私がボッチなのはどう考えても『神(アイツ)』が悪い! (ふぬぬ(匿名))
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四巻くらいの第一話

『ぼっち』の定義

 

 ぼっちとは、孤高の人である。

 簡単に言うと友達のいない人のことである。

 

 ぼっちが、ぼっちとなるのは、だいたいその人の自身のせいであるが、親や周りのせいでそうなる者もいる。

 

 過去の彼女がぼっちだった理由は、彼女の創造主が悪い。

 少なくとも――彼女はそう思っていた。たった一人だけいた友達もそう言ってくれた。

 

1・まず名前が悪い。『毒』とか『悪意』とかなんでそんな名前をつけるんだ。

2・容姿も悪い。みんな人型なのになんで自分だけ下半身を蛇にされたんだ。この二つで兄弟姉妹から嫌われた。

3・仕事も悪い。口下手で名前や容姿を気にしているのに、なんで人間の教育係りとか任されたんだ。打ち解けようと思って、ぶどう酒を勧めたら呪われた。そうして人間からも嫌われた。

4・呪いが悪い。蛇や龍とは仲良くなれるかもしれないと思っていた。でも龍殺しの呪いのせいで、誰も近くに来てくれない。

5・戦争が悪い。あれのせいで、たった一人だけの友達が死んでしまった。だからあんなロクデナシと付き合ったらダメだといったんだ。

 

 

 結論、私がボッチなのはどう考えても『聖書に記された神(アイツ)』が悪い!

 

 

 これはとある堕天使……。

『ぼっち』な堕天使の物語。

 

 

 

 昔々のある『地獄の最下層(コキュートス)』――。

 

 やってやる、やってやるぞ。

 私をこんなくそ寒いところに閉じ込めやがって。

 ミカエルめ! アイツに似ているから嫌いなんだよ。

 アザゼルめ! 私の方が先輩なんだぞ。敬えよ。

 ルシファーめ! なんでちゃんと守ってくれなかったんだよ。

 復讐だぞ、復讐してやる。

 長い時間かけて準備したんだ。どれぐらい長いかわからなくなるぐらいハリツケで過ごしながらな!

 転生だ!

 人の子もするという転生で、私は人間になる。

 人間の寿命は百年程度らしいが、同類がたくさん。すなわち、友達がたくさん。

 することのない監禁生活の中、脳内で人間としての生活を何百年とやってきた。

 準備にも抜かりなし。

 くくく、待っているがいい。

 たくさんの友達と一緒に復讐に行ってやるぞ!

 

 

 

 〇〇年後――。

 

 人間になったら友達ができる。

 そんなことを考えていたこともあった。

 出来なかったよ!

 ひとりぼっちだった期間が長すぎて、ロクに言葉がでてこない。

 親、とも上手くいかないし……。

 なんか、感覚がちがうんだよな。

 いいさ、いいさ、いいのさ。

 私は復讐者だからな。孤独で孤高な存在なんだ。誰に理解されなくとも問題ない。

 

 

 

 

 ▼ぼっちの授業参観

 

 

 駒王学園教室――。

 

『バ、バカかぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ! な、何を大衆の面前で取り出してんの!?』

 

 でかい声をだすな、エロ兵藤が。

 お前らはいつもいつも、うるさいんだよ。

 エロトリオに、アルジェントだのゼノヴィアだの桐生だのと毎日毎日騒ぎやがって。

 今度はなんだよ。

 避妊用具だと……!

 くそ、ビッチが! 学校でそんなもの取り出してんじゃねぇよ。

 あやしげな部活作って、毎日毎日サバトを繰り返してやがるんだろう。

 男に媚びる尻軽どもめ。

 ふん、勝手にやっているがいいさ。あんな男のことしか考えていないバカ女どもと、それと一緒にいる男なんてクズに決まっているし。

 というか兵藤に松田、元浜とかクズだし。

 せいぜいゴミカス同士でドロドロの青春でも送ってればいいさ。

 死ね、死ね、死んでしまえ!

 

『おい!? どうしたんだイッセー。急に倒れるなんて!』

『いや……。わかんねぇ、急にめまいが……』

『大変です。イッセーさん、保健室に行きましょう』

 

 保健室だと?

 あれか。

 

――「俺、具合が悪いんだ」

――「大変です! どこが具合悪いんですか?」

――「見てくれるか? 実は……ここなんだ」

――「ああ! ダメです。こんなところで!」

 

 こういうことか?

 ふざけやがって! 兵藤め!

 あいつは、私とぶつかってスカートの中を見たときに吐きやがったんだぞ。

 他の女子のは自分からノゾくくせに! 

 

『よう! ラッキースケベ。どうだったよ?』

『吐きそう。てか、吐く。うぇぇぇ』

『ちょっ! おい、イッセー。大丈夫かよ』

 

 あれは、どういうつもりだ!?

 私は吐き気がするほど気持ち悪いって、そういうことかよ!

 呪い、呪う、呪え、呪おう。

 

 

 〇この後、赤龍帝はしばらく学校を休んだそうです。

 

 

 

 

 ▼ぼっちと銀髪イケメン

 

 

 学校帰りだった。

 あの人を初めて見かけたのは。

 帰り道をトボトボと、今日もひとりで歩いていた。

 交差点で信号待ちをしているときに、ふっと顔を上げたらその人がいた。

 暗い色合いの銀の髪。黒っぽい服装。

 正直、あの髪の色はキライだ。ロクデナシと同じ色合いだから。

 でも、どこか懐かしい顔立ち。……イケメンだ。

 やべー、これこのままいくと横断歩道ですれ違いますよ。

 ダメだ。顔、上げられない。顔が熱い。

 これは、あれか? もしかしなくとも一目惚れというやつか? 私にも春が来たというのか?

 フラフラと横断歩道を渡りだす。

 

「あ、おい! まだ赤」

 

 なんか、遠くから声が聞こえるなー。

 

「バカ! あぶねー」

 

 あっ!と横を見れば迫ってくるトラック。

 あれ? もしかしてヤバイこれ? 

 いまの私は人間だから、あんなのに轢かれたら死んでしまう。

 コレは、もうダメだ。

 また、あの寒い世界に逆戻りだ。

 折角、苦労して意識を飛ばしてきたのにな……。

 さよなら、現世。ただいまコキュートス。

 なかなか痛みが来ない。これが人間が体験するという走馬灯状態というやつだろうか。

 嫌だな、さっさと飛ばしてくれないかな。

 

「怪我はないか?」

 

 声が聞こえきた。

 閉じていた目を開くと、そこにはあの人の顔が――。

 いかん、ダメだ。これは死ねる。

 うお! 鼻血がっ!

 

「む? どこか怪我を。ぐっ、なんだこれは……」

 

 うぉぉぉ! 顔が迫ってくるだと! そんな! 出合ったばかりなのに急すぎる!

 こんなの意識がもたないですよ。

 

 気がついたら、病院だった。

 別に、怪我も何も無かった。

 あの人はどこかへ行ってしまったらしい。

 また、会えるだろうか……。

 

 

 〇白龍皇は体調不良のため大事な会談を欠席したそうです。

 

 

 

 

 ▼ぼっちと幼女

 

 

 通学路途中の路地裏――。

 

 なぜだ?

 何故か変態的な幼女にじっと見られている。

 

「我、じっと見る」

 

 なんだあの格好は?

 前が無いぞ。どうなっているんだ!?

 ゴスロリと言うのか? いや違うだろう。胸にシール張って×印とかおかしいよな。

 

「久しい?」

 

 知らんがな。誰だよお前は!?

 こっち見るなよ。

 物陰で苦しそうな人を、じっと観察する痴幼女とかどういう状況だよ。

 私はちょっと気分が悪くて、吐きそうなんだよ!

 見るなよ。こっち見るなよ。

 あっち行けよ!

 

「じーっ」

「み……な、いで」

 

 う、ぐぅうう。

 もう、我慢出来ない。

 アイツに呪われてからこっち、体調の良かった日などほとんどない。

 人間になったら大丈夫かと思ってたのになぁ……。

 見るなよー!

 

「我、気分悪い」

 

 青ざめた顔で去って行く幼女。

 だから、見るなって言っただろうが。

 くそ! 涙が止まらない。

 なんでこんな目に会うんだろう。

 

 

 兵藤家にて――。

 

「食べないのか?」

「我、食欲ない。しばらく眠る」

「オーフィスさん、どうしちゃったんでしょうか?」

 

 〇無限さんは、ご飯が食べられなかったそうです(これはちょっとだけ先の話)。



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夏休みくらいの第二話

 ▼ボッチと地獄先生

 

 夏休みも近いある日のこと。

 学校の廊下で後輩とすれ違った。

 学校の後輩ではない。堕天使としての後輩だ。

 

 ア・ザ・ゼ・ル!!

 

 ここで会ったが……。えーと、何年目だ?

 とにもかくにも、うらみはらさでおくべきか。

 この私がひとりぼっちで堕天して寂しく悲しく過ごしていたというのに、アザゼルの野郎は『神の子を見張る者(グリゴリ)』とか言って集団で堕天使になりやがって!

 うらやま……群れないと何も出来ないゴミクズが!

 フヒヒヒ、なんだかしらんが復讐の相手が自分からやって来やがった。

 神の子を見張る者(グリゴリ)の奴らめ。堕天使仲間のはずなのに捕らわれの姉上様を助けに来るどころか、率先して凍結封印しやがったそうじゃねーか。

 ハーデスのジジイが近くで独り言をブツブツ言うからさ、イロイロ知ってるんだぞ!

 あの骨ジジイは私に興味津々に違いないな。ちょくちょくやってきては、いろいろブツブツ言っていくからな。

 まったく……ガイコツとか趣味じゃないけど、次に会う機会が会ったらちょっとくらいは優しくしてやろう。

 クフ、くふふふ。

 後ろへと振り返る私。

 

「ふひっ!」

 

 向こうもこっちを見ていた。

 目が合ってしまった。

 口を半開きにして、間抜けな表情を見せているゴミ野郎。

 

「うっお。……あーと、今日赴任してきた教師でアザゼルという者だ。見慣れないとは思うが、不審者じゃねーからな? だから、その、なんだ……。まぁ、これからよろしく頼むわ」

 

 くそっ、ダメだ。

 にらみ付けてやろうと思うのに、他人の顔を長時間見るとか出来ない。

 

「……ょ……し、く」

「……おう。じゃあな」

 

 よろしくしてんじゃねーよ! 私!

 だが、あれだ。久しぶりに話をしたな。

 三日前に、コンビニで華麗に箸を請求したとき以来か。

 だからって、ちょっと嬉しいとか思ってなんかないしな!

 だいたい、不審者じゃねーからとかおかしいだろ。お前が不審者じゃなくて、誰が不審者だよ。むしろ不審者の総督だろうが!

 というか、あれだよな。堕天使で一番は、私のはずだよな。最初で最古なわけだし。

 なんでなの? なんでアザゼルが総督なわけ?

 おかしいよね、おかしいよな。

 私が総督だったら、今頃――。

 

『堕天使総督バンザーイ!』

『流石は総督! 神も魔王も敵ではありませんな』

『ルシファーから奪ってきた、あの女はどうしますか? 見せしめに処刑しましょうか?』

 

 それを殺すなんてとんでもない!

 

『まぁ、待ちたまえ諸君。彼女は魔王にだまされていただけなのだ。それに彼女は私の友達だからな! 私に任せたまえ』

『総督がそう言われるのでしたら……』

 

 私に向けられる感謝と尊敬の眼差し。

 

『やっぱり私にはあなたしかいないわ! それをあんな男について行ってしまったなんて。なんてバカだったんでしょう……』

『なに、怒ってなんかいないさ。私は寛大だからね。これからは、ずっと一緒さ』

『うれしい!』

 

 それでもって、ひっしと抱きついてきたりなんかして――。

 

「うへへ……」

 

 やっべ、こりゃほんまボッチもんやで。

 

 

 

 部長と顧問の会話――。

 

 

「アザゼル! 彼女に一体なにをしたの!」

「なにもしてねーよ」

「ウソを言わないで! 廊下の真ん中で放心状態になってるじゃないの」

「いや、挨拶しただけなんだが……」

「挨拶しただけで、あんな顔になるわけないでしょうが!」

「なんなんだよ。ったく……」

 

 

 

 

 

 ▼ボッチのかかる病

 

 私はいつも前髪で右目を隠している。

 別にキタ〇ーに憧れているわけではない。

 (ニュクス)の息子が身体の中に入っていて、「ペルソナー!」とか言ったりはしない。

 どうでもいいが――夜の息子が中に入っているってなんかエロいな。

 別に眼帯で隠してもいいのだが、それだとなんか中二病みたいだしな。

 

 鏡を見ると、見事なまでの真っ赤に充血した右目が映っている。

 モーセジジイの魂とってこいやーと、(アイツ)のパシリに使われた結果がこの様だよ。

 あのジジイ、死にたくないからって私の目に杖をぶち当てやがったんだよ! 

 めちゃくちゃ痛かったんだぞ! 目はデリケートな器官なんだから大切に扱いましょうって習わなかったのかよ! くそ忌々しいな。

 お陰で本体の目は未だに見えないし、この人間ボディでも右目はこんなだし……。

 まぁ、体育休むときには毎度お世話になってるんだけどな。

 あれだ。とある魔法学校の英雄少年で、ドラゴンが結膜炎に弱いのはきっと私のせいだな。

 さすがだな、私は……。なんか泣けてきた。

 

 うーむ。

 やはり、前髪が長すぎるのは不気味だろうか。

 中二病っぽいからとやめていたが、眼帯もありかもしれない。

 いやいやいや。

 ここはどうだろうか。ちょっと冒険してみるのもいいかもしれない。

 サングラス!

 それは、大人のアイテム。

 サングラス!

 それは、ちょっと悪い感じのオサレアイテム。

 サングラス!

 それは、けびょ……。止むに止まれぬ事情により、学校を休むことになった日の正午に見るアイテム。

 

 やばいな、これは。

 まだ想像の段階だが、これはモテる!

 世の男どもはクールな大人の女に弱いに違いない。

 ククク、病気を理由にすれば学校でもつけていられるかもしれないし。

 そうなれば一躍有名人確定だな。

 まったくこんなことを考え付く天才は誰だよ。フフフ、私だよ!

 でも、店まで出向いて買うのは恥ずかしいから……。この雑誌についてるの頼んでみようかな……。

 ジャンフ〇とかの一番後ろのカラーページに載ってる商品って、なんかかっこいいよなー。

 

 

 後日――。

 

 ねんがんのサングラスがとどいたぞ。

 着けてみたけれど。

 何かが違う。

 致命的に違う。

 なんだろうか……このコレジャナイ感は。

 

「ふっ……」

 

 手の中のサングラスを見つめ、ため息をひとつ。

 そして、そっと机の中に仕舞いこむ。

 

 ひとつ、大人になった気がした。

 

 

 

 

 

 ▼ぼっちの夏休み

 

 

 暇だ。

 人間としての家族と離れた一人暮らしは気楽でいいのだが、いかんせん暇だ。

 朝、昼、晩。一日中誰とも話さないのはいい。学校があったときでもそんな感じだったし。

 でも他人の会話を聞くことさえなくなると、自分ひとりが世界から切り離されてしまったかのようだ。

 ちょっと詩的な表現をしてしまったぞ。流石だな、私は。

 

 本当は暇じゃないんだ。

 朝、昼、晩。誰にも邪魔されないのをいいことにずっとずっとゲームをしているのだ。

 食事、ゲーム、食事、ゲーム、食事、ゲーム、少しだけ睡眠、ゲーム、面倒なので食事を抜いてゲーム。

 我が親友が主人公となっているこの乙女ゲー。すごいよな、見た目"は"ほんとよく似てるし。性格はこんなんじゃないけど。

 このゲームやたらと攻略対象が多い。初期状態で76名、さらに周回を重ねることで増えること増えること。

 私の時間をどれだけ奪い取るつもりなんだ!

