超下位存在君の無駄な努力 (へタレた御主人)
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序章~黒い靄の男
プロロ~グ…自己紹介?


鬱☆初投稿!

UQ HOLDER!の二次創作の自己満小説です。

コンビニやら古本屋やらでの立ち読みレベルで書き始めたので不安ですが、ちょいちょい書いてこうと思います。

誤字・脱字、設定の勘違い等のご指摘ありましたら感想欄にでもおねがいします。
あ、もちろん感想も待ってます。


 

 

 

 不死。

 

 

 

 それは古来より生者が望む境地。

 

 

 

 不死身。

 

 

 

 辿り着きたいと多くの者が手を伸ばし、しかし掴み取ることの出来ないもの。

 

 

 

 不老。

 

 

 

 求めて止まぬ。しかし、排して止まぬ。人の枠を超えた化け物。

 

 

 

 不死人(フシビト)

 

 

 

 そんな、辿り着いてしまった化け物はそう呼ばれる。

 

 

 

 

 

 

 そんな不死者たちが集まる互助組織がある。

 

 組織名はUQ(悠久)ホルダー。

 

 これは、不死人たちの中でも異端である一つの存在の無駄で無意味で無理矢理な奮闘物語である。

 

 

 

 

 ―――――………

 

 

 

 闇にすら成り得ない黒があった。

 

 ただ集まるしかなかった塵芥は。

 

 いつの間にか、雫になっていた。

 

 

 

 ―――――………

 

 

 

 

 

「おりゃぁぁああああああ!!」

 立派な旅館の廊下で元気な叫び声が聞こえる。

 その声は分かりやすく移動していた。

「今日も精が出るな、二百円兄貴」

「頑張れよ、二千万兄貴」

「うるせー!その呼び方やめろっての!!」

 厳ついあんちゃんたちにからかわれながらも、速度を落とさず作業を続ける。

 全力で雑巾掛けをする少年は近衛刀太。

 彼はこの旅館で二千万の借金を背負い、時給二百円で働いているUQホルダーのナンバーズである。

 UQホルダーとは雪姫という名の吸血鬼が組織した不死人で構成されたファミリー。鬼男や猫娘を始めとする、人の世を外れた者達の互助組織。人の理を外れた人間以外の徒党であるため、常に人の世からはじき出され蹂躙され、忘れさられる者達、つまりは少数派・弱者の側に付き、カタギには被害を及ぼさないことをモットーとしている。

 簡単に言えば、人外によるお助け組織である。

 新東京の沖合10kmにある温泉宿の「仙境館」は彼らのアジトだ。

 そこを法外な激安時給で掃除する刀太は下っ端にしか見えないが、その実UQホルダーの幹部である不死身衆(ナンバーズ)の一人。

 UQホルダーの多くは百鬼夜行の亜人たち。並みの生き物に比べれば大分頑丈という程度でしかない。

 その中でナンバーズはその不死身度が高い者たちを指す。不老不死の吸血鬼をはじめとして、不死性を有する神魔妖怪、神酒・霊薬・賢者の石などの不死のグッズの使用者、電脳化・ロボット化などの科学的不死者、命のストック(残機)をもつ者、死なない呪いがかかった者、死ぬと転生するセーブポイントを設置している者、人体改造をしている者など、数多くの不死人が所属する。

 刀太や、一緒にやって来た時坂九郎丸、その後にスカウトされた佐々木三太はほんの少し前に入った新人だ。

 特に刀太はナンバーズの中では実力不足。雑務を任されるのも当然と言えた。

「やぁ、刀太さん。今日もお疲れ様です」

「おぅ!サンキューな。……って、誰?」

 そこに声を掛ける少年が一人。

 見た目は十六、七歳。スーツ姿なのを見るとナンバーズではなさそうだが、珍しい。

 というのも、大体の構成員は強面のおっさんばかりでヤの付くとんでも業にしか見えないのだ。子供の姿をした者もいるが、スーツは着ていない。故に珍しいのだ。

「これは失礼。僕は靄傘黒斗(もやかさくろと)、末端の組員です」

「そっか、俺は近衛刀太だ。よろしくな」

 刀太が握手しようと手を差し出すが、黒斗は握ろうとせずに仰々しくお辞儀する。

「こちらこそ、以後お見知りおきを」

「?ほら、なら握手しようぜ。友達の証だ」

 友好的な、というより素で言っている刀太に首を横に振る。

「いえいえ、それには及びません。自分のような末端にはそのような行為は出来ません」

「いーから、ほら!」

 黒斗の言葉に耳を傾けず、強引に掴みに掛かる。

 

 すかっ。

 

「あれ?」

 黒斗は掴まれそうになった手をひょい、と上に挙げる。

 しかも、ものすご~~~く意地悪な顔をしながら。

「この!そら!今度こそっ!」

 

 ひょい。すかっ。ひらり。

 

