記憶の引き継ぎは命懸け (凪鬼)
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大体、前世が原因

俺には記憶が5つある。

1つ目は、ワーク・フライトとしての記憶。

これは、今世とも言うべき記憶で、俺が意識し始めた最初の記憶だ。

2つ目は、前世とも言うべき記憶である。

中身は、なかなかのクズで神様転生をしたらしい。

特典とかいうもので、テンプレチートなるものを選んだおかげで

絶賛絶望の淵にいる哀れな記憶だ。

この記憶をさらうとこの時点で読者はなぜ5つも人格があるか察することが出来るらしい。

なかなか察しが良い。

 

3つ目は、前世が選んだ特典で"古代ベルカの暴君"の記憶である。

前世は、「古代ベルカの王族の記憶があれば原作介入余裕じゃんwwww」と考えていたらしいが、記憶に押し潰されることは考えてもいなかったらしい。

その記憶自体は特別なことはなにもしていない。

ただ意識の片隅に存在して、睡眠などで気が緩んだときに記憶が見える程度である。

ただ、その記憶が問題だったらしい。

まるでその場にいるかのような臨場感があるその記憶では、すべて戦場だった。

人が焼ける臭いが充満する焼け果て、荒廃した大地。

空は泥のような雲に覆われ、降る雨は黒く、まるで空が、地に蔓延り、大地を侵す人類を呪っているかのように災惡をもたらす。

目に映る全ての人間が「暴君」に救いを求める。

だが、「暴君」は一言。

「散れ、雑種」

本来ならば光源と見間違う程の金髪をくすませ、

全てを見抜き裁定する蛇の赤目を淀ませ、

ただのナマクラと化した世界を開闢するはずの剣をふるい目に映る人間を罰する。

「この我の前に立ちながら、ただ救いを乞うことしか出来ない己を恨め」

その王は、"力"はあった。

どこの世界とも知れぬ世界を納めていた記憶があった。

その世界を納めていた時の"力"はそのままあった。

だが、王が守るべき存在がこの世界にはいない。

王が愛した民はいない。

王が憎んだ神もいない。

守るべき土地も、守るべき命も、倒すべき敵も。

全てが存在しない世界で王は"時間"を求めた。

新たに国を作る時間を。

「くはははっ!良いだろう!王を世界から追放する愚かさに免じてエアは抜かないでやる!だが、我をこの世界へ呼んだ貴様は赦さんぞ、雑種!」

そして、王は創った。

生まれた時から"王"であった彼は、全くの異世界で生を受けたことをものともせずに新たに自らが納める国を。

その代償として世界を開闢する剣(エヌマ・エリシュ)を自らの手で破壊し、真作とは似ても似つかない贋作の世界を開闢するはずの剣を手にして。

そこ国はベルカとも言われ、アルハザードからの技術流入すらあった、と後世に伝わるほど、文明として栄えたのだ。

 

 

その初代"王"の記憶を特典で引き継いだ前世くんは、その覚悟や生きざま、なにより救いを求めて雑種を虐殺した時の断末魔を受け止めきれずに精神が死んでしまったのだ。

しかし、それも仕方ない。

なんせこの"王"、記憶返りした回数が他の王の比ではなく、時に剣士、時に魔術師、時に弓兵、時に暗殺者、時に拷問屋、時に一般兵、時に王と血筋に脈絡なく、まるでその時代に"王"がいれば必ず出現する存在のように記憶返りするのだ。

記憶が蘇れば、"王"としての"力"も蘇るのだが、彼が"王"としての力を存分に振る舞ったのは、彼が納めた時代のみであった。

閑話休題。

そんな、戦場の地獄という地獄を味わって飲み干した彼の記憶は平和ボケしたクズには重かったらしい。

 

俺はそういうものだと受け入れた。

この記憶も大半は意味はないが、役に立つことはある。

 

4つ目の記憶は、火星の幻想世界を救った"英雄"。

これも前世くんがやらかしたことだ。

その原作ではまさしく"英雄"だった。

だがこの世界では、原始の"王"に討伐されるだけの化け物として存在していた。

原作の魔法を内に秘め、その魔法を体に取り込む荒業の魔法も化け物となったこの世界では多種多様の魔法を使うことすらせずに、その魔法の本質に体を使われ、ただ暴れるだけとなった存在に成り果てた。

その"英雄"は"王"とは違った。

守るべきものがこの世界になくても、守るにたる価値のあるものがこの世界には存在すると信じていた。

魔法の本質に取り込まれる前に"王"と出会い、別れた。

その内に秘める苦悩を"王"が取り零した筈がない。

だが、"英雄"は"王"の手を拒んだ。

変わりに介錯を頼んだ。

「僕がこれ以上、人を殺す前に、君が僕を殺してくれ」

その笑顔に"王"は応えた。

その身が黒く染まり、精神すらも黒く染め上げられ、誰もいない森のうちにて暴れる時を待っている英雄を、約束の通り"王"は介錯した。

その末路に前世は耐えられなかったようだ。

なまじ原作を知っているがゆえに。

 

5つ目の記憶は、大切な者のために世界を敵に回した超能力者。

彼は、"王"と似通ったコワれ方をした。

大切な者を見付けた記憶があった。

大切な場所を創った記憶があった。

大切な者のために世界を救った記憶があった。

その大切なものが沢山ある世界には戻れない。

物理的にも不可能である。

ただ、その記憶が彼に自殺することを許さなかった。

この世界にいるはずのない大切な者が悲しむと解ったから。

だが、この世界に彼を殺す術はない。

大切な者のために命を懸けた結果の弱体化はこの世界に創られた時に喪った。

持てる力を使って彼がしたことは、元いた世界と何ら変わることはなかった。

否、元いた世界よりも酷かった。

権力に使われ、酷使され、希望を無くし、生きる価値を見つけられ無いままにその生涯を終えた。

 

 

とまぁ、そんな記憶を引き継いだわけだが、今世の記憶なくね?、って思ったそこの君。

その理由も前世くんだ。

「幼児プレイとか無理だわwwww」

とか言って融通して貰ったらしい。

大体、小学校入学までの仮人格がこのワーク・フライトだったのだが、それまで俺が他の記憶を夢の中で見せられたのだ。

苛烈な人格になっても仕方がないと思わないか?

うん、"王"の記憶でいつか俺に成り代わるって知ってたから一番きつい記憶を濃縮して叩き込んだ。

"英雄"の記憶から、荒業の魔法の前段階の空間に叩き込んで、他の記憶から人格を引っ張り出してリンチしました。

"王"も"英雄"も"超能力者"もノリノリで。

暗くて、残酷で、悲惨な過去を全部押し付けたんだよ。

いや、何時かは見るものだよ?

俺だって全員分の記憶を見せられたら死ぬ自信がある。

ただ、それこそ小学上がる前には全員の記憶を引き継げたんだぜ?

三十路後半の大人が、引き継げないとは思わなかったよ(黒笑)

 

 

残念ながら話はこれで終わらない。

俺も、こうして別世界からの侵略者はめでたく消滅しました、めでたしめでたし。

で終わらせられたら良かったんたが、

両親から見て俺はとてつもなく恐ろしかったらしい。

大人びた子供ですませたらよかったんだけどねぇ。

魔力が上限知らず、教えたこともない知識、得たいの知れない魔法を使い、覚醒遺伝のせいで自分たちとまるで違う色の目と髪、恐らく寝ている間は呪詛の言葉を募っていたのだろう。

うん、気持ちが悪いにも程があるな。

それがたたって親から次元世界単位で捨てられました。

まぁ、記憶があるお蔭で、恐らくクズの特典のせいであろうが"海鳴市"に到達しても対して動じていないのだ。

「どうしものかなぁ」

うん、茫然自失ナウ。




vivid を見て、戦争真っ只中の辛い記憶を引き継いだオリ主が書きたかったのにどうしてこうなった?


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記憶チートパナイ(遠い目)

携帯からの投稿なので改行などが崩れますがいづれ直します。


結局は暗くて辛い過去を見せられるだけだったんだけど、そのせいで親から捨てられたワークくんです。

記憶が5つもあるせいで混乱するかと思いきや、このリリカルなのはの世界にはマルチタスクという便利なものがあるのだ。

昔の記憶を主体に構成した人格をそれぞれ割り振っている。もちろん、寝るときはそんなことしてる余力も無いので記憶のフィードバックが辛いが、いづれ一つになるのだ。

この主人格である"ワーク・フライト"には、全員分の記憶を普段から違和感無いように融和させてるから、大体四十代頃に統一されるだろう。

その人格の中で協力的なのは"英雄"だけなのだ。

いや、"英雄"も荒業の魔法は使わせてくれないけどね。

その気持ちスゴイ解る。

そもそもこの体に"昔の力"を使わせたくないっていうのは俺も含めて四人の総意だが、原作介入すら特典に入れられているのだ。

無印はともかく、A'sはきつい。

それに、前世くんが原因で原作が悪化する可能性もあるのだ。というか、原作介入が運命付けられているということは、"このチートスペックのキャラ"が活躍する場面も運命付けられたのも同義なのだ。

敵の凶悪化は当然だろうし、"王の蔵"のなかでも神話級の宝物を開帳しないといけないかもしれないし、"英雄の生涯"の体現すらも使わざるを得ないかもしれないし、"暴走と完全"の混在を使って暴れないといけないかしれない。

全く、原作介入を特典で頼むなんて困った奴だよ。

そんなチートスペックのキャラをこんな平凡な原作にねじ込むなんて悪辣も良いところだ。

それらの尻拭いと"俺ら"が判断するまでは、本気なんてだしはしない。

ただ、原作終了をどうにか見極めないといけないんだが…………………………。

 

「前世くん、なかなか戻らないからなぁ」

というか死んでんじゃないのか?

"英雄の試練"を下地にして、"王の生涯"を題材とし、"超能力者の理不尽"でもって台無しにする試練から未だに帰ってこない。

かれこれ三年は陥りっぱなしだ。

まぁ、良い気味だね。

"ワーク・フライト"は、全員の総意とも言えるから前世くんと敵対することはやぶさかじゃあない。

むしろ、表だって尽力してる。

早い話がこのまま自殺でもすれば前世くんの記憶はなくなるのだが、"王"としての誇り、"英雄"としての矜持、"超能力者"としての事情、が自殺は選ばせて貰えない。

 

「全く、こんなものを見せられて共感させられる俺の気持ちにもなって欲しいよ」

 

それはともかく。

親から捨てられた経緯はまた今度にするとして、今はどうやって生存するかだよなぁ。

社会的に生きていくのに"英雄"の魔法は役に立たないし、

"王"の金運もこの体には使わせたくないし、

"超能力者"は売り込み所がない。

体は子供だから働けない。

ふむ、早速積んでないかな。

 

おっとまずは状況確認からだな。

転移先は公園の森のなか。

…………ここまで作為的なのか。

ここはやはり原作キャラと関わりにいくべきか?

 

おぅ、前世くんがあそこからYESって信号出してきたよ。そのせいで残りがNOの嵐だ。

よし、取り敢えず前世くんは潰しておくとして、生活拠点を得ないといけないな。

親の情けなのか持たされたアームドデバイスで戸籍を捏造して作っておいた口座で株をしている。

さすがに、記憶やら頭脳やらを使わせたくないとは言えないので、そこら辺をまんべんに使う。

"王"の思考力はまさしく黄金だし、"英雄"の戦闘勘はなぜかこんな分野にまで反応するし、"超能力者"の頭脳で裏付けしてるからもはや未来予知に近いのだ。

まぁ、初めて数十分が良いところだから対して稼げていないが、当面はこの金を使えば良い。

 

…………家がないのは解決出来てない。

 

年齢的に家は買えないし、前世くんいるから原作キャラにお世話になるわけにはいかない。

こればっかりは同情をさそうか、略奪するかしかないからどうしようもないんだよなぁ。

しばらくホームレスしますか。

段ボールならいくらでもあるっ……!

 

 

 

暫く段ボール集めに奔走して、もう日が落ちきってから公園に帰ってきたらベンチになんかいた。

こう、漫画でよくありがちの暗い雲を背中に背負った何かが。

…………あぁ、魔力か、アレ。

考えてみよう。

前世くんは"原作介入"を特典として欲した。

それは同時に、"原作"に"ワーク・フライト"が介入する余地が出来るのである。

つまり、"原作通り"に主人公が試練を突破するという道が完全に途絶えたことを意味する。

自称することではないが、俺はとてつもなくチートだ。

"原作通り"の事件ならば、戦場のど真ん中に居ても、どれほど敵がいようと、一歩も動かずに殲滅することが出来る。

その気になれば世界すら壊せるのだからしょうがない。

そんなキャラが、たかだかひとつの市を巻き込んだ事件に関わりを持つのだ。

その事件がどれほどの被害になるか知れたものではない。

であるならば、"原作通り"に事件を解決できる要素を持つものが強化されてもおかしくはないだろう。

それが目の前にいる。

恐らく感情に応じて魔力の質やら威力やらが上下する希少能力だろう。

今の感情が、見つかりたくない、逃げたい、疲れた、のような"負"で満たされているため魔力もどす黒くなったのだろう。

しかも、魔力だけで魔法を構成させるレアスキル中のレアスキル。

認識阻害に似た疑似結界が張られている。

こりゃほどくのはキツそうだなぁ。

当然ながら、これも前世くんのツケである。

踏み倒す訳にはいかない。

 

「ドライメモリー、セットアップ

モード・ウルク」

 

マルチタスクの"王"の担当を主人格とする。

デバイスを起動したことにより、赤かった髪は赤混じりの金髪に、元から赤い目は瞳孔が縦に開く。

子供らしい(笑)長袖シャツにジーパンだった服が謎の光に包まれ、その上から黄金の鎧の籠手が装着される。

通称・王様モード!

記憶を参照に片手間にストレージデバイスを改造して三種類のバリアジャケットを構成していたのだ!

あ、うん、流石に嘘です。

これを創ったときは三徹だったから両親もドン引きだったよ。

思えば、これも捨てられた理由の一つかね?

そのどす黒くも見えるモノには目を惹き付ける輝きを持つ魔力の暴風圏の中に足を踏み入れる。

元は石化防止だった黄金の鎧(の籠手)で、この陰惨とした魔力を弾いて発生源へ進んでいく。

 

 

ー1人にしてよー

 

ー私は要らない子なんだからー

 

ーあの家には私なんて必要ないんだからー

 

魔力が籠っているからか、こちらまで自殺したくなるような重い声が頭に響く。

なるほど、念話のつながりを利用した精神汚染か。

しかも、泥水のような魔力資質になっているのでパスを切ろうが範囲内にいる魔力を持つものには無差別で襲ってくるようだ。

 

「ハッ!それがどうした!この我を染めたいのならば、この百倍は持ってこい!」

 

ー!?ー

 

安定の王様スペックである。

そりゃ古代ベルカの建国者で、戦乱期を味わい尽くした王様に、たかだか十数才の自責の念がかなうわけもない。

…………いや、百倍で足りるってどういうこと?

記憶だけの引き継ぎだけど、"王"の記憶が色濃くでてる俺の精神を今の百倍で染められるって…………。

まぁた"原作介入"のせいなのかっ!?

ていうか、神様の基準おかしい。

確かに戦闘面なら破格以上に反則級であることは否定しないけど、精神面までは面倒見れないよ?

それは横に置いておくとして、まずは事情を聞かないと。

うーん、どうやらこの魔力を放出してるのにも関わらず、つまりは外に干渉してるのにも関わらず、心の壁は強固に存在しているらしい。

しかし、王様モードの"神眼(薄)"は便利だよ。

可視出来ないくらいの薄い魔力はもちろん、その魔力から対象の精神状態まで把握できるのだ。

ついでにいえば、知識として覚えてるものなら対象のレアスキルやら魔力的才能なんかも見えるんだよね。

その知識は記憶から引っ張りだせば無尽蔵だし。

実質このスキルで見抜けないものはないっ!

というか、最初の王様はレアスキル系網羅してたから正直新しく発生したスキルでない限り、ねぇ?

発展したスキルでも、"王様"の思考力があれば全部見抜けるし………………。

正直記憶チートのせいで色々ヌルゲーである。

金のことしかり、知識量しかり、思考力しかり。

優良すぎる記憶を引き継いだせいで俺が培えるものがない。

ま、俺の人生は前世くんをなぶり殺すことと、前世くんの尻拭いが終わらないと始まらないからまだ考えないでいいか。

 

閑話休題。

この原作っ子の心の闇を切開するのか。

気が進まないぜ(笑)

"英雄"の魔法から丁度良い魔法を選択する。

いまだに顔をうつむかせて意識を何処かへ飛ばしている原作っ子の頭をつかんで無理矢理顔を覗き込む。

そして、完全にハイライトとか未来への希望とか色々抜け落ちてる瞳と目を会わせる。

 

 

「ファンタズ・マゴリア」

 

 




明日までは頑張る(遠い目)


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この原作は歪んでいる!