 リリーとイケメンをくっつけてはベッドに送り込む、その繰り返しなんだが、なかなかどうしてこれが楽しい。

 

 ああああ、私のリリーがあんなヤツにあんなことされて……。

 なにこのサイズ! 無理無理無理しんじゃう!

 

 やっぱ受身に回る選択肢を選んだほうが、背徳感が高まって興奮するな。

 そして……フフフ。

 攻略サイトによればサマエルルートがあるはずなんだ……。

 ヤンデレのサマエルさんに出会うのだ。

 そうしたら、そうしたら……。

 たまんねぇなぁ、もう!

 

 と。

 いかん、いかんぞ、いかんぞこれは。

 このままでは去年と同じになってしまう。

 休み明けに、「夏休みどこいったー?」とか周りが言い合っている中で、一人だけずっと家から出ないでゲームばっかりしてましたとかは実にマズイ。

 もしかしたら訊かれるかもしれないじゃないか。

 そのときになんて答えればいいんだよって話だ。

 海に行って日焼けしておけばいいだろうか?

 山登りとか?

 どこかに旅行もいいな。

 

 …………。

 

 ひとりでかよ……。

 ダメだ! "誰と"行ったとか訊かれるんだよ、ついでに!

『海水浴行って来たよ。……ひとりで』

 ダメダメダメ! そんなの寂しいヤツとウワサされてしまうに違いないじゃないか。

 

 なにゆえ人は他人の行動を知りたがるのか。

 

 別にどうだっていいだろ、私が休みの日になにやってたってさ。

 言ってやろうかな。

 兵藤とかはそういうこと堂々と言ってるし。

 

『毎日乙女ゲームをやりつづけていたぜ。もちろんR18のやつを』

 

 ってな!

 

 うん、無理。

 そんなことが言えるなら、こんなことになってないし……。

 どうすればいいんだ、どうすれば、どう、どう……。

 

 とりあえず、散歩に行こう。

 食料が残り少ないから補給しないといけないしな。

 

 

 

 

 私の目が悪いのか、はたまた頭がおかしくなったのか?

 知らない建物が急に建っておりますよ。

 ここの家、いつの間に改築したんだ?なんかスゲーでかくなってるんですけど。

 というか周りの家はどこに行ったんだ?

 どういうことなんだ。最近の建築技術は数日で町並みを変えてしまうのか?

 

 あっ、二階のカーテン開いてるな。

 

『イッセーの看病は私がするの!』

『リアスだけなんてズルイですわ』

『わ、わたしもしますー』

 

 どういうことだ……。学校で見たような姿、聞いたような声の女共が半裸とか全裸で騒いでいる。

 

『イッセー。大丈夫、きっとすぐによくなるわ。だからそんな弱気にならないで』

『あらあら、こういうイッセー君もかわいくていいですわ』

『ううう、わたしの力がもっと強ければ……。ごめんなさい、イッセーさん』

 

 その豪邸の表札を見ると、兵藤と書いてあった。

 ふっ。

 そういえば夏休みの前あたりから、ずっと休んでいる変態がいたな。

 ついに逮捕されたのかとばかり思っていたが、寝込んでいたのか。

 それにしてもアルジェントとそういう関係なのは知っていたが、他に二人も連れ込んでいるとか……。

 いや、あれだ、私なんてここ数日で、数十人の男をとっかえひっかえしたわけだし?

 

 ……。

 

 リア充め。いい気味だ! いっそ死ね!

 

『ちょっと! イッセー! イッセー! しっかりしなさい!』

 

 あー、暑いな。

 頭に血が昇ったせいで余計に暑い。

 

「アイスでも買うかな……」

 

 コンビ二遠いな。

 

 

〇ソーナ会長はゲームで勝ったそうです。

 

 

 

 

 ▼ぼっちと転校生

 

 

 新学期が始まったが、夏休みに心配したようなことにはならなかった。

 誰も話しかけてこないしな。

 訊かれないから答える必要もない。

 いや、いいんだ。

 訊かれたって、まともに答えられなかったし。

 

 それよりも重大な問題は、突如教室内に出現した誰も座っていない席の方だ。

 教室の一番後ろ、窓に一番近い位置。いわゆる主人公席。

 

『転校生が来るらしいよ』

『なんか外国人なんだって』

『私とちょっと見たけど、すごいの!』

 

 転校生らしい。

 私の情報網にはなにも引っかかってこなかったけどな!

 

「あー、もう知ってるやつも居ると思うが、このクラスにまた転校生だ。なんか多い気がするが気にするな。よくわからんがうちのクラスに集まってくるらしいからな」

 

 教師がなにやらブツブツ言ってやがる。

 この男、危ない薬でもやってるのだろうか?

 

「あー、入ってきてくれ」

 

 転校生ね。

 なんかさっき騒いでるのがいたけど。どうせ、いじめられっ子とかが転校して逃げてきたとかそういうオチで地味なのが――。

 

 あの人は!

 

「ヴァーリ・L・シファーだ。よろしく頼む」

 

 あのときのイケメン様!

 トラックから助けてくれて、それで、それで、顔が近くにぃぃぃぃ!

 くはぁっ。

 ヤバイ、思い出したら。ヤバイ。

 耳まで赤くなってるのがわかる。

 こんなところ見られたら、さらに恥ずかしいぞ。

 

「あー、シファーは、夏休み前に赴任してきたアザゼル先生の息子さんでな。あの先生もなんかおかしいというか……。まぁ、それはいいか。とにかく仲良くやってくれよ」

 

 うわー。うわー。

 ヴァーリって言うのか、名前。

 あれ? 今こっち見た?

 見た。見られた?

 私、大丈夫か? 変じゃないか?

 ああ、髪とかボサボサだし。

 うがー!!!

 

 

 

――お猿と白龍

 

「ヴァーリよぉ。なんで禍の団(カオス・ブリゲード)こなかったんでぃ?」

「三すくみの会談前に体調を崩してな。かなり厳しい状態だったんだが……」

「天下の白龍皇さまも病気には勝てなかったってか」

「いや、原因は不明だったんだ。呪いの類をかけられたのではないかとサハリエルが言っていたがな。とにかくそういうことでアザゼルに看病されるはめになったんだが……そのときのアザゼルの顔がな……」

「顔が?」

「父親とはこういうものなのだろうかと、そんな風に思ってしまったのさ」

 




サングラス:これを書いたころはお昼の番組やってたんです。


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仲良しドラゴンな第三話

 ▼ぼっちと転校生達

 

 

 このクラスは転校生が多い。

 異常なほど多い。

 普通、他のクラスにもいかないか? どうなってるんだ一体。

 

 春のはじめにやってきたのは、アーシア・アルジェント。

 美人というか、かわいらしくてクラスでも人気者。癒し系なんだそうな……ちっ。

 まわりの話を聞く限りだと、毎日のように兵藤と合体しているらしい。

 なんてやつだ! なんてやつだ! おなかが変形してしまうぞ!

 アバズレの分際で清純派ぶりやがって、なにが「はぁううー」だ! 

 ドジっ子の演技うまいですね。

 くそが、ブリブリしやがって!

 ときどき(アイツ)に祈りを捧げやがるのも気に入らない。

 次だ次。

 

 夏のちょい前にやって来たのが、ゼノヴィア。

 苗字は知らないゼノヴィアだ。

 顔がよく、スタイルもよく、運動が得意……。うらやましくなんて……うらやましくなんて……。

 こいつ相手だったら、もしかしてファーストネームで呼び合ったり出来るんだろうか? みんな名前だけで呼んでるしな。

 まぁ、こいつもアルジェントと同じで(アイツ)に祈るんだが、話しかけてきたら名前で呼んでやってもいいな。うん。

 こいつも兵藤に突かれているらしい。公開授業のときの避妊具事件もあるし、事実なんだろうな。

 なんでアレがいいんだろう……。ああ……アレがいいのか。

 

 二学期の最初にやってきたのが、ヴァーリ君。

 苗字で呼ばれるのは慣れていないから名前で呼べって言ってたし、ヴァーリ君……うへへへ。

 イケメン。頭いい。運動できる。

 ときどき目が合う……気がする。

 私の命の恩人だしな、劇的な出会いだったから気になってしまうのも仕方ないな。あのトラックはいい仕事をした。

 まだ、話したことはないんだけどさ。

 そういえば、ヴァーリ君も兵藤とよく話している気がするけど……。まさかね、そんなことないよね?

 兵藤のヤツときたら余所のクラスのイケメンやら、一年生の男子までも餌食にしているとか聞いたけど……まさかね?

 もしも、この想像が当たっていたならば……ぶち殺すぞエロ魔人め!!

 

 最後のは、ヴァーリ君のちょっとあとにやってきたやつで……。

 美人で、スタイルが……ゼノヴィアの仲間だな。

 うん、なんかそんな感じのヤツだ。

 正直、ヴァーリ君のことでいっぱいいっぱいなので最後のはどうでもいいや。

 

 というかヴァーリ君以外はどうでもいいのだが……。

 なんでどうでもいいヤツラの席が私の周りに集まっているんだ。

 コイツら騒がしい上に、無意味に人を集めるせいでちょっとトイレ行って来ただけで私の席が占領されるんですが……。

 どけよ! どけよ。どけよ……。

 私が所在無さげに佇んでいるだろ!

 昼休みなんだぞ、そこを抑えられたらどこで食べればいいんだよ。

 言わなきゃわからないのかよ。

 

「あの、そこ……私の……」

 

 聞けよ!

 頑張って話しかけてるだろうが、私が話してるんだから静聴しろよ。

 くそっ!

 もういい、どこか別のところで食べよう。

 

 屋上とかいいよな。

 なんかかっこいいし。

 うん、そうしよう。

 

 

 

 おー、まだちょっと暑いけど悪くないな。

 人を見下ろしながら食べるというのもオツなものだな。

 

「くくっ……。人がゴミのようだ……」

 

 なんちゃって。

 っと、なんか後ろで物音が……。

 

 ヴァーリ君!!?

 屋上へと出るためのドアの上にある場所、学園モノで定番のその場所を使用するとは! なんて素晴らしいんだ。

 

「ゴミ、か……」

 

 あれ? 今の聞かれました?

 いや、違いますよ? ちょっとした冗談ってやつでして……。

 

「あ、ちが……」

 

 バタムと響くドアの音。

 

 …………。

 

 ハハッ……外国からいらした方には、わからないのかな?

 

 

 

 

 ▼ぼっちの体育祭

 

 

 おおおおおおおおおおおおん……。

 瓦礫の神殿の上、異形の龍が咆哮する。

 

『イッセー! お願い、元に戻って!』

『イッセー! アーシアは無事だったんだ。だから……だからもういいんだ!』

 

 声は届かず、ただ滅びへと向かう。

 

『困っているようだな?』

『ヴァーリ!』

『赤の覇龍か……。会談の際は、お互い寝込んでいたようで機会が無かったからな、楽しめそうだ』

『ヴァーリ! あなたイッセーを……!』

 

 〝我、目覚めるは、覇の理に――〟

 

『安心しろ、殺すつもりは無い。殺さずに制する。そのくらいのハンデがあったほうが面白い』

 

 暴走する赤、制するは白。

 赤と白、覇と覇、龍と龍。

 二者の激突が冥界を震撼させた!

 

 

 

 

 自主的な急病により、体育祭を休むこととなってしまった。

 残念だな。

 楽しみにしていたのにな。

 ヴァーリ君が活躍するところが見たかったのに、怪我で入院してるって言うし……。

 あーあ。

 つまんねーの。

 私がいても邪魔って言うか、成績下がるだけだしな。

 参加しないことで貢献しているんだよ、うん。

 あーあー。

 みたかったなー。

 

 

 

 

 ▼ぼっちの修学旅行前

 

 

『そういや、もうすぐ修学旅行だぜ。班を決めないとな』

 

 昼休み。

 またもや席を追われた私に、追い討ちの声が聞こえてきた。

 修学旅行。

 班決め。

 聞きたくなかった。

 思い出したくなかった。

 なんでそんなことを思いださせるんだよ。元浜ぁぁぁ!

 

『えっと、3、4名で組むんだっけ?』

『そうそう。泊まるとこが、4人部屋らしいからな。ま、俺ら三人で組むしかない。嫌われ者だからな、俺ら』

 

 はぁぁーーー!??

 組む人がいる。

 ただそれだけで幸せだって、知らないのかよお前らは!

 私なんてな! 私なんてな。 私なんてな……。

 

『ふふふ、俺とアーシアは一心同体! 常に共にあるのさ。な?』

『はい。イッセーさんとずっと一緒です』

 

 嫌われ者は、松田と元浜だけだったな……そういえば。

 

 兵藤め……リア充め……。

 ウワサのエロエロ催眠術教えてくれないかな……。

 なんでも目を合わせるだけで、狙った相手を落とす事が出来るとかどうとか……。

 教えてくれたら“師匠”と呼んでやってもいいんだが……。

 

 いや、いまはそんな場合じゃない。

 大事なのは、迫り来る修学旅行(きょうふ)をどうやってやり過ごすかだ。

 好きなやつ同士で組めよーと言う言葉が与える恐ろしさを、教師どもは知らないのか?

 おまえらだって学生時代あったんだろ?

 教師になるようなやつはコミュニケーションばっちりで、困った事がないのだろうか?

 マズイ、マズイ、マズイ。

 班決め、部屋割り、座席決め。

 自由行動、夜間トーク、テンションの高まったクラスメイト共。

 ダメだ……。

 ついていける気がしない、組んでくれる相手がいない、無事に過ごせる気がしない。

 

 ああ、でもヴァーリ君と旅行。

 旅行、旅行。

 いっそ私とヴァーリ君以外休めばいいのにな。

 

 二人だけで秘密の修学旅行……ああ、どこまで行っちゃうの私たち!!

 

「くふふ……」

 

 妄想をおかずに一人メシが旨い!

 

 

 

 

 

 

『兵藤! グレイプニルとヴリトラに力を譲渡しろ』

『そうかッ! わかったぜ、ヴァーリ』

『そして、これで決める!』

 

 魔王の力を受け継ぐヴァーリの魔力、それを受けたミョルニルが一気に巨大化する。

 

 ――Half Dimension!

