川なんとかさんルートを妄想してみた。 (ハーミット紫)
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1

初投稿です。
誤字や脱字があれば教えてくれると助かります。


今日もベストプレイスでパンを齧る。

人とは居場所を求めるものだ。リア充でもボッチでもそれは変わらない。

居場所とは個人によって様々な見出し方をされるものだ。俺のように特定の場所に求めるもの。人間関係の中に求めるもの。

個人によってそれらは様々な物に見出される。

如何様な者でもそれは変わらない。

結論、便所飯は悪くない。

まぁ、したことはないんだが…

 

「比企谷。こんなとこにいたのか?」

 

なんて意味の無い思考に没頭していると声が掛かった。

 

「葉山か…」

 

声を掛けてきたのは同じクラスのトップカーストに属するリア充オブザリア充の葉山隼人だった。

 

「昼飯を一緒にどうだろうって声を掛けようと思ってたんだが、昼休みになるとすぐに姿が見えなくなったから探してたんだ」

 

そんなリア充が何故俺を態々探してまで昼飯を一緒にしようとするには理由がある。

入学式の日、俺は事故にあっている。その相手が葉山の父だった。

入学式に参加する息子を車で送迎している差中に飛び出してきた俺と接触事故を起こしてしまったのだ。

そんな経緯のせいか葉山隼人は退院し、遅れてクラスに参加することになった俺を何かと気に掛けた。

 

「そうか…けどもうこれで俺の昼飯は終わりだ。悪いな」

 

そういってあと半分程になったパンを葉山に見せる。

 

「それなら仕方ないな。また誘うことにするよ」

 

そういって葉山は俺の横に腰掛けた。

え?何これ…葉山が帰る流れじゃないの?っべー!マジっべーわ。フラグ立っちゃてるわー

海老名さんが喜んじゃう展開ですね。わかります。…いや、ねーけどさ…

 

「いや、なんでそこ座るんだよ。教室戻んねーの」

 

「たまには良いじゃないか。こうして誰かといるのも悪くないと思うぞ」

 

一理ある。しかし、それは相手による。

今隣にいるのが小町なら何の問題も無いのだが、今隣にいるのはただのクラスメイトの…正直に言ってしまえば苦手な部類に入る人種だ。

 

「いや、相手によるだろ…」

 

「ははっ、相変わらず比企谷は歯に衣着せないな」

 

「そりゃそうだ。そういうのは仲良い相手とか、仲良くなりたい相手にするもんだ」

 

不躾な物言いで対応するが、葉山は怒る訳でも無くただ笑う。

 

「前から言ってるが、事故のことなら気にするな。

あの事故が無くても俺はボッチになったさ。だからお前が気に掛ける必要は無い。正直にいうなら迷惑だ」

 

「そうか…けど俺も前から言ってるだろう。

それが無くても比企谷とは仲良くしたいってさ」

 

まったく、何がどう琴線に触れればこんなボッチに興味を持つのだろうか?

リア充の考えることはわからん。少し仲良くなって弄って遊びたいのなら大いに納得出来るのだが、どうも葉山が俺に構うのはそういったものとは違う気がする。

だからこそ余計に気味が悪くて警戒心が解けないんですがね。

 

「そうか…」

 

「あぁ、そうなんだ」

 

煩わしい時間だが、それにも限界がある。

葉山はリア充だ。つまり、俺にだけ構っている訳には行かないとういことだ。

 

「あー!ハヤトこんなとこにいたし!」

 

「優美子…」

 

「今日の放課後遊びにいくじゃん。それの話したかったんだけど気が付いたらハヤトいないしさー

マジ探したんだけど、ヒキオと一緒にいたんだ」

 

そういって声を掛けて来たのは同じクラスの三浦優美子だった。

葉山とはまったく違うタイプだが、トップカーストに属する人間だ。

 

「つーわけでヒキオ。ハヤトはあーしらと話があるから返してもらうよ」

 

「好きにしてくれ。」

 

俺も好きでいるわけじゃない。

なんて余計な口を聞いていれば休み時間の終了まで説教されるに違いない。というかされた。

同じ年に説教せれるなんて新鮮だと思ったのも一瞬でそれはすぐに失われた。なんつーか三浦の説教はどこかかーちゃん臭い。

そのせいで新鮮味など感じることはもう無く、ただ嵐が過ぎ去るのを待つだけだった。

 

「比企谷。すまないが、そういうわけだから先に戻るよ」

 

こうして俺、比企谷八幡は束の間の静寂を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2

放課後のチャイムが鳴り響く。

今日も無事に一日を終えたと帰路に付く準備をする。

葉山は三浦と出掛けるようなので、態々こちらにまで声を掛けに来ることは無いだろう。

しかしそれでも一人で帰路に付けることは少ない。

俺に声を掛ける物好きは、このクラスにはもう一人いるからだ。

 

「行くよ」

 

声を掛けて来たのは川崎沙希だった。

川崎沙希と一緒に帰路に着くようになったのも、葉山家との事故がきっかけだ。

俺が車道に飛び出したのが端的に言ってしまえば川崎が原因だからだ。

といっても信号待ちする川崎に突っ込みそうになる車が見えた俺が、慌てて警告しよとしたその瞬間に葉山家の車と接触事故を起こした訳だ。

なお川崎は俺の警告が無くとも突っ込んでくる車には気付いていたようで問題無く避難していたそうだ。

つまり間抜けが一人いたわけだ。

そんな間抜けは放っておけば良いものだが、元から世話焼きな性格なのだろう。

高校二年生になった今もこうして交流がある。

 

「いや、俺今日は家がアレだから…」

 

「はぁ、またそんなこといってんの。なんなら小町に電話で確認してもいいんだけど」

 

事故から約一年以上たった今もこの関係が続いているのには、妹の小町と川崎の弟が同級生だったので俺の得意の断り文句が通じないのも一つの要因だろう。

 

「…わかったよ。で、どこに行くの」

 

「けーちゃんの迎えだよ。夕飯の材料は大志と小町が買ってくるから私達は迎えだけで良い」

 

けーちゃんとは川崎の妹だ。幼稚園児なため送り迎えが必要だ。

そもそも何故俺がこんなことをしなくちゃいけないのか。これには恐ろしくも重なりに重なった偶然のせいだ。

まず事故で顔見知りとなった川崎が同じ高校に通っていた。

弟の大志と一緒に川崎が見舞いに来た際に小町が偶然その場におり、そこで小町と大志が同じ塾だということが判明。

さらに後日菓子折りをもって来た川崎両親と対面した際に内の両親と知り合いだと判明。

その他色々な要因が重なり家族同士の交流(強制)が始まった。

俺と川崎の両親は共に共働きでなかなかに忙しい立場だ。そのため小さい子の面倒を長女に任せることが多かった川崎両親にうちの両親が俺を使ってと持ち掛けたのだ。

本来なら断るところだが、晩飯を川崎家で週の半分は食べることになる身としては嫌々ながら引き受けることになった。

 

「わかった。じゃ、行くか」

 

「うん」

 

2人揃って教室を出る。

下駄箱まで特に会話も無く歩みを進める。俺はこんなだし、川崎も口が達者なほうではない。

2人の間に沈黙が降りる。だが気まずいと言うことも無い。川崎といる時間は気が楽だ。距離感とういうかそういった物が丁度良いからだろう。

もしかしらあっちがこっちに興味無いだけかもしれないですけどね。フヒッ

 

「じゃあ、俺自転車取って来るから」

 

「はぁ?別に一緒に行けばいいじゃん。時間が変わる訳じゃないんだから」

 

何いってんのコイツと川崎の目が訴えていた。

言い返す言葉も無く渋々ながら駐輪場に2人で足を向けた。

俺なりに気を使ったつもりだったのだが不要だったようだ。

川崎はこいうった気を回されるのも。回すのも嫌う。短い付き合いだが解って来た川崎の性格の一つだ。

不器用なやつだ。まぁ、俺が言えたことじゃ無いんですがね。

 

「…行くか」

 

そう言って差し出した手を不思議そうに川崎は見つめる。

 

「何?」

 

「…カバン持ってやるよ。籠に入れて行った方が楽だろう」

 

「そう…じゃあ頼むよ」

 

川崎の荷物を籠に入れ、川崎妹が待つ幼稚園に足を向けた。

川崎の妹が預けられている幼稚園は当然ながら川崎の帰路の途中にある。

幼稚園なんてお受験を意識していない限り、預ける側の便が良い場所に預けるものだろう。詳しく知らねーけど

しかし実際に帰路の途中にある幼稚園に預けているのだから、あながち的外れな推論という訳でも無いだろう。

道中、特にこれといった会話も無い時間が過ぎる。

だからと言っても変な気まずさは感じない。しかし会話が無いのだから自然と考え事をしてしまうのも当然の流れだろう。

 

「こら、幼稚園を通り過ぎてる。しっかりしなよ」

 

だからこんな事になっても仕方ない。

首根っこ掴まれて静止せざるを得ない俺を、後ろから呆れたと川崎の目が告げていた。

 

「…悪かったな。

ここで待ってるから迎えに行ってやれよ」

 

「…先に帰るんじゃないよ」

 

「帰るわけねぇだろ。

一人で帰ったら飯食えないだろ」

 

今夜も川崎家で晩飯をご馳走になる予定だ。

このまま川崎に付き合えば何もせずとも夕飯にあり付けるのに、態々家に帰ってそこまで上手く無い飯を作るなんて無駄な事はしない。

 

「はぁ…あんたは…

まぁいいよ。じゃあ行って来るから」

 

「おう」

 

一言返しながら幼稚園に入って行く川崎を見送る。

すると笑みを浮かべ会釈をし、園の先生と話をしている川崎が目に入る。

誰だよあれ?…あぁ、川崎じゃん!…ッべー普段お目にかかる事が無い面に間の当たったから一瞬誰かわかんなかったわー

見るからに社交的なお姉さんって感じで危うく惚れちゃう所だったわー。俺じゃなきゃ危なかったぜ。

なんて本人に言えば確実に怒られる内容を考えていると川崎が妹をおんぶしながら戻って来た。

いつも通りの仏頂面で俺を見ている。さっき先生に見せた愛想少しで良いんでこっちに向けてくれませんかね。

まぁ、川崎は怒っている訳でも無いし、気にする必要は無い。それに俺はこんな川崎の方が好感が持てる。

 

「寝てるな…」

 

「うん、昨日は寝るのが遅くなったのもあるし今日は園でお散歩に行った見たい。

さっきまでは起きてたみたいなんだけど、待ち切れなくて寝ちゃったみたい」

 

そういって妹に視線を向けた川崎は柔らかく笑った。

シスコンめ…まぁ妹を愛でることに関してなら俺も負けちゃいないんですがね!

 

「変わるか?」

 

「いや、いいよ。

けーちゃん軽いし、家までなら平気だよ。たまにこうやって背負って帰ってたしね。ありがとう」

 

「…おう」

 

身内の前だと途端に良い女になるなこいつ。

なんて本人には絶対に言わない事を考えながら三人で帰路に付いた。

その後、何事も無く川崎家に到着した俺達を賑やかな足音が出迎える。

 

「「ただいま」」

 

「お帰りなさい!お兄ちゃんに沙希さん!それにけーちゃんもって…

ありゃりゃ眠ってるね。お兄ちゃん!静かにしないと!」

 

うるさいのはお前だとデコに軽く手刀を落とし、川崎家にお邪魔する。

川崎はそんな俺たちを気にした感じも無く奥の部屋に向かっていく。けーちゃんを寝かせにいったのだろう。

俺は後を追うこともなくリビングに足を進め。我が家のようにテレビ前のソファーに腰を落とした。

この関係も一年を超える。互いに遠慮などもう無くなっている。さすがに川崎家の両親がいる時は気にはするが、今は不在だ。

適当にチャンネルを回すとアニメの再放送があったのでそれをボーと見る。

 

「またアニメ見てる…」

 

制服にエプロンを付けた小町がソファー越しにこちらに声を掛けた。

 

「別にいいだろう。この時間なんてどこもニュースばっかでお前もそっち見たい訳じゃないだろう。

なら好きにさせてくれ」

 

「小町は今から夕御飯の準備があるからごみにーちゃんとは違って忙しいんですー

こんな兄のために好物を晩御飯にしてあげるなんて小町的にポイント高い!」

 

「はいはい、高い高い」

 

そんないつものやり取りをしていると言葉も無く川崎沙希がやって来た。

制服から普段着に着替えている。台所に向かわないのだから今日は小町に完全に任せるのだろう。

そのまま俺が腰掛けている隣に腰を落とした。

 

「ふふん、いいですなーいいですなー

小町、馬に蹴られたくないからご飯作ってくる!」

 

「なんとかしなよあれ、あんたの妹でしょう」

 

「小町は可愛いからあれで良いんだよ」

 

「…シスコン」

 

「うっせブラコン」

 

いつもの日常。けど他人がいて、今までとは違った日々。

けれども不思議と居心地は良かった。

 

 



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3

ふいに肩に重さを感じた。

川崎がもたれ掛かっている。今日は小町に夕飯を任せたってことは疲れていたのかもしれない。

昨今の子供社会にはお弁当格差なるものが存在するそうだ。

キャラ弁。それによって優劣が生まれ、酷い時はイジメにまで発展する事がある。故に川崎家の長女さんはかなり気を使って朝から弁当を用意しているそうだ。

人気キャラ適当に詰め込んだら良いんじゃねーの?と聞いたことがる。それなら楽なんだけどねとは川崎の弁である。

なんでもリーダー格のママさんとなるべく被らず、被ったとしても相手よりクオリティーは低く。しかし低すぎずを維持するのが大事らしい。

そして一番大事なのが園児達にウケ過ぎないことだ。例えクオリティーが低かろうが人気アニメのサブキャラクターだろうが園児達にウケると不味い。まずそれを良く思わない園児がいる。当然ながら自分以外のキャラ弁が評価されたママさんも面白くは無いだろう。

なんと恐ろしい社会だろう。八幡怖い。専業主夫の夢の暗雲が立ち込めてんじゃん。

まぁ、仮に子供が出来たとしても家で面倒見れば問題無いから大丈夫だろ。たぶん

 

「うわ、お兄さん、目が尋常じゃ無いくらい腐ってるっす!」

 

「ほっとけ。あとお兄さん言うな川崎弟」

 

「なら良い加減大志って読んで欲しいっす」

 

「そのうちな」

 

「もうかれこれ一年そういってるっすよ」

 

「…ほらおまえの姉ちゃん寝てるんだから静かにしてろ。なんなら風呂掃除でもしてこい」

 

川崎家の長男で川崎の弟。川崎大志が俺と川崎が陣取るソファーの左手のソファーに腰掛け、話掛けてくる。

小町と同学年でどうやら小町に気があるようだ。なので割と扱いは良くないのだが、どうも懐かれているようでよく話にくる。

それともコミュ力高い奴ってみんなこうなの?可笑しい。なら何故俺はぼっちなんだ…

やはり川崎弟が気安過ぎるだけだな。

 

「なんか今、物凄く失礼なこと考えてませんでした?」

 

「考えてねーよ。ほら働け働け!働かざるもの食うべからずだぞ」

 

「姉ちゃんは良いとして、お兄さんは働いて無いじゃないっすか」

 

「ばっかおまえ、めっちゃ労働してるよ。絶賛おまえの姉ちゃんの枕として労働中じゃん。

見て分かんねーの?」

 

「…はぁ。まぁいいっす。姉ちゃんも気持ち良さそうに寝てますし、邪魔ものは馬に蹴られる前に退散するっす」

 

そう一方的に告げて川崎弟はリビングから離れていった。

 

「小町と一緒のこといってんじゃねーよ」

 

その返答には誰も答えなかった。

左肩に掛かる重みに目を向ける。静かな寝息を立てて寝ている。

どうも小町と川崎弟は俺と川崎姉をくっつけたいようだが…

 

「俺とくっつくなんて嫌だろうこいつも」

 

