カミカゼエクスプローラー 無のメティス (簾木健)
しおりを挟む

騒がしいプロローグ

一話長いなwwww

作品があまりメジャーじゃないため原作のプロローグをほぼほぼ持ってきているためこの長さになってますが今回きりにするので出来れば読んでください!!!

本当にすみません!!

ただこの作品を通して多くの人に原作を知っていただきプレーしていただければ幸いです!!


「うるさい・・・・」

 

静かだがよく響く声。そこにいた全員が彼を見ていた。彼の顔は怒りで満ちている。

 

「たく・・・折角静かな場所と思ってここに来たのになんだよこのどんチャン騒ぎ。おれに恨みでもあんのか?」

 

その彼は全員を見据え・・・睨みつける。

 

「なんでお前がここにいやがる・・・・?」

 

そこにいた男の一人が静かに聞く。その体はわずかに震えていた。

 

「寺坂先輩に海老名先輩。それに沖原と姫川と見ない顔だな。さらには祐天寺たちか」

 

彼がそこにいる全員を見渡す。そして思案顔になってから少しして先輩と言われた二人を睨みつけた。

 

「なるほど。先輩たちが喧嘩かタイマンかよくわからねえがしててそれを近頃何でも屋みたいなことをしてる祐天寺たちが止めに来た。姫川たちは先輩たちの喧嘩に巻き込まれたってとこか」

 

彼は正確に状況を把握して先輩と呼ばれた人たちのところに歩き出す。

 

「ちょっと待て。祐天寺だって爆発なんか起こしていたぞ!!」

 

「そうだ!!おれたちだけじゃなく祐天寺も・・・」

 

「元はあんたたちのせいだろうがゴチャゴチャ言ってんじゃねえぞ」

 

彼がゆっくりと近づいていく。彼との距離が詰まると二人の体がさらに激しく震える。

 

「とりあえず憂さ晴らしだ。相手してやるよ先輩方!!」

 

彼の目は文字通り赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

------Keizi side

 

 

 

上ヶ瀬市街からバスで揺られること30分。大きな橋を越えて近代的なビルが建ち並ぶ最新鋭の街、そしてその中心となる学園・・・海面上昇の影響で水没した上ヶ瀬の沿岸部を、埋め立てて作られた複合型学園都市がここ『澄之江学園都市』だ。正確な地名は『上ヶ瀬市澄之江学園都市町』となる。埋め立てられているんだから当たり前だけど、水没してたなんて面影は全くない。

 

「さて・・・汀さんんの話だと、お出迎えの人がいるはずなんだけど」

 

 

「あの・・・」

 

 

「あ、はい――」

 

声の主を振り返って、俺は言葉を詰まらせる。

 

「人違いならごめんなさい。もしかして、転入生の速瀬慶司さん・・・・でしょうか?」

 

な、なかなかかわいいじゃないか・・・・・。パッチリとした目に腰ほどまで伸びている髪・・・・しかも出るところはしっかりと出た身体。別にかわいい女の子を求めて転入を決めたわけじゃなかったけどこれはこれで価値があったっていうか――

 

「す、すみませんっ。人違いだったみたいですね。本当に申し訳ありませんでしたっ」

 

「あっ、いえいえ。私が速瀬慶司です。申し訳ありません、ぼーっとしちゃって」

 

相手の勢いに押されて、つい馬鹿丁寧に『私』などと言ってしまったが、どう見ても同い年くらいだよな・・・・。澄之江の制服着てるし

 

「よかったぁ・・・・。間違えちゃったと思いました」

 

女の子は大きな胸をほっと撫でおろすと、改まった様子で俺に向きなおる。

 

「ようこそ、澄之江学園へ!」

 

「私は姫川風花。速瀬くんが転入する2年A組でクラス委員をやっています。よろしくお願いしますねっ」

 

これ以上ないほどの爽やかな笑顔と共に右手が差し出された。同年代の(しかもかなりかわいい)女の子との握手に、一瞬気恥ずかしさを感じたが、俺はなんとかそれを隠して姫川さんの右手を取る。うわ、すべすべでやわらか――

 

「――っ」

 

「?どうかしました?」

 

なんだ?静電気か・・・・?姫川さんと手を繋いだ瞬間、身体中になにかが駆け抜ける感じがした。

 

「いや、ちょっと緊張しちゃって・・・・。これからよろしく姫川さん」

 

「はい、こちらこそ♪」

 

彼女の方は、特になにも感じてないようだ。まあ、気にしないでいいか・・・・。

 

「速瀬くんは荷物はそれだけなんですか?」

 

握手した手を放しつつ姫川さんが聞いてきた。俺は今、ミドルサイズのショルダーバッグを一つ肩にかけてるだけ。中に入っているのも、転入手続き関係の書類とハンドヘルドPC、それと読みかけの小説くらいのもので大した重さはない。

 

「ほとんど引っ越しの荷物と一緒に送ってしまいましたから。寮の方に届いているじゃないかと思いますよ。もっとも、そんなに大層なものは持ってきてないんですけどね」

 

「あはは、寮の部屋ってあんまり広くないですしね」

 

「ええ」

 

「じゃあ、このままご案内しますね。本当はまず担任の先生のところに行くべきなんですけど、急な職員会議になってしまったそうなんで」

 

「はい、お願いします」

 

そんなわけで俺は、姫川さんの後をついて澄之江学園の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「校舎内はこんな感じ。まだそれなりに新しいから、結構綺麗でしょ?」

 

「確かに・・・・。ふ~ん、なかなかお金もかかってそうな・・・。あ、祐天寺財閥の資本が入ってるんでしたっけ?」

 

「うん、祐天寺の他にも武菱とかトヨハラとか・・・あ、あとCSCってところが積極的みたいですよ?」

 

「CSCって・・・ああ、警備会社でしたっけ?最近、CMでよく見る」

 

「そうそう、それです。汀先生もCSCの出向なんですって」

 

「へぇ・・・なるほど」

 

汀先生というのは、俺をこの学園に誘った汀薫子さんのことだろう。澄之江学園のエージェントだという紹介だったから、在校の生徒とはそんなに面識がないと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。

 

 

 

 

ガラガラ・・・・

 

 

「はい、ここが私たち2年A組の教室。速瀬くんは、明日から転入なんですよね?」

 

「その予定です」

 

「部屋も片づけないといけないのに大変ですよね・・・。私も手伝えるといいんだけど・・・男子寮には入れないし」

 

「ありがとうございます。でも、荷物も多くないんで大丈夫ですよ」

 

「ふふふ、同室の人とも仲良くなれるといいですね」

 

「そういえば二人一部屋とか言ってましたっけ・・・・。女子の寮の方も?」

 

「うん。そうだ、あとで私のルームメイトも紹介しますね?その子も同じクラスで、すごく仲良しなんです。速瀬くんと雰囲気ちょっと似てるし、すぐ仲よくなれるんじゃないかなって思いますよ」

 

「女の子と雰囲気似てるって言われても・・・・」

 

「あはは・・・・あ・・・・」

 

「ん?」

 

「えっと・・・今、速瀬くんっも気をつけて敬語でしゃべってますよね?もし、よかったら・・・・もう少し普通にお話ししませんか?」

 

「あ・・・そ、そうですね。そう言ってもらえると、こっちも助かります。最初に敬語から入っちゃうと、いつ崩していいのかなかなか難しいですよね」

 

「あはは、良かった――って、全然敬語のままですよ?」

 

「いやまぁ、急に切り替えろって言われても、それはそれで難しいっていうか・・・」

 

すると姫川さんは、両手の親指と人差し指で長方形の枠を作って、そこから俺を覗きはじめた。

 

 

「んー、んー、んー」

 

「な、なに?」

 

「見た感じ、普段から『私』なんて言わないよね?」

 

「そりゃまぁ・・・・」

 

「――私は、姫川風花」

 

「え、それはさっき――」

 

いや。そういうことじゃない。これは初対面の仕切り直しってことか。

 

「俺は、速瀬慶司」

 

「――うんっ、よろしくね、速瀬くん」

 

「よろしく、・・・・姫川」

 

普段の俺でも、女の子に『さん』付けはそれほどおかしなことではなかったけど、俺はあえて『さん』を付けずに苗字を呼んだ。

 

「うんっ」

 

我が意を得たりと満足げにうなずく姫川。なるほど。この子はなかなかやる(・・)。少なくとも、かわいいというだけでクラス委員をやっているわけではなさそうだ。

 

 

―――ガラガラ

 

「お、誰だ?日曜日の教室に・・・って姫川か」

 

「朝比奈先生・・・職員会議じゃなかったんですか?」

 

「これからだよ。学園長が遅れているらしくてね。・・・・ああ、ってことはそこにいるのが転入生ってことか」

 

「はい。速瀬くん、こちらが私たちの担任の朝比奈洋子先生」

 

担任だと紹介されたのは、二十代半ばくらいの女性だった。

 

「担任の朝比奈洋子だ。よろしく頼む」

 

「速瀬慶司です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「おっと・・・もうちょっと挨拶してやりたいところだけど、聞いての通りこれから職員会議があってね。学園長のところにも挨拶しにいかなきゃならないんだが、会議の後になる。姫川、引き続き速瀬の相手を頼むよ」

 

顔立ちの割りに、ずいぶん男前な口調の先生だな・・・・。

 

「はい、大丈夫です」

 

「そういうわけだ速瀬、またあとでな」

 

「はい」

 

「ああ、それから・・・・姫川は学園の人気者だが、いまだ特定の彼氏はいないそうだ。転入生と案内役というアドヴァンテージを活かすなら今だぞ?」

 

「なにをアドバイスしてるんですかっ!!」

 

「ははは、それじゃあな」

 

 

―――ガラガラ

 

 

「うぅぅ、全くあの先生は・・・・」

 

「彼氏いないのか・・・」

 

「速瀬くんっ」

 

「はいっ、すみませんっ」

 

「・・・くすっ」

 

「ははは・・・・しかしなかなか豪快というか豪放磊落というか・・・面白い先生みたいだな」

 

「細かいことは気にしないタイプだけど、ものすごく熱意のある先生だよ。勉強も・・・・勉強以外も」

 

「・・・・勉強以外?」

 

「たぶん、すぐにわかると思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと・・・・特別教室なんかはカギかかちゃってると思うから、それは今度ね」

 

「ああ」

 

「あとは・・・・あ、学食はやってるかな」

 

「あ、風花!」

 

そこには小柄な黒髪の女の子が立っていた。姫川の存在に気が付いて、パッと明るい笑顔を見せている。印象的には下級生と言ったところか。

 

「あ、沙織先輩、こんにちわっ」

 

・・・・先輩だったらしい。姫川の背後に俺がいることに気付いて、下級生みたいな先輩の表情がキッと厳しくなった。

 

「確か――風花は部活動に参加してなかったはずだけど、休日の校舎になにか用でも?」

 

「部活はないんですけど、今日はクラス委員のお仕事で」

 

相手の糾弾にも笑顔を崩さずに姫川は対応する。さすが姫川とも思うが、この小さな先輩は姫川を名前で呼び捨てにしていた。勝手の知った仲、ってところか。

 

「そちらは?」

 

「こちらは、今度転入する速瀬慶司くん。今は私が校内を案内しているんんです」

 

「どうも、速瀬です」

 

「転入生・・・・・ですか」

 

怪訝そうな先輩の目が、俺の頭から足元までゆっくり一往復

 

「はじめまして、3年の宇佐美沙織です」

 

「よろしくお願いします」

 

・・・・『3年』を強調した気がしたが、まぁつっこまないでおく。

 

「あ、沙織先輩は風紀委員さんなの」

 

「なるほど」

 

それでさっきの値踏みするような目か。転入生なんてのは外部の者に他ならないからな。この警戒も理解できる。

 

「アナタが風紀を乱さずに学園生活を送ってくれたら、そうそうよろしくすることはないと思いますけど」

 

「ことさら風紀を乱すつもりはないですが・・・それでもよろしくお願いします、先輩後輩として」

 

「むむむ!?」

 

・・・あれ?余計に警戒させた?

 

「風花、速瀬君は何日付で編入されるの?」

 

「えっと、それは・・・・」

 

「一応、明日からってことに・・・・」

 

「なら、スリッパは生徒用ではなく来賓用を使うこと!受付の前に入校証があるからそれもちゃんとつけないとダメ!」

 

「え?え、え?」

 

「ちょっと待ってなさい!」

 

ピュ~~~~~という効果音が聞こえた気がするほどの速度で宇佐美先輩はどこかに行き戻ってきた。

 

「これをどうぞ」

 

来賓用のスリッパと入校証――わざわざ取ってきてくれたのか?

 

「今日はまだ外部の人なので大目に見ますけど、明日からはちゃんと上履きを履いてくること。それから私服で校内に入る時は受付で許可を・・・・」

 

「沙織先輩、そこまで厳しくしなくても」

 

「ダメ――転入生は最初が肝心。風花は隙が多いから気を付けてね」

 

「隙、ですか?」

 

「風花はぽわぽわしてるようでしっかりしてるけど、やっぱりぽわぽわしてるから」

 

「なっ、私、そんなにぽわぽわなんてしてないですよっ」

 

「そう?」

 

「そうですっ。こう見えても『うちのクラスの委員長は頼りになるなぁ』ってよく言ってもらえるんですから」

 

姫川は胸に手を当てて、自慢げに言う。やばいな、この子面白い・・・・・

 

「そう言われて、転入生のお出迎えも引き受けることになったのね?」

 

「・・・え、あれ?なんで知ってるんですか?」

 

「・・・・・・はぁっ、やっぱり。風花はいつもそうだもの」

 

「え?え?でもでも、別に断るようなことじゃないし・・・速瀬くん、いい人だし」

 

「会ったばかりでわからないでしょ!ああん、もう、本当に隙が多いんだから。女の子がそんなに誰とでも仲よくなったら危ないの!」

 

「・・・・それは一理ある」

 

「ほらね、速瀬君だってそう言ってるし・・・ってなんでここでアナタが入ってくるの!?」

 

「えへへへー、先輩と速瀬くんもすっかり仲良しじゃないですか」

 

「ううっ・・・・また風花のペースに引きずられてしまった・・・・」

 

図らずも隙を見せてしまった宇佐美先輩が、軽く額を押さえた。

 

「姫川を心配する気持ちは大変よくわかりますが、つけこもうなんて気持ちはさらさらないのでご安心ください」

 

俺は噴き出そうになる笑いを堪えて言う。

 

「姫川!?」

 

「あ、ええっと・・・・姫川・・・・さん」

 

「あ、さん付けはやめよって言ったのに」

 

「・・・・というわけです」

 

「むー・・・・」

 

「宇佐美先輩が姫川のことすごく心配してるってのはわかりました。俺が信頼してもらえるのは、まだ少し先かもな・・・・てことも」

 

「え~、そうなんですかぁ・・・・先輩、速瀬くんほんとにいい人ですよ?」

 

姫川はまだ納得いってないみたいだ。

 

「少なくとも、頭の回転が悪くなさそうなのはわかったわ。警戒レベルはさらにあがったけど」

 

「なんで!?」

 

「口の上手い男には要注意」

 

「ふむ・・・会話運びを褒められたと言うことにしておきます」

 

宇佐美先輩は俺をキッと睨み付けてきたが、俺はその視線を怖じ気づくことなく受けとめた。睨みつけてきてはいるが、怒っているというわけどもなさそうだ。転入生は最初が肝心――ってのを実践してるところか?確かに背丈やそのかわいらしい顔に似合わぬ迫力、威圧感・・・強い信念のようなものは感じる。おそらく、風紀委員としての実績もかなりあるんだろう。

 

「あ、あの~」

 

いかんいかん。ついいつもの分析癖が出てしまった。

 

「フッ・・・・速瀬慶司、覚えておきます。明日からよろしくね(・・・・)

 

「おれも宇佐美先輩のこと覚えておきますよ」

 

「私のことよりも、校則を覚えてくれた方が嬉しいけど。それじゃあ、風花っも、またね」

 

「はい、また」

 

俺もぺこりと頭をさげ、宇佐美先輩を見送った。

 

「よかったね、速瀬くん。沙織先輩、速瀬くんのこと気に入ってくれたみたい」

 

「いや・・・最後まで警戒されていたように見えたけど・・・」

 

こっちが変に張り合ったりしなかったから、事なきを得たってところか。やっぱり試されたんだろうな。

 

「またまたっ。会ったばかりなのに見つめ合っちゃってたくせに~」

 

「あれは視線で威圧されてたんだって・・・・」

 

「そうかなぁ。沙織先輩が『覚えておく』なんて、校則違反の常習犯の人くらいのものなんだけど」

 

「・・・・それと同等って、あんまりいい意味ではないと思うぞ」

 

「あれ?あ、そうか・・・な?あれ?」

 

「そうだろうよ」

 

「あ、いたいた風花~!」

 

その時、先輩が去った方向から、姫川を呼ぶ声がした。宇佐美先輩が戻ってきたわけではなく、別の姫川の友達のようだ。それにしてもずいぶん耳馴染みの良い声―――

 

「あっ、琴羽ちゃ~ん。よかった、メールすぐにわかった?」

 

・・・・って、琴羽・・・・?

 

「わかったわかった。それに沙織先輩に聞いたら、今すれ違ったばかりだ――」

 

「・・・・琴羽が、いる」

 

「っ・・・・て・・・・」

 

「え?」

 

「けい・・・・じ・・・?」

 

「ちょっと待て。なんでここに沖原琴羽がいる?おまえ確か――」

 

「ひ・・・人違いですっ!!」

 

「あっ、琴羽ちゃん!?」

 

「逃げたっ!?あんにゃろ・・・っ」

 

咄嗟に追いかけそうになったが、ふと思いとどまった。あいつがここの生徒なら問い詰めることはまたできる。今は事実関係を確認しよう。

 

「姫川・・・今のは沖原琴羽で間違いないよな?」

 

「う、うん・・・。私のルームメイトなの・・・速瀬くんに紹介しようと思って、さっきメールで呼んでおいたんだけど・・・速瀬くん、琴羽ちゃんのこと知ってたの?」

 

「あいつとは、まぁ、幼なじみというか腐れ縁というか・・・だけど、澄之江にいるなんてことは知らなかったな・・・」

 

「わっ・・・じゃあもしかして、速瀬くんって琴羽ちゃんの元カレさん、だとか?」

 

「ぶっ!!」

 

おれは噴き出してしまう。

 

「元カレなんかじゃないって。まぁ、よく遊んだ仲ではあるけど・・・・うちの妹の方が俺より仲良かったかも」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

さっき姫川、ルームメイトも同じクラスだって言ってたよな?こうなってくるといよいよ『腐れ縁』って感じだな」

 

 

「あはは。本当すごいね」

 

「ああ。恐ろしいもんだ」

 

「で?琴羽ちゃんのこと追いかけなくていいの?」

 

「別にいいんじゃないか?同じクラスなら、明日には嫌でも顔をあわせることになるだろうし」

 

「クールだねぇ・・・・・」

 

「う~ん、そうだな・・・・万が一、夜になっても部屋に戻ってこないなんて時には、一緒に捜すよ。そんなことはないと思うけど」

 

「うん。私もそんなことないと思う。ふふっ、信頼してる信頼してる」

 

「人となりを知ってるだけだって。なにしろ――」

 

「『腐れ縁』、だから?」

 

「そういうこと」

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

kotoha side--------

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・はふぅ~・・・・お、驚いた~・・・・はぁぁ・・・」

 

息を一旦整えて考える。

 

「なんで慶司がこんなところにいるのよ・・・。っていうか、なに?風花の言ってた転入生って慶司のことなの?よりによって一番知られたくなかったやつに・・・・あうううう・・・・」

 

でもそこでふと考え付く

 

「あ~・・・・でも・・・・クラス一緒なのか・・・・。誤魔化しようがないなぁ・・・・」

 

またため息を一つ。

 

「ふぅ・・・・すぐに帰る気にはなんないな。どこか適当にぶらついていくか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

keizi side-------

 

「それでは失礼します」

 

「失礼します」

 

朝比奈先生と一緒に転入の挨拶を済ませ、学園長室を出る。聞くところによると、この学園の教職員は学園長も含め、土日も出勤していることが少ないらしい。教員免許を持っているとはいえ、ほとんんどの教師が同時になにかしらの研究員でもあり、学園都市内に点在する研究施設との間を行き来しているのだそうだ。

 

「あ、お疲れ様」

 

「姫川、わざわざ待っててくれたんだ」

 

「うん。だってまだ寮の場所とか案内してないし」

 

律儀なヤツだな・・・・

 

「なるほど。案内役としてのアドヴァンテージを活かしているわけか」

 

「なんのアドヴァンテージですかっ。私はただ速瀬くんが早くこの学園の生活に馴染んでくれればいいなって思ってるだけです」

 

「そうか。そうしてもらえると私も助かるよ」

 

投げたのか。転入生の世話を姫川に今丸投げしたのか。

 

「そういえば、今日は汀さんはいないんでしょうか。できれば挨拶しておきたいんですが」

 

「ああ、薫子なら今日はいないぞ?なにやらもう一人、緊急で転入させるかもしれないとか言っていた」

 

「えっ、もう一人転入生が来るんですか?たいへん」

 

「別に大変なことはないだろう?どいつもこいつもが、うちのクラスに入るわけじゃない」

 

「あ、そうか」

 

「そういう理由じゃしょうがないですね。まぁ、またいる時にでも」

 

「別に薫子に挨拶などしなくても、気にするタイプじゃないぞ?」

 

「汀さんが気にしなくても、こっちが気にします。お世話になったんだから、礼儀として挨拶くらいはしておくべきでしょう」

 

「・・・・フン、爺くさいやつめ」

 

なんで急にこんなに機嫌悪くなってるんだ・・・・?と思ったら

 

「朝比奈先生は汀先生を終生のライバルだと思ってるの」

 

姫川が気を利かせて解説してくれた。

 

「余計なことは言わなくていいっ」

 

「でっも先生、いきなり不機嫌そうにしたら、速瀬くんだって困っちゃいますよ」

 

まったくの正論だが、姫川も先生んい物怖じしないな。クラス委員と担任と言うことなのか、ずいぶん通じ合っているみたいだ。

 

「くっ・・・・そうやってみんな、薫子の味方をすればいいんだ。どいつもこいつも・・・・・ぶつぶつぶつ」

 

「えっと・・・・速瀬くん。じゃあ寮の方にいこっか」

 

「え、いいのか?」

 

「うん。先生、こうなったら長いから」

 

俺が先生を見てみるとまだぶつぶつとなにか呟いている・・・・・確かに長そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝比奈先生も汀先生も同じ分野で研究してて、いっつも汀先生が一歩リードしちゃうんだって」

 

「はぁ、なるほど」

 

「その上、朝比奈先生ったら身体的な部分でコンプレックス持っちゃってるから・・・・」

 

「身体的な部分?」

 

「えっと・・・女性的な、部分?」

 

朝比奈先生が・・・・・コンプレックス・・・外見的にはかなり美人な部類だと思うんだが・・・・・思うんだが・・・思うんだが・・・・・

 

「・・・・・胸?」

 

「・・・・・」

 

姫川はコクリと頷いてから、軽く額を押さえてため息をついた。

 

「それさえなければ、本当に良い先生なんだけど・・・・・だから、速瀬くんも、汀先生の話題と胸の話題には充分気を付けてあげてね?」

 

「了解」

 

難儀な先生だな。だけど、そうか・・・・汀さんの胸は、確かに大きかったもんな・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

misio side--------

 

 

「智ちゃん。お紅茶もう一杯どう?」

 

「い、いえ、私は・・・・」

 

「お嬢様、そういった気遣いは我々に対してはなさらぬよう。もっと威厳を持って、傲慢に、そして横柄に」

 

「菜緒さん・・・・・いいじゃない、お茶をしている時くらい」

 

「ダメです。澄之江に入学して半年・・・・慣れてきた頃合いだとは思いますが、気を抜いてはなりません」

 

「ぶぅ・・・・」

 

「このラウンジには他の学園性もいるんですよ?」

 

「あら、本当ね。・・・・でもどうしたのかしら。あの人、なんだか憂鬱そう・・・」

 

「先ほどは、なんだかにやけていたみたいですよ」

 

「あらそうなの?じゃあ、恋人jのことでも考えているのかしら」

 

「あれは・・・・2年A組の沖原琴羽ですね。なかなかの有名人で2年生の中では姫川風花と並ぶ人気を誇っています」

 

「へぇ・・・・綺麗な人だものねぇ。人気なのもうなずける・・・けれど、笑顔ならもっと素敵だと思うわ」

 

「お嬢様」

 

「・・・はぁい。・・・・ふっ沖原琴羽ね。なかなかかわいらしい顔をしているじゃない」

 

「『もっとも、私の美しさには敵わないでしょうけど』までいきましょう」

 

「え・・・それは、ちょっと・・・・痛々しくはない・・・?」

 

「痛々しいまでの傲慢さが、パフォーマンスとしては有効なのです。わかりやすさ重視で」

 

(お嬢様をダシにして、楽しんでるだけでは・・・・・)

 

「智?なにか言ったか?」

 

「な、なんでもありません」

 

「・・・そうですね、私たちのことももっと見下した呼び方にしましょう」

 

「見下したって・・・・・呼び捨てにでもすればいいの?」

 

「それでは足りません。お嬢様は殿上人。我々は人間以下のものとお思いください」

 

「そうですね・・・・以後私のことは『にゃお』、智のことは『ぽち』とお呼びくださいませ」

 

「ぽち!?」

 

「智、なにか?」

 

「い、いえ・・・・・」

 

(ず、ずるい・・・・。『にゃお』ならまだあだ名の範囲なのに、私、『ぽち』って・・・・・・)

 

「にゃ、にゃお・・・?ぽち・・・・?」

 

「威厳を持って。あえてわがままに。傲岸不遜に」

 

「ふぅ・・・・」

 

「にゃお、ぽち」

 

「「はっ、お嬢様」」

 

「なにをしているの!紅茶にはスコーンよ!早く用意しなさいっ」

 

「はっ、ただいま」

 

「・・・・・まぁ、いいですが。できればもう少し、要求レベルを上げた方がよろしいかと」

 

「はぁぁ・・・わがままって、難しい・・・」

 

「ともかく、もう明日が本番なのですから、しっかりなさってください。お嬢様自身が選ばれた道でしょう」

 

「うう・・・・はい・・・・・」

 

「お嬢様、こちらスコーンです」

 

「あ、ありがとう、智ちゃん――じゃなくて・・・・・・・遅いわよ、ぽち」

 

「申し訳ありません」

 

(お嬢様もおかわいそうに。絶対菜緒さん、お嬢様で遊んでるだけなのに・・・・)

 

「智」

 

「は、はい」

 

「そろそろ見回りに行け。なにか起きた際の手筈は、わかっているな?」

 

「はい。・・・・ではお嬢様、失礼します」

 

「ご苦労様」

 

「・・・・あら、沖原さんもお店を出るみたい。少しお話ししてみたったな・・・」

 

「お嬢様、今日はもう少しレッスンをしておきましょうか」

 

「うっ」

 

「明日が組織の立ちあげなのですから、念を入れておくべきでしょう。ことと場合によっては、それが明日ではなく、今日になる可能性だってあるのですから」

 

「そんなっ!?それは明日だって――」

 

「もちろん、何事も起こらなければそれは明日となります。何事も、起こらなければ」

 

「菜緒さん――いえ、にゃお!あなた、なにかが起こると確信しているにね?」

 

「はい、お嬢様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

keizi side--------

 

 

姫川の説明を受けつつ、学生寮までの道を一緒に歩く。たまにすれ違う男たちがチラチラと視線を向けてくるのは、羨ましいとでも思われてるってことなんだろうか。

 

「ん?」

 

確かに姫川と並んで歩くってのは、男としてちょっと誇らしい気分かもしれない。ただし、これが本当にデートとかならば、だ。

 

「姫川、なんだが楽しそうだなって思って」

 

「もちろん楽しいよ?新しいお友達ができたんだもん」

 

などと屈託のない笑顔を向けてくる姫川。危ないところだった。俺が本気にでもなっていたら『お友達』の一言で打ちのめされるところだった・・・。

 

 

「それでね、そこにオープンカフェがあるんだけど、これが私的に結構お薦めで――あ」

 

「お」

 

「琴羽ちゃんだ」

 

「うわぁっ!?」

 

本当に偶然だったらしく、琴羽は飛び跳ねるように驚き、またしても踵を返して逃げ出した。

 

「待て、琴羽!!」

 

「速瀬くん、追っかけよ!!」

 

「二人でか?」

 

「琴羽ちゃんは私からも逃げてるからね。親友として追いかける権利があると思いますっ」

 

「ハハッ、いいな、姫川。そういうノリは大好きだ」

 

「――っ」

 

「じゃあ行くぞ、姫川!」

 

「う、うんっ!!」

 

琴羽を追いかけて、姫川と一緒に街を駆け抜けていく。巨額の費用を投じて埋め立てられ整備された最新技術の粋を集めた街だと聞いている。ただ、まだ建築途中と思われる区画も多く、どうにも道を覚えにくい印象があった。それを理解した上でだろう、琴羽は工事用の鉄板で囲われた区画の方へ姿を消した。

 

「ん~っ、琴羽ちゃん、どこ行った~?」

 

「こっちだ、姫川」

 

「わかるの?」

 

「単なる勘!だけど、あいつの逃げたときの行動パターンなんて、それほど変わってない気がする」

 

「さっすが幼なじみっ」

 

「茶化すなって。たぶん、あそこだ」

 

「らじゃっ」

 

『関係者以外お断り』の看板を越えてそこへ侵入すると、そこにはもう一つ校舎でも作るつもりなのか、かなり広い敷地になっていた。一部は掘り返され、一部は鉄骨が組まれ、また全体の半分以上の面積が空き地となっていて、雑然と資材が積まれている。

 

そして――

 

「――げ、なんでっ」

 

そんな資材のそばで琴羽が気まずそうな顔をしていた。

 

「はぁ、はぁ・・・・ほ、ホントに、いた・・・はぁ・・・」

 

「おまえの逃げるパターンなんてお見通しだっての。ほら、もう逃げんなよ」

 

「琴羽ちゃん?逃げたら、しばらく口聞いてあげないからね?三日くらいっ」

 

三日って微妙に短くないか?

 

「あは・・・あはははははは・・・・・・降参。お手上げ」

 

だが、琴羽には効果があったらしい。両手をヒラヒラさせて、琴羽の方からこちらに近づいてきた。

 

「で?なんで逃げたんだよ?」

 

「ん~・・・・恥ずかしかったから?」

 

「乙女心だ・・・・」

 

「恥ずかしいってタマじゃないだろ、おまえ・・・・」

 

「そんなことないって。澄之江に来てからあたしがどれだけ乙女らしく成長したか、慶司は知らないのよ」

 

フフンと自慢げに腰に手なんぞ当てていやがる。

 

・・・・でも、確かに、いろいろと――

 

「ふむ・・・・確かに・・・・ずいぶん胸でかくなったな」

 

姫川も相当なものだが、琴羽のそれはケタが違う。おれの知っている頃の琴羽もそれなりに胸はあったが、ここまでのものは備えてなかった。

 

「でしょう?ふっふ~ん――って、いきなり表現が直接的すぎる!」

 

「そうだよ速瀬くん!もっとこう『女性らしい体つきになったね』とか」

 

「それはそれでエロいような・・・・」

 

「えっ、うそ」

 

なんだろう、このダメそうな会話。

 

「そっちはさ、どうしたのよ」

 

「どうしたって?」

 

「転入」

 

「ああ、そのことか」

 

「・・・・ま、澄之江に転入してくる理由なんて一つしかないけどね」

 

「《メティスパサー》、なんでしょ?慶司も・・・」

 

琴羽の台詞に俺が少し驚いた表情をすると、姫川が補足するように言った。

 

「聞いてない?澄之江学園って普通の人でも入学はできるけど基本的に途中編入は受け入れてないの。例外は、『メティスパサーと認められて学園側からの勧誘を受けた人』・・・・」

 

「なるほど、そういうことか・・・・」

 

《メティス》とは、いわゆる超能力のこと。また、それを使うもののことを《メティスパサー》という。超能力などと言えば、昔は一笑に付されたそうだが、今は違う。世界規模で起こった海面上昇以後、その能力に目覚めるものが急激に増えはじめ、今では公的にも研究が進められている。年々能力者は増えてきているそうで、俺の世代では7~800人に1人程度の割合で存在するらしい。多いのか少ないのかよくわからない数字だが、少なくとも転向前の学校には《メティスパサー》の知り合いはいなかった。

 

「厳密には、俺はまだ《メティスパサー>じゃない。自分がその《メティス》を使えるかどうか、よくわかってないんだ」

 

「覚醒待ち・・・ってこと?」

 

「なのかな?なんとか言う値が充分に高いって、汀さんは言ってたけど」

 

「《MWI値》かな。MetisWaveIntensityって言って、メティスの強さに深く関わってる値なの」

 

「ほうほう。まぁ、一通り基本的なことは聞いてきてるんだけどな。脳波の一種なんだろ?」

 

《メティス波強度》という言い方の方がわかりやすい気がするが、一般に《MWI値》で広まっているらしい。

 

「そうそう。それがある程度高ければ、メティスが使える可能性も高いの。汀先生の言うことなら間違いないと思うよ。なにかのきっかけ一つで使えるようになっちゃいそうだね」

 

姫川は人懐っこい笑みで言う。

 

「まぁ、俺としてはどっちでもいいけどな。俺自身が使えるかどうかより、《メティス》ってヤツ自体がどういうものなのか、それをこの目で見たかっただけだから」

 

「それを見てどうするのよ」

 

「面白そうじゃないか。そんな力があるってだけでワクワクするし、どんな風に応用できるだろうなんて考えだしたらもう果てがない」

 

「ふふっ、速瀬くんは好奇心旺盛なんだね」

 

「はぁ・・・・ちっとも変わらないね、慶司は」

 

「ほっとけ。っていうか琴羽や姫川はどうなんだ?《メティス》、使えるのか?」

 

「それは・・・・」

 

「うん、私、使えるよっ」

 

言い淀む琴羽を差し置いて、姫川が右手をビシッと挙げた。

 

「おお」

 

「実演してあげられればいいんだけど、私の能力ってちょっと見えにくいから・・・・実習の時にでも見せてあげるね」

 

「見えにくい・・・・?」

 

姿が消える、とか?いや、それならばむしろ実演しやすいか。今見えているものが見えなくなるのは、見えやすい能力ってわけだな。すると――

 

 

ドーン!!!!!!!!!

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「な、なんだっ!?」

 

突然の轟音が耳をつんざいた。立ち上がる土煙、鼻腔を突く灼けた匂い。爆発物・・・・?工事現場にあるなにかの資材が引火でもしたかのか?いや、鉱山じゃないんだ。資材に火薬なんてあるはずが――

 

「海老名ァッ!!逃げるんじゃねぇっ!!」

 

「そんなもん喰らってられるか!!」

 

ドーンとまた一つ爆発が起きる。

 

「けほっ、けほっけほっ・・・・」

 

「マズイ。こりゃ《メティスパサー》同士のケンカだよ。巻き添え喰う前に逃げよう」

 

「《メティスパサー》同士って・・・・つまり、この爆発は」

 

「そうだよ!詳しい説明は後!今はここから――」

 

その時、かなり近くでその爆発が起こった。

 

「海老名、てめぇっ!!どこに逃げやがった!!」

 

「自分で爆発させたんだろうが、ドアホ!!」

 

確かにケンカだ。土煙でよく見えないが、その向こうから聞こえてきた怒声は、不良同士のケンカだと思える。だが不良同士のケンカで、手榴弾が使われるはずもない。

 

「うるせぇっ、てめぇがちょこまか逃げるからだろうが!!」

 

「こっちにはこっちの戦い方があるんだよ!!」

 

「くらえっ!《ダビデ・ストーン》!」

 

「させるかっ!《パペット・イン・ザ・ミラー》」

 

「くうぅっ、俺の腕が!?」

 

爆発が起こる。

 

「ぐああっ!?」

 

「江坂ァッ!おまえの能力みてぇに攻撃力はねぇが、俺の能力もケンカにゃ結構有効なんだぜ?」

 

「てめぇらしい陰険な能力だなッ!」

 

二人の男は、おれたちの存在になど気づいていないかのように《メティス》を使ったケンカを繰り広げている。こんなものに巻き込まれたくはない。それは全くの正論のはずだったが、俺はこの戦いに魅入ってしまっていた。

 

「慶司っ!なにやってんのよ!」

 

「速瀬くんっ!!」

 

先ほどから爆発しているのが、江坂と呼ばれたガタイのいい男の能力だろう。海老名の能力が分かりにくいのだが、どうやら瞬間的に相手の身体を動かしているいうだ。念動力的なものか、それとも催眠術的なものなのか・・・。

 

「慶司ッ!!」

 

「わ、悪いッ」

 

琴羽に腕を引っ張られて、ようやく我に返る。だけど、これが《メティス》・・・・・。想像した以上の能力じゃないか。

 

「おまえの動きはこの《パペット・イン・ザ・ミラー》で――な、なにィッ!?」

 

「見切ったぞ!おまえの能力は視線をあわせた相手を操るもの!つまり、こうして目を閉じてしまえばいいんだ!喰らえ!《ダビデ・ストーン》ッ!!」

 

「マズイ!!琴羽、姫川、逃げろ!!」

 

目をつぶった江坂が、こともあろうにこちらにいくつかの小石を放ってきた!アレが爆発するっていうのか!?くそっ!!馬鹿か俺は!俺の興味で琴羽と姫川を危険に晒してしまった!!だが、そんな後悔をしている場合じゃない。俺は琴羽と姫川だけでも爆発から守ろうと、後ろを振り返り・・・・・そして絶句した。なにを考えたのか、姫川が怖れもせず毅然と立っていたからだ。

 

「バカ!姫川、伏せろ!!」

 

「大丈夫――」

 

「え」

 

「私が守るから」

 

姫川は小石に立ち向かうようにして、両手を突き出し――そしてその名を叫ぶ。

 

「《アイギス》ッ!!」

 

複数の爆発音がした。耳がおかしくなったのだろうか、壁を一枚隔てたような音に聞こえる。

 

いや、音だけではない。俺は爆発の衝撃をまったく感じてはいなかった。姫川の《メティス》が発動し、爆発から俺たちを守ったのだ。それが姫川のメティス、《アイギス》の能力。完全なる『空気の盾』を作り出し、あらゆる衝撃を隔離する能力。そんな理解が、俺の脳裏を駆け巡っていく。

 

――なんだ?なぜ俺がそれを知っている?

 

「速瀬くん、琴羽ちゃん、大丈夫!?」

 

「あ、ああ・・・・大丈夫だ」

 

「ふぅ・・・・・サンキュー風花!愛してる~っ!」

 

「お、女の声!?げ・・・・まさか巻き込んだか・・・・・?」

 

江坂が今さら俺たちの存在に気がついたように言う。

 

「な・・・無傷?」

 

「ア・・・《アイギス》だと?2年の姫川か!?」

 

「知り合い?」

 

「ううん・・・知らない人、だと思う」

 

「風花の《アイギス》って言ったら学園内でも《絶対防御》で名高いからね。少なくとも戦車以上の防御力があるって噂だよ」

 

「マジで!?すっげ・・・・・タンク姫川」

 

「ちょ、酷いよ速瀬くんっ!ヘンな名前つけないでよぉっ!」

 

「そ、そっちはまさか『ミス澄之江』の沖原琴羽!?」

 

「・・・・ミス澄之江?」

 

「しっ、知らない知らない」

 

「知らないはずないでーす。琴羽ちゃんは去年の学園祭で『学園一の美人さん』に認定されてまーす」

 

琴羽のチクリに対する姫川の大反撃である。しかし、琴羽がミスコン優勝とは・・・・。この学園のヤツら、みんな騙されすぎだろ・・・・。

 

「やっ、エントリーしてない子の方が圧倒的に多いし!っていうか風花!あんた優勝候補って言われてたのに直前で逃げたじゃない!」

 

「だって・・・恥ずかしかったんだもん。ごめんね★」

 

「ごめんね★、じゃ・なーいっ!」

 

「あーつまり、あれだよな?エントリーした中なら自分が一番だったと、琴羽は言ってるわけだ」

 

「ちがっ――もぉっ!!慶司はなんですぐそうやって意地悪言うのよ!!ばかぁっ!」

 

「「・・・・」」

 

「・・・・・なんか俺、むかっ腹がたってんだけどよぉ」

 

「ああ・・・・てめぇと同じとは虫唾が走るが・・・・俺もだ」

 

・・・・あれ?俺、やばくね?

 

「え、えーと・・・俺たちは単なる通りすがりで、まったくあんたたちのケンカに関わるつもりはないので、これにて」

 

「この二股のサンピン野郎め!俺ァおまえのような軽薄なヤツが一番嫌いなんだ!!」

 

「よりによって学園1、2を争うカワイコちゃん二人ってのがまた罪が深いっ!!断じて、許ッせんッ!」

 

サンピンとかカワイコちゃんとか・・・・・今時タイマンとかしてる人たちは言うことが渋すぎるな。というのはさておき。

 

「別にどっちともつきあってるわけじゃ――」

 

「《パペット・イン・ザ・ミラー》!」

 

――ッ!?声が止まった。いや声だけじゃない。俺の四肢の一切がその動きを静止してしまった。俺を睨み付ける海老名の目だけがはっきりと見える。どうやら、目の動きすら封じられているようで、そこから目を逸らすことすらできなかった。

 

「速瀬くん!?」

 

「慶司!!」

 

海老名がニヤリと笑うと、俺の口の端も引っ張られる感覚がした。そうだ、さっき江坂ってほうがなにか叫んでいた。『視線をあわせた相手を操る』――だったか。馬鹿な。一度視線をあわせられたら、目をつぶるどころか視線を逸らすことすらできないじゃないか!

 

 

だが次の瞬間、目の前が真っ赤な炎に染まった。

 

「なっなに・・・・!?」

 

「炎・・・・?あ、あれ・・・・?動く」

 

炎は海老名の視線を遮って俺の身体を金縛りから解き放ち、そして、スッと消えた。もう声を出すこともできるし、自由に周りを見ることもできる。

 

「そこまでよ」

 

自由になった視線をその声の方へと向けると、そこには――

 

「手にしたメティス同士、競いあうのは構わない。だけど周りの迷惑も顧みないでメティスを使ったケンカだなんて、《メティスパサー》の風上にも置けないわね!恥を知りなさいッ!!」

 

赤い髪に強い意志を秘めた瞳、そして凛と澄んだその声。先ほどの炎がそのまま人になったのかと思えるほどの圧倒的は存在感。そんな強い印象を持つ少女がそこに立っていた。

 

「ぽち」

 

「ハッ」

 

赤い髪の少女の背後から長身の少女が現れ、一息に駆け出す。

 

「なんだおまえはっ!《パペット・イン・ザ・ミラー》!」

 

「――遅い」

 

海老名の首筋に刀が沿う。

 

「な――」

 

「お嬢様を守護する刀・・・・名を景浦智と申します」

 

「う・・・ぁ・・・・」

 

「景浦智と名乗った背の高い女の子は海老名を倒し、そしてその刀を鞘に収めた。――って、刀?

 

「データによると、海老名の《パペット・イン・ザ・ミラー》の発動条件は対象とコンマ5秒以上視線をあわせること。それさえわかっていれば取り立てて怖れるような能力じゃない。たとえ視線をあわせたとしても、智ならばコンマ5秒のうちに終わらせることができる。そして私の名前は近濠菜緒。お嬢様の付き人にして学園随一の『悪魔の頭脳』」

 

赤い髪の少女の背後から、今度はやけに背の低い少女が現れたと思ったら、突然解説しはじめ、そして脈絡のない名乗りをあげた。自分で『悪魔の頭脳』とか言い出すのはどうなんだ・・・・・。

 

「江坂卓ね?今やられたのが海老名孝義・・・・と」

 

「間違いありません」

 

「突然出てきやがって、なんなんだてめぇらは!!」

 

「もしかしてあなた、私のことを知らないの?そんなことだからタイマンなんて古めかしいことをしでかすのよ。いい?耳の穴かっぽじってよくお聞きなさい」

 

そこで一呼吸おいて赤い髪の少女が言う。

 

「わたしの名は―――祐天寺美汐」

 

祐天寺・・・・・美汐・・・・。不敵な笑みを浮かべて赤い髪をなびかせるその少女に、俺は完全に目を奪われていた。

 

「ゆ、祐天寺、だとぉ・・・・?」

 

「澄之江学園の平和を守るために立ち上がることにしたの。だからあなたたちのような不作法者はやっつけさせてもらうわね」

 

 

「祐天寺・・・?」

 

「この学園の創設者、祐天寺財閥総帥・祐天寺潮の孫娘・・・。まだ1年生のはずだけど・・・・」

 

「どっかで見かけた気がするけど、あの子がそうなんだ・・・。さすがの風格って言うか・・・」

 

 

「ゆ、祐天寺だからってなんだって言うんだ!!くらえっ、《ダビデ・ストーン》ッ!!」

 

江坂は怒りで小石を投げつける。いけないこの距離じゃ――

 

「フッーー」

 

俺がそう思ったその瞬間、景浦さんが祐天寺さんの前に飛び出すと、滑らかな動作で投げつけられた小石をつかみとり、その勢いを殺さぬまま上空へと投げた。

 

「お嬢様ッ!頼みますッ!」

 

「フン・・・」

 

その声を受けてお嬢様と呼ばれた少女――祐天寺美汐がキッと睨みつける。すると、上空の小石はただそれだけで爆発した。

 

「なっ・・・睨み付けただけで俺の《ダビデ・ストーン》が・・・」

 

「これが本物の炎の力・・・太陽の紅炎《プロミネンス》」

 

「データによると《ダビデ・ストーン》は着弾時の衝撃を増幅して爆発のエネルギーに変える能力。爆発に必要な最低限の衝撃がなければ、爆発自体起こらない」

 

「そ――それがどうしたっ!!俺は強えぇっ!俺の能力は誰よりも――ッ」

 

 

「うるさい・・・・」

 

そこで場面最初に戻る・・・・

 




本当にお疲れ様でした!!

感想、ご指摘どんどん募集しているので送っていただけると本当にうれしいです。

最後に読んでいただいて本当にありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

さらに騒がしいプロローグ

結局文字数がすごいことになってるorz

本当に申し訳ありませんがぜひ読んでください!!!



この小説を読んでいただいてありがとうございます!!!!

                  簾木 健


「うるさい・・・・」

 

静かだがよく響く声。そこにいた全員が彼を見ていた。彼の顔は怒りで満ちている。

 

「たく・・・折角静かな場所と思ってここに来たのになんだよこのどんチャン騒ぎ。おれに恨みでもあんのか?」

 

その彼は全員を見据え・・・睨みつける。

 

「なんでお前がここにいやがる・・・・?」

 

そこにいた男の一人が静かに聞く。その体はわずかに震えていた。

 

「寺坂先輩に海老名先輩。それに沖原と姫川と見ない顔だな。さらには祐天寺たちか」

 

彼がそこにいる全員を見渡す。そして思案顔になってから少しして先輩と言われた二人を睨みつけた。

 

「なるほど。先輩たちが喧嘩かタイマンかよくわからねえがしててそれを近頃何でも屋みたいなことをしてる祐天寺たちが止めに来た。姫川たちは先輩たちの喧嘩に巻き込まれたってとこか」

 

彼は正確に状況を把握して先輩と呼ばれた人たちのところに歩き出す。

 

「ちょっと待て。祐天寺だって爆発なんか起こしていたぞ!!」

 

「そうだ!!おれたちだけじゃなく祐天寺も・・・」

 

「元はあんたたちのせいだろうがゴチャゴチャ言ってんじゃねえぞ」

 

彼がゆっくりと近づいていく。彼との距離が詰まると二人の体がさらに激しく震える。

 

「とりあえず憂さ晴らしだ。相手してやるよ先輩方!!」

 

彼の目は文字通り赤く染まった。

 

 

 

 

-----makoto sede

 

「ファァァァ・・・・・」

 

おれは欠伸をしながら『関係者以外お断り』の看板を越えていく。本当は休みだし一日中部屋でゴロゴロしていようと思ったのだが、ルームメイトが朝から忙しく部屋の片づけをしておりどうも居づらくなり部屋から出てきた。天気もよく良い昼寝日和だ。こういう日は外で寝るのも悪くない。

 

「――あいつに少しは感謝しなきゃな」

 

普段から片づけをせずに大事な日に慌ててやっているルームメイトには少し恨みの気持ちがあったのだが、この天気に免じて許してやらんこともない。

 

「日当たりも良好。やっぱりこの時間はここに限る」

 

いくつかある昼寝スポットの中でここは近頃お気に入りの場所。工事中なのだが工事は止まっているらしく人はほとんど来ない上にこの日当たりだ。しかもここには資材にかけてある布のようなものが意外と綺麗でそれを地面に引くことも出来る。

 

「ここまで装備の良い昼寝スポットは保健室くらいだよな」

 

おれは嬉々として布の上で昼寝を始める。目を閉じて横になると土の匂いが体を包む。

 

「やべぇ・・・・超心地いい・・・・・」

 

これなら最高の眠りに付けそうだ。そんなことを思っていた。

 

 

ドーーーーーン!!!!!!

