人身御供はどう生きる? (うどん風スープパスタ)
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オリジナルキャラクターまとめ(ネタバレ注意!)

投稿した話数が50話に達したため、作中に登場したオリジナルキャラクターをまとめてみました。

主人公との関係や登場する場所で大まかに分類しています。

説明文にネタバレとなる部分を含みますのでご注意ください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巌戸台博物館

 

小野館長

常に角髪(みずら)で巌戸台博物館の館長を勤める男性。

月光館学園の日本史教師である小野の父親。

若者の博物館離れを嘆いている。

 

(はら)(いつき)

巌戸台博物館で働く若い学芸員の男。

 

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Be Blue V

 

オーナー

江戸川の知人で病的に線が細い魔女のような女性。

魔女のように怪しげな服装を好み、呪いや霊の憑いた品物をコレクションする趣味を持つ。

ヒーリングや霊視を得意とする本物の霊能力者で、特殊効果を持つアクセサリーを作れる。

ルーン魔術を影虎に教える師匠でもある。

 

棚倉(たなくら)弥生(やよい)

短めの金髪とロックテイストな服装を好むヤンキー風の女性。

幼い頃から幽霊を見ることができたが、周囲の理解を得られなかった。

見えるものは見えると自分を貫いた結果、周囲から孤立。

一匹狼のヤンキー娘として月光館学園で高校生活を送っていた時にオーナーと出会う。

以降霊に対して理解してくれるオーナーの店でバイトをしながら更生して高校を卒業。

現在は大学生。特技は霊視とちょっとした悪霊祓い。

 

香田(こうだ)花梨(かりん)

Be Blue Vの警備を担当する幽霊の女性。不届き者は祟って倒す。

姿は死亡時のまま中学生らしいが、生きていれば成人している年齢。

霊能力者にも非常に見えにくい個性を持つため、霊感のある人にすら存在を否定されることがある悲しい幽霊。

影虎とはラップ音で最低限の意思疎通ができる。

棚倉弥生が言うには、自分の存在を認める影虎を気に入っている。

 

三田村(みたむら)香奈(かな)

Be Blue Vのアルバイト、最後の一人。58話から登場。

保育士を目指して四年制大学に通っているゆるふわ系女子。

香田の声を聞き、姿をおぼろげに見ることができる位の霊感を持ち、

霊媒体質で霊を無意識に引き寄せてしまう。

Be Blue Vで働き始め、危険な霊は憑かなくなったらしい。

影虎以外は霊を祓える人なので、バイト中は最も安心できる時間。

シフト外でも店に来ることが多い。

 

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家族・友人

 

葉隠(はがくれ)龍斗(りゅうと)

影虎の父。

元暴走族でヤクザに間違えられるほどの強面。

バイクいじりが趣味で、自分のバイクには必ず真っ赤な車体と黒い龍を塗装する。

家族を大切に思っているが手が早く、影虎と殴りあいになることもしばしば。

肉弾戦に限ればペルソナ使いとして物理耐性を持つ影虎と対等に殴り合いができる。

妻の雪美に手を出す男は許さない。

 

葉隠(はがくれ)雪美(ゆきみ)

影虎の母。

影虎を心配しながらも静かに見守る美人。

影虎の祖父にあたる父の教育方針で、茶道などの習い事は一通り身につけている。

 

葉隠(はがくれ)龍也(りゅうや)

影虎の叔父(父の弟)で“鍋島ラーメンはがくれ”の店長、

巌戸台での影虎の保護者代わりを勤め、頻繁に影虎やその友人に何かを奢っている。

おだてに弱い疑いあり。

 

伯父(母方の兄)

葉隠龍斗の働くバイクメーカー、速水モーターの二代目社長。

マッドな開発者の傾向がある。

引退した父の後を継いで社長をやっているが、趣味でバイクの設計をしている。

 

祖父

忙しい仕事の合間に、影虎に空手を教えていた。

 

ジョナサン・ジョーンズ

影虎の父の同僚。アメリカ出身。

バイクという共通の趣味で気が合い家族ぐるみの付き合いをしている。

初対面の相手に対しては、日本語の分からない外国人のふりをして驚かす人。

名前を略すとジョジョになるが、不思議な冒険とは関係ない。

 

ボンズ

ジョナサンの父。職業は元アメリカ軍の大佐、現在はテキサス州で観光業経営。

鍛えて欲しいと頼み込んだ影虎にパルクールを教えた。

 

島田(しまだ)綺羅々(きらら)

影虎のクラスメイト。弓道部所属。

小柄でそこそこ可愛らしく、男子からほどほどに人気のあるぶりっ子系女子。

初対面の天田をショタっ子と呼んだりする。

中等部からの進学組で、友近や岩崎と付き合いが長い。

同じ部の岳羽や運動部つながりで西脇とも面識があるなど、顔が広い。

 

高城(たかぎ)美千代(みちよ)

影虎のクラスメイト。弓道部所属。

中学時代はサッカー部のマネージャーをしていた純朴そうなぽっちゃり系女子。

同じクラスで同じ部活の島田と仲が良く、食べることが好きらしい。

八千代(やちよ)という名前の姉がいる。

 

 

和田(わだ)勝平(かっぺい)

月光館学園中等部の三年生。元サッカー部員。

元サッカー部マネージャーの高城に頭が上がらない。

顧問との馬が合わず退部して以来、夜遊びを始める。

金髪に鼻ピアスの不良スタイルで出歩いていた。

影虎に助けられ、舎弟にしてくれと頼んだ末にパルクール同好会に入る。

言葉尻に“~っす”とつく事が多い。

両親が巌戸台商店街にある定食屋“わかつ”を経営している。

 

新井(あらい)健太郎(けんたろう)

月光館学園中等部の三年生。元サッカー部員。

和田と同じく元サッカー部マネージャーの高城に頭が上がらない。

顧問との馬が合わず退部して以来、夜遊びを始める。

髪を茶髪に染めたチャラいスタイルで出歩いていた。

和田と同じく影虎に助けられ、舎弟にしてくれと頼んだ末にパルクール同好会に入る。

両親が巌戸台商店街にある甘味処“小豆あらい”を経営している。

 

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その他

 

陸上部部長

角刈りで体格のいい三年生男子。

エース級の実力者だが、部費のために影虎を強引に入部させようとしていた。

影虎がパルクール同好会を作った事と、強引な勧誘にたいする桐条の指導で勧誘をやめ、反省した。      

      

宍戸(ししど)

部長とともに影虎の勧誘を行い、主に部長を諌めるために動いていた男子生徒。

部長の強引さを持て余していた陸上部の副部長。

 

海土泊(あまどまり)静流(しずる) 月光館学園高等部三年。

原作開始一年前の生徒会長を務めているブラウンの髪をショートカットにした女子。

明るい性格と生徒会長という役職から交友関係が広く、情報通でしたたかさも持ち合わせている。

 

武田(たけだ)光成(みつなり) 月光館学園高等部三年。

原作開始一年前の副会長を務めている長身で目つきの鋭いメガネ男子。

名前が似ているせいで海土泊(あまどまり)には武将と呼ばれている。

無愛想だが自由奔放な海土泊(あまどまり)の行動に振り回されながらも支える男。

 

 

 

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影虎の情報(178話時点)

 

名前:葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)

性別:男

格闘技経験:空手、カポエイラ、剣道、サバット、棒術、軍隊挌闘術。

特技:パルクール。

備考:タロット占いとルーン魔術を勉強中。

   現在ルーン魔術を研究中。

   感情をオーラの色で見分けられる。

   霊が見えるようになった。

   気による治療技術を習得しつつある。

 

 

現在の装備: 旅行中のためアクセサリーとドッペルゲンガーのみ。

武器:“ルーンストーンブレスレット”

頭防具:“ドッペルゲンガー”

体防具:“ドッペルゲンガー”

腕防具:“ドッペルゲンガー”

足防具:“ドッペルゲンガー”

アクセサリー:“イエロートルマリンネックレス(雷威力軽減)”

 

ペルソナ:ドッペルゲンガー

アルカナ:隠者

耐性:物理と火氷風雷に耐性、光と闇は無効。

 

スキル一覧

固有能力:

変形     ペルソナの形状を自在に変化させられる。

       防具や武器として戦闘への利用が可能。

       刃や棘を付けることで打撃攻撃を貫通・斬撃属性に変えられる。

       後述の周辺把握と共に使えば鍵開けもできる。

 

周辺把握   自分を中心に一定距離の地形と形状を知覚できる。

       動きの有無で対象が生物か非生物かを判断できる。

       敵の動きを察知できるため戦闘にも応用できる。

       ドッペルゲンガーの召喚中は常時発動している。

       ただし他の事に集中していると情報を受け取れなくなる場合がある。

       周りの声が聞こえるくらいの余裕を持つことが重要。

 

アナライズ  視覚や聴覚、周辺把握など、影虎自身が得た情報を瞬時記録する。

(メモ帳)  記録した情報を元に計算や翻訳などの処理が高速でできる。

       また視界に情報を映し出すこともできる。便利な能力。

 

       用途の例。

       シャドウの情報閲覧。

       文章の閲覧。

       会話の文字起こし(会話ログ閲覧)

       自分が見た画像、映像の閲覧。

       画像の連続による動画化。

       周辺把握で得た形状確認。

       形状の変化から動きの確認。

       学習補助。

       脳内オーディオプレイヤー。

       音楽再生+歌詞の文字起こしで脳内にカラオケ再現。

       時計機能

       測量機能

 

体内時計   時計がなくても時間が正確に分かる。

 

距離感    知覚した物体の長さや距離が正確に分かる。    

 

分度器    角度が正確に分かる。

       

保護色    体を覆ったドッペルゲンガーを変色させて背景に溶け込む。

       歩行程度の速度なら移動可能。

       速度により、周りの景色とズレが生じる。

 

隠蔽     音や気配などを消し、ペルソナの探知からも見つけられなくする。

       単体で使うと姿は見えるが、保護色と同時に使う事でカバーできる。

       音源になる物をドッペルゲンガーで覆うことで防音も可能。

 

擬態     変形と保護色の合わせ技で、姿を対象に似せる事ができる。

       ただし体のサイズは変えられない。

 

暗視     その名の通り。暗くても問題なく見える。パッシブスキル。

 

望遠     これまた名前通り。注視することで普通は見えない遠くまで見える。

       アクティブスキル。

 

小周天    ゲームにはないオリジナルスキル。

       体内で気を巡らせることにより、精神エネルギー(SP)を回復。

       集中しないと使えないため、戦闘中は使用できない。

       回復量は熟練度による。現時点ではそこそこの回復量。

       気功・小の下位互換スキル。

 

 

物理攻撃スキル(オリジナル):

 

爪攻撃  変形で作った爪で攻撃する。敵に食い込み吸血と吸魔の効率が上がる。 

 

槍貫手  ドッペルゲンガーの変形を応用して槍のように刃をつけて伸ばした貫手。

     射程距離は五メートル。

 

アンカー 敵に食い込ませたまま爪を変形させ、糸のように伸ばす技。

     伸ばした部分で敵の動きを絡め取れるが、細ければ細いだけ強度も落ちる。

 

エルボーブレード 前腕部に沿って肘先を伸ばし刃をつけただけ。武器として使える。

 

気弾   肉体エネルギーを打ち出すことで、離れた敵も攻撃できる。

     物理攻撃スキルの根幹となる技法。

 

 

物理攻撃スキル:

 

ソニックパンチ 高速の打撃か気弾で少しのダメージを与える。威力よりも速さが命。

 

シングルショット 気を弾丸の形状にして放つ。通常の気弾よりも貫通力が高い。

 

スラッシュ ギロチンの刃のような形状の気弾を放つ。なかなかの切断力を持っている。

 

攻撃魔法スキル:

アギ(単体攻撃・火)、ジオ(単体攻撃・雷)、ガル(単体攻撃・風)、ブフ(単体攻撃・氷)、アクア(単体攻撃・水)

 

回復魔法スキル:

ディア(単体小回復)、ポズムディ(解毒)、パトラ(混乱・恐怖・動揺)、チャームディ(単体魅了)、プルトディ(ヤケクソ)

 

補助魔法スキル:

対象が単体のバフ(~カジャ)全種。

対象が単体のデバフ(~ンダ)全種。

 

バッドステータス付与スキル:

対象が単体のバステ全種。

淀んだ吐息(バステ付着率二倍)

吸血(体力吸収)

吸魔(魔力吸収)

フィアーボイス

パニックボイス

バインドボイス

 

特殊魔法スキル:

トラフーリ ゲームでは敵から必ず逃げられる逃走用スキル

      本作では瞬間移動による離脱スキル。一日一回の使用制限つき。

 

その他:

食いしばり 心が折れていなければ一度だけダメージを受けてもギリギリ行動可能な体力を残す。

      もはや根性論に思えるスキル。

 

アドバイス ゲームではクリティカル率を二倍にするスキル。

      本作ではシャドウの急所を大まかに知らせるだけでなく、

      影虎が明確に理解していない事柄に対するヒントを与えるなど、

      その名の通りアドバイスが行われるパッシブスキル。

 

コーチング ゲームでは被クリティカル率を半減させるスキル。

      本作では指導の技術を応用して学習を助け、欠点の改善をしやすくする。

      その名の通りコーチを行うパッシブスキル。

      欠点を改善し隙を減らすため、結果的に被クリティカル率は下がる。

 

ミドルグロウ 勉強や技術の習得速度を向上させ、成長を助ける。効果が高くなった。

 

治癒促進・小 自然治癒力を向上させ、体力回復を促進する。

 

気功・小  気を常に体にめぐらせることで、魔力の回復を促進する。

 

軽身功   運動能力の向上。気の流れを観察することで、体の動きを学びやすくなる。

 

拳の心得  拳の攻撃力上昇。拳を使うことに慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

足の心得  足の攻撃力上昇。足を使うことに慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

拳銃の心得 拳銃の攻撃力上昇。拳銃を使うことに慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

料理の心得 料理の腕前が上がる。

      技術で栄養を効率的に吸収できるように加工し、回復効果を増強する。

 

暗殺の心得 隠密行動・追跡行動・不意打ち・逃走のコツを掴んだ証。

      気配を消しやすくなる。

 

警戒    注意力上昇。先制攻撃、不意打ちを受けにくくなる。

 

照準    命中率上昇。

 

豊穣祈願  レアアイテム取得確率上昇。作物の実りが良くなる。

 

ヤケクソ耐性 ヤケクソの状態異常にかかりにくくなる。

 

恐怖耐性 恐怖の状態異常にかかりにくくなる。

 

動揺耐性 動揺の状態異常にかかりにくくなる。

 

打撃見切り 回避力の向上

 

斬撃見切り 回避力の向上

 

貫通見切り 回避力の向上

 

動揺耐性 動揺が行動に悪影響を与えにくくなる。無効ではない。

 

恐怖耐性 恐怖が行動に悪影響を与えにくくなる。無効ではない。

 

光からの生還 ハマ系の魔法で戦闘不能に陥った場合、低確率で復帰できる。

 

カウンタ 敵の物理攻撃に対して反撃しやすくなる。

 

邪気の左手 シャドウからMAGを奪う。

 

召喚 気・魔力・MAGを元に、シャドウを創造し使役する。能力、形状は調整可能。

   応用で武器を作ることもできる。

 

暴走のいざない シャドウを暴走させ、一時的に大きく戦闘能力を引き上げる。

        多量のMAG(感情エネルギー)を無理やり与え、心のバランスを崩す力。

 

 

 

 

 

 

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影虎の情報(256話時点)

 

名前:葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)

性別:男

格闘技経験:空手、カポエイラ、剣道、サバット、棒術、軍隊挌闘術、翻子拳、八極拳、

      劈掛拳、太極拳、形意拳、八卦掌

特技:パルクール。

備考:タロット占いの精度が向上。

   ルーン魔術を勉強&独自研究中。

   霊視能力を習得。

   オーラの色で個人の感情やその場の空気を理解できる。

   気の流れから病巣を発見可能になりつつある。

   気を用いた治療技術を習得しつつある。

   人間からのエネルギー回収計画実行に伴い、芸能活動開始。

   だいぶアイドル化が進んでいる……

 

仲間:天田乾、コロマル

コミュ:神の力によりほぼ封印中。コミュは築かれ始めているが、恩恵なし。

    関係が進展する度に痛みを伴う。

 

影時間の装備 “ミリタリーシリーズ”

武器:“ルーンストーンブレスレット”+“ドッペルゲンガー”+“模造刀”

頭防具:“迷彩柄のヘルメット”+“ドッペルゲンガー”

体防具:“ケプラーシャツ”+“ケプラーベスト”+“トラウマプレート”+“ドッペルゲンガー”

腕防具:“死甲蟲の小手”+“ドッペルゲンガー”

足防具:“ケプラーズボン”+“コンバットブーツ”+“ドッペルゲンガー”

アクセサリー:“イエロートルマリンネックレス(雷威力軽減)”

 

ペルソナ:ドッペルゲンガー

アルカナ:隠者(愚者)アルカナシフトにより、任意で変更可能。

耐性:物理と火氷風雷に耐性、光と闇は無効。

   パラダイムシフトによって任意で変更可能。

 

スキル一覧

固有能力:

変形     ペルソナの形状を自在に変化させられる。

       防具や武器として戦闘への利用が可能。

       刃や棘を付ける事で打撃攻撃を貫通・斬撃属性に変えられる。

       後述の周辺把握と共に使えば鍵開けもできる。

 

周辺把握   自分を中心に一定距離の地形と形状を知覚できる。

       動きの有無で対象が生物か非生物かを判断できる。

       敵の動きを察知できるため戦闘にも応用できる。

       ドッペルゲンガーの召喚中は常時発動している。

       ただし他の事に集中していると情報を受け取れなくなる場合がある。

       周りの声が聞こえるくらいの余裕を持つ事が重要。

 

アナライズ  視覚や聴覚、周辺把握など、影虎自身が得た情報を瞬時記録する。

(メモ帳)  記録した情報を元に計算や翻訳などの処理が高速でできる。

       また視界に情報を映し出す事もできる。便利な能力。

 

       用途の例。

       シャドウの情報閲覧。

       文章の閲覧。

       会話の文字起こし(会話ログ閲覧)

       自分が見た画像、映像の閲覧。

       画像の連続による動画化。

       周辺把握で得た形状確認。

       形状の変化から動きの確認。

       学習補助。

       脳内オーディオプレイヤー。

       音楽再生+歌詞の文字起こしで脳内にカラオケ再現。

       時計機能

       測量機能

 

体内時計   時計がなくても時間が正確に分かる。

 

距離感    知覚した物体の長さや距離が正確に分かる。    

 

分度器    角度が正確に分かる。

       

保護色    体を覆ったドッペルゲンガーを変色させて背景に溶け込む。

       歩行程度の速度なら移動可能。

       速度により、周りの景色とズレが生じる。

 

隠蔽     音や気配などを消し、ペルソナの探知からも見つけられなくする。

       単体で使うと姿は見えるが、保護色と同時に使う事でカバーできる。

       音源になる物をドッペルゲンガーで覆う事で防音も可能。

 

擬態     変形と保護色の合わせ技。姿を対象に似せる事ができる。

       ただし体のサイズは変えられない。

 

暗視     その名の通り。暗くても問題なく見える。パッシブスキル。

 

望遠     これまた名前通り。注視する事で普通は見えない遠くまで見える。

       アクティブスキル。

 

 

物理攻撃スキル(オリジナル):

 

爪攻撃  変形で作った爪で攻撃する。敵に食い込み吸血と吸魔の効率が上がる。 

 

槍貫手  ドッペルゲンガーの変形を応用して槍のように刃をつけて伸ばした貫手。

     射程距離は五メートル。

 

アンカー 敵に食い込ませたまま爪を変形させ、糸のように伸ばす技。

     伸ばした部分で敵の動きを絡め取れるが、細ければ細いだけ強度も落ちる。

 

エルボーブレード 前腕部に沿って肘先を伸ばし刃をつけただけ。武器として使える。

 

気弾   肉体エネルギーを打ち出す事で、離れた敵も攻撃できる。

     物理攻撃スキルの根幹となる技法。

 

 

物理攻撃スキル:

ソニックパンチ 高速の打撃か気弾で少しのダメージを与える。威力よりも速さが命。

シングルショット 気を弾丸の形状にして放つ。通常の気弾よりも貫通力が高い。

スラッシュ ギロチンの刃のような形状の気弾を放つ。なかなかの切断力を持っている。

電光石火  打撃属性の小ダメージを複数回、全体に与える

二連牙   貫通属性で二回ダメージを与える。

 

攻撃魔法スキル:

アギ(単体攻撃・火)、ジオ(単体攻撃・雷)、ガル(単体攻撃・風)、ブフ(単体攻撃・氷)、アクア(単体攻撃・水)

 

回復魔法スキル:

ディア(単体小回復)、ポズムディ(解毒)、パトラ(混乱・恐怖・動揺)、メパトラ(全体混乱・恐怖・動揺)チャームディ(単体魅了)、プルトディ(ヤケクソ)

 

補助魔法スキル:

対象が単体のバフ(~カジャ)全種。

対象が単体のデバフ(~ンダ)全種。

マハタルカジャ

マハスクカジャ

マハタルカジャ

 

バッドステータス付与スキル:

対象が単体のバステ全種。

淀んだ吐息(バステ付着率二倍)

フィアーボイス

パニックボイス

バインドボイス

セクシーダンス

 

特殊魔法スキル:

トラフーリ ゲームでは敵から必ず逃げられる逃走用スキル

      本作では瞬間移動による離脱スキル。一日一回の使用制限つき。

 

吸血    体力吸収

吸魔    魔力吸収

 

その他:

食いしばり 心が折れなければ一度だけダメージを受けてもギリギリ行動可能な体力を残す。

      もはや根性論に思えるスキル。

 

アドバイス ゲームではクリティカル率を二倍にするスキル。

      本作ではシャドウの急所を大まかに知らせるだけでなく、

      影虎が明確に理解していない事柄に対するヒントを与えるなど、

      その名の通りアドバイスが行われるパッシブスキル。

 

コーチング ゲームでは被クリティカル率を半減させるスキル。

      本作では指導の技術を応用して学習を助け、欠点の改善をしやすくする。

      その名の通りコーチを行うパッシブスキル。

      欠点を改善し隙を減らすため、結果的に被クリティカル率は下がる。

 

ミドルグロウ 勉強や技術の習得速度を向上させ、成長を助ける。効果が高くなった。

 

小周天    ゲームにはないスキル。

       体内で気を巡らせる事により、精神エネルギー(SP)を回復。

       集中しないと使えないため、戦闘中は使用できない。

       回復量は熟練度による。現時点ではまぁまぁの回復量。

       気功・小の下位互換スキル。

       気功・小との併用可能。

 

治癒促進・小 自然治癒力を向上させ、体力回復を促進する。

 

気功・小  気を常に体にめぐらせる事で、魔力の回復を促進する。

 

軽身功   運動能力の向上。気の流れを観察する事で、体の動きを学びやすくなる。

 

拳の心得  拳の攻撃力上昇。拳を使う事に慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

足の心得  足の攻撃力上昇。足を使う事に慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

槍の心得  槍の攻撃力上昇。槍を使う事に慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

拳銃の心得 拳銃の攻撃力上昇。拳銃を使う事に慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

料理の心得 料理の腕前が上がる。

      技術で栄養を効率的に吸収できるように加工し、回復効果を増強する。

 

暗殺の心得 隠密行動・追跡行動・不意打ち・逃走のコツを掴んだ証。

      気配を消しやすくなる。

 

演歌の素養 歌詞の意味を深く理解して歌う事で、聞いた者の心を動かす(動揺効果)。

      効果を発揮するためには練習が必要。

 

警戒    注意力上昇。先制攻撃、不意打ちを受けにくくなる。

 

照準    命中率上昇。

 

豊穣祈願  レアアイテム取得確率上昇。作物の実りが良くなる。

 

打撃見切り 回避力の向上

 

斬撃見切り 回避力の向上

 

貫通見切り 回避力の向上

 

ヤケクソ耐性 ヤケクソの状態異常にかかりにくくなる。

 

恐怖耐性 恐怖の状態異常にかかりにくくなる。

 

動揺耐性 動揺の状態異常にかかりにくくなる。

 

魅了耐性 魅了の状態異常にかかりにくくなる。

 

動揺耐性 動揺が行動に悪影響を与えにくくなる。無効ではない。

 

恐怖耐性 恐怖が行動に悪影響を与えにくくなる。無効ではない。

 

光からの生還 ハマ系の魔法で戦闘不能に陥った場合、低確率で復帰できる。

 

ヘビーカウンタ 敵の物理攻撃に対して反撃しやすくなる。

 

魔法円  特定条件化で味方全体に体力小回復の効果を与える。

 

邪気の左手 シャドウからMAGを奪う。

 

アルカナシフト  ペルソナのアルカナを任意で変更できる。

         その際、僅かながら特定の攻撃力や防御力などが変化する。

 

パラダイムシフト 自身の耐性や弱点を任意で変更できる。

 

召喚 気・魔力・MAGを元に、シャドウを創造し使役する。能力、形状は調整可能。

   応用で武器を作る事もできる。

 

暴走のいざない シャドウを暴走させ、一時的に大きく戦闘能力を引き上げる。

        多量のMAG(感情エネルギー)を無理やり与え、心のバランスを崩す力。

 

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5/19 三田村香奈についての情報を更新。
6/25 高城美千代についての情報を更新。
   和田勝平、新井健太郎についての情報を更新。
8/21 海土泊静流、武田光成についての情報を更新。
   和田勝平、新井健太郎についての情報を更新。“その他”から“友人”へ移動。

2017/6/8 影虎の情報とスキル一覧を掲載。
2017/11/14 影虎の情報とスキル一覧を更新。
2018/9/7 影虎の情報とスキル一覧を更新。


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プロローグ

初めまして。うどん風スープパスタです。
読んでばかりの私が思いつきを文字にしてみました。
それだけの理由で書いたので、更新は未定。
エタる可能性が大きいです。
自分で書くのは始めてなので、文章は拙いと思います。
別に構わないという方は続きをどうぞ。


 2008年 4月3日 辰巳ポートアイランド

 

 「はぁ、はぁっ、はぁ、っ!?」

 

 息が、苦しい。道も見通しが悪い……もう二度とあの引越し業者には頼まない! 男子寮と女子寮を間違えたとか言って予定より荷物の到着が遅れるし、荷物もいくつか壊れていたし、適当な仕事して!! おかげで荷解きも遅れるわ、気づいたら真夜中だわ、夜食を買いに出たらこの有様だ!

 

 心の中で悪態をつきながら、青緑色の月が照らす街を疾走する。

 

 後ろから“影時間”にのみ生息する“シャドウ”という怪物が俺を追ってくるからだ。アレに殺されるか食われるかすれば、“影人間”と呼ばれる死人のような状態になってしまう。

 

 「そんなの、ごめんだ!」

 

 走り疲れた足に気合で力を込めて全力で影から遠ざかり、遮蔽物の多い路地に身を隠す。

 

 「……逃げきれた、か?」

 

 走り過ぎて痛む脇腹に手を当てて周りの様子を見ても、追ってきていたシャドウは見当たらない。

 

 「今のうちに、どこか建物の中へ……っ!?」

 

 後ろを振り向こうとした視界の片隅に黒い影が映り込み、反射的に身を隠していた路地から飛び出した直後、俺がいた場所へ鋭い爪が振り下ろされた。路地の壁に5本の傷が刻まれた音を合図に、再び命懸けの逃走劇が始まる。

 

 

 

 走り続けて疲れた体は重く、頭にはこれまでの思い出が次々と浮かんでくる。

 

 あれは、そうだ。元はといえばあの神のせいか……

 

 

 

 

 

 ~回想~

 

 気がつくと俺はどこかの部屋に居た。

 

「………………床?」

 

 意識が朦朧として、かすむ目をこすりながら重い体を起こす。最初は家だと思っていたが、意識がはっきりし始めて気づく。俺が寝ていた場所はカーペットの上だ。

 

 家には絶対に無い高級そうなそれに驚き、周囲を見渡せば西洋の城を思わせる装飾過多な内装と椅子があるだけ。壁はあるけど、扉がない。

 

「何処だよここ……夢?」

 

 立ち上がって何度周囲を見回しても、目に映るのは気後れするほど豪華な内装のみ。出口どころか自分がどうやって中に入ったかも分からなかった。

 

 そのうち夢かと思って頬をつねろうとしたその時。

 

「つまらんな」

 

 突然聞こえたのは退屈そうな声。驚いてその元へ振り向けば、玉座の肘置きに頬杖をついて俺を見ている退屈そうな男が一人。態度がまともなら玉座に相応しい貫禄があっただろう古めかしい立派な服を着ている。

 

「あ、あなたは……?」

「他人に名を聞くならば、自分から名乗るのが礼儀ではないか?」

「っ、失礼しました。私は田中太一と申します。それで、あなたは……」

 

 そう聞いても返事がなく、目の前の男性はじっと俺を見ているだけ。そのまま嫌な沈黙が流れたあと、男性は一度ため息を吐いて、今度は背もたれに体を預けてこう言う。

 

「やはり、つまらん。夢かと思えば顔をつねろうとし、名の聞き方を指摘されれば正す。珍しくない反応だ、もはや見飽きた」

「見飽きた、って……そんな事を言われましても……」

 

 俺が意味の分からない反応に戸惑っていると、男性はそれを気にせず独り言のように呟く。

 

「まぁ、そんなつまらん人間だからこそここに来たのか」

 

 この人、何か知ってるのか!?

 

「すみません、ここは何処でしょうか!? 私は気づいたらここに居て――」

「分かっている。分かっているから黙れ。説明もできん」

「は、はい」

 

 気だるそうな声に有無を言わさぬ威圧感を感じて、俺はつい口を閉じてしまう。なんだよ、この人……

 

「黙ったか、では話すが……貴様は死んだ。これから私が貴様を転生させる。以上だ」

 

 …………それだけか!?

 

「ちょ、ちょっと待ってください! それだけですか!? それに、意味がよく……」

 

 俺が声を出したら、さっきよりは大分マシだけど、また威圧感が……

 

「面倒だな……貴様、地球の日本に生きていて、転生だのなんだのという話は知らんのか?」

「暇潰しに、ネットで時々読む程度なら……」

「ならば理解せよ。貴様の身に起こっている事、これから起こる事はまさにそれだ」

 

 理解せよ、って、出来るか!! 現実に起こるなんて考えてるわけないだろ!! と、言いたいが言えない。抵抗は許さんと言いたげに威圧感が強まった。膝が震えて立っているのも辛い。

 

 本当にネット小説の通りなら、俺は死んでいてこんな訳のわからないまま訳のわからない世界に行くのか? バカバカしいと思えたらいいのに……男の奇妙な存在と威圧感がそれを許してくれない。全てを受け入れるしかないと思ってしまう……

 

 でも、せめて!

 

「せめて! せめて、行く所の事だけでも教えてください!」

 

 この叫びが男の琴線に触れたのか、威圧感が消えた。

 

「あっ」

 

 俺はその場に膝から崩れ落ち、男は何か呟きながら俺を見ている。

 

「ふむ……実につまらん言葉だが声を出せたか……よかろう、少し詳しく話してやろう」

 

 俺は顔を挙げて男の顔を見るが、体が震えて声が出ないし異常な疲れを感じる。

 

 そんな俺の様子に構わず、男は勝手に話し始める。

 

「まず、貴様の死は事故だ。私のように貴様らが神と呼ぶ存在が何かをした訳ではない。貴様の魂には善悪が無く、ここで魂を再利用されるために送られた」

 

 半ば呆然としていたけど、男……神の声は届いた。しかし、再利用? 輪廻転生じゃなくて、リサイクルなのか? それに俺の善悪って何だ?

 

「魂は生前に行った善行と悪行により、善か悪のどちらかに偏る。そして死した時点の魂が善ならば世界の秩序と維持のため、悪ならば世界に刺激を与え発展を促す一因として、天国か地獄で力として使われた後で輪廻の輪に戻る。

 だが、貴様のように善と悪のどちらにも偏っていない魂はどちらにも使えぬ。よって一度異なる危険な世界へ送り、その世界や人々を救わせることで力を得る。貴様を異なる世界に送るのはそのためだ」

 

 なんだそれ。言葉は分かるけど、理解ができない……

 

「理解できなくて構わん。貴様が知る必要もない。次に貴様が聞きたがる世界の事だが……」

「戦争でも、起きているのですか……?」

 

 危ない世界と聞いて、威圧感も無かった事でつい口に出た。それについてまた威圧感が来るかと思えば、今度は違った。

 

「戦争、か」

 

 返ってきたのは短い呟きと失笑。それとも嘲笑か? どちらにしても嫌な嗤い方だ。

 

「愚かな……貴様一人の魂で戦争を止めると? 自分にそんな力があるとでも思っているのか? 貴様がそんな人間ならば、今頃天国か地獄でさぞ重用された事だろう。こんな所に来るわけがない。

 ここに来た者が行くのは人が生み出した物語の世界、全ての結果までの筋道が既に出来ていて、比較的問題を解決しやすい世界だ」

 

 言葉の節々が気になるけど、だったら……

 

 恐る恐る、もう一つ聞いてみる。

 

「原作は何でしょうか?」

「Persona3と人は呼ぶ」

 

 全く知らない話でないのが救い……いや、あの話だと敵と戦いまくる事になるはず……

 

「何をもって誰を救うかが重要なのだ。適当な力は与えるが、戦いたくなければ世界を滅亡から救うのは物語の主人公に丸投げすれば良い」

「……そうなると、何をすればいいのですか?」

 

 俺の質問に、神が質問で返す。

 

「貴様が知る物語の最後はどう締めくくられている?」

「記憶にある限りでは、主人公が敵を封印する代わりに死ぬはずです」

「その通り。貴様はその代わりになる」

 

 ………………はい?

 

「物語の筋道では主人公が魂を使い、肉体が死ぬ。そこで貴様が死に、主人公の魂の代わりとなることで主人公を救う。それだけだ。

 送る前に寿命と魂の動きをある程度こちらで設定しておくので、貴様は時が来るまでただ生きるだけで構わん。後は勝手に“世界を救った英雄”を救う事になる」

 

 神はあっけらかんと言い放つ。

 

 どうだ? これで失敗する事など無かろう? と……

 

 

 

 それから神は人の魂は等価ではなく、普通の人間を何百人救うよりも大勢の命を救った英雄を救う方が割がいいとか言葉は理解できる話の他に、言葉の意味すら理解できない話もしていたが、確実に分かった事は1つ。

 

 目の前の神にとっては、俺やここに来た人間なんてどうでもいい存在なんだ。

 

 相手が神ならそう考えるのも仕方ないかもしれない。でも、納得は出来ない。

 

 次々と浮かぶ家族や友人、恋人はいなかったけれど、可愛いなと思っていた学生時代のクラスメイトや同僚の顔……そして、彼らとの思い出。

 

 主人公が異世界に行く内容の小説を読んで楽しんだことはある。主人公になりたいと考えたこともある。でも、今は行きたいと思えない。世界を救う役目だって、誰でもいいじゃないか。

 

 そう考えたら、神はつまらなそうにこう言った。

 

「どのみち死んでいるのだから、家族や友の話など時間の無駄だ。ここに来た時点で貴様の道は1つ、貴様の意思など関係ない。貴様の言葉を借りるならば……私にとって貴様らはどうでもいい、送り込む魂も誰でもいい、だから貴様でいいのだ」

 

 心を読んだように……いや、神なら読めるのか。

 

「さて、もう面倒だ。最後に1つ貴様に命じる。貴様は時が来るまで死ぬことは許さん。それまではどれほど傷つこうと死にきれず、時が来るまで苦痛に苛まれ続けると心得よ。

 それ以外の事は勝手にするがいい。助けはせんが、縛りもしない」

 

 そこまで聞いて、急に立ちくらみを起こしたように目の前が揺れる。

 

「まっ……!」

 

 声がっ……俺は、納得してない!

 

「大人しくなったと思えばまた反抗するか。待たぬよ。貴様の納得も不要だ」

 

 ふざ、っ!

 

 突然に神の姿が変わる。人の面影すらない何かへと……ほんの一瞬その姿を見た途端に目の前が暗くなり、そこから先は覚えていない。

 

 次に目を覚ました時には赤ん坊になっていた。

 

 