 何度挑戦しても簡単に躱されてしまう。

「あぁもう!なんで避けんだよ!?」

「それは当然。僕は友達が欲しいと思ってませんから」

 その言葉を刀太は信じられないと目を丸くする。

「いやいやいや、んな寂しいこと言うなよ」

「そう言われても……」

 本気で困った顔をする黒斗に刀太は決意する。

「よし、決めた!絶対お前を俺の友達にする!」

 高らかに宣言する。

「絶対だかんな!」

「やめてください、お願いします」

 そんな宣言に返ってきたのは、まさかの全力土下座。

 しかも、ゴッ!とか音がするくらいの勢いでのジャンピング土下座だった。

「そんなに嫌かよ!」

「刀太君、何してるんだい?」

 コントみたいなやり取りをしていると、横から声が掛かる。

「よぉ、九郎丸。ちょっと聞いてくれよ」

 美少女にしか見えない、長い黒髪をサイドテールにしているイケメンが現れた。

 彼(?)の名前は時坂九郎丸。彼もまたUQホルダーのナンバーズの一人である。

「なぁ?ひどいだろ?」

 事情を説明された九郎丸は難しい顔をする。

「う~ん、でもいきなり幹部に話しかけられたら身構えてしまうのではないかな?」

 そう言うが、九郎丸も変には思っている。

 何をそんなに刀太に対して警戒しているのだろうか、と。

 はっきり言って、刀太は馴染みやすい。

 自分が彼らを標的とする不死狩りだと分かっても、強引に友達にしてしまう。そこには、打算や計算はない。

 ただ、友達になりたいだけ。

 それがしっかり伝わる。そして基本誰とでも仲良くなれるのが、この近衛刀太という少年である。

 それをここまで全力で拒否するということは、何かしらの理由があるのかもしれない。

「まぁまぁ刀太君、嫌がってるのに無理矢理はよくない」

 とりあえず九郎丸は、刀太を落ち着かせることにする。

「それと、黒斗さん……だったかな?刀太君はこれでも本気だから、そう警戒することもないよ」

 やんわり言ったつもりだが、全力で首を横に振る黒斗。

「いやいや!自分のようなカスにはそんな恐れ多い―――」

「お前、あんまりそういうこと言うなよ」

 自分を卑下する黒斗を刀太は遮る。

「俺だって何にも持ってないけどさ、それでもこうして全力で生きてる。だから、あんまり自分のこと悪く言うなよ」

 希望溢れる力強いその言葉に、黒斗の表情が消え―――

「あなたたち、何をしてるの?」

 そこに、新たな声が掛かる。

「!夏凛先輩」

「どうしたんですか?夏凛殿」

 日本刀とハンマーを持った、どこぞの学校の制服を着たショートカットの女の子―――UQホルダーナンバーズの一人、結城夏凛だった。

 自分達に用があるのか、と聞いた九郎丸に首を横に振ることで答える。

「用があるのはあなたよ」

 指を指した相手は、黒斗だった。




はい、ここまで読んでくださりありがとうございました。
ゴッ!Σm(_ _)m
時系列的には学園での事件を解決して三太が仲間になってすぐ、ですね。
そこに無理矢理オリジナル話をねじ込んでます。

え?巻数少ないんだから最初から介入しろ?

すみません、手元にコミックすら無い上、セリフとかあんまり間違えたりしたくないので許してください!金欠なんです!
完全に暴走特急見切り発車ですが、それでもよければお付き合い願います。


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仕事場へゴー

連投です!

夜中の投稿にもかかわらず、約90ものUA!
ありがとうございます。
ペースは不定期ですが、しばらく速い更新が出来そうです。


 

 

 

 ―――――………

 

 

 昔、地獄の中に居た。

 

 傷付けられなくとも痛みを感じる拷問地獄に。

 

 その地獄から救い出してくれた人は戻ってきてくれた。

 

 だが、その後自分を支えてくれた人は。

 

 どうしようもなく落ちぶれていた。

 

 

 ―――――………

 

 

 

 

「あなたに仕事が来ています」

 夏凛が黒斗へと告げて、仕事内容が書かれた紙を渡す。

「お、久しぶりだな(・・)。夏凛?」

 刀太たちには敬語だったにも関わらず、何故かそれよりも上の立場である夏凛にはタメ口で呼び捨て。

 九郎丸の頭には疑問符が浮かぶ。

「えぇ……そうね」

 一瞬悲しそうな顔をした夏凛。すぐに踵を返そうとして、

「なぁ、どんな仕事?」

 刀太が割り込んできた。

「大したことの無い内容ですよ」

「それに、あなたには向いてないわ」

 露骨にはぐらかされて地団太を踏む刀太。

「えぇ!教えてくれよ!!」

「それでは、行ってきます」

「……逝ってらっしゃい」

 刀太を無視して仕事に向かおうとする黒斗と送り出す夏凛。

「いや、少し待て」

 だが、それを遮る者がいた。

「雪姫様!」

「雪姫!」

 長身で白金の長髪と碧眼を持つナイスバディの女性がそこに立っていた。

「……何の用だ?エヴァンジェリン(・・・・・・・・)

「!?」

 不機嫌そうなのを隠そうともせずに雪姫の本名を呼んだ黒斗に驚く刀太と九郎丸。

 雪姫の本名を呼び、夏凛と対等のように接し、なのに自分たち新米には低頭の姿勢。

 一気に黒斗という人物が分からなくなってしまった。

「まぁ、そう凄むな。なに、ちょっとした新人研修というやつだ」

 少し大げさに手を広げて、雪姫は告げる。

「そこの新米二人と、佐々木三太の三人をお前の仕事に連れて行ってやってくれないか?」

「断る」

 組織のトップからの指示を即答で切り捨てる。

「理由は?」

「仕事の成功率が著しく下がるからだ」

「なに、その心配には及ばん。存外、素直な奴らだよ」

 正当な黒斗の言い分を、さらに即座に切り捨てる雪姫。

「お前はどう思う?夏凛」

 今度は夏凛に質問する黒斗。

「まぁ、大丈夫かと」

 その返答にすこし悩んでから、

「……分かった。他に興味のある奴がいたら十五分後までに連れて来てほしい」

 それじゃあ、と言って船着場へと向かう。温泉宿「仙境館」は新東京の沖合いに立っているため、宿の外へは船を使う必要があるのだ。

「よっしゃ!九郎丸、三太呼んでこようぜ!」

「う、うん」

 手を掴んで引っ張っていく刀太に少し顔を赤くしながら着いていく九郎丸。

「……どういうつもりですか?雪姫様」

 いつもなら、そんな九郎丸の様子を見て女の子化ルートに行きやすくなったと密かに喜ぶところだが、そんなことより重要なことがある。

あの(・・)黒斗に他人を同伴、しかも近衛刀太を」

 大丈夫、と言ったがそれは雪姫がゴーサインを出しているから賛同しただけであり、仕事の成功率で考えれば確かに黒斗一人に行かせたほうが断然いいに決まっている。なのにわざわざ、直情的な刀太を連れて行けと言った。理由があるのだろうが、夏凛には思い浮かばない。

「まぁ、ちょっとな」

 少し言葉を濁しつつ、遠くを見つめるような目をする。

「それより、お前はついて行かないのか?」

 楽しそうに言う雪姫に、雪姫一直線の夏凛には珍しく、ため息混じりに返す。

「ご冗談を、おっしゃらないでください……」

「そう、か」

 それきり二人は、言葉を交わさず仕事に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――十五分後。

 船着場で待っていると、やってくる四人の姿があった。

 刀太、九郎丸の二人の他。

 フードを被った少年と、めがねを掛けた三つ編みツインテの少女だ。

 少年の名前は佐々木三太。ついこの間一番新しく入った幽鬼の少年。最高の死霊術士の手で出来た力を持つ幽霊である。ちなみに幽霊だが実体はちゃんとある。

 そして少女は桜雨キリヱ。UQホルダーの最大出資者でもある少女。一見か弱そうな少女だが、設定しておいたセーブポイントに死んだら生き返るという「リセットOKな人生(リセット&リスタート)」の固有能力を持っている。黒斗はたまたま知っているが、キリヱはこの能力を隠して予知能力ということにしている。