私はあの家庭には要らない。

どうしてなの?

良い子にしてたのに。

お父さんが怪我をして入院し初めてから私の家族は忙しくなった。カウンターに座る男のお客さんはお父さんが担当していたので、お姉ちゃんは勝手がわからないからお兄ちゃんが事情を説明して話を弾ませる。

お母さんは、お父さんがいない分頑張って料理を作って、お母さんが作った料理をお姉ちゃんが運んでいた。

じゃあ、私は?

邪魔にならないように隅っこにいたわけじゃない。

みんなが疲れた時に少し手伝ったり、家の晩ごはんを作ったりしていた。

何でかわからないけど、お料理はお母さんのを真似したら食べられるものが作れた。

何でかわからないけど、お掃除もピカピカにはならないけどキレイにはなった。

何でかわからないけど、朝早く起きれた。

何でかわからないけど、朝走ってみたら隣町の往復を二時間でできた。

何でかわからないけど、お兄ちゃんの練習している技が見よう見まねでできた。

何でかわからないけど、なんでもできた。

 

そんな私でも、家族は笑ってくれた。

笑って、なにもさせなくなった。

 

お手伝いも、晩ごはんの準備も、お掃除も、早起きも、走るのも、お兄ちゃんの練習を見学することも。

 

そうして私に残ったのは、ただ外に遊びに行く時間だけだった。

どんなに頑張ろうとしてもどんなに手伝おうとしても、苦笑いで弾かれる。

「ここは大丈夫だから」

「危ないから」

「お外で遊んできな」

そんな言葉で私は公園に来た。

周りの子たちは、親の仲の良さでグループができている。だけど、私は遊びにいけない。

だって、この煙があるから。

多分、私がなんでもできたのはこの煙のお陰なんだろう。

今も、私の関わりたくないっていう気持ちを叶えてくれている。だから、私は幸せだ。コレがあればなんでもできる。コレがないと私は生きていけない。

コレさえあれば、私は大丈夫。

 

 

 

「………………わお」

王様モードの俺が思わず引いちまった。

これ絶対リリカルじゃないよ。

nanoha/zeroとかだよ。

もちろん、/は切継さんのことね。

全く、察しの良い子供ってのも大変だなぁ。

ただ大人びただけじゃなく、出来ることまで大人びるとか凄いな。

原作キャラの能力値上昇がパナイ。

やっぱり"原作介入"のせいだよなぁ…………。

はい、"英雄"。

ちょっと"超能力者"と協力して前世くん潰してきて。

ん?もうやってる?

GJ。

何時もの十割増しでよろしく。

前世くんのことは後で塵に返すとして、今は原作っ子の方に注力しないと。

 

「取り敢えず、魔法の射手・101手」

 

いまだに過去話をたれ流してる原作っ子を吹き飛ばす。

いや、ここ幻想世界ですし?

実物の肉体にはダメージいきませんので。

 

「なにするのかな?」

 

ちょっ、いくらダメージ無いからって復活早すぎ。

これでも1割位は本気出したんだよ?

ただの魔力の弾だけど一回は体が消しとんでもおかしくないんだよ?

って、なんか魔力が昂り始めましたよ~?

 

「いなくなって!」

「おわっ!」

 

バシュッ

 

なんかどす黒いレーザーみたいなのが発射されたから、思わず魔力を纏った拳で殴って相殺しちゃった。

まったく、魔力の強化はグレーゾーンなんだからあまり使わせないでほしい。

 

「消えてよ!」

「ハハッ、おかしなことをいう。

ここは既にお前の世界ではない

ただの決闘場だ。

血の通わない、いささか生ぬるい決闘であるが、相手が小娘とくれば妥協もしよう。

さぁ、我と闘うのだ。

命を懸けろよ、小娘、ってぇ!

口上の最中に攻撃する者があるか!」

 

うーわー話が届いてる様子が皆無だよ。

 

ー3000手までなら使ってもいいよー

 

ーあの子をあんな風にしたのは僕達の責任もあるからー

 

"英雄"は相変わらずの罪悪感に苛まれてるねぇ。

もう少し気楽にいても良いんだよ?

 

 

というわけで!《魔法の射手・1001手》

この壁みたいな弾幕を!《集束》

 

「吹き飛ばす!」《桜花覇拳》

 

ぶっちゃけただの集束砲。

ただ、威力は勝利すべき黄金の剣の五割減。

ヘラクレスを3.5回殺せるよ!

やったね、イリヤちゃん!

つーか、そんなもん撃っても原作っ子まで貫通しないんだが、マジでどういうことだ?

弾幕自体は爆発で散乱したから避けるのは簡単だけど、ただのバカ魔力を込めた魔力弾程度なら触れただけで蒸発するのに!

……………………。

 

「まさかのレアスキルの適合者?」

「いいから、私の前から、」

 

ちょ、それは隕石ですか!?

原作っ子が集めた魔力が黒過ぎて、基本野原で穏やかなように設定した幻想世界が軋んで世紀末なのですが!?

どこからか集めた魔力さえも、レアスキルでどす黒く染め上げて集束している。

デバイス持ってないんだよね?

まだ原作始まってないよね?

どうして初っぱなからこんなラスボステイストなのさ!

そうこうしてる内に集束し終えたらしく、

 

 

「消えて、いなくなって!」

「ええい!小娘が!粋がるなよ!」

《魔法の射手・土の501手》

「重ねて!」《圧縮》

《鎚の101手》

「合成!」《連弾・土杭の一手》

 

迫りくる黒い太陽目掛けて、属性を持たせた魔法の射手を改造して、一点集中の貫通目当ての杭を放つ。

 

「シア○スパイク(仮)!」

「はぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 

そりゃ、今からはSLBは言えないだろうけど、なんか技名考えようぜ?

気合いの入りかたが大分違うよ?

こんなこと考えてるあたり余裕だよなぁ。

おっと、結構削れたな。

 

「じゃ、もう一手追加っと!」

 

直径が十メートル程あるので、この黒い砲撃にも傘の役割をしっかりとなしてくれている。

先が削れて無くなりそうだったら、もう一手ずつ追加していくので、魔力の続く限り貫通出来るのだ。

ぶっちゃけさっき思い付いたぶっつけ本番の技だったから成功して安心してるんだぜ(汗)

 

「これでも消えてくれないの?

じゃあ、、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、強くしないと!」

「デレのないヤンデレ怖い!」

 

というか、悪夢だ。

SLBモドキを貫いて肉薄したら、満面の星空ならぬ満面のアクセル・シューター。

取り敢えず、バカ魔力練り込んだプロテクションでガードする。

一発一発が地味に重くて辛い。

つか、あんまり空戦の適性がない俺にこの弾幕の雨あられは辛いというかうっとおしい。

 

ーやむを得まい。

我が朋友を使うことを許すぞー

「あざっす!AUO!」

 

"王"から切り札を一枚切ることを許されたので早速ーー

 

 

「もう、私の前から、消えて、いなくなれぇぇぇぇえええええ!」

 

 

いやマジであの子の魔力量どうなってんの?

どうしてさっきのSLBモドキをシューター並みに展開してるの!?

ファランクス・シフトSLBverとか笑えない!!

 

「天の鎖!!」《エルキドゥ!!》

 

撃たれる前に捕縛して魔力を封じる。

スフィアになって待機してたSLBモドキも掴んで魔力を暴発させないようにする。

 

「…………こんなの、すぐに!!」

「いや、我が朋友を軋ませるとかどんだけだ、小娘!」

 

いや、魔力で強化してるんだろうけどね?

だが、そこは流石"王"と肩を並べた実力をもつ朋友さん。

魔力封じに加えて魔力吸収なんてのも出来るのだ。

それに加えて魔方陣に絡み付いて発動の阻害まで出来るのだ。

もはや原型から大分離れてるけど、天の鎖であることは確かなのだ。

 

「力が抜けてく…………」

「貴様はコレを食せ」

 

無理矢理口を開かせて、金の薬杯から魔力安定の秘薬を飲ませる。有り余った魔力は朋友に吸収させる。

 

「これでようやくOHANSHIからお話の時間に入れるね」

「え!?なにこれ!?」

 

……………………。

 

「自白剤いっとく?」

「ご、ごめんなさい!」

 

ちょっと王様の記憶の拷問屋が出てたかもしれない。

 

 



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…………一段落?

「ごめんなさい!」

 

開口一番これである。

まぁね?

暴走してたからと言っても、記憶はしっかりと残るタイプの暴走だったからこうなるのもわかるけど、王様モードの俺にそれは不要かなぁ。

 

「侮るなよ、小娘。

この我が貴様程度に害されるとでも思ったか」

「え!?いや、そのぉ、怒ってないんですか?」

「たわけが。貴様こそ憤ってはいないのか?

これほど手を抜いているのに遊ばれたんたぞ?」

「手を、抜く?」

「当然だ!なにも知らない小娘相手にこの我が本気で相手をすると思ったか!

なにより、ただの物量しかしてこない相手が我に勝ち目があると思うことすら烏滸がましい。」

 

しかし、そこに反応するということは今まで手を抜いてかなかったのか?

手を抜かないのも大事だが、それと同じくらい手を抜くのも大事だろうに。

時と場合と場所を弁えないのは、他人はもとより自分も疲れるだろうに。

ん?俺がいつも手を抜くのは当然だよ?

俺の本気は環境に優しくないからね。

 

「我はワーク・フライトだ。

小娘、貴様の名前を聞こうではないか。」

「え、えと!高町なのはです!」

 

いや、知ってた。

とは返せないけど思うだけなら自由だよね!

さて、取り敢えず

 

「まずはこの世界を解除する。

多少気分が悪くなるとは思うが耐えろよ、小娘。」

「はいっ!」

 

デバイスを使わないでも、この幻想世界に満ちる俺の魔力をあれだけ集められたこいつの事だ。

魔力認識能力も並外れて高いのだろう。

そんなのが、あの魔力の薄い世界に戻ったら認識の差で車酔いと似た症状がでてもおかしくはない。

そのつもりで幻想世界を解除して、もとの公園のベンチに世界がコマ落としのように一変した。

 

「…………なんともないのか?」

「えと、はい、大丈夫です!」

 

あぁ、元からこの世界の住人な上に、この暴走魔力を身に纏ったり纏わなかったりしてるから周囲の魔力がどれだけ薄かろうと濃かろうと関係ないのね。

てことは、周囲の魔力散布がなかろうとどっかから根こそぎ吸い上げてSLB撃てるってことっすか?

……………………そんなもの向けられたら全力で逃げるわ。

 

「ドライ、モードリリース」

 

今まで出してたバリアジャケットを解除する。

髪と目以外は、籠手があるかないなの変化だけど一番の変化はやっぱり魔力光なのだよ。

俺の魔力光は、元が鉄錆色というか砂塵色というか、薄茶色で透けている色なのだ。

だが、王様モードを使うと金色に輝くし、英雄モードを使うと雷光のように瞬くし、能力者モードだと真っ白になる。

まだ記憶と同様に全員分の力が同一化されてない証であり、こちらがあまり使わせたくないという信条が無いにしても、力を十分に使えないのである。

デバフ大歓迎!

ただし、暴走の危険が増すのはヤメテ。

 

「髪が赤くなった!?」

「此方側の技術の一つだよ。気にしない気にしなーい。」

「なんか性格も違うの…………」

 

この時代に生きてて素があれだったら引くわ。

やっぱり記憶の影響を多大に受けている人格だと、性格も口調も大分変化するようだ。

これでもマシになった方なんだけどね。

マルチタスクが出来ない頃なんか、ころころ一人称は変わったし、情緒は常時不安定で、一瞬一瞬で変化する魔力光と魔力の質の変化に長時間耐えられなかったりして、それはもう酷い暴れようだったよ。

時々、バカ魔力を使って宇宙空間に逃げて、ストレス発散目的で本気の魔法(王様抜き)ぶっぱなしてたからねぇ。

適度に魔法を使っておかないと記憶の方の人格もストレス溜まるし、魔力の方もだんだんなまるからね。

確かに、この体に魔法は使わせたくないけれど、俺/我/僕/オレが大切な時に本気出せないのはいただけない。

たまにやるメンテナンス的に必要なことと諦めて、その時だけは大真面目に訓練してる。

だから、宇宙空間に行っても"英雄"が本気だしてくれるから生存出来るし、"能力者"もマトモに動いてくれるから周囲の惑星に影響がでない発散の仕方が出来るのだ。

 

閑話休題。

 

「今高町が見たように、そちら側とこっち側には結構の差がある。だから、俺は君に2つの選択肢をあげよう。一つは、このまま忘れるコース。その時はこの記憶消去の秘薬に、俺が今回の事件の権化である君の力を鎖で封印してあげよう。なんなら、家族への暗示もアフターサービスでつけてあげる。」

「もう1つの選択肢は?」

 

うん、全然こっちの選択肢を選ぶ気無いねぇ。

 

「もう1つは、今の家族関係のまま俺にある程度の説明と自衛が出来る程度の戦闘力とその力の教導かな。

この場合は、その力を家族にバラさないことが条件だ。

だから、最初に教えるのはある程度の素質をもつ人でも維持するのは難しい結界からだし、それが出来ない内は君の力は当然封印する。

なにより、自衛以上を教えて欲しいなら家族と暮らす暖かい未来は諦めること。

それでも良いのかな?」

「…………別れる?」

「そりゃ、不審に思われるからね。

お年頃な君が修行に明け暮れればそれだけ周囲の人間に違和感を与えることになる。

それで調べでもされたらたまったもんじゃない。

バレてからじゃ遅いしね。

そんな危険性は早々に取り除くに限る。

それに君の力はこの世界では惑星を破壊できる可能性を秘めた凶悪なものだからね。

俺も制限は掛けられるけど、もっと厳重な制限を掛けられる所にいかないといけない。」

 

まぁ、向こうに行っても魔力タンクになる可能性も捨てきれないからね。完全に安全とは言えない。けど、いざその場面になったときに抵抗出来るのと出来ないのでは全然違うのだ。この世界で魔法なんて使ったらそれこそ解剖室へ一直線だし、どんなに抵抗しても、なまじ高町が強い上に手加減を心得てるが為に、最終的には世界全土が敵になる可能性もある。

 

「…………」

「まぁ、悩むと良いよ。

むしろここで即答するようなら絶対に力は貸しはしないから。」

 

選択肢に落とし穴があるのは定番だぜ?

 

「取り敢えずは、高町の力を封印するところから始めようか。この準備期間の間でも修行は出来るし、その選択は自衛が出来るになって、家族に秘密を強制出来るようになってからでも遅くはない。」

「解ったの」

 

ドライの中にこんなことがあろうかと仕込んでおいた、(自分用の)魔力制御術式を起動する。

俺の魔方陣はどうあっても古代ベルカ以前の五方星になるため、管理局に見つかったらヤバイが、そんときゃ脅せばいいし、そうなったら考えよう。

俺の趣味で、この手の封印術式はなんらかの武器を型どることが多い。今回は、歪んだ短剣を小さな星形で再現した。

 

「戒める剣」

「精神衛生的に良くないと思うの、これ」

 

短剣が自分の胸に刺さって沈みこんでいくと言う珍しい体験をしたのになんて評価。

しかし、幻想世界のあの光景を見たあとではこれくらいじゃ物足りない。というか、後十倍はかけてもいい気がする。

 

「次に高町の魔力認識能力と魔力最大出力を少し閉じさせてもらうよ。」

「まだするの?」

「そりゃあ、たしかにさっきの"戒める剣"は真っ当とは言わないけどそれなりの性能を誇る術式だと自負するけど、なんだったら力付くで破壊できる位には繊細な封印だからね。高町の魔力量じゃあどんな弾みで吹き飛ぶか分からないよ。」

 

 

お察しの通り、"戒める剣"の元ネタは"破戒する剣"だけど、元ネタが蚊の針くらい小さい穴を開けてから刺した術式を乗っ取るっていう繊細さに対して、"戒める剣"はその蚊の針くらいの細い糸で戒める対象をがんじらめにするのだ。

繭で閉じ込める、の表現が正しい。

そのため、多少のたわみも何処かしらで生まれるので、封印してたら魔力量が前よりやばくなってました、なんてことにはならずに少しずつ封印の繭と一緒に大きくなる。

その過程で、繭の隙間も大きくなって使える魔力量も増えていくという一石二鳥なのだ。

糸の量は込めた魔力量に比例するけど、やっぱり力付くでも破れるし、なにより持続時間も十年間持つとは言わないが三年持てばいい方なのだ。

ましてや、今回の対象は改悪版"高町なのは"。

正直1日置きに張り替えたい。

が、そんな面倒なことをちまちまやる道理もやる気もないので"王"の朋友に全面的に任せる。

でもその"王"の許可がなー。

 

 

ー構わん。こやつのような人間の役に立てるとあれば、我が朋友も喜ぶだろうー

 

《そういうものなのか。》

 

 

記憶の中に、それぞれの原作は無いわけだからいまいちピンとこないんだよなぁ。

てか、"超能力者"の方は勝手に術式使っちゃったけどいいの?

