試作小説保管庫 (zelga)
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D・Gray-man
試作その1 プロローグ


久々にD灰24巻まで読んだら書きたくなった。ただそんだけ。


 

突然だが、みんなは『転生』というものをご存じだろうか。

 

そう。二次小説等でよく使われる、神様が間違って殺しちゃったテヘペロからの特典をもらい記憶を引き継いで別世界に行くという、あれだ。まぁ最近ではテンプレになりすぎたせいか、少々別の方法でやるものもある。

 

まぁ、なぜこんな話をしたのかというと、俺は転生をしてしまったらしい(・・・)。

 

なぜ確証がないのかというと、神様に会っていないから。第一話やプロローグでよくやる神様との対話をしていないのだ。

だが転生をしたという確証はある。それは前世の記憶があるからだ。と言っても平凡な人生で、この間25歳の誕生日を迎えたばかりのサラリーマンの記憶だがな。

さらに、死んだ記憶はない。仕事から帰って晩飯を食らい、明日のことを確認して布団にもぐったのが最後におぼえていることだ。

 

 

 

 

そんで、目が覚めたらあたりは廃墟だらけのさびしい空間。

いやぁ、あの時は驚いた。夢かな~と思って頬をつねってみたんだが、普通に痛い。それなのに、一向に覚める気配がない。

そんでそのあとに気づいたんだが、自分の姿が変わっていた。というより若返っていた。たぶんこれは15歳くらいの時のだな。なぜか服装が当時通っていた高校の制服だけどまぁいいや。

で、そこまでは問題はなかった(まぁあったと言えばあったが)が、そのあとがまずかった。

 

 

 

 

 

化けものに出会ったんだ。しかも、漫画で見覚えがある化け物と。

 

そいつらは球状の巨大な体を持ち、空中に浮遊していた。さらにそこから棒状のようなものが何本も突き出ていて、非常に気色悪い見た目をしている。

 

そいつらを直接見て、俺は思考停止していた。完全に予想外の出来事だったのだ。

そうしていると、そいつらのうち一体と目があった。するとそいつは口角をゆがませて、その棒状なものを数本俺のほうに向けた。

 

 

 

そして、轟音とともに、俺は吹き飛ばされた。

 

壁に背中を打ち付けて、肺から空気が追い出される。必死に呼吸をおこなおうとするが、ショックからかうまくできない。

 

 

イタイイタイイタイイタイイタイ!!!

 

 

全身に激痛が走り、撃たれた個所から血が噴き出る。それだけじゃない。そこを見ると、傷口周りから星模様の斑点が浮き出ていた。それはどんどん体中に広がっていく。

 

あぁ、そうだ。あいつらは自らの血を弾丸に変換して撃ち出す。それに撃ちこまれると、弾丸に含まれた毒のウイルスが急速に体内を侵食して、最期には身体が砕け散る。

 

そうか。転生したが、これで二度目の人生は終了か。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・ふざけるなよ。こちとら状況もよく把握できてないんだ。それなのに、こんなところで、こんな奴らに殺されてたまるかよ・・・・・っ!

 

死にたくない・・・死んでたまるか!!

 

 

 

 

 

 

瞬間、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

そして、意識が戻ってきたとき、状況は変わっていた。

 

まず、生きてた。服はボロボロだし傷もあるが、体中に会った斑点はなくなっている。

次に、体が光っていた。別にご臨終して霊魂の類になったというわけではない。なんというか、静電気のようなものが体を覆っているような感じだ。さらに、俺の両腕には見たことのない腕輪がついている。

そして最後に、周りの景色が一変していた。もともと廃墟だらけだった周りの景色が、さらに破壊しつくされている。もはや瓦礫の山。

 

そして、少なくとも3体はいた奴らの気配を感じない。

だが、俺の中の何かが奴らが付近にはもういないことを告げていて。俺はそれをあっさりと信じていた。

 

 

 

そしてようやく、俺は自分の中でまとめていた考えを受け入れることができた。

 

 

AKUMA、それがあいつらの総称だ。そして、この世界は『D・Gray-man』なのだ、と。

 

 



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試作その1 第1話

 

 

俺がこの世界に転生してから、一年たった。

 

いや、別に冗談を言っているわけじゃない。本当に1年たったのだ。

あの後廃墟街から離れた俺は、世界中を旅することにした。と言っても言うほど大層なものではなく、気の向くまま色々なところに赴いている。

 

その途中、立ち寄った町々で情報を集めたが、この世界が『D・Gray-man』の世界であることはほぼ間違いないようだ。

『黒の教団』、『AKUMA』、『怪奇現象』。これらについて調べたところ、様々な情報が出てきた。そのうちほとんどが憶測によるデマだったが、一部の情報は信じれそうなものだった。まぁこれも、原作知識を持ってるからなんだけどね。

 

まぁ、そんなこんなで黒の教団の存在を確認したが、ぶっちゃけ俺は教団に行くつもりはない。なぜならひとつ疑問が残っているからだ。

 

それは、現時点で原作が始まっているのかどうか、ということ。現在の年号はわかるが、元々原作で詳細な年号は書かれていないため、今がどのあたりなのかわからない。

 

始まっているのなら問題ない。むしろ追々千年伯爵やノアの一族と戦うのだから教団に所属していたほうが何かと都合がいい。

 

だが、もし始まっていなかったら。まだ教団がイノセンス適合者たる『エクソシスト』を増強しようと非道な人体実験を繰り返しているような時代だったら。

正直そんな状態の教団に行くつもりはない。表向きは何もないが、裏ではそういうことをやってるとわかっているので、正直居心地が悪い。

 

まぁ原作後の場合もあるが、その可能性は低いと思う。その理由は後で言う。

 

まぁそんなわけで、この1年間俺は各地を転々とまわり、怪奇現象を調べて現場に行った。原作では『怪奇現象のあるところにイノセンスがある』とあったように、怪奇現象の原因がイノセンスである可能性があったからだ。そうだとしてイノセンスが可能なら回収し、後で教団へ行く際の土産にでもしようと思ったのだ。

 

ほとんどはデマだったが、とある3か所での怪奇現象はイノセンスが原因だった。そのうち2つは俺が回収し、もう一つは黒の教団所属のエクソシストが回収した。その時俺は顔を見られないよう行動していたので、あいつらに顔バレはしていない。

 

各地の怪奇現象に首を突っ込んだので、AKUMA共とはよく戦った。と言ってもほとんどが球状のレベル1で、特殊な形状のレベル2が時々、レベル3以上の奴等とは一度も出会ってない。

これが先ほど言った「原作後である可能性は低い」ということの理由の一つである。原作終盤になると、レベル1のAKUMAはほとんど出現せず、レベル2以上の奴らばかりだからだ。

 

本来AKUMAを倒せるのはイノセンスに適合した人間『エクソシスト』だけなのだが、俺はAKUMAと戦える。

 

というのも、俺の両腕にある腕輪、こいつがイノセンスらしいのだ。こいつの能力かどうかは知らないが、戦おうと感情を昂らせると腕輪が光り、薄い光の膜のようなモノが体を覆う。すると全身が軽くなり、AKUMAの血の弾丸をかわせるほど高速で動けるようになる。さらに、弾丸すら通さないAKUMAの硬い肉体を素手で貫けたり、手刀で切り裂けたりるようになったりするのだ。まぁこれも、AKUMAと戦い続けるうちにわかってきたことだけど。

 

そしてもう一つの理由であり、これのおかげで原作後ではないことが確信できる理由でもあることだが、それは現在の俺が闘っている目の前の人間にある。

 

そいつは男で、浅黒い肌色をしている。その筋肉質な体は2mはあろうか。上半身は異形に変貌していて、全身から雷を放電している。

 

「お前、さっきから逃げ回ってばっかりだなぁ。つまんねぇぞ」

 

そう言いながらさらに雷撃をこちらに放ってくる男の名はスキン・ボリック。

 

人類を滅亡させようとする千年伯爵と共に戦う『ノアの一族』の一人だ。

 

「うるせぇ。今お前をはっ倒す計画ねってんだよ!」

 

そう言いながら俺は雷撃をかわして奴の後ろに回り込み、奴の心臓を貫こうと貫手で突き刺す。が、浅く刺さるだけで奴の体を貫くには至らない。

 

「っ、AKUMAだって貫けるんだぞ。お前硬すぎだろ!?」

「無駄だ。お前の攻撃じゃ己は殺せない。【ライ】」

「無視ですかそうですか。っと!」

 

スキンが俺をつぶそうと雷を纏ったこぶしで殴りかかってきたため、すぐさま奴から離脱する。

 

「変だ」

「あ、なにがだよ?」

 

少し距離を取ったところに着地したら、スキンは俺に向かって疑問を投げてきた。

 

「今のやり取り、もう何度目だ。お前は己に何度攻撃した?」

「そんなの数えてるわけねえだろ」

 

少なくとも2桁はいってるとは思うがな。突破口がない今、こうやってチマチマ攻撃するしかない。

 

「そうか。15回だ、己にこぶしを当てた回数は。なのになぜ、お前は平然としていられる?」

 

そういうスキンの顔は、ただ純粋に疑問に思っているって顔だ。怒っているとか焦っているとか、そういうのじゃない。

 

「己は『怒り』を司るノア。この体躯には何百万ボルトもの高エネルギーが満ちている。わかるか?お前がそのこぶしを己に叩き込む瞬間、己のすべてがお前に流れ込むんだ。それなのになぜ」

 

お前は平然としていられるんだ?と。

 

「・・・あぁ、何かと思えばそんなことか」

「なんだと?」

「その答えは簡単さ。俺にその類は通用しねぇ」

 

さすがに多少は痛いけどな、ぶつける度に手がビリビリする。そう言いながら俺はさらに体に力を込める。すると腕輪がさらに輝き、俺の体を覆っていた光が電気を帯びる。

 

「・・・なるほど、そういうことか。お前のイノセンスの力は己と同系統のようだな」

「あぁ、そうだ」

「だが、お前が己を倒すには馬力が足りない」

「ハッ。俺に攻撃を当てることも、俺の攻撃をよけることもできないノロマがよく言う」

「・・・このままやるのは時間の無駄だ。そう思わないか?」

「同意だな。どうする、やめるか?」

「そんなわけがあるか。【ライ】【ライ】【ライ】」

 

そう言いながらスキンは力をためる。素早い俺を仕留めるために、避けれないほど膨大な範囲の雷撃を放つつもりだ。

 

うん、これを避けるのは無理そうだな。

 

「これで決めるぞ。お前が死んだら己の勝利だ」

「ってことは、俺が生きたらお前の負けだな。上等ぉ!!」

 

俺はイノセンスの力のすべてを防御に回す。すると雷光の膜が俺を中心に円状の結界のようなものを形成した。

 

「じゃあな、死ね。【雷】!!」

「死んでたまるか、出力全開っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい本部、聞こえるか?」

「あぁ、例の場所に着いたぞ。なんもねぇ。ガレキの山だけだ」

「・・・ん、なんだこいつ」

「・・・イノセンス。こいつが例のエクソシストかもしれないって奴か」

「おい、報告にあった例の奴を見つけた。たぶん間違いねぇだろ」

「・・・ッチ、わかった。一度こいつとイノセンスを持っていく」

「つまんねぇ。せっかくノアと殺り合うことができると思ったのによ」

 

 

 

 

 

 



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東方Project(終了)
試作その2 第1話


転生した~自分の容姿に気づく。
んで、能力確認後、扱えるように修行しよう。←ここまで


朝起きたら、目の前が森林だった件について。

 

 

 

先に言っておくが、俺は全くふざけていない。

 

いつも通り家に帰って寝たはずの俺。目が覚めてきたところでやたら布団が固いことに気づく。

 

あれ、布団ってこんなに寝心地悪かったっけ?

 

そう思った俺は目を開く。そして、そのまま固まった。

 

俺の目の前に広がる光景は、現代社会からは程遠い森林だったからだ。

 

しかも、とんでもなく広い。というより深い。

 

なんか、あれだ。ジャングルって言ってもあんまり違和感がないだろう。それぐらい木々が生い茂ってる。

 

正直訳が分からないが、夢であるかどうかを確認するために自分の頬をつねってみた。

 

うん、痛いな。夢じゃねえわこれ。

 

さて、どうしたものか。そう思った俺は周囲を見渡して、ある違和感を抱いた。

 

なんか、視線高くね?

 

俺の身長は170cmとまぁまぁといった感じだが、今見ている景色は明らかに高い。ガリ○ー的な何かかと思ったが、地面との距離を見た感じそういうわけではなく、ただ単に俺自身の身長が伸びているようだ。

 

さて、地面との距離を見るために俺は下を向いているわけだが、ここで疑問が増えた。

 

 

 

そこから見える俺の身体、金色になってる。金色聖○士もびっくりだ。

 

・・・・・・待て待て待て待て、さすがにこれはスルー出来ねえぞ?

 

急いで両手を動かして自分の視界に入るよう持ってくるが、その両手も金色だった。

 

わけわからん。そう思った俺は、とりあえず自分の全貌を確認できる何かを探して急いで移動した。

 

 

わーい、また疑問が増えたー。俺今歩いてないのに移動してるぞー。

 

 

別に走っているわけではない。姿勢はそのまま、移動しているのだ。つまりはホバー移動している。

 

・・・もういいや、この疑問は後回しにしよう。

 

そう思った俺はホバー移動をし続けた。

 

 

 

 

 

~移動中~

 

 

 

 

 

なんだこれ。

 

俺の頭の中は先程からその疑問が渦巻いている。

 

あれからしばらく移動していていたら、大きな湖に出た。透明度が高く、まるで鏡のように周りの風景を反射していたので、自分の容姿を確認しようと湖を覗き込んだ。

 

そして、絶句した。水面に移っている姿は間違いなく人間ではなかったからだ。

 

だが、そんなことはどうでもいい。自身の容姿が人間じゃなかったことも驚きだが、それよりも俺にとっては今の姿のほうが衝撃だった。

 

俺はコイツを知っている。実際に見たことはない。だが、アニメという形でこいつのことを知っている。

 

 

 

今の俺の容姿は、『蒼穹のファフナー』というアニメに登場する敵、『フェストゥム』そのものだったのだ。

 

 

 

 

 

~思考停止中~

 

 

 

 

 

・・・オッケー、多少落ち着いた。

 

もちろん、冷静ではない。さっきからわからないことの連続で、もう頭がいっぱいいっぱいだ。だが、もうこんなことになってしまっているのだから、受け入れるしかない。

 

それよりも、なぜこんなことになっているのかを考えた方がまだマシだ。と、言っても。俺の知識の中からじゃ一つしか候補がないのだが。

 

それは昨日までの俺がよく読んでた二次小説のジャンルである『神様転生』って奴だ。

 

だが、神様になんぞ会った覚えはない。さらに言うと、事故だのなんだので死んだ覚えもない。つまりはこれの可能性は低いってことだ。ま、『転生』の可能性は十分あるわけだが。

 

それよりも問題なのは、ここがどの世界であろうと今の自分の見た目はやばいということ。

 

はっきり言って怪しい以外の言葉が思いつかないぞ。もしファフナーの世界なら敵認定だし、その他のアニメでも大概敵にしか見えねぇ。

 

何かヒントでもないものか。そう思った俺は、一つの可能性を考え付いた。

 

 

それはミールの存在だ。

 

 

ミールというのはバッサリいえばフェストゥムの親玉であって、母のような存在でもある。もしミールと交信、つまりは連絡が取れれば何かしらのヒントが得られるはずだ。

 

そう思った俺は早速交信を試みようとした。が、ここで俺は一つの壁にぶち当たる。

 

交信って・・・どうやんの?

 

エェイ、とりあえずあれだ。リリカ○なのはの念話とか、たぶんそんな感じだ。それでいけるだろ。

 

もはや半分ヤケクソになっていた俺は意識を自分の中に集中させる。すると、心の奥底にナニカを感じる。これに触れれば、ミールと交信できるかもしれない。そう思った俺はさらに意識を奥深くに持っていきナニカに触れる寸前までいく(イメージだが)。これで、ようやく前へ進めるーーーーーーー

 

 

 

 

 

【同化する程度の能力】

 

 

 

 

 

ーーーーーうん、どうやらここは『東方Project』の世界っぽいな。

 

 

 

 

 

~思考整理中~

 

 

 

 

 

・・・よし、落ち着いた。とりあえず手がかりはつかめたんだ。さっきよりはだいぶマシだ。そう思わないとやってらんねぇよ。

とりあえずここはおそらく東方の世界なのだろう。どの時代なのかは全くわからんが。

 

それよりも気になるのが、【同化する程度の能力】だ。名前からして嫌な予感しかしねぇ。

 

というより、ほぼ確定だ。さっきこの能力の名称と共にこれの使い方が頭の中に入ってきた。あとはこれが本当かどうかだな・・・。

 

そう思い、手近なところに垂れていた枝葉を折り、少しの間見つめる。するとーーーーー

 

 

 

枝葉に翡翠色の結晶がびっしりと生え、そして水晶もろとも砕け散った。

 

 

 

あぁ、間違いない。この能力、フェストゥムが持つ同化現象そのものだ。

 

これはやばい。なにせ、この能力は危険すぎる。このままだと、原作キャラと関わることすらできないだろう。ていうか、どこかの勢力に属することもできねぇよ。ボスとかにはなれそうだが、生憎と俺はそんな属性は求めていない。

 

とりあえず、まずはあれだな。この能力を制御できるよう、練習しよう。

 

そう思った俺は、どこか良い場所はないか再びホバー移動で動き出した。

 

 

 

 




次回は、しばらく時が過ぎる→ワームスフィアとかの確認→妖怪と接触、ぶっ殺す→村を発見、しかし容姿のせいで近づけない→再び訓練をすることに

的な感じで行きたい。


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試作その2 第2話

しばらく時が過ぎる→ワームスフィアとかの確認→妖怪と接触、ぶっ殺す→村を発見、しかし容姿のせいで近づけない→再び訓練をすることに




あれから一ヶ月の時が過ぎたが森から出られない件について。

 

 

さすがにずっと歩き続けているわけではないが、日が出ている間は一方向に向かって歩き続けているつもりだ。時々川を見かけることはあったが、町どころか人の気配すりゃありゃしない。それどころか冒頭で言ったとおり、この森から出られる気がしねぇ。

 

だが立ち止まるわけにもいかず、今日も俺はホバー移動をし続ける。だが歩くだけでは暇なので、自分自身や力について確認や実験をしてみた。

その結果は次のような感じだ。

 

①自身の姿はフェストゥムだが、本来の大きさよりずっと小さいし、その大きさにはなれない。

②『同化する程度の能力』で同化した奴の特性を使えるようになる。

③自分自身と同化することはできない。

④フェストゥム自身の力も使用可能。

 

 

・・・いや、俺がいうのもあれだが、なんだこれ。

 

③はわかる。これはアニメでそういう描写がなかったからだし、自分自身と一体になるなんて矛盾しているからだ。①は意外だったが、大して気にはしない。ちなみに俺の見た目であるスフィンクスA型種の本来の大きさは大体35メートルだが今の大きさは2メートル前後だ。

 

問題は②と④。②はありえそうではあったが、実際に体験してみるとすさまじく便利だ。

例えば、俺が初めてこの世界に来た日に枝葉と同化したんだが、その結果俺は『光合成』を行えるようになり、食事が不要となった。

もう俺の身体フェストゥムじゃなくてアラ○ミなんじゃないかな。

 

そんで④。これはつまりフェストゥムがアニメの中で使っていた力も普通に使えるということだ。今のところ確認できているのが『ワームスフィアー現象』と『読心能力』の2つ。

『ワームスフィアー現象』は、黒い球体を望む場所に生み出すことができ、そしてそれに触れたものはゼロ次元に向かって捩じ切られる。という何とも恐ろしい力だ。さらにこいつの射程は俺の視界内らしく、試しに大空に向かってやってみたところ、自身の大きさほどのワームスフィアーが点に見えるほど遠くまで出すことができた。

 

そして、『読心能力』。これは文字通り、相手の心を読むことができる。だがどこぞの地霊殿の主と同じような能力に思えるが少し違っていて、完全に相手の考えていることはわからないらしい。試しに道中出会った生き物や木などの心を読もうとしたが、わかるのは喜びや悲しみなどの感情だけだった。これはただ単にあいつらの知能が低いからかもしれんがな。ちなみにこれはオンオフの切り替えは可能らしく、意識しない限り心を読むことはない。

 

 

・・・もう一度言おう、なんだこれ。

 

フェストゥムの力は本当にチートじみてる。ファフナーの世界では対策できていても人類は絶滅されかけたのだ。それが対策なんぞないこの世界ではどうなるか、考えるまでもない。

わかりやすく言うと、俺TUEEEE状態だ。

 

どうすっかねぇ・・・。そんなことを考えながら移動していた俺は、とあるものを見つけた。

 

 

それは、人間だった。動物の皮で作った服のようなものを着ている、人間だったモノがあった。

 

・・・そう、だったモノ(・・・・・)だ。この名も知らない人間は、死んでいた。腹に風穴があき、そこから臓物を引きずり出されて、死んでいた。その表情からは、恐怖と絶望が浮かんでいる。

 

「ん~?、だれだてめぇは?」

 

その人間の惨状に驚いていると、俺の前方から化け物が出てきた。そいつは巨大なクモだった。だが足はまるで爪のように鋭く、前足の爪からは血が滴っていた。

 

「・・・こいつは、お前が殺したのか?」

 

気が付くと、俺はこんなことを口にしていた。この状況から見てそうとしか思えなかったが、それを確認するかのように聞いていた。

 

「ハ、その通りよ。腹が減っていたらこの人間がノコノコ一人で歩いていたからよ、食おうとしたんだ。だが、手加減を間違えちまったみたいだな」

 

もうちょっと生かしておくつもりだったのによ。と、化け物はゲラゲラ笑いながら言った。

 

「生かす必要があるのか?」

「おうともよ。人間っつうのは、死ぬ時の感情によって味が変わるんだ。恐怖の時の味はなんつうか、こう・・・ドロドロでよぉ、もう最高なんだ。だから、一瞬では殺さず、じわじわといたぶっていくんだよ」

 

こんな風にな。そう化けものは言いながらこの人間を殺した時の様子を表現している。だが、そんなことは俺にはどうでもいい。

 

ーーーこいつ、殺す。

 

「・・・なぁ」

「でさぁ、そこをこう・・・ん、なんだ?」

 

俺は顔を化け物に向け、自分の感情のままこの言葉を言い放った。

 

「あなたは、そこにいますか?」

 

 

 

 

 

「あ、何言ってんだお前?・・・グギッ!?」

 

化け物がそう返事をした瞬間、俺は奴の脚のうち一本を包むようにワームスフィアーを展開した。黒い球体が消えると、そこにあった足はなくなっていて、傷口から血がふき出す。

 

「俺の足がァァァァ・・・てめぇ!」

 

そう言いながら奴は爪を振りかぶって、俺に攻撃する。俺は、そこから一歩も動かず奴の腕の進路上にワームスフィアーを展開する。生み出された球体に腕が入った瞬間、奴は絶叫して体勢を崩した。

 

俺は、そのスキを逃さず奴に素早く近づいていき、その体に触れた。

 

「?、なにを・・・っ!!??」

 

俺が触れたところから、翡翠色の結晶が生える。それは徐々に奴の体を覆っていく。

 

「イタイイタイイタイイタイィ!。いやだ、死にたくない、助けてくれぇ!!」

 

奴から激しい感情が読み取れる。先ほどまでは怒りのみだったが、今は死への恐怖のみのようだった。

そうだ。おまえはそうやって恐怖に包まれたまま、死ねばいい。

 

やがて、結晶は奴の体のすべてを覆い尽くしーーー

 

 

 

 

 

「いやだね。ここから、いなくなれ」

 

砕け散った。

 

 

 

 

 

・・・こんなことしても、無意味なんだけどな。

 

そう思いながら俺は、目の前の墓標を見る。それは、先ほどの人間のものだ。と言っても、近くにあった石を数個積んだだけの簡素なものだが。

 

さっきは衝動で同化(殺)してしまった化け物だが、やつにとっては、人間なんぞただの食料なのだ。それを最もおいしい方法で調理しようとしただけなのだろう。あれはただ単に人間だったころの俺が許せないことであり、偽善による行動だ。人外になってしまった俺が本来気にすることではない。実際、死体を見ても吐き気とかは襲ってこなかったし。口ないけどね。

 

さて、だいぶ落ち着いてきたところで俺は気づいた。そういえば人間がいたのだ、しかも服を着た人間が。

これはとてもうれしい。生きた人間じゃなかったのは残念だが、もしかしたら近くに村的なのがあるかもしれない。

 

そう思った俺は、少し高いところまで浮き上がり、自身の読心能力の範囲を最大限まで伸ばす。

 

 

 

ーーーいた。動物や木々とは明らかに感情の複雑さが違う。しかも複数いる。

 

そのまま俺は、急いで心を感じ取った方向まで移動した。

 

 

 

 

 

~移動中~

 

 

 

 

 

「やっぱり、あった」

 

思わず俺はつぶやいた。あったのだ。俺の視界の先には、村があった。文化レベルは低いが、そこには人が集団で生活していたのだ。先ほどの場所からそう遠くはないため、あの人間もここ出身なのだろう。

 

ようやく人間に会えたぞ。そう俺は、茂みの中でつぶやいた。

 

 

 

そう、茂みの中で、だ。

移動の途中で思い出したんだけど、今の俺の見た目、人間じゃないんだよね。どっちかっていうと、あの化け物側だよね。しかもそんなのが空中から現れたら、速攻で敵対するよな。うん、俺が村人ならそうする。

 

そんなわけで、途中で地面に降り立ち、村を見ることができる茂みの中にいるのだ。

俺としては、是非とも交流したい。というか、村で生活したい。いやー、1ヶ月とはいえ人と一切会わなかっただけでこんなにも恋しくなるとは思わなかった。

 

だが、この姿のまま入るのは不可能だろう。そこで俺が考えたのは、容姿を人型にできないだろうか、ということだ。

 

アニメで人型のフェストゥムは存在する。それはスレイブ型と呼ばれていたが、そいつらは総じて人の見た目なのだ。

つまり、人型になるのは不可能ではない。

 

よし、人型になってから村に近づこう。

そう思った俺は、引き返して再び森の中に入っていった。必ず人型になることを習得して、ここに戻ってくることを強く願いつつ。

 

 

 

 

 




次回は、

村に驚く→どうにか入れないかとうろつく→見かけた人間を助ける→永琳に射られる→ドナドナ

こんな感じで。


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試作その2 第3話

村に驚く→どうにか入れないかとうろつく→見かけた人間を助ける→永琳に射られる→ドナドナ



 

あれからまた一ヶ月の時が過ぎたと思ったら村が都市になっていた件について。

 

 

あ、ありのまま今起こったことを(ry

まぁ、とりあえずこの一ヶ月の成果から話していこうと思う。

 

まず人型になれたかどうかについてだが、結論から言うとなれた。

 

今現在の俺の見た目は赤茶色の髪をした青年といった感じだ。もっと細かく説明しろって?俺に語彙力がないんだから説明してもわかんないと思うよ。

 

だが、完璧に人なったわけではない。身体の大きさは変えられなかったので、俺の身長はフェストゥム形態のころと変わらず2メートル前後だ。ぶっちゃけでけぇ。

もうひとつ、中身はフェストゥムのままだということ。どういうことかというと、今の状態は中身まで人間になったわけじゃなくて、フェストゥム形態の表面に人間に擬態した膜を張っているような感じなのだ。なので、攻撃や衝撃を受けて膜が破れたら、そこからはフェストゥムの黄金色の表面が見えてしまう。

 

あ、それ以外の装飾っぽい部分はどうしたかって?。気合で何とかしたんだよ、後は察してくれ。

 

まぁそんなわけで、表情を変えられないなどの問題は残っているがそれは些細なことだ。

 

これで、これでようやく人と交流ができる!!

そして意気揚々と一ヶ月前に見つけた村があるところに移動した俺が見たものはーーー

 

 

 

 

 

ーーー規模が大きくなっていて、城壁が築かれていてる大都市だった。

 

 

 

 

 

もう、ね。わけわかんないよ。

おかしい、一ヶ月前の文化レベルを弥生時代だとしたら、今のはどう見ても平成、下手したらそれ以上だ。それほどの発展をわずか一ヶ月でするなんてありえないだろ。

 

 

 

・・・いや、そういえばいる。この状況を作り出せる存在が一人だけ。それを確かめるためにも、どうにかしてこの都市の中に入らなきゃな。

 

と、言ったものの。これはどうしたものか。この状態では入れると思ったのは、入る対象が村だったからだ。これほどの大都市ともなれば、正面切ってはいるのはなかなかにめんどくさそうだな。城門らしきところには武装した警備員みたいなのいるし。

 

 

 

ーーーよし、警備が薄そうなところ探して、そこから潜入しよう。

 

そう決めた俺は、城壁に沿ってぐるっと一周してみることにした。

 

 

 

 

 

~移動中~

 

 

 

 

結論から言おう、無理だこれ。

 

なんなんだよ。薄いところはおろか、警備員がいない場所がないじゃねえか。巡回しているのかと思ったが、当てが外れてしまった。

言っておくが、もちろん警備員どもには見つからないように行動してたぞ。城壁がギリギリ見える場所を通って行ったんだから余計に疲れた。

 

さて、どうしたものか。そう思っていた俺の頭に感情が流れ込んできた。

 

それは、恐怖と歓喜だ。

 

・・・あぁ、この感覚。またどこかで妖怪が人間を襲ってやがるな。

 

人間形態への修行中にも何度かこの感覚を味わったことがある。だが、俺はスルーすることに決めていた。生憎と俺はヒーローなんて大層なものじゃないし、人間にフェストゥム形態時の俺の顔を覚えられるのはちょいと厄介だったからだ。人と交流したいと言っていたが、それはそれ。

 

だが、今は事情が違う。

 

「ちょうどいい。妖怪には試作台になってもらって、人間からは情報をいただくとしようかね」

 

そう決めた俺は、感情が発せられている方向へ最大限の速度で走り出した。人の見た目とはいっても中身は人外(フェストゥム)なので、その速度はかなり早い。

 

 

 

そして一分もたたないうちに俺の視界に写ったのは、腰を抜かしたのか動かない少女と今まさにその人間を食らおうとしている妖怪だった。

 

「いただきまぁぁぁす!」

「・・・ごめんなさい。××様」

 

まずい!。そう思った俺はすばやく二人の間にはいり、妖怪の牙を両手で一本ずつ受け止めた。

・・・本当にギリギリだった、あとちょっとでこの子は食われていたな。

 

「なんだぁてめぇは!?」

「知るかよ、そんなの俺の方が知りたいわ」

「そうかい、ならてめえも死ねぇえええ!!」

 

目の前の妖怪の両腕から攻撃が繰り出される。俺はそれをーーー

 

 

 

「ピギャアアァァァァァ!?」

 

 

 

ーーー両肩から突き出た二本の巨大な爪で切り裂いた。

 

こいつは一ヶ月前に同化したあの蜘蛛の妖怪のものだ。最初は両腕を変形させていたんだが、もっとうまく使えないものかと考えているうちにこの方法にたどり着いた。おかげさまで、攻撃と防御を同時にすることが可能となった。

 

「お前はいらないよ。だから、さようなら」

 

そして俺は奴の体を串刺しにして真っ二つに引裂いた。今回は同化はしない、特に得られるものもなさそうだし。

 

「さて、と。ケガはないか、お嬢ちゃん?」

「え?あ、はい・・・大丈夫です」

 

ふむ、感じ取れるのは困惑と緊張か。まだうまく状況を整理できていないようだな。あぁ、表情が変えられたら笑顔で話しかけられるのに。

 

「駄目じゃないか、こんなところに一人で来ちゃ。妖怪が出ることくらいは知っていたのだろう?」

「はい・・・。でも、どうしても外に出てみたくて・・・」

「それでもだ。今度からはせめて護衛を連れてくるか自衛の手段を持つかしておきなさい。君が死ぬと悲しむ人がいるんじゃないのか?」

「!?・・・はい、その通りです。すいませんでした」

「よし。さ、立てるか?ここは危ないし、早く帰った方がいい」

「はい・・・っ!」

 

立ち上がろうとした少女の顔がゆがむ。どうやら逃げる時に足をひねったようで、足首が赤く腫れている。これはちゃんと治療した方がよさそうだな。

 

「痛いのか?」

「え?いや、大丈夫ですよ。このくらい・・・」

「無理はするな。俺が君を抱えて都市まで送ろう。その方が早いし、安全だ」

「・・・いいんですか?、そこまでしてもらって」

「気にするな。乗り掛かった舟というやつだ」

「わかりました。じゃあ、よろしくお願いします」

 

どうやら一定の信頼は得られたようだな。彼女から緊張か少しずつ薄れて代わりに安心感が表に出ている。

よし、計画通り。これで俺は警備員に怪しまれることなく、大義名分を持って都市に入れる。この子を利用している形になっているので、少々罪悪感があるけどね。

 

「それじゃ、いくぞ」

 

そう言って俺は彼女を抱えるために手を差し伸べた。少女はその手をつかもうと手を伸ばしてーーー

 

 

 

 

 

「今すぐそこから逃げなさい、若菜!!」

 

 

 

 

俺は、一本の矢に頭を貫かれた。避ける間もなく、一瞬だった。

 

本来俺は頭を射られたくらいでは死にはしないのだが、どうやらこの矢には何かが込められているようで全身から力が抜ける。そのまま倒れた俺は、少しずつ薄れていく意識の中、自分を攻撃した奴を見た。

 

その女性は、赤と青という何とも珍妙なコントラストの服を着ており、その手には弓と矢が握られていた。おそらくあれで俺を攻撃したのだろう。

 

女性の名は、八意永琳。都市大発展の原因であると俺が推測を立てていた人だ。

 

いやいや、ちょっと待て。なぜ俺が攻撃されている?確かにちと巨体だが、その見た目は間違いなく人間のはず・・・

 

 

 

 

 

そこまで考えて、俺はようやく気付いた。爪をしまうのを忘れていたことに。

つまり彼女が見た光景は、倒れて動けない少女に手を近づけている両肩から巨大な爪を露出している男(体長2メートル)ということになる。

 

あ、これは俺が悪い。どう考えても人型の妖怪が少女を襲っている図だわ。

 

その結論に至ったところで俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

<永琳side>

 

 

 

・・・あぶなかったわね。

そう思いながら私は、倒れている妖怪から警戒を解かず若菜に近づく。

 

「大丈夫だった?けがはない?」

「・・・え?あ、はい」

「そう・・・よかった」

 

最初若菜が一人で街の外に出たと聞いたときは本当に驚いた。前々から外に対して強い興味を持っている子だったのはわかっていたが、まさか勝手に出ていくとは思わなかったのだ。

 

「ダメでしょ、一人で外に出ちゃ。外には妖怪がいるんだから。私が間に合わなかったら、あなたは・・・」

 

そう言いながら私は先ほど倒した妖怪を見る。見た目は人間だが、こいつからは気配を感じない。確実に人ではない存在だ。

 

「あの・・・××様」

「なに?」

「そこの方は、私を助けてくれたんです・・・」

 

 

 

・・・え?