「お待たせ、黒斗」

「はい、それでは行きましょうか」

 着いたのを確認して船へ先導する黒斗。

「ん~、なぁ黒斗。敬語やめねぇ?」

 船に乗る前に若干困った顔をして刀太がお願いしてきた。

「……」

「ほら、僕達の先輩相手にはタメ口だったりすると僕らもどう接していいのか困るから」

 渋っていると九郎丸が助け舟を出す。

 確かにこれから仕事をするのに無駄にギクシャクしててもあまりよくないだろう。

「……わかった」

 頷いた黒斗に気をよくして飛び乗る刀太。

「こら、刀太!危ないじゃない!」

 少し船が揺れたので注意するキリヱ。

 全く、と呟きながら他の面々と一緒に乗っていく。

(まぁ、大丈夫だと思うけど念のため)

 保険としてセーブポイントを作る。

「それじゃあ、出発(しゅっぱ~つ)!!」

 刀太の掛け声で、仕事場へと船を動かす。

 

 

 

 

 船を発進させてから十分ほどして、操縦していた黒斗に刀太たちが話しかける。

「黒斗?黒斗先輩?」

 先ほどは呼び捨てだったが黒斗の立場がよく分からなくて、呼び方に迷っているらしい。

「黒斗でいい」

「んじゃ、黒斗。今日の仕事って俺たち何すりゃいいんだ?」

 気さくに呼びかけたと思ったが、内容は真面目。仕事には真剣に取り組もうというやる気を感じさせた。

「いや、何もしなくていい。お前たちは自分の身が危険になった時に自分たちだけを守ればいい。決して攻勢に出るな」

 だが、言われた内容は働くことを禁止するという意外すぎる内容だった。

「ちょっと!それおかしくない!?雪姫はあんたの仕事を手伝いに来させたんでしょ?ならなんで役割が手を出すな、なのよ!」

 キリヱが言ったことは何も間違っていない。

 新人研修とはいえ、ただ見てるだけではあまり収穫が少ない。並の連れならまだしもここにいるのは人外たちの中でも充分に実力を持った者たちなのだ。

 頼りになるし、するべきだろう。

「駄目だ。むしろ実力があるからこそ、だよ」

「どういうことよ?」

 純粋に疑問符が浮かぶ面々。

「着いてからのお楽しみだ」

 少し、意地悪な顔で正面に視線を戻す。

「なぁ、黒斗、さん?黒斗兄ちゃん?」

 今度は三太が質問する。

「好きに呼びな」

「黒斗兄ちゃん、結局何の仕事?」

 言われて、言ってなかったなと思い、簡潔に答える。

 

「今日の、というかお……僕が基本担当してるのは『除霊』だよ」

 

 




読んでくださりありがとうございます。

え、なに?
展開遅い?
夏凛先輩はもっとポーカーフェイス?
三太が兄ちゃんって呼ぶのは刀太だけ?


やりたかったんです!
微妙な出来以外に悔いはない!!
えぇ、ありませんとも!!
……まぁ、調子に乗り過ぎない範囲にします。

おそらく次にようやくバトル回になると思われます。


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お仕事ナウ~ホラーな教会にて~

連日投稿失礼します。

まさかこの作品にUA300を超えるとは思いませんでした。
純粋に驚いてます。
そして当然、感謝しています。


これからもよろしくお願いします。


 

 

 

 ―――――………

 

 億や京では足元にも及ばない、ただのくだらん塵芥ども。

 

 取るに足らないはずの下等存在ですらなかったそれに。

 

 意味があるのか分からないまま。

 

 いつしか手を差し伸べていた。

 

 ―――――………

 

 

 

「そら、着いたぞ」

 船を降りて歩くこと一時間。

 ようやく目的地に到着。

「はぁ、やっと着いたのね……」

 体力のないキリヱは肩で息をしていた。それも仕方ないだろう。彼女は戦闘において、策を弄して勝つための環境を作るのが仕事だ。環境作りをするのに、彼女のやり直しの能力はこれ以上なく最強なのである。

「それにしても……」

 黒斗についてきた四人が、仕事場の建物を見る。

 焼け爛れて朽ちた教会。

 仕事内容は除霊。

 もう完全にホラー映画か何かだ。

 しかも、先輩について行く新人たちという構図。

 フラグしか感じない。

 ぶっちゃけ幸先不安だった。

「へぇ~、何かすげぇ雰囲気あるな!俺、ホラー映画でこんなの見たことあった!」

 一人だけテンション高く突入しようとする輩がいる。

「刀太君、君はいつもと変わらないね」

 呆れるように、関心するように呟く九郎丸。

「え?だって映画の中にいるみたいで楽しそうじゃん!」

 その返答には、もはや色々通り越して流石としか言いようがない。

「ホラー映画、か。言われてみればそれらしい」

 その考えには至らなかったと目を丸くする黒斗。

「刀太。仕事が終わったらその映画のこと、教えてくれるか?」

「おぅ!もちろんいいぜ!」

 笑顔で答える刀太。

「それじゃ、入るぞ。だが、さっきも言ったが手を出すな。出来れば、ずっとお……僕の後ろにいればいい」

 指示に若干不満そうにしながらも反対はしない。

「しかし、あなたが危機的状況になったらどうすればいい?」

「大丈夫だ。今日の相手は低級しかいない」

 九郎丸の質問に、余裕に答えて教会の中へ。

 皆もそれに続いた。

 

 

 

 

「けほっ、けほっ……ホコリがひどいわね」

「どうも焼けたまま放置されたようだ。確かに酷いね」

 キリヱの文句に九郎丸が分析する。

「ふ、雰囲気あるな……」

「ん?何だ三太、怖いのか?」

「こ、怖くない!」

 刀太が心配するのを跳ね除ける三太だが、強がっているようにしか見えない。

(幽霊なのにホラーが駄目なのか……)

 刀太と三太以外の三人が同じことを考えていると、黒斗が立ち止まる。

「よし、全員ここで待機。お……僕の仕事を見学していてくれ」

 そう言って、教会の奥へ行く。

「やあやあ地縛霊殿。ご機嫌麗しゅう」

 大仰に手を広げながらお辞儀をする。まるで貴族の挨拶のように。

「ふん、何用だ?」

 不機嫌そうに答えたのは、偉そうに空中に座るおっさんだった。

 多少の力がある怨霊みたいだが、どう見ても雑魚。戦闘に不慣れなキリヱでさえ、魔法アプリを使えば簡単に倒せそうだ。

(なんで、このレベルの低級霊相手に手出し禁止なの?)

