東方渡世抄 〜現実と幻想の境界〜 【更新停止】 (小鳥戦士)
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プロローグ
別れは突然に


普通の少年は不幸にも運命を翻弄され、
この世界から追放される。
それでも少年は、故郷の世界の記憶を胸に、
新たな人生を歩きだす。

東方渡世抄 〜現実と幻想の境界〜

始まります。


キーン コーン カーン コーン......キーン コーン カーン コーン.......

 

今日も今日とて、学校の朝のチャイムは鳴る。本日の天気は晴れ。風は心地良く吹き雲の一つもない、完璧な青空。

全国でこの天気が続いているのだろうと思える程の雄大な空。

そんな夏真っ盛りの中、今焦点を当てている学校はいつもとは違った雰囲気を出していた。それもそのはず、今日は7月17日。全国の学校に存在する長期間のお休み、そう夏休み前日である。そのため学校の生徒達は夏休みになにをするかなどの話の花が咲いていた。

 

「おーし、ホームルーム始めるから席つけ〜」

 

アッ、センセイキタ

ンジャアトデナ

ツーカアイツハ?

サァ?マタチコクジャ?

 

先生がクラスに入ってきた途端、さっきまでの賑やかな話は終わり、今度はヒソヒソとおしゃべりが始まった。

 

「よーし、みんな席ついたな?ホームルーム始めるぞー.....ってはぁ.........またかアイツは.....高校2年なんだからもっと自意識をだなぁ.....」

 

このクラスでは毎日毎日遅刻してくるやつがいた。

1年の頃は礼儀正しく、部活に勉強に。もちろん遅刻も無し。優等生みたいなやつだった。だが今となってはどうだろう。部活にはしっかりとやる気を注いでいるようだが他はダメになってしまった。何故そうなってしまったのかとこの教師は思う。自分の教育がダメなのかと日々葛藤としている辺り、この教師はいい先生なのだろう。

 

その時、廊下からドタバタと走っている音が聞こえてきた。その音はどんどん近づいてきたと思った途端

 

「ダイナミック登校 IN クラスッ‼︎」

 

と、よくわからない事を叫びながら一人の生徒が教室に入って

 

「はいOUT〜〜」

「いやセーフだプギャッ⁈」

「皆までいわせねぇよ?」

これずに教師にドアを閉められそのまま激突した。

 

 

 

 

 

*******************

 

 

 

「イ.....イタイ、痛すぎる......」

 

「だ.....大丈夫?思いっきりドアにぶつかってたけど......」

 

「大丈夫ならこんな顔から滝のように血が流れてるわけないだろ天然か...... 」

 

彼の名前は望月 蒼刃。ここ碧永高校の生徒で高校2年生だ。ちなみに高校はあおながという。特に紹介するような特徴はなく、強いて言うならサッカー部に所属してるくらいだ。あとまぁまぁ口が悪いが童顏である。

 

「て、天然じゃない!私は普通だよ!あいむのーまる‼︎」

 

「確かに天然じゃないな。訂正するよ。お前はただのおバカさんだった。ごめんな?気づけなくてw」

 

「はぅぅぅぅ......」

 

初回から彼に弄られている天然おバカの女の子の名は如月 澪。蒼刃と同じ碧永高校2年生である。彼女はただの天然なのかおバカなのか、たまによくわからない事をしてくるのでいつも一緒にいる蒼刃の格好の餌食になっている。ちなみに彼女も童顏である。

 

この二人、実は幼稚園からの付き合いでいつも一緒にいる。流石にトイレは無いが。まぁ、いわゆる幼馴染って奴だ。別にベッタリって訳じゃないが、本当に仲が良いのでリア充リア充と(特に蒼刃が)男子に妬まれている。

 

〜閑話休題〜

 

「さってと......」

 

「あり?どうしたの蒼刃君」

 

「トイレだよトイレ。お前はトイレまで着いてくる気か変態か。」

 

「ちっ違うよ‼︎ただどうしたのか聞いただけだよう‼︎」

 

「ハイハイ、変態さんは座ってな。」

 

ガラララ.....とドアを閉める

 

「ちがーう‼︎」

 

澪を弄るだけ弄った後、蒼刃は鼻血を処理しにトイレに向かった。そこまでやばいらしい。

そこに、蒼刃と入れ違いになったらしい人物がドアを開いてやってきた。

 

「ん?なんだあいつ。おーす!澪いるか〜?.....って澪〜?どうしたの?」

 

「うう〜......沙良ちゃ〜ん.....」

 

その時私は机に突っ伏して涙目ながら呻く彼女を見て思った。

あぁ..... またやられた《弄られた》のね〜......と。

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

「んで?早速冒頭ながらもはや恒例の行事の如く澪は弄られた訳だけど.....『あれ』渡せた?」

 

「うぅぅぅぅ..... あんなマシンガントークの弄りの中で渡すなんて無理だよ.....まさに戦車に水鉄砲で挑む様だよ.....」

 

「物っっ凄い例えをするんだね澪。でも何故かな?何故かその言葉の意味がわかる気がするんだよね..... 」

 

沙良ちゃんが教室に入って来た時から時間は経ち、今は終業式に向かうため、二人で体育館に向かっている所です。

ちなみにこの子は神崎 沙良ちゃん。私の高校の一番の友達です。

 

そしてこの視点からは始めまして、如月 澪です。これからよろしくお願いしますっ!

 

「でもさ、終業式終わるまでに渡さないと間に合わんじゃん?」

 

そう、その通りなのです。今日、終業式が終わるまでに渡さないといけない物があるのです。ですが......

 

「あんなん恥ずかしいし無理だよ.....」

 

そう彼とは幼稚園の頃からの幼馴染で何かと一緒に居る事が多い。だけど何ヶ月か前、彼は劇変した。

元々彼はそこまで活発的な人ではなく、どちらかと言うと物静かな性格で限られた友人家族としか関わらなかった。

でも、今はどうでしょうか。限られた友人家族との関係は変わらないとしても性格に関して180°変わったと言っても過言ではなくなってしまいました。

でもその事に気付いているのはこの学校では私だけ。この碧永高校は私と蒼刃君の家からは少し遠い場所にあるため中学のみんなとは離れているのです。

 

「あぁ.....道は遠いよ千里の道だよ.....」

 

「直ぐそこにゴールはあるけどね〜。」

 

あぁ、《彼》ならどうしたんだろうなぁこんな時.......

 

 

 

 

****************

 

 

 

「え〜ですから、この碧永高校の生徒である事に誇りを持って夏休みを有意義に過ごしてください。即ちそれは〜」

 

 

「ふぁぁぁぁ......ねむねむ」

 

どうもこんにちは。こちら蒼刃だ。この視点からは始めましてだ。これからよろしく頼む。

 

それよりも校長の話が長すぎる。なんであんなつまんない話に59文字も使われるんだよ多すぎだろ。10文字で十分だろあんなん。

 

とゆうかさっきの鼻血で軽く貧血なんだよなぁ.....立ってるの地味にキツイ。

 

「みお〜、鉄分補給グミみたいなのない〜?」

 

「えっ⁈うーん....あっ、あった。はい鉄分グミ。」

 

「あーとー」(ありがとう)

 

そんな時は後ろの人間四次元ポケット澪。こいつなんでも持ってるからなぁ.....流石幼馴染。大助かりだ。

 

「えっと、蒼刃君?さっきからフラッフラしてるけど?」

「え?なんて?」

 

つーかどうやら俺はかなりヤバイ状況らしい。なんか周りがチラチラ見てくるなぁと思ってたけどそれかぁ.....ってか周りのコエがドンどんきコえなくナッてきた......?

 

 

 

ブシュッッッッ‼︎‼︎

 

 

 

 

 

なにかが死んだ決定的な音がした。

 

 

「ソウハクン?ソウハクン⁉︎シッカリシテ‼︎ソウハクン‼︎」

 

身体に力が入らず、感覚が消え去っていく。意識が消えかける。何が起きたのかわからず、無意識に自分が立っていた床を見下ろそうとしてーーー世界が90°違って見えた。もう既に身体は気付かぬうちに倒れていた。しかしそれだけでは終わらなかった。

 

 

 

俺の身体は、自らの鼻から、耳から、口から、目から。あらゆる穴から噴き出した赤黒い血液の海に倒れ込んでいた。

 

 

「ウソ、ウソ!ウソ‼︎ナンデ⁉︎ドウシテソウハクン⁉︎マッテ、マッテヨ‼︎ワタシマダーーーー」

 

もう、なにも聞こえない。なにも……感じない。いまやっと理解した。これが、この消えて無くなりそうな感覚こそが、生命の終わり、死。

俺は誰の叫び声か分からないまま、意識を手放し崩れ落ちた。でも最期の最後で、懐かしい感じと共に慌てふためくやつの顏を見ていた。

 

なんかゴメン。でも.....泣くな.....よ.....?

 

 

 

 

 

この日俺はこの世から消え去った。

 

それは、暑い暑い夏の始まりの日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わはは〜、あいつドンマイすぎるだろ。朝寝坊しただけであそこまで悲惨な運命たどんのかよw

これはどうする事も出来んなぁ.....まあ、あんな死に方する運命に生まれた奴が悪いってことで‼︎

あぁ〜早く終業式終わんないかな〜。

 

《ソイツ》は、まるで興味が無い様に目を逸らし、早く夏休みが始まる事を願った。人の死を、目前にして。

 

ふぁぁ、眠すぎ。ん?なんだよいま取り込み中だ後に......ってハァァァ⁈《命の花》を抜いたぁ⁈雑草と間違えてっておま.....え?その花の宿り主がいま死んだやつ⁈……嘘だろ。なにをしているんだお前は‼︎

 

なにやら聞き逃す事が出来ない事が直接頭に流れ込んで来たらしい。ソイツには珍しく、かなり焦っているらしい。

 

......仕方ない。そいつを転生させる。ああ、こいつの存在は全て消せ。一応保存しとけよ。ん?どこに転生させるかって?そりゃあ......

 

 

忘れ去られた存在のみが辿り着ける秘境。

 

東方projectの世界。

幻想郷に決まってるだろ?




ハイ、本当に.......本当にお久しぶりでございます。
小鳥戦士です。
物語は基本、あらすじにもあるように、二人称でいきたいと思います。
この場合少年は望月蒼刃で少女は如月澪ですね。まあ、澪の登場はだいぶ後になりますが。
とりあえず現状は空いた時間にこれを書いていくスタイルですので不定期更新となります。本当は書き溜めする予定でしたが、余り書けなかったのと自分的にに合わなかったのとです。
ちなみに何故、旧作の式神幻想録を上書きしたのかと言うと、黒歴史の削除と物語の予定上です。
では夜も遅い事ですし最後に一言。

これから新しく生まれ変わった式神幻想録改め東方渡世抄をよろしくお願いします。



2017年6月12日 追記

表現のインパクトと文字が足らなかったので所々追加しました。


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第一章 転生
第1話 博麗神社と蒼刃の現状


とりあえずすぐできたので投稿。



心地良い風が、少年を包み込む様に吹く。

その風は森の木々を揺らし、微かに音を立てる。

目の前には、山の斜面に沿う様に取り付けられた、少し苔の生えた石階段が山の頂上まで繋がっているー

 

太陽の光が少年を照らす中、その少年は目を覚ました。

 

「 ......此処は.......」

 

なんだろう.....なんか懐かしい感じがする。それに風が気持ち良い。

 

少年、望月 蒼刃はゆっくりと眼を開け、目の前の光景を目にした。太陽の光が目に入り少し眩しそうにして。

 

「階.....段?なんで目の前に.....」

 

.....登るか。それしかやることが無い。

 

 

〜少年登山中〜

 

 

 

「はっ.....はっ.....はっ......」

 

長すぎないか?この階段......なんか体がすぐ疲れるし頭くらくらする......

 

そんな頭と体の働く余力も残っていない俺は、あることに気づく。

 

「..........そうか、そうだった。俺は......」

 

ー終業式の時に倒れたんだったー

 

なら、この階段は?森は?風は?太陽は?この肉体的な疲労は一体なんなのか。

 

これは意識がないからこそ見える、一つの幻想の欠片なのだろうか。

 

しかしその答えは、割とあっさりとあり得ない光景として紐解かれた。

 

 

 

 

「は?」

 

それは階段を登りきったすぐ先にあった。

 

「.......は?」

 

それは、一つの神社と一人の巫女だった。

 

「....................は?」

 

その神社の名は『博麗神社』。その巫女の名は『博麗霊夢』。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁈」

 

この世界の名は『東方project』。

それは古来よりその存在を知られているものでありながら、その正体を解明出来ないがため、空想の存在とされている妖怪や神を擬人化した弾幕シューティングゲームである。

そしてここはその東方の舞台、『幻想郷』。

忘れ去られたものが唯一存在できる、永遠の楽園。

 

「う.....うっそっーん......」

 

俺は驚きの余り貧血の影響もあるのか、そのまま地面に倒れこみ、また気絶してしまった。

というか、幻想の欠片とかそんなチャチなものではなく、二次元という名の幻想そのものだった。

 

〜少年現実逃避中〜

 

 

 

「何かしらこいつ。いきなり現れて参拝客かと思ったらいきなり倒れて。」

 

「さぁ?もしかしたら幻想郷に迷い込んだやつかもしれないぜ?」

 

蒼刃が倒れた後、すぐに駆けつけた博麗霊夢と、神社に入っていた霧雨魔理沙によってとりあえず神社に運びこまれた後、霊夢と魔理沙は蒼刃について話し合っていた。

まあ、どっからどうみても蒼刃は不審者なので、何かあったらいけないとの事。

ん?蒼刃が起きたようだ。

 

「......うーん、知らない天井だ。」

 

「いやでしょうね。」

 

一度やってみたかったこのセリフである。つーかここどこだよ全く......

 

「ん?だれ.......ゑ?」

 

..........いるね、あの方が。仕方ない、定番の定番いきますか(震え声)

 

「う.....う.....」

 

「「う⁇」」

 

そして俺は言った。半分自暴自棄して。

 

「嘘だど「うるさい。」そげぶッ⁉︎」

 

いや言えなかった。いやね?溝うちにライダーキックくらったんだよ⁇バカなの?死ぬの?

 

「いや......俺が死ぬ.....」

「なにいっているの?うるさいんだけど。」

「ハイ.....申し訳......ありません......」

 

モウヤダコノヒトコワイ

 

でも、そんなふざけたやりとりはすぐに終わる。

何故なら........

 

「おいおい霊夢!年下の餓鬼にそれはひどいんだぜ⁈」

 

「はい?ちょいちょい、俺は君らよりも年上.......」

 

 

............え?

 

 

俺の体が、若干9歳くらいにまで若返っていたからだ。

 

な.............なん......だと........?

 

「体が......縮んで.......る?」

 

おかしい、どう考えてもおかしい。

何故だ、何故こんな体になった?それに何故か声も高い。

確かにこの世界はしっているし主人公達にあったいまそれはハッキリした。しかし疑問もまだ幾つか残る。それは

 

『そんな能力を持った奴が原作にいただろうか?』

 

 

この東方projectの世界は人間、神、妖怪と大きく分けて3つの存在がいる。

その存在は互いにいがみ合う事は少なく、人間は妖怪を恐れ、妖怪は恐れを媒体に存在し、神は人間に信仰されることで存在を保ち、人間に協力する。

 

そして一つ。ある特殊なものも存在する。それが『能力』である。神は基本的には能力を持っているが、人間、妖怪はそうではない。才能ある者しか扱えないのだ。

 

だが、そんな能力を持った奴はいない。そう断言できる。

 

 

「なにブツブツ言ってんのよ。まずあんた名乗りなさいよ。」

 

俺はハッとした。そうだ、幾ら考えても仕方ない。起きてしまった事は今はわからないけど、後からきっと解る。なせば大抵なんとかなる。はず。

 

とりあえず俺は本名を名乗る事にした。

 

「......俺は望月 蒼刃。望む月に蒼い刃と書いて望月蒼刃。歳は16......身体はこんなんだけどな。」

 

「いやいや、そんなちんちくりんな身長で16はないだろ。」

 

「仕方ないだろ。目が覚めたらこんな体になってたんだから。」

 

魔理沙がそう言うのも不本意ながらも頷ける。何故なら魔理沙や霊夢のちょうどお腹当たりに顔があるのだ。小さすぎる。

 

「.......博麗 霊夢。この博麗神社で巫女をしてるわ。」

 

「おい霊夢。こいつは信じて良いのか?なんかいかにも怪しいぜ?」

 

.......やっぱ怪しまれるよな。俺。

 

「大丈夫よ。私の感がそう言ってる。」

 

「ならいいか......お前の感は必ず当たるもんな。」

 

やっぱり博麗霊夢の感は当たるらしい。必ずと言う当たり、この時期は大体の異変は解決した後かな。あんまり原作したこと無いけど。

 

「さっきは疑って悪かったな。私の名前は霧雨 魔理沙、普通の魔法使いだぜ!」

 

うん、しってる。そのセリフはもう固定なのかな?ほぼ必ず聞くんだが。

と言うか他人の感だけで人を信じるのはやめた方がいいと思う。

 

「いやいや、あれは怪しまなきゃおかしい。気にしてないから大丈夫だ。問題ない。」

 

「ならいいぜ!」

 

サラッとスルー、兵長スタイル。やっぱここはネタは通じないよなぁ......つまらん。

 

「んじゃ博麗に霧雨「「名前で呼べ、面倒くさい。」」.....霊夢と魔理沙に質問。ここはどこでなんか見てるそこの奴は誰?」

 

「「え?」」

「ッ⁈」

 

まあ、本当はしってるけど俺の故郷がある世界の事は隠した方がいいかな。混乱呼ぶしまた怪しまれかねん。

後、なんかなにもない空間から見てる奴、やっぱりあいつだな。

 

そう思った直後、空間に亀裂が入った。

 

「.......始めまして、ここ幻想郷の創設者にして妖怪の賢者。八雲 紫でございます。以後お見知りおきを.......」

 

おっと出た出た。妖怪賢者、ゆかりん参上ってか?てゆうか

 

「無茶苦茶若く見えるなッ⁈」

 

なにこれ、原作や動画の設定画像から若い外見してる事は分かってた。でもこれは若すぎないか?

 

「あらぁ〜!嬉しいこと言ってくれるじゃない!ねぇ、私いくつに見える?」

 

「いや......まあ......その......20代前半?」

 

「あら惜しいわぁ。正解は「1000歳越えのBBAだぜ。」.......」

 

「さっ、行きましょうか蒼刃君。」

 

「えっ......ちょっま」

 

『アアアアアアアアアアアア‼︎』

 

魔理沙の断末魔の叫びが、霊夢に背中を押され、部屋から連れ出されていくなか、聞こえてきた。さながら

 

〜この現象はスキマ送りにされました〜

 

とでも言うのだろうか。

 

 

 



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第2話 スペルカードと戦いの火蓋

ごめんなさいから始まる駄目作家、小鳥戦士です。
溜めに溜めた今回、かなりベタになっております。
とりあえずどうぞ!


あの後霊夢に連れ出された俺は、とりあえず縁側にいた。

ほとぼりが収まるまでとりあえずお茶でもどうぞと言われた。どうも八雲紫は歳を言われるとスキマで消されるらしい。

うん、知ってた。だからわざと二十歳なんて言ったんだよ。何度も動画とか二次創作で見たからな。

 

「で?何について聞きたいのかしら?まあ大方幻想郷についてだと思うけど。大丈夫よ。全部教えるから。」

 

「おっ、そうなのか。それはありがたい。」

 

だが、その原作知ってます的な事を彼女らに言ってはならない。別に言ったらあちら側の存在が消えるとかは無いと思う。だがかなり混乱を呼ぶし、さっき魔理沙がそうしたようにかなり疑われる。

関係を悪化させずに穏便に幻想郷ライフを過ごすならそうするしか無い。

 

 

〜少女説明中〜

 

 

「まあ、大方そんな感じよ。」

 

幻想郷の設定については調べてくれ。語りきれん。

 

「サンクス。助かったぜ。」

 

ズバンッ‼︎

 

「うぉっ⁈」

 

な、なんだ?

 

「......戸は静かに開けなさい。魔理沙。」

 

「ハァ.....ハァ.....わ.....悪い、余裕なかったぜ。」

 

なんだ、魔理沙か。服がボロボロなのと、汗をかいているの見ると八雲紫と弾幕ごっこになって......

 

「負けたんだな。」

 

「.......いま絶対内心笑ったよな?今から私と戦うか?」

 

イヤー?笑ってませんヨー?(棒読み)

 

魔理沙は勝負に負ける事が嫌いなようだった。

 

******************

 

 

結局あの後強引に魔理沙に弾幕ごっこを仕掛けられそうになり、途中スキマから出てきた八雲紫が出現、魔理沙を俺の事情を聞いてからといい止めてくれた。

でも勝負は止めないゆかりんスタイル。さすがです。

でもって俺は、何が起きたかだけをみんなに説明した。

 

「.......俄かには信じられないわね、その現象。幻想郷でもそんな事は起きないし。」

 

「紫、あんたがスキマで攫ったんじゃないの?」

 

「あら霊夢。そんな疑心暗鬼にならないで頂戴。今回に関しては私は関わっておりません。」

 

「.......いつもは攫ってるんだな。」

 

「あら、口が滑りましたわ。」

 

「おい3人共、話がズレてるぜ。」

 

まあ、反応は淡白だよな。八雲紫に関しては少し驚いて原作設定では珍しく口が滑ってるが。

ただやはりこの現象に関しては有力な情報がなかった。まあ分かっていたことだ。原作に、いやこの世界に『転生』なんてものは無いのだから。

とりあえずここからは去りますかね。

 

「みんなありがとう。ここからは自分でなんとかする。みんなに迷惑掛ける訳にはいかないからな。じゃあな。」

 

「待ちなさい。あんたどこでこの後寝るの?」

 

「そうだな、野宿の心得はあるから心配いらん。」

 

なんどか経験あるしな。

 

「いやダメだろ⁉︎外には妖怪がいるんだぜ?お前みたいなやつはチンチクリンだからあいつらにとっては大好物だぜ?」

 

「.......ゑ?なにそれ、え?妖怪ってロリコンなの⁇」

 

「ろり?いやなにかは知らんが子供の肉の方が美味いそうだ。だから子供はおとなしく家に帰れって話だぜ。」

 

酷い話である。いきなりショタ化してしまった為に妖怪が好きです食べさせてください(物理的な意味で)状態に陥りやすいらしい。やっぱ新鮮なのかねぇ。

 

「はぁ......やっぱりこうなるのね。いいわ、博麗神社に残りなさい。しばらく泊めてあげるわ。」

 

「およ?いいのか?」

 

「えぇ......その代わり雑用やってもらうから。」

 

霊夢はいやそうな顔をしながらも了承してくれた。

いやはや助かった。もし追い出されたら大変だった。

 

とりあえず、幻想郷でのあれこれは安泰らしい。でも、元々はここの住民では無い。しばらくはここで過ごすとして、元の現実世界に帰らなければならない。何故転生したのかも謎のままだ。二次創作でよくある神様との遭遇とかなかったし.....どゆこと?

 

ーーョット

 

ん?なんだ?

 

「ちょっと、あんた聞いてる?」

 

「あ.......悪い、ちょっと考え事してた。んでなんだった?」

 

いかんいかん、考え過ぎると周りが見えなくなる癖治ってないな

 

「スペルカードよ。」

 

「へ?」

 

「だから幻想郷に住むなら弾幕ごっこ用のスペルカードの一枚か二枚はあった方がいいって話よ。」

 

スペルカード。それは幻想郷における決闘、弾幕ごっこの切り札となる必殺技。通称スペカ。

スペカにもバリエーションがあり、拡散的に広がるやつだったり、ビームだったり武器だったり。

スペカは人それぞれの考えや想い、想像で作られるため、無限に近い種類がある。

 

「えっ?くれんの?」

 

それに蒼刃が食いつかないはずが無い。今彼の心理状態を説明するならば.......

 

 

(やばやばやばやばやばやばやばぁぁぁぁぁぁ!!!え?え?作れんの?作れんの⁈俺だけのスペカが作れんの⁈ヒャッッッハァァァァァァ!!!どうしようなに作ろうマスパみたいなやつかな後は夢想封印かなでもでもオリジナルなやつとかつくりたいしでもああどうしよう‼︎)

 

お祭り状態であった。

 

「え、えぇ......」

 

その表情はなにか欲しい物をキラキラした目で見る子供のようで、実年齢を知っている霊夢にとっては

 

(うわぁ.....私より歳上でこれはちょっと......いや、現代には弾幕やスペカ、能力がないらしいから.....だれでもかしら?)

 

ちょっとだけ引いて現代に対して少しだけ興味を持った。

 

(だけど.....一応歳上なのに子供ぽいって.....心はまだ幼いのかしら。)

 

そして少しだけ蒼刃を理解した気がした霊夢であった。

 

 

*******************

 

 

さて......とりあえず霊夢にスペルカードの元となる白紙の紙を貰った俺は、魔理沙に勝負を挑まれた。彼女曰く

 

「幻想郷に住むなら弾幕ごっこは必須だぜ。だから私がレクチャーしてるぜ!」

 

とのこと。まあ一度練習したかったし丁度良いかと思いその勝負を受けた。ただし大事な事を俺たちは忘れていた。

 

「そういやあんたって飛べんの?」

 

「へっ?......あ。」

 

そう、俺は飛べないのである。まあ飛べないのは普通でしょ。だって人が飛ぶなんてねぇ?空想上の技術だしそもそも二次創作にしかあり得ない。いくら俺が二次創作の世界、なおかつ空を飛ぶのが日常茶飯事の東方の世界に来たとしてもだ。つーかどうやって飛んでんの?