 

 あらゆるモノを半分にする能力の発動。

 戦場を飲み込むほどの影を落としていた神雷の鎚。それが一気に縮小し、白龍皇の握った拳の中へと納まってゆく――。

 

『――ロキ。本来ならば力を込めるほどに巨大化してしまうミョルニルだが……。威力をそのままにサイズだけを圧縮したこの一撃、受け止められるか?』

『白龍皇と赤龍帝が連携だと! この我が……。なぜ……聖書の神は神滅具(ロンギヌス)などを残したのだ……』

 

 

 〇外なる神『乳神』なんて出てきませんでした。




〇現在までの状況

イッセーとヴァーリは、三すくみ会談を欠席。赤白対決が発生していない。ヴァーリは禍の団(カオス・ブリゲード)に入り損ねた。

イッセーは夏休みを寝込んで過ごした。イッセーの修行イベント無し、白猫フラグ発生せず、シトリー戦で早期にリタイヤしたため“おっぱいドラゴン”が生まれなかった。


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愛と怒りと憎しみの第四話

 ▼ぼっちとジャージ女

 

 

 

『喪女(もじょ)』

 

 喪女と呼ばれる定義は

 

1・男性と交際経験が皆無

2・告白された事がない人

3・純潔であること

 

 要するに男にモテないブスのことか……?

 

 

 

 

 一人暮らしの身。

 節約は大事だ。

 漫画は読みたし、金はなし。

 バイトするくらいなら食事を削る。労働とか嫌だし。

 

 ~♪本を売りたきゃブックオブ~~~

 

 ここはいい。

 無料で本が読めるし、ぼっちでも気にならない。

 うん、あったあった。

 この漫画の続きが読みたかったんだ。

 

「ぶっ……んぐくっ」

 

 やべ、ふいちまったじゃねぇか。面白すぎだろこれ……。

 周りのヤツラに気付かれたか?

 漫画から目を離して右を見る。後ろを見る――。

 

 視線がこっちに集中していた。

 

 恥ずかしっ! と思いかけたのだが、どうにも視線の向かう先が少しズレている?

 ズレた視線の先を辿れば私の左隣。

 

「クッフフフ……。こっだおもすろ」

 

 ジャージ装備の女が漫画に集中してやがる。

 周り見えてないだろアレ……。

 それだけならまぁ、たまに見かけなくも無いが、このフルアーマージャージは半端ないな。

 銀の長髪にスラッとした長身。

 外国人のモデルか!? って感じの美人なのに、えらく安っぽいジャージ姿で漫画にのめりこんでやがる。

 なんだこの残念なのは……。

 いや、いいさ。こいつのおかげで恥をかかずに済んだ。

 感謝しといてやるから、その手の漫画をさっさと寄越せ。

 今読み終わったやつの続きなんだ。それ一冊だけっぽいんだよ!

 

「プッッキュ……。もうすわけない、もうすわけないって……っ」

 

 そこまでなのか!

 古本屋で腹を抱えてしまうほどおもしろいのか!?

 早くよませろよ! ハリーハリーハリー!

 ついでに、あんたの吹き出し方もおもしろいよ。

 と思っていたら、キモデブニートがジャージ女に話しかけやがった。

 

「あの? すいません、それ買いたいんですけど……買わないんでしたら、こっちくれませんか?」

 

 あああ!?

 買う? 買うだと? 

 ブックオブは本を買うところじゃねえぇんだよ!

 読みたいなら、順番まってろよ早漏が!

 

「た、ただで読めるのに買うなんて……!」

 

 よく言ったぞ、ジャージ女。

 そうだそうだ、渡すなよ、絶対に渡すなよ!

 

「た、立ち読みより、買うほうが優先ですよね! そ、それじゃあ、もらっていきますよ!」

 

 なんてヤツだ!

 買うやつのほうが優先だなんて誰が決めたんだよ。バーカ、バーカ! 順番優先に決まってるだろ!

 ニートめ、やっぱ後ろめたいんだろうな、声がどもってやがる。

 まったく、ハキハキ主張できないような意見だったら言うなよな。なんか顔赤くしやがって……きもいんだよ!

 

「あ、すいません……どうぞ……」

 

 ジャージ女ぁぁ!

 この裏切り者が! 渡しやがった、コイツ渡しやがった。

 

「……ちっ」

 

 思わず舌打ちが洩れてしまったじゃないか。

 もういい。

 役立たずのジャージ女め。

 百均でも行くか……。なんか安くてお得で面白いもんないかなー。

 

 

――百円ショップにて

 

 おい?

 なぜここにもいるんだ、ジャージ女。

 

――夕方のスーパー

 

 値段の下がった商品を取ろうとしたところ、手と手が触れ合った。

 

「あっ……」

「えっと、どうぞ……」

 

 なにそのもの凄く惜しそうな目は……。

 もういいよ、なんでいろんなところで会うんだよお前は……。

 ストーカーか? 同じ銀髪ならヴァーリ君に付き纏われたいわ!

 なんで行く先々でジャージ女と会わなければいかんのだ。

 

「あっ……いえ、どぞ……ぅ」

「ありがとうございます!」

 

 え? そこは、いえいえやはりそちらが先でしたし~とか返してくるところじゃないの?

 持って行っちゃうのそれ?

 

「……ちっ」

 

 忌々しいな。

 やはり銀髪は敵だ……ただしヴァーリ君は除く。

 

 

 

 

 ジャージ女の正体は、学校の教師だった。

 教師かよ! 新刊買えよ! 百均を漁るなよ! 安くなるまで待ってるなよ!

 

 金持ってんだろ!

 

 くそくそくそ!

 なにがロスヴァイセちゃんだ! 忌々しいな。

 こっち見て嬉しそうに手を振るなよ! 

 おかげで注目されたじゃないか。

 しかも出会った場所とかエピソードを語るなよ!

 恥ずかしいだろうが……。

 ああああ、クラスメイトに知られてしまった、認識されてしまった。

 ケチでボッチでチビとか最悪。そんな風に言われるんだ……もう、いやだ。

 

 だれか、あのジャージをなんとかして下さい。

 

 それが私の今日の望みです。

 

 

 〇一日一緒に遊んでたんだ……仲いいな。クラスメイトはそんな風に思ったそうです。

 

 

 

 ▼ぼっちは見た! 女教師 放課後の誘惑

 

 

 それは、ジャージ女が来て数日後のことだった。

 私は忘れ物を取りに夕暮れの教室へと向かっていたんだ。

 

 そしてそこで見てはいけないものを見てしまった。

 いや、見ておいて良かったのかも知れない。

 知らなければ戦えなかった。

 知ったらからこそ戦う事が出来る。

 ヤツは敵だ。

 恐るべき敵だ。

 残念なジャージ女とは仮の姿……。

 その本当の姿は、男子生徒をたぶらかす淫乱メスブタ教師だったのだ!

 

『あなたを……気に入ったんです。だから私と一緒に……キてくれませんか?』

『急な話だな』

『あまり……ないで……』

 

 教室の扉の前。

 中から聞こえてきた声に驚く。

 ジャージ女とヴァーリ君!?

 声が途切れがちだが、これはあれか……。

 放課後の教室。誰かが来るかもこないかもという状況で……。

 

 ゆ・る・さ・ん!

 

「あ、あー! 忘れ物しちゃったなぁー!!」

 

 扉を開けて中へと入ってゆくと、ビックリしたようにこっちを見てくるジャージ女。

 どんなときでも動じた様子を見せないヴァーリ君はかっこいいなぁ……。

 

「と、とにかくヴァーリ君。返事、待ってますから。それでは……」

「一応、考えてはおく」

「ありがとうございます!」

 

 ちょっ! ヴァーリ君?

 考えておくとか……。それってほぼオッケーってことですか!?

 ジャ、ジャージ女ぁぁぁぁ!!!

 この泥棒猫が!

 くそくそくそくそくそ、うがぁぁぁぁぁぁ!

 

 やっぱり銀髪は敵だ!

 

 

 〇悪魔になんかなってません。戦乙女の本業です。

 

 

 

 

 

 ▼ぼっちの修学旅行

 

 

 私はアーシア・アルジェントを許さない――。

 

 

 "いじめ"って最低だよな。

 かっこ悪いよな。

 

「うっ……ぐじゅ……」

 

 やばい、涙が止まらない。

 くそっ、あんな魔女を信じた私がバカだった。

 

――『よかったら、私たちと一緒の班になりませんか?』

 

 ああ。あのときはアイツが天使に……女神に……ダメだな、どっちもロクでもない。

 あのときはアイツがリリーに見えたんだ。

 それが罠だとも気付かずにホイホイと飛びついた私って、なんてバカなんだろう。

 

「うぎゅ……うぅぅう……」

 

 あの最低のクズ男。エロエロ催眠で女をとっかえひっかえしている兵藤なんかの彼女なんだ。

 あの魔女が性悪だなんてわかりきっていたのに……!

 

「グズュ……」

 

 鼻水出てきたな……。

 なんか、もうどうでもいいや――。

 見知らぬ町で、ひとりぼっち。

 置き去りにされた私はこのままここで朽ちていくんだ……。

 

「ズギュ……うぎゅ……うぅぅ」

 

 お金も、ケータイも鞄の中だった。

 トイレに行きたくなったときに預けたのがダメだった。

 あんなヤツラを信じてしまったんだ。

 なんという浅はかさ!

 なんという愚かさ!

 昔、散々な目にあったって言うのにわ゛だじば……。

 トイレから出てきたとき私を待っていたやつは居なかった。

 誰もいない。

 探し回って探し回って……声を上げて呼んださ!

 アルジェントー! ゼノヴィアー! 紫藤ー!

 でも、誰もいなかったんだ……。

 

「どうしろって言うんだよ……ひどすぎるよ」

 

 そりゃあ、バスでも新幹線でも吐いたさ。

 トイレもよく行くさ。ついでに一回一回が長かったかもしれないさ。

 でも、しょうがないだろう?

 聖書に記された(アイツ)の龍殺しの呪いのせいなんだから。

 私だって龍なんだから体調くらい悪くなるさ。

 体育もよく休む、行事もよく欠席する、病気がちな儚いキャラで通してきたはずなんだよ!

 知ってて誘ったんだろ?

 なんで置いていくんだよ!

 

「やっぱ……ぐすッ……いじめ……」

 

 班決めで誘ってきたときから罠だったんだ。

 私が苦しんでいる様を近くで眺めて、ワラっていやがったんだ!

 心配するフリをして……心の中ではニヤニヤとバカにしていやがったんだ。

 1斑4人までだからって、わざわざ仲の良い桐生を別の班にしてまでしてやることか?

 

――アイツっていっつもトイレ長いよね。

――なにかあるとすぐ休むしね。

――体育とかさー。キツイ内容のときいっつもいないよね。

――そうそう、きもいよねアイツ。バレてないと思ってるのかな?

――身体弱いのはホントじゃない? ときどき吐いてるっぽいし、臭いよね。

――あー、アレね。ホント、まじ勘弁してほしいわー。

 

 教会トリオとかなんとか言って、私は清く正しい乙女で御座いますみたいなフリしてるけど、きっと裏ではこんななんだ……。

 鬼、悪魔、天使!

 いじめとか最低なんだぞ!

 まぁ、アイツに祈るようなメスどもだからな。

 ほんと……ちょっと優しくされただけで舞い上がって……。

 

「ほんと……わたしって、こりないよな……」

 

 

 

 ――いじめっこ達の事情

 

『――絶霧(ディメンション・ロスト)

『間違いありません。私がディオドラさんに捕まったときと同じです』

『くそっ! てことは英雄派かよ!』

 

『はじめまして、俺の名は曹操。英雄派を仕切らせてもらっている者さ。一般人を巻き込むつもりはないからね、君達だけを招待させてもらったよ』

 

 

 

 

 ▼ぼっちのゲロ女

 

 

 あ。

 生徒がまわるコースは、学校側で知ってるんだろうからどこかに教師がいるかもしれないな。

 さすがだな、私は!

 賢い、すごい、偉い。

 事実をありのままに告げてやるぞ、魔女どもめ!

 告げ口とか、チクリだっけ? そんな風に言われるかもしれんが許してなるものか……!

 いや、待てよ……。

 なにか重大なことを見落としていないか?

 そう、あいつらが好き勝手やってるのはこういうことかと、一回考えた事があったはず……。

 たしか、夏休みのころで……そうだった、そうだった……。

 あのとき窓から見えた全裸の紅毛女。アイツも魔女どもの仲間だったんだ。

 たしか、この学校の経営者だか理事だかの身内だとかどうとか聞いたような……。

 

 ダメだ!

 

 教師も敵だ!

 やばかった……教師に告げ口していたら、権力で返り討ちにされるところだった。

 くそっ! なんてやつらだ!

 これからの高校生活。あんなメスブタどもの慰み者になってしまうのか?

 ああ、悲惨な未来を想像したら吐き気がしてきた。

 また、トイレに逆戻りかよ!

 

 おいおい、いつのまにか先客がいらしゃるぞ。

 京都ではしゃいで酔いつぶれたのか?

 くそ、こんな音たてられたら我慢は無理だな。

 うぐぐぐ、魔女のせいで胃が痛い。

 というか隣のやつ大丈夫なのかよ?

 なんか長いぞ。

 

『ばあちゃ……わだず頑張る。がんばっからな……』

 

 聞いたような声に隣を除いてみれば――。

 

 おい、教師!

 なにやってんだジャージ女が!

 見回りしてるんじゃないのかよ! 

 酔いつぶれてるとかいいご身分ですね!

 

「なんなんれすかっ! 気に入ったから勇者としれつれれこいっれ……。どうせわたすはいませんりょ……わ、わたすだって男の子と……エッチなことしてぇ! んんにゃ……」

 

 おい! 教師!

 マジかコイツ。トイレでグデグデでこんなこと叫ぶとか……。

 アレだ、浮浪者とかにアレでアレされてアレなことになる展開だぞ。

 クソッ、ゲロくせえ臭いがプンプンしやがる。

 あーあーあー。こんなところで寝やがった。

 髪長いのに気をつけないから、スゴイことになってるぞ……。

 その点、私はプロだからな。そのあたりに抜かりは無い!

 てかコイツ、ケータイ持ってないか?

 それで他の教師を呼び出せば……。

 

「ちっ……」

 

 ロックかけてんじゃねーよ。相変わらず使えないなジャージ女は!

 お? これ財布か……こいつを頂いていけば宿まで帰れるな。

 はっ! 泥棒猫はそこで楽しく遊んでもらえばいいんじゃね?

 お似合いお似合い。

 

 

 

 

「くそっ……めんどくさいな。重いし、臭いし」

 

 なんでコイツを洗って綺麗にしてやって運ばないといかんのだ。

 まぁあれだな、教師に恩売っとけばいじめっ子どもから庇ってくれるかもしれないしな、うん。

 

 いじめかっこ悪い。

 よってたかってハリツケにしたり、釘打ったり、鎖で縛ったりとか絶対ダメだからな。

 そのうえ寒いところに放置とか極悪非道だからな。

 

 

 アルジェントたちが、後から謝ってきたが正直怪しい。

 理由とか言わないし。

 腹の中であざ笑ってやがるんだろう、くそくそくそ。

 いじめこわい、いじめこわい。

 

 

 〇紳士なゲオルクさんは、こんな状態の女性を戦場に転移したりしない。

 

 

 

 

 

 ▼ぼっちの学園祭

 

 

 うん、ひとりだ。

 見事にひとりだ。

 学園祭、部活で運営だものな……。

 帰宅部一直線な私には準備とか片付けとかないし。

 一緒に見て回る当てはないし。

 ヴァーリ君は探しても見当たらないし。

 オカルト研究部のおみくじは、大凶だし。呪われてるんだから当たり前だけどな。

 そうだ、屋上へ行こう。

 

 あそこは私とヴァーリ君の場所だ。

 勝手にそう決めた。

 毎日毎日二人っきりで昼ご飯食べてるんだぜ!

