!」

 

とミウラの肩を軽く叩いた。そこに、ノーヴェが現れて

 

「ヴィヴィオ、Eリングに行くぞー」

 

とヴィヴィオに声を掛けてきた。実は、ミウラ(ゼッケン367)だけでなく、ヴィヴィオ(ゼッケン1066)も呼ばれていたのだ。

そして、ミウラはザフィーラと一緒にCリングに向かい、ヴィヴィオはノーヴェと一緒にEリングに向かった。

なお予選では、すぐに選考が進むようにと一撃で決まるようになっている。

 

(う、うぅー……緊張してきたぁ……!)

 

「ミウラ、落ち着いていけ! 練習通りにやれば、行ける!」

 

(なんだ、こいつ。ガッチガチじゃないか。悪いが、勝ちは貰いだ! 今年は、さっさと勝って、スーパークラスに行きたいんだ?)

 

「油断するなよ!」

 

ミウラの相手はボクサースタイルらしく、軽やかにステップを踏みながらミウラを見ている。

 

「よーし、いっくよー!」

 

「テンション上げすぎだ! 落ち着いていけ!」

 

「あはは、チビッ子だ! 可愛い!」

 

「下手に怪我させるなよ!」

 

そしてヴィヴィオの相手は、どうやら槍使いのようで、自身より長い槍をクルクルと器用に回している。そうして両方の審判は、選手達にルール違反をしないように注意し、選手達に準備はいいか問い掛けた。その問い掛けに選手達が頷くと、リングの床に曳いてあるラインまで下がった。それを確認した審判は、

 

『ファイッ!!』

 

と開戦を宣言した。それと同時に、各選手は一斉に動いた。ミウラの相手は一気に駆け出し、ヴィヴィオの相手は大きく一歩踏み出しながら、槍を突き出した。

ミウラは頭の中で師匠二人の教えを思い出し、冷静に相手との距離を測り、軽く跳躍しながら、思い切り蹴りを放った。ミウラの一撃を片手で防御しようとした相手だったが、ミウラの小柄な体からは予想していなかった剛力で蹴り飛ばされてリングアウト。

ヴィヴィオは相手が突き出した槍を、右手の甲で反らすと同時に一気に踏み込み、相手の懐に入り込み、アッパーで相手の顎を打ち上げて倒した。

文句なしの一撃勝利だった。

その後、リオとコロナも勝利。アインハルトと剣士郎は

 

「相手、相当大きいが……大丈夫か、アインハルト?」

 

「はい、問題ありません」

 

「相手も剣使い……しかも、大剣……」

 

「剣の戦いなら、負けるつもりはありませんよ」

 

アインハルトの相手はかなり大柄で、身長は約2mに達するだろう。そして剣士郎の相手は、剣士郎と同じ剣使い。ただし、使っているのはかなり大型の大剣だった。

二人はリングに上がり、ラインに立った。

そうして試合が始まると、アインハルトは一瞬にして勝利。剣士郎は、相手が大剣を振り下ろし、リングを砕いた際に巻き上がった土煙を利用し、相手の頭上を取って

 

「飛天御剣流……龍墜閃!」

 

一撃で、相手の意識を刈り取った。

こうしてチームナカジマは、全員が予選を無事に突破出来た。



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トップファイター達

予選会から数十分後。

 

「よーし、チームナカジマ全員の選考結果だが……全員、スーパーノービスからのスタートだ!」

 

「てことは、一回勝てばエリートクラス行き!」

 

「いえーいっ! 凄い凄いッ!!」

 

ノーヴェの発表を聞いて、ヴィヴィオとリオの二人は両手を挙げて喜んでいた。

 

「初参加選手がスーパーノービス(ここより)上のスタートになる事はないから、まあ最良のスタートってわけだな」

 

『わーいっ!』

 

そんな一行から少し距離を離して、観客席。その一席に、全身を黒を基調色にしたジャージで包んだ人物が座っていた。その後ろに、ヴィクトーリア・ダールグリュンことヴィクターが立ち

 

「見ーつけた」

 

と言いながら、フードを軽く引っ張った。

 

「んあ」

 

そのフードの下から出たのは、長い黒髪のツインテール。現在、世界最強と呼ばれるジークリンデ・エレミア。通称、ジークだった。

 

「ヴィクター……?」

 

「久し振り、ジーク」

 

この二人は、幼い頃から付き合いがあり、互いに気心が知れていた。ヴィクターは、ジークの隣に座り

 

「そんなにフードを深く被ってちゃダメよ? 見えづらくないの?」

 

「目立つの嫌やもん」

 

ヴィクターの言葉に、ジークは返答しながらフードを被り直そうとした。ヴィクターはその隙に、ジークが食べていたポップコーンの大きな入れ物を持ち上げて

 

「それに、またこんなジャンクフードを!」

 

「あー」

 

「ちゃんとしたごはん、食べてるの?」

 

「食べてるよー。それは、たまたまなんよー。返して~」

 

まるで、親元を離れて一人暮らしを始めた娘の家に来てみたら、凄いダラしなかった娘を見てしまった母親と、言い訳する娘のような会話をしつつ、二人は改めて着席し

 

「でも、良かったわ。予選が始まる前に、あなたと会えて。今年はどう? ちゃんと、最後まで戦えそう?」

 

とヴィクターは問い掛けた。昨年、ジークは途中で規定時間までに試合会場に現れず、不戦敗になったのだ。

 

「去年はごめんやった……ヴィクターと当たる前に、欠場してもーて……」

 

「それはもういいのよ。ちゃんと謝ってもらったし。あなたが元気で、今年も競技に出る気があるなら、それでいいの。あなたは、私の目標なんだもの」

 

ヴィクターはそう言いながら、ジークの頭を撫でた。しかしジークは、ヴィクターの手を軽く遮り

 

「前から言ってるやん。私は、目標にしてもらうような選手ちゃうって……ヴィクターや番長たちの方が、ずっと凄い……」

 

と少し暗い表情を浮かべた。だがヴィクターは、そんなジークの頭を再度撫でて

 

「それでも、私は好きよ。あなたの戦技も、強いところも」

 

「んんー」

 

ヴィクターに撫でられて、ジークはまるで猫のように目を細めた。一頻り撫でると、ヴィクターは

 

「選考会、見てたんでしょ? 今年の選手達はどう?」

 

と今も予選が続く会場を見た。

 

「うん、何人か面白い子が……」

 

とジークが説明しようとした時

 

「あー、くそ。すっかり遅刻しちまった!」

 

「リーダーが遅刻するからッスよー!」

 

と近くの入り口から、騒がしい声が聞こえてきたので、二人はそちらに視線を向けた。入ってきたのは、ハリー達だった。

 

「アホのエルスがナマイキに選手宣誓なんぞするって聞いたから、笑ってやろうと思ったのによ」

 

「自分らは、何度も起こしましたからねー?」

 

ミアの言葉から察するに、どうやらハリーが盛大に寝坊したために今来たらしい。

 

「ま、結構面白い選考試合も見れたし、良しとするかーって、お」

 

その時になり、ハリーはヴィクターとジークに気付いた。

 

「ポンコツ不良娘! どうして、あなたがここに?」

 

そう問い掛けるヴィクターの顏は、しかめっ面になっている。なお、ポンコツ不良娘というのは、ハリーのことである。

 

「ヘンテコお嬢様じゃねーか。あれ? 今年はお前、選考会からスタートだっけ?」

 

ヴィクターを見てハリーは、はて、なんでこいつはここに居るんだ? という表情を浮かべた。

 

「違うわよ! シードリストも見てないのっ!? 私は、6組の第1枠っ!!」

 

「あー、そうだっか?」

 

そこから、二人の口喧嘩が始まり、一気にヒートアップ。あわや、口喧嘩からケンカに発展しそうになった。

 

「あー、ヴィクター、番長……」

 

流石にマズイと思い、ジークが二人を止めようとした。だがそれより先に、ヴィクターとハリーの二人の身体中にチェーンバインドが絡み付いた。

 

「なんですか。都市本戦常連の上位選手(トップファイター)がリング外でケンカなんて! 会場には選手達のご家族も居るんですよ? インターミドルがガラの悪い子達ばかりの大会だなんて思われたら、どうしますか!」

 

チェーンバインドを発動したのは、ハリー、ヴィクターと同じ上位選手の一人。エルスだった。

 

「そやけど、リング外での魔法使用も良くないと思うんよ……」

 

「チャンピオン!?」

 

まさか間近にジークが居るとは思っていなかったエルスは、ジークが居ることに驚いてエルスは思わず大声を挙げた。もちろん、そんなことになれば人目が集まるのは道理で

 

「ええ!?」

 

「チャンピオン!? どこに!?」

 

と予選会場に居た選手達が、ざわめき始めた。そんな中、コロナが

 

「あ、あそこ! 二階の客席の手前側!」

 

とジークが居る場所を指差した。それに釣られて、ヴィヴィオ達だけでなく選手達の視線がジークに集まる。すると勿論、ジークだけではなく、ヴィクターやハリー、エルス達にも集まり

 

「凄い! トップファイターが集まってる!!」

 

とヴィヴィオは興奮している。最初はポップコーンの入れ物で顏を隠していたジークだったが、諦めたのか入れ物を下げた。その時、ジークとアインハルトの視線が交わり、ジークは微笑みを浮かべながらピースした。

 

「でも、なんでハリー選手達はバインドされてるの?」

 

「……なんでだろ?」

 

ヴィヴィオ達はハリー達がバインドされてることに首を傾げていたが、アインハルトはジークを見ていた。

 

(あの方が、一昨年の……予選1組で、きっと私が当たる人……)

 

これが、二人の運命の出会いだった。

この後、ハリーとヴィクターは容易くエルスのチェーンバインドを引きちぎり、着席。エルスは新しいデバイスに期待しつつ意気込むが、やはりリング外でチェーンバインドを使ったことを注意されたのであった。



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ミカヤの力量

ヴィヴィオ達の選考会の、翌日。

 

「そうか。チームナカジマの皆は、スーパーノービス入りしたんだ」

 

と嬉しそうに語るのは、竹刀袋を肩から担ぐように持ったミカヤで、その背後にはディードとオットーの姿もある。

 

「はい。スパーの相手、ありがとうございました。という伝言を、ノーヴェ姉様から預かっています」

 

「いやいや、こちらも丁度いい練習になったからね……それに、まさかあの飛天御剣流の使い手と剣を交わすことが出きるとは、思ってなかったからね」

 

ディードの言葉に、ミカヤは微笑みながらそう答える。

 

(飛天御剣流ってことは……)

 

(剣士郎君ですね……)

 

「開祖が天童流を開く切っ掛けになったのは、緒王戦乱期に飛天御剣流の使い手を見たかららしい……それがまさか、本家を差し置いて、私が見るとは……」

 

ミカヤは感慨深い様子で、溜め息を吐いた。すると、オットーが

 

「しかし、なぜこのような所に?」

 

とミカヤに問い掛けた。今三人が居るのは、廃車場だった。そこで何をするのかが、オットーとディードには分からなかった。

 

「ん? 今朝、晴嵐の研ぎが終わって戻ってきたからね。試し切りをしようと思ってね」

 

ミカヤが言い終わったタイミングで、開けた場所に出たのだが、三人の前に現れたのは、宙吊りにされた二階建て式の大型バス。

 

「まさか、このバスを斬るんですか!?」

 

「そうだよ。廃車斬りは、天童流の項目の一つなんだけど……流石に、私もこのサイズは初めてで、少し緊張するね」

 

ミカヤが笑みを浮かべると、そこに男性が現れて

 

「おう、ミカヤちゃん。早速始めるかい?」

 

と問い掛けてきた。

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

ミカヤが頭を下げながら言うと、男性はもう一人に合図して、二台のクレーン車に乗り込んで、アームでバスの前後のワイヤーを挟んで上げていく。

 

「ま、まさか……」

 

「あのバスを、投げるんですか!?」

 

「んー……投げるというより、放ってもらうってところかな? こう、振り子みたいに」

 

オットーとディードが驚きながら問い掛けると、ミカヤは飄々としながら説明した。どちらにせよ、かなり危険なのは変わらない。なにせ、10t近い車両が来るのだから。

 

「危ないから、二人は離れていて」

 

「は、はい」

 

「わかりました」

 

オットーとディードは、ミカヤに言われた通りに、約10m程離れた。その間にミカヤは、刀を構えた。すると、先ほどの男性が

 

『準備が良いなら、言ってくれ!』

 

と言ってきた。

それを聞いたミカヤは、腰を落とし

 

「何時でもどうぞ」

 

と促した。その直後、バスが振り子のようにミカヤに迫る。オットーとディードがドキドキしながら見守っていると

 

「天童流抜刀術……」

 

ミカヤは鯉口を切った。次の瞬間、ミカヤの腕が霞むように動き

 

「天月・霞」

 

バスは、四等分に斬られた。

 

『おー! 上手くいったな、ミカヤちゃん! んじゃ、この残骸は廃棄するな!』

 

「はい! ありがとうございました!」

 

ミカヤが頭を下げると、オットーとディードは駆け寄り

 

「ミカヤさん!」

 

「お体は、大丈夫ですか!?」

 

と問い掛けた。

 

「ん? まあ、少し手が痺れたかな? 位だね」

 

ミカヤはそう言いながら、刀を竹刀袋に入れていく。

 

(ディード。今の出きる?)

 

(光剣ならまだしも、実剣では……)

 

ディードはオットーに答えながら、ミカヤに視線を向けて

 

「凄いですね……魔力を殆んど使っていないのに……」

 

と呟いた。

 

「まあ、それが技術ってやつだね……それに、この刀だからっていうのもある。居合刀は、薄く、重い。だからこそ、切断力が上がる……さて、DSAAに出場出きる機会はあと二回……全力で行かないとね……」

 

ミカヤはそう言いながら、空を見上げた。

 

(確か、ミカヤさんの最初の相手は……)

 

(八神司令の所のミウラという子ですね……)

 

そうして、試合は近付く



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学校での一幕

さらっと登場


選考会から、数日後。聖ヒルデ魔法学院。

 

「ええー!? ハリー選手に会ったの!?」

 

「そう!」

 

「サインまで貰っちゃった♪」

 

体操着に着替えながら、ヴィヴィオはリオとコロナから聞いた話に思わず声を上げた。それはつい先日、その日のヴィヴィオは早く帰る必要があったので真っ直ぐに帰宅したのだが、リオとコロナは買い物があったので、あるデパートに向かっていた。その時に会ったのが、ハリー達だったのだ。

去年までは憧れの人物の一人だったが、今年は同じ競技選手。それも、リオは戦う可能性が非常に高いのもあって、二人は興奮し、サインをお願い。ハリーは快諾し、サインを貰ったのだが、意外だったのはハリーが一緒に描いてくれた絵が非常に可愛かったことである。

ハリー・トライベッカ、性格や口調が男勝りな所があるので番長と呼ばれるが、実は無類の可愛い物好きで、部屋にはいくつものぬいぐるみがあるらしい。

ヴィヴィオ達は会話しながらも体操着に着替え、グラウンドに出た。聖ヒルデ魔法学院のグラウンドは広く、2クラス分の人数が居てもまだ余裕がある。

ヴィヴィオ達がグラウンドに到着すると、既に先客が居た。着ている体操着の縁の色から、中等部の一年生と分かった。

 

「中等部一年生も、体育なんだ」

 

「あ……ねえ、あれって緋村さんとアインハルトさんじゃないかな?」

 

「え……あ、本当だ」

 

先に剣士郎とアインハルトを見つけたのは、ヴィヴィオだった。よく見てみれば、確かに特徴的な赤髪と碧銀の髪の二人が居た。どうやら、二人で柔軟体操をしているらしい。背中合わせになった状態で両腕を絡ませ、互いを背中で持ち上げている。

そこに、新たに一人の少女が駆け寄り声を掛けている。少し長い灰色の髪が特徴的だ。

剣士郎とアインハルトは柔軟体操を終えると、その少女と話し始めたのだが、剣士郎が視線を感じたのか、ヴィヴィオ達に気付いて手招きしてきた。授業が始まるまで多少の余裕が有ったので、三人は近寄り

 

「こんにちは、緋村先輩、アインハルト先輩」

 

『こんにちは!』

 

と挨拶した。

 

「朝や放課後以外で会うのは、珍しいな」

 

「そうですね。まさか、グラウンドで会うなんて思いませんでしたー」

 

剣士郎の言葉に、ヴィヴィオは同意した。聖ヒルデ魔法学院は、グラウンドだけでなく敷地も広大であり、ヴィヴィオ達の初等科と剣士郎達の中等部で校舎が別けられている。

グラウンド、体育館、図書館、食堂といった場所は共用だが、ヴィヴィオ達は基本的にお弁当なので食堂は使わず、図書館もそんな頻繁に使うという訳でもない。

だから会うとしたら、登下校時の校門しかなかった。

剣士郎達とヴィヴィオ達が会話していると、灰色の髪の少女が

 

「もしかして、今年DSAA初出場のヴィヴィオ選手に、リオ選手、コロナ選手?」

 

と問い掛けてきた。

 

「えっと……」

 

「ああ、彼女はユミナ・アンクレイブ。俺とアインハルトのクラスの委員長をしている」

 

少女、ユミナのことを知らなかったコロナが首を傾げていると、剣士郎がそう教えた。

 

「初めまして、ユミナ・アンクレイブです! よろしくね!」

 

ユミナは人懐っこい笑みを浮かべながら、ヴィヴィオ達に挨拶した。

 

「初めまして、高町・S・ヴィヴィオです」

 

「コロナ・ティミルです」

 

「リオ・ウェズリーです!」

 

「よろしくね」

 

ひとまず握手すると、ユミナはヴィヴィオ達と剣士郎達を見回して

 

「そういえば、緋村君とストラトスさんも一緒にDSAAに出場してたよね? チームナカジマで」

 

「そうですが、よく知ってますね」

 

アインハルトからしたら、ユミナがDSAAにDSAAに興味があり、尚且つ初出場の自分達を知っていることが意外だった。

 

「えへへ、実は無類の格闘技ファンだったりします……だから、DSAAに出場する選手はよく調べてるの」

 

アインハルトの言葉に、ユミナは少し恥ずかしそうに頬を掻いた。そして、五人を見回して

 

「まず、ヴィヴィオ選手のカウンター戦法。あれって、目が良くないと、出来ないよね? 目が良いんだ」

 

「あ、はい。ノーヴェ師匠からもよく言われるんです」

 

「なるほど……で、リオ選手は独特な格闘技使うよね? 御実家で教わったの?」

 

「はい、そうです! 春光拳っていいます!」

 

「あ、あれも春光拳なんだ……なるほど……で、コロナ選手が使ってたのは、創成と傀儡かな?」

 

「はい、そうです。前から得意だったんです」

 

ユミナは気になっていた点を、次々とヴィヴィオ達に問い掛けた。

その時、予鈴が鳴り響いた。

 

「あ、そうだ。緋村先輩、ママ達とパパ達が改めて会いたいそうです。アインハルト先輩も」

 

「分かった。今日伺っても?」

 

「多分大丈夫です」

 

剣士郎とヴィヴィオ達がそう約束すると、ユミナが

 

「ヴィヴィオ選手の、ママ達とパパ達……?」

 

と首を傾げた。するとヴィヴィオが

 

「あ、アンクレイブ先輩もどうですか?」

 

「え、いいの?」

 

「はい、どうぞ!」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「はい、剣士郎先輩とアインハルト先輩と一緒に行きましょう!」

 

こうして、高町家への訪問が決まる。



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新たな仲間

聖ヒルデ学院から、十数分後。

 

「ここが、私の家ですよ」

 

「ここが……」

 

ヴィヴィオの案内を聞いて、ユミナは一軒家。高町家を見上げていた。その時、一台の車が停まり

 

「あ、ヴィヴィオ。お帰り」

 

「あ、ユーノパパ!」

 

車の窓から顔を出したのは、ユーノだった。

 

「ユーノパパ、早かったね?」

 

「ああ、うん。今日、書架の検索システムが新しいのになるから、その影響でね。あ、そこの女の子。そこ、駐車場なんだ」

 

「あ、すいません!」

 

ユーノの言葉を聞いたユミナは、慌てた様子で駐車場から退いた。そこに、ユーノは車を止めてから車から降りた。

 

「リオちゃん、コロナちゃん、久しぶりだね」

 

「お久しぶりです、ユーノさん」

 

「お久しぶりでーす!」

 

ユーノが挨拶すると、コロナとリオは元気よく挨拶。そしてユーノは、アインハルトと剣士朗に

 

「君が、アインハルト・ストラトスちゃんに、そっちが緋村剣士朗君だね? 初めまして、高町・S・ユーノです」

 

「初めまして、アインハルト・ストラトスです」

 

「緋村剣士朗です。お噂は予々」

 

「あははは、大したことない人物だよ」

 

握手しながら、会話する三人。そして最後に、ユミナを見て

 

「で、そっちの子は……」

 

「は、初めまして! ユミナ・アンクレイブです! ストラトスさんと緋村君のクラスメイトで、クラス委員です!」

 

「よろしくね。出来たら、ヴィヴィオとも仲良くしてくれると嬉しいかな」

 

「は、はい!」

 

ユーノに挨拶されて、ユミナは緊張していた。

 

(ま、まさか……あの無限書庫の総合司書長のユーノさんがヴィヴィオ選手のお父さんだなんて!?)

 

ユーノのことは、ユミナも知っていた。格闘家というわけでは無いが、それでも有名人である。無限書庫の総合司書長にして、後方支援を得意とする凄腕の結界魔導師。通称、翡翠の守護者。

ユミナが確認した中では、最高位の結界魔導師で、ユーノの結界を突破出来たのは僅か数人だけだった。その内の一人が、ヴィヴィオの母親のなのはだ。

 

(ある意味、最強夫婦!?)

 

砲撃兼攻撃担当のなのはに支援兼結界担当のユーノ。

なんとも、磐石な布陣とも言える。更に言えば、ヴィヴィオはバリバリの格闘家だ。

 

(どんな家族!?)

 

そうしている間に、全員で高町家に入ると

 

「む、帰ってきたか。お帰り、ヴィヴィオ。それにユーノも」

 

全員を、冬也が出迎えた。

 

「ただいま、冬也パパ!」

 

「やあ、冬也」

 

「今日は早かったな、ユーノは」

 

「うん。無限書庫で使う検索システムが新しいのになるからね」

 

「なるほどな」

 

ユーノの説明に、冬也は納得した様子で頷いていた。だが、ユミナは

 

(こ、今度は時空管理局唯一の攻勢部隊にして最強部隊。強襲制圧部隊の隊長の神代冬也三等空佐!? え、どういう家族構成!?)

 

と混乱していた。まあ、無理もないだろう。冬也の名前は、最早次元世界全体で有名だ。知らない者が居たら、それはモグリ位だろう。

 

「む……アインハルトと剣士朗は知っているが……そちらの少女は?」

 

「は、初めまして! ストラトスさんと緋村君のクラスメイトで、クラス委員のユミナ・アンクレイブです!」

 

「ん、ユミナか。ヴィヴィオ達と仲良く頼むな」

 

「は、はい!」

 

緊張からか、ユミナはガッチガチになっていた。そこに、止めになったのは

 

「あ、皆。いらっしゃい」

 

「お、来たねー?」

 

フェイトとなのはが現れたことだった。

ユミナとしたら、なのはは予想が付いていた。しかし、フェイトは完全に予想外だった。

 

(時空管理局執務官、心優しき閃光のフェイト・T・ハラオウン一等空尉!? あ、そういえば結婚したって雑誌にも載ってた! そのお相手は……そうだ、神代冬也三等空佐!)

 

「あれ? なんか、固まってる子が居るけど……」

 

「大丈夫?」

 

「は、はい! 大丈夫です! 初めまして! ストラトスさんと緋村君のクラスメイトで、クラス委員のユミナ・アンクレイブです!」

 

なのはとフェイトが問い掛けると、ユミナは名前を言いながら頭を下げた。そこに、剣士朗が

 

「アンクレイブ、落ち着け……」

 

「落ち着けるわけないよ!? ここに居るの、全員有名人なんだよ!? 私は一般人!」

 

確かに。この中では唯一、ユミナは普通の学生である。ヴィヴィオ達は競技選手で、ユーノは無限書庫の総合司書長。そして、他の三人は時空管理局で有名な局員だ。

緊張するな、という方が無理な話だ。

 

「にゃははー。そんな気にしなくていいよー」

 

「うん。今は私服だし、気楽にね」

 

なのはとフェイトにそう言われつつ、ユミナはヴィヴィオ達と一緒に居間へ向かった。

 

「そういえば、フェイトママ。アリシアは?」

 

「ん? そこのソファで寝てるよ」

 

居間に到着すると、ヴィヴィオがフェイトに問い掛けて、フェイトは一つのソファを指差した。そのソファでは、アリシアがスヤスヤと寝ている。

 

「アリシア、よく寝てるねー」

 

「ふふ、そうだね。夜泣きも滅多に無いし、あっても直ぐに冬也さんが対応してくれるし」

 

「……子供の面倒を見るのは、慣れている。アリシアは、ある意味で親孝行だ」

 

冬也はそう言って、アリシアの頭を優しく撫でた。

 

「えっと……フェイトさんと冬也さんのお子さん……ですか?」

 

「うん、そうだよ……私が産んだ、初めての子供」

 

ユミナの問い掛けに、フェイトは寝てるアリシアを抱き上げた。すると、アリシアがパチリと起きて

 

「あー……だ……」

 

「よく寝てたね、アリシア」

 

「だーうー」

 

上機嫌なアリシアは、笑顔を浮かべている。そんなアリシアに、フェイトは用意していた哺乳瓶を差し出して

 

「あ、皆のクッキーとかも用意してあるから、食べてね」

 

と視線を、机に向けた。確かに、机の上には幾つものおやつが用意してあった。

 

「えっと……」

 

「ほら、遠慮しないで」

 

ユミナが迷っていると、なのはが空いていた席にユミナを座らせた。

 

「紅茶で良かったか?」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

ユミナが座ると、ユミナの前に冬也が紅茶が入ったカップを置いた。

 

「あ、冬也パパ! 私にも紅茶頂戴!」

 

「ん。ヴィヴィオは、牛乳と砂糖入りだったな」

 

ヴィヴィオが手を挙げると、冬也はヴィヴィオの何時もの内容を思い出すためか口にしながら淹れた。

 

「うん、ありがとー!」

 

「構わん」

 

「ふふ。冬也の淹れてくれた紅茶、凄く美味しいからね」

 

「そうか?」

 

冬也は首を傾げながらも、フェイトに紅茶を手渡した。その時、冬也は自然と微笑んでいた。

その微笑みを見て、フェイトは

 

(昔と比べて、よく笑うようになったなぁ……うん、良かった……)

 

と思いながら、紅茶を飲んだ。

 

「さて、もう少ししたら大会も本格化するんだよね?」

 

「はい、そうです」

 

「大勢の観客の前で、試合です!」

 

なのはの問い掛けに、コロナとリオが答えた。

DSAAの規模を考えると、観客の人数も桁外れだろう。

 

「地区予選を越えたら、都市大会なんだけど……」

 

「今の私達じゃあ、夢のまた夢……」

 

「だから、一先ずは好成績を残すことが目標!」

 

「まあ、高いのも良いけど、最初は手が届くところからだね」

 

三人の宣言に、ユーノはコーヒーを飲みながら同意した。最初から高過ぎると、人は挫折する可能性が高い。だったら、最初は低くてもいい。少しずつ高く登っていけばいい。人というのは、成長するのだから。

 

「あの……だったら、私にも協力させてください」

 

ふと気付けば、ユミナはそう告げていた。全員の視線が集まると、ユミナは

 

「その……私に出来るのは、精々がマネージャー位でしょうが、手伝わせてください!」

 

と言いながら、頭を下げた。それを聞いた冬也が

 

「ふむ……ノーヴェかディエチに連絡が着くかな」

 

と通信ウィンドウを開いた。

 

『はい、ディエチです』

 

「ディエチ、今は大丈夫か?」

 

『あれ? 冬也さんからなんて、珍しいですね?』

 

「そうかもしれんな……今しがた、ヴィヴィオ達に協力したいという子が居るんだが、大丈夫か?」

 

『取り敢えず、話をさせても?』

 

「ああ、分かった」

 

ディエチの話を聞いた冬也は、ユミナに手招きした。呼ばれたユミナは、冬也と入れ替わる形でウィンドウの前に立って

 

「は、初めまして! ストラトスさんと緋村君のクラスメイトで、クラス委員のユミナ・アンクレイブです!」

 

『モニター越しだけど、初めまして。ディエチ・ナカジマです。えっと、協力してくれるって言ってたけど……』

 

と会話を始めた。

 

「ふむ……あの子は、サポーターに向いているだろうな」

 

「魔力の流れ?」

 

「ああ……指先に集中しやすいみたいだな……」

 

「そういうのも分かるんだ」

 

「そこから、相手の戦闘スタイルを判断するのに重宝した」

 

と大人組が会話していると、ユミナが

 

「え、えっと。今度から、協力することになりました! よろしくお願いします!」

 

とヴィヴィオ達に頭を下げた。それを聞いたヴィヴィオが、ユミナの手を握り

 

「アンクレイブさん、一緒に頑張りましょう!」

 

「それじゃあ、乾杯しましょう!」

 

リオに引っ張られて、ユミナは手にカップを持った。その両隣に剣士朗とアインハルトが立った。それを確認したヴィヴィオが

 

「それじゃあ、チームナカジマ! 精一杯頑張りましょう!」

 

『おー!!』

 

ヴィヴィオの音頭の後に、五人はカップを掲げた。それを見て、ユーノが

 

「青春だねぇ」

 

と呟き、大人組は頷いた。

こうして、チームナカジマは新しいメンバーを迎えた。



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指摘と試合

ユミナがチームナカジマのサポーターとなった翌日、湾岸公園。

 

「つーわけで、つい昨日チームのサポーターになった」

 

「ユミナ・アンクレイブです! よろしくお願いします!」

 

『よろしくお願いします!』

 

ユミナが挨拶すると、ヴィヴィオ達も元気よく挨拶した。その後、特訓を始めた。とは言え、試合直前なので、本格的な特訓は無し。やっても、軽めのスパー位に限定した。そうして、先に終えたアインハルトと剣士郎の二人を、軽くマッサージしたのだが

 

「緋村君……正直に答えて……緋村君の技の中に、凄く負担の大きい技があるでしょ?」

 

とユミナが、真剣な表情で問い掛けた。その問い掛けに剣士郎は、僅かに間を置いてから

 

「まあ、確かにあるが……」

 

「可能な限り……というか、出来るだけ使わないで……今成長期なんだから、下手に使ったら二度と剣を持てなくなるよ」

 

剣士郎の返答を聞いたユミナは、真剣な表情のままそう告げた。すると、ノーヴェとディエチが

 

「ディエチ、気付いたか?」

 

「気付かなかった……剣士郎君とは、割りと一緒に居たのに……」

 

と会話している。どうやら、初めて触ったのに気付いたことに驚いているようだ。

 

「まあ、奥義はあまり使わないが……」

 

「それは、飛天御剣流の奥義ということですか?」

 

剣士郎の言葉が気になったのか、休憩のタイミングでディードが現れた。

 

「ええ……飛天御剣流奥義……まさに一撃必殺の技ですが……あれは、確かに負担がかなり大きい技です……元々飛天御剣流は機動性に重点を置いているので、負担は他の剣技より高いです……実際、俺の記憶の中には奥義を使い続けたために体を壊した使い手が居たというのもあります……」

 

「やっぱり……」

 

剣士郎の説明に、ユミナはどこか納得した様子で

 

「緋村君の剣、凄く高く跳んだり、体の捻りが凄いし……あんなの、体の負担が強いに決まってるよ」

 

と剣士郎に詰め寄った。剣士郎は、少し仰け反りながらも

 

「アンクレイブ……近いんだが」

 

と両手を軽く挙げて、ユミナを制止した。するとユミナも、自分がどういう体勢か気付いたらしく、顔を赤くして

 

「ご、ごめん……」

 

と離れた。そして、少し距離を取ってから

 

「とにかく、その奥義ってやつは使わないようにね? それで緋村君が体を壊したりしたら、目も当てられないんだよ?」

 

「わかっている……俺とて、まだ暫くは刀を置く気は無いからな……」

 

「ん、ならよし」

 

剣士郎の返答に満足したのか、ユミナは笑みを浮かべた。その後、チームナカジマは全員が見事に初戦を突破した。

 

「本当、皆凄いね! ヴィヴィオちゃんのカウンター、コロナちゃんのゴーレム、リオちゃんの春光拳、アインハルトさんの覇王流、緋村君の飛天御剣流! 皆、直ぐに相手を倒してたね!」

 

「えへへー♪ ノーヴェの指導の賜物です!」

 

ユミナの言葉に、ヴィヴィオは嬉しいのと恥ずかしいという表情を浮かべながら、ノーヴェを見た。しかしノーヴェは、気恥ずかしい様子で視線を反らしている。

するとヴィヴィオが、思い出したように

 

「あ! もうすぐ、ミウラさんの試合だ!」

 

と手を叩いた。それを聞いて、全員で試合会場に向かった。既に、ミウラには応援メッセージは送っているが、やはり見ておきたいのが本音である。そして、そんなミウラの初戦の相手は

 

「ミカヤさんだ!? 都市本戦出場常連のベテラン選手だよ!」

 

都市本戦常連選手、ミカヤ・シェベル。その実力は折り紙付き。初戦の相手としては、かなりハードである。

だが、大会は既に始まっていて、入場も終わっている。ならば、戦わないという選択肢は存在しない。やるならば、全力で挑む。

 

「ミウラさーん! 頑張ってぇ!!」

 

ヴィヴィオ達が応援した時、試合開始のゴングが鳴り響いた。



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抜刀術対抜剣

ミウラ対ミカヤ。試合が始まった瞬間、ミウラはミカヤに突撃した。

 

「待て待て待てー!?」

 

「ミウラ、戻れ!!」

 

それを見たヴィータとザフィーラは、ミウラに戻るように指示した。だが一度着いた勢いというのは簡単には止まらない。

リングに足跡が残る程の力で踏み込み、ミウラは正に飛ぶ鳥の勢いでミカヤに近づいた。これが並の選手だったら、その勢いに驚いて一撃貰っていただろう。

しかし、ミウラと戦っているミカヤは大会常連選手の一人にして、トップファイターの一人。

ミカヤは素早く腰を落としながら刀の柄を掴み、素早く抜刀。

渾身の一撃が、ミウラに直撃。ミウラは大きく飛ばされ、リングギリギリに落ちた。

この時、殆どが決まったと思った。ミカヤの一撃の重さは何度も知られており、何度となく相手を一撃で仕留めてきていた。

だが

 

「ま、まだ……行けます!」

 

なんと、ミウラは立った。

 

ミウラ・リナルディ

残LIFE 560

しかし、残りライフは極僅か。一撃でも受ければ、敗北は筆紙で、勝つなどほぼ不可能に思えた。

だがここで、ミウラは勝負に出た。

 

「行くよ、スターセイバー!」

 

《はい、主!》

 

「抜剣!!」

 

ミウラの掛け声の直後にすね当てが開き、そこに膨大な魔力が集まっていく。その魔力に当てられて、空気が震えた。

 

(抜剣だと!? なんだ、この魔力の昂りは!? まさか、収束魔法をあんな極一部に集めるなんて!?)