 

ーアァ?あンな暇潰しで作った奴のお礼とか、イらねェよ。そレよか、なンか面白れェモンはねェのかよ?ー

 

《そう簡単に見つかるわけがないだろうに。

てか、"王"から宝具の知識持ってってる癖に何を言うか。》

 

ーそれもそうだナ。じゃア、好き勝手してるワー

 

相変わらず、"超能力者"はこっちになんの興味も無いな。

あのテンションで前世くんを壊す材料探しに行ってるんだから流石だよなぁ。

この"戒める剣"だって、繭のように包む、じゃなくて、細い糸がだんだんと狭まっていってゆっくりと糸断するのが最初の目的だったんだし。

敵にまわしたくない人、堂々の一位である。

"王"?

あの人はあれで串刺しにするだけだから割と早めに終わるから死ぬのは楽だと思うよ?

最終兵器使われた日には消滅するし、痛みはどれも瞬間的なものが多いし、絶対的物量に怯えなければ恐怖もそれほど感じないんだから。

"英雄"は、こういうのには向いてないけどたまに超えげつないことするから油断出来ない。

 

それはともかく、

 

「天の鎖」《エルキドゥ!》

 

高町に天の鎖で魔力認識能力の封印と、魔力吸収による最大値削減を施す。 

 

《というか、なんで"王"は天の鎖の時だけセリフ被せるの?》

ー我が朋友を貴様とはいえ我以外の者に使わせられるかー

 

あぁ、俺だもんね。

 

「力が抜ける…………」

「あ、ごめん、吸わせ過ぎた。

もうちょい少なくしようか。」

 

どうやら無意識に魔力で身体強化してたんだねー。

意識しながらするのはまだ難しいけど(というか天の鎖が

発動を阻害してるだけかな?)その状態でも魔法が使えるようになったら大分熟練してるし、放置でいいか。

 

「じゃあ、今日はもう遅いし、また明日ね」

「もう真っ暗だよ!?」

 

あはは、大急ぎで帰ってるよ。

さて、俺は段ボールハウスを作らねば。

 

 




遅くなりましたがこれが初投稿の黒ザビです。
支離滅裂で計画性のない作品を生暖かい目で見てもらえたら幸いです。


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高町サンは嘘がつけない

寝る間も惜しんで段ボールハウスが完成したっ!

その場で倒れこむ位には頑張って作った!

時々前世くんに俺も八つ当たりしながら機械のような虚ろな目で作業してたよ!

 

「はーっ!疲れたぁ。」

ー我の寝床としては論外だが、その体が泊まるところとしては豪華すぎやしないか?ー

「いや、ここで暮らすのは俺だから、これくらいの贅沢は許してくれよ。結界は別に張ってないからそこまで安全じゃないし、全然平気でしょ。」

ーそうだよね。栄養管理を怠って死んじゃったら自殺と一緒だし、最低限いつでも戦えるくらいには体調管理をしっかりしないと。ー

ーつゥか、珈琲はねェのかよ。

いくらアイツがウザいからって、嗜好品まで止める道理はねェんじゃねェか?ー

ー僕は紅茶派だけど、確かに最近飲んでないよね。

というか、白髪は珈琲が好きな決まりでもあるのかっ!?ー

ーんだそりゃ。

オレは惰性で飲んでたら拘りができた、みたいなかんじだッたはずだぞ?ー

ーい、いや何でもないよ。知り合いに日に七杯は飲む猛者がいてね。ちょっと思い出してただけだよ。ー

 

 

"英雄"の珈琲嫌いは相変わらずだなぁ。

暇なときはこうして他人格と会話して和んでいる。

高町が来るのも昼頃だろうし、一眠りでもしようかな。

 

「あ、ワークくん!」

 

うん、解ってた。

だって天の鎖の反応が近付いてくるんだもん。

少し寝たかったけど来ちゃったものは仕方ないよね。

 

「お休み」

「えーー!!私、来たよ!早く教えてよ!」

 

おぅふ。

昨日あんなことをしたせいで高町サンの態度が近しいです。

そしてそこはかとなく立ち上る生暖かい気配……………………。

 

「いやー、タカマチサン、私にも準備と言うものがありしてですね?昨日の今日でいきなりは厳しいのですが」

《おいこら、明らかにお前の家族がいるぞ。どーなんってんの?》

「じゃあ遊ぼーよー!」

《えぇ!?なんで、頭に直接声が!?》

 

天の鎖さんが高町の動揺を隠して、デバイス代わりに念話を発動させる。

うん、天の鎖さんマジすげぇ。

 

ー当然であろう!我が朋友だぞ!ー

 

そして友達誉められて上機嫌のAUO。

威厳ェ…………。

 

「いや、徹夜してコレ作ったからさー、寝不足なんだよ。だから寝ていい?せっかくこんなの作ったんだし。」

《これも魔法だ。納得しろ。》

「子供は徹夜しないと思うの。」

《うぅー理不尽。あれ?私も出来てる?》

「うるさい。つか、他にも友達いるだろ。」 

《昨日の鎖のお陰だ。つか、質問に答えろ。なんでお前の家族がいるんだよ。》

「えー、私はワークくんがいいんだよ!」

《あ、あれぇ?ちゃんと誤魔化せたよ?》

「そりゃ光栄、でも死にそうだから勘弁」

《ちなみになんて誤魔化したのか、ほら言ってみ?》

「なんで!?」

《えと、普通に、男の子と(幻想世界で)戦ってたら男の子の(魔法の)弟子になったの。思ったより(魔法で)戦ってた時間が長かったから帰るのが遅れたの!、って。》

 

おぅ、ありのままだよ…………。

もう少し他の内容にしようぜ?

そして、戦うとか物騒な発言しないの。

 

男の子と戦ってたら男の子の弟子になった。

思ったより戦ってた時間が長かったから帰るのが遅れた。

 

親からすればこんな不穏な発言を聞き逃せる訳がない。

尾けてくるのは当然ですね。

いやー、前情報よりも良心的な家族じゃないか。

でもなんでだろう。

これがあの優しげな女性じゃなければ、最初の高町の発言で斬りかかられる未来が見える…………。

 

「ちなみに今日はなんて言って出てきたの?」

「え?男の子にあってくるって。」

 

あちゃー。

これじゃ勘違いされまくってるよ。

そしてこの生暖かい視線に納得。

大人びた娘に男の影ができたら気になりますわ。

しかも、家族に閉じた印象のある娘のいきなりのカミングアウト。

心配するだろうし気にもなるだろうよ。

だからって、なんで戦ったのか、戦った結果が今の娘なのか、詳細に話せる訳がないけれどこんな発言をされて問い詰めない訳がない。だけど高町を問い詰めなかったのは明らかに事情を知らない風だったから。

なら、事情を知っているであろう"男の子"に話を聞こうってなるよな。

つまり、捨て子生活1日にして魔法バレの危機?

いや、隠す気もあんまり無いけれどさぁ…………。

 

「もうちょい考えて発言しよーよー。」

 

あーあー、あの人がこっちに来てる。

あれぇ?バレてることも知っててしばらく隠れてたの?

うっわー勝ち目がない!

ん?視線は俺じゃなく後ろの段ボールハウス?

あれ、まさか俺のことも問い詰められる!?

今の俺って回りからどう見られてるのか。

えーと、取りあえず天涯孤独だよな、この世界では。

段ボールハウスなんてものを作ってるし、怪しさ満点。

家が無いことは一目瞭然。

親がいないことも一目瞭然。

娘の自閉的な性格を治した「なにか」があって、娘もそのことを意識的に隠そうとしている。

実際に来てみたら、大人びている娘が心を許している?みたいで、俺もほどほどには大人びている。

まぁ、まだ幼いからどう転ぶか分からないけれどキープしておく分には害はない、ってレベルかな。

あの女性は。

 

「甘ェよ」

「ワークくん!?」

 

スマートフォン型のドライメモリーを起動させる。

 

「なんか異様に強そうだから、俺は反則しますか。

ドライメモリー・セットアップ

モード・レベル5」

 

白と黒の服のバリアジャケットを纏いながら、術式を弄ってオレが指定した人間だけを閉じ込める結界を発動。

色素の抜けた白い髪に、熱の入った赤錆色からレーザーサイトのような熱のこもらない色に変わる目。

さっきまでの幼さが残る子供とは違い、なにかの機械が俺を操ってたいるように感じるだろう。

 

「さァて、愉快な降伏タイムの始まりだ!」

 

気流を操って背中から竜巻を噴出して、途端に踊り出てきた二人の二刀流剣士の斬激を回避する。

 

「あれェ?っかしいなァ?オトウサンは怪我で動けないンじゃなかッたんだっけェ?」

「ハハハッ!娘が危ないとくれば頑張るのが父親ってもんだよ?」

「娘を独りにしておいてよくいうよなァ?」

「そういう君は何者なのかな?

さっきから人の気配が僕達以外にしないんだけど?」

「コレがオマエらが知りたがってた"秘密"ッて奴だ。

せいぜい諸手を挙げて感謝して死ぬンだなァ!!」

《魔法の射手・氷の二十手》

 

空に円環する魔法の射手を繰り出し、魔法の射手が通った場所は凍りつきそれで特大の魔方陣を構成する。

 

 

「御使堕し」

 

世界が凍りついた。



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"超能力者"はマジチート、はっきりわかるね

「いや、アレ交わすとかあり得ねェだろ」

 

別に辺り一面をソドムの炎で焼き払う訳じゃないとはいえ、魔法の射手(氷)絨毯爆撃だよ?

上空に構成した魔方陣の氷が尽きるまで、しかも着弾したら爆発して辺りに冷気を振り撒いて凍結させる仕様なんだよ?

"超能力者"が作った魔法の中で三番目くらいにはえげつない魔法だよ?

そんな物を刀剣だけで斬り伏せるって、

 

「あり得ねェ」

 

この一言につきるよ。

だが、忘れないで欲しい。

上から3つ目なのだ。

寒さで動きが鈍ろうと鈍らなかろうとまだ2つほど悪夢が待ち構えているのだ。

うーん、こりじゃいくら半分ほど経験も継いでるとはいえ、俺(素人)じゃ無理だね。

 

ーそれじゃ殺さずに後は頼んだよー

《オレみたいなのにンなこと頼むのはオマエくらいなモンだよ》

 

「悪いが選手交替だァ。ちょうど試したいモンもあッたからな暇潰しだ。」

 

取りあえず、さッきのヤツが使えるかどうかだ。

 

「"御使堕し"」《魔法の射手・氷の238手》

 

主人格が使ったのはあくまで縮小版。

オレが使ったのは、空に魔方陣を書くのに最適な数を演算して効率よくしたモンだ。

 

「…………なるほどな」

 

眼前の、高速で迫る大量の氷弾とその余波を切り裂いたり、回避方向を予測して撃たれたモンすら避けきる人間を観察する。

 

(魔法とか能力とかが無い世界であンな動きが出来るのは、肉体の限界を無視しているのが正解だろォな。

ソレが原因で筋肉断裂になってもおかしくはないが、そもそもこっちとあっちじゃ人間の規格が違う。

ただ"鍛えた"でありえねェ進化をしてるンだろォな。)

 

そう解析しているうちに空の魔方陣の氷を撃ちきった。

二人は未だに健在で、余力を残してはいる。

 

 

「じゃ、次だな。しっかり受けろよ?」

 

今度は白く輝く魔力が背後に魔方陣を描く。

その魔方陣からとてつもない魔力で構成された半透明の右腕が顕現する。

 

《状況の把握を確認》

《対象の戦力を確認》

《勝利条件の入力を確認》

《必要魔力を要求》

《要求した魔力のーーーーーーー斬っ!ーーー

 

「ったく、"右腕"を切り裂くとかホントにオマエ、人間なのか?」

「ーーーぐはっ、!?」

「恭也!?」

 

父親の方がオレの背後の"右腕"をぶったぎりやがったので魔法が中途半端に中断された。

が、"右腕"の方を斬りに行った父親に支障はないが、オレを斬りに来た息子の方は太刀ごと体を吹き飛ばされた。

まァ、魔力を溜める前だったから暴発もしなかったけどな。

つか、服も凍りついてて全身凍傷の気が見られるってのにこんなに動けるってどういうことだァ?

 

「まァいいや。やっぱり魔力チャージ中の耐久度に問題があるよなァ。耐久度を上げるかチャージ速度を上げるか。

物質変換で装甲でも付け加えておくべきだったか。」

 

ドライメモリーに情報を記録させて次に移る。

 

「立ち竦んでどうしたァ?

まだまだ試したい魔法はあるんだがなァ?」

 

空に術式を大量に描いて、演出満点だなァ。

 

 

 

 

「じゃ、せいぜい足掻いて見せろよ、三下ァ!」

 

 

 

 

◇◆◇

 

「大丈夫なの?お兄ちゃんとお父さん。」

「…………オマエの時と一緒だ。

精神的に死ぬ前に引き上げてやるよ。」

 

つっても、もう終わりそうだがなァ。

ったく、娘がこんなんだから親兄弟の方も期待してたんだが、割と期待外れだ。

 

 

ーやっぱ"能力者"に任せるんじゃなかった!!ー

《どうしたァ?、主人格。そんな慌てて。》

ー本気の"御使堕し"を使う奴があるか!!

その後の"右腕"なんて"幻想世界"とか関係なく吹き飛ばすんだよ!?ー

ーうむ、あの猛攻では我もBランク級の宝具を開帳せねばならんな。それを、たかだか護身刀二本のみの達人級に向けるのはいささか豪勢に過ぎるぞ?

別に構わんが。ー

ー僕も奥の手を使っても凍ったらお仕舞いだからね。

あの後の魔法に捕縛系の魔法が無いわけないし、あの装備じゃ殺られるしかないよ。ー

《別にイイだろうが。死ンでねェから。》

ー良いから体を返しなさい!ー

ーったく、主人格はかたくるしいなァ。ー

《試すんなら前世くん相手にしなさい!

普通の人ならトラウマだから!》

 

くっそー、高町親子はチート並みに強いっていう前評判だったから安全性をとって"能力者"にしたのにっ!

"王"は慢心の隙をつかれてやられそうだし、

"英雄"は本気ださせた挙げ句に斬魔剣使われそうだから控えてたってのに!

殺しちゃいけないから、"必殺の両腕"を使わなきゃ大丈夫だと思ったのに!

とまぁ、言い訳をしてみるも、結局は俺がしたことになるんだよねぇー。

 

「はー、ったく。」

 

"幻想世界"を解除する。

ん?何時から結界の中で戦ってると錯覚していた?

"能力者"のベクトル操作で、"幻想世界"の発動条件の相手の目に魔力を通す、を強引に達成しただけですが、何か?

原作じゃあ魔法とかまではベクトル操作出かなかったらしいけど、こっちの世界に来てからはずっと魔法関連のことを演算して魔法関連まで操作出来るようになったらしい。

ホントになにで死んだんだろうね。

 

「っ!?」

「なぜ俺は無事なんだ?」

 

ーおォおォ、流石に全身氷付け、からの"七閃"でギリギリ生かしつつ切り刻んで"魔女狩りの王verプラズマ"で焼却する直前ってのは流石に堪えたンだなー

 

マジすんませんっしたーーーー!!!

 

「取りあえず、座って話しましょうか?」

「あら、家に来ても良いのよ?」

「っ、母さん!?」

 

のんきだな、この人。

まだ、能力者モードで何時でも戦えるのに。

…………そういえば腹減ったなー。

高町が昼前から来たからあんまり寝てないし、集中力使う魔法を勝手に使われた後だから更に眠い。

因みに、ドライを三徹で組み上げた後に捨てられたので、寝てる時間は皆無だったりする。

こっちの世界に来てからもまるで寝てないし、正直四徹入ってる気がする。

いくら、このチートボディとはいえ、栄養とかエネルギーが無いと倒れることもある。

 

「……………………うわっ」

 

意識無くして倒れることってあるんだね。

驚いちゃったよ。

迫り来る地面を見ながらそんなことを思ってた。




訂正したら設定が膨れた…………orz

元から計画性なんてなかったけども。

取りあえず、人格ごと主導権を移すのと、経験を引き渡せるようになりました(白目)


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再確認

「?」

見慣れない天井。

というか、二日ぶりの天井?

日常の暖かみを程よく感じる生活的な空間のソファーに横たわっていたようだ。

 

「くぅー、久し振りに寝た気がする!」

 

幼いこの体を酷使していた事を実感させる音を骨から発してソファーから降りる。

おそらく栄養失調で倒れたろうと推測されていたらしく、栄養高めのスープと水がテーブルの上に置いてあった。

 

ー流石に無理しすぎだよー

《無理さぜるを得なかったんだよ》

ーこの野郎!よくも気絶しやがッたな!