 

「まぁ仕方ないしなぁ.....俺は地上で。魔理沙は空中からでよろしく。ちなみに高さは博麗神社の屋根くらいの高さで。」

 

「......いいのか?それお前に凄く不利に働くぜ?」

 

「いやレクチャーしてもらうんだ。それくらいがちょうどいいだろ?それに.....」

 

そして彼はニヤリと口元を綻ばせてこう言った。

 

「戦うならヒリヒリしたやつじゃないとなぁ......!」

 

まるで、心から戦う事が好きなように。

 

「ッ‼︎......へへへ。いいぜ、なら手加減無しでやってやるぜ‼︎」

 

弾幕ごっこの達人と呼ばれる魔理沙にも、この殺気にも似た気配を感じたらしく、身震いをするが好奇心と負けず嫌いが功を制し、逆に楽しみになった。

 

「.......」

霊夢は敏感に感じた。蒼刃の表情に一瞬だけ影が刺さったことを

 

「早くやろうぜ魔理沙!」

蒼刃はとにかく始めての弾幕ごっこで興奮気味だった。

 

「望む所だぜ!」

魔理沙はイレギュラーの蒼刃の実力に心を躍らす。

 

 

「いくぜ魔理沙!」

 

「よっしゃ!こい‼︎」

 

それぞれの考えや思いが交錯し、ここに戦いの火蓋が切られた。



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第3話 弾幕ごっこと蒼刃の奇策

はい、皆様こんばんは。最近携帯の容量不足なのか文字の入力がやりにくくて困っている小鳥戦士です。今回は前作では書けなかった博麗神社での出来事となります。それに加え、魔理沙との弾幕ごっこを詳しく(ほぼ変わらない)書いてみました。ほんと、戦闘描写は苦手です。

前作についてはまた書いて見るかなぁ......


弾幕ごっこには、幻想郷の決闘法の為幾つかルールがある。

と言っても、弾幕を使う以外に確立したルールは無く、相手とどのような決着を着けるかなどの細かい設定を付けるだけである。そこに細かいタブーはない。

つまり、弾幕ごっことは人間と妖怪、神が対等に勝負する為の基礎でしかない。

その為弾幕ごっこは楽しむ遊びとしての顔もあるのだ。

そして、弾幕ごっこをする為に必要な弾幕。その弾の構造は自分の持っている力が関わってくる。霊力なら博麗霊夢、魔力は霧雨魔理沙、神力ならば東風谷早苗、妖力ならば八雲紫など、当てはまる力は1人一つ。その力が無くなるまで弾幕を放つ事が出来る。

そして俺はその4つの力の内、『魔』の力の所有者である霧雨魔理沙と合間見えている。まぁ魔力がなんだ。そこまで弾幕が変わる訳では無いのだから。多分。

ちなみに今回は3回当てたら勝ちになる。

 

ヒュンッ!

 

いつ始まったのかわからないが一瞬魔理沙の手が光る。

 

「いやそんな不意打ちはやめろっ⁈」

 

瞬間、俺の目の前に星型の弾幕が迫ってきた。

俺は身体を捻じって避ける。

考え事をしていたためスタートの合図がわからなかった。もしかしてスタートの合図とかないのかな?

 

「うぉ⁈......あっぶね。よそ見厳禁ってか。」

 

でもそこまで早くはなかった。一応俺は魔理沙の弾幕を避ける事は出来た。でもこれくらい普通に躱さなくては幻想郷では生きていけない。本来ならもっと無数の数の弾幕が襲い掛かってくるのだから。今の弾幕は腕試しみたいなもんか。

ただ......

 

「なっ⁉︎」

 

結構びっくりしてる様だった。......そんなに自信あったのかね今の弾幕。

 

「んじゃこっちもやるかな。」

 

俺は弾幕を出した事はない。そもそもそんな芸当ができるならあっちで学生なんてやってない。今頃世界の有名人だ。その為弾幕ごっこで必要不可欠な弾幕を俺は苦手としている。ちなみにさっき少しだけ練習してもあまり上手く出来なかった。

だったら必殺、ラーニングだ。

 

「イメージイメージ......力を収束して撃つイメージ......」

 

見えないなにかを圧縮させる感じをイメージし、念じる。すると俺の周りに3つ程丸い弾幕が形成された。弾幕は蒼色、限りなく紺色に近い。

 

「よし、成功っとぉ!」

 

蒼い弾幕は魔理沙に向かって一直線に放たれる。が、弾速は遅い。先程の魔理沙の弾幕はしっかり弾が見えなかったのに対して俺の弾幕は野球ボールを投げた程度の速度だ。やはり苦手は苦手、慣れや相性がある様だ。やはり遅い弾幕の為か、魔理沙は楽々弾幕を躱している。

 

「おいおい、さっきはビックリしたけどお前の弾幕遅く無いか?」

 

魔理沙が挑発みたいな事をしてくるが気にしない。だって本当に遅いもん。

 

「わかってるよ。仕方ないだろ?弾幕なんて使った事無いんだから。今はお前の真似しないと撃てないの。つーかそっちもあんな弾幕じゃ当たらないぜ?」

 

「へっ!初心者には負けられないって......うん?」

 

内心で魔理沙は驚愕した。まさか、自分の弾幕を一度見ただけで弾幕の使い方を理解し、それを実践し成功させたと言うのか?この少年は?

 

「ん?どうかしたか?まさかもう降参かぁ?つまんないなぁ.....」

 

「なっ!そんな事ないぜ!」

 

魔理沙はかなり焦った。このままグダグダ続けばこいつは確実に戦いの中で成長し化ける。しかしそれを相手に悟られる訳にはいかなかった。

 

「ならその証拠を見せてくれよ?つまらなすぎて寝てしまいそうだぜ。」

 

実際、蒼刃は魔理沙の弾幕を余裕で躱している。基本正面安置でいるが弾幕が来るとその弾の軌道がわかってるかの様に身体を捻じったりして全て躱しているのだ。それも、弾幕ごっこのエキスパートと呼ばれる幻想郷の実力者、魔理沙の弾幕をだ。

 

「〜〜!いいぜ、なら見せてやるよ‼︎」

 

魔理沙は懐から小さな箱を取り出して構える。この戦いを早く終わらせる為には自身の十八番が1番手っ取り早かった。

 

しかし、その作戦は蒼刃に筒抜けだった。

 

......よしよし、掛かった掛かった。

やっぱ魔理沙ってキャラクターは挑発がかなり有効なんだよなぁ.....

そしてこれはスペカ宣言だろうな。そしてそのスペカはやっぱり......

 

「これでも食らっとけ‼︎恋符『マスタースパーク』‼︎」

 

魔理沙の代表的な技であり、東方の中でも有名なスペカ、恋符『マスタースパーク』。その気になれば山一つ消し飛ばせると言う極太レーザーが、八卦路を介して蒼刃を襲う。

 

 

〜霊夢side〜

 

試合開始前、霊夢は立ち上がりから魔理沙が蒼刃を圧倒し、一方的になると思っていた。

実際魔理沙は幻想郷では実力者であり、幻想郷の異変を解決する異変解決者である。蒼刃の実力がどの位なのかは不明だが、それを差し引いても魔理沙には及ばない。そう思っていた。

しかし、いざ弾幕ごっこが始まった時、霊夢は考えが甘かったのでは無いかと感じた。

蒼刃は魔理沙の弾幕を躱したのだ。しかし蒼刃は弾幕ごっこがどんなものなのかを詳しく知らない筈。弾幕の速さも目で追えない程のものだったと言うのに。もちろん魔理沙も当たると思っていたのかかなり驚いていた。

しかしまだ驚きは終わらない。彼はこう言ったのだ。

 

ーんじゃぁこっちもやるかな。ー

 

そして彼は蒼色の弾幕を3つ作り出し、魔理沙に向かって放つ。やはり弾幕はなれていない様で、弾幕自体は物を投げた程度の速度しかでておらず、魔理沙は楽々躱す。別段、今のやり取りは普通の流れであり、おかしな点は無い。

 

だが、今彼は何故平然と弾幕を放てた?

 

ついさっきまで弾幕自体知らなかった外来人なのに魔理沙の弾幕を躱し、その上一度弾幕を見ただけで弾幕を扱える蒼刃の戦闘センスは計り知れなかった。

その時、魔理沙と蒼刃の挑発の掛け合いが終わった。結果は蒼刃の勝利、まぁどうでもいいけど。

 

しかし問題は、挑発を受けた魔理沙の行動だった。なんとスペルカードと八卦路を構えたのだ。

 

「あっ......!あいつ......!」

 

初心者になんて物を放とうとしてるのよあいつは!

 

初心者に放つならまだ他にもスペカはある。しかしそれでも魔理沙が高威力のスペカを放つと言う事は......

 

(あいつ......見事に挑発を受けたわね......)

 

そして、必殺の光線が放たれる。もちろん蒼刃には為す術もなくその光に飲み込まれた。しかし余りにもスムーズに事が進んだ為に霊夢はある事に気づけなかった。

 

「ああ......やられちゃった。なんで挑発なんかしたの......ってしまった‼︎蒼刃‼︎」

 

そう、蒼刃の救出だ。ちらりと霊夢は紫を見るが、紫はかなり落ち着いており扇子で口元を隠す仕草をしている。

 

「紫ッ⁈なに落ち着いてるのよ⁈早く助けに.....」

「落ち着きない霊夢。魔理沙を見てみなさい。」

 

「え?」

 

この状況で魔理沙を心配しなければいけないことは、霊夢は理解出来なかった。しかしそこに答えがある、それがわかった今、そちらを見るしか無い。

そこには何かに驚愕し、歯軋りしている魔理沙がいた。

 

「ん?何イラついてるの?......え?」

 

さらに魔理沙は放ち続けているのだ。オーバーキルにも程があるマスタースパークを。

霊夢は驚愕した。魔理沙がマスタースパークを放ち続けているという事は、まだ蒼刃はやられていないと言う事だ。

あの距離、あの位置では回避できる場所は無い筈。

 

だが、一つだけ退路があった。

 

「なっ......なるほどね。」

 

「ね?まだ終わって無いでしょう?」

 

蒼刃は、マスタースパークの下を潜って避けていたのだ。

そのままマスタースパークを滑る様に魔理沙に迫る。



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第4話 勝負の決着と始まりと





〜蒼刃side〜

「くっそぉぉぉ‼︎なんで当たらないんだよ⁈」

 

俺はマスタースパークが当たる瞬間、唯一の退路である下に滑り込んだ。元々、マスタースパークは正面から撃たれた場合ほぼ避けるのは無理だ。しかし俺は、原作を知っているからこその疑問があった。

それは、相手の下に回り込んではいけないのかと言う事だ。

確かに、原作では下には行けずに正面しかない状況になる。しかしこれは現実だ。下に行けない見えない壁など存在しない。つまり俺は、どんなスペカでも下に回り込んだり相手の周りに行けば全て攻略出来るかも知れないのだ。

 

(ッ......!やっぱ動画で見た二次創作の比じゃねぇなこれは......)

 

だが、流石は主人公の必殺技。簡単に躱させてはくれない。髪が何本か消された。あの時スライディングしてなかったら死んでたな〜......

 

「くそッ!でもまだスペルブレイクしてないぜ‼︎」

 

「はぁぁぁ⁈これ一発じゃね〜の⁉︎」

 

やばいやばいやばい‼︎マスパって持続すんの⁈聞いてないんだけど⁈......そういや動画とかのしかマスパ見てないや......

 

「下に来るなら炙り出してやる‼︎」

 

宣言通り魔理沙はマスパを上から下に向けてスライドする様にずらして来る。結果、俺は後ろから迫る死の光線と鬼ごっこする形になるわけだ。ははは......洒落にならん。

 

(ッ〜〜‼︎まずい、このままだと消し炭になるぞこれ......そうだ、このまま横に......いやそれだと作戦が台無しに......)

 

蒼刃は考える。自分がどうしたらマスパを攻略出来るかを。こんな状況に陥ってなお、彼は勝とうとしているのだ。

 

「ぐぐぐ.......捉え......た‼︎」

 

しかし魔理沙は蒼刃を徐々に追い詰める。マスパの威力を維持するにはかなり負荷が掛かる様で箒の上からだとかなりきつい様だ。だが魔理沙は蒼刃を捉えた。

 

「ッ⁈マジかよやべぇなちくしょう‼︎」

 

(くっそ!空からのアドバンテージがあるからって対応早すぎだろ!なんだよあいつはプロかよプロだった‼︎)

 

 

マスパが当たる瞬間、霊夢は思ったのだろう。

やはり、この少年はただの外来人だと。

 

同時に、紫も悟っただろう。さっきの行動は偶々に過ぎなかったと。

 

 

 

 

だが、別に俺は負けたなんて言ってない。

 

 

 

「......一か八かやってやる......マケテタマルカ。」

 

「うっ⁈」

 

何か含みのある言葉を放った瞬間、蒼刃の雰囲気が変わった。さっきまでは必死な表情で逃げていた様だが今は違う。

魔理沙は強烈なまでの殺気を感じたのだ。いったい、こんな少年のどこにそんな力があるのだろう?

そして.......彼は宣言した。

 

 

ーーー翔べ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「................あっれぇ〜?おかしいなぁ、なんで寝てんだ?」

 

蒼刃は何故か知らない天井を見上げていた。さっき体験したが為にもう自分がどんな状況かを把握出来ていた。

だが、何かがおかしい。さっきまで魔理沙との弾幕ごっこをしていた筈なのに何故蒼刃は寝ているのだろうか。彼はわからなかった。

 

(うーん......弾幕ごっこでなんかあった様な気もしなくは無いが.......どうしてこうなった?)

 

「その答えなら教えてあげるわよ。」

 

「あり?霊夢いつの間に?」

 

「さっきよ。あんた弾幕ごっこの途中で気絶したのよ。」

 

(おろろ、不覚だな。勝負の最中にそれはまずい。つーかなんで気絶してたんだよ俺)

 

「マジか〜......魔理沙に悪い事しちまったなぁ〜。後霊夢もありがとう。」

 

「へ?なんでお礼なんかすんのよ?」

 

「いやだって霊夢が介抱してくれてたんだろ?ここ博麗神社だし。だからありがとう。」

 

「........どういたしまして.......」

 

霊夢は感謝される事になれていないのだろうか、小さな声で返事をする。蒼刃もおう、と返事をするが口元が緩んでいた。彼の心境がこちらである。

 

(おぉ.......これがツンデ霊夢なんですねぇ.......)

 

いったい何を考えているのだろうか。

 

「ッ‼︎......あんたには雑用全部やってもらうから!」

 

「ふぁい⁈何故に⁈」(思考読まれた⁈)

 

「なんでもよっ‼︎と言うかあんた居候でしょうが!家主の言う事は聞け‼︎」

 

「.......確かに。」

 

(まぁ、大体は出来るしいいか。これで幻想郷ライフも安泰って訳だ。ありがたいこってい。)

 

彼は将来嫁の尻に轢かれるタイプだと思う自分は普通だと思う。そう信じたい。

 

〜少年労働中〜

 

〜蒼刃side〜

 

時は少し経ち、今の時刻は夜の10時、もう霊夢は寝ているだろう。俺は度重なる気絶で眠気が吹き飛んでしまい目が覚めてしまっている。

とりあえず縁側で湯呑みでお茶を飲む事にした。

 

「ふ〜......まだ夜は冷えるなぁ.......」

 

まだ幻想郷は夏の始め、夜は冷える。なので温かいお茶を飲む。うん、体が温まって行く感じがする。

 

(......問題は三つ、一つはつい本気が出てしまった事。これは治さないとまずいよなぁ......)

 

いやね?少し加減という物を身につけなきゃいかんでしょ。あのままだと魔理沙殺してたかもしれんし。

実際、あの世界ではだいぶかけ離れてたし、まぁもしかしたらそれが原因で追い出されたのかな?

 

(二つめもだいぶやばいなぁ......なんでここで『あれ』が使えたんだ?)

 

こちらもかなりヤバイ。何故かって?まぁ弾幕ごっこの時気絶したから覚えてないけど、霊夢の話だとこうだ。

 

『あの時何が起きたかって?ああ、あれね。あんたマスパに巻き込まれる瞬間に目で追えない位高速で空に飛んだのよ。しかも魔理沙より高い位置によ。ただその時点で気絶してたらしくてね、魔理沙が助けてくれたのよ。多分瞬間的に移動したせいで身体が持たなかったんじゃない?』

 

とのこと。この分だとかなり魔理沙に借りが出来てしまった様だ。後が怖い。

そんな事よりもだ。おかしい、おかし過ぎる。あれはあの世界、まあゲームなんだが、そこしか使えない筈なのに。一度実際にやってみた事がある。もちろん結果は失敗、当たり前だ。だが、ここでは出来た。.......細胞でも活性化しているのだろうか?二次創作では見たことあるが......まぁ今度永遠亭でも行って見てもらおう。

そして......

「三つめ......かぁ......」

 

(あいつ......元気にしてっかなぁ......)

 

本来、俺はこの世界の住人じゃない。加えて東方のキャラでもない。何故ここに来てしまったのかの理由は大体わかっている。そう、これは転生なのだろう。全くもって信じがたい事であるがおそらく事実だ。この手の二次創作はよく見ていたのだから、間違いは無いだろう。

問題はそれだけではない。俺が生きたあの世界では2015年7月だった。こちらも7月ではあるが恐らく時代が違う。それもそのはず、ここ幻想郷は二次創作の世界であるからだ。そもそも次元自体が違う。

即ち......もう如月 澪と言うおバカで天然で幼馴染の少女にはもう会えないという事だ。

.......嬉しい様な悲しい様な、複雑な気分になる。そんな感情を打ち消す為に俺はすっかり冷えてしまったお茶を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???side〜

 

「蒼刃.......くん.......」

 

終業式の時、私の目の前から彼は忽然と消え去ってしまった。しかもみんな彼が倒れた事がなかったように式を進めていた。その後、みんなにいつも遅刻してくるちょっと口の悪い幼馴染の少年について聞いてみた。だけどみんなは.......

 

「え?誰だそいつ?そんな奴いたっけ?」

「うーん......そのような生徒はがこの学校にいた記録はありませんねぇ.......」

 

同級生も、先生にも聞いた。あらゆる関係者にも聞いて回った。終いには彼の家族にも.......。

一度、私と彼で2ショットを撮って貰った事がある。その写真は今も大切に飾っている。

でも......でも.......その写真に写っている筈の彼に白い影がかかっていた。もう、この世界には蒼刃くんが存在してないって事を示していた。

 

「会い.......たいよ.......蒼...刃くん.......。また......話したいよッ‼︎だから絶対.......絶対見つけ出して見せるから........ッ‼︎だから待ってて......蒼刃くん.......‼︎」

 

だけど私は諦めたくない。私は蒼刃くんを忘れたくない。それに、私だけ覚えているのはおかしいと思う。

もし......もしそれに何か意味があるなら、私は探し続ける。また、彼と笑い合う為に......




はい、風邪で寝込んでいたとこからこんにちは、小鳥戦士です。
今回で幻想の第1章は完結、次の章に移ります。
次章ではやっと彼女の出番となります。
では次章のプロローグをどうぞ。






少年は、幻想へと消えた。
少女の想いを残して
しかし、少女の想いは終わらない
必ず、見つけ出すと信じて

次章
『現実』の第1章 澪サーチメント

『現実』の、少女の想いは止まらない


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一方その頃 『現実』にて
ー事実ー


〜澪side〜

 

あれから数日、私は手掛かりという手掛かりを見つけられずに途方に暮れていた。

やっぱりみんなに聞いても知らないの一点張り、なにも成果は得られなかった。

 

ただ、日々原因を調べていくと少しずつ心当たりが出来ていた。

まだ蒼刃くんがいた時、よくライトノベル?というのを読んでいた。

その本の名前までは覚えてない。けど彼はある日の学校の帰り道にこんな事を言っていた。

 

『なぁ、澪。』

『へ?何?蒼刃くん』

『いやな?もしアニメ......作り物の世界に行けたらどうする?』

『え〜アニメの中かぁ......うん、行った事ないからわかんないなぁ』

『ははは、だよなぁ......だけどさ、澪。この本の中には沢山の世界が広がってんだぜ?例えば空飛ぶ城とか、魔法とか、剣とか......やっぱ“また”行きたくない?』

『また?.......え?蒼刃くん行った事あるの⁈アニメの世界に⁈』

『あり?そんな事言ったか?まぁ行けないけどなぁ......常識的に考えて。......転生とか出来ないかなぁ......』

 

 

よくよく考えるとおかしな事を彼は言っていた。

 

アニメの世界に行く。

 

普通に考えて無理だ。

そんな夢見る子供みたいな事を言っていた辺り、彼はアニメ好きだったのかな?

そして、最後に彼が言っていた“転生”なるものを今調べている所だ。

自分の部屋でカタカタとパソコンを打つ。この作業を、私はどれだけしたのだろうか。何時間?何日?もしかして......数年?

本当に探す為のネタが無い。なにせいきなり消えて、みんなからも忘れられる。そんな話、世界のどこにも無いのだから。

そんな時にふと思い出したあの言葉。自分でもよく思い出せたなと思うその言葉は、さてもこの事象に関係のある言葉だった。

 

「......え......?じゃあ蒼刃くんはもう......?」

 

もはや彼の失踪事件の原因は明らかだった。彼女は決して、そのような現象や存在を信じている訳では無い。へぇ〜、そんな事あるんだ、不思議だなぁ......その程度の認識しかない。だが、今回に関しては信じざるを得ない。現状がそう語っている。

正直言って怖い。今まであまり意識していなかったものが目の前にあった。だが、そんな恐怖から助けてくれる、庇ってくれる存在はもういない。

今この現状、転生が本当に起きたとしか説明出来ない今、彼の現状は一つしかない。

 

もう、彼は“死んでいる”事になる。

 

それが、彼女にとってどのような事をもたらすのかは、もう、火を見るよりも明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、まだ冷える夜の中、一人の少女の泣き声が響き渡ったという。




はい、夜遅くの自宅のベッドの中からこんばんは。小鳥戦士です。
今回は物語の初めということでかなり少なめとなっています。さらにやはり心配事が的中しました。現実の章が少なく仕上がってしまう事に。
いやね?どうしても現代ではやることが少ないんですよ。一応澪も物語に必要なキーマン(あれ?キーガール?)ですし、活躍させたいヒロインなのに......
まぁ、メタ発言は置きまして。

最悪の事実を知ってしまった少女はなに思う。

次回 『現実』の章 第2話「行動」


次回はいつになるのやら......トホホ.......


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ー行動ー

さてさて投稿。お待たせしました。


少女は自分の部屋の机に突っ伏していた。

 

知ってしまった事実。

 

認めたくない事実。

 

それを知った時からずっと、自分がどうかなってしまいそうで怖かった。ただただ泣く事しか出来ない自分が情けなかった。

 

もはや自分に出来る事はない。

 

探す為の手掛かりも無い。

 

二次元の世界なんて行けっこ無い。

 

 

 

..................いや、最後の手段がある。

 

 

「私が死ねば........蒼刃くんの所に行けるかな.......?」

 

“転生”

それは死んだ人間を新たな命として生き返らせる手段。

 

彼女はなんどもなんども調べた。その結果、膨大な知識を手に入れた。転生とは何かから始まり、転生が題材の二次創作をなんども読んだ。

だから彼女は死ぬ事に希望を見出している。いや、それしか希望は残っていないのだから、それに縋るしかないのだろう。

 

「転生.......蒼刃くんの所に転生.......」

 

その希望は、少女の心を折るには十分だった。

彼女は何かに取り憑かれたようにブツブツ言い始める。

そして壊れ、壊れ......壊れ......

 

 

 

ピーンポン......パーンポーン!

 

 

その時、少女の崩壊を遮る様にインターホンが鳴る。

今は夏休みだ。生徒達は各々の生活をしているだろうからまず来ないだろう。恐らく親の仕事先の人とかだろうか。

 

「........誰?」

 

この家には今は澪しかいない。しかし、彼女にはチャイムに応対出来る程の気力は無い。むしろ鬱陶しい位だ。

 

 

「あれ〜?いないのかな.......?澪〜⁇」

 

 

その時、外から彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

その声は、彼女がよく知る親友の女の子の声だった。

 

「あっ.........ッ‼︎」

 

私は玄関に向かって走り出した。

正直もう限界だった。蒼刃くんが死んでしまった事を知ってしまった時からずっと。

もし。もし彼女が覚えてなかったら私は壊れてしまう。

 

バタン!とドアを乱暴に開け、息を整えながら相手を見据える。

 

「おぉう⁈ど、どうしたの澪?見事に泣いてんなぁ......」

 

「沙羅ちゃん......ねぇ、覚えてるよね.......?口の悪くて.......いつも私をいじめて、いつもぶれない私の幼馴染の事.......沙羅ちゃんは忘れてないよね?」

 

「⁈........そいつの名前は?」

 

沙羅ちゃんは少しおどろいたような素振りを見せ、訝しむように詳細を求めてくる。

私は素直に答えた。覚えてくれてる事を信じて。

 

「うん.......望月蒼刃。私の幼馴染だよ?」

 

「.......そっか。うん、覚えてるよ?いっつも澪の事いじめてたもんね。」

 

覚えていた。私以外に覚えていた。その事実は壊れかけていた少女にはこれ以上ない良薬だった。

安心したのか、澪はまた泣き出してしまい、沙羅ちゃんに抱きついた。

 

 

 

 

*******************

 

 

 

 

 

〜澪side〜

 

 

「でも、なんで覚えてるの?みんな蒼刃くんのことを忘れてるのに......」

 

「ごめん、それはわからないんだよね......実際手がかりは無かったんでしょ?」

 

「うん......」

 

あの後私達はとりあえず外は暑いという事で私の部屋に避難することになった。

なんで沙羅ちゃんが来たのかは置いておいておく。夏の攻撃から身を守るのが最優先だ。

 

そして、何故二人して蒼刃くんを覚えているのかの話し合いが始まった。

最初は何故蒼刃くんがいなくなったかの話になり、最終的にわからず終いとなった。

 

そして、沙羅ちゃん。正直私もなんで覚えてるかわからないけど、あまり蒼刃くんと接点が無かった沙羅ちゃんが何故?