 

 

―――激しい爆音が鳴り響いた。

 

「爆発・・・・かなり近いな・・・・まぁCSCとかが何とかしてくれるだろう・・・・」

 

面倒なことには関わらない。これ重要。

 

「さてさて折角なんだから堪能しないと」

 

今日は意地でも寝る。授業中は寝れないし。実際は寝たいのだが・・・・・うちの委員長がある意味怖いからな

 

「寝ることは至福の時間だからな」

 

昔は寝ることすら許されなかった・・・・・

 

「嫌なことを思い出した」

 

俺は自嘲気味に笑いまた目を閉じる・・・・・・・・ただ爆発は激しさを増していく。

 

「うるさい・・・・」

 

俺になんの恨みがあるんだ。俺は沙織先輩くらいにしか迷惑はかけてないぞ。

 

「・・・・・・・」

 

動きたくはない。折角最高の条件なのだ・・・・

 

「次なにか爆発が・・・・」

 

複数の爆発音が響く。

 

「次だ次」

 

今のはノーカンだ。言い終えてなかったし。すると爆発音が止む。どうやら終息したらしい。

 

「これでやっと寝れる・・・・」

 

おれは目を閉じて睡魔に身を任せる。ああ・・・これでやっと・・・・・

 

ドーーーーン。

 

「・・・・」

 

おれは体を起こす。そしてゆっくりと歩く。

 

「どんな制裁を加えてやろうか・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----keizi side

 

 

「うるさい」

 

そうやって出てきたのは男だった。背は普通の人よりは高く体は細いというよりは引き締まっている。髪は黒髪でその髪から覗く目がとても印象的だった。

 

「・・・・・・よくわからないけどあいつはヤバい!!!」

 

「あれ、神野くん?」

 

「うん・・・・真だよね・・・・」

 

「姫川に琴羽知り合いなの?」

 

「うん。同じクラスだし」

 

姫川が微笑む。あれが同じクラスって大丈夫なのか?かなり危険な匂いがする

 

「ああ、たぶんこの騒ぎで昼寝でも邪魔されたんだな・・・・あれはかなり怒ってるよ」

 

「昼寝!?そんなことであんなに怒ってるのか!?」

 

「神野くんすごく変わってるから・・・・・・」

 

姫川が額に手をおいてため息をつく。

 

「かなり問題児扱いされてるよ。主に沙織先輩に・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

「かかって来いよ先輩!!」

 

その問題児が叫んだ。

 

「姫川・・・・あいつも《メティスパサー》、なんだよな?」

 

「うん・・・・しかも今までで唯一私の《アイギス》を破った《メティスパサー》、なの」

 

「えっ!?」

 

あの空気の盾を破った!?さっきの爆発の衝撃すら通さない《絶対防御》を破るなんて・・・・どんな《メティス》なんだ!?

 

「ああ、慶司たぶん勘違いしてるよ」

 

「どういうことだ?」

 

「慶司は風花の《アイギス》が真の《メティス》の威力で貫かれたとか破壊されたと思ってるでしょ?」

 

「ああ、というかそれ以外に破る方法なんてないだろう?」

 

「まぁ普通はそうなんだけど・・・・・真の《メティス》はかなりの例外なの」

 

例外?どういうことだ?

 

「真の《メティス》・・・・《ゼロ》は真の視界内のメティスを無効化、発動できなくする《メティス》なの」

 

「!?」

 

「だから破られたというよりは無効化されたのよ」

 

そんな《メティス》もあるのか!?思ってた以上に《メティス》は多彩なんだな。

 

「しかも神野くん・・・・素手でもすごく強いから・・・一時期は《メティス喰い》って呼ばれてた時もあるの」

 

「その時は大変だったよ。毎日先輩たちから絡まれて・・・・・その時に沙織先輩から問題児にされて・・・・・」

 

「・・・・あいつも色々あったんだな・・・・うん?琴羽やけに詳しいな」

 

そこで琴羽はハッとして顔を赤らめた

 

「べっ、別に。有名な話だから・・・・」

 

「あれれぇぇ?琴羽ちゃんその時に・・・・」

 

「うわぁぁぁぁ!!風花な言おうとしてるの!!!!」

 

「?・・・・・その時なにかあったのか?」

 

「慶司は聞かないでいいの!!」

 

「おっ、おう・・・・・」

 

琴羽のあまりの剣幕に引き下がる。本当になにがあったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------makoto side

 

 

「またこの二人か・・・・・」

 

心の中でため息をつく。

 

「よく飽きないよ。同じ相手と何度も何度もタイマンなんて」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「あっ?」

 

声の聞こえたほうを向く。そこに見知った顔が一つ・・・・・

 

「菜緒さん、そこで何してるんですか?」

 

すると、その人は困った風に笑った。

 

「やれやれ・・・・まさかお前がここにいるなんてさすがの私も計算違いだ」

 

「にゃお、この人は?」

 

「大丈夫ですお嬢様。あいつは神野真、私の古くからの友人です」

 

菜緒さんの友人という言葉に何だか笑みが零れてしまう。

 

「友人なんて言ってもらえて本当に光栄なんですけど・・・・・・初めまして神野真です。祐天寺美汐、あなたのことはかねがね菜緒さんから聞いてます」

 

「・・・・・・もしかしてあなたがあの《メティス喰い》?」

 

「・・・・あまり好きじゃないのでそうは呼ばないでくれるとうれしいです」

 

そうあれはすごく不本意はあだ名だ。ちょっとケンカしただけなのに・・・・

 

「まぁ・・・・・挨拶はその辺にしといて、奴らをどうするんだ?真」

 

それを聞いておれはああっとまた視線を戻すと震えあがるやつが二人・・・・・こりゃボコボコにすることないな

 

「一瞬時間をください。あとのことはまかせても・・・・・」

 

「ああ。こっちでなんとかしよう」

 

「では・・・・・」

 

おれは原因の二人に近づいていく。

 

「くっそぉぉぉ!!!!!」

 

叫び声をあげながら江坂先輩が小石を投げる。

 

「だからおれの前では《メティス》は無意味ですよ」

 

おれはその小石の掴みながら回転。これで江坂先輩の投げた力も利用し小石を投げ返す。それは見事に江坂先輩の顎に直撃する。ストライク!!!!

 

「・・・・・っ!!!!」

 

声をなく江坂先輩は崩れ落ちる。加減はしたし顎が割れることはないだろう。

 

「糞っ!!!あんな化物となんて戦いたくはないぜ!!!」

 

海老名先輩が走って逃げようとするがもう遅い・・・・・おれは一気に間合いを詰めて海老名先輩の腹に掌底の叩き込む。海老名先輩の身体がくの字に曲がり手を引くと地面に崩れ落ちた。

 

「うんじゃあとは頼みます」

 

「わかった」

 

菜緒先輩が頷いたのを見ておれは同級生二人と見たことないやつに近づいていった。

 

「3人とも無事か?まぁ姫川がいたし無事だと思うが・・・・・」

 

「こっち大丈夫だよ。神野くんはお昼寝?」

 

「ああ。航平が部屋の片づけをしてて邪魔そうだったから外で昼寝しようと思ったんだがこんなことになった」

 

「つくづく厄介ごとに絡まれるね真は・・・・」

 

「本当だよな・・・沖原も大丈夫か?」

 

「うん。風花が守ってくれたし、それでね真・・・・・」

 

「なんだ?」

 

「これが新しく私たちのクラスに編入する速瀬慶司。私の腐れ縁だから仲よくしてあげてよ」

 

「へーーー」

 

おれはジロジロと速瀬を見てみる。ちょっと童顔だな・・・・ただ頭はキレそう、おれのことをさっきから観察してるし・・・・

 

「あの・・・・・・」

 

「ああ、悪い。いつもの観察癖が出てしまった・・・・・初めまして、おれは神野真。クラスは一緒の2年A組だ。真って呼んでくれ」

 

「いや・・・・こっちこそ初めまして、速瀬慶司です。よろしくお願いします」

 

「敬語なんかはやめよう、硬いのはお互い生に合わないだろ慶司」

 

「そう・・・・だな・・・・じゃよろしく真」

 

「ああ。慶司とは仲良くやっていけそうだ」

 

「そちらの方たち、怪我は――」

 

祐天寺が菜緒さんたちとの話が終わったためか俺たちの方に歩いてきた。そして慶司と目があってハタととまる。

 

「うそ・・・・・・・・・っ」

 

うん?聞き取れなかったがなんか言ったな・・・・

 

「私たちは大丈夫です。危ないところを助けてくれてありがとうございますっ」

 

「ありがとうございました」

 

姫川と沖原が礼を言う・・・・そういやおれにはないのか?

 

「あ、え、ええ・・・・」

 

姫川と沖原の深々としたお辞儀に祐天寺が戸惑ったのかうまく返せてないな・・・・・いやこの場合の戸惑いは慶司に向けられている気もするな。慶司もそう思っているのか謝辞を返してない。

 

「あ、あの・・・・・お名前をうかが―――コホン」

 

「?」

 

慶司の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。そりゃそうだろうよ・・・・・・

 

「そこのあなた。名を、名乗りなさい」

 

「あっ、違うんです!速瀬くんは転校してきたばかりで、一緒にまきこまれちゃった側で――」

 

姫川・・・・ちょっとそれは違うだろ・・・・

 

「あなたには聞いていないわ、姫川風花」

 

「――っ」

 

「・・・・でも、そう。転入生、ね。転入生の速瀬―――速瀬・・・・慶司」

 

慶司を知ってる?だけど慶司は知らなそうだったが――――

 

「ピキン・・・・」

 

金属音・・・・本能が告げる。この音はヤバい!!!!!

 

 

「「みんな伏せろ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----keizi side

 

 

祐天寺さんに名前を呼ばれたとき嫌な音が聞こえた。全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、その音はとてつもなく危険な音だと本能が叫ぶ。

 

「なにかが――なにかが落ちてくる!!!」

 

「「みんな伏せろ!!」

 

俺と真の声が重なる。どうやら真にもあの音は聞こえていたらしい。

 

「ぇ」

 

「な」

 

「わっ」

 

俺が祐天寺さんと姫川、真が琴羽を伏せさせてから俺は頭上から降ってくるそれに向かって両手を突き出した。

 

「俺はなにをやっている!?」

 

頭上に迫っているのは、何トンあるのかもわからない大きさの鉄骨だった。両手を突き出して、俺はなにをしようと言うんだ!?・・・・・でもこうするしかなかった。今は、こうするしか助かる方法はない。いや――こうすれば助かると俺自身が理解していた。姫川の能力を見た時か、それとも能力の名を聞いた時か、それとも姫川と握手を交わしたあの時なのか―――その能力がなんであるのか、なにが起こったのかわかるのは当たり前のことだった。なぜなら、その能力は、俺自身が使えるもの―――俺自身の《メティス》なのだから。

 

「《アイギス》ッッ!!」

 

「「「きゃあっ!?」」」

 

「・・・マジかよ」

 

「「お嬢様っ!!」」

 

「で、できた」

 

両手を突き出した先で、崩落した鉄骨の一部が弾けていた。《アイギス》はその落下の衝撃をやわらげて、それを誰もいない地面へと着地させる。おそらく江坂の《ダビデ・ストーン》の爆発で脆くなっていた箇所が今頃になって落下してきたのだろう。

 

「うそ・・・・これって、私のメティスと同じ・・・・」

 

「これが・・・・慶司の能力・・・・?」

 

「わ、あ・・・慶司さんに・・・わたし・・・また・・・」

 

「・・・・・・」

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・・はぁ・・・・」

 

これが《アイギス》・・・・これが、俺の力・・・?気を抜くとフッと《アイギス》が消失するのがわかった。本当に、俺が今の《アイギス》を発動させたのか・・・?まだ混乱しているのか、どうやって発動させたのかすら判然としない。

 

「お嬢様っ!ご無事ですか!?」

 

「お嬢様っ!」

 

「だ、大丈夫よ、にゃお、ぽち・・・・それより、速瀬と言ったわね・・・・・」

 

「はい」

 

「か、か・・・・感謝してあげてもいいわよ?」

 

「・・・・お嬢様、それはちょっと違います」

 

「ええっ!?」

 

「・・・・・」

 

なんだろう・・・・。俺が《メティス》を使えたことよりも、この人たちのことが気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

 

「《アイギス》だと・・・・」

 

おれは慶司を見つめていた。確かにさっきのは《アイギス》だ。姫川の《メティス》で《絶対防御》。

 

「ありえない」

 

おれは心の中でつぶやく。同じ《メティス》が覚醒するなんてありえない・・・・・・そもそも《メティス》の覚醒説として最も有力なのは感情説だ―――その人の中で最も強い思いが《メティス》として具現化するというもののなんだが。同じ思いだとしても人によってその思い方は異なる。だから間違っても同じものになることはないはずだ。でも、慶司が使ったのはまがい物ではない《アイギス》、ということは・・・・・・

 

「中々おもしろい能力だな。慶司」

 

「お嬢様っ!風紀委員が!」

 

その言葉でおれの思考は完全に中断された。

 

「ハッ!?」

 

風紀委員・・・・それって・・・・

 

「止まりなさい!!校外におけるメティスの無断使用、暴行、器物破損等の現行犯!!全員拘束します!」

 

やばっ!!聞き覚えのある声だ・・・・逃げていいかな・・・・

 

「沙織先輩っ!!」

 

「風花!大丈夫!?怪我はない!?」

 

「大丈夫です!ありがとうございます、沙織先輩っ」

 

うわーーーやっぱり沙織先輩じゃん・・・・どう言い訳したものか・・・そんなおれを尻目に沙織先輩は祐天寺たちをキッと睨み付けた。

 

「またあなたたちが騒動の原因ですか、祐天寺一味」

 

「今さらのこのこ現れて、言いたいことを言ってくれるわね、宇佐美沙織。そんな盗賊団のような言われ方をされる覚えはないんだけど」

 

「下級生は上級生のちゃんと敬語を使ってください」

 

「そんな校則ないでしょ!」

 

「今月はマナー月間。生活指導のプリントに書いてあります!」

 

祐天寺のやつよく言い返すな・・・・するとその後ろにいた菜緒さんの目が光り前に出ていく。遊ぶ気満々だなあの人・・・・・

 

「その身長では説得力がないぞ、さおりん」

 

「背の順で私より前にいる菜緒に言われたくない!あとさおりんってやめて!」

 

「では、うさぴょんで」

 

「もっとダメ!!」

 

・・・・菜緒さんめっちゃ楽しんでるよ。それを見かねてか沖原が手を挙げた。この会話に入っていこうとするだけでもおれは沖原を尊敬しそうになる。

 

「あの~沙織先輩」

 

「なに、沖原さん」

 

「そこに縛られている男二人がメティス使ってタイマンはってたのがそもそもの原因です。あたしと風花と慶司と真は巻き込まれただけで、助けに入ってくれたのが祐天寺さんたち・・・・・という構図でして」

 

やばっさりげにおれフォローされてる!・・・・沖原あとでヴィルフランシェ奢ってあげる!!!

 

「・・・・・なるほど、状況はわかりました。巻き込まれたのはこの四人。祐天寺さんたちは途中から乱入して、メティスでの戦闘行為に及んだ・・・・と。神野君は今回なにもしてないのですよね?」

 

おれは全力で頭を縦に振る。このチャンスは逃せない!!!

 

「生徒間トラブルを解消する目的なのは理解できましたが、できればみだりに能力を使わずに解決してほしかったですね」

 

「そういうのを机上の空論と言う。すべてが終わってから駆け付けた者が言うべき言葉じゃないな」

 

「むぐ・・・・!」

 

「ほぅ、なにか反論が?初動の遅い風紀委員殿」

 

この口ぶり・・・・たぶん菜緒さんがなにかして風紀委員の初動を遅らせたな。できればあんまり沙織先輩には苦労を掛けないでほしいが・・・・これも菜緒先輩なりの気遣いかもな・・・・

 

「とにかく!今回の件は、彼らからも事情を聞いておきます。いくら祐天寺さんでも、校則に特別扱いはありませんから・・・・それから速瀬慶司」

 

「え、俺?」

 

「女の子を連れているのなら、トラブルに巻き込まれないように気をつけるように」

 

「いや、慶司はっ」

「いえっ、速瀬くんはっ」

 

二人がフォローしようとしたが慶司がそれを止める。

 

「二人ともありがとう。でも確かに俺も悪い。はじめて《メティス>を目の当たりにして、思わず魅入ってた。さっさとこの場を去るべきだったのに。ごめんな、姫川、琴羽も。おまえたちが巻き込まれたのは、やはり俺が原因だ。真も色々とすまない」

 

意外と慶司のやつ殊勝だな。でも姫川は納得できないらしい。

 

「でもっ!速瀬くんは私の、私たちのこと、ちゃんと守ってくれたよ!ちゃんと《アイギス》で守ってくれた!」

 

「「「「――――!」」」」

 

「そういや・・・・」

 

「・・・ふぇ?な、なに?」

 

「あ、いや、別に・・・・なんでも・・・・」

 

「俺もなんもないよ」

 

「姫川・・・姫川風花さん・・・・ね・・・・」

 

「速瀬慶司・・・やっぱり要注意人物のいようね」

 

「なんでですか沙織先輩っ!」

 

姫川って本当に言葉足らずの時あるよな・・・・・

 

「さて、風紀委員殿。そちらで伸びている二人、江坂と海老名を早々に連れて行ってはくれないか?」

 

「菜緒に言われなくてもわかってます――《アンブラ》」

 

「お・・・・」

 

慶司が声を漏らす。確かに初めて見ると結構驚くよな、沙織先輩の能力は。いつも通り沙織先輩の足元の影からずんぐりむっくりした黒いウサギの影が立ち上がる・・・・・しかも4体。

 

「いつも思うけどすごいメティスコントロールだよな」

 

4体・・・・簡単に言えば4つのことを同時にこなすのと同じということになる。普通は不可能に近いが沙織先輩の普段の鍛錬の賜物だろう。

 

「みんなこの二人を運んで」

 

4体は沙織先輩にぺこりと頭を下げるとそれぞれ2体ずつ取り掛かって二人の《メティスパサー》をえっさほいさと運び始める。

 

「速瀬慶司」

 

「はい?」

 

「今日のことは感謝するわ。是非、また」

 

「あ、はい・・・・」

 

慶司なんか歯切れ悪いな・・・・もっとはっきりとものをいうやつだと感じてたんだが・・・・・

 

「行くわよ、にゃお!ぽち!」

 

「「ハッ」」

 

沙織先輩も帰って行ったし祐天寺たちも帰るのか・・・・その去る途中で菜緒さんが振り向いて良い笑顔――ちょっと含みのある笑顔でおれを見た。

 

「真・・・・お前には今度協力を要請したい件がある。頼めるか?」

 

「・・・菜緒さんには大恩だありますし出来ることなら」

 

「そうか。ではまた今度な」

 

「ええ、また」

 

なんなんだろう・・・菜緒さんがおれに協力を仰ぐなんて珍しいな。

 

「俺たちも行くか」

 

慶司が残ったおれたちを見て言う。

 

「うん」

 

「は~い」

 

「オッケー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----keizi side

 

「ここが男子寮の『凪波寮』だよ」

 

「へぇ、結構立派な建物だな」

 

「違う違う。そっちの立派なのは女子寮の『常若寮』。凪波寮はそっちのシンプルな方」

 

「・・・・シンプル」

 

「慶司言いたいことはわかるが比べるのはやめろ。虚しくなるし現実はこんなもんだ」

 

そうだ。建てられてまだ何年も経ってないわけで比べさえしなければこれはこれで立派な建物だ・・・・比べさえしなければ。

 

「もうこんな時間になちゃったね」

 

姫川が申し訳なさそう言う。

 

「あんなことがあったんだからしょうがないでしょ。っていうかあれ、あたしの責任だよね」

 

「だから俺がいつまでも逃げなかったからだってば」

 

「ううん、あたしが慶司から逃げちゃったのがやっぱり悪いと思う―――だから、ごめん。慶司も、風花も。それに真にも迷惑かけちゃったね」

 

「琴羽ちゃん・・・大丈夫、私は気にしてないよ」

 

「おれも別にかまわないよ。沖原たちになにがあったかは知らないけどこうして誰も怪我してないんだし」

 

「・・・ごめんはいいけど、琴羽。俺にはまだ言ってないことがあるんじゃないのか?」

 

慶司の言葉に一瞬沖原はキョトンとしそしてその意図に気付き笑った。

 

「・・・慶司、久しぶり」

 

「おお、琴羽、久しぶり。また同じクラスになったらしいから、よろしくな」

 

「うん、よろしく」

 

その慶司は沖原に右手を差し出し握手を求める。沖原は少し照れた様子でその手を握った・・・・・なにこのいい雰囲気。ただそんな中慶司が表情が強張った気がした。静電気ではなさそうだし・・・・どうかしたのか?

 

「私も交ぜて!改めて、よろしくお願いいたしますっ」

 

そんなことより姫川のやつあの雰囲気に割って入るなんて・・・・・・・姫川の大概だな

 

「真も入りなよ」

 

「嫌だよ、慶司も男なんかよりその美少女二人のほうがいいだろ?」

 

「なっ!?」

 

「あ、慶司もしかして照れてる?」

 

「そ、そういうんじゃないって!」

 

「あはははははっ」

 

「それじゃまた明日ね。速瀬くん、神野くん」

 

「慶司は部屋の片づけ頑張ってね。真も暇なら手伝ってあげてね」

 

「ああ。ありがとう。また明日」

 

「了解」

 

軽く手を振って、二人に別れを告げる。

 

 

「じゃ慶司行くか」

 

「ああ。そういえば荷物は送ったんだけど俺の部屋のこと知らないか?それと寮の管理人さんとかに挨拶したほうがやっぱり良いよな?」

 

「どっちも一緒に片付けてやるからとりあえず寮に行こうぜ」

 

「そこまでしてもらっていいの?」

 

「構わないよ。どっちも簡単に――――」

 

「真っ!!」

 

寮の入り口近くまで来たときにちょうどおれを呼ぶ声がした。

 

「航平か・・・どうした?」

 

「どうしたじゃねぇよ・・・・・転入生が―――」

 

「ああ。転入生ならこいつだよ」

 

「・・・・・へっ?」

 

おれが慶司を指でさす。

 

「どうも・・・速瀬慶司です」

 

慶司が自己紹介をする。

 

「航平に丁寧語なんて言葉が勿体ないぞ」

 

「なんでいきなり俺を貶めるんだよ真」

 

「こいつは・・・・」

 

「スルー!?スルーなの!?」

 

やっぱりうるさいな。話が進まない・・・・・

 

「そんなにしゃべりたきゃ慶司に自己紹介でもしろよ」

 

「本当に辛辣だな・・・・もしかして機嫌悪い?」

 

「そんなことはないが・・・・少しでもストレスを軽くするのに越したことないからな」

 

「ひどいっ!!!!!」

 

「速くしろよ!!慶司がぽかんとしてるぞ」

 

「ああ。そうだな――コホン。申し遅れたが俺がおまえのルームメイト浜北航平。人呼んで――――浜北航平だ」

 

航平がビシリと親指で自分自身を指さす。

 

「おー」

 

慶司がぱちぱちと拍手もしている。ただ言葉は完全に棒読みだ。さすがは慶司。おれと航平のやり取りを見て航平のキャラを完全把握したみたいだな。

 

「あ、どうもどうも――――ってつっこめよ!なにが人呼んでだよっ!とか」

 

「そこをつっこんでも寒いだけじゃないか?」

 

「・・・・・おお、なるほど」

 

納得しちゃってるよ・・・それでいいのか航平!!

 

「まぁそういうことなら改めて。俺は速瀬慶司。よろしく頼むよ、浜北くん」

 

「よろしくするのはやぶさかではないが、それはそれとしてとりあえず」

 

「ふむ」

 

「その『浜北くん』とかいう怖気のする呼び方はやめてもらおうか。そう呼んでいいのはおっぱいの大きい女子だけだ」

 

「そうか・・・・じゃあ航平」

 

「早いな、いきなり名前呼び捨てかよ。まぁ良いけど。その代わり、こっちも慶司って呼ぶぞ?」

 

「ああ。仕方ないからそれでいいよ」

 

「なんでそんなに嫌そうなんだよ!」

 

やはり慶司は出来る子だな。航平もこれからどんどん良くなるだろうな・・・・主に芸人として

 

「冗談だよ。よろしくな航平」

 

「お、おう、よろしく、慶司」

 

二人が握手を交わす。どうやら紹介は終わったらしな。

 

「挨拶もすんだみたいだし部屋に案内するよ」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ガチャ

 

おれが部屋を開ける。そこには机とベットが三つある。

 

「どうよ?」

 

航平が慶司に聞いているうちにおれはおれの机から書類を出していく。慶司に関するものはっと・・・・

 

「三人部屋なのか?俺二人部屋って聞いてたんだけど・・・・」

 

「寮に空きがなくてここだけ特別三人なんだ。でも普通の部屋よりは多少広いし大丈夫だろ?」

 

「確かに思ってたより広い・・・・もう一人は真なのか?」

 

「ああ。よかったぜ、航平の相手が大変だったんだ」

 

「・・・・なるほど」

 

「なるほどってなに!?てかさっきから真本当にひどいよね!?」

 

「ダイジョブデ~ス。ジョウダンです」

 

「やるなら最後で折れんなよ・・・・」

 

「・・・・・」

 

なんか慶司がおれと航平のやり取りをジッと見てる・・・・

 

「慶司どうした?航平以外におかしいことがあったか?」

 

「いや・・・・ああ・・・ちょっとな」

 

「ちょっと待て慶司。それを肯定されると俺がおかしいってことに・・・・」

 

「航平うるさい」

 

「やっぱり酷いよ!!!」

 

航平はそう言って自分のベッドにダイブする。まぁスルーだな。

 

「なにがおかしかったんだ?」

 

「いや・・・・ごめん」

 

「?なんでごめんなんだ?」

 

さっき今日のことは謝ってたし違うことか?

 

「おれなんか慶司にされたっけ?」

 

「俺・・・真のこともっと怖いやつだと思ってたんだ・・・・・《メティス喰い》のことを聞いて」

 

「ああ・・・なるほど」

 

確かによく本当に《メティス喰い》かって言われるんだよな・・・・どんな想像をされてんのだか・・・

 

「別に気にしなくていい。怖いやつだとイメージされることは多いしな。でも本当のおれはこんな感じだ。改めてだが仲よくしてくれるとうれしい」

 

「こっちこそこれからもよろしく」

 

おれと慶司が握手を交わす。やっぱりこうやってキチンとしてくれるのはいいよな

 

「結局スルーかよ・・・・・」

 

「ごめん航平。そういえばなんでわざわざ寮の前に出てたんだ?おれに連絡してくれればよかったのに・・・・」

 

「・・・・自分の机を見てみろよ」

 

航平が困った笑顔でいいのでおれは自分の机を見てみるとそこには充電器に刺さったままの携帯が置いてあった。

 

「あっ・・・・・」

 

「あれだからな・・・」

 

「ごめん。それはマジでごめん」

 

「良いって。それにしても慶司、転入早々姫川と沖原をナンパするなんてやるな。そのテクを俺にも伝授してくれ!」

 

「そんなテク持ってねーよ。っていうか見てたのか?」

 

「ああ。あれで真には連絡つかないし夕方には来るって聞いてたのに来ないから心配で入り口で待ってたらイチャイチャしてやがったからな・・・・」

 

「イチャイチャはしてない。姫川は先生に言われて学園を案内してくれただけで、琴羽に至っちゃ偶然会った幼なじみってだけだ」

 

慶司はそう言いながら届いている段ボールに手をかけて、ガムテープをはがし始める。

 

「手伝うか?」

 

航平が聞く。こういうとこらあるからこいつはいいんだよな・・・・・

 

「んにゃ、少ないから大丈夫」

 

「うい」

 

「そうだ、慶司。これ書いておれに出して」

 

俺が慶司に書類を渡す。これは入寮の時に書いてもらうものだ。

 

「ああ・・・・ってなんで真がこんなもの持ってるんだ?」

 

あれ?話してなかったっけ?

 

「そりゃそうだ。真はこの寮の管理人代理・・・・正確にはすべての実権を握ってるがな。慶司聞いてなかったのか?」

 

「・・・ああ。初耳だ」

 

あーやっぱ言ってなかったか。

 

「それについては言ってなくてごめんな。てことで挨拶はもうすんでるしあとはその書類をおれにだしてくれればいいよ」

 

「わかった・・・・」

 

慶司がキョトンとしながら頷く。まぁみんなこんな感じだし、気にしてなんかないもん!!!

 

「話は戻るが、沖原と幼なじみってマジか?」

 

航平がおれを見かねてか話題を変えてくれる・・・・ありがとう航平。

 

「え、ああ。マジだ。幼なじみっていうか腐れ縁っていうか・・・・ここに来てるなんて知らなかったから、ホントにびっくりしたよ」

 

「はぁ、なるほどなぁ。しかし幼なじみっていうのはいいよな。エロゲ的淫猥な響きがある」

 

「――っ」

 

「はぁ・・・・」

 

ホントに航平は残念だよ・・・・・・

 

「どうした慶司、段ボールに顔なんか突っ込んで・・・・」

 

「そんなものに淫猥な響きを感じ取るなっ!」

 

「その通りだ!!」

 

「二人ともなんだよ!?だって幼なじみだぞ?あれだろ?勝手に部屋に入ってきたり、寝てるところ馬乗りになってきたり、親に任されてるとか言って料理作ってくれたり・・・・」

 

「・・・すまんが、琴羽とは小学校からずっとクラスが一緒だっただけで、家がすぐ隣とかじゃないから。町内会も違うし・・・」

 

「ぬぅ・・・・なんと夢のない」

 

「航平が夢見がちなだけだ。幼なじみってのはそんなもんだ」

 

「そうなのか?・・・・・てか真もそんな人いるのか!?」

 

「まぁ近いものでは菜緒さんだ。あの人とはかなり付き合いが長い」

 

「な、なるほど。それは確かに・・・・」

 

航平が納得してしまう。まぁそんなもんだよね・・・・・・

 

「そういえば、慶司ついでに好みのタイプとか聞いていいか?」

 

「いきなり飛んだな!!」

 

おれが突っ込む。こいつ切り替えはやすぎだろ!?やっぱりこいつは芸人になる器だ。

 

「まぁでも好みのタイプか・・・。美人系よりかわいい系。胸は好きだが大きさはそれほどこだわらない。あとは・・・・がんばってる子がいいかな」

 

慶司がさらっと答える。今のを誰かに当てはめるとすると・・・・・やばい。一人しか出てこない気が・・・・

 

「つまり、姫川はかなり好みのタイプ?」

 

そうだよな・・・そうなるよな。姫川だよ完全に。

 

「今日会ったばかりだし、まだわかんないって。かわいいとは思ったけど」

 

「まぁ、そんなもんか。んで、沖原とは本当にただの幼なじみなのか?」

 

「ああ、それ以上の関係じゃないよ。なんだ航平、琴羽に気があるのか?確かに胸は破格に育っていたおうだが・・・」

 

「い、いやっ、沖原は確かに胸もでかいしかわいいと思うが、俺には鬼門なんだ。それに沖原に気があるのはそこで黙ってるやつで、おれには別に崇拝する女神がいる」

 

航平が俺を指さす。こいつ・・・・勝手いいやがって・・・・

 

「えっ!?真って琴羽にきがあるのか?」

 

「まぁな・・・さっき勝手に言った航平には後で制裁だが事実だよ」

 

「そうなのか・・・・とりあえず理由を聞いてもいいか?」

 

「別に大丈夫だ。なにより明るいところだな。顔もかわいいと思うし胸も魅力的だがおれ的にはその性格が明るいところが良いと思う。こっちまで前向きにしてくれるし」

 

なんだか少し照れくさい。でもここは譲れないところなのではっきりと言った。

 

「な、なるほど・・・・・」

 

「まぁ、幼なじみでなんか考えるところもあると思うがよろしく頼む」

 

本当はそうなるエピソードがあるんだが、それは大切なものだからあんまり人にいうもんではない。

 

「ああ。ただ真ならなんか安心かもな・・・」

 

「そういってくれるとうれしいよ」

 

「で、航。平崇拝ってのはどこぞの巨乳アイドルか?」

 

「不意に戻ってきて結構くるなぁ・・・違う。手の届くところにいる女神だ。慶司も転入生なら知ってるかもしれないがCSCの―――」

 

「ああ、もしかして汀さんか。確かにあれは圧巻のボリュームだったような」

 

「先を読むな!」

 

「航平、それは慶司に対しては無理なことだぞ」

 

慶司はどうも察しがよすぎる・・・・いやうまいかな

 

「――ハッまさか!それがおまえの《メティス》か!?《思考読み取り》とか《未来予知》とか」

 

「いや,航平がわかりやすいだけだ」

 

「ガーン・・・・・」

 

そういえば慶司のメティス・・・・・・

 

「そこは落ち込むな。会った初日からつーかーの仲になったと考えるんだ」

 

「な、なるほど・・・・?」

 

航平ってかなりチョロイよな・・・・

 

「で、航平もなんか《メティス》使えるのか?」

 

「んにゃ?俺はただの一般人。普通に受験して普通に入学した。《メティスパサー》になるための授業みたいなのはあるけどな。受けたからって誰もが《メティスパサー》になれるわけじゃない。っていうかいくらここが《メティス》の研究機関っていっても、《メティスパサー》なんてクラスに4人もいれば多い方だよ」

 

「そんなもんか、ふむふむ」

 

「まぁ、でも俺も《メティス》を使ってみたいってのはあるが、今のままでも充分面白ぇかな。周りにさ、ヘンな能力持ってるヤツがいるって日常は結構刺激的だよ」

 

「!!」

 

うん?なんか慶司のやつが反応したな。そして唐突に航平の手を取って固く握手してるし・・・・

 

「うおっ、な、なに!?」

 

「素晴らしい!実は俺もそう思って転入を決めたんだ。実際に今日目撃して、その考えに間違いがなかったとわかった。ただ―――」

 

「ただ」

 

「・・・・・思ってたより遥かに危険だな、《メティス》。マジ死ぬかと思った」

 

「ああ、今日もさ、3年生2人、《メティス》を使って派手にケンカしてたとかで騒ぎになってたみたいだぜ」

 

「俺と真、その場に居たんだよね・・・・」

 

「うぉっ、二人してアレに巻き込まれたのか!?じゃ、じゃあ祐天寺のお嬢様ってのは見たのか!?」

 

「祐天寺の?ああ、あの炎使いの女の子な。祐天寺美汐・・・だっけ」

 

「あってるな。でも航平どうしてそれを?」

 

「いや、3年2人のタイマンに割って入ってあっと言う間に制圧したって聞いたからよ。すげぇよな・・・」

 

「さすがにあのお嬢様は有名なのか・・・・」

 

「勝手に治安活動するからってんで、風紀委員とは対立してるみたいだけどな」

 

「ほうほう・・・・・」

 

「で、慶司よ。お前の《メティス》は?使えるんだろ?」

 

航平がおれの疑問の根幹を突いた。

 

「それはおれも気になる。確か《アイギス》だったよな?」

 

「なっ!?《アイギス》だと!?」

 

航平が目を丸くして驚く。ただ慶司は複雑そうな顔をした。

 

「――《アイギス》っ」

 

慶司が手を前に出して言う。ただ《アイギス》は出てない。

 

「発動してないな・・・」

 

おれが目を使って確認するが《アイギス》はない。

 

「やっぱりか・・・・」

 

「なんだそりゃ。まだまだ初心者だからってこと?」

 

「なのかもな?元々素質は充分にあるって言われただけで、今日まで一度もそんなの使ったことなかったからなぁ」

 

「俺たち一般人と大して変わらない、と」

 

「そうだな。このまま一生使えないかもしれないし、一般人と思っておいてくれていい」

 

「・・・・まぁでも能力的には一般人もここにいるからな・・・大丈夫だと思うぜ」

 

「能力的には一般人とはうまくいってくれるな・・・・」

 

おれのメティスもあんまり利用できることないからな・・・・・

 

「ところで航平。お前は巨乳派ということでいいんだよな?」

 

「うむっ。小さいおっぱいはそれはそれとしてかわいいと思うのだが、やはり顔をうずめるくらいのサイズがほしいっ!」

 

「ではこいつだな・・・・。航平、これは親睦の証として受け取っておいてくれ。改めてよろしく頼む」

 

「ああ、よろしく―――――こ、これはっ!?!?!?」

 

慶司が取り出した実用的な本だ。確かに航平と仲よくするならそれはかなり効果的だろうよ・・・・でもそれでいいのか航平・・・

 

「おおっ・・・・おおおおおっ・・・・おおおおおおおおおおおおっ」

 

どうやらお気に召したらしいな。

 

「・・・・・フッ・・・・入ってきた側にここまでされたんじゃ、俺も腹を括るしかないな」

 

航平が無駄に恰好付けた口調でそういうと、フラフラと自分の机に向かい、その棚から一冊の本を取り出した。

 

「じゃあ、俺からもだ。・・・・・・こいつはな、本当に俺のお気に入りなんだ・・・・大切に使ってやってくれ・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

航平が出した本・・・・あれ、確かにお気に入りってよく言ってたな・・・・・慶司がパラパラとページをめくる。そしてフッと笑い顔をあげた。

 

「航平」

 

「慶司」

 

2人ががっちりと握手を交わす。なんかおれ完全に地雷を部屋に置いた気分だな。

 

「真!この際だ。お前のお気に入りもだせ」

 

「はっ!?まさかこれに巻き込むのか?」

 

「当たり前だ。お前も部屋の住人。今日は語り明かそうぜ!!!」

 

「そうだな。俺も真とも仲良くしたい」

 

「はぁ・・・・・まぁでもたまにはこういうのも悪くないか・・・・」

 

おれも机の棚から一冊取り出す。そしてそれからは種々雑多なことを話しあいさらなる親睦を深めたのであった

 




読んでいただいて本当にありがとうございます!!!!

長く拙い文章ですができれば感想、ご指摘を頂けると非常に喜びますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学園初日 1

遅くなってすみません。かなり最近忙しいもので・・・・・


でも絶対投稿はするのでよろしければのんびりと楽しみに待っていてください!!


ジリリリリリ・・・・・・・

 

聞き覚えのない。目覚まし時計の音・・・・

 

「航平・・・・目覚まし変えたのか?」

 

おれは目を開けずに聞く。

 

「悪い真、俺の目覚ましだ」

 

聞き慣れてない声・・・・そういや、慶司が転入してきたんだった。

 

「いや、てことはそろそろ準備する時間ってことだろ・・・・航平は・・・・・」

 

「ぐがー・・・・・・」

 

このいびきは非常に聞き慣れている。

 

「・・・・おい、起きろ航平。朝だぞ、起きてくれ」

 

「ぐ・・・・・ぐがー・・・・・」

 

慶司ががんばっておこそうとするが航平は一向に起きない。

 

「慶司あんまり起きないなら起こさなくても・・・・・」

 

「おっぱいが!?」

 

「いや、おっぱいってどこから出てきた・・・・」

 

跳ね起きた航平が、きょとんとした顔で慶司の顔を見ている。

 

「だ、誰?なんで真以外の人がここに・・・」

 

「昨夜、おまえと真のルームメイトになった速瀬慶司だよ。おはよう」

 

慣れてないとそうなるんだよな・・・・おれも入ったばっかのとき航平に言われたし。

 

「お、おお・・・ルームメイト・・・・おおお・・・・」

 

ただ航平は思い出せないのか、まだキョトンとして慶司を見ていた。

 

「・・・・思い出せないなら、おれがぶん殴ってやろうか?」

 

「うおっそれは大丈夫だ真!慶司、覚えてる!おはよう、心の友よ!!」

 

「おまえ本気で忘れてただろ!」

 

慶司が激しく突っ込む。・・・うん、おれもそういえば最初激しく突っ込んだよな・・・・

 

「ち、違う!夢のせいなんだ!急におっぱいが規制されるって聞いて、俺はもう気が気じゃなくてっ・・・・」

 

何言ってんだこいつ・・・・ああ、航平だから仕方ないか・・・・おれはあきらめて準備に取り掛かる。

 

「おっぱいが青少年の健全な育成を阻害するなんておかしいだろう!?むしろ、おっぱいなくして青少年が健全に育つはずがないっ!!立ち上がれ若者よ!!おっぱいをその手につかむのだ!!おっぱいの自由を侵害されてはならぬ!!」

 

「落ち着け、航平。それはおまえの夢の中の話だ」

 

慶司が航平を宥める。慶司本当に優しいな。おれなら確実に放置だな。

 

「お、おお・・・・そうか・・・ふぅ・・・」

 

「航平落ち着いたのならはやく準備しろ。慶司はここでははじめての朝だ。色々教えてやらないといけない」

 

「そうだったな。よしわかった、俺と真ですべてレクチャーしてやろう」

 

「うん。二人ともよろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------keizi side

 

真と航平の案内で寮の食堂で朝飯を済ませたりしつつ、まだ着慣れない新しい制服に着替えて学園にやってきた。今日は転校初日なので教室には向かわず、職員室で朝比奈先生と落ち合う。

 

「そういえば、昨日さっそく一騒動起こしたと聞いたが」

 

「ま、巻き込まれただけです・・・」

 

「ハハハ、騒動結構。私は大人しくしてるヤツより、活動してるヤツの方が好きだね」

 

「活動と騒動は一緒にしない方がいいんじゃ・・・」

 

「細かいことを気にするヤツだな。早く老けるぞ?」

 

「ほっといてください」

 

 

――――ガラガラ

 

「静かに。委員長、号令」

 

「起立、礼」

 

おっ姫川の声だ。

 

「「「「「おはようございます」」」」」

 

「着席」

 

「うん、おはよう――――もう知ってい者もいると思うが、今日から我が2年A組に新しい仲間が加わる―――速瀬、入れ」

 

「はい」

 

ドアを開けて教室に入っていくと、好奇に溢れた視線が俺に集中した。すでに俺を知っている航平がなぜか自慢げな顔をしていたり、姫川がにこにこしながら小さく手を振っていたりする。よく見れば琴羽もヤレヤレと言った様子で苦笑しているな・・・・そこでもう一人の知り合いがいないことに気付く。一緒に寮を出たはずなのになぜか教室にはいない。同じクラスって言ってたよな?

 

「えー、彼が転入生の―――」

 

「浜北航平ですっ!!」

 

朝比奈先生の紹介を遮って、航平がしゃっきりと立ち上がった。宣誓するかのようにピシリと片手をあげたままの航平の元へ、無言で朝比奈先生が近寄り、そっとその額に手を触れる。

 

「いだだだだだだだだだだだだだだだだっ、あ゛あ゛あ゛あ゛、アイアンクローはっ、アイアンクローはぁっ!」

 

「反省したか?浜北」

 

「反省しましたっ、反省してますっ、ギブっ、ギブっ」

 

そこで朝比奈先生が手を緩める。まぁ自業自得だよな・・・

 

「はぁっ、はぁっはぁっはぁっはぁっ・・・・・」

 

「転入生の紹介の邪魔をするな」

 

「は、はい・・・・つい、出番が来たかと、思ってしまいまして・・・・」

 

「思うな。おまえの出番じゃない。いいか?お・ま・えの出番じゃないぞ?わかったか?」

 

「・・・・ち、貧乳が」

 

「ぬがががががががががががっ、あ゛あ゛、あ、アイアンクローはっ、アイアンクローはぁっ!」

 

バカがいる・・・・・

 

「ふぅ・・・すまないな、騒がしいクラスで」

 

航平がドサッと崩れ落ちる。そりゃそうだろ・・・・

 

「では改めて彼が転入生だ。自己紹介をお願いできるか?」

 

「はい・・・え――・・・」

 

俺が自己紹介をしようとしたその時、ガラガラとドアがあいた。

 

「あれ?慶司の紹介まだ終わってないの?」

 

キョトンとした目で俺を見据えているのは今日一緒に寮を出たルームメイトだった。

 

「おお、神野。風紀委員の事情聴取は終わったのか?」

 

朝比奈先生は事前に聞いていたようで入ってきた真に何事もなかったかのように話しかける。

 

「ええ・・・って航平のやつまたなにかしたんですか?」

 

「まぁな・・・・・正しい犠牲だ」

 

「どうせまた先生の胸の話でもしたんでしょう?」

 

真が苦笑する。

 

「ふん・・・・胸が小さいからってなんなんだ・・・」

 

ああ・・・・朝比奈先生拗ねてるし・・・こうなると長いんじゃ?すると真が俺を見てニヤリと笑った。

 

「おれは小さい胸もすごくいいと思いますよ?」

 

「本当か!?」

 

朝比奈先生が真を素早く見る。

 

「ええ。その良さに気付かない航平がくそなだけです。ですから先生そんなにへこまないでください」

 

・・・・手馴れてやがる。俺は真を見ながらそう思った。

 

「ハハハ!!そうだろ!!!!しかも言われたのがあの神野だと説得力が違うな」

 

「あの神野?」

 

おれはその言葉が引っ掛かる。真のやつなんかしたのか?

 

「航平のことなんかよりとりあえず慶司の紹介しないと・・・慶司頼む」

 

「あ、ああ。」

 

なんか朝比奈先生よりよっぽど真のやつが先生みたいだ。

 

「えー、今日からこのクラスでお世話になります―――浜北航平です」

 

「俺かよ!!!―――あだだだだだだだだだだっ!ちょっ、まっ!慶司がっ、慶司がボケたから、俺はっ!あだだだだだだだだっ」

 

「ごめん。なんか流れ的にボケたほうがいい気がして・・・・せっかくだし・・・」

 

「うむ、お心遣い痛み入る――あだだだだっ!痛い痛いっ、も、もう黙りますから!マジで黙りこくりますからっ!」

 

ドサッと音を立てて航平がまた崩れる。

 

「今回はルームメイトに免じてこんなもんで許してやろう。ふぅ・・・手が疲れた」

 

朝比奈先生、案外航平はお気に入りの生徒だったりして、航平にしてもこうなるのがわかっていてやってるようだし、あの真の止め方もいつも通りということだろう。―――ただ航平だけはそこまでやられるのが『おいしい』と思っている可能性が高いが。

 

「では改めまして、速瀬慶司です。よろしくお願いいたします。以前の学校では――」

 

俺は気を取り直して、いかにもで無難な転入生の挨拶をし、拍手をもらった。オイシイところは航平が持っていった感が否めないが、別に目立ちたいわけでもない。こんなところで充分だろう。

 

「ご苦労。座席はクラス委員の姫川の隣だ。ちなみに偶然とか運命の糸などではなく、世話を焼くヤツの近くの方が都合がいいだろうという配慮だ」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・?」

 

いや、ぶっちゃけそこまで言わなくてもいいのでは。見れば姫川は全く気にした様子もなく、こっちこっちと笑顔で手招きしていた。・・・・・まぁ、いいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

「転入生もいることだし、今日のメティス概論は簡単なおさらいとしよう。姫川、速瀬に教科書を見せてやってくれ」

 

姫川が慶司の机に自分の机をくっ付ける。これはなかなか・・・

 

「慶司のやつ完璧にデレデレね」

 

おれの隣・・・・沖原がおれだけ聞こえるように言ってくる。

 

「まぁ仕方ないんじゃないか?大体知ってるんだろ?」

 

「まぁ・・・そうなのよね・・・・」

 

沖原はおれがなにを言いたいのかわかったらしく苦笑している。

 

「《メティス》とはかつて一括りに超能力と呼ばれていたものの一つだと考えてもらっていい」

 

そんな中、洋子さんの授業が始まる。この人の授業かなり良いんだよな・・・おれの好きな授業の一つだし、たぶん学園でも洋子さんほどわかりやすい授業をする先生は少ないと思う・・・・本当にいい先生なんだけどな・・・・

 

「その名の由来はギリシア神話の知恵の神でな、意思の力と能力の発言に深い関わりがあるとわかった頃からこの名が広まった。いまだ詳しいことはわかっていないが、発言する《メティス》の種類も、個人個人の意思に応じていると考えられている。一番有力な説は『欲求』だな。たとえば去年の卒業生の中には、自分の周囲を無音にする《クワイエチュード》というメティスを使う者がいたが、メティスに目覚めるまでは不眠症に悩まされていたそうだ」

 

おれはそこで改めて二人を見た。そうそこがおれの一番今気になっている部分だ。姫川のメティス・・・《アイギス》は姫川の持つ強い意思・・・・大切ななにかを守りたいというもので発現したメティスだ。確かに慶司はあの状況でみんなを守りたいと強く思ったかもしれない・・・・でもそれだけで《アイギス》が手に入るなら、紛争地域にいるメティスパサーの何割かは《アイギス》を発現することになっていたはずだろう。でも現在《アイギス》を使えるのは全世界で姫川風花ただ一人。ほかに盾を生み出すメティスパサーは多くいるが《アイギス》はたった一人だ。先生が言ったようにメティスは欲求によって発現するというのが一番有力なのだからそうなることは必然のはず。一言に守りたいと言ってもそれは人それぞれで多種多彩な意味を持つ。それが形成されるのだから一人一人異なる《メティス》になる。でも慶司は違った。確かに《アイギス》を使ったのだ。

 

「正直可能性が低いだけであり得ないことではないのかもしれない」

 

ほかに事例がないだけであり得るのかもな・・・・今度菜緒さんに頼んで資料か論文か持ってきてもらおう。でももし別に《メティス》だったなら慶司の《メティス》はどんなものなんだ?慶司の《メティス》の条件・・・・姫川の《アイギス》を使えるような能力ということだ・・・・そうなってくると《アイギス》は空気を圧縮して盾を作る能力だから、空気を操るメティス、もしくは・・・・・いや、こっちはありえないな・・・・でも・・・おれは慶司が航平の手を取って言っていたこと思い出した。

 

「こっちのほうが府に落ちるんだよな・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----keizi side

 

 

メティスネームか・・・・どうやらそれのおかげでメティスパサーは能力の制御を行っているらしい。

 

「俺のメティスネーム・・・・・」

 

俺はあの時確かに『アイギス』と叫んで、《アイギス》を使った。だが、なんだろう。俺の持つメティスは《アイギス》ではないように思う。俺があの時《アイギス》を使えた理由と、今《アイギス》を使えない理由がそこにある気がする。姫川の《アイギス》、祐天寺の《プロミネンス》、宇佐美先輩の《アンブラ》、江坂の《ダビデ・ストーン》、海老名の《パペット・イン・ザ・ミラー》、そして真の《ゼロ》――――じゃあ、俺の能力は?俺の《メティス》は一体・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

その時ふと、指先でシャープペンシルをくるくるとまわす琴羽の姿が目に入った。そういえば、あいつも《メティスパサー》なんだろうか。俺が知っている限りでは琴羽は水泳の実力が認められて、水泳の強豪校・再森館学園に推薦入学したはずだ。それが確かなら、琴羽もまた澄之江には途中編入してきたことになる。

 

「聞いてない?澄之江学園って普通の人でも入学できるけど、基本的には途中編入受け入れてないの。例外は、『メティスパサーと認められて学園側からの勧誘を受けた人』・・・・・」

 

姫川の言った言葉・・・・つまり、琴羽は『メティスに目覚めたので、水泳をやめて澄之江に来た』と考えるべきか。負けず嫌いなあいつのことだ。そのことにコンプレックスを持っているのかもしれない。まぁ想像で考えても仕方ないか。琴羽はあの時なにも言わずに行ってしまったから、西森館学園云々はあとから琴羽のおばさんとかに聞いた話だしな・・・・。今度、琴羽に直接聞いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

 

「さぁって、おっひる、おっひる~♪」

 

姫川のやつかなりご機嫌だな・・・・あいつそんなにお昼楽しみにしてるようなやつだっけ?

