仮面ライダーLOST (九番ライト)
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逃亡編
第一話「開花」


この作品はオリジナル主人公が数多くの世界に行く、
いわゆる多重クロスものです。

そういう系統の二次創作がダメな方はお引き取りください。


俺は親父の顔を見たことがない。

 

親父が死んだのは、俺が生まれる前のことであるからだ。

 

12歳のころに死んだお袋の話では、親父は日本国防軍の軍人で

あの「戦艦大和」の乗組員だったらしい。

 

「戦艦大和」といったら、日本で一番有名な戦艦だが

大東亜戦争では特に役には立っていない。

1945年4月の沖縄の米軍に殴りこみにいく作戦である菊水作戦の際

豊後水道で敵潜水艦に魚雷を二発食らい、艦首を大破。修理に数カ月かかるとされ

そのままドッグにて終戦を迎えた。

 

終戦後、米軍が大和を水爆実験の的にするはずだったが

ソ連の北海道侵攻により事態が急転、大和は根室沖でソ連軍艦隊と交戦する。

日本軍艦隊は圧倒的に不利であったが、大和の奮戦によりソ連艦隊を撃退に成功し

大和は本土を救った英雄として、日本国民に崇められることになる。

 

大和の戦闘力を放置できないアメリカであったが、時代が完全に航空機の時代であったため

いざとなったら、航空機で撃沈できること

そして日本に空母を保有させないため

戦艦大和は当時の首相吉田茂の猛反対を押し切り

日本国国防海軍の初代旗艦となったのである。

 

そして大和は俺が生まれる五か月前の「東京湾海戦」で巨大怪獣と共に沈んだ。

 

「東京湾海戦」で何があったか、俺の親父が一体どんな人間か知りたくて

国防大学に入ったが、親父の同期はみんな「アイツ」にやられたらしい。

 

大和の生存者もすでに退役しており、国防大では親父を知る者はいなかった。

 

親父を知っている者がいない以上、国防大にいる意味がない。

そう結論した俺は一月に国防大を退学した。

 

そして俺は親父を知っている人を探しに旅に出た。

 

この旅が、とてつもなく長いものになるとは

当時の俺には全く予想できなかった。

 

 

旅をに出てから数か月が経ったある日、昼飯を食べようとたまたま入った定食屋で

隣の作業服を着た男が気になる話をしていた。

 

「最近、大和乗組員が次々に行方不明になっているんだってよ。

 なんでも突然行方不明になって数日したら、なにもなかったかのように帰ってきて

 『何も覚えていない』って言うんだとよ。とりあえず病院にいったら、

 体の表面には傷一つないのに

 レントゲンで見たら腹部に何かを取り出した跡があるんだとさ。

 それが何なのか調べようとすると、いつの間にか病院から姿を消してるんだってよ。

 そういえばこの街にも大和の乗組員がいたっけな~」

 

そんな話を聞いた俺はその男に話しかけた。

 

「おっちゃん、その話は本当かい? 

 本当だったらその元乗組員がどの辺に住んでいるか、教えてくれないか?」

 

男は

「いいけどよ~兄ちゃん、あんた何者だい?」

敵のない表情で俺の名を聞いてきた。

 

人に話しかけるときは、自分の名前を名乗るのが先だよなと反省しつつ

俺はその男に告げた。

 

「俺の名は浦島空也《うらしま こうや》。

 大和の乗組員だった親父ことを知りたくて旅に出てるんだけど、

 なかなかあてがないもんで、ふてくされて入り込んだ店でこんな話を聞けるなんてね。

 これは日ごろの行いがいいからかな~」

 

そんなことで元大和乗組員の住所を聞き、昼飯を食べてから

愛車にまたがり定食屋を後にした。

 

一時間後、人里離れた一軒家に着いた俺は妙な気配を感じたが

元乗組員の横山さんとお話することができた。

 

横山さんは大和に乗っていたことは覚えているけど、どうやら自分がどうやって生き残ったか

覚えていないようだった。

 

これまで何度か大和の乗組員に話を聞けたが、全員が「東京湾海戦」のことは覚えていなかった。

大和が大爆発を起こし沈没し、その衝撃で記憶が飛んでいるのだろうと医者はいってたが

全員が全員覚えていないのは明らかにおかしい。

 

親父のことを尋ねてみても、他の乗組員と同じように

砲術長だったことしか知らないようだった。

 

今回もダメか...

 

そんなことを考えていた俺だったが

横山さんは突然思い出したように

 

「そういえば~大和が沈む時に

 やけに眩しいな~と思ったら空から光の雨が降ってきたっけな~

 あれはいったい何だったんだろうな」

 

そんなことを疑問に出した。

 

今までの乗組員はこんな話はなかった。

俺はその時の詳しい話を聞こうとしたが

 

あたりがやけに静かなことに気がついた。

 

さっきまで蛙の鳴く声が聞こえていたが、

今では風の音も聞こえない。

 

なにかがおかしい......

 

その時玄関からチャイムが鳴り

横山さんは対応しようと、ドアを開けると

そこには黒いコートを着た男が立っていた。

 

「横山さん、回収しにまいりました」

 

男はそういうと口から糸のようなものを吐き出し

横山さんを巻きあげた。

 

俺は横山さんを助けようとその男にタックルをした。

 

倒れた男の顔から蜘蛛ような眼が出てきて、やがてコートをやぶり本来の姿になった。

 

クモ怪人.....

 

まるでSF映画に出てきそうなそのおぞましい姿は化け物だ。

なんとか死中に活を見出そうと、その場にあった殴りつけてみたが

微動だにせず向かってくる。

 

身体能力には自信があり、腕っぷしの強さでは国防大でも右に出る者はいなかった俺でも

こいつからしてみれば、赤子も同然だ。

 

何をやっても通じない、そんな相手に何ができるのか......

 

いや、なんとかしなければならないんだ。

俺は横山さんを助けて、大和沈没の時に出た「光の雨」のことについて

教えてもらわなければならない。

 

その一心でクモ怪人に体一つで立ち向かったが、奴の糸で巻き上げられてしまった。

鋼鉄のように固い糸が俺の体を徐々に締め付けていく。

薄れいく意識の中で、クモ男が何かと話しているのが見えた。

 

   

「ツレテコイ」

 

そんなことをクモ男は言われていたのだと思う。

 

 

 

 

気がつくと、俺は余計なものが一切ない真っ白い部屋の中に入れられていた。

スタンリーキュービックの映画にこんな部屋があったと思う。

辺り一面が真っ白いこの部屋には、俺が寝かされているベッドしかない。

 

どこからか15くらいの白い服を着た男が入ってきていた。

 

「おめでとう。君は人間を捨て、新しい生物になれるよ」

 

男はそういうと、俺の体に『種』らしきものを埋め込んだ。

 

その瞬間、今までの人生で経験したことないような痛みが全身に走り

俺の体中の血管がすべて浮き出てきた。

 

「てめぇ!!俺の体に何をした?」

 

激痛の中、俺は渾身の力を振り絞って声を上げた。

 

すると男は

 

「君の体に『種』を入れさせてもらった。これから24時間君はその痛みに耐えてもらい

 新しい体に生まれ変わるのだ。痛いのは今だけさ。

 この痛みが終わる時、すさまじい快感を味わうことができるよNo,9」

 

そういうと男は俺に背を向けてどこかに消え去った。

 

 

         

俺は痛みのあまりに失神していたようだ。

目が覚めると手術台のようなところに寝かされていた。

 

やがて白い服の男たちが集まってきて

俺の体を怪しい医療器具を持ち俺の体を切り刻んでいった。

 

―やめてくれ、俺の体に何をするんだ。

 

声にならない悲鳴はやがて絶望に変わり

俺の意識を深い闇の底に追いやった。

 

 

目を覚ますと俺はべッドに寝かされていた。

 

自分の体に何も異常がないこと確認すると

 

―あれは夢だったのか?

 

そんなことを考えていたが、

それは俺の希望にすぎなかった。

 

 

ふとベッドの横にあった鏡を見ると、そこに見慣れた顔がいなかったからだ。

 

そこにいたのは

 

 

バッタ怪人

 

 

 

 

俺はこの時から人間ではなくなった。

 

 

「第一話 開花」  

 

 

 

 




前に連載していたものに修正を加えました。

現在八話まで執筆したので、しばらくは安定して
更新できると思います。


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第二話「逃亡」

俺だって人間だから、これからどういう人生を歩んでいくか考えてはいたさ。

 

大学を退学したって、社会でやっていく自信があったし

明日の飯さえ食べていければよかったんだ。

高望みもない、ただ平凡な人生が欲しかった 。 

 

 

それなのになぜ、こんな体にならなきゃいけないのか。

 

俺はいまだに現実を受け入れられない。

 

鏡に映ったバッタの怪物が、今の俺の姿なんて….

 

 

第二話「逃亡」

 

 

鏡を見てから数時間がたった。

 

俺の体はいつのまにか人間だったころの姿に戻り

なんとか精神的に落ち着いていられた。

 

―今のは悪い夢だったんだ。

そう自分に納得させようとするも、体に刻まれた手術の跡が痛々しく残っていては

あまり意味ない。

 

だが、少なくても自分が怪物と認識してしまうことよりは、はるかにましだった。

 

すると突然ベッド横のテレビの電源がつき、あの少年の姿が映し出される。

「おはようNo9。気分はいかがかな?」

あの屈託のない爽やか笑顔がこの世の何よりも憎い。

 

「久しぶりの成功品だしね。君には期待しているよNo9。

さっそくで悪いけど、君に働いてもらうよ。まずは『種』の回収をしてもらおうか。

 No6との共同作戦だけど、がんばってね。」

 

テレビの横から扉が出てきて、クモの怪人が待ち構えている。

 

俺の意識はあるのに、体が勝手に動く…

まるで操り人形のような感覚だ。

 

俺の人間としての自由は奪われたのだ。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

一時間くらいだろうか、黒い背広の男の運転で

俺とクモの怪人はある施設に向かった。

到着するとそこは病院だった。

 

人間の姿にもどっていたので、病院に入れた俺たちは

隣にいたクモ怪人から今回の任務が聞かされる。

「今回の任務は大和乗組員の赤松大輔の種を回収することだ」

 

さっきから気になっていたことをクモ怪人に聞いてみる。

「さっきから気になっていたんだがよ、(種)って何だ?何でお前らは回収するんだ?

 何で大和の乗組員が(種)を持っているんだ?回収して何をする気なんだ?

 俺も知る権利はあると思うぜ。クモの旦那よ?」

 

クモの怪人は顔色一つ変えずその疑問に答えた。

「(種)というのはソウル・シードのことだ。この種は我々人類に進化を促してくれる魔法の種だ。

 これを体内に入れられることによって、お前や私は人類から新人類に進化したのだ。

 大和の乗組員皆は(東京湾海戦)の前にプロフェッサーCによってソウル・シードを植えつけられた。 プロフェッサーCが言うには人類の生存本能が黄金の種に良い栄養となるのだ。

 だが、あれから20年の月日が経つのに大和乗組員から進化したものは誰もいない。

 ソウル・シードも無限ではないからこうして回収しているのだ。

 そして回収したソウル・シードすべてプロフェッサーCの下へ集められる。

 プロフェッサーCは何かを建設しているようだが、私にはわからないな」

 

「大体のことはわかったぜ。それからこれはあんたに対しての質問だが、

 あんたこの体になったことをどう思うんだい?」

 

俺はこいつを信頼しているわけではないが、今自分の置かれている状況を理解できるのは

こいつしかいないので、とりあえず聞いてみた。

 

だが、信頼していないのはこいつもいっしょだった。

 

「貴様に言う義務はない」

 

気のせいだろうか、先ほどまでこいつは感情を一切態度に表さなかったのだが

病室に近づくにつれ、息が荒くなり、どこか落ち着きがない。

まるで、餌を見つけ尻尾を振ってはしゃいでいる犬のようだった。

 

そんなことを考えていると

赤松大輔の病室の前まで来た。

彼はどうやら交通事故で怪我をしたらしい。

 

中をのぞくと子供が二人いた。

兄と妹だろうか、まだ二人とも小学生にもなっていないようだった。

 

「こんにちは、赤松さん。例のもの回収しに来ました」

 

そういうと隣にいた男はクモの姿に変わる。

 

子供たちが悲鳴をあげ、駆け付けた警備員二人が警棒で抑えようとするが

全く歩みを止めないクモ怪人に糸で縛りあげられ窒息死した。

 

「やっぱりいいな~人を殺すっていうのは。

 そいつの今までの人生が俺の手によって無駄になるんだからよ。

 シードに選ばれて最高に幸せだぜ。おい、No9。お前も人を殺してみろよ。

 病みつきになっちまうぜぇ~」

 

さっきまでの冷徹な姿は仮の姿だろうか、こいつの本性は快楽殺人者なのだ。

 

俺自身の体もさっきからおかしい。

 

体が熱い。体の底からマグマのような血があふれだすような感覚だ。

 

ベッドで恐怖に駆られる子供たちを抱いている赤松がこう言ってきた

 

「おい、お前はあのガキの部下だろ?お前の目当ては俺なんだから、子供達には手を出すな。」

 

そこには子を守る父の姿があった。

 

俺にはわからなかったが、あれが「父親」というものなんだろうか

 

子供の守るために自らを犠牲にしてもかまわないという覚悟。

その背中を見つめる子供たち。

こうして子供は育っていくのか。

 

 

そんなことを考えていると興奮気味なクモ怪人は

 

「ダメだね。子供に俺の姿を見られたんだから

 そのガキどもは始末しないとね。ガキの悲鳴は最高にキモチイイカラナ。」

 

クモ怪人は子供を守ろうとする赤松を壁に投げ

子供たちを手にかけようとする。

 

「さぁ~て、どうやって楽しもうかなぁ。」

 

おびえる子供たち…

 

守りたくても守れない父親…

 

迫りくるクモ怪人の魔の手….

 

 

俺は自分の内側から、自分ではない誰かの

 

「殺せ」

 

とういう欲求を抑えるので精一杯で

指一つ自分の意志で動かすことができない。

 

 

自分ではないものに体を支配されている感覚。

 

 

子供たちの首をクモ男が締め上げる。

 

 

……た……す…..け…..て…..

 

そのちいさな叫びは

俺の中の何かを断ち切らせた。

 

―子供たちを殺させはしない

 

次の瞬間俺はバッタの怪人の姿になって、クモ怪人に体当たりをしていた。

 

クモ怪人は吹っ飛び、壁に吹っ飛んでいた。

 

子供たちは目を丸くしている。

 

「早く逃げろ」

 

俺がそういうと子供たちは我に帰り、赤松さんの下に逃げていった。

 

瓦礫からクモ怪人は

「何のつもりだぁ?」

 

と狩りを邪魔された猛獣のような目で、俺をにらんでいた。

 

「お前の狩りを邪魔したくなっただけだ」

 

俺はそう一言だけ言った。

そしてクモ怪人との間合いを詰め、拳を浴びせた。

 

クモ怪人は右手で防御をしようとしたが

右手は俺の拳によって吹き飛んだ。

 

「グアァァァオオオオォォォォオ!!!」

 

クモ怪人は苦痛をあげる。

 

隙を逃さず、わき腹に蹴りを入れ、クモ怪人は血を流した。

 

それは真っ赤な血だった。

 

「化け物でも真っ赤な血の人間と変わらないんだな」

 

一瞬の隙を突かれ、クモ怪人の糸で

首を絞められてしまった。

 

切ろうにも、鋼鉄のような硬さでなかなか切れない。

 

「ギザマハコロス。ウラギリモノハコロス。」

 

クモ怪人はさらに糸を締め上げ

俺の意識が遠退いてきた。

 

 

 

―このまま親父のことも知らずに死んでいくのか

 

―死ぬんだったら、もっとマシな死に方が良かったな

 

 

何もかもあきらめかけたその時

 

「がんばれ」

 

「まけないで」

 

どこからかそんな声が聞こえた。

 

あの兄弟たちだった。

 

 

―あんな小さな子供たちがこんな怖い目に逢ってるのに

生きる希望を捨ててないのだから

俺が生きるのをまだ諦めてはいけないな。

 

最後の力を振り絞り、クモ怪人の糸を切りにかかった。

 

クモ怪人の糸は見事に切れ

 

あわてるクモ怪人に渾身の蹴りを浴びせた。

 

「グアァァアオッォォォオアォォオォ!!!!!」

 

クモ怪人は悲鳴とともに窓から落下し、爆発を起こした。

 

 

燃える炎の中で俺はこの体で生きていくことを誓った。

 

そしてこの誓いを立たせてくれた子供もたちにお礼を言おうと近づいた瞬間

 

「その子たちに近づくな!!!!化け物!!!!」

 

あれは母親だろうか。

その表情は化け物に対する恐怖と

子供たちを危険から守ろうとする親の表情だった。

 

―化け物に襲われる子供にしか見えないもんな。

 

 

詮俺は化け物なんだ…

 

奴と同じ…   

 

バケモノ….

 

 

俺はその場から逃げた。

 

 

夜の闇の中に隠れるように逃げた。

 

 

その仮面の下では涙を流しながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以前執筆していた話に修正を加えました。
戦闘シーンに迫力がないので、自分の力のなさを痛感しました。


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第三話「壁」

 

限界まで膨張した筋肉

 

手足には獣のような鋭い爪

 

その牙は鋼鉄をも噛み砕く

 

大きく紅い眼は人間の視界をはるかに超えている。

 

その姿はまさしく化け物

 

 

化け物….

 

 

この現実は素直に受け取れない。

 

第三話「壁」

 

 

 

 

病院から逃げてきた俺を待ち受けていたのは

奴らの追手だった。

 

 

クモ怪人を倒した後

 

ヒョウ、ハチ、ピラニア、サイ、カメレオンと五体の怪人が

一体ずつ俺の行く手に阻んでいた。

 

 

そいつらの目的はまるで俺を倒すことではなく

俺をどこかに誘導するような感じだった。

 

幸い奴らと俺の性能は差は大きく、一撃で奴らを仕留められた。

 

そのたびにこの拳が紅く滲んでいく…

 

「これじゃ殺人鬼と変わらないな」

 

罪の意識と長時間に変態していた体の体力的な問題から

変態を解き、あてもなく歩いていた先に

どこかの海岸にたどり着いていた。

 

潮の香りがする…

 

この懐かしい感じ…

 

あの頃に戻れれば...

 

 

だが、俺にはそんな思い出にふける時間さえ与えられないようだ。

 

浜辺に黒いコートを着た男が立っている。

 

「裏切り者のNo,9。俺が始末する」

 

黒いコートの男はネズミのような姿となり、俺を襲ってきた。

 

 

「No9覚悟!」

 

ネズミ怪人が宙を舞う。

 

「悪いが俺はまだ死にたくないんでな」

 

 

俺は人間の姿からおぞましい姿となっていく。

 

眉間から触角が生え

眼は紅く大きなものへと変わる

手足は鋼鉄のように固くなり

最後におぞましい牙が生え、俺の変身は完了する。

 

 

月夜の明かりに照らされ、落下してくるネズミ怪人に向けて拳を放つ。

 

「オゥゥラァァァァァ!!!!!」

 

 

俺の血に染まった拳がネズミ怪人の体を突き破る。

 

 

「ギャァァァァァァァァアアァァァ!!!!」

 

ネズミ怪人は断末魔とともに爆発の中に消えていった。

 

 

これで六体目....

 

あと何体倒せば、この拳は血に染まらずに済むのか。

 

月光に照らされた俺の拳は泣いているようにも見えた。

 

 

「いやぁ~さすが最新鋭の機体は違うなぁ~ソウルシードも順調に育ったようだし

 そろそろ収穫させてもらうかな」

 

その声の主は白い服の少年だった。

 

不敵な笑みを浮かべこちらに向かっていく。

 

「すべてはミェルニル起動のためだ。

 No9.....いや、裏切り者のLOST Numberはここで御退場願おう」

 

 

白い服の少年......プロフェッサーCはその姿をコブラ怪人へと変えた。

 

「この世界のNo1.....コブラシードとは俺のことだ!」

 

コブラ怪人の左腕が鞭に変わり、俺に襲ってきた。

 

間一髪のところで避け、反撃に移る。

 

多くの怪人を葬ってきた拳を奴の顔へ打ち込む。

 

 

 

当たった!

これで奴は爆発するは.......

 

 

「所詮君の拳はその程度のものさ」

 

 

 

平然とした態度でコブラ怪人は立っている。

 

「僕の毒はちょっと痛いよ」

 

コブラ怪人は口から強酸性の毒物を吐きだし、

 

俺の体に付着した。

 

その毒は俺の体を焼いていく。

 

 

「うわぁぁあああぁぁぁぁ」

 

味わったことのない感覚が全身を襲う。

 

「君の叫びがミェルニル打ち上げのカウントダウンとなるのだ」

 

鞭に強酸.....悪趣味な野郎だ。

 

「おま…..は俺….ソ….ウ…ルシ…ドを使って……..をす…る…気…..だ..?」

 

毒がまわり体を動かせない状態では、口を動かすので精一杯だった。

 

「冥土の土産に教えてあげよう。ミェルニルはこの世界の壁を壊すロケットさ。

 ミェルニルの発射装置として多くのソウルシードがいるからな。

 君のソウルシードを手に入れ、私の内部に取り込む。

 そしてこの世界の壁を壊し、カイン様のいる世界へと繋ぐ....

 そして私はカイン様第一の部下として

 黄金のソウルシードを承り、不死身の体を手に入れるのだ」 

 

 

この世界の壁を壊す......

 

何とも馬鹿げた話だ。

 

だが、こいつならやりかねない。

 

いや、実行はもうすぐだ。

 

止めなければ。

 

しかし、俺の体は毒で動かない。

 

 

「君に与えた毒はもう全身に回ったようだね。そろそろソウルシードを取り出そうか。」

 

奴は身動きのできない俺の首を持ち上げ、腹部を毒で溶かした。

 

「ガァァァァァァアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

俺はその痛みのあまり気絶した。

 

 

「痛みのあんまに意識が飛んでしまいましたか。まあいい、これでソウルシードは

 僕の下へ帰ってきた。さて、ミェルニル発射準備を始めようか。」

 

 

「ミェルニル、打ち上げ用意!」

 

そうコブラ怪人が叫ぶと地面からミサイルの発射台が出てきた。

 

コブラ怪人は紅く光る浦島のソウルシードを飲み込むと

体中から今までに感じたことがないパワーがあふれ出てくるのを感じた。

 

「予想以上に育っているな。素晴らしいぞLOST Numberよ。」

 

ミェルニルに乗り込むコブラ怪人コックピットに入ると

打ち上げ準備に取り掛かる。

 

何百もの回線を自分の体に接続し、コンピューターに発射コードを打ち込む。

 

すべての準備を整え、「次元突破ロケットミェルニル」は発射態勢に入った。

 

 

 

 

 

発射60秒前

 

待ちに待った時が来たのだ。他の世界の奴らはまだカイン様のいる世界に行っていない 

つまり、俺がNo,1として迎えられるのだ。

 

発射50秒前

 

あの戦争で私は一度死んだ。そしてカイン様にソウルシードを与えられよみがえったのだ。

あの時の約束を果たす時が来たのだ。

 

発射40秒前

 

興奮と期待で胸がはち切れそうだ。

 

発射30秒前

 

腹部が熱い。溶けてるように熱いどうしたんだソウルシードよ。

 

モニターに侵入者が表示されていた。

 

発射20秒前

 

腹部が溶け出しソウルシードが見えてきた。

 

数多のソウルシードを体内に取り込んできたが

こんな事は初めてだった。

 

浦島のソウルシードが太陽のように輝きだしている。

 

発射10秒前

 

「….こ…いつは….止…..めさ…..せ…..ても….ら..う…ぜ…」

 

そこには傷だらけの浦島が立っていた。

 

ソウルシードを取り出し奴は死んだはず....なのになぜ

 

発射9秒前

 

浦島がこちらに近づいてくる。

 

発射8秒前

 

ソウルシードを抑えようとするが、回線が邪魔で手が使えない。

 

発射7秒前

 

浦島が目と鼻の先まで来ている。

 

発射6秒前

 

奴がなぜ生きているのかわかった......

奴はソウルシードをもう一つ持っていたのだ。

 

なぜだかわからないが現に奴の体内には、小さいがソウルシードがある。

 

発射5秒前

 

「…..俺….のソ..ウル….シ….ド…返…..して….もら….う」

 

浦島は私の体か紅く光るソウルシードを取り出した。

 

「ヤメロオォォォォォォオォォ!!!!!」

 

 

発射4秒前

 

私の声がむなしく響く。

 

浦島は自分のソウルシードを体内に再び入れ意識を失ったようだ。

 

発射3秒前

 

もう終わりだ......この計画は

 

発射2秒前

 

なぜ奴はソウルシードを二つ持っていたのだ?

 

普通の人間ならとっくに自壊しているはずなのに。

 

 

 

発射1秒前

 

そうか.......こいつは大和の乗組員の息子だったのか。

だから、父のソウルシードが遺伝子に溶け込み

息子の体内に入り込んでいたのか。

 

 

大和の亡霊が私の計画をつぶすとは........

 

 

発射0秒前

 

 

私はここでくたばるとしよう

だが、浦島空也。貴様は誰も知らない世界で永遠の孤独を味わうがよい.......

 

クックックッ.....フハハハハハハハハハハ!!!!!!!

 

こうしてコブラ怪人の体内にあったソウルシードはその芽を閉じ

息をふきとった。

 

 

ミェルニルは予定通り発射し、高度50000メートルで船体に魔法陣を展開

そして、「この世界の壁」と衝突した。

 

 

「壁」との衝突でミェルニルの船体は半壊した。

 

だが、この世界の壁もガラスのように砕け

隙間から暗黒の空間が窺える。

 

ミェルニルは予定通りその隙間に入って行った。

 

 

この世界の壁は何事もなかったように閉じられ 

空はいつも通りの空にもどった。

 

まるで何もなかったように雲は進んでいく。

 

 

 

ミェルニルが入った空間には、無数の扉があった。

 

赤い扉、青い扉、白い扉…..

 

古今東西の扉がそこにはあった。

 

ミェルニルはその機能を停止し

空間に漂っているだけの漂流物となっていた。

 

突入の際、船体に開いた穴から気絶した浦島が放り出される。

 

放り出された浦島の先には、黒い扉があった。

 

黒い扉は獲物を取り込むサメのようにその戸を開け、浦島を吸い込んでいく

浦島の体がすべて扉の中に入り、戸は静かに閉まる。

 

 

 

「懐かしい....潮の匂いだ......」

 

 

浦島が気がつくとそこはネオンの明かりに照らせた大きなビルが並ぶ港町だった。

 

「建物のデザインからして、欧米だろうな。ここはいったいどこなんだ?」

 

しばらく歩くと何かが見えてきた。

 

「自由の女神だ.......」

 

 

そう、ここはN,Y

 

世界最大の都市だ。

 

 

 

「こいつは旅行に来たような気分だぜ」

 

そんな軽口を叩くがミェルニルやコブラ怪人がいないことに気づく。

 

「奴らいったいどこに消えて行ったんだ?」

 

とりあえずその辺を警戒しながら歩くことにした。

 

誰かが捨てた新聞がある。

どうやら最近の記事のようだ。

 

2001年9月11日

 

航空機ジャックを計画していたテロリストを逮捕

 

犯人グループは世界貿易センタービルに航空機を突入する計画だった模様

 

 

「う......嘘だろ......」

 

新聞はNYタイムスのものだから99%真実である。

 

だが、俺の知っている911は止められなかったはず......

 

 

「まさかここは......」

 

そこは俺のいた世界とは違う世界だった。

 

 

 

 




物語の導入部が終了しました。
次の話から仮面ライダーSPIRITS第一話との
クロスオーバーになります。

ご期待ください。


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仮面ライダーSPIRITS編
第四話「疾風」


注意

仮面ライダーSPIRITS第一話のクロスオーバーとなります。
原作を読んでいないとわからない個所がありますので、
原作を読んでから、小説を読んだほうがいいと思います。


2001年

 

その時俺は小学生だった。

 

朝起きて

母の朝食を食べるため、リビングに向かう。

何気ない一日の始まり

だが、テレビの画面に映し出されていたものはあまりに衝撃的だった。

 

飛行機がビルに突っ込んでいる。

 

俺が知っている9.11は子供心の中に色濃く残る事件だったはず...

 

 

 

第四話「疾風」

 

 

月は少しその身をかけながらも、闇夜を照らしている。

だが、この街から明かりが消えることは決してない。

 

夜でも昼間と同じように光があり、人々は眠ることを知らない。

銃声がそこら中から聞こえ、パトカーの音が鳴りやまない街...

浦島はそんな物騒な街のはずれにある港の倉庫群にいた

 

「ミェルニルのなかで気を失っちまったが、俺が生きているってことはソウルシードが

俺の中にもどり、プロフェッサーCは海の中に沈んだってことなのか?」

 

考え事をしながらも浦島は小汚い倉庫群を進む.

 

バンッッッ!!!

 

 

どこかで大きな物音がした。

浦島は物音が聞こえた方向に向かっていくと

扉が完全に閉まっている倉庫群の中で一つだけ扉があいている倉庫があることを確認した。

どうやらここから悲鳴が聞こえたようだ。

 

浦島はこっそりと中を覗き込むと

薄汚れた白衣を着た黒人男性がベースボールキャップを被った白人男性に銃を向けている。

会話をよく耳を澄まして聞くと

どうやら白人は黒人が作った何かを回収しに来たらしい。

だが、黒人必死にそれを拒んでいるようだ。

だからと言って人に銃を向けるのはどうかと思ったが

なにかがおかしいことに浦島は気づいた。

 

普通銃を向けられている人間は恐怖に顔を歪めるはずだが

恐怖に顔を歪めているのは銃を向けている黒人男性のほうだった。

反対に銃を向けられているはずの白人男性は怯えるどころか、余裕を持っているような表情をしていた。

 

 

俺は銃ごときで死なない。

 

 

そう言わんばかりの態度だった。

 

黒人男性は震える腕で引き金を引く。

広い倉庫に一発の銃声が響き渡った。

 

 

白人の眉間に銃弾は当たった。

 

確実に当たったはずだった。

 

だが、白人の眉間に弾がめり込んでいるが、血が一滴も出ていない。

 

「お前の回答はそれか」

 

白人は被っていたベースボールキャップを投げ捨て、自らをおぞましい姿に変える。

 

天に向かって吊り上った耳。

 

腕と一体化している翼。

 

耳まで大きく避けた口。

 

そして口元から顔をのぞかせる鋭い牙。

 

 

蝙蝠男….

 

それが白人男性の正体だった。

 

黒人男性は恐怖に体を震えながらも銃を発砲させる。

 

だが、蝙蝠男は銃弾を受けながらも黒人男性に一歩一歩近づいていく。

 

「これが最後のチャンスだフォスター博士……..

ライトチェイサーをもらおうか?」

 

蝙蝠男はフォスター博士の目の前で立ち止まり質問した。

 

フォスター博士は

 

「貴様らなどに私のライトチェイサーを渡すものか!

 私が10年の月日をかけて開発した新時代のマシンが

 完成間近まできたのだぞ。それをお前らが私に

 ヘルダイバーとかいう戦闘バイクの設計を依頼してきて

 基礎設計にライトチェイサーを使いたいなどと言いやがって….

 ライトチェイサーは誰にも渡さんぞ」

 

そういうと彼は弾をリロードしようと腰に手を当てる。

 

「交渉決裂か....所詮貴様も神に愛されなかったものよ….