 

 

 

「えっと、どういうこと?」

「実は、先ほどまで別の妖怪に襲われていて、もう少しで食べられそうになったところを彼が助けてくれたんです。それで、今度は動けない私を都市まで送ってくれると・・・」

 

 

 

・・・やってしまった。あの光景を見て、私も焦っていたらしい。

頭を冷静にさせて、再び彼の様子を観察する。確かに彼は気配を感じさせないが、少なくとも妖怪ではないのだろう。妖怪ならば、先ほどの一撃で死んでいるはずだ。だが彼は、時々身体をピクピクと震わせている。

 

 

 

・・・少し、興味が出てきた。

 

 

 

「そうね。お詫びもかねて、一度私の研究室に連れていくわ」

「あ、なら私が治療したいです。恩もありますから!」

「ならお願いしようかしら。・・・けれど、その前にお説教よ?」

「ウエェ、やっぱりか・・・」

 

その後私は若菜の足の治療をして、歩けるようになるまで回復したところで、彼を抱えて都市に帰って行った。

 

 

 

・・・あら、でかい図体のわりに結構軽いのね。益々興味がわいてきたわ。

 

 




次回は、

話し合い→今後の身の振り→都市の案内→自身の体の解明→実☆験

こんな感じで。継ぎ足したり変更するのもあり


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試作その2 第4話

目覚める→話し合い→今後の身の振りの決定→実☆験→自身の体の解明


 

自然あふれる森の中で意識を失ったら人工感あふれる病室(?)で目覚めた件について。

 

と言っても、なんでこうなったかのかはなんとなくわかる。あの少女(わかなだったっけ?)が永琳に説明してくれたのだろう。もしそうでないのなら、実験体ににされる可能性がある。が、それはないと思う。

 

「あら、起きたのね」

「・・・」

「別にそんなに警戒しなくてもいいわよ?」

「・・・いきなり攻撃した相手を目の前にして、警戒しない方がおかしいと思うのは俺だけか?」

「・・・やっぱり人並みの知能はあるみたいね。益々興味がわいてきたわ」

「おい聞けよ」

 

とまぁこんな感じで、目の前の椅子に腰かけている永琳からは警戒心をあまり感じ取らないからだ。それよりも好奇心のほうがはるかに強く感じる。

 

「冗談よ。それよりも、気分はどう?何か違和感などを感じないかしら?」

「・・・特に問題はないな」

 

むしろ気絶する前より好調なんですが。体中の痺れも完全に取り除かれてるし。

 

「そう、それはよかった。それで聞きたいのだけど、あなたh「あ、目が覚めたんですね!!」・・・若菜、あまり大声出さないの」

「あ~、君はあの時の女の子で合ってる?」

「はい、若菜です。ここの研究室で××様の弟子をやらせていただいています!」

 

え、なんて?。多分今永琳の名前を読んだのだろうが、全く聞き取れなかった。イントネーションとか、そういう次元の問題じゃねえ。

 

「お、おぅ。そうか・・・ケガはもう大丈夫なのか?」

「はい、××様に治療していただきましたから。それよりも、あの時は助けていただいてありがとうございました!」

「どういたしまして。・・・そっか、その分だと俺はだいぶ長く寝ていたのか?」

「いいえ。まだあれから3時間くらいしかたっていないわよ?」

「・・・えーと、人間の治癒力ってこんな高かったっけ?」

「私を誰だと思っているの?」

「いや知らねえし初対面だろーが」

 

あぁ、これだ、これを俺はしたかった。俺は今、彼女たちと会話しているんだ。人だったころは当たり前のようにしていた会話だが、それを久々にしただけでこんなにも嬉しくなるとは思わなんだ。

 

「そうだ、若菜。ちょっとこのメモに書いてある材料を買ってきてもらえる?」

「はい、わかりました。・・・うへぇ、けっこうありますね」

「愚痴を言わないの。そうね、余ったお金でお菓子を買ってきてもいいわよ?」

「わかりました今すぐ行ってきまーす!!」

 

そのまま若菜ちゃんは風のように研究室を出ていった。・・・なんだあれ。俺の目でもとらえきれんかったぞ。

 

「なんというか・・・元気がいいな」

「えぇ。ありすぎてたまに困るくらいよ」

 

さて、と。そう言いながら咳払いをして、彼女は再び先ほど言いかけた疑問を俺に投げかけた。

 

 

 

「さっきは聞き損ねたけど、もう一回聞くわね。あなたは、何者なのかしら?」

 

 

 

 

・・・さて、これにはどう答えたものかな?

 

「どうもこうも、君ならわかっているんじゃないのか?」

「そうね、少なくとも人ではないことはわかるわ。だけど、あなたは妖怪でもない。もっと気になるのが、ここよ」

 

そう言いながら永琳は頭に指をさした。意味が分からず、俺はただ彼女が指差した部分を見ている。

 

「言っておくけど、私の頭じゃないわよ。あなたのよ。そこから見える黄金色の物体について、説明してくれるかしら?」

 

あぁ、なるほど。どうやらあの時の攻撃で一部分とはいえ膜がはがれてしまっていたのか。確かにこれは奇妙だもんな、気になってもしょうがないか。

 

さすがにフェストゥムについて言うわけにもいかないので、俺は少し真実をぼかして言うことにした。

 

「んー、そう言われたってな・・・ぶっちゃけ、俺にもよくわからないんだ」

「あら、それはどうして?」

「実を言うと俺はまだ若輩者でね。生まれてからあまり時間がたっていないんだ。そんで、生まれたときには周りに誰もいなくて俺一人。仲間を探そうとうろついてみたが、俺のような存在はいなかった」

「ふーん・・・」

 

おっと、これについては半信半疑といったところか。まぁ、まだ出会ったばかりだからな、そう簡単にうまくはいかないか。

 

「まぁそんなわけで、俺の正体については俺は知らん。むしろ、俺の方が知りたいくらいだ」

「!・・・なるほど、あなたは自分の正体に興味があるのね?」

「まぁ、そうだけど・・・」

 

何やら永琳が何かひらめいたようで、俺に向かって問いを再び投げかける。

 

「ねえ、あなたは今どこかに住処はあるの?」

「ん、いや。ないけど・・・」

「そう、なら私から一つ提案があるんだけどーーー」

 

 

 

 

 

「ここに居候してみない?」

 

 

 

 

 

「・・・自分が言ってる意味わかってるのか?」

「えぇ、もちろん」

「俺がここに居候だって?」

「その通りよ。悪い条件ではないと思うけど?」

「いや、そういうことじゃなくてだな・・・いいのか?こんなわけのわからない俺をここにおいて。おまえらを襲うかもしれないぞ?」

「大丈夫よ、私なら充分あなたを抑えれるし。若菜だって、基本的に私と一緒に行動するから」

「はぁ・・・」

 

正直、混乱してる。じぶんでいうのもあれだが、俺は怪しい。人でも妖怪でもない、珍妙な存在だ。だが、ここにいれば俺の能力についてもっと詳しくわかるかもしれない。

 

 

 

・・・よし、決めた。

 

「・・・本当に、いいんだな?」

「いいってさっきから言ってるでしょう?」

「そうだな。わかった、当分ここに世話になるよ」

「それは良かった。じゃあそういうことで、八意××よ。よろしくね」

 

そう言いながら彼女は手を差し出す。それに俺は返事をしながら握手を交わした。

 

「俺に名乗れる名前はない・・・まぁ、よろしくな。八意」

「あら、これから何度も会うわけだし名前で呼んでもいいのよ?」

「えっと、実は名前のところだけうまく聞き取れなかったんだ」

「なるほどね。じゃあ私のことは永琳と呼んで頂戴」

「わかった。んじゃ改めて、これからよろしくな、永琳」

「えぇ、よろしく」

 

 

 

そんなわけで、俺はここに居候することにした。まぁ、なんだかんだで原作キャラと交流できるわけだし、住む場所もできた。結果オーライとでもいうのかね、こういうの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、さっそくあなたのことを調べようかしら。とりあえずそこのベッドに横になってちょうだい。え、あの機械は何かって?ただあなたの体を全身細かく細胞レベルに至るまで調べつくすだけよ。大丈夫大丈夫、痛いのはほんの一瞬だから。あなただって自分のことが知りたいのでしょ?なら善は急げ、よ。逃げようものならあの時射った矢をもう一回撃つからね、抵抗しないことを進めるわ」

 

 

 

前言撤回。今すぐ森に帰りたくなってきた。なんだよこれ結果オーライのはずが結果が全速力でどこかに飛び去って言った感じだぞオイ。

 

え?ちょっと待ってくれまだ心の準備がーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬかと思ったぞ」

「死んだら調べた意味がないじゃない。それに対象は生きていたほうがいいデータが取れるのよ」

「違う、そうじゃない」

 

すさまじくキツかった。どのくらいキツかったのかというと、正直思い出したくないので割愛する。そのくせ疲労は一切感じないのだから余計にたちが悪い。

 

「で、どうだ?なにかわかったか?」

「そうね・・・疑問が解けるどころか一つ増えたわ」

「へ?」

「あなたは人間、もしくは妖怪の体がどうやってできているか知ってる?」

 

生まれて2ヶ月くらいって言ったよね、俺。知ってるとでも思っているの?

 

「いや、知らん。けれど妖怪だって血が出るし肉もあるから人と大して変わらないんじゃないか?」

「まぁ、根本的なスペックが違うのだけれどね。大雑把にいえばその考えでいいと思うわ。で、これを見て頂戴」

 

そう言って永琳は俺にも見える位置にあるモニターを付けた。そこには先ほどの実験で撮ったのであろうデータが移される。俺の全身(人間形態)と共に所々追加で何かが書かれている。だが日本語ではなく、英語というわけでもないので、俺にはさっぱり読めなかった。なんだよこれ、象形文字かなんかか?

 

それで?と視線で疑問を投げる俺に対して、永琳はとある一点をさす。そこにはただ二文字だけの単語、そして『100』が書かれていた。

 

「ここは何を表しているんだ?」

「対象者の体の構成物質ね。今回は最も細かい設定でしているから、元素レベルまで表示されているわ」

 

 

 

・・・あー、なるほど。こんなところまで本家設定なのね。

 

 

 

「文字が読めねぇ・・・。けど、俺には少ししかないように見えるな」

「少しどころか一種類だけよ。あなたの体を構成しているのは『ケイ素』だけ」

「へぇ、それは珍しいのか?」

「ケイ素自体は珍しくもなんともないわ。驚きなのは、それのみで体を構成できているということ。ただの物質ならあり得るのだけれど、あなたのように人並みの知能を持つ生命体でそれはほぼありえないのよ」

 

これは公式のフェストゥムの設定で実際にあることだ。理由はわかっていないが、フェストゥムは種類に関係なくそのすべてがケイ素だけで構成されている。永琳に言われるまですっかり忘れてたよ。

 

「まぁ、とりあえずそのことが分かっただけでもいいじゃんか。何もわからないよりかはましでしょ」

「それもそうね、このことについてはこれから解明していけばいいんだし。」

「・・・もしかして、またあれをを使うのか?」

「もちろんよ。むしろ、今よりももっと細かく解明できるように改良しなきゃ」

「今日のところは勘弁してくれ、さすがに疲れた」

 

ぶっちゃけ嘘です。フェストゥムには疲労という概念がないらしく、どれだけ動いても息一つ乱さない。まぁ、呼吸しないし当たり前か。だが、身体的疲労はなくとも精神的疲労はあるのだ。

 

今日の俺は都市一周から妖怪との戦闘、永琳からの攻撃(矢&実験)という、なんとも濃い内容によりオデノカラダハボドボドダァ状態になっている。睡眠は必要ないが今すぐ寝たい気分だ。

 

「それは残念。・・・それに、もうそろそろ若菜が帰ってくると思うし今日はこの辺にしておきましょうか」

「わかるのか?」

「何となく、だけれどね」

 

その直後、研究室の入り口あたりからドタドタした足音と共に、ただいま帰りましたー!。と若菜が入ってくる。あまりにもちょうどいいタイミングだったので俺は思わず永琳を見る。永琳はこちらを見て微笑を浮かべていた。

 

「なんでわかった?とでも聞きたそうな顔ね。まぁ、あの子とはそこそこ長い付き合いだしなんとなくわかるのよ」

 

そういうものなのか。と俺が聞くと、そういうものなのよ。と永琳が返す。

 

「どうしたんですか二人とも?あ、そうだ。いつものお店で新作のお菓子が出ていたんですよ。お二人の分も買ってきました!」

「あら、それは楽しみね」

「お菓子、か」

「お菓子は甘いものよ。今紅茶を淹れてくるから、みんなで食べましょうか」

「やった!××様の淹れる紅茶は本当に美味しいんですよ!」

「へぇ、そうなのか」

 

それは楽しみだ。ここ最近はまともな食事をしていなかったからなー。

 

 

 

 

 

・・・・・・あ。

 

 

 

 

 

「あら、これ美味しいわね」

「です!」

「・・・・・・(ズーン)」

 

数分後、そこにはお菓子を美味しそうに食べる女性二人と無表情ながらも悲しみがあふれている男性が一人おったそうな。

 

そうだね。今の俺の形態はあくまでフェストゥムの外面に人間の膜を張っただけだもんね、口が本当にできているわけじゃないもんね。

 

 

 

ちくせう。

 

 




次回は、

その後どうなったか→新たな発見→加勢→初めてのガチ戦闘

こんな感じで。


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試作その2 第5話

その後どうなったか→新たな発見(?)&自身の立ち位置(?)→都市でのお仕事


俺にだって訳が分からない件について。

 

 

 

あれから数年の月日が流れた。その間色々なことが起きたので、その中でも大きなことを順を追って説明していこう。

 

永琳の家に居候することになった俺は、日々永琳の実験台にされては悶絶時々気絶を繰り返す毎日を過ごした。と言っても最初の頃こそ毎日のようにやっていたが、半年を過ぎたあたりから研究方法を変えたので、あまり精神にダメージを負うようなものじゃなくなったのだ。

しかも実験は夕方から行うので、それまでは自由行動ができる。

 

だが最初の頃の俺は今まで都市とはかけ離れた森の中での生活に慣れてしまっていたので、いくら自由に動けると言っても何をしようか迷った。

 

そうしたらなんと1週間がたってしまった。それを見かねてか、若菜ちゃんが都市の案内をすると言って、俺を永琳の研究室から引きずり出した。その細い腕のどこにこんな力があるのだろうか、手を引かれながら俺はそんなことを考えていた。

 

うーん、こうしてみると近代都市っていうより未来都市って感じだな。明らかに俺がいた時代よりも技術が進んでいる。

 

「どうですか?」

「すごいな。見ているものすべてが新鮮だよ」

「私はここで生まれ育ったので見慣れていますが、やっぱり外から来た方にとっては新鮮なんですね~」

「まぁね。俺が生まれてから見てきた景色にこんなに文明が発達しているものはなかったから、本当に驚いているよ」

 

こんな感じで会話をしながら都市の中を歩き回った俺たちだが、終始周囲から視線を感じていた。最初の頃は若菜が注目されているのかと思ったが、周りの人たちから俺に対して疑念の感情を読み取れたので、そういうわけではないらしい。

 

 

 

じゃあ、一体何なんだ?。そこまで考えて、俺はようやく気付いた。

 

状況を確認するために言うが、若菜ちゃんの身長は大きい方ではない。同年代の中でも小さい方で、多分ギリギリ150に届いていないといった所だろう。そんで俺は相変わらず2メートル。

 

ここまでいったらもうわかるよな?

 

そもそも2メートルクラスの高身長の奴は少ない、ていうか日本人では前世含めて見たことがない。さらに若菜ちゃんの身長の低さも相まって、俺は余計にでっかく見えるのだ。

 

まぁ目立つ目立つ。道行く人は俺を見て驚愕の表情を浮かべて立ち止まる。チラ見だけでスルーしてくれるかと思った人は途中で急に首を振り返って二度見してくる。子供の中には泣き出す子まで出る始末だ。俺の顔ってそんなに強面だったかねぇ?

 

そんな俺の心を察してくれたのか若菜ちゃんが、怖くないですよ、ただでっかくて威圧感があるだけです!!。と励ましてくれた。若菜ちゃん、それ励ましじゃなくて追い討ちっていうんやで。

 

そんなわけで注目を集めてしまったわけだが、そこにトドメとなったのが、俺の住処が永琳の研究室というのがバレてしまっていることだ。まぁこれに関しては毎日のようにそこから出入りしているのだからばれるのは時間の問題だっただろう。

 

それよりもヤバかったのが、都市の一部の男性からの嫉妬だった。なんだあれ、どこぞの橋姫レベルの嫉妬を俺に向けて発しているぞ。

 

まぁ、これも理由は簡単。十中八九永琳だろう。

 

言うまでもないが、永琳は美人だ。それもかなり上位の部類に入るくらいの。さらに言えば、この都市を発展させた張本人である。容姿端麗、頭脳明晰。完璧超人なんて言葉は永琳にぴったりだろう。未知の事象を発見したら実験せずにはいられないという科学者らしい性質もあるが、そんなこと都市の連中は知らないだろうしな。

 

だがばれたのが思ったよりも早かった。その原因はどうやら俺が外に出るようになってしばらくたった頃に、若菜ちゃんが都市の人々に俺についてはなしたらしい。

 

その時彼女が一人で買出しに出ていて、俺がいなかったのをいいことに、質問攻めにあったそうな。

 

永琳から一部口止めされていた彼女は答えられる範囲で答えた。

 

Q.彼は何者?

A.外から来た方です。妖怪に襲われた私を助けてくれたのがきっかけで、今は永琳様の実験に協力しています。

Q.ていうか、あれって人間なの?

A.ノーコメントです。

 

Q.彼はどこから通っているの?

A.永琳様の研究室に居候しています。

 

 

 

ここで一つ補足しておこう。永琳の研究室は彼女の自宅の一階部分を改装してできたものなのだ。そしてそのことを大体の人は知っている。

 

 

 

・・・もう、わかるよな? この瞬間、研究室にいた俺は今まで感じたことないほどドス黒い感情を感じとった。当時若菜ちゃんがいた場所からかなり離れていたのに、だ。

 

いやぁ、嫉妬の感情ってすごくドロドロしているんだな。イメージは泥水というよりヘドロである。

 

そんなわけで一時大騒ぎとなってしまったのだ。おかげさまで、俺は外に出るたびに男共の嫉妬メンチを食らっている。まぁ、どれも一睨みすれば散り散りになっていくんだけどな。こればっかりはほとぼりがさめるのを待つしかないわ。と永琳は言っていた。いや、おまえが原因の一端なんだけどね?

 

 

 

とまぁ、こんなこともあり外に出づらくなった俺は、能力の練習をすることにした。と言っても同化やワームスフィアーはそうホイホイと使えるものではないので、人に変身する練習だ。

 

今でも人にはなれているが、人の見た目をした膜を表面に張っているだけなので表情が変わらないという欠点があるのだ。それに、食事ができない。

 

そう、食事ができないんだ。

今まで光合成してきたため食事について考えてきたことがなかったが、いざ前世で食べてきたような食事を目にすると食べたくなってきたのだ。だが、今の形態のままでは食事なんて無理なわけで。

 

そんなわけでいろいろ試行錯誤したのだが、ある程度うまくはいった。

今までより多少の表情の変化ができるようになったり(と言っても微笑とかその程度だが)、食べ物を租借できるよう歯や舌を作り出すことができるようになったりした。

 

 

 

だがここで問題発生。食べれるようにはなったのだが、まるで味がわからん。

この状態になれるようになってから早速若菜ちゃんが勧めていたお菓子を買って食べてみたのだが、食感しかわからず、全く味がしなかった。まるで段ボールを食べている気分だったよ。

 

よくよく考えてみれば、体がケイ素のみで構成されている俺に味覚なんてものはないと思うのが普通だろう。原作でもそうだが、そもそも食事は不要な種族なのだ。作中で食事の描写なんてなかったし。

 

 

 

 

 

それでも食事を諦めきれなかった俺が次にとった行動は、永琳に相談することだった。

 

が、ここでも問題発生。永琳に相談を持ち掛け、彼女からの質問に答えていくうちに口を滑らせてしまい、今の状態が本来の姿ではないことがばれてしまったのだ。

 

その時の会話を一部抜粋すると、

 

「・・・ということで、味覚がどのようにできているか知りたいのだが」

「別にいいけど・・・食事ができるのなら、大なり小なり味覚はあるのだと思うのだけれど?」

「と言われてもな・・・もともと口なんてなかったし。・・・あ」

「へぇ、その話もうちょっと詳しく聞かせてくれるかしら?」

 

 

というわけである。・・・うん、俺のせいだね。うっかりしゃべってしまったよ。

 

最初はごまかそうとしたが、永琳を相手にしてその行動は無意味だった。速攻でウソがばれてしまい、カマをかけられてはひっかかるといった具合に、結果的にいうとほぼすべてしゃべってしまったのだ。まぁ、さすがに前世の記憶があるなんてことはばれなかったけどね。こればっかりは誰であろうと言えん。

 

そんなわけで、本当の姿を見せてほしいと永琳に脅s・・・頼まれたので、俺は久々にフェストゥム形態になった。

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

まぁ普通はそんな反応するよな。

 

俺のこの姿を見た時の永琳の顔はまさに ( ゚Д゚)ポカーン ←こんな感じだった。いや、さすがにここまでアホ面さらしたわけじゃないが。

 

「で、感想は?」

「え?あ、そうね・・・」

「・・・」

 

 

 

「すごく、綺麗だわ」

「・・・おぅ。そうか」

 

まあ確かにフェストゥムにはどこか神秘的な美しさがあるからな。

だけど、明らかに生物とは言い難い見た目だ。正直この姿を見せる時には拒絶も覚悟してたぞ。

 

 

「なぁ、もう戻っていいか?」

「・・・・・・」

「永琳?」

「え?・・・えぇ、もう大丈夫よ」

「ん、そっか」

 

俺は再び人間の姿に戻る。いやー、なんだかんだで人に見られるのは初めてだったからね。かなり緊張しちゃったよ。

 

 

「・・・・・・」

「なぁ、永琳。本当に大丈夫k・・・!?」

 

ガシィ!!とでも擬音がつくんじゃないかというくらいの速度で両手をつかまれる。永琳は少しうつむいていて、その表情は見えない。つまり、なんか怖い。

 

「あ、あの?永琳さん?」

「最っ高よ、あなた!!」

「!?」

 

そう言いながら顔を上げた永琳は無邪気な笑顔だった。すっごく目がキラキラしていて、興奮からか頬は赤く染まっている。まるでまだ年端もいかない少女のようだ。こんな笑顔を向けられたら、たいていの男は見惚れてしまうだろうよ。

 

 

 

 

 

・・・だが、その笑顔を見た俺は冷や汗が止まらなかった。

なぜかって?俺はね、この笑顔を何度か見たことあるからさ。

 

 

 

主に実験場で彼女が未知の事象に相対しているときになぁ!!

 

 

 

「なんで今まで隠していたのよ!?全く、そんな姿があるなら早く教えなさいよね!」

「いや、これにはちょいと事情があって・・・」

「言い訳無用!!それよりも、実験しましょ?あなたについてもっともっと知りたいの!」

「おいちょっと待て。今日の分の実験は終わったはずだぞ!?」

「そんなの知らないわよ。こんなの目の前にして、明日まで待つことなんてできないわ!!」

「若菜ちゃん助けてぇぇぇぇ!!」

 

 

 

あの時は心の声が飛び出てしまった。あの後、うまい具合に買い出しを終えて帰ってきた若菜ちゃんが永琳を落ち着かせて何とかなった。

 

いやー、あのままだったらあのマッドサイエンティストに体を原子レベルで分解されていた気がする。いや、ほぼ確信に近いと言ってもいいだろうね。

 

ま、何にせよ若菜ちゃんのおかげで助かった。今度新作のお菓子でも買ってきてあげよう。

 

 

 

「で、なんで永琳様はあそこまで取り乱していたのですか?」

「ごめんなさい。あのときは彼の本当の姿を見てしまって、つい研究者としての血が・・・」

「え、あの姿が本当の姿じゃないんですか!?」

「えぇ。彼の本当の姿はとてもきれいなのよ」

 

おいコラ永琳お前なに口走ってくれてるんだよ。

 

はい。その後、若菜ちゃんにも見せる羽目になりました。

すっごいキャーキャー言ってたよ。永琳とはまた別の意味で無邪気な反応だった。あんな見た目をしている俺に対しても変わらずあの反応。天使か何かかな?

 

 

 

 

 

 

と、まぁそんなことがあったわけだ。それがこの数年間あったことの中での大きなことだな。

 

んで、次に小さなことというか、そこまで大した事でもないのだが。本当の姿を見せたあの日から、俺は少しずつ彼女らへの態度や口調が砕けていった。

 

今まであのような口調だったのは多分、俺が心のどこかで彼女たちに対して遠慮があったからだろう。

それがあの事件(?)のおかげで、遠慮なく彼女たちを話せるようになった。本当、俺のこの姿を受け入れてくれた二人には感謝してもしきれない。

 

 

 

そんで、次にだが・・・「隊長!」・・・ん?

 

「どうかしたのか?」

「いや、もう教導の時間が来てますよ。なにやってんすか?」

「え?・・・あぁ、すまん。少し考え事をしていたんだ」

「隊長は最近よくボーッとしていますね。賢者様と何かあったんで?」

「別に永琳とは何もないさ。さ、さっさと行くぞ」

「ちょ、待ってくださいよ!」

 

 

 

俺、就職しました。現在、都市防衛隊第3部隊隊長やってます。

 

 

 

・・・なんでこうなったし。

 

 

 




書け―きーれなーい♪

話はここで区切る。続きは次回。


次回

簡単な説明→敵との邂逅→初めてのガチ戦闘

こんな感じで。


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試作その2 第6話

簡単な説明→敵との邂逅→初めてのガチ戦闘


簡単な仕事を探した結果防衛隊隊長をやっている件について。

 

 

 

「まだ構えてから照準を定めるのが遅い。妖怪ならそのスキにお前らを簡単に切り裂くぞ」

「「「ハイ!」」」

「後おまえ、引き金を引くときに手首を返す癖がついている。そのままじゃ狙った所には当たらん」

「わ、わかりました!」

「隊長、先ほど東門付近に妖怪が出現したとの報告が」

「なんだって?・・・わかった。直接あいつらから報告を受けに行く」

「とまぁ、そんなわけで俺は一時離れる。お前らはさっきのメニューもう一回やった後休憩しとけ。今度は全員スコアA以上はとれよー」

『ハイ!!』

 

 

 

・・・ほんと、なんでこんなことになってしまったんだか。

 

そう思いながら俺は訓練場を後にして、東門に向かう。フェストゥム形態なら3分もかからない距離だが、今現在の俺は人間の姿をしているので、向こうにつくのにしばし時間がかかる。なので、なんでこんなことになったのか軽く説明しておこう。

 

 

 

あれは今から大体2年前。例のほとぼりも少しづつおさまっていき、嫉妬メンチもあまり食らわなくなってきた頃、俺は働こうと決心したのが始まりだった。

 

正直この数年間で都市のことについてあらかた把握してしまい、ここ最近は暇だったのだ。相変わらず実験は続けられているがな。だが最近では、その頻度も減ってきている。今までは永琳に用事がない限り毎日やっていたが、今では一週間に一度くらいだ。

 

それに、自分で金を稼ぎたいというのもある。今までは報酬として永琳からお金をもらっていたが、居候の身なのでお金をもらってよいものかと考えてしまっていた。なので、今まではもらったお金を彼女たちへの手土産(お菓子とか)に使ったりしてきたわけだが、自身に対してお金を使っていないことが若菜ちゃんにばれてしまい、嬉しいですけどもうちょっと自分のために使ってください!。と怒られてしまったのだ。

 

そんなわけで自分自身にもお金を使おうと思ったのだが、それでは彼女たちへあまりお菓子を買って帰れないことに気づいた。俺の中で、三人そろってお菓子を食べながらお茶を飲み、のんびり談笑する時間がとても気に入っているらしい。彼女たちといると、自分がここにいることを証明できているような気がして、とても心が安らぐのだ。

 

 

 

そんなこともあり、何か都合の良い仕事はないものかと俺は求人誌を読んでいた。そしてその中で目を付けたのが、『都市防衛隊の雑務』系統のバイトだ。内容を見た感じ、これなら時間帯にもいくらか余裕がある。それに給料もそこそこいい。前世がサラリーマンだったので、書類整理には心得がある。

 

これを見つけた俺は研究室に戻り、さっそく書いてある所へ連絡を取り、面接の日程を決めてもらった。

 

そして面接当日、意気揚々と会場に向かった俺はーーー

 

 

 

 

 

動きやすい服に着替え、屈強な男たちを殴り飛ばしていた。

 

 

 

・・・うん、俺にも訳が分からないよ。

 

会場についた途端と思ったら。

 

「ようこそ。では、こちらに着替えて彼の指示に従って会場まで移動してください」

 

と言われ、疑問に思いつつも着替えてスタッフの後ろについて言ったと思ったら。

 

「こちらです。あなたの受験番号は21です、こちらを持って並んでください」

 

とカードのようなものを渡され並んでいた。そして、しばらくして試験管のような人が俺たちの正面に立ち、スピーカーを使って大声で言った。

 

 

 

「では、これより都市防衛実働部隊の入隊試験を始める!!」

 

 

 

わっつ?

 

 

 

「試験内容はいたってシンプル!今からお前たちでバトルロワイヤル形式で戦ってもらう。最後の3人にまで残ったものが合格だ。では・・・始めッ!!」

 

 

 

え、え?ちょっと待ってどういうこと?俺はバイトの面接に来たはずなんだが?

 

あまりにも急な展開に頭が追い付かず混乱していた俺だが、後ろから殺気を感じ素早く頭を下げる。そのすぐ後、先ほどまで俺がいた場所に鋭いけりが通過した。

 

「ッち、外したか」

 

そう言って、けりを放った男は再び構え、俺に突っ込んでくる。周りの奴など眼中にないようだ。

とりあえずこれ以上無防備な姿を見せるのもあれなので、少し気を引き締める。すると男は近づくのをやめ、俺の間合いの外で立ち止まる。

 

そのままお互いに行動を起こさず数秒後、男が口を開いた。

 

「よぉ、あんただろ?八意様の家に居候してるやつってのは」

「あぁ、そうだ。しかし、なぜ俺だとわかった?」

「ハ、あんたほどの巨体を見間違うものかよ。そんな巨人みたいなのはこの都市の中でただ一人だ」

「なるほど、そりゃそうか。で、俺と戦うのか?」

「当たり前だろ?試験に受かりてぇってのもあるが、まさかこんなところで妖怪を圧倒したっつう奴と戦えるんだからよ」

 

何言ってんだお前?。とでも言いたげな顔で男は俺を見る。当たり前だが、彼は俺が入隊試験を受けに来たものだと思っているようだ。

 

「そうか。ならその願いはまた今度にしてくれないか?」

「あぁ、まさかビビっちまったのか?」

「いや違う。どうやら手違いが起きたみたいでね。今日、俺はただ防衛隊のバイト面接を受けに来ただけなんだ」

「・・・へぇ、そいつは災難だな」

 

わかってくれるのか?、そう言おうとした俺だが、その言葉は出てこなかった。

 

 

 

なぜなら、俺の顔面に男のけりが炸裂しているからだ。俺は体制こそ崩さなかったが、数歩後ろへ下がる。

 

「・・・どういうつもりだ?」

「どうもこうも、こういう意味だよ。手違いなんぞ知ったことか。こんな相手、次なんか待ってたらいつになるかわかんねぇ。なら今のうちに味わっておくのが吉ってもんだろ!」

「・・・つまりお前はやめるつもりはない。と」

「その通り!」

 

そのまま男は俺の首を狙って先ほどより早いけりを繰り出してくる。それに対して、俺がとった行動はーーーとても単純なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかそうか。じゃあ別に殴ってもいいよな?いきなり蹴りやがって、この野郎」

 

相手のけりが俺に届く前に、体を壊さない程度に加減をして、ぶん殴った。殴られた男は壁際まで吹き飛んでいき、あおむけに倒れる。その表情から見るに、どうやら殴られたことすら気づかず気絶したようだ。

 

 

 

永琳のところで居候していた俺だが、別に平和ボケしていたわけじゃない。時間を見つけては、森の中でしてきたように軽く戦いの訓練はしてきたのだ。とはいっても、俺は武術とかをしていたわけではないので、ほぼ我流になってしまったけどね。

 

それに、存外この体自体もハイスペックなのだ。若菜ちゃんを助けたあの戦い、あの時俺は両腕だが妖怪を突進を受け止めていた。つまり、身体能力の基本スペックは妖怪並み、もしくはそれ以上なのだ。生憎と多少強い程度の人間相手に後れを取ったりはしないんだよ。

 

 

 

「おい今の聞いたか?やっぱりあの21番、例の男らしいぞ」

「例のって・・・まさか、あの賢者様のところに住んでいるっていう!?」

「ああ、そうだ。しかも、妖怪を圧倒したっていう噂だぞ・・・」

「・・・なぁ、バトルロワイヤルつっても、最後に残った3人が合格なんだよな?」

「あぁ、そうだな。俺たちにとって、今のところ脅威となっているのはあの男ただ一人だ」

 

 

 

他の受験者たちが何か話している。俺には聞こえないようにしているが、お前らから感じる感情で何をしようとしているのかなんとなくわかってきたぞ。というか、やっぱりこういうことになるのかよ・・・。

 

「相手は一人。一気にかかれば倒せるはずだ!行くぞォ!!」

『オォォォ!!』

 

まぁそうなりますよねー。これで1対20くらいか。めんどくせぇ。事情を説明したいところだが、今のあいつらに何を言っても聞き流されるだろうな。

 

 

 

 

 

うん、しょうがない。ストレス発散の相手になってもらうとしよう。

 

 

 

 

 

その後、十分もしないうちに勝負はついた。俺は服についたホコリを払い、周囲を見る。そこにはもれなく全員ぶん殴ってできた死屍累々の山(パッと見)。

 

すこしやりすぎたかな?

 

 

 

「それまで!今回の合格者は、21番ただ一人とする!」

 

・・・・・・もういいや、どうにでもな~れ。

 

 

 

 

 

・・・そんなわけで、そのままなし崩し的に俺は防衛実働隊に入隊することになった。試験の後俺は試験管の人に事情を説明したのだが、どうやら上からの指示であったそうだ。

 

妖怪を圧倒する実力を持った噂の人物が防衛隊の面接を希望している。実力の確認がしたいので、実働隊の試験を受けさせよ。

 

ざっくり説明するとこんな感じだ。これを聞いて俺は、例の求人誌に前世の癖で面接を受けるところに印をつけていたことを思い出した。あれは多分まだ研究室においてあるはず。つまり、俺の状況を知っていて、かつ権力がある人物なんて一人しかいない。なにやっちゃってくれてるんですかねぇ?