 純粋に意図が読めなくて混乱するキリヱ。

 だが、手出し禁止なので大人しく見守る。

「いえ、もしあなたが今までの全てを反省し、死後の全部を元通りにするなら、あなたの地縛を解いて差し上げましょうと思いましてね」

 その発言に全員が驚いた。

 てっきり、戦闘で怨霊を祓うものだとばかり思っていたが、むしろこの怨霊を助けるものだったからだ。

「はっ、その必要はない。何年掛かろうとも自力でこの程度の地縛など解いてくれる」

 だが、怨霊はその申し出を一蹴する。

 この程度、などとは言うが地縛霊とはその土地に縛られるから存在出来ると言っても過言ではない。それを解くにはそれなり以上の力が必要だ。

 この怨霊は雑魚でしかない。

 それが、力を持てるようになるためには百年、いや千年単位の時間がいるだろう。

「では、現状を変えるつもりはないと?」

「当たり前だ。むしろ―――」

 答えて構える怨霊。

貴様からも(・・・・・)力を奪ってやる!!」

 そのまま襲いかかってきた!

「ぬぅぅううりゃぁあああああ!!!」

 霊的な鎖を何本も黒斗に叩きつける。

 

 ドッ!ゴシャァア……!

 

 黒斗が軽やかに避け、側にあった椅子に当たって砕け散った。

 脆かったのもあるのだろうが、雑魚にしては予想以上にレベルが高い。

「黒斗!」

 心配して刀太が呼ぶが、黒斗は意に介さず怨霊を睨む。

「了解だ。碌な死に方させてやらねぇ」

 黒斗が手をかざすと、黒い靄が集まり形を成す。

((?))

 その靄に一瞬変な気配を感じて、違和感に首をひねる四人。

黒針(くろばり)

 唱えると、十本ほどの大きめの針が鎖を弾きながら怨霊に突き刺さる。

「ちっ、くそが!」

 だが、刺さったまま鎖を振るう。大したダメージになっていないようだ。

 それを見た面々の反応・感想は一つ。

((弱すぎないか!!?))

 もしかして、自分の仕事を取られるのが嫌で待機させたのか、と若干失礼な考えが浮かぶ。

 そんなことを考えている間も、針と鎖の攻防は続く。

 針は鎖を弾き、怨霊は強引に動いてギリギリ針を躱す。

 そんな地味な戦闘が五分以上も過ぎたころ、

「ちょっとあんた!さすがにまどろっこしすぎるんじゃない!?」

 いい加減我慢の限界なのか、キリヱが怒鳴る。

「いいから、黙って見てろ」

 しかし、指示は待機。

 いくら仕事を頼まれたからといって、事実上の上司であるナンバーズの自分たちにこの態度。

「もう我慢ならないわ……刀太!九郎丸!やっちゃいなさい!」

 さっさと終わらせてほしいので、二人に突撃指示を出す。

 二人も、早めに終わるならいいか、と動こうとするが、

「兄ちゃんたち、ちょっとタンマ!」

 それを三太が止める。

「どうしたんだい?三太君」

 止める理由が分からず問う九郎丸。

「皆、あの怨霊の後ろ……よく見てみろよ」

 指を指した方向に目を凝らす。

 すると、怨霊の腰の後ろに大量の細い鎖が繋がっていた。

 その先に。

 

 

 数えきれないほどの低級霊が苦しんでいた。

 

 

「!?」

「な、なによ……あれ」

 雑魚にすら満たない弱弱しい低級霊しかいないが、これだけ集まっていればおぞましい。

「!そうか、そういうことか」

 何かに気付いたのか、九郎丸が手をポン、と叩く。

「どういうことだよ?九郎丸」

「彼らはおそらく、あの怨霊の被害者だ」

「?」

 言われてもよく分からない刀太は説明を求める。

 九郎丸が言うには、あの怨霊はてんで雑魚だが他の霊を捕まえてそのエネルギーを吸収できるらしい。

 後ろに繋がれた低級霊たちは今もなお、現在進行形で力を奪われ続けているのだと言う。

「んじゃ、早く助けねぇと!」

「ダメよ!あんたが全力で攻撃したら、その余波だけで何体か消えるわ!」

 それを言われたら、刀太は動けない。

(なるほど……手を出すなってこういうことだったのね)

 今ようやく納得した、と頷く。

 だが、納得したからと動けないのは変わらない。

 四人は構えることすらやめて、黒斗の戦いを見る。

 

 ガキィイン!

 

 もう何度目か分からない、針が鎖を弾く音が響く。

「っそが!いい加減にしろ、雑魚が!」

 着かない決着に嫌気が差した怨霊が怒鳴る。

「何本当たったところで、てめぇの針なんざ痛かないんだよ!」

 聞いた黒斗は動きを止める。

 その顔は攻撃が効かなくて悔しそうに歪んで―――

 なんてことは欠片もなくむしろ、何言ってんだこいつ、というものだった。

「!?」

 その表情に警戒を深める。

「はぁ、なんだよ。そんなにさっさと苦しみたいのかよ」

 こちらをいつでも殺せる、という言い方にブチギレる。

「ふざ―――!」

『黒針 煮式(にしき)

 黒斗が指を鳴らした瞬間。

 灼熱に囲まれたかのような熱さと激痛が怨霊を襲った。

「ぎゃぁぁああああああああああ!!!」

 まるで、熱湯に茹でられているかのような感覚。

 痛みと辛うじて怒りがあるだけで、それ以外の全てが頭から吹っ飛んだ。

『行くよ 黒顎(くろあご)

 今度は、手に靄が集まったと思ったら鰐のような顎が現れた。

 その顎に、四人はゾクッとする。

 強大な力を感じるわけではない。

 ただ、嫌な感じが拭えない。

 しかもその感覚に何故か覚えがあるのだから四人の疑問符は増える。

(黒斗って何者なんだろう?)