 

ミカヤは、抜剣の秘密に気付いた。それは即ち、収束魔法(ブレイカー)である。

本来は砲撃に用いる魔法で、砲撃で使った場合は相手が張った障壁魔法すら容易く貫通することが可能となる強力な魔法だ。

だがそれを、すね当てという極一部に集めて使う。そうなると、その威力は予想すら着かない。

まさに、強力無比という表現しか浮かばない。

だがミカヤは、獰猛な笑みを浮かべ

 

「まったく……これだからDSAA(この大会)は面白い! 今回のように、面白い相手と戦えるのだからね!!」

 

と気炎を吐きながら、構えた。

そして、二人は再び激突した。ミウラの収束魔法を乗せた蹴りとミカヤの斬激がぶつかり、離れた。

 

ミウラ・リナルディ

残LIFE 350

 

攻撃同士がぶつかった衝撃で、ミウラのライフは更に減った。もはや、上手く防御しても当たり方によっては一撃で決まる。

だが

 

(なんて一撃だ!? 腕が痺れた!)

 

ミカヤは余りの一撃で、腕が痺れ更には愛刀の晴嵐の刃まで零れた程だった。それだけで、ミウラの一撃の重さが伺いしれた。

直撃を受けたら、防御力が低いミカヤは致命傷に繋がるだろう。

 

「まだ!」

 

ミウラは直ぐに体勢を素早く整えると、一気に突撃した。

 

「晴嵐、斬り伏せろ!!」

 

《了!》

 

ミカヤはそんなミウラを倒すために、晴嵐を抜刀した。ぶつかる刃と蹴り。空中に激しく散る火花。

状況的には、未だにミカヤに分があった。

だが

 

「ぐうっ!?」

 

晴嵐が折れて、ミカヤに直撃した。

 

ミカヤ・シェベル

残LIFE 1150

 

たった一撃で、ミカヤのライフは半分以下に削られた。しかし、ミカヤは諦めずに

 

「あああぁぁぁぁぁ!!」

 

雄叫びを挙げながら、予備の刀を逆手持ちで抜刀。ミウラに振るった。しかしその一撃を、ミウラは僅かに後退して回避し

 

星皇刃(せいおうは)!!」

 

必殺の一撃を、ミカヤに叩き込んだ。

その一撃を受けて、ミカヤはリングから吹き飛ばされて壁に激突。

 

ミカヤ・シェベル

残LIFE 0

 

今ここに、ルーキーがトップファイターを下した。



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思考

ちょいとメッセで、剣士郎の試合に関して聞かれたので、次回書きます


『な、なんということだー!? 大番狂わせ! トップファイターが、初戦敗退だー!! それを成したのは、今回初出場のルーキー! ミウラ・リナルディーだぁ!!』

 

司会者の興奮した声がスピーカーを伝わって空気を震わせるが、そのミウラはと言うと

 

「勝ったから良し……とは言わんぞ」

 

「指導事項が山積みだかんな……帰ったら覚悟しろよ」

 

「はい……」

 

怒った表情のザフィーラとヴィータの前で、小さく正座していた。勝者とは思えない、残念な姿だった。

その時ミウラは、弟子達に支えられながら退場していくミカヤに気付くと立ち上がり、頭を下げた。

正々堂々と戦ったのだから、キチンと礼儀を尽くす。そう指導されていたからだ。

ミカヤも支えられてはいたが、動けないというわけではないようで、軽く頭を下げて、退場していった。

 

『では、期待のルーキー、ミウラ・リナルディー選手にもう一度拍手を!!』

 

司会者が促すと、会場全体で万雷の拍手が鳴り響いた。

まさに、順調なスタートと言えるだろう。しかし、勝者が居るということは敗者が必ず居る。今回の場合、勝者はミウラで敗者はミカヤとなる。

退場していくミカヤを、二階席で見ていたハリーとジークの二人は

 

「あちゃー……ミカ姉、負けちまったか……こりゃ、都市本戦での再戦は次だなぁ……」

 

「せやな……」

 

と残念そうにしていた。しかし、DSAAには年齢制限が設けられており、参加出来るのは10歳から19歳までとなっている。そしてミカヤは、今年18歳。次が最後の出場機会になるのである。

 

「今日はもう、ミカ姉とは会わねーほうがいいだろうし……ひとまずは、自分の試合に集中すっか」

 

「うん」

 

「ジークも、気ぃ抜いて負けんじゃねーぞ?」

 

ハリーのその言葉に、ジークは微笑みを浮かべて

 

「平気。(ウチ)もヴィクターや番長たちと試合したいし……」

 

とそこまで言うと、下に視線を向けた。その先に居るのは、アインハルトだ。

 

「四回戦で、ちょっと気になる子とも当たるから」

 

どうやらジークリンデは、アインハルトが気になるらしい。同時刻、第2会場では予選6組の二回戦が行われていた。

 

「双輪剣舞ゥッ!」

 

「ぐうっ!?」

 

シャンテ・アピニオン

残LIFE 7400

  VS

リリーナ・サガリス

残LIFE 0

 

『試合終了! 勝者、シャンテ・アピニオン選手!!』

 

「ま、独唱で楽勝だったね? ってか、余裕?」

 

司会者が勝者を宣言した後、シャンテは余裕綽々といった様子でセコンドたるセインとシャッハの居る方に帰りながら、そんなことを言った。

それを聞いたシャッハは、額に手を当てながら

 

「だから、戦った相手には礼儀を尽くしなさいと……!」

 

と言って、シャンテを睨んだ。するとセインが、そんなシャッハの肩に手を置いて

 

「まあまあ、勝ったんだから、褒めてあげようよ」

 

と言って、戻ってきたシャンテを出迎えた。

そして、同じ試合会場ではルーテシアも参加していたのだが

 

「リフレクト・ミラージュ!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

ルーテシア・アルピーノ

残LIFE 8600

VS

エルザ・エディックス

残LIFE 0

 

『勝者、ルーテシア・アルピーノ選手!』

 

司会者が勝者を宣言すると、ルーテシアは観客席に手を振ってからセコンドの方に戻るが

 

「んっふっふー♪ 召喚魔法無しでも、意外でやるもんでしょ?」

 

そのセコンドは、なんとエリオとキャロだった。

 

「おー! ルー、凄い!」

 

「うー……少しライバル心……」

 

エリオは素直に褒めているが、キャロは何やら複雑そうな表情だった。何を隠そう、キャロとルーテシアは同じ相手(エリオ)を巡る恋のライバルでもあるのだ。

そしてキャロは、少々分が悪い状況になっているのだが、それに気付いていないのは、エリオのみである。

セコンドの二人と合流したルーテシアは、視界の端である人物を見た。

その人物は、この先でルーテシアが戦うだろう相手。名前は、ファビア・クロゼルグ。

なんとこの少女が使う魔法は、ミッド・ベルカ・近代ベルカの何れでもなく、今や使い手がほぼ居ない古式魔法だった。

科学で作られた魔法ではなく、連面と受け継がれてきた魔法。

ルーテシアとしたら非常に気になる相手だ。試合相手でもそうだが、古式魔法の使い手が表舞台に出てくるのは非常に珍しいのだ。

古式魔法の使い手は余り目立つことを良しとせず、やっていても一般人に紛れたり、薬剤師になっていたりするのみだ。それが、非常に目立つDSAAに参加してきた。

となれば、何か目的があるのは明白である。

 

(さてさて……あの子は、何をやる気なのかなぁ?)

 

ルーテシアは人知れず、心の中の両手をワキワキと動かすのであった。

再び場所は変わり、第2会場のシャワー室。

 

「そう……ミカヤさんが負けたの……」

 

先に試合を終えたヴィクターが、汗を流すためにシャワーを浴びていた。そのヴィクターの前には、サウンドオンリーと表示されたウィンドウが開いていて、その相手は執事のエドガーである。

 

『ええ、相手は新人……集束系魔法(ブレイカー)を使う格闘強打者(ハードストライカー)だそうです』

 

そこまで聞いたヴィクターは、シャワーを終わらせ、ウィンドウを閉じて体を拭き始めた。

 

「そう……私も、足下を掬われないようにしませんと……それより、第1会場はどうなってますの?」

 

『今年の第1会場は、かなり粒揃いですよ。お嬢様』

 

ヴィクターの問い掛けに、エドガーは楽しそうに返答した。

三度場所は変わり、第1会場。

 

『今年の第1会場は、大波乱です! 初戦のミウラ選手のように、新人選手が次々とKO勝利しています!』

 

司会者の言う通り、第1会場で行われている各組の予選で、リオ、コロナ、ヴィヴィオ、アインハルトが次々とKO勝利を量産していた。

特にヴィヴィオとアインハルトの二人は、見事な戦い方で大したダメージも負わずに勝利していた。

なお、チームナカジマの初戦の成績は今のところ

 

高町・S・ヴィヴィオ 1ラウンド2分20秒 KO勝利 予選4組

 

リオ・ウェズリー 3ラウンド3分15秒KO勝利 予選5組

 

コロナ・ティミル 2ラウンド2分24秒KO勝利 予選1組

 

アインハルト・ストラトス 1ラウンド58秒KO勝利 予選1組

 

となっている。

そして今、モニターに剣士郎の試合が再放送されている。

 

「いいな、剣士郎。何時も通り、落ち着いていけ!」

 

「頑張ってね、剣士郎君!」

 

そんな剣士郎のセコンドを勤めるのは、ノーヴェとディエチだ。剣士郎はリングに上がると、対戦相手を見た。

短い黒髪に、上下白の胴着。帯は白だが、階級を示す白ではないだろう。

少女らしい体格だが、油断は出来ないだろう。

 

「双方、前に」

 

レフェリーに呼ばれ、剣士郎と対戦相手。

最高戦績、都市本戦第8位。

アリーゼ・サガラ

VS

初出場

緋村剣士郎



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振り返りと暗雲

『予選3組、第4試合。緋村剣士郎選手対アリーゼ・サガラ選手……ファイっ!!』

 

司会がゴングを鳴らした直後、先に動いたのは黒髪に上下白の胴着を着たアリーゼだった。

 

「だぁぁぁぁ!!」

 

なんとアリーゼは、拳をリングに叩き込みリングを砕き、舞い上がった破片を次々と飛ばした。だが、次の瞬間

 

「飛天御剣流……土龍閃!!」

 

なんと、剣士郎も刀をリングに叩き付け、リングの破片を飛ばして相殺した。その見た目はとてもハデで、観客席からは喚声が聞こえる。

 

『しょっぱなから、大技同士が炸裂ぅ!! これは凄い! 今年の新人は、レベルが高い!』

 

司会が興奮するが、選手達からしたら知ったことじゃなく、二人して前に跳ぶように進んでいた。土煙を突破し、二人は接近。そして、アリーゼが蹴りを繰り出すが、それを剣士郎は刀で弾いて独楽のように一回転し

 

「飛天御剣流……龍巻閃!」

 

アリーゼの脇腹を狙い、鋭く一閃した。しかしその一撃を、アリーゼは右腕で防御した。だが一撃が重かったためか、大きく後方に飛ばされた。

 

アリーゼ・サガラ

残LIFE 10000

 

『先手を取ったのは、緋村選手だぁぁ! 鋭く放った一閃は直撃こそしなかったが、アリーゼ選手のライフを大きく削りました!!』

 

興奮した司会の声が響くが、アリーゼ本人は腕を軽く振って

 

「ふぅん……中々の威力だね? 少し腕が痺れたよ」

 

「痺れた程度ですか……凄いタフですね」

 

「でしょ? よく仲間内でも言われるよ」

 

どうやら、アリーゼのタフさは仲間にもよくからかわれるらしい。しかし、剣士郎は納得した。今しがた打ち込んだ龍巻閃は、結構本気で打ち込んでおり、威力的にはクラッシュエミュレートで骨折判定されてもおかしくないのだ。

しかし、アリーゼからしたら、腕が痺れた程度。呆れる程のタフネスだった。

 

「じゃあ……こっちから行くよっ!!」

 

そう言った直後、アリーゼはリングに足跡が残る程の力で、一気に駆け出した。

 

(早い!?)

 

「ぜあっ!!」

 

短い気合いと共に、アリーゼは拳を繰り出した。

剣士郎は、その一撃を間一髪で回避し

 

「飛天御剣流……双龍閃!」

 

先に刀を振るい、それを後ろに跳んで回避したアリーゼに、鞘による一撃を叩き込んだ。しかしその一撃を、アリーゼは上手く後ろに跳んだことで威力の殆んどを殺した。

 

「やっぱりね……二段構えか」

 

「初見で回避されたのは、貴女で二人目ですよ……」

 

アリーゼ・サガラ

残LIFE9900

 

緋村剣士郎

残LIFE11000

 

状況的には、剣士郎が僅かに優勢ではある。しかし、アリーゼはトップファイターの一人。切り札の一つ二つは、有って然るべきである。

剣士郎がそう判断した瞬間

 

「ほっ」

 

「なっ……がっ!?」

 

一瞬にしてアリーゼの姿が目前に現れ、ボディーブローが叩き込まれた。

 

緋村剣士郎

残LIFE8000

クラッシュエミュレート 軽度ボディダメージ

 

「今、のは……縮地か……!?」

 

「お、流石は剣士だね」

 

縮地、それは剣士の歩法の極みと言われており、本当に極めた人物は魔法も使わず生身で時速30km以上を出せると言われている。

しかもアリーゼの場合は、魔法との合わせ技で、正に一瞬で10m程を詰めてきた。

 

「予定では、まだまだ先に取っておくつもりだったけど、キミが中々やるからね。切り札の一つを切らせてもらったよ」

 

そう言った直後、アリーゼの姿が消えた。その瞬間、剣士郎は己の直感に従って、横に跳んだ。それとほぼ同時に、先ほどまで剣士郎が射た場所に轟音と共に踵落としが打ち込まれて、リングに大きくヒビが入った。

振り返りながら着地した剣士郎は、即座に技を繰り出した。

 

「飛天御剣流……九頭龍閃!!」

 

防御不能、回避不能のその一撃を受けて、アリーゼは大きく吹き飛ばされた。

 

『怒濤の連撃だぁぁぁぁ! 高精度カメラが捉えた通りならば、一瞬にして九撃を叩き込んでいます! なんという技だぁぁ! アリーゼ選手、防御も回避も出来ずにリングアウト! カウントが進みますが……』

 

レフェリーが5までカウントした時、瓦礫の中からアリーゼが出てきて、上がってきた。

 

アリーゼ・サガラ

残LIFE3000

クラッシュエミュレート 軽度脳震盪 軽度打撲

 

「流石に、今のは効いた……咄嗟に後ろに跳んでなかったら、今ので終わってたかも……」

 

そう言いながらアリーゼは、軽く頭を振った。どうやら、回避も防御も出来ないと悟ったアリーゼは、後ろに跳んでダメージの軽減を図ったらしい。見事な判断だろう。

 

「試合の続行は?」

 

「大丈夫です」

 

レフェリーの問い掛けに、アリーゼは短く答えてから構えた。それを見て、レフェリーは離れてから

 

「ファイっ!!」

 

と試合を再開させた。その直後、先に動いたのは剣士郎だった。だが、僅か後にアリーゼも動いていた。そして刀と拳が激突し、甲高い音が鳴り響く。

 

「あの技は、出させないよ……どうやら、少しの距離が必要みたいだからね……このまま……」

 

そう言ってアリーゼは、密着するように戦う。九頭龍閃は、突進しながら放つために多少の距離が必要なのである。アリーゼはそれを見破ったのだ。

 

「なにも、それだけではないぞ……飛天御剣流……龍巣閃!!」

 

しかし、飛天御剣流はなにも、九頭龍閃や双龍閃だけではない。目にも止まらぬ早さで、次々と攻撃を放った。

 

「なっ……くっ!?」

 

『これは、凄まじい早さの連撃だぁぁぁぁ! もはや、何連撃しているのか分かりません!』

 

アリーゼは驚きながらも、即座に防御態勢を取った。しかし、それは無駄だった。剣士郎の技は、アリーゼの全身を滅多うちにしていく。いくら防御態勢を取ろうが、防げるのは一部のみであり、そこ以外は無防備。

アリーゼは懸命に防ぐが、剣士郎は巧みに攻撃していき

 

「う、あ……」

 

アリーゼ・サガラ

残LIFE0

 

『試合終了ー!! なんということだぁぁぁ! 都市本戦にもコマを進めた経験のあるアリーゼ・サガラ選手が、初戦でルーキーに破れたぁぁぁぁぁ! 試合時間、2分09秒! 勝者、緋村剣士郎選手ぅぅぅ!!』

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

『今年は、大物ルーキーが凄いです! 次々とKO勝利やTKO勝利を量産しています!』

 

振り返りで興奮が甦ったのか、司会は終始興奮しっぱなしだ。そして、ヴィヴィオ達の情報を見た他チームのトレーナー達が

 

「このチームナカジマって、聞いたことないぞ? 一体、誰が育てたんだ?」

 

「だよな……流派も戦闘スタイルもバラバラなのに、一体どうやって……」

 

と不思議そうにしていた。それを聞いた、ディエチとノーヴェ、ユミナが

 

「まさか、仲良しの子供たちを、知り合いのお姉さんが教えてるだけ。なんて、予想出来ないよねぇ」

 

「まあ、普通は出来ないッスよ」

 

「私も、全然予想してませんでした」

 

と会話していた。この時三人は、全員分の飲み物を買っていたから気付かなかったが、近くに一人の白髪の少年が居たのだが、剣士郎の顔写真を睨み付けて

 

「抜刀斎……!」

 

と憎しみの声を漏らしていた。



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チーム同士の試合 前

第一試合を突破したチームナカジマとミウラは、その後の第二試合も無事に突破を果たした。

 

「今日の試合はここまでで、次の試合は来週だったよね?」

 

「うむ……次の試合の組み合わせは……」

 

「これは、大変そうだねぇ……」

 

観客席に居たなのは、フェイト、冬也、はやての四人は、大会運営が公開しているトーナメント表を見た。

その頃、ロッカーに続く廊下では

 

「二回戦突破、よくやった。凄いぞ、お前ら」

 

『はいっ!』

 

ノーヴェの言葉に、メンバーは元気よく頷いた。その返事に、ノーヴェとディードが頷き

 

「で、次の第三試合だが」

 

「試合は来週になりますが、その前にシード選手同士のプライムマッチがありますので、その後ですね」

 

と説明し、トーナメント表を表示させた。

 

「リオお嬢様は、シード選抜試合……ハリー・トライベッカ選手VSエルス・タスミン選手のプライムマッチで勝った方との試合になります」

 

「どっちが上がってきても、強敵だ」

 

「がんばります!」

 

ディードとノーヴェの説明を聞いて、リオは気合いを入れるために右手を握り締めた。

 

「ヴィヴィオはミウラとだ。同じ純格闘型(ピュアストライカー)同士。しかも、強襲型の強打者(ハードヒッター)と高速型の反撃型。正面からの激突になる……今まで以上に、全力でぶつかっていけ」

 

「はいっ!」

 

ノーヴェの言葉に、ヴィヴィオは力強く頷いた。次にノーヴェは、剣士郎を見て

 

「剣士郎だが、次の対戦相手は射砲撃型の魔導師だ。都市本戦にも出たことがある選手だ。手強いぞ」

 

「心得てます……射砲撃型ですか……あまり経験が無い相手ですね……」

 

「対策、一緒に考えていこうね」

 

「ありがとうございます、ディエチさん」

 

ここまではよかった。しかし、次が問題だった。

 

「アインハルト対コロナ……つまりは、同門対決だ」

 

なにせ、アインハルトとコロナの二人は、同じ予選1組なのだから、何時かは当たる可能性があった。それが、遅いか速いかの違いでしかない。

その後、チームナカジマは帰ることにして、その場で解散した。

 

「コロナちゃんとアインハルトちゃんの試合かぁ……」

 

「うん……まあ、何となくは予想してたけど……で、ころからは個別訓練が増えるってノーヴェが言ってた」

 

「だろうね……」

 

ヴィヴィオの言葉に、ユーノが納得した様子で頷いた。なにせ、同じチームとはいえ対戦相手になったのだから、同じ空間で訓練出来る訳がない。

そうして、ハリー対エルスのプライムマッチも録画で見ることにして、個別訓練を優先した。

なお、そのプライムマッチだが、本当に僅差でハリーが勝利を掴み取り、リオの相手はハリーに決まった。

 

「……明日、コロナさんに勝てば……次元世界最強(チャンピオン)と戦える……」

 

場所は変わり、アインハルトの家の自室。そこでアインハルトは、寝る準備をしながら考え事をしていた。

確かにコロナと戦うことも気になるが、アインハルトからしたら、更にその先。ジークのことが気になっていた。次元世界最強の10代少女のジークが。

ふとその時、視界の端でアスティオンが猫用のおもちゃで遊んでいるのが分かり

 

「ティオ……ティオは、コロナさんによく可愛がってもらってましたからね……明日の試合、辛いかもしれませんが……頑張りましょう」

 

アインハルトのその言葉に、アスティオンは元気に鳴いた。時は戻り、ある公園の一角

 

「おい、コロナ……こんな技、教えてないぞ! 体への負担が大き過ぎる!」

 

ノーヴェは、コロナが用意したという新しい技を受けて、コロナに抗議した。するとコロナは、申し訳なさそうに

 

「でも、教えてもらった技術の範囲内です……私だって、全力で戦いたいんです!」

 

とノーヴェに告げた。それを聞いたノーヴェは、頭をガリガリと掻いてから

 

「分かったが、あまり乱用はするな? 前にも言ったが、お前らの体はまだ成長途中だ。体を壊したら、元もこもないからな?」

 

と忠告した。

そして翌日、二人の試合が始まる。



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予想外と痛み

試合当日、第二会場。

そこでは剣士郎が、純射砲撃型の魔導師。リュカ・オールター。

身軽な動きが特徴の相手で、一度だけだが都市本戦にも出場したことのある選手である。

 

(中々早い……しかも、射撃も的確……中々にヤりづらい……)

 

剣士郎はそう考えていたが、それは相手たるリュカも同じだった。

 

(なに、この少年! こっちの出だしを読まれて、殆ど避けられてる! どんな感覚と目をしてるの!?)

 

実はこの試合、始まって2分が経過しているのだが、互いに直撃は無く、ダメージも無かった。

 

『なんという試合だぁぁ!! 互いに機動重視な選手なだけあり、狭いリングをところ狭しと駆けながら、互いに一撃も入っていない! 予想していなかった試合展開!! この試合、目が離せません!!』

 

司会は熱狂した様子だが、選手側からしたらどうでもいいことである。二人は更に攻撃していくが、中々当たらない。互いに機動先を予想しているのだが、互いに高い機動故に簡単に回避していた。まさに、千日手状態。

結局、一撃も当てられないままに第1ラウンドは終わった。

ここまで互いにダメージが入らないというのは、中々無い展開である。恐らくだが、この大会の歴史の中でも非常に珍しいのではなかろうか。

剣士郎は、セコンド役のディエチとユミナの所に戻り

 

「やれやれ……一撃も入れられないとは、予想してなかった」

 

と呟いた。それを聞きながら二人は、剣士郎を用意してた椅子に座らせて

 

「いいから、早く休んで」

 

「あんなに走ってたんだから、休まないと」

 

と剣士郎を労り始めた。ディエチはドリンクを手渡し、ユミナは剣士郎の足や腕のマッサージを始めた。そして剣士郎は、ドリンクを一口飲むと

 

「それで、アッチはどうなってますか?」

 

と問い掛けた。剣士郎が言ったアッチとは、コロナとアインハルトの試合のことである。すると、ディエチが

 

「それなんだけど……コロナちゃんが、アインハルトちゃんに善戦したんだ」

 

「……予想外でした」

 

ディエチの告げた内容に、剣士郎は素直に驚いていた。剣士郎の評価では、コロナの方が不利であった。リングという狭いフィールドでは、コロナの魔法は不向きと評価していたのだ。しかし実際は、コロナがアインハルトに善戦した。つまりは、コロナに秘策が有ったということになる。

 

「コロナちゃんとアインハルトさんのことが気になるかもしれないけど、今は自分の試合に集中しよう? 緋村君も有利とは言えないんだから」

 

「確かにそうだな」

 

ユミナの言葉に、剣士郎は同意した。互いにダメージ無しとはいえ、相手の方が経験は豊富。一瞬の隙を突かれて、倒される可能性もある。

 

「……一応、手はあります……賭けになりますが……」

 

「試合に関しては、ノーヴェから剣士郎君に任せていいって聞いてるから聞かないけど……無理だけはしないでね」

 

ディエチの言葉に頷いた直後、レフェリーが

 

「セコンドアウト! 選手、リングへ!!」

 

と声を上げながら、両腕を素早く動かした。それを見た剣士郎は、椅子から立ち上がり、リングに上がった。

そして剣士郎は、リング中央の白線まで進み、リュカと相対した。

距離は、約3m。剣士郎からしたら、刀で斬るには思い切り飛び込まないと届かない距離。しかし、射撃型のリュカからしたら目と鼻の先と言える距離。

二人が定位置に立ったのを確認したレフェリーは、下がって

 

「ファイト!!」

 

と腕を交差させた。その直後、二人はほぼ同時に動いた。リュカは一気に10個近い魔力弾を展開し布陣。

そして剣士郎は、強く体を左に捻った。

 

(さあ、何をしてくるのか……)

 

リュカは様子見を含めて、魔力弾を発射しようとした。その直後、リュカからしたら剣士郎は予想してなかったことをした。

 

「飛天御剣流……飛龍閃!!」

 

なんと剣士郎は、鞘から刀を飛ばしたのだ。

 

「なっ!?」

 

まさか自分の武器たる刀を飛ばすとは予想してなかったリュカは、驚愕で一瞬固まり、慌てて迎撃。魔力弾の一発を、迫ってくる刀に向けて放った。

その一発が当たり、刀は上に飛んでいった。

 

「危なかった……って、相手が居ない!?」

 

刀を迎撃する際、リュカはミスを犯した。リュカは刀を迎撃する為に、刀に意識を集中させ、視線を向けた。

その結果、剣士郎から目を外してしまったのだ。

剣士郎は、リュカの真上に飛んで刀を掴み

 

「飛天御剣流……龍墜・翔閃!!」

 

隙だらけだったリュカの頭に刀を振り下ろし、着地するとまるでバネのように跳ね上がって、顎を打ち上げた。

まともに喰らったリュカは、足がガクガクになっていた。そして、技を放った剣士郎が着地した時、リュカのセコンドがタオルを投げ入れた。

その意味は、降参。リュカのセコンドが、リュカがもう戦えないと判断し、投げ入れたのだ。

その直後、ゴングが鳴り響き

 

『決まったぁぁぁ! 勝者、緋村選手! まさか、自身の武器たる刀を飛ばすという大胆な技を使ってきました! その後、痛烈無比な連撃に、オールター選手のセコンドがたまらずタオルを投げ入れました!』

 

司会が熱く語る中、剣士郎は医療班に運ばれていくリュカとセコンドに対して、頭を下げていた。そして、ディエチとユミナの所に戻ると

 

「いきなり刀を飛ばした時は、驚いたよ……」

 

「あれが、緋村君が言ってた手だったんだ。あれも、飛天御剣流の技なんだ?」

 

「はい。飛龍閃と言います。土龍閃と同じ数少ない遠距離技です。まあ、相手が上じゃなく横に弾いていたら、鞘を使うしかなかったですが」

 

ユミナの問い掛けに、剣士郎はバリアジャケットを解除してから返答。そして、気になっていたのか

 

「それで、アッチは……」

 

「さっき終わったよ。アインハルトの勝ち」

 

「そうですか」

 

ディエチの告げた結果を聞き、剣士郎は目を伏せた。こう言ったら悪いが、アインハルトの勝利自体は剣士郎も予想していたことだ。予想外だったのは、コロナが善戦したということ。

 

「それで、緋村君の次の試合なんだけど、それは来週になったよ。対戦相手は、初参加の……あ、この人。雪代悟選手だって」

 

ユミナの告げた相手の名前を聞いた剣士郎は、ズキリとした頭痛を感じた。



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合流とトップランカー

試合終了後、剣士郎は急いで医務室に向かっていた。その理由は、ミウラと試合していたヴィヴィオが、ミウラの最後の技の直撃を受けてから、意識を失っているのだと言う。

 

「それで、ヴィヴィオちゃんの容態は?」

 

『命に別状は無いし、何の後遺症と無いから、大丈夫……ついさっき、クリスも再起動したわ』

 

剣士郎の問いかけに、シャマルが通信越しに返答した。それを聞いた剣士郎は、安堵した様子で

 

「それは良かった……これで、今日残された試合は、リオちゃんだけですか」

 

『そうなるわね……その試合も、もう始まってるわ』

 

リオの対戦相手は、トップランカーの一人。ハリー・トライベッカだ。砲撃型の選手の中では、頂点の一人だ。

勝つには、リオの力強さを活かすしか無いだろう。

そして、剣士郎が医務室前の廊下に到着すると

 

「あわわ」

 

「ああ、大丈夫ですか? ヴィヴィオさん」

 

倒れそうになったらしいヴィヴィオを、ミウラが支えていた。それを見た剣士郎は、安堵のタメ息を吐いてから

 

「起きたんだな、ヴィヴィオちゃん」

 

「あ、緋村先輩! はい、大丈夫です!」

 

「あ、えっと……」

 

「初めましてかな? 俺は、緋村剣士郎。ヴィヴィオちゃんと同じチームの一人だ」

 

「あ、初めまして! ミウラ・リナルディです! 八神道場の出身で、先ほどヴィヴィオさんと試合した者です!」

 

剣士郎が名乗ると、ミウラは少し緊張した様子で自己紹介してきた。実は剣士郎は、ミウラと面と向かって話すのは、今回が初めてである。ミウラの初戦の際に送ったメッセージの時は、剣士郎は試合の真っ最中だった為に写っていなかった。

 

「君のことは、聞いている。かなり強力な一撃を放つ選手だとね」

 

「あ、そのせいで、ヴィヴィオさんが意識を……」

 

「あ、いや。君を責めるつもりはない。君は全力でヴィヴィオちゃんと試合した。ただそれだけだ。それに、ヴィヴィオちゃんは、こうして無事だしね」

 

剣士郎が視線を向けると、ヴィヴィオは頷きながら

 

「そうですよ、ミウラさん。気にしないでください。それに、ミウラさんっていう強い人と戦えたので、満足です!」

 

と伝えた。それを聞いたミウラは、嬉しそうな笑みを浮かべ

 

「はい!」

 

そう頷いた。すると、ユミナが壁の時計を見て

 

「ヴィヴィオちゃん! リオちゃんの試合が始まっちゃってるよ!」

 

と少し慌てた様子で教えた。それを聞いたヴィヴィオも、慌てた様子で

 

「あわわっ! それは急がないと! ミウラさんも一緒に行きましょう!」

 

と言いながら、ミウラの手を引いて走り出した。

 

「ああ! ヴィヴィオちゃん、走らないで! 意識戻ったばっかりなんだから!!」

 

そんな二人を、ユミナは追い掛けていき、剣士郎は医務室に居た冬也やなのは、フェイトに頭を下げてから、ヴィヴィオ達の後を追い掛けた。

そして、剣士郎が試合会場に到着した時、轟音と共に会場が大きく揺れた。

その轟音と揺れの原因は、リオがリングを拳で砕いて持ち上げた音だった。

予想外だったのか、ミウラが固まっていると、ヴィヴィオが朗らかに

 

「リオ、チームナカジマの中では一番の力持ちなんですよ♪」

 

「いやいや!? それにしたって、凄すぎませんか!?」

 

ヴィヴィオの説明を聞いて、ミウラは思わず突っ込みを入れていた。ミウラも力型の選手だが、リオは更にその上を行っていた。

剣士郎も、僅かに驚いていた。

 

(あの合宿で、リオちゃんが岩を投げているのを見たが……それより更に大きいな……)

 

そしてリオは、魔法で拘束していたハリーに向けて、その塊を投げ付けた。

ハリーだが、トップランカーの中ではかなり素直な性格らしく、捕縛魔法にやたらとよく掛かる。

更に言えば、火傷や麻痺といったダメージも負いやすい。だが、簡単には倒れないタフネスさ。そして、敗北した際の原因を徹底的に研究し、対策を講じるその努力。

それが、ハリーをトップランカーにまで上らせた大きな要因である。そうして、年々ハリーはしぶとくなっていく。相手からしたら、ヤりづらいことこの上無いだろう。事実、実はリオも電撃で痺れさせようと、電撃を付与させた拳を繰り出していた。だがハリーは、それに合わせて頭突きを繰り出して迎撃。電撃を耐えたのだ。

しかもリオは、その頭突きにより、拳を痛めた。

それが、トップランカーという存在である。

妥協せず、上を目指し続ける者達。

今リオは、トップランカーという分厚い壁に挑む。



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因縁

リオとハリーの戦いは、リオがハリーを追い詰める程に善戦したが、ハリーが対ヴィクター用に新しく用意していた魔法で敗北した。これで、チームナカジマの初等部組は全員敗北。

これで残ったのは、中等部の剣士郎とアインハルトの二人になった。

その翌日、初等部三人は何時もの癖で早く起きてしまい、ランニングしていた。

試合というのは、本人の技量と運の両方により、試合展開は変わる。そして、大会では一回の敗北で終わってしまう。負けたことが無いというのは、優勝した人物のみになる。誰もが一度は敗北を経験し、それを糧に強くなっていく。

三人は一回泣いてから、また強くなろうと誓った。

今度は、より良い成績を目指して。

それから数時間後、試合会場。

これからアインハルトは、いよいよ10代最強と名高き相手、ジークと戦う。

ジークリンデ・エレミア、次元世界最強と名高き選手で、大会に出てからの公式敗北記録は、昨年の不戦敗しかない。正に、10代最強と言えるだろう。

アインハルトは、そのジークとの戦いに緊張していた。

 

(本当に、私の拳は世界最強に届くのだろうか……)

 

アインハルトは、ノーヴェ達との訓練を始めてから自分はそれなりに強くなったと自覚している。しかし、それが通用するかはわからない。

 

(いえ、諦める訳にはいかない……届かせます!)