川崎はキツい印象を受ける顔立ちだ。

そのうえ、それを取り繕うことをしないのでクラスでも浮いてるボッチだ。

しかしキツめの印象を受ける顔立ちは整っていて美人と評しても遜色は無いだろう。

…そんで出るところも出て引っ込むべきとこは引っ込んでるし、振る舞いを変えればさぞおモテになるだろう。

俺も目が腐って無ければ整った顔立ちをしていると自覚してはいる。小町以外に言われたことねーけど…

しかし釣り合いは取れないだろう。

そんな事を考えながら再放送のアニメに視線を戻した。

けど…もしもだ。もしもこいつと付き合うことになれば…いや、やめておこう。詮無いことだ。

 

「…んぅ…寝てたみたい」

 

眠りが浅かったのだろう。川﨑が目を覚ます。

 

「疲れてるんだろう飯は小町が作ってるしゆっくりしとけばいいさ」

 

あれで要領が良い奴だ。

さっきの発言から夕食が出来るまではこちらに声を掛けには来ないだろう。

 

「そう…ならお言葉に甘えさしてもらうよ」

 

そういって川崎はまた俺の肩にもたれ掛かり、寝息を立て始めた。

 

「はぁ…俺じゃなきゃ勘違いしてるぞ…」

 

パーソナルスペースというものがある。

簡単に言ってしまえば縄張りみたいなもんだが、川崎は身内に対してはこれを取っ払っている。

喜べば良いのか判断に迷うが、どうやら俺もその身内としてカテゴライズされているようだ。

時折反応に困ることがあるが、まぁ役得として甘んじておこう。

高校に入ってから劇的に変化した日常。けれど居心地の良さは感じている。

こんな日が続けば良いと思いながら、いずれ来る終わりも理解していた。

窓から差し込む夕陽が感傷を沸き立たせる。比企谷家と川崎家の日常が変化したようにこの日常もいずれ変化を向かえ、きっと終わりが来る。

そう思うと少し寂しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラ弁の下りはでっち上げです。
多分そこまで酷いもんじゃ無いと思います。


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4

もっと早く投稿出来れば良かったのですが、予定していたよりも遅れました。
次話はもう少し早く投稿するつもりです

今回の話は事故後の、八幡初登校の話です。


入院生活から開放され、次は学校に生活に縛られることになる。

気怠い。その一言に尽きる。入学式から一ヶ月近く経った現在では既にクラス内でグループが出来ているだろう。

まぁだからといって気にしてはいない。入学式に参加していようがどうせボッチだっただろう。

しかし気怠さは感じる。

小町が作った朝食をゆっくり食べながらそんなことを考える。

あー、学校行きたくねぇー。まぁ、大義名分が消えたいまとなっては休むことは許されない。主に両親に。

仕方の無いことだとはいえ、現在1年生の留年候補断トツ1位なのだ。俺も留年をしたくは無い。

そろそろ準備するかと席を立つとインターホンが鳴る。誰だこんな朝っぱらから、迷惑なやつだな。

まぁ、俺には関係無いと思い自室に向かう。

退院したとはいえ、まだギプスはとれていない。準備にも少しばかり手間がいるのが難点だ。

 

「お兄ちゃーん!沙希さん来てるよー」

 

は?いや、なんでだ。聞いてないけど…

しかし、呼ばれたのだから顔を出さない訳には行かない。

 

玄関に行くと確かに川﨑沙希が立っていた。

真新しい制服に身を包み、確かに彼女が同じ高校なのだと確認させられる。

 

「今日から学校に行くって聞いたから…迎えにきた」

 

何この娘。俺のこと好きなの?

…いや、無いか。

なんてことはない。つまるところ川﨑沙希は義務感に突き動かされているのだ。

川﨑は何一つ悪くはない。しかしきっかけではある。あの場に川﨑がいなければ俺は事故に合わなかったかもしれない。

なんてくだらないことを考えているのかもしれない。

 

「あー…なんだ。その、別にいいぞ。ギプスは付いてるが1人で通えない訳じゃない。

そもそもあんたが悪いわけじゃない。仮にあの場に川﨑がいなくて事故にあってなくても、別の場所で飛び出した犬を助けて事故ってたかもしれない訳だし…本当に大丈夫だから」

 

つか、同年代の女子と登校とか無理。

ほら、噂とかされると恥ずかしいし…

 

「……いや、それもあるけど、それだけじゃないから。

小町から聞いてないの?」

 

「あ?何をだよ」

 

そういって小町のほうを見る。

 

「あっ、そういえば言って無かった。

お兄ちゃん、今日はパパもママも仕事で遅くなります」

 

「いや、別にそんなこと聞いてない。

川﨑が言ったことについて聞いたんだが…」

 

「これだからゴミいちゃんは…話は最後まで聞くこと!

コホン…そして沙希さんのパパとママも仕事で遅くなるそうです。

お兄ちゃんには言って無かったけど、お兄ちゃんが入院中も何回かあったんだよこんな日が。

そんな日、小町は川﨑家で夕飯を御呼ばれしていたのです!

つまり、どういうことかというと…お兄ちゃんも今日は川﨑家で夕飯は御呼ばれすることになりました!」

 

え?何それ聞いてない。

そんなことになってんの比企谷家の晩御飯事情。

 

「……ひとまず、それを聞いてないのは良い。よかないが、とりあえず一旦置いておく。

迎えの理由を聞いてるんだぞ。それなら放課後合流で良いじゃん」

 

「分かってないなお兄ちゃんは…

川﨑家は比企谷家と総武高校の途中にあります。なので登校中に説明しておくことによって、放課後にお兄ちゃんが1人でも川﨑家に迷わず辿り着けるのです!」

 

「その手じゃ荷物持つのも大変だよ。ついでに手伝うよ」

 

確かにその通りだ。

初日という事もあって、中々に荷物は嵩張ってしまう。

道中、小町にでも手伝ってもらうともりでいたが小町の通う中学校から総武高校まではそれなりに離れているので、その間を1人で行くのは結構な労力を要するだろう。

 

「という訳で!

今日は3人で登校でーす。ほらお兄ちゃん、早く準備して!」

 

結局、押し切られる形で俺は川﨑と登校することになった。

 

「乗せる?」

 

なん…だと?

川﨑は自転車の荷台をさしてそういった。

 

「荷物乗せなよ。楽だよ」

 

だよな!荷物だろ?し、知ってたし。

断じて荷台に乗せて貰って、リア充の真似事するだなんて勘違いしてないから!

 

「…そうか、頼むわ。

助かる」

 

「いいよ。別に、対した手間じゃないし」

 

徒歩でも30分くらいで付く筈だ。そこまで辛い道程でも無い筈だ。

小町が騒いでいたが、中学校で別れてからは特に話すこともなく静かなものだ。

そういえば俺と川﨑は同学年だが、クラスはどうなのだろう。

 

「あー、そういえば俺たちって同じクラス?」

 

「そうだよ。同じ1年F組。担任は…名前言ってもわかんないよね。

女の先生だよ」

 

確か一度見舞い来たな。その女の先生。名前は…なんだったか。忘れた。

学校に行けば嫌でもわかるのだから気にすることは無いか。

 

「そうか、ならあとでノート見せてくれね?

遅れた分をなんとかしないとな」

 

「いいよ。けど放課後ね。

私もちゃんと授業受けないといけないからね」

 

「そうだな。なら放課後に頼む」

 

あれ、ひょっとして普通の会話できちゃってるんじゃね?

俺が口を開けば、何故か周囲が静かになることが多かったが現在そんな様子はない。

…まぁ、気のせいだろ。

学校に到着し、一旦職員室に向かう。

川﨑も何故かついて来てくれる。担任の先生と必要なやりとりをした後、川﨑に連れられ教室に向かう。

教室に入ると普段見ない顔なのと、ギプスが目立つのか少し注目を浴びた。

だからと言ってなにをするわけではないのだが…黙って川﨑から聞いた自分の席につこうとしたらこちらに向く視線の中に知った顔を見つけた。

葉山隼人。どうやら同じクラスなようだ。目があったのに気付いたのか笑顔でこちらに近づいて来る。

 

「やぁ、今日から学校なんだな」

 

「お、おう」

 

フレンドリーだな。別に恨んじゃいないが、一応被害者とその加害者家族だ。

気さくに声をかけるなんて真似は俺には出来ない。

 

「近々復帰すると来ていたから気になっていたんだ。

困ったことがあれば何でも言ってくれ。力になるよ」

 

「そうか、まぁそんときは頼むわ」

 

多分頼まないけどな。たかだか骨折だ。

しかも利き腕ではない方だし、退院できるレベルまで回復したのだから不便を感じることがあっても1人でなんとか出来るだろう。

これはいわゆる通過儀礼だ。曲がりなりにも被害者と加害者家族が同じクラスになったのだ。このやりとりは葉山にも俺にも必要なものなのだろう。

 

「あぁ、これからよろしく」

 

そういって爽やかに葉山隼人は笑った。

多分、いやきっとこれからこいつに助けてもらうことはないだろう。葉山の後ろで葉山のグループらしき集団がこちらの様子を伺っている。

葉山と関わるということはあのグループもセットになる可能性が高い。

非常に面倒だ。勘弁願いたい。それなり容姿の整った男女のグループ。もうそれだけで俺とは水と油の関係にある。

差し出された葉山の手に応え、願わくばこれっきりになるように願いながら握手を交わす。

去っていく葉山を視界の端に収めながら、休みの代償にさっそくやる気が削がれる。まぁ、やる気なんてもとから無いんですがね。

 

「はい、これ」

 

「ん?」

 

そう言って机に置かれたのは数冊のノートだ。

声をかけて来た相手を確認すると、川﨑だった。

 

「放課後じゃ無かったのか。ノート貸してくれんの」

 

「それ今日は授業無い教科のノートだから。

途中から授業聞いてもわかんないでしょ。内職してたほうが効率いいと思って」

 

内職。

つまり、途中参加でわからない授業を聞くぐらいならノートを写しておけということなのだろう。

 

「おう、助かる」

 

本当に助かるので、素直に礼を言っておく。

 

「じゃあ、これで…

そうだ。後で学校案内してあげようか?」

 

「いや、べつにい……」

 

反射的に断ろうとしたところで少し考える。

ここで断ってしまうのは楽だ。自分1人でも学校施設の把握ぐらい簡単に出来るだろう。

しかし、ここで頭を過ぎったのは葉山隼人も同じ提案をしてくるのでは無いだろうかというものだ。

俺は押しに弱い自覚はある。対人スキルが乏しいから当たり前なのだが、兎に角押しには弱い。

一度断ってもグイグイ来られると、なし崩しで事を運ばれてしまう。

今朝のが良い例だ。いっそのこと川﨑に頼ったほうが無難ではないだろうか。

いや、むしろ最善だろう。葉山には完璧な断る口実ができるうえに、自信が割く労力も激減する。

朝の感じからして必要以上に話をしないタイプに見えたことも要因して、俺は川﨑を頼ることにした。

 

「じゃあ、頼むわ。悪いな」

 

「わかった。じゃあ昼休みに購買と…必要最低限なとこだけしとこうか。

他はおいおいわかるでしょ」

 

用件は伝えた川﨑は席に戻っていく。

まぁ、なんだ。その…川﨑さん最高じゃん!

こういうのって無駄にどうせ行くことになる移動教室とか、部活やってないと必要ない場所まで案内されるものだと思ってたけど川﨑の言うとおりなら手早く済みそうだ。

正直助かる。飯の食う場所も確保しなきゃならないから大助かりじゃん。

少し遠くの席に向かう川﨑の後ろ姿を見ながら、俺は彼女に感謝していた。

そういえば誰かに助けて貰うのって始めてかもしれない。うっ、目から汗が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本来なら4話で雪ノ下さんに登場してもらう予定でしたが、あまり川﨑さんの出番が無い話なので先に過去の2人の様子を投稿しました。


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5

ほぼ原作の流れです。
なので一週間以内投稿出来ました。ぶっちゃけ最後のところがしたかっただけです。


放課後。

俺のクラスの国語を受け持つ平塚先生に呼び出され、以前課題で提出した覚えのある作文を聞かされた。

 

「なぁ比企谷。私が授業で出した課題は何だったかな?」

 

そういって先程声に出して読んでいた原稿用紙を見せる。

あれはつい先日、授業の中で出された『高校生活を振り返って』を書いた原稿用紙だ。

 

「『高校生活を振り返って』というテーマの作文でしたね」

 

「そうだな。それでなぜ君は犯行声明を書き上げているんだ?バカなのか?」

 

平塚先生は気怠げに足を組み変え、ため息をついた。

しかし、自分の書いたものを他人に読まれると気恥ずかしく感じるものだ。文章力の無さがさらにパンチを効かしている。

 

「君はアレだな。死んだ魚のような目をしているな」

 

「なんか賢そうに聞こえますね」

 

口角が釣り上がり、眉間に皺が寄る。勿論平塚先生のものがだ。

 

「比企谷。この舐め腐った作文は何だ?言い訳くらいは聞いてやる」

 

眼光が鋭くなる。美人がやると様になる。こういた表情は威圧的で圧倒されてしまう。

しかし、どこか覚えのある表情でもある。

川崎だ。あいつの前で失言するとこういった表情をする。

年季が違う分平塚先生の方が恐ろしいのだが…視線の鋭さが増した。何故だ。

 

「ちゃ、ちゃんと振り返ってますよ?最近の高校生は大体こんな感じじゃないですか!大体合ってますよ!」

 

「普通こういうものは自分のことを省みるものだ」

 

「だったらそう前置いて下さい。そうしたらそう書きます。先生の出題ミスですね」

 

「屁理屈を言うな小僧。…まぁ、アレだ。私も怒っているわけじゃない」

 

しまった。謝るタイミングを見逃した。

怒っているわけじゃないから始まる話は大抵長い。ソースは家の母親。

ようはガミガミでは無く、ネチネチ言われる訳だ。この場合前者よりも後者の方が長い上にダメージが酷い。

いっそガツンと怒ってくれた方が楽なのだ。

ネチネチ言いながら最後は結局怒るのだ、たまったもんじゃない。

 

「君は部活動に参加していなかったよな…?」

 

しかし、平塚先生は本当に怒ってはいないようだ。

タバコを咥え、火を付ける。そして真面目な顔でそう問うてきた。

 

「…はい」

 

「……友達はいるのか?」

 

友達いないだろうなこいつって奴にしか聞かない質問をされた。

 

「…平等を重んじる性質なので、特に親しい人間は作らないことにしてるんですよ俺は!」

 

「つまり、いないんだな」

 

「……まぁ、そうですね」

 

「そうか!居ないか!私の見たて通りだ。その腐った目を見ればそれぐらいすぐにわかったぞ!」

 

やっぱり居ない前提で聞かれてたじゃん。つか、目を見て分かっちゃたのかよ。どんな目をしてんだ俺は…そういえば腐ってましたね。

 

「…彼女とか、いるのか?」

 

そう質問され、何故か川崎の事が浮かんだがすぐに思考から外す。

 

「…友達居ない奴に彼女なんて居るわけないでしょう」

 

あくまで一般論だ。

自分も含めてしまうと俺に永遠に彼女が出来ない事になってしまう。

それは困る俺は専業主夫にして貰わなければいけないのだから。

 

「な、なんだ!その反応は?」

 

突然に、平塚先生が落ち着きが無くなる。

 

「大学時代に君みたいな反応をした奴がいたが、そいつが一番最初に結婚した!

くそ、余裕があるからそんな反応なんだろう!あぁ、どうして昔の私は素直に信じたのだろう。

友達が居ない生徒ですら当てがあるのにどうして私は結婚出来ないんだ…!」

 

そういって平塚先生は天井仰ぎ見る。

勝手に勘違いして地雷原に入ってしまったようだ。何と言うか居た堪れない。

…誰か…誰か早く、早く貰って上げて!