 その疑問に答えはなく、戦闘は佳境に入る。

「がぁぁああああ!っそがぁあ!!」

 僅かに残った怒りを振り絞って黒斗を攻撃する。

 その全てを避け続けながら怨霊に接近していく。

「来るなぁぁあああああああ!!」

 もう目前にいる黒斗を遠ざけようと、全ての鎖を横に薙ぐ。

 黒斗に当たりそうになる直前で、その姿が消える。

「!?」

 混乱した一瞬で、後ろ側に気配を感じた。

 怨霊が振り向く前に黒斗がその顎で腰の鎖を噛み千切る。

 パキィ!という音と共に鎖が粉々になる。

「ふざけんなぁあ!殺っすぅううう!!」

 低級霊(エサ)を解放されて、痛みを怒りが凌駕。

 鎖を束ねた極太の鎖を黒斗に叩きつける。

「死ねぇえええ!!」

 その声を聞いた黒斗が一瞬、自嘲気味に笑う。

 すぐに怨霊を睨みなおし、腕を前へ向ける。

『喰い尽くせ 闇顎(やみあぎと)

 黒斗の身長の数倍にもなる大きさの龍の顎が鎖ごと怨霊を飲み込む。

「ひっ!」

 怨霊の最期は断末魔ですらなく、小さな悲鳴に消えた。

 完全に怨霊を食べ終えた黒斗は、ふぅ、と息を吐き、

「ま、こんなもんか」

 と、肩の力を抜いた。




む、難しい…

何が難しいって、原作キャラを喋らせるのがそこはかとなく難しいです。

九郎丸とか、特に三太とかこれでいいのか!?状態です。


まぁ、色々がんばってみたいと思います。


ちなみに、主人公最強系はあんまり好きじゃないので、普通に見たらめっさ弱い感じにしました。
けど、なんやかんや実力が必要になるから少しは強くしないと……
えぇい!細かいことなんざ知るか!
これからも楽しく書いてやる!
やってやりますよ、私は!

というわけで、よろしければこれからもよろしくお願いします。


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飯は基本先輩の奢りという法則

UA500越え!ありがとうございます。

これからも、好き勝手よろしくやっていきます。


 

 

 

 ―――――……

 

 生まれた時には自分が分からなかった。

 

 他のものとなんら遜色のない存在だと思っていた。

 

 だから自分の正体を知った時に頼んだのだ。

 

 自分を、殺すではなく消してくれと。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 怨霊を倒し、軽くなる教会の雰囲気。