 

「私は......なんて言うか......うん、わかんないや。」

 

無理も無いと思う。だってなんの前触れもなく、なにも手掛かりもなく消えたのだから。

 

「でもさ澪。変なこと言うかもしれないけどさ。」

 

と、沙羅ちゃんは何かわかったのか、私に話しかけてくる。今の状況でなにか言ってくれるのはありがたい。

だけど、沙羅ちゃんが言った事は、常識を覆す発言だった。

 

「なんかこの現象......アニメとかでよくある敵の陰謀〜!ってやつ見たいじゃない?まず望月だけ消えるとかあり得ないし......『消された』とか?」

 

「ッ‼︎」

 

消さ......れた?いや、なんで?

 

「どうして?どうして消されたの⁈蒼刃くんは......蒼刃くんはなにも悪いことしてないじゃ無い‼︎なのにどうして......ッ‼︎」

 

「おおお、落ち着けって澪!そんな事あり得ないだろ⁈まさかの話だよ!」

 

「......ッ!うぅ......‼︎」

 

(思った以上に病んでんな......負の感情が痛い位突き刺さる......)

 

「あっ、そうだ!なな澪?お前達って○○市にすんでんだよな?」

 

「うん......私と蒼刃くんは寮に住ませてもらってるから......」

 

私達の住む地域は、現在通っている碧高からかなり遠い。その為学校が提携している寮に住んでいる。ちなみに隣の部屋は蒼刃くんの部屋だ。なんでも男子寮と女子寮に分ける事が出来なかったらしく、一つの建物に詰め込まれている。偶々男女の寮の境界線に住んでいるだけだ。

 

「だったらさ、探しに行こうぜ?望月の手掛かりを......お前達の故郷に!」

 

この数日の間、確かに故郷には行ってない。なら探しに行くのはいいかもしれない。それに、今は夏休みだ。ちょうど2週間後に帰る予定だったのだからなおちょうど良い。

 

 

かくして始まる私達の捜索活動。

私の故郷には一体何が待っているのか。

それでも止めれない。絶対見つかるって、信じてるから。




はい、部活終わりの電車待ちの中からこんにちは。小鳥戦士です。あっ、電車来た。

いや〜久しぶりに投稿した気がします。実際久しぶりですが。とりあえず今回で現実の章第一は終わりです。
あまりにも早すぎる気もしますが今更気づいたこの現実。これ以上進めると幻想の章にかなり負担と矛盾が生じることに。一応幻想がメインですし、ある程度話も流れも握りたいんですよね。
さて、次回からはお察しの通り幻想の章第二......と行きたい所なんですが......タイミングが悪くもテスト期間なんですよ。実際今もテスト期間真っ最中なんですがね。
なのでまた編集する時間が無い‼︎
下手したら次は来年.......なんてことも。出来るだけ編集時間を増やすので次回もよろしくお願いします。

では皆さんさよなら。
そして一応言っときます。
メリークリスマス&良いお年を!


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第ニ章 遭遇
第5話 香鈴堂と蒼刃の荷物


久しぶりの投稿......とりあえず初めての5000文字越えです。


俺が幻想郷で目が覚めてから早二週間が経過していた。

 

実際俺が活動したのは気絶が多い為一週間弱だが......まあそんな事はどうでもいいか。

 

その一週間の間は特に何かあった訳では無く、ただただ霊夢の身の回りのお世話(という名の雑用)をしていた。

そして霊夢の雑用(なんか吹っ切れた)をしていてわかった事が。

 

こ い つ な ん に も し ね ぇ 。

 

いやね?本当になんもしないんだよ?ずっと縁側に座ってボーッとして。飯の時は喜んでやってくるのだが。

ちなみに食材は魔理沙に持って来てもらっている。魔理沙の住む魔法の森は様々な種類の茸が存在する。

その茸達は俺の知らない茸が沢山生えているとの事で、特にやる事も無かったので暇を持て余していた俺はたいへん興味をそそられた。

そして一度魔理沙に茸盛り合わせを持って来てもらった時がある。その中にはなんと俺の良く知る茸。そう、椎茸とシメジがあったのだ。そして俺の料理人人生が始まる‼︎

 

〜閑話休題〜

 

「あんたのご飯はほんと美味しいのよね......どうしてそんな茸で美味しくなるのよ?子供の癖に」

 

霊夢はそう言ってくれるが、俺は俺以上の料理スキルを持った奴を知っている。実際そいつに教えてもらった様なものだし、あまり自慢はできないのだが.......

 

「ふっふっふ、俺をなめてもらっちゃあ困る。これでも料理なら負けない自信があるからな。ある程度なら大体作れるぜ?そして子供言うな」

 

ちょっとくらい背伸びしたっていいだろう。数少ない俺の特技、たとえ教わったものでも、習得できたのは俺の実力あってのものなのだから。

 

「ふーん......なら今度のご飯はリクエストしていいかしら?」

 

「おうよ、なに食べたい?」

 

「おうどん食べたい。作れる?」

 

......懐かしい。昔地区の野外サークルで作ったなぁ......

 

「もちろんさぁ☆時間と材料さえあれば出来る。」

 

「......あんた咲夜みたいね......」

 

料理が出来れば話は弾む。昔じいちゃんから教わった事が役にたった気がした。

......さて、こんなたわいも無い話もいいがそろそろ行動に移るか。今言って欲しいワードが出たしちょうど良い。

 

「咲夜?だれだそいつは?」

 

「ええ、十六夜咲夜。紅魔館のメイドをやってる人間よ。」

 

「紅魔館?そんな所があるのか...... 聞いた感じ西洋の建物かな?」

 

紅魔館。それは東方の世界に登場する、知らない人はいないと言える“原作”の名所であり、そこは二人の吸血鬼と魔女、悪魔にメイドといった西洋の塊みたいな存在が住まう館。

 

俺としても、紅魔館にはぜひ行ってみたい。二次創作や動画などでもよく見かけたものだ。そうだ、せっかく東方の世界にきているんだから、東方の世界の名所全て回るのを今後の目的にするかな。

 

「あー......そういえばそんな事言ってたわね、あいつ。」

 

「......なぁ、その紅魔館とやらに連れてってくんね?」

 

「やだ、めんどくさい、用無い。」

 

「怠惰の心丸出しだな......」

 

白々しくも霊夢に紅魔館について質問した。一応俺が東方の世界を知っているのはバラしたく無いので仕方がない。まあ霊夢にはめんどくさいで一蹴されたが。

困ったなぁ...... ちと紅魔館には用事があったのに、これじゃあ紅魔館に行けないじゃん。

 

「それに紅魔館は吸血鬼の住処よ?行くなら夜にしなさい。」

 

「えぇ〜......」

 

まずいな〜......強く言うと怪しまれるからなぁ......紫もいないし。するとドタバタいいながら誰かがやって来た。

 

「だったら私が色々連れてってやるぜ!」バタン!

 

いきなり戸が開いたと思ったら魔理沙がやってきた。はて、色々ねぇ.......ありがたいもんだ。

 

「サンキュー魔理沙。また茸料理作ってやるよ。」

 

「よっしゃ!楽しみにしとくぜ!」

 

うんうん、年下の女の子が嬉しそうにしてるのは眼福眼福。(体は小さいですが蒼刃は年上です。)

 

「さてさて、んじゃあちょっくら行ってくるわ。しばらく博麗神社には帰らんと思うから頑張れよ。」

 

「はぁぁ⁉︎ちょ、ちょっと⁉︎その間ご飯は⁉︎」

 

全く......俺がいない間なにしてたんだよ。飯くらい自分で出来るだろ。

 

「今まで通り自分でやってろ。行こうぜ魔理沙。」

 

「お、おう。」

 

「こらぁぁぁ‼︎待ちなさ〜〜い‼︎‼︎」

 

「断る。」

 

「お前.......あとで怒られても知らないからな?」

 

俺と魔理沙は脇だし貧乏巫女から逃げる様に魔理沙の箒で飛び去った。後ろからはあんたら後でしばく的脅迫があったが気にしない。

そして魔理沙、なんだその顔は。にやけてるぞ。お前実は乗り気だろおい。

 

 

 

****************

 

 

〜幻想郷上空にて〜

 

 

「なぁー魔理沙ー?どこいくんだ?」

 

「ん〜......まずは香霖堂に行く。知り合いがやってる店でな?そこには現代から幻想郷に流れ着いた物が山程あるんだ。もしかしたらお前が知っている物があるかも知れないな。」

 

「ほぉ〜......あるかな〜...... 俺の荷物。」

 

「なんだ?落としたのか?」

 

「ん〜、多分幻想郷に来た時落としたかな〜って。」

 

「ふーん......」

 

実際、博麗神社で目が覚めた時には俺が持っていたバックは無くなっていた。終業式の時、すぐに帰るために持ってきていたものだ。ケータイも入ってたし。

 

ちなみに服装に関しては制服から普通の服に変わっていた。なんと言うご都合主義。服のサイズもピッタリだ。

......しかしここまで手がこんでんだ、何かしらの干渉があったとみて間違いないな......一体だれが......

 

「後ちょっとで着くぜ〜」

 

「おう......わかったんだけどさ。」

 

「ん?」

 

そして少し気になる事がある。

 

「なんで俺魔理沙に抱きかかえられる様に箒乗せられてんの⁉︎」

 

「いやだってお前落ちたらあぶねえだろ?空飛べないんだし。それに年相応だろ?」

 

「なるほど確かにそうだっじゃなぁぁぁい‼︎最後のは認めん‼︎俺は年上だッ‼︎」

 

「わかったわかった。そう言うことにしといてやるから」

 

「絶対わかってねぇだろぉ.......」

 

なんで俺は幼児化したんだよ......誰得だろうが馬鹿野郎......

 

「おい、見えたぜ?これが香霖堂だ!」

 

魔理沙はどうやってるのか、箒をふわっと浮かせながら着地した。そして目の前には少しこじんまりとした建物があった。

 

「これが......香霖堂......」

 

博麗神社に続く、東方の世界の名所。香鈴堂をみた瞬間、俺は感動した。やっぱり東方の世界に来たらここには行かねばと雑用しながら考えていたものだ。

しかし......

 

「この某ファーストフードのチェーン店のキャラクターの人形はなんなんだろうか......」

 

よく昔マッ○で見かけた○ナルドじゃねーか。こんなのも流れ着いたのか......?つーか店の玄関に置くか?

 

「こーりん!邪魔するぜ〜!」

 

カランコロンと軽快な音を鳴らしながら魔理沙は入り口のドアを開けた。中は意外にも整っていてとてもリサイクルショップとは思えない。香鈴堂って店の中は整ってるんだな。二次創作ではゴチャゴチャしてたのに。

 

店の奥には灰色の髪をして眼鏡を掛けた優男感がある男がいた。彼は魔理沙を見ると気だるそうな表情をした。

 

「はぁ......魔理沙、邪魔するなら帰っておくれ......ん?そちらの方は?」

 

彼は俺に気づくと魔理沙に尋ねた。

 

「あぁ、こいつは最近幻想郷に入って来たやつでな?とりあえず連れてきた。」

 

「へぇ......珍しいね。最近は幻想入りする人なんていないのに......おっと、自己紹介が遅れたね。僕は森近霖之助。この香霖堂では道具屋の店長をしているものだ。よろしくね。」

 

知っている、知っているとも。

彼は気前良く自己紹介をしてくれた。もちろんこちらも自己紹介をせねばなるまい。

 

「はい、望月蒼刃です。紹介に預かりました様に、最近幻想郷に流れ着いた不束者ですがよろしくお願いします。」

 

「‼︎⁇」

 

「ふふ、よろしくね。でも敬語じゃなくてもいいよ?堅苦しいのは好きじゃないし。」

 

「あー......うん、わかった。」

 

「え、え?え?蒼刃なんかへんなもの食ったか?」

 

へんなとは失礼な。

 

「目上の人に対してこれは常識なの。習ったろ?」

 

「え?あ、あぁ。」

 

......こいつ、やっぱり忘れてやがんな?

 

「ふふふ......魔理沙は昔から敬語は苦手でね?よく噛んでは泣いていたんだよ......懐かしいなぁ。」

 

「な、な、な、なひぉ‼︎」

 

「魔理沙動揺し過ぎ。噛んでる噛んでる。」

 

この幻想郷でも魔理沙は昔女の子らしかった時代があったらしい。しかしなんでのぜのぜ口調になったのかなぁ?

ていうかさっきの仕返しタイムのチャンスじゃね?

 

「それで?蒼刃くんは何をしに来たのかな?探しものかい?」

 

.......忘れてた。俺荷物探しに来たんだった。

 

「あぁ、実は俺の荷物がなくなってな?黒のリュックサックなんだが.......」

 

「あー、確かそんなバック拾ったような.......ちょっと待ってね。」

 

俺の探し物は見つかりそうらしい。幻想郷はスマホ使えるのかな?ゲームは無理そうだけど。パズドラとか。

 

「そういやまだ中は見てなかったなぁ......蒼刃くん、これかい?」

 

「おお!本当にあった!いやーよかった〜......」

 

霖之助さんが店の奥から持ってきたバックは、全体が黒い少し小さめのバックだった。それは紛れもなく俺のバックであり、俺と一緒に幻想郷入りしていた事になる。

 

「で?そのバックは何が入ってるんだぜ?」

 

いつのまにか興奮が収まっていた魔理沙が尋ねてきた。そうだ、中身確認しなければ.....

 

「うーんと......水筒、タオル、充電器、財布に筆箱、それから...... あった携帯!」

 

よかったぁぁぁ〜.......しかも充電100%に充電器残量100%付きだ!これで勝つる‼︎

 

「ケイタイ?なんだそれは?」

 

「僕も気になるね。どうやって使うんだい?」

 

「あぁ〜そっか、幻想郷には携帯なんて無いんだったな。簡単に言うとこれは携帯電話といって遠くにいる奴と連絡出来る機械だ。まぁ相手も持ってないと意味無いけどな。」

 

「へぇ......通信符の様な物かな。現代は進んでいるんだね?」

 

「あぁ、俺がいた世界はこの携帯......通称スマホが周りにかなり普及しててな。流行の物だな。」

 

「へぇ〜.......そうだ蒼刃くん。僕は能力を持っていてね。『物の名前と用途がわかる程度の能力』って言ってね?例えばこの掃除機。名前と用途はわかるんだけど使い方がわからなくてね?まぁ能力の欠点なんだが.......教えてくれないかな?」

 

ほへぇ〜......やっぱりそんな欠点があったか〜。よく二次創作で見かけたものだ。確かにそうなるわな、だって名前や用途がわかってもどんな使い道があるかは知らないのだし。

 

「あぁ、もちろんだ。そもそも掃除機ってのはーーー」

 

 

 

〜少年説明中〜

 

 

「なるほど.......これを動かすのには電気と言う物が必要なんだね......しかし電気......ちょっとこれは使えないかな......」

 

「確かに幻想郷には電気がないからなぁ......もし霊力とか妖力とかで動かせればいいんだけどなぁ......(チラチラ)」

 

「.......ふむ、それはいい考えだね?僕の知り合いに河童がいるんだ。その河童なら作れるかもしれない。」

 

「河童もいるんだ......(棒読み)河童がエンジニア......(更に棒読み)」

 

「そうだよ?最近では『コーガクメイサイ』って物を作ったらしいね?」

 

「へー(棒読み)コーガクメイサ光学迷彩⁉︎」

 

光学迷彩ってえぇぇ⁉︎あの姿消すやつだよね⁉︎あんなん作れるの⁉︎

 

「ふふふ......流石にあっちにはそれは無かったみたいだね?」

 

「いや......確かあった思うが......そんな簡単な、いや設備も整ってない所じゃ作れないから驚いてんだよ......」

 

いくら二次創作のキャラだからってぶっ飛び過ぎだろ。

 

「じゃあまた今度時間が空いたらその河童に会いに行く?霊力とかで動く装置も作ってもらいに行く時。」

 

「行きますッ‼︎いや行かせてくださいッ‼︎」

 

ダメだ!こんなチャンスは2度と無いぞ‼︎必ず行かなければっ‼︎

 

「ふふふ......あっ、そうだ。機械の事を教えてくれたお礼をしなきゃね?ここにある物ならなんでも一つ、プレゼントするよ。」

 

「え?いいのか?特にそんなもらえる様な事はしてないぜ?」

 

「これは幻想郷に新しく来たきみの歓迎の意味も含んでいるんだよ。まあ、遠慮せずに選んでくれ。」

 

「そっか........ありがとう、なら選ばせてもらう。」

 

 

森近霖之助.......いいやつなんだな。

そんな感謝と発見を感じながら、俺はある物に目を付けた。

 

「じゃあ.......これを頂くよ。」

 

俺は一つ、店に入った時から目を引いていたものを選んだ。




はい、部活のバス移動の中からこんにちは。小鳥戦士です。

そして皆さん、あけましておめでとうございます!
2016年もよろしくお願いします。
いやー、2015年は早かったですね。しかもなんだかんだであと3ヶ月ほどで僕も小説書いて一年ですよ。その割りには前作潰すわ話数少ないわ......あまり時間は無いですがちょこちょこ更新していきますので今年もよろしくです。

さて、今回から“幻想”の章も第二章です。そうです。僕の前作の終わった章でもあります。まぁ今回は終わらす気は無いですが。
そして章の副名である“蒼刃ムービング”。意味は幻想郷での初めての移動という意味を含んでいます。

さて......とくに報告は無いのでこの辺りで締めさせていただきます。では皆さん、さようなら。


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第6話 チートなポーチと初めてのスペカ

えー.......約一ヶ月お待たせしました。


「じゃあ、また来るよ。これからよろしく」

 

「うん。よろしくね。君は数少ないお客様だからね、いつでも来ていいよ」

 

「おうよ」

 

俺はこーりんと軽く別れを告げ、魔理沙の箒に跨った。魔理沙の箒は音もなく浮かび上がり、更に上昇していく。

 

「またな〜!」

 

そして、地上から手を振るこーりんが見えなくなるまで俺たちは上昇した。

ある程度昇りつめたらしく、魔理沙は気になっていたという質問を投げかけてきた。

 

「んで?お前一体何を貰ったんだ?商品見てたからよく知らないだぜ」

 

「んー.......俺がこの幻想郷で生きていく為に必要なものを選んだ。おそらく俺としては一番の必需品だ」

 

「ほー.......ん?じゃあ今それはそのリュックに入ってんのか?案外ちっせぇものなのか?」

 

確かに、魔理沙の言う通り俺は今リュックしか持っていない。しかもそれを背負っているのだから、そこに入ってると思うのも無理もない。

だが、ここは幻想郷。常識に囚われてはいけない。

 

「いやね?俺が選んだのはとてもリュックには入らなかったよ。」

 

「なんでだ?入らないと言ってる割にはそうは見えないぜ?」

 

「だろ?最初俺も戸惑ったさ。だってリュックに入んねーもん。もう腰のベルトに挿そうかと思ったね。まぁ本来ならそれが正しいんだが......まぁそれを見かねたこーりんがくれたのさ。このポーチを」

 

「(腰のベルトに挿そう?)そのちっちゃいポーチがなんなんだ?」

 

そう、一見何も変哲もないただの小さなポーチに見える。黒い色合いをベースに、青色の雷の刺繍をあしらったデザイン。

まぁ少し派手な見た目ではある。

が、皆はこんなケースを体験した事は無いだろうか。

 

特に気にする事の無い事柄、もしくはあまり目立たず、必要の無いと見られたゲームのアイテム。しかしそれが今後の人生、ゲームの進行に大きく関わってくるという事を。

この事から求められるものは、何事も第一印象に縛られてはならない... である。

 

今回も然り、いかに小さなものでも中身が大切なのである。

 

 

「これ、四次元ポケット.....即ち擬似スキマを内蔵してんだよ。だからなんでも入るし、出したいものを出したい時に出せる優れもの....らしい」

 

「...........は?」

 

しかしスケールがデカすぎるのも考え物だと思う。

......正直あまりに有能すぎて引いたのは内緒である。

 

 

〜少年少女移動中〜

 

 

「な......なるほど.....あいつとんでもねーもん拾いやがったな」

 

「ああ......俺も最初驚き過ぎて声が出なかった。完全に○ラえもんじゃねーかって叫びたかったよ」

 

「○ラえもん?なんじゃそりゃ」

 

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

「?.......まぁいいや。なんか飲みもん持って来るぜ」

 

「おっ、サンキュー!」

 

魔理沙は飲み物を取りに部屋から出て行った。現在、俺は魔理沙の家にお邪魔している所である。魔理沙の家は、魔法の森という東方の名所の一つに建っている家で、怪しげな茸や木々が所狭しと生えている森である。ちなみに香鈴堂も魔法の森の入り口付近にあったりする。

 

さて、このスキマポーチ(蒼刃命名)をどうするか。俺は正直言ってこれはかなりやばいんじゃ無いかと考えている。東方の世界観を壊しかねないし、そもそもこんな洒落にならないアイテムが落ちていたという話もかなり怪しい。

 

別にこーりんを疑っている訳じゃない。確かに二次創作などに出てくるのは少し裏ボス感というか、こう、何か隠してるって印象を受けたことはある。でもここのこーりんは優しい奴だ。もし何か思惑があったのならば、こんな役に立つ物を簡単に手渡す訳がない。

 

だったら何故そんな簡単にこれが落ちていた?場合によっては神器にもなりかねない代物が?

こうなるとまたあの考えが近くなってきた。俺の幻想入りもとい、別次元への転生。その原因が第三者の思惑によるものでは無いかという線だ。

正直転生は絶対第三者によるものだろう。そもそも自然現象で次元移動とかあったらたまったもんじゃない。まぁ、もう転生してしまったものは仕方ない。それによく二次創作(これ言うの何回目だよ)で見かけた転生神とやらもそろそろ出てきて欲しいものである。いい加減説明が欲しい。号泣会見でも開いて釈明しろってんだ。

 

「(そもそもなんで東方の世界なんだ?俺を転生させた奴の利益になる事なのか?.......やっぱり情報が少な過ぎる。これじゃあなんの解決も......)」

 

「なーに難しい顔してんだ?」

 

「ッ⁉︎」

 

長い長い思考に陥っていた俺は、頬に冷たい感覚がした瞬間的に横に飛び跳ねた。最初は何が起きたかわからず混乱してしまいそうだったが、そこには驚いた表情をした魔理沙の姿があった。その時やっと状況を呑めた。魔理沙は冷たい飲み物を頬に当てたのだ。

 

「え、いや幾ら呼んでも反応しないもんだから.......ごめんな?」

 

「いや......ちょっと考え事してただけだ。ごめんな、気付かなくて」

 

本当に思考に呑まれ過ぎだ。魔理沙を驚かせてしまった。

 

「まぁいいや...... ほれっ」

 

「うわっと.......ん?」

 

魔理沙がその手に持っていた飲み物を投げてきた。驚きはしたものの、落とさず落ち着いてキャッチ。だが、その飲み物が驚きの物だった。

 

「はぁ⁉︎なんでコーラがあるんだよ⁉︎幻想郷には無いはずだろ⁉︎」

 

投げ込まれたカンの表面はコーラと大きく書かれていた。

 

「へっへっへ、驚いたろ?これ紫が現代から持って来たものだぜ。あの能力でたまに現代から色々持ち帰ってくるんだよ。それがこのコーラだぜ。」

 

 

『境界を操る程度の能力』

 

それは幻想郷を創りし者、八雲紫の固有能力。その効力の範囲は凄まじいものであり、幻想郷最強クラスの能力とも言える。簡単に説明するなら、生命の生と死の境界を操る事が出来るし、現在地と目的地の境界を操る事ができるなどなど、もはややりたい放題である。

 

「ほぉ〜....... 」

 

「なぁなぁ、このコーラってよ、どうやって作るんだ?この....... よくわからん事が書いてあるのが謎すぎる。なんだ?新手の魔術か?魔術文字なのかこれは」

 

そんな素敵で愉快な魔法で作られてはいない。

いや、現代の物を幻想郷の考えで理解してしまうのは無理もないのかも知れない。そもそも幻想郷に現代の物は必要ないのだから、いざ実物を手にとっても頭にクエスチョンマークが浮かび上がるだけだ。しかしただの商品説明を魔術記号だなんて.......俺からしたらぶっ飛び過ぎだ。なにかジェネレーションギャップならぬ別次元ギャップを感じる。

 

〜少年説明中〜

 

「ラベルね〜.......つまりこれは魔術なんかじゃなくただの説明なのか。いや悪い悪い、思考が明後日の方向に飛んでたぜ」

 

「俺としては明後日じゃなくて異次元の方向まっしぐらだけどな」

 

もしそれが魔術として成立してしまった場合は失神する。ショックで立ち直れないだろうな。

まぁ、とりあえず幻想郷に対するカルチャーショックは置いといておこう。

 

「というかそろそろ本題に移ろうぜ。こんなんじゃ日が暮れる」

 

俺は手元のコーラの取っ手を引き倒し、カンを開ける。プシュっと軽快に炭酸が抜ける音が響き、炭酸が抜けない内にグイッと飲み干した。

久々の炭酸はやっぱり美味しい。現代が懐かしいぜ。

 

「んっ......そうだな、そろそろスペカについて話そうぜ」

 

魔理沙もコーラを飲み干し、スペカについて話を始めた。

 

そもそも俺の目的は紅魔館であり、魔理沙の家は考えに無かった。だが魔理沙も霊夢の言う通り夜の方がいいと言い出した為、急遽予定変更して魔理沙の家に来ている。

その際ついでにスペルカードについて聞いておこうと思い、魔理沙に頼んだのだ。引き換えに俺のキノコ料理を代償に。

 

「それじゃあ、まずスペカのブランクはあるか?」

 

「ああ、これを持っておきなさいって霊夢が。それ以来何も教えてくれなかったがな......一応3枚ある」

 

「ははは...霊夢らしいぜ......じゃあスペルカードルールについては?」

 

「それは教えてくれた。なんか博麗の仕事とかなんとかって嫌々と」

 

「あいつ本当にやる気無いな⁉︎.......まいいや、ルールがわかるなら問題無い。じゃあスペカ作るか...じゃあまず作りたいのをイメージ...「待て待て待て待て!」なんだよ?」

 

魔理沙が訝しむ様に此方を見てくる。いやいや魔理沙よ、そんななんだよみたいな顔すんなよ、此方としてもなんだよな気分だわ。

 

「そもそもイメージだのなんだの言われても訳がわからん」

 

「ええぇぇ〜....そんな事言われてもな〜......」

 

魔理沙は少し困った顔を見せてくる。しかしなにか思いついた様な顔に戻った。

 

 

「そうそう、思い出した思い出した!えっとな?この幻想郷で始めてスペルカードルールが出来た時な?霊夢にスペカの作り方について教えてもらったんだよ.......」

 

魔理沙は昔を思い出しながら俺に説明してくれた。

まぁ、結構話が長かったから省略するけども。その大半が霊夢との思い出話や自慢話だったから省略するわけじゃないという事は先に説明しておく。

 

ーー話を戻そう。

魔理沙が言うには、人のイメージは千差万別。スペルカードは創造主のオリジナルであり、類似する時はあれど同じものは作れない。

芸術や美術的な要素を含んだ弾幕ごっこはある種のスポーツであり、幻想郷の正式な決闘法である....という事らしい

 

「という事だぜ」

 

「長過ぎるわ‼︎どんだけ話しやがるんだこの馬鹿‼︎」

 

一時間も一つの話に掛けるか?いいや掛けない。断言出来る。だから俺が怒鳴るのもおかしくないよな?