 

「速瀬くん、一緒に学食行く?」

 

「お、そりゃあ助かるな。うん、是非」

 

「フフ、よかった」

 

こりゃ・・・おれの助けはいらないな。それなら航平と・・・・

 

「慶司~、学食行こうぜ~!」

 

「なっ!?」

 

「風花~、お昼~」

 

「ななっ!?」

 

・・・・あいつら本当にすごいな。おれにはあの二人の空気には割って入れない。でもまぁとりあえずおれも航平と沖原に便乗しとくか

 

「慶司、おれも一緒に飯行っていいか?」

 

「おお、もちろん・・・・てかなんで航平はこんなにおびえてるんだ?」

 

「それは当事者に説明してもらえよ。な、沖原」

 

「ちょっ、真!!あれはあたしは悪くないでしょ?」

 

「まぁ確かにあれは航平が悪いが・・・・あそこまですることはないだろう・・・・・」

 

おれは遠い目で思い出す。あれを見ていた男子の全員があそこを押さえたのは懐かしい。

 

「前にね、浜北くんがふざけてセクハラ発言してぇ・・・・琴羽ちゃんが蹴りばしちゃったの?」

 

誰も説明しないので姫川が説明してくれるさすが委員長。

 

「ちょっと風花。その説明じゃ、あたしが単なる暴力女みたいじゃない。だいあたいあってるけど」

 

「そうだぞ、いいんちょ。だいたい俺がしたのはセクハラ発言なんかじゃない。ちょっとそのでかいおっぱいを揉んでみたいと言っただけだ!」

 

「立派なセクハラ発言だろ」

 

「だよね!?その上、なんか手をわきわきしながらジリジリにじり寄ってくるから、思わず―――股間を蹴り上げちゃって・・・・・」

 

「あぁ・・・・」

 

慶司がなんか納得したようにうなずく。

 

「あれは見ていた全員が股間を押さえたよ」

 

「確かに琴羽の蹴りを見たらそうなりそうだな・・・・・」

 

「違うんだ。俺は紳士だから、本当に触るつもりなんかなかったんだ。ちょっとしたお茶目のつもりだったんだ。だが・・・それは結果として、二週間に及ぶ不能状態を俺にもたらすことに・・・・・それ以来、俺の身体は勝手に沖原を避けるようになってしまってな、決して沖原を嫌うつもりはないのだが、無理だ。半径2m以内には入り込めない」

 

「なんだ。それじゃ琴羽はむしろ安全になったってことじゃないか」

 

確かに・・・・慶司うまいこと言うな。沖原もそう思ったようで笑顔を浮かべた。

 

「なるほど、そういう考え方もできるか。蹴り上げた甲斐があったね」

 

「うむ」

 

「うむじゃないっ!くそうっ、仲いいな幼なじみめっ!」

 

なんか慶司が来ていいな。さらに周り明るくなった・・・・・ただ次の言葉でその空気が氷ついた。

 

「・・・・不能状態って、なにが不能だったの?」

 

「「「えっ!?」」」」

 

姫川のやつ・・・・さすがにそれは・・・・・

 

「さて姫川、学食に連れていってくれるんだろう?行こうぜ」

 

慶司のやつナイス。

 

「そうだな。姫川そろそろ腹減ったよ」

 

「んじゃあたしも一緒に。ほらほら風花、行こ行こ」

 

「う、うん、でもなにが」

 

「いいから」

 

沖原強引に姫川を連れていった。

 

「航平はどうする?沖原も一緒になってしまったが・・・・・」

 

「うむ、いいんちょにさらに質問されても困るので、今日は遠慮しておこう。真は行くのか?」

 

「ああ。悪いな航平・・・」

 

「いいよ。うんじゃ慶司もまた今度な」

 

「おう」

 

そういうと航平も言ってしまった。

 

「うんじゃ慶司おれたちも行こうか」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----keizi side

 

「おお、結構広いな」

 

「だろ?それに結構おいしいんだ」

 

「へー」

 

「あ、沖原先輩、こんにちは~」

 

「こんにちは~」

 

「ん、こんにちは。今日はなにがおいしかったかな?」

 

俺はは目を見開いて驚いた顔でそれを見ていた。

 

「・・・・な、なにごと」

 

「昨日もちょっと言ったけど、琴羽ちゃん人気者だから・・・それに今日はそれだけじゃなくて・・・・」

 

「それに?」

 

「あっ!神野先輩。こんにちわ!!」

 

「おう。こんにちは」

 

「神野先輩!!今日は学食ですか?」

 

「ああ。なんかボリュームがあるものなかった?」

 

「ありましたよ・・・・えっと・・・・」

 

「こっちもなのか?」

 

「うん。神野君もすごく人気者でね・・・・」

 

「人気者って言ってもこれは・・・・」

 

本人の聞こえないところで、噂をされているようなレベルを遥かに超えてるじゃないか。琴羽と話していた下級生の女の子も真と話していた男の子の下級生も二人がはなれていくのを羨望のまなざしで見送っている。二人ともそんなキャラだっけか?特に琴羽はそんなキャラじゃないだろ?

 

「ごめんごめん。待たせちゃったね」

 

「こっちも悪い。待たせた」

 

「・・・・・・」

 

「ん?」

 

「どうした慶司?」

 

でも、まぁ確かに・・・・胸も大きくなったし、髪も長くなったし顔立ちって以前より―――真ほ方は顔は普通だ。たぶん多くの人が可もなく不可もなくと答えるだろう。でも真は身に纏ってる雰囲気が正直普通じゃない。なんというか周りを圧倒してしまうものがあるし、それに憧れる人も確かに分かるなぁ・・・・

 

「なによ、慶司」

 

「本当だぞ。どうした?」

 

「い、いやっ」

 

「その人気ぶりを見て、琴羽ちゃんのかわいさと神野くんの凄さを見直す速瀬くんなのであった」

 

「あ、なるほど。あたし、結構かわいくなったでしょ?」

 

「ばっ、なに言ってんだ。・・・・確かに胸は大きくなったけど、それは昨日も言ったか」

 

「そこだけ!?もっとこう、色々あるでしょ?」

 

「ねーよ。それより真、俺真がこんなに人気者だって知らなかったんだけど?」

 

「そんなことはないぞ。ただ色々あって少し有名になっただけだ」

 

「色々?」

 

「神野くんが《メティス狩り》って言われてるときにね、メティス使われて困っている人を助けたんだってそれで神野くんはメティスを持ってない子たちの憧れの的になってるの」

 

姫川の言葉に真は恥ずかしそうに頬を掻いた。なんか真が照れてるところって新鮮だな。

 

「いやいや・・・・ただ・・・・」

 

『あーあー、マイクテス、マイクテス。12:20、放送室占領完了。繰り返す12:20、放送室占拠完了』

 

「は?なんだ?」

 

「本当だな・・・・でも今のは菜緒さんの声だ」

 

「そういえば真昨日もその人の名前を出してな。誰なんだ?」

 

昨日、速瀬くんもちらっとだけど会ってるよ?近濠菜緒先輩。ほら、祐天寺さんと一緒にいた」

 

「・・・・・ああ、あのちっちゃい先輩」

 

「慶司・・・それ絶対本人の前で言うなよ。あの人怒らせるとヤバい相手だからな」

 

「お、おう」

 

真の目が完全にマジだ。あの人そんなにヤバい相手なのか?

 

「放送室を占拠ってからには、なんかやるのかな。ゲリラライブとか?」

 

「バンドとかやるタイプには見えなかったが・・・・」

 

「確かに菜緒さんはそんなことやってなかったと思うが・・・・・」

 

『お嬢様、どうぞ』

 

『生徒諸君、わたしは1年B組の祐天寺美汐です。みなさんの貴重なお昼の時間ではありますが、ほんの少し、わたしの言葉に耳を傾けていただければ、と思います。さっそくですがみなさんは、この澄之江での学園生活をどのようにお過ごしでしょうか。不安や、悩み、誰にも言えない困りごとを抱えていませんか?誰だって一つや二つの悩み事は抱えているものです。本来ならばそんな悩みは、自分や自分の周りの人たちで解決し、乗り越えていくものなのかもしれません。ですが、我々が生活の場としているのは、数多くの《メティスパサー》がいる澄之江学園です。《メティス》は素晴らしい力ですが、それが力である以上、使い方を誤れば大変な事態になりかねません。その悩みも《メティス》が関わることにより、自分や自分の周りの人たちだけでは、解決しきれないような事態になってしまうこともあるでしょう。我々は先日、ある二人の《メティスパサー》同士のケンカを仲裁いたしました。ただのケンカであれば我々が出ていくまでもなかったと思います。ですが、彼らは自らの《メティス》を用いて、大きな破壊行為に繋がることも辞さずにそれを行いました。我々はなんとかケンカを仲裁することができましたが、結果として、建設現場の一部が破壊されるという事態を食い止めることはできませんでした。事態が起きてからでは遅いのです!我々はそれを未然に防ぎたい!だから、そのための組織を設立することにいたしました。みなさんの不安、悩み、困りごと・・・・なんでも構いません。我々に解決のお手伝いをさせてください。この活動は、みなさんの学園生活をよりよいものにしていくことに繋がるでしょう。そしてそれは、この澄之江学園が目指す、《メティスパサー》の健全育成にももちろん繋がるはずです・・・・・・・《アルゴノート》。我々はこの組織をこう呼称することにいたしました。みなさんの悩みを教えてください。我々が必ず解決して見せます。みなさんの”金羊毛”は我々《アルゴノート》が見出すことを約束いたします!以上』

 

祐天寺さんたちの放送が終わると、学食内は騒然となった。おそらくは学園中が同じような状態になっているだろう。

 

「祐天寺ってあの祐天寺でしょう?お嬢様の気まぐれってヤツ?」

 

「でも、昨日ケンカしてた男の子たちって、先生たちもずいぶん手を焼いてたらしいよ」

 

「そうそう、その前もね、カツアゲとかしてた人たち懲らしめたって」

 

「そういえば昔の映画であったよね。お金持ちが道楽で正義の味方始めるやつ」

 

「本人が道楽でもさ、正義の味方になってくれる人がいるのってよくない?」

 

「そうだよね、困るのは悪いことする人だけだもんね」

 

学食内のあらゆるテーブルから、そんな会話が聞こえてくる。祐天寺のお嬢様に訝しむ声もあるが、自分には関係ないから『あってもいい』と考えている人が多そうな気配だ。

 

「はぁ、それにしてもびっくりしたね」

 

「沙織先輩、また怒ってるんじゃないの?」

 

「完全に怒ってるだろうな・・・・・」

 

そんな話をしながらそれぞれ買った昼飯を持って空いていた席に着く。

 

「こういうことが頻繁にあるってわけじゃないのか」

 

「アハハ、さすがにこんなことはそんなにないよ~。昨日みたいな危ないこともね」

 

「あんなのしょっちゅうあったら人死に出るって」

 

「まったく洒落になってないな・・・・」

 

それに頷きながら真は買ってきたラーメンを食べている・・・・しかもその横には炒飯とトンカツにご飯が置いてある。真・・・・どんだけ食べるんだよ・・・・

 

「そういえばさ、さっき祐天寺さんが言っていた『ごーるでんふりーす』ってなに?」

 

「ああ、《アルゴノート》って言ってたから、それに引っかけたんだな。アルゴノートってのは、ギリシア神話に登場するイアソン率いるアルゴー船の乗組員のことでさ、時の映雄たちがわんさかいたんだ。んで、そのアルゴー船の旅の目的っていうのが、コルキスにあるとういう金の羊毛、つまりGoldenFleeceを手に入れてくるって話」

 

「へぇ~。アルゴー船っていうのは私も聞いたことあるかも」

 

「慶司はそういうの詳しいよね?」

 

「う~ん、そうでもない。雑学程度に表層だけ知ってる感じかな。特にアルゴー船の話は、細かいエピソードとか、どの英雄がどこでどうしたって方が重要なはずだし」

 

「詳しいよ慶司。補足するとその乗り込んだ英雄たちはアルゴナウタイって言われてて、有名なのはヘラクレースとかだな」

 

「真・・・なんでそんなこと知ってるのよ」

 

琴羽があきれ顔で真を見る。

 

「昔色々と本を読んだからな。結構詳しいぞ」

 

「あ、そうそう、思い出した。アルゴー船って、昔星座だったんだけど、大きすぎてバラバラになっちゃったヤツだ」

 

「なにそれ?」

 

「あのね、帆座とか羅針盤座とか・・・・・あとなんだっけ?なんか四つくらいに分けてんだって」

 

「あとは竜骨座と艫座かな。姫川、よくそんなの知ってたな」

 

「ほんとだ。普通そんなこと知らないぞ」

 

「授業で星座の話やった時に、先生がすっごく楽しそうにそんな話してた」

 

「・・・・そういう先生いるけどさ、普通覚えてないよね。そういう話ってテスト出ないし」

 

「琴羽ちゃんは授業中に寝てるから、先生の話覚えてないでしょ。ダメだよ、人のノート写すだけじゃ・・・」

 

「はっ、本当に申し訳ありません」

 

「仲良いな、おまえら」

 

おかげで祐天寺さんたちの話も、あっさり流れていった。大方、他のテーブルの生徒たちも同じような状況なのだろう。いそいそと食器を片づけていたり、午後の授業の話題も聞こえてきている。まぁ、『自分には関係ない』というのがやはり大きいのだろうな。

 

 

 

 

 

 

だが――――もちろん無関係ではない人間は、この事件を適当に流してしまうことなどできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ・・・・・

 

 

「で、放送の件で風紀委員から話があると?」

 

教頭先生が言う。

 

「そうです、こんな勝手が許されていいんですかっ!?」

 

これは沙織先輩だ。

 

「祐天寺美汐、近郷菜緒、景浦智の三名に対する懲罰が必要です!」

 

「うーん、宇佐美さんの気持ちはわかるけど、ほら、うちの学園はちょっと特別でしょ?《メティス》には《メティス》が一番っていうか」

 

これは風紀委員会の委員長である

 

「だから風紀委員に《特別取締班》があるんじゃないですか!」

 

「でもほら、人手は多い方がいいっていうしさぁ。生徒同士でトラブル解決ができればそれにこしたことないし」

 

「それでは、一般生徒に風紀委員会と同じ権限を与えることになります。だいたいどうしてこの緊急時に委員長がここにいないんですか!?」

 

「いやぁ、今日は商店街でポイント3倍のタイムッサービスがある日だから♪」

 

「うぅぅぅぅぅ・・・・・全然やる気ないじゃない・・・・」

 

そこにいままで黙って聞いていた朝比奈先生が口を開いた。

 

「ふむ・・・つまり宇佐美は、警察力は風紀委員だけが持つべき、と言いたいのか?」

 

「当たり前です。どうしてもトラブルを解決したいのなら、風紀委員会に入ればいいじゃないですか。それに校則にも結社を禁じるって書いてあります!」

 

「なるほど」

 

「ならクラブ活動としてならどうだね?」

 

そこで今度は教頭先生が思いがけないことを言った。

 

「はっ!?」

 

「いや、実はな宇佐美くん。新規クラブ活動としての申請が出ているんだ。登録名称《学園都市調査研究会》。活動内容は『学園都市内にある各種問題を調査し、可能な限りこれを解決する』だそうだ。依頼の内容も学園の規則に抵触しないものであることなど細かく決められているみたいだな」

 

「《学園都市調査研究会》ですか。なぁんだ、それならすべて解決じゃないですか」

 

「そ、そんな・・・・!。!?クラブ!クラブ活動というなら、顧問の先生が必要なはず!そんなクラブに顧問の先生なんて――――――」

 

「・・・・・すまない。近濠に頼まれて、顧問を引き受けることになった」

 

「朝比奈先生!?せ、先生はさきほど、私の考えになるほどとうなずいてくれたじゃないですか!」

 

「ん?ああ、確かになるほどとは言ったが、『なるほど、宇佐美の考えはそういうことか』と思っただけだぞ?」

 

「~~~~~~~ッ!!」

 

「だが、放送室の占領はやり過ぎだな。顧問として、厳重に注意しておこう」

 

「で、でしたら委員長、彼らが校則をちゃんと守って活動できるか、《特別取締班》に監視させてください!」

 

「ああ、それくらいは宇佐美の顔を立ててやらないとな」

 

「うん、先生がいいなら僕はそれでも」

 

「それでは今回の件はこれにて。宇佐美くんもくれぐれも穏便にな。熱心なのはいいが、君は少しやり過ぎるきらいがあるようだ」

 

「・・・・わ、わかりました」

 

こうして《アルゴノート》は監視されることになった。

 

 

 

 




今回も多いなぁ・・・・・しかも真が活躍しないなぁ・・・・


みなさん、ご意見、ご感想心よりお待ちしております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学園初日 2~思い~

けっこう速く投稿できた気がする!!!!

少しずつ少しずつ真のベールが下りていってるといいなwww

では今回もお楽しみください。

読んでくれる皆様、本当にありがとうございます。

簾木 健


----makoto side

 

そしてその日の放課後―――おれは今日は慶司と一緒に慶司に澄之江のことを教えながら散策する予定なのでおれは荷物を素早くまとめ慶司のところに行く。

 

「速瀬くん、今日はどうするの?」

 

「色々買わないといけないものがあるんだけど俺あんまり澄之江には詳しくないから真と一緒に色々とまわってみる予定」

 

「そうなんだ・・・・」

 

「慶司準備が出来てるなら・・・・」

 

――――ガラガラ

 

おれが慶司を呼ぼうとしたその時、教室のドアが勢いよく開いた。その音のしたドアを見るとそこには祐天寺のお嬢様が立っていた。

 

「失礼、速瀬慶司はいるかしら?」

 

「え、俺・・・・?」

 

慶司がキョトンとして自分を指さしながらおれと姫川を交互に見る。

 

「確かに慶司の名前だったな」

 

「うん。速瀬くんを呼んだと思うよ」

 

クラスに残っていたクラスメイトが慶司を指さしているし間違いないだろう・・・・

 

「よかった」

 

祐天寺はそうにっこりと一つ笑って、颯爽とおれたちに・・・・正確には慶司に近づいてきた。後ろからは菜緒さんと景浦・・・・だったかな?が入ってきている。

 

「え?え?え?」

 

姫川がそんな祐天寺たちと慶司を交互に見比べる。ただ慶司本人もよくわかってないようで困惑の表情で祐天寺を見ていた。

 

「なになに、なにごと!?」

 

「昨日色々あったからそのお礼・・・とか?」

 

教室に残っていた航平と沖原もさすがの事態に戸惑いながらおれたちのところにきた。

 

「そうね、まずは昨日のお礼を改めて。速瀬慶司さん、昨日は本当に助かったわ。ありがとう」

 

「あ、いえ・・・助けられたのはこっちも同じなんで」

 

『まずは』・・・か。そうだろうな。本来の目的はたぶん勧誘だろう・・・・でもどうして慶司

なのかがおれの中では府に落ちずそのまま経過を見守ることにする。

 

「フフ、謙虚なのね。祐天寺のお嬢様を助けたのよ?謝礼がもらえるとか思わなかったの?」

 

「助けられたのはイーブンなのに?」

 

「立場はイーブンじゃないわ」

 

「確かに。君は1年女子で俺は2年男子。俺の方は君を助けて当然ってわけだ」

 

「・・・フフッ、思った通りね。どう、にゃお?ぽち?」

 

「お嬢様がよろしいのでしたら」

 

「お嬢様のご随意に」

 

「そう」

 

やはりそうかとおれは確信する。でもやはり慶司なのかはわからないなぁ・・・確かに今のやり取りでもわかるとうに慶司は結構口がまわるし頭の回転がはやい・・・でもそれだけではなにやら決め手に欠けるな。

 

「あのね――わたしはあなたの力がほしいの」

 

「・・・・はい?」

 

「わたしたちの活動に協力してほしい―――――速瀬慶司、《アルゴノート》に入りなさい」

 

うーん・・・やっぱりか。チラッと慶司を見るが慶司には完全に想定外の事態だったようで一瞬硬直したのがわかった。でもすぐさま元に戻り質問する

 

「《アルゴノート》って、お昼に放送で言ったアレ?」

 

「そうよ」

 

「う~ん・・・」

 

慶司が考え込む。

 

「・・・・速瀬くん、部活動とかまだ見回ってないでしょ?ちゃんと見てから、ゆっくり決めた方がいいと思うよ」

 

姫川が口をはさむ。それが祐天寺には気にくわなかったのか姫川のほうをキッと強い目で見た。

 

「姫川風花、あなたは速瀬慶司のなに?」

 

「な、なにって・・・・えーと・・・クラス委員?」

 

祐天寺の迫力に圧されてはいるが姫川がしかっりと答える。姫川ってホントにすごいよな・・・・・

 

「俺の力がほしいってことだけど、俺の《メティス》はまだまだ全然発動できないんだ。あの時のはまるっきり偶然で・・・・《アイギス》の使い手がほしいなら、姫川を勧誘したほうがよっぽど建設的だと思うよ」

 

うん?・・・慶司のやつ今の発言は少し論点がずれているな

 

「バカか」

 

案の状、菜緒さんが突っ込んだ。

 

「バカですと!?」

 

「姫川風花が《アイギス》を使えことは周知の事実。昨日の時点でもその力をみせていた。それにも関わらず、姫川ではなく速瀬、お前の力がほしいとお嬢様は言っているのだ。おまえごときのメティスの有無など無関係だということくらい気がつけ」

 

「にゃお、口が過ぎるわよ」

 

「・・・・失礼いたしました」

 

・・・・なんか菜緒さん丸くなったな。

 

「速瀬、あなたのメティスが不完全だというのならなおのことよ」

 

そんな一か八かの状況で、一歩を踏み出してわたしたちを守った。その勇気と判断、そしてそれを為しえた強運―――もう一度言うわ・・・・。わたしは、あなたの力がほしい。《アルゴノート》に入りなさい」

 

「・・・・」

 

おれは少し違和感を感じてしまう。言葉はかなり強いのだがどこか弱い。祐天寺ってこんなやつだっけな?

 

「・・・・わかった」

 

「え」

 

「・・・・」

 

「わかったと言った。自分で命令しといて、なにきょとんとしてるんだよ」

 

「ほ、本当に入ってくれるの?」

 

「ああ」

 

「ちょ、速瀬くん!?本気で言ってるの!?」

 

姫川は本気で驚いているようで慶司に食って掛かる。

 

「本気だって。俺、いろんなメティス見てみたいし、それだったら《アルゴノート》の活動は都合がよさそうな気がするからさ」

 

「なるほど、納得の理由だ」

 

「まぁ、そういうだろうとは思ってた」

 

おれと航平は昨日慶司の話を聞いてるし、その理由なら完全に納得だ。でも姫川はそうはいかない。

 

「だ、ダメだよ、そんなの!」

 

「なんでダメ?」

 

「だ、だって・・・だって・・・祐天寺さんたちは・・・・風紀委員さんたちにもよく思われてないし・・・・」

 

「風紀委員にねぇ・・・・。姫川自身は?」

 

「え・・・・・?」

 

「風紀委員にはよく思われてないんだろ?姫川自身は祐天寺さんたちのことどう思ってるんだよ」

 

「どうって・・・・・」

 

「・・・・・」

 

なんか祐天寺のやつが固唾を呑んでる・・・・やっぱり評価は気になるもんなのかねぇ・・・・・

 

「・・・・沙織先輩が言うほど・・・悪い人たちだとは・・・・全然、思えない、かな。私も助けてもらったし・・・」

 

「うん、なら風紀のことはどうでもいいよ」

 

「あぅ・・・・」

 

「なんとなく止めたい気持ちはわからないでもないけど、一度決めちゃうと慶司は頑固だよ~」

 

「う、あ、う・・・・」

 

沖原のやつ姫川にトドメさしやがったな。

 

「キマリ、でいいかしら?」

 

「ああ、よろしく」

 

「では速瀬慶司さん、こちらの入部届にご記入をお願いいたします」

 

その場で素早く景浦?が入部届を慶司に差し出した。完全に確信犯だよな・・・・

 

「ありがとう。ええと、景浦智さん、でしたっけ?」

 

おっ、どうやらあってたみたいだ。それにしてもこの子結構腕があったよな・・・・ちょっと手合せしたい

 

「あ、はい、でも、あの、わ、私、1年、ですので、さんとか・・・・ぁぅ」

 

どうやら照れ屋みたいだけど・・・・

 

「うわ、ごめん。1年とは思わなかった。じゃあ、景浦って呼ばせてもらうな」

 

「は、はい・・・速瀬さん・・・・」

 

うん。すっごい照れ屋みたいすごく顔赤いし。でも強いのな・・・・などと考えていると頭を抱えていた姫川から呻き声が聞こえてきた。

 

「ああぁぁ・・・・あ・・・」

 

「風花?」

 

「大丈夫か姫川?」

 

おれと沖原が心配そうに見ていると急に頭がバッと跳ね上がり、まっすぐ祐天寺を見た。

 

「わ――――私もっ!私も《アルゴノート》に入れてください!!」

 

「え」

 

「な」

 

「っ!?」

 

「ほぅ」

 

「なんと」

 

「こりゃ、思い切ったね・・・」

 

「まったくだな」

 

これにはまだ教室に残っていた他の生徒たちも驚いて、姫川に注目した。祐天寺の答えをまっすぐに祐天寺を見つめながら姫川が待つ。そんあ姫川にゆ祐天寺はフッと微笑んだ。

 

「・・・・・・もちろん構わないわ。歓迎するわ、姫川風花」

 

「ホントですか!?やったぁっ!」

 

「いいのですか?お嬢様」

 

菜緒さんが意味ありげな言葉で祐天寺に聞く。でも祐天寺の微笑みは崩れない。

 

「なにもいけないことはないでしょう?速瀬を必要としたのはメティスが理由じゃないとは言ったけど、《絶対防御》で名高い姫川が加わってくれるのはありがたいことじゃない。それに昨日の行動で言うなら、姫川にだって充分に《アルゴノート》に加わる資格があると思うわ」

 

「お嬢様がそれでよいというのなら、異論はありませんが」

 

 

 

「あ、そうだ!どうせなら琴羽ちゃんも入らない?琴羽ちゃん、部活もなにもやらないで、放課後いつも暇そうにしてるじゃない?」

 

「パス」

 

「あぅっ」

 

「ずいぶんばっさりだな」

 

慶司が少し苦笑いを浮かべている。・・・・やっぱりまだなんだな沖原。

 

「あ~、ナニ部であれ、今は部活とか入る気がまったくないんだよね」

 

慶司もその言葉に何か察したのか航平の方を向き話題を変えた。

 

「そういや航平ってなんか部活やってるんだっけ?まだ聞いてなかった気がするけど」

 

「よくぞ聞いてくれました!わたくし、実はどこにも所属していませんっ!だがしかし!気持ちはわかる、君たちが俺を誘いたい気持ちはよくわかるがぁ、しかし!」

 

「それでは姫川先輩もこちらの用紙にご記入を」

 

「ありがとう、景浦さん」

 

うん・・・・どうやら航平のキャラは完全に知れ渡ってるみたいだな。見事なスルー。完全に航平を置いて話が膨らんでいく。

 

「ええっと、あの・・・俺の話はいったい・・・・」

 

「つまり航平は入れないんだろ?OKわかった。別に無理に誘うつもりはないから、安心してくれ」

 

「お、おう・・・・じゃなくて!俺はね―――」

 

「浜北航平は、球技系運動部を中心に様々な部活動の助っ人をやっているそうだ」

 

「って言いたかったんだよ。俺が言いたかったんだよ!!」

 

「貴様、誰に向かってそのぞんざいな口をきいている」

 

「す、すんませんでしたっ!」

 

菜緒さん完全に航平を圧倒してるな。さすがだ。

 

「へぇ、でも航平、助っ人なんかやってたんだ」

 

「おう、ジェネラルオールラウンダー航平と呼んでくれ!よって、助っ人で良いなら空いてる時には喜んで力を貸そう!」

 

「あ、あたしもそんくらいならつきあってもいいや」

 

2人は意外に協力的だな・・・・

 

「そういえば真は入れないのか?」

 

あっ・・・・

 

「そうだよ。神野くんこそこういう部活で活躍するんじゃないの?」

 

「いや~おれは―――」

 

「真」

 

おれの言葉は完全中断させられた。おれの古い知り合いによって・・・・・

 

「お前はもちろん入ってもらうぞ。なんせその能力は喉から手が出るほどほしいからな」

 

「「っ!?」」

 

その言葉に祐天寺と景浦が驚きの目で菜緒さんを見つている。そうか・・・そういうことね。

 

「お嬢様、少し真の力を見てもらいたいのですがいいですか?」

 

「ええ。構わないわ。でもそんなことしなくても・・・・・」

 

「いえ、今の真の力を把握しておいてほしいのです。それに智も借りたいので」

 

「私ですか?」

 

なるほど・・・・大体菜緒さんがなんの力をみせたいのかわかった。

 

「ああ。智少し頑張ってもらおう。ここでは無理ですので場所を変えます」

 

「ええ。わかったわ」

 

あとおれには拒否権はないらしい・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしておれたちはメティス実技室にやってきた。ここはメティスの実技の授業や試験が行われるため、かなり広く作られている。しかも壁も頑丈だ。ただここは生徒は誰でも自由に借りることが出来る。こういうところが澄之江のすごいところだよな・・・・・

 

「で?なんで沖原もいるの?」

 

おれが動きやすいジャージに着替えてから戻ってくると航平は助っ人で帰ったのでいなかったが沖原はまだいたのだ。

 

「いいじゃん。真の力って実際に見てみたいし。普段はなんか隠してるみたいだったから」

 

「いいじゃん」から後ろはおれにしか聞こえないように言う。そういえば前に話したんだったな。

 

「・・・・・そうだな」

 

おれはゆっくりとその真ん中に行く。そこにはおれと同じくジャージに着替えた景浦が立っている。・・・・帯刀して。

 

「菜緒さん、一応聞きます。全開でいいんですよね?」

 

「もちろんだ。というか智はそんなに甘くないぞ」

 

「・・・・・そうですか」

 

おれはダラリと脱力して構える。

 

「菜緒さん、私も一つ質問です」

 

「なんだ?」

 

「・・・・・・本当に抜いてよろしいのですか?」

 

確かにそうなるよな・・・・ふつう生身の人間相手には抜かないよな。

 

「構わんぞ、相手は真だ。・・・・・というか抜かないと一瞬だぞ」

 

「えっ?」

 

「では、はじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------keizi side

 

 

「二人で向いあってるってことは二人で模擬戦するってことだよね?神野くん大丈夫なのかな?」

 

姫川が心配そうに真のことを見ている。確かにこの前の景浦はすごかった。一瞬で海老名のこと無効化してたし・・・

 

「ポチはすごく強いわよ。ポチの父親が師範である景浦流を修めているの。私が澄之江に来れたのもポチがボディーガードをするって言ったことのも理由に含まれるくらいよ」

 

「ということは、祐天寺さんの安全を完全に保障できるくらいは強いってことなのね」

 

「ええ。正確にはそれ以上ね」

 

祐天寺の説明に全員の顔が引きつった。

 

「・・・・真のやつ大丈夫なの?」

 

「うーん・・・・・・」

 

「?慶司どうかしたの?」

 

「いや・・・・」

 

「?速瀬くんどうかしたの?」

 

「速瀬?」

 

おれの勘違いな気もするが・・・・・

 

「真なんか雰囲気がないか?」

 

「・・・・・確かにド素人には思えないわね」

 

「うん・・・なんていうか堂に入ってる?」

 

「真・・・・」

 

うん?琴羽のやつなんか知ってるのか?

 

「こと・・・・」

 

「はじめよう」

 

そこで近濠先輩の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

 

本気か・・・・

 

 

昔はほとんど本気だった。全力で師匠にぶつかっていたしメティスも・・・・・・・・あの日までは・・・・・

 

「真いいか?」

 

ハッとおれは菜緒さんの声で我に返る。

 

「大丈夫です。すみません。ボーってしてました」

 

「そうか・・・・・・まぁいい。はじめだ」

 

その声に景浦がスッと柄に手をあて構える。

 

「かなり堂に入った良い構えだ。かなり鍛錬を積んでるのがわかる」

 

おれはジリジリと間合いを詰めて景浦の間合いを探る。そしてそれはすぐに見つかった。いい武術者になればなるほど間合いというのは必殺のものになる。だからそれはある程度強い武術者になれば感じられるほどとなる。

 

「・・・・まぁやっぱりこれくらいか」

 

景浦の実力は計れた。さて行くか・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------keizi side

 

 

・・・・一瞬だった。正直そうとしか言いようがないのだ。最初はジリジリと真が間合いを詰めていたのだが途中で真が止まった。そして一拍ほどの間が空き・・・・次には真は景浦の懐に潜り込み、その拳が景浦の腹の前で止まっていた。

 

「え?」

 

「なっ!!」

 

「うそ・・・・」

 

「っ!!!!!!!!!!!!」

 

「中々・・・いやかなりいいな」

 

真がそのこぶしを戻しながら言う。

 

「でも、集中が歪む時があるな。あと間合いがわかりやすすぎる。本当にヤバい武術者っていうのは限界まで間合いを隠してるもんだ」

 

「えっあはい・・・・」

 

景浦は真の言葉にまだ唖然としている。

 

「菜緒さん少し錆落としをしても?」

 

「ああ。構わない。存分に指導してくれ」

 

「では・・・・」

 

真の体から力が抜かれる。

 

「景浦今度はそっちから攻めてこい」

 

「あの・・・・・」

 

「うん?どうかしたか?」

 

そこで景浦はその場で真の力を知らなかった全員が思っていたことを聞いた。

 

「あの・・・・神野さんは何者なんですか?どうしてこんなにもお強いのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

「どうしてそんなにお強いのですか?」

 

まぁそうなるよな。さて・・・・どこまで言うべきかね。

 

「アメリカで菜緒さんと一緒の研究所にいたときに鍛えられたんだ。しかも半端じゃないくらいにな」

 

「なっ!?」

 

「じゃあ真はここに来る前はアメリカにいたのか?」

 

慶司たちが近づいてくる。ここにいるメンツならある程度は話していいか。

 

「ああ。菜緒さんと同じ研究施設にいたよ。そしてそこで様々なものを仕込まれた。主に武術やメティスのコントロール、教養だけどな」

 

「でも、どうしてそんなところに?」

 

姫川が首を傾げる。菜緒さんが顔をしかめる。もうそんな顔はしなくていいのにな・・・

 

「・・・・・おれはそこでモルモットにされていたんだ」

 

「「「「なっ!!!!!」」」」

 

「おれのメティス・・・・『ゼロ』はそこで世界最強のメティスとして研究されていた。まぁモルモットと言っても待遇はすごくよかったし非人道的な実験をしていたわけではないんだ。ただそこにいたときに様々な状況でも生き残るためだと言われてかなりスパルタで教育されたくらいだな」

 

「なんだ・・・・」

 

「そんなことを言えるのは真だからだ」

 

「え?」

 

そこで菜緒さんがため息をつく。

 

「こいつ言うスパルタの領域が高いからこれで済んでいるんだよ。体中に痣をつけ、血反吐を吐く。そんな訓練をほぼ永遠的にやってるんだよ。研究所の中でも多くの研究者が見てられないと言って最初は見ていたものも途中から見なくなっていたほどだったよ」

 

「・・・・・・・」

 

全員がおれを見て口を開けて固まってしまった。うーん・・・・前も菜緒さんには言われたけどそんなにやばいかな?

 

「良いじゃないですか。結果的に生きているんですから」

 

「絶対にそれですませていいことじゃないはずだけどね・・・まぁそこが真らしいっちゃらしいよね」

 

「悪かったな。今はおれよりも景浦。構えろ」

 

「えっ?」

 

「構えろって稽古してやるから」

 

「そうね。ポチやってもらいなさい」

 

「お嬢様!?」

 

「ポチはこっちに来てから鍛錬する時間が減ってしまってるでしょ?今日はそれを埋めるためにしっかり鍛錬しなさい」

 

「えっ!ですが・・・」

 

「いいのよ・・・・今日の依頼までは時間があるし・・・思いっきりやりなさい」

 

「・・・・わかりました」

 

どうやらお許しは出たようだ

 

「じゃ景浦。構えてそっちから攻めてきな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------misio side

 

「ねぇ智ちゃん・・・・やっぱり、風化さんと慶司さんってもう・・・・」

 

「・・・・私はそういうことに鈍いので、よくわかりませんが・・・・」

 

「はぅ・・・・・」

 

「あ、ああっ、でも、い、一応、私の判断なので間違っているかもしれませんが、でも・・・・特に二人が付き合っているような様子はなかったかと」

 

「ホント!?」

 

「は、はいっ」

 

「でも・・・・風花さん、素敵な人だし・・・かわいくて、実力もあって、優しくて・・・・それに、度胸もあって・・・・」

 

「・・・・大丈夫ですよ、お嬢様。確かに姫川先輩は素敵な女性だと思いますが、お嬢様だって充分素敵な女性です」

 

「・・・・智ちゃんはいつもそう言ってくれるけど、智ちゃんくらいだもの、そう言ってくれるの」

 

「いえ、お言葉ですが、それはさすがに違います。お嬢様は、1年女子の中ではトップレベルの人気があることは、調べがついてます」

 

「ウソ・・・そんなこと、わたし聞いたことないわ」

 

「本当です。ただお嬢様の場合、祐天寺の名と高慢お嬢様設定があるため、それをおいそれと口に出していい雰囲気ではなくなっているのです」

 

「う・・・・高慢お嬢様・・・・そろそろやめにしない?」

 

「それは・・・・菜緒さんに言ってください」

 

「そうよね・・・・。それにやめたらやめたで、わたし、宇佐美さんに勝てる気しない・・・」

 

「菜緒さんも、すっかり面白がって宇佐美先輩を煽ってますからね」

 

「ちょうでいいから宇佐美さん舌戦の練習しろっていうのよ?宇佐美さんには本当に申し訳ないと思っているんだけど・・・・・」

 

「『なに沙織のヤツはあれはあれで楽しんでいるのです。なんの問題もありません』・・・でしたっけ?」

 

「うん。元々菜緒さんの指示には従う約束はしてるし、結果として菜緒さんの指示が間違っていたことってないから、従うしかないんだけけどね・・・・・」

 

「お嬢様も、宇佐美先輩もお気の毒です」

 

「はぁ・・・・そう言えば神野さん・・・・菜緒さんのあの発言には本当に驚いたわね」

 

「ああ・・・『なんせその能力は喉から手が出るほどほしいからな』ですよね・・・私も本当に驚きました」

 

「うん・・・・まさか菜緒さんがそんなこと言うなんて考えたこともなかった。智ちゃん、実際戦ってみてどうだった?」

 

「・・・・・正直、あそこまで強い人がいるとは思いませんでした・・・・・私も修行が足りません」

 

「・・・・・そんなに?」

 

「ええ。たぶんですけど私の父、景浦流の師範でも相手になるかどうかわかりません」

 

「それはさすがに大袈裟じゃない?」

 

「いえ・・・たぶん正しい評価だと思います。正直底が全く知れませんでした。しかもメティスはあの『ゼロ』・・・間違いなく今まであった中で最強です」

 

「智ちゃんにもそこまで言わせるなんて・・・・しかも菜緒さんもあの高評価・・・・本当にすごい人が入ったものね」

 

「ですが、彼がいるのならかなりの状況にも対応できます。それはよかったのでは?」

 

「うん。そうなんだけど・・・・神野さんってなんていっていいのかわからないんだけどすごく怖いのよね・・・言葉や雰囲気は普通なんだけど・・・・・たまにゾッとする瞬間があるのよね」

 

「強い武術者っていうのはそういうものだと思いますのでそんなに気にする必要はないと思いますよ」

 

「うん。わかった。明日から頑張りましょね」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------kotoha side

 

 

「それでね、速瀬くんが沙織先輩に上手く言ってくれて――――」

 

「まぁ、慶司はそういうのは妙に頭まわるからね。詐欺師の素質あるよ、あいつ」

 

「詐欺師はひどいよ。琴羽ちゃん」

 

「あはははは」

 

風花は帰ってきてからずっとこんな調子で慶司の話をしていた。風花自身は、《アルゴノート》という新しい活動について報告してるつもりみたいなんだけど、どうにも『速瀬くんは―――』『速瀬くんが――――』ばかり耳につく。

もう1年以上一緒の部屋で暮らしている仲だけど、風花の口からこんなにも男子の名前が出てくるのははじめてのことだ。まぁ、それが耳慣れた慶司の名前だから気になるだけかもしれないけど・・・

 

「ねぇ、風花」

 

「なぁに、琴羽ちゃん」

 

「なんで《アルゴノート》に入ったの?今までは部活に誘われても、クラス委員の仕事があるからって言って断ってたじゃない。どういう風の吹き回し?」

 

「う~ん、どうしてだろう・・・・。なんかそうしねくちゃいけない気がしたんだよね」

 

あたしの質問に、なんの動揺も見せずに風花はそう答える。

 

「クラス委員として、転入生の速瀬くんのお世話をする必要があるし―――――私たちのことを守ってくれた恩を返したいっていうのも大きいかな。これは速瀬くんにも美汐ちゃんたちにもね」

 

「ふむ」

 

「あ、それから―――今日も一触即発だったんだけど、私、沙織先輩と美汐ちゃんたちにも仲良くなってもらいたいんだよね・・・・。あの衝突に速瀬くんが巻き込まれちゃうのもかわいそうだし・・・」

 

風花の表情から誤魔化している様子は感じられない。自分の思っていることを隠せるような子じゃないから、おそらくは本心から言っているんだろう。つまり風花は気づいてないんだ。それが『恋』だってことに。

 

「琴羽ちゃんもいつまでも入りたくないとか言ってないで、入っちゃえばよかったのに。楽しいよー。菜緒先輩は前からちょっとつかめない人だけど、美汐ちゃんも智ちゃんもとってもいい子だし」

 

「慶司もいるし?」

 

「んふ、琴羽ちゃん、やっぱり速瀬くんのこと気にしてるじゃないのぉ?」

 

「ぷっ」

 

お前が言うなっ!

 

「ほらほら、この委員長に言ってご覧なさい?速瀬くんが琴羽ちゃんの初恋の君なのかなぁ~?」

 

「・・・・・・」

 

こ、こいつ・・・・自分の恋にも気づいてないクセにぃっ!

 

「琴羽ちゃん?あ、ごめん・・・・怒っちゃった?」

 

「怒らないよ、こんなことで」

 

あたしは笑う。やっぱり風花はかわいいなぁ・・・・

 

「ふふっ、ごめんね。今の琴羽ちゃんには神野くんだったね」

 

「ぶっ!!?」

 

・・・・風花のやつもなんか口上手くなってない!?もしかして慶司に毒された?

 

「そういえば本当に神野くん強かったね。私全然見えなった・・・・・」

 

「うん・・・あんなだとは思わなかったな」

 

「そういえば琴羽ちゃんはあの時にはもう知ってる感じだったけど知ってたの?」

 

「うん。真のやつに前に聞いてたんだよ」

 

「へー・・・・」

 

なんか風花さんがこっちをニヤニヤとして見てらっしゃる・・・・・

 

「・・・・風花」

 

「うん?」

 

「風花は恋ってわかる?」

 

「恋?」

 

「うん。恋・・・・」

 

「うーん・・・・・正直ね、私、恋なんて言われてもよくわかんない。お父さんやお母さんのことは好きだし、琴羽ちゃんのことだって大好きだけど・・・・・そういう好きとは違うんでしょ?」

 

「そっか・・・・でも風花はたぶん大丈夫だよ」

 

「?」

 

「風花は大丈夫。すぐにこれが恋だって、わかるようになるよ」

 

「・・・・・・んん?」

 

「なによ?」

 

「琴羽ちゃんは知ってるの?」

 

「・・・・知ってるよ。でもそれはあたしのものだから」

 

「えっ?」

 

あたしの返しにきょとんとした目を向ける風花。女のあたしかえあ見ても風花じゃかわいい。昨日今日の出来事で、さらにそのかわいらしさが3倍増しくらいになった気がする。恋は乙女をかわいくするって言うことなんだろう。ただ―――ただちょっと、相手が悪いかもしれない。慶司はどんなことにも好奇心旺盛なんだ。そして、その好奇心は恋愛に勝る。慶司自身は恋愛もしてみたいと言ってはいるんだけど、どうにも無意識のうちにスルーしている節がある。のれんの腕押し。硬い壁ならば突き崩しようもありそうだけど、慶司の場合はなぁ・・・・。

 

「どうかした?」

 

「そういえば、あたしの知り合いに一人いたなぁと思って」

 

「どんな人?幼なじみ?速瀬くんも知ってる人?」

 

「小さい頃から自分の恋心に気づいていて、その恋心のためにひたすら努力し続ける・・・そんな女の子」

 

「わぁ・・・実るといいね、その恋」

 

「そうね。ちょっといろいろ理由があって、実らせるのは大変だと思うけど」

 

「そうなんだ・・・・・。でも、努力し続けるならきっと大丈夫だよ。諦めないで頑張れば、きっと」

 

だってさ、まなみ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----makoto side

 

 

 

「はぁ・・・・」

 

ため息のあとに共に吸い込まれる空気には強い塩の匂い。おれは海の前に座って一人海を見ていた。

 

「・・・・・菜緒さんは何でおれを誘ったんだろう?」

 

ひとり言で聞いてみるが当たり前だが答えは返ってこない。

 

「そろそろ忘れろってことなのか?・・・・でも・・・・・」

 

本気を出すといつも思い出す・・・・・あの一瞬にしてすべてを奪われた・・・・・・

 

「・・・・・シルヴィ」

 

でも奪われたあの子はなぜかいつもおれの中で安心したように笑っている。

 

「なんでだよ・・・・・もっとおれを責めるとかあるだろ・・・・・」

 

『強くなったって全部を救える訳ではない』と師匠はよく言っていた。

 

「本当にその通りだな。おれはなに一つ救えない・・・・・それどころか・・・・強くなるたびになにかを傷つけて・・・・」

 

おれは苦笑いを浮かべ立ち上がった。そろそろ寮に帰ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

強い思いは時にその周りを破壊しつくし大切なものさえもバラバラに砕いてしまう。でも人は強くなにかを思わねばいられない生き物だ。大切なものを破壊したいという感情は捻くれた感情ではない。むしろそれこそが正しい感情なのではないか・・・・。私にはまだわからない・・・・・。

 

名もなき日記より




どうでした?

感想、ご指摘、疑問などあればどしどし募集していますのでご気軽にお送りください!!

一つ一つをしっかりと読んで参考しさせていただきます!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常 1

やっとできた・・・・・本当に皆様お待たせしました。

早く次が読みたいというメッセージ本当にうれしかったので頑張ろうとしたのですが、ここ最近リアルが忙しすぎてですね・・・・

これからはどんどん更新していこうと思うので今後ともこの作品とこんな作者をよろしくお願いします。

簾木 健


―――――makoto side―――――

 

「おはよー」

 

「おーす」

 

おれと慶司が一緒に教室に入る。なんだか慶司は横でげんなりとしている。確かに慶司が転入してからというもの色々なことが起きすぎてるしな・・・・・

 

「おはよう、速瀬くんと神野くん。浜北くんは一緒じゃないんだ?」

 

「航平はトイレが長そうだったから置いてきたんだ」

 

おれが答える。

 

「そっちこそ琴羽のやつは?」

 

「琴羽ちゃんはいつもギリギリだよ。私の方は委員の仕事があるから早く来ることが多いの」

 

「ふぅん。あんまり朝が弱いタイプじゃなかったと思ったけど・・・まぁ、それくらい変わるか」

 

「琴羽ちゃん、起きる時間は私と大して変わらないよ?でも琴羽ちゃん、朝のオシャレに結構時間かけてるから」

 

「朝のオシャレ・・・・・?」

 

「うん、髪の毛も長いし大変みたい。手伝いたいんだけど、私そういうセンスなくって、逆に琴羽ちゃんに髪の毛直してもらったりしてるんだよね・・・・。トホホ・・・・」

 

「まぁ確かにあの髪なら大変だろうな」

 

「それに沖原はこだわりが半端ないしな」

 

「そういえば、神野くん。琴羽ちゃんがそろそろお願いしようかなって今朝言ってたからもしかしたらお願いされるかもよ?」

 

「そういやそろそろしたほうがいいかもな・・・・」

 

そういや今日道具持ってきてるな

 

「うん?琴羽なにを真にお願いしてるんだ?」

 

「え?ああ・・・髪の毛だよ」

 

「髪の毛?」

 

「ああ。沖原の髪はおれが切っているんだ」

 

「・・・・・真。お前そんなこともできんのか?」

 

「ああ。慶司も切ってほしいなら切ってやるぞ?」

 

おれがそういうと慶司の顔が完全に引きつる。おれなんか変なこと言ったか?

 

「速瀬くん、速瀬くん。そこは気にしないほうがいいと思うよ?」

 

「ああ。姫川の言う通りだな。もう気にしないことにするよ」

 

?なにを気にしないようにしたんだ?