 

「緊張するな、アインハルト……何時も通りにやれ」

 

緊張していることに気付いたノーヴェが、アインハルトの肩を軽く叩きながら励ました。その時

 

「両選手、リングへ!」

 

と審判が、促してきたのでアインハルトとジークはリングに上がった。そして相対し、審判が何時もの確認をしてくる。怪我は無いか、正々堂々ルールに乗っ取り戦うこと。それを聞いたアインハルトとジークは頷き、そして、白線の位置まで下がった。

それを確認した審判は、二人が構えたのを確認してから

 

「……ファイトっ!!」

 

と試合開始の合図を告げた。

この時アインハルトは、この試合が自分だけでなく、古代ベルカに関係するとは、予想もしていなかった。

試合が始まって約2分が経過したが、アインハルトはジーク相手に苦戦していた。

ジークの戦闘スタイルは、遠近両立型。しかも非常に高いレベルで纏まっており、近接戦闘は乱打と間接技、更に投げと近接射撃を織り混ぜて戦うために隙がまったくない。そして遠距離も、濃密な弾幕を形成し更に高い精度の誘導性能を有している。

しかし、誘導弾はアインハルトには効かなかった。

なにせアインハルトは、魔力弾を投げ返すことが出来る。アインハルトが魔力弾を投げ返すと、試合会場全体で驚愕の声が上がった。

ジークの猛攻に苦しめられたアインハルトだったが、何とか一矢報いた。すると、ジークは一度距離を取り

 

「うん、キミの力量はわかった……ほな、ここからは本気で行くよ」

 

と告げた。そう、今までジークは本気ではなかった。何故ならば、ジークはまだデバイスの真の形態を見せていなかった。

ジークは今まで、動きやすさ重視で装甲らしい装甲は無かった。しかし、本来は両手と前腕を覆う形の手甲がある。ジークはそれを展開し、ある構えを取った。それを見た瞬間、アインハルトだけでなく、ヴィヴィオと剣士郎の脳裏にある光景が浮かんだ。

それは、ある意味で前世と言えるだろう。正確には、古代ベルカの記憶と技術を継承したから思い出した(・・・・・)、というべきか。

それは、古代ベルカの緒王戦乱期。特に、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに関する記憶だった。

ヴィヴィオは初めて見て、剣士郎は久しぶりに先祖の記憶を見て倒れかけた。

 

「ヴィヴィオ!?」

 

「ヴィヴィオさん!?」

 

「緋村君!?」

 

倒れそうになった二人だが、ヴィヴィオは片膝を突いた状態で、剣士郎は咄嗟に柵を掴んで耐えた。

 

「い、まの……」

 

「そうか……彼女の先祖は……エレミアか……!」

 

ヴィヴィオは初めてのことに困惑し、剣士郎はどこか納得した様子で、呟いた。すると、ユミナが

 

「緋村君、ジークリンデ選手のことを知ってるの?」

 

と問い掛けてきた、彼女は格闘技ファンの為に、10代最強のジークのことを知っていた。

 

「俺が知ってるのは、正確には彼女の家柄のことだ……エレミア……古代ベルカの緒王戦乱期、エレミア家は通称で黒のエレミアと呼ばれていた……エレミア家独自の魔法格闘戦技……それが、エレミアクランツ」

 

剣士郎がそこまで説明を終えた時

 

「エレミアアァァァァァアア!!」

 

普段は物静かなアインハルトが、喉が張り裂けんばかりの怒声を上げながらジークに突撃した。そこからアインハルトは、まるで怒り狂った猛獣のようにダメージを無視して攻撃する。

 

「アインハルトさん!」

 

「ストラトスさん!?」

 

普段からは想像も出来ないアインハルトの姿に、ヴィヴィオ達は驚いた。ノーヴェ達も冷静になるよう声を掛けるが、アインハルトは聞かずに猛攻する。

すると、アインハルトの拳を掴んだジークが至近距離で魔力弾を撃ち込み、吹き飛ばした。

その一撃は、アインハルトに大ダメージを与えた。

このまま試合を続行するのは、余りにも無謀と誰もが思った時、第1ラウンド終了を知らせるゴングが鳴った。

ここから、古代ベルカ緒王戦乱期の因縁が始まった。



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因縁

エレミアクランツ

それは、古代ベルカの時代に於いて、まだ魔法格闘戦技という概念が無かった時代に、エレミアの一族が代々受け継ぎ、築き上げた魔法格闘戦技だ。

そして、古代ベルカに於いてはある事実があった。

それは、《黒のエレミアの前に、あらゆる命は価値を持たない》。という事実。

これは、エレミアクランツを納めたエレミア一族と敵対した相手は、例外なく命を落としたからだ。

 

「そして、エレミア一族はある魔法に特化している……」

 

「ある魔法……?」

 

「……イレイザーだ」

 

「イレイザー!? それって、最高難易度の!?」

 

剣士郎の説明を聞いて、ユミナは驚いた。

消去魔法、イレイザー

その名前の通り、あらゆる物質を消すことが出来る魔法だが、魔法の発動もだが維持も非常に難しく、魔法の中でも最高難度の魔法とされている。

余談だが、ハリーも発動に時間が掛かるものの、イレイザーを使える。

そして剣士郎が説明を終えた時、剣士郎、ヴィヴィオはゾワリと背筋に悪寒を感じた。

リングに視線を向けると、ジークから凄まじい圧が放たれ、目付きが変わっていた。そして、その両手には黒い魔力が纏っていた。

 

「イレイザーだ!」

 

「アインハルトさん!」

 

ジークが技を繰り出すと、リングが抉れ、更に壁に大きなクレーターが出来た。

その痕跡が、ジークの魔法の威力を物語っている。気付けば、ノーヴェが何時でもタオルを投げられるようにしている。

アインハルトの防御力は高くないので、下手したら命に関わるかもしれない。

実は昨年の大会で、ミカヤがジークのイレイザーの一撃を受けて、右手を手首から骨折してしまっていた。

エミュレートを超えて、実際にダメージを負ったのだ。

実はこの試合が始まる前に、ミカヤがノーヴェにもしジークがイレイザーを使い始めたら、通称で《エレミアの神髄》になったら、何時でもタオルを投げられるようにしているようにと助言していたのだ。

その頃、リング付近

 

「なーんか、リングの方が騒がしいな……」

 

と言いながら、ツンツン頭の男がリングへの通路を歩いていた。すると、一人のスタッフが

 

「待ちなさい、この先は選手やセコンド。スタッフ以外の立ち入りは……」

 

とその男を止めようとした。しかし、その男。八神当麻は軽く手を振りながら

 

「一応、ジークのセコンド。まあ、今日初めて来たけど」

 

と言って、試合会場に入った。そして、エレミアの神髄状態のジークを見て

 

「あー……ジークの奴……」

 

と少し面倒そうに、頭を掻いた。その直後、ジークは素早くアインハルトの四肢を攻撃し、動きを封じた後に一気に腕を振り上げた。

 

「あぁ……あれは不味い……」

 

当麻はそう呟いて、ジークのセコンド役として立っていたエルスの前に割り込み

 

「君、ちょっと動くなよ?」

 

「え、ちょっ、誰ですか!?」

 

驚くエルスを尻目に、当麻はジークが放ったイレイザーの一撃を右手で受け止めると

 

「こら、ジーク! それ、使いたくないって言ってただろうが!」

 

と怒った。その直後、ジークの雰囲気が元に戻り、イレイザーが消えた。それを見た当麻は、深々と嘆息した。

この後、ジークがアインハルトに勝利し試合は終了。

それから、約一時間後

試合会場の一角の廊下を、エルス、ヴィクター、ハリーの三人が歩いていた。すると、ある一室。アインハルトの病室からはやてと冬也が出てきて、それを見たヴィクターが

 

「まさか、このお二人がここに居るなんて……」

 

と驚いた。すると、エルスが

 

「ヴィクターさんは、あのお二人を知ってるんですか?」

 

「お名前と役職位は」

 

エルスの問い掛けに、ヴィクターがそう答えた。すると、はやてと冬也が気づいたらしく

 

「お疲れ様や、タスミン選手にダールグリュン選手。時空管理局海上警備隊所属の八神はやて二等陸佐や」

 

「初めまして、になるかな? 時空管理局強襲制圧部隊隊長の神代冬也二等空佐だ」

 

と自己紹介しながら、時空管理局の身分証明書を提示した。すると、ヴィクターが一歩前に出て

 

「初めまして。ヴィクトーリア・ダールグリュンです。お二方の噂は、常々聞いてます」

 

と挨拶した。ハリーもはやてと冬也の名前は知っているようで驚いているが、エルスは内心でハイテンションになっていた。

 

(八神はやて二等陸佐って、あのJS&R事件を解決に導いた奇跡の部隊。機動六課の隊長を勤めた!? それに、神代冬也二等空佐は、時空管理局初の攻勢部隊の隊長!? 時空管理局でも、随一の犯人制圧を誇る精鋭部隊!!)

 

実はエルス、かなりミーハーな面があったりする。

そこに、チームナカジマの初等部三人娘と剣士郎、ユミナを連れたミカヤが現れた。

 

「あ、ありがとうな、ミカヤん♪」

 

(ミカヤん!?)

 

はやてが呼んだアダ名を聞いて、エルスが驚いた。そして、ジークと当麻が来たのを確認したはやてが

 

「さて……今回のことは、古代ベルカが関係しとる……今回のことも含めて、ちょっとばかり場所を変えて話をしようか……でないと、少しばかりしこりが残りそうやからね」

 

と告げ、その場の一同は頷いた。その後、はやてと冬也の引率で、一同は管理局地上本部近くのあるホテルの一室を借りて、そこで夕食を食べながら話すことにした。

ここから、古代ベルカ。その中でも謎に包まれた緒王戦乱期に端を発する話を振り返る。



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振り返り

試合会場から場所は変わり、あるホテルの上層階の一室に、一同は集まっていた。

 

「うおー! すっげぇ!!」

 

「こんなホテル、初めて来ました ……」

 

ハリーやエルスは、高級ホテルの上層階から見える景色に驚いていた。確かにトップファイターの彼女達だが、本来はただの学生であり、今居る高級ホテルは簡単には来れない場所だ。

 

「いやぁ、ごめんなぁ。こんな時間に、来てもろうて」

 

「お詫びってわけじゃあないが、こっちで軽く晩御飯とデザートを用意させてもらったから、好きに食ってくれな」

 

はやてと当麻がそう説明すると、扉が開けられて何台ものカートで様々な料理が運ばれてきた。

 

「あ、あのはやてさん……なんか、ここに居るの場違いな気がするんですが……」

 

「ええから、気にせんでいっぱい食べな」

 

はやてはそう言って、困惑していたミウラにお皿を手渡した。そして、各々が料理を食べ始めると

 

「一応こちらから、連絡がつく各家庭には連絡したぞ。はやて」

 

と冬也が告げた。

 

「ありがとうなぁ、冬也はん」

 

「まあ、幾ら大会で遅くなるからって、この時間は心配になるからな」

 

はやては感謝し、当麻は時計を見た。時間は、午後9時半を少し過ぎた所。確かに、心配する時間だ。

そこに、ヴィクターが近付き

 

「八神司令、神代隊長。此度は、このような席を設けていただき、感謝いたします……ただ、ジークは……」

 

「分かっとるよ……ただ、今回の件は話し合わないとしこりを残すことになると思うんよ……あの試合内容……どうやら、古代ベルカ……それも、緒王戦乱期関連や……」

 

ヴィクターが言い澱んでいると、はやては真剣な表情で言った。そしてはやては、料理を食べている子供達を見て

 

「えっと、皆。料理食べながらでええから、ちょっと聞いてくれんか?」

 

と声をあげた。はやての声に反応し、子供達の視線がはやてに集中した。それを確認したはやては

 

「皆、今回の試合……アインハルトちゃんとエレミアちゃんの試合……普通じゃないって、気付いたと思うんやけど……その原因は、古代ベルカの緒王戦乱期に関係あるんや……」

 

はやてがそこまで言うと、ジークとアインハルトが頷いた。

 

「黒のエレミアに覇王イングヴァルト……それに飛天御剣流……その中心に居るのが、聖王……それだけやなく、今この場には古代ベルカに関係する子が多い……まあうちもやけど、雷帝の血を引くヴィクター……後この場には居らんけど、王直系の知り合いが居る……」

 

はやての言葉に、ヴィクターも反応して挨拶した。

 

「これから話すんは、恐らく歴史的真事実もある筈やけど……話すことでお互いに理解しあい、しこりを無くしたいんや……これは、古代ベルカの最後の夜天の王としてのお願いでもあるし、老婆心や」

 

はやてがそこで区切ると、アインハルトが語り始めた。それは、遥か過去の実話。緒王戦乱期も末期に近づいた頃、ある一つの王の国に聖王家から一人の王女が来た。

それを出迎えたのは、若いというよりも幼いと言える、後の覇王たるクラウス・イングヴァルト。

その王女というのが、後にゆりかごの聖王と呼ばれるオリヴィエ・ゼーゲブレヒトだった。

二人は年齢が近いのと、以前から文通をしていたために直ぐ仲良くなった。

その後、オリヴィエはクラウスに友人達を紹介した。

一人は、オリヴィエの護衛をしている剣士、緋村剣治。剣士郎の先祖である。

そしてもう一人は、オリヴィエの義手を作り、格闘技を教えたヴィルフリッド・エレミア。通称リッド。ジークの先祖にあたる。

そこまで聞いて、ジークとヴィクターが

 

「やっぱり、ウチのご先祖と関連あったんやね……」

 

「ジークは、そのご先祖様の事を覚えてないの?」

 

「……残念やけど、ウチは個人の記憶は覚えてないんや……」

 

どうやら、ジークは個人ではなく先祖全員の知識を継承しているらしい。すると、剣士郎が

 

「……個人の記憶を継承するのは、強い未練が理由と聞いています……そして先祖全体は、先祖全体の何らかの思いが強いと起きるらしい……俺やアインハルトの場合は……オリヴィエ王女を助けられなかったという未練が理由だ……」

 

と語った。つまり、クラウスと剣治はよほど未練が強かったことになる。

そこから、またアインハルトは語る。四人は仲良くなり、共に勉強や武術を切磋琢磨していった。

平和な一時が続いてほしいと、四人は思った。しかし、それは時代が許してくれなかった。

四人が成長し、青年と呼ばれる年齢になった頃、聖王家に対して緒王連合が宣戦布告。

戦端は開かれ、その影響は四人とその周囲にも波及した。

どちらが先か分からないが、禁断兵器と呼ばれる兵器が開発され、戦場に投入された。禁断兵器の影響で自然が破壊され、農作物にも大打撃を受けた。

空は常に灰色の雲に覆われ、例え雨が降っても恵み等ではなく、病をもたらした。

そんな時代を終わらせようと、四人は必死に駆け抜けた。戦場を、国と国を駆けた。

しかし、そんな四人を嘲笑うかのように状況は悪化していき、聖王家はある決断を下した。

それが、ゆりかごの投入である。

聖王家が有する決戦兵器、ゆりかご。その力は絶大で、あっという間に戦争は終結した。

そしてクラウスは、オリヴィエと再会することは無かった。

 

「クラウスは、オリヴィエに拳を繰り出してまで止めようとしました……しかしクラウスは敗れ……二度とオリヴィエとは再会出来ませんでした……」

 

「……ウチのご先祖様は……」

 

「リッドは、時々フラりと居なくなっては半年程連絡も無いことがありまして……その時も、居なかったんです……」

 

ジークの問い掛けに、アインハルトが答えると、ヴィクターがジークの耳元で小声で

 

「その放浪癖……貴女(子孫)にも受け継がれてますわね」

 

「うぅ……い、今は違うんよ……」

 

ヴィクターの言葉に、ジークは苦い表情を浮かべながら一応反論した。今は八神家に居候してるジークだが、その前は色々な場所に行っており、ヴィクターでも所在地を把握するのが難しいことが多々あった。

 

「それで、クラウス殿下は不義理な友達を恨んでたんやろうか……」

 

「それは無い筈です!」

 

ジークが俯くと、そんなジークの手をヴィヴィオが握った。そしてヴィヴィオは、アインハルトを見て

 

「クラウス殿下は、大切な友人を一度に失ったんですから……悲しかったんですよね?」

 

「……そうですね……リッドと緋村にもやむにやまれないことがあったとは理解していましたが……リッドに関しては一度殴りたいとは思っていたようですが」

 

「あぁー」

 

アインハルトの言葉に納得したのか、ジークは頷いた。そしてアインハルトは、剣士郎を見て

 

「緋村に関しては、途中から人斬り抜刀斎の噂が聞こえてきて、何となくは察していたようですが……」

 

「だろうな……剣の鍛練を、何度も行った記憶があるからな……」

 

アインハルトの話に、剣士郎も納得していた。記憶が残っていたらしい。そこまで聞いて、ハリー達が

 

「いやぁ……凄い話を聞いたなぁ……」

 

「貴重な歴史の授業っすね」

 

「謎に包まれてた、緒王戦乱期……そんな経緯があったなんて……」

 

と感心していた。やはり学生なだけあり、かなり興味深いようだ。

 

「そうなると……ウチのご先祖様がどうしてたか、どう思ってたんが気になるなぁ……」

 

「そういった書物は、無かったん?」

 

「元々、ジークの一族は流浪の民……私の先祖が敷地と家を提供するまであちこち行ってたみたいで……家に残ってるのは、エレミアクランツに関する物ばかりで……」

 

エレミアとはやての会話を聞いて、ヴィクターが横から説明した。すると、ヴィヴィオが

 

「今のお話を聞いて、一つ思い出したんですが……エレミアの手記に関する本が、管理局の無限書庫に有ったような気がするんです」

 

と発言した。それを聞いて、リオとコロナの二人も

 

「あ、はいはーい! 私も見覚えがある!」

 

「私も、見た記憶がある!」

 

と手を挙げた。それを聞いて、エルスとミカヤが

 

「なるほど、無限書庫ですか……」

 

「確かに……あそこならば、有っても可笑しくはないね」

 

と納得していた。三人の話を聞いて、行ってみようという話に纏まり

 

「八神司令、神代隊長……そちらから無限書庫の閲覧許可が取れますか?」

 

とヴィクターが問い掛けた。

 

「んー……確かに、ウチらからも取れるけど……」

 

「それよりも、早く確実な方法がある……ヴィヴィオ、リオちゃん、コロナちゃん」

 

冬也が視線を向けると、ヴィヴィオ達は頷き

 

「実は私達、無限書庫の司書の資格を持ってます!」

 

と資格を提示した。

 

『ええぇぇぇぇ!?』

 

それを知り、ほとんどのメンバーは驚愕した。そして、いの一番にハリーが

 

「そんな資格を持ってるって、お前らどんな小学生だ!?」

 

「あははー」

 

「まあ、ちょっとした伝がありまして……」

 

ハリーの言葉に、リオとコロナは困ったような笑みを浮かべた。すると、ヴィヴィオが通信ウィンドウを開き

 

「あ、ユーノパパ? 今大丈夫?」

 

『ん? 大丈夫だけど、どうしたんだい?』

 

ユーノと通信を始めた。

 

「明日なんだけど、エレミアの手記を探しに行きたいんだけど……平気かな?」

 

『……ああ、大丈夫だよ。ただ、未整理区画だから気をつけてね?』

 

「大丈夫だよ! 八神司令に冬也パパも居るから!」

 

『ああ、その二人が居るなら平気かな? ただ、僕も司書長室に居るようにするから、何かあったら直ぐに連絡するように』

 

「はーい!」

 

ヴィヴィオとユーノの通信が終わると、ミカヤが

 

「今、ユーノ総合司書長を、パパと呼んでいたが……神代隊長もパパと呼んでいたね?」

 

とヴィヴィオに問い掛けた。

 

「あー……えっと」

 

「正確には、なのはとユーノが義理の両親で、フェイトと俺はヴィヴィオが小さい時から一緒に面倒を見ていたから、ヴィヴィオからしたら第二の両親という認識になったんだ」

 

ヴィヴィオがどう説明すればいいか迷っていると、冬也がヴィヴィオの頭を撫でながら説明した。その間に、ヴィクターがはやてに歩み寄り

 

「申し訳ありません、八神司令……このような大人数になってしまい……」

 

「かまへんよ……今確認したけど、確かにエレミアの手記は有る……けど、ユーノ君が言ってた通りに無限書庫の未整理区画や……」

 

はやては快諾すると、ユーノから送られてきたらしいデータを確認しながら告げた。

無限書庫、その名前の通りに無限に広がる書庫で、開拓と整理が始まって約10年近く経つが、未だに新しい区画が見つかったりするために終わる目処が立たない。

しかしその分、非常に珍しい書籍が見つかることも多く、確認された一番古い本は6500年前の本になる。

 

「はやて、本局内部の空いている部屋を、人数分確保したぞ」

 

「流石や、冬也はん。ありがとうな」

 

冬也の考えに気付き、はやては

 

「ほなら、今から各家庭に電話するから。子供達は皆集まって!」

 

と子供達を呼んだ。こうして、格闘技選手達による無限書庫探索が決まったのだった。



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無限書庫へ

時空管理局本局、住宅区画。

ここは、時空管理局本局に勤める局員やその家族。それだけでなく、やむにやまれぬ事情で、引き取られた子供達等が住んでいる場所である。

 

「うぉー! 凄い広ぇー!!」

 

「ここだけで、完全に町になってますねえ……」

 

中を初めて見たのか、ハリー達が興奮している。すると、冬也が

 

「デバイスを出してくれ。今から、割り振られた部屋のデータを送る」

 

と自身のデバイスを掲げた。そして冬也が、各人に使い捨て式のキーコードデータを送っていた時

 

(という訳で、こっちはこんな関してなんやけど……そっちはどうや? ルー子?)

 

(はいはーい。こっちも順調ですよー♪)

 

場所は変わって、あるホテル

そこにはルーテシアが泊まっているのだが、はやてのある考えで、アインハルト達の話を聞いていたのと、監視を行っていたのだ。

 

「相変わらず、窃視と盗聴は続いてますねー。だけど、大分絞れましたよー」

 

(ごめんなぁ。ルー子も選手なのに、こんなこと頼んで)

 

「いえいえ、得意分野ですから、お任せー」

 

実ははやては、今回の話を誰かが窃視と盗聴をしてくるのではないか、と予想してルーテシアにその逆探知を頼んでいたのだ。

そしてどうやら、その考えは当たっていたらしい。

未だに特定は出来ていないが、何者かが話を盗み聞きしていたようだ。

 

「こっちの対応は、私にお任せですよー」

 

(ありがとうなぁ。今度、当麻君の特製ケーキをご馳走するからなぁ)

 

「期待してまーす!」

 

やはりルーテシアも年頃の少女なので、甘い物には目がない。そういう意味では、ケーキは特上のご褒美だった。

 

「さてさて……まだ続いてるけど……私の逆探知にも気付き始めてきたかな? けど、もう遅いんだよなぁ……さぁて、悪い子は誰かなぁ?」

 

そういうルーテシアの顔は、かなり楽しそうであった。

その盗み聞きしている相手。DSAA参加選手の中では、異彩を放つ選手。ミッドでもベルカでもない古代の魔法の使い手。ファビア・クロゼルグ。

年齢はヴィヴィオと同い年で、実はルーテシアの次の対戦相手でもあり、更にはルーテシアが注目している相手でもあった。

 

「……気付かれた?」

 

その時になって、ようやくファビアは自身の盗み聞きが逆探知されていることに気付いた。しかし、慌てる素振りは無く、立ち上がると周りに居る人形のような使い魔たるプチデビルズの頭を撫でて

 

「無限書庫……行く準備をしようか」

 

と言って、立ち上がった。

そして、翌日の朝。時空管理局本局の無限書庫前に、全員が集まっていた。全員が居るのを確認したヴィヴィオは、先導する形で無限書庫に入った。

入ると、中には様々な書籍が納められた本棚が見えた。

 

「おー……凄い本の数だなぁ……」

 

「ここは、一般解放区画です! 無限書庫で見つかった本の中から、此方に置いても大丈夫な本や重複してる本が置いてあります!」

 

ハリーが驚いていると、ヴィヴィオはそう説明しながら受付に近づいた。すると、座っていた局員も気付いたようで

 

「おはよう、ヴィヴィオ」

 

「一応司書長から聞いてるけど、一般の人達が入るって聞いてるよ」

 

と端末を操作しながら聞いてきた。

 

「えっと、一般というより……こちらのDSAAトップファイターの人達も居ます」

 

「わ、わあ……テレビで見たことある子達が居る!」

 

「サイン貰えるかな……」

 

いくら局員とはいえ、よほどのことがない限り、接点が得られない人物達を前にして、受付の局員達は驚いた。

 

「サインだそうだよ、ジーク」

 

「ウチですか!?」

 

突然話を振られて、驚くジークを端目に

 

「後……こちらのお二人も一緒です」

 

「お疲れ様や」

 

「お疲れ」

 

『お、お疲れ様です!!』

 

ヴィヴィオが視線を向けると、はやてと冬也が軽く挨拶したのだが、受付席に座っていた局員達は緊張した様子で立ち上がった。

まあ、いきなり時空管理局でも有名な二人がいきなり目の前に居るのだから、無理も無いだろう。

そしてヴィヴィオの手続きで、立ち入り制限区画に転移するための転移ゲートの前に立つと

 

「では、今から立ち入り制限区画に転移します」

 

「そして予定しているバランスは、未整理区画と言いまして、先行調査隊により罠等は解除されてる筈ですが、まだ危険なことには変わりません」

 

「それに聞いた話では、古代の魔法使いが放ったらしい危険生物やゴーレム……幽霊が出たこともあるとか」

 

「ウソん!?」

 

幽霊という言葉を聞いて、驚くジーク。そして、震えるエルスとミウラ。どうやら、エルスとミウラは幽霊がダメな様子。

そして一行はゲートを使って、立ち入り制限区画に入った。この立ち入り制限区画は、通常は司書資格を有する人物か局員でも上の階級の人員しか入れないが、今回はヴィヴィオが事前に申請していたので、一応一般人の立ち入りも許可された。

そしてその立ち入り制限区画は、無重力区画になっている。

 

「わ、わ、わ!?」

 

「大丈夫ですか、ミウラさん?」

 

「す、すいません、ヴィヴィオさん……」

 

早速バランスを崩し、あらぬ方向に飛びかけたミウラを、ヴィヴィオが助けた。

 

「わっはっは! どうした、抜剣娘! 体幹がなってないぞ!」

 

「い、いや……リーダーも割りとダメダメです……」

 

「掴まれ、ハリー」

 

ミウラを笑うハリーだが、そんなハリーはグルグルと回っている。そんなハリーをミカヤが捕まえて

 

「あれ、エルスさんは普通に行けるんですね?」

 

「飛行魔法は習得済みですので」

 

リオが視線を向けると、エルスは普通に飛んでいた。どうやら、飛行魔法は覚えていたらしい。

そうして、一行は目的の区画に向かう。

そこで、ある因縁に出会うとは知らずに。



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襲撃者

立ち入り制限区画に入った一同は、そのまま目的の場所に向かった。無限書庫の立ち入り制限区画は無重力区画で、飛行魔法を修得していないと移動は慣れないだろう。

ヴィヴィオがミウラを補助し、アインハルトとジークの近くには冬也が居る。

ハリーの近くには、彼女の舎弟(妹?)とエルスが居る。そうやって、一同は該当の場所に向かっていく。

 

「えっと……私達が探す本があるのは……」

 

「あ、ここですね」

 

「見ての通り、迷宮型です!」

 

三人はテンション高めで、一同の前に現れた巨大な扉を指差した。それを見て、微笑ましい気分のミカヤ、エルス、ヴィクター達。そして扉を開けて

 

「とりあえず、ありそうな場所は八ヶ所程にまで絞りこみましたから……別れて探しましょう!」

 

「ただ、中は迷路みたいだから……」

 

「皆、デバイス出してなー」

 

「ビーコン登録して、迷ったら連絡を……迎えに行く」

 

はやてと冬也の言葉を聞いて、デバイスを持っているメンバーは二人に近寄る。だが、ヴィヴィオとアインハルトは向かわない。すると、アインハルトが申し訳なさそうに

 

「すいません、ヴィヴィオさん……ヴィヴィオさんのクリスは、私のティオの……」

 

「ああ、大丈夫ですよ!」

 

実はヴィヴィオのクリスは、調子が悪いティオの面倒を見るために今はヴィヴィオから離れているのだ、

直ったら、リィンが持ってきてくれる手筈になっている。

 

「それじゃあ、組分けは……」

 

組分けは、以下になった。

ハリー組・エルス

ミカヤ・リオ

ヴィクター・コロナ・ユミナ

アインハルト・ジーク

ヴィヴィオ・ミウラ・剣士郎

各組は古代ベルカが読める人物を最低一人居るようにし、検索魔法は慣れが必要な為に、検索魔法が使えるヴィヴィオ達はバラバラに別れた。

先に探し終わった組は、他の応援か他の場所に回ることにした。

子供達は中に入り、ノーヴェ、冬也、はやての三人は入り口で待機していたのだが

 

「……なんか、変な感じせえへんか?」

 

「確かに……何やら、違和感があるな……」

 

「本当ですか? ……ジェットは異常無しって言ってますが……」

 

はやてと冬也は違和感を感じ、怪訝そうな表情を浮かべた。実はこの時、既に内部にヴィヴィオ達以外の人物が侵入していて、既に動き始めていた。

 

「ここが、私達が担当する区画ですね!」

 

「中々の量だな……これは、苦労しそうだ」

 

「ふわぁ……凄い本の数ですね……」

 

ヴィヴィオとミウラ、剣士郎が担当するのは円形の部屋で、その壁一面が全て本棚になっていた。ミウラと剣士郎は検索魔法は使えないために、もし一冊ずつ調べるとしたらかなりの時間が掛かっただろう。

 

「私にお任せです! 検索魔法は得意なんで!」

 

「流石、現役の無限書庫司書だね……俺は補佐に回ろう」

 

「あ、ボクも手伝います!」

 

ヴィヴィオが検索魔法で探し始め、ミウラと剣士郎はヴィヴィオの検索魔法で出てきた本の確認を始めた。そして、ある程度探していた時

 

「はれ?」

 

「ヴィヴィオさん? どうしました?」

 

「今一瞬、リオから通信が……直ぐに切れたんですけど……」

 

「なに?」

 

どうやらリオがヴィヴィオに通信してきたようだが、直ぐに切れてしまったらしい。それが気になったヴィヴィオは、リオに通信を繋げようとしたが、中々繋がらない。

 

「……二人とも、念のために構えて……」

 

嫌な予感を感じ、剣士郎は二人に注意喚起しようとした。その直後、ドアを突き破って誰かが突入してきた。それを見て、剣士郎は直ぐ様デバイスを展開し突入してきた相手の一撃を防いだ。

 

「誰だ!?」

 

「剣士郎さん!?」

 

「え、何事!?」

 

剣士郎に斬りかかったのは、短い白髪が特徴の少年だった。年齢的には、剣士郎と同年代なのは間違いないだろう。

 

「くっ……!」

 

「人斬り抜刀斉……! ようやくだ、ようやく……! 我が先祖の復讐が叶う!!」

 

最初は押され石像に押し付けられた剣士郎だったが、辛うじて弾き飛ばした。すると、相手は憎しみが籠った声と目をしていた。

 

「あれ……確か、雪代悟選手!?」

 

相手の顔を見て、ヴィヴィオが相手の名前の言った。ほぼ同時に、剣士郎も

 

「まさか……綾の!?」

 

「貴様が、その名前を言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

剣士郎がある名前を言った注意、相手。雪代悟は、激昂しながら再び突撃してきた。剣士郎は得意の先読みで受け流そうとしたが、悟は刀身に蹴りを叩き込んで斬撃の速度を加速させた。

 

「なっ!? があぁぁぁぁぁ!?」

 

予想外の加速に、剣士郎は受け流し損ねて、大きく吹き飛ばされて石像を破壊。そのまま壁に激突した。

だが剣士郎は、直ぐに壁から離れた。そこに、悟が追撃を加えて、壁に刀身がめり込んだ。

 

「あの剣……柄はリオのに似てるけど……刀身は、刀!?」

 

ヴィヴィオは悟のデバイスが、剣士郎やミカヤと同じ刀だと気付いた。しかし、相手の戦闘技法は見たことないもので、かなり独自性が強かった。どちらかと言うと、 リオが使う春光拳に近かった。

 

「剣士郎さん!」

 

「こいつは、俺が! もう一人に気を付けろ!!」

 

剣士郎は悟の一撃を受け止めると、ヴィヴィオに忠告した。その時になってヴィヴィオは、もう一人居ることに気付いた。

その人物も、ヴィヴィオは知っていた。

 

「貴女は、ファビア・クロゼルグ選手!?」

 