ていうか、魔理沙の話した事は既に知ってる。伊達に東方を知ってる訳じゃないんだから。俺が言いたいのはイメージ出来ても理論がわからんって事だ。なんだよ、どうしてイメージするだけでカードが出来るんだよ。わけわかめだよ。

 

「ははは!悪い悪い。つい熱くなっちまったみたいだ。まぁそれに考える必要は無いぜ?なんとなく、なんとなくでいいんだよ」

 

「なんとなくねぇ......やってみるか」

 

俺はスペカのブランクを顔の目の前に構え、目を瞑る。

 

「そうだ、自分の得意なことを元にするのもありだぜ?私が魔法を元にスペカを使う様にな」

 

... なるほど、その手があった。てかそれを早く言え。俺が得意な事と言えばあれがある。

 

スーッと、俺のスペカが浮き上がってくる。その紙に刻まれた名は

 

「幻符『夢幻蹴夢』......これが俺のスペルカードか.....」

 

白かったブランクカードは絵柄と名が浮かび、紙自体の色が俺の弾幕と同じ濃い青色となっていた。

この世界のスペカは弾幕の色に既存するのだろうか。

 

「どれどれ......うーん、これは一回撃ってみないとわからないぜ。でもまぁ、いい出来だと思うぜ?初めてにしては」

 

「まっ、撃って見てからのお楽しみってこったな。ん?ちなみに魔理沙はスペカを何枚持ってるんだ?」

 

「私か?あんまり数えてないからわかんないけど......10枚は越してると思うぜ」

 

うーん、攻略サイト見た事あるからある程度はどんなスペカかはわかるっちゃあわかるんだが....10枚か、なら大体目星はつく。

 

「ていうかそろそろ紅魔館に行こうぜ。もうそろそろ頃合いだろ?」

 

辺りはもう太陽の光は消えつつあり、夕暮れの景色が広がっていた。




はい、家のトイレの中からこんにちわ。小鳥戦士です。

さて、今回の投稿は前回の投稿の約一ヶ月後......つまりひじょーに長い間がありました。いや本当にすみません....
ま、まぁ、今回も部活うんぬんではあるのですが......

さて、今回は約4600文字くらい......個人的には短い感がありますが読者様方(数少ない)はどう感じるのですかね....

そろそろ書く内容が薄くなって来てしまいましたので、これで終わりにしようかなと。
では皆、さようなら。


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第7話 遭遇と恐怖

長いなぁ.....投稿するまでが長いなぁ......

ベッドの上からこんばんは、小鳥戦士です。
今回はあとがきが思いつかなかったんで前書きで。

ではどうぞ


「う〜...痛いのだぁ〜」

 

目の前の幼い少女が、ぺたんと尻餅をつきながら涙目で訴え掛けてくる。

 

えぇっと......これ俺が悪いのか?いやあの子自らが痛いと言う理由を作ったのだ。だから俺は悪く...ない...のか?目の前で幼女泣いちゃって大の男が慌てふためく、これはひじょーに危ない光景だ。誤解されたらどうすんだよこれ......

 

あっ俺も幼児だったわ。

 

体は子供、心は大人とはよく言ったものだ。

 

「うぐっ...えぐっ...ううう.......」

 

「ああっ、ちょっ!待って待って!......ああ、くそっ、どうしてこうなった......」

 

だがしかし、俺の心の悲痛な声は、幼女が泣き叫ぶ事で吹き飛ばされた。

 

 

時は、魔理沙の家を文字通り飛び出して行ったその数分後まで遡る

 

 

〜現在→15分前〜

 

 

「なぁ、やっぱり遅すぎたんじゃないか?もう辺り真っ暗なんだけど。俺としては一切合切魔理沙の所為だと思うんだけど?」

 

「う、うるさいなぁ。文句言うなら箒の上から叩き落とすぜ?」

 

「別に大丈夫だけど?」

 

「だろ?だから黙って魔理沙さんに....え?」

 

「だから別にこっからなら落ちても大丈夫だっての。もちろんただでは落ちないぜ?木を利用しながら受け身取れば無傷だ。あっ、でも遮蔽物が無いと受け身なんて取れないからな?あくまで俺→なにか→地面=無事で成り立ってるからな」

 

「......化け物め......」

 

「経験の差だよ魔理沙君」

 

俺達は本来の目的である紅魔館へと移動を再開した。そもそも、霊夢が夜に行けなんて言わなければこんな待ち惚けみたいな状況にはならなかった訳で。

と言うか魔理沙、人の事を人外言うな。経験豊富なお兄さんと呼べ。俺としては人が空飛ぶ方が人外と言えるわ。

 

「つーかさ、今どのへんにいるの?後どのくらいな訳?」

 

「そーだなぁ......多分後少しくらいででっかい湖が見えると思うんだが...後5分くらい?」

 

「あっ、マジで?.......なぁ魔理沙、一ついいか?」

 

「なんだよ。一応言っとくがな。吸血鬼ってのは不死身の怪物だけど、太陽の光は天敵なんだ。だから夜しか生きれないし夜しか動かない。もしうっかり太陽光を浴びちまったら洒落にならないしな。だからこの時間は最適な時間なんだよ。だからわたしは遅れてないんだぜ」

 

知ってる。吸血鬼の性質くらい知ってる。いや俺が言いたいのはさ.......

 

「トイレ.....行きたいです」

 

「.......は?」

 

 

 

**********

 

 

 

「ふい〜...さてさて、行くぞ魔理沙。もう夜はすぐそこなんだからな」

 

「......わかったよ」

 

なにかご不満の様だな魔理沙よ。そりゃ俺だってトイレはしたいさ。だって人間だもの。

 

「まぁいいや。おい蒼刃、早く箒に乗れ。この辺りは山賊か、それとも妖怪がやってこやすい場所なんだ。早くいかないと喰われちまうぜ?」

 

「ほぅ、そんな危険地帯で呑気にションベンかましてたと?....俺も落ちたな......よし、行こうか」

 

確かに言われてみれば嫌な気配がビンビン漂ってる。俺は今自衛手段がない状態なわけで、抵抗は殆ど出来ないと思われる。だったら逃げるが勝ち。無駄に命を晒したくない。

 

「フラグになる前に登れ登れ。さぁ今宵は箒たびぃぃぃぃぃぃ⁉︎」

 

ズシャァァァ‼︎

 

と、歌い出そうとした瞬間、いきなり横の木の陰から黒いなにかが飛んできた。油断とフラグを建てた所為で避けれず、そのまま激突してしまった。

その時魔理沙の箒から落とされてしまったが、とりあえずは受け身を取りながら着地、無傷である。

 

「いってぇぇぇ......クッソ、今度はなんだよ?いきなりぶつかるとはいい度胸じゃねぇか......」

 

と、何処でみた不良マンガみたいなノリで。何かが当たった感覚があるがなんだろう、あまり硬くはなかったのだが。

俺はちらっとその原因がぶつかってきた方向を見る。

 

「ったく、妖怪か?幻想郷で初の妖怪か?こんな時に大事なファーストコンタクトするなんて思っても見なかっ......⁉︎なんだこれ⁉︎」

 

 

そこにあったのは『闇』。形容する必要の無い、純粋な闇だった。気付くと辺りは真っ暗で、目の前にある「闇』に飲み込まれている事に気付く。

これが、妖怪。ゲームとかでよく出る雑魚敵とか、そんなチャチなものでは決して無いモノ。

 

「おいおいおいおい、コレ結構やばいんじゃ無いか?なんつうか、妖力?みたいな気配強いぞこれ......」

 

今起きている事に驚きつつ、今ある唯一の戦う手段、『夢幻蹴夢』のスペカを手に握る。

もし、スペルカードルールを承諾してくれるような輩ならまだ勝機はある。というかそうじゃないと困る。

という訳で、弾幕ごっこのエキスパート、霧雨魔理沙先生に頼る事にした。

 

「おーい、魔理沙先生〜!こいつのお相手よろしく頼むわ〜!......魔理沙?おい魔理沙⁉︎」

 

しかし、さっきまでいた筈の魔理沙がいない。まさか置いて逃げたわけじゃあるまいし、なにかあったのは間違いない。

 

「(まさかこの闇は結界みたいな力があるのか?こう、狙った獲物に逃げられたり他に取られない様にするみたいな)」

 

だったら尚更ピンチである。この状況を覆すには自分でなんとかするしかない。

しかし、先程言った通り俺はスペカ一枚しかない。状況は依然、絶望的だ。

 

「なにか...なにか方法がある筈だ......この闇をなんとか出来る方法が...って、くぉっ‼︎」

 

いきなり闇の中から黒い何かが飛んできた。なんとか俺は飛び避ける事で難を逃れた。が、地面がかなり抉られており、当たったら致命傷どころじゃ済まない事を示していた。

 

「(おいおい、考えさせるのを邪魔する気か?どんだけ知能が高いんだこいつは......)うぉ⁉︎だから考えさせろや‼︎」

 

もはやペースは完全に彼方に取られている。考える暇はなさそうだ。一応、抵抗をする為に弾幕を放つ。

 

「なぁ⁉︎弾幕がすり抜けた⁉︎」

 

しかし弾幕が闇に当たる瞬間、闇に呑まれてしまった。あまり変化がないのを見ると全く効いていない様だ。

 

「.......あっちは攻撃できてこっちはできないとか無理ゲーじゃん。勝ち目ないんじゃないかこれ?」

 

闇は実体がないのだろうか。いや、この闇自体が闇そのものなのはないだろう。もし闇自体が本体ならさっきの弾幕が当たる筈だ。

 

「(ん?という事はまさか.......)おっと⁉︎」

 

また考えると攻撃してくる。いや、感がいいのだろうか。

 

「なるほど、そうゆう事か。わかったぜ、お前の攻略法!」

 

なにか身の危険を察したのか、黒い弾幕を放ってくる。しかしもう怖くないし危なくない。

 

「お前の弱点、つまりこう言う事だろ‼︎」

 

瞬間、俺の手から強烈な光が放たれた。その光は闇の弾幕を消し去り、そのまま一直線に広がっていく。

 

「やっぱりな。おまえは光が苦手なんだ。元来、闇は光に弱いのが常識。光に照らされたら消えるのは当然だ。だからその事を悟られない様に考える暇を与えなかった訳だ。」

 

光が一直線に伸びている状態のまま、俺は手を適当に動かす。その光は俺の手の動き通りに動き、闇を消していく。

そう、この光の正体は魔法やご都合主義などでは無く、スマホのライトなのだ。スマホのライトってのは案外強力、暗闇を照らすのは造作もない。

 

「最初は焦ったぜ。攻撃が当たらないもんな。お前さんは実体がないもんだと勘違いしてたし、正直諦めかけてた。」

 

そう、もはや諦めていた。こちらから攻撃出来ないとなるとお手上げだからな。

 

「だけどな、最初俺に“ぶつかった“のはなんだ?お前さんの弾幕なら体は抉れているはずだ。だけど抉れてなんかない。つまり.......お前は実体があるって事だ‼︎」

 

そして俺はスマホを剣で斬り刻むイメージで振り回した。

その振り回した光は闇を消していき、完全な闇はいつしか隙間が空き、ボロボロになっていく。

 

「そしてお前が本体だ‼︎妖怪‼︎」

 

「ッ!」

 

闇を消していくとやはり本体である妖怪が見えてくる。しかしまだ消したりないのか、残念ながら姿は闇に包まれよく見えない。しかし姿形はバッチリ見えた。身長は.......

 

「(俺とタメだと⁉︎じゃあ幼児体格かよ.......世も末だなこんにゃろう.......)」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎」

 

「うるっせぇわ巨人かおのれは」

 

奇声と怒号が入り混じったなんとも迷惑な声を上げ、闇妖怪が襲いかかってきた。相手は妖怪。だが幼児。だから暴力は出来ない.......なんて甘っちょろい考えは無い。それに自分も幼児だ、問題無い。

 

「くらえ.......チェストォ‼︎」

 

バキィ‼︎

 

「グギャァ‼︎」

 

襲いかかってきた所にビリビリ中学生よろしくな回し蹴りを見えない顔面に叩き込んだ。奴は飛びかかってきた勢いそのままに吹き飛び、痛かったのか悲痛な声を上げる。

 

だが、俺の反撃は終わらない。

蹴りをぶちかましたおかげで隙が出来た。蹴り終わった瞬間に奴に肉薄し、俺の唯一のスペカを至近距離で放つ!

 

「気絶しろよ.......幻符『夢幻蹴夢』‼︎」

 

手元のカードから放たれた弾幕は、肉薄したおかげで全弾命中した。ただ、どんなスペカかは一度見てみたかったが仕方ない。あれだけ肉薄したらを効果無視で大ダメージだ。

スペカの弾幕を全て受けた妖怪は吹き飛ばされた挙句、近くの木に衝突し、木にもたれかかりながら膝をついた。顔が下をみている限りでは気絶しているようだ。

 

「ふぅ......一時はどうなるかと思ったが......まぁなんとかなったな。つーか誰だよこいつ、いきなり襲いかかってきやがって。お巡りさんに突き出してやろうか」

 

そう言ってその妖怪に近づき、警戒しながら確認する。だが、闇が全身を包んでいるためよくわからない。

鬱陶しかったので俺は闇を剥いでみることにした。

 

「.......なんか怖いな。触ったら死ぬとか無いよな......まぁ物は試し、やばかったらやばかっただ。多分大丈夫だろ」

 

俺は意を決し、闇に触れようとした。

 

ブワァァァ!

 

「うわっ⁉︎いきなりなんだ一体‼︎」

 

しかし闇に触れる寸前に闇自体が妖怪から勢いよく離れ、ひとまとりになった。まるで、触られるのを嫌がるように。

 

「な、なんっ......でかすぎんだろ‼︎なんだよ今度は‼︎」

 

妖怪から吹き出す様に出てきた闇は、とても小さな身体に入りきらない程の大きさまで膨れ上がった。その大きさ、目測10メートル。今の俺にとっては上が見えないくらいだ。

 

「......おいおい、今からあれと戦えってか?ふざけてんのかよ神様よぉ.......!あんなんどう戦えってんだよ‼︎」

 

対峙した瞬間、悟った。今の俺じゃ勝てない。

 

「............ぅぉおおおおおあああああああ!!!!」

 

スマホを握りしめ、やけくそ覚悟の特攻を仕掛ける。

 

「んなぁ⁉︎」

 

しかし瞬間、闇が消えた。それも元々そこに居なかったかの様に一瞬で。

 

「.............................」

 

 

冷や汗が溢れてくる。

もしあのまま戦っていたらと思うと、とても。

なんで一瞬で消えたのか。何故小さな妖怪にあれが詰まっていたのか。疑問は山程あるが、今は余り考えたくない。疲れた。さっきみたいに余裕はない。

 

「う〜...痛いのだぁ〜」

 

妖怪は幼女の姿をしていたらしい。妖怪は頭を押さえ痛がっているが、俺だって頭を押さえたい。

 

「........どうしてこうなった.......」

 

 

 

その問いに、答えてくれる者は居なかった。

 



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第8話 紅魔の動きと覚悟

今回はガチで短めです。
まぁ繋ぎなのとテスト投稿なんでお試しみたいなやつと思っていただければ幸いです。


〜???〜

 

「......お呼びでしょうか」

 

ある館の一室に、誰かに質問する声が響く。その声からして女性だろうか、少女とは言い難い響きだ。

 

「ええ....少し気になるものが館に近づいているの......それもいきなり襲い掛かった正体不明の妖怪を、いとも簡単にあしらう程の強者よ」

 

女性の質問に答えたのは、言動こそ大人なれどまだ子供感が抜けていない少女だった。

 

「....何故、お嬢様が強者と認める程の者がこの館に?」

 

それも、少女が女性に主従を結んでいる。この様な会話からして少女は館の主であるらしい。

 

「それは何か私に用があっての事みたいね。流石に用事が何かは見れないから......少し話がしたいわ。ここに連れてきて頂戴」

 

「承知しました。では、直ぐにその者の元へ向かいますが、何かお伝えする事はありますでしょうか」

 

「そうね.....じゃあこの私、レミリア・スカーレットが話がしたい....そう伝えて頂戴?咲夜」

 

レミリアと言う少女と咲夜と呼ばれた女性。この2人は蒼刃の目指す紅魔館の住人である。幻想郷の中でも高位の実力を持つ吸血鬼とそれに仕えるメイド長。レミリアは蒼刃を自らの部屋に迎え入れるつもりの様だ。

 

「わかりました。その者は今どこに?」

 

「外に大きな湖があるでしょう?そこに行けばやって来るわ」

 

「わかりました。では今すぐ向かいます」

 

瞬間、音もなく咲夜は消えた。代わりに残されたのはレミリアが好きな紅茶のみ。

レミリアは紅茶を優雅に啜り、味を楽しむ。

 

「さて......わざわざ夜に合わせて来てくれるのだもの.......きっと楽しませてくれるのよねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにか寒気がするんだけど。誰か噂にしてんなこれ」

 

所変わって蒼刃の視点。今彼は正体不明の妖怪とそれに憑いてた影を撃退した後、魔理沙と合流。本来の目的である紅魔館へと向かっていた。

 

ちなみに、蒼刃を襲ったのは東方の原作キャラクター、ルーミアだ。彼女は幼女の姿をしている割には恐ろしい妖怪で、人を喰う事でその存在を保っている人食い妖怪である。所有能力は闇を操る程度の能力。蒼刃を覆った闇はそれから生み出した技だと蒼刃は考えた。

しかし、ルーミアの事はさほど驚きでは無い。元々ルーミアはこの辺りで出てくるということは原作で知っていた為に会えたらラッキーとまでしか考えていなかった。まぁ、いきなり喰われそうになったのは予想外だが。

 

実際に驚きなのはルーミアに憑いてた影。それだけが謎なのだ。幻想郷に影を操る能力者はいない筈、そう踏んでいるのだが実際に出てきたのだ。原作にも出なかったイレギュラーとでも考えるしか無い。それも、蒼刃が転生したせいで起きたと。

 

さて、話を戻し現在。ルーミアを倒したのはいいのだが、倒した拍子に背中から木に激突したせいで歩けないとの事。原作キャラだし、魔理沙の知り合いだし、自分でやった事を放り出して進む訳にもいかず、ルーミアを背負って歩いていく事に。実際には魔理沙が背負って。

 

「なんだよ、よくわからん事言ってないでお前が運べよ」

 

「無理。身長的に。残念ながらルーミアと身長一緒なんだよ」

 

「な...なるほど。確かお前元はでかいんだよな。慣れない内は無理か」

 

「そーゆーこった。...........いつになったら元に戻るんだよちくしょー......」

 

一応はルーミアを運ぶ場所は決まっている。紅魔館の前には湖があり、そこには氷の妖精チルノがいる。彼女も原作キャラであり、冷気を操る程度の能力を持っている為チルノの能力で痛む場所を冷やしに行くのだ。医学的に言うとアイシングと言う。

ついでにチルノにルーミアを預ける算段だ。彼女達はバカルテッドと呼ばれるグループの一員だ。この幻想郷が原作のストーリーがどこまで進んでいるかはわからないが、まぁお馬鹿同士だ。なんとかなるだろう。

 

「なぁルーミア、痛い所は大丈夫か?痛いならどう痛い?」

 

「うー......ズキズキするのだぁ....」

 

「まぁ、青血になっているしなぁ.......たぶん打撲だろうなぁ」

 

ルーミアの傷は打ち身のような傷なので、打撲である事はまず間違い無い。しかし妖怪の治癒力とかそこら辺はかなり強力である。それでも大事をとって応急処置位は取っておいたほうがいい。

 

「そーはぁー.......お腹すいたのだー」

 

ルーミアが腹をすかせ、食べ物をねだってきた。というか俺を襲ってきた時点で腹を空かせていたのだろう。

 

「食い物かぁ......よし、ならばこの四次元ポーチの出番だな。ごそごそっとな......テレッテッテー!」

 

俺はポーチを漁り、目的の物を取り出す。

 

「ほらよルーミア、グミだ」

 

「ぐみ?ぐみってなんなのだ?美味しいのか?」

 

「グミな。あぁ、おいしいぞ。まぁ食ってみな」

 

「たべる〜!」

 

ルーミアは魔理沙におぶられながらモキュモキュとグミを頬張る。

 

「む〜〜?なんだか血の味がするのだ?でも美味しいのだぁ‼︎」

 

そう、今ルーミアにあげたグミはあの時貧血で倒れた時、澪に貰った鉄分グミだ。一応パックごと貰ったのでバックに入っていたようだ。

 

「ほぉー.......それ私ももらっていいか?」

 

さっきまで空気だった魔理沙も欲しがってきた。もちろんまだ残りは多いので魔理沙にもあげる。

 

「なんだこれ、ほんとに血の味がするな.......こんなものが現代にあるのか.......変な奴らだなぁ」

 

「まぁそもそも貧血気味の奴が食べる医療品みたいなものだからな。別に鉄分不足ってわけじゃないやつが食べても変な味がするんだよ」

 

「ふーん......」

 

 

 

あの時、俺が澪に貰った最後のものが鉄分グミだった。

思えばあの日、俺が寝坊せず遅刻しなかったら貧血なんかで死ななかったのだろうか。俺がいたあの世界は元の世界で、この東方projectの世界は別の世界。次元が違う二つの世界は繋がる事は一切無く、もはや帰ることは出来ない。そもそも転生ってのは死んでいる事が前提で、俺が転生している今、あの世界で俺は死んでいるという事の証明となっている。

だから、もう澪には会えない。家族とも、学校の連中とも二度と...二度と会えない。

 

 

「よぉし......やっと着いた......蒼刃!ここが湖だ!」

 

 

俺は、この世界で生きることを決めた。

別に元の世界を忘れなくてもいい。胸の中にそっとしまっておけばいい。

誰かが言っていた。人生は楽しんだもの勝ちだと。

だったらこの東方の世界をとことん楽しんでやる。後の事は後で考えればいいさ。どうせあの時だって4年くらい掛かったんだ。帰れたとしても夢オチになるだろうしな。

 

 

「おーし.......んじゃ、お馬鹿さんを探しますか....!」

 

先は長けれど、後悔無しで進んでやらぁ‼︎




おやすみ前にこんばんは、小鳥戦士です。

最近無事に進級し、春休みに突入してから部活も遠征続きでもう辛いこと辛いこと。宿題まだやってねぇ......!明後日からまた静岡遠征だぁ........!宿題いつやればいいんだ‼︎

まぁそれは置いといて。
今回、ガチで短めですよね。もはや小説なんて呼べないナニカですよね。すみません。
実は携帯をiPhone4から5sに変えてからというものの、今までポチポチ入力でやっていたのですが5sからは音声入力なる科学の結晶の存在に気付き、今回の話に6割の割合で使用してみた所、あまりにもサクサク進むので調子に乗って区切りを早くし過ぎた結果、こうなりました。
でもやはり少しは修正入れないとやっていけないですね。試しにちょっとやってみましょうか。

お題 大剣

ポチポチ入力 大剣

音声入力 体験

やっぱり誤変換してしまうことが多々ありますね。

これからは音声入力を気を付けながら有効活用して行こうかと思います。もしかしたら投稿ペースが上がるかもしれません。


それでは皆さん、さようなら。



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第9話 かりちゅまとカリスマ

一ヶ月半振りくらいでしょうか?
とりあえず最新話、どうぞ!


「もう帰りたいんだが」

 

「はぁ⁉︎」

 

ルーミアをチルノ達バカルテッド(チルノと大ちゃんという妖精しかいなかった)の元に無事送り届ける事は出来た。しかしそこはお馬鹿、チルノはルーミアが襲われたと勘違いし、襲い掛かって来た。が、あまりに単調的な突進だった為に弾幕を正面にドーン。チルノは気絶し代わりに大ちゃんが謝って来た。正直俺がチルノと同じ立場なら問答無用で襲い掛かりそうな事は否定出来ないと説明し、チルノ達を許した。

 

..........何が言いたいかと言うと、疲れたのだ。

紅魔館に向かう為、貧乏巫女から逃げ去り、休憩の筈の魔理沙宅では自慢話を延々と聞かされ、やっとこさ出発したら妖怪に襲われた戦闘開始。そしてルーミアの送り届け。

いくら精神年齢16歳といえども肉体年齢約一桁にはキツイ。こんなの近所の小学生も失神ものだ。マラソンよりキツイんじゃないか?