 

「よし、こうしよう。レポートは書き直せ」

 

これ以上は自身の傷を抉ると判断したのか、不自然な形で話が変わる。

本来それで呼び出されたので問題ない。無事に元の話に戻ってこれた。

今ならネチネチと説教をせれても素直に聞き入れれる気がする。

いや、本当に居た堪れなかったわ。

 

「だが、君の態度や言葉や態度で私の心は傷付いたことは確かだ。なので君には奉仕活動を命じる。罪には罰を与えんとな」

 

態度が二回出てきた気がする。

なに、大事なことだから2回言ったの?話を振ってきたのは先生の方なんですがねぇ。

 

「奉仕活動ってゴミ拾いかなにかですか?」

 

まぁ、確かに舐めた態度をとったことは事実だ。一回くらなら甘んじて受け止めよう。

 

「ついてきたまえ」

 

え、今からなの?急過ぎるだろ。

呆然と立ち尽くしていると着いて来ない俺を睨み付けた平塚先生はせかすように呟いた。

 

「おい、早くしろ」

 

怖えよ。あと怖い。

長い廊下を歩き特別等まで辿り着いた。どうやら目的地はここらしい。

大方荷物運びか何かだろう。肉体労働じゃないですか。ヤダー。

 

「着いたぞ」

 

開け放たれた扉の向こうには少女一人佇んでいた。

倉庫として使われているであろう教室に机が乱雑に積まれている。

その中で読書に耽る少女に、正直に言うと見惚れてしまった。

 

「平塚先生。入る時にはノックをと何度もお願いしたはずです」

 

端正な顔立ちの呆れたように声を上げた。

 

「ノックしても君は返事をしないじゃないか」

 

「返事する間もなく、先生が入ってくるんですよ」

 

まるでいつの遣り取りかのような会話の後、視線がこちらを向いた。

 

「それで、そちらの人は?」

 

冷たい視線が刺さる。

この少女は雪ノ下雪乃という。俺でも知ってるこの学校の有名人だ。

国際教養科の才女。テストと名のつくもので常に一位に鎮座する成績優秀者。

その上に容姿端麗と天が二物を与えた少女。

 

「彼は比企谷。入部希望者だ」

 

「二年F組の比企谷八幡です。ん?おい、入部ってなんだよ」

 

つか何部だよここ。部員さんもお一人様でいらっしゃいますけども…

ボッチ同士仲良くしろってことか?勘弁してくれ。

 

「君にはペナルティーとしてここでの部活動を命じる。口答えは一切認めないからな。

しばらく頭を冷やせ。反省しろ」

 

一方的に判決を下される。反論の余地を一切認めないと怒涛の勢いそう告げた。

 

「というわけで、見ればわかるが彼の眼は大層腐っている。あと根性もな。

そのせいでいつも孤独な憐れむべき存在だ」

 

やっぱり見れば分かっちゃうのかよ。

 

「人との付き合い方を学ばせてやれば少しはまともになるだろう。こいつをおいてやってくれるか。

彼の捻くれた孤独体質の更生が私の依頼だ」

 

先生は雪ノ下に俺に大変失礼な物言いで向き直る。

彼女は面倒くさそうに口を開いた。

 

「それなら先生が殴るなり蹴るなりして躾ければいいと思いますが」

 

こっちも大変失礼な奴だった。あと怖えよ。

この女子高生躾ければいいって言いましたよ!

 

「私だってそうしたいが最近は小うるさくてな。肉体への暴力は許されていないんだ」

 

なるほど、だからさっきから俺の精神は暴力に晒されているんですね。分かりたく無かったこんな現実…

 

「お断りします。そこの男の下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じます」

 

襟元を掻き合わせるようにしてこちらを睨み付ける雪ノ下。

そもそもお前の慎ましすぎる胸元なんか見てない。俺はもっと包容力のある方が好みだ。

一瞬視界に入って気を取られただけ、本当にそれだけだから。ほ、本当だよ!

 

「安心したまえ、雪ノ下。

その男のリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのもだ。

刑事罰に問われる真似だけは決してしない。彼の小悪党ぶりは信用できるものだ」

 

「何一つ褒められてねぇ…寧ろ貶されてるだろ。

リスクリターンの計算とか自己保身とかじゃなくて、常識的な判断ができるって言って欲しいんですが」

 

「小悪党…。なるほど…」

 

「聞いてない上に納得しちゃったよ」

 

「まぁ、先生からの依頼であれば無碍にはできませんし……承りました」

 

雪ノ下は心底嫌そうにそう言うと、先生は満足げに微笑む。

 

「そうか。なら、後のことは頼む」

 

そう言うと先生はさっさと帰ってしまった。

ぽつんと取り残される俺。

 

「そんなどころで何時迄もぼーっとしてないで座ったら?」

 

「お、おう」

 

言われるがまま俺は空いている椅子に腰かける。

雪ノ下に目を向けると文庫本を開いていた。

文庫カバーをしているので何を読んでいるかは分からないが、きっと見た目にあったものを読んでいるのだろう。

 

「何か?」

 

視線が気になったのだろう。眉根を寄せて、こちらを見返して来る。

 

「ああ、悪い。どうしたものかと思ってな」

 

「何が?」

 

「いや、わけわからん説明しかなくここへ連れて来られたからな」

 

すると雪ノ下は溜息を隠すことなく吐き、文庫本を勢いよく閉じた。

そして虫でも見るかのような目つきで俺を睨んだ後、言葉を発した。

 

「……そうね。ではゲームをしましょう」

 

「ゲーム?」

 

「そう。ここが何部か当てるゲーム。さて、ここは何部でしょう?」

 

「…他に部員はいないのか?」

 

「いないわ」

 

それってもう部活と呼べないんじゃないですかねぇ…。まぁ、一旦置いておこう。

逆に考えよう一人でも問題が無い部活動。

 

「文芸部か」

 

「へぇ…。その心は?」

 

試すように雪ノ下は俺が何故その答えに至った聞いてくる。

 

「特殊な機材を必要とせず、人数がいなくても廃部にならない。

つまり、部費なんて必要としない部活だ。加えて、あんたは本を読んでいた。答えは最初から示されていたのさ」

 

「はずれ」

 

馬鹿にした感じで笑われた。

 

「じゃあ何部なんだよ」

 

どうやら先ほどの不正解でゲームオーバーにはなっていないようで、ゲームは続行された。

成る程、どうやらこちらが負けを認めないと終わらないようだ。

 

「では、最大のヒント。私がこうしていることが活動内容よ」

 

ヒントになってねぇ…

それ答えを知ってる奴しか結びつかないヒントですよ雪ノ下さん。

しかし、それを言った所で結果は目に見えてる。素直に降参するとしよう。

 

「駄目だ。さっぱりわからん。降参だ」

 

「あなた、女子と話したのは何年ぶり?」

 

脈絡無く失礼な質問をされた。

答えは考え込むまでも無く、思い出せる。

あれはけーちゃんとプリキュアを見ていた時の事だ。俺が見たかったのでは無く、けーちゃんに付き合ったのだ。

確か昨日の夕食前のことだ。

 

「晩御飯できたよ。アニメは一旦辞めて先に食べるよ」

 

「はーい!」

 

「おう」

 

「え、何?目が真っ赤だけど…泣いてたの?

…まさかアニメ見てて泣いてた?うわぁ…」

 

川崎さん。アニメは日本の誇りですよ。

クールジャパンなんですよ。それを見て感動で涙を流すのは決して可笑しなことでは無いのです。

目紛るしく変わる価値観の中で、今だに昔のようにアニメは子供の見るものなんて発想するほうが間違っているのです。

今やアニメは一大産業。日本が国を挙げて推進して良いレベルなのだ。それなのに日本社会はアニメの価値を低いものとする。

やはり俺は間違っていない。社会が間違っている。

日本社会の在り方について疑問に思っていると、雪ノ下は高らかに宣言した。

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶわ。

困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

そう語りながら、雪ノ下は立ち上がっていた。自然と座っていた俺は見下ろされる形となる。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

この優等生は歓迎と言う意味を辞書で引き直したほうが良い。

これでは俺をへこましているだけだろ。しかし、さらに追い打ちが掛かった。

 

「優れた人間は憐れな者を救う義務があるわ。

頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたの問題を矯正してあげる。感謝なさい」

 

言わせておけばこのアマ…

随分好き勝手に言ってくれるじゃないか。

ここは言い返しておくべきだ。俺は憐れむべき人間では無いことを、言葉の限りを尽くして説明してやらねばなるまい。

 

「…俺はな、自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀なんだ!

実力テスト文系コース国語学年3位!顔だって良いほうだ。友達と彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだ!」

 

「致命的な欠陥が聞こえたのだけれど……そんなことを自信満々に言えるなんてある意味すごいわ…

変な人。もはや気持ち悪いわ」

 

「うるせ、お前に言われたくねぇよ。変な女」

 

俺が勝手にイメージしていた像とは酷くかけ離れている。

確かにクールで美人だが…そんなことをよそに雪ノ下は小馬鹿にしたように笑って話を続けた。

 

「ふうん、私が見たところによると、どうやらあなたが独りぼっちなのってその腐った根性や捻くれた感性が影響しているようね。

まず居た堪れない立場の貴方に居場所を作ってあげましょう」

 

「必要ねぇよ。今までも1人でやってきたんだ。これからだって問題はない」

 

雪ノ下は溜め息をつき、こめかみに手を当てていた。

 

「あなた、馬鹿なの?

だいたいさっきから聞いていれば、成績だの顔だの表層的な部分に自信を持っているところが気に入らないわ。あと、その腐った目も」

 

「目のことはいいだろう…」

 

「そうね、今さら言ってもどうしようもないものね」

 

怒涛の攻めに頬が引き攣るのが分かった。

それに気付いたのか雪ノ下は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「ごめんなさい。ひどいことを言ってしまったわ。辛いのはきっとご両親でしょうに…」

 

「もういい、おれが悪かった。いや、俺の顔が悪かった」

 

もはや抵抗は無駄だろう。

 

「さて、これで人との会話シミュレーションは完了ね。

私のような女の子と会話できたのなら、大抵の人間と会話できるはずよ」

 

雪ノ下は達成感み満ちた表情でそう告げた。

 

「これからはこの素敵な思い出を胸に「あ、こんなところにいた。探したよ」

 

雪ノ下の言葉はガラガラと遠慮なく扉を開けた者によって遮られる。

川崎だ。後ろには平塚先生もいる。

 

「いつまでやってんの。

今日は約束があるんだから一緒に帰ろうって言ったでしょ。ほら、早く行くよ!

先生ももういいですよね。比企谷は貰っていきますから」

 

「あ、あぁ…」

 

一方的に告げた川崎に先生は一杯一杯で答える。

雪ノ下に至っては俺を探す女子がいたことが信じられないようで驚き、目を見開き黙り込んでいる。

 

「ほら、行くよ」

 

「お、おう」

 

何この娘。そこらのイケメンなんて目じゃないくらい男前じゃん。

うっかり惚れちゃうところだったわ。

川崎は俺の腕を取ると先生に会釈をし、足早に奉仕部を後にした。

そういえばお一人様一パックまでというチラシを見せられながら、放課後は開けておけと言われたのを思い出す。

平塚先生はとんでも無い表情で此方を見ていたが、なんてことは無い色気など存在しない話だ。

要するに、いつも通り。ただそれだけのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作を読み返しながらネタを考えるんですが、最近気付いたのですが修正が難しい箇所が何点かあります。
比企谷家と川﨑家の両親は原作よりも忙しくて帰りが遅いとか、迎えの日は川﨑さんは徒歩で通学しているとかそんな感じで脳内補完してくれると助かります。


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6

次話でガハマさん登場と言いましたが、この話の次でした。
自分でも勘違いしていました。すみません。


翌日、放課後。

俺は川崎に連れられ平塚先生と対面していた。

 

「これには色々とやってもらいたいことがあるんで、部活とか困るんですけど」

 

「し、しかしだなぁ…」

 

川崎は昨晩、俺から事の顛末を聞いて平塚先生に断りを入れに来たのだ。

現在のところ川崎が有利。川崎は態度崩さないし、何故か平塚先生はやや挙動不審だ。

このままいけば部活に入るどうこうの話はなくなるだろう。いいぞ川崎。その調子だもっとやれ。

 

「き、君も比企谷の性格は知っているだろう?

これは、どうにかしなければならないとは思わないかね」

 

「……それはそうですけど」

 

あれれー?川崎さん?

そこは肯定しちゃ駄目なところじゃないですかねぇ…

 

「そうだろう!

比企谷の性格は直さなければ今後の社会生活で苦労をする類のものだ」

 

「…」

 

そこで悩まないでもらえますか。

何か旗色が怪しくなってます。いや、ほんと勘弁してくれ。

あの部活に入るってことはあの変な女と一緒ってことじゃないですか。それは避けたい。

 

「けど、こいつには色々と手伝ってもらってるんでやっぱ部活とか無理です。

そりゃ、毎日じゃないですけど…結構助かってるんで、いなくなるのは困ります」

 

「…ふむ、なるほど

ならばこうしよう。何も毎日が忙しい訳ではあるまい?

比企谷は自分が参加可能な日に奉仕部に行けば良い。そして川崎沙希、君も奉仕部に参加すべきだと私は思う。

比企谷の性格を直すためとは言ったが、君の協調性の無さも看過する訳にはいかないレベルだ。

比企谷と一緒に奉仕部で過ごすといいだろう」

 

確かに川崎は協調性が無い。

しかし、それは問題なのだろうか?

昨今、日本社会では必須とされる協調性。しかしそれは一方的なものではないだろうか。

協調性がある人間がいるのならば、協調性の無い人間がいても問題が無い筈なのだ。それがあるならば、無い人間にもあわせられるのが本来の形である。それでも協調性の無い人間が責められるのは求める側が己にとって都合の良い協調を望んでいるに他ならない。

 

「…別に困って無いですけど」

 

その通りだ。別に俺達は困っていない。

困っているのなら変わるのも良いだろう。しかし、俺は…俺達は今が良いのだ。

心地良く過ごせているのに変われと言う。

それは傲慢で酷く醜悪な言葉では無いだろうか。

 

「何も協調性を持てとは言っていない。

君達は不器用過ぎる。今は良くてもいずれ、問題に直面するだろう。

そうなってから遅かった、では困るだろう?協調性をさっさと身につけろとは言わない。

だが、君達は自分達以外と上手く付き合う術を覚えたほうが良い」

 

「それで奉仕部ですか…?」

 

以外と納得のいく説明で奉仕部へ勧誘される。

確かに、自分達以外と上手くやる術は覚えるべきではある。

けど、奉仕部に入るかどうかは別の問題だ。

 

「……わかりました。

けど、家の用事が無い日だけですから」

 

「いや、ちょっと待て!

確かに先生の言い分は納得は出来るが、部活に入るのとはまた違うだろう!」

 

「はぁ…比企谷。

君はどうも往生際が悪い。君の保護者も入部を認めたんだ。大人しく君も認めたまえ」

 

誰が保護者だ誰が…

俺の保護者は両親と将来俺を養ってくれる奥さんしか認めませんよ!

 

「まぁ、別にいいじゃん。

週に2、3日程度なんだし、私の家来ない日はどうせ暇なんでしょ?」

 

バッカおまえそんなこと言えちゃったら…

 

「ほう…川崎の家になぁ…」

 

ほら、怒ってんじゃん。

この手のタイプの人の前でそういう話はタブーなんだって…

 

「入ります。入りますよ!」

 

だからその握りしめた拳を降ろしてください!

 

「そうかそうか!

入ってくれるか。ならとりあえず部室に行ってきたまえ。

用事があるのなら挨拶だけで構わない。とりあえず顔だけでも合わせて来るといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして奉仕部に所属することになった川﨑と俺は特別棟のあの教室前に来ていた。

小さく乾いた音が響く。川崎がノックした音だ。

 

「…どうぞ」

 

中から返答が聞こえた。

 

「失礼します」

 

「昨日の…」

 

「うっす」

 

「また来たのね。

てっきりもう来ないものだと思っていたわ」

 

「俺だって来たく無かったよ。

けどな…」

 

「雪ノ下だっけ?