異彩の選手、ファビアだった。

過去の因縁が、振り掛かる。



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突入

「貴女は……ファビア・クロゼルグ選手?」

 

「……行って」

 

ヴィヴィオはファビアの名前を言うが、ファビアは無視して傍らでフヨフヨと飛んでいたコウモリに指示を出した。その直後、そのコウモリが一気に巨大化してヴィヴィオとミウラに接近してきたが

 

「ディバイン……バスター!!」

 

なのは直伝の直射砲がコウモリに直撃し、コウモリは吹き飛ばされた。そして、ヴィヴィオは交戦の意志が無いことを示すようにミウラを支えながら手を開き

 

「お話しましょう? 何かあったのなら、聞きますから」

 

とファビアに語りかけた。しかし、ファビアは聞かずに

 

「魔女の誇りを傷つけし者……未来永劫呪われよ……暗黒遮蔽」

 

視界を奪う魔法を発動し、ミウラとヴィヴィオの視界を真っ暗にした。そして、近くに寄ったコウモリに

 

「行って」

 

と指示を出し、その指示を受けてコウモリはなんとヴィヴィオとミウラを丸のみにした。そして、口をモゴモゴとしてから、何かを吐き出した。それは、二人の服と一つの瓶。その瓶の中には、ミウラの姿があったが

 

「……もう一人は居ない? 名前を間違えたかな……まあ、関係ない……これで、ゆっくりと探せる」

 

と呟き、その瓶をポケットに仕舞った。実は一回目にコウモリを跳ばす前に二人の名前を言っていたのだが、ミウラ・リナルディ、ヴィヴィオ・S・タナマチ(・・・・)と間違えて呼んでいたのだ。

コウモリを使い、瓶に封印する魔法は、相手の名前を正確に把握し、更に相手がコウモリの目を見るのが条件なのだ。

だが、ファビアはヴィヴィオの名前を間違えていた。故に、ヴィヴィオは瓶に封印はされなかった。

なお、少し前にアインハルトは瓶に封印し、ジークは魔法で小さくしている。そして、ハリー達とリオとミカヤも瓶に封印され、ファビアの使い魔の一体に預けて、人質とし、コロナとヴィクターの元に向かわせている。

ファビアの目的は、エレミアの手記の回収だ。

そして雪代悟は、剣士郎への復讐のために、ファビアに協力した。

その頃、門の入り口付近ではノーヴェが不安そうに門を観ていたが

 

「ノーヴェ!」

 

「つっ! リィンさん!」

 

ノーヴェの場所に、リィンが飛んできた。

 

「話は、はやてちゃんから聞いてるです! はやてちゃんと冬也さんはどうしたですか!?」

 

「お二人なら、既に中に突入しました。ですが、どうやら空間隔絶系の結界が展開されてるらしく、チビ達だけでなく、お二人とも連絡出来ません!」

 

リィンの問い掛けに、ノーヴェは出来るだけ正確に答えた。リィンが到着する少し前に、はやてと冬也は中に突入し、事態の解決に動いていた。ノーヴェは後から来るリィンの為に、伝言役を任されたのだ。

 

「分かりました! 今から、私も中に入るです!」

 

「待ってください、だったら後から来る双子と私も一緒に!」

 

ノーヴェがそう提案するが、リィンは首を振り

 

「いえ、ノーヴェは念のためにここで待機を。それに、既に中には八神家(ウチ)の秘蔵っ子が入ってるです!」

 

自信満々に、そう告げた。

その時、突入したはやてと冬也は資料とは違う見た目になっていた中を見て

 

「冬也はん……これは……」

 

「……ミッドと近代ベルカ、古代ベルカのどれとも違う……感覚的には、ネギ君の使っていた魔法に近いが……いずれにせよ、相手は相当の腕だ……この結界……空間隔絶もだが、空間接続がランダムになっているようだな……」

 

はやての短い問い掛けに、冬也は周囲を見回しながら答えた。そして、冬也は夜叉を展開し、はやても夜天の書を展開した。

 

「子供たちの安全が第一や!」

 

「強引だが、押しとおる!」

 

そして、はやてと冬也は、ファビアが置いたらしい迎撃魔法の突破を開始した。

場所は戻り、ファビアはエレミアの手記を探していた。しかし、その蔵書数はかなり有るので、検索魔法が使えないファビアは一冊ずつ本を確認するしかなく、時間が掛かっていた。

その時

 

「はーい、そこまで」

 

と新たな声。振り向いたファビアが見つけたのは、天井付近に居た一人の少女。ルーテシアだった。

 

「貴女は確か……私の次の対戦相手の……」

 

「時空管理局嘱託魔導師、ルーテシア・アルピーノです。盗聴と窃視、更に無許可での無限書庫立ち入り制限区画への立ち入り。その他諸々のことで、同行を願います」

 

ルーテシアは自身の身分証明書を提示しながら、ファビアに同行するように求めた。だが、ファビアは無視し

 

「ルーテシア・アルピーノ……これを見て」

 

と言って、コウモリを掲げた。次の瞬間、コウモリは巨大化し、ルーテシアを丸のみしようとした。だが、ルーテシアは冷静に

 

「ソニック」

 

とだけ呟いた。その直後、コウモリは口を閉じたのだが、困惑した表情で口をモゴモゴと動かしていた。すると

 

「うん……古典的な魔法だね……古い魔法ばかり使ってるから、時代に取り残されるんだよ? 今の時代は、速さが主流だよ?」

 

気付けば、ファビアのすぐ間近にルーテシアが居た。しかも、その両腕には意識が無い裸のヴィヴィオが抱かれていた。

実はルーテシアは、コウモリの口の中にヴィヴィオが居るのを見つけていて、ソニックムーヴでコウモリの口の中に入って救出、脱出していたのだ。

更に

 

「にゃー!」

 

と鳴き声を挙げながら、ティオがファビアのポケットからアインハルトが封印されていた瓶を回収し、ルーテシアと合流した。

 

「ティオ、ナイス♪」

 

「にゃー♪」

 

ルーテシアはティオを褒めながら、ヴィヴィオを何処からともなく取り出した布でくるんでから

 

「クリス、ティオと一緒に少し離れててね」

 

自身の肩に掴まっていたクリスに、ヴィヴィオを任せた。そして、改めてルーテシアはファビアに対し

 

「最終通告です、同行を願います……さもなくば、実力行使に出ます」

 

と告げた。しかし、ファビアは無視した。それを見たルーテシアは

 

「んじゃ、仕方ないね……いたずらっ子には、お仕置きが必要だね?」

 

と好戦的な笑みを浮かべた。



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逆転と郷愁

ルーテシアとファビアが戦い始めてから、数分。ルーテシアは危機に陥っていた。当初はソニックアクションで翻弄、更にはファビアには初めて見せた召喚魔法で優勢に戦っていたが、ファビアが切り札たる悪魔合身という強化魔法を使い、ルーテシアを押し始め、重力魔法で押し潰してから使い魔の一体に槍を投げさせた。

 

(こりゃ、マズい ……)

 

とルーテシアは思い、轟音を立てながら槍が突き刺さり煙が立ち込めた。勝ったと思ったファビアは、上から見ていたのだが、煙が晴れると驚いた。

ルーテシアが無事だったこともだが、ルーテシアを助けたのがデバイスを起動したアインハルトだったからだ。

 

「クラウス……つっ!?」

 

嘗ての覇王の名前を言った直後、横から接近してくる気配に気付いたファビアだったが、デバイスを起動したヴィヴィオからの一撃を受け、更にバインドで縛られた。

 

「ふう……大丈夫、ルールー?」

 

「いやぁ、助かったよ、二人共」

 

「いえ、先に助けてもらったのは、此方です」

 

残心してからヴィヴィオが問い掛けると、ルーテシアはヒラヒラと手を振りながら謝意の言葉を言って、脇に抱えていたアインハルトはゆっくりとルーテシアを降ろした。その時ルーテシアは、自分の胸元から振動を感じて、視線を向けた。すると、ファビアと交戦した際に回収していたミウラが封じられていた瓶の中のミウラが、起きて瓶を叩いていた。

 

「あ、忘れてた」

 

ミウラのことをすっかり忘れていたルーテシアは、瓶の蓋を開けてミウラを解放すると、シーツを手元に召喚し、ミウラの体に掛けた。

 

「ようやく出れましたー」

 

「いやぁ、ごめんね。ミウラ。すっかり忘れてたよ」

 

ルーテシアが謝罪すると、ミウラは手を振って

 

「いえ! 簡単に捕まってしまった、ボクが原因ですから!」

 

と告げた。その時、アインハルトは下で何かが光ったことに気付いて、光った場所に視線を向けた。そこには、瓦礫の隙間に挟まる形で2つの瓶が有り、中にはそれぞれ、ハリー達とミカヤ、リオの姿があった。

のだが、ハリーがイレイザーの準備を進めていたのだ。

 

「よっしゃぁ!! イレイザーの発動準備完了だぁ!」

 

ハリーのイレイザーは、発動するのに約5分掛かる。そしてハリーは、瓶の中でずっとイレイザーの準備をしていたのだ。しかし、そんなハリーにエルスが

 

「ま、待ってください。ハリー選手! 今は、ヴィヴィオ選手があの子を説得しようとしてますから!」

 

とハリーを止めようと試み、ハリーの舎妹達も同意するように頷いてヴィヴィオを指差した。

確かにそこでは、ヴィヴィオがファビアに対して、説得しようとしていた。

だが、ハリーは怒り心頭といった様子で

 

「うるせええぇぇ! こちとら、何分間も裸でこの中に閉じ込められてて、頭にきてんだよぉぉぉぉ!!」

 

と声を張り上げ、エルスと舎妹達は思わず抱き合った。

そして、その光景を見ていたミカヤはハリーを止められないと悟り

 

「ダメだ……ああなったハリーは、止められない」

 

「は、はいぃ……」

 

そう言って、リオを抱き締めた。

その直後

 

「ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ハリーは2つの瓶を射線に入るようにしつつ、更にはファビアも狙ってイレイザーを放った。

 

「ヴィヴィオさん!」

 

「ふえ? うわっと!?」

 

アインハルトが名前を呼んで警戒すると、振り向いたヴィヴィオは接近してくるイレイザーに気付き、ファビアを抱えて横に飛んだ。

瓶が砕けた数瞬後、解放された面々は直ぐ様デバイスを展開し

 

「よーし、ヴィヴィ。ちょっとそこどけ」

 

ハリーはファビアを睨みながら、魔力弾を形成した。それを見たヴィヴィオは、慌てた様子で

 

「ま、待ってください。ハリーさん! 今、何とか説得しますから!」

 

とハリーを止めようとした。だが、ハリーは

 

「せめて、一発はぶん殴る!」

 

と拳を握り締めながら、炎を纏わせた。

 

「だから、待ってください! 何か理由がある筈なんです! 大事な理由が!」

 

ヴィヴィオがハリーを止めてる間に、ファビアは逃げようとした。だが、素早くアインハルトが羽交い締めにして

 

「逃がしませんよ」

 

「よっと……魔力手錠、ON♪」

 

ハリーが拘束すると、素早くルーテシアが魔力を封じる手錠を着けて、ファビアは強制的に強化魔法を解除されて、更には使い魔達も吐き出され、その勢いのまま使い魔達は逃げようとしたが

 

「はい、あんたらも動くなっ!!」

 

とルーテシアが召喚し、先回りさせた虫達により押さえ込まれた。そこに

 

「うぅー……チビッ子ぉ、何処行ったぁ?」

 

と少し情けない声を挙げながらジークが現れたのだが、何故か小さくなっていた。そんなジークを見て、アインハルトは呆然とした表情で

 

「……チャンピオン?」

 

「はわぁ!? ハルにゃん!?」

 

ハルにゃんというのは、ジークが付けたアインハルトの愛称である。その理由は、アインハルトのデバイスたるティオの見た目がまるで仔猫のようだから、らしい。

 

「うぇ、ジーク? なんだその姿は?」

 

「うぅ……あの子にヤられてもうて……」

 

ハリーに説明しながらジークは、アインハルトに支えられてファビアに近寄り

 

「もう……イタズラはアカンよ、このチビッ子」

 

と軽く、ファビアの額を小突いた。その直後、ファビア、ジーク、アインハルト、ヴィヴィオの脳裏にある光景が過った。

それは、遥か過去。自分達の先祖の記憶であり、今と同じ光景だった。



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決闘

あれ、なんかユミナがヒロインムーヴしてるような……


脳裏に見えた光景に、ヴィヴィオ達が固まっている間に、開いていたドアからコロナとヴィクター、そしてユミナが現れて

 

「あ、皆さん。無事でしたか!」

 

「あら、不良娘も出れたんですのね」

 

コロナとヴィクターは、瓶から解放されたメンバーを見て、そう言ってきた。そこに、ユミナが全員を見てから

 

「……緋村君は……?」

 

と剣士郎が居ないことに気付いた。

 

「あ! そうだ! 緋村先輩!」

 

「確か、雪代選手に襲われて!?」

 

ヴィヴィオとミウラが思い出した直後、閉まっていたドアを突き破って、剣士郎が吹き飛んできた。

 

「緋村君!?」

 

『緋村先輩!?』

 

ユミナとヴィヴィオ達が剣士郎を呼んだ直後

 

「抜刀斎ィィィィィィ!!」

 

と悟が、まるで獣のように剣士郎に襲い掛かった。その一撃を辛うじて、剣士郎は回避し、態勢を立て直し

 

「飛天御剣流……龍墜」

 

龍墜閃を放とうと、高く跳んだ。だが、次の瞬間

 

「こっちだ、抜刀斎!!」

 

悟は、その更に上に居た。その光景に、ヴィヴィオ達は驚いた。剣士郎の跳躍力は十分知っており、まさかその上を取る相手が出るとは予想していなかったのだ。

技を放とうとしていた剣士郎は、悟の技に反応しきれずに直撃を受けて床に叩き付けられた。

 

「緋村君!」

 

それを見たユミナは、剣士郎の方に駆け寄ろうとした。だが、そんなユミナの前に悟が迫り

 

「人誅の時だ!!」

 

と叫びながら、刀を振り上げた。悟の殺気に身がすくみ、ユミナは動けずにいた。そんなユミナの前に、剣士郎が滑り込んで悟の刀を弾き

 

「オオオオォォォォォォ!!」

 

ヴィヴィオ達も聞いたことのない雄叫びを挙げた。そして、剣士郎からの凄まじい剣気に体が震えた。その時、ユミナは自分の顔にヌルリとした生暖かい何か。剣士郎の血が付着していることに気付いた。

 

「まさか、あいつ……!?」

 

「非殺傷設定を解除して……!?」

 

ハリーとヴィクターは、悟が本気で殺そうとしていることに気付いた。それは、剣士郎の全身の傷と背中の大きな傷からも明らかだった。だが、体が動かない。

剣士郎と悟から放たれる凄まじい気に当てられて、思ったように動けなかった。

そこに、フラフラとジークが近寄り

 

「今あの二人は、現代で戦ってるんやない……古代ベルカ……それも緒王戦乱末期で戦ってるんや……」

 

と語り始めた。

 

「今あの二人を止められるんは、当時を知る人だけや……」

 

ジークがそこまで言った直後、二人の戦いは再開した。激しく交わされる剣劇、飛び散る火花と血。

 

「抜刀斎……我が祖先の恨み、ここで晴らす!!」

 

「ハアァァァァァ!!」

 

片や恨み、もう片方は剣鬼と化して剣を振るう。

その時、リオが

 

「……間違いない……あの技……倭刀術だ……!」

 

と呟いた。

 

「リオ、雪代選手の技を知ってるの!?」

 

「うん……あれは、間違いなく春光拳の流派の一つだった倭刀術……」

 

「倭刀術……」

 

ヴィヴィオが問い掛けると、リオは悟の動きを見ながら解説を始めた。

 

「古代ベルカ緒王戦乱期に春光拳の使い手の何人かが、凄腕の刀の使い手と交戦し、刀の接近戦の強さに戦慄して、独自に研究を始めたのが始まりだったんだって……何とか刀を入手し、作るようになって、そこに春光拳の動きを取り入れて産まれたのが、倭刀術……けど、その流派は……緒王戦乱末期に使い手が全員殺されて、指南書も奪われて途絶えた筈なのに……」

 

「……まさか、雪代選手のご先祖様が……」

 

「多分、抜刀斎に復讐するためにやったんやろうな……」

 

そう語る間も、二人の激闘は続く。最早、他人が立ち入れない戦い。己の気持ちをぶつけ合う戦いだった。

それを気が気でない様子で見ているのは、ユミナだった。最早殺し合いというレベルで刃を交わす二人に、ユミナは涙を流していた。

 

「緋村君……」

 

ユミナが両手を組んで祈っていると、剣士郎の一撃が脇腹に直撃した。

 

「入った!」

 

「あれなら!」

 

それを見た誰もが、悟の動きが止まると思った。しかし、次の瞬間

 

「ガアアァァァッ!!」

 

まるで獣のような雄叫びを挙げながら、悟は剣士郎に蹴りを叩き込み、吹き飛ばした。それに一同が驚いていると、悟の全身に何かが浮かび上がった。

最初は血管かと思ったが、様子が違う。一同が困惑していると、ユミナが

 

「……もしかして、神経……?」

 

と呟いた。

 

「神経だと?」

 

「……間違いないと思います……」

 

「あんな太いのがか!?」

 

「恐らく、遺伝的な特異体質なんだと思います……けど、だったら痛みにも……」

 

ミカヤとハリーに答えたユミナは、何かブツブツと呟き始めた。そして、一度だけ読んだある本の内容を思い出し

 

「……まさか、精神力が肉体の限界を超えさせてる……?」

 

「ユミナさん、どういうことですか?」

 

「……彼の先祖は、よほど緋村君のご先祖が憎かったんだと思う……その憎しみが、痛みを感じさせにくくさせてるんだと思う……」

 

アインハルトに答えながら、ユミナは剣士郎と悟を見つめた。確かに、剣士郎の攻撃は悟に直撃している。しかし、悟は間髪入れずに剣士郎に反撃している。

そこから導かれた答えは、悟は痛みをさほど感じていないという、通常では有り得ない答え。

 

「そんなこと、あり得るのか!?」

 

「私も、本を読んだ時は信じられませんでした……しかし、こうして目の前にそれを成してる人が居る……だったら、本当だったということです」

 

ハリーの問い掛けに答えながら、ユミナは胸の前で両手を組んで

 

(お願い……無事に……)

 

と祈った。



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決着

剣士郎と悟の死闘は、激しさを増していく。全身の柔軟性を活かし、まるで獣のように戦う悟。そして、純粋な剣術で刃を交わす。

激しく散る火花と血。その時、剣士郎が走り出した。

 

「抜刀斉イイィィィィィ!!」

 

「飛天御剣流……龍鳴閃!!」

 

交差した直後、剣士郎の背中から激しく出血した。

痛みから片膝を突く剣士郎を見て、ユミナは泣きそうになった。だが、すぐに悟も耳を抑えてフラつき

 

「貴様……何をした……!?」

 

と剣士郎を睨んだ。よく見れば、耳から出血しているようだ。そして、眼の良いヴィヴィオは見ていた。剣士郎がすれ違い様に、悟の耳元で刀を納刀していたのを。そこから

 

「……まさか、刀を納刀する際に出る音で、聴覚を攻撃した!?」

 

と推測し、それは当たっていた。剣士郎も、戦いながら悟の異常なまでの神経に気付いていた。そこから考えたのは、直接神経に影響を与えることだった。

しかし、痛みには強いのは確認済み。

そこで剣士郎は、今まで余り使った事が無いが、聴覚を攻撃する技。龍鳴閃を思い出した。

そして、効果はあった。悟は龍鳴閃

普段の技が神速の抜刀術ならば、龍鳴閃は神速の納刀によって起こされた音で聴覚にダメージを受けて、平衡感覚に大打撃を受けていたのだ。

 

「もう、諦めろ……これで、お前はまともには……」

 

「諦めるものか!!」

 

剣士郎が説得しようとした時、悟は驚くべき行動に出た。なんと、指を耳に突っ込んで

 

「ガァァァァアァァァ!!」

 

獣のような雄叫びを挙げながら、鼓膜を破ったのだ。それに最初に気付いたユミナは

 

「なんてことを……!? 聞こえにくくなった鼓膜を破って平衡感覚を強制的に取り戻すなんて!?」

 

「だが、そんなことしたら、痛みで……あっ!?」

 

ハリーは途中まで言って、すぐに気づいた。悟は、精神力が痛みを超越していたことに。

 

「しかし、長く動けないのは確かです……それは、彼も同じです」

 

アインハルトはそう言いながら、剣士郎を見た。はっきり言って、満身創痍も過言ではない。動けているのが不思議な位に負傷している。

 

「殺す! ここで……次で殺す!!」

 

悟はそう宣言すると、刀を背中側に回して、逆手持ちに構えた。それを見て、リオが

 

「緋村先輩! 彼は、奥義を放つつもりです! 虎伏絶刀勢(こふくぜっとうせい)を!!」

 

と剣士郎に教えた。それを聞きながら、剣士郎も

 

「ああ、終わらせよう……ここで」

 

そう言って、納刀した状態の刀を腰に差して深く構えた。その見た目は、よくミカヤが取る抜刀術の構えだ。しかし、剣士郎から放たれる気迫が尋常ではない。そこから導いたのか、アインハルトが

 

「まさか……彼も、奥義を放つつもりですか……?」

 

と呟いた。

 

「緋村君!!」

 

「止めてはいけません……恐らく、緋村くんはその技でないと止められないと判断したのでしょう……彼を、信じましょう……」

 

ユミナは止めようとしたのか一歩踏み出したが、それはヴィクターに止められた。二人の凄まじい気迫に、見守っていた一同にも緊張感が漂う。そして、誰かが喉を鳴らしたと同時に、悟が先に動いた。

一歩踏み出しながら、姿勢を一気に低くした。そして、技名の通りに、まるで虎を彷彿させる動きで

 

「倭刀術奥義! 虎伏絶刀勢!!」

 

その一閃を放つ。

その悟にほんの僅か、本当に0.1秒差で剣士郎も動いた。そして、普通の抜刀術との違いに気付いたのは、同じ抜刀術の使い手たるミカヤだった。

 

(左足で、一歩踏み込んだ!?)

 

普通は、抜刀術を放つ際には右足を滑らせるように前にするのみだ。でなければ、最悪は抜刀した自身の刀で自分の足を斬ってしまう可能性が非常に高いからだ。

しかし、剣士郎は左足を強く踏み出した。

それが、飛天御剣流奥義の秘訣。

 

「飛天御剣流……奥義! 天翔龍閃(あまかけるりゅうのきらめき)!!」

 

二人の奥義がぶつかり、空気が激しく震えた。拮抗する二人の技、全員が固唾を飲んで見守る中、二人の技は同時に弾かれた。

 

「まだだ! このまま……なっ!?」

 

悟は弾かれた勢いも利用し、更に一回転しようとした。だがその時、強く引かれる感覚がしたのだ。

 

(何故……そうか! 俺達の技の激突で弾かれた空気が、戻ろうとしている!?)

 

悟のその考えの通り、二人の技の激突で弾き飛ばされた空気が元々の位置に戻ろうとしているのだ。

 

(だが、ここで負ける訳にはいかん!!)

 

しかし悟は、崩れた体勢を強引に立て直して、再度回転しようとした。だがそのタイミングで、今までの無理のツケが来た。悟の全身に、激痛が走った。耳もだが、実は悟はここに至るまでに剣士郎の技を最低でも20は全身に受けているのだ。

だがここまでは、その精神力が痛みを感じさせずにいた。しかし、何事にも限界は訪れる。そのタイミングが、ここだったのだ。

悟は全身に走った激痛で動きが止まり

 

(何故だ!? 動け!!)

 

と命ずるが、間に合わなかった。その間に、剣士郎も空気に引かれながら一回転し

 

「アアアアアアァァァァァァァァ!!」

 

喉が張り裂けんばかりの雄叫びを挙げながら、強烈極まりないその一撃を叩き込み、悟を天井付近まで打ち上げた。

天井付近まで打ち上げられた悟は、口から血の塊を吐きながら地面に落ちた。誰がどう見ても、剣士郎の勝ちだった。



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目的の本

悟が床に倒れた後、少しして剣士郎も倒れた。

 

「緋村先輩!」

 

「緋村君!!」

 

それを見て、次々と駆け寄る一同。剣士郎の怪我は酷く、今この場所に居るメンバーでは治療は難しいだろう。一刻も早く戻る必要がある、そう考えたヴィヴィオとアインハルトが剣士郎に肩を貸して助け起こした。その時

 

「ば……抜刀斉……!!」

 

と地を這うような声が聞こえた。驚きで振り向くと、なんと悟が刀を杖にしながら立っていた。それを見て、ヴィクターとハリーが身構えた。そこに

 

「はーい、そこまでや」

 

「君を、不法侵入並びに傷害容疑で拘束する」

 

はやてと冬也が現れて、バインドで拘束した。

 

「八神司令、神代隊長!」

 

「ごめんなぁ、その子が張った結界が厄介でなぁ」

 

「ここに来るまで、時間が掛かってしまった」

 

はやてと冬也は軽く謝罪した。立場的には、即座に動いて解決したかったのだろう。しかし、ファビアが展開していた結界に予想外に手間取り、来るのが遅くなってしまったのだ。

 

「あの、雪代選手……もしかして、ご先祖様に綾という方が居ませんか?」

 

そう言ったのは、コロナだった。それを聞いて、剣士郎と悟がコロナに視線を向けた。

 

「実は……こんな本を見つけたんです」

 

コロナがそう言って差し出したのは、明らかに赴きが違う一冊の本だった。この部屋で見られる殆どが革製のハードカバータイプに対して、その本は紙と紐で纏められている本だった。

 

「この本に……抜刀斉に関してという項目があったので、気になって持ってきたんです……」

 

コロナはそう言って、その本を開いて一ヶ所を指差した。確かにそこには、抜刀斉に関しての報告。という部分があった。

 

「これを書いたのが、雪代綾……という人物のようで……」

 

ヴィクターはそう言って、背表紙を見せた。確かに、隅にだが小さく《雪代綾》と書かれてある。

 

「な……」

 

「綾の……」

 

悟と剣士郎は、二人して驚いていた。恐らく、先祖の記憶でも知らなかったのか、残っていなかったのか。初めて見たようだ。

 

「えっと、はやてさん、冬也さん、彼にこの本を読ませてあげてもいいでしょうか……」

 

「うーん……まあ、データ形式でええなら……」

 

「本局に居る間、読ませてやれるようには手配しよう」

 

「ありがとうございます」

 

コロナのお願いを、はやてと冬也は条件付きで承諾した。そうしている間に、悟と剣士郎は軽くだがその本の筆跡を見ていた。

 

「間違いない……その筆跡は、綾様の……」

 

「綾の……」

 

その筆跡が、間違いなく二人の先祖に深く関わりのある雪代綾の物だと分かった。そうしている間に、はやてと冬也が周囲をグルリと見渡して

 

「この部屋が、一番壊れてるなあ」

 

「ああ……はやて、頼んだ」

 

「はいな。あ、皆もそのままな」

 

はやては頷くと、まずは回復魔法を発動させて、一同を治した。そのすぐ後に、部屋も元通りになった。

 

「これは……」

 

「これ程の回復魔法……八神司令は、回復魔法もお手の物なんですね」

 

「んー。部屋に関しては、ユーノ君が定期的にデータ形式でバックアップを作ってるからね。それを元にしたんや」

 

「な、なるほど」

 

はやては事も無げに言うが、それもかなりの高等技術であり、それにエルスは気付いた。そこへ、通信ウィンドウが開き

 

『八神司令、神代隊長、今双子と一緒に中に入って、皆の服を回収してるところです』

 

ノーヴェから、そんな報告が入った。それを聞いて、冬也は

 

「解決……と言いたいが……ジークリンデ、小さくないか?」

 

「そやった! ウチを元に戻してぇ!!」

 

『あ』

 

冬也の指摘とジークの叫びで、ジークが小さくなっていることを思い出した一同だった。それから、冬也は悟を連行。剣士郎は肩を貸して外に出て、一同はノーヴェ、オットー、ディードの三人が回収した服を着始めた。

その時、リオが

 

「あれ……これって……」

 

と一冊の本を見つけた。そして、着終わると

 

「さて、目的の本を探さないと!」

 

とヴィヴィオが拳を握った。だが、そこに

 

「その必要は無いよ! さっき、見つけたから!!」

 

と言って、先ほど見つけた本を見えるように掲げた。

目的の本、エレミアの手記である。

 

『ええぇぇぇぇ!?』

 

「見つけた時に言ってほしかった!」

 

「けれど、今言ったのは正解ですね……でないと、着ている途中で読み始めてしまう子も居るでしょうし」 

 

「うぐっ」

 

「うっ」

 

ヴィクターの言葉を聞いて、ジークとアインハルトは思わず顔を反らした。自覚があったらしい。しかし、目的の本を見つけたのは事実だ。剣士郎も、壁に背中を預けながら座っていて、立とうと床に手を突いた。その時、視界に一冊の本が見えた。コロナが見つけた綾の本と同じ、紙の装丁の本。それが気になった剣士郎は、その本を取って表紙を確認した。

そこには、こう書かれていた。

緋村剣次日記帳。

 

「……まさか……」

 

その名前、剣士郎の先祖。抜刀斉と呼ばれた人物である。



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エレミアの手記 1

すいません、自分の転職がなんとかなり、その準備に時間を取られてます


目的の本と予想してなかった本を見つけた一同は、場所を無限書庫から管理局の会議室に移動した。

そして、ジークが革表紙の本を開き

 

「ゼーゲブレヒト及び、シュトゥラ滞在時の記録手記にて残す。エレミア。あるいは、ヴィルフリッド。もしくは、リッド……」

 

「間違いなく、本物ですわね」

 

ジークが読み始めた内容でした聞いて、ヴィクターが確信していた。ジークも一度頷き

 

「その日、夜盗に襲われていた馬車を助けたのが、縁の始まり」

 

と語り始めた。

 

「危ないところを、ありがとうございました。そう言って現れたのは、まだ幼い女の子だった……」

 

それは、出会いと悲しい別れの手記。

 

「お手数をおかけして、申し訳ございません。もっと早くに私が出れば良かったんですが……侍女達が居ましたので」

 

まずは、奇妙なことを言う子だと思った。

 

「僕は構いませんが……夜道は危ないですよ」

 

それから、彼女の紅と翠の瞳に気付き、彼女の袖に気付いた。そこから僕は、彼女が王族。あるいは、貴族筋の娘が何故こんな場所に居るのか、どういった子なのか、その僅かな困惑の合間に狙われていた。

 

「姫様」

 

だがそこに、赤い髪の変わった服装の剣士が現れ、飛来してきた矢を弾いて、それに呼応するように彼女が素早く反転し、足下の石を蹴り上げてから、それを蹴り飛ばして、弩を持っていた相手に命中させた。

 

「失礼しました……それで、お手間ついでといってはなんですが……賊の捕縛を手伝ってはいただけませんか? 腕を城に置いてきてしまったもので、少し不便で……あ、申し遅れました! 私は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと申します。こちらは、私の護衛役の緋村剣次」

 

彼女は自己紹介すると、先ほどの剣士を紹介してきて、その剣士も軽く頭を下げてきた。

 

「エレミアです。旅をしながら、学問(・・)を修めています」

 

この出会いが、その後に当分続く縁になるとは、この時は夢にも思っていなかった。

かの聖王家の王女に、夜の小道で出会い、領土すら持てる予定のない血族の末裔にすぎない、と彼女は笑ったがともあれ僕は、オリヴィエに乞われて彼女の居城にしばし滞在することになった。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

ジークの読む手記の内容を聞いて、リオ達が

 

「エレミアさんとオリヴィエ王女の運命の出会い!」

 

「のっけから、クライマックスですねぇ~!」

 

「つかみはオッケーだな!」

 

と話していた。ジークはパラパラと手記をめくり

 

「ゼーゲブレヒト家に滞在している間は、異国の話や技術を伝えたり……重宝されてたみたいやね。学士として食客扱いで城内に滞在を許されてたって書いてある」

 

と説明した。

 

「しょっかく……?」

 

「古いしきたりですよ。臣下とお客の中間位……居候みたいなカンジですね」

 

ハリーが首を傾げると、エルスが教えた。すると、ジークの右側から手記を見ていたヴィヴィオが

 

「あ……最初の義腕を作ってあげたのも、この頃なんですね」

 

と気付いた。すると、アインハルトも

 

「聞いたことがあります。リッドと出会う前は、壊れやすい飾り腕か、力加減の出来ない鎧籠手しかなくて……繊細な動きと力加減のできる《エレミアの腕》はとても嬉しかったと」

 

と語った。それを聞いて、ヴィクターが

 

「オリヴィエ王女の《腕》については……?」

 

とアインハルトを見た。

 

「幼い頃に、魔導事故で失ったそうです。物心ついた時には、もう……と」

 

「えっと……ご先祖様も書いてる……『不自由はあったろうが、少なくとも人前ではそのことを憂える様子もなく、様々なものを失って、生きる道を閉ざされていてもおかしくなかった。なのにこうして命を長らえて、自由な暮らしをさせてもらっている。いつも世話を焼いてくれる侍女達がいて、友達もできて、自分の命は皆のおかげで繋がっている。そんな言葉を、口癖のように言っていた』って」

 

アインハルトが辛そうに語ると、ページをめくっていたジークがそのことが書かれたページを見つけて、語った。

 

「クラウス殿下が出てくるのは、何時頃?」

 

「えーと……あ、結構前の方やね」

 

ヴィクターに問われて、ジークは二三ページめくると、クラウスの名前が出てきたようだ。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

オリヴィエがシュトゥラに《留学》に出掛けてから、ふた月と少し。予定通り、僕もシュトゥラに赴くことになった。

クラウス殿下は若いがよくできた人物で、オリヴィエや緋村にも優しくしてくれていたし、僕のことも歓迎してくれた。

 

「オリヴィエに聞いたんだが、君も徒手の武術をやるんだよな?」

 

「ひとり旅をしていますと、身に危険もございますゆえ……少しばかり」

 

「実はオリヴィエに聞いてから、ずっと興味を持っていたんだ。どうだろう? 少し手合わせをお願い出来ないか?」

 

(ヴィヴィ様……いいのかな?)