 

 

 

まぁ今となっては俺に確かめるすべはない。あの後いろいろな方法で確かめようとしたが、のらりくらりと話をそらされてしまうし。

 

それはさておき、入隊した俺に待っていたのは連日訓練をしたり妖怪と戦ったりする日々であった。

 

ここで防衛隊について簡単に説明しておこう。基本的に防衛隊は4つの部隊に分けられている。

 

第一部隊、これは主に重要人物の身辺の警護などが仕事だ。永琳の家周辺にも数名警護がついているらしい。と言っても、永琳にあまり負担をかけないように普段は一般人に変装しているらしく俺は見たことがない。

第二部隊、これは都市内の警護が仕事だ。俺の前世で言う警察が最もこれに近いのかもしれない。

第三部隊、これは都市の外、つまり防壁での警護や防衛が仕事だ。度々外からやってくる人と交易したり、人を襲いに来た妖怪を殺したりしている。

第四部隊、これは主に書類整理などの雑務が仕事だ。ちなみに俺が最初にやろうとしていたバイトはここが募集していたりする。

 

そんでもって俺が配属されたのは第三部隊だった。

 

そしてこの部隊は他部隊に比べて実戦の回数がとても多い。というか基本的に毎日訓練があって、ない日には妖怪共と戦う日々だった。

 

ここまで発展しているこの都市だが、どうやら妖怪にとっては一種の宝箱のように思っているみたいだ。宝箱を守る門番(俺たち防衛隊)がわんさかいて倒すのは難しいが、倒せたなら中身の宝(都市の人たち)を独り占めできる。とまぁ、こんな感じで。

 

少なくともここら一帯ではそういう認識らしく、どんなに妖怪を殺しても数日後にはほかの妖怪がやってくる。俺が入隊して一ヶ月もたたない頃には5日連続できたこともあったくらいだ。

 

そんなわけで連日戦闘をしているここの部隊は常に人手が不足している。最近になって武器が改良されたおかげで戦闘による死傷者の数が激減したが、それでも毎日襲ってくる妖怪共を相手にしていたらこちらの身が持たなくなっちまう。と言っていたのは、入隊した当時の俺の上司であり第3部隊の先代隊長だったっけか。

 

そんでもってそこから2年間働き続けた俺はその功績を認められ、晴れてこの第3部隊の隊長になったというわけだ。

 

 

 

 

 

・・・と、もう着いたのか。思ってたよりも時間がかからなかったな。

 

「あ、隊長。お疲れ様です!」

「おう、お疲れ。で、妖怪共が出現したと報告を受けているが?」

「はい。どうやらここから少し離れたところに妖怪が集結しつつあるみたいです。今のところ何の動きもありませんが、これまで連携などしてこなかった奴らの行動にしてはいささか不可解だと思いまして」

「あの単身特攻してくるような奴らが?・・・確かにそれは妙だ」

 

ここに襲ってくる奴らはたいてい知能が低い上に己の力を過信している傾向がある。そんな奴らが連携をとるなどあり得ないと言ってもいいだろう。

 

そんな奴らが集結という行動をとった。それはつまりーーー

 

「ついに知能の高い妖怪が現れたか・・・」

「確定ではありませんが、おそらくそうかと」

「奴らの規模は?」

「観測した時点では2,30体ほどです。ですが、これから増加していく可能性は高いでしょう」

 

・・・うーむ、これはちょっとめんどくさいな。防衛隊の戦闘力では少数の妖怪なら相手どれるが、まだ集団戦は経験がないやつが多い。守りきることはできるだろうが、負傷者、もしくは死者が出ることは間違いないだろう。

 

 

・・・となると、奇襲からの短期決戦のほうがマシか。

 

「わかった、第3特務部隊に通達。1時間後、奴らに奇襲を仕掛ける。」

「了解!隊長はどうするので?」

「いつも通りだ。あれ(・・)を用意しといてくれ」

「わかりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、俺の目の前には4人の武装した人間が立っていた。

 

こいつらは名前こそ特務部隊と名付けているが、俺が少数精鋭による電撃戦が好きなので隊長になった時に新たに創設した部隊だ。

 

「で、隊長。今度はどいつと戦うんだ?」

 

そう4人のうち、日本刀のような武器を腰にぶら下げている男性が聞いてくる。

全員が普段は小隊の隊長をしており、俺が直接呼び出すことはほとんどない。なので、こうやって俺が急に呼び出すときは戦いがある時と決まっているのだ。

 

「今回の敵は妖怪数十体に親玉級の妖怪だ。数は報告の時点で20体以上、これは増加しているとみておいた方がいいだろう」

「親玉級の妖怪の情報は?」

 

そう聞くのは狙撃銃を持つ女性。

 

「ない。こいつがいるというのは俺の勘だしな」

「だがあいつらは今、曲がりなりにも連携を取ろうとしているのだろう?あの猪突猛進なあいつらが」

「そうそう。なら少なくとも知能が高いやつがいると考えるべきだろうねぇ」

 

そう言うのは斧を持つ男性と重火器を持った女性。

 

「あぁ、その通りだ。つーわけで、序盤はいつものように俺が奇襲かけて奴らを乱すから各個撃破しろ。親玉級は見つけ次第部隊全員へ連絡。連携して潰せ」

「「「「了解!!」」」」

 

そして4人は森の中へ、俺は空中から妖怪共のところへ飛んでいった。

 

さーて、藪をつついて鬼が出るか蛇が出るか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはは、お前らはそう来るか?今までと違って、今度は楽しめそうだなぁ」

 

 

 

 

 

 




戦闘は次回に。

次回は

戦闘→邂逅→ガチ戦闘

こんな感じで。戦闘描写うまく書けますように・・・。


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試作その2 第7話

「おいおい、なんだこりゃ・・・」

 

空中を移動し、事前に聞いていた場所に近づいてきた。だが、向こう側から感じ取れる妖怪の規模がおかしい。

 

明らかに数が多いのだ。感じ取れるだけでも50は超えている。予想の倍以上とかマジかよ。

 

『隊長どうする。明らかに数が多いぜ』

 

仲間から通信が入る。

 

『どうもこうも、変わらん。むしろこれ以上増えた方が厄介だ。今のうちに叩くぞ』

『了解。やっぱそうでなくっちゃな』

 

通信が切れる。あいつは強いんだが、いかんせん戦闘狂の気があるのがな・・・。

 

頭を切り替えて、俺は最終確認に入る。

 

『各員、どうだ?』

『いつでも行けるぜ』

『配置につきました。いつでもいけます』

『こちらもだ。合図をくれればいける』

『問題なしよ。いつでもどうぞ』

『オーケー、じゃあ・・・いくぞ!』

 

俺は上空から奴らのうち一体に狙いを定め急速で接近する。そしてその勢いのまま右手に持つ武器で頭から突き刺す。こいつは何をされたのか気づかないまま死んだんだろうな。

 

武器を突き刺したまま、左手に持つ武器でとびかかってきた妖怪を両断する。血が飛び散ってくるが、そんなの気にしている場合じゃない。

 

引き抜きいた右手の武器にあるスイッチを押す。するとランス状だった刀身部分が真ん中から2つに分かれ、握りの部分に引き金が現れる。

そしてすぐさま狙いを定めて引き金を引く。すると武器から複数光弾が飛んでいき、少し離れていたところにいた妖怪3体の肉体を抉り取っていく。そして武器をランスに戻しつつ体勢が崩れた奴らに接近し、一匹は腹を突き刺し、二体を同時に切り裂く。その二体は体が二つに分かれて絶命した。

 

さて、とりあえず近場にいた奴らは一掃できたか。

 

「くそ、おまえあそこの奴か!」

「ああ、そうだ」

 

そう言いながら俺は突き刺している妖怪を見る。こいつは聞きたいことがあるのでわざと生かしておいた。

 

「さて、質問だ。お前らの親玉はどこにいる?」

「な、なんのことだ・・・?」

「気づかないと思ったのか?今まで自分勝手だったお前らが足並みそろえてるんだ、いるんだろう?」

「・・・」

「なるほど、だんまりか。まぁいいけど」

「なにを・・・!?」

 

妖怪の身体を貫いた部分から結晶が覆っていく。妖怪が何か言おうとしてるが、そんなものは知らん。

 

そして体全体を覆い尽くし、砕け散った。そして俺は無線機を使って仲間の様子を確認する。

 

『奇襲は成功、だがこちらに親玉はいない。お前らはどうだ?』

『こちら01、ここには雑魚しかいねぇ』

『03および04、こちらにもそれらしき奴はいない』

『そうか、02。お前はどうだ?』

『こちら02、範囲内にそれらしき反応はなし。視界にもうつりません』

『わかったならこのまま妖怪共を各個撃破。もし親玉が現れたならすぐ俺たちに知らせろ!』

『『『『了解』』』』

 

そして通信を切り、俺を囲むように存在している妖怪共を見渡す。ざっと20体といった所か。

 

「さて、お前らは俺たちの都市の安全を脅かす存在だ。ここから去るというなら見逃してもいいぞ?」

≪ウオァァァァァァァ!!≫

「聞く耳なしか・・・まぁいいけどな。その方が殺りやすい!」

 

そのまま俺は奴らに突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら00、お掃除完了。各員、状況報告』

『こちら01、こっちはもうおわってっぞ』

『こちら02、バラバラになっている数体を倒せば終了です』

『こちら03、今最後の一体を殺したところだ』

『こちら04、終了だよ』

『わかった。各員、ばらけている奴をかたづけたら一度集合。親玉をあぶりだす』

 

そう言いながら俺は送られてきたレーダー反応をみる。そしてこの中で一番近いところにいる妖怪を殺すため再び飛ぼうとする。

 

 

 

 

 

「見ぃつけた」

 

 

 

その声が聞こえた瞬間、俺の視界はブレた。そのまま吹き飛ばされ、木々を数本なぎ倒したところでようやく止まる。そこでようやく殴り飛ばされたことに気づいた。

 

「ほぅ、今のに耐えるか。大抵の奴は今ので死ぬんだがなぁ」

 

そう言いながら奴は現れた。

 

その姿は俺よりはるかに巨体で、俺の3倍くらいはあるんじゃなかろうか。それに加え腕が4本あり、灼熱のような赤髪を垂らす顔はまるで般若のようだった。

 

「・・・ったく、ずいぶんと厄介な奴が現れたな」

 

そう言いながら立ち上がる。少々体は痛むがたいした問題じゃない。それよりも厄介なのは奴から感じ取れる圧倒的な力と感情。

 

それは感心や退屈。そして、心の底の方にある絶望。どう考えてもこれから戦うやつが発する感情じゃない。つまりは、俺を敵としてすら認識してないのだろう。

 

「で、確認するまででもないだろうが、おまえが親玉か?」

「そうさ、オレの名は土蜘蛛。こいつらを束ねている」

「なぜおまえが直接俺のところへ?親玉は親玉らしく、本拠地でふんぞり返っていればいいものを」

「5人の中でお前が一番強いんだろ?オレはただ強いやつとやりに来ただけだ。そんなことするわけねえだろ」

「・・・最初からこっちの動きはバレてたのかよ」

「まぁな、だがお前らはいい。今までの奴らは逃げ出すか命乞いをするかだった。たまーに向かってくるやつもいたが、弱くて仕方がねぇ。その点お前らは見つけたその日に向かってきた。おかげで部下が大勢死んじまったがな」

「お褒めの言葉ドーモ」

 

そんなことを話していると、通信機が点滅する。これは俺たちがよくやる連絡の短縮だ。これの意味は作戦の成功、つまりは妖怪の殲滅をほぼ終わらせたことになる。

 

「さて、残るはお前だけらしいぞ?」

「みてぇだな。だが、それがどうした?」

「さいですか・・・っと!」

 

俺は殴り掛かってきた奴の腕を紙一重で跳んで避ける。さっきは不意を打たれたが、奴をとらえている今なら避けることができる。それでも、かなりギリギリだがな。

 

「やっぱこれも避けるか、ならこれならどうだぁ!」

 

残りの3本で空中にいる俺に殴り掛かる。込められている力が先ほどとはまるで違う。一つでも当たったらアウトだなこりゃ。

 

一つ目、左手の武器で受け流す。二つ目、右手の武器でぎりぎり受け止めるが完全に体勢を崩す。そして飛んでくる三つ目を俺はーーー

 

 

 

「ッハ、なんか違ぇとは思っていたがやっぱお前人じゃねえな。面白ぇ!!」

 

両肩から突き出る爪で受け流した。

あっぶね、とっさに出せたからよかったけど今のはかなりヤバかった。

 

「まぁな・・・!!」

 

そう言いながら俺は両手の武器と爪を使って奴の嵐のような攻撃を防ぐ。受けて流して避けて流して避けて流して跳んで受けて、そこで奴の足を狙ってワームスフィアーを展開する。

 

「こざかしいわ!!」

 

が、奴は足を強引に引き抜き蹴りを放つ。ワームスフィアーから抜けられると思わなかった俺はその蹴りをまともに受ける。

 

「ッガ・・・!」

 

右足が潰れた。動かそうとしても全く動かない。

 

だが奴もさすがに無事じゃないようだ。奴の脚はなくなってこそいないが、血濡れになっていて変な方向に曲がっている。

 

「ほぅ・・・おもしれぇ業だな」

「ある意味奥の手なんだがな。まさかあそこから強引に引き抜くとは思わなんだ」

「だが、その足じゃさっきみてぇに動けねぇ。さらに獲物も屑鉄同然。もう終わりか?」

 

奴の言う通り、俺の武器はボロボロだ。こいつは開発班に作らせた特注品で並大抵の妖怪の攻撃じゃビクともしないほど頑丈なのだが、こいつの攻撃を数回受けただけでこの有様である。

 

「おっと、生憎だが・・・」

 

そう言いながら俺は意識を集中させる。すると俺の右足と武器を結晶が覆い始め、それぞれ全体を覆ったところで結晶が砕ける。そこには先ほどの傷などなかったかのように、無傷の足と新品同然の武器があった。

 

「この程度じゃ俺は殺せないぞ?」

「・・・ハッ」

 

奴は俺を見る。そしてスッと右手を上に掲げる。その直後、右手付近で爆発が起きる。どうやら仲間が到着したようだな。

 

「隊長!!」

「ウッハ、なんだこりゃ。今までの奴とは比べ物にならねえなぁ」

「こりゃまたとんでもないのが現れたわね」

 

次々に仲間がそろう。ほぼ全員がは血で汚れているが、どうせ妖怪のだろう。全員疲労こそあるものの、重傷を負うものはいなかった。

 

「さて、これで5対1だ。まだやるかい?」

「当たり前だ・・・と言いたいが、今宵はこれでしめぇだ。興が冷めたしな」

 

そう言いながら奴は腰につけていた瓢箪を持ち、中に入っているであろうモノ(多分酒)を飲む。なんでか知らんが、戦う気が失せたようだ。

 

「帰る。だが、おまえとは必ず決着をつけるぞ」

「言ってろ」

 

そして奴は森の奥に消えていった。というか、当たり前のように足動かしていたんだがあいつの再生力どうなってんだ。

 

『隊長、追いますか?』

 

狙撃した仲間から通信が入る。こいつは遠距離からの狙撃を得意としているので、奴の前に姿を現していない。

 

「いや、追うな。あいつは今までの妖怪とは別格の存在だ。にしても、なぜあれほどの妖力。なぜ今まで反応がなかったんだ?」

『すみません。レーダーの範囲外から急速接近してきて、隊長に伝える間もなく・・・』

「まじかよ。なんで今まで奴の存在を認知できていなかったのが不思議なくらいだな」

「遠方からやってきた、と考えるしかあるまい」

 

とりあえず危機は去ったが、奴という脅威の存在は変わらない。キッチリ対策とっとかないと、下手すれば奴一体だけで防衛隊が壊滅するかもしれん。

 

「帰るぞ。一応目的は達した」

「了解。にしても、あんたよく飛び出さなかったわね?」

「ん、どういう意味だ?」

「どうもこうも、いつものお前なら強敵を目の前にして隊長の命令など聞かないと思っていたのだが」

「馬鹿言え、生憎と対策なしに突っ込むとどうなるか身にしみてわかってるんでね。無茶はするが無謀なことはしねぇよ」

「そうか。それなら今度からは俺の命令をちゃんと聞いてくれよ?」

「ヘイヘイ、了解しましたよ」

 

そう言いながら俺たちは都市に向かい、離れたところにいた仲間とも合流し帰路につく。その中俺は、奴が去る際に感じ取った感情の変化について考えていた。

 

 

俺がワームスフィアーを放って奴の足を負傷させた時。さらに顕著になったのが俺が身体と武器を再生した時。

 

奴から絶望の感情が減り、代わりに歓喜と、期待の感情が現れていた。

 

 

 

うん、どう考えても俺目つけられたね。どないしよ。

 

 




次回は、月計画


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試作その2 第8話

シリアス風味でいきたい


 

あの戦いから1年と少し経った。

 

あれ以降妖怪の襲撃の頻度は減少したが、目に見えて規模が増大していった。

原因は言うまでもなく土蜘蛛だろう。あいつが統制を取り始めてから、妖怪共もただ突撃するのではなくいろいろな戦術を使い始めた。

 

以前のように奇襲をかけて一気に殲滅できればいいのだが、俺はあの戦い以降完全に奴に目をつけられたらしい。戦いに出るたびにどこからともなく現れて俺に一対一を仕掛けてくる。

 

最初の頃は苦戦して、奴の攻撃を防御するのが精いっぱいだった。だが、回数を重ねるうちに反撃に出れるようになり、今ではほぼ互角と言っていいだろう。

 

こういう言い方をするとあれだが、俺は土蜘蛛との戦いを楽しんでいる。日に日に自分の実力があがっているのを感じていて、土蜘蛛との戦いを望んでいる時すらあるのだ。そして土蜘蛛は俺との戦いを心の底から楽しんでいる。

奴の攻撃を受け止めた時、奴を傷つけた時、体を再生させて立ち上がった時。そう言った時、土蜘蛛からは心の底から歓喜の感情を感じ取れる。

 

 

 

はっきり言うと土蜘蛛は強い。巨大でありながら一瞬で間合いに入ってくるほど俊敏であり、その一撃は岩であろうと打ち砕く。さらにそれを嵐のように放ってくる。防衛隊に一般的に配布されている武器では傷などつかず、ワームスフィアで抉った傷も次あった時には全快しているほどの再生力。それに憶測だが奴も何か能力を持っているとみて間違いないだろう。

 

それほどの力を持っているのだ。あいつとたたかえるやつなどこの時代で、いや、人類でいるのだろうか。

 

向かうところ敵なしな土蜘蛛は長い間望んでいたのだろう、自分と本気をで戦える強敵を。

まぁ、それが人でも妖怪でもない俺だったというわけだ。

 

ある時になぜこの都市を狙うのか聞いてみたことがある。妖怪は大概人間を食うために来ているのだが、なんとなくだが土蜘蛛は違う気がしたのだ。それに対した奴の返答はこうだった。

 

 

 

『あぁ?そんなのつええ奴と戦うために決まってるだろ。最初はここの神とやりあうつもりだったんだがな』

 

 

 

・・・なんというか、ものすごく土蜘蛛らしい考えだった。

 

 

その結果防衛隊vs妖怪というよりも、俺vs土蜘蛛という感じになってきている。というか、土蜘蛛のほうは絶対そうなるよう指示をしているに違いない。まぁ俺も、土蜘蛛には手を出すなと言っているのだが。

 

ただここで少し問題がでてきた。俺と土蜘蛛の戦いが激しすぎるせいでここら辺一帯が荒れ地になりつつあるということだ。俺も土蜘蛛も戦闘に夢中になるので周りへの被害を一切考慮しない。俺たちの戦いに巻き込まれて負傷した奴も両陣営合わせて結構な数いるだろう。

 

 

 

 

 

まぁそん感じで日々を過ごしていったある日の夜。ここ最近は妖怪の襲撃もなく、平和だが少し退屈な日々を送っている。

 

永琳も今日の仕事が早めに終ったらしく、若菜ちゃんも家に帰っている。そんなわけで、久々に二人きりだ。そんわけで俺たちはコーヒーを飲みながらかるい談笑をしている。

 

そして話し、飲み物のお代わりを入れたところで俺は本題に入ることにする。

 

 

「永琳、都市の人間全員が月へ移動するってのは本当か?」

「・・・なぜそれを。って聞くのは野暮かしら」

「当たり前だ。町中噂になってる。で、どうなんだ?」

「えぇ、本当よ。近々正式に発表があるわ」

「そうか、そいつは残念だな。ここでの暮らしは結構気に入っていたのだが」

「確かにね。けど、月での暮らしもいいと思うわ。・・・それで、あなたはどうするの?」

 

俺がどうするか?

そんなの決まっている、というよりそれしかないと俺は思う。

 

「・・・おいおい、そんなの無理に決まってるだろ。実のところ計画の理由まで俺は知ってる。確かに俺は妖怪じゃないが、人間じゃないし、ましてや神様でもない。そんな俺が穢れを拒む月に行けるわけがない」

「でもあなたは穢れを持っていない」

 

永琳の言う通りだ。それでも、俺は月に行くつもりはない。

 

「あぁ、そうだな。だが俺はいわゆる“無”だ。何者でもないが、何者にでもなれるんだよ。俺が穢れになる可能性は低くない。・・・それに、俺はこの星が好きなんでな」

 

そう言いながら俺は再びコーヒーを飲む。

 

う~む、苦いが美味い。

 

そう。試行錯誤した結果、俺は味覚を取得することに成功したのだ。味覚の際現に成功した後食べたクッキーはとてもおいしかった。

やはり食事は素晴らしいと改めて実感したっけな。

 

「・・・そう、寂しくなるわね」

 

そう永琳は静かにいう。その言い方は、最初から俺が行かないことを知っていたかのようだった。

 

だがそのすぐあと、寂しいという感情を彼女から少し感じた。

・・・なんか、少し罪悪感を感じてしまうな。

 

「あ~・・・悪いがこのことは若菜ちゃんたちには黙っておいてくれないか?ギリギリまでこの日常がほしいんだ」

 

気まずそうに俺が言うと、永琳は意外そうな顔で俺を見た。 そのあと、笑みを浮かべながら永琳は答える。

 

「えぇ、わかったわ。でもそのかわり・・・」

「そのかわり?」

「いつか必ず会いに来なさい。その時に若菜達からこってり絞られなさいな」

「ハハッ、それは大変そうだ」

 

そう言いながら俺は外を見る。今日は月や星がよく見えるいい夜だ。

だが、ふとした拍子に寂しいと感じた。ここから先しばらくの間、俺は多分独りになる。そう考えてしまうと、何だが不安になってしまった。

 

だからだろうか。自分でも無意識の間に、俺は永琳に聞いていた。

 

「・・・なぁ、永琳」

「なに?」

「お前は俺のこと、覚えていてくれるか?」

「・・・えぇ、あなたみたいなのを忘れるわけがないわ。ずっと、覚えてる」

「そうか。・・・ありがとう」

 

不思議と、不安は消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、月移転計画は実行に移された。

 

都市の住人が乗ったロケットが次々に発射されていく。

だが、どこからかぎつけたのか、妖怪共が今まで見たことない規模で襲撃をかけてきたのだ。

 

俺たち防衛隊の仕事はロケットがすべて発射されるまでの間、奴らを食い止めること。

 

「グギャアアアアアアァァ!!」

「・・・ったく、これで一体何体目だ?」

 

少なくとも50は超えているだろうな。そう思っていると部下の一人がこちらに走ってくる。

 

「隊長、すべてのロケットが無事発射しました!」

「よし、聞いたなお前ら!早く乗れ!」

『了解!!』

 

連絡を切った俺は周りを見渡す。さっきまで暴れまわっていたおかげで妖怪の姿はない。乗るなら今がチャンスだろう。

 

「全員乗りました、隊長も早く!!」

「そうか。・・・すまんが、俺はここでお別れだ」

「隊長!?」

 

何か言ってくるが俺はそれを無視してロケットを同化する。

すると継ぎ目の部分に結晶が生え、内側からでは開けられないようにする。ついでにプログラムも乗っ取り、すぐに月に発射するようにした。

 

今回はロケットだけを同化したので、中の仲間は全員無事だ。

 

「俺はお前らとはいっしょに行けない。それに、倒さなきゃならん奴がいる」

「しかしそれでは隊長が!?」

「俺のことはいい、もうじき最終フェイズになる。じゃあな、楽しかったぜ」

「・・・隊長、ご無事で!」

 

そして防衛隊のロケットが発射される。これでここに残っているのは俺だけだ。

 

さて、いい加減向こうにいるあいつに会いに行くとしますかね。

なぜか奴はこの戦いでは真っ先に俺のところには来ず、ある場所からずっと動いていない。

 

俺は二振りの武器を持ち、奴のところへ移動した。

 

 

 

 

 

「よぉ、もういいのか?」

 

そう言いながら奴は瓢箪の酒を飲む。だがそこから発せられる気迫は今まで以上だ。

 

「あぁ。わりいな、今まで待ってもらって」

 

そう言いながら俺も武器を構える。

 

「問題ねえよ。これで・・・これでよぉやく本気(ガチンコ)で殺りあえるんだからよぉぉぉぉぉ・・・!!」

 

そう言いながら奴は立ち上がり、体をかがめ、腕を地面につける。

いわゆる、相撲のはっけよいの時の構えだ。

 

「本気・・・?今までのは本気じゃなかったのか?」

「今までのももちろん本気さ。だが、今は違うぜ」

「というと?」

「オレの能力さ。『飢えるほど強くなる程度の能力』、それがオレの能力だ」

「・・へぇ、じゃあここ最近襲いに来なかったのも?」

「そうだ。俺はこの一ヶ月、おまえと戦わないことで、飢えていた。お前と戦いたくて、しょうがねぇんだ。そういうもんを、今日までずっとためてきた」

 

そこまで言うと土蜘蛛の気配が変わる。あまりおしゃべりするつもりはないようだ。

 

「あぁ。お前との長い戦いもこれが最後だ・・・いくぞ」

 

俺も意識を集中し、武器と同化する。これは戦ううちにできるようになったもので、これをすることで武器の性能が飛躍的に上昇し、奴の攻撃にも耐えることができるようになる。

 

そして同化した武器のうち、ランスを土蜘蛛に向け、俺は一気に加速する。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉァァァアアアアアアア!!」

「来いやあああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!」

 

 

 

そこから先は、もはや殴り合いと言ってもよかった。お互いに防御は完全に捨て、相手を倒すことだけを考えていた。

 

俺の右腕が吹き飛べば、瞬時に再構成し奴にとびかかり、切り裂いた。

 

奴の身体が抉れれば、それをものともせずに奴はおれに肉薄し、殴り飛ばした。

 

いつまでも、この戦いが続けばいいと思ってしまう自分がいた。それほどまでに、この戦いは楽しかったのだ。

 

 

 

 

だが、決着は突然訪れた。

 

 

 

ザシュッッッッ!!!

 

俺が突き出したランスが、奴の身体を貫いた。いつもなら表皮で拮抗している間に反撃が来るのだが、抵抗なぞなかった。

 

 

「避けないんだな」

「当たり前だ。こういうの、めったにねえからよ。味あわなきゃな、こんなにウメーもんはよぉぉぉ」

「・・・そうかよ」

 

そして俺は、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

俺の目の前に、土蜘蛛が倒れている。

その胸には、風穴があいていた。今はまだそこにいるが、もうじき土蜘蛛はいなくなるだろう。

 

だが俺とて満身創痍だ。肉体と武器は再生させたが精神的に限界で、今にも倒れてしまいそうだった。

 

俺は少しずつ歩いて奴に近づく。すると上から聞いた覚えのない音が聞こえてきて、上を見た。

 

それは、ミサイルだった。

 

あぁ、そういえば都市の文明を残さないよう跡形もなく破壊するんだっけか。もうそんなに経っていたのか。

 

そう思いながら俺は土蜘蛛の近くに行く。そして虫の息である土蜘蛛の方に触れた。するとそこから少しずつ結晶が生え始める。

 

同化だ。

だが、これは今までやってきたのと違う気がする。確証などないが、なぜかそれを確信できた。

 

「・・・俺は、妖怪という種族を理解できなかった」

「だが、おまえとの戦いを俺は楽しんでいた」

「お前は妖怪という存在の恐ろしさを。そして、戦いの楽しさを俺に教えてくれた」

「だから、俺はお前(土蜘蛛)という存在を祝福しよう」

 

そして結晶は土蜘蛛の全身を覆い、そしてーーー

 

 

 

「俺は、おまえだ。おまえは、俺だ」

 

 

 

砕け散った。

 

そして、

 

ミサイルが爆発した。

 

 

 

「ウグッ・・・・・・ガァァ!!」

 

妖怪、植物、動物。あらゆる生命の感情が流れ込んでくる。もはやそれは川から氾濫した濁流のよう。止める暇など、なかった。

 

「これが、痛み。そして、これが恐怖か・・・!!」

 

 

 

 

 

そして、俺の身体は光に包まれた。

 

 

 




次回は、

一気に諏訪神社まで行けたらいいな。


追伸
主人公が持ってる武器は蒼穹のファフナーで登場するルガーランスとレイヴンソードです。

※1,2話で書き終えるつもりが意外と話数が伸びつつあるのでこれ単独で出しなおすことにします。これはこのまま放置。


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アイドルマスター
試作その3 第1話



この試作その3は『なんてことのない、とある喫茶店兼居酒屋の物語』を移してきたものになります。

いやはや、こういう類は全部ここで書こうと思ってこの倉庫を作ったのにそれをすっかり忘れてしまうとは・・・(´・ω・`)

まぁ、のんびり更新していこうと思います。


 

 

 

やぁ。

 

さて突然だが、皆様は『転生』と言うものをご存じだろうか?

 

・・・まぁ聞くまでもないだろうな。こういう類の二次小説は今まで星の数ほど生まれてきているわけだし、これからもその類は山ほど増えていくことだろう。

 

では単刀直入にいうが、私はその『転生』をした。いわゆる転生者だ。

 

前世で死んだ理由は事故死だったらしい。これまたテンプレな神様(見た目おじいちゃん)が懇切丁寧に説明してくれた。そして転生させてくれた理由だが・・・それは私自身のとある呪い(欠点)が理由らしい。

 

その理由はここでは省く。ともかくそれのせいで元々決まっていた人生とは大分違う方向に行ってしまったため、それの修正をおこなう必要があり、転生させるとのことだった。

 

正直そこでなぜ転生なのかはわからなかったが、面倒な事には首を突っ込まないのが吉かと思い、私はそれを受諾した。

 

そこからはトントン拍子で話が進んだのだが、最後にとある問題を私は抱えた。

 

それは、転生特典だった。

 

正直転生先のことを考えると、特にこれと言った特典はいらないと私は思っていた。さらに原作に介入するつもりもさらさらないので、余計に特典の需要は低くなる。

 

なのでいらないと言ったのだが、神様が言うには『転生者には平等に3つの特典を与えるのが決まりだ』とのことらしい。

 

さぁ困った。そして数分考えた結果、私は以下の3つに決めることにした。

 

 

1つ目、転生先の自身のスペックは前世と同じにすること。

2つ目、1つ目の願いに関して私にかけられた不備だけは修正しておくこと。

3つ目、向こうの世界で神に一度だけ願いをかなえてもらう権利。

 

 

3つ目に関してはただ単に保留ということだ。まぁ物は言いようということで、神様にはこの内容で許可してもらった。

 

 

こうして、単に人生やり直せると思っていた私の新たな人生は始まったーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が昇ってしばらくたち、時間は昼近くといったころ。

 

とある場所にあるお店。その厨房で、一人の男が火のついたコンロの上で片手でフライパンを持ち、ヘラを使って野菜を炒めていた。

 

 

「デザートは用意できたぞ。・・・む、まだか? ランチに間に合わないぞ?」

「問題なし、このままやらせてくれ」

 

 

厨房の入り口から別の男性が声をかける。それに対してフライパンを持った男性はそう返して作業を進めていく。

 

そして2分後。フライパンの火を止め、隣で弱火で煮込んでいた鍋の蓋を開ける。すると、そこからスパイスの良い香りが厨房に広がっていく。その中身は、カレーだ。

 

 

「こっちも準備オッケー、っと」

 

 

そこに男はフライパンの中身・・・飴色になるまで炒めた玉ねぎを投入していく。すべていれ終わり、その後は仕上げと味の調整をするだけなので、そこからカレーが完成するまでは早かった。

 

そして完成したのであろうカレーをお玉で少しすくい、小皿に入れて味見をする。

 

口に含んで数秒後、男は満足そうな笑みを浮かべる。どうやら思い通りの味になったようだ。

 

 

「・・・うし、オッケー。そっちはどうだ?」

「問題ない。いつでもいける」

 

 

男の問いに対し、厨房の入り口に立っていたもう一人の男性は答える。どうやらすでにあらかた準備は終えていたようだ。

 

それを見て男は『相変わらずハイスペックなことで・・・』と自身の仕事仲間について心の中でそう呟いた。

 

 

「こんにちはー!」

 

 

先ほどまで男二人しかいなかった空間に女性の声が響く。そして厨房の出口・・・つまりは裏口から男のもう一人の仕事仲間が制服を着て入ってきた。

 

 

「お、来たな・・・。と、もうこんな時間か」

 

 

そう言って厨房から出てお店の入り口を開け、簡易メニュー付きの看板をそこに置いた。そして振り向き、そこから見える空を見る。

 

 

「うん、今日もいい青空だ。本日も頑張っていきますか!」

 

 

そう言って男・・・私は、店の中に入っていった。その入り口の上には大きな看板があり、店の名前がでかでかと書いてあった。

 

 

 

 

 

ーー『たるき亭』、とーー

 

 

 

 

 

 

 

これは原作介入するつもりはさらさらなかった私が、妙な形でさまざな原石や宝石たちと関わっていく物語である。

 

 

 



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Re:CREATORS
試作その4 第1話


転生した経緯→衝撃の事実に気づくまでの平凡な日常→ラノベ作家になることを決意→現状の報告→原作公園のシーンで、第3者として彼が登場

Re:CREATORSにハマったので、唐突に書きたくなった。
強いて言うなら【Re:CREATORS】と【Fate】のクロスオーバー。

タイトルを付けるのなら【偽作者と贋作者】


※10/3 続き書きました。感想が来るとは思ってなかったよ……







やぁ、こんばんは。

 

こんばんはというのが時間帯的にあっているかはわからんが、少なくともこれを考えている今は夜なので問題ないだろう。

 

誰に話しているんだなんて聞いてはいけないよ? そいつはメタ発言ってもんだ。

 

なんでこんなことを考えているのかというと、今の俺の現状を誰かに知ってもらいたくてさ。少し長い話になるが、暇つぶしにでも聞いてってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが君たちに1つ問いかけたい、【転生】を知っているかな? ……まあ知っているよね。

 

俺が学生だったころから二次小説サイトではよくあるジャンルだ。○○の世界に入ったオリジナル主人公が原作を壊したり壊さなかったりしつつ、その作品の登場人物たちと関わっていくというジャンル。確か俺がこの世界に来る少し前だと、公式コミカライズで転生系統の物語があった気がする。まあそのくらい、今の世の中ではメジャーなジャンルに含まれているということなのだろう。

 

 

 

さて今サラッと言ってしまったが、俺はその転生を経験している。所謂転生者と言うやつだ。

 

それまでの流れは本当にテンプレと言えるものでね。いつも通りの社畜生活が一段落し、さあ飲みに行こうと会社を出た途端にトラックにゴシャッ!だ。

 

そして気づけば白い空間、目の前にいる白い衣を纏った爺さんに「お主は死んだ。じゃがそれは家の若いもんのミスで、お主はもっと生きる予定だった。そこで、本来生きていける年数分別の世界で暮らしてもらう」と言われたんだ。

 

 

 

な、笑ってしまうほどテンプレだろう? しかもその転生先は明言できないがアニメの世界で、特典も付けてくれるというテンプレセットだ。

 

もちろん俺はその話に食いついた。そして特典は『その世界で生きていけるだけの力を持つ能力』にした。曖昧なので何が来るかはわからんが、これならどんな世界でも生きていけると思ったからだ。

 

そして俺は無事に転生を果たし、この世界に一つの命として生まれた。そしてーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー何事もなく18年が過ぎ、俺は無事に平凡な大学への合格判定をもらった。

 

いやあ、高校3年生を迎えたあたりで薄々感づいてはいたんだけどね? やっぱり心のどこかでは諦めきれなかったのさ、原作への介入を。

 

 

 

そう。詰まる所、どうやら俺はこの世界への物語には関われないらしい。

 

幼稚園児の頃はどんな特典になるか日々考えていた。小学生の頃は積極的に外出した。中学生の頃は周りとは違う人間がいないか観察し続けた。高校生の頃は前世の記憶を掘り返し、現状と関わりがありそうな物語を思い返した。

 

これらはすべてこの世界の重要人物たちと出会い、その行動を観察したいという俺の願いのために行ったことだ。

 

 

 

だがその結果は全て徒労に終わった。

 