さあ、罪びとよ…罪を償え…」

 

蝙蝠怪人はフォスター博士が持っていた銃を超音波で吹き飛ばし

フォスター博士の首元に鋭い牙を光らせ襲いいかかる。

 

「やめろっ!!!!!」

 

浦島は扉を開け、蝙蝠怪人にめがけ体当たりをした。

 

蝙蝠怪人は研究器具の中に吹き飛ばされる。

 

「君は誰なんだ?まさか君が私に連絡をくれた本郷君かね?」

 

 フォスター博士は冷静さを保ちながら  

 浦島に質問する。

 

「俺は本郷とかいう男ではない。

 俺の名は浦島空也。通りすがりの日本人だ」

 

浦島はそう名乗ると自分の体をバッタ怪人に変えるイメージをした。

 

 

あの忌々しい体に変化するイメージ。

 

だが、一向に体は人間のままだ。

 

「なぜだ…なぜ、俺の体が変わらない…

 あの忌々しい体にならないんだ….」

 

動揺する浦島は蝙蝠怪人が立ち上がってくることに気付けなかった。

 

蝙蝠怪人は牙を立て浦島に襲い掛かる。

 

「シアァァァァァ」

 

浦島はとっさに腕でカードするものの

蝙蝠怪人の牙の餌食になる。

 

鋭く光る牙は浦島の腕の骨まで食い込み、

その血を吸い始めた。

 

「まずい血だな….お前はどこかの組織の出来損ないだな。

 俺が楽にしてやろう….」

 

蝙蝠怪人は浦島にその鋭い爪で攻撃を加える。

 

体を強化体にできない浦島は怪人になすがままにされてしまう。

 

体中から血を流し、ぼろぼろになりながらも

浦島の意識は残っている。

 

「なんなんだよ…この体は…..俺の体のくせに、俺のいうことも聞けないのかよ...」

 

怪人体になっていれば、かわせる敵の攻撃も人間体の体では

致命傷を負わないようにするのが精一杯だった。

 

「このへんで終わりにしようか、出来損ないめ」

 

蝙蝠怪人は浦島の首を締め上げる。

 

徐々に薄れゆく意識の中で浦島は思う。

 

―俺の人生は何のためにあったんだ?

 

死の淵に立たされたものは

今までの人生が走馬灯のように思い出されるというが

いまの浦島はまさにその状態であった。

 

写真の中でしか見たことない父。

父との思い出話を語る母。

 

母の実家に飾られた若き祖父の遺影を拝む祖母の背中。

母が亡くなったあと、俺を引き取って育ててくれた父の祖父とのキャッチボール。

それをきっかけに野球を始め、甲子園を目指して練習に明け暮れた青春。

そして野球部を引退し、自分の進路を考えるときに出てきた。

父の姿を追いたいという願望…

 

懐かしいあのころの思い出たちは、今も俺の中に眠っている。

 

だが、俺の体は人間ではなくなった。

やつらに体を改造され、醜いバッタ人間となった俺は 

誰も自分を知らない世界に投げ出される。

 

孤独….俺には孤独だけが残った。

 

共に夢を目指した友も、俺に愛情をくれた人々もここにはいない。

 

―誰かこの孤独から俺を救ってくれ―

 

声にならない叫びは誰にも届かない。

 

―いっそこんな運命から逃げられるなら死んでしまいたい

 

浦島の首が折られようとするまさにそのとき

  

 

 

「あきらめるな!!!!!」

 

 

 

その言葉とともにあたりに一陣の風が吹いた。

 

霞む視界に靡く深紅のマフラーが浦島の瞳に映り込む。

 

疾風….

 

白いバイクが猛スピードで蝙蝠怪人に体当たりしてきた。

その衝撃で蝙蝠怪人は吹き飛ばされ

浦島は蝙蝠怪人から解放された。

 

体当たりをしてきたバイクには仮面をつけた男が乗っていた。

 

銀色の拳

 

風車付のベルト

 

深紅のマフラーがライダーの首元からなびいていた

 

「グルゥゥゥ...オマエは何者だ?」

 

 

「俺の名は….仮面ライダー!!!!!!」

 

月明かりに照らされたその男の眼は

今までの人生で見てきた多くの人々の眼の中で

誰よりも力強く、真っ直ぐで、誰よりも男らしい眼をしていた。

 

「仮面ライダーだと?前の組織をつぶした裏切り者か…

 オオコウモリ男がいた組織もお前につぶされたらしいな

  俺の名はコウモリロイド…勝負だ、旧型ぁぁ!!!」

 

コウモリロイドは仮面ライダーに襲い掛かる。

 

だが、コウモリロイドの攻撃しようとしていた所には

すでに仮面ライダーはいなかった。

 

「どこに消えやがったぁぁ旧型ぁぁぁ!!!」

 

あたりを見回すコウモリロイド。

 

 

「ライダァァァァパァァンチ!!!」

銀色に輝く拳から銃弾のように速いパンチが繰り出される。

そのパンチはコウモリロイドの左腕を砕き、

コウモリロイドは激痛にもだえ苦しむ。

 

「旧型のくせになぜこんな性能が出せるんだ

 旧型のくせに、旧型のくせにッッ!!!」

 

嫉妬の念を送るコウモリロイドに対し

仮面ライダーはこう言い放つ。

 

「力に溺れて、弱者を虐げる貴様らに俺は消して負けん!」

 

そして仮面ライダーは多くの怪人たちを葬ってきたあの技を放つ。

 

「ライダァァァァキィッッック!!!!!」

 

 矢のように鋭いそのキックはコウモリロイドの体を突き破る。

 

 「ギャァァァァァアアアアァァァァアアアア!!!!!!」

 

コウモリロイドの断末魔があたりに響き

 

大爆発の中に消えていく

 

 

紅蓮に燃え上がる炎のから仮面ライダーは浦島に歩み寄ってきた。

 

 

「大丈夫か?」

 

仮面ライダーは浦島に声をかけてきた。

 

浦島は一言「あぁ」と答えると

 

仮面ライダーは

 

「博士を守ってくれてありがとう、君がいなかったら博士の命はなかった」

 

「体が勝手に動いただけだ。感謝されたくて助けたわけじゃない

 ところで仮面ライダー、あんたは一体何者なんだ?」

 そう問いかけると仮面ライダーは変身を解き

 生身の姿を浦島にさらしてこう名乗った

 

「俺は本郷猛、ショッカーに改造された改造人間だ」

 

 

浦島の運命を変える出会い...

彼が仮面ライダーを名乗る日はそう遠くはない...

 

 

 

 

 




別のサイトで投稿していたものを、一部セリフなどを変えて投稿しました。
伝説の一号を動かすにあたって、違和感を出さないようにしようと試行錯誤しましたが、
納得いただけたかどうか心配です。


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第五話「疾走」

燃え盛る炎の中から現れた仮面の戦士は

自らの仮面を取り、本郷猛と名乗った。

 

本郷猛と浦島空也…

 

二人の改造人間が運命に導かれて、出会うことになる。

 

 

 

 

 

 

第五話「疾走」

 

 

 

 

 

燃え盛る倉庫から気絶していたフォスター博士を救助した本郷と浦島は

互いにただの人間ではないことに気づいていた。

 

傷だらけの体だった浦島の体は、もう傷が塞がりかけている。

普通の人間なら大量出血で死んでいたが、浦島はソウルシードを植え付けられ、

体を戦闘用に改造された改造人間である。

もっとも本郷が現れなかったら確実にコウモリロイドに殺されていたのは間違いないだろう。

 

浦島も本郷が自ら名乗るように改造人間であることに疑問は持っていなかった。

目の前で自分を殺そうとしていた怪人を倒したのだから、自分と同じ「ヒトならざる者」であることに

間違いない上、この男の眼はけして嘘を言っている眼ではなかった。

 

強い決意を内に秘めた本郷の眼に

浦島は写真の中の父の眼に似ていることに気付いた。

 

何かを守るために戦う者の眼…..

 

しばらく続いたひと時の静寂は

N,Yの街に朝日が昇ると同時に終わりを告げる。

 

気絶していたフォスター博士は何とか意識を取り戻した。

傍にいた本郷の顔を見るやいなや

 

「君が緑川教授の弟子の本郷君だね

 緑川教授が亡くなってから、君も行方不明なっていたらしいが

 大丈夫だったかい?」

 

先ほどまで気絶していたとは思えないほどの饒舌で

本郷に話しかけた。

 

「博士…あなたも聞いたことはあると思いますが

 私はショッカーという世界征服をたくらむ組織に連れ去られて、改造人間にされました

 緑川教授は私を脳改造手術の前で逃がしてくれましたが、

 教授はショッカーの追っ手によって殺されました」

 

本郷は少し歯を食いしばり、悔やんでいるようにも見えた。

 

本郷の話を聞いて、フォスター博士も申し訳ない顔をしていたが、

浦島の何気ない一言が会話を動かすきっかけとなる。

 

「フォスター博士、あんたがコウモリロイドに奪われそうになっていた

 ライトチェイサーというのはどういうマシンなんだ?

 話を聞かせてもらっていたが、ライトチェイサーは今どこにあるんだ?」

 

コウモリロイドに命を狙われる原因となった「ライトチェイサー」と呼ばれるマシン…

そのマシンを狙ってコウモリロイドがフォスター博士を襲ったのは間違いなかった。

だが、博士はコウモリロイドの脅迫に屈せずライトチェイサーの在り処を隠したままであった。

 

「あのマシンはコストを度外視で、バイクとしての機動性と耐久性を極限まで高めた

 私の科学者人生最高傑作だからな。もし、やつらの手に渡ってしまったら

 奴らの組織が開発している『ヘルダイバー』とかいう戦闘バイクの基礎設計に使われてしまう。

 『ヘルダイバー』が量産されてしまったら、

 奴らは最強の機動兵器を量産して、我々人類に牙を向けてくるだろう。

 幸いライトチェイサーはボディを普通のバイクに偽装して、

 ある場所に隠してあるから、奴らに盗まれる心配はない」

 

フォスター博士は自分の開発したバイクを他人に渡したくないためか、

なかなかライトチェイサーの隠し場所を言わない。

そんな頑固さがあったからこそ、10年も研究ができたのだろうと浦島は内心思った。

 

本郷も浦島と同じことを感じたようで、フォスター博士の説得に入った。

 

「フォスター博士、あなたが開発したライトチェイサーは奴らの手に渡る前に破壊するべきです。

 そうしないと奴らはどんな手を使ってでも、ライトチェイサーを奪いに来るでしょう。

 奴らが俺の知っている組織と似ています。

 フォスター博士、どうかライトチェイサーの隠し場所を教えてください」

 

フォスター博士の心は揺らぐ。

ライトチェイサーをこのまま奴らに渡してしまったら、

人類に牙をむく連中に武器を送ってしまったことになる。それは何としても避けたい。

だが、科学者として自分の開発したマシンを世に送りだせないのは、とてもつらいものがある。

どちらを選んでもフォスター博士には利のない話だ。

ライトチェイサーは自分の手元からなくなるのだから。

 

「フォスター博士、あなたの一人息子と交換にライトチェイサーを渡すというのはどうですかぁ?」

 

声がしたその先には、妖艶な雰囲気の白人女性が立っていた。

 

その隣には、野球帽をかぶった男の子が気を失っている。

 

「マイク!なぜマイクがここにいる?マイクは兄貴のところに預けていたはずだぞ」

 

「この坊やがあなたに会いたがって、一人でN,Yに来たところをあなたのとこまで道案内したまでよ。

 素直をいい子だったわよ。パパに会いたい?って聞いたらついてきたのだもの」

 

その女は冷たい笑みをフォスター博士向ける。

 

「お前は一体何者だ!」

本郷がそう問うと女は答えた。

 

「私はコウモリロイドのメスよ。

 あなたに殺されたのは私のフィアンセ….

 でも、私のフィアンセに弱い男はいらないの…

 だから私は任務を続行するだけよ」

 

女はそう答えると人間から一瞬にして蝙蝠の姿に変えた。

女吸血鬼カミーラというのが吸血鬼伝説最初の小説だったと思うが

まさにコウモリロイドメスの姿はカミーラを現代風にアレンジした姿であった。

 

「太陽が出ているこの時間にあなたと戦っても私に勝ち目はないし、

 ここでマイク君を殺してしまっても意味がないわ…

 だからこういう取引はどうかしら?

 明日の深夜0時までにあなたたちはライトチェイサーを持って、自由の女神像まで来ること

 そしたら、あなたたちにマイクは返してやるわ。

 あなたたちが来ないのなら、マイクは最近N,Y流行の干からびた死体にしてしまうわよ」

 

「子供は関係ないだろう!!!」

 

そう怒りをあらわにしたのは浦島だった。

 

「この子には直接関係ないことだけど、

 お父さんが素直にライトチェイサーを渡してくれないからいけないのよ。

 お父さんが素直じゃないばかりに子供が犠牲になるなんてかわいそうな話ね」

 

子供が人質にとられている以上、迂闊な行動はできなかった。

浦島はその怒りをじっと堪えている。

 

「わかった。明日の深夜0時に自由の女神像までライトチェイサーを持っていけば

 マイクは助かるのだな。そうなのだな」

 

フォスター博士も子供を人質にとられてしまっていてはどうしようもなかった。

 

「では、明日の深夜0時までにライトチェイサーを持ってきてね。

 1秒でも過ぎたら、この子供の命はないわよ」

 

そういうとコウモリロイドは霧になって消えていった。

 

「博士、こうなった以上、俺がコウモリロイドにライトチェイサーを持って行きます。

 博士の身に何かあったらマイク君は悲しむでしょう。

 それにその怪我では移動もままならいはずです。

博士、ライトチェイサーの隠し場所を教えてください」

 

こうなってしまった以上、本郷に託すしかないので

フォスター博士は重い口を開けた。

「ライトチェイサーは私の実家の地下にある。場所はマンハッタンの125番地…

 アポロンシアターの近くだ。」

 

本郷は博士から簡単な地図を受けとり

サイクロン号にまたがった。

 

「本郷さん、俺も連れてってくれ。探し物なら人が多いほうがいいだろう?」 

 

浦島はそういってサイクロン号の前に立ちふさがった。

 

何が何でもついていく。

 

その心がサイクロン号の前に立つという行為に至らせたのだろう。

 

「わかった。後ろに乗れ」

 

本郷の了承を得て、浦島はサイクロン号の後ろに乗った。

 

「ここからだと遠いからな…飛ばすぞ」

 

そういって本郷はアクセルを吹かし、フォスター博士の下を離れた。

 

 

サイクロン号のスピードは浦島の予想以上に早かった。

何度も振り落とされそうになったが、浦島もライダーであったため

なんとかライダーとしての経験を駆使し、無事に目的地まで着くことができた。

 

この時すでに夜の七時を回り、あたりは暗くなっていた。

 

フォスター博士の家を見つけ

地下のライトチェイサーがある研究部屋に向かうと

そこには古めかしいネイキッドタイプのバイクがあった。

 

「これがライトチェイサーか…ライダーとしてじっくり乗ってみたいところだが

 今はそんな時間がないからな」

 

本郷はそういうと地下から地上に出るエレベーターのスイッチを押した

 

「本郷さん、あんたはなんで仮面ライダーとしてあんな奴らと戦っているんだ?

 あんたは奴らと戦うのが怖くはないのか?」

 

浦島が本郷に助けられてからずっと疑問に思っていたことを聞く。

 

なぜ、戦えるのか?

戦うことに恐怖はないのか?

 

この二つのことが浦島は気になってしょうがなかったからだ。

 

「俺が仮面ライダーとして戦う理由?

それは悪の組織に立ち向かう牙がない人たちの代わりに戦っているんだ。

 誰かが悪の組織にせいで涙が流すのなんて、これ以上見たくないからな。

 だから俺は怖くとも戦っていられるんだ」

 

本郷は浦島に語りかける。

 

浦島はその言葉を聞いて、こんな体になった自分でも

誰かの役に立つことができるんじゃないかと考えたが、

今の自分はあの姿になれない以上、本郷のように戦えず

コウモリロイドに成す術もなかった自分に苛立ちを感じていた。

 

「本郷さん、俺はあんたと同じように改造人となっちまったけど

 前の戦闘から体が言うこと聞いてくれないんだ。

 コウモリロイドに殺されそうになって、俺は怖くなってしまったんだ。

 こんな体から逃れられるなら、死んでもいいとまで考えていたのに

 死ぬ直前になって『死にたくない』なんて考えちまったんだ。

 俺はいま、怖くて逃げだしたくってしょうがないんだ」

 

浦島は普段のひょうひょうとした態度から一変して

今の自分の弱さを本郷に語った。

 

「浦島、人間だれもが死を恐れるのなんて当たり前じゃないか。

 俺たちはこの地球に生きる生物なのだから。

 ただ、人間という生き物は何かを守りたいという覚悟を決めたとき

 己の中のある恐怖心に打ち勝つことができるんだ。

 今のお前に守るものはあるのか?失いたくないものはあるのか?

 それらを守る覚悟をお前がしたとき、

 お前は俺と同じ仮面ライダーを名乗って戦うことができるはずだ」

 

本郷の言葉に浦島は希望を見出す。

 

――何かを守ると決めたとき、俺の中にある恐怖心に打ち勝ち

 俺も仮面ライダーとして戦うことができる――

 

 

浦島の中で今までのわがたまりがすべてなくなった。

 

自分の存在理由を得たのだから、その心は雨上がりの空のように清々しい。

 

地上に出ると、本郷が何かに気付いたようだ。

 

 

「この近くで何か嫌な予感がする….まさかこの辺りにコウモリロイドとは違う怪人が潜んでいるのか?」

 

本郷の予想は的中していた。

 

なぜならばこの近くではホームレスの失踪が相次いで起きており

間違いなく何者かの仕業だったからだ。

 

「本郷さん、あんたはそっちに行ってくれ

 俺はコウモリロイドからマイクを取り戻す」

 

浦島の言葉を聞き本郷はただ一言。

 

「任せたぞ」

 

とだけ言うと、怪しい気配がする方角に向かった。

この街の地図だとあっちは人がいない教会があったはずだ。

 

「さて、行きますか」

 

浦島はライトチェイサーにまたがり、そのエンジンをかける。

マシンの息吹が雄々しく響き渡る。

 

「行くぜ、ライトチェイサー!」

 

光の追撃者の名をかざしたそのマシンは

その姿を人類の叡智の結晶に姿を変えた。

 

銀色に輝くボディに赤いラインが入り

単眼のヘッドライトに光を灯し、自由の女神に向け走り出す。

 

二台のスーパーマシンはN,Yの闇を切り裂く牙となって、悪しき者たちのもとへ疾走する。

 

 

 




仮面ライダーになる決意をした浦島。
彼ははたして再び変身できるのか?

次回にご期待ください。


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第六話「変身」

加速するマシンのスピード。

 

速度が増すごとに安定感は増していく。

 

それはまるでマシンと体が一つになったようだ。

 

父がいるあの子には、父のもとにいるべきだ。

そして父の姿をその目に焼け付けてほしい。

それが親子の正しい形だと思う。

 

だから俺は戦う。

 

仮面ライダーとして…

 

第六話「変身」

 

 

N.Yの街はいつもより騒がしかった。

何しろ二時間前に吸血鬼が現れたという事件があったからだ。

吸血鬼は幼女の血を吸い、警察に包囲されたが

FBI捜査官滝和也の命令無視の行動により、逃亡を許してしまった。

 

 

闇を照らす満月に雲がかかり、この街の夜は一層暗くなる。

それはまるで闇の住民が動き出す予兆だったのかもしれない…

 

23時55分

 

コウモリロイドは自由の女神像の台座の上でその翼を休めていた。

その隣にはフォスター博士の息子のマイクがいたが、意識を失っているようだった。

 

「あと五分…そろそろペトレスクが動き出す頃ねえ~

 ショッカーの生き残りがどれだけ怪人を作ったのか知らないけど

 仮面ライダーをこちらに向かわせることよって

N.Yに怪人を放ち、街を混乱させるこの作戦は成功したも同然…

この坊やもあと数分でお役御免ね」

 

耳元まで避けた口から鋭い牙を光らせる。

 

「子供の生き血は美味だからねぇ~

 さっさと頂こうかしら」

 

気絶した子供の首元にコウモリロイドの鋭い牙が迫る。

 

その時、まばゆい光ともに一台のバイク猛スピードで突っ込んできた。

 

「ドォリャアアアアアアアアアア」

 

その叫びともにバイクに乗っていた男が身を投げ出し

台座に着地する。

 

「そこまでだ!コウモリロイド!!

 子供を返してもらおうか!!!」

 

一瞬本郷猛かと誤認したコウモリロイドは

本郷ではなく浦島がきたと確認すると、すぐに余裕を取り戻した。

 

「てっきり仮面ライダーが来るものかと思ったら、

 ちょっと予想が外れたみたいね...

 あなたも改造されているみたいだけど、

 ダニエルとの戦闘では変身もできずにやられていたじゃないの

 そんな出来損ないを私によこしてきたなんて、私も弱く見られたみたいねぇ...

 ちょっと腹が立ったわ...」

 

「約束通りライトチェイサーを持ってきたぞ

 さあ、マイクを返してもらおうか!」

 

ライトチェイサーはオート操作によって台座の下に着地していた。

 

「ライトチェイサーを持ってきたようだし、交渉は成立よね

 それじゃあこの子供を返そうかしら」

 

交渉は無事に成立したかのように見えた。

 

だが...

 

「気が変ったわ。この子は我々の生贄になってもらいましょう」

 

コウモリロイドはマイクの首元に噛みついた

 

見る見るうちにマイクの体から生気がなくなっていく

 

「その子をはなせぇぇ!!!!!」

 

浦島がタックルをし、マイクをコウモリロイドから離すことができた。

 

「おいしっかりしろ!」

 

浦島はマイクに呼びかけると

マイクは生気を失った唇をかすかに動かし

 

...た...す...け...て...

 

声にならない小さな声で浦島に助けを求めた。

 

 

「最後まで飲めなかったのは残念ねぇ…

 まあ、久しぶりに生血を飲めたし満足したわ。

 それじゃライトチェイサーは頂いていくわよ」

 

コウモリロイドはその翼を広げ、台座の下にあるライトチェイサーへ向かう。

 

「これで任務は完了ね」

 

ライトチェイサーに手をかけようとしたとき

後ろからすさまじいエネルギーが放出されているのを感じた。

 

振り向くと、そこにはマイクを抱えた浦島がこちらを睨んでいた。

 

「コウモリロイド....罪もない子供にこんなことをしたお前を

 俺はけして許さない……]

 

浦島の腰部に二つの種が見える。

その二つの種は成長していき、二つの花が絡みあって一つの花となり

そしてそれはベルトのようなものに姿を変えていった。

 

「俺は…….貴様を許さん……」

 

浦島の体は無意識に空手の型のようなポーズをとり、「スイッチ」入れる。

多くの戦士たちが口にしてきたこの言葉ともに…

 

「変….身….!!」

 

すさまじい突風が浦島から放たれ、コウモリロイドが思わずたじろぐ。

 

そして風がやみ、コウモリロイドが目を開けるとそこには横たわるマイクしかいなかった。

辺りを見渡すがどこにも浦島の影はない。

 

「あの男からすさまじいエネルギーが放出されていたけど、まさか….」

 

コウモリロイドは後ろに気配を感じ振り向くと

そこには仮面をかぶった男が腕を組んで立っていた。

 

厚く鋼のような筋肉を守る装甲

鋭利になった触角

牙を覆うマフラー

そして真っ赤な眼….

 

そこにはバッタ怪人ではなく、

多くの闇を葬り去ってきた戦士たちに似た姿の男が腕を組んで立っていた。

 

「俺は…仮面ライダー!!」

 

浦島は自ら仮面ライダーを名乗った。

誇り高き戦士の名を高らかに

 

「仮面ライダーねぇ…なら話が早いわ

 出来損ないは処分してあげる」

 

コウモリロイドは翼を広げ、仮面ライダーに襲い掛かる。

 

「隙だらけよ。仮面ライダー!!」

 

コウモリロイドが浦島の首元に噛みつこうと牙を光らせた。

血に飢えた牙が浦島の首元に達するまさにその時

 

 「ライダー....パンチッッ!」

 

その拳は一撃でコウモリロイドの腹部を貫いた。

 

「ギャアアァァァァァァァァアアアア」

 

コウモリロイドは絶叫し、その場に倒れこんだ。

 

「一撃で仕留められなかったか....」

 

普段の落ち着きのない浦島はそこにはいなかった。

マイクを殺された怒りで本来の浦島とは違う性格が表れたのだ。

 

「まだ終わってないぞ....」

 

悶絶するコウモリロイドを掴み起こし、怒りの感情を載せた拳で殴りつけた。

何度も何度も力まかせに殴りつけられた

コウモリロイドは最低限の抵抗をするものの

圧倒的なパワーで殴る浦島の一方的な攻撃によって、次第に動かなくなっていった。

 

「死んだか....」

 

コウモリロイドの亡骸に背を向け

浦島はマイクの下に向かう。

 

マイクの体は冷たくなりかけていたが、かすかに息はあるようだった。

人を守るために戦ったその拳は

怒りにまかせて暴力を振るうだけの拳となっていた。

 

 

――本郷さん…俺、この子を助けられませんでした――

 

――俺は奴らと同じただの生物兵器です――

 

――もう、仮面ライダーを名乗れません――

 

――せめて....この子供を助けてください――

 

 浦島は仮面の下で涙を流しながら叫ぶ。

 

 

 

「なら、その子供の命は助けてあげよう」

 

どこからか少年の声が聞こえた。

  

声がした方向に振り向くと

そこには白い学生服を着た黒髪の少年が宙に浮かんでいた。

 

「僕がその子を助けてあげるよ」

 

少年はポケットから『種』を出し

それをマイクに向かって投げた。

 

『種』はマイクの体内に入りこみ瞬時にマイクの体に『根』を張り、

体を『草体』の中に取り込んで『蕾』を出現させた。

 

「これは….まさか!!」

 

浦島はその『種』が自分の運命を変えた災いの種であったことに気が付いたが 

時はすでに遅く、『蕾』は開きはじめ、その中からフェニックスのような怪人が現れた。

 

「その子供は死への恐怖から、フェニックスを生み出したようだね。

 ほんの数秒で『花』咲かせてしまうなんて、生存本能が働いたみたいだ。

 ただ、瀕死の子供では完全体なれないか」

 

白い学生服の少年は

まだ立つことができないフェニックスを隅々まで観察していき、

ポケットから出した手帳に結果をまとめているようだった。

 

「お前は一体何者だ!!

 なぜ、お前がソウルシードを持っている?!

 

浦島は少年に対する怒りと

なぜ、あの少年がソウルシードを持っているのかという疑問の

板挟みになっていた。

 

「だってソウルシードは僕が生み出しているからね。

 コードネームCの世界から来たようだけど、

 あいつの生命反応は消えているようだから

 君が倒したみたいだ。所詮あいつの『忠誠心』もそんなもんだったか。

 あっ名前を名乗っていなかったね。

 僕の名はZ≪ゼータ≫僕は『エデン』のトップ…つまり大首領さ」

 

白い服の少年は自らをZと名乗り、『エデン』という組織のトップであることを明かした。

 

突然の発言に浦島は信じられずにいた。

 

「僕は君らみたいに嘘をつかないよ。

 信じるか、信じないかは君次第だけど」

 

 Zは表情を崩さず淡々と話を続けた。

 

「僕は世界平和を成し遂げたいだけなんだ。

 そこには地球の失われた自然が蘇り、人々は争いを止め

 人類みんなが幸せに暮らせるんだ。

 どうだい?素晴らしいだろ?

 君も『エデン』に作る手伝いをしてくれないかい?

 争いで人が死んでいく歴史はもうやめにしよう」

 

Zの話には確かに納得できるものがあった。

世界から争いがなくせるものならなくしたい…

だからといって人間にソウルシードを植え付け

怪物にする行為が許されるのか….

 

「これは人類の新たな進化だよ。

 人類の歴史を0からやり直すために必要なんだ」

 

浦島の心がZの思想に傾きそうになったとき

 

た…す…け…て 

 

マイクの声だった。

 

フェニックスからマイクの声で助けを求める声が聞こえたのだ。

 

浦島の迷いは断ち切られた。

 

「Z…お前の理想は確かにすばらしいが

 そこに誰かの犠牲があってはいけない…

 だから俺はお前の野望を砕く!!!」

 

浦島が完全に仲間になる気はないと判断したZは

 

「所詮君たち人間はいつだってそう。大和の時も同じことを言われたよ。

 まったく愚かな動物だ。

 ん….そろそろフェニックスが戦えそうかな」

 

Zはフェニックス方向へ視線を送った。

 

フェニックスは翼こそうまく使えないものの

その眼は完全に野獣の眼になっていた。

 

Zは何もない場所に手をかざすと、そこから扉を出てきた。

 

「では、君の相手はフェニックスシードに任せて

  僕は次の世界の種まきに行かなければならないな。

  またどこかの世界で会おう…LOST Number…」

 

「待てぇ!Z!!お前は大和と何か関係あるのか?!!」

 

浦島の言葉はZの耳元まで届かず、

Zは扉の中に消えていった。

 

  

やっと大和に関する手がかりを掴めたが、あと一歩のところで逃げられ落胆する浦島に

フェニックスシードが刀のように鋭い爪を立て襲ってきた。

 

不意を突かれた浦島はその刃のように鋭くとがった爪をもろに受けてしまう。

 

「クッッ!!油断してしまった」

 

フェニックスシードの攻撃を受け、思わず膝をつく浦島。

  

「クケェェェエェェ!!!」

 

フェニックスシードの雄叫びが夜のN.Yに響く。

  

「マイク相手でも戦うしかないのか?   

 万が一こいつを倒してしまったら、マイクの命はどうなるんだ?

 俺は...マイクと戦うしかないのか?!!」

 

守るべき相手と戦うことになった浦島。

戦えばマイクをこの手で殺めてしまうかもしれない…

戦わずにいれば、マイクはその手で人を殺める怪物となるだろう…

 

決断が迫れる浦島….

一方で、オオコウモリ怪人を倒した本郷が

  

一陣の風となって自由の女神の下へと急ぐ…

 

 

 

 




戦闘の描写に迫力を出すのが、こんなに難しいことだったなんて
小説書くまで知りませんでした。

勉強しないといけませんね。


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第七話「共闘」


   




 

やっと大和に関する手がかりを掴めたが、あと一歩のところで逃げられ落胆する浦島に 

フェニックスシードが鋭い爪を立て襲ってきた。

 

不意を突かれた浦島はその刃のように鋭くとがった爪をもろに受けてしまう。

 

「クッッ!!油断してしまった」

 

フェニックスシードの攻撃を受け、思わず膝をつく浦島。

 

「…倒すしかないのか…倒すしか….」

正義の戦士を名乗った浦島に、最大の決断が迫られる。

 

 

第七話「共闘」

 

 

N.Yで起きた吸血鬼出現事件は、日本の都市伝説であった

 

MASKED RIDERの活躍により解決した。

 

一方同じくN.Y.リバティ島の自由の女神像では

もう一人のMASKED RIDERが未知の敵と交戦していた….