お陰で解析が止まっちまっただろォが!!ー

ーこの我の力を使っておきながら気絶するとは何事か!ー

《お前らは"英雄"を見習え》

 

記憶の三人に叱責を受けつつ、水を口に含む。

ていうか、俺が意識を失ったら他も意識無くなるのな。

初めて知ったよ。

 

ーそれは僕たちも君の生活に合わせて寝てたからだよ

いくらその体が嫌いでも、夢遊病みたいに徘徊する訳にはいかないからねー

ー解析するンなら万全の状態の方がイイからなァー

ー我のリズムに会わせられる体か?ー

 

なんたる自分勝手。

いや"英雄"は違うのか?

"能力者"は、演算領域の5割は貸してるんだからもう少し感謝してほしい。

…………、いや演算領域に関して言えば俺の方が借りてる身なんだけどね?

"王"は、確かについていけないのでそのままでお願いします。

この世の贅を尽くした王様の生活リズムに会わせてたらあっという間に堕落する。

そんな言い訳を嘆きつつ、水を飲み終わる。

 

《さて諸君。俺はこれを食べるべきか、否か。

判決を聞こうではないか。》

ーえ、食べないんですか?ー

ー食わねェのか?ー

ー我ですら飢えているこの状況ならば食すぞ?ー

 

 

確かに、今の俺は栄養失調である。

そこに異論はない。

なんせ、捨てられる前7日ほどは何も食べるものを与えられなかったのだから言い訳の余地もない。

むしろ、水だけでよく生きてこれたなと感動している。

 

だが、

 

《このうまそうなスープをこの腹が減っている状態で食べれば、それはとてつもなくうまいだろう》

ーうむ、異論は無いなー

ーそうだろォなー

ー空腹は最大のスパイスとも言いますしねー

 

その通り。

空腹は最大のスパイスなのだ。

先ほど飲んだ水ですら、砂漠の中でオアシスを見つけたときのような歓喜の念が沸くくらい美味しいと感じた。

というか、砂漠のオアシスではいささか語り尽くせていないだ。なんだったら万象の"王"の語彙力でもって語れるだけ語りたいくらいだ。

であるならば、この手心や真心こめて作られたスープを飲んだらどうなるかは推測できる。

 

《それを、前世くんと共有するんだぞ?》

ーチッ、そォいや奴がいたなー

ー不覚ッ!、あまりにワカメ過ぎてこの我が存在を忘れるだと!?ー

ー道理で前世への罰の手が緩んでいたんですねー

《なんだとっ!?》

ーあっ、大丈夫です!

僕がきっちり埋め合わせてますから!

(むしろ増し増しです!)ー 

 

いや"英雄"よ。

心の内の会話だから聞こえているぞ。

てか"王"、ワカメって。

それは罵倒でいいんだよな?

"能力者"は魔法の解析で忙しいから仕方ないのか。

 

《でどうする?食べる?食べない?》

ーくっ、この我に"待て"をさせるとは。つくづく度しがたい汚物よな!ー

ーいっそのこと殺し続けて幸福感を味あわせないようにしますか?ー

ー…………待ッてろ。後少しで感覚分裂回路を作るー

 

ー任せた!俺はちょっと前世を殺って来るー

ー我もいこうではないか!ー

ー僕は暇潰しに行きますー

 

それぞれに配分していた演算領域すら"能力者"に受け渡して、心象風景的な所に魂的な形になって避難する。

いや、頭が空っぽな人格がいたら邪魔だと思って。

 

数分後

 

"能力者"がやって来た。

背中には純白の翼が伸びて、それに付随して光輪が表れている。

この荒んだ風景で彼の白さは最早天使に見える。

 

「てかなんで翼出してるの?」

「…………早く終わらせたから俺にもやらせろ」

「あぁ、納得。じゃあ、はい」

 

ちょっと「見せられないよ!」になってた前世を、精神的トラウマ抱えた状態な上に手足が達磨な状態で復活させる。

いや、今は俺の心象内だからこれくらいは息をするように出来るよ。

 

「なら永続幻痛の魔法も解除した方がいいですね」

「そんなのかけてたの?」

「いや、解除しなくていい。代わりに感覚増幅を追加してくれ」

「え?そんな魔法あった?」

「任せてください!」

「え?あるの?」

 

ちょっと"能力者"と"英雄"の会話に呆然としてたら、さっきまで価値の無い剣で前世をミンチにしてた"王"に肩を叩かれた。

 

「我とは違いあの二人は奴への制裁に尽力することを吉としている。このような空間を与えられては際限なく開発されていくのは当然であろう」

「そりゃ、王様はあんなののために自分から動くのは嫌だろうけど、"能力者"はともかく"英雄"もそうなるの?」

「この中で言えば奴が一番歪な精神構造だぞ?

なんせ、全盛期であった晩年と未熟ではあるが世界を救った少年期の記憶が混在しているのだからな」

「え、それ初耳」

「当然だ。誰が好き好んで自らの精神は歪であると触れ回るものかよ。かくいう我も、神話の時代の記憶に英霊として顕現していた記憶が複数ほど混在している。最もマトモなのはあの白髪であろが、奴は奴で戦争とやらを乗り切り漸く望んだ生活を送れるという直前の記憶までだ。奴を生かすことに躊躇いはあれど殺すことに躊躇はしまい。惜しむべきは、我らが同一の肉体を持っていることか。だが、そのお陰で奴に無限の地獄を味合わせていられるのだ。やはり儘ならないよな」

 

わぁお、とんでもなく業が深いな、前世くん。

一番俺が他人事でいられるのは前世がないからだろうな。

 

「儘ならない現実を嘆くよりも貴様にはすべきことがあるだろう?」

「なんかあったっけ?」

「戯けが。食事という人間の根本的欲求を忘れるなよ」

「あ!」

 

ちょっと初耳なことが多すぎて忘れちまったよ。

う、肉体的な負担を背負ってるから思い出したら空腹がこっちにやって来た。

その内、あっちで張り切ってる二人にも届くだろう。

 

「王様には悪いけど、あっちが一段落したら声かけて貰える?」

「ふんっ、我の行動を制限出来るのは我が朋友だけ、とはもう言えないがやはり気が進まん。なにか奉じるがい」

「相変わらずだな、おい」

 

王様節に呆れつつも、その功績も知っているし、そうするべきなのも解るのでなにか捧げなければならないのだが。王様が満足するものかぁ。

 

「じゃ1日体を使っていいよ」

「…………まぁそれでいいたろう。日は指定するが、よいな?」

「当然」

「では任せよ。不服ではあるが、その任しかと受け取った」

 

王様は、記憶だけの存在になっても"王"なのだが、報酬があれば他人に従う位には丸くなっている。

というのも、他の人格にも言えるが、あくまで俺の人格を元にして構成されているので、本物ほど過激ではなかったりするのだ。

だが、本物の人格の方が圧倒的に人格として優れているので影響が多大に出ているのだ。

まぁ、神様に決められているとはいえ、俺の前世がアレなんだから俺も含めて恨まれてもおかしくはないんだろう。

だが、こうして俺がマトモに生きていられるのはあの三人の恩情であり、今を生きているものは生きていろ、と言われたからに過ぎない。

だから、あの三人の能力も許可が無くても使えはするが、使うのは当然のように控えている。

目下のところの俺の目的は、あの三人を生き返して、前世くんの罪状を受けざるを得なくする、というところか。

まぁ、そんな決意をしたところで、三日+1日ほど徹夜してたのは事実である。

 

 

うん、取りあえず二度寝しよう。

 

 

 




遅れました黒ザビです。
そして話が進まない件。

申し訳ありませんでした!

言い訳としては、
病室で目覚めるか、高町家で目覚めるか、の2つで迷っていたのと、他作品をふらついていました。

そして相変わらずの文字数…………。
に加え、独自設定のオンパレード。
読んでいる方に申し訳無いですが、初投稿ということで目をつぶってください!
これからも、あー初心者かー、という目線で読んでいただけると有りがたいです。


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全ての頂点は桃子さん(確信)

スープを食べた。

正直、今さっきの決意を忘れそうである。

 

ーいまだ我の知らぬ財宝があっただと!?ー

ー炊飯器以外で作られた料理がこンなうめェとなンてなー

ー美味しかったですー

 

うん。他のみんなもこうなっている。

なんというか、栄養が不足し過ぎた体に染み渡るようで一口ずつ味わって食べていた。

しかも、胃の調子と相談しながらなので一時間ほどかけて食べ終えた。

 

「ごちそうさまでした!」

 

少しお腹にはいったら余計に空腹感増すよね。

でも、栄養的に生き返ったのは事実である。

次に俺がすべき行動は、

 

《よし、逃げる》

ー逃げるがよいー

ー逃げるかァー

ー逃げましょう!ー

 

逃走の一択である。

別に魔法関連のことを教えても良いのだが、この家族の厄介になるのはしのびない。

というか、"原作キャラ"と関わってるから前世くんが狂喜乱舞しててウザい。

"英雄"が率先して潰しているのだが、火星のG並みに残機が増えているらしい。

"能力者"的には、逆にそれで殺る気が増してるらしいが、やはりウザいものはウザい。

そろそろ"この世全ての悪"が欲しくなってきたと"王"ですら呟くほどである。

そのウザさは想像を越えるものがある。

なので、俺たちの精神衛生的にここからは逃げた方が良いのだ。

今は"能力者"が作った感覚遮断で前世くんの五感を奪っているのだが、殺される度に解除されるのでキリがないとぼやいていた。

 

ガタッーーーーーシュン

 

逃げようとしたらいつの間にか頸動脈に刀が添えられていた。何をいっているのか俺でも解らねぇが、取りあえずこれは超高速というチャチなものだ。

 

「別に逃げねェよ」

「信用ならないな」

 

性格の統一を図ろうと、この息子に見せてた"能力者"風に返したらこの即答である。

まぁ、あの仕打ちを受けたらそうなるのも解るけど。

刀に当たらないように椅子に座る。

 

「で?人の食事を覗いてまで何がしたかったのさ」

「…………気づいていたのか?」

「逆に気付かないとでも?

ちょっと気配が読みづらいのもいるけど、

あんたの親ほどじゃないからね」

「へぇ、ノエルやファリンにまで気付くなんてただ者じゃないわね」

 

うん、生活的な空間が一変して戦場に変わった瞬間だね。

ぞろぞろと、なのはと母親を抜いて、父親兄姉、と夜を思わせなくもない紫髪を伸ばした女と、それに従っているだろう表情の変化が少ないであろう女と逆に表情が豊かそうな女の六人に囲まれている。

 

「一応聞きたいのだが、俺は何時間寝ていたんだ?」

「およそ六時間よ。後、寝ていたのではなく気絶よ」

 

おぅ…………そんな重症だったのか。

とはいえ、この体の性能だ。

柔らかいベッドではなく、無理な体勢を強いるソファーで寝ていたとはいえ、全ての疲労がリセットされたかのような清々しさが残っている。

魔力は満たされ、固くなっているはずの筋肉は解れている。

チート・反則・バグは、この体の為にあるのではないかと疑うくらいのスペックである。

 

「本題に入ろう。何が目的だ?」

「素直に話して欲しいのだけれど、構わないかしら?」

 

俺の目の前にいるのは、新しく増えた三人の中で夜の気配を最も強く発する女。

だが、記憶があるせいだろうが物足りないと感じてしまう。

この体も人間である以上、こうしてこの女の目を合わせていればいずれ頭をやられてしまうのだろう。

 

ーそれはないですよ。心の中に僕がいる以上、師匠の足元に及ぶ位の存在でないと暗示にはかかりませんー

ーなにより、俺達が中にいれば暗示にかかろォとすぐに察することは出来るからなー

ーだが、やはり交渉という面でいえば貴様には経験が足りない。我が出てもいいが、どうする?ー

《いらないよ、王様が出てきたらどんな発言でここが血の池になるか解らない》

 

というか、"英雄"のせいだったのか。

アメジスト色だった目を血を思わせる紅玉色に変わったと同時に、強まった夜の気配になんの影響が見られないのは。

 

「ふっ、足りないぞ?」

「っ!?、どうして効いていないの!?」

「それを説明するとなると話が長くなるが良いのか?」

「構わない。今の君は嘘をつきそうに無いからね」

 

…………、いやどうして俺が"王"の性格を少しだけ使ってることに気づくのさ、オトウサン。

確かにね?

少しとは言っても王威を放つくらいは借りてるよ?

でもさ、そこから"王"は嘘を使わないなんて解るのさ。

つか、"今の"って言った?

え、性格が似通っている"能力者"と"王"の違いをそれぞれ一回だけ見ただけで見抜いたの?

あれ?チートってこの人の為にあった?

 

「では話そう。といっても映像を見せるだけだがな」

 

ドライで管理局の発展具合と、その原因である魔法をあらかた見せる。

 

「こんなものが民衆に広がっているの?」

「魔法を頻繁に使っているのはリンカーコアと呼ばれる空気中にある何かから魔力を製造する臓器、もしくは器官の性能の良し悪しで決まる。良ければ年齢を問わず管理局の士官学校へ入学し将来は管理局の一般兵に早変わり。

悪ければここと大差無いが文明レベルが違うからな。

普通に交通機関は制御されていて、オート自動なんぞは一般化されているし、オートでなくとも周囲の交通情報を写し出す機能は普通に汎用されている」

 

戦闘や管理局の仕事には耐えないが、エンジン用の小型魔力炉もある。頑張れば、魔力爆発をそれで起こせるレベルではあるのだ。

 

「そんな所からわざわざこんな辺鄙な世界に来るなんて物好きなのね」

「ハッ、嫌みか貴様。俺の状態を見たならば捨てられたのだとすぐに解るだろう?」

「そこよ。そんな便利で豊かな世界なら、どうして貴方みたいなのが生まれるのかしら?」

「なに、それは俺が他とおかしいからだな。こうして貴様と面と向かって会話している時点で分かっているだろう?」

「まぁね。恭也から聞いたのと口調も違うけど、教えてくれるかしら?」

「構わないが、俺も話すことがあることも忘れるなよ?」

「えぇ。その代わり本当のことを話してもらうわよ」

 

別に話すことは本当だが、話さないことは構わないよな?

ていうか、説明することもあんまりないんだが。

 

「単純に云えば先祖の記憶が他にあるだけだ。もちろん、他にも記憶のあるやつもいるが、大抵が一つしか持っていなが、俺は他に三つある。そのせいで意識が圧迫され、毎夜呪詛を寝言として発していたらしい。まぁ、よくこの年まで育ててくれたと感謝しているぐらいだがな」

「なるほどな。それで今とあの時とで性格が違うのか」

「戦闘を行えたのも、あの世界の戦乱期の記憶だからだな。中央は平和になったあの世界では俺のような奴は排斥されて当然よな」

 

少しは心当たりがあるのか全員が納得した顔をしている。

 

「俺が残していくのはこのデータだ。端末を寄越せ」

 

"高町なのは"との戦闘映像のデータを空中投影ディスプレイに写してから、交渉というより話し合いをした女から受け取ったUSBに保存する。

 

「後で見て、もしこのような事態に巻き込まれるようなことがあればあの娘に俺がいる場所を教えともらうといい。それ以外では受け付けないがな」

「ならあなたも約束して頂戴。私達のことを誰にも話さないことと、なのはちゃんに危害を加えないことを」

「ハッ、むしろ貴様らの方が誓えよ。この俺の存在をどの機関にも通告しないことをな」

 

それだけ言い残して、公園のダンボールハウスに転移しようとしたら声をかけられた。

 

「待ちなさい」

「?、娘の母親か?ごちそうになりました」

 

あれ、王様の人格が剥がれた?

 

ーな、なんだあの王威は!?ー

ー…………なンか黄泉川を思い出すなー

ーあれ?なんか背筋に寒気がー

 

ん!?

三人が動揺してる!?

それが伝わって俺も足がすくんでる気がする。

 

「貴方の住んでるところは何処かしら?」

「え、えぇと…………」

「ど・こ・か・し・ら?」 

「ヒィ!?」

 

え、ちょ、なにこれ?

笑顔なのに怒気が伝わってくるよ!?

 

ー凄まじい王威だなっ!ー

ーこりゃ終わッたな、経験的にー

ー首に縄が回ってる気分ですね!ー

 

あるぇ?三人が中にいながらにして怯えてんですけど!?

ちょ、マジでこの人何者!?

 

「え、えと、ダンボールです?」

 

「………………………………」

 

 

え、この空白怖い。

 

 

 

「ご飯、うちに食べに来なさい」

 

 

ー諦めろー

ー諦めましょうー

ー…………諦めるしかねェなー

 

 

三人が降服しただと!?

 

 

 

 

「来なさい」

 

 

 

だめ押しの一言で三人からの反応がなくなった!?