 

 ~~~~~~~~

 

 

 

 この世界に生まれて15年、最初は今生の名前が“葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)”に変わっていたせいで戸惑ったっけ……また走馬灯……って縁起が悪い!!

 

 「死んでたまるかぁ! 死にきれないなら余計に死んでたまるかぁ!!」

 

 もう自分が何言ってるかも分からなくなってきたけれど、体の力を振り絞って辰巳ポートアイランド駅前の広場に駆け込む。

 

 だが、ここでシャドウが徐々に距離を詰めてくる。疲労が溜まった足よりシャドウの方が早いらしい。

 

 「くそっ! ……イチかバチか……うぉおおおおお!」

 

 雄叫びをあげて駅と駅前広場を繋ぐ階段の横。昼間なら花屋“ラフレシ屋”がある壁に駆け寄り、思い切り跳躍する。

 

 「ふっ!」

 

 壁を駆け上り、壁の高い位置を蹴って後ろへ飛び、シャドウを飛び越える。

 

 「グギィ!?」

 

 俺を追ってきたシャドウは勢い余って壁へ激突。耳障りな悲鳴を上げて動きが止まり、俺はバック宙の要領で一回転してシャドウの後ろへ着地。そして動きが止まってる間に逃げる。

 

 「見たか! これでも、鍛えてるんだ!」

 

 危険に巻き込まれる可能性があるのは分かっていたから、まともに体を動かせるようになってから色々やってコツコツ鍛えてきた。七年半前、影時間が生まれてからは特に。

 

 なぜなら、ペルソナが全く使えなかったからだ。

 

「今こそ必要な時だろうに」

 

 影時間を体験している以上、適性はあるはずなのに一向に使える気配がない。影時間を知ってるから仲間に入れてください、なんて積極的に原作キャラに関わるつもりも無いし、召喚機が無ければ使えないなら一生使えない事も覚悟した。そうなると頼れるのは己の体のみ。だから今日までがむしゃらに鍛えてきた。

 

 意地でも逃げ切る……

 

 「って、もう来やがった!」

 

 考える余裕もなく、またさっきの路地裏へ逆戻り。距離がじわじわと詰められて、とうとうシャドウの細長い手が迫る。

 

 「っ! 行き止まり!?」

 

 駆け込んだ路地の先は逃げ場のない袋小路になっていた。

 

 これはマズイ、別の道うおっ!?

 

 背後から鋭い爪が振り下ろされた。ギリギリで気づいて避けられたけど、今の回避で俺の体は袋小路へ。唯一の逃げ道はシャドウが立ちふさがっている。

 

 「……やるしかないか」

 

 服装はただのシャツとジーンズだけど、目の前のシャドウはゲームで“臆病のマーヤ”と呼ばれていた、最初に出てくる雑魚のはず。体が横幅2mくらいで、今まで遠くから見た事のある奴よりでかいけど……

 

 「キィイ!」

 

 耳障りな声と共に右の爪が横に振るわれ、俺は後ろに下がって躱す。

 続けざまに左の爪が、俺の頭をぶち抜く勢いで突き出される。

 

 膝を曲げ、体を屈めて重心を後ろへ。突き出された手首を両手で掴んで上へそらす。

 

 「ハァッ!」

 

 後ろに傾かせた体を使って後ろに下がり、全力で掴んだ手首を引く。

 

 「キイッ!?」

 「セイ!」

 

 伸びた手をさらに引っ張られた事で、上手くシャドウが引き倒されてくれた。すかさずシャドウの顔、仮面へ掌底を打ち込む。

 

 「くっ……」

 「ギイイイイッ!?」

 「うぉおおおおお!!!」

 

 仮面は固く、掌に壁を殴ったような衝撃が伝わったが、シャドウの悲鳴で効いているのが分かった。ならば、と左右の手で連打。

 

 「ギイ!」

 「おっ! と……」

 

 流石にシャドウもただ殴られてくれるはずもない。殴られながらも体制を立て直して、俺を振り払うように爪を振るった。

 

 少なくとも、全く抵抗できない事はなさそう……体よりも仮面を殴られる方が嫌みたいだ。

 

 「がっ!?」

 

 そう考えたその時、脇腹に強い衝撃と鈍い痛みを受け、体が浮いて路地の壁に叩きつけられる。

 

 「ゲホッ……嘘、だろ……?」

 

 咳き込みながら体の痛みに耐えて目を開けると、俺が戦っていた臆病のマーヤだけでなく飾り物を付けた女性の生首のシャドウ、“囁きのティアラ”が髪を触手のように揺らめかせて浮かんでいた。

 

 「どっから、湧いて出たんだよ……」

 

 あの生首に髪でぶん殴られたのは分かったけど、ヤバイ。

 脳震盪? 体は痛むし、力が入らない。

 

 「くっ、動け、動けって」

 

 俺がもがいている間にも、二体のシャドウはにじり寄ってくる。

 錯覚かもしれないけど、怯える獲物の姿を楽しむような嗜虐性と、目の前に美味そうな食事が並べられているような興奮を感じる。

 

 ここまでか……

 

 今度の人生も、短かったなぁ……

 

 あの神のせいでこの世界にきた当初は、何もかもが気に入らなかった。

 赤ん坊だったから、よく泣いてよく暴れた。

 そんな俺に、両親はずっと良くしてくれた。

 成長してもそれは変わらず、いつの間にか不満の大半は無くなっていた。

 前世の経験があるから小・中の勉強は楽勝で、変わりものか天才児に勘違いされたけど、学校にはそれなりに友達も居た。

 ……あの神に感謝はしてない、あの神は気に食わない。

 でも、あの神に与えられたこの人生は、幸せだったと思う。

 もうすぐ死ぬのは分かってたんだ。……もう、いいかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいのか?』

 

 誰かの声が聞こえた気がする……何が?

 

『本当にこのまま死んで、いいのか?』

 

 ……

 

『死にたいのか?』

 

 そんなわけない。

 寿命まではまだ今年を含めて2年あるんだ。

 時間の許す限り生きていたい。

 死に方だって選びたい。

 こんな道端で化物に食われて死ぬより、ベッドの上で死にたい。

 関わりたくはないけど、俺が身代わりになる主人公とその仲間は一目見ておきたい。

 死にたくない。

 

『なら、生きろ』

 

 体も動かないのにどうやって?

 

『あがけ』

 

 あがけって、そんな適当な……

 

『それ以外に何もできないだろ?』

 

 まぁ、そうだな。

 

『さぁ、どうする? 時間が無いぞ』

 

 声の言う通り、臆病のマーヤが両手と体を広げて俺の体に覆いかぶさろうとしている。

 

 俺は、やっぱり生きていたい!

 

 そう思ったら体に力が少しだけ戻った気がした。

 

 臆病のマーヤが倒れ込んでくる。咄嗟に左腕で体を支え、右手を握った拳を迫るシャドウの仮面に向けて突き出す。

 

 「ギヒィイ!!!」

 

 俺の拳にヘッドバットをかました臆病のマーヤが一際大きい声で叫び、体を仰け反らせた。

 俺は立ち上がらずに横へ転がり、のけぞるシャドウと道の隙間へ飛び込む。

 

 「うっ……!」

 

 上手く隙間を転がり出て立ち上がったのに、逃げる直前で起きた急な立ちくらみに足が止まってしまい、また生首に狙われる。

 

 鞭として振るわれ、風と風を切り裂く音を纏った髪が俺に当たる直前、また頭の中に声が響いた。

 

『我は汝、汝は我』

 「キィ!?」

 「あ、あれ?」

 

 腕を交差させて攻撃を受けたら、直撃したのに痛みが無く、シャドウが始めて俺を警戒するように距離をとる。

 

 気づけばいつの間にか俺は着たおぼえのない黒のロングコートを着て、両手には同じ素材の黒い手袋、右目には泥棒が持っていそうな片眼鏡を付けていた。

 

 これ……ペルソナか!?

 

 疑問と同時に“力”の使い方が頭へ流れ込み、理解した瞬間、何かが体を突き動かした。

 俺は衝動的に2体のシャドウに向き直る。

 

 逃げ続けても追われるだけ。今なら、いける。まずは

 

 「ディア!」

 

 回復魔法を使えば体の痛みが消え、体に力が戻る。けれども、その間に生首から髪の連続攻撃が来た。

 

 「スクカジャ!」

 

 命中・回避能力上昇のスキル。生首の攻撃を把握でき、回復したこともあって体が軽い。自分でも驚くほど体が動いて、攻撃は全て空を切る。

 

 そのまま臆病のマーヤに接近しながら、今度は攻撃力を底上げする。

 

 「タルカジャ!」

 

 体にいっそう力が漲り、臆病のマーヤまであと二歩。

 

 「ラクンダ!」

 

 伸びてくるマーヤの両手をくぐり抜け、防御力を低下させるスキルを使い、渾身の一撃を叩き込む。

 

 「ギィイ! ッ……」

 

 カウンター気味にシャドウの仮面へ拳がめり込み、割れた途端に臆病のマーヤが溶けるように消えた。

 

 あと一体!

 

 「キィッ!? キッキッ!」

 「待て」

 

 臆病のマーヤが倒されたことで逃げ出そうとする生首。でも、髪を掴み取ってやれば逃げられない。そして

 

 「アギ」

 

 俺が生首を睨んで呟くと何もない空間に突然小さな爆発が起こり、生首を炎が飲み込む。

 炎と煙がはれた時、そこには生首の影も形もなく、手元の髪は先端から消えていった。

 

 

 

 

 

 「助かった……」

 

 ペルソナを使い始めてからは軽く倒せたけれど、それまでの疲労がシャドウが消えた安心感と一緒に押し寄せてきて、路地のど真ん中でつい座り込んでしまう。

 

 「これが、俺のペルソナか」

 

 身につけた装備に意識を向けると、それらは実態の無い煙となり、俺の前で人型に変わる。

 黒い短髪に黒い目、シャツとジーンズを着て道端に座り込む、鏡写しの俺の姿。

 

 俺のペルソナ“ドッペルゲンガー”

 

 今は俺の姿をしているけど、本当は特定の姿を持たない。

 その代わりに変身が可能で武器や防具に変身できる。

 

 少し驚いたけどペルソナと合体させた武器もあるんだし、装備品の入手方法を持ち合わせていない俺にとっては都合がいい。

 

 物理と火氷風雷は全て耐性があり、光と闇は無効。

 ゲームでは聞いたことのない能力を複数持っていて、その全てが戦闘より逃げ隠れに向いているため“生き延びるためのペルソナ”という感じがする。

 

 「ペルソナが“ドッペルゲンガー”で、この能力。“もう一人の自分”か……まだ分からない事もあるけど……まず、帰るか」

 

 それから俺はドッペルゲンガーを装備品に戻し、本当の安全を求めて寮へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ、夜食買ってなかった……」




主人公&オリジナルペルソナ設定

主人公設定
名前:葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)
性別:男
容姿:黒い短髪に黒い瞳。体はしっかり鍛えているが、どこにでも居そうな普通の生徒。
性格:転生前は生真面目。転生後も根は真面目だが、転生経験がどう影響したのか、時々微妙にはっちゃけ気味、時々不安定。幼少期から将来に危機感をおぼえ、鍛えていたため運動能力には自信あり。








ペルソナ:ドッペルゲンガー
アルカナ:隠者
耐性:物理と火氷風雷に耐性があり、光と闇は無効。

スキル:
補助とバステのスキルが中心、現在は対象が単体のスキルのみ使用可能。
魔法攻撃スキルは火、氷、風、雷の単体攻撃四つのみ。光と闇の即死系は使用不可。
物理攻撃スキルは一つも無い。
回復も出来るが、やはり現在は効果が単体のスキルのみ。
一日一回だけ“トラフーリ”という逃走用の魔法が使える。
逃走、隠密行動用の能力を複数持つ。

備考:
特定の姿を持たない代わりに変身が可能で装備品にもなる。召喚に召喚機は不要。
防御力と敏捷性は高いが攻撃力に欠ける。
戦闘より逃げ隠れに特化した生き延びるためのペルソナ。
とある秘密が隠されている?


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原作開始前
1話 目覚めの翌日(前)


2008年 4月4日 朝

 

「……だるい」

 

 男子寮の狭いワンルームで起きて第一声がこれ。影時間とペルソナの初使用に空腹まで重なったからか、疲れが全然取れていなくて日課のジョギングに行く気が起きない。とはいえ二度寝する気にもならなかった。

 

「六時……寮の食堂で朝食が出るって聞いたけど、この時間じゃまだ早いか」

 

 仕方なく水を飲んで空腹を紛らわせ、ベッドで横になったまま昨夜の出来事について考えてみる。

 

 

 

 昨日は危なかったけど生きているからよしとして、問題はペルソナだ。

 

 なんでか知らないが召喚機なしで呼び出せた。もう結構長いこと影時間を体験しつづけていたからか、初召喚で気絶もしなかった。けど下手したらあそこで朝を迎えていたかもしれない。

 

 そうなっていた場合、誰かに発見される前に目が覚めなければ警察か病院に運ばれただろう。確か“山岸風花”の適性が発見されたのは検査を受けた病院だったはず。危うく巻き込まれる所だ。気を付けないといけない。

 

 

「……やっぱり、これからはペルソナの訓練をすべきか」

 

 来年、原作が始まればシャドウが活発に動き回るようになるはず。

影時間から逃げられない以上、それまでに今の力を把握して力をつけておかないと危ない。

 

 というのも、昨日なんとなく理解できた限り、俺のペルソナは弱い気がする。

 

 防御力は高そうだけど、攻撃用のスキルがアギ、ブフ、ガル、ジオ。つまり火、氷、風、雷の単体攻撃魔法四つしかなく、物理攻撃のスキルにいたってはひとつもない。代わりにやたらと補助とデバフのスキルが充実している。そしてレベル1状態なのか、複数の相手に影響を及ぼすスキルは持っていない。

 

 早い話が火力不足。このままだと来年を迎えるには心もとないし、原作介入なんてもってのほか。ガンガンいこうぜ! 的な感じでタルタロス攻略をする奴らに混ざって戦える自信はない。

 

 

 

 しかし、幸い俺のペルソナには変わった能力があるらしい。

 

 まず、常時発動されている能力が2つ。

 

 一つは自分を中心に一定距離の地形と動く物を知覚できる“周辺把握”。集中すれば半径100m位の様子が分かり、そうでなくても曲がり角で不意打ちを受けたりはしないと思う。

 

 二つめが劣化アナライズ。アナライズと呼んでいるけど、原作の山岸風花のように敵の情報を分析することはできない。実際に攻撃してみた結果を収集する、ただのメモ帳でも代用できそうな能力。

 

 意識しないと使えない能力には、体を背景に溶け込ませて見えにくくする“保護色”と気配や音を消す“隠蔽”の二つがある。

 

 保護色は体の変化が追いつかない移動速度で動くとモロバレ、隠蔽は姿が見えるが保護色と併用することで弱点を補える。

 

 これらの能力を使った雑魚刈りをして訓練するしかない。これからの伸びしろに期待、といったところか……最悪の場合は主人公とその仲間、“特別課外活動部”へ影時間の適正とペルソナの事を明かして保護してもらう事も最終手段として選択肢に入れておこう。

 

 昨日の件で俺は死をそのまま受け入れられる人間じゃない事が分かった。生きるために逃げて、逃げられなければ戦う。戦って生き延びられないなら、助けを求める。それが当然に思える。

 

 ただ強引にタルタロス攻略に参加するように誘われるだろうから、保護は本当に最終手段だ。生きるために保護されて、どこより危険な場所に放り込まれちゃたまらない。

 

 そうなると巌戸台分寮の場所を探して確認しておくべきだな……その時になって場所が分からなくちゃ困る。ついでに散歩がてらこの辺を歩き回って土地勘を掴むか。

 

 商店街も探して叔父さんに挨拶もしないといけないし……なら父さんからのお土産も持って……

 

 

 

 そんな事をしていたら、時計を見て結構時間が経っていたことに気付く。

 

「そろそろ朝食も出る頃かな?」

 

 身だしなみを軽く整えて部屋から出る。すると向かいの部屋の扉が開いて眠そうな坊主頭の少年が出てきた。俺はその顔に見覚えがあり、固まっていると向こうも俺に気づく。

 

「あ゛~、ん?」

「あ、おはようございます」

「ぁ、はよーっす。えっと、どちらさんで?」

「昨日からこの部屋に来た、今年から高一の葉隠影虎です。よろしく」

「あー、そういや昨日の夕方に荷物運び込まれてたっけ。オレッチは伊織(いおり)順平(じゅんぺい)。俺も今年から高一、伊織でも順平でもどっちでも好きに呼んでいいから、よろしくな!」

「こちらこそ、よろしく……」

 

 目の前の少年は伊織順平と名乗った。野球帽をかぶってないから人違いかと思ったけど、間違いなく原作キャラの1人だった。まさか、この段階で原作キャラに会うなんて……

 

 おまけに順平の人柄と勢いのせいで朝食も一緒に食べることになった。

 

 

 

~男子寮・食堂~

 

 ご飯、納豆、サラダ、お味噌汁に焼き魚。これぞ日本の朝食というメニューがトレーに乗って、長いテーブルの端に向かい合うように座った俺たちの前に置かれている。

 

「いっただっきまーす」

「いただきます」

 

 俺が納豆にだしを入れて混ぜている間に、順平は焼き魚に箸をつけていた。

 

「うん、早起きしたら味違うかな~と思ったけど、いつも通り代わり映えしない味だぁ。いや、うまいけどね」

 

 誰に言い訳をしているんだろう? 順平が味の感想の後に慌てて付け足した言葉を聞いて、俺も焼き魚を食べる。

 

「普通に美味しい。順平はここの食事を食べ慣れてるの?」

「まぁな。俺っち、中二からここ住んでるからさ」

「へー、なら、この辺の事にも詳しい?」

「あったりまえよ! つか、そうか。影虎は昨日来たばかりだもんな……うっし! それなら俺がバッチリこの辺の案内してやるよ!」

「え!?」

 

 グイグイ関わってくるな!? ……でも好意を無下にするのも失礼だしなぁ。普段、友達付きあいをする位はいいか。

 

「……いいのか?」

「モチよモチ、遠慮すんなって。予定なんか何にもなくて暇だしさー、今日休みなのにこんな早く起きたのだって、昨日する事なくて早い時間に寝ちまったからだし」

「だったらお願いしていいかな?」

「任せとけ! なら、とっとと食っちまおうぜ」

 

 俺と順平は朝食を食べ、一度部屋に戻って着替えてから街にくりだした。

 

 ちなみに俺の服は昨日とは違うTシャツとジーンズに、安物のウインドブレーカーを羽織っただけ。身軽だし、気温の変化に対応しやすくて気に入っているスタイルだ。

 

 ファッション的にどうかはあまり気にしていない。ダサいと笑われたら軽くへこむけど。

 

 

 

~月光館学園・校門前~

 

「ここが、月光館学園」

「ここがこれから一番世話になる場所だな。つか、休み中に学校行くなんて変な感じがするぜ……道は分かっただろうし、次行こうぜ」

 

 特にしたい事もないので、学校をあとにする。

 

 

 

~ポロニアンモール~

 

「放課後にどっか行くってなると、だいたいこの辺だな。買い物もここ来ればいろいろ揃うし、カラオケやゲーセン、クラブもある。クラブは行ったことねぇけど……どっか寄ってくか?」

 

 少しだけゲームセンターに寄ってみた。

 

 順平はクレーンゲームが得意らしい。

 

 何かのアニメのストラップを簡単に取っていたのを褒めたら、調子に乗って次々とストラップを取っていた……

 

 アニメキャラストラップを大量に手に入れた!

 

 

 

~辰巳ポートアイランド駅前~

 

「ここが駅、って見りゃわかるか。つか、男子寮来るときに一度は来たことあるよな?」

「ここら一帯は大体分かるよ、うん……」

「? あ、もしかして、間違えて駅の路地裏入っちゃった系? あそこは駅前広場はずれって言って、不良のたまり場でマジやばいから気をつけろよ、マジで」

「そうだな……」

 

 不良にも気をつけよう。

 

 

 

~巌戸台駅前~

 

「ついたぜ、ここが巌戸台だ。すぐ近くの商店街には飯食えるとこいっぱいあっから、外食するならここに来れば困らないぜ。

そういやそろそろ昼飯時だし、何か食ってく? さっきゲーセンで金使っちまったから、高いもんは無理だけど」

「それなら、鍋島ラーメン“はがくれ”はどう?」

「おっ、いいな。それなら十分……って、影虎ってはがくれは知ってたのか? まさか、何かで調べる程のラーメン好き?」

 

 ラーメンは好きだけど

 

「順平、俺の名前は?」

「へ? 影虎だろ? はがく……あっ!? えっ!? まさか!?」

 

 順平は目を丸くして俺を見ている。

 

 リアクション大きいな……まぁ、俺も両親の海外転勤が決まって、何かあった時に相談できる大人が居た方が良いと月光館学園を勧められた時まで俺の苗字との関連に気づかなかった。というかラーメン屋の名前を忘れていて、気づいた時に大騒ぎしたから他人の事は言えない。

 

「ラーメン屋の“はがくれ”は俺の叔父さんの店だよ」

「へー、そうなのか。じゃあ、はがくれのラーメンはよく食べてたのか?」

「いや、実は一度も食べたことない」

「え、そうなの? なんで?」

 

 叔父さんは俺の父さんの弟で、実家から出てここでラーメン屋を経営している。そして俺は両親と実家住まいだった。

 

 俺と叔父さんが会っていたのは叔父さんが実家に帰ってくる年末年始だけで、その時の食事は基本的におせち料理。そうでない時は外食で、叔父さんが実家で食事を作っていた記憶が無い。

 

 そう伝えると順平は納得したようだ。

 

 たわいもない話をしつつ商店街へ向かえば、ゲームにあった通りの光景が広がっていた。他もそうだったけど、要所はまるっきりゲームのまんまだった。

 

 ワイルダック・バーガーとたこ焼き屋・オクトパシーの間にある階段を登って、いい匂いが漂う2階へ足を進める。



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2話 目覚めの翌日(後)

続きです。


 ~鍋島ラーメン“はがくれ”店内~

 

 「らっしゃーせー!」

 

 店に入ると威勢のいい若い男性の声が俺達を出迎えて、カウンター席の端へと案内される。

 

 俺は席についてからカウンターの中に居た男性に声をかけた。

 

 「すみません」

 「はい、何にしましょう!」

 「あ、いえ、注文の前に、店長さんに甥の影虎が来たと伝えていただけますか?」

 「ああ! 店長から聞いています、ちょっと待っていてください。店長!」

 

 その男性店員が立ち去ると、一分も経たないうちに大柄で頭に手ぬぐいを巻いた男性が豪快に笑いかけてきた。

 

 「久しぶりだな、影虎!」

 「お久しぶりです。営業時間中にすみません。今年のお正月は会えませんでしたから、前回から一年以上空きましたね」

 「おう。見ての通りこの店が忙しくてな、嬉しい悲鳴ってやつだ。時間の事は気にすんな。いつでも来いって言っておいたろ? それよりそっちはどうだ?」

 「業者のミスで少し引越し作業と荷解きが遅れましたけど、それ以外の問題はありません。友達も出来ましたし」

 

 俺の視線を追った叔父さんが俺の隣に目を向けると、順平が少し慌てながら自己紹介をした。

 

 「あ、俺、伊織順平って言います。こいつ、じゃなかった。葉隠君の部屋の向かいの部屋に住んでます」

 

 そんな順平にまた叔父さんが笑いかける。

 

 「そうかそうか! ダチができたなら安心だ! 時々妙に固っ苦しいところがあるが、悪い奴じゃねぇ、コイツをよろしくな?」

 「は、ハイっす」

 「おし! お前ら何か食ってけ、今日は俺の奢りだ」

 「マジっすか!?」

 「おうよ」

 

 叔父さんはカウンターから身を乗り出して、声を潜めて言う。

 

 「せっかくだ、ウチの隠しメニュー。“はがくれ丼”食ってみるか?」

 「隠っ……そんなメニューあったんすか?」

 「“隠し”メニューだ。影虎のダチだから教えるが、あんまり広めてくれんなよ? 仕込みに手間がかかるし、何よりつまらんからな。その代わり味は保証するぜ、どうだ?」

 「はい、俺それにします!」

 

 順平のメニューははがくれ丼に決まったようだ。そして俺は

 

 「俺は普通にラーメンをお願いします」

 「なんだ、ノリの悪い奴だな」

 

 叔父さんがそんな事を言ってくるが

 

 「いや、俺、叔父さんのラーメン食ったこと無いから。普段の味を知ってから隠しメニューでしょう。隠しメニューは次回ってことで」

 「それもそうか……わかった、はがくれ丼とはがくれ特製トロ肉醤油ラーメンの大盛りを食わせてやるから待ってろ」

 

 叔父さんはそう言って調理に取り掛かるために去っていく。

 

 「なんか、迫力あるけどスゲェいい人だな、お前の叔父さん」

 「昔から、会うたびに良くしてもらってるよ」

 

 それから俺は奢りと隠しメニューで気を良くした順平と適当に話しながら待ち、やってきたラーメンに舌鼓を打った。

 

 食べ終えるとトロ肉醤油ラーメンで俺の中で何かのパラメーターが上がった! ……かどうかはわからないが、ラーメンはどうして今まで作ってもらわなかったのかと思うくらい美味かった。これは流行るのも当然だわ。

 

 「ごちそうさまでした」

 「ごちそうさまです! マジ美味かったっす」

 

 食後、満腹で苦しい腹をさすりながら叔父さんにお礼を言うと

 

 「気にすんな。毎回奢ってはやれねぇが、また来てくれよ。それから影虎、これ持ってけ」

 

 差し出されたのはラーメンのどんぶり型キーチェーンが付いた鍵。

 

 「この店の合鍵だ。何かあれば電話するか、直接ここに来て開けて入ってこい」

 

 「いいんですか?」

 「俺は仕込みやなんやらで鍵は閉めるが、閉店後も遅くまでこの店に居るからな。家よりここに居る時間の方が長いんだ。仕込み中で電話に気づかねぇ事もあるかもしれねぇから一応持っとけ」

 「……分かりました。大切にお預かりします」

 

 俺はその鍵を受け取って早々に、上着のポケット(ジッパー付き)の中に入れて、ラーメン屋・はがくれからお暇する。

 

 

 

 「次どこ行く? もう大体俺らが行くとこは案内しちまったけど」

 

 階段を下りている最中、順平にそう聞かれる。

 

 「そうだな……」

 

 巌戸台分寮、はダメだな。一人で探すならともかく、怪しまれない理由無しに順平に聞けば後々のリスクが高まる。

 

 「生活に必要な場所は十分教えてもらったし、特に見たい所も思いつかないな」

 「そっか。んじゃ長鳴神社って毎年夏祭りとかやってる神社があるから、腹ごなしにそこまでぶらついて寮に戻ろうぜ。

 そういえば、影虎って何で月高(ウチ)に?」

 「うちの父さんが海外に転勤することになったんだ。それで一緒に海外に行くか、万一の時に頼れるさっきの叔父さんが居るここで寮生活かの二択を迫られて、こっちを選んだだけだよ。幸い成績は問題なかったし」

 「親父さんの都合か……」

 

 ん? なんか順平の様子がおかしいな……そういや順平は父親と上手くいってなかったんだっけか? というか原作キャラは全員家族に何らかの問題やコンプレックスがあったっけ……

 

 一瞬の沈黙が流れたが、順平の質問でまた会話が始まる。

 

 「影虎の親父さんって何してる人?」

 「バイク好きで速水モーターってバイクメーカーに勤めてる」

 「速水モーター……聞いたことないな」

 「一般向けのバイクも作ってるけど、客層はバイクの愛好家の方が多い会社だから仕方ないさ。父さんも元ヤンのバイクオタクだし」

 「え、マジで?」

 「マジで。ちなみに名前は葉隠(はがくれ)龍斗(りゅうと)

 まぁ転勤は来年からだから今年一杯は地元の高校にも行けたけど、高校1年からの方が輪に入りやすいだろうってことで今年から来たんだよ」

 「なるほどなー」

 

 そのままたわいもない話に花を咲かせて歩いていると、見覚えのある建物の前を通りかかる。

 

 「!?」

 

 建物の看板にはこう書かれていた。

 

 私立月光館学園学生寮・巌戸台分寮、と

 

 おいおいおい! 探してないのに見つけたよ! ここが、巌戸台分寮か……

 

 「どうかしたか? 影虎」

 

 知らず知らずのうちに足が止まっていたようで、少し先から順平が戻ってきた。

 

 「いや、この看板がちょっと気になって」

 「看板? 私立月光館学園学生寮・巌戸台分寮。へー、ここも寮なのか。それも俺たちの男子寮と同じ月光館学園の」

 「そうそう、だからこんな所にも寮があったんだなーと思って」

 「そういや俺も知らなかったな」

 

 なんとか順平には怪しまれずにすんだ。と胸を撫で下ろしたところで

 

 「おや? 君たち、ここに何か用か?」

 

 いきなり建物の扉が開き、出てきた“桐条美鶴”に訝しげな声をかけられた。

 

 うわぁ、見たことある顔がまた一人……順平も知ってるのか、めっちゃ慌ててる。それじゃ余計に不審だろ!

 

 「すみません、この寮の方ですか? たまたま通りがかってみたら、この建物と看板が気になったもので」

 「建物と看板?」

 

 俺の言葉に疑問符を浮かべる桐条美鶴。そこに再起動した順平が説明を加えた。

 

 「こいつ昨日こっち来たばかりで、街の案内してたらここを通りかかったんすよ。んで、見たら立派な建物に月光館学園学生寮・巌戸台分寮って書かれてて、ここも寮なんだな~知らなかった~って話になって」

 「……なるほど、そういう事だったか。疑ってすまない。

 ここは古いホテルを改装して作られた寮で、改装時に入れ替えた設備も古いものが多くてな。

 現在は入寮の受付を断り、入寮者は設備の整った新しい寮へ行くようになっているんだ。そのため入学についてのパンフレットや広告媒体にこの寮の事は書かれていない。君たちが知らないのも無理はないだろう」

 「そ、そうなんすか」

 「教えていただいて、ありがとうございます。それでは僕達はこの辺で」

 

 教えてくれた事に礼を言って立ち去ろう。

 

 「待ってくれ」

 

 と思ったら呼び止められた。

 

 「何でしょうか?」

 

 平静を装って返事をすると、桐条美鶴が俺を見た。

 

 「今のやりとりを聞く限り、君は高等部からの新入生だな?」

 「はい、そうです」

 「私は月光館学園高等部2年、桐条美鶴だ。少し早いが、月光館学園へようこそ」

 

 えっ? ようこそ? 

 

 「3年間という短い期間だが、悔いのない学生生活を送って欲しい。君を含めた生徒がより良い学生生活を送ることができるよう、我々生徒会も尽力する所存だ」

 「ご丁寧にありがとうございます。今年高等部1年に入学させていただく葉隠影虎です」

 

 少し戸惑ったけど名乗られたので名乗り返すと、桐条……先輩は笑顔を見せる。

 

 「葉隠影虎、だな。覚えておく。何かあれば生徒会に相談するといい。要望や意見など、学生の声は常に募集している。

 ……呼び止めてすまなかった。私も出かけるところだったので、これで失礼する」

 

 桐条先輩は俺と順平に別れを告げて、そのまま去った。

 

 「な、なんだったんだ? いや、あの有名な桐条先輩って事は知ってるけどよ」

 「とりあえず歓迎された、のかな?」

 

 俺がペルソナ使いとは気づいてない、よな? 気づいてたらもっと何かアプローチがあってもおかしくないし……

 

 でも、今の桐条先輩はイメージよりいい人っぽかった。影時間の適性所有者の勧誘と戦力増強に熱を上げていて多少強引なイメージがあったけど、影時間やシャドウが関わらなければ、普通にいい人なのかもしれない。

 

 よく考えてみれば、学校ではかなり慕われてるんだっけ?

 

 神社に向かう道すがら順平に桐条先輩の事を聞いてみると

 

 「あの桐条グループの総帥の一人娘。去年は一年生なのに生徒会長に推薦されたって噂もあるし、非公式ファンクラブはもう公式じゃね? ってくらい堂々と活動してる奴いるしで、学校一の有名人よ。

 生まれからして天と地の差。月とすっぽん。住む世界が違う月光館学園で一番有名な女子生徒。それがあの桐条先輩だぜ。

 ……つーか、今日会ったなんて絶対に学校で話すんじゃねーぞ。いや、学校じゃなくても話しちゃダメだ。俺とお前の秘密、これ絶対な!」

 「何で?」

 「ファンクラブの奴に知られたらマジで面倒臭い事になるんだよ……たまに、本物のストーカーじゃね? って思っちまう奴とかいるしさ……

 それに今日の先輩、私服だったじゃん? プライベートの先輩に会ったなんて知られたら、熱狂的なファンが押しかけてどんな服装かとか事細かに吐かされっぞ。覚えてないって答えても、独占とか言われて詰め寄られる」

 

 うっわ、本当にめんどくさそう。

 

 「やけに具体的だけど、経験あるのか?」

 「去年のクラスに、桐条先輩と話したって自慢した奴が居たんだよ……」

 「ああ、それで」

 「でもお前はバレたらそれ以上だと思うぜ。名乗って、覚えておくって言われてただろ? アイドルの握手会に毎回行ってる常連の自分が流れ作業で握手して終わり、見覚えのないぽっと出のファンがアイドルに名前覚えられてたらどう思うよ?」

 

 順平の言葉が頭に響き、軽く頭が痛む。

 

 「説明ありがとう。そして、俺は、何で名乗った……」

 「とりあえず黙っときゃなんとかなるって。おかしいのは一部の熱狂的ファンだしさ」

 「万一バレたら?」

 「そん時は……お手上げ侍?」

 

 入学前からちょっと気分が重くなる。

 

 「そんなに心配すんなよ、半分は冗談だって」

 

 半分本当じゃないかと突っ込みたいところだったが、そうこうしているうちに神社に着いてタイミングを逃してしまった。

 

 

 

 ~長鳴神社・境内~

 

 「ここが長鳴神社。それほど大きくない神社だけど、木が多くて夏場も割と涼しいし、たまに散歩するにはいい所だぜ。せっかく来たんだしおみくじでも引いてみねー?」

 

 順平の提案でおみくじを引く事になった。

 

 「まずは俺からな! オラー!!」

 

 順平が必要のない気合を入れておみくじの筒を振る。そして出たのは

 

 「三番、吉。微妙だなぁ。可もなく不可もなく、だとさ。次、影虎な」

 

 筒を受け取り、適度に振る。

 

 「七十二番……大吉!」

 「マジで!? うわ、ホントだ。影虎って運が良いほう?」

 「わからないけど、おみくじで大吉を引いた事なんてほとんど無い気がする」

 「へー、で、なんて書いてある?」

 「健康運、絶好調。金運、臨時収入有り。待ち人、待たずとも来る」

 

 この待ち人って、原作キャラの事じゃないよな? そうだとしたら当たってる。今日だけで順平に桐条先輩……ん?

 

 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

 

 また来ちゃった……

 

 遠くから変わった毛色の柴犬、“コロマル”が境内にある砂場を歩いている。

 

 「犬?」

 

 この順平の声を聞きつけたコロマルが俺達に気づき、そのまま逃げ出してしまった。

 

 「あ、逃げた」

 「やべ、脅かしちまったかな?」

 

 コロマルと会話はなかったけど、一日で二人と一匹か。そういえば体調もいつの間にか良くなってるし、このおみくじ、当たっているかもしれない。

 

 それから俺達は寮に帰る。

 

 しかし帰り道で一万円札を拾い、当たりすぎるおみくじに軽い恐怖を抱くことになった。

 

 これで大凶を引いていたらどうなっていた事か……まぁ、今日は大吉なのでよしとする。

 

 体調が良くなったおかげで、今夜からペルソナの訓練を始められそうだ。



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3話 第一種接近遭遇

 2008年 4月5日 朝

 

 「困った……」

 

 日課のランニングの後、シャワーを浴びて帰った部屋のベッドに横たわって昨夜の事を思い出す。

 

 昨夜、俺は影時間に出歩いた。目的はペルソナの能力確認と戦闘訓練なのに、肝心のシャドウが見つからなくちゃ意味が無い。

 

 一昨日の夜は実際に戦ったし、影人間というシャドウの被害者も居る以上、街中にシャドウが出現する事は間違いない。だけど、昨日は影も形も見えなかった。

 

 「思い返してみれば、シャドウを見る事ってあんまり無かったもんな……」

 

 忘れもしない2000年の9月。

 俺は桐条グループの実験失敗による事故が起こった当時からもう影時間を体験していた。

 きっと俺がこの世界に来た時点で適性を持っていたんだと思う。

 

 あの当時の俺はまだ小学生で、いつ家の中にシャドウが押し入ってくるかと毎晩ビクビクしていた。影時間になって、終わるまで眠れずに家の中を徘徊して窓の外をうかがう。そんな事を続けていたけれど、シャドウは月に何度か見れば多い方だった。

 

 元々街中に出るシャドウはイレギュラーと呼ばれ、たまにしか出ないという話だったから地元では仕方ないと思っていたが……ここにはシャドウに襲われた結果の影人間が大量に現れ、シャドウの巣であるタルタロスが近い。それなのにシャドウが居ないとは思えない。

 

 可能性としては

 

 1.俺の捜索能力不足により、発見できていないだけ。

 2.現時点では少なく、原作が近づくにつれて増えていく。

 

 この2つが考えられる。

 

 1つめならまだいいが、2つめの場合だと原作開始に“備える”という目的が達成できるかどうか……

 

 今は戦闘以前にペルソナの能力を確認している段階だからまだいいけど、それが終わってから時間を無駄にするのは避けたい。せめて1日1匹でも見つかれば一年で365回戦闘経験を積め……いや、それでも少ないな。毎日見つかる保証は無く、体調にも気をつけて場合によっては休みも必要になるんだから。

 

 「タルタロスに行けばシャドウは居るだろうけど、な……」

 

 悩む間にも時間は過ぎてゆく。

 

 

 

 ~夜~

 

 悩みながら部屋の荷解きや明後日からの入学の準備を整えているうちに、夜になってしまった。現在、11時59分50秒。

 

 ……あと5秒、4、3、2、1……

 

 時計の秒針が全て真上を指した瞬間。部屋中の電気が消えて部屋のいたるところに血のようなシミが現れ、窓からは青緑色の光が差し込む。

 

 今日も“影時間”が来た。

 

 「毎日毎日、ご苦労さん。さて行くか“ドッペルゲンガー”」

 

 ペルソナを出す、と意識すればあのロングコートと手袋、片眼鏡をいつの間にか着けている。もうこれだけで怪しげな風貌だが、ここからドッペルゲンガーの能力を使ってもうひと工夫。片眼鏡の形状を変化させ、顔全体を覆う仮面へ変える。

 

 「これでよし」

 

 昨日、ドッペルゲンガーが特定の形を持たないなら片眼鏡から別のものに変えられるんじゃないかと思いつき、実際にやってみた。まだあまり複雑な変化は難しく時間がかかるけど、このシャドウのような単純な仮面ならすぐ変えられる。

 

 この仮面があれば万一影時間中に誰かと顔を合わせたとしても俺の顔はバレないし、なにより顔を保護できると安心感がある。おまけにどういう理屈かサイズがぴったりなのに息苦しくなくて、激しく動いてもズレず、汗をかいても蒸れない。

 

 あの片眼鏡は俺のアナライズ(メモ帳)に集められた情報が出力されるモニターの役割を果たしていたけれど、そこは仮面の目が役割を引き継いでいたので問題も無い。仮面と同じ要領で両の拳に小さな突起を付け、保護色と隠蔽を使ったら準備完了だ。

 

 「……ふっ!」

 

 音が立たないように部屋の窓を開けて外に誰もいない事を確認し、窓枠と落下防止の柵に足を掛けて外に飛び出す。

 

 ちなみに俺の部屋は男子寮2階の角部屋。落下の衝撃を膝のバネと前転で殺し、怪我なく着地したそばから走る。目の前には男子寮を囲む柵と、等間隔に植えられた植木の一本。

 

 植木の幹を足場に踏み切って宙に体を躍らせ、柵のてっぺんまで届かせた手で体を支え、体操の鞍馬のように柵を乗り越える。

 

 「っし!」

 

 これで寮から抜け出せたので、影時間の街へ急ぐ。

 

 まぁ、この寮の管理は結構ずさんみたいで、別にこんな事しなくても普通に歩いて出られるんだけどな。順平だって来年夜中に出歩いて見つかるんだし。

 

 さっきの一連の行動はあまり寮内をこの姿でうろつきたくないって理由もあるけど、九割俺の趣味だ。

 

 

 

 パルクールというスポーツを知っているだろうか?

 

 パルクールはフランスで発祥した運動方法で、人間の基本的な動作で精神と肉体を鍛える事を目的とする。細かいことはネットで調べればすぐ出てくるし、動画サイトで検索すればプロのパフォーマンスが山ほど出てくる。

 

 とにかくプロならすごい身体能力を持っていて、高所に登ったり、跳んだり。普通は行けない場所で行動できると考えればいい。

 

 俺が昔、体を鍛える方法として色々と探して目をつけた物の一つがパルクールで、理由は単に体が鍛えられるだけでなく移動、主に逃げる時に役立ちそうだから。

 

 そんな理由で始めたパルクールだったが、練習のために色々な場所を駆け回り、登り、飛び降りるため、練習を行うには場所を選んで練習の許可を取らなければならない。それをせずに街中でやろうものならまず人の迷惑、そして勝手に人の敷地に入ることで不法侵入などの罪に問われる事になってしまう。

 

 そして交渉して許可を取ろうにも、個人だとかなり難しい。変な所から入られる事そのものに嫌悪感で断る人もいれば、パルクールの練習には危険が伴うので、自分の管理している土地や場所で事故を起こされたくないと断る人も居る。

 

 つまり、パルクールの練習場所は限られている。実家に住んでいた時は近所の人の家の壁やら山で駆け回れたけれど、ここに練習を許可してくれる知り合いは居ない。

 

 しかし、影時間なら?

 

 夜中で人通りは少なく、人が居ても“象徴化”して意識が無い。物を壊したりしなければまず誰の迷惑にもならず、罪にも問われない。そんな環境が何処までも続いているとなれば、やるしかないだろう。

 

 「数少ない影時間の利点だなぁ……これ、悪用すれば泥棒もできるんじゃないか?」

 

 やらないけどな。

 

 シャドウ探しの要でもある周辺把握に集中し、建物と建物を隔てる壁の上を走る。この能力は道や足場の選択にも使えるため、スイスイ進んでいく。

 

 

 

 それから10分ほど道なき道を進み、たどり着いた建物の隙間から出ようとした時

 

 「!」

 

 周辺把握能力が近くに動く存在を捉えた。すぐに後退して適当な障害物を探し、ゴミ箱の影に隠れる。

 

 ズルリズルリと嫌な音が聞こえて息をひそめると、さっき俺が出ようとした道をシャドウが這い、こちらに気づかず去っていく。一昨日のよりだいぶ小さいけど、今日のシャドウも“臆病のマーヤ”だ。

 

 どう戦おうか? まずは奇襲に決まってるけど……

 

 「ふぅ……」

 

 走って軽く荒れた息を整えながら考え、そうだ。あのスキルを使ってみるか。

 

 念のために防御力を上げるラクカジャを使い、保護色と隠蔽の効果を確認し、路地から出て早歩きくらいの速度でシャドウを追った。

 

 ……心臓の音がうるさい……シャドウまであと、4m……いける。

 

 「吸血」

 「ギェッ!?」

 

 俺が静かにそう唱えた瞬間、シャドウが苦しみ体から赤い光の線を立ち上らせ、空中で渦巻いた線は俺の体を包み込んで流れ込み、体の疲れがやわらぐ。吸血は低威力ながら相手に攻撃をしつつ自分の体力を回復できる魔法だ。

 

 「ギィ!!」

 

 流石に攻撃すると気づかれるか!

 

 「ネコダマシ!」

 「キィッ!?」

 

 迫り来るシャドウの拳を左に避けて手を叩くと、シャドウがひるんで動きを止めた。その隙に刺付きの拳で連打を加えると、シャドウはたまらず俺に背を向けて離れようとする。

 

 「逃がすか、吸血!」

 

 シャドウの背中を引っ掴んでもう一度吸血を使う。するとシャドウの体からさっきよりも多く赤い線が伸びて、今度はシャドウを掴む俺の手から吸収され、そのままシャドウは消えてしまった。

 

 「倒し、た?」

 

 あれ? なんか、前より弱いというか、あっけない。とりあえず周りにも何もいない。

 

 「ふぅ……」

 

 ……同じ種類でも敵の強さにバラつきがある。そうだよな、攻撃だってターン制じゃなくて隙があれば連続攻撃ができたし、ゲームでスキルを使うとHPかSPが減るが、俺は今のところ体を動かす事も含めて少しずつ疲れが溜まるだけ。吸血の威力一つとっても、最初ととどめで威力が違った。とどめの方が威力はあったし、よく回復できた気がする。

 

 この世界は俺がやっていたゲームや原作がベースの世界だけれど、全てが同じという訳ではない、か。

 

 …………いまさらだけど、吸血に害は無いよな? シャドウの血か何か分からない物で回復って考えてみたら体に悪そうじゃないか? ……今のところは問題なさそうだから、様子見でいいか。どうせもう使ったんだ。

 

 体調に悪影響が出なければ他のスキルよりも使って疲れない感じだし、魔力を吸い取る“吸魔”を使うとどうなるかは試さないと分からないけど、便利そうではある。

 

 シャドウが居て、余裕があったら吸血で回復した方がいいかな……!?

 

 「保護色っ、隠蔽っ」

 

 知覚できる範囲に何かが入ってきた。反応は2つ。路地からまっすぐ俺の方に向かってきている。

 

 シャドウに気づかれたか?

 

 対象がここに来る前に元居た建物の隙間に飛び込み、様子をうかがっていると人の声が聞こえてくる。

 

 「こっちだな! 美鶴!」

 「待て、明彦!」

 

 ミツル、アキヒコ? まさか……

 

 そっと覗いて見れば、路地から飛び出て来た男が一瞬だけ見えた。

 

 「何処だ? シャドウなんか居ないぞ!」

 

 スキルのおかげか、それとも直ぐに首を引っ込めたからか、俺は見つからずに相手を確認できた。

 

 “真田明彦”だ。

 

 月光館学園ボクシング部部長にして、重度のバトルジャンキー。シャドウを見れば真っ先に戦いたがる、俺的に一番会いたくない要注意人物。

 

 どうしてこんな所に!?

 

 冷や汗をかきながら、いつでも逃げられるようにして耳をそばだてると、つい最近聞いた声が近づいてくる。

 

 「待てと言っただろう、明彦。シャドウの反応はついさっき消えた。私のペンテシレアで調べても反応はない」

 

 ペンテシレア、たしか桐条美鶴のペルソナで探査能力があったはず。でも俺に気づいてないのか?

 

 「なんだと!?」

 「なんだも何もない。私がペルソナで見つけた2匹のシャドウはもう居ない。片方に力の揺れを感じた直後にもう片方の反応が消え、残った方は急激に弱っていくように消えた。おそらく、シャドウ同士が戦って相討ちにでもなったんだろう」

 「くそっ! せっかく複数のシャドウが居たというのに、一足遅かったか!」

 「まったく……シャドウが居ないなら私達がここに居る理由もない。帰るぞ、明彦」

 「待て、もう少しこの辺を探しても」

 

 真田明彦は食い下がるが桐条先輩は聞き入れず、2人はここから離れていった。

 

 

 

 「……危なかった……」

 

 二人がドッペルゲンガーを使って把握できる限界距離の外へ出たことが確認出来た途端、どっと疲れが出てくる。

 

 さっきの桐条先輩の口ぶりからするとドッペルゲンガーはペルソナの探査からも隠れられるみたいだけど、そうでなかったら確実に見つかった。

 

 「もう少し気を付ける必要があるか……」

 

 それに気になる事が一つ。桐条先輩はここに“二匹”のシャドウの反応があったと口にした。

 一匹はさっき俺が倒したシャドウだとして、もう一匹は? 状況的に考えると俺以外に該当する物は無いけど、俺は人間だしドッペルゲンガーは間違いなくぺルソナ。

 

 どうして桐条先輩は俺をシャドウだと思ったのか。まさかペンテシレアじゃシャドウとペルソナの区別がつかない訳じゃないよな?

 

 「分からない事だらけだな……こんな時にサポートキャラとかアドバイザーが居てくれたら……ベルベットルームは無いのかよ」

 

 シャドウとも戦えたので今日の訓練はここで切り上げ、俺は無いものねだりをしながら寮へ帰る。




この主人公はワイルドである原作の主人公を除くSEES(特別課外活動部)のメンバーと同じく、ベルベットルームは利用できません。

次回タイトル

「ペルソナ」と「シャドウ」


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4話 うまくいかない日もあるさ

前回の後書きで次回、「ペルソナとシャドウ」とタイトルを予告してみたけれど、書いてみたら本題に入らない内に文字数が五千越えてた(゜д゜)


 4月10日(木)

 

 目覚まし時計の音で起床、現在午前5時30分。

 

 ジョギング用のジャージに着替えて、小型冷蔵庫から取り出したスポーツドリンク入りのペットボトルを、腰に巻いたペットボトルホルダーに付けて寮の外へ。軽く準備体操をしてから走る。

 

 呼吸するたびに肺に入ってくる冷たい朝の空気の清々しさに反して、俺の気分は重かった。

 

 なぜかといえば、原作キャラの二人と影時間中にニアミスした5日前以降、一度もシャドウと戦っていないからだ。ペルソナの訓練も隠れるか走りまわり、魔法は物を壊すとまずいので空に撃つだけ。

 

 訓練が実になっている実感がなく、分からないことは分からないまま時間だけが過ぎている。影時間は気を張っているからまだ気にならないけれど、平凡な日常生活を送っているとつい考えてしまう。

 

 7日から始まった学校の授業中は特に気が散る。前世知識があるから普通の授業はどうにかなっているけど、早急に何とかしたい。この学校の試験は妙な問題が出てこないとも限らないし、こうなったら

 

 「行くしかないかな……」

 「どこにだ?」

 「!? っ、宮本!?」

 

 ふと呟いていた言葉に、疑問が投げかけられ、気づけばクラスメイトの“宮本一志”が俺と並走していた。驚いて俺が足を止めると宮本も止まる。

 

 宮本も朝この辺を走ってるそうで入学式の後、クラスの自己紹介で顔を覚えられてからジョギングの途中で見かけると話しかけられるようになったんだけど……

 

 「おはよう!」

 「あ、ああ……おはよう」

 

 全然気づかなかった。変なこと聞かれてないよな?

 

 「何ボーッとしてんだよ、走りながらは危ないぜ!」

 

 む、それは確かに。

 

 「気をつける」

 「そうしろ。で、どこか行くのか?」

 

 何と答えようか……

 

 「いや、大した事じゃないんだけど、地元で買ってたスポーツドリンクの粉を置いてる店が無くて探しに行こうかと……」

 

 口から出たでまかせに、自分で言っててどんな言い訳だと思う。しかし宮本は

 

 「だったら俺がよく行くスポーツ用品店の店を教えてやるよ! そこならなんでも揃うからな!」

 

 全く疑う様子を見せず、俺がお礼を言ったら学校で地図を渡すと言って笑顔で走り去った。

 

 「……走るか」

 

 聞かれてまずい事は聞かれなかったようで、胸を撫で下ろしてジョギングに戻る。

 

 

 

 

 

 ~月光館学園 1年A組 教室~

 

 「おはよ~」

 「うぃーす」

 

 余裕を持って教室に入るとクラスメイトが口々に声をかけて来るので、俺もそれに返事をしながら最前列のど真ん中、教卓の真正面にある自分の席について鞄を下ろす。すると教室の角で話していた順平に友近がやってきた

 

 「おっ、影虎も来たか」

 「今日ともちーのおごりでお前の叔父さんの店行くかって話してたとこなんだ。お前も行く?」

 「ちょっ! 一週間の約束だろ!?」

 「えー? でも去年4日でいいって言ってたじゃんよ」

 

 何の話かわからないので説明を求めると、2人は去年から賭けをしていたらしい。

 

 「順平って去年よく遅刻しててさ、高校入ったら遅刻しねー! とか言ってて、無理だろって話になって」

 「そんで、俺が入学から一週間以内に遅刻しなけりゃ何か奢るって約束だったんだよ。確かに4日でいいとも言った気がするけど」

 

 ハードル低っ!?

 

 「何その賭け、どんだけ遅刻してたんだよ」

 「それ言われちゃうと……なぁ?」

 「いや、でも実際それで一度は遅刻すんじゃないかなーと思うくらいには遅刻してたぜ? 遅刻しなくても、いっつもギリギリに教室来てたし」

 

 くだらない話に花を咲かせていたら、一人の女子が近づいてくる。

 

 「ちょっとゴメンね。葉隠君、これ。ミヤからスポーツ用品店の場所」

 

 そう言って一枚の紙を差し出してきたのは、今朝会った宮本の幼馴染の“西脇結子”。彼女もクラスメイトの一人だ。地図は細かくて分かりやすく、チラッと見ただけで巌戸台商店街のどこらへんにあるかが大体分かった。

 

 「ありがとう、西脇さん。ところで本人は? 分かりやすい地図のお礼言いたいんだけど」

 「ミヤならさっき江古田に呼び出されたから当分戻ってこないよ。今日の体育に向けて気合入れすぎて、廊下走ったのが見つかっちゃってね。

 あと、それ書いたのアタシ。ミヤが書いた地図なんて読めるわけないから」

 「あ、そうなの? ありがとう西脇さん」

 「いいって、別にこれくらい。じゃーね」

 

 西脇さんがそう言って女子の輪に入っていくと、放置されていた順平と友近が今の話に食いつく。

 

 「スポーツ用品店?」

 「お前何かやってんの?」

 「朝にジョギングしてて、時々途中で宮本と会うんだよ。今朝も会って、スポーツドリンクの粉が買いたいって言ったら店の場所教えてくれるって話になって」

 「ジョギングかぁ、健康的だなー」

 「順平、健康的だなーじゃなくて見習ったらどうよ?」

 「なんなら朝起こすから、一緒に走るか?」

 「やってみっかな……自分のペースで」

 

 この様子だと始めそうにない。やっておけば多少は来年の役にたつのに……ウザがられない程度に時々誘ってみるか。

 

 話は宮本と一緒にアフロヘアーが特徴的な担任の数学教師、宮原先生が来るまで続いた。

 

 

 

 

 

 ~6時限目・体育~

 

 今日最後の授業は体育、A組B組の2クラス男女合同で50メートル走と100メートル走のタイムを測定する。教室で着替えて、順平、友近、宮本と一緒にグラウンドに出て行くが……

 

 「よっしゃああぁあ!!!」

 

 グラウンドに出た途端、宮本が気合の雄叫びをあげた。他の生徒の視線がこっちに集まり、その中から西脇さんが走ってくる。

 

 「ちょっとミヤ! 恥ずかしいからやめなって! あと誤解されるよ!?」

 「まだ始まってもいないのに、なんでタイム測定でこんなテンション高いんだよ、こいつ……目の前の光景はたまりませんがねぇ~」

 「うわっ、誤解じゃない人がここに居た……」

 「ああ!? いや、ちょっと西脇サン? 今のは、その~……」

 

 順平は慌てて取り繕おうとするけれど、西脇さんは軽く引いて順平から距離をとっている。

 

 月光館学園ではこのご時世に女子の体操服としてブルマーが採用されていて、グラウンドに出ている女子も、西脇さんもブルマー着用。そんな中で順平の言ったような事が女子に聞かれれば、そうなるのも無理はない。

 

 俺と友近は巻き込まれないようにこっそり避難して、授業が始まるまで時間を潰す。

 

 

 

 

 

 「クラスごとに、男女二列に分かれて並べ!!」

 

 体育教師のゴリマッチョ、もとい青山先生が号令をかけて授業が始まる。といっても今日は走るだけ。準備体操とグラウンドを三周して体を温めたら

 

 「適当に8人ずつ固まってまず50メートルから練習、そのあと交代で3回計れ! 3回のタイムと平均を記入した記録用紙を全員提出した班から自習にしていい! 測定の邪魔にはならないようにしろよ!」

 

 タイムの記録用紙を受け取りながら、ちょっと適当な指示だな……とか考えていると順平に誘われた。

 

 「葉隠、一緒に組まねー?」

 「こっちこそよろしく。他の人は?」

 「今んとこ俺、ともちー、宮本だけ。後の4人は女子入れたいな。男子は男子だけで組めなんて言われてねーし」

 

 周りを見るとほかの班も同じことを考えてか、異性に声をかける生徒をよく見かける。青山先生が止める様子も無い……ってか、先生は女子のブルマ姿を見比べるので忙しいみたいだ。

 

 体育教師ェ……

 

 「女子連れてきたぞ」

 「おっ! 誰、あっ、西脇サン……」

 「どーも」

 

 宮本と一緒に来た西脇さんの視線が順平に突き刺さる。さっきの件と合わせて、さらに順平のイメージダウンになったな、これは。

 

 「おーい!」

 「ああ、ほらともちー来た!」

 

 ……おいおい、ここで来るのかよ。

 

 友近が連れてきた女子は二人

 

 「こいつ、俺の幼馴染の岩崎(いわさき)理緒(りお)

 「B組の岩崎です。よろしく」

 「女っぽくねーけど、一応女だから」

 

 その友近の口ぶりが気に障ったのか、もう一人の女子が口を開く。

 

 「ちょっと、その言い方は失礼じゃない?」

 「え? いーのいーの、本当の事だし。なぁ、理緒?」

 「う、うん。いつもの事だから気にしてないし。大丈夫だよ、岳羽さん」

 「そう? なら、まぁいいけど……私は岩崎さんと同じB組の岳羽ゆかり」

 「あ、A組の葉隠影虎です。よろしくお願いします」

 

 また一人、原作キャラと顔を合わせた。この前のおみくじ当たりすぎ……

 

 「そんなかしこまらなくていいよ」

 「おい今走った女子ー! ケツ振っても足は早くならないぞー! 男が元気になるだけだ! それからそっちは食い込んでるぞ!」

 「……あんな無遠慮なのは困るけど」

 「あの先生と一緒の目で見られたくないなぁ……」

 「……そうだね。なんかゴメン。順平でもあそこまで酷くないし。ってか、あれもうセクハラじゃん」

 

 挨拶の途中で青山先生が馬鹿でかい声で早くも走り始めた女子に声をかけ、それを聞いた岳羽さん、というか女子全員が嫌悪感を抱いたようだ。

 

 「うっわ、キモイ……」

 「サイテー」

 「今のは男の俺からしても無いわー」

 「あれってブルマンでしょ?」

 「何それ?」

 「あんた今年からだっけ? 青山のアダ名。女子のブルマー大好き男で“ブルマン”なの」

 「この学校の体操着がいまだにブルマーだからブルマンがこの学校に居るのか、ブルマンが居るからブルマーなのかって。高等部だけじゃなくて中等部でも聞く話よ」

 「流石にそれはどっちも無いっしょ」

 「そうだけどさぁ……実際セクハラ発言多いし、掃除とか何かにつけてブルマーを着るように言ってくるんだよね。あの先生」

 

 ヒソヒソと青山先生について話す声が聞こえてくる。

 

 そういや他の先生方も生徒のいじめと山岸風花の行方不明を隠蔽する江古田先生に、生徒から集めたお金を使い込んで生徒会の伏見に盗みの疑いをかけた竹ノ塚先生、保険ではなく黒魔術の江戸川先生。

 

 授業やテストの問題も妙なところがあるし……改めて考えると、この学園の教師は全体的に大丈夫なんだろうか?

 

 「む……さっさと走れ! 今は授業中だぞ!」

 

 生徒の声を聞いた青山先生がブルマー鑑賞をやめて声を張り上げ、生徒は班ごとに散っていく。

 

 「おい、俺たちも始めたほうが良くね?」

 「一人足りないけど、いいの?」

 

 男子四人に女子三人、岩崎さんの言うとおり確かに一人足りないが……

 

 「見たところ余ってる人も居ないみたいだな」

 「ブル、じゃなかった。青山センセー! こっち人数足りないっすけどー!」

 

 順平が指示を仰ぐとB組に休んでいる生徒が居るらしく、人数が足りないからこの班は7人でいいそうだ。

 

 その後はスタート地点で合図を出す人に1人、ゴールの確認に2人配置して、2人分ずつ交代でタイムを測った。しかし、俺は一緒に走った宮本に触発されて全力で走った結果、50m5.92秒という記録を叩き出して滅茶苦茶驚かれた。

 

 

 

 

 

 ~放課後~

 

 「終わった~」

 

 もう帰宅する生徒の姿も無くなった昇降口で靴を履き替え、外に

 

 「あっ」

 「あ、体育の時の」

 

 出ようとしたら、岳羽さんと鉢合わせた。

 

 「葉隠君だっけ、今帰り? 私もだけど、ずいぶん遅いね」

 「……ホームルームが終わった瞬間、やけに耳の早い陸上部の先輩が勧誘に来て時間をとられて」

 

 走るのは得意だし訓練もしてるけど、俺の目的は大会に出るためじゃない。だから考えてみますとだけ言ってはぐらかした。運動はタルタロスか影時間で散々やるだろうし、放課後は体を休めたいから陸上部だけでなく他の運動部にも入る気は無い。

 

 「そういうこと。あんだけ早ければそうなるか」

 「岳羽さんはなんで?」

 「私? ……私は、ちょっと職員室寄ってただけ」

 「そうですか。それじゃ」

 「あ、うん」

 

 そう言って別れるつもりが……

 

 「道、同じなんだね」

 「ソウミタイデスネ」

 

 どうも、今の岳羽さんは巌戸台分寮ではなく女子寮で暮らしているらしく、俺と同じ道を使っていた。

 

 一刻も早く離れたいけど、ここで走って逃げれば印象が悪いし、怪しまれるかもしれない。

 

 「……ねぇ」

 「はい?」

 「君、さっきからなんか怪しい」

 

 訂正。もう怪しまれていた。

 

 「何ていうか、初対面にしても妙に壁を感じるんだけど。私、何かした?」

 「別にそういうわけじゃないですけど」

 

 しまった……

 

 

 

 実は、俺は彼女の事を前々から知っている。

 

 彼女と彼女の母親は、桐条グループの事故のスケープゴートにされた父親の事で、世間からの冷たい風に晒されていた。そしてこの世にはネットという便利で怖い道具がある訳で……匿名の掲示板への書き込みには岳羽詠一郎氏への罵詈雑言が飛び交うのは珍しくもなく、酷い時には遺族である彼女とその母、岳羽梨沙子さんの実名が写真付きで晒されていたこともある。

 

 少しでも情報が欲しくて毎日PCにかじりついていた当時小学生の俺も、その胸糞悪い内容を何度か目にした。しかし、小学生の子供には精々情報の一つとして別のファイルに保管し、少しでもマシになるように祈る事しか出来なかった。

 

 同情してるのかと聞かれれば、そうだろう。でも、正直に言えば少なくともいい気はしないはず。俺に被害がなければ多少は力になってもいいかと思うけど、どう関わればいいか分からない。

 

 それが態度に出たみたいだ……

 

 「実は、女の子と話すのに慣れてなくて」

 

 こんなありきたりな言葉しか出てこない。

 

 「西脇さんとは割とフツーに話してなかった?」

 「彼女はクラスメイトで、宮本を挟んで今までも何度か話してたからでしょ、きっと」

 「ふーん、まぁいいや。ちょっと気になったから聞いてみただけだし。あ、私こっちだから」

 

 話しているうちに男子寮と女子寮への道が分かれる所まで来ていた。

 

 「そう。それじゃ、またいつか。クラス違うけど、見かけたら挨拶くらいはさせてもらうから」

 「それはいいけど……やっぱり避けられてる気がする……」

 「ん? 何か言った?」

 「ううん、なんでもない。さよなら」

 

 岳羽さんが足早に去っていき、俺も男子寮に向かう。

 

 “やっぱり避けられてる気がする”……どうせ聴くなら、ラブコメ的な空気で聴きたかった。とぼけたけどバッチリ聞こえた。あれ絶対に“お近づきになりたい”じゃなくて、“理由分かんないからキモイ”って声だったよ。

 

 「これからの人間関係、どうなるんだろう」

 

 先のことを考えてみても、まるっきり予想できない。成り行きに任せるしかないのか……?



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6話 初めてのタルタロス

これ書くためにペルソナ3(PSP)をまたやり始めたらまたハマりました(沙*・ω・)



 帰宅後の宿題と食事の時間以外は体を休めることに専念し、今日も影時間を待って街へ行く。

 

 今日は普段と違う事がいくつかあり、その一つめは俺の服装。

 

 普段はロングコートと手袋に片眼鏡か仮面の形状をさせているドッペルゲンガーだが、今は全身を黒い袴や地下足袋といった和装に包み、仮面は翁と呼ばれる能面をモチーフにした物に変え、頭に藍染の頬被を被る忍者コスプレと言われそうな姿。

 

 先日俺が知っている限りでは初めて装備品らしい物が“時価ネットたなか”で売り出され、衝動買いした“藍染の頬被”。買ってみたはいいが普段の服装にそのまま被って鏡を見て思った。これは無い、と。

 

 俺はファッションをあまり気にしないけど、ロングコートに片眼鏡と頬被の組み合わせの珍妙さは表現しがたく、あえて言えば泥棒の和洋折衷。流石にあれで出歩くのはためらわれた。

 

 頬被がただの布切れなら被らずにいつも通りの格好でいいのに、どうしてかあの頬被を被っていると身が軽くなった気がする。だから服装を変更することでなるべく統一感のある格好にして解決した。これならあの和洋折衷スタイルよりは恥ずかしくない。

 

 二つめの違いは目的地。

 

 普段は街中を駆け回ってシャドウを探すけど、今日の俺はある場所を目指している。それは当然

 

 「遠目には何度も見てるけど、近くで見るとまたデカイ」

 

 目の前には月光館学園が変貌した姿。影時間にそびえ立つ、どうして崩れないのか不思議なくらい歪な塔。“タルタロス”

 

 「とうとう来ちゃったな……」

 

 シャドウの巣であるタルタロス。危険は大きいが間違いなくシャドウと戦える、と5日間一度も戦えなかった焦りが俺を突き動かした。

 

 焦りで行動するのは良くないと頭ではわかっているはず、なのに“タルタロスに行く”という考えが常に浮かんで、今日は体も動いていた。

 

 ここまで来てやめる気にもならず、周りの様子を確認しながら誘われるように中へ入る。

 

 

 

 

 

 ~タルタロス・1F エントランス~

 

 「おお……」

 

 豪華で不思議、俺の貧弱な語彙ではそうとしか言えない内装が広がっていた。見れば見るほど立派だが……なんか気に入らない。

 

 どことなく俺をこの世界に放り込んだ神の居た部屋に雰囲気が似てる気がするからか……特にあの階段を上った先の青く輝く扉が奥に続いてるみたいだけど、それがまた見下ろされている感じで……って、俺はなに建物に腹を立ててるんだ。

 

 気を取り直して左右を見渡す。

 

 「ベルベットルームの入口は無いし、シャドウも居ない……転送装置は動くのかな……!?」

 

 電源が見当たらず、何気なく装置に触れた瞬間、装置に光が灯る。どうやら触れただけで起動したらしい。咄嗟に“トラフーリ”をいつでも使えるように身構えたが、転送はされなかった。

 

 「びっ、くりした、そういやゲームでも最初は使えなかったっけ……使えるのは行き先の装置を起動させてからか」

 

 体の力を抜いて装置から離れると、次は階段に近い台の上に置かれた時計が目に付く。

 

 時計の機能を思い出して近づいてみると、時計の台座には金額のメーターとお金の投入口、そして“全回復”と書かれたボタンがあった。目をこすって何度見返してもそれは変わらない。

 

 「自販機か! しかも全快一回五千円とか高いのか安いのか分からねぇ! それに、入れた金はどうなるんだよ……」

 

 シャドウが回収に来るのか? ……なんか、シャドウがこっそりここからお金を回収して、得たお金を宝箱につめて、せっせとタルタロスに配置してる光景が脳内に浮かんできた。

 

 「……当然だろうけどセーブ機能は見当たらないし、これはほっとこう」

 

 階段を登り、タルタロスの奥へ進む。

 

 

 

 

 

 ~2F 世俗の庭・テペル~

 

 扉をくぐって少し進むと、血の痕がいたるところに付いた廊下に出た。ふと気になって後ろを振り向けば、入ってきた扉が消えて袋小路になっている。

 

 「出たければ転送装置か非常口を見つける必要があるわけね……トラフーリは緊急離脱用だな」

 

 ゲームでは戦闘から確実に逃げる効果を持つ魔法、トラフーリ。これは具体的にどういう効果で確実に逃げられるのかと思って試してみれば、効果は瞬間移動。タルタロス外での実験では遠出しても使えばあっという間に寮まで帰れる便利な魔法だったけど、一日一回という使用制限もあった。

 

 タルタロス内から外に出られるかはまだ確認してないし、まずは帰り道の確保と余裕があれば訓練、そして実験がてらトラフーリで帰る。状況次第だが、明日からはトラフーリを使ったらその日はタルタロスでの訓練は打ち切った方が無難かな。

 

 

 

 

 ここで思考を打ち切って、周辺把握を全開にして慎重に廊下を進む。すると道の先がT字路になっていて、右の道の先にシャドウを感知。それも三匹。ここ数日探し回ったのはなんだったんだ。

 

 脱出装置を見つけるまでは戦闘は避けたいので、左を選んだが……そう甘くはなかった。

 

 「シャドウの巣だけあるな……右行っときゃよかった」

 

 進んだ先には臆病のマーヤが三匹に仮面が赤いマーヤが2匹居て、右の道に戻ってみたら三匹が倍の六匹に増えていた。保護色と隠蔽で気づかれてないけど、不良のようにたむろって通路を塞いでいるから隙間が狭く、すり抜けるのは難しそうだ。

 

 ……五匹相手は初めてだけど、この階のシャドウなら素人でもそこそこ戦えるはずだよな? 原作が始まればサポート付きとは言え、いきなり順平や岳羽さんを含めた新人三人だけでここに放り込まれるんだし。……慎重にやってみよう。

 

 数の少ない左の道。輪になった五匹のマーヤへそっと近づき、こちらに一番近い所で背を向けた赤仮面のマーヤにスキルを使う。

 

 「澱んだ吐息」

 

 対象となったシャドウが震え、俺は後ろに飛びさがりながら

 

 「アギ!」

 

 奥に居た臆病のマーヤ二匹の間を狙って爆発を起こす。

 

 「ギヒィ!!?」

 「ゲキッ!?」

 

 一撃に複数を巻き込んだが、威力が下がったようでどちらも倒せていない。しかし、二匹は軽くもない傷を負ってひるんでいる。残り三匹がこちらに気づいて向かってくるが、ここで

 

 「マリンカリン!」

 

 俺の体から放たれたピンク色の何かが、さっき背を向けていた赤仮面を包む。

 

 「キ……キィイッ!」

 「ギッ!?」

 

 マリンカリンを食らった赤仮面が動きを止め、その直後に横を通り抜けようとしたもう一匹の赤仮面をぶん殴った。殴られた方は仲間に攻撃されるなんて思ってなかったようで、モロに食らってシャドウ同士で戦い始める。

 

 よし! マリンカリンは敵単体を“悩殺”の状態異常にする魔法。事前に状態異常になりやすくした甲斐があったか、上手く同士討ちしてくれた!

 

 状態異常系スキルは敵が居ないと効果を確かめられなかったから、ぶっちゃけちょっと不安だったんだけど……

 

 「ギッ!」

 「おっと、デビルタッチ!」

 

 まだ無傷の一匹が左手を伸ばしてきた。“恐怖”の状態異常にするデビルタッチを使った左手による回し受けでさばく。様子に変化が無かったので効かなかったのかと思いつつ、隙のできた横っ腹をタコ殴りにして倒す。

 

 残り四匹、っ!

 

 「冷たっ!?」

 

 何か光ったように見えてその場から飛び退いたら足が急に冷えた。よく見てみればさっきまで俺のいた床が一部こおりつき、その先では俺がアギをぶちかました臆病のマーヤがこっちを見ている。

 

 「ブフか!」

 

 ドッペルゲンガーの耐性のおかげか、冷たさを一瞬感じただけでダメージはない。けど、やってくれたな!

 

 「ア……」

 「ギィイ!! イッ!?」

 「えっ?」

 

 弱点の火を臆病のマーヤに打ち込もうとしたら、悩殺状態の赤仮面マーヤが先にアギを打って、それまで戦ってたもう一匹の攻撃を受けて消えた。

 

 思わぬ展開だが、これで残りは二種類のマーヤが一匹ずつ。さっきの一発で弱ってた臆病のマーヤをアギで倒して、残り一体にする。

 

 「アギ!」

 「キヒヒッ」

 

 一体一になり、真っ向から迫る赤仮面にも一発アギを打ち込むが、効いてるように見えない。と思ったら、視界に“残酷のマーヤ”の名前と“火耐性”の情報が出てきた。

 

 さっきまで同士討ちしてたのに今頃かよ。自分で攻撃した結果だけが更新されるのか。

 

 「火が効きにくいなら、ブフ!」

 「ギ、ギギ……」

 

 氷の破片に襲われたマーヤの動きが鈍る。そして

 

 「吸血」

 

 シャドウの仮面をぶん殴って吸血。迸る赤い線の中、最後の残酷のマーヤが倒れる。

 

 そして全てのシャドウが消えた時、俺は今までにない手応えを感じていた。

 

 

 

 

 

 「複数でもなんとかなるな」

 

 注意は必要だけどこれからはタルタロスを中心に訓練する事にしよう。そう決めて転送装置を探すために歩き出すと、今度は正面からこちらに向かってくるシャドウを感知する。

 

 ここは敵の強さよりもペース配分や持久力の方が問題か……一匹だけだし、保護色と隠蔽でやり過ごそう。

 

 「……え?」

 

 廊下の端で隠れていると、金色の手袋のようなシャドウが見えてきた。あれは分かる。レアシャドウの“宝物の手”だ。ゲーム通りなら倒すと金貨を落とす奴、だけど

 

 「…………」

 「…………」

 

 何で急に立ち止まって、こっちを見るんだよ。

 

 俺が視線を避けるように動くと

 

 「!」

 「あっ!?」

 

 宝物の手の視線が俺を追い、一目散に来た道を逃げてしまう。

 

 「えぇ~……バレてるじゃん、俺」

 

 いや、今までのシャドウには気づかれなかったし、あのレアシャドウが特別に鋭いか、強い奴だと隠れきれないのかもしれない。

 

 「こっちも要訓練か。まぁ、今のうちに分かってよかった」

 

 口ではそう言いつつも、俺は自分の一番の武器があっさり敗れた事に多少の落胆を覚える。いつか奇襲して捕まえてやろう。

 

 

 

 

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 今日は様子見のため、俺は脱出装置を見つけてすぐエントランスに戻ってきた。中に入って一時間も経っていないが

 

 「短時間で結構疲れたな……今日はこれくらいにしとくか。」

 

 脱出装置を見つけるまでに何度もシャドウを倒したし、見つけた脱出装置前でトラフーリの実験にも手間取ったしなぁ……

 

 トラフーリは寮の部屋とか、外のいろんな所に飛ぼうとして失敗を連発。何度目かでエントランスを選んでようやく成功した。トラフーリではエントランスに戻れるけど、直接タルタロス外には出られない。それが分かっただけでも十分だ。

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ……」

 

 走って一気に寮へ帰るつもりが、途中で息切れして脚を止めてしまう。タルタロス探索の負担は実際に体験すると結構辛い。この妙な疲れがよく効くトレーニングの代わりになれば、一般人が一年でバリバリ戦えるようになるのか、っ……!?

 

 息を整えていたら、急に体から力が抜けてふらついてしまう。

 

 「キャハハハ! なにそれ、マジウケるんですけどー」

 「!」

 

 ここで突然聞こえた声の方に振り向けば、街灯や信号の光に照らされた道をガラの悪い男女が歩いてくる。影時間が終わった……なら人がいるのはおかしくない、けど。

 

 「マジだって。俺が一発、あん? んだよ、あの変なの……」

 「どしたの?

 「あれあれ」

 「何ー? うわっ、ホントに何アレ、コスプレ?」

 

 2人が話しているのは俺のことだろう。なにせ、俺はどうしてか

 

 ドッペルゲンガーを身に纏ったままだった。

 

 ペルソナは影時間じゃなくても出せるのか? 出せてるけど、出せるものなのか? 疑問と事実確認が頭の中を堂々巡り。仮面や手袋に包まれた腕を触りまくっていると

 

 「おい、テメェ。なんだその格好」

 

 ガラの悪い男女が絡んできたけど、構ってる暇がない。精神的にも、肉体的にも。

 

 「なに息荒くしてんだよ」

 「夜中にそんなカッコで街歩いてんだし、見られて興奮でもしちゃったの? やだキモーイ!」

 

 こいつら、うるさいな……周りが静かな分余計にうるさく感じる。

 

 「ター君、そいつター君にブルってんじゃない?」

 「ビビリかよ。んじゃ丁度いいや。俺今金欠でよー、ちっと金貸してくんね?」

 

 男が右のポケットから小さなナイフを取り出してチラつかせる。いきなりナイフ出して躊躇なくカツアゲ、いや、もう強盗だろ。こいつら順平から聞いた不良か? 裏路地にも入ってないのに……面倒だし逃げよう。

 

 「逃がしゃしねぇよ」

 

 相当場数を踏んでるらしく、男は俺にナイフを突きつけようとするが、シャドウより遅い。

 

 「! あがっ!?」

 

 左手の手刀で男の右手首を打って、ナイフを払うと同時に右手であご先に一撃。さらにナイフを払った左手を引き戻し、鼻面に掌底を入れて今度こそ逃げる。

 

 「ター君!? キャッ!」

 「やりやがっ、テメェ逃げ、んな!?」

 

 驚く女の横を駆け抜けて角を曲がる。チラッと鼻血を流して倒れこんだまま怒鳴る男の姿が見えたけど、正当防衛だから気にしない。それより、早く帰……る前に適当な所でペルソナ消さないと。男子寮の監視カメラに撮られると困る。

 

 道の途中からは走る気力も失い、やけに休息を求める体を引きずりながらに帰る。無事に部屋に帰り着いた後は何も考えられず、倒れるようにベッドに入る。

 

 「タルタロスの本当のヤバさは、シャドウじゃないかも……時計使ってみれば良かったかなぁ……」

 

 呆然と呟いたこの言葉を最後に、何も見えなくなった……

 




影時間以外でペルソナが使えたのは独自設定。

どこかで(本かゲームか曖昧)チドリの暴走が影時間じゃない時間帯に起こっていた気がして、影時間以外に出せない事はないんじゃないかと前から思っていたので話に入れてみました。

今後の役に立つかは分かりません。


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7話 さらなる理解へ(前)

 4月11日(金)

 

 ~朝・教室~

 

 机に突っ伏していると、誰かが始業ギリギリに駆け込んできた。

 

 「セーフ! そしておっはよーう、って、影虎!?」

 「うぅ……順平、遅刻ギリギリだな」

 「いや、んな事よりお前大丈夫かよ? 一目で体調悪いのが分かるんだけど」

 「ちょっと疲れが出たみたい……でも大丈夫だから」

 

 理由は言わずもがな、昨日のタルタロスだ。朝から気だるくて頭が痛い。

 

 「あんま無理すんなよ? ダメだと思ったら保健室にーって、それが一番ダメか……」

 「ハハハ……ハ?」

 「起立!」

 

 順平の言葉に苦笑いを返すと、教室に先生が入って来ていた。しかしその先生はいつものアフロではなく、白衣と髭面……

 

 「ヒヒヒ……おはようございます皆さん」

 「江戸川先生? 宮原先生は?」

 「宮原先生はお休みです。先ほど職員室で体調が悪そうでしたから、薬を飲んでいただきました……残念ながら市販品ですけどね。少々熱が高いので、大事をとってお休みということで、今日は私が授業をしますよ」

 

 クラスメイトにそう答えた江戸川先生が不気味な笑顔を浮かべて教卓、つまり俺の前に立った、とたんに声をかけられた。

 

 「おやぁ? 君、お名前は?」

 「葉隠、影虎です」

 「葉隠君……ずいぶん体調が悪そうですねぇ……」

 

 江戸川先生が獲物を見る目で俺を見て、教室の空気が張り詰める。

 

 「これはいけませんね、薬を飲ませなくては」

 「いえ、ちょっと疲れてるだけですから」

 「その“ちょっと”の油断が病気を大病にしかねません」

 「でも、ここ教室ですし」

 「ご心配なく。ここに丁度よく、先ほど宮原先生のために調合した薬が」

 

 白衣のポケットから口に栓をされ、ドドメ色の液体が入った試験管が出てきた。まさか常備してるのか……?

 

 「先生用だと効果違うんじゃ……」

 「成分的には栄養剤にちょっと手を加えただけですから、問題ありません」

 

 抵抗むなしく、栓を抜いた試験管を押し付けられてしまった……どうしようか……

 

「さぁ、遠慮なく。私の薬は効きますよ……? さぁ……飲むんだ!」

「影虎、やめとけ、絶対やめとけって」

「飲んだら何が起こるかわかんねーぞっ」

 

 江戸川先生が飲むように急かし、友近と順平が小声で止めてくる。

 

 飲めば勇気上昇? 回復or死? そんな言葉が頭を巡りっている間に、俺は……ふらっ、と試験管に口をつけていた。

 

『あぁっ!?』

 

 教室中から息を呑む声が上がる。だがもう中身は喉に流し込んでしまった。

 

「どうですかぁ? 影虎君」

「大丈夫なのかよ!? おいっ!」

 

 江戸川先生と順平。対照的な反応の二人にそう聞かれる。そうだな……

 

「……妙にフルーティーで美味しいのが逆に気持ち悪いです」

『美味しいの!?』

「飲みやすいように作りましたからね……それに、皆さんが思っているより世界には美味しいどっ、薬はあるのですよ。甘いものとかね」

 

 今毒って言いかけなかったか!?

 

「今絶対毒って言いかけたぞ!?」

「吐け! 今すぐ吐け影虎!!」

 

 みんな俺と同じ事を考えたようで、クラス中が騒然となるが江戸川先生は気にしない。

 

「効き目の方はどうですか? 影虎君」

 

 江戸川先生、俺の呼び方が苗字から名前になって……あれ?

 

「…………」

「な、なんだよ影虎……何突然体動かしてんの……」

「薬のせいでおかしくなったのか……?」

「順平も友近も違う……体のだるさが消えて、頭もすっきりしてきた」

『ええっ!?』

「良くなったという事は……成功のようですねぇ、ヒッヒッヒ……」

 

 成功って、さっきまでの良く効く発言は何だったんだよ! やっぱ俺実験台かよ!? スッキリした頭で考えたら、何であの薬を飲んだか自分でもわからねぇ……学校休むべきだったかなぁ……

 

「この薬、いったい何なんですか?」

「さっきも話した通り、成分的には市販の栄養剤とそれほど変わりません。購買で売ってるでしょ? ツカレトール。そこに私が一手間加えて効果を高めたツカレトール……XYZにしましょう。あの薬はツカレトールXYZです」

「完全に今考えたでしょう……」

 

 しかもその名前は

 

「呪術や魔法において名前とはとても大きな意味を持ちますが……今回はわりと適当ですね。しかし、意味はありますよ? XYZという名前のカクテルがあるのですが、その名前にはこれ以上は無いという意味を込めて名づけられたという説があります。良くも悪くも、ね。ヒッヒッヒ……」

 

 どっかで聞いたような話だな、ぁ?

 

「私の薬はツカレ、よりも効果が、これ以上の……」

「おい……様子おかし……」

「虎君……」

 

 先生の話やクラス中からかけられる声がうまく聞き取れない。急に眠気も……

 

「おや? ……君? そう、ば睡眠薬も入れ……ゆっく、休みなさい。先生、君の居眠りを見逃しますから」

 

 最後の一言がしっかりと聞こえたと思えば、俺はまた机に突っ伏してしまう。俺、ここのところこんなのばっかり……

 

 

 

 

 

「はっ!?」

「影虎君が起きた!」

「……? 西脇さんと、宮本?」

 

 気づいたら二人が俺を覗き込んでいた。

 

「気分はどうなんだ!?」

「気分? 悪い夢を見ていた気がする……変な薬を飲まされて、意識を失う夢を」

「いや、それ夢じゃなくて現実だから。ちなみに今は六時間目が終わったとこ」

「はぁ!? え、本当に!?」

「嘘なんかつかねーよ。お前、休み時間に陸上部の先輩が何度も勧誘に来てもぜんぜん起きなくて、死んでるのかと思ったぜ」

「アタシら何度も息を確認したよ」

 

 マジかよ……

 

「授業中ずっと寝てて、先生なんも言わなかったか? 特に今日は江古田先生の授業があったはずだけど」

「俺らが事情を話したら見逃してくれたぜ。江古田もな」

「江戸川先生の薬を飲んだって聞いたら、コロッと態度変えてた。話聞いて顔色悪くしてたし、被害にあった事あるのかもね。それよりホント大丈夫?」

 

 聞かれてもう一度体を確かめるけど、悪いどころか絶好調だ。そう伝えると宮本には無事でよかったな! と背中を叩かれ、西脇さんには心底不安そうな目で今日はもう帰って安静にしろと念を押された。

 

 さらに、その後他のクラスメイトやトイレに行っていた順平や友近にも心配されたが、その時なぜか順平から江戸川先生の名刺を貰った。

 

「何これ?」

「“何かあったらいつでも連絡してください”だってさ。気に入られたな、影虎。……実験台として」

 

 心底いらない、この名刺。

 

 

 

 

 

 

 ~自室~

 

「どうすっかなぁ」

 

 一日寝て帰って来たはいいけど、これからの予定がない。宿題は帰ってすぐ終わらせたし、朝の状態で今日はタルタロスに行かないつもりだったからだ。

 

「そうだ、経緯はともかく体は良くなったんだから、ドッペルゲンガー出してみるか」

 

 ペルソナは影時間でなくても出せるのか、実験してみよう。

 

 という訳で、まず戸締りと窓のカーテンがしっかり閉まっているのを確認し、ベッドに腰掛けて集中する。

 

「“ドッペルゲンガー”」

 

 薄い煙が周りにまとわり付き、いつも通りの服装に変わる。

 

 少し時間が必要だけど、ペルソナの召喚は影時間でなくてもできるな。ただ……影時間で呼び出す時より格段に疲れる。影時間にはペルソナの召還を助ける効果があるんだろうか?

 

 状態の維持も特に問題なさそう……いや、微妙に負担があるか? それでも意識しなければ気づかない程度だ。短時間なら大丈夫だろう。出し入れが疲れるんだな。

 

 スキルや能力の使用……服と装備の形状変化は、いつもより時間がかかるけど可能。

 周辺把握……普段通り使用可能。

 アナライズ……既知のシャドウ情報の閲覧はできる。

 保護色と隠蔽……使えるけど、普段の倍くらい疲れる。

 攻撃はここじゃ無理だから、つぎは回復を……? うっ! あ……

 

 軽く、本当に軽くディアを使おうとしただけで全身の力を持っていかれた。慌ててペルソナを消して事無きを得るが、また今朝のだるさに襲われてベッドに横になる。

 

「なるほど、これは……」

 

 なんとなく理解した。

 

 ペルソナには使えるスキルの中でも得手不得手があり、得意なスキル使用は体力の消耗が小さく、逆に不得意なスキルは消耗も大きくなる。

 

 俺のペルソナが得意なのはしっかり試した五つに補助とデバフ系。回復は使えてもイマイチだったんだろう。使った瞬間合わないというか、違和感があった。負担が大きいだけに違和感が顕著に出たのかもしれない。

 

「数値が無くて、体感だけだと限界が掴みづらいな。これ、攻撃スキル使ってたらどうなってたか……」

 

 きっとぶっ倒れただろう。実験はもっと慎重にやらないと危ないな……

 

 俺は自分の迂闊さを反省しながら、ベッドで休むことにする。

 

 

 

 

 

 しばらくすると、突然部屋のドアがノックされる。

 

「影虎ー?」

「おー! 今出る!」

 

 ベッドから跳ね起きてドアを開けると、私服の順平が立っていた。

 

「おっ、影虎。もう時間だし、まだ食ってなかったら一緒に夕飯……お前どうしたんだよ、また顔色悪いぞ?」

 

 顔色はそうかもしれない。それにしても夕食の時間か、結構時間経ってたんだな……何か食べたい。

 

「体調はちょっと、今朝のがぶり返した」

「それ、あの妙な薬の副作用が今頃出たんじゃねーよな……?」

「違うと思う」

 

 今回は自業自得だからな。

 

「それに食欲はあるから、多分大丈夫だって。で、食事だっけ?」

「それならいいけどよ……そうだ、誘っといてなんだけど、お前部屋で寝てろよ。食事は俺が戻るときに持ってきてやるから。この寮で出る食事は原則食堂で食うことになってっけど、病気の時は部屋で食っていいことになってるからさ。

 菓子やカップめんなんかはいつでも部屋で食えるけど、体調悪いならちゃんとしたメシ食わねーとな?」

 

 飯は食いたいけど、食堂まで行くのはちょっとつらい。順平の申し出はありがたかったので、心配してくれたことに礼を言ってお願いした。

 

 

 

 順平と別れてまた部屋で休むが、何もしていないと食事が待ち遠しい。今日の献立は何だろう? 考えていると空腹感が強くなり、少し腹が痛む。

 

 この空腹感、きっとペルソナ使用の副作用も原因だ。ゲームじゃ自販機の飲み物とか、ありきたりなパンにも多少の回復効果があった。食事が回復に関係するなら、無理なペルソナの使い方をした影響が空腹として現れてもおかしくないと思う。

 

 そうだ、今度からタルタロスへ行く時は、荷物にならない程度に食料を持ち込もう。

 部屋にも常備して、いっそこれからの放課後は回復効果の高い食品探しに使うのもいいな。

 

 いや、食事という行為そのものに意味があって、内容で効果が左右されるなら自分で作ってみるのもいいかもしれない。料理経験は実家で母親の手伝をしていただけ。決して得意とは言えないけど、機会を見つけてやってみよう。

 

 

 

 今後の方針を考えながら待つこと20分。また部屋のドアがノックされた。

 

「おまたせー、夕飯もって来たぜ。食欲あるみたいだから普通の食事持ってきたけど、食べられるか? 寮母のおばちゃんにお粥にしてもいいっていってたから、駄目そうなら変えてもらえるぜ」

 

 順平は白米と水差しに野菜炒めと酢豚が乗ったトレーを見せてそう言うが、俺はそれを見て余計に目の前の食事を食べたくなった。

 

「ありがとう、順平。食べられるよ」

「気にすんなって。食い終わったら部屋のドアの横に出しておけば勝手に回収されっから。んじゃ、体には気をつけろよ」

 

 向かいの部屋に入っていく順平を見送り、俺は部屋で夕飯を食べる。

 勉強机にトレーを乗せて、まず酢豚を一口。

 

 美味しい。

 

 口の中に肉の旨みが広がり、米や野菜炒めにも箸をつける。

 もう一口、もう一口、と一心不乱に食べ進め、気づけば目の前の皿には米粒一つ残っていなかった。

 

 ……俺、皿を舐めたのか?

 

 あまりの皿の綺麗さに自分で驚いたが、とりあえず食べ終わった。順平に言われた通りに食器を外に出して、今日はもう寝てしまおう。




放課後・夜の行動に料理研究(食べ歩きや市販の食品探しを含む)が追加されました。
葉隠影虎の料理の腕前は、簡単な料理なら、普通に美味しく作れる程度です。


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8話 さらなる理解へ(後)

 ~???~

 

 ん……

 体が浮かぶ、そして落ちる……目を開けると、もう見慣れた影時間の町並みが流れていた。俺は忍者装束で、なぜか左手に中身の詰まったコンビ二袋を持って街中を突っ走っている……けど、そんなことをした記憶は無い。それどころか全身の感覚も無く、体を自由に動かせず、体が勝手に街を走っている状態。

 

 感覚と一緒にだるさも無いけど……あぁ、これ夢か。影時間を夢にまで見るようになったか……

 

 夢の中の俺は人目が無いのをいい事に車道のど真ん中でタルカジャを使い、自転車でかっ飛ばすようなスピードで走っている。あれ、攻撃力上昇の副作用か力がみなぎるんだよな。

 

 そんな事を考えていたら、到着したのはタルタロス。ちょっとは周りに注意しろとツッコミたくなるほどズカズカと中に入り、エントランスの時計前でビニール袋の中身を広げる。

 

 えーっと……2リットルのペットボトル入りジュースが二本と潰れかけの弁当二つ。しかも弁当は “食えるもんなら食ってみろ!”が売り文句の“鬼盛りギガカロリー弁当”。大きさが普通のコンビニ弁当の三倍で、中身は米と鳥のからあげ五個、ミニハンバーグ四つの上に目玉焼きが二枚乗って、余った隙間にポテトサラダとキャベツが詰め込まれている。

 

 初めてコンビ二以外で見たよ、この弁当。最近コンビニに並び始めて、誰が買うの? と学校でも話題になるくらいなのに……とか言ってる間に座って食べ始めた。

 

 自由すぎるだろ、夢の俺。

 

 まるで何日も食べていなかったような勢いで食べ進め、弁当とジュースがすべて腹に収まると、そのまま立ち上がってタルタロスの奥へ……おい、後片付けくらいして行けよ!

 

 エントランスの床に散乱したごみを放置しようとした夢の俺にツッコミを入れたら、思い出したようにゴミをまとめてエントランスの隅に投げ捨てた。

 

 まぁ、散乱させたままよりはいいか……

 

 

 

 ~タルタロス・1F~

 

 何だ、これ。

 

「カァアッァアァア゛!!」

「ギィ!?」

「グヒィ!」

 

 目の前から二匹のシャドウが消えた。これでもう何匹目だろう? 夢の俺がここに来て始めたのはシャドウの虐殺……あれは周辺把握に反応があった時からだ。

 