こいつと一緒に奉仕部に入った川崎沙希。よろしく」

 

そうぶっきらぼうに自己紹介をした川崎を値踏するように見つめる雪ノ下。

 

「へぇ…そう歓迎するわ川﨑さん。

ただ、そこの男とイチャつくのに都合の良い場所を得るためだったとしたら相応の対応をとるわ」

 

「へ!?ば、ばっかじゃないの!!なんで私がこいつと!!」

 

顔を真っ赤にして声を荒げる川崎。

いくら俺と恋人関係に疑われたからってそこまで怒らなくてもいいんじゃないですか?

八幡的にポイント低いよそれ。

 

「…ごめんなさい。

昨日の雰囲気からそういう関係なのかと…謝るわ川崎さん。

本当に失礼なことをしたわ」

 

おう、本当に失礼だぞ俺に。

謝りながら人を傷つけるなんて器用なやつだな。

 

「まぁ、分かってくれたならいいけど…」

 

「それで?

そこの男は昨日入部の理由を聞いたけれども、貴方は?川崎沙希さん」

 

「…協調性が無いから他人と上手くやる術を身につけろって先生が」

 

「そう、可哀想に…

そこの男と関わってしまったために協調性を失ってしまうだなんて…協調性だけだからまだ被害は少ないのかしら?」

 

そういって小首を傾げる雪ノ下。

俺に聞くな俺に。

 

「ちょっとあんた。

言い過ぎじゃない?確かにこいつは目が腐ってどうしようも無いやつだけど…」

 

フォローになってないことに気づいているだろうかこいつは?

 

「そうかしら?

昨日はこんな扱いのほうが調子が良かったわ。今日はだんまりだけど昨日は調子良く喋っていたもの。

ひっとしてあなたMなの?気持ち悪い」

 

「えっ…そうなの?」

 

「はぁ…いちいち間に受けるな。

とろあえず今日は挨拶に来ただけだ。平塚先生に言われてな」

 

「そう、2人とも一応歓迎するわ。

奉仕部部長の雪ノ下雪乃よ。よろしく」

 

「…よろしく」

 

「おう」

 

「奉仕部は依頼主が来て始めて部活動になるわ。

依頼主がいない現在は当然ながらすることは無いわ。依頼主がいない以上、あなた達は好きに時間を潰してくれて構わないわ」

 

「いいのかそれは…」

 

もはや部活動の形を成していないのではないだろうか。

いや、待てよ。特にすることが無いのならば俺にとって都合が良い。

川崎に何故かやる気があるため適当な言い訳をして逃げるのは難しいだろう。

参加せざるを得ないのならいっそのこと無駄な抵抗はやめて、恐らくは殆ど活動していない部活に所属するのを甘んじて受け入れてもいいのではないだろうか?

 

「そうなんだ。

積極的に依頼主を探す訳じゃないんだ」

 

「えぇ、奉仕部は飢えたものに魚を与えるのではなく、捕り方を教えることを理念としているわ。

奉仕部が自ら依頼主を探すのは理念に沿っていないもの」

 

「ふーん」

 

「大抵の場合はあなた達のように平塚先生に紹介されてという形になるのかしら」

 

紹介…だと…?

世間では昨日のアレを紹介と呼ぶらしい。いや、呼ばねぇだろ。

 

「とりあえず明日以降でいいだろ。

今日は挨拶だけが目的だし、部活もすることが無いなら都合が良い。帰ろうぜ」

 

「まぁ、そうだね」

 

「そう…ではまた明日ということになるのかしら」

 

明日は都合が良いいのかはわからない。

大抵の場合は朝方に川崎からメールか、小町から直接に言付けられるため当日まで俺にはわからない。

確認の意味をこめて川崎に視線を向ける。

 

「親に聞かないと分からないね。

これるかもしれないし、これないかもしれない私もこいつも」

 

川崎の説明に雪ノ下は怪訝な視線を俺に向ける。

そりゃそうだ。今のは川崎が休む理由足り得るが、俺達の関係性を知らない雪ノ下には俺が休む理由足り得ない。

 

「まぁ、細かい説明は後日する。

大雑把に言うと俺と川崎の両親に交流があってだな。その関係上、俺と川崎はお互いに放課後にしなきゃならないことがあるわけだ」

 

「…わかったわ。

細かい説明も構わないわ。ご両親の都合なのでしょう?

仕方の無いことだもの」

 

意外に雪ノ下は物分かり良く納得してくれた。

先程の調子からして、一言二言告げてくるものだと思っていたがすんなり話は進んだ。

 

「そういうわけで帰るわ」

 

「またね」

 

「えぇ、また今度」

 

こうして不本意ながらも俺は奉仕部に所属することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回がガハマさんの登場回の予定です。


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7

遅くなりました。
なんとか5月中に投稿できて良かったです。


週に何回かの奉仕部への参加。

今週は親の仕事終わりが早く、俺達に用事が無いためほぼ毎日参加する羽目にないっている。

用事が無くても適当に誤魔化して帰ればいいものを、変に律儀な川崎は真面目に参加している。

もちろん俺を連れて。

しかし、変な女が居ることを除けばそこそこ過ごしやすい部活かもしれない。川崎の口数は少ないことは重々知っている。

そして雪ノ下もきっとそのタイプだ。つまり、奉仕部は読書するのには都合のいい部活なのだ。

今も軽い挨拶を済ませ、互いに思い思いに時間を潰している。

 

「結局、ほぼ毎日参加するのね。あなた、やっぱりマゾヒストでしょう」

 

しかし、予想に反して雪ノ下は口を開いた。

こいつ、やたら俺をマゾにしたがるな。ひょっとしてアレなの?自分がSだからこれからもどんどん虐めてやるって意思表示なの?

何それ怖い。

 

「ちげぇよ…」

 

「じゃあ、ストーカーなのかしら?」

 

おい、川崎。疑いの眼差しを向けるんじゃありません。

あなたちょっと雪ノ下さんの話を素直に受け止め過ぎじゃありませんこと?

 

「違う。なんで俺がおまえに好意ある前提で話が進んでんの?」

 

「違うの?」

 

「…その自意識過剰ぶりにはさすがの俺もひくぞ」

 

「そう、てっきり私のこと好きなのかと思ったわ」

 

川崎は今度は雪ノ下を見て若干ひいている。

いいぞ。そっちに対してならどんどんやってくれ。

 

「とんでもない自信家ぶりだな。どういう環境で育てばそうなるんだよ」

 

「あら、奇遇ね。私もどういう環境で育てば貴方みたいになるのか気になっていたところよ。

…まぁ、それはいいとして。私のとって至極当然な考え方よ。経験則というものね」

 

「あー、あんたモテそうだもんね」

 

そこで川崎が相槌をうつ。

 

「その通りよ川崎さん。昔から私に寄ってくる男子は大抵好意を寄せてきたわ」

 

短い息を吐き、呆れたように雪ノ下は事実だといわんばかりにそれを告げた。

実際事実なのだろう。しかし、こんなナチュラルに上から目線で人を見下す女の何処が良いのかね?

ふと、疑問に思ったことが口に出た。

 

「おまえさ、友達いんの?」

 

「……そうね。まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらってていいかしら」

 

「あ、もういいわ。それ友達いない奴のセリフだわ」

 

ソースは俺。

つか、なんでこんなところにボッチ3人が一同に会しちゃってるのだろうか。惹かれあってるの?スタンド使いなの?

 

「あんたぐらい綺麗なら女子も寄ってきそうなもんだけどね」

 

そういうものなのだろうか?

しかし小中時代を思い返してみると確かに容姿が優れた者には取り巻きがいた気がする。

 

「えぇ、確かに女子も寄って来たわ。

けれども私が都合良い人間でないと知ると嫌がらせばかりしてきたわ」

 

「…そう」

 

川崎もそういう場面を目にしたことがあるのだろう。

苦虫を噛み潰したような表情だ。

 

「あげくには自分の好きな男子が私に告白したからなんてくだらない理由で嫌がらせをする人もいたわ。

今思い返してても酷く過ごしにくい学生生活だったわ」

 

「あー、その…なんだ。大変だったんだな」

 

「そうね。だって私、可愛いもの」

 

少しばかり沸いた同情心が一瞬で吹き飛ぶ。

その発言は大変可愛くないですよ雪ノ下さん。

 

「お、おう」

 

「…」

 

「優秀なものがその優秀さ故に妬まれる。そして攻撃される。

そんなことが当たり前なのよね。酷い世の中だわ」

 

言わんとしたいことはわからんでもない。

しかし、その攻撃される側も上手く付き合えば良かったのだ。

雪ノ下雪乃はきっと不器用なのだろう。

 

「そんなの当たり前じゃねぇか。出る杭は打たれるって言うだろう。

昔から能力のある人間は周囲に足を引っ張られるものなんだよ。それが嫌なら取り巻きでも作って周囲に合わせて折り合いをつけば良かったんだ。そうやって馴れ合えばおまえが攻撃されることも無かっただろう」

 

「そんなの欺瞞だわ」

 

…確かにその通りだ。

今、俺が言ったのは自分に対する欺瞞になる。

そして、それは俺は最も嫌うものだ。

 

「折り合いつけて馴れ合うだなんてどの口で言ってんの?

だいたいあんたは…」

 

あれ?あの流れから俺が説教されちゃうの?

勘弁して下さいよー。いや、本当にマジで。

 

「はぁ、夫婦喧嘩なら他所でやってくれないかしら?

犬も食わないというでしょう」

 

「ちげぇよ」

 

「ば、ばっかじゃないの!?」

 

ここ数日。雪ノ下は俺達のことを何度か夫婦と評した。

多分だが、川崎の反応が面白くてからかっているのだろう。川崎よ。そろそろ気付かないとまだまだ言われるぞ。

俺自身も言われている当事者なので、川崎に伝えにくいことでもある。心の中で願うばかりだ。

川崎は雪ノ下に詰め寄り、前言を撤回してもらうように講義している。そうやってむきにになるのが雪ノ下の嗜虐心を煽るのだろう。

そこに控え目なノック音が響く。平塚先生ではないだろう。あの人ノックしないしな。

 

「…どうぞ」

 

雪ノ下が応える。

静かに扉が開き、女子生徒が入ってくる。何処かで見たような、そうで無いような…

まぁ、何処にでもいそうなそれなりに容姿の整った女子だ。

 

「し、失礼しまーす。」

 

「…由比ヶ浜」

 

「沙希ちゃん!?

部活してたんだ。あっ、比企谷くんも一緒なんだね。やっはろー」

 

どうやら川崎の知り合いらしい。

俺のことを知っている口ぶりからして同じクラスのようだ。

ってか何今の?もしかしてして挨拶だった感じ?何それ頭悪そう。

 

「まぁ、そうだね」

 

「あれ?でも、この間までは一緒に帰ってるのよく見たけどなー?」

 

「あたしらここに入ったの最近だからね」

 

「そうなんだ、だからかー。

あっ、今日の調理実習ありがとうね沙希ちゃんに比企谷くん。私、どうも料理は苦手でさ」

 

「…うっす」

 

ん?調理実習?

サボろうとしたら川崎に阻止されたアレか。…もしかして同じ班にいた感じですか?

 

「ってか沙希ちゃんも比企谷くんも料理上手だよね。

2人揃ってなんか手際良くて慣れた感じでさー。なんかもう新婚さんみたいで感心しちゃったよ!」

 

「だ、だから違うって!」

 

本当に耐性ないのなこいつ。

そういうのは過剰に反応すると相手が面白がって続くぞ。

 

「またまたー、照れちゃって!

2人が付き合ってるのなんてクラスの皆1年の頃から知ってるよー」

 

「な、なっ…」

 

川崎はテンパって最早口から言葉すら出せずにいる。

仕方ない。ここは俺がバッチリと否定しておいてやろう。

 

「その2人。付き合ってないそうよ」

 

おまえが否定すんのかーい!

さっきまで夫婦喧嘩どうこうで弄ってませんでしたか雪ノ下さん?

これはアレなの?自分のおもちゃだから他人が遊ぶのは許しません的なやつですか。

 

「えっ!?そうなの?

ごめんね沙希ちゃん!勘違いしてた」

 

素直!

俺が言うのも何ですが、初対面の相手の言葉は間に受けちゃいけませんよ。

将来、壺とか買わされますよ。

 

「……わかってくれたなら良い」

 

「けど仲良いよねー。私1年の頃から2人は付き合ってるもんだと思ってたよ。

比企谷くんが誰かと一緒にいるのなんて沙希ちゃんくらいしか見かけなかったし…」

 

しかしこの女子生徒はいつになったらここを訪ねてきた目的を話すのだろう。

今だに川崎と世間話をしている。初対面だと分かりにくいかもしれませんが、そこで本読んでる人イライラしてますよ多分。

実を言うと俺も見ただけではわからんが、雪ノ下はそういうタイプだと短い付き合いの中で確信している。

えーと、何ガハマだっけ?…ガハマさんでいいか。ガハマさんよ。そろそろ要件を切り出さないとここの部長さんが怒るのは確定的に明らかですよ。

はやくしろっ!!間に合わなくなってもしらんぞーーっ!!

 

「あっ、そうだ。今日ここにきた件なんだけどね!

料理を教えて欲しいの!平塚先生に教えてもらったんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね」

 

心の中で心配していると、どうやら本来の目的を思いだしたようでそれが奉仕部の面々に伝えられる。

しかし、発言の中に気になる部分があった。ここって強制収容所みたいな所じゃなかったの?初耳だわー。

 

「そうなのか?」

 

「少し違うわ。あくまで手助けをするだけよ。願いが叶うかどうかはあなた次第」

 

「どう違うの?」

 

おそらく、この間言ってた飢えた人に魚を与えるのではなくどうこうの話に繋がるのだろう。

予想は当たっていたようでその説明を雪ノ下はガハマさんに行っている。

 

「な、なんかすごいね!」

 

あっ、これ多分わかってないやつだわ。目とか泳いじゃってるし。

 

「必ずしもあなたの願いが叶うわけではないけれども、できる限りの手助けわするわ」

 

「そ、それでね。り、料理を教えて欲しいんだけど…」

 

「そんなの友達に教わればいいだろ」

 

しまった。あまりの労働意欲の低さに最短ルートで拒否してしまった。しかも食い気味に。

 

「比企谷くん。依頼を受けるかどうかは私が判断するわ。

勝手に断らないでくれる?」

 

「そう…なんだけどさ。普段の友達とじゃ、こういう感じ合わないから」

 

唐突に思い出した。

こいつは今日の調理実習でやらかしたやつだ。ついでに葉山グループの一人で俺が唯一名前を知らない女子生徒でもある。

ほら、三浦とか海老名さんは強烈過ぎて一度みたら忘れられないタイプだし…決してこの女子生徒の影が薄いとかは思ってないですよ?

つか影の薄さなら俺が最強。頭一つ二つは軽く抜けてるレベル。

この女子生徒は今日は調理実習でカレーを作る最中に、隠し味としてインスタントコーヒーの粉をお玉一杯ぶち込もうとしてたやつだ。

その場はなんとか川崎にすぐに止められ事なきを得たのだが、そのレベルに料理を教えることになるとは…

この手のタイプはレシピ見ながらアレンジしないとおいしくないし?とか言って平気でセオリーを外すのだ。

どうやら奉仕部での初めての依頼は結構やっかいな依頼みたいだ。

 

「おまえ実習でお玉一杯のインスタントコーヒーをカレーにぶち込もうとした奴じゃん!」

 

「そ、それはもういいじゃん!

ってか今まで気付いて無かったの!?マジあり得ない!」

 

「はっ」

 

あのレベルしか出来なかったやつに何を言われても気にならん。と言う意味も込めて鼻で笑ってやる。

 

「うっ…あ、あははー、へ、変だよね。あたしみたいなのが手料理とかって…

ごめん、雪ノ下さん、やっぱいいや」

 

えー、それだけでヘタレちゃうの?働かなくていいことは良いことだけど、これだと俺が悪いみたいじゃん…

 

「あなたがそう言うのなら私は別に構わないのだけれど……ああ、この男のことなら気にしなくてもいいわ。強制的に手伝わせるから」

 

部長権限でと雪ノ下は続けた。

この3人しかいない部活に部長権限も何もないだろうと思うが、これは俺がどうこう言ってもどうにもならない流れだ。八幡覚えた。

 

「いやーいいのいいの!