 

 

「クケエェェェェエエエ!!!」

 

獣の雄叫びがN.Y.の街の響きは渡る。

その体はすでに鳥獣と化しており、背中から生えている翼はまだ完全に羽ばたけないものの、

高速移動の補助として使われていた。

刀のように鋭い爪は鎌鼬ように鋭い攻撃を繰り出し、浦島は攻撃を避けることで精一杯だった。

 

「あの爪はなんとかして避けないとヤバいな….」

 

幸い敵の攻撃は単調であったが、もう一度攻撃を喰らってしまうと深手となり

攻撃を避けられなくなってしまう。

 

フェニックスシードは次の攻撃を撃つため攻撃態勢に入った。

身を屈め、低い姿勢から一気に突撃してくるのだ。

 

高速で突撃してくるフェニックスシードを避けるため

回避行動に移る浦島。

 

「お兄ちゃん…助けて…」

 

フェニックスシードからマイクの声で助けを呼ばれた。

 

「マイク!!!」

 

その声に気を取られ回避できなかった浦島にフェニックスシードがすかさず攻撃する。

 

「しまった!!!!」

 

その爪の餌食となってしまった浦島。

左肩の強化装甲に深い傷を負ってしまう。

 

「これでは次の攻撃が!」

 

傷を覆った浦島に対しフェニックスシードはそのピッケルのような嘴で追い打ちをかける。

左肩に刺さるギリギリのところで浦島は右手でその嘴を掴みなんとか刺さるのだけは防ぐことができた。

だが、全身の力を頭部に集中しているフェニックスシードに対し、浦島は右手一本だけで辛うじて耐えている状態であった。

これではフェニックスシードの嘴の餌食になるのも時間の問題である。

 

「くそぉ….このままじゃ、こいつにやられてしまう…

せめてこいつの中にいるマイクと話ができれば….

だったら、こうしてやる!」

浦島は嘴に抵抗する力を弱めた。

そして遂に左肩にフェニックスシードの嘴が突き刺さる。

 

「クッッ!!!」:

 

絶体絶命のピンチであったが、その状況を逆手に取り

   

「この一発でマイクの意識が目覚めてくれれば!!!」

 

浦島はフェニックスシードのソウルシードがある腹部のベルトにめがけ、拳を放つ。

  

「グゲェェェェェエッェエエエ!!!!」

 

ソウルシードに直接攻撃が伝わったためか、

フェニックスシードは左肩から嘴を抜いて、もがき苦しむ。

 

「マイク!!!返事をしてくれマイク!!!俺はお前のお父さんの知り合いだ。  

 今からお前をそこから助け出す。お前は自分の意識を持ち続けるんだ!!」

 

浦島の呼びかけはフェニックスシードの中にいるマイクまで届いた。

フェニックスシードの体内からソウルシードが出かかっている。

ソウルシードの中からマイクの声で

 

「お兄ちゃん….ぼく…お父さんに会いたい….」

 

とかすかだが聞こえてきた。

 

「あれがマイクの体が入っている部分か!!」

フェニックスシードの体内にあったソウルシードは3分の1ほど出てきた。

 

それを引っ張り出すため、フェニックスシードに近づいた浦島。

左腕が先ほどの負傷のせいで使えないため、右手で抜きだそうとする。

残りが半分になったところで、フェニックスシードの嘴が浦島の右肩を突き刺す。

  

「まだだ!!この子だけは何としても助ける!!」

 

  

両肩の負傷で弱まっていくはずの力が、どんどん強くなっていく。  

  

そして、ソウルシードが残り4分の1となったところでソウルシードに絡みつく触手を見つけたが

浦島の両腕は触手を断ち切るほどのパワーは残されていなかった。

 

「ここまで来て!!!だが、俺は諦めん。俺は….俺は仮面ライダーなんだ!!!」

 

  

手も足もでない状況だったが、浦島はけして諦めなかった。

 

そしてその諦めない心は、一人の男の拳に乗り移った。

 

 

「ライダァァァァチョッップ!!!!」

 

鋭い手刀がソウルシードから触手を断った。

 

「浦島!よく一人で頑張った!」

 

真紅のマフラーをなびかせて浦島の目の前にいる男は本郷猛…いや、仮面ライダー1号だった

 

「本郷さん!マイクはこの中にいます。ライトチェイサーも無事です」

 

フェニックスシードの体内から取り出されたソウルシードは徐々に大きくなり

子供一人が入るくらいの大きさになっていた。

 

すかさず浦島はソウルシードを剥き、マイクの体があること確認した。

    

「マイク!!お兄ちゃんだ!!瞳を開けて返事してくれ!!」

 

その言葉に応じ、マイクの瞳はうっすらと開き

   

「お兄ちゃん…ありがとう…」

 

とかすれた声だったが、はっきりと聞こえた。

 

「浦島。奴を倒すぞ。力を貸してくれ!」

  

「わかった本郷さん。だが、俺の両腕はもう使えない。

 一体どうやって攻撃するんだ?」

 

ほとんど動かない浦島の両腕は、誰の目から見ても使い物にならないことは明らかだった。

 

 

「俺にタイミングを合わせろ!」

 

とだけ言って、空高くジャンプした。

 

それに少し遅れて浦島もジャンプする。

  

空高く飛んだ二人の仮面ライダーは天に登る朝日を背にし 

 

「行くぞ浦島!!!これが俺たちの必殺技だ!!!

 ライダァァァァァァダブルキィィィィィク!!!!!!!」

 

その二本の稲妻はフェニックスシードの体を突いた。

 

フェニックスシードは大爆発を起こし、N.Yの街から消えていく夜の闇の中に消えていった….

 

  

 

エピローグ

 

 

 

「フォスター博士、本当にライトチェイサーをもらっていってもいいのですか?」

 

浦島は息子を迎えにきたフォスター博士に問う。

  

「いいんだ。君が仮面ライダーとして戦うためには、バイクがなくてはいけないのだろう?

 ライトチェイサーが手元にあってはいつバダンに追われるかわからないからな。

 そいつも君に乗られて本望だろう」

 

フォスター博士は浦島に対して息子を助けてくれた感謝の念の意味も含めて

浦島にライトチェイサーを託したのだ。

 

「わかりました。ライトチェイサーお預かりいたします」

 

浦島はフォスター博士の熱意に負け、ライトチェイサーを受け取ることになった。

 

「お兄ちゃん、これ本郷のお兄ちゃんから」

 

そうマイクから受け取ったのは手紙だった。

本郷はオオコウモリ怪人の血清を友人に届けるため、あの後すぐに戻っていったのだ。

  

「本郷さんからか~」

 

中身をあけるとそこにはこう書かれていた。

 

  

 『浦島へ

   君はこれからとてつもない闇と戦うことになるだろう。

   たとえ君にピンチがあっても、今回みたいに助けには行けない。

   だが、忘れるな。

   俺たち仮面ライダーはたとえ絶体絶命のピンチでも決してあきらめない。

   俺たちが負けるということは、人類の死に直結するんだ。

   いつかまた会おう。戦友よ。 

                                本郷猛 』

   

「本郷さん、この言葉、肝に銘じておきます」

  

浦島はその言葉の意味の重さを感じながら、手紙をそっとズボンのポケットに入れる。

 

「それじゃ俺、そろそろ行きます」

 

ライトチェイサーにまたがり、エンジンをかける浦島に

   

「また会えるよね?お兄ちゃん」

 

と悲しげな目で見つめるマイクに対し、

浦島は軽くマイクの頭をなでると

 

「大丈夫。必ずZを倒す旅が終わったら遊びに来るさ」

 

その言葉だけ言うとスタンドを上げ、エンジンを吹かしライトチェイサーを走らせた。

 

「ありがとう仮面ライダー!!!」

 

マイクは自分が出せる一番大きな声で浦島に叫ぶ。

   

浦島のの姿は夕日とともに消えていった....。

 

彼の旅の始まりはここから始まった。

 

浦島 空也として...

 

仮面ライダーとしての永い旅が.....

   

 

 




仮面ライダーSPIRITS編終了です。
次回からまた違う世界に行きます。

文章能力の低さが指摘されたので、
これからも精進していきたいと思います。


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キン肉マン編
第八話「超人伝説!!の巻」


今回からキン肉マン編に入ります。
シリーズでいうと、第21回超人オリンピック・ザ・ビックファイトの
ウォーズマン戦と七人の悪魔超人編の間の話です。

この時期のキン肉マンに思わしくない言動がありますが、
そこはV2チャンピオンの自覚と思ってください。

まあ自覚があったらミート君はバラバラにされることはなかったんですがね(汗)


フェニックスシードとの戦いを終え、フォスター博士とマイクに別れを告げてから数時間が経った。

 

浦島は相棒ライトチェイサーに跨り、夜のハイウェイを駆けて行った。

 

「Zの野郎、一体どこに行きやがったんだ?

 フェニックスシードの爆発した場所には手がかりは何もなかったし、

 奴を追うためにはどこに行けばいい…」

 

自由の女神には、Zを追うための手がかりは一切残されておらず

浦島の額には、焦りからか、汗がにじみ出ていた。

 

浦島の前には一台の大型トラックが走っていた。

さっきから何度も追い越そうとしているのだが、浦島がスピードを上げるたびに

大型トラックもスピードを上げ絶妙な距離感を保つため、なかなか追い越せない。

 

「あのトラックの運転手、性格悪いな~

 いい加減追い越しさせろってんだ!」

 

浦島は大型トラックに対する苛立ちがついに頂点に達し

一気にスピードを上げ、トラックを追い越すことにした。

 

大型トラックの左を攻め込むと、トラックも左に寄ってきた。

 

「よし、こいつの機動性を試してみっか!」

 

浦島が車体のバランスを左から右に重心を落とし、

大型トラックの右側をすり抜けようとしたとき、突然大型トラックの荷台のドアが開きだした。

 

荷台の中はまばゆい光で覆われて、何も見えなかった。

 

「まずい!光で目がやられちまった」

 

突然の光で、改造人間である浦島の目もくらんでしまい、思わずバランスを崩してしまう。

浦島とライトチェイサーは、吸い込まれるようにしてトラックの荷台に吸い込まれていった。

 

トラックの荷台の上に白い学生服を着た少年…『Z』が姿を現した。

 

「これ以上、君がこの世界にいてもらっては困るからね。

 次元ゲートに行って、新たな世界の中で君の物語を続けるといい…」

 

Zはそう言うと、トラックとともに姿を消した。

 

 

第八話「超人伝説!!の巻」

 

 

 

浦島が目を開けると、そこは無数の扉が存在する空間の中にいた。

 

 

「上にも扉、下にも扉、右にも左にも扉…

どこを見渡しても扉しかない。

いったい、なんだ?この空間は…」

 

理解できない状況に追い込まれるのは、ここ数日で何度もあったため

浦島は、自分が多少のことでは驚かないようになっていたかと思っていたが

どうも慣れないようだった。

 

「このまま悩んでいても、物事は解決しないし

 とりあえず一番手前にあるこの扉を開けてみるか」

 

浦島は一番近い扉のドアノブに手をかけて

ゆっくりとドアノブを回し、扉を開いいていくと

男たちの怒号とたくさんの歓声が聞こえてきた。

 

「なんだ、これ?」

 

さらに扉を開けると、鋼のような筋肉を纏った男たちが、

リングで戦っているようだった。

 

「面白そうだし、とりあえず入るか」

 

勢いよく扉を開けると、浦島はそのまま扉の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦島の後頭部が壁にぶつかった。

浦島は痛みをこらえてあたりを見渡すと、牛丼屋のバイトのチラシが目に付いた。

 

「牛丼屋の便所ってところか…よりにもよってなんでこんなところに…」

 

ドアはドアでも、便所のドアを開けてしまうことになるとは

浦島の予想には全く考えていなかった。

 

そしてこの部屋、いくら便所だからといっても、やけに異臭が漂っている。

浦島の経験上、その匂いは出来立ての人間の『うん○』の匂いだった。

 

その匂いの発信源は浦島の足元だった。

先ほどから浦島は妙な感触が足元に感じられたので、まさかそんな非常識なことがあるわけないよなと考えつつも

恐る恐る足元に目を向けた。

するとそこには、古めかしい和式便所の中には

自分の足とその下には人間のと思わしき「うん○」があった。

 

浦島 空也 19歳

彼は人間の「うん○」を踏みつけてしまったのだ。

 

「嘘だろぉぉぉぉぉ!!!

 なんで流されてないんだよ????

 前にしたやつ、ちゃんと流せよ!!!!!

 自分のしたモノぐらい、ちゃんと自分で始末しろぉぉぉぉぉ!!!」

 

牛丼屋の便所に浦島の絶叫が響き渡る。

 

その絶叫を聞いて誰かがこちらに向かってくる。

 

「おかいしいのぅ?わたしが入った後には、誰も入らなかったはずだが」

 

声からしてみて、20代くらいの男だった。

 

男と思わしき足音は便所にどんどん近づき、ドアの前で立ち止まった。

 

「おーい、誰が入っとるか知らんが、なにかお困りのようかのう?」

 

男の手が和式便所のドアノブにかかり、ゆっくりとドアが開きそうになる。

 

「ちょっと紙がないだけだから!!!

 誰だか知らないが親切に開けなくていいぞ!!

 頼むから開けないでくれ!!!」

 

不可抗力とはいえ、便所に足を突っ込み

人間の「それ」を靴で踏んでいるところを他人に見られるわけにはいかなかった。

 

男としてのプライドが浦島の体を動かし、必死でドアノブを抑える行動へと走らせた。

 

「開けなくていいって本人が仰っていますし、ここは開けなくていいじゃないですか、王子」

 

10歳くらいの男の子が、ドアを開けようとする男に対して、止めに入る。

 

―王子だがなんだか知らないが、母さんやじいちゃんにも見られたことがない恥ずかしい場面を

 見られたくないんだよ!!

 

浦島はあっりたけの力を込めてドアノブを掴むとドアノブが徐々に潰れていった。

 

「しかしミートよ、この人はとても困っているようだ。ドアが壊れて出られなくなってしまっているようだし、

 わたしがこちらから開けてあげなくては」

 

男はミートという名の少年の忠告を無視し、ドアノブから手を離し、ドアごと外しにかかった。

 

「う…嘘だろ?ただの人間にそんな馬鹿力があるわけ….」

 

便所のドアは男の馬鹿力によって、見事に外され、浦島の恥ずかしい姿は公衆の目にさらされることになった。

 

「一つ言っておくが、私は人間ではない。私は超人だ」

 

先ほどの馬鹿力の正体は、このトサカのついた大男に仕業だった。

上半身裸に、パンツ一丁…

恰好だけ見るとただの変態だが、この男の筋肉は鋼のように厚く、締まった体だった。

 

まさに鎧ともいえる全身の筋肉が、男の恰好を不自然とは思わせないオーラを放っていた。

 

「…超人?…アストロ球団か?」

 

「アストラだか、アステカなのではない!私はキン肉星王子、キン肉マンことキン肉スグルだ」

 

どこからともなくにじみ出てくる自信は、いったいどこから来るのか

浦島は不思議でたまらなかったが、そのオーラは確かに本物だった。

 

「ちょっと前に超人オリンピックV2を成し遂げたばかりなのにな~

 王子の知名度もまだまだのようですね」

 

同じく頭にトサカをつけ、眼鏡をかけている少年は苦い顔でキン肉マンのほうを見ている。

 

「私の知名度もまだまだか~。

しかし、今回の超人オリンピックのチャンピオンも知らないとは

君もかなり苦しい生活をしているんじゃのう~」

 

キン肉マンはどこから取り出しかわからないが、ハンカチ片手に浦島の不遇さに同情していた。

 

「V2チャンピオンか~あんた、なかなか見かけによらず、すごい人なんだな。

 ところでさっき、『私の後には誰も入らなかった』ってあんた言ってたよな?

 ということはこのうん○ …あんたの流さなかったものってことになるよな~」

 

浦島はこみあげる怒りを抑えながら、キン肉マンに問いただす。

 

「すまんのう~それは私のうん○じゃ。ごめんなちゃい」

キン肉マンのふざけた態度は浦島の怒りを爆発させる弾薬としては十分すぎるほどの量であった。

 

「てめぇ!!!!自分のクソも流せねぇ~のかよ!!!!

 そんなガキみたいな奴がオリンピックのV2チャンピオンなんて

 天が認めても、俺は認めねーぜっ!!!」

 

激高した浦島はキン肉マンに言い寄った。

 

キン肉マンもカチンときたようで

 

「なんじゃとう~。私が悪いと思って下手にでたら、私のチャンピオンベルトにケチをつける気か!!」

 

と声を荒げ、浦島を睨みつける。

 

「まあお待ちください二人とも。確かにうん○の件は王子に非がありますが

 何も王子のチャンピオンベルトにいちゃもんつけなくてもいいでしょう。

 ここは私、アレキサンドリア・ミートの顔に免じてお互い謝って丸くおさめましょう」

 

この中でも一番年下の彼に言われてはしょうがないので

浦島はおとなしく謝ることにした。

 

「チャンピオンベルトにいちゃもんつけたことは申し訳ない。

 ただ、あんたがチャンピオンだってことはあんたに言われて知ったんだ。

 何しろ俺はさっきこの世界に来たばっかりで…」

 

浦島が事情を話そうとしたとき、

 

牛丼屋にあわてて飛び込んできた鉢巻を巻いた男が

 

「たいへんだ~!!三丁目に怪獣が現れて、街で暴れているぞ~!!!」

 

三人はその声を聞いて牛丼屋の外に出た。

 

するとそこには、腹の出た中年男のような体系の怪獣が街を壊していた。

 

「王子!あれは怪獣商社の窓際係長、マドギラスですよ」

 

「久しぶりの怪獣退治じゃのう。そこの君、うん○に関しては申し訳なかった。許してくれ。

 すまんが、話はここまでにして君は早く逃げなさい」

 

キン肉マンは先ほどまでにおちゃらけた態度から、キリッとした態度に変わった。

 

「ミートよ。ニンニクをくれ」

 

「はい、王子」

 

ミートからもらった生のニンニクを食べ、キン肉マンはみるみるうちに巨大化した。

 

「一気に決めさせてもらうぞ、マドギラス。キン肉フラッシュ!!!」

 

キン肉マンは必殺技と思わしきポーズをとるが、何も出てこない。

 

「おわ~キン肉フラッシュがさび付いて出てこない~どうしようミート?」

 

先ほどまでのキリっとした表情は消え、キン肉マンは予想外の出来事にパニックを起こしていた。

 

「王子!!さっき食べたのが最後のニンニクですよ~」

 

「そ…そんな~」

 

さらにパニックに陥るキン肉マンの隙をついて、マドギラスは頭に巻いてたネクタイでキン肉マンに首を締め上げた。

 

「ひ…卑怯者っ!!!怪獣だったらどうどう戦ってこんかー!!」

 

怪獣に卑怯もひったくれもないと思う浦島だが、状況は一刻を争っていた。

 

「どうやら俺の出番のようだな」

 

浦島は念じると体から変身ベルトが出てきた。

 

「変…身!!!」

 

浦島がポーズをとると、浦島の体は変化していき異形の姿となった。

 

「トゥ!!!」

 

浦島は近くのビルの屋上に飛び、さらに天高く飛翔した。

 

「ライダァァァァキィィクッッ!!!!

 

浦島の必殺技がマドギラスの体を突く。

 

マドギラスはネクタイだけ残して爆発していった。

 

燃え盛る火を背に、浦島に対してミートが問う。

 

 

「あなたは…いったい何者なんですか?」

 

浦島はミートの問いにこう答える。

 

「俺は......仮面ライダーだ」

 

 

 

口を覆う純白のマフラーが爆風でなびいていた。

 

 

 

 

 

 




キン肉マン編突入しました。

キン肉マンの二次創作自体あまり見たことないですが、
まさかクロスオーバーなんて....

ここはキン肉マンに対する愛で最後まで書ききろうと思います。


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第九話「超人鬼軍曹の襲撃!!!の巻」

※一部台詞に下品な表現が含まれておりますので、ご注意ください。



浦島とキン肉マンが出会う数週間前~

 

 

アメリカ・サウスカロライナ州パリス・アイランド海兵隊訓練キャンプ

 

ここはベトナム戦争で、アメリカ全土から集められた若者を

地獄のような訓練で殺人マシーンに変貌させるために作られた施設である。

 

その中には、アメリカがベトナム戦争の戦況打開のため

極秘裏に創設された『米国超人海兵隊』の地下訓練施設もあった。

幸いにも『米国超人海兵隊』はベトナム戦争の終結のため、

実戦投入されることはなかったが、それを良しとしない男がここにいた。

名は『THE・ハートマン』

かつてアメリカ超人界のトップに立ったこともある超人だったが、

彼は現役を引退し、『米国超人海兵隊』の教官として後輩を育成する立場になっていた。

 

 

「何をやっている、ペンタゴン!!!

 早くその赤豚の包○超人をぶっ殺せ!!!」

 

古ぼけたテレビの画面に映っているのは

超人オリンピック第二回戦、米国代表ペンタゴン対ソ連代表ウォーズマンとの試合だ。

 

試合は空中殺法の使い手であるペンタゴンの有利な展開で進んでいたが、

フイニッシュホールドのフライングソーセージの隙を突かれ、

ウォーズマンに命ともいえる背中をもがれて、ニードロップを受けてしまう。

 

「貴様は栄光あるアメリカ合衆国の超人なんだぞ!!!

 赤豚の包○超人などに負けるはずがないッッ!!

 根性を見せろ!!!!!」

 

ウォーズマンのニードロップを受けながらも、何とか立ち上がったペンタゴンだったが

ウォーズマンの代名詞ベアクローの餌食となり、ウォーズマンの勝利が決まった。

 

「SIT!!!!!

 だから最近の若い超人はダメなんだ!!!

 テリーマンも犬を助るため新幹線を止めるという馬鹿げた行動で予選敗退するし、

 我がアメリカ合衆国にマシな超人はいないのか????」

 

怒りのあまり、思わずテレビを叩き壊したハートマン。

すでに60歳を超える高齢者でありながら、その怒りのパワーは年齢を凌駕し、とどまることを知らない。

 

「だからあの戦争で『超人海兵隊』を投入しておけばよかったんだ!!!

 戦争が終わったとしても、彼らの精強な肉体と精神は

 合衆国超人界をリードし、やがて彼らによって超人界でも

 我が合衆国の名を轟かすことができたのだ!!!!」

 

その怒りは、数々の勲章が飾ってある棚を一撃で破壊し、

星条旗を原型がなくなるまで引き裂くという行動に移させた。

 

「...私があの頃の体に戻れれば...

 『サウスカロライナの虎』と呼ばれたあの頃の体に戻れれば....」

 

 

ハートマンは合衆国超人のふがいなさに

自らがリングに立てればと願っていた。

 

『サウスカロライナの黒い虎』

ハートマンの全盛期の異名である。

彼のファイトスタイルは虎のように獰猛に敵を完膚なきまでに叩き潰すことから、

故郷サウスカロライナのファンから名づけられたものである。

 

その強さはやがて彼を米国超人界で浮いた存在にさせていき、

彼は朝鮮戦争に自ら志願し、軍人超人の草分けとして

米国海兵隊で活躍した。

だが、彼は戦争終盤で敵の集中攻撃を受け、右足に重傷を浴び

戦士として二度と前線に復帰できない体になってしまった。

 

 

「私はもう一度虎になりたい.....虎に.....」

 

 

 

 

「君の戦いに対する執着心は実に興味深い....

 君はソウルシードの土壌にふさわしい感情を持っている....

 僕の研究データの中に君の『戦いに対する執着心』を入れさせてもらう

 代わりに、君の望みどおり超人として、リングに復活させてあげよう」

 

 

完全な防御態勢を敷いて教官室に

一人の少年がどこからともなく入り込む。

 

「どこのクソガキだ!!!

 とっととママの割れ目に戻らないと、俺のM16が火を噴くぜ!!!!」

 

ハートマンは壁に掛けられていたM16を手に持ち

慣れた手つきで安全装置を外した。

 

「...所詮脳みそまで戦争に毒された,殺人マシーンか...

 

 君はもう一度リングに上がりたくないのかい?」

 

 

ハートマンに一瞬気が緩む。

 

「本当にそんなことができるのか??

 だったら俺のこの体を全盛期に戻すこともできるはずだよな???」

 

少年は満面の笑みを浮かべ、ハートマンに『種』植えつけた。

 

「この種は君を全盛期...それ以上に強靭な肉体を与えてくれる。

 君の戦いに対する執着心が強ければ強いほど、君は強くなっていく...

おもしろいデータが出ること期待しているよ。

 タイガーシード.....」

 

少年はハートマンの体の復活を見届けないうちに、

暗闇の中へ消えていった。

 

「気持ちいい....気持ちいいぞ!!!!!

 俺の体がどんどん若返るのがわかるぞ!!!!

 いまなら、超人オリンピックのチャンピオンだって夢じゃない!!

 なぜなら俺は不可能を可能にした男....

THEハートマンだからな!!!!!!!!!!

 

ハートマンの体は全盛期の姿を取り戻した。

だが、彼の影はすでに人間の姿ではなかった....

 

 

 

第九話「サウスカロライナの超人鬼軍曹!!!の巻」

 

 

田園調布 キン肉マンの家

 

 

キン肉マンの友人が『ウサギ小屋』と称したほど、かなり狭いこの家は

住人二人と来客者一人が入るだけで、圧迫感がいつもの倍以上に感じられた。

 

「ーーというわけけで、俺はあの牛丼屋の便所にいたわけだ」

 

浦島は自分が改造人間であることをキン肉マンたちに明かし、

Zと呼ばれる敵の情報を集めるため、しばらくキン肉マンの家に居候させてもらえるよう

交渉した。

幸いにもキン肉マンは快く承諾してくれたため、浦島は宿に困ることはなくなった。

 

「しかし、拉致されたと思ったら、いつの間にか自分の体が改造されていたなんて、世の中物騒になったのう~。なあミート?」

 

「そうですね王子。僕もうかうか外にも出れませんよ」

 

キン肉マンもミートもどこか落ち着いていた話し方をするものの、

浦島の変身した姿を見ているため、これでも心配しているつもりだ。

 

「...しかしこの家臭いな~。ニンニクのにおいしかしないぞ」

 

浦島も家に住まわせてもらう以上、ここは我慢をして言うべきではなかったが、

部屋中から漂うニンニクのにおいに耐え切れずつい本音を言ってしまった。

 

「王子が牛丼しか食べないからいけないんですよ。

 おかげで僕は毎日質素な食事しか食べれないんですから」

 

ミートもキン肉マンに対して、日ごろたまった鬱憤を浦島の本音につられて、嘆いた。

 

「しかしのう~私も牛丼愛好会会長の仕事があるから、簡単にはやめれないんじゃ

 それに私から牛丼をとったら、あとはただの超人レスラーという肩書きしか残らんぞ」

 

「超人なんだから当たり前じゃないですか!!」

 

ミートの鋭い空手チョップがキン肉マンののど元にクリーンヒットした。

 

ーーなんだかひさしぶりだな。こんな心からリラックスできるくつろげるーー

 

浦島は改造人間にされてから、こんなにゆっくりできた時間はなかった。

なんとなく戦いの傷が癒されていくような気がした。

 

「キン肉マン、ちょっと腹がすいちまったから

 どっかで飯食いに行ってくるけど、なんか買ってくるか?」

 

いくら改造人間といっても、食欲は湧く。

ましてや浦島は改造人間にされてから一度も食事をとっていなかったので

余計にお腹がすいたのだろう。

だが、彼はこの時点で大きなミスを犯していることに気が付かなかった。

 

「浦島のおごりか~じゃあ牛丼で!!」

 

「また牛丼ですか!!!いい加減にしてください!!」

 

ミートのドロップキックがキン肉マンに炸裂する。

 

ーーとりあえず牛丼以外のものにしようーー

 

浦島は若干冷える夜の田園調布に出かけて行った。

 

 

 

 

「....あれが獲物か...]

 

 

不気味な影が闇夜に照らされる。

 

獣...それは野生の本能に心を奪われた一人の超人の成れ果てであった....。

 

 

「...あいつも同じ匂いがするな...ソウルシードを与えられしもの...」

 

そういうとその獣はまたどこかで消えて行った。

 

 

数十分後

 

ひとまず牛丼を食べることにした浦島だったが、ここで大きなミスに気付く。

彼が現在持っている紙幣は一万円札のみ...

その一万円の肖像画は福沢諭吉....。

だが、この世界の日本は浦島の世界に1980年前半であった。

つまり、この世界の一万円は聖徳太子が現役なのだ。

 

幸い浦島は会計前に財布を見るくせがあったため、

無銭飲食は防がれたが、空腹のまま店を出ることになった。

 

「....バイトでもしようかな....」

ため息交じりに言ってはみたが、いつ『Z』が表れるかわからないので

バイトを始めることはできない。

 

そして今、『シード怪人』の気配に気付いたため

浦島は気配を追って、近くにあった建設現場に向かった。

 

「いるんだろう?出てこいよ」

 

浦島の声に姿を現したもの....

 

それは米国の軍服を着た男だった。

 

「貴様もソウルシードを植えられたんだろう?

 なぜ本能に従わない???」

 

男の口元に血がついている。

おそらく人間を襲ったのだろう。

 

「本能のままに生きるなんて、獣のすることだからな。俺はお前とは違う」

 

浦島は軍服の男の言葉を否定し、羽織っていた上着を脱いだ。

意識を集中させると、腰部から変身ベルトが出てきた。

 

「私の『虎』の力を見せてやろう!!!!」

 

軍服の男の体が獣の体になっていく...

『虎』その姿はまさに『虎』であった。

 

 

「ソウルシードが奴の心の中にある『虎』のイメージに反応したか」

 

浦島も変身のポーズをとる。

 

「変....身!!!!」

 

 

浦島の体は一瞬のうちに戦闘用に変化し

鎧と装甲に身を固めた体となった。

 

「お前はホッパーか。おもしろい、おもしろいぞぉぉお!!!

 俺はTHE ハートマン!!!

 サウスカロライナの虎と呼ばれた男だ!!!!!」

 

タイガーシードは武者震いで体を揺らしていた。

その瞳に恐怖の二文字はない。

 

「黙れ!!!俺は仮面ライダーだ!!!!」

 

 

仮面ライダー対タイガーシード

 

コンクリートジャングルの中での戦いが始まった。

 

 

 

 




今回のシード怪人であるタイガーシードの元の姿である
THE ハートマンの元ネタはもちろんフルメタルジャケットの
ハートマン軍曹です。

高校時代友人とキン肉マンに応募するならこの超人で応募しようと
話していた超人です。

必殺技は...試行中です。

次回の更新は早くても来週の土日になるので
読者の方には申し訳ございませんが、
それまで待ってください。


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第十話「檻の戦場《リング》!!の巻」

鉄骨がむき出しの状態で放棄された工事現場で

浦島とタイガーシードの戦いは始まった。

 

その鉄のジャングルは浦島の味方となるのか、

それともタイガーシードの味方となるのか。

 

戦場《リング》を制するのは、より戦いを知る者である。

 

 

第十話「檻の戦場《リング》!!の巻」

 

 

鉄骨が四方を遮る障害物となるこの場所ではバッタの特性である跳躍力よりも

トラの俊敏さが攻撃に適していた。

 

タイガーシードは一向に攻撃をせず、ただ鉄骨の上から浦島の出方探っていた。

「攻撃しなきゃ、埒が明かねえ!!行くぞ!!」

浦島はタイガーシードの挑発に乗り、10mほどジャンプするとタイガーシードに拳を入れようとする。

 

だが、攻撃は完全に避けられタイガーシードは浦島の後ろ取り、ジャーマンスープレックスの体制に入り、鉄骨目掛け落下していく。

 

ズガンッッ!!!

 

タイガーシードはジャーマンスープレックスが決まった。

 

浦島はまともに脳天をやられたため、地面へと落ちていく。

 

「貴様は素人だな?こんな簡単な技をまともに食らうなど、

超人レスラーの風上にもおけんな~!!!」

 

タイガーシードは攻撃の手を緩めず、ドロップキックでさらに追い討ちをかけてきた。

浦島はなんとか立ち上がり上手く避けるものの、タイガーシードは鉄骨をロープ代わりにし、

反動をつけムーンサルトを浦島に浴びせる。

 

「ッッ!!完全に奴の方が俺よりも戦いなれている.....こいつは強いぞ」

「当たり前だ!!俺は15の時からリングに上がり、この体一つで半世紀戦ってきたのだ!!」

 

タイガーシードに変身しているハートマンは空中殺法を武器にリングで激闘を繰り広げた超人レスラーである。リングという限定された空間での戦いはお手のものだった。

 

「ここはリングなんかじゃねぇ....喰らえ!ライダーパンチッッ!!」

 

浦島の矢のように速い拳がタイガーシードに打ち込まれる。

 

ゴブッ....