てか、前世くんが死んでるだと!?(精神的に)

 

 

「は、はい…………」

 

 

なにかと頼りにしていた三人の降服により、心が折れてつい了承してしまった。

 

「録音してたわよね?」

 

 

《イエスマー!》

 

ドライまで!?




やってしまった感が強い…………。
ま、まぁ、ストッパー役も必要ということで…………。
主にワークくんの健康面の。


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やはり高町家の戦闘力は間違っている

桃子さん降臨事件の次の日、俺はダンボールハウスの説明をした。

ダンボールハウスと言っても実質は全然違う。

まずは外側。

レアスキル・情報改変を使って、ダンボールに防水・防腐・耐炎・耐衝撃の情報を付与させている。

なので、雨が降ろうか、火事が起ころうが、辺りに物体を腐らせる物質が蔓延しようが、建物が倒壊してこようが耐えきれるのだ。

これと株である程度たまっていた(ドライに丸投げして)貯金を見せてどうにか説得が成功して、週一一食で交渉が終わった。

あのときの周囲からの憐れみの視線は忘れられない。

 

 

ーあれから前世くンの反応が途絶えちまッたがなー

ーきっちり追い詰めてますよ!ー

ーうむ、大義であるー

 

1ヶ月たっても俺の中の三人は相変わらずだなぁ。

死んだ目をしてこんなことをしている俺の身にもなってほしい。

いや、王様は絶対堪えないだろうから"英雄"か"能力者"にケモミミつけて主導権渡してやろうか?

 

「こら、そんな怖い顔しながら接客しないの」

「美由紀か。というか、なぜ俺はわざわざ成長魔法を使いながら執事の真似事をしているんだ?」

「見た目だけなら似合ってはいるのよね。成長魔法のお陰で体つきは無駄が無いし、設定してる身長も大きいし、背筋も伸びてて本当に執事よね」

「自覚は無いがな」

 

口調も少し見た目年齢を意識している。

高町姉を名前で呼んでるとか…………。

その前に、何故こんなことをしているかというと、週一とはいえ飯を貰うことになるのだから何かしらは返さなければならないだろうと高町父に聞いてみたら、店の手伝いでもするかい?、と言われた。その会話を目ざとく?聞いていた高町母に接客を強く押されて今に至る。

 

「うん、訳が解らないよ」

ーインキュベーターすンなー

ーどうせ絶望させるならあっちを絶望させてくださいー

ー良かろう!なるば我が手ずから引導を渡してやる!ー

 

あるぇ?独り言すら呟けんのか!?

 

「あぁ、店が終わったら恭也が一戦やろうって言ってたわよー」

「了解だ。覚えていたら行く」

 

覚えていても行かないがな。

誰が好き好んで"御使堕し"凌いだ片割れと試合をするんだよ。

武術系に特化したのは"英雄"しかいないからね。

他の二人は殲滅とか虐殺とか、とにかく一方的な戦闘経験しかないしねー。

 

ー我とマトモに試合が出来た者は我が朋友しかいないー

ー反射してれば勝手に自滅していく雑魚とどう戦えッてンだー

ー僕は二人と違ってただ魔力がある英雄の息子からだったし、僕より強い人はたくさんいたからね。武術一つとっても無駄には出来ないよー

《そこら辺は踏破者と覇者の違いだろうけど、最後の方は"英雄"もあんまり変わんなくね?》

 

マルチタスクの隅の方で接客をして、残りで三人と会話しながら作業を終わらせる。

 

「よしっ、帰るか」

「一戦してからな」

「ご飯食べてからね?」

 

ファッ!?

 

こんな危険人物達の接近に気づかなかっただとぉ!?

両肩をぐわしっ!って感じでいきなり掴まれてたが、そのあとすぐに背筋を凍らせる殺気と覇気で抵抗を封じられた!?

 

「行くよな?」

「あだだだだだっ、いくいく、行きますから!」

 

肩がっ、肩がぁぁぁあ!

てか、高町母に捕まれてる方は全く動けないんですが!?

 

「それが終わったらご飯の準備よ?」

「はい!!」

 

ギアスかなんかですか?

 

「片付けは私がやっておくから、ワークくんは好きにしていいわよ、恭ちゃん」

「なぜ美由紀が決めるんだ!?」

「ほぅ?」

 

っ!?

なんで"能力者"の記憶の中でも十指に入る殺気を背後から感じるんだ!?

 

「美由紀を名前で呼んでるのか?」

「仕事でこの格好の奴が「問答無用!!」えー」

 

訳が解らないよ。

 

あれよあれよで道場に到着した。

 

「しかし、貴様の構えは相変わらず掴めないな」

「魔法込みの格闘術の構えをたかだか二、三日稽古に付き合っただけで捕まれてもこまるな」

 

両脇に肘を納めて前傾姿勢になり、腰を落として足を斜めに開く。

瞳孔を意識して目を細めて相手の動きを筋肉から予測する。

相手が複数なら悪手以前の論外な相手の見方だが、あくまで稽古なので気にせず意識を高める。

 

「その魔法があるせいで発勁の訓練をしている人間から多大なクレームがあると思っておいた方がいいぞ?」

「はっ、使えるものを使って何が悪い!」

 

発勁は、水分豊富な水袋(人間)に衝撃を与えて内側の水圧で袋を弾けさすのがコツだ。

流石に弾けるのは言い過ぎだが、袋(皮膚)が内側からの圧に耐えるため内蔵が先に壊れるのだ。

その圧の掛け方は、袋の一部を押す感じで中の水の形を歪め水圧を変化させるのだ。

まぁ、そんなあやふやな発勁だが、コツは袋を破らないように細い打撃を与えることだ。

だから、魔法障壁を先を細めた円柱を拳に張って、ドアノッカーの様に押し出せば、状況による変化についていければ簡単に発勁が使えるようになるのだ。

相手が魔力を使用できる人間ならば通じないけどねー。

 

 

「触れるだけで、どんな体勢からでも放てる発勁が有ってたまるか」

「たからこの試合は俺が触れるだけ、お前が急所に木刀を当てるだけで成立するんだろうが」

 

発勁を試合で使えるわけがないだろうか。

その練習を適当にしてたらバレて戦闘狂に捕まった。

 

「では、初め!」

 

高町父の合図で、"対象物指定ベクトル操作"を行い、俺の足が地面に与えるベクトルを地面に反射させ、まっすぐ跳ぶように走る。

対する高町兄は小太刀の剣域に入ったら刻むという迫力を持って構えている。

 

「杜若・四連!!」

 

剣域に入った途端の太刀・小太刀での斬撃の霰を剣域の中での身動ぎで避けて進む。

太刀一・小太刀三の連撃のインターバルの間を突いて逃げ場を無くす振り回しのラリアットを放ーー

 

「っ!?ーー杜若ァ!!」

 

目の前から消失した高町兄の気配が頭上にいきなり表れたので、踏み込んでいた右足が与えたベクトルを増幅させて後ろに吹き飛び、空中で回転して威力を流した上で、獣の様に手足四本を使って衝撃を流し着地する。

 

「ほぅ、便利だな、これ」

「いや、ちょっとまて。どうして地面の上で跳ねる様に動けるんだよ!?」

 

今のは、確かに俺が使った移動方法だ。

"ベクトル操作"で地面からの反発力を増幅させることで、両足以外の力を使えるようになり、威力・速度ともに上昇する歩法なのだ。

 

「お前が使っていただろう?

御剣流にも歩方の一つや二つはある。

それの応用だ」

「簡単に言うな!?」

 

えー、つまりこの試合の中で歩法を身に付けたの!?

マジでバケモンだ、この人。

 

「むー、恭ちゃんずるいー」

「なんでお前も出来てるんだよ!?」

 

もう発狂していいかなぁ!

 

「まだ試合は終わっていないぞ?」

「チッ、たかだか一つや二つ、物真似したくらいでイイ気になッてんじゃねェぞ、三下ァ!」

 

思わず他の性格の仮面を被るくらいには精神的に追い詰められてます。

泣きたい……………………。

 

 

◇◆◇◆◇

 

かれこれ三時間は戦ってる。

正直キツイ。

 

「飯時前だ。やめるぞ」

「だはー」

 

道場の冷えた床に突っ伏す。

あーきもちー。

 

「体力が足りないな」

ーだれた姿を見せるな、未熟者が!ー

ー演算能力の方もガタがきてンな。何時も張ってろっつッた反射が切れてンぞー

「いや、幼児になにいってんだよ」

 

突っ伏した時点で成長魔法は切れてるんだぞ?

児童虐待で訴えたら勝てるんじゃないの?

 

「ったく、運んでいくが、いいな」

「頼んだ」

 

筋肉がボロボロ?なのかな。

一応、ベクトル操作して返ってきた力の制御しきれない分に耐えられる位には鍛えてるんだけどなぁー。

 

ーそれは僕の再生能力も入ってるからノーカウントですー

《ぐはっ!》

 

実はなにもしてなかっただと!?

発勁しかり、ベクトル操作しかり、魔法しかり、

俺ってなにかしたかなぁ。

 

「気落ちするな」

「高町兄?」

「お前が引き継いだ記憶を見たが、どれも1級の戦士と言える。それには及ばないまでも俺もそれなりの戦士ではある。記憶の力を借りてるにしても、俺と打ち合えるのなら成長すれば十分に強くなるだろうさ」

「…………知ってるさ、それくらい」

 

いづれこの記憶も一つになると王様からも伝えられている。

他の三人に乗っ取られないようにするためには俺も精神的に強くならなければいけない。

正直、この試合は有りがたいのだがレベルが違いすぎる。

 

「早くしないとお母さんに怒られるわよー」

「なんでお前も跳ねてるんだよ!?」

 

端で見てただけの高町姉が歩法を身に付けてた。

 

ー凄まじい習得速度だなー

ー俺達でもあり得ねェぞー

ー高町家は戦闘一族の信憑性が増しますねー

「ぐすんっ…………」

 

◇◆◇◆

 

高町母と高町姉との料理の手伝いである。

ある意味地獄の共同作業である。

 

「でもその年で恭ちゃんと戦えるなんて凄いねぇ、お姉さんちょっとショック」

「いや、だから記憶のお陰ですから。俺の中にある記憶は戦争時代だって言ったでしょう?その中の達人級の、というか反則級のやり手の記憶ですから、そこから経験を抽出すれば戦えなくも無いですよ」

 

大人モードで包丁で皮を剥きながら会話する。

マルチタスクで視界から入ってくる情報を一つ一つ整理しながら、高町姉の異常な作業を片手で止める。

 

「なぜカレーに桃が入るんだ!?」

「え?」

「あら、そんなもの入れようとしてたの?」

 

どうやらこの姉、料理中の台所に神出鬼没に表れて気づかぬ内に一品台無しにしていくらしい。

自分の意思で、こんな隠し味で、みたいな気持ちでやっているらしい。

その歯止め役を任されたのだ。

たまに、一品自分で作って普通に夕飯の中に混ぜてくるとも。

 

今は、高町母にこんこんと料理教室をされている。

 

「ワークくん!缶壊れちゃった!」

「大きな声で言わないの」

 

高町娘の魔法教室は午前中に開いたので、課題である

空き缶のリフティング百回を壊さないように威力を調整しながら続けるのを目標としている。

リフティング百回?

最初から成功しやがりましたが何か?

その空き缶は、フタの部分しか残っていなかった。

流石に豆粒程度の魔力弾なら穴だらけになるだけで済むのだが、百回行く前に落ちる。

だから、豆粒程度の魔力弾で打撃系の攻撃でリフティング出来たら、魔法を使った格闘戦に移行するといったある。

集束砲の威力は、使う記憶がいないから教えられない。

ただ、そんなちまっこい作業をしてるとストレスが溜まるのも事実なので、ストレス発散として結界の中で戦っているのだ。

 

「明日のお昼にな」

「はーい」

 

楽しそうに笑っちゃって…………。

それに付き合う俺は記憶から力を借りてないから死に物狂いなんだけどなぁー。

 

「あ、出来たわね」

「んじゃ、晩御飯にしましょうか」

 

 

◇◆◇◆

 

 

夕飯を食べ終わった。

なぜか、高町娘からも生暖かい目で見られていた。

 

「じゃ、また明日バイトに来るんたぞ?」

「りょーかい、サー」

「明日は昼終わりなのよねー、残念」

「そんな頻繁にお世話になれないですよ」

「有能で客寄せが優秀の週四のバイト台は夕飯四食じゃお釣りがくるよ」

 

最近、高町父からも包囲網を敷かれ初めている気がするんだよ。

 

ー我達の顔を使っていることもあるだろう?

いくらあの夕餉とはいえ、余ろうよー

ー対価としては十分ですが、こちらが手を焼き過ぎてる気がしますねー

ーあぁ、俺らの顔も使ってンだッたら尚更なー  

 

高町家から去っていき、公園のダンボールハウスの帰路を辿る。

今日も疲れた。



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幕間 王様の記憶 前

今はもう冬で夜だ。

ダンボールハウスには耐冷加工が施されてはいるが、地面から忍び込む冷気には対応していないので、暖を取らないと少し辛い気温になっていた。

 

「まぁ、冬だし、当たり前だよな」

 

温暖化なんぞ目でもないのか、着々と降り積もっていく雪を見ながら、缶コーヒーとお湯を注いだだけの紅茶を交互に口へ運ぶ。

これをしないと、英雄と能力者の機嫌が悪くなって、それに続く形で俺も気が立ってしまうのだ。

毛布にくるまっているので、お湯の為に起こした囲炉裏の火に気を付けつつ寒さを凌いでいる。

 

ーこういう日は奴を思い出すよなー

「奴って誰さ」

 

王様が声をかけてきたので返答するが、未だに統一されていない頃の記憶を持ち出されたので返答に困った。

 

ー我が拷問屋の真似事をしていたときにな。唯一口を割らせられなかった。むしろ、逃亡を許した男の話だー

「…………まじで?」

 

真似事とはいえ、王様がその職務の間に見逃すことがあるなんて。

いくら、王様の能力を極力使わなかったとはいえ信じられる話じゃない。

 

ーハハハ!むしろその逃亡に我が財を投じて協力までしたぞ!ー

「いったいどんな愉快な奴だったのさ

てか、王様の過去話なんて珍くて他の二人も出てくると思うんだけど今は王様だけ?」

ー他の二人ならば雑種以下の塵潰しに執心している。それよりも、我の話を聞けー

「聞くよりも同調した方が早いと思う。

もう眠いし、他の二人が別のところにいってるんならなおさら」

ーなら疾く寝るがよい。夢にて我の記憶を閲覧しようではないかー

「あの映画館みたいな奴?

最近使ってないけど大丈夫?」

ーこの我のものだぞ?