「はぁ、やっと終わったのね」

 時間にしてアジトから数時間も掛かっていないが、長く感じられた。

「早く帰りましょ」

「おい、仕事はこれからだぞ?」

「「え?」」

 黒斗の言葉に固まる四人。

 いや、だって、どう見てもこれで終わりって感じだったじゃん、と言いたげな顔に黒斗はため息で返す。

「言っただろ?おれ……僕の仕事は除霊だって」

「先の自縛霊のことじゃないのかい?」

「そんじゃあ、こいつらどうするつもりだよ?」

 言われて見た先には、先ほどの怨霊に力を搾取され続けた霊魂がいた。

「でも、こいつら……」

 幽鬼である三太は即座に理解したのだろう。

 元々があまり力を持っていない浮遊霊。それが力を奪われ続けたのだ。

 彼らはもう、消えてしまう。

「だけどよ。それじゃぁこいつら、報われないだろ?」

 悲しそうに、どこか羨ましそうに彼らを見やる黒斗。

『もうよいのです……』

 すると、老人の幽霊が代表して語りかけてきた。

『あなた様は私どもを真剣に助けてくださった。それだけで、もう充分です』

 心からの感謝の念がはっきり伝わる。

 全ては本音なのだろう。

「駄目だ。あんたたちを助けたところで救えなければ意味がない」

 だが、その心遣いを断固拒否する。

「でも、どうすんだよ?黒斗。時間ないんだろ?」

 刀太の質問に、笑顔で返す。

「確かに出来ることは限られてる。だから―――」

 ニッ、と付き添いの四人に言う。

「こいつらの話を聞く。お前たちにも手伝ってもらうからな」

 こうして、幽霊たちの最期の言葉を聞いていくという大相談会が始まった。

『本当に、ありがとうございました』

「いや、そんなに何度も言わなくてもちゃんと伝わってるから……」

『何をおっしゃますか!言葉を尽くしても伝わりきらぬこの感謝、まだまだ味わってもらいますぞ』

「あぁもう!最初の諦めムードどこいったんだよ!?」

『兄ちゃん、遊んで~!』

「よっしゃ、じゃあ鬼ごっこでもするか?」

『やったー!』

「そら、俺が鬼だぞ。逃げろよー」

『『わーい!』』

『私も生前の若い頃はあなたみたいに綺麗でね。モテたものよ~』

「あの、僕はその……男なんですけど」

『あらま!こりゃまたべっぴんさんだこと。生きてたらうちの息子の女房にしたかったなぁ』

「いえ、ですから僕は……」

「で、今のゲームはこうなっててな。ほら、これがぼくの動画」

『すっげぇ!かっけぇ!』

「そ、そうか?へへっ」

『ゲヘへ、お嬢ちゃん可愛いね』

『グヘヘ、いいね、いいよ』

『デュフ、萌えるでござる』

「なんであたしのところだけ変態しか来ないのよー!刀太、ちょっと助けなさいよ!」

 そんなこんなでお祭り騒ぎのように時間は過ぎていった。

『そろそろ、時間のようですな……』

 そう言って、白い光の玉を黒斗に差し出す。

『これは我々の残った力です。せめて、あなた様の糧に』

 おそらく、相談中にこつこつ集めていたのだろう。微々たる物でしかないが、そこには確かに想いがある。

 その想いを受け取った。

「ありがとな。こいつは俺の力を増やして、そんでもって」

 色んな感情の詰まった複雑そうな顔をして、告げる。

「あんたたちの綺麗な魂はきっと、俺を少しだけ祓ってくれるだろう」

 その言葉を最期に、霊魂たちは全て消え去った。

 いや、きっと成仏したのだろう。

「……さ、仕事は終わりだ。帰るぞ」

 振り返って教会を出る。

 外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。

「あぁ~、腹減った」

「そうだね、僕もだ」

「あたしは疲れたから早く寝たいわ」

 その様子を見て、黒斗は提案する。

「んじゃ、飯でも行くか?奢るぞ」

「え?マジで?」

「あぁ、高級店じゃないが味は天下一品だ」

「でもいいんですか?」

「仕事の手伝い、あれ結構助かったからな。そのお礼だ。給料もそこそこ出してもらえるようにしとく」

「マジか!?サンキュー、黒斗!」

「アホらし、あたしは帰って寝たいんだけど?」

「いいのか?そこにはアジトにも負けないくらい美味いデザートもあるぜ?」

「しょ、しょうがないわね。大人しく奢られてあげるわ」

「なぁ、黒斗兄ちゃんあとどれくらいで着く?」

「もう目の前だ」

 そこは、新東京の一角とは思えないズタボロさだった。

 店の前の通りや隣は綺麗なのに、何故かそこだけ貧困街かのようなボロさだ。

 いや、まさか、と思ったまま黒斗を見やると、迷い無くボロ店に入っていった。

「よぉっす、強面親父。適当に美味い飯とデザート五人分、よろしく」

「ああ?誰が強面だ?てめぇ以外の四人には飯出してやるよ、さっさと座れ」

 中に入ると、アジトにいる強面の構成員が可愛く見えるほど厳つい顔をしたおっさんが鍋を振るっていた。

「あ、こら父ちゃん。またそうやって黒斗さんに意地悪するんだから。ちゃんと作ってやんなよ」

 すると店の奥から娘らしき人が来て注意する。

 チッ、と舌打ちしてから料理作りに集中し始めた。

「まっ、態度は悪いが味は問題ねぇから心配すんな」

 そう言ってテーブル席に皆を座らせる。

「黒斗殿、いつもこんなやり取りを?」

「あぁ、一応常連なんでな」

「いや、常連客だからってあんな態度の必要はないかと思うんだけど」

「っていうか、そんなに何度も来てるの?」

「大体仕事で近くに来た時はいっつも来てくださいますよ」

 適当に話していたら店主の娘が話しに混ざってきた。

「へぇ、でもわざわざここへ?」

「見つけたのはたまたまだが、入ってみたら当たりだったからな。そういうお気に入りって使い続けたくならないか?」

「あぁ、わかる気がする」

「そういや、刀太が静かだけどどうした?」

 多少の盛り上がりを見せる中で、珍しく一言も話さない刀太に目を向けると、そこにいなかった。

「おぉ!おっちゃんすげぇな!」

「ガキは引っ込んでろ」

「ガキじゃねぇよ!でもそっか、そうすりゃいいのか……」

「なんでぇ、分かるのか?」

「友達ほどじゃねぇけど俺も料理できるからな」

「そうかよ」

「なぁ、おっちゃん!俺に料理教えてくれよ」

「…………今度時間があったらやってやる」

「サンキュー!」

 気が付いたら店長と仲良くなっていた。

「いつも思うけど、刀太君のあれはすごいね」

「あたしもあれは真似できないわ」

 関心したり、また別の話題で盛り上がって十数分後。

「そらよ。大サービスでてめぇにも作ってやったぞ、クソ常連。泣いて感謝しろ」

 そんな悪態と共に、料理が出てくる。

 刀太と三太は中華、九郎丸と黒斗は和食、キリヱには洋食のそれぞれ定食が振る舞われた。

「!!めっちゃうめぇ!何これ!?」

「本当ね。美味しい」

「味は一流だね」

 皆口々に料理を褒める。

 凄い勢いで箸は進み、三十分と経たずデザートを食べ終えた。

 今は、食後のお茶を飲んでまったりの最中である。

「はぁ〜、美味しかったわね」

「来て良かっただろ?」

 黒斗の言葉に頷くキリヱ。他の面々も満足のようだ。

「そういや、あんたは何者なの?」

 唐突にキリヱが質問する。

「何者って言われてもな……」

 いきなりの質問に戸惑う黒斗。

「だって、あの黒い靄とか何なのよ?」

「確かに僕もそれは気になったかな」

 九郎丸も加わり、困った顔をする。

「ん〜、そうだな……」

 何て言おうかと悩む黒斗。

 あんまり気にしてない刀太は助け船を出そうかと思ったが、その前に黒斗が口を開く。

「強いて言うなら俺は、夏凛の天敵で、三太の……いや、どっちかって言うと水無瀬小夜子の、かな」

 水無瀬小夜子の名前にピクリと反応する三太。

 それも当然だろう。

 なんせ彼女は三太を生み出した最高位のネクロマンサーなのだ。そして、刀太に三太を託した人物でもある。三太は彼女の友達だったのだ。

 そんな三太の様子には気にかけず、納得するように頷く。

「うん。俺は彼女の、超下位存在ってところだな」

 意味の分からない皆に対して、満足そうな顔で立ち上がる黒斗。

「解答は終わりだ。帰るぞ」

 そう言って、お金を店の娘に渡して出て行った。




さぁて、黒斗の正体はなんでしょう?

それは(おそらく)次回で明かされます。


しかし、コメディよりシリアスの方が執筆が進む不思議…


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報告と対策~きな臭い事案編~

少し間が空きました。

次はもう少し早く投稿したいと思います。


 

 

 

 ―――――……

 

 窓から覗く景色。

 

 明るかったり笑顔だったり。

 

 希望という言葉がピッタリ当てはまる風景に。

 

 嫌悪しか感じられない自分を憎む。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 黒斗は、報告のために雪姫の部屋へと向かっていた。のはいいのだが、