 

その拳はタイガーシードの体を突き抜けることなく、

まるでゴムボールのような感触でライダーパンチを包み込んだ。

 

「虎殺しの異名を持つある格闘家がこんなことを言ったそうだ。

.....虎という生き物は自分が入るスペースしかない檻の中でも瞬時に身を翻すことができ、

その体に拳を打ち出しても、まるでゴムに弾き返されるような感触しかしないんだ。

攻撃は当たらない。当たったも衝撃を吸収するため、戦いようがない.....虎という生物は

まさに俺の理想の生物なのだ!!!」

 

タイガーシードはベアバッグで固めながらジャンプし、左腕で浦島の頭を固め、右腕を使って浦島の足を抑えた。

 

「こいつでheavenとやらに行くんだな...ブロウクン・ハンマー!!!!」

 

タイガーシードは急降下し、浦島の脳天を地面へと叩きつけた。

 

いくら改造人間といえど人体の急所である脳天を二度もやられては立ち上がれない。

浦島はその衝撃から変身が解けてしまった。

 

「ガハッッ!!!.....さすが超人...

相手を倒すことだけに人生を賭けてきた奴の一撃はかなり効くぜ....」

 

もう一度脳天に強い衝撃が加わったら、確実に頭蓋骨は砕けるであろう...

なんとかそれを避けたいが、立ち上がるだけの気力は浦島には残されていなかった。

 

「仮面ライダーとか言ったな....キン肉マンはどこにいる??俺は奴のチャンピオンベルトが欲しい」

 

タイガーシードから変身を解き、カツン、カツンと軍靴の音をならしてハートマンが浦島に近づく。

 

「キン肉マン....そんな男は知らないな....知っていてもお前のような万年軍曹なんかに教えないがな....」

 

万年軍曹.....その一言がハートマンの逆鱗に触れてしまう。

「貴様ァ.....私の誇りをバカにしたなぁぁぁぁ!!!!!」

 

ハートマンは怒りに身を任せて、倒れこんでいる浦島を蹴りあげた。

骨が軋む鈍い音が辺りに反響し、浦島は激しく血ヘドを吐く。

 

「俺は軍人なんだ!!!軍人は常に最前線に立たなければいけないのだ!!!

それを貴様は万年軍曹だとぉぉぉ!!!」

 

ハートマンの容赦ない攻撃が浦島を襲

すでに肋骨は三本折れ、これ以上蹴りを食らってしま

体内のソウルシードの変身機能にも支障をきたすかもしれない。

 

 

「やめろーっ!!THE・ハートマン!!!それ以上その男に暴行を加えれるなら、

俺達が黙っていないぞ!!」

 

「.....コーホー.....」

 

建設現場の入り口に金髪の男と、黒い仮面を被った男がこちらに向かってきた。

 

「おやおや、我が祖国の超人テーリマンと

赤のポンコツロボ超人ウォーズマンではないか....

貴様らのような中途半端な超人は、俺の相手ではない。キン肉マンはどこにいる?」

 

「なんだとぉ....ミー達が二流超人だというのか!!」

「それは聞き捨てならんぞ、ハートマン!!!」

 

テリーマンとウォーズマンはハートマンの罵声に怒りを上げ、立ち向かおうとする。

.....

「待ってくれーっ!!!!テリー、ウォーズマン!!」筋肉を纏い

 

彼らの後ろからもう一人男が近づいてくる。

 

鋼のような纏い、赤いリングシューズを履いた男...

 

「私はここにいるぞハートマン!!!空也を返してもらおうかーっ!!」

 

その男の名はキン肉マン。

 

「ようやく会えたな超人オリンピックV2チャンピオン。

 お前のチャンピオンベルトがどれだけ欲しかったか、お前にはわからんだろう」

 

「そんなものは知らんーっ。それよりもコウヤから離れてもらおうかーっ!!」

 

ハートマンはキン肉マンが完全に誘いに乗ったため、いったん浦島から距離を置いた。

 

「大丈夫かーっ!!コウヤ!!!」

 

キン肉マンが浦島に駆け寄り傷だらけの浦島を抱きかかえた。

 

「...俺は大丈夫だキン肉マン....あいつと戦おうなんて考えているなら、

 今すぐ辞めたほうがいい...奴は俺と同じ.....シード怪人だ」

 

「気持ちはありがたいぜコウヤ....だが、私は友を傷つけた者を放っておくわけにはいかない...

 THE・ハートマン!!貴様の挑戦状受け取ったぞ!!!」

キン肉マンの『友』という言葉に思わず目頭を熱くする浦島をよそに

ハートマンの高笑いがあたりに響いた。

 

「HAHAHA~話が早くて助かるぜキン肉マン。試合は三日後、後楽園スタジアムで行う。

 せいぜい首を洗って待っていることだ....」

 

そう言い残しハートマンは夜の闇に消えて行った。

 

「私は逃げも隠れせんぞスカポンタンめ。ミートよ」

 

「なんでしょうか王子?」

 

入り口に隠れていたミートが顔を出す。

 

「...替えのパンツはあるか?」

 

キン肉マンの履いていたパンツから液体が流れている。

おそらくちびってしまったのだろう。

 

「王子...先が思いやられます...」

 

かくしてキン肉マンとハートマンは三日後、後楽園スタジアムで激突することになるのであった。

 

「キン肉マン、奴は世界でも類を見ない軍人超人だ。

 かつてブロッケンJrの親父ブロッケンマンとも戦ったことがあるが、

 赤子の手をひねるようにブロッケンマンから白星をあげたそうだ」

 

超人界の物知りの異名を持つテリーマンの知識が披露される。

 

「奴は本国のブラックリストに載っている。キン肉マン、奴は俺たちが想像している以上に危険な奴だ」

 

あまりしゃべらないウォーズマンがこれだけいうのだから、相当危険なのだろう。

 

THE・ハートマン...サウスカロライナの虎と呼ばれた男...我々が知っている情報はこれしかない。

 

「ところでテリー、なんでお前たちがここにいるんだ?」

 

「一週間後のファン感謝祭の前にお前の顔の家に顔を出そうと思ったら、ウォーズマンにたまたま会って」

 

「私が正義超人として子供たちに受け入れてもらえるか相談に乗ってもらっていたんだ」

 

「すると物騒な音が工事現場聞こえてきたので、駆けつけてみたらこの有り様だ」

 

あのウォーズマンがそんなことを悩むとは...意外な一面を知ったキン肉マンとミートであった。

 

「すまない...お取込み中悪いが一応自己紹介しておこう。

 俺は浦島空也...さっきは俺のピンチを助けてくれてありがとう」

 

浦島はその血だらけになったジャケットを脱ぎ、軽く頭を下げる。

 

「俺はテリーマン、こっちはウォーズマンだ。....君、傷がすでにふさがりかけているね。

 見た目は人間だが、君は超人なのかい?」

 

先ほどハートマンに受けた傷がふさがりつつあるのを見て、テリーマンは些細な疑問を浦島に問いかけた。

 

「俺は超人ではないが、人間でもない....俺は改造人間...仮面ライダーとして戦っている

 キン肉マンとはちょっと前に知り合った」

 

 

浦島と正義超人三人は戦闘で廃墟と化した工事現場を後にし、キン肉マンの家へと帰って行った。

 

 

 

 




土日に書き終えたのが、こちらのミスにより一度消え
なんとか書き終えましたので投稿します。

プロットは書き終えていますが、なかなか文章に起こすとなると難しいです。
WEB連載しているキン肉マンですが、今週はまさかあの超人が出てくるとは....
早く続きが見たいです。


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第十一話「明かされる謎!!の巻」

後楽園球場.....俺が物心ついたときには、既に東京ドームになっていた。

 

俺もじいちゃんに連れられて野球を観に行ったが、

「月明かりのないナイターはどこか寂しい」とじいちゃんは悲しそうな顔でポツリと漏らした。

 

きっとじいちゃんは後楽園球場が好きだったんだろう.....

じいちゃん.....俺は今、その後楽園球場にいるんだぜ....

『友』の戦いを見届けるためにな...

 

第十一話「明かされる謎!!の巻」

 

熱狂に包まれた観客席はすべて埋まり、立ち見をしている人が多く見られる。

そのほとんどがキン肉マンのサポーターだ。

 

俺は超人ではないので控え室には入れず、テリーマンとウォーズマンが

スパーリングのパートナーを務めていた。

 

それにしても、キン肉マンの人気がこれほどまでとは想像もつかなかった。

これが超人オリンピックV2チャンピオンの証......

 

「もう間もなく、試合開始ですのでもうしばらくお待ちください」

 

会場にアナウンスが流れ、観客のボールテージが更に上がる。

これが超人レスリング.....この人々の期待を背にキン肉マンは戦うのか...

 

「両者入場ーっ!!」

 

その声とともに赤コーナーのキン肉マンが登場する。

「ぎゅ~どんひ~とつに300円~」

 

人生で初めてこんなに音痴な奴を見た。

音程もクソも何もない......そこにあるのはただの雑音だ!!

 

耳を塞ぎながらもキン肉マンの勇姿を見ようと顔を上げると、

演歌歌手の格好をしたキン肉マンとミートが入場していた。

周りには牛丼屋の登りが立っている。

 

こいつのギャグのセンスは高すぎてついていけんな...

だが、周りの観客には受けているようだった。

 

「続きまして....青コーナー、THEハートマンの入場です!!」

 

カツン、カツン、カツン

暗い入場口から出てきたのは乱れのない行進をするハートマンだった。

俺も国防大にいたころにやっていたが、俺ほどの行進は見たことがない。

 

テンガローハットをかぶったハートマンがリングに入り、

審判の説明を受けいよいよ戦いのゴングが鳴る。

 

開始早々先に攻撃したのは、キン肉マンであった。

ハートマンに向けドロップキックを放ったが、ハートマンの素早くロープに移動し

キン肉マンの側面を持ってジャーマンスープレックスを態勢に持って行った。

 

「なんのこれしき~っ!!」

 

キン肉マンがジャーマンスープレックスを外そうと一瞬脇を開くと

すかさずハートマンはドラゴンスープレックスに態勢を持っていき

キン肉マンの脳天をキャンパスに叩きつけた。

 

脳天をたたきつけられたキン肉マンであったがすぐに立ち上がり、

ポールに駆け上がり空中からエルボースタンプを打ち込む。

 

「貴様の攻撃には隙がありすぎるぞぉぉぉ!!!

 喰らえーっ!!チェーンソーハット!!!」

 

ハートマンは被っていた帽子をキン肉マンに投げつけると

帽子のつばがチェーンソーのように回転し、キン肉マンの胸元を切り裂いた。

 

「おわーっ!!!」

 

キン肉マンが態勢を崩し落下したところを、ハートマンがキャッチし

パイルドライバーでキン肉マンをキャンパスに突き刺した。

 

「ハートマンの電光石火の攻撃により、キン肉マンがダウンーっ!!!

 さすがのキン肉マンも二度も脳天をやられるとなかなか立ち上がれません」

 

「王子ーっ!!立ち上がってください!!ハートマンが狙っています!!」

 

ミートの言うとおり、ハートマンはポールに上りキン肉マンの脳天をめがけ

ニードロップを仕掛けてきた。

 

「何度もお前の攻撃をくらうものかーっ!!」

 

キン肉マンはハートマンの膝をキャッチしアキレス腱固めに入った。

「早くギブアップせんとお前のアキレス腱が切れてしまうぞい」

並みの超人なら痛みに悶えていたが、このハートマンは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「こんなカビの生えた技で俺に勝てるなと思うなーっ!!」

 

ハートマンは体の柔軟さを生かし、アキレス腱固めを脱出し

キン肉マンの右腕に脇固めを掛けた。

 

右腕に電撃を走り、キン肉マンもすかさずハートマンの顔にキックを入れ

技を解除させた。

 

「こいつ...強い...まるで私に技を掛けさせる隙を与えてくれん...」

 

「あたりまえだキン肉マン!!

 貴様の情報はアメリカ超人界から情報を受け取り研究さえてもらった。

 そして私は半世紀この戦場で戦ってきた経験がある...

 貴様がこの勝負に勝てる要素などないのだ!!!」

 

ハートマンの言葉に対して、キン肉マンはミートにアドバイスを求めた。

 

「王子...奴は自分の技と経験に自信を持っています。

 奴が必殺技を掛ける一瞬のタイミングにすべてを掛けましょう」

 

「わかったミート。奴の必殺技を受ければよいのだな」

 

キン肉マンはアドバイス通りにハートマンに猛烈なラッシュをかける。

一見キン肉マンの攻撃に手を出せないハートマンが防御をするしかないという

図式になっているが、ハートマンはキン肉マンの隙が出る所を待ち

一気に必殺技を掛けに行こうとしていた。

 

速攻に次ぐ速攻...ハートマンのファイトスタイルが見えてきたミートは

ここでハートマンの必殺技をかけてくるであろうと予測し、

キン肉マンにわざと隙を作らせる無駄なラッシュを行わせていたのだ。

 

キン肉マンがわざと作った一瞬の隙を逃さず、ハートマンがキン肉マンを空中に蹴り上げる。

 

「今だ!!!」

 

キン肉マンはミートの予想通り浦島にかけたブロウクン・ハンマーで来るという確信があったため、

キャッチしようとするハートマンを逆に捕まえてパイルドライバーを仕掛けようとしていた。

 

だが、ハートマンの戦場の勘は

自分のバックを取ろうとするキン肉マンをバックブリーカーで捉えた。

 

「これが俺の必殺技だ!!!ヘブンズ・ハンマー!!!!」

アルゼンチンバックブリーカーで捉えられたままキン肉マンの脳天はキャンパスの叩きつけられた。

 

「そんな!!ハートマンにこんな必殺技があったなんて!!」

 

「そこの坊主よ~俺の実力を甘く見ていたようだな~

 それにしてもこんな奴がチャンピオンとは、超人界も腐ったものだな」

 

ハートマンの言葉に観客席で観戦していたテリーマンとウォーズマンが何か言いたげだったが、

必死に口を堪えている。

 

リングで戦っているのはキン肉マンであり、自分たちは単なる正義超人の一人でしかないため

発言権などないからだ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

圧倒的に不利な試合展開....

あの時俺がキン肉マンを止めていれば...

 

そんな自責の念にかられ、俺は思わずリングから目をそらしてしまった。

「一方的な展開になってきたようだね。ハートマンとかいったか....

 奴の戦いに対する執念は素晴らしいものだ。完全にソウルシードと一体化しているよ」

 

先ほどまで隣には他の客がいたはずなのに、今俺の隣にはZが座っていた。

 

「Z!!なぜここにいる?!!」

「超人レスリングを観たい....ではいけないかなロストナンバー?」

「そんな見え見えの嘘を...何が目的だ!!!」

浦島の突然の怒りに周りの観客がざわつき始める。

「まあ落ち着きたまえ、ここにいる観客はすべて殺せるぐらいの力なら持っている...

 この言葉の意味は分かるよね?」

つまりこの会場にいる観客は俺が何かしようとしたら、いつだって殺せる...

数万人の人質というわけか....

 

浦島は心を落ち着け椅子に座った。

 

「試合観たいと言っていたな...だったらちょっとぐらいの質問をしてもいいよな?」

こちらから手を出せない以上、相手のペースに飲まれるしかないだろう。

だったら、今のうちの奴の目的を知るぐらいならできるのではないか?

俺はそう考え、Zに質問をすることにした。

 

「僕は君くらいなら五分もかからずに倒せるからね。何を聞いても構わないよ」

 

隠す気などない...その余裕に満ちた顔がなんともZらしい。

 

「では、聞かせてもらうぞ。お前の目的はなんだ?」

「僕は争いのない世界をソウルシードの力で作りたい...

 人間が争いを続けるから地球はいつまでも泣いているんだ。

 僕は地球の涙を止めるために、世界の『壁』を見つけ

 数多の世界にソウルシードという戦争根絶の種を撒くのが僕の神から与えられた使命なのさ」

 

戦争を止めるために、希望の種であるソウルシードを撒く...

大層なことだが、そのソウルシードを植えられた者は自分の意思ではなく

操り人形のようにこいつのいうことを聞くだけではないか。

それで本当に争いをなくせるのか?

俺はそんな疑問を抱きつつも次の質問に移る。

 

「さっき『ハートマンはソウルシードと完全に一体化している』といったが

 ソウルシードと一体化することで、植えられた人間はどうなるんだ?」

 

「ソウルシードは人間の生命活動において一番重要な『願い』『執念』『決意』

 といった感情を糧として成長していく。

 前のフェニックスは『生きたい』という感情がソウルシードに反応し、

 あの姿になったけど、あの少年の意識は君の呼びかけによって『助かりたい』という

 『願い』に変わっていき、ソウルシードの感情と不一致して体内に排出されたんだ。

 だが今回は違う。ハートマンの『戦いに対する執念』は完全に奴の体内の中で

 ソウルシードの花を開かせた。だから奴には君と同じようなベルトがついているだろう。

 それが君と同じ完全に花を開かせた状態....

 つまり完全にソウルシードの力を手に入れた者の証なんだよ

 花を開かせたものは完全に自分の野性を解き放った野獣となり、

 僕の腹心となって世界から争いをなくしてくれるだろう...」

 

だから、奴は今まで戦ってきた奴とは別格に強かったのか。

納得した浦島であったが、同時になぜ俺が湧きあがる理性をコントロールできるのか疑問に思った。

 

「では、なぜ完全に花が開いている俺は野性を理性でコントロールできるんだ?

 開花しているのであれば、俺も奴らと同じ野獣となっているはずじゃないか」

 

「それは君の中にあるもう一つのソウルシードが君の理性となっているのだ。

 君のソウルシードを入れる前に、遺伝子の中にソウルシードの情報が刻まれていたんだ。

 それがNo,1が植えたソウルシードに反応し、君が仮面ライダーとやらになる決意をした時に

 その花も開花したんだ。通常ではありえないことだが、君は現にその名前を名乗って

 僕の邪魔をしているんだ。そうとしか考えられない」

 

やはり、親父は大和の乗組員としてゾドラと戦った時に、ソウルシードを植えられていたんだ。

自分の中で立てていた推測は確信に変わった。

 

その時、リングではキン肉マンが絶体絶命のピンチを迎えていた。

 

 

 




キン肉マンのノベルを参考にして試合を書いてみましたが
漫画以上に技の掛け合いとなっているので、どうしてもテンポが速くなってしまいます。
キン肉マン編は次回で完結です。


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第十二話「奇跡の逆転ファイター!!の巻」

ヘブンズ・ハンマーをまともに食らったキン肉マンには、脳天に強い衝撃を受け

再び立ち上がる気力は残されていなかった。

 

「弱い弱い弱い弱い弱い弱すぎるッッ!!!これで俺は満足できん!!

貴様それでも超人なのか?!!超人は強くなければ存在する意味がないのだ!!!

 戦いこそが我々超人が生きる唯一の道!!!戦いに勝てばそれでよいのだーっ!!!」

 

立ち上がれないキン肉マンに追い討ちをかけるように、ハートマンは蹴り上げる。

「王子ー!!立ち上がってください!!」

「キン肉マン!!立つんだー!!」

「私との戦いで見せた火事場のクソ力はどうしたんだ!!」

 

ミートに続き、テリーマン、ウォーズマンがキン肉マンに声援をかける。

すると会場からキン肉マンコールを巻き上がった。

 

「キン肉マン頑張れー!!!」

「立ち上がってー!!キン肉マン!!」

 

老若男女問わず多くの声援が後楽園球場を揺らす。

 

「黙れ黙れ黙れーっ!!!こんなに弱いやつがお前らのチャンピオンでいいのか? 

 いくらサーポーターに愛されようと、弱くてはヒーローは務まらんのだ!!!」

 

ハートマンは観客が一体となった後楽園球場に底知れぬ恐怖を感じた。

完全なアウェーで戦うことがわかっていたが、

まさかキン肉マンのファンがここまで熱狂的とは想定外だったからだ。

 

「弱いヒーローなど、この世にいらんのだ!!!!」

 

渾身のキックがキン肉マンに浴びせられるその時!!

 

「ハートマン、お前は超人としては間違っている」

 

キン肉マンが完全に目覚め、ハートマンの渾身のキックを肉のカーテンで防いだ。

 

「超人は人より優れているからこそ、その力を正義のために使わなくてはいけない....

我々超人は太古の昔からそういやって地球を守ってきた。

 だが、戦いに勝利すれば何をしてもよいという考えでは、

 いつか自分の強大すぎる力に溺れてしまうだろう......

 お前は超人として大切なことを忘れている」

 

傷ついた体は湧きあがるとてつもなく大きな力により、鋼の肉体がさらに強化され

以前よりも強靭な体となる。

土壇場で発動するキン肉マンの持ち味、火事場のクソ力....

その力の強大さにハートマン自身も身を持って感じていた。

 

「あと一発脳天をやれば貴様はお陀仏なのだ!!くたばれーっ!!」

 

ハートマンが突進し、キン肉マンをキャッチしようとしたが

逆にハートマンのバックがとられ、きれいな放物線を描きバックドロップが決まる。

 

「貴様などにーっ!!!」

 

完全に冷静さを失ったハートマンはここでバックブリーカーでキン肉マンをキャッチし

ヘブンズ・ハンマーの態勢に入った。

 

「こいつで地獄まで行って来い!!!ヘブンズ・ハンマー!!!!!」

「なんのーっ!!!火事場のクソ力!!!!!」

 

キン肉マンの中に眠るとてつもない力が完全に発動した。

同時にハートマンのホールドを力技で解除し、そのまま自身の必殺技の態勢にもっていった。

 

「48の殺人技...キン肉バスター!!!!!」

 

首折り・背骨折り・股裂き一度の集約したその技の威力はハートマンの体に戦闘不可能させた。

 

「ハートマンよ....心に愛がなければスーパーヒーローじゃないのさ....」

 

カン、カン、カン

 

三度のゴングの鐘が鳴り、キン肉マンの勝利が決まった。

湧きあがる歓声、ギリギリでの逆転勝利、

この多くの人々を熱くさせるファイトスタイルがキン肉マンを奇跡の逆転ファイターと呼ぶ所以なのだ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「キン肉マン...やったな」

 

どんなに劣勢であっても最後まで勝負をあきらめない戦いぶり....

彼はまさにチャンピオンの中のチャンピオンだ。

 

「シード怪人として戦えば、楽にキン肉マンを倒せたものの、

所詮は無意味なプライドを持ち続けた軍人では、ここまでだったか....

 これ以上この世界にいる必要はないな」

 

 

リングの激戦に思わず集中していた俺は、大事なことをまだ聞いていなかった。

 

「Z...最後の質問だ。俺の親父とお前は関わりあるのか?」

 

「大和の砲術長だったかな。彼は自ら進んでソウルシードを体内に入れてね。

 そのあとはよくわからないが、ゾドラと相打ちになって大和は沈んだから、

 彼がゾドラを倒したのかもしれないし、他の乗組員がゾドラを倒したのかもしれない。

 僕には関係ないことだけどね」

 

ーー親父もやっぱりソウルシードを入れていたのか....

  だとしたら、俺がソウルシードの持つ魔力に取りつかれないのは

  親父のおかげともいえるな。

 

「僕はそろそろ審判の日を迎えるまで、エデンの園で眠るとするよ。

 次に僕と会うときは、君の最後だと思っていたほうがいい

 ロストナンバー....いや、仮面ライダーLOST...故郷をなくした旅人よ」

 

Zは扉を作り出し、その中に消えて行った。

 

奴と次に会うとき、それは奴と直接対決する時だろう。

その時まで俺はお前が残した名で戦い続けよう。

仮面ライダーLOSTと....

 

「おわーっ!!!」

 

キン肉マンと思わしき叫び声が俺をリングに向けさせた。

 

そこにはすでに力尽きたと思われたハートマンがキン肉マンの肩に牙を立て噛みついていた。

 

「まだ、勝負は終わっていない...」

 

ハートマンの体が怪しい光を放ち、タイガーシードへと姿を変えた。

すでに激戦で披露していたキン肉マンに抵抗する力は残されていない。

 

「俺の野性が貴様の血を欲しがっているのだ!!!」

 

牙からキン肉マンの血液を吸うタイガーシードはまさに血に飢えた獣であった。

 

「今助けるぞ!!!キン肉マン!!!」

 

テリーマンやウォーズマンがタイガーシードに攻撃するが、

獣となったタイガーシードには通用せず、リング外に放り投げられてしまった。

 

「テリーマン!!ウォーズマン!!しっかりしろ!!」

浦島はテリーマンたちに駆け寄り、安否を確かめる。

 

「俺たちは大丈夫だ....ユーは早く逃げるんだ....」

「そうだ...ここは俺たちに任せて早く逃げろ....」

 

テリーマンたちは立ち上がり、再びキン肉マンを助けようと

苦痛を堪えながらもリングに駈け出そうとした。

 

「すまんが、あいつは俺が倒さなくちゃならない....

 キン肉マンはあいつに勝ったんだ。次は俺がハートマンに勝たなくては...」

 

「...わかった。俺たちは観客に安全を守る...頼んだぞ」

 

浦島はリングに向かって走り出した。

 

「今行くぞキン肉マン!!!変身ーー!!!!」

 

純白のマフラーが風を切り、仮面の戦士へと姿を変えた。

 

「ライダァァァパンチッ!!!」

 

その拳はタイガーシードの顔面に入り、キン肉マンから引きはがすことに成功した。

 

「大丈夫か、キン肉マン?」

「わ...私は大丈夫だ....それよりテリーやウォーズマンは大丈夫か?」

「自分のことよりもまず友の心配か...まったくお前らしいぜ。

 テリーたちは大丈夫だ。安心してくれ。」

「それならいいんだ]

 

キン肉マンは浦島に肩を借りながらも立ち上がった。

「やい、とうとう本性を現したな、軍人野郎!!!

 このマッスルライダーズがお前の相手をしてやろう!!」

 

「雑魚が集まろうと結果は変わらないのだ!!!!!」

 

タイガーシードはロープからロープへと高速移動を行い、自分の姿を複数に増殖させた。

 

「あいつの得意技か...だったらこうだ!!!」

 

キン肉マンと浦島は互いの背を合わせ上空に飛んだ。

 

それを見計らったかのようにタイガーシードが浦島たちを追う。

 

「かかったなバカ猫!!!俺たちには死角がないのだから、お前を捕まえることぐらい簡単だ!!!」

 

浦島はタイガーシードを捕まえ、キン肉マンのキン肉バスタ―の態勢に入る。

 

「私の技を勝手に使うな!!!」

 

キン肉マンが浦島の隣に入り、二人がかりでキン肉バスターを仕掛ける。

 

「バスターバリエーションPART5!!!!」

 

二人の超人のパワーが合わさったこの技はいくらタイガシードでもひとたまりもなかった。

 

「ギャァァァオオオオ!!!!」

 

関節を完全にへし折られながらもタイガーシードは立ち上がる。

 

「キン肉マン!!!奴のベルトを狙ってくれ!!!」

「任せろ!!コウヤ」

 

浦島とキン肉マンがタイガーシードを挟み、ソウルシードがあるベルトを狙いをつけた。

「火事場のォォォォ」

「ライダァァァァ」

「メガトンッッ!!!」

「「パンチッッッ!!!!」」

 

タイガーシードのソウルシードは二つの拳に挟まれ砕け散った。

 

その瞬間タイガーシードは爆発した。

 

爆発の煙の中出てきたのは、キン肉ライダーズの二人であった。

 

「王子!タイトル防衛おめでとうございます!」

 

「キン肉マン!やったな!コウヤも素晴らしい戦いだったな」

 

多くの歓声に包まれ、後楽園球場で行われたキン肉マンの防衛戦は

マッスルライダーズの勝利に終わった。

 

 

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

「「いただきまーす!」」

 

試合終了後、キン肉マンは俺に助けてくれたお礼をしたいと

牛丼屋に連れてきてくれた。

 

俺は逆にキン肉マンに借りを返したかったが、あいにく金がなかったため

おごってもらうことになった。

 

「やっぱり牛丼はつゆぎりが一番だな~そうだろ、コウヤ?」

わずか三秒で牛丼を食すキン肉マンのペースに驚きながらも、

俺自身負けずと箸を進めてしまう。

 

「まったくだキン肉マン、通ぶってつゆだくで頼む輩が多いそうだが、

 本当の通はつゆぎりを頼むもんだ」

 

「さすがコウヤ!よし、お前を全日本牛丼愛好会名誉会員に任ぜよう~」

キン肉マンはどこで作ったのかわからないが、牛丼愛好会のバッチを俺にくれた。

若干安物臭はしたが、それよりも気になったのが先の戦いのことだ。

 

「キン肉マン、いくらインスタントチームだからといって

 マッスルライダーズというネーミングセンスはどうかと思うぞ?」

 

「なんだと!私のネーミングセンスにケチをつける気か!!

 大体牛丼には味噌汁だろう?それをお前は豚汁を頼むなんて

 贅沢極まりないぞ!!」

 

「牛丼になにつけたっていいだろう!!それにうまいもんにうまいもんをつけて何が悪いんだ!!」

 

「なんだと!!だったら牛丼大食い対決で勝負だ!!」

「望むところだぜ!!人間バキュームカーと言われた俺の実力、お前に見せてやるぜ」

 

そこから男の意地と意地のぶつかり合いが始まった。

 

結果は牛丼屋の在庫がなくなったため引き分け。

 

実に納得いかない結末だった。

 

「...どっちも56杯か...ミート、いくらになった?」

 

食いすぎて胃が痛い俺は吐き出しそうになりながらも、ミートに聞いてみた。

 

「お二人で合計33800円です。何も在庫がなくなるまで食べなくても...」

 

ミートの呆れた顔にキン肉マンが突っ込みを入れる。

 

「男と男の意地のぶつかり合いなのだ。そのくらいはしょうがない」

 

俺と同じく顔色が悪くなっているキン肉マンは俺たちの聖戦を肯定する。

こんなこと毎日やってたら体を壊してしまうぜ。

 

そんなこんなで店を出ると、駐車場にこの世界に入ってきたときに開けたドアがポツンとあった。

 

いよいよお別れか...しみじみ思いつつもまずはキン肉マンに礼を言う。

 

「今日はおごってもらって悪かったな。ひさびさに腹が満腹だぜ」

「こちらこそ、お前がいなかったら大変な目に合っていたよ。ありがとうコウヤ」

 

キン肉マンは手を差出し握手を求めてきた。

「ありがとうキン肉マン。いつか必ず今日の決着をつけよう」

 

俺はキン肉マンと固い握手を交わし、ドアノブに手を掛けた。

 

「コウヤ!心に愛がある限り、人は正義の味方になれるんだ。このことを覚えていてくれ」

 

俺はキン肉マンの言葉を受け取り、ドアを開けあの世界に吸い込まれていった。

 

無数のドアがある世界...後ろを向くとそこにあったはずのキン肉マンの世界のドアは

堅く鎖で縛られあかないようにされていた。

 

「後戻りはできないということか...」

 

俺は自分の勘に従い、右側にあった黄金に光るドアを開けた。

 

次はどこに行くのか?

 

うっすらと見えたのは、血だらけになりながらも戦う二人の男のうち一人が

拳から太陽の光を放ち、相手を溶かしていた。

 

どうやらここでも俺は戦うことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キン肉マン編これにて終了しました。
この漫画を文章で書くことの難しさを改めて感じましたよ。
次はどんな世界に行くのか?
ちゃんと風呂敷をたためるか?