 

「うぃーす」

 

「おはよう、浜北くん」

 

「おー」

 

「おー航平どうだった?」

 

「いやぁ、出た出た。危うく詰まらせるところだったぜ」

 

「二人とも朝から汚い話すんなっての」

 

「にゃっはっはっはっは。自然の摂理、自然の摂理」

 

「そうだぞ。慶司」

 

「ったく」

 

「浜北来てるー?」

 

「んー?おー、池田。どうした?」

 

航平はその声に呼ばれてカバンだけを机に置き廊下に出て行った。池田だったな・・・・今日はサッカー部かな・・・・

 

「航平は男子にモテモテだな」

 

慶司がその様子を見ながら呟いた。

 

「あれだけ運動できるんだから、女の子にモテてもいいのにねぇ」

 

「・・・・まぁ航平は仕方ない」

 

てか完全に姫川は航平は眼中にないみたいだな・・・・・

 

「ふぁふぁっ・・・・」

 

その時慶司が不意にあくびをした。

 

「ふふっ、おっきいあくび。こっち来てから大変なこと続きだもんね」

 

「それもそうなんだけど、昨日の夜は航平と話しこんじゃって・・・・ふぁあっ」

 

「そういえば結構は時間まで話してたな・・・・確か航平が助っ人してたときにあったメティスパサーの話しだったよな?」

 

「ああ。なかなか興味深い話だったよ・・・そういえば真は昨日はずっと机に向かってたな。なにしてたんだ?」

 

「慶司の転入書類の確認」

 

「・・・・なんか悪いな」

 

「気にすんな。仕事だ」

 

慶司が本当に申し訳なさそうにしている。本当に気にしなくてもいいんだけど・・・・

 

「おっはよー」

 

その雰囲気を完全にその声で消し去ってしまった。

 

「おう、琴羽」

 

「おはよう琴羽ちゃん」

 

「よう、沖原」

 

「うん。おはよー。そうだ、真。今日の放課後空いてない?」

 

「うーん・・・・部活にもよるがたぶん大丈夫だ。髪だろ?姫川に聞いた」

 

「うん。今回は少しすくくらいなんだけどお願いできる?」

 

「わかった。祐天寺たちには休むっていっておくよ」

 

「なんかごめんね」

 

「いいって」

 

おれは携帯を取り出し、菜緒さんに連絡を入れる。あの人に言っておけば間違いないだろう。ついでにいつも借りてる店に連絡もしとくか。

 

「よし。オッケー。じゃ忘れんなよ」

 

「忘れないわよ」

 

軽く沖原がおれを小突く。それを慶司が不思議そうに見ていた。

 

「?どうした慶司?」

 

「いや・・・二人ってかなり仲いいよなって。どうやって知り合ったんだ?」

 

「「えっ」」

 

おれと沖原の顔が同時に赤くなる。あの時の話はねぇ・・・・

 

「そういえば琴羽ちゃん、神野くんとの出会いの話私にも話したことないよね。私も聞いてみたいなぁ・・・」

 

やばい、姫川まで乗ってきた。・・・・おれと沖原は顔を見合わせる。

 

「うーん・・・・」

 

「・・・・正直おれはあんまり話したくない」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。ちょっとな」

 

後で沖原から聞いた時かなり恥ずかしいこと言ってたんだよな・・・・あんまり公にしたくない。そんなことを考えているとチャイムが鳴った。

 

「あ、鳴っちゃった。みんなー、席についてー」

 

ここは姫川に助けられたな・・・・おれはふうと息を吐いて自分の席に着いた。

 

「おおっと、いけねぇいけねぇ」

 

航平も廊下から戻ってくる。そこで朝比奈先生が教室に入ってきた。

 

「起立、礼」

 

「おはようございます」

 

「着席」

 

「おはよう。浜北は遅刻でいいのか?」

 

「か、勘弁してください!」

 

相変わらず先生、航平のやつ大好きだな

 

「うん、勘弁してやるから、これからは気をつけろ」

 

「はいっ!」

 

先生、今日はご機嫌みたいだな。

 

「さっすが洋子ちゃん。胸は小さくても心は広いぜ!」

 

「バッカ・・・・」

 

おれは航平の発言に悪態をつき横の沖原も苦笑いを浮かべた。

 

「浜北、遅刻・・・・と」

 

「あれぇっ!?」

 

「さて、今朝の連絡事項だが――――」

 

先生が笑顔で航平を完全に無視して続ける。

 

「あれ?ちょっと待って!?もう遅刻確定!?俺チャイムより前に来てましたよ!?」

 

「浜北、黙れ」

 

航平のやつ完全に墓穴掘ったな。先生にその話はだめだろうよ。

 

「じゃ気を取り直して今朝の連絡事項だが――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上だ。あー、速瀬、おまえはちょっと来てくれ」

 

「はい」

 

慶司が先生に呼ばれて一緒に廊下に出ていく。

 

「あれ?慶司のやつなんかしたの?真知らない?」

 

「うーん・・・・特には思いつかないな。」

 

「そっか・・・まぁでも先生も怒ってる風ではなかったみたいだしなにかの連絡かな?」

 

「そうかもな。あまりにも馴染みすぎてわからなくなってるかもしれないけど慶司って転入してまだ二日しかたってないからな」

 

「確かに。まぁそこが慶司のすごいところなのかもしれないけどね」

 

「まぁな・・・・って戻ってきたな。やっぱり連絡だけだったな」

 

「そうね。あっ先生も来ちゃった」

 

そうして今日の学園生活は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?慶司実技いかないのか?」

 

次の授業はメティス実技なのだが慶司はどうやら実技室には行かないのか椅子に座ったままだった。

 

「ああ。俺のメティス、一回使えてからそれから一回も使えてないんだ。だから教室で発言講習を受けることにしたんだ」

 

「へぇー・・・・・」

 

おれはその言葉に軽く目を細める。

 

「うん?神野くんどうかした?」

 

慶司の横にいた姫川がおれに聞いてくる。

 

「少しおかしいと・・・・いや珍しいと思ってね」

 

「珍しい?」

 

姫川が首をかしげる。

 

「ああ。ふつうメティスが一回使えたなら多くがその感覚でメティスを使えるはずなんだ。でも慶司はそうなっていない。もしかしたら慶司のメティスにはなにかしらの発動条件があるのかもしれないな」

 

「ほとんど同じことを朝比奈先生にも言われたよ。メティスはもう一本の腕だって。その腕がリンゴをつかめないことはあっても腕が伸びないなんてことはないって。だからなんらかしらの条件があるんだろうって」

 

「うん。その通りなんだよな」

 

「ってことで姫川と真は琴羽と一緒に実技に行って来いよ。おれは航平と一緒に講習を受けるから」

 

「わかった。うんじゃ姫川行くか」

 

そこで少し姫川の顔が曇る・・・・こりゃどうやらそういうことなのかもな・・・・・

 

「うん。わかった・・・ってそういえば琴羽ちゃんは?」

 

なんとか気分を変えようとしてるように聞こえるが、まぁ突っ込まないほうがいいだろ

 

「トイレだってよ。でもそろそろ戻ってくるんじゃないか?」

 

「そっか。じゃ廊下で待ってようか。それじゃ速瀬くん行ってくるね」

 

「ああ。二人ともメティスが使えるようになったらそっちに行くからよろしくな」

 

おれたちは二人で廊下に出る。するとすぐに沖原が戻ってきて3人でメティス実技室に向かう。

 

「そっか。慶司は講習のほうにしたんだね」

 

「うん。大丈夫かな?」

 

「風花心配しすぎだよ。ねぇ真」

 

「ああ。航平もいるし大丈夫だろ」

 

「うん。なら良いんだけど・・・・・」

 

そういって姫川が少し顔を曇らせる。これは本当に重症かもな・・・・

 

「・・・・」

 

それより今は姫川のことよりも慶司のことだ。・・・・・慶司のメティスの能力・・・・それはたぶん慶司の能力はメティスのコピー、もしくはそれに準じる能力だ。というかそうでなかったのなら慶司の能力は果てしないことになってしまう。それでも十分反則級だがな。そしてその能力は何らかの条件でメティスをコピーしそれをたぶん使い捨てる。

 

「・・・・・たく」

 

おれは悪態をつく。今まであった中でおれにとって一番質の悪い能力だな。もしそれをおれに使われておれのメティスがコピーされてそれを慶司が使ったとしたら・・・・・

 

「っ・・・・」

 

本当に質が悪い・・・・どうやらなんとかして手を打つ必要があるな。

 

「こりゃ話すしかないかもな・・・・」

 

そうしなければ最悪・・・・・

 

「澄之江学園にいるメティスパサーのほとんどを殺すことになるかもしれないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて・・・・・おれはなにするかね」

 

授業が開始されると同時にメティスの実技の授業ではメティスを実際に用いて、メティスの操作や強度を高めるトレーニングを行うのだが、おれがメティスを全力で発動するとおれ以外の人のメティスは使用不可になるのでおれはトレーニングを行うことはできないのだ。

 

「ちょっと身体でも動かすか」

 

おれはのんびりと立ち上がり実技室の隅に移動して構える。集中し相手を作り出す。ぼんやりとしていた影が形をなしていきそしてその影がおれの姿をなした。

 

「さって・・・行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

-----kotoha side

 

 

真のやつなにしてるんだろう・・・・・さっきまで座って暇そうにほかの人がメティスを使っているのを見ていたはずだった。でも私が風花に練習に付き合っているうち真は部屋の隅のほう移動して・・・・・なにかと戦っている。相手はいないはず・・・・でも私の眼には見えている。真が誰かと戦っている姿が・・・・・

 

「神野のやつ、相変わらずすごいことをやってるな」

 

「洋子ちゃん・・・・真はなにをしてるの?」

 

「なに、難しいことは一つもしてない。ボクシングなんかでよくシャドーとか言われているやつだ」

 

「えっ!?でもそれって・・・・」

 

「普通は相手をイメージして行うトレーニングだな。ただそれをやるのが武術の達人クラスになるとああやってこっちから見ても相手のイメージがわかるくらいのレベルになるんだ」

 

達人。本当は何十年もの月日を一握りの天才が訓練やトレーニングを積んで至る領域。私も水泳をやっていた時に何人か天才と呼ばれる人にはあったことがあるがみんな真のようになんとういうかあんな風にどこかにい至っている人はいなかった。当たり前だ。そんなの世界中でも一握りであるはずだ。

 

「・・・・先生」

 

「うん?」

 

「真って何者なんですか?」

 

「・・・・・・・」

 

朝比奈先生は言い難そうに私から視線を外す。

 

「言えないんですか?」

 

「・・・・・・すまん」

 

「そう・・・・・ですか・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

「ふぅ・・・・・」

 

なんとか自分を撃退した。

 

「中々だな・・・・でも弱くなってるな・・・・こりゃ本格的に錆落としないとな」

 

「真!」

 

その声におれは振り返る、そこには青く長い髪をした子が立っていた。

 

「沖原か。どうかしたか?」

 

「いや、真なにしてるのかなって思ったの」

 

「ふつうにシャドーをしてただけだ」

 

「それが少しふつうに見えなかったんだよ」

 

「?そうなのか?」

 

おれおかしなことしてたか?

 

「そうそうそれと風花が来てってよ」

 

「姫川が?なにかしたのか?」

 

「うん。今日こそ真に勝つって」

 

「ほお・・・・」

 

姫川のやつ大きくでたな。そりゃ全力でやらないとな。

 

「まぁ・・・とりあえず全員メティス使うのやめさせないとな」

 

「あんまりやりすぎないようにね」

 

「ああ」

 

おれは沖原とともに姫川のもとに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう・・・・・」

 

姫川が膝を地面について悔しげにおれを見ていた。

 

「まだまだ『アイギス』のコントロールが甘いな。もうちょいそこんところ詰めろよ」

 

「っ・・・・・」

 

でも出会った時よりはいい硬度になったもんだ。

 

「・・・・・この世で真くらいよね」

 

「なにがだ?」

 

「・・・・・・・刀でアイギスを切り裂くなんて」

 

「簡単だぞ。沖原もやってみるか?アイギスの空気の密度が薄いところを切り裂けばいいんだ」

 

「無理。聞いてもできる気がしない」

 

「そうか。今度教えてやるよ」

 

「相変わらずだな神野」

 

「・・・・だいぶ落ちてるよ」

 

「そうか?私から見たら昔より強くなっていると思うぞ?」

 

「そりゃないな。あの時あの瞬間のほうが・・・・・」

 

「それは違うぞ神野」

 

「っ・・・」

 

朝比奈先生がおれの肩を掴む。

 

「お前はあの時を最強としているのかもしれないが・・・・・」

 

「最強だったよ。おれはあの時あの瞬間が」

 

「神野・・・・・・」

 

「でも・・・・・・今も結構良い線いってるとは思うけどね」

 

「・・・・そうか」

 

そういって笑うと朝比奈先生ゆっくりと手を放す。その笑顔に安堵が混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまいな」

 

おれは学食でとんこつラーメンをすすりながら呟く。おれと同じテーブルにはさっきの授業の流れで沖原と姫川というが一緒に座っているためさっきから男子から嫉妬と羨望の視線が痛いが気にしない。気にしても仕方ないしな。

 

「相変わらず真はラーメン好きだね」

 

沖原もその視線を気にしてないのかいつも通りなのだがその横にいる姫川はなんだか落ち着かないようでそわそわとしていた。

 

「風花?どうかした?」

 

「えっと・・・・・なんだかさっきからすごく見られてない?」

 

「そうだな。まぁおれはともかく二人はこんな視線には慣れてるんじゃないのか?」

 

「えっと確かに琴羽ちゃんと一緒にいると視線は感じるんだけど・・・・」

 

「それは私だけじゃなくて風花も視線集めてるんだよ?」

 

「えっ?」

 

姫川が沖原の言葉にキョトンとする。それに沖原とおれは苦笑いを浮かべた。そしてその顔のままおれの向いた。

 

「それに真のもだよ」

 

「おれ?」

 

「うん。結構聞くんだよ。真のこと尊敬してたりする後輩のこと」

 

「そうなのか?でもおれって後輩にそんな風に尊敬されるようなことしたか?むしろ『メティス喰い』のせいで怖がられてるじゃないか?」

 

『メティス喰い』。かなり好きではない呼び方だが、おれの意思とは別にその名は学校中に広がっている。そんなおれを尊敬するなんて・・・・

 

「確かにその二つ名はかなり恐れの対象だよ。メティスを使って色んな悪さをしてる人たちにはね。普通の生徒からはそういった人から守ってくれるヒーローみたいなんだって」

 

「私もそれ聞いたことある。一緒に聞いてた沙織先輩はすごく複雑そうだったけど」

 

「かなりくすぐったいな」

 

「でも、あたしも感謝してるよ。そのヒーローみたいなところ」

 

「「あっ」」

 

「私はそのおかげで助かったんだしね」

 

「・・・悪い沖原。嫌なことを思い出させたな」

 

「いいよ。終わったことだし。めっちゃ感謝してるんだよ」

 

「そうだよ。あの時に神野くんが助けてくれたから、琴羽ちゃんが今こうしているんだから」

 

「うん。風花のいう通りだよ」

 

「・・・・・」

 

おれはあの時のことを思い出す。確かにあの時はやばかったと思う。というかあの日は珍しく取り乱したよな。というかあいつら・・・・マジで・・・・・・

 

「真・・・・」

 

「うん?」

 

「いや・・・・なんかヤバい雰囲気が出てたから」

 

「えっ・・・ああ。悪い」

 

どうやら殺気が滲み出てしまったみたいだ。うーん・・・・やはり感情のコントロールは難しいな。

 

「あっ汀先生」

 

「あら、みんなご飯?」

 

姫川がある人に気が付いて声をかけた。

 

「あっ薫子先生こんにちわ」

 

「こんにちわ。沖原さん、姫川さん。それに真くんも久しぶりね」

 

「そうだね。またスカウティング?」

 

「ええ。今回はかなり個性的な子でね・・・・」

 

汀薫子さん。CSCの出向されている先生でおれの保護者にあたる人だ。おれが日本に来てここに入学するまで薫子さんの家でお世話になっていたのだ。おれの日本の親代わりにあたる人だ。

 

「じゃまた転入生が来るんですか?」

 

沖原がそう聞いた時に薫子さんがハッとして固まってしまった。

 

「・・・・もしかして機密事項だった?」

 

「ええ。どうも真の前だと気が緩むわね」

 

薫子さんがはぁとため息をつく。

 

「なんかごめんな・・・・・そういえば慶司、面白いな」

 

「あら?そういえば真や沖原さんや姫川さんと同じクラスになったんだったわね。彼どう?」

 

「面白いよ。沖原は知り合いみたいだったし、姫川もすごく気に入ったみたいだしな」

 

「あら?そうだったの沖原さん?」

 

「はい。昔馴染みの腐れ縁なんです」

 

「そうなのね。姫川さんも気に入ってもらえてよかったわ。ぜひ仲良くしてあげてね」

 

「はい。わかりました」

 

「じゃ私は行くはね。真くんまた連絡するから今度食事でも行きましょうね」

 

「わかった。楽しみにしてるよ」

 

「ええ。私もよ。じゃ三人ともまたね」

 

そういって薫子さんはどこかに行ってしまった。

 

「なんかまた面白いやつが来るみたいだな」

 

「うーん・・・・ちょっと心当りがある気がする」

 

「そういえば、神野くんっていつから薫子さんと暮らしていたの?」

 

「中学1年生の時からだ。アメリカから帰ってきてから澄之江学園に来るまでの間だ。すごくお世話になってしまったよ」

 

おれはゆっくりとラーメンのスープを飲み干した。

 




感想・ご指摘じゃんじゃん募集しているのでお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意

遅くなってすみません!!

今回は実は一回出来たのですがちょっと書き換えておりそれで遅れてしまいました。

序盤でしかもいきなりこれかよ!?と思われるかもしれませんが一応こっちのほうが今後の展開的にいいと思いこういった展開にしております!

では楽しんで読んでくれると幸いです!

いつも応援ありがとうございます!!

簾木健


makoto side-------

 

その日の放課後

 

 

「1年B組の祐天寺美汐さん、1年B組の祐天寺美汐さん。至急、生徒会室までお越しください」

 

「お」

 

慶司がその放送に反応した。

 

「祐天寺だな」

 

放課後になるやいなや、そんな放送が校舎内に響いていた。

 

「こりゃ、部活はじめるのはちょっと遅くなるかもな」

 

「だねぇ」

 

慶司の言葉に姫川がうなずく。

 

「俺はサッカー部に行ってくらぁ」

 

その横で航平が帰りの用意を済まし立ち上がる。

 

「おお、今日もサッカーか。頑張ってなー」

 

「航平しっかりやってきな」

 

「おー」

 

おれと慶司の激励を受けて航平が教室から出ていく。

 

「それじゃ真、今日はお願いしてもいい?」

 

「ああ。ただちょっと店が混んでるみたいでな、少し待ってきてくれだと」

 

「そうなの?じゃどうする?」

 

「ちょっと話しでもしてたら連絡くるだろうしもうちょっとしてから出ようぜ」

 

「わかった」

 

「お?」

 

おれと沖原がそんな話をしていると慶司が教室の外を見ながら声をあげた。

 

「どうかしたか?」

 

おれも教室の外を見る。

 

「あの・・・・・・すみません・・・・・・」

 

「あ、智ちゃん」

 

教室の外で景浦がおろおろしていた。本当に人見知りなんだな・・・・あの人とは正反対だ。

 

「あ、よかった。速瀬さん、神野さん、姫川先輩、それから沖原先輩も」

 

そういって景浦が教室に入ってくる。

 

「珍しいね、智ちゃん一人なんだ?」

 

沖原が声をかける。

 

「あの、お嬢様たちは今、生徒会室に行ってまして。それで『申し訳ないけど、今日はアルゴノートの活動はお休みにする』と伝えるようにと」

 

「なるほど・・・・なんか釈然としないけど、わかった。ありがとう」

 

「?釈然としないとは?」

 

「んー、生徒会室に呼びだされて活動を休みにするっていうロジックが、祐天寺っぽくも、近濠先輩っぽくもないと思って。だから、別の理由があるんだろうなと」

 

「フフ」

 

「あ、智ちゃん笑った。かわいい」

 

「や、やめてください。姫川先輩」

 

「でもホントにかわいいよね、智ちゃん。それがあんなに凛々しく刀とかシュパーってやっちゃうんだから堪らないっ」

 

「お、沖原先輩もっ!お二人の方がもっともっと素敵ですし、お嬢様だってお二人のことをとても素敵だっておっしゃってて、それで・・・・って、ああっ、私なに言ってるんだろうっ。それに武道に関しては神野さんがもっとカッコよくて・・・・・ああっ・・・・・」

 

「ど、どうしよう琴羽ちゃん・・・・智ちゃん、本当にかわいいよ・・・」

 

「あ、あたしもちょっと、ドキドキしてきた・・・・」

 

「おい、あんまり苛めるとかわいそうだぞ」

 

さすがにそろそろ景浦がかわいそう・・・・

 

「そうだ真の言うとおりだぞ、恥ずかしがってるんだから、そんなにいじめてやるなよ」

 

「じ。神野さん、速瀬さん・・・」

 

「確かに俺も今、このかわいさはやばいなーとは思ったけど・・・・」

 

「ああ。かなり破壊力なのは理解したけど・・・・」

 

「ッ!?!?!?」

 

その言葉で景浦は完全に真っ赤になった。あっ・・・・カバーミスったな

 

「せ・・・・先輩たち、みんな意地悪ですっ!!!」

 

「あっ智ちゃん!?」

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 

景浦は両手で顔を押さえながら、疾風のような速さで駆け去ってしまった。

 

「慶司と真がとどめさした」

 

「えっ!?俺?」

 

「確かにおれたちのいせいだな。明日あたりでも謝りいくぞ慶司」

 

「えー、おれたちのせいなの!?」

 

「うん。とどめは二人だった」

 

「う、姫川まで・・・」

 

「わかったろ。二人で謝ろうぜ」

 

「・・・・わかったよ、明日にでも謝っておくよ」

 

「まぁ、照れて逃げただけだから、怒ってないと思うけどね~」

 

「いやぁ~わっかんないよ~?二人の場合、一旦フォローに入ると見せかけてから、ズバッときたからね」

 

「あー」

 

「いやっ、別にズバッといくつもりはなくて!だって、あれは実際かわいかっただろ。なぁ真」

 

「そうだな。確かにかわいかったな」

 

うん。いいものを見たと思う。

 

「おお、慶司と真がそこまでいうとは」

 

「ふ、二人とも・・・・・智ちゃんのこと好きになっちゃった?」

 

「いやそういうのではないな」

 

「ああ。真の言う通り――――」

 

―――――ガラガラと教室のドアが開かれる。

 

「お、姫川がまた残っていたか。よしよし」

 

「せ、先生・・・・」

 

入ってきたのは朝比奈先生だ。こりゃ完全に仕事を押し付けにきたパターンだな。

 

「だらだらしゃべっていただけだよな?時間があるなら少し手伝ってくれないか?」

 

「え、あ」

 

「ん?都合が悪かったか?」

 

「い、いえ。わかりました」

 

「・・・・先生」

 

「うん?・・・ゲッ!?神野」

 

「先生・・・・あんまり姫川を使わないを様にって言いましたよね?」

 

「いや・・・これはだな・・・・」

 

「これは?」

 

「いやーじゃ姫川!職員室に来てくれな」

 

「えっ!?」

 

朝比奈先生はすばやくドアを開けて逃走していく。ハァ・・・・・

 

「悪いな。姫川」

 

「神野くんが謝ることじゃないよ」

 

「いや・・・・でもだな」

 

「先生困ってるみたいだし・・・・今回まで大目に見てあげてよ」

 

「たく・・・・今回までだぞ。あんまり先生を甘やかすなよ」

 

「うん。わかった。じゃ行ってくるね」

 

「ああ。じゃな姫川」

 

「風花頑張ってね」

 

「うん!!」

 

そうして姫川も出ていく。

 

「たく・・・・本当にあの先生は・・・・」

 

「真は相変わらず気苦労が絶えないね」

 

沖原は苦笑する。

 

「今度こそきつく言っとくよ・・・・さて沖原そろそろ行くぞ」

 

「オッケー」

 

「慶司はどうする?」

 

「うーん・・・じゃ一緒に行ってもいいか?」

 

「構わないよ。沖原もいいか?」

 

「うん。じゃ行こうか」

 

沖原がスッと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっちゃん!!」

 

おれが店のドアを開き呼ぶ。その店の中にはゴツイ体の三十代くらいの男が元気に笑っていた。

 

「おう。来たか!真。琴羽ちゃんもいつもかわいいねぇ・・・・とそっちは知らない顔だな」

 

「ああ。うちのクラスに転入してきた・・・・」

 

「速瀬慶司です。よろしくお願いします」

 

「慶司な。ぜひ散髪の時はうちを利用してくれな」

 

「あっはい」

 

「慶司、この人は顔はこんなんだが腕はマジで一級品だ。良ければここを使ってくれな」

 

「あ、ああ」

 

おれはそういいながら鞄の中から自分の使い慣れた道具の入った箱を取り出す。

 

「顔はこんなんだとは失礼じゃないか?」

 

「いいんですよ。事実だから。なっおっちゃん」

 

「おう!!で?今日は琴羽ちゃんの髪だったな?」

 

「うん。場所借りてもいい?」

 

「それは大丈夫だ。琴羽ちゃんここに座って」

 

「うん」

 

沖原は結んでいた髪を解きおっちゃんが示した椅子に座る。するとおっちゃんが沖原髪を少し触る。

 

「痛みはほとんどないな。きっちりと手入れがされているいい髪だ」

 

「当たり前だよ。おれがちゃんと教えてんだから」

 

「そうだな・・・・じゃ御手並み拝見としますか」

 

「いつも見てるじゃん」

 

おれはそういって沖原の髪を整えにかかった。

 

 

 

 

 

 

keizi side-----

 

 

「すげぇ・・・・」

 

俺は真の動きに見入っていた。その動きには一切の淀みや躊躇いがない。

 

「すげぇだろ?あいつの動き」

 

「ええ。なんていっていいのかわからないですけど・・・・なんか凄いですね」

 

「・・・・正直やっていることはただ髪を少しすきながら長さを整えているだけだ。でもそれがかなりのスピードで行われている。あのスピードであそこまで正確に切れるやつはいない」

 

「そういえば・・・・あなたは真の師匠なんですか?」

 

「髪切りのか?違うぞ。あいつが澄之江に来た時、うちの店に来てな。それからちょくちょく店を手伝ってもらっていたんだ」

 

「じゃあ、どこであの技術を真は手にしたんだ・・・・」

 

「なんかアメリカにいたとき色んな人の髪を切っていたらしいぞ。それで身についたらしい」

 

「そうなんですか・・・・・」

 

そういえば真はあんまりそのアメリカにいたときのことを話さないよな。

 

「アメリカにいたときのことはな聞いてもはぐらかされるんだ。慶司は何か知らないか?」

 

「いえ。自分もアメリカに居たってことしか知らないです」

 

「そうか・・・・」

 

やっぱり真には何かあるんだろう。今度菜緒さんか本人に聞いておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

makoto side------

 

 

「よし。オッケー。どう?」

 

おれは全体のバランスをもう一度確認し沖原に声をかけた。

 

「うん!!バッチリ!!。ありがとう真」

 

「いえいえ。髪洗うのはおっちゃんに頼むな」

 

「わかった」

 

「うんじゃおっちゃんよろしく」

 

「おお」

 

おれはおっちゃんと入れ替わり慶司の横にいく。

 

「ふぅ・・・疲れた」

 

「お疲れ、真」

 

「ああ。でも今回はまだマシなほうだ。すいてちょっと調節するだけだかんな」

 

「真いつそんな髪切れるようになったんだ?」

 

「それは・・・・・」

 

アメリカのときにと言おうとしておれはそれを止めた。

 

「それは?」

 

「・・・・・今度話す。だからそれまでは待っていてくれ」

 

「・・・ああ」

 

そろそろ誰かに話すべきときな気がしたのだ。それは虫の知らせというか予感というかそんなもののようにおれはその時思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

おれたちは店を後にし『ヴィルフランシュ』にやってきていた。

 

「そういえばここのオープンカフェだったな。琴羽が俺と姫川から逃げたの」

 

「うっ!そのときは悪かったわよ」

 

「そういえばここは沖原や姫川のお気に入りの場所だったな。おれはあんまりこないけど」

 

「確かに俺や真は一人では入りにくそうな雰囲気だよな」

 

「アハハハ。男の子ってそういうとこで気後れするよね」

 

「場違いな気がするんだよな。一人じゃ速攻で出る自身がある」

 

「俺もだよ。琴羽だって一人牛丼屋とかラーメン屋って行きにくいだろ?」

 

「ん?そうね、そういえば」

 

「まぁでも琴羽はあっさり行けそうな気がするけどな」

 

「そんなことないって。ま、そもそもあたし、あんまり外食はしないんだよね。ここも食事できるけど、せいぜいケーキくらいしか食べないし」

 

そんな話をしながら俺たちは席に案内させる。場所はオープンスペースだった。

 

「ケーキねぇ・・・おすすめは?」

 

「ラズべりータルト」

 

「ほほー、真どうする?」

 

「そうだな・・・・・・おれはチョコレートケーキとアッサムをミルクで」

 

「真はいつも通りなのね」

 

「いいだろ?好きなんだよチョコ」

 

「真はチョコ好きなのか?」

 

「ああ。チョコは良いよ。頭の回転を助けるしなによりうまい」

 

チョコは本当にうまい。一度食べてからはやみつきだった。そういえば師匠によくねだって世界中のチョコを買ってきてもらったよな。

 

「おけ。すみません!!」

 

「ラズベリータルト二つにチョコレートケーキ、ダージリンのストレートとアッサムのミルクを・・・・・で?琴羽はなに飲む?」

 

「じゃあ、ハワイコナで」

 

「なにそれ?」

 

「ハワイコナといえばハワイのコナ地方で育った無農薬有機栽培のコーヒーだな。かなりうまいコーヒーだが・・・・」

 

「うん。ちょっぴり高めだから普段は飲まないんだけど今回は慶司のおごりと見たから」

 

「くっ、読むな」

 

「わかるってそのくらい」

 

「まぁいいや。それじゃあ、それでお願いします」

 

店員さんがぺこりとお辞儀をしてカウンターのほうに戻っていった。

 

「慶司おれの分は良いからな。沖原の分だけ奢ってやれ。てかむしろおれも沖原の分半分だすよ」

 

「いや、今回はおれが持つよ。真にはかなりお世話になってるし・・・・・・・それにしてもミス澄之江さんは、奢られ慣れていたりするわけ?」

 

「え?まさかぁ。相手が慶司や真じゃなきゃそんなことわかんないし・・・・そもそも奢られたりしないかな。借りを作るの好きじゃないし・・・・それにアレだ。慶司にしちゃ読みが甘い」

 

「ほぉ」

 

「あたしが奢られ慣れたりしたら、放課後に暇だなんてありえないでしょう。デートのお誘いで予定詰まっちゃうわよ」

 

「・・・・・・琴羽の人気は女の子だけってことか」

 

「慶司・・・・・」

 

こいつわかって煽ってんのか?

 

「男の子の誘いは全部断ってるって意味っ!もう『あいつは無理』って知れ渡ってるのっ」

 

「あれ・・・・・・それじゃ俺と真はかなりまずいんじゃない?」

 

あれ?もしかしてあの煽りは天然?・・・・・慶司ってかなりの鈍感野郎なんだな・・・

 

「マズくないよ・・・慶司は慶司だもん。それに真は例外になるんだから慶司も例外だよ」

 

「真が例外?」

 

「なんかおれは例外らしいんだよ」

 

昔10人くらいの男子に囲まれて言われたんだよな・・・・『お前だけは・・・・お前だけは沖原琴羽と一緒にいることを許す』って

 

「そういうことだから慶司も例外よ」

 

「いやいやそういう理由で真はいけるかもしれないけど俺に関しては周りはそう思わないだろ?明日から俺も俺もって誘われちゃうんじゃないかって」

 

「まぁそうなってもこれまで通り断るだけ。慶司のこと言われても、アレは旧い親友だからってちゃんと言うよ」

 

「悪いな。でも、そうしてもらえると助かる。俺としても琴羽と話せなくなるのはごめんだからな」

 

「ブッ!!」

 

おれは慶司の言葉に噴出してしまう。慶司が不思議そうな顔で沖原は苦笑いを浮かべながらおれを見た。

 

「いや悪い。ただ慶司そういう発言は少し自重しろよ」

 

「え?」

 

「まったくね・・・・」

 

慶司は全くわかってないようでキョトンとし沖原はため息をついた。

 

「お待たせしました。ラズべりータルトお二つにチョコレートケーキとダージリンのストレートにアッサムのミルクでそれからこちらハワイコナになります」

 

「あっども」

 

相変わらず見た目からおいしい雰囲気のケーキだよな。

 

「まぁそういう発言を自重できないのなら慶司はさっさと恋人でも作っちゃえばいいんじゃない?」

 

「そうだな。慶司そうしろよ」

 

「二人ともそんな簡単になにいってんだよ・・・・てか急になんでだよ」

 

「いや、そうすれば慶司とこんなことしてても大丈夫だし」

 

「・・・・でもそれってなんか本末転倒じゃないか?」

 

「え?なんで?」

 

慶司が今度は苦笑いを浮かべ沖原がキョトンとする。

 

「沖原、その感じだと沖原と遊ぶために慶司が彼女を作るって風に聞こえないか?」

 

「え・・・・・そういえば・・・・確かに・・・・・」

 

「だろ?」

 

おれはそういってチョコレートケーキに手をつける。苦みと甘みが相変わらず絶妙だ。

 

「おっ!マジでこれおいしいな」

 

慶司もラズベリータルトを一口食べ感嘆の声を漏らす。

 

「・・・・フフ、うん。おいしいでしょ」

 

「うん、確かにいい店だな。琴羽がおすすめすることもあってすごく落ち着く・・・・。ただ惜しむらくは、足繁く通うには財布の中身が心許ないくらいだな」

 

「それはホントに・・・・・」

 

「確かに学生が足繁く通うにはかなり割高だよな」

 

三人とも残念そうにため息を漏らす。

 

「そういえば慶司・・・・」

 

「うん?なんだよ?」

 

「さっきの私の話は抜きにしてさ、それでも、特に恋人とか作る気はないの?」

 

「そんなことはないよ。俺だって彼女くらいほしいと思ってるし、できれば思いっきりイチャイチャというヤツをしてみた」

 

「ふーん・・・じゃ、真は?」

 

「そうだな・・・」

 

「おれもほしいけどさ・・・・」

 

沖原には嘘はつきたくなくそこで言葉を切る。これ以上はあのことを話してない以上今はこれがマックスだ。

 

「つまり、二人ともこれといった女の子はまだ見つけてないと」

 

「まぁ、ここには転入してきたばかりだしな。これから新しい出会いを探すか、すでに出会った中から関係を育むか」

 

「おれは事情があるしまだその辺はまだ少しな」

 

「ふーん・・・そっか・・・・」

 

沖原の表情に少し影が差し目を伏せる。その表情におれは強い痛みを覚えた。

 

「おれはまだ進むことができないのか・・・・」

 

心の中で自分に悪態をつく。

 

「なんか悪いな・・・・」

 

おれの口からこぼれた謝罪。ただその言葉に沖原がキッとおれを見て言った。

 

「真、教えて。真は何があったの?」

 

「・・・・・・・えっ?」

 

自分のものではないような小さな声。

 

「真は出会ったときからずっと何かを隠してる。洋子ちゃんや薫子先生はなにかを知ってて、でも教えてはくれない」

 

「・・・・・・」

 

慶司が少しおれに目を向ける。たぶん慶司も気になってはいたのだろう。

 

「やっぱり話しておくか・・・・」

 

慶司のメティスのこともあるしな。そろそろおれも前に進んでいこう。

 

「沖原、慶司。今日の夜屋上のプールに来てくれ」

 

「プール?屋上にプールがあるのか?」

 

「うん。あるよ。でも夜は・・・・」

 

「どの口がいうんだよ・・・・沖原」

 

「あははは・・・」

 

沖原が気まずそうに笑う。こいつ全く反省しないからな・・・・・

 

「まぁいいよ。とりあえずいつもの階段のとこ開けておくからそっから入ってこい」

 

「わかった」

 

「慶司も沖原に案内してもらってきてくれ」

 

「了解」

 

「じゃおれは先に帰るわ」

 

おれは代金を置いて席をたった。




急展開ですげてわろたwwwという感じかもしれませんがこっちのほうがいいと思ったので……出来れば続けて読んでもらえたら嬉しいです!

感想・意見はじゃんじゃん送っていただけると作者が泣いて喜ぶので気が向いた人はどんなもんでもいいので送ってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝えたいこと

ちょっとははやく投稿できたのですが・・・・今回は重大な発表があります。

わたくし簾木健はですね9月の1か月の間、実習に行くことになりまして・・・・1か月ほど投稿が出来ないことになってしまいました・・・・・・

楽しみにしてくださっている読者の皆様本当に申し訳ないです。

ただ1か月の間もちょくちょく息抜きで書こうとは思っていますので絶対に1か月後には投稿します!!ですから楽しみに待っていてください!!!

今後とも『無のメティス』をよろしくお願いします!!!!!

簾木 健


keizi side------

 

 

「ここよ」

 

琴羽に案内されながら夜の学校に入っていく。校舎の西側に回ると鉄格子に囲まれた簡素な扉がある。でもその鉄格子の戸は開けており、簡単にその扉に近づくことができる。扉を開けると、そこには非常用と思われる階段が続いていた。これを登っていくしかないわけか。それを登っていくと各階の扉はしっかりと施錠されていて校舎内に入ることはできなかったが、屋上の扉だけは開いていた。校舎の屋上にはガラス張りの屋内プールがあった。照明の類はさすがに点いていないが、今日はずいぶんと月が明るいので暗闇に足をとられることはない。

 

「来たみたいだな」

 

その声にタラリと背中に汗が流れるのを感じる。聞き慣れたはずの声が全く別物のように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

makoto side--------

 

「来たみたいだな」

 

おれのその声に二人の顔が引きつる。

 

「悪いな。二人ともわざわざこんなところに来てもらって」

 

おれは二人にお茶のペットボトルを渡す。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

2人が茫然としながらそれを受け取る。おれはプールの飛び込み台に腰かけた。

 

「さてなにからはなそうか・・・・」

 

「真」

 

「なんだ沖原?」

 

「全部話してくれるの?今まで言い淀んでことも・・・・」

 

「もちろんだ。話すよ」

 

「・・・・わかった」

 

おれはふうっと息を吐き始めた。

 

「まずはおれのメティスについて話した方がいいな。おれのメティス・・・そのメティスネームは『ゼロ』じゃない」

 

「「・・・・えっ!?」」

 

2人が目を見開く。

 

「『ゼロ』はおれのメティスのテンプレートだ。ホントのメティスネームは・・・・・『フィーネ』」

 

「『フィーネ』?」

 

慶司が繰り返す。沖原は真剣な表情でおれを見てる。おれは一つ頷いてから続けた。

 

「そう。それがおれのメティスネーム。能力は・・・・・」

 

おれは一度言葉を切る。ここから先は完全に機密事項だ。

 

「能力は・・・・メティスパサーを破壊すること。ようは殺す能力だ」

 

「えっ!?」

 

慶司が驚きの声を出し沖原は目を見開く。

 

「その能力におれと菜緒さんがいた研究所を繋いだんだ」

 

「どういう・・・こと?」

 

「おれはメティスが発言する前、アメリカに住んでいた。家族と一緒にね」

 

この話はアメリカに居た時にしか自分ではしたことない。日本に来るときや来てからは菜緒さんや薫子さんが話を付けてくれたし・・・

 

「そういえば真の家族は?」

 

沖原が聞いてくる。なんとなく察しているのだろう。慶司も一緒らしく顔をしかめている。

 

「おれの家族は・・・・殺されたよ。メティスパサーに」

 

おれは自分の中にあるパンドラの箱を開ける。

 

「そしておれは・・・・そのメティスパサーを殺したんんだ。『フィーネ』を使ってな」

 

「「なっ!?」」

 

「おれは捕まって収容された。そしてメティスパサーってことで別の研究施設に連れていかれた」

 

懐かしい。思い出すのは本当に久方ぶりだ。

 

「そこでおれはモルモットにされていたんだよ。この辺の話はしたっけな・・・・」

 

おれはフウと一つため息つく。二人は黙ったままだ。さすがに二人は黙ったままだ。そりゃそうか目の前にいる同級生が人殺しだってことだもんな。

 

「さらにおれはそこで何度もメティスを使った。ただその時にはだいぶんメティスをコントロール出来ていてな、人を殺してしまうことはなかった。でもある日・・・・おれは・・・・過度のストレスと過労により・・・・オーバーコンセントレーションを起こした」

 

彼女のことが頭に過る。あの安心したような笑顔が・・・・・

 

「そしておれはまた一人の女の子の命を奪った。それは・・・・それは・・・・・」

 

おれはおれのブラックボックスの中にある最悪の記憶を掘り起こした。

 

「シルヴィアっていうおれの初恋の女の子だった」

 

沖原が口に手を当て息を呑む。慶司はさらに目を見開く。

 

「今でも忘れない。動くなる前におれを見て彼女が安心したように笑ったことを・・・・涙は枯れてしまったのにそれは消えない」

 

おれの目から一筋の水が垂れる。

 

「ただ彼女はおれと違って、かなりヤバい実験を何度もされていてシルビィアが日に日に追い込まれていたのは薄々わかっていたんだ。だからそれから解放されて彼女が安心して笑ったってことも・・・・・でもおれは彼女に生きてほしかった」

 

今でもうまく説明できない。こんな風になんだか感情を漏らすみたいになってしまう。自分の不器用さにむかっ腹が立つ。

 

「っ!!!!!」

 

そんなおれを沖原は突然抱きしめた

 

「真・・・・もういいよ・・・・」

 

その声は涙声。でもその中には芯のあるのがわかる。

 

「ああ。そういえばあの子もこんな子だった」

 

おれの初恋の女の子・・・・・ずっとおれが思い出すのをやめていた女の子・・・・シルヴィアはこんな風な女の子だったな。おれはそのまま少しの間沖原の肩を濡らし続けてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな。沖原」

 

「いいよ。珍しい真も見れたことだし」

 

「っ・・・・・」

 

そういえばすごく恥ずかしいこと見られたな・・・・・そしてゆっくりと沖原から離れる。ちょっと名残惜しいが・・・・・

 

「真、いくつか質問していいか?」

 

慶司がおれが離れたのを見計らって手を上げた。

 

「ああ。構わないよ」

 

おれは涙を拭う。

 

「まずオーバーコンセントレーションってのはメティスが暴走することでいいんだよな?」

 

「まだ授業じゃ出てきてなかったっけ?まぁ簡単に言えばそういうことだ。極度にメティスに集中してしまい意識のすべてをメティスに支配される状態のことだ」

 

慶司はおれの答えになるほどと頷く。

 

「今は完全にメティスをコントロールしてるんだよな?」

 

「ああ。めちゃくちゃにメティスを使いまくらない限りは大丈夫なはずだ」

 

というかメティスのコントロールはその時から出来ていたんだよ。でもあの日はなぜかめちゃくちゃに酷使されたからな。

 

「次に真はその感じだといつ近濠先輩が言ったみたいな修行をしたんだ?」

 

「シルヴィアの事件前と後だな。おれのいた研究所におれの師匠に当たる人が尋ねてきたんだ。おれはその人に武術を仕込まれたんだ」

 

「その人は今は?」

 

「わからないんだ。たぶん生きてはいるんだけど放浪癖があってどこにいるかはさっぱり」

 

「真の師匠ってことは真より強いの?」

 

沖原がそこで口をはさむ。

 

「ああ。正直勝てる気がしない。てか戦うだけ無駄だ」

 

「そ、そんなに強いんだ・・・・・」

 

「あらゆる武術を修めていて、全く隙がない。下手したら世界最強かもってすら言われたし」

 

「すっごいヤバいこと言われてるんだけど真の動きを一回見てるからなんか納得できる自分が怖いよ」

 

「本当に納得」

 

二人の反応におれも苦笑いを浮かべる。

 

「てか二人ともいいのか?」

 

おれはそこで真剣な表情に戻る。

 

「えっ?」

 

「なにが?」

 

「いや・・・・おれのメティス怖くないの?」

 

おれの言葉に2人は顔を見合わせて笑った。

 

「大丈夫。真のこと信用してるから」

 

慶司が笑って頷く。

 

「絶対はないんだぞ?」

 

「いいよ。だって真だから・・・・信じてる」

 

沖原は笑いながらも真剣な口調でそう言う。

 

「・・・・・・そっか」

 

自然と笑みが零れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばだけど琴羽のメティスはどんなものなんだ?琴羽もメティスパサーなんだろ?」

 

「あたしの?・・・・えっとじゃちょっとそっち向いてて」

 

「えっ!?なんで?」

 

「沖原のメティスはちょっと特殊なんだよ。いいからそっち向いといてやれ」

 

「ああ・・・・わかった」

 

おれと慶司が沖原から反対の方を見ている。するするとちょっとドキドキする音がした後ポチャンという音がした。

 

「えっ!?」

 

慶司もポチャンという音には気づいたようで振り返る。

 

「今プールに入らなかったか?」

 

「入ったな。でも大丈夫だよ。沖原だから」

 

「えっ?」

 

「5分くらい待ちなよ」

 

「5分!?。いくら琴羽でもそれは無理なんじゃ・・・・・」

 

「それが出来るんだよ。沖原にはな」

 

「まさか・・・それが・・・・」

 

「そう。沖原のメティス『マーメイド』だよ」

 

「そんなメティスもあるんだな・・・・」

 

「まぁな。ただおれのメティスと一緒で条件がそろわないと使えないから使い勝手良いメティスとは言えないよ」

 

おれと慶司はそんなことを話ながら沖原が泳ぎ続けるプールを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、あたしのことを聞きたいんでしょ?慶司」

 

ひとしきり泳いだ後沖原は水から出て飛び込み台のところに座った。沖原の水着姿はとても素敵で濡れた髪が月明かりでキラキラと光っていおり神秘的なオーラすら感じる。

 

「・・・・・・髪重くないか?」

 

「そこからか!」

 

慶司もいつもとは違う沖原の姿に動揺しているようでその言葉一つ一つにはいつもような余裕がないのがおれにもわかるほどだった。

 

「ああ。まずそのメティスは・・・・『マーメイド』はそういうことができるメティスってことか?」

 

「真からメティスネームは聞いたんだ。そう、あたしの『マーメイド』は水中呼吸や身体にかかる水圧の軽減、水中での温度調整、果ては体に接触した水流の操作も可能な優れもの。メティスが発動し続ける限り、装備なしで深海潜行も可能。いいでしょ?」

 

「いいでしょって・・・・っていや、すごいけど」

 

「まぁ地上では大して役に立たないけど。そうね、タオル無しでも身体に付着した水分乾かしたり、逆にいつまでも水分を保って潤いを保つとか。しかもメティス使っているかどうかはMWI値でも測る機械でもない限りわからないの。こういうメティスでは珍しいことではないんだけどね」

 

「なるほど・・・・それが水泳をやめた理由?」

 

「うん。一回はそれでやめた・・・・まぁ今はもう復帰したけどね」

 

「え?また水泳部に入ってるのか?」

 

「ううん。入ってないよ。でも今だって泳いでたでしょ?」

 

「どういうことだ?」

 

「ほらあたしは負けず嫌いじゃん。だから、泳ぎだって誰にも負けたくないと思ってた。でも水泳強豪の西森館学園に行ってみてなんか違和感があったんだよね・・・・・なんか狭いなって」

 

狭い。沖原らしい言葉だと思った。慶司はさっきのおれの話と同じように黙って真剣な顔で沖原の話を聞いていた。

 

「そして私は『マーメイド』に目覚めてね。最初なんの冗談かと思った。・・・・・誰にも負けない能力を持つってことは誰とも競い合えないってことだったんだよ」

 

ああ。懐かしい。この辺からおれも知っているというか関わっている・・・・・てかこの話の感じだと・・・あの話するのか!?

 

「沖原・・・まさか・・・・」

 

「ごめんね真」

 

沖原が意地悪な笑顔を浮かべた。こいつ話すつもりかよ

 

「そんな時、私は薫子先生が来たの」

 

「汀さんが・・・・」

 

「うん。あたし自身が求めたものを実現するために、メティスは私の中に芽生えたんだって。だからこのことを皮肉に思わないでって。あたしが本当に求めたものが実現するのはこれからで、まだ結果は出てないんだからって。それを聞いて私は西森館はやめて澄之江にくることにしたんだけど・・・・・」

 

「うー」

 

なぜかそれを聞くと慶司が顔をしかめる。

 

「どうした慶司?」

 

「いや、琴羽が言いたいことは分かる。でもなんか釈然としない」

 

「慶司・・・?」

 

「だってそうだろ?確かに、琴羽が求めたものは本当は違うのかもしれない。でも、それでもだ・・・・それが水泳をやめる理由にはならないだろ?・・・・どうせならすべての記録を塗り替えて『あたしは誰の挑戦でも受ける』って高笑いしている琴羽が見たかった」

 

「ぷ」

 

「はは」

 

「なんだよ二人とも・・・・」

 

「ぷはははははっ。ちょっちょっと待って。慶司の中のあたしのキャラってそんなんなの?」

 

「ははははは。慶司の中の沖原、完全にキャラ崩壊してんじゃん」

 

「いや、高笑いは言い過ぎだとしても、琴羽は基本的に負けず嫌いだったじゃんか」

 

「確かに負けず嫌いだけは思うけどねー」

 

「そうだな。沖原はかなりの負けず嫌いだな」

 

「だろ?」

 

「でも残念。あたしはそうしなかったのよ」

 

沖原が遠い目で空をみていた。まるで昔を懐かしむような表情だ。

 

「で、私は澄之江に来たんだけど・・・・水泳を諦めきれずにいてね・・・・よくここに忍び込んでたの」

 

あーーやっぱりその話するのか・・・・・

 

「そしたらある人がここにやってきたの。私はいつもみたいに水の中で隠れてたんだけど・・・・その人、水の中にいるはずのあたしに気付いてね。出てこいって。それであたしが出ていったらそこには制服を着た男子が立ってたの」

 

おれの方を沖原が見る。慶司も気づいたようでおれのほうを見ていた。

 

「『気持ち良さそうに泳ぐな』ってその人は笑ってた。でもその時のあたしはまだ水泳をやめたことが引っかかっててね、そんなこと言われてつい頭に血が上っちゃってね。その人にめちゃくちゃ言っちゃったの。でもその人はそんな私に向かって言ったの。『ほんとに競うだけが水泳なのか?おれは今みたいに気持ち良く泳ぐのも水泳だと思う。てかそっちが本当なんじゃない?おれはさっき泳いでた君を少し見てたけどすごくきれいで見惚れたよ。たぶんだけど君にはそっちのほうが似合ってるよ』って」

 

「うわーーーー」

 

おれは頭を抱える。おれ初対面の人にこんなこと言うなんてどうかしてるだろ!?