 

「いやいやいやいやいや!!!ここまで来たんだぜ⁉︎それを帰るぅ⁉︎バカかお前は‼︎」

 

「だってさー、あんなに動いたんだよ?幼児にはキツイぜー.......つか今9時くらいだろー?良い子は寝る時間だし、ていうか若干俺眠いし」

 

「マジでなんなんだよお前‼︎お前はアレか、遠い所に行くと必ず寝ちまうっていうアレか‼︎」

 

「おーないすつっこみ」

 

「喧しいわ‼︎」

 

 

なんというか、馬鹿馬鹿しいというか微笑ましいというか。少し見栄を張ってる魔法使いの少女と心16、体一桁の幼児がいいあっていると言う奇妙な光景が、そこにはあった。

 

無論、それを見ちゃった奴もいた。

 

「ええっとぉ........」

 

「ん?」

 

何やらいきなり声が聞こえてきた。魔理沙といいあってる時に来たのだろう。俺は振りかえってみた。

 

「あの、貴方様が蒼刃様でしょうか。私、紅魔館のメイドをさせていただいております、十六夜 咲夜と申します」

 

少々顔が引きつっているようにも見えるが、礼儀正しく挨拶をしてくる女性が一人。

このメイドさんはもちろん原作キャラであり、紅魔館勢の一員である。彼女の事を知らない人は少ないんじゃないだろうか?

 

そして顔が引きつってるのは恐らく魔理沙といいあってるのを見て面倒くさい奴だと誤認識されているのだろう。これは少し評価を直さなければ。

 

「あぁ、俺は蒼刃だ。望月 蒼刃。こう見えて16歳だからよろしく」

 

どうだ、別に特色がある訳でもなく、ミスった訳でもないこの無難な返答は。

 

「あ、はい。確認取れました。では望月蒼刃様、紅魔館の主がお呼びです。ついて来ていただけますでしょうか?」

 

ある程度はマシになったっぽい。さてさて、向こうから来てくれたんだ。帰る理由は見当たらない。

 

「了解。でも俺は飛べないぜ?人間のあんたが飛べてるのが不思議なんだよな」

 

確か公式情報では吸血鬼や魔女、悪魔に妖怪に囲まれた環境で過ごした結果、なんか飛べる様になったという些かぶっ飛んだ設定だった筈。別に俺はそんな特殊な環境で育ってはいないので飛べない。

 

「はい、私はまぁ色々あったというか....... とにかく、紅魔館へは私がお連れいたします。目を閉じていただけますか?いきなりだと脳に負担がかかってしまう恐れがありますので」

 

「へっ?」

 

シュンッ!

 

そんな音が聞こえた気がする。俺は、咄嗟に閉じていた目を開ける。

そこにあった光景はさっきまでの様な自然豊かな光景ではなく、人工的な建物の中だった。しかも、紅い。ここは廊下なのだろうか、豪華なカーペットがずらっと敷かれた光景。

 

「おー.......目がショボショボする....」

 

正直趣味の悪い色合いだ。まぁこれが紅魔館、吸血鬼の好きな血の色で埋め尽くされている。

 

「........あまり驚かれないのですね。普通人間はいきなり景色が変わる事に脳がついてこれない筈なのですが.......」

 

「え?...あぁ、俺はちょっと経験があるっていうか....もう瞬間移動程度じゃ気絶とかオーバーリアクションはしないんだよ。慣れって怖いね」

 

無論、転生の時の事である。

 

「むぅ....私の能力について見くびられている様にも聞き取れますが....経験豊富なのですね。流石お嬢様の言う通りという事でしょうか」

 

「お嬢様ねぇ.......なに?俺についてなんか見られてんの?」

 

俺と咲夜はレミリアの部屋に向かう為に廊下を歩く。何故部屋の目の前に移動しなかった事については、咲夜がある程度俺と話をつける為なんだとか。

 

「はい、お嬢様の能力によるものです。お嬢様は未来を見通す力をお持ちになっています。そのお力については....お嬢様に直接お聞きくださいませ」

 

咲夜と少し話をしていると目の前の扉で咲夜が止まった。ここがレミリアの部屋という事だろう。

 

「では私はここで。蒼刃様、くれぐれも失礼の無い様にお願いします」

 

俺は会釈すると咲夜は消えた。十六夜咲夜の能力、『時を操る程度の能力』によるものだろう。彼女は時を止める事であたかも瞬間移動している様に見せているのだ。

 

「(さてさて.......なんだかんだ言って目的地に着いた訳だけども......これからどうするかねぇ....)」

 

実は何も考えていなかったりする。俺としては原作キャラに会いたいなー程度しか目的は無い。が、なんか面倒な案件に巻き込まれそうな予感がする。霊夢の様に百発百中な訳では無いけれども、俺の勘は良く当たる。

 

だが今はとにかく目の前の事をしよう。というかそれしかやる事無いし。

 

俺はそっとドアを開けた。だが、それがいけなかった。

普通、洋式の館などではまずノックして返事を貰ってから入るのがマナー。だが俺はレミリアというキャラクターが実際どんな奴なのかと考え事をしながらドアを開けてしまった。その結果......

 

「うー.......初対面の奴にどう接するべきかしら。私はレミリアよ。....違う、私はレミリアというわ。....うーん、どうも初対面となるような事最近なかったからか少し対応に困るわね...私の名前はレミリア=スカー..........................あ」

 

「.......................どっちでもいいかと」

 

結果、レミリアの自問自答による独り言をバッチリ最後まで聞いてしまった。レミリアもこちらに気づいたようだ。

 

「........う......」

 

「う?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぎっ⁉︎(う、うるせぇぇぇぇぇぇ‼︎)」

 

顔を真っ赤にしたレミリアの羞恥の叫びは、紅魔館だけでなく外までも響き渡った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「は、恥ずかしい所を見せてしまって申し訳ないわ........」

 

「い、いやいやこちらこそノックも無しに申し訳ない......」

 

 

「「.........................はぁ...........」」

 

あの後、レミリアの叫びに咲夜がすっ飛んできた。文字通り時間を止めて。しかも咲夜の顔が怖かった。咲夜はレミリアを俺が泣かせたと勘違いしたらしく、阿修羅の如き勢いで襲い掛かってきたが、レミリアの説明によって頭にナイフ一本で許して貰った。

 

「ごほん!.......じゃあ、話を戻しましょうか。私はレミリア=スカーレット、この紅魔館の主をしているわ。....それで、紅魔館には一体何の様かしら?何か目的があったように見えたのだけれど......」

 

「........俺は望月蒼刃、一応これでも16だ。紅魔館には用って言うより興味本意で来た。霊夢に話を聞いてな、吸血鬼ってのはどんな奴なんだろうって行動に移した訳だ」

 

「え、えらく行動が早いのね.......それで?その吸血鬼である私を見てどう思ったのかしら?そこの所私気になるもの」

 

「.............それ聞いちゃう?」

 

「えぇ、聞いちゃう」

 

「...........じゃあ言っちゃうわ」

 

 

やめとけばいいのに...とか、そんな考えは無かった訳では無い。ただただレミリアの要望に応えただけである。

 

 

「幼女で独り言の痛いかりちゅまお嬢さまぶらぁッ⁉︎痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

「とんっでもない事言わないでよ‼︎何が幼女よ失礼でしょ⁉︎そ、それにっ!かりちゅま....かりちゅまですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎ちょっ、ちょっとタンマ‼︎俺人間‼︎しかも幼児だから吸血鬼パワーで殴んな殴んな‼︎」

 

やはり原作に近い性格だったようでかりちゅまにすぐに反応した。しかも逆鱗に触れたらしく、凄まじい力がこもったパンチを仕掛けてきた。しかも、中々速い。

 

「っ!このっ!当たりなっ!さいよ‼︎」

 

「ちょちょちょ!ってうわぁ⁉︎死ぬ!死ぬ‼︎」

 

もちろん当たったら洒落にならないので全て躱す。躱しきれないのは両手でいなして衝撃から逃れる。ただ疲れて来た。幼児になった事の弊害がかなりキツイ。ほんと、なんで幼児なんだろうか。

 

「君がっ!死ぬまでっ!殴るのをやめない‼︎」

 

「なんで知ってんだよそのネタ⁉︎」

 

いやほんとなんで知ってんだよ。それより体力がもう切れる!もう謝るしか道はないか?謝ってなんとかなるとは思えないけども.......

 

「す、すみませんでしたッ‼︎レミリアさんは本当はカッコ良くて可愛くてカリスマ性溢れる想像以上のお方です‼︎」

(ヤバイッ‼︎言い過ぎた!これじゃわざとらし過ぎるよなぁ.......終わった)

 

もはや転生ライフはお終いか。そう諦めた瞬間奇跡は起きた。

 

「えへへ.....わかればいいのよわかれば」

 

「.........................えぇぇぇ〜..........」

 

もう今の事は無かったかのようにパンチの嵐は瞬間的に収まり、残ったのは満面の笑みを浮かべるレミリアだった。

 

なんか....もう...原作なんて信じたくない。

絶対原作の世界線から外れた並行世界だろここ.......

 

 




訂正
様っていうより⇒用っていうより



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第10話 図書館と俺の魔術?

今俺は紅魔館の魔女が管理する大図書館の前にいる。

 

まぁいきなり何があったのかはみんな気になると思うのでざっと説明する。

 

レミリアに許して貰えた後、紅魔館のメンバー全員に会いたいという意思を伝えた所、上機嫌なレミリアは軽く了承してくれた。その最初に来たのが大図書館なのだ。

 

ただし、この大図書館には注意しなければならない事がある。

それはこの大図書館の主であり、原作キャラでもあるパチュリー=ノーレッジの使い魔、小悪魔こと通称こぁについてだ。

 

彼女に関してはマジでわからない。

 

創作系では優しい雰囲気のドジっ子...という設定が多い彼女ではあるが、本来の原作では確かあまり喋っていなかった筈。つまりどんな性格なのか、どんな関わりをすればいいのかマジでわからない。

 

しかも小悪魔の性質は確か淫魔。男性の精を吸い生きる人ならざるもの。下手したら全精力を持っていかれて死にかねない。

 

結果、俺はビビり過ぎて入れずにいる。

 

「(まずはどうやって性格を見抜くか....とりあえず当たり障りない感じで接して行けばいいのだろうけども.......いや、そもそも................ってまたか......)」

 

 

どうもこの世界に来てからというものの、やはり深い思考に囚われ過ぎている節がある。別に悪い事ではないのだが性に合わない。簡単に言うと気持ち悪いのだ。なにかに支配されている様に感じて。

 

「よし、もうちょっとフランクに行こう。警戒は忘れずとも本能的に動いても問題ないだろうし」

 

そっとドアに触れ、図書館に入ろうとドアを押した、瞬間

 

 

ドシャァァァァァァァァン‼︎

 

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎

 

 

なにかが倒れる音と、ドア越しにも響く女性の悲鳴が立て続けに聞こえてきた。

 

 

「な、何事⁉︎」

 

俺は訳も分からずドアを強引に開けた。

そこで見た光景は凄まじいの一言で、恐らく大量の本が敷き詰められていたであろう本棚や、ステンドガラスの様なものまで所狭しと散乱していた。

いやもう本当に凄まじい。散らかってるとかそんなレベルじゃない。まるでそう、弾幕ごっこが繰り広げられているかのような.......

 

「こんのぉ....!本くらい貸してくれたっていいだろぉ⁉︎」

 

「貴女の場合それは度が過ぎてるのよ.......!」

 

少し考察していると俺の近くで凄まじい音を立て、まだ無事だった本棚を薙ぎ倒しながら二人の女性が激しく争いながら弾幕を撃ち合っている光景が広がっていた。二人は何やら本の貸し借りについて弾幕ごっこで揉めているようだ。というか、本の貸し借りで騒ぐのって俺が知ってる中で二人しかいない......

 

「ま、魔理沙⁉︎あいつ紅魔館に来てたのか!....あっ、あの紫っぽい奴は.......パチュリー?...........あぁなるほど、お決まりのパターンか.......」

 

そう、この2人しかいない。紅魔館の図書館での出来事の一つに、お決まりとしてイベントがある。それはパチュリーの本を借りに(盗みに)くる魔理沙をパチュリーが迎撃する......というものがある。今まさにその最中真っ只中なのだ。

 

「お〜....すげぇ、この光景生で見れるなんて.....そうだ、スマホで動画撮っとこっと」

 

とりあえず記念に動画を撮る。一つ気付いた事なのだが、四次元ポーチに物を入れると、その入れた物は一番いい状態にリセットされるみたいなのだ。スマホの場合は充電が100%になったり傷が無くなったり、撮った画像等は消えずにリセットされる。つまりスマホはポーチに入れとけば永遠に使い続けれるという事だ。

つくづく、チートアイテムである。

 

「ほー.......パチュリーってやっぱり魔法使いって感じがするなぁ.......「ぅぅ....」えっ?何だ?どっから聞こえた?」

 

そのまま5分程動画を撮っていると、足元から何やら声が聞こえた気がした。ふと、ここに入る前に悲鳴を聞いた事を思い出し、それが魔理沙やパチュリーではない事に行き着く。

 

するといきなりズボォッ!、と散らかった本の中から腕が伸びて来た。俺はうぎゃっ!、と短く悲鳴を上げ、その腕の正体を確認する。

 

「す....すみません....誰かは分かりませんが助けて..........」

 

「うひぃ⁉︎腕が!腕が喋ったぁぁぁ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、その腕を引っ張って声の主を助け出した。

えっ?さっき?シラナイナー。

 

「えと......助けていただきありがとうございます。ちょっとあの弾幕ごっこに巻き込まれてしまって.......」

 

「あー.......お疲れ様です。大丈夫ですか?」

 

「はい....これくらい慣れっこなので.......」

 

本に埋もれていたのは赤みがかかったピンクの髪をした女性だった。いや、悲鳴を聞いた時点で女性であるのはわかっていたけれども........まさか小悪魔だとは思わなかった。それに分かる訳無い。だって東方のキャラは声がないのだから。しかも小悪魔は喋ってすらないし。

 

「というより....その、驚かれないのですか?私の姿に」

 

「え?何をイマサラ。空飛ぶ巫女に魔法使い、闇に紛れる見えない妖怪に時間を止めるメイドさん。極めつけは吸血鬼ときたもんだ。今更悪魔如きで驚く蒼刃さんではないありません」

 

「な...なるほどー.......」

(それはそれで傷つきます........〕

 

若干小悪魔が顔を引き攣っていたが、近くに流れ弾が着弾すると「きゃっ‼︎」と大人しめではあるが可愛らしい悲鳴を出した。今のは可愛い、可愛いのだが......そろそろうぜぇー

 

「........さて、いい加減うるさいな...どうしたもんかな」

 

「あのぅすみません。私にはどうすることも.......」

 

「ん〜.......墜とすか」

 

「........へ?」

 

俺は四次元ポーチから白紙のスペルカードを取り出した。さっき作った夢幻蹴夢でもいいけど、せっかくだからもう一枚作ろうか。それも、鬼畜モノを。

 

「やっぱイメージはアーチャーだな。あれなら弾幕ごっこでも有効だろうし...............出来た。よーし、別世界の弾幕をくらえ!弓符『赤い弓兵の剣矢』‼︎」

 

俺はフェイトシリーズから無限の剣を投影する赤いアーチャーをイメージし、スペルカードとして再現した。

その名の通り、アーチャーが得意とした投影した剣を弓矢として放つという荒技である。しかもタチの悪い事にーー

 

 

「ーーんなぁ⁉︎け、剣が降ってきたぁ⁉︎」

 

「ーーなんっ、なんてタチの悪い........‼︎」

 

このスペカ、東方原作ではありえない降水型使用なのだ。

俺は弓を持ってないから彼女らの頭上から降り注ぐよう設定、スペルカードを展開する。

何もなかった空間から数え切れない程の剣が現れ、2人の頭上から剣が降り注いだ。不意打ちと体験したこともないであろう弾幕に2人は少しは避けるも、雨に等しい剣矢に撃墜されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんつー攻撃だよお前.......あれ避けれるのか?反則級だぜあれは」

 

「同感ね。魔理沙と同じ意見なのはいけ好かないけど」

 

「なんだとぉ⁉︎」

 

「まぁまぁ落ち着きなさんな、お二人方。まずは現状を直視してからにしてくんないかなマジで」

 

先ほどのスペカについて抗議に入られ、なぜか喧嘩に発展した2人を宥めつつも、暴れられた結果出来上がった本棚の惨劇を修復にかかる。ちなみにあれでも対処方法はある事にはある。それはもちろん発動した瞬間に逃げる事。簡単だね。

 

「えぇー、掃除とか嫌だぁー」

 

「文句言うんじゃねーよ、お前らがやった事だろうが。いいからちゃっちゃと動く動く!」

 

「はぁー....これがここで、この本が.....面倒くせー」

 

魔理沙は一応渋々といった様子で整理整頓を始めた。こちらも巻き込まれたとはいえ当事者ではある。本当に不本意だが。

そうだ、これ名前聞いたって言う口実作るチャンスじゃね?

 

「というかさ、魔理沙はともかくあんたらの名前知らないだよね。そっちの羽のお姉さんは大体予想付くけど......あんた魔女だろ?いや、ウィザード⁇」

 

さりげなーく、さりげなーく。勘が鋭い程度に誤解してほしいな。

 

「そうね、でも先に貴方から名乗るのが礼儀ではなくて?」

「あ、ごめん。俺から名乗んなきゃな。....気を取り直して、望月蒼刃だ。こんなちんちくりんなガキんちょの成りでも歳は16、気がついたらこうなってた不思議少年だ」

 

「そう。私はパチュリー=ノーレッジ。貴方の言う通り魔女よ。そしてこの子が......」

 

「パチュリー様の使い魔、小悪魔です。先程は色々ありがとうございました」

 

パチュリーは素っ気なく、小悪魔は礼儀正しく自己紹介してくれた。

パチュリーはなんか思っていたよりも大人しい感じがする。ま、こんなもんなのだろうな。

小悪魔に関してはへーとしか言えない。なんども言うが原作で性格はわからず、ゆっくりではばらばらな性格だったのだから無理もない。

 

「それで....?貴方はこの図書館に何か用かしら?見た所だと貴方も魔理沙みたいに本を盗みに来た訳じゃ無さそうだけど......」

 

「盗むんじゃない、借りに来てるんだぜ?」

 

魔理沙がひょこっと顔を出し、にんまりとした顔を残し次の作業に入った。

 

「借りたら借りたで死ぬまで返さないんだろ?いやそれはさて置き、俺はただ単に挨拶に来ただけだ。まぁ、いざ図書館に入ったら本は散らかり本棚は崩壊、極め付けは弾幕ごっこ勃発っつー惨劇が広がってた所為でそれどころじゃなくなったけどな」

 

「.......悪かったわね。お詫びと言ってはなんだけども、お茶を用意するわ。咲夜、お願い」

 

パチュリーが指を鳴らした瞬間、カン!と時間が飛ばされた様な音がなった気がした。すると、今まで本が散らかっていた図書館全域の風景が変わった。

 

「.......んなっ⁉︎元に戻ってる⁉︎」

 

「えぇ、咲夜にやって貰ったわ。彼女は紅魔館全域に対して指示の声が全て聞こえるのよ。まぁ私が魔法で聞こえる様にしているのだけど.......ま、お茶でも飲んで話しましょう」

 

いつの間にかテーブルが用意されており、パチュリーが当たり前の様に座った。テーブルの上にはマグカップが置かれており、淹れたての紅茶の香りが漂ってきた。

 

 

「若干メイドさんに頼り切ってる節はあるけど、紅魔館ってやっぱえげつないんだな」

 

「まぁ住民がほぼ人外だからかしらね。普通の人間には体験した事の無い時間なのでは無いかしら?」

 

 

「うーん...流石にここまでの環境で過ごした経験は無いなぁ......吸血鬼だろ?魔女に悪魔に時を止めるメイド......ラインナップが豊富なこった」

 

「あら、そんな事を言っていたらこの幻想郷では生きていけないわよ?ここには妖怪を筆頭に不死身や半妖、幽霊に半霊.......終いには鬼や神様だっているわよ」

 

「あっはっはっはっは......あーまいっちまうよ本当。なんでこの世界に来ちまったんだよちくしょう」

 

少し気が滅入りながらも、咲夜が淹れてくれたという紅茶に一口つける。口につけた瞬間、紅茶独特の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「..................美味しい」

 

「当たり前よ。レミィが大好きな紅茶ですもの。ああ見えて舌はいいのよ彼女は。.........ふぅ、因みに血は入って無いから安心しなさい」

 

彼女も紅茶に口をつけ、ほんの少し懸念していた事について聞きたかった事を言ってくれた。

 

「それにしても.......凄いなここ。俺が今まで見てきた図書館でもここまで広いの見た事ねー。というか紅魔館とサイズ合ってなくない?」

 

「えぇ、もちろんサイズは合っていないわ。でもそこは咲夜の能力で空間ごと広げて貰ったのよ」

 

「メイドさんぱねぇな⁉︎」

 

それについては俺も知らなかった事実だ。

 

「じゃなくてさ...ここってどんな本があるんだ?漫画とかあるの?」

 

「まんが?とやらはわからないけど、本については様々よ。私が読むのは小説や魔導書だけど.......貴方は魔導書は無理かしらね。なにか好みの小説は無い?」

 

「うーん.....いや小説もいいんだけどな?魔導書って読んでみたいんだよね。いやね?やっぱこういう世界に来たなら魔法なり魔術なり使ってみたいって言うか......なんかロマンを感じる」

 

「無理じゃないかしら」

 

「....はい?」

 

パチュリーは俺が魔法を使いたいと言うと無理とバッサリ斬られた。何故だ。

 

「何故と言われても仕方ない事なのよ。この世界にとって魔法とは個人の能力、『〜程度の能力』と同等の存在なのよ。幻想郷でも魔法を使えるのは片手で数えれる程度しかいないわ。そもそも、魔法を使う為には何が必要だと思うのかしら?」

 

「うーん?..........なるほど、魔力の有無か」

 

「その通り。魔法を使う為には魔力を必ず消費するの。そもそも魔法とは何かを犠牲に魔法を使用する対価交換の仕組みなのよ。だから魔法使いは魔力を使って魔法を使うの」

 

「なるほどな........つまり俺は魔法を使うのは無理か」

 

「いえ、言ったでしょう、無理じゃないかしらって。魔力が無いなら何かを犠牲にすればいいのよ。その場合魔術になってしまうけれど、例えば体の一部とかね。他人を損ねて使う事も出来ない事も無いけど、そこまで行くともう呪術の域だけど。」

 

「いや流石にそこまでして使いたくないわー。他人使って魔法使うのも論外だし」

 

正直言って魔法使えないのはショックだ。でもよく考えてみると無理なのは納得はいく。俺はただの人間だ。なんの力も持たないただの人間。魔理沙だって魔法を使えるようになったのは師匠のおかげだって言うし。

 

「....ま、とりあえず魔力があるかどうか調べてみましょうか。別にまだ魔力がないなんて決まった訳じゃないのだし」

 

そう言ってパチュリーは立ち上がり、俺の額に手を伸ばして目を瞑って瞑想のような形に入った。そのまま暫く経った頃、調べ終わったのか手を離し、何故か考え込むように座り込み紅茶を啜った。まずパチュリーは「おかしいわね.....」と独り言を零し、信じられないものを見たように俺を見て語りだした。

 

「まず、貴方には魔力があるわ」

 

「.......へぇ」

 

「あまり驚かないのね。とりあえず、最初は調べるまでは気づかなかったけど調べた途端魔力が溢れて来たわ。まるで、炭酸を振って蓋を開けたら噴き出すみたいに」

 

「なんだその例え.......とりあえず魔力があるならあるで嬉しいんだけど何がおかしいんだ?ひょっとして何か不味い事に?」

 

たまにあるのだ。隠された力的な物が発現すると大変な事になる漫画やゲームが。もしや今まさにその状況なのではとかなり心配になってきた。しかしパチュリーは大丈夫と口にし、俺は少し安心した。

 

「何がおかしいかと言うと、本来魔力は悪魔と契約する事で与えられる力なの。だから何も契約していない貴方が魔力を持っているというのは前提からひっくり返している様な物。つまりイレギュラーね。いやでも......その理論は幻想郷のみの理論なのだから別世界からきた蒼刃には適用されない?それならこの魔力について強引には納得できるけれど.......」

 

..............ちょっと待て。

 

「待て.......幻想郷の魔法理論はわかった。だけどなんでパチュリーが俺の正体知ってるんだ?まだこの事についてなんにも言ってないぞ⁉︎」

 

そう、俺はまだがこの東方の世界に転生した事を誰にも言っていない。だから誰も知らない筈なのだ。元々はもう少し慣れてきたら告白するつもりだったのに、パチュリーはなんて言った?別世界から来た蒼刃には適用されない?