 

(大丈夫ですよ! クラウス殿下は強いですし……あなたもきっと気に入ります♪)

 

「では……」

 

「応ッ!」

 

(へえ……)

 

「では、まずは殿下から……」

 

「ああ! 行くぞ!!」

 

大地から足先へ、下半身から上半身へ螺旋を描いて力を伝える。その一撃は強力で、僕は思わず全力でクラウス殿下の技の威力を後ろに逃がした。

僕の背後にはお城の一つの塔があったのだが、クラウス殿下の技の威力はそこまで届き、壁に穴を穿った。

 

「二人とも、すごいですー! 並の武芸者なら、あの塔まで飛んでいってましたよねー」

 

「そう思います。殿下の打撃は、素晴らし……」

 

「もう少し、喰らってあげる(・・・・・・・)べきだったのか、とか考えているかい?」

 

「いえ、その……」

 

「立ち合いで手を抜かれたり、芝居をされる方が興醒めさ。そうだろう? 緋村」

 

「ああ……それは同意する」

 

「君は強い……その細い体に、どれだけの力と技を隠してる? 本気できてくれ! 君の強さを見てみたい!」

 

「心得ました」

 

呆れるほどにまっすぐで、面白いくらいに情熱的。

 

「鉄腕、解放……エレミアの技、ご覧にいれましょう」

 

当時、僕はまだ血統伝承のすべてを身につけてはいなかったとはいえ、曲がりなりにもエレミアの末裔。局所破壊技を封じ手にしてなお戦力は僕の方が上だったはずだけれど、彼の頑強さと打撃力には目を見張るものがあった。

全力で打ち込み、全力で避け、威力を殺す。

物心ついてから、呼吸するように行ってきたはずのことが、楽しいと思えたのは、あの時が初めてだった。



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エレミアの手記 2

今回は、説明が中心です(夜勤帰り)


クラウスとオリヴィエの物語は、終始穏やかだった。共に武術と勉学に励み、一緒に食事して、時には諸国を巡って挨拶したりした。

そんな中で出会ったのが、ファビアの先祖。クロゼルグの森に住む魔女の一族だった。魔女の一族からは魔法を教えてもらっていたが、一番小さな少女は悪戯好きで、しょっちゅう悪戯をしては、クラウスやリッド、剣次に捕まっていた。

そんな平穏が、何時までも続けばいいと誰もが思っていた。しかし、平穏は長くは続かなかった。全員が青年と呼べる年齢になった頃、反聖王家連合が結成され、聖王家とそれに与する王家に対して宣戦布告したのだ。

聖王家はその圧倒的武力で、今まで他の王家に対して優位に立っていた。だが反聖王家連合は、その戦力の多さで聖王家と一進一退の戦いを繰り広げ、戦争は長期化した。

疲弊する兵士と民達、戦災で故郷を追われて首都の方に避難してくる民達。

そんなある時、どちらが先か分からないが、禁忌兵器が投入された。投入された禁忌兵器により、土は腐り、水は毒に変わった。

それにより、加速度的に増える死者。そして、その波はクラウス達の居るシュトゥラにも来た。魔女の一族の住む森に敵軍の兵士が侵攻し、魔女の一族を次々と斬殺。その後、火を放った。

魔女の一族で生き残ったのは極少数で、森はほぼ全焼した。敵軍に関しては、クラウスと剣次が二人で殲滅。

そしてこの件が理由で、オリヴィエはあることを決意した。聖王家の最終兵器、ゆりかごの担い手に立候補することを。

ゆりかご、それは聖王家の最終兵器で圧倒的威力を誇っており、二つの月の間に到達すれば、何人たりとも侵攻することも出来ない要塞と化す。

聖王家は長期化してきた戦争を終わらせる為にゆりかごの投入を決めていたが、中々投入されてこなかった。

その理由が、聖王核とゆりかごの適合率にあった。

聖王核、聖王家の女子がゆりかご内で産まれた時に植え付けられる代物で、これが聖王家の高い魔力の基になっている。

その聖王核は、各人により出力とゆりかごとの適合率差がある。恐らく、高い適合率は他の候補にも居ただろう。だが、恐らくは家族がゆりかごの王になるのを止めている。ゆりかごの王は、伝承で伝わるような栄光の存在ではない。実際は死ぬまでゆりかごの管制と防衛機構として使われる。

なったが最後、生きては帰れないのだ。

それを知ったクラウスは、オリヴィエを拳を以て止めようとした。だが、止めるこの能わず、悲しい別れとなってしまった。

なお、聖王家の重鎮達の中には、クラウスのその行動を造反と取って処罰か処刑を、と声高に唱える者も居た。

だがそれは、オリヴィエの必死の嘆願により止められ、更には最後にヴィルフリッドに会うことも許された。

そして、少し前に剣次はオリヴィエの護衛から外され、前線配置となっていた。

ヴィルフリッドはオリヴィエと会話する中で、オリヴィエに逃げようと提案したが、オリヴィエはそれをやんわりと拒否。優しい彼女は、怖かったのに自身の命で戦争が終わるならと自ら出た。

そして、オリヴィエが乗ったゆりかごは空高く飛んでいき、その後オリヴィエの命が尽きるまで降りてくることはなかった。

 

「そして……緒王戦乱期は終わったんですね……」

 

「クラウスは、戦乱末期に敵の攻撃で倒れた……」

 

「うん、その事も書いてある……」

 

ヴィヴィオ、アインハルト、ジークは本を見ていたが、他のメンバーは涙を流していた。戦争に振り回されて、悲劇的な別れをしたことを悲しんでいるのだろう。

 

「……どうやら、オリヴィエ様が選ばれてからはご先祖は半ば軟禁状態やったようやね……」

 

「軟禁って、なんでだ……?」

 

「恐らくですが、要らぬ茶々を入れさせない為かと……オリヴィエ様に心変わりをさせないように」

 

ジークの話を聞いたハリーの問い掛けに、自分の考え混じりだがヴィクターが答えた。多分、その考えは概ね当たっているだろう。

 

「あ、まだ続きが……」

 

「え?」

 

「……まだ、心配な奴が居る……それは緋村だ……彼がヴィヴィ様の護衛から外されてから少しして、人斬り抜刀斉の名前と噂が聞こえてきた……恐らく、緋村の事だろう……緋村の飛天御剣流は、神速の抜刀術……それを活かせば、目撃者を残すことなく相手を斬殺出来るだろう……どうか、不器用で優しい緋村が変わることがないことを祈る」

 

どうやらヴィルフリッドは、剣次のことを心配していたらしい。だが、ヴィルフリッドの手記はそこで終わった。

そしてジークが手記を閉じると、全員が剣士郎の持っている本を見た。全員の視線を受けて、剣士郎は先祖たる剣次の日記をゆっくりと開いた。



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抜刀斉の手記

剣士郎は本を開くと、一拍置いてから

 

「……俺、緋村剣次はリッドを真似て、手記を記すことにする」

 

静かに語り始めた。それは、戦争の最中を駆け抜け、悲劇を経験した一人の剣士の後悔録だった。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

俺はある日、オリヴィエ殿下の護衛を外されて戦闘班に編入された。実際は戦闘ではなく、暗殺だったがな……。上からの命令に従って、反聖王連合の要人暗殺を繰り返した。

そんなことを繰り返している内に、食べる料理から血の味しか感じなくなっていた。

そしてある日、俺は敵国の大隊長格三人を始末せよ、という指示が下された。

二人は一撃で仕留めることが出来たが、最後の一人が非常にしぶとく、仕留めるのに時間が掛かってしまった。

そうして、そいつの最後の一撃が左頬に傷を付けていた。

その相手は婚約者が居たらしく、名前を呟いていたが……あやと言っていた。

そして三人を殺した俺は、その場から離れた。その後も指示が下される度に殺し続け、もう何人殺したか分からなくなってきた。

そんな時に彼女に出会った、雪代綾……。最初の印象は、不思議な女だった。酒に酔っていたとはいえ、俺が人を斬り殺してその吹き出した血を浴びたというのに、眉一つ動かさなかった。

その後、酔い潰れた綾を連れて帰還。そこから、不思議な同居が始まった。

上からの指示で、綾の監視を兼ねて同居することになった。最初は警戒していたが、気付けば一緒に居るのが当たり前になっていた。

むしろ、安らぎすら感じていて、安心していた。

そんなある日、俺が居た戦域で聖王家側が一度大敗を喫して、戦線が大きく後退することになってしまい、俺と綾もそこから離れることになった。

そこで、上からの指示で偽装で夫婦を演じて敵地に程近い山中に住むことになった。

正気とは思えない指示だったが、何故か拒否する気にもならず、綾と二人で夫婦を演じることにした。

いつの間にか、当たり前になった日々。

しかし、俺ももう少し考えれば良かった。身内に、裏切り者が居たことに。

俺と綾が夫婦を演じるようになってから、一月が経とうとした時、連絡役の一人が死体で見つかった。

最初は深く考えず、戦時下なのだから仕方ないと思っていた。だがそれから数日後、綾が居なくなり、手紙があった。

綾を取り戻したくば、近くの山の山頂まで一人で来い。その手紙を読んだ俺は、綾を取り戻すために山を登り始めた。その山中には、対俺を想定し編成された特殊部隊が隠れていた。

確かに強かったが、俺は一人ずつ倒して進んだ。だが相手は、自分たちが倒されることも想定していて、自爆攻撃を敢行。

自爆による負傷は最小限に留めたが、最初に聴覚、嗅覚、視角に支障を来した。だがそれでも、綾を取り戻したい一心で、俺は進んだ。

最後の一人は格闘の達人で、俺は積み重なった負傷と奪われた感覚に苦しみしながらも、その達人と戦った。

しかし途中で視界がぼやけ、俺は直前まで見ていた距離から刀を振るい、確かに手応えを得た。

そして戻った視界で見えたのは、俺が斬ったのは……綾だった。

綾はどうやら隠し持っていた短刀で脱出したらしく、敵の達人に一撃入れようとしたらしいが、その短刀は弾かれ、そこを俺が斬ってしまったらしい。

弾かれた短刀は、俺の左頬に新しく傷を残し、そして俺は綾を抱き抱えて後退し、急いで治療しようとしたが、何度も人を斬り殺してきた俺には分かってしまった。

致命傷で、助からない。綾は俺の腕の中で、最後に一言

 

「生きて……」

 

と言って、息を引き取った。

その後俺は、自身の無力さと愚かさから来る怒りで達人を斬り殺し、綾を弔ってから家に帰り、見つけた綾の俺への手紙を読み、自身を呪った。

綾はかつて、俺が斬り殺した三人の隊長格の最後の一人の婚約者だった。

綾は裏切り者に唆され、俺を殺す為の諜報員になった。勿論、隙があれば殺そうともしたようだ。しかし綾は、俺と接し過ごしていくうちに、俺もただ一人の人だと、この戦争で苦しんでいる一人だと気付き、気付いたら愛していたらしい。

そして綾は、気付かれるだろうが偽りの情報を相手に渡し、せめて内通者か相手の達人を殺そうと考えていたらしい。

そんなこと、しなくて良かったんだ……ただ、一緒に居てくれるだけで良かったんだ……。確かに俺は、悩み苦しんでいた。俺だって本当は、出来ることなら殺したくなかった。平和に生きたかった。だが、戦争だから、命令だから仕方ないと自分自身に言い聞かせ、俺は相手を斬り殺し続けた。もう、何人斬ったか分からなくなる位に。

時々、それが理由で悪夢に魘されたこともあった。しかし、綾と居ればそれが減っていたように思えた。

だから、一緒に居てくれるだけで良かったんだ……。

俺は最低限の治療を終えた後、内通者の隠れ家に向かい、命乞いしてきた内通者を斬り殺した。

その後、完治した後は最前線を望み、最前線の戦闘班に編成されて最後まで戦い続けた。

撤退戦、乱戦を戦い抜き、逃げる敵と大事な相手が居る者はなるべく殺さないで、戦争終結まで戦い抜いた。

そして俺は、引き留める聖王家を振り払い、俺は誰かを助ける為の旅に出ることにした。

都合の良いことかもしれない……数多くの人達を斬り殺した俺が、不特定多数の誰かを助ける為に旅に出ることなど……これは、贖罪の旅と決めた。

数えきれない人達を斬り殺した俺が、不特定多数の人達を助け、許されるとは思っていない。もしかしたら、旅の途中で復讐者が現れて俺は死ぬかもしれない。

だが許されるならば、死ぬ最後の瞬間まで誰かを助け続けたい。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「…………もし、この手記を読んでいる者が居るならば、後世に語ってほしい。戦争の悲惨さを……戦争は、多くの悲しみを、多くの血を、多くの涙を、多くの怨みを生み出すだけだ……だから、もう二度と戦争を引き起こさないでほしい……」

 

読み終わったのか、剣士郎は本を閉じて、周囲を見回した。見てみれば、殆どのメンバーが涙を流していた。

すると、ヴィヴィオが涙を流しながら

 

「緋村先輩が居るってことは、ご先祖様はお相手を見つけて、子供を残したってことですよね?」

 

と剣士郎に問い掛けた。剣士郎は、左頬の十字傷を触りながら

 

「そうなるな……」

 

肯定した。初めて、傷の由来を知ったからだろう。

戦争に身を投じ、幾多の悲劇を乗り越えた剣士の後悔の手記。それを読み終えると、剣士郎は本を丁寧に机に置いた。



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綾の手記

剣士郎が先祖の手記を置くと、最後にコロナがゆっくりと本を開き

 

「……これは、私……雪代綾の一人の剣士……人斬り抜刀斎に関する手記になります」

 

ゆっくりと語り始めた。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

私、雪代綾は人斬り抜刀斎に殺された婚約者の復讐の為に内通者と連絡を取り、次に人斬り抜刀斎が任務で向かうという場所に向かった。

寒い日だったために、体を温める目的で飲んだお酒が原因で、人斬り抜刀斎に会った直後に酔い潰れてしまったのは予想外でしたが……。

しかし、人斬り抜刀斎に回収されて、人斬り抜刀斎。緋村剣次の隠れ家に運ばれたのは幸運でした。

最初は隙有らば寝首でも掻こうと考えてましたが、彼は寝ていても殺気等に敏感に反応し、近くに置いてある刀に手を伸ばして反撃してくる。

死線を潜り抜けてきただけあり、凄まじい反応に私は驚きながらも情報収集に努めることにした。

彼は基本的に単独で戦うことが多く、任務内容は暗殺から撤退支援と多岐に渡るらしい。そして、彼の力量は本物らしい。その殆どの任務で、彼は手傷を負うことなく帰還した。私は長期になるのを覚悟し、確実に復讐の時を待つことにした。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

あれから少し間が空いてしまったが、また記すことにする。あれからだが、色々と変化が起きた。

まず、戦況が各地で変わった。特に私たちが居た地域では、聖王家側か不利に変わり、私たちは身を隠すことにした。夫婦という形を取って。

最も大きい変化は、私にあった。私は、人斬り抜刀斎……剣次さんに、復讐する気が無くなった処か、憎しみが無くなり、気付けば愛していた。

その最たる理由が、剣次さんもこの戦争の被害者だと分かってしまったからだ。

情報収集していくうちに、剣次さんが元々孤児で剣の師匠から剣の手解きを受けた後に、聖王家側にある姫の護衛として雇われたと知った。

そして、ある日。私は料理を失敗して、塩気が濃い料理を出してしまったのだが、彼は何の反応もなく食べていた。そこから、剣次さんが味覚に異常が有ることを知り、更にはある日の夜に剣次さんが魘されていることに気付いた。

起こしてみたら、剣次さんは泣きそうな表情で荒く呼吸をしながら私に抱き着いてきた。最初は驚いたが、引き離すことはしなかった。いや、出来なかった。剣次さんが震えていたからだ。

あれ程の強者たる剣次さんが、何に震えているのか気になった私は愚かにも聞いてしまった。

剣次さんは夢で、兵士に数人の女性が殺される場面を見るそうだ。恐らく、その女性達は剣次さんの家族で、兵士というのは脱走兵か何かだろう。聞いた兵士の部隊から、今の反聖王連合側の兵士の装いと一致する。

今の反聖王連合は、昔から聖王家側とは小競り合いが続いていて、特に国境付近では脱走兵による盗賊化が深刻だと聞く。

つまり剣次さんは、戦災孤児で、反聖王連合の被害者。それも、子供の頃に家族を失ってしまい、生きるには剣に頼るしかなくなってしまった。

家族のことを詳しく覚えてないのは、殺されたショックで記憶に障害が起きてしまったのか、もしくは本当に小さい頃だからか……。

その事実に私は衝撃を受けた。

家族を失い、恐らくは愛をろくに知らない剣次さん。その原因が、反聖王連合に有る……。私には、もうどうしていいか分からなくなってしまった。

そして、改めて剣次さんを観察してみた。

普段は無愛想だが、私達が身を寄せている村の手伝いは積極的にこなし、困っている人が居たら手を貸している。私にも、買い物で買った物を積極的に持ってくれる。

不器用だけど、優しいことに気付いた。

不器用で優しく、無愛想だけど私を大事にしてくれている。それが分かると、私は充足感を得られていることに気付いた。

私を間諜としか扱わない反聖王連合には、はっきり言って良い思いはしていなかった。

しかし剣次さんは、私を一人の女として扱ってくれている。

そう分かったら、意識するまでに時間は掛からなかった。最初は偽りの夫婦を演じていたが、まるで本物の夫婦のように過ごしていた。

そんな時、反聖王連合から接触があった。剣次さんを殺すために、協力せよ、と。

この指示が来た時、私の心は決まっていた。

剣次さんを生かす為に、特務部隊の隊長をこの手で葬る。

十中八九、私は死ぬだろう。

念のために、手紙も記しておきますが、もし手紙かこの日記が見つかった時、私は生きてはいないでしょう。

ですが、生きてください。

自身の幸せのために。

剣次さんには、幸せになる資格があるのだから。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

読み終わったコロナは、手記を閉じると取り出したハンカチで涙を拭った。剣次と綾の物語は、悲恋の一言に尽きるものだった。

最初は復讐の為に近付き、そこから意識してしまい、最後は好きになって死に別れた。

そうして剣次は、誰かを助ける為に終わり無き旅に出て、幸せを見つけた筈である。でなければ、剣士郎が産まれていないのだから。

 

「……緒王戦乱期は……いえ、戦争は悲劇の連鎖だったんですね……」

 

全員の気持ちを代表してか、ヴィクターがそう呟いた。

オリヴィエとクラウス。剣次と綾。この二組は、戦争が理由で悲劇に満ちた人生を送った。

 

「せやな……ウチにはその記憶は無いけど……無関係やない……むしろ、その両方に関わっていた……最後は立ち合えなかったけど……最後まで気にしてた筈や……」

 

ジークがそう言うと、全員が頷いた。

こうして、一行の無限書庫の探索は幕を下ろした。



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終わった後

本を読み終わった一同は、地上本部を介して管理局本部から出て帰宅することになった。しかし、時間も時間だった為に大人達が送ることもあって、地上本部の前で集まっていた。その時、アインハルトが足下に居たアスティオンを抱き上げて

 

「では、私は近くなので……この辺で」

 

と断り、帰り始めた。

 

「あ、アインハルトさん……!」

 

ヴィヴィオは声を掛けるが、アインハルトは止まることなく肩越しに振り向いて

 

「また来週……学園で……」

 

とだけ言って、去っていった。

 

「はい、また来週!」

 

ヴィヴィオには、それだけ言って見送ることしか出来なかった。何故ならば、その背中から悲しみを感じ取ったからである。

事実、アインハルトは声を押し殺して泣いていた。その後、少しすると何人かの大人達が車に乗って戻ってきて

 

「さて、剣士郎君は病院に行くよ」

 

とディエチが、剣士郎に告げた。それを聞いた剣士郎は、首を傾げながら

 

「しかし、八神司令の回復魔法で……」

 

「それでも行くよ。あれだけ大怪我したんだから、検査するよ」

 

「……分かりました」

 

剣士郎が最後まで言う前に被せる形で、ディエチが言い、それを聞いた剣士郎は頷くことしか出来なかった。

その後、剣士郎はディエチが運転する車で病院に向かい、検査で一日入院することになり、それに伴って試合の棄権を決めた。

そして棄権に関しては、襲撃してきた相手たる雪代悟も一緒だ。しかも悟の場合は襲撃犯になり、殺す気で攻撃してきて、剣士郎は重傷を負った。

襲撃したもう一人、ファビア・クロゼルグもDSAAは棄権となる。しかし此方は、襲撃したとは言えども怪我人らしい怪我人は実質居ないことから情状酌量の余地は十分にある。

恐らくは、良い友人になるだろう。

しかしこれで、チームナカジマは全員が敗退したことになる。

翌日の早朝、それを理解したヴィヴィオ、リオ、コロナの三人は悔しさから泣いた。

しかし、敗北は大会参加者のほとんどが経験することであり、負けなしというのは優勝した選手だけになる。

重要なのは、その敗北を糧にするか否かである。

そしてヴィヴィオ達は、再起することを決めた。

次は、もっと上を目指そう。そして何時かは、都市大会本選に出る。そして、優勝を目指す。

それを自分たちのコーチたるノーヴェに告げ、次の為に更に特訓に励むことにした。

その後、ヴィヴィオに勝ったミウラは更に快進撃。

なんと二人に勝ち、多くの記者に囲まれて記者会見がされた。

しかし、最後の相手が悪かった。なんと、ジークだったのだ。ミウラも奮闘したものの、10代最強のチャンピオンには敵わなかった。

だが、初出場では非常に高い成績に着目され、再び記者達に囲まれた。

そして少々時間は進み、ヴィヴィオ達の制服も冬服に切り替わり、季節は秋になった。ヴィヴィオ達は特訓しつつ学業も頑張っていた。

確かに選手ではあるが、本来は小学生であり、学生の本分は学業である。

そんなある日、ヴィヴィオはアインハルトに模擬戦を申し込んだ。

今回で二度目の二人きりの模擬戦。

今回の模擬戦だが、ヴィヴィオはかなり気合いが入っていた。練習相手に、自身の母親たるなのはにお願いした程だ。

そんな中、剣士郎はと言うと

 

「はーい、そのままねー!」

 

「うぐぐぐ……」

 

ユミナに施術を施されていた。この理由は、悟との戦闘時に奥義。天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)を放ったからだ。

天翔龍閃の反動は凄まじく、剣士郎の体に大きなダメージを与えていたのだ、剣士郎はそれを表に出さないようにしていたが、以前に施術した際に剣士郎から天翔龍閃は凄まじい負担が掛かることを聞いていた。

そして剣士郎はそんなユミナの目前で、天翔龍閃を放っていた。

確かに剣士郎は病院で、生活になんら支障は無いという診断をされた。だがそれは、日常レベルでの話であり、試合や戦闘となるとまだ無理と言えるものだった。

ユミナはそんな剣士郎の回復の助けになればと、剣士郎の自宅に訪れて施術しているのだ。

 

「あの奥義……本当に凄い負担なんだね……こんなに、全身にダメージが……」

 

「神速を旨とする流派だからな……全身を酷使する……ぐうっ……」

 

ユミナの施術に、剣士郎はうめき声を漏らしながら任せていた。剣士郎も、今のままではダメだと思っていたからユミナに任せているのだ。

そして剣士郎は

 

「それで……アインハルトの様子は……どうなんだ……?」

 

「……少し、落ち込み気味だった……やっぱり、ご先祖様のことを気にしてるみたいだったよ……」

 

剣士郎からの問い掛けに、ユミナは少し気落ちした様子で答えた。ユミナだが一日前にアインハルトの家を訪れており、同じように施術したりマネジメントをしたりしたのだ。その時に、アインハルトの様子を確認していた。

 

「剣士郎君は……」

 

「俺は、アインハルトやファビア、雪代のようにはっきりと覚えている訳では無いから、そんな強くは思いは無いが……気にならないという訳でもない……」

 

ユミナが最後まで言う前に、剣士郎は自分の考えを口にした。記憶継承には個人差があり、ファビアやアインハルト、悟に関してはかなりはっきりと覚えていた。

それに対して、ジークはほぼ技術のみ。剣士郎は技術を中心に記憶が多少という感じである。

しかしユミナは、剣士郎から悲しみを感じていた。

そしてユミナは、自分に出来ることがないのか考えながら施術を続行した。



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帰宅とお願い

一同と別れた後、ヴィヴィオは一人で帰宅していた。

 

「クラウス陛下や過去のエレミアさん、オリヴィエ、緋村先輩のご先祖のこと……もっと知りたくなっちゃったね」

 

ヴィヴィオの言葉にクリスが頷いた時、通信が届いた。

 

「あれ、ルールーかな? クリス、繋いで」

 

『はぁい、ヴィヴィオ』

 

通信してきたのは、ヴィヴィオの予想通りにルーテシアだった。

 

『魔女っ子とあの白髪頭の事情聴取とか、事後処理とか。諸々無事に終わったよー』

 

「お疲れ様、ルールー」

 

ヴィヴィオが労うと、ルーテシアは僅かに角度を変えて、画面の端にファビアと局員が映されて

 

『魔女っ子はアレだね。過去のこと、かなりちゃんと覚えてるみたい』

 

「そうなんだ」

 

記憶の継承にはかなり個人差があり、ジークみたいに技術と経験のみが継承されていたり、アインハルトや剣士郎のように継ぎはぎだったりと様々だが、どうやらファビアはかなり覚えていたようだ。

 

『記憶伝承のタイプは、アインハルトや剣士郎にかなり近い。元々、同じ技術なのかもね……先祖のことで恨んでた、なんて言ってるけど……本当は子孫同士、アインハルトやチャンピオンと話をしたいんだと思うよ』

 

「そっか……」

 

『まあ、もう知り合ったんだから、後は話し合うなり、ケンカするなり、自由にね♪』

 

ルーテシアの言い種に、ヴィヴィオは思わず苦笑し

 

「もう、ケンカは勘弁してほしいなぁ」

 

と呟いた。確かに、そうそうしてほしくはないだろう。

 

『いやいや、ヴィヴィオ達は競技選手なんだから、試合という手もあるよ』

 

「ああ、確かに」

 

ルーテシアの案に、ヴィヴィオは同意した。そして、真剣な表情を浮かべ

 

「それで、雪代選手は……」

 

ともう一人の襲撃者のことを問い掛けた。するとルーテシアは、少しばかり間を置いてから

 

『あっちは、本局でご先祖の本のデータを見てから、まるで脱け殻みたいに大人しくなってね……今は独房で拘束してる……近いうちに、海上隔離施設に移送されるって』

 

「そうなんだ……」

 

ファビアと違って悟の方は殺す気で剣士郎を襲撃し、実際重傷を負わせた。ファビアとは違って、独房に入れられたようだ。

その後ヴィヴィオが、実家に帰って

 

「ただいまー」

 

「おかえりー!!」

 

靴を脱いで、声を上げた直後に、なのはに抱き上げられた。

 

「な、なのはママ!?」

 

「丸1日会わなかったのは、寂しかったよー」

 

ヴィヴィオが驚くと、なのはは頬ずりした。どうやら、ヴィヴィオが本局に1日泊まった為に寂しかったようだ。

 

「な、なのはママー!?」

 

なのははヴィヴィオを抱き抱えると、狭い廊下で器用にクルクルと回った。異様なテンションに、ヴィヴィオが困惑していると

 

「なのは、今日は早上がりになってね……お昼過ぎには家に居てね……」

 

「あああぁぁぁぁぁ……」

 

ユーノの説明に、ヴィヴィオはなのはのテンションの高さに納得した。つまりは、体力が有り余っているのだ。

 

「なのはママ、放してー……」

 

「やーだ。寂しかったんだもん!」

 

無駄だと分かりながらもヴィヴィオは抗議したが、なのはは即座に拒否。そんな光景を、ユーノは苦笑いで見て

 

「ほら、なのは。晩御飯出来てるんだから、そこまでにして。晩御飯にしようよ」

 

となのはに声を掛けた。

 

「っと、そうだった。今日の晩御飯は、クリームシチューとミートパイ。そして、デザートはフルーツババロアだよー!」

 

「嬉しいけど苦しい、苦しい!」

 

なのはに全力で抱き締められて、ヴィヴィオはなのはの肩をタップした。その後、ヴィヴィオが手を洗ってから、三人は着席し

 

『いただきます!』

 

と食べ始めた。そこからは家族団欒となって、三人で楽しくご飯を食べた。

なのはとユーノは、ヴィヴィオに際限無く愛情を注いで育ててきた。その甲斐あり、ヴィヴィオは最初感じていた寂しさは感じなくなり、今は毎日が楽しかった。

日常からヴィヴィオは、様々な事を学んできた。

その中で特に大事だと思っているのは、大切な人とは何時だって同じ目線で話すこと。痛みと悲しみを、きちんと分け合えるようにだ。

晩御飯後、ヴィヴィオはなのはと一緒にお風呂に入った。

 

「ねー、ママ。明日はお休みなんだよね?」

 

「ん、そうだよ? 何、何か買い物?」

 

「ううん。久しぶりに、対戦の相手をしてもらってほしいの」

 

ヴィヴィオのお願いに、なのはは快諾の意を示すように頷いて

 

「いいよー。誰かと試合でも?」

 

と問い掛けた。するとヴィヴィオは、左手を握って

 

「うん。大好きな先輩(アインハルトさん)と、ちょっとね」

 

と意気込みを述べた。2日後に、アインハルトと大事な試合をするためにだ。



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葵屋

無限書庫から帰ってきて、翌日。

ヴィヴィオはなのはに頼んで、対アインハルト戦を想定して特訓を開始。

それとは別に、剣士郎は地上本部の医療区画に居た。悟から受けた傷は、はやてがその場で魔法で治療したが、念のために検査入院したのだ。

そして、担当したのはシャマルだった。

 

「……うん、問題無いわね。お疲れ様、剣士郎くん」

 

「ありがとうございます、先生」

 

一通りの検査が終わって、何ら異常が無いことを確認したシャマルは、剣士郎が入っていた検査ポッドの蓋を解放した。

剣士郎は検査ポッドから出て、シャマルに感謝の言葉を言ってから、部屋から出た。すると、待っていたらしいディエチが来て

 

「どうだった、剣士郎くん?」

 

と問い掛けた。

 

「問題ありませんでした。という訳で、予定通り今日で退院します」

 

「ん、分かった」

 

軽く報告してから、剣士郎は自分の病室に向かって私服に着替え、ディエチと一緒に地上本部から出た。

 

「……それで、彼は……」

 

「うん……雪代くんは今は、地上本部の独房で大人しくしてるって……少ししたら、海上隔離施設に移動するって……」

 

剣士郎の質問の意図を察して、ディエチはそう教えた。それを聞いた剣士郎は、神妙な表情を浮かべた。

無理もないだろう。ご先祖が愛した女性の弟の子孫なのだ。感じ入るものがある筈だ。

そして、通りに出た時

 

「おーい、緋村!」

 

「あ、四乃森さん」

 

一台の車が止まっていて、その車体に背中を預ける形で四乃森紫埜が居た。

 

「あれ、柴埜さん……なんで、ここに……?」

 

「偶々、地上本部に来る用事があってね? 継いでだから、待ってた」

 

「旅館は大丈夫なんですか? 女将が居なくて」

 

柴埜の言葉に、剣士郎が渋面を浮かべていると

 

「大丈夫大丈夫! 短時間なら、問題無いよ!」

 

と笑った。

剣士郎がため息を吐いてると、柴埜が

 

「それより、ケガしたって聞いたけど大丈夫なのかな?」

 

と問い掛けた。それを聞いて、ディエチが

 

「ケガは問題ないです……今回は、こちらの対応が遅かった為にケガをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

と頭を下げた。どうやら、管理局員として謝罪したらしい。それを聞いて、柴埜は

 

「あー……今回は仕方ないさ……過去の因縁ってのは、どうしたってやってくるものだからね……私の家もだけど、緋村もよく知ってるから」

 

と告げた。

剣士郎もだが、四乃森家も過去の因縁により度々襲撃を受けてきており、どう頑張っても過去の因縁は自分達で解決するしかないと熟知しているのだ。

 

「それでも……こちらがきちんと警備していれば、未然に防げたかもしれないのに……」

 

「気にしすぎだよ、ディエチさん……復讐ってのは、どうやったって止められないんだ……緋村が死ななかっただけ、まだマシなんだ」

 

ディエチが尚も謝罪したが、それを柴埜は許した。

更に言ってしまえば、管理局程大きな組織になれば、対大組織には向いているが、相手が個人。または、少数人数相手にはフットワークの軽さも含め、後手に回らざるをえないのだ。

しかも今回は、クロエという非常に優秀な魔法使いが居た為に気付くのが遅れたのも大きな要因に挙げられる。

それらを考えると、剣士郎が命を失わなかったのはかなり幸運だろう。

 

「とりあえず、緋村は目的の本は見つかった?」

 

「ええ……思わぬ副産物も見つけましたが……」

 

柴埜からの問い掛けに、剣士郎は頷きながら返答した。確かに、ご先祖の手記だけでなく、愛した女性の手記も見つけたのは予想していなかった。

 

「さてさて、それじゃあ帰るけど……ディエチさんも乗っていく?」

 

「え、いいんですか?」

 

実はディエチだが、地上本部に来る要件があったギンガの運転する車に乗ってきいた為に、帰りはバスかタクシーかな、と考えていたのだ。

 

「大丈夫大丈夫! 知り合いを歩いて帰らせるのも、気が引けるしね」

 

柴埜が朗らかに言うと、ディエチは少し考えてから

 

「……ご迷惑でなければ、お願いしてもいいですか?」

 

「OK、任せて!」

 

ディエチのお願いに、柴埜は親指を立てた。

そして柴埜は車のドアを開けて、先にディエチと剣士郎を後ろに座らせた。助手席には、何やら大きな袋が置いてある。

恐らく、それが地上本部に来る理由だったのだろう。

 

「それじゃあ、先に葵屋に寄らせてね」

 

柴埜はそう言って、車を進ませた。地上本部前から出発した車は、安全運転でミッドチルダの市街区から離れて北部郊外に向かう。

八神家のある南部は海辺に対し、北部は山と湖が特徴の静かな場所になる。

森林の間に作られた道路を走っていくと、先に目的の建物が見えてきた。歴史を感じる木造の大きな建物だ。

実はJS&R事件の時には、臨時の避難所として解放されており、並大抵の攻撃ではビクともしない結界が展開されていたらしい。

話を戻し、ミッドチルダでは非常に珍しい木造建築に、ディエチは目を奪われた。荘厳さすら感じる建物は、静かに佇んでおり、森の中という状況もあって神秘さすらあった。

車は正面に停まり

 

「ちょっと、待っててね。この荷物を渡してくるから」

 

柴埜はそう言って、助手席の荷物を持って建物に向かった。ディエチがそれを見送ると、剣士郎が

 

「ここが葵屋です……一階に食事処と温泉があって、二階と三階が宿泊の部屋です」

 

と説明を始めた。剣士郎は主に陶器を収入源にしているが、時々葵屋で厨房に立つこともあるのだ。

 

「食事処と温泉は、宿泊客以外も利用が可能で、週末になると凄い賑わいなんですよ」

 

「そうなんだ……」

 

確かに、来たくなるのも分かる。首都圏の騒がしさとは一転し、非常に静かな為に静かに過ごすのに向いているだろう。

初めて見た葵屋に、ディエチは

 

(一回、お客として来てみたい)

 

と思った。すると、柴埜が戻ってきて

 

「お待たせ! それじゃあ、先に緋村を送ってからディエチちゃんを送るね」

 

「ありがとうございます」

 

「お願いします」

 

柴埜の言葉に、剣士郎とディエチがそれぞれ言うと、車は再び動き出し、剣士郎を家に送り、最後に寄ったナカジマ家でディエチが降りると

 

「それじゃあ、また今度。それと、今後も緋村をよろしくね! じゃあ、またね!」

 

と柴埜は言って、去っていった。

ディエチはそれを見送ってから、家に入ったのだった。



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決闘 開幕

無限書庫の事件から、2日後。日曜日

アインハルトは何時も通りに起きると、一通りの日課をこなしてから帰宅し、シャワーを浴びていた。

その時、チャイムが鳴り

 

「あ、はい」

 

『あ、アインハルト。今大丈夫?』

 

とディエチの声が聞こえた。そして時計を見て、気付いた。迎えに来るという約束の時間になっていた。

 

「す、すいません! 今開けますので、中に入って待っていてください!」

 

アインハルトは一先ずドアの鍵を開けて、ディエチ達を中に入れた。少し時は進み、聖王教会の中庭。

そこでは、先に来ていたヴィヴィオが念入りに準備運動をしていた。

これから、アインハルトと試合をするのだが、ヴィヴィオには負けられない理由があった。

これまで三戦してきたが、今のところ二敗一引き分けであり、明確には勝っていない。

 

(勝って、私たちの想いを伝えないと!)