 俺なら保護色と隠蔽を使って忍び寄る所を、夢の俺は突撃した。姿を隠そうとせずにただ突っ込んだだけ。もちろん敵には見つかった。だけど夢の俺は出会いがしらに飛びかかり、馬乗りになってタコ殴り。奇声を上げて威嚇して、敵の攻撃に平気で突っ込む。おまけに手袋の側面を刃に変えて手刀で切りつけたり、メッタ刺しにもする正気を疑う戦いぶり。相手がシャドウじゃなければ今頃ここには惨状が広がっていたはずだ。

 

 姿も戦っているうちに両手の指から獣のような鋭い爪が伸び、地下足袋のつま先は地面をしっかり掴める爪へ変わった。

 

 そしてこいつはそれを利用してやたらと吸いまくる。何を吸うかといえば……また臆病のマーヤがいたか。

 

「アア!!」

 

 新たな獲物へ、すれ違いざまに左のカギ爪を引っ掛ける。

 

「ゲゲッ!?」

 

 胴体が切り裂かれて苦悶の叫びを上げるシャドウを尻目に、胴体へ食い込ませたカギ爪を支点に方向転換。マーヤの背後に張り付いて、右のカギ爪をマーヤの右腕に引っ掛けて引く。すると軽い手ごたえを残して、マーヤの右手が落ちて消えた。

 

 続けて苦しむ相手に右のカギ爪も突き刺すと、赤と青の光が俺の体に流れ込んでシャドウが消える。光はいわずもがな、吸魔と吸血のスキルによるもの。この二つのスキルの使用頻度がやたらと高いのだ。

 

 ……この戦い方を見ていると俺がずっと弱点だと思っていた“攻撃力の低さ”は、本当に弱点だったのか? と思ってしまう。

 

 俺の攻撃力は低く、敵を倒すために何度も攻撃を必要とする場合が多い。それは紛れも無い事実だけど、逆に言えばそれは相手の体力を削りながらも敵の力を吸い取る余地が残っていると言う事。そして夢の俺は毎回、相手を傷つけてから力を吸い殺している。

 

 だから無茶を続けているはずなのに一向に体力の限界がこない。敵の攻撃を何度か食らったにもかかわらず無傷。耐性のおかげかダメージは少なく、すぐに吸血で回復してしまう。

 

 戦って、傷ついて、回復して、また戦う。それを繰り返す様はまるで獲物を狩る空腹の猛獣。今までの俺の慎重な行動がただのビビリに思えてしかたが無い……いや、実際そうだろう。がむしゃらに、自分なりに色々やって鍛えてきたつもりだけど、“本当に命がけの実戦”なんて無かった。ドッペルゲンガーを使えるようになったあの日までは……

 

『ビビルナヨ』

 

 !? この声はあの時の、でも何かが違う……変なノイズが入ったみたいだ…… 

 

『力をツケる方法がある』

 

 そう。だから、俺はタルタロスに来た。

 

『なのにやってる事は逃げ隠れがほとんどダ』

 

 ………………そうだな。俺がここに来た目的は、万が一に備えての“経験値稼ぎ”の一言に尽きる。なのに隠れてまず逃げ道を確保し、敵の数が多いと逃げられる時は逃げていた。

 

 間違っていたとは思わないけど、この世界はゲームじゃなくて現実だから慎重に、そう理由をつけて過剰に危険を遠ざけていた。本当はタルタロスの二階なら十分に戦える力があると自分に言い聞かせていたのに、真っ向から戦おうとはしていない。

 

『能力を把握しようとしたのは、ただ自分が安心したいから。そのくせ不安を消せずに能力を過小評価して、追い詰められるか有利でないと戦おうとしない』

 

 耳が痛いなぁ……しかもノイズが消えてよりはっきり聞こえてくる……

 

『時間は有限』

 

 原作に徹頭徹尾関わらない限り、いつ何が起こるか分からない。開始まではどう過ごそうと一年。

 

「『無駄にできる時間は無い』」

 

 俺と聞こえてきた声が重なった瞬間、今まで無かった体の感覚が戻ってきた……これまでより深いペルソナへの理解と共に。

 

「そういう事かよ……」

 

 敵の居ないタルタロスの十字路に、俺の声だけが響いた。そして俺は、動かせるようになった体で

 

「シッ!」

「ビゲッ!?」

 

 シャドウを淡々と狩る作業を再開する。あの動きと戦い方を忘れないように。

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

 

 体力は有り余っているが、影時間が終わる前には部屋に帰りたい。というわけで今までに無い濃密な時間を終わらせた俺は、ゴミ袋片手に爪の無いの忍者装束で大通りを歩きながら今日のことを再確認する。

 

 まず、俺が夢だと思っていたのはペルソナが暴走する一歩手前の現象で、ペルソナに操られていたようだ。

 

 それを理解した瞬間こそ頭を抱えたが、ペルソナシリーズにおけるペルソナについての設定を思い出したら、少し納得できてしまった。

 

 ペルソナとは何か? それはもう一人の自分であり、シャドウと表裏一体の存在。理性でシャドウを制御したものがペルソナ。そんな設定だったはず。

 

 ここで俺がドッペルゲンガーを始めて召喚した時の事を思い出すと、俺は生への執着でペルソナを使えるようになった。しかし、生への執着心は理性なのか? と考えるとそうでもない。

 

 ドッペルゲンガーは俺の生きるためにあがいた結果生まれたペルソナ。だけど、元となったのは生物が持つ本能でもある。つまり

 

「俺のドッペルゲンガーは“シャドウとの境目に近いペルソナ”。少なくとも目的のために自分で戦うことを選んだ原作キャラのペルソナとは根幹が違う。桐条先輩が俺のことをシャドウと間違えたのもそのせいか……ハハッ」

 

 こんがらがった情報が次々と繋がった。シャドウは象徴化した適性を持たない人間を影時間に落として襲う。その結果が影人間で、原作ではシャドウにおびき寄せられた生徒も居たはずだ。

 

 僅かな爽快感と一緒に、どうしてこんな事が分からなかったのかと笑いがこみ上げてくる。

 

「生き延びるために生まれたペルソナが生き残るための行動を邪魔されて、押し込められた状態で何かの拍子に……あぁ、昼間の召喚とスキル使用がきっかけでタガが外れたとしたら暴れもするか。暴走で殺されなかっただけ運がいい。けど……」

 

 周辺把握の端に反応があった。このまま何事も無く部屋には帰れないらしい。

 

 

 

 周辺把握は物体の表面を読み取って形状や高さを把握し、動きの有無で生物か非生物かを判断する。だから分かる。この大きさと形は“人間”。しかも反応は3つあり、背後と左右の斜め前の三方向から俺を取り囲んで輪を縮めてくる。

 

 偶然にとは思えない位置取りからすれば探知能力を持つ奴が居るだろう。現時点で影時間に動ける三人組と言えば特別課外活動部の三年生(荒垣を含む)か、敵として現れるストレガのどちらか。とか考えてるうちに、姿を見せない位置で止まった。どうせ捕捉されてるならこっちから声かけてやるか? そうだ、最近やってないが……

 

「用があるなら出てきなさい」

 

 保護色と隠蔽を解き、後ろを振り向きながら発したのはそれほど大きくない作った声。しかし他に音を出すものが無い影時間には良く響いて隠れていた3人は反応を示した。まず姿を見せたのは俺の背後から忍び寄り、今は正面に立つロン毛と半裸の男。こっちかよ……

 

「おや、これは驚きましたね」

「てっきりシャドウやとおもっとったわ。なぁ、チドリ」

「……反応はシャドウ。あなたは喋れるシャドウなの?」

 

 後ろから残りの二人も姿を見せる。ストレガはどうなるか……とりあえずは対話を試みよう。

 

「申し訳ないが……私は人間だよ、お嬢さん」

「なんやそのキモイ声と喋りは」

「よく通る声が服装に、実にそぐいませんね」

 

 うるせーよ! 地声出したら何処でバレるか分からないから怖いんだよ! 俺だって別にやりたくてやってるんじゃない! ……とりあえず地声がばれなきゃそれでいいと割り切ろう。

 

 ちなみに作った声は一部の知識人に“イケボ”と言われる声で、中一の時に学校でものまねブームが起こり、周りに付き合って練習した成果だ。早口になるとボロが出るし、歌ったりはできない。顔も普通なので別にモテたりはしなかったけど……人生何が役に立つかわからんな……

 

「おっと失礼、私はタカヤ」

「……復讐屋、か?」

 

 少しでも精神的に優位に立てないかとこちらの知識をちょっと出してみたら、ストレガの3人は興味、警戒、無関心とそれぞれの目で俺を見る。

 

「お前、それどこで知ったんや」

「確証は無かった。しかし、復讐代行サイトの存在と実績は知っていたのでね。どうやって復讐を実行しているのかと思っていた所でこの時間を知った。そこで私同様にこの時間で動く人間が居た。だから思いつきを口にしただけさ」

「……っち。胡散臭いわ」

「それよりも、どうして私の後をつけていたんだ? 復讐の仕事か?」

「あぁ、そういや出とったなぁ……女の前で恥かかされたて、どこぞの不良から忍者を殺せとかいうアホな依頼が。相手の素性も分からんで復讐なんぞできんと弾いた依頼やけど……服装からしてお前か?」

 

 女の前で恥じかかされた不良? ……あ、ああ! よく覚えてないけど、この前やった記憶がうっすらとある。というか、本当に依頼が出てたのかよ!?

 

「その様子やと当たりみたいやな? どうするタカヤ」

 

 雰囲気が剣呑になる中、タカヤが口を開いた。

 

「ふむ……依頼は一度断った物。我々が復讐代行業を営んでいることが知られても困りはしませんし、別に良いのでは? この時間に適応できる選ばれた者同士、むやみに争う必要も無いでしょう。敵でなければ、ね?」

「……タカヤがそう言うんやったら、それでええわ。お前はどうなんや?」

「敵対の意思はない。襲われれば抵抗するが」

「さよか」

 

 それを最後に、ジンと呼ばれたメガネ男は黙り込み、代わりにタカヤが話しかけてきた。とりあえず一番まずい展開は避けられたか?

 

「それで、なぜ我々が貴方をつけていたか、でしたね?」

「……ああ」

「今日は“滅びの搭”が騒がしいとチドリ、そちらの少女が話したので様子を見ていたのです。貴方が出てから搭の騒ぎも収まったようですし、貴方もペルソナを使えますね?」

「……この時間帯に呼び出せるモノの事なら、そうだ」

「なるほど、貴方は天然ですか……貴方のペルソナの能力に関わるのでしょう。チドリが位置の把握に難儀していたので、興味本位で近づいたのです」

「そうか。ならもう用は無いな?」

「そのつもりでしたが……ジン、薬を一つ出してください」

 

 タカヤの言葉に従ったジンが、手持ちのアタッシュケースから小さなプラスチック容器に入った薬を取り出して投げ渡す。まさか“制御剤”か!?

 

「それは?」

「ペルソナの暴走を抑えるための薬で、制御剤と呼ばれる物です」

 

 やっぱり。

 

「それをどうする?」

「貴方に差し上げます」

「なに?」

 

 驚いていたら、タカヤからラベルも付いてない容器を投げ渡された。

 

「貴方の口ぶりからして、つい最近ペルソナに目覚めたのでしょう? ペルソナは暴走する可能性があり、それは暴走を抑えるための薬なのです」

「副作用は?」

「寿命を大幅に削りますが、暴走したペルソナに殺されるよりはマシでしょう。まぁ、今飲めとは言いませんし、暴走しても飲まないと言うならそれで構いません。ご自由にどうぞ」

「金は?」

「今回は要りません。追加で欲しいと言うならお金を頂きますが……詳しい話は機会があれば。町にいる我々を探していただくか、復讐サイトを使えば連絡は取れるでしょう」

 

 タカヤは話は終わりだと言うように元来た道へ振り返り、チドリとジンが俺の横を通って付いていく。そこでジンが俺を見て一言。

 

「飲むか飲まんかはお前しだいやけどな、暴走を舐めとったらあっさり死んでまうで」

「心には留めておくが今は飲まない。今後も必要が無いことを祈る。すでに余命二年の身なのでね」

 

 悪戯に寿命を縮める薬なんて飲んでたまるか。という意味を込めて言ってやったら、三人は俺を一瞥して去っていく。それから俺は勘繰って薬の容器に発信機や盗聴器が入っていないことを確認し、寮へ帰る。

 

 変なキャラで平静を装って、結果的には穏便に事が済んだけど、めっちゃ疲れた……精神的に……




制御剤を手に入れた!
さらに放課後と影時間の行動にストレガを探す&ストレガとの交流が追加されました。

影虎のシャドウは暴走時、とても欲望に忠実な模様。


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9話 部活動

 4月12日(土)

 

 ~朝~

 

「っしゃ!」

「ちくしょう負けたっ!」

 

 ランニングをしていたら宮本と会って体を心配されたので、大丈夫だと証明するために近くの公園で短距離勝負を吹っかけてみた。しかし、昨日の大量吸血のせいか今朝はやけに体が軽くて、結構楽に勝ってしまう。宮本は負けた事でよけいやる気になっているけど、俺としてはちょっとズルした気分。

 

 体はもういいと理解してもらったところで、適当なベンチに座って足を軽くマッサージしていると、隣でスポーツドリンクを飲んでいた宮本が思い出したようにこう言ってくる。

 

「そうだ影虎、陸上部どうする? お前なら絶対良い成績残せるだろうし、先輩は練習すれば大会優勝も夢じゃないってよ!」

「あー、その話か……」

「おう。昨日はなんだかんだで話せなかったから、伝えてくれって先輩がな」

 

 もしかして、先輩からせっつかれてるのか? だとしたら悪いけど

 

「やっぱり陸上部に入るつもりは無いな」

「そっか、残念だけどしかたねぇか。先輩にそう伝えとく」

「迷惑掛けて悪い」

「気にすることねーよ。中学の時から付き合いのある先輩が話のついでに言ってきただけだから。むしろこっちが、特に部長が迷惑を掛けたんじゃないかって先輩言ってたぜ」

「部長?」

 

 そういえば一昨日の放課後に押しかけてきた先輩の中に、ちょっと強引な人が居たなぁ……

 

「その人、背が高くて体格もいい、角刈りの上下関係に厳しそうな人?」

 

 俺がそう聞くと、竹を割ったような性格の宮本が珍しく苦笑する。

 

「三年生で陸上部じゃエースでもあるけど、まぁ、ちょっとそういうとこがあるとは聞くな」

「そ、そう……」

 

 初めて見たぞこんな宮本。あの人が部長だと聞いたら、余計に入る気が無くなった。

 

 だってその人、俺が陸上部に入ること前提で話を持ちかけてきて、お前足速いだろ? 下級生だろ? 俺上級生。お前上級生の俺に従って陸上部入れ。先輩命令な。って雰囲気を言葉の節々に感じさせていたんだから。一緒に来ていた他の先輩が執り成してくれたけど、あの人のおかげで帰りが遅くなった。

 

「まぁ、なんだ。結局影虎のやる気だしな」

 

 そんな宮本の言葉でこの話は終わり、陸上関係の話を聞きながら一緒に走って寮へ帰る。ついでに俺からもランニングや練習後のマッサージの効果などを話してみたけど、どうも宮本のトレーニングはほぼ完全なる根性論。そりゃ膝も壊すだろうな……一度西脇さんにも話しておこう。

 

 

 

 

 

 

 ~学生寮~

 

「何だこれ」

 

 

 共用のシャワーで汗を流して部屋に戻ると、部屋の前に俺宛の大きな荷物が置かれていた。両手でどうにか抱えられるくらいで、しかも重い……なんとか部屋に入れて開けてみると、中にはみっちり食料が詰まっている。どうやら両親からの仕送りみたいだ。

 

「米、食パン、缶詰、菓子。ありがたいけど多すぎるよ」

 

 他には両親と父さんの同僚でありバイク仲間のジョナサン(アメリカ人)から、近況報告と体に気をつけろとの手紙が三通。

 

「母さんは来年の転勤に向けて引越し準備、父さんは仕事の引継ぎで忙しそう。なのにバイクいじりは続けてるのか。ブレないなぁ……」

 

 父さんのバイク好きはもう病気だから仕方ない。そして同僚のジョナサンもかなりのバイク好きで、時間が合うと一緒に実家のガレージでバイクをいじる。二人そろうと夜中まで話し合ったり作業することもあるので、家に泊まったり一緒に食事をすることも頻繁にあった。

 

「まだ一ヶ月も経ってないのに、懐かしいなぁ……」

 

こうして俺は手紙を読みつつ思い出に浸る。

 

「さて、朝食に……!!」

 

 区切りをつけて立ち上がり、なにげなく見た部屋の置き時計を見て気づいた。

 

「朝食の時間もう終わって!? いや、急がないと遅刻する!」

 

 仕送りの食パンと缶詰のお世話になり、急いで着替えて学校へ向かう。予期せず慌しい朝になってしまった。

 

 

 

 

 

 ~放課後~

 

 いい加減にしてもらえないだろうか……

 

「入部はお断りさせていただきます」

「だから何で断るんだよ! 今ならエース待遇だぞ!?」

 

 今朝は始業ギリギリで順平と友近にからかわれたけど、ホームルームにも間に合い、ごく普通の半日授業を受けた。そしてさぁ帰ろう! と思ったところで、また陸上部の先輩が教室にやってきた。

 

 今朝も宮本に断ったけど、直接断りを入れていなかったので改めて断りを入れさせてもらった。しかし勧誘に着た部長さんが何度話しても納得してくれない。もう一人の先輩は納得してくれてるんだけど……もう何度このやり取り繰りを返しただろう?

 

 この人、悪質なクレーマーなみにしつこい。怒鳴り声を聞きつけて遠巻きに生徒が集まってるし、本当に迷惑……どうせ来るなら教師に来て欲しい。

 

「待遇の問題ではなく」

「じゃあ何が気に入らないんだ!」

 

 せめて最後まで聞けよ!

 

「何度もお答えした通り」

「部長、もうやめましょう! ホントに迷惑ですって!」

 

 部長さんの後ろでもがく宮本と捕まえる三人に感謝して部長の相手をしていたら、間を執り成そうとしていた先輩が部長の怒鳴り声よりも大きな声を出した。

 

「宍戸……わかったよ。……申し込み期間まではまだ時間がある。もう一度考えとけ」

 

 舌の根も乾かないうちからそれかよ。いったい何がわかったんだか……

 

「何度も誘っていただいてありがとうございます」

 

 教室を出て行く部長にそう言うと部長はチラッと俺の顔を見た後、平謝りするもう一人の先輩と一緒に立ち去り、緊張感に包まれた教室の空気が緩む。そして集まっていた野次馬が散り始め、騒ぎを見ていたらしい友近と順平が寄ってくる。

 

「おつかれー。影虎も大変だな。あの様子だと陸上部の部長、また来るんじゃね?」

「ともちーの言うとおり、諦めたようには見えなかったな」

「本当にな……何か考えないと」

 

 ある意味、戦うか逃げるで解決できるタルタロスより厄介だ。とりあえず今ある選択肢は“諦めて入部”か“徹底的に入部拒否”で、もちろん俺が選ぶのは入部拒否。あの勧誘で余計に入りたくなくなったし、これは確定。となると問題はどうやって諦めさせるか。

 

 荷物をまとめながら二人に相談してみると。

 

 

「普通あんだけ断られたら諦めると思うけどなぁ……」

「いやいや、それが諦めねーからこんな事になってんだろ。どっか適当な運動部に入ったらどうよ? 運動部二つの掛け持ちは出来なかったはずだし、あれだけ足速いならお前も何かやってんだろ?」

「俺がやってるパルクールは陸上競技とまったく違う物だよ。部活にもない」

「だったら、作っちまえばいいんじゃねーの?」

「作る? 部活を?」

「そうそう。同好会なら一人でも作れるって前に聞いた気がするからさ」

 

 部活を作る。そういえば山岸風花も一人で料理部だか何かを作って活動していたし、一人でも部の発足が可能なら今後何かと理由付けや隠れ蓑に便利かもしれない。例えば学校に残る場合とか……活動内容にパルクールのイメージトレーニングとして校外での活動を盛り込めば、タルタロスに持ち込む食料選びの時間もとれるかな?

 

 ずっと将棋部だったから校外活動は可能かどうか分からないけど……まぁ、無理でもサボればいいか。

 

「順平、その案いいかもしれない。どうすれば部を作れる?」

「えっ、まさか本気にした!? う~ん……オレッチも詳しくねーけど、部活関係は生徒会が色々やってたはずだし、生徒会室に行けばわかるんじゃね? そういや……お前、この前桐条先輩に何かあったら相談にこいって言われてたじゃん。この機会に行ってみたらどうよ?」

「ん……」

 

 生徒会……今後二年間の生活に関わる事だし、話を聞くくらいなら問題ないだろ。

 

「分かった、じゃあ早速行ってみるよ」

 

 部の発足について聞くことに決めた俺は、二人と別れて教室から生徒会室のある二階へ向かう。

 

 

 

 

 

 ~生徒会室前~

 

「ここか」

 

 ペルソナ使いとして、一生徒として、いろいろな意味で緊張しながら扉をノックする。

 

「……どうぞ」

 

 この声は

 

「失礼します」

 

 声に従って生徒会室の扉を開けると、長い机を四角く並べた会議室のような部屋の隅にただ一人、声の主がパイプ椅子に座ってこちらを見ていた。

 

「おや、君は確か……葉隠君」

「こんにちは。本当に覚えていてくださったんですね、桐条先輩」

「人の名前を覚えることには慣れているのでね。それに君の噂も何度か耳にした。ところで今日は何か相談か?」

「相談したい事があったのですが、他の方は?」

 

 桐条先輩の席の手元には数枚の書類があり、作業中だったことが分かる。だから他の人にと思ったけど、生徒会室には桐条先輩しか居ない。

 

「私は暇が出来たので少し作業を進めに来たが、生徒会の活動日は毎週月・水・金。土曜日は本来誰も来ないんだ」

「そうなんですか。でしたら日を改めた方が」

「気にすることはない。これは今やる必要のない仕事だ、話を聞こう」

 

 そう良いながら書類を片付けてしまう桐条先輩。忙しいだろうに、それに今日は活動日じゃないと言っていたのにこうしてきっちり対応しようとしてくれる。だから生徒も頼りにするのだろうか?

 

「今日は新しい部を発足するために必要な書類や手続きについて聞きたいんです。部活動は生徒会の管轄だと聞いて」

 

 書類をクリアケースにしまった桐条先輩に椅子を勧められたので、席について創部の話を切り出す。すると桐条先輩はこんな事を言ってきた。

 

「確かに部活動の申請は生徒会が受け付けているが、君は陸上部に入るのではないのか?」

「そのつもりはありませんが、どこでそんな話を?」

「先日今年の部活運営費の割り当てについて、各部から部長を集めて会議をしたんだ。月光館学園の部活動運営費は基本的に部員の人数から算出した規定額を基準とし、部の実績や実績を残す見込みを考慮して増減される。

 そこで各部の部長は会議で部の実績や見込みがあることをアピールするわけだが、陸上部の部長は50メートル走で6秒を切る新人、つまり君が入るから大会で優秀な結果を残せる見込みがある。だから遠征費のために部費を上げるようにと主張していた。……どうやら、事実ではないようだな」

 

 頭が痛い。勧誘がしつこいと思ったら、勝手に人を部費集めのだしに使ってたのかよ。

 頭にきたから今までの経緯も合わせて桐条先輩にぶちまける事にしよう。

 

「…………では陸上部の部長は君に無断で入部を見込み、そのつもりのない君に入部の強要を繰り返していたと」

「理由は知りませんが、何度断っても勧誘されたのは事実です。今日もさっきまで大声で勧誘されましたし、目撃者も大勢居るはずです」

「分かった、その件はこちらでも調査させてもらう。それから部の発足についてだが、こちらは陸上部の勧誘を断るだけが目的ならば、あまり薦められない。手続きは単純だが面倒だぞ」

 

 陸上部の件を抜いても部は発足させておきたい。

 

「具体的にはどのように? 人数が必要ですか?」

「部活動なら最低五名。同好会という形であれば一人でも構わないが、顧問をしてくれる先生を見つけることが難しいんだ」

 

 簡単な説明を受けてみると、必要な手順はまず書類に部長(俺)の名前と活動内容を書き、顧問を受け持ってくれる先生を見つけて承諾のサインを貰い生徒会に提出するだけ。最後に学校から簡単な書類審査と承認を得れば部活として活動できる。

 

 簡単に聞こえるが現在は手の空いている先生がいないらしく、負担を覚悟で顧問を掛け持ちしてくれる先生を見つけなければならない。名前と活動内容だけ記入して提出後に職員会議で決めてもらう事も出来るらしいけど、その場合たらい回しにされた末に顧問が見つからず却下となるケースが多い。

 

 こっちもこっちで大変そうだ。直談判して引き受けてくれそうな先生ね…………あ、一人居るかも……俺は携帯を取り出して、一応登録していた番号を確認する。

 

「一人心当たりが居るので、電話で聞いてからでもいいですか? すぐ済みますから」

「もちろんだとも。しかし、携帯の番号を交換するほど親しくなった先生が居るのか?」

「あれを親しくなったと言っていいのか分かりませんが……」

 

 俺は一度生徒会室を出て電話をかける。実際にかける事なんて無いと思ってたけど……

 

 数回のコールの後、先生が電話に出た。

 

「はい、江戸川です。どちらさまですか?」

「江戸川先生お疲れ様です。一年A組の葉隠影虎です。覚えてらっしゃいますか?」

「影虎君! 覚えていますとも! いやぁ、本当にかけてくれたんですねぇ……で、どうしました? また体調不良ですか?」

「いえ、今日は健康です」

「なんだ、そうですか……」

 

 健康と聞いて露骨にがっかりした声を出す先生に、説明を行う。

 

「なるほど、ちょっと怪我の危険のある部活の顧問ですか。別に構いませんよ」

「本当ですか!?」

「ええ、私は今は部活の顧問をやっていないので」

「先生は誰も手が開いていないと聞いたんですが?」

「養護教論が顧問をしても問題はありませんが、みなさんそれを知らないのか、職員会議でも部活の話は回ってこないんですよ。養護教論が顧問になるのは比較的珍しいのでしょうね……とにかく、話を受けてもいいですが……その代わり病気になったら?」

「…………先生に昨日の薬をいただきます」

 

 背に腹は代えられないし、日頃の生活とタルタロスの吸血で体調を維持すればなんとかなる。気がする。

 

「いいでしょう。では……どうしたらいいんですかね?」

「これから生徒会室で書類を貰って記入しますから、後ほどサインを頂きに保健室に行きます」

「それなら私が今から生徒会室に行きますよ。では後ほど……ヒッヒッヒ」

 

 切れた電話をポケットに入れ、生徒会室に戻る。

 

「桐条先輩、書類をお願いします」

「早かったな、先方には了承を得られたのか?」

「はい。お願いしたのは」

「私ですよ……ヒッヒッヒ」

「「なっ!?」」

 

 気づいたら、俺の背後に江戸川先生が立っていた。何を言ってるのか分からないと思うが……じゃない! いつの間に来た!? さっきまで居なかったよな!?

 

「は、早いですね、江戸川先生」

「たまたま、二階に居たので……」

「そうですか……」

 

 相変わらず不気味な先生だ……とりあえず手続きをしてしまおう。

 

「桐条先輩、書類をいただけますか?」

「あ、ああ」

 

 動揺を隠せていない桐条先輩が近くの棚から一枚の紙を取り出して、ペンと一緒に渡してくれた。江戸川先生は顧問の記入欄に必要事項を記入してすぐに生徒会室を出て行き、俺は音の消えた生徒会室で黙々と必要事項を記入する。

 

 部活動/同好会名称 ここはパルクール同好会。

 文化部/運動部 いずれかに丸で運動部、と……

 部長 一年A組 葉隠影虎

 部員 空欄

 部室 ……部室?

 

「桐条先輩、ここはどう記入すれば?」

「そこは家庭科室など、必要な設備があれば記入してくれ。希望する教室でもいい。希望が重なった場合は人数の多い部活動が教室使用の優先権を持つが、この学園は広いので設備が必要ない活動ならどこかの空き教室が提供されるだろう。活動場所も同様だ」

「わかりました」

 

 活動の目的はパルクールの練習場所の確保、場所は未定だけど走る、登る、飛ぶが出来る起伏に富んだ場所が望ましい。内容は体力づくりとしておこう。あとは校外でのイメージトレーニング。許可を取る必要と迷惑になる可能性があるので、校外で練習はしないことにして……活動内容が承認されるかどうかが怪しいけど……

 

「書けました」

「そうか。…………不備は無い。たしかに預かった」

「手続きをよろしくお願いします。それでは失礼します。お時間ありがとうございました」

「うむ……」

 

 それから俺はすみやかに生徒会室を後にしたが……部屋を出る直前に桐条先輩が「すまない」と呟いた気がした。あれは何だったんだろう……

 

 

 

 俺は知らなかった。

 学校のネット掲示板で“陸上部の強引な勧誘で精神的に追い詰められた生徒が新しい部を作る”と噂になる事を。

 そして“悪魔に魂を売ってしまった男子生徒”と呼ばれるようになるになる事を。

 来週の月曜日。話を聞いた陸上部の部長と副部長が、朝から土下座で謝りに来る事を。

 俺はこの時、まだ知らなかった……




月光館学園の部活について書いてみたけど、なんか変な感じになってしまった。
個人的に月光館学園の新部活創設はわりと簡単なイメージがあります。


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10話 たまにはのんびり

 4月13日(日)

 

 ~昼~

 

「結構集まったな」

 

 朝の内に宿題ややるべき事を済ませ、ふと外を見たら部屋に居るのがもったいない天気。散歩がてらポートアイランドから巌戸台までのんびりと既存の回復アイテム(飲み物)集めをする事にしたが、用意したボストンバッグが飲み物で一杯になってきた。

 

 この自販機で最後にするか。

 

「胡椒博士、マンタ、純粋ハチミツ。他に新しい物は……無いな」

 

 これまでに買えたのは今の三種類に加えて四谷さいだぁ、剛健美茶、モロナミンG、ミニマムコーヒー、255茶……大半はどこの自販機でも取り扱っている物だけど、たまにかわり種もあるのでよく見てみると結構面白い。

 

 ただ、財布が軽くなった。銀行に行けば貯金はおろせるけど、バイトでもやってみようか? 叔父さんの所とかで働ければ……そんな事を考えていたら、たこ焼きの良い香りが鼻をくすぐる。……ちょっと休憩して行こう。

 

「一パックお願いします。これお代」

「420円丁度ね、まいどあり!」

 

 たこ焼き屋オクトパシーの前にある座席に座り、買った“謎のたこ焼き”を一口。美味い! でも中身はタコじゃない。タコっぽいんだけど、舌触りに吸盤の存在がまったく感じられない。これ一体なんだろう?

 

 ……連日の吸血や江戸川先生の薬で変な度胸がついたのか、美味しければいいやと思えるようになってきたな……慣れって怖い。

 

 ボストンバッグから剛健美茶を一本取り出して、たこ焼きと一緒にのんびり味わう。

 

「はぁ……平和だな……」

 

 最近は色々あったし、こんなにゆっくりできる日は久しぶりな気がする。たまにはこうして癒される日もないと……ん?

 

「どこに落としたんだろう……」

 

 儚げで気弱そうな少女が、困った顔で地面を見ながら俺の前をうろうろし始めた。……うん、どう見ても山岸風花だ。日曜の学校外なのにまた原作キャラかよ! とも思うが、目の前でうろうろされると物凄く気になるな……今更原作キャラに関わるのを避けても遅い気がするし、ちょっと声かけてみるか。影時間に関わらなきゃいいんだ。

 

 最後のたこ焼きを口に入れて席を立ち、こっちに背を向けて商店街の路地を覗きこむ山岸さんに近づく。

 

「どうしました?」

「ひゃいっ!?」

「すみません。何か困ってたみたいだから声をかけたんですが……」

「あ……こっちこそすみません、驚いてしまって。ちょっと探し物をしていたんです。このへんでこのくらいの封筒を見ませんでしたか?」

 

 山岸さんが手で示した大きさだと、そんなに大きくなさそうだ。しかし

 

「見てません」

「そうですか……」

「大事な手紙か何かですか?」

「そういう訳じゃなくて……ええと……その……」

 

 ああ、なんかテンパり始めた。

 

「あの、とりあえず落ち着いて。一旦座りません?」

「あ、はい……」

 

 さっきまで座っていたオクトパシー前の席を指し示して歩き出すと、山岸さんはまだテンパって居るのか素直に俺についてきて座り、恥ずかしいのかうつむいている。ってか、これ他人から見たらナンパじゃないか? こころなしかオクトパシーの店員がニヤついた目で見ている気がする……

 

「……たこ焼きもう一パックお願いします」

「まいどっ! 二個おまけしとくよ」

 

 席代の代わりに買ってみたら案の定、おまけが付いて楊枝が二本。あれか、分けて一緒に食えと。どんどんナンパに近づいているが、細かい事には目をつぶって山岸さんの隣に座る。

 

「はい、これ食べて落ち着いて」

「えっ!? そんな悪いですよ!」

「いいからいいから。もう買っちゃったし、さっき一パック買って食べたから一人じゃ食べきれないから。あと飲み物何がいい? 缶ジュースだけど自販機で売ってる物は大体あるから好きなの選んで」

「あっ、本当にいっぱいある……何でこんなに?」

 

 気にするのそこかよ! いやまぁ、気になるか……変な警戒されるよりいいし、このまま押し切ろう。

 

 ボストンバッグの中から缶ジュースを一種類ずつ取り出して並べ、どれが良い? ともう一度聞くと

 

「じゃあ、これを頂きますね……」

 

 断りきれずに剛健美茶のペットボトルに手を伸ばした。さすが序盤は気弱設定の山岸風花。

 たこ焼きを一つとお茶を一口飲んでようやく落ち着いてきたらしい。

 

 ……関係ないし言わないけど、知らない人から貰った飲食物を口にするのは危ないぞ。たこ焼きは目の前で買ったばかりだから別としても、海外だと飲み物に薬を入れて行う犯罪の話もよく聞くんだから。

 

「それで、落し物の話ですけど」

「はい。えっと……落としたのは銀行の封筒なんです。引き出したばかりの生活費が入ってて」

「何処の銀行ですか? あと、差し支えなければどれだけ入っていたかも」

「桐条銀行で、封筒の中身は十、五万円……」

「それは、多いな……」

「私毎月を大体前半と後半に分けて、月二回くらいしか引き出さなくて。だから一回の額が多めで……でも普段はそこまで多くないんです、今月はちょっと買い換えたいパソコンの部品があったから多めにおろしたらこんな事に」

「別に責めてる訳じゃ……たこ焼きもう一つどうぞ」

「いただきます……」

 

 たこ焼きを俺が薦めるままに口にしてクールダウンする山岸さん。しかし十五万円か。昔の俺の初任給が十八万に届かなくて……大人にとってもデカイんだから、学生の身じゃ余計にデカイ額だよな。……よし。

 

「交番には行きました?」

「もちろんです、でも落とし物は届いてないって……だから今日通った場所をもう一度歩いて探してて」

「だったら、これ食べ終わったら探しましょう。手伝いますから」

「手分けして、って、そんな、悪いですよ! 私一人で探しますから!」

 

 さっきも聞いたなぁ、その言葉。

 

「そうは言っても心当たりが無さそうだし、探すの大変でしょう」

「それは……でも……」

「十五万なんて大金、ちゃんと探して早く見つけた方がいい。元々暇だったから遠慮はいらないよ。同じ学校のよしみで手伝わせて欲しい」

「えっ? 同じ学校の方なんですか?」

 

 あっ、そういや自己紹介もしてなかった。

 

 たこ焼きを一つ頬張り、何と言おうか、熱っ!?

 

「あっ、あつっ!?」

「大丈夫ですか!?」

「あふっ、うん。大、丈夫。……え~と、月光館学園高等部の一年だよね? 名前は知らないけど、何度か見かけた覚えがある。俺は一年A組の葉隠影虎です」

 

 とはいえ証明できる物が何もない……と思っていたら。

 

「貴方があの……私はD組の山岸風花です」

「あの、って。俺の事を知ってるの?」

「えっと、新しく部活を作ろうとしてる人ですよね? 顧問が江戸川先生ってことで、学校の掲示板で話題になってたから」

 

 たこ焼き片手に話を聞いたらどこかから漏れた昨日の話が掲示板に広がっているらしく、昨夜から陸上部の執拗な勧誘、それに追い詰められた生徒()、江戸川先生が顧問になる部活。このどれかの話題が常に賑わう“葉隠影虎君のご冥福を祈るスレ”が立てられていたそうだ。

 

「人を勝手に殺して祈るなと言いたい」

「すみません……」

 

 ふと呟いた言葉で山岸さんがばつが悪そうに謝りはじめたので、不審者じゃないと分かって貰えたならいい、と言ってこの話をやめる事にする。

 

 

 

 それからは最終的に折れてくれた山岸さんと巌戸台を歩き回った。

 まずお金を引き出した銀行から駅前のカフェに行き、商店街の本屋やパソコン関係のジャンクパーツ屋、文房具屋、小物屋など……結構歩き回ったのに封筒は見つからず、とうとう封筒がない事に気づいたという巌戸台駅に着いてしまう。

 

「もう一度……」

 

 銀行まで戻ってみようかと言おうとしたら、山岸は首を振る。

 

 もう日が落ちて薄暗いからここまででいい、か……まだ遠慮があるんだと思うけど、確かにもう街灯が点いている時間帯だ。山岸さんは夜遊び歩くタイプでもないし、暗い夜道は危ないか。この前みたいな不良がいても困る。

 

「残念だけど帰りますか……」

 

 後ろ髪を引かれるけれど、俺は山岸さんと一緒に電車に乗り、女子寮の近くで別れて男子寮へ帰ることにした。




山岸風花登場。ちょっと言動に伏見千尋が混ざった気がする。

バイト先の選択肢に”ラーメン屋はがくれ”が加わりました。


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11話 戦わない影時間

 ~影時間~

 

 早く、早く、さらに早く。夜の街をひた走る。

 

「着いた……」

 

 到着したのはタルタロスではなく巌戸台駅。一度は寮に帰ったけれど、やっぱり封筒の行方が気にかかり、今度は周辺把握を全力で使って探してみる事にする。でもその前に……

 

「んぐっ、んぐっ……はぁ……」

 

 寮から持って来た缶ジュース、“純粋ハチミツ”を開けて乾いた喉に流し込む。

 

 味は……うん、ハチミツ味。果物とかそういう香料の入っていない純粋なハチミツ味。トロッとした感触はないのでハチミツ入りの水みたいな感じでゴクゴク飲める。回復効果はシャドウから吸う時のような実感が無いのでよく分からないけど、喉は潤う。要はただの美味しいジュースだ。

 

 まぁ、何処でも買えるジュースに高い効果があるわけないか。影時間が何らかの影響を及ぼして回復アイテムに変わるとか、そんな事もないみたいだし。

 

「さて……え~っと、お札一枚が大体0.01cmで十五万なら0.15cm。封筒の厚みを入れても0.2cmは越えない。いくらか崩していたとしても数枚だろうし……0.15から0.3cmくらいの厚みの封筒を探す、と」

 

 封筒の予想される厚みをできる限り明確にイメージしながら周辺把握の範囲を広げ、頭に流れ込む周囲の物体の形状に集中。……物体の表面を辿るように意識を向ければ小さな隙間の中も探れるな……おっ。自販機の下に封筒らしき物がある!

 

 すぐ駆け寄って手を伸ばし、中身の入った封筒を引っ張り出す。

 

「よっ……なんだ、十枚つづりの宝くじかよ」

 

 なんて紛らわしい。しかし自販機の下には宝くじだけじゃなくて小銭がたくさん落ちているようだ。手の届く範囲を掻き出してみたら十円、十円、五十円、十円、百円。あ、五百円も……こんなに出てきた。

 

「ネコババすれば結構たまるんじゃないか……?」

 

 そんな事を思いついた自分のセコさに苦笑いしつつ、見つけた小銭はちゃんと拾ってから、山岸さんと歩いた商店街へ向かう。

 

 叔父さんの所でバイトさせてもらうかな……

 

 

 

 ~巌戸台商店街~

 

 五円、一円、ビンの蓋。いかがわしいチラシに誰かの携帯……いろんな物が落ちている。普段気にしてないだけかもしれないけど、周辺把握で見つかる落とし物の多さに驚きだ。

 

 慣れて精度が上がったのか、徐々に物体の大きさや凹凸から物体の判別が出来るようになってきたな……特に小銭は数字が読み取れるから完璧に分かる。しかし肝心の封筒が中々見つからない。落としたんじゃなくて、盗まれたんじゃないだろうか?

 

 そう諦めかけた時、感知できる範囲に人が入ってきた。人数は二人、ストレガのタカヤとチドリだ。ゴスロリ服と上半身に服を着てないロン毛だと表面が特徴的で分かりやすいな。

 

 どうも向こうも俺に気づいているようで、まっすぐこっちに歩いてくる。軽く警戒しながら声を整え、奴らが来る方に目を向けて待つ。すると一分もしないうちに商店街の脇道から二人が出てきた。

 

「こんばんは」

 

 ……声をかけたはいいが、何かがしっくりこない。

 

「やっぱりあなただった……」

「こんばんは、意外と早く会いましたね?」

「こちらもここで会うとは思わなかった。今日は一人居ないな?」

「ジンなら仕事」

「復讐代行か」

「最近は依頼が増えてそれなりに忙しいのです。あなたは何故ここに?」

 

 そう聞いたタカヤはちらりと遠くに見えるタルタロスを見る。今日は行かないのかと言う事か。

 

「探し物をしていた」

「探し物?」

「金を落とした」

「なるほど。世の中、唯生きるだけでもお金は必要ですからね」

 

 俺がチドリへ落とした物が何かを答えると、タカヤはそう言ってから少し考え、口を開いた。

 

「もしよければ仕事を紹介しますよ?」

「何?」

 

 何か勘違いされてる?

 

「復讐代行の仕事か?」

「それがいいと言うのでしたら明日からでも復讐代行を頼みますが、他にも仕事はありますよ。我々は常に人手不足なので」

「普段はジンしか働かないから」

 

 それは人手不足じゃないだろ。大変だな、あのメガネ……しかし

 

「遠慮しておこう、生活には困っていない」

「そうですか、少し残念です。気が変わったらいつでもどうぞ。貴方は復讐代行に向いていると思いますから」

 

 俺が?

 

「何を根拠に」

「貴方があまりにもシャドウらしいので。この時間に選ばれなかった者に資格を与えるのも容易いでしょう」

「……棺桶を人に戻すという意味なら、やり方すら知らん」

「棺桶に自身のペルソナの力を注げばいいのですよ。ペルソナは我々が選ばれた者である証。その力の一端を注げば、資格無き者も一時的にこの時間で生きる資格を得ます。やり方は言葉で伝えられるような物ではないので、やる気があれば自分で感覚を掴んでください」

「そんな事を教えていいのか?」

「別に……秘密じゃない」

 

 マジで? かなり重要な情報だと思うけど、ストレガにとってはどうでもいいのか。そういえばこいつらは過去も未来もどうでも良いと思って生きてるんだっけ?

 

 うろ覚えの設定を記憶から引き出しても疑ってしまう。すると、それを察したタカヤが俺に聞いてきた。

 

「納得いかないのでしたら、対価として一つ聞かせていただけますか?」

「何だ?」

「貴方はあの日、何故滅びの搭に居たのですか?」

 

 どう答えるか一瞬迷うが、嘘もついてもすぐ分かるだろう。

 

「ペルソナの訓練をしていた。先日、シャドウに襲われた時に呼び出せるようになったばかりだからな」

「ほう……それは今後も続けるのですか?」

「そのつもりだ」

「何故です?」

「身を守るために」

「……滅びの搭から出てくるシャドウは少なく、どれも弱いものばかりです。搭のシャドウを騒がせる程度の力があるなら十分では? そもそも身を守るために危険に飛び込んでは本末転倒でしょう」

「……今は問題ないが、いつかさらに強いシャドウが現れるかもしれない。分からないからこそ、備えるんだ」

 

 そう言うと、タカヤはまた黙り込み、次に発された言葉に心臓が跳ねる。

 

「分からないからこそ備える……分からないと言うわりに、強いシャドウが現れる確信を持っているように聞こえますね」

「そうか」

 

 無言や慌てた否定は肯定のようなものだと自分に言い聞かせるが、心臓がうるさい。

 

「しかし、なるほど……」

「なにかあの搭に入ると不都合があるのか?」

「いえ、単なる興味です。おかげで初めて会った時から抱いていた違和感が何か分かりました。貴方は我々と同じく“死を受け入れた者”。しかし貴方は我々と違い、死を受け入れてなお生きようとしているのですね。

 ……搭については、戦い続ける事が貴方の“今”の生き方であるなら、止めませんよ」

 

 

 死を受け入れた云々は疑問が残るが……それより搭に入ってシャドウと戦う事は敵対理由にならないんだな。

 

 それから一人納得したタカヤは俺に「抵抗をやめるのも一つの生き方、死は誰がどんな生き方をしても平等に訪れる、違いは早いか遅いかだけ」と言い残し、チドリを伴って去って行った。

 

「ふぅ……」

 

 ストレガにタルタロスでの訓練を妨害する気がないと分かったのは大きい。影時間に人を落とす方法も知っておいて損はないが、だいぶ時間を取られた。……探索を再開しよう。影時間中に封筒を見つけられないと、いろいろな意味で面倒になる。

 

 

 

 

 

 ……ん? これは……

 

 探索を再開して十分ほど経った頃、封筒らしき物が感知できた。

 

「この中……だな、間違いなく」

 

 反応は商店街の隅に掘られた排水溝の中から。深くて暗いので肉眼では封筒を確認できない。格子状の蓋で塞がれているが、薄い封筒なら入りそうな隙間がある。

 

 問題は手が入らない事。そして入ったとしても届かない事。

 

「困ったな……ドッペルゲンガーで取れるか?」

 

 右手の五指から紐のようにドッペルゲンガーを伸ばして送り込んでみるが……

 

「あー、落とした」

 

 ドッペルゲンガーの細かい遠隔操作が思ったより難しく、そちらに集中しすぎると周辺把握の精度が落ちて目標の位置を見失ってしまい、周辺把握に集中しすぎると操作を誤る。

 

「伸ばすだけなら簡単なのに」

 

 クレーンゲームのような作業で封筒を取り落とすこと数十回。

 

「場所を確認、近づけて支えて……そっと引き上げ。いいぞ、きてるきてるそのまま、っ!」

 

 伸ばして封筒に巻きつけた五本の紐の動きが狂い、緩んだ拍子に縦穴の半ばまで持ち上がっていた封筒が下に落ちかける。

 

「っと! セーフ」

 

 反射的に一本を下に伸ばして支える事に成功。もう一度しっかりと封筒に紐を巻きつけ、今度こそ引き上げに成功。

 

「っしゃあ!」

 

 左手で掴み取ったのは桐条銀行と書かれた封筒。期待に胸を膨らませて中を確認すると、一万円札がきっちり十五枚。間違いない!

 

「見つけた~! っ、くさっ」

 

 喜びの直後、鼻についた匂いでテンションが一気に平常に戻った。

 

 いや、まぁ、落ちてた場所が排水溝だもんなぁ。雨とか水撒きで流されないうちに見つかっただけいいか。

 

「……もう帰ろう。トラフーリ!」

 

 探し物が見つかった以上ここに居る理由も無いのでスキルを使用。

 

 しかし戦闘以外にペルソナを役立てるのもいいものだ。戦うのとは違った達成感がある。

 

 そんな事を考えているうちに、俺は自分の部屋へと戻っていた。

 

 このスキルを使うたびに思う、一日一回しか使えないのが惜しい……使ってるうちに回数増えたりしないかな?




バイトの選択肢に、“危ない仕事”が加わってしまいました。


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12話 一週間の始まりは……

 4月14日(月)

 

 

 一週間の内、学校や仕事が始まる日。

 今日を憂鬱だと考える生徒はきっと少なくない。

 そんな月曜日の授業ももう半分は終わった。

 

 昼食を済ませた俺は、昨日拾ったお金を山岸さんへ返すためD組に来ている。本当は朝に返したかったが、今朝は陸上部の部長が手のひらを返したように勧誘の件を謝ってきたので、応対してたら時間がなくなってしまった。

 

 どうも桐条先輩の方から厳重注意をされて、俺が同好会を作ろうとしている事を知ったらしいが……江戸川先生に顧問を頼むほど追い詰めてしまったって何かね?

 

 強引な勧誘についても謝られたけれど、それより江戸川先生の方を申し訳無さそうに謝っていた。それはもう、この先が不安になるくらいに……

 

 まあ、もう済んだ事だ。陸上部ももう勧誘に来ないと言ってくれたし、今は山岸さんに……どこだろう? 窓から教室内を覗いてみても、山岸さんの姿を見つけられない。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

「え? 何の用?」

「A組の葉隠といいますが、山岸さんは居ますか?」

「山岸? 見てないなぁ……」

「あっ、山岸さん帰ってきたよ。山岸さん!」

 

 扉から一番近くに居た男子生徒に聞いたら、横から別の女子生徒が教えてくれた。おかげで山岸さんが俺に気づいて小走りで近づいてくる。

 

「木村さんに、葉隠君? どうしたの?」

「この人が用事だって」

「こんにちは、山岸さん。突然来てごめん。昨日の落し物を見つけたから返しに来たんだ」

 

 ブレザーの内胸ポケットから、口を密閉できるポリ袋へ二重に入れた封筒を取り出すと、山岸さんは目を見開いて俺と封筒を交互に見回す。

 

「見つかったの!?」

「商店街のドブに落ちてた。湿って汚れてるけど、幸い中身が判別できるから銀行に持っていけば新札と替えてもらえるよ」

 

 そう伝えると山岸さんは笑顔でお礼を言ってくれたが、すぐにまた何かに困り始める。

 

「なにかお礼しないと……。こういう時は一割かな?」

「いらない」

 

 速攻で断った。別に礼金目当てで探した訳じゃないし、教室でお金、それも高額のやり取りするのはどうも……何よりその汚れた封筒から一割出されても困るって。

 

「でも! 見つけてくれたって事は、あの後で捜しに戻ってくれたって事だから何かしたいんです!」

「……じゃあ今度缶ジュースを奢ってもらうって事で」

 

 山岸さんはお礼をすると引かないので妥協案を出し、今日も勢いで納得させて気が変わらないうちにD組を出る。

 

 あまり高い物を女の子に奢らせるのも悪いし、変な気づかいで手料理を貰うのは避けたい。ほぼ初対面の相手にわざわざ手料理作る女子なんて居ないと思うけど、万が一あったら……まだ食べる勇気は無い。失礼だけど、美味しくもないだろうし。

 

 でもD組での様子を見た限り、まだ山岸さんへのいじめは始まっていないみたいだ。山岸さんの名前を出しても周りからの忌避感や変な関心は向けられなかったと思う。

 

 いじめなんて無いに越した事はないけど、来年には始まるんだよな? ……気分悪いけど、始まる正確な日や原因が記憶に無いし、始まってからじゃいじめを辞めさせるのは難しいだろう。それに下手に防いで山岸さんの特別課外活動部への入部フラグをもしもぶち折ったら、きっと特別課外活動部は詰む。

 

 ナビゲーション無しでのタルタロス攻略とか無理だろ。最終決戦どころか、恋愛とか皇帝の大型シャドウにも勝てるかどうか怪しいぞ。

 

 どうにか辞めさせたとしても、いじめ問題とは関係なく勧誘がくれば……原作では体が弱いってことで勧誘する前に諦められたか? いや、それもいじめを苦にして休みがちになったのが原因だから…………ややこしい!

 

 成り行きとはいえ山岸さんとは顔見知りになったんだ、これから時々様子を見ておくしかないか……

 

 

 

 

 

 

 問題を先延ばしにした俺が教室に戻ると、にやついて物凄く気持ち悪い目をした友近と順平が待ち構えていた。

 

「……何?」

「いやいや、影虎も隅に置けないなぁ。俺ら見たぜ、D組の女の子を呼び出して話してたとこ」

「儚げで可愛かったじゃん? 影虎って、ああいう子が好み?」

 

 うっわ、面倒くさっ!

 

「見てたのかよ……」

「そりゃもう、葉隠君、って名前呼ばれたとこをばっちりと」

「邪魔しちゃ悪いと思って、声かけずに順平とすぐ教室戻ったけどな」

 

 じゃあ会った所でその後を見てないのか。

 へんな誤解をされても困るので、二人に事情を話して特別な関係ではない事を説明する。

 

「じゃあさ、影虎の好みってどんな女子なんだ?」

「また唐突だなぁ。そういう友近はどうなんだ?」

「俺? 俺はやっぱりお姉さん系だな。 同年代も悪くは無いけど、やっぱガキっぽいっつーか……」

 

 適当に聞き返したらなんか語り始めた……年上好きは知ってるよ。

 

「じゃー次は順平」

「俺!? ん~、俺は特にねーけど……後輩の女子に先輩、って呼ばれてみたいってのはあるかな」

「順平は年下か~、なら影虎、お前は? 年上、年下、どっちだ?」

 

 ばかばかしい話だけど、とりあえず考えて答える。

 

「その二択だと…………年上かな?」

「おっ! わかってるな影虎! で、どの位まで?」

 

 声を潜めて先生くらいと答えると、友近がうれしそうだ。

 俺の場合は年上好きというより、この世界に来る前の年に近いからなんだけどな。

 今の同年代の女子、例えば山岸さんや岳羽さんも可愛いとは思う。

 付き合おうとはいろいろな意味で今は考えられないけど。

 

 そんな話に付き合っていたら、後ろからあきれた様な声で呼ばれる。

 

「ちょっと葉隠君、バカ話してるとこ悪いけど、お客さん来てるよ」

「お客? 誰……」

 

 振り向いて声の主である西脇さんを見ると、手で扉のほうを指していた。そのまま視線を扉に移せば……

 

「失礼する」

 

 俺の顔を見て、ざわつく教室に一声かけて颯爽と入ってくる桐条先輩が見えた。

 

「おはようございます、桐条先輩」

「おはよう、葉隠君。歓談中にすまない。五時限目も近いので早速話に入らせてもらうが、君のパルクール同好会の申請が週末中に通った」

「えっ!? もう通ったんですか!? 活動内容に反対とかは……」

「活動内容には、無かったな」

 

 活動内容には、ってどういう意味か聞こうとしたら、先に桐条先輩に放課後の予定を聞かれてしまう。

 

「特に用事はありません」

「そうか、なら今日の放課後に生徒会室に来て欲しい。パルクール同好会に割り当てられた部室と練習場所まで一度案内する。少々離れた場所に決まったのでね」

「わかりました、放課後に伺います」

 

 そう答えると図ったように予鈴が鳴り、桐条先輩は満足そうに頷いて俺に一声かけ、来た時と同じように颯爽と教室を出て行った。……っと、五時間目の用意をしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 ~放課後~

 

「待たせたな」

「お忙しいところをありがとうございます」

 

 約束通りに生徒会室を訪ね、書類を片付けた先輩と合流した。

 早速部室に案内されるが

 

「桐条先輩だ!」

「ああ、きょうもふつくしい……」

 

 ただ廊下を歩くだけで桐条先輩は視線を集めまくる。ついでに先輩について歩く俺にも視線が向けられる。先輩はこの視線が当たり前のように気にする様子が全く無いけど、俺はちょっと勘弁して欲しい。

 

「葉隠君、部室や活動について歩きながら説明をしたいのだが、いいか?」

「はい、お願いします」

「ではまず活動内容は君が書類に記入した内容で構わないが、校外活動を行う前には顧問の江戸川先生に連絡を入れる事」

「それは当然ですね、活動予定や活動報告書などは提出しますか?」

「報告書は顧問の先生に週に一度の提出が義務となっているが、予定は不要だ。人数の少ない同好会では部員の都合で予定が変わる事もあるからな。代わりに一週間の活動回数と活動日を決めてくれ」

「週に何回位がいいのでしょうか?」

「顧問の先生と相談の上で決めてもらう事になるが、大抵の部は二回か三回だ」

 

 こうして説明を受けながら歩いていると校門前の下駄箱に着き、先輩から靴を履き替えるようにと言われる。とりあえずは指示に従って靴を履き替えるが、外に出るのか? 再度合流した先輩に聞いてみると、先輩は困り顔で教えてくれた。

 

「君に割り当てられた部室というのは、“月見の搭”が稼動していた頃に倉庫や職員の休憩所として使われていた建物なんだ」

「月見の搭、って天文台ですよね?」

「その通りだ。実は部活動の設立が認められた後、部室の割り振りに江戸川先生が幾つかの注文をつけ加えてな……何を考えて希望を出したかは分からないが、その休憩所が君と江戸川先生の希望に合致したため、割り当てられたというわけさ」

 

 江戸川先生の希望なんて、不安しか感じない。というか部室の割り振りに先生の希望って入れられるのか? まぁ、俺の希望を聞き入れてくれてるんだから、おかしくもないか。そう考えながらも、どこか引っかかりを感じたので聞いて見ると、桐条先輩の眉間の皺が深くなる。

 

「私にも分からない。君から預かった書類を職員室に提出し、結果が返ってきた時には休憩所が部室として割り当てられる事が決定していたんだ。

 天文台と共に使われなくなった建物とはいえ、部室として割り当てると聞いたときには私も驚いた。校舎内に空き教室もある筈だが……」

「江戸川先生が何かしたんでしょうか?」

「……そうかもしれないな。江戸川先生には謎が多い」

「否定しないんですね……」

 

 話せば話すほど江戸川先生の謎が深まり、これからの部活動に一抹どころじゃない不安を抱えながら歩くと、だんだんと高等部の校舎から中等部の校舎に近い林の中へ、細い道を分け入る。

 

 それから数分で林の中にひっそりと建てられた一軒の平屋が見えた。建物はシンプルだけど部室というには大きい。材質はたぶんコンクリート。所々に塗装が剥がれた部分や汚れが目に付くけれど、ヒビや傷はぱっと見た限り見当たらない。

 

「こんなに立派なところを使っていいんですか?」

「経緯はともかく、正式な手続きで割り当てられた部室だ。古い建物だが使用に問題が無い事は確認してある。遠慮なく使といい。今鍵を」

 

 先輩がポケットから鍵を取り出そうとしたその時。平屋の扉から音が鳴る。

 

「鍵が開いた?」

 

 俺が呟いた言葉に答えるように、錆びた蝶番がやかましい音を立てる。静かな林で、古い建物の扉が、音を立ててゆっくり開く。まるでホラーゲームにありがちで不気味なシチュエーションに、俺と先輩の目は扉へ集中する。

 

 そして、大きく開いた扉の先には

 

「ヒッヒッヒ……ようやく来ましたね、影虎君……ヒッヒッヒ」

 

 普段通り、いや、普段の三割り増しで不気味に笑う江戸川先生が立っていた。

 




次回、部活動初日。


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13話 部活動初日

 俺と桐条先輩がいきなり出てきた江戸川先生への驚きから立ち直ったのは、ほぼ同時だった。

 

「江戸川先生……」

「来ていらしたのですか」

「お二人とも、私はパルクール同好会の顧問ですよぉ? 居るに決まっているじゃありませんか。立ち話もなんですし、中へどうぞ。影虎君に設備の説明もしなくちゃいけませんしねぇ……ヒッヒッヒ」

 

 一度先輩と顔を見合わせ、自然と覚悟を決めて建物内に足を踏み入れる。

 内装は見た感じ普通だ。土間と言えばいいのか? タイルは敷かれているけど、扉を開けたら玄関は無く、いきなり物が何一つない部屋が広がっている。

 

「流石に初日から様変わりはしていないか」

「桐条君の言う通りまだ何も置いていませんが、いずれはなにかを置きたいですねぇ。このままでは殺風景過ぎます。そう思いませんか? 影虎君」

「それは同意しますけど、ここには、って事はどこかに何か持ち込んだんですか?」

 

 そう聞くと、江戸川先生の笑みがいっそう深まる。

 

「ヒッヒッヒ、つい先ほど実験器具一式を空き部屋に運び込んだところなんですよ。保健室には置ききれなかった器具も色々と。ここはまわりを気にせず器具を置けていいですねぇ。保健室ではベッドや薬棚を常に使えるようにしておかないといけないので、どうしても置ける物が限られていたんですよぉ……影虎君の話を受けて、本当に良かった。ヒッヒッヒ」

「江戸川先生、まさかご自分の実験室欲しさに顧問や部室の件を?」

「私は影虎君により良い環境をと思って口を挟んだだけ、それが偶然私にもいい結果を産んだだけですよぉ、ヒッ、ヒヒヒヒ……」

 

 江戸川先生は入り口と対面にある扉を開き、なんとなく機嫌よさそうに、先へ続く廊下を歩いている。けど、桐条先輩がめっちゃ睨んでますよ……暖簾に腕押しってこういう事を言うのか。

 

「先輩、ここで立ち止まっていても」

「そうだな……中も確認しておくべきか……」

 

 先輩を巻き込んで江戸川先生の後を追うと、廊下は建物を二分するように伸びていた。突き当たりまでには右側に五つ、左に一つドアが付いていて、江戸川先生は左の大きなドアを開けて中へ入っていく。

 

 不安を感じつつ俺も中へ入って見れば、そこは完全にナニカの実験室だった。右側の五部屋分をぶち抜いた部屋にビーカーや試験管はもちろん、よく分からない機材がところせましと置かれている。

 

 所々にミイラのような動物の手やホルマリン漬けの標本が置かれていたり、光を通さない分厚いカーテンに魔法陣のような図形が描かれているのが江戸川先生らしい……

 

「先輩、この部屋は元からこんな内装じゃ、ないですよね?」

「当たり前だ。この部屋は資料庫のはずだが……見る影も無いな」

「ここは保健室の代わりに使えるように色々とそろえましたからね……大抵の怪我には対応できますよ、影虎君」

「ありがとうございます」

 

 本当ならありがたいけど、怪しくてどうしても猜疑心が拭い去れない。

 

「では次に……着替えには向かいの個室を適当に使ってください。私はこの一部屋で十分なので、そっちは私物を置いても結構ですよ。それから廊下の突き当たりに三つ扉がありますが、右がトイレで左が給湯室、真ん中がシャワールームです」

「給湯室には大型のキッチンや冷蔵庫が設置されているが、それも使いたければ使っていいことになっている。ただし、火の用心と後片付けまでしっかりとやるように」

「聞けば聞くほど優遇されすぎな気がしますね……」

「ヒッヒッヒ、いいんですよ影虎君。もらえる物はもらっておけば。学校側が許可を出したんですから、ね? ヒヒヒヒ……」

 

 江戸川先生の胡散臭い言葉を聞いて、桐条先輩の方を見ると

 

「……許可が出ていることは確かだ」

 

 腑に落ちていないように渋々同意した桐条先輩はそのあと、もう案内役はいらないだろうと言って生徒会室へ帰っていった。最後に怪我など、諸々に気をつけるようにとの言葉を残して……

 

 部室に残された俺と江戸川先生は部活動の活動日について話し合い……あれは話し合いじゃないか。

 

「江戸川先生、部の活動日を決めないといけないんですけど」

「日曜以外、全部にしましょう。そうすればここをいつでも使えますからね」

「他の部は週二回か三回だそうですが」

「それ以上活動しちゃいけない決まりなんてありませんよ。運動部だと朝練などで結局ほぼ毎日活動してますから。ここでの練習を週三、校外へ週二を基本に、その日の気分で調整すればいいですよ。ヒッヒッヒ」

「それでは、そういうことで……」

 

 たった三回のやり取りで終わったからな。江戸川先生も適当というか、やっぱり江戸川先生の要望はあの実験室が目的だったんだろう。そうとしか思えない。

 

 話がまとまると江戸川先生は早々に部屋にこもってしまったので、俺は先生を放っておいて建物の周りを軽く走りながら見て回ることにした。

 

 だがその前に、まずは運動服に着替えようとトイレや給湯室に最も近い右奥の部屋に入ってみる。

 

「これは、またどうしていいか」

 

 そこはロッカールームなどではなく、入口を除いて畳敷きの六畳一間。部屋の端には床の間があって普通にくつろげそうな和室……うちの部はいつから茶道部になったんだろう……もういいや。部屋広くてラッキー! これだけでよし。

 

 想像していた部室との違いについては思考を放棄し、着替えた俺は軽い準備運動の後で外へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~一時間後~

 

 林の細道を歩いて部室に戻ると、そのままシャワーに直行。今日できたのは部室と練習環境の確認、あとは軽く流す程度に走ったくらい。だけど、大満足。

 

 林の中はほどよい起伏に富んでいて、林を出ればランニングに丁度いい道路があった。途中には階段やポールなんかの障害物もそこそこあるし、何より林に入る人がいないので思い切り走れるのがいい。妙な事は多いけど、これ以上を望むのは贅沢だし、こうなると江戸川先生に感謝の気持ちが湧いてくる。

 

「ふ~……さっぱりした。今日はこれで上がりにするかな」

 

 強めの水圧で汗を流し、制服を着直した俺は江戸川先生に一言伝えに行く。

 

「江戸川先生、今よろしいでしょうか?」

「はいはい、中へどうぞ。鍵は閉めていませんから」

 

 例の部屋の扉の外から声をかけると、ちょっと大きな声で答えが返ってきた。あんまり入りたくはないが……我慢して入ってみると、江戸川先生が黒いビンからビーカーへ黒い粉末を移し入れている。

 

「どうしました? さっそく怪我ですか?」

「いえ、部室と練習環境は確認できたので、今日はこれで上がろうかと」

「おや。……言われてみれば、もうすぐ他の部活も終わる時間ですねぇ。わかりました。……せっかくですし、コーヒーでも飲みませんか? 丁度淹れようとしていたんですよ」

 

 江戸川先生が部屋に置かれた時計を見てから黒いビンを軽く持ち上げて聞く。あれ、コーヒーだったのか……江戸川先生には今後もお世話になることだし、コーヒーなら。

 

「では、一杯だけ」

「ちょっと待っていてくださいね、ヒッヒッヒ……」

 

 その笑い声がないだけで不安がグッと減ると思うんだけどなぁ……

 

 先生がコーヒーを入れるあいだ、俺は特にすることもなく、用意された椅子に座って怪しげな部屋を眺める。いったいどこでこういう物を買い揃えるんだろうか? やっぱりネット? それとも専門店があるのか?

 

「……影虎君、そういった物に興味がありますか?」

「っ!?」

 

 気づけば江戸川先生がビーカーに入ったコーヒーを持って、目の前まで来ていた。

 

「ええ、と、ネットサーフィンが趣味で、たまにオカルトサイトを覗いたりする程度です」

 

 目的は桐条グループの事件以来、時々上がっている影人間の話だけど……

 

「そうですか。おっと、コーヒーをどうぞ。砂糖とミルクはご自由に」

「あ、ありがとうございます。ブラックで飲みます」

 

 匂いと見た目を確認してから一口飲んで心を落ち着ける。

 特におかしな所のない、普通に美味しいコーヒーだ。

 

「しかし、あれですねぇ。影虎君がこちらにも興味があるなら、それらの話をするのも良いかも知れませんねぇ、ヒヒッ。時間はありますし、何の話が良いでしょうか……」

 

 あれ? いつの間にか講義を受ける流れになってないか?

 

「影虎君、何か聞きたい事はありますか?」

「聞きたい事」

 

 そう聞かれてもなぁ……

 

 しかし、考えて見たら一つだけ思い当たる事があった。

 

「江戸川先生、“ドッペルゲンガー”について何かご存知ですか?」

 

 聞きたいのはもちろん俺のペルソナではなく、都市伝説や心霊現象の方のドッペルゲンガーの事。一応俺も調べてはみたが、江戸川先生なら何か俺が知らない話を知っているかもしれない。まぁ、聞いてどうするわけではないけれど、知っておいて損はないだろう。

 

「神話や黒魔術ではなくドッペルゲンガーですか。そうですねぇ……まず、ドッペルゲンガーとは自分と同じ姿の人を見る、または本人がその時居ない場所で他人に目撃される現象です。ここまではいいですね?」

「はい」

「では続けます。それは古くから世界各地で見られる現象であり、それだけに様々な呼び名があります。例えば江戸時代の日本では“影の病”、中国では“離魂病”などとよばれていました。

 原因は不明で、超常現象や心霊現象ではなく他人の空似や幻覚症状を伴う重度の精神疾患との見方もあります。しかし精神疾患の場合は他者から目撃される説明が不可能であるため、私としては幽体離脱のような現象という説を推します」

「幽体離脱ですか?」

「全てを細かく話すには時間が足りないので割愛しますが、人は現世で生きる肉体と魂、そしてその間に幽体があり、幽体離脱は生きた人の肉体から魂と幽体が抜け出してしまう心霊現象とされています。ドッペルゲンガーはこの抜け出した魂と幽体を目撃してしまうわけですね。まさに中国、離魂病の名の通り! 魂が、離れるのです」

「魂が……」

 

 ペルソナに関係あるのだろうか?

 

「中国の道教では魂は精神を支える“魂”と肉体を支える“魄”の二つに分かれるとされていますし、古代エジプトではなんと五つの部分から成り立っていると考えられていた事から、分かれることがありえないとは言えないでしょう。

 他にも世界には似たような話がたくさんあります。例えばインドの仏教の経典には自身の心の内を見つめる修行を積んだ成果として、意識や心から肉体を作り出すという話もあるのです」

 

 それはペルソナに近い気がするな。ん? 外からチャイムの音が聞こえてきた。

 

 

「おや、時間が来てしまったようですね……今日はここまで、続きが聞きたければまた機会はあるでしょう。私は器具の片づけをしますから、影虎君は帰りなさい。完全下校時刻になりますからね」

「わかりました。コーヒーとお話、ありがとうございました」

「いえいえ」

 

 俺は席から立ち上がり、外へ足を向ける。

 

「ちょっと待ってください」

 

 しかし、出ようとしたら扉の傍で江戸川先生に呼び止められた。

 

「何でしょうか?」

「言い忘れていました。有名なので知っているとはおもいますが、ドッペルゲンガーは“本人が見ると死ぬ”とよく言われます。見てすぐ、数日後、一年後、と期間は決まっていませんが……もしも影虎君が見てしまった場合は……お気をつけて」

「……ご忠告、ありがとうございます」

 

 この言葉を最後に、俺の部活動初日は終わった。しかし……今のは心配してくれたんだろうか?

 



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14話 ある満月の近い日

原作開始が2009年、その一年前の2008年4月の満月は20日でした。


 4月19日(土)

 

 放課後 鍋島ラーメン「はがくれ」

 

「ご馳走様でした」

「すげぇ美味かったです!」

「あざーっす!」

「また来いよ!!」

 

 友近、順平の二人と店を出る。

 

 今日は友近のはがくれ行かねー? の一言を発端に、話を聞きつけた順平を加えた三人で食べに来ていた。順平は前回俺と来た時のはがくれ丼にハマったらしく、俺も前回食べなかったはがくれ丼を注文。しかし、意外にも友近ははがくれ丼未経験者で、注文の時にそれは何だと食いつかれたため、最終的に全員はがくれ丼を食べた。

 

 初めて食べたはがくれ丼は、米に乗せられた厚切りチャーシューの味付けが濃い目。だけど濃すぎず、タレの絡んだ米が進む。丼一杯に盛られた米と具を食べきるまで箸が止まらない美味さがそこにはあった。

 

「美味かった~、ただ、ちょっと腹が重いな」

「影虎のダチだからって、大盛りにしてくれたもんな。でも美味いからペロッといけて凄いわあの丼。影虎の友達になってよかった!」

「お~い、その言い方だとあんまり気分よくないぞ」

 

 友近と軽口を叩いていると、サイドメニューの餃子まで頼んで苦しんでいた順平が話しに加わってきた。

 

「てかさ、今日も影虎の叔父さんに奢られたけどいいのか? 影虎と行くと毎回奢られてんだけど」

「ん~……叔父さんがいいって言ったんだから、いいんじゃないか? 今日の奢りは友近が原因だし」

 

 叔父さんが言うには丼用のチャーシューはラーメン用とは違って仕込みの段階で味付けを変えているらしく、はがくれによく来る友近がそれに気づいた。そしてその話を聞きつけて気を良くした叔父さんは、今日も三人分の代金を奢ってくれた。

 

「それに、毎回と言ってもまだ二回しか来てないだろ? ……いつでも奢ってくれそうな気のいい人ではあるけれど、叔父さんも困るほどは奢らないよ、きっと」

「そっか。んじゃま、感謝で……あれ? 影虎携帯鳴ってね?」

「え? あ、ホントだ」

 

 言われて取り出した携帯の画面には“父さん”と表示されている。

 

「ちょっとごめん。……もしもし父さん? 急にどうしたの?」

『おう影虎、お前に話したい事があってな。時間が空いたから電話したんだが……外か?』

「友達と叔父さんの店で食事してきて、今から寮に帰るとこ」

『そうか、ダチと一緒なら後にかけなおすか? 多分夜遅い時間になるけど、お前は寝ないだろ?』

「たしかに寝るのは遅いほうだけど……」

 

 二人を見るとあっちはあっちで何か話してるし、大丈夫だろ。

 

『だよな。小坊の頃から夜更かしばっかしてたお前のことだ。高校生にもなって、夜は十二時越えてからだろ?』

「何が基準か知らないけど、俺は一応七時くらいから夜だと思ってるよ。父さんみたくバイクで駆け回ったりはしないし。で、何の用? 大丈夫だから話は今でお願い。あと忙しいならちゃんと寝ろ」

『わかった。じゃあ早速だが、お前、夏休みの予定あるか?』

「夏ぅ? また気の早い……入学して一月経ってないのに、あるわけないでしょ」

『だったら夏休みはアメリカに行かないか?』

「アメリカ? 急に何で?」

『お前、ジョナサンの親父さんを覚えてるか?』

「ボンズさん? もちろん」

 

 俺がパルクールを始めるきっかけになった人なんだから忘れるわけが無い。元軍人だと聞いた直後に、俺が鍛えてくれと頼んだときの困り顔は今でもはっきり思い出せる。

 

『一ヶ月ちょいでかなり懐いてたもんなぁ、お前。で、そのボンズさんがな? テキサスで店を構えて、ハンググライダーのインストラクターを始めたんだと。だからジョナサンが影虎も一度遊びに行かないか? だとよ。ボンズさんも時間があればぜひ来いと言ってくれたらしい』

 

 どうしよう? 予定は空けられるけど、来年への備えもある。

 

『今から予定を詰めれば俺も少しは休みを取れそうでな。いっちょ家族旅行と行かねぇか? ……俺と雪美は来年から海外だろ? そうなると会える機会もぐっと減る。だから、今のうちにどうだ?』

 

 …………会える機会、か……

 

『影虎? おい、影虎! ……何かあったのか?』

「いや、なんでもない。外の音で聞こえにくかっただけ」

『そうか。まぁ何かあったらすぐ連絡しろよ。今年はまだ俺らも日本に居るんだ、会おうと思えば会える。こまめに会えるならその方が雪美も喜ぶしな』

「うん、分かってる。それから旅行は夏の予定空けとくから、詳しい話はまた今度で。そっちの状況に見通しが着いたら合わせるから」

『ならこっちである程度話進めるけどよ、そっちもダチとの用事ができたら言えよ?』

「それも分かってるよ。で、話はそれだけ?」

『もう一つある。お前、今年免許取る気あるか?』

「バイク? ん~……取れる年になるし、無いよりあった方がいいとは思うけど」

『ならよかった、普通二輪免許取っとけ。バイクはこっちで用意するから』

「は!? 用意するって、くれるって事? 高いでしょバイクなんて」

『金の事なら気にすんな。引越しの準備で入学祝いもしてなかったろ? 親戚一同とジョナサンひっくるめての入学祝いだ。……ぶっちゃけバラバラに違う物贈るより、まとめてバイク一台の方がこっちも楽だしな。その代わり免許取る金は自分で出せよ。一発でいけば一万もかからないからな』

「無茶言うな。一万かからないって、それ受験料だけの一発試験だろ? あの教習所通わないでいきなり試験受けるやつ。他の免許を持ってる人ならともかく、俺がいきなり合格できるわけ無いって」

『お前は俺の息子だろ? いけるって』

「無理だって……父さんのおかげで学科は何とかなると思うけど、運転経験が無いんだから実技で落ちるよ」

『あんま大声じゃ言えねぇが、俺がお前くらいの頃には経験あったぞ』

「俺はそのてのヤンチャしてないから。まぁ、それでも教習料金だけなら貯金で足りるだろうから免許は取るよ。せっかくだし、興味はあるし」

『おう、そうしろ。風を切って走るのは気持ちがいいぞ。女ができたら後ろに乗せて出かけてもいい。俺も雪美と』

「父さん、こっち駅に着いた。これから電車乗るから、悪いけどもう切るよ。母さんによろしく」

『お? おう、またな』

 

 俺はそう言って電話を切った。仲が良いのは結構だけど、両親のノロケ話を聞かされても反応に困る。

 

「ふぅ……」

「影虎~、電話終わった?」

「ああ、うん、父さんからだった」

「へー、親父さんから? 何て?」

「夏休みに旅行に行こうって話と、入学祝いにバイクやるから免許取れって話だった」

「バイク!? マジで!? 影虎の親父さんってバイク買ってくれんの!? い~な~、俺の親父だったら危ないとか高いとか言って、絶対買ってくれねぇよ……俺もバイクがあれば、もしかしたら大人のお姉さんと……」

「うちの父さんはバイク好きだからな……あと、妄想が口からだだ漏れになってるぞ、友近。さっさと切符買って乗ろう」

 

 すれ違う女性が友近をちょっと痛い目で見ている……

 

「そういや影虎の親父さんって、元ヤンのバイクオタクなんだっけ? それで仕事もどっかのバイクメーカーに勤めてるって」

「そうそう、前話したの順平覚えてたんだ。ちなみに母さんは父さんの働いているバイクメーカーの社長令嬢で伯父さん……母さんの兄さんが現社長だから、多分会社で作っているバイクのどれかが来ると思う」

「えっ!? お前社長の甥なの!?」

「それオレッチも聞いてねーんだけど!?」

「そりゃ今初めて言ったからな。というか二人とも社長の甥って聞いて、物凄い金持ちを想像してないか? 言っとくけど、今時の中小企業はどこも厳しいんだからうちは特別金持ちじゃないぞ。会社はコアなファンが一定数いるから余裕があるけど、社長の伯父さんも別に豪華な生活はしてない」

「へー、そうなのか。社長ってなんかこう、凄いっつーか特別な響きがあるんだけどなー」

「実際はそうでもないって。伯父さんから聞いた話だけど、社長になる、つまり起業は一円持っていればできるらしい。起業の手続きを専門の代行業者に頼んだり、実際に経営して稼ごうと思えば相応の資金が必要になるけどな」

「マジか……なんか一気に社長が身近になった気がするなぁ」

 

 順平がへらへらと笑い出した、自分が社長になっている姿を想像したんだろうか?

 

「社長が身近にってなんだよ、気がしてるだけだって。桐条先輩を身近に感じられるか?」

「あー……無理だわ。ともちーの言葉で正気に戻れたぜ……」

「桐条先輩と桐条財閥は別格だからな……ところで、そっちは電話してる間、何話してたんだ?」

「俺らは、はがくれ丼美味かったから、宮本は残念だったなって話」

 

 そういや誘ったけど練習があるって断られたんだっけ。

 

「自主練する奴の集まりだけど一年だから強制参加ってもうそれ自主練じゃなくね? ってともちーと話してた。そういや、影虎んとこはそういうのは?」

「俺も聞きたい。影虎のとこはそれ以前に江戸川先生が気になるけど、実際どうよ?」

「うちは同好会員が俺一人だから上下関係や強制は無い。江戸川先生は部室に作った研究室に入りびたりだし、気楽だよ」

「部室に実験室作る時点で普通じゃなくね?」

「……多少の事は目をつぶる事にした。けど部活中に自分の身に危険が迫った事は無いね」

「「その多少の事が気になるんだっての!?」」

「多少の事だって。実験室から頻繁に爆発音とか、ナニカを捕まえようとしているような声が聞こえるなんて……些細な事だよ」

「些細じゃねぇ!」

「些細だよ。被害が無いから些細だよ」

 

 そう、些細な事だ。明日は満月だからサバトとその準備と片付けがあるとかで、今日、明日、明後日の部活が休みになったのも些細な事だ。誘われたけど、断れた。被害が無ければ些細な事だ。わざと藪をつついて蛇を出さなくていい。

 

「しっかりしろ影虎!」

「だめだ、完全に現実から目をそむけてる」

「失礼な。江戸川先生の事を割り切れば気楽で快適ないい部活なんだよ……」

 

 それから二人は少し考えた後で話を変え、それ以降は部活の話に触れなかった。その代わり、俺達は寮に帰るまでたわいも無い話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 同日深夜 

 

 ~影時間・タルタロス4F~

 

 影時間を迎えてはや三十分、俺はもう通いなれたタルタロスの中を歩いていた。しかし、今日は様子がおかしい。いつもはすぐに見つかるシャドウが、今日はほとんど見当たらない。

 

 満月が近いという事で完全装備(忍者スタイル)に身を包み、タルタロスから出られなくなっても生き延びられるだけの薬や食料を揃えた俺は、気合十分にタルタロスへ踏み込んだ。なのに、入って見れば拍子抜け。シャドウがほとんど見付からないまま4Fまで来てしまった。

 

 昨日まではどんどん増えていた気がしたのに……しかも、今日みつけたシャドウはたった一種類。金色のレアシャドウ“宝物の手”のみ。それも逃げるし消えるから、今日は一度もまともに戦えていない。

 

 ゲームで言うところのハプニングフロアだと思うが、この世界では搭全体かいくらかの階に纏めて同じことが起こるのか? それとも俺が運悪く四連続で同じハプニングフロアに当たったのか? とか考えていたら、また宝物の手が周辺把握の探索範囲に引っかかった。

 

 今度こそ、と息を潜めて待ち構え、相手が角から姿を見せた瞬間に襲いかかる。

 

「ジオ!」

「クヒィ!? ッ!」

 

 手から迸った電撃は当たるが、続く拳は機敏な動きで避けられてしまう。できれば感電して欲しかった。だが、目の前の金色のシャドウは逃げずに俺をじっと見ている。まだチャンスはある。

 

「タルンダ、スクカジャ、タルカジャ」

 

 ブツブツと呟きながらスキルを使用。少しずつ蓄積する疲労に構わず全力で相手の能力を低下させ、俺自身は向上した身体機能にものを言わせてシャドウに急接近。身をよじって攻撃を避けようとするシャドウの仮面、胴体、側面、背面。部位にこだわらず、とにかく殴りつけた。

 

 しかし攻撃の命中率は五割程度。しかも当たった攻撃もあまり効いているようには見えず、不思議と仮面で変わらないはずの表情が嘲笑っているように見えてくる。

 

「! ちっ!」

 

 その後も攻撃を続けるがシャドウは一瞬の隙を見て逃走。追いかけても追いつく前に煙のように消えてしまった。

 

「あっ! また、お~ぁ……逃げられた……」

 

 これで七回目……レアシャドウのみの階は最初こそ嬉しかったけど、何度も取り逃した俺には疲れしか残っていない。

 

「お、転送装置……一度帰るか」

 

 エントランスで食事にしよう。

 

 

 

 

 

 ~エントランス~

 

「いただきます」

 

 仮面を目元だけ覆う形に変えて、のり弁当をかきこむ。シンプルだけど、安くて素直に美味い。

 

 それにしても、あの手はどうすれば倒せるんだろう? 攻撃が効いていないのは単純に俺がまだ弱いんだと思うけど、こちらを察知されるのは何故か。逃げられても捕まえる方法でもあれば……あ、あるかも。

 

 思いつきで手元のドッペルゲンガーを一部変形させる。形状はロープ。先の方を輪にして頭上で振りまわし、時計目掛けて投げるとまさに投げ縄! これで逃げるシャドウもカウボーイよろしくがっちり捕獲! って、外れた。

 

 山岸さんのお金を拾い上げた時のように遠隔操作を試しても、ちょっと軌道が変わるだけ。練習しなきゃ使えそうにない。そう上手くはいかないか……やっぱ相手の能力を探る方が先か。じゃないといつまでも見つかって逃げられるんじゃ困る。

 

 考えながら箸を勧めていると、もう少しで食べ終わる頃に突然疑問が浮かぶ。

 

 ……ん? 宝物の手が探査能力を持っているとして、何で俺から逃げるんだろう? 俺が知る限りの探知能力を持つペルソナ使いは桐条先輩、チドリ、山岸さん、そして他ならぬ俺の四人。その中で山岸さんはまだペルソナ未覚醒だけど、桐条先輩とチドリに俺はシャドウと間違えられた。

 

 タルタロスでは違う種類のシャドウが同じ場所に居るのは珍しくない。となると、宝物の手は俺がシャドウじゃないと分かっていた? それともシャドウと認識した上で逃げた?

 

 ………………もう一度入って、試してみよう。まだ見つかると良いけど……

 




最近お気に入りが増えてビックリ。
その日の気分で書いてるから投稿遅いのに、ありがとうございます。


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15話 禍福は糾える縄の如し

 ~影時間・タルタロス2F~

 

 エントランスから二階に入りなおしたら中の様子が変わる、と言う事はなかった。

 眼前には相変わらずシャドウのいない寂しい通路がのびている。

 日をまたぐと普通に道は変わるし、おそらく中のマップが変わるのは影時間の終わりか始まりの、あのガチャガチャした変形の時なんだろう。

 

 レアシャドウを探し回って五分、周辺把握が小さな階段の付いた台のある部屋とレアシャドウの存在を捉える。もう何度も感じたこの形を間違えるわけがない。早速疑問を確かめるとしよう。

 

 俺は普段使っている隠蔽と保護色を使わず、隠れることなく部屋に入って部屋の真ん中に居るレアシャドウへ近づく。いったいどんな反応をするか……と思って観察すると、レアシャドウはこちらを振り向き、体をブラブラ揺らしながら俺から距離をとる。

 

「……」

 

 しかし、いままでのように走って逃げはしない。部屋の隅から遠巻きに様子をうかがっている感じだ。とりあえず俺も様子を見ながら直進。周辺把握で警戒はするが、体はレアシャドウを無視して壁際に寄ってみる。

 

「!」

 

 するとレアシャドウは部屋の入口から離れる俺をチラッと見てから廊下へ走り去った。俺も急いで廊下に飛び出すと、走り去るレアシャドウの姿がだんだん遠ざかっていく。しかしいつものように突然消える事はない。

 

 ……かなり微妙な反応だが、すぐに逃げないところを見ると“レアシャドウも俺をシャドウだと思っていた”ということでいいのだろうか? まるで不審者を見たような動きだったし。

 

 時間をかけてシャドウじゃない事を確認していた可能性もあるが、レアシャドウって元々他の種類のシャドウと一緒に居ないんだよな……他の種類のシャドウが嫌いなのか?

 

 よし、今度はそれを確かめられないか試してみよう。今だってドッペルゲンガーを忍者装束と翁面に変えているんだから、宝物の手に似せることだって出来るは……!?

 

「早っ!?」

 

 ドッペルゲンガー形を変えようとしたら、驚くほどのスピードで形が変わった。

 擬音で現すと普段の服装やさっきの投げ縄への変形はジワジワッなのに、今回はシュバッ! 早い分には困らないけど、何でだろう? しかも色まで全身金ピカに変わってる。

 

 周辺把握で確かめてもサイズが多少大きいくらいで、形状はいままで周辺把握で何度も確認した宝物の手と相違ない。って、まさかそれで? 形状をしっかり把握していると変形も早くなるんじゃないか? 

 

 まぁ、これは後々検証するとして……とりあえずこれで見た目は予想以上にうまくいっただろう。

 

 

 

 それからレアシャドウの姿で探し回る事さらに五分。俺は正面から歩いてくるレアシャドウを見付けた。探していると一秒一秒が長く感じるが、これでハッキリする。あわよくば倒せるともっといい。

 

 そんな考えを隠し、俺は廊下を歩く。レアシャドウもこちらに歩いてきているので、このままいけばすれ違うことになるが……

 

「………………」

「………………」

 

 互いに無言のまま、一歩、また一歩と距離が縮まる。

 

「…………?」

「! …………」

 

 もう少しで飛び掛れば手が届きそうな距離に達すると言うところでチラリとシャドウが俺を見たが、落ち着いてスルーを心がけると…………

 

 レアシャドウも俺をスルーした。すれ違っても逃げずに同じペースで歩いている。

 

 よっしゃ! チャンス!! 

 

 完全に騙されたらしく、こちらに背を向けて無警戒なシャドウへ飛び掛る。すると俺の拳はシャドウの頭部を強く殴打、できなかった。

 

「なっ!?」

 

 確実に当たると思った次の瞬間、シャドウは急に頭をそらして背後からの拳を回避。そのまま前傾姿勢で逃げてしまう。

 

「嘘だろ……何で避けられんだ? 今回は声も出してないのに。いや、それが宝物の手の探査能力?」

 

 考えてみれば、探査能力なら視界に頼らなくてもいい。俺の周辺把握も目で見る必要は無いし、能力の範囲内であれば動きも分かる。……そう考えると周辺把握は戦闘にも応用できそうな気がしてきた。

 

 動きが分かれば不意打ちにも普段の回避行動にも役に、って、まさかレアシャドウの能力も周辺把握か?

 

 ……レアシャドウが周辺把握を使えたとする。

 回避行動への応用は出来るとして、何故俺の隠蔽や保護色がばれたのか?

 

 周辺把握は物体の表面の形状や動きで情報を集める。

 そして隠蔽や保護色は自分の存在を隠す事が出来るが、体が消えるわけではない。

 隠蔽で誤魔化しきれずに、体の表面を読み取られたら?

 少なくとも、見えない何かが居ることは分かる。

 しかもそれが動いたりしたら

 

「……そんな怪しいのがいたら俺も警戒するわ」

 

 隠蔽でごまかせても足が着いてる場所とか、一部だけポッカリ読めない場所ができていたらそれはそれで怪しいしな。

 

 周辺把握なら、問題になるのは範囲だ。

 仮にレアシャドウが広範囲を把握できるとしたら、俺と出会う前に逃げるだろう。

 今回は姿を変えてるから上手く騙せたかもしれないが、前は違う。俺の肉眼で見えるくらいまで近づく必要が無い。

 となると、レアシャドウの周犯把握で探査できる距離は狭い。こんな所か。

 予想でしかないけど前にジオで奇襲をしかけたときは成功したし、もう一度探して試してみよう。違ったら又考え直せばいいんだし。

 

 

 一つの疑問が解決すると、次の疑問と新たな予想が生まれる。

 調子よくパズルが解けていくような感覚で気分がよく、軽快な足取りでレアシャドウを探しに向かう。しかし、それから急にレアシャドウは見つからなくなってしまう。

 

 二十分近く探し続け、もう襲いつくしたのかもしれない。帰ろうか……と思った矢先に周辺把握が転移装置を見つける。帰ろうと思ってすぐ見つかるなんてタイミングがいいな。そろそろ影時間の終わりも気になるし、残念だけどもう帰るか……

 

 

 

「?」

 

 転移装置は長い廊下の途中に置かれていたが、装置に近づくと周辺把握の限界ギリギリに何かがひっかかる。しかし、全体までは読み取れない。そちらに目を向けてみるけれど、まっすぐ伸びている廊下は薄暗くてよく見えない。

 

 それが気になり、仕方なく確認のために近寄ってみると……

 

「まさか……!」

 

 歩みに伴って明らかになる物体の正体が分かり、鼓動と歩みが早くなる。

 横道を無視。俺は一直線に突きすすみ、突き当たりの袋小路へ駆け込んだ。

 

 そこに居たのはシャドウじゃない。

 宝箱などの物でもない。

 そこに居たのは一人の“人間”

 サラリーマンらしきスーツ姿の男性が倒れていた。

 

「大丈夫ですかっ!? 聞こえますか!?」

「う、ううっ」

 

 駆け寄って肩を叩きながら声をかけると、男性は苦しそうにうめく。

 息はある! 脈もある。意識も弱いが、ある。迷い込んだ人がこの時期から居たなんて……とにかく急いで外へ!

 

 倒れている人は不用意に動かすべきではない。けれど、この場に居るほうがもっとまずい。

 

「タルカジャ! スクカジャ!」

 

 補助魔法で力と素早さを上げた体で男性を担ぎ上げ、一目散に転移装置へと向かうが……悪い事は重なるものだ。

 

 ジャ…… ジャラ……

 

 薄暗い廊下に音が響く。

 その音は小さいのにはっきりと耳に届き、間違いなくこちらに近づいてくる。

 

 ジャラッ…… ジャラリ…… ジャラッ……

 

 そして、来るときの横道に差し掛かった俺は見た。

 横道の先の角から現れる幽鬼の姿を。

 ぼろきれのような服に鎖をまとい、銃身の長い拳銃を二丁構えたシャドウ。

 一目で分かる“死”の塊。

 

 “刈り取る者”が現れた。




葉隠影虎は成長のためのヒントを掴んだ!
しかし強敵と遭遇してしまった!


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16話 二度あることは三度ある

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ

 

 ヤバイ!!!!!!

 

 目に付いた瞬間脳内はその一言で埋め尽くされ、足が勝手に転移装置へ駆け出していた。

 あれはヤバイ! 何がヤバイかって何もかもがヤバイ! 今の俺じゃ絶対に勝てない!

 

 全速で逃げるが鎖の音が背後に、間違いなく追って来ている。周辺把握の感知距離は100メートルほど。連日の使用で距離は伸びてきているが、それでも200メートルは無いはずなのに転送装置にたどり着かない。短いはずの距離が遠い。足の震えか背中の男が重いのか、いっそ男を捨ててしまおうかとの考えが頭をよぎる。

 

 そんなときに思い出す。こんな時こそ、トラフーリを使うべきであると。

 それに気づくまでは僅かな時間でも、十分に対応を遅らせてしまった。

 

「!? がっ!?」

 