 

「わからない?ってあぁ、教えていなかったわね。レミリア=スカーレットは『運命を操る程度の能力』を持っているという事を」

 

「...................しまった、全部見られたか」

 

あぁしまった。失念していた。忘れていた。レミリアのあの恐ろしい能力について、完全に忘れていた。

レミリアの能力、『運命を操る程度の能力』はその名の通り自分や他人の運命を操作、改変するほぼ無敵のチート能力だ。彼女はその力を使い、周りの人や自分に何が起きるのか運命を見る事が出来るのだ。つまり、紅魔館に俺が来る事も筒抜けであり、その事を住人に伝えていたのだろう。なら咲夜が待ち伏せていた事も頷ける。

 

「それでも貴方が幻想郷に別世界から来た、そして貴方はかなりの実力者という事しか分からなかったみたいね。でも実力者という点に惹かれ、レミィは貴方を紅魔館に受け入れた」

 

「.......実力者って言われてもな。俺ってばただの人間だぜ?」

 

「仮面を被っても無駄よ。ただの人間がここまで魔力を持ち合わせている訳がないし、そもそも貴方の気配は普通じゃないわよ?気付いてる?貴方の一つ一つの動きは油断がないのよ?」

 

「確かに、俺はいつも警戒してるぜ?だってよく知らない世界に叩き込まれて無警戒にヘマするなんて馬鹿な事はしないだろ?つまりそういうこった」

 

「いいえ違うわ。例え警戒を怠っていないにしても、貴方周りを見過ぎよ。客人である以上は危害を加える訳が無いのに、さっきから罠が無いか警戒しすぎ。こういうのには慣れている様ね」

 

「........そうかよ」

 

いつの間にか俺について観察されていた様だ。パチュリーの俺の警戒を見抜く観察眼は100年以上魔法に関わってきた魔女の経験の賜物か。

いづれにせよ、紅魔館勢がどこまで知っているのか分からない以上、余り迂闊に動けなくなった。今、俺について幻想郷の住人にカミングアウトされたら困る。ただでさえ怪しいチビであるし、友情も絆もクソッタレなものが無いのだ。しかも余り戦えない俺では身が危険だ。

 

「........邪魔したな。とりあえず今日は割り当てられた部屋に戻るわ。これ以上はもう無駄だろ」

 

「そう。別に私はそこまで貴方に興味があった訳ではないしね。......あぁそうだ。ついでにこの本貸してあげるわ」

 

パチュリーはすっと手を伸ばし、どこからともかく飛来した本を掴み、俺に手渡してきた。

 

「.......無関心じゃねぇのかよ」

 

「えぇ、今興味が湧いたの。後その本は貴方が使える魔術についての本よ。さっき魔力を調べた時ついでに貴方の適正魔術を調べておいたの。幸いにもそこまで難しいものじゃ無いし、魔法を使うには何十年かかるから魔術にしときなさい。せめて数ヶ月単位よ」

 

「ふーん.......ありがと」

 

「本の貸し借りについては期限は設け無いわ。その魔術は誰も使ってない魔術だし、私は使えない筈だからいらないの」

 

「あっそ。じゃあな」

 

それだけを言い残し、俺は魔理沙やパチュリー、小悪魔を置いて図書館を後にした。

 

 

 

********************

 

 

 

「なぁ、本当にあれで良かったのか?正直お前に対する蒼刃の評価は最悪に近いと思うぜ?」

 

「えぇ、わかってるわよ。そうなる様な口振りで相手したもの」

 

「ふーん.......でも何でって聞いていいか?」

 

「言ったでしょ?余り魔法の道に関わらせてはいけないって。彼は別世界から来たイレギュラー.......大方あのスペルカードも別世界の知識から来たものだろうし。ちなみにレミィは別に強くて面白い奴って事しか聞いていないわ」

 

「はぁ?じゃあなんで蒼刃が別世界の人間だって事どこで知ったんだよ」

 

「....今回の騒動について、あのスキマ妖怪から聞いたのよ」

 

「紫?あいつまたなんか企んでやがんのか?」

 

「スキマ妖怪はね、彼の潜在能力を危惧しているの」

 

「あいつの?別になんかおかしな....事は........あるな」

 

「えぇ、聞いた話では貴女と弾幕ごっこで戦った際、貴女の弾幕は“一発も当たらなかった”んでしょう?それにマスタースパークですら躱されたとか」

 

「あぁ.......一発も、不意打ちの速球ですら躱された。それによ....マスタースパークだぜ⁉︎私の得意技を簡単に躱されちまったんだよ.......能力かなんかか?」

 

「いいえ、何かしらの能力という線はほぼ無いわね。一応紫にその時の場面を時間の境界弄って見せて貰ったけど、あれは能力では無いわね。彼は幻想郷に来たばかり、それも何かしらの異能が存在する筈の無い世界の住人みたいね」

 

「............紫は黙って無いだろうなぁ」

 

「えぇ、だからこそ私たちが監視するしか無いわ。一応紅魔館の住人全員に話し通してあるからとりあえずはここは安全よ。そして魔理沙、貴女には紅魔館以外の彼の動向を気付かれない程度に報告して頂戴」

 

「わかったぜ。これは私達の幻想郷の為だもんな、協力は惜しまないぜ」

 

「ありがとう。貴女が素直な子で助かったわ。じゃあこれもって行きなさい」

 

「これは?」

 

「通信符見たいな物ね。魔力を通せば私に繋がるから、何かあったらそれで話しかけて頂戴」

 

「りょーかい」

 

 

幻想郷の裏では少数の者が動き出していた。全ては望月蒼刃が現れたから。イレギュラーが現れたから。

ここは異世界の様な物だ。いない筈の妖怪、悪魔、神。見たことのない異能。

そんな強力な力を持った者達が訳のわからないイレギュラーに何も警戒しない筈が無い。

 

今、幻想郷は蒼刃を守る者達と幻想郷から消し去ろうとする者達、二つに別れようとしていた。

 

「(しかし俺の部屋ってどこだっけ.......?)」

 

ただその中心にいる青年は呑気なものだった。




新しい挿絵が出来たので書き直したキャラ設定に追加しました。よければご観覧ください。例のいとこ作です。


訂正

協力な力を持った⇒強力な力を持った


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第11話 晩餐会と異変の始まり

超久々投稿&超展開


辺りはすっかり陽が暮れ、シンと静まり返った暗闇の世界が広がっていた。その世界に変化があるとすれば、時たま吹く風に揺られる木々や、近くにある湖から恐らく暴れているであろう妖精の賑やかな声くらいである。まぁ特に報告する事でもないが、ちょっと暇だった俺は咲夜に割り振られた部屋でパチュリーから貰った魔術の書を読んでいる。

一応は客として扱われているらしく、レミリアの厚意によりいつまでも滞在していいとまで言われた。しかし余り長居したら霊夢が怖い、怖いが.......ゆかりん(17歳)がなんとかしてくれるだろう。

 

「.......む?」

 

「呼んだ?」(にゅっ)

 

なんか一瞬寒気がしたと思った途端、スキマから紫が顔を出した。スキマって正面から見ると異空的な目玉空間が見えるのだが、別方向から見ると紫がスキマから出してる部分しか見えないようなのだ。つまり、はたから見たら紫は頭だけ浮いている奇怪な状況を作っているという事だ

 

「まぁ呼んだというより求めたかな。ナイスタイミング」

 

「ふふ、話はもちろん聞いていたわ。霊夢の事よね......霊...夢......うん、見た方が手っ取り早いわね」

 

「は?ってえ、ちょ...やめろ、スキマをジリジリ近づけてくるな......!」

 

一瞬紫が不味いものを見た様な顔したと思ったら、ゆっくり、ゆっく〜りとスキマをジリジリしてきた。俺も堪らずジリジリ後退するが後ろは部屋の壁、逃げる事は叶わず顔をスキマに喰われてしまった。

 

「ギャァァァ!はたから見たら顔だけない恐怖映像にー‼︎」

 

「うるさいわよ。男の子なんだから怖がるんじゃないの。.......ゆっくりでいいわ、いきなり景色が変わったから脳が追いつけないかも知れないし」

 

紫に言われ、反射的に閉じていた目をゆっくり開いていく。紫が言った事については実際に転生した時に体験しているのでもう味わいたくない。

 

ーー目を開けたそこは暗い森の中だった。

 

「今霊夢は人間の里の者からの依頼で妖怪退治をしているわ。で...その妖怪退治の光景がこれよ.......」

 

もう一度スキマに飲まれ、景色が切り替わる。さっきは森の外からだったが今度は森の上空からだった。

すぐ下では霊夢が戦っている。戦っているが........

 

その戦いはとんでもないものだった。何が言いたいかと言うとーー

 

 

「ギャヒッ⁉︎おいちょっ、ギュエッ⁉︎テメこらどんだけギャフッ⁉︎あ、あのゴガァッ⁉︎す、すみませオェェ‼︎」

 

「うるさいわね......とっとと死ねって言ってんでしょうが。早く死になさいよ、うざいんだから。」

 

「酷... ガフッ!過ぎ...ガフッ!...ガッ...ガッ...........................」

 

ーー一方的に霊夢が妖怪を痛めつけているからだ。もうそれはそれは酷いものだった。妖怪はもうこと切れているいるというのに、霊夢は容赦なく弾幕をぶちかまし続けていく。最後は弾幕に耐え切れなくなった妖怪の体が痙攣した後無惨にも弾け飛び、辺り一面を赤色で飾った。当然、霊夢にも掛かってしまったが、それを気にする素振りもなく少しの間惚けていた。

 

「....................................................」

 

「いい?帰ったらあれよ」

 

「いや怖すぎるわ‼︎なんだ今の衝撃映像⁉︎顔だけねぇとかそんなアホみたいな事言ってる場合じゃねぇぇぇぇぇ‼︎」

 

「心配しないで、私は貴方をフォローするから大丈夫よ。....多分」

 

「大丈夫じゃないだろっ‼︎」

 

洒落にならん。本当に洒落にならん‼︎なんだよあれ、帰ったら体爆散されんの⁉︎やだよ死にたくねぇ‼︎

 

「....................と、とりあえず帰んなきゃ」

 

「むちゃくちゃ足が震えてるけど大丈夫?」

 

「ば、ばかやろー大丈........夫じゃないです助けて下さい」

 

しかし1日そこらであそこまで暴れられるては...そんなに飯が切羽詰まっているのか?それとも急に置いて行かれた事に苛立っているのか?

 

「まぁすぐにでも帰ったらマズイわよね......少し時間を空けましょうか。一応私がごはんとか家事とか手伝って時間を稼いでおくわね。なんたって、幻想郷を知るいい機会だもの。知っておくべきものとか色々あるだろうし、紅魔館に滞在しておきなさい。帰りは送って行くわ」

 

「あぁ、なんか色々ありがとう。また呼んだら来てくれ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

紫は用だけ済んだらスキマを閉じてしまい、もう気配がなくなっていた。というかいきなりスキマから出てこないで欲しい。いっつも急に飛び出してくるのは心臓に悪い。ただでさえ体がいつもの動きに反応してくれないのに、心臓が止まりでもしたら大惨事だ。

まぁ、恐らくそうなってもえーりんがいる。止まった心臓くらい、すぐにでも動かしてくるだろう。そうだ、落ち着いたら一度えーりんのとこに行ってみよう。もしかしたらこの体が元に戻るかもしれない。

 

「ふぁぁぁ.......いけね、この体になってからすぐ眠たくなる事忘れてた.......えーっとスマホどこいった......」

 

俺は今何時かスマホを見るため四次元ポーチを探る。一応時刻は設定されているらしく、ようやく見つけたスマホを見ると時刻は9時を回っていた。

 

「......腹減った。そういやまだ晩飯食ってなかったなぁ」

 

正直今すぐ寝たい所だが、腹減っている状態で寝るのはつらい。というか紅魔館の夕食は一体いつ頃なのだろうか?まさか夕食が深夜の12時とかないよな?せめて10時くらいだよな?

 

「うーむ、流石に紅魔館の全てを知ってるわけじゃないし、今出たら迷うよなぁ.......」

 

もし紅魔館の構造全てわかる人がいたら教えて欲しいくらいだ。というか困ったな、これじゃ腹減ったまま寝なきゃならないじゃないか。

紅魔館に来館後初めての死活問題に苦しんでいたが、ドアの前に誰か来た事に気付いた。

 

「蒼刃様、お嬢様より伝言です。今夜の晩餐に蒼刃様をお連れしろとの事ですが...いかがしますか?」

 

「えーっと、つまり食事のお誘いですよね?もちろん行きます」

 

よかった、晩御飯の時間が来たらしい。さっきまで読んでいた魔術の本を閉じてからレミリア達の所に向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方その頃、既に食事の席についていたレミリアとパチュリーは蒼刃についての情報交換をしていた。

 

「ーーというのが彼の現状ね。私としても魔力があった事については驚いたわ」

 

「.......そうね、でもパチェが鑑定するまではわからないなんてどういう事なの?」

 

「まだ断定は出来ないけど、多分彼の出身が原因ね。外の世界では魔法の力は失われてしまっているし、所有していた魔力が顔を出さなかったんだと思うわ。何かに蓋をするように封じ込められていた様に」

 

実際、蒼刃の世界では魔法や能力などの異能はない。精々超能力者を名乗る者がいる程度で、その力も定かではない。しかし、そんな異能の力が失われている世界で異能を持つことがどれだけ特殊で不自然な事か。

 

「.......それで?パチェは彼の師匠になるつもりなの?」

 

「それは無いわ。彼、魔法は使えないもの」

 

「は?なんでよ、魔力があるなら魔法は使えるんじゃないの?」

 

「あのねレミィ、魔法って言うのは長い年月を掛けて長い研鑽を積んでやっと使える物なのよ。それも簡単にポンポン出せる様な物でもないの。魔女じゃない限りね。」

 

全く違う世界の話になるが、魔術師にとって魔法とは奇跡に値するものであり、そもそも魔法を使うなど人間の身には不可能な事なのだ。そして、東方の世界でもその理論は適応されており、人間をやめた魔女であるパチュリーや人形使いアリス、人間の身でありながら特殊なケースと才能で破壊魔法を操る魔理沙。一部を除いて人外のみが魔法を操る事が出来るのだ。

 

「実際彼は自分の魔力に気付かずに今まで過ごしていたのだし、魔力を操る方法さえわからない筈だわ。そもそも霊力を操る事も出来るかどうかさえ定かではない。だからまだ応用の効く魔術を勧めたのよ。今頃渡した本でも読んでるんじゃないかしら?」

 

「そうね.....まぁ、気が向いたら教えてあげなさいな。正直彼のどこが強いかわからないし、こんな世界では手段は沢山ある方がいいでしょう?」

 

「そうね、気が向いたらにするわ」

 

2人の会話に一段落着いた頃、さっきまで誰も無かった椅子に話しの中心である蒼刃が瞬間移動の様に現れた。もちろん咲夜の能力で。

 

「.......まぁなんだ、やっぱこれには絶対慣れないだろうな...」

 

「あら、やっと来たのね望月蒼刃。今貴方の話しをしていたのよ。人間の身でありながら魔力があるそうね?」

 

「いやまぁ、あるってわかっただけですけどね。一応使えるって言うか、それしか出来ないっていうか...自分の使える魔術が判明した程度ですよレミリアサマ」

 

用意されたよだれかけ?を片手にそう答えた。ちなみに使い方がわからず頭の上に?マークを浮かべている。

 

「そもそもの話、なんで魔力持ってるのか疑問なんだけど?咲夜、手伝ってあげて頂戴」

 

「知らないデスよそんなこと。単に自分の戦闘スタイルが出来上がりつつある事以外プラス要素ないし。あっ、あざす」

 

「ていうかさっきから何その片言な敬語は。むず痒いんだけど」

 

「いや、少しは貴族マナー的なものを守ろうかと......」

 

 

そのまま特に何かあった訳でもなく食事は続いた。その間には俺について質問や議論があったり、逆に画面の外からではわからなかった事などを聞いたりした。ちなみに、十六夜咲夜はPAD長ではなかった模様。聞いたら頭にナイフが刺さりました。

そして、今更ながら紅魔館に来る際遭遇したルーミアと謎の霧について聞いてみることにした。

 

「ルーミアに黒い霧がついていた?」

 

「うん、ここに来るとき襲われたんだが....一応殺してはないよ?撃退してチルノ達に預けてきた」

 

「.....普通に妖怪を撃退したって話がとっても引っかかるけど......パチェ?」

 

「そんなものわかるわけないでしょ。大体、ルーミアは『闇を操る程度の能力』を持っている。大方能力の力によるものよ」

 

「.......まぁ、そうだといいけど」

 

そうだと思いたい。だけど、あの霧はそんな簡単なものじゃない気がする。東方の世界にはあんな霧はなかったし、俺が介入した=異物発現なんて調子のいい事なんてありえない。あくまで転生しただけ、特にキャラと関わる事以外何もしていない。

ただ...そう、言うなれば。

 

「嫌な予感がする」

 

奇しくも、それは霊夢の口癖であり、それは異変開始の合図でもあった。

そして、蒼刃は直感に長けている。

という事はつまりーーー

 

と、突然ドアがゆっくりと開かれた。そこには金髪の小さな女の子が立っていた。そう、立っていた。

 

「......あら?フラン?部屋で寝ていたんじゃなかったかしら?どうしたの......ッ⁉︎」

 

「だ、だめだ‼︎みんな退がれぇぇぇ‼︎」

 

瞬間、ドアの近くの床や物が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

VS EXフランドール・スカーレット



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VS フランドール・スカーレット(EX)前編

床が爆ぜた。

 

その瞬間的な出来事に紅魔館勢は瞬時に戦闘態勢に移った。目の前が煙で包まれ、周りが見えなくなり警戒が強くなる。そして、煙が晴れるとそこにいたのは......

 

「フランドール・スカーレット......⁉︎」

 

金髪に赤眼、白と赤の服に色とりどりの綺麗な宝石のような翼。東方紅霧異変におけるEXボスで、レミリアの妹。その実態は吸血鬼にして、正真正銘の破壊の悪魔。

そんな最強の一角であるフランが、虚ろな瞳でこちらを見ていた。

 

「あ...あハ....あはははハははハはははははハハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハハハハハハ‼︎‼︎あなたが....あなたが今日のオニンギョウサンネ‼︎サァ、アソビマショウ‼︎」

 

「ッ⁉︎」

 

なんという狂気、なんという圧力。これが、破壊の悪魔フランドール・スカーレット。

ふと、破壊の悪魔は態勢を前にし、弾丸のようにこちらに迫ってきた。

 

「(や、ヤバいこれは死ぬ....!)」

 

あまりの迫力に呆然とする俺に向かってフランが迫りーー

 

「なにをしてるの‼︎」

 

目の前の景色が急に変わり、様子の変わった咲夜に怒鳴られた。そうか、時を止めて助けてくれたのか。

 

「ッ!すまん咲夜さん、ボケてた‼︎」

 

「いいから、とにかく今はフラン様を止める事を考えて‼︎」

 

見ると咲夜はかなり切羽詰った顔をしていた。咲夜の視線をなぞり、顔をずらす。

 

「な......レミ...リア?」

 

そこには、フランの出した炎剣レーヴァテインにレミリアの胴体が突き刺されていた。レミリアは俺を庇ってくれたのだ。俺を庇ってレーヴァテインに貫かれ......

 

「落ち着きなさい‼︎レミリア様は吸血鬼、不死身よ。死ぬ事はないの!」

 

(そ、そうだ、吸血鬼は弱点以外では死ぬ事はないんだった。......いや、違う。そこじゃない!フランの本当の脅威はレーヴァテインではなく『ありとあらゆるものを破壊する程の能力』という回避不可能のチート能力‼︎)

 

「なぁニ?オネェサマガアソンデクレルノ?」

 

「まずっ⁉︎お止めくださいフラン様‼︎」

 

そこからフランの行動は早かった。ただ単純に、簡単な動作で右手をレミリアに向け能力を発動させようとしーー

 

「幻符『夢幻蹴夢』‼︎」

 

発動する前にスペルカードを切った。

発動と共に俺の足下にサッカーボール程の霊力弾が形成され、その弾を蹴り上げた。

 

「あー!あたらしいオモチャダァ‼︎」

 

フランはそれを嬉々として自らの弾幕を放ち相殺した。

ーーかに見えた。

 

「残念、それは分散型なんだフランちゃん」

 

フランの弾幕が霊力弾に激突した瞬間、視界を覆う程の量へと変わった。まるで網で魚を捕まえるようにフランへと襲い掛かる。

 

「ウー、これジャマ!コンナモノキエチャエ‼︎」

 

堪らずと言ったようにレミリアを突き放し、能力で殲滅を図る。だが、フランの能力は一度に多くを破壊することは出来ない。破壊する為の核が多過ぎて処理出来ないのだ。

つまりこれは、フランの数少ない攻略法である。

 

「そんでもって、今からが本命なんだよなぁこれが」

 

相殺しきれず、弾幕に囲まれたフランは滅多打ちにされる、はずだった。

弾幕はフランを囲んで襲っているが当たらないのだ。いや、当たらないというよりも....透けて消える。

 

「まぁ名前の由来だわな。夢幻...夢と幻、夢の様に儚く、幻の様に消えていく......本来は本物が分からなくする為のフェイクなんだが、まぁ初見だし囲んでるし有効だろ」

 

みるみる内に消えていく弾幕だが、その内の一つは違った。丁度フランの背中辺りに着弾し、背中を逆くの字にしながら地面に叩きつけられた。

同じ様な体型のルーミアを吹き飛ばしたその威力、霊力を込めた量が違うのだ。そう生半可ではない。

 

「とまぁ、ここまで順調に俺のターンだった訳だが.....」

 

ボロボロになりながらも、ググッと四肢に力を込めフランは立ち上がった。その目には未だ虚ろな瞳を宿しており、疲労の色は一切見えない。

 

「うん、立ち上がるよね。知ってた」

 

未だ戦いは始まったばかりであった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁクソッ!埒が明かないし喰らったら即死って鬼畜ゲー過ぎる‼︎」

 

あれからどれほどたっただろうか。スペルカードを切ってからというもの完全に防戦一方だった。こちらからも霊力弾を撃って対抗しているものの、流石はEXボス。初心者相手に撃ち合いで遅れをとる訳がなく。

レミリア達も応戦してくれているが、先程から使われている禁忌『フォーオブアカインド』の効果により分身され、さらに禁忌『レーヴァテイン』を装備され実質一対フランという最悪な展開で戦う事を余儀なくされていた。

 

「(そもそもなんでフランは暴走してる⁉︎十中八九あの黒いのが原因だろうが、どういう原理であぁなるんだよ!)」

 

だが、考える余裕をフランは与えてくれない。能力は使われる様子はないが、濃密なまでの弾幕と触れたら即死級の炎剣に焼き殺されかかる。

愚直に縦切りで迫る炎剣を右サイドステップで躱し、近づいてくる弾幕は危ないものだけ弾幕で相殺する。弾幕は意味がないと感じたのか、フランはレーヴァテインを振り回すが太刀筋が甘く、簡単に避けられる。だが避けてばかりではダメだ。この状況から早く抜け出さなくてはならない。

 

しかしここで視界が変わる。周りは木々に囲まれ、戦闘は外にまで広がっていたようだ。そこには服をボロボロにし、露出した肌に痛々しい血を被る咲夜がいた。

 

「咲夜さん!そっちの戦況は⁉︎」

 

「大丈夫、そろそろ妹様のスペカの効果は切れる頃合いよ。一応この分身は能力じゃなくスペカ依存の効果だから時間制限があるの。つまり一つは山場を越えたってこと」

 

「そうか、スペカの効果だもんなコレ。霊夢みたく無敵じゃない訳だ」

 

ちなみに脇巫女、貧乏巫女として知られる博麗霊夢は、能力に依存した『夢想天生』という究極奥義がある。それは能力によってありとあらゆる現象から自身を浮かせるという無敵技であるが、フランの場合は分身は確かに強力ではあるが時間制限がある上、分身は無敵ではない。要は耐久スペルだ。

 

「.....仕方ない。ここは広いとこで決着つけたほうが良さそうだ。広いところと言えば.....湖くらいか」

 

俺はフワリとはいかないが、空中にジャンプしてそのまま留まり、湖を目指す。正直障害物がある場所で戦いたいが紅魔館は狭すぎてやり辛い。多少リスクを負ってでも挑まないと勝てないとの判断だ。

 

「レミリア嬢達にも伝えてくれ。これから湖で畳み掛けるとな」

 

「......えぇ、わかったわ。わかったけど......貴方飛べたの?」

 

「ん?...あぁコレ?一応修行して手に入れた力ですがなにか?」

 

東方の世界に転生してから早2週間、なにも博麗神社で雑用ばかりしていたわけではない。あの神社には最強の巫女と最強の妖怪が住まう魔窟である。教えを請わない訳もなく、ひたすら弾幕と霊力の使い方や浮遊術を習って(殆ど雑用を修行と扱われたが、小さい体の使い方を訓練としてこなして)来ているのだ。もちろん能力の鍛錬も然り。

 

咲夜は感心したように唇を釣り上げ、レミリア達に伝えに能力を使い消えた。

 

「......実は浮遊術じゃなく霊力を足元に集中させて立ってるんだけどな。まぁいいや、今のうちに新しいスペカ作ろう」

 

目的の湖まで霊力でブーストしながら走る中、俺は懐から今日三枚目となるブランクカードを取り出す。霊夢に貰ったブランクは5枚なので、作る際は慎重に作らねばならない。

 

「んー、手札的にも近距離系のスペカが欲しいなぁ。んじゃ、イメージイメージっと」

 

俺がイメージすると、ブランクカードにスウっとイラストが描かれる。

 

「よし、名付けて装符『マジック・エース』だな。うん、我ながらカッコイイ名前だ」

 

新たなスペカ、まぁ通称エースと呼ぶことにするが、満足してホクホクしている場合ではなかった。

ーー殺気だ。後方から凄まじい程の殺意を向けられている。警戒し、カードを構えると振り向きざまに弾幕を放った。牽制程度の弾幕であったため、殺気を放つ影が持つ剣で跳ね飛ばされた。

 

「アハハハハハハ!みぃツケたァ!みーんな遊んでくれたけど、つまんなーい。だからだから!貴方がアソンデ?」

 

「ガァァァ⁉︎」

 

お返しとばかりに強力な弾幕を放たれ、応戦して放った弾幕ごと叩きつけられ、そのまま湖の方まで吹き飛ばされてしまった。とんでもない衝撃で、意識を持っていかれそうになったが、湖にあわや着水するギリギリで霊力でノの字のような緩やかなコースを形作り、衝撃を逸らしながら滑り上空へ投げ飛ばされる形で難を逃れた。