 

ヴィヴィオは意気込みながら、準備運動を続けた。それを、ヴィヴィオ達と一緒に来ていたスバルとティアナが

 

「……練習試合かと思ったら……」

 

「うん……今のヴィヴィオ、完全に試合モードだ」

 

ヴィヴィオから発せられている熱気を感じ、ティアナとスバルはヴィヴィオが練習の雰囲気ではないことを察した。それから数十分後

 

「遅くなりました……アインハルト・ストラトス。参りました」

 

ディエチ達に連れられて、アインハルトが聖王教会に到着した。

 

「アインハルトさん……今日はよろしくお願いします!」

 

ヴィヴィオが挨拶すると、ノーヴェが二人の前に立ち

 

「今日のことの説明をするぞ? 今回は試合形式で、3分毎にインターバルを設ける。決着は、どちらかが戦闘不能になるまで。もしくは、セコンドがタオルを投げたら終了。何か質問は?」

 

ノーヴェの問い掛けに、二人して首を振った。それを確認したノーヴェは、腕時計を見て

 

「……後二分したら、試合を始める。それまでにバリアジャケットを展開して、調子を確認しとけ」

 

と指示。それを聞いた二人は、バリアジャケットを展開したのだが、ヴィヴィオのバリアジャケットの色が何時もの白基調ではなく、黒基調になっていた。

それを見た殆どのメンバーはざわつくが、アインハルトと剣士郎は気付いていた。

 

(あの色は……)

 

(オリヴィエの……)

 

ヴィヴィオの素体となった人物、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの戦闘時に纏っていた戦装束と一緒だったのだ。

そこに、遅れてやってきたジーク、クロエ、ヴィクターの三人がシャンテに案内されて中庭に現れた。

するとジークが、肩から掛けていた鞄から

 

「あ、ポップコーン食べる? 店長から貰ってきてるんよ」

 

とポップコーンの入った入れ物を取り出した。

 

「ジーク……またそんなジャンクフードを……」

 

ヴィクターは注意するが、クロエは好きらしい。

そして、試合が始まった。最初に仕掛けたのは、リーチに優れるヴィヴィオだ。

ヴィヴィオの繰り出した拳を、アインハルトは両腕で防御しながら強引に接近を図った。

これは、アインハルトの身体能力が高いから出来たことである。ヴィヴィオは的確に弱点を狙って攻撃を放っており、直撃を受ければ一撃で失神することもある。

そしてアインハルトは、懐に入ると

 

「覇王……断空……!」

 

初撃で決着を付けようと思ったのか、覇王断空拳を放とうとした。しかし

 

「アクセル」

 

小さく呟いたかと思えば、一瞬にしてヴィヴィオはアインハルトの側面に回り込み、素早くアインハルトの顎を狙って拳を突き出した。

的確に入った一撃で、アインハルトは一瞬意識が飛びそうになったが、ギリギリで耐えた。そして間髪入れずに、裏拳をヴィヴィオの顔側面に叩き込んだ。

 

「つっ!?」

 

だがアインハルトは、手応えから違和感を覚えて、気付いた。アインハルトの拳とヴィヴィオの顔の間に、魔力障壁が有った。

 

(セイクリッド・ディフェンダー!? 手以外に展開出来るようになっていた!?)

 

少し前、ミウラ戦の時には手の辺りにしか展開出来なかった防御魔法。セイクリッド・ディフェンダーが、短期間で手以外の場所に展開出来るようになっていて、アインハルトは驚いた。

驚きながらもアインハルトだが、直ぐ様距離を取ろうとバックステップした。だが、機動性ではヴィヴィオの方が優れている。

バックステップしたアインハルトの懐に、ヴィヴィオは潜り込み

 

「セイクリッド・スマッシュ……W」

 

一瞬にして、二撃をアインハルトの顎に叩き込んだ。

それは完全に新技で、初見だったアインハルトは反応が間に合わずに直撃を受けて膝から落ちた。

 

「アインハルト、ダウン!」

 

審判役をしていたノーヴェが、アインハルトがダウンしたことを告げる。するのだが、ヴィヴィオは両膝を突いたアインハルトを見て

 

「アインハルトさん……今回は、私が勝ちます……そして、私たちの想いを言わせてもらいます!」

 

と少しばかり、怒気を滲ませながら宣言した。



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ヴィヴィオの策

ヴィヴィオの言葉をアインハルトは、朦朧とする意識の中で聞いていた。すると

 

「3……4……5!」

 

とノーヴェのカウントの声を聞き、今が試合中だと思い出した。だからアインハルトは、直ぐに立ち上がり

 

「戦えます!」

 

と構えた。ノーヴェは、アインハルトの申告が虚偽ではないと察して

 

「試合再開!」

 

と僅かに距離を取った。その直後、二人は同時に動いた。ヴィヴィオは今まで通り、僅かな隙間を狙って拳を繰り出して一撃て意識を奪おうとした。だが、それをアインハルトは防御を固めて強引に接近し、蹴りを放った。ヴィヴィオは回避したが、一連の光景を見てジークが

 

「強引やけど、正解や……」

 

「そうね……ヴィヴィの攻撃は、一撃一撃は軽い……それを身体能力を活かして接近するのは、正しい選択だわ」

 

ジークの呟きに、ヴィクターが同意した。

確かに、ヴィヴィオの一撃の威力は低く、アインハルトやミウラのように一撃で致命傷にはなりにくい。それを補う為に、カウンターと急所を狙うという戦い方を編み出したのだ。

それに対して、アインハルトはご先祖譲りの高い身体能力を活かして、多少の被弾は無視出来る防御力と一撃で致命傷に至れる攻撃力の高さを有している。

対極の二人だが、二人の攻防戦は一進一退だった。

その時、アラームが鳴り

 

「そこまで! 第1ラウンド終了! 両者、離れてインターバルへ!!」

 

どうやら、何時のにか3分経っていたようだ。

ノーヴェの言葉を聞き、二人は即座に攻撃を停止。それぞれのセコンド役が待つ椅子に座って休憩を始めた。

今のところ、ヴィヴィオが優勢ではある。

だが、アインハルトは一撃が重い為に、直撃を入れれば逆転出来る可能性は十二分にある。

そう判断したアインハルトは、次のラウンドでは強引にでも懐に入ろうと考えた。

 

「インターバル終了! 両者、前へ!」

 

ノーヴェの宣告を聞いて、ヴィヴィオとアインハルトは再び前に出た。二人が前に出たのを確認して、ノーヴェは

 

「第2ラウンド、開始!」

 

第2ラウンドも、先に動いたのはヴィヴィオだった。ヴィヴィオは一息に接近すると、いきなり

 

「セイクリッドスマッシュ・W」

 

新技の二連撃を放った。それをアインハルトは間一髪で防いだが、威力に殺しきれずに押し飛ばされた。

何時もならば、ここでヴィヴィオは興奮した様子で

 

『アインハルトさん、凄い!』

 

位は言いそうだが、言わないでアインハルトを睨んでいた。

 

(ヴィヴィオさん……怒っている!?)

 

アインハルトが動揺していると、ヴィヴィオはまた一息に接近し拳を繰り出した。アインハルトはそれを、防御を固めて耐えた。だが、何発も叩き込まれたことで僅かに防御の空き、隙間が出来た。

ヴィヴィオはそれを見逃さず、そこからアインハルトの顎を狙って拳を叩き込んだ。

その一撃で、アインハルトは一瞬だけ意識を持っていかれ、体がフラついた。ヴィヴィオはチャンスを逃すまいと、次撃に左フックを繰り出したが、偶々その一撃は足から力が抜けて回避され、アインハルトの目前には無防備な腹部が見えたので、条件反射の域で右フックを叩き込んだのだが、その手応えに驚いた。

なんとその一撃で、バリアジャケットが破けた。

 

「ヴィヴィオさん……」

 

「まだ、ダメですよ、アインハルトさん……試合中です……」

 

アインハルトが近寄ろうとすると、ヴィヴィオが息絶え絶えな状態で静止。そして、ヴィヴィオが何をしていたのかは、試合を観戦していたジークやヴィクター達も気付いた。

 

「なるほどな……魔力運用が上手やから、出来たことやな……」

 

「流石、と言いたいところですけれど……」

 

「やれやれ……危ないことをする」

 

ジーク、ヴィクター、剣士郎の言葉を聞いて、シャンテが

 

「え、何々? どういうこと?」

 

と首を傾げた。

 

「えっとね。試合中って、常に魔力コントロールするよね? 攻撃の時には、攻撃に7。防御に3って感じに」

 

「ああ、うん。するね。魔力コントロールが上手い子は、それが凄いスムーズだけど」

 

「そうそう。ヴィヴィオだけど、常に100%振ってるの。攻撃にも、防御にも」

 

ルーテシアの説明を聞いて、シャンテは理解したと同時に固まった。

 

「え……それって、他の所の魔力が無くなるわけだから……もし、そこに攻撃を受けたら……」

 

「んー……例えるなら、水着だけの状態でトゲ付きハンマーで殴られるような感じ?」

 

「いやぁ!? その例えが怖い!!」

 

笑顔で説明したからか、シャンテは怯えた。

 

「ヴィヴィオさん……それは、非常に危険です……」

 

「分かってます……けれど、アインハルトさんに勝って、私達の思いを届ける為です……」

 

呼吸を整えたヴィヴィオは、腰を低くして構え

 

「だから……勝たせてもらいます!」

 

そう宣言したヴィヴィオは、突撃した。



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決着と和解

ヴィヴィオ対アインハルトの試合は、佳境を迎えていた。双方ともにフラフラになりながらも、まだ闘う意志を示していた。

 

(こりゃ、このラウンドで終わりそうだな……)

 

第2ラウンドも、あと一分という所である。

先に動いたのは、アインハルトだった。アインハルトはノーヴェ達との練習により、最初は振り下ろし位でしか使えなかった覇王斷空拳・改(仮)を放った。

その一撃をヴィヴィオは、ギリギリで避けて

 

「セイクリッドスマッシュ……!」

 

得意技の一つにして、代名詞とも言える技を放った。

最初の一撃は、アインハルトにギリギリて防がれた。だが、そこで終わらなかった。二撃目、ここまではダブルと一緒だ。二撃目は避けられたが、そこで終わらなかった。

なんと、三撃目と四撃目がアインハルトに放たれたのだ。これが、今ヴィヴィオが練習中の新技の一つ。

セイクリッドスマッシュ・クアドラプルだった。

完全に予想外の技に、アインハルトは反応しきれずに三撃目と四撃目はアインハルトの顎に直撃した。

ヴィヴィオは更に追撃しようとしたが、それはノーヴェに羽交い締めにされて止められて

 

「よく見ろ、ヴィヴィオ!」

 

促されて見てみれば、アインハルトの居る辺りにタオルが投げられていた。それは、セコンド役のディエチが投げたものだった。

セコンドがタオルを投げるのは、降参という意味があった。

実は、アインハルトはヴィヴィオの技で意識が無くなっていたのだ。その証拠に、アインハルトは力無く両膝を突いた。

これにより、三回目の試合はヴィヴィオに軍配が上がった。ヴィヴィオが力を抜いたのを確認したノーヴェは、ヴィヴィオを解放し

 

「ほれ、言いたい事があるんだろ? こっちも言いたい事あるが、後にしてやる。だから、その物騒なバリアジャケットを解除していってこい」

 

とヴィヴィオの背中を叩いた。それを聞いたヴィヴィオは、バリアジャケットを解除して、木の幹にもたれ掛かるように座らされたアインハルトに駆け寄り

 

「アインハルトさん!」

 

と泣きそうな表情で、声を掛けた。すると、意識を取り戻したアインハルトが

 

「……なんて顔をしてるのですか、ヴィヴィオさん……勝ったのだから、誇ってください……」

 

ヴィヴィオにそう言いながら、ヴィヴィオの頬を撫でた。そこに遅れて、リオとコロナも駆け寄ってきて、その二人も泣きそうな表情をしていることに気付き

 

「……私は、年長者失格ですね……自分の事ばかりに気を取られて、皆さんをちゃんと見ていなかった……ごめんなさい、皆さん……」

 

と頭を下げて、手招きした。何事かと思いながらも、三人はアインハルトの前で片膝を突いた。するとアインハルトは、三人を抱き寄せて

 

「……これからは、皆さんの目標となるように……頑張ります……そして、皆さんをちゃんと見ていきますね……」

 

と優しく語り掛けた。それが嬉しかった三人は、涙を流しながらアインハルトに抱き付いた。

こうして、チームナカジマはより一層仲を深める事が出来たのだった。

それから、十数分後

 

「セイン姉さま!」

 

「試合は!?」

 

シャッハの代わりに騎士カリムの護衛として管理局に向かっていたオットーとディードの二人が、セインの居る給湯室に勢いよく入ってきた。

 

「あ、お帰り、双子。騎士カリムの護衛は大丈夫だった?」

 

「そんなの、何時も通りだったよ!」

 

「それより、陛下の試合は!?」

 

セインが護衛の事を聞くが、どうやらオットーとディードの二人は、どうやらヴィヴィオとアインハルトの試合の方が気になるらしい。

 

「それなら、もうとっくに終わってるよ」

 

『そんな!?』

 

「まあ、試合は新技を投入したヴィヴィオの勝ち。今は医務室で、ノーヴェからお説教されてるね」

 

セインはそう説明しながら、ゴンドラに紅茶のポットとクッキーを乗せた皿を置いた。

場所は変わり、医務室

 

「あのな、ヴィヴィオ……アタシが何時、バリバリのハードストライカーに真正面からぶつかれって教えた! ええ!?」

 

「うぅ……はい……」

 

先ほどの試合のヴィヴィオの戦い方に、ノーヴェが説教していた。

確かに、アインハルトとの試合は、完全に何時もの試合とは異なっていたものだった。

防御は完全にセイクリッドディフェンダー頼り、攻撃と防御の際に魔力の全振り。それだけでなく、一撃が重いハードストライカー相手に正面から交戦。

その何れも、ノーヴェの教えから逸脱したものだった。

 

「あ、あのノーヴェ師匠……その辺で……」

 

「うっせー! お前らも聞いとけ!」

 

コロナが止めようとしたら、ノーヴェはリオとコロナにも視線を向けて

 

「アタシはな、お前らを預かってるんだ! だからアタシには、お前らの健康を気遣う義務がある! 今回みたいな無理をし続けてみろ! 早かったら、中等部位で体を壊して格闘が出来なくなるぞ!」

 

と告げた。それは、ヴィヴィオ達からしたら、恐怖の宣告だった。すると、それで思い出したのか

 

「そういう点では、お前もだ! 緋村!」

 

と剣士郎に視線を向けた。

 

「お前のあの奥義! あれは、体への負担が大き過ぎる! 成長するまで、使うんじゃないぞ!」

 

「分かってます」

 

ノーヴェの言葉に、剣士郎は素直に頷いた。実は、まだ天翔龍閃のダメージが残っているのだ。

 

「アタシは、お前らにあった戦闘スタイルを考えて、無理無いように育ててる! いいな!?」

 

『押忍!』

 

ノーヴェの言葉に、ヴィヴィオ達は口を揃えて斉唱した。こうして、ヴィヴィオ対アインハルトの戦いは幕を下ろした。



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面会

お待たせしました
再開します


ヴィヴィオとアインハルトの決闘が終わり、ノーヴェからの説教が終わった後、剣士郎はセインに頼んでイクスヴェリアの病室に向かっていた。

 

「すいません、セインさん。いきなり頼んでしまって……」

 

「いいよいいよ、気にしないで。イクスも、新しい人が来たら喜ぶだろうしね」

 

剣士郎が頭を下げると、セインは手をヒラヒラとさせながら答えた。

 

「確か、先にチャンピオンと雷のお嬢様が行ってる筈だよ」

 

どうやら、既にジークとヴィクターの二人がイクスヴェリアの病室に向かったらしい。因みに、ヴィヴィオはファビアに教会全体を案内している。

そして、病室に到着すると

 

「入るよー? 大丈夫?」

 

『大丈夫だよー』

 

セインがノックすると、中からシャンテの声が聞こえた。セインがドアを開けると、中には確かにシャンテの他にジークとヴィクターの姿があった。

ベッドには、幼さが感じられる少女。イクスヴェリアが眠っている。

 

「お、飛天御剣流の……」

 

「ああ、大会に出てたシスターさんですか。初めまして。緋村剣士郎です」

 

「アタシは聖王教会シスターのシャンテ・アピニオン。よろしく」

 

剣士郎とシャンテは挨拶すると、握手した。そして剣士郎は、イクスヴェリアを見て

 

「彼女が、古代ベルカの王の……」

 

「そ。冥府の炎王。イクスヴェリア本人……」

 

「今は、長い眠りに就いてるけどね」

 

剣士郎はイクスヴェリアの傍に寄ると

 

「初めまして、イクスヴェリア陛下。俺は飛天御剣流の流浪人。緋村剣士郎です」

 

と自己紹介した。勿論だが、イクスヴェリア本人は眠っている為に、返事は無い。そして剣士郎は、軽く周囲を見回して

 

「……護衛が、最低でも10人位居ますね……全員が手練れですか……」

 

と呟いた。

 

「へぇ……気付いたんだ。一応、全員が騎士の称号を貰った聖王教会の修道騎士達だよ」

 

剣士郎の呟きに、セインが感心した様子で告げた。

聖王教会では独自に修道騎士による部隊が編成されており、全員が近代か古代ベルカ式の使い手になる。

しかし、その修道騎士になるには厳しい訓練と管理局とは違う査定があり、年に多くて10人程しか修道騎士には選ばれないとされている。

しかし、近接戦闘では比類なき戦闘力を有している為に、時折管理局局員に指導に赴いたり、何らかの作戦で協力する事もある。

その修道騎士達が常に10人の班を編成し、イクスヴェリアの病室の周りに配置されている。

よほどの相手でなければ、突破・侵入し、眠っているイクスヴェリアに害成す事は出来ないだろう。

 

「ああ、居るのは分かっていましたが……」

 

「そんなに居たんやね。気配の消し方、凄いんやね」

 

どうやら、ヴィクターとジークの二人も居ることには気付いていたらしい。しかし、人数は分からなかったようだ。

 

「……そんなに居たの?」

 

「シャンテ……シスターシャッハに聞かれたら、怒られるよ?」

 

シャンテが困惑していると、セインが呆れた様子で苦言を呈した。シャンテとセインはイクスヴェリアの世話役兼護衛であるので、護衛班の人数は事前に知らされている筈だが、シャンテは聞いていなかったのかもしれない。そしてシスターシャッハは、シャンテの師匠でもあり、恩人だ。

シャンテは昔、裏路地で過ごしていたストリートチルドレンの一人でグレていたのだが、それを見つけて保護、修道騎士として鍛え始めたのがシスターシャッハなのだ。

そのシスターシャッハは、只今ミッドチルダに出張中である。

 

「それにしても、結構離れてる筈なのに気付くなんてね……流石、飛天御剣流の使い手だね」

 

「……飛天御剣流って、もしかして緒王戦乱期に居たっていう人斬り抜刀斉……?」

 

「それは、ご先祖ですね」

 

シャンテが首を傾げると、剣士郎が軽く説明した。

人斬り抜刀斉は、戦争で苦しんだ一人の人間でしか無かったと。

 

「そっか……戦争でか……」

 

「もしかして、無限書庫で調べたってやつ?」

 

「はい。偶然にも、見つけました」

 

セインの問い掛けに、剣士郎は頷き、同意するようにヴィクターとジークも頷いた。

すると、剣士郎はゆっくりとイクスヴェリアに近付いて

 

「まさか、冥府の炎王本人とは……記憶を継承してる、とかではなく?」

 

「間違いなく本人だよ」

 

「彼女は、長い間眠って過ごしてきたみたい。それに、成長が止まってるみたいでね……」

 

「なるほど……」

 

どうやら剣士郎は、イクスヴェリアが自分と同じ記憶継承タイプかと考えたようだ。確かに、まさか本人が現代まで生きているとは思わないだろう。

 

「今眠っているのは……」

 

「どうも、イクスに組み込まれてるシステムが異常を起こしてるみたいでね……一応、時々診察してるんだけど……」

 

「何時目覚めるかは、分からないんだって……」

 

剣士郎からの問い掛けに、セインとシャンテが答えた。その後、一同は帰宅し

 

「いやぁ。今日は賑やかだったね」

 

「だね。お嬢様からお菓子貰ったから、イクスに挙げよう」

 

とセインとシャンテが、会話しながらイクスヴェリアの病室に入った。すると、そのイクスヴェリアの胸元に、光輝く花のような物があった。

 

「なにあれ!?」

 

「わかんない!」

 

それを見た二人が警戒態勢に入ると、その花がゆっくりと開いて、中から小さなイクスヴェリアが現れて、ニッコリと笑みを浮かべた。

 

「え……」

 

「もしかして……イクス?」

 

まさかという思いで、二人は小さなイクスヴェリアを見つめた。



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驚きの目覚め

大分遅くなりました
コロナに感染し、倒れてました


「イクスが起きたって本当!?」

 

「イクス!」

 

小さいイクスヴェリアが現れた翌日、連絡を受けたヴィヴィオとスバルが聖王教会に来た。

そして、眠っているイクスヴェリアの上に居る小さいイクスヴェリアを見て固まった。

すると、セインが画面を開いて

 

「私達もさっき知ったんだけど、今のイクスって脳は覚醒状態なんだって……」

 

と説明を始めた。

以前の検査では分からなかったが、今のイクスの脳は殆ど健常者と同じ覚醒状態らしい。しかし、体は眠った状態。

恐らくだが、脳が何らかの魔法を発動し、魔力で体を形成し、それに意識を接続しているのではないか。ということらしい。

 

「つまり、この小さいイクスもイクス本人ってこと?」

 

「そういうこと。医師の話だと、近い内に目覚める可能性も高いって」

 

ヴィヴィオの問い掛けにセインが頷くと、小さいイクスヴェリアがフヨフヨとヴィヴィオとスバルに近付いて、着ていた服の裾を持ち上げて挨拶してきた。

 

「あはは、ご機嫌よう。イクス」

 

「久しぶり……って言っていいのかな、イクス」

 

ヴィヴィオとスバルがそう言うと、イクスヴェリアはコクコクと頷いた。どうやら、直接喋ることは出来ないようだ。

挨拶を終えるとイクスヴェリアは、ヴィヴィオとスバルの手に小さな手を乗せてコクコクと頷いた。するとヴィヴィオが、少し考えてから

 

「えっと、本当に久しぶりです。何時も来てくれて、ありがとう……かな?」

 

とイクスヴェリアの意図を察した。当たっている為にか、小さいイクスヴェリアはコクコクと頷いている。

すると、今度はセインやシャンテに近づいた。

 

「ん? アタシ達なら、任務だから気にしなくても……」

 

「えっと……何時も話し掛けてくれたりしてくれて、ありがとう……反応は出来ませんでしたが、とても嬉しかったです……だって」

 

ヴィヴィオの翻訳を聞いたセインとシャンテは、少し恥ずかしそうにしながら

 

「あ、あははは……変な事、話してなかったよね?」

 

「き、気にしなくてもいいよ……」

 

と呟いた。

その後、ヴィヴィオとスバルは一度帰宅して、後日改めて来る事にした。

何せ、スバルは連絡を受けて急いで半休で来た為に、特別救助隊隊舎に戻らないといけないのだ。

 

「それじゃあ、一度戻って近い内に有給休暇申請出してくるね!」

 

「はい! そうしたら、一緒にイクスを色々と案内しましょう!」

 

スバルの言葉を聞いたヴィヴィオは、そう提案した後スバルと別れた。そして後日、学院

 

「へー! あの眠ってた子、起きたんだ!」

 

「正確には、魔法で分身体を作って活動してる。ってところみたい」

 

「でも、起きて良かったね!」

 

ヴィヴィオの話を聞いて、リオとコロナの二人は嬉しそうに語っている。今居るのは中庭で、他にアインハルトとユミナ、剣士郎も居る。

 

「それで、ヴィヴィオさん。その方が、この後に来るのですか?」

 

「はい! もしかしたら、通う事になるかもしれないから、秘密裏にだそうですが」

 

少し前、学院に常駐しているシスターを介して、ヴィヴィオに話があったのだ。放課後、イクスヴェリアが秘密裏に学院に来るから、案内してほしい。ということだった。

ヴィヴィオはそれに一人ではなく、何時ものメンバーも同行するように頼んでいた。

 

「しかし、本当に良かったのかな?」

 

「何がですか?」

 

「修道騎士の人が居なくて、護衛的な意味は大丈夫なのかい?」

 

剣士郎の言葉に、ユミナが

 

「それは、ある意味大丈夫じゃないかな? DSAAでも活躍した皆なら、並大抵な相手は」

 

と一同を見た。

確かに、そういった心配は、大丈夫そうなメンバーである。そこに

 

「ごめんねー!」

 

「遅くなったあ!」

 

とセインとシャンテの二人が来た。しかし、イクスヴェリアの姿は無い。

 

「あれ? イクスは?」

 

「ふっふっふ……それだったら」

 

「じゃあーん! どうよ!」

 

ヴィヴィオが問い掛けると、セインとシャンテは自信満々といった様子でシャンテが持っていたバスケットの蓋を開けた。すると中に、イクスヴェリアが居た。

バスケットの中を見ると、人形用らしいベッドや机、椅子がある。

まるで、小さいドールハウスといった様相だ。

 

「わあ! 可愛い!」

 

「セイン、これは……」

 

「どうも、この小さいイクスの体力はあんまり無いみたいでね。移動とかは、この中に入れてあげて」

 

そのバスケットを見たヴィヴィオが問い掛けると、セインが軽く説明した。やはり寝たきりな為か体力は少ないらしい。それを補う為に、バスケットを作ったようだ。

 

「うん、分かった!」

 

ヴィヴィオがバスケットを受け取ると、それまでリオやコロナの話を聞いていたイクスヴェリアがバスケットの中に入った。それを確認したヴィヴィオは

 

「それじゃあ、行っくよー!」

 

と朗らかに、歩き出した。



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嬉しい話

短めな上に、賛否別れそうな内容


「イクス、起きたんだ」

 

「正確には、魔法の人形に意識を移して、のようだが」

 

ヴィヴィオからのメッセージを見て、フェイトと冬也が会話していた。スバルが助け、ヴィヴィオと友達になった古代ベルカの冥府の炎王。ある本には、邪知暴虐の王と書かれていたが、実際は心優しい少女だった。

 

「早く、本当に目覚めるといいね」

 

「ああ」

 

フェイトはアリシアを寝かせ、冬也はアリシアの寝ているベッド周りに防音結界を展開した。

 

「冬也さんも、大分慣れてきたね」

 

「慣れないとな」

 

フェイトが言ったのは、生活に使える魔法だ。結婚した頃はそれほど無かったが、今やかなり使えるようになってきている。やはり、変わってきているのだろう。

それはさておき、冬也とフェイトはヴィヴィオから送られてくる写真を見て

 

「ヴィヴィオ、最近で一番の笑顔だね」

 

「ああ……色々と解決したのも、大きいだろうな」

 

と嬉しそうに会話した。

ほぼ同時刻、隣の高町家。

 

「ヴィヴィオ、本当に嬉しそうだね」

 

「そうだね。ずっと寝ていた友達が起きたからね」

 

たまたま休みが重なったなのはとユーノが、ヴィヴィオから送られていた写真を見ていた。一番新しい写真を見るに、どうやらプールに行ったようだ。

イクスも着ているのは、恐らく人形用のを加工したのかもしれない。セインは結構手先が器用なので、セインが用意したのだろう。

 

「あ、よく見たらノーヴェが居る」

 

「本当だ。まあ、護衛役かな」

 

写真を見ていた二人は、端にだがノーヴェが居るのを見つけた。恐らくは、セインやシャンテから頼まれたのかもしれない。

するとなのはが、何やら意気込み

 

「ねえ、ユーノくん……ちょっと、大事なお話が有るの。聞いてくれる?」

 

とユーノの前の椅子に座った。

 

「え、う、うん……どうしたの、なのは?」

 

少し驚いた様子のユーノが問い掛けると、なのはは服のポケットから何やら取り出して

 

「見て、これ……」

 

とユーノに見えるように、両手で持って見せた。それは、何やら細長い道具だった。それを初めて見たユーノは、分からないといった様子で

 

「これは……?」

 

となのはに視線を向けた。するとなのはは、少し恥ずかしそうにしながら

 

「これはね、ユーノくん……妊娠検査キットって言ってね……妊娠してるかどうかが、分かる道具なの……それでね、ここに線が出てるよね?」

 

なのはが指差した場所には、確かに線が表示されている。

 

「……もしかして……」

 

そこまで言われて、ようやくユーノも気づいた。

つまりは、なのはが新しい命を宿したという事だ。

 

「うん……ヴィヴィオに、もう1つ嬉しい話が出来るね……新しい家族が増えるよって」

 

「なのは!!」

 

なのはの言葉を聞いて、ユーノは嬉しそうになのはを抱き締めた。なのはも、ユーノを抱き締めて

 

「やったね、ユーノくん……!」

 

「ありがとう……なのは!」

 

その後二人は、ユーノが運転する車で近くの病院に向かって、検査してもらい、確かに妊娠しているのを確認した。

その夜、なのはとユーノはヴィヴィオに新しい家族が出来ることを告げて、ヴィヴィオは歓声を挙げたのだった。



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試験と学園祭

時間掛かった割に、短くてごめんなさい


イクスヴェリアが目覚めて、数日後の昼。

ヴィヴィオ達初等科三人組は、教室で勉強していた。

 

「うぅ……定期試験、大変だよ……」

 

「だけど、これを越えれば学園祭だから、頑張ろうよ」

 

リオの弱々しい言葉に、コロナが苦笑を浮かべながら慰めた。今聖ヒルデ学院は、期末試験の時期に差し掛かっており、学生達はその為に勉強中である。

期末試験の為に範囲は学期の間に習った全てで、更に中間試験の時には無かった特殊科目もあるために、頑張って勉強しないと定期試験を落とし、成績も落とす羽目になる。

それは避けたい為、学生達は頑張っているのだ。

しかし、期末試験が終わったら、一年に一度の学園祭になる。

学園祭、分かりやすく言えば文化祭となり、普段は学院関係者しか入れない学院に一般人も招き入れ、生徒達がもてなしたりするのだ。

 

「アインハルトさん達も、試験頑張ってるんだから、頑張ろう!」

 

『うん!』

 

ヴィヴィオの言葉に、リオとコロナは頷いた。そして中等部の三人も、教室で試験勉強をしていた。

 

「えっと、この古代ベルカ語は……」

 

「そこは、こうなります」

 

「古代ベルカ語なら、俺達に任せておけ」

 

選択科目の一つの古代ベルカ語の試験勉強をしていたユミナを、アインハルトと剣士郎の二人が教えていた。

そして何も、試験勉強をしているのは聖ヒルデ学院の学生達だけではない。

ある学校の生徒の砲撃番長、ハリーとその舎妹達は

 

「今回も、目標は二桁順位だ!」

 

「何とか、赤点だけは回避したい……!」

 