だって似合わないし、おかしいよ…優美子とか姫菜とかんも聞いたんだけど、そんなの流行んないっていうし」

 

「まぁ、あんたのキャラじゃないとは思うけど…」

 

いいぞ川崎!その調子だ!これだと俺だけが悪い感じじゃないしな!

この感じでお引き取り願いたい。

 

「だよねー。キャラじゃないよね…」

 

少し落ち込んだ雰囲気のガハマさんは乾いた笑みを浮かべた。

その時に目があって何か言わなくてはという気になる。

 

「……いや別にキャラじゃないとか似合わないとか言いたいんじゃなくてだな。

純粋に興味がねぇんだ」

 

「もっと酷いよ!」

 

そう言ってガハマさんは机を叩いて立ち上がり、怒りを露わにする。

こらこら、ガハマさんよ。その音と勢いで川崎さんビックリしちゃってるから、その娘はそういうのに弱いから気をつけてね。

可哀想にビックリしたね。優しい視線を送ると川﨑を見ていると睨まれた。何故わかったし…

 

「比企谷くん酷くない!?あー、腹立ってきた。あたしだってやればできる子なんだからね!」

 

「そういうのは自分で言うもんじゃないぞ。母ちゃんがしみじみとため息混じりにこっち見ながら言うもんだ『あんたもやればできる子だと思ってたんだけどねぇ…』みたいな感じで」

 

「あんたのママ、もう諦めちゃってるじゃん!」

 

「妥当な判断ね」

 

「はぁ…」

 

コラそこ、川崎。溜め息つきながらこめかみを抑えるんじゃありません。

ネタだから。こういう芸風だからね。そうやって真剣に溜め息つかれると手遅れみたいじゃん。だ、大丈夫だよね?

しかし、先ほどとは一転。怒りのせいかやる気が出てきている。

本人がやる気になっているのなら手伝うしかなさそうだ。

そのほうが、いまさらあれこれいって諦めるように仕向けるより掛かる労力は少なくて済みそうだ。

 

「まぁ、カレーくらいなら作れるし手伝うよ」

 

「私も料理は嫌いじゃないから手伝うよ」

 

「あ…ありがとう」

 

「別にあなたの料理の腕には期待していないわ。味見だけお願い

こういのは女子の領分でしょう?」

 

…まぁ、いいか。働かなくていいということは良いことだ。

しかし、それなら俺いらないんじゃないですかね?はぁ、帰りたい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




葉山グループの三浦さんと海老名さんを知っていて由比ヶ浜さんを知らないっていうのは無理があったでしょうか?
原作より葉山グループと近い関係にあるヒッキーですが、積極的に関わってはいないので葉山を通して三浦さんと海老名さんとは面識があったって感じです。
葉山と二人でいると呼びに来るついでに説教かますこともある三浦さんと、葉山と二人でいる現場を見つけて興奮する海老名さん。
こんなのにあったら忘れられるわけねぇな!


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8

雪ノ下によるガハマさんへの料理教室から数日が経った。

事の顛末を簡潔に語るとするならば、奉仕部に1人新しく仲間入りする人物が出来ただろう。

料理の腕に関していうのならば……うん、まぁ今後に期待ということで一つお願いしたい。

歯に衣着せぬ雪ノ下とガハマさんはどういうわけか馬が合うようでゆるゆりしている。

その過程で内のクラスの、プライバシーのため名前は伏せるが金髪縦ロールの女子と一悶着あったが概ね良好な関係に治まっている。

そんなこんなでいつも通り周り変化を遠巻きに眺めながら俺は週末を迎えた。

余談だが、比企谷家では完全週休二日制を採用している。普段馬車馬のように働く両親ですらその休みを満喫する。

なので長男として自信を持って休日は休むと決めているのだが、今週は川崎から連絡が来ていた。

 

川崎 沙希

宛先:×××-⚪︎⚪︎⚪︎@◻︎◻︎◻︎.ne.jp

件名なし

2015年×月⚪︎日

相談したいことがあるんだけど週末時間ある?

 

簡素な短文の通知が届いたのは昨日の晩のことだ。

断ってもいいんだが、なにかと世話にはなっている身だ。それに珍しく川崎から相談だと頼み事をしてきたのだ。

話くらいは聞いてやることにした。

なので俺は今、待ち合わせ場所に向かっている。お互い家には両親がいるから都合が悪いのだ。

両家の親達は共に川崎と俺が2人きりでいると茶化してくるのだ。本当にたまったもんじゃない。特に親父が嬉しそうなのは腹が立つ。

まぁ、この話は置いておくことにしよう。待ち合わせは千葉駅近くのとある俺1人で入るにはハードルが高いオシャレといっていい店だ。

川崎はそういった店に詳しいほうじゃないと思っていたが、それなりに女子高生していたみたいだ。

電車に揺られ目的地に向かう。わざわざ遠出してまでの相談とは一体どんなものだうか?

恐らくは知り合いの目に触れたくないからこその遠出だろう。しかし、そこまでしなくてはならない程の問題に川崎が直面しているのだろうか。少なくともここ数日、そういった素振りは見せていないと思う。

答えが出ない問いだ。いくら考えても埒はあかないだろう。

各駅停車の電車はゆっくりと千葉駅に向かっている。まだ千葉駅まで少しある。

駅に止まった電車の窓から駅名の看板が見える。その前を知った顔が通り過ぎて電車に乗り込んできた。

 

「いやー、時間危なかったわー。マジで乗り遅れるかと思ったわー」

 

「戸部が遅れなければ余裕があったんだけどな…」

 

「ちょ、ハヤトくーん。それは言わないで欲しいわー。

反省してるって!次からしないから絶対!」

 

「遊びに行くときに少し遅れるくらいなら大目に見るさ。

ただ、部活動の時は気をつけろよ。先輩に迷惑が掛かるし、後輩にも示しがつかないからな」

 

「おうよ!任せてよハヤトくん。

…ん?あれ比企谷くんじゃね?」

 

クソ!気付かれたかステルスヒッキーを最大出力で展開していたというのに…

土曜の正午過ぎなのに電車内の客は疎らだ。いや、正午過ぎだから疎らなのか?

そのせいか気付かれたくないのに気付かれてしまった。しかし、まだ慌てる時間じゃない。

奴らより一足先に気付いた俺は既にイヤホンを装備し、スマホを弄っている。

完璧だ。俺なら例え知り合い相手でも、この状況なら絶対声掛けないね。まぁ、目が合ってもスルーするんですがね。

 

「やぁ、比企谷。奇遇だな」

 

しかし、葉山は隣の座席に腰を掛けてきた。肩を叩き自身の存在を主張してくる。

これだと無視をするわけにはいかない。

 

「葉山と戸部か」

 

俺は今気づきましたという体でスマホから視線を葉山に移した。

 

「君もどこかに行くのか?

俺と戸部はこれから優美子達と遊びに行くんだ。良ければ一緒にどうだろう」

 

爽やかな笑みを浮かべ、葉山隼人は俺を遊びに誘う。

正直にいってしまうのなら、葉山と戸部の2人と遊ぶのは億劫だ。そこに三浦達が加わった状態でとなるとさらに

差す嫌気が増すというものだ。

時々、葉山は俺を遊びに誘う。1年の時に一度だけその誘いにのったことがある。

その時の内容はここで語らずとも明らかなものだろう。葉山が何かと俺を気に掛けたのは見て取れたのだが、正直余計なお世話だった。それならばいっそのこと始めから誘わないで欲しかった。

そんなこともあり、今でも誘われることはあるが基本的に断っている。川崎と行動を共にすることも多いため、断る口実には困らない。

理由が家の用事だからな一部の隙も無い完璧さだ。ふっ、敗北を知りたい。

 

「すまんが、これから川崎と待ち合わせだ」

 

なので無理だ。と告げておく。

これがただ本屋に行く時などに見つかっていれば断るのに上手いこと言わなければいけないので大変だが、今日は立派な口実がある。

 

「あー、じゃあしゃーないべハヤトくん。比企谷くんと遊ぶのはまた今度にするべ」

 

いいぞ戸部。その今度は一生こないと思うが、もっと言ってやれ。

 

「なら川崎さんも一緒にってのはどうだろう」

 

しかし、以外にも葉山は食い下がった。

しかもガハマさん曰く、クラス中が俺と川崎が付き合っていると思っている。ならば葉山もその括りに漏れないだろう。それなのに食い下がってくるその珍しさに驚く。今まで誘われることは数あれど、一度断ったら引き下がっていた葉山隼人が食い下がっている。

 

「……川崎とは遊びに行くわけじゃない。お互い用事があるんだ。

だから無理だ」

 

今度ははっきりと無理と言う言葉を使って断る。

流石にこう言えばどうしようもないだろう

 

「そうか…なら、仕方ないな」

 

「しゃーないな。また今度遊ぼうぜ比企谷くん!」

 

先程まで葉山の前に立っていた戸部がサムズアップしながら葉山の横に腰かけた。

おい、そこ座っちゃうのかよ。どうやらもう十数分の間はこいつらに付き合わなくてはいけないらしい。

その憂鬱さに小さく溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千葉駅に付きようやく解放されるかと思ったのだが、どうやら待ち合わせ場所が近いようでまだ俺は葉山達と行動を共にしていた。

この分だと川崎も三浦達と一緒にいるかもしれない。三浦達と言うからには海老名さんとガハマさんも一緒だろう。なのでガハマさんが川崎を見つけている場合一緒にいる可能性が無きにしも非ずということになるだろう。

 

「あれー?隼人じゃん。こんなところで何してるの?」

 

待ち合わせ場所に向かう道中、葉山に女性が声を掛けた。

葉山に声を掛けたのは凄い美人だった。爆発しろ!

 

「えっと、2人は隼人のお友達かな?」

 

その美人がこちらに振り返る。その整った顔が笑顔を振りまいている

 

「ハヤトくんの親友の戸部翔です!」

 

「……同じクラスの比企谷です」

 

「二人ともこちらは雪ノ下陽乃さん。俺の幼馴染みたいなものかな」

 

「雪ノ下陽乃です!よろしくね!」

 

雪ノ下?雪ノ下っていうと…あの雪ノ下?

注視すると確かに似ている。見た目からして姉かなにかだろう。

 

「戸部はクラスとサッカー部で一緒なんだ。

比企谷は同じクラスだけど部活は一緒じゃないんだ。戸部と遊びに行く所で偶然会ったんだ」

 

「ふーん、じゃあ君は部活やってないんだね」

 

興味無さげに雪ノ下の姉は一度俺に視線向ける。

一応やってますよ。貴女の妹さんが部長の奉仕部の一員ですね。

まぁ、わざわざ言う必要も無いので黙っているが…

 

「陽乃さん、彼は奉仕部の一員だよ」

 

葉山が余計な事をしてくれた。

このまま黙っていれば何事も無く、この雪ノ下姉の印象にも残らずに済んだであろうに…

 

「へー、そうなんだ。それならそうといってくれれば良かったのに

改めまして、雪乃ちゃんの姉の雪ノ下陽乃でーす。あの部活に男の子がねー?ふーん、雪乃ちゃんとはどうなの?このこのー」

 

興味無さげな視線から一転。

新しいおもちゃを見つけた子供のようにはしゃぎ出す雪ノ下姉。

今も俺の肩に手を起き答えを促すようにスキンシップを交えてくる。

 

「…別にただ部活が一緒ってだけですよ。他にも部員はいるし、仲が良いとかじゃないです

あと近いです離れてください」

 

「あはは、君は面白いねー」

 

おい、葉山。なんとかしろおまえの知り合いだろと恨みがましく葉山に視線を送る。

すると通じたようで葉山が助け舟を出してきた。

 

「陽乃さん。俺達はこれから待ち合わせがあるから、またの機会にでも」

 

「そっか、残念。学校での雪乃ちゃんの様子とか教えて欲しかったんだけどなー

それならしょうがないか。じゃあ、またね。隼人と比企谷くん!」

 

そういうと、雪ノ下姉は去っていった。今ナチュラルに戸部が無視されてませんでしたか?

可笑しい。そういうのは俺の領分の筈なのだが……戸部の様子を伺うと元気に手を降っていた。戸部がそんな感じなら気にすることもないか。

 

「いやー、マジで美人さんだったわー。隼人くんあんな人と幼馴染とか羨ましいわ」

 

「はは、そんな良いものじゃないよ幼馴染なんて」

 

戸部は予期せぬ美人との会合にまだ興奮が冷めやらぬ感じだ。

そんな戸部に冷めた感じで答える葉山。そんなものなのだろうか?俺も幼馴染なんてものはいないからわからないが、葉山の様子を見るに本当にそう思っていそうだ。

しかし、葉山と雪ノ下が幼馴染ね。昔から雪ノ下と近しい関係にあるとは…なんというかご愁傷だな本当に。

さっきの一癖二癖じゃきかなそうな姉と毒舌妹。俺には無理だな。

なんて自分勝手な感想を抱いていると約束の相手が見えてくる。

先ほどの心配事は杞憂だったようで川崎は1人だった。

 

「よう」

 

「……」

 

いや、返事くらいしましょうね?

後ろの2人を睨み付けて威嚇しなくてもいいんじゃないですかね?一応同じクラスの人ですよ。…いや、ひょとすると俺も威嚇されているまである。呼び出したのそっちじゃないですか。勘弁して下さいよー。

あと戸部、そんなにビビらなくてもそいつ別に噛み付いたりしないから安心しろ。

 

「なんで?」

 

何を問うているかは一目瞭然だろう。

 

「やあ、すまないね川崎さん。

比企谷とは偶然に電車で会ってね。ここまで一緒になったんだ」

 

葉山が答える。このあたりは流石は葉山といった所か、すかさずフォローを入れてくる。

 

「まぁ、そういうわけだ」

 

「そうそう!川崎さん俺ら分かってるから!邪魔とかしないし安心してよ!な、ハヤトくん」

 

川崎の視線は一層鋭さが増して戸部を再びビビらす。

もう行くか。ここにいても互い損はあっても得はないだろう。

 

「…行こうぜ。言ってた店、場所知らないから案内してくれよ。

昼飯食ってないから腹減った」

 

「分かった」

 

そういうと川崎は歩を進めた。ついて来いということだろう。

素直にその後に続くことにする。

 

「じゃあな」

 

「あぁ、また学校で」

 

「またね比企谷くん!また今度遊ぶっしょ!」

 

いや、それは勘弁して下さいと心の中で断っておく。

一応の挨拶を済ませ、川崎の横に並ぶように歩を早めた。10分程歩いたところで、目的地に到着したようだ。

俺と川崎は小さいテーブルを挟んで対面している。話は飯の後でことで適当に注文する。

女子が好きそうなものが並ぶメニューから、比較的食べ応えのあるものをチョイスする。

しかし、目の前に来たそれは少し物足りない感じだった。まぁ、しゃーないか。かーっ、ラーメン屋ならこんなこと無いんだけどなー!