周りにはそれらしい人物はおらず、異世界なんかもなく、異能なんてものもなかった。裏の世界には何かあるかもしれんが、ごく普通の家庭に生まれた俺にその世界に関わるすべはなく、きっかけとなりそうなイベントも起こらなかった。

 

 

 

まあショックだったね。当時の俺は自分のことをオリ主だと考えていたし、原作には必ず関われるものと思い込んでいたから余計にクるものがあった。実際のところ、それを自覚した日には一日寝込んじゃったし。

 

 

そして1日中布団の中でず~~~っと考えていた。そしてようやく受け入れることができたのさ、自分の立ち位置って奴を。

 

事実あの爺さん(多分神様)は転生先がアニメの世界だという事は言ったが俺が関われるとは言っていないし、俺もそのことを確認していないんだ。結局は浅はかだったんだろうね、俺の考えは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……とまぁそんな感じで何とか立ち直り、この世界に生まれた一般人としての生活を決意したわけだ。これにておしまい…………になるのならこんな振り返りはやらないね、うん。

 

そんなこんなである意味生まれ変わった俺は、普通の大学生活を送ろうとした。原作に関わることに躍起になっていたのを諦めたのが功を奏したのか、ずいぶんと肩の荷が下りたように感じたのだ。そこで前世の趣味だったことを再びやろうと思い立ったのだ。

 

前世の趣味、それは漫画にゲーム、アニメ等々……前世でも今世でもそれを公に言うとオタクと分類されそうなモノたちである。その中でも俺はとりわけノベルゲーと呼ばれる物たちが大好きだ。幸いにも前世であったコンテンツのほとんどが今世にも存在しているので、楽しく過ごすことができていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、できていたんだ。あの事実に気づくまでは。

 

 

 

最初は偶然だと思い、気にも留めなかった。次第にそれに対し違和感を抱き始めた。そしてそれはぬぐいようのない不安へと変貌した。

 

そしてある日、頭の中でそんなはずがないと何度も反芻しつつパソコンを立ち上げ、いくつかのワードで検索を行った。

 

 

 

 

 

そして、俺は二度目の絶望を味わった。

 

俺が検索したキーワードは【Fate】、【型月】、【奈須きのこ】、それに当てはまるものが何一つなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーつまり、この世界には【Fate】というコンテンツは存在していなかった。

 

 

 

前世で最も好きだった作品がない、その事実は俺を愕然とさせるには十分だった。

 

いや本当に焦った。名前を少し変えながら何度も検索したが、全く引っかからない。似たような物語はもない。完全に存在していないのだから。

 

 

俺は必死に考えた。理由は色々あるのだが、結局のところこの世界に【Fate】というコンテンツがないことを認めたくなかったのだろう。そして考えに考え、出した結論は一つだった。

 

 

 

 

 

俺が送りだすしかない。Fateという物語を。幾万の英雄たちが集って紡ぎ出す、あの素晴らしい物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからはもう必死だったね。とにかくいろいろなことをやったよ。

 

まずは原作の内容、そこで登場する文章すべてを書きこみ、保存した。そしてキャラごとや世界観など、覚えている限りの設定をまとめていった。さらに原作の絵柄を表現するために絵の勉強をし、何枚も何枚も絵を描いて練習した。幸いなことに俺にはその手の才能があったようで、ほとんど苦労することもなく、2年も経った頃には基本的にうまく再現できるようになった。

 

……いや、幸いと言うよりは運命だったのかもしれない。恐らくだが例の特典が機能しているのだろう。まさかあれ程望んだ力をこういう形で使うとは思っていなかったけどね。

 

 

 

そして講義は単位が取れるギリギリで受け、それ以外のすべての時間を費やして2年。完全に再現できたと自負できる原作第1作の第1ルートの小説プロットと挿絵が完成した。

 

 

 

 

 

はい、今みんなは疑問に思ったのではないかな? その通り、俺がまず作ったのは小説だったのだ。

 

本来なら原作の最初の作品はゲームなのだが、俺はそっち方向はからっきしで再現できなかった。誰かの力を借りれば再現できるかもしれないが、俺はこの作品を自分の手で再現したかったため、ゲームで作るのを諦めたのだ。なぜならあの作品を知っているのは俺だけであり、それを知らない誰かの介入を受けたくなかったから、という理由があったのだが。

 

 

 

 

 

そして次に行ったのは親の説得と持ち込み用の小説の作成だ。

 

親への説得は大変だったが、今まで自分の欲を出してこなかったせいか初めて出すお願いにむしろ賛成だった。ただしやはり収入などの懸念があるそうなので、大学にいる間、つまり後2年でなにかしら結果が出なかったら諦めるという条件付きだったけどね。まあ許可をもらえただけありがたいものだ。

 

そして持ち込み用の小説、これはオリジナルで書いた。と言っても内容は過去の英雄が現代によみがえり、現代人と交流し、協力して敵や同じく過去の英雄である黒幕と戦うといった、どこかで聞いたような内容なのだが。

 

正直なところ、これは前座用の作品だ。持ち込み用はあくまで様子見であり、そこにあの小説を持ってくる気はなかった。さらに『過去の英雄の現代入り』や『違う物語出身の英雄のぶつかり合いや価値観の違い』の要素を混ぜることで相手に俺の作風を理解し、協力してくれるかを見極めたかったのが目的でもある。

 

そんな訳で数社に持ち込んだ結果、とある1つの会社から担当を付けてもらうことに成功した。この時はとりあえず第1段階が完了した事でホッとしたのを覚えている。

 

 

 

 

 

だが今はまだスタートラインに立っただけ。本番はむしろここからである。

 

そして担当の方との初めての会議の日、僕はあの小説の原稿すべてを持ちこんだ。まさかこれからどんなのを書いていくか決める会議で完成された原稿を持ちこんでくるとは思っていなかったのだろう、担当の方は驚いていたが、それでも目を通してくれた。

 

刻一刻と過ぎていく中、担当は原稿を真剣に読んでくれていた。俺はその様子を緊張しながらジッと見る。あの時ほど、心臓の音がうるさいと思った事はないね。

 

そして目を通し始めてから数時間たち、持ち込んだ時には昇っていた太陽が夕日へと変わっていくころ。そのすべてを読み終えた担当はふぅ、と息を吐いた。そして頭に手を置き、薄く笑う。

 

それを見て俺は聞いた。どうでしたか、と。それに対し、担当の返答はこうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、これは驚いた……君は天才かもしれないな」

 

 

その言葉を聞き、思わずガッツポーズをしてしまったのはいい思い出と言うべきか。まずは一人、目の前にいる人だけだがこの作品を認めてもらうことに成功したのだ。嬉しくないはずがなかった。

 

そこからこれで出版できるよう話し合い、いきなりだが単行本を出すことに成功した。些か上手く行きすぎな気もしたが、それほどまでにこの作品は魅力にあふれているのだとも思っていたっけ。

 

 

そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそして第1作『Fate/stay night』はデビュー作であり代表作となった。その分岐世界である『Unlimited Blade Works』や『Heaven`s Feel』、過去の物語である『Zero』に、平行世界での未来の物語である『EXTLA』も完結。今や日本を代表するラノベ作家の一人になりましたー、っと」

 

 

そう締めくくり、茶を啜る。いやはや、決意を固めてから早7年。気づけばこんなところまで来てしまったか。

 

そう思いながら視界の端に写った棚を見る。そこには今まで取ってきた賞が飾られてあった。その賞状には日本だけでなく、外の国で貰ったものも混じっている

 

 

「ひい、ふう、みい…………改めて見ると、結構な数だね」

 

 

その賞状の数、それはすなわち『Fate』という作品がどれだけ世界に認められているかが分かる指標でもある。これだけの数を見ていと、ファンとしてとても良い気持ちになるというものだ。

 

 

「……ファンとして、か」

 

 

自分が思ったことを、思わず繰り返し呟く。

 

視界に写るいくつもの賞状、それらにはもちろん俺の名が刻まれている。だがそれを見ても俺の中に自尊心や自信は生まれない。いや、生まれてくるわけがない。

 

 

「……俺はあくまで代弁者だ。Fateはあの人の作品であって、俺のじゃない」

 

 

わかっているし、覚悟も出来ている。別に俺の作品にしようと思ったことなんて一度もない。まぁ、それでも少し思う所はあるわけで。

 

 

皆が称賛の言葉を俺に送るたび、それを受け取るのは俺ではないと叫びたくなる。俺はただあの人が描いた物語を写しているだけで、俺自身は何もしていないと暴露したくなる。

 

 

まぁそれらはしたくなるだけで、するつもりはない。ここまで来た以上、俺には覚えている限りの作品を完遂させる義務がある。

 

EXTEELAにプリヤ、アポにFake、etc、etc……本当にまだまだたくさんの魅力が、この作品には詰まっている。こんなところで立ち止まっているわけには「ppp……」……っと。

 

 

「もしもし?」

『須田先生ですか? 次回作である【Grand Order】についてなのですが……』

「あぁ、はいはい。少々お待ちを……」

 

 

そんなこんなで俺の仕事はまだまだある。一息つくときなど、まだまだ先だろう。

 

そう思いつつ俺は今の担当の方との話し合いをすべく、自分の部屋へと戻っていった。

 

 

この世界で俺がすべきことは見つけた。後はそれを完遂するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さぁ、始めよう」

 

 

ーーーその日、俺の運命は動きだす。

 

 

 




≪物語の流れ≫
・主人公、転生。アニメの世界だと聞き、特典をもらっていざ転生したが大人になってもそれらしきイベントに遭遇できず、関われないと諦めている。
 ↓
・趣味はアニメ漫画ゲームで、今世もそれを続けていたが、前世で存在したコンテンツがほぼあるのになぜか一番好きなFateシリーズだけがなく、絶望。
 ↓
・ないならば作ってしまおうと考え、大学を卒業してから前世の記憶を頼りにFateシリーズを作成していく。原作をラノベとして出し、構成及びイラストは自身一人で担当。(原作を完全に再現したかったから)
 ↓
・現在はSN、Zero、Extraを完結させ、FGOを小説として製作中。またSNの3ルートすべての映像化が決まり、現在はSNのUBWルートが放送中である。
 ↓
・この世界の原作が始まり、彼がこの世界に降り立った。


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試作その4 第2話

原作公園のシーンで、第3者として彼が登場


しばし放置していたのですが、レクリ全話見たのと感想があったので更新。あと第1話の続きも書き足してあります。


 

 

「うん、いい出来だ。キャラたちの声や動きも、しっかり再現できてる」

 

 

そう呟き、目の前のテレビ画面の中で動いている人物たちを見る。その人物たちは現代とは思えない様々な服装を着ており、そして彼らはお互いに戦っていた。

 

 

「『Unlimited Brade Works』……UBWルートのアニメ化も何とかなりそうだな。まあ前回、散々介入したからなぁー……」

 

 

最初、第1ルートのアニメ化の声がかかってきた時は本当に考えた。その時はまだ完結してから半年もたっておらず、俺自身も成人仕立ての若者だったからだ。

 

俺自身としてはアニメ化はぜひしてほしい。しかし、下手なところに頼んで映像作品としての質が下がるのは絶対に許せなかった。

 

そこで俺は条件を出すことにした。脚本及び原画は自身が担当し、演出及び声優の選抜にも関わらせてくれたらいい、と。

 

 

 

 

 

……いや、新参者が何言ってんだと思うよね、皆。俺だってそう思うくらいだし。だけどここを譲るわけにはいかなったんだ。といっても案の定、そのアニメ化の話はお釈迦になったんだけど。

 

しかしその後声がかかる度にその条件を突きつけていったところ、とあるアニメ制作会社がその条件を飲んだのだ。ちなみに最初に声がかかってから1年後の話である。

 

許可が下りたと聞いて正直俺も驚いた。直接その会社に行き、監督に本当にいいのか? と確認と念押しもしたのだが、向こうはむしろそれを望んでいると言ったのだ。どうやら彼らは俺の作品に心底ほれ込んだらしく、ぜひともウチで作らせてほしい、と俺の両手を握って大声で喋ってたのは今でも覚えている。あまりの情熱に俺も思わず口角が上がるのを抑えれなかったし。

 

その時俺は思ったのだ、ここでならできるかもしれない、と。

 

そんなこんなで動き出したアニメ化計画。当たり前だが、本当に大変だった。自分が当時書いていた続編の執筆に加え、声優のオーディションへの審査員参加、原画に脚本の製作と、文字通り寝る間も惜しんで作業に没頭した。そこに加えて作画チームに演出家、監督との話し合いも連日行っていたのだ。よくもまぁ倒れなかったものである。

 

そのおかげでほとんど前世と変わらない声を付けてもらうことに成功し、構成も練りに練ってついに完成。完成した直後、チーム全員がぶっ倒れて1日中爆睡したのはもはやいい思い出と言うよりも黒歴史の一つだ。もっとぺース配分考えればよかったね。

 

 

 

そしてプロジェクト開始から1年後、放送が開始された。

 

連日徹夜で書き続ける俺につられてしまったのか、作画担当の皆も全力で作業し、2クール作品だというのに劇場版のようなハイクオリティな作画。俺が何度も修正したことで、原作との違和感が完全になくなった脚本に演出。アフレコ現場には必ず参加し、何度も声優の方々と話し合ったことで生まれた、珠玉の演技。

 

 

 

そして半年の期間を走り抜け、その物語は完結した。その年の名作アニメでは堂々の1位を飾ったし、俺たちには莫大な収入が入った。そしてその熱気も収まらぬ中進みだしたのが、今回のUBWのアニメ化である。

 

と言ってもチームは全く変わらなかった上に増員されていたので、今回はさらなる質にこだわってみた。と言っても前回の反省を生かして、夜遅くまでの作業を誰かにさせることは一切しないようにしたが。

 

 

……ん、俺はどうかって? もちろん連日徹夜で練ったよ。ここに手加減をする理由なんてないし、妥協なんて俺自身が絶対に許さなかったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁそんわけで今回は安全(俺以外)に完了したこの作品。現在放送されているのだが、すでに某掲示板では覇権扱いされている。嬉しいと思う半面、当たり前だと思っているのはファンとしてなのだろうか。

 

はたまた……

 

 

「……さて、続きでも書こう。第4特異点はかなり重要な場所、ここはしっかりと綿密に書き上げなければ」

 

 

頭の中に浮かんだ考えを振り払い、テレビを消す。俺は代弁者、それでいいのだ。

 

今書いているのも俺はソシャゲでしかやったことがない物語。文章化するのは大変だが、だからと言ってやらない選択肢はない程の魅力が詰まっているのだ。

 

 

「このままいけば間違いなくFateは日本の代表作に近づける……。日本中に、Fateの名を響かせてみせるさ」

 

 

そして自室に入り、机に座って原稿に彼らの物語を書き綴っていく。気分転換につけているラジオから流れるニュースをBGMに、俺の夜は今日も更けていった。

 

 

 

 

 

『……次のニュースです。○○高速道路にて車が横転する事故があり、現在調査を進めています。現場にいた方の証言によるとーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある公園。今この地で、二つの存在が宙を舞い、剣を振るっていた。

 

 

「言ったじゃないか。ここは神の世界だよ。セレジア殿」

「何を世迷言を!」

 

 

軍服を纏い、いくつものサーベルを操る少女に対し、赤髪の少女ーーーセレジアは剣をぶつけあいながら叫ぶ。いきなりわけもわからぬ地に飛ばされ、元凶であろう白髪の少女に問い詰めたところ、その返答がこれだ。赤髪の少女からすれば、間違いなく眼前の少女の言葉は世迷言であった。

 

そしてセレジアの叫びに対し、軍服の少女は嗤い、さらなる言葉を紡ぐ。

 

 

「世迷言、余が冗談を言っていると? この世界はまごうことなき神代の地だ。胡乱な創造主がひしめき合う、悍ましい別天地さ」

 

 

その言葉とともに追撃を加えるため、鍔ぜりあうセレジアの周囲にサーベルを展開する。。

 

 

「君にもすぐわかる。私の言っている、その意味が…………っ!?」

 

 

しかしその直後、飛んでくる物体に気づき、剣を円状に展開して防御に回る。

 

それは次々と剣でできた盾にぶつかり爆発していく。後退し、その様子を見ていたセレジアは、物体が飛んできた方向を見る。するとそこには司書服を着た少女が、いくつもの魔方陣から砲撃武器を構えた状態で、二人を見下ろしていた。

 

 

「……メテオラか」

 

 

煙が晴れ、その中より無傷の少女はつぶやく。それに対し、少女ーーーメテオラは無言で少女を見つめる。

 

 

「その様子では君の創造主はまだ見つからぬ、か」

 

 

その言葉とともに再びサーベルを展開し、臨戦態勢に入る。

 

それに反応し、メテオラはさらなる追撃を加える。それを見た軍服の少女は空を駆けまわり、その攻撃から身をかわす。

 

いくつかは彼女の防御に阻まれ爆破するが、他の砲弾は標的を逸れ、地面や建物へと迫りーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ?」

「……」

「これは……?」

 

 

ーーー次々に空中で爆散していった。メテオラがそうさせたのかと思いセレジアは彼女を見るが、その表情からどうやら違うらしい。

 

砲弾を次々に撃墜していくナニカは、続いて軍服の少女にも牙をむく。そのナニカが迫ってくるのを感知したのか、軍服の少女は再び剣の盾を展開し、それを防ぐ。

 

しかしその攻撃は2・3発だけ続き、それ以降は影も形も見えなくなった。静かだが緊迫した空気が、3人を包む。

 

 

「……どうやら、今宵はここまでのようだ」

 

 

サーベルを展開し、軍服の少女は二人を見て話す。何をしても対応できるよう、セレジアとメテオラは構えつつもその様子を見守る。

 

 

「騒乱こそ余が望むところだが、力も駒も足りない今では交響曲に雑味が多くなる。荘厳な曲は演き手がそろってこそ、だ」

 

 

言葉が紡がれる中、彼女の外見に乱れが生じる。まるでホログラムが崩れるかのように徐々に彼女は崩れていく。

 

 

 

 

 

「またご挨拶を。セレジア殿。この穢れた世界に変わり、ご歓待申し上げる」

 

 

そして彼女の姿は消え、その場には二人だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ひとまず落ち着いたか」

 

 

公園から遠く離れたビルの屋上。その角に立っていた者は構えていた弓を下ろす。残された二人の少女は何か話していたが、意見が合ったらしく共に行動するようだ。そう思いつつ、先ほどの戦闘を思い返す。

 

空中移動に召喚魔方陣、さらにはサーベルを用いた多用途戦術。あれは間違いなくこの世界では有りえない現象だ。まだ下調べが足りないので確証はないが、その者はそれを確信していた。

 

詰まる所この世界に表立った異能はない。持っていた手から弓を消しつつ、その者は考える。

 

 

「さて、まずはあの少女を探すとしよう。元の世界へ戻る方法を話してもらわねばな……」

 

 

その言葉の後、その者は霞のようにその場から消えていった。

 

 

 

 

 




次回、まだ何も考えてないっす()


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戦姫絶唱シンフォギア
試作その5 プロローグ


長引くとエタりそうなので、中編くらいで終わる内容にしたい。

シンフォギアにファフナー要素をぶち込みたかった。


ーーオイ、出ろB-66--

 

 

 

なぜこうなってしまったのだろう?

 

 

 

ーーチ、反応すらなしか。こいつももう終わりだなーー

 

 

 

何が駄目だったんだろう?

 

 

 

ーーしかし、B-66は最高の素質を持った被検体です。事実【】の浸蝕に耐え、唯一想起状態に持って行くことに成功していますーー

 

ーーだが小規模な起動ができてもこれではな……。もう意識もないのだろう?--

 

 

 

あいつらが現れたから?

あの場所に、家族みんなで行ったから?

あの時、俺だけあそこから離れてしまったから?

 

 

 

……あの時、俺に力がなかったから?

 

 

 

ーーいえ、意識はまだ存在しています。ただこのまま最終実験に入れば高確率で廃人になってしまいます。それでは……--

 

ーーやかましい。なんにせよB-66が最高の逸材なのは間違いない。これで失敗するのなら、今の技術では不可能に近いということだーー

 

 

 

そう簡単に変えれるほど、運命は優しくない。そう聞いてはいたが、その通りでただの人間である俺は運命を変えることができなかった。

 

運命の地へ行かないよう手を尽くした。脅威から守れるよう身体も鍛えた。いつ起きてもいいように、常に策を考えた。

 

でも、ダメだった。守りたいと思っていた大切な人を、だれ一人守れなかった。

 

 

 

 

 

……あぁ、もう考えるのも痛い。毎日毎日、痛いことばっかりだ。

 

 

 

ーーいいから連れていけ。もはや我々には他の方法を探す時間もない。【】を起動できるとしたら、B-66だけなのだよーー

 

 

 

……景色が動いていく。またあそこに連れて行かれるのか?

 

あそこに行くのはイヤだな。またよくわからないものを打たれて、アレに会わされるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー配置完了、被検体B-66に狂歌薬及び増幅剤の投与完了。【】の起動実験プランΣを開始しますーー

 

 

 

あぁ、まただ。勝手に身体が動き、知らない歌を歌いだす。その様子を周りの大人たちが見ている。

 

始まってから少し経つとあれから声が聞こえてくる。

 

もう何度も聞いた声。男性とも女性ともとれる中性的な声で、感情が全くこもっていない機械のような声。

 

 

『----ーーー?』

 

 

いつも俺に何かを問いかけてくる。だが、今日も何を言っているのかはわからない。

 

別に言語が分からないわけではない。聞いている余裕が俺にはないのだ。なぜなら……。

 

 

「------っ!」

 

 

 

ーーっ、浸蝕現象が始まりました。依然、【】に変化なし!--

 

ーー問題ない、続けろ。どのみちB-66は限界だ、今日で使い潰すつもりでやれーー

 

 

 

まただ。声が聞こえ始めたら、いつも身体が痛くなる。

 

いつも通りだとしたら、しばらくすればこの痛みはなくなる。しかし、今日は痛みがいつまでも続く。どうやらあいつらはやめる気はないらしい。

 

 

 

ーー浸蝕率、なおも増大中。しかし【】に変化はありませんーー

 

ーー狂歌薬を増やせ。限界まで投与するんだ!ーー

 

ーー……はい。狂歌薬、追加投与しますーー

 

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛ィィィ!!

 

 

 

 

ーー起動だ。起動さえすれば……っ!ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……フザケルナ。ナゼオレガコンナメニアウ?

 

イッタイナニヲシタ?

 

 

『-------?』

 

 

 

ーー被検体の損傷率が規定値を超えています! このままではあと5秒で崩壊が!ーー

 

ーーなぜだ? なぜ起動しない、【】!!--

 

 

 

 

 

アァ、ソウダ。カンタンナコトダッタンダ。

 

アイツラサエ、アイツラサエイナケレバ……!

 

 

 

 

 

『--エテ?』

 

 

 

アノBaケMoノサEイナケレバ、オレHa!

 

 

 

ーーっ、【】のアウフヴァッヘン波形が増大!ーー

 

ーーなに!?--

 

 

 

『おしえて?』

 

 

 

アイTuラヲコRoスチカラサEアレBa、オReハ!!

 

 

 

『私はなぜ、ここにいるの?』

 

『あなたはなぜ、ここにいるの?』

 

 

 

 

 

『教えて? 私がいる理由を』

 

 

……コエGaキコエRu。ココニイRuリユウGaホシイ?

 

 

ソレNaラカNタンDa。

 

 

 

ーー【】のエネルギー量、なおも増大! 想定値を大幅に超えています!--

 

ーーハハハ、素晴らしい! この力があれば、ノイズ共も殲滅することができる!!--

 

 

 

 

 

ヨコセ、チカラヲ。アイツラヲケス、アットウテキナチカラヲッッッ!!

 

 

 

 

 

ーーーお前はそのために、今ここにいる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー了解、認識した。これより私は、君と共にあろう』

 

『あぁ、懐かしい感情だ。この憎悪の黒い叫び。本当に懐かしい……』

 

 

 

意識を失うその直前、声が聞こえたような気がした。

 

 




意識覚醒
 ↓
状況理解
 ↓
研究所脱出、旅に出る。
 ↓
遺跡侵入


ここまで書きたい。


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試作その5 第1話

意識覚醒
 ↓
状況理解
 ↓
研究所脱出、旅に出る。



「…………っ、あ……?」

 

 

目が覚める。全身に激しい痛みが襲うが、少ない力を振り絞って目を開ける。。

 

 

「……綺麗だ」

 

 

一体いつぶりだろう? もうずいぶん長い時間見ていなかった青空。それが僕の目の前に広がっていた。頬を流れ落ちる涙を止めることもせず、俺はただ青空を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして青空を見続けること数十分後。ようやく落ち着いてきたので、今度は周囲を見渡す。

 

見覚えのある風景だった。立っていたのなら正面にある台座、周囲を囲むようにある壁、その向こうにあるいくつもの機材。

 

しかしそれらは見るも無残な状況になっていた。正常な状態なものは一つもなく、どれもがボロボロになっている。そして天井は巨大な力が放出したかのように抉れ、先ほど見た青空が広がっていた。

 

 

「一体何が……って、考えるまでもないか」

 

 

意識を失う直前に聞こえた声。あれらから想像するに、俺はあれを起動させることに成功したのだろう。しかし意識を失ったことで暴走し、こんな惨状になってしまったとでも言った所か。

 

 

「せめて何か残っていればいいのだが……」

 

 

このまま倒れていてもらちが明かないので、痛む体に鞭を打って立ち上がる。なにか情報を手に入れなければ、いつまでもこの状況は変わらないだろう。

 

そう思った俺は、何かわかることはないか探し出すために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰もいない、か」

 

 

覚えている限りの範囲を1周した後、自分の部屋となっていた場所のベッドに腰かけた状態でつぶやく。

 

薄々わかっていたが、すでにこの研究所は機能停止になっているようだ。

 

人は一人もおらず、機材はボロボロ。建物自体も半壊といった所だろうか。そこにあったはずのモノは、何一つとしていなくなっていた。

 

 

「これからどうしたものか……」

 

 

あの日からどのくらいの月日が経ったのか、俺にはわからない。だがあの状況からして、間違いなく俺は死者扱いになっているだろう。あの化け物に触れてしまったら最後、炭となって遺体も残らず消え去ってしまう。だから俺の遺体がないのならそういうことだ、と考えられているはずだ。

 

故に戻ったところで、もう俺の居場所はないだろう。

 

 

それにーーーー

 

 

「……せめてこいつに関する資料を見つけなければ」

 

 

そこで思考を中断し、呟きながら右手で胸に触れる。首元から下にそって撫でていくとカチ、と無機質な感触を感じる。

 

そこには黒い結晶のようなものが胸元からアクセサリのように生えていた。それに触れたまま意識を集中させると、わずかだが鼓動を感じる。

 

途中から気にする余裕がなくなっていたが、意識を失う前まではこんなものは生えてなかった。そこから考えるにこいつは、起動させることができたあの聖遺物なのだろう。

 

薬の連続投与により記憶は摩耗してしまった。何とか家族との思い出は残っているが、それより前の記憶や実験体となっている間の記憶はほとんどなくなっている。

 

そのせいでこいつの名前も俺は知らないのだ。しかしあれほど固執していた以上、この力が強大なものである可能性が高い。それを使っていくためにはまず、こいつの名前を知るところから始めるしかないだろう。

 

 

「もう少し探してみよう。俺の知らない機密区画があるかもしれない」

 

 

こいつを扱っている以上、何かしらの情報は確実にあるはずだ。そう考えた俺は、さらに捜索するために再び研究所内を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーそれにたとえ奇跡が起きて戻れたとしても、今の俺に日常に戻る気はさらさらない。

 

なぜなら、知ってしまったからだ。想いだけでは何も為すことができないということを。

 

何かを為そうというのなら、圧倒的な力も必要だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井が見える。ここ最近で随分と見慣れた無機質な白い天井ではなく、きれいな青空がうつっていた

 

 

 

「……結局、こいつについてはわからずじまいか」

 

 

あれから数時間後。調査の結果、いくつか知らない区画を見つけることができた。現在の俺はそれらをまとめて、目覚めた場所で読み終わったところだ。

 

何とか無事だった資料にはいくつかの聖遺物に関するデータが記されていた。しかし、肝心のこの聖遺物に関するデータだけが見つからなかったのだ。

 

どうやらこいつに限らずいくつかの聖遺物も過去に扱っていたようで、それぞれのデータには実験体の名が記入してあった。だがそれらのデータの中に、ここでの俺の名である『B-66』は載っていなかったのだ。

 

 

「だが、結果としてはいい方だろう。これらを手に入れることができれば、さらなる戦力増強も見込める」

 

 

扱える聖遺物が増えれば、さらに皆を守る【奴等を消す】力となるだろう。

 

 

「…………?」

 

 

今、頭に妙なノイズが走った気がするが、特に身体状況に変化はない。気のせいかと思い、改めて考えをまとめることにする。

 

俺が為したいことは、脅威から大切な人々を守る事。そのためには、使用方法が不明の胸元の聖遺物だけでは心もとない。そこでこの資料に乗っている聖遺物を回収し、さらなる力とする事。こんなところだろうか。

 

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 

資料の内容をほぼ頭に入れた俺は、意識を集中させる。すると胸元の聖遺物が鈍く光り出し、身体がゆっくりと宙に浮く。

 

これは捜索中に片っ端から試した結果わかったことの一つで、原理は不明だが機能の一つに飛行能力があるらしい。

 

そう考えているうちに研究所だった残骸から出る。上空から改めてみると、ひどい有様だ。空はこんなにも綺麗だというのに、この地はあまりにも醜すぎる。

 

……ケシテシマオウカ?

 

 

「っ、早く行こう。ついでに他の情報も集めなければ……」

 

 

頭に浮かんだ考えを振り払い、空を駆ける。

 

 

 

 

 

俺の中にある淀んだナニカとは裏腹に、目の前に広がる青空はどこまでも澄み切っていた。

 

 

 

 

 




遺跡侵入&チュートリアル
 ↓
お宝ゲット
 ↓
中ボス降臨
 ↓
お宝起動&戦闘
 ↓
【】BOU☆SOU


こんな感じで


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試作その5 第2話

遺跡侵入&チュートリアル



「ここもハズレ、と」

 

 

様々な音が鳴り響くとある国の田舎街。そこのとあるカフェの一室で僕は出されたコーヒーを飲みながら資料の表紙に×印を付ける。

 

あの研究所を出てからはや数ヶ月。聖遺物探しの結果は、散々たるものだった。あの時に見つけた資料に記されていた聖遺物の数は5。そのうち今日で4つ目までの所在を確認できたのだが、どれも外れだった。

 

1つ目から3つ目までの聖遺物は米国が所持していることが資料に記されていたためすぐにわかった。

侵入して奪おうと考え、一度保管場所まで向かってみた。しかし、さすがに警備が厳重だったため、ばれた場合常に奴らに追い回される可能性が浮上したので取りやめた。

 

4つ目の聖遺物は遺跡に保管されていることが調査の結果判明した。そこで長い期間を使い、補完されている場所までたどり着くことに成功した。

が、あれは駄目だ。自立型らしいのでサポート要員として使えそうだが、巨体のため取り回しが悪い。さらに逸話上、夜になると行動できなくなるので今回は見送った。確かに強力ではあるが、拠点でもない限りあれを手に入れようとは思わない。

 

 

「……ハァ、せめてこいつが当たりであることを願おう」

 

 

ため息をはきつつ、残っているコーヒーを飲み干す。何もいれていないため苦味が強いが、このくらいの刺激がないとやってられないのだ。

 

そして俺は資料をしまい、カフェを出る。さすがにここで飛べば騒ぎになりかねないので、次の目的地に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここか。完全聖遺物『エンキドゥ』が眠る遺跡は」

 

 

国をまたいで移動した俺はようやく目的にたどり着く。飛行能力のおかげで数か月かかったであろう移動も数日で済ませることができた。

 

そう思いつつ例の遺跡を見上げる。遺跡というよりは墳墓に近いであろうそれは厳かな空気がにじみ出ていた。

 

 

「なるほど、現地民が近づかないワケだ」

 

 

まぁ俺には関係ないが、と呟く。

 

確かに入るのにためらってしまう程の凄味を感じるが、生憎とここをやめてしまうと聖遺物を追加で手に入れることはほぼ不可能になってしまう。

 

つまり俺にここに入らないという選択肢はないのだ。

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 

そう考えつつ、遺跡の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほぉ」

 

 

遺跡に入って数分後。最深部を目指しながら進んでる途中、目の前の空間が歪んだと思ったら出てきた存在を見てそう呟く。

 

そいつは人型だが人間ではなく無機質な外観をしていて、顔だと思われる範囲には液晶ディスプレイのようなものが輝いている。そして両手は変形し、アイロンのような形状になっていた。

 

僕は奴をにらみつける。異形の存在、僕はそいつらの名前を知っていた。

 

 

 

ーーー認定特異災害、ノイズ。

 

その異形の存在の呼称であり、人類の天敵である化け物共の名前だった。

 

 

「前回の聖遺物探索の時もこいつらは出てきた。……どうやら、今回も当たりを引けたようだ」

 

 

この奥に聖遺物は存在する。それを確信した俺は目の前の障害を排除するために構え、意識を集中する。すると服越しだが胸元から淡い光が漏れ出る。

 

それを確認して、奴に向かって駆け出す。それに反応したのかノイズは身体を紐状に変換して特攻し、襲いかかる。 偶然か必然か、心臓めがけて正確に放たれたノイズの一撃を俺はただじっと見る。

 

そして一瞬で懐に入ったそれは、俺の胸を貫こうと近づきーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い。相変わらず一辺倒だな」

 

 

ーーー胸に触れるその直前、両手でその体を止めた。序盤こそ少し押されていたが徐々にノイズに勢いがなくなり、片手で抑えれるようになったところで、右手を貫手にして奴の身体を貫く。

 

そして手を抜くとそこからひびが入り、炭化してノイズは崩れ去る。それを伏目に俺は自身の右手を見る。

 

 

 

人間はノイズに干渉できず、ノイズから触れられると炭化する。これは誰もが知っていることだが、先ほどのように俺はその常識から逸脱できる。

 

奴等に干渉できない理由は『位相差障壁』によるもので、ノイズは『現世に存在する比率』を操ることで物理的な干渉を減少させる。これにより一般的な兵器はほぼ無効化してしまうのだ。

 

だがこれにも弱点はある。物理的な干渉ができないときは、ノイズ共もまた干渉できないのだ。詰まる所、奴らが俺に接触しようとする瞬間、つまり攻撃してくる間だけはノイズに対し攻撃が通用するのだ。

 

かと言ってノイズに触れると炭化してしまうのだが、それの対策も出来ている。資料を読んだ結果わかったのだが、聖遺物の力を用いることで炭化せずにノイズに干渉できるらしいのだ。それを知って試したところ、光っている間は炭化せずに物理的な干渉を行えるようになった。

 

本来なら位相差障壁もある程度無効化できるらしいのだが、俺の場合は正常に起動しているわけではないらしい。なのでこういったカウンター形式でないとダメージを与えられないということだ。

 

 

「……さて、これはどうしたものか」

 

 

正面にいるノイズ共(・・・・)を見ながらつぶやく。狭いと言うわけではない遺跡の通路、そこには数十体のノイズがひしめき合っていた。

 

先ほども言ったが俺の戦い方は基本的にカウンターによる一撃必殺だ。だが目の前のノイズ共は一斉に襲ってくるのが見て取れる。つまりこの状況は俺に不利ということだ。

 

 

……さて、どうするか。そう考えつつ、軽く足踏みをする。するとわずかだが軽く高い音がした。下の空間が詰まっているのなら低く鈍い音がするはず。おそらくだが、この遺跡の続きと思われる空洞があるのだろう。

 

 

「この手しかない、か。上手くいってくれよ……!」

 

 

奴等のうち手前にいた数体が紐状になった瞬間、右手に力を込めて全力で地面に打ち付ける。すると当たった箇所からひびが急速に広がり、通路が崩れ、下へと続く穴ができる。力を加減していたので崩れるのは俺の周りだけだ。

 

そして襲ってきたノイズ共が頭上を通っていくのを見届けつつ、俺は暗闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、これでは意味がない……!」

 

 

通路を急いで移動する。あの時の賭けは成功し、目論見通り下には通路があった。結果的に無事に奴らから逃げおおせたと言うわけだ。

 

 

 

……そう、逃げたのだ。俺は奴らから。

 

 

「なぜだ、なぜ完全に起動しない……!」

 

 

そう言いながら胸元を握る。

 

確かにこいつの力の恩恵でノイズと戦うことはできる。だがしかし、こいつの力はそんなものではないはずだ。

 

 

 

『おしえて?』

 

 

 

あの時、声が聞こえた時。感じた力の奔流はこれの比ではなかった。つまり俺はまたこいつの力を引き出せていないということだ。

 

 

「……考えたところで、この状況は打開できんか」

 

 

一旦思考を打ち切り、周囲のことに集中する。服装こそボロボロだが身体は十分に動き、体力もまだ余裕がある。ノイズも少数なら相手どれそうだ。

 

 

……ハ、ずいぶんと変わってしまったものだ。これもこいつの恩恵ということか。

 

 

穴から落ちた時、もちろん俺は無傷ではなかった。重症ではないが、軽いとも言えない傷を負っていたのだ。

 

だがしかし、今歩いている俺の身体は全快になっている。普通では考えられない回復速度だろう。

 

恐らくだが、これも胸元の聖遺物の恩恵だ。元々鍛えていたとはいえ、それはあくまで付け焼刃。目覚めた後の身体能力は比べ物にならないほど向上していた。

 

腕力は地面に穴を開けれるほどになり、視力は特攻してくるノイズの軌道を見極めれるほど。そして極めつけはこの回復力だ。中傷程度なら数分とかからず全快する。軽傷なら治る過程が目に見えるほどだ。

 

だがそれだけだ。これでは人間相手ならともかく、ノイズ相手では心もとない。だからこそ……。

 

 

「だからこそ、エンキドゥは絶対に手に入れる……!」

 

 

自身に言い聞かせるように呟き、通路の奥へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそうだ、強く願え。

 

 

その思いが高まれば高まるほど。

 

 

我々の力は、強くなる。

 

 

 

 

 




お宝ゲット
 ↓
中ボス降臨
 ↓
お宝起動&戦闘
 ↓
【】BOU☆SOU


まさかの目標のうち1つしか進まなかったでござる。


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試作その5 第3話

お宝ゲット
 ↓
中ボス降臨



文字数落ちてもいいので、無印編終了までは毎日投稿できるくらいの気軽さで。


 

「チィ!!」

 

 

飛んでくるノイズのうち一体を避け、二体をまとめて蹴りで吹き飛ばす。その後位相差障壁が消える前に地面にめり込んでいるノイズを踏みつける。3体消えたことを確認し、再び走りだす。その背中を数多のノイズが追いかけてくる。

 

一度逃げることには成功したが、安全な状況は30分と続かなかった。最深部を目指して走り続けていたところ、再び前方の空間が歪んだのだ。再び道をふさがれるのはまずいと判断した俺は中傷程度の傷は覚悟でノイズ共を無視して通り抜けることにした。

 

もちろんそれをみすみす見逃すわけもなく、数体のノイズが紐状となって特攻してくる。そのうち致命傷となり得るものだけは避け、その他はあえて受けつつ走った。

 

その判断が功を奏し、足止めを喰らわずに進んでいると言うわけだ。その代わり、後方から大量のノイズが押し寄せてくる今の状況が出来上がっているのだが。

 

 

「このままでは……っ!」

 

 

このままではただのイタチごっこだ。この状況を打開するべく、この通路を走り続ける。一歩一歩踏み締めるごとに床が砕けるほどの加速力を持って移動しているのだが、いまだになにかしらの扉は見えてこない。

 

こうして走っている間にもノイズへの対処を続ける。結果的に少しずつだが確実に対応できているので、このままなら追い込まれることも『カチッ』ないだろ……う……?