とにかく今は好きなように書いていきたいと思います。


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ジョジョの奇妙な冒険編
第十三話「最後の石仮面」


それほど離れていない昔の話だ。

 

お前さん、第二次世界大戦で一番科学力が発達した国はどこだと思う?

 

ナチスに決まってるだろうって?

そりゃそうさ。

 

ナチスの連中は科学力の他に魔術・オカルトの分野でも世界で進んでいたっていうのは知ってるかい?

 

これからあんたに話すことは、世間には知られていないことなんだが

それがあったていうのは真実なんだ。

 

ナチスドイツは世界制覇を目指したのは、幾年の時を越えて復活した恐ろしい魔物を

倒すためだったんだ。

 

魔物はなんとか倒されたそうだが、魔物が持っていた「石仮面」ってのが人間を怪物に変える装置で、ナチスが敗戦したと同時にアメリカに亡命した科学者が一つ持っているそうだ。

 

それからアメリカでの猟奇殺人が増えたって話らしい。

 

......あんたアメリカから来たんだろ?

 

あんたの近くにはいなかったかい?

 

異常に発達した犬歯がチラッと見えたら、そいつには注意しな。

 

そいつは俺と同じ吸血鬼だからな.....

 

 

第十三話「最後の石仮面」

 

 

あの扉を開けると、そこには何かの研究所らしき建物が荒野にポツンと建っていた。

いや、鉄柵の向きが外に逃げないようになっているのを考えると

あれは収容所の施設とも言えるだろう。

 

夜の闇で光がないのと、

銃撃のあとで見えにくくなっているが、ドイツ語での表記があるため

ここがナチスの施設であることは間違いないだろう。

 

それにしても気味が悪い....

まるでホラー映画に出てきそうな雰囲気の場所だ。

 

「おいおい、スピードワゴン財団の依頼ではるばる東ドイツまで来てみれば

吸血鬼じゃなくて、東洋人とご対面するとはどうなっているんだ?」

 

黒い髪の屈強な体つきの男は、俺の姿を見て驚いているようだった。

東ドイツ.....それなら、ここに人影が全くないのも頷けるな。

しかし、吸血鬼とはなんだ?

 

まさか、シード怪人がすでにこの世界で開花しているのか?

 

「あんた~日本人だろ?普通こんなところに東洋人の観光客は来ないが、

日本のライターだったら、ナチスのユダヤ人迫害の記事の取材にここを訪れるからな。残念だが、ここはそんな施設じゃねぇ。早くホテルに帰りな」

 

その男の言葉は人種差別ではないが、明らかに俺への嫌悪感が言葉に込められていた。

 

「確かに俺は日本人だが、ここには偶然訪れただけだ。

.....俺の勘だとここは、昔人体実験の研究所だと思うが

あんたは歴史研究家かなにか?」

 

「俺はジョセフ・ジョースター。あんたのいう通りここは人体実験の研究所だ。

わかったら、さっさと失せやがれ....と言いたかったが遅かったようだな」

 

研究所の方から白衣を来た金髪の男がこちらに歩いてきた。

 

「よく気がついたね。Mr.ジョースター。君がここに来るのは時間の問題だと思ったよ。」

 

「よお~お前が最後の『石仮面』の持ち主だな。悪いがさっさと始末させてもらうぜ」

 

ジョセフは上着の内ポケットから、古いバンダナをとりだし頭に巻いた。

 

「そこの日本人!!早く逃げないと殺されるぞ。逃げるなら今のうちだ!!」

 

「悪いなジョースター、気持ちは嬉しいが俺自身日本人であっても『人間』ではないいんでね。それから俺の名は二つある。一つは浦島空也だ。そしてもう一つ名は....変身ッ!!!」

 

浦島は辺りを照らすほど眩い光を発すると、姿を変え己の名を名乗る。

 

「仮面ライダーLOST....これが俺のもう一つの名前だ」

 

異形の姿に変身した姿を見て、波瀾万丈の人生を送ってきたジョセフ・ジョースターでもその姿には自分の目を疑った。先ほどまでいた日本人が戦士となるなんて、サムライは戦う時にああやって変身するのか。

 

「なんだか知らないが、奴は吸血鬼だ。『波紋』を使えないお前が戦える相手でじゃない!!」

 

「やってみなきゃわからないぜ。そんなことはよ~」

 

浦島はジョセフの忠告を無視し、金髪の男に向かって走り出す。

 

「お前はすでにソウルシードを植え付けられているな!!

 なら話は簡単だ!お前をぶっつぶす!!」

 

浦島は空高くジャンプし、必殺技を繰り出す。

 

「ライダァァァァァキック!!!!」

 

闇を突き刺す光の矢は金髪の男を突き破った。

 

「やれやれ....」

 

金髪の男がただの『シード怪人』だったらここで勝負はついていただろう。

だが、この男はソウルシードを入れる前から『人間』ではなかったのだ!!

 

「やはりこの体は最高だね~いくら刻まれても体が勝手に再生するからね」

 

完全に爆散した金髪の男の体のパーツが、自我を持った生物のように集まり体を再生させた。

 

「そ...そんな馬鹿な...ソウルシードは破壊したはず....」

 

「君はもう少し年長者の話を聞かなくてはいけないね。仮面ライダーLOST」

 

体が完全に再生した金髪の男だったものは、巨大なネズミになっていた。

なぜ吸血鬼なのにネズミなのか?

それはおそらくだが、この男の底が見えない野望がソウルシードに反応し

永遠に繁殖を繰り返す鼠と姿を変えたのだろう。

 

「我が帝国の再建のためにと柱の男対策のデータを集め続けた甲斐があった。

 あの少年が私にくれたあの種は私の体に劇的な進化を促したのだ。

 すべての運は私に向いているッッッ!!

 私の意志は神の意志なのだッッッ!!!!」

 

「そんなことあるわけないだろう。この腐れげっ歯類野郎!!」

 

マウスシードの死角からジョセフが乗り出してきた。

 

「刻むぜ血液のビート!!!山吹色波紋疾走ッッ!!!」

 

山吹色に光っている拳はマウスシードの体を突いた。

 

マウスシードの体は見る見るうちに崩壊し爆発していった。

 

「....こいつ....クレーメンス・E・ランナーじゃない!!」

 

打ち込んだ波紋から手ごたえがなかったジョセフは

すぐさまクレーメンスが偽物だということに気がついた。

 

「一体どういうことだ、ジョースター。奴のクローンを倒しただけとでも言うのか?」

 

 

全くわけがわからない。そんな表情でジョセフに問いかけた浦島だったが

施設の扉が開くと同時にすべてを悟った。

 

「No.334がやられたようだね。だが、『最後の大隊』の作戦行動には支障がないな」

 

そこにいたのは500人はいるであろうマウスシードの大群であった。

 

「ナチスの科学は世界一ィィィ!!!私のコピーを作るぐらい朝飯を作るよりも容易いことなのだ!!!!」

 

一番後ろから戦車に乗ったマウスシードが登場し高らかにナチス式の敬礼で

浦島とジョセフを威圧した。

 

「おい、空也。こういう時に日本人だったら突撃するんだろうが

 たった一つだけこの状況を打開する手がある」

 

「ジョースターさん、いったいどうするんだ?」

 

「それはな....逃げるんだよォォォォ!!!」

 

ジョセフはマウスシードの大軍に背を向け、20Kmはあるであろう近くの町に向かって逃げ出した。

 

浦島もここは戦術的撤退しかないと考え、ジョセフの後を追う。

 

「来い!!ライトチェイサ―!!」

 

浦島の声に反応し、次元の歪みからライトチェイサ―が姿を現した。

時速650kmのスピードはいくらマウスシードでも追いつくことはできなかった。

途中ジョセフを乗せて、浦島とジョセフは見事マウスシードの追手から逃げ切ることができた。

 

追撃を振りきって間もなく空に太陽が昇り、追撃してきたマウスシードは塵となって消えた。

 

おそらく本隊はこれがあるため、あの施設から外へ出ようとしなかったのであろう。

 

 

だとしたら、明日の夕刻には奴らが進撃してくるのは間違いない。

 

一体どうしたらいいんんだ?

 

俺の力は奴には通用しないんだぞ。

 

「空也とか言ったな。お前に吸血鬼を倒すことは無理だ」

 

後ろに乗っているジョセフが俺の心を見透かしたように、はっきりと無理といった。

ライトチェイサ―を止め、バイクから降りて変身を解いた俺は自分の耳を疑い、

もう一度ジョセフに俺が吸血鬼を倒せるか聞いてみる。

 

「奴らシード怪人を倒すのには、体内にあるソウルシードを突き破らなければいけないんだぞ。いくらあんたが『波紋法』だがなんだか知らんが、奴らに対抗できる武器を持っているからって、それは無理な話だ」

 

「だが、お前では倒せなかったのは事実だぞ」

 

ジョセフの現実的な一言が浦島の胸に深く突き刺さる。

何もできない以上、指を咥えて待つとういうことは俺にはできないことだ。

 

「俺は仮面ライダーとして奴らを倒さなくてはいけない義務があるんだ。

 この体が人間でなくなった時から、その運命を背負って戦っている!!

 ジョセフ・ジョースター、あんたの『波紋法』とやらが奴らに効くのなら、

 俺に教えてくれ!!俺をあんたの弟子にしてくれ!!!」

 

その瞳に黄金の意志をみたジョセフは浦島に心動かされ、

条件付きで波紋法を教えることにした。

 

「俺との勝負で勝ったら波紋法を教えてやろう。勝負はビリヤードで決めよう」

 

 

朝日が照らすビリヤード屋の看板は、まるで二人の男の激闘を静かに見守るように見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いま放映中のジョジョ二部とのクロスオーバーとなります。
舞台設定は二部の終了から20年の月日が経ったあたりです。

承太郎はまだ子供なので出てきませんので、三部のスタンドバトルを期待している方は申し訳ございませんが今後の話でスタンドは出てきません。

追記

ライトチェイサーの最高速度を999kmから650kmに下げました。
ヘルダイバーのプロトタイプなんで、このくらいにしないと
早すぎて後々のストーリーに影響が出てくるので変えました。
読者の方々に大変不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。




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第十四話「波紋の真髄」

ビリヤードとは、ラシャと呼ばれる布を張ったスレートのテーブル上で

「キュー」と呼ばれる棒を使い、静止している球を撞き、

別の球に衝突させてそれらの球が起こすアクションを

自分の思い通りにコントロールしようとすることを目的とした競技である。

 

ビリヤードは常に一人でテーブルへ向かってプレイを行い、静止した球を撞く。

そのため対戦相手と直接球を撞き合うことはなく、

ショットの成否は全て自らのプレイによる結果となる。

また、体格や体力において優れていれば必ず勝てるとは言えず、

技術の熟練度やプレッシャーに負けない精神力、

集中力を備えているほうがよい結果を残すことが多い。

技術の緻密さ、ゲームを有利に進めるための戦術を競う競技であることから、

メンタルスポーツのひとつとされる。

 

 

 

 

第十四話「波紋の真髄」

 

 

 

 

マウスシードの追手を振り切った俺とジョースターは

その足で古ぼけたビリヤード店に入った。

 

実をいうと俺は中学校の頃からビリヤードは嗜んでいたので

それなりの自信はあるため、ジョースターに勝てるに自信があった。

 

「お前、その顔はビリヤードをやったことがある顔だな。

 とりあえずナインボールでいいな」

 

お互いの実力を測ったり、ただ単に遊ぶならばナインボールは最も適切で簡単なゲームだ。ふたりで白い手球を撞き合って、9つのボールを落とし合う。

 

ジョースターは適当にキューを選び、今回使われない10番のボールを手に取った。

 

俺はそんな適当なジョースターとは違い、店の中にあるキューを一本、一本手に取り時間をかけて選んだ。キュー選びから勝負は始まっているからだ。

 

11番のボールを手にし、キューの先端にチョークを擦りつける。

これは滑り止めの効果があるため、ビリヤードをやったことあるものなら必ず行うが

ジョースターはそれすらせずに悠々としていた。

 

「とりあえずパンキングといこうか」

 

お手柔らかにと軽く一礼しヘッドレール側にふたりで並ぶ。

フットレールに向かって構え、身を沈めると、浦島はその緊張感を思い出して再び頬を緩めた。

ふと横を見ると、形はそれっぽいものの、まるでブリッジが組めていないジョースターがそこにいた。

 

―こいつ、素人だな。

 

同時に打ったボールは俺の11番がフットレールに近いため、俺の先攻となった。

対するジョースターは完全に芯を外し、まっすぐにすら飛ばせていなかった。

 

「ジョースター、あんたさっき『娘が日本人に嫁いで行った』て話していたが

 あんた一体いくつなんだ?」

 

「そいつを聞いてしまうか。俺は今年で40....ホリィもなんで日本人なんかに

 嫁いで行ったのか....おかげで会いたくても地球の真後ろまでいかんとならない」

 

「今年で40か.....えぇ!!!今年で40????」

 

今年で40の体には全く見えないぞ。

肌だってつやつやしてるし、どっからどう見たって20代後半のいい感じの兄ちゃんにしか見えない。

 

「これも波紋の呼吸によるものよ」

 

綺麗なダイヤ型に組んだラックに向けて、ブレイクを打つよう浦島に促した。

心を落ち着かせるため、深呼吸し慣れ親しんだフォームを取る。

 

ブリッジはスタンダード。

 

キューの真上に真っ直ぐ顎が乗るように。

 

ストロークはリズムを持って真っ直ぐに。

 

パワーショットよりもほんの少し弱めの力で。

 

撞いた後もフォロースルーは大切に。

 

乾いた懐かしい音を響かせ、白球がボールが散らせたのを確認し、キューを上げる。

クッションには二番と四番がポケットに入った。

 

「ヒュー、ナイスショット」

 

それに軽くはにかんで答える俺。

マスワリでもしてみるかと思ったが、そこまでに実力は俺にはなかった。

 

一番と三番、そして五番を落としたところでジョースターのターンとなる。

 

組めていないブリッジ。

 

ぎこちないストローク。

 

これはファールで終わりそうだなと思った瞬間、俺は目の前の光景を疑った。

 

ジョースターが放った手玉は六番を落とし、七番、八番を三つ連続でポケットに入れたのだ。

 

「これで終わりだな」

 

難なく9番をポケットに入れると、ジョースターは勝ち誇った顔で浦島を見つめる。

 

「まあビギナーズラックという言葉もあるし、最初ぐらいは勝たせないとな」

 

負けた俺はしぶしぶラックを組み直す。

この時俺はすでに波紋の修行が始まっていたことなど知る由もなかった。

 

 

 

―数時間後―

 

 

「いくらなんでも俺が一回も打つことが出来ないで負け続けるなんておかしい!!

 ジョースター、あんたインチキしてるだろう?」

 

そりゃそうだ。最初のゲームから一度も俺が打つこと出来ずに終わるなんておかしい。

ましてやブリッジもまともに組めない奴に負けるなんて、ありえない。

 

「インチキはしていないいぞ。キューだってこの店の物だし、ボールだってこの店の物だ。

 何よりあんたがずっと監視役なのだから、イカサマなんて出来やしないさ」

 

「確かにそうだが.....」

 

言い返す言葉などなかった。

 

しかし、俺のプライドが素人に負けたことを許せなかった。

 

こうしている間にもジョースターは悠々とブレイクショットを放つ。

また、一人でマスワリか....

 

消えかけた蝋燭のように死にかけた目でジョースターのショットをみていると

俺はあることに気づく。

 

ジョースターは呼吸のリズムが普通の人間とは違うのだ。

それは改造人間である俺でも真似は出来ないものであった。

 

―あれがボールを自由自在に操ることができる秘密だな。

 

だが、それに気付いたところでどうする事も出来ないのもまた事実だ。

呼吸をやめさせる....そんなことをしたら呼吸困難で死んじまうからな。

だったら呼吸のリズムを乱すことはできるんじゃないか?

 

例えば話しかけて、相手をびっくりさせるようなこと出来れば

いくらジョースターとはいえ、呼吸のリズムを狂うはず。

 

「ジョースター、実は俺、この世界の住民ではないんだ」

 

「そうだろうな」

 

この核爆弾級のカミングアウトで驚かない奴はいないだろうと放った爆弾は

見事に撃退された。

 

「実は俺、人間ではなく改造人間なんだ」

 

「そりゃあ、目の前で変身されたら普通の人間ではないことなんてわかっているさ」

 

何事もなかったのように淡々とボールをポケットに入れる。

 

こいつには俺の心が見透かされているのか?

ジョースターの心はまるで柳のようであった。

 

どんな風や雨が来ようとそれを受け流し、そこに立つ姿はまさにそれが相応しかった。

 

ならばこれならどうだ。

 

「なあジョースタ―、こんな話を知っているかい?

 俺が住む日本には土方歳三という武士がいてね。

 そいつはかれこれ100年前に死んだはずなんだが、

 今なお日本でひっそりと生きていて、マンガを書いているんだってよ」

 

「そんなバカなことがあるわけないだろう。だって100年前と言えば

 俺の爺さんのいた時代だぜ。そんなのがいたら吸血鬼としかいいようが....」

 

―かかった!こいつがマンガ好きなのはバッグの中にある『のらくろ』を見て

 筋金入りのマンガコレクターだということは見えたんだ。

 つまり少なからず日本の漫画への関心はあるということ、

 だったら、この話題には食いつくはず。

 

俺はジャケットの内ポケットから素早くスマートフォンを取り出し

画像フォルダから土方歳三と現代でひっそり漫画を描いている土方歳三の画像を見せた。

 

「ジーザス!!!こんなことがあり得るなんて、

 日本人はいったいどうなっているんだッッ!!!」

 

完全に呼吸のリズムは乱した。

 

あとはミスショットを待つだけ。

 

ジョースターのショットはそれまでの絶妙なコントロールを失い、ファールボールとなった。

 

テーブルにあるボールは6番、7番、8番...そして9番。

 

呼吸は乱さず集中力を高め、ボールの芯を狙い打つ。

ただ一点にめがけそキューを放つのだ。

 

呼吸....その呼吸はいつの間にかジョースターのように特殊な呼吸となっていた。

 

「こいつ....才能あるな....」

 

ぽつりとジョースタ―が本音を漏らす。

しかしその言葉は集中力を極限まで高めた浦島の耳には届かなかった。

 

浦島のショットは見事6番ボールを落とし、7番ボールを落とす絶好のポジショニングを取った。

 

「ここで俺に勝てば、波紋の極意をお前に教えてやろう。勝てればの話だがな」

 

浦島に対し、プレッシャーを放つジョースタ―。

だが、浦島とて何度も苦難を乗り越えてここにいる戦士だ。

そう簡単にプレッシャーで崩されることはない。

 

呼吸のリズムを整えた浦島は7番ボールを絶妙な力加減でポケットに入れた。

 

「...あと二つ」

 

キューを立ててチョークを擦りつける。

その眼は完全に獲物を狙う勝負師の眼になっていた。

 

「ところでお前さん、いったい何のために戦っているんだい?

 まさか理由もなく戦っているなんて言わないよな~?」

 

今までとは違う重い質問がジョースターの口から発せられた。

 

この問いにどう答えるか、それがこの試練を乗り越えるターニングポイントになるだろう。

 

「俺は....」

 

浦島の呼吸に乱れはなく、8番ボールはポケットに入った。

 

だが、9番ボールと持ち球は対角線の位置にあるため、少しでも力を入れてしまえば

9番ボールともに持ち球もポケットに入り、浦島の負け。

力を緩めすぎれば、ボールに当たらずファールボールになり、

ジョースターのターンで負けとなる。

 

ここ一番の場面で浦島はジョースターにこう答えた。

 

「...俺は人間の持つ愛と正義のために戦う...それが俺の戦う理由だ...」

 

 

呼吸が安定し、波紋エネルギーが浦島の体を纏う。

9番ボールに狙いを定め絶妙な力加減で持ち球は9番ボールをポケットに入れた。

 

持ち球はそのまま勢いをなくし、ポケットに入るギリギリのところで止まった。

 

この瞬間浦島の勝利は決まったのだ。

 

「おめでとう浦島 空也。お前は波紋の極意を身につけた」

 

「えっ??そんな簡単に??」

 

「そうだ。波紋の呼吸とはどんなことがあっても乱れない精神と肉体が必要なんだ。

 肉体の方はすでに出来上がっているようだったから、後は心の問題だった。

 お前は俺のプレッシャーに耐え、

 俺の呼吸を真似することによって、波紋の呼吸を手に入れたんだ」

 

 

「ありがとうジョースターさん、これでマウスシードと戦えるぜ」

 

修行を成し遂げた浦島の瞳は快晴の空のように晴れていた。

 

もうすぐ夕刻そろそろマウスシードたちが動き出す時間だろう。

 

俺とジョースターさんは店を出て、そのままライトチェイサ―であの施設に向かった。

 

だが、施設はもぬけの殻だった。

 

地下の倉庫を見つけるとそこにはどうやら奴らの作戦地図があった。

 

『ベルリン空襲計画』

 

そう奴らはマウスシードを航空機からベルリンに降下させ、

街を吸血鬼の巣にしてしまおうという恐ろしい計画を立てていたのだ。

 

「今からここを出て間に合うのか?」

 

一刻の猶予もないなか、浦島とジョースターは猛スピードでベルリンに向かった。

 

奴らがベルリンに降下するまであと3時間....

 

 

 

 

 




ビリヤード編終了しました。
駆け引きが難しいですね。
ジョジョ編は今年中に終わらせるのが目標です。

ジョセフの口調が怪しいので
もし違和感がありましたらご指摘おねがいします。


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第十五話「飛翔!!!ライトチェイサー!!!」

私はこの時を待っていた。

 

スターリングラードの撤退から20年弱....。

 

友軍の犠牲を払って私はベルリンに戻ることはできたが、

総統から命ぜられた一言が私の人生を変えたのだ。

 

―シュトロハイム隊のデータを基に、吸血鬼部隊を編成し

 建造中の空中戦艦フリードリッヒ・デアグロッセで連合国の各都市を襲撃せよ―

 

シュトロハイム少佐....彼の死にざまは科学者である私からして見ても

見事な最期だった。

 

撤退する味方の『しんがり』として多くの赤の手先とともに散ったゲルマン魂は

今なお私の心の中で眠っている。

 

少佐...見えているか...もう少しでベルリンだ。

 

連合国に占領され、分断された我が祖国を

私が石仮面を使って我が同胞たちに力を与え再びドイツを統一するのだ。

 

 

 

第十五話「飛翔!!!ライトチェイサー!!!」

 

 

 

 

「―そういうことで頼むぜ。ポイントP-13に集合させておいてくれ」

 

マウスシードを追い、ライトチェイサ―で地を駆ける浦島とジョースター。

時速のメーターはすでに最大速度を振り切っており、

しっかりしがみ付いておかないとGで振り落とされる空間の中で

ジョースターは何者かと連絡を取っていた。

 

「ジョースターさん、しっかりつかまらないと地面にたたきつけられるぜ」

 

「大丈夫だ。若い頃にイタリアで散々鍛えられたからな。

 それよりお前、その『ジョースターさん』というのは何だ?

 年寄り扱いされているみたいで、気持ちわりぃーぜ。

 俺のことは『ジョセフ』ってよんでくれ空也」

 

年上と分かった瞬間から急に敬称をつけてきた浦島に

ジョセフは何とも感触が悪かった。

浦島自身は日本の体育会系で育った環境のせいで、自分の意志とは無関係に

言葉が出てくるのだ。

 

「わかったぜジョセフさん。ところで奴らの航空機がそろそろ見えてくるはずだ」

 

「ならいいんだ。しかし、奴らの航空機にどうやってとりつくかが問題だな」

 

今登っている山を越えればベルリンの郊外につく

そこで奴らの航空機が見えてくるはずだ。

しかし、マウスシードのコピーがベルリン市街に投下される前に奴を倒さなくてはいけない

が、航空機に乗り込むためには航空機が必要だ。

いまから手配したとしても、奴らはベルリンの街に投下された後だろう。

 

打つ手はないのか...

例えばこのバイクが驚異のジャンプをして、飛行機に取りつくとか...

 

「後部ウイング起動。ジェットブースター点火10秒前。

 ジョセフさん、ちょっとの間だが空を飛ぶぜ。

 しっかりつかまっててくれよ!」

 

「えっ....空也....君は何を言っているんだい?」

 

「だから奴のいる所まで飛ばなきゃならないいんだろ?

 こいつは水上も走行できるし、空もちょっとの時間なら飛べるんだぜ」

 

「ちょっと待て、俺は人生で二回飛行機に乗って二回とも墜落してるんだ。

 だから飛行機っていうのは.....」

 

飛行機とは最高に相性が悪いジョセフは空を飛ぶのが

いつの間にか嫌いなことになっていた。

今回も落ちてしまう予感しかしないので、空を飛ぶ以外で何とかしようとしていたのだが

そんなジョセフの不安を浦島はとびっきりの笑顔で答える。

 

「大丈夫!これはバイクだ!

 ジェットブースター点火!!

 行くぜライトチェイサ―!!!

 空に浮かぶナチの残党をぶっつぶしに行くぜ!!」

 

山の頂上を着く数秒前に点火し、飛行機の方角に飛ぶライトチェイサ―。

 

点火している時間は三分だけだが、時速990kmで空を飛ぶことができるのだ。

 

「あれが奴の飛行機か?飛行機ってレベルのでかさじゃないぞ」

 

「空に浮かぶ鋼鉄の城...あれはナチスの最終兵器

 空中戦艦フリードリッヒ・デアグロッセだ!!!」

 

雲を切り裂き、闇夜に隠れ進むその巨体は

十数基のレシプロエンジンを起動させて空を飛んでいる。

船体には数基の主砲が見えるため、戦艦といってもいいだろう。

 

「よし、このままナチの戦艦に突入だ!!」

 

浦島はアクセルを全開にし、最大速度でフリードリッヒ・デアグロッセに突撃した。

 

「ライダァァァブレイクッッ!!!!」

 

ライトチェイサ―は砲弾のように

フリードリッヒ・デアグロッセの装甲を突き破ることに成功し艦内部に突入した。

 

「こいつはすげー数の鼠だな。ジョセフさん」

 

「ああ、これを駆除するのに駆除業者何百人導入することやら....」

 

浦島たちが突入した場所はマウスシードの格納庫であった。

無数にいるマウスシードのほかにカプセルの中にいるマウスシードもいる。

全部数えていたらキリがない....

 

「空也、俺はこのデカブツをある場所まで誘導しなければならない。

 すまないが俺にこのバイクを貸してくれ」

 

先ほどの何者かとのやり取りから、ジョセフに何か策があるものだと感じた浦島は

首を縦に振り、ライトチェイサ―をジョセフに託した。

 

ライトチェイサ―に跨ったジョセフはそのままエンジンを吹かせ

操舵室を探しに、格納庫を後にした。

 

「さて、俺一人でネズミ駆除と行きますか」

 

浦島が腰に手を当てると変身ベルトが出現し、スイッチを入れる。

 

「....変身ッッ!!」

 

ベルトから放たれる金色の光が浦島を包み、仮面の戦士と変える。

 

「ヂュヂュー!!」

 

一匹のマウスシードが浦島に襲いかかる。

 

「喰らえ!!熱き血潮のビート!!山吹色ライダァァァパァァァンチッ!!!!」

 

燃え盛る太陽を拳に巻いた浦島の拳は

マウスシードの体内を突き破り、か

木っ端微塵に吹っ飛んだ。

 

「どっからでもかかってこいネズミ共、全員まとめて焼却処分だッッ!!」

 

波紋エネルギーを身に纏い、吸血鬼とシード怪人のハーフを倒せるようになった浦島。

 

闇に潜む魔物をすべてを照らす太陽は、ベルリンの街に朝日を照らすことはできるのか.....

 

ベルリン市街まで

残り一時間.....

 




第13話でライトチェイサーの最高速度を999kmと設定しましたが
今後のストーリー展開に影響を与えるため、時速650kmに変更させていただきました。
読者の方々には大変不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。

更に年内にジョジョ編を終われなかったことに関しても、
楽しみにしてくださっている読者の方々のご期待を裏切る形になってしまい
只々頭が下がるばかりです。
こんな作者ですが
来年も仮面ライダーLOSTをよろしくお願いいたします。




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第十六話「波紋法の弱点」

鼠、鼠、鼠.....

空中戦艦フリードリッヒ・デアグロッセの格納庫は

マウスシードで埋め尽くされていた。

 

しかもこの鼠の厄介なところは石仮面の力により

そのすべてが吸血鬼化しているのだ。

 

奴らを倒すためには、太陽の光を浴びせるしかない。

そしてそれができるのは、黄金の意志を持った者にしかできない。

 

ジョセフ....そして浦島の戦いは

ナチス残党の野望を打ち砕くため、太陽の力を借りて

闇の住人に戦いを挑む。

 

 

 

 

第一六話「波紋法の弱点」

 

 

 

 

 

「こいつでラストだ!!!」

 

襲い掛かるマウスシードを波紋法を纏った体で戦う浦島は

格納庫にいるマウスシードをすべて撃退した。

だが、休む間もなく襲ってきたマウスシードを相手にするあまり

浦島の体に相当の負担がかかっていたのも

長時間にわたる戦いの影響だろう。

それを待っていたかのように、奴が現れた。

 

「ご機嫌よう仮面ライダーLOST。

 私の計画を邪魔しに来たようだが、それは無謀なことだ。

 このフリードリッヒ・デアグロッセは

 我がドイツの航空・造船技術を結集した最終兵器なのだ。

 貴様ら波紋戦士に落とされるような船ではない!!」

 

 

黒々としたドブネズミのようなコピー怪人の死体を踏み

白い体毛のマウスシードが近づいてきた。

 

「第一降下部隊が全滅とは恐れ入ったものだ。

 だが、その疲弊しきった体で私と戦えるかな?」

 

マウスシードはその発達した前歯を武器に浦島に襲いかかる。

噛みつかれる寸前でかわした浦島は、すぐさまマウスシードと距離をとった。

 

「こいつの前歯は危ないな....一度距離を置いてから攻撃を仕掛けよう」

 

シード怪人の特徴として、主に近接格闘を重点に置いていることがあげられる。

俺自身もそうだが、動物に飛び道具などなかなかないため

爪や牙、発達した筋肉を生かした攻撃などに絞られていくのだろう。

 

こいつが動物の怪人であったらの話だが....

 

 

「この体を舐めてもらっては困るぞ!!!

 空裂眼刺驚≪スペースリバー・スティンギーアイズ≫!!」

 

マウスシードの眼から高圧で噴射された体液が浦島に向かって発射された。

何か来るであろうと予感していた浦島はすかさず回避行動に移る。

 

「目からあんなものを出せるなんて....

 吸血鬼とソウルシードの組み合わせるなんて、厄介なことをしてくれやがったな」

 

空裂眼刺驚をかわした浦島にマウスシードの前歯が光る。

 

「甘いぜ!....ライダァァァパンチッッ!!!」

 

浦島の拳はマウスシードの分厚いシャベルのような前歯を砕き、

口から後頭部に突き抜けた。

 

ただのシード怪人ならここで勝負はついていただろう。

間違いなく浦島の勝ちだ。

だが、浦島はここで重大なミスを三つ犯していた。

それは吸血鬼でもあるマウスシードを倒すためには

波紋エネルギーを打ち込まなくてはいけなかったこと。

そして相手が波紋法についての十分な対策を取っていたこと。

相手の懐に入り込むということは、カウンターのカウンターがあるということを...

 

 

「かかったな仮面ライダーLOST!!!