 

「ゲホッ、ゲホッ‼︎うぐ、なんつー威力だよちくしょう」

 

「ネェねぇ!今のなに今のナニ⁉︎スゴイねすごいネ‼︎」

 

空中で腹を抑え苦しむ所を嬉しそうに笑い、好奇心で溢れた目を向けてきた。....初めて見る、虚ろではない目だ。

 

「あんにゃろう、嬉しそうに狂いやがって......こっちはかなり苦しんだんだけどなぁ⁇えぇ⁉︎」

 

恐らくフランを狂わしている原因であろう黒い霧に殺意を露わにしたが霧は出てこない。フランはその代わりと言うかのように弾幕を生み出し、こちらに放とうとする。

しかし、やられっぱなしってのは性に合わない。まずは自分が戦うための場を作らせて貰う。

 

「やいフラン‼︎俺と遊びたいんだろ‼︎だったら気を失うまで付き合ってやるよ‼︎」

 

「エッ!ほント⁉︎」

 

「おうさ、だが遊び方を決めさせてもらう‼︎」

 

「やっタぁ‼︎」

 

対象の気を誘うことに成功、さらに有利な方法に選択可能。これで殺されるような事が起きないと思う。なにしろ『遊び』だ。フランにとって遊びは殺しかもしれないが、俺が提示した条件をみとめるように誘導して死なないに失神させてやらぁ‼︎

 

「ーー弾幕ごっこだ‼︎」

 

第二ラウンド、開始



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VS フランドールスカーレット(EX)後編

最初に言っておきます。
前後半分けるべきではなかった。




「じゃあ、早速行かせてもらう.......スペルカード発動!弓符『赤き弓兵の剣矢』‼︎」

 

開幕ブッパ。

そんな勢いで放ったスペカは寸分の狂いも無くフランに遅い掛かった。だがフランもただではやられまいとレーヴァテインを振り回し、初見にもかかわらずほぼ全て斬り落とした。流石に通用しないと踏んで事前に通常の弾幕を展開していたものをガラ空きの胴体へ撃ち込んだ。フランは上に意識を向けていたので正面の弾幕に対応出来ずヒットする。

あまり気分は良くないが、殺す勢いで放った弾幕だ、小さな身体のフランでは空中で踏ん張れず後方に吹き飛ばされていった。しかし、それでもまだ気絶せずに空中に留まった。

 

「............チッ、流石に堕ちないか。吸血鬼の特性上、湖に落ちたら勝ちなんだが」

 

吸血鬼は不死身であるが、何種類かの弱点を持つ。その中の一つに流水を超えられないというものがある。朧気ではあるが、二次創作アニメでパチュリーがフランを閉じ込める為に水の監獄を作り、弱点を突いた事で無力化した事がある。そこで今回はフランを湖に叩き落とし、気絶して貰おうという作戦だ。

俺は右手を正面にかざし、球体ではなく円柱型の弾幕を多数展開した。意図としてはただ当てるのではなく吹き飛ばす為だ。まぁ電柱より短いやつをぶん投げてると思ってくれていい。

 

すると、今までやられっぱなしだったフランが弾幕を展開し、こちらも殺す気で撃ってきた。

反射的に顔を右にズラし、直撃は避けたものの、よくあるバトルシーンの様に頬に切り傷が生まれ、血がタラリと流れていく。

しかもそれだけに留まらず、フランは多数の弾幕を撃ち放つ。

 

「.....ッ!なんかアニメみたいな戦闘になってきたじゃねぇかよぉ‼︎」

 

余りに弾幕が多過ぎて惚けてしまい、回避のタイミングを逃した俺は弾幕を撃ち放ち、すべての弾幕を撃ち落とすのを試みる。が、俺は初心者だ。弾幕を弾幕で撃ち抜くなんぞ出来る訳もなく。

 

「うぉぉぉおおおぁぁぁぁぁ⁉︎無理無理無理‼︎弾幕来てるからぁぁぁ⁉︎」

 

迎撃している弾幕をすり抜け、フランの弾幕が俺の顔を撃ち抜こうと迫ってきた。そのまま顔面に一直線に着弾すーーーる前に。

 

「んなろぉ‼︎『衝壁』‼︎」

 

前方にバリアみたいな霊力で作った壁を展開する。

もちろん、これも霊夢に習った結界擬き。いざという時の為に習いました。

 

「あぶねぇぇぇ...霊力を使う練習しといて良かった...!」

 

この霊力操作技術を東方の基準に例えるならば、『あらゆるものを形作る程度の能力』だ。空中に留まる足場然り、衝壁然り。最初から弾幕を生み出せたのもこれのおかげらしい。で、これを俺の転生特典と仮定し、使いこなせる様に修行していたのがこの2週間である。

 

「.....シッ‼︎」

 

俺は足元の霊力を強く流し、フランに向かって一直線に飛び出した。そのまま高速でフランの懐に潜り込み、右手をフランに向かって引き絞る。

 

ーー元々異世界から来たに等しい俺は、空を飛ぶ事なんて出来なかった。ただ住んでいた世界が違った為に、東方の世界の恩恵を受ける事が出来なかったからだ。それでも幸運な事に、一握りの人間は霊力を操る事が出来る、そんな有難いケースに恵まれ、何故か自分の中にあった魔力にも恵まれた。

 

人は空を飛ぶ事を夢見てきた。

当初その夢は幻想とされ、不可能な事だと諦められていた。しかし人はそれでもその夢を追いかけて追いかけて追いかけて、やっとの思いでそれを現実とした。

それは飛行機という本来の夢とは少し違ってはいたが、人が空を飛ぶ、それを成し遂げるのにどれだけ努力を重ねた事か。

 

ならば、それにあやかって努力するのみだった。だから俺は努力して努力して努力して努力して努力して、ほぼ一日中練習して霊力を操れる様になった。この小さな身体を使いこなせる様になった。少しだけずれてしまったけれど、俺は空を『歩く』事が出来る様になった。

 

そうだ、だからこそ。この2週間の集大成として、目の前のフランを倒す。

 

「これ以上暴れ回られても困るんでな‼︎お前には少しばかり眠って貰う‼︎『衝波』‼︎」

 

霊力を伴った右手は、一寸の狂いもなくフランのみぞうちを撃ち抜いた。衝波は相手の体内に無理やり霊力を叩き込み衝撃波となって敵を倒す、鎧通しを参考にした技である。いくら吸血鬼と言えど、体内に直接衝撃を叩き込まれたらひとたまりもない。それはフランも例外ではなく、明らかに意識が飛びかけている。だが、それでも意識はあるのだ。危険だから容赦はしない。

 

「スペルカード発動、少し痛いが我慢してくれ。幻符『夢幻蹴夢』」

 

ルーミアを気絶させた一撃をこれもみぞうちで発動し、衝撃に耐えれなかったフランが湖に堕ちていった。

.......そして、また黒い霧がフランの身体から抜けていくのも確認した。

 

「......やっぱりあれが原因か。霊夢に異変として報告するべきか.....?」

 

もうフランの暴走はあの黒い霧が原因なのは明白であった。度重なる襲撃、蒼刃を狙っているかの様であった。

そして、後にこの黒い霧が危険な脅威となり、『黒霧異変』として幻想郷を脅かす事になるとは、誰も知らなかった。

 



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第三章 異変
第14話 プチ異変会議とスキマ落とし


気付いたら早3ヶ月・・・
失踪はしないんで大丈夫です。


ーーー俺は今、博麗神社に戻り、霊夢に黒い霧について報告しに来ていた。

 

あの後、黒い霧に取り憑かれていたフランを無事回収し、俺は博麗神社に戻る為に紅魔館を後にした。正直もう少し滞在したかったが、報告が優先なのでみんなに挨拶だけ済ましてきた。紅魔館のみんなはもちろん犠牲者はおらず、まだ会う事の出来なかった美鈴に湖に落ちて気絶していた俺とフランの窮地を救われていたらしい。

そして、騒動の原因であり被害者でもあるフランだが、容態は吸血鬼の不死身生で傷は回復しているらしく、目も疲労が抜け次第醒めるとの事。そこら辺はパチュリーがしっかり看病しているため、すぐにでも元気になるだろう。

 

「・・・で、とっっっても面倒くさい問題抱えてノコノコ帰って来たと。あんた一回夢想封印食らってみる?」

 

「ぐ・・・面目ない・・・まさかそんな事態になるなんて思ってませんでした・・・」

 

「あっっそう・・・.はぁ、まぁいいわ。この程度日常茶飯事だもの。そんで?もちろん収穫はあったのよね?」

 

「おうさ。元々持ってたバックは取り戻せたし、便利なポーチも手に入れた。スペルカードだって3枚作れたし、能力の実践を兼ねた戦闘経験も積めたしな」

 

色々あったが、これだけ収穫があれば中々いいほうだろう。正直異変については予想外だが、俺の戦闘の幅が広がったのはデカい。幾ら何でも子供体型には弾幕だけじゃキツすぎる。

 

「いや、そうじゃなくて。あんたの収穫じゃなくてその例の霧についてよ」

 

「あぁそっちか。いやまぁ、霧というか闇というか・・・対象の相手の肉体を乗っ取るって感じかな。見た感じ相手の意識ごと乗っ取って行動する奴みたいだな。しかも厄介な事に、乗っ取った相手の能力すら操ってみせたよ、奴さんは」

 

実際、ルーミアやフランは意識を上書きされたように操られていた様に見えた。全く理論はわからないが、乗っ取る対象の能力をも扱い、その上危機に陥れば脱出もして見せた。もちろん、東方にはいなかったキャラクターの筈なのだが。

 

「・・・なにそれ、そんな奴聞いた事ないわ」

 

「え、マジで?この幻想郷の管理者の一人なんだから知ってると思ったんだけど。てか霊夢さえ知らないならお手上げ状態じゃねーか」

 

「一応管理者は紫だし、妖怪はあまり興味ないんだから仕方ないじゃない」

 

「・・・人はそれを、職務怠慢と言う」

 

「うっさいわね、ぶちのめすわよ」

 

「何この巫女⁉︎横暴だぁ‼︎」

 

霊夢はだら〜と居間で寝転び、俺にお札を投げつけてきた。常日頃から思っている事なのだが、この脇巫女は性格が酷すぎると思うんだ。

精神年齢は高校生とはいえ、子供に対してぶちのめすなんて言う女性が存在するのだろうか。元いた世界にもクソみたいな性格の女はゴロゴロいたものだから霊夢はまだ可愛く見えるものの、こんな性格じゃ浮ついた話も期待できまい。本当、何処かに大和撫子のような落ち着きのある女性はいないものだろうか。

 

「大丈夫よ、あの子人里じゃあそれなりの人気があるのよ?幻想郷を守る美少女巫女ってね」

 

「いや、確かに美少女なんだろうけどさ。この性格を見たら脇目もそらさず逃げていくんじゃない?」

 

「おい、なに自然に会話が成立してんのよ。てかいつの間に来たのよ紫」

 

気付いたら隣にスキマに乗り出すように前かがみにもたれる紫がいた。

あれだ、窓開けて腕組みながら外見てるみたいな

 

「あら、酷いわね。せっかく可愛い霊夢が困っているのだもの。助けに来ない訳がないでしょう?」

 

「・・・はぁ。あのねぇ、そんな母親のような事を妖怪が口走ってんじゃないわよ」

 

「まぁ、育ての親に酷い仕打ち。なんでこんな悪い子に育ってしまったの?よよよ・・・」

 

「・・・キモっ」

 

紫が口元に手を当て力無く萎れたが、霊夢の一言が心を切り裂いたらしく、少女マンガよろしくな悲劇的な面相になっていた。南無。

 

 

「ったく、いいからさっさとそいつについて教えろっつーの。早くしないと私の興味が薄れて対処しなくなるわよー」

 

「いや、ここからは私が説明を受け持とう」

 

いきなり俺の背後から声がしたので振り返ると、そこには金髪で胸部装甲が豊かな長身の女性が静かに佇んでいた。急に現れたという事は十中八九スキマからだろう。

 

「君とは初めてだな。そこで固まっている紫様の式神を務めている八雲藍という者だ。よろしくたのむ」

 

「あぁ前言ってた紫のお仲間さんか。聞いてると思うけど望月蒼刃だ。よろしく」

 

「あぁ」

 

軽く挨拶を済ますと、八雲藍はまず俺向けに博麗大結界について説明をくれた。とはいえ大方の事は知り得ているのでもっと細かな事を教えてくれた。

曰く、この幻想郷を囲む結界は基本的には来る者拒まずで、入ったら普通は幻想郷から出る事は出来ないという ーーそもそも入ってくるような奴らは外では存在する事すら出来ないがーー ほぼ一方通行なものである。

そして、万が一にも幻想郷が危険に晒される事のないよう紫が結界を通った者がいるかどうかわかるよう術式を組んであるという。

 

「・・・?」

 

説明してくれるのは有難い。いくら俺が東方を知っているとはいえ、流石に全部は覚えていない。記憶や認識が間違っていないかの確認になる、重要な説明だ。

・・・しかし、何故彼女の俺を見る眼が鋭い雰囲気を漂わせているのだろうか

 

「・・・だが、何故か我々幻想郷の管理者達が知らない者がいる。それには勿論君も含まれているんだ。紫様の術式に接触せず、この博麗神社に現れた君がね」

 

「ん?・・・まてまて、なんで俺を怪しんでるんだよ。明らかに疑っている眼をしてるぞ」

 

「あぁ。正直言うと君が一番怪しいからな。君が現れた同時期にその闇とやらが出現し住民を乗っ取り危害を加え、その闇自体は望月蒼刃....君自身が撃退している」

 

藍はこちらを睨み、疑いの目を隠すことなく向けてきた。

 

「まさか、俺が幻想郷を混乱させた上でなんらかの方法で思い通りに事を済ませ、囮の闇は証拠隠滅・・・と?そんなアホ事俺がするわけ・・・」

 

「あぁ、概ねその通りだ。早めに罪を認めてもらえると有難い。あまり余裕が無いものでな」

 

ピシィ・・・ッ

 

さっきまでの空気が一変し、張り詰めた空気になり始めた。このままでは一触即発、すぐにでもお互い手が出るだろう。彼女ーー八雲藍は自身の感情を抑えれずにいた。望月蒼刃の突然の来訪により結界が不安定となり、今の今までずっと掛かりっきりになっていたためにストレスが溜まっていたため、ここまでに至るまでに拍車がかかってしまった。

 

対して、蒼刃の態度は冷めきっていた。

 

「はぁ・・・あのなぁ、俺にそんな能力は無いし、そもそも幻想郷に来たばかりなんだ。今は幻想郷の住民と親睦を深める事を目的に動いてる。せっかくの異世界なんだ、住民とは仲良くしておきたいしな。そんな右も左もわからん奴が幻想郷を陥れようだなんて無理だろ」

 

「・・・・・・」

 

「そして極め付けに・・・この身体だ」

 

蒼刃は自分の小さな身体を自嘲するように指差す。

彼には八雲藍とは違い、怒気が溢れてはいなかった。それもそのはず、自らに何も非がある訳もなく、ただの八つ当たりに近い態度の相手に対し自らも落ちぶれる必要が無いためである。また、蒼刃は交渉事、つまりは対人に対して高いアドバンテージを有していた。では何故高いアドバンテージを誇るのか、それは彼の奇妙な体験によるものなのだが・・・とにかく、彼は八雲藍よりこの場では自身が優位な立場にあると踏んで冷静に対処する事が出来たのだ。

 

「これで信じてくんないか?正直俺に非があるとは思えないんだけど」

 

俺が尋ねると、藍は口に右手を添え考え込んでしまった。そのままシン...と静まってしまったが、沈黙に耐えれなかったのか、霊夢が全員に聞こえるように喋りかけた。

 

「ねぇ、私の神社で物騒な事やめてくんない?若干壁にヒビ入ったんだけど」

 

「そうよ藍。彼は怪しい塊だけど悪い事をするような人間じゃないのよ?それに焦っていては異変解決には繋がらないわ。一度落ち着きなさい」

 

「・・・はい、申し訳ありません」

 

霊夢だけでなく、主である紫にも指摘され、渋々といった具合に謝罪した。しかしそれでも藍は俺が怪しい事に懸念が抜けないようだった。・・・これ初対面としては最悪じゃね?仲良くなれるのかなこれ。

 

 

 

 

それからは異変の詳しい詳細だとか、互いの近況報告や俺の為に幻想郷の今現在の状況説明してくれたりだとか、特に進展があったわけでもないため割愛

 

「さて、とりあえず今後の対応として幻想郷の有力者にこの事を伝えて解決まで警戒してもらいつつ、周辺の警備またはこの異変解決に協力を求める。以上ね」

 

ぱん、と手のひらを合わせ、紫はそう話し合いを締めた。今回の異変、相手が強力な能力を有している事を考慮して実力のある住民に助けて貰う事に全員が賛同した。

 

「そうね・・・じゃあ霊夢は魔理沙や紅魔館付近に、藍は橙と色々回って頂戴。勿論スキマの使用は許可するわ」

 

「はいはい了解」

「承知」

 

そして、残った俺と紫は冥界へ行く事になった。やはり紫と冥界の主である幽々子は友人であるらしく、俺が幻想郷の住民と親睦を深める意味でも最適だった。

・・・こう言ってはなんだが、幻想郷巡りは順調だ。このペースなら全てのキャラクターと関わりが持てるようになるだろう。しかし、仲良くなるという点では紅魔館勢が怪しい所である。夕食を食べて親睦を深めようとしたら闇に操られたフランに襲撃され、そのフランをみんなが見てない所でボコボコにしてしまっている。結果、フランとは本当の意味で会えなかったし、美鈴は見かけてさえいない。

うん、これは特に仲良く無いのに人様の妹、それも悪魔の家族を見てないところでボコったの図だ。絶対ヤバイだろこれ

 

「さて、私はもう行ってくるわ。まずは魔理沙辺りにでもあたってみるかしらね」

 

「ちなみに、この前の事忘れてないから」。そう霊夢は俺のメンタルに追い打ちをかけて飛び立って行く。それに習うかのように藍もスキマを使ってこの場から消えて行った。現在、みんな居なくなって少し寂しくなった博麗神社には俺と紫しか残っていない。

 

「・・・よし、俺らも行こうぜ。善は急げとも言うし、早めに行った方がいいだろ」

 

「そうね、じゃあ行きましょうか。これならすぐに着くわよ」

 

「・・・ッ⁉︎緊急回避ィ!」

 

頭の中で警報が鳴り響き、弾かれる様に後ろに飛び退くとさっきまで座っていた座布団からスキマが開かれた

 

「あっぶなぁぁぁぁぁってフェイントかよぉぉぉぉ⁉︎」

 

しかし飛び退いた後ろには既にスキマが開かれており、下から来ると思わせての後ろからとまんまと嵌められたらしい。

俺は後悔とこんな事を仕出かしやがったBBAに対する怒気を込めた叫びを放つが、既にスキマに身体が放り出されていたために無意味となってしまった。

 

「うふふ、白玉楼にご案内〜♪」

 

最後に聞こえたのは、この犯人のふざけた声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話 ショタってのは大変らしい。

1.

 

 

紫にスキマ落としされた瞬間、あの気持ち悪い空間に叩き込まれた。さっきまで畳の部屋にいたのに、瞬間的に景色が変わるこの感覚は絶対に慣れることは無いだろう。

 

「クッソ、やられた。だから嫌なんだよあのスキマ妖怪。急に変な空間に叩き込みやがる」

 

ぺっ、と唾を吐くように悪態を吐き、とりあえず気を落ち着かせる。だれしもこんな大量の目玉の部屋に叩き込まれたら安心する事なんて出来ないのだから落ち着かせる時間は必要である。

 

「(しっかし、相変わらず趣味の悪い空間だな……この空間にある全ての目玉にこっちを凝視されてる感覚がまたもうなんとも……)」

 

「あらあら、ごめんなさいね?まさか自分からなんてうふふふふ」

 

俺は問答無用で球型の弾幕を紫に放った。が、当然のようにスキマ送りされた。

 

「あら、こわいこわい……さて、少しお話しがあるのだけれど」

 

「急に真剣になってんじゃねーよ……で?話とはなんですか“師匠”?」

 

「その呼び方、貴方も真剣みたいじゃない」

 

「うっせ、そう言えっていったのはあんただろ」

 

「純粋ねぇ……可愛い♪」

 

「吐きそう」

 

紫は問答無用でクナイ型の弾幕を放った。が、当然のように避けた。

 

「んっんん……さて、本題だけれど」

 

ちなみに、一応飛行や能力、弾幕を教えて貰ったとして、紫からはせめて二人きりの時だけでも師匠と呼んで欲しいと頼まれている。正直面倒くさいがたまにはそう呼んでやっている

 

「はいはい?」

 

「その“闇”との戦闘、どうやって倒したのよ」

 

「は?あんたいつも幻想郷を監視してんじゃなかったのかよ?」

 

「いやーその……寝てたわ」

 

「アホか」

 

多分嘘だろうなー。スキマ妖怪八雲紫は冬眠する事はあれどあんな時間には寝ない筈だ。もしそれでも寝ていたのならば……俺の中でキャラ崩壊だ。

 

「それでね?どんな風に倒したのか参考程度に教えて欲しいの。もし弱点があるのならこれからの為になるし」

 

まぁ紫が言う事にも一理ある。敵の情報は今は喉から手が出るように欲しいところだし、さっきまで言っていなかった細かな情報を渡す事にした。てかさっきの会議で言えば良かった。

 

「りょーかい……まずは最初に遭遇した時だ。闇は最初ルーミアに取り付いていた。恐らくだけど、同じ闇繋がりだったんだろうな。闇はルーミアの意識を完全にモノにしてたよ。能力もだ」

 

実際どうなのかはわからない。が、完全にルーミアは乗っ取られていた筈だ。あの時の能力の使い方、あれはルーミアが狩りや移動に使っている闇の球型のそれだろう。

 

「で、その闇の空間に取り込まれて攻撃された。魔理沙とは分断されて独断で動くしかなかった。だから、闇に必ず効果があるスマホのライトで闇を切った」

 

「闇を切った?ルーミアの闇はそんな……」

 

「おう、紫もおかしいと感じた通りそんなヤワな光で能力を打ち破れる訳がないわな。つまり、闇は能力を完璧に扱えないって事だろうよ」

 

試されたこともない事だが、単に内部からの光にルーミアの闇は弱いだけかもしれない。が、完璧には扱うことはできないだろう。何故なら

 

「それは、フランと戦った事で証明された」

 

そう、フラン戦の時である。

 

「もしもフランを完全に支配出来ていたら、既に俺は死んでる筈だろうよ。だっていつでも能力で爆砕だぜ?でも奴は一回使うごとにインターバルを要していた」

 

「つまり……敵は完全には支配出来ないという事ね」

 

「多分な。ただ、あくまで俺が戦った印象なだけだ。それが正しいって訳では無いし、そもそもいつどこにどんな状態で現れるのかが全くわからないんだ…まだ情報が足らない」

 

「そうね……ま、これくらいにしてそろそろ白玉楼に行きましょうか。今からスキマから出すわね」

 

そう言って紫は数ある目を縦に開いた。そこには……先の見えない階段が。

 

「………おい、まさか登れと?すっげぇデジャブなんだけど」

 

「えぇ、これも修行の一環よ。飛んだらまたスタート地点にスキマ送りだから♪」

 

「あんた絶対さっきのBABA発言根にもっーーー」

 

紫に確認する間もなく、さっきまでのスキマ空間と打って変わって木々が生い茂る森の様な空間に俺は立っていた。俺はもう手遅れと思い、そしてため息を吐いた。辺りを見回しても木々しか見えないのだが、明らかに違和感のある点が。

 

「……少し寒気がしてきた。流石冥界、生きてる者は歓迎しないってか。つーか囲まれてんじゃん」

 

敵意がない様に見えるが、恐らく冥界に住んでいる幽霊らしき者の視線がさっきから俺を刺している。正直幽霊にガン見されるなんてイヤだし、あっちもあっちでいきなり生きてる人間が現れて動けずこちらを観察しているだけのようだ。なら早くここから去りたい。

 

「幽霊に囲まれただなんて体験、動画投稿したらすげぇー再生回数になるだろうな……ん?」

 

皮肉めいた事を吐いていると、目の前に先の見えない石の階段があることに気が付いた。なんなら既に俺が立っているのはその石階段と繋がっている道であり、もうこの階段しか逃げ場はなさそうだ。

 

「あー…すみませんねーびっくりさせちゃって。文句はあのスキマ妖怪にどうぞ。……『霊力放出』」

 

 

そう言いながら俺自身に眠る霊力を身に纏わせるように放出した。纏わせた霊力は身体に馴染んでいき、身体能力がかなり向上したのが感じ取れる。

霊力放出はとても便利な物だ。今みたいに身体に纏わせれば身体能力は上るし、勢い良く放出すれば近づいてきた敵や弾幕を弾く事も出来るかも知れない。

 

俺はかけっこの体制をとり後ろに下げた右足に力をこめ、蹴った。そのまま階段を段を飛ばし飛ばし低空で上に走る。自分が風になったかの様に錯覚する程加速し、もし躓いたら洒落にならないので足元に細心の注意を払うのも忘れない。

 

「もっかい……放出ッ‼︎」

 

階段に終わりが見えてきたので、残りの段を飛ばすべくもう一度右足に霊力を集中させ、一気に放出した。

 

「うーーーーおーーーーぁぁぁ⁉︎」

 

しかし階段を越えようとした辺りで霊力の制御と体制の維持をミスり、階段を余裕で飛び越えそのまま吹き飛んで行った。

 

「ーーーーぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ‼︎‼︎止まれ止まれ止まれぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」

 