ラーメン屋で相談聞くとかシュールだな。

なんてくだらないことを考えながら箸を進めた。手に持っているのはスプーンなんですけどね。

相談は飯を食べてからだろう。早々に食事を終えて、コーヒーを2杯頼む。これで話をする雰囲気になっただろう。

 

「それで、相談ってなんだ?珍しいじゃないか」

 

というかコイツから相談を受けるのは初めてだな。

川崎は視線を泳がせ話にくそうにしている。川崎が話始めるまで待つことにした。こんな時は話を促したって逆効果だ。

コーヒーを飲みながらやっぱ練乳も欲しいなと思っていたら川崎がようやく口を開いた。

 

「……アルバイトしようと思ってるんだけど」

 

「…すれば?ってか今もしてないかおまえ」

 

コイツは土日は家に両親がいるのでアルバイトに出ている。

新しく増やすということなのだろうか。しかし、それなら俺にわざわざ相談することもないと思うが…

 

「今やってる軽いのじゃなくて、そこそこ稼ぎの良いやつを捜してるんだ」

 

「…」

 

早急にでは無いが、近い将来に金が必要になるのだろう。

こいつは金使いが荒い人間では無い。常識的な金銭感覚を持った人間だ。

 

「金が必要な理由を聞いても良いか?」

 

「大学行きたいし、もう2年だから夏から予備校通いたいんだけど

親にはあまり頼れないって言うか…そのお金を自分で用意しようと思って」

 

付き合いがあるとはいえ、俺は当然川崎家の経済事情なんて知らない。

一つ思い当たる節があるのは春から川崎弟が小町と同じ塾に通い出したことぐらいか。なんか今思い出しても腹立つな…

まぁ、それは一旦忘れよう。

川崎が総武高校に通っているということは、こいつも中学時代にそれなりに勉強をしてきた筈だ。

ガハマさんを見ていると自信が無くなるが、一応進学校を謳い文句にしているのだ。入るのはそれなりに難しい。

つまり、こいつも中学時代に塾にでも通っていたのだろう。その時に経済事情に思うことがあったのかもしれない。

 

「そうか…通う予備校はもうどこか決めてるのか」

 

「うん、この間あんたがパンフレット見てたとこにしようかなって」

 

それならば一つ、思いつく解決方法がある。

スカラシップという制度がある。これを使えば恐らくは川崎の問題を解決できる。

雪ノ下曰く、飢えた人に魚を与えるのでは無く、魚を獲る方法を教えるとうい奉仕部の理念。それに従うことにしよう。

 

「スカラシップって知ってるか?」

 

「知ってるけど、あれって特別優秀な生徒しか受けれないんでしょう?」

 

「それは違う。おまえが思ってるより枠は広いぞスカラシップって」

 

「そうなの?けど、それでお金出してばっかりだと予備校儲からないんじゃ…」

 

「別に俺らが予備校の心配をする必要は無いだろう…

一応あの制度は予備校も受ける生徒も損をしないもんだぞ。予備校ってのは生徒が増えても掛かる経費が少ないんだ。

教室に満員でもガラガラでも必要経費はそう変わらない。やること一緒だしな。

そこで空きを埋めるのにテストをして優秀な生徒を引き込むんだ。その生徒が有名大学に入れば宣伝にもなる」

 

これまた余談だが、各予備校の発表する有名校への合格者数がその年の有名校の合格者数を上回ったりするアレ。

これも少なからずスカラシップは関わっている。

 

「詳しいんだね…」

 

感心したように川崎は呟いた。

 

「…まぁ、俺も狙ってるしなスカラシップ」

 

「そうなんだ。じゃあ、無理にバイトする必要なんて無かったんだ」

 

どこかホッとしたように呟く川崎。

 

「金があるにこしたことは無いけど、まぁそういうことだな。スカラシップ受けれればだけどな」

 

「うん、だからさ。あんたが教えてよ勉強。

学年3位なんでしょう?」

 

そう言ってからかうように川崎は笑った。

まぁ、復習にもなるし勉強することは悪いことじゃない。

 

「…国語だけな。数学とか無理だぞ」

 

「うん、流石にあんたに数学は頼まないよ」

 

真顔で言われた。…そうですか。

兎も角、川崎の悩みは解決されたのだ。それで満足しよう。

少し冷めてしまったコーヒーを口に運び、そういえば誰かと勉強するのは初めてだなと気付いた。

 

 

 

 

 

 




さといもの煮っころがし!
美味しいよね!!


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9

前話投稿から約半年も経ちましたね。長らくお待たせして申し訳ないです。
書いては消し、書いては消しを繰り返しやっと出来ました。
原作の時間軸なら材木座が登場したところです


川崎家のソファーに沈み込むように腰を掛け、カバンから厚いコピー用紙の束を取り出す。

本日、奉仕部に訪れた依頼人材木座義輝が執筆したものだ。

どれくらい掛かるだろうか?ライトノベルなら一冊2〜3時間位で読み終わるものだが…

しかし、その基準もこれに当てはまるかどうかは分からない。そもそもこれだけの原稿用紙の束を読むのは始めてだ。

勝手が違うのは当然のことだろう。

読む前にあれこれ考えても仕方ない。とりあえず読んでみることにしよう。

 

「はーちゃん、何してるの?」

 

そう意気込んだところで声がかけられた。

京華だ。川崎は確か晩飯を作っていた筈だ。暇になったからこちらに来たとかそんなとこだろう。

 

「ん?これか…宿題みたいなものだな」

 

「じゃあ、一緒にテレビ見れない?」

 

どうやら夕方に放送しているアニメが見たいようだ。

誰かと一緒に見たいのか。まぁ、そんな年頃なのだろう。偶にはそれに付き合うのも悪くはないだろう。

 

「そうだな……いや、一緒に見ようか。おいで」

 

「うん!」

 

材木座からの依頼は最悪は徹夜でもすればなんとかなるだろう。今は京華に付き合うことにしよう。

元気よく返事をした京華はソファーに腰掛ける俺の隣ではなく、膝の上に腰掛けた。

こうやって誰かと触れ合っているのが好きなようで、川崎家、比企谷家の面々に素直に甘えている。

これくらいの子供の特権だろう。こっちも悪い気はしないしな。

まぁ、まだ小町あたりの年齢ならならありかもしれんが…高校生ともなると無い気がする。

そもそも年齢関係無く、俺や川崎は甘えるとかキャラじゃないしな。

 

「何をみるんだ?」

 

「うーんとね。これ!!」

 

そういってリモコンでチャンネルを変えて京華が指差したのは、集金能力の高い某国営の放送局のチャンネルだ。

この時間なら幼児向けの内容が続くので京華にとっては楽しい時間帯なのだろう。

っていうかまだやってたのか100%勇気の忍者ものアニメは、懐かしいなー

ボーッとそれを見ている。手持ち無沙汰の手をなんとなく京華を抱くように回す。

小町もそうだった覚えがあるが、これくらいの子供は何故か体温が高いように思う。基礎代謝でも高いのだろうか?

その暖かさとソファーの柔らかさに自然と眠気を覚える。京華もウトウトとしていたので抵抗する理由も無く、その微睡みに身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けーちゃん?」

 

姿の見えない妹の姿を探す。さっきまでは台所にいたのに、少し目を離した内にどこかに行ってしまったようだ。

どこに行ったのだろう?今の時間ならアニメでも見ている頃だろうか?

 

「いた」

 

どうやら考えは当たっていたようで、リビングにその姿を見つけた。

そこには眠る比企谷に抱っこされながら同じように眠るけーちゃんの姿があった。

成る程、だから静かだったんだ。起こさないように静かに気をつけながら隣に腰掛けた。

2人とも本当に良く眠っている。最近、比企谷がこうして寝ているのを見かける場面が増えた。教室なんかでしている寝たふりなどでは無く、本当に気を抜いて眠っている。

この家に来始めた頃は、借りてきた猫みたいに緊張してたのに今となってはこの有様だ。きっと私たちに気を許してきているとは小町の弁だ。小町が言うのだからきっと間違いないのだろう。その事実が素直に嬉しい。この面倒臭い男が自分には気を許している。その事実を川崎沙希は嬉しく想っている。

ふと視線を比企谷から外すと、目の前には今日は奉仕部に来た材木座とかいうのから評価して欲しいと持ち込まれたライトノベルと呼ばれるジャンルの小説があった。どうやら奉仕部の依頼は後回しにしてけーちゃんに付き合ってあげたようだ。

 

「ふふ、意外と面倒見はいいんだよねアンタは」

 

最近知った一度寝ると中々起きないということを良いことに頬っぺたを突つく。

柔らかい。ヤバイ癖になるかも…

起きないことを良いことに軽く抓ったりもしてみる。

 

「良いちちお…」

 

「姉ちゃん…リビングでイチャイチャすんのは止めてくれる?」

 

「ひゃあっ!?」

 

振り向くと大志が呆れ顔で此方を見ていた。小町も一緒だ。

不覚にも夢中になっていて気付かなった。見られた事に顔が熱くなる。

 

「小町的には続けて頂いて構わないんですけどねー。

せっかく沙希さんが作ってくれた夕飯がこのままだと冷めてしまうので…すいません」

 

小町は謝っているが、にやけ顔を隠す気も無いようだ。

両親や比企谷達の親御さんに見られるよりかは遥かにマシだが、それでも恥ずかしものは恥ずかしい。

 

「ほら、起きなよ」

 

「イッテ!!?」

 

下2人にこんな目に合わされているというのに起きずにいる比企谷を頬を抓って起こす。

情けない照れ隠しだとは自分でも思う。そういう性分なのだろう。

きっと少し考えを変えたくらいでは治らないだろうけど、それでも少しは頑張って治そうと思う。

 

「抓るなよ。痛いだろうが…何か用かよ?」

 

「…晩御飯できたよ」

 

この面倒な性格をした男が変な勘違いを拗らせて私に嫌われているだんて勘違いしなように、素直に頑張ろう。

そう思ったけれどこれ以上は一緒にいるのも恥ずかしくて、逃げるようにリビングを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだ。機嫌悪いのか?」

 

「いや、むしろ良かったくらいっすよ」

 

そんな風には見えなかったが…

 

「そうか?…まぁ、気にしても仕方ないな。飯か?」

 

「うん、沙希さんが作ってくれたよ。小町の希望で今日はお兄ちゃんの好きなものだよ。やったねお兄ちゃん。

今の小町的にはポイント高い!」

 

「はいはい、世界一可愛いよー」

 

「適当っすね」

 

「むぅー、お兄ちゃん小町的にポイント低いよ」

 

「知らねぇよ。遊んでないで手伝ってこい。

けーちゃん起きな。晩御飯できたよ」

 

大志は素直に手伝いに向かったが、小町はもうやること殆ど終わらせたよ、お兄ちゃんが寝てる間にと少し冷たい目で答えた。

ふぇぇ…妹の視線が怖いよぉ……馬鹿やってないでさっさ行くか。腹も減ったしな。

 

「うぅん、ごはん?」

 

「そうだ。晩御飯だ。一緒に行こうか」

 

「はーちゃん、だっこー!」

 

膝上に座っていた京華はくるりと180度回ると首に腕を回して来た。

素直に可愛いなと思う。これくらいの年齢の子は少し卑怯だなと思う。

 

「はいはい、それじゃ行くぞ」

 

こう無邪気に甘えられると断れるものも断れない。仕方なく抱っこし夕御飯が待つ部屋に向かう。

 

「最近、けーちゃんの妹力の高さに危機感を覚えるよ小町は…ねぇ、お兄ちゃん」

 

「そんなこと無いぞ。世界一可愛いよ」

 

「気持ちが篭ってないなー」

 

「ちーちゃんが1番ならけーちゃんはなんばーん?」

 

「…けーちゃんは2番だな」

 

「やったよちーちゃん!2番だよ!」

 

「良かったねけーちゃん!小町には及ばなかったけど中々なもんだよ」

 

京華は抱き着くために回していた手の力を少し強めて喜んだ。

 

「じゃあ、さーちゃんは?」

 

……どう答えれば良いだろうか?まぁ。順当に行けば3番になるのだろう。

そもそも近しい知り合いで思いつく女子=川崎みたいな現状、当然の帰結だろう。

 

「はーちゃん?」

 

「そうだな…1番は小町で2番はけーちゃんだから、さーちゃんは3番だな」

 

恥ずかしい。死にたい…

無言でこちらを見つめるニヤケ顔の小町に腹が立つ。しかし、素直に喜んでいる京華がいる手前、どうしようもない。

らしくない。と考えながらもこの日々を好ましく感じている自分を自覚しながら小町を無視してリビングに足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




材木座回(登場するとは言っていない)


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10

現在、俺はテニスコートに立っている。

テニス=リア充。つまりテニスコートは俺にそぐわない場所なのだが何の因果かこうしてラケットまで持ってこの場に留まっている。

雪ノ下がネットの向こうから打つボールを四人のローテーションで打ち返している。

俺、川崎、ガハマさん、そして戸塚彩加。

彼は少し…いや、かなり…というか今でも信じられないが同じクラスの男子だ。

川崎が打ち返すとそれと交代にコートに入ってラケットを構える姿は正直に言ってしまえば男子には見えない。

こんな可愛い子が女の子のはずがない!とでも言えばいいのかその容姿はとても男子には見えない。というか天使にしか見えない。

と馬鹿な事を考えていると俺の番が来た。

 

「っ!!」

 

きわどいコースに打たれたボールを何とか打ち返す。

そのボールはギリギリ線内に入る。自分でも驚いているが、意外と様になっている。

 

「一旦、休憩をしましょうか」

 

肩で息をしている雪ノ下が休憩を提案してくる。

俺はまだ余力がある。後ろの面子も疲れてはいるがまだやれそうだ。

こいつ体力無いな。初めは水を得た魚の如く、戸塚以上に出来ていたのに5分程の運動で割としんどそうだ。

 

「それにしても意外ね。比企谷くんがここまでテニスができるだなんて…」

 

「あ?…まぁ、運動はそこまで苦手じゃないからな。自発的にやらないだけで」

 

「息も上がって無いようだし、流石は男子といった所かしら」

 

5分くらいの運動でこいつは何を言っているんだ。

と言えば俺では思いも着かない罵詈雑言を浴びることになるのは明白なので黙っておく。

 

「比企谷くんすごいね!やっぱり上手だよ。最後も良い所に打ち返していたし」

 

おい、そんな笑顔で褒めるな!嬉しくなっちゃうだろう。

 

「なんかヒッキーキモい」

 

「何ニヤついてんの?」

 

浮かれた気持ちは女性陣が現実に引き戻してくれた。

 

「俺だって褒められたら少しは喜んでもいいだろうが…」

 

「それはそうなのだけれども…さっきの貴方はそれとは違う感じで気持ち悪かったわよ」

 

「おい、止めを刺すな。自覚してる分余計に辛いだろう」

 

今回の依頼は戸塚からのものでテニス部に関するものだ。

他の部員のモチベーションも低くなんとかしたいとのことだ。テニス部員の顧問の先生は結構高齢の人なので毎日顔を出す訳ではないそうだ。

明確な指導者がいないのならばモチベーションが低下するのも仕方の無いことだろう。

そこで雪ノ下が様々な練習メニューを組んで、念のために俺達で実践しているわけだ。

 

「しかし、四人だと回転が早くて緊張感が保てて良いな」

 

「えぇ、そうね。もう何パターンか試すつもりだったのだけれどもこの手法がベストかもしれないわね」

 

現在テニス部の練習はそれ程人数も多くないので試合形式で行われているそうだ。

その練習自体は悪くはないのだが、毎回それだとマンネリ化するだろう。試合形式とはいえ、所詮は練習だ。

次第のモチベーションは低下し、サボる部員が出てくる。

放課後に2時間から長くて3時間の練習時間を個々が思い思いに練習するだけでは駄目なのだろう。

俺には無い経験だが、一つの目標に向かって皆が団結する。そういうことができなければ練習内容の向上は恐らくは得られない。

1人が、例えば戸塚が部長として部を率いるのなら締まりはある程度期待できるかもしれないが…

 

「戸塚、3年は夏で引退か?」

 

勝手なイメージだが、運動部というのはな夏の大会なんかを区切りに引退するイメージがある。

もし想像通りなら勝負を仕掛けるのはそこだ。今のテニス部の現状を脱却し、新たなテニス部としてスタートするのならばそこしない。

 

「うん、大会の結果次第だけどね。…でも内の部はそんなに強くはないから多分そんなに良い成績を残せないと思う」

 

「そうか。…単刀直入に言うが今こうしていることではテニス部は変わらない。

というか練習内容がキツくなって辞める部員も出るかもしれん。

なんとなく、とりあえず入ったから。練習キツくないし3年頑張れば内申点の足しになる。一般論としてこんな考えの奴は少なからず存在する。

そういった層が戸塚が頑張ることで離れていく可能性がある」

 

これは恐らく雪ノ下も思い当たっていることだ。

だから今日、戸塚にこうして練習を体験してもらっているのだろう。本人が頑張るといっても実際やってみて出来ないなんて言えば話は終わるしな。

軽く短い時間流した程度だが、密度の高い練習をいつもの部活と同じ時間する時の大変さは戸塚自身にも想像が付いた筈だ。

 

「なんかこの手の話をヒッキーがすると妙な説得力があるね」

 

「えぇ、本当ね」

 

ねぇ、それ褒めてるの?貶してるの?どっちなの?