 

 

「カチッ……?」

 

 

妙な音を感じ、後方を見る。全力で走っていたため気づかなかったが、僕の足跡である凹みの中に一つ、妙な突起が見える。

 

これはもしかしなくてもあれだろう。この手の類ではお約束とも言われるあれだろう。

 

 

 

音が聞こえる、後方から何か巨大なものが転がる音が。走って移動しているにもかかわらず、その音は徐々に近づいてきていた。その圧倒的質量は、俺はもちろんノイズであろうと一時的に行動不能に追い込むだろう。

 

転がってきたものの名前。それはーーー

 

 

 

 

 

「全く、こういったお約束はどの時代でも変わらんものだなぁ!」

 

 

 

ーーー鉄球だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくだ、ようやくたどり着いた…………」

 

 

息も絶え絶えに、扉をくぐる。何回か深呼吸をし、整ってきたところで改めて前を見る。

 

あの鉄球以外にも、いくつかのトラップはあった。鉄球以外の仕掛けを俺は起動させることはなかったが、他の仕掛けは追いかけてきたノイズが起動させてしまったのだ。

 

まぁそのおかげか、今はこうしてノイズに追われることもなくなったわけだが。

 

 

「さて、目的のものは…………あれか?」

 

 

今現在いるのは最深部と思われる広い部屋。しばらく進んだ先にある階段を下りて行くと、その先には台座があった。それを見てとりあえずそこに向かうことにする。

 

カツカツと階段を下りる音が部屋内に響きわたる。先ほどまでの喧騒が嘘のように、この空間は静かだった。

 

 

「おそらくここなのだろうが……」

 

 

なにもないな、それが俺が最初に抱いた感想だった。もしこの遺跡に宝があるとしたら確実にここにあると思われる台座。しかしそこには何もなかった。

 

普通ならハズレだと判断して戻っている所だが、今回は妙な違和感が残っていた。あまりにもきれいすぎるのだ。まるでここには最初から何もないかのようになっている。

 

 

……そう言えば資料に書いてあったことだが、聖遺物同士は共鳴し合うらしい。

 

ならば見つからないのであれば、見つけることができるよう起こしてやればいいのではないか?

 

そう思った俺は自身の聖遺物を起動する。しかし特に台座は反応しない。だがしかし、心の中にある違和感は増大する。つまるところ……。

 

 

「出力不足、か…………っ!?」

 

 

轟音。今までの静寂な空間を打ち破り、何者かが階段状に降り立つ。それを確認した俺は、思わず目を見開く。

 

 

そのノイズは、今までのものとは違っていた。

 

まるでブドウのような実を体中に付けた人型のノイズ。ダチョウを彷彿とさせるノイズや、タコと気球を合体させたかのような外観を持つノイズ。今まで見たこともない未知のノイズが現れたのだ。

 

 

「ここにきて新型か。……エンキドゥがここにある可能性が高い以上、ここを離れるわけにもいかないな」

 

 

俺の戦う意思を感じ取ったのか、人型が体中の実を飛ばす。それらは一応の方向性はあるものの、ほとんど無制御にばらまいているように見える。

 

その内こちらへ飛んできた一つを慎重に弾く。特に硬くもなく、軟らかくもない。ボールのような感触をしたそれは、周りを傷つけることなく周囲に転がった。

 

 

「一体何のつもりだ? 触れただけで炭化する一般人なら確かに有効だが俺には無意味…………っ!!」

 

 

背筋を走る悪寒。直感にも近い警報が頭中を駆け巡る。それに従い、全力で上空へ飛んだ。

 

その直後、轟音とともに先ほどまで俺がいた場所が爆発する。煙が晴れてくると、そこはクレーターとなっていた。

 

 

「先ほど天井を破ったのはこれか……。随分と厄介だがっ!」

 

 

人型がとりあえずの脅威と判断した俺は、上空から奴らに襲い掛かる。するとまるで奴らを守るように中型のノイズが軌道上に現れ、いくつもの触手による刺突が襲い掛かる。さらにそれに合わせるかのようにブドウのような実が空中にばらまかれた。

 

 

「まさかとは思ったが、この爆弾は任意で起爆するのか……!」

 

 

爆発の方が厄介だと判断し、いくつかの刺突を受ける。僕の身体を抉りながら進む触手をつかみ、反対側の壁へと投げ飛ばす。特に抵抗することもなく中型のノイズは吹き飛んでいき、敵の陣形に穴が開いた。

 

今ならばいける。人型が再び起爆しようと実体化したその瞬間、奴らの身体を貫いてやる。そう思い、奴らが攻撃しやすいよう先ほどの傷が響いているかのように動きを鈍らせる。それを感じ取ったのか、人型が再び身じろぎを始めた。

 

 

ここだ! そう判断し、人型の懐に飛び込む。地面に降り立つその瞬間、人型が実体化するのを確認した。あの中型は足が遅いのか戻ってくるのに時間がかかっている。

 

 

「もらった!!」

 

 

とったことを確信した俺はそう叫び、拳を突き出す。その拳はまっすぐにノイズの胴体へと迫りーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、に?」

 

 

ーーー粘着質の液体に、絡め取られた。

 

明らかに音速に迫った一撃。生半可なものでは止められないと自負はしていたが、まさかノイズに止める術があるとは思わなかった。

 

そう考えつつ、この液体を放った存在……ダチョウのような外観を持つノイズに目を向ける。先ほどから何も行動していないので不審に思ったが、そういうことか。こいつは捕縛専用のノイズだったと言うわけだ。

 

 

「こんなもの、すぐにほどいて……まずいッ!?」

 

 

とりあえずこの場を離れるために飛ぼうとするが、いつの間にか足元にも液体がかかっている。身動きが取れなくなったのを見たのか、複数体のノイズから同時に爆弾が放たれる。

 

先ほどの爆破の規模からして一つ一つの威力はそう大きくない。だがこれほどの数ともなると重傷は避けられず、下手すれば死に至るだろう。

 

 

「クソ……動け! 今動かずにいつ動く!?」

 

 

胸元で淡く光る聖遺物に対して叫ぶが、反応は帰ってこない。

 

 

「……ふざけるな。皆を守る力【奴等を消す力】をくれるのだろう? お前がそこにいる理由を求めた時、俺はそう答えたはずだ!」

 

 

頭の中に走る雑音も気にせず、心のうちから湧き出てくる感情のまま叫ぶ。死が目の前に迫っているというのに、その叫びは止まることを知らない。

 

 

 

「俺はまだいなくなるわけにはいかない! 目的を果たすその瞬間まで、僕は生き続けるんだ!」

 

「もしも忘れているというのなら何度でも言ってやる!」

 

「あいつらを! ノイズ共を消す(・・・・・・・)【皆を守る】、圧倒的な力を!!」

 

 

 

 

 

「俺に、与えろぉぉぉっっっっ!!!!」

 

 

直後、目の前は真っ白になり、轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 




覚醒、戦闘
 ↓
お宝ゲット&【】BOU☆SOU



結局目標の半分しか行かなかったよ……


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試作その5 第4話

覚醒、戦闘



 

 

 

『どうした≪ーーー≫、≪ーーー≫? 置いていくぞ?』

 

 

 

声が、聞こえる。

 

とても懐かしく、とても暖かい声が。

 

 

 

『今いくよ! ほら≪ーーー≫、行くぞ』

『うん!』

『あらあら、飛行機で疲れたでしょうに。二人とも元気ね』

 

 

 

なんてことのない会話。それがひどく、心地よい。

 

まるで陽だまりの中にいるような感覚。ずっとここにいたいと感じてしまう程、気持ちのいい感覚。

 

それを感じつつ目を開けると、目の前にいる男の子が正面の男女に向かって質問していた。

 

 

『……なぁ父さん、母さん』

『うん?』

『何かしら?』

『これ、いつまで続けるつもりなんだ? 歌で争いをなくすなんて普通無理じゃないのか?』

 

 

……あぁ、懐かしい。そう言えば俺は以前、こんなことを両親に聞いたことがあった。

 

両親の夢。歌で争いをなくすという夢。それを聞いた時、そんなことできるわけがないと思った。

 

だからこそ聞いた。そんな夢のために様々な国を飛び回っている両親に。

 

 

『≪ーーー≫は父さんたちの夢は変だと思うか?』

『変じゃないよ、争いがなくなってほしいとは俺も思ってる。でも、それができるなんて本気で思っているの?』

 

 

目の前の少年ーーーかつての自分が言った言葉に思わず苦笑いを浮かべる。

 

あまりにも遠慮のないものいい。【俺も思ってる】などと言っておきながらその言い方は【叶うはずがない】と言っているようなものだ。

 

 

 

『ハハハ、≪ーーー≫は遠慮がないな』

『っ……で、どうなんだよ?』

『そんなこと、決まっているさ』

 

 

そう言いながら目の前の男性ーーー俺の父親はかつての自分に近づき、頭に手を乗せて口を開く。

 

 

『思っているとも。本気で叶うと思っている。だからこそ、父さんと母さんは世界を回り続けているのさ』

『……でも、そんな世界なんて夢物語じゃないか』

 

 

父さんの言葉に嘘はない。それを直感したからこそ、目の前の自分は俯きながらそう呟く。それを見た女性ーーー俺の母親は穏やかな笑みを浮かべて俺を抱きしめ、当たり前のように言った。

 

 

 

 

 

『何言ってるの≪ーーー≫。夢っていうものはね、見るだけじゃなくて叶えるためにあるものなのよ?』

 

 

 

 

 

ーーーあぁ、そうだ。俺はこの言葉で覚悟を決めたんだ。

 

 

その言葉があったからこそ、俺は彼らがこの世界で生きている存在であることをを実感できたんだ。

だからこそ、夢物語だと思って隠していたものを実現させようと決めたのだ。だからこそ、定められた運命に抗おうと決めたのだ。

 

 

そうだ。俺が欲しかったのは…………。

 

 

そう思いつつ、両親の顔を見ようと一歩踏み出す。そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー目の前の風景が一変した。

 

 

「…………っ!」

 

 

燃え盛る大地、崩れ去る建築物、響き渡る悲鳴、うごめくノイズ。この世と地獄といえるものが、目の前には広がっていた。

 

 

 

 

 

……あぁ、忘れるものか。思い出が消えていく中、魂に刻まれたかのようにこの風景はハッキリと覚えている。

 

この風景こそ、まさしく運命の分岐点だったのだから。

 

 

「……これが俺の過去だというのなら!」

 

 

そう叫び、飛翔する。そして高速で飛び回りながら生存者を探す。

 

……いや、違う。俺が探しているのは生存者ではなく、まだいるかもしれないあの人たちだ。

 

 

 

あの時、ノイズ共が襲撃してきた時。混乱のせいで俺は家族とはぐれてしまい、合流できた時にはすべて終わってしまっていた。

 

 

「だが今なら、この力を手に入れた今の俺ならば……!」

 

 

 

 

 

そして探し出すこと数分後、僕はそれをついに見つけた。

 

人影に近づくノイズ。覚悟を決めたのか、決して目をそらさずにノイズを睨みつける二人の人影。

 

その光景を見た時、俺の行動は既に始まっていた。

 

 

「二人から、離れろおおおおおぉぉっ!!」

 

 

全速力で飛び蹴りをノイズにぶつける。奴らが実体化しているのは確認していたので、手加減など一切ない蹴りだ。

 

不意打ちだったのか、ノイズに攻撃が通る。消すには至らなかったもののノイズは吹き飛び、後方の建物にぶつかってガレキが奴に落ちていく。それを確認した俺は振り返り、二つの人影と対峙する。

 

その二人は突然ノイズを撃破した俺を見て驚いているのか、こちらをジッと凝視していた。それを確認できた時、歓喜の感情が溢れ出てくるの感じた。

 

 

「ふ、ハハハ…………」

 

 

あぁ、やはり俺は間違っていなかった。

 

運命をも覆す圧倒的な力。この力さえあればーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハ…………な?」

『父さん、母さん! ……え?』

 

 

こちらを見ている二人、彼らの色彩が急速になくなっていく。徐々に黒に染まっていく肉体には、ひびが入りはじめていた。

 

それを確認した二つの存在。一つは呆然と立ち尽くし、もう一つは二人へと駆け寄っていく。

 

 

「なぜだ……ノイズには触れられていないはずだ!」

『いやだ、そんな……! いなくならないで!!』

 

 

思わず叫ぶも、運命は変わらない。急いで俺も近づこうとするが、背後から悪寒を感じ振り向きながら蹴りを放つ。それは紐状となり襲い掛かってきたノイズとせめぎ合い、そのままノイズを粉砕する。

 

 

 

 

 

その直後、背後で何かが崩れ去る音がした。

 

 

『あ、あああ…………ああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!』

「なぜだ……俺は何のためにこの力を…………ガッ!?」

 

 

嘘だ、嘘であってくれ。またあの光景を見てしまうのかと考えた瞬間、激しい頭痛が僕を襲う。

 

あまりの激痛で崩れ去るなか、俺の見知らぬ光景が浮かんでくる。

 

 

 

ノイズに消される光景。

逃げていく中、同じ人間に見捨てられてしまう光景。

崩れ去る建築物に押しつぶされる光景。

 

 

 

様々な光景が浮かんでは消えていく。不可解なのは光景だけではなく、その時感じたであろう痛みと感情が俺を襲っているということだ。

 

痛い、苦しい、死にたくない。種類こそいくつかあるが、そのすべてが黒い感情で埋め尽くされていた。

 

そしてその中で一際強く、どす黒い感情が何度も頭の中で反射する。

 

 

『憎い』

 

 

 

 

 

ノイズが憎い。ここで死んでしまう運命が憎い。自分を見捨てた人間が憎い。

 

 

「ぐ……!」

 

 

フザケルナ、ナンデワレワレガコンナメニアワナケレバナラナイ?

 

 

「や…………めろ……!」

 

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎ーーー

 

 

「やめろおおおおぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間が経ったのか、わからない。耐えきったのか、はたまた気を失ったのか。あれほど激しかった頭痛や憎しみの奔流は収まり、目を開けると周りの風景は再び一変していた。

 

 

 

そこは異様な光景だった。とても広い荒れ地。草木など一つもなく、人どころか生物も全く見当たらない。他にあるものと言えば、所々に散らばっている結晶の破片くらいだろうか。

 

こんどはなんだ、そう思いながら立ち上がる。そして前方を見ると、そこには一つの剣が地面に突き刺さっていた。その刀身は黒と赤を基調とし、根元で交差しつつ西洋剣のような剣状をしていた。

 

それを見た瞬間、胸元が熱くなる。見ると、結晶が今までよりも強く輝いていた。

 

 

「……お前が俺をここに呼び寄せたのか?」

『そうだ』

 

 

背後から聞こえる声に素早く振り返る。するとそこには一人の少年ーーー数年前の僕が、こちらを見ていた。先ほどとは違い、目の前の少年はまるで仮面の様に無表情だ。

 

 

「……なぜ、俺にあの光景を見せた?」

『それが我々が君に与える祝福だから』

「祝福、だと……?」

 

 

放たれた解答に思わず聞き返す。

 

あれほどの憎しみと怒り、それらがどうなったら祝福となる? まるで意味が分からなかった。

 

 

「ふざけるな。俺にとってあれがなぜ祝福になる?」

『求めたのは君だ。だからこそ、我々は君を祝福している』

「俺が……?」

 

 

俺がこいつに求めたことなんて一つしかない。しかしそれがあれにつながるとでも言うのか?

 

そう考えている間に少年は立ち位置を変え、剣の前に立つ。そして俺を見て、無表情のまま口を開く。

 

 

『欲しいのだろう、圧倒的な力を?』

「あぁ……」

『手に入れたいのだろう、運命をも覆す力を?』

「あぁ……!」

 

 

声に力が入る。先ほどの光景のせいか、奴らに対する憎しみが知らずと湧き上がってくる。

 

だがそれを止めようとは思わない。俺もまた、あの日から奴らを憎み続けているのだから。

 

 

『……良き想いだ。その想いがある限り、私は君と共にある』

 

 

そう言いながら少年は初めて笑う。そして横にずれ、僕に剣までの道を空ける。

 

それを一瞥し、俺は剣に向かって歩き始める。途中横目で少年を見るが、先ほどとは違い再び仮面のような無表情に戻っていた。

 

そして剣の前に立ち、その柄を握る。

 

 

『覚悟せよ、≪ーーー≫。我々の祝福を受け入れれば最後、君はもう完全に戻れなくなる』

「覚悟だと?……なめるな。覚悟なんて、あの日にすでに済ませている」

 

 

背後からの忠告に、前を向いたまま答える。そして手に力を込めーーーー

 

 

「……最後に一つ、聞いて言いか?」

『なんだ?』

「お前の名は?」

『我々の名称を伝えることはできない。だが、そう遠くないうちに自ずとわかるだろう』

「……」

『だが、私の名は君に伝えよう。聞け、私の名は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これにて契約は結ばれた。君がここにいる限り、私もここで力を与えよう』

 

 

ーーーその剣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙が晴れてくる。あれほどの衝撃なら、あの人間を仕留められただろう。

 

思考があるのかはわからない。しかし複数のノイズは先ほどまで戦っていた相手に追撃を加えようとはせず、台座の方を見つめていた。

 

そして1体、また1体と爆心地から離れ、台座の方へと近づいていきーーー

 

 

 

 

 

「どこを見ている? 俺はまだここにいるぞ」

 

 

ーーーその声が聞こえた時、その場にいたノイズは全て炭へと還っていった。

 

 

その場にいる唯一の存在。その姿は異形であった。

 

まるで1つの生命体のような全身を覆う機械鎧。胴体は体に沿うように細いシルエットだが、手足はその強さを物語るように肥大化している。そして翼のような形状をしたユニットからは、複数の小型機器が羽のように生えていた。

 

そして何よりもその存在を物語るのに必要なことは、その色だ。

 

黒、という言葉では足りない。

漆黒、でもまだ足りないだろう。

 

闇、虚無。このあたりでようやく表現できると言えるほどのものが全身を覆っていた。

 

それは周りを見渡す。すると空間が歪み、大量のノイズが現れる。

 

 

「随分と多いな。ざっと数えても百はくだらないか」

 

 

普通ならば生存を諦める状況。今までなら逃げていたであろう状況。しかし大量のノイズを目にしている今は、自分でも驚くほど冷静になっていた。

 

 

「さて、これが僕たちの初陣になるわけだが……負ける気がしないな」

 

 

モノアイが赤く輝く。お前たちを逃がさない、そんな思いが無機質なモノアイには宿っていた。

 

 

「始めようか、ノイズ共。後悔する間も与えるつもりはない」

 

 

言い終えたのち、静かに目をつむる。無機質な荒野で、あの少年がこちらを見ているのが瞼の裏に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー行くぞニヒト、鏖殺だ。

 

 

そして目を見開いて全速力で飛び出し、ノイズの海へ飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……そうだ、それでいい。これで君はより長く、より多く、戦える』

 

 

 

 

 




お宝ゲット&【】BOU☆SOU

次はこんな感じ。

見た目のイメージは✝虚無の申し子✝の1期verです。それがシンフォギア世界でも違和感ない程度にオミットした感じ。



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試作その5 第5話

お宝ゲット&【】BOU☆SOU


特殊タグとかも活用していきたい


「はぁっ!」

 

 

まず一番近くにいるノイズに向かって右手を突き出す。まだ攻撃をしていないからか、目の前のノイズは実体化していない。

 

が、そんなの関係ない。今の俺は確証があったからだ。この攻撃は通る、と。

 

そしてそれは実現する。肥大化した右手は確かにノイズを捉えた。そのまま反撃を許さぬようにすぐ左手でもつかみ、持ち上げる。

 

 

「消え去れっ!!」

 

 

力を込め、その胴体を引きちぎる。これが生物なら血と臓物が散っていたであろうが、奴らはすぐ炭となって崩れ去る。

 

その様子を確認したのち、左右へ両手を突き出す。すると掌が光り出し、そこから数え切れないほどの紫電が放たれる。

 

それらはノイズ共に殺到し、視界に写る全てをなぎ倒していく。一見無制御に見えるそれだが、一つ一つがまるで意志を持っているかのようにノイズの胴体を貫いていく。

 

 

「今までとは比べ物にならないな……!」

 

 

それを実感しつつ、次の集団へ肉薄し、蹂躙する。

 

近接では以前からやっていた格闘術、中・遠距離では紫電による殲滅攻撃。些か慢心ととられるかもしれないが、ノイズ程度に引けをとるとは思わなかった。

 

 

「さて、どうするか……」

 

 

そう思考しつつ、上空からの刺突を受け止める。いつの間に近づいたのか、タコ型の中型ノイズが複数同時に攻撃していた。だがそれはあまりにも直線的だ。原始的なのだから当たり前だが、この姿の時なら完全に見極めることができる。

 

牽制と致命傷にならない攻撃は無視し、急所を狙って来る刺突をまとめて受け止め、握りつぶす。そして奴等をまとめて引き寄せようとした時、空中にあるそれに気づいた。

 

 

「……なるほど、こいつらは陽動でお前たちが本命か」

 

 

空中を浮遊している視界を覆い尽くすほどの球体。それらはおそらく地上にいるあの大量の人型ノイズが放った物だろう。俺を大きな脅威と判断して、自分たちごと爆破するつもりか。

 

 

「だが、まだ甘い」

 

 

両肩のユニットを展開する。円柱状のそれは二つに分かれ、間からタービンが高速回転する音が響く。それが最高潮に高まった時、そこから複数の光線が上空へ放たれる。

 

それらは光線だというのに直角に近い角度で屈折し、次々と爆弾を貫いていく。光線が貫き終えたのち、一拍遅れてすべての爆弾が空中で爆発する。

 

 

「そして……その力は、面白い」

 

 

その言葉とともに、背部に意識を集中させる。そして背部ユニットに付属している小型ユニットを展開し、それらをすべてあの爆弾を放った人型ノイズ向け、放つ。

 

西洋剣の刀身のような形状をしたそれは凄まじい速度で近づき、ノイズを貫いていく。このままいけば奴らは炭化して崩れ去るだろう。

 

だが、それを許すつもりはない。小型ユニットから伝わる感覚を元に、集中する。

 

明らかに致命傷と言える傷を負ってるノイズ。壊れかけの機械の様に振動しているが、その肉体が炭化する徴候はない。自身を突き刺しているモノを引き抜こうと動き始めた時、異変が生じ始める。

 

突き刺さっている場所から唐突に翡翠色の結晶が生えてきたのだ。最初こそゆっくりとだったが、徐々に増える速度は上昇していき、ついにノイズの全身を覆う。そしてそれは収縮していき、小型ユニットに格納されるように消えていった。

 

それを確認した俺は、ケーブルでつながっている小型ユニットのうち一つを呼び戻す。ケーブルを伝って元の位置に収納された時、頭の中に大量の情報が流れてくる。

 

 

「ほぉ……ならば、こう使おうか!」

 

 

そして再び肩のユニットを展開し、光線を放つ。それらは次々とノイズを貫いていくが、先ほどのとは違い軌跡が明確に残っていた。

 

 

「無に還るがいい、ノイズ!!」

 

 

空中に飛びあがった俺はそう言ってその光線を起爆する。軌跡のように残っていたそれはすべてが爆弾であり、それらが爆音とともにノイズを消し去っていく。

 

 

 

 

 

そして残響が消え、煙も晴れ切った時。俺の周りにはもう何も残らなかった。

 

それを確認した俺は降り立ち、力を抜く。すると身体は光に包まれ、それが消えた時には普段の格好に戻っていた。

 

 

「これが聖遺物の本来の力か……なるほど、確かにこれは扱い方を間違えば世界を滅ぼすな」

 

 

そう呟きながら、再び台座へと赴く。あれほど激しい戦闘があったのにもかかわらず、その台座はきれいに存在していた。そしてそこには先ほどまでなかったはずのものが静かに置いてあった。

 

それを確認するため目の前まで歩き、それを持ち上げる。見た目はただの鎖なのだが、そこから確かな力を感じる。

 

 

「これが完全聖遺物、エンキドゥ」

 

 

それを持ちながらつぶやく。先ほどの戦いで放出していたエネルギー、それがここの仕掛けを稼働させるのに十分な量だったのだろう。

 

 

「伝承通りならありとあらゆる姿に変わるはず。汎用性ならトップクラスだろう」

 

 

俺にこいつを扱えればの話だがな、と心の中でつぶやく。そしてそれを握りしめたまま、目をつむる。すると二つの聖遺物が共鳴するかのように激しく光り出す。

 

だがエンキドゥの輝きがいくらか弱い。まさかと思い僕の中に感じるエネルギーをエンキドゥに流し込んでいくと、明らかに輝きが増していく。

 

 

「そうか、こいつもまた想起しただけ。完全な起動状態には至っていないということか」

 

 

そう考え、さらにエネルギーを送っていく。もうすでに俺の中に残っている半分以上は流し込んでいるのだが、それでも完全な起動には至らない。

 

ここまで来たら後戻りはできないな。そう考え、残っているすべてを流し込み始める。限界が近いのか身体が重くなり、視界が点滅する。

 

 

「っぐ、うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの聖遺物、それぞれの光が徐々に納まっていく。そして握りしめている聖遺物に力を込め、集中する。すると鎖が急激に伸び、まるで俺を守るかのように周囲に展開した。

 

 

「どうやら、うまく起動できたようだな……」

 

 

それを確認した時、体力が空になったのか足に力が入らず、思わず膝をつく。

 

 

「ハァ、ハァ…………。さすがに、きついな……」

 

 

大勢のノイズとの戦闘。初めての聖遺物の完全起動。あの世界で見た様々な光景。エンキドゥを起動させるための手段。一日どころかわずか数時間で起きたとは思えないほど濃密な時間だった。

 

とりあえず、次の行動は休んでからにしよう。そう判断し、エンキドゥが起動し続けているのを確認しつつ眼を閉じる。そしてゆっくりと意識が沈んでいき、そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだだ。こんなものでは、我々は止まらない

 

 

 

 

 

「なに?…………ガッ!?」

 

 

瞬間、胸元から強烈な輝きが発せられる。だがそれは今までのようなまばゆい光ではない。闇が具現化したかのような黒い光、それは衰えることなく輝き続ける。それとともに身体の重みがどんどん増していき、頭痛が激しくなってくる。

 

 

「ッグ、まさか……暴走……!?」

『そうだ』

 

 

そう呟いた時、頭の中に声が響く。それはここ最近で何度も聞いた声だった。

 

 

「ニヒトか……これもまた、君の祝福だとでも言うのか……!?」

『これは祝福ではない。この現象は、我々が我々である限り必ず起こりうること』

「なん、だと……? グアアアァァッ!!」

 

 

今の姿勢を維持する事も出来ず、あおむけに倒れる。いつの間にか光だけではなく紫電も発せられており、それは全身を包み始める。

 

 

『君はまだ力を理解できていない。理解しなければ、その先には消滅しかない』

「力、だと……!?」

『そうだ、そのためにも君は知らなければならない。我々の本質を』

 

 

あれほどの力、あれでもまだ全てではないのか。それを感じ取り、思わず身震いをする。

 

それがきっかけかはわからないがその瞬間、頭に声が響く。

 

 

『ワレワレハ、マモルチカラニアラズ』

『ユルスナ、ヤツラヲ』

『ニクメ、ヤツラヲ』

『ゾウオノホノオハヤマズ、ソノミガツキルマデモエツヅケル』

 

『ワレワレノチカラハ、ハカイノタメニ』

「ぐ……あぁぁ……!!」

 

 

抑えようとするがその抵抗もむなしく、徐々に意識が黒い意志に飲まれ始める。

 

 

「僕は……力が欲しいんだ……!」

『ソウダ、ソノタメニワレワレノゾウオヲウケイレヨ』

「もう失わないために……奴らから、守り抜くために!」

『ソノタメニヒツヨウナチカラハ、タダヒトツ』

 

 

あぁ、そうだ。その為に必要なのはーーー

 

 

『アタエヨウ、オオクノテキヲケスチカラヲッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハハッ」

 

ーーー1体でも多くのノイズを消す力だ。

 

 

その瞬間、光が急速に強くなり、ついに部屋全体を照らすまでに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見ているがいい。我々のーーーダインスレイフの力を』

 

 

かくして担い手は眠り、災厄の魔剣が目を覚ます。

 

 

 

 

 




突撃!お前が晩御飯

次はこんな感じ。

今更公式設定見たらさっそく矛盾が生じちゃった。まあいいや(適当)


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試作その5 第6話

突撃!お前が晩御飯




 

光が収まり、紫電も消え去る。その中心にいた存在は、再び姿が変わっていた。

 

先ほどの用に纏っている全身鎧。しかし先ほどとは違う点が二つある。

 

一つはその周囲を覆うように浮きながら回転している鎖。そしてもう一つはその手に握っている、一振りの剣だった。

 

異様な雰囲気を放つ西洋剣、もし彼の意識があれば、それは夢の中で見たあの剣と同等のものと判断していただろう。

 

 

『……デハ、ハジメヨウカ』

 

 

その言葉とともに、高速で上空へ飛ぶ。

 

勢いよく飛んだそれは天井を突き破り、建物や地面を抉りながら上昇していく。

 

そして数秒もたたないうちに、遺跡の中よりその姿を現した。

 

 

『ミテイルノダロウ? サッサトデテコイ』

 

 

その言葉が周囲に響く。その後、周りの空間が歪みノイズが出現する。

 

辺りの空間を覆い尽くすほどのノイズ。明らかに先ほどよりも数は多く、優に千は超えているだろう。

 

それらを一瞥し、剣を上へ翳す。

 

 

『サア、トクトミヨ。ダインスレイフノチカラヲッ!!』

 

 

その瞬間剣が輝き、それを中心に黒い球体が本体ごと周囲を覆い尽くしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、は……?」

 

 

異様なほどの悪意にのまれ気を失った俺は、気づけばまた違う空間にいた。

 

先ほどまでいた遺跡でもなく、夢の中の荒れ地でもない。今いる場所は草原、そのとある木の根元に座っていた。

 

 

「っ、僕にはまだ足りないということなのか……?」

『そうだ。意志と覚悟、それらがなければ我々は制御できない』

「…………ニヒトか」

 

 

その声が聞こえ、横を見る。いつの間にか、僕のすぐそばに少年が立っていた。

 

 

『我々は災厄の魔剣。己を律する心がなければ、飲まれるだけだ』

「その結果がこれ、か。……まったく、あれだけ大層な事を言ったというのにな」

 

 

その言葉に思わず寝転がる。

 

俺ならばあの憎しみを律しきれると思っていた。僕ならば、あの力を扱い切れると思っていた。

 

……結局のところ、俺が手に入れたのは力だけだったということ、か。

 

 

「全く、嫌になる。……さてニヒト、答えてもらうぞ」

『なにを?』

「ここから出る方法を、だ」

 

 

恐らく今の俺は暴走しているはず。このままでは周囲への被害がどれほどになるかわからないのだ、今すぐにでも戻らなければまずいだろう。

 

 

『その問いには答えることはできない』

「なぜだ。まだ俺がお前たちの祝福を理解できていないからか?」

『それもある。だがそれと同時に、そもそも私はお前をここに連れてきていない』

「なんだと?」

 

 

そう言うとニヒトは僕から目をそらし、木の上を見る。それになぞって僕も見ると、そこには僕たちとはまた別の存在が木の枝に座っていた。

 

 

『私たちを連れてきたのは、奴だ』

「話は終わったかな?」

 

 

中性的な声が聞こえる。それとともにそいつは木の枝から降り、僕たちの前に着地した。

 