フルパワーで加速した為、逆噴射でも勢いを殺す事も叶わない。しかし諦めたらジ・エンドなので何度も霊力を逆噴射するが、目の前に大きな屋敷が見えてきた。このままだと勢いそのままに衝突して死ぬ。

 

「ぬっぐぅぅぅ‼︎『形成』‼︎」

 

目前に迫る屋敷にぶつかる前に能力を発動、緊急回避でCの形をした霊力の道で勢いを上に流す。

 

「うぉぉぉ……これやっぱ便利だな……」

 

前に向かっていた身体が上に吹き飛んだ事により勢いが失速、上空で完全に停止した。勢いが止まったことにより思考にも落ち着きが訪れる。

 

が、まだ身体は空中にある事には変わりない。

その事に気付いた蒼刃の霊力放出による抵抗虚しく、運が良かったのか悪かったのか、真下にあった池に叩きつけられた。

 

 

 

 

2

 

 

その後、騒ぎを聞きつけたらしい白髪の少女がすぐに池に浮かんでいた俺を救出、濡れた服に変わる着替えを屋敷の中の一室にて貸してくれた。なお、四次元ポーチは無事だった。何故に。

 

「お着替えの大きさは合いますでしょうか?何しろ偶然見つけた男性用の物ですので……」

 

「あ、大丈夫大丈夫。問題無いよ。着替え貸してくれてありがとう」

 

「お気に召したのであれば良かったです」

 

現在俺の服装は紺色の浴衣の様な薄い服を貸して貰っている。ズボンもまた紺色の薄めの物だ。

着替え終わったので俺は部屋の前で待っていてくれた少女に声をかけ部屋から出た。

 

「そういえばまだ自己紹介がまだだったな。俺は望月蒼刃。一応幻想郷で言う外来人って奴だ」

 

「外来人……?あぁ、前に幽々子様が言っていた……コホン、申し遅れました。私はこの白玉楼で庭師兼剣術指南役を務めております、魂魄妖夢です」

 

「うん、よろしくな」

 

魂魄妖夢。幽霊と人間とのハーフで、種族的には半人半霊である。この白玉楼の主の従者であり、戦闘時には楼観剣という刀身の長い刀と白桜剣という楼観剣よりかは刀身の短い刀の二刀を操る刀使いである。幻想郷では比較的珍しい近接戦特化であるが弾幕として飛ぶ斬撃を放ったり、半身である白いモノから弾幕を放ったり分身して斬り掛かってきたりとだいぶえげつなかったり。

 

「では、主がお呼びですので参りましょうか。ついてきて下さい」

 

「はーい」

 

妖夢について行くと、外から見た時から気づいていたが明らかに博麗神社より広い。果たして博麗神社には中庭なんてあっただろうか。いや、ない。昔のお屋敷にあるような池は?無いな。飯を用意したり、掃除したりする従者は?いな……いや俺がそれみたいなもんか。

 

「はぁ……いいよなーこんな屋敷に住めて。博麗神社とは大違いだ」

 

「え?急にどうしたんですか?」

 

「いやさ、博麗神社みたいな狭〜いトコよりここの方がいいよなって話。それに『あんたは居候なんだから家事とか全部しなさいよ?あとはそうね……じゃあ神社の掃除とかもよろしく!』……なーんてアホみたいにしんどい事させられないだろ?」

 

「え?そうなんですか?私の所も屋敷の手入れ等は他の幽霊達に任せていますが……その、幽々子様はたいへん大食らいなものですから……偶に1ヶ月分にと溜め買いしておいた食料全部幽々子様の胃の為に半日掛けて調理ーー」

 

「いやもう言わなくていいから。あんたも苦労してんだな……お互い頑張ろう」

 

「……良かった、この苦労を共有出来る人がいて……」

 

俺たちはお互いの健闘を讃え合い、そのまま無言で握手した。ああ……忘れていた。魂魄妖夢は東方の世界の中でもトップレベルの苦労人である事を……また今度料理くらい手伝ってあげよう……

 

「コホン……ではこちらがこの屋敷の主、西行寺幽々子様がお待ちしている部屋となります」

 

「あれ?もう着いたのか。ここは……大広間?」

 

「はい、その認識で大丈夫です。…幽々子様、お客様をお連れしました」

 

「は〜いどうぞ〜」

 

妖夢が部屋の外から呼び掛けると、中から柔らかい雰囲気を纏わせた声が返ってきた。「失礼します」と妖夢が襖を開けた。襖が開かれ、すぐに声の主の姿が見えた。

 

「望月様、あちら正面におられるのがこの白玉楼の主、西行時幽々子様です」

 

「はいは〜い、私がゆゆさまよ〜?」

 

西行時幽々子。東方の世界の中で最強の一角を担う亡霊の姫だ。ピンク色の髪にピンク色寄りの着物、そしておっとりとした不思議な空気を纏う女性である。一連の流れを見る通り天然っぽい女性に見えるが、中身は天然なんて言っていられない。何故なら、能力が人類的に非常に危険だからだ。

 

「(彼女が持つ能力…それは『死に誘う程度の能力』だった筈。正直この人が一番危ないんだよなぁ…)」

 

死に誘う程度の能力。その名の通りあらゆる生命を殺す能力であり、命があるものは逆らう事が出来ない権能級の能力である。だが、西行時幽々子の人間性(亡霊性?)からか能力の使用は滅多にしないし、そもそも敵じゃない俺に対して絶対使わないと思うが……根本的な恐怖には勝てない。

 

「初めまして、望月蒼刃です。あの、庭園の件についてはすみませんでした。この後すぐにでも修復しますので……」

 

「あぁそれはもういいわよ〜。さっき真犯人さんから事情は聞いたから彼女にさせてるから」

 

「……彼女?ってあぁ、スキマ妖怪ですか…ありがとうございます」

 

「いいのよ〜、災難だったわね〜」

 

俺は彼女の寛大さに感謝し、ぺこりと頭を下げた。あのスキマ妖怪にはずっと働いていてもらうとしよう。……しかしなんだろう、彼女が俺を見ながら何やらうずうずしているのだが……なんだろ

 

「え〜と、その〜……ちょっと来て貰える?」

 

何やら胸の前で指を突き合わせた後、ちょいちょいと招き猫みたいに手を振った。俺は頭の上に疑問符を付けてゆっくりと近づいた。彼女は俺が近づくにつれて目を輝かせ、両手を広げて迎え入れるようにしてーー

 

「ゑ?むぐぅ⁉︎」

 

「きゃぁぁぁ!可愛い〜‼︎」

 

その豊満な体で俺をむぎゅっと抱き締めた。それはもう満面の笑みで。そんで色んなトコが柔らかくていい匂いがした。ありがとうございます。…そうじゃなくて。

 

「ゆゆゆゆ幽々子様⁉︎な、何してるんですか⁉︎」

 

「あら妖夢、あなたには彼の可愛いさがわからないというの?このぷにぷになほっぺとか身長とか‼︎」

 

「望月様がもはや成されるがままに⁉︎」

 

あわあわと妖夢が顔を赤くして慌てふためいている。ちょっと可愛い。え?俺?がっちりホールドされて抜け出せないから諦めました。助けてください。

 

「いーい?今から私の事はゆゆさまって呼ぶのよ?わかった?」

 

「ワカリマシタ、ユユサマ」

 

「あ〜んもう素直でいい子ね〜!よ〜しよしよし」

 

「あ、あの幽々子様…そろそろその辺りで止めてあげてください。彼もう表情が死んできてます」

 

頭を撫で撫でされ、一段と深く抱き締められ逃げられなくなってきたところで妖夢が止めに入った。これ、どう考えても彼女に俺はショタだと思われてないか?もしかしてこれから初対面の人たちにそう思われるパターンあるやつ?

 

しかし、そんな蒼刃の不安を他所に彼女の勢いは止まらなかった。

 

「それじゃあ蒼くん」

 

「蒼くん⁉︎」

 

彼女は、とんでもない爆弾発現をしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「今日は泊まっていって、お風呂一緒に入りましょう!」

 

 

 

 

 

俺は一気に目が覚め、全力で拘束から抜け出した。



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16話 二人のお話

ちょっと投稿ペースがやばくなりそうなので、3ヶ月とかにならないうちに投稿


1.

 

その後、やっとの思いで拘束から抜け出した俺は自分の年齢を彼女に伝え、自分がお子さまではない事を伝えた。しかし

『しってるわよ〜?でもそんなに可愛いんだから問題はないわ!』

 

なんてぬかしよる。

 

「……で?そろそろここに来た訳を話したいんだけど?」

 

「あ、それについては紫に聞いてるから大丈夫よ〜」

 

「望月様がここにいらっしゃる前に既に話し合いは始まっていたんですよ。ただ、その…大きな音がしたので紫様と幽々子様でスキマを介して確認し…紫様がなぜあぁなったか白状したためそのまま後処理に駆り出されたと言う事です」

 

「なるほど、なら返事を聞かせて欲しい。あんたらは協力してくれるのか?」

 

敵の正体は不明、対象を乗っ取る力を持ち、どこにどんな状態で現れるのかわからない。基本俺たちは敵の後手に回る事になる現状の中、味方を多く、そしていかに広範囲に網を張れるかが異変解決のカギだと思っている。

 

 

「もちろん、協力させて貰うわよ。ただし私は冥界で仕事もあるし、もし乗っ取られたらおしまいだから妖夢に行ってもらうわ」

 

「はい、お任せください」

 

正直なところ、彼女の能力は戦力的に欲しかったがこればかりは仕方ない。残念ながら敵と彼女は相性が悪いようだ。

 

「…確かに、そうなったら幻想郷滅亡だしな……とにかく、協力ありがとう。これからよろしく、妖夢」

 

「こちらこそよろしくお願いします、望月様」

 

「あ〜、出来れば様付けやめて欲しいかな。慣れてないし、もう対等な仲間なんだし」

 

「えっと…分かりました。そ、蒼君…?」

 

「それはやめて(真顔)」

 

「で、では蒼刃くんで」

 

そして、魂魄妖夢という接近戦枠の中でも強キャラが味方になった。彼女ならもし敵が襲いかかって来てもきっと斬り払ってくれる事だろう。

 

 

ちなみに何故蒼君だったのか聞いた所

 

『えっと、小さい子供みたいな背丈なので呼びやすいし親しみやすいかなと…』

との事。

 

俺は早く元の身体に戻りたいと切実に思った。

 

 

 

 

2.

 

 

「なんかごめんな、結局夕飯までご馳走になっちゃって…」

 

「いえいえ、たまに幽々子様は紫様とお食事されることがあるので大丈夫です。それよりちゃんとお腹いっぱいに食べましたか?しっかり食べないと成長しませんよ?」

 

「この場合、余計なお世話だと突っ込めばいいのか?それから美味しかったです。ごちそうさま」

 

「はい、お粗末様です」

 

結局、ゆゆ様たってのお願いで夕飯まで白玉楼に滞在することとなり、今はせめて夕飯を作ってくれた妖夢のお手伝いにと皿洗いをしているところだ。追記するならば、ゆゆ様はエグかった。

何がってエグかったってそれは、ねぇ。

大食いって怖い。

 

「そういえば、蒼刃くんも今回の異変解決に参戦するみたいですけど…」

 

「おう、つまりは自機組って事だな」

 

「……?」

 

「あぁいや、気にすんな。ただの独り言だよ独り言。んで、それがどうした?」

 

皿をしっかり布巾で拭いていると、隣で皿を水洗いしている妖夢から声が掛けられた。

 

「蒼刃くんはその…どう戦うんですか?紅魔館にいる吸血鬼姉妹のようにヒトは見かけによらないというのは理解しているんですが…人間の子供は流石に…」

 

「いやだからさ?身体だけって言ってるじゃん。なに?みんなして俺を子供ネタでいじめるの流行ってんの?泣くよ?この身体にモノを言わして人前で泣き叫ぶよ?」

 

「いや、その、あの…」

 

ちょっと涙目になりながら答えてやると、俺の返答に居た堪れなくなったのか妖夢があたふたしだした。そのままスマホでパシャりと一枚。妖夢にとっては聞き慣れない音の筈だが、もともとあたふたしていたからかその辺も含めてあたふたが止まらない。

 

「いや、戦闘方法が聞きたい事は分かってるから。そしてごちそうさまです」

 

「…?…??…ってはい、明らかに戦闘をこなせれるようには見えないので…」

 

ごもっともである。今の俺の身長はレミリアやフランとほぼ同じ位で、身体能力に関しては吸血鬼である二人に対し、俺はただの人間の子供である。つまり見た目は同じでも中身にどうしても差があるのだ。それも絶望的なまでに。

 

「もちろん今の俺は一発でも喰らえば吹き飛ぶ紙装甲もいい所だ。子供の身体の強さなんてたかが知れてるし、体力なんて走ったらすぐなくなるよ」

 

転生初日に俺は博麗神社の階段を登ることになった訳だが、神社に着く頃にはもう歩くことすら困難な程に疲れ果てしまい、一通り叫んだ辺りで倒れた所を霊夢と魔理沙に保護され今に至った経歴がある。それも二週間くらい前だが。

 

「しかーし!そんなデメリットを補って余る程の才能を得た。それが…『あらゆるものを形作る程度の能力』であーる」

 

俺は洗い終えた皿を10枚くらい積み重ね、右手の人差し指だけで持った。能力を使い、霊力で身体を強化したのだ。

 

「能力の『形作る』っていうのを霊力で強化した自分を『形作る』として使ったって訳。今みたいに使い方次第で色々出来るっていう優秀な能力さ」

 

「な、なるほど…それがあれば身体能力の面も補えるし、弾幕やここに来る際にも使っていたあの膜の様なものを形作ることが出来ると…なんですかそれ、無茶苦茶便利な能力じゃないですか」

 

「そ、そこまで見てたんだ…いや、あんまり過信しちゃいけない。一見、この能力はなんでも形にできるように見えるけど、実は見過ごせない弱点が幾つかある」

 

「弱点…ですか」

 

「うん。仲間である妖夢には言っておくけどね、この能力…霊力や魔力がないと全く使えなくなるんだよね」

 

「…え?本来、能力は霊力や魔力、妖力神力などの潜在能力を必要としない筈では?もちろん例外はありますけど、蒼刃くんの能力は…」

 

「残念ながらその例外に分類される。確かにこの能力自体は気体や物体、霊力や魔力とかを無理矢理固めて形にするんだけど、問題は形の維持にある」

 

俺は台所から一歩下がり、能力を使い両手に定規ぐらいの大きさのものを形作って持った。

 

「今から実践してみるけど、右手のが空気を固めたやつに霊力を込めたやつ、左手のが空気だけを固めたやつ。両方軽めに台所に叩きつけると…」

 

両方を同時に振りかぶって台所に叩きつけると、右手のはそのまま形を保っているのに対して、左手のは綺麗に半分に割れ、そのまま空気中に霧散してしまった。

 

「こんな感じで霊力を込めないと酷く脆くなってしまうんだわ。今回は空気を使ったから元の空気に戻っただけだけど…まぁ、能力で形にしたものは霊力や魔力でコーティングしなきゃいけないんだよね…これが弱点その1」

 

幻符『夢幻蹴夢』のカラクリはこれにある。あれは今みたいに霊力で固めていない球を広範囲に拡散させ、本命である霊力で固めた球を撹乱させている訳だ。だから固めていない球は当たってもただの霊力なので霧散し、本命は被弾すれば大ダメージを与えれるのだ。

 

「そしてもう一つ…形にしたものを維持するにも霊力か魔力を消費しなければならないという事。でもそれに関しては解決してる。要は形にしたものの維持をすぐにやめればいいみたいだ。およそ5秒、それが余分な力を使わなくていいギリギリ限界の時間だ」

 

今日この日までおよそ二週間とちょっと。霊夢と紫のとこで修行中、能力の鍛錬をしていた。何度も何度も繰り返し能力を発動し、霊力切れでぶっ倒れる事もあった。しかし、自分の能力の使い道や限界も知れたし、戦術を練ることも出来た。結果、操られていたとはいえ、原作キャラを二人も撃破できる程に使いこなせるようになった。

 

「ま、戦闘になったらたよってくれていいぜ?この能力を総評すると、いかにうまく応用出来るかによって価値が上がるってとこだ。だから、おおよその状況に適応出来るからよ」

 

「…なんというか、凄くクセのある能力なんですね。でも、はい。戦闘中、蒼刃くんに頼らせてもらいますね」

 

「おうさ、任せとけ」

 

この能力は、何故かこの状況にとても適応出来ている能力だと俺は感じている。何故なら、敵の情報はごく少数で、未知数な点が多過ぎる。しかし、うまく使えばあらゆる戦局で立ち回る事が出来るからだ。

 

しかし、俺はなんとなく嫌な感じがしていた。この能力は、もしかしたら意図的に授けられたのではないか…と。敵は原作にも登場していないイレギュラー。それに対するは同じく原作にいない別次元からのイレギュラー。

だが、それでいい。

現在どの時間軸にいるかわからない以上、正直動きにくくて仕方ない。しかし、明確な敵として…そして異変解決という口実の元自由に動ける。特に縛られること無くだ。

 

これは退屈しないな、と望月蒼刃というイレギュラーは不敵に笑った。

 




追記

この小説には作者の偏見及び事実ではないかもしれない事が書かれている事が無きもあらずなので、そこはこれって二次創作だもんな、程度の考えで受け止めていただければと思います。


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第17話 模擬戦…?

なんというか、自分自身これだっ!っていう内容の物が書けずにズルズルと時間だけが経っていく……とりあえず不完全ながら投稿をば


その後、皿洗い等を終わらせた俺たちは『黒い霧』が出ることも無く、また異変に動きがないためにヒマを持て余していた。で、そんな時間は勿体ないという事で妖夢と模擬戦もとい弾幕ごっこをする事になった。

 

「じゃー始めようか。ルールはスペカ無し、純粋に弾幕だけを当てあうって事で。んで、お互いの能力を考えて物理攻撃もあり、明らかに一本取られていたり身動きが取れなくなったら終わり…OK?」

 

「はい、それでいきましょう。よろしくお願いしますね、蒼刃くん」

 

「おう、こっちこそな」

 

お互い木刀を構えいつでも始められる状態だ。そして、今回の模擬戦はこの世界に来て初めての近接武器を持った相手との戦いでもある。そもそも近接武器持ちがこの東方の世界には少ないため、貴重な経験となる。

 

「んじゃ、この石が地面に落ちたら試合開始な。言っとくが妖夢、手加減は無しだぜ?すぐに決着ついちゃうからよ」

 

「それはこっちのセリフです。蒼刃くんこそすぐに負けないで下さいね?」

 

お互い軽く挑発しあい、不敵に笑う。なんというか、決闘紛いな事は久々だからかとても気分がいい。

 

「いくぜ…よいしょぉっ!」

 

俺は手に持った石を全力で空高くぶん投げる。が、霊力で身体強化をしなければただの子供であるため、筋力が足りず空高くとはいかない。精々3回建ての建物くらいが限度だが、今はそれでいい。

 

「(『形成』《霊力強化》‼︎)」

 

瞬間、俺の身体は全身を自身の紺色の霊力で覆われた。覆うとは言ってもただ身体能力を向上させるために使用する霊力が噴出してるだけなんだが、わかりやすく言うとあれだ、ドラゴンボールのあれである。気を高めると周りになんか出てるやつ。あれあれ。

 

心の中で叫び、能力により霊力で強化された自分をイメージ、そのままイメージを形作る。これで問題点の身体能力はクリア、少しはまともに動けるだろう。

 

「……シッ!」

 

勝負開始の合図である石が地面に落ちた瞬間、ググッと右足に力を込め一息で妖夢に飛び込んで肉薄し、そのまま斬りかかろうとする。

 

「…っ⁉︎ハァ!」

 

しかしそこは流石剣士、瞬時に後退しながら接近した俺目掛け右の木刀を振り下ろす。一直線に接近したが故に、回避することの出来ぬまま妖夢の反撃は俺の頭を寸分の狂いなく狙い振り抜こうとしている。だが、俺は頭に当たる瞬間身体を前に投げ出すように飛び掛かり、空中で身体でいなすように斬撃をすり抜ける。

 

「なーーッ!」

 

「ーーフッ‼︎」

 

すり抜けた先、妖夢の半身はガラ空きである。 体勢を崩し、そのまま放った斬撃を躱された為にその隙は大きい。俺は右手に持った剣で妖夢を斬りつけるーーのではなく、剣を叩きつけるようにして霊力放出を行う吹き飛ばしを選択した。

あの時、階段をショートカットする為に使ったエネルギーを攻撃に転換したものである。

 

「ーーーーッ‼︎げほっ‼︎」

 

幾ら小さいとはいえ、能力を使っていた俺を吹き飛ばしたその瞬間出力は侮れない。この技のネックな所は単に威力が強すぎて自身も吹き飛ばされてしまう事の“よう”だが、身体を回転させればいなす事が出来るので問題無い。だが相手は凄まじい霊力の放出を受けるのでただでは済まないであろう、妖夢は元いた位置からだいぶ離れた位置まで吹き飛ばされてしまっていた。だが、割と強めに霊力を放ったというのにもかかわらず、妖夢は地に足をつけて立っていた。…え?嘘でしょ?

 

「…あらら、これ受けてもまだ立ってられるんだ…すげーな」

 

「なん…けほっ…ですか、今…の。明らかに戦闘慣れしたかのような身のこなしに、尋常ではない威力の攻撃…貴方はいったい…」

 

少しするとダメージは引いてきたのか、俺の一連の動きに驚きを隠せない様子で尋ねてきた。二次元の、それも強キャラの部類に入る妖夢に一泡吹かせて驚かした事は素直に嬉しい。

……さて、俺は…か。

 

 

「二週間修行してたら強くなれた。以上、終わり」

 

俺は真顔でそう言い放った。

 

「待ってください」

 

妖夢は真顔で待ったをかけた。

 

 

「え?」

 

「え?」

 

「いやどしたん、早く続きしようぜ」

 

「いやいやいや!勝手に自己完結しないでくださいよ!私にわかるように説明してください!例えば今の回避とか‼︎」

 

何故か慌てたかの様に熱心に聞いてくる。でも何度聞かれても変わらないよ妖夢サン

 

「身体を動かせるようにがんばった」

 

ただそれだけである。

 

「へっ…?じゃ、じゃあ霊力で身体能力を強化したこととか…!なんか普通にやってましたけど普通は無理ですよね⁉︎」

 

「使えるようにがんばった」

 

「な、なら今の一撃は…!」

 

「能力の応用を効かせれるようにがんばった」

 

「じゃあどうやって能力を使いこなせる様になったんですか!」

 

「ひたすらひたすら能力を使いまくって身体に染み付くまでがんばった」

 

「……な、なら『黒い霧』との戦いはーー」

 

「死に物狂いでがんばった」

 

ただただ淡々と答えていく。我ながらなんてわかりやすくて簡単な答えなのだろうか。妖夢はもう理解出来すぎて肩を震わしてるぜ‼︎

と、急に妖夢は俺に斬りかかってきた。木刀と木刀がぶつかり合い、カン‼︎と良い音がなる。

 

「あぶなー。話してる途中でなんて危ないだろー」

 

「貴方こそ何言ってるんですか⁉︎もはや話してることが理解出来ませんよ⁉︎なんですかひたすらにがんばったって⁉︎それしか言ってない‼︎」

 

「そんなこと言われてもなぁ、本当だしなぁ…」

 

妖夢は縦に、俺は横に得物を構え相手に競り負けない様に鍔迫り合いを演じる。というかおかしい。今俺は霊力強化を効果はまだ続いている状態にも関わらず、妖夢は素の状態で互角に競り合って来てるんだけど。理解出来ないのはこっちなんだけど。

 

「ま、人間死に物狂いで頑張れば大抵なんとかなるもんさ。あ、俺の場合は元の世界で運動してたからある程度動けるし、アニメとか漫画とかの動きをイメージしてるからってのもあるんだけれども」

 

この際言っておくけど八雲紫と博麗霊夢の修行は尋常じゃないからね?凄いんだぜ?紫は俺の周りに無数のスキマを展開して来たんだが……

 

『今から貴方の周りにあるスキマの内どれかから弾幕飛んでくるからがんばって避けてね〜。ちなみに殺傷設定ギリギリの威力だからもし当たれば痛いどころじゃすまないわよ〜』

 

奴は完全に俺を殺しに来ていた。

無論、最初の内は弾幕を躱す事が出来ず何度も何度も俺の身体を抉った。でも、慣れって怖いネ!極限状況に追い込まれた日々だったおかげか段々対応出来るようになり、今では紫がガチにならない限りは当たること無くなった。

 

 

霊夢の場合はそれはそれでエグかった。紫にスキマを展開させると俺の首根っこ掴んで彼女ごとスキマにIN。何をするのかと思えば……

 

『じゃ、今から弾幕ごっこしましょ。私はスペルカードあり、あんたは無しね。じゃあ行くわよ』

 

当時、スペルカードはおろか能力や弾幕もろくに使えない状態。奴は完全に俺のメンタルを折りに来ていた。

もちろん最初の内は圧倒的な弾幕量とポジションの悪さに全く歯が立たなかったがこれまた慣れ、並行して修行していた霊力の扱いが上達する頃には霊夢に反撃出来るようになって来た。

 

 

そんな地獄(日常)をおよそ二週間、強くなってなかったら本気で泣く。

 

「…大変でしたね……」

 

「うん。だからもう頑張ったとしか言えない。いやもうさ、心折れるよあれ」

 

俺はそう言い切った後、自分で言って自分で悪夢を引きずってしまった。あぁ、なんかもう……疲れた…

 

「……なぁ、決着はまた今度にしない…?思い出しちゃった所為でめちゃくちゃしんどいっす…」

 

「は、はい…そうですね……では、また。私も色んな意味で、ちょっと…」

 

二人は競り合っていた木刀を下ろし、妖夢は苦笑いでこちらを見てきた。結局、お互いに試合どころではなくなってしまった為、勝負はここまでとなってしまった。

 

 



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