 慌ててトラフーリを使う直前、“刈り取る者”が俺へ銃身を向けた事に気づいて全力で斜め前に跳び退く。するとその直後俺の居た場所が爆ぜ、同時に発生した熱風に煽られて転倒。いや、吹き飛ばされた。

 

「くそっ!」

 

 今のは? 熱、火、アギ系の何か、でも俺のアギの比じゃない。いくらなんでもあんなのが直撃したら即死だ!

 

 混乱しかけた頭と体を無理やり起こすと、背負っていた男性の重みが無い。何処に……と思えば俺の少し先まで吹き飛ばされている。駆け寄った勢いで腕を掴み、改めてトラフーリを試みるが……

 

「っ!?」

 

 刈り取る者の持つもう一丁の銃口から、怪しい光を放つ球体が打ち出された。

 

 これが、漫画でよく言う時間が間延びする感覚……なのか?

 光の玉はやけにゆっくり向かってくるし、刈り取る者の一挙手一投足が完全に把握できる。そして自分の体も同じく動きが緩やかだ……

 だから分かる。トラフーリが間に合わ……

 

「うぉおおおおおお!!!!!!」

 

 ないからといって諦めるなと自分に喝を入れ、全力で男性の腕を引く。

 

 もう一度! 俺はまだ死んでない!! あれを避ければその隙にチャンスがある!!

 

 しかし意識を失った成人男性は重く、タルカジャをかけても腕の力だけで引き上げるのは容易ではなかった。運びにくい、だけど背負い直す時間は無い。

 

「ガルゥウウウウウ!!!!」

 

 俺は全力で男性を抱え込み、渾身のガルを放つ。

 足元から吹き上がる攻撃に使えるほど強い突風による風圧と気持ちの悪い浮遊感に包まれ、追い討ちの衝撃波が体を吹き飛ばした。

 

「が、っは……」

 

 体を貫くような痛みと廊下をバウンドした事で、肺の中の空気が押し出される。

 

 きつい、だけど生き……!

 

 また刈り取る者の攻撃で吹き飛ばされたんだろう、気がつけば眼前に、文字通り目と鼻の先に転移装置があった。

 

「う、らぁああああああ!!!!!!!」

 

 痛む体に鞭打って、がむしゃらに力を振り絞り、抱えた男性ごと転移装置へ飛び込む。すると刈り取る者の行動が変化した。

 

「オオオオッ!!」

 

 突然の咆哮。

 転移装置に飛び込む俺達目掛け、両手の二丁拳銃を突き出す。

 銃口にはまたあの光が今度は二つ。早く起動しろ!

 

「!!!!!」

 

 自分で理解できない声を上げながら転移装置を叩く。

 そして刈り取る者が光の玉を撃ち出した瞬間爆音が廊下に響き、光が俺と男性を包み込んだ。

 

 間にあわなかっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………生き、てる?

 

 来ると思った衝撃や痛みがいつまでも来ず、そっと頭を庇う腕をどけて周りを見ると、俺達はエントランスの転移装置の上にいた。隣には気を失った男性も居る。ということは

 

「っはぁ、はっ、うっしゃあ! 逃げられ」

 

 助かった……!?

 

 状況を理解して安心した途端、急に体が痛んで震えが止まらなくなる。

 

「うっ!」

 

 腹の底から胃液がこみ上げてきた。喉に熱く焼けるような不快感を感じる。

 酷い吐き気に襲われて体を動かせば、今度は体重のかかった手足を中心に全身から激痛。

 

「ごほっ、けほっ、くそっ」

 

 逃げられたけど、酷くやられた。手足は動くし、骨は折れてない。だけどヒビくらいは入っているかもな……動くのがつらい。とりあえずディア、は無理か。いつの間にかドッペルゲンガーは消えている。もう一度……出せない。回復アイテムは……無い。ついでにまとめておいたゴミもない。

 

「逃げるときに落としたか……いや、たしかここに」

 

 手の痛みを堪えてズボンのポケットをまさぐると、折りたたんだ一万円札が出てくる。

 

 よし! 荷物と別にお金を入れておいて良かった、これで回復時計が使える。値段は一回五千円だった、俺の次にあの人も回復させよう。

 

 しかし、体を引きずって時計にすがりつくと値段のメーターには

 

 “全回復、一回七千円”

 

 ………………

 

「値上げ!? っ!」

 

 痛っ、傷に響く……こんな時に値上げかよ!

 

 足元を見られている気がするが、払える額だ。

 一万円を時計の台座に突っ込んで“全回復”のボタンを押す。

 すると転移装置とはまた違った柔らかい光が俺の体を包んでいく。

 

「……治ったのか?」

 

 ぬるま湯に浸かるような暖かさが数秒。どんどん体の痛みや疲れが和らいで、光が消えるとさっきまで疲労困憊だった事が嘘みたいだ。……マジでどんな仕組みなのか分からない。絶好調ではないけれど、試してみるとドッペルゲンガーの召喚に成功する。

 

 これならあの人はディアで回復できるな。早速、いや、その前にここから出るか。万が一、今刈り取る者がここに来たら、きっと今度は逃げ切れない。

 

 

 ……痛みが消えて冷静になると、あの刈り取る者は遊んでいた(・・・・・)ように思える。それでも逃がすつもりは無かったんだろう、逃げられそうになって咆哮をあげた後は動きが段違いだった。もしあいつが最初から本気で殺しに来ていたら……きっと俺はあそこで死んでいたと思う。

 

 今ここに居られるのも頭をよぎった思い付きに縋りつき、考える間もなく実行した破れかぶれの悪あがきが功をそうしただけ。助かる保障なんて無い。もちろんここに来る以上、命の危険があるのは分かっている。それでも必要と踏んで、できるだけの安全策を講じていたつもりだ。

 

 しかし……始めは慎重になりすぎ、今度は油断。そのバランスが分からない……間違ってもそれを諌めてくれる仲間も、相談できる相手も俺にはいない。これからどうすべきか……と気にしつつ男性を担いでエントランスから外に出た。

 

「うぉっ!?」

 

 その瞬間、担いだ男性の感触と大きさが一変してバランスを崩しかける。

 何とか堪えて体制を立て直してみると、なんと今まで人の形をしていた男性が紅く不気味な棺桶に変わっている。

 

 “象徴化”!? このタイミング、タルタロスを出たからか?

 

 タルタロスから少し離れたあたりで適当な路地に入り、棺桶を地面に寝かせるようにそっと下ろすが、この状態でディアを使っても効果は出るのだろうか?

 

 ……全然効く気がしない。こうなったら前にタカヤが言っていた人を影時間に落とす方法を試そう。ペルソナの力を注げばいい、と言っていたけど……

 

 ここ最近毎日シャドウから体力や魔力を吸い続けた感覚を思い出して、それを普段なんとなく使ってる魔法を使う感じで逆向きに……そうすれば“吸う”の逆で“送り込む”事が

 

 あ、できるわこれ。

 

 自分でやって驚くくらい簡単に力が抜け、棺桶に置いた手を通じて注がれている。

 難しいとか言っといて、全然簡単じゃないか。それともこれだけじゃダメなのか、と考えていたら、何事も無く象徴化が解けて棺桶が人に戻った。

 まぁ、できたならいいか。

 

 で……息はあるけど、まだ意識は無い。外から見える範囲の怪我は、体中に打撲か骨折による腫れ、足に火傷少々、それと右肩、これ脱臼してる? ……この人気絶していて良かったな。意識があったら激痛でのたうちまわりそうだ。いや、痛みで気絶したのか? とにかくどれだけ治せるか……

 

「ディア」

 

 患部に添えた手から何かが抜けるのを感じる。同時に内出血の跡が薄れた気がする。

 一目瞭然と言うほどの効果は見えないけれど、このまま繰り返せば少しは治せそうだ。

 自分の体力に気をつけつつ、ディアを連発して治療していく。

 

 

 だが、ここで俺は大きなミスを犯した。

 治療に集中するあまり、まわりへの注意が薄くなっていた。

 だから、俺は気づかなかった。

 

「ディア……」

「ポリデュークス!!」

「!?」

 

 まだ影時間。聞こえるはずの無い人の声に驚いて目を向けると、路地の先から見間違えるはずも無い。桐条先輩と真田明彦が駆けつけて来ていた。俺と彼らの距離はまだ遠い。大声で叫ばれなければもっと気づくのが遅れただろう。

 

 それでも十分に遅かった。真田は頭に拳銃を付きつけ引き金を引いて、青い光と共に一体のペルソナが現れている。それはゲームでは自分でも使ったことがある。“ポリデュークス”

 

「!!」

 

 突然現れたポリデュークスが眼前に迫り、杭のような右腕を突き出してくる。

 初動の遅れは致命的。横から胸を殴られた俺は、ボールのように軽々と弾き飛ばされた。

 

「カッ、ハッ……グッ……」

 

 

 息ができない。声も出ない。目の前がかすむ。呼吸をするたび胸が強く痛む。そんな状態でも今日は三度目、おまけに刈り取る者ほどの恐怖は感じない。地面を転げる勢いに逆らわず、逆に利用して素早く立ち上がる。

 

「美鶴! 被害者を!」

「任せろ!!」

「……! シャドウめ!」

 

 前半聞き取れなかったが、シャドウと間違われているのは分かる。

 

「ま、ゴフッ、ヒュー……!」

「貴様はここで倒す!!」

 

 問答無用かよこの脳筋バトルジャンキー野郎!!

 

 今度は自分の手で殴りかかってきた。右ストレートを右に避ける。左フック、腰を落とす。ジャブを受けながら後退。そのまま跳んでボディーを避ける。

 

「ほう、意外とやるじゃないか! なら、これで!」

 

 周辺把握の補助を受けて、かろうじて避け続ける俺へ続けざまに拳のコンビネーションを繰り出す真田明彦。その顔はどこか面白そうで……

 

 

 ――――――――――――プチッ――――――――――

 

 

 その顔を見た瞬間、俺の中で何かが切れた音が聞こえた。




命からがら逃げ延びて、今度は原作キャラと遭遇。
次回、別視点。


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17話 誤解から始まる戦い

今回は桐条美鶴の視点


 “イレギュラー”

 

 種類を問わず、巣であるタルタロスの外に出て人を襲うシャドウの総称。

 出現頻度は低いものの、街中に現れるという点から通常のシャドウよりも危険度は高いとされる。しかしながら広大な街中から数匹、それも数日から数週間に一度不定期に現れるイレギュラーの発見は困難で、遭遇する事はさらに少ない。それでも長く影時間に関わっている私は何度も遭遇したことがある。

 

 しかし、今日のイレギュラーはこれまでと一風変わっていた。

 

「……ンナアァ゛ア゛ッ!? ガァッ、ゲッハ」

 

 被害者の命に別状がない事を確認したところでイレギュラーが吼えた。ダメージを受けたからか、相対していた明彦へ荒々しく腕を振り回す様子は明確な怒りを伝えてくる。

 

「くっ!?」

 

 イレギュラーの拳が明彦の胴体を捉え、明彦がイレギュラーから距離をとる。

 

「明彦!」

「ガードした! それより見てみろ!」

「なっ!? 変身、だと?」

 

 イレギュラーは明彦を睨みつけ、体のいたる所を蠢かせたかと思えば瞬く間に風貌が変化していく。一回り大きくなった体格には筋肉のような盛り上がりが顕著に見られ、両の手足から伸びた爪はアスファルトを傷つけ、全体的な印象が“人型”から“二足歩行する獣”へ近づいていた。

 

 イレギュラーもシャドウであり、シャドウの姿は種類によって千差万別。人型のシャドウも知識にはあるが、この個体はそのどれとも違う。つまり弱点や戦い方などの事前情報が無い未知のシャドウ……姿といい能力といい、どこまでもイレギュラーな奴だ。

 

「ペンテシレア!」

 

 ペンテシレアを呼び出して携帯型の補助装置を起動。イレギュラーの分析を試みる。

 

「明彦、時間を稼いでくれ。何をしてくるか分からない。気を引き締めろ」

「分かってるさ」

 

 相手の変化には明彦も警戒を見せているが、同時にそれが楽しみだとでも言いたげだ。明彦の悪癖が出てきている。向上心があるのはいいが……っ!

 

「来るぞ!」

「シャアッ!」

「ちっ! ……ハァッ!」

 

 速い!

 

 前傾姿勢から向かってくるタイミングは掴めたが、その後の急加速が尋常ではない。凌いだものの瞬時に明彦との距離が消え、影時間の路地に響く断続的に互いを殴打する音が殴り合いの激しさを物語る。

 

 明彦は鍛えたボクシングの技術で対峙しているが、対するイレギュラーはなんとも表現しがたい。格闘技で戦っているようにも見えるが、距離の詰め方や動きがやはり獣じみている。

 

「シィッ!」

 

 飛びかかるイレギュラーを明彦が左に避け、開いた側面の隙を付いて殴りかかれば、イレギュラーは反転。攻撃を避けながら大きく振られたイレギュラーの右裏拳が明彦の目前を通過し、明彦がイレギュラーの懐に潜り込もうとする。しかし、それは下から掬うように振り上げられた左手の爪が阻む。

 

「ちっ!」

 

 血の玉が浮かぶ頬を拭い、明彦はガードを固める。両者共に牽制(けんせい)の打撃はあたるが、相手を倒す決定打が無いまま。今は互角だが、このままではダメだ!

 

「明彦離れろ! もっと距離を取れ!」

「そうさせてはくれないらしいっ! こいつインファイターだ!」

「嬉しそうに言っている場合か!? お前は今、苦戦しているんだろう!」

 

 明彦が強いのは分かっている。そして信頼もしている。通常のシャドウは一人で倒し、ボクシングにしても相手に困るほど。決して弱いわけではないが、それは本来の戦い方ができていればの話だ。

 

 明彦は足を使い相手と距離を取って戦う“アウトボクサー”。ヒット&アウェイなど相手の間合いの外から踏み込んで攻撃し、反撃される前に引くスタイルを基本として拳を用いた戦闘の合間に召喚器を使いペルソナを呼び出す。

 

 しかし今はイレギュラーに詰め寄られ、離れようにも離れられない。明彦のフットワークがイレギュラーの速度で潰されているため、常に至近距離での殴り合いを強いられている。あの状態ではペルソナを召喚する暇がない。

 

 私が援護をすべきところだが、今は被害者のそばを離れられない。魔法では援護しようにもイレギュラーと明彦の距離が近すぎる。今撃てばイレギュラーだけでなく至近距離で戦い続ける明彦も巻き込んでしまう。

 

 おまけに私のペルソナは本来戦闘向き。他に役目をはたせる者がいないためサポートに回っているが、お世辞にも分析能力が高いとは言えない私に力を割く余裕はない。戦闘への参加は分析の中断を意味する。

 

 今の私に出来る事は考察と多少の助言がせいぜい……せめてもう一人、この場に荒垣が居てくれれば……違う。今すべきは少しでも早く分析を済ませる事。そうすれば効果的な対応を考える事も、私が参戦する事もできる。

 

 もどかしさと無意味な考えを振り払い、イレギュラーの観察に集中して僅かながら時間の短縮を図る。

 

「……もう少し耐えてくれ!」

「応! こっちも、目が慣れてきたところ、だっ!」

「シィイッ!」

 

 明彦が戦いのペースを掴み始めたようだ。攻撃直後の隙を突いて左と右、ワンツーを打つと、左がイレギュラーの仮面に当たった。しかし右は防がれ、イレギュラーはさらに距離を詰める。

 

 これまでの行動を見る限り、イレギュラーは攻撃を受けても絶対に退こうとしないな。明彦が攻めればイレギュラーは攻め返し、明彦が下がればイレギュラーは距離を詰めて攻める。明彦に執着しているのか? それにしても、一度くらい距離をおいて魔法を撃ってきてもいいはずだ。

 

 確認の取れているシャドウの中で最弱と言われる臆病のマーヤでも氷の攻撃魔法を使う。イレギュラーは魔法が使えないのか、それとも使わないのか? 使わないとしたら何故使わない?

 

 思考と分析を続けていると、戦況に変化が訪れる。

 

「どうした! 動きが悪くなったぞ!」

「…………」

「……ふっ!」

「!」

 

 イレギュラーの手数がだんだんと減り、明彦がイレギュラーを押し返し始めていた。さらに若干鈍くなった動きを好機と見た明彦が渾身の一撃をイレギュラーに見舞う。すると交差させた腕で一瞬だけイレギュラーの動きが止まり、生まれた隙に明彦が距離を取る。だが、やはりイレギュラーはそれを許そうとしない。

 

「! ガアァッ!!」

 

 明彦に食らいつきそうな勢いで駆けたイレギュラーの攻撃が、召喚器に伸びた明彦の腕に当たり、乾いた音が響き渡る。

 

「ちっ!? もう少し弱らせないとダメか……」

 

 今の動き……偶然か? たまたま攻撃がそちらを向いたか、見間違いか……私の目が正しければ、イレギュラーは初めから召喚器に伸ばされた手(・・・・・・・・・・)を狙ったように見えた。

 

 気になる。これまで見たシャドウはいずれも本能のままに行動しているような個体ばかり。狙ったとしたらそれは何故か。それはペルソナを召喚させないため。意味があるとすれば他には考えられない。

 

 ……明彦の先制攻撃で一度、私がペンテシレアを召喚して一度。イレギュラーは二度、召喚器によるペルソナ召喚を目にしている。まさか、この短時間で学習したのか?

 

 “学習”

 

 それは既知のシャドウには無い行動。そして目の前のシャドウが相手の行動とその意味を理解する理解力、対策を考える思考力と判断力、行動に反映させる実行力を持っている可能性の示唆。その結論に至った私は、背筋に冷たいものを感じる。

 

「ォオオッ!」

 

 明彦の攻撃をしのぎ続けるイレギュラーが吼え、右拳を大きく振り上げる姿はまるで追い詰められて自棄になって殴りかかろうとするように動く。隙が大きく格好の餌食だと目を輝かせた明彦が前に出ていく。

 

 その時、私はペンテシレアを通して魔法の予兆を感知した。

 がむしゃらに見える動きの裏で、イレギュラーは虎視眈々と魔法を使おうとしている!

 

「罠だっ!!」

 

 私が反射的に叫んだ次の瞬間、イレギュラーから凍えるほどに冷たい風が吹きぬけた。

 

「ぐあっ!?」

「ペンテシレア!!」

 

 凍えそうな冷気が漂う中で、急ぎ回復魔法を明彦に。分析も中断。

 

「ッ!」

 

 何よりもまず明彦の無事を確保すべくイレギュラーに突撃すると、イレギュラーは明彦の腰のホルスターから召喚器を素早く弾き飛ばし、背筋を大きくそらす事で私のレイピアを避けた。さらには上体をひねり側転や後方への宙返りを数度交えて瞬時に距離をあける。

 

 私は追撃に備えてレイピアを構える。

 だが、次のイレギュラーの行動はまたしても私の予想から外れた。

 明彦と戦っていたように襲い掛かってくると思えば、イレギュラーは急に背を向け一目散に走りだす……

 

「なっ!? 逃げる気か!?」

 

 明彦が走り去るイレギュラーへ怒鳴りかけるが、イレギュラーは既に路地を曲がったところだ。

 

「………………どうやら、もうこの近辺には居ないようだ」

 

 この状況では追うに追えず、ペンテシレアで索敵するが反応がない。捉えられないのは本当に走り去ったのか、それとも……何はともあれ体勢を立て直す事が先決か。

 

「明彦、大丈夫か?」

 

 逃げるイレギュラーに怒鳴る余裕はあったようだが、明彦は回避が間に合わずに右足から腰までがところどころ凍りついている。使われたのは臆病のマーヤやペンテシレアも使うブフと見て間違いない。

 

「ああ……ただ冷たいだけだ」

「……待っていろ、救助を呼ぶ。被害者も病院に搬送しなければならないからな」

 

 苦痛を隠す明彦の反論を封じ、通信機で寮に連絡を入れると一度のコールで繋がる。

 

『こちら幾月。桐条君かい?』

「お疲れ様です、理事長。早速ですが、救急車を二台、手配していただけますか?」

『二台……!? 分かった、すぐにもう一台手配する。場所は最後の連絡で言っていた路地裏でいいのかい? それと傷の具合は? 怪我人が二人で君が連絡してきたという事は、怪我人は被害者と真田君か』

「場所は件の路地裏。いまのところ、二人とも命に別状はありません。しかし被害者は多数の傷を負っています。明彦は攻撃魔法のブフを受け、足が強く痛むようです」

『了解。経緯はまた後で聞くとして、今は安全なのかい?』

「はい、交戦していたイレギュラーは逃走した模様」

『分かった。真田君には無理に足を動かさず、できるだけ患部を温めておくように伝えてくれ。せめてそれ以上冷やさないように。凍傷になっている可能性がある。救助が行くまで注意を怠らないようにしてくれ』

 

 その言葉を最後に、通信が切断された。

 

「美鶴、幾月さんはなんと?」

「この場で待機だ。明彦は足をなるべく動かさず、それ以上冷やすなと。」

「そうか……」

 

 被害者から近い路地に体を預けた明彦が言葉に悔しさと怒りを滲ませ、睨みつけた右足に上着を巻く。

 

「……悔しそうだな」

「当たり前だっ! 一般人をボロ雑巾のように痛めつける奴にやられたんだ、悔しいに決まってる」

 

 そう言いながらも明彦の目はイレギュラーを探すようにあたりを見回している。

 

「今日の結果は、油断も一因だと思うが」

「っ!」

 

 私の言葉に明彦は言葉につまる。自覚はあるようだ。ならこれで少しは悪癖が治るといいが……

 

「……そういう美鶴も、悔しいのは同じじゃないのか? 役に立てなかったとでも考えているんだろう」

「……まぁな。サポート役としての力不足を痛感した。戦闘と分析を同時にできれば理想だが、せめて初めから私も戦闘に加わっていれば結果は違ったのかもしれない」

「分析をしようとした判断が間違いだった、という訳でもないだろう。その慎重さに助けられる事もあった」

「なら、もう少し私の言葉を聞いて欲しいものだな」

「うっ! それは……」

 

 明彦はまた言葉に詰まった。

 しかし明彦が言いたい事は、私が明彦に言いたい事と同じなのだと分かる。

 

「明彦。今日我々はイレギュラーを取り逃した。しかしそれは今後また合間見える可能性がある、という事だと私は思う。幸いにも、何故か突然イレギュラーが逃走した事で我々は生きている」

「リベンジマッチに備えろと言うんだろう? こっちもそのつもりだ。次に会った時には、必ず倒す!!」

 

 拳を握り締めて意気込む明彦と二人。

 私達は更なる力をつけると心に決めて、今は救助を待つ。




 おまけ

 噂のイレギュラーこと、影虎のその後

 二人の視界から逃げた後、俺はトラフーリで部屋に戻った。そして、今はベッドの上で悶えている。

 脳筋でも流石は全中ボクシング王者、ギリギリの戦いだった……打ち込みの対応でスキル使う余裕が無くなるとか、あれが原作キャラの力か。でも、俺も負けてはいなかった。戦っている最中に掴みかけた事もあるし、なにより

「なんとか、最後に一泡吹かせてやれた……はず。けど痛てぇ……」

 戦闘中は感じなかった痛みがぶり返した事もあるが、そっちはたいした事じゃない。ドッペルゲンガーの物理耐性のおかげで治療が必要そうな怪我は無かった。問題はペルソナを暴走させた時のように戦い、それを見られた事。

「あれは、黒歴史かも……」

 日頃のタルタロスでの戦い方が自然に出たんだ。戦闘中に理性を完全に失ったわけじゃなくて、自覚はあったが怒りと高揚感で気にならなかった。それが冷静になってみると……きっと脳内麻薬とかそんな感じのが出ていたんだ。

「せめて奇声を上げていなければ、まだよかったのに……いや、まともに喋れる状態だったら人間ってバレるか……」

 あの場で戦った事は後悔してないけど、もうちょっとやり方はあったと思わないでもない……まぁ、やってしまった事は仕方ないし、正当防衛だし、今日はもう寝よう……

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日の戦果
影虎VS真田&桐条
影虎の被害:打撲と胸部の痛み。
真田の被害:右足の凍傷1度、場所により2度
      表皮から真皮までの凍傷で比較的軽度なため切断は不要。

判定で勝者は影虎?

影虎は達成感と実戦経験を得て、何かを掴んだ。
影虎の中で、特別課外活動部に入るという選択肢が遠のいた。
特別課外活動部は新たな仲間を得る機会を知らずに逃してしまった。
しかし真田と桐条のやる気が上がった?

戦闘描写と他者の視点ってムズいのが分かった……


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18話 手伝い

 4月21日(月)放課後

 

 ~アクセサリーショップ・Be blue V 店内~

 

 俺はどうしてここに居るんだろうか……

 

 事の始まりは昼休みが終わる直前、俺の携帯から聞こえたツィゴイネルワイゼン。

 着信は江戸川先生からで、用件は暇があったら買い物の手伝いをして欲しいらしい。

 一昨日の連戦で体を酷使した俺は、今日まで休むと決めて予定を入れていなかった。

 そして授業が始まりそうなタイミングだったので、深く考えずに手伝いを承諾した。

 

 約束の放課後。

 江戸川先生が車を出すと言っていたので、待ち合わせ場所の教員専用駐車場まで向かうと驚いた。教員用駐車場の存在を初めて知ったとかそういう事ではなく、江戸川先生の車がイメージに合わない真っ赤なスポーツカーだったことに。しかも、車はおそらく誰もが知っている超有名ブランドの高級車だった事にだ。しかも内装は一般的。

 

「よく来てくれました、影虎君」

「はい……」

「おや? どうかしましたか?」

「江戸川先生、いい車に乗ってらっしゃるんですね。予想していた車とちょっとイメージが違って」

「人は目に見える物で多くを判断します。持ち物や身につける物は安っぽかったり奇抜な物よりも、ある程度ちゃんとした物の方が何かと波風が立たなくて便利ですから。江古田先生とかは社会人としてそのあたりにも厳しいですしねぇ」

「それにしたって、高いでしょうこの車。下世話な話ですけど……」

「この学校のお給料はいいですし、必要なら収入は他にも……まぁ、どうにかなるものです。特にこだわりがあってこの車を使っている訳ではないので、影虎君は遠慮せず乗ってください」

 

 先生がそう言って助手席の扉を開け、まず感じたのはお香のような謎の匂い。ここで江戸川先生の車という事をなんとなく実感した。そして同時にこう思った。

 

 ……車よりも、普段の行動とかもっと他に取り繕うべき所があるだろう!?

 

「シートベルトをしたら出発しますよ」

「よっ、と……シートベルトOKです。ところで今日は何を買いに行くんですか?」

「ヒッヒッヒ、それはですねぇ……おっと」

 

 車を出そうとした先生が近づく他の車に気づいて止まり、先を譲ってから再発進。そのタイミングで出てきた言葉が……

 

「昨日のサバトで使っていた物が色々と壊れてしまいまして、また買い揃えなければいけないのです。少々量が多くなるはずなので、きっと車に運ぶのも一苦労……手伝ってくれて助かります、影虎君」

「そういう買い物だったんですか!? てかどうしてそんな事になるんですか!?」

「ちょっと失敗しまして……まぁ、些細な事です。この機会に影虎君も色々見てみるといいでしょう。部活動初日に興味がありそうでしたしね……ヒッヒヒヒ」

 

 あの時二つ返事で了解したのをちょっと後悔した。

 

 そして連れてこられたのがポロニアンモールのBe blue V。ここのオーナーが江戸川先生の知人だそうで、従業員以外立ち入り禁止になっている店の奥のさらに奥。オーナーのプライベートな部屋へ通された後はもう、江戸川先生の同類だなぁ……としか言えない。

 

 強いて違いを挙げるとしたら、江戸川先生の部屋がミイラとか動物系の物が多いのに対して、ここは宝石やパワーストーンが多い。ずっと体調を良くするヒーリングの店だと思っていたけど、ゲームだと能力が向上するアクセサリーを売っている店でもあるんだっけ? どっちにしろ、なんとなく納得……

 

 あとは部屋の隅に積み重なる古くて統一性のない品物の数々が気になる。他は整然と棚に並べて飾られたられた宝石や置物なので綺麗に見えるが、そこだけまるで物置の中身を引っ張り出してきたみたいだ。

 

 そんな風に部屋の物を眺めていたら、相談をしてくるからと席を外したオーナーさんと江戸川先生が戻って来た。

 

 オーナーはジーンズと黒のタートルネックを来て、ショールを羽織った線の細すぎる中年女性。魔女っぽいというか、病んでそうな雰囲気なので、言っては悪いがちょっと不気味……

 

「先生、お話は終わりましたか?」

「ええ、ほったらかしにしてすみませんねぇ。でも、今日は良い買い物ができましたよ」

「こちらこそ、良い商談ができました……例のものをお忘れなく……フフフ……」

「もちろんですとも……ヒヒッ」

 

 なんか、お二人ともすげぇ怪しい笑みを浮かべてらっしゃる……と思っていたらオーナーがこっちを見た。

 

「それにしても、江戸川さんが人を連れてくるなんて……葉隠くんは生徒さんなのよね?」

「はい、江戸川先生に部活の顧問をしてもらっています」

「聞けばこちら側の事(オカルト)に興味があるとか」

「時々ネットでそういうサイトにアクセスするくらいには」

「そう……パワーストーンに興味は?」

「割とありますね」

 

 この店のアクセサリーに能力向上の効果があるなら、その秘密がパワーストーンだとしたら、そう考えたら興味も出てくる。

 

「あら、そういう事ならお近づきのしるしに何か一つプレゼントしましょう。何が良いかしら……」

「いえ、そんな」

「遠慮は要らないわ。その代わり、どうぞBe blue Vをご贔屓に」

 

 そう言われるとこれ以上断るのも失礼な気がしたため、結局アクセサリーを貰う事になってしまった。しかしこの店に来てからこの応接室に直行したので、どんなアクセサリーがあるのか分からない。

 

 困ってあたりを見回すと、部屋の隅が目についた。

 

「……そっちの山は商品じゃないわ。それはこっちのコレクションを集める過程で集まった余計な物、ただのゴミだから」

「コレクション?」

 

 オーナーが見ているのは棚の中。確かに宝石類に混ざって古い物がいくつも並べられているけど、違いがよく分からない。

 

「そういえば影虎君には教えてませんでしたねぇ……彼女はいわゆる“いわくつき”の品を集めるのが趣味なんです。綺麗に見えても、迂闊に触っちゃいけませんよ」

「人づてで買うと、ちゃんと憑いている(・・・・・)物は少ないのよね……売り手が思い込んでいるだけなんて事がざらにあるから、ただ古いだけの物がこんなに集まっちゃって……」

 

 憑いている、ってそういう事だよな?

 ……ペルソナとかシャドウも居るし、存在を否定できないだけに怖いな!?

 つか江戸川先生の注意が遅い! でも、逆にそれならこの山の物は安全?

 

 そう思ってこの中から選べないかと聞いてみると、むしろ持って行ってくれた方が助かると言われ、江戸川先生が購入した物の用意ができるまで目を通した末に、部室に似合いそうな古い茶道具一式をいただく事にする。

 

 それからオーナーの用意したズッシリと重い箱を三箱、近くの駐車場に停めた先生の車まで積み込んで戻ると、さらにオーナーは茶器が店の商品じゃないという理由で、店頭の商品から“ラックバンド”をくれた。あなたにはこれがいいと思うわ、と一言添えて。

 

 ゲームでは運を上げるアクセサリーだったけど、何に関わるステータスだっけ?

 まぁ、とりあえずはお礼だな。

 

「ありがとうございます、こんなにいただいちゃって」

「フフフ……今度はお客様として来るのを期待しているわ」

 

 また怪しげに笑うオーナーに見送られ、俺は茶道具を抱えて江戸川先生とBe blue Vを出る。

 

 オーナーは江戸川先生の同類らしいけど、結構まともな人だったな……

 最終的にそう感じた俺は、江戸川先生に毒されてきているのだろうか?




影虎はBe blue Vの裏側を知った!
影虎はラックバンドを手に入れた!
Be blue Vでアクセサリーを購入できるようになった!

運のステータスは確立に左右される物事に関わります。
例:バステの付着率、クリティカル発生率など

普通の店のアクセサリーに何で効果があるんだろう? って考えていたら書いていた。
せっかく書いたので投稿しました。


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19話 思いもよらない事故

 学校前

 

「買い込んじゃいましたね、色々と」

「できればもう少し買っておきたかったんですけどねぇ……そうすればしばらくは部室にこもれるんですが」

「いやいや、十分でしょう。冷蔵庫の容量もあるんですし」

「大型ですからもう少し入ると思いますよ?」

「食材の鮮度が落ちる前に使い切れませんって。江戸川先生、料理しないって言ってたじゃないですか。それに中身を詰めすぎると電気代にも悪いですよ」

「私も作れないことはないんですけどねぇ……普通の料理はどうも手を抜きがちで。体に良くないと知りつつ、ついついレトルトやカップ麺に手が伸びてしまうんですよねぇ……」

 

 右手には食品の入った買い物袋。左手には貰い物の茶道具が入った、これまた貰い物の丈夫なカバン。荷物を抱えて江戸川先生と学校の前を歩く。

 

 Be blue Vからの帰りに抹茶を買いにスーパーに立ち寄ったら、ついつい余計な買い物もしてしまった。おかげで荷物が大分増えた。一度では部室に運べないので、まずは茶道具と食品だけを運んでいる。

 

「おや?」

 

 話していた江戸川先生が前を見て呟く。何かあるのかとそっちを見てみれば、誰かがむこうから走ってくる。ジャージを着ているので運動部の活動かと思ったが、どうも様子がおかしい。全力疾走でやけに急いでるというか、慌てているというか……ってか、よく見たら宮本だ。

 

「宮本!! どうした!?」

「ハァ、ハァ、影虎……に江戸川先生ッ!? っ、この際だ! 先生来てくれ!」

「ちょっ、いきなりなんだ?」

「なにかありましたか?」

「急患! 部活でランニングしてたら小等部の生徒が倒れてた! とにかく早く!!」

 

 宮本が息をきらせながら伝えた内容に、俺と先生は顔を見合わせて動き出す。

 

「影虎君、失礼します」

「先生、荷物は持ちますから先に!」

「任せました」

「早く頼んます!」

「今行き、ちょっ!?」

 

 荷物を受け取った直後、江戸川先生は宮本に腕を引かれて走り出し、俺も二人分の荷物を抱えて後を追う。

 

 月光館学園は小等部、中等部、高等部に分かれていて、高等部を中心に横並びで建っている。小等部の校門前を駆け抜けたから……このまま行くと高等部や中等部、あとは俺達の部室の方だけど、何でこっちに小等部の生徒が?

 

 気になりながらも足を動かすと、部室のある林からほど近い道に集まる人だかりが見えてきた。皆ジャージで円の中央を見ている、きっとあそこに怪我人がいるんだろう。

 

「おーい! どいてくれ!! 保険医連れてきた!!!」

「はぁ、はぁ……」

 

 宮本が大声で叫ぶと何人かが気づいて道を開けた。

 一部の生徒は先生を見て顔をしかめて少し余計に距離を取っていたが、それよりも怪我人と思われる生徒の傍らに見覚えのある女子生徒が膝をつき、頭や頸部に湿ったハンカチを当てて介抱していた。

 

「山岸さん!」

「え? 葉隠君! それに……」

「交代します。ちょっと見せてください。それからこの子が倒れた時の状況、分かればできるだけ詳しく聞かせてください」

 

 先生が倒れた男子生徒の脈拍や外傷を観察しながら聞くと、まず発言したのは周りを囲んでいた生徒の一人で、前に俺を勧誘に来ていた陸上部の先輩だった。

 

「友達に突き飛ばされたみたいです。俺らはこの道でランニングしてて、そいつを見つける前に小等部の生徒三人とすれ違ったんすけど、そんなことを言いながら逃げて行きました」

 

 さらに周りから出てきた同じ目撃証言や捕捉をまとめると、その生徒達はわざとではないが被害者を突き飛ばしてしまった。その結果、被害者は倒れて意識不明。突き飛ばした三人の小学生は顔面蒼白で、責任を互いに責任を押し付けるような言い合いをしながら走り去った。そして気になりつつもランニングを続けたら、倒れた被害者とそれを介抱しようとする山岸さんを見つけたんだと。

 

「……おそらく脳震盪でしょう」

 

 その言葉に周りからは安心したような雰囲気が流れる。けど、実はそうでもない。

 

「先に見つけたのは貴女ですか」

「は、はい! この子が突き飛ばされる所に偶然居合わせて、突き飛ばしちゃった子達はふざけながら競争して、ちゃんと前を見てなかったみたいで……倒れたまま動かないこの子を見てパニックになってたみたいです」

「なるほど、倒れてからどれくらいかは分かりますか?」

「それははい! 五分三十秒です!」

「救急車、誰か呼びました?」

 

 脳震盪で失神して五分以上。そう聞いて俺は口を出していた。

 

「救急車? いや、俺は……お前は?」

「俺!? してねぇよ、携帯置いてきたもん」

「部活中だし、ジャージだしなぁ……」

「だから俺が走ったんだって」

「つーか、脳震盪なら救急車とかいらなくね?」

 

 そんな会話が方々でされ、結局は誰も救急車を呼んでいないという。

 

「先生」

「私も学校のほうに連絡しますから、救急車は影虎君お願いします」

 

 俺は即座に荷物を腕にかけ、開いた片手で携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。

 

 

 

 

 

「……そうです小学生男子一人。月光館学園高等部の校門を目印に、左に入った所です。はい、養護教論の診断では脳震盪。失神から五、いえもう六分です。はい、頭を動かさないように……はい……はい、よろしくお願いします」

 

 連絡が終わり電話を切る。江戸川先生はまだどこかに電話で状況を説明しているようだ。

 

「ええ、ですからすぐ小等部の養護教論を。それから担任にも一報を。クラスは4-A。名前は“天田(あまた) (けん)”君です。」

 

 天田、乾?

 

 聞き覚えのある名前に、つい被害者を見た。

 そして今になって気がついた。目の前で倒れているのは、原作キャラの中で唯一小学生の天田(あまた)(けん)。ゲームキャラよりももっと幼い顔つきと、転んだときに付いたであろう顔の擦り傷。他にも手や足に絆創膏が張られているが、言われてみると確かに天田だった。視界に飛び込んできたランドセルにも、しっかりと名前が書かれている。……何故? どうして今ここに居るんだ?

 

「……い……おい……影虎!!」

「っ!? 何だ、宮本? った、耳元で叫ぶなよ……」

「いくら呼んでもきづかないからだろ。っつーかどうしたんだよ、急に深刻そうな顔して黙り込んで。そんなに心配か?」

「……ああ、まぁな」

 

 本音を押し込み、とりあえず話をあわせておく。

 

「脳震盪ってのは漫画、特に格闘技系の漫画じゃよく“たいした事ない”なんて言うけど、本当は全然そんな事無いんだよ」

「そうなのか?」

「脳震盪は頭部に衝撃を受けたことで脳が揺れて起こる意識障害のことだけど、これは症状のレベルが軽度、中度、重度の三段階に分かれている。格闘技の試合なんかである、体を動かせないけど意識はあるのは軽度。気絶して二分以内に目を覚ますのが中度、二分以上は重度。現段階でこの子は六分以上の気絶だから、重度の脳震盪になる。

 軽度なら安静にしていればまず危険は無いと言われているけど、それでも一日は様子を見たほうがいい。これは脳震盪が頭に衝撃を受け、脳が揺れて起こるため脳がダメージを受けているから。今は大丈夫でも後々症状が出てくる事もある」

「マジかよ……」

「脳震盪は、本当はよく聞くほど軽いものじゃない。俺もパルクールを始めてから知った」

「影虎君の言うとおりです」

 

 連絡が終わった先生が話に混ざってくる。

 

「もう少し詳しく説明しますと脳震盪の症状はめまいやふらつき、その他の短期症状だけでなく、数日から数週間にわたって続く長期症状もあります。重度になれば注意力の欠如や頭痛が数ヶ月続くケースも。

 加えて脳が受けたダメージから回復する前に再び脳震盪を起こした場合はダメージが重なり、脳はさらに大きなダメージを受けます。これは“セカンド・インパクト・シンドローム”と呼ばれますが、その致死率はなんと50%かそれ以上。非常に危険なのです。だからこそ脳震盪を起こした時は頭を揺らさず安静にし、意識が無い場合はもちろん、意識があっても病院で検査を受けるのが無難なわけです。取り返しのつかない事になる前にね。

 見たところ君達は陸上部。格闘技やラグビーとは違ってプレイヤー同士の直接的な接触がある競技はないでしょう。けれど、運動部であれば何かの拍子に、とも考えられます。もちろん日常生活でも……この機会によく憶えておいてくださいね。ヒッヒッヒ……」

「ウ、ウッス」

「江戸川が……」

「まともな保険医らしい事を言っている、だと……?」

「ですが……脈拍や瞳孔にも異常は無いので、差し迫った状況ではありません。そこまでの心配はいらないでしょう、影虎君」

 

 一部関係のないところで驚愕する陸上部の生徒をよそに先生がそう言い、俺達は手持ち無沙汰でただ天田少年の無事を祈る。すると数分後、集まった人だかりが不意にざわめいた。

 

「怪我人はここかっ!」

 

 鶴の一声でまた人ごみがいっせいに割れる。そのさきに居たのはやはりといえばいいのか、桐条先輩。だが、今日はなにやら普段の余裕が感じられず張り詰めている気がする。

 

「江戸川先生、怪我人の容態は?」

「今は気を失っていますが、安定していますよ。それにしても桐条君はなぜここに? ひょっとして、この子とお知り合いでしたか?」

「いえ、たまたま職員室で先生と鳥海先生の話が聞こえたので。野次馬の整理にでも力になれないかと」

「責任感が強いんでしょうかねぇ……おやぁ?」

「失礼します、どいてください!」

「江戸川先生、天田君は」

「おや、菊池先生に光井先生。桐条君にも言いましたが、気絶していますが、脈拍は正常。顔色もいいですし、安定していますよ」

「そうですか、良かった……」

「ありがとうございます」

 

 今度来たのは小等部の先生か、と思えば遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。

 

「……早くないか?」

「緊急時に備え、月光館学園の近くには消防署と迅速な対応のマニュアルが存在する。通報からの時間を考えれば、特別はやくはない。それよりも道を開けてくれ、他の者も道の端によれ!」

 

 流石は桐条。緊急時への備えも万全のようだ。というかこの学校、昔は秘密の実験場でもあったんだ。そりゃ備えもあるだろう。

 

 桐条先輩の指示に対して全体が即座に従い、救急車の通り道が開く。

 じきにやってきた救急車が止まり、天田少年は救急隊員に運ばれ、二人の先生と病院へ搬送される。俺は救急車が見えなくなるまで、その様子を道の端で眺めていた。

 

 天田乾……についてはひとまずこれでよし。しばらくは注意が必要だろうけど、体に障害が残ったりはしないはずだ。なぜならこの世界は、良くも悪くも原作に向かって進んでいる。そして彼は将来特別課外活動部の一員となる人物。この件で重篤な後遺症が残るようなら、危険なタルタロス攻略のメンバーに入っているとは思えない。ただでさえ彼はメンバーの中で一番幼く、体もできていないんだから。

 

「なるほど、運ばれた天田君を最初に見つけたのはそこの女子生徒か……ありがとう。………ちょっといいだろうか? 私は二年の桐条美鶴。すまないが、名前を教えてもらえるか?」

「は、はい! 山岸風花です!」

「そんなに身構えなくていい。少し時間を貰えないだろうか? 怪我人を発見した時の状況を詳しく聞きたいんだ。差し支えなければ江戸川先生もお時間をいただけませんか」

 

 周りの生徒から状況を聞きだし、最初に介抱していた山岸さんを呼び止めた桐条先輩。江戸川先生からもより詳細な状況を聞きだそうとしているところを見ると、俺としてはやはり天田君が関わっているから気にかけているようにしか見えない。

 

 特別課外活動部の三年生三人は、原作開始前に荒垣の起こした暴走により、天田君から母親を奪った。当然故意ではないが、それは三人それぞれが後悔と罪の意識にさいなまれていた……そんな関係者以外が知るはずのない事情を知っているからそう思うのだろうけど、たぶん間違ってない。今の桐条先輩は話を耳にして体が動いたというか、今までと比べて衝動的でガードが甘そう。今なら何か情報を聞き出せるかもしれない。

 

 ……天田君のことを気にするのは向こうの勝手だし、事情を加味すれば気になるのも仕方ないと思う。しかし、気がかりなのは桐条先輩と山岸さん、原作キャラの二人がここで顔を合わせた事。

 

 原作前のことはほとんど手探り状態だけど、この二人の出会いは山岸さんの加入の時だったはず。それまでは山岸さんの事情も知らず、真田(脳筋)は順平にD組の名簿を入院中の自分に届けさせ、山岸さんのほうもタルタロスで救出された時が初対面だった。

 

 現時点でかなりの有名人である桐条先輩と真田(脳筋)。彼らと原作開始以前に接点があるとしたら、山岸さんの記憶に残っていないというのは考えにくい。描写が無かっただけか、それとも……

 

「影虎君」

「先生?」

 

 考え事に集中しすぎた。もうまわりに陸上部の姿は一つもなく、江戸川先生、桐条先輩、そして山岸さんの三人しかいない。

 

「あれ、いつのまに……?」

「搬送された彼が心配ですか? 自分の手の心配もしたほうがいいですよ?」

「手?」

「あの、葉隠君……手の色がすごい事になってるよ?」

「血が止まりかけているのではないか?」

 

 三人の指摘を受けて目を向けると、腕の血色が悪い。大量の荷物を入れた袋が、肘に引っかかったまま腕の血管を圧迫している。

 

「おうっ!?」

「気づかないほど怪我人を心配するその気持ちは良いですが、心配のしすぎはよくありませんよ。さぁ、荷物をこちらに。腕の血流を戻してください」

「私も持とう」

「わ、私も」

 

 そう言って手を伸ばしてくる三人。まず先生に右手の荷物を渡したが、二人にも? 

 

「あはは……本当に聞こえてなかったんだね」

「話は部室で、と言う事になったんですよ。ヒヒッ……」

「遠慮はいらないさ。早く荷物を」

「血管の過度な圧迫が続くと血栓ができる原因になりかねないから、ね?」

「詳しいな、山岸さん」

「私の家は代々お医者さんの家系だから」

 

 そういえばそういう設定もあったような気が。

 

「じゃあ、すみませんが頼みます。でも一つくらいは……」

「はいはい、影虎君はこっちですよ」

「? 鍵?」

 

 先生が俺の荷物を素早く取って二人に渡し、代わりに鍵を握らせた。

 

「部室の鍵です。影虎君は一足先に行って部室のドアを開けてください。そして……」

 

 そこから急に声が小さく早口になり、先生は後ろの二人の耳をぬすんで伝えてくる。

 

 何?

 

「昨日のサバトに使った魔法円が部室に入ってすぐの床に敷きっぱなしなんです。場所の移動が決まってから思い出しました。桐条君に見られるとうるさそうなので、足の速い君は先回りして片付けてくれませんか。丸めて私の部屋に放り込むだけで十分ですから」

 

 そういう事ですか……まぁ、買い物にも付き合ったし、乗りかかった舟だ。控えめに頷いて了解の意思を表す。

 

「じゃあ先行ってお茶の用意をしておきますね」

「あっ、「お構いなく」」

「荷物を持ってもらうお礼も兼ねてですから。それじゃ!」

 

 条件反射か言葉がかぶった二人を残して駆け出す。

 腕が少々動かしにくいが足は軽快。助走をつければ勢いにのれる。

 一気に林へ駆け込んだ俺は、疑問を頭の片隅に追いやり、部室への最短ルートを突っ走った。




影虎は天田乾の姿を確認した!
山岸風花と桐条美鶴が遭遇した!
影虎が内心で頭を抱えた。


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20話 事情の把握

「ふぅ……」

 

 江戸川先生の要望通りに部室に敷いてあった怪しい物を無事に隠した後、手の空いた俺が先生の車から部室へ荷物を運搬していると、最後の荷物を部室の入口に運び込んだところで先生と鉢合わせた。

 

「おや、もう終わってしまいましたか?」

「江戸川先生、これで最後です」

「すみませんねぇ、結局一人で全部運ばせてしまって」

「別にいいですよ。説明の場にいても俺じゃなきゃ話せない事はないですから。それより、説明は終わりました?」

「ええ、たった今ね。しかし桐条君は君にも話を聞きたいらしく、まだ部屋にいますよ」

「俺にも? 俺は電話を掛けただけで、特別な事は何もしてないと思いますけど……」

 

 まさか、一昨日の影時間に戦ったのが俺だとばれた?

 

「ちなみに山岸さんは?」

「彼女もまだ居ますよ。桐条君と一緒に」

 

 まだ一般人の山岸さんと一緒なら、影時間の話題はないか。

 

「とりあえず、行ってみます」

「それがいいでしょう。私も荷物の整理をします」

「じゃあこれを」

 

 荷物を先生に預け、二人がいる俺の部屋へ……

 

 ……この一言だけだと両手に花に聞こえるな。

 

「失礼します、葉隠です」

「入っていい、と私が言うのもおかしいか」

「じゃあ、どうぞー?」

 

 ノックをしたら二人が困りながら許可を出したので部屋に入る。

 二人は俺がここを使い始めてから用意した、折り畳み式のちゃぶ台を前に座っていた。

 

「お疲れ様です、何かお待たせしたようで」

「こちらこそ私のわがままに付き合わせてすまない」

「江戸川先生から少し聞きました。俺は二人から聞けた以上のことは話せないと思いますけど、それでいいですか?」

「君個人に聞きたい事があったのだが……君から先に話すといい」

「いえ、桐条先輩からどうぞ」

「今日はもう生徒会の仕事も無いんだ、だから君が先に」

 

 山岸さんは最初と比べてだいぶ緊張がほぐれているようだがまだ遠慮が見られ、ゆずりあいが始まった。このままだと時間だけが過ぎそうだ。

 

「山岸さんも俺に何か用なのか?」

 

 俺が話のきっかけを作ると、山岸さんは先輩に軽く頭を下げて口を開く。

 

「えっと、私はこの間のお礼について、相談しようと思ってたの」

「お礼?」

「……もしかして、忘れてるの、かな? この前私が落としたお金を見つけてくれたでしょう?」

「あー……そういやそんな事もあったね」

 

 すっかり忘れてたわ……

 

「それで葉隠君はお礼に缶ジュースを奢って欲しいって言ってたけど、どんなジュースがいいのか聞いてなかったのにあの後気づいたの。探してもタイミングが悪かったのか今日まで会えなくて」

「ああ、それで……待って、探して?」

 

 その一言がやけに頭に引っかかり、繰り返せば山岸さんは何事もないように答える。

 

「うん。近頃忙しくて、お礼が大分遅れちゃったから、はやく聞かないとと思って。でもタイミングが悪かったのかな? 会えなくて、今日は葉隠君の部活の部室を捜し歩いてたの。まさかこんな所にあるって知らなかったから、校内を何週もしちゃった。それで職員室で聞いてここにくる途中であの子の事故を見ちゃって」

「ほー……そりゃ手間をかけさせたなぁ。山岸さんにも部活や都合もあっただろうし」

「大丈夫。私は写真部に入ったけど活動日は火・水・木だから、月曜日の今日は部活がないの。他に用事も無かったから」

「そうなんだ……」

 

 手が汗ばんで、一瞬気が遠くなりそうな気がした。

 

 部活がなくて、用事もない。だったら山岸さんは俺を探すためだけに今まで学校に残り、あの時あの場に出くわした事になる。つまり、彼女は俺が居たから(・・・・・・)あの場に居て、そして桐条先輩と顔を合わせたんじゃないか?

 

「クラスの誰かに、伝言を残せば良かったんじゃ……」

「私もそう思ったんだけど、木村さんに止められて」

「木村さん?」

「葉隠君がD組に来たとき、私を呼んだ女の子なんだけど」

「……思い出した。でもなんで?」

「ジュースとかお金とか、女子が男子にあげるのを大っぴらにやると良くないって言われたの。男子としての沽券に関わるかもしれないし、もし葉隠君が女子に貢がせてるなんて変な噂が立つと迷惑がかかるって。だから絶対、直接会って二人で話した方がいいって」

「なるほど……」

 

 そのアドバイス、最後の絶対から先に年頃の女子のおせっかいが見え隠れするんだが。

 

 うろおぼえの女子に対する理不尽な憤りを抑え、味の好みを搾り出した俺は、そう思わずにはいられなかった。

 

「飲み物はたいてい何でも飲むけど、甘いのや普通のお茶が好みかな」

「分かった。じゃあ今度からそういうのを選んで持ってくるね」

「あ、いやそんな気にしなくても」

「ダメ。葉隠君が見つけてくれなかったら生活費が丸々無くなっていたんだもの。缶ジュースなら負担にもならないし、そのくらいのお礼はちゃんとしなくちゃ。この前は押し切られたけど、今回は譲りませんっ!」

「葉隠君、人の礼と好意は素直に受け取っておくものだ」

「分かりました」

 

 山岸さんは二度無理やり押し切られたせいか、決意を固めてきたようだ。おまけに桐条先輩の後押しまであって、俺はその言葉をただ受け入れていた。

 

「私の話はこれでおしまいなので、次は桐条先輩の番。あ、私は席を外したほうが」

「私は別に構わないが」

「先輩が構わないならいいんじゃないか?」

 

 立ち上がりかけた山岸さんが腰をおろすのを見つつ、考えるのは後だと気持ちを切り替える。するとこれまでよりも幾分か真剣な表情で先輩が話を切り出した。

 

「私が君に聞きたいのは一つ。今日運ばれた天田少年の事だ。君は、彼の知り合いなのか?」

 

 ……やっぱり影時間の話題ではない。けど、どうしてこんな質問を? とりあえずここは知らないと答えるか。

 

「違います」

「そうだろうか? それにしては、あの場での君の様子は私の目に少々おかしく見えた。見ず知らずの相手にしては心配しすぎているような気がしたんだ。それが君の性格だと言われればそれまでだが」

「あぁ……知り合いとは言えませんが、全く知らない相手でもないです」

 

 先輩の目がより真剣さを増した。

 

「部活で最近このあたりを走り回っていますが、何度か見かけたことがあるんです。その時はいつも一人で、暗い顔をしていたようなので気にはなっていました。ただそれだけなので知り合いとは言えません。向こうもこっちの事は知らないでしょう」

 

 俺が部活で走っている事や、天田と面識がないのは事実。ばれにくい嘘をつくコツは、嘘の中に事実を混ぜる事だ。どこかで聞いたそんな話を参考にして言えば、先輩はそうか、と微かに落胆の色を見せた。

 

「桐条先輩は彼とお知り合いでしたか?」

「君と同じで私が一方的に知っているだけだ。おそらく君も知っているだろうが、私はこの学校を経営している桐条グループの総帥の娘だ。一学生という立場をとっているが、色々と聞こえてくることも多い。」

 

 探りを入れたら核心は隠しているが、肯定された。さらに

 

「葉隠君。君に一つ、勝手な頼みをさせてくれないか?」

「内容によります」

「もしこの先君が彼と関わる事があれば、できるだけ良くしてやってくれ」

「具体的に言うとどのような?」

「……挨拶をするだけでも、何か聞かれれば答えるだけでもいい。私もどうすべきかわからない、というのが本音だ」

「あの……何か事情があるんですか?」

 

 黙ってお茶を飲みながら聞いていた山岸さんが質問すると、先輩は俺達二人を交互に見てから他言無用だと念を押し、意を決して話し始めた。

 

 その内容は天田乾の現状。率直に言うと、天田はクラスから孤立しているらしい。原因は去年の10月4日に起こった事故で、母親を失った事。いまは事故からまだ一年も経っておらず、天田は悲しみから抜け出す事ができていない。

 

 クラスメイトも当初は同情的で気を使っていたが、最近は暗いままの天田と関わる事を避けるようになってきていて、天田を気に入らない根暗と言って憚らない生徒もでてきている。まだいじめの事実は確認できていないが、このまま改善されなければ時間の問題だろう。

 

 さらに悪い事に月光館学園は全寮制の学校のため、天田も他の生徒も寮で生活をしている。当然普通の学校よりも顔を付き合わせる時間が長く、寮は心や体を休められる場所にならない。実際近頃の天田は学校の休み時間や放課後は自習でクラスメイトとのかかわりを避け、下校時刻が近づくと学校の傍や町を徘徊して時間を潰し、夜は食事やトイレ以外では部屋から出ないという。

 

「天田少年は母親を失って以来、彼なりに悲しみに耐えているが、少々無理に大人を演じる言動が目立つ。他の子には強がりや生意気にも聞こえるのだろう。

 不満を漏らしている生徒も以前は天田を元気付けようとしていた生徒だ、天田を部屋から連れ出そうとして酷く反発されたと報告がきている。咎めるのも酷だとは思うが、彼自身にも落ち度はある」

 

 嘘から出たまことというべきか、天田の徘徊で俺の嘘が通用したのかもしれないが……これだといじめが始まれば状況の悪化が加速することは想像に難くないな。

 

「あの子がいじめに、ですか……そういえばどこかでいじめが起こるのは社会的に見れば自然な事だとか聞いた気がするなぁ……」

「それはおそらく社会学だな。いじめは社会という枠組みの中から異質なものを排除するための行為の一つだ。排除という行為はその社会を維持するための一つの方法であり、人間だけでなく動物の群れの中でもいじめは起こる。ただし我々の人間社会では排除行為は法やルール、何かしらの規範にのっとって正当に行われなければならず、いじめは私的で不当な排除行為にあたる」

 

 なんの気なしに呟いた言葉に、桐条先輩が付け加えた説明で記憶の底からさらに思い浮かんでくるものがある。

 

「なんか、思い出してきた……いじめには相手の肉体や精神に苦痛を与え、快楽を得る事を目的とする場合もあるとか……いじめに関わるのはいじめを受ける者といじめを行う者、傍観者は存在しない、とか」

「? 見て見ぬふりをする人はいると思うよ?」

「傍観者は手を出さずに見ているだけ。被害者を直接傷つける事は無いけれど、加害者を止めもしない。それは“いじめを黙認する空気”をその場に作り、加害者の行動を助長する。結果、余計に被害者を傷つける加害者……だったはず。……ごめん、俺もあまり詳しくないから」

 

 大学の単位目的で社会学を取っていた、それすら今思い出したのに詳しく聞かれても困る。

 

「しかしまぁ、加害者より被害者の助けになる方に回りたい。というわけで、そのお願いは引き受けます」

「本当か!?」

「いじめや問題を何とかしてくれって頼みなら断りますけど、もし機会があったら仲良くしてやってくれ、くらいなら」

「それでいい。私も事情を聞いて気にかけていたが、直接かかわる機会がなくてな……ありがとう」

 

 桐条先輩はやけに安心したような表情を見せている。

 最後まで本当の事情は話さなかったけれど、やはりこの人も罪の意識はあったんだろう。

 本当の事情は話せる事でもないし、そりゃ小等部の一般生徒の天田と高等部の桐条先輩じゃ機会もないよな……あ、二人とももうお茶がないな。

 

 二人の前に置かれた湯飲みのお茶がほぼ空になっているのに気づき、傍にあった急須に手を伸ばす。しかし持ってみると中身が入っていないようだ。

 

 ちょうどいい、ここらで一旦考えをまとめよう。

 

「すみません、お茶がなくなったのでいれてきます」

 

 俺はそう言って部屋を出た。

 おかまいなく。そう言っていた二人に時間があるならゆっくりして行けと言い残して。

 山岸さんはさっきも言っていたように今日は用事がなく、桐条先輩も生徒会の仕事は終わったそうだ。桐条先輩は天田のために無理に終わらせたのかもしれないが、とにかく二人は暇があるらしく、まだ部屋にいる。

 

 しかし、部屋をでてから気づいた。

 

 ……当たり障りの無い対応なんてせず、どっちの話も一段落したんだから、帰らせてからゆっくり考えればよかったんじゃないの? と。

 

 どうやら、俺はまだ冷静ではないようだ。単に頭の回転が悪いわけではないと信じたい。




影虎は意図せず原作を一部改変した事に気づいた!
かげとらは こんらん している!



余談ですが、いじめなどが多人数に目撃されていると目撃者の間に“傍観者効果”というものが働くそうです。

傍観者効果とは、他にも人が見ているから自分が助けなくても誰かが助けるだろう、手や口をだして批判や被害を受けたくない、傍観者でいれば責任も分散される、などと考えて行動を起こさない人の心理で、傍観している人の数が多ければ多いほど効果が高くなるとか。そしてさらに状況を悪化させるとか、怖いですね。

でもこの傍観者効果について知っている人はそういう場面に遭遇した時、傍観者ではなく人を助けたりいじめを止める側に回る傾向があるそうです。

ということでなんとなく書いてみた。


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21話 小さな転機

 考えてみれば当然のことだった。

 この世界はペルソナ3の世界であり、それと同時に今の俺の現実である。

 原作キャラの経歴はゲームの設定と変わらない。

 だが、彼らはゲームキャラではなく一人の人間だ。

 彼らを取り巻く人間関係や個人の感情、事情が存在する。

 

 その中で葉隠影虎という人間は何者か?

 原作には登場することのない一人の人間だ。

 それが原作にかかわればどうなるか?

 影響の大小は別として、その時点で原作から乖離するに決まっている。

 原作を原作のまま進めたければ、何事にもかかわらないという選択肢しかなかったんだ。

 

 親父達と来年海外に渡る事に決めていれば、きっと俺はここに居なかった。

 地元の高校で未来に目をつぶり、全てを無視して終わりを待つ。

 そうすれば、行き着く先は完全な“原作”だったんだろう。

 

 しかし、俺はもうここに来てしまった。

 原作キャラとのかかわりも作ってしまった。

 これ以上のかかわりを持たなければ、これ以降は変わらないかもしれない。

 しかし、保障も確証もない。もう手遅れなのかもしれない。

 それに俺は、何もせず時を待とうという気にはなれない。

 だったら、どうするか?

 原作は参考程度に、覚悟を決めて不測の事態に備えるしかない。

 結局、やる事は変わらな

 

「悩み事ですかぁ?」

「わっ!?」

 

 給湯室で湯を沸かす俺の眼前に、突如江戸川先生の顔が割り込んできた。

 いきなりはなしでしょう……しかも近い。

 

「また上の空、今日の影虎君は様子がおかしいですねぇ……いえ、おかしくなったのはさっきの事件から。もしや荷物運びの疲れで体調が悪く……これはいけない、早速薬を飲んでもらい」

「待った! 体調は別に悪くないです!」

「……そのようですねぇ。分かっていましたけど」

「分かってたんですか……」

「私は保険医ですよ? 当然です。それで体調が悪くなければ悩み事かと思いましてねぇ、ヒヒヒ。こんなものを持ってきました」

 

 江戸川先生が白衣のポケットから取り出したのは、紫色の布に包まれた長方形の何か。受け取った手触りからして布の材質は絹のようだ。

 

「開けても?」

「もちろんです」

 

 おそるおそる包みを開く。

 

「……タロットカード?」

「ええ、悩み事がある時は、タロットでのリーディングが役に立ちますよ」

 

 そこで先生に相談しなさい、ではなくタロットが出てくるのが江戸川先生らしい……

 

「ところでタロットの使い方は知っていますか?」

「はい、一通りは」

「流石は影虎君、話が早いですねぇ」

 

 ペルソナとタロットは切っても切れないので予習済みだ。何が流石なのかは知らないが。

 

「そのタロットは差し上げますから、好きに使ってください」

「え、いいんですか? これ結構古そうなのに綺麗ですけど」

「古くはありますが、特別なものじゃありません。綺麗なのは使ってないからです。私には普段使いの物があるので、戸棚で埃をかぶり続けるより影虎君が使ったほうが良いでしょう。今日の手伝いのお駄賃と言う事で」

「そういうことなら、いただきます」

「ええ、どうぞ遠慮なく。タロットとは自身の内面に問いかけ、運命を探るための道具。そして運命とはその人の未来や様々な出来事とのめぐり合わせです。これらは常に不確かで、事前に知ることは困難ですが……タロットを上手く使えばより良い人生を探り、歩むための指標になるでしょう。

 例え悪い結果が出たとして、それを踏まえてどうするか。生まれながらに定められ、人の手では変えようのない宿命と言うものもありますが、未来は定まっていません。ゆえに、今の行動や考え方によっては変える事もできるのです。

 悩みの早い解決を願っていますよ」

「はい……」

 

 そのまま立ち去ろうとした江戸川先生が、給湯室の出入り口で振り返った。

 

「忘れるところでした。影虎君、今日は帰る前に一度私の部屋に寄ってください。せっかくですからこの機会にタロットなどの本を数冊差し上げます。

 実はオーナーの所で買った物を置くために整理していたら、いくらか本棚に収まらない本が出てきましてね……ただ処分してはもったいないので、そっちも貰ってください。それでは」

 

 先生はそう言い残して今度こそ立ち去った。何か変な物を押し付けられそうだが、俺はそんな事よりも頭に残った先生の言葉が気にかかる。

 

 運命や未来は不確定、だから変えられる。

 

 変わる、ではなく、“変えられる”

 

 言われてみれば、今回俺は知らずに原作を変えたのかもしれない。

 しかし、言い換えれば俺が自分の意思で変えられる事もある、という事じゃないか。

 それなら、原作を変えて俺が生き残る道も確実性はないが、可能性はあるだろう。

 

 ………………決めた。今日からはその可能性も探るとしよう。セーブもロードもない一発勝負。どのみち、もう後戻りはできないんだから。

 

 決意したその時、給湯室に火にかけたやかんの音が鳴り響き、沸いたお湯でお茶の用意を始める。しかし頭の中は依然としてどう原作に介入するかが大半を占めていて、お茶の用意が終わる頃には手始めに一つ行動を起こす事に決めた。

 

 

 用意したお茶をお盆にのせ、一緒にタロットカードの包みものせて部屋へ戻る。

 

「お待たせしました~」

「あっ、葉隠君」

「はいどうぞ、お茶です」

「ありがとう」

「いただこう」

「すみませんね、ほっといちゃって」

「かまわないさ、私は彼女から有意義な話が聞けた」

「話? 何の話ですか?」

「学校で聞く噂話だ。私の耳には報告として入ってくる事が多いからな。逆に噂話などはほとんど入ってこない」

「今話そうとしていたのは、二年生の真田先輩の話なの」

 

 あの脳筋の話?

 

「真田先輩ってボクシング部の? この学園に来て日が浅いけど、名前はよく聞く」

「真田先輩は有名だからね。ちょっとしたことでも話題にのぼるね。例えば昨日は病院で真田先輩を見かけたって人が居て、今日は怪我で学校を休んでるって。あとは次の公式戦に出られないって噂もあるけど、これは欠場がほぼ確定みたい……」

「もうそこまで詳しい話が流れているのか?」

「真田先輩は公式戦無敗で注目を集めてますから、学園の掲示板には頻繁に情報が上がります。今はまだ不確定情報として大騒ぎしないように自粛している状態ですけど、やっぱり?」

「ああ、次回の公式戦は休場することが決定したそうだ」

「ロードワーク中に変質者に襲われて液体窒素をかけられたって聞いてますが、本当なんですか?」

「待った、何その話、どんな状況だよ」

 

 山岸さんの質問に思わず突っ込んでしまった。

 桐条先輩も目を丸くしているが、山岸さんにふざけている様子は無い。

 

「噂だと真田先輩の怪我って凍傷らしいの。あと病院で先輩を見かけたって言ってる人が、次に会ったら必ず倒す、とか呟いているのを聞いたって話もあって。……本気かどうか分からないけど、一部では先輩に怪我をさせて出場できなくさせる相手選手の陰謀論を唱える人が居たり、犯人を探し出そうって声もあるの」

「うわぁ……」

 

 すごい話になってるなぁ。犯人探しをしようって人が居ても、影時間には象徴化してるだろう。俺は高みの見物でいいが、桐条先輩が頭を抑えてしまう。

 

「明彦め、不特定多数の人目がある場で不用意な発言を……山岸君、その件はまだ伏せていて欲しい。明日にでも正式な発表がある」

 

 すぐに山岸さんが了解を示すとそこで話が終わり、沈黙が流れる。

 

 よし、ここで話を……

 

「そうだ二人とも、まだお時間あります?」

「ああ、さっきも言った通り今日の仕事は終わっているからな」

「私も、もう寮に帰るだけ」

「そうですか、なら占いでもしてみませんか?」

 

 俺はタロットカードの包みを机に押し出す。

 

「占い?」

「実はさっき江戸川先生からタロットカードを貰いまして、相手を知る機会にもなるかと」

「……何故パルクール同好会でタロットなのかは疑問があるが、そうだな、たまにはそういうものを試すのもいいだろう」

「さ、賛成!」

 

 江戸川先生の事を考えたのか、桐条先輩の顔はピクリと動いたが、特に反対されることは無かった。山岸さんは沈黙より話題が合ったほうがいいと思ったのか即賛成。もしかすると桐条先輩は山岸さんの気まずさを酌んだかもしれない。

 

 とにかくこれで占いをする、と言う話に持っていけた。問題はここからだ……

 

「それで? タロットカードでの占いはどうやる?」

「私もタロットカードは知ってるけど、占い方はしらないよ」

「その辺は大丈夫です。前に江戸川先生から教わったので、俺が二人を占います。どっちから先にやりますか?」

 

 そう言うと二人はおたがいに譲りあい、最終的にじゃんけんで山岸さんが先に占う事に決まる。しかし……桐条先輩がじゃんけんとは珍しい物を見たな。本人もめったにやらないんだろう、手の動きがたどたどしかった。

 

「では山岸さん、このカードを好きなだけ混ぜてから一つの山にしてください。今回はとりあえず金運や恋愛運などではなく、総合的に見たその人の運命や状況を占います」

「はい……これでいい?」

「次はその山を好きなところで三つに分け、好きな順番で一つの山に戻してください」

「……できました」

「次はその山を縦にして、どちらが上になるかを決めてください。タロットカードには書いてある絵柄や文字が普通に読める正位置と逆さまの逆位置があり、正位置と逆位置ではカードの意味が変わるので、間違えないようにここではっきり決めておくんです。

 専門の占い師だとどっちが正位置とか決めてる人も居るみたいですが、俺はそういうの無いんで」

「じゃあ、こっちが上で」

「了解。俺が見やすいように、俺から見て上になるよう置きますね」

 

 俺はカードの山を受け取り、敷物代わりに敷いた紫色の布の上で滑らせるようにカードを広げる。……ちょっと歪んだしカードの間隔がバラバラだけど、まぁよしとする。

 

「この中から七枚のカードを選んでください」

 

 山岸さんがゆっくりとカードを選び、俺はそれを選ばれた順に並べていく。

 

 まず一枚目から三枚目を上、右下、左下と三角形に配置。続いて四枚目から六枚目を下、左上、右上と逆三角形に配置。最後にその中心に一枚配置してヘキサグラム・スプレッドと呼ばれる配置の完成。

 

 タロットカードの並べ方はスプレッドと呼ばれ、占う内容や目的に合わせて沢山あるスプレッドを使い分ける。そして配置するカードの位置にそれぞれ意味があるが、今回のヘキサグラム・スプレッドでは一枚目が過去、二枚目が現在、三枚目が未来。そして四枚目が環境や周囲の人々、五枚目が無意識の望み、六枚目がとるべき方法や避けるべき事柄。最後に七枚目が総合的な結果や問題の核心を表す。

 

 そして山岸さんのカードは……

 

 一枚目、魔術師の逆位置

 二枚目、隠者の逆位置

 三枚目、搭の正位置

 四枚目、剛毅の正位置

 五枚目、愚者の正位置

 六枚目、月の正位置

 七枚目、女教皇の逆位置

 

「なるほど……」

「えっと、どうなのかな?」

「全体的に見て、悪い」

「はうっ!?」

「ふむ、どう悪いのかを説明してもらえるか?」

 

 言われなくともそのつもりなので、一つ一つ説明していく。

 

「まず一枚目と二枚目、これは過去と現在を表すカードです。正位置ならば魔術師は変化や好奇心、隠者は解明などの意味を持つ良いカードなのですが、この二枚は逆位置。そうなると魔術師は優柔不断ですとか、保守的な意味合いになります。

 隠者の逆位置にも内向的な意味合いがあるので、おそらく山岸さんは過去から現在に至るまで、内気であまり積極的になれないところがあるのではないでしょうか? ……そしてそれに自分でも嫌気がさし始めている」

「……当たってると、思います。どうして?」

「隠者の逆位置にそういう意味もあるのと、五枚目のカード。ここはその人の望みを表す位置で、そこに転機や新しい始まりといった意味がある愚者の正位置があったので。

 他には……そうだな、四枚目に出た剛毅の正位置。この場所は環境や周囲の人々を表し、カードに書かれている文字はストレングス、つまりは“力”。危険に立ち向かったり、強い意志や潜在能力といった意味がある。

 環境や人間関係を表す場所である点を考えると、力関係のある人とのかかわり、あるいは支配。……親御さんが厳しいか、望まない進路を押し付けられている、って感じかな?」

「すごい、当たってる!」

 

 当たり前だ、俺は原作を知ってるんだから。

 

 タロットカードの解釈は一枚につき一つではない。いろいろな解釈があり、他のカードとの組み合わせで内容を解釈するのが本来の占い、リーディングになる。

 

 しかしいま俺がやっている事はその逆。出たカードの複数ある解釈から、俺が知っている過去や未来へ繋がりそうな意味合いを選んで抜き出して伝え、さも占いで当てたかのように見せているだけ。使用するカードも解釈の幅を広げるため、詳細な意味のある小アルカナのカードは初めから抜いて大アルカナしか使っていない。インチキのようなものだ。

 

「あとは三枚目の搭、六枚目の月、七枚目の女教皇の逆位置ですが、どれもあまり良くない意味になります。搭があるのは未来を表す場所、未来になんらかの問題が起こると考えられる。月がある場所はすべき事、避けるべき事を表しています。カードの意味が曖昧なので内容も曖昧ですが……不安定だったり、臆病になったり、悪意を向けられたりするかもしれません。他人をそうするのが良いとは思えないので、これは避けるべき事と解釈します。

 七枚目の女教皇の逆位置は不安や耐える……山岸さんの占い結果を総合すると、未来に問題が起こる可能性あり、忍耐が重要。特に人間関係に注意です」

 

 そういうと山岸さんは心なしか落ち込んだようだ。

 

「まぁ、あまり気にし過ぎないように。未来に問題が起こるとして、それは明日かもしれないし来年かもしれない。でも、これから先の未来がずっとそうではないと思う。五枚目の道化師が表した通り、自由や転機を望んで実現するかもしれないし、四枚目の剛毅が示しているのは未来に意志の強い人や隠された力を持つ人に囲まれると言う内容かもしれない。

 タロットカードの解釈は色々あるから俺の占いが間違っている可能性もある。というかそっちの可能性のほうが高いだろうし、本当になにか問題が起こって耐えなければならない事になっても、それは一人で黙って耐えないといけないわけじゃない」

「そうだな。悩みがあれば周囲の友人や家族に相談しても良い。生徒会も相談は受け付けている。何かあれば、君も相談に来るといい」

 

 桐条先輩から山岸さんにそう声がかけられる。そしてそれを聞いた俺は、心の中で手ごたえを感じていた。

 

 よし! 無事にその言葉を引き出せた、これでひとまずは目的達成だ。

 

 占いの結果という不確定かつ曖昧な情報だが、それをたたき台として山岸さんが人間関係で問題を抱えた場合を考えさせ、その流れで桐条先輩から相談にのるという言葉を引き出せた。

 

 これで実際に山岸さんへのいじめが起こればどうなるか?

 素直に彼女が相談して勝手に解決するかもしれない。

 そうでなければ、俺が今日のことを持ち出して先輩に相談する事もできる。

 原作を知っていても、おれ自身が持つ学校や生徒への影響力は皆無と言っていい。

 そんな俺が一人でいじめ問題のために動いたところで、できる事は少ないはず。

 しかし、それが桐条先輩なら話が変わる。先輩が動けば周囲も無視はできない。

 また、先輩もいじめという問題に対して無視をするとは考えにくい。

 上手くことが運べるかは不安だったが、言質をとれた。

 これは山岸さんへのいじめに対して、大きな切り札となりえるだろう。

 

 特別課外活動部へ影響は気がかりだけど、あとは状況しだいだ。救出イベントが潰れても別の方法で仲間になるかもしれないし、必要なら俺が彼女を影時間に放り込めばいい。

 

 もし原作より早く山岸さんを仲間になったとしても、桐条先輩は警戒心が強い。タルタロスに踏み込むには戦力不足と考えているはず。

 

 ……未来がどうなるかなんて分からない。しかし、俺は俺なりに道を探ると決めた。

 だから、これはそのための第一歩だ。

 

 自分の意思を再確認しながら、並べたタロットを一度片付ける。

 最後に手元に残ったカードは隠者。

 ドッペルゲンガーのアルカナであり、正位置の意味は思慮、質問、結論、内面や真理の探求。

 

 思わぬ結果に悩む事もあるだろうけど、それでも前に進もう。

 

 俺は隠者をカードの山に戻した。

 今度は桐条先輩にインチキ占いをしかけるために。




葉隠影虎は原作へ介入する覚悟を固めた!
影虎は少しだけ積極的に動くようになった!
真田明彦の無敗記録がストップした!


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22話 新たな出会い

最近妄想が爆発している……



 ~影時間・辰巳ポートアイランド駅前~

 

 買い物や事故、インチキ占いと濃密だった放課後も終わり、いまは影時間。

 象徴化して棺桶になった人々が立ち並ぶ駅前を悠々と歩く。

 軽く体を動かしたくなったのでこうして出歩いてみたが、今日も影時間の街は静かで不気味な月に見守られ、タルタロスもいつも通り天高くそびえ立っている。

 しかし今日の俺の視界はいつもと違って明るかった。

 

 これは別に気分がいいとかそういう問題ではなく、実際に明るく見える。

 なぜかといえば一昨日の刈り取る者や脳筋との連戦の後、ドッペルゲンガーが新しく“暗視”という暗いところでも視界が良くなるパッシブスキルを習得したからだ。ついでに意識を向けると遠くが良く見える“望遠”というアクティブスキルや“食いしばり”と言うスキルも同時に得ている。

 

 しかし本音を言うと全部微妙。暗視は便利だけどこれまでそれほど困っていたわけじゃないし、どうせなら刈り取る者と出会う前に欲しかった。望遠は双眼鏡があればいらない気がする。

 

 それから食いしばりはゲームだと力尽きた時に一度だけHP1で復活するスキルだったが、ここではダメージを受けたとき、心が折れていなければ一度だけギリギリ行動可能な力を残す。ダメージが致死量の場合だけ発動するのか? そうでないと本当に意味がないけど、まさか試してみるわけにもいかない。……ってか、これもうただの根性論じゃねぇの? “すごい根性”とでも改名してやろうか。

 

 ……まぁ、偏っている気がするが、成長を自覚できるのは嬉しくも思う。

 最近の影時間での戦いで力はつき始めたし、脳筋との戦いの中にも発見があった。

 だから今日もタルタロスに寄っていこうかと考えたが、今日は探索の用意はしていない。

 軽い誘惑をふりはらい、タルタロスが見えない路地裏に入る。

 普段は不良のたまり場らしいが、影時間なら気にする必要がない。

 いまここで動いているのは俺だけだから。

 

 

 

 ……と思ったら、他にも動く奴が居た。

 まだ周辺把握が届かない距離にチラリと見えた影を、暗視で明るい視界が捉える。

 目を凝らせば対象が拡大され、薄暗いはずの路地も明るく、タカヤとジンの姿がくっきりと映る。

 

 今日はチドリが居ないな。……せっかくだ、声をかけてみるか。

 

 堂々と近寄ると、声をかける前に二人がこちらをふり向いた。

 しかし声はかけてこない。

 

「奇遇だな」

「おや?」

「……なんや、アンタかいな」

 

 声をかけて、さらに近づいてからようやく二人は俺の姿を認識したようだ。

 路地裏は月の光もあまり入らない。肉眼の二人には見えていなかったのか。

 

「お久しぶりです。今日は滅びの搭には行かないのですか?」

「一昨日、少しばかり危ない目にあってな。怪我は無いが休みを取る事にした。戦い詰めだったしな。明日からはまた搭に入るつもりだ。俺は散歩だが、そっちは何故ここに?」

「ワイらは仕事や」

「仕事?」

 

 まわりに復讐代行の仕事が行われた様子は無い。あっても困るし、あったら近づかないと思うが……二人はここに居たよな? 影時間で犯行を行うには待ち伏せも出来ないだろう。チドリと待ち合わせでもしているのか?

 

 そう考えたその時

 

「!」

 

 俺が通ってきた道とは逆、タカヤとジンの向こう側に人影が見えた。

 通りを一つ挟んだ先にある路地……まだ距離はあるが、こちらに歩いてきているのは……荒垣真次郎!?

 

「どうしました?」

 

 タカヤには荒垣の姿が見えていないようで、一度視線を向けてなお俺に聞いてくる。

 落ち着け、俺が荒垣を知っていることを悟られてはならない。

 

「向こうに人が居る。動いているぞ」

「ああ、彼ですか」

「知っているのか? 確かに男だ」

「今日の私たちの仕事は彼との取引なので」

「……前に貰った薬か」

「察しがいいですね」

「この時間を動けるなら、そういう事だろう」

 

 やりとりの合間にも荒垣がこちらに近づいてくる。取引と聞くと人目につかない場所で行われるヤバイ薬を思い浮かべ……実際に間違ってはいないが、それならこの場に部外者が居るのはまずいのではないか? それを理由に立ち去るべきかと思ったが、時既に遅し。

 

「っ!?」

「くっ!?」

 

 近づいてきた荒垣が目を凝らし、俺を見た瞬間体を硬直させて戦闘態勢を取る。

 俺もそれに自分で驚くほど素早く反応し、身構えた。

 

「ちょっと待ちぃ!」

 

 だが、ここで二人が口をはさんだ。

 

「間違えんのも無理ないが、そいつはシャドウとちゃうで。こんなんでも一応人間や」

「それも、貴方と同じペルソナの自然覚醒者です。薬の存在も知っていますよ」

 

 その一言で荒垣は戸惑いながら俺を見ている。

 警戒はしているが、敵意はないようだ。

 少なくとも一昨日の脳筋よりは冷静だろう。なら

 

「驚かせてすまない。私はこのなりでもれっきとした人間だ。先日人に襲われたため過剰反応をしてしまったが、そちらが攻撃してこなければ、こちらが攻撃する理由はない。ここに居るのも散歩をしていて、たまたま知っている顔に声をかけただけだ、邪魔であれば立ち去ろう」

 

 構えを解き、敵意を否定する言葉に一部理由か牽制とも取れる言葉を混ぜる。それを聞いた荒垣はしばし逡巡していたが、ストレガに一度目線を送ると体から力を抜いた。

 

「………………………………そうか。いきなり悪かったな」

 

 驚いた事に謝罪まで、荒垣への好感度が少し上がった。

 これからは荒垣先輩と呼ぼう、心の中で。

 

「いや、自分の姿が紛らわしいのは理解している。しかし安全のためには必要なんだ」

「その口ぶりだとシャドウについては知ってるみてぇだな」

「知っているとも。実際に襲われたからね。ちなみにこの服がその時目覚めた私のペルソナだ」

「服がペルソナだぁ?」

「正しくは能力を利用して服の代わりをさせているのだが……これが中々に防護服としての性能に優れていてね。今では用心のために影時間中は常にこの姿ですごしている」

「常に? まさか影時間の間ずっと出しっぱなしなのか?」

「その通りだが、何かおかしいかね?」

「おかしくはねぇが……いや、おかしいっちゃおかしいか」

「……すまない、まだ私もペルソナに目覚めてそう長くない。何か変なら言っていただけるとありがたいのだが。いや、その前にそちらの用事を済ませるべきか?」

 

 そう言ってストレガの二人に目を向けると、なぜか彼らは話に加わらずに黙り込んでいて、話を振ってから動き始めた。

 

「それもそうですね。ジン」

「ほれ、今月の分や」

「すまねぇな、支払いはいつもの方法で払う」

「ええ、頼みますよ……ということで、続きを話しましょうか」

「早いな……」

「アホか。この手の取引にチンタラ時間かけるわけないやろ」

 

 ジンに言われてそれもそうかと思いなおす。

 

「なら……いや、その前にお前、名前は?」

「名前?」

「そういえば、私達も聞いていませんでしたね」

「アンタやお前で事足りたしなぁ……」

「そうだったな……田中。一応、本名だ」

 

 その前に“前世の”と付くが、いまの本名を教えるのはリスクが高い。

 

「そうか、俺は荒垣だ。……俺が言いたかったのは、ペルソナをよく出しつづけていられるなって話だ。ペルソナを使えば体力を消耗する、普段から出しっぱなしじゃ普通は体がもたねぇぞ」

「本当か? 私は出し続けるだけでは疲労を感じない。むしろ出し入れを頻繁に行うほうが疲れる。エアコンのオンオフを頻繁にやると普通よりも電気を食うのと同じだと思っていたが」

「ペルソナを家電と一緒にすんじゃねぇよ!?」

「ペルソナにはそれぞれ向き不向きや特徴がありますが、影時間中常に出し続けられるペルソナというのは初めて聞きました。持久型とでも言うべきか……貴方と会うのはこれが三回目ですが、毎回その姿なのは顔を隠すためにわざわざ呼び出しているのだと思っていましたよ」

「ただの無知と安全への配慮だ」

「チッ……お前ら、知り合いならこういう事くらい教えとけよ」

「ワイらはただ道端で見かけて、いくらか話しただけや。そこまでの関係やあらへんし、義理も無いわ」

「それに、使っていれば嫌でも分かると思っていたのですがね」

「……ペルソナの能力を使うと疲れるはするが」

「当たり前だ、それすら無かったら化け物だぞ……それはそうと、田中」

 

 何だ?

 

「お前の聞きてぇ事に答えたんだ、一つこっちにも聞かせてくれ。お前、最初に“先日人に襲われた”って言ったよな? ありゃどういうこった」

「その事か」

 

 別に話せないことではないので、事情を説明することにした。

 

 

 

「……というわけだ」

「滅びの搭で人助けをして刈り取る者に出会うだけでも不運ですが、必死に生き延びた所を襲われるとは。報われませんね」

「五体満足で生きとっただけで儲けモンやと思うけどな、その状況」

 

 話を聞いたジンと荒垣先輩は呆れ、タカヤは一人面白がるように笑っている。

 

「ったく……田中、迷惑をかけたな」

「……あの二人は荒垣の仲間か?」

「仲間じゃねぇ」

 

 自分から関係を匂わせるような発言をしたので聞いてみたが、仲間という言葉を荒垣先輩は反射的に否定した。

 

「……だが顔見知りではある。お前に危害を加えないよう話を通すくらいならできるが」

「やめてくれ。私も男のほうに怪我を負わせたはずだ、いま言われても友好的な関係は築けないだろう。何より私が彼らを信用できない。」

「そうか…………なら、おれはもう行く。せいぜい気をつけな、それからここでの事は」

「分かっている、口外はしない」

 

 仲間と言ったのが悪かったのか、荒垣は居心地悪そうにした後、これ以上話すことは無いと言わんばかりの雰囲気で立ち去った。

 

「……悪い事を言ってしまったか」

「気にする事あらへん。あいつはいつも用が済んだらとっとと消えよる」

「彼も貴方の話に出てきたペルソナ使いと因縁があるようですが、そこは彼らの事情です」

「……君たちもそのペルソナ使いを知っているのか?」

「人目をはばからずにこの時間を歩いとる奴らや、見かける機会なんていくらでもあるわ。アイツと話のペルソナ使いが前は行動を共にしてたっちゅー事も知っとるし、こんなとこで取引しとるのもなるべく姿を見られたないからや」

「あなたもあのぺルソナ使いたちとのかかわり方には注意すべきですよ。我々も目に付いた時、密かに観察する以上のことはしません。先ほどの彼もあの二人と疎遠になり、薬が必要だと言うから取引をしているだけです」

「……注意すべき、そう言わせるだけの何かが彼らにはあるのか」

「そう受け取っていただいて結構です」

 

 タカヤは詳しいことを話す気は無いようだ……

 

「……忠告、痛み入る」

「こちらこそ。今日は貴方と彼の会話で彼が仲間と本当に……少なくとも敵と認識した相手の情報を速やかに共有していない、あるいはできない程度には疎遠になっていると知れました。彼の言葉に嘘はないと思っていましたが、いささか懸念もあったのでね」

 

 こいつ、しれっと情報収集してやがる……まぁ、当然か。

 それにしてもストレガは特別課外活動部を知っていながら放置しているとはね……

 彼らの考え方は過去も未来も考えず今を生きる。だったはずだけど、だからって加害者側のと仲良くできるわけじゃないよな。知識として経緯を知っていただけの俺に彼ら気持ちは分からないが、少なくとも俺なら仲良くはできない。距離をおくくらいは当然だろう。

 

 特に言えることもない俺がそうかと相槌を打つと二人も荒垣先輩と同じようにもう用はないと立ち去る。その見送った俺はこれ以上散歩を続ける気をそがれ、自然と人の居ない路地から自分の寮へと足を向けていた。




影虎は荒垣真次郎と遭遇した!
影虎は田中という偽名(前世の本名)を使った!


ゲームでストレガが荒垣に特別課外活動部について聞くシーン。
あれってストレガが前から荒垣の経歴を知ってるって事じゃない?
目的は知らなかったとしても、特別課外活動部のペルソナ使いの存在は知ってるよね。
チドリって高性能の探査能力を持つペルソナ使いが味方に居る。
恋愛の巨大シャドウ討伐後の帰り方もめっちゃ普通……

この展開に行き着いた。


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23話 特別課外活動部の一幕

4月21日

 

影時間・月光館学園巌戸台分寮

 

「美鶴、分かった……もう嫌と言うほど理解した……」

「本当に分かっているのか? 今回は不審者として処理ができそうだが、シャドウの存在が公になれば」

「まぁまぁ桐条君、真田君も反省しているようだからこれくらいにしておこう。もう夜遅いどころか影時間まで終わりそうだ」

「……理事長がそうおっしゃるなら。……明彦、もう一度だけ言っておくが、今後は迂闊な発言は慎め。お前も有名人としてもてはやされ、注目を集める人間なんだ。お前自身の意思にかかわらずな」

「骨身にしみた……」

 

長時間の説教による疲れから、ラウンジのソファーに深くもたれかかる真田。

それを見た桐条は不満そうな顔を隠そうとしない。

 

「本当に、はぁ……」

「ははは、こうなると真田君も形無しだねぇ。それと桐条君」

「はい、何でしょうか? 理事長」

「君が申請した新型補助装置の開発依頼、あれが通ったよ。来週から研究が始まるそうだ」

「本当ですか。それはよかった」

「ただ、まだ補助装置は現状使用しているものが最高性能だ。それ以上となると完成が何時になるかは分からない。気長に待っていてくれ。あとは昼に頼まれたシャドウや影時間についてのデータは作戦室のコンピューターに入れておいたよ」

「ありがとうございます」

「しかし驚いたよ、急に資料が欲しいだなんて。やはり桐条君も先日のイレギュラーの事で?」

「それもありますね。一つはイレギュラーの件があったため、一つは私は今後のサポートに備えるため。それから……」

「? 他にも何か理由が?」

 

言葉を切った桐条に、月光館学園の理事長と特別課外活動の顧問を務める幾月修司が先を促す。すると桐条はためらいがちに口を開いた。

 

「もう一つ。今日たまたま聞いた占いが気になり……」

「占いだと!? 美鶴、熱でもあるのかっ!?」

「……待て明彦、確かに占いを論理的な理由とは言えない。だが、世間には占いを行動の理由とする者も多く居ると聞く。なのに何故、私は体調不良を疑われねばならないんだ? そして叫ぶほどにおかしいか?」

「お、おかしいとは言ってないだろう! ただ珍しかっただけだ!」

「僕もちょっと驚いたけど、お年頃の女の子としては普通じゃないかな?」

「理事長、棒読みで言葉に感情が微塵も感じられませんが……私も別に占いを全面的に信用しているわけではありません。あくまで先に述べた二つの理由に加え、少し心当たりのある占いをされたため気になった、と言うだけのことです」

「普段の様子を考えると占いをしたこと自体が驚きなんだが……」

「っ、オホンッ! で、どんな内容だったんだい?」

 

真田の言葉に眉を寄せた桐条に問うことで、幾月が無理やり話を変えた。

桐条は占うまでの経緯を話し、続いて占いそのものについて話す。

 

まず内容はタロット占いであること。

引いた七枚のカードは一枚目から順に

搭      意味:苦境

戦車の逆位置 意味:困難・障害・悪戦苦闘・現状維持

運命     意味:良い方向への進展  物事の好転期 決断する時

皇帝の逆位置 意味:論争あり  自己中心的  未熟  精神的な弱さ  不安定

節制     意味:意識の移り変わり  成長  時の流れを見直す  自制心  忍耐

刑死者    意味:試練に耐える  難問題に出会う  復活  変転の時  極限の選択

審判の逆位置 意味:見当違い  不本意な選択 拘束  知識不足  間違った方向

 

であること。

そして総じて出た結果が

 

「私は過去から現在に至るまで乗り越えることが困難な苦境に立っている。