少々勉強に自信が無いハリーと、二人の舎妹に、学年上位をキープしている舎妹を勉強を教えていた。

そして、エルスは生徒会会長な為に勉強は余裕でこなしており、恐らくは学年トップで期末試験を終えるだろう。

そして、ジークは通信教育で一般レベルは終えていて、ミカヤは計画的に修士課程を進めているようだ。

しかし、少々残念なのが

 

「うぅ……」

 

「ほら、ミウラ! 頑張るんですよ!」

 

「赤点取ったら、補習だぞー」

 

八神道場のミウラだった。

ミウラは文系が大の苦手であり、前回の中間試験も赤点ギリギリだったりしていた。それを回避するために、八神家で合宿的なことをしており、勉強をリィンやヴィータ。時々シャマルやはやてが教えている。

当麻は店の経営があるため、教育から外れている。(勉強は苦手というのもあるが)

ミウラも赤点回避を願っているため、リィンやヴィータに教えられながら一生懸命に勉強した。

それから、数日後。試験結果はと言うと

 

「初等科三人組!」

 

「全員!」

 

「優秀です!」

 

ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人は問題なく学年でも上位の成績を叩き出した。

そして

 

「同じく中等部」

 

「問題ありません!」

 

「優秀です」

 

剣士郎、ユミナ、アインハルトの三人も学年でも上位の成績を取っていた。これにより、チームナカジマは試験を無事に終了。

次に、ハリーは

 

「おっしゃぁああ! 無事に二桁順位維持だ!」

 

「キツかったぁ……」

 

「頭焼ききれるかと思った……」

 

「皆、無事に終わって良かったよ」

 

一人危うかったが、何とか無事に終了することが出来た。エルスはやはりトップで試験を終えたが

 

「な、何とか赤点を回避出来ました……」

 

「よーしよし! 文系は相変わらず酷いが、理数系で挽回してるな」

 

「よく頑張ったですよ、ミウラ!」

 

ミウラは本当にギリギリだったが、赤点を回避した。

その試験結果に、ヴィータとリィンは満足そうであった。

そして、聖ヒルデ学院は学園祭に向かって準備を始めた。



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出し物の決定

すいません、非常に短いです
ちょっとリアルがドタバタしているもので、中々時間が取れませんでした


聖ヒルデ魔法学院 中等部

その一つのクラス、アインハルトや剣士郎、ユミナのクラスでは

 

「えー ……というわけで! 学院祭の出し物について、厳正なる投票を行いました結果……我がクラスの出し物は、《スポーツバー》に決まりました!」

 

ユミナの発表を聞いて、クラスメイト達は拍手した。

 

「お客様と簡単な室内遊戯をして、お客様が勝ったらドリンクサービス。負けたら、チャリティー品をお買い上げいただく、という形です」

 

「我がクラスには、運動部のエース達も揃っていますし……楽しい出し物になりそうですね」

 

ユミナに続いて、教師役のシスターが同意するように言った。三人が所属するクラスは、様々な運動部系のエース格が居るのである。

 

「それで、部活のエース達はそれぞれのスポーツを活かして活躍してもらって……後は、アインハルトさんと剣士郎くん!」

 

「はいっ!?」

 

「おろ?」

 

ユミナが呼ぶと、二人は驚きの表情を浮かべた。まさか、指名されるとは思っていなかったのだ。

 

「二人はインターミドル選手なんだし、格闘勝負のコーナーとか、どうかな?」

 

ユミナの言葉を聞いて、クラスメイト達はおおーと声を挙げた。どうやら、クラスメイト達は歓迎の方向らしい。すると、一番前の席に座っていたクラスメイトの一人が

 

「え、あの二人って、そんなに凄いの?」

 

と二人を見た。

 

「うん。初出場でエリートクラスの四回戦まで進出ってのは、十分に凄いよ。先生はどう思います?」

 

そのクラスメイトに答えてから、ユミナはシスターに問い掛けた。すると、シスターは

 

「確かに……面白そうな考えですが……怪我人が出そうな格闘技を出し物にするわけにはいかないわね……」

 

やんわりと、二人による格闘技の出し物を否定した。それを聞いた二人が安堵していると、ユミナが

 

「うーん……それじゃあ……」

 

と考え始めた。その結果

 

「アインハルト先輩はアームレスリングで、緋村先輩は卓球ですか?」

 

「はい……」

 

「まあ、ユミナに推される形でな」

 

アインハルトと剣士郎の言葉を聞いて、ユミナは笑顔で

 

「いやぁ……アインハルトさんは腕力凄いし、緋村くんは読みと速さでイけるかなってね。ウチのクラス、卓球部のエースが居なかったのもあるけど」

 

と説明した。確かに、理には叶っている。

剣士郎の読みと速さはトップクラスな為、動きが激しい卓球やバドミントン等で活躍するだろう。

 

「それで、ヴィヴィオちゃん達のクラスは?」

 

「私達のクラスは、ファンタジー喫茶です!」

 

「コロナの操作魔法が大活躍ですよ!」

 

ユミナの問い掛けに、ヴィヴィオとリオが答え、コロナは恥ずかしそうにした。

そうして、学園全体で準備が始まり、順調に進んでいって、当日。

 

『これより、学院祭を開催します! 生徒の皆さんは、お客様を存分におもてなししてください!』

 

という放送がされて、聖ヒルデ学院の学院祭は始まったのである。



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学園祭 1

ただいま、活動報告にて次作品のアンケートをしております
ご参加くださいませ


 

「おぉー……ここが、ヴィヴィ達が通ってる学校か」

 

「教会系って聞いてましたが、こんなに大きかったんですね」

 

校門を見て感心しているのは、ジークである。なお一緒に、エルスの姿もある。エルスはたまたま、同じ時間に到着したのだ。

エルスはパンフレットを取り出して

 

「えっと、確かヴィヴィオさんのクラスは……」

 

少し前に聞いたクラスから、ヴィヴィオの出し物を割り出した。そして、到着すると

 

「おおー!」

 

「これは、ファンタジーですね!」

 

まるで、ヴィヴィオのデバイス。クリスのようにフヨフヨと動いている人形を見て、ジークとエルスは目を輝かせていた。

そこに、ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人が来て

 

「いらっしゃいませー! って、ジークさん、エルスさん!」

 

「いらっしゃいませ!」

 

「来てくださり、ありがとうございます!」

 

とジークとエルスを温かく出迎えた。

 

「凄いてすね、この子達。自動操機(オートゴーレム)ですか?」

 

「えへへ。コロナ達、操作班のおかげです」

 

「操作魔法が得意な皆で、セッティングしたんです!」

 

「頑張りました!」

 

エルスからの問いかけに、リオとコロナが説明した。

その時、ヴィヴィオがハッとした様子で

 

「あ、お席にご案内しますねー! どうぞどうぞ」

 

『はーい』

 

とジークとエルスを空いている席に案内した。

そして、メニューを渡してからヴィヴィオは

 

「そういえば、アインハルトさん達の方には、もう行かれました?」

 

「ううん、まだなんよー」

 

ヴィヴィオの問いかけに、ジークがのほほんと答えた。すると、エルスがパンフレットを取り出して

 

「アインハルト選手と緋村選手のクラスは、体育館での出し物でしたっけ」

 

「そうなんです! アインハルトさんと剣士郎さんも、頑張ってるはずですよー♪」

 

エルスからの問いかけに、ヴィヴィオは笑顔を浮かべながら答えた。そして場所は変わり、体育館。

 

『はい! こちらは中等部1年B組スポーツバーです! 開催各競技は何れも盛況で、楽しく盛り上がっておりますが……開始早々に激熱なのは、2つの競技! まずは、卓球! クラス代表、緋村選手の連勝が止まりません! 早くも15連勝!』

 

体育館の一角で、卓球の代表選手として剣士郎が無双していた。なんと剣士郎、時々だが2対1でも勝っていた。

 

『そしてもう1つは、アームレスリング! クラス代表、アインハルト選手の連勝が止まりません! 早くも20連勝です!』

 

そして、アインハルトも圧勝し続けていた。今も年上の男性に一瞬で勝っていた。

 

『凄いですね、アインハルト選手! 衣装も可愛いし!』

 

『いや、これは……皆さんが……!』

 

アインハルトが着ているのは、アニメの魔法少女が変身した際に着ているような可愛らしい服装だった。

なお剣士郎は、普通に体操着である。

 

『さー! 最強のアインハルト選手に挑む、次の挑戦者はいらっしゃいませんか?』

 

ユミナがそう呼び掛けると

 

「はーい! はい! オレやるー!」

 

と少し奥の方で、誰かが手を挙げた。そしてその声に、アインハルトは聞き覚えがあった。

 

『あ、貴女は!?』

 

「まあ名乗る程じゃないんだが……腕相撲1000勝無敗! ハリー・トライベッカだ!」

 

砲撃番長こと、ハリーだった。

 

「おう! 今日はまた、随分可愛い衣装だなァ!?」

 

「ハリー選手……?」

 

まさかハリーが来るとは思っていなかったアインハルトは、狼狽えていた。するとユミナは

 

『次の挑戦者はなんと、格闘技選手!! インターミドル都市本戦常連のトップファイター! 砲撃番長(バスターヘッド)こと、ハリー・トライベッカ選手ですっ!!』

 

ユミナが盛り上げると、周囲の観客達から歓声が上がった。

 

「詳しいな、司会っ子……って、よく見たらチームナカジマのセコンドの一人か!」

 

『はいー! お久しぶりです、ハリー選手!』

 

ハリーは司会がユミナだと気付き、ユミナは挨拶した。そして、ハリーが競技台に近づくと

 

「ハリー選手……今日は、どうして……?」

 

「チビッ子達から、招待状貰ったんだよ。んで、そういやオレァ、お前と戦った事が無かったなって思ってな……さぁて、やろうぜ……覇王様」

 

アインハルトの問いかけに、ハリーはその答えてニヤリと笑みを浮かべた。



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腕相撲の結果と親

ハリーとアインハルトは、競技台前に立つとそれぞれ指定の位置に肘を置いて手を組んだ。

 

「行くぜ、覇王様……手加減抜きで」

 

ハリーの言葉に、アインハルトは組んだ手を強く握る事で返答した。それを確認したユミナが歩み寄り

 

『では、いいですか? ……レディ………ファイトッ!!』

 

と合図をした直後、周囲に凄まじい衝撃波が放たれた。

 

『こ、これは!? アインハルト選手とハリー選手の二人の魔力がぶつかり、凄まじい衝撃波となって放たれてます!!』

 

ユミナは司会者として解説するが、周囲に居る観客達は悲鳴を挙げていた。気付けば、ハリーの舎妹達が周囲の観客達の避難誘導を始めていて

 

「ほら、司会者ちゃんも離れて!!」

 

とユミナにも、離れるように促した。

 

(マジか!? 変身前のこの細腕で、こんだけの力が出せるのか!?)

 

そんな中、ハリーはアインハルトの力強さに驚いていた。確かに、ハリーに比べたらアインハルトの腕はかなり細い方である。

しかし、アインハルトはハリーと互角に腕相撲していた。二人は白熱し、徐々に腕に込めていた力を上げていく。

二人は気付いていなかったが、競技台がミシミシと嫌な音を立てていた。

その時、豪快な音を立てながら競技台が砕け、周囲に破片が飛び始めた。

 

 

「わわっ!?」

 

「飛天御剣流……龍巣閃・散」

 

当然、ユミナの方にも破片が飛ぶが、間に入った剣士郎によって全て弾かれた。

 

「無事か、アンクレイブ」

 

「あ、ありがとう。緋村君」

 

「司会っ子大丈夫!?」

 

「ハルにゃー!」

 

「リーダー!?」

 

ハリーの舎妹達は、素早くユミナやアインハルト、ハリーに駆け寄って全員の無事を確認した。そして競技台だが、見事にバラバラになっていた。

 

「あーあ……競技台が……」

 

「リーダー……手加減抜きにやるから……」

 

「オレのせいか!?」

 

「リーダー……今まで、何台の競技台壊しましたか?」

 

「……覚えてない」

 

ハリー達は、慣れた様子で破片の回収を始めた。

そこに、観客達の無事を伝えられたユミナが

 

「こうなったら仕方ないし……アインハルトさん、お休み入って」

 

とアインハルトに休憩に入るように、促した。

 

「し、しかし……」

 

「新しい競技台を用意するまで、腕相撲出来ないから。それに、アインハルトさん。ここまで休み無しだったから、お休みして」

 

アインハルトが躊躇っていると、ユミナがそう言って、アインハルトの肩を押した。

そこまで言われたら、アインハルトは言い返せずに着替えてから休憩に入ることにした。

その頃、ヴィヴィオのクラスでは

 

「お? なんか、隣のクラスが賑やかだね」

 

「本当だね」

 

産休に入ったなのは、休暇を取ったユーノ。育休中のフェイトと休暇中の冬也が居た。

しかし、当のヴィヴィオの姿が無い。

すると、近くに居たコロナが

 

「あ、それは多分。ヴィヴィオが活躍したんだと思います」

 

と語った。

実はヴィヴィオは、隣のクラスの出し物。

的当ての難易度エクストラのキーパーも掛け持ちしており、なのは達が来る少し前にそのクラスに呼ばれていたのだが

 

「いぇーい! デビルヴィヴィオの勝利ー♪」

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

「さ、再戦を希望しますわ!?」

 

「おー。凄いなぁ」

 

「す、凄い……」

 

ヴィヴィオは、ルーテシア、ヴィクター、ミウラ、はやての四人が放ったボールを見事に、全て防いでいたのである。

なおこの後、競技台の片付けと新しいのを用意したハリー達が来て投げるが、ヴィヴィオのキーパーを突破出来なかったというのも記載しておく。

それを、コロナから聞いたなのはが

 

「うん。楽しんでるようで、良かった」

 

と笑みを浮かべた。

やはり、母親として(ヴィヴィオ)が楽しく過ごすことが何よりなのだ。

その後、なのは達はヴィヴィオのクラスから出て中庭側が見える窓から、ヴィヴィオ達がお弁当を食べているのを見つけて

 

「ふふ……ヴィヴィオ、凄い楽しそう」

 

「うん……嬉しそうで、本当に良かった」

 

と笑みを浮かべたのだった。



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中庭で 文化祭終

合流したヴィヴィオ達は中庭に集まると、昼食を採り始めた。昼食のお弁当はリオの親族が作った物のようで、あまり見たこと無い料理が詰められている。

そこにはミカヤも居て、リオはある提案をミカヤにした。それは、リオの故郷に行く事だった。

リオの故郷にはリオが使う格闘技の流派、春光拳(しゅんこうけん)の道場があり、そこには春光拳の剣技に関する指南書がある。

ミカヤはそれに興味があり、参加する事にした。

そして昼食が終わり、解散しようとした時、ミウラの動きを見たユミナが

 

「待って、ミウラ選手」

 

とミウラを呼び止めた。

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「もしかしてだけど……オーバーワーク気味で、少し体が痛いのかな?」

 

ユミナの指摘に、ミウラは驚きで固まった。

すると、ミカヤと一緒に来ていたノーヴェが

 

「ああ、確かにヴィータの姉御やザフィーラの旦那から言われてたな。適度に休めって」

 

とミウラを見た。どうやら、指導者のヴィータやザフィーラも気にしていたようだ。

 

「け、けど……ボクは、鍛練不足ですから……」

 

「焦る気持ちは分かるけど、焦りすぎも禁物だよ! 最悪、体を壊しちゃうからね!」

 

ミウラの言葉を遮る形で、ユミナがミウラのおでこを軽く突っついた。

 

「緋村くんの飛天御剣流もだけど、ミウラ選手の抜剣は体への負担がかなり大きいんだから、無理は厳禁!」

 

ユミナはそう言って、ミウラにベンチにうつ伏せになるように促した。それを確認したユミナは、その上に跨がり

 

「ちょっと今から、体を解すからね」

 

と言って、特技のマッサージ施術を開始した。

 

「わ……ふわわっ……!?」

 

普通のマッサージではなく、魔導マッサージは初めてなのか、ミウラは戸惑いの声を漏らしながら、体をビクビクと震わせた。

 

「そういえば、ユミナ先輩。魔導整体士の資格取ったって聞きましたけど……」

 

「大会中に、一級を取ったんだー♪」

 

コロナからの問い掛けに、ユミナは朗らかに答えた。勿論、ミウラへの施術はしながらになる。

ちなみに一級となると、専門店で働けるレベルである。

 

「これは私の持論なんだけどね……選手の体って、選手本人の努力とコーチ達の指導の結晶……一つの芸術作品だと思ってるの……そんな芸術作品に手を入れるんだから、生半可な技術で触る訳にはいかないって、頑張ってきたんだ……」

 

ユミナはそう言いながら、ミウラの体のダメージを癒していく。その動きは一切の淀みが無い為、一生懸命に努力してきた事が窺える。

 

「っと、終了だよ……はい、軽く動いてみて」

 

ミウラの背中から退くと、ユミナはミウラにそう言った。それを聞いたミウラは、周囲を軽く確認して

 

「は、はい……では」

 

と本当に軽くだが、蹴りを放った。すると、驚きの表情を浮かべて

 

「す、凄い! 体が軽いです!」

 

と声を上げた。

どうやら、効果覿面だったらしい。

 

「練習するのは良いけど、無理はしないように」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

ユミナの言葉に、ミウラは頷いた。それを聞いたユミナは、次に剣士郎の方を見て

 

「はい、緋村くんもやるよ!」

 

と剣士郎の手を引いた。

 

「今か?」

 

「忘れないうちにね」

 

剣士郎の問い掛けに、ユミナは力強く告げた。

そしてユミナは、剣士郎に施術をしながら

 

(あれから結構経つのに、体にかなりのダメージがある……負担が大きすぎるんだ、あの奥義って……)

 

と思った。

その後も施術を続け、改めてリオの故郷に行く事を確認し、全員で文化祭に戻っていった。

そして文化祭は、無事に終わりを迎えたのだった。



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ルーフェン紀行

学園祭も無事に終わり、片付けも終わった数日後。

ヴィヴィオ達は駅に来ていた。これから、リオの故郷のルーフェンに向かって観光兼特訓をするのだ。

参加者は、チームナカジマの他に、ミカヤとミウラとなる。他に、引率者としてオットーとディードも来ている。聞いた話では、後からイクスと護衛役のシャンテが来るようだ。

 

「皆、揃ったね?」

 

『はーい!』

 

ミカヤからの問い掛けに、一同は声を挙げた。

そして一同は、ルーフェン行きの列車に乗った。

ルーフェンは古代ベルカから続く歴史の中でも、独特の文化と技術を継承してきており、その内の一つにリオも扱う格闘技。春光拳(しゅんこうけん)がある。

リオはその春光拳の宗家の一族だが、魔法の適性が高かった為にルーフェンから出て魔法を学んでいた。

そして春光拳宗家の総師範はリオの祖父が行っており、いずれはリオがその地位を継ぐ事になるだろう。

 

「はい! ここがルーフェンです!」

 

山あいの駅に到着し、リオは広場の真ん中あたりに全員を呼び寄せた。一応予定では、リオの知り合いが迎えにくる事になっている。

 

「うわぁ……お花がいっぱい……写真撮ろうかな。スターセイバー、カメラお願い」

 

《了解。カメラ起動します》

 

そんな中ミウラは、見た事無い花が気になり、少し離れて写真を撮影しようとしていた。その時、近くでガサガサと何やら草が揺れる音が聞こえて、そちらに僅かに視線を向けた。

すると、草花の間から大型の猫科の動物。虎が姿を見せていた。

 

「ひあぁぁぁぁぁ!?」

 

「え!?」

 

「ミウラさん!?」

 

ミウラの悲鳴に全員の視線が動き、見つけたのは、何やら人懐っこい様子の虎が、喉を鳴らしながらミウラに体を擦り付けていた。

 

「え……ふぇ……?」

 

突然の事態にミウラが呆然としていたら、リオが少し慌てた様子で

 

「ミウラさん! ごめんなさい! それ、ウチの猫なんです!」

 

と駆け寄り、その虎を少しばかりミウラから引き離した。そこに、新たに褐色肌の地球で言う中華系の民族衣装を着た女性が現れて

 

「いきなり走りだしたと思ったら……シャオ、ダメだぞ!」

 

と先ほどの虎を怒った。シャオというのは、どうやら虎の名前のようだ。なおその女性の傍らにも虎が居て、そちらの虎は頭に小さなリボンが着いている。

そちらはメスなのかもしれない。

 

「ミウラさん、本当にごめんなさい……シャオが」

 

「いえいえ……驚きましたが、多分、ボクからリオさんの匂いがしたから走っちゃったんだよね?」

 

リオがシャオの頭を軽く叩いて謝ると、シャオも申し訳なさそうに一鳴きし、ミウラがシャオの頭を撫でながら問い掛けると、肯定するように鳴いた。どうやら、当たりらしい。

そんな光景を見ていた他のメンバーは

 

「いや……リオから、大きい猫飼ってるって聞いてたけど……」

 

「猫じゃなく、虎だな……」

 

「動物園だと檻に入ってたけど、直接は初めて……」

 

と少し呆れた様子だったのだが、ディードは動物好きの為に触りたそうにしていて、アインハルトはクラウスの記憶で雪豹を知っている為に平気そうだ。

すると、リオがあっと声を漏らし

 

「そうでした。この人は私の親戚で、春光拳の師範代をしてます。リンナ・タンドラです!」

 

「紹介された、リンナ・タンドラです! 今日からよろしく!」

 

『よろしくお願いします!』

 

リオに紹介されて、リンナは軽く自己紹介し、一同は軽く頭を下げた。するとリンナは、二頭の背中に鞍を装着し

 

「皆、荷物乗せて? ここから、結構歩くから」

 

と告げた。

 

「え、大丈夫なんですか? 結構荷物有りますけど……」

 

「平気平気! 何なら、大人を背に乗せて山を走れるよ!」

 

「ウチの猫は力持ちだから!」

 

ヴィヴィオが心配していると、リオとリンナは二頭の頭を撫で、二頭は任せろと言わんばかりに力強く鳴いた。

一同が二頭の鞍に荷物を乗せると、リオとリンナが先頭に立ち

 

「それじゃあ、これから山道に入ります!」

 

「ちゃんと着いてきてくださいね! 迷子にならないように!」

 

と告げて、歩きだした。

山道を歩いていると、歩き慣れてないヴィヴィオとコロナが転びそうになったが

 

「わわっ!?」

 

「わ!?」

 

「っと、大丈夫ですか?」

 

それは、軽くミウラに支えられて助かった。

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます、ミウラさん。山道は慣れてるんですか?」

 

「はい。ボクの実家が経営するお店が、山の中腹辺りに有るんですよ」

 

ヴィヴィオの質問に答えながら、ミウラはスターセイバーに地図を表示させた。どうやらミウラの実家の店は、海沿いの山にあるようだ。

 

「そのお店に使う材料とかを、よく麓の港まで取りに行っては、山道を登ってたんですよ」

 

「な、なるほど……」

 

「それで、あの脚力なんですね……」

 

ミウラが説明していると、スターセイバーがその写真を写し、その写真を見たヴィヴィオとコロナはミウラの蹴りの威力の理由を知った。

山道を数十kgの荷物を背負って登っているから、足腰が鍛えられたのだ。

その後も進んでいると

 

「あ、見えた!」

 

「あそこが、春光拳の道場です!」

 

リオとリンナが指差した先には、歴史を感じる大きな建物があった。



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ルーフェン紀行 2

「うわぁ……大きい建物……」

 

「あそこが、リオの実家なの?」

 

「そうだよ! あそこが、私の実家!」

 

山道から見える春光拳の道場はとても広く、ヴィヴィオが住んでる家の数倍はある。広場では、何十人と居る弟子達が春光拳の修練をしている。

 

「アインハルトさん。拳仙の事は知ってる?」

 

「はい、お話だけは……」

 

拳仙、レイ・タンドラ

春光拳の現総師範にして、格闘技においては負けなしと言われる最強クラスの格闘家だ。

 

「アインハルト。そこら辺、あんまり知らないよな」

 

「は、はい……」

 

「ご安心ください! 今後は私が教えます!」

 

ノーヴェの言葉にアインハルトは恥ずかしそうにし、そんなアインハルトにユミナが抱きついた。

ちなみに、アインハルトが想像する拳聖は筋骨隆々の大男だ。

すると、リオとリンナが

 

「いやいや。のほほんとしたおじいちゃんだよ」

 

「そうそう。気負いしないでね」

 

と言った。そこからまた少し歩いていると、建物の入口付近に小柄な白髪交じりの老人の姿が見えた。

それを見て、リオが嬉しそうに

 

「お爺ちゃーん!」

 

と走り出した。

 

「ん……おお、リオか」

 

呼ばれた老人。レイは振り向きながら、リオに気付いた。

だがその時、ほぼ全員が同じ景色を幻視した。

青空に原っぱ。そして海という、平穏な景色だった。

 

「わーい! 久しぶり!」

 

「おお。元気にしとったか」

 

リオがジャンプすると、レイは見事にキャッチしクルクルと回っている。その光景を見ながら、ヴィヴィオ達は

 

「今の……」

 

「一体……」

 

と不思議そうにしながら、目元を擦った。

すると、レイが

 

「お友達も、みんなよう来たの~」

 

のほほんとした様子で声を掛けてきた。

すると、全員で一斉に

 

『初めまして!』

 

と頭を下げた。

 

「ほっほっ。まあ、そうかしこまらんでええよ。長旅でお疲れじゃろ。部屋で一休みするとよかろうな」

 

「うん! じゃあ、案内してくる!」

 

レイの言葉に従い、リオとリンナはヴィヴィオ達を呼んで部屋に案内を始めた。するとノーヴェ達保護者組が、レイに近づき

 

「総師範。ご無沙汰しています」

 

「おお、ノーヴェ師範か。リオが世話になっとるの」

 

「と、とんでもないです」

 

実はノーヴェは春光拳の技も習得しており、師範代の資格を有しているのだ。

 

「……で、今回引率を手伝ってもらってる」

 

「聖王教会シスター、ディードです」

 

「教会騎士団執事のオットーです」

 

「ミカヤ・シェベルと申します。ミッドチルダで抜刀居合術を学んでいます」

 

ノーヴェが手招きすると、初めてレイに会った三人が自己紹介をした。

 

「リオの祖父のレイ・タンドラじゃよ。春光拳の師範をやっとる。気軽に【じーちゃん】とでも呼んでおくれ」

 

『いえいえいえいえ!!』

 

レイはのほほんと催促するが、余りに恐れおおくて四人は荷物を落としながら断った。

そんな事になってるとは露知らず、部屋に案内されてる一同は

 

「レイ総師範って、すごく優しそうな人だね」

 

「あははー。のんびり屋さんではあるね」

 

コロナの言葉に、リオは笑みを浮かべながら肯定する。すると、ヴィヴィオ達が

 

「それでね、さっき総師範の後ろに不思議な景色が見えたんだけど」

 

「私もです」

 

「本当に? どんな景色?」

 

ヴィヴィオとアインハルトの言葉に、リオは問い掛けた。

 

『とても綺麗な空と風と……』

 

「草原も見えたな」

 

「はい! あと、海です!」

 

「そうそう!」

 

ヴィヴィオとアインハルト、剣士郎とミウラの言葉を聞いてリオはコロナとユミナに

 

「コロナとユミナさんも見えた?」

 

「うん!」

 

「それになんだか、ふわっとあったたかかった……」

 

全員の言葉を聞いて、リンナが嬉しそうに

 

「そっか。そういう景色が見えたのは、みんなが優しい良い子だからだね」

 

と朗らかに答えた。

 

「え、ええと……?」

 

「ま、多分滞在中に分かると思うよ。な、リオ」

 

「うん! きっと、すぐに分かるよー」

 

リンナはそう言って、ある部屋の鍵を開けて

 

「さ、ここがみんなが泊まるお部屋だよ! あ、剣士郎君は別ね」

 

「わー!」

 

「凄ーい!」

 

「別部屋で良かったです」

 

剣士郎は別部屋のようだが、内装は似たものだろう。

中に入った一同は、部屋の内装を見て

 

「ルーちゃんが見たら、闘志を燃やしちゃいそうだねー」

 

「ホテルアルピーノがまた増設されちゃうかも……」

 

と半ば確信していて、後日写真を見たルーテシアが予想通りに増設するのは、完全に余談だ。

その後、剣士郎はリンナに部屋に案内された。



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ルーフェン紀行 3

道場正門付近

 

「皆のことは、リオからよく聞いとるよ。リオの事を、よく鍛えてもらっとると」

 

レイ・タンドラの言葉に、ノーヴェ達が姿勢を正し

 

「いまだ未熟の身ではありますが……」

 

「少しだけ、お手伝いを」

 

ノーヴェとディードの言葉に、レイは頷き

 

「有り難い事じゃよ。ミッドには春光拳どころか、ルーフェン武術の道場も滅多にないからの~……基礎や技はここで教えられても、日々の鍛練まで独学という訳にもいかん。リオは良き仲間と良き師範を得られたようじゃと、思っておるよ」

 

それは、嘘偽りなきレイの気持ちであった。

高度にシステム化がなされ、それに伴って様々な現代文化が中心の首都たるミッドチルダ。しかしそれに伴い、ルーフェンもだが一部の独自文化に関する施設は中々無いのだ。

そうなれば、基礎を教えておいても徐々に歪みが出てしまい、下手すれば体を壊してしまう。

しかし、その面ではリオは、春光拳の師範代の資格を有するノーヴェと、流派は違うが同じ格闘技仲間のヴィヴィオ達が居た。

それにより、リオは歪みが出る事なく鍛練を続けられたのだ。

 

「で……ミカヤお嬢ちゃんは、春光拳の武術書や剣術書がご所望だったかの?」

 

ノーヴェ達が頷いたのを確認したレイは、そう言いながらミカヤを見た。

 

「はい……! そうなんです!」

 

ミカヤは天瞳流抜刀術の使い手であり、師範代の地位に就いている。しかし、未だに納得しておらず、その為に様々な剣術に関する書物を読んでいる。

ルーフェンに来たのも、春光拳の剣術に関する書物が読めるかもしれないからだ。

 

「入門書や教練書でよければ、書庫に山ほど積んであるゆえな。好きなだけ見ていったらええよ」

 

「ありがとうございます!」

 

最悪は読めないかも、と思っていただけに、レイの言葉にミカヤは嬉しそうに頭を下げた。するとレイは、継いでと言わんばかりに

 

「道場の方にも、出向いてみたらよかろうな。春光拳(ウチ)は他流派との練習試合もフツーにしとるでな」

 

「そ……それは、是非とも胸をお借りさせていただければと!」

 

と会話していると、足音が聞こえてきた。そして

 

「総師範。歓談中に失礼します」

 

と一人の小柄な少女が声を掛けてきた。

その服装から関係者で、雑用を請け負ってるのが分かる。

 

「えっと、ミカヤ・シェペルさんという方は……」

 

「あ、私です。どうしました?」

 

ミカヤが問い掛けると、少女は手元のメモ帳を見ながら

 

「ミカヤさん宛に、お荷物が届いています」

 

と伝え、それを聞いただけでミカヤは理由を察した。

 

「あ、私の刀ですね」

 

「ん? どういう事じゃ?」

 

ミカヤの言葉を聞いて、レイは首を傾げた。

するとミカヤが、説明した。

次元船では刀剣の持ち込みは制限されており、旅先に持っていきたいならば、先に配達するように頼むしかないのだ。

ミカヤの説明を聞いたレイは、察したように頷きながら

 

「大変じゃのぉ」

 

と呟いた。

 

「あの、お持ちしましょうか?」

 

「あ、いえ。取りに行きます。それに、緋村くんも居るようですし」

 

少女の問い掛けにミカヤは返答しながら、通路の方に視線を向けて、剣士郎を見た。

剣士郎もミカヤと同じく、刀を発送していたのだ。

すると、レイは

 

「ふむ……タオ、二人を案内してあげなさい」

 

と少女。

タオ・ライカクに指示した。

 

「ついでに、ミカヤ嬢ちゃんを剣術教室に案内しておやり」

 

「はい! 分かりました!」

 

レイの指示にタオは頷き、それを確認したレイはノーヴェを見て

 

「ノーヴェ師範たちは、子供らに合流してやると良いじゃろ」

 

「はいっ! じゃあ、ミカヤちゃん。荷物は部屋に運んどくな」

 

「うん、ありがとう」

 

ノーヴェは刀を取りに行くミカヤの代わりに、ミカヤの荷物を部屋に運ぶ為に、キャリーバッグの取っ手を掴み

 

「では、総師範。失礼します!」

 

「おー。怪我せんようにの」

 

ノーヴェ達を見送ったレイは、門下生達の様子を見に行こうとしたのか、歩こうとしたが

 

「……む、そういえば……注意を伝え忘れとったな……ま、ええか。あの嬢ちゃんもだが、坊主も大分強いしの」

 

と何やら思い出した様子だが、気楽な様子で再度歩き始めたのだった。

それから数十秒後、道場全体に一人の少女の悲鳴が響き渡った。



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ルーフェン紀行 4

「イェン! シュエ!」

 

「お前ら、何やったー!?」

 

春光拳道場の問題児二人が剣士郎とミカヤに負け、ミカヤに尻叩きされた直後、荷物預かり部屋にリオとリンナが駆け込んできた。

 

「げ!?」

 

「師範代!?」

 

リンナを見たイェンとシュエの二人は、それぞれ剣士郎とミカヤから解放されて、リンナに捕まった。

 

「ミカヤさん、緋村先輩、大丈夫ですか!?」

 

「こいつら、何をやった?」

 

リオとリンナの問い掛けに、ミカヤと剣士郎はかいつまんで教えた。

 

『本当に、申し訳ありませんでした!』

 

イェンとシュエの二人には土下座させ、リンナも深々と頭を下げた。

リオとタオの二人はミカヤと剣士郎を手伝い、イェンとシュエの二人が汚した二人の刀を拭いている。

 

「いやいや。この程度のイタズラなら、可愛いものさ」

 

「それに、汚れは拭けば取れますから」

 

ミカヤと剣士郎の二人は、愛刀の汚れを拭きながら返答した。そして、ミカヤがイェンとシュエの二人を見て

 

「それで、その二人は……」

 