 これはもう、付き合ってると言っても過言じゃないね。

 会話はないけど。

 ていうか、距離が相当離れてるけど……。

 もうすぐ寒くなるから、あの時間もそろそろ終了かな。

 残念すぎる。

 

 弁当作ってきてさ。

 渡してさ。

 食べてもらって美味いと言って貰えるとか……。

 

 そういうイベントを起こすべきだっただろうか?

 料理は苦手ではない。普通に出来るからな。

 あんまり関係ないが、ぶどう酒造りを人間に教えたのは私だしな!

 その結果、アダムのアホがアル中になったせいで聖書の神(アイツ)が怒り狂ったわけだが……。

 アレは私が悪いのか? 

 酒に飲まれたヤツがダメだっただけじゃないだろうか……いつぞやのジャージ女みたいに。

 嫌なことを思い出してしまった。

 

 うん、屋上でぼーっとして時間を潰そう。

 

「くはーっ! 開放感! よし、寝るか」

 

 なんでかいつも人の居ない屋上。

 伸びをひとつして、寝転がる。

 

「あー、つまらん。なにかドカンと起きないかな。あれだな、この学校テロリストに占拠されないかなー。そうしたら、こう……」

「テロリスト、か……」

 

 あれ? デジャヴだっけ? こういうの。

 なんか前にもこういうことがあったような。

 

「お前は何者だ?」

 

 ふぉ! ヴァーリ君が飛んでいるだと!?

 

「この場所にはいつも結界を張っていた。だが、お前だけはいつもそれを無かったかのようにして現れる」

 

 は? 結界? え? なにそれ?

 

「あのヴァルキリーと話していたときもそうだった。アイツは妙にお前のことを買っていたがな」

 

 ヴァルキリーって北欧の死神だったっけ?

 

「話す気はない……か。まぁいい、今まで見ていた分では大したことも出来そうにないからな」

 

 そういうとヴァーリ君の背中から、悪魔の翼が現れた。

 結構枚数多めだね。上の中級くらいだろうか。

 

「俺の本当の名前はヴァーリ・ルシファー。もし今後、妙なマネをするようであれば――」

 

 悪魔かぁ……。まぁさほど問題ではないな。うんうん。というかルシファーってことは……。

 さらに金属と光で出来た翼を展開するヴァーリ君。

 

「お前を殺す」

 

 ハメ殺すだと…………!!

 

 今脳内でデデン!! テレレレテレレレ、デデッデン! って音楽が聞こえたぞ。

 これはアレか。

 ガンダルヴW(ウィング)の伝説のシーンの再現なのか?

 白くて翼のある装甲機械に乗っかる主人公が、ヒロインに想いを告げるあのシーンの!

 たしかに今のヴァーリ君の格好はちょっとゼロっぽい。無口系で鍛えてる感じの転校生でもある。

 てことは、私はリリー(ヒロイン)な役ってことでいいわけですか?

 

 これは告白されたと考えていいのか!?

 マジなのか?

 ネタなのか?

 笑えばいいのか?

 早く私を殺しにいらっしゃい、と返せばいいのか?

 どっちなんだ……。

 どどどど、どうすればいいいいいんだ。

 

「あっ、よ、よろしくおねがいしますぅ……」

 

 無難。

 すごく無難に返してしまった。

 でも、わからないんだよ!

 というか、結構まともに話せた気がする!

 

「そうか…………何を考えているのかわからないが、余程の覚悟があるのだな」

 

 ありますとも。

 告白されて、返事するとか!

 初体験!!

 すげーぞ、私。やったぞ私。

 て、ちょっと待てヴァーリ君。

 なぜ背を向けて去っていこうとするんだ。

 ここは男から来てくれないと困るじゃないか。

 キミがそこまでやりたくて仕方ないと言うのならば、受けて立つのもやぶさかではない。

 というより、むしろ興味津々です。

 さぁガバッっと……。

 

 返事を外したのか?

 

 ちょっとまて止まらないか、ヴァーリ君。

 あくまでこっちから言わせる気なのか……。なんという試練。

 でも、ここが正念場だぞ、行くしかない!

 

「待って! あっ、が、学園祭。いいい一緒にまわ、まわ……」

「ああ……」

 

 おおおお、キターー!

 ぼっちよ、さらば。

 おはよう、リア充!

 

 フハ、フハハハハハ!

 見たかジャージ女め! これが私だ! 

 ぼっちの名は貴様にくれてやるわ! フハハハハハハ!

 

「……行かないのか?」

 

 行きますとも!!

 

「あっ……うん」

 

 

 

 

 ▼ぼっちじゃない学園祭

 

 

 素晴らしい。

 世界が輝いて見えるぞ。

 今なら聖書に記された(アイツ)が出てきても、土下座しながら三回回ってワンと言って見せたら許してやれそうな気がする!

 わたし、ひとりじゃないから。

 もう、なにも怖くない!

 いかん、いかんぞ。同じ方の手と足が動いてしまう。

 

「あわわわ……」

「お前、大丈夫か?」

 

――お前。

――お前。

――お前。

 

 え?夫婦? 夫婦なの? もうそこまで進んでいたのか!

 あああ、あなたとか呼んじゃっていいのか!? 

 

「あ、ああ」

「ん?」

 

 定番だ!

 こういうときは定番に頼るんだ!

 たしか、お化け屋敷とかやってたな。

 そこだ、そこでキャーとか言って抱きつくんだ!

 

「おば、お化けやしき……」

「ああ……一応、顔を出すぐらいはした方がいいのか……」

 

 

 

 役立たずだよ!

 本当につかえねーな!オカルト研究部。

 あんまりにも怖さが足りなさ過ぎて、逆に笑えてきたわ!

 もっとこう、コズミックで外宇宙なヤツを用意しとけよ。

 ハーデスのジジイ以下とか、怖さをなめてるのか? やる気あるのかよ!

 

 んん? 外宇宙(クトゥルフ)……ああ、たこ焼きだ。

 ひとりで喰ってもマズイだけだったけど……ふたりだったら……。

 

「……うまい……」

 

 主に心で味わっているんだ。

 

「ふむ……」

 

 ヴァ、ヴァーリ君がたこ焼きを、もきゅもきゅしているだと!

 ほ、保存だ。保存せねば!

 

 そんな風に今年の学園祭は過ぎていった。

 

 

「もう、死んでもいいかもしれない……」

 

 

 

 

 〇総督と白龍皇

 

『よう! デートはどうだったよ?』

『デート? 特別なんともないが?』

『かぁー。教育を間違えたかね、俺は』

『しかし、わからないな。俺の殺気を受けてもまったく怯まないくせに、訳の分からないところで慌てだす……』

『あー。アイツが俺の考えてる通りの存在だとしたら、並大抵の殺気なんぞなんとも思わないかもしれないな』

『アザゼル、アイツは何者だ?』

『まぁ、まだ予想の段階だからな。ヴァーリ、お前アイツに名前を言ったんだろ? だったらまぁ、お前はたぶん大丈夫だ』

『どういうことだ?』

『まだ、なんともな』

『アザゼル、お前はいつも回りくどい』

 

――リリスはサマエルの嫁。そう記されてたりする書物もあるんだよ、これがな。アイツたぶん、お前のひいばあちゃんの親友だぞ。



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酒も竜神も大差ないな第五話

『何の用だ? 美猴。今更、禍の団(カオス・ブリゲード)には入らんぞ』

『そう邪険にするなよ、ヴァーリ。お前さんのおかげでオレッチ結構恥かいたんだぜぃ。話くらい聞いてくれや』

『……用件は?』

『オーフィス』

『……無限の龍神がどうかしたか?』

『俺等の大将様がお前等に興味津々なのよ。なぁ「なかよしドラゴン」。くっくくくっ……』

『……笑ってろ。俺は帰るぞ』

『ワリぃ、ワリぃ。んでもよぉ、殺しあわないどころか、仲良く修行する二天龍なんぞ、珍しいどころか初じゃねぇの?』

『ライバルが弱くては張り合いが無いからな。好敵手となるまで鍛えているだけだ』

『へいへい、それでそんな珍獣を是非とも眺めてみたいとおっしゃってるわけだ。うちの大将様がな』

 

 

 

 

 ▼ぼっちじゃない? 日々(二学期中間テスト前)

 

 

 おかしいな?

 学園祭一緒にまわったよな?

 あれ、夢とか幻とかじゃなくて現実だったよな?

 なんで会話が無いの?

 どういうこと?

 お前、あなたって呼び合う関係になったんじゃないの?

 どういうことなの?

 これじゃあ、前となんにも変わってないじゃないか!

 教室の席は相変わらず。

 "いじめっこ軍団"に囲まれた孤立無援な四面楚歌。

 特別なにかされるわけじゃないが、油断はできない。

 朝来たら、花瓶が置かれていたりするかもしれないしな。泣くぞ!

 ヴァーリ君とは会話が無い上に、しゅっちゅう居なくなるから顔を合わさない日々も多くて……。

 

 ハッ!

 

 これが倦怠期? 倦怠期なのか!?

 イチャイチャした覚えもないのに、いつのまにか倦怠期だと……。

 どうなってるんだ、速すぎるだろ展開が。

 ダメだ。

 これはダメだ。

 わたしはもっとイチャイチャしたいんだ!

 というか、万年新婚夫婦とか! 漫画の中のああいうのが目標です!

 

 ……帰ろう。

 帰ってテストの勉強でもしてよう。

 悲しみを背負った背中を見せてしまっているな……。

 

 

 

 

「らかられすね、アザゼルせんれいが、はららかないのれすよ!」

 

 帰れよ、ジャージ!

 なんでちょくちょくウチにやってくるんだよ。

 アザゼルがゴミなのは同意だが。

 だが、だがな、生徒の家にやってきて酒飲むなよ!

 

「もう帰れよ!」

「つれらいこといわないれれ、いっしょ、はいやなかやなか」

 

 ああ、吐いたな。

 その始末したのは私だがな。

 ついでに運んだのも私だがな!

 

「あーあー、臭いし、重いし大変だった」

「ひろい、わたすくさくなか、おもか?」

「少なくとも酒臭いわ!」

 

 ボッチにちょっと優しくしてやったら、付きまといはじめやがった。

 これだからボッチは!

 

「このボッチ女が! よるな、さわるな、寝るな」

 

 泣き出しやがった! めんどくさい酔っ払いだな、もう!

 

「う、ううぁぁ。わたすがボッチなのはみんな(ジジイ)が悪いんれすよ」

 

 神が悪いのか……。

 うん、なんかいろいろあるんだよな。

 うん、わかるわかるぞ。

 

「つまみ喰うか?」

「うぇ?」

「一緒に呑もうぜ」

「生徒がお酒を飲んではダメですよ!」

 

 なんでそこで教師になるんだよ!

 

「お前、歳は十代とか言ってなかったか?」

「うっ……」

 

 ちなみに私は……。いくつだ?

 適当なモノを作って、酒を追加する。

 

「なんれこんらに、お酒があるんれすか!」

 

 嬉しそうだな、ぼっち女。

 これはな……これはな……。

 

「お前が置いていったんだよ!」

 

 

 

「らいらいれすね、あの(クソジジイ)! がれすね。ほかのひろ寄越さないかりゃ、聖書の中で北欧ひろりなんれすよ。わかります!? この感覚」

「わがる、わがるぞぉ! (アイツ)とかもう最悪! くそくそくそ、あんらんがいるからこんらことになるんらろ」

 

 なんつっても最初の堕天使だからな。みんなは白くてひとりだけ黒とかな、もー、あれはたまらなかったな。

 

「そうれすよね。あんらんいるから、わるいんら」

「そうりゃ、そうりゃ! わかってるら、おみゃえ。よしよしもっりょ、ろめ」

 

 どぼどぼどぼってな。

 

「あははは、こぼれりゃ。こぼりゃてる」

「あっとおおお、もったいね。すするじょ」

「あははは、ひーひー」

 

 なんか、久しぶりに酔うほど飲んだなー。

 

 

 

 

 ▼ぼっちじゃない? 日々(二日酔いとかしないし)

 

 

 10時だと!

 寝過ごした!

 ヤベー、やべー、やべーーー!!

 

「うぃーーー」

 

 って、おい! 教師!

 

「おきねェか、この!」

 

 蹴ったぞ!

 この役立たずが! 

 泊めてやったんだから朝ぐらい起こせよ!

 

「うぎゅ。……なんですかぁ?」

 

 寝ぼけてんじゃねーよ。時間見ろ時間!

 

「時計見ろよ!」

「えぇぇえええー! って、今日は休み……うぅぅう゛。頭が……」

 

 お?

 あ、ホントだ。

 そうだよな、いくらジャージ女でも仕事あるのに前日に泥酔したりしないよな。

 仕事中に泥酔することはあっても……。

 

 そっちのが悪いわ!!

 

 くそ! ジャージのせいで朝からなんか恥ずかしい思いをしてしまったじゃないか。

 しかし、ジャージめ。二日酔いか? あのくらいで頭痛いとは情けない。

 私なんかまったく問題ないね。むしろ久しぶりに気分爽快なくらいだし!

 

「あー! あー!あー!」

「やめっ……う゛ぁぁぁ」

 

 ふはははは、お前はそこでうめいていているがいい。

 私はその間に顔を洗う。

 お? 鏡の中に――。

 

「美人? なんか美人がいる!」

 

 え? どういうこと? なんで?

 そういえば体調がすごくいい気がするし。

 おおおお、右目の充血が治ってる!

 クマもなし、胃腸も良し。

 なんだか私が輝いているぞ!

 どういうことだ……?

 違うことといったら――酒?

 酒か!?

 百薬の長って言うしな!

 

「アハ、アハハハハ。なんだ、なんだ、こんな簡単なことで治せたのか! 大した事ないな(アイツ)は! フハハハハッ!」

 

 そうとわかれば、呑まねばなるまい。

 呑んで呑んで呑みまくるのだ!

 もっともっと美人になって倦怠期を打破するのだ!