 未来にはそれが改善するが、周囲では論争が尽きない。

 見当違いや知識不足で間違った方向に進んでしまう。

 私が望むのは成長であり、そのために自制と我慢を自らに強いている。

 ……望みの項目で時の流れを見直す、という意味を伝えられた時はドキリとさせられたが、基本は誰にでも当てはまりそうな内容だ。しかし、最後の結果が見当違いや知識不足ならば、この機会に情報を見直してみるかと思い立った。それだけだ。根拠のある理由ではないが、悪い事でもないだろう」

「確かにそうだね。知識はあればあるほどいい。裏のない素直な理由だね、占いだけに。んふふふふふっ」

「明彦もどうだ? その足では満足にトレーニングもできまい」

「この足でもできるトレーニングはあるさ。それより美鶴、その病院に運ばれた小学生は」

「あれっ? 二人とも無反応かい?」

「ああ、あの時の少年だ……」

 

親父ギャグを完全にスルーされた幾月が気づかれなかったギャグの説明を始めかけ、スルーして始まった二人の会話の内容に気づいて口を噤む。すると部屋の様子が一変した。

 

「影時間が終わったな……それで容態は?」

「怪我は元々それほど大きくはなく、検査では脳に異常も見られなかった。当分は安静が必要だが、体は問題ない」

「体は……」

「気になるなら、会ってみるか?」

「馬鹿を言うな。母親を奪った加害者の俺達が、どんな顔で出て行けると言うんだ」

「だろうな。荒垣もあの事件でここから出て行ってしまった。戻ってきてほしいが……なりふり構わなければ謝罪はできると言うのに、動かない私達には強くも言えないな」

 

桐条が後悔や苦悩が混ざった次長の言葉を吐いたことで場が沈黙する。

それを切り裂いたのは一本の電話だった。

音源の無い深夜の静かなラウンジに、携帯電話の着信音が鳴り響く。

 

「一体誰だ? こんな時間に……シンジ!?」

 

自分の携帯電話の表示を見た真田はすぐさま応答した。

 

 

「シンジ!」

『……うっせぇよ……電話でどなるな』

「そんなことよりどうした? 何かあったのか?」

『チッ、何かあったのはテメェの方だろうが。お前が怪我をしたって話を小耳に挟んだぞ』

「耳が早いな」

『んなことが聞きたいんじゃねぇ。大丈夫なのか?』

「足をやられたが問題なく治るそうだ。次の試合には間に合わないが、その分はこれをやったシャドウに……っと、そうだシンジ!」

『んだよ、うるせぇな……』

「俺に怪我を負わせたイレギュラーがまだ街中にいるかもしれん、気をつけろ。なんならここに……」

『もどらねぇ、っつってんだろ。アキ……注意はしておく。それから近くに桐条は居るか?』

「居るぞ、ちょっと待て。美鶴、お前にだ」

「……久しぶりだな、荒垣」

『ああ。面倒だから用件だけ言う。アキの奴をよく見といてくれ、ちゃんと相手をみて喧嘩を売るようにな。あとは……お前もアキも、あまり無茶すんなよ』

「先の二つはお前が戻ってくれば解決するが、難しいのだろうな」

『……勝手に抜けて悪いとは思ってる』

「いいんだ。気持ちは分からなくもない。しかし、もしいつか戻る気になったら、いつでも戻ってきていい。私たちは歓迎する」

『……じゃあな』

「待ってくれ」

『……何だ?』

「……明彦から聞いたとは思うが、今街には明彦に怪我を負わせたイレギュラーがいる可能性がある。十分に気をつけろ。それから、もし見かけた場合は連絡して欲しい」

『……分かった、シャドウを見たら(・・・・・・・・)連絡する』

「頼んだ」

 

その一言を最後に電話が切られ、ラウンジの三人は相変わらずだと軽く笑ってその場は解散となる。




真田明彦は桐条美鶴の説教を受けた!
幾月修司は親父ギャグを言った!
しかしスルーされてしまった!
美鶴は自身の強化に向けて動き始めている……
荒垣真次郎は特別課外活動部の二人に忠告をした!
ただし核心は隠した!

前話に続く妄想の産物。
短くてすいません。


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24話 慌しい昼休み

ちょっと他のキャラを出そうと思ったら、意外と長くなった。


 4月22日(火)

 

 昼休み

 

「はい、今日はここまでー」

「起立、礼」

 

 昼休み前の授業が終わり、号令がかる。

 俺はそれに従いながら、使っていた教科書やノートを閉じて、そのまま教室の外へ。

 横には同じ事を考えているであろう順平、友近、宮本、そして他の男子クラスメイトたち。

 そして廊下に出た俺達は、出た者から順に駆け出した。一階にある購買部へと。

 

「うぉおおおおおっ!!!」

「今日こそはぁ!」

「カツサンドォォォ!!」

 

 月光館学園には学食がない。小等部や中等部の生徒は給食があるらしいが、高等部では昼食は各自で弁当用意するか、購入した物を持ってくるか、購買で買うかだ。

 

 他のクラスからも続々と出てきた生徒も加わり、誰もが真剣な表情で走っているが徐々に差が開いていく。宮本をはじめとした運動部の生徒が多い先頭集団が他を突き放し、少し後ろに順平がいる中間集団。その後ろに位置する後方集団は密集しすぎて思うように動けず遅れている。

 

 当たり前だが、購買部に先に着いた生徒はそれだけ自分の好きなものを選べる。現時点で後方集団に巻き込まれた友近が望みの商品を買える可能性は低いだろう。

 

 ちなみに俺は、人と人のあいだをすり抜けていたら先頭集団のさらに先頭にいた。

 コースは直線の廊下から一階へと下りる階段へとさしかかる。

 宮本や他の生徒は普通に階段へと突入しようとしているが、俺は階段の手すりに左手を置いて、軽く飛び越える。

 

「はぁっ!?」

「飛び降りた!?」

「ここ四階だぞ!?」

 

 突然自分たちとは違う行動を取った俺に、後ろから声が聞こえてきたがこれでいい。この階段はビルなどの階段でよく見る一階と二階の間に踊り場があるタイプの階段。丸くはないが螺旋階段と言ってもよく、踊り場で繋がる二つの階段のあいだに狭い吹き抜けができている。

 

 俺はそこに足から飛び込み、乗り越えた手すりにぶら下がって一時停止。

 下の階段の手すりを確認して飛び移り、同じようにぶらさがる。

 そしてまた次の手すりに飛び移る事を繰り返して一気に、安全に一階まで降りた。

 

 ……吹き抜けから飛び降りるのが安全かと聞かれると返答に困るけど、俺としてはあんな人と勢いに混ざるほうが怖いし、落下より階段で将棋倒しになる危険の方が大きいと思う。

 

 なにはともあれ、これで後続を引き離した俺は余裕を持って購買へ到着。

 

「おばちゃん、これお願い!」

「はいよ、三千円丁度ね。まいどあり」

「こっちもお願いします!」

「はい、あなたはおつり七百円ね」

 

 数人の先客が居たけれど、商品はまだあるので焦る必要は無い。

 しかし買い物が終わるまで気は抜かず、動きは素早く。

 この人たちは早く授業か終わったのか? それとも授業をサボったのか?

 そんな事を少し気にしながら目当ての商品に手を伸ばす。

 

 “特濃マヨサンド”

 

 ここの購買のパンは数が少ないが、種類はゲームに出てきた選択肢より豊富にある。そして火曜日には百食限定で販売される、競争率の高さから幻と呼ばれ、多くのファンがこぞって買い求める特別なサンドイッチがある……という話を順平から聞いて、興味が出たので買いに来たのだ。

 

 一パック五百円、購入制限付き? 一人三パックまでか。ならとりあえず三パック。後は頼まれた菓子パンに飲み物……あ、少し余分に買っていこう。

 

「これお願いします」

「はいよっ、四千二百円ね。それから袋も持っていきな」

「ありがとうございます」

 

 支払いを済ませつつ購買のおばちゃんに礼をいい、貰った袋に商品を入れて教室へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室

 

「ただいまー」

 

 教室に入り、一箇所に固まって話す五人組に声をかける。

 

「おつかれー」

「おかえり!」

「うわー、大荷物だ」

「いっぱい買ってきたね」

「ちょっと買いすぎじゃない?」

 

 口々に言葉をかけてきたのは、西脇さんとクラスメイトの女子二人に、B組の岩崎さんと岳羽さんを入れた五人。彼女たちは全員月光館学園の中等部から高等部に進学した生徒で、特に西脇さんと岩崎さんは運動部つながりで親しかったらしく、昼食を一緒に食べる事にしたそうだ。

 

 そしてそれを聞きつけた順平がたまには女の子と食事がしたい! と言い出し、混ぜてもらう代わりに……とか言いながら自分からパシリになった。本人はいいとこ見せようとしたみたいだけど、効果はおそらくない。

 

 ただ、さすがに五人分を一人で買ってこさせるのはかわいそうという意見が出て、それが通るくらいには好かれているらしい。その結果俺と宮本が巻き込まれたが。

 

「はいこれ、西脇さんはコロッケパンとチョココロネ」

「ありがと、いまお金出すね」

「はいはい、で高城さんは……チキンサンドとミックスサンドと三色コロネ。あと岩崎さんにカツサンド」

「ありがとう!」

「私にも? 私は友近に頼んだはず」

「友近はだいぶ最初の方で脱落してたから。カツサンドの確保は無理だと思って買ってきた。食べ足りなくならないように他にも買ってきたから、あと適当に持ってって」

「そうなんだ……友近、怪我とかしてないかな……」

「おー! 気がきく男子っ!」

「こんなにたくさん、葉隠君に頼んでよかったー」

 

 さらっと友近を心配したのは岩崎さん。俺に気がきくと言ったのはクラスメイトの島田(しまだ)綺羅々(きらら)。頼んでよかったと言ったのは、同じくクラスメイトの高城(たかぎ)美千代(みちよ)

 

 島田さんは若干ギャルっぽいが、山岸さんのイベントに出てくるようなギャルではなく、一言で言うとぶりっ子系。小柄なのでまぁまぁ可愛く、ほどほどに人気があるらしい。

 

 対する高城さんは純朴そうなぽっちゃり系。間違ってもペルソナ4に出てくる“大谷”のような、ちょっとかじった程度でバッチリ印象に残る外見や性格ではない。

 

「はい、葉隠君」

「ども」

「あとこれもね」

 

 俺は女子から頼まれた分のお金を受け取り、そのあと差し出された缶のお茶を岳羽さんから受け取ってその分のお金を払う。

 

 男子が食べ物を買い、その間に女子が飲み物と場所を用意する。そういう約束なのだ。

 

「ありがとう」

「うん…………それにしても順平たち遅いね。何やってんだろ? 女子のパンは俺が買ってきてやるよ! とか言ってたのに」

「伊織君たちが遅いっていうよりー、葉隠君が早すぎるって思うなー」

「帰りに階段ですれちがったから、今頃は奮闘中じゃないかな? 宮本は俺と入れ違いだったから多分すぐ帰ってくると思うけど」

「そっか……どうする? もう食べちゃう? それとも他の男三人待つ?」

「待ってようよ、せっかく買いに行ってくれてるんだから」

「きっと下心があるんだろうけどね」

 

 岩崎さんと西脇さんの意見に誰も反対は無く、待つ事になったが女五人の中に男が一人のこの状況……正直ちょっとつらい……

 

 そのまま待つこと八分弱、ようやく三人が一緒に戻ってきた。

 

「おま、マジで何やってんだよ……」

「だってさ……」

「疲れた……」

 

 あいつら、どうしたんだ?

 

 順平は呆れ、友近は気まずそうに、そして宮本がやけに疲れている。

 

「や、やぁお嬢さんたちー」

「え、なに順平急に、気持ち悪いんだけど」

 

 意を決した順平の一言は、岳羽さんにバッサリ切り捨てられた。

 しかし様子がおかしいのは事実……何事かと様子を見ていると、順平は岳羽さんにかにパンを差し出した。

 

「すんません。注文のパン、買えなかったっす……」

 

 同時に友近も岩崎さんにタマゴサンドを差し出す。二人は他に何も持っていないところを見ると、自分のパンの確保にも失敗したようだ。

 

「やっぱりね、そんなことだろうと思った」

「仕方ないよ、それに私はこれも好きだし」

 

 岳羽さんと岩崎さんは二人を責める気はないようで、そんな二人に順平と友近はほっとしているが、何か隠してないか? 順平がさっき何か言ってたし……あれ? そういや宮本は?

 

 そう思って探すと、宮本は島田さんにビニール袋を渡していた。

 西脇さんと高城さんの分が俺、岳羽さんの分が順平、岩崎さんの分が友近という分担になっていたので、行動は別におかしくないがあの袋、なんか潰れてないか?

 

「うわぁ、ぐちゃぐちゃだぁ」

「すまねぇ……」

「やっぱり。ミヤ、あんたまた熱くなったでしょ。この前も勝つ事に集中してパン潰してたし」

 

 ああ、それで西脇さんは俺に頼んだのか

 

「ちがっ、今日は違うって!」

「じゃなんでよ」

「……教室戻ろうとしたら、順平と友近に協力を頼まれた」

 

 どうも宮本はやってきた人の中に再突入したらしく、新しいパンは確保したけれど、代わりに袋が人の波に押しつぶされたんだと。

 

 しかし、話を聞いた島田がある事に気づく。

 

「あれ~? 友近君たち、パン買えたの?」

 

 その一言で順平と友近が固まる。そしてそれを見た岳羽さんの目が訝しげに二人を見る。

 

「どういうこと?」

「あーいやえっと、そのね」

「ほら、買えたパンってそれそれ、いま渡したやつ」

 

 慌てて弁解する声はしどろもどろで、まったく信憑性が無い。

 

「いや、他にも買ってただろ。メロンパンとか」

「ちょっ!」

「それ言うなって!」

 

 しかも宮本から空気を読まない一言が……これによりさらに岳羽さんの目が厳しくなり、もうごまかせないと観念した二人が白状した。

 

 それを聞いたところ、岳羽さんと岩崎さんの分のパンの確保には成功していたらしい。

 ただその時に自分たちのパンを買い忘れた事に気づいて、買ったパンを友近に預けて順平と宮本が人ごみに再突入。そしてパンを買っている最中に事件は起こった。

 

「いや~、下駄箱の近くで待ってたらさ、叶先生が来たんだよ。そんで困ってたみたいだから声かけたら、人が多くてパンが買えないって言うから……」

「もう分かった。それでパンを先生にあげてしまったと」

「まぁ、ほら、叶先生だぜ? 美人の先生が困ってたら、力になりたいじゃん? それに理緒もそんなに食べるほうじゃないし。なー?」

「え? うん、私はこれでも十分だと思うけど……」

 

 どうにも軽い友近に、機嫌の悪そうな岳羽さんが口を開こうとする。

 しかし、それより早く俺が動いていた。

 腰を落として友近の右半身にタックル、素早く左腕を股下から右足に絡める。

 右腕も同様に首を取り、肩に担ぐように体全体を持ち上げ

 

「影、うぇっ!?」

「ふんっ!」

「あ、あたたたたっ! ぁぁああ……」

「……え、なにこれ?」

「アルゼンチン・バックブリーカー……ってか影虎急にどうした!?」

「いや、なんとなくムカついた」

 

 首と足に力を加えると、友近が悶える。

 

 この野郎、岩崎さんをないがしろにしやがって。

 岩崎さんは帰りの遅いお前を怪我が無いか心配しながら待ってたんだぞ?

 この、傍で見てるとちょっとムカつくくらいのリア充め。

 俺なんか浮いた話は一つも無いのに!

 

「ギブ、ギブっ!」

「葉隠君、もういいから!」

「ん、分かった」

「ぶっはぁ……助かったぜ、理緒……」

 

 岩崎さんに止められたので、しぶしぶ友近を近くの机にそっと下ろす。

 うめく友近に岩崎さんが寄り添うが、手加減はしたので大丈夫だろう。

 しかし、これもまたムカつくなぁ……

 

 と、考えていたら島田さんがちょこちょことやってきた。

 

「葉隠君、もしかして気づいちゃった感じ?」

「友近と岩崎さん? 岩崎さんはけなげですねぇ……」

「やっぱり葉隠君にもそう見えたか~」

「島田さんは知ってたのか?」

「私は中等部の三年間ずっと二人と同じクラスだったからね~、そうなんじゃないかな~とは思ってた。理緒ちゃんは自覚してないみたいだけど、行動が友近君に甘すぎるんだもん。……それにしても友近君は相変わらずデリカシーないなぁ」

「……中等部でもこんな感じで?」

「甘酸っぱかったよぉ~。そしてイライラヤキモキさせられたよぉ~……」

「友近に?」

「それがほとんどだけど、気持ちを否定しまくりの岩崎さんにもちょっとあるかなぁ?」

「何の話?」

 

 小声で話していた俺たちに、事情をしらない順平や岳羽さんが聞いてくるが、二人の世界を作っている気がする友近と岩崎さんを放置して説明すると、友近が復活する頃には

 

「あ~……いきなりどうしたんだよ影虎~」

「「「「「「「今回は友近が悪い」」」」」」」

「何故!?」

 

 二人を除いた俺たちの意思は一つになっていた。




今回は日常の話。
全コミュを見たくて女主人公で運動部コミュ(岩崎)をMaxにしてから、友近は一度爆発しろと思っていました。
という訳で軽く仕置きをさせてみた。後悔はしていない。


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25話 誤算

「ってことで、友近君が食べるのは自分が買ってきたタマゴサンドだけ」

「葉隠君が買ってきたパンに手を出したらダメだからね」

「えー。島田さん、一つくらい……いえ、なんでもないです」

「よろしい。これは友近君への罰なのです。何が悪かったかは……自分で気づかないとダメー」

「あのー、オレッチは……?」

「んー? 伊織くんかー……今回は悪くないみたいだしいいかな? 買ってきた葉隠君がいいって言えば」

「別にいいよ。俺が食べる分は確保させてもらうけど」

「サンキュー!」

 

 岩崎さんを除いた女子のお裁きを受けた友近がうなだれ、許された順平が対照的に喜ぶ中、携帯にメールが届いた。送り主は江戸川先生。

 

 また手伝いを頼まれるのか? と予想しながら確認すると、内容は大きく外れていた。

 

 ……あの約束、フラグだったかなぁ……

 

 メールには昨日の事故で搬送された少年が、助けてくれたお礼をしたいと言っていて、今日の放課後パルクール同好会の部室に先生同伴で来るので、時間があればその場に来てほしいと書かれている。

 

 ……まぁ、行こうか。理由をつけて避けることもできそうだけど、顔を繋いでおく良い機会だ。

 

 前向きに考えて携帯を閉じる。すると順平が話しかけてきた。

 

「影虎はどれ食べんの?」

「ん、俺は……」

 

 パンの詰まった袋から特濃マヨサンドのパックを三つ、コロッケパンとあんパンを一つずつ取り出して残りをよせた机の真ん中に置く。

 

「結構食うな、お前」

「運動してるからな」

 

 特に最近はタルタロスやペルソナのせいか、食事の量が増えてきている気がする。って、そういや天田少年が来るのって何時なんだろうか? なにか用意しておくべきか?

 

 メールを再確認するが、放課後としか書かれていない。

 

「何かあったの?」

「! いや、なんでもないよ岳羽さん」

「? そう?」

「そうそう、ちょっと江戸川先生から連絡が来ただけだから」

「えっ、あの先生から? って、そういえばキミって江戸川先生と新しい部を作ったんだっけ。呼び出し?」

「いや。昨日の部活中に事故に遭遇して、助けた子がお礼を言いに部室に来るって連絡」

「それって昨日ランニング中に見かけたって事故の?」

「おっ! あいつ無事だったのか?」

「何それ? 西脇さんと宮本も知ってんの?」

「私は直接見たわけじゃないんだけど、陸上部の男子が話してたの。小等部の生徒が倒れてたって」

「その子、大丈夫だったの?」

「お礼に来るって言ってるから大丈夫だと思う」

「そっかぁ、良かったね。ところでさ……江戸川先生との部活って実際どうなの?」

「っ! 高城さん、それ聞いちゃダメ!」

「……何かまずいの?」

「友近、そんな言い方だと変な誤解を生むだろ? 些細な事に目をつぶれば特に問題ないさ」

「普通の部活は目をつぶらなきゃならない事なんて無いっての!」

 

 友近の言葉を聞き流し、特濃マヨサンドを一つ開けて一口。

 

 ……

 

 …………

 

「なぁ、これ誰か食べないか? できれば何かと交換で」

「それ特濃マヨサンド!? 食べたい! 食べないの!?」

「う、うん……高城さんはこれ好きなの?」

「前に姉さんから貰って、高等部に来たら食べたいと思ってたのよ!」

「高城さんのお姉さんって、弓道部の八千代先輩だよね?」

「そうそう。姉さんにまた買ってきてって頼んでも、たまたま手に入っただけだから無理だって言われちゃうし、私は足遅いからいつも買えなくて」

「なら、どうぞ」

 

 俺は手元の開いてないパックを二つとも高城さんの前に差し出す。

 

「ありがとう! じゃあこれ、チキンサンドとミックスサンド。まだ手をつけてないから」

「なんかすげー喜んでるな。美味いのか?」

「食べてみるか? たぶん好きな人は好きだと思う。俺はここまで濃厚なマヨネーズは求めてないけど、まずくはない」

 

 要は好みの問題だ。人気商品、だから口に合うとは限らない。

 一パックに三つ入りで、俺が口をつけた以外にも開けたサンドイッチは二つ残っている。それを皆の前に出すと、高城さんと友近以外が少しずつ分けて試食を始めた。

 

「あっ、美味しい」

「うめぇ! 来週はこれ買う!」

「たまに食べる分には良いかな」

「俺は好きだけど影虎の言いたいことも分かる。何個もとなるとマヨラー向けだな」

「なんだろう、具材の味が全部マヨネーズの引き立て役になってる感じ?」

「私はパス。カロリー高いよぉ」

 

 岩崎さん、宮本、西脇さん、順平、岳羽さん、島田さん、と口々に感想を言いあう。それがまた新たな話題のきっかけになり、どんどん話が広がっていく。女三人で(かしま)しいと言うが、五人とお調子者(順平)がいると話が途切れない。

 

 それはパンを食べ終わっても続き、時間の流れも止まることがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みが終わり、授業が終わり、ホームルームも終わってとうとう放課後。いつ天田少年が来るか分からないので真っ直ぐに部室へ向かうと、校門の前で山岸さんと遭遇した。

 

「山岸さん」

「あっ、葉隠君。丁度良かった。昨日の子がお礼に来るって聞いたんだけど、これから部室に行くの?」

「耳が早いな」

「ホームルームで担任の先生から言われたの。都合がよければ行ってあげなさいって」

「なるほど、じゃあ山岸さんも部室に?」

「うん。お邪魔じゃなければ」

「なら行きますか。邪魔なんてとんでもない」

 

 俺は山岸さんと部室に向かう。

 

「そういえば、山岸さんって部活は? 写真部って言ってたけど、今日活動日じゃなかった?」

「私? 私はほら」

 

 山岸さんがカバンから古めのカメラを取り出して見せてくる。

 

「今日は校外の風景を撮ってくるって言って抜け出してきちゃった」

「いいの?」

「帰りに葉隠君の部室のまわりをちゃんと撮っておけば大丈夫。コンクールが無いと校内を歩き回って撮影して、たまに現像した写真について意見交換するだけって先輩に言われてるから」

「そうなのか」

 

 適当な話で間を持たせながら歩いていると、部室とその前に立つ人影が目に付く。

 

「おや、来ましたね。お二人揃って」

「江戸川先生、昨日の子は」

「もう来ていますよ。小等部は高等部より授業が早く終わったそうで。問題がなければこのまま会えますか? 少年はともかく、先生の方が少々緊張しているようですので……」

 

 先生が? まぁ、聞くより見たほうが早いか。

 

 山岸さんも問題ないようなので江戸川先生についていくと、今日は江戸川先生の研究室で話をするようだ。

 

 ……もうこの時点で分かった。先生の緊張は絶対部屋の内装が原因だ。

 

「失礼します。……やっぱり」

「……!!」

 

 扉を開けると室内は初日の三割り増しで混沌としていた。たぶん昨日の片付けが終わってないんだろう。ホルマリン漬けの標本やオカルト本がいたるところに、見える場所に乱雑に置かれていて、それがまた不気味さを際立たせる。このままお化け屋敷の一部にできそうな状態だ。

 

 部屋の中心部には物を適当にどかした机の前に座る天田少年と女性教師の姿があるが、小等部の先生は落ち着かない様子周りの標本を見回し、顔色が良くない。きっとこういうのが苦手なんだろう。

 

 後ろから部屋を覗き込んだ山岸さんも息を呑んでいるが、この部屋の主はそんな事を気にしない。

 

「お待たせしました。彼らが例の生徒です」

「……お二人が僕を助けてくださったんですね?」

「俺は高等部一年の葉隠影虎。俺は救急車を呼んだだけで、先に助けたのはここにいる山岸さんだけどね」

「いえ、そんな……私は葉隠君と同じで高等部一年の山岸風花。君は天田君、だよね? 怪我は大丈夫?」

「はい、天田乾です。この度は気を失っているところを助けていただいてありがとうございました」

 

 天田少年はこの内装が平気なようで、付き添いの先生より先に会話に加わった。

 その言葉遣いは年の割にしっかりしているようだけど、昨日の話を聞いた俺には作り物のように感じてしまう。

 

「傷は問題ないそうです。元々ただの擦り傷でしたし、検査では脳にも異常は無いそうです。でも当分は激しい運動はしちゃいけないって。ですよね? 菊池先生」

「そうね、最低一週間は見学よ。そのくらいで済んでよかったわ。……江戸川先生に聞きました。山岸さんが迅速に処置をして、葉隠君が通報してくれたんですってね。貴方たちが居てくれなかったら、もっと酷い事になっていたかもしれない……本当にありがとう」

 

 菊池先生はそう言って深々と頭を下げた。こう改めて丁寧に言われると気恥ずかしくなってくる。それは山岸さんも同じだったようで、先生が顔を上げても無言の時が過ぎていく。

 

 だが、その時間は悲鳴と共に終わる。

 

「ひぃっ!?」

「……ああ、こういう物(標本)は苦手ですか?」

「ごめんなさいね……うぅ、目が合った……」

「あの、聞いてもいいですか?」

 

 江戸川先生の私物に怯える先生を横目に、おずおずと天田少年が口を開いた。

 

「何? 答えられることなら答えるけど」

「ここは部室だって聞いたんですけど、どんな活動をしているんですか?」

 

 部屋を見回しながら聞いてきた天田少年の表情は、心なしかさっきまでよりやわらかい。これは興味本位の質問なのか?

 

「うちはパルクール同好会。パルクールっていうスポーツで体を鍛える部活さ」

「鍛える? じゃあこの部屋は?」

「ここは顧問である私の部屋、そして保健室ですよぉ?」

「保健室!?」

「……江戸川先生の私物が多いけどそういうことになってるし、実際そういう設備もある。ですよね?」

「勿論ですとも。手術が必要でない怪我なら、何にでも対応して見せますよ。ヒッヒッヒ」

「だそうだ、他に何か質問は?」

「……そのパルクールってどんなスポーツなんですか? あと、パルクールをやったら強くなれますか?」

 

 ん? この質問、上手くやれば……

 

「パルクールは簡単に言うと走ったり跳んだり登ったりして、目的地へより早く安全に向かうスポーツさ。よくアクロバットを加えたフリーランニングと間違われるけど、パルクールは純粋に移動の速さを求めるスポーツって感じかな?

 それから強くなれるかって質問だけど……なれる。そう断言するよ」

「本当ですか? 絶対に?」

 

 俺は無言で頷き、言葉を続ける。

 

「天田君がどんな結果が出れば強くなったと言えるのかは分からないけど、元々パルクールはどんな場所でも自由自在に移動するための訓練を通して肉体と精神を無理なく鍛えることが目的なんだ。だからパルクールをやれば筋肉や体力をつけて“体を強くする”ことはできる。

 もし天田君の望む強さが“腕相撲やスポーツで勝てる強さ”だとしても、パルクールで身につけた体力や筋力があれば有利になる。

 それから格闘技(・・・)でも基本は体作りから。パルクールにはいろんな強さの基礎を身に付けられる、そういうスポーツだよ」

 

 天田少年は母親を殺した相手への復讐のため、強さを求めていた。だから強くなれるの一言で注意を引き、話をするきっかけになれば……

 

「だったら、僕を入部させてもらえませんか!?」

 

 …………は?

 

「パルクール同好会に?」

「ダメですか……?」

「いや、ダメと言うか、小等部の生徒が高等部の部活に入れるの?」

「部の顧問と部長さんの許可を貰えれば入れます!」

 

 勢いのある天田少年の発言の真偽を二人の先生に尋ねると

 

「可能よ。人数の少ないマイナーな部活の部員確保、何らかの理由で顧問が居なくなった部活の救済措置、上級生と下級生の活発な交流の促進などいろいろ理由はあるけれど、月光館学園では小等部・中等部・高等部、合同で部活動を行う事を認める制度があるの」

「もっとも運動部だと年齢差や体の成長具合における指導内容の調整が必要になるので、長期休暇中に教師が交代で休みを取ったり、交流戦などの合同練習などの機会に一時的に使われるくらいですが……天田君の言った通り顧問である私と、部長である影虎君の許可があれば、練習に参加させることはできます」

「お願いします! 僕、強くなりたいんです!」

 

 深く頭を下げる天田少年。

 

 ……どうやら俺は、彼の興味を引きすぎたらしい。




影虎は天田と遭遇した!
天田は部活に入りたそうにしている。


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26話 決断

「大変だったね。はい、今日の分のお茶」

「ああ、ありがとう」

 

 山岸さんが買ってきていた缶のお茶を受け取って、喉に流し込む。

 

「ふぅ……」

 

 天田はあれから何度も真剣に頭を下げていたが、とりあえず保留にさせてもらった。

 検討して後日また連絡すると伝えたときは落胆していたが、諦めてはいないようだ。

 

「江戸川先生はどう思われますか?」

「ヒヒッ、私は別にどちらでも構いませんよ? 一人も二人も同じ事ですし、部屋だって余裕がありますからねぇ……しかし私は怪我の治療はできてもパルクールの技術を教える事はできません。そうなると指導するのも負担が増えるのも影虎君です。ですから君が決めてください。

 はっきり無理だと断るか、新たな挑戦に飛び込むか。あるいは悩むのも大いに結構。決断も挑戦も悩みも、全ては君という一人の人間、そして魂の成長に繋がるのです……ヒッヒッヒ」

 

 全ては俺しだい……一つずつ考えてみるか。

 

 まず天田を受け入れた場合のメリットは何か?

 部活の先輩後輩という関係が交流を持つ理由になる。

 関係が来年まで続けば、特別課外活動の動向を知る機会が増えるかもしれない

 天田にとっても原作開始前に体を鍛えておく事はプラスになるはず。

 それにこの部に入ればいじめから一時的に身を守る場所を作ってやれる。

 何より俺の手と目が届きやすくなる。

 

 ではデメリットは?

 まず天田の練習に時間を割くことになり、俺の自由な練習時間が減る。

 天田と多く交流を持つ事により、将来の不確定要素が増す可能性。

 そして、おそらく天田を気にする桐条先輩の目も増そうだ。

 

 すぐに思いつくのはこのくらいか、数ではメリットの方が多いな。練習時間が全部潰れることはないだろうし、それは問題ない。不確定要素は今更だ。

 

 問題は桐条先輩の目が増える可能性だが……昨日の話では桐条の力を使って調べているわけではなく、個人的に気にしている程度に聞こえた。こまめに報告を上げて一定の信頼を勝ち取ればなんとかなるか。俺に適性があることを知られなければ、影時間の事を向こうから話しにくるとは考えにくいし……

 

 そこまで考えて、俺の気持ちは固まる。

 

「天田君に、入部の許可を出します。ただし練習参加は脳震盪の経過観察期間が終わってから、それまではおとなしく養生する事を条件に」

「わかりました、では私も顧問として許可を出す事にしましょう。葉隠君は彼の入部までにどんな事を教えるか、考えておいてください」

「わかりました。そういうことでお願いします。……ちょっと失礼します」

 

 話が一段落すると、俺はことわりを入れて先生の部室を出て携帯を取り出した。

 そして登録してある連絡先から桐条美鶴と書かれたメールアドレスを選択してメッセージを送る。

 

 昨日の話の後で天田の事で何かあったらと連絡先を渡されたのだが、まさかこんなに早く使う事になるとは……っと、もうかかってきた。

 

「はい、葉隠です。桐条先輩ですか?」

「そうだ。早速だが先ほどのメールの件、もうあの子と接触したというのは本当か?」

「ええ、昨日助けられたお礼がしたかったそうです。裏で手が回されたんじゃないかと勘ぐってしまうくらいに早く話す機会が訪れました」

「なるほど。私も昨日の頼みで無理をさせたのではないかと思ったよ。……それで彼の様子は?」

「お礼の最中は笑顔でしたが、作り笑顔に見えました。ただその後でちょっとうちの部活について話したんですが、体を鍛える事に随分興味があるようです。うちの部に入部させてくれと頼まれました」

「そうか……その報告は前にも受けたことがある。彼は君の部に限らず中等部や高等部にある格闘技系の部活動のほとんどに練習参加を頼み込んでいたんだ。いじめ対策のつもりだと考えられたが、年齢差や対格差で指導が難しくなるので何処の部も受け入れず、それ以来話を聞かなかったので諦めたと思っていた」

「桐条先輩、その件なんですが……天田君、うちの部で受け入れます。顧問の許可も取り付けてあります」

「何? 彼によくしてやってくれと頼んだのは私だが、そこまでする必要は」

「うちの部は俺一人なので他に迷惑はかかりませんし、先輩に言われる前から彼の様子が気になっていたので。それに仲間が居るほうが楽しいかもしれませんし、彼の気分転換にもなるかと思います」

「……たしかに彼は初等部の寮母からも同じ事を言われているな」

「自発的に外に出るいいきっかけになるかと思います。ただ彼の問題はデリケートなので自分はそばで様子を見つつ、先輩にもこまめに相談させていただきたいのですが」

「…………わかった、彼のことは君に任せる。私でよければいつでも相談に乗ろう」

「ありがとうございます。それで聞きたいのですが、手続きはどうすればいいんでしょうか?」

「書類を江戸川先生に預けておく。それに先生と君がサインをして、先生にしかるべきところへ提出してもらってくれ。あとはこちらで彼から参加の意思を確認して手続きを済ませる。いつから参加させる?」

「分かりました。彼の練習参加は脳震盪の経過観察期間が終わってからでお願いします」

「分かった。そのように取り計らう」

「ありがとうございます」

「こちらこそ礼を言う。無理を言ってすまない」

「いえ……それではまた何かあったら連絡します」

 

 先輩からの返事を聞いて、俺は電話を切る。

 これでよし。頼まれただけの仕事はこなした。

 迅速な報告・連絡・相談はそれだけ面倒ごとを減らす。俺はそう信じている。

 

「ただいま戻りましたー……ぁ? 二人とも何してるんですか?」

 

 江戸川先生の部屋に戻ると、先生と山岸さんが何かを話している。

 

「影虎君、新入部員がもう一人追加ですよ」

 

 新入部員が、もう一人?

 

「あのね? ……私も入部する事にしたの」

 

 山岸さんまで!?

 

「急にどうして?」

「……昨日桐条先輩からの話を聞いて、今日あの子と会って……寂しそうって思ったからかな? 葉隠君があの子のために何かしようとしてるのを見たら、私も力になれないかな……って思ったの」

 

 こんな所で連鎖反応起こすのか……山岸さんって気弱だけど、同時にいじめを行った犯人を許すくらいの優しさも持ってたはずだしなぁ……そう考えると自然なのか?

 

「ダメ?」

 

 山岸さんはこんな理由じゃ断られると思っているのか、背筋は猫背に、顔はうつむきがちにこちらの様子を窺っている。これを一言で表現するなら“上目遣い”。

 

 わざとだったらあざといが……もういいや。こうなったらまとめて入部させてしまおう!

 来年の山岸さんの安全地帯を今から作っておくと思えばいい。

 毒を食らわば皿までって言葉もあるんだ。

 決して考えるのが面倒になったわけじゃなければ、上目遣いに負けたわけでもない。

 ゲームでは伏見千尋と並ぶ好みの女性キャラ第一位だったし、かわいいなとは思ったけど。

 

「入部は歓迎するけど、運動は得意?」

「正直に言うと運動苦手なの。だからマネージャーとして入部しようかな? って先生と話してたの」

「マネージャーは計測したタイムなどのデータ管理、活動報告書の作成が主な仕事になりますね」

「私、パソコンとか得意だからそれならできます」

 

 それは俺としても助かる。

 

「では山岸さん、影虎君の同意も得たのでこれを持って帰ってください。入部届です。記入して私に提出すれば、はれて貴女もこの部の部員です。しかし急に人数が増えますねぇ。これは忙しくなりそうです」

「天田君の部屋と山岸さんの部屋の用意もしないとダメですね。今日からとりかかりますか?」

「応接室を含めて三部屋にしましょう。私の部屋は来客を迎えるには向きませんし、部室といえど各個人の部屋に勝手に入るのもどうかと思いますからね」

「え? えっ? 部屋って何の話?」

「貴女の部屋の話です。例えば着替え。影虎君と一緒にするわけにいかないでしょう? だから空き部屋を整備して更衣室にするんですよ」

「昨日桐条先輩と話した時に案内した部屋、あそこが俺の部屋。普段はあそこで着替えや休憩をとってる。部員が少ないから山岸さんと天田君を入れても一人に一部屋個室が与えられる状態なんだよ。泊まり込みは禁止だけど、私物とか置いておくのは構わないから」

「あの部屋だけが部室じゃなかったんだ……いいの、かな?」

「ヒヒッ……いいんですよ。学校側がこの建物丸ごとパルクール同好会の部室と認めているのですから」

「まぁ、あまり気にしない方がいいよ。便利だし広くてラッキー、で済ませれば。俺もそうしてる」

「じゃ、じゃあ……そうする。近いうちにPCの材料買ってきて組み立てるね」

「納得早っ!?」

「へうっ!?」

 

 この子、意外と順応力高いのかもしれない……

 

「というか、PC自作するの?」

「う、うん。マネージャーの仕事にあれば便利だと思うけど、私物のPCを学校に置いておくのはちょっと……」

「それは仕方ない。でも値段はいくらくらいになる? うちの部は正式には同好会だから部費が出ないんだよ」

「安いパーツを選べばちゃんと使えて二万円まで抑えられると思う」

「二万円か………………本気でバイト探すか」

「?」

「いや、実は他にも用意したい物があるんだ。練習中に使う天田君用のプロテクター一式とか」

 

 パルクールの練習は高い所から飛び降りたり逆に登ったりと危険がつきものだ。特に初心者は技に失敗しやすく、怪我の危険が大きい。だから怪我から身を守るプロテクターが必須。最低でもヘルメットや両方の肘と膝を守るプロテクターに足に合わせた運動靴が必要になる。

 

 しかし天田少年は現在遠縁の親戚の援助を受けて暮らしているので、防具にかかるお金を気にしてパルクールを辞めると言い出すかもしれない。今の大人ぶった天田少年なら十分ありえる気がする。

 

 でも中古は前に壊れ物を掴まされたことがあるし、ケチると怪我の元。怪我をしてパルクールが怖くなる、ってこともありえるので初心者には体に合うちゃんとした防具を使わせるべき。それに今後はスポーツドリンクの消費も増えるだろう。

 

「パルクールで必要なものって色々あるから。それに俺、丁度バイクの免許取ろうとも思ってたし。講習や試験料だけじゃなくてガソリン代や整備費もかかるから」

「おやおや……影虎君、バイト先のあてはあるのですか?」

「叔父がラーメン屋を経営しているので、聞いてみるつもりです。そこ以外ならネットやバイト情報誌で探そうかと」

「ヒヒヒ……でしたら割の良いお仕事を紹介しましょうか?」

 

 江戸川先生の紹介する割の良い仕事……なんか嫌な予感がする……

 

「あの、私も部員になるので少しくらいなら……」

「とりあえず、それは叔父に聞いてからで。山岸さんは……また今度話そう」

「でも」

「まぁまぁ山岸さん。男子にもいろいろと思うところがあるのですよ」

 

 部員が部のためにお金を出し合うのはおかしくないかもしれないけど、なんとなく女子や子供にお金を出させるのは忌避感があるんだよなぁ……前時代的かもしれないが、たぶん親父の影響だ。何とかバイトを見つけて出費をまかなえるようにしたい。

 

 俺はそう心に決めて、理解できない様子の山岸さんの説得にとりかかった。




影虎は天田を仲間にする事にした!
なぜか山岸まで仲間になった!
影虎はバイト探しを本格的に始めるようだ……


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27話 一進一退

おかしい……
妄想が止まらない……


 夜・自室

 

「はがくれ」営業時間が終わった事を確認し、叔父さんの携帯に電話をかけると数回のコールで叔父さんが出た。

 

「叔父さんこんばんは、影虎です。いまお時間よろしいですか?」

「おう、なにかあったのか?」

「実は今バイトを探してまして、叔父さんのお店に人を雇う予定はありませんか?」

「バイトか……しばらく前に雇ったから今のところ人手は足りてるな。当分新しく雇う予定はねぇが、なんでまた急にバイトなんか探し始めたんだ?」

 

 そう聞かれたので、俺は事情を話した。

 

「ほー……バイクの話は俺も聞いたが、お前の学校そんなガキが居るのか。そんでお前がプロテクターだのなんだのを用意したいと……なんつーか、やっぱお前兄貴の息子だよなぁ」

「叔父さん?」

「いやな、兄貴も族やってた頃はよく後輩を気にかけててよ。金に困った舎弟のためにバイトやってた事あるんだわ。そんで気前よくメシ奢ったりしてなぁ。そういうとこが似てると思ったのさ」

「そうなんですか? 初耳です」

「まぁ兄貴はお前みたいに裏で動くような真似より、気になる奴を正面から腕力で引っ張りまわすのが基本だったしな…………で、どうする? うちの店以外にあてはあんのか?」

「ネットで調べて地道に探します」

「そうか、まぁ頑張れ。またいつか人手が要りそうなら声をかけてやるが、無理はすんなよ。あと今度その後輩含めた部活の奴らで店にこいや、そんときは味玉とチャーシューおまけしてやるからよ」

「はい、ありがとうございます。その時はぜひ」

 

 俺は叔父さんに礼を言うと、数秒で電話が切れる。

 

 バイト先の候補が一つ減ったが、予想の範囲内ではある。

 俺はPCを立ち上げて影時間が来るまでバイト情報のサイトを閲覧した。

 

 

 

 

 ~影時間・タルタロス5F~

 

 今日からタルタロスで訓練を再開。

 たった二日空いただけで久しぶりに感じたが、ここまでの道のりは快調そのもの。休みを入れて動きが鈍ってないかと心配したが、むしろ好調。前から一匹一匹のシャドウは弱かったが、今日はいままで以上に弱く感じた。

 

 周辺把握で敵の動きを把握するコツを掴んだからか、とにかく回避が楽。ここまでの階層には俺以上の機動力を持ったシャドウは宝物の手くらいしか出てこないので、物理攻撃は完全に避け放題だった。あの脳筋のおかげと思うとちょっと癪だが、周辺把握の使い方のコツが掴めたことには感謝しないでもない。

 

 吸血と吸魔で疲労もなく、あっという間に上階に続く階段も見つかり、俺は未知の領域へ踏み込んだ。

 

 五階は番人シャドウであるヴィーナスイーグルがいるはずだが、周りには柱が等間隔に立っているだけでシャドウの姿は見えない。踏み込んでいきなり襲われることは無いようだ。

 

 しかし、部屋には一本だけ奥へと続く通路がある。柱の影に隠れてこっそり通路をのぞくと、天井付近を飛び回るヴィーナスイーグルの姿が確認できる。その数は五羽。

 

 予定より増えているが、まずは各種耐性の確認から始めよう。

 

 隠蔽と保護色の効果が出ている事を確認し、柱の影からそっと出る。相手はこちらに気づいていないようで、優雅な旋回を見せている。……相手が飛んでいると接近戦は難しい。火から初めて氷、雷、風と攻撃魔法を撃ってみるか。

 

 通路に入り接近したら、敵の一羽に狙いを定めて集中……俺は想像した。敵の一羽が進む先で発生する爆炎を。そして心の中でアギと唱えると、いつもの体から力かが抜ける感覚を覚えた直後、狙った場所に咲いた炎の花が一羽を飲み込んだ。

 

「ギィッ!? ギャギャギャッ!」

「「「「ギィッギィッギィッ!!!」」」」

「火は吸収か」

 

 アナライズにより視界の端に結果が表示された。どうやら火は効かないらしく、攻撃を受けた一羽もダメージを負った様子は無い。

 

 先ほどの悲鳴は不意打ちに驚いただけか。しかもいまので俺の存在もばれた。五羽は警戒してより高い場所を飛んでいるが、全部の目がこちらを向いている。

 

「ケェー!!」

「!」

 

 一羽の……紛らわしい! っと、“敵A”が俺の左を通過。動きがだいぶ速いが、まだ避けられる速度だ。しかし残りの敵B~Eが頭上で旋回して縦横無尽に、続けざまに飛び込んでくる。

 

 脳筋との戦いを思い出せ……周辺把握で敵の動きを把握。Aは上へ戻り勢いをつけている。

 Bは正面から、Cは真上、DとEは右と後ろ!

 

 俺は右斜め前へ大きく踏み出すと四羽の軌道修正は間に合わず、四つのくちばしが空を切った。

 

「対応、できる!」

「ギッ!?」

 

 もう一度飛び込んできた敵Aを避けると同時に鈎爪を突きたててやる。

 

 おっと弱点発見! 貫通か!

 

「ギギギギギギッ、キィィ……」

「キィ!?」

 

 鈎爪に刺さってもがく敵Aに吸血と吸魔を使い、他からの攻撃を避けつつもう片方の鈎爪でメッタ刺しにすると敵Aが消滅。それを見た他の四羽が慌てたように高く飛び上がった。

 

 だが攻撃はしてこない……特にスキルを使った覚えはないが、状態異常:混乱、動揺、恐怖のどれかに罹っていそうだ。攻撃してこないなら一つこの前戦って思いついた技を実験させてもらおう。

 

 右拳を開いて貫手の型に。

 手の部分を変形させて刃に。

 弓のように腕を引き、突き出すと同時に腕のドッペルゲンガーを伸ばす(・・・)

 

「キキッ!?」

 

 ドッペルゲンガーは元来特定の形状を持たないペルソナ。普段は服の形を取らせているけど、ロープに変形させた時のように伸ばそうと思えば伸ばせる。直線的に伸ばすだけなら操作もさほど難しくない。

 

 そう考えて放った槍のような貫手は空中で羽ばたく敵Bへ向かって五メートルほど伸びたものの、避けられた。

 

「外……したけど発射は成功!」

「「「「ギィ!」」」」

 

 今の一撃で警戒し直したヴィーナスイーグルが揃ってガルを撃ってくる。

 的を絞らせないように素早く前後左右に動いたが、一発被弾したようだ。

 しかし、それは攻撃とは思えないほど弱い風圧だった。

 

 あまりの弱さに少し驚いたが、これはチャンス!

 

 俺は攻撃の手を早めた。攻撃を避けながら、敵が近づいてくれば爪、遠くに居る敵には槍貫手でジワジワと攻める。

 

 

 

 そして五分後……

 

 スピードと空中での機動力に多少翻弄されたものの、危なげなくヴィーナスイーグルの殲滅が完了……ヴィーナスイーグルからあまり吸血できず、まだ慣れない槍貫手を連発して疲れたけど、最後はもう逃げまどうヴィーナスイーグルを狙って撃ち落とすだけの作業だった。

 

 ゲームで例えるなら適性レベルを大幅に超えたせいで敵の攻撃で一しか食らわなくなった感じ……よく考えたら俺はこれまで毎日のように四階までのシャドウを大量に殺戮していた。この世界にレベルの概念があるのかは分からないが、そろそろもう少し上に行くべきということだろう。

 

 今日は疲れたから帰るとして、明日からは六階に登ろう。

 ……そういえばヴィーナスイーグル倒しちゃったけど、来年までに復活するのかな?

 明日もし復活してたらまた戦おう。攻撃の精度を上げるために。

 俺のペルソナ物理攻撃スキル全然覚えないし、変形能力の応用技も増やしたいな……

 

 俺はそんな事を考えながら、五階の奥にある転移装置を起動した。




影虎は「はがくれ」でバイトができない!
影虎はネットでバイト先を探している……
見つからないと、残る候補はストレガの「危ない仕事」か江戸川先生の「怪しい仕事」

影虎はタルタロス五階の番人を倒した!
影虎は新技、槍貫手を編み出した!

槍貫手:ドッペルゲンガーの変形能力を応用して槍のような刃をつけて伸ばした貫手。
    貫通、斬撃属性、射程距離五メートル。



考えてみたら影虎のドッペルゲンガーって超人系悪魔の実の能力を一部再現できそう。
ゴムゴムの実(打撃)とかスパスパの実(斬撃)とかトゲトゲの実(貫通)とか……


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28話 珍しいアルバイト

 4月25日(金)放課後 

 

 ~給湯室~

 

 以前Be blue Vのオーナーから貰った茶道具の手入れをしていたら、ため息が漏れた。

 

「バイト見つからねぇな……」

 

 天田少年に入部の許可を出すと決まって早三日。天田が練習に参加する日が着実に近づいている。

 影時間のタルタロス探索は敵が強くなっても戦える、デバフもよく効く好調続きだが、バイトのほうがさっぱりだ。たった三日ともいえるが、それでも何件かはみつかり即日面接にもこぎつける事ができているのに、結果が全敗なのだ。

 

 雇ってもいいと言われた所も二つあったが……高校生可で募集しておきながら実際に高校生に来られても困ると文句言われたり、明らかなブラック臭がただようところは流石になぁ……社会に出たら理不尽があるのも分かるけど、今回はご縁が無かったと言う事でやんわり断った。

 

「失礼する! 誰かおられるか?」

 

 聞こえたのは桐条先輩の声。

 洗い物を中断して給湯室を出ると、先輩が部室の入口に立っていた。

 

「桐条先輩、どうされました?」

「江戸川先生はいるか?」

「すみません、今先生は山岸さんと一緒に部で使う物の手配に出てるんですよ」

 

 今頃はBe blue Vで例のゴミの中から使えそうな家具を貰ったり、PCのジャンクパーツ屋をまわってるはずだ。言わないけど。

 

「そういえば彼女も入部したんだったな……居ないのなら仕方が無い。これを江戸川先生に」

 

 差し出されたのは茶色のファイル。

 

「部活動の顧問用の提出書類だ。必要事項を記入して今週中に提出するよう伝えて欲しい」

「わかりました。わざわざ届けてくださってありがとうございます」

「君にも一つ伝えておきたいことがあったからな」

「天田君のことですか」

「そうだ。彼も今日パルクール同好会の練習に参加する手続きをすませたと連絡が入った。来週の水曜日から参加する事になるだろう」

「分かりました、用意をしておきます」

「よろしく頼む。では私はこれで……っ!」

 

 用を済ませた先輩が帰ろうとしたその時、先輩の体がふらついた。

 倒れる直前、とっさに動いた俺の手が足をもつれさせた先輩を支える。

 

「大丈夫ですか!?」

「……大丈夫だ、すまない」

 

 先輩は目頭を指で揉みながら自分の足で立つが、信用できない。体を支えて気づいたが、今日の先輩はメイクをしている。女子だからと言われればそれまでだが、倒れかけたところを見ると体調不良による顔色の悪さを隠しているようにしか見えなかった。

 

「先輩、少し休んで行ってください。お茶を出しますから」

「大丈夫だ、私は生徒会室に」

「……そんなに忙しいんですか? 生徒会って」

 

 俺がそう言うと先輩は一度口を噤み、躊躇いがちに口を開いた。

 

「そうだな……少し休ませてもらおうか」

 

 俺はそのまま先輩を部屋へ案内した。

 

 

 

 

 

 

「結構なお手前で」

 

 俺が点てた薄茶を、素人目から見ても見事な所作で飲んだ先輩が一言。

 普通の緑茶がきれていたので、目に付いた抹茶を点てたけど……

 

「……先輩、これで休めてますか? 出した俺が言うのもなんですけど」

「十分だ。 君は茶道を習っていたのか? 茶を点てる姿がなかなか堂に入っていた」

「小学生の頃に母から習ったんです。俺は昔から外を走り回ったり、体を鍛えたり。そんな事ばっかりしてたんで、こういうことも少しはやりなさい、と。

 実際にお茶を点てるのは久しぶりなので、少し心配でしたけど」

「いい味だった。おかげで少し楽になった」

「……生徒会のお仕事、大変なんですね」

「それは違う。楽ではないが、私一人で生徒会の仕事を回しているわけでもない。生徒会長以下、生徒会のメンバーが手分けをして仕事に当たっている。……実は最近、夜に調べ物をしていてな、それで疲れがたまっていたんだ」

「体には気をつけてください……ところで調べ物って何を? そんな倒れかけるまで。あ、話せない事なら聞きませんが」

「構わないさ、明彦を襲った変質者のことだ」

「あ~……そういえば連絡ありましたね、変質者に注意とか、見かけたら通報とか……」

 

 いきなりは心臓に悪い! けど、若干慣れてきた気がする……

 変質者()のことを調べてるとなると、影時間に街中パトロール? それかこの前の占いで知識不足と言ったし、影時間やシャドウについて調べてるのか? あんな事の後だし、脳筋が治療中なら勉強かな?

 

「何か分かりました?」

「向こうも警戒しているのか目撃証言一つない。第二の被害者が出なくて良かったと思う反面、野放しになっていれば懸念が残る。類似する事件が無いかを少し調べているところだ」

「そうですか」

 

 あくまでも“人”の話をしているように聞こえるが、俺は事情を知っているのでおおよそ見当がつく。きっと過去のデータでも探してるんだろうな……

 

「ところで……君はバイクの免許を取るのか?」

「えっ? 何で知ってるんですか?」

「あれが目に付いた」

 

 先輩が指差す先は床脇(とこわき)。その名の通り床の間の横にあり、備え付けられている棚の上には一冊の本。

 

 “免許習得虎の巻~バイク編~”

 

 昨日バイト情報誌と一緒に買った参考書が置きっぱなしになっていた。

 

「なるほど……両親と親戚一同が入学祝いにバイクを贈ってくれると言うので、取る事にしたんです。桐条先輩はバイクに興味は?」

「乗る機会は少ないが、趣味で一台所有している」

「そうなんですか」

「意外、と言わないんだな?」

 

 知ってますから。

 

「趣味は人それぞれ、先輩がバイク好きでもいいじゃないですか」

「周りからは危ないからよせとよく言われるがな」

「桐条先輩の立場だとそうかもしれませんね。俺は母方の伯父がバイク会社を経営して、父がそこで働いています。他にもバイク好きな人がまわりに多かったので変には思いませんけど」

「ほう、君の家はバイクを……」

「ちょっと失礼」

 

 立ち上がって棚から数冊の本を取り出し、目的の一冊を探す。

 

「どこに……あった。どうぞ」

「バイクのカタログか?」

「伯父の会社で作っているバイクのカタログです」

「速水モーターか。……水陸両用?」

「それは伯父が設計にかかわったバイクですね」

 

 伯父は社長だが趣味で設計も行う。しかし彼はバイク好きであると同時にかなりのロボットオタクで、やたらと水陸両用や変形のための機構をバイクに搭載したがる人だ。設計した中にはこうしてカタログに載せられないまま消えていった実験的なバイクも多いと聞く。

 

 そんな話をしながら持ち込んだ私物のカタログを先輩に見せていると、先輩はより興味を示したようだ。

 

「よかったらそれ、持って行ってください。これも一緒に」

 

 俺は持っていた残りの本を先輩の前に置く。俺が持ち込んでいたバイク関連の雑誌だ。

 それを見た先輩は興味を持つも、手が出ない。

 

「これを私がか?」

「先輩の立場だと買いづらかったりしません?」

「確かにそうだが……」

「雑誌なんて読み返してもせいぜい十回くらいで捨ててしまいますから。どうぞ息抜きにでも」

 

 熱心なのはいいけれど、流石に倒れかけるまで根をつめるのはやめた方がいい。部活のことではなにかと世話になってるし……そういう意味を込めて本を押し出すと、先輩は薄く笑って本を受け取った。

 

「ありがたく頂こう。寮に帰って楽しませてもらうよ。バイクの雑誌なんて久しぶりに……? バイ()情報?」

「あっ、先輩それだけ返してください、必要なんで」

 

 表紙を眺めた先輩がバイク雑誌に混ざるバイト情報誌を見付けた。

 言われて気づき慌てて回収すると、バイクの話しになった時と同じような質問をされた。

 

「アルバイトを探しているのか?」

「免許を取るためのお金とか、バイクの整備費用とかをためようと思いまして」

「なるほどな。もう見つかったのか?」

「まだですね。競争率が高いみたいで」

「そうか……腕力に自信はあるか?」

「? それなりにあります。(友近)を一人担ぎ上げるくらいなら」

「それなら一日限りだが、一つだけ心当たりがある」

「……それは何処で?」

「先方は辰巳博物館。桐条グループが出資する代わりに、課外活動などで生徒の学習に協力していただいている。そこに明日、遺跡から出土した土器の破片が大量に運び込まれるそうだ。その搬入の手伝いと土器の修復が仕事になる」

「土器の搬入と修復……それって素人がやっていいんですか?」

「作業はもちろん専門家の慣習の下で行うが、遺跡の発掘や出土品の修復を行うアルバイトは稀に存在するらしい。

 今回は先方がそういった仕事に興味のある学生の経験になればという意図もあるらしく、高校生も受け入れている。私も先日会食で館長にお会いした際に誘われたんだが、時給千円で昼食付きでも人が集まらないと嘆いていた」

「時給千円で昼食付き」

 

 情報誌に載ってるバイトで時給が低いものは六百から七百円……そう考えると結構条件いいな。ストレガと江戸川先生の紹介と違って、内容もハッキリしているし何より安全そう。

 他に候補も無いし、一日だけならやってみるか。

 

「先輩、先方の連絡先を教えていただけますか? 興味がでてきました」

 

 先輩に博物館の電話番号を聞いた俺は、そのあともう十分休んだからと言う先輩を見送り、貰った番号に電話をかけた。




遺跡発掘や出土品の復元のアルバイトって本当にあるらしいです。
どんなアルバイトがあるかと探してて見つけました。
調べてみると、土器の復元体験が出来る場所まであるらしい。

遺跡とか土器は素人が入る隙間の無いプロの領域だと思っていた私には驚きでした。
そして、へ~面白いな~と思ったらこの話を書いていた。


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29話 辰巳博物館(前編)

 4月26日(土)

 

 辰巳博物館

 

 古いコンサートホールを改装してオープンした比較的歴史の浅い博物館だが、季節を通して古代、中世、近代と様々な時代についてこれまた様々な展示をしている。館内の展示物には経営不振に陥った複数の博物館から寄贈されてきたものが多く、展示物の種類や品数が非常に豊富。アクセスは辰巳ポートアイランド駅からバスで十分……

 

「次はー辰巳博物館前ー、辰巳博物館前ー」

 

 調べた通りのバスに揺られる事十分間、ペルソナの世界でもさすがは日本だ。定刻通りに到着し、バスを降りて待ち合わせの相手を探す。昨日バイトについて問い合わせたら、担当者から朝の七時半に博物館前で迎えると言われたから鞄一つ持って来たんだが……あの人かな?

 

 以前の名残か、華美で大きな入口が付いている以外は四階建てのビルとあまり違いは見られない。そんな博物館の前に立つ若い男性に声をかける。

 

「すみません、貴方が原さんでしょうか?」

「そうだけど、君は葉隠君かな?」

「はい、葉隠影虎です。おはようございます、今日はよろしくお願いします!」

「僕は学芸員としてこの博物館で働いている(はら)(いつき)。今日は君の仕事の補佐を担当します。分からないことがあったらなんでも聞いてくれ。でもその前に……まずは書類を幾つか書いて欲しい。アルバイトとして雇うわけだからね」

「分かりました」

「それでは付いてきてくれ」

 

 博物館に入り、関係者以外立ち入り禁止のロープを超えて原さんに付いて行くと、応接室と書かれた部屋には先客が居た。そして先客の姿を見た俺は反応に困る。

 

「君が葉隠君か! よく来てくれたね! いやぁ、君みたいな若い子が名乗りを上げてくれて本当に良かった! 歓迎するよ! 私はここで館長をしている小野だ!」

「あ、ありがとうございます……小野館長」

 

 先客は年老いて皺の多い顔を緩ませ、おもったより強い力で俺の背中を叩きながら喜んでいる人の良さそうな普通のお爺さんだ。

 

 髪型が角髪(みずら)でなければ。

 

 染めたであろう黒髪を有名な古代日本男性の髪型に結い、服装まで髪形に合わせてある。第一印象は完全にコスプレである。しかしこの服装に小野という苗字。まさかこの人……

 

「最近の若い子は皆、映画やゲームセンターに行ってしまう。若者の博物館離れが進むのは実に」

「あの、すみません」

「おお、なんだね?」

「付かぬ事をうかがいますが、月光館学園で教鞭をとっている小野先生をご存知ではありませんか?」

「勿論だとも! それは私の息子だよ!」

「やっぱり……」

 

 疑問が確定事項に変わった。

 

「息子が働いているからもっと歴史に興味を持つ子が多く来ると思えば、アルバイトの応募者は君を含めてたったの一人とは嘆かわしいっ!」

 

 俺を含めて一人、ってそれ俺だけってことじゃん!?

 

「館長、こちらにおられましたか。書類に判をお願いします」

「む、そうか……私は行かなくては。原君、彼をよろしく頼む。葉隠君、君は仕事に精を出すだけでなく、よければ博物館も楽しんでいってくれたまえ。ではな!」

 

 小野館長は女性職員に呼ばれると、渋々といった表情で部屋を出て行った。

 

「嵐のような人でしたね……」

「見た目にも驚いただろうけど、悪い人じゃないから。それからこれが書類ね」

 

 俺は小野館長の勢いに押されたが、原さんの説明に従って書類を書いていく。

 

 

 

 

 

 午前 時刻は八時半。

 

 書類を書いたら今日一緒に働く学芸員の方々に挨拶を済ませ、仕事の手順や土器の搬入場所を教わりながら待つこと三十分。問題の土器が届いたということで仕事が始まった。

 

 原さんを含めた五人の学芸員についていくと、博物館の裏手にある搬入用の駐車場に到着。すでに四台のバンが停まっていて、運転手が見知らぬ職員と話している。そこに原さんが一度加わってすぐに戻ってきた。

 

「皆、作業にとりかかろう。車の後ろから順に運び出してくれ」

「「「「「はい!」」」」」

 

 速やかに動く学芸員の皆さんに一歩遅れて俺が続く。

 車のトランクが開かれると、車内にはプラスチック製のケースが大量に積み込まれていた。

 

「はい、葉隠君はまずこれ持ってって。梱包材があるけど、落とさないように気をつけて」

「はい!」

 

 受け取ったケースの中身はビニール製の何かでケースから落ちないように保護されている。

 そのせいでよく見えないが、中身はかなり細かい土器の破片のようだ。

 

 俺はケースを丁寧に運び、事前に教わった部屋に運び込む作業を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 午前 十一時半。

 

 全てのケースの搬入が無事に終わり、土器修復の準備が行われている。

 

 ケースを搬入された部屋はホールのような広い部屋で、学芸員さんの指示に従いケースの整理をしたり、床にビニールシートを敷いている。修復作業はこの上で行うそうだ。

 

 敷いたビニールシートの一角には土器の破片が入ったケースが一つ。その横に破片の仮止め用テープや印をつけるためのチョークなど修復作業に必要な道具が次々置かれていくが、ここで気になるものを見付けた。

 

「原さん、質問があります」

「なんだい?」

 

 効いたのは置かれた道具の一つについて。

 

「これって市販の接着剤ですよね? これでくっつけるんですか?」

「そうだよ。土器の修復では完全に近い状態に戻すだけでなく、必要な時に元の破片の状態に破片を損壊させることなく戻せることが重要なんだ。その点この接着剤は成分にアセトンと言う物質が入っていて、後で簡単に取り除けるからね。市販品でもいいんだ」

「そういう理由でなんですね……」

「ただまぁ、今日は使うかどうか分からないけどね」

「? それはどうして?」

「土器を接着し始めるのは、基本的にその土器の破片が全部集まってからなんだよ」

 

 そう言いながら原さんはケースのビニールを開け、破片を三つ取り出した。

 

「そのためにはまずこんな状態の破片からパズルのように合う破片を探して、テープやペンで仮止めをしながら一つ一つ確かめていくんだ。だけどこの破片は長く地面に埋まっていた物だからパズルのようにぴったり合うとは限らないし、発掘されずに破片そのものが欠けている場合もある。

 そういう時は無い破片を補填して組み立てることもあるけれど、それは出土した破片全部から必ず合う破片がないかを探してから。それが終わって初めて本格的に接着剤で接着するんだ」

「……大変な作業ですね」

 

 今日運んだケースに詰まった大量の破片全部を調べるとなると、まず今日一日では終わらないな。

 

「今日一日でそこまで作業が進むことは難しいんですね」

「大きい破片ばかりですぐ組み立てられる土器があればチャンスはあるけど、今日の出土品は工事中に出土したそうだから小さい破片が多そうだ」

 

 工事中に出土品が見つかると工事を行う側にとっては発掘作業で工期が遅れるなどの問題で非常に迷惑らしく、出土品は無いものとして工事が続けられることもあるそうだ。今日の破片は工事会社が協力的だったか、迷惑をかけた末にここまで運ばれてきたのだろう。

 

「んー……ちょっと早いけどそろそろいい時間だね。皆ー! 今やってる作業が終わったら昼食にしよう!」

 

 原さんの号令もかかった、発掘の経緯は気にしないでおこう。

 

 

 

 

 十二時十分

 

 用意された幕の内弁当に舌鼓を打った俺は、一時までの食休みに博物館内を歩いていた。

 どうやらこの博物館は一階から四階まで上に登るごとに展示物の年代が新しくなっているようで、今いる一階の部屋にはアンモナイトなどの化石がガラスケースの中に並べられている。付随されている説明書きも分かりやすく、こういうのを見るのもたまには良いかもしれない。

 

 しかしその展示物を見るお客は少なかった。あまり繁盛してないのかな……とか失礼な事を考えつつ歩いていると、見間違えようのない人が前から歩いてきた。

 

「葉隠君じゃないか、こんなところでどうしたんだい?」

「小野館長。食休みに時間をいただけたので、館内を見せていただいていました。化石や石器、色々珍しいものが多くて面白いですね」

「そうかそうか、そう言ってくれるか。近頃の若者には退屈なのかと思っていたが……そういえば、仕事のほうはどこまで進んだのかね?」

「土器の搬入と修復の準備が終わりました。一時からは修復のお手伝いをさせていただく事になっています」

「うむ、順調のようだね。ときに、一時までは館内をまわるのかね?」

「そのつもりです」

「なら時間まで私が館内を案内してあげよう!」

「!? 館長直々にですか? それは」

「次代を担う若人が歴史に興味を示したんだ。遠慮する必要は無いよ、私も館内を見てまわるのが日課なんだから」

 

 笑顔から小野館長の喜びと善意が伝わってくる……どうやらもう逃げられないようだ。

 

 俺は小野館長に館内を案内していただくことになった。

 

「ではまず……」

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………

 

 …………………………

 

 

「おや、もうこんなに時間が経ってしまったか」

 

 はっ!? 意識が飛んだ!? いつから!?

 

 たしか、最初の方は面白かった気がするけど……そうだ、邪馬台国と卑弥呼の話になってから館長の語りに熱が入ってきたんだ。月光館学園の小野先生が伊達家のストーカーなら、小野館長は卑弥呼のストーカーってくらいに。

 

 それで、ってもう時間!? 館長の視線を追って室内にかけられた時計に目を向けると、時刻は十二時五十二分。

 

「時がたつのは早い……君ももう行った方がいいな」

「館長、案内ありがとうございました。おかげで有意義な時間になりました」

「そうかね、楽しめていたのなら私も嬉しいよ」

「本当にありがとうございました」

「土器の修復は破片を良く見て、根気良くやるのが肝要だ。頑張りなさい」

 

 社交辞令を口にして立ち去る俺を、館長はその一言と満面の笑顔で見送ってくれた。

 

 俺は時間に遅れないよう作業部屋への道を急ぐが、その間に館長の言葉が頭をよぎる。

 

 修復は破片を良く見て……もしかして……間に合うか?

 

 俺は思いつきに従い、近くにあったトイレへ駆け込んだ。




小野館長はオリジナルキャラです。
原作には出てきませんのでご注意ください。


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30話 辰巳博物館(後編)

「すみません、遅れました!」

「時間丁度だから大丈夫だよ。それと、お疲れ様」

 

 作業部屋に戻った俺に、原さんはそう言ってくれた。

 さらに他の学芸員の皆さんも何故か優しい目で俺を見ている。

 

「君、さっき館長に捕まってたでしょう。邪馬台国のブースのところで」

「私たち、さっき君と館長を見かけたのよ」

「館長って良い人だけど、特定の話になると長いんだよなぁ……」

「しかも同じ話を何度も繰り返すから疲れるしな……」

「僕たちは皆最低一度は館長の話を聞いているからね。熱が入った館長は引き止められることもあるし、そういう事情なら多少遅刻しても怒るつもりはなかったよ」

 

 優しいな……いや、これは被害者同士の共感か?

 とりあえず、ギリギリに来たけど問題ないようだ。

 

「さぁ、作業を始めよう。葉隠君はこっち、僕の隣に座って」

「はい」

 

 床に敷いたシートの前に座る原さん隣に座り、渡された手袋をはめて午後の仕事が始まった。

 

「まずは土器の破片を適当にシートに並べて、よく見えるようにする。大抵はここに来る前に汚れが落とされてるけど、もしゴミが付いていたら手元の刷毛(ハケ)で傷つかないようにそっと表面を掃いて落としてね。まずはそこまでやろう」

 

 指示に従い、一つ一つ丁寧に破片をシートの上に並べていく。

 

「そういえば葉隠君、眼鏡かけたんだね」

「細かい作業をするときは、たまに」

 

 嘘だ。俺の視力は両目ともに2.0、眼鏡をかけたことはない。

 なら原さんは何でそんな事を言ったのか?

 それは、俺の顔に黒縁眼鏡に変形させたドッペルゲンガーがかっているからだ。

 

 “土器の修復は破片をよく見て”

 

 館長のアドバイスを聞いたら周辺把握が役に立つかも、と思ったので試しにトイレの個室で装着してきた。ペルソナを昼間に召喚できるのも、周辺把握が使えるのも確認済みだったしな。攻撃や回復のスキルさえ使わなければ倒れることも無い。

 

 道中の展示室で監視カメラの位置や向きを知覚できた事で周辺把握の効果は再確認してあるし、今もこの部屋に監視カメラなどが無い事は分かる。桐条グループにばれる事もないだろう。

 

 桐条系列の病院でペルソナ使いの適性が調べられる事は知っているが、いくらなんでも桐条グループ傘下の企業全てでそれができるとは思えない。グループの手があまり入っていない企業だってあるだろうし、調べるには何か検査的な物が必要だと俺は考えている。

 

 もし特定の検査を必要とせず、ただそこにいるだけで測定できる道具があるなら適性を持つ人がもっと見つかっていてもおかしくない。そうだとしたら、少なくとも俺の適性はとっくに見つかっているはずだ。

 

 なにせ桐条グループは病院に行った山岸さんから適性を見つけた。それが気まぐれに検査してみた時に偶然適性を持った人が来ていて発見されるなんて、実現する可能性がどれほど低いか。常時その検査をして人を探し続けていると言われた方が自然に思える。

 

 そんな連中の手に検査不要で適性を見つける方法があれば使わない理由が無い。病院だけじゃなく街中でも、手が届きやすい俺達の学生寮でも確認されているはずだ。

 

 向こうが俺を知っていながら放置している可能性も無いことはないけど、ぶっちゃけどこにメリットがあるかわからない。黒幕の幾月だって最終的に全部の大型シャドウを倒させるのが目的なんだから、可能性があれば取り込んでおきたいだろう。

 

 結局何が言いたいかというと……こっそりならペルソナ使っても良いんじゃない? って事だ。

 

 せっかく役立てられそうな力があるんだし、戦闘だけじゃなく以前山岸さんの落としたお金を拾ったときのような使い方もあっていいと思う。

 

 まぁ俺のドッペルゲンガーみたいな変わり種じゃないと大っぴらに使えないのかもしれないけど……

 

「よし……葉隠君、そろそろ次の作業に進もうか」

「はい」

 

 原さんの声がかかったのは、目の前のシートに青灰色の破片がある程度広く並べられた頃だった。

 

「ここからいよいよ本番、接合という作業に入る。適当な破片を手にとって色、形を参考に繋がる破片を探していくんだ。破片を見てもらうと、小さな文字が見えると思う。それはここに来る前に書き込まれた破片のデータだから、それも参考にしてね。地道な作業になるけど、頑張ろう」

「わかりました。ところで、この破片はなんという土器なんですか?」

「ほとんど須恵器(すえき)だね」

須恵器(すえき)……すみません、詳しくお願いします」

須恵器(すえき)っていうのは古墳時代から平安時代までの間生産されていた土器で、朝鮮半島が起源とされる土器だね。

 有名な縄文土器などが粘土を積み上げて作る輪積みという技法で作られているのに対し、須恵器(すえき)はろくろを使って作られる。また、それまでの土器が釜を使わない野焼きで作られていたのに対して、須恵器(すえき)は釜を使って高温で焼き上げられている。それによってこの特徴的な色と硬さがでるんだ。

 野焼きの土器は酸素が土器の鉄分が結合して赤みがでるし、焼くときの温度が低くて脆いんだね」

「なるほど。なら、この色が違う破片は別の土器ですか?」

「それは土師器(はじき)かな? 須恵器(すえき)と同時期に作られていた素焼きの土器だよ。土器として有名な埴輪(はにわ)の仲間だね……これはおそらく器とか生活に使う実用品だろう。こういうのは破片が多いと難しいよ、形状が似通っている同種の土器の破片が複数……今回はまず確実に混ざってるからね。これが火焔土器だったらもう少し簡単だと思うけど……」

 

 また新しい土器の名前が出てきた。けど、これはどこかで聞いた気がする。

 

「火焔……もしかして教科書に載ってる土器ですか?」

「そうそう。国宝になってる物もあるからね。火焔土器は縄文時代の中期に突然生まれて消えた謎の多い土器で……煮炊きに使われていたと考えられているんだけど、装飾が多くて接合の手がかりは多いんだ。形もだいたい決まってるし」

「なるほど……とりあえず土師器(はじき)の破片だけ集めてもいいですか?」

「いいよ、君には土師器(はじき)の修復をお願いしよう」

「ありがとうございます」

 

 作業に集中しはじめたのか心なし口数が減ってきた原さんに許可をとり、俺は赤褐色の破片だけを近くに集めて並べて破片に集中。すると周辺把握は視覚よりも多くの情報を俺に伝えてくる。

 

 ……むしろ多すぎ? 目の前にある全部の破片の形状がまとめて頭に入ってくるけど、普段タルタロスで使うよりもゴチャっとしている印象だ。

 

 だったら絞ってみるか。

 

 逆さまにした二等辺三角形に近い形で大き目の破片を左手に持ち、その断面に合いそうな真っ直ぐに割れた破片を探すと候補が四つ見つかった。

 

 破片の上は器のふちの様に丸くなっている。割れていない。同じくそういう部分を持つ破片を探すと、候補が一つに絞られる。合わせてみると……

 

「原さん、これで合ってますか?」

「ん? おっ、幸先がいいじゃないか。合ってると思うよ」

 

 よし成功!

 

「合う破片を見つけたらテープで仮止めをして、チョークで印を書いてつなぎ目を分かるようにしてから次の破片を探すんだ。この調子でよろしく頼むね」

「はい!」

 

 言われた通りに処理をして次の破片を探す。今見つけた破片は元の破片と上をそろえて右側に着いた。その結果右上から左下に向かう真っ直ぐな割れ目と、いびつな弧を描いた割れ目が合わさった破片の右下に生まれる。

 

 そしてそこに合いそうな破片を探すと、さっきの候補の中に該当する破片があった。

 

 弧の部分は無いけどふちが合ってるし、これだよな? さっきと同じようにテープでつけて、印を描く。それを繰り返す。

 

 ……続けるとだんだん理解できてくる。

 まず、始めは周辺把握で全体の破片の形状が分かっている状態。

 その中から一つの断面の情報を探すと、該当しそうな形状を持つ破片が瞬時に分かる。

 分かる、というよりも該当しない破片がふるい落とされていくようだ。

 残った破片とその位置は分かるので、該当する破片はすぐ手にとれる。

 正しい破片が組み合わさると、新しい断面が生まれるか情報が増える。

 そこに該当する破片を探し、また同じように正しい破片が見つかる。

 

 欠けや該当する破片が無い時は、諦めて別の断面を探せばいい。

 一点が見つからなくても他の断面に合う破片を見つけていけばだんだんと形になる。

 それがさらなる情報になり、欠けている部分を埋める破片が見つかる。

 最初は見つけた破片を手にとってから合わせて確認していたのに、もう手に取るより先に判別できるようになってきた。

 動き出した手は止まらない。

 

「原さん」

「何か分からない所でもぉ……」

 

 声をかけられこちらを向いた原さんの目が見開かれる。

 視線の先には俺の手元と、テープで繋げられた土器の破片の塊。

 所々に欠けはあるがどれも小さく、立派な器の形を成している。

 

「……一つ完成してしまいました」

 

 所要時間は約十五分。

 テープや印で余分に時間がかかったが、それがなければもっと早くできた。

 もう少し慣れれば、破片をあわせて確かめる工程も要らなくなりそう。

 ……とても口には出せない。やった自分でも驚きの結果が出てしまった。




影虎は修復作業にドッペルゲンガーを使った!
ドッペルゲンガーは役に立ちすぎた!


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31話 バイト後の夜

 影時間 タルタロス2F

 

 疲れたー……

 

 博物館でのアルバイトを終えて帰宅した俺は、今日もタルタロスへ来ていた。

 

 あの後原さんだけでなくほかの学芸員の人たちにも驚かれ、パズルは得意だとか、空間認識能力が高いってよく言われます、とか言ってなんとか場をしのいだ。

 

 そのあとはもう五人そろって俺を口で天才と呼んで実際はビックリ人間扱い。絶対面白がってたか仕事を押し付けにきていた。おまけにそこへ小野館長まで来たため騒ぎが大きくなり、明日も働くことになった。

 

 でもそれはバイトとしてちゃんと役に立てた証拠だろう。普通は土器一つを接合して完成させるにはもっと時間がかかると皆さん言っていたし、お給料には色が付いて一万五千円とおまけに博物館の回数券まで貰ってしまった。

 

 時給千円で仕事が朝の八時半から午後七時半までの十一時間。昼休み込みだから一万円に届かないと思っていたのでだいぶ予想を超えたけど、いい結果で終わってよかった。

 

 体の疲れもこのくらいなら戦えるし、シャドウから吸血していればすぐに調子は取り戻せる。……だいぶ感覚がずれてきた気がするな。これじゃシャドウが栄養ドリンクみたいじゃないか。

 

 そんな事を考えているうちに、今日最初のシャドウを発見。臆病のマーヤが一匹だけだ。

 廊下を駆け足で近づけば、シャドウがこちらに気づいて逃げ始めた。

 

「逃がさない!」

「ギャウッ!?」

 

 足を速めて飛びかかり、右の鈎爪を背中に突きたてるがシャドウは逃げるために暴れ始めた。

 しがみつき続けるのも疲れるので、先端以外の形状を細い紐のように変えてシャドウから飛び降りる。

 シャドウは振り払えたと思ったのか一目散に逃げ出すが、爪はまだ釣り針のように刺さっているので……

 

「吸血、吸魔」

 

 伸ばした紐状のドッペルゲンガーを通して力が流れ込んでくる。

 それでもシャドウは逃げ続けたが、俺がドッペルゲンガーを伸ばせる限界距離。

 およそ二十メートル進んだ所で紐が伸びきり、ようやく気づいて背中に手を伸ばす。

 だが時既に遅く、その手が届く前にシャドウは力尽きて消滅した。

 槍貫手に続いて考えた爪と紐の組み合わせはこういう事ができるので便利だ。

 

 ……まぁ、あそこまで気づかない奴も珍しいが……攻撃受けた! もっと逃げなきゃ! とか考えてたのかな……?

 

 ちなみに普通は直後かすこし逃げて気づくので追撃したり、紐の余りでがんじがらめにして動きを封じたりする。これさえあれば宝物の手でも逃がさず捕まえられる気がしている。

 

「それにしても、最近逃げるシャドウが増えたな……」

 

 五階を越えたあの日から、四階以下のほとんどのシャドウが俺を見ると逃げ出すようになった。やっぱり力の差が大きすぎるんだろう。ゲームで強くなりすぎて雑魚が逃げるのと全く同じ光景だ。それがなんで五階を越えていきなりなのか……兆候とかあったかな? 普段目に付いた奴に片っ端から、逃げようが逃げまいが関係なく襲い掛かってるから分からない。

 

 でもまぁ、考えてみたらそれって俺らしい(・・・・)気がする。俺はペルソナに限らず、レベルのあるゲームはレベルを上げまくるタイプだ。ペルソナ3では暇があればタルタロスで雑魚狩りをしたし、二週目からは深層モナドで原作キャラのパワーレベリングをしていた。

 

 友達に手ごたえ無くして楽しいの? と聞かれたこともあるが、俺はギリギリの戦いよりもレベルアップの瞬間やスムーズに進めてストーリーを楽しむ方が好きだったからな。

 

 ボスに挑むときもその前で雑魚が逃げ回り戦っても武器の一撃で倒せる、回復アイテムの出番がなくなるほど強くなってからボスに挑んでいた。おまけにレアなアイテムは温存しておこうと考えがちなので、レベリングと合わせるといつか強敵が出たら使おうとしたアイテムを使わずにゲームクリアするなんていつもの事だ。

 

 この前五階で回復アイテムの宝玉輪(全体全回復)を一つ見つけたけど、それもまだもったいなくて使う気にならない。ちょっとした疲れならやっぱり安全な下で吸えばいいと思ってしまう。

 

 おっ。歩いていたら小部屋がみつかった。しかも部屋の真ん中には宝箱がある。

 

 でも今まで何度か宝箱見たけど、お金しか出てこないんだよなぁ……しかも弁当と飲み物買ったらなくなってしまう額だけなので儲からない。ここで稼げたら一石二鳥なのに……

 

 あまり期待せずに宝箱を開けてみると、中には五百円玉が一枚。

 やっぱりお金だったが、今までで一番高額だ。ちょっとラッキー、で……

 

「気づいてるっての!」

「ギシュッ!?」

 

 背後を振り向きながら後ろに下がり、忍び寄ってきた残酷のマーヤの攻撃を避けながら、相手の仮面にジオをおみまいする。するとシャドウは体をピクピクと痙攣させる。感電か、どうやら動けないようだ。

 

 爪を突き立て吸うが、シャドウはそのまま消えるまで動くことは無かった。

 

 ……それにしても最近、敵が状態異常を起こす確率が上がっている気がする。

 この前貰ったラックバンドのおかげだろうか?

 

「ちょっと試してみるか」

 

 数少ない荷物の中に毒消しの効果があるディスポイズンがある事を確認。

 ラックバンドを外してポイズマを使った時と、ラックバンドを付けてポイズマを使った時。

 それを実際に複数回使って比べてみよう。

 

 それから俺はシャドウを探し、力を吸い取る傍らでポイズマを使いまくった。

 今日は吸血で体調を整えたら上に登るという予定を忘れて。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりラックバンドを着けていた方が成功率高いか……」

 

 とりあえず二つの場合を二十回ずつ試してみたが、外した状態での成功が七回に対して、着けた状態では九回の成功を収めた。もう少しデータを集めてみるか……!

 

 そう考えて戦いながら四階まで登った時、突然頭に新たな情報が流れ込んできた。

 

「……ポズムディ?」

 

 頭に流れ込んできたのは毒状態を治療するための回復魔法スキル。それが今使えるようになったようだ。

 前から思ってたけど、どうしてペルソナって頭の中に使い方が流れ込んでくるのか……それは今度ストレガにでも聞くとして……

 

「毒にするポイズマを使い続けたら、毒を治療するポズムディを覚えた? 偶然か? 特定の状態異常を使い続けたら治療の魔法が覚えられるのか? 今までどれくらい使ったっけ……今日だけじゃないし……タルカジャとかどうなんだろう、かなり使ってるけど……」

 

 俺はその検証のため、さらなる実験を続ける事を決めた。

 また、実験に伴い今日の探索時間が完全に潰れた。

 それに気づいたのは、今日の影時間が終わりそうだから帰ろうと考えた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月27日(日)

 

 午前零時十二分

 

 ~男子寮廊下~

 

 ちょっとばかり集中しすぎたタルタロスから無事帰宅し、寝よう……と思ったら眠気が皆無。なかなか寝付けないうちにちょっとトイレへ行きたくなった。

 

 共同トイレに向かっていると、前から順平がやってきた。

 

「あれ? 影虎じゃん」

「順平こそ、まだ起きてたのか」

「まーなー……ちっと面倒な事になっちまってさ……」

「面倒な事?」

「それがさー、聞いてくれよー。俺、明日死ぬかもしんない……」

「んな大げさな、何があったんだよ。聞くから」

「おう……ほら、俺らこの前女子と食事したじゃん? あの時ともちーと岩崎さんの関係、進展させようって話になっちゃったみたいなんだよ。岩崎さん以外の女子の間で」

「そりゃまたおせっかいだな……」

「だろ? でもそれで明日っつーかもう今日だけど、二人にデートさせようって話にもうなってんだよ」

「行動早いな。……で? それでなんで順平が死ぬんだ?」

「……影虎、お前、あの二人だけでデート上手くいくと思うか? それどころか、デートが始まると思うか?」

 

 少し考えてみる……

 

「……考えられなかった」

「だろ!? 俺もさー、最初は何とかなると思ったんだよ。でもさー、島田さんから中等部の二人の様子聞いたらさー……ないわーって思っちまったんだよ。主にともちーに。あそこで同意しなかったらまだ逃げられたのに……」

「つまり順平も付いていくのか、二人のデートに」

「行くのは俺だけじゃなくてあの時のメンバーから高城さんと影虎抜いた全員。高城さんは用事あるらしくて、影虎はバイト行ってたから。夜にいきなり言われても迷惑だろうって。俺には迷惑じゃないんですかねぇ!?」

「声落とせって、夜中なんだから……」

「……影虎、女子に電話番号知られてなくてよかったな。俺きっと明日ともちーのフォローと女子からのプレッシャーで死ぬわ。だって一緒に島田さんの話聞いてたゆかりっちマジキレてたもん。笑ってたけどすっげートゲトゲしいこと言ってたし。ゆかりっちがトゲトゲしいのはいつもの事だけど、恋愛話には特にそうだけど……あっ、これ本人に言うなよ?」

「分かってるから、続きを」

「お、おう……つかどこまで話したっけ……まぁ、最終的に二人には本音を隠して皆で遊びに連れ出すことになったわけよ」

「なるほど、で、どこに行くんだ?」

「午前中は映画。丁度新作のファンタジー映画公開されっから、それなら男子も女子も楽しめるってことなんだけど……問題は午後なんだよ……」

「何かまずいのか?」

「……俺、午後のプランを任されちった。買い物とか無理に女子に合わせなくていいって言われたけど、少しは女子の事も考えないと……変なプラン出したら……今から怖いぜ……」

「なるほどなぁ……センス無いって言われるのは嫌だろう。でもそこまでか? 誘ってきた方が丸投げしたようなものだし、理不尽……順平、何で目をそらした?」

「いや~……実は恋愛マスターのオレッチがドーンとコーディネートしてやるよ! って、見栄張っちゃって……」

「なんでそんな事を」

「場の雰囲気おかしかったからさ、ジョークのつもりだったんだよ……ただ、空気を読み違えたみたいで……ゆかりっちだけじゃなくて他の女子からも冷めた目で見られて、じゃあ任せるって事に」

 

 女子は丸投げしすぎだと思うけど、順平も自分で墓穴掘っている。

 こいつ、いつか見栄で身を滅ぼすんじゃ……そういえば将来チドリに特別課外活動部のリーダーって嘘ついて捕まるんだった。納得。

 

「……助けてくれ影虎!」

「無理だよ、俺明日もバイトだし。助けるって言っても、どうしろと?」

「せめて、なんかないか? いいデートスポットとかさぁ。できれば面白くて金のかからないとこ」

「贅沢言うなっ……」

 

 と思ったけど、一つ思いついた。

 

「博物館はどうだ? 辰巳博物館」

「博物館。あー、そういや中学の頃行ったな。あそこか……バッティングセンターよりよさそうだな」

「それ野球や運動に興味ない人だと喜ばれない選択だと思うぞ……」

 

 楽しませられる自身があるならともかく、俺なら女子に暇させる光景しか想像できない。

 

「博物館か……影虎、辰巳博物館って入館料いくらか知ってる?」

「それならバイト代のおまけに貰った回数券があるから、人数分渡すよ」

「マジで!? ありがたいけど、何でバイト代のおまけにソレ?」

「バイト先が辰巳博物館だから」

「あ、なるほど」

 

 それから俺は元々の用事を済ませて部屋に戻り、順平に回数券を渡した。

 回数券を受け取った順平は心底ほっとした笑顔で礼を言い、軽やかに自分の部屋に帰っていった。

 

 さて、話してたらほどよく眠くなってきた。寝るか……




本日の収入

バイト代 一万五千円 + 回数券二十枚綴り。


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32話 対話

「葉隠君、お弁当が届いたから昼にしよう」

「ありがとうございます」

 

 今日もペルソナを使って土器の修復作業に勤しんでいた。

 

「今日はから揚げ弁当ですか。楽しみです。……一つ? 原さん、皆さんの分は?」

「僕たちまだ別の仕事があってさ、そっちを済ませてから食べるから先に食べといてよ。あと食べ終わったらこの部屋に居てもいいし、また外に出てもいいから」

「わかりました。それじゃお先にいただきます」

 

 昼は一人か……

 

 出て行く学芸員の皆さんを見送り、土器の破片から離れた部屋の隅に用意された休憩スペースで弁当を開ける。

 

 部屋の中には組み立てられた土器、大方は組み立てられたが抜け落ちた部分がある土器、まだ組み立てられていない破片に分けられた置き場が三つ。その中心であり部屋の中心に俺たちが作業を行うシートが敷かれている。

 

 今日は朝から原さんが破片を並べる役割を担当してくれて、俺は組み立て作業に集中することができた。他にも組み立てた土器に破片同士を繋ぐ印をつけて置き場に移動させデータをとる担当、完成した土器を別室に運んで接着する担当、と俺の組み立て速度を最大限に活用できるように一緒に働いていた学芸員さんの仕事が割り振られていたので、非常に効率的に作業が進んだ。

 

 まだシートの上やケースの中に破片は沢山あるが、このペースで作業が進めば今日中に全て組み立てられるだろう。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ごちそうさまでした。……さて、どうしようか」

 

 一人で黙々と食べたせいか、十分もかからず弁当を食べ終わってしまった。

 作業に戻ることもできるが……休憩時間だし本でも読むか。遅刻しないよう携帯でアラームかけて……よし。たしか裏の方に休憩できる場所があったはず。

 

 鞄を持って昨日出歩いた時の記憶を頼りに外へ出る。

 

 そしてそのまま歩いていると、すれ違うお客様の中に意外な顔を見つけた。

 

「あれ……ひょっとして天田君?」

「えっ? たしかに僕は天田ですけど……どちらさまですか?」

 

 忘れられてる? 会ったのが二回、うち一回は気絶してたから仕方ないか。

 

「ほら、この前うちの部室までお礼に来てくれただろ? その時に会った葉」

「あっ! 葉隠先輩!?」

「そうそう、思い出してくれた?」

「すみません、眼鏡かけてたから気づかなくって」

 

 ……そういや俺、今眼鏡(ドッペルゲンガー)かけてるんだった。

 

「先輩、どうしてここに……じゃなくて! 入部の許可をありがとうございました!」

「こっちも部員が増えて嬉しいよ。でも、とりあえず声を」