 くらえ!!ドイツBC兵器の結晶、VXガス噴射装置!!!」

 

マウスシードの肩から紫色の気体が噴出され、浦島の口に入る。

それはまさに波紋戦士の力の源である呼吸をさせないために

作り出された禁じられた兵器『毒ガス』であった。

 

「ッッ!!!呼....吸が....出来...ない....」

 

浦島が吸い込んだガスは人間であれば即死させるほどの猛毒ガスであった。

その威力はたとえ改造人間として、強化された体であっても

呼吸困難に陥らせるだけの威力は備わっているのだ。

 

「フハハハハ。呼吸ができない気分はどうだ?仮面ライダーLOST。

 波紋エネルギーがない貴様ら波紋戦士など、手足をつながれた猛獣同然ッッ!!

 恐れるに足らない存在なのだ」

 

波紋を練れない以上有効打を打てない浦島。

逃げようにも通路はマウスシードの死体が山積みになっており

小さなスペースすらもない。

退路は塞がれた。

 

目の前にいるのは、現時点で倒せない敵....。

普通の戦士ならば、マウスシードに立ち向かって死ぬか、通路を何とか作ろうとして

背後を取られて死ぬかの二択に絞られるだろう。 

 

だが、浦島は違った。

最後の力を振り絞って後ろにある壁に向かって走り出したのだ。

それは絶体絶命の恐怖から逃げるために走り出したわけではない。

この状況を打開するための手段として、後ろの壁に向かって走り出したのだ。

 

「ライダァァァ....」

 

壁を足場にマウスシードがいる方角に反転させ、体をドリルのように回転させた。

 

「スピンキィィィィク!!!!」

 

ドリルのようにマウスシードを突き破った浦島は、

その勢いを利用して通路の邪魔となる死体の壁を突いた。

 

ただのライダーキックではマウスシードを体を突いて通路をふさぐ壁を突破できないと

判断した浦島は、マウスシードに背を向けることで相手から自分が錯乱したと思わせ、

一瞬の気の緩めさせ、後ろの壁を利用し反動をつけたうえで

ライダーキックにスピンをつけることによって、通常のライダーキックの五倍の威力を発揮することができたのだ。

 

死体の壁を突き破った浦島だったが、最後の力を振り絞った一撃であったため

最後の一体を突いた所で力尽きてしまい変身が解け、その場に倒れこんでしまった。

 

「窮鼠猫を噛むとは、このことか....だが力尽きてしまってはしょうがないな」

 

胴体に大きな穴を開けながらも、何事もなかったかのように体を再生させ、

浦島に近寄る影が一つ....マウスシードである。

 

波紋エネルギーが伝わっていない攻撃は対吸血鬼においては無効である。

それがどんなに強大な威力であっても、

波紋が伝わらなくては再生能力をもつ吸血鬼は倒せないのだ。

 

 

「WRYYYYYYY!!!!所詮貴様らは駆られる立場の生物。

 どんなにあがこうと最後は惨めな死が待っているのだ!!」

 

マウスシードはその眼にありったけの体液を集め、浦島に向かって噴出する体制をとった。

動けない浦島はどうする事も出来ない。

しかし、浦島にはまだ希望があった。

邪魔な障害物は取り払ったのだ。

猛獣の雄たけびのように勇ましいエンジン音が聞こえ、

自分『達』の勝利を確信する。

 

 

「テメーの次のセリフは『さよならだ機械人間』だ」

 

「さよならだ機械人間ッッッ!!!」

 

マウスシードが噴出した体液は通路から現れた何者かによって防がれた。

 

「待たせたな空也。時間稼ぎご苦労だったな。こっちの作戦は成功だ」

 

通路から現れたのはライトチェイサ―を操るジョセフだった。

空裂眼刺驚を巻いていたバンダナに波紋を通してはじいたのだ。

 

「貴様が次の相手か....だがここはすでにベルリンのようだな。

 かわいい私の分身たちをこの街に放つのが、この作戦の肝なのだからな」

 

「次のセリフは『いまさらこの船の動力を止めたとしても、街に落ちてしまえば

 作戦は成功したも同然なのだ」という」

 

「いまさらこの船の動力を止めたとしても、

 街に落ちてしまえば作戦は成功したも同然なのだ―!!!」

 

マウスシードの高笑いと同時に機関が停止し、急降下が始まった。

 

「この位置で機関を止めれば三分後にはポツダム広場に落下するだろう。

 ポツダム広場にはこの船を止めさせるだけの広さはあるからな。

 そしてこの中にいるネズミを焼き払うために、巨大紫外線碇照射装置を設置させてある。

 落ちてくるこの船に紫外線を照射していればネズミどもは一匹残らず焼却処分さ。

 テメーの次のセリフは『すべて計算通りだったのか』だ。このウスノロめ!!!」

 

「すべて計算通り....ハッッッ!!!」

 

浦島がここで大暴れしたのは、マウスシードをここに釘付けにして

ジョセフがタイミング通りに機関室を止めるための囮作戦だったのだ。

それに気づいたマウスシードだったが、時すでに遅し。

巨大紫外線照射装置は作動し、館内にマウスシードたちはすべて蒸発していく。

 

「おのれぇぇぇジョースタァァァァ!!!!」

 

人口の太陽光に燃やされていくマウスシード。

その姿はまばゆい光と共に消えていく。

 

「こうしちゃいられねぇ。空也、ここを脱出するぞ」

 

ジョセフは毒ガスにやられた浦島をライトチェイサ―に乗せ、

フリードリッヒ・デアグロッセから脱出した。

上空100mくらいのから飛び出したので地面と接触するまで時間はない。

 

「脱出するのは良かったが、これどうやって飛ばすんだ?」

 

つい先ほど乗ったばかりのジョセフでは、

ジェットブースターを発動させることはできなかった。

車体はバランスをとりながらも地面に向かって落ちていく。

 

「だから飛行機に乗るのはいやだったんだ~!!助けて神様!!!」

 

地面とぶつかるその瞬間、後ろにいた浦島がハンドルを握り

最小限の衝撃で着地することに成功した。

まさにそれは神業。

仮面ライダーとなったことで人間の限界を超えたトレーニングをできるようになった浦島が

積み重ねてきた技術の成果があったのだ。

 

「じいちゃんから飛行機を操縦していた話を聞いててほんとによかった....

 付け焼刃だけど、何とかなるもんだな」

 

「助かったぜ空也.....二度とこのバイクには乗らんがな」

 

巨大紫外線照射装置といくつもの重火器の猛攻を浴びた

空中戦艦フリードリッヒ・デアグロッセは第二次世界大戦終りの地

ポツダム広場でその役割を終え、眠りについた。

 

 




あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

波紋の弱点として、呼吸ができなくなっては使うことができないので
ブロッケンマンさながらの毒ガス攻撃でLOSTを苦しめてみました。

特殊能力や武器があると敵の個性が書きやすいです。



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第十七話「黄金の意志」

すべてが終わった。

最後の石仮面もあの船の中で燃えているはず。

長きにわたるジョースター家に因縁を終わらすことができたのだ。

燃え盛るフリードリッヒ・デアグロッセの中からジョセフに向かって

銃弾が放たれた。

その銃弾はジョセフの両足を貫き、思わず倒れてしまう。

 

「大佐の体が最後の最後で私を救ってくれましたよ....」

 

紅蓮に燃え盛る炎から現れたのは首以外すべて機械のマウスシードだった。

顔はすでにケロイドのように溶け始め、

見る者が思わず目を背けたくなるようなおぞましさだ。

 

「その体....まさかシュトロハイムの体か?!!!」

 

 

 

第十七話「黄金の意志」

 

 

ジョセフには見覚えがあった。

ナチスドイツの軍人で高慢な態度が少し気がかりであったが、

ともに究極生命体カーズと戦った戦友シュトロハイム。

スターリングラード戦線で戦死をしたというのは聞いていたが、

まさかこんな形で再開するとは、夢にも思わなかった。

 

「そうだ。撤退戦の時に大佐の亡骸を密かに回収し、

 この体が使えなくなった時の予備として隠していたのだ。

 この作戦はドイツ国民を導くための聖戦だからな。

 あの世の大佐もこの聖戦に参戦できて満足なはずだ」

 

「祖国のために戦った英霊の体をこうも自分勝手な正義を振りかざして

 正当化するなんて...あのカーズに匹敵するほどの外道だぜッッ!!!」

 

ジョゼフは怒りに燃えていた。

戦友の亡骸を自分の願望を兼ねるための道具とされ、

こうすることがシュトロハイムの意志であったかのような言い草....

吐き気を催すような邪悪とはまさにこいつのやっていることそのものだ。

そこに『正義』の二文字などあるはずない。

 

「死者の体を弄ぶマウスシード!!!

 お前はこれ以上この世にいてはならない。

 さっさと地獄に行きやがれッッ!!!」

 

浦島はマウスシードに突進し拳を浴びせるも波紋を練れない以上、

有効打は与えられないのは変わらなかった。

 

「波紋も練れない奴には用はない!!!」

 

その腕力で吹き飛ばされる足の使えないジョセフの下へ投げられる浦島。

絶対絶命の危機にジョセフはある決断をした。

それは浦島に自分の波紋エネルギーを送り込み、

浦島の体内に入った毒ガスを放出させ、もう一度波紋戦士として戦わせることだった。

 

「ジョセフさん!!今奴と戦えるのは俺だ。波紋エネルギーを少しでいい...

 少しでいいから分けてくれ」

 

浦島の瞳には目の前に迫る巨大な邪悪を倒す戦士の意志が浮かんで見える。

この男ならば...この男ならやってくれるはず。

そう感じたジョセフは浦島の拳を固く握った。

 

「少しなんてケチなこと言うな。俺の波紋エネルギーをすべてお前に与えてやる」

 

固く握られた拳から、ジョセフの体内にあるすべての波紋エネルギーが浦島に送られる。

その輝きはまるでジョセフがもつ黄金の意志が浦島に受け継がれていくようだった。

 

「貴様ら!!そこで何をやっているか!!」

 

マウスシードの胸から、ジョセフの足を突いた機関銃が轟音を起て発射される。

 

「....そんな豆鉄砲じゃ、俺は倒せないぜ」

 

波紋エネルギーをジョセフから受け継いだ浦島。

その姿はすでに純白のマフラーをなびかせる炎の戦士となっていた。

 

「俺は仮面ライダーLOST。悪しき花は俺が刈り取る」

 

浦島は波紋の呼吸を整え、曇りのない夜空と高く舞い上がる。

奴を仕留めるのに無駄な攻撃はいらない....一撃で決めるのだ。

 

「行くぜ!!山吹色≪サンライトイエロー≫ライダァァァキイィィック!!!!」

 

太陽の輝きを放つその一撃は、マウスシードに黄泉の国に送る燃料には充分だった。

 

「家畜風情がァァァァァァ俺の作戦をォォォォォォ」

 

マウスシードは最後の石仮面の石仮面とともに爆散し、塵となって消えていった。

かくして最後の石仮面はここに葬り去られたのであった。

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

ベルリン・とあるバー

 

 

「それにしても随分老けましたねジョセフさん。

 やっと年相応の姿になったみたいですけど、

 ホントに波紋エネルギーは返さなくていいんですか?」

 

白髪が目立つ頭髪の男に申し訳ないように話しかけるのは、浦島であった。

 

「空也...俺は残り半分となった人生を最愛の人と同じ時間をすごしていたいんだ。

 それに前ほどではないが波紋も練れるしな。体の老いはなんとか止められるだろう」

 

浦島に波紋エネルギーを与えたことによって、

遅れせていた肉体の老化が急激にきたジョセフは

これも運命として老いていく道を選んだ。

 

それを決意させたのは若き戦士との出会いであることは間違いない。

 

「―そろそろ迎えが来たみたいなんで、ここら辺でお開きにしますか」

 

浦島は先ほどまで壁があったところに自然と壁があるのに気がついた。

この世界の出口だろう。

どうやらビールに酔っている周りの客には見えないようだ。

 

「そうか....わしは当分暇になったし、孫の顔を見に日本にでも行くかな」

 

「そいつはいい、ところでお孫さんの名前はなんていうんです?」

 

「承太郎....一か月前に生まれたばかりでな。この仕事が終わったら

 会いに行こうと思っていたところだ。女房も先に日本に行ってるし」

 

ビールを飲み終えたジョセフはジャケットを着て変える準備をする。

 

「また、どこかで会いましょう師匠」

 

「どこかでな...弟子よ」

 

二人は互いの自分の進むべき道へ進み、

ジョセフはバーの出口へ。

浦島はこの世界の扉を開けた。

 

こうして二人の戦士の奇妙な時間は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 




ジョジョ編終了しました。
ジョセフのキャラを書ききれたかどうか不安ですが
三部で老いた理由についても書けたので、個人的には満足です。

次は波紋法を生かして、霊能教師かGSとクロスしてみようと思います。
無償で除霊する教師と法外な金を請求する現代のエクソシスト...

とりあえず原作本を読みかえそうと思います。


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設定
仮面ライダーLOST 主人公設定


主人公 浦島 空也(うらしま こうや)

 

年齢 19歳

 

身長 178cm

 

体系 やや筋肉質

 

髪型 黒い短髪

 

趣味 野球 ビリヤード 格闘技 バイク 

 

最終学歴 国防大中退

               

家系図

       

            

       曾祖父――――曾祖母    

           |             

        新  |  ト     

        衛  |  メ         

        門  |           

           |            

           祖父―――――祖母       

               |            

            総  | 花   

            八  | 絵           

               |          

               父――――――――――母

                   |

               征   |  京

               一   |  子

                   

                   空                 

                   也  

浦島家は代々軍人の家柄であり

會祖父の健之助は日露戦争に従軍し、日露戦争で旗艦「三笠」の機関長であった。

祖父の総八は海軍航空隊のエースパイロットとして開戦から終戦まで戦い続けており、

戦後、再編成された国防軍からの誘いを断りバイク屋を経営した。

父である征一は海軍の中で時代遅れとされた戦艦大和砲術長として乗り込み

怪獣ゾドラとの東京湾海戦で大和ともに沈んだとされる。

東京湾海戦の前に母である島田京子と婚約しており

また、日本政府の特殊化学班班長であったZによってソウルシードを植えられた。

そして東京湾海戦から二ヶ月後、空也が生まれた。

 

 

 

 

 

改造人間になるまでの人生

 

 

 

浦島が生まれたときにはすでに父親は他界しており、

病に冒された母と父方の実家で世話になっていた。

祖父は70歳を過ぎた体で空也にいろんなことを教えた。

空手、柔道、剣道、合気道など武道も教えたが、

幼き空也は祖父としたキャッチボールから野球の道に入ることになる。

野球強豪校に入学した浦島は高校三年の夏に県大会決勝で敗退し、グラブを置いた。

幼き日から父の姿を追ってみたいという願望が父のいた国防大学への道を開かせ、

見事首席で合格した。

だが、父を知っておる者は国防大にはなく、自分の父の死の状況を知るため

国防大学を中退し、放浪の旅に出る。

国防大学入学の際に祖父からプレゼントされた旧帝国海軍飛行服のフライトジャケットを

常に羽織っており、とても大事にしている。

愛車は父の形見であるホンダ・ドリームCB750。

 

 

 

 

 

 

 

第一変身形態  ホッパーシード

 

浦島が仮面ライダーを名乗る決心がつくまで、

プロフェッサーCに植えつけられたソウルシードにより、

浦島の心の中にある「父の背中を乗り越えたい」という願望が

跳躍力に優れるクルマバッタをイメージさせシード怪人化した姿。

赤い複眼、鋭い牙、長く伸びる触角、緑色のボディに黒のラインが入っており

クルマバッタの特徴が濃く反映されている。

だが、対コブラシード戦でソウルシードを奪われ変身不能に陥り

ソウルシードを取りかえし再び体内に入れたものの

戦闘によって瀕死の重傷となったため、

体内の変身機能がエラーを起こし変身できなくなった。

ところが浦島のDNAに残されていた父のソウルシードの破片が浦島の生命の危機に反応し

二つ目のソウルシードとなって浦島を蘇生させた。

戦闘によって破損した浦島のソウルシードは

父のソウルシードの破片を取り込むことにより修復した。

しかし、二つのソウルシードを発動させるためには

父のソウルシードが持っている『人々のために戦う』という決意が必要であるため

コウモリロイドに襲われた際に変身できなかった。

 

 

 

 

第二変身形態  仮面ライダーLOST

 

ホッパーシードに変身不能になった浦島に

仮面ライダーとして戦うことを勧めた本郷の言葉によって

浦島が『仮面ライダーとして人々のために戦う』決意に二つのソウルシードが反応し

『種』の花が浦島の腰に巻きつきそのまま変身ベルト『ツインドライバー』となった。

『変身』というスイッチを入れることにより作動し、

仮面ライダー一号のイメージをソウルシードが具現化させたため、

その姿はホッパーシードよりも仮面ライダーに近い姿になっている。

赤い複眼、仮面に生えた触角、肉体に戦闘服を纏っているなど

一見すると仮面ライダー一号に酷使しているが、

仮面のクラッシャ―を覆い隠す白いマフラーが

多くの仮面ライダーにない特徴となっている。

このマフラーはソウルシードがもつ生物本来の『野性』を

人間の『心』によって抑え込むという浦島の心の葛藤が

野性を意味する『クラッシャ―』を人間の心を意味する『純白のマフラー』で覆う

という姿にさせたのだ。

 

必殺技 ライダーキック 

    ライダーパンチ

    火事場のライダーメガトンパンチ

    波紋疾走

    山吹色ライダーキック

    

 

 

バイク  ライトチェイサ―

 

アメリカの天才科学者フォスター博士が開発したスーパーマシン。

バダンの戦闘用バイク『ヘルダイバー』の基礎設計として使われることを恐れた

フォスター博士が仮面ライダーとして息子を助けてくれた浦島に贈った。

その性能は『ヘルダイバー』よりも走行性能に優れるが、戦闘用に開発されたバイクではないため

武器などは搭載していない。

どんな悪路にも対応でき、水上も難なく走行できる。

また、車体後部に搭載されている『ジョットブースター』を点火させることによって

三分間だけ空を飛ぶことができる。

必殺技はジェットブースターを点火させ最高速度で相手に体当たりするライダーブレイク。

 

 

最高時速    750km(通常時)

 

瞬間最高時速  990km(ジェットブースター点火時)

 

重量      125kg

 

必殺技     ライダーブレイク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は主人公の設定を考えました。
父が連載中の作品である『戦艦大和対怪獣ゾドラ』の主人公と同一人物です。
今後の更新ですが、そろそろテストの時期ですので更新が遅くなると思います。
更新を待っている読者の方々には申し訳ありませんが、
学生の本分を疎かにするわけにはいかないので
どうかご了承ください。

次回のストーリーですが、今のところ「GS美神」「地獄先生ぬ~ベ~」
「TIGER&BUNNY」「オリジナル」などを考えております。
今のところ「GS美神」になると思いますが、今年の春にサンデーの読みきりで復活するので、
それまで待とうか考え中です。



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GS美神編
第十八話「男はつらいよ(その一)」


ジョセフと飲んだ店にあった世界のドアを開けると

そこは無数にドアが漂う空間ではなく、浦島の前に扉が三つだけあった。

 

あきらかにおかしい....

 

なぜなら今まではZのの世界に行く選択肢が無数にあったはずだ。

 

これはもしかしたら、この三つのドアにZのいる世界があるのかもしれない。

俺は直感を頼りに右のドアを開けた。

 

そこは巨大な怪物を空を飛ぶ人間が何かを放射して戦っているのがぼやけて見える。

ここは違う....だがこの世界にもシード怪人はいるかもしれない。

俺は奴らから人々を守るために戦う。

それが仮面ライダーとして生きることを誓った俺の使命だからだ。

ゆっくり自分の足を前に踏み出し、この世界に入っていった。

 

 

第十八話「男はつらいよ(その一)」

 

 

何か出てきそうだな。

 

この部屋に入って最初に感じたのは、高校時代に友人と見たホラー映画の雰囲気そっくりだった。

 

割れた窓ガラス

 

ところどころ隙間の見える床

 

カビで覆われた壁

 

ここが廃墟であることはこの三つだけでも判断できる。

 

そして廃墟につきものなのが悪霊か怪物だ。

 

怪物はジョセフと共に戦ったから、次は悪霊だろうか?

 

いずれにせよ悪い予感しかない....。

だったら前を進むことしか解決策はないのだ。

歩くたびに軋み、今にも抜け落ちそうな床を恐る恐る歩く。

前にあったドアの下にはソフトボールくらいの穴があった。

その穴を覗くと、底が見えないほど闇で覆われていた。

 

その闇の底から何かが動いているのに気付いた俺は

ドアを突き破って、次の部屋に入った。

 

突き破った部屋の先は舞踏会場のような大きさの大広間だった。

 

しかし、そこにいるのはかつて人間だった者たちであふれかえっていた。

 

悪霊....ホラー映画に出てくるあの悪霊だ。

 

オカルト好きなら涙モノだが、あいにく俺はこういったものには興味がない。

 

悪霊たちは侵入者の存在に気付くと、一斉に向かってきた。

 

敵意の表れだろう。

 

逃げ場はすでにない。

 

俺に残されたカードは一つだけ....

 

深く息を吸い込み呼吸を整える。

 

練り上げられた波紋は肺から拳に伝わり、迫りくる悪霊へカウンター気味に拳を放つ。

 

「山吹色の波紋疾走!!!!」

 

魔を払う太陽の色を纏った拳は、一撃で向かってきた悪霊を消滅させた。

どうやら波紋は悪霊にも効果があるのだな。

それさえわかってしまえば、あとは時間の問題だ。

次から次へと襲いかかる悪霊軍団を波紋で叩き伏せる。

悪霊を倒していくうちに一つの疑問が頭に浮かんできた。

それは悪霊がどこか時間稼ぎをしているかのように行動しているようだった。

霊感はあるわけではないが、なんとなくそう感じるのである。

非現実的な話だろう。すでに人間ではない俺が第六感で危険を感じ取っているのだから。

 

悪霊が半分くらいになったところだろうか。

何かに奴等が怯え始めたのだ。まるで天敵に怯える小動物のように。

 

「いったい宝石なんてどこにあるじゃー!!」

 

「時価20億円の宝石よ!この屋敷にあるのは確かなのよ!!

あんたの時給の何万倍の価値がある宝石なんだから!!

 このままタダ働きなんて死んでもやーよ!!!」

 

「まあまあ美神さん、シロちゃんたちが事務所で待ってますし帰りましょう?」

 

天井を突き破って降ってきたのは、赤いバンダナがトレードマークの少年と

橙色の綺麗な長い髪の美女、そして巫女装束の少女の三名である。

 

これに奴等は怯えていたのか?

確かに幽霊屋敷にいるのに余裕たっぷりでいるのだから

肝は据わった人たちなんだろう。

 

しかし、長い髪の美人とバンダナを巻いている少年は悪霊を倒すよりも

指輪を探すことの方が大事なようで、大広間を片っ端から荒らしている。

その眼はまさに獲物を探す猛獣の眼であった。

 

「美神さん、あそこで人が戦っていますよ」

巫女装束の少女は俺の存在に気づき、血眼になって指輪を探している美神という女性に

報告した。

 

「おキヌちゃん、この屋敷は完全に封鎖されていて私たちのほかには人間なんていないはずよ」

 

「でも、あそこで霊波を出している戦っているのは、間違いないです」

 

美神は自分の仕事を横取りきたもぐりのゴーストスイーパーだと一瞬推測したが、

彼の拳から放出されているエネルギーは霊力とは似ていても、根本的に違うものだと感じられた。

 

「そこで戦っている坊主のあんた!何者だかしらないけど、人の仕事の邪魔をしないでくれる?」

 

「坊主じゃない!!これだけ髪が伸びたら、すでに坊主のカテゴリには入らないんだ!」

 

悪霊たちと戦う中でついつい気に障り、見ず知らずの女性に怒鳴ってしまった浦島。

敵意はないことを釈明すればよかったが、これで美神令子の怒りに触れてしまったことは明確であった。

 

「横島クン、宝石探しはいいからあの坊主頭を取り押さえるのよ!」

 

浦島の霊力の異質を確かめるべく、まずは最強の丁稚である横島を戦わせて

情報を取ろうとする美神。

浦島のエネルギーがこちらの世界の霊力と呼ばれるものではないことに気付いていた。

 

「やめましょうよ美神さん、悪そうな人ではなさそうですよ」

 

完全に戦う気満々である美神を止めるおキヌであったが、時すでに遅し。

指輪探索を打ち切った横島が浦島に襲い掛かる。

 

「なんだか知らんが、恨むなら俺じゃなく美神さんを恨んでくれー!!」

 

横島の右手から放たれる霊波刀が浦島に襲いかかってきた。

 

「波紋疾走!!」

 

振り下ろされた霊波刀を波紋で受ける浦島。

すさまじいエネルギー同士のぶつかり合いで、周囲にいた悪霊たちのが霊波の放出によって

消滅していく。

 

「この坊主頭....結構強いぞ」

 

「このバンダナ、見た目は馬鹿っぽいがかなり攻撃が重い....」

 

その一撃で互いの内に秘める強さを感じ取った二人。

間合いを取って、相手の出方を見ることにした。

攻撃力は今のところ互角と見た。

しかし、こいつにはまだ何かある。

戦いの中で徐々に戦いの空気を感じ取れるようになってきた浦島。

その予想は的中する。

 

横島は指先に霊力を集め、《珠》を作り出した。

その《珠》に念を込め、浦島に向かって投げつけた。

その透明な《珠》には《爆》の文字が浮かび上がっていた。

彼の最強の万能武器である『文殊』である。

 

怪しい何かを横島が投げたことに気付いた浦島は

とっさに避けたが、文殊の大爆発に巻き込まれてしまった。

 

致命傷ではなかったが、そのダメージは浅くない。

 

「人間相手だと思っていたが、こいつはヤバいぜ」

 

切り札を使うため、変身のポーズを取る浦島。

だが、思わぬ来客により

浦島はスイッチを入れることはなかった。

 

「いや~さすが日本一のGSですね。この屋敷に住みついた悪霊をこんな簡単に払ってしまうとは」

 

大広間中央にある扉を開けて登場したのは、

小太りのシルクハットをかぶった紳士と両脇にはSPが二人ついていた。

 

「依頼主の富永卿ね。時価20億円のルビーはいったいどこにあるの?

 屋敷のあちこちを探したけどどこにも見当たらないわ。

 それに同業者を勝手に呼ぶなんて、これは契約違反よ」

 

見つからないルビーに嫌気がさした美神は富永卿へ契約違反ではないかと詰め寄った。

 

「申し訳ございません。『アイーダの涙』を手にするのにふさわしいかどうか

 こちらで判断するために、屋敷にあるという嘘を言って依頼をしてしまいました。

 その点に関してはお詫び申し上げます。

 ですが、GSは美神事務所以外で依頼はしていません。

 私も初めてお会いする方です」

 

その凛とした表情はこの言葉に嘘はないという自信に満ち溢れていた。

 

富永卿はSPが持っている頑丈そうなケースを美神へ差し出すと

鍵を開け、中身を見せる。

そこには妖しく光る大きなルビーが厳重に保管されていた。

 

「こちらが『アイーダの涙』です。どうぞお手を触れて本物かどうか確かめてください」

 

時価20億円のルビーを目の前にし、いつもなら黒字の換算をする美神であったが、

ある疑問が美神の金に対する欲を抑えていた。

それは、ただの宝石を手にするのに悪霊を倒して腕試しをさせる必要があったのか?

そして霊能力者の第六感が危険信号を発しているため、素直に受け取ることができない。

 

「おやー?お気に召さないようですね。では、助手の横島さんに受け取ってもらいましょうか」

 

美神に背を向けた富永卿はその足で横島の下へ向かい、『アイーダの涙』を差し出した。

 

「横島クン、そのルビーは危険よ!下がりなさい!!」

 

美神は『アイーダの涙』から漂う異様な雰囲気に危険を感じ取り、

横島に注意するが、時すでに遅し。

 

横島は『アイーダの涙』に触れてしまった。

妖しい光があたりを包み、宝石から触手が飛び出し、横島の体を宝石の中に引きずり込む。

 

「うわああああああ美神さぁぁぁぁん!!!」

 

一気に上半身を飲み込まれた横島。

宝石から放たれる強烈な光のせいで美神とおキヌの目はくらまされている。

このままでは体ごと飲み込まれてしまう。

 

「オラァァァァ!!!!」

 

人間では直視することができない強さの光をものともせず、

浦島が『アイーダの涙』に拳を突き刺した。

パンチの衝撃で玉体にひびが入り、横島を取り込もうとする一旦触手の動きが止まった。

しかしすぐに新たな触手が浦島の体を縛り上げた。

 

「この野郎!!!」

 

宝石の発光が収まり、すぐに神通混で『アイーダの涙』をたたき割った美神。

強大なエネルギーの放出とともに、横島の体が飛び出てきた。

 

「横島クン、しっかりしなさい!!」

 

美神の呼びかけに横島からの応答はない。

その体はまるでもぬけの殻であった。

 

「おのれ....よくも霊力を手に入れるチャンスを私から取り上げたな。

 『アイーダの涙』が壊された以上、次の霊力補給がお預けとなるではないか。

 覚えていろ美神令子!!」

 

先ほどまでの紳士ぶりとは180度反転し、すぐに逃げ去る富永卿。

美神はそんな富永卿をぶん殴りたかったが、それ以上に横島が心配だった。

 

「しっかりしてください横島さん!!」

 

おキヌの悲痛な叫びにも反応しない。

 

体は仮死状態であるため、必ず霊体がどこかにあるはずだ。

辺りを見渡しても、そこには浦島が爆発によって気を失っているだけで

横島の霊体の姿はなかった。

 

「どこに行ってしまったのよ、横島クン.....」

 

冷酷無知ないつも態度はどこにもなく、最悪のケースが美神の頭をよぎる。

だが、そんなケースは彼には絶対起こらないと信じていた。

なぜなら彼、横島忠夫は数々の生死の危機を乗り越えてきた驚異的な生命力が

彼を何度も生還させていたからである。

 

「あ~死ぬかと思った」

 

間の抜けたセリフで起き上がってきたのは、先ほどまで失神していた浦島だ。

 

「どうしたんですか美神さん?....って!!!なんで俺の体がそこにあんの!!!」

 

俺の体と言って浦島が指差すのは横島の体である。

 

「まさかあんた横島クン....あの衝撃でそいつの中に入ったのね。

 じゃあハゲ頭の霊体はどこに行ったの?」

 

 

「ハゲじゃない!!!!坊主だ!!!」

 

横島の霊体を弾いて出てきたのは、浦島の霊体であった。

つまり浦島の体に横島と浦島の霊体が存在しているということになる。

一つの体に二つの魂が入ることなどありえないはずだ。

 

「横島クン、あんた本当に横島クンなの?」

 

「あたりまえじゃないですか美神さん。体が変わろうが

 美神さんへの愛は変わってないですよ!!!」

 

浦島の体で美神にセクハラをしようとする横島。

しかし、美神のカウンターパンチが顔面にヒットし、地面にたたき伏せられた。

 

「俺までダメージをくらうのかよ.....」

 

自分ではない赤の他人に体を奪われるとは考えてもいなかった浦島。

その威力は今まで受けたことのない程の威力だ。

 

「ところであんたなんて名前なんだ?」

 

「俺は浦島 空也。ただの旅人だ」

 

横島の問いに対し、浦島は答える。

人から見ると一人芝居をやっているようにしか見えないが、

魂が二つあるのはしょうがない。

 

 

かくして浦島と横島の一身二魂生活は始まったのであった。

 

 

 




GS美神編突入しました。

現在原作が手元にないためセリフは、
ほかの方の二次創作を参考して書いております。

GS美神は脇役たちの個性が強いので
できるだけ多く出して話を盛り上げたいですね。


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第十九話「男はつらいよ(その二)」

この感覚をなんと言い表したらいいか、正直俺には分からない。

 

俺の中にいるもう一人の俺....