「何でお前たちも一緒なんだ?」

 黒斗の後ろには昨日仕事の見学をした四人がいた。

「知らないわよ。ただ、この時間に自分の部屋に来てくれって言われたのよ」

 黒斗の質問にキリヱが答える。

 他の者たちの頷いてる様子を見て、同じようなことを言われたのだろう。黒斗と同じく。

「黒斗はどうしてだ?」

「俺は昨日の仕事の報告に行くんだよ。昨日のうちでもよかったのに、何でかこの時間を指定されてな」

 刀太の質問にはっきり嫌そうに答える。どうも黒斗は雪姫のことが嫌いらしい。

 雪姫を慕っている刀太にとってはそのことは純粋に疑問だ。

「なぁ黒斗、雪姫のことどう思ってるんだ?」

「大嫌いだ」

 即答。

 それ以外に聞くな、と言外に言っているようなきっぱりした言い方だった。

 それから沈黙が続いてる間に目的地に到達する。

「入るぞ」

 扉を開けて全員を中に入れる。

「女の部屋に入るのにノックぐらいはしろ」

「俺らにそんな気遣いが、無用どころか無意味なことくらいわかってんだろ?エヴァンジェリン」

「一応、今は雪姫なんだがな……」

 何もせずに入った黒斗に注意するが、本人は何処吹く風だ。

「ん?それより黒斗、あのわざとらしい言葉遣いはやめたのか?」

「……別に、面倒になっただけだ」

 ぷい、と顔を逸らす黒斗にニヤニヤとした笑みを浮かべる雪姫。

 その顔にイラッとしたのでさっさと用件を済ませることにした。

「とにかく、昨日の報告だ」

 若干強めの口調で昨日の仕事の内容を全て話す。

「―――っつうわけで、この四人にもそれなりの給与は頼むわ」

「分かった。よかろう」

 仕事を手伝った報酬の話も忘れずにして終了。

「ってか、こんだけならこいつら一緒にさせる必要ないだろ?」

 黒斗の疑問はもっともだが、雪姫はその目を鋭く光らせる。

「それだけならな」

「あ?」

 雪姫の言葉により不機嫌な顔をする黒斗。

「で、どう思った?」

「……なにがだ?」

 おそらく自分の考えを見抜いている雪姫に、諦めながらも小さく抵抗する。

「不可解だっただろう?」

 他の四人が何のことか分からず首を傾げる中、黒斗は完全に諦めた。

「わぁったよ。……ったく、それを聞かせるためにわざわざこいつら呼んだのか?」

「よく分かってるじゃないか」

 大きくため息を吐いてから説明を始める。

「一言で言えば、きな臭ぇ」

 雪姫は頷いて説明の続きを促す。

「そもそもあんな雑魚怨霊がまともに戦うだけの力を持っていたことがおかしい」

 結局は雑魚でしかなかったが、それでも力を持っていたことが有り得ない事態なのだ。

 生前高い魔力を有していたなどのことでもない限り、自縛霊には力なんて欠片もないのが当たり前である。

「すなわち、誰かがあの怨霊に力を与えた可能性が高いってことだ」

 ならば、その力は誰かに貰ったものだという線が濃厚だ。

 それだけならば大したことはないのだが、

「なにより、雑魚怨霊相手で考えりゃ破格の力を与えたのに、それをこのアジトの近くに置き去りにしたのが解せない」

 そう、何もすぐにUQホルダーに目を付けられるようなところで行動を起こし、様子を見に来るでも遠くから眺めるでもない。

 行動が理解不能なのだ。

 故に不可解。

「どう見る?」

 そこまでは雪姫も同じ意見なのか、さらに先を促す。

 ちなみに、既に刀太と三太は話に着いていけていない。

「考えられんのは実験と挑発。片方か、両方か、正解かどうかも知らんがな」

 実験の予測としては、怨霊に成長させる力を与えて自身の成長のシミュレーターとして使ったのかもしれないというところ。

 挑発はわざわざUQホルダー近くで事を起こしたことを鑑みてだ。

「実験ならばまだいい……いや、よくはないが」

 言葉を受けて少し悩む雪姫。

「じゃあ聞くが、誰への挑発だと思う?」

 雪姫の質問を受けてさらに悩む黒斗。

「ぱっと見で考えりゃUQホルダーだが……個人の可能性を考えると……」

「黒斗殿への挑発、ですか?」

 少し言いよどむ黒斗。その考えを理解したのか九郎丸が続きを答える。

「どういうことだよ?」

 もはや話に置き去りの刀太が聞く。

「簡単よ。ああいう除霊はこいつの担当だって知ってて昨日みたいなことをやった可能性があるってことよ」

 同じく話を理解していたキリヱが代わりに答える。

「そういうこった。……んで、どうする?」

「取り敢えずは、お前に一任する」

 今後の対応を聞いた黒斗は、予想通りの言葉に頷こうとして、

「ただ、何かある時はそこの四人も連れて行け。何かと役には立つだろう」

 その言葉に動きを止めた。

「おいこら、昨日は温かったからまだいいがな。危険度が上がりゃあこいつらにまで手ぇ回せねぇぞ?」

「その辺は心配しなくても大丈夫だろう。全員、伊達にナンバーズではないよ」

 雪姫の言葉に悩んでいると、扉がノックされて開く。

「雪姫様、お茶をお持ち…………」

 入ってきた夏凛が固まる。

 その視線は黒斗に注がれていた。

「おいエヴァンジェリン、これはどういうこったぁ?」

 対して黒斗は、額に青筋を立てて雪姫に迫る。

「何のことだ?」

 それを見てニヤニヤした笑みを浮かべるエヴァンジェリン。

「ふざけんな!俺と夏凛が連日顔を合わせるなんざ、てめぇが仕組まねぇとあり得るわけがないだろうが!!」

 怒る理由が分からない四人は置いてけぼりで戸惑い、動けない。

「俺と夏凛は接触するのを禁止されてるんだからよ!」

「「え、えぇぇえええええええ!!?」」

 その衝撃の事実には驚かずにはいられなかった。

 何せ接触禁止だ。

 昨日の微妙なやり取りで昔からの知り合いだったのだろうというのは分かるが、流石にそんな関係だとは予想外すぎた。

 しかも、たかが二日連続で顔を合わせただけでここまで怒るとは、普通ではない。

「たまたまだろう?そう怒るな」

「ああん?」

 しかも、雪姫は白々しく流す。

 そして先ほどよりも意地悪な笑顔を浮かべる。

(あ、何か悪いこと考えてる)

 二年間共に過ごしてきた刀太はその顔でそれだけ悟り、少しだけ黒斗に同情した。

「それと、何かある時は夏凛も連れて行け」

 パリン。

 雪姫が告げると夏凛が湯呑みを落として割り、

 

 

 ドゴシャァ!!

 

 

 次の瞬間には、黒斗が闇顎を発動させて雪姫を壁ごと外へ吹っ飛ばしていた。

「てめぇ、ざけたことばっかしやがって……」

 そこには、怒りで顔を歪ませた黒斗が立っていた。

「許さねぇ。てめぇは三回殺してやるよ」

 殺気を溢れさせて、黒斗は雪姫に飛びかかっていった。




あっれぇ~?
主人公は弱いほうが……ってあっれぇ~?

何か書いてたら真正面から雪姫に攻撃とか、あれぇ?