「あっ、すみません」

「大丈夫……よかったら、場所移して話す? どこかに休憩所があったはずだ、外で、公園みたいな」

「そうですね。東側ですから、ここから近いですし」

「天田君、場所知ってるの?」

「はい。僕、ここによく来るんで」

「そうか。なら案内頼めるかな?」

「わかりました、こっちです」

 

 迷うことなく歩く天田君についていくと一階の東に位置する廊下に外へ繋がる扉があり、そこを出ると生垣や木が植えられた小さな公園のような広場になっていた。ベンチやテーブル、飲み物やスナックの自動販売機もあり、人はいないが休憩所であることは間違いない。扉にも休憩所と書かかれた紙が貼られていて、その裏が休憩所を使用した人に当てたであろう、飲食物館内持ち込み禁止の張り紙になっていた。

 

 

 

 

「そこ座ろうか。飲み物いる?」

「いえ、いいです」

「そうか……」

「はい……」

 

 ……気まずい……場所変えてどうするか考えてなかった……

 

「あー、そういえば、あれから会ってなかったけど体調はどう?」

「平気です。頭を打って気絶して、目が覚めたときは頭痛がしたんですけど、もう全然」

「それはよかった。なら来週からの部活にも参加できそうだな」

「はい、僕頑張ります! ……ところで、先輩はどうしてここに?」

「俺は昨日からアルバイトをね」

「アルバイト? 何かほしいものでも?」

「バイクの整備やガソリン代のためにね」

「アルバイトにバイク……なんか、大人っぽいですね!」

「そうか? まだお金を貯めようとしてるだけで、免許も取ってないんだが」

「それでもですよ! いいなぁ、アルバイトにバイク」

 

 天田少年は目を輝かせている。

 

「天田君はバイトしたいのか?」

「できるならしたいです。けど小学生じゃ何処も雇ってくれませんよ」

「そもそも雇ったら違法だからね」

「そうなんです、せめて中学生にならないと」

「年齢ばかりは努力でどうこうなる問題じゃないしな……」

「…………」

「? どうかした?」

「……先輩って、笑わないんですね」

「……え? 何? 俺、顔怖い? まさか親父の遺伝子が……」

「遺伝子? あっ、や、違うんです! 笑わないってそういう意味じゃなくて、バカにしないというか、流さないというか……」

「?」

「僕……バイトしたくって、前に何度も聞いたんです。いろんな人に。そしたら皆小学生じゃ無理だとか、子供がそんな事考えなくていいの! 子供は勉強してなさい! とか……それが正しいんでしょうけど、まともに取り合ってもらえなくて。

 部活だってそうでした。強くなりたくて中等部や高等部の部活に参加させてもらえないかとお願いに行っても、返事はいつも決まって絶対練習についてこれない、子供は邪魔だって。どこに行っても子供、子供、子供。子供だからダメって、小学生ってだけでろくに話も聞かずに拒否されました。

 理由を聞かれて強くなりたい、って答えると子供の考えそうな事だって笑われたり……強くなりたくて何が悪いんでしょうね? 強くなりたいのがダメ、じゃあ何ならいいんでしょうか? なんであの人たちは運動部で格闘技をやってるんでしょうか? 大会とかオリンピックに出たいなら、別の競技でもいいじゃないですか。

 ……一度、あんまり馬鹿にされたんでできるだけ丁寧に聞いてみたら、その部の人たち何も言えなくなって、生意気だとかどなり始めました」

 

 溜め込んでるなぁ……でもまぁ、分からないでもない。

 最後のはちょっとどうかと思うが、聞いた限り天田少年への対応は一般的だ。

 子供には無理、子供が考えることじゃない、勉強してなさい。

 どれも一般的に言われることで、いろいろな場面で親が子供に対して使う。

 

 天田少年もそれを正しいとは思っている、だけど納得ができないんだ。

 元々理屈っぽいのか、母親の件でそうなったのかは知らないけれど……その言葉は納得できずに心にも響かなかったんだろう。そうなったら、ただ頭ごなしに子供ってことを理由に頭を押さえつけられてる気にもなるか。

 

「だから先輩が強くなれるって断言したときは驚きました。どうせまた笑われるんだろうな、って思ってたから。入部させて欲しいってお願いした後も、ホントは諦めてました」

「……迷惑だったか?」

「そんな事ないですよ! 僕、嬉しかったです! でも……なんでですか? 何で先輩は許可してくれたんですか?」

 

 なんで? か。

 

「前に少し話したと思うけど、うちの部でやるパルクールってスポーツは走ったり飛んだりというより早く移動するための方法を学ぶ中で、体と精神を鍛える事を目的としている。そして無理は禁物。

 だから天田君が強くなりたいというのはパルクールの目的に沿っていると思う。それに大人でも子供でも関係ないから、個人によって練習内容が違うのも当たり前だ。

 多くの部員を抱える部活ではどうしてもノルマを設定してそれをこなす練習になりがちになるけど、うちは俺ともう一人しか部員がいない。

 ……山岸さんは覚えてる? 天田君を助けた女の子。あの山岸さんが丁度あの日に入ったところで、部員は天田君を含めて三人になった。しかも山岸さんはマネージャーだから、パルクールをやるのは俺と天田君だけ。つまり練習の調整がしやすい。これが天田君を部活に参加させても問題ないと考えた理由。

 そして実際に参加させようと思った理由は……あー……天田君はさ、スポーツや格闘技では体格差が有利不利に繋がることはちゃんと理解してるよね?」

「はい……」

「でも、それを説明されたからって辞めようとは思わないんだろ? 天田君はそれを分かった上でそれでもやりたい。差があるからこそ、差を埋めるために強くなりたい。だから体格差や年齢を持ち出されても納得できないし、的外れに聞こえてしまう……違うか?」

「えっ、なんでそんな……」

「なんとなく。……俺も似たようなものだったから」

「先輩も?」

 

 図星を指されて驚いたのか、天田少年は目を見開いて口まで半開きになっている。

 

 しかしまぁ……本当に、天田少年は経緯は違えど似てるんだよな……小学生の頃、まだがむしゃらに戦う手段を捜していた頃の俺に。自分で言って気づいたよ。

 

「先輩、先輩はどうしてパルクールを始めたんですか?」

「強くなるため」

「! 僕と同じ……?」

「強くなれるならパルクールじゃなくてもよかった、強くなれれば別に何だって構わなかった。実際に色々な格闘技の道場やジムに入ったこともあるし、パルクールだって昔縁があって知り合った米軍の元大佐に鍛えてくれ! ってわがままを言って困らせて、何度も体ができてない子供には無理だ体を壊すって言われても頼み込んだ末に、軍隊格闘の変わりに教えてもらったんだ」

「先輩は、何で、強くなろうとしたんですか?」

「……それはな……」

「それは?」

 

 俺の一言一言に天田少年は衝撃を受けているようだ。

 驚きすぎて戸惑い始め、息を呑んでから恐る恐る聞かれる。

 それに俺はこう答えた。

 

「俺が強くなろうとしたのは…………“化け物と戦うため”だよ」

 

 その瞬間、天田少年は表情を失う。

 だが同時に困惑、動揺、悲しみ、そして喜び。

 彼の目には様々な感情の色が揺れていた。




影虎は意味深な発言をした。
天田は動揺している……



今回は突然シリアス? な展開に。次回まで継続します。
鬱な展開にはしたくない。少し時間がかかるかも。


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33話 理解される事

前回、あとがきに遅くなるかもとか書いたのに意外と早く次が書けた。
投稿します。



「それ、どういう事ですか?」

 

 天田少年は平坦で感情のこもらない声でそう聞いた。

 

「笑われそうな話だけどね」

 

 少なくとも目の前の少年には笑われはしないと確信しているが、そう前置きして話を始める。それは俺がまだ幼い頃の話。

 

「始めて化け物を見た正確な日付は覚えていない。でも、あれは俺が幼稚園の時。あの日俺は夢を見たんだ」

「夢……?」

「そう。人の居ない町に一人ぼっちで放り出されて、黒い化け物に襲われる夢」

「夢、ですか……」

 

 期待していた話と違うと思ったんだろう。天田少年は露骨に肩を落としているが、これで全部じゃない。

 

「最初はただの夢だと思ったけど、俺はその日からその夢を頻繁に見るようになって、一週間に二日か三日は必ず見ていた。それが二年間続いた」

「そんなに……?」

「そうさ。両親にも親戚にも心配かけたよ……勧められて心療内科に通院していたこともある。結局原因は不明だったけどね」

 

 あれは俺が転生とシャドウへの恐怖を処理しきれず、夢と言う形で見るようになったんだと思う。原因こそ伝えられなかったが、病院の先生もどこかで悪夢を見るような怖いものや強いショックを受けたんじゃないかと言っていた。

 

「夢の中の俺はいつも一人で逃げ回ってた。でもどんどん化け物の数が増えていって、最後は必ず殺されるんだ」

「それが二年ですか……きつそうですね……」

「まぁな」

 

 あれは周りの助けと曲がりなりにも大人の精神があったから耐えられたんだと思う。それに訓練をするため、それで不安が和らぐならと、道場へ通うために必要な両親の許可と援助をとりつけることもできた。

 

「それからいてもたってもいられなくて体を鍛え始めたんだ。そっちに集中しすぎて小三までは友達なんていなかったけどな」

「先輩も?」

「も、って……天田君も友達いないのか」

「そ、そんな事! ……あります……」

「やっぱり天田君もクラス中から恐れられて」

「ないですよ!? ただ暗い奴って思われてるだけです! ていうか……先輩何したんですか?」

「いや……俺も学校では天田君と同じようなもんだったけど、あの頃はせめてちゃんとした指導者がいるところにって、爺さんに空手を勧められて近所の道場に入ってたんだよ。

 練習は真剣に取り組んだからか、俺が一年生の時には三年生を相手にしても勝てるようになって……でもそれが気に入らないって奴も居てさ、稽古を理由に挑んでくる奴を返り討ちにしてたらいつの間にか敵が増えてたんだよ。道場では歳と体格が大きく離れた相手とは組まされなかったから無敗だった。

 おまけにその道場の師範が空手家精神とかそういうのにうるさい人でさ、もっと力が欲しかった俺とは反りが合わなくてよく説教されてたんだ。それを見て向こうではあいつは先生にいつも怒られてる、怒られるのはあいつが悪いからだ、悪い事をしている奴を懲らしめてやる! って、小学生の正義感が暴走してたみたいでね……

 元々仲のいい友達がいなくて、学校には同じ道場に通ってる奴も居たからそこからクラスまで変な話が広まって、後は自然と怖がられたというわけ。あとは学校で取り囲まれたときに返り討ちにしたり、勝てないと分かって連れてこられた六年生三人泣かせたのが致命的だったな」

「ほんと何やってんですか先輩……それに一年生が六年生三人泣かせるって、どうやったんですか?」

「別に楽勝だったわけじゃないぞ。何度殴り倒されても起き上がって向かって行って、金的狙ったり必死だった。それにあの時は三人全員を倒したわけじゃない。一人を金的で蹲らせて顔面殴ったら鼻血が出て、それを見た他の二人まで急に腰が引けて戦ってるうちに泣いて逃げ出したんだよ」

 

 大人の精神力と根性に物を言わせてなんとかの粘り勝ちだったんだ。

 今思えばちょっと大人気ない気もするけど、当時は本当に必死だった。

 体は一年生だったから六年生のパンチも普通に痛かったし。

 

「先輩のご両親には何も言われなかったんですか?」

「うちの父さんは元ヤンだから喧嘩上等、囲まれるなんてよくある事だって。母さんは心配してたけど、基本的に子供の喧嘩に口は出さない方針だった。

 でも二人ともちゃんと起こった事は把握していて相手の親が出てきたら守ってくれたし、六年生を泣かせた時は大慌てで病院に連れて行かれて、流石に度が過ぎると言いに行ってくれたよ。学校と取り囲んだ生徒の親と道場、関係するところ全部に。

 それでその問題は終わり、というかお互いに距離を取ってかかわらない関係に収まった。絡まれる以外で付き合いがあった訳じゃないし、唯一の機会になる道場は破門になったから」

「空手、辞めちゃったんですか?」

「いや、空手は続けた。最初に空手を勧めた爺さんが指導力の無い師範の元に俺を送り出してしまったって責任を感じていて、段位も持っていたから仕事の暇を見て教えてくれる事になったから。だから違いは自主練習が増えたくらいだったな。破門って言われた時もそういうのって本当にあるんだーくらいしか思わなかったし。道場に執着もなかった。それで三年の時にパルクールを知って……

 って、話がずれてるな……まぁ、とにかく俺が化け物を見たのは夢の中。でも俺はいつかあの化け物が襲ってくるんじゃないかと本気で思った。それだけで周りが見えなくなって、人の恨みにも行き着くところまで気づかず、最後には今話したみたいなバカな事をするくらいに……おかしいだろ?」

「……」

 

 俺がそう言うと天田少年は顔をうつむかせ、しばらくするとゆっくり首を振る。

 

「笑いません。……先輩。もし僕が、僕も化け物を見たことがあるって言ったらどうしますか?」

「笑わない」

 

 俺は断言した。笑うわけが無い。俺はもう本物の化け物も見ているのだから。

 

 口には出さずに天田少年を見つめる。

 ただそれだけだったが、天田少年は涙を流しながらゆっくりと話し始めた。

 母親と死別したこと。

 ある日の夜、母と歩いていると町の様子が変わったこと。

 そこで化け物に遭遇したこと。

 自分の目の前で母親が化け物に殺されたこと。

 町が元に戻ったこと。

 そして母親の死因は事故死になり、化け物に殺されたと訴える彼の言葉を誰一人聞き入れなかったこと。

 

「ごめんなさい、急に泣いたりして」

「少しでも気が楽になるなら、俺のことは気にしなくていい」

「ありがとうございます……」

「いや……俺は家族を亡くした経験が……取り残された経験がない。だからかける言葉が見つからないんだ。大抵の励ましの言葉はもう聞いただろ?」

「はい。事件の後から、お母さんのお葬式が終わってからもずっと。今でもお母さんを知ってる人に会うと言われます」

「それ以上のことは俺には言えない。だから泣きたければ泣けばいいさ。代わりに……もし天田君がやりたいなら、パルクールだけじゃなくて格闘技の技も教えるよ」

「本当ですか!?」

「パルクールで体を作るのが第一だけど、その合間に基本くらいは教えられると思うから」

「ありがとうございます葉隠先輩!」

「いやいや、人に教えた経験は無いから下手かもしれないぞ?」

「それでもです!」

「そうか。なら同じ理由で強くなろうとした者同士、仲良くやって行こう」

「はい!」

 

 目元を袖で拭って、俺が差し出す手を即座に握った天田少年の目元には、以前部室で見たものとは違う心からの笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 そこで周辺把握に休憩所のドアが開き、背を向けていても人が七人入ってきたのが分かる。

 休憩所なので人も来るだろうと思っていると

 

「あれっ、葉隠君?」

「え? あっ、岳羽さん」

 

 呼ばれてみるとそこには私服の岳羽さんが、その後ろには順平たちがぞろぞろと歩いていた。そういや来るって言ってたな。

 

「おーす影虎」

「こんにちは」

「葉隠君、奇遇だねぇ」

「何でこんなとこに?」

 

 今日の中心人物である友近と岩崎さんに、フリルの多い服を来た島田さんや動きやすそうな服装の西脇さん、と次々と声をかけてくる。

 

「どうも皆さんおそろいで。順平から話は聞いたけど、博物館は楽しめてる? あと西脇さんの質問に答えると、俺がここに居るのはバイトしてるから。今は休憩中だけどな」

「なるほどぉー? ところでさー、葉隠君。そちらのショタっ子はどちらさま?」

「ショタっ子て……」

 

 変な聞き方をする島田さんに苦笑いをしつつ天田君に視線を向けると、ショタの意味が分からないようで首を捻っていた。しかし自分の事を聞かれているとは理解できたようで、前に出て自己紹介を始めた。

 

「初めまして。僕は月光館学園小等部四年の天田乾です。葉隠先輩には部活動のことでお世話になっています」

「おぉ~、これはしっかりしたいいショタっ子だ」

「島田さん、ショタっ子はどうかと……でもホントしっかりしてるね。私は岳羽ゆかり。クラスは違うけど、葉隠君の友、知り合いかな?」

 

 友達と迷わず言えるほど親しくもないけど、言い直さなくてもよくない? 

 さっき話した内容のせいか、天田少年が一瞬俺に向けた視線がまだ友達居ないんですか? と聞いていたような気がする。

 

 そんな俺を放って順平たちの自己紹介が続いたが、それが終わると西脇さんが目を細めてこう言った。

 

「……ねぇ天田君。なんか目、赤くない?」

「そ、それは……」

「なにかあったの?」

 

 天田少年への視線がこちらへ向いた。

 え? 俺が泣かせたと思われてる? いや、泣かせたは泣かせたけど……と思っていると、西脇さんは俺の心情を察したのか自分の言葉を訂正した。

 

「ごめん、言い方間違えた。別に葉隠君が天田君をいじめて泣かせたとかは思ってないよ。さっき声かける前に見たときは笑顔だったし」

「あぁ、そうか……でもなぁ……」

 

 話してもいいかと視線を送ると、天田少年は頷いて前に出る。

 

「葉隠先輩は悪くないです。僕が勝手に、その、泣いちゃったんで」

「? 腹でも痛かったのか?」

「ちょっと思い出しちゃったから、ですかね……この博物館、母さんとの思い出の場所なんです。去年事故で死んじゃったけど」

 

 その一言で順平たちの天田を見る視線が沈痛なものに変わり、踏み込んだ質問をした宮本が気まずそうに謝る。

 

 しかし、天田少年がここに居たのはそういうことか。でも……

 

「天田君、ちょっと……」

「はい、なんですか?」

 

 ちょっと離れた場所に呼び出して聞く。

 

「言ってよかったの?」

「いいんです、事実ですから。それに正直に今までの話をして理解されると思いますか?」

「そりゃそうだけどさ……」

 

 俺のも成り行きで話したけど、本来なら原作キャラにだって話すつもりのなかった話だし……

 

「……母さんの事は、まだ悲しいです。小さなことで思い出したりします。けど、今日はちょっとだけ平気な気がするんです。真面目に僕の話を聞いてくれる人が居たって、分かったから」

 

 ……そうか。

 

 どうやら少しは天田少年の支えになれたようだ。

 

「先輩は変な人ですけどね」

「って誰が変な人かっ! 話を真面目に聞いて信じてるのに……」

「だからですよ。先輩と他の大人の意見、どっちが普通かくらいちゃんと分かってますから。だから……だから、ありがとうございます」

「……はぁ……分かった。もう何も言わない。……戻ろうか、向こうで不安そうな顔してる連中のところに」

「はいっ!」

 

 吹っ切れたとまではいえないが、一歩前進と言ったところか。

 

 それからみんなの居る場所に戻ったところ、携帯のアラームが鳴り響いて休憩時間の終わりを告げた。仕事に行かなければならず、俺はここで別れることになったが……

 

「皆さん、もう館内を見て回りましたか?」

「一階だけね、それだけで男子が疲れたっていうから」

「広くて色々あったけど、オレッチ普段こういうとここねーからよく分かんなかったりして……」

「伊織君、自分で連れてきといてそれってどうなのかなぁ? 下調べが足りないと、女の子とデートする事になったらがっかりされるよぉ? マイナス五十点です」

「島田さんは順平に期待しすぎ、どうせ葉隠君からアドバイス貰ったからここに連れてきたんでしょ?」

「返す言葉もありません……」

「まぁ期待してなかったし、あの時は私たちも悪かったし、責めてないけどね」

「? よく分かりませんけど、もしよかったら僕が博物館を案内しましょうか? 僕、年に何度もここに来てるから、常設の展示なら説明もできると思いますよ」

「おっ、マジで?」

「ハハッ、順平の案内よりは楽しめそうだな」

「体を動かせる場所ってないか?」

「ともちーひどい! 宮本は博物館で無茶言うなよ! 天田っちが困るだろ!?」

「体を動かせる展示なら槍投げ体験のコーナーがありますよ。ゴムでできた石器の槍の模造品をアトラトルっていう投槍器を使って的に投げるんです」

「あんのかよ!?」

 

 ……問題はなさそうだ。

 

 俺はそう判断し、憂いなく仕事に戻った。




影虎は過去を話したが核心は隠した!
天田は少しだけ心の支えを得た!
天田が伊織順平とであった!
天田が岳羽ゆかりとであった!


次回の投稿は早く書けるかもしれないし、遅くなるかもしれない。


投稿後に書き忘れていた事が見つかったので編集し、
天田に話した夢の話が、戦い方を学ぶことを両親に認めさせる一因であった事を書き加えました。
編集前に読んだ方は違和感があるかもしれません。すみませんでした。

小学生が道場に通うには親の許可や月謝の支払いや必要ですからね。
どこかで親になにかしら伝えておかなければならなかった。
そういうことがあったはずだと思っています。


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34話 天田の入部前日(前編)

4月29日(火)

 

 ~部室~

 

「…………」

 

 ……どうしてこうなった……

 

 天田少年の入部が明日に迫った今日。

 俺は人生最大の窮地に陥っている、かもしれない。

 体からは嫌な汗がとめどなく出ている。

 できることなら数時間前まで時間をさかのぼりたい……

 

 俺は目の前の現実から目をそらすように、まだ平和な時間を思い出す。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 放課後

 

 俺が部室へ向かっていたところ、校舎の近くで天田少年を見かけた。

 

「天田君!」

「あっ、葉隠先輩。これから部活ですか?」

「そうそう、天田君も明日から来るんだよね?」

「はい! よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく。ところで高等部の校舎近くで何を?」

「え、っと……することなくて適当に歩いてたらここに」

 

 ああ、桐条先輩が言ってたやつか。

 

「ってことは、今は暇? この後、予定は?」

「暇です。予定もありません」

「そっか…………ならちょっと巌戸台商店街まで付き合える?」

「? 寮の門限までならいいですけど……! 練習ですか!?」

「いやいや、解禁は明日から。だけどそのための準備は今日中にできるだろ?」

「準備?」

 

 俺は天田少年にパルクールの練習に伴う怪我の危険と防具の必要性を説明した。

 

「というわけ。練習で使う防具なんかはやっぱり体に合うものじゃないといけないから、天田君と一緒に用意した方がいいと思ってね。本当は明日部活の一環として連れて行くつもりだったんだけど、今日行ければ明日はすぐ練習に入れるだろ?」

「たしかに、でもお金……」

「お金の事なら心配無用。練習に使う防具は部の備品、備品は部費で買うから」

「いいんですか? 僕としてはありがたいですけど、僕のサイズに合わせたら他の人は使えないんじゃ……」

「天田君も部員になるんだから当然だ。なるべく調節の利くやつにするし……ただ部費はあまり潤沢じゃないから、買った防具は大事に使ってくれよ?」

「……分かりました! お言葉に甘えます!」

「よし! なら早速行こうか」

 

 こんな感じで俺は江戸川先生と山岸さんに買い物に行くと連絡し、巌戸台商店街へ向かった。

 ……ここで電話連絡でなく、部室に顔を出していれば悲劇は起こらなかったかもしれない。

 

 

 

 ~巌戸台商店街~

 

「で、パルクールを行う際の注意点だけど……まずはこんな風に人の多いところでやらないこと。他人に迷惑をかけやすいし、下手すると巻き込んで怪我をさせるかもしれないからね」

 

 道すがら天田少年にパルクールの歴史や注意点を説明しつつ、以前宮本と西脇さんから教わったスポーツ洋品店へ向かい、店ではスノーボードなどでも使われる尻パッド入りプロテクター(子供サイズ)を始めとする防具を購入した。

 

 ついでにラーメン屋「はがくれ」に連れて行き、かるく食事をすると同時に叔父さんに天田少年を紹介もした。

 

「はふ、はふっ」

「どうだ、美味いか?」

「はい! 美味しいです!」

「そうか! そら、味玉おまけだ」

「っと、ありがとうございます。……葉隠先輩、先輩の叔父さんってすごいですね。体格も大きいし、豪快だけど優しい大人の男って感じで」

「自慢の叔父さんだよ」

「うははははっ! ほめんじゃねぇよ! オラッ、チャーシューもおまけだ」

 

 もしかすると叔父さんは気前が良いだけでなく、おだてにも弱いのかもしれない

 

 ……

 

「ごちそうさまでした!」

「また来いよ! あと影虎はちゃんと坊主の面倒見ろよ!」

「分かってます、ありがとうございました!」

 

 食事を終えて、店を後にした俺達はのんびりと商店街を駅に向かって歩く。

 

「先輩、ご馳走様でした」

「口に合った?」

「とっても。それに外食なんて久しぶりだったから、さらに美味しかったです」

「普段は外で食べないのか?」

「小学生一人じゃちゃんとしたお店には入りづらくって……ワイルダックバーガーとかなら行けますけど、あんまりそういう所ばっかり行ってると、寮で食事指導されるんです。健全な成長のためにって。それに小等部は原則朝昼晩、寮の食堂で食事をするのが決まりですから」

「そうなのか? なら今日のは違反?」

「大丈夫です。買い食いとかおやつは禁止されてませんから。ただそれで寮の食事を何度も抜いたりすると指導室に呼ばれますね。でも僕は普段ちゃんと寮の食堂で食べてるので平気ですよ」

「そうか、安心した」

「はい、だからまた誘ってください」

「ああ、また奢ってやるさ」

「あっ、僕そんなつもりじゃ」

「いいっていいって。そういうのは年上が奢ったり多めに払ったりするものだろ? 小学生にご飯を奢る高校生、これが逆の場合を考えてみなよ」

「小学生にご飯を奢ってもらう高校生……かっこ悪いですね」

「かっこ悪いどころじゃないって。普通に白い目で見られるぞ、俺が。だからまぁ、その時は奢られていてくれ。先輩の顔を潰さないのも大人の対応だ」

 

 まぁ潰れるときは潰れるものだけどな。

 

「あ、そうだ。先輩知ってますか? 僕や先輩が住んでる寮の食堂のご飯と月光館学園の給食って、作ってる人は同じらしいですよ」

「そうなのか? 知らなかった」

「だから学校でも寮でも出てくる味付けが同じで、長く学園にいる生徒は飽きて高等部から外食が多くなるそうです」

「へー。言われてみれば給食ってメニューは多いけど、味付けなんて早々変わらないもんなぁ」

「新メニューとかも増えませんしね」

「真面目に食堂で食べ続けたら、他所の学校と比べて食べる機会は三倍。それを何年も食べ続けたら飽きるだろう」

 

 そんな無駄話をしながら、俺たちはモノレールに乗って辰巳ポートアイランドへと戻る。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~辰巳ポートアイランド駅前~

 

「つきましたね、先輩。これからどうします?」

「そうだな……天田君の寮、門限五時半だよね?」

「そうです」

「ならもう帰ったほうがよくないか? ほら」

 

 駅前にあった時計を指差す。時間は五時五分前。

 時間にきづいた天田君は帰ることに同意し、俺たちは二人で小等部の寮まで歩いた。

 その途中で今日買った防具は持ち帰って良いのかと聞かれた時、一応部費で買ったということにした手前、まだ正式には部員でない天田少年に預けるのも変な話かと思ってしまい、一度預かって明日の部活動で渡すという話になった。

 

「じゃあ俺はここまでで」

「はい、先輩今日もありがとうございました。防具の事よろしくお願いします。それから先輩、この間から思っていたんですけど、僕のことは呼び捨てでいいですよ。年上ですし、部活でも先輩後輩になるんですから」

「ん、そうか? なら……天田、また明日。明日部室に来るのを待ってるよ」

「はい! さようなら!」

 

 こうして俺は天田と別れ、暇があったので一度防具を部室に置きにいくことにしたのだが…………来なきゃよかったと今は心底後悔している。いや、それは問題を先延ばしにしているだけか……

 

「……君、葉隠君。どうしたの?」

 

 ああ、もう現実逃避もできないようだ。

 

「いや……女の子の手料理とか初めてでキンチョウシテルンダヨー」

「そっ、そんな言い方……べつに大した物じゃないよ。ちょっと焦がしちゃったし……」

 

 目の前の山岸さんが顔をうっすらと赤くしているが、俺の顔は青白くなっていないだろうか? 山岸さんが気づかないくらいは普通の顔色なんだろうな……はぁ……

 

 目の前には山岸さんがシチューと呼ぶ灰色の液体が入った皿がある。

 その中身は俺がいくら見つめても減る事はない。

 

 どうも山岸さんは俺が天田少年と買い物に行く事を連絡した直後、自分も何かしてあげたいと明日に備えて冷蔵庫に残っていた使いかけの食材で歓迎の料理を作ってみたという。シチューを選択したのは一晩寝かせたら美味しくなるから。

 

 ……まず一つ言いたい。寝かせて美味くなるのはカレーだろう。

 シチューでも美味しくなるかもしれないが、一般的にまず思い浮かぶのはカレーだ。

 ついでにあれは一晩時間をかけなくても、一度冷ますだけで同じ効果が得られるそうだ。

 ……そんな事は今どうでもいい。

 問題は山岸さんが部室に顔を出した俺に、できたシチューの試食を頼んできた事。

 ……俺には笑顔の山岸さんをみて、即座にいらないと跳ねのける“勇気”がなかった。

 その後の空気が悪くならないよう、断り方を考えているうちに用意が整っていた。

 

 マジであの時部室に行くべきだった。そうすれば未然に防げたのに。

 

「でも早く食べないと冷めちゃうから、ね? 材料も元々は葉隠君のだから、遠慮しないで」

 

 ……前に買った食材の残り、早いとこ使い切っておけば良かった。

 そうすればこんな事には……と後悔ばかりが脳裏に浮かぶが

 

「いただきます」

 

 原作主人公は何度食べても死にはしなかった。

 だから俺も死にはしないだろう。

 このままでは無駄な時間だけが過ぎる。

 今もおいしそうには見えないが、冷めればまずくなる。

 そう自分に言い聞かせ、俺はスプーンで灰色の液体をすくう。

 

 ……具が見当たらない。全ての具が形をなくすほど煮込んだのだろうか?

 

 何処を食べても同じだと判断し、スプーンを恐る恐る口に含ん

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………

 

 …………………………

 

 死はふいに来る狩人にあらず

 

 元より誰もが知る…

 

 生なるは、死出の旅…

 

 なれば生きるとは、望みて赴くこと。

 

 それを成してのみ、死してなお残る。

 

 見送る者の手に“物語”が残る。

 

 けれども今、客人の命は…………

 

「ファーーーーーーーー!!!!!!!」

「えっ!? 葉隠君!? どうしたの葉隠君!? どうして痙攣してるの!? ……先生! 江戸川先生!!」

 

 口に入れた瞬間意識が飛びかけ、客人になった覚えもないのに脳裏にゲームオーバーの詩が流れた。

 奇声を上げて意識を取り戻したが、体が上手く動かない……

 近くで聞こえていた山岸さんの声が遠ざかっていく。

 目がかすんで良く見えないが、俺は倒れているようだ……

 何なんだこれは……このままじゃヤバイ、さっきのシチューに毒でも入って……!

 

「ドッペル、ゲン、ガー」

 

 気を抜いたら落ちそうな意識を気合で繋ぎとめ、眼鏡型のドッペルゲンガーを召喚。

 

「ポ、ズムディッ!」

 

 気づけば俺は、一か八かペルソナの力で毒の治療を試みていた。

 そしてスキルを発動した次の瞬間……苦しかった体が楽になった気がしたと同時に、俺の目の前が暗くなった。




 影虎はめのまえがまっくらになった!
 解毒魔法の習得は毒物摂取のフラグだった!


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35話 天田の入部前日(中編)

「……たら……」

「…………です」

「……貴女には……あります」

「まさか……こんな……」

「……教えますよ……」

「でも……………………」

「……大丈夫…………状態は安定……」

 

 誰かの声が聞こえてくる……

 

「おや、気がつきましたか影虎君」

「葉隠君……体は? 気分はどう?」

「すごくねむい、な。でも苦しくはない」

「影虎君、私は今何本指を出していますか?」

「三本」

「腹痛などは?」

「ありません」

 

 指の先には特徴的な内装……ここは江戸川先生の部屋か。

 部屋の隅に置かれたベッドに寝かされているようだ。

 山岸さんが不安そうに足元に立ち、枕元に立つ江戸川先生の問診がつづく……

 

「もう少し休んでいた方がいいですが、もう大丈夫でしょう」

「よかったぁ……」

「一体何が? 料理を食べて意識を失ったのは分かるけど」

「ごめんなさい!」

「あ、いや、責めてるんじゃなくて……あの後どうなった?」

「山岸君が大慌てで私を呼び、私が君をここに運び込みました。私が到着したときは既に状態は安定していましたが、痙攣をしていたというのでとりあえずここに」

 

 ……そうか、覚えてないけど。

 

「葉隠君、本当にごめんね。私、間違えて入れちゃいけない物を入れちゃったみたいで……」

「入れちゃいけない……?」

「うん……材料を洗うときに洗剤を使ったり、にんじんと間違えて江戸川先生の薬の材料を入れちゃったり……」

「……無事だったから、いいよ……次は頑張って。なんなら基本くらいは俺が教えられると思うから」

 

 突っ込みどころが多くて、突っ込む気力を失った……

 でも放置するとそれはそれで危険そうだ。

 とりあえず目の届かないところで作らないでほしい。

 

「影虎君の言う通りです。失敗は成功の母、間違えたらやり直せばいいのです。それに先ほども言いましたが、私はあなたに才能があると思いますよ」

「才能なんて……」

「いえいえ、間違いありません……まさかアレを使ってあのような反応を引き起こすとは……ヒヒッ。才能の塊ですねぇ。よければ私も薬膳(・・)料理の作り方をお教えしますよ」

 

 山岸さんには途中が聞こえなかったようだが、先生が言ってるのは絶対に料理の才能じゃない!

 

「先生、山岸さん……」

「なあに?」

「料理は……俺が……」

「なるほど。確かに私が常に教えることはできませんね。交代で教える事にしましょうか」

 

 そうじゃない、っ!

 

 一段と強い眠気の波が俺を襲う。

 

「葉隠君!?」

「落ち着いてください山岸君。摂取量が元々少なかったのか、発見から処置までが早かったおかげか、彼の体に異常は見られません。強いて言えば随分と体力を消耗している様子……完全下校時刻ギリギリまで、このまま休ませてあげましょう」

 

 そんな二人の話を聞きながら、俺の意識は遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

「………………ハッ!?」

 

 ベッドから跳ね起きてから目が覚めた。

 何か、悪い夢を見ていた気分だ……と思ったが、すぐにあれは現実だと理解する。

 

「お目覚めのようですね。体調はどうですか?」

「江戸川先生……体はだるいですが、気分は悪くありません」

「どれどれちょっと目を拝見、脈と血圧も測っておきましょう」

 

 また江戸川先生の検査が始まった。

 

「そういえば……先生、俺はどれくらい寝てました? あと山岸さんは?」

「山岸さんなら寮に帰しました。つい先ほど七時を過ぎましたからねぇ。他の運動部もぼちぼち練習を終えて帰る時間です」

 

 結構寝たなと考えながら血圧計を用意する先生を眺めていると、先生があさっていた棚の中には他にも医療器具のような物が見える。

 

「……すごい器具ですね。病院みたいだ」

「ヒヒヒ。その通り、器具はどれも本物の病院で使われている物と同じです。ガーゼなどは保健室から持ってきていますが、私の私物もありますね」

「へぇ、そういうのは個人で買える物なんですか?」

「物によりますが、困らない程度に揃えられます。私、昔はとある大学病院で内科医をしていましたし、独立して開業を考えていた時期もありますから。そのあたりのツテもあります」

「先生、医師免許持ってたんですか!?」

「ヒヒヒ……勤務医でしたからね、当然です。しかし養護教論になるために必要な免許は“養護教論免許”。私のように医師免許も併せ持つ例は珍しいでしょうねぇ……ちなみに医師免許だけでなく、スポーツドクターの資格も持っています。伊達に歳を重ねていませんよ。ヒッヒッヒ」

 

 衝撃的な事実が今明かされた気がする……江戸川先生、なにげにハイスペックだった。

 

「驚きましたか?」

「とても……どうして養護教論に?」

「勤務医という仕事は、とても忙しいのですよ。趣味の研究もできず体を壊してしまうくらいに。どこの職場でも同じでしょうが、人間関係も複雑ですしね……ヒヒッ。腕を出してください」

 

 言われた通りに右腕を出して先生に血圧を測られていると、だんだん先生の表情が難しい顔になっていく。

 

「何かありましたか?」

「逆です。私が山岸君に呼ばれて気絶した君を見つけたときからそうなのですが、意識レベル以外のバイタルサインは安定していますし、どこにも異常は見られませんでした。君の体はいたって健康体のようです。

 しかし君が気を失っていたのは事実。それも呼びかけても手足を刺激しても反応がなかった……何か突然意識を失うような持病は持っていませんか? 些細な事でも異常を感じていたら教えてください」

「ありません。体がだるいくらいです」

 

 体に異常がないのは、きっとポズムディが効いたからだ。

 体のだるさもペルソナを使った時の疲労感だし……

 

「体のだるさ……ちょっと手足とおなかを触りますね」

 

 先生が何かを確認している。

 

「……やはり。筋肉や内臓にそれほど疲労はみられませんねぇ……もしや……」

「先生?」

「影虎君。少々時間を貰えますか?」

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 夜 ポロニアンモール近くの駐車場

 

「さぁ、行きましょう」

 

 時間をくれと言ってきた先生に連れられ、ここまでやってきた。

 先生は俺があのまま帰っても問題ないと判断したものの、気がかりな点があったらしい。

 言わずもがな、先生にとっては原因不明の昏倒と倦怠感。

 俺としては原因も分かっているし、倦怠感も耐えられる程度だ。

 しかし時間はもう下校時刻になっていた事もあり、車で送ってもらえることになった。

 そしてその途中寄り道をしていく事になり、到着したのは以前にも来たアクセサリーショップ、Be Blue V。

 なんでもあの魔女っぽいオーナーはスピリチュアル・ヒーリング(心霊治療)の心得があるそうで、彼女なら俺の症状を改善できるかもしれないとのこと。

 ゲームではヒーリングショップで体調を改善させるお店だったし、可能性はありそうだ。

 

「いらっしゃいませー」

「こちらのオーナーにお会いしたいのですが。江戸川でアポイントをとってあります」

「こちらへどうぞー」

 

 店内にまばらにいる女性客から奇異の視線が送られてくるが、先生は意に介さずカウンターに立っていた一人の若い女性店員に用件を伝えると速やかに奥へ通され、ほどなくしてオーナーさんがやってきた。ごく普通の挨拶を交わすと、オーナーが話を切り出す。

 

「挨拶も済んだことですし……葉隠君、私の隣に座って背を向けてもらえるかしら?」

 

 言われた通りにすると、オーナーは俺の背中に手をあててくる。

 

 ノコノコついてきたはいいが、どうなるんだろうか? 無言の時間が続いている……

 

「そんなに緊張しなくていいわ。まずはおしゃべりでもして気を楽にしましょうか」

「はい……」

 

 戸惑いもつかの間、一つ話題を見つけた。

 

「そういえば先日はありがとうございました。いただいたラックバンド、とても良い物でした」

「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ」

「あれと似たような物は他にもあるんですか? それか、もっと効果の高いものですとか」

「ええ、あるわ。似たような物も、効果の高いものも、ね……ウフフ……今もってくるわ」

 

 オーナーは笑みを深めて頷くと止めるまもなく部屋を出て、四個のアクセサリーを持って戻ってきた。

 

 次々と目の前に並べられるそれらは全て、俺が貰ったラックバンドと同じくパワーストーンを繋げて作られたブレスレットで、どれもアクセサリーを構成する石のどれかにルーンという北欧で使われていた文字が一文字ずつ彫りこまれている。

 

「商品名は左からパワーバンド、マジックバンド、ガードバンド、スピードバンド。健康、勉学、交通安全、仕事のお守りをかねたアクセサリーよ。そして……」

 

 最後に取り出されたのはラックバンドと似ているが、文字が一つ増えている。

 

「貴方にあげたラックバンドと同じ幸運のお守り。だけどより強い力を持つメガラックバンドよ」

「……手に取ってみても?」

「ええ、どうぞ」

 

 左から全てのアクセサリーのルーン文字に目を通す。

 

 ウル、アンスール、エオロー、ラド……メガラックバンドはギューフとウル……力強さを表すウルが増えてるな……」

「あら……フフフッ、貴方ルーンが読めるのね」

「! 口に出ていましたか?」

「ええ。それより、読めるのね?」

「……以前、江戸川先生からルーン魔術入門と言う本を頂きまして」

「おや、あの本をちゃんと読んでくれていたんですねぇ」

 

 それは俺が山岸さんと桐条先輩にインチキ占いをした後で、タロットの本と一緒に頂いた中の一冊だ。始めはそれほど読むつもりはなかったが、一度中身を軽く覗いた時に見たルーン文字がタルタロスで効果のあるラックバンドに掘り込まれていたのに気づいてからは割とマジで読んでいる。本当に入門書のようで非常に分かりやすいので、読むのをやめる気にならなかったというのもあり、ちょくちょく読んでいる。前に博物館で読もうとしたのもその本。

 

 その甲斐あってか、ルーン文字とその意味くらいは分かるのだ。

 

「どれくらい知識があるのか、教えてもらってもいいかしら?」

 

 他人に魔術の話をするのは若干抵抗があるが、既にオーナーと江戸川先生は不気味な笑顔で聞く態勢に入っている。

 

 こうなったら仕方ないと、俺は覚悟を決めて答えた。

 

 本に書かれていた“ルーン魔術”を説明するには、まず“ルーン”と言うものが何かを説明しなくてはならない。

 

 ルーンとは古代、北欧のゲルマン人が用いた古い文字であり、日常から儀式まで様々な場面で使われていたとされているアルファベットのようなもの。地域や年代によって多少増減することもあるが、基本は全部で二十四文字。アルファベットが文字の初めであるa、bの読みからアルファベットと名づけられたように、ルーン文字のアルファベットはフサルクと呼ばれる。

 

 ルーンには一文字ずつにタロットと同じように意味が複数あり、それが占いやルーン魔術に使われる。

 

 占い方はタロットとほぼ同じ。正位置や逆位置といった概念が無く意味の読み取りは難しくなると言われているが、近年はタロットと同様に正逆を取り入れる事も珍しくなく、占いにおいての差異はほとんど無いようだ。

 

 次にルーン魔術だが、俺の印象としては“げんかつぎ”や“おまじない”のような内容である。本に載っていた使い方も非常に単純で、やろうと思えばいつでも実行できるだろう。

 

 具体的な方法は全部で四つ。

 

 一つめは、自分の願いやそれに関係するルーンを選び、何かに書き記す方法。

 これが一番簡単な方法で、他の三つも何かに書くという点は変わらない。

 

 二つめは、ルーンを用いて当時の言葉で願いを書き表す方法。

 これは当時の言語が完全に解読されていないためほぼ不可能。

 幾つかは判明している単語を除くと実行できない。

 

 そこで出てくるのが三つめ、ルーン文字にアルファベットを対応させて英語で書く方法。

 英語で書くと言ったが、実際は文字を対応させられるなら何語でも可。

 とにかくルーン文字を使って、意味が分かるように書ければいい。

 個人的に英語が一番やりやすそうだと感じた。

 

 さらに四つめは、複数のルーンを組み合わせオリジナルのルーンを作ってしまう方法。

 これはバインドルーンと呼ばれ、文字を組み合わせることでその意味も組み合わせる。

 そうやって望みの意味を表すルーンを自分で(・・・)作る。もはや何でもありだ。

 ルーン魔術はとにかく単純かつ自由度が高い。

 

 そしてそのどれかを実行したら、あとは書いたルーン文字を持って祈る事によりパワーを注入して持ち歩くだけ。ゲルマン人は木片や石にルーンを刻んでお守りとして持ち歩いたそうな。

 

「……こんなところです」

 

 俺が話し終わると、二人は何度も頷いている。

 その顔はとても満足そうで……というか話しているうちにどんどん機嫌が良くなっていた。

 やっぱ江戸川先生とその仲間だ、静かに笑みを深める喜び方がよく似ている。

 

「フフフ……基本はちゃんと理解できているのね。流石は江戸川さんが連れてきた子だわ」

「いえいえ、私は本というきっかけを与えただけですよ。ヒッヒッヒ」

 

 二人の話は、完全に俺がそっち側に踏み込んでるように聞こえ…………客観的に見たら踏み込んでるじゃないか……

 

 自分の行動を省みて衝撃を受ける俺をよそに大人二人は笑っている。

 

 だが、ここでオーナーから衝撃の言葉が飛び出した。

 

「葉隠君、もしかして貴方……

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術を使おうとしなかったかしら?」

 




影虎は生き延びた!
しかし江戸川が山岸風花に何かを教えようとしている……
影虎はルーン魔術の基礎知識を得ていた!
作者が描写し忘れて唐突だ!




次回、天田の入部前日(後編)


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36話 天田の入部前日(後編)

「なんの事でしょうか?」

 

 とっさにとぼけてしまったが、白々しい……つーか何でそんな質問を突然!? 使ったよ! ドンピシャだよ!?

 

「話したくなければ無理に聞き出そうとは思わないけれど、私たちはそうだと考えて話しをさせてもらうわ。まず、魔術の取り扱いには気をつけなきゃダメよ。視てみたら貴方、力を使いすぎて魂の輝きまで弱っているの」

「まさかとは思いましたが……」

「先生、どういうことですか?」

「ヒヒヒ。視点を変えてみたのです。君の症状について、肉体的に問題が見つからないならば原因は霊的な方面にあるのではないかと。しかし私は肉体的な診察と治療はできますが、霊的な処置はできません。そこでスピリチュアル・ヒーリングの心得があるオーナーにご協力いただいたのです。

 魔術と言う物は扱いを間違えば術者の身の破滅をも招いてしまうもの。使用には十分な注意が必要なのです。……と言っても、本を渡した私が言える事ではありませんね。まさか一足飛びに使えてしまうとは……もう少し慎重になるべきでした」

「でも不思議ねぇ……本を読んだだけの初心者が自滅するまで力を使えるなんて。普通はマスターの下で修行を続けてようやく実感できる効果を出せるようになる。本を読んだ程度では試しても効果が出ずに、やっぱり魔法なんてなかった、と諦めるのが関の山なのに……」

「………………」

 

 なんだこの状況……どこまでバレてるの? そもそも魂の輝きって何よ? つかこの人たち本物のそういう能力者とかそういう人なの? 非日常に両足突っ込んでる俺に否定する権利はないけどマジか……どうする、というか、この二人はどこまで知っているんだろう? ペルソナについては知っているんだろうか? 江戸川先生が桐条グループの元研究員だったりしないよな? 桐条先輩からは得体の知れない人扱いされていたけど……

 

「……俺にそんな力があると思いますか?」

「あると思うわ」

 

 躊躇いなく答えたのはオーナーだった。

 

「どうして? 先ほど言っていた魂の輝きというやつですか?」

「それもあるけれど、貴方からは初めて会ったときから他の人とは違う感じがしていたのよ。それに、さっきアクセサリーを見せる前、貴方はこう言ったでしょう?“前貰ったアクセサリーに似たものか、それより効果の高い物がないか?”って」

「ええ、言いました」

「このお店に置いてあるアクセサリーは、ほとんどが他所から仕入れたもの。だけど、貴方に見せたアクセサリーは全部私が石を選び、磨き、ルーンを刻み、力を込めながら作った物なの。……あの時の私は、貴方にはラックバンドがいいと感じたからラックバンドをあげた……でもあの時私、ラックバンドに力があるなんて教えたかしら?」

「っ!」

「似たものと言うのはデザインの話にも取れるけれど、効果の高いものという要求は効果を知り、その原因がラックバンドにあると分かっていなければ出てこないと思うの。

 私はラックバンドを手にした貴方に何が起こったのか、貴方が何をできるのかは知らない。だけど、無自覚に私が込めた力を感じ取れるのではないかと思っているわ。……深読みのしすぎだと言われればそれまでだけどね」

「優れた霊感か……陳腐な言い方になりますが、才能ですねぇ。特に誰から何も教わらなくとも霊を見てしまう、存在や力を感じ取ってしまう人はいるものです。特に幼少期に何かが見えるという話は多いですね」

 

 ラックバンドの効果を知っていたのは原作知識とタルタロスでの検証の結果。

 だが、何も聞かずにそれを言葉にしたのは失言だった。

 しかし、どうやらこの二人は俺に霊感があると思っているらしい。

 ペルソナでないのなら、ここはそのまま話に乗っておこう……

 

「……実を言うと、昔から変なものを見ることがたまにありました」

「なるほどなるほど。では影虎君には元々素養があったという事で……一つお話が」

 

 次に何と言われるのか。

 もう予想ができず、ただ息をのむ……

 

「影虎君は以前、アルバイトを探していましたね?」

「は? っ、はい」

「今も探し続けていますか?」

「はい。先日短期のアルバイトをしましたが、もう二日間だけの仕事だったので。新しいバイト先は見つかっていません」

「でしたら、このお店で働くというのはいかがでしょう?」

 

 どういうこと?

 どうにか追求を乗り切ろうと思ったら、いつの間にかバイトを進められていた。

 しかも経営者じゃない江戸川先生に。

 

「すみません、話のつながりがよく分からないのですが」

「以前、私が君にアルバイト先を紹介しようとした事を覚えていますか? それがこのお店なのです」

「うちで働いている子は女性ばかりで、力仕事が大変なの。それで江戸川さんには前々から学生でもいい子がいたら紹介してもらえないかと話していたのよ。あの日、貴方を置いて商談をしていた時にも少しね。

 貴方は真面目そうだし、力もありそう。貴方にその気があれば、ぜひ働いてほしいわね。お給料もちゃんと払うし、もしも貴方がルーン魔術の習得を望むのなら勉強の助けにもなれるわ」

「! それはこのアクセサリーを作れるようになる、と?」

「どれほど時間がかかるかは貴方しだい。だけど勉強を続けていれば可能だと思うわ」

「私もそれがいいと考えます。何事にも先人はあらまほし。難解な魔術の習得となればなおの事。マスターとなる師匠、親方がいなければ習得はまず不可能です。また、先ほども話したように、扱いを間違えば修行者自身が破滅に向かってしまいます。その破滅を避けるためにも、魔術の習得を望むのならばマスターの存在は絶対に必要なのです。

 君に本を渡したのは私ですが、残念ながら私の専門はカバラ。ルーン魔術についての造詣は深くありません。ですからルーン魔術の勉強を続けるというのであれば、オーナーに師事する事を強くおすすめします」

 

 おかしな話になった。

 しかし、給金だけでなく特殊なアクセサリーを自作できる知識は非常に魅力的だ。

 ペルソナ以上によくわからない人たちだが……

 

「……是非、こちらからもお願いしたいです。アルバイトは週何日ほどでしょうか?」

「フフッ、興味をもってくれたようね」

 

 俺は無言で頷いた。

 

「そうね……平日に二日か三日、それと毎週土曜日には来てほしいわ。他所から仕入れたアクセサリーの搬入に、一週間の締めくくりの掃除や片付けをするのが土曜日だから。日曜日は定休日よ」

 

 それなら無理はなさそうだ。俺のパルクール同好会の活動日が日曜以外、山岸さんの文化部が火・水・木。天田少年にも休みが必要だし、山岸さんの文化部の日に入れれば放っておかずにすむだろう。でも一度話し合ったほうがいいな。

 

「すみませんが、少々時間をいただけますか? 日数は問題ないと思いますが、部活の部長をしているので、部員と部のほうをどうするか相談したいので」

「もちろんいいわよ。こちらもシフトの調整が必要だから今日明日からとは行かないし……そうねぇ、来週までに一度、履歴書を書いて来てくれるかしら? その時に聞いてシフトを入れましょう」

「分かりました。よろしくお願いします!」

 

 紆余曲折があったが、俺は新しいアルバイト先の内定を得た。

 そして話がまとまると、忘れかけていたヒーリングの話になる。

 

「これで良いのですか?」

「ええ、そのまま体をリラックスさせておいて」

 

 施術のためにソファーに寝かされ、祈りをささげた後に俺の体へ手をかざすオーナー。

 するとペルソナを召喚していないのに、徐々にではあるが普段の吸血で力が流れ込んでくるような、満たされるような感覚を覚える。これなら本当に治るだろう。しかし、吸血とは何かが違うような……

 

「あら? もしかして私が今流している力も感じ取れているの?」

「はい」

「そう……スピリット・ヒーリングは始めてかしら?」

「スピリット? スピリチュアルではなく? どちらにしろ初めてですが」

 

 治療を受けつつ話を聞くとスピリチュアル・ヒーリングは治療動作が同じでも使うエネルギーによって三種類に分類されるそうだ。

 

 一つめは霊界の霊が作り出すスピリット・エネルギーを用いたスピリット・ヒーリング。

 二つめは人間の霊体が持つサイキック・エネルギーを用いたサイキック・ヒーリング。

 三つめは人間の肉体が持つマグネティック・エネルギーを用いたマグネティック・ヒーリング。

 

 人間は霊・精神・霊体・肉体で構成されており、霊的純度(エネルギーの質)が一つめのスピリット・エネルギーに近づく(純度が高くなる)ほど治療の効果が高いらしい。つまり今俺が受けているのは最も効果が高い治療になる。

 

「エネルギーの違いは効果の違いだけでなく、施術者がはたらきかけて治療できる領域を決めるわ。マグネティック・エネルギーなら肉体だけ、サイキック・エネルギーなら肉体と霊体。スピリット・エネルギーなら霊から肉体までと、より広い範囲を癒せるわ。

 ただしサイキック・エネルギーとマグネティック・エネルギーは人の肉体の中で作られるエネルギーであり、その人自身にも必要なエネルギー。治療のためだからといって人に与えすぎてしまうと、今度は施術者の方が倒れてしまうの。貴方の場合は魔術の失敗の結果だと思うけど、症状はこのケースに近いわね」

 

 理屈に心当たりがありすぎる……ここで学ぶのは正解だと思えてきた。

 

「? オーナーは平気なんですか?」

「スピリット・ヒーリングで治療に使うエネルギーは外の霊から受け取っているの。私は霊からいただいたエネルギーを治療に使えるように転換し、貴方に渡す中継役にすぎない。無限にとはいかないけれど、サイキック・ヒーリングほどの負担はかからないわ」

「そうなんですか……」

「ええ。自分の健康維持に必要なエネルギーを確保した上で、余りを使って施術するのがサイキック・ヒーリングとマグネティック・ヒーリングの鉄則よ。そうして霊からの力を受けて扱えるようになるまで修練を重ねてスピリット・ヒーリングを覚えるの。

 貴方も気をつけなさい、自分の体調を崩すほど力を使っては絶対にダメ。エネルギーの確保を忘れれば、やがて破綻し破滅を招くわ」

 

 そこまで言うと、オーナーはかざしていた手を下ろした。

 そこで気づけば、体のだるさが嘘のように消えている!

 

「調子は戻ったようね」

「オーナーのおかげです。ありがとうございます!」

 

 ペルソナを使わずにこんな事を実現したオーナーにわずかに尊敬を抱き、礼を言うとオーナーは笑っていた。

 

「あっ、この治療のお代は……」

「今日はいらないわ。ヒーリングで商売はしていないから、今いくらかと聞かれても困るし……どのみち働き始めてからしばらくの研修期間はお給料をちょっと少なめにさせてもらうから」

「分かりました、気合を入れて働かせていただきます」

「期待しているわ」

「ヒッヒッヒ。体調は回復し、アルバイト先と人手が見つかり、いやぁいい結果で終わって良かったですねぇ」

 

 こうして俺の体調は改善されたが、もう夜の八時を過ぎていたためお暇する事になった。

 しかし、いざ店を出ようとしたところで店舗まで来ていたオーナーに呼び止められる。

 

「葉隠君、ちょっと待っていて頂戴」

「? はい、わかりました」

「影虎君、私は先に外へ出ていますね」

 

 オーナーは急ぎ足で奥へ戻っていき、江戸川先生は店内に数人いるお客様の目が気になったのか出て行った。

 

「…………あ、どうも」

「どうもー」

 

 待つ間、店内を見ていたら女性の店員さんと目が合った。

 なんとなく気まずいが、ここで働くなら挨拶しておくべきか?

 と思ったら店員さんは他のお客に呼ばれてお会計に行き、オーナーも戻ってきた。

 

「お待たせしたわね」

「いえ、そんな事ありません」

「フフッ……葉隠君、これを持っていなさい」

 

 俺の右手をとって、手の平に乗せられたのはピンク色の小さな石だった。

 表面は解けた氷のような光沢と凹凸があり、すべすべして冷たい。

 

「これは?」

「アイスクリスタル。主にインドの北部で産出されるパワーストーンでヒーリング効果があるの。それから瞑想や超意識との同調を助ける働きもあるわ。アクセサリー作りの過程で出た破片だけど、気休めのお守りにはなると思うから。

 パワーがなくなってきたと感じたら月光浴をさせたり、水晶か塩の中に埋めて浄化して頂戴。水と日光は変色の可能性があるからおすすめしないわ」

「ありがとうございます、こんな物まで」

「フフフ、うちで働くなら次は元気な状態で来てくれないと困るからね。アフターサービス……あら?」

「? 何かあったんですかね?」

 

 言葉を途中で止めたオーナーは、外を気にしているようだ。

 そちらに注意を向けると、どうも店の前が騒がしい。

 

 二人で店の入口に近づいてみれば、そこでは……

 

「あなた、職業は?」

「月光館学園の養護教論です」

「ここで何をやっている」

「人を待っているんですよ、うちの生徒を」

「生徒と? 教師が生徒とアクセサリーショップに?」

 

 江戸川先生が職務質問を受けていた。それも原作にも出てくる黒澤巡査に。

 

「って何やってんですか江戸川先生!」

「むっ? 君が、この人の生徒か? 一体何故こんな時間に」

 

 それから俺と江戸川先生は黒澤巡査の職務質問を受け、精神的な疲労が溜まっていた俺に、先生がリラクゼーションの得意な知り合いを紹介してくれたという事で納得させて事無きを得られた。

 

「ようやく解放されましたねぇ」

「せっかく癒されたのに、また疲れた気がします」

「今日の職質はまだ短いほうです、お二人のおかげで早めに話が終わりました」

「いつも受けてるんですか……?」

「ウフフ……困りますねぇ」

「ええ。それでは、また職質を受けないうちに帰るとしましょうか?」

「そうしましょう。オーナー、今日は本当にありがとうございました」

「ええ、次に来るときを待っているわ」

 

 絞まらない最後ではあるが、こうして俺達は帰路につき、今日の一日が終わった。




影虎は誤解された!
しかしアルバイト先と成長への手がかりを手に入れた!


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37話 天田の部活動初日(前編)

 4月30日(水) 放課後

 

 ~部室~

 

「改めまして、天田乾です! 葉隠先輩、山岸先輩、江戸川先生。今日からよろしくお願いします!」

 

 とうとうこの日がやってきた。授業が終わったら急いで部室へ。

 同じ事を考えていた山岸さんと江戸川先生の二人と図らずも合流して部室に来ると、もう既に天田が来て待っていた。

 待たせたかと聞けばそうでもないと答えたが、小等部の授業は何時に終わるのかと聞けば三時半くらいに終わると答える天田。しかし高等部は三時四十五分までかかり、今はもう四時に近い。

 

「待ってないとか言っといて、約三十分待ってるじゃないか」

「それは、その……」

「待ち時間はまだいいとしても、これじゃ雨の日とか困らないかな?」

「ヒヒヒ、何か考えておきましょう。まずは中へ」

「それもそうですね」

 

 俺たちは元気な挨拶をした天田少年を迎え入れ、まずは部室を案内する。

 と言っても紹介する場所なんてほんの少ししかないが。

 

「ここが天田君が使う部屋ね」

「すごいですね……高等部の部活って一人一人に個室が用意されてるんだ」

「あ、天田君、それは違うの。この部が特別って言うか、隔離されてるって言うか」

「隔離?」

「他所じゃまず無いと思うけど、うちは部員が少なすぎて部屋が余っているから有効活用しているだけさー。着替えて早速練習に入ろう。

 小等部の寮の門限は五時半だろ? 考えてみたら一日二時間くらいしか練習時間ないぞ」

「そうでした! 早速着替えます!」

「昨日買った防具は部屋に置いてあるけど、まだ着けなくていいからなー」

 

 部室の異常性はうやむやにして、俺は天田に準備をするよう促した。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「よーし、着替え終わったな?」

 

 部室の前に、半袖半ズボンの体操服に着替えた天田と、ジャージを着ている山岸さんが並んでいる。

 

「今日の練習メニューはまず準備体操と柔軟の後でランニング。それから防具をつけて軽くパルクールの基本技をやってみよう」

「はいっ!」

「ランニングまでは私もやるね」

「俺も初めは様子を見ながらやるから」

 

 こうして練習がはじまると……

 

「うん、しょっ!」

「いたたたたたっ!」

「あっ、ごめんね」

「山岸さん、背中に力をかけるのはもっとゆっくりでいい。それから天田、無理はしなくていいけど柔軟はしっかりやらないと怪我のリスクが高くなるからな。多少は我慢だ」

「はいっ、ていうか……先輩、体柔らかいですね」

「お腹までぴったり地面についてる……」

「まぁ、パルクールやって長いからね。格闘技でも柔軟性とか大事だし」

「! 山岸先輩、もう一度お願いします!」

「わかった。いくよ?」

「~~~~~~~!」

 

 寮では部屋にこもりがちだったからか、天田の体がちょっと固めなことや

 

「1、2! 1、2!」

「1、2! 1、2!」

「1……2……」

 

 山岸さんは日々歩き回っていた天田よりも体力が無いことが分かってきた。

 

「よーし、休憩!」

 

 俺が宣言すると、二人は足を止めて乱れた呼吸を整えようとする。

 そこに担いでいた荷物の中から、二人分のスポーツドリンクが入ったボトルを差し出す。

 

「はい、二人とも水分補給はしっかりな。あと、息を整えるときはいきなり足を止めるんじゃなくて歩きながらのほうがいい。向こうの木陰まで歩こう」

「あれっ? あんた葉隠?」

 

 二人のほうに向いていると、聞きなれない声で名前を呼ばれた。誰かと思って振り返れば……

 

「! 鳥海先生、ですよね? 現国の」

「あら? アンタ私のこと知ってんの? アタシ一年の授業受け持ってないのに」

「ええ、まぁ、美人教師で有名って騒いでる奴がクラスに居るんで」

「えっ、ちょっとそれマジ? 美人で喜んでいいんだか、面倒の元で悪いんだか」

「ははは……」

 

 鳥海先生は来年、原作主人公の担任教師になるはずだけど、何やってるんだろう?

 男子生徒を数人つれているが、全員疲れて……というか

 

「順平?」

「順平さん」

「おぅ、影虎か……それに天田っちじゃん……?」

「どうしたんだよ? その様子」

「学習資料の整理をしたから、当分使わないものを専用の倉庫に移す事になってね。その手伝いを頼んだらこうなったの。まったく、だらしないんだから」

「違うでしょ! 鳥海センセー人使いが荒いからでしょ!? 暇してた俺に困ったなー、困ったなーって聞こえるように何度も声かけてきて! 最後は嫌がる俺たちに無理やりっ!」

 

 わざとらしく身を捩ってみせる順平。だが先生は

 

「キモッ!」

「ひっでえ!?」

「いや、俺から見ても気持ち悪かった」

「影虎まで!?」

「男がそんな仕草したら当然でしょうが。そういうのはアタシみたいなか弱い女性が」

「か弱い?」

「鳥海先生ってか弱いか?」

「ないだろ、普通に考えて」

「ちょっとそこ! 何でそこに疑問を挟むのよ? アタシだって女よ!? か弱いわよ! 一人であんな量の荷物運べないくらい! 江古田の分まで押し付けられなきゃ自分で運び込んでたわよ! なによあいつ、若いんだから運べるでしょうって、断れないじゃない! 断ったら若くないって言うようなもんだし……」

「やっべ、聞こえてた……」

「せ、先生! 仕事はもう終わったしょ? 俺らもう帰りますんで!」

「失礼しまーす!」

 

 順平と鳥海先生の会話を疲れた目と体で眺めていた順平以外の男子生徒が失言をし、機敏な動きで逃げていった。

 

「まったく! アタシだって好きでこんなんなったんじゃねーっての! ……はぁ……あー、伊織?」

「はい? なんざんしょ?」

「アンタももう帰っていーわよ。あいつらが言ったようにアンタの仕事はもうないしね。あたしももう行くけど……そうだ、葉隠君」

「俺ですか?」

「アンタ教員の間じゃ有名だから、不祥事とか起こすと面倒よ。気をつけなさい」

「えっ、何か悪い噂が?」

「悪い噂、ではないと思う。けどどうなのかしら…………強く生きて」

「励まされた!?」

「んじゃアタシ行くから」

 

 鳥海先生は言うだけ言って立ち去った。

 

「……なんなんださっきの励ましの言葉」

「影虎が有名なのは今に始まったことじゃねーけどな」

「そうなのか!?」

「葉隠君って江戸川先生との事で学内ネット掲示板の話題になってるから。今年最初の江戸川先生の被害者で、運動部の有望そうな新入生名簿にも名前が載ってたし、部活動の設立とか、桐条先輩と話したとか。掲示板見ると結構名前が出てるんだよね」

「あっ、運動部のページなら僕も見ました。先輩って50m走で6秒切れるんですよね? 掲示板とか見ないんですか?」

「ニュースみたいな外からの情報収集はするけど、学内の掲示板はみてないな……」

 

 一度か二度話題になっただけじゃ済まなかったのか……だったら今度チェックしてみるか。自分の話とかあまり見たくない気もするけど。

 

「影虎ー、フツーに話してたけどその二人って?」

「ん? ああ、うちの部の新入部員。天田は知ってると思うけど、山岸さんは初対面だよな? こちらマネージャーの山岸さん。山岸さん、こっちはクラスメイトの」

「伊織順平! 山岸さんよろしくぅ!」

「は、はい! よろしくお願いしますっ!」

「うんうん、よろしくよろしく……で、影虎ちょっと」

 

 面倒くさそうな匂いがプンプンする手招きで呼ばれ、二人から離れると順平が思い切り肩を組んでくる。

 

「影虎、あの子前にお前が呼び出してた子じゃんかよ。会ってみたら声ちっさくて可愛らしい子じゃんか。マネージャーに引き込むなんてどうやったんだよ?」

「そのニヤけた笑いをやめてくれ。山岸さんはそんな関係じゃない」

 

 山岸さんの入部は俺としても想定外だったんだ。

 

「……順平、天田の事情は聞いてるな?」

「はっ? 聞いてるけど、何で急にその話?」

「山岸さんが入部した理由はそれなんだよ。たまたま事情を知って、天田君が入部するなら自分も入部して力になってあげたいって」

「あー……そういうこと?」

「そういうことだ。だからあまり邪推しないでやってくれ。俺だけならまだいいが、下手な噂が立つと山岸さんの負担になるかもしれない」

「……わかった。カワイイ女の子の迷惑になりたくねーしな。ただ、手を出したらちゃんと言えよ?」

「なんで!?」

「そういうことになったらなったで知りてーし。散々からかってやるこのラッキーボーイめ!」

 

 なんて嫌な事を……と思っていたら順平は待たせている二人のほうに歩いていく。もう内緒話は終わりのようだ。

 

「おーっす。待たせてごめんなー」

「いえ、べつに。お話終わった?」

「丁度休憩でしたから」

「そっか、バッチリ話は終わったぜ。それより、これから三人はどうすんの?」

 

 聞いた順平が二人を見て、二人が俺を見る。

 

「そうだな……天田の門限もあるし、パルクールの技の実演と練習に入るか」

「本当ですか!」

「あ、オレッチ暇だし、ちょっと練習見ていいか?」

「別に構わないぞ?」

 

 こうして俺は三人を連れ、目をつけておいた基本技の説明がしやすそうな場所へ向かった。

 

 

 

 

 ~月光館学園 高等部校舎裏~

 

「綺麗……」

「へー、こんなとこあったんだ」

「ここで練習するんですね?」

 

 高等部校舎の外を回り、三人を高等部の校舎裏まで連れてきた。

 校舎裏というと暗くて人目につかず、いじめやカツアゲに使われていそうなイメージがあるがここは裏門の外。

 

 この学園は埋め立てて作られた人工島の上に建っていて、さらに各校舎は海を背にしている。そのため遮蔽物の少ないここは日光がよく当たり、海から爽やかな潮風が吹き抜けている。風力発電のために立ち並ぶ風車や、光を受けて輝く海の光景も綺麗だ。

 

 もう少し進むと景色を楽しむために作られた高台があり、そこに蛇行した階段や壁がある。何より高台の意味がないとも思うが、人がいないので練習がしやすいランニング中に見つけた穴場だ。

 

「最初は軽く説明しながら実演するから、まず天田はそこに座って防具を着けながら見ていてくれ」

 

 俺が高台の階段を指してそう言うと、天田を中心に三人が階段に座る。

 

「まず、パルクールの基本となる動きは全部で五つ。ヴォルト、バランス、ランディング、プレシジョン、クライムアップ。基本だから理解できないほど難しい事はないし、もうこの時点でどんなものか大体想像もつくだろう。だけどとりあえず一つずつ見せる。

 まずはヴォルト。これは簡単に言うと物を乗り越える技だ。こんなふうに」

 

 階段の前に設置された、公園にもあるような車止めの上に両手をついてジャンプ。両足で飛び越えて反対側へ着地。

 

「今のはトゥーハンド・ヴォルトって言う技だけど、技の名前は正直あまり気にしなくていいと思う。ヴォルトは基本だけに技の数とか凄く多いから。たとえば……こんな感じで加速をつけて片手だけついて飛び越えるとレイジー・ヴォルトって技になったり。小さな差でも名前が違うから、練習しながらおいおい覚えていけばいい」

 

 ここまではいいかと天田を見れば、いい返事をして肘当てをつけている。

 

「なら次はバランス。これは分かると思うけど」

 

 俺は細い車止めの上に飛び乗る。

 

「こういう細い場所の上でもバランスをとる事。平均台と似たような物と考えてほしい。ただパルクールではこんな風に丸かったり、細かったりしてもバランスをとれるように練習する」

「それ簡単に見えて難しくね?」

「難しいけどしっかりバランス感覚を養っておかないと難しい技はできないし、なにより危険が増す。でもこれを鍛えると綱渡りだってできる」

「影虎は綱渡りできんの?」

「綱渡りだけじゃなく、大きくて頑丈な玉があれば玉乗りもできる」

「マジで!?」

「実家の近くに近所にサーカスで働いてる人がいて、中学のときに一日だけ体験させてもらったことがあるからな。綱渡りも最初からあんな高いところでやるんじゃなく、この車止めくらいの高さに張った綱に乗ってバランスをとる練習するんだそうだ。で、それで動きを身に付けたら高いところで練習する。

 下での練習の結果を高さの恐怖心に打ち勝って全て出し切れれば綱渡りはできるらしいよ。俺は低い所の練習だけやらせてもらったけど、綱の弛みに気をつければそんなに難しくもなかった。パルクールでバランス感覚を養っていたからか、五回か六回で成功したし。って、こんな話どうでもいい。次はランディング」

 

 車止めからやや前傾姿勢で飛び降りる。

 

「こんな感じで膝や手足で衝撃を逃がし、高いところからでも安全に着地する練習。パルクールでは普通の陸上競技より高い所から飛び降りることが多いからとても重要になる」

「葉隠君。動画サイトで見たんだけど、飛び降りて前に転がるのもランディングなの?」

「それはロール。ランディングだけで衝撃を逃がしきれない場合に使う技だから、まだそこまではやらない。今回は割愛ってことで、まずはこの高さでヴォルト、バランス、ランディングの三つを鍛えようと思ってる」

 

 山岸さんは自主的に勉強しようとしたみたいだけど、それが必要になる高さでの練習は当分先になるな。

 

 この後も俺は続けて狙った場所へ正確に着地するプレシジョンと、壁などを登るクライムアップを説明。そして練習の注意点と防具の装着確認の後、天田の門限まで実際の練習を行うのだった。




天田が正式に部員になった!
影虎はパルクールの基本を指導した!


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38話 天田の部活動初日(後編)

 午後六時四十分

 

 ~部室~

 

 天田が門限で帰ることになると、練習を見ていた順平も帰った。

 それから俺と山岸さんは部室で江戸川先生を呼び、部内で会議を行っていた。

 内容はもちろん今後の活動について。

 天田の門限の事だけでなく、俺のバイトのことも早めに話す必要があったからだ。

 

「では五時までは天田のための練習中心に、その後七時までは俺の自由に練習ってことで」

「天田君の門限は変えられない以上、それしかありませんねぇ」

「天田には先に来たら準備運動などを一人でやっておいてもらって、少しでも時間を有効に使わないと。俺もシフトによりますが、毎週土曜と平日に数日はバイトに行く事になりますから」

「葉隠君のアルバイトの日は部活お休み?」

「本決まりはオーナーと相談してからだけど、天田の休みにちょうどいいかと思う」

「私も賛成ですねぇ。彼はまだ体が未成熟。無理をさせてはいけません。まぁ影虎君がバイトの日でも私はここに居ますし、彼が来たらランニングと健康チェックをするようにします。それで問題がなければ徐々に練習量を増やしましょう。

 今度部室の合鍵を作って皆さんに配れば、天田君が外でまちぼうける事もないでしょうしね」

「あの、やっぱりそれダメなんじゃ……」

「ヒッヒッヒ、黙っておけば平気ですよ。ラベルを貼ったりしていない限り、鍵を一目見てどこの鍵かが分かる人なんてまず居ませんから。もし何かの拍子にどこの鍵かと聞かれれば、実家の鍵とでも言っておけばいいのです。一応人目には気をつけてくださいね」

「え、ええ~……」

「あと、バイトのシフトなんだけど」

 

 山岸さんを戸惑わせながらも会議は続く。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 その後

 

 会議が終わると山岸さんは活動報告書を書き、江戸川先生経由で手に入れた天田の小等部の体力テスト結果と今回の会議の決定事項をパソコンに打ち込んで先に帰った。

 

 俺も軽く自分の練習もして、桐条先輩への報告メールとBe Blue Vに提出する履歴書を書いた後で帰ろうと江戸川先生に挨拶をしようとすると

 

「江戸川先生、今よろしいでしょうか?」

「手が離せませ、っ! 扉を開けないで! そこからどうぞ!」

「えーと、それじゃ……今日はお先に失礼します! Be Blue Vに寄って帰るので、今日も部室の戸締りをよろしくお願いします!」

「分かりました! 気をつけて! さぁ、暴れないでくだっ!?」

「江戸川先生もお気をつけて! ……いったい部屋の中では何が行われているのか……ま、いいか」

 

 ビーカーか何かが割れる音が聞こえてくるが、よくある事なので特に気にせず部室を後にした。

 

 明日の練習には格闘技も加えてみようか? いや、予定通り体力作りからか? でも同じ練習ばかりじゃ飽きもくるだろうし、勝手に難しい事をやられると危ない。その辺はきっちり指導しなければならないが、早めの反抗期と言うものもある。あまり言いすぎるのも逆効果ではないか? あの日、俺は運よく天田からは大きな好感を得た。天田も素直だと思うが、今後反発しないという保障はない。

 

 せめて死ぬ前に人を育てた経験があればもう少し匙加減もわかっただろうけど、子供どころか恋人もいなかったし、会社では新米からようやく脱したくらいだったからな。……天田と上手くやっていきつつできるだけ鍛えるには……天田にとって適度な壁になってやるとか? なんにしても探っていくしかないか。やっぱり後輩ができると考える事も増える……あ、帰りにコンビ二にも寄らないと。

 

 

 

 

 

 ~自室~

 

 影時間

 

 Be Blue Vに履歴書を提出し、シフトは火・水・木のいずれかが都合が良いとオーナーに伝え、連絡先を渡して帰宅。これでバイトの件はひとまず向こうからの連絡を待つ。あとは寮に帰って食事をしたり、学生である以上避けられない宿題を片付けたりと色々していたら影時間を迎えた。

 

「さて……」

 

 ドッペルゲンガーを呼び出し、帰り道のコンビ二で買った数個の南京錠を手に取った。

 旅行バックなどに付ける小さな物だが、鍵としての機能はしっかりとしている。

 会議で江戸川先生が合鍵を配ると言い始めたとき、ふと思いついた。

 

 ドッペルゲンガーを変形させて合鍵にできないか? と。

 

 南京錠を一つつまみあげ、鍵穴を覗く。

 周辺把握を使い、鍵穴内部の構造を確認……

 購入時に当然ついてくる本来の鍵を参考に、指先に鍵の形を作り、差し込んでみる。

 

「こんな感じか……? いや、成型が甘いか……」

 

 途中で引っかかってしまった。

 周辺把握で鍵の形状を見直し、その場で形状を修正する。

 

 太さや長さを合わせていくと徐々に奥まで届くようになり、内部の金具が引っかかる。

 それをゆっくりと回していくと……

 

 カチリ、と小さな音を立てて本当に鍵が開いてしまった。

 

 そこでもう一つ。また新しい南京錠をつまみあげ、今度は正しい鍵を見ずに開けてみる。

 とりあえずさっきの鍵で奥まで届かせ、内部の金具に引っかかるように作ればいいと分かった。構造も意外と単純だ。

 

 先ほどの経験を参考に、内部構造を把握してドッペルゲンガーの形状を合わせていく。

 すると最初の鍵よりは時間がかかったが、二分もかからずに開錠に成功してしまう。

 

「……やってみたはいいが、これ不味くないか?」

 

 ドッペルゲンガーの隠蔽で気配とか足音を隠し、保護色で姿を隠す。

 周辺把握があれば近づく人の動きや監視カメラの位置と方向はたぶん分かる。

 変形能力で全身包めば毛髪や指紋は残さないだろうし、靴跡は自由に偽装可能。

 そこにこの開錠能力が加わったら……もう空き巣とか楽にできそう、としか考えられない。

 

「いやいや、まさかそんなに上手くはいかないだろ。最近は鍵も進化してるんだし」

 

 自分で自分の考えを否定してみるも、考えは消えず。

 

「ちょっと外で試してみるか……鍵開けるだけ、開いたら閉める。それなら問題ない。能力の確認も必要だし……」

 

 ……俺は誰に言い訳をしているんだろう?

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~駅前広場はずれ~

 

「こんな所でなにやってるのよ」

「……自分の能力を確認していただけだ」

 

 大通りでは落ち着かず、人目につかない場所の鍵で実験をしていたらストレガが現れた。

 周辺把握で気づいたため決定的瞬間は見られていないが、どうも気まずい。

 

「なんや、嫌そうやな? 人に見られたない事なら滅びの搭でやったらええんちゃうか?」

「それはできない。街中でなければ」

「それは興味深いですね。どのような能力なのですか?」

「…………知りたいのか?」

「先日貴方のペルソナが持久型と聞いてから、少々興味がでてきまして」

「私も。……貴方のペルソナは変」

 

 あまりこちらの情報は渡したくない。しかし……

 

「ペルソナについて話を聞かせてもらえるのなら、こちらも多少は話してもいいが?」

「ほう、情報交換ですか」

「私はペルソナの知識が乏しいのでな」

 

 注意は必要だが、ストレガとは敵対していない。

 つまり俺が今接触できる貴重な情報源でもある。

 

「……タカヤ、どないする? 今日の影時間が終わるまで、あんま時間無いで」

「……いいでしょう。私には彼のペルソナが今までに見たどのペルソナともなにかが違う、異質な存在に感じられます。情報料としては金銭で支払われるよりも面白い」

「話に乗る気がある、ということでいいのか?」

「貴方が何を聞きたいのか、どんな情報を教えていただけるかによって、何処まで教えるかを考えます」

「ならば交互に話題を出すとするか。そのうちに情報の価値を判断してくれ。どちらかが納得できなければ話は終わりとしよう」

「それでいいでしょう。ジン、あなたは」

「わかっとる。俺は今日の仕事を片付けとくわ。チドリ」

「私はここに残る」

「……さよか。まぁええわ」

 

 仕事前だったんだな……

 

 ジンは一人、影時間の町に消えていった。

 あっちも気にはなるが、今は目の前に集中しなければ。

 

「まず私から話そう……私が今日試していたのは、鍵開けの能力だ」

「鍵開け。なるほど、それで滅びの搭では試せなかったのですね?」

「そうだ。あそこには鍵のついた物がない。時々見つかる箱に鍵がかかっている物があるかもしれないが、私は見たことがない。街中の方が手早く、多種類の鍵を試せると思った。

 電子式の鍵は装置自体が動かず開錠できない。しかしアナログな鍵であれば、今のところ開けられなかった鍵はないな」

 

 一番楽だったのは自転車とかに着けるダイヤル式のチェーンロック。あれは中にある円盤の一部が欠けていて、欠けが指定の場所へ一直線になるようダイヤルを回せば開いた。そうでなくても鍵穴に差し込んでみて、内部で動く金具の場所と意味が分かれば、多少手間取っても開けることはできる。

 

 傍にあった自動販売機の前に立ち、商品補充用の鍵穴に手の平を押し付けて実際に鍵を開けて見せる。そしてほんの十秒程度で自動販売機は大きく開き、内部があらわになった。

 

「何か飲むかね? 話すのなら飲み物の一つもあった方がいいだろう。一本ずつ奢ろう」

 

 言いながらお金が入っている場所に見当をつけて鍵を開け、回復時計用の千円札を一枚入れる。

 

「我々以外の誰も見ていないというのに、律儀な方ですね。南船橋人工水をお願いします」

「ミニマムコーヒーのホット」

「……ここか」

 

 俺は二人の希望した飲み物と自分の255茶、あとは千円から三本分の代金を引いた六百四十円を自販機から取り出して全ての鍵を閉めて飲み物を二人に渡す。

 

「ほら」

「……いただきます」

「見事なお手並みでした。影時間は私たちのように適性を持たないものは活動を停止します。電子式の鍵はそちらが動かなかったのでしょう。しかし鍵開けとはまた変わった能力だ。あくまでペルソナの能力としては、ですがね。

 では次は私が答える番。何が聞きたいのでしょうか?」

 

 飲み物を開けて考えてみる。

 

「色々あるが……まずどうして俺はペルソナを使えるのかだ。俺は初めて召喚したときや新しい能力を覚えた時、必ず頭の中に声や情報が響いて使い方が分かった。あれは何なんだ?」

「ふむ……何故ペルソナが使えるのかという根本的な問題には、貴方が高い適性を持っているからとしか言えません。声については貴方の声、と言う表現が正しいでしょう」

「私の声?」

「ペルソナは我々の心の内より現れる物、と言われています。すなわちペルソナとは貴方の心が形を成した存在。……貴方は初めから自身のペルソナの全てを知っているのです、自覚する事が困難なだけでね。貴方は自身の全てを完全に理解できていると言えますか?」

「……言えないな。迷うことや分からないことも多い。……つまり声は知っている事を自覚させただけなのか」

「そういう事です。もしくは何かのきっかけで貴方が理解できるようになった、とも言えます」

 

 ということは、自分について理解を深めればもっと色々分かるのだろうか?

 

「では私から次の質問です。貴方はどうやってペルソナでその身を包んでいるのですか?」

「……これもペルソナの能力だ。私のペルソナは形状を自在に変化させる事ができる」

「形状を? なるほど、それで貴方はペルソナを服にして着込んでいるという事ですか。先日の話からすると防護服としての効果を期待しているようですが……効果はあるのでしょうか?」

「どういう事だ?」

「ペルソナやシャドウは様々な魔法を使い、またそれに対する弱点や耐性があることは?」

「知っている」

「その弱点と耐性はペルソナ特有のものであり、普通の人間にはありません。火に焼かれたり氷漬けにされたりしても平気な人間なんて、普通は居ませんよね?」

「ああ……」

「ですが、ペルソナ使いは別なのです。ペルソナはペルソナ使いの内側より生まれたもの。目覚めた時点で外から内に働きかけると同様に、内から外へ……」

「待ってくれ。まさか、こうして着なくても魔法攻撃からは守られるのか?」

「そうよ。そうやって着込んでいるのは貴方しかいないわ」

 

 黙ってコーヒーを飲みながら聞いていたチドリが発した一言が、俺の心を容赦なく抉る。

 

 言われてみれば、他のペルソナ使いは皆呼び出したペルソナに戦わせてるよな……

 

「ペルソナを呼び出していなくても変わりません、これは体質が変わったと考えればいい。それに貴方は我々と同じく選ばれた人間なのですから。目覚めてしまった以上、もう戻すことは不可能です」

「自分の考え違いに頭が痛むが……懸念が減ったとでも思っておくよ。これはこれで便利なのでね。このように」

 

 右手を上げて手元を丸い盾に変えてみせる。

 

「変形能力はそういう使い方をするのですか」

「それなりに頑丈な服だ。……次の質問だが、私は搭で戦い続けていくらか新しい魔法を身に付けた。これは一体何なんだ? 初めから知っていた事なのか? また、覚えられる能力に限界はあるのか?」

「そうですね……魔法や技などはスキルとも呼ばれ、元々覚えている物もありますが、ほとんどはペルソナと貴方自身の成長によって身に付けていくものです。覚えるスキルは各個人に向き不向きがありますが、基本は長く使ううちにより上位のスキルや新しいスキルが身につきます。

 強力なスキルであれば習得も困難になるとは思いますが、限界は個人差ではないでしょうか? 今以上の成長を諦めたとき。それが貴方の限界かと」

「……スポ根漫画か?」

「精神の成長という意味では間違っていないのでは?」

 

 そういうものか……

 

「しかし、何事にも例外はあります。スポーツにおけるドーピングのように、この世にはスキルカードというペルソナに新たなスキルを与える道具が存在します。それを使えば労せず新しいスキルをペルソナに覚えさせることができますね」

「! それはどんなスキルが? どうすれば手に入る?」

「その前に、今度は私から……」

「待って。そろそろ時間」

 

 タカヤの言葉をチドリが遮る。

 

「おや? もうそんな時間でしたか」

「……影時間が終わるならば、話はここまでか」

「このあたりの連中は喧しい。面倒ごとを避けるには、そうすべきでしょうね。今日は中々楽しい時間をすごせました」

「こちらも、有意義な話を聞かせてもらった」

 

 いい所だが、この辺りの不良に見つかると本当に面倒なので話は終了。実際俺は一度復讐依頼を出されかけていた。

 

 それに、大きな情報には対価も増える。

 あまりがっつくとタカヤに足元を見られかねない。

 ……敵対してないってだけで、信用はできてないんだろうな。俺は。

 まぁ、今日はペルソナの情報とスキルカードの存在が知れただけでよしとしよう。

 

「またいずれ、機会があればお会いしましょう」

「ああ、またいつか」

 

 

 タカヤとチドリは軽い挨拶で広場から立ち去り、俺は適当な路地からトラフーリで寮に帰った。




影虎は変形と周辺把握の応用で鍵開けを覚えた!
影虎はストレガと遭遇した!
影虎はペルソナの情報を得た!
影虎はスキルカードの存在を知った!



どうも皆さん、うどん風スープパスタです。
私がこの話を今年の四月に書き始めて、なんだかんだで今日まで続きました。
大勢の方に読んでいただいたり、感想をいただいたり。
ありがとうございます。皆さんが楽しめていたら幸いです。
年内の投稿はおそらくこれが最後になりますが、来年もよろしくお願いします。


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39話 休日のすごし方

読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。


 5月4日(日)正午

 

 ~部室前~

 

「あと一分! もう少しテンポ良く、ガードが下がってる!」

「はい!」

 

 俺と天田は部室の前で向かい合い、一定のテンポで左右に独特のステップを踏んでいる。

 明日は祝日(こどもの日)で休みだし、影時間以外の予定が無かったためやる気に満ちていた天田に付き合うことにした。

 

「……よし休憩!」

「ふぅっ、腰を落として動くのって結構疲れますね」

「今の“ジンガ”はカポエイラの基礎だからな。右に行くときは左足を右足の後ろへやって、左手を顔の前でガード。左に行くならその逆。これがしっかり身につくまで反復練習あるのみ。

 カポエイラは蹴りが中心で不安定な体制になりやすい、だから体幹部の強化やバランス感覚を養うにはピッタリだ。これからも続けていくぞ」

「はいっ! ところでこれって先輩は何処で習ったんですか?」

「実家の近所でパルクールの練習してた公園にな、カポエイラの団体が週二で練習に来てたんだよ。練習中は楽器ジャカジャカ鳴らして歌うから凄く目立ってた。向こうも俺の練習に気づいていて、何度も遭遇したら自然に顔見知りになって、いつの間にか練習にも参加させてもらってた」

「へー、他は何かありますか? 格闘技で」

「そうだな……まず前に話した空手。サバットってフランスの格闘技のジムに通った時期もあるけど、そのジムは入門して一年くらいで潰れた。あと中学三年間は授業で剣道やってたし、爺さんが教えてくれてたのが沖縄空手だった関係で棒術も少し。あとはまぁ、ネットで動画見て調べたり映画見て真似てみたりが多少な」

 

 期間を比べると 空手>>>カポエイラ>剣道>サバット=棒 になる。

 ゲームの天田の武器は槍だったし、武器を教えるなら棒がいいのかもしれない。

 ただ問題は、棒を習っていたのが本当に短い期間だったこと。

 

 爺さんは社長としての仕事で忙しかったから基本は型を教わって自主練習し、帰ってきたら見てもらう感じで教わっていた。つまり目を離している時間が多くなってしまうので、自分が見れない間に棒という武器を振り回させるのはどうかと小学生の内は棒を教えてもらえなかった。

 

 中学に入ってようやく人に振るうな、責任を持てと言いつけられて許されたが、その後爺さんが俺に指導できなくなったので型を少ししか知らない。というか棒はその型すらも怪しい。はっきり言って棒は指導できるほどの腕が俺には無い。

 

 タルタロスで鍛え直すか……そういや足技もタルタロスでは全然使ってないな。走って飛び掛って吸ってを繰り返すなら小回りの利く拳の方が便利だし……今日は一階から足技だけで戦ってみようか。変形との合わせ方は……サバットならつま先を尖らせた靴に刃物がいいだろう。

 

「先輩? どうしたんですか?」

「ああ、なんでもない。時間もいいころだし昼にしないか?」

「いいですね。僕も運動したらお腹すいてきました。どこか行きますか?」

「あ~……着替えてからだと面倒だな。中の冷蔵庫見てみようか」

 

 江戸川先生から配布された合鍵で部室へ入る。

 

 本来日曜日は活動日じゃないし、普通は学校が開いてないから生徒は部室に入れない。

 しかしそれは各校舎の校門が閉まっているからで、校門の前までは誰でもいつでも入れる。