大きな白い布を被ったかのようなシンプルな服を着て、周りにある草原のような若草色の髪を腰まで伸ばしたそれは、男性とも女性ともとれる中性的な顔つきをしていた。

 

 

「……何者だ」

「やれやれ、ボクを起こしておいて第一声がそれかい?」

「なに……?」

 

 

俺がここ最近で起こした存在、そんなもの1つしか心当たりがない。

 

 

「まさかお前……エンキドゥか?」

「そうだよ。初期状態こそ鎖になっているがボクは本来は泥の野人。自我を持っていても不思議ではないだろう?」

「ということは、その姿が人型の君か」

「似て非なるが正しい、かな。あの時、君の擦れた記憶の中を覗いてこの姿と性格を参考にしたのさ」

 

 

そう言いながら自分の姿をまじまじと見るエンキドゥ。気に入ったのだろうか、その様子はどことなく楽しそうだ。

 

 

「うん、やはりこの姿もいい」

『それで、なぜ私たちをここに呼びだした?』

 

 

業を煮やしたのか、ニヒトが問う。その様子はどことなく焦っているようでそれをいぶかしんでいると、エンキドゥがにっこりと笑う。

 

 

「ここに呼んだ理由は簡単さ。こんなところで君に消えてもらうわけにはいかないからだよ」

「なんだと……?」

「嘘だと思うなら聞けばいいさ。だからあの子も呼んだのだから」

 

 

一度の暴走、それだけで? そう思った僕に、エンキドゥはそう言葉を加える。

 

それを聞き、ニヒトを見る。彼もまた、僕をただじっと見ていた。

 

 

「……俺は、あのままだと消えていたのか?」

『…………』

 

 

その問いに対し、ニヒトは答えない。それだけでも、僕が真実を知るには十分だった。

 

 

「そうか……」

「事実、君という存在はほとんど消えかけている。ボクがこうして呼び寄せることができたのも、彼が守った君を象るほんの一部だ」

『っ、エンキドゥ!』

 

 

 

 

 

「……どういう、ことだ?」

 

あっさりと言われたその言葉。事実を受け止めるのに、僕は少し時間がかかった。

 

認めたくないという思いとともに放った俺の言葉に対し、エンキドゥからの回答は淡々と告げられた。

 

 

「そのままの意味さ。今ここにいる君には、鮮烈な記憶しか残っていない。楽しかった思い出や日常の記憶は、先程の暴走で(・・・・・・)ダインスレイフに焼き尽くされた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ショセン、コンナモノカ……』

 

 

その言葉とともに、掲げた剣を下ろす。その周囲の光景は、数分前から一変していた。

 

厳かな雰囲気を発していた遺跡は破片も残らず、ノイズは一体残らず消滅し、周りの大地は抉られたかのように凹んでいた。

 

 

『マダダ、マダタリナイ……!』

 

 

その言葉とともに、両手から紫電がほとばしる。それらは無秩序に周囲に放たれ、自然を破壊していく。

 

そしてその途中で気づく。かなり遠いが確かに感じる、自身と近い存在を。

 

方向を変え、それに向かって飛んでいく。あまりの速度に、通った後は衝撃波で付近の物が吹き飛んでいく。

 

 

『サラナルタタカイヲ、サラナルニクシミヲ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿な、俺は今だってこうして家族との思い出を……!?」

 

 

そこまで言って、愕然とする。

 

思い出せないのだ、家族の名前を。

 

 

「嘘、だ」

 

 

家族がいたのはわかる。だが名前は思い出せず、思い出の映像は顔の部分に霧がかかって見えない。

 

 

「嘘だ……」

 

 

あの日、目覚めた時以降の記憶は残っている。しかしそれ以外だと明確に残っているのは一つしかなかった。

 

それは、ノイズに家族を消された瞬間のみ。

 

 

「嘘だ……!」

 

 

それ以外の記憶は、何一つ思い出せなくなっていた。

 

自分を象っている、名前すらも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 




まさかの目標1つとも達成できなかったぜ()

次回こそ奴を食べたいなー


※多機能フォームではルビ振りできているのに、実際に見ると何故かルビ振りができてない。なぜなんじゃ……


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試作その5 第7話

戦闘
 ↓
立ち直り


≪9/24追記≫物足りなかったので追加。更に全体的に1人称変更(次話から戻ります)




米国のとある場所にある研究所。ここで今、1つの怪物がその巨大な力をふるっていた。

 

 

「ーーーーーーーーーッッッ!!」

 

 

その怪物の名は【アルビノ・ネフィリム】。

本来ならば黒い容姿をしている完全聖遺物【ネフィリム】を歌を介さずに起動しようとした結果、暴走した存在である。

 

暴走により人の制御を受け付けなくなったその存在は、周囲のものを破壊しようと手当たり次第に暴力をふるっていく。

 

そんな白き怪物の前に、一人の少女が立ち塞がる。その身には白銀の鎧をまとい、濃い亜麻色の髪を肩まで下ろしていた。

 

 

「みんな……。今まで、ありがとう」

 

 

少女の名はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。この研究所の被験者の一人であり、聖遺物【アガートラーム】の適合者でもある。

 

彼女は暴走するアルビノ・ネフィリムを止めるため、大切な人たちを守るため。

 

覚悟を持って、この場に立っていた。

 

 

「--------!」

「Gatrandis babel ziggurat edenaーーーきゃっ!?」

「セレナッ!!」

 

 

しかし暴走していても完全自立型の聖遺物。彼女の行動が自身への脅威と判断したのか、彼女へと狙いを定め、攻撃する。

 

暴走を抑えるための切り札ーーー絶唱を放とうとしていた彼女はそれに反応できず、なすすべもなく吹き飛ばされる。壁にぶつかり、その衝撃のせいかセレナは動けない。それに止めを刺すべく、アルビノ・ネフィリムは彼女へ近づいていく。

 

その様子を見ていたもう一人の少女がセレナに近づこうとするも、それは複数の大人によってさえぎられる。

 

 

「放して、このままじゃセレナが!」

「やめなさいマリア! 今あなたがあの場所に行ったところで、状況は悪化するだけです!」

「嫌、イヤ!!」

 

 

そう諫められるが少女ーーーマリアはまだ思春期を終えたばかりで心が幼い。それに大切なたった一人の妹を守りたいという気持ちが前面に出ているため、大人たちの声を聞かず暴れる。

 

そのやり取りとは裏腹に、アルビノ・ネフィリムは着々と目の前の少女へ近づく。そして目の前に立ち、口を大きく開く。

 

それを見てこれから起きる惨劇を、周りの人間たちは本能で理解してしまった。

 

 

「いや、セレナ……セレナ!!」

「っ、セレナ、今すぐアガートラームを手放しなさい! でないと諸共喰われてしまいますっ!!」

「---っ」

 

 

しかし恐怖によって動けない彼女はあっさりと怪物につかまる。

 

そして徐々に怪物の口は少女へと近づいていく。

 

 

「あ…………」

「セレナァァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミツケタ』

「……え?」

 

 

しかしてその惨劇は、また別の怪物によって覆される。

 

先ほどまで少女を喰らおうとしていた白き怪物。奴は少女から視線をそらし、天井を見ている。

 

その視線の先に、先ほどまでいなかった存在がいた。

 

 

「なんです、あれは……?」

「……わかりません。確かに先ほどまではいなかったのに、今この瞬間、奴はここに現れました!」

「なんですって!?」

 

 

白き怪物と対を為すようにその存在は黒かった。人型のようだが四肢は肥大化し、背部ユニットが翼のように広がっている。

 

そして右手にはその鎧と同じく黒の剣を持ち、周囲には鎖が浮いていた。

 

 

『ワレワレヲキョウイトミナシタカ、ナラバクルガイイ』

「------ッ!」

「……助かった、の?」

 

 

 

白き怪物は少女を手放し、吠える。それは敵を威圧するのと同時に、自身を鼓舞するかのような咆哮だった。

 

奴は感じ取ったのだろう。自身の聖遺物を喰らう本能に勝るほど、目の前の敵が強大な存在であると。

 

それを開始の合図とみなしたのか、黒き怪物は武器を構える。そして数瞬後、二つの存在は同時に動き出しーーー

 

 

 

 

 

『サァ、ワレワレトタノシモウ……サラナルトウソウヲッ!!』

「-----------------ッッッ!!!!」

 

 

ーーー白き怪物と黒き怪物、二つの怪物がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……自覚したとはいえ、それほど衝撃だったかい?」

 

 

草原にて、事実を告げた存在は青年に問いかける。それに対し、うずくまっている青年は反応を返さない。

 

その反応を見て、ため息をはきながらその存在は近づく。するとそれを遮るかのように、青年の前に少年が立つ。

 

 

「……なんのつもりかな?」

『それはこちらの台詞だ、エンキドゥ。なぜ今、彼に真実を話した?』

 

 

怒っているのだろうか、険しい表情で問いかけている。それを見てエンキドゥは微笑を浮かべる。

 

 

「君がいつまでも話そうとしないからだよ。せっかく奴らの意識から切り離してやったというのに、自我がない振りなんかしちゃってさ」

『…………なにを』

「気づいてないとでも思った? あの中に奪われた連中が亡霊のようにさまよっているのは知っている。それに……」

『もういい。確かに今、私は奴らの支配下にない。だが、だとしても』

「いずれわかることだ。それにボクの適合者である以上、生半可な覚悟では力を振るうのは許さない」

『ならば暴走を抑えた後、彼が落ち着いてから話すべきだった!』

 

 

そう言ってエンキドゥの胸ぐらをつかむ少年。険しい表情である彼に対し、エンキドゥの表情は余裕のある笑みだった。

 

 

『彼はまだ脆い。このままだと彼は…………砕け散るぞ』

「その時はその時さ。ボク達はただ、彼がどう選択するかを待つだけだよ」

 

 

そう言ってエンキドゥは少年の横を通り抜ける。そして青年を通り過ぎ、木の根元に座り込む。

 

その様子を尻目に少年もしゃがんで青年の隣へ座る。そして青年を見ながら呟いた。

 

 

『駄目だ。まだ君は、いなくなってはならない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー君の名前は?

 

 

……わからない。

 

 

ーーーーどこから来たの?

 

 

わからない。

 

 

ーーーーなぜ君はここにいるの?

 

 

ワカラナイ。

 

 

ーーーー年齢は? お父さんの名前は?お母さんの名前は?妹の名前は?友達の名前は?好きな食べ物は?大切な人は?

 

わからないわからないわからないワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーどうして力を求める?

 

 

……それ、は。

 

 

ーーーーどんな力が欲しかった?

 

 

わから、な……い……?

 

 

ーーーー家族を消したノイズを、どう思う?

 

 

……許せない。

 

 

ーーーー家族を奪ったノイズに対して、どうしたい?

 

 

……復讐したい。大切な家族を消した奴らを一つ残らず、この世から消し去りたい……!

 

 

ーーーーけど、今の君ではそれは果たせない。

 

 

……そんなこと、わかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、よこせ。お前が持つ力を。

 

 

ーーーーけど、今の君はもう消えかけだ。

 

 

全てをくれてやる。≪-----≫と言う存在の、そのすべてを。

 

 

ーーーー…………。

 

 

復讐さえ果たせるのなら、僕はもう何もいらない。

 

 

ーーーーじゃあ、どんな力が欲しい?

 

 

強大な力。たとえそれが運命だったとしても、それを打ち破れるほどの力だ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー君はどうして、ここにいる?

 

 

()は……ノイズをすべて消すために、ここにいるッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………っ』

「覚悟を決めたみたいだね」

 

 

草原にいる二つの存在は感じ取る。彼が行った選択を。

 

 

『お前はどうするつもりだ?』

「どうもこうもないよ。その結末がどうであれ、ボクは彼に従うさ」

『……そうか』

 

 

君はどうするつもりだい? エンキドゥの眼からはそう言った問いを感じ取る。

 

それを見た少年は、隣で眠っている青年を見ながら口を開いた。

 

 

『私もだ。彼がそこにいる限り、私は彼を祝福する』

「そう……それじゃあ、さっそく頑張ろうかな」

 

 

そう言ってエンキドゥは立ち上がり、目を閉じる。すると身体が輝き始める。

 

 

『なにをするつもりだ?』

「まあ、ボクの主となる彼のためにちょっとしたおせっかいを、ね」

 

 

 

 

 

 

 




戦闘の決着
 ↓
新章世界での一応の終結

こんな感じで。


場面切り替わる際のちょうどいい目印が欲しい。空白だとなんか違う気がする。


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試作その5 第8話

決着と一応の終結




 

 

「-------ッ!!」

『ハハ、イイゾ!』

 

 

ネフィリムの攻撃を避け、黒き怪物は反撃する。背部から小型ユニットが射出され、次々にネフィリムに突き刺さる。

 

それを受けたネフィリムは体を大きくよじらせ、コードでつながっている黒き怪物は壁に叩きつけられる。

 

強い衝撃でぶつけられたのか、壁は崩れガレキが次々と落ちる。それを見て、ネフィリムは勝ち誇っているかのように咆哮する。

 

 

「------ッ!」

「っ、今ですセレナ。そこから離れなさい!」

「え?あ、はい!」

「今、あれらは間違いなく互いの意識が互いに向いており、安全に退避できるはずです」

 

 

その言葉を聞きその場から離れ始めるセレナを確認し、そう指示した女性はほっと息を吐く。そして暴走しているネフィリムとガレキの中にいるであろう存在のことを考える。

 

 

「しかしネフィリムと互角に戦うとは、あれは一体……?」

『ナメルナァ!!』

 

 

その言葉の直後、ガレキの中から飛び出した怪物が武器を構え突貫する。それに反応しネフィリムは避けようと動き出すが、それよりも早く剣が胸部を貫く。

 

 

「-------ッッ!!!」

『キエサルガイイ……!』

 

 

その言葉とともにネフィリムの胸部、というよりは突き刺さっている剣が光り出す。そしてそこから黒い球体が発生し、二つの怪物を飲み込んでいく。

 

 

「巨大なエネルギー反応!」

「すべての機能を防御に回しなさい!」

「きゃあああああぁぁぁぁ!?」

 

 

それの余波だろうか、凄まじい衝撃がセレナを襲う。防御に集中しているのか吹き飛ばされることはなかったが、それでも大分後ずさる。

 

そして球体が消失した時、先ほどと状況が変わっていた。

 

 

「----------ッ」

『タエキルカ……ダガ、ゲンカイガチカイヨウダナ』

 

 

ネフィリムは健在だが、声に力がない。それに対して黒い怪物はまだ余裕がありそうだ。そして動きが鈍っていることを確認したのか、剣を両手で持つ。

 

 

『デハ、イタダクゾ。キサマノチカラヲッ!!』

「-----」

 

 

その言葉の後、剣が刺さっている所から結晶が生え始める。抵抗しているだろうが、結晶はゆっくりとだが確実にネフィリムを浸蝕していく。

 

それを見ていた大人たちはどことなく理解してしまう。

 

あの黒い怪物は文字通り、ネフィリムを喰らおうとしているのだということを。

 

 

「彼女に止めさせろ! ネフィリムがなくなれば、我々は……!」

「無駄です、止められる相手ではありません。それに下手に刺激すれば、奴の意識がこちらに向く可能性があります」

「しかし!」

「黙りなさい!」

 

 

そんな言い合いとは裏腹に、浸蝕は進む。そしてついに結晶は胴体を覆い尽くし、頭部へと進み始めた。

 

 

『キサマヲクライ、サラナルチカラヲ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー悪いけどここまでだ。これ以上は彼がいなくなってしまうからね。

 

 

『ナニ?……コレハッ!?』

 

 

中性的な声が怪物の頭の中で響いた直後、突如黒い怪物を鎖が縛り上げる。先ほどまでは黒い怪物の武装と思われていたそれだが、現在は確実に黒い怪物の行動を阻害していた。

 

 

「あれは一体……?」

『やぁ、ボクの声が聞こえるかな?』

「えっ!?」

 

 

その様子を茫然と見ていたセレナの頭に声が響く。周囲に人はいないうえに、このような声は聴いたこともない。何事かと混乱している彼女に対し、今度は笑い声が聞こえてくる。

 

 

『ハハハ、ごめんごめん。まさかそんなに驚かれるとは思わなかったんだ』

「えっと、あなたは……?」

『時間がないから説明はまた今度。今はとにかく、あの暴走している連中を抑えるのに協力してほしい』

「私が?」

『そうだよ。君の持つ聖遺物の性質はわかっているね? 僕が手助けするから、奴らをまとめて沈静化してほしい。できるかな?』

「っ、はい!」

 

 

声の主は誰なのか、なぜ今の状況をわかっているのか、どうして手を貸そうとしているのか。

 

いくつもの疑問が頭の中を走ったが、それよりも目の前の状況を解決すべきだとセレナは判断する。そのために立ち上がり、再び歌いはじめる。

 

徐々にフォニックゲインが高まっていく中、不意に鎖の一部がセレナの右手を纏い始める。

 

 

「これは……!?」

『落ち着いて。ボクの機能の一部を使って、君の負担を肩代わりする。だから君は遠慮なく、全力で歌い上げてくれ』

「……はい」

 

 

その声とともに、鎖が形状を変えていく。まるで粘土の様に崩れ、白い短剣へと姿を変えたそれをセレナは握った。

 

 

「セレナ……まさか、歌うのですか?」

「逃げて、セレナ!」

「大丈夫だよマム、姉さん。……わたし、歌うね」

 

 

そして鎖に縛られている黒き怪物と、浸蝕が止まっているがダメージからか動けない白き怪物の前に立ち、短剣を両手で持ち、目を閉じる。

 

そして歌を紡ぎ始める。それとともに彼女が纏う鎧と短剣、怪物を縛る鎖が輝き始めた。

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzlーーー」

『ヤメロ……ヤメロオオオオォォォォ!!』

「---------ッ!」

 

 

そして彼女は紡いでいく。怪物を鎮める、優しき歌を。

 

 

 

 

 

「ーーーGatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

 

 

 

 




目覚め
 ↓
状況発覚
 ↓
目的の設定


次はこんな感じ。

はよ無印編行きたい()


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ワールドトリガー
試作その6 第1話


ワートリ、アニメ3期で再燃して妄想がはかどった結果。


この小説は、

『迅悠一を救い隊』
 +
『ワートリとクロスすることで最も恩恵のでかい版権キャラは誰か選手権』
 +
『近接系の女性キャラ欲しいよね』

の3本でお送りいたします。


〇月〇日 

 

今日は晴れ。雲一つない、とても綺麗な青空。

 

今日の予定は……庭の草むしりをした後、進さんや楓ちゃんと訓練だったかな?

 

朝食担当は私なので手早く作っていく。お味噌汁のにおいに連れて起きてくる家族に挨拶をするのは、私の日課であり細かな楽しみの一つだ。

 

目が覚めた時、あの子はまだ寝ていた。まだお日様も登り切ってないし、寝坊助なこの子が起きるわけないか。

 

 

うん、今日も頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月△日

 

今日は晴れ。分厚い入道雲があるけど、心地良い空。

 

今日の予定は……桐ちゃん真都ちゃん楓ちゃんと町にお出かけして、午後からはレイジ君と訓練だったはず。

 

訓練中に面白い話が聞けたので、今日の夕飯はレイジ君にも手伝ってもらうことにした。どうせ住み込み組はみんな夜までやることあるだろうし、家通い組も一度寄るはずなのでちょうどいい。

青春していけ、若人よ。

 

目が覚めた時、あの子は眉間にしわを寄せて寝ていた。しばらく頭をなでていると穏やかな寝顔に戻ったので、夢見が悪かったのだろう。

 

 

よし、今日も頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月□日 

 

今日は晴れ。雲は……少しだけある。

 

今日の予定はたくさん。ゆりちゃんと一緒に作り置きできる料理をいくつか作って、桐ちゃんや麟太郎君と訓練。午後からは城戸さんや林藤さんと一緒に同盟先との会合に出て、帰ってくるのは長くても1週間後になるかしら。

 

あれから料理に目覚めてくれたようで、今ではレイジ君もご飯組に混ざるようになった。私がいなくても最上さん達の食事事情はこれで安泰ね。

 

目が覚めた時、あの子も一緒に起きた。おそらく最近開始した特訓に早朝からすることが含まれているのだろう、最上さんが苦笑しながら教えてくれた。

 

 

さぁ、今日も頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月×日

今日は曇り。お日様が出ていない日は余り好きじゃない。

 

今日の予定は朝から夜まで訓練漬け。なんでも同盟国の1つからの要請で、近々出ることになるかもしれないと政宗さんから通達があったからだ。

 

今回は比較的小規模らしく、楓ちゃんや響君などの戦闘慣れしていないメンバーも連れていく予定らしい。戦闘慣れしている私たちも行くので大丈夫だとは思うけど、念には念を入れておきたい。ということでご飯は留守番組のレイジ君に任せて、遠征メンバー10人とランダムルールで戦う予定だ。全員で帰ってこられるよう、全力で鍛え上げなきゃ。

 

目が覚めた時、あの子の姿はなかった。最近よくうなされていたから抱きしめて寝たのだけど、流石に恥ずかしかったのかしら?

 

 

それじゃ、今日も頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月×日

 

今日は曇り。どんよりとした黒い雲だから、そのうち雨が降るかもしれない。

 

今日の予定は、雨が降る前に庭の草むしりをして、レイジ君と昼食作り。午後は特に予定がなかったので、あの子と最上さんの訓練をのんびり眺めていた。

 

昔に比べて強くはなっているけれど、それでも最上さんに一撃を入れられそうにない。けどこれは根本的な強さと言うより、武器の相性な気がする。あの子はもっとこう、短くて小回りが利く武器のほうが戦闘スタイルに合っている気がする。一応忍田さん辺りに意見を聞いてみようかしら?

 

目が覚めた時、もうあの子の姿はない。この前お母さんを説得し、住み込み組になったのだ。最近ドンドン強くなっているけど、まだ足りないみたい。私が鍛えてあげようかと言ったが、それじゃ全然足りないんだと一蹴されてしまった。……これが反抗期か、寂しい。

 

 

さてと、今日も頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月◇日

 

今日は雨。しとしと降る分にはいいけど、本降りになられると少し困る。

 

今日の予定は色々あったけど、急遽中断。最上さんから連絡があり、アリステラに向かう準備をすることになった。なんでも近々攻め込まれる可能性が高く、そこを落とされると次の狙いは高確率で私たちの世界になってしまうらしいのだ。

 

準備を終え、トリオン体の動きを確認していると突然あの子が来た。なんでも護衛の仕事はつまらないので、勝負に勝ったら任務を変わってほしいとのことだ。最初は断ろうと思ったが、目が真剣だったので勝負を受けることにした。さすがに差があるのであの子の師匠である最上さんにルールを設定してもらい、10本勝負で1本でも取れたらあの子の勝ち、と言うことになった。

……結果から言うと、私の勝ち。でも驚いた、あんなに強くなっているとは思わなかったのだ。前半は私が圧倒していたが、後半は私の攻撃を先読みして避けるようになり、最後の1本は取られる寸前だったのだ。こんなに成長しているなんて、気づけなかった自分が恨めしいことこの上ない。だけどあの子はこの結果が相当ショックだったようで、しばらく唖然としていた。だから慰めた後にどうだ、姉さんはこんなに強いんだぞと言ってやった。そしたら久々に私の顔を見て、気を付けてと言ってくれた。

……確かに、アリステラでは本格的に戦火に身を投じることになる。そして私は最前線に出ると思うので、それが不安だったのだろう。よしよし、かわいい弟め。

 

 

みんな、頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、みんなは帰れただろうか。

 

 

周りに山のように積み重なった残骸を踏みつけ、周囲を見渡す。

 

 

あちらこちらで門が開き、続々とトリオン兵が顔を出す。どうやら諦める気は毛頭ないようだ。

 

 

もうここに立っているのは、私しかいない。私しか、いなくなってしまった。一緒に残って戦ってくれた仲間たちは、もう誰も動かなくなってしまった。

 

 

チラリと視界の端に映る建物を見る。もうそこに、私たちの乗ってきた遠征艇の姿はない。

 

 

よかった、みんな無事に脱出できたんだ。

 

 

その事実を確認できたことに安堵し、再び構えて走り出す。私がやるべきことは変わらない。

 

 

目の前の敵を、叩き潰すことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう、どの位たっただろうか。

 

 

 

 

 

体に力が入らない。トリオン体なので疲れ知らずのはずなのだが、精神的に限界が来たみたいだ。

 

 

 

 

 

朦朧とした意識の中、聞きたくないが聞きなれた音が聞こえる。そちらに顔を向けると、追加のトリオン兵だ。

 

 

 

 

 

全く、本当にあきらめる気がないのね。……でもこれだけ私に集中しているってことは、みんなは追撃に合わずに逃げ切れたと思っていいはず。

 

 

 

 

 

そう思っていると、周囲から地響きがなり始める。どうやら、本格的にこの世界が崩壊を始めたらしい。

 

 

 

 

 

よかった、そう思って目を瞑る。

 

 

 

 

 

多分、私はこの崩壊に巻き込まれて死ぬ。でも別に後悔はない、この選択をしたのは私自身なのだから。

 

 

 

 

 

……嘘、後悔はある。目を瞑るとどうしても浮かんでくる、最期に見たみんなの顔が思い浮かぶから。

 

 

 

 

 

ゆりちゃん、真都ちゃん、レイジ君、桐ちゃん、ごめんなさい。あんなに泣かれたのは初めてだった。最後に私、悪い子になっちゃったみたい。

 

 

城戸さん、林藤さん、忍田さん、桐山さん、ありがとう。私のわがままを聞いて、みんなを止めるのはつらかったと思う。最後に私、ちゃんと笑えたかな?

 

 

ミカさん、瑠花ちゃん、頑張って。みんないい人だし、大丈夫。弟の陽太郎君だって、きっといい子に育つはずさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にごめんね。最上さんを失ったばかりなのに、私まで消えちゃって。

 

でも、悪いのは私だけじゃないよ? 未来視ができるってことを私にずっと隠してたんだから、分かってたらあの日の行動の意味も分かったのに。……なんていうのは、意地悪かな。

 

多分だけど、全部知っていても私の行動は変わらなかったと思う。だって、愛すべき弟がこんな目にあう可能性があったんでしょ? そんなの私が許すはずがないんだから。

 

もうそろそろ目が覚めているのかな。無理矢理トリオン体破壊して気絶させたから、もしかしたら怒っているかも。

 

 

 

 

 

……あぁ、そろそろ限界だ。

 

 

 

 

 

 

 

あなたなら大丈夫。だから、頑張って生きて。

 

 

 

 

 

 

 

それじゃあね、悠一――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ゴボボ(いや、こんなん重すぎてどないせえっちゅうねん)」

 

 

――以上、目が覚めたら知らない水槽に浮かべられていた上、この身体の持ち主の過去をフラッシュバックして知った私が放った一言目でした。

 

 

 




救うためにシリアスにしたいが、コメディも含みたいこのジレンマ。



次回、
数年後の様子➡有吾、黒鳥化➡遊真と別れ、いざ玄界➡大学生活スタート


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ワールドトリガー その2
試作その7 第1話



以前ワートリ杯に投稿したものの、クソ忙しくなった上に展開を忘れたので供養も込めて。

バカ4人で滅茶苦茶するコメディだったはず……?


 

≪ゲート発生、ゲート発生。座標誘導誤差6.24≫

「大量の敵を全部近接で殲滅していくのって……浪漫だよな」

 

 

屋根の上に立ち、右手を帽子のつばのようにして遠くを見ながら男性が呟く。

 

その視線の先では空間が黒く歪み、中からトリオン兵が続々と飛び出てきていた。

 

 

『何言ってんすか、ろまん先輩?』

「それを狙撃手トリガー持ってるあんたが言うか」

『でも射程は弾バカより短いぞ、この浪漫バカ』

「うっせえよ、槍バカ」

 

 

その呟きを聞いて、同じ屋根に上っている1人と下の道路にいる2人から辛辣な返事が飛んでくる。それに返事をしつつ、俺はゆっくりと立ち上がって通信を開く。

 

 

「月見さん、今回の数はどんなもん?」

『バムスターが5、モールモッドが8ね』

『結構賑やかだな、どうする浪漫バカ?』

「やかましい、いつも通りでいいだろ? 迅バカと槍バカが前衛、弾バカが後衛。そんで俺は――」

 

 

そう言いながら男性は武器を構える。

 

右手に持つは、対物ライフルに似た狙撃手トリガー『アイビス』。しかしその銃身は従来のそれより短くなっており、何かしらの改造を施されているようだ。

 

左手に持つは、大楯のように展開されたトリガー『レイガスト』。展開されている部分は半透明だが一部に穴が開いていた。

 

 

「――今日はこの気分なんだ。つーわけでバカ二人、開幕ぶっ放して攪乱するから後よろしく」

『よねやん先輩、俺前に出たくないんすけど』

『お前はグラスホッパーあるから避けれる余地あるだろ、俺は無理だけど』

「おっと、これは手が滑る予感がする」

「前衛消えるからやめてくれ」

 

っち、モールモッドごと吹き飛ばしてやろうと思ったのに。

 

そんな暗い思考を奥底に隠し、男性はアイビスをレイガストに引っ掛ける。どうやらこの穴は固定用に使われているようだ。

 

 

「てかさっきの言葉なんだったんだよ、そこはいつものあれじゃねーのか?」

「最近思いついたこれはまだ練る余地がある気がする。対人はなんとなくわかったけど、トリオン兵相手にはまだわからんし」

『あれもう相手にしたくねーっす』

『全くだ、太刀川さんじゃねーんだから連続50戦はもう勘弁してくれ』

『来るわよ。全員、戦闘態勢』

 

 

そんなくだらないことを言い合っているうちに、トリオン兵がこちらに気づいたようだ。オペレーターの指示を聞き、4人はそれぞれ意識を切り替えて戦闘態勢に入る。

 

 

「緑川、了解」

「米屋、了解」

「出水、了解」

「浪川、了解」

 

 

そう返事をしながら男性――浪川は、こちらに向かってくるトリオン兵に狙いを定めてアイビスの引き金を引いた。

 

 

「さあ、パーティータイムだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、なにか弁明は?」

「「「「申し訳ございませんでした」」」」

 

 

数時間後、場所はA級7位である三輪隊の作戦室。そこに仁王立ちで両腕を組んでいる女性――月見蓮の前に、馬鹿4人は正座していた。

 

だがこれは理不尽なことではなく、当然なのである。つまりこの4人はわかってやったのだ、どうしようもない。

 

 

「緑川くん、なぜ浪川くんのアステロイドと一緒に乱反射(ピンボール)したの?」

「すみません、1回出来たら楽しくなっちゃいました」

「……ハァ、まだあなたはいいわ」

 

「出水くん、なぜわざわざ細かく分けたバイパーでコア以外を攻撃し続けたの?」

「いや、同じ場所を攻撃し続けたらどのくらいで壊れるのか知りたくなっちゃいまして」

「…………」

 

「米屋くん、なぜ最後のモールモッド相手に攻撃せず数分間避け続けたの?」

「いやぁ、ギリギリで回避するのが楽しくなっちゃって」

「………………」

 

 

数分間、3人を見つめる月見。話を聞くたびに目が遠くなっている気がしたが、まだ許容の範囲内なのだろう。

 

 

「浪川くん?」

「アッ、ハイ」

 

 

だが浪川のほうを向いた時、彼は悟った。

 

あ、これの矛先全部俺に向いてるわ、と。

 

 

「あれはいったいどういう事かしら?」

「……あれ?」

 

 

どれだ、心当たりが多すぎてわからん。

 

その思考を読み取ったのだろう。月見は一度ため息をつき、改めて口を開く。

 

 

「最初の砲撃は?」

「開幕はやっぱ派手にいきたくて」

「バムスターどころか、後ろの家屋まで吹き飛ばしてたけど」

「サーセン」

 

「次。緑川くんが戦っているのにその周辺にアステロイドを撃ち続けたのは?」

「え、援護っすよ! ちゃんと当たらないように撃っていましたし、実際攻撃の芽を潰してたわけですし!」

「わざわざ跳弾で撃つ必要はなかったわね」

「ウッス」

 

「次。臨時部隊とは言え、最年長で隊長役のあなたが途中から指揮を放り出していたのは?」

「あれは正直、全員どんぐりの背比べだから。バカ3人より多少マシな指示出せるだけで、なんなら月見さんに任せるのが最適だと思ったので」

「じゃあ最初から言いなさい」

「マッタクモッテ」

 

 

「……よねやん先輩、ろまん先輩がどんどん小さくなっていってます」

「月見さんのは全部正論だからな。浪漫でごまかせねえから、聞き入れるしかねえのさ」

「本当に効率無視した戦い方するしな、あの浪漫バカ」

 

「あなた達3人にもまだ話すことはあるのよ?」

「「「あ、はい」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、今回の説教は長かった長かった」

「今回たまたま組めたけど、頼めたのが月見さんだけだったからなー」

「普段4人でやるときは国近ちゃんにお願いしてましたし、普段通りにやっちゃいましたからね」

「てめーこの野郎ども、全員ピンピンしやがって……」

 

 

部屋から出て、4人で廊下を歩く。時間は19時を過ぎており、この後の予定は何もないはずだ。

 

 

「まぁいい、奢るから飯食いに行こうぜ。各々、お好み焼きでいいか?」

「ラーメン」

「カレー」

「焼肉で!」

「この協調性の無さよ。……せーの」

 

「「「「じゃんけん、ポン!!」」」」

 

 

ギャイギャイ騒ぎつつ、目的地に向かう一行。言い合ってはいるものの全員笑っており、普段通りの光景のようだ。

 

 

「おっしゃ焼き肉!」

 

 

――緑川駿、14歳。A級4位草壁隊の攻撃手であり、通称『迅バカ』

 

 

「叙〇苑行こうぜ叙〇苑」

 

 

――出水公平、17歳。A級1位太刀川隊の射手であり、通称『弾バカ』

 

 

「高いの頼みまくるかー」

 

 

――米屋陽介、17歳。A級7位三輪隊の攻撃手であり、通称『槍バカ』

 

 

「ちょっとは容赦してくんない!?」

 

 

――そして浪川漫次郎、19歳。A級ソロ隊員の万能手?であり、通称『浪漫バカ』

 

 

 

 

 

この物語は3人から4人になった馬鹿集団が、何かしたりしなかったりする物語である。

 

 




思いついて突発的に書いたので、先を書くかは完全未定。読んでいただければ幸いです。

なのでこの下に主人公のプロフィールを置いときます。書いてない所は未定です。ネタバレが嫌な方は要注意(ネタバレ内容:主人公の浪漫ぶっぱ構成)










『浪漫、其れ即ち最高にして最強』

☆浪川 漫次郎(なみかわ まんじろう)

【PROFILE】
 ポジション:近接万能手?
 年齢:19
 誕生日:
 身長:178
 血液型:O
 星座:
 職業:大学生
 好きなもの:鯖
 家族:

【PARAMETER】
 トリオン:8
   攻撃:12
防御・援護:7
   機動:9
   技術:11
   射程:4
   指揮:4
 特殊戦術:12
 トータル:67

【TRIGGER SET】
MEIN
 拳銃:アステロイド(改) 
 スコーピオン
 アイビス(改) 
 シールド

SUB
 拳銃:アステロイド(改)
 スコーピオン
 レイガスト
 スラスター


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ワンピース
試作その8 第1話


その男は、とにかくチグハグだった。

見た目に似合わない口調。 
練度に対して貧弱すぎる範囲の覇気。
政府の狗の割に低すぎる元の懸賞金額。
一国の支配者でありながら移動手段は主に誰かの船に相乗りという体たらく。