 

「真、これマジなの?」

 

「たぶん・・・・」

 

「すっごいくっさいよね」

 

沖原がケラケラ笑い、慶司が苦笑いを浮かべる。

 

「もう嫌だ。死にたい」

 

おれは手で顔を覆い身悶える。

 

「でも、あたしはその言葉にすごく救われたの」

 

「そうなのか?」

 

「うん。そういう考え方もあるんだなって、しかも確かに私にはそっちのほうが合ってるなってさ。だからあたしは水泳で競うのはやめたの。今はどれだけ気持ちよく泳げるかのほうが大事かな」

 

「気持ち良くねぇ・・・・・」

 

「たまにはこっそり海でも泳いでたり・・・・・・」

 

「海!?もう寒いだろ!?いや、メティスで体温調整もできるって話だったな」

 

「うん。慶司と真にしか言ってないから風花にも内緒ね」

 

「はぁぁぁ・・・・真にしか言ってないって姫川を心配させたくないってのは分かるけどよ・・・・」

 

その時、フッと視界に光が写った。

 

「「っ」」

 

おれと沖原の顔に緊張が走る。

 

「どうした二人とも」

 

「見回りだ」

 

「真、今日言ってなかったの?」

 

「ああ。やばいな」

 

「普段はどうしてるんだよ?」

 

「おれは別に大丈夫だから、沖原には水中に隠れてもらって・・・・・」

 

おれはそこで気づく。そうだ、慶司のメティスは・・・・ただそれには確証はない。でも・・・・・

 

「沖原、慶司・・・・・水に入れ」

 

「「なっ!?」」

 

「たぶん、慶司なら大丈夫だ。おれも出来るだけ早く見回りを追い払うから」

 

「わかった」

 

「慶司!?」

 

「正直、時間ないだろ?真を信じよう」

 

そんな話をしている間にもだんだんと光は近づいてくる。慶司は完全に覚悟を決めたようで水の中にゆっくりと入っていく。沖原がおれと目をあわせ頷く、おれもそれに対して頷き返すと沖原も水の中に入っていった。おれは警備員からすぐにはわからない位置に移動を行う。

 

「バチャン」

 

慶司と沖原が水に入った音が響く。慶司は服を着ている状態でしかも急ぎながらでは音なく入水は出来なかったか。

 

「なんだ!!」

 

警備員がプールに駆け寄ってくる。さて慶司のメティスはこれではっきりするだろう。おれは気配と足音を消し警備員の死角に入りそこから軽く駆け出し警備員に声をかけた。

 

「どうかしましか?水の音がしましたけど」

 

「あっ神野さん。お疲れ様です。あれ?今日は入ってなかったですよね?」

 

「ええ。でもちょっと散歩がしたくて・・・・そんな感じでさっき見回りに入ったんです。それでさっきの水の音は?」

 

「いや、自分もよくわからないんですがもしかしたら誰かがプールに入っているのかもしれません」

 

無理に話を逸らすのは無理そうだな。どうっすか・・・・

 

「おれが気配探ってみましょうか?」

 

「そういえば、神野さんにはそれがありましたね。先輩に聞いたんですけど相当すごいらしいですね。じゃあよろしくお願いします」

 

よかった。この人おれの特技知ってるみたいだな。

 

「わかりました」

 

おれは目を閉じてマジで気配を探る。水の中に気配を感じるのだが・・・・

 

「・・・・・どうやらなにもいないみたいですね」

 

「本当ですか?」

 

「ええ。気配を感じません・・・・・もしかすると」

 

「・・・・マジですか?」

 

おれはコクリと頷くと警備員が青い顔になる。

 

「・・・・こっちのほうで調べておくのでこれは伏せといてください。噂になると色々問題なので」

 

「わかりました。お願いします」

 

「はい。では見回り頑張ってください」

 

警備員の人が会釈をし来たのとは逆の方に歩いていった。するとポチャと音がして二人が上がってきた。

 

「行った?」

 

「ああ」

 

「てか慶司すごいね。かなり息もつね。慶司こそ水泳部入りなよ」

 

「あ、おう」

 

おれは慶司の反応を見て確信した。

 

「慶司のメティスはメティスをコピーするメティスで間違いないな」

 

・・・・・おれのメティスは絶対コピーさせるわけにはいかない、こんな悲しみしか生まないメティスもコピーさせるわけにはいかないんだよ。おれは月を仰いだ。




感想、質問などじゃんじゃん募集しています。

例え忙しくても感想のお返事は返そうと思っていますのでよろしくお願いします!!

ではまた!!





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな出会いと発見

やっと出来た!!

みなさんお待たせしました!!

一か月で投稿するつもりが・・・・・・

待っていた皆さんありがとうございます!!!

これから更新速度上がるといいなぁ・・・・・

ではお楽しみください!!

簾木 健


makoto side―――――

 

 

 

「慶司大丈夫か?」

 

「けっこうやばいよ・・・・寒い」

 

水に入ったとき時間がなく制服で飛び込んだ慶司はビショビショになった制服を頑張って搾ったのだが、ほぼずぶ濡れの状態で寮付近まで戻ってきたのだ。ただ、沖原は脱いだ制服に加えメティスで水を飛ばして、完全に乾いた状態になっていた。

 

「それにしても惜しかったね、慶司」

 

「ん?なにがだ?」

 

「慶司が苦しそうなら、人工呼吸でもしてあげようかなーなんて水の中で思っていたのに」

 

「ぶっ!?ば、おまっ」

 

「沖原・・・なに言ってんだよ」

 

例え慶司でもおれがそんなことさせるかよ・・・・・そんな危険性があったら潜らせるか。

 

「ハハハ、まさか慶司がそんなに動揺するとは思わなかったな。うふ、月明かりの下の水着姿は、それなりに刺激的だったかしら」

 

「い、いや、すまん。ちょっと別のこと考えてて、リアクション間違えた。もう一度頼む」

 

「なにその失礼な言いぐさはっ」

 

「あはは、まぁでも水着姿はかなりぐっときたぞ?おまえ、本当にいいプロポーションになったよな。ちょっとドキドキした。」

 

「そうだな。沖原の水着姿はいつ見てもいいもんだ」

 

正直ちょっと・・・・・まぁこれは言えんな。R-18指定しないといけなくなる。

 

「う、あ・・・・そ、そう・・・・?」

 

今度は激しく沖原が動揺する。

 

「ああ、人気があるのもうなずけた」

 

「あの姿だけが沖原のよさではないがあの姿には、みんな釘づけだろうよ」

 

慶司とおれの言葉に沖原はちょっと顔を赤らめる。

 

「他の人の評価なんて、別に・・・・・」

 

「ん?なんだって?」

 

「確かに、沖原はあんまり気にしないよな」

 

慶司には聞こえなかったみたいだったがおれには聞こえたのでおれがそう返すと、沖原は苦笑いを浮かべて笑った。そして

 

「はぁ・・・・」

 

ため息をついた。あれ?なんかしたっけ?

 

「・・・そういえば琴羽、髪の毛まで完全に乾いてる?」

 

「ん?だから言ったじゃない。《マーメイド》で身体に触れている水も、ある程度はコントロールできるのよ。それでパァッと」

 

「なにその超便利能力」

 

「でもこれで髪を乾かすの、かなり難しいんだからね。やり過ぎちゃうとバッサバッサに乾燥しちゃうし、一度ハリネズミみたいになっちゃったこともあるし」

 

「沖原のメティスはその辺のメティスコントロールが難しいもんな」

 

「はぁ、なるほど・・・・琴羽、ちょっといいか?」

 

慶司はそう言いながらなにか思いついたように沖原を呼び、慶司が琴羽に触れようと自分の手を伸ばした。

 

「慶司なにしてんの?」

 

おれはその行動の意図に気づいたが、ここは邪魔していいだろう。

 

「えっ!?いやその・・・・」

 

「な、なに慶司?あたしと手でも繋ぎたいの?」

 

「あ・・・うん」

 

「「えっ!?」」

 

おれと沖原の声がハモル。こいつなに急に大胆なこと言ってんだよ・・・・

 

「さすがに、それは・・・・・」

 

そう言いながら沖原はおれのほうをチラッと見る。もしかしておれお邪魔?

 

「いや・・・沖原的に問題ないなら・・・・」

 

「えっ!?」

 

沖原が目を見開きおれを見る。あれ?そして

 

「はぁ・・・・」

 

また沖原がため息をついた。

 

「まぁ、慶司と手を繋ぐなんて、別にそんな、意識することじゃないか・・・・」

 

そういって沖原が手を差し出す。慶司の手がそれに触れようと空中で少し止まりながら動いていく。そして沖原の手に触れようとした。そのとき――

 

「あああああああああああっ!!!?」

 

声が響いた。

 

「「「っ!?」」」

 

おれたちはビクリとしてしまい。沖原と慶司は触れかけたお互いの手を引っこめた。

 

「ありがとう」

 

おれは心の中で声の主に感謝して、その声がしたほうを見る。

 

「なんでここに琴羽ちゃんがいるの!!?しかもなんかいい雰囲気だし!!」

 

そこにはピンクの髪を揺らしながら叫ぶ少女がいた。

 

「げ、この声は――」

 

「まさか――」

 

「「まなみ!?」」

 

どうやら二人はこの声の主である少女を知っているようで驚いた顔で固まっている。

 

「イエス、アイ、アム!!」

 

その少女は少し不機嫌な顔でボストンバッグを持ちながらこちらを近づいてくる。なんというか元気な子だな・・・ちょっとうるさいくらいある。

 

「ねぇっ、琴羽ちゃんがここにいるのはどういうことなの!?もしかして汀さんにお兄ちゃんを勧誘させたのも琴羽ちゃんの差し金?」

 

「ちちち、違う!あたしだって慶司がここにきて驚いたんだっての!」

 

・・・・お兄ちゃん?そういえば慶司、妹がいるって言ってたな。もしかしてこの子が慶司の妹?

 

「・・・ホントに?」

 

「ホントホント。っていうか、まなみこそなんでここにいるのよ」

 

「うん、俺もそれを聞きたい。家でなにかあったのか?」

 

「家?なんもないよ?お父さんとお母さんがイチャイチャしてるくらい」

 

「・・・・それはいつも通りだな」

 

「おじさんとおばさん、相変わらずなんだ・・・・」

 

「で、まなみ、お前―――」

 

「慶司ちょっとストップ」

 

おれはそこで話を止めた。

 

「えっ?」

 

「いや、内輪で驚くのは良いんだけど、この子が誰なのかおれにも紹介してくれない?」

 

「あっ!!そうか。ごめん」

 

「いや、うん・・・・」

 

正直おれのいたたまれなさ半端なくてもう帰りたいくらいあるんだけどね。

 

「・・・・あなた誰ですか?」

 

うわっなんか慶司の妹にもすごい訝しげな目で見られてるし・・・・話し遮ったから恨んでるのかな?

 

「えっと、こっちはおれの妹の速瀬まなみ。で、こっちがおれのルームメイトの神野真だ」

 

「お兄ちゃんのルームメイト!?」

 

「うん。ついでにいえば寮の管理人をしてる。しっかり挨拶しとけよまなみ」

 

「えっ・・・あっ・・・速瀬まなみです。よろしくお願いします」

 

なんか急に塩らしく挨拶された。なんか悪いな。気にしなくていいのに

 

「こちらこそ。神野真です。もしかして今日来る予定の編入生が君かな?」

 

「「えっ!?」」

 

「そうです。管理人さん!」

 

「別にタメ口でいいよ。敬語そんなに得意じゃないんでしょ?」

 

「えっ・・・あっ、ありがとう」

 

「うん。でなんだけど―――」

 

「「ちょっと待って!!!」」

 

「うわっ!慶司に沖原どうした?」

 

「どうしたじゃないでしょ!?」

 

「真、まなみが編入生ってどういうことだ!?」

 

「どういうことってそういうことだろ?」

 

澄ノ江への編入条件はたった一つしかない。

 

「まさか・・・」

 

「マジで?」

 

沖原も慶司も唖然として速瀬(妹)を見る。

 

「ふっふっふっ。私もメティスに目覚めたの。だからここに来たんだよ。これからは『メティスパサーまなみ』って呼んでもいいよ」

 

ドヤッと速瀬(妹)が笑った。正直そのネーミングセンスはないな。

 

「へぇっ、どんな能力?」

 

「へへ~ん、どんな能力かと言いますとですねぇ・・・・」

 

慶司よりも少し早く驚きから立ち直った沖原が聞くと、速瀬(妹)が足元に置いていたボストンバックに手を突っ込みなにかを探し始める。

 

「あれ・・・・えと・・・あ、あった」

 

そして取り出したのは

 

「筆箱?」

 

慶司がキョトンとする。

 

「その中のこいつです!じゃじゃーん!」

 

「鉛筆・・・・??」

 

次に沖原がキョトンとする。まぁメティスを多くしらない人だとこうなるよな。おれはこの様子を見ながら苦笑いを浮かべた。

 

「取り出したるこの鉛筆!タネも仕掛けもございません!さ、お兄ちゃん、確認して」

 

「ああ。・・・・ふむ、うん。確かに普通の鉛筆だ。ちなみにB」

 

「この鉛筆を手に持ちます。そしてまなみパワーを注入!!はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

やっぱ、ネーミングセンスないなこの子

 

「真、琴羽。まなみパワーというのがメティスのことでいいんだよな?」

 

「そうだろうな・・・・正直ネーミングセンスないな」

 

「まぁまぁ。メティスって、人それぞれ、いろんな集中方法があるのもだから」

 

「そんなものか・・・・」

 

そうこうしてる間に速瀬(妹)はメティスを鉛筆に込め終わったらしく、少し肩で息をしながら鉛筆を慶司に向かって差し出した。

 

「さぁ、お兄ちゃん、この鉛筆を折ってみて」

 

「折るとどうなるんだ?爆発でもするのか?」

 

「爆発なんかしないから!早くっ」

 

「お、おう」

 

そういって慶司は鉛筆を折ろうと力を込める。

 

「うおっ!?なんじゃこりゃ!?」

 

「「ど、どうしたの(んだ)?」」

 

「め、めちゃくちゃ硬くて、全然折れない・・・・・」

 

「どれどれ・・・うぉおおっ、ホントだ!これは硬い!」

 

「そんなにか?・・・・・確かに硬いなこれは」

 

三人で試してみるが全く折れない。これは相当な硬度になってるな。

 

「フフーン」

 

それなおれたちを見て速瀬(妹)は得意げに笑っていた。次の言葉までは・・・・

 

「で、まなみ、この鉛筆はここからどうなるんだ?」

 

「えっ?どうって?」

 

「え、まさか・・・・それだけ?」

 

「っ!?!?」

 

「まなみのメティスは・・・鉛筆が、硬くなる・・・・それだけ?」

 

「ッ!?!??!?!」

 

「確かに少しパッとしない能力ではあるけど・・・・速瀬。メティスネームは持っているのか?」

 

「あっ、まなみでいいですよ。神野先輩すごくいい人そうだし、お兄ちゃんと区別しにくいし・・・・それでメティスネームってなんですか?」

 

この様子じゃまだみたいだな。

 

「メティスには必ず名前があるんだ。それをまだ得てないってことはまだメティスは不完全なんだよ。知らないってことはまだなにかそのメティスには使い方があるかもしれないな」

 

「っ!!!!!」

 

「まぁそこまで能力がはっきりしてるし、すぐに思いつくだろうな」

 

「わかりました!ありがとうございます」

 

「敬語じゃなくてもいいんだけど・・・まぁそういうことで二人ともあんまりバカにするなよ」

 

「いや、おれたちはバカにしてないよ。なっ琴羽」

 

「うん。まぁ慶司はちょっとバカにしてたかも」

 

「うん。お兄ちゃん絶対バカにしてたよね」

 

まなみがうんうんとう頷く。

 

「してないって。すごいな、まなみ。まさかおまえがメティスに目覚めるなんて思ってもみなかったよ」

 

慶司はそう言いながらまなみの頭を撫でると、まなみは赤くなり慶司に恨みがましい目で慶司を見ていたが撫でる手を振りほどいたりはしなかった。ただそんな中慶司の表情が一瞬変わる・・・・やはりそういうことか。

 

「で?どうして琴羽ちゃんはここにいるの?」

 

「あたしもおんなじだって。《メティスパサー》」

 

「琴羽ちゃんも!?お兄ちゃんは知ってたの?」

 

「いや、俺をこっちにきてからはじめて知った。その辺の情報はまなみと変わらないんじゃないか?」

 

「あはははは・・・別に隠してたわけではなかったんだけどね・・・・・。まさか、二人とも澄ノ江に来るなんて思ってなかったし・・・・」

 

「ふぅん・・・・まぁいいけど。もう一つ聞きたいんだけどさ」

 

「なに?」

 

「ちょっと育ちすぎなんじゃないの・・・・これ」

 

「ぎゃあっ!い、いきなりおっぱい揉まないでよ!」

 

「うわっ、なにこの柔らかさ!これで今、お兄ちゃんのこと誘惑してたの!?」

 

「してないっ、して、ないって・・・・んっ」

 

「どうやってこんなになるの?なにか特別なもの食べてる?やっぱり牛乳?水泳っておっぱい大きくなるの?」

 

「こ、こらっ、まなっ、いい加減に―――――しろっ!!」

 

沖原がまなみを引きはがすとまなみのそれに触る。

 

「ひゃあっ!?」

 

「あ、こらっ!そんなこと言ってまなみもすっごいじゃない!ちょっとなによこれ!」

 

「ひゃっ、あっ!こ、琴羽ちゃんの方がっ、琴羽ちゃんの方が全然すごいもん!」

 

なんか突然眼服なことが始まった。確かに沖原のそこは完全に反則級だけど・・・・まなみの方もかなりすごいな・・・ただおれの横では慶司はため息をついて、呆れ顔で二人を見ていた。

 

「まなっ、そろそろ、はな・・・・してっ!!」

 

「わぷっ」

 

そしてしまいにはしつこく胸を触りまくるまなみの頭を、琴羽は両手で抱きしめてその胸にうずめてしまった。

 

「むーっ、むーっ、むーっ」

 

「はぁ・・・・ホントにまなみだ。まな、久しぶり・・・・」

 

「む・・・・・むぅ・・・・・琴羽ちゃん・・・・・・連絡くらいしてよ、バカ・・・・」

 

「ごめんね、まな。それから・・・・澄ノ江学園にようこそ」

 

「へへ・・・・・うん。またよろしくね、琴羽ちゃん」

 

「こっちこそ」

 

どうやら終わったみたいだな。なんかこういうのいいな。慶司もふぅと一息ついてから、まなみに話しかける。

 

「まなみ、今から学生寮に行くのか?」

 

「うん、もっと早い時間に来たかったんだけど、前の学校に挨拶してたりしたら遅くなっちゃった」

 

「前の学校に挨拶って・・・・なんでそんな急な・・・・・」

 

「確かに。今回のまなみの部屋も急遽開けたんで大変だったみたいだよ。そんなに来たかったの?」

 

「べ、別にお兄ちゃんに会いたくて急いだわけじゃないからね!?」

 

「ふ・・・・わかったわかった。ほら、カバン持ってあげる」

 

「あ、ありがと」

 

なんかこのやり取りで色々わかったな・・・・・おれは横の慶司を確認するだ・・・・・どうやらこれは慶司にはわかってないみたいだな。

 

「・・・・っくし!・・・・いかん。ちと寒くなってきた。真、さっさと寮に帰ろう」

 

「忘れたけど・・・・そういえばそうだったな」

 

慶司のくしゃみにさっきまでのことが思い出される。完全に上書きされたけど、慶司びしょ濡れだったな。

 

「そうだったそうだった。慶司、濡れ鼠だったね。寮に戻ったら、ちゃんとお風呂で温まるのよ?」

 

「はいよ」

 

「っいうかなんで濡れてるの・・・・?」

 

「ま、いろいろあったんだ。さて慶司行くか。まなみにはあとで書いてほしい書類があるから・・・・・さおり先輩にでも言って届けてもらうようにするよ。沖原はまなみの案内よろしく」

 

おれのその言葉に沖原はむっとした表情になる。な、なんだ?

 

「まなみ、ちょっとあたし真にお話しがあるからちょっと待ってて」

 

「え?あっ、うん。わかった」

 

「うん、すぐ済むから。慶司もはやく寮に戻ってお風呂に入ってていいよ」

 

沖原は笑ってはいるが・・・・・その笑顔はなんというか・・・・迫力が違った。

 

「わ、わかった。じゃまなみ、琴羽またな。真も後でな」

 

「うん。じゃねお兄ちゃん」

 

「お、おう」

 

沖原の迫力に何か逆らってはいけないものを感じたのか、慶司はさっさと寮に戻っていった。

 

「で、あの・・・・沖原さん?」

 

「真、ちょっと来て」

 

「はい」

 

笑顔だ。すごい笑顔だ。まなみが後ろでおびえた表情になっているのは、何か別のものが見えてるだけで、別に沖原が原因でないと信じたい!!!おれはそう願いながら沖原についていく。ただ沖原はすぐに立ち止まった。すぐと言ってもまなみちゃんには声が届かないであろう距離くらいは離れてるけど・・・・・どうしたんだ?ホントに

 

「真、まなのことはまなみって呼ぶんだね」

 

沖原が静かに切り出す。

 

「えっ!?そりゃ本人からそう呼べって言われたし・・・・」

 

「ふーん・・・」

 

なんかすごいジトッとした目で沖原がおれを見てる。

 

「・・・・あたしのことは名前で呼ばないくせに」

 

「うん?なんかいった?」

 

沖原がなんかつぶやいた気がしたがそれも聞き取ることはできなかった。

 

「なんでも・・・・なくない!!」

 

「うわっ!」

 

「真・・・・」

 

沖原がおれの服を掴む。ち、近い。

 

「あたしのことも・・・・・・名前で呼んでよ」

 

「えっ!?」

 

「だから、まなのことは名前で呼ぶことにしたんでしょ?それなら私のことも名前で呼んでよ」

 

「・・・・すごく突飛な発想だな」

 

「それとも、あたしのこと名前で呼ぶのいやなの?」

 

「・・・・わかったよ」

 

最後のはズルいだろ。その言葉をそんな顔で言われたらもう頷くしかないよ。

 

「うん・・・・」

 

しかも、強引に迫ったくせに頷いたら顔を赤らめて照れるなんてズルいな。

 

「じゃ、琴羽。まなみを頼むな」

 

「うん・・・うん!!」

 

でも、やっぱり琴羽には笑顔が似合うよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

keizi side――――

 

風呂上り。真は風呂に行って航平はまだ帰ってきてない。今は部屋には俺一人だ。

 

「鉛筆が硬くなるねぇ・・・・・・・まなみパワー・・・注入・・・っ!」

 

机に座り鉛筆をってそう呟く。すると鉛筆は確かに硬化した。

 

「おお、これは・・・・」

 

ガチャ・・・・

 

「っ!!!」

 

ドアの音に反応に身体をピクッと揺らしてしまう。

 

「ただいまーっと。お、勉強?なんか宿題出てたっけ?」

 

入ってきたのは航平だった。どうやらバレテないようだった。

 

「い、いや、ちょっとだけノートを見返してただけだ」

 

「そかそか。まぁ、転校したてだといろいろ面倒だよな、その辺」

 

「まぁな。っていっても、あんまり自分で勉強する方じゃないけど。興味があるものだけだな」

 

「はっはっは。俺もだ。さすが慶司、心の友よ!」

 

なにげない会話。しかし今の俺には手に持った鉛筆が気になって仕方がない。

 

「っつーか、航平。おまえ風呂は?そろそろ風呂の時間終わるぞ?」

 

「うおっ!?サンキュー。慶司はもう入った・・・っぽいな。真は?」

 

「ちょっと前に風呂に行ったよ。そろそろ上がるんじゃないか?」

 

「了解。そんじゃあいってくらぁ」

 

「おう。いってらっしゃい」

 

航平が部屋を出ていき、また一人になる。

 

「ふぅ・・・・」

 

思わず隠したが・・・確かに鉛筆は硬くなった。

 

「あ、あれ?もう普通の鉛筆に戻ってるな・・・。そうか、メティスが切れると元に戻るわけか。なるほど・・・・それはまなみのメティスのルール」

 

姫川の《アイギス》。琴羽の《マーメイド》。真の《フィーネ》。そして、まなみの鉛筆を硬くするやつ・・・もう少しサンプルがほしいところだが、俺のメティスのルールは大まかに見えてきた。『人のメティスを使う』。そういうことだろう。一見異常に便利に思えるが、制約が多い。『そのメティスを持つメティスパサーとある程度以上接触しなくてはいけないこと』。『たった一度の使い切りであること』。そしてなによりダメそうなポイントとして、『誰かのメティスを保有している状態では、他のメティスを得られないこと』。おそらくこのルールが存在する。ストックは常に一つと言うことだ。まぁ、あと一晩眠ったりしたも保有していたメティスは消えるみたいだが、この辺の条件はもう少し実験してみた方がいいかもしれない。それと、どうもそのメティスの概要くらいはわかっていないとダメってのはありそうだ。朝比奈先生の言っていた腕のたとえを借りるなら、『生えてきた腕に気がついてない』と言ったところか。

 

「なかなか不便な能力だな、こいつは・・・・」

 

そんなつぶやきを漏らしつつ、俺はにやけそうになる顔を必死で押さえた。制約は多いが、これほどなんでもできる能力なんて面白すぎるだろ・・・・。こうなってくるとむしろ制約がきつくないと面白くない。不便で結構。俺の今までの生活に支障があるわけではない。だがもう一つ、メティスの発動条件以外に、制約がある。

 

『俺のメティスの詳細は、誰にも知られちゃいけない』

 

最初に俺が喰らったメティス、海老名の《パペット・イン・ザ・ミラー》。あれは能力としては小さいものだが、その仕組みさえ知られていなければ、もっと凶悪な使い方ができたはずだ。俺のこのメティスも、知られてしまえば対処されてしまう類のもの。なにしろ他の《メティスパサー》に接触できなければ、ただの人間と変わりないんだ。だから、その時が来るまでは隠す。

 

「ゲームだな、こりゃ・・・・」

 

メティスの研究機関であるこの澄ノ江で、メティスの能力を隠して生活する。一切メティスを使わなければそれも可能かもしれないが、それではつまらないしゲームにならない。バレたところで、大きな利点が失われるだけだ。バレないようにはするが、使える限り目一杯使おう。バレちゃいけないが、バレるまでは最強のカード。そんなジョーカーみたいなメティスだ、これは。

 

「・・・・ジョーカー?」

 

頭の中で、何かがピッタリとはまり込んだ。

 

「こいつの名は《ジョーカー》・・・・」

 

微細な痙攣が身体中を駆けめぐり、そして浸透していく。俺の持つメティスは《ジョーカー》。目の覚めるような感覚。なにかが晴れわたっていくような感触。『メティスネームを得る』というのは、こういうことか・・・。そして今、俺は自分のメティスに《ジョーカー》という《メティスネーム》を得た。

 

「《ジョーカー》か。なるほど、ワイルドカードってわけだ」

 

どうしようめちゃくちゃ興奮してきた。今夜は眠れないかも・・・・

 

ガチャ・・・

 

そこでまたドアが開く。そしてもう一人のルームメイトが入ってきた。そいつは俺の姿を少し見て静かに笑っておれの興奮を一瞬で冷ました。

 

「慶司、鉛筆は硬くなったか?」

 




どうでしたでしょうか?

やっぱり更新速度のために文字数減らすべきかなですかね・・・・・

感想等、じゃんじゃん募集してますのでよろしくお願いします!!!

ではまた次話で!!

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

答え合わせ

ちょっとは早く投稿できた・・・・・・かも・・・・・・

今回は少し雑な気もするが・・・・・・

ただ、話が進まない。すっごい進まない。

まぁのんびりとお付き合いください。

では今回もお楽しみいただければ幸いです。


簾木 健


manami side

 

「おー」

 

常若寮に着くとさっそく部屋に案内された。一階の一番端っこの部屋だった。

 

「なになに、まな一人部屋なの?」

 

「1年生のお部屋、今ここしか空いていないんだって。というか、物置になってたのを無理矢理空けたとかさっき聞いたけど」

 

寮に入って案内してくれたのは2年生の姫川風花先輩。どうやら琴羽ちゃんのルームメイトらしい。かわいらしくて、しっかりしてて、その上・・・・おっぱいもなかなか大きい・・・・。お兄ちゃんのクラスの委員長もしてるそうなんだけど、無茶苦茶お兄ちゃんの好みのセンいってる気がする・・・・。

 

「あはは、裏口のすぐだからね」

 

「なにか起こったらすぐに逃げられるね」

 

「あんまりそういうことは起こってほしくないですけど・・・・・」

 

「そりゃそうね、アハハ」

 

屈託なく笑う琴羽ちゃん。なんか笑う度に胸がこう・・・・ゆさってして、つい目がいってしまう。っていうか、琴羽ちゃんもちょっと見ない間にバージョンアップしすぎなんじゃいの?わたしもかなりがんばっておっきくしたつもりなのに、なんなのよ!この非常識なボリュームはっ!!!

 

「アハハ、そうだね。ごめんね、まなみちゃん」

 

「い、いえっ・・・・」

 

うっ・・・・。か、かわいい・・・・。女のわたしから見てもすごくかわいい・・・・・。仕草の一つ一つが『かわいい女の子』してる・・・・。眩しすぎるっ。

 

「ファイト、まなみ・・・・・っ」

 

「でも、びっくりしたよ~。速瀬くんから妹さんがいるってお話は聞いてたけど、すぐとから来るなんて聞いてなかったから」

 

お兄ちゃんからわたしの話がッ!?

 

「あ、それは慶司も知らなかったみたいよ?まなみ、内緒にしてたの?」

 

「内緒って言うか・・・・急に決まったことだったから、ちょっと忘れちゃってて」

 

「忘れる?まなが慶司への連絡を?」

 

「な、なによ、琴羽ちゃんっ。別にわたし、お兄ちゃんとそんなにマメに連絡なんて取ってないからねっ」

 

「ん~、そうかにゃ~?」

 

「ほ、ホントだもんっ」

 

「だ、だって・・・・あんまりしつこくメールとかして、お兄ちゃんに『うわ、また妹からだ。うぜぇ』とか思われたくないし・・・・」

 

「まなみちゃん、お兄ちゃんのこと大好きなんだね。でも大丈夫、速瀬くんはそんなことで鬱陶しがったりしないと思うよ」

 

「!!?」

 

「え、な、なに?」

 

「こ、琴羽ちゃん!琴羽ちゃん、ちょっと!」

 

「はいはい」

 

琴羽ちゃんを引っぱって、ぐいっと部屋の隅へ。

 

「ど、どういうこと?あの姫川先輩って、お兄ちゃんとは会ったばっかりなんでしょ?なんでそんなにお兄ちゃんのこと知ってるの!?」

 

「あ~・・・・ちょっとしたことがあってね、風花は慶司に対する信頼度が当社比50%アップくらいしちゃってるっていうか・・・・」

 

「ちょっとしたこと・・・・・?ま、まさか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。ここが澄之江か」

 

速瀬慶司はある目的のため澄之江にやってきた。そこに・・・・・

 

「キャーーーーー」

 

「逃がすな!!追え!!!!!」

 

「な、なんだ?」

 

そこで慶司は何者かに追われる少女・姫川風花と出会う。慶司はその風花を助け次々に襲いくる刺客を知恵と勇気で振り払っていく。終わりのない逃走の中、二人の間に育まれていく信頼、そして愛情。だが、冷酷なる運命が二人を引き離す。

 

風花が追われる理由とは?慶司に隠された秘密とは?そして、アメリカ全土を巻きこむ大いなる陰謀とは!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、だいたいそんなようなことがあってね」

 

「あったの!?っていうかツッコミどころ総スルー!?」

 

「陰謀とか刺客とかはないけど、風花が慶司に助けられたのは本当。ま、助けられたのは風花だけじゃなかったけどね・・・・・」

 

「そ、それで・・・・す、好きに・・・・・なっちゃたり・・・?」

 

「・・・かもしれない」

 

「~~~~~~~っ」

 

「・・・・まなみ?」

 

「す、スペック!姫川先輩のスペックを教えてっ」

 

「風花のスペック?う~ん、顔とかプロポーションとかは自分で見て判断すればいいね?あたしや慶司のクラスの委員長で、真面目で責任感は強いし、その割には堅くないから信頼は厚いかな。成績もかなりよくて学年で上位20位以内にはまず入ってる。常に予習復習を欠かさないで成績を保つタイプね。そしてなにより特筆すべきはそのメティス!《学園最強の盾》!《絶対防御》!無敵の《アイギス》の使い手!」

 

「が、学園最強・・・。わ、わたしのメティスは・・・鉛筆を硬くするだけ・・おお・・・・ぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

そこでわたしは崩れ落ちる。そんなハイスペックなんて・・・・・

 

「琴羽ちゃん?私のこと話してる?」

 

「アハハ、ごめんごめん。まなが風花のことどんな人かって聞いてきたから」

 

「そんなの私に直接言ってくれればなんでも教えるのに」

 

その時、入り口のドアをノックする音が聞こえた。誰だろう。まだ澄之江には琴羽ちゃんと姫川先輩以外知り合いはいないはずなのに・・・・。

 

「・・・・はい?」

 

「夜分にごめんなさい。今日入寮した方ですね?」

 

わ、なんかすごく雰囲気のある子・・・・。わたしと同じか、それよりちっちゃいくらいだけど、1年生ってことはない気がする。

 

「あ、はい。速瀬まなみです。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ。私は3年A組の宇佐美沙織、風紀委員をしています。学園内だけじゃなくて寮内の風紀の監督もしているので、なにか困ったことがあったら相談してください」

 

「あ、沙織せんぱーい」

 

「こんばんわ」

 

「あら、風花?沖原さんも、もう自室に戻っていなければいけない時間ですよ」

 

「あっ・・・・ごめんなさい」

 

「あの、姫川先輩は、わたしを部屋に案内してくれたんです。わたしの到着自体遅かったんで、それで・・・・」

 

「そう、だったら謝らなくてよかったのに」

 

「風花はそういう時、まず謝っちゃうからねぇ」

 

「ふふ、それが良いとこなんだけど・・・・それで、沖原さんは?」

 

「げっ。え、えっと、それはですね・・・・その・・・・」

 

「琴羽ちゃんは、『どれどれ、どんな部屋~?』って覗きにきただけです」

 

「ちょっ、まな!?」

 

「琴羽ちゃんはそういう時、まず謝っちゃった方がいいと思うよ?」

 

「風花にまでっ」

 

「はいはい、事情はわかったから、二人も自室に戻ってください」

 

「速瀬さん、寮生活でわからないことがあったら、私や先輩たちに遠慮なく聞いてくださいね。ルームメイトがいないから大変だと思うけど―――」

 

「・・・・・?」

 

「・・・・速瀬・・・・さん?」

 

「はい」

 

「・・・・速瀬・・・・慶司とは・・・・?」

 

「あ、先輩もお兄ちゃんのこと知ってるんですね・・・」

 

「妹?」

 

「妹です」

 

「妹、妹」

 

「うぅ、お兄ちゃん、ここにきたばかりのはずなのに・・・女の子の先輩まで仲良くなって・・・・」

 

「な、仲良くなんてなってないですからっ!」

 

「ひぇっ!?ご、ごめんなさいっ」

 

急にびっくりした。すごく怖い・・・

 

「あ・・・私こそいきなりごめんなさい。でも、お兄さんと違って妹さんは礼儀ただしそ―――」

 

「速瀬くんは礼儀だってちゃんとしてますっ!」

「お兄ちゃんは礼儀正しいです!」

 

私と姫川先輩が同時に叫ぶ。

 

「――――――っ!?!?」

 

「ぁ」

 

「ぅ」

 

「ぅわ・・・・・・・」

 

「えっと・・・・速瀬さん。神野真くんという2年生の先輩を知っていますか?」

 

「えっ?あ・・・はい。さっきあったので」

 

宇佐美先輩がなんとか持ち直し話を続ける。

 

「会ったんですね。じゃあよかった。こちらの書類を今度彼に提出してください」

 

私に書類の入ったファイルを宇佐美先輩が渡してくる。それを私が受け取ろうとした時・・・

 

「にゃーーー」

 

急に猫の声がした。

 

「わわ・・・」

 

その声に宇佐美先輩が焦る。

 

「あれ?どこかで猫の声が聞こえる・・・・沙織先輩の仔?」

 

「ち、違うの。あれはその・・・・また勝手に入ってきちゃったのかな・・・・うぅぅ」

 

なんかぶつぶつ言ってる・・・

 

「と、とにかく、今日はもう遅いから、速瀬さんもゆっくり休んでね。あとその書類よろしくお願いします」

 

「はい」

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

「沙織先輩おやすみなさい」

 

「おやすみなさ~い」

 

宇佐美先輩は慌ててながら行ってしまった。

 

「・・・なんか慌ててたみたい」

 

「なんだろうね」

 

「さぁ?でも、沙織先輩の言うとおり部屋に戻ろ?まなみちゃんもお部屋の片づけ進まなくなっちゃうよ」

 

「確かに。風花、ちょっと先に戻ってて」

 

「ん?わかった、早くね~」

 

「は~い」

 

「姫川先輩おやすみなさいっ」

 

「おやすみ~」

 

そして姫川先輩も部屋に戻っていった。残った琴羽ちゃんと私は部屋に入る。

 

「・・・・さて、ちょっとだけ、まなに超お得情報」

 

「なによその怪しげな情報は・・・・」

 

「まぁ聞きなさいって。慶司の話」

 

「――――ッ!?」

 

「今日慶司と話しててわかったんだけど・・・・」

 

「・・・・・ごくり」

 

「あいつ、いまだに恋愛についてなにも考えてない」

 

「え・・・・」

 

「たぶんね、今はまだここにきたばかりで、メティスっていう事象が面白くて仕方ないんだと思う」

 

「なんでそんなこと・・・・・」

 

「あいつって興味あること見つけると目の輝きが違うじゃない?」

 

「うっ、確かに」

 

「恋愛に関しちゃ、あいつはまだがキって言っていいと思う。自分でもそう言ってたし。ま、あたしの胸とかちろちろ視線は向けたから、えっちなことはそれなりに考えているとは思うけどね」

 

「結局胸の自慢なの!?」

 

「違うって。それにまなみも結構おっきくなってるじゃない」

 

「これはものすごく努力した結果で・・・・っていうか、琴羽ちゃんあっさりその数倍になってるし」

 

「数倍ってどんだけ大きいのよ・・・・」

 

「そんなことより、お兄ちゃんの話。それ、確かなの?」

 

「まなみが一番近くにいたんでしょう?わからなかった?」

 

「・・・・わかんないよ。お兄ちゃん、自分の気持ち隠すの上手だもん」

 

「・・・・そっか、うん。あ、そういえば祐天寺美汐って名前に心当たりない?」

 

「ゆうてんじみしお?祐天寺ってここの親企業だっけ?」

 

「ふむ。その様子じゃ知らないか。昔会ってるかも知れないって慶司が言ってたから、まなみなら覚えてるかと思って」

 

「ううん、全然知らない・・・・と思う。祐天寺財閥の人なの?」

 

「まなみと同じ学年にいる正真正銘のお嬢様だよ」

 

「祐天寺の・・・・お嬢様・・・・」

 

「そっかじゃあ慶司はどこで会ったんだろう・・・・」

 

「わかんない。まぁ実際に会ってみたらわかるかも知れないけど・・・・・」

 

「そっか。じゃあもう一つ、これも情報なんだけど・・・・」

 

「うん。なに?」

 

「・・・・あたし、もう慶司のこと好きじゃない」

 

・・・・・・え?

 

「いや、そういう意味じゃなくて、友達としては好きだよ。すごく良いやつだし。でも、もう恋愛感情は抱いてない」

 

「・・・・どうして?」

 

「まな、あたしね・・・・新しく好きな人ができたの」

 

「えっ!?」

 

琴羽ちゃんに新しく好きな人!?

 

「うん。だから、もうあたしはライバルじゃないかな」

 

「・・・・・そっか」

 

琴羽ちゃんが恥ずかしいそうに笑う。なんかちょっと複雑な気分。

 

「で?その人は誰なの?どんな人?」

 

「えっ!?・・・・いや、今日まな会ったよその人と」

 

今日会った人?お兄ちゃんじゃないとしたら・・・・・

 

「まさか、姫川先輩!?駄目だよ!!琴羽ちゃん!!いくらなんでも女の子は!!!」

 

「ばっ、違うわよ!!」

 

「じゃあ、宇佐美先輩なの!?」

 

「だから女の子じゃないって!!」

 

まぁこれくらいからかうのはいいだろう。これ以上すると怒られそうだけど・・・

 

「・・・・なるほど。神野先輩か」

 

「・・・・うん」

 

うわっ、琴羽ちゃんの顔真っ赤だ。

 

「ふーん。確かにあの人なら、なんか納得」

 

「えっ!?珍しいね。まなが慶司以外の男の人を認めるなんて」

 

琴羽ちゃんが驚いた声をあげる。確かにあんまりお兄ちゃん以外の男の人をこんな風に受け入れられたことは私少ないかも・・・っていうか初めて・・・かも・・・

 

「うん。初めて会ったけどすごく優しかったし、良い人だなって思ったもん。それにあの人、すごいオーラ纏ってる気がした」

 

今思い出してもお兄ちゃんと比べても遜色ないくらいいい人かもって思える。

 

「うわーさすがね。よく見てるというか・・・・慶司の妹だね」

 

「でも、お兄ちゃんの観察眼はもっとすごいと思うけどね」

 

そういえば、お兄ちゃん今なにしてるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

keizi side―――――

 

俺の頭は真っ白になっていた。そんな俺を見ながら真っ白にした本人は確信を得たように笑った。

 

「慶司のメティスは、人のメティスをコピーするメティスだろ?ただコピーするのにも条件がある・・・・予想だがそれはメティスパサーと接触することでコピーするんだろうな」

 

完全に見切られている。俺が今さっきメティスネーム得たばかりなくらいだ。まだ誰にもばれていないと思っていたのに・・・・・

 

「・・・でもなんで・・・・」

 

「なんで・・・まぁ最初に慶司が『アイギス』を使ったからかな」

 

説明を始まる。

 

「メティスっていうのは前にも言ったが感情がそれを作り出していることが多い。姫川の場合、『なにかを守りたい』。沖原の場合だと『自由に泳ぎたい』。そんな風に強い感情がメティスを生み出しているっていうのがメティスの発現の最も大きな原因だと言われている。でも、おれには慶司がメティスを・・・・・『アイギス』を使った時、そこまでの強い意思を感じなかった。むしろ、なにかに気付いたような感じに見えた。これがまず理由の一つ」

 

ここまででもうほとんどばれているようなものだ。でも、これでまだ終わりではない。

 

「次に、実はメティスは今まで同じメティスを発現したメティスパサーはいないんだ。でも、結果が同じものは多くある。例えば、『アイギス』だがあれは空気を圧縮して盾を作るものだが、同じように空気を圧縮して盾を作るメティスは存在する。でもメティスネームまでは、同じなことはまずない。なぜなら、メティスネームというのは、個人のイメージが基になっているからだ。全く同じ思考回路の人間なんて存在しないだろ?それと同じで結果は同じでも考える過程は異なってくる。ズレた過程で考えられたメティスネームがしっくりくることなんんてまずないよ。だから、慶司のメティスは『アイギス』であるはずはない。他にも細々した理由はあるが主にこれが慶司のメティスが『アイギス』ではないと思った理由だ」

 

完璧な答えに俺はなにも言い返せない。圧倒的に負けている知識と細かい観察に俺はぐうの音も出ない。

 

「そうなると、次の疑問が湧いてくる。じゃあ、慶司のメティスはなんであるかだ。もちろんさっきの理由から『アイギス』ではない。では、『アイギス』を使うことができる。全く同じことを違うもので起こすのではなく、全く同じことを同じように起こすとなると、それを奪いかコピーするしかないだろ。でも、奪うというには少しおかしい。奪ったのなら姫川は『アイギス』を使えなくなるはずだから・・・・でも結果はつかえている。ということはコピーするというのが、慶司のメティスなのではないかとおれは思った。ただ信じられなかったから、偶然とはいえ試してみたんだよ今日」

 

 

「えっ!?・・・・あっ!!」

 

俺はそれをどこで試されたのかすぐにわかった。

 

「俺が琴羽とプールに隠れたとき・・・・・」

 

「さすが慶司。頭の回転が速いね。そこで慶司は全く問題なくあの時間内、プールに潜り続けることが出来ていた。そこでほとんど気付いていたんんだけど、ダメ押しに沖原が髪の毛をメティスで乾かしたと聞いたときに沖原のメティスをコピーしようとした。これで85%くらいだったものが100%になった。しかも、コピー条件はメティスパサーへの接触というのもここでわかったわけ・・どうかな慶司、どれくらい正解?」

 

その質問に俺は乾いた笑いをもらしてしまう。

 

「ははっ。まさかそこまでばれてるなんて・・・・・」

 

「まぁ、慶司はかなりポーカーフェイスが上手いし、そういった目で観察されなきゃバレることはないだろう。おれは色んなメティスパサーを見てきたから気付けたんだ・・・・・・・・・・隠すんだろ?」

 

「ああ。気付いてるように、このメティスはばれたら対策される。ストックしておけるのは一つだけみたいなんだよな。制約が多いよ」

 

「確かにな。ただ、制約が多い分能力の幅も広いし、突破力も高い・・・・・・・多くのメティスを見てきたけど最強のメティスの一つだとおれは思うよ」

 

最強・・・・この目の前にいる男。この男こそ、この澄之江ではその名を冠するにふさわしい男だ。でも、その男が最強というのならたぶん本当にそうなんだろう。

 

「・・・・ただ慶司一つ言っておく」

 

その男の目がいままでにないくらい鋭く俺を見た。俺の身体が警告を発している気がする。

 

「おれのメティスはコピーするな。するとしてもかなりのメティスコントロールが身につくまでは絶対にやめろ」

 

「・・・・『フィーネ』か」

 

メティスパサーを破壊するメティス。しかもその破壊は文字通り破壊。メティスパサーを殺すメティスであり、この目の前の使い手の大切な人を奪ったメティスでもある。

 

「慶司が今、このメティスを使えばたぶん最悪のことが起きる。それはどうしても避けたい。だからまだおれのメティスはコピーするな。なにか間違いがあってコピーしたのなら、すぐに破棄するか、使わないようにしてくれ」

 

「それはどんな危機的状況であってもなのか?」

 

「自分の命が本当に危険に陥った時なら使ってもいいけど・・・・・まずそうならないようにする必要があるだろ」

 

「・・・・わかった」

 

「ああ。頼む」

 

そういって俺に笑いかけてくる。その笑顔には少し諦めたような悲痛の表情が滲んでいた。




どうでしたか?

新しく評価をくれた方ありがとうございます。

感想、評価じゃんじゃん募集していますのでよろしくお願いします。

では、また次回。

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常2

みなさん!!こんばんわ!!簾木健です。

今回は文量は少なめです。ここのほうが区切りがよかったのでここで切りました。

今回もみなさんに楽しめていただければ幸いです!!