「ああ……春光拳(ウチ)の問題児。イェン・ランカイとシュエ・ローゼンだ……」

 

リンナが教えていると、その後ろでイェンとシュエの二人がイーとやっていたのだが、気配で察したのか振り向き様に二人の頭に素早く拳を振り下ろした。

流石は師範代というところか。

 

「弱いのに向上心が強く、イタズラ好きの問題児。私も手を焼かされてる」

 

「弱いは一言余計です」

 

「すぐに強くなります」

 

「うっさいわ、バカ共!!」

 

リンナの言葉に反論するイェンとシュエだが、リンナは一喝して黙らせた。

そして、ため息を吐いてから

 

「言っておくが、この二人はかなり強いからな? ミカヤ・シェペルさんは天瞳抜刀流の師範代。しかも、DSAA都市本選の上位入賞の常連者だ」

 

「うえ!? この人が、あの!?」

 

「うわっ! 有名人じゃん!?」

 

流石にミカヤは知っていたらしく、リンナの説明にイェンとシュエは驚いていた。

そしてリンナは、次に剣士郎を見て

 

「んで、こっちの緋村剣士郎君……彼は有名人って訳じゃないが……春光拳(ウチ)の本を手当たり次第読んでるお前らなら、飛天御剣流と人斬り抜刀斉の名前は知ってるんじゃないか?」

 

「飛天御剣流って……」

 

「古代ベルカの時代に居たって、凄腕の剣士……」

 

「そう……彼は、その流派の正統な後継者だ……はっきり言って、お前は瞬時に負けるぞ」

 

リンナの説明を聞いたイェンとシュエは、刀を手入れしている剣士郎を見た。確かに、剣士郎に取り押さえられたシュエは、あっという間に刀を奪われ、地面に押さえられたのを思い出した。

すると、刀の手入れが終わったらしく、ミカヤが

 

「ところで、何故その二人が?」

 

とリンナに問い掛けた。

イェンとシュエも春光拳道場の門下生だが、今の時間に二人だけで行動しているということは、何らかの特別な事情があると考えたからだ。

 

「ああ……こいつらなら、リオ達と年齢が近いから案内人に良いと思ってたんだが……」

 

確かに、見た目からだがイェンとシュエはヴィヴィオ達と年齢は非常に近いだろう。

年齢が近いならば年上の人に案内されるより、余計な緊張等はしなくても済むだろう。

 

「だけど、今ので罰与えるのも考えないといけないから、外すかな……」

 

リンナはそう言って、誰に案内役を任せるか考え始めた。すると、イェンが

 

「はい! 私達でやります!」

 

と手を挙げた。

リンナは少し悩むと、判断を仰ぐようにミカヤに視線を向けた。

 

「まあ……二人はまだ幼いし、何をやったら良いのか悪いのか、判断が出来ないんだろう……だからこそ、今知ったんだから、まだやり直せる……だから、私としては構わないさ」

 

「……だそうだ。お前らに任す」

 

『はい!』

 

ミカヤの判断を受け入れ、リンナはイェンとシュエの二人に任せることにした。

すると、ミカヤが

 

「もしまたイタズラしたら……さっきの比じゃない力で、尻を叩くさ」

 

「もうしません!」

 

「反省してます!」

 

ミカヤの言葉に、イェンとシュエの二人は深々と頭を下げたのだった。



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ルーフェン紀行 4

「という訳で……これからは、私達が案内しまーす! 私がイェン・ランカイ!」

 

「私は、シュエ・ローゼンです!」

 

『よろしくお願いします!』

 

 

イェンとシュエの二人が自己紹介すると、リオ以外が頭を下げた。ミカヤはタオに案内されて書庫に向かった。

リオはリンナから二人の監視を頼まれたので、二人の背後に居る。

 

「一応所属と使う武術は、春光拳」

 

「年齢は大差無いから、気にしないでね」

 

イェンとシュエはそう言うと、一同に胴着を渡して着替えるように促した。郷に入りては郷に従え、に従って着替える事にし、着替え部屋に案内された。

それから数分後、最初に出てきたのは唯一の男の剣士郎だった。

春光拳の胴着は、地球でいう中華服に非常に酷似した物になっており、随所に動きやすいようにと切り込みがある。

 

「これ、かなり動きやすいな……」

 

剣士郎は軽く肩や足を動かして、調子を確認している。やはり、着慣れない服だから気になっているようだ。

剣士郎が出てきて少しすると

 

「着替えましたー!」

 

「この服、動きやすい!」

 

とヴィヴィオ達が、次々と着替えて出てきた。

最後に、ユミナが恐る恐るといった様子で

 

「あの……なんで、私はこういうやつなのかな……?」

 

と恥ずかしそうに、姿を見せた。ユミナが着ているのは、動きやすさより《見せる》事に比重が置かれたものだった。

 

『ユミナさん、セクシー!』

 

「恥ずかしいよー!」

 

ヴィヴィオ達は素直に称賛し、ユミナは顔を赤くしていた。すると、イェンとシュエが

 

「見学者なんだから、こんな動きはしないでしょ?」

 

「一応、見学者も着替える決まりだから」

 

とユミナに説明し、ユミナは不承不承という表情を浮かべた。そして再び場所を移し、簡易的な訓練所に来た。

恐らくは、体験者用なのだろう。

 

「それじゃあ、簡単に説明するね」

 

「私達が使う春光拳は、現代格闘技。ストライクアーツとは、理が違います。最も違うのは、勁と呼ばれる技術」

 

イェンとシュエは説明文しながら、木に吊るされたサンドバッグに近づいた。そのサンドバッグはかなり大きく、かなり重そうである。

 

「勁は魔法ではなく、技術……」

 

「この勁を使う事で、例え非力な一撃でも相手に大きなダメージを与える事が出来ます」

 

最初に普通に拳を入れるが、サンドバッグは大して動かなかった。しかし、二撃目はかなり動いた。

どうやら、二撃目はその勁を使っていたようだ。

 

「この勁を使えるか否かが、私達春光拳拳士の分かれ道になります」

 

「リオお嬢も使えるしな」

 

「あはー」

 

シュエの言葉に、リオは少し恥ずかしそうにしながらサンドバッグに歩み寄ると、拳を密着させた。

次の瞬間、サンドバッグが大きく揺れた。

密着状態から衝撃だけで、サンドバッグを動かしたようだ。

 

「おぉ……」

 

「リオの一撃、重いとは大きくたけど……」

 

コロナとヴィヴィオが驚き、アインハルトはサンドバッグを止めた。

 

(このサンドバッグ、30kgはありそうですね……)

 

とアインハルトが考えていると、シュエが

 

「まあ、緋村さんには必要無い技術になるね」

 

と剣士郎を見た。確かに、使うのはヴィヴィオ達であり、剣士たる剣士郎は使わないだろう。

 

「確かに……だが、見といて損は無いな」

 

剣士郎はそう言うと、壁に背中を預けた。

恐らくだが、これからやる事を察したのだろう。それを肯定するように

 

「じゃあこれから、一人ずつ一撃入れてみてね」

 

「これ頑丈だから、本気でやっても大丈夫だからね」

 

とヴィヴィオ達に促した。

その頃、ミカヤはタオに案内されて書庫に来ていた。

小屋位の広さの部屋の中に、所狭しと本棚が並び、さらにぎっしりと本が詰められている。

 

「これは……凄いな……」

 

「はい。先史ベルカ……緒王戦乱期の頃から書かれてはこの書庫に入れられてきてまして、この書庫の管理と本の維持とデータ化を私がしています」

 

ミカヤが感心していると、タオはそう説明して脚立を持ってきた。そして、一つの本棚の前に置くと

 

「剣術の本となりますと……これとこれと……あ、これもですね」

 

とヒョイヒョイと本を取り出し始めた。

 

「ああ、そんなに急がなくても」

 

「いえ、大丈夫ですよ。あ、これもですね!」

 

ミカヤに返答したタオは、取った本を近くの机に置いてからまた一冊の本を引っ張り出そうとした。しかし、予想外に詰まっていたからか、他の本も引っ張り出されてしまい、それが崩れてタオの方に倒れてきた。

 

「わ、わあぁぁぁ!?」

 

「た、タオちゃん!?」

 

ミカヤは受け止めようと一歩踏み出したが間に合わず、大きな音を立てながら本と一緒にタオが落ちた。

 

「タオちゃん、大丈夫かい!?」

 

「は、はい……私は大丈夫です……ああ、本が……」

 

何冊かはタオが受け止めていたが、他に何冊か落ちていて、タオは拾い始めた。

 

「本も大事かもしれないが、タオちゃん。怪我は無いかい?」

 

「はい、大丈夫です……はぇ?」

 

怪我の有無を確認していた時、タオの頭の上に一枚の紙が乗った。かなり茶色くなっているので、古そうである。

 

「ん、地図かい……?」

 

「みたいです……んん? この場所は……三岩窟?」

 

その紙を見ていたタオとミカヤは、その紙が地図だと気付いた。しかもタオには、その場所に見覚えがあるようであった。



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三岩窟へ

書庫で見つけた地図を持って、タオはリンナ達がお茶会をしている場所までやって来た。

 

「師範代!」

 

「ん? タオか、どうした?」

 

タオに呼ばれたリンナは、体をリンナの方に向けた。そしてタオは、リンナに見つけた地図を手渡した。

 

「ん? この地図は、三岩窟か? ……お……おおぉ!?」

 

その地図を見たリンナは、何やら驚きの声を洩らした。すると、タオに

 

「タオ、子供達に門の所に集まるように伝えてくれるか?」

 

「分かりました!」

 

リンナの指示を聞いてタオは、ヴィヴィオ達の居る場所に走っていった。それを見送ったリンナとノーヴェが、ニヤリと笑みを浮かべて

 

「ノーヴェちゃん……計画の通りに」

 

「おうよ……」

 

と呟き、それを聞いたオットーとディードは

 

(ああ、何やら悪巧みしてる)

 

と思った。

それから十数分後、正門付近にヴィヴィオ達が集まっていて、その前にリンナ達が居た。

 

「急に集まってもらって、ごめんね。実は、タオが興味深い地図を見つけてね」

 

リンナがそこまで言うと、タオがその地図を見えるように掲げた。それを見て、リオが

 

「ん? それ……三岩窟の地図?」

 

と首を傾げた。

 

「三岩窟?」

 

「うん。春光拳の古くからある練習場」

 

コロナが呟くと、リオは簡単に答えた。

三岩窟

これは、春光拳がこの地に道場を構える前からあったという三つの古い洞窟を、技、力、心の部門に別けて改装し、訓練した場所だ。

 

「んで、この地図はどうやら家に伝わる地図の中でも最も古い地図みたいでな。タオ」

 

「はい! 裏面に、こう書かれています。三岩窟の最奥に、宝あり、と」

 

『宝!?』

 

タオの言葉を聞いて、ヴィヴィオ達は驚きの声を挙げた。宝と聞いて、子供心に触れたようだ。

 

「という訳で、三岩窟に行くよ!」

 

『はーい!』

 

リンナの言葉に、ヴィヴィオ達は楽しみという様子で手を挙げた。すると、イェンとシュエの二人が

 

「あ、そうだ。あいつにメールしよう」

 

「あ、いいね」

 

と少々悪巧みな顔をしながら、ヴィヴィオ達を集めて写真を撮影し、それをメールに添付して送信した。

すると、ヴィヴィオが

 

「写真、誰に送ったの?」

 

流石に知らない相手に送られるから気になったらしく、イェンとシュエに問い掛けた。

 

「ん? アタシ達の友達」

 

「アイリン・ハーディン」

 

場所は変わり、同じルーフェンではあるが少し離れた華凰拳道場。

 

「お嬢様、お茶が入りました」

 

「ありがとう、クレア」

 

その庭先に、二人の少女が居た。

一人は華凰拳道場の跡継ぎ候補、アイリン・ハーディンだ。そしてもう一人は、その執事のクレア・ラグレイト。彼女は、ヴィクトーリアの執事のエドガー・ラグレイトの妹に当たる。

クレアはアイリンの前に、カップを置いてから

 

「それと先ほど、ご友人からメールが届きました」

 

「友人? 誰から?」

 

アイリンからの問い掛けに、クレアはメールを見えるように表示させながら

 

「イェン様からになります」

 

とアイリンに教えた。するとアイリンは、苦い表情を浮かべて

 

「クレア……イェン達は私の友人ではありません!」

 

とクレアに反論した。だが、クレアはどこ吹く風という様子で

 

「おや、これは失礼しました……こちらになります」

 

と言って、アイリンにそのメールと写真を見せた。

 

「あら、リオが居るわね。帰省してるの?」

 

「そのようです。イェン様とシュエ様。タオ様以外の方々は、リオ様のご友人のようです。どうやら、三岩窟に向かわれるようです」

 

「三岩窟に?」

 

クレアの説明を聞いて、アイリンは少し考え始めた。

すると

 

「興味が湧きました……三岩窟に行きましょうか」

 

「それは構いませんが、お嬢様……今日はこれから、お客様が来られることを覚えてらっしゃいますか?」

 

クレアの指摘に、アイリンは体を震わせた。どうやら、忘れていたようだ。それに気付きながら、クレアは

 

「お相手はそろそろ、駅に到着する頃でしょうが……」

 

と何処か楽しそうな表情で、呟いた。

クレア、中々の性格のようである。

するとアイリンは

 

「そんなの、あっという間に終わらせればいいんです!」

 

と告げた。

一方その頃、駅には

 

「んー……ようやっと着いたなぁ」

 

とジークが背伸びしていた。傍らには、ヴィクターの執事のエドガーとイクスを連れたシャンテの姿がある。

何故ジーク達が居るのかと言うと、ジークはエドガーの仲介でアイリンと模擬戦をする為に来て、シャンテとシュエはヴィヴィオ達に合流する為にやって来て、たまたま同じ便で会った、ということである。

するとエドガーが

 

「ジーク様。どうやらお相手の方は、今は春光拳のある場所に向かったようです。我々もそちらに直接参りましょう」

 

「お、そうなんや。ほな、行こうか」

 

「げっ……結局一緒かよ……」

 

実はシャンテは、少々ジークに苦手意識があった。駅で別れられると思っていたのだが、エドガーの話を聞いて思わずしかめ面を浮かべた。

 

「そんな事言わんといてぇな。なぁ、イクス様」

 

ジークとしたら仲良くしたいらしく、イクスの頭を優しく撫でた。

シャンテはイクスが楽しそうだからいいか、と思いながら空を見上げて、雨雲が広がり始めている事に気付いた。

 

「げっ……雨かな? 幸先悪いな……」

 

シャンテはそう言いながら、先導を始めたエドガーの後に続いた。



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三岩窟の試練

すいません、大分削ります


春光拳道場から出て、十数分後。切り立った岩山。三岩窟の前に到着した。

 

「はい、ここが三岩窟です!」

 

『おー』

 

三岩窟の名前の通り、全員の前には三つの洞窟があった。それぞれ上に、心、技、力と彫られてある。

ノーヴェとリンナの二人は、その前に立ち

 

「それじゃあ、チーム別けするぞ!」

 

「よく聞いてな」

 

と今来ているメンバーを分けた。

力、リオ、アインハルト、ユミナ(非戦闘要員)

技、ミウラ、ヴィヴィオ、ミカヤ、シュエ

心、コロナ、タオ、イェン、オットー

となったのだが、ヴィヴィオが

 

「あれ、緋村先輩は……」

 

と剣士郎を見た。チーム別けに含まれていないからだ。すると、ノーヴェが

 

「緋村に関しては、技と心はこのチームの中では突出してる。そして力は……緋村はむしろ邪魔になる」

 

と剣士郎を見た。

確かに、剣士郎はチームの中ではかなり突出した技能と精神力を持っている。ならば、入る理由は無いだろう。

 

「それに、緋村には別にやってほしい事があるからな」

 

「分かりました」

 

洞窟に入っていくヴィヴィオ達を見送った剣士郎は、ノーヴェとリンナを見て

 

「つまりこれは、二人が用意した試練……って訳ですね?」

 

と確信した様子で、問い掛けた。

すると、ノーヴェとリンナが良い笑みを浮かべて

 

「やっぱり、緋村は気付くよな」

 

「だから、こっちに居てもらったんだしね」

 

と言って、それを聞いた剣士郎は嘆息した。

つまり、今回の三岩窟は最初からノーヴェとリンナの計画だという事である。

そして二人は、自分達の前にウィンドウを開いて

 

「さあ、どう頑張るか」

 

「お手並み拝見といこうか♪」

 

と黒い笑みを浮かべた。

 

「仲良いですね、ノーヴェさんとリンナさん」

 

「今日初めて会った筈なんですがね……」

 

剣士郎の言葉に、虎達の世話をしていたディードも首を傾げた。

最初は順調にそれぞれの道を行くヴィヴィオ達。

その中で、リンナが注目したのはミウラだった。

 

「あの子、間合いの取り方が極端だね」

 

「まあ今まで、遠いか近いかでしか戦った事なかったからね」

 

リンナの言葉に、ノーヴェは同意した。

確かに、大会でもミウラは近いか遠い距離から肉薄して戦ってきた為に、どうも間合いの取り方が極端になってしまったようだ。

その時

 

「ごきげんよう、皆様」

 

と声がして、振り向いた先には二人の少女。

アイリン・ハーディンとクレア・ラグレイトが居た。そんな二人を見て、リンナが

 

「ごめんね、アイリン。あのバカ共が呼んだみたいで」

 

とアイリンに謝罪した。だが、アイリンは笑みを浮かべ

 

「いえ、私も興味が有りましたし……それに」

 

と、一つのウィンドウを見た。そこには、少し怯えた様子のタオが映っている。

 

「タオに、謝りたいって思っていたので……」

 

その顔には、後悔が見える。どうやら、タオとアイリンの間で過去に何かあったようだ。

 

「さてと……そろそろ、アタシらが介入しようと思ってるけど……アイリンは誰に興味ある?」

 

リンナが問い掛けると、アイリンは一通り見てから

 

「私、この子達に興味が有ります」

 

とヴィヴィオとミウラを指差した。

 

「だろうと思った……さて、ノーヴェちゃん。変装しようか」

 

リンナはそう言いながら、何処からか化粧道具を取り出した。

 

「は? いやいや、変装位自分で」

 

「ノーヴェちゃん。素材は良いのに、化粧とか全然しないから勿体ないって思ってたんだよねぇ」

 

「趣旨変わってない!?」

 

リンナは何やら期待が籠った目をしながらノーヴェを捕まえ、ノーヴェは逃げようとするが

 

「はいはい、リンナさんにお任せー♪」

 

「あーれー!?」

 

リンナはノーヴェを難なく捕まえて、連行していった。

 

「随分と仲が良いですね……以前からのお知り合いですか?」

 

「いえ、今日初めて会ったのですが……」

 

アイリンからの問い掛けに、デジャブを感じるながらディードは返答した。そして、十数分後

 

「よし、出来上がり」

 

何処か満足そうなリンナに引っ張られて、化粧と服を着替えたノーヴェが現れた。普段のノーヴェが活発な印象を感じるが、今のノーヴェは少々ミステリアスな雰囲気だった。

 

「化粧と服で、大きく印象変わりますね」

 

「そうですね。ノーヴェ姉さま、普段から化粧をされたらどうですか?」

 

剣士郎は素直に感想を述べて、ディードは化粧をするように進めるが

 

「いや、鏡ないから今の自分が分からないし、救助隊やってると邪魔になるというか……」

 

と言いながら、靴の調子を確かめている。そして、三岩窟の力の洞窟の前に立ち

 

「んじゃ、アタシは先に行くけど、リンナちゃんも早く変装しなよ」

 

と言って、入っていった。

それを見送ったリンナは

 

「さて、アタシも変装しますかね」

 

と化粧を始めた。するとアイリンが、剣士郎に近づき

 

「緋村剣士郎さん、でしたわね」

 

「そうですが……」

 

「改めまして、アイリン・ハーディンです。貴方、中々強いですね。もし良ければ、後程手合わせしてほしいです」

 

「俺で良ければ」

 

剣士郎の返答に満足したのか、アイリンは技の洞窟にクレアと一緒に入っていき、僅かに遅れてリンナは心の洞窟に入っていった。



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三岩窟の試練 終

結果から言うと、ノーヴェとリンナの企みは大成功した。チームナカジマの面々は自分たちの欠点を自覚し、試練を突破。そしてタオは、格闘家に戻った。

タオは実は、華鳳拳の門下生だったのだ。

しかしある日、アイリンとの訓練中にタオの魔法。傀儡魔法が暴走し、髪による攻撃がアイリンに怪我を負わせてしまった。

怪我自体は大したことなかったのだが、アイリンはタオの魔法に怒り、更にタオ自身もアイリンに怪我を負わせてしまった事を理由に華鳳拳道場から去り、タオの腕前を惜しんで、リンナがタオを引き取り、家政婦のような事をしていた。

それからタオは、自身の傀儡魔法を《自分から大好きな格闘を奪った呪い》と考えて、嫌っていた。

だが、タオの傀儡魔法に気付いたのが、同じ傀儡魔法を使うコロナだった。

タオの傀儡魔法は髪という膨大な数を操る為に、魔法を使う脳に大きな負荷が掛かり、意識を失いかけた状態で使うから、加減が出来なかった。

しかし、コロナのように意識して使う量を操作すれば、加減が出来るという事が分かった。

そしてタオは、傀儡魔法によって操った髪。憑き髪を自分で扱えるようになり、春光拳道場の門下生として復帰した。

そして、三岩窟の最奥からは、それぞれチームナカジマのジャージ、グローブ。そして、新型の魔力負荷バンドを見つけた。

 

「これ、緋村先輩の分です!」

 

「ありがとう、三人共」

 

それを剣士郎は、ヴィヴィオ、リオ、コロナの三人から受け取った。その時

 

「お、()った!」

 

「皆、お待たせー」

 

とジークとシャンテが現れた。

 

「シャンテにチャンピオン!」

 

「どうして、ここに……」

 

まさかジークも居るとは思ってなかったヴィヴィオ達は、驚いていた。すると、シャンテが

 

「あたしはイクスを連れてきたんだけど、チャンピオンの方はこっちに特訓相手が来てるらしくてね」

 

「それを説明したら、お爺さんが案内してくれたんや」

 

「ん? まさか……」

 

ジークの言葉に、リオが一人の人物に思い当たったらしい。すると

 

「ワシじゃよ」

 

とレイが現れた。

 

「やっぱりお爺ちゃん!」

 

「総師範!」

 

『えっ!?』

 

リンナとアイリンの言葉に、シャンテとジークは驚いていた。まさか、案内してくれた人物が春光拳の総師範とは、予想していなかったらしい。

 

「そ、総師範って……」

 

「拳仙、レイ・タンドラ……?」

 

「そうじゃよ」

 

シャンテとジークの言葉に、レイは暢気に頷いて、シャンテとジークは慌て始めた。すると、リオとリンナが

 

「もう、お爺ちゃん茶目っ気はダメだって!」

 

「先に自己紹介って、何回も言ったじゃんか!」

 

とレイの肩を叩き、レイは笑っているが、痛そうな音がしている。ちなみに、ジークと一緒に来ていたエドガーが妹のクレアに怒っていた。

クレアは少々楽しい事を優先してしまう事があり、今回はそれが原因で執事業(アイリンの予定管理)に支障を来してしまったから、怒っていた。

すると、レイがポンポンと手を叩いて

 

「よい機会じゃから、乱取りするかの。ワシ、リンナ、アイリンとそちら全員で」

 

と提案をしてきた。

 

「よ、よろしいんですか? 総師範」

 

「構わん構わん。中々無いからの、こんな機会は。たまにはやっても」

 

ノーヴェが恐る恐る問い掛けると、レイはのほほんと答えた。確かに、そうそう無い機会だろう。

三岩窟の近くには、かなりの広さを誇る洞窟もあり、そこは昔、道場が出来るまでの組み手場だったらしい。

そこで全員で乱取りが始まり、得難い経験が出来た。

その後、師範達が集まり

 

「さて……ノーヴェ師範の所の子供達は、面白い子達が多いの」

 

とレイが語り始めた。

 

「そうですわね。あのヴィヴィオさんもですが、コロナさんも……そして、古流の使い手のお二人」

 

「アインハルトと剣士郎ですね。確かに、あの二人はチームの中でも頭一つ抜けてますね」

 

アイリンの言葉に、ノーヴェは二人の力量を思い出した。チームナカジマの中では、二人の力量は頭抜けている。

 

「アインハルトちゃんは神撃に片足突っ込んでるね。あの威力、骨に来るよ」

 

「そして、剣士郎さん……彼は、神眼にもう踏み込んでる」

 

神撃と神眼とは何か。

それは、春光拳においての極致。

神撃は力の局地的で、防御関係なく一撃で相手を行動不能にする一撃。

神眼は、相手の些細な行動から次の動きを見切り、確実な回避かカウンターを可能にする。

 

「あの歳で、それ程の域……もしや二人は、過去の記憶持ちかの?」

 

「はい……アインハルトは覇王イングヴァルト……緋村は人斬り抜刀斎と呼ばれた剣士の記憶を受け継いでます」

 

レイからの問い掛けに、ノーヴェは軽く答えた。

とはいえ、本当に軽くである。流石に、過去が過去な為に当たり障りない程度だ。

 

「そして、リオは言わずもがなじゃな」

 

「うん。あの子は、神撃に至るね……それでコロナちゃんだけど、あの子。マネージャーに興味津々みたいだね」

 

「あら、それは勿体ないですわね。タオを凌駕する傀儡魔法が使えますのに」

 

実はコロナだが、選手からは身を引いてマネージャー業に勤しもうかと考えているらしい。

彼女の性格を考えると、確かに向いていそうではある。

 

「そしてヴィヴィオちゃん……」

 

「あの子は、魔力資質も身体も……格闘家には向いておらんな……可哀想じゃが……」

 

「それは、ヴィヴィオ自身も自覚しています。後方魔導師向きと」

 

以前にシャンテもディードに言っていたが、ヴィヴィオの魔力資質と身体は本来はシャマルやユーノに近い後方魔導師向きなのだ。

ヴィヴィオ自身もそれを自覚し、過酷な道になると分かっていながら格闘家への道を選んだ。

それはやはり、格闘技がすきだからだろう。

 

「ま、ワシらは子供達の選択を見守り、導くのが役割じゃよ」

 

「はい」

 

レイの言葉に、ノーヴェは頷いた。

夜、ヴィヴィオは一人で中庭にて星空を見上げていた。

そこに、レイが現れ

 

「迷いかな、ヴィヴィオちゃんや」

 

とレイが声を掛けた。



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帰宅とこれから

レイとヴィヴィオの命懸けの鍛練は、ヴィヴィオの目を開花させた。

ヴィヴィオは元々、目がかなり良かった。

後は、切っ掛けさえあれば、春光拳で言う神眼の域に入れた。それをレイは気付いていて、少々荒療治的にだが鍛練でヴィヴィオの目を進化させたのだ。

 

「……ところでヴィヴィオちゃんや。今回の事は内緒な? 怒られるから」

 

「お、オス!」

 

何とも、締まらない終わり方だった。

そして、ヴィヴィオが先に部屋へ戻っていき、少しして

 

「そこに居るんじゃろ、緋村くんや」

 

とレイが言葉を発した。

すると、ある柱の影からスッと剣士郎が姿を見せた。

実は、ヴィヴィオとレイが鍛練を始めた時から居て、レイもそれに気付いていたのだ。

 

「して、ワシを非難するかな?」

 

「いえ……確かに方法は過激でしたが、貴方は確かにヴィヴィオを導いた……なら、俺は何も言いません……」

 

レイの問い掛けに、剣士郎はそう答えて自身の部屋の方に戻っていくが、最後にレイは

 

「緋村くん……困った事があったら、何時でも頼りなさい……」

 

と剣士郎に言葉を投げ掛けた。

 

「……ありがとうございます」

 

剣士郎はそれだけ言って、姿を消した。

翌日は道場の見学と書庫で本を読ませてもらったりして、気付けば帰る時間になり、駅に向かった。

 

「本当に凄いね、この子達」

 

「うん。お土産で荷物増えたのに」

 

帰りも荷物を虎達の鞍に載せたのだが、二頭は軽快に歩いている。

 

「だから言ったでしょ? ウチの猫は力持ちだって」

 

ヴィヴィオとコロナの言葉を聞いて、一頭の背に乗っていたリオがその一頭の頭を撫でながら言う。上機嫌なのは、誉められたのが嬉しいからかもしれない。

そして、駅に到着して

 

「今回は、ありがとうございました!」

 

『ありがとうございました!』

 

一行は、レイやリンナ達に感謝の言葉を言いながら頭を下げた。すると、レイとリンナが

 

「いやいや。都会の若者に春光拳を知ってもらえる良い機会じゃったからの。構わんよ」

 

「うん。また来てね」

 

と朗らかに告げた。

その後、リンナが用意したお土産も含めて、荷物を預けてから次元船に乗ってミッドチルダに帰った。

帰りの船の中では、子供達は寝ていたので終始静かであったが、子供達の中では例外的に、剣士郎とアインハルトの二人が起きていて

 

「……どうやら、何か掴んだようだな」

 

「ええ……ノーヴェさんのおかげで、断空拳が一段強くなりました……」

 

小さな声で会話している。恐らく、ヴィヴィオ達が起きないように気を使っているのだろう。

 

「そちらは、どうでした?」

 

「ふむ……刀に頼り過ぎていた、と分かった……もう少し、徒手空拳も鍛えないとな」

 

「それは……貴方は、抜刀術使いですから……仕方ないのでは……」

 

剣士郎の言葉に、アインハルトは思わずという感じで返した。確かに、剣士郎は抜刀術師だから、刀に頼るのは仕方ない事である。

 

「だが、緒王戦乱期もだが、今も武器を失ったら徒手空拳は当たり前だろ?」

 

「……その通りですね……」

 

二人共、緒王戦乱期の記憶を有している為に、緒王戦乱期の頃から武器を失ったら、素手で戦っていた事を知っている。

それを考えたら、やはり刀だけに頼り過ぎるのもどうかと思ったのだ。

 

「……少し、ノーヴェさんと話すかな……」

 

剣士郎はそう呟くと、目を閉じた。

そうして、一行が乗った船はミッドに帰還し、全員は無事に帰宅。

したのだが

 

「あらま……」

 

剣士郎の家たる小屋が、火事で燃えてしまったらしい。

 

「さて、どうしよう……作業小屋の方は無事だから、今日はそっちで寝るか……」

 

因みに、教科書等は学校のロッカーに全部仕舞ってあるので無事だった。

これからどうするか考えながら、剣士郎は作業小屋の中に入って就寝した。



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受け入れ先

ユミナの家族って、描写あったっけ


「え、緋村先輩。家が燃えちゃったんですか!?」

 

ルーフェンから帰った翌日。特訓が一段落した時に、剣士郎の話を聞いて、ヴィヴィオが驚いていた。

 

「ああ……運悪く落雷が直撃してしまったらしくてね……」

 

「そういえば、剣士郎くんの家って木造だったね……あれ、じゃあ昨日は何処で寝たの?」

 

「あ、作業小屋です。簡易的ですが、台所やベッドもあるので」

 

ディエチからの問い掛けに、剣士郎は体をほぐしながら答えた。

陶器の工程の中で、竈を使う焼き入れ。それは、一度火を入れたら丸1日は温度を維持する必要がある。

その為、竈が併設されている作業小屋には簡易的な台所やベッドが施設されている。

確かに剣士郎は魔法も使えるが、それは身体強化に比重が置かれており、更には専用の竈を導入するとなれば、管理局への申請に長期間かかり、そして竈の費用もバカにならない。

葵屋も費用を負担してくれると言ってくれたが、それは剣士郎が断り、原始的な竈を造り、そこに作業小屋を併設し、1日寝ずの番をして火の維持をするという方法を取ったのだ。

結果としてだが、それが功を奏して、住む場所を失わずに済んでいた。

だが、問題はある。

 

「……作業小屋だから、セキュリティ甘いんだよなぁ……」

 

今居る作業小屋は本当に最低限寝泊まりする機能を持ってはいるが、基本は作業小屋。そして、物置小屋だ。

つまり、鍵は最低限のみであり、セキュリティなんて有って無いような物でしかないのだ。

悟もだが、復讐者は目的達成の為ならば手段は選ばない。

確かに木造の家だったが、セキュリティがきっちりとあった家に比べたら、少々心許ないのだ。

 

「ウチも、もう手狭だしなぁ……」

 

「すいません、私の家も……」

 

「ああ、いや。気にしないでくれ。大丈夫だから」

 

リオとコロナが謝り、剣士郎が手をヒラヒラと振って遮った。

 

「すいません、私も1人暮らしの部屋なので……」

 

「ああ、本当に気にしないでくれ。とりあえず、知り合いに頼るから」

 

剣士郎が言う知り合いというのは、恐らくは葵屋だろう。

しかしそうなれば、かなり遠くなってしまい、通学にもかなり不便になってしまうのは確かだ。

その時

 

「だったら、ウチに来る?」

 

とユミナが手を挙げた。 その言葉に、全員が視線を向けると

 

「私の家、兄さんが独り立ちしたから部屋なら余ってるし……学園にも近いよ」

 

と語った。それに対して、剣士郎が

 

「いや、流石にご家族に迷惑では……」

 

と遠慮した。しかし、ユミナは

 

「両親なら、困ってる人を……私の友人なら良いって言うと思うよ」

 

と言って、通信を始めた。どうやら、両親にらしい。

そこに、ノーヴェが

 

「しかし、災難だったな。緋村」

 

「まあ、作業小屋が無事だったのは幸いでした」

 

と声をかけた。確かに、まさかちょっとした旅行に行って帰ってきたら、家が燃えてたなど、誰が予想出来ようか。

しかも、原因は落雷。一体、どれ程の確率なのか。

そこへ

 

「あ、緋村くん。後で一緒に来て」

 

とユミナが剣士郎に声をかけた。

 

「へ? つまり……」

 

「両親は、連れてきなさいって。子供が困ってるなら、手助けしたいって言ってた」

 

「……おろ」

 

剣士郎からしたら予想していなかった為に、間抜けな言葉が漏れていた。



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