 

「うん…それは分かってる。けどそれでも頑張りたいんだ。

残ってくれる部員は少ないかもしれない。けど僕はきっと皆残ってくれるって信じてるから頑張るんだ!」

 

天使か。…じゃなくて、本人がその気ならきっと大丈夫なのだろう。

 

「なら3年が引退したらそいつらを締め出すのが第一だな。

これは顧問の先生でもなんでも協力してもらえばいい。これは絶対条件ではあるがそこまで難しいことじゃない。

幸いなことに進学校だ。引退後も未練がましく部活に顔出すようなのは先生がなんとかしてくれるだろう」

 

提案している時に、戸塚が息を飲んだのがわかった。

考えていなかったことなのだろう。

 

「まぁ、それが妥当かしら?

夏までは新体制以降にどうして行くかを考えておけばいいのだし」

 

どうやら雪ノ下も賛成のようだ。

川崎に目を向けると、特に言うことは無いから任せるよと目が言っていた。こういう場面でものぐさになるのお兄さん良く無いと思います。

というか誰かが働いていないのにおれが働いているなんて許すまじ行為だ。変わってくれそっち側なら大歓迎だ。

 

「え?どういうこと?先輩とかに教えて貰ったほうが良くない?」

 

ガハマさんはよく分かっていないようだ。

こういのは上と関わりが少なければ思い当たらないものなのかもしれない。

いや、俺も無いですけどね。年代の違う交流相手。というか全世代に渡って存在していないまである。

 

「2年が3年から部を引き継いでこれからのことをどうしていいかわからない。

先輩が居た頃のようにするにはどうすればいいですか?ってのが2年のスタンスならその通りなんだがな」

 

「由比ヶ浜さん。今回に関して言うのなら3年生が敷いていたスタイルを2年生は受け継がずに独自の方法を模索して行くかことになるわ。

つまり端的に言ってしまえば3年生は邪魔にはなっても役には立たなくなるの」

 

その通りだけど言い方がキツ過ぎやしませんかね?

ほら、戸塚だって苦笑いしてんじゃねぇか。

 

「けど、呼ばなくても勉強の息抜きに来たりするんじゃないの?

それぐらいだと先生も注意しにくいでしょう?」

 

川崎の言うように、そこは今後の問題点ではある。

 

「あぁ、そう通りだ。だから勝負を仕掛けるのなら夏休み中になる。

3年間部活頑張って夏休みに引退したら普通は夏休みを満喫するだろう?強豪校だと後輩のために夏休みを返上してってのがいるかもしれんが、毎年結果残すような部活でもない進学校の緩い部活に夏休みを割いてまでいくだろうか?いや、行かない!」

 

「あー、それはわかるかも。

中学の時の運動部とか引退した子って今までのアレですごく楽しんでる感じだった」

 

当てっずぽう見たいなものだが、ガハマさんも共感してくれたことから的外れではないことが証明される。

 

「川崎の言うように、そういう問題もあるだろう。

けど、目先に控えているのは新体制になった状態で迎える夏休みでいかに現状から脱却するかだ」

 

それさえ乗り越えてしまえば、例え夏休み明けに我が物顔で3年が遊びに来ても問題無いだろう。

雰囲気というものは非常に重要だ。それがガラリと変わっていれば居心地の悪さを感じるものだ。

それが古巣なら尚更だ。しかもそれを成したのが後輩ともなれば効果は絶大なものの筈だ。

 

「…そうだね。先輩達のことはともかく、夏休みにどれだけ頑張れるかが重要だよね」

 

とりあえずの目標を見出せたおかげか、三年生を締め出すと提案した時に比べて顔色が違う。

そもそも、ここで心配していること事態が杞憂で終わる可能性も充分にあるのだ。

そうなることを内心で願っている自分に特に違和感は感じなかった。

 

 

 

 




戸塚可愛いよ戸塚。

部活の上下関係って面倒くさい(面倒くさい)
同学年が面倒くさくないかといえばそうでは無いんですがね!


原作での戸塚の依頼は八幡との関係を得るための手段だったような気がしますが、この話では依頼を掘り下げてもらいました。

これで原作登場人物で出ていないのはいろはすだけだな(すっとぼけ)


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11

お久しぶりです。
ようやく区切りに辿りついた感じですかね。ここからは原作に添いながらオリジナルを組み込めたらと思っています。


「八幡、あんた国立受けてみる気はない?」

 

明日も学校だしそろそろ寝ようと思っていると母親から声が掛かった。

 

「は?」

 

「沙希ちゃんは国立志望みたいよ」

 

あいつならそうだろう。家の経済事情もあるが、同じ教育が受けれるのなら安く済む方を選ぶ筈だ。

例え掛かる労力が増えようとも厭わない。川崎沙希はそういう奴だ。

 

「…川崎と一緒の大学にでも行って欲しいのか?」

 

「なんだ。わかってるなら話は早いじゃない。

そういうことよ。嫌?」

 

「嫌も何も…そういう理由で進路なんて決めたら駄目だろ」

 

「まぁ、そうよねー

けどあんた私立希望でしょう。お母さんとしてはしっかりした娘がそばにいると安心出できるんだけどねぇ…」

 

「……俺なりに自分の学力とかを照らし合わせて決めた進路なんだが…」

 

「まぁ、あんたならそう言うと思ったわ」

 

なんとか納得してくれたららしい。悪いとは思うがホッとする。

 

「仕方ない最終手段を取るしかないようね。

八幡、あんたが国立に行けば私学との差額を自由にして言いっていえばどうする?」

 

「なん…だと…!?」

 

国立と私学の差額は多く見積もれば200万そこそこ、一番差が少ないとしても100万弱はある筈だ。

それを自由にして言いってことは…

 

「目の色が変わったね。うん、良かった良かった。

これで靡かれなかったらどうしようも無かったからね」

 

「…まだ、国立受けるとは行ってないだろ」

 

「いらないの?200万」

 

「全力で国立を目指ささせてもらいます」

 

呆気なく母親の思惑に乗ってしまう。しょうがないだろう。

お金には勝てなかったよ…

 

「但し、沙希ちゃんと同じ大学に現役合格することを条件とします」

 

「……わかった」

 

川崎はあんな見た目だがそれなりに勉強ができる。この間のスカラシップも難なく受かって見せたし、志望校もそれなりの大学だ。

俺が国立志望に進路の変更を余儀無くされたいま、川崎の志望校も候補に入るレベルだ。

しかし、国立大を受けるに当たりどうしても見過ごせない問題が一つ出てくる。数学だ。

国立大の入試には数学がある。しかも二つ、二つかぁ…

2年の初夏に差し掛かろうかという時期から始めて間に合うのだろうか。いや、間に合わせなくてはならない。200万のためにも!

頼み辛くはあるがあいつに頼むしかなさそうだ。

翌日。

 

「一つ依頼がしたい」

 

翌日、奉仕部にて早速俺は雪ノ下に頼ることにした。

雪ノ下はゆっくりとこちらに向き直った。

 

「何かしら?」

 

川崎もガハマさんもこちらに視線を向ける。

 

「勉強のやり方を教えて欲しい」

 

「何故か…を聞いてもいいのかしら?」

 

「あぁ、2年のこんな時期だが志望校を国立に変更することになった。

勉強を教えて欲しいと言っても主に数学になるな。他は自分でなんとかする」

 

「どうしたの急に?」

 

川崎が驚いたようにこちらに問いかけてくる。

 

「まぁ、いろいろあったんだよ…」

 

「そう、別に構わないんわ。

あなたの勉強を見て上げるわ」

 

「国立かぁー。ヒッキー大丈夫なの?国立って大変だよ」

 

馬鹿な娘に馬鹿にされた。

 

「失礼な、俺ができないのは数学だけだ。

国語に至っては学年3位!ちょっと数学ができないだけで後は問題無いからな」

 

「…参考までに一番酷かった時の数学のテストの点を教えて貰ってもかまわないかしら?」

 

「……9点だ」

 

「は?」

 

「はぁ…」

 

「に、苦手なら仕方ないよね」

 

ガハマさんの優しさが痛い。

 

「あなたその程度しか出来なくて国立大目指すなんて舐めているのかしら?」

 

「今まで受験に必要ないから勉強はしないで来たが状況が変わったんだ。

苦手とはいっても気合を入れるさ」

 

自分でも9点というには驚いたが、進学校の苦手教科だ。

高校生になって数学への理解がより求められるようになった。つまり、俺みたいな初めから勉強する気もなければ授業にも身を入れていないものには当然の点数かと当時1人納得したのを覚えている。

 

「…流石にそこまで出来ないとなるとどこから手を付ければいいのかしら?」

 

雪ノ下は口に手を当て考え込む。

俺もそれが知りたい。どこから手を付ければいいものか?それがわからない。

いっそ始めからかとも考えたが、それでいいのだろうか悩みは耐えなかった。そして苦肉の策として、雪ノ下雪乃に頼ることにしたのだ。

 

「いっそ始めからやるしかないんじゃないの?」

 

川崎が考え込んでいた雪ノ下を見て、そう発言した。

 

「えぇ、それが確実だとは思うのだけれども…

比企谷くんがそもそも基礎から全く駄目な場合、それだけでは不十分になるかもしれないからどうしようかと考えていたのよ」

 

中学生レベルから心配されていた!

まぁ確かに勉強なんて昔からの積み重ね。つまりは土台が重要になってくるわけだし当然のことだった。

 

「……比企谷くんのレベルを見る為にテストをすることにしましょう。

いきなり今日はなんてのは無理だから、3日後にすることにしましょう。範囲は1年時の数学全体とします。

それと中学校レベルのものと2種類のテストにしましょうか。

しっかり勉強してきてね比企谷くん」

 

「わかった」

 

「私も受けてみよーかな?なんか楽しそうだし!」

 

「私も…まぁ、暇潰しになりそうだし」

 

何故か2人がやる気を出していた。

 

「ちなみにテストは私が作るわ。

比企谷君の点数を考慮して、そこまで難しくするつもりはないわ。ただ基礎が出来ていなければ解けないレベルの問題だと思っていてね」

 

「わかった。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下に依頼をした日は週末の金曜日。

つまりテストは土日を挟んで週初めの月曜日に行われることになっている。

そのための勉強をするために俺は川崎と共に図書館に来ていた。

ここなら参考書の類は事欠かないし、何より静かだ。

 

「数学の勉強の仕は公式覚えて問題を解く。

これをひたすら繰り返すが一番だよ」

 

とは川崎の弁だ。

なので現在。ひたすらに問題を解いている。

目の前では川崎が国語の勉強をしている。川崎の場合は勉強といっても俺と違って読書をしているので毛色が少しばかり違う。

互いに勉強を始めてどれくらい経っただろうか?そろそろ場所を移動するか、このまま続けるかを俺は考えていた。

勉強を教え合う場合はサイゼとかでドリンクバー頼んでするのが無難だろう。

個人の勉強を重視する場合はこのままが望ましい。

前者は質問し合うのに丁度良よく、後者は静かな環境で勉強できる環境だ。

両者にメリットがあるが、現在の俺たちには前者のメリットは薄い。

問題解いて自己採点というループで完結している俺と、終始黙々と読書する川崎。

互いに質問する必要性が今ところ全く存在しないからだ。

 

「ねぇ」

 

何度目かのループが終了し、一区切りついたと伸びをしていると声が掛かった。

見ると川崎も本を閉じており、一端の区切りがついたのだろう。

 

「どうした?」

 

「そっちも区切りが付いたみたいだから帰らない?

夕飯の時間も近いし、そろそろ帰らないと遅くなる」

 

どうやら川崎も一旦の区切りを付けていたみたいだ。

思っていたよりも時間は過ぎてようで閉館時間も差し迫っていた。

 

「だな。

どこかに寄るか?」

 

「ううん、今日は家にあるもので充分だから買い物は大丈夫。

真っ直ぐ帰るつもりだけど、どうしよっか?」

 

「そうだな…真っ直ぐ帰るか」

 

「うん、そうだね」

 

互いに持って来ていた本を戻し、玄関に向かう。

並んで出る。西日が少し眩しく、急がなくてはいけない訳では無いが、ゆっくりしている時間もない事を知らせる。

近くの駅まで2人で歩く。最近、特に2人でいることが多くなったように思う。

奉仕部の存在で交流する人物が増えたが、川崎沙希といる時間が身内を除けば一番だ。

そうともなれば意識してしまうのが男というものだろう。

今も内心は穏やかでは無い。勉強中は気にならなかったが、それを終えた今となっては意識せざるを得ない得ない。

 

「ねぇ、あれ雪ノ下じゃない?」

 

そういって川崎は俺の腕を取り、車道を挟んで向こう側の歩道を差す。

突然に腕を取られ体の向きを変えられたため自然と川崎との距離が近くなる。ていうか近過ぎる。

腕に感じる柔らかな感触と近くで見る川崎の横顔にドギマギする。

なんとか視線を川崎が指差す方向に向ける。

 

「そ、そうだな」

 

そこには確かに雪ノ下がいた。

なんとか返事をする。少し詰まってしまったが仕方の無いことだろう。

 

「1人で買い物でもして……」

 

そういって振り向いた川崎が固まる。

 

「ご、ごめん!つい…」

 

「お、おう。気にすんな」

 

取られた腕は離され、川崎は気まずそうに視線を逸らす。夕陽のせいか顔が紅く染まっていた。

少しの居心地の悪さで俺も川崎から視線を外した。

逸らした視線の先には雪ノ下が見え、此方を向いているのがわかった。

雪ノ下はポケットから携帯を取り出すし何やら操作し始めた。するとポケットの中の携帯が震えた。

小町か密林からのメールだと思ったら雪ノ下からだった。

部活の連絡事項などのためと交換し、今まで一度も連絡し合わなかったそれが初めて役割を果たした。

 

雪ノ下 雪乃

宛先

×××-⚪︎⚪︎⚪︎@◻︎◻︎◻︎.ne.jp

件名なし

2015年⚪︎月◻︎日 16:37

お似合いよ。

けどイチャつくのなら公衆の面前は控えた方が懸命だと思うわ。

 

……川崎に送らない辺りに優しいのだろうか?