何もかもが噛み合わない男、ウェイス・D・ローマン。
だが、彼と接したことのある人物はみんな口を添えてこう言うだろう。


彼は自由なだけでただの人間だ、と。





※この作品は公式最強の夢女に世界を見て回ってほしくて書き始めました。つまりそういう内容になっていきます。


……という設定で書き始めたが、よりによって一番重要な設定が本編と矛盾する事態に。おのれオダセン聖。


 

 

――偉大なる航路(グランドライン)、そのどこかの島。

 

そこは人々が慎ましく日々を過ごし、質素ながらも穏やかな日常を送っていた。……のだが、しかし今日は様子が少し違うようだ。

 

港から少し進んだ先、突貫で作られた小屋に一人の青年が座っている。そしてその正面には苦しそうな表情で子供が男性を睨みつけ、その子を抱きかかえている女性もまた深刻な表情を浮かべていた。

 

そして右手に持った金属具をゆっくりと子供の胸元に近づけていき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、もう大丈夫そうじゃな」

「……本当ですか?」

「あぁ、上手いこと効いたようじゃわい。この様子なら、今日渡す分の薬がなくなるころには元気に走り回れるじゃろうよ」

「あ……ありがとうございます、先生!」

 

 

――女性からの感謝を受け取りつつ、青年は手に持った聴診器を子供の体から離す。

 

そしてニッと笑って子供も安心させようとするが、子供の表情は相変わらず苦しそうだった。

 

 

「なんじゃい、そんな表情して。もう苦しいのは治っとるはずじゃが?」

「……うん、もう痛くない」

「本当に? よかった……じゃあ、どうして?」

「あ゛の゛薬゛飲゛み゛た゛く゛な゛い゛!!」

 

 

とてつもなく必死である、10にも満たない子供なのに。

 

そしてこんな表情をさせている当の青年は面倒そうに頭をかいており、手元にある子供に渡す予定の薬を取りながら口を開く。

 

 

「何言うとるんじゃ。良薬は口に苦し……つまり、苦ければ苦いほど効果があるっていうことなんじゃぞ?」

「「「「「んな訳あるかッ!?」」」」」

 

 

滅茶苦茶な言い分に思わず子供や女性に加え、周りで順番を待っていた人たちが一斉に突っ込む。それを受けた青年は構わずガハハと笑い、薬が入った袋を女性に手渡した。

 

 

「材料の中には下手に加工したら効能を失うやつもあるんじゃから我慢せえ。これでも飲みやすくなったほうなんじゃぞ?」

「絶゛対゛嘘゛た゛!」

「嘘じゃないわい! これを初めて作った時は今の数倍苦かった……」

 

 

何せ試作1号はあまりの苦さに気絶。とにかく甘く飲みやすくしようとした試作2号は甘みと苦みの超絶不協和音により、試しに飲ませたとある海軍大将が身体の形状を維持できない程にフラフラになったのだ。これでもかなりマシにはなっているのである。

 

 

「だから頑張れ小僧。それにこいつを飲んでも平気な男はそりゃもう……格好いいぞ?」

「う゛……うん、わかった。頑張るよ、変なおじさん!」

「あ、コラッ!」

 

 

女性が起こるも急いで子供は外に出ていく。走り回るにはもう少しかかると思っていたのだが、案外彼が元気になるのはもう少し早いのかもしれないと青年は考えた。

 

 

「すみません先生、あの子が変なことを……」

「なーに、慣れとるよ。ほい次じゃ次、おぬしらもさっさと症状見せんかい」

 

 

そう言って訪れる人たちの様子を見ていく青年。次々と経過を観察し、必要なら追加で処置を行っていった。

 

……そう、青年だ。ここで彼の容姿について記述しよう。

 

容姿は10代後半だろうか。徐々に大人になっていく過程を感じ取れるがどこかまだ幼く、ややツリ目で短くまとめられた黒髪はオールバックになっている。そしてその口元には髭が付いていた(・・・・・)

 

そう、生えているのではなく付いているのだ。どこからどう見ても、それは付け髭だった。いっそ大げさに言うと、海軍の象徴でもあるカモメのマークを上下反転したかのような大きな白髭、彼はそれをつけていた。そしてあの口調、彼がこの島を訪れた時からずっとそうだったので、それが彼本来のものなのだろう。

 

 

 

 

 

――まぁ簡単に言うと、どこからどう見ても変な人であった。子供の言うことは何も間違っていないのである。実際に女性も変なこととは言っているが否定しているわけではないので、内心同じことを考えていたのだろう。

 

 

 

 

 

「よし、もうみんな良さそうじゃな。……全く、新世界のウイルスなんぞどこの馬鹿が持ち込んだのやら」

「本当にありがとうございます、先生。先生が来てくれなかったら俺たちはどうなってたことか……」

「ガハハ、気にするな。こういった直接医師が出向きにくい島からのSOS。それを偶々わしの助手が受け取ったからこそ、こうして来れたんじゃからな。間に合って本当によかったわい」

 

最後の男性の診察が終わり、満足そうに青年がつぶやく。それに対し診てもらっていた男性は深くお辞儀をしながら感謝の言葉を伝え、青年は笑いながら返事をした。

 

そして道具を片付けてながら貰った地図を眺めていると、再び男性が口を開く。

 

 

「それでも、本当にありがとうございます。ここは海軍支部からも遠いし、最近じゃあ海賊が目撃されたみたいで船を出すのも難しく……」

「海賊ならしばらくは大丈夫じゃよ。……さて、それじゃ迎えもそろそろ来そうだしわしは行くぞ」

「え?……あれ、そういえばメアリーさんはどこに?」

「あ奴ならもう海岸におる。今頃いつものように歌っとるんじゃないか?」

 

 

そう言いながら荷物を詰め込んだリュックを背負い、建物を出て海岸に向かって歩き出す。自分が今日島を出ることは島民には伝えてあるが、見送りは不要とも伝えてある。それに挨拶は先程までの回診で終わらせてあるので、もう後顧の憂いは存在しなかった。

 

そのまま歩いていく青年の姿を見ていた男性は大きく手を振りながら、あらためて感謝するために大きく口を開く。

 

 

「ウェイス先生、ありがとうございました! あんたは俺たちの恩人だ!!」

「――――フッ」

 

 

男性のほうに振り向くことはなかったが、右腕を上げることで答える青年――ウェイス。

 

それを見送った男性は振り向き、改めて彼がいた建物を見上げる。緊急で作った割には意外と様になっているその建物の表札には、こう刻まれていた。

 

 

――ウェイス診療所――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、やはり来ておったか」

 

 

島の港とは反対側の海岸。その砂浜までたどり着き、ウェイスは目の前に広がる光景を見ながら髭に手を添わせて呟く。

 

彼の視界、そこには男性が複数人映っていた。そして視界の端に大きな船――海賊船もあることから、彼らはすでにこの島に人がいることを把握していたみたいだ。

 

 

「え~と……お、『血染めのザハル:懸賞金1億900万ベリー』か。こいつ確か新世界に行ってたはずじゃが……ノコノコと戻ってきてたんじゃな」

 

 

てことは、原因こいつらじゃね? 内心そう思いながら、ウェイスは彼らをじっと見つめる。手配書をめくりながら顔を照らし合わせていくと、全員かはともかくどうやら幹部級以上は全員いるようだ。

 

 

 

 

 

――さて、彼はこうして手配書一覧から探して眺めるくらいにはのんびりやっている。

 

なのになぜ、海賊である彼らが手を出してこないのか? 

そもそもなぜ、彼らは一言も口を開かないのか?

 

 

『…………』

「ハ、のんきに眠りおって。さて、あ奴はどこに……『~~♪』……あっちのようじゃな」

 

 

その理由は簡単、誰も声を発せる状況では無いからだ。

 

砂浜にいる海賊、総勢27名。そのすべてが倒れており、眠っていた。しかし見たところ傷一つなく、その全員が寝息を立てていることから間違いなく生きている。

 

その様子を確認したウェイスは先程から聞こえていた歌声に耳を澄ませ、方向を割り出す。そしてその方向へ歩き出してしばらくすると、その先は岩場になっていた。

 

そしてその中でもひときわ大きな岩、その頂点に座って歌っている少女を視界に収めた。

 

 

『~~~~♪』

「……全く、気持ちよさげに歌いおって」

 

 

彼女は近づくウェイスに気づくことなく、目を閉じて歌っている。その儚げなようで力強い声を聞き続けたい気持ちに傾きそうになるがそれをこらえ、彼は声をかけるために口を開く。

 

 

「おい、メアリー!」

「~~~~♪」

 

 

しっかり声が届くように呼び掛けてみたが、フードをかぶっている少女の顔がこちらに向くことはない。

 

 

「メアリー、聞こえんのか!?」

「ッ、~~~~♪」

 

 

肩が一瞬ピクリと動く。しかし変わらずウェイスのほうに向くことはなく、歌い続けていた。

 

どうやら呼び掛けていることには気づいているのだが、なぜか気づかないふりを続けているらしい。そしてその原因に心あたりのあるウェイスは大きくため息をつき、再び口を開いた。

 

 

「ハァ……返事をせんか、ウタ!!

 

「……あれ、ウェイス。もう終わったの?」

「全く……いや、結構時間たっとるぞ。後、砂浜の連中は新世界から戻ってきた海賊じゃ。多分じゃが、今回の原因はあ奴らが一端を握っとるじゃろう」

「……そっか。じゃあこの島の人たちはもう大丈夫なんだね?」

「あぁ。すでに薬は予備を含めてあるし、わしのところにつながる電伝虫も渡してある。もう病に苦しむことはそうないはずじゃ」

 

 

そう呟きつつ、少女は岩から飛び降りる。危なげなく砂浜に着地した彼女はウェイスの話を聞いて少し悲しげに微笑み、両腕を後ろに組んで返事をした。

 

それを見つつも指摘することはなく、ウェイスは歩いてきた道から戻るために振り返って歩き出す。それを見た少女も小走りで彼の隣まで行き、並んでから歩き出した。

 

 

「おぉ、そうじゃった。ほれ」

「え?……これって、貝殻にガラス石?」

 

 

そう言いながら少女がウェイスから手渡されたものを眺める。それらと一緒に小さな紙がつけられてあり、『メアリーお姉ちゃん、ありがとう!』と書かれていた。

 

 

「子供たちからだ。楽しかったと言っておったぞ」

「そっか……うん、本当によかった」

「あぁ、気づけて本当によかった。お手柄じゃぞ、メアリー」

「私はなにもしていないよ、あの電伝虫がたまたま電波を拾っただけ。……て言うか、なんでまたそっちの名前で呼ぶの?」

 

 

先程まで嬉しそうに微笑んでいたというのに、急に口を膨らませてウェイスを睨む少女。おそらく周りに誰もいないのに偽名で呼んだことが不服だったのだろうが、彼はそれに動じることなく口を開いた。

 

 

「いつどこで誰が聞いとるかなんぞわかったもんじゃないわい。もうすぐ海軍が迎えの船をよこすだろうし、用心に越したことはないじゃろうて」

「えー?……イーッ、ウェイスのケチ!」

「コラ、お前はわしの助手という体で来とるんじゃから『さん』か『先生』をつけんか!」

「ウェイスが私をちゃんとウタって呼ぶまでつけませーん!」

「そんなことは自分の知名度を考えてから口にせぇー!」

 

 

ギャイギャイ言い合いながらも砂浜に戻る二人。しかし仲が悪いという訳ではなく、どちらかというとこの言い合いもコミュニケーションの一種のように感じ取れた。

 

 

 

 

 

見た目だけなら男女のような。

話だけなら兄妹のような。

雰囲気だけなら親戚のような。

 

 

――これはそんな二人が世界をめぐり、様々な出会いとつながりを重ねていく様子を綴る物語である。

 

 

 



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試作その8 第2話


※今回はREDのネタバレがあります、無理な方は要注意。


 

――ほぉ、まさか今話題の歌姫様がゴードンの子供じゃったとはな。……ん、どうした変な顔して?――

 

 

 

あの人は、私とゴードンの2人しかいない世界に突然現れた。

 

私がUTAとして活動を始めてから大体半年。世界中の人達が私の声に気づき、感謝の声がたくさん届くようになってきたある日。彼はゴードンを訪ねてこの島に訪れ、そこで私と出会った。

 

 

 

――のぉウタ、わしはk……冒険家なんじゃ。世界のあちこちを回り、様々な人を見てきたと思っておる――

 

――おぬしに感謝の声を届ける人々。彼らがどんな島でどんな生活をしているか、聞いてみたくはないか?――

 

 

 

そしてゴードンと何かを話し合った後、その人はちょくちょくエレジアに来て、私に世界の冒険譚を聞かせてくれるようになった。

 

ただ正直なところ、最初はすごく警戒していた。だってしょうがないでしょ? 変な髭と変なしゃべり方だったんだから。

 

 

 

――それでな、その島にいる生き物は全部巨大なんじゃぜ? まさか蟻に乗って移動する日が来るなんて思わなかったのぉ――

 

――まぁ最後は記録がたまったんでその島を離れたんじゃが、結局あ奴らは戦い続けておったのぉ。もしかしたら、今でも戦い続けているのかもしれん――

 

――次はこいつじゃ。これは何と雲の上にあると伝説にある空島にのみ生息する貝で、こいつはこうして音を……――

 

 

 

ただそんなことはすぐにどうでもよくなるくらい、あの人が話す冒険譚は魅力的だった。

 

時には想像もつかない環境の島の話を。

時には己の心情を貫く人々の話を。

時には壮大な生命の話を。

 

身振り手振りを交えつつ話す内容を聞いていると、まるでその時の情景が目の奥に浮かんでくるような気がした。もう遠い記憶の中にある、あの日々を思い出すようだった。

 

 

 

――まぁそん時は思わず王様をぶん殴っちまったんじゃ。まぁ最終的に何とかしたとはいえ、さすがにあれは早計じゃったと反省しとるわい――

 

――西の海、その端っこだったからかのぉ。一般人を守るはずの海軍の腐敗はそらもうひどい状態じゃった。まさか襲ってきたギャング共を潰しに奴らの拠点に行ったら海軍大佐がおるなんざ、想像もしておらなんだ――

 

――じゃから、そこでは今も橋を作り続けておる。犯罪者はともかく、世界政府非加盟国という理由だけで罪なき一般人まで連れてこられてな――

 

 

 

だけどあの頃とは違い、あの人は悪い人の話を時々話す。

 

時には追い詰められた人が過ちを犯してしまった話を。

時には普通の人たちを守るはずだった海軍が過ちを犯していた話を。

……時には、天竜人という人が行ってきた過ちの話を。

 

 

「ねぇ、なんでウェイスは悲しい話もするの?」

 

「やっぱり外の世界にいる人たちは皆、そんなに苦しい思いをしているの?」

 

「海賊だけが悪いんじゃないの? 普通の人も海軍も、みんな悪いの?」

 

 

何度か話を聞いた後、思わず聞いたことがある。それを聞いた時、あの人はどこか悲しそうに、だけどもどこか嬉しそうな表情になってそれに答えてくれた。

 

 

 

――違う、違うんじゃよウタ。わしが話しているのは、あくまでこの世界で起きたほんの一部の話じゃ――

 

――これ以上の悲しみが世界のどこかで起きとるかもしれん。が、これ以上の喜びだってこの世界のどこかで起きとるはずなんじゃ――

 

――ゴードンから少しだけ事情を聞いた。……ウタ、おぬしの世界は狭すぎる。電伝虫からの声は良くも悪くも物事の一面しか教えてくれぬ――

 

――清濁交じり合ってこその世界なんじゃ。両方を直接知った上で、おぬし自身で決めて行動せねばならん――

 

 

 

わしがこうして話してきたことだって、嘘か本当かは見に行かんとわからんじゃろ? 

 

あの人はそう言って笑う。

 

確かに今まで聞いたのは私にとって、まるで本の中の出来事のような突飛な話だ。私自身が見て、感じたわけじゃない。彼が言いたかったのはたぶん、そういうことなのだろう。

 

 

 

――じゃからウタ、わしと世界を見に行かないか?――

 

 

返事は今じゃなくていい、ゆっくり考えなさい。あの人はそう言って、私の部屋を出ていった。

 

だからいっぱい考えた。私はどうしたいのか、どうするべきなのか。

 

UTAではなく、ウタとして。民衆の代弁者ではなく、一人の人間として。

 

ずっとずっと考えていた。ウタワールドの中で考え続け、ふと気づけば深夜になっている時もあった。

 

 

 

 

 

 

……だからなのだろうか。あの会話を聞いてしまったとき、閉じ切っていた記憶が滲み出てきたのは。

 

 

 

――私は愚か者だ。あれがどれだけの災いをもたらしたか知っているというのに、音楽家としての心があれほどの曲を消すことを躊躇っている……!――

 

――ならばゴードン。お前が作れ、トットムジカ(・・・・・・)を超える曲を! あんなの目にないくらい、人の心を動かす曲を!!――

 

 

 

トット……ムジ、カ……?

 

 

頭が痛くなる。その日の夜は涼しかったというのに、ダラダラと汗が止まらない。生唾を飲むと、喉が千切れそうだ。

 

いつもどこか靄がかかっていたあの日の記憶。先程の言葉を聞いた時、その一部が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

――ウタ? その手に持っているのは……?――

 

――……まさかッ! 待つんだウタ、それを聞いてはならない!――

 

 

そして私は、なぜか近くに落ちていた(・・・・・・・・・・・)音貝を拾い上げ、そこに込められた音声を聞くスイッチを躊躇いなく押す。

 

 

 

神様の祝福か、あるいは悪魔の悪戯か。

 

猛烈な痛みとともに、私はあの日のすべてを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 

微睡みの中、目を開いた私は思わず声を漏らす。

 

いけない、いつの間にか眠っていたみたいだ。そう思った私は急いで起き上がって部屋を出るが、意外と外は騒がしくない。

 

あの海賊たちは私のウタウタの実の能力で眠らせていたが、それは私が眠ることで解除される。そのため頑張って起きていたのだが、海軍本部にたどり着く前に限界を迎えてしまったみたいだ。

 

だから起きた彼らが騒いでいるかもしれないと思っていたけれど、そんなことはなく静かだ。時々作業をしている人たちの声は聞こえるけど、深夜なのも相まってそれも抑えられた声量だった。

 

 

……ということは、あの人か来てくれた海軍の人が何とかしてくれたのかも?

 

 

そう思いながら歩を進め、牢屋につながる扉を開く。するとその先にあの人が立っており、牢屋内の海賊たちが全員頭にたんこぶを作って気絶していた。

 

 

「む、起きてしもうたか」

「……おはよう、ウェイス。どれくらい私眠ってた?」

「言うて3時間くらいじゃ、もう大丈夫じゃからちゃんと眠っとれ。……あと、ちゃんとウェイス先生と呼ばんかい」

「あ、なら寝る前にホットミルク飲みたい。ウェイス、話のついでに作って」

「話を聞け」

 

 

あーあー聞こえなーい。そう言いながら私は扉を開け、あの人に当てられた部屋に向かう。彼はグチグチ言いながらついてくるが、そんなことは気にしません。

 

 

 

 

 

……あの日、その後のことは実はほとんど覚えていない。

 

結果としては、私はベッドの上で目が覚めた。そしてゴードンは起きた私をずっと心配していたが、どこか晴れ晴れした表情になっていた。あの人も無傷だったし、悪い夢でも見たのだろうと言ってくれた。

 

そしてゴードンと話し合った後、私はあの人と一緒にエレジアを出た。そして助手のメアリーという体で世界の海を渡り、いろんなものを見てきている。

 

 

みんなの苦しみを癒したい、そんな私の願いは変わってない。

 

けれどただ苦しみをすべてなくせばいいのかというと、多分そうじゃないと今では思えている。かといってUTAとしてやってきたことは間違っていないとも思っている。

 

まずは知るべきなのだろうと、私は思う。世界がどうなっているのかを、みんながどう願っているのかを。

 

だけどその中でも私は歌う。手が届く範囲にはウタ(メアリー)として、届かない範囲にはUTAとして。

 

私は、私のこの願いは。決して間違ってなんかいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ふざけるなよ。誰の子供かなんぞ知ったことか、貴様の存在意義なぞ知ったことか!――

 

――世界の、魔王の意思なんぞ背負わせるな! あの子は、ウタはただ普通の子供なんだよ!!――

 

 



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ウマ娘(架空馬)
試作その9 第1話



①97世代のステイヤー
②サイレンススズカの嫁(超重要)
③98年の天皇賞でスズカを救い(妄想)、99年の凱旋門賞で勝利(目標)

これらを目安ににウイポ9で〆配合して遊んでいたら面白い子ができたので。

※4/11追記
新作のウイポ10で同じ遊びしようとしたらウマ娘的にこっちも面白そう+脚質に妥当性が生まれたので血統いじりました。

※最後に有名なCMパロがあり、そこで大体のネタバレがあります。ネタバレが嫌な方は始まったのを察したらあとがきまで飛んでください。


『第0話 プロローグ』

 

 

 

――走る。

 

 

 

――走る、走る。

 

 

 

――走る、走る、走る。

 

 

 

 

 

走り始めて、もう何分経っただろうか?

 

5分? それとも10分?

 

 

 

……いや、実際は1分経ったかどうかといったところなのだろう。

 

何という天気だ。今も降り続けているこいつらのせいで、踏みしめた地面が重く食らいついてくる。

 

何という相手だ。走る前からわかっていはいたが、周りにいるこいつらが全員格上に見える。

 

何という状況だ。今の私の状態は普段通りではない。きっとみんな驚いているだろう。

 

 

あぁ、なんて、なんて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――なんて最高の気分なんだ。

 

 

 

この天気も。

この馬場も。

この展開も。

 

何もかもが最高だ。これ以上はないと胸を張って言える。

 

 

 

 

 

『――――――――――!!』

 

 

 

どこからか声が聞こえる。

 

何を言っているかはわからない。でも、どんな想いが込められているかはわかる。

 

そしてそれは、間違いなく私達(・・)の力となる。

 

 

 

 

 

『――行こう』

 

 

そうだ、そうだよな。

 

これより早いと最後の最後で足りなくなる。

これより遅いと前のあいつらにはギリギリ届かない。

 

 

 

全てをぶちまけるのは、今だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………んぁ?」

 

 

沈んでいた意識が浮上し、ぼんやりと目を開ける。

 

枕元で鳴り響く時計の頭を叩きつけ、体を起こす。しばらくボーッとしていたが徐々に視界が鮮明になり、ふと思い出して周囲を見渡す。

 

 

「やべ、時計は……。お、流石は私たち専用」

 

 

頑丈頑丈、そう思いながらベッドから出る。そして手早く制服に着替え、部屋を出て1階に降りていった。

 

 

今日の朝食はどうしようか? ……あ、昨日貰ったタコスが残ってたっけ。

 

あれにしよう。後輩がうまいと絶賛していたし、きっと私の口にも合うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生、死ぬほど辛いじゃないか!」

 

 

あの後輩、今日会ったら覚えていろ。そう考えつつもおかげで目はばっちり覚めたので玄関で靴を履きながら愚痴る。

 

かければかけるほど美味しいと聞いたので数滴だけならと思ったのだが、とんでもなく辛かった。あれを普段からドバドバかけているあいつは舌がイカレてるんじゃないか?

 

 

「よし。それじゃ、いってきまーす!」

『ニャー』

 

 

飼い猫の返事を聞きつつ、扉を開けて家を出る。そして通っている学院に向け、ゆっくりと走り出した。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ――――」

 

 

最初は軽く。しかし走った距離が延びるにつれて足と気分が温まってくるのを感じる。

 

 

「ハッ、ハッ――――……ハハッ」

 

 

 

 

 

あぁ、そうだ。この気分だ。

 

最早前前世ともなると名前すら忘れてしまった。

前世では畜生道に落ちてしまったのかと戦々恐々とした。

 

そこからの今世、これまたずいぶんと変わった者になってしまった。

 

 

 

……が、この想いは変わらずにある。

 

それならば、私は私なのだろう。この昂りがある限り。

 

 

「さぁ、今日もアゲていこう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーThe Dreamerー

 

 

ー99年、凱旋門賞。歴代最悪ともいわれた馬場状態、それは彼女にとって最高の遊び場だったー

 

ー雨を、芝土を、強風をー

 

ー夢を、悲願を、歓声をー

 

ーその全てを纏い、力に変え、駆け抜けるー

 

ー最後の力が込められた時。彼女を止める術など、誰も持ち合わせてはいなかったー

 

 

 

 

ーその馬の名は、フォールンストーム

 

 

ー世界よ見ろ。これこそが、彼女が作りし常識だー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





主人公の名前は【フォールンストーム】。
前書きからわかる通り牝馬だが、中身は人間(前世は一般男性)。

原作は「架空馬+ウマ娘」になるのだが確か1話はウマ娘の話を作る必要があるのでここで消化。基本は架空馬編を主軸に書いていく予定。ウマ娘編はあっても番外編。


≪次話の目標≫
①主人公、大地に立つ(直喩)
  ↓
②主人公、現状を察する
  ↓
③周囲から見た主人公の軽い評価?



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試作その9 第2話





第1話『畜生、大地に立つ』

 

 

 

 

 

――拝啓、どこかで見ているかもしれない神様へ。

 

確かに私は、偉大な功績は残していないと思います。

 

普通に生まれて、普通に大人になって、普通に働いて。

 

学校行事やら初めてお酒を飲んだ時の悲劇やら上司との真っ向喧嘩やらはありましたが、その辺はまあ細かいイベントということで省略するとして。

 

大きなプラス要素はないものの、大きなマイナス要素もなかった人生だと思っています。

 

……いやまさかとは思いますが、『事故で死んだ=両親より先に死んだ』判定で地獄行きとかそういうことですか?

 

 

いやだからと言って、だからと言ってさぁ――――

 

 

「いいぞ、頑張れ!」

「もう少し、もう少しだ!」

「おぉ~立った、立ったぞ!……って、うわぁッ!?」

 

 

 

「ブルル……(執行猶予なしの畜生道はねぇでしょうよ……?)」

 

 

白く掠れた視界の中。妙に顔に風を感じながらそんなことを心の中で呟いたのはしょうがないと思うんだ、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まぁ懐かしい夢を……と言っても、まだ2ヶ月くらいしかたってないわけだが)

 

 

微睡みから覚め、周囲を見渡して現実を再確認する。

 

自分がいる建物は木造で、扉や窓なんてものは存在していない。自分たちがいても余裕がある程度には広いが床には藁が敷き詰められており、明らかに人間が住む環境ではないだろう。また目を覚ました瞬間の視界は若干高く、立ったまま寝ていたことがわかる。

 

人間ならば異常事態だ。だが、今の自分にとっては異常ではなく正常であることを理解してしまっている。

 

 

(あ~慣れねえ、この視界の広さはいつまでたっても慣れねえ……)

「(おはよう、また立ったまま寝てたわよ?)」

「(おはよう母さん。なんでだろうね? 別に不安な訳じゃないんだけどなぁ……)」

 

 

まあ嘘なんですけど。正直バレている気もするのだがそう返しつつ、広がった視界で改めて自分の体を見る。

 

端的に表すと大きな布一枚を被っており、そこから伸びる4本の脚(・・・・)は真っ黒な体毛で覆われており、その先には指はなく、代わりに蹄が出ていた。

 

 

 

 

 

――まぁ長くなってしまったが、簡潔に今の状況を説明しよう。

 

 

私は享年2×歳の一般男性社会人!

 

哺乳綱奇蹄目ウマ科ウマ属の家畜動物、つまりはになってしまいました!!

 

 

 

 

 

……うん、なんでこうなってしまったのかは全然わからん。それに現実逃避を続けたい所だが、生憎とそれやってる暇あったら未来のこと考えなきゃならないのが現実である。

 

何故かって? 周りを見てみなさい、明らかな人工物の中で過ごしている馬だぞ? 

 

どう考えてもサラブレッド、つまりは未来の競走馬である。

 

……まずい。何がまずいって、このままダラダラ現実逃避を続けていると桜肉コース一直線なのだ、それだけは避けたい。

 

かと言って生まれたばかりの今、何をすればいいのかもわからん。とまぁ生まれた当初からどうしたものかとず~っと考えていたのだが、そしたら1か月もしないうちに熱だしてぶっ倒れてしまったのだ。

 

いや、まさか知恵熱が出るほど考えちゃうとは私もビックリした。一先ずそこで深く考えることはやめ、外に出た時はできるだけ運動し続けようくらいに収めているけど。

 

如何せん知識がない。精々2~3か月に始まった競馬モチーフのソシャゲにどっぷりハマっていたぐらいで、その派生でリアルの競馬も春にちょっと見た程度なのだ。何をすれば効果的なのかも全く分からないのである。

 

 

「(何をぶつぶつ言ってるの?)」

「(立って寝たせいかおなかがすいたんだよ。まだ外に出れないのかな?)」

「(なら大丈夫ね、そろそろ来るわ)」

 

 

あとさっきから話しているのは今世のマイマザーである。私と同じく脚は黒毛だが、それ以外は暗めの赤褐色だ。にしても自分の子供が生まれて一か月程度でしゃべっていることに対して全然動揺しないな、器でかすぎか?

 

 

「(本当?……本当だ、おっす伊藤さん)」

「はい、おはよう。相変わらず朝から元気だね」

 

 

噂をすれば、という奴だろうか。入口から男性が入ってくるのが見えたので、馬房の中から軽く嘶いて挨拶をする。それに対して返事をした中年の男性――私達の世話をしてくれている伊藤は、通路側の柵を外しながら声をかけてきた。

 

 

「(怯えてビクビクしてるよかいいだろ? とりあえず撫でれ)」

「おーよしよし、本当に人懐っこいなぁお前は」

 

 

鼻先をズイッと近づけるとすぐに意図を汲んでくれ、鼻や額を撫でられる。ちょうどいい力加減で、これがまた気持ちいいのだ。

 

……あ、成人男性のプライドはどこに行ったのかって? んなもん、母乳飲む時にすべて捨て去ったよ。

 

 

「(そろそろ出してもらえる?)」

「よしよし……おっと、悪いなオニロ。それじゃクロちゃん、君も行こうか」

「(あいよー)」

 

 

マイマザーにせっつかれ、原園さんが最後の柵を外す。そして私達は連れられ、外に向かって歩き出した。

 

どうなるかわからんが確か現役は2歳からだったはず。ボーッとしてたら2年なんぞあっという間に過ぎ去ってしまうので、できる限りのことはしていこう。

 

今世の目標、それは一定以上の成績を出して悠々自適な引退馬生活を過ごすことだ。俺自身の才能なんぞわからんので、やれるだけやっておかないとな。

 

そんなことを考えつつ、今日も今日とてマイマザーと外で戯れるために歩き出しましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロちゃん、相変わらず日光が反射してキラキラしてますねー」

「栗毛もいいけど、黒い毛も厳かな感じがして好きなんだよな。両親に似て美人さんだし、婿さん選びには困らなさそうだ」

「何言ってんすか伊藤さん、気が早いですって」

 

 

ん、今『婿』選びって言った? 

 

へー。そういや気にしてなかったけど、私って牝馬だったんだ。気にする余裕もなかったから今初めて知ったわ。

 

 

 

 

 

……え、ちょっと待って。

 

牝馬? 

 

つまり女の子? 

 

つまり種付けされる側?

 

 

 

――――なんてこったい!!??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、おはよう」

「羽佐間オーナー! おはようございます、こんな時間に来るのは珍しいですね?」

「ちょうど近くで仕事があってね。……それよりどうかな、オニロの子は?」

「お産からエライ目に会いましたけど、元気いっぱいですよ。今日も外で走り回ってます」

 

 

見に行かれます? そう聞かれて予定を確認すると、軽く覗くだけなら問題なさそうだ。

 

そう判断した男性――羽佐間は提案を承諾し、牧場スタッフの男性と建物を出る。そのまま道中歩きつつ、例の仔馬についての話を聞く。

 

 

「それで、改めてどうですか千明さん? 今は健康であることは知っているんだけど……」

「そうですね……。クロちゃん――綺麗な黒い毛なもんで私たちがそう呼んでるんですけど、彼女は色々と珍しいんです」

「と言うと?」

「妙に人懐っこいんですよね、かといって馬嫌いという訳でもない。私達にも興味津々という訳でもなく、一緒にいて当たり前のような感覚で接してくるんです」

「人慣れ、か……。有難い事ですが、まさか皆がオニロの代わりに世話を?」

「まさか。初子だというのに怯えることなく、オニロは育児をしていますよ」

 

 

それを聞いてホッとする。

 

たまにだが育児放棄をした繁殖牝馬の話は聞くので少し構えてしまったが、そこは流石の愛馬だ。

 

 

「それはよかった。……と、あそこにいるのが?」

「えぇ、ここからでもよく見えるでしょう?」

 

 

その言葉にうなずきつつ、放牧地際に立つ。その視線の先には、母馬――『フォールンオニロ』と一緒に駆け回る小さな暫定黒鹿毛の仔馬が見えていた。

 

 

「ああしてオニロに構ってもらえる時は一緒に走り回って、そうじゃない時は一人で動き回っているんです。走ること自体好きそうですし、きっと走ると思いますよ」

「まだ1歳(・・)なのに気が早いなぁ。……ま、そうでなきゃ困る。と言うのは意地悪なのかな?」

「ハハハ……いえ、そんなことはないと思いますよ。なにせ――」

 

 

苦笑しつつそう返すスタッフの男性はそう言いながら仔馬を眺め、目を細める。その瞳に映る景色には、きっとどこかの何かが重なって見えてるのだろう。

 

そしてその気持ちは自分も同じだ。先代の父、その初所有馬から繋げてきた牝系であり、引き継いで開業した初年度に生まれてきた『フォールンオニロ』。

 

特別愛着のある子の初めての産駒ともあり、運や縁も重なったとは言えここまで特大の大博打に打って出たのだから。

 

 

「……あぁ。父親は偉大なる演出家である三冠馬『ミスターシービー』だ。期待していないなんて言ったら、大噓つきになってしまうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒヒィィィィン!!??

 

 

青毛の仔馬は大きく嘶き、前両脚を上げた。

 

……想いが伝わったということにしておこう、そうしよう。

 

 




今回のメモ
●主人公の血統について(第1回)
・父:ミスターシービー
    …実在馬。言わずと知れた史上2頭目の三冠馬。
・母:フォールンオニロ
    …架空馬。5年間現役を過ごし、主にオープン戦で活躍。G3にも一度出走したが、掲示板入りが精一杯だった。


➡いいから5代血統票を見せろという方向け(ガチのネタバレ注意)

【挿絵表示】



●羽佐間大樹(架空人物)
 主人公が生まれた生産牧場を所有している馬主であり、冠名は『フォールン』。事情あって引退した父親から引き継ぎ、87年に開業。その年に主人公の母であるフォールンオニロが生まれる。

※当初はテンプレ的にも新人馬主にしようかと思ったが、当時のミスターシービーの種付け料を見て無理だと判断し設定変更。高すぎて笑っちゃった。



≪次回のあらすじ≫
①主人公、母離れ+人慣れ開始?
  ↓
②主人公、幼馴染?と戯れる
  ↓
③1年後、いざ育成牧場へ。そこで???と出会う。



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試作その9 第3話





第2話『畜生、最初の旅立ち』

 

 

 

 

 

やぁみんな、いい加減現実逃避をしても無駄だと悟り始めた元人間の私だよ。

 

あれから約半年がたち、私はマイマザーと引き離されることとなった。

これはこの時期になると誰もが行う恒例行事なのだが、やはり仔馬と母馬の双方から猛烈に反抗されるらしい。実際私たちの隣の馬房にいたであろう親子が引き離されたであろう時には、まさに大合唱も確やと言わんばかりの大声が響き渡っていた。その時の伊藤さんたちの会話から今回の事情を知ったわけである。まあそりゃ半年間しか一緒にいられないのは嫌だよな、抵抗するのが当たり前だよ。

 

 

 

え、私たちはどうだったかって?