 

「おい、ジャージ。呑むぞ!」

「え?」

「迎え酒だ! 酒で二日酔いを追い出すんだ!」

「えええー!?」

 

 

 次の日には充血してた。

 酒じゃないのか……。

 

「……ちっ」

 

 

 〇英雄二人

 

『すまない、曹操』

『どうした?』

『奪い取ったオーフィスの力が消失した』

『何? どういうことだ』

『おそらく術式に含まれて居ない、計算外の要素があったと思うのだが……』

『こちらにないのであれば、どこにいったんだ……』

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

『召喚用の魔方陣を用意できた。――龍門(ドラゴン・ゲート)を開くぞ』

『イッセーさん! オーフィスさん!』

『ひどい……。何があったの、オーフィス!?』

『サマエルの血。撃ち込まれた』

『なに!? 治療を急げ! はやくしろ!』

 

『この呪いに耐えたか……。俺が鍛えたのだからそれぐらいはしてもらわないとな……』

『ヴァーリ、お前もすぐ治療だ。龍門(ドラゴン・ゲート)を閉じるぞ』

『まだ、この呪いには勝てないか……』

『そう簡単に勝てたら世話がないだろうがよ』

『違いない。だが……だからこそ挑み甲斐がある』

『おら、さっさと運ばれろ!』

 

 

 

『アザゼル! イッセーの容態は?』

『ああ、なんとかなりそうだ……オーフィスの協力もあったしな……。それに……』

『それに? ……なに?』

『こっちの話だ……』

 

――ヴァーリの時に手元に来た"血"。あれの研究が役に立つなんてな。

 

『まぁ、あれだ。イッセーのヤツは寝込むの慣れてるだろ? だから耐えられたのかもしれねぇなと思っただけだ』

『なにを言って……そんなわけ無いでしょう!』

 

――いや、マジでそうかもしれんからなぁ。

 

 

 〇赤龍帝はなんとか生きていたそうです。慣れってスゴイですね。

 

 

 

 

 ▼ぼっちじゃないし! でも、いじめかも……

 

 

 ときどき、というかしょっちゅう思うのだが……。

 ヴァーリ君、三魔女、あと兵藤。休みすぎじゃないだろうか?

 出席大丈夫なのか?

 来年は後輩になってるかもしれないな。

 いじめっこ共が来ないのはいいんだが……。

 ヴァーリ君が来ないのは問題だ。

 兵藤はどうでもいい。

 思えばボッチのころはよく、リア充死ねだのなんだの思ったものだが、今となっては遠い過去だな。

 これが余裕ってやつだ。

 そう、余裕ってやつだ……。

 

 私の周り、人がいないんですけど!

 

 なんだよこれは!

 新手のいじめか?

 私の席は教卓のすぐ手前。その左右と後ろが三魔女だ!

 なんだよこれは!

 問題児の周りから他の生徒を避けてさ。教師がバッチリ見張ってます!

 そんな感じに見えるだろうが!

 ただでさえ一番前で教師に見られてイヤなのに、なにこれ。

 後ろのヤツラからも注目されてるんじゃないの?

 変なことしたら丸見えじゃねーかよ!

 さすがに無いと思うが……出席日数削ってまでやってるんじゃないだろうな。三魔女め!

 いや、ちがうかアイツラはビッチなメスブタどもだからな……今頃、男を釣りに行ってるのかもしれん。

 兵藤もいないし、アレか? 家でやりまくって、そのままお休みとか……そういう感じ……。

 

 ハッ!!

 

 ヴァーリ君?

 え、え? まさか……。

 ヴァーリ君までサバトに参加して……刺したり抜いたり、悶えてみたり。

 そんな、ひどい、ひどすぎる……。

 って、まぁ悪魔だしなヴァーリ君。仕方ないといえば、仕方ないか。

 リリーが悪魔というものは、好きなときに好きなところで好きなことをするものだって言ってたし。

 うん、仕方ない、仕方ない。

 

「はぁ……」

 

 ぼっちじゃないならないなりに、悩みってのは尽きないものだな……。

 まぁ? ぼっちには出来ない悩みだからな! 

 むしろ耐える妻的な。

 健気。

 私、健気!

 私の健気さを察したヴァーリ君、最後には戻ってくるに違いないな。

 

 これが待つ辛さってやつか……。

 

 そういえば、本体は私の帰りをまってるんだろうなー。

 ヴァーリ君、悪魔だったし。

 頼んだら本体を助けるの手伝ってくれないかな?

 あー、でも無理か……。ヴァーリ君そんなに強く無さそうだったし。

 死んじゃったら悲しいもんな。

 思い出だけでも持って帰ろうかな……。

 

「はぁーー……」

 

 

 〇神器が出来た頃、既に封印されていた。

 

 

 

 

 ▼ぼっち? とリア充?

 

 

「なぁ、ロセ」

「なんれすか?」

 

 当たり前のようにウチにやってきて、当たり前のように呑んでるよな、お前は!

 だが、いい。

 私は真実に気付いてしまったのだ。

 

「私は兵藤一誠という男を見直したんだ」

「え?」

 

 なんだその、おまえもか!? みたいな顔は……。

 すぐにそっちの方向で考えるからダメなんだよ。

 だが、ここはサラッとながしてやるのも大人の余裕ってやつだ。

 

「ああいう男が、世の中にいっぱい現れたらいいんじゃないかと思うんだ」

「ええ、ちょっ……」

「勘違いするな。そう、これはお前にとってもいい話なんだ」

 

 そう、こんな簡単なことに気付かないで……。

 私は、私は、なんてバカだったんだ。

 

「お前はかっこいい男とイロイロしたいんだろ?」

「そ、そうれす!」

 

 うん、うん。そうだよな。

 

「ならば、ならばだ! そのとき邪魔になるものはなんだ……」

「え、えええ」

 

 即答しろよ!

 だからお前はバカなんだよ!

 

「答えは簡単だ。他の女、特に美人だ!!」

「た、たしかに!!」

 

 そう、兵藤一誠。

 ああいうヤツが一人でビッチどもを集めまくってくれれば、ライバルが減るんだよ!

 最近、あの紅毛女と兵藤が付き合いだしたとのウワサを聞いた。

 あの紅毛に惚れていた男子も多かったことだろう。

 そしてそんな男子に惚れていた女子も多かったことだろう。

 まぁ、私は夏休みのときから知っていたがな!

 まったく学校のヤツラの情報網も大した事無いな。

 とにかく、そういうことなんだ。

 

「ああいう男が増えたらどうなるか……。もうわかるよな?」

「そんな……そんな……不潔だと、節操無しだと軽蔑していたのに……」

 

 そう、私もこの真実に気付くまでは、死ねだの、苦しめだの、爆発しろだの思っていた。

 

「だが、兵藤には恐ろしいウワサがある」

「おそろしいウワサ……」

 

 ゴクリと酒を呑む音が聞こえてくる。

 お前、呑みすぎだろ!

 

「ヤツは……ヤツは……男も喰うらしい……」

「そ、そんな……!」

 

 あまりの恐ろしさに震えているな。

 まったくなんて恐ろしいヤツなんだ!

 だが、利用価値は高い。

 他の女どもをすべてヤツに押し付ける!

 

「ロセッ! お前に使命を与える!」

「は、はい!」

「教師の力でヤツの魔手から学校のイケメンを守るんだ! そうすれば自然とイケメンと触れる機会も増えるはず。あとは、わかるな……? あっ! ヴァーリ君は私が守るから、他のヤツね、他の」

「おおおおおぉ! スゴイ、素晴らしい。了解しました!」

 

 こんなヤツだが見た目はいいからな。

 ちゃっちゃと他の男とくっつけて始末しないとな。

 まぁ、私の勝利は確定してるわけですが?

 ククッ、勝ってカブトの緒をしめよだっけ? そういうことだ!

 余所のイケメンとくっつけばそれでよし。

 自然と接触が増えるだろう兵藤の餌食となってもよし。

 

「くくっ……」

 

 なんて悪いやつなんだ私は!

 

 

 〇《魔獣創造》の怪物軍団は、魔王が本気だして倒したそうです。



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友の息子が二―トだった第六話

 〇マザコンが主で、従者がシスコンで

 

『あー、なんかおもしれーことねーかなー。暇すぎる』

『リゼヴィムさま。幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の所在がわかりました』

『あー? 聖杯?』

『はい、既に吸血鬼の国で邪龍を蘇生する実験に成功しています』

『んー、パス。聖杯なんか昔からあったしなぁ、なんか新しいことないかねー』

『そうですか』

『……なぁ、ユーグリット。うちのママンの言葉、覚えてるか? 悪魔なら~ってやつ』

『"汝の為したいように為すがよい"でしたね』

『いや、あー、意味は同じか。まぁそーいうことだ。なんかやりたいならよ、好きにやればいいんじゃね? お前の姉上様も好き勝手やってるしよ』

『そう、ですね……ありがとうございます』

 

 

 

 ▼ぼっちじゃないし、兵藤は趣味じゃない

 

 

 Q

 

 相談なんですが、

 亡くなった親友の息子さん

 親の遺産でニート生活なんです。

 どんな風に接したら良いでしょうか?

 また、

 どうすればやる気を取り戻してくれるでしょうか?

 みなさんの意見を教えて下さい。

 

 

 ベストアンサーに選ばれた回答

 

 一緒に冒険の旅にでも出かけてみてはどうでしょうか?

 未知の世界、未知の生物。

 きっと、その息子さんも失った情熱を取り戻してくれるはずです。

 

 

 

 アホか!

 なんでこんなのがベストアンサーなんだよ!

 冒険? 未知の世界? 未知の生物?

 どこへ? どこ? なに?

 バカなの? アホなの? 死ぬの?

 

 ってまー、人間だしな、こいつら。

 冥界でも天界でも、妖精の国でも好きなところを目指して旅立てばいいんじゃね?

 たいがい途中で死ぬだろうけどな。

 あ、死ねば行けるか。

 けっこう簡単にいけるな。

 あれ? さっきの回答って……。

 はは、まさか心中とかそういう……。

 

 ふぅ、深読みしすぎてしまったぜ。

 まったく、授業をさぼって見るネットは3倍くらい面白い気がするな。

 慣れ親しんだ保健室ベッドも心地よいし。

 最近体調が良い日があるせいで、悪い日が倍辛い気がする。

 なんなんだろうな、これ。

 酒じゃなかったし。

 このまま、"輝ける私"状態がいつもになったらいいのになぁ。

 

「そうしたら……ふへヘ」

 

 ヴァーリ君との輝ける未来が待っているな。

 

「あっ、やっぱここにいたのか」

 

 うお!? この声は……。兵藤一誠!

 

「なぁ、聞きたいんだけどさ。おまえって――」

 

 ひぃぃぃぃい!

 保健室! 他に人が居ない!

 迫ってくるエロ兵藤!

 

 犯される!!?

 

 そりゃ近頃の私ときたら、自分でもちょっと美人? 私、かわいい? ってくらい輝いてる日があったけどさ。

 まさかコイツに目をつけられるなんて!

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!

 めめめ、目を見たらダメだ。

 催眠術にかけられてしまう。

 あああ、どうしよう。催眠術を防いでも、腕力で来られたらかなわない。

 最近のコイツはなんか鍛えてるっぽいし、そうでなくても私が勝てるのは小学生くらいだ。

 にげ、にげげ、逃げないと!

 

「そいつに触れるな!」

 

 おおお? 

 

「そいつに手を出すなと言ったはずだぞ、一誠」

「ヴァーリ……でもよ」

 

 兵藤をにらみ付けるのは、ヴァーリ君。

 

「お前とは話し合う必要があるようだな。一緒に来てもらおうか」

「ああ、わかったよ」

 

 おおおお!?

 ヴァーリ君が助けてくれた!

 しかもこれは……。

 これはまさか……。

 あの伝説の……。

 

 私をめぐって争わないで!

 

 ひゃっほーーー!

 いま長年の夢がひとつ叶った!

 片方が兵藤なのがちょっと残念だが、もうひとりはヴァーリ君だし!

 これは見に行かないと、追いかけないと。

 どっちを選ぶんだよ!? って聞かれてもヴァーリ君で即答ですけど!

 って。

 あれ? 立てない。立てない。

 喜びのあまり腰が抜けた!

 やだ、見たい。

 やめてー、って間に割って入りたい。

 なぜだ自分、なぜ動かんのだ。

 こんなときに、こんなときにー!

 

 

 

 昨夜、兵藤家にて――

 

『なぁ、オーフィス。最強の龍神さまが寝込むなんて、いったいどうしたんだ?』

『町でサマエルに会った。強力なブレスだった』

『なっ!?』

 

 

 〇サマエルブレス(吐しゃ物)は臭いだけでも竜殺し。

 

 

 

 ▼ぼっちじゃないし、病気じゃない

 

 

 そうだ、病院へ行こう。

 いままでは具合が悪くても、呪いのせいだろうと病院へ行ったこともなった。

 しかし、どうにも調子が良い日がやってくるとなるとなにか病気かもしれない。

 保健室の教師からも勧められてしまったしな。

 体調が良いから病院へ行く。

 変な話だが、おかしいのだから仕方ない。

 

 

『うん、特別問題ないね。精神的なものかもしれないね』

 

 この医者なんでもかんでも精神的なもので片付けてるんじゃないだろうな。

 それともあれか、精神的な何かで呪いがどうにかなっったとかそういうことか?

 

 精神的……精神……心!

 ああ、なるほどな!

 心の問題か。

 ぼっちじゃなくなったからか。

 むしろリア充だし!伝説のイベントも巻き起こしたし。

 そうか、そうか。そういうことか!

 いやー、これはいいな。

 王子様が現れて呪いがとける。

 なんという王道。

 素晴らしいな。

 そうなると、完全に呪いをとくためにするべきことは一つしかないな。

 

「は、恥ずかしいな……」

 

 うわ、熱い。これは熱い。

 あああ、そういうことなんですね。

 というか聖書の神(アイツ)がこういう条件を設定してたとか?

 ヤバイ、ちょっと見直した。

 ロマン溢れるな。

 

「やっぱ、あれだよな。き、キスだよな……?」

 

 うひゃー!

 

 

 

 

 〇グリゴリの技術力は

 

『おい、サハリエル。アイツを病院に誘導しといたけどよ。ちゃんとデータ取れたのか?』

『無論抜かりなし。見るといいこの数値を! 実に興味深い結果であるな』

『こりゃまた激しいな』

『無限と極大のマイナス、このような生命力の数値を見るのは初めてであるな』

『はぁー。こりゃやっぱ確定かよ……。ほんとにやっかいだなアイツは』

 

 

 

 

 ▼ビッチは遠慮せい!

 

 

 ロスヴァイセ。

 私の部屋に入り浸りの寂しい独身教師である。

 

 

 学校どころか家でもなんでもなんだが……。

 最近コイツとしか話していない気がするんだが、どうなんだろう。

 先生しか話す相手がいないとか……あれ? ……私って……。

 この先を考えるのはやめよう。

 

 うん。

 

 ヴァーリ君にはなかなか話しかけられないしな。

 あー、とか。うー、とか。

 そんな声しか出てこないし……。

 このままではキ、キスなぞ夢のまた夢!

 

「どうしたらいいと思うよ?」

「なにがですか?」

 

 コイツは私がせっかく計画を立ててやったというのに、未だに彼氏が出来ないとか言いやがる。

 お前がそんなだから相談できないんだよ!

 まだヴァーリ君狙ってるのか?

 ほんと見た目"だけ"はいいからなコイツは……。

 はやくなんとかしないと。

 

「なんでもないぞ。 おまえに相談することとかねーし!」

「え、はい。えーと、こっちは報告があります」

 

 お? きたのか? やったのか? ヴァーリ君以外なら祝福してやってもいいぞ。

 この神の悪意(サマエル)様がな! 

 悪意の祝福とか……自分で考えてなんだが、早々に破局しそうだな……。

 

「なんと! 二年生の木場祐斗君が、三年生のリアス・グレモリーさんと海外旅行に出かけてるんですよ! さらに同日にアザゼル先生とヴァーリ君まで旅行に出かけてるって! しかも、しかも行き先が同じ……らしいです」

 

 な、なんだそれ……。

 リアス・グレモリーってあれだろ? あの紅毛女だろ? 兵藤と付き合ってるんじゃなかったのか?