 

そんないいもんじゃない。

 

赤の他人が俺の中に住んでいるんだ。

 

もしかしたら変身にも影響が出るかもしれない。

 

なんとかしてこの状況を打開しないとな。

 

「前みたいに美神さんと合体するならまだしも、

 なんでこんなむさくるしい男の中にいなきゃならんのだー!!

 早くここから出してくれー!!」

 

俺の中にいる居候が俺の口を勝手に使って泣き叫ぶ。

 

「うるさい!俺だってこの状況を早く打開したくてしょうがないんだ!!

 つべこべ言わずにおとなしく俺の中で寝てろ!!」

 

周りからしてみれば、実に滑稽な光景だろう。

なんせ俺が一人芝居をしているようにしか見えないんだから。

 

美神の事務所に連れてこられた俺は、一見普通の美人のアンドロイドに手足を椅子にしばりつけられ

逃げられないようにされていた。

幸か不幸か、口は自由にできるため、このようなしゃべることができるのだ。

 

「アンタたちちょっと黙ってなさい!!!」

 

美神の怒号に反応し、思わず黙る俺たち。

 

この奇妙な生活はいつまで続くのか?

 

それは神のみぞ知るってところだな。

 

「小竜姫さまは本人たちの努力次第言ってたわよ」

 

「神様に知り合いがいるのか....世の中は広いな」

 

 

第十九話「男はつらいよ(その二)」

 

 

「横島の体の方は、カオス式冷凍カプセルⅢ号に入れておいたから、何十年でも保存できるぞい」

 

長いマントを着た長身の老人は、美神に仕事を終わったことを告げに来た。

 

冷凍カプセルなんて数時間でできるような代物ではないはずだが、

この老人は難なくやって見せた。

 

「ごくろうさまDr.カオス。報酬はそこに置いといたわ」

 

「まいどー。しかしこの男の中に、横島がいるのか....

 普通は一つの体には一つの魂しか入らないから、霊的法則から考えて無理なはずなんじゃがな」

 

「確かにそうなんだけどね。横島クンのことだからあの宝石に取り込まれた時に

 文殊を発動させたと思うんだけど、まさかこの男の中に入ったままになるとは....

 文殊の効果も切れないし、小竜姫さまに聞いてもこのケースは珍しいから

 本人たちの努力次第としか言ってないの。横島クン、文殊は出せそう?」

 

今回のケースは、俺の常識が通用しないこの世界にも珍しいことらしい。

神様でもわからんことを誰もわかるわけがない。

 

「それが、出そうと思っても全然出てくる気配がないんすよ。

 いつものペースなら一個作れるはずなんすけど....」

 

横島の意識が俺の左半身を使い、『霊力』を蓄えているのがわかる。

この、体中から湧き出る力は底が見えない位とてつもなく大きな力だ。

 

「文殊が出せるなら、なんとかなったんだけどね....

 もしかしたらこの『ハゲ』の力が横島クンの霊力と混合して

 文殊が作りにくくなっているのかもしれないわ」

 

『ハゲ』高校時代何度そう言われてきたことか。

野球部はハゲではなく、坊主なのだ!!

それに俺は現在『短髪』の部類に入るのであり、けして『坊主』ではない。

 

 

「だからハゲじゃない!!

 俺の髪型は坊主気味の短髪だ!!!

 それに俺は浦島 空也というちゃんとした名前があるんだから、名前で呼んでくれ!!」

 

美神はめんどくさそうに了承した。

いつもの美神なら力で解決する所であったが、今回は横島が体内にいるため迂闊に手を出すことはできない。

それに霊力とは違う謎の力も、浦島の中には存在する。

敵意はないようだが、細心の注意を払っておかなくてはならない。

霊波は人間のものを感じとれるが、肉体がそうではないからだ。

 

「おぬし、単刀直入に言うが、人間ではないな?」

 

Dr.カオスの空気を読まない一言は、静粛な湖に岩石を投げ込むにふさわしい暴挙であった。

もしこいつが魔族であったら、始末しなければならないのは美神であるからだ。

この戦いには一文も金が入ってこない。

これが守銭奴の美神に対して何を意味するか?

タダ働きというとてつもない苦痛である。

 

「横島も気付いていると思うが、確かに俺は人間じゃない。

 ソウルシードを植えられた改造人間だ」

 

改造人間....この単語を聞くのは美神の世界ではTVの中だけであった。

人造魔族のガルーダなどの魔族とは戦ったこともあるが、

人間自身を人の手によって改造してしまうケースはなかった。

 

「ならば納得いくな。こやつの肉体はすでに全身が強化された人造筋肉に覆われており

 精神はあっても、肉体は完全に人間のものではないのだから、横島がここに留まれるも頷ける。

 さらにこやつの発する力は霊力ではないことは確かだが、美神の証言から

 霊的存在に有効なのも真実であろう。つまり貴様の謎の力が、横島の霊力と干渉しあった結果

 横島の霊体は浦島の肉体の中でも存在できるのだ」

 

さすがはヨーロッパの魔王Dr.カオスと呼ばれることはある。

いつものボケ爺ではないと美神ついつい感心してしまう。

 

「まさか『波紋法』が原因だったとは、参ったな。

 ジョセフから、呼吸の止め方なんて教わってないからな~

 俺にはどうすることもできん」

 

波紋法と霊力の意外な結びつきが今回の合体騒ぎの原因ならば、

どちらか一方が自身のエネルギーを止めることが分離するカギだろう。

だが、そう簡単には物事は進んでくれない。

 

「残念ながら、このまま横島の体が浦島の体に留まってしまうと

 横島の魂が浦島の魂に吸収されて、消滅することになるぞ」

 

「横島さんが消滅してしまうんですか!!!」

 

Dr.カオスの驚愕の一言に外に出るよう言われていた他の住民たちが入ってきた。

 

「先生がいなくなってしまうなんて....なんとかしろこのクソ爺!!!!」

 

「解説するくらいなら、解決策を用意しなさいよ!!!」

 

おキヌに続いて入ってきたのは、白い髪のラフな格好な少女と金髪のシックの服をきた少女の二人であった。

 

「やめなさいシロ!!タマモ!!まだ解決策はないわけではないのよ」

 

我を忘れてDr.カオスに詰め寄る二人の制止に入る美神。

そうまだ解決策がないわけではないのだ。

 

「美神さん、解決策なんてあるんですか?」

 

おキヌの一言がこの場にいる一同の期待をを一手に背負う。

 

「簡単よ。文殊で《幽》《体》《離》《脱》を使うのよ」

 

「でも、肝心の文殊がこいつの波紋のせいで作れないんすよ?

 そんななかどうやって作れっていうんすか?」

 

横島の指摘はもっともだった。

いくら文殊が万能だからといって、作れなけば意味がない。

ないものを頼るのは、いくら横島でもできないことなのだ。

 

「横島クン、あんたの霊力の源は『煩悩』よ。

 その『煩悩』は少なくても男である浦島君にもあるはずだから

 二人の『煩悩』を極限まで高めれば、文殊も作れるはずよ」

 

『煩悩』それは横島の中にある様々な欲望が横島の力の源となっている。

その『煩悩』はすさまじく、彼の『煩悩』をしのぐことはおそらく人間ではいないだろう。

浦島も改造人間である前に男であるなら、『煩悩』の一つや二つあってもおかしくはない。

ならば二人でその『煩悩』高めて、横島のエネルギーとして文殊を作り出すことしか

他に方法はないのだ。

 

「わかった。本来の姿に戻れるならどんなことでもやってやろう。

 さっそくだが、何をすればいいんだ美神さん?」

 

方法がこのほかにない以上、実行するしかない。

しかし『煩悩』なんてどうやってためればいいんだ?

 

「俺に任せておけ浦島!!」

 

ここまでうるさいだけだった横島が、水を得た魚のように動き出した。

 

「部下の命のためならしょうがないっすよねー!!!美神さーん!!!」

 

浦島の体を根性で動かした横島は、美神を抱きつこうとする。

その動きはまさに常習犯だからこそできるケモノの動きであった。

 

「やめんかー!!!このバカ!!!」

 

美神の鉄拳が俺の顔にヒットし、事務所の壁に体がめり込んだ。

体は俺のものだから実に痛い....そして制御ができない。

 

「このバカの犯罪を容認することになってしまうとは....

 いい横島クン。もし警察に厄介になることがあったら

 スイス銀行に口座を持つ強面スナイパーがあんたの眉間をぶち抜くからね!!」

 

―ちょっと待ってくれ。

 ということは俺の生命活動にも支障が出るじゃないか?

 

という一言は美神の威圧感に負けて決して口にできなかった。

 

「横島さん、浦島さん。学校の方には来ないでくださいね....」

 

おキヌちゃんの笑顔が怖い....笑顔なのに顔が笑っていないのだ。

 

「わかったよおキヌちゃん....六道女学院には近寄らないから、そんな目で見ないで....」

 

横島も心底おびえているようだった。

 

「先生!!シロもお供するでござる!!」

 

「私もヨコシマについてくー!!」

 

「あなたたちはひのめの遊び相手でもやってきないさい!!」

 

シロとタマモは美神の手によって、別に任務を与えられた。

二人の顔から察するに、結構きつい任務なんだろう。

 

 

「では、横島 忠夫。浦島 空也。パトロールに行ってきます!!」

 

そして目にも見えない速さで俺の体は走りだし、横島と俺の戦いは始まった。

 

そう正義の味方である俺はその職務にあるまじき行為をするのだが、

この時はまだ、いまいちイメージが湧かなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銭湯....そこは人々が日ごろの疲れを洗い流す現代のユートピアである。

普通であれば風呂に入りに行くのが普通だが、横島は「俺に任せろ!!」といって

体の主導権を握っている。

 

こいつに任せたほうがよさそうなので、ついつい体を明け渡してしまった。

そう、それが第一の間違いだったのだ。

 

「おい、横島。これはどう考えても『覗き』だよな」

 

「何を言っている!これは美神さんから直々に命令された。

 『煩悩』をためるために必要な儀式なのだ。

 彼女たちには悪いが、正義のための犠牲になってもらう」

 

銭湯の窓からこっそり女風呂を覗く....これはどう考えても犯罪です。

 

「バカ野郎!!こんな非道徳的なことが許されると思っているのか!!」

 

「おい!あまり動かすな!」

 

いくら性欲旺盛な思春期であっても、非道徳的なことを軍人の端くれでもあった俺が

やっていいわけがない。

横島から体の主導権を奪い返そうと感情が高ぶってしまったのが、第二の間違いだった。

張り込みの基本は自然と一体になること....その基本を自らの手で破ってしまった俺たちに

明るい未来が待っているわけがなかった。

 

「キャー!!!覗きよ!!!」

 

50を過ぎたであろう熟れすぎた果実の一声で俺たちは見つかった。

次々に投げられる風呂桶が俺の体のありとあらゆる箇所に命中する。

 

「とんずらするぞ!!」

 

横島の慣れた足どりでその場を後にする俺たち。

後ろからパトカーの音が聞こえるが、横島は見向きもしないで俺の体で疾風のように走り去る。

 

「横島、お前慣れてるだろ?」

 

「あたりまえだ。次はO大女子寮のテニス部更衣室に突入だ!!」

 

横島の煩悩に押されて、体の主導権を握られる俺。

体は俺だから、万が一指名手配された時には俺の顔が町中に張られることになるだろう。

そうなってしまったら、シード怪人を探すことに制限が出るだろう。

一刻も早く、横島を元の肉体に戻さなければ。

 

男であるがゆえに、本意ではないにせよこのような行為に走るとは....

体がどんどん変質者の道へと突き進んでいく。

 




仮面ライダーWのイメージで描いているつもりなんですが、
横島の煩悩に圧倒されて、体が制御できなくなっていますね。
作者自身もヒーローがこんなことをしてもよいのか疑問に残りますが
そうしないと横島が消えてしまうのでしょうがないでしょう。

あれっ...まだ怪人が出てきてないですね。


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第二十話「男はつらいよ(その三)」

とある資産家の屋敷。

その屋敷は自然が豊かな山奥にひっそりとたたずんでいる。

屋敷のとある部屋では、キングサイズのベッドにただ一人ポツンと女性が寝ていた。

見るからに痩せ細った体は痛々しく、自慢の長い髪はすべて抜け落ちている。

その瞳からはすでに輝きを失い、まるで屍のようだった。

 

 

「ただいま澄江」

 

 

 

大きな扉を勢いよく開けて入ってきたのは、富永 恭一郎。

この屋敷の主人である。

 

「澄江、食事はまだかな?今日は一緒に食べようか」

 

そういうと彼は待機していた召使いに澄江の体を車いすに乗せるよう指示し、食堂に向かった。

まばゆい光を放つその部屋のテーブルは、その部屋に似つかわしくない二人用の小さなテーブルであった。

彼と彼女の距離を離れないようにと、富永が運んできたものである。

すでにテーブルには食事が並べており、とても一般人が食べれるような代物ではない。

それがテーブルいっぱいにあるのだ。

 

「もうすぐ君と出会ってから20年の時間が経つね。

 君がいたからこそ僕はここまで上り続けることができた。

 君は僕にとっての天使だ。君と永遠の時を過ごすことが、僕の願いだよ」

 

その言葉に嘘などなかった。彼の一言一言がすべて彼の彼女に対する愛で満ち溢れていた。

だが、彼女は一言もしゃべることもなく、ただ座っているだけである。

一向に食事に手を付けることなく、ずっと目は開いて富永を見つめている。

その風景を怪しむものは、この屋敷で働く者はいなかった。

なぜなら、それを口にすることはタブーであったからである。

もし口にしてしまったら.....それは屋敷の者が最も恐れることが待っているだろう。

彼らはいつの間にか、彼女が食事をしないことに何の疑問も抱かなくなった。

 

「澄江、僕はあの女から霊力を奪って君をもう一度動けるようにさせてあげるからね。

 そしたら一緒に散歩にいこう。緑あふれるこの自然を思いっきり楽しもう」

 

彼がワインを飲み干すと、富永家の食事は終わった。

何事もなかったように召使いたちは澄江の体を寝室へ運ぶ。

彼女の体から異臭がしようと、彼女らには関係ないのだ。

 

「澄江、僕は魔族から買ったこのルビーと、あの男からもらったこの種で

 君の魂を必ず取り戻す。必ずね.....」

 

 

 

 

 

第二十話「男はつらいよ(その三)」

 

 

 

横島と合体してからそろそろ一週間が経とうとしていた。

彼のすさまじい煩悩に付き合わされる浦島は、覗きに明け暮れる日々であった。

その甲斐あってか横島の文殊生成は順調であり、すでに三つできていた。

 

「もう少しでこの体とおさらばや!

 そしたら、さっそくいきつけのビデオ屋であのビデオとこのビデオを見て、それから....」

 

「そうだな。やっとこの犯罪生活からおさらばか....思えば何度美神さんから殴れてきたことか。

 いくらこの体でもあの威力は体にこたえるぞ」

 

この思春期の男の部屋独特のイカ臭い空間は、横島の家である。

浦島が最初この部屋に入った時よりも、かなりきれいになったが

それでも臭いはなかなか取れなかった。

 

「おっし、そろそろ飯にすっか」

 

浦島は干したての蒲団から腰を上げると、台所に向かった。

ここもGが出てきてひどかったが、浦島の掃除おかげでここ数日は見ていない。

 

浦島が取り出したのはスーパーで買ってきた牛肉。

もちろん半額のラベルが貼ってある商品である。

 

横島もGSとして成長したため、時給は1000円程度に上がっていた。

それでもこの業界では低いほうである。

 

「また牛丼かよ。ここ毎日牛丼じゃさすがに飽きるぜ」

 

横島の言葉に耳を傾けずに、黙々と料理を進める浦島。

そしてできたのが、ミート直伝特製牛丼だ。

 

おそらく浦島はこのくらいしか料理はできないだろう。

なにしろ高校までは祖母が飯を作っていたし、大学に入ると寮の飯があったので

台所に向かう機会はなかった。

それでも何かを作れる分、日々カップラーメン生活の横島よりはまだマシだったが。

 

いただきますの言葉とともに、牛丼にがっつく浦島。

キン肉マンに勝るとも劣らない速さで一杯目をたいらげ、すぐに二杯目に入った。

 

「なあ浦島、明日行ってもらいたいところがあるんだがいいか?」

 

いつになく神妙な口ぶりで話す横島に何かあると感じた浦島は、

その言葉にただ頷き、三杯目に入った。

 

遅めの食事が終わり布団に着き、明日を迎えるため就寝した。

もっともこの体なら、三日程度なら寝なくても困らないが、

横島の負担を考えると人間の生活に合わせるべきだと判断したからである。

 

 

夢.....

 

その夢はいつになく悲しい夢だった。

 

そこに出てくるのは自分ではなく、横島であった。

彼の記憶がフラッシュバックされていく。

美神に時給250円でバイトを申し込んだこと。

幽霊だったおキヌちゃんをはじめ、多くの人と出会ってきたこと。

その最後には魔族の少女が出てきた。

彼女は横島に惹かれ、また横島は彼女に惹かれて行った。

彼女を助けるため、戦士になる覚悟もした。

だが、世界は非常だった。

彼は世界をとるか、愛する人をとるかの選択をさまられていた。

悩んだ結果、彼は世界を取り、手に持っていた文殊で水晶体を破壊した。

そこには世界を救ったという達成感ではなく、何とも言えない虚無感が横島を覆っていた。

彼はこの世界と引き換えに愛する人を失ったのだ。

 

それでも彼は背負った運命ともに明日を迎えるため生きている。

 

「どこか似ていると思っていたら、こんな過去があったのか....」

 

そして夢は覚める。

 

朝日が浦島を照りつけ、朝であることを知らせた。

 

今日は朝から美神事務所に出勤しなくてはならない。

 

いつも着ているフライトジャケットを羽織ると

玄関のドアを開け、空き地に停めてあるライトチェイサーにまたがり

美神事務所に向かった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「おはようございます。浦島さん、横島さん」

 

「おはよう人口幽霊一号」

 

玄関を開けると、この事務所のセキュリティである人口幽霊一号が挨拶をしてきた。

いつものように台所に向かうとおキヌが朝飯の支度をしていた。

 

 

「おいっす!おキヌちゃん」

 

 

「おはようございます。浦島さん、横島さん」

 

おキヌに挨拶すると

浦島は日課になりつつある盛り付けを始めた。

 

「いつもすいませんね。前は横島さんと美神さんの分を用意すればよかったんですが、

 住民が増えたんで、その分早く起きていろいろやらなくちゃいけないんですけど

 なかなか大変で....浦島さんが手伝ってくれて本当に助かります」

 

「いやいやそんな。毎日こんなうまい飯が食えるなんて

 ほんとありがたいよ。ほんとは変わってあげたいくらいだけど

 俺は牛丼しか作れないから、変わってやれんしな」

 

「いいんですよ。日課ですから。

 それじゃ美神さんたち起こしてきますね」

 

食事の支度を終えたおキヌは、この家の主人を起こすために台所を出る。

 

 

「おっ今日は鮭か。やっぱ日本の朝は鮭だよな~」

 

何気ない一日の始まり.....しかし、その日常はついに破られる時が来た。

 

起きてきた美神に今日の仕事を尋ねると、

東京タワー近くビルで仕事が一軒あるだけだった。

一見なにも怪しいところがない仕事であるが、その依頼主が問題だった。

井川建設.....どこにでもありそうな土建屋であったが

報酬の額をみると10億とある。

バブルがはじけ、長い不景気にある日本の土建屋で

このような額が出せるはずがない。

だが、この会社を調べると、富永グループつながっていることがわかった。

 

つまり、横島の霊力を狙うためもう一度挑戦してきたのだ。

美神は断ることもできたが、この仕事を断ってしまうと

日本の土建屋の大半が富永グループの影響下にある中、

今後土建屋から仕事が来なくなってしまうかもしれない。

 

それに断ったとしても、奴は何らかの理由を持っている以上

こちらをやりあうことは目に見えていることである。

ならば残された選択は仕事を受けるしかなった。

 

幸い美神事務所は日本最強のGSである美神を筆頭に死霊使いのおキヌ、

人狼のシロ、九尾の狐のタマモがいるため、戦力的にはどこの事務所にも負けない。

そして横島の文殊は三つあるため、残りの一つが出きれば

横島が復活して使えることができる。

 

これだけでも十分だが、まだ実力を出していないであろう浦島も戦力として考えれば

中級魔族が来ても戦える。

 

こうして美神事務所一同は朝飯を済ませると、愛車のシェルビーコブラに乗り現場へ向かった。

 

 

この時すでに美神はミスを犯していた。

それは相手が魔族であると仮定して、現場に向かったことである。

今回の敵は魔族や悪霊ではないのだ。

 

そしてもう一つ、相手の目標が美神ではなく、霊能力者であること....

つまり、全員がターゲットであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここにきて更新が遅くなってしまって、申し訳ないです。
最近仮面ライダーアギトの映画をひさしぶりに見ました。
G4役の岡本次郎さんの殺陣が、素晴らしすぎます。
春休みはRXを全話みたいですね。


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第二十一話「男はつらいよ(その四)」

東京某所、井川建設本社ビル

 

何の変哲のないその建物は、美神たちの前にそびえ立つ城であった。

 

おそらくこの中に富永が仕掛けた罠が待ち受けているだろう。

 

美神は霊能力者ならではの勘の良さがそう告げていた。

 

「じゃあ私とおキヌちゃん、シロ、タマモは除霊に行ってくるわ。

 横島クンと浦島クンはここで待っているのよ」

 

美神の作戦は、とりあえず仕事を引き受けに建物に入り

迅速に仕事を片付け、手薄になった横島たちを狙う富永の出方を見て

戦うというものだった。

 

もしも横島たちが襲われたとしても、

ボディである浦島が何とか時間は作ってくれそうなので問題はなかった。

 

 

「了解したぜ美神さん。俺は横島とここで囮になるってわけだな」

 

作戦の概要を聞き、了承する浦島。

相手の目的が横島である以上、罠が仕掛けてあるだろう建物の中に入るのは

こちらからしても不利である。

 

だったらいっそ弱点を外して、囮にしてしまえばいいというわけだ。

 

文殊もすでに三つあるし、最後の一個ができれば形勢逆転、一気に攻勢にも出れる。

 

しかし気になるのは、相手が霊体だけなら美神たちでも何とかなるが

それ以外の敵が来た場合はどうするということだった。

 

そう、たとえばシード怪人が悪霊と手を組んだり.....

 

 

 

第二十一話「男はつらいよ(その四)」

 

 

 

「お待ちしておりましたよ美神さん」

 

そういって井川建設のビルから出てきたのは、富永 恭一郎であった。

 

まさか敵の親玉が正面に出てくるとは、思わなかったので

美神も驚きを隠せないようだった。

 

「愛する人を守るため、神から与えられたこの姿.....その目に焼き付けるがいい」

 

一瞬にして異形の姿に変えた富永。

 

頭部から生える太く鋭い角。

 

雄々しく鉄板を重ねたように逞しい体。

 

地の底を揺るがすような咆哮が美神たちを襲う。

 

「牛鬼でござるか!!拙者が相手になるでござる!!」

 

右手の霊波刀で富永に斬りかかるシロ。

その霊気の刃は完全に相手を叩き斬ったかに見えた。

 

「コイツ.....霊体じゃないッッ!!」

 

霊体を感触が全くない....それはつまり相手にダメージを与えていないということになる。

攻撃を終えた隙を富永は見逃さなかった。

 

「喰らえ!!人狼!!」

 

頭部の太く鋭く尖った角を突き刺さそうとする富永だったが、

突然狐火が迫ってきた。

 

 

「ボケッとしてんじゃないよ!!バカ犬」

 

間一髪の所でタマモの攻撃がシロを救った。

 

「かたじけない!」

 

 

シロはすぐさま距離を置き、富永の攻撃が範囲から逃れた。

 

 

「違霊圧が全く雪之丞たちとは全く違う。なんなのコイツは.....」

 

今まで戦ってきた魔族とは違い、霊圧が感じられない相手に戸惑う美神。

目の前にいる怪物は明らかに自分たちを殺そうとしている。

 

「奴らはシード怪人.....己の欲望に最も忠実な生物兵器だ。

いくら美神さんでもこいつは止められない。早く逃げるんだ」

 

 

姿を表した敵を目の前にし、変身の構えをとる浦島。

だが、ソウルシードは横島の霊波を受けて動く気配はない。

変身不能.....おまけに相手は目の前で虎視眈々と俺たちを狙っている。

絶対絶命とはまさにこの状況のためにあるのだろう。

 

「もーダメだぁぁぁぁぁ!!!!死ぬ前に美神さんと一発やっッッッぶ!!」

 

 

「己は早く文珠を出さんかー!!」

 

人生の最後を悟った横島は獣のような速さで、美神を押し倒そうとするが

美神の華麗なカウンターパンチを受けて、地面にたたき落とされた。

もちろんダメージは肉体である浦島に蓄積される。

 

―絶体絶命のピンチで、美神さんは何かを待っているような感じだ。

 そうでなければ、この状況で横島の暴走を冷静に対処できないはず。

 一体美神さんは何を待っているんだ?

 

浦島の予想はこうだった。

美神は最初浦島たちを囮にしようとしていたのだから、

作戦は二段構えにしているはずだ。

例えば、囮の俺たちに襲いかかる悪霊を、

後ろから救援が到着して攻勢をかけることなど考えているはずである。

 

ならば話は簡単だ。

何かを待っているなら、何かが到着するまで時間を稼げばいい。

俺の武器はこの鋼の体だけじゃない。

波紋法やライトチェイサ―だってある。

奴を倒さなくたっていい時間を稼げれば勝機がある。

 

「時間稼ぎなら、こうすればいいじゃねーか」

 

その結論に達した浦島に対して、横島がある作戦に出る

横島はその場にあった布をライトチェイサ―の車体に結び、

バッファローシードに向かって発進した。

 

「そんなぼろ布が何だっていうんだ!!」

 

バッファローシードはそう口では言いながらも、

明らかに鼻息を荒くし、頭に血が上っていた。

そして向かってきた浦島へ突進を仕掛ける。

 

「かかりやがったなバカ牛め!!」

 

浦島はバッファローシードと衝突するギリギリのところで

ひらりと突進をかわし、闘牛士のように布をゆらして

バッファローシードを挑発する。

 

「貴様ぁぁふざけやがって!!そのバイクごと串刺しにしてやる」

 

完全に浦島たちの挑発に乗ったバッファローシードは、

浦島たちのことしか見ていない。

つまり注意をそらすことに成功したのだ。

 

「でかした横島クン、浦島クン。シロはおキヌちゃんを守って後方に下がって

 タマモは上空でヘリがこちらに向かってないか見張るのよ」

 

横島の機転と浦島のバイクテクニックで相手の注意を引き、

時間を確保することに成功した美神は、ICPOの西条に召集をかけてもらい

GSたちが集まるのを待っていた。

富永が魔物に魂を売っているとなれば、オカルト犯罪防止法違反により

日本の土建屋業界の信用にかかわる問題となる。

今や世界中に戦略を広げた富永グループが潰れてしまっては

多くの労働者が仕事をなくしてしまうだろう。

それだけは防ぎたいので、問題を起こした富永を秘密裏に逮捕し

グループは何も知らないままトップを交代させて存続させるという苦肉の策を

日本政府は取ることになり、美神に仕事を依頼していたのだ。

 

「日本政府からの依頼となれば、相当もうかるはずよ。

 バブルがはじけたんだから、こういう仕事もやってかないと

 GSだって厳しいんだから」

 

さらっとGSの内部事情をこぼし、契約金のことで頭がいっぱいになってきた美神。

その一瞬の気の緩みが後ろから迫り来る霊体の接近を許していた。

 

「美神さん危ないッッ!!」

 

霊体の接近に気づいたのは横島だった。

助けにいこうにも肉体である浦島はバッファローシードの攻撃をかわすので精一杯であり、

美神の危機に気づいていなかった。

おキヌやタマモも霊体の接近に気づいていない。

その場で霊体に気づいているのは横島ただ一人であった。

美神を助けれるのは自分だけ.....しかし文珠はまだ4つに達していないため

幽体離脱することはできない。

どうしようもない無力感が彼を襲っていたのであった。

 

「うるせーぞ!ナレーション!!俺の煩悩パワーを甘く見るな!!」

 

横島の煩悩が美神の体に集中した。

彼の霊力の源は並大抵ならぬ煩悩である。

これまでの戦いでもこの男の底力が戦況を逆転させてきた。

 

「あの体に傷つけなんてつけさせるかー!!」

 

足りなかった最後の文殊を生成するため、横島の全霊力が一つの塊となっていく。

 

「もう少し...もう少しで文殊ができるんだ!!」

 

あと少しの所で文殊ができるところで霊力の限界が来てしまう。

 

「浦島!!お前の力を貸してくれ!!」

 

「もうやってるぜ!!半身!!」

 

横島の霊力で足りなかった文殊がその姿を完全なものにした。

 

「サンキュー浦島!」

 

横島の拳に四つの文殊が握りしめられ、[幽][体][分][離]の文字が浮かび出てきた。

その効力が発動し、浦島の霊体と横島の霊体が一つのものから二つに分かれていき

横島の幽体は幽体分離に成功した。

 

「その乳は俺のもんだァァァ!!」

 

幽体となって美神の下にに向かう横島。

 

「やっと幽体分離したのね横島クン。これで形勢逆転よ!!」

 

「そんなことより、後ろから霊波が!!」

 

「わかってるわよ!!」

 

美神は神通混に霊力を込め、後ろから迫る来る霊体を薙ぎ払った。

霊体は神通混をよけ、霊体から女性の体が出てきた。

 

「恭一郎さん、どこにいらっしゃるの」

 

その霊体は紫の和服を着た色白の女性だった。

美神は長年の感からいって、この霊体はただ霊体ではないことを感じ取っていた。

 

「澄江!!あのルビーのおかげだ!君ともう一度会えるなんて」

 

「私もよ恭一郎さん。あなたの思いが私に届いたからよ」

 

浦島の挑発に見向きもせずに澄江の下へ走り出すバッファローシード。

その姿は富永の姿に戻っていた。

 

「僕の願いは叶った。次は君が願いをかなえる番だよ」

 

富永が澄江の細い体へ抱きつこうとする。

しかし、澄江はそれを拒絶するかのように後ずさりする。

 

「私の願いはもう死んでいるのよ恭一郎さん。あなたと触れ合うことなんてできない」

 

「生きていようが、死んでいようが関係ない!!体がないのなら僕と一つになればいい」

 

突然始まったとある夫婦の愛情劇にただ呆然とするしかない美神たち。

目の前でこんな体が痒くなるようなセリフを言われるんだから、

聞いている身として見ればたまったもんじゃない。

 

「なんスか?この夫婦...このまま成仏してくれないっスかね」

 

「私もそうあって欲しいけど、あの女何か裏がありそう」

 

今時いないような気品あふれる女性....。

男にとっては理想の女性像を体現した姿である澄江に悪い予感を抱いた美神。

その悪い予感は現実となって当たってしまう。

 

「ありがとう恭一郎さん。これで私はただの石から体を得ることができる」

 

ただの石....富永は耳を疑った。

 

「ただの石....何を言ってるんだ澄江、君はあの石を持つことによって

 霊界から僕に会うために戻ってきたんじゃないのかい。

 それとも君は澄江じゃないのかい!!」

 

「そうよ恭一郎さん。私は以前の澄江じゃなくってっよ。

 あなたが霊界から呼び戻したのは、澄江でも何でもないの。

 あなたが手に入れたルビー中に私はいたの。

 ありがとう恭一郎さん、私のために命をかけてくれて」

 

卑しい人間の笑みを浮かべ、高らかに笑いだす澄江。

そう彼女は富永の妻 澄江ではなく、横島の霊力を吸い取ったルビーに取りついていた

悪霊だったのだ。

 

「死んだ澄江を生き返させるために自分はあのルビーを手に入れ

 あの男から「種」をもらって、僕と君の中に入れた。

 すべては澄江のためだったのに、あのルビーの中にいる悪霊に

 実体を与えるために今まで戦ってきたなんて....」

 

真実を知り落胆する富永。その眼にはすでに光はなく、完全に生きる意味を失くした肉の塊であった。

 

「さようなら恭一郎さん、そしてようこそ私の肉体...」

 

富永の体に入り込む澄江。

肉体を持った悪魔はソウルシードという災いの花に新たな花を咲かせた。

 

「ん....あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

澄江の体にこれ以上にない至高な快感が駆け巡り、喘ぎ声が響き渡る。

 

「これが人妻の艶やかさか!!!敵だとわかっていても、こいつはたまらん!!」

 

これから戦うであろう敵に対しても、

性欲の対象としてしまう横島に呆れてものも言えない美神。

 

「悪霊とソウルシード....一体どんな姿となって俺たちに襲いかかってくるんだ....」

 

瀕死の少年に合体して誕生したフェニックスシードを始め、

超人と合体したタイガーシードや吸血鬼と合体したマウスシード。

それらは人間だけを対象としたものではなく、

願いや意志を持った者たちの心を栄養として、シード怪人として誕生していった。

そして今回は実体の持たない悪霊がソウルシードを植えられた者の体に

取りつくことによって、新たな怪人を生み出そうとしている。

 

「奴は人間の理性をぶっ壊そうとしているのか....」

 

 

澄江の体を花の蕾が覆い隠す。

そして一枚一枚花びらが開いていき、最後の一枚が開いた。

そこにいたのは富永の変身した姿であったバッファローシードと同じ姿でありながら

その手には巨大な斧を持ち、体は女体化している怪物が立っていた。

 

「あの女...元々咲いていた富永のソウルシードが澄江の意志を吸収して

 あの姿になったというのか?」

 

浦島の推測は正しかった。いったん咲いたソウルシードは富永の精神的死により

衰弱したが、澄江の欲望によって新たに栄養が与えられたため、再び花を咲かせることができたのだ。

 

「いい気持ちだわ。この姿はさっきの男と同じだけど

 体中からこみあげてくるエネルギーが違うわ。

 あいつはバッファローシードとか言っていたけど、

 今の私はそんな名前は弱そうな名前は必要ないわ。

 ミノタウロスシード....これが私の新たな名前よ」

 

浦島たちに立ちふさがったミノタウロスシード。

この悪霊とシード怪人が合体した怪物に、浦島と美神たちは勝てることができるのか?