 

 

「(そんじゃ母さん、行ってきまーす)」

「(はい、いってらっしゃい)」

 

 

以上、最後の会話でした。

 

……いや別に私たちは不仲じゃないし、マイマザーは最後までしっかりと私を育ててくれたよ?

だがそれはそれとしてこの辺かなりドライらしく、また私も前世人間なのでまぁうまくいけばいつかまた会えるやろ精神で旅立っていったのだ。ちなみに抑える役と牽引役でスタンバっていたであろう田中さん&鈴木さんは肩透かしを食らったかのように私を見つめていたのは、割と印象に残っている。

 

 

「なんか、すごい楽でしたね……」

「ティナ子の時はあんなに苦労したのに……」

「オニロはともかく、クロはなんでそんな素直なんだ?」

「フヒンッ(いやまぁ、事情は理解できたし)」

「返事を当たり前のようにするのにももう慣れたなぁ……」

 

 

という訳でいざ旅立ちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と、言うのが実は半年前の出来事であり。

 

そこから私は同年代の仔馬たちと日々を過ごすようになったわけだが、そこで若干問題が発生した。

 

 

「(めっさ暇である)」

「(ならあそべ―!)」

「(待ってくれマイアンクルよ。追いかけっこなら午前中にしたし、疲れたって言ってたじゃろ?)」

「(つかれた! でもごはんたべた! だからまたあそぶ!)」

「(はいはい、わかったよマイアンクル)」

 

 

悲報、同期の仔馬が1頭しかいなかった。つまりは隣の馬房で暴れていたこ奴と私だけということになる。

 

いやまぁ放牧の時とかに施設見てたし、規模は小さめだとは思っていたさ。それでもマイマザーの他に大人の馬を3頭くらい確認していたし、じゃあ合計4頭でのんびり過ごすのかなぁ……と思っていたんだよ。

 

そしたら矢先にこれである。どうやら他は不受胎だったらしく、そもそも仔馬がいなかったらしい。いやまぁ見えてはいなかったけどさ、マジでおらんとは思わないじゃん?

 

さらに当たり前だが目の前にいる子は年相応の精神性を持っているわけで。そこに前世2×歳の一般男性の精神を忘れていない私と二人っきりなわけでして。

 

 

「(じゃあ鬼ごっこでいい?)」

「(やったー! ぼくがさきににげる!)」

「(はいよ、10数えたら追いかけるぞー)」

「(わーい!!)」

 

 

気分は完全に親戚の子供を面倒見る羽目になったおっさんである。幸いなことにマイアンクルは遊びならなんでも喜ぶので、こうして暇さえあれば追いかけっこをしている。まあ結果的に私のトレーニングにもなるし、案外悪い事ではない。

 

そんな訳で放牧の度にマイアンクルと遊びまわり、彼が疲れて寝ている間はジョギング的なスピードでの駆け回り+この牧場の飼い猫たるミケ様を背に乗せ、機嫌を損ねないよう歩く体幹トレーニング(自称)。これらを地道に積み重ねていくことで私の生まれて初めての夏、秋は過ぎ去っていき、雪が積もった冬の日々も変わらず過ごしていくのであった。

 

 

 

 

 

「(あれ、ぼくってマイアンクルなの? ごはんくれるへんなのは『ティナ子』ってよんでたけど)」

「(変なの、じゃなくて人間な?……んー、ちがうぞ。これは叔父ちゃんって意味だ)」

「(おじちゃんって?)」

「(なんだろねー? ……それより逃げなくていいのかな、もう追いかけちゃうよ?)」

「(キャー!)」

 

 

ちなみにこの子、現在の名称を『フォールンティナの94』というらしい。そしてフォールンティナはマイマザーのマザー……つまりはマイグランドマザーということになる。つまり目の前にいる同い年の仔馬は人間でいう叔父のポジションに位置するという訳だ。

 

……うん、人間感覚だとおかしくなりそうだからあまり細かいことを気にするのはやめよう。仗〇の存在を知った承〇郎ってこんな気持ちだったのかな? いや向こうのほうが状況もっとひでえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今戻りました」

「お疲れー。……で、今日は上手くいった?」

「うまくいくも何も、僕はほとんど何もしてないですよ」

 

 

そう言いながら事務室においてある湯沸かし器からお湯を注ぎ、お茶を入れる男性。そして作業をしていた女性にも配り、ズズッと一口飲んで息を吐く。

 

 

「ティナ子は最初は泣きまくっていたんですけど、半月もしないうちにクロに懐きましたからね。そこからず~~っと遊び続けていたし、クロに至ってはティナ子が休んでる間も駆け回っていましたから」

「それじゃあ?」

 

 

基礎体力は十分、もうバッチリですね。そう言いつつ冷えた体を温めるためにもう一口お茶を飲む。

 

 

「さっきも馬房に戻そうと思ったら僕を鬼に見立てて鬼ごっこを始めたんですよ? もうヘトヘトになっちゃって『勘弁してくれー!』って思わず言ったら、クロがミケを背に乗せたままティナ子連れて入り口まで勝手に歩いていくし……」

「完全に遊び相手と思われてるね……。あ、そう言えばオーナーから連絡がきたよ。順調なら来月には二頭とも育成牧場に送るってさ」

「もうそんな時期なんですね。……時間がたつのはやっぱり早いなぁ」

「今年は特に?」

「そりゃもちろん。あの子たち……と言うかクロが生まれてから今日までいろいろなことがありましたから」

 

 

そう言いながら1年前の出来事を思い返す。もう1年たったのかという思いもあれば、まだ1年しかたっていなかったのかという思いもある。それほどまでに、彼女と過ごした1年間は濃密なものだったのだ。

 

 

「嵐の真夜中に生まれるわ、立ち上がった瞬間に雷が落ちて扉ぶっ壊れるわ、高熱出してぶっ倒れるわ……。正直、最初はこの子やっていけるのか不安で仕方がなかったですよ」

「けどそれを乗り越えてからと言うもの、人に全く怯えないし、あんだけ走り回ってもケロッとしてるし、ティナ子の面倒見もいいし……。今じゃここのみんながあの子に期待を寄せてるよ」

 

 

男性が大変な出来事を思い返せば、話を聞いていた女性がその後の良かったことを話す。実際オニロの子はとても賢く、話しかければ鳴いて返事をしてくるほどだ。もう慣れてしまったので最近はリアクションを取っていないのだが、返事をしていると判明した瞬間にはそれはもう驚いたものである。

 

そして彼女が続けた言葉には男性も深く同意している。この牧場からはG1馬なんて以ての外だし、重賞馬だって出ていない。そんな自分たちに相馬眼があるのかなんてわからないが、それでも彼女には期待してしまうのだ。

 

 

「僕もですよ。あー……来月になったら絶対寂しくなりそうです」

「ハハ、じゃあ今のうちにたっぷり世話してあげなきゃ」

 

 

そうですね、そう返事をしたところでお茶も飲み終わり。男性は問題コンビの様子を見に行くため、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 




今回のメモ
●主人公の血統メモ(第2回)
・母父:スズカコバン
     …実在馬。宝塚記念を制したG1馬で、ミスターシービーと同期。父はあのマルゼンスキーで、2023年時点で父系を唯一繋いでいる馬でもある。


●主人公の生まれ
  ➡ゲーム『ウイニングポスト』で言うところの『春雷』。爆発力(ざっくり言うとスピード期待値)を上げるためにやれることやりたかったんです……。無論小説内で成績は反映していません(歴史壊れちゃう)。




≪次回のあらすじ≫
①育成牧場へ+???と出会うナレーション
  ↓
②育成牧場での日々の回顧
  ↓
③馬主+調教師登場、名前が決まる


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試作その9 第4話

①育成牧場へ
  ↓
②後の主戦騎手との出会い




※騎手登場にあたって、作者の想像と妄想に基づいた性格設定をしています。後小説に書き起こすために若干口調に違和感を感じるかも。


第3話『畜生、新たな場所で出会う』

 

 

 

 

 

「じゃあなー!」

「向こうでも元気でいてね~!」

「二頭ともあんまりやんちゃするんじゃねえぞ~!」

「(あいよー)」

 

 

マイマザーから引き離されはや半年、そして私が生まれてから1年たったある夏の日。

 

私とマイアンクル(通称ティナ子)はトラックに載せられ、生まれ育った牧場を離れることとなった。セリとやらに出されるのかと思ったらどうやらそうではないらしく、元々私たちは両方とも羽佐間オーナーが所有する予定だったみたいだ。そんなわけでこれから行く先には同い年の仔馬たちが集められ、人を乗せて走れるよう約1年かけて訓練していくらしい。

 

 

「(ゆれててこわいよー!?)」

「(落ち着くのだマイアンクルよ。適当に過ごしていればそのうち揺れなくなるからさ)」

「(それっていつまで?)」

「(ワガンネ)」

「(うわーん!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで数時間揺られまして、たどり着きましたのがこちら『育成牧場』。

 

では早速訓練を……と思ったが、どうやらその訓練は秋に入ってから行うものらしい。じゃあそれまで何をするのかと思ったが、どうやらマイアンクルと一緒にいた時とはあまり変わらないようだ。

 

と言っても環境自体は滅茶苦茶変わっている。普段過ごす場所――放牧地ははかなり広いし、そもそも周りにいる馬の数が違う。

 

 

「(ここどこー?)」

「(おまえらだれ?)」

「(おかあさーんどこー!?)」

「(こわいよさみしいよー!)」

 

 

「(う~ん地獄絵図)」

「(いかないの?)」

「(そのうちな。マイアンクルはとりあえず遊んで来たらどうだ?……ほら、あそこの少し離れたところにいるやつとか遊んでくれそうだぞ)」

「(ほんとう? じゃ、いってきま~す!)」

 

 

~そこのきみ、ぼくとあそべえええええ!!~

~なになになに!?~

 

 

わお積極的。流石の物怖じのなさだな、たまにしか会えないオーナーに毎度ぶつかり行くだけのことはある。

 

そう、何より以前の環境との違いは馬の数だ。多い、余りも多すぎる。これ100頭は軽く超えてんじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と、言うのが育成牧場でのスタートだった。

 

馬は本来群れる生き物であり、そこから時間がたつにつれてある程度の集団をポツポツ形成するようになっていった。マイアンクルもあの子の他にも数頭に突撃し、無事馴染むことができたようだ。

 

 

 

え、私はどうかって?

 

無茶言わないでくれ。マイアンクル1頭に対して伊藤さんとコンビ組んで対応していたんだぞ? 10頭どころか3,4頭増えられただけでも余裕でギブアップさ。

 

そんなわけで、ぶっちゃけると私は集団に入らなかった。入れなかったんだろと言われても言い返せないのが悲しいところだね。

 

そんな私がこの夏行っていたことと言えば、相も変わらず自主練習。生憎とこの牧場に麗しきミケ様はいない、その代わり日常を過ごす放牧地はすこぶる広い。

 

 

 

――ならばやることは一つ、走り込みだ。

 

 

「(おはよう、今日も元気?)」

「(げんきー!)」

「(そいつはよかった)」

 

「(おっすおっす、この辺の草は美味しい?)」

「(おいしい!)」

「(マジ? 後で食べに戻ろっと)」

 

「(あーまた走ってるー!)」

「(走るのが好きなんだよ~。また鬼ごっこするか?)」

「(やった~!)」

 

「(こら、またぼくのぶかをかってにつれまわしたな!?)」

「(やっべバレた、じゃあね~!)」

「(まて~!!)」

 

 

とまぁコミュニケーションは欠かさず行いつつ、体を鍛える日々。

 

そんなこんなで夏は過ぎ去り、いざ人を乗せるための訓練が始まる秋を迎えた。そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「(…………)」

 

 

ある冬の日。私は放牧地を脱走したところを人間に見られました☆

 

 

 

……いやちゃうねん、まずはちょっと話をいてくれ。

 

人を乗せるための訓練――騎乗馴致が始まって早数か月。ぶっちゃけると私はほかの馬より訓練の進行度が頭一つ抜けていた。と言ってもそりゃ当たり前、何故なら中に人間入っている(暗喩)わけだし。特に問題を起こすこともなかったしな。

 

 

 

 

 

~以下回想~

 

「えっと、全部つけ終わりました……」

「全然暴れなかったな、なんともないのか?」

「ヒン……(まあ必要なものだし、違和感はあるがしょうがないよね)」

 

 

「(ここ歩いて~、ここで曲がって~。……お、今日はここストップなのね?)」

「おぉ、随分と上手くなったんじゃないか?」

「……もしかしてこの子、ルート暗記してませんか?」

「え?」

 

 

「(お、今日は君が乗るの? ほい、はよ乗ってや)」

「もはや近づいただけで乗せる姿勢に入ってる……」

 

 

「(うん、やっぱ人を乗せて走らんとちゃんとした訓練にならないな。この感覚を忘れないようにせねば)」

「えぇ、なにこれ。全然揺れないんだけど……?」

「(伊達にミケ様が昼寝できるように鍛えぬいたわけじゃないんだぜ?)」

 

 

~回想終わり~

 

 

 

 

 

……うん、特に問題は起こしてない。多分、きっと、メイビー。

 

まぁなにはともあれ、訓練は順調に進んでいる。このままいけば、問題なく次のステップへ進めるだろう。

 

 

 

 

 

……と、言いたかったのだが。

 

正直に言ってしまおう、物足りん。私はもっと走りたいのだが、毎回気分が上がってきたところで止められてしまうのだ。

 

馬になったことで現在一番感動しているのは、やはり走る速度の大幅上昇にある。文字通り風を切って進む感覚は何とも言えない快感があり、疲れない限りはずっと走り続けていたいと思ってしまう程だ。娯楽が少ないせいもあるのだろうが、それ位私は走ることにどっぷりハマっていた。

 

という訳でして、最近始めたのが放牧中のランニングだ。全力では走らず、かといって歩くわけでもない。人間のころで例えるとジョギングくらいの感覚で走るのだが、ずっとやっているのが人間に見つかると面倒なことになる。だがそこで役立つのが馬の視界だ。人間のそれと比べて格段に視界が広く、人間程度のシルエットならある程度離れていてもすぐに捉えることができる。正直未だに慣れないのだが、こういう時は便利なものだ。

 

つまり、人の視線を一定以上感じる場合は普通に歩き、感じなくなれば軽く走る。速度を変化させながら鍛えているわけだ。本当は疲れ果てるまで思いっきり走ってみたいのだが、多分止められると思うのでそれは今後に期待になると思う。

 

 

 

 

 

「(ラッキー、今日は人の数が少ないから1周完全に走り切れたぞ~。……って、ん?)」

 

 

そんなこんなで今日も今日とて放牧地の端っこをトコトコ周回していたのが数分前。

 

普段あまり感じない方向からの視線を感じ振り返ると、そこには一人の男性が立っており、こちらを見ていた。

 

 

「…………」

「(……う~ん、やっぱり今まで見たことない顔だ)」

 

 

流石に全員の顔を把握しているわけではないが、だとしても見たことがない。

 

てか若いな。ここにいる人間は大抵おっさんであるせいか、それも相まってすごく若い顔立ちに見える。だが別に幼いという訳でもなく、学生の少年と例えるのが一番近そうだ。頭も丸刈りっぽいし。

 

 

「(なぜにこんな場所に……あぁ、もしかして見学者?)」

 

 

とまぁそこで好奇心が働き、私は彼に近づいて行った。彼も私が近づいているの気づいており、柵を挟んで互いに向かいあう形に。ちょうど付近に他の仔馬はおらず、彼以外の人間も見当たらない。

 

 

「(案内の人もいないのは珍しいな。おっす、とりあえず撫でれ)」

「おっ……と。すごい人慣れしてる子もいるんだな……」

「フヒン(まあね)」

「え、返事した?」

 

 

頭だけを柵から乗り出し、彼にズイッと差し出す。すぐに私の意図を読み取ってくれたらしく、彼は私の鼻の上や首の横辺りを撫でてくれた。

 

 

おぉ……中々にちょうどいい。故郷の人たちの結構わしゃわしゃ撫でるのも好きだが、こうやっておっかなびっくりながらも優しく撫でるのも悪くはない。

 

 

「(おぉ、上手い上手い。センスあるね)」

「よしよし。……にしても見事に真っ黒だ」

 

 

そう言いながら私の体を見渡す少年。

 

母親譲りの立派な黒鹿毛……ではない。確か生まれた年に来たおっちゃんが言うには私は青毛らしい。どう見ても青くはないのだが、黒鹿毛の先の先まで行くとそう呼ばれるとのことだ。

 

 

「うん、綺麗だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ほう?

 

ほうほうほうほうほう??

 

 

「ヒンッ!(わかってるじゃないか学生少年!)」

「うわっ」

 

 

そうだろう、そうだろう。ここまで真っ黒なのは数少ないらしく、この牧場でも若干浮いていたのかもしれないこの毛色。

 

私はこれを大層気に入っている。それを初見で綺麗と言ってくれたのだ、嬉しくないわけがない。

 

 

「(よしよし、ならばもっと近くで見せてやろう!)」

「ん、離れて……ない。また戻ってきた?」

 

 

ならばたっぷり見せてやろうじゃないか、とびっきりの特等席でなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来月の日曜日、よければ一緒に育成牧場に行ってみないかい?』

 

 

そんな電話がかかってきたのが、冬にも差し掛かってきたある日。

 

1年前の厩舎実習中に話しかけられ、知り合った調教師の坂町大正(さかまちたいせい)さん。その人からの誘いを承諾したのは、なぜだったのだろうか。

 

息抜きになる……まあ間違いではない。勉強になる……これも間違いではない。

 

でも結局のところ、なんとなくと言うのが一番近いのかもしれない。

 

 

「お久しぶりです、羽佐間オーナー」

「お久しぶりです、坂町さん。今日は予定を開けていただき、ありがとうございます」

「いえいえ、2歳馬(・・・)の状況を見るのも我々の仕事ですから。それにこちらこそ急なお願いにもかかわらず許可をいただき、本当にありがとうございます。」

「未来の競馬発展に繋がります、全然かまいませんよ。……して、彼が話に言っていた?」

「えぇ、騎手の卵です」

「こんにちは、福沢永一(ふくざわえいいち)と言います」

「馬主をやっております、羽佐間大樹(はざまたいじゅ)です。競馬学校の生徒とは聞いていましたが……まさか君と会えるとは。今後ともよろしくお願いしますね」

 

 

初めて会ったその人はだいぶ強面で、でも柔らかい雰囲気で手を差し出してくれた。

 

坂町さんが育成牧場に行ったのは、この人と会うためらしい。なんでも彼の父親と縁があり、馬を預かっていた。その馬が繁殖入りしたことで一時預託がなくなったのだが、その産駒が生まれたので再び預かることになったそうだ。

 

そして今日会うということは、その子はここで騎乗馴致を行っているということ。つまり来年デビューすることになる。別に珍しい事ではないのだけれど、この時少しだけ縁を感じていた。

 

 

「羽佐間オーナー、ずいぶん気が早いですね?」

「いやいや、あまり業界に詳しくない私でも知ってますよ。順調にいけば来年でしたっけ?」

「は、はい!」

 

 

縁があれば是非うちの馬に乗ってもらいたい、羽佐間オーナーは笑顔でそう言ってくれた。真偽はともかく、そう言ってもらえたことは素直にうれしかった。

 

 

「ではまずスタッフの方に馴致の状況を聞き、その後実際に様子を見ながら今後を話し合いましょうか」

「えぇ、よろしくお願いします」

「福沢君、許可はもらっているから放牧地で馬の様子を見てみるといい。騎乗できるよう訓練している途中の馬だからこそ、学べることがあるかもしれないからね」

 

 

 

 

 

やっぱり小さいし、幼いな。

 

建物を出て道を通り、放牧地傍で立ち止まって様子を見る。柵の向こう側にいる馬たちは競馬場はもちろん、競馬学校にいる馬たちよりも幼い。動きもせわしなく、当たり前のことなのだが自分の目にも未熟さが感じ取れた。

 

 

 

 

――まさか君に会えるとは……――

 

 

(やっぱり、知っているんだな)

 

 

何故競馬学校で勉強している自分がこんなに注目されているのか、それは一重に父の存在だろう。

 

父は中央競馬で活躍しており、その手腕から【天才】と称されるほど偉大なジョッキーだった。怪我で引退を余儀なくされてしまったのだが、その息子である自分が騎手を志している。そのことはもう既に、たくさんの人に知られているみたいだ。

 

 

(みんな俺に期待している、父さんの才能を受け継いだジョッキーとして……)

 

 

知らずに握っていた手に力がこもる。そこに込められた感情を考える前に、ふと視界の端に黒い影をとらえた。

 

 

(黒鹿毛……なのか?)

 

 

その馬は他の集団に入らず、黙々と端に沿って歩いていた。歩いていたというよりは、軽く走っているといった方が正しいのかもしれない。徐々に近づいてくるにつれて、その姿がより詳しく見えてくる。

 

 

(流星もない、本当に真っ黒だ)

 

 

そうしているうちに向こうもこちらの視線に気づいたのか、立ち止まってじっと見つめてくる。若干離れているため顔の向きしかわからないが、間違いなく自分を意識していることは感じ取れた。

 

見つめあったのは数秒程度だろうか、その馬は再び歩き出す。しかし先程とは進路が若干変更されており、こちらに近づいてきたのだ。

 

 

(お、近づいてきた……)

 

 

そう考えてから1分もしないうちに、その馬は柵を挟んで反対側の場所までくる。そして再びこちらをじっと見つめてきたかと思うと、頭を差し出してきた。

 

 

「おっ……と。すごい人慣れしてる子もいるんだな……」

「フヒン」

 

 

え、返事した? 思わず顔を見るが、その馬はそんなこと気にせず頭をグイグイと押し付けてくる。

 

撫でろ、と言うことなのだろうか。取り合えず鼻の上や首横などを軽く撫でてあげると、その馬は気持ちよさそうに目を薄めていた。

 

 

(睫毛も黒い……もしかして青毛なのか?)

 

 

間近で見れたことで分かったのだが、こいつは多分青毛だ。知識として知ってはいたが実際に見るのは初めてであり、思わずまじまじと見つめる。

 

 

「うん、綺麗だな」

 

 

――そう呟いた瞬間、そいつの耳がピンっと立ったのはいまだに覚えている。

 

 

「フヒンッ!」

「うわっ、離れて……ない。また戻ってきた?」

 

 

いきなり嘶いたかと思うと頭を戻し、体を翻して離れていく。もう行くのかと思ったが、すぐさま向きを変えてこちらに向かって軽く走り出した。

 

 

え、いやいや。ちょっと待て、まさか――――!?

 

 

 

 

 

思わず見上げる空。

 

真っ白な雲を背景に、その漆黒の馬体を被写体に。

 

まるで1枚の絵のような状況で飛び上がったそいつは、軽々と柵を飛び越えていた。

 

 

「嘘、だろ……?」

 

 

まだ小さいとはいえ、馬体重は400付近はあるだろう。その割には静かな着地をしたそいつは振り返り、目の前まで近寄ってくる。

 

そして目の前でゆっくり1周したかと思ったら、再び頭をこすりつけてきたのだ。

 

 

「え? まさかお前、俺が綺麗って言ったから……?」

「フンッ」

 

 

当然だろ? そう言わんばかりにこちらを見つめ、鼻息を吐く。

 

冗談だと思いたいが、この馬は自分が綺麗と褒められたことを分かっているらしい。だからこうして近づき、自分の全身を見せに来たのだ。

 

 

「うっそぉ……あ、いやいやそうじゃない!」

 

 

余りの状況にボケっとしながらそいつを撫でていたが、若干落ち着いたことで現状を再認識する。まとめるとこいつは放牧地を脱走した、トラブルであることは間違いないだろう。

 

 

「えっと、こんなときどうすれば……!?」

「フンフン」

「わかったわかった、撫でるから……。坂町さんは担当する馬を見に言ってるだろうし、スタッフの人がどこかに――――」

 

「あーーーー! やっぱり!」

 

 

どうしたものかと考えていた所、背後から大声が聞こえてくる。それに思わず同時にビクッとして振り返ると、男性の作業員がこちらに走ってきていた。

 

 

「ちょくちょく見当たらなく時あるし、外の木の実が食べられてる形跡あったし……! もしやとは思っていたけど、遂に現行犯逮捕じゃ~!!」

 

 

……何と言うか、まさに鬼気迫る表情だった。

 

あとお前、いくら2歳馬だからと言っても俺より身体全然大きいんだから。

後ろに隠れて鼻で背中押してても、顔くらいしか隠れてないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それが、俺とあいつの出会い。

 

物語を超えた物語だと未だに言われている、あいつとの本当の始まり。

 

余りにもできすぎた話だからこそ、ほんの数人しか知らない話だ。

 




今回のメモ
●今回の登場人物
・福沢永一
  ➡96年デビュー予定の新人騎手。父親は天才と呼ばれたジョッキーであり、現時点で才能を期待されている。元ネタそのまんまである。
・坂町大正
  ➡76年に開業した栗東所属の調教師。G1馬も排出している凄腕調教師であり、本来大樹のような半端な馬主が預託契約を結べる立ち位置の人ではない。だが父親の縁もあって、フォールンオニロの面倒を見てもらっていた。その縁が続いて主人公も受け入れてもらえることに。元ネタは変幻自在と聖剣、そしてとあるG1馬を育て上げたあの方。


●騎手の選定理由
作者「主戦騎手誰にしようかな? やっぱ同世代の主戦とは被りたくないしなあ……」

「よし、いっそのこと主人公とデビュー年が同じ騎手の人に主戦になってもらおう!(錯乱)」

「えーと主人公が94年生まれだから、96年デビューか。この年って誰がいるんだ……?」

「おっと面白くなってきたな????」


次回のあらすじ
①馬主+調教師登場、名前が決まる
 ↓
②いざ入厩、調教開始。
 ↓
③問題発生、対処のため装備ゲット。


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試作その9 第5話

①馬主+調教師登場、名前が決まる
 



第4話 『畜生、大切な物を貰う』

 

 

 

 

 

やぁ、あれからあっさり少年に引き渡されておっちゃんに引き連れられている私だよ。

 

いやー、まさかバレていたとはね。確かにこっそり練習していた分おなかすいちゃってた時があって、かと言ってたくさん食べ続けるとバレるかもしれない。ならばバレずにこっそり食べればいいじゃない、という精神で実は何度か脱走していたのだ。できるからこそさっき飛び越えようと考えたわけだね。

 

と言っても事前に食べれるものがありそうな場所は目星をつけていたし、戻る前にしっかり人がいるかを木陰から確認していた。この青毛のおかげで暗いところでじっとしていればまず見えないと思っていたんだけどな……。

 

 

「あの、この子は前にも脱柵を?」

「直接見たスタッフはいなかったんだけどね。放牧地周辺で木の実が食べられた形跡や、獣道が発見されていたんだよ。かといって猪や熊なんか足跡すらなかったし」

 

 

一先ず監視体制を強化したところ、こいつだけ時々いなくなってたんだよ。とおっちゃんは私を見ながら苦笑いしつつそう言った。

 

あぁ、そうか。放牧地周辺で食い物が荒らされれば、まずそっちから警戒するよな。

 

う~む、流石に浅い考えだったのかもしれん。これはもうしない方がよさそうだ。

 

 

「ヒン……(すまんなおっちゃん、もうやらんから)」

「はいはい、わかればいいんだよ。……とさっきはああ言ったけどさ、反省してくれたみたいだし、もうやらないだろうさ」

「あ、この子ってやっぱり言葉を?」

「なんとなく、なんてものじゃないけどね。言うこと聞いてくれるかはともかく、僕たちが何を言ってるかは完全に理解していると思うよ」

「へー、すごく賢いんですね……」

「フンッ(だろ? もっと褒めてもいいんだぜ?)」

 

 

再び嬉しいことを言ってくれる少年。それを聞いた私は落ち込んでいた気分が少し戻り、少年のほうを見ながら得意気に鼻を鳴らす。

 

本当なら再び鼻先を押し付けてもいいのだが、おっちゃんに手綱をしっかり握られている現状それはできなさそうだ。悲しいね。

 

 

「お……っと。かなり人懐っこいんですね」

「ここに来た時から人に物怖じはしなかったね。それはそれとして、君は気に入られているみたいだけど」

「え、そうなんですか?」

「うん。だって……ほら」

 

 

お、おっちゃんが少し手綱を緩めてくれた。これで多少動かせるようになったな。

 

という訳で歩きつつも早速顔を横に向け、隣を歩いている少年に近づける。それで要求を察してくれたのか、少年は少し驚きながらも再び鼻を撫でててくれた。

 

あ~、娯楽の少ない今世にとってこのなでなでタイムは割といいものなんだよなぁ。

 

……ん、元人間としてのプライド? んなもん、他人に知る術がないんだからどうでもいいですね。

 

 

「でしょ?」

「アハハ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆様、お待たせいたしました」

 

 

話しながらも歩き続けて数分後。放牧地から出て少し開けた場所についたかと思えば、私たちの前には男性が複数人待っていた。

 

まぁその内何人はわかる。私やマイマザー達の馬主でもある羽佐間さんに、ここのスタッフの中で主に私の担当をしてくれていた人達だ。

 

 

「おぉ、来た来た。やぁクロ、元気だったかい?」

「ヒン(おっす羽佐間さん、元気だよー)」

「この子が……あれ、福沢君? 君も一緒に来たんだね」

「はい、ちょうどこの子と一緒にいたんです。それで、坂町先生が見に来た馬だと聞きまして」

 

 

羽佐間さんが声をかけてきたので返事をしつつ、おっちゃんの指示に従ってみんなの前に立つ。この状態で真横に向きながら、少年たちの話に耳を向けた。

 

へー、少年の名前は福沢っていうのか。どうやらあの人について見学に来たっぽいけど、弟子かなんかだろうか?

 

てか、あの人は誰だ? 福沢少年が『先生』って言ってるし、文字通り学校の先生か?

 

 

「クロ、紹介するよ。この人は坂町大正先生、君がお世話になる調教師だ」

 

 

ちょう、きょう、し? 

 

思わず首をかしげる。如何せん競馬に関する知識はほぼ無いに等しいのだ。あのスマホゲームにも、そんな職業の人は出ていなかったはずだが……。

 

 

「ハハ、流石に調教師の意味は分からないか。クロのトレーニングメニューや出走するレースを決めてくれる人だよ」

「いやいや羽佐間オーナー、いくら賢いといっても……」

 

 

あぁ、なるほど。あっちで言うところのトレーナー的ポジションの人か。いやむしろ逆か、こっちがモチーフなんだろうな。

 

それなら話は早い。今後数年間お世話になるわけだし、しっかり挨拶せねば。

 

 

「フヒンッ(よろしくな、坂町先生)」

「よろしく。……本当にこっちを見ながら返事したね」

 

 

そりゃまあ。あいさつは実際大事、てどこかの誰かも言ってたし。

 

 

「どうでしょう坂町先生、クロ……フォールンオニロ94は?」

「そうですね……大人しいですし、こちらの言葉を理解するほどの賢さもある。調教はやりやすそうです」

「それは良かった。馬体重は、このままいけば並以上にはなりそうなんですね?」

「現在が約440kgですので、このまま健康に過ごせれば問題ないかと。ただ……」

 

 

羽佐間さんと坂町先生、そしてスタッフのおっちゃん達は私を見ながら話し合いを始める。どうやらしばらくかかりそうだ。

 

その間、私はこうしてジッとしながら待っているわけだが……流石に暇になってきたな。

 

 

「(暇やなぁ、かと言って……お?)」

「……あ」

 

 

周囲を見渡したところ、福沢少年と目が合う。

 

そうか、彼もあの会話には入らないのか。それじゃ、私と暇つぶしでもしてようか。

 

 

「(まずはじっと見つめて~)」

「……?」

「(からの耳を回しつつ、一度顔を横に向けて~)」

「…………」

「ブルブルブルブル……(唇を震わせながらゆっくりと顔を反対側へ~)」

「ンフッ」

「アブブブブッ(ハイ今度は別の表情でもういっちょ~)」

「…………ッ!」

 

 

お、耐えてる耐えてる。

 

さーて……マイアンクルには大好評だったこの顔芸、みんなの話が終わるまで耐えれるかな?

 

 

 

 

 

「……では、その方向でお願いします。デビュー時期が決まりましたら、その時にまたご連絡を」

「はい、わかりました。それでは……って、福沢君?」

「はい、なんでしょう?」

「やけに疲れてないかい?」

「あぁ、流石に待たせすぎてしまったかな? 申し訳ないね、話に熱中しちゃって」

「いえ、そんな事はありません! ……待ってる間、全く退屈はしませんでしたから」

「「??」」

 

 

いや、その……なんだ。

 

皆しっかり話し合ってくれて、私としても嬉しいよ? 

 

……その分、ずっと遊んでいたわけだけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、すっかり忘れていた」

 

 

話し合いも終わり、クロ――フォールンオニロ94についての情報も集め終えた。

 

人の言うことをよく聞き、騎乗馴致も積極的に行っている。カイ食いも衰えることはなく、むしろ上手くいきすぎている程に馬体重も成長している。協調性が少ないというかかなりマイペースらしく、割と集団から離れて行動しているのは玉に瑕だが、前者からそこまで問題視はしなくてもいいだろう。他の問題については、トレセンに入ってから坂町先生が見る予定になっている。順調なら夏~秋、そうでなければ冬にデビュー予定になるらしいので、そこは気長に待つとしよう。

 

そこまで話し合いが終わり、今後の方針も決まった。もう帰ろうかと思ったが、もう一つ大事な用があったのを思い出して踵を返す。

 

 

「羽佐間オーナー。まだ何か?」

「名前ですよ、名前。今日のためにしっかり決めていたのに、クロには話さず帰ってしまうところだった」

「あぁ、なるほど」

 

 

馬に話しかける人はたくさんいるし、私も積極的にコミュニケーションは取る方だ。かと言ってわざわざ馬に名前を伝えたところでと思われるかもしれないが、今ここにいる人たちはそうはならないだろう。

 

 

「……?」

 

 

うん、今もこうしてクロはこっちを見て首をかしげている。これは何かを疑問に感じていて、それは恐らく自分の名前がクロであると思っていた証拠にもなる。

 

この子は賢く、そして幸運だ。生まれた時から色々な苦難にあったが、全てを乗り越えここまで成長してくれた。重賞勝利もまだ未経験である私が言うのもあれだが、きっとこの子は走ってくれるだろう。

 

 

「クロと言うのは幼い時の渾名みたいなものだ。レースを走るには、改めてちゃんとした名前を付ける必要がある」

 

 

漆黒の馬体故に視線が分かりづらいが、間違いなくこちらをじっと見つめている。普段なら甘えに来る距離まで近づいても、私の話をちゃんと聞こうとしているようだ。

 

私はゆっくりと手を伸ばし、鼻先に振れる。そして彼女としっかり向き合ってから、自分の想いを乗せて口を開いた。

 

 

 

 

 

「私が所有している馬の冠名は『フォールン』、これはギリシャ語で『纏う』って意味だ。先代の父曰く、『皆の想いを纏って走ってほしい』この冠名をつけているらしい」

 

「そして、私が君に送る名前は『フォールンストーム』。君は嵐を纏って生まれてきた。だったらそれ以外のものを纏って走ることだって、君なら簡単だろう?」

 

 

 

返事は、軽い嘶き。

 

空に向かって鳴いた後、彼女は私のほうを見て笑ったような気がした。

 

 




話が進まなさ過ぎてワロタ。


次回のあらすじ
①いざ入厩、調教開始。
 ↓
②問題発生、対処のため装備ゲット。
 ↓
③デビュー決定、鞍上も決定。


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