 どういうことなの? なんで? え? なんで!?

 女がひとりに男が三人。

 逆ハーレムだと!?

 それで旅行だと……。

 しょせん兵藤はお遊びで、おじさま(アザゼル)に金髪、銀髪引き連れて海外でキャッキャッウフフとしてるわけ?

 おかしいだろ!

 この前、男のハーレムはいいって言ったけどな。女はダメだ!

 そんなことしたらダメだって、なんでわからないかな!

 くそビッチめ! くそくそくそ!

 

 逆ハーレムが許されるのは私ぐらいのものですよ!

 

 アザゼルはいい。

 あいつがどこでどんなメスブタと盛っていようと知ったことか! 

 ヴァーリ君の保護者やっていなければ、今頃お前はもう死んでいたんだがな。

 

 木場君はダメだろ……。

 ヴァーリ君と出会う前、廊下やらですれ違うたびに妄想に浸った相手だぞ。

 なんどオカズに……。ん、んんっん。

 前から兵藤と怪しいウワサがあるといえばあったけどさ。紅毛女と一緒に旅行に行くような仲だったなんて!

 部活が同じなのは知ってたけど、知っていたけれど!

 

 ヴァーリ君……。

 信じたい、信じられない、複雑な乙女心よー。

 似合わないな。

 いや、遊び歩くくらいはいいけどさ。逆ハーレムのメンバー入りはやめてもらいたい。

 それぐらいならハーレムを築くって方がまだマシだよ……。

 

 紅毛女と私の戦力を比較してみると――。

 

 向こうは、美形、長身、巨乳、金持ち、友達多そう、『二大お姉さま』とか呼ばれてる。

 こっちは、かわいい日もある! チビ! 貧乳! 節約生活! この際だからロセは友達! 中学のとき『便所虫』って言われた……。

 

 ヤベェ、ヤベェよ……なんという戦力差。

 

「ロセェェ! なんで止めなかったんだよ! このままじゃ……このままじゃ……」

「とめられないれすよ! 教師同伴の上に駒王学園の経営者一族なんですよ、彼女は」

 

 くそ、ほんとにクソ。

 もう、もう。もう!

 

「あーーーー!」

「嗚呼…グスッ……」

 

 紅髪も敵だ!

 

 

 

 

 ★おまけ★(時系列が合わないので本編には関係ありません)

 

 ――おばちゃ、アタッ! おねーちゃん、おねーちゃん。

 

『リゼヴィムさま、何を見ているのですか?』

『んー、昔の映像記録を見つけてなぁ……』

 

――おねーちゃん、だーいすきー。

――私もリリン君、だーいすきー。

 

――おっきくなったらねー、ぼくねー、サマエルおねーちゃんとけっこんするのー。

――ほ、ホントに!?

――ほんとにー。

 

――リ、リリン君。ちゅー、ちゅうーーう。

――うん、おねーちゃん、ちゅー。

 

『は……?』

『俺も若かったなぁー』



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龍殺堕天使龍の進路指導な第七話

じゃあ、最強最古の堕天使の力を見せてやるか。
そう、この私を敵に回した以上……後悔する暇もないんだよ!



 

 ▼マラソンとテロリスト そして、炸裂する女子力 

 

 

 紅毛女が逆ハーレムウキウキ旅行に旅立ったとの情報を得てから数日の後。

 

 今では人間やっている身ではあるが、人間達の考えが理解できないときが結構ある。

 例えばこんなときだ。

 

 なんでこんな寒いのに外を走るんだ。

 

 どうしてマラソンは冬にやるんだ。

 春じゃダメなのか?

 コタツで丸くなってればいいだろ?

 夏は冷房いれて涼しくしていればいいんだよ。

 なぜ走るんだ? 野生の生き物を見習って、引きこもったほうがいいと思うんだ。

 ほら、私って蛇系だったしさ。

 寒いと眠りたくなる。そんな気がするんだよ。

 そもそも、この二本の足ってものになかなか慣れないよな。

 ズルズル這いずるかパタパタ飛び回るのが普通だったからなぁ。

 まぁ何が言いたいかというとだな。

 

 私は足が遅いんだよ!

 おまけに寒いとトイレが近くなる!

 

 トイレ行きたい。でも、なかなかゴールにつけない。

 なぜなんだ、せめてグラウンド内でぐるぐる周っていればいいだけだったならばトイレに行けたものを……。

 校外まで含めたコースじゃあ途中でトイレ行けないじゃないか!

 ああ、ヤバイ。

 でもそのあたりでなんて出来ない。女の子だもの!

 マラソン大会に備えて練習とかいらないんだよ……。

 くそ、なぜ体育に出席してしまったんだよ。私のバカ、バカバカバカ!

 それもこれも紅毛女は体育もすごいって聞いたからだけどさ。

 なんでもあの紅毛女、春の球技大会でテニスの試合やって、生徒会長と魔球対決したらしいじゃないか。

 もう、運動も負けでいいです……。

 だからトイレ……トイレ……。

 

 もうダメだぁ……おしまいだぁ……。

 ゴールまだだけど、まだだけど……ちょっとゴールしちゃったよ……。

 

「うっ……みじめすぎる……。ぐっ……」

 

 道端のちょとした物陰で、涙と一緒にブツを封印する。

 

「ここが早く見つけられれば……。いや、でもこんなところでなんて……」

 

 でも、ゴールしちゃうよりマシだったかな。

 捨てて行くわけにはいかないブツ。

 名前書いてあるしな。

 親に買って送ってって頼んだせいだけどさ。名前書かなくてもいいよな。

 嫌がらせかよ!

 そこらに置いていっった結果、バレたりした日には恐ろしいことになる!

 中学の時にやらかしてしまった結果がいまの一人暮らしだしなぁ……。

 ちょっと恥ずかしくて実家近辺では暮らせませんよ。

『便所虫』ですら直接言われないだけマシというか、高度なオブラートに包まれた表現だったりするし。

 

「コンビ二ビニール袋を入手できたのは幸運だったな」

 

 おかげで危険物を封印できた。

 あとはこの袋をどうにか隠し持って、マラソンのゴールまでひそかに向かうだけだ。

 

 

 ゴールに着いたんだが、学校がおかしなことになっています。

 具体的に言うと壊れていたり、燃えていたり。

 魔法使いが暴れていたり。

『G』が偉そうにしていたり。

 

『おらおらおら! どうしたんだよクソドライグがよぉ。もっとだ、もっと力を見せてみろよ!』

 

 アイツなんて言ったっけな。

 たしか『G』から始まる名前だったんだよな……。

 巨人とドラゴンを足したような見た目のヤツ。

 んー、なんだったかな。

 まぁいいか『G』で。

 

『おいおい、そんなもんかよ? あ? 怒り方が足りネェのか? じゃあもっとぶっ壊してやるよ! おっ、丁度いいところに丁度いいのがいるじゃねぇか』

 

 ん? こっちに『G』が飛んできた。

 なんだよ。(ザコ)のクセに生意気だぞ!

 

 ――こいよ、くそ『G』が! 私の力を見せてやる!

 

 楽園の蛇(サマエル) 

 聖書『創世記』出身 

 16歳(昔のことは忘れたさ)女性

 堕天使ランキング1位

 かけられた呪い――龍喰者(ドラゴン・イーター)――

 

「これでもくらえぇぇ!」

 

 とりあえず手元にあった物を投げつけてやったぜ!

 

「こんなもん、がッ!! ぐがががっがぁぁぁぁ」

 

 ふははははは、お前逃げたよな。昔、逃げたよな!

 私が一緒に遊ぼうって近寄っていったら、逃げやがったよな!

 

「なんで、なんで……こんなところにテメェがいやがるんだよぉぉぉ」

 

 ゲシゲシと踏みつけてやることしばし。『G』のヤツは動かなくなった。

 

「フハ、フハハハハハハッ!」

 

 んー、なんか昔の恨みっぽいものも晴らしたし気分爽快――?

 ん? あれ?

 兵藤やらなんやらがこっちみてスゴイ顔してるんですけど……。

 

 

 〇サマエルの呪いは魂まで破壊します。

 

 

 

 ▼女子高校生(ハイスクール)D×D(ダウンフォールエンジェル・ドラゴン)(始)

 

 

 いつだったか、学校がテロリストに占拠されればいいなって言ったような気がする。

 いつだったか、人間なんかゴミだって言ったような気もする。

 

 いやなんかこー、な。

 現実になってみるといろいろと困る。

 ヴァーリ君が悪魔だったり、アザゼルのアホが居たりするんだから怪しいなと思ってはいたんだ。

 怪しいなと思いつつ、私の周りでは学園バトル物的な展開は起きなくてさ。

 いつまでもダラダラとやっていけると甘く考えていたんだ。

 学校では、ヴァーリ君にどう話しかけようかウンウンと悩んでさ。

 家では、ロセのグチと酒に付き合いつつウダウダ過ごしてさ。

 最近なんか充実してるなと喜んでいたんだ。

 リアルが充実していたわけだ。

 それがテロリストどものせいで一瞬にしてパーだよ!

 どうしてくれるんだよ、この状況!

 

「ウソ、だろ……」

「あれが、最強の……。あんだけ苦労してた相手が一瞬で……」

 

 兵藤と……誰だっけ? 知らない男子生徒がこっちを見て青ざめた顔をしている。

 兵藤はコスプレかなにか知らないが、紅い鎧っぽいもの着ている。

 私の足の下には『G』だったもの。

 もう聖書の神(アイツ)の呪いが魂にまで染み込んだのか、ピクリとも動かない。

 ついつい、昔の感覚で踏み潰してしまったんだが。

 現代の人間、特にこの割と甘ったれた国の住人には刺激が強いよなぁ……。

 昔の人間どもは堕天使よりも小賢しくて、悪魔よりも残虐だったんだけどなぁ。

 と、足元の巨体が崩れて土へと変わってゆく。

 コイツって死体が残らないヤツだったっけ?

 たしか……ファーブ二ルのヤツは死体が残るタイプで、バーベキューにされて食べられちゃったんだよな。

 

「なぁ……教えてくれないか? あんたはサマエルでいいんだよな? なんでだ、なんの目的でこの学校に通ってるんだ? それに先生が言ってた通りなら、あんたはオーフィスの力まで手に入れてる。その力を使ってどうする気なんだ?」

 

 兵藤のヤツがごちゃごちゃと質問してくる。

 質問はひとつひとつ順番にしてくれないだろうか。そんなにたくさん、いっぺんに聞かれても答えられねーよ!

 えーと、あー、うーん……私はサマエルだな。うん、これは確実。正確には意識だけで身体はまだコキュートスだけど。

 この学校に通う目的、目的ねぇ。特にないというか……なんで私は高校生なんかやってるんだ!?

 当初の目的は友達たくさん作って本体解放。それでもって――。

 

「――復讐してやる」

 

 そういう予定だったんだよなぁ、最初は。

 ボッチだったけど、でもただ自分の意思で動けるのが楽しくて。

 寒くない、縛られていない、閉ざされていない。それだけで嬉しくて。

 話す事が出来なくても、他のヤツラの話を聞いているだけでも良かったんだ。

 地獄の最下層(コキュートス)じゃあ、リリーが面会に来なくなってから、ハーデスのジジイのグチしか聞けなかったからなぁ。

 あのガイコツじいさんの話って、嫁が冬しか会ってくれなくて寂しいとか、嫁が浮気性で悲しいとか、嫁が嫉妬深くて困るとか……そんなノロケばっかりだったし。

 でもやっぱり友達が欲しくて、いろいろ悩んだりしてるうちにいつのまにかそっちが目的になっていたんだよな。

 

「やっぱ……そうなのかよ。先生はあんたとハーデスって神様が手を組んでるかもしれないから、だから手出しするなって言ってたけどよ」

 

 オーフィスは無限の龍神(オーフィス)のことかな? 

 力を手に入れたとか、なんなの? 訳がわからん。

 って、ちょっと待てよ兵藤! ひとが答えを考えてる間にどんどん先にいくなよ。普通は質問がきて、回答して、また質問されて、回答してって順番だろうがよ。

 会話のキャッチボールが出来ないとか、もうダメダメだなコイツは。

 えーと、なんだ? 次はハーデスと手を組んで? なんだそれ、それから先生って誰だよ? 

 

「んっ……と先生。……ロセ?」

 

 先生が言ってた! とか言われてもなぁ。教師で話したことあるのはロセしかいないしな。

 

「……仲良いよな。ロスヴァイセさんとあんた。メフィスト・フェレスさんが言っていたんだ、聖書に記された者の勢力は嫌われているって。北欧もそうなのか? 悪魔が、『聖書』に関わる勢力が嫌いで手を組んでるのか?」

 

 北欧? 手を組んでる?

 は? え? え? 

 わからん、全然わからん。

 コイツの言うことは意味不明だぞ。

 でも、そうか! 私のほかにもアイツラが嫌いなひとたちがいるんだよな!

 そのひとたちと連絡が取れたら友達になれるかもしれないな!

 

「……フフッ」

 

 いいな、それ! いいな、いいな!

 世界史で習ったんだぞ、イロイロとな。コキュートスに封じられている間に世界中のあっちこっちでやらかしていたみたいだしなぁ。

 聖書の神(アイツ)の名の下に侵略戦争やら略奪やらもういっぱいいっぱいな。

 そうだよな、何も人間から探さなくたって余所の神話でもいいよな。なんでこんな簡単なことに気付かなかったのか。

 まったく、兵藤もたまには役に立つな。誉めてやっても良いぞ。

 んー、なんと言ってやるかな。頭の中では、こうカッコいいセリフが浮かぶんだがなかなか口から上手く出て行かないんだよな。

 

「おい、イッセー! 会長たちの方がヤバイらしい! 樹みたいな身体のと、首が三つのと、凶悪なドラゴンが二体も来たらしいぞ!」

「なッ! マジかよ!」

 

 余所のクラス、多分同学年だったと思う男子生徒が耳に手をやりながら大声をだした。

 それに答えて兵藤まで声がデカイ。

 テンション高いなぁ……。

 

『樹木のような身体の龍に、三つ首の龍だと! 先ほどのグレンデルから考えるとまさかアイツラか!?』

 

 兵藤? の辺りから違う声が聞こえてきた。よくよく気をつけてみれば兵藤ともうひとりも悪魔みたいだしなんかあるのかね?

 寄生生物を体内に飼ってるとかさ。

 

 どっか隠れるかな。

 ドラゴンはどうとでもなるけど、魔法使いがヤバイ。魔法攻撃なんか受けたら死んでしまうじゃないか。

 隠れるのは得意だ。

 あまりの存在感のなさに、“存在を抹消された龍(ステルス・ドラゴン)”とまで言われたんだからな。

 そう、毒物には潜伏期間があるものも多いんだ!

 決して無視されていたわけではない! 

 名前からくる特性だったんだよ? 雷光みたいに、雷光みたいに!