 たとえば俺が寮に入った翌日、順平と案内されて校門前まで来たときのように。

 

 そして俺たちの部室は学校側でどんなやり取りがあったのか、校外にある。

 だから鍵さえあればいつでも入れるんだ。……気づいたのは昨日だけどな。

 ドッペルゲンガーで周辺把握を使っていれば人目にもすぐ気づける。

 ここで俺たち以外の人なんて見たこと無いけど。

 

「ほとんど、何も無いな……天田、そっち何かある?」

「インスタントとかレトルトは無いです。江戸川先生が全部食べちゃったんでしょうか?」

「たぶんなー」

「あっ、お米はありますよ!」

「米だけじゃなぁ……」

 

 あるのは卵、ハムのパックが二つにジャガイモが五個、あとパンに乗せて焼くチーズ……調味料は結構揃っているし、オムレツくらいなら作れるか。

 

「オムレツなら作れそうだけど、どう?」

「先輩料理できるんですか?」

「……とりあえず食べられはする」

 

 聞いてみると、天田はそれでいいそうだ。というわけで調理開始。

 

 まずは手を洗ってまな板と包丁を用意。

 皮を剥いて千切りにしたジャガイモを水にさらしておく。

 同じようにハムも千切りに。

 全部切り終えたらフライパンを用意して、切った材料を少量の油と塩コショウで炒める。

 ……あまり手馴れていない俺の調理でも、ハムが焼けていくいい香りが出てきた。

 

「あ、そうだ天田、お米炊ける? できたら頼んでいい?」

「分かりました!」

 

 いい返事をして手を洗う天田を横目に、冷蔵庫から卵を取り出す。

 そして器に卵、牛乳、適当にちぎったチーズを入れて混ぜておく。

 炒めていたジャガイモとハムに火が通ったら、半量を別の器に移してフライパンに混ぜたものを投入。

 ジュワッと鳴る卵が固まらないうちに菜箸で具を散らせ、蓋をしてちょっと待つ。

 

「あれ? こう、ぐるぐるっとやったりひっくり返さないんですか?」

「あー、あれな。俺それで綺麗に作れるほど料理に慣れてないから。今日のはスパニッシュオムレツだ」

 

 スパニッシュオムレツは具を卵とじにする感覚で簡単に作れる。

 これなら俺でもまず失敗はない。

 本来のスパニッシュオムレツはもっと具をぎっしり入れてボリュームがあるんだが、今日のところは米でカバーしてもらおう。

 

 慣れないなりに作業は順調だった。

 

 ……だが、俺と天田の分を焼いたところでちょっとした問題が発生。

 

「タイミング間違えたな」

「お米、もうちょっと早く炊き始めるべきでしたね」

 

 米を炊き始めるのが遅く、オムレツだけ先に焼きあがってしまった。

 今オムレツを食べ始めると、後から白米だけを食べることになってしまう。

 

「待つしかないな……」

「ですね……先輩水飲みます?」

「いや、今はいいよ。ありがとう」

 

 天田は一人でコップを手に取り、俺はポケットから携帯を取り出す。

 

 暇つぶしに掲示板でも見てみるか。たしか山岸さんから教わった月光館学園の掲示板のアドレスが……見つけた。

 

 “月高生交流掲示板”

 

 画像も何も無いシンプルなページについたタイトルの下に、様々な項目が羅列されている。

 一応新しいスレのピックアップや分類はされているが、特に見たい事はない。

 

 見つけた検索機能で俺の名前を検索してみると……

 

 “該当するスレッドは、以下の57件です”

 

 微妙だな!?

 

 俺個人のであれば多いけれど、どうも話に少し出たらそのスレも表示されているようだ。例えばトップにあったのは陸上部の有望選手スレ。俺の名前が挙がり、投稿者がそいつは陸上部じゃないと突っ込まれる。その部分にしか名前が出ていない。

 

 適当なスレッドを流し読みしてみると、俺の名前が頻出するのは江戸川先生と桐条先輩関連のスレッドだ。

 

 江戸川先生のスレッドでは悪魔に魂を売った生徒、生贄、人生オワタ? と被害者的な見方をされていて、桐条先輩のスレッドでは最近先輩から呼び出された事が話題になっていたようだ。何アイツ、美鶴様に呼び出されるなんてマジ羨ましい。そんな言葉が飛び交っている。

 

 まぁ、そこは最終的に俺の部活設立の経緯と会わせて仕事を全うする先輩カッコイイ! 新入生に気を配る先輩優しい! と桐条先輩を賞賛する方向で収まっているようだけど……個人的に連絡取り合ってると知れたら間違いなくこのスレは炎上するだろう。桐条先輩への大勢からの人気と、一部の心酔を画面から感じる……うん、絶対に秘密にしておこう!

 

 心に決めたその時だった、噂もしてないのに桐条先輩から着信が入る。

 

「ちょっと電話が来たから外出てくるな」

 

 内容的に天田の前では話せないので、俺はそう言い残して部室から出た。

 

「はい、葉隠です。出るのが遅れてすみません、桐条先輩」

『こちらこそ突然すまない。息が乱れているようだが、何かあったのか?』

「日曜で部活は休みですが、個人的に天田と練習をしていたので。休憩と言って離れました。で……用件は天田についてですか? 報告に何か不備でも……」

『今日は別件だ。君は良くやってくれている。だが、それが君にとっと大きな負担になっていないか?』

「? 確かに天田の練習内容はこれでいいのかと悩んだりもしますが、本人が素直ですからそれほどでもないです。けど、どうして突然?」

『先ほど会った知人から、先週の水曜に君と江戸川先生がポロニアンモールで警官に職務質問をされていたと耳にした。間違いないな?』

「え、ええ、確かにそうですが」

『その時に君はそこに居た理由に精神的な疲労が溜まっていて、リラクゼーションの心得がある知人を紹介してもらった帰りだと答えたそうじゃないか』

「随分詳しく伝わってますね……」

 

 たぶん黒澤巡査から聞いたんだろう。

 

「たしかにそう答えましたけど、天田や先輩のことがあったからじゃないです。引越しや新しい環境だとか、色々あってちょっと疲れただけです。それに話に出た方も紹介していただきましたし、もう平気ですよ」

『江戸川先生の知人と言うことに不安を覚えるのだが……大丈夫だと言うなら信じよう。しかし無理はするな』

「お気遣いありがとうございます。今日はそれで電話を?」

『それもあるが、まだ君に聞きたいことがある。私は以前、君に君の伯父上が経営する会社のバイクカタログを貰っただろう? それを読んでいて購入を検討しているんだ』

「はい……?」

 

 バイクを?

 

「それはバイクを買い換える、ということで良いんでしょうか?」

『まだ決めたわけではないが、購入するならできるだけ多くの物が積めるバイクが欲しい。カタログにはそういうバイクも乗っていただろう?』

「あったと思いますけど、あれは出前とかバイク便向けの業務用バイクだったはずで……もしかして、オーダーメイドですか?」

『そうだ、カタログに請け負っていると書かれていたのを見てな』

「日常生活で使うならカタログのバイクで十分だと思いますが……キャンプにでも行くんですか?」

『そのようなものだ。多く積めたほうが便利だからな』

 

 先輩のバイクは影時間用に改造されて通信機材が積み込まれているはず。そういう改造をして、シャドウに対抗するために必要な装備としてバイクの所有を認めさせているって設定があった。となると積み込まれるのは十中八九通信機材になる。

 

 従来の物ではダメになったとしたら、俺のせいか? 以前転びかけたのも夜中に俺の事を調べていたっぽいし、戦力や装備の強化一新を図っているのかもしれない。

 

「今現在使っているバイクは?」

『そちらのバイクを購入する場合は手放すことになるだろう。今のバイクを用意した桐条グループの自動車・バイクを取り扱う部署で処分されるな』

 

 ? おかしくないか?

 

「同じ会社でなくていいんですか? そちらに話せば相談も」

『そこが問題だ。カタログを貰った日にも少し話した気がするが、私がバイクに乗る事は周囲に快く思われていない。今のバイクも周囲の反対を押し切って所有している』

「……相談できないんですか」

『向こうは明言していないが、上から指示を受けているらしくてな。改造や交換はいつも検討しますの一言で時間を取られ、挙句の果てに許可が下りないこともある。すぐに対応されるのは大がかりな整備と修理くらいさ』

「俺にかけてくるってことは、直接会社のほうにも依頼を出せないと?」

『直接連絡を取るとすぐに本家に知られてしまう。私が持つ携帯やその他の通信機器の通信記録は、全て本家がチェックしているからな』

 

 はぁっ!?

 

「ならこの電話や今までの話もですか?」

『通信記録はチェックされているが、会話内容まではチェックされていない。そこまでプライバシーを侵せば問題だからな。その分定期的に報告書を書くことが義務付けられているが、そちらは私のほうでごまかせる』

 

 いや、通信記録のチェックだけでもプライバシーの侵害じゃないかと思いますが?

 普通そこまでする? 同意があればいいのか、それとも家柄を考えたら当然なのか? 先輩の家のことだし、俺には何も言えないけどさ……

 

『しかし連絡に毎度公衆電話を使うのは不便かつ、先方からの連絡が受けられない』

「連絡先を教えても使えないんじゃ意味ないですよね……名乗って連絡されたらアウトなんですから」

『そうなんだ。私もこういう時は面倒を感じずにはいられない』

「でしょうね……ところで先輩、失礼かと思いますが、一つだけ聞かせていただきたい。俺から伯父の会社に先輩の要望を伝えることはできますが、その場合桐条から伯父の会社に報復はありませんよね?」

 

 これは何かあったら俺個人では済まないかもしれない。

 伯父と父親の働く会社だし、他の社員の方々とも面識がある。

 それが桐条グループに睨まれるのは万が一にも勘弁だ。

 何と言っても企業規模と営業力に歴然の差がある。

 桐条先輩はまだいいが、桐条グループ(・・・・・・)は信用できない。

 

『それについては心配ない。お父様に話を通してある』

「桐条グループの総帥に?」

『そうだ。他社に話を持ちかける事は既に許していただいている。いくら上からの指示とはいえ、対応の悪い店から客が離れ、他店に客が向かうのは道理だろう?

 私の言葉ならばともかく、桐条のトップであるお父様の言葉を彼らは無視できない。最悪でも話が白紙に戻るだけ、それ以上の迷惑はかけないよう取り計らうと確約をいただいた』

「……それなら初めから総帥にバイクの開発をするよう指示を出していただけばいいのでは?」

『お父様はこの件については中立を貫いている。一定の理解はいただいているが、反対したい気持ちもあるそうだ。お父様なりの親心なのだろう』

「あぁ……反対されると問答無用で取り上げられそうですね。なにせ桐条のトップですから」

『だろうな。お父様が賛成と反対のどちらかを表明すれば、それはもはや決定事項だ。賛成なら周囲の者は口を噤み、少なくとも大きな顔はできない。だが反対であれば間違いなく反対する者は勢いづき、挽回はほぼ不可能だ。

 中立のままで居ていただけるのがありがたい。まだ私の努力で手が出せるからな』

 

 本当に面倒な家だこと、俺なら絶対嫌だそんな生活。

 

「……お話は分かりました、伯父と父に連絡を取ります。おそらくすぐ返事は来ますから、連絡が来たらまたメールします」

『ありがとう。だが急がなくていい』

「分かりました。それでは失礼します」

 

 話が終わった事を確認すると、先輩の方から電話が切られた。

 

 ……今回の事で父さんたちの顧客が増えるかもしれない。

 受ける受けないは会社の判断、俺が口を出すことでも出せることでもない。

 あっちはこの話を聞いたらまず断らないと思うけど……!

 あぶねー、今ろくでもないフラグ立てそうになった……

 

 不穏な事態にならないように願う言葉を慌てて飲み込む。

 するとここで部室から天田が出てきた。

 

「先輩、なにしてるんですか? 電話終わってるのに。ご飯炊けましたし、オムレツ冷めちゃってますよ」

「おっ、そうだった。今行く!」

 

 俺は気持ちを切り替えて、食事に向かうことにした。




影虎の格闘技経験が明らかになった!
影虎は天田にカポエイラを教えてみた!
桐条はバイクの購入を検討している……どうやら家は窮屈なようだ。






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40話 予定が一気に

 夜八時

 

 ~自室~

 

 数学の宿題をしていると電話がかかってきた。

 

「はいもしもし、父さん?」

『おう影虎、義兄さんから聞いたぞ。あの桐条グループのお嬢様から仕事とってきたそうじゃねぇか』

「たまたまね。で、どうなった?」

『もう引き受ける方向で進めてるよ。でな、要望の細部を詰めてぇから今度そっち行くわ』

「はっ!?」

『だからそっち行くって言ってんだよ。俺とジョナサンと雪美で。電話じゃまずいんだろ?』

「そうだけど仕事は?」

『これも仕事だっつの。引継ぎも一区切りついたところだったし、雪美もお前の様子を見てぇって言ってんだ。義兄さんも後押ししてる。桐条のお嬢様をないがしろにして得はねぇからな。だから影虎はお嬢さんに面会できるか聞いといてくれ。スケジュールはそっちに合わせる』

 

 そこまで桐条への対応が重要と判断されたのか。

 

「分かった、そう伝えるよ。こっちに来てくれれば直接合えなくても俺の携帯なら連絡は取れるし」

『頼んだぞ。……しかし、あれだな。まさかお前が桐条のお嬢様と親しくなるなんてなぁ』

「親しいっつーか、部活のことなんかで世話になってかかわる事が多かっただけだよ」

『違う違う、そういうこと言ってんじゃねぇよ。お前、なんでか昔から桐条グループが嫌いだったろ? 銀行口座も買う物も、極力桐条関係の物を避けてたしな』

「言われてみれば、そんなこともあったね……でも父さん、その話は桐条先輩には」

『馬鹿野郎、わざわざ取引相手の気分を害しそうな話なんかするわけねぇだろ。念を押されなくても話さねぇよ』

「そりゃそうか」

『それに桐条よりも学校だ。そっちで楽しくやれてっか?』

「そこそこね、最近部活に後輩も入ったし」

『そうか。ならいいじゃねぇか。頑張れよ』

「分かってる。先輩から返事が来たらまた連絡するよ」

 

 何度か言葉を交わして電話が切れた。

 俺はすぐ桐条先輩へメールを送る。

 しかし送った直後にまた着信。

 また先輩かと思って画面を見ると、表示されているのは知らない番号だ。

 

 誰だろう……?

 

『夜分遅く失礼します。そちらは葉隠さんの携帯でよろしいでしょうか?』

 

 聞こえてきたのはBe Blue Vのオーナーの声だった

 

「はい、こちら葉隠です。オーナーさんですか?」

『ええ、こんな時間にごめんなさい』

「いえいえ、俺はいつも夜遅くまで起きてますから。オーナーから連絡という事は、アルバイトのお話ですか?」

『ええ、そうなの。急な話なのだけれど、できれば明後日と明々後日の午後に来てもらえないかしら?』

6日(火曜日)7日(水曜日)ですね。予定はありません。お世話になります」

『本当? 入る予定の子が一人、急に都合が悪くなって困っていたから助かるわ。では明後日から、お願いするわね』

「そのままお店に向かえばよかったですよね?」

『ええ、昨日話した通り必要な物は用意があるし、細かい仕事内容は当日教えるわ』

「承知しました」

 

 ここでアルバイトの話は済んだが、電話が切れる前にふと先日のストレガの話を思いだした。

 

「オーナー」

『何かしら?』

「つかぬ事を伺いますが、“自分で理解できていない自分”を理解する方法はご存知ですか?」

『あら、そちらの話? フフフ……熱心ね。あるわよ』

「! どんな方法が?」

『そうね……まず人には顕在意識と潜在意識というものがあるわ。顕在意識は人が普段自覚できている意識の事。潜在意識は反対に自覚できていない意識の事、これは無意識とも呼ばれていて、貴方が知りたいのもこれよ。

 潜在意識は無意識の領域、だけれどそれは顕在意識よりも多くの情報が集まっているの。例えば何かが飛んできたときに、貴方はその時に飛んできたものが何か、速さは、どう避けたらいいかと考えてから避けるのかしら?』

「特に考えずに避けますね、考える間に当たりそうです」

『そう。それらの情報を一瞬で処理して、行動に移すことができる無意識。私たちのように魔術を習得しようとする人は、大抵この潜在意識やその先にある超意識を求め、自らの意識をより高次な物にするため研鑽を積むの。そのための方法として代表的な物は……瞑想ね』

「瞑想」

『瞑想は静かに心を落ち着けて、呼吸を楽にして行うけれど、ここで注意が一つ。瞑想は心を“無”にするとよく言われるけど、それはダメよ。“無”とは何も無いこと、自分が自分であるための支えまで無くなってしまう……トランス状態でコントロールを失えば心身虚脱、魔法であれば暴走の原因になるわ。

 だから瞑想を行うならば、まず自分の行動ややるべき事を振り返って心の内を見直したり、何かの目的について集中する。あるいは何かの象徴を用意するといいわ。そうして自分の心の内を探り、気づいていない自分自身や、やるべき事を見つけだしていくの。

 それから、瞑想をするなら先日あげたアイスクリスタルを持っておきなさい。あれは瞑想の助けになるから』

「……分かりました、試してみます」

『気をつけてね。良い結果に繋がる事を祈るわ』

「ありがとうございました、明後日からもよろしくお願いします」

 

 それを最後に、オーナーとの電話が終わった。

 

 早速やってみよう。瞑想のために用意するのは象徴とアイスクリスタル。

 アイスクリスタルは貰ったのがあるけど、象徴……やっぱドッペルゲンガーかな?

 

 アイスクリスタルを手に持って、ベッドに腰掛け、眼鏡型のドッペルゲンガーをかける。

 そしてまずは目的に集中、か……生き延びたい? いや、まずは目先の事から。

 

 自分にできることが知りたい。とりあえずこれだけを考えてみる。

 

 …… ………… ………………

 

 …………

 

 ………………

 

 三十分後

 

 何もなかった。

 何かが流れ込んでくることも無ければ、暴走した時のような声も聞こえない。

 これではダメなのかと思えてくるが、まだたったの三十分。諦めるには早いと自分に喝を入れ、今度は今日の一日を心の中で見直してみる。

 

 …… ………… ………………

 

 …………

 

 ………………

 

 さらに三十分後

 

 順平たちが先に夕食を食べ終わってたから、今日は珍しく一人で食べた。

 一人で食べるのは久しぶりな気がする。

 こっちに来てからは基本、友近や順平と誰かと一緒だったからだ。

 ここの食堂で一人。新鮮だったけど、若干わびしくてさっさと食べて部屋に戻った。

 それで数学の宿題を始めて、因数分解なんかを解いていた。

 中学の復習みたいなものだったし、一度死ぬ前に習ったことのある内容だから楽勝で解いていたら途中で電話が……

 それから……

 

 宿題が途中だ。片付けないといけない。

 

 瞑想の結果、ここに行き着いた。

 

「確かにやるべき事と言えるけれども……」

 

 望んだ結果とは違ったことに落胆はあるが、体はすんなり机の前へ向かう。

 そしてペンを手に取り開いたままの問題集へと目を向けて、俺は言葉を失った。

 

 “答えが見える”

 

 問題集の数式を見ると、その解答が視界に表示された。

 式を見れば正しい答えであることが分かる。

 別の問題に目を向けるとまた別の式が現れ、それもまた正しい解答だった。

 

「これって……」

 

 アナライズ(メモ帳)でシャドウの情報を閲覧するときと同じ感覚。

 間違いなくドッペルゲンガーの力だと分かる。

 

「……もしかして」

 

 1+1=

 

 ふと考えた途端、小学一年生で習うような非常に簡単な数式が表示された。

 思いつきを試そうと、問題集の余白に書こうとした数式だ。

 しかし難易度はどうでもいい。問題は次の瞬間に起こる。

 

 1+1=2

 

 視界の端に映る数式に解答が表示された。

 

「マジか」

 

 俺は一度攻撃して情報を記録する自分のアナライズをメモ帳と呼んでいた。

 だけど、俺のアナライズには本当にメモ帳みたいな機能があったらしい。

 しかも計算機能付き。

 

 ……とりあえず宿題片付けるか。

 

 驚きつつも表示される答えが間違っていない事を確かめながら書き写していくと、数式が頭にすんなり入っていくような感覚を覚えて十分程度で残りの宿題終わった。

 

 そこからは実験の始まり。

 まずPCをネットに繋いで小中高の数学の問題をピックアップ。

 それぞれ問題が解けるかをチェック……問題なく解けた。

 続けて公開されている大学の過去問で試すと、これも正解。

 調子に乗って有名な数学の難問、フェルマーの最終定理に挑戦して初めて失敗。

 なぜかと考えたら自然に答えに気づく。

 

 俺が(・・)解けるかどうかだ。

 

 改めて見れば小中高の問題や大学の過去問も、昔大学入試のために勉強した内容を使えば解ける問題だ。ドッペルゲンガーがなくても解ける。

 対してフェルマーの最終定理は名前と難問だという事は知っていても解き方なんて知らない。

 実際にやろうとしても解けない。

 試しに他の数学の難問を探して見てみると、やっぱり解答は表示されなかった。

 

「これって、瞑想の成果か……?」

 

 たまたま条件が揃っただけの偶然? でも大学の受験勉強とかうろ覚えになりかけていたけど、一度は勉強した内容だし……まさか潜在意識から引っ張り出してきたとか?

 

 明確な返事は無かったが、とりあえずそういう事にしておこう。

 元からあった機能に気づかなかっただけだとしても、今気づいたのは事実。

 効果があったと考えればモチベーションが上がるってもんだ。

 

 さて、そうと決まればもう一度瞑想を……

 

 と思ったらまた電話……じゃなかったメールだ。桐条先輩から。

 なになに? …………なるほど。

 

 挨拶やら礼は程々にすっ飛ばして重要なところを読むと、今週なら火曜・木曜、来週なら月曜と都合のつけられる日が書いてある。

 

 ならこれを父さんに伝えて、と……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 やっと終わった……

 

 あれから父さんも桐条先輩も携帯の前で連絡待ちをしていたのかと言うくらい速い返事が来ていた。それを中継し続けると時間はどんどん過ぎていき、父さんと先輩の面会は今度の木曜にと話が纏まるまで止まらなかった。

 

 親父が来るのも木曜日だから5月8日か。

 バイトもあるし携帯とドッペルゲンガーにメモっておこう。

 

 5月6日(火)

 アルバイト初日

 

 5月7日(水)

 アルバイト二日目

 

 5月8日(木)

 両親とジョナサンが先輩と面会……5月8日?

 

 何かが引っかかる。何だろう……?

 

 それから俺は、何かを忘れている気がしてモヤッとしたまま影時間を迎えることになった。




影虎は瞑想を始めた!
しかし効果は定かではない……
新しいスキルを覚えることはなかった!
しかしアナライズの機能が拡張された!


今回の成長
アナライズの機能拡張
+文章記録(メモ帳)
+計算機能(自力でも解ける問題のみ解ける)




40話ということで、一度成長した主人公の能力を整理した物を掲載したいと思います。


主人公設定
名前:葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)
性別:男
格闘技経験:空手、カポエイラ、剣道、サバット、棒術。
特技:パルクール。
備考:タロット占いとルーン魔術を勉強中。
行動方針:いのちをだいじに。一番大きな目的は生き残る事。
     そのためにできる事を日々模索中。複数の格闘技に興味を示していた。
     手段にそれほどこだわりは無いが、できるだけ身奇麗なまま生きていきたい。
     すでに原作キャラの行動を変えたことで、原作介入を覚悟。
     必要性や好機があれば、こっそり動こうとする。
     影時間の特別課外活動部メンバーとは接触を避ける。
     しかし日中はばれない程度に交流がある。
     ストレガとは敵対せず、距離を取って付き合いを続けている。

ペルソナ:ドッペルゲンガー
アルカナ:隠者
耐性:物理と火氷風雷に耐性があり、光と闇は無効。

ペルソナのスキル一覧
固有能力:
変形     ペルソナの形状を自在に変化させられる。
       防具や武器として戦闘への利用が可能。
       刃や棘を付けることで打撃攻撃を貫通・斬撃属性に変えられる。
       後述の周辺把握と共に使えば鍵開けもできる。

周辺把握   自分を中心に一定距離の地形と形状を知覚できる。
       動きの有無で対象が生物か非生物かを判断できる。
       敵の動きを察知できるため戦闘にも応用できる。
       ドッペルゲンガーの召喚中は常時発動している。
       ただし他の事に集中していると情報を受け取れなくなる場合がある。
       周りの声が聞こえるくらいの余裕を持つことが重要。

弱アナライズ 敵を攻撃すると、その属性の攻撃に耐性や弱点を持っているかが分かる。
(メモ帳)  たしかめた結果を記録しておき、情報を集めていく。
       文章記録(メモ)機能と計算機能が追加された。
       
保護色    体を覆ったドッペルゲンガーを変色させて背景に溶け込む。
       歩行程度の速度なら移動可能。
       速度により、周りの景色とズレが生じてくる。

隠蔽     音や気配などを消し、ペルソナの探知からも見つけられなくする。
       単体で使うと姿は見えるが、保護色と同時に使う事でカバーできる。

擬態     変形と保護色の合わせ技で、姿を対象に似せる事ができる。
       ただし体のサイズは変えられない。

暗視     その名の通り。暗くてもよく見える。パッシブスキル。

望遠     これまた名前通り。注視することで普通は見えない遠くまで見える。
       アクティブスキル。

物理攻撃スキル(オリジナル):
爪攻撃  変形で作った爪で攻撃する。敵に食い込み吸血と吸魔の効率が上がる。 
槍貫手  ドッペルゲンガーの変形を応用して槍のように刃をつけて伸ばした貫手。
     射程距離は五メートル。
アンカー 敵に食い込ませたまま爪を変形させ、糸のように伸ばす技。
     伸ばした部分で敵の動きを絡め取れるが、細ければ細いだけ強度も落ちる。

攻撃魔法スキル:
アギ(単体攻撃・火)、ジオ(単体攻撃・雷)、ガル(単体攻撃・風)、ブフ(単体攻撃・氷)

回復魔法スキル:
ディア(単体小回復)、ポズムディ(単体解毒)

補助魔法スキル:
対象が単体のバフ(~カジャ)全種。
対象が単体のデバフ(~ンダ)全種。

バッドステータス付与スキル:
対象が単体のバステ全種。
淀んだ吐息(バステ付着率二倍)
吸血(体力吸収)
吸魔(魔力吸収)

特殊魔法スキル:
トラフーリ ゲームでは敵から必ず逃げられる逃走用スキル
      本作では瞬間移動による離脱スキル。一日一回の使用制限つき。

その他:
食いしばり 心が折れていなければ一度だけダメージを受けてもギリギリ行動可能な体力を残す。
      もはや根性論に思えるスキル。


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41話 向き不向き

 影時間

 

 ~タルタロス・2F~

 

 結局5月8日に何があるのか分からないままタルタロスに来てしまった。

 気分を切り替えて探索に入ると、さっそく臆病のマーヤを発見。

 

 今日は練習のために足技とバッドステータス系魔法以外を極力使わないと決めたが、どうなるか……というか、思い返せば最近はこう純粋な格闘技で戦ってなかったな。ドッペルゲンガーが暴走した日の戦い方を真似て、ペルソナの力をより有効に使う戦い方を覚えてからは実験と検証を繰り返して戦ってきたし。

 

 ……それはそれでいいけれど、その反面格闘技は体で覚えた感覚、つまり慣れで戦っていた気がする。敵は倒せていたけれど、どこかに違和感があったのかもしれない。エントランスで軽く動いてみた限りでは、カポエイラは元々アクロバティックで動きも激しく、防御は受けよりも回避が中心。空手よりもドッペルゲンガーの戦い方に近いところがあるように思えた。

 

 考えながら、敵に気づかれないうちに走って接近。隠蔽を使って音も無く背後から忍び寄り、がら空きの背中にシャッセ(サバットの直線的な蹴り)を叩き込む。

 

「ギヒッ!?」

 

 不意を打たれてシャドウがこちらを振り向くが、それに合わせてアウー(カポエイラの側転)で背後を取り続け、着地の足を軸に勢いを殺さず。その場で体を素早くひねり、遠心力を加えたアルマーダ(内から外への回し蹴り)を加え、さらに逆の足で振り向かれる前にサバットのつま先蹴りを入れる。

 

「ギィィ……!」

 

 刃に変えたつま先が容赦なくシャドウの体を刺し貫き、連続攻撃で弱りながらも強引に振り向いたシャドウの眼前で手を叩く。

 

「キッ!?」

 

 ネコダマシに驚いたシャドウが動揺した隙に蹴りをもう一発。苦痛で反射的に振り回されたシャドウの腕が斜めになぎ払われるが、俺は直前で前に大きく踏み込んだ。後ろに手が付くほど上体を倒しながら後ろ回し蹴りを繰り出せば、シャドウの腕が頭上を通り抜け、吸い込まれるように俺の蹴りだけが相手に当たる。

 

「グキュゥ……」

 

 仮面に蹴りをクリーンヒットさせられたシャドウは動きを止め、か細い声を残してタルタロスの闇に消えていく。

 

「いけるな」

 

 といってもまだ二階で一匹倒しただけだが、足技とバステだけでも戦える。

 最後のメイアルーアコンパッソ(コンパスのような回し蹴り)もうまく決まった。

 それどころか、戦った感覚がやはり普段と違う。何と言うか、しっくりくる。

 

 爺さんも空手の真髄は型にある。空手に先手なし。とよく言っていたしな……

 とにかく今日はこのまま戦い続けて様子を見よう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~タルタロス・8F~

 

「せぁっ!」

「ギャッ!?」

「ヒッ!?」

「……ふぅ」

 

 敵は法衣を着た僧侶が二人、杖で縫いつけられたようなトランスツインズ。

 その足を払い転ばせた後に刃の付いた蹴りを突き刺し、吸血と吸魔。

 消えて行くのを見届けて一息入れる。

 

 調子良く登ってきたらもう8Fか。ここまで戦ってみたが、今日はいつもより自然に動けた感じだ。

 

 カポエイラの回転や側転を加えた軽快な動きがかみ合って、攻撃、回避、移動がよりスムーズになる。また基本動作であるジンガはリズミカルで、攻撃の合間にバステを使うタイミングが計りやすい。特にガードに出した腕を入れ替える時にはネコダマシがスムーズに入れられる。

 

 考えてみれば空手の試合で走り回ったり飛び跳ねる事はあまりないよな。そういう身軽さを活かした戦い方をするならば、向いていたのはカポエイラなのかもしれない。

 

「おっ!? あ~……こんな所に落とし穴が」

 

 飲み物を飲もうと取り出して開けたら、中身が思い切り噴出した。

 どうして俺は今日もってくる飲み物に四谷サイダー(炭酸飲料)を選んだのだろうか?

 ゲームでも飲み物はアイテムとして使えたが、あっちでもこういう事が起こったのかな……いや、それ以前にどうやって持ち込んだのかが分からない。

 

 俺のプレイだと最終決戦じゃ持ち込むアイテム量が凄い事になっていた。拾ったり買ったりした物を全部持っていたからだけど、画面上では武器以外丸腰にしか見えないんだよな。俺もドッペルゲンガーの中に動きの邪魔にならないよう埋め込んで固定しているから、はためからは丸腰に見えるけど。

 

「ん?」

 

 周辺把握に一瞬だけ反応があり、すぐに消えた。

 感知範囲に引っかかっただけだろうけど、なにか気になる。

 

 俺は中身の減ったサイダーを適当に飲み下し、曲がり角の先を覗き込んだ。

 そして望遠と暗視が捉えたものは

 

「カブトムシ?」

 

 違う……たしかあれは死甲蟲、テベルに生息する強敵シャドウだ。

 死甲蟲は巨体を支える足を動かしてT字路の先に消えていくが、強敵シャドウを見るのは初めてだ。

 

 一度戦ってみよう。それで今日は最後にしよう。

 

 こっそりと死甲蟲の後を追うと、やはり重そうな体で廊下をのっそりと歩いている。

 弱点は魔法で……雷だったか?

 俺は近づきながらジオを放つ。

 

「! ミスった!」

 

 雷光が瞬いて死甲蟲に当たった瞬間、自分の記憶違いを理解する。

 アナライズの結果は、雷が弱点ではなく耐性(・・)

 つまり効果はほとんどなく、こちらの存在を教えただけだった。

 

「っ!」

 

 死甲蟲が羽を広げ宙へ舞い上がる。

 攻撃ではないが、羽ばたきで生まれた風に体を押された。

 それを見越すように死甲蟲が翻り、俺の頭上を取るとピタリと羽ばたきを止めた。

 

「!」

 

 前方に跳び、地面についたてで跳ねてさらに距離を取る。

 少しでも遅れたら踏み潰される所だった……

 

「っ! また……」

 

 はばたきによる強風。

 死甲蟲が今度は軽く体を浮かせ、正面から突進してくる。

 横……下!

 

 死甲蟲は俺が横に避ける動きに合わせて軌道を変えた。

 風を切る音が近づく中、身を地面に倒れこむくらい低く沈め突進を回避。

 死甲蟲が通り抜けると、俺に抉られた廊下の壁の破片が降り注ぐ。

 破片による痛みはないが、あの突進の威力を物語っている。

 おまけにあの風が邪魔だ。下手に動くと体制が崩されてしまう。

 逃げ遅れて直撃を食らうのは勘弁だ。

 

 ……弱点が魔法で闇と光じゃないのは覚えている。ならあと三種類。早いところ弱点を見つけて、体力を削りきるしかないか……

 

「フゥー……」

 

 呼吸を整え、スキルで攻撃、防御、回避を全て上げ、空手の三戦立ちで体を安定させる。

 同時に死甲蟲の羽音と風を感じ、また突進が来た。二度も下を抜かせない気だろう。今度は廊下の端から加速をつけて、地面すれすれを飛んでいる。

 

 下は無理。横は追われる。であれば強引に道をこじ開けるしかない。

 

「フゥー……」

 

 落ち着いて敵の動きを把握し、廊下の中心で腕が届く距離まで引きつける。

 

 ……1、……2、……今!!!

 

 胸元に迫る死甲蟲の角。

 その先が当たる直前に、中段受けで右腕を横から当てた。

 同時に左手は右肘に添え、受け手を支えて力をかけ、両腕の力で攻撃を右へとそらして角先を避ける。

 角を避ければ今度は胴体が迫るが、すでに死甲蟲の体制は右へと傾いていた。

 左へ避けると軌道の修正が間に合わずに俺の横を通り抜け、無防備な背中を晒す。

 

「アギ!」

 

 その背中を爆炎で焼く。

 だが火は弱点ではなかった。

 

 他に手段が無いのだろう。

 愚直に突進してくる死甲蟲を今度は左に受け流して背中を取る。

 

「ブフ!」

 

 これも弱点ではない。

 しかし耐性も無く、ダメージは確実に与えられている。

 もう一度だ。

 

 衝撃による腕の痺れを堪えて構え、今一度受け流す。

 そして最後のガルで勝負は決まった。

 

「!?!!?」

 

 魔法の風が襲い掛かると、それまで何事も無く飛んでいた死甲蟲が風に煽られ角から墜落し、腹を上に向けた状態でもがいている。ダウンだ。

 

「シャア!!!」

 

 動けないうちに飛びかかり、死甲蟲が起き上がろうとする度にガルを使ってダウンさせる。

 他に敵はいない。ここからは残された体力と魔力の全てを吸い尽くすだけだ。

 

 そして一方的な攻撃を受け続け、やがて力を失った死甲蟲は再び立ち上がることなく、煙のように姿を消した。

 

「流石強敵シャドウの名の通り、普通のシャドウより強かった……」

 

 でも代わりに何か掴めた気がする。

 今日のことを忘れないよう今後は、攻めはカポエイラ、守りは空手と状況に合わせて使い分けていこう。

 

「……なんだこれ」

 

 戦いを振り返っていたら、消えた死甲蟲の居たあたりになにか落ちている。拾い上げてみると反り返ったサーフボードのような板で、大きさは俺の首辺りまで。その下には全体が黒く、細くて白い線の入った丸い石が落ちていた。

 

 板はあの死甲蟲の外殻か? ゲームでは持ってこいって依頼もあったけど、俺には残されても仕方ないのに…………いや、もしかしたら使えるかもしれない。

 

 頭の中に一つ使い道が思い浮かんだ。とりあえず持って帰ろう。

 

 それからこの石は宝石なのか? でもテベルで宝石を落とす敵なんて居なかったはず。ゲームとの差異か回復アイテムかな?

 

「今度オーナーに見てもらうか」

 

 宝石だといいな。換金は上手くやらないと怪しまれそうだが、ストレガとの取引に使ってもいい。宝石じゃないなら地返しの玉であって欲しい。

 

 俺は早くも落ちていた石の皮算用をしながら外殻を抱え、探し出した転移装置とトラフーリで寮へ帰った。




影虎は自分に合った戦い方を模索している!
影虎は死甲蟲を倒した!
外殻と黒い石を手に入れた!



ちなみにスキルは全部、叫ばなくても念じるだけで使えると考えています。
原作キャラはペルソナ! とか、ペルソナの名前を叫んで魔法を使っているので。
きっと気合の問題でしょう。
影虎、特に最初のほうは知らずに不意打ちの時にも叫んでましたが(笑)
今もネコダマシで手を叩いたりしますが、それはきっと気分的なものですね。
相手をヤケクソにするバリゾーゴンを使う時には罵声を浴びせかけるのか……やったら無駄に疲れそうです。


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42話 休日のすごし方、その二

 5月5日 こどもの日 朝

 

 ~男子寮・食堂~

 

「うーっす影虎~……飯食い終わってんのか」

「おはよう順平、たった今な。寝不足? 目の下にクマができてるけど」

「昨日隣の部屋で集会やっててうるさくてさー。文句も言いに行くのもコエーし、終わるの待ってたら夜中の四時まで話し合ってんの……せっかくの祝日だけど、食ったらもう少し寝るかも……」

「四時まで? そりゃ災難だな。怖いって不良?」

「いーや、そんなんじゃねーよ。ほら、あっち見てみ?」

 

 言われた方向を見てみると、食堂の一角に陣取って話し合いをしている男子が二十人くらい居た。その中には不良っぽい生徒もいるにはいるが、大半が普通の生徒に見える。

 

「何あの集団」

「桐条先輩のファンクラブの一部」

「桐条先輩の?」

「なんか桐条先輩の誕生日が近いんだってさ。それでプレゼントを贈りたいけど、桐条先輩だから下手なものは贈れないからブランド品買うために金を出しあってるんだとよ」

「へー、そこまでするんだ……って、誕生日? いつ?」

「5月8日、今度の木曜日だってよ。隣の集会で話してた」

「5月8日……!!」

 

 昨日の気がかりはそれか!

 どうしよう。俺も昼は世話になってるし、木曜は父さんを寮まで案内することになってる。どうせ会うならなにか持って行った方がいいよな……

 

「影虎? どうした?」

「俺も世話になったし、何か贈ろうかと」

「ふーん……あの集団に混ざる?」

「いや、俺は自分で探すよ」

 

 桐条先輩はブランド品なんて見飽きているだろう。それにそういう物は好みもあるし、桐条先輩へのプレゼントと言ったら日本人形か遮光器土偶と決まっている。

 

 問題は今から手に入るかだ。

 

「……俺ちょっと出かける」

「いってらー」

 

 寝ぼけ眼で気の無い返事をする順平と別れ、部屋に戻ってネットで検索をかけてみる。

 

 この近くで遮光器土偶を取り扱っている店は該当なし。

 ポロニアンモールの骨董屋もまだ開いてない。

 

 日本人形ならどうかと思ったが、こっちは高級店しかない。

 値段はピンキリ、でもその店のは最低十万円。流石に手を出すのを躊躇ってしまう。

 

 ……足で調べるしかないか。

 俺は散歩がてら心当たりを当たってみることにした。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 心当たりその一

 

 ~辰巳博物館~

 

 たしかお土産コーナーにレプリカがあったような気がして来てみたが……無い。

 目を皿のようにして探しても、やっぱり無い。あるのは埴輪ばっかりだ。

 

「おや、葉隠君じゃないか」

「小野館長」

 

 お土産コーナーを見ていたら、後ろに相変わらず目立つ服装と角髪の小野館長が立っていた。

 

「今日はどうしたのかね? やけに真剣に見ていたようだが」

「実は……」

 

 俺が事情を説明すると、小野館長は急に元気になる。

 

「ほう! 誕生日のプレゼントに遮光器土偶を? 縄文時代に作られたあの土偶を選ぶとは、なかなか分かっているな!」

 

 何がだろうか?

 

「流石に本物は無理ですから、レプリカは無いかと」

「本物は保護のための法律があるからな。しかし残念ながら今ここに遮光器土偶のレプリカはない……だが! よく分かっている君のためだ。私もツテを使って協力しようじゃないか」

「! 本当ですか?」

「レプリカなら手に入れるのは簡単だよ。ただし、期日に間に合うかは約束できないね……ところで縄文時代の事なのだが……」

 

 プレゼントの用意に協力してくれるという言葉に釣られた俺はつい話を聞き始めてしまい、解放される三時間もの長話を聞き続けるはめになった……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 心当たりその二

 

 ~アクセサリーショップ Be Blue V~

 

「あら、葉隠君じゃない」

「こんにちは、オーナー。今日はお店に出てらっしゃったんですね」

「ええ、昨日シフトの子が来られなくなったって話したでしょう? その分、私がお店に出ているのよ。でも私が表に出ると人が来ないのよねぇ……せっかくおめかしまでしたのに」

 

 そう言うオーナーは、着ている薄い生地で作られた漆黒のローブで顔が見えにくい。

 見えるのはローブの中から伸びる、触れたら折れそうなくらい細い指先と着けている指輪。

 それから爪に塗られた鮮やかかつ毒々しい紅のマニキュアが目を引く。

 非常に怪しげな魔女スタイル。

 

 まず間違いなくそのおめかしが原因です!

 

「それで今日はどうしたのかしら?」

「実は……」

 

 ここでも事情を説明すると、オーナーは考えこんでしまう。

 

「プレゼント用の日本人形を探してる、ねぇ……」

「はい、オーナーのところには古いものが沢山ありましたから。もしかしたらと思って」

「あるけれど、おすすめできないわ。人形は人の念がこもりやすいのよ……今あるのは夜に髪が伸びて持ち主の体調を損なわせる人形だけなの」

「……オーナーのコレクションだけでしたか」

「そうなのよ。贈る相手が対処できるならまだ譲ることも考えたけど、一般人なんでしょう? やめたほうが無難ね」

 

 俺も呪いの人形は贈りたくない。

 幸い期日までは多少時間がある。ギリギリまで探すか……

 でもダメだったら新しいプレゼントを探す暇なんて無いだろうし……

 

 それから俺は店内を見て回り、勧められたアクセサリーから良さそうな物を一つ選んで購入することにした。

 期日ギリギリまで探して、二つとも手に入らなければそれを渡そう。

 

「3200円ね」

「5000円でおつりお願いします」

「はい、おつりと……ちょっと待っていて」

 

 オーナーが今日も奥へ走り、持って来たのは一冊の分厚いファイル。

 表面には“パワーストーン一覧”と書かれたシールが貼られている。

 

「これは?」

「参考書よ。新人のアルバイトさんには必ず渡しているの。ここで働いているとお客様から石についての質問を受けることもあるから」

 

 なるほど、勉強用か。

 アルバイトでも、仕事をするのであれば覚えなければならないことはあるだろう。

 

「細かいことは仕事をしながら覚えていけばいいけど、暇があったら目を通しておいて。フフッ……明日までに全部覚えてこい、なんて無茶は言わないから」

「承知しました。それじゃまた明日」

 

 俺は買ったアクセサリーとマニュアルを受け取って店を後にした。

 

 

 

 ……腹が空いてきたな。昼も過ぎてるし、どこかで何か食べようか……

 

「あっ、葉隠君だ」

 

 突然名前を呼ばれた。それも上の方から。

 誰かと思えば、西脇さんが路地の横にある階段を登っていた。

 そのまわりには宮本、順平、友近、岳羽さんと岩崎もいる。

 

「何やってんの?」

「部屋で寝てたら遊び収めじゃー! って友近に襲撃されてさ。男三人ゲーセン行ったら、女子三人が喫茶店に居てバッタリ。そんでせっかくだし一緒に遊ぼうぜ! ってことで、カラオケにきましたー」

「そういやそこにカラオケがあったっけ。たしかマンドラゴラって」

「そうそう! で、影虎は?」

「ちょっと買い物、って、順平は知ってるだろ?」

「へへっ、そーでした。せっかくだし影虎も一緒にカラオケいかねー? 女子もいいよな?」

 

 順平が女性陣に聞くと、三人ともいいと答えている。

 しかしカラオケか……

 

「昼食べてないんだけど、その店何か食べられるか?」

「それなら食べ放題があるぞ!」

「マンドラゴラが二時間歌い放題、食べ放題、飲み放題のサービス始めたんだって」

「俺らも昼はここで食うことにしてたし、影虎も来いよ」

「……誘ってもらったことだし、一緒させてもらおうか」

 

 宮本、岳羽、友近の誘いもあって、俺はカラオケに行くことにした。

 こんな事でもないとカラオケに行かないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 ~カラオケ・マンドラゴラ店内~

 

 七人入る部屋が開いていないからと、パーティー用のちょっと広い部屋へと通された。

 

「っしゃー歌うぜっ!」

「歌い収めだぜ!」

 

 調子の良い順平友近がさっさと荷物を置いてテキパキと機械やマイクのセッティングをしてい。のをよそに、俺と宮本は食事のメニュー、女性陣はカラオケの曲本をまわし読む。

 

 それにしても

 

「なぁ宮本、さっきから友近が言ってる歌い収めって何?」

「再来週は中間試験だろ? 今日ガッツリ遊んで、後は試験終わるまで遊ばないんだとさ」

「試験が近づくたびにそれ言ってるよね、友近君」

「でもちょっと息抜きって遊んでるとこ目撃されてるよね。そんでもっとギリギリになると岩崎さんに泣きつくんだよね」

「で、でも、集中した後の爆発力は凄いんだよ?」

 

 なんというダメパターン。そして岩崎さんのフォローが素早い。

 

「よーっし! 準備完了! ってわけで影虎、トップバッターな!」

「俺が!?」

「なんか食うことに集中しそうだし、まずなんか歌っとけって。何歌うか興味あるし」

「そういわれても……」

「はいこれ、曲の本」

「ありがとう、岳羽さん」

 

 隣に座る岳羽さんから本を受け取るが、どうも距離感が掴めずに会話がとぎれてしまう。

 

「……葉隠君って普段カラオケとか行くの?」

「最後に行ったのが中学卒業のパーティーで、その前は年単位で間が開いてる。でも歌うのは嫌いじゃないから」

 

 むしろ好きだった。一度死ぬ前は一人カラオケを趣味にしていたくらいだ。

 

 ただこの世界のカラオケには、俺が死ぬ前に好きだった曲が入っていない。

 というか音楽に限らず創作物全般が似たものに代わっている。

 例えば日曜日の朝には仮面ライダーの代わりにフェザーマンが流れるといった具合に。

 

 違う物でも面白い物は面白いし、音楽も名曲はある。しかし、慣れ親しんだ曲がない。

 原作への備えもあったし、楽しいけれどその点がどうにも寂しくて足が遠のいていた。

 

「決めた」

「何番? 私、入れるよ」

「903、844、34」

「903、844……オッケー」

 

 岳羽さんが機械に番号を入力すると、部屋に軽快なイントロが流れる。

 

「おっ、これあれだろ? 人気ドラマの主題歌」

「去年の年末の歌合戦にも流れたよね。これなら私も知ってる」

「さー、めったにカラオケに行かない影虎の実力はっ!?」

 

 流行にうとそうな宮本と岩崎さんに続き、順平がいつものノリで盛り上げようとしている。

 そして俺は歌い始めた。

 

「あれ? 結構上手くない?」

「あんま来ないとか言ってる割に歌い慣れてる感があるんだけど……てか声量あるね」

「葉隠君、私と同じで歌えない人だと思ってたのに……」

「なんつーか、素人参加の歌番組に出られそうな感じだな」

「最初に出たら盛り上がらせて、後になるともっと上手い人がどんどん出てきて影が薄くなるくらいの上手さだな」

「あー、分かる」

 

 慣れは引き継いだ経験があるし、肺活量や声量は昔より鍛えている今の方が間違いなく多い。ストレガと話すときのような作った声でなければそこそこ歌える。つーか男三人の褒め方微妙!

 

 俺は横からの声を忘れるために、歌う事に集中することにした。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ヒューヒュー西脇サーン!」

「ま、こんなもんかな」

 

 持ち歌の流行曲を歌い上げた西脇さんは珍しくすまし顔だ。

 

「で、次は誰?」

「誰も入れてないね。もう歌う人いない?」

「俺、食いすぎて苦しい……」

「俺もだ……」

「大丈夫?」

「心配しなくていいって岩崎さん。ミヤも友近も、食べ比べなんてするからそーなんの。限界くらい考えなよ」

「オレッチ的には二人と同じかそれ以上食べてケロッとしてる影虎に驚きだけどな。つーかお前そんな腹ペコキャラなの?」

「いや、そんなことは無いはずなんだけど……」

 

 久しぶりのカラオケはなかなか楽しく、注文した食事は期待していたよりも美味しかった。

 歌って少し減った腹に食べ放題はありがたい。

 

 しかし今日俺が食べたのはピザ(小)二枚、チャーハン一皿、ベーコンとほうれん草のサラダにフライドポテト二皿、デザートにフレンチトースト……平均よりは食べる方だと思っていたけど、こんなに食えたかな? 

 

「てか時間そろそろじゃない?」

「うえっ!? マジ!?」

 

 本当だ、もうあと三分しかない。

 

「連絡無かったのに、手違いかな? ……どうする? 延長する?」

 

 西脇さんがそう聞くと、ダウンした二人の事もあり、今日はもう店を出ることに決まった。

 

 しかし店を出たところで順平が爆弾を落としてくれた。

 

「そういや影虎、桐条先輩へのプレゼント買ったんだよな?」

 

 その一言で他の五人の目が俺に集まる。

 

「あれ、お前桐条先輩にプレゼントすんの? お前俺と同じで年上、あ、先輩も年上っちゃ年上か……」

「桐条先輩って美人だからねー」

 

 友近と西脇さんがほどほどに話に加わり、宮本と岩崎さんはあまり興味なさげだが……

 

「…………」

 

 見てしまった。

 岳羽さんが微妙に機嫌悪そうな目をしている。

 いや、他の五人は気づいた様子が無いし、俺がそう思いこんでいるだけなのか?

 

「ファンってわけじゃないけど、先輩には部活の事でお世話になってるからな。礼儀として一応ちょっとした物を」

「ふーん……何買ったの? Be Blue Vの袋持ってるって事はアクセ?」

「まだ目的の物は手に入ってないんだけど、とりあえずブレスレットを一つ買っておいた」

 

 岳羽さんに不機嫌なのか興味が無いのか分かりづらい淡白な声で聞かれ、俺は袋の中から買ったブレスレットを取り出して見せた。

 

「……けっこうセンスいいじゃん」

 

 オーナーの薦めがあったからな。

 

「その袋、他に何か入ってないか? そっちは?」

「宝石の本だよ。実は俺、明日からBe Blue Vでバイトすることになってるんだ。だからお客さんに何か聞かれた場合に応えられるようにするための、予習用」

「あれ? 葉隠君ってたしか博物館でアルバイトしてたよね?」

「あそこは二日間だけの短期バイトだったから」

 

 幸いそれた話に乗ることで、上手く話題を変えることに成功。

 少しドキリとする事もあったが、俺はおおむね平和な時間をすごせていた。



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43話 アナライズの真価(前編)

今回からアナライズがアップを始めます。
タグにチートをつけるか検討中。


 夜

 

 ~自室~

 

 やるべき事を全て終わらせた後、俺は今日も瞑想をしてからパワーストーン一覧の内容をドッペルゲンガーに記録・復習していた。

 

 オーナーはゆっくりでいいと言ってくれたが、これはあのお店で働かせていただく以上必要な知識。働き始めたらいつお客様に説明を求められるか分からないんだから、早めに応えられるようにしておくべきだ。

 

 しかし一日で大型のファイル一冊分を暗記するのは無理。というわけでドッペルゲンガーに内容を取り込んでいつでも見られる状態にしておく事にした。そうすれば空いた時間にどこでも勉強できると考えた……だけど、ファイルの半分ほどまで取り込んでおかしなことに気づく。

 

 ……妙にすんなり内容が頭に入ってくる。

 

 手元の本に載っているのは全部石の情報だ。名前も、産地も、色も、効果も、重複する説明が沢山ある。普通なら頭の中でこんがらがりそうな情報の山を、一度読んだだけ(・・・・・・・)で覚えてしまっている。

 

 世間には瞬間的に何でも記憶してしまう天才がいたり、記憶力を良くする方法があったりするらしいが、俺は天才じゃないし記憶法も勉強した事がない。ただ死ぬ前の記憶を持っているだけの凡人だ。この状況は明らかにおかしい。

 

 登録した情報を思い出そうとすると、即座に視界に表示される。そのせいで覚えた気になっているのかと思い、一度ドッペルゲンガーを消してみてもやっぱり覚えている。その場合思い出すのに少し時間がかかるが、ちょっと見ただけなら十分すぎるほどだ。

 

 なにせ情報の取り込みは取り込むページを見たほんの一瞬で完了する。俺はそこで取り込まれた文章にミスがないかを見比べただけなんだから。

 

「これはドッペルゲンガーに情報をメモしたからとしか考えられない……タカヤ曰く“ペルソナは心が形を成した存在で、俺は初めからドッペルゲンガーの全てを知っている”……だからか?」

 

 俺の心であるドッペルゲンガーに情報を取り込む、それは俺自身に情報を取り込むことと同義なのかもしれない。それが通常より効率的に内容を記憶する一因になっている……?

 

 ……理屈はともかく、これって凄くないか? 暗記科目とか超楽になるぞ。

 

 少し頭が疲れた感覚はあるが、普通に覚えるまで勉強する疲労と比べたら微々たる物。

 呼び出していないとちょっとばかり思い出しにくいけど、そんなの些細な問題だ。

 一から独力で覚えるより労力が減るなら、その分反復して思い出せるようにすればいい。

 例えるなら、外付け記憶装置だと思っていたものが、実は睡眠学習装置だった感じだ。

 寝てないしそんな都合のいい物が現実にあるかは知らないが。

 

 ズルイ? いやいや、これもある意味自分の力である。効率がいいだけで、学習する必要はある。試験本番に使うとカンニングしてる気分になりそうだが、なら試験で使わなければいいだろう。元々テストには困ってないし、両親もそんなにうるさくないんだから。今は問題視されない程度の点数が取れれば十分。余った時間は他にすべきことが山ほどある。

 

 そう考えた俺は、パワーストーン一覧の復習を再開した。

 これが終わったら英和辞典でも暗記を試してみよう。

 英語の授業の助けにもなるし、夏休みの旅行でも役立つ。

 

 ……そういえば、天田は今年の夏休みはどうするんだろう?

 原作では巌戸台分寮に入ったけど、それは来年だ。

 ……今度聞いてみるか。

 

 ちなみにこの作業で、昨日タルタロスで拾った石がオニキスである事が判明。

 オニキスは元々縞模様のあるアゲート(めのう)を指す言葉だったらしいが、現在では黒い色のアゲート(めのう)を指す。

 

 俺の持っているオニキスは白い縞模様のある天然物のようだが、ファイルを読み進めるとこの石、それほど高価ではないらしい。しかしテベルで宝石が出たのは朗報だ。この先進んでいけばお金の心配はしなくてよくなるかもしれない。

 

 ……一度Be Blue Vのオーナーに見てもらおうか。

 江戸川先生と何か怪しげな取引をしているようだし、あの人なら職業的にも適任だろう。

 

 俺は体調を気にしつつも、次々と情報を取り込んで夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月6日

 

 午後

 

 ~教室~

 

「ハーイ皆さん、ここまではOKですね? 消しますよ」

 

 英語の授業中、寺内先生が板書(ばんしょ)を消して一言。

 

「いまの所はザ・ウィークアフターネクスト(再来週)のテストにでますから、ちゃんと覚えておいてください」

「ゲーッ!」

「センセー! なんで消し終わってから言うんっすか!?」

「ミスター伊織、私はちゃんと、消す前にアスクしましたよ? ちゃんと授業を受けていればノープロブレムなはずですが……では誰かに教えてもらいましょうか……ミスター友近」

「はい!?」

「相手からのお誘いを断る英語の慣用句は?」

「え、っと…………影虎、たの」

「ストーップ! こっそりお友達へのSOSはいけません。ミスター友近もミスター伊織も、ちゃんと勉強してくださいね」

「「うっす……」」

 

 頭を垂れる二人を見た先生は、次に俺に目を向けた。

 

「それではSOSを受けたミスター葉隠、アンサーを答えられますか?」

 

 答えを答えられるか……まぁ、おかしくは、ないかな?

 “運命という名のフォーチュン”って迷言(めいげん)よりは。

 

「Can I take a rain check?」

「ザッツライト!」

 

 正しい答えを返せた。

 後ろのほうから葉隠君はちゃんと授業を受けてるんだね、なんて言葉が聞こえてくる。

 俺の評判か何かが上がった! かもしれない。

 

 というか、数学以外でも答えが表示されるのかの実験を兼ねてドッペルゲンガーで板書全てを記録しているから楽勝である。耳で聞いたこともメモ機能で文章に起こせば記録できたし。

 

「私がダーリンに始めてデートに誘われたとき、私には運悪くどうしても外せない用事があったのです。私はやむなくこの言葉を使いました……もう二度と誘ってもらえないのでは? と不安を胸に抱えながら……でもダーリンはとっても優しくて」

 

 何が琴線に触れたのか、寺内先生は授業を脱線。これはわざわざ記録する必要ないな。

 代わりに英語の教科書と辞書の内容を記録していく。

 

 ちなみにドッペルゲンガーは英語にも効果あり。

 英熟語と英単語(現在・過去・未来形などの変化も含む)と文法。二種類の記録をそろえて組み合わせることで可能にしているようだ。

 

 話が終わるまでと考えていたが、その話はチャイムがなるまで続いた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 放課後

 

 ~Be Blue V~

 

「葉隠君。貴方、何を持っているのかしら?」

 

 授業が終わり、俺は真っ直ぐにBe Blue Vにやってきた。

 アルバイト初日。最初が肝心だ! と意気込んで店に入ったところ、カウンターに立っていたオーナーに俺を見るなりこう言われ、出鼻を挫かれた。

 

 オーナーは今までに見たことの無い真剣な目つきで俺の鞄を凝視している。

 ドッペルゲンガーの眼鏡をかけているが、隠蔽の効果か気づいていない。

 それとも気づいているが眼鏡よりも鞄の中身の方が重要なのか?

 ペルソナを霊能力と認識されているならばれたほうが今後楽かと思ったが……とりあえず鞄の中身を出そう。

 

「これの事ですか?」

 

 取り出したのはタルタロスで拾ったオニキス。

 

「それよ! ちょっと見せてもらっても良いかしら……?」

「はい。価値が分からなくて。元々オーナーに見てもらうつもりで持ってきていたので」

 

 オニキスを差し出すと、オーナーは手にとってじっくりと眺め始めた。

 

「何か、凄いものなんですか? 昨日いただいた本でオニキスだとは分かったんですが」

「そうね、これは確かにオニキス……だけどなにか力を宿しているの。値段をつけるとしたら……私ならこれ一つで二万円は払ってもいいわ」

「二万!? ……ネットでは一粒二、三百円と見ましたが?」

「石としての価値はそれよりもう少し高いくらいだけど、この中に込められた力……長い間浄化されたか、それ相応の環境に置かれていたんだと思うわ。これでアクセサリーを作ったら、どれだけの物ができるのかしら、フフフ……」

 

 浄化とは人のマイナスの念を取り込んでしまい、力の弱まったパワーストーンを元通りに復活させる事で、その方法には水晶のクラスタと一緒に置いておく、セージを燃やした煙をくぐらせる、日光や月光に当てる、流水で洗うなどがある。

 

 浄化方法はそれぞれの石により適する方法と適さない方法があり、適さない方法を使うと石が変色したりするので注意が必要と貰ったファイルには書かれていた。

 

 オニキスに適した浄化方法は水晶、セージ、月光で……ニュクスって月なんだよな? そしてタルタロスはニュクスを導く目印だったはず。そんな所にいるシャドウが持ってた石だからだろうな。

 

 考えてみればゲームではオニキス一つをペルソナの能力を上げるカードと交換できたし、ただの石だと釣り合いがとれないか。

 

「葉隠君、これを何処で手に入れたの?」

「先週巌戸台のフリーマーケットで衝動買いしました」

「あら、そう……フフッ。これはお返しするわね。随分強い力があるようだから、アクセサリーにしなくても持っているだけで良いと思うわ。もしいらないのであれば私が買い取らせてほしいのだけど……」

 

 オニキスの名前の由来はギリシャ語の“爪”を意味する言葉“オニュクス”だそうで、効果は忍耐力を強めたり誘惑に打ち勝ったり、意思を強めて成功へ導く象徴だとファイルのページに書かれていた。

 

「申し訳ありませんが、これは持っておきたいので」

「あら残念。だったら……もし、またいつか同じようなものを手に入れたら、いつでも持ってきて頂戴な。私は出所なんて気にしないから、力の値段も加味して買い取るわ……フフッ、フフフフ……」

 

 真っ当な代物じゃない事は悟られてるな……

 まぁ、それでも気にした様子がないのは予想通りでよかった。

 と思ったら、店の奥から声が聞こえた。

 

「休憩終わりっす。オーナー、店番代わります」

「?」

 

 きっとアルバイトの人だろう、美形でヤンキー風の女性が出てきた。

 短めの金髪にロックテイストなTシャツとジーンズ、アクセサリーを合わせていて、声はちょっとハスキーボイス。よく見れば、初めて来た日に見た気がする。

 

「あら、丁度良かったわ。葉隠君、この子は棚倉(たなくら)弥生(やよい)ちゃん。うちで働いてくれているアルバイトの一人よ。弥生ちゃん、この子は葉隠君。昨日話したアルバイトの子よ」

「そいつが? へぇ、アタシは棚倉(たなくら)弥生(やよい)、よろしくな。ビシバシこき使ってやるから、覚悟しとけよ」

「葉隠影虎です。こちらこそ、よろしくお願いします」

「あらあら、さっそく舎弟にするの?」

「ちょっ、オーナーやめてくださいよ。アタシはもうヤンキーじゃないっすから。つかヤンキーだった頃も舎弟はいなかった……じゃなくて! いきなりそんな話してビビッられたらどうすんですか」

「あ、棚倉さんそれは大丈夫です。うちの父が元暴走族で、慣れてますから」

「え、マジ? よかった~。いきなりビビられたら指導がやりづらくなってしょうがないからな」

「ふふっ、良かったわね弥生ちゃん。それから葉隠君、貴方に仕事を教えるのは弥生ちゃんに任せることにしているから、仲良くね」

「はい、承知しました」

「てかオーナー、分かっててからかったっしょ……いっつもこうなんだから」

「だって、昔から反応が良くて面白いんだもの」

 

 そう言って悪びれもせずに笑うオーナーと、諦めたように、でも嫌味なく大げさに肩を落としてみせる棚倉さん。

 

「仲が良いんですね」

「あ? まぁな、アタシもここで働いて長いし」

「もう四年になるわねぇ……あの頃の弥生ちゃんはもっと突っ張っていて」

「あーもう! やめてくださいって! そうだ葉隠、さっさと準備してこい。仕事教えっから。なんたって明日はお前が頼りなんだからな」

「俺が頼り?」

 

 何の話だろう? そう思って聞いてみれば、かえって来た言葉は耳を疑う内容だった。

 

「聞いてないのか? 明日は葉隠しかまともに店番できる奴いねーんだよ」

「そうなんですか!?」

「ごめんなさい、伝え忘れてたわね……うちのお店、葉隠君を入れて四人しかアルバイトの子がいないのよ。そこから連絡した通り一人お休みで、もう一人は弥生ちゃんなんだけど……」

「アタシは明日大学でどうしても抜けられないんだ。ついでにもう一人は事情があって店番ができない。つーわけで、明日店に立てるのはオーナーと葉隠だけなのさ」

「昨日も話したけど、私がお店に立つとお客さんが減っちゃうから……よろしくね?」

「……最善を尽くします」

 

 ちょっと不安を覚えたが、仕事なのだからやるしかない。ところで

 

「もう一人の方はどんな方なんですか? 店番ができないと話していた方ですが」

香田(こうだ)花梨(かりん)ちゃん。女の子でね、髪が長くて可愛らしいお嬢様なの。姿が見えたら(・・・・・・)、最初はきっと驚くわよ」

「そんなに美人なんですか? 近いうちに会うとなると考えるとちょっと緊張しますね」

「いや、そういう意味じゃ……」

 

 軽く話に乗ってみると、棚倉さんが歯切れ悪く何かを言おうとする。

 しかし、その言葉はオーナーの怪しい笑い声に遮られた。

 

「ウフッ、ウフフフフ……」

「オーナー?」

「葉隠君、花梨ちゃんはずっと、ここにいる(・・・・・)わよ?」

「えっ?」

 

 オーナーはそういいながら、自分の横で手を動かして人の形に動かしている。

 あたかもそこに、見えない誰かが居ると教えるように……

 というか、棚倉さんのそういう意味じゃないって、誰かそこに居る事の肯定?

 ……からかわれているのでなければ、もう幽霊としか思えないんだが……

 

「あの、もしかして店番ができない事情って……」

「一般のお客様には見えないし、声も聞こえないんだもの」

「アタシやオーナーに見えても、客に見えないんじゃ店番はできねーだろ?」

 

 あー、なるほどー。というか棚倉さんもさりげなく見えてる方なんですね。分かりました。

 

 先輩の一人がまさかの幽霊という発言に軽く頭が痛んだ俺は

 

「今まで気づかず申し訳ありませんでした。葉隠影虎です、どうぞよろしくお願いします」

 

 いまだ人の姿の見えない虚空に向けて、大きく頭を下げていた。

 

「!?」

 

 すると、それに反応したように店の照明がついたり消えたり。

 風もないのに観葉植物や張り紙が揺れ、どこからかラップ音が鳴り始めた。

 

 何これ!? 完全な心霊現象!?

 

 そう思った次の瞬間、オーナーが笑う。

 

「あらあら、ウフフ。葉隠君が気に入ったのね。でも花梨ちゃん、お客様は居ないけど営業時間中だから、ね?」

 

 すると、突然起こった心霊現象がピタリと止まる。

 

「今の、気に入られたんですか……?」

「ええ、とっても嬉しそうよ。フフフ」

 

 紹介された先輩が幽霊だったときの対処法。

 そんなの俺が読んだどの社会人マナー本にも載ってなかった。

 しかし、とっさの行動が良い印象を与える事に成功したらしい。

 俺には全く分からないが……

 

 つーか、この先どうなるんだ?




影虎は情報を蓄えている!
影虎はバイトの先輩である棚倉弥生と出会った!
影虎はバイトの先輩である香田花梨と出会った!
しかし香田花梨は幽霊だった!
影虎に姿は見えていないが、花梨は喜んでいるらしい?
影虎はちょっと混乱している!

アナライズの機能が拡張された!
+瞬間記録機能
+学習補助機能

ちなみにオニキスの由来であるギリシャ語の“オニュクス”という単語から頭のOを取ると“ニュクス”になり、これまたギリシャ語で“夜”“日没”を意味する単語になるそうです。


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44話 アナライズの真価(中編)

 バイトの先輩と衝撃的なファーストコンタクトの後、俺は驚きを押し殺してオーナーに言われるまま店の奥で用意を整えた。といってもワイシャツを用意された淡い青色のシャツに着替えて髪を整え、メンズアクセサリーの指輪をはめただけだが。

 

 聞けばBe Blue Vでは勤務中は私服でもかまわないそうだ。

 さすがに学校の制服はどうかと用意していただいたようだが。

 

「それならそうと言ってもらえれば自前のシャツを……」

「人の服やアクセサリーを見繕うのは私の趣味なのよ。強制じゃないけど、任せてくれるとうれしいわ」

「あ、そうでしたか」

「昔はそうでもなかったんだけど、無頓着な弥生ちゃんに店長権限で押し付けてるうちに楽しくなってきちゃって……ウフフッ」

「棚倉さんに?」

「ええ……弥生ちゃんはね、昔から花梨ちゃんと同じ存在が見えていた子なの。それで学校では孤立してたから、あまり気にしてなかったのね。でも元はいいからもったいなくて。

 ……それにしても葉隠君、貴方意外と鍛えられた体をしていたわね……服の上からは分からなかったけど、筋肉が引き締まっていて……シンプルな清潔感を全面に押し出してみたけれど、これならもう少し腕や筋肉を出す服を用意すべきだったかしら?」

「露出はほどほどにお願いしますね」

 

 オーナーは本当に人の服を選ぶのが好きなようだ。

 俺もあまり詳しくはないので、ありがたくはある。

 

「それではオーナー着替えも終わったことですし」

「あら、それもそうね。それじゃ後のことは弥生ちゃんに聞いてちょうだいね。頑張って」

 

 オーナーから言葉をいただき、店に出る。さぁ行くぞ!

 

「……フツーだな」

「棚倉さん、第一声がそれですか?」

 

 気合を入れた俺を出迎えたのは、棚倉さんの気の抜けた一言だった。

 

「すまん、それ以外に感想が出てこなかった。パッとしないけど清潔感はあるし、顔のバランスは整ってる方じゃねーの?」

 

 うわぁ、超お世辞くさく聞こえる。

 

「まぁ特に悩みもないので、顔の話は別にいいんですが」

「そうか。だったら人のいない今のうちにまずレジ打ち教えっから。その後在庫の場所と店頭での補充の手順とか、とりあえず明日を乗り切るために最低限必要なこと優先で叩き込むぞ。わかんない事あったらすぐ聞けよ」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 こうして新人研修が始まった。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 二時間後

 

 レジの説明をドッペルゲンガーで記憶し、一度の説明で教えられた操作は間違うことなく行えるようになった。商品の在庫の場所と補充手順の説明を受け、これまた説明された内容は記憶した。

 

 俺の仕事は基本カウンターの中でレジに待機し、支払いをするお客に対応すること。ショーケースの中身を手にとりたいと言われたら取り出して見せること。そして売れたら、できるだけこまめに棚の下部から売れたアクセサリーを補充することだ。

 

 補充はショーケースや棚に空きが目立たないうちにできればベストだが、お客をレジで待たせたり商品を見る邪魔になったりしないように注意して行う。

 

「ありがとうございました」

 

 教えられたことを記憶し、棚倉さんの監視の下でお客様を相手に反復して実践してみた。

 レジでの作業を終えたら、他にお客様もいないので今のうちに在庫を補充しておく。

 

 そしてカウンターに戻ると、棚倉さんが満足そうにしている。

 

「けっこう手際いいじゃんか。どっか別の店でバイトしてたのか?」

「いえ、こういうお店は初めてです」

「そうか? そのわりに動きが慣れてるっつーか、手順を思い出すために止まったりもしねぇんだな。在庫の発注はオーナーがやるし、値札付けも大体終わってるし、聞かれやすい質問の答え方も説明したよな? オーナーも裏に居るなら……これなら明日一日くらいは何とかなるか。覚えが早くて助かるよ、花梨も褒めてるぜ」

「香田さんがですか? ……申し訳ありませんが、どこに?」

 

 褒められていると言われても、声も姿も見えないのでどうも……アナライズで見つけられないか? と、思ったけど反応なし。

 

「店の入り口に立ってる」

「あっちですね。ありがとうございます、香田さん」

「今はお前に向けて手を振ってる」

 

 とりあえず手を振り返してみる。

 

「……お前、それ一人でやってるとこ他人に見られたら変なやつに見られるから気をつけろよ」

「あっ、はい。分かりました、気をつけます」

「……まぁ、花梨の事を真面目に受け止めてくれるのはいいんだけどな」

「いろいろ経験したことで一概に否定もできないって感じで……実はまだ幽霊って半信半疑なんですが」

「それでも居るように振舞ってくれるだけでいいよ。……店長が言うには、幽霊にも人に見えやすい奴や見えにくい奴って個性があるらしくてさ、花梨は特に見えにくいんだってさ。香奈、もう一人のバイトの事だけど、その子は輪郭しか見えてない。

 普通のバイトは霊感があるって自称する奴でも信じないか怖がって拒絶すっから。花梨や花梨と普通に接するアタシらを気味悪がって長続きしねーし」

「それでアルバイトがたった三人なんですか」

「そういうこと。だから今度の新人はこっち側(・・・・)の人間だって聞いてたけど心配でさ。どんな奴かと思ってたけど葉隠で良かったよ。仕事の覚えも早いみてーだしな」

 

 ペルソナで一発記憶してますから。

 というか、俺ってもう完全にオカルト関係の側に認定されてるんだな。

 ルーン魔術を自発的に学び始めたからもう否定できないけど。

 

「棚倉先輩もやっぱりオカルト的な知識か技術を?」

「アタシは小さいころから幽霊が見えてさ、周りから変な目で見られて不良やってたんだ。そんな時にオーナーと会って世話になったからな。ちょっとした悪霊なら祓える。

 花梨ともう一人も、ここで働き始めた理由は似たようなもんさ。見た目と雰囲気が怪しさバリバリだけど、いい人なんだよあの人」

 

 ここは一種の駆け込み寺のなのかもしれない、と思ったときに疑問が。

 

「そういえば香田さんのお仕事って?」

「そっか、それ教え忘れてた。花梨は店の警備担当。店の品物盗もうとした奴は祟るから、人が倒れたら急病人ってことで奥に運ぶように。あとはオーナーが適当な理由つけて通報か解放するから」

「自分の能力を活かして働いているんですね」

 

 なんかもう慣れてきた。

 

「おっと、いらっしゃいませ!」

 

 男性のお客様が入ってきて一直線に一つの棚に向かい、棚の前で急にうろたえる。

 

「葉隠、レジ頼むな。……いらっしゃいませー、何かお探しですか?」

 

 棚倉さんが男性客に近寄りながら声をかけると、男性客が口を開いた。

 

「あの、ぼ、僕彼女とさっきこのお店に来たんです。その時はよってみただけなんですけど、この指輪を人差し指にはめてじっと見てたからデートの記念に買ってあげたくなって。……だからまた来たんですけど、サイズが分からないことに気づいて……どうにかなりませんか?」

「それでしたら大体の大きさのリングを買っていただいて、サイズが合わなければ後日交換できますが……」

「それはちょっと、ピッタリのサイズのが欲しいんです、サプライズで贈ったら合わないって、なんかかっこ悪いでしょう?」

「サイズ違いは良くあることなので、そんなことはありませんよ」

 

 棚倉さんがそう話すも、男性はぴったり合うサイズが欲しいと言って聞かない。

 話し方からして気弱そうな男性だが、デートで神経質になっているようだ。

 しかも抜け出してきたらしく、早く戻らないといけないと焦っている。

 

 しかしここに居ない人の指のサイズは……

 

 何かの助けになるかとアナライズの記録をあさってみる。

 見ていた、ってことは、あの棚の前に居たんだよな?

 ……おっ、見つけた。レジ打ちを教わってた時に来ていたようだ。

 あの男性と赤いワンピースを着た女性の姿が棚の前に居る映像が視界に映っている。

 静止画も連続して見ると動画になるので、まるでパラパラ漫画かビデオを巻き戻したり早送りしている感じがする。

 しかし映像だけじゃサイズはわからないな……と思ったら、その女性の指の形が分かった。

 周辺把握! 常時発動してるスキルだから情報が一緒に記録されていたのか?

 理由はともかく、これならいける。

 

 カウンターの中からリングサイズゲージを取り出す。

 これはサイズの違う輪の束で、指を入れることで指輪のサイズを測れる。

 指輪のサイズは聞かれやすい質問だからと教えてもらったが、この輪と周辺把握の情報を合わせれば……これか。人差し指なら十一号。

 

 ……よし!

 

「お話中すみません、その彼女さんは赤いワンピースを着たお客様ですか?」

「葉隠?」

「えっ、あ、はい、そうですけど、どうして?」

「先ほどご来店いただいた時の事を思い出しました。確証はありませんが、おそらくこのサイズだと思います」

 

 俺は話に加わり、そっと十一号の指輪を手に取る。

 

「本当ですか? どうしてこれだと?」

「その指輪を付けて、棚に戻したところを思い出しました。それからこの棚の商品はそれ以降売れていませんし、商品の補充もしていませんから。間違いないと断言はできませんが、置かれた場所にあったこの指輪が合う可能性が高いと思います。間違っていた場合は交換でいかがでしょう」

 

 そう伝えると男性は悩むそぶりを見せた。

 

「……他に手がかりもないし……元はといえば僕が悪いし……間違ってたら交換できるって言うし………………それを買います」

「よろしいですか?」

「できるだけ早く彼女のところに戻らないと……ああ! お願いします! 早くお会計!」

「! はい、ただいま!」

 

 彼女を待たせていることを思い出した男性の剣幕に押されてカウンターへ飛び込み、手早くレジを打つ。

 

「八」

「八千円ね!」

 

 金額を言うより先にレジの表示を見た男性が叫んでお金を置き、袋に入れた商品を差し出すとひったくるように受け取って店を出て行った。

 

「ありがとうございましたー……」

「またのお越しをお待ちしてますーって、ありゃ聞こえてねーな」

「すごい勢いでしたね」

「記念とか言ってたし、きっと初デートなんだろうな。完全にテンパってる。つーか葉隠、お前よく覚えてたな?」

「たまたま目に付いていたのを思い出したんですよ。記憶力には自信があるほうですし、今日は初仕事でお客様に過敏になっていたんでしょうか?」

「なんにしても助かった。客の前じゃ口が裂けてもいえないけど、あの客みたいにサイズが分からないけどピッタリ合うサイズが欲しいってのはマジ困る。

 サイズ直しや交換で納得してくれるなら何の問題もないんだけどさ、なんの情報もなしに断固として合うサイズが欲しいって粘られてもな……」

「お客様の指のサイズを店員が把握してるわけないですよね。常連のお客様ならまだしも」

「でもお客様だから納得してくれるまで説明しないといけねーし。こればっかりは我慢だな」

 

 お客のいない店のカウンターで、和やかに話しつつ時間が過ぎていく。

 棚倉さんは元ヤン、香田さんは幽霊だけど、職場の雰囲気は悪くない。

 特に棚倉さんは常識もありそうで話しやすい。

 失礼だけど、ちょっと男らしく感じるのも理由かもしれない。

 

「葉隠は高校生だったよな? 来たとき月高の制服着てたし」

「はい、今年から月光館学園の高等部一年になりました」

「江古田ってまだ教師やってるか?」

「居ますけど、棚倉さん江古田先生を知ってるんですか?」

「知ってるもなにも、アタシ元月高の生徒だし」

「そうだったんですか?」

「一昨年卒業して今大学生。月高にいた頃は一年から三年までずっと担任が江古田でさぁ、ウザくてたまんなかったよ。アタシみたいなのは目の仇にされてたし。そうでない生徒からも嫌われてたけどな」

「今でも江古田先生は嫌われてますよ、イヤミ田なんてあだ名つけられて」

「変わってねーな、アタシもそう呼んでたよ。ほかにもえこひいきのエコ田とか、自分勝手なエゴ田とか、色々呼ばれてたぜ。成績がよくて外面のいい奴ばっか贔屓して、自分の評価を上げようとしてたからなぁ……今もそんなやり方続けてんの?」

 

 それは初耳だ。

 

「初耳ですね、入学したばかりでクラスも違いますから。でもいじめを見て見ぬ振りしたり、不登校の生徒を病欠にしたりするとは何処かのうわさで聞いた気がします」

「ああ、あいつ嫌味言って煽るくせにビビリだからな。ちょっと強くでるといっつも、そんな言い方しなくたっていいじゃないか、って言って黙り込んでたし……そうだ葉隠、ちょっと耳かせ」

「? 何ですか?」

「あいつの弱みをいくつか教えてやるよ。アタシにゃもう使いどころがねーしさ」

 

 ! 江古田先生の弱み!?

 

「おっ、目の色変わったな。なんかあいつに言われたのか?」

「いえ、俺じゃなくて友人がちょっと……」

「ダチのためか。ならどうしても我慢ならなくなったら使え。いいか? まず軽いのからいくぞ?」

 

 山岸さんの問題解決の手札になるかもしれない情報。

 一言一句聞き逃さないように傾聴し、ドッペルゲンガーでも記録の用意をする。

 

「……江古田はヅラだ」

「ぶふっ!?」

 

 一度ためてからの発言に、思わず噴出してしまった。

 いやこれ卑怯だって! 重要そうな雰囲気からヅラって!

 しかもドッペルゲンガーで記録してたせいで、“江古田はヅラだ”の一言が視界に飛び込んでくるんだもの……聴覚と視覚のダブルパンチをくらった……

 

「失礼しました、ていうか、えっ? 江古田先生ってカツラなんですか?」

「マジだよ。今は植毛かもしんねーけど、あたしが卒業するときは見事なツルッパゲだったぜ。卒業式の体育館裏で焦ってたんだよ、接着剤がどうだの、せっかく特注したのにとかぶつくさ言いながら。

 アタシは卒業式の日に遅刻してさ、この目でしっかり見てこの耳で聞いたんだ。そのせいで式の最中、壇上に立ったあいつを見るたび笑いがこみ上げてきて……大変だったんだからな? 式が終わっても呼び出されて卒業式に遅刻したあげく笑うとは何事か! とか原因(江古田本人)に嫌味言われたんだぞ? 教室に呼び出されて」

「そ、それ……その最中は?」

「当然笑ったさ! 式の途中でもないから声上げて思いっきり笑ったら顔真っ赤にして怒ってよ、先生のヅラが取れた姿が笑えたって言ったら一気に血の気が引いて黙り込んで、最後にお前はもううちの生徒じゃないんだから早く帰れ! って怒鳴って教室でてった」

「……!!!」

 

 腹が、痛い、なにそれ……

 

「でもその反応ってことは」

「あの時ヅラだったのは間違いねーよ。あのときの顔は今思い出しても笑える。で、次の弱みは……」

 

 そう言いかけたところで店の扉が開いた。

 

「いらっしゃいませ! っ!?」

 

 反射的に言葉は出たが、その相手は先ほど店に来た男性だった。

 今度は赤いワンピースの彼女も連れて……

 

「あっ、さっきはどうも」

「ご来店ありがとうございます。あの、もしやサイズが違っていましたか……?」

「違います違います! サイズはピッタリでした! 本当に!」

 

 間違えたかと思ったが、そうではないようだ。よかった……でも、だとするとどうして?

 そう考えていたら、彼女が一言。

 

「すみません。この人が買った指輪と同じデザインで、この人の指のサイズの物が欲しいんですけど、ありますか?」

「彼女、僕と一緒の指輪をつけたいと思ってくれてたそうなんですよ~。だからサイズはピッタリだけど、一つじゃ意味がないっていわれちゃって~」

 

 デレッデレだな、おい。

 

 口には出さないけど、この舞い上がりっぷりだとたぶん言っても気を悪くしなさそうだ。

 

「かしこまりました。サイズのほうは……」

「あ~ごめんなさい、僕のも分からないです~」

「では、こちらの道具で指輪をはめる指のサイズを測らせていただけますか?」

 

 デレッデレの男の人差し指のサイズを測り、該当する指輪をドッペルゲンガーで探して速やかに引き渡すと。男はデレデレのまま会計をすませ、女性と腕を組んで店を出て行った。

 

「さっきは無茶なこと言ってすみませんでした……でもあの時教えてもらえて助かりました! またアクセサリー買うときはここに来ます!」

 

 最後にこんな言葉を残して。

 

「またのお越しをお待ちしています!」

 

 色々変なところはあるが、Be Blue Vでのバイトは幸先のいい滑り出しだと、俺はひそかに感じていた。




棚倉弥生は月光館学園の生徒だった!
江古田の弱みを一つ握った!
アルバイト代3500円を手に入れた!

桐条美鶴の誕生日が近づいている……
しかし遮光器土偶は手に入っていない。

アナライズの機能が拡張された!
+連続する画像の動画化
+周辺把握から得た形状の記録





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45話 アナライズの真価(後編)

 5月7日 放課後

 

「ありがとうございました!」

 

 クラスメイトが試験に向けて焦り始めている中、俺は今日もドッペルゲンガー眼鏡をかけてバイトに励む。

 昨日棚倉先輩に言われた通り、今日は本当に一人で店番だった。

 ……正しくは香田さんもいるらしいが、俺にも客にも見えないので一人という印象が強い。

 しかしこの店は一度に大勢のお客様が来ることが少ないようで、今のところ十分に店を回すことができている。

 一度に来店するのは多くとも二組か三組、それにこういう店に慣れてる女性客が多くて助かってはいるけれど、商売としていいのか悪いのか分からない。

 

 しかし人が途切れるととたんに暇になるな。昨日は棚倉先輩がいたからなんともなかったけど……香田さんとなんとかコンタクトを取れないかな? 同じ職場で働いてるんだし。

 

 そう考えてアナライズと周辺把握で周りを探ってみるも、反応は皆無。

 こっちからは何もできない、なら向こうに協力してもらえば?

 香田さんはラップ音を鳴らせたよな?

 

「香田さん、いらっしゃいますか? いらっしゃったらラップ音一回で返事をしてもらえませんか?」

 

 そう言ってみると、しばらく間を空けてパキッ、という軽い音が響いた。

 

「いらっしゃるんですね?」

 

 またラップ音が、今度はすぐに一回。

 

「お客さんがいないので話しかけてみようと思ったんですけど、残念ながら俺には幸田さんのことが分からないので。Yesならラップ音一回、Noなら二回で返事をしてくれると助かります」

 

 そう言うと、今度は二回。

 

「……嫌でしたか?」

 

 慌てたようにすばやく二回、それが短い間を空けて何度も続く。

 

「……もしかして、Yesを何度も伝えようとしたんですか?」

 

 一回。どうやら正解のようだ。

 

「では、お客さんが来るまで話しかけてもいいですか?」

 

 その言葉にも肯定。

 

 そのまま俺からの質問に香田さんが答える形でコミュニケーションが成立し、色々とわかったことがある。

 

 まず香田さんの姿は亡くなった当時、中学生のままらしい。

 ただし亡くなってからだいぶ時間が経っているので、生きていたら成人はしているそうだ。具体的な年齢は聞いていない。

 今までのバイトとこのように会話をしたことがあるのかと聞けば、答えはNo。

 オーナーや今もいるバイトの二人は声が届くので必要なく、他はラップ音を鳴らすと怖がられていたということで、こんな形で会話をしたのは初めてだと。

 どうしても何かを伝えたいときには、オーナーかバイトの二人に通訳を頼むそうだ。

 

 たとえば姿だけでも高校生? No。大学生? No。なら小学生? No。中学生? Yes。

 とこのように質問を少しずつ変えながら正しい答えを探る必要があるので時間はかかるが

 

「偶然こうして会話ができるだけの物音が鳴るとは考えにくいですし、話した感じ悪霊でもなさそうなんですけどね……あ、これじゃ答えられないか……香田さんは悪霊ですか?」

 

 否定が返ってきた。

 それと同時に周辺把握が店の扉の前に立った人影を捉えて口をつぐみ、お客様を迎える。

 

「いらっしゃいませ」

 

 人がいる間は話せないが、何とかやっていけそうだ。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 現在時刻、午後八時。そしてBe Blue Vの閉店時間でもある。

 お客様も店内にいないので、扉の外にかけられたOPENの札をCLOSEに替えて店内を軽く掃除。それが終わったと報告に向かうと、声をかける前にオーナーがプライベートなスペースから出てきた。

 

「お店を閉めてくれたのね? 花梨ちゃんから聞いたわ」

 

 すでに香田さんが報告していたらしい。

 

「素早くて助かりますけど、姿が見えないと分からないのが困りますね」

「一緒にいればひょっこり見えるようになるかもしれないわよ。私としても仕事をちゃんとしてくれて、花梨ちゃんとも仲良くできる子は雇っていたいから……ウフフ」

 

 二人してそんな話をしていたが、突然オーナーは思い出したように俺を見た。

 

「葉隠君、今日はまだ時間あるかしら?」

「はい、ありますよ」

「だったら……ルーン魔術、教えましょうか?」

 

 ルーン魔術!

 

「いいんですか!?」

「そういう約束だったじゃない。昨日は結局お仕事だけで終わってしまったし……貴方がよければだけど」

 

 働きながら学ぶとは話していたけど、詳しいことはもっと仕事を覚えてからだと思っていた。下働きをある程度してから修行とか、そんな感じで。

 

 そう言うとオーナーはまた怪しげに笑い、俺を店の一角に連れて行く。そこにはまた物が山のように積まれていたのでゴミかと思えば、その影には小さく使い込まれた机と機械が置いてある。

 

「ここは?」

「私の工房よ。狭いけどアクセサリーに仕立てるには十分な設備があるわ。まず道具から説明するけど、必要なのはこれら……右からルーター、ダイヤモンドカッター、ダイヤモンドビット、研磨剤、ゴーグル、防塵マスク、作業用エプロンよ」

 

 慣れた手つきで次々と机の上に道具が並べられ、使い方が説明される。

 

 ルーターは先端につけた小さなダイヤモンドカッターやダイヤモンドビットを回転させるための道具。これを使って石を加工するそうだ。小物を作るためとあって片手で持てるサイズ。先が細くなっているダイヤモンドルーターを装着すると、ハンダごてと間違えそうだ。

 

「ルーン魔術は元来木片や石にルーン文字を彫りこんで使用されていた魔術。だからこういった作業も覚えて頂戴。まずは一度やって見せるから、これをつけて私の後ろで見ていて」

 

 手渡されたのはゴーグルと防塵マスク。

 

「破片が飛んだりするから作業中は必ずつけるようにね。できれば予備も用意しておくといいわ」

 

 オーナーはそう言うと別のゴーグル、マスク、作業用エプロンをつけて机の前に置かれた椅子に座り、机の引き出しから二センチほどの水晶を取り出す。そしてルーターの電源を入れると先端に取り付けられたダイヤモンドビットが回転を始め、オーナーはそれを水晶に押し当てて傷をつけ、あっと言う間に水晶の表面に野生の牛という意味から力強さなどを表すルーン文字、“ウル”が掘り込まれていた。

 

「ルーンを彫ったらパワーを込めるのだけれど……この時に重要なのはあなた自身の集中力と実感よ」

「実感?」

「やり方は人によっていろいろあるから、あなたがよりパワーを込められていると実感できるやり方でパワーを込めるの。私はこう石の加工に手をかけて段階を踏んでいく……そのほうがつながりが深くなる気がするから。

 葉隠君もこの方法で始めて、少しずつ自分のスタイルを探して欲しいのだけど……とりあえず今日はルーンを刻むまでを実際にやってみましょうか。まずこれができないと正しいルーン魔術は使えないわ。リラックスして、さぁここへ……」

 

 席を譲られ、今度は俺が椅子に座る。

 

「練習用の石は用意しておいたからこれを使って。全部ただの石だからいくら失敗しても構わないわ。まずはとにかく道具に慣れて。刻むルーンは好きなルーンでいいけれど、正しく刻めるようにね」

 

 足元にふぞろいでいかにもどこかから拾ってきたような石が沢山入った箱が置かれ、その中から一つを手に取り練習を始める。

 

「…………」

 

 オーナーは簡単にやっていたが、実際にやってみると結構難しい。