手入れは万全だー

 

我のものって。

他の二人も含めて、ワーク・フライの人格を乗っ取った派生の癖に何を言ってんのやら。

まぁ、それを言うなら心の人格相手にわざわざ口答で返してる俺もなにしてんだか。

四徹した疲労が精神を襲い、王様からの呼び出しに応えるように俺の意識は内に落ちた。

 

 

◇◆◇◆

 

「相変わらず古くさいなぁ」

 

年期の入っているのに手入れがまるで施されていない寂れて埃の臭いがする。

実際に、座るには抵抗のある位には埃が席に被っている。

 

「はっ、やはり貴様の世界は寂れた空間よな」

「その寂れた人格に影響されて本来の輝きを失ってる王様に言われたくはない」

「ハッ、この我は貴様の派生だ。むしろ此処まで我の色が濃く反映されている貴様の脆弱さを恥じろよ」

 

…………まぁ見ようによっては同一人物だしね。

だが、元が一緒とはいえ此処まで影響されてると同じとは認めたくない。

いや、その内同じになるんだけどさ。

 

「が、この我の記憶を閲覧するのだ。この様な寂れた場所で見るには不相応だ。どれ、我が場を整えてやろう」

 

王様の魔力が俺の世界を塗り替えていく。

流石ほぼ同一人物とだけあって、苦痛を伴う侵食と違ってゆっくりと溶けいっていくように場が変わった。

 

「相変わらず目に優しくないなぁ」

 

金色が視界を埋めつくし、天井の照明の光が乱反射して輝きまくっている。

そこに申し訳程度の紅いクッションが金色の椅子置かれている。

座席の配置もまるで変わって、取り合えず数を揃えただけの俺の世界から一辺して、観るものを選別するかのようにたった2つの椅子が並ぶ。

その2つの椅子ですら装飾が異なり、片方は王が座るかのように全てを見下ろすかのように高いうえに豪奢な装飾が施されているが、もう片方は罪人が座るかのごとく背もたれに刺さる剣の装飾が際立っている。

 

「オイコラ、どういう意味だ、これ」

「カカッ、貴様は罪を望んでいるのだろう?ならば相応しい装飾であろうに」

「あのなぁー、せめて前からにしてくれよ。これじゃあーー」

「まるで我達から刺されているよう、か?」

 

この厭らしい笑みは確信犯な上に愉快犯か。

悪趣味な奴だよ。

いつかこれと混ざり合うのかと思うと、

 

「カカッ、呑み込んでやるから覚悟しろよ?」

「ハハハ!上等だ!その覚悟味わってやろう!」

 

本当に悪趣味だな。

その悪趣味な黄金の椅子に腰をつける。

眼前に広がる黄金に呆れてから、特に気になったことを聞く。

 

「銀幕ならぬ金幕とか、映るの?」

「ウルクの文化を嘗めるな、と言いたいところだが、ここはベルカの文化を嘗めるな、が正解だな。空中投影なんぞ我が此方に喚ばれた頃から存在したわ。それに、視覚で見るのではない。頭の中に写すのだ。銀幕など只の飾りよ。元々、此処は下らぬ神のお節介から生まれたものだ。使う価値もないわ」

 

そういえば神様嫌いでしたね。

 

「では始めるぞ、眼を閉じろ」

「夢の中で夢を見るとか」

 

そうして夢のなかで夢に落ちた。

 

◇◆◇◆◇

 

そこは牢獄にも似た教会の一室だった。

外の冷気は入り込まず、戦火にて汚染された空から降る灰色の雪はこの部屋にある唯一の窓ガラスに遮られ、中に籠る暖炉の熱で溶けている。

地下ではないが、そもそもこの教会自体がコレを封じ込めるかのように存在していた。

 

「まぁ、怪物たる私を閉じ込めるには些か足りんが、致し方無いだろう」

 

チラと、霜が降っている窓ガラスに写る自分の姿を見る。

金と碧銀が入り交じる長髪に、紅と蒼が混合した右目に碧と紫が混合した左目。

その瞳孔は蛇の様に縦に裂け、私の元になった二人の人物とは気色の違う鋭い目付き。

口角のつり上がった顔は厚顔不遜で何者をも寄せ付けない拒絶の意思を示している。

 

「あははー、やっぱりどっちにも似てないんだよなー」

 

記憶に残ってる王様の方の口調を真似ては見るけどやっぱりダメだねー。

顔の方も破顔しちゃったし、もうやめよーっと。

今度は表情が緩すぎて清廉した二人とはぜんぜん似てないよね。 

記憶だけあっても人格とか真似できないや。

 

 

ーえ、どゆこと?ー

ーこの時の我は魂だけ喚ばれたのだ。記憶はそれに付随しただけだな。人格は貴様の様にマルチタスクを振り当て 無いかぎり今の我でも存在しない。というか、なぜ貴様は乗っ取られるのが解っていて人格を寄越したのだ?ー

ー三人分の記憶と魂とか一辺に纏められるわけないだろ!?ていうか、薄々気づいてたけどやっぱ乗っ取られてたよ!ー

 

 

ん?なんか変なのが間に入ったかな?

 

「しっかし、こんな王様の記憶の中でも真ん中より上の体をほっとくなんてもったいないなー」

 

王様が嫌う位のサイズだけど胸も有るし、少ない食事しか与えられないけど両親からの遺伝なのか細い割に筋肉がついてる。

背丈も父親の方に似たのか女子にしては結構高い。

こんな狭い部屋に閉じ込めるには勿体ないよ。

いや、好き好んで娼婦とかやりたくないけど、こんな神殿レベルの牢獄に繋げとくには資源の無駄だよ。

 

「あー、でも暇ー、早く次の仕事来ないかなー」

 

そんな事を考えながら用意された無駄に豪華なベットに体を放り投げる。

何処までも沈んでいきそうな羽毛に包まれて、暖炉の温度で睡魔がちょうど迫ってきた頃、この部屋の入り口が乱暴に開けられた。

 

「おい!仕事だ!起きろ!」

「五月蝿いなぁー、そろそろ寝れそうだったのに」

 

将軍ではないけどそれなりの地位にいる軍属の兵士がバインドで縛られた兵士を連れてきた。

体はもちろんぼろぼろだけど、目の光の光度から心の方もぼろぼろなのが見てとれる。

 

「?、もう大分やり尽くされてるじゃん。私の出番は無さそうだよ?」

「いや、今回は違う」

 

うっわー、その笑いかた厭らしいよ?

そんなんでよく部隊長やってられるよ。

あ、でも王様と比べれば塵と変わらないし、本当に一般兵だね。

 

「貴様にはコイツとの子孫を残してもらう。当然、拒否権はない!」

 

それだけ言い残して一般兵くんはドアを乱暴に閉めて去っていった。

この暖炉で暖められた部屋に心身共にぼろぼろな兵士と呆然としてる私の二人が残されていた。

 

「で?なんでそんな有り様になってるのさ?」

「…………ぅ………ォリヴィエ?」

「む?」

 

改めてこのぼろぼろ兵士を観察してみる。

碧髪にハイライトが消えて黒ずんだ碧と紫の目に、薄碧色のバリアジャケットも最前線で酷使されたままそのままの状態で放り出されたみたいだった。

ていうか、視力も肢体の力も潰されてないかな。

 

「…………、天下の覇王様がなんであんな一般兵に捕まったのさ」

「ッ……………………」

 

ありゃま、心身共にぼろぼろだったのにまだ追い詰められる心の余地が有ったんかい。

だけど体の方はまるで反応無しと。

 

「はー、我が望みは消耗の補填なり」

 

こんなのと情事をしろと言った一般兵に呆れながら、本格的に両親と似てない部分の回復魔法を使う。

両親は近接格闘専門だからねー。

母親の方なんか怪我の心配がない自動防御があるからね。

虹色の魔力光に碧色の光を溢す三角形の魔方陣を覇王の頭上に展開して傷と消耗を癒す。

 

「!?」

「お、全部治ったみたいだね」

 

私から飛び退くように距離をとった覇王。

無闇にこの部屋を燃やされないように私の背後に暖炉があるが、その代わりに窓を取られたのはマズイかな?

 

「何者だ!」

「自己紹介?なら私は14896号だよ、覇王様」

「番号?」

「で、名乗りを上げたのに覇王様は名乗らないの?」

「…………クラウス・G・S・イングヴァルト」

 

うーん、そんなに警戒しないでほしいんだけどなぁ。

まぁ、しょうがないよね。

 

「じゃ、拷問屋らしく早速質問だよ。さっきも聞いたけどどうして覇王様が捕まってるのかな?」

「…………」

「ありゃ、沈黙ぅ?なら勝手に推測しちゃうよ~?」

 

覇王流とやらの構えを取って警戒されている覇王様の気を抜くようにゆらゆらと両手を背中に隠して近づいていく。

 

「えーと、さっきオリヴィエって聖王様の名前を呼んでたから、順当に言えば聖王様がらみだよねー」

「…………それがどうした」

「またまたぁー、無理しちゃって~。私に覇王様との子供を残せって命令が来たってことはぁ~、聖王様は世界を終わらせる為に命を懸ける覚悟が決まったってことだよねぇ~?」

 

ー拷問っていうか尋問じゃね?ー

ーというか、我ながらウザいなー

ー…………王様も大分俗世に染まってるよねー

 

「てことはー、最終決戦用宇宙兵器(笑)"ゆりかご"に搭乗しちゃったのかー、あの一度乗り込んだら絶対に使用者をつかんではなさない変態兵器に。いやー残念。私結構あの王様好きだったんだけどねー」

「…………」

「あららぁ~、ここで沈黙するってことは搭乗阻止しようとしたのかなぁ?」

 

私の言葉が投げ掛けられる度に覇王様の拳に力が込められていく。

いやー流石覇王様だね!

普通ここまで挑発したら殴り掛かってくるよ(多分)

でも残念。

ここからが本番だよ?

 

「でぇ?やっぱり負けちゃったのかな?」

「ッッ…………!」

「おぉー、拳から血を流す位我慢してるよ!別に私相手に我慢する必要なんて無いよ?年齢も覇王様の子供くらいだしねー?」

「…………此方からも質問しても言いか?」

「ん?なんか質問されることあったっけ?」

 

おっと、覇王様が構えを解いたけど、雰囲気的にも危ういし、やりすぎちゃったかなー?

 

「お前はなんだ?」

「えー、そんなことぉ?分かりきってるでしょうに。この四色混合の虹彩異色に見覚えのある薄い碧と輝く金髪に、極めつけは私の名前が番号。こんなにヒントがあるのに分からないなんて本当に王様やってられたの?」

「やはり、お前は…………」

「そうだよー、覇王様と聖王様の髪の毛とか血液から生まれたハイブリッド生命体!、ってのを銘打って創られたクローンの唯一の成功作品だよー」

「バカなッ!そんなことが許されるはずがない!」

「いや、戦争中だよ?なんでもありに決まってるじゃなん。まぁ、私の他にも二万体くらい製造してたらしいけど、みーんな魂的なナニかが足りなくて死んじゃったから大丈夫だよー」

 

聖王×覇王のハイブリッド。

つまりは、完全自動防御の"聖王の鎧"を行使できる努力の天才の覇王様に才能の天才の聖王様が二万体ほど戦場に放たれる。

地獄絵図だねっ!

 

「ならお前には魂が宿ったのか?」

「反則気味だけどね。しっかりと宿ってるよ」

 

ーん?これって王様のこと?ー

ーうむ。その通りだー

ーてか、この話王様とあんまり関係無くね?ー

ーあのようなふざけた性格ではあるが、あれも我の可能性の一つ。あの娘の人生に影響されたにすぎんー

ーえ、あの子、王様と統合してああなの?ー

ーそうだぞ。強靭な自我よなー

ー解せぬー

 

「つまりお前は…………」

「そ、クラウスとオリヴィエの、限りなく曲解すれば子供だよ。始めましてだね、おとーさん」

 

これでも結構嬉しいのだ。

私の素になった人間が、こんなに正しい人間というのは。

 

だけど、赦せないことはある。

 

「で?おとーさんはなんでこんな所に止まってるのかな?」

「なんで、と言われてもな…………。俺はオリヴィエに、オリヴィエを救うことを拒絶されたのだ。他でもない、俺が力不足というのを見せ付けられてな。今さら助けなど行けぬさ」

「はぁわかっていない。わかっていないなー」

「お前に何がわかる。お前は確かに全力を出して負けたのだ。今さら俺のような敗者が助太刀に行ったところで邪魔になるだけだろう?それに、たった今俺と出会ったような奴が解ったような口をきくな」

 

うんうん、そんなことで王様の覇気を出しては欲しくないけど、おとーさんの言っていることは概ね正しい。

誰しも自分より弱い奴に助けられたくはないだろうし、そんなのが助けに行ったところで確実に邪魔だと思われるのが関の山だろう。

 

だけどねぇ?

 

「惚れた女に負けた程度で貴様の愛は諦めるにたる物だったのか?」

「は?」

「おいおい、我の親であるから王と名乗るのを許しているのだ。貴様が王の器ではないと判断したら即殺すぞ?」

「なっ!、お前は誰だ!?」

「今さら構え直した所で遅いわ」

 

この人生では使わないと決めていた何者をも縛り上げて拘束する鎖の宝具でおとーさんを縛り上げる。

 

ーえ、あれ?天の鎖使ってるけど良いの?ー

ー構うまい。父に叱責をくれてやるのだ。朋友も喜んで縛り上げているだろう?ー

ーヤバい、ウルクコンビの基準がまるで分からない。てか、さっき人格の真似は出来ないとか言ってなかった?ー

ーアレは奴が意識してやっているだけよ。すぐに化けの皮は剥がれるー

 

「誰だ、という貴様の問いだがな。もう既に我は言ったぞ?あわれな増産兵に魂が宿ったと。既に解の出ている問を投げるなよ」

「それがお前なのか!?」

「まーねー」

 

ーはやっー

ーふむ、十五秒と言ったところか。こやつにしては持った方だなー

 

「それより私の質問に答えて欲しいなぁ?どうして惚れた女に負けただけですっぱり諦めてるのさ。もしかして、おかーさんはそんなに価値の無い女だったのかな?」

「そんな、わけが!!」

 

おおぅ、魔力が溢れでてるよ。

あれぇ?おかーさんに負けて魔力も尽きかけてたんじゃなかったの?

私の魔法でも魔力は回復しないよ?

 

「だったらどうして助けにいかないのかなぁ?おとーさんは本当に全部の可能性を考えた?"ゆりかご"に乗った位でおかーさん、諦めちゃうの?」

「誰が、好きで諦めるものか!!」

 

おとーさんの目から諦めが消えちゃったよ。

そんなに娘(偽)からの言葉は刺激的なのかな?

 

ーいや、お前の煽りが上手すぎるだけだー

ー我直伝だぞ?当然だろう!ー

 

「口で言うのは簡単だけど、その鎖くらいはどうにかしてほしいなぁ?おかーさんはそれ以上の呪縛で閉じ込められてるんだからさぁ?おとーさんが、肝心な時に負けちゃったせいでねぇ?」

「こ、っの!言わせておけば!!」

 

お、後一押しかな?

じゃあ、なに言おうかなー。

おとーさんがおかーさんに負けっぱなしなのはいったし、おかーさんが"ゆりかご"に搭乗した時点で諦めたことは馬鹿にしたし、おかーさんはそれだけで諦められる存在だったのかーとも言ったしなー。

結構言い尽くした感がある。

うーん、後はー…………あ!

 

 

「好きな女の子に告白できない不甲斐ない覇王(笑)

いっそのことヘタレ王とでも改名したら?」

 

 

あ、あれー、覇王様から反応が消えたよ?

 

「フ、フフ、フフフ、言ってはならないことを言ったな。いくら王宮の影でこそこそ言われていたこととはいえ、面と向かって言われるとはな…………」

 

お、おう。身内からも言われてたの?

 

 

 

「貴様は俺を本気で怒らせた!!!!」

 

 

 

わぁお、魔力とただの筋力で宝具レベルの鎖を吹き飛ばしちゃったよ。

 

ー粉砕した訳じゃない。ここ重要ー

ーハッ、あのような雑種に壊される朋友ではないわ。だが、神性が無いため縛りが緩んでいたとはいえ我が朋友から抜けるとはなー

ーまぁ、魔力封印とかはしてなかったしねー

 

「決心が新たに着いたのは良いけどどうするの?方法はあんまり無いよ?」

「…………そうだな」

 

私はベットに腰を掛けて、おとーさんは立ったまんまなにかを考えている。

 

「ま、私にはあるから、とりあえず"ゆりかご"に行こうか」

「あるのか!?」

「あったり前じゃん!私の魂に誓って嘘はつかないよ」

「?」

「ふふーん。最初で最後の親孝行だよー。だからこれからの親孝行は期待しないでね?」

 

◇◆◇◆◇◆

 

というわけで現在飛行中。

淡い碧と虹色の魔力光の尾を引いて戦火で荒廃した空を走る黄金の謎飛行体に乗っている。

 

「いや、お前が出したんだろ」

「だってこれ出したの今日が初めてだし、詳しく把握なんてしてないよ」

 

ー正式名称は天翔る王の御席。読みはヴィマーナだー

ー見た目はくり貫いた地面を地縛神的ビジュアルに加工した玉座にしか見えないんだが、あの機能はマジで異常だなー

 

ヴィマーナの機能である障壁っぽい何かで流れていく灰混じりの黒い雪を眺めつつ、眼前の敵を一瞥する。

 

「相変わらず使い捨てのマリアージュが頑張ってるなぁ~」

「それを一発で数十体は消し飛ばしてるその武器はなんだ」

「アハハハー。使い回しで自立してない傀儡なんてC級宝具で十分だよね!」

 

常にヴィマーナの背後に控えさせた数十の黄金の渦から、AAAランクの魔力が込められた武器が雨霰のように射出され、"ゆりかご"を落とそうとしている冥王が生み出す傀儡の使い捨ての兵士であるマリアージュを殲滅していく。

ヴィマーナの加護、もとい神秘の籠らない攻撃は全て弾くというワンダフル機能を越えられないため、それはもはや作業として覇王の目には写っているだろう。

 

「まぁ、これもこの時代だったら三年修業した英傑なら余裕で越えられるらしいけど、冥王の所に捕まってたから知ってるけど、マリアージュって誕生して数分もしない内に転移で戦場に飛ばされるんだよ?」

「だが、アレには経験の共有があるだろう?三年の月日は踏み越えてもおかしくないが…………」

「意思が介在しないものに神秘は宿らない。これ常識」

 

会話の間に黒くて分厚い雲を抜けていた。

時折雲を吹き飛ばす目的で炎撃やら雷撃やらを炸裂させる宝具を放ってたけど、まったく上が見えなかったのに急に視界が開けて驚いた。

その過程でマリアージュがごみのように落ちていくのをおとーさんが、マリアージュって強敵だったよね…………、と現実逃避してたけど気にしない。

開けた視界に写ったのは、巨大な黄金の船が群がる蠅がごとき数のマリアージュを振り払っている光景だった。

かなりの高度なのだが、魔力やらなんやらで強化された視力で観察してようやくマリアージュの一体一体が見えるレベルの距離が離れている。

なんの強化の無い視力でみたら、黒い点が"ゆりかご"に群がっているようにしか見えない。

 

「見て見て!マリアージュが蝿のようだよ!!」

「…………うん、この距離からみると"ゆりかご"に群がる蝿にしか見えないね…………」

 

でも一騎討ちだと覇王でも三分は掛かるんだよ?、という呟きは聞こえない。

んー、雲も含めて色々鬱陶しいですね!