 

『あれ? 居なくなった!』

『なッ! まったく気付かなかったぞ』

 

 ああ、誉めるの忘れてたな。

 

――「せいぜい頑張れよ」

 

 いかんな。あんまりひとを誉めた事がないから、誉め言葉が見つからなかった。

 とりあえず応援しといたしいいだろ、これで。

 

 

 〇質問に答えたつもりはまったくない。ブツブツ言いながら考えていただけ。

 

 

 

 

 ▼女子高校生のD×D(続)

 

 

 

 何も無ければ逃げていた。

 

 

 なんかしらんが悪魔がいっぱい居た。

 生徒会長って悪魔だったんだな。

 生徒会長とその仲間達? とかさっきの兵藤もだけど、普段から今みたいにさ“私、悪魔です!”って感じのオーラ垂れ流しておいてくれると助かるんだけどな。

 隠すみたいにコントロールされると判らないから。

 私のスカウターは旧式なんだよ!

 

 それにしても悪魔、魔法使い。そして一般人の生徒。――生贄の儀式でもするつもりなんだろうか?

 こう一般生徒の命と魂を変換して、賢者の石を作り出すとかさ。

 まぁ、違うんだろうけどな。

 魔法使いたちが生徒を巻き込むような攻撃をしていて、それを守るようにして戦う悪魔たち。

 おかしくない?

 逆ならわかるんだけど。

 長いこと関わらない間に、悪魔の立場とかも変わったんだろうか?

 んー、そういえば人間を守っていたヤツとか、人間に仕えていたのとかも居たような気がするな。

 考えてもしょうがないか、今は関係ないし。

 見つからないうちに移動するかな。

 

 ほんとに校内は危険でいっぱいだな。

 魔法使いどもに見つかったらアウトだし。

 丁度良いダンボールもないし。

 コソコソと移動するのも疲れるし、精神的にきついよなこれ。

 やっぱ家に帰って布団に潜ってれば良かったかなぁ。

 なにをやっているんだろうか、私は……。

 

 アイツ、うちじゃあアレだけど妙にマジメなときがあるからな。

 へんに張り切って『生徒を守るのは教師の務めです!』とかやってなければいいんだけど。

 

 

 

 

 校舎内の廊下で残念教師を見つけたのはいいんだが……。

 うん。ロセ、お前は死刑だ!

 ひとが心配して探しにきてやったって言うのに、お前ときたらイケメンとイチャついてやがるとか……どうなってるんだよ!

 

『ああ、あなたのこの髪はとても美しい……』

『あの、そんな。困りますぅ……』

 

 くそビッチが。なにが、困りますぅ~だ!

 全然困ってるように見えないんですけどね、私には!

 二人して銀髪で、美男美女でお似合いですね!

 ……くそが!

 どこで引っ掛けてきたんだよあのイケメン、まったくこの非常時にとんでもないアバズレ女だな。

 って、うわー、うわー。

 イケメンがロセの髪を手で梳き始めたぞ……。

 

『ふふ、本当に美しい……。あなたなら、私の姉上になれる……』

 

 え、ちょ……なんか、ゾワッゾワッと来た。

 

『ああ、アア、嗚呼、姉さん。姉さん、姉さん……ねえさん』

 

 おおおおおい。なんか怖いよ。怖いよこのイケメンっぽかった人。

 

『ヒッ……』

 

 ロセもドン引きだよ。さっきまで、まんざらでもなさそうだったのに……。

 いやーわかるけど、わかるけどな。

 あれはないわー、うん、ないわー。

 

『ふふふ、魔法使い達も不死鳥の少女を確保したようですね』

『えっ?』

 

 シスコン野郎は悪魔の翼を広げると、その翼でロセを包み込むようにして浮き上がった。

 左手でロセの両手を封じるように抱えた上に、翼で包み込むとか……。独占欲強そうだなコイツ。

 ヤンデレの素質があるね、きっと。

 

『放してください。放して……。はなせーー!!』

 

 いろいろと鈍い私だが、流石にあれだけ飲み食いを一緒にすれば気付くこともある。というかロセのヤツ、自分でヴァルキリーだって言ってたしなぁ。

――酔ってたけど。

 ロセは結構強いはず……なんだ。たぶんルシファーの小間使い(ルキフなんとか)してたヤツの部下くらいとなら戦えそうな気がする。

 そのロセがオーラをほとばしらせて抵抗をしているんだが、シスコン悪魔を振り払う事ができないようだ。

 うーむ。ロセが全力で暴れてもビクともしないとは、あの悪魔なかなか強いな。ルシファーの小間使いやってたヤツと同じくらいかなぁ?

 

『そんなに暴れないで下さい。私はあなたを傷つけたくは無いのです』

『い、痛い。やめて……』

 

 ヤンデレのイケメンにギリギリと締め上げられて、うめき声のロセさん。

 

『あまり抵抗されると、籠手の制御が難しくなってしまうかもしれません。ああ、でも安心してくださいね。例えこの腕であなたを抱き潰してしまったとしても、ちゃんと愛してさしあげますから』

 

 あかん。

 これはイカン。

 あの銀髪悪魔、完全にイカレてるっぽい。

 ヤンデレが許されるのは夢や幻の中までだよね。

 だが、すまないなロセ。

 相手が龍だったらグレートレッドでも倒してやるんだが、相手が悪魔では勝てないんだ。

 ほんとに、相手が龍でさえあったならな。 邪龍が千でも万でも、空の9割が龍で埋め尽くされていても助けてやれるんだがなぁ……。

 

『姫君をさらうのも悪魔や龍のたしなみ。まして今の私はどちらでもあるのですから……。さぁ、参りましょうか』

『シスコンはイヤーーーーーー!』

 

 校舎をぶち抜いて空へと舞い上がるシスコン。

 ぼーっとそれを見上げていると、連れ去られて行くロセがこっちを振り返った。

 

 そんな縋るような目で見るなよ。

 期待するような瞳をするなよ。

 

 私は剣とか振り回せないからな。助けられないぞ。

 家のたけざおでガラス割ったことならあるけど。ちなみに魔王(ママン)にスゲー怒られた。

 

 ……。

 …………。

 

「ちっ……」

 

 ホントめんどくさい女だなアイツは!

 どんくさいし。

 びんぼくさいし。

 いなかくさいし。

 ババくさいし。

 ゲロくさいし。

 

 でも……。

 

 一応、そう……一応だが、友達だしな。

 

「友達は助けるものだよな」

 

 ハーデスのジジイが言ってた。

 リリーは私を助けようとして戦争を起こしたって。

 そのせいで死んでしまったって。

 

「バカだよなぁ……」

 

 おかげでもうあえないじゃないか。

 

「ほんと、めんどくさいな!」

 

 

 ところで、助けるにはどこに行けばいいのだろうか?

 誰か教えてくれませんかねぇ。

 

 

 〇元々壊れ気味のシスコンさん。長年仕えてきた主にお暇をもらったそうです。

『好きにやればいいんじゃね』(明日からこなくていいから)



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Dと出会ったDの如き運命の第八話

『この町は三大勢力が合同で張り巡らせた強力な結界に覆われています。それを無効化し誰に察知されることもなく禍の団(カオス・ブリゲード)やはぐれ魔法使いたちを侵入させることのできる可能性。それは私たちの中に裏切り者がいるか――』

『――サマエルか』

『そう、彼女ならば可能でしょう。"楽園の蛇"は聖書における最大級のビッグネームです。"神"に次ぐ存在と言っても過言ではありません』

『神さまの次……ですか?』

『聖剣事件のときのコカビエルは、偽典にわずかに記されているにすぎない存在です。ですがサマエルは最初の書である"創世記"、それも序盤に大きく記された存在なのです』

『えっと、会長……それってスゴイんですよね?』

『イッセーくんにわかりやすく言うと、ドラグ・ソボール本編のラスボスがサマエルなら、コカビエルは劇場版の部下Cってところね!』

『うげっ、マジかよ』

『今のサマエル、我より強い』

『そうですね。イリナさんの言い方にあわせるのならば、ラスボスが裏ボスの力の半分を吸収している状態――それが今の彼女です』

 

 敵ははぐれ魔法使いに、謎の復活を遂げた邪龍たち。

 

 三大勢力への復讐を告げながらもグレンデルを一蹴して去った"神に敵対する者(サマエル)"の真意はなにか?

 行方の知れない北欧からの使者、彼女はどこに行ったのか?

 

『わからないことは多くとも、今やるべきことはひとつです。「さらわれた一年生達を助け出す」ただそれだけのこと』

 

 怒りを宿した瞳をレンズで隠し、ソーナ・シトリーは言葉を続ける。

 

『そのためならば、私はどんな手段でも使いましょう』

 

 ソーナは手には、校庭で回収した"勝利のカギ"があった。

 

 

 

 ▼女子高校生のD×D(終)

 

 

 シヴァ犬があらわれた!

 

 シヴァ犬のうなる。

 

 私はビビッて居る。

 

 いや、なんで犬がいるわけ? 飼い主、かいぬーし!

 ちゃんと繋いでおけよ。

 どうするんだよコイツ。

 保健所でも警察でもいいからどうにかしろよ!

 ヤバイぞこれは……うかつに動いたらヤラレル。

 背中を見せたら、すかさずマルカジリしてくるに違いない。

 

 強敵。

 圧倒的な強敵と遭遇してしまった。

 にらみ合いながらジリジリと回り込み合う私たち。

 コイツ……出来る。

 この状況、視殺戦とでも言うべきだろうか。互いの隙を突こうと張り詰めた空気があたりに充満する。

 精神力がジリジリと削られてゆく。向こうも同じだろうか? それとも余裕なのだろうか? わからない、わからないのだが、今の私に出来ることはただにらみ合うことしかないのだ。

 実際のところ、即座に襲い掛かられたのならば勝ち目等ない。

 

 人の身体は戦うように出来ていない。

 毛皮のかわりに鎧を着て。

 爪牙のかわりに槍を持ち。

 四足のかわりに馬に乗る。

 それでようやく獣と互角。

 

 それなのに今の私ときたら、剣どころか大事なモノさえはいていない始末。

 これでやられてしまったとしたら。

 

 ――女子高校生、犬に襲われる。原因ははいていなかったから。

 

 どうする? どうするよ、私。

 新聞に載ることは流石にないだろうが、病院送りとかで発覚した日には恥ずかしくて死ねるぞ。

 くそッ!

 えええぇい! くるなら来い! この犬畜生がァ!

 噛んでみろ、噛み付いてみろよ! ガブリとなぁ!

 折ってやる、折ってやるぞ。その瞬間、攻撃を決めたその無防備な瞬間に、貴様の首の骨をへし折ってやる!! それでも良いっていうのなら、来てみろよ犬っころがぁ!

 

「来るならさっさと来い! ぶち殺すぞ!」

 

 私の挑発。

 

 負け犬はにげだした!

 

 キャインキャインと鳴き声上げ走り去る犬。

 ふふっ、勝った、勝ったぞ。

 まぁ、当然の結果だがな。いやー参ったな、ほんと私の気合は凄まじいな、シヴァ犬でさえ逃げ出すとはな。

 

「申し訳ありません。つい、隠れて近寄るような真似をしてしまいました」

 

 お?

 私が自分自身のあまりの力に恐れおののいていると、後ろから声をかけられた。

 

「あっ……か、かいちょ」

 

 悪魔会長があらわれた!

 どういうことなの? 犬の次は悪魔とか……連戦? 連戦だったの? ボス連戦とか聞いてないですよ?

 

「あなたにお願いがあって探していました」

 

 お願い?

 お金は貸すほどモッテナイデスヨ?

 

「どうか私たちを助けてください。アジ・ダハーカ、ラードゥン、そして彼らの言葉を信じるならばクロウ・クルワッハ――いずれも伝説に残る強大な邪龍たちです。とても私たちだけでは勝ち目がありません。かといって冥界からの増援を待っている時間もないのです。ですから、どうか……どうか私たちを助けてください」

 

――お願いします。

 

 そう続けると生徒会長は深く頭を下げた。

 頼られた……だと。

 

 助けて下さい。お願いします。どうか、どうか、どうか……。

 

 生徒会長の声が頭の中を駆け巡る。

 自慢じゃないがひとに頼られない人生を送ってきました。

 なんだ、どういうことだぁ? 

 

「あ、ああの……あたまを……」

 

 生徒会長の頭は下げられたまま。

 率直に言おう。スゲー気分いいわコレ。

 上級生で、生徒会長で、人気もあって、頭よさそうなメガネのひとに頼られるとか……。

 

「お願い、しますッ」

 

 いかん、なんという精神攻撃。

 ついついフラフラと助けてあげたくなってしまうが、今は、今はダメなんだ!

 

「ぎょっ、ご、ごめんなさい。さっ、さがさないと……なん、で」

 

 あああ、バカバカバカ、ロセのバカ。

 生徒会長に頼られちゃう私ってスゲーーー! って感じでデビューするチャンスだったのに!

 おまえのせいで手に入れ損ねるじゃないか。まったくどうしてくれるんだよ。

 

「そう、ですか……」

 

 うぐぐ、なんかこう罪悪感というかそんなものが湧き上がってくる声だな。

 

「い、いま、今はむり、だけ、ど。ま、また、よぉ……よんでくれたら……うへへ」

 

 バッっと上げられた頭。

 なんか、スゲーうれしそうな顔になったな生徒会長。

 

「はい! そのときにはどうか、よろしくお願いします」

 

 もう一度、地面につくんじゃないかってくらい頭をさげる生徒会長。

 

「慌しくて申し訳ありませんが、学校でのことで急いでいるものですから――では、失礼します」

 

 生徒会長そう言ってからしばらく走り、私から距離を取ると翼を広げて飛び立っていった。

 どうにも急いでいるらしいのに、上を取らないよう気を使うとか……えらく礼儀正しいな。

 

「最近の悪魔の教育はどうなってるんだ……」

 

 

 生徒会長と別れ、シスコンが飛び去った方向へとひたすら歩く。

 走ると吐いちゃうかもしれないしな。

 しかし、これはどうにもこうにも……。ごめんロセ、これは見つけられないかもしれない。

 手がかりとかないしなぁ。どうしたらいいんだろう。

 そんな風にトボトボと歩き、あてもなくさまようこと数時間。

 私の頭に声が聞こえてきた。

 

「幻聴かよ」

 

 これはダメかもしれない。私、お疲れです。

 

――『我が呼び声に応えたまえ、敵対者(サタン)と呼ばれし者よ。憤怒を司る者よ。ここにあなたの(ゆかり)の品を捧げる。どうか我が願い、我が呼び声に応えたまえ。お()でください! 「楽園の蛇」! サマエル様!』

 

 生徒会長の声かな?

 そんな言葉が聞こえたかと思ったら、私の足元に黒い魔方陣が出現した。

 毒々しい黒い光を放つその魔方陣は――。

 

「私の龍門(ドラゴン・ゲート)!?」

 

 召喚のための捧げ物として私に提示されたイメージは……アレかよッ!

 行くしかないじゃないかよコレ。

 学校で無くして、何処いったのかとビクビクしてたんだよ。

 生徒会長が持っていたとは……くそ、恥ずかしい。そりゃ、名前書いてあるもんな、わかるよなぁ。

 ああ、なんてことだ。落し物として届けられたのか? どっかで晒されていたのを回収されたのか? ああー! もうダメだぁ。

 転校するしかない!

 

――『んっ、こほん。大丈夫です。他のひとたちは知りませんから。私も秘密を守ることを約束します』

 

 脅迫かよ!

 最近の悪魔の教育はバッチリだな! 未来も安泰だよ、リリー!