簾木 健


makoto side――――

 

「今日もいい天気だな」

 

慶司が空を見ながら呟く。

 

「確かにいい天気だな。快晴だ」

 

おれが答える。

 

「秋晴れが続きますま~」

 

航平もにこやかに言う。本当に良い空だと思う。今日は静かな1日になるといいな。

 

「遅~い。もっと早く出てきてよ~」

 

あれ?この声は・・・・

 

「へ?ああ、まなみ。おはよう、なにやってんだ?」

 

そこには速瀬まなみが立っていた。・・・・・たぶん、慶司を待っていたんだろうな。

 

「おはよう。まなみ。慶司待ってたの?」

 

ちょっとした意地悪。それにまなみは真っ赤になった。

 

「え!?えっと・・・まぁ、転入初日なんで・・・・そういえば神野先輩これなんですけど・・・」

 

そう言ってまなみがおれにファイルをおれに渡そうとしてくる。それは、昨日沙織先輩に頼んだ書類だった。ファイルから出して確認・・・・・・うん。大丈夫だな。

 

「ありがとう。不備もないみたいだし・・・こっちで預かっておくね」

 

「はい!お願いします!!」

 

「おう」

 

本当に元気な子だな。

 

「コホンコホン。あー、慶司君、真君,こっちにきなさい。これは君たち、どういうことかね?」

 

「真はともかく、慶司はまだ転校したてである君が、男子寮の前で女子生徒を待たせている。しかもそれは同じクラスの沖原や姫川でもなく、同じクラブの祐天寺さんたちでもない・・・・・しかもかなりかわいい!しかも下級生!しかもおっぱいもおっきい!!その上おっぱいもおっきい!!」

 

「そこが大事なのか・・・・航平もぶれないな」

 

おれは呆れて笑うしかない。初対面の女の子にこんなことを言うからあんなに運動ができるのにモテないんだよ。

 

「なんでだよ!なんでそんなにモテモテなんだよ!モテ期か!?スーパーモテ期か!?スーパーモテ期国債ファンドなのか!?」

 

意味がわからないことを言って慶司の肩をつかみ航平が大声あげる。そんな航平に対し慶司は冷静に返した。

 

「まぁ落ち着け。モテ期じゃないし、そもそもこいつはそういうのじゃない」

 

「じゃあどういうの!?Do you know!?」

 

「結構いい発音だな」

 

「真もなんでそんなに他人事なんだよ。航平は意味わかんねーし。これは速瀬まなみ、俺の妹だよ。まなみ、こいつは俺のもう一人のルームメイト、浜北航平」

 

「お兄ちゃんのルームメイト!?」

「慶司の妹!?」

 

まなみと航平が大声をあげる。この二人、同時にいるとちょっと面倒かも・・・・

 

「ちょっと待て慶司!沖原という幼馴染がありながら、さらに妹だとっ!?あと真なんでお前が慶司の妹を名前で呼んでいるんだ?まさか運命の再開だったとか!?」

 

「昨日の夜会ってな。慶司と区別しにくいから名前で呼ぶことにしたんだ。運命の再開などなく、まだ出会って2日目だ」

 

おれは冷静に返す。

 

「てか航平、ありながらってなんだ!?幼馴染と妹が両方いたって別にいいだろ!?」

 

慶司は今回は激しく突っ込む。それ絶対に火に油だ。

 

「いいや、よくないね!沖原だけでも羨ましいのに、このまなみちゃんだって無茶苦茶かわいくて、おっぱいがおっきいじゃないか!」

 

「航平、妹は淫猥な言葉じゃないぞ」

 

「俺、前に妹いるって言わなかったっけ?」

 

「そこは覚えてな―――――ハッ、かわいい友達の妹・・・・・」

 

そこで航平は何かに気がついたらしく慶司から視線を逸らし、そこまで長くはない前髪をフッとかきあげながら、まなみに向きなおった。

 

「どうも失礼しました。俺、慶司のルームメイトで浜北航平っていうんだ。よろしくね、まなみちゃん」

 

「ど・・・・どうも・・・・」

 

いい笑顔でいまさら格好つける航平に対しまなみは少しずつ距離を取る。こりゃ完全に引かれたな。そう思っていると今度は慶司が航平の肩を掴んだ。しかもかなり力強く。

 

「――おい航平、誰に断ってうちの妹に色目使ってんだ?」

 

「ひっ!!」

 

慶司から少し殺気が漏れる。目も真剣そのものだ。―――シスコンなんだな慶司。

 

「なぁんてな!冗談だよ冗談!ハッハッハ、まなみのこともよろしくしてやってくれよ!」

 

「お、おお・・・・冗談だよな・・・・冗談・・・ハハ・・・・・ちょ、ちょっとだけびびったけどな・・・ちょっとだけ・・・」

 

航平はかなりびびったようでげんなりとしている。まぁ急にあんなことをあんな風に言われたらふつうの人なら怖いよね。

 

「も、もう、そういうつまらない冗談、やめてよねっ!」

 

まなみは顔を赤くしながら素直じゃないこと言っている。こりゃ内心かなり喜んでるな。

 

「ハハハ、ごめんごめん。じゃあ行くか」

 

「了解」

 

「うんっ」

 

それにいつも通り気づかない慶司。今日もいつも通り平常運転みたいだな。おれがそんなことを思いながら慶司とまなみの後ろから歩き出す。

 

「・・・・冗談・・・・だよな・・・・冗談・・・・・ハハハ・・・・」

 

この男は無視しても構わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、まなみは二人部屋じゃないのか?ルームメイトは?」

 

登校途中慶司がまなみに尋ねる。そういえば、まなみの部屋のことおれ慶司に話してなかったな。

 

「わたし?一人だよ。二人部屋を一人で使えるから広くていいけどねー」

 

「あれ?そうなのか?」

 

「まなみが入った部屋は元々物置でな。そこを強引に部屋にリフォームしたんだ。寮は部屋が足りてなくてな」

 

「そうなんだ」

 

「確かに一人部屋は広くていいよな。ただ少しもの寂しいんだよな」

 

航平がそんなことを漏らす。

 

「あれ?航平は真と一緒に住んでたんじゃないのか?」

 

「慶司が編入してきたときはそうだったんだが、おれ1年の途中までは一人だったんだよ。だから、真や慶司が今では一緒でかなり楽しいぜ。ほんとに二人ともありがとうな」

 

「おう」

 

「アハハ、そいつはどうも」

 

サムズアップの上ウィンクとかされてもどう返していいのかわからないから適当に流しておくことに限る――普段はそれで済むのだが今回は3人ではない。4人いるのだ。

 

「―――ちょっと浜北先輩?お兄ちゃんをおかしな道に引きずりこまないでもらえますか?」

 

「ひっ!」

 

「女子がみんなホモ好きだと思ってるなら大間違いですよ!?」

 

「そ、そ、そんなこと思ってないよ!?」

 

・・・・航平まじかよ。てか慶司の妹だな、結構迫力あるじゃん。てか航平膝をガタガタ震わせているけど、それでいいのか・・・・航平を不憫に思ったのか慶司がフォローに入る。

 

「こらこらまなみ。こう見えても航平はスポーツ万能でいろいろな運動部に助っ人参戦してるんだぞ?ということはつまり、腐女子脳によるカップリング妄想の対象になりやすいわけで―――」

 

「慶司・・・・」

 

それはフォローじゃないだろ。

 

「慶司までなに言い出してんだ!?」

 

「ほらっ!」

 

ほら、まなみの航平を見る目がさらに鋭くなる。

 

「俺のせい!?」

 

完全にとばっちりである。はぁ・・・さすがにフォローを・・・そんなことを思ったとき・・・

 

「ずいぶん賑やかな登校ね」

 

聞きなれた声がした。そういや帰ってくるって言っていたな。

 

「この間ぶりだね」

 

「ええ。この間学食で会ったぶりね」

 

そこにはおれの保護者である薫子さんがいた。

 

「汀さん、おはようございます。申し訳ありません。すっかり転入の挨拶が遅れてしまって・・・・」

 

「汀先生、おはようございます。いろいろご迷惑かけちゃってすみませんでした」

 

転入組の二人が挨拶をする。二人とも薫子さんが全国飛び回って見つけてきたんだもんな。

 

「おはよう、二人とも。いいのよ、二人が澄之江に来てくれて嬉しいわ。それに、さっそく環境に馴染んでるみたいでよかった。フフ」

 

「おはようございます、薫子先生!!」

 

今度は航平が元気一杯挨拶をする。

 

「ああっ、今日も素敵なおっぱいだなぁ・・・。たまんない。このはち切れんばかりのおっぱいは本当にたまらない。こんなこと決して口には出せないけど、マジ顔うずめたいよぉ・・・・・っ」

 

「おい。航平」

 

「・・・へ?ひっ!!!」

 

これはシメていいよな。

 

「おれの保護者になに言ってんだよ」

 

「ええっと・・・あの・・・その・・・・」

 

まぁとりあえず一発入れとくか・・・・と思って拳を作って航平に近づこうとすると横から声がかかる。

 

「真、殴るのは感心しないわね」

 

さすがおれの保護者なにしようかはわかるか。

 

「いやでもよ、今のは航平が悪いでしょう」

 

「それでも暴力はダメ・・・・浜北くんもごめんなさいね。この子喧嘩っぱやくて」

 

「い、いえ!!全然!!全然大丈夫です・・・ほんとに・・・・・」

 

「ちっ!」

 

「真、舌打ちしない」

 

そんなやり取りをポカンと慶司とまなみは見ていた。

 

「真、汀さんとどんな関係なの?」

 

「え?慶司には話してなかったっけ?」

 

なんか話した気もするけど・・・まぁいいか、まなみもいることだし。

 

「薫子さんはおれの保護者だよ。おれが澄之江にくるまでは一緒に住んでた。母親代わりだな」

 

「「そうなんですか!?」」

 

慶司とまなみが驚きの声をあげる。

 

「ええ。二人とも真は普段どう?変なことしてないかきちんと見張っておいて、なんかあったら私に連絡してね」

 

「急になに言ってるだよ!?」

 

「だって真、あんまり私に色々話さないじゃない。こういうところから情報を仕入れないと」

 

「今度話すから勘弁してくれ」

 

はぁ、薫子さんも相変わらずだな。

 

「あ、いたいた。まなー」

 

おれがはぁとため息をつくと今後は後ろから声がかかる。今度のも聞き慣れた声だ。

 

「ほぇ?あ、琴羽ちゃん」

 

おれたちの姿を見つけて、琴羽と姫川が小走りで近寄ってくる。

 

「お、薫子先生も一緒だ。おはようございます。朝から会うとは珍しい」

 

琴羽が挨拶をする。

 

「みんなおはよ~。汀先生も、おはようございます」

 

続けて姫川も挨拶をした。

 

「はい、おはよう。沖原さんは自分がいつももっとギリギリなだけでしょう?」

 

「アハハ、まぁそうなんですけどねー・・・・・とはいえ、今日は早く支度したんですよ?まぁ、案内しようと思ったまなみがもうとっくに出ちゃってたわけですけど」

 

「それならそうと言ってくれればよかったのに・・・・」

 

まなみが申し訳なさそうにする。確かにこの時間なら琴羽にしてはかなり頑張って準備したよな。

 

「だから私はもっと早くって言ったのに、琴羽ちゃんが大丈夫大丈夫って・・・・」

 

「にゃははははは、そういうこともある!」

 

・・・・やっぱり琴羽は琴羽だった。というか・・・・・ここ完全に・・・・

 

「・・・みんなかなりヤバいよな」

 

さすがにおれも男ということで気になる。横もみると慶司も気になっているようで視線がその辺をうろついていた。航平にいたっては薫子さんのそれをガン視している。

 

「航平はあとでシメるとして・・・・やっぱり大きいよな」

 

みんな大きんだけど・・・・やっぱり気になるのは琴羽だ。まぁ何回か当たったり押し付けられたことがあるし普通に教室とかでも、そう思うことはあるが、こう・・・なんだ・・・・大きい人の中にいても破格だと思うんだからマジでヤバいくらいだよな。

 

「・・・・・なんというか、パラダイスだな・・・・」

 

横で慶司がポツリとそう呟いたのでおれはハッと我に返った。

 

「ああ・・・・おっぱいたまんないよな・・・・俺は・・・・俺はもう・・・・」

 

「確かにな・・・・」

 

おれはもう頷くしかないレベルだ。

 

「航平は見るな、うちの妹が穢れる気がする」

 

「にゃに!?真は良いのに!?」

 

「真は穢れる気がしないし」

 

「くっ、このシスコンめ・・・じゃ、じゃあなるべくまなみちゃんは見ないようにするからっ」

 

「んー・・・・それなら、まぁ・・・・」

 

「―――よっしゃ!!じゃあさっそく・・・・・」

 

「「――ざけんなよ?」」

 

おれと琴羽の声が被る。

 

「ヒッ!!!!!」

 

その声と殺気に航平はたたらを踏んだ。

 

「な、なんなの・・・・?今日は俺、ずっとこんななの・・・・?」

 

その後、航平は後ですごい報いを受けたのだがそれはあまりに凄惨なため、ここでは語れない。しいて言えば・・・・一定の女子は大喜びだったようなことをした。

 

「やっぱり速瀬くんもえっちな人だったんだ・・・・」

 

姫川が複雑そうな顔でそんなこと言う。この表情、完全にフラグ立ってるだろ。

 

「俺がえっちなのは否定しないけどさ、やっぱりみんなスタイルいいよな。どうしても目につくものは目につく」

 

「わっ、私はみんなほどじゃ・・・・」

 

姫川は今後は照れて顔を赤くする。まぁこういう表情の女の子はかわいいよな。うん、ちょっとドキッとしたのは仕方ない。

 

「と謙遜していますが、風花さんも充分大した物でです」

 

「うん。立派なもんだ」

 

「姫川はもっと自分に自信を持っていいと思うぞ」

 

「琴羽ちゃん!!速瀬くん!!神野くん!!」

 

「なんだよ、この対応の差は!!俺がぬけ〇く先生のようなエロい目で見てるのが悪いってのか!?」

 

「ちゃんとわかってんじゃん・・・」

 

「てかわかっててやってんのかよ・・・・もうちょい自重しろよ」

 

こいつは本当にキツイお仕置きだな。

 

「まなみさん」

 

そこで薫子さんが少し大きい声でまなみに声をかけた。

 

「へ?あ、なんでしょう?」

 

まなみは考え事でもしてたようだった・・・・まぁ察するに慶司と姫川のことだろ。さっきから姫川ちょこちょこ慶司のこと見てるし。

 

「ちょうどいいから、私と一緒に職員室に行きましょうって言ったの。フフ、考え事でもしてた?」

 

「は、はい・・・・。すみません、ぼーっとしてて」

 

「いいのよ。昨日引っ越してきたばかりだし、疲れもあるでしょう?ずいぶんと急いだものね」

 

「あ、やっぱり・・・・」

 

書類が来てから来るまでがすごい早かったんだよ。しかも昨日の慶司との会話もあるし・・・・・

 

「べっ、別に、特別急いだりはしてないですよっ!?」

 

「え?そ、そう・・・」

 

薫子さんがちょっと微妙な表情になる。こりゃだいぶ急かしたな。

 

「まぁいいわ。行きましょう?」

 

「はいっ」

 

「速瀬くんっ、私たちも行こう。教室案内してあげるっ」

 

「もう知ってるって」

 

「ふふふっ」

 

そんな二人の甘いやり取りをまなみは見て、しょぼくれてる。

 

「まなみさん?」

 

ただすぐに薫子さんの言葉で我に返る。

 

「は、はい、今行きますっ」

 

そういって二人は行ってしまった。

 

「おれたちも行くか。航平さっさと行くぞ」

 

「ううっ理不尽だ」

 

おれは歩き始めた航平は苦笑いを浮かべる。そして向き直り

 

「琴羽も行こうぜ」

 

「オッケー!!」

 

おれたちの日常はどうやらいつも通りに始まっていった・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、この日おれの日常は急展開を迎えた。始まりはこのおれの言葉だった。

 

「悪い琴羽、それとって」




いかがでしたか?

次回かその次でいわゆる共通ルートは終わりです。長かったな・・・・

次回からお話しは急展開をしていくはずですwww

そして怒涛の個別ルートに突入!!!・・・・・・・できたらいいなぁ!!

今回も感想、批評、質問、評価のほうじゃんじゃん募集しているのでちょっとでもなにかあれば書いてくれれば私もうれしいです。

ではまた次で会いましょう。

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真相

お久しぶりです。今回は時間があったのではやく投稿することができました。

今回は始めはゆっくりと後半は激動です。

たぶんすごくコメントが荒れる気がする・・・・・でも、これが『真相』です。

最後まで読んでいただければ幸いです。


簾木 健


makoto side――――

 

今日はとてもいい日だった。すごくいい日だった。朝からみんなで学校に登校しここ最近では珍しく何もなく一日が終わろうとしていた。そんなホームルーム前だった。おれは帰る用意をしてそこで今日までに提出するためのプリントを見つけ、それを記入している最中だった。おれは机に出していたペンを一つ落としてしまった。横に座っているのは琴羽。おれは当たり前のようにこう言った。

 

「悪い琴羽。それとって」

 

「え?うん。はい。真」

 

「おお。ありがとう」

 

そんなやり取りをし終わるとクラス中がシンと静まり返っていた。さっきまでホームルーム前でかなり煩かったんだけどな・・・・・・

 

「あれ?みんなどうしたの?」

 

琴羽もクラスの異変?に気づきクラスを見渡す。

 

「・・・・・・沖原と神野って」

 

そこで話しかけてきたのは、馬淵、クラスではけっこうお銚子者なんだが、かなり真剣は面持だった。

 

「なに?」

 

おれが聞く。

 

「なによ?」

 

琴羽もいつもと違う馬淵の雰囲気に何かあると察したらしく真剣な表情になる。

 

「付き合ってんの?」

 

その一言でおれたちは完全に固まってしまった。

 

「いやーーさっきの二人の雰囲気。正直かなり自然なんだけど、もうそういう関係にしか見えなくてさ・・・・・」

 

そういわれたところでおれは復活もした。

 

「い、いや、付き合ってないよ。ただ琴羽がきの・・・・・・」

 

「うわーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

沖原が叫びおれの言葉を遮る。どうしたんだよ?

 

「なに言おうとしてんのよ真!?」

 

「いやここはしっかりと説明しとくべきじゃないか?だっておれこれからも琴羽のこと『琴羽』って呼ぶからぜ」

 

「・・・・・っ!?」

 

おおおおーーーーとクラスが盛り上がる。そしてその発言に琴羽は真っ赤になっていた。

 

「琴羽どうした?」

 

「・・・・・真ってズルいね」

 

「っ!!!!!!」

 

琴羽が少し諦めたように笑う。その笑顔はおれの胸を撃った。

 

「うん。わかった。ただ・・・・」

 

馬淵はふふっと少しいたずらっぽく笑った。

 

「沖原は今日ちょっと時間作ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁ・・・・・なんでこんなものが!?」

 

沙織先輩が叫ぶ。なんか申し訳ない。おれは菜緒さんから呼び出されて菜緒さんと話しているところに沙織先輩がやってきた。そこで菜緒さんはあることを沙織先輩に言ったのだ。

 

「なんでと言われてもな・・・・・我々《アルゴノート》は正式に澄之江学園の部活動と認められた。であれば、それに付随する権利も当然得られる。自明のことだと思うが?」

 

菜緒さん完全に煽りだしたな。

 

「ううっ、生徒会までこんな怪しげな集団の魔手に――」

 

「いかに強権を振るっていても風紀は風紀、生徒会とは管轄が違ったと言ったところか。おあいにく様だな。フフフッ」

 

「菜緒、私を悔しがらせるためだけにやってない?」

 

「・・・・正解」

 

おれがポツリと漏らす。

 

「真も沙織も心外だな。『だけ』などということはないぞ?」

 

聞こえてるし・・・・・

 

「悔しくなんてないから!」

 

「それは残念、私は沙織の悔しがる顔が大好きだからな。ずっと見ていたくらいだ。卒業まであと半年弱、いいルームメイトでいよう」

 

「ぜんぜん悔しくないっ!それにぜんぜんいいルームメイトじゃないし!」

 

「フフフ・・・それでも沙織はルームメイトの変更を申請したりしないのだな」

 

「それは・・・・・」

 

・・・・前のルームメイトとは色々あったんだよな。それならおれも少しは知ってる。

 

「それは・・・私の前のルームメイトに関係しているのか?」

 

菜緒さんが核心に触れる。その言葉に沙織先輩の顔が強張る。少し菜緒さんと沙織先輩は向いあったあと、笑った。

 

「・・・・なんのこと?」

 

「私としたことが少し先走ったようだ。この話はここまでにしよう」

 

「うん・・・」

 

沙織先輩・・・・あの時と同じ表情。それを見ておれは顔を少し伏せる。もっとうまく止める手段があったんじゃないかと思うが・・・・

 

「あの時はああするしか出来なかったんだよな」

 

「では、私はこれから部活だ。沙織も風紀の活動があるのだろう?がんばってくれ」

 

「・・・・私の活動はアナタたちの監視だもん。いくら公認された部活でも、校則違反があったらすぐに取り締まるから!」

 

「フフ、結構」

 

そういって菜緒さんは歩いていく。

 

「沙織先輩」

 

「・・・・もう祐天寺機関のクセに。神野君はあんまりはまらないでね」

 

「・・・ええ」

 

おれはそういって歩いていった沙織先輩を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

keizi side―――

 

「それで景浦、俺たちはどこに連れていかれるんだ?」

 

「それは着いてのお楽しみです」

 

さっきからこの調子だ。

 

「なんだろうね?」

 

姫川も少し困惑している。

 

「ともかく、今日のところは放課後訓練はできそうにないかな」

 

「そうだねぇ。部活があると時間取りにくいのか・・・・ちょっと考えないと」

 

今日約束した訓練だが今日はできそうにない。それにしても・・・・・

 

「今日の真と琴羽には驚いたな」

 

「そういえばそうだね・・・・」

 

今日の真の名前呼びには本当にクラス中が驚いていた。

 

「そもそも神野くんと琴羽ちゃんは前から色々あったんだよね」

 

「うん?そうなのか?」

 

「うん。あれ?神野くんから聞いてない?」

 

「うん」

 

「そうなんだ。当時学園にいた人たちはみんな知ってる話なんだけどね・・・・・」

 

「そんなに有名な話なのか!?」

 

「すごく強烈だったから」

 

「こちらです、速瀬さん、姫川先輩」

 

そんなところで景浦がある部屋の前で立ち止まって、ドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

makoto side――――

 

「おお、これは・・・・」

 

と感嘆の声を漏らしながら、慶司と姫川が入ってくる。するとおれや菜緒さんと一緒に先に中にいた祐天寺が手を広げて二人を向い入れた。

 

「ようこそ!ここがわたしたち《アルゴノート》の部室よ!」

 

「わぁっ!部室っ」

 

姫川はすごくうれしそうに笑う。

 

「そんなものもらえたんだ。すごいすごい。ってか、もういろいろ揃ってんだな」

 

慶司もかなり驚いた様子で中をグルリと見渡す。

 

「フッ・・・・。智に一晩でやらせた」

 

慶司の発言に菜緒さんが自慢げに笑いながらそういった。

 

「一晩というか、放課後だけです・・・・。さすがに苦労したんですが、神野さんの協力もあってなんとか・・・」

 

「なんでそこで近濠先輩が偉そうにするんだ・・・・ってか真も手伝ったのか?」

 

「ああ。でも、配置を決めただけだ。あとは景浦がやった」

 

「そこまで手伝ってもらうのは悪いですから。あと、それだけと神野さんは言いますがすごく助かりました」

 

「その上ぽちは今日のお弁当も用意していたのよ。すごいでしょう」

 

「祐天寺、おまえもか」

 

「そうだぞ。いくら従者と言ってもあんまり働かしすぎだぞ」

 

「お二人ともいいんですよ。これが祐天寺の従者のつとめですから」

 

景浦は少し苦笑いを浮かべそう言う。本当ならもっと誇ってもいいことなんだが・・・・そこが景浦の良いところか。

 

「智ちゃんがんばったね。いい子いい子」

 

そんな景浦を姫川が背伸びをして撫で、景浦は律儀に腰をかがめて姫川が撫でやすい高さに頭を持っていった。

 

「恐縮です・・・・・はふぅっ・・・・・」

 

・・・・どうやら律儀に腰を落としたわけではなく、単に気持ちよかったらしい。

 

「今後はここが作戦司令室になるわ。《アルゴノート》のメンバーは放課後にこの部室に集合のこと。いいわね?」

 

「はい」

 

祐天寺の言葉に全員でうなずく。おれもなるべくは来ることにしよう。

 

「これで放課後、祐天寺たちが俺たちの教室に来ることもなくなるわけだな」

 

「そうだな。まぁ上級生の教室は行きにくいだろうし、景浦よかったな」

 

「ええ。正直助かります」

 

景浦がおれと慶司の言葉に本当によかったというように息をついた。いままでは何か連絡や依頼があると景浦がおれたちの教室まで連絡に来てくれていたからな。本当に入りにくそうにしてたし。

 

「まぁ、今後も智が連絡に走りまわるのは変わらないが」

 

「はぅっ」

 

どうやら景浦の苦労はまだまだ序の口のようだ。

 

「よしよし」

 

「はふぅ・・・・・っ」

 

でも、こんな風に姫川が癒してくれるだろうしいい塩梅なのかもしれないなどと思ってしまうおれは少し笑ってしまった。

 

「それで祐天寺。今日はどうするんだ?」

 

慶司が尋ねる。

 

「そうだな。今日は依頼が来てるのか?」

 

おれも気を締めなおす。

 

「ええ。調査依頼が一つ来ているわ。ただ・・・・」

 

「ただ?」

 

「何かあったのか?」

 

おれと慶司が聞き返す。それ対し、少し間を開け意を決したように祐天寺が言った。

 

「・・・・・速瀬に神野。あなたたち・・・・・幽霊の存在を信じる?」

 

「はぁ?」

 

その質問におれはポカンとしてしまった。

 

「幽霊?・・・・今まではあんまり信じてなかったけど、最近はあり得るかもと考え直した」

 

慶司が答える。

 

「あり得る、ね。その理由を聞かせてもらってもいいかしら」

 

祐天寺の顔が強張る。もしかして・・・・・慶司はそれに気づいてないな

 

「理由は単純。宇佐美先輩のメティスのせいだよ。影に実体を与えるなんてことができるなら、原理的に不可能じゃない気がしてきた。《イドロイド》について宇佐美先輩から簡単に聞いたけど、あれは残留思念ってものにかなり近いなぁと」

 

沙織先輩のメティス《アンブラ》は影を操るメティスだ。沙織先輩は影に実体をもたせて、《イドロイド》、メティスによって作られた簡易的な自我をもった疑似生命体を操ることを得意としている。そして《イドロイド》の自我はそれを生み出した《メティスパサー》の意思が一部簡易コピーされると言われているのだ。たぶんそういったことを慶司は沙織先輩に聞いたんだろうな。今日の昼休み沙織先輩のところに行ったって姫川が言ってたし。まぁそれはどうでもいいが、それから幽霊の今の説明に繋がったんだろう。実に慶司らしい考えだと思う。

 

「あはは・・・・動きはかわいいんだけど、ちょっとおばけみたいだよね。コミカル怖い感じ・・・」

 

「確かにあのウサギの影はそんな感じだよな」

 

おれも姫川の考えに頷く。ついでに沙織先輩の《イドロイド》はうさぎの形をしている・・・・・・それを何体も作り出すメティスコントロール。それに関しては学園でも右に出るものはいないだろう。

 

「・・・神野はどう思うの?」

 

「・・・・:・いるだろ」

 

「「ひっ!」」

 

おれの発言に祐天寺と姫川が顔を真っ青にして悲鳴を漏らす。

 

「二人とも大丈夫か?」

 

まぁなんとなく察してはいたけどよ。そういうことなのか?

 

「だ、だだ大丈夫よ。で?その理由は?」

 

なんとか祐天寺が立ち直って聞き返すが声がうわずっている。こりゃ・・・・・

 

「だって、いたほうがおもしろくないか?・・・・確かに、慶司が言ったようにメティスによって生み出されたものとして原理的にいるかもっていうのもあるんだが、なによりそうじゃない本当のオカルトとしておれはいてほしいと思う」

 

ちょっと昔のようにポルターガイストや幽霊が超常現象とされたいた時のほうが今みたいになんでも《メティス》という存在一つで片づけられるより好感がもてるしおもしろい。

 

「・・・・で?そんなことより今日は幽霊なのか?」

 

おれが祐天寺に聞く。

 

「ええ・・・・出たんですって・・・・幽霊・・・・」

 

祐天寺はノックアウト寸前だ。

 

「ゆ、ゆうれいが・・・・・」

 

姫川も完全に顔をこわばらせ笑う。

 

「姫川は、幽霊が怖いの?」

 

「こ、怖くないよ?」

 

「別に強がることはないわ。怖いなら怖いってはっきり言いなさい」

 

目の前ですごい見栄の張り合いが開始される。なんだこれ・・・・

 

「で、で、でもっ・・・・・私、クラス委員だしっ」

 

それは関係なくないか?

 

「怖いんでしょ!?怖いって言ってよ!」

 

祐天寺頼んじゃってるし・・・・

 

「あ、俺、それなりに怖い」

 

そこが助け舟を出す。すると二人は我先にとそれに乗り込んだ。

 

「速瀬くんが怖いなら、私なんてもっと怖いよっ!!」

 

「ごめんなさい!わたしも怖いの・・・・っ!よ、よかった、怖がってるわたしだけじゃなくて・・・・」

 

「それで怖いって言わせたかったのか・・・・」

 

「だって、にゃおが怖い話いっぱいするのよ!?速瀬だって原理的に不可能じゃいないとか言いだすし、神野にいたってはいるって肯定するし・・・いないって言ってよ!信じないって言ってよ!!」

 

「お嬢様」

 

「!――コホン」

 

やっぱりそっちが素か。

 

「そういうわけで、幽霊が出たという噂があってね。その真相を調べてほしいっていう依頼なの」

 

「なるほど、面白そうだ。なかなかそれらしい依頼じゃないか」

 

「だな。楽しそうだ」

 

おれと慶司は一気にやる気になる。そりゃこんな依頼でテンション上がらなければ男ではない。

 

「ふぇ!?速瀬くんさっき怖いって言ってたのに!?」

 

「それなりに、な?少しくらい怖くないと、調査のし甲斐もないって言うか・・・・なぁ真」

 

「ああ。すごく楽しみになってきた」

 

おれはウキウキと答える。いい依頼だ。

 

「ずるい!そんなの全然怖がってなっ!速瀬くんの卑怯者っ!」

 

「そうよ、ずるいわ!恥を知りなさい!」

 

この二人はもうあてに出来ないな。そういえば・・・・・

 

「景浦はどうなんだ?」

 

菜緒さんがそういうのを怖がらないのは知っているが景浦に聞いてみる。

 

「おいおい真。私には聞かないのか?」

 

「菜緒さんは幽霊なんか怖いわけないって前に言ってたじゃないですか。ですから大丈夫でしょう?」

 

「そうだったな」

 

菜緒さんは可笑しそうに笑う。ああ今のでなんかわかった。

 

「まぁでも景浦は怖くないよな?そんなんじゃないと護衛なんて勤まらないだろうし」

 

次は慶司は聞く。ああ・・・失敗した。

 

「いませんから」

 

「はい?」

 

「いませんから。いないものは怖れようがありまえせん。ですのでなんの問題もありません」

 

「そ、そうか。いないよな、うん、いない」

 

そこで慶司も自分が地雷を踏んだことを悟ったらしい。まぁ最後にお約束して確認くらいはしとくか。

 

「じゃ景浦。今お前の後ろに見えているも――――」

 

言葉が言い終わる前に景浦の刀が抜き打たれなにもない後ろを薙いだ。

 

「はーっ、はーっ・・・な、なにもいませんよ?ほら、いないんです。怖くなど・・・・・怖れる必要はなにも、まったく、ないんですっ」

 

ただ、そのやり取りで備え付けられた本棚にきれいに切れ込みが入ってしまった・・・

 

「うん。なんかごめん」

 

おれはなんとなく謝る。本棚本当にごめん。

 

「べ、別に謝られることは・・・・なにも・・・ふぅっ・・・」

 

「ああ」

 

「くくくく・・・・くーっくふっ、ひっ、くふっ・・・おか、おかしい・・・っ・・・お、おなか痛いぃっ、ひっ」

 

おれたちがそんなやり取りをしている横で菜緒さんはお腹を抱えて笑っていた。この人わかっててこの依頼持ってきたな。

 

「そ、それで・・・・本当にそれ、調べるの・・・・?」

 

姫川が意を決して聞く。

 

「調べるしかないわね・・・・怖いけど」

 

祐天寺も本当に嫌そうだ。

 

「大丈夫ですよ、お嬢様。きっと柳が揺れたのを見間違えたとか、そういった類です。間違いありません」

 

景浦は二人よりも重傷だな。

 

「そ、そうよね」

 

それ肯定したらダメだろ。さすがに寮に柳はないし。

 

「速瀬、真そういうわけだ。今回はおまえたちが・・・特に速瀬を中心で調査を進めてくれ。この通り、おまえたち以外はどうも役に立ちそうもない」

 

「うん?おれが中心ですか?真は?あと近濠先輩は?」

 

「私ももちろん調査を進めるが、私と真は別行動をしよと思う。だから速瀬にはお嬢様を連れて、目撃現場の調査と周辺の聞き込みをしてもらいたい」

 

おれは菜緒さんとチームか。となるとなにか特別なスキルを使うものだな。

 

「なるほど。まぁ妥当なところかもしれないですね。で、その目撃現場はどの辺なんですか?」

 

「速瀬、今のうちに誤っておくわ。ごめんなさい」

 

「はい?」

 

「目撃現場は、常若寮だ。よろしく頼んだぞ、速瀬。・・・・・ぷっ、くくっ」

 

「え?常若寮って・・・・」

 

「私たちが住んでる女子寮・・・・だねぇ」

 

・・・・菜緒さんが楽しそうに話してたから察してけどそういうことか。

 

「ちょっ!?待ってくれ!それじゃあ俺、入れないって!」

 

「ハッハッハ、どうするかなんて決まっているだろう?」

 

「本当に、ごめんなさい・・・・・」

 

「待て祐天寺!なんだその手にしたカツラは!?」

 

「少し肩は狭いかもしれなせんが、丈はあうと思います」

 

「なんの丈だよ!!っていうかそれ、女子の制服だろ!?」

 

「姫川、入り口で《アイギス》を展開。速瀬を逃がすな!あと真、速瀬を助けたら・・・・・わかってるな」

 

ちょっと可哀そうだし《ゼロ》を使おうとしていたおれは菜緒さんの言葉に完全に停止させられる・・・・・おれだって女装は絶対に嫌だ。これは仕方ないだろ。

 

「速瀬くん・・・・・ごめんっ!《アイギス》っ」

 

これでチェックメイト。

 

「ちょっ・・・まっ・・・・・アッ~~~~~~~~~~!!」

 

この瞬間慶司のなにか大切なものは一つ失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは・・・・・」

 

さっきから少し時間をおいて慶司の女装は完成した。

 

「か、かわいい」

 

「いけますね・・・・とてもかわいらしいと思います」

 

「うん。航平くらいなら誑かせそうだ」

 

「ひーっ、ひーっ、速瀬、速瀬、あははははっ!ひっ!ひっ」

 

ただそんな褒め言葉?とは裏腹に慶司はがっくりと項垂れる。

 

「も、もうお婿にいけない・・・・」

 

「じゃあじゃあ私がお嫁さんにもらってあげる~♪」

 

「いえっ、それならわたしがおむ―――」

 

おい。姫川はともかく、祐天寺何言おうとしてんだよ。

 

「コホン、わたしがお小遣いで養ってあげてもいいわよ?」

 

「お嬢様、それではヒモの人です・・・・」

 

「景浦・・・・それは・・・・」

 

確かに完全にヒモだな・・・・それはまずいだろ・・・・

 

「まぁ、ヒモの一人や二人養うくらいなら本家も大目にみてくれるだろう。よかったな、速瀬・・・・ぷっ」

 

いいのかよ・・・・てか菜緒さん確信犯なのもう隠すつもりないな。

 

「ヒモにも嫁にも、なる気ないからっ!!」

 

「「えー」」

 

「えー、じゃありません!」

 

なんか慶司ってこの中で景浦以上に苦労しそうな気がするな。

 

「っていうか、よく考えたら、近濠先輩と真のどっちかが女子寮の方調べてくれればいいじゃないですか。俺がその別行動の方やりますよ」

 

「おいっ!しれっとおれを女装させようとするな」

 

「ほぉ、よほど自信があると見えるが・・・つまり速瀬はCSCのセキュリティを破って、監視カメラの映像を入手できるというわけだな?」

 

「へ?」

 

菜緒さんの発言に慶司が言葉を失う。やっぱりそういうことやるんだ・・・・

 

「だいたいの目撃地点も目撃時刻もわかってるんだ。その近辺で監視カメラがなにかを捉えていても不思議ではあるまい。私たちはそれを入手するために動くんだよ。いや知らなかった。速瀬にそんなハッキングの技術があったとは」

 

菜緒さんも意地悪だな・・・というかこういうのが好きなのか・・・・昔こんな感じだもんなぁ・・・・

 

「・・・すみません。ありません」

 

「なら、キマリだな」

 

「キマリね」

 

「ご愁傷様です」

 

「まぁ、危なくなったらすぐに逃げろよ」

 

「大丈夫だよ、速瀬くん。かわいいよ♪」

 

姫川・・・・そういう問題ではないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?菜緒さんどこでやるんですか?」

 

慶司たちは常若寮に行ってしまい、部室にはおれと菜緒さんが残された。

 

「プっ、くくく。そんなことより速瀬の女装面白かったな」

 

そう言って菜緒さんは椅子に座る。

 

「そんなことよりって・・・・・まさか・・・・」

 

おれは一つの答えにたどり着く。

 

「もう、すべてが終わってるんですね」

 

「ふふ・・・・やっぱり真はさすがだな」

 

菜緒さんがニヤリとする。この人は本当に・・・・

 

「で?おれを残した理由なんですか?」

 

おれは菜緒さんと向いあうようにして椅子に座った。

 

「ああ。二つある。一つは真、お前自身のことだ。そしてもう一つは沙織とお前、そして淡島エリのことだ」

 

「・・・・・なるほど」

 

そのことか・・・・だから今日放課後あんなところにおれを呼んだのか。

 

「・・・・どちらか聞きますか?」

 

「そうだな。では後ろのほうから聞くことにしよう。そっちはすぐすむだろうからな」

 

この人はおれの答えがわかっているのだろう。まぁその通りに答えるんだけど・・・・

 

「・・・・・なにが遭ったのか話してくれないか?」

 

菜緒さんの目が鋭くなる。その目から何か大事なピースになっているのがわかるが、でも・・・・

 

「沙織先輩が言ったようにお話しできることは何もありません」

 

これが今のおれの答え。

 

「・・・・そうか」

 

菜緒さんはわかっていたようで、少し諦めたように笑った。

 

「じゃあ、次だ。真、いつまでそうしてるつもりだ?」

 

「そうしてる?どういうことですか?」

 

おれの言葉に菜緒さんは優しげに笑った。

 

「沖原琴羽」

 

「っ!!!」

 

「真、どっちにも気づいてるんだろう?お前ほどやつが気づいてない訳ないからな」

 

「・・・・・・」

 

どっちにも気づいている。その言葉はおれの胸を、強く刺した。

 

「・・・・・真。今日すべてを話そう」

 

「・・・・・えっ?」

 

どういうこと?おれがそう続けようとしたが、菜緒さんは間髪を入れずに続ける。

 

「シルヴィア。フルネームはシルヴィア・G・トラスト・・・・そしてまたの名を・・・・試作7号機」

 

「なっ!?」

 

「シルヴィアは作られた存在だ。我々人間の手によってな」

 

おれは言葉が出なかった。シルヴィアが作られた存在・・・・嘘だと思いたい。でも、菜緒さんの目にはそれを嘘だと思わせない強い意志があった。

 

「さて、ではどうしてシルヴィアは作られたのか。なにがシルヴィアという存在を生み出したのか」

 

菜緒さんがゆっくりと目を閉じる。

 

「それは、一つの事件が切っ掛けだ。それはある住宅街で起きた。メティスパサーによる虐殺事件だ。そのとき、そのメティスパサーは自らのメティスを用い13人の命を奪った・・・そして14人目の命を奪おうとして、そいつは14人目に選んだ子どもによって殺された。その子どもが発現させたメティスによって」

 

今でも覚えている。両親の逃げろという声。でも足は全く動かない。猟奇的な笑い声。動かなくなった両親に大量の血。向いあったときに返り血で真っ赤に染まったシャツ。裂けるほど笑った男。・・・・その向かい合った子どもが強く願った思い。そして急に倒れたその男。そしてやっと聞こえてくるパトカーと救急車の音。

 

「その子どもが発現したメティス。そのメティスは最強のメティスとして、そして使い手の子どもは最強のメティスパサーとしてメティスの研究所に保護された。そこでその子どもは最強のメティスパサーとして英才教育を受けた。武術、学問など色々なものをその子どもは教えられそしてそれを吸収していった。ただ、成長していく過程で研究者はあることに気付いた」

 

菜緒さんが話しているのは、おれが最も知っている物語のはずがどこかのお伽噺のようだった。そしてここからはおれも知らない物語。

 

「その子どもは人間であるということだった。人というのは感情がある。今まで普通に育ってきたこの子どもではメティスを用いた戦争が起きた時、躊躇してメティスを使わない怖れがあるということに。この子どもは研究者がこれに気付いた時にはもう普通の人としての倫理を持っていた。洗脳をしようにもメティスパサーの脳を弄ってもしこのメティスが失われてしまったら・・・・それは最悪の事態となる。ではどうするか・・・・・そこである空論が一つ浮かび上がった」

 

ここまで来ればおれもその研究者がなにを考えたのかわかった。でもそれを信じたくなかった・・・・だってそうなのなら・・・・・

 

「メティスパサーのクローンを作れば、同じメティスを保有するのではないか」

 

「っ!?」

 

でもその予想はやはり外れなかった。

 

「そして倫理を無視した実験は始められた。一人目は形になる前に死んだ。二人目も一人目と同じ。三人目は人として生まれることはできたが成長せずに死んだ。四人目も同じところで。五人目、ここである研究者が性別を変えてみることを提案した。そしてオリジナルとは逆の性別で作られ始める。すると五人目はオリジナルと同じ歳まで急速に成長を促すカプセルの中で成長することに成功したが、メティスの発現する可能性が限りなく低いものだったので処分。六人目も同じ結果。そして七人目・・・・・彼女はメティスの発現する可能性を持ちオリジナルと同じ歳まで急速に成長を促すカプセルで成長し産み落とされた。そして彼女はオリジナルに因んだ姓と名前を与えられてオリジナルや他のメティスパサーの子どもたちと一緒に育てられることになった」

 

・・・・・溺れているようで苦しい。おれの人生とは、おれが生きている意味とはなんなのかわからなくなってくる。

 

「そして、少しして彼女はメティスを発現した。でもそれは研究者たちの期待を異なりオリジナルとは異なるメティスを保有した。そして畳み掛けるようにある論文を出された。その論文の名は『メティスの発現と感情の関係性について』という論文だ。そこにはメティスは感情によって生み出されるもので遺伝子などは関係が薄く、同じ人でももし状況が違えば異なるメティスを発現する可能性があると書かれたものであった。それにより研究者たちは自らがやった実験が完全に無駄であったことを知った。でも、これまでの実験や彼女のことを知られれば自らは重い罪に問われる。そこで研究者たちが考えたのはあるメティスを使った、その実験の抹消だった。そのメティスは特殊な超音波によってメティスパサーのみ発達している脳を破壊しメティスパサーを破壊したり、効力を弱めメティスパサーを無効化する力だった。それを《オーバーコンセントレーション》させることでこの実験を抹消する。そしてそれは実行された。研究者の狙い通り実験の内容は抹消された。彼女も死に証拠はなにもなくなったはずだった。しかし、大きな事件ではありそれを起こした研究者たちの多くは捕まりそして、やっとこの間、その研究者の一人が獄中で研究所でなにがあったのかを語ったんだ」

 

「・・・・・・そうですか」

 

これが真相。これが答えかよ。

 

「どうだ真。これがお前がそして私が探していた答えだそうだ」

 

自嘲気味笑う菜緒さん。

 

「・・・・その顔はおれがなにを言いたいかを理解してるでしょ?」

 

「・・・・ああ」

 

「で?なにが言いたいんですか?それと琴羽のことがどう関係しているんですか?」

 

「真、お前はどうするんだ?一応これが真相だったわけだ・・・・」

 

菜緒さんは答えがわかっている。全部わかってきいているんだ。

 

「そんなもん決まってますよ。今まで通りです」

 

たぶん琴羽はおれに好意を寄せてくれている。でもおれは・・・・

 

「おれと深く関わる人はみんな不幸になりますから・・・・菜緒さんもそうだったでしょ?」

 

「・・・・・」

 

菜緒さんは表情一つ変えない。でも、あの時の菜緒さんを知っているおれには関係ない。その沈黙は肯定でしかない。

 

「では、菜緒さん。おれは帰りますね」

 

そう言っておれは椅子から立ち上がり、部室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

nao side――――――

 

「真・・・・・」

 

確かにあいつと深く関わったものは今まで全員不幸になっている。私もその一人なのかもしれない・・・・あの薬は真のメティスが切っ掛けだったわけだしな。でも・・・・救ってくれたのもあいつなのだ。

 

「私は不幸だなんて思ってないぞ」

 

唇を噛む。少し血が垂れる。

 

「どうしたら良いんだ・・・・・どうするのが正解なんだ・・・・・」

 

何度も考えてきた。でも解は出ない。当たり前だ。この問答に解がないことを私自身は知っている。

 

「・・・・・私にできることはなんだ・・・・・なんなんだ」

 

また問答を始める。解はない。

 

「くそっ!!!何が天才だ!!」

 

机を殴りつける。でも、少しも心は晴れない。

 

「もう、そうするしかないのか・・・・・」

 

実は一つ策がある。でもそれをすれば・・・・

 

「私は決定的に真から遠ざけられるかもしれない・・・・」

 

それが嫌でこれは考えないのようにしてきた。でも・・・・・

 

「もうあいつが苦しむところを見てられない」

 

私はゆっくりと立ち上がり部室のドアを開け部室から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かになにかが動きだした。

 





どうでしたか?

今回から個別ルートに入りました。真のルートです。

ここからどうなっていくのかまだまだ未定な部分が多いですが、楽しみに待っていただければ幸いです。

感想、批評、メッセージ、評価はどんどん募集しているのでよろしくお願いします。

ではまた。次回会いましょう

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

想い

うーん・・・・文才がないのがすごく悔しいですね。これできちんと表現できているかなと不安ばかり・・・・・

でも、早いタイミングで投稿できてよかった。

今回も楽しんで読んでいただけるうれしいです。

簾木 健


makoto side―――――

 

「久しぶりだな神野。お前にこんな風に呼び出されるなんて」

 

「まぁ、確かにそうだな。学園に入ってからは一度もなかったからな」

 

おれはそう言ってコップに入ったジュース(?)を一口煽った。

 

「で?なにがあったんだ?神野?」

 

「・・・なにかないとこんな風に呼び出したらダメなのか?洋子ちゃん」

 

おれと一緒にいたのは朝比奈洋子。おれがアメリカから日本に来てからずっと関わってきた人。

 

「いや・・・別に構わないが・・・・お前がなにもないのに私を居酒屋に呼ぶことはないだろ?」

 

「・・・・・偶にならいいだろ?」

 

理由はある。でも、それを話しすか、どうか・・・・そんな風に悩んでいると洋子ちゃんはビールを一気に飲み言った。

 

「・・・・・そういえば、あの話は近濠から聞いたぞ」

 

「えっ!?」

 

「お前がなんのためにあの研究所にいて、あとはシルヴィアのことだ」

 

「っ!・・・あの人は・・・」

 

なに新たな傷口を風評してんだよ。

 

「で?そのことなんだろ?」

 

洋子ちゃんがフッと笑う。この人は本当に・・・・・

 

「・・・・ハァ」

 

おれは一つ諦めるためにため息をついた。そしてまたジュース(?)を煽る。

 

「・・・・・おれはどうしたらいいんですかね?」

 

「・・・・・フフ」

 

おれの質問に洋子ちゃんはなぜか笑みをこぼした。ちょっとイラッとする。

 

「なんで笑ってるんですか?」

 

「いやなに、お前がこんなにも年相応なことを悩んでいるとはと思ってな」

 

「なっ!?」

 

「出会ってからいままで一番といっていいほど、年相応な悩みだな」

 

「・・・いつもはどんな風に思われてんだよおれ」

 

おれはグラスを開けて店員さんにまた同じものを頼む。

 

「普段のお前は達観しすぎなんだ。先生たちも扱いに困っているぞ」

 

「それ本人にいいますか?」

 

おれは串を一本頬張る。この居酒屋は串がうまいんだよな。

 

「まぁお前にならいいだろ。・・・それで?どうするかだったな」

 

洋子ちゃんが話を本題に戻す。

 

「・・・・しるか」

 

でも、本題は一瞬でぶった切られた。

 

「そこはお前の自由だ。お前がどうすか決めて行動する以外に答えはない」

 

「・・・・・自由」

 

それが最もおれが望んではいけないものだとおれはずっと思っている。二つの事件の裏からもそうだと改めて思ったばかりだったのに・・・・・

 

「神野。お前は自分には自由に生きてはいけない存在なんて思ってるんだろ?」

 

洋子ちゃんがまたビールを一気に煽る。この人このペースで大丈夫なのか?