 

「起きろ、エア(偽)」

 

ーん?なんかカッコ入らなかった?ー

ー本物は我が叩きおったー

ーやだ、王様ってば超男前っ!!ー

 

鍵のような宝具を起動させて、宝物庫の中でも金庫級に仕舞われている物を取り出す。

本来ならば、黄金の柄にドリルのように三分割された円形の刀身が回転することで次元断層を引き起こして、本気をだせば世界を虚数空間に送り込めるマジでヤバい宝具なんだけど、そんなものを"ゆりかご"に使える訳がない。

これは偽物だ。

本物である筈がない。

威力も、迫力も、神秘も、何もかもが本物に劣る。

形だけは似せてはいる。

だが、金では本物と比較され見劣りするだろうと悪足掻きで作られた銀色の柄に、三分割されることで最大限の効力を発揮する刀身には僅か二分割しかされていない。

これでは贋作とも言えない。

だが、こうして本物と同じように保管されているのは、これが本物の証明であるからだ。

本物の引き立て役として、今は亡き本物の居場所に図々しくも居座っている。

そんな感傷は思考の隅に置いて、眼前の光景を打破すべく偽物の力を解放する。

 

 

 

「一掃せよ!天地乖離するはずの開闢の星!!!」

 

 

 

世界が開かれた。

"ゆりかご"は持ち前の防御力でもって外壁が吹き飛ばされた位の損傷で済んでいるが、"ゆりかご"を落とすことに執念していたマリアージュは防御する暇もなく、範囲に存在する全てに斬撃が襲う空間にいたことで、残骸となって戦火に侵された大地へ墜ちていった。

 

「うん!初めて使ったけど凄いね」

 

ーマリアージュ、南無ー

ーふむ、衰えていないなー

 

「…………もう義理の娘が何をしても驚かないっ!」

 

エアで吹き飛ばされた黒雲の上には地上とは違い、汚れない星が輝く夜空が広がっていた。

うん、やっぱり空はいつみても変わらずにいるね。

 

ーいや、高度が高い所も関係してるよ?ー

ーこれにケチをつけるとは貴様も無粋よな…………ー

 

「うん、今も昔も夜空は綺麗だね!」

 

黄金の地上を知っているだけに見るに耐えないものを見ようとしなかったのは、やっぱり愚かだったね。

 

「お前…………」

「っと、"ゆりかご"に突入する前にこれ飲んどいて」

「?、なんだこれは?」

「えーと、エリクサーとエムリタの灰油だよ」

「…………効果は?」

「体力、魔力の完全回復と、筋力の強化だよ」

「物質に魔法を宿らせるだと!?」

 

あー、あれ?

普通の霊薬だよ?

ちょっと基準が違うかもだけど、肉体限界超過とか"焼却"概念武装付与の宝玉とかよりかはマシだよね?

 

ーこの世界じゃデバイスが魔法使うことはあっても、薬とかは普通の物質だもんねー

ー我は普通に使っていたがなー

ー相変わらず我が道をいくのね…………ー

 

「…………本当に回復したし、筋力も上がっている、の  か?」

「そろそろ"ゆりかご"に着いたし、試しに"断空拳"打ってみれば?」

「……………………わかった」

 

"ヴィマーナ"をぴったりと"ゆりかご"に密着させて待機。

 

「壁に穴を開ける気でやってねー」

「流石に無理だな」

 

苦笑しつつも試すのは、やっぱりおかーさんと闘うまえだからなのかな。

足を開いて腰を低く落とし、腕を腰に構えて身を捻る。

 

「覇王ーーーーーーー」

 

身を捻ったことで、両足の接地面に掛かる力を魔力で増幅させながら上半身へ持っていき、体を極限にまで捻って更に力を矯めた上で姿勢を固定し、行き詰まった力を魔力で固定させていく。

 

ー…………魔力って便利ー

ーやつの真髄は此処からだ、目を見開けー

 

「断空拳!!!」

 

魔力で固定させた力を解き放つように腕を思い切り引いて、反動として生まれた後ろに向かう力を身体で受け止め、足踏みと共に対象との数歩分空いていた距離を助走として一気に踏み潰し、殴り手に籠めた力をぶつけた。

 

「うわっ!」

 

音が弾けた。

そう表現するしかないくらいの爆音が響いて、音と共に生じた衝撃波で壁の残骸が宙を舞った。

 

「…………凄いね」

「…………俺もこうなるもは思わなかったさ」

 

"ヴィマーナ"の加護で玉座周辺の風は逸れるとはいえ、風は辺りで吹き荒れている。

その爆風でおとーさんが作った粉塵が晴れると、"ゆりかご"の壁に"ヴィマーナ"が通れるだけの穴が空いていた。

 

「ま、好都合だね!」

「一体俺はなんの薬を飲まされたんだ?」

 

◇◆◇◆

 

おとーさんが開けた大穴とはいえ、艦内は"ヴィマーナ"が通れるだけの幅は無いから"ヴィマーナ"は収納した。

マリアージュの2Pカラーみたいなのが出てきたけど、おとーさんの覇王流の前に十把一絡げの如く潰されている。

 

「わー、おとーさんカッコいいー」

「お前こそ、その投擲はなんなんだ?」

「蔵から武器を放ってるだけだよ。殿は任せなっ!」

「どちらかというと、止めは任せなっ!、だろうよ」

 

おとーさんが壁に叩き付けた2Pマリアージュの四肢を磔にした後、止めにコアの部分にCランク宝具をさしてるだけじゃん。

 

「というか、魔力の消耗が感じないんだがどういうことだ?」

「魔力供給だよ」

「は?」

「今、だいたい半径500メートルの中ならおとーさんに魔力を供給する魔法を使ってるからね。ついでにそのお陰で魔力供給範囲ならサーチャーと同じ効果が得られるからね。こうして迷わずに進めるのもそのお陰だよ」

 

ー俺らって魔力量は異常なほどあるからねー

ーそれもワカメのせいだ。あの雑種、神とやらに限りなく測定不能に近い魔力ランクSSSを賜ったらしいぞ?

そのせいで、我達の魔力も共通でSSSランクだー

ー王様にそんなものを持たせたら世界が終わるー

ー範囲攻撃程度のエアならば撃ち放題だったー

ーこうなると先生と王様の最終決戦が気になるー

 

そうしてマリアージュを壊して進んでいくと、上にいく通路と下に行く通路の分かれ道に遭遇した。

 

「それじゃ、私は言った通り駆動炉の方に行ってくるよ」

「あぁ、俺はオリヴィエの方に行く」

「おっと、それは違うよ?おとーさんはこれから何をしにいくのかな?」

 

遮った私の言葉の意味を考えた素振りをしたおとーさんは、思い至ったのかほんの少し赤面したが、すぐに顔を立て直して言った。

 

「あぁ、俺はこれからオリヴィエを、好きな女を救いに行く」

「フフーフ。言ってくれるねぇー。じゃ、私も全身全霊でもって魔導核をぶっ壊してくるよ!

助けられたら、ヘタレ王のを改名してあげるよ!」

「それは、ますます助けなくてはならないな」

 

苦笑して去っていたおとーさんの背中を見送って、私も迷うことく魔導核へ向かう。

 




更新遅れてすみませんでした!

かつ本編を進めないという…………。

次話も更新未定なので、どうかっ…………。


捏造設定+捕捉説明

~冥王サイドにオリキャラ
ワリと冥王に非人道的なことしてたからこれくらい良いんじゃね?、と思って作ったオリキャラ。
細胞の回収はマリアージュが担当。


~マリアージュの戦闘力
マリアージュ弱くね?と思った方。その通りです。別に弱い訳じゃないですが(作者が原作の戦闘力を知らないこともありますが)オリキャラがマリアージュが得意そうな集団戦闘をさせてないからですね。エア(偽)にいたってはマリアージュの攻撃射程範囲外からの殲滅という手も足も出せない状況だったので仕方ないです


~天地乖離するはずの開闢の星
複製できないエアの複製。
複製できた理由はとてつもなくスペックダウンさせてるから。具体的には、fate世界観では世界の破壊まで可能とし、リリカル内においては虚数空間を発生させるだけでなく範囲内に在るものを破壊しつくせる剣を、使い潰す気で使ったらギリギリ虚数空間が出来るんじゃね?レベルまで落ちてる。ジュエルシード数個分にすら届かない性能である。王様がいつまでも蔵の中にいれてるのは使い勝手が良いのと、エアが有った場所に何もないのは落ち着かないとかなんとか。




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11話

まるでこれから買い物をしに行く気軽さで別れた義理の娘を見送ってから俺も先に進む。

どうやら俺の手甲型デバイス"カイザー"にマップデータが送られているらしく、さっきから方向を指示される。

銀色の籠手に埋め込まれた緑色の宝玉がチカチカと点滅して方向だけを指示してくる。

そんなことしなくても"ゆりかご"は勝手知ったる我が庭といっても同然なんだが…………。

 

《それは浅慮が過ぎるぞ、マスター》

「?、なぜだカイザー」

《君がこの"ゆりかご"を知り尽くしていることは聖王も同様に知っているだろう。ならば、ベルカの超技術で通路の改竄程度の対策はして当然だろう?具体的には、通路の壁を粒子化して保存し、場所を移して再構成するなりな》

「…………あぁそうだな」

《やれやれ、私のようなデバイスに苦言を呈されているようでは先が思いやられるぞ?》

「お前は主を誉めることをしないのか?」

《私の王は何時の時代もどんな世界でも変わらないさ。こんな体になったとはいえ、名前も呼び名も変わっても、我が王はただ一人。その王の臣下に下賜されたのならば忠を尽くすが、甘言のみを囀ずる訳がないだろう》

「その性格が無かったら良い相棒なんだけどな」

 

数年前、今の時代よりも遥か昔に造られたと言われる遺跡より発見されたデバイス"カイザー"。

持ち主に相応しい形状・騎士甲冑が瞬時に形成され、相応しい形状は持ち主の強さが変動するとそれに合わせて形状も変化するらしい。

そのため、"変幻自在"とも呼ばれるが本当の所は、それこそ無限の形状を既に保持しているからだという。

そのなかから持ち主に相応しい武器を選び、騎士甲冑を形成するらしい。

開闢の王"ギルガメッシュ"が使っていたと言われるデバイスで、かの王が使っていた頃には一挺一挺が山を貫き海を割るほどの威力を持つ武器を絶え間なく形状を切り替え、数多の敵を討ち倒したと言われる。

 

《性格なぞ、我が王は異にも介さなかったぞ?》

「お前、仕える主でもその態度なのか?」

《最初の頃は荒れてたからな》

「デバイスに荒れてる時期ってあるのか?」

《気にするな、マスターには関係ないさ》

 

この手の話をするといつもはぐらかされる。

まぁ、最初に騎士甲冑を形成した時の台詞が「戦場でデバイスを初起動する愚か者か。これは先が思いやられるな」

だったからなぁ。ため息まで無駄に再現して。

いや、あの時は宰相たちから無茶ぶりされてたんだからな?

いくら俺でも素でなにも持たずに遺跡侵入するわけない。

 

《私に対する言い訳を考えてるのは良いがな。もうついたぞ?》

「本当に通路が変わっていたのだったな」

 

マリアージュと準備体操代わりに組手をしていたからか、

もう少しかかると思った通路が無くなっていた。

後ろにマリアージュの残骸が散らばっているが、カイザーの"衝撃浸透の籠手"を使っているのだから当然だろう。

 

《では、"浸透破砕"は解いておこう。存分に殴り愛たまえ》

「発音おかしくなかったか?」

《いやなに、私も一言言いたくなったのさ。リア充爆発しろと》

「相変わらず訳のわからないことを言うな、お前は」

《気にすることはない。ただの僻みだ》

 

そういってスリープモードに入った"カイザー"を確認して、浸透破砕が切れているかどうかを確認するために目の前に広がる王への扉を吹き飛ばす。

 

「……クラ…………ウ…ス?」

「今、その悪趣味な椅子から下ろしてやる」

 

行きすぎた豪華さを持つ黄金の椅子から発生している黄金の魔力に縛られているオリヴィエを視認して、俺の頭は冷えきり、体には魔力が迸った。

 

 

「覇王流クラウス・E・S・イングヴァルト、行くぞ!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

「全く、イチャラブしちゃってまぁ」

 

上から響き渡った打撃音に混じる男女の必死な叫びを無駄に鋭敏な聴覚が拾い、"ゆりかご"を包み込んでるエリアサーチも兼ねた魔力補給の魔法が二人の高ぶりを逐一知らせてくるのだ。

呆れてものが言えないね!

 

「くっそ、リア充爆発しろぉぉおお!!!」

 

私なんか、馬鹿魔力を勝手に持ってかれて私を封じる神殿級の防壁作らされるは、回復魔法に通じてるから詳しくなった人体の構造で生かさず殺さずの尋問と拷問をさせられたり、なんか変なのが私の魔力目当てに殺到したり、大変だったんだからなぁーー!

 

「マリアージュ、邪魔!!」

 

適当な宝具を真名解放して当たり散らしながら下へ進んでいく。最早、秒間三体は沸いて出てくるマリアージュ相手に無双しながら考えずに歩いていると暫くマリアージュが沸かなくなった。

 

ーえ、真名解放できるの?ー

ー暇だったからな。数本の宝具を相手していたー

ーその言い分じゃ数本だけだろ?今ので数十本目だぞー

ー奴の才能だろうよ。言ってみれば武器に好かれる才能というやつか?ー

ー…………鬼に金棒だなー

 

なんか、無駄にデカイ扉がある通路に出たからここが私のゴールなんだろう。

 

「いくよ、射殺す百頭」

 

恐らく中心部には今までの比じゃない数のマリアージュが要るだろうから、元から多対1が出来る宝物を蔵から引っ張り出して魔力を込める。

おとーさん達はもう魔力を使わない殴り愛に発展してるので別に魔力補給もしなくていいよね?

だから、その分の魔力も真名解放に当てて、原典の宝具の力を更に引き出し、能力を理解して裏の力も引きずり出し、更なる可能性を開発していく。

 

ーあー、こりゃ武器に好かれるわー

ーん?、奴がなにか特別なことをしているのか?ー

ーああやって自分の力を十全を越えて引きずり出してくれるのは武器にとっては嬉しいんだぜ?ー

 

金と碧の燐光を放ち始めた黄金の矢を傍らに、扉を開ける。

 

「あはっ!やっぱり思い通りだね!」

 

赤い菱形の魔力炉の中に、冥王様を発見した。

そりゃ、いくらマリアージュが雑魚過ぎるからって倒されたらすぐに自爆してデータを残さないあいつらから作成する為の魔法を読み取るのは無理だからね。

冥王様を捕まえてマリアージュ生産機械にするほうが楽だ

後、今の冥王様から涌き出たマリアージュを研究するためなのか2Pカラーのマリアージュは自爆もしない。

私やおとーさんみたいなバグキャラ相手には、自爆が唯一の勝ち目だというのにそれを封じられたマリアージュなんてねぇ?