 ルーターの回転で石に傷をつけるが、その回転と反動で先がぶれてルーンが歪む。

 固定しようとすると、たまに行き過ぎる。

 

「あっ!?」

 

 石が割れてしまった……

 

「深く彫りすぎね。もっと浅く、ルーンが見えればいいわ。はい、次の石」

 

 手渡された大きめの石を使って、再挑戦。しかしやっぱりオーナーのようには行かない……! そうだ、オーナーの動きをもっと正確に真似てみよう。

 

 アナライズで記録していた先ほどのオーナーの映像を、そのときの周辺把握の情報と共に引き出す。

 その情報を元に、戦闘時に使う敵の動きの把握する要領でオーナーの体の動きを把握。

 自分自身の動きをそれに近づける。

 

 もっと脇を締めて、石を左手で固定して……手首だけでなく腕全体で……

 

 ………………! さっきよりはスムーズに彫れていたが、気を抜いてしまいミスをした。

 

「……道具の使い方は今の調子で。完成を思いうかべて、そこに刻まれたルーンをなぞるように」

 

 完成品をなぞるように……なら、アナライズのメモ機能にルーン文字の“ウル”を表示。それを石の中心と重なるようにして……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「できた!」

 

 十個以上の石を使い潰してようやく納得のいくルーンが彫れた。

 オーナーの作品と比べるとまだ雑な部分が目立つが、とりあえず読めるルーンだ。

 

「お疲れ様。飲み込みが早いわね……初日からここまで形になるとは思わなかったわ。他の文字も、何度やってもこれくらいのできで作れるように練習しなさい。といっても、この調子ならすぐ身につけてしまうかもしれないけれど……でも今日はここまでね。もう九時も過ぎているから、流石に帰らないとね」

 

 そう聞いて時計を見ると、現在九時十二分。

 一時間も練習をしていたようだ。

 その間、オーナーはずっと後ろで見ていたのか?

 

「時々離れたわよ? 随分と集中していたのね……だけど根をつめ過ぎてはだめ。だから今日はここまでにしましょう。その代わり、今日は貴方に課題を出すわ」

 

 課題?

 

「どんな課題ですか?」

「今作ったその石を持ち帰って、次にくる日までパワーを込めてくること。貴方がやりやすい、パワーが込められると思う方法でいいわ。自分なりに試して私に見せてちょうだい」

 

 いきなりパワーを込めて来いといわれても、と思ったが、オーナーはそれを察してか口を開く。

 

「これはなんとなく予感がするのだけれど……貴方はできてしまいそうな気がするのよ。ただし無理はしないこと。ゆっくりとパワーを注ぐことを意識して、体調が悪くなったらすぐやめること。この前みたいにならないように、これだけは守りなさい」

 

 注意は受けたが、課題を撤回するつもりはないようだ。

 

「分かりました、自分なりにやってみます。次は土曜日ですか?」

「そのことなんだけれど、月光館学園は中間試験の時期じゃなかったかしら? 勉強は大丈夫なの?」

「試験は再来週ですが、そちらは今のところ何の問題もありません」

「あら、自信があるのね? だったら土曜日、お願いするわね」

 

 課題と次回の予定が決まり、アルバイトの二日目が終わった。

 

 

 

 

 

 お店を出ると、外はもう暗い。

 

 ちょっと急ぐか……しかし便利で使いまくったからか、ここ数日でアナライズの新しい機能が判明したな……

 

 一度整理してみるとアナライズで記録できるのは

 

 自分が攻撃したシャドウの情報

 自分が読んだ文章

 自分が聞いた言葉

 自分が見た画像

 記録した画像の連続で動画

 周辺把握で得た形状

 形状の変化から動き

 

 これらの情報を元に計算や英語の問題への解答を出し、他人の動きを真似やすくする。

 一部ドッペルゲンガー限定の情報もあるが、数学の知識は覚醒以前に得ていた知識が元になっている。

 

 やっぱりアナライズの本質は俺の記憶や体験を自在に引き出す力なのか?

 

「! だとしたら前世の記憶は……」

 

 考えをうっかり口に出した事に気づき、口をつぐむ。

 道を歩く通行人に聞かれた気配が無いことを確認して胸をなでおろす。

 聞かれたところで変人か中二病と思われるだけだろうが……

 

 しかし、もしアナライズが俺の記憶や体験を情報として取得して出力できるとしたら……

 

 俺は適当な自販機の前で立ち止まり、アナライズで情報を探る。

 

 目的は…………前世の記憶(・・・・・)

 

 完全な(・・・)原作知識!

 

 

 

 

 

 

 

 無意識に強く閉じていた目を開けるとそこには、数々の情報が……映し出されなかった。

 

「だめか……」

 

 自分の肩が落ちたのを感じる。

 原作が変わり始めている今では、それほど意味があるものではない。

 そう考えて、俺はまた歩き始めた。

 

 しかし、思考はまだ死ぬ前の事に囚われていた。

 一度思い出そうとしたら、急に懐かしくなってしまう。

 死ぬ前の友達の顔に、幼いころ一緒に遊んだ公園。

 好きだったゲームに、一人で歌いまくった行きつけのカラオケ店。

 

 友達、遊び、ゲーム、カラオケ。連想ゲームのように思い出が次々頭に浮かんでくる。

 

「そういや……落ち込んだときもカラオケ行ったりCD聞いたりしたっけな……」

 

 軽快な曲やノリのいい曲を聴いていると気が楽になったりしていた。

 こういう時に聞いていたのは……

 

 そう考えたその時、急に音楽が聞こえる。

 通行人のしゃべり声や、横を通る車の騒音に負けない音量で耳に届く。

 しかし突然始まったにもかかわらず、通行人には誰も反応を示さない。

 まるで誰にも聞こえていないように。

 

 何よりおかしいのは、その曲に聞き覚えがあったこと。

 その曲はこの世界では聞けない曲。この世界にはあるはずのない曲。

 そして、俺が死ぬ前によく聞いていた曲。

 

「……Are…………You……Ok?」

 

 曲名を呟いたとたん、目の前に録音や再生など、オーディオ機器のようなマークが視界の端に現れた。

 現在は再生中。止めようと考えると一時停止のマークに変わって音が止み、ふと笑みが零れる。

 

「なんだこれ、役に立たないな」

 

 どうやらアナライズが俺の記憶から思い出の曲を引き出したようだ。

 

 ……どうして原作知識が引き出せなくて、曲は引き出せたのかは分からない。

 自力でも簡単に思い出せたからか? それとも単なる力不足か? 答えは出ない。

 しかし、気づけばさっきまでの落胆が心から消えていた。

 

 ……今日のところはこれでよしとしておこう。記憶を引き出せる可能性は残った。

 

 俺はそんな理由をつけて曲を再生、寮へと向けた足を進める。

 

 その足取りは非常に軽かった。




影虎は香田花梨とコミュニケーションをとった!
すでに順応し始めている!
影虎はルーン魔術の課題を得た!
アルバイト代3500円を手に入れた!
影虎の次回のバイトが決まった!
アナライズの機能が拡張された!
+動体の形状記録
+脳内オーディオプレイヤー

アナライズの真価は“記憶の引き出し”だった!
影虎の急性ワールドシック(ホームシックの異世界バージョン)が治った!

ルーン文字解説 “ウル”
野生の牛を意味するルーン。
転じて力強さや本能、荒々しい生命力や情熱などを象徴する。
アルファベットのUを逆さまにして角ばらせ、左角を少し高めに上げた形をしている。
アルファベットと対応させてもU。

今回影虎の脳内に流れたのは槇原敬之さんの Are You Ok? です。
私が好きな曲で、この話を書いているときに聞いていました。
聴いたことがないという方は、ぜひ一度どこかで聴いてみてください。


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46話 両親来る

 5月8日(木) 昼休み

 

 ~教室~

 

 順平と友近が昼食を買いに行って今は一人。

 ドッペルゲンガーで音楽を聴きながら待っていると

 

「♪」

「あれ、どったの影虎? なーんか機嫌良さそうじゃん」

「ん? おかえり順平、友近。分かるか?」

 

 二人が戻ってきたのに気づき、音楽を止める。

 

「そりゃ鼻歌なんか歌ってたら分かるって。つかなんの曲?」

「“天体観測”って曲」

「天体観測? ……聞かないな」

「あぁ、俺もどこで聞いたかわからないからな。でも耳に残ることってあるだろ?」

「あー、あるある。コンビニとかスーパーのCMとかな」

「妙に残って頭の中で流れ続けるんだよな。授業中とか。んで? 機嫌いいのは」

 

 二人が買ってきた昼食のビニール包みを開けながら聞いてくる。

 

「んー……最近調子がいいからかな。バイトが決まって二日働いたけどよさそうな職場だし、勉強も困ったりしてないし」

 

 おまけに今朝目覚ましに使った携帯を見ると、先日相談した小野館長から遮光器土偶のレプリカが手に入ったというメールが入っていて、放課後に受け取れるよう用意をしてくれている。一時はどうなる事かと思ったが、今は影時間も日常生活も万事順調といえる。

 

「くぁーっ! もうすぐ試験だってのに、楽勝かよっ!」

「俺たちは猛勉強してるってのにっ、その余裕の顔が憎いっ!」

「そんなこと言われてもな……勉強会でもするか?」

「勉強会~? ……いいかもな……どうする? 順平」

「まー、一人でやるよりはかどるんじゃね? わかんないとこあったら余裕の影虎に聞けるし」

「だよな! よし! 宮本も誘って勉強会やろーぜ! 影虎は先生役で!」

 

 なにげなく口から出しただけなのに、本当にやることになっていく。

 ……別にいいか、復習がてらアナライズの恩恵を二人にも分けよう。

 

「? ……もう着いたのか」

「んぐっ、……どうした?」

「今日仕事の都合で両親がこっちに来るって話になってたんだけど、もう着いたらしい。巌戸台にホテル取ったってメールが届いた」

「へー、両親ってことは親父さんだけじゃなくてお袋さんも?」

「一緒に来てるよ」

「影虎のかーちゃんってどんな人?」

「母さんは……」

 

 母さんの姿を思い浮かべて、まず出てくるのは長い髪と白い肌。

 目元に泣き黒子があり、スタイルはスレンダーなタイプ。

 性格は穏やかで女性らしく、息子の贔屓目を抜いても、母さんは美人だと断言できる。

 強面の父さんと並ぶとまさに美女と野獣。

 

 そう説明すると順平が驚きの声を上げる。

 

「マジで!? のわりに影虎は……」

強面()の親父と美()の母さんから生まれたら普通(+-0)になったんだよ。それに俺は爺さん似だし」

「残念だったな。ところでその美人母さん、ちらっとでも会えないか?」

 

 ……こっちの友達紹介しといたほうが母さん安心するかもな……

 

「父さんが仕事先に行く間、母さんは暇になるから会わせることはできるけど……友近、うちの父さんは手が早いから気をつけろよ。その場合、俺は止めないからな。父さんを」

「いくらなんでも人妻は口説かねぇよ!? お前俺のことどう思っちゃってんの!? たださ、俺はそんなに綺麗な大人の女性なら? ちょーっと見てみたいっつーか?」

「ともちー、その言い回しが先生のこと話してるときと完全に同じなんですけどー?」

「不安だ……」

 

 

 ……

 

 …………

 

 …………………

 

 放課後

 

 ~モノレール内~

 

「ふっふふ~」

「……マジでつれて来てよかったのかよ? こいつ……」

 

 昼休みの話について両親に確認をとったところ、両親ともにぜひ連れて来いという意見だったので友達をつれて来たが……モノレールの窓を鏡代わりに髪を整える友近に、順平が不安を口にする。俺も同意見だ。だから山岸さんにも声をかけた。

 

「葉隠君、大丈夫?」

「なんか、自分の母親にあんな反応しているクラスメイトを見てるとなんか複雑」

「あはは……」

「……俺がいない間は見張りを頼むぞ、順平、山岸さん。特に山岸さんは巻き込んで悪いけど、こんなときに声をかけられる女子が山岸さんしかいなくて」

「写真部は定期の集まり以外はいつでも抜けられるから、気にしないで」

 

 この二人がいれば、まぁ多少安心はできる。

 

 天田にも声をかけようと思ったが、残念ながら門限があるのであまり遅くまでは連れまわせない。会わせるとしても明日だな。

 

 ……母親を亡くした天田に母さんを紹介するにはためらいもあるけど、一緒にやっていく以上話題を避けるのもどうかと思うし、いい機会としよう。

 

「次はー、巌戸台ー、巌戸台ー」

「っし! 行こうぜ!」

 

 やたらと元気な友近を先頭に、モノレールを降りた。

 

 

 

 

 ~巌戸台駅前~

 

「さーて、美人のお母様はと、駅前で待ち合わせなんだよな? 影虎」

「そうだよ。というか落ち着けって……あ、いた」

 

 友近の方を見ると、その先にあった電話ボックスの陰に見覚えのある二人を見つけた。

 その片方、高身長でスーツを着込んだ男が俺に気づいたようで、大きく手を振る。

 このあたりでは外国人の男が珍しいのか、人目が集まる。

 

「ヘイ! タイガー!」

「へっ? あの人こっちに手を振ってるけど……」

「外人さん?」

「影虎ってハーフだったのか?」

「違う。あれは父さんの同僚のジョナサンだよ。隣に居るのが母さん」

 

 派手に手を振るジョナサンの横で、控えめに手を振る母さんにみんなの目が向く。

 

「うわっ、マジ美人……ちょっと緊張してきた!」

「確かに美人だわ。和風美人の大学生、ってかんじで……つか若くね?」

「立ち方綺麗ー、モデルさんみたいな人だね」

「とにかく行くぞ」

 

 三人を引き連れて二人に近づくと、俺はまずジョナサンからのハグで迎えられた。

 

「It's great time to see you!  Are these your friend? Hello!」

「は、ハロー! マイネイムイズジュンペー……えーっと……」

「な、ナイスチューミーチュー?」

 

 出会いがしらに流暢(りゅうちょう)な英語で話しかけられて慌てる順平たちだが

 

「ジョナサンは日本語ペラペラだから、日本語でいいぞ」

「え、そうなの?」

「オー、タイガー……ネタバレ早すぎますよー」

「相変わらず、初対面の相手に日本語のわからない外国人のフリしてんだな……」

「軽いジョークでーす。外国人なだけで身構える人いるしー? わかった時に少しは緊張も解れるデショ?」

 

 その前に一気に緊張すると思うが。

 

 オーバーリアクションでカタコトの日本語をしゃべる、絵に書いたようなアメリカ人を演じるジョナサンにあきれていると、母さんがスッと前へ出た。

 

「皆さん初めまして、いつもうちの虎ちゃんがお世話になってます」

「母さん、人前で虎ちゃんは……」

「は、はい! 俺、友近健二って言います! 葉隠君の友達やらせてもらってます!」

「なに、影虎家では虎ちゃんって呼ばれてんの? あっ、俺伊織順平っす! 影虎の部屋の向かいに住んでます!」

「山岸風花です。葉隠君とは部活仲間で、えっと……お世話どころかご迷惑をおかけしてます」

「虎ちゃんの母の、葉隠雪美です。こっちが」

「ジョナサン・ジョーンズでーす。よろしく、お願いしまーす。それにしても、タイガーが友達といっしょに居るのは珍しいね」

「本当ねぇ」

「ちょっと待ったジョナサン、母さん。それじゃ俺が友達いないみたいじゃないか……」

「タイガーに友達いないとは言ってないよ?」

「でも虎ちゃんのお友達と会う事ってほとんど無いじゃない。学校の話は聞くけど虎ちゃんは家にお友達呼んだり、お友達の家に行ったりはめったにしないし、いつも体を鍛えるか部屋にこもるかの両極端で……」

「いや、まぁ、その傾向はあるけれども。というか父さんは?」

 

 このまま話していると埒が明かない。

 話を変えると、ジョナサンは苦笑い。母さんは苦笑いしつつも嬉しそう。

 

「さっきリューとトイレットに行ったんだけど、そのあいだに雪美さんにちょーっと声をかけたバッドボーイズがいてねー」

「約束があるからって断ってもなかなか聞いてもらえなくって。そこに龍斗さんが来て」

「もういい、わかった。連れてったか連れてかれたな?」

「正解」

「おいおい……ともちーに会わせる前からこれかよ……ともちー大丈夫か?」

「ま、まぁ大丈夫だって」

「それよりバットボーイ“ズ”ってことは相手は複数なんですよね!? 大丈夫なんですか!?」

「「「大丈夫」」」

 

 俺たち三人がそう言うと、慌てていた山岸さんが目を丸くする。

 

「ちょっと困らされただけだから、ちょっとお話するだけよ」

「暴力沙汰にはならないよ」

「なったとしても問題ないと思うけど。っと、ほら、噂をしたら戻ってきた」

 

 近づいてくる父さんの姿を見つけてそう言うと、三人がそっちを向いて固まる。

 

 角刈りでサングラスをかけたスーツ姿の強面男が、明らかに不機嫌そうにポケットに手を入れえて歩いてきていた。進路上にいた通行人がそそくさと道を空けている。

 

「影虎? お前の親父さんの仕事って……」

「バイク会社勤務だよ。言っとくがまっとうな会社だぞ? ヤクザにしか見えないけど」

「おう影虎! 元気でやってるみてぇだな?」

 

 不機嫌そうに歩いていた父さんが俺に気づいて声を張り上げ、足を速めて母さんの隣に立つ。

 

「ぼちぼちね。部活やったりバイトしたり、なかなか充実してるよ」

「そいつらがお前のダチか?」

 

 父さんがサングラスを取って目を向けると、三人は緊張が解けないまま挨拶をした。

 父さんはそれに挨拶を返しつつ、三人をじっと見ている。

 特に山岸さんが気になるのか、鋭い目を向けているが、向けられた本人は目が泳いでいる。

 

「父さん、そのくらいに」

「龍斗さん、女の子をそんな風に見るなんて不躾よ」

「リューの目は怖いんだから、じっくり見るはだめでーす」

「ああ、悪いな、嬢ちゃん」

「いえ……」

「それにしても影虎」

「え? っ!」

 

 腹に軽めのパンチが入る。

 

「まさか女連れで来るとは思わなかったぞ。やるじゃねぇかよ。オイ」

「同級生か!」

 

 しばらく会わなくても変わっていないこの軽いノリ。

 言うときは言うが、父さんは基本こんな感じだ。

 

「山岸さんとはただの友達だっ」

「ぐふっ!?」

「あっ、大丈夫?」

 

 やり返したら加減を間違えた。

 自分で思ったより力が入っていたようで、親父が大きく体を折る。

 気づいて声をかけるが、親父は俺が伸ばした手を掴み

 

「加減しやがれ!」

「うっ!」

 

 今度は強めで反撃が来た。

 腹に拳が突き刺さり、鈍い痛みを感じる。

 ドッペルゲンガーに目覚めたことで打撃耐性があるため、それほどダメージはない。

 といってもタルタロス2Fのシャドウの物理攻撃よりは痛いんだが……

 

「しばらく会わないうちにまた強くなってるみたいだな。やっぱまだ鍛えてるのか」

「続けてるよ」

「そうか……加減はちゃんと見極めろよ。ダチに怪我でもさせたら後悔すんのはお前だぞ」

 

 反論の余地が無い。

 素直に謝ってふと友達三人をみると、突然の拳の応酬に驚き、ジョナサンと母さんにいつもの事だと説明されている。

 

 実家ではよくあった事だけど、初対面の三人にとっては衝撃的な顔合わせになったようだ。




影虎は両親と合流した!
順平・友近・山岸が影虎の両親と出会った!


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47話 案内

 ~巌戸台博物館前・バス停~

 

 母さんを山岸さんたちに任せた俺は、父さんとジョナサンを連れて巌戸台博物館で遮光器土偶を受け取りにきた。

 

 余裕を持って出てきていたので寄り道の時間は十分にあり、小野館長が用意をしていてくれたので受け取りもスムーズにできた。

 

 そのあとバスに乗り込んで適当な席に座ったが、後ろの席から妙な視線を感じる。

 

「父さん、ジョナサン、なにその目」

「何ってお前」

「タイガー、その桐箱の中身、女の子へのプレゼントとしてどうなの?」

「……一般的な女性へのプレゼントと考えたら無いと思う。でも俺が事前に調べた限りではこれがいいんだ」

「ほー? 大金持ちの感覚はわからねぇもんだな」

 

 探して手に入れた俺が言うのもなんだが、確かになぜ遮光器土偶を喜ぶのかがわからない。

 俺が貰ったらたぶん邪魔な置物以上にはならないと思う。

 ……なんか不安になってきた。

 ほかにも大勢の人が先輩にプレゼントをあげてるけど、土偶を贈るなんて俺だけだろう。

 

「そうだ、二人とも」

「どうした?」

「何?」

「悪いけどバスを降りたらこの箱、どっちかが持っていてくれない?」

「いいけどwhy(なぜ)?」

「これから会う桐条グループのお嬢様は学校の人気者。その誕生日ってことで同じようにプレゼントを渡したがる生徒が大勢いるんだ」

 

 今日の昼休みなんか生徒会室に生徒が我先にと詰め掛けたらしい。そのおかげで購買に行く生徒が減ってカツサンドが買えたと順平と友近は喜んでいた。しかしそこまでしてもまだ渡せなかった生徒が寮の近くで待ち構える相談をしているのを耳にしてしまった。

 

 そんなところに俺がプレゼントを持って寮の中まで入るところを見られたらどうなる?

 相談をしていた生徒の話によれば、彼らは寮の中までは入れない。

 掲示板の話題になって、妬みの的になること必至だ。それは避けたい。

 

 前に覗いた掲示板の書き込みのいくつかはマジで危なそうな雰囲気を感じたからな……

 気味が悪いし、話題になってこちらのメリットになることは何もない。

 だから父さんたちにプレゼントを持ってもらい、俺は二人をここに案内しただけを装いたい。

 プレゼントを渡したら俺は先に寮を出るつもりだし。

 

「人気者には会うのも面倒だな」

 

 父さんが苦笑いしているが、理解してくれたようだ。

 ジョナサンも両手の平を上に向け、肩の高さまで上げて首を振っている。

 

 まぁ、プレゼントを渡すだけなら父さんたちから渡してもらえば済むことだけど、今日はやりたいことがあるので同行しなければならない。

 

 つーか、それが無ければ二人だけで行ってもらえばよかったんだけどな。

 いい大人なんだから案内が無いと行けないなんてことはないだろうし。

 

「ところでよ、影虎」

「何? 父さん」

「お前、最近わけありの小坊を面倒みてると聞いたが」

「え、どこで聞いたのさ?」

「龍也からだ」

「ああ、叔父さんから……部の後輩だけど、それがどうかした?」

「どうかするってことはねぇが、どうなんだ? そいつ親を亡くして、若いのに大変だろ色々と」

「表面上は元気にやってる。部活の練習は熱心だし、無理をしないか不安になるくらいだ。親戚の援助を受けてるらしいけど、そっちはどうだか……」

 

 夏休みに行き場がないくらいだし、親しくはなさそうだ。

 

「今回のことをきっかけに、家族のことも少し聞いてみるつもり」

「そうか……まぁ、無理すんなよ」

「それ叔父さんにも言われたよ。っと、そうだその事で相談があったんだ。夏休みにアメリカに行くって話、あれに天田、その子を連れて行ってもいい?」

「ん? 俺と雪美はいいけどよ」

 

 父さんの視線がジョナサンへ向く。

 その意図を察したジョナサンは

 

「No problem! ダディがすごく大きな家を買ったらしいから、その子だけじゃなく今日会った子全員連れてきてもいいよ」

「だそうだ。もう本人には話したのか?」

「まだ。先に父さんの方に聞かないと本人にも保護者にも説明に困ると思ったから」

「なら話が決まったら早めに連絡入れろ。それからバイトしてるって言ったけどよ」

 

 バスに揺られて、こちらの生活についての話が続く。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~巌戸台分寮付近~

 

 最寄りのバス停から寮の近くまで歩いてきたが、予想通り巌戸台分寮へ続く道には所々に月光館学園の生徒がいた。堂々と道端に立って待つ生徒もいれば、横道などに隠れて待つ生徒もいる。なぜか電柱に登ったり他人の家の塀の中に身を隠したりしている生徒もいるけど、俺の目は誤魔化せない。

 

 ……正しくは足に着けたアンクレット、もといドッペルゲンガー(隠蔽中)による周辺把握の恩恵だ。

 

 ズボンを履いてる男子は花束を持ってる生徒が多い。プレゼントの他にも花束を持ってきてる生徒もいるから、全部集めたらお店の開店とかに送られる花輪みたいになりそうだ。

 

 女子は袋。中身は形からしてお菓子や服。手作りか? ……? なにこれ、像? 土偶、じゃないか。モデルは桐条先輩。髪型とかピンヒールとか、特徴があるからわかったけど、わざわざ作ったの? それからこっちは……気にするんじゃなかった。これ下着だ。しかも細くて面積も少ないきわどいやつ。

 

 少々罪悪感に苛まれるが、同時に高校生であんなの履く人いるのか? と思う。

 すると以前土器の修復をしたときと同じように、ドッペルゲンガーが反応して同じデザインの下着がある場所を探し出し、まさかの贈ろうとしている本人が着けていることが判明。

 

 ……今度は罪悪感よりも薄ら寒いものを感じる。

 便利すぎるのも困りものだ。ただ制御しきれていないだけかもしれないが、知りたくもないことを知ってしまった。

 スカートで女子生徒だと判断していたが、内部の情報にあってはならない物が……いや、広い世界にはいろんな趣味の人がいる。それだけさ。

 

「ここです」

 

 周囲に隠れる生徒たちのプレゼントを知りながら歩みを進めていたら目的地に着いた。

 周辺把握が周囲に隠れる生徒たちの動きを伝えてくるが、それが無くてもわかるほど強い視線。それどころかあいつはなんだ? と小声で話す生徒の声も聞こえてくる。もはや隠れられていない。父さんたちも気づいている。

 

「サンキューベリマッチ! 案内ありがとうございマース!」

「取り次ぎも頼んでいいか?」

 

 ジョナサンが案内の部分を強調し、父さんが長居は無用と扉に手をかけ、俺たちは寮の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 ~巌戸台分寮・ロビー~

 

 とても学生寮とは思えないシックな内装のロビーで桐条先輩が待っていた。先輩はどうやらソファーでカタログを読んでいたようだ。机にはうちの会社のカタログとティーカップ。

 立ち上がって近くに来た先輩に父とジョナサンを紹介すると、挨拶が交わされる。

 桐条先輩はさすが場慣れしていて父さんの強面にもひるむ事なく堂々と、父さんとジョナサンは俺からしてみれば珍しくちゃんとした社会人をしていたが、俺はそれよりもこっそりドッペルゲンガーを使っていた。

 

 三人の動向に注意を払いつつ、周辺把握。

 岩戸台分寮の内部構造を把握。

 一階から四階、屋上含めて把握範囲内。

 建物内のすべての部屋、通路、窓の位置を記録。

 加えて取り付けられている鍵の構造を記録。

 情報の閲覧は後回し、とにかく記録に努める。

 

 今日ここで俺がやりたかったこと、それは巌戸台分寮の情報を手に入れること。

 この情報が記録できればいつか役に立つかもしれないが、そのためにわざわざ岩戸台分寮の周囲をうろつくような真似は避けたい。

 そんな俺にとって今回の案内は渡りに船だった。

 建物内に入る理由ができて、しかも発端は桐条先輩からの要請だから疑われずにすむ。

 先輩の様子にも疑われている様子はないし、警報なども鳴っていない。

 

「こちらへどうぞ」

 

 一通りの挨拶を終えた先輩が、俺たちをロビーのテーブルに案内して着席を促す。

 俺は後をついていき、父さんと並んで着席する。すると先輩はまず俺に言葉をかけた。

 

「葉隠君。今日は、いや、今日()だな。世話になった。ところで外に……なんと言えばいいか」

「先輩のファンなら見ましたよ」

「やはり今年も居るのか……」

「人気者は大変ですね。毎年こうなんですか?」

「私が中等部に入った頃からはそうだな。以前は寮の中まで強引に押し入る生徒もいた。その際流石に度が過ぎると厳しく注意をしたのでだいぶ収まったが、今度は君も見た通り、街中や寮の前で待ち構えるようになってしまった」

 

 だからか……ロビーには大きな窓がいくつもあるのに、どこもしっかりとカーテンが閉められているのは。

 

「誰かが好ましく思ってくれているのは嬉しくもあるが、稀に生徒同士で(いさか)いを起こすこともあるので困るときもある。君はそういった生徒に絡まれなかったか?」

「道案内を装って来たので、何も」

「そうか。それはよかった。事前に伝えておけばよかったのだが、私自身今日が誕生日であることを失念していてな」

 

 学生が自分の誕生日忘れるって、どんだけ忙しいんだこの人。でもちょうどいい。

 

「桐条先輩。遅ればせながら、誕生日おめでとうございます。つきましては……」

 

 父さんに目を向けると、ひとつ頷いて預けていた箱を渡してくれた。

 

「これは誕生日のプレゼント、でいいのか?」

「部活のことではお世話になりましたから、そのお礼も兼ねて。受け取っていただけますか?」

 

 そう言って差し出すと、先輩は困ったように笑いながら箱を受け取る。

 

「助けられているのは私ばかりだが」

「息子が、この日のために手配したものです。どうぞ受け取ってやってください」

「では、ありがたく。……開けてみても?」

 

 先輩の趣味にあえばいいんですがと言葉を添えれば、先輩は丁寧に桐箱に掛けられた紐を解き、蓋が取られるとその目を大きく開いて一言。

 

「! ブリリアント!!」

 

 その言葉に父さんとジョナサンの目が、桐条先輩とは違う意味で大きく開かれる。

 

 この二人、絶対に困らせるだけだと思ってたな? さりげなく息子が、って自分たちは関係ないといわれた気もするし……まぁ、俺も桐条先輩のブリリアントが出てほっとしてるけど。

 

「……驚いたな。どうしてこれを選ぼうと思った? 率直に言わせて貰えば、これは一般的な女性への贈り物として適当とは言えないだろう。他の生徒からの贈り物にもこのような物は無かった。だから生徒間で情報のやり取りをして選んだとも思えない。まるで私の好みを理解していたかのような、絶妙な選択だ」

 

 まさにその通りだけど、素直に言うわけにもいかない。

 

「なんとなく、ですね。桐条先輩が好きそうだと思いまして。あとはまぁ……占いで」

「占い? ……ふふっ、そうか、占いか。そういえば君は以前にも占いをしていたな。本当なら君は占い師になるべきだと思うぞ」

 

 どうやら、桐条先輩にとても喜んでもらえたようだ。

 

 ……プレゼントは渡したし、情報もあらかた記録できたか。

 

「ありがとう。……久々に、心に響く贈り物だ」

「気に入ってもらえてよかったです。……それじゃ俺はこのへんで」

「ん? なんだ、君は帰るのか?」

「俺の役目はここまでの案内。バイクの話は父とジョナサンの仕事ですし、何よりあんまり長居すると外の人たちが、ね……」

「そうか、君は道案内を装っていたんだったな。あまり長引くと外の者にとやかく言われるかもしれないな」

「はい、そういうわけで失礼します」

「すまないな。面倒をかけて」

 

 俺は先輩にそう言い、父さんとジョナサンにも終わったら連絡するように一声かけて寮を出た。




影虎は遮光器土偶を期限ギリギリで手に入れた!
影虎は遮光器土偶をプレゼントした!
桐条美鶴は喜んでいる!
影虎は巌戸台分寮の情報を盗みだした!


お正月に書いたストックが切れた!
次回までちょっと日があきます。


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48話 親心ゆえに

 まさかこんなに上手くいくとは。

 

 寮から離れて記録した情報を確認すると、予想以上の成果が出ていた。驚いたことにあの寮、俺の予想よりセキュリティーがザルのようだ。

 

 もっと最新のセキュリティー設備でガチガチに固められているのかと思えば、元が古いホテルに手を入れた建物だけに扉や窓の鍵という鍵がアナログ。これならドッペルゲンガーを使って開錠できる。鍵の構造や通路も別途で記録してあるため、侵入は容易だろう。

 

 警報関係がどうなのかは疑問が残るが、通路の記録とあわせて住人の部屋の位置も掴めた。ガラッガラの部屋が沢山ある中に、大きな家具があったりサンドバッグが吊るされていたりするからどこが誰の部屋かが丸わかり。さらには四階の作戦室と思われる大部屋のそばに倉庫のような部屋がある。

 

 その部屋の内部には本や書類らしき物が多く、俺の間違いでなければ幾月の部屋か隠し部屋だ。幾月の死後は改竄(かいざん)されていない岳羽総一郎氏のメッセージが見つかるはずの。

 

 うまくやればあのメッセージを手に入れられるかもしれないが、問題は建物内部に取り付けられた監視カメラの数々。周辺把握で位置が掴めただけでも外より内側に向けて取り付けられているカメラが多い。小さくてはっきりと断言できないが疑わしい場所もあり、そういった場所も合わせるとかなりの数だ。

 

 ……こうも多いとまるで外敵よりも中の人間を見張るために作られたような気がしてくる。

 あながち間違いでもないだろう。幾月にとってはそのほうが都合がいいはずだ。

 

 しかしいくら外向きの警備がザルでも、何度入り込んでも問題ないとは思えない。

 入るとしたらチャンスは一度か二度だが、かなりの成果ではないだろうか?

 

 

 

 ……そういえば母さんはどうしてるかな?

 

 気分よく町を歩いていただけで別に目的もない。順平に電話かけてみるか……

 

「……………………あ、もしもし?」

『影虎? どしたん?』

 

 電話口から聞こえる順平の声。

 

「こっちの用がとりあえず終わったんで、そっちどうしてるかと思ってな」

『そっか。なら母ちゃんに電話かわるか?』

「そうしてもらえる?」

『じゃちょっと待って。雪美さーん………………もしもし虎ちゃん? どうしたの?』

「いや、父さんたち送って手が開いたから。そっちどうしてるかと思って。……というかどこにいるの?」

『虎ちゃんの学校』

「学校!?」

『行きたいところを聞かれたから、虎ちゃんの学校を案内してもらったの。それで部室を見せてもらって、江戸川先生や担任の先生にご挨拶をさせていただいたわ。

 今は虎ちゃんのお友達の女の子たちと会って、部室でお話をすることになったの。

 山岸さんも入れてみんな可愛い子ばかりね、虎ちゃん?』

 

 女の子って誰だ? 女友達となると山岸さんに……ああ、西脇さん、島田さん、高城さんあたりか。他に親しい女子生徒に心当たりないし。しかし学校にいるのか……待てよ?

 

「それには同意するけどそれよりも、部室に行ったなら小学生がいなかった?」

『天田君ね? ちょっとだけお話したわ。もう寮の門限だから帰ったけど』

「あ、そう……」

『あの子、やっぱり虎ちゃんが面倒みてる子?』

「母さんも聞いたのか。うん、夏休みに暇ならアメリカ旅行に誘おうかと思ってたから。まだ誘ってないけど……今日何か言ってた?」

『普通に挨拶をしたくらいだけど、そうねぇ……少し寂しそうだったみたいね』

 

 もう遭遇したとは間が悪い。明日にでも話をしておこう。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称視点

 

 ~応接室~

 

「はーい、わかったわ。また後でね、虎ちゃん」

 

 パルクール同好会の部室内、空き部屋を片付けて作られた応接室で電話を切った影虎の母、雪美が携帯電話を順平へと返す。

 

「ありがとね、順平君」

「いえいえ~、ところで影虎はなんて?」

「虎ちゃんもこっちに来るんですって」

「おやおや、そうですか……では、彼が来る前に話しにくいことは話しておいた方がよさそうですねぇ」

「先生、今日はお時間をありがとうございます。それから岳羽さんたちも、呼び止めちゃってごめんなさいね」

「いえ……別に。試験前で部活が早く終わったんで、問題ないですから」

 

 この場には現在、雪美と駅で出会った三人と江戸川だけでなく岳羽、高城、島田の女子三人の姿があった。所属している弓道部がテスト期間前で早めに終わり、帰りがけに挨拶回りをしていた雪美と遭遇し、話がしたいと呼び止められたのだ。

 

 この場に集まったものの、山岸以外は江戸川を警戒していることもあり少々落ち着かない様子を見せている。

 

「それで、聞きたいことがあると仰っていましたが」

「はい。うちの息子はこちらで上手くやれていますでしょうか? 本人との連絡では大丈夫だと聞いていますけれど、あの子はいつもそう答えるもので……」

 

 江戸川の言葉をきっかけとして頬に手を当て、困ったように話す雪美。

 それを見た周囲は納得し頷く者と色気を感じる者の二つに分かれた。

 

「そうですねぇ。私が見ている限り影虎君は物事に積極的に取り組み、後輩の面倒を率先して見る良い生徒です。受験や成績にあまり関係のない私の話もよく聞いてくれますし、以前は高い身体能力に目をつけた運動部から強引な勧誘を受けていたようですが解決しています。 今ではアルバイトも始めるなど自活力もあるようで、これといった問題はありませんね……クラスメイトとしてはいかがですか? 皆さん」

「運動神経のこととかでちょっち騒がれましたけど、それ以外はフツーじゃないっすかね?」

「クラスじゃ目立たないけど、あいつが嫌いとかそういう声はあんま聞かないよな? せいぜい桐条先輩とか運動神経絡みの軽い妬みの声を聞くくらいで」

「だなぁ。女子からするとどうよ? モテるとかは? 高城さん」

「私!? ん~、モテるかって聞かれても……」

「そういう話なら皆様子見じゃない?」

「だよねぇ。葉隠君って今年から月高に来たでしょ~? だから性格とか特技とか情報少ないし。……まぁルックスは普通だけど逆に言えば取り立てて悪いところもないってことだし、運動はできるでしょ? 勉強は……どうなんだろ?」

「虎ちゃんは成績良かったわ。体調不良やケアレスミスをした時以外、小中九年間のテストで九十点を下回ることなかったから」

「じゃ勉強はできると。兄弟は?」

「一人っ子よ」

「長男で親戚が会社経営、実家は持ち家ですか?」

「そうね、少しローンは残っているけど」

「お姑さんになるお母さんが美人で優しそうな雪美さんで、お父さんは厳しい人?」

「虎ちゃんには厳しく言うかもしれないけど、結婚相手にはどうかしら?」

「…………あれ? これで将来の勤め先と収入が良かったら葉隠君ってけっこう優良物件?」

 

 その時、島田のあけすけな分析を聞いた順平と友近は若干打ちひしがれていた。

 

「順平、俺今すっごい生々しい話を聞いた気がする……」

「おう……あんま女子の口から聞きたくない話だったな……」

「二人とも夢見すぎ~、女の子はそういうとこシビアなんだよ?」

「ちょっとぐらい夢見たっていいじゃん! つーか、島田さん的には影虎はアリなの」

「私はないね」

「優良物件とか言いながら、ナシなのかよっ!?」

 

 島田からの答えに順平が突っ込むと、島田は首を振って呆れを表す。

 

「やれやれ、女心が分かってないな~。女の子は確かに収入や顔もしっかりチェックするけど、それだけで決める訳じゃないんだよ?」

「ルックスやお金しか見ない女子もいるけど、それは男もでしょ。ようは個人の問題ってこと」

 

 岳羽の言葉に、順平は首を捻る。

 

「んじゃー島田さんは影虎のどこがダメなんだ?」

「ん~……なんていうか、葉隠君ってぴりぴりしてない?」

「人間なんだし、そういう気分のときもあるんじゃねーの?」

「そうじゃなくて。いつも、切羽つまってる感じ? 友達ならいいけど、彼氏にするならもう少し安心感が欲しいよ」

「そうかぁ?」

 

 男子二人のみならず女子である高城も首を傾げたが、ここで同意する者が二人いた。

 

「それ、なんとなく分かるかも」

「ときどき、あれっ? ってなるよね」

「岳羽さんと、山岸さんもわかる?」

「私、なんか葉隠君に避けられてるっぽいんだよね。壁を感じるっていうか……前聞いたら女の子に慣れてないとか言ってたけど」

「私は天田君が帰った後、葉隠君の個人練習を見てちょっとそんな時があった気がして……雪美さん?」

 

 話を聞いた雪美は表情を険しくしていた事に気づき、笑顔を見せて問いかける。

 

「その話、ちょっと詳しく聞かせてもらえないかしら?」

「詳しく、と言われてもそんな気がするとしか……」

「虎ちゃんが体調を崩したり、夜うなされたりしていないか、知らない?」

「体調不良なら何度かありますね。私と初めて会った日も体調が悪そうでした。それで薬を飲ませたのがきっかけでしたね、ヒッヒッヒ」

「そういやあの日、薬のおかげで一度治って夜にまたぶり返してましたよ? それで俺が部屋に夕食はこんで……引越しの疲れが出たとかで翌日には治ってましたけど」

「お母様、何か心当たりでも?」

「月光館学園に来ることを決めたのは息子本人ですが、もしかすると無理をしているのではないかと……」

 

 雪美はうつむきがちに語りはじめた。自分たちが来年に海外転勤を控えていること、共に海外に行くかそれとも親戚のいるこの町に来るかを選択させたことを。

 

「あの子、月光館学園に進学すると決めるまでに相当悩んでいたみたいなんです」

「それはほら、親元を離れるとか嫌だったんじゃないですか? 私も実家が遠くて、お姉ちゃんがいたけどそれでもちょっと心細かったりしたし……」

 

 高城がそう意見を言うが、雪美は首を横に振った。

 

「それは違うと思うわ。あの子は昔から手のかからない子で何でも自分でできていたから。頼られることも少なくて、寂しかったりもするくらいよ」

「ふむ、実家のそばの高校に通いたかったという事は?」

「いえ、それは特に。私たちが話をする前後にも、行きたい高校の話は特に聞いていません。成績は良かったのに地元の名門校には興味を示さず、スポーツの強い学校に行きたいのかと思えばそうでもなく。

 夫は“頭の分だけ俺よりいいから好きにさせてやれ”だなんて言っていますけど、私は心配で……そろそろ将来のことを考えてもいい頃なのに、あの子ったら毎日体を鍛えてばかり。

 それからこれはもう十年以上昔の話になりますが、あの子はこの町を怖がっていたようなんです」

「怖がっていた、と言いますと?」

「まだ幼稚園の頃の話ですが、あの子はある日突然、夜にうなされ始めたんです。それが連日、あまりに長く続くもので病院に連れて行っても原因はわからなくて……ただ診察をしてくださった先生は何か怖いものを見たショックが原因ではないかと仰っていたので、私と夫はその原因を探しました」

「? それでこの町が?」

 

 江戸川に向け、雪美はわからないと首を振る。

 

「……あの子はいつの間にか教えてもいないパソコンを使えるようになっていたので、何かおかしなサイトを見たのではないかという話になり履歴を調べたんです。でもおかしなサイトは一つもありませんでした。

 ただ履歴の中に巌戸台や月光館学園に関するページが履歴に残っていて、虎ちゃんが調べたことは間違いありません。でも当時は私たち家族にとってまったく関係のない土地だったので、無関係だとしか思えず。しかし他に原因となりそうなものも見つからず……

 虎ちゃんが体を鍛え始めたのもその頃からなんです。うなされている時には毎日同じ夢を見て、夢の最後には死んでしまうと」

「死ぬって、んな物騒な……」

 

 暗い雰囲気を払い飛ばそうと友近が出した声は、周りの困惑した雰囲気に呑まれ小さくなって消える。友近自身、周りと同じく予想だにしない話の展開に困惑していたのだ。

 

 そんな中で目を輝かせているのは一人だけ。

 

「ヒッヒッヒ、なるほどなるほど」

「江戸川先生? どうなさったんですか?」

「いえいえ、もしかすると影虎君が見ていたものは“予知夢”ではないかと思いましてね。ヒヒッ」

「うわ~……」

「始まった……」

「予知夢と言うものは本人が知りえない未来の情報を、夢を通じて知覚する現象です。これを行うための訓練もありますが、幼少期に見てしまうこともままありますね。予知夢に限らずこういった能力を幼少期に持っている人の話はよく聞きますが、その大半は成長に伴い能力を失います。ですが、まれに失わないまま大人に」

「はいストーップ!!!」

「なんですか伊織君」

「いきなり何言ってるんすか!」

「予知夢についてのお話を少々、真面目な話です」

「そーゆーことじゃねーって! いきなりそんな話されても雪美さん困らせるだけですって! 真面目かどうかは関係ないっつーか、マジに予知夢だったらそれはそれで縁起悪いわっ!!」

 

 あっけらかんと答える江戸川に騒ぎ立てる順平。話の場が騒がしくなる中、雪美の表情はよりいっそう曇っていた。




影虎は巌戸台分寮への侵入が可能になった!
原作キャラ、山岸風花・伊織順平・岳羽ゆかりの三名に影虎の情報が漏れた!!


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49話 真夜中の呼び出し

2/21/2016
サブタイトルを“真夜中の大暴れ”から“真夜中の呼び出し”に変更しました。


 5月8日(木) 影時間

 

 ~タルタロス・10F~

 

「はぁ……」

 

 シャドウのいなくなった階層で、持ち込んだお茶を飲み干した俺の口からため息が漏れる。

 

 10Fの番人シャドウはダンシングハンド。大きな手袋のシャドウが三匹いた。

 しかしこのシャドウ、魔法には強いが打撃が弱点だったので奇襲をかけて一匹蹴ったらダウン。

 それに驚いている他の二匹にも拳と蹴りを入れたら、そっちもダウン。

 これ幸いにと鉤爪を刺して、紐状のドッペルゲンガーで三匹を繋いで近くに集め、後はダウンから回復しそうな奴を優先して満遍なく打撃と吸血していたら勝っていた。

 反撃一つない勝利。あまりに一方的でちょっと心が痛んだ。

 

 しかしため息の原因のはそこではない。俺の行動の一部が順平たちに知られた事だ。母さんが俺を心配して様子を聞いたときに話したらしいが、その場には順平と山岸さんだけでなく岳羽さんまでいたらしい。

 

 この件で俺と彼女の関係はどうなるか……今でも敬遠しがちで良好な関係とはいいがたいし、より顕著になるか? それとも積極的に探りにくるか……下手に疑いを持たれると、どう動かれるか。

 

 おまけに順平たちとの勉強会の話もしていたようで、俺が到着したときには勉強会に女子も参加することが決まっていて、大人数になったことで江戸川先生から部室の使用が許可されていた。山岸さんも勉強会に参加するとの事で、明日がどうなるかもうわからない。

 

 それにもう一つ気になるのが天田の様子。あっちは電話しても繋がらなかった。問題が山積みだ……

 

 

 

 情報が少ないからか、いくら考えてもこれからの方針が決まらない。

 

 気分を変えようと1Fから10Fまでのシャドウを狩りまくりながら駆け上がってみたが、これで三週目。このままただ戦い続けても気分は変わりそうにない……実験にするか。

 シャドウから吸いまくったので体力は有り余っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~タルタロス・2F~

 

 場所を移して実験開始。取り出したるはルーンが刻まれた石。オーナーからの課題のため、影時間やタルタロスには持ち込んでいる。ここで拾ったオニキスにはパワーが込められていたので、なんとなく込めやすそうだから。

 

 では……今日は思いつくことを試そう。有効かどうかの判断は感覚で。

 

 その一、“手に持って祈る”

 

 パワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろパワー込めろ……

 

 どうもピンとこない……

 

 その二、“魔法陣を用意して使う”

 魔法陣はドッペルゲンガーで代用。手のひらの上にコンパクトケースのように平らで丸い台を作り、円周から線を刻んで六角星を描く。その中心に石を置くと、まぁそれっぽい。

 

 その三、“呪文”

 …………………………パワーを込める呪文を思い浮かばないのでパス。

 

 その四、“それっぽい音楽”

 

 ドッペルゲンガーで流せるかな? それっぽいのがあれば、あったけど……

 タイトルが“旧支配者のキャロル”

 これは、この曲でやったらなんかおかしなナニカが込められそうだ。パス。

 

 他には……俺なりのやり方でいいってことは他と違ってもいい。

 じゃあ俺がほかと違うのは……まずペルソナ使いであること。そういえばペルソナも魔法を使うよな? ルーン魔術とは違うけど。

 

 いやまてよ? 前にポズムディ(解毒魔法)を使って倒れた時はオーナーから力を注ぎ込まれて回復した。これって魔法の使い方は別でも使う力は同じ? だったら前に人を影時間に落とした要領で込めれば……

 

 台に乗せた石に向けてもう一度、今度は祈らずペルソナの力を送り込むつもりでやってみる。すると

 

「!?」

 

 体に力が漲ってきた!

 タルカジャを使った時の感覚を、だがタルカジャよりも強く感じる!

 

「あ、あれっ?」

 

 しかし、注ぐのを止めたらすぐにその感覚は収まってしまった。

 これは注いでいる間のみ有効なのか?

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 その後何度もパワーを注いで実戦でも使ってみた結果、以下の事がわかった。

 

 ルーン魔術の使用にはたぶん成功した。

 純粋な物理攻撃では一匹倒すのに五回は攻撃しなくてはならないシャドウを、“ウル”のルーン魔術を使うと一撃で倒せる。

 この事から“ウル”の効果はタルカジャと同じ。

 しかし攻撃力は五倍かそれ以上になり、タルカジャより強力な攻撃力上昇効果がある。

 ただし体感で魔力の消費も五倍かそれ以上、タルカジャより疲れやすい。

 おまけにタルカジャの効果が十分以上続くのに対して、“ウル”はほんの数秒間しか持たない。

 

 ウルのルーン魔術はここぞという時の一撃には使えそうだが、普段は燃費が悪すぎる……オーナーの作ったアクセサリーは長期間効果があるのに、なんでこうなるんだろう?

 まぁとりあえず成功したのはいいけど。ってか、いまだに雑魚シャドウ倒すのに五回も攻撃しなきゃならない俺って貧弱すぎ……?

 

 そんな疑問を抱きつつ、俺は実験を終わりにしてタルタロスを出た。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 5月9日(金) 深夜0時12分

 

 ~路上~

 

 人通りの無い道を一人さびしく歩く。実験終わった直後に気づいて出てみたら、寮に着く前に影時間が終わってしまった。普段は寮に帰り着くころに影時間が終わるが、今日はタルタロスに長居しすぎたな……ん?

 

 ポケットから携帯電話の音が鳴り響く。

 

「もしもし? ああ、父さん……え、今から? まぁいいけど……うん。じゃそういう事で」

 

 誰かと思えば父さんに呼び出された。

 

 もう寮の近くに居ると言うので急いで指定された場所へ向かうと、暗い道の街頭の下に見慣れないバイクを止めて缶コーヒーを飲む父が立っている。

 

「お待たせ。そのバイク、クルーザー? 新しく買ったの?」

「ジョナサン経由でパーツが手に入ったから組み上げたんだよ」

「なるほど、塗装までバッチリ入れて」

 

 そのバイクは親父が好む赤を車体を塗られ、一部に黒い龍の絵柄が入っている。

 

「父さんのバイクはいつもこれだな。おかげでわかりやすいけど」

「俺が現役だったころの名残だからな。流石にあの当時やってたような改造はもうできねぇや」

「鬼ハンとか? あれ扱いづらくないの?」

「そこはお前、慣れだ。慣れちまえば気にもならねぇ。それよかほれ」

 

 父さんの手元から、投げられたヘルメットが放物線を描いて飛んでくる。

 

「ケツに乗れ、ほとんど話もできなかったろう」

 

 俺は何も言うことなくヘルメットをかぶり、バイクの後ろに跨った。実家じゃよく乗せてもらっていたので慣れたものだ。

 

 バイクのエンジンがかかり、ゆっくりと走り出す。

 

「影虎、バイクの免許どうなった?」

「本買って学科試験は大丈夫なことを確認した。再来週が月光館学園の中間試験だから、その後で教習所通うつもり。そういえば貰えるバイクって……」

「そっちはもうだいぶ形になってるぜ。外見はカワサキのニンジャ250Rに近い。義兄さんが設計した新型でな、走行性能に重点を置いてる。完成まではもう少しかかるが、ターボエンジン付きでパワーがあるぞ」

「いきなりそんなパワーのあるバイクで大丈夫なの?」

「心配すんな、ターボも所詮はただのエンジン。気をつけて慣れていけばいい。それにターボエンジンは義兄さんの趣味で、ハンドルに付けたスイッチを押さねーと使えないようになってる。普段は普通のエンジンと同じだ。

 あとターボくらいで文句言ってると代わりに妙な機能付けられっぞ。一度緊急用の自爆装置が候補に挙がってたからな」

「どこで使えと!?」

 

 自爆装置とかいらねーよ!? そもそも開発してあるのかよ!?

 

「俺らも流石に止めたわ。義父さんの雷も落ちた」

「なら、一安心か……ところで話変わるけど、爺さんの具合はどうなの?」

「元気だよ。最近はお前のバイクの事を理由にベッドから出て会社に顔出すことが増えた。義父さんもお前のこと気にかけてるぜ? 風邪ひいてないか、ちゃんと学生生活を楽しめてるかってよく聞かれるよ」

「今度手紙でも書いて送ることにするよ」

 

 具体的な目的なく喋りながら、俺と父は街中を走る。

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 ~ポートアイランド駅前はずれ~

 

「……で、なんで俺たちはこんな所に?」

 

 俺は話をするためのツーリングだと思っていたが、駅前でバイクを止めた父さんに連れられてきた。面倒ごとの匂いしかしねぇ。近づいた瞬間ドッペルゲンガー召喚したよ。

 

「父さん、このあたりは治安悪いよ」

「んなこたぁ言われなくたって分かってるよ」

 

 もう何人かがらの悪そうな人とすれ違ったからな。

 ……でも一番悪そうなのはうちの父だったが。

 父さんを一目見た不良が目線をそらして通り過ぎるので、俺たちはまだ絡まれていない。

 早いところ

 

「お前らちょっと待てや」

 

 絡まれた。面倒事になる前に出て行きたかったのに……

 

 警戒して振り向くと相手は五人組。先頭に立つ金髪に鼻ピアスをした男が声をかけてきたようだが

 

「お前ら誰に断ってこ、の……」

 

 同時に振り返った父を見て、男の勢いがなくなっていく。

 

「ちょっと、あの後ろの人マズくない?」

「あれ絶対ヤクザだって」

「あたしら関係ないし……逃げようよ」

「ちょ、ちょっと待てよ」

 

 後ろの三人はガングロギャル、それを引き止める男二人。

 もうグダグダだけど、こいつらはこの前のカツアゲナイフ男ほどやばくは無さそうだ。

 

 そんなことを考えていたら、父さんがおもむろに相手へ近づく。

 

「ヒッ!?」

「な、んだぁ!?」

「お、おう!」

 

 女たちはあとずさり。虚勢を張った男二人に、父さんは……どうしようもなく厳つい笑顔を見せた。

 

「悪いな。俺らが他所者だってのは百も承知だが、どうしても後ろの奴と人のいねぇ所で話がしてぇんだ。この辺を荒らすような真似をするつもりはねぇ。ちっとばかり場所貸してくれねぇか」

 

 そう言ってポケットから取り出した何かを、笑顔を見て逆に怯える金髪男に突き出す父。

 男は突き出された物を見て動揺し、目の色を変える。

 

「万札?」

「少ないが、美味い物でも食ってくれや」

「ま、まぁ、そういう事なら……」

 

 引っ込みがつかなくなりかけた男二人は、ここを落とし所にしたようだ。

 そこにやり取りを後ろで見ていた女の一人が口を開く。

 

「……ねぇ、アンタらこのまま進むとアタシらみたいなのが溜ってる広場になるよ」

「夏紀!?」

「話は通じそうだし、金貰ったんだからさ……

 そこ行ったらコイツらみたいに絡んできそうな奴大勢いるし、人のいない場所に行きたきゃ別の道行きなよ」

「そ、そういう事ならいい場所があるぜ」

「なんなら案内してやるよ」

 

 態度を変えた男二人が、負けじと前に出るが後ろでは

 

「はぁ? 何でそこまでしなきゃなんないの? もうどっか行こうよ」

「大口たたいてた割に情けないし……どうする?」

「なにか奢らせとけばいいんじゃない?」

 

 ガングロギャルはもう男二人を見限っている……ん?

 もしかしてあの中にいるのって……

 

「森山?」

「はぁ? ……なんであんたアタシの名前知ってんの?」

「まさかと思えば本人か……」

「影虎、その女知り合いか?」

「学校の同学年にいる生徒だよ、遊んでるって噂の。前に何度か見かけたことがある」

「何? アンタも月高の生徒なの? アタシとタメってことは一年、もしかしてアンタあの江戸川を部活の顧問にした葉隠影虎?」

 

 げっ、こいつも知ってるのかよ。

 

「噂じゃ優等生っぽかったのに、こういうとこ来る奴だったんだね」

「つれて来られたんだよ、ほとんどむりやり」

「……アンタ何やったの?」

「何もしてねぇよ! こっちが聞きたい!」

「まぁ、話は話せる場所に着いてからにしようぜ。案内してくれんだろ?」

 

 何を考えているのか分からない父の言葉で男二人が案内を始め、俺と父さん、森山たちもそれについて行く。

 

 何度か曲がり角を曲がった先にあったのは、バスケットボールのコートよりわずかに小さい広場だった。大きな金属製のゴミ入れが立ち並び、まわりの壁は落書きだらけの荒れ放題で人はいない。いるのは野良猫とカラスだけだ。

 

「ここか?」

「ああ。ここは誰も仕切ってねぇし、臭いから人も来ないぜ」

「たまに喧嘩する奴らが使うくらいさ」

「そりゃぁいい! お(あつら)え向けだ!」

「……なぁ、そろそろ何で俺を連れてきたか教えてくれないか? 父さん」

 

 そう言うと後ろで親父とかヤクザの息子とか聞こえてきて鬱陶しい……

 

「まぁ、そう慌てんな。まず先に礼を言うぜ、つれて来てくれてありがとよ」

「ん、あ、おう。このくらいならな………………もう用が無いなら、俺らは行くぜ」

 

 不良五人はこちらを気にしてはいたが、男も女もそろって広場から出て行く。

 そして完全に姿が見えなくなると、父さんは広場の中心に立って俺を手招きした。

 

「さて、お前をここにつれてきた理由だけどな……人目につかずに話がしたかったからだ」

「なら他にも場所はあったんじゃないの?」

「ただ人目につかないだけなら、なっ!」

「!?」

 

 近づいた俺に、父さんは突然殴りかかってきた。

 とっさに反応して避けることはできたが、拳の振りで生まれた風が頬を撫でる。

 

「……初めからこのつもりで?」

「そういうこった。殴り合いをやってりゃ近所の誰かが気づいて通報するかもしれねぇ。だからもし見つかっても通報されにくい場所に連れてきたのさ」

「にしても何で急に?」

 

 父さんの手が早いのは知ってる。

 文句があれば言葉でも拳でも何でもいいから意思表示しろ。

 そう言われて、殴りあったことは何度もある。

 だけど、ここまで手の込んだことをされるのは初めてだ。

 

「なぁ影虎……お前を初めてバイクに乗せてツーリングした日のこと、覚えてるか?」

「? いや、結構昔だからはっきりとは……」

「お前が真夜中まで眠らなくなってからだ」

「!?」

「お前は昔から大人しかった。雪美に似たのか頭の出来が俺とは違って手もかからねぇ。そんな息子が突然泣き出して何かに怯えるようになった。その気晴らしになればと思って俺が強引に乗せたんだよ。

 まぁ、覚えてなくても仕方ないな。お前もガキだったし、最初は回りを見る余裕もなかっただろ。そのくらいあの時のお前は怯えてた。

 で、聞けばお前こっちに来て何度か体調崩してるそうじゃねぇか。俺はそんな話聞いてねぇぞ、何で話さなかった?」

「連絡するときには治っていたから」

「そうかよ!」

 

 殴りかかってくる拳を右に避けて距離をとる。

 

「あの時と同じだな。お前に話す気がねぇならこっちから聞かせてもらうぞ」

 

 その一言で俺は思い出した。

 

「そういえば、悪夢の話をした時もこんな感じで聞かれたっけか」

「ガキだった分、相当手加減したけどな。今はその必要もないだろ」

 

 ……話し合いで済ます、ってのはもう無理か。話せないことが多すぎる。

 心配してくれているのはわかるけど、父さんたちは影時間の事に対して無力だ。

 ドッペルゲンガーを使えるようになった今なら、理解させられるかもしれない。

 父さんと母さんなら、もしかしたら信じてくれるかもしれないが、知ったところで適性が無いから影時間を知覚することすらできない。俺が落としても翌朝には忘れてしまうんだ。

 

 空手の構えを取る。

 それだけで十分に抵抗の意思は伝わった。

 

 視線が交錯して一拍の後、月明かりの下で親子喧嘩が始まる。




影虎はルーン魔術の使用に成功した!
しかし問題点が山積みだった!
影虎は父親に呼び出された!
親子喧嘩をする事になった!
父心が暴走中!
……どうしてこうなった?


次回もだいたい同じくらいの間隔で投稿すると思います。


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50話 真夜中の泥仕合

「らぁっ!」

 

 眼前に拳が迫る。避けるとその後ろから、さらに避ければまたさらに後ろから。左右の拳が続けざまに飛んでくる。父さんの拳は大振りのテレフォンパンチ。

 

「……!」

「オラオラオラオラ! どうした!!」

 

 にもかかわらずやたらと回転が速い! しかも威力があるんだろう、空気を切る音が耳につく。

 

 ……だが、見える(・・・)

 

「チッ!?」

 

 一瞬の隙を突いて放った蹴りが父さんの顔を襲う。

 避けられはしたが、今日までの実戦経験が活きていた。

 父さんの手数は多いし速いが、集中していれば避けられる。

 

 回避を確実に、その中で隙を見て、蹴る!

 

「っ! ちょこまかと動きやがって」

 

 もう一度顔を狙ったつま先蹴り、今度は避けずに腕で防がれた。イラついたような口ぶりで変わらない威力と速さの攻撃を続けてくる。

 

「……」

 

 しかし、それを何度か繰り返すと父さんは急に手が止まる。

 すぐさま俺は空いていた脇腹に狙いを定めて蹴ると、蹴りは防がれず綺麗に叩き込まれた。

 

 だが

 

「なっ!?」

「オラァ!」

 

 脇腹を蹴った右足を左腕で抱え込まれた。

 それを理解したと同時に父さんの右手が俺の胸倉を掴む。

 

「っ~!?」

 

 次の瞬間、引き寄せられた頭に鈍い痛みが響く。

 頭突き……!

 

 俺も父さんの胸倉を掴み突っ張ることで次の頭突きを防ぎ、今度は空いている右手で思い切りあごを殴りつけてやる。

 

 すると父さんは表情を歪めてながら片足を蹴り上げた。

 俺は右手を金的狙いの足に叩きつけて押さえ、そのまま足をとる。

 

「っ……邪魔だなこの足っ!」

「そう思うなら、放せばいいだろ!」

「金的狙ってるとわかってて放すかっ! そっちこそ放せば!?」

 

 お互いに片足を取られ、相手を制すために手も出せない状態はやがて転ぶまで続き、立ち上がる際にようやく距離が開く。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「シャァッ!」

 

 交互に痛みを与えて、もう何度目か分からない攻撃。

 肉を叩く音と、俺たちの呼吸だけが月明かりに照らされた広場に響き続ける。

 音は外で鳴っているのか頭に響いているのかが曖昧になってきた。

 

 初めより遅く殴りかかってくる拳を回避し、外に踏み出した左足を軸に蹴り。

 

「おうっ!? ラァ!」

「うっ! くっ……」

 

 腹を蹴ったが、その足を捕まれてこっちも腹を蹴り返された。

 腹の底から不快感が迫りあがる。

 強い……というか番人シャドウでもここまで苦戦しなかったぞ。

 

 俺の攻撃は当たるが、父さんは一向に倒れない。

 逆に攻撃をあえて受け、俺の手足を攻撃直後に掴み取って確実に攻撃を当ててくる。

 普通の攻撃は避けられるけれど、掴まれては動きが制限されてしまう。

 強制的に我慢比べをさせられている状態だ。

 

 しかも父さんの攻撃は一発一発が重い。

 意識も足もまだしっかりしているが、打撃耐性があっても痛いし何度も食らえば苦しい。

 

「ごほっ……ふぅ……なかなかやるじゃねぇか」

「父さんこそ……」

「昔は族の頭張ってたんだ。この位、できて当たり前よ」

 

 泥臭くお互いを痛めつけ父さんも足元がふらつくが、すぐに立ち直り余裕そうな言葉を吐く。

 効いていないはずはないが……まだ足りないのか。

 でもここまでやって、いまさら引くつもりはない。

 呼吸を整え、足を踏みしめる。

 次の一撃をより強く、より速く放つために。

 

「へっ、そろそろ焦れてきたか?」

 

 父さんの言葉は無視。

 考えるべきは戦うことと次の一撃だけでいい。

 

「だんまりか、ならこっちから行くぜ!」

「!」

 

 先に動いた?

 

 最初と同じかそれ以上に激しく襲い掛かってくる二つの拳を避ける。

 当たらないからやめたんじゃなかったのか?

 ……父さんの思考回路は時々理解不能。それよりも集中。

 避け続けていると背後に路地の壁が近づいている。その横には金属製の大きなゴミ入れ。

 追い込まれないよう思い切り、横っ飛びの側転で強引にその場を抜ける。

 

 ? 小さく舌打ちが聞こえた気が……っ!

 

 休む間を与えない追撃の手が伸びてくるが、その勢いが若干衰えている!

 回避に徹する俺と攻撃に徹する父さん。

 これまでに蓄積したダメージや疲労とあわせて、ようやく明らかな疲れが見えてきたか?

 

 ならばチャンスも近いはず。

 はやる気持ちを抑え、疲れた体に気合を入れる。

 

 ……

 

 そして、時は来た。

 

「ハァッ、ッ!」

 

 息を荒げていても手を緩めようとしなかった父さんの手が、意思に反して止まる。

 

 気づけば俺は懐に飛び込んでいた。

 一瞬後れて放たれる右の拳を、顔を傾けて避け、引き絞った貫手を鳩尾へ突き出す。

 指先は狙い通り鳩尾を捉えた。

 シャドウ相手に使う槍貫手のように伸ばすことができない分、踏み込む足の力を胴体へ、そして腕から指先へと伝達し、体ごとぶつかる様に押し込む。

 深々と手が肉に食い込んだ感触を確かに感じ……

 

 ()()()()()()

 

 

 

 

 

「!?! あ、っつう……」

 

 何が、起きた?

 

 気づけば俺が倒れている。

 唯一分かるのは視界がぶれた直後、頭に強い衝撃を受けた事。一瞬景色が回って目の前が暗くなった気がした。投げ技……? 父さんはどうなった?

 

「……! ……!!」

 

 すぐに見つかった。

 隣で腹を抱えてうずくまり、悶絶しながら胃の内容物を吐いている姿は、景色が揺らいでいても分かる。

 

 貫手の手ごたえは確かにあった。

 そもそも貫手というものは伸ばした指の先で打つ打撃。

 指先の鍛錬を行わずに使えば怪我の元にしかならないが、普通の拳よりも相手に接する面積が小さいだけに威力も大きい。

 そのため通常の試合での使用は禁止され、最近では初心者に教える型から貫手で行う部分を意図的に拳に変更して教える道場もあるくらい危険な技だ。

 それを急所である鳩尾に叩き込まれればあの状態も当然だろう。

 というかあれが効いてなかったら呆れるか困る。

 

「ぅっ」

 

 浮遊感のある足に力を込めて目の前のゴミ箱を支えに立ち上がると、ほぼ同時に父さんも鳩尾をさすり猫背になりながら立ち上がり、目が合う。

 

「まだ、立つかよ」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 

 自分も立ち上がっておいて何を言うか。

 

 苦戦も一周回って笑いがこみ上げてきた。体の痛みもいつの間にか消えている。声を漏らすと父さんが凶悪な笑顔で笑う。

 

 ……こうなったらとことんやってやる。根競べの再開……

 

「ちょっと!」

 

 ……が、突然割り込んできた女の声に遮られる。

 

 取り込み中に誰かと思えば

 

「森山か……?」

 

 声の主が、ここへ通じる路地で息をきらせていた。




影虎は魔法を使わず父親と殴りあった!
脳内麻薬が出ている!
路地裏から森山が飛び出してきた!

投稿した話が五十話に届いたので、これを機に今まで登場したオリジナルキャラクターについて軽くをまとめたものを掲載することにしました。
どんなキャラか分からなくなった時にでもご利用ください。
原作キャラはまた別に用意する予定です。


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51話 真夜中の大暴れ

 森山の様子がおかしい。

 

「案内の女か、どっか行ってろ!」

「待って! 助けて!」

 

 彼女は必死な声で助けてと叫ぶ。それを聞いて父さんも彼女の様子に気づいた。

 

「……何があった」

「ミキとレイコが捕まったんだよ! この辺で幅きかせてる不良グループに!」

 

 たぶんあの時一緒に居た女二人、それが捕まった。どう聞いても穏やかじゃない。間違いなく面倒事だ。

 

「ちょっと離れて戻ったら絡まれてて! 男二人が抵抗してたけど囲まれてて! それでアタシに戻ってくんなってメールが!」

「普段こういう時はどうしてんだ? 騒ぎが起きたら収めに来る奴の一人や二人いるだろ」

「いるけどいないんだよ今日に限って! 普段しゃしゃり出てくる奴は相手が多いってビビッて逃げたし、集団相手でも首突っ込む奴は体調が悪かったらしくて、どっか行って見つからないし……もうアンタらくらいしかいないんだよ……」

 

 藁にも縋る気持ちなのは分かった。

 しかし俺は同時に自分の中の小さな鬱憤が膨れ上がるのを感じる……

 

 俺はお前らと困った時に助け合うほど親しくないだろう。

 なんといっても今日、さっき数分案内された時が初対面だ。

 

「どいつも、こいつも……次から次に面倒事ばかり持ってきやがって!!!!!!!」

「ひっ!?」

 

 我慢できずに怒鳴ると、森山に引かれた。

 別にお前だけに言ったわけじゃない、いや、誰かに言おうとして言ったわけじゃないが。

 というか怒るとしてももう誰に怒ればいいのか……もういいや。

 

「親父! 一時休戦な!」

「ぁあ゛ん!? お前助けに行く気か?」

「えっ?」

「聞いた以上無視も気分悪いだろ。無視したらそいつらがろくな事にならないのが目に見えるし、後味悪すぎるっつーの……ったく何で余計な面倒事ばっかり集まってくるんだよ」

「大変だな」

面倒事の一因(親父)が言うな!! いきなりこんなとこつれて来られてボコられた後に厄介ごと持ち込まれる気持ちになってみろや!!

 うっ……」

 

 気持ち悪っ……急に頭に血が上ったからか。

 

「ね、ねぇ、アンタ、大丈夫なの?」

「ああ゛? ……だめだ、返事が親父みたいになってる」

「親に向かってなんて言い草だ、ったく……おい、場所はどこだ?」

「! 来てくれんの!? こっち! ついてきて!」

 

 誰だか知らないが、さっさと片付けてやる……

 

「……溜め込むからそうなんだよ、ったくよ……おら行くぞ影虎!」

「言われなくても!」

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辰巳ポートアイランドの一角にある駅前広場はずれは、溜り場として多くの不良が集まる場所。そこに繋がる暗い狭い路地のひとつで、二組の男女が九人の男に囲まれている。さらに輪の中では二人の男が痛めつけられていた。

 

「オラッ! 立てよオラッ!」

「ぅ……」

「やめ、て、くれ……もう」

「まだ喋る余裕があるみたいだな?」

「ぐふっ!?」

 

 路地の前後に三人ずつ。武装した男たちに道を塞がれ、残る三人に暴行を受けた彼らはまともに立つことすらできていない。血と脂汗を滴らせながら、路地の中央でうずくまっている。

 

 そして俺はその様子を夜の暗闇に紛れ、路地の()から見ていた。

 

 ドッペルゲンガーの暗視と望遠効果が働いたために相手より先に状況が分かり、ただ飛び込むのは不味いという話になったからだ。戦うにしろ穏便に済ませるにしろ、助けたい奴が敵の中じゃ都合が悪い。

 

 しかし頭で理解できても、これは見ていて気分が悪い。親父は何してんだ? 一人で突っ込むなとか言っといて……窓枠にぶら下がるのも楽じゃないんだが……

 

 いつでも飛び込める用意を整えて待っているのに合図がこない。

 

「ハァ……なぁ、そろそろ終わりにしねぇ?」

 

 暴行を加えていたうちの一人が、飽きたとばかりに提案した。

 

「こんなガキ共ボコるよりさぁ、そろそろお楽しみの時間にしようぜ?」

「「ひっ!?」」

 

 軽薄な笑い声が路地に広がり、下品な視線が肩を抱き合い壁際で怯える二人の女子に集まる。

 

 ……こいつらクソだな。

 

「待てよ、まだ終わってねぇだろ」

 

 ? 一人だけ反対する奴がいる。まだ痛めつける気か? もう十分だろ……

 

「まだやんのかよ? こいつらもう何もできないぜ?」

「当たり前だろ、こいつら俺らに逆らったんだぜ? 素直に女を差し出せば見逃してやるっつったのによ。俺らを舐めてんだろ」

「弱いくせに女の前でカッコつけようとしたのにはムカついたけどさぁ、もうよくね? つかもうめんどいわ。あとはその女共に責任取らせればいいんじゃね? こいつらが俺らの気分悪くした分もさ」

「おっ! いいねー、ナイスアイデア!」

「ざけんな! 徹底的にやんだよ!!」

 

 男は仲間の提案を一蹴する。随分と機嫌が悪いみたいだ。

 それにしても以前絡んできたカツアゲナイフ男といい、こいつらといい、本当にこの辺のヤンキーは危ないな……順平が“マジで漫画みたいに荒れてんだって!”とか言ってた気がするが、本当にその通りだ。

 

「あ~あ、マジ怒りじゃん」

「やめとけよ、シュウのやつ最近機嫌悪いから。好きにさせてやれって」

「つか何であんな気ぃ立ってんの?」

「あれ、お前聞いてねーの? 最近隣に引っ越してきた説教ババアがウザイんだってよ」

「そんな理由かよ、あいつらも災難だなぁ」

「お前らうっせえぞ! おら立てよ!」

「「きゃっ!?」」

 

 仲間の話が気に障った男は、怒りを目の前の怪我人にぶつけるつもりだろう。

 今まで痛めつけていた男を一人、胸倉を掴んで無理矢理立たせて路地の壁に叩き付けた。真横に居た女二人の悲鳴があがり、シュウと呼ばれた男の拳が振り上げられる。

 

 もう待てない! ……と飛び込もうとしたその時。

 

「うっ!?」

「ぇ……?」

 

 不良の輪に投げ込まれたジュースの缶が、胸倉を掴む手を打った。

 驚きか苦悶の声が上がり、手が離れ、立たされていた男が崩れ落ちる。

 缶がガラガラと耳ざわりな音を立てる中、俺の目は近づいてくる親父の姿を捉えた。

 

 ……遅いぞ、まったく……

 

「ってえな誰だ!?」

 

 痛む腕をかばう不良(シュウ)が缶の飛んできた路地へ向かって怒鳴り、周りを囲む仲間も同様に、警戒心をむき出しにして路地を睨む。

 

 今だ。

 

 俺は体を支えていた手を放し、注意のそれた囲いの中心へ落下。

 

「っ!」

 

 地面を転げることで衝撃を逃がして起き上がるが、目と鼻の先にいる不良はこちらを見ていない。

 

「空気をー」

「あがっ!?」

「読まずにー」

「だれがっ!?」

「失礼致しますっ!」

「あうふっ!? ……! ……!!」

 

 奇襲成功。適当な声を上げながら速やかに近い相手から三人叩いたが、自分に何が起こったかもよく理解できていないみたいだ。

 

「!? てめぇ誰だ!?」

「何しやがった!?」

「つかどっから出てきやがった!?」

「ってぇ……お前ら何やってんだ! ちゃんと見張ってろよ!」

「俺らは通してねぇ!」

「こっちも通してねぇよ!」

「じゃどっから来たんだよ!」

「そいつ、今上から降ってこなかったか……?」

「んなことできるか! やったとしても音で気づくだろ!」

「お、俺にはそう見えたんだよ!?」

 

 自分たちが道を塞いで入れないはずの場所に忽然と現れた俺。

 地面には転倒させられた三人の仲間。

 二人は顔や腹を押さえながらも立ち上がるが、一人は股間を容赦なく蹴ったせいで顔に脂汗を浮かべ立ち上がる気配がない。

 

 どうも隠蔽能力が着地の音まで隠していたらしく、いまや不良の目は俺に釘付け。

 表情から動揺しているのがよく分かる……けど俺ばかり見て、どっちが通したなんて言い合いをしていていいのか?

 

「しゃぁああ!!!」

 

 気合の掛け声とともに路地から親父が飛び込んできた。

 路地を塞いでいた不良をなぎ倒し、後に続く森山を連れて駆け抜ける。

 

「ミキ! レイコ!」

「「夏樹!?」」

「大丈夫だった!? 怪我してない!?」

「うちらは何も……でもあいつらが……」

「それより何できたの!? くんなって言ったっしょ!」

「そんなこと言われてほっとける訳ないじゃん! 必死に助っ人探したんだからね!?」

「助っ人ってこの二人……」

「待ちくたびれたよ、親父」

「そいつは後ろの馬鹿女に言え。そいつが一緒に飛び込むって聞かなかったんだよ」

「お前のせいかよ森山ァ!」

「し、仕方ないじゃん! 頼んどいて一人で逃げるわけにいかないし!」

「お前変なとこ律儀だな!?」

「訳わかんないキレ方しないでよ!?」

 

 俺と森山の言い合いを呆然と見上げる女二人、そこで声がかかる。

 

「……はっ、そういう事かよ。お前らそっちの女共のお友達、ってわけだ……舐めてんじゃねぇぞこの野郎! テメェら俺らが誰なのか分かってんのか!? ああ?」

「いや、知らねぇ」

「俺らここ来たの初めてだしな」

 

 声を張り上げて凄んだのは、最後まで暴行を続けていた不良のシュウ。しかし俺たちはまったく気にすることなく受け流した。

 

「さてと……いきなり割り込んですまねぇが、ここまでにしてもらえねぇか? こいつらもうろくに動けそうにねぇ、こんだけやれば十分だろ」

 

 傷だらけの男二人を横目に見て、睨みをきかせる親父。

 その顔には目の前の不良たちの所業が気に入らないと、ありありと書かれていた。

 

「っ!」

「……おい、シュウ……」

「ビビんな馬鹿野郎!! 相手はたった二人、しかもよく見りゃどっちもボロボロじゃねぇか! まとめてやっちまえばいい!」

「穏便に済ます気はなさそうだな……なぁ父さん、族とかヤンキーって全員こうなのか?」

「その言い方はお前、偏見ってもんだ。族にもいろんな奴がいる。あと俺らとこいつらを一緒にすんじゃねぇよ。俺らはバイクかっ飛ばすし喧嘩もしたが女に手を上げたことは一度もねぇ。女を無理矢理どうこうしようとする奴はただの屑だ」

 

 八人の不良たちは怒りで動揺から覚め殺気立ち始めた。

 それぞれが手に持った武器を握りなおし、威圧的な態度で輪を狭め

 

「屑とは言ってくれんじゃねぇか……」

「お前らさぁ、数も数えられないの?」

「てめぇら生きて帰れると思うなよ!?」

「ぶっ殺す、ぜってぇぶっ殺す」

「やっちまえ!」

 

 こうして二対八の喧嘩が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「親父は右任せる!」

「応! 女の方に通すなよ!」

 

 相手はそれぞれ四人ずつ。俺の相手は近いほうから鉄パイプ、メリケンサック、特殊警棒、バット……あ、あとポケットに折りたたみナイフもあるか。

 

 不思議だ。相手の動きがいつもよりよく分かる。

 親父と殴り合っていたままの怒りや高揚感は残っているのに、普段より冷静に頭が働いているかもしれない。

 何よりも体の痛みが完全に消え、手足が軽く、今ならいつまででも戦えそうなくらい気分がいい!

 

 ふらりと一歩前へ出て上段への回し蹴り。

 体の横を鉄パイプがブン! と音を立てて通り抜け、回し蹴りが不良の横顔を打つ。

 

 斜めに踏み込み、正拳突き。

 今度はメリケンサックをはめた拳が顔の横を通り抜け、俺の拳ががら空きの腹へ突き立つ。

 流れるように顎にも一撃。

 

 横から襲い掛かる特殊警棒。大丈夫、壁にぶつかるほど横に跳べば当たらない。

 そのまま壁を蹴って三角蹴りを食らわせ、ふらついた相手を転がす。

 

 考えた時にはもう体が動いている。まるでドッペルゲンガーを暴走させた時のようだけど、体を動かしているのは紛れもなく自分自身だ。

 

「なぁっ!?」

「……こないのか?」

「う、うおぉ!!!!」

 

 バットを持つ男は先にあしらわれた三人を見てたじろぎ、何気なく呟いた言葉で向かってきた。単調な振り下ろしを半身で避けて足を掛け、下がった頭に手刀を落とす。

 

「うらぁ!! どうしたぁ!? こんなもんかテメェらは!?」

 

 親父は……さすがと言うか、場慣れしてるな。きっと不良の誰かから奪ったんだろう。腕に巻いた鎖を籠手代わりに使って武器を受け止め、襲い掛かる不良を何度も殴り倒している。欠片ほども苦戦をしていない。

 

「よう、随分と調子が良さそうじゃねぇか影虎」

「自分でも驚くくらい快調だよ……実力的にも心情的にも、親父よりこいつらの方がよっぽど戦いやすい。好き好んで父親を殴るほどの親不孝者になったつもりは無いからね」

 

 刈り取る者より怖くない。親父よりも遅いし弱い。

 数は多いが、タルタロスの雑魚シャドウよりは少ない。

 はっきり言って、こいつらじゃ相手にならない。

 こうして軽口が飛び出る余裕まである。

 

「俺も息子を趣味で殴るような糞親父になった覚えはねぇな。……最初ッからその面してやがれ!」

 

 向かってくる不良をかすり傷一つ負わず会話を挟んで対処していると、不良の余裕が消えていた。

 

 八人全員が軽くあしらわれ、一通り殴られれば警戒もするだろう。

 仲間がやられ、自分の番が来る。それを三度、四度と繰り返せば表情に諦めの色が浮かぶ。

 さらに続けると立ち上がるのをやめて傍観する奴が増え。

 

 やがて誰も攻め込まなくなった。

 

「なんだこいつら……」

「クソ強えぇ……」

「そろそろいいか? 俺とコイツは後ろの女と男に手を出さないでくれるならそれでいい。……だからもう終わりにしねぇか? このまま続けたってそっちに得なんか無いだろ。ここらで手打ちにしようや。なぁ?」

 

 相手の心が折れたところで親父が改めて全体を見回し、話を切り出す。

 すると少し迷う素振りを見せたが、シュウと呼ばれていた男が口を開いた。

 

 

「……そいつらにはもう手をださねぇ。それでいいんだな?」

「俺たちを誰かに襲わせる、なんてのもナシだぞ?」

「分かってるよ! お前らにもかかわらねぇ、人に襲わせたりもしねぇ、それでいいんだろ!?」

 

 ストレガの件があったので俺が口を挟むと、自棄になって返事をされた。

 親父のほうを見ると、黙って一度だけうなずく。これで一件落着ということだろう。

 

「それでいい」

 

 俺の言葉を聞いた不良共は、それぞれ肩を貸しあうなどして、一人残らず足早に立ち去った。

 

「なんとかなったな……おい、大丈夫か?」

 

 壁に寄りかかっていた金髪鼻ピアス男ともう一人、茶髪でチャラそうな男に声をかける。

 すると二人は手を上げたり頷いたりして答えを示した。意識はしっかりしているようだ。

 

「あ、あざっす」

「助かったっす、マジで……」

「無理して喋らなくていい、そのまま休んでろ」

「よく耐えたな。影虎、ここらの薬屋で近いのはどこだ?」

「この時間じゃどこも閉まってるよ。病院は?」

 

 たとえ病気に罹っても行く気がなかったので調べてもいないが、大きな道に出てタクシーを拾えばなんとかなるだろう。

 

「病院はダメだ。こう喧嘩の傷だと明らかに分かると警察に連絡されちまう。それにこいつらどう見たって未成年だ、補導されちまうだろ」

「……俺らなら、平気っす。怪我とか慣れてるんで……」

「ちょっと休んだら、自分らで帰れます……」

「そうか……なら俺らは退散する。もう俺らはいらないだろ」

「え、うん……こいつら連れてくくらいならアタシらだけでも何とかなるし……」

「よし影虎、もう遅いし帰るぞ!」

「は!? ちょっ! 連れてきておいてそれか!?」

 

 唐突な一言と共に、親父はもう大通りへ歩き始めていた。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 結局親父は何がしたかったのか、いまいち分からないままバイクに乗って寮の近くまで戻ってきた。

 

「うし、じゃあ元気でやれ……なに不景気な面してんだよ」

「不景気な面にもなるっての。まだ何か企んでるかと思えば、本当にまっすぐ戻ってくるし」

「あぁ。最初は色々言ったがな、もういい。俺も若い頃は親に隠れて色々やったもんだ。無理に聞き出す気はねぇ」

 

 耳を疑った。そして理解できると呆れてしまう。

 

「軽ーく言うなよ、それじゃ今日の喧嘩なんだったって話になるだろ」

「ちょっと殴られて吐くくらいの秘密と半端な覚悟なら、とっとと吐いちまった方がいいと思ったからな。お前が本気なら、ちょっとした悪さでも見逃してやる。

 俺がお前くらいの頃は毎日馬鹿やってたが、今のお前もまだそれが小言で許される歳なんだ。お前がやりたいと思うようにすればいい。今日はスカッとしたろ?」

 

 まぁ……終わってみれば確かにそう言う部分があるのは否定しないが……釈然としない。

 

「あいつら助けたみたいに、たまには気軽に気分で動いてみろ。気持ちと体が別方向向いてるようじゃ余計に疲れちまう。

 俺は絡まれたダチを助けてたらいつの間にか族の頭になってたが、やりたいようにやった結果だ。周りから色々と言われても後悔したことは一度もねぇ。お前もどうせやるなら悔いなくやれ」

 

 言いたいことはなんとなくわかってきた。

 要は、やっぱり心配してくれていたんだろう。けど

 

「そういう事が言いたいなら口で言えっての」

「お前は理屈っぽいんだよ、口で言っても変わらねぇだろ」

「はぁ……善処する」

「政治家かテメーは。ったくよ……忘れるとこだった、ちょっと待て……ほれ」

 

 親父が急にバイクの収納スペースから物を引っ張り出して投げた。

 受け取ってみると丈夫そうな布の塊、じゃない、服だ。

 

「お前が何をやりてぇのか俺にはわからねぇ。だからこれしか言えねぇ。それ着て頑張れ。何かあったら連絡しろ。じゃあな」

「親父、いや、父さんもね。母さんにもよろしく言っといて」

「自分でこまめに連絡入れろ!」

「え!? そこは了承するところじゃ……ああ」

 

 親父はそういい残して夜の街に消える。

 

「徹頭徹尾、唐突に引っ掻き回して行ったな……破天荒というかなんと言うか……帰るか」

 

 親父の走り去った道に背を向けて、俺は歩き出す。

 俺は結局親父に影時間の事は話さなかった。自分でもしっかり理解できていない。

 でも“気持ちで動け、やりたいことをやれ”……未来は分からないが、親父の言葉は心に留めておくことにしよう。

 

 貰った言葉をかみ締めて、貰った服を小脇に抱え、俺は寮へと帰る。

 ちなみにこの後明るい部屋で貰った服を見たところ、服はいわゆる“特攻服”だった。




森山のダメ押し!
影虎はヤケクソになった!
不良グループに喧嘩を売った!
大暴れ(一方的に)してストレスを発散した!
ヤケクソが治った!
父親の言葉は今後どんな影響を及ぼすか……
影虎は特攻服を手に入れた!


間隔が開いてすみません。
最初に書いたのがいまいちピンとこなかったので、何度か書き直してました。
次回からまた日常とかタルタロスの話に戻ります。

おまけ
作業中にふと考えました。
影虎のパラメーターは今のところ
学力5 かなりの秀才(ドッペルゲンガーの能力込み)
魅力2 磨けば光る(まだ磨いてない)
勇気2 ないこともない と 3 ここぞでは違う の間。

こんな感じだと思います。


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52話 千客万来の勉強会 その一

 5月9日(金) 朝

 

 ~教室~

 

 俺も学生である以上、平日は学校に通わなくてはならない。よって今日も通学したが、普段とまわりの様子が違った。通学中に俺の顔を見た生徒は遠巻きに俺の様子をうかがい、教室に入るとクラスメイトが集まってくる。

 

「葉隠どうしたその傷!」

「ほっぺたのとこ、痣になってるよ」

「痛そう……」

 

 あまり頻繁に話すクラスメイトではないが、傷が気になるだけでなく心配もしてくれているようだ。

 

「喧嘩か?」

「うちの父さんとちょっとね」

「え、お父さんと?」

「昨日実家からこっちに来てたんだけど、元ヤンで“拳で語り合う”なんて漫画みたいなことを本気でやる人なんだよ」

「そりゃまたぶっ飛んだ親父さんだな……」

「大丈夫なの?」

「問題ない問題ない。痣があるだけで、触らなければ痛みも無いから」

「ハーイ皆席について」

 

 説明をしているとホームルームの時間になったようで、アフロの宮野先生がやってきた。

 俺と目が合うと、思い出したように声をかけてくる。

 

「あ、葉隠君ちょっといい?」

「はい、なんですか?」

「今朝、君のお母さんから連絡があってね。昨日お父さんと親子喧嘩をしたそうじゃないか。江戸川先生が怪我のことで呼んでいたから、君は今すぐ保健室に行きなさい」

「保健室ですか? 体調におかしな点はないと思いますが……」

「う~ん……念のためにって江戸川先生がね……何でも君、一度アスファルトの上に頭から落ちたそうじゃない?」

 

 ? ……ああ! 貫手の時に食らった投げ技か!

 

「それ聞いちゃうとボクも強くは言えなくてねぇ……」

「なるほど、分かりました。行ってきます」

 

 こうして俺は保健室に向かい、江戸川先生の診察を受けることから一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ~そして放課後~

 

「影虎行こうぜー」

「おー……」

「機嫌直せよ影虎ー、おまちかねの女子と一緒の勉強会なんだぜ?」

「ほらほら、もうちょっと愛想よくしとけって」

 

 宮本、順平、友近に言われて席を立つ。

 

 授業ごとに先生が変わるため、今日は毎回先生に顔の傷について聞かれて面倒くさかった。

 ……それだけならまだいいが、最後の授業は古文。その担当教師の江古田はもうグチグチと傷と親子喧嘩について煩く、口から垂れる内容も不愉快でもうね……

 

「あっ!?」

「ん? どうした順平?」

「悪い影虎、先行っといてくんねー? 俺たち後から行くから」

「え、俺も?」

「俺もか?」

「ともちー、宮本、俺らさ……呼び出しくらってるじゃん朝遅刻して」

「……あ~」

「……あったな」

「そういえば三人、遅刻してたっけ。どうした?」

「いや~俺たち昨日、一日早く勉強会したんだよ、男三人で」

「なーんかお前が余裕っぽいからさ、俺たちもちっとは勉強しとこうって話になってな」

「ただ慣れない事したらそのまま寝ちまってよ……」

「それで三人そろって寝坊、ってわけか」

「ははは……運悪く体育の青山に捕まっちまってさー。ま、あの感じだとちょっとした小言で済むから、すぐ行けるさ」

「さっすが順平! 中学時代の遅刻経験じゃ誰にも負けないな!」

「だーっ! それ言うなっつの!」

「ま、そういう事だから先行っといてくれ。すっぽかすと余計に面倒になるから行ってくるわ」

 

 そういえば青山先生は生活指導の担当だったか……生活指導の担当って体育教師が多い気がするのはなんでだろう?

 

 くだらないことを考えながら三人と別れ、一人で部室へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 ~部室前~

 

「おっ、天田!」

「あ、葉隠先輩。こんにちは」

 

 ジャージで準備運動をする天田と遭遇。そういえば今日の勉強会について話してなかった。

 

「天田、今日の練習なんだけど……」

「先輩たち、勉強会するんですよね」

「え、知ってるのか?」

 

 昨夜はその連絡を口実に様子を探ろうとして失敗したんだけど……何で知ってるんだろう?

 

「山岸先輩から聞いたんです」

「ああ、山岸さんから。よかった、電話が繋がらなかったからどうしようかと。練習は型とかランニングとかやって、質問があったら遠慮なく声かけてくれて構わないから」

「わかりました! ……ところで先輩、その顔」

「これは昨日父さんにぶん殴られてな」

「先輩のお父さんに? 親子喧嘩、ってやつですか」

「まぁな。悪い人じゃないんだけど、喧嘩っぱやくて困る」

「へぇ……お父さんと喧嘩ってどんな感じなんですか?」

 

 天田は興味津々と言った様子で聞いてくる。特に気に病んでいるようには見えない。

 

「? もしかして、家族