 

「ああ。おれが自由に生きたとしたらだれか・・・・」

 

「そこが違う」

 

洋子ちゃんがおれ向かって串を突き刺す。

 

「年長者としていいことを教えてやる。神野、この世で自由に生きるということは誰かに迷惑をかけるということだ。そしてそれは時に人を不幸にする」

 

「ならやっぱり駄目じゃないですか?」

 

だれも不幸になんかしたくない・・・・それが自分の大切な人ならなおさらだ。

 

「・・・・・お前は馬鹿か」

 

おれの考えはまたぶった切られる。

 

「誰が人に迷惑をかけることが間違っていると言った。だれが人を不幸にすることがいけないことだと言った」

 

「なっ!!そんなの当たり前でしょ!!!人に迷惑をかけることも不幸にすることもしてはいけないことだ!!」

 

おれが少し声を荒げ睨む。それを洋子ちゃんは少し笑って受け止めた。

 

「では、聞くが、もし仮にお前があの日シルヴィアを殺さずいたとする。そうするとどうなったと思う?」

 

「え?」

 

その仮定がどんな意味を持つのか・・・・おれにはわからなかった。黙ったおれに代わって洋子ちゃんが続ける。

 

「たぶん、シルヴィアがクローンだということはいずれバレたはずだ。するとなにが起こるか・・・・まず確実にシルヴィアは処分されるか、モルモットとして各国にたらい回しにされるだろう。そして、次にシルヴィアを作った化研究者たちは全員殺されるだろう。そしてお前はこんな風に学園に通うことは絶対に出来なかっただろう。研究所にいたときと同じようにモルモットとして生きていくことになったはずだ。下手をしたら感情を消され戦争の道具になっていたかもしれない。さて聞こう。この君は幸せか?」

 

「・・・・・今より最悪ですね」

 

洋子ちゃんの仮説はたぶん、その通りになっていただろう。ただ・・・・

 

「それがどうしたんですか?」

 

この仮説を行った意味はうまくおれには伝わらなかった。仮説は仮説なのだ。現実ではない。

 

「この仮説はお前がシルヴィアを殺した・・・いや、殺すことを強要されたことで防がれた不幸だ。しかし、それでも完全に不幸を消すことができない。ではそれをどうするか・・・・・それは神野に背負わせる。これが研究者たちが最もいい策だとしたものだろう」

 

洋子ちゃんの目はおれを見ている。でもそれはおれという人間そのものを見ている・・・おれの外側ではなく内側を見ている気がした。

 

「私も神野にすべてを押し付けた研究者たちは間違っていると思う。でもな、神野。これから大なり小なりこういったことはもっと起こるぞ」

 

「っ!!!!」

 

「お前は特別な力を持っている。それも特別な人の中でもさらに特別な力をな。そういった力を持った人間がふつうの人生を送ることができた例は少ない。多くものが人とは違う人生を送ることになっている。それはよく才能の代償とか言われているがな。たぶんお前の人生もその類なんだろう。そしてそういった人生に関わると普通の人は傷つけられ、潰れてしまうことが多い。これも世の常だな」

 

「・・・・ならおれはどうしていけばいいんですか?おれはこれからも多くの人を傷つけ、潰しながら生きていくしかないんですか?」

 

おれにはそれができる気がしない・・・・人生の半ばでどうかしてしまいそうだ。洋子ちゃんがビールを今度はちょっと飲み言った。

 

「でも、それはな普通の人通しでも起こることでもあるんだ」

 

「・・・・・はぁ?」

 

「よく言うだろ?人は人と関わることで人を傷つけて生きているんだと。結局その通りなんだよ」

 

洋子ちゃんが空になったビールジョッキを少し弄びながら静かに続けた。

 

「人に人を不幸にしないや迷惑をかけないということ絶対に無理なんだ。だから、そうやって生きている以上は人は人を不幸にし迷惑をかけ生きていくしかない。でもな神野・・・・・この世には幸福もあるんだよ」

 

おれの目から涙がこぼれる。洋子ちゃんはそんなおれにやさしげに笑いかける。

 

「お前は特別な分、不幸も大きいだろう。人を普通の人より傷つけるし不幸にもするだろう・・・・・・でもお前は特別な分人よりも大きい幸福を人に与えることができる。だから・・・・」

 

洋子ちゃんはっきりと言った。

 

「お前はもっと自分の心に正直に生きたらどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い・・・・」

 

次の日おれは頭を抱えていた。昨日はあの後洋子ちゃんを寮に送り届け、沙織先輩の説教にされ、部屋に帰って慶司と航平の話もろくに聞かず風呂に入って寝たのだ。でもやっぱりジュース(?)の飲みすぎはキツイ。

 

「真大丈夫か?」

 

慶司が心配して声を掛けてくる。今は登校中だ。航平は朝練らしくもう出ていなかったのでおれと慶司二人だ。

 

「ああ。それより、慶司昨日はなにかわかったか?」

 

「うっ!!」

 

慶司がとても複雑な顔をする・・・・なにかあったみたいだな。

 

「なんかあったのなら早めに解決しとけよ」

 

「わかってる。今日の昼休みにでも説明にいくよ」

 

「ああ」

 

・・・・・・おれも早めに解決しないとな。と一人で心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

「おはよー」

 

おれと慶司が教室に入っていく教室がザワッとして、クラスみんながおれの周りを取り囲んだ。

 

「真やっぱりそうだったんじゃないか。なにが違うだよ」

「やっぱりお似合いだもんね」

「うんうん。二人なら納得だよ」

「でも、いいよね。神野みたいのがそうだったら」

 

「ちょちょっと待て」

 

おれがクラスのメンバーを静かにさせる。

 

「なにがどうなってるんだ?てかなにがあった?」

 

おれのその質問にクラス中が一瞬キョトンとして、そして笑った。

 

「なにって真と沖原が付き合ってることだよ」

 

「・・・・はぁ??」

 

おれと琴羽が付き合ってる?なってないはずだ。おれはまだ答えが出てない。勇気もない。なんでそんなことに・・・・

 

「神野くんこれ!」

 

そんな風におれが考えていると姫川がおれに一枚の紙を渡してきた。そこには、おれと琴羽が寮の前で話している写真と熱愛発覚というデカデカとした文字が書かれていた。

 

「・・・・・なんだよこれ」

 

「今日朝から新聞部が号外って配ってたの」

 

この写真、夜だな。こんな風に話してたことって・・・・・一昨日、まなみが来た夜のことを思い出した。あの時そういえば琴羽と名前の呼ぶとかいう話をしたとき・・・・あの時の写真か。

 

「・・・・・姫川、琴羽は?」

 

「まだ、来てないよ。いつもギリギリだし・・・・」

 

そこでホールルーム開始を告げるチャイムが鳴った。

 

「あれ?琴羽ちゃん来ないね・・・・」

 

―――――――ガラガラ

 

「ホームルームを始めるぞ」

 

「えっと・・・・みんな席について・・・」

 

おれの隣の席は空いている。あいつなにしてんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホームルームはこれで終わりだ。それと神野ちょっと来い」

 

「え?」

 

ホームルームが終わったところで朝比奈先生から呼び出された。なんだ?おれは朝比奈先生のところに行く。すると小声で話しかけられた。

 

「ここではなんだ。場所を変えるぞ」

 

おれは朝比奈先生について教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?なにがあったんですか?」

 

おれは朝比奈先生に連れられて、理事長室にやってきた。でも中には理事長はおらず中にいたのは薫子さんだった。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっとね・・・・とりあえずこれを見て頂戴」

 

そういって薫子さんがおれにパソコンの画面を向けた。

 

「これがあなた宛で届いたの」

 

「はぁ?」

 

おれがそう言ってそのパソコンの画面にあった映像を再生する。そこにはある場所に縛られて横たわる琴羽が映っていた。というか・・・・この場所・・・・・・

 

「なっ!?」

 

驚いたおれにさらに追い打ちをかける言葉が流れてくる。

 

「オキハラコトハハアズカッタ。カエシテホシケレバコノバショニカミノマコトヒトリデコイ」

 

「・・・・・ということなの」

 

薫子さんがその言葉が終わると静かに言った。

 

「どうだ神野。この場所わかるか?」

 

洋子ちゃんがおれに聞いてくる。おれはもう一度この映像を再生してみる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

ちょっと耳を澄まして聞いてみると、後ろから聞こえてくるのは波の音・・・・そしてこの場所・・・・

 

「・・・・・・ああ」

 

おれの中でピースがキッチリはまった。

 

「わかったのか!!」

 

洋子ちゃんが叫ぶ。やっぱりこの人なんだかんだでいい先生なんだよな。

 

「わかりました。まぁ大丈夫ですよ。おれが一人で行ってきます」

 

「・・・・本当に大丈夫なの?」

 

薫子さんが怪訝そうに聞く。そうだよな・・・こんなものが急に送られてきたら誰だって心配になる。

 

「大丈夫ですよ。・・・・・というか犯人もわかりました」

 

「「えっ!?」」

 

たぶん、おれの想像であってるだろ。ということはもう答えを待ってはくれないんですね。

 

「ということで行ってきます。午後には琴羽を連れて戻ってくるんでよろしくお願いします」

 

おれは理事長室から出て行こうとする。

 

「待て、神野」

 

洋子ちゃんが出て行こうとするおれを止めた。おれは首だけで振り返った。

 

「なんですか?」

 

「・・・・犯人がわかったと言ったな」

 

「ええ」

 

「なら、私も行こう。もしくは誰か協力者を・・・・・」

 

「おれ一人でいいですよ」

 

おれはハッキリと告げた。

 

「・・・・なぜだ?」

 

洋子ちゃんがおれを睨む。さすがに一人では行かせられないとのことだろ。

 

「・・・・これを送った来た人はたぶんおれに求めてるものがあるんですよ。だからおれはそれに答えないといけないんです。今回は逃げることができないようにこんな形にしたんでしょうけど・・・・・おれも今回は逃げるつもりはありません。きちんと決着をつけます。・・・・・・昨日言ってたじゃないですか、ちょっと好きにさせてもらいます」

 

「・・・・そうか」

 

「洋子!?」

 

「薫子いかせてやろう」

 

洋子ちゃんが薫子さんに向かいなおる。

 

「ここはどうやら見守るところみたいだ」

 

「でも・・・」

 

「大丈夫だ。いざとなれば私が責任を取ろう」

 

「洋子ちゃん・・・・」

 

「神野行け。沖原と一緒に帰ってこい」

 

「・・・・・はい」

 

おれは理事長室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・本当に大丈夫なの?」

 

「どうした?」

 

「もし、真が無事に帰って来なかったら・・・・・」

 

「・・・・・それが答えということだろ」

 

「でも!!」

 

「なに熱くなるな。らしくもない。大丈夫だ。神野は絶対に帰ってくるよ」

 

「・・・・・・負けたわ」

 

「どうした?」

 

「母親らしいところみんな持っていかれたなって」

 

「ふふ。私も薫子に勝てるところがあったな」

 

「そうみたいね・・・・・・わかったわ。信じて待ちましょう」

 

「ああ。それも親の務めというやつだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おれはまず、一度寮に帰ってから自分の武器を取った。これを持っていくのは久しぶりだ。普段は学園に置いてある、刃引きされた訓練ようのものしか使ってないためか少し重さに誤差があるが、なんだか手にはよくなじむ。それを持って寮から出ておれは走った。場所はわかっている。たぶん間違いないだろう。だってあの映像に映し出された場所はおれは思い入れがある。忘れるはずがない。そして犯人。あの場所を知っているのはおれともう一人だけ。それならもうわかったようなものだ。

 

「まぁ行けばはっきりするし、とりあえず向かいますかね」

 

おれはさらに足に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

澄之江学園近郊には多くの廃墟が存在する。それは海面の上昇を受けて使われなくなったものがほとんどだ。そしてそれは予算の問題か多くものが取り壊されていない。海面ビルなんかもそのせいで生き残っているものの代表格だろう。おれはそんな廃墟群に来ていた。近頃はあまり来なくなったが、前はよく来ていた。

 

「なんせここが拠点だったし・・・・」

 

おれが『メティス喰い』と呼ばれ、最も活動が活発だったときここを拠点に活動していたのだ。ここの廃墟群は同じような建物が多くあり、道も入り組んでいる。正直慣れるまでは道に迷って辿りつけないこともあった。でも、なんでも通ったここは忘れることはないだろう。

 

「ここだ」

 

おれは廃墟群の中一つで立ち止まる。たぶん、ここに犯人と琴羽がいる。

 

「ここに入ればおれは答えを出すことになる・・・・・」

 

マイナスな思考・・・・・おれは扉の前で一つ深呼吸をして、そんな思考を切った。

 

「もう決めたんだ。たとえどんな未来でも・・・・・」

 

おれは扉をゆっくりと開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ガラガラ

 

 

扉がゆっくりと開いていく。中では二人の人が椅子に座っており、おれのことを見ている。建物の中には少し大きいパソコンやホワイトボードなんかが置いてあり、さながら秘密基地のようになっている。ああ。本当に久しぶりだ。おれはそんなことを思いながらそこに入っていき扉を閉めた。

 

「来たか真。思ったより早かったな」

 

犯人がそんなことをいう。

 

「いえいえ。あの映像を見たら一瞬でここだとわかりましたから。さすがにわかりやすいですよ」

 

「ふふ。私としてはもっと悩んでくれると思ったのだがな」

 

「昨日話したままだったらそうなってたと思います。まぁ生憎あの後で洋子ちゃんに色々と言われましたからそうはありませんでしたけど」

 

「そうか。洋子のやつなかなかやるな」

 

「ええ。本当にいい先生ですよ」

 

犯人とおれは笑いあう。

 

「さて、ということは答えは決まったようだな。聞かせてもらおうか、その答えを」

 

「ええ。いいですよ・・・・・・菜緒さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

kotoha side―――――

 

「フーン♪」

 

鼻歌交じりに朝の用意。今日も学園楽しみだなぁ・・・・

 

「でも昨日・・・・・」

 

昨日のことで少し憂鬱になってしまう。昨日は放課後馬淵たちと一緒に寄り道をして、色々と詮索されたのだ。なんとか誤魔化したものの・・・・

 

「さすがにあたしの気持ちには気づいてるぽかったしな・・・・そんなにわかりやすいかな」

 

鏡を見ながら自分の顔を確認してみる。

 

「結構隠し事うまいと思ってたんだけどな・・・・・うわぁ!やばい!!行かなきゃ!!!」

 

時間を確認するとかなりギリギリ。走らないと間に合わないな。あたしは急いで寮から出て、走ろうとして・・・

 

「沖原琴羽」

 

呼び止められた。振り返るとそこには菜緒先輩がいた。

 

「菜緒先輩おはようございます。どうしたんですか?」

 

「いや、少しお前にようがあってな。・・・・・今から時間とれるか?」

 

「えっ?今からですか?」

 

もう学園が始まってしまう時間にかなり近いここで時間を取ってしまうと完全に遅刻になってしまう。

 

「えっと・・・今からはちょっと・・・って菜緒先輩こそ学園はいいんですか?」

 

「・・・・今日はいいだろ」

 

「えっ!?」

 

「それより、頼むが時間を取ってくれ」

 

菜緒先輩の言葉に少し違和感がある。なんというからしくない。もっと強引ではっきりした人だと思っていた。でも今日はなんだが弱い。

 

「・・・・なんの話なんですか?」

 

あたしは菜緒さんがそこまでする理由が気になり聞いた。すると菜緒さんはフーっとため息を一つつき静かに言った。

 

「真のことだ」

 

その瞬間あたしの中を電流が駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは菜緒先輩に連れられて廃墟群に来ていた。どれもあまり似ているため自分がいまどこにいるのかがわからなくなってくる。

 

「菜緒先輩どこまで行くんですか?」

 

歩いている間は菜緒先輩が無言だったためなにも話してなかったが、ここまでさすがに疑問になってくる。

 

「・・・・・・ここはな、『メティス喰い』の巣だ」

 

「えっ?」

 

その二つ名は・・・・

 

「真に『メティス喰い』をさせたのは私なんだ」

 

「なっ!?」

 

「来年お嬢様が入学することは決まっており、お嬢様の目的のためには盤石な地盤がいると私は思っていた。そこで優秀なメティスパサーをお嬢様より一年早く入学させその地盤を作ろうとした。そのときに白羽の矢が立ったのが神野真だったんだよ」

 

菜緒先輩が一つの廃墟の前で立ち止まりその扉を開けた。そこは秘密結社の基地のようにコンピューターやホワイトボード、地図なんかおいてあり、ソファーなど寛げるようになっていた。

 

「さて悪いが沖原少し写真を撮らせてくれ」

 

「えっ?」

 

菜緒先輩が突然あたしの体を縄で軽く縛る。

 

「えっ?えっ?」

 

菜緒先輩の行動が理解出来ずにあたしは困惑したまま、されるがままに縛られていった。

 

「そこで一度寝てくれ。汚いかもしれないが悪いな」

 

「い、いえ・・・・」

 

あたしは言われるがままにそこに寝ると菜緒先輩が一枚写真を撮る。

 

「悪いな。もう解いていい」

 

「あっはい」

 

あたしはその縄を自分で解く。

 

「ここは真が『メティス喰い』をしていたとき拠点としていた場所だ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。私はここで真に指示を出してそういった活動をサポートしていた。あいつはあまり活動に協力的ではなかった。でもな、唯一私が指示を出していないのに動いたことがある」

 

「えっ?」

 

菜緒先輩の話では真は菜緒先輩の指示で『メティス喰い』の活動をしていた。しかもやっぱり真は協力的ではなかったようだ。ではいつ・・・・・

 

「それがあの文化祭のときだ」

 

「っ!!」

 

「私はここにいたんだが、真から連絡が来たとき驚いたもんだよ」

 

文化祭・・・・あの日があたしが真に惚れた中心の出来事。

 

「その時に思ったんだよ。沖原琴羽は真にとって大切な人間になったんだなと」

 

「・・・・・そうなんですか?」

 

「ああ。あいつは大切なもの以外は自分から守ろうとしないからな。なぜかわかるか?」

 

「・・・・・真の昔の話は少し聞きましたから」

 

「そうか。ならわかるな」

 

「はい」

 

「まぁそれなら話は早い。昨日な・・・・・」

 

そこで菜緒先輩から語られたのは真のこれまで人生。真がどんな風に生かされてきたのかだった。あたしは一切の口を挟むことなく、その話を聞いていた。その話はとても恐ろしいものだった。神野真という人間がこれまで生きてきた意味をすべて否定するような話だった。

 

「さて・・・これがあの神野真の生涯だ。これを聞いて沖原琴羽お前はどうする?」

 

「どうするってどういうことですか?」

 

あたしはそう質問すると菜緒先輩はニヤリと笑った。

 

「好きなんだろ?真のことが」

 

「へっ!?」

 

不意に図星を刺されあたしの顔が赤くなる。

 

「大体見ていたらわかる」

 

そう皮肉気味に笑った後、菜緒先輩は続ける。

 

「それで?お前はこんな生き方を強要されたこの悲劇の男と生きる覚悟があるか?・・・もちろん真の人生に巻き込まれるだろう。下手をしたら死ぬ。あいつはそんな男だ。それでもあいつのことが好きだといえるか?」

 

菜緒先輩が鋭い目でそう問う。あまりにも鋭い目に一瞬ひるむ。でもあたしの心には迷いのかけらは一切ない。答えは決まっていた。だからそれも菜緒先輩に告げる。

 

「あたしは・・・・・」

 

――――――ガラガラ

 

そこで扉は開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

makoto side―――――

 

「・・・・・おれにはまだ正直自信はありません」

 

おれの言葉を紡ぐ。

 

「たぶん、これからもおれは多くの人を傷つけて生きていくんでしょう。その中で被害を最も強く受けるのはおれの一番近くにいる人でしょう。その人を傷つけて生きていく覚悟はまだできない。できれば傷つけたくない。でも・・・」

 

ああ。その通りなんだ。

 

「でも、それは絶対に無理なことなんだと昨日気づかされました。だってそれはおれだけじゃない、すべての人間が等しく抱えて生きているものだんだって。おれはまだまだ自分しか見えていないガキなんだって」

 

おれは大人ではない。周りからはよく大人だと言われるが社会のことなんてなにも知らない井戸の中の蛙の子。

 

「だから、おれもそれを抱えて生きます。そして努力します。おれの一番側にいる人が傷つかないように」

 

おれははっきりとそう告げる。そんなおれを菜緒さんは優しい目で見つめていた。

 

「そうか。わかった・・・・ならそれを今告げるべきだろ?それをお前が告げたいのは私ではないんだろ?」

 

「・・・・・・はい」

 

「そうか。では私は邪魔だな。帰ることにしよう」

 

菜緒さんはその優しい笑顔のままおれの歩いてくる。

 

「・・・・・すみません」

 

おれは菜緒さんとすれ違うときそう呟く。でも菜緒さんは止まることなく、おれの後ろの扉を開けてここから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

nao side―――――

 

「ふう・・・・」

 

廃墟群を抜けて海に出る。

 

「・・・・真」

 

さっきまで、目の前で私を見ていた弟のような存在。でも・・・・・

 

「ふん。私がやっぱり一番のペテン師か」

 

もう誰も見てないここは人通りも少ないし誰かに見られることもないだろう。そんなことを思った瞬間、今まで溜めていたものは決壊した。

 

「う、ぐす・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

止めようのない。静かな嗚咽が波の音に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

makoto side―――――

 

 

「琴羽、一応だけど怪我はないか?」

 

おれは一応聞く。まぁあの菜緒さんが危害を加えることなんてないだろうけど。

 

「うん。大丈夫よ」

 

「そっか。ならよかった」

 

琴羽の言葉に一安心しふうと一つ息をついた。

 

「それでな琴・・・「ちょっと待って」・えっ?」

 

思いきって言おうとしたところで琴羽に遮られる。

 

「真、あたしは傷つかないようにされるだけなんて嫌だよ」

 

「・・・・えっ!?」

 

それって・・・・・おれではダメってこと?ここまで来ておれは・・・なんて思っているとおれの表情でおれの言いたいことわかったのか琴羽は、ハッとして否定をする。

 

「そういうことじゃなくて・・・・あたしも真が傷つかないようにするから」

 

「・・・・・えっ?」

 

「あたしだけ傷つかないようにする真はするつもりなんでしょ?真自身を犠牲してでも。でもあたしはそんなの嫌。真とそれならあたしも一緒に傷ついていきたい。だって・・・・・」

 

そこで琴羽は恥ずかしそうに顔を伏せる。でも言葉ははっきりとおれに届いた。

 

「真があたしのために傷つくとあたしも同じように傷つくんだからね」

 

「っ!!!!!」

 

・・・・やばい。かわいい。どうしよう。もうここまま抱きしめて・・・・・いや、まだこらえろおれ!!

 

「・・・・・わかった。さっき続きいいか?」

 

なんとか搾り出した声は少し上ずっていた。

 

「うん」

 

琴羽は顔を伏せたままコクリと頷く。

 

「琴羽・・・・・おれはお前が好きだ」

 

まずははっきりとそう告げた。そして一つ置いてから続ける。

 

「これから、たぶんいろんなことがあると思う。おれは陰謀や策略に巻き込まれるかもしれない。そして利用されるかもしれない・・・・・そんなおれでも・・・・・・・」

 

おれは最後までいうことは出来なかった・・・・琴羽がおれに抱きついてきたからだ。

 

「はい。どんなことがあってもあたしは真の側にいるよ。だから・・・・・」

 

琴羽が上目使いでおれを見る。そして・・・・・・笑った。

 

「あたしをどんなときも離さないでね」

 

その言葉に答えるようにおれは視線の距離がゆっくりと近づけていく。琴羽はそれに対して目を閉じる。おれも目を閉じてから呟いた。

 

「当たり前だよ」

 




どうでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?

ついについに、成立した!!!!!

ここまで続けられて本当にうれしいです!!

これもみなさんの応援のおかげです。本当にありがとうございます。

次回から数話は二人のイチャイチャ回をお送りしたいと思っています。その後からラストに向けてもう一山・・・・・です。うまく表現できるように頑張りますのでこれからも応援よろしくお願いします。

今回も感想、批評、評価のほうドンドン募集していますので、よろしければ送っていただけると嬉しいです。

今回の更新後、活動報告でアンケートを実施したいと思うのでよろしければそちらのほうもよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう!

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王子様

今回は少し短めですが、許してください・・・・・

とりあえず切りがよかったのでここで・・・・

ちゃんと甘くなったかな・・・・

楽しんでいただけれると本当にうれしいです。

ではどうぞ!!

簾木 健


makoto side―――――

 

 

 

 

あの後の話だが、学園に琴羽と戻ってきたのは、昼休み直前だった。薫子さんと洋子ちゃんに事の顛末を説明し、どういう結論を出したのかも説明した。説明を聞いた二人の反応は対照的ですごく喜んだ洋子ちゃんと、かなり落ち込んだ薫子さんというものであった。ただ落ち込んでいた薫子さんも最後のほうは持ち直しており、今度琴羽も一緒にご飯に行きましょうということになった。犯人のことも聞かれたが、そこはもうおれが良いと強く否定したためか、二人は一度聞いただけであとはなにも言わなかった。その後、おれはクラスに戻り、琴羽は今日はもういいということで寮に帰ることになった。クラスにおれが行くと慶司と姫川と航平がまずおれのところに来て、今までなにをしてんだとか、琴羽は大丈夫なのかなど聞いてきた。ただ、そこで話すのは憚れたので寮で話すと慶司と航平にはいい、姫川には琴羽に聞くように言った。そしてそこからはつつがなく授業を受けて、一度部活に顔を出し、放課後の帰路について、寮に帰ってから飯と風呂を済ませてまなみの転入の書類の処理をしているところに同じように飯と風呂を済ませたおれのルームメイトが帰ってきて、今日のことを聞いてきた。

 

「それで真、今日はなにしてたんだ?」

 

慶司まず聞いてくる。

 

「ちょっと問題が起きてな。それに対処していたんだ」

 

「それに琴羽は関係しているのか?」

 

「ああ」

 

おれが頷く。それに対して慶司は顔をしかめる。そういえば解決したかどうかも言ってなかったな。

 

「安心してくれ。完璧に解決して、琴羽は傷一つ負わず無事に対処できた。心理的にも大丈夫だろう」

 

「そうか・・・・それはとりあえずよかった」

 

慶司が安心して胸をなで下ろす。

 

「二人とも本当に心配かけたな」

 

そういえば、言ってなかったと気づき感謝を告げる。ただ、それに対しもう一人のルームメイトがこう言った。

 

「で?真は立派なおっぱい持ちになったということでいいのか?」

 

「・・・・・・はぁ?」

 

こいつ急に何言ってんだ?

 

「おっぱい持ちだよ。おっぱい持ち」

 

「いや、まずそれの意味がわからん。どういう意味だ?」

 

航平が立ち上がる。

 

「説明しよう!おっぱい持ちとは自分が自由にできるおっぱいを持っている人間。つまり彼女がいるということだ!」

 

「要は琴羽と真が付き合うことになったのかってことか?」

 

慶司が簡単に要約してくれる。慶司本当にありがたいな。

 

「そういうことだ!さぁ!どうなんだ真!!!!」

 

「そういうことか・・・・まぁそれなら答えはイエスだ」

 

おれは言葉の意味を理解し頷く。それを聞いた航平は固まってしまった。

 

「おお!!真おめでとう」

 

「ありがとな。慶司」

 

「でも、今日朝から噂になっていたが昨日からだったのか?」

 

「いや、今日・・・・というか対処したときにな・・・・」

 

「そうか・・・まぁ琴羽をよろしく頼む・・・・って真には愚問かもしれないけど」

 

「いや、任せてくれよ」

 

そして二人で笑いあう。そこでやっともう一人のルームメイトは我に返った。

 

「ちょっと待て!」

 

「うん?どうした航平?」

 

「ちょっとうるさいぞ航平」

 

「おお。悪い真・・・じゃなくて!真!まさか・・・・」

 

「うん?ホントにどうした?」

 

こいつのテンションは本当によくわからん。

 

「・・・・揉んだのか?」

 

「・・・・・慶司ちょっと部屋から出ててもらってもいいか?このバカを・・・・・」

 

「・・・ごめん」

 

「・・・・・次はない」

 

「はい」

 

航平はこの辺が素直だからまだ許せるな。

 

「で?真どうすんだ?」

 

慶司が今度は聞いてくる。

 

「どうするって?」

 

「・・・・・隠すのか?」

 

「・・・・・慶司わかってるよな?」

 

「だよな・・・・」

 

おれはため息をつく。たぶん、明日は大騒ぎだろうな。

 

「まぁ、真と沖原といえば文化祭で一躍時の人になったカップルだもんな。学園中が話題しないわけがないだろうな。真は明日から大変だな」

 

航平の言葉にもう一つため息をつく。ほんとに文化祭のときは焦り過ぎてて、一番いいアイデアだからといって迂闊なことをしたな・・・・。

 

「そういえば、この間もそれ聞いたんだが・・・・真と琴羽は文化祭でなにをしたんだ?」

 

慶司が聞いてくる。そういや慣れすぎて忘れてたけど、慶司は転入してきたんだった。

 

「別にやったこと事態はそこまで大きなことではないんだけど・・・・・」

 

おれは頭を抱える。もうなんであんなことしたんだよおれ。自己嫌悪に陥っているおれに変わり航平が説明する。

 

「去年の文化祭のミスコンの前に沖原が誘拐されるっていう事件が起きたんだよ・・・まぁ正確には誘拐なんかじゃくて、沖原をナンパした二人組がたまたま開いていた、特別活動室に押し込んで無理やり犯そうとした事件があったんだ。それについては真が沖原が犯される前に助けに入って大事にならずに済んだんだんし、いつも通り『メティス喰い』の人助けで収まることだったんだけど・・・・・・その後な」

 

「ん?なにがあったんだ?」

 

慶司がおれのほうを向いて言う。ここからはおれということか・・・・

 

「・・・ミスコンの開始時間まで時間がなくてな、琴羽をお姫様抱っこして文化祭中の学園内をダッシュしたうえ、そのまま会場に突入した」

 

「・・・・・ああ、なんかわかった」

 

「・・・・察してくれてうれしいよ」

 

「しかも、沖原はミスコンで優勝。真はミス澄之江を守護して連れてきたことから騎士とか言われてな。毎日毎日取材されては沖原との関係を聞かれてな」

 

それ軽くトラウマなんだよな・・・・どこに行っても誰かがいて琴羽との関係を聞いてくる・・・・・中には『大丈夫。わかってるから』といった様子でなんか笑ってるやつもいるしよ。本当に憂鬱だったもんなあの時期。しかも琴羽のことを好きだと自覚したのもあの時だったから、なんか色々と否定しにくいこともあったし・・・・

 

「まぁ、とりあえず明日はなにもないことを祈るよ」

 

おれは心からそう祈りながらため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園行きたくない・・・・・」

 

おれはごねていた。

 

「真そんなこと言わずに行こうぜ」

 

慶司がおれを励ます。どうしてこうなったのかというと、朝いつも通りの時間に起きて今日も朝練に行ったらしく航平はいなかったので慶司と一緒に朝ごはんを食べながら、もう周りはどうしようもないから諦めようなどと考えていたときにおれはあることに気付いたのだ。

 

「あれ?周りの前に琴羽と話すことが恥ずかしくないか・・・・・めっちゃ恥ずかしいよな!!」

 

この考えに行きついてから一気に学園に行きたくなくなったのだ。

 

「・・・・おれはどんな顔をして琴羽と接したらいいんだよ」

 

「とりあえずいつも通りで行けよ」

 

「・・・・・・いつも通りってどんな感じ?」

 

そんなの覚えてないっての!!!

 

「・・・・なんか真、意外だな」

 

そのなおれを見て、慶司がふいに言った。

 

「なにがだよ?」

 

「普段はおれ以上に飄々としてるし、こんなことにも楽勝で対応する気がしてたから・・・・」

 

なんかとても心外なことをおれは慶司から思われていたらしい。

 

「あのな、慶司。おれもまだ16なんだ。しかも恋愛経験なんてほぼ皆無だからな・・・・シルヴィのときはなんか家族みたいな感じだったからあてにならんし・・・・」

 

「もうその言い方が16っぽくないけどな」

 

慶司が苦笑する。そんな慶司を見ておれはため息をついた。

 

「はぁ・・・・行くしかないか」

 

気乗りしないがいくしかないんだろう。さすがにそんな理由で休むわけにはいかない。

 

「やっと行く気になってくれたか・・・・急ごう。もうぎりぎりだ」

 

「オッケー」

 

おれは荷物を持って慶司と一緒に寮を出た。すると・・・・・

 

「「っ!!」」

 

寮から出てすぐのところでおれが今最も出くわしたくて出くわしくない人とエンカウントしてしまった。

 

「あっ・・・・」

 

慶司がまずいと顔をしかめる。

 

「お、お、お、お、おはよう・・・・こ、こ、こ、琴羽」

 

「う、う、う、う、うん。お、お、お、お、お、おはよう。ま、ま、ま、真」

 

やべええええ!!!まともに挨拶できてねぇ!!こんなので今日一日大丈夫なのか!?おれは顔を伏せる。やべえ、沖原の顔直接見れない!!!!

 

「二人とも・・・・時間」

 

「「あっ」」

 

おれと琴羽が慶司の言葉に一旦停止してから自分の時計を見る。・・・・・真面目な話。かなりやばい!!

 

「慶司、琴羽いくぞ!!」

 

おれは琴羽の手を取って走りだす。

 

「っ!!!」

 

「真、急に走り出すなよ!!」

 

「うるさい!!急ぐぞ!!!琴羽はしっかりと足を動かしてくれ」

 

「わ、わ、わかった!」

 

「慶司は全力でついてこい。おれははやいぞ」

 

「マジで!?」

 

おれはそれだけ言うと琴羽の手を引いて走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとかギリギリで・・・・・ってかなり本気で走ったから思ったより余裕で着いたな。

 

「琴羽大丈夫?」

 

おれの横で息絶え絶えになっている琴羽に話しかける。ちょっと本気すぎたかも・・・・

 

「はぁはぁはぁ・・・・うん。なんとか・・・・やっぱり、真は速いね・・・はぁ」

 

「ごめん。ちょっと飛ばしすぎた」

 

「ははははは。まぁ間に合ったから・・・・はぁ」

 

「ほんとにごめ・・・・」

 

「そこの男女!!」

 

「「っ!!」」

 

ふいに声をかけられて二人とも振り返る。てかその声・・・・

 

「ここは学校です!不純異性交遊は・・・・・・・」

 

そこで叫んでいたのはやはり沙織先輩だった。そして自分が声をかけた人が知り合いだということに気づいた。また、沙織先輩の声でそこにいた周りも全員気づいた。そのカップルがただのカップルではないことに・・・・・

 

「・・・おはようございます沙織先輩」

 

とりあえずおれは挨拶しておく。ああ・・・・周りの視線がかなり痛い。とりあえず琴羽の手を・・・・・っと思って、少し手を緩める。でも、それは出来なかった。

 

「琴羽が握りを強くしてる?」

 

おれが緩めた分を琴羽が握りしめてくる。どうしようと思って、琴羽を見る。

 

「・・・・・ああ」

 

おれは気づいた。琴羽は顔を真っ赤にしながら、しかし顔を伏せるのではなくまっすぐに沙織先輩を見ていた。そして、恥ずかしくてさっきまで感じられてなかった部分が感じられるようになってくる。

 

「琴羽の手・・・・ちょっと震えてる」

 

沖原琴羽。普段の様子や付き合いのない人にとっては、自分に自信を持っていて、余裕のある女の子見えるのだ。確かにそれも琴羽の一面ではある。しかし、付き合いの長い人からしてみると、とても恥ずかしがり屋でさみしがり屋な女の子なのだ。そんな子が震える手でおれの手を握って、顔をそむけることなく沙織先輩を見ている。

 

「ここで、おれが手を離したら男じゃないな」

 

今度はおれが琴羽の手を握り返した。そして沙織先輩をまっすぐ見据えて言う。

 

「沙織先輩、すみません。あとでお咎めを受けるので、この場は見逃してくれないですか?」

 

「・・・えっ?でも・・・・・」

 

「ここで放したら負けですから」

 

おれの発言に沙織先輩が少し訝しげに見た後、ため息をついた。

 

「・・・・はぁ。あとで二人で風紀委員室に来てください」

 

「ありがとうございます」

 

おれは沙織先輩に少し頭を下げて琴羽の手を引く。そこで琴羽も頭を少し下げておれの後ろに付いてくる。おれは少しスピード緩めて琴羽に並んでから言った。

 

「手・・・・ありがとう」

 

おれの感謝に琴羽は少し顔を伏せた。

 

「・・・・・だから」

 

「えっ?」

 

今なんて・・・・聞き返したおれに琴羽がおれのことを見て言った。

 

「真だから・・・手を離さなかった・・・・どっか行っちゃうかもしれないから」

 

顔を真っ赤にして、おれの目を上目使いで見ながら琴羽が消えそうな声で言う・・・・・この子、おれのことどうしたいんだろう?

 

「でも、大変かもな・・・・」

 

「えっ?」

 

おれは琴羽から視線を外しながら話を変える。この話題のままだったらおれ教室まで辿りつける気がしない。

 

「琴羽、人気だし。おれ今日から刺されないようにしないと」

 

苦笑してみる。そんなおれに対して琴羽は一つため息をついた。

 

「あたしも大変だよ。真と付き合ってるなんて、女子の注目の的だよ」

 

「・・・・・・・えっ?」

 

どういうことだ?おれがキョトンとする。その顔を見て琴羽はため息をついた。

 

「真、前にも言ったけど、真すごく人気だよ。女子生徒の中では『王子様』とか・・・・・」

 

「ちょっと待て」

 

おれが琴羽の話を止める。

 

「?どうしたの?」

 

「いや、突っ込みどころだろ!!『王子様』ってなんだよ!?」

 

「・・・・あたしを文化祭で助けたことから名づけなれたらしいよ?」

 

「・・・・マジかよ」

 

おれは頭を抱える。知らない間にそんなことになってるなんて・・・・

 

「それに・・・・・」

 

「うん?」

 

「あたしにとっては真は本当の『王子様』だから・・・・・」

 

「・・・・ありがとう」

 

そういってまた顔を赤くするおれたち・・・・・でも、おれが『王子様』なら琴羽は『お姫様』だよ。

 

 

 

 

後から聞いた話だが、この時のおれたちを見て血の涙を流した生徒多くいたとかいないとか・・・・





いかがだったでしょうか?

ちゃんと甘くなっていたでしょうか?

感想、評価、批評ありましたらドシドシ書いて頂けると嬉しいですのでよろしくお願いします。

UA5000突破、お気に入りも70を突破していました。本当にたくさんの人に楽しんでいただけているようで本当にうれしいです。これからも応援していただけると幸いです。


簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パン

短い・・・・なんか思うように進まないなぁ・・・・

ただ今回も甘くは出来ているはず!!(希望)

ではコーヒー片手にお読みくださいww

簾木 健


makoto side―――――

 

「琴羽大丈夫か?」

 

おれは横を歩いている琴羽に小さい声で尋ねる。今は廊下なんだが・・・・・・すごい見られてるな。

 

「だ、だ、だだだだだだい、大丈夫よ!」

 

顔を真っ赤にしておれの方を向いて琴羽が言う。絶対大丈夫じゃないよな・・・・

 

「正直今週いっぱいはこんな感じだと思う・・・・」

 

「うん・・・そうだよね・・・・・はぁ・・・・」

 

琴羽がため息をこぼす。どうにかして手を打ちたいところだけど・・・・・・

 

「おれがなにかするとたぶん逆効果にしかならないよな」

 

おれはなんとかしようと策を色々と考えてみるが、逆効果になりそうな策しか出てこない。

 

「でも・・・・・」

 

おれはチラッと琴羽を見る。顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに伏せている・・・・・・正直すっごいかわいい!!!!

 

「この表情のためならずっとこのままでもいいよな」

 

おれはそんな風に少し悪いことを考える。でもそのとき不意に琴羽がこっちを向いておれと目があった。

 

「・・・・真なにか悪いこと考えてない?」

 

「・・・琴羽ってエスパー?」

 

おれは琴羽の発言に苦笑いを浮かべて聞く。

 

「やっぱり・・・なに考えてたの?」

 

「えっ!?」

 

「なによ?言えないの?」

 

「いや・・・・そういう訳じゃないんだけど・・・・・」

 

おれが言い淀むと琴羽がニヤリと笑った。

 

「ねぇ真・・・・どんなこと思ったの?」

 

「いや・・・それは・・・」

 

「ねぇ?」

 

・・・・こいつ気づいてやがる。おれが恥ずかしいこと考えてたことを・・・やっぱりエスパーなのか?

 

「・・・・・琴羽の照れ顔かわいいなって」

 

「なっ!?」

 

観念しておれは素直答える。それに対して琴羽は完全に固まってしまった。ただおれはそれに気づかない。だって・・・

 

「おれなんてこと言ってるんだよ・・・・・」

 

こんなこと言わされたのに周りなんか気にできるか!!!!

 

「おれこんなキャラじゃないのに・・・・」

 

もっとクールなキャラだったはずなのに・・・・

 

「はぁ・・・・・」

 

おれはため息をつく。

 

「まぁ・・・・でも・・・・」

 

おれは横で顔を赤くして俯いている女の子を見る。

 

「琴羽と一緒にいれるならいいか・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ガラガラ

 

 

「「「「!!!!!!」」」」

 

「・・・・・おはよう」

 

「おはよう・・・」

 

なんかクラスが変だ。雰囲気が殺伐としてる気がする。

 

「えっと・・・・どうした?」

 

「・・・・真」

 

「どうした?」

 

クラスの男友達から話しかけられる。

 

「付き合うことになったのか?」

 

「・・・・・ああ」

 

「うん・・・・」

 

おれと琴羽がうなずく。

 

「今度は本当なのか?」

 

別の男子から尋ねられる。

 

「ああ。昨日からな」

 

「うん・・・・・」

 

「・・・・・そっか」

 

静かに頷かれる。なんだ?どうした?

 

「・・・・・全員。フォーメーションAだ」

 

「「「「イエッサー!!」」」

 

クラスの全員が凄まじいスピードでおれと琴羽を囲む。こいつら・・・・できる!

 

「・・・・やる気か?」

 

「真、沖原覚悟しろよ」

 

「「っ!?」」

 

おれと琴羽が身構える。

 

「はい!」

 

そこで何故か急にクラスの女の子が手を挙げた。

 

「どうぞ!!」

 

いやだからなんで指名してんの?戦うんじゃないの?

 

「お互いにどこが好きなの?」

 

「「えっ!?」」

 

「さぁお答えください!!」

 

「「いやいや」」

 

「さすが息ぴったりですね」

 

「そんな問題じゃないだろ!?」

 

「そうよ!真の言う通り!!」

 

「でも、みんな気になるって言うから・・・・」

 

1人の男子が言う。

 

「そうなのか?」

 

おれは尋ねる。そこまで気になることなのか?

 

「当たり前だろ。お前ら2人がどんだけ影響力あるか知ってるか?」

 

「・・・・琴羽はともかく、おれにはそんなものがあるとは思ってない」

 

「真はその辺に本当に疎いからな」

 

そこ言いながら航平が入ってくる。後ろには息を切らした慶司もいる。

 

「だよね・・・・まぁそこが神野の良いところでもあるんだけど」

 

女子の一人がそう言って頷く。

 

「でも、こんな神野が彼氏だと大変かも・・・」

 

「ああ。それは男子から見てもちょっと思うわ」

 

「えっ!?」

 

おれが驚く。そんなおれの横では琴羽がああっと言いながら苦い顔している。

 

「だってさ、神野ってなんか自由人のくせに優しいから、色んなところで知らない間に別の女の子に優しくしてその子が惚れちゃったりして・・・・・・・」

 

「うっ!!」

 

なんというか心当たりが・・・・・というか昔からよくそう言われている。おれは床に両手をついて跪く。

 

「沖原こんなのが彼氏で本当にいいの?」

 

「ちょっと考え直そうかな・・・・」

 

「えっ!?マジで!?」

 

おれが琴羽をハッとして見る。

 

「・・・・・冗談よ、冗談」

 

「冗談って言ってる琴羽の目が全く冗談に見えない!!」

 

「本当に冗談だって・・・・もう」

 

琴羽がおれを立たせる。

 

「彼氏は真じゃないと嫌だ」

 

「へっ!!」

 

やば!びっくりして変な声出た。それも聞いて琴羽が子供っぽく笑った。

 

「真・・・照れたね」

 

「えっ・・・・あっ・・・おう・・・・」

 

「ちょっとかわいい」

 

なに言ってんだよ。こいつはおれを本当にどうにかするつもりかよ!?

 

「・・・・・これはダメだ」

 

クラスの誰かが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・」

 

おれは昼休み屋上に来ていた。

 

「琴羽のやつなにか振り切りやがったな・・・・」

 

朝のちょっと照れさせすぎたのかせいか、琴羽はあれ以降すごいイチャついてくる・・・・ただ彼女が初めての上照れやすいおれからすると琴羽がイチャついてくるのはすごくうれしいが恥ずかしく正直心臓が持たない。

 

「まぁちょっと風に当たってれば少しは良くなるかもな」

 

おれは屋上で空を眺める。青い空・・・・綺麗だな。

 

「・・・・・シルヴィ」

 

青い瞳の少女・・・・おれと同じ遺伝子から作られた悲劇の少女・・・・・

 

「進むと決めたけど、忘れることはないんだろうな・・・・まぁ忘れる訳にはいかないもんな」

 

おれはふうっと一つ息をつく。そこでガチャっという音がした。誰かが屋上に来たのだろう。

 

「・・・・真?」

 

「あれ?姫川と一緒に学食に行ったんじゃなかったのか?」

 

「風花は慶司に預けてきちゃった・・・風花、慶司のことが気になってるみたいだし」

 

「そうなのか?・・・まぁ姫川は最初からそんな感じではあったが・・・・」

 

「さすが真。気付いてたんだ」

 

「あれだけ分かりやすいと少し疑いたくなるレベルだったけどな・・・・ただ慶司は競争率が高いと思う」

 

「ハハハ・・・・なんか色んな人が狙ってるもんね。はいこれ、買ってきた」

 

そう言って琴羽がおれにパンを渡してくる。焼きそばパンか・・・・

 

「炭水化物+炭水化物って最高だよな」

 

おれは袋を開けて焼きそばパンを頬張る。その横で琴羽はメロンパンを開ける。いいなぁ・・・メロンパン。

 

「・・・・琴羽」

 

「うん?どうかした?」

 

「・・・一口頂戴」

 

「・・・・えっ!?」

 

ああ。わかった。おれって2人切りなら恥ずかしがらず言えるんだな。

 

「いや・・・メロンパンも食べたいし・・・・琴羽も焼きそばパン食べる?」

 

「えっ!・・・・えっと・・・・じゃあ・・・・・はい」

 

琴羽が少し顔を赤くしておれにメロンパンを差し出す。

 

「うんじゃ一口・・・・あむ」

 

うーーん、やっぱりメロンパンおいしいな。焼きそばパンも好きだがメロンパンは別格だな。これと競うのはクロワッサンくらいだろ。

 

「おいしいな。ありがとう琴羽」

 

「う、うん・・・・」

 

琴羽は顔を真っ赤にしてメロンパンのおれの食べたところを見つめ止まってしまった。

 

「琴羽どうかした?」

 

わかってる。琴羽が何を考えているのかは・・・でもここは追い打ちをかける場面だよな。

 

「えっ!?」

 

「いや・・・固まってるし・・・・」

 

「っっっ!!!!!」

 

さらに顔を赤くしておれのほうを見る。ちょっと口を開けて気まず恥ずかしそうにおれを見つめる。本当にかわいいな。

 

「琴羽・・・・本当にかわいいよ」

 

あっ・・・今自然に笑えた。さっきまではうまく笑えてなかったからな・・・・

 

「・・・・真のバカ」

 

「琴羽のその顔が見れるなら馬鹿でもいいよ」

 

「・・・・もう」

 

琴羽がちょっと膨れてメロンパンを食べ進める。でもその横顔は少し嬉しそうだった。

 

「琴羽・・・・」

 

「・・・・・・うん?」

 

「・・・・好きだよ」

 

「へっ!?」

 

「おっと・・・・」

 

おれの言葉に琴羽がメロンパンを落としたのでおれが空中でキャッチする。

 

「な、な、なに言ってんの!?」

 

琴羽が真っ赤になって叫ぶ。

 

「いや・・・・なんか・・・・言いたくなった」

 

おれは自分の頬を掻く。自分もこんな風にすんなりと出てくるとは思ってなかった。

 

「・・・・真って本当にズルいね」

 

琴羽の目には少し涙を浮かんでいる。

 

「でも、ありがとう・・・・あたしも好き」

 

笑って、でも少し恥ずかしそうに琴羽が言う。

 

「・・・・琴羽ちょっとおいで」

 

おれは琴羽を呼ぶ。琴羽がゆっくりとおれに近づいてくる。おれはそんな琴羽を・・・・・・・真ん前から抱きしめた。

 

「っ!!!!!」

 

琴羽の身体柔らかいな・・・・ずっと抱きしめてられる・・・・

 

「・・・・琴羽」

 

「・・・うん?」

 

「・・・・好きだよ」

 

「・・・・うん。あたしも・・・好き」

 

琴羽もおれの背に手をまわしてギュッと抱きしめてくる。おれもちょっと抱きしめる力を強める。

 

「・・・ちょっと痛い」

 

「・・・・ごめん」

 

「でも・・・・こういうの好き」

 

「そっか・・・」

 

「うん・・・」

 

少しの間2人はギュッと抱き合っていた。




いかがだったでしょうか?

きちんとコーヒーに合う話になっていたのなら幸いです。

このまま甘め路線でいくつか続けていこうと思います。

感想・批評・評価等ありましたらよろしくお願いします。


宣伝なのですが、もう一つ小説を投稿しようと思っています。そっちのほうは完全に勢い任せというか・・・・これを書いている時に少し別の話が書きたくなって書いたものなのですが、どうせなら投稿しようと思い投稿することにしました。よろしければそっちのほうも読んでいただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常3


お久しぶりです!!

なんとこの小説、評価に色が付きました!!。そして一度日刊ランキングに乗りました!!!!

日刊の順位はそれほど高くなかったのですが、評価に色がついたのと一緒に作者はうれしくて小踊りしましたね。またそのおかげもあってUAが7000突破!。お気に入り件数も130を突破しました!!

これもみなさんが応援してくださっているおかげです。本当にありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。

では、今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


makoto side―――――

 

「おー。なにやらそれっぱい場所だ・・・・」

 

「速瀬くんはメティス実技室は初めてだっけ?」

 

「ああ、これがはじめてだよ」

 

次の授業はメティス実技訓練だったため、慶司、琴羽、姫川と一緒にメティス実技室に来ていた。でもこの授業、あんまりやることはないんだよな・・・おれがメティス使うとみんなに迷惑かかるし・・・・・

 

「そういや姫川は一時期放課後入り浸ってたよね」

 

「そういえばそうだったね」

 

ここといえば姫川だ。去年の一時期洋子さんと2人で放課後よく訓練してた。何回かおれも洋子さんに連れてこられたことがある。

 

「あ、放課後訓練?」

 

「慶司知ってたの?」

 

「前に姫川から聞いたんだよ」

 

「なるほど」

 

やっぱりこの2人仲良いよな。琴羽が言ってたことも気になってるみたいって言ってたし・・・・・

 

「うん。朝比奈先生に指導してもらって、一所懸命に《アイギス》の練習してたの。たまにはだけど神野くんにも手伝ってもらったりもしたんだよ・・・・・・そうだ、速瀬くんと一緒にやろうって約束してたよね?今日の放課後はどうかな?」

 

「「!!??」」

 

おれと琴羽の顔に一瞬驚きが走る。・・・・誘うのうまいな。

 

「ああ、姫川がいいならお願いしようかな。今日は《アルゴノート》ないって言ってたし」

 

それに慶司もすんなり了承してるし・・・・この2人もう付き合ってるんじゃないのか!?