戦いのゴングは鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 




長いスランプからやっと解放されました。
GS美神の新エピソードが出るまでには書いておきたいと思っていたのが、
いつの間にか発売日当日まで書けなくなってしまい、
まさか一か月の間をおいてしまうなんて思いもしませんでした。
せっかく読んでくださる読者の方々に申し訳ないです。
誰か文殊で私の執筆スピードを上げはくれないだろうか(笑)

それからGS美神編のサブタイトルですが、
「男はつらいよ」で統一しました。
理由は簡単、いいタイトルのネタを考えれませんでした。
椎名先生みたいに、色んな方面からネタを持ってきたいです。


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第二十二話「男はつらいよ(その五)」

「ミノタウロスなんて、笑わせてくれるじゃないの...」

 

美神の目の前にいる敵は中級魔族に匹敵する霊圧を発しており、

とても誕生したばかりの魔族とは思えなかった。

 

「ケモノ耳に、はち切れんばかりのバスト....魔族だとわかっていてもたまらん!!」

 

横島は浦島と分離したため霊体だけの存在であったが、

肉体があろうとなかろうと、煩悩に突っ走るのがこの男だ。

数多くの己の命の危機を乗り越えたからこそ、こんな場であっても

敵の怪人に欲情できるのだ。

 

「のんきなこと言ってるけど、あんたがあいつを倒さないと

 あの宝石に取られた分の霊力が戻ってこないのよ。

 そのためにも、ここに西条さんに頼んであんたの肉体を冷凍しているカプセルを

 運んでもらっているのに、あんたって奴は人の苦労を....」

 

バッファローシードが妖怪化してくれたおかげで

こちらの攻撃も通じるようになったのは好都合だったが、

今回の作戦目標である横島の霊力奪還ができない以上、

ミノタウロスシードを倒すわけにはいかなかった。

IPCOのヘリも来ていないようだし、ここでミノタウロスシードを

横島を近づかせるわけにはいかない。

 

「要はヘリが来るまでミノタウロスシードを足止めすればいいわけだな」

 

浦島の腹部に変身ベルトが出現する。

もう横島という霊体はいないため、ソウルシードは正常に動くはず。

ならば戦わない道理はない。

深く深呼吸をし、構えを取ってスイッチを入れる。

 

「変身ッ!」

 

その言葉とともに、浦島の体は人間の姿から一瞬にして仮面の戦士と変えた。

 

 

第二十二話「男はつらいよ(その五)」

 

 

「俺は仮面ライダーLOST!

 ミノタウロスシード、俺の相手はお前だ!」

 

「あんたの『種』には興味ないわ。そこの坊やの霊体を吸い込みさえすれば

 私は文殊を手に入れることができるの。

 そうすれば私は肉体を永遠に持つことができるわ。

 あんたたち人間には、わからないでしょうけどね!!」

 

ミノタウロスシードが持つ大きな斧がライダーに襲い掛かる。

見るからに威力のありそうなその斧を食らってしまうことは、そのまま死に直結する。

 

「だったら攻撃される前に、攻撃してやればいい。

 刻むぜ!!熱き血潮のビート!!波紋疾走ライダーパンチ!!」

 

練り上げた波紋を右手に集め、放ったその拳はミノタウロスシードの腹部に

確実に命中した。

 

「おバカさんね...わざわざ私に生命エネルギーを送り込むなんて」

 

「効いていない!?そんなバカなわけあるか!!」

 

魔族や悪霊と戦うためには波紋を帯びた攻撃が必要不可欠。

だが、この魔物は波紋を通さないのだ。

 

「次は私の番よ」

 

ミノタウロスシードはライダーを蹴り上げ、斧の柄の部分で殴りつけようと襲い掛かる。

ライダーはとっさに攻撃をガードして、防戦態勢に入った。

 

「美神さん!!まずいですよ!!」

 

「わかってるわ!うちの従業員がやられていて手をこまねいているだけなんて

 私はいやよ!!浦島クンには一週間分の食料費を払ってまらわないと困るんだから」

 

美神は神通棍に霊力を込め、ミノタウロスシードに一太刀を浴びせた。

 

「美神令子、あんたの霊力もいっしょよ。

 すべてのエネルギーは私の血となり肉となるのよ」

 

「だったら、あんたに攻撃は通用しないじゃない!!こんなの卑怯だわ!!」

 

―あの美神さんでさえ卑怯と言わせるミノタウロスシード。

 霊力が通用しないとなると俺達GSじゃ敵わない相手なのか....

そんなバカなわけない!この女に不可能はないんだ!

 

いつだって美神令子という女は不可能を可能としてきた。

それは彼女がけして最後の最後まであきらめなかったからだと横島は気づいている。

卑怯だろうがなんだろうが、最後に必ず美神は勝つ。

そのために彼ができること、それは.....

 

「横島!!西条のヘリが来たわよ!!」

 

上空でヘリが見えたタマモの報告を聞いて、横島はある作戦を思いついた。

一か八かの賭け、それでもやってみる価値はあった。

横島はこちらに向かってきた自分の肉体のあるヘリへ向かった。

へりにはパイロットとICPO通称オカルトGメンの西条が乗り込んでいた。

 

「横島クン!君の肉体はこのカプセルの中に入ってる。

 僕個人としては、君にはその姿がお似合いだと思うが

 残念ながら先生からの圧力で素直にこの肉体を渡さねければならない。

 本当に残念でしょうがないが、これも令子ちゃんのためだ。受け取りたまえ」

 

「西条の野郎。そこまで俺のことが嫌いか...。

 今それどころじゃない。とにかく俺の体は受け取るぜ」

 

横島はカプセルの中にある自分の体へと入っていった。

肉体と霊体が完全に融合し、起き上がる。

 

「やっぱ自分の体が落ち着くな。

 西条!早速だがこのヘリをあそこで戦ってる美神さんたちへ向けてくれ」

 

美神事務所の一番弟子である横島は、師匠である美神が手こずる相手にどう戦うのか。

ヘリは美神の下へ向かう。

 

 

 

 

 

波紋と霊力が通用しない相手にどうする事も出来ない美神とLOST。

攻撃が通じない相手なんてあり得ないはずだが、

手段がない以上ミノタウロスシードの攻撃をかわしていくしかない。

 

「ちくしょう!どこに波紋を叩きこんでも奴はビクともしない。

 一体どうしたら奴にダメージを与えることができるんだ?」

 

「ダメージを与えていないはずないわ!

 エネルギーを吸収するルビーが奴の本体なら、

 攻撃を与えていけば必ず体内に隠れている本体が出てくるはず。

 だが、どんな攻撃もミノタウロスシードにとってはエネルギーは餌でしかない。

 本体さえ見つければこっちのものよ」

 

その本体が見つからない以上勝機はない。

一体どうすれば奴の本体を探すことができるのか。

万策尽きたかと思われたその時!

 

「美神さん!避けてください!!」

 

ヘリから首を出しているのは横島であった。

その横には西条もいる。

 

「ちょっとあんた達何する気?まさか....!」

 

「そのまさかっスよ!!」

 

横島たちを乗せたヘリは超低空飛行で突っ込んでくる。

 

「そういうことなら手伝うぜ!」

 

横島の狙いはこのヘリをミノタウロスシードに特攻させて、

物理的にダメージを与えさせること。

ならばミノタウロスシードに直撃させなけれその攻撃は意味がない。

ライダーはミノタウロスシードを抑え込んだ。

 

「はなせ!仮面ライダー!!貴様も巻き添えをくらうのよ

 人間どもに何の理があって貴様はそこまでできるのよ!!」

 

ミノタウロスシードを盾にしているとはいえ、

LOST自身にもダメージは相当負うはずだ。

 

「何の理があって人間を守るかって.....そんなこと決まってるじゃねえか。

 自己中でケチだったり、煩悩でだらけでやることがセコイ人ばっかだけど

 自分の欲しいものは全部自分で手に入れようと戦っているんだぜ。

 てめーみたいに他人の力で、他人の悲しみを利用し、

 自分の傲慢を築いてる人たちじゃないんだ。

 俺はあの人たちの生きる強さに価値を見出した。

 ただ....それだけのことなんだ!!」

 

 

「くたばれ化物ー!!!」

 

ヘリの操縦感は横島に握られ、

ミノタウロスシードに直撃する寸前に脱出する西条とパイロット。

 

「く....くるな....くるな!!!!」

 

ミノタウロスシードへとへリは突撃し、大爆発が起こった。

大都会東京でこんな騒ぎがあっては、警視庁やGS協会も黙っていない。

遠くからサイレンの音が聞こえてくる。

事件は二人の男の尊い犠牲によって幕は閉じた。

彼らのことは人々も永遠に忘れないだろう。

その20数年の命を犠牲に東京都民800万人の命を救ったのだから。

 

「そんな....横島さんと浦島さんが見つからないなんて」

 

「先生たちは拙者たちを守るために犠牲になるなんて、

 拙者は何もできなかったのでござるか?」

 

「人間って本当に馬鹿ね。なんでもっと自分の命を大切にしないのよ....」

 

燃え盛るヘリコプターの残骸を見つめ、悲しみにくれるおキヌたち。

だが、美神はその現実を飲み込もうとしなかった。

 

「大丈夫よ。あのバカたちならきっと生きているわよ。

 きっとその辺に埋まって『あー死ぬかと思った』とかなんとか言って

 出てくるに決まっているわ....」

 

生身で大気圏に突入したり、自分よりも何倍も強い相手に戦って生還してきた男が

そう簡単に死ぬわけない。

 

そう....簡単に死ぬわけないのだ。

 

「あー死ぬかと思った」

 

ヘリの瓦礫の中から出てきたのは横島忠夫その人である。

誰もが死んだと思っていたので、突然の出来事に声が出なくなってしまった。

 

「いやー最後まで文殊が出なかったので、死ぬかと思ったんスけど

 そういえばカオスのおっさん特製のカプセルがあるんだから、

 それで何とかならないかな―と思って入ったら、爆風を防げたのはいいスけど

 瓦礫の中に埋まっちゃって、危うく窒息死するとこでした」

 

これだけの爆発で目立った外傷が一つもないのだから、相当な運の強さである。

 

「でー浦島はどうしたんスか?あいつの姿が見えないんですが」

 

 

「浦島クンは....まだ......。

 ミノタウロスシードは倒したはずなのに....」

 

ミノタウロスシードのエネルギーの塊であった宝石の残骸は発見されており、

この場に霊的反応がないことから消滅したのであろう。

横島の決断は間違っていなかったわけだ。

 

「そんな...俺が奴を殺したっていうんですか?俺は....」

 

浦島を不可抗力ながらも殺してしまった罪悪感が横島を襲う。

世界にために愛する人を犠牲にし、今度は浦島まで....。

 

 

「そう簡単には死ねないさ」

 

どこからともなくライトチェイサ―を引き連れて現れたのは、

変身を解いた浦島であった。

 

「浦島さん、生きてたんですね!」

 

「もちろんさ。こいつが爆発する直前に俺をかばってくれて助かったわけだ。

 さすがスーパーマシンだぜ」

 

煤だらけになりながらも自力走行するライトチェイサ―を褒める浦島。

気のせいか機械のはずのライトチェイサ―も喜んでいるような気がする。

 

「これで全員生還したわけだし、ささっと日本政府に報酬をもらいに行くわよ!」

 

仕事は終わり、すべては終わったかと思われた。

だが、彼らは肝心なことを忘れていた。

ミノタウロスシードの実体ともいえる宝石が砕けたといっても、

この怪物はすでにシード怪人である。ならばソウルシードを破壊しない限り、

ミノタウロスシードは倒されたことにはならないのだ。

 

「まだ....終わってないわよ....」

 

燃え盛るヘリの残骸から出てきたのは、ミノタウロスシードであった。

体は爆発の衝撃でボロボロとなっており、歩くたびに足が崩れていくありさまだったが、

その執念に満ちた顔から察するに、まだなにか隠し玉があるのだろう。

 

「まだ生きていたのかミノタウロスシード!変身ッ!」

 

一瞬にして仮面ライダーと姿を変えた浦島であったが、

やはりあの爆発の中を無傷で生き残れるのは無理だった。

体を覆う装甲の再生が終わっていないため、満身創痍の状態で戦うことになる。

 

「一発で決める。ライダーキック!!」

 

自分に残されたエネルギーが僅かばかりであるため、最後の力で必殺の一撃を放った。

 

「ギャァァァァァァ!!!」

 

その一撃はむき出しとなったソウルシードを粉砕した。

暴発するエネルギーがミノタウロスシードの体を焼き尽くし、ソウルシードとともに

ミノタウロスシードは爆発の中に消えていった。

 

「終わったか....」

 

ソウルシードの爆発の中から、

この世界の扉を見つけた浦島に一つの霊体がその背中を襲う。

 

「おバカさんね!!肉体が滅んでも、もとが霊体の私には0に戻ったのと同じことよ。

 あんたには最後の力も残されていない。あんたの体を乗っ取って、

 私はまた復活するわ。死ねぇぇ!!仮面ライダーLOST!!!」

 

実体を持たない霊体となって浦島を襲う、ミノタウロスシードの執念はすさまじく

変身エネルギーを失くしてしまった浦島にはどうする事も出来ない。

 

「しつこい悪霊ね。あんたにはこれ以上この世界にいさせることはできないわ。

 このGS美神令子が極楽に往かせてあげる!!」

 

美神の神通棍に霊力をこめ、ミノタウロスシードだった悪霊にとどめの一撃を放った。

悪霊は断末魔とともにその身を消滅させ、二度と光が照らせれない場所へと戻っていった。

 

「これで本当に終わりっスね美神さん。

 ひさしぶりの自分の体の感覚を確かめるためにも

 美神さんのその体で試させてください!!!!!!」

 

「体が戻ってもあんたはそれかー!!!」

 

美神の鉄拳が横島の顔面に入り、横島はそのままノックダウンした。

何気ない美神事務所の一日がようやく戻ったのだ。

 

「あれっ浦島さんは?」

 

おキヌが浦島のいないことに気づき、あたりを見渡すが

それらしい影はどこにもいなかった。

 

「まだお別れも言ってないのに、どこに行ったんでしょう?」

 

「おキヌちゃん、あいつは別れもなしに消える奴じゃないさ。

 またどこかで会えるからきっと何も言わずに行っただけなんだよ」

 

「そうよおキヌちゃん。浦島クンには一週間分の食費や

 ガソリン代のつけだってあるんだから、ちゃんと返しに来るはずよ。

 返しに来なかったら、地獄の果てまで追い回してでも払わせてやるわ」

 

「結局金なんですか.....」

 

美神の守銭奴ぶりは毎度のこと思いながらながら呆れつつ、事務所へと帰る美神たち。

いつの日かまた坊主頭のあの男に会えることを願いつつ、

彼らは明日を迎えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




GS美神編終了しました。
主要人物のほとんどを思うように動かせないまま終わってしまい、
自分の文章能力のなさ涙が出ます。

先週号と今週号に掲載していたGS美神の読みきりですが、
MR,ジパングや一番湯のカナタからもキャラが出てくるとは
思いませんでした。

ギャグのセンス往年のキレのままでしたし、また機会があったら読み切りを作ってほしいです。

次回からは地獄先生ぬ~ベ~編です。
内容を考えるにあたって文庫本で全巻読み直しましたが、
メイキングオブぬ~べ~で真倉先生岡野先生が主人公の性格を把握するのに
30話近くかかったことを聞いて、若干迷走中の主人公のキャラクターを
正すヒントになった気がしました。
それと、そろそろライバルキャラを出そうかと思います。
詳細はまだ考えていませんが、モチーフは「侍」にしようと思います。


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正義衝突編
第二十三話「正義とは」


仮面ライダーLOST...浦島空也。

 

彼はGS美神の世界から突然はじき出され、あの不思議な空間の中にいた。

 

無数の扉があふれている空間。それらの扉はどこかの世界につながる扉であり、

そこには必ずZと呼ばれる男が作り出したシード怪人が待ち構えている。

彼に扉を開けないという選択はない。

なぜなら彼は、仮面ライダーの宿命を背負い孤独の中で戦っているからだ。

彼の願いは『Zの野望を止めること』そして『父の死の真相を確かめること』

この二つのために彼は戦っているのだ。

 

『Zの野望を止めること』...そこに何の意味があるのか?

野望を止めた時、彼は鋼鉄の体でどこに行くのか?

彼の正義ははたして本当に正しいのか?

 

それが次の世界で試されるのであった。

 

 

第二十三話「正義とは」

 

 

「い...一体なんだこの世界は?」

 

扉を開けた浦島が入り込んだ世界。

空は厚い雲に覆われ、太陽の恵みは大地に届かず植物ひとつ咲いていない。

そこにあるのは、首のない仏像が無残にも横たわるだけだった。

文明の墓標...そんな言葉がふさわしいのかもしれない。

 

「誰か人はいないのか?」

 

浦島は破壊された建物の中に人がいないかどうか確かめるため、

すでに荒廃した寺院に足を踏み入れた。

建築様式からから察するに、こここはどうやら日本ではないアジアのどこかであることがわかった。

そして白骨化した無数の死体が供養されることなく放置されており、

何者かの襲撃を受けてこうなったのは確かだった。

 

「惨いな...老若男女すべてが殺されている。まさかこんな虐殺が行われているなんて」

 

力なき者たちの末路。

それは人類の歴史から何度も繰り返してきた悲劇だ。

我々人類がほんの少し前まで平然と行っていた行為が、

改造人間になるまでただの学生であった浦島の心を痛まさせていた。

彼にとって虐殺などという行為は、あまりに衝撃的だったのだ。

そして同時に、この虐殺を行った者たちを突き止めるべく、浦島は現実と向き合っていた。

 

しばらく寺院の中を探索すると、首をもがれた大仏が横たわっていた。

そしてそこにすがるようにして死んでいった者たちの遺体が所狭しと並んでいた。

無情にも仏に助けを求めた彼らに、仏は何もできなかった。

その現実だけが浦島の目の前に広がる。

 

「力なき者は、殺されていくしかないのか....」

 

弱肉強食が世界の真理であり、浦島の目に移る光景は力なき者たちの行く末でだった。

生物である以上争わなくてはいけない。

ならば強き者の力こそがすべてなのか。

 

「それは決して違う」

 

彼は弱者の味方『仮面ライダー』を名乗る者だ。

人類を悪の結社の魔の手から守り続けた英雄の名を受け継いだ者ならば、

彼の思いは一つ『悪の手から人類を守ること』である。

そこに一切の迷いなどなかった。

 

ドダダダダンッッ!!!

 

建物の奥から破壊音が聞こえた。

浦島は今までの勘から、破壊音が聞こえた場所に助けを待つ人がいる確信があった。

急いで奥の部屋に向かうと、そこにはライオンの怪人が一人の少年の前に立ちふさがっていた。

 

「大丈夫か!!」

 

浦島はおそらく恐怖のあまりに動けないに少年に語りかけ、意識を取り戻させた。

 

「ドージェさんが....」

 

少年が指さす先には、修行僧の生新しい死体がそこに倒れていた。

この少年と死んだ修行僧がなぜここいるのかはわからないが、

間違いなくいえることは、この修行僧はライオン怪人に殺され、

ライオン怪人の次の獲物はこの少年であった。

 

「変身ッッ!!」

 

変身ベルトからまばゆい光があたりを照らし、ライオン怪人の視界を遮る。

そしてその光が収まると同時に、浦島の体は仮面ライダーの姿となった。

 

「いくぞ!ライオンシード!!」

 

今まで戦ってきたシード怪人と姿が共通しているため、

間違いなく元の人間はZとの接触があったと思われる。

何があってこの姿になったかわからないが、

人を殺める化け物である以上倒さなくてはいけない。

 

浦島は先制攻撃を仕掛け、そのまま近接戦闘に入って攻撃を加える。

ライオンのシード怪人であるため、素早さでは負けることが予測され間合いを先に詰めされては不利になる。ならば、こちらから仕掛けていくしかないという判断からきたものである。

 

「ライダァァァパンチッッ!!」

 

その拳は全く避けられることなく、あっさりと命中した。

まるで元から攻撃を避けるという行動を選択していないようだった。

正面からライダーパンチをくらったライオンシードは壁まで吹き飛ばされた。

埃が舞ってタイガーシードの姿を確認できないため、いったん距離を置いて迎撃に徹することにした。

しかし、そんな浦島の考えとは真逆にライオンシードは壁にめり込んだまま動こうともしなかった。

 

「いったいどういうことなんだ??」

 

今まで自分に敵意がある者としか戦ってこなかったため、

ライオンシードの行動に対してどう対応したらよいかわからなかった。

このまま一気にライダーキックで倒してしまうのがベストだが、

果たしてそれは本当に良いことなのか?

無抵抗の怪人を倒すことが仮面ライダーとして正しい行動なのか?

浦島は戦いの最中で迷いが生じてしまった。

 

「グアアアアアアア!!!!」

 

ライオンシードは素早く突進し、ライダーを左腕をその鋭い牙で捉えた。

 

「しまった!!」

 

油断大敵。命がけの勝負では迷いがあったものが負けるのだ。

そんなことはわかっていたはずだったが、人間としての甘さがライダーにピンチを招いていた。

ライオンシードの噛みつきにより、腕の骨がどんどん軋んでいく。

このピンチを脱出するためには、この状況を生かすしかない。

敵の懐に入りこんでいるのだから、敵の急所に攻撃すれば良いのだ。

 

「ライダァァチョップ!!」

 

「ギャァァァァァ!!!」

 

残された右腕でライオンシードの喉元を切り裂くと、真っ赤な血が大量に噴出した。

その光景はまるで火山の噴火のようであり、返り血がライダーの体に浴び、純白であったマフラーが真っ赤に染まってしまうほどだった。

 

「はぁはぁはぁ」

 

ライオンシードは力尽き、ソウルシードは体外に放出され一気に腐っていった。

彼がどういう事情があったかはわからないが、ソウルシードを植えられたばかりに、こうして葬るしか彼を救うことはできないのだ。

浦島はそう考え、自分の罪を背負う。

仮面ライダーである以上、同族殺しの罪は免れないのだ。

神も仏も浦島の罪はけして許してはくれないだろう。

彼はソウルシードをばらまく張本人であるZを倒すまで、戦い続けなければならないのだ。

 

「おーいテンジン、大丈夫か!」

 

ボロボロの民族衣装を身に着けた老人が浦島と少年がいる場所へ向かってくる。

老人は少年の姿を見つけると彼を大事そうに抱擁した。

おそらく孫と祖父の間柄なのだろう。

 

「こちらで恐ろしい叫び声が聞こえたと思ってきたら、テンジンがこんな化け物に襲われていたなんて....あんたが助けてくれたのか日本人よ」

 

「俺も叫び声が聞こえたから、ここに来たんだ。

そしたら口元を長いマフラーで覆った男がその怪物から少年を守ってくれていたんだ。

 

「あんたが何者かは分からないが、早くここから逃げたほうがいい。

奴らに見つかったら、問答無用で殺されてしまうぞ」

 

『奴ら』とはいったいなんのことだ?

 

怪人なら倒したはずだが、もしかしたらもう何体かいるかもしれない。

そう考えた浦島は、老人に対して自分が日本から来た学者であると言い、しばらくこの辺の歴史的調査をしたいので家に泊まらさせてくれと頼んだ。

 

老人はただ一言

 

「飯は出せないぞ」

 

とだけ答えると浦島を自分の家に泊めることを承諾した。

ここがいったいどこであるのかを調べるとともに、なぜこの地で虐殺が行われてたのかを調べる必要があった。

浦島は老人と少年とともに廃墟を後にした。

 

 

彼らの姿を瓦礫と化した仏塔から見守る男が一人いた。

大日本帝国海軍第二種軍装を纏い、腰には大太刀と小太刀がぶら下がっている。

古めかしい鞄を左手に持ち、二本の足は鋼鉄のブーツを履いている。

深くかぶった海軍帽から見えるその瞳は鷹のように鋭く、真っ直ぐな眼をしていた。

 

男の名は菊水 正次郎(きくすい しょうじろう)

 

 

「......東方に敵影あり、我迎撃に向かう」

 

菊水は浦島たちに背を向け、自らが進むべき道をとった。

敵......この世界に潜む本当の敵を討つべく、戦闘用高速自動二輪車「火龍(かりゅう)」に飛び乗ると、普通の二輪車ではありえない超加速で現場に向かった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

一発の銃声が静かな山に響き渡る。

この神々しい山ではかつて争いなどなかったはずだった。

だが、奴らが来てからすべてが変わった。奴らには文明の力がある。

文明の力は未開の物たちにとっては、傲慢すぎるほどの力となって襲い掛かってくる。

それは今こうして、民族衣装を着た女が必死に夜の山を逃げ回っている状況からも言えることだ。

現在はこの地に人を襲うような獣は、存在していないのにも関わらずだ。

昔はトラなどがいたそうだが、今や奴らに毛皮とされこのあたりのトラは全滅してしまった。

では、彼女を追う者はなにか?

それは獣より恐ろしく、残忍な者......悪魔であった。

 

「久しぶりの獲物だ!!傷は付けるなよ」

 

軍服を着た男たちが、まるで狩りを楽しむかのように女一人を追いかけている。

襟に階級章があるため、一応軍人であったが、その姿はただの野盗にしか見えなかった。

 

「このあたりの女は、大体収容所に連れていったと思ったんだがな......まだあんな上玉がいたとは」

 

「まったくだぜ。おかげで俺たちが思う存分楽しめるんだから、感謝しなければなあ~」

 

「わかっていると思うが、本部には報告するなよ」

 

男たちは徐々に彼女を追い詰めていった。

パニックになり、冷静さを失っているウサギと、狩りを楽しむ狼とでは、勝負はついていた。

 

「追い詰めたぜ、お嬢さん。おとなしく俺たちと楽しもうや」

 

四方を男たちに囲まれた彼女に逃げ場はなかった。

 

「助けて!!」

 

その言葉も人里から遠く離れたこの場では、意味を成さなかった。

そして何より、このあたりの若い男たちがすべて彼らによって殺されており、自分を助けてくれるものなどいないことなど知っていた。それでも彼女は、助けを求めた。

 

「神なんて、大事な時に助けにきてくれないんじゃ、祈っててもしょうがないないんだよ。大人しく俺たちの餌になるんだな」

 

男の一人がそう言うと、軍服を脱ぎ捨て怪物へと変身した。

目が膨張し、顔を覆うほど大きくなり、背中からは羽が生えてきた。

その姿は、ハエとなっていた。

一歩一歩と彼女に近づくハエ怪人。

そこへ爆音とともに一人の男が割って入ってきた。

 

「それ以上、その女性に近づくな」

 

その男は菊水 正次郎であった。彼は火龍から降りるとハエ怪人に対して、眼だけ制した。

 

「ふざけるな!憎き帝国の格好なんてしやがって、ぶっ殺してやる!!」

 

ハエ怪人の隣にいた男が菊水に向かって、肩に下げていた小銃の引き金を引いた。

わずか数mの距離であるため、男は白装束を真っ赤に染めることができたと、確信していた。

 

小銃が火を噴いた瞬間、菊水は己の腰にある刀を抜き、その銃弾を真っ二つに切った。

人間技ではない......この場にいる誰もがそう思った。

 

「貴様のその言葉、その行動......来世で反省するんだな」

 

菊水は刀を鞘におさめ、ただ火龍に搭載されていた鞄に触れた。

 

「電着!!」

 

その言葉とともに、鞄の中から鎧と触手が出てきた。意志を持ったように、菊水の体を触手が覆うと、触手は鎧と菊水の体を接続する生体細胞になり、鎧と菊水が合体し、一人の戦士がここに誕生した。

 

天・地・雷・鳴

 

強化外骨格独特の光沢が菊水の迷いなき覚悟を現し、両肩になびく純白のマフラーは、そのけがれなき心を示している。腰の刀は、さらに切れ味を増し、鞘に眠っている。

額には<義勇>の二文字書かれていた。

 

「覚醒式強化外骨格、雷雲!!」

 

その雷は弱きものに闇夜を照らす一筋の光となり、強きものには天地を汚した神罰となるのだ。

 

仮面ライダーと強化外骨格戦士......相いれないはずの彼らが、この神が滅んだ世界で出会った。

 

 

 

 

 

 




半年振りの更新です。
何度もやめてしまおうか迷いましたが、きっといるであろう読者の方々の期待を裏切るわけにはいかないので、なんとか文章量を十分にして書いたつもりです。
最後に強化外骨格が出てきたので、覚悟のススメの葉隠覚悟もそのうち出すつもりです。
前話のあとがきでは「ぬ~べ~編突入」告知していましたが、作者の力量ではオカルトものは難しいと判断し、当分は書かないことにしました。GS美神編も後から読み返すと、酷かったもので.......。



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