 もうこれは、応じるしかないじゃないか。

 

 ああ、しかし、龍門(ドラゴン・ゲート)を潜るなんていつ以来だろうか……。

 

 

 ★ 

 

 

『やはり、頼るしかないようですね』

 

 状況は劣勢というのもおこがましいほどに悪く、同時に笑ってしまうほどに良い。

 魔法使い達は片付けた、さらわれた一年生達も戻ってきた。

 だが正直なところ魔法使い達などいてもいなくても変わらなかっただろう。全ての魔法使い達を足したものよりも凶悪な力を誇る敵が四体も目の前にいるのだから。

 敵は強大無比。

 

 千の魔法を操り、ゾロアスターの善神の軍勢と激しく争ったと伝わる"魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)"アジ・ダハーカ。

 ()()()赤龍帝の一撃でさえ受け止めて見せる障壁と結界の使い手"宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)"ラードゥン。

 現ルシファーの女王の弟であり、偽りの赤龍帝でもある悪魔ユーグリット・ルキフグス。

 そして、神話の時代から修行をし続け、今や全盛期の己に届いたかもしれないとドライグに言わせる存在"三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)"クロウ・クルワッハ。

 

 勝ち目がないことなど最初からわかっていたのだ。敵は魔王の眷属が集まっても危険だと感じられる戦力なのだから。

 そう、ソーナ達だけでは――。

 結果的にだが、強敵と呼べる相手が全て"龍に連なる存在"だったことは幸運だったのだろう。

 

――『い、いま、今はむり、だけ、ど。ま、また、よぉ……よんでくれたら……うへへ』

 

 三大勢力への恨みは尽きていないはず、なのに召喚の許可をくれた。

 彼女も駒王学園の生徒なのだ、きっとあの惨状を許せなかったのだろう。

 協力を取り付けるためなら多少汚い(文字通りに)手も覚悟していたが、彼女はこころよく承諾してくれた。サマエルにも愛校心があったのかと思うと、こんな時でもあるにも関わらずソーナの口には笑みが浮かんでしまう。

 

『我が呼び声に応えたまえ、敵対者(サタン)と呼ばれし者よ。憤怒を司る者よ。ここにあなたの(ゆかり)の品を捧げる。どうか我が願い、我が呼び声に応えたまえ。お()でください!「楽園の蛇」! サマエル様!』

 

 戦乙女ロスヴァイセ。

 他者を寄せ付けない孤高の堕天使が唯一気を許した存在。

 拘束された北欧の使者を見つけたとき、ソーナ・シトリーは勝利を確信した。

 憤怒を司る神の敵(サタン)を怒らせて、ただで済む者などいない。ましてそれが龍であるならば……。

 

『ユーグリット・ルキフグス。あなたは――選択を間違えた』

 

 (ドラゴン)だけは確実に殺せる者。

 無限を喰らった"龍喰者(ドラゴン・イーター)"。

 

 ソーナの手には厳重に包まれた"勝利のカギ"。

 今、そのカギが悪意の門(ドラゴン・ゲート)を開いた。

 

 

 〇教育者(志望)の慧眼?

 

 

 

 

 ▼女子高校生のD×D(余)

 

 

 龍門(トンネル)を潜ったら、そこは白い空間でした。

 広い、ひたすら広い真っ白い空間にいたのは、悪魔にドラゴンに天使? に黒と金色が混ざった髪のおっさん。

 それから――ロスヴァイセ。

 ジャージ女が十字架に括り付けられ、その顔は仮面で隠されている。

 あ゛!?

 気に入らない、気に入らないな、それは。

 シスコン悪魔の性癖なんか知りたくもないが、あれは気に食わない。

 

「これをお返ししますね、それから状況を説明します」

 

 私を呼び出した生徒会長が声をかけてきた。

 差し出されたのは"私に縁の深い物体"。中身がわからないように厳重に包装したそうだ。

 あー、うん、気が利く、ね。

 ブツを受け取って頷くと、会長は話を続けた。

 

「簡単に言うと、向こうの四名は龍です。そして私たちの敵であり、ロスヴァイセ先生をさらってあのような状態にした犯人です。倒していただけませんか?」

 

 樹みたいな(ヤツ)と、首が三つの(ヤツ)はわかる。

 兵藤と似たようなコスプレをしたシスコンは龍なのか? 悪魔の翼が生えてるけど……。

 

「サマエル? あの堕天使は冥府に封印されているはずです」

 

 その通りだシスコン、本体は冥府でハリツケ続行中。ただし、意識はここにいるけどな。

 

「ああ、たしかにヤツはサマエルだ。この俺が……暗黒龍と称されたこの俺が、恐怖と共に逃走を選ばされた相手だ。かすかに洩れ出るこの毒気、この悪意。間違いない」

 

 暗黒龍というと、クロなんとかだったよな。

 わかりにくいんだよ! 龍なら龍っぽいかっこうしてくれよ!

 

 とりあえず、いいや。

 どいつも龍だって言うのなら。なんてことはない。

 

 見せてやるよ! 最強最古の堕天使の力。お前らなんかが私を敵に回したら……後悔する暇も無いんだけどな!

 

 相手が強いのなら、気に食わなくたって従わなきゃいけないこともある。

 でも、こんな呪いでくたばるような(ザコ)共相手なら、いくらだって強気に出られるからな。

 まったく、"呪われてるのは私"だっていうのにさ。そこからこぼれて出て行く"オマケ"程度でバタバタ死にやがって。

 そのクセにひとの友達にそんな真似しやがって。

 拘束プレイはお互いの同意の下で行ないましょう。常識だぞ、常識!

 おかしいだろうが!

 呪われてるのは私なんだぞ、私。このサマエル様なんだよ!

 聖書の神(アイツ)に――しねしねしねしねしねしねしねしいいいねぇぇええって全力で悪意満載、毒満点の言葉を頂いてよぉ。

 わざわざ、龍で蛇なところのある私専用に調整した、即行即死確定の龍殺しの呪いをプレゼントされた訳だ。

 それが聖書の神(あのばか)と来たら実はよわっちかったのか知らないけど、おなかが痛くなる程度で済んでしまった、私です。

 私程度のヤツが腹痛で済む呪いだぞ? 

 そのまた副次効果くらいでバタバタバタバタ逝きやがって!

 

 

「どう考えても龍ども(オマエラ)は弱すぎる!!」

 

 ……。

 …………。

 

 なんだ、やっぱり弱いなオマエラ。

 もう、死んでるじゃないか。

 ロセ。おーいロセ、帰るぞ。

 くっ、この! 拘束が取れない!

 

「手伝いましょう」

 

 お、気が利くな会長は、流石だな。

 

「あの、贅沢なことを言うようですが――少し抑えていただけるとありがたかったのですが……」

 

 そう言いながら他のヤツラがいる方を見る会長。

 その視線の先では兵藤ともうひとりの男子が寝てやがった。

 お前らマジメにやれよ! ほんとに男子ってヤツはダメだな!

 

 会長の手を借りて、というかほとんど会長がやったんだが、ようやく解放されたロセ。

 

「きっと、助けてくれると信じていました。やっぱり、あなたが私の勇者だったんですね……」

 

 ロセ……。

 

 そのセリフひそかに考えていたのかもしれないがな――顔にお面の跡がすごい着いてるから、な。

 

 台無しだぞ。

 

「姉さんの仮面を着けようとか言ってたんですよ。あの変態! 身体だけが目当てとかもどうかと思いますけど。髪だけが欲しいとか……」

 

 あー、うん。

 イヤな事件だったね……。

 

 

 

 

 〇結論:どう考えてもサマエルは超越者。




ソーナのサマエル召喚が発動! 効果:龍は死ぬ。

ダークなドレアムさんとデスタなムーアさん的な


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最終話:登り始めたばかりの逆ハー坂

最終話

 

 赤く焼けた空。

 紅く溶けた大地。

 そこは戦場だった場所。

 屍が山を築き、血が河となって流れる荒野。

 大地には無数の勇者が横たわっている。

 その屍を犯すように降り注ぐ影は、蛇の尾を持っていた。

 

 空を灼く猛毒の名は、神の悪意(サマエル)

 六対十二枚の黒い翼と長く伸びた黒髪は血塗れて輝き、下半身の蛇体には打ち砕いた肉片が張り付いている。

 

 無限を喰らった悪意の化身。

 

 この世界に彼女を殺せるものなどいるのだろうか?

 その答えは、この風景が示している。

 

 百の、千の、万の勇者たちが彼女に挑んだ。

 その暴威に、猛毒に、悪意に、呪いによって打ち倒された。

 紅い龍は引き裂かれ、その主と仲間達は潰され、焼かれ、切り刻まれた。

 蛇が人の子の学び舎にいたとき、会長と呼んでいた者とその眷属達も皆、皆、皆、死に絶えている。

 

『楽しかったね、ヴァーリ君。君と殺しあえて(アイシアエテ)、とても嬉しかった。でも、もうおしまい。また……遊ぼうね』

 

 その言葉に答えはない。

 彼女の腕に抱かれた白い戦士。――彼はもう死んでいるのだから。

 死せる戦士の頬を優しく、優しく、大切に、大切に、愛おしそうに撫でた後、蛇は戦士に口付けを落とす。

 

『フフッ、次はちゃんと起きている間にしてあげたいな』

 

 この世界にたったひとり、たったひとりの蛇は死せる戦士と踊り狂う。

 くるくるくるくるくるくるくる、燃える空の上でとても楽しげに、飛び回る。

 誰もいない、誰もいなくなったセカイ。

 ひとりぼっちだけど、だれもかれもが彼女のために戦ってくれたセカイ。

 

『楽しいなぁ……。たのしいなぁ。ここに来て、本当に良かった。ロセには感謝しないといけないな』

 

 蛇を変えたのはひとりの戦乙女。

 蛇を解き放ったのは隻眼の神。

 北欧の者達の思惑が、この世界を生み出した。

 悪意以外に動くものの無い世界を生み出した。

 

『人気者ですね、サマエルさん。気に入ってもらえたみたいで、私も紹介した甲斐があります』

『うん、ありがとう、ロセ。おかげで毎日が楽しくて仕方ない』

 

 どこからか飛んできた戦乙女と蛇が微笑み会う。

 そして戦乙女――ロスヴァイセはその手に持った(おたま)(フライパン)を打ち鳴らす。

 

『みなさーーーん! 夕飯の時間です。おきてくださーーーーい!!』

 

 

 

 ▼就職したし、逆ハーレム

 

 

 邪龍(ザコ)共を蹴散らした後、会長と仲良くなった。ついでに会長の子分どもが気を遣ってくれるようになった。

 教科書わすれても借りる相手がいるって素晴らしいな。

 会長は3年生だったのですぐ卒業してしまったんだが、迂闊にもその卒業式では泣いてしまった。

 そうして私も最高学年となったわけなんだが、生徒会とか勘弁して下さい。生徒会長は三魔女のひとりだったし、恐ろしくて恐ろしくて必死で断ったよ!

 

 三年生の間は特別に事件も起こらなかったし、平和なものだったんだが……。

 ああ、ちょっとした騒動はいくつかあったな。

 例えば――。

 

――『アザゼル、ち●んちん見せろ』

――『はぁぁぁぁ!? 』

――『ヴァーリ君との本番で焦らないように勉強が必要なんだ』

――『エロ画像でも見てろ!』

――『なんだよその態度は! アザゼルのくせに! 私にあんなことしたくせに! よってたかって、縛って、目隠しして、ぶっといので何箇所も何箇所も刺しやがったくせに!!』

――『ちょっ! おまっ! バカか!』

――『事実だろうが!』

 

 その後にロセが絡んできて結構揉めたっけなぁ……。

 

――『アザゼル先生! 今の話は本当のことですか?』

――『いや、本当っていやー本当なんだが……』

――『本当のことなんですね! このケダモノ! 変態! △□××〇……!!!』

 

 うん、アザゼルのヤツが困る姿はいつ見てもいいものだ。

 

 それで、結局は大学へは進まずにロセの紹介で北欧のオーディンのところに就職したんだが。

 この職場が素晴らしいんだ!

 もうね、もうね、すんごいんだよ!

 朝から、夕方までギラギラとした目の勇者(イケメン)たちが私を追い回してくれるし、夕飯はいつもイケメンたちと豪華に宴会三昧。

 毎日が酒池肉林ってやつだね。

 すごいここ。ほんとすごい。

 主神(オーディン)最高! 聖書の神(アイツ)なんか目じゃないね!

 高三の時にヴァーリ君が龍だって知ったときはさ、手を繋ぐことも出来ないのかと悩んだものだったけど。ここでなら死んでも夕飯時には生き返るしね!

 真昼間から衆人環視状態の中で殺し合い(あいしあい)たいとか言われてさー。もう恥ずかしいなぁ。

 現世だったら迂闊にそんなこと出来ないけど、このヴァルハラなら安心だしね!

 

 紅毛女とか兵藤とかもたまに修行とか言ってやってくる。

 会長……今は校長は学校の生徒を連れて合宿にくる。

 なんでもここは世間で流行っているゲームの練習にもってこいらしい。“サマエル道場”とか呼ばれてるらしいが、なんなんだ一体。

 北欧以外の者が来るときは結構な金額を請求してるんで大儲けだって、オーディンは喜んでいたなぁ……。

 チーム・エインヘリアルもトップランカーになってるって言ってたし。

 

 あとオーディンが私の本体をコキュートスから引き取ってくるときに、ハーデスのジジイが寂しそうだったらしいって聞いた。なので今は、ガイコツジジイと文通をしたりしている。

 あのガイコツも兄弟神からハブられて、「お前は地下に住んでる冥府の神だから、オリンポス十二神にいれてやらね」とかいじめられたことがあるそうだし。

 冥王星もハブられたし……。

 動けなかったころはジジイの愚痴でも暇つぶしにはなったしなぁ、ちょっとくらい優しくしてやろうと思うんだ。

 

 まぁ、うん。こんなところかな。

 

 天国にはいないだろうリリー。

 私は楽しくやっています。

 もしどこかで生まれ変わる機会でもあったなら、リリーも楽しくやってください。

 

 

 

 〇三大勢力及び各地の神話体系間による協議の結果、サマエルの収容先が変更されました。

 氷結地獄(コキュートス)修羅地獄(ヴァルハラ)

 

 

 

 

 

 サマエル:毎日毎日、勇者(イケメン)たちと戯れるご機嫌な日々を過ごしている。

 

 ヴァーリ:毎日毎日、サマエルに挑戦してはやられる日々を過ごしている。

 

 ロスヴァイセ:念願の勇者(イケメン)たちのお世話係りに転属出来た。それもこれもサマエルをスカウトしてきた功績のおかげ。最近は北欧出身の英雄の子孫でもある白髪の凄腕剣士と付き合っているとかいないとか。

 

 オーディン:棚から牡丹餅的に戦力と資金源を手に入れた。

 

 ハーデス:サマエル相手に愚痴ってるうちにちょっと情が湧いた冥府の神様。こっそり釘を一本抜いてあげたらしい。おかげさまで意識体が転生出来た。

 

 校長:学校でたまに募集されるヴァルハラ合宿は恐怖と羨望の的。心折れる者と、劇的に強くなる者を生み出すとかどうとか。

 

 その他:サマエルの興味の対象外。




これにて終了。
坂道にするための適当なサブタイトルでした。
ではまた、どこかで。


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