 

「う~ん、仲良いねぇ・・・・・」

 

「そうだな・・・・・」

 

「そうだ!琴羽ちゃんと神野くんも一緒にやろうよ」

 

「あはは、あたしは実技室じゃMWI値を測るくらいしかできないから」

 

「おれは暴走したときに止めるくらいしかできないから」

 

「そういえば2人のメティスはあんまりこういった場所では活きないよな」

 

「そうだね・・・・うーん・・・琴羽ちゃんならおっきい水槽とか持ってきて・・・・・」

 

「・・・・正直そこまでの熱意ないし」

 

「それって熱意の問題なのか?」

 

「お、集まってるね」

 

チャイムが鳴ると同時に、一人の中年男性が入ってくる。人好きの良い笑顔で一人ひとりを頷きながら見ている。でもそんな笑顔の男性に見ておれは全く別のことを考えていた。

 

「相変わらず、すっごいオーラしてんな」

 

身体付きや動き・・・なにげなく見ていると気づかないかもしれないが、かなり洗練されたものを感じる。あきらかに一般人ではない。

 

「あれは誰?」

 

慶司が聞いてきた。

 

「えっとね、メティス実技室にある機材のインストラクターをやってくれてるCSCの黒瀧先生」

 

それに姫川が答える。そういえば前に黒瀧さんは紛争なんかにも参加した人だって言ってたな。

 

「CSC・・・・って、警備会社の?」

 

するとその黒瀧さんがおれたちのほうに近づいてくる・・・・・本当に隙がない。

 

「君が転入生の速瀬慶司君だね?話は聞いています。私はCSCの黒瀧信秀。よろしくお願いします。それと神野君久しぶりだね」

 

「どうも、こちらこそよろしくお願いします」

 

「ええ。前にCSCで会って以来ですね」

 

「そうだね。神野君とはまた機会がある時に話をしてみたいものだよ。あと速瀬くん、恐縮することはないよ。私はここにある機器の使用方法は確かに教えるが、教師というわけじゃない。むしろ、君たち《メティスパサー》のお役に立てることを光栄に思ってるくらいなんんだ。それとね速瀬君、CSCは今、《メティスパサー》の育成に力を入れているんだ。その一環として、ここに納入されているようなメティス関連機器の開発も行っているんだよ。まぁ、私はそれらの機器のインストラクターであると同時に、新開発の機器を先生方に紹介するようなことも――――」

 

「黒瀧さん、生徒に営業してどうするつもりですか?」

 

「あ、薫子先生」

 

そこにもう一人入ってくる。そういえば薫子さんの仕事って・・・・監視もだったっけ

 

「おおっと、これはまずいところを見つかってしまった。いや、我々CSCが警備だけをしているわけではないことを説明しようと思いましてね」

 

黒瀧さんがばつの悪そうに薫子さんに言い訳をする・・・・いつもながらこの人熱いな・・・・・でもバカじゃない。

 

「薫子さんも睨んでた通りこの人裏でなにかあるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慶司という転入生がいるということで、授業は黒瀧さんと汀さんによるMWI測定器を扱う講習となっていた。二人はCSCの職員であり教師ではないが、こうして講習を受け持つことがあるのだ。

 

「これがMWI測定器になります。このモニタに《メティス波》の波形が、こちらの枠内に《MWI値》が表示されます」

 

黒瀧さんが丁寧に説明していく。この人教えるのうまいんだよな・・・・教官とかしてたのか?

 

「知ってると思うけど、《メティス波》というのは《メティスパサー》特有の脳波の波形のことです。その波形が単位時間内に何周忌期観測されたかによって《メティス波強度》、つまり《MWI値》が計測されます。ちなみにMetis Wave Flux Density、メティス波フラックス密度という呼称もあるけど、あまり一般的ではないから気にしなくて構いません。またメティスを発現している人の《MWI値》は最低でも60以上、一般的には80以上が必要だと言われています」

 

まぁもともとはこの理論を発明した人自身がメティスパサーでその人の測定値を100として指標にしたものだからな・・・・もしかしたらズレているかもしれないが、まぁ大体あっているのでそのまま使われている。

 

「・・・・みんなはどれくらいなんだ?」

 

慶司が静かに聞いてくる。

 

「あたしは低いよ?夏休み前の測定値は85だったかな」

 

「まぁ琴羽は泳いでる時に測ればもっと行くだろうけど如何せん測る機器が今ないもんな」

 

「じゃ真は――」

 

「速瀬君、せっかくだから測ってみない?」

 

慶司の声が薫子さんに遮られる。

 

「え、俺ですか?」

 

「ええ、そうよ。本来なら定期的に測定するのだけど、速瀬君はまだ転入してきたばかりだもんね」

 

そういや慶司は測ったことないのか・・・慶司のメティス的に常にMWI値はそこそこあると思うけど・・・・チラッと慶司を見ると慶司は考え事をしている顔になっていた。どうせ色々考えているんだろう。人のこと言えないけど

 

「どうしたの?測るの怖い?」

 

「いえ、わかりました。お願いします」

 

慶司の顔の変化を不安と読み取ったのか薫子さんが笑顔で言う。

 

「くす・・・大丈夫よ。速瀬君はメティスパサーとして充分な《MWI値》が計測されるはずだから」

 

「べ、別に不安になってるわけじゃないですって」

 

薫子さん、慶司のこと子ども扱いするとかさすがだな・・・・昔はおれもよくされたな・・・・・

 

「では速瀬君そこに立って」

 

「はい」

 

測ると言っても所定の場所に立つだけだ。少し前まではいろいろと付けないといけなかったが科学の進歩によりそこまではしなくてよくなった。まぁまだ琴羽みたいなメティスの計測はできないからこれからももっと進歩はしていくだろう・・・・・

 

「ほほぅ」

 

「ふふ、やっぱり」

 

「いくらだったんですか?」

 

「114よ」

 

「わっ、すごい」

 

「慶司もなかなかだな」

 

「おー、やるね慶司。いまだに発動不安定とか言ってるくせに、あたしよりも30近く高いじゃない」

 

114あれば立派なメティスパサーだろう。でも慶司はうーんと少し唸っていた。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ、こう数値にされても、あんまり実感がわかないものですね」

 

まぁなんとなくわかる。分かりづらいしな。

 

「そうかしら。フフ、私はそうでもないわ」

 

薫子さんがいたずらっぽく微笑む。まぁ薫子さんの能力ならそうだろうな・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「114!?そりゃ立派にメティスパサーだな」

 

教室に戻って慶司が航平にMWI値のことを言うと航平が驚きに声をあげる。まぁこれくらいの反応が見えるくらいにはすごい数値なんだよね。

 

「うーん、この数値ってそんなに大事なのか?」

 

「一応メティス実技の成績に加味される。114ありゃ普通にA判定もられる」

 

「マジかよ」

 

「ああ。慶司もやっぱりメティスパサーなんだな」

 

「そういえば姫川と真はどれくらいなんだよ?」

 

「えっ・・・それは・・・・」

 

姫川が言いよどむ。まぁ姫川少し気にしてたからな・・・・・

 

「?なんか言いにくいことでも姫川はあるのか?」

 

「いや・・・・そういうわけじゃないんだけど・・・・・」

 

「まぁいいじゃん風花言っちゃえば」

 

「ええ・・・・ええっと・・・・ひゃくはちじゅうろく」

 

「186か・・・・」

 

慶司がキョトンとする。

 

「いやもっと驚けよ」

 

航平が呆れ顔で突っ込む。

 

「そんなこと言われても数値の指標自体がわかんねーんだって」

 

慶司が頭を掻く。まぁそうかもね・・・・なら・・・・

 

「比べたらわかりやすいよな・・・・今の三年生の一位が170くらいだったはずだ。てか姫川とおれが入学するまで最高が175だったはずだし」

 

「えっ!?マジで!?じゃ186ってかなりすげえじゃん・・・・」

 

「そうだよ・・・・でもそこにもっと化物がいる」

 

琴羽がおれを指さす。

 

「はぁ!?真いくつなの?」

 

慶司がさらに驚いた顔をする。まぁちょっと基準がわかればこうなるよな。

 

「200」

 

「200!?」

 

慶司が開いた口が塞がらないと言ったようすでおれ以外のみんなを見るがみんなはふうと一つ息をついたり肩をすくめたりしただけ・・・・もうどうしようもないみたいな感じにしてんじゃねぇよ。

 

「・・・・じゃおれの114ってそんなにすごくないじゃん」

 

「充分すごいわよ。あたしも85っていったでしょ?この2人が滅茶苦茶なだけよ」

 

「そんなことないよ!琴羽ちゃんだって、泳いでる時に測ったらもっと高いはずだって汀先生も言ってたし」

 

「うん。薫子さんが言ったのなら間違いないな。沖原はおっぱいも大きいし・・・」

 

航平が意味のわからないことを口にしてるなぁ・・・・・

 

「航平・・・・」

 

「ひっ!?」

 

「ちょっと帰ってからお話があるから、助っ人終わったらまっすぐ帰ってこいよ」

 

「真さん・・・笑顔がすごく怖いです・・・・あー、肩をそんな力強く掴まないで!!!」

 

―――――ガラガラ

 

「あっ朝比奈先生」

 

「帰りのホームルーム始めるぞ」

 

「みんな席についてー」

 

くっタイミング悪いな・・・・おれは航平の肩を離す。

 

「うう・・・・今日はなんて日だよ」

 

「お前が変なこと言うからだよ」

 

おれは席に着く。琴羽もおれの隣の席に座った。

 

「きりーつ、れい」

 

姫川の号令でホームルームが始まる。

 

「そういえば、琴羽今日の放課後なんかあるか?」

 

おれは隣の琴羽にだけ聞こえるように小さな声で聞く。

 

「えっ?今日は特になにもないよ。ちょっとお店冷やかしに行こうかなって思ってたくらい」

 

「・・・・・じゃさ・・・それ一緒に行かないか?」

 

「・・・へ?」

 

琴羽がおれの言葉に動きを止める。

 

「真それって・・・・・」

 

「ああ。そういうことだ・・・・」

 

ああ、恥ずかしい!!おれは慶司とか姫川みたいにすんなり誘えないっての!!なんだよあの2人レベル高すぎだろ!!!

 

「・・・・うん。わかった」

 

琴羽が少し顔を伏せて答える。ちょっと顔を赤らめている姿はかなりかわいかった。

 




どうだったでしょうか?

甘いの期待していたみなさん本当にすみません。今回は箸休めもかねて甘みの少ないほぼ原作通りの回でした。ただ次回は確実に甘くしますので楽しみにしていてください!!

前書きでも書きましたが、UA、お気に入り、評価、そして日刊ランキング。本当にみなさんありがとうございます。ただの自己満足で書き始めた小説で原作も正直そこまで有名ではないので読んでくれる人いるのかなと不安だったのですが、気がつけば本当にたくさんの人に読んでいただいています。これからも頑張って書いていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします。

今回の感想、批評、評価も募集していますのでよろしければよろしくお願いします。

ではまた次回。

簾木 健



ツイッターも始めましたのでよろしければフォローお願いします。

@susukikikakru


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

贈り物

このペースを守っていきたいけど……クオリティがどうかな…

きちんと甘くなってるかな……

不安ばかりですが今回も楽しんでいただければ嬉しいです!!

簾木 健


makoto side――――――

 

「さて琴羽どこに行こうか?」

 

「うーん・・・・真どこか行きたいとこないの?」

 

学校帰り・・・琴羽と二人で澄之江の中心街までやってきたのだが、今日は特に予定は決めてなかったのでそのままブラブラと歩いていた。

 

「特にほしいものなんかはないな・・・・琴羽は?」

 

「あたしも特にはないなぁ・・・あっ!ここ入ってみてもいい?」

 

琴羽がブラブラと歩きながら話していると気になったお店があったのかそこに入っていく。そこはこじんまりとした雑貨屋だった。

 

「ここ新しいお店みたい」

 

入ってみるとそこはTHE雑貨屋といった内装のお店だった。様々なものが置かれている。

 

「なんかいい雰囲気のお店だな」

 

「うん。そうだね」

 

「いらっしゃい」

 

琴羽とお店の中を見ているとふいに声をかけられた。

 

「あっどうも」

 

綺麗な女の人がこっちを微笑ましく笑って見ていた。

 

「珍しいね。ここにカップルが入ってくることはなかなかないんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

おれがその人に聞くとその人はああと頷いた。

 

「まぁゆっくりと見ていってくれ」

 

そうしてその女の人は店の奥に行ってしまう。

 

「綺麗な人だったね」

 

琴羽がおれにそう言う。

 

「ああ。なんか不思議なオーラがあったな」

 

「確かに・・・てか真」

 

「うん?どうかしたか?」

 

「いや・・・見とれてた?」

 

琴羽が少し気まずそうに聞く。

 

「うーん・・・・いやなんか呑まれたって感じだな」

 

「呑まれた?」

 

琴羽が首をキョトンと傾げる。

 

「うん。なんかすごい雰囲気だったから」

 

「そっか・・・」

 

琴羽がちょっとプクッと膨れる。あれ?おれなんかした?

 

「琴羽?」

 

「・・・・・見とれてたのは否定しないんだね」

 

「えっ?」

 

そこでおれは発言が間違っていたことに気付いた。

 

「いや・・・それは・・・・」

 

なんとか否定しようとするけど言葉が出てこない。

 

「いいよぉ。どうせ真は私以外の女の人でもそういう目で見るんだもんね」

 

琴羽は不機嫌な表情のまま、おれから顔を逸らし背を向ける。

 

「琴羽・・・・」

 

おれはそんな琴羽を後ろから抱きしめた。

 

「なっ!?」

 

おれが急にそんなことをやったせいか琴羽が耳まで真っ赤になっている。

 

「ま、真・・・ここお店の中だよ?」

 

「いいよ。さっき奥に行ったし」

 

「ええ・・・・もう・・・・・・」

 

琴羽照れてはいるものの拒否することなく逆におれのまわした手にそっと手を添えてくる。

 

「・・・・真のバカ」

 

「ごめん」

 

「私のこと好きって言ったくせに」

 

「それは本当だし・・・・」

 

「他の女の人に見とれてたくせに」

 

「まぁ・・・・さっきも言ったけど少し変わった雰囲気だったから」

 

「・・・・やっぱりあんな風な大人の人が好きなの?」

 

「えっ!?」

 

やっぱり!?どういうこと?

 

「あの・・・琴羽?」

 

「なによ?」

 

「やっぱりってどういうことっすか?」

 

「・・・・だって真、汀さんとか洋子ちゃんとか大人っぽい女の人のほうが好きなんじゃないかって思ってて・・・だから今日も・・・・・」

 

「・・・・あのな琴羽」

 

おれははぁとため息をつく。琴羽のいつもの余裕はどこに行ったんだか・・・・

 

「おれは本気で琴羽が好きだよ」

 

「っ!!!!!」

 

おれの言葉にさらに真っ赤になって琴羽が身を強張らせる。

 

「おれはさ・・・・琴羽のこと、琴羽が離してって言っても離したくない・・・・というか離すつもりもないよ」

 

「・・・・うん」

 

「だからさ・・・・」

 

おれは琴羽を抱きしめる力を強める。

 

「琴羽は心配しないでおれの傍にいてよ。自信満々に笑ってて」

 

「・・・・うん」

 

琴羽の表情が柔らかいものになり嬉しそうに微笑む。

 

「でもね、真。私はたぶんこうやって不安になっちゃうと思うの」

 

琴羽が優しくおれに語りかけてくる。

 

「そっか・・・・じゃあおれは―――」

 

「そうなったらさ・・・・こんな風に抱きしめてほしい」

 

「っ!!」

 

ギュッとおれの腕を両手で抱く・・・・・琴羽・・・本当にかわいいな。こんな彼女がいるのに別に女の子に行くなんて有り得ないよな。

 

「・・・・ああ。わかった」

 

おれはまた少し抱きしめる力を強める。

 

「ちょっと真・・・・少し痛い」

 

「あっ・・・ごめん」

 

おれはちょっとだけ力を弱める。

 

「真は力が強いんだから・・・・気をつけてね」

 

その言葉には少し名残り惜しさが滲んでいた。

 

「・・・・琴羽ってこんな風にちょっと痛いくらい抱きしめられるのが好きなの?」

 

「っ!!!なっ!な、な、なに言ってんの!?」

 

「いや・・・今ちょっと名残り惜しそうだったから」

 

「っ!!!!!!!」

 

あっ・・・・この反応はたぶん図星だな。

 

「へー・・・・覚えておくね」

 

「そんなこと覚えてなくていいよ!!」

 

「わかったわかった」

 

「絶対わかってない!」

 

「ほらこんなところで大声は出さない」

 

「それを言うなら真だってこんなところで抱きしめてるじゃん!!」

 

「それは・・・・あ・・・・」

 

「あ・・・・・」

 

おれと琴羽が抱きしめあったまま、言い合いをする。完全に自分たちしか見えてなかったのだが・・・・そんなおれたちを微笑ましく見ている人が一人いたのだ。

 

「君たちは本当に仲の良いカップルだな」

 

それはさっき奥に入っていった綺麗な女の人だった。

 

「いえ・・・あの・・・・」

 

おれがなんとか説明しようと言葉を探す。でも出てこない。琴羽もおれの前で固まっている。

 

「まぁとりあえず離れてもらっていいかな?さすがに店の中に抱きしめあっているカップルがいるのは少しな・・・」

 

「えっ!ああ。すみません」

 

おれはとりあえず謝り名残り惜しかったが琴羽から離れる・・・・でも手ぐらいはと思い、琴羽の手をとって手は繋ぐ。

 

「ふふ・・・本当に微笑ましいね君たちは。そうだ、そんな二人にはこれはどうかな?」

 

そういってその人はおれたちほうに歩いてきた。その掌に一つ小さな箱が乗っている・・・・てかこの小さい箱って・・・・

 

「あの・・・・なんとなく中身はわかるんですけど・・・・」

 

「ほう。ではどうかな?もちろんサイズも合わせたものにしよう」

 

「そうですね・・・・・琴羽的にはどう?」

 

「うーん・・・どんなデザインなんですか?」

 

「一応これはすごくシンプルなものだな。でも、こういったものはシンプルなもののほうがつけやすくいいと思う」

 

その人がその箱を開けて現物を見せてくる。

 

「本当にシンプル・・・・でも、これならどんな服とかにも合うからいつでもつけれるかも・・・・・」

 

「そうだな。どうする?おれてきにはいいかなって思うけど・・・・」

 

「あたしもほしいけど・・・・真は値段確認しないでいいの?」

 

そういえば確認してなかったな・・・・

 

「あの、これいくらですか?」

 

「そういえば値段を言ってなかったな。そうだな・・・・ネームや日付、サイズの合わせなんかして・・・・まぁ君たちには少し微笑ましいものも見せてもらったからな・・・・特別にこの値段でどうかな?」

 

そうやって提示された値段を確認する。微笑ましいものを見せてもらったから割引ってどうかと思うが・・・

 

「うん。これくらいなら出せる」

 

「本当?あたしも少し出しても・・・・」

 

「ふふ。女の子の君。そこは彼氏に意地を張らせてやるのも彼女として必要なことだと私は思うぞ」

 

「えっ!ああ・・・・そうですかね?」

 

「ああ。男というのは意地っ張りは生き物なんだ。こういった場合は甘えてやるのも良い彼女というものだ。だが甘えすぎるのは考え物だがな。この場面ならいいだろう」

 

なんか琴羽が彼女論を説かれてるんだが・・・・彼氏の前でするのはやめてほしい・・・・

 

「で?男の子の君買うかね?」

 

彼女論を説き終わったのか聞いてくる。

 

「ええ。買わせていただきます」

 

「じゃあ、サイズを計るから少し手を出してもらっていいかな?」

 

そう言われて二人ともスッと手を出す。

 

「・・・・・・・オッケー。では少し待ってもらっていいかな?今日の日付と・・・名前はどうするかね?」

 

「えっとそれなら・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい買い物になった」

 

おれと琴羽はあの後少し待ってできたそれを受け取り、すぐにつけて二人で寮に帰っていた。

 

「真・・・ほんとうによかったの?」

 

琴羽が少し申し訳なさそうにおれに聞いてくる。うーん・・・心配されるほどではないんだけどな。

 

「そんなに心配されるほどの出費ではないよ。色々とバイトみたいなこともしてるしね」

 

「・・・・そっか。でもありがとうね」

 

琴羽がすごい笑顔でおれに笑いかけてくる。ああ・・・・この笑顔だけで買ってよかったと心から思える。

 

「琴羽・・・・」

 

「うん?」

 

「好きだよ」

 

「うん。あたしも真のこと好きだよ」

 

笑いあいながら甘い雰囲気を作りだす二人。

 

「こういうペアっていいよな」

 

おれはそんなことを思いながら右指につけたシルバーのリングを見た。そして、おれは繋いだ左手の力を少し強めた。琴羽の右指のついているリングが感じ取れて少しうれしくなるというのは多くの人が感じるものだよな・・・・・




どうだったでしょうか?

きちんと甘くなってましたか?

もうちょい甘くしてもよかったかも……

今回も感想、批評、評価ドシドシ募集してるのでよろしくお願いします

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前兆

遅くなってすいませんでした!!!!!!

とりあえず今回お楽しみください!!

簾木 健


makoto side――――

 

「海に行きましょう」

 

「はっ!?」

 

祐天寺の発現におれは素っ頓狂な声を上げる。

 

「なによ神野。嫌なの?」

 

「いや・・・・今日は確かに暑いがさすがに海の水は冷たいぞ」

 

今日は特になにもなく部室で部活のメンバーでのんびりしていたのだが・・・・そういえば一人新しいメンバーが入ることになった。それは・・・・・

 

「神野先輩!!行きましょうよ!!!!」

 

「まなみ・・・お前もか」

 

それは慶司の妹である速瀬まなみだ。昨日おれと琴羽がデートしている間に姫川とまなみが闘ったらしく、その時ついにメティスネームを得た。その名は《ペネトレイター》。しかしその時にオーバーコンセントレーションを起こした。でも、慶司のおかげで大事には至らずに済んだと報告を受けたんだが・・・影響はないみたいだな。

 

「神野くん、私も行きたいなぁ」

 

「姫川もかよ・・・・」

 

おれは頭を抱える。そんなおれに対して景浦が苦笑いを浮かべる。今日は菜緒さんがアポイントメントがあるということで部活には来てないのだ。

 

「いいじゃない。今日はもう依頼者も来そうにないし、そうしましょう!さぁ行くわよ!!」

 

「「おお!!!」」

 

「すみません。神野さん」

 

「いや、景浦が謝ることじゃないだろ・・・・はぁ」

 

おれと慶司を除く全員が立ち上がり出ていく。やはりおれには止めるのは無理みたいだ。おれもため息をつき椅子から立ち上がる。

 

「真、いいじゃないか。たまにはこういうのも」

 

「・・・・まぁな」

 

慶司のフォローにおれは頷く。

 

「そういえばさ・・・」

 

「うん?どうかしたか?」

 

慶司が少しを顔のトーンを落とす。なんか聞かれたくないなのか?

 

「真のテンプレートって『ゼロ』だけなのか?」

 

「テンプレート?」

 

おれが聞き返すと慶司が頷く。テンプレートというのはメティスを使う際に使い方に応じてイメージを固めるためにその技に名前を付けといてすぐに使えるようにすることだ。

 

「昨日まなみを止めた時に『アイギス』で引っかけるイメージをして『ゴルゴネイオン』っていうのを使ったんだけど・・・・ほかにもあるのかなって」

 

「なるほどな・・・・・まぁ慶司のメティスなら仕方ないか・・・・・・おれのテンプレートは『ゼロ』だけだな。ただ主にな」

 

「主に?どういうこと?」

 

おれはうーんと頭を掻く。

 

「おれのメティスは出力を調整して使えるんだ。その一つで一番使い勝手が良いものとして『ゼロ』と名付けたんだ。だから実際はもうちょい色々と使える」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。でもな色々と問題があるからな・・・・・・」

 

おれはハァっとため息をついた。そのため息に慶司は不思議そうに首を傾げた。

 

その後は海に行き沙織先輩も巻き込んんで色々とあった。その後部屋に戻って風呂に入った後、菜緒さんから電話が来た。

 

「・・・・真」

 

急な連絡。しかもそれは衝撃の事実を告げた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「実はな・・・・ちょっとヤバいものを見つけてな」

 

「なんですか?やばいものって・・・「マテリアルD」・・・!!!!!」

 

今なんと言った。

 

「菜緒さん・・・・今なんて」

 

「マテリアルDだ。真」

 

マテリアルD。おれと菜緒さんが今みたいな関係性になった原因であり、根幹だ。なぜならその薬はおれの能力を基礎とし作られた薬なのだから。

 

「使われているみたいだ・・・・・」

 

おれは菜緒さんの発言に絶句する。

 

「なんでいまさら・・・・・」

 

「わからん・・・・どこから流出したのか・・・・・」

 

「誰が使っているんですか?」

 

おれがそうゆっくりと聞く。その声に殺気が混じっているがそんなことはもう気に出来ない。

 

「・・・・まだわからない。ただ・・・・・」

 

「・・・・・関係があるんですね」

 

おれの言葉に菜緒さんはなにも言わない。それは肯定をしめしているのはおれにも感じ取れた。

 

「・・・・ちょっとこっちでも調べてみます・・・・・いや・・・・なにか持ってくるんですよね?」

 

「・・・・・ああ」

 

「わかりました。おれも今回の件には全力で取り組みます」

 

「・・・・・真。あのな・・・・・」

 

菜緒さんはその後を言うことは出来ない。でもその後の言葉は理解できた。

 

「わかりました」

 

はぁとおれはため息をつく。

 

「ちょっと気にかけるくらいにしときます。でも、もし・・・・・・」

 

おれはその先をはっきりと告げた。

 

「それを使っていたやつがわかったらおれ・・・・・殴りますよ」

 

それに菜緒さんはプッと吹き出し笑いながら言った。

 

「ああ。構わない。そうしてくれ。私のためにもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真どうかした?」

 

次の日の朝。おれは琴羽と一緒に学院に向かっていた。すると隣から顔を覗き込んできた琴羽がそうおれに尋ねてきた。

 

「どうかって・・・・なんで?」

 

「いや、なんかいつもと少し雰囲気が違う気がして・・・・・なんかあった?」

 

おれは少し驚いてしまう。ただ琴羽にはもう隠し事は出来ないなと少し嬉し恥ずかしい気持ちになる。

 

「・・・・・ちょっとな」

 

「そっか」

 

琴羽は少し複雑そうに笑う。

 

「それはあたしには話せること?」

 

「えっ・・・・」

 

琴羽の言葉にまたドキッとさせられる。

 

「真ってまだあたしに隠してることたくさんあるでしょ?」

 

「・・・・」

 

おれは琴羽のほうを向いて固まってしまう。その無言は完全に図星だった。そんなおれに琴羽が優しく笑いかける。

 

「真が色々頑張ってるの知ってるから・・・・・でも話せることは話してね。あたしは真の彼女なんだから・・・・」

 

「・・・・・っ!!!」

 

ちょっと顔を赤くして恥ずかしそうに笑う琴羽。そんな琴羽がかわいくてしょうがなくなる。

 

「・・・・ありがとう」

 

そう言っておれは琴羽の手を握る。

 

「今度話すよ。実際ちょっとヤバいかもしれないんだ。琴羽にも危険があるかもしれないから」

 

「うん。わかった」

 

ギュッと琴羽が手を握り返す。その手を引いておれは走りだす。

 

「うわっ!!」

 

「さっ急ぐよ!」

 

「もう・・・・・うん!!」

 

おれたちはは通学路を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

nao side―――――

 

「・・・・・・・」

 

部室。昨日真に連絡こそしたが私はまだ信じられなかった。

 

「なぜ、あれが・・・・」

 

私は下唇を噛み悪態をつく。

 

「しかも・・・・これは・・・・・」

 

そう言って取り出す資料は今まで急に退学した生徒のリスト。

 

「これとも関係があるのか・・・・いや・・・・もしかしたら・・・・・」

 

最悪の可能性が頭に浮かぶ。しかしそうなると・・・・

 

「CSCか・・・・・真が薫子から聞いた話も合わせると・・・・・黒瀧が黒だな」

 

今度は別の資料を取る。そこにはその黒瀧のデータ。

 

「・・・・まだ確証がない。しかもここまでバレてないことも考えると尻尾を掴むのもかなり困難か・・・・」

 

ふぅっと息を吐き出す。

 

「これはかなりデカい山になる・・・・・ただ今は情報だな」

 

独り事を呟き持ってきたノートパソコンに向かう。

 

「もうちょっとあらってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side――――――

 

「いかかですか?」

 

「うん。かなりいい感じだ。彼のほうもだんだんと落ち着いてきたようだし」

 

「はい。ただ・・・・」

 

「彼女か・・・・」

 

「はい・・・・たびたび抜け出しているようで・・・・しかも段々と力も強くなっているようで」

 

「そうか・・・・ハァ・・・まぁまだなにも問題が起きている訳ではないようだ。なにか手を考えることにしよう」

 

「はい」

 

「では、よろしく頼むよ」

 

「おまかせください」





本当に遅くなってすみませんでした。

そして短くてすみません。

もう一つの方はすらすらと書けたためそっちを書いてしまってまして・・・・

あと色々と今後のことを考えて原作を全ルートやってましたww

それで実は大まかにはラストまで見通しを立てました。

今回からは原作で言う個別ルートに完全に入りましたし、これからは琴羽とイチャイチャすることも書きながら、ラストに向けてしっかりと書いていこうと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう!

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前兆2

本当にお久しぶりです!!!!!!


本当にごめんなさい!!!!!!!!!!

もう一つの小説の方にかまけていたのとリアルが忙しかったのとちょっとシナリオ直そうと思ったので投稿がこんなにも遅れてしまいました。

今後はもう一つの小説と平行して書いていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです!!!

簾木 健


makoto side――――――

 

おれは上ヶ瀬市にあるおしゃれなレストランに居た。今日は久しぶりに薫子さんと二人で食事をする約束をしたのでこの場に来たのだが・・・・・何故か薫子さんと一緒におれの担任でもある朝比奈洋子こと洋子ちゃんも一緒に来て席に座ったのだ。

 

「なんで洋子ちゃんがいるの?」

 

「ちょっと薫子に誘われてな・・・・・・」

 

「そうなの?」

 

「ええ。ちょっと話したいことがあったから」

 

「そうなんだ・・・・・まぁ先に注文を・・・・・」

 

「大丈夫よ。さっき私達が入ってきた時にコース始めてもらうようにお願いしてきたから」

 

「そうなんだ・・・・それにしてもこんな高級店で大丈夫なの?」

 

そうこの店はかなり値段がいい店なのだ。こんな店に来ることは今まででも数えるほどしか行ったことがないからちょっと緊張する。

 

「ええ。大丈夫よ。それなりにもらってるんだから」

 

「本当?・・・・・おれもだそうか?」

 

「大丈夫よ。今日は私の奢り」

 

「そうだぞ神野。こういうときは甘えておけ」

 

そう言いながら飲み物のメニューを見る洋子ちゃんに薫子さんがため息をついた。

 

「洋子は少しは遠慮しなさいよ」

 

「いいだろうが私は自分の分は自分で出すんだから・・・・すみません!このワインをボトルで!」

 

「飲むんですか?」

 

「当たり前だろ。こんないい店なんだ。酒もうまいだろう」

 

「洋子本当に飲み過ぎないでね」

 

薫子さんが額に手を当ててため息をつく。そんな薫子さんにムッとした表情で洋子ちゃんが言い返した。

 

「薫子だって人のこと言えないだろう。前は大変だったんだぞ」

 

「ああ~」

 

洋子ちゃんの言葉におれは()()()のことを思い出す。本当にあの時は大変だったな。

 

「あ、あの時は・・・・ちょっと飲みすぎちゃったのよ」

 

薫子さんが顔を赤くして申し訳なさそうに言う。

 

「まぁ今日はヤバそうだったらおれが止めますから・・・・・そういえば洋子ちゃんまで入れてしたい話ってなんですか?」

 

「・・・・そうね。まずは姫川さんのメティスなんだけど・・・・・」

 

「姫川のメティスってことは《アイギス》だよね・・・・どうかしたの?」

 

「ええ。その《アイギス》なんだけど・・・・まなみさんに破られたわ」

 

「・・・・まじ?」

 

「まじだぞ。私が目の前で見ていた」

 

洋子ちゃんがやってきたワインをグラスに次ぎ分けながら頷く。まじかよ・・・・・

 

「それって正面からってことだよね」

 

「ええ。私も聞いたときは驚いたわ。でも嬉しいことでもあるわね」

 

「そうだな」

 

姫川のやつそのことを気にしてないならいいけど・・・・まぁそのなってたら琴羽のやつがなんとかするか。

 

「それはついでの話なんだけど・・・・もう一つは()()()のことよ」

 

薫子さんの声が真剣なものになる。さすがの洋子ちゃんもワインを飲むのをやめ真剣な表情で話を聞いていた。

 

「近濠さんが見つけた情報によるとやっぱり黒瀧が怪しいみたい」

 

「そうか・・・・・で?おれはどう動けばいい?」

 

「とりあえずはまだ動かないでいいみたいよ。でも動くことになったら指示を出すって言ってたわ」

 

「そっか」

 

この間菜緒さんに言われた話と同じか・・・・・釘を刺されたってことか。

 

「それでなんだけど真。あんまり走り過ぎないでね」

 

「そうだぞ真。お前はすぐ勝手に突っ走るからな。気をつけてとけよ」

 

「わかってるよ。さすがにもうそんなことはしない」

 

「そうだよな真。大切な人が出来たみたいだし」

 

ニタニタと笑いながらおれを見る洋子ちゃん。それにハッと思い出したように薫子さんも続けた。

 

「そうよ真!そのこと私も洋子に聞いたんだけど詳しく聞かせてくれる?」

 

「聞かせるもなにも洋子ちゃんが知ってる通りだと思うけど?」

 

「いいのよ。真の口から聞きたいの」

 

薫子さんは優しげに微笑む。なんでこんなにも嬉しそうなんだよ・・・・・

 

「沖原琴羽と付き合うことになったんだよ」

 

「そっか・・・・真はやっぱり沖原さんを選んだのね」

 

「ああ・・・・・ってやっぱりってどういうこと?」

 

薫子さん予想してたのか!?

 

「文化祭の時の話も聞いてたしそうなる気はしてたんだけど・・・・・・なんかちょっと嫌ね」

 

薫子さんが複雑な表情でそういうと洋子ちゃんがハハッと笑った。

 

「結婚もしてないのにしっかり親をやってるようだな薫子」

 

「そうね。息子に彼女が出来るとこんな気持ちになるのね」

 

「まぁそれは真が良い息子だからでもあるんだがな・・・・・真そっちのほうもゆっくりな」

 

「わかってる、この話はもう終わりにしよう。恥ずかしい」

 

おれは話を強引に逸らすと洋子ちゃんと薫子さんはフッと笑いながらこの頃の近況を話し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、そんなことがあってな」

 

「へー昨日夜予定はそんなんだったんだ」

 

おれは琴羽と一緒に昼食を学食で取りながら昨日の話をしていた。

 

「それで薫子さんが今度一緒にご飯食べようってさ」

 

「うはー・・・それは緊張しそうだね」

 

「まぁ一応おれの保護者だしな。やっぱり緊張するか」

 

「うん。まぁでも薫子さんならまだいい方かもね」

 

うんと納得してように琴羽が頷く。薫子さんも琴羽もお互い知り合いではあるし、そこまで心配することはないだろう。

 

「そういえば真。アルゴノートの活動は近頃はどうなの?」

 

そういえばこの頃の活動を琴羽には言ってなかったな・・・・・・

 

「この頃は落書き犯を追ってるよ。なんか特殊な落書きを見つかってな」

 

近頃この学園付近でいくつか特殊な落書きが横行しているのだ。

 

「ああ!その話は私も聞いたよ。なんかすごい落書きなんでしょ?」

 

「ああ。実はその落書き・・・・・・・・・たぶんレーザーみたいなもんで書かれているみたいなんだよ」




いかがだったでしょうか?

長くなってしまったわりに短くてすみません!

ちょっとずつちょっとずつ進めていきたいと思います。

琴羽との甘い話もいれつつ大きな事件に立ち向かっていきます。うまく表現できるように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。

今回も感想、評価、批評募集していますのでよろしければよろしくお願いします!

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デート

ちょっと短いですけど……

気長にのんびりこちらは投稿していきたいますのでよろしくお願いします。

簾木 健


makoto side――――

 

「あれどういうこと?」

 

「さぁ・・・・」

 

週末、琴羽と一緒に買い物にいき少し休憩のために『ヴィルフランシュ』に来たのだが……

 

「あれ、慶司と姫川だよな?」

 

「うん。そうだよね。見間違えじゃないよね」

 

何故か向かい合って座っている慶司と姫川を見かけた。あの二人なにしてるんだ?

 

「琴羽。今日姫川は……」

 

「なんか委員長の仕事だって朝から学園に行ってたはずだよ?」

 

「じゃあなんで二人ここにいるんだ?しかも姫川も慶司も私服だし」

 

澄之江学園では休日でも学校に入るには制服でないといけないのだ。校則やルールを破らない姫川がそれを破るとは思えない。

 

「しかも手を取り合ってなにしてるんだ?」

 

「さぁ……」

 

姫川が慶司の手を掴み笑顔でなにか言っている。ただすぐに赤くなり手を離す。

 

「あれもう付き合ってるだろ?」

 

「うーん…風花はそんなこと言ってなかったからそれはないと思うんだけど……」

 

「……姫川ってあんなに距離近かったっけ?」

 

「それも慶司にだけだと思うよ」

 

「まぁあっちはあっちだしな」

 

おれはスッと琴羽の横に移動した。

 

「真……風花たちから見えない?」

 

「大丈夫見えないよ」

 

「本当かな」

 

琴羽はそう言って苦笑いを浮かべている。でも拒否はしてこないし大丈夫だろう。しかもちゃっかり腕をからめてきてるし………胸当たってるんだけど………まあ役得だからいいか。

 

「そういえば真」

 

「うん?」

 

「この間の落書き犯って捕まったの?」

 

「いや、まだだね。しかもこの頃新しい落書きが見つかってないんだ」

 

「てことは前進は無しってことね……」

 

「どうした?気になるのか?」

 

「だってそれってすごい熱量で書かれてたんだよね?」

 

「そうだな。あんなことできるは祐天寺くらいだと思ってたんだけどな……」

 

「てことは美汐ちゃんくらいの力を持ってる《メティスパサー》がいるってことでしょ?それって危なくない?」

 

「まぁ危ないな」

 

「だから気になるの」

 

ぷうっと頬を膨らます琴羽。かわいい。付き合い始めてから改めて思ったが琴羽はとても表情が豊かだ。確かにクラスなどでも表情は豊かだったのだが、それとはまた異なる。クラスではある程度琴羽も仮面を被って生活をしている。でも付き合い始めてからおれと二人きりの時はその仮面を外して付き合ってくれている。そんな琴羽がおれはかわいくてたまらないのだ。こんなふうにかわいい表情をされてしまうとついつい頭を撫でたくなってしまう。

 

「撫でたら解決すると思ってるでしょ?」

 

「違う。撫でなくなったんだよ……琴羽」

 

「……なに?」

 

照れくさいのか、でも嬉しいのか複雑な表情をしてこっちを見ている。そんな琴羽がかわいくて仕方ない。

 

「心配さないようにするよ。でも、もしかしたら心配させるかもしれない。そうしたら……」

 

おれはなるべく優しい表情で琴羽を見る。

 

「一生かけて償うよ」

 

「………バカ」

 

こんなまんざらでもなさそうな琴羽がかわいいくない訳がないよな……

 

「真に琴羽……なにしてるんだよ?」

 

ビクッ!おれと琴羽が驚く。ピタッとくっついている見つめ合っているおれたち。かなり甘い雰囲気だったのだがその声でそんな雰囲気は一瞬で霧散してしまう。声をかけてきたのはもちろんおれたちがさっきまで観察していた二人……というか慶司。姫川は慶司の後ろで苦笑いを浮かべている。というか姫川そんな顔するなら最初から慶司を止めてくれよ。

 

「慶司……さすがだな」

 

「?どういうことだよ?」

 

おれはそんな慶司にハァとため息をつく。横の琴羽も苦笑いだ。

 

「二人時はそんな感じなんだな」

 

慶司がそんなことを言う。おれはちょっとした悪戯心がうずく。

 

「そうだよ。羨ましいか?」

 

「なっ!?」

 

横の琴羽が一番驚いてるが今は気にしない。

 

「そういえばさっき慶司と姫川もギュッと手を強く繋いでたけど……付き合い始めたのか?」

 

「「えっ!?」」

 

今度は慶司と姫川がポンっと赤くなる。ああ……なんとなくわかった。この二人の今の関係性。

 

「いや……付き合ってはないんだけど……」

 

「そ、そ、そ、そうだよ。じ、じ、神野君なに言ってるの」

 

「そっか。まぁ今はそれでいいか。で?これからの予定は?」

 

「えっと特には……」

 

「うん。決めてなかったけど」

 

「おれたちはもうちょっとここでゆっくりしていくよ」

 

「そうなのか?じゃあ姫川行こうか」

 

「うん。琴羽ちゃんまたあとでね」

 

「う、うん。あとでね風花」

 

挨拶を交わし二人が『ヴィルフランシュ』から出ていく。

 

「真よかったの?」

 

「なにがだ?」

 

「慶司たち先に帰っちゃったけど?」

 

「いいんだよ」

 

おれはスッと琴羽の肩に手をまわして琴羽を引き寄せる。

 

「もうちょっと二人っきりでデートしよう」

 

「!!うん!!!」

 

この琴羽の笑顔に勝てるものなんてないだろうな。




いかがだってでしょうか?

今回は甘めに出来た思っています笑

ただ話進んでないな……今後しっかり進めていけるように頑張っていきたいです!!

今回も感想、評価、批評募集していますので、よろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう。

簾木 健


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セカンド

二ヶ月も放置してすみませんでした。

今回は真面目回。そして物語は動き出します。

今回も楽しんでいただけると嬉しいです


makoto side―――

 

「これが……」

 

今日は俺は洋子ちゃんに呼び出されたせいで部室には遅れていった。部室に入るとすぐに景浦から写真のプリントアウトを渡される。そこには石にこの間ように高熱で付けられた印のようなものが映っていた。しかしそれはこの間と違い明らかに形を帯びていた。

 

「真どう思う?」

 

この写真の見解を菜緒さんに尋ねられる。こういう風に尋ねられるのは、確認だろう。

 

「明らかに意図や意思を持っているように感じますね。もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()かどちらかでしょう」

 

「流石は真と言ったところか。お嬢様。私も同意見です。これを行った人間は明らかに手馴れてきています。もしくは自分の能力を使いこなし始めたのだと」

 

「真も近郷先輩もなんでそこまで差し迫ったような顔してるんですか?……これはただの落書き犯ではないんですか?」

 

慶司がおれたち二人に問う。もうさすがに隠すのは厳しいだろう。

 

「慶司……この落書きどうやって付けられたものかわかるか?」

 

「たぶんだが、高熱……バーナーみたいなもので付けられたんじゃないのか?」

 

「そうだ。でもなバーナーじゃここまで綺麗に形を付けるのは無理だ。火力が足りない。もっと高い炎熱でないとこうはならないんだ」

 

「じゃあもしかして……」

 

慶司と景浦。それに姫川も気づいたのだろう。まなみだけはポカンとしていたが、まぁ学園に来てから短いからそうもなるか。そしておれは一応と思い神妙は顔で聞いていた祐天寺の方を向いた。

 

「祐天寺これはお前自作自演ということは確実にないんだな」

 

その質問に祐天寺は神妙な顔のまま答えた。

 

「ええ。私ではないわ。第一そんなくだらないことしないわよ」

 

その答えを聞いてから菜緒さんが口を開く。

 

「学園の中にお嬢様以外にこの形を作る熱量を生み出せる《メティス・パサー》は存在しない」

 

それにその場にいた全員が息を吞んだ。しかし仕方ないだろう。

 

「学園外の《メティス・パサー》。しかも祐天寺クラスの熱量を操る《メティス・パサー》がこれをやっている。しかも目的は不明。正体も不明。これはかなり大きな山になりそうだな」

 

そう言いながらおれはもう一度写真を確認する。その形はどこかで見たことがある。しかし現段階ではそれが何を表しているのかはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「菜緒さん。たぶんこれは暴走による力の上昇でしょうね」

 

あの話のあとおれと菜緒さん以外は手掛かりを探すため外に聞き込みに行った。おれと菜緒さんは残って話をしていた。話はもちろんあの落書きについてだ。

 

「《マテリアルD》の適応がかなり良かったんじゃないですか?」

 

「そうだな。力のコントロールも出来始めている。かなりの量投与されているのだろう」

 

「どうします?というか菜緒さん。これをやっている《メティス・パサー》に覚えがあるんじゃないですか?」

 

おれがそう切り出すと菜緒さんはフッと笑いそして言った。

 

「真、お前こそわかってるんだろう?」

 

その質問におれの顔が一瞬強張る。その一瞬も菜緒さんは見逃さない。

 

「真。お前は去年のとある話を私に話してないだろ?あの鬼の風紀委員と呼ばれる沙織が門限を破ってしかもお前に連れられて帰ってきたあの日の話だ。そろそろすべきじゃないのか?」

 

「……聞かないなと思っていたんですけどまさかここで聞いてくるとは思ってなかったですよ」

 

流石にここまで追い詰められてしまったら諦めるしかないだろう。

 

「おれがよく昼寝をしているところを知ってますよね?」

 

「ああ。あの建設中のビルがいくつかあるところだろ?そこがどうした?」

 

「そこ一角が破壊されていることを知っていますか?」

 

「なんだと!?」

 

菜緒さんが眼を見開く。まぁ隠していたことだし知らなくて当然か。

 

「そこ一角を破壊したのは、淡島エリ先輩ですよ」

 

「淡島エリだと?しかし彼女のメティス《ルミエール》は指先に光を灯すだけの……いや光か」

 

「ええ。光です」

 

菜緒さんもわかったらしい。そしてその答えは正しいだろう。

 

「沙織先輩と淡島先輩の二人がよくあの場所で《メティス》の訓練をしていたのは知っていました。でもあの日、淡島先輩は普段とは違っていました。声を荒げ沙織先輩のことを侮辱しました。そしてこうも言ったのです『私は力を手に入れた』と。淡島先輩が使ったメティスネームは違っていたんですよ」

 

「メティスネームが変化していたのか?」

 

菜緒さんがさらに目を見開く。この意味を研究者である菜緒さんはよく理解している。

 

「ええ。ただそれは淡島先輩だけではなかったんです」

 

「なんだと!?」

 

菜緒さんが大声を上げる。淡島先輩に起きた変化。それは《マテリアルD》による《メティス》の変化であり、それは実験の中でもたびたび起こっていた。しかし沙織先輩は《マテリアルD》を使っていない。しかし《メティス》は変化した。その意味は淡島先輩に起きた変化以上に稀有なものであり、そして《メティス》の完成体と言われるもの。

 

「それは間違いないのか?」

 

「ええ。沙織先輩のメティスの変化は()()()()でしょうね」

 

「それで?どうなったんだ?」

 

「沙織先輩のメティス……《ぺルセポネ》は淡島先輩のメティス……《ポスポロス》を呑み込みました。沙織先輩のメティスはブラックホールのようにすべてを呑み込んでしまうほどでした……しかし《ぺルセポネ》が淡島先輩に触れた瞬間。沙織先輩も淡島先輩も苦しみ始めました。自分が割って入ったのはその時です。《ゼロ》を使い二人のメティスを無効化し割って入りました。すると淡島先輩の身体はフッとそこに存在しなかったように消えてしまったんです。沙織先輩はその場で気を失って倒れてしまいました。とりあえず外傷がないかを確認して起きるまで待ってたんですけど……起きなかったので連れて帰ってきました。これがあの日あったことです」

 

「なるほどな……それでその後は?」

 

「沙織先輩には一応状況を説明して覚えていることなんかはないと聞いたんですけど、覚えてはいないらしいです……たぶん嘘ですけどね。あと《セカンド》はあの後使えたことはないそうです。というかあの日以降《アンブラ》すら普通に扱えなくなったみたいです」

 

「やはりお嬢様と同じか」

 

「ええ。《セカンド》はたぶん《メティス》の発動にとても大きな影響を与えてしますものなのでしょうね」

 

「……今回の件は淡島エリの仕業ということか?」

 

「おそらく。ただどこにいるかはわかりません。おれが見た淡島先輩の幻影のようなものはたぶん遠隔的に作り出せるものでしょう。だから今回もそれを使ってるのではないかと考えています」

 

「覚知範囲がわかれば色々と可能性が絞られるんだが……それもわからないほどの力か。我ながらなんてものを作ってしまったのやら」

 

奈緒さんが自嘲気味に笑う。ただ今はそれを振り返って後悔するのは時間の無駄だ。

 

「奈緒さん。どこか怪しげな場所知らないですか?一目に付きにくく尚且つ実験が出来るような広さがあるところです」

 

「それがわかっていれば困りはしないのだが……「奈緒さん誰か来ます」なに?」

 

廊下からこちらに近づいてくる気配を感じたおれは会話を中断する。そして警戒しながらもその気配に気を配る。気配は部室の扉の前で止まりコンコンとノックをした。

 

「どうぞ」

 

おれはそのノックに返事をし警戒をさらに強める。ガチャというドアの開く音とともに入ってきたのは澄ノ江学園の制服を着た女生徒2人だった。

 

「あのすみません。ここは《アルゴノート》の部室でしょうか?」

 

1人の女生徒がおれたちに尋ねる。おれは笑顔を作りそれに答える。

 

「ええ。そうですよ。ご依頼ですか?」

 

「あっはい」

 

「そうですか。ではこちらに座ってください。今お茶をお入れしますね」

 

おれは2人を部室に招き入れ、椅子に座らせる。奈緒さんはこの2人と机を挟んで対面に座った。

 

「悪いが今は私たち以外は全員でてしまっているんだ。ただ依頼ということなら私たちが聞こう」

 

奈緒さんがそう切り出すといままで口を閉じていた方の女生徒が口を開いた。

 

「あの、私《メティスパサー》なんですけどメティスの能力は遠くのものを見ることができるっていうものなんです。それでこの間どのくらいまで遠くを見ることができるのか海辺で挑戦してみようっと思って………そしたら廃墟ビルの中に人が見えたんですよ」

 

その言葉におれも奈緒さんも一瞬硬直してしまった。答えとは時にとてつもないタイミングでやってくるのである。




いかがだったでしょうか?

登場しましたね淡島エリ。さて物語はゆっくりと終わりに向かいます。まぁまだまだ時間はかかると思いますが……ゆっくり進んでいければいいなぁ

今回は琴羽出てないですし次は出したいです。というか出します。

では今回はこのあたりで……また次回会いましょう

今回も感想、評価、批評募集していますのでよろしければお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。