冥王様が張り付いている魔力炉を守るようにマリアージュが固まってるけど、

 

 

「真名解放!薪・射殺す百頭!!!」

 

関係なく全て斧撃にて粉砕した。

本来なら九つの斬撃が敵を襲うのだが、私が力を引き出したことにより十の斬撃が襲う。

更に、裏の力を引きずり出したので、増えた斬撃が重ねて放たれていて連撃と追撃の追加ダメージを与える。

終いには、可能性が増えているので十の斬撃が百になり、追撃の斧撃が百なっている。

つまり、百×百で一万の射殺す百頭がマリアージュの隊列を襲っているのだ。

しかも、追撃と追跡の機能もあるため、余った斬撃は死体打ちしてる。

 

ーハッハッハッ!よい光景である!ー

ーあの娘、マジチートー

 

千体程いたマリアージュが鉄屑になるのを見届けてから魔力炉に半分取り込まれてる冥王様に近付く。

 

「やぁ、始めましてだね!」

「っ!、あなたは………」

「あれ?知ってた?」

「部下の報告だけでなら………。まさか本当に、していたとは………」

 

あら?なんか泣き始めましたよ?この子。

 

「イクスヴェリア様、貴女がいくら嘆こうと私が生まれた、という結果は変わりませんし、私以外に一万九千九百九十九体の"私"が生まれる前に死んでいるという事実も変わらないのです。そして、その責任や断罪の矛先は傀儡であった貴女ではなく、貴方を操っていた宰相に向いています。私が、貴女を、恨むことは無いですが、助ける理由は無くはないのですよ」

「私が、なにをしろと?」

「いえ、別に何も。せいぜい、マリアージュの統制を完璧にして従者として平和に暮らしていれば」

「ぇ?」

「私も多少の、極僅かには忠誠心というものがあります。

貴女の様子を見れば平和を望んでいるのは一目瞭然。ならば、貴女にはそれをプレゼントします。どうか、二度と歴史に載らないようにしてくださいね」

 

言うだけ言って冥王様を少しの前に探してた誰もいない世界に転移させた。

ちょっとこの魔力炉の外側もくっついていちゃったけど、魔力が優遇されるだけだし、大丈夫でしょ。

 

ー世界転移までできるとか………ー

ーうむ、流石我の魂を継いだだけはある。貴様も励めよ?ー

 

「破壊するのはやっぱりこれだよね!」

 

宝物庫から、紅い槍を取り出す。

先端に荊のようなトゲと呪詛が込められたルーンが彫られた血のように紅い槍。

射殺す百頭と同じ要領で武器の可能性を拡げていく。

 

「その存在、呪い尽くす」

 

下端を掴み、全力で魔力を籠めていく。

投擲する為に魔力炉から離れて、この武器の投擲姿勢を取る。

重心を低く、獣のように四肢で地面を踏み締める。

私の魔力光は槍を通して熱を伴う紅い魔力光へ変化し、気炎を穂先へ収束していく。

 

 

「ーーーー穿ち呪う死翔の槍!!!」

 

 

限界まで強化した体が悲鳴を上げるのを無視して、二歩で魔力炉との距離を詰めて、ゲイボルグを投げ付ける。

 

私が可能性を拡げたことにより無機物にすら因果逆転が発生し、外装に当たった瞬間に魔力炉の核へ穂先が到達し、魔力が暴発する。

傷を開くという呪いが込められた魔力が魔力炉内部に満ち溢れ、核から伸びる回路を致命的に破壊していく。

 

飛び帰ってきたゲイボルグを掴みとり、粉塵を凪ぎ払う。

 

「ーー終わったかな?」

 

魔力回路が滅茶苦茶に亀裂が走ったことにより、規則正しく明滅していた魔力炉の光が不規則に激しく明滅し、まさに暴発数秒前みたいな感じになっている。

物質的な固さを持っていた魔力が激しく揺らいで、魔力を閉じ込めるガラスにヒビが入る。

 

「えーと、これかな?」

 

魔力を貯蔵する宝具を使ってガラスから漏れでる魔力も、中にある魔力も根こそぎ吸いとっていく。

宝具が魔力を吸いとる速度と、炉心の核が魔力を生成する速度は宝具の方に軍配が上がるが、貯蔵量に限りがある宝具が満ちる前に終わるかはわからない。

 

「ま、溢れた魔力は宝物庫に垂れ流してるけどね」

 

今使ってる魔力吸収する宝具も沢山あるし、宝物庫内では最高の状態を維持されるし、宝具自身も神秘を帯びて風化しないけど、いつまでも使われないのは可哀想だから魔力(餌)はしっかりあげないと。

 

ー……………あの扱いで本当に好かれているのか?ー

ーハッ、我よりかマシな扱いだからだろうー

 

「よし、核ゲット!」

 

赤い菱形の核を適当に封印して宝物庫にしまう。

 

「まったく、コレの玉座は上じゃなくてココで、コレを起動するのには"ヴィマーナ"が必要なのに何をしているんだか!」

 

 

あぁ、おかしい。

ここまで、計画通りにいくなんて本当におかしい。

おかしくて思わず笑みがこぼれちゃうよ。

 

 

「さぁ、出航だ!フリングホルニ!!」

 

 

"ヴィマーナ"を通して私の魔力が"ゆりかご"にいきわたり、"ヴィマーナ"と"ゆりかご"の性能が改変され適合していき、世界で一番大きな船(フリングホルニ)がその船出を祝う轟音を轟かせ暗雲に覆われたベルカの空に誕生した。

 

ーあれはこっちに来てから作ったの?-

ーハッ、当然よ。俺が黄金Pとして"ヴィマーナ"の機能を進化、もとい拡張を図ってやろうとしたときにな。我にアホ毛はないが赤セイバー風にいうなればビビビと来たのだ。合体こそロマンと!ー

ーおま、本当に英雄王なの!?ー

ーだが、ヴィマーナはあのような形状ゆえ合体には適さん。たかだか推進器として使いすての後付ブースターなどの手抜きはこの我が許さん。ゆえに、ヴィマーナよりも強力で巨大な船にヴィマーナを核とし操縦席とすることでこの世界で築いた我が財宝を存分に用い、神秘と科学の融合を成し遂げたのがアレだー

ーいや、アレだ。なんて言われても全体像がわからないからコメントのしようがないなー

 

 

 

"ゆりかご"の機能から監視システムを引っ張り出して聖王の間を映し出す。

既に戦闘は終わっているようで、覇王が聖王を抱きかかえている状態だった。

 

「やぁ、お父さん。さっきぶりだね」

 

どうやらお母さんは”ゆりかご”の制御が奪われていることに気付いているが、私の顔をみて驚いている。

 

「ク、ククククラウス!?かかかか彼女は誰なんですか!?」

「お、落ち着け、オリヴィエ!」

「落ち着くなんてできませんよ!一体だれとの子供なんですか!!私はいろいろ我慢してきたのにクラウスはちゃっかりやることはやって王族としての務めは果たしていたんですか!?そもそもどうして私の国には私以上に強い人間がいないんですか!そのせいで聖王なんて者に担ぎ上げられて両腕がないのにわざわざ義手つけて戦争が起きるたんびに最終兵器みたいな扱いで駆り出されてどこまででも連れまわされるし、そのせいで女としてのあれこれもおざなりになっちゃうし!そんな行き遅れまっしぐれな私と違ってクラウスはっ………!………!?」

 

……………聖王が不満を爆発させてたのを愉悦顔で二ヨニヨしてたら覇王がマウストゥーマウスで聖王の口をふさいでいた。なにを言っているかわからないだろうが私も私が何を見て何を言ってるのかわからない。

体感三十秒くらいこっちの画面から顔が見えないようになった後、少し顔が離れて覇王がボソボソ呟いてようやく対面するとお母さんの顔は真っ赤、お父さんの顔は何かやり切った顔をしている。

 

「ねぇ、ここ戦場、私敵なのになにしてんのさ」

「いや、話が進まないと思って」

「可愛い奥さんの口を口でふさいだのね………」

「……っ!……!!……」

「そんな可愛い顔してもまた食べられちゃうよ?お母さん」

 

あ~ぁ、またショートしちゃったよ。

 

「どうしてこうなった………」

「しいていうならお前にヘタレ王と呼ばれたからだな」

「私の所為か、私の所為なのか!?」

「…………ハッ、私のことお母さんと呼びましたか!?」

「うん、戻ってくるのは今じゃなくていいよ。あ、説明よろしく」

 

説明を丸投げしてなりゆきを見守ってると三回ほどさっきと同じやり取りで口をふさがれた聖王がいまだに赤い顔で頭を下げてきた。

 

「申し訳ありませんでした!私の勘違いでーーー」

「あ、別に私がこれから悪いことするのには違いないから謝らなくていいよ?」

「「!?」」

 

いやそんなに驚かなくてもいいじゃん。

てか、何もする気がなくてもこんなの起動しちゃったら何かしたくなっちゃうでしょ、普通。

だって、二つの月が放つ魔力圏のちょうど交点にもう到達してるから魔力の心配は無いし、ただでさえ《ゆりかご》の装備だけでも壊滅的な強さなのに《フリングフルニ》になったらその三倍だよ、三倍。

全体の設計図を見ても主砲は軍隊を城ごと壊滅させる用の極大収束砲があるし、その脇に極大収束砲の半分位の大きさの収束砲を放つ砲台があって、近付いてきた魔導師には質量兵器も入り交じった誘導弾が襲いかかるし、対応型魔力障壁は収束砲が数発直撃しても傷付かないだろうし、真下には対応型魔力障壁に自動対応で弾幕を張る砲台に手動で動かす直射魔力砲に誘導魔力弾が至るところに備え付けられてる。

動力は合体した《ヴィマーナ》の謎出力と《ゆりかご》の回路を繋げてるから割りと早い。

それに加えて、私のレアスキルの《王の宝物庫》の補助でなんかソート機能と検索機能に加えて、動力炉兼操作室(ここ)からでも外の

光景が見え照準機能つきで、さらには本家の王様はどうにか知らないけど私は自動操縦をするときにマルチタスクを一個使わないといけないことを考慮してくれてるのか、マルチロックホーミング用に《ヴィマーナ》を通して《王の宝物庫》を発動すれば《フリングホルニ》の機能が勝手に追跡してくれるという。なにこの王様専用壊れ機能。

 

ーなんでさー

ーふはははは!!これを作った時には、そう、「我と敵対するということは、これくらいは覚悟できているんだよな?」みたいなしい目的として作ったはいいが、対界宝具ほどではないが対軍宝具のなかでは頭一つどころかこれだけで聖杯なんぞ冬木ごと吹き飛ばして得られるからな。お蔵入りになってしまったのだ!-

ー英雄王マジ自重しろ!-

 

まぁ、気にせず目的を果たそうか。

 

「ふははははははは!!!人がゴミのようだ!!!」

 

取り合えず、私を捕まえてた国の管理機関を主砲で焼け野原にした。

市民?

大丈夫、サーチかけたけど大分避難してたから。

私が破壊したところにはいなかったよ、多分。

 

「さーて、お父さん。報酬をいただこうか」

「今何をしたのですか!!」

「えー、故郷をちょっと焼け野原にしただけだよ?」

 

そんな衝撃的な顔をされても。

私を作ったところだし、あの資料とか施設があると困るんだよね。だから、老害含めて消毒した方が人類史のためだよ、多分。 

 

「………報酬とはなんだ」

「ふふーん、簡単だよ。私の名前をつけてくれればいいんだ。いつまでも番号で呼ばれるのは据わりが悪いからね。かっこいいのを頼むよ」

「何をふざけているんですか!」

「お母さんも考えてもいいよ?一応、お母さんの遺伝子も入ってるからね!」

「っ!、それをふざけているとーー」

「オリヴィエ、悪いが付き合ってやってくれ。覚えはないが、あれも俺たちの子どもだ」

「クラウス!」

「頼む」

「っ………」

 

あらら、夫婦喧嘩?

覚えのない子どもなんて修羅場でしかないか。

 

「ふふーん、ならここにくるまでのナビをしてあげるからたどり着くまでに考えればいいよ。別に私は報酬さえ貰えればどうなってもいいからね」

「本当ですか?」

「うん、そのサーチャーをおいかけてくればいいよ」

 

二色混合の私の魔力を二つに分けて二人の前に発動させる。

いったん映像を遮断し、二人が来るまでにやらなくちゃいけないことをすませておく。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「やぁ、遅いじゃないか、待ちくたびれたよ」

 

危ない、危ない。もう少し早かったら終わらなくなるところだった。

サーチャーが進まなくなった時期があったから、なんかまたお母さんが憤慨したのかなとか思っているうちに、ちょっと吹き飛ばした国から討伐隊が結成されて《フリングホルニ》を落とす間だけの連合とか作られちゃったからそれの相手をどんな物理攻撃でも非殺傷にする壊れ魔法をつかって迎撃してたものだから作業が大幅に遅れちゃって大変だった。全部で34個あるマルチタスクを魔力ブーストかけてまで独立を強化して人格の危機に陥るくらい無理してたから思いのほか早まっちゃったよ。

 

「それで、私の名前は決まったのかな?」

「それより、その姿は…………一体……………」

「あぁこれ?ちょっとこの船からの魔力供給に追いつくために肉体強度を上げてるからね。そりゃ成長するよ。みよ、このダイナマイトボディー!!」

 

操縦席に乗って手綱を握ったやらないと勝手に暴走しはじめるじゃじゃ馬を制御するために座りながらだが胸を張る。ていうか、これさっき見たお母さんのよりある?あれれぇ?

 

「ていうか、もったいぶらないで早く教えてよ、私の名前」

「そ、そうでしたね!」

「あぁ、だがその前にもう一つ聞かせてくれ」

「えぇーまだあるの?これっきりにしてよ?」

 

気だるげに操縦席にもたれかかりながらゆっくりと息を吐き、次の質問を待ちかまえようとした瞬間を縫うようにお父さんは言った。

 

 

「お前はあとどれくらい生きられるんだ?」

「…………全く、おしゃべりなデバイスだね」

『この王の質問だけで諫言したのが私だとわかるとはな。大したものだよ、君は』

「よくいう。この船ごと私を解析したくせに」

「いや、こいつは悪くない。俺が頼んだことだ」

「へぇ…………」

 

思わず目を細めて視てしまう。

つまり、お父さんは私の正体だけでなく性能まで見抜きかけているらしい。私の中でお父さんの価値が『ヘタレ王』から上方修正されたけど、流石に『王様』の魂までは気付いていない。

まぁ、魂を見るなんて魔法はないし、私だって当事者だから何となくわかるだけで魂なんてものを理解はしてない。

 

ー………なんか王様っぽいけど実はこっちが本性なんじゃないか?ー

ーほう?それに気づくとはなかなか貴様も目が肥えてきたではないかー

ーいや王様あれは仮面だっていってたろ?-

ーハッ、生まれて数年の幼童、しかも監禁され常識を身に着けていない者に我が遅れをとるものかー

ーソレモソウデシタネー

 

「うん、クローンの大体中期に出来た肉体だからね。そっちの意味でも寿命みたいなのは少ないし、お母さんとお父さんを無理やり合体させたみたいな不出来な体でね。パッチワークみたいな感じだけどなんとなーく下地の薄皮一枚で繋がってる感じで脆い体なんたよ。こうして急激に成長すると聖王と覇王、どっちもの特性が表れる位にはね」

 

左右で筋肉の付き方が明かに違う腕を見せる。

魔力光も、聖王の虹と覇王の碧が分離し始めるのを金色が無理やり防いでるようになり始めている。

 

「だから、早く教えて欲しいんだ。私の名前」

 

タイミングが良いのか解らないけど、本当にここでの会話位なら持つ。この後することは、宝具に任せて暴走させるだけなので大したことじゃないし。

 

 

「ああ、わかった。お前の名前はーーーーー

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

銀幕の映像が止まったのか、いつの間にか金色の椅子に座っていた。

 

「え、そこでお仕舞い!?」

「当然よ。奴の名を知るのはあやつらと我だけでよい。あの人形のことは後世に語る必要はない」

 

いつになく上機嫌な王様が、何時ものようにふんぞり返っていた。

王様がマトモに楽しんでいるし、後世に語る必要がないと判断された以上、質問を投げ掛けることも出来ない。

 

 

「いや、あの後どうなったんだよ」

「案ずることはない。親を冥王と同じように適当な世界へ転移させ、粗悪品のエアを十数本真名解放し、その連鎖でもってフリングフルニごとゆりかごを破壊したまでよ。やつは、与えられた名が気に入ったようでな。最期まで笑いながら息を引き取ったさ。その間際で、我にこの名は誰にも教えるなと言い含めただけのことよ。ククッ、人形風情か我に言い含めるなど肩腹痛いが、奴等の娘として生きたのだ。それに免じて聞いてやったまでよ」

「あー、うん。なら名前についちゃ聞かないけどさ。エア十数本ってなに?」

「む?あそこまで存在の格を落としたエアならば、そこらの鍛冶屋でも打てるわ」

「古代ベルカマジヤバい」

「我が手掛けた国だぞ?それぐらいできて当然よ」

 

 

何気にこの人生も満喫してるよね。

さすが王様。

 

「我を讃えるのはよいが、貴様とて我らと関わりのない所では愉しむ権利はある。あくまで我は貴様の前世であり、貴様の雑種並の器から溢れたモノにすぎん」

「いやいやいや、王様たち三人に加えてあの黒いのを納められる器なんてないって。なんか持ってたこの謎空間のお陰でどうにかなってるんだよ?しかもこの謎空間も色んな影響を受けてるし」

「まぁ良い。我もこれ以上語るつもりもない。だが、あの憎たらしい神が手を加えたのだ。時が来たなら統合も終わるだろう」

 

 

それだけいって英雄王は去っていった。

結構な無理難題を押し付けられた気もするが、英雄王の言う通りあの神がなんらかの工作はしてるだろうからいつかこの三人に飲み込まれる日も来るだろう。

 

「それまでに俺の人生を楽しめってか」

 

英雄王が去ったのでこの金色空間も消え始め、寒さと眠気の両方に責められてる現実の体へ戻り始めていた。

 

ーーまぁ、なんとかなるさ

 

元の体に戻ると、夢の体との疲労度の差でそのまま寝てしまった。

 

 

 

起きたら結構酷い風邪を引いていて、それを高町家の住人に見つかっていつの間にか居候になっていたのは別の話。



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