 

「なっ!?」

 

驚いたような声に携帯から視線を上げるとさっきよりも川崎は顔紅く染め、ワナワナと震えながら携帯を見ていた。

そして、射殺せんばかりの目で雪ノ下を睨み付けた。

そんな視線に晒されても、どこ吹く風と雪ノ下は満足そうにその場から離れて行った。

…やっぱり川崎にも送ってたんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




比企谷母「癖のある息子に脈ありな娘ができたので逃がす訳にはいかない。100万〜200万なら安いもの」


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12

お待たせして申し訳ないです。


雪ノ下が製作したテストを受けた結果。総武高校の秀才の頭を悩ますことになったとだけ言っておこう。

結局、しばらくは雪ノ下のもとで勉強を見てもらうことになった。一人でどうこうなるレベルではないとのことだ。

誰かと勉強をするのは新鮮で、気付けば梅雨も終わり夏休みを間近に向かえていた。

職場見学と期末考査を終えれば夏休みになるという時期にその依頼主は奉仕部の門を叩いた。

依頼人の名は葉山隼人。なんでもクラスで流れているチェーンメールを何とかして欲しいとのことだった。

話を聞いた時に、これまた面倒な依頼を持ち込んでくれたなと思ったものだ。

しかし、意外にも依頼は長い期間を必要とすることなく解決することとなった。

割愛するが、職場見学を予期せぬメンバーとすることになることでこの件は終息を迎えた。

 

「まぁ、俺が試験ならおまえも試験だよな」

 

「う~、勉強大変だよ。お兄ちゃん」

 

特に目立った事件も無く職場見学を終えると、当然ながら試験が待ち構えている。

一学期の試験なんてものは中学も高校も大して差はなく行われるものだろう。

小町は現在、頭を悩ませながら教科書に向き合っている。どうやら数学で思い悩んでいるようだ。

 

「中学3年の一学期の数学なんて簡単だろうが、俺ですらそこそこ点数取れたぞ」

 

当時は高校の入試を控えていた年でもあり、高校入学試験でも数学の試験があったのでそれなりに身を入れて勉強していた。そこそこ点数をとれたのもそのおかげだ。

むしろ俺の人生の数学史において最高得点だったともいえるのでがないだろうか。

 

「むぅ、別に勉強が大変って言っただけで数学駄目だんて言ってないもん」

 

「妹が可愛くない屁理屈みたいな言い訳してる」

 

「お兄ちゃんの真似だよ」

 

妹が可愛くないと思ったら俺だった。

当然すぎてぐうの音も出ないわ。はい、ここテストに出るよ覚えとくように……いや、出ないか。

高1の時の歴史の先生が『先生の歴史トリビアからもテストに出すからね』と言って必死こいてノートとらせて、結局一問も出さなかったあの先生を俺は絶対に許しはしない!もう、異動して総武高校にはいないので二度と会うことはないだろうけどな。

 

「どうりで可愛くないわけだ。」

 

「ほんとにお兄ちゃん可愛くないよね。どこで育て方間違えたんだろう」

 

「おまえは俺の母ちゃんかよ。バカやってないで勉強しろ勉強」

 

こんなやり取りをしながら互いにリビングで向き合いながら勉強している。

小町から勉強を一緒にしようと誘われたので兄として見てやっているのだ。

テスト前に悩むくらいなら普段から勉強すればいいのにと思うのだが、小町曰く『それが出来たら苦労しなよお兄ちゃん』とのことだ。

 

「なんかお兄ちゃん一人で集中してて一緒に勉強してる気がしない。もうちょっと教え合ったり、雑談したりするもんだよ勉強会って」

 

「俺がおまえに何を教えてもらうってんだよ。嘗めんな」

 

「その発言、小町的にポイントひくーい」

 

「うぜぇ。だいたい雑談なら今してるだろうが」

 

「お兄ちゃんが休憩してるから小町に付き合ってくれてるだけじゃん」

 

「まぁ、そうだな」

 

区切りが付いたので俺はマッカン片手に休憩中。結構小町には付き合ったし、効率を上げるためにそろそえお自室に引き上げてもいいかもしれない。

 

「お兄ちゃんって真面目だよね」

 

「だろ」

 

「はぁ、普通はそんなことないよって返すとこだよ」

 

「妹相手に謙遜してどうすんだよ。事実、俺真面目に勉強してるし」

 

「ほんとこのごみにいちゃんは……」

 

「おい、何で 真面目にしてるのに貶されなきゃなんねぇんだよ」

 

ここまで真面目に勉強をしているのだから高校生の鏡だといっても過言ではないまである。

え?違う。そんなバカな…

 

「そういえば沙希さんって勉強できるの?」

 

「露骨に話題を変えやがったな。

まぁいいけど、あいつも出来るほうだと思うぞ。根が真面目だしな」

 

「ふーん、やっぱ総武高校入れたんだからそうだと思った。

そうだ!沙希さんと大志くんも入れて勉強会しようよ明日にでも」

 

「明日は駄目だな。用事がある」

 

雪ノ下達との勉強会だ。

中間考査も視野に入れつつ俺は数学を重点的に、同じく教えてもらう側になる川﨑と由比ヶ浜もそれぞれの苦手教科を教えて貰うのだろう。

 

「またまたー」

 

「いやマジで」

 

「えっ、本当に?」

 

「馬鹿にしてんのか。俺にだって用事のある日くらいできる」

 

「数学の補習とか?」

 

「テスト前に補習があるわけないだろう。それはテストの後の用事だ」

 

雪ノ下に教えてもらっているとはいえ、まだ教えを受けて間もない状態でのテストなので赤点を脱出できるかどうかすら危うい。

ただ、教えを受けているわけだから赤点を取ろうものなら悲惨な目に合う気がするので出来るだけ避けたくはある。

 

「そこまで真面目にやってるのに補習前提とかある意味凄いよお兄ちゃん」

 

「普段なら捨ててるんだけどな。今回は一応頑張ってるからなんとかするつもりだが、難しいな」

 

「やっぱり国立目指すの?」

 

「そりゃな。あの条件なら目指さない理由にはならないな」

 

「お金目あってて…動機が不順過ぎない?」

 

「バッカおまえ。いいか小町

奨学金の為に勉強を頑張る=立派

つまり俺も超立派」

 

「流石ゴミにいちゃん。最低だね!」

 

妹がゴミを見るかのような視線をこちらに向けている。

何故だ。

 

「そんなことよりも本当に用事あるの?

……もしかしてこの間から沙希さんと一緒に所属してるとかいう部活関連の用事?」

 

 

「あぁ」

 

「なんだ。沙希さんも一緒なんだ。なら安心」

 

そこはかとなく馬鹿にされているような気がするが気にしないでおこう。

 

「そういうわけだ。明日以外ならいいぞ」

 

「うん、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約一週間が経ち、無事テストは終了しそして全科目返却された。

赤点回避!補習免除!

流石は俺だ。やればできる。

 

「丁度平均点ぴったりだなんて器用ね」

 

「だろ」

 

結果がわかった放課後。

俺は奉仕部で雪ノ下の返却された数学のテストを見せている。

 

「まぁ、及第点といったところかしら?

テストまで期間が短かかったものね。次回はさらに上を目指して頑張って」

 

意外にすんなりと結果見せが終わる。

肩透かしを食らった気分だ。雪ノ下ならもっと色々と言ってきそうなものだと思っていた。

 

「で?由比ヶ浜さん。この点数は何かしら?

赤点ではないとはいえ少し酷過ぎないかしら」

 

そうそうこんな感じで…ん?

 

「うぅ〜、いやー、ヤマが外れたというかゆきのんの教えて貰ったところは良かったんだけどね?

暗記系が軒並みヤマが外れて…」

 

由比ヶ浜よ、あんなに雪ノ下と勉強したのに結果はイマイチだったのか。

 

「普段から予習復習をあんまりしないでしょ由比ヶ浜は、テスト前に詰め込むから駄目なんだよ」

 

そう言ったのは川崎だ。ぐうの音も出ない正論だな。

テスト前に慌てて詰め込むと単語だけ覚えて、それが何かが朧げになって、出題された問題と関連付れなかったりするしな

 

「そうだよね。

テスト終わってから優美子達にあの問題わかった?って話してたら『あー、それだ!』ってなったもん」

 

「由比ヶ浜さんが進路をどうするかは分からないけれども、進学するのならそろそろ普段から勉強をするようにしたほうが良いと思うわ」

 

「だよね…うん、頑張る!」

 

まぁ、確かにそろそろ本腰を入れる奴らもいる時期だな。

俺も夏休みには予備校で夏期講習だしな。

 

「川崎さんは全教科問題ないわね。どれも平均より少し高いくらいかしら?

その中で国語が少し良い感じね」

 

「読書する機会を増やしたのが良かったみたい」

 

「そう、その調子で頑張って」

 

取り敢えず雪ノ下に教えを乞うた俺達の結果発表は終わったわけだ。

 

「おまえはどうだったんだ?」

 

「私?えぇ、特に問題無かったわ」

 

そういって見せて貰った結果一覧には軒並み高得点の数字。

そして一際目を引く各教科の下に並ぶ学年順位1位の文字。

 

「すげぇな。マジでこんなことできる奴いるんだな。

漫画の世界だけだと思ってたわ」

 

「ゆきのんすごーい!」

 

「凄いね」

 

本当に感心する。

わかってたけど、こいつが本当にすごい奴だったんだと改めて思い知る。

 

「えぇ、わたし優秀だもの」

 

「そこで謙虚にならないあたり雪ノ下らしいわ」

 

腹に立ちそうな発言なのに、そんな気が微塵も湧いてこないのは俺が雪ノ下のこういった振る舞いに慣れてしまったからだろうか?

 

「必要性を感じないわね。自負を持つことのどこがおかしいのかしら?

謙虚を美徳とする価値観があるのは理解しているけれども、必要以上に自分を下に置くなんて実に下らないわ」

 

「自負……?」

 

「自分の能力とか才能に自信を持つことだよ」

 

「あー、ち、違うからね!ちょっと忘れてただけで知らなかったわけじゃないからね」

 

「由比ヶ浜さん…」

 

「由比ヶ浜…」

 

「ゆきのんもヒッキーもそんな目で見ないでよー」

 

いや、流石にな。由比ヶ浜らしくていいとは思うけど…

 

「失礼するよ」

 

突然に入口が開かれ平塚先生が入室してきた。

 

「先生…ノックを」

 

「すまないね。次は気をつけるさ。

ところで、君たちのテストの結果はどうだったのかね?」

 

雪ノ下が先生がノックをしなかったことを咎めるが、そんな小言をどこ吹く風と先生は気にした様子は無い。

あれは次もしないな。

 

「勉強会の甲斐あって、全員上々の結果ですね」

 

「それは良かった。

では、そんな君たちにご褒美の代わりに一夏の想い出をプレゼントしようじゃないか」

 

「プレゼント!?やった!」

 

素直に喜んでいるのは由比ヶ浜だけだ。

川崎と雪ノ下は先生の次の言葉を待っている。

 

「千葉村で奉仕部での合宿をしようじゃないか!!」

 

「合宿ですか?」

 

「そうだ。丁度、近隣の小学校の林間学校があってな。

それのサポートもしてもらいながら君たちには二泊三日の合宿をしてもらいたい」

 

「…ボランティアじゃねぇか」

 

「だね」

 

「そういえば、私達の時もそういえば高校生か大学生の人がいたよ」

 

「反対という訳ではないのですが、具体的にはどのようなサポートを?」

 

嫌だぞ。朝早くから寝るギリギリまで小学生のお守りとか。

夏休みなんだから休みましょうよ。

 

「ふむ、細かくは向こうからの連絡待ちの状態だ。

しかし、毎年のことだ。大きく変更はないだろう。レクリエーションの手伝いに夕飯作りの手伝いぐらいなところだろう。

2日目に肝試しかキャンプファイアー、若しくは両方といったところだろう。

それらの手伝い以外は君達の自由にしてくれて構わないよ」

 

いや、それだと初日の夕食後と二日目の午前中くらいしか自由時間は無いんですが…

二泊三日でだいたい仕事って何それ辛い。

 

「わかりました。

私は参加することに問題はないのだけれども、皆はどうなのかしら?」

 

「お盆とかじゃないなら大丈夫かなー?

家族旅行に行く予定だからその当たりだとちょっと厳しいかも」

 

「私も大丈夫かな。

弟が来年受験だしね。他に家族で何処かに出掛ける予定は今のところ無いよ」

 

「なら大丈夫ね」

 

「おい、ちょっと待て。

ナチュラルに俺を省くな。俺にだって予定があるかもしれないだろう!

家族が出掛けたりするかもしれないじゃないか!」

 

「はぁ…それ貴方は行かないことになっているじゃない」

 

ばれた。流石は国語総合1位だわ。

 

「ん?……あぁ!家族が、だからだ!」

 

「まぁ、うちも妹が来年受験だから控えるだろうよ。

いつもなら小町と両親でどっか遊びに行ってるがな」

 

「やっぱりヒッキー行って無いんだ」

 

おい、やめろ。

その可哀想な人を見る目で俺を見るな。

 

「夏のクソ暑い中出掛ける気にならんだけだ。

クーラー最高。文明の利器って素晴らしい」

 

「比企谷…若い時からそんなどうする」

 

「先生こそ、なにを言ってるんですか。

若い時に受けた紫外線のダメージは加齢と共に如実に現れるのを知らないんですか?

将来のシワ、シミを積極的に作りにいくとかお肌の自殺行為に他ならないですよ」

 

「ぐはぁっ!!」

 

「比企谷君。それ以上は辞めて起きなさい」

 

俺の想像以上に平塚先生には効いたようで、先生は10カウント取られそうなボクサーみたいになっている。

 

「あんた一体何視点もの言ってたの?」

 

「この前、小町が家で読んでた偏差値引くそうな本に書いてあったらしい。

読んだ後に得意気になって話してきたから間違いないだろう」

 

「…? ねぇねぇ、ヒッキー。偏差値引くそうな本ってどんなの?」

 

「おまえが昨日部室で読んでた雑誌みたいなのだな」

 

「なっ!そんなこと……あるのかなぁ?」

 

「由比ヶ浜さんその男の言うことをまともに効いては駄目よ」

 

「そうだな」

 

「本人が認めたっ!?」

 

茶番はこれくらいにしてそろそろ平塚先生に話の続きをしてもらおう。

話が終わらないと、いつまで経っても帰れないしな。

先生は川崎に支えてもらいながら立ち上がった。

 

「…詳細は後日メールで通知する。

今日はもう帰る」

 

「お、お疲れ様です」

 

覇気が無くて、まるでゾンビだ。

肩を落としながら帰る平塚先生を、奉仕部全員で見送った。




サブタイやめました。


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幕間

高校生活を振り返っていう課題が出されたのは、私が2年生の連休を向かえる間近のことだった。

どのような内容かは細かくは覚えてけど、『概ね楽しくやれている』そんな事を当たり障りの無いように書いたことだけは覚えている。

大体の生徒もきっと同じように書いたのだと思う。

実際、高校生活なんていうのは余程の下手を打ってしまうか。運が無いなんてことがない限り上手くいくものだと思う。

私こと折本かおりはそれらの不運に見舞われることも無く、順調な高校生活を送っている。

そういえば、運も無く、下手を打ちまくった中学校の頃の同級生の彼は高校生活を上手くできているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出した途端に結構な頻度で気になっている。

まるで恋する乙女だ。ウケる!

学校の帰り道、態々遠回りをしてかつての通学路から彼の姿を探してみたりした。

中学校頃の同級生に態々電話してそれとなく聞いてみたりもした。

それらは無駄に終わってしまった訳だけど、あれから一人で出掛ける時には自然と猫背で目の腐ったアイツを探してしまう。

今になって思うと、酷いことをしたなーとは思う。

告白されたことをクラスメイトに話したら、翌日にはクラス中に広まっていたのには驚いた。

後で聞けば、あの時よくグループになっていた男子…名前は山村?山本?だったかが広めたそうだ。

友達の友達的な立場だった山なんとか君が広めたそれは瞬く間にクラス中の知ることとなり、比企谷は肩身の狭い状態だっただろう。

私が謝るのもなんだか違う気がするし、きっと会えても謝らない。

むしろ比企谷は誰彼構わず告白しすぎだから、そんなだと普通に相手にされない。

私が知っているだけで2回だ。他にも噂は後を立たなかったし、女子的には比企谷は可愛い子なら誰でも良いみたいな人だと認識されていた筈だ。と言うか私はそう思ってる。

そんな彼は高校生活をどんな風に過ごしているか少し気になっている訳だけど…

 

「あいつ本当にどこにもいないんですけど…ウケる」

 

ここ数日。帰り道の途中で探したりしているんだけど見つからない。

そういえば進学先すらしらないや。

本当に見つからない。試しに他のかつて同級生を探そうと適当にブラブラすると一時間もしない間に見つけれるので探し方は悪く無い筈だ。

千葉の高校生がららぽに居ないって…

私の捜索は果たして飽きるまでに目標を見つけることができるのだろうか。

今日も暇を潰しがてら探してみる。きっと成果は無いんだろうな。ウケる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




他が合っていないと言うつもりは全く無いですが、俺ガイルのアニメで折本さんのcv戸松遥が作者的には1番噛み合ってたと思います。


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