とりあえず、次回はもうちっと激しい戦闘回になります。


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この後きっちり給料から天引きされました

今回はちょい短めです。


 

 

 

 ―――――……

 

 奇跡が起こった。

 

 しかも二度。

 

 だがそれはプラスではなく。

 

 ただ否応無く理不尽に。

 

 地獄という言葉にしか成り得なかった。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 いきなり吹っ飛ばされた雪姫の顔には、怒りではなく笑顔が浮かんでいた。

「どうした?未練たらたらじゃないか!?」

 その言葉に黒斗の顔が苦しそうに歪む。

「黙りやがれ!!」

 叫びながら、その手に黒い靄を集めて作った銀に輝く剣を出現させて斬りかかる。

 全力を持って振るわれたそれを、雪姫は腕の周りに氷で出来たブレードを作って振るうことで対処する。

「その剣を見るのも久しぶりだな?Mr.“B”(ミスター・ビー)

「あぁ、その名前を捨てた時以来だよ」

 言葉を交わしながら、二度三度と切り結んでいく。

 数秒後に地面に到着。

 お互いに少し距離をとる。そこへ、

「てめぇ!雪姫に何してんだよ!?」

「刀太君!?」

 両腕に闇の魔法(マギア・エレベア)を発動させた刀太が殴りかかった。

 超パワーを発揮する必殺にもなりうる一撃は地面を大きく砕き、

「悪いが、」

 しかし、どうやったのか黒斗は刀太の頭に着地する。

「もちっとまともに現実見とけ、ガキ」

 刀太がその言葉に反応し、吹き飛ばそうと動いた瞬間。

 逆に先ほど自分たちがいた部屋まで飛ばされた。

「おぉおおおお!?」

「邪魔すんな。これは俺とエヴァンジェリンの問題だ」

 虫けらのように、軽くあしらわれたことにショックを覚えながら、黒斗の実力に驚く刀太。

(あいつ、強ぇ!)

「刀太兄ちゃん、大丈夫!?」

 三太たちが心配して駆け寄る。

「あぁ、何か手加減されたっぽいし。ほとんど怪我もねぇ」

 悔しそうにする刀太は睨むように戦況を見守る。

 ガキィン!!

 再びぶつかり合う剣。

「ふっ、優しいな」

 せめぎ合いの最中に雪姫が笑う。

「あぁん?」

 その笑顔にとてつもなくイラッとして、剣を叩きつける。

「刀太にその剣、振るわなくてよかったのか?」

「言ってんだろ、てめぇは三回殺すってなぁ!!」

 つまり、狙いは雪姫のみ。

 何度もぶつけ合いながら、雪姫は決して警戒を解かない。

 黒斗の以前の名前の(・・・・・・)代名詞である『黒剣・闇斬(こっけん・やみぎり)』。

 その特性は、不死者であっても有効なもの。

 発動条件は斬撃一つで事足りる。

 有効と言えど倒されるわけではないので、受けてもいいか悪いかで言えば受けても問題はない。しかし、何としても受けたくない。

 それくらい、悍ましい能力なのだ。

「ふんっ!」

 故に、剣撃に合わせて魔法攻撃も織り交ぜる。

 幾つもの氷の矢は黒斗を討ち取ろうと四方八方から襲いかかる。

 それを、さらに踏み込むことで躱す。

 そこに後ろからさらに氷の矢が飛んでくる。

 今度はタイミングを合わせてターン。躱しながら裏拳の要領で横薙ぎに一閃。

 雪姫はしゃがんでこれを躱す。

「そこだ!」

 黒斗が蹴りを放つ。

 しかも脚を剣のように変化させて。

 それを大きく跳んでまた躱す。

 当然、跳躍しながら氷の矢を撃つことも忘れない。

「逃がさねぇよ『黒針・惨苦(ざんく)』」

 黒斗はこれに、昨日とは比較にならないサイズの針を形成して放つ。

 お互いがお互いの攻撃を撃ち落とす中、跳躍した雪姫が地面に降りる。

「捕まえた!『黒荊(くろいばら)』!」

 だがその瞬間、黒色の荊が雪姫を捕まえる。

「くっ!」

 そこから逃れようと、雪姫は荊を凍らせて砕く。

 その隙を、逃さない。

「死ね」

 雪姫に剣が振るわれようとして、

「止まりなさい!」

 

 

 夏凛が割り込んだ。

 

 

 雪姫を斬ろうと踏み込んだのが仇となり、その首に夏凛の刀が添えられる。

「夏凛、止せ!」

 雪姫が叫ぶが、夏凛は刀を引かない。

「これ以上雪姫様に剣を向けるなら……」

 言って、少し間が空く。

 そして意を決したように睨んで告げる。

「あなたを、殺す(・・)

 それを聞いた黒斗がつまらなさそうに剣を引く。

「ならせめて、祓魔刀状態で斬りかかるこった」

 そのまま、自室に戻っていく。

「エヴァンジェリン、てめぇを殺すのは夏凛が俺に武器を向けたことに免じて止めてやる」

「言ってろ」

 自分の方が上というような黒斗の言い分を鼻で笑って返す。

「で、受けてくれるのか?」

 雪姫の質問に舌打ちする。

「わぁったよ。ただ、危険度が過ぎれば俺はこいつら連れて行かねぇぞ」

「お前に任せる」

 それは、その辺の判断も含めて黒斗に一任するということ。

 面倒くさそうにため息を吐きながら、黒斗は自室に帰っていった。




あれ?こいつ、強いぞ?
おかしい、吹けば飛ぶくらいの弱さを想定して作ったのに……

とりあえず、次回はおそらく日常編かと思われます。
その後色々本格化、かな。

ともかく、これからもよろしくお願いします。


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そうだ、京都へ行こう。

自分の次回は~詐欺はいつまで続くのだろうか……
そしてどんどん短くなっていく一話当たりの文字数…

それと、少し遅ればせながら…

通算UA1000人突破&お気に入り数16!!

本当にありがとうございます!!


 

 

 

 ―――――……

 

 その昔。

 

 霧の男がいて。

 

 街を恐怖に陥れたという話。

 

 その事実が百年も経つ頃には。

 

 子供を躾けるお伽話に変わっていた。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 自室に戻った瞬間、黒斗は膝をついた。

「はぁっ、はぁっ、……くそっ!」

 悪態をつくが、それで調子が戻るでもない。

(くそ、消費しすぎたな。やっぱ、黒針を全部落とされたのが痛かったか。補充しねぇとな……それに)

 黒剣。

 あれを使ったのは本当に数十年、もしかしたら百年以上前だ。

 全盛期の頃とは違い、使用した際の負担はそのまま黒斗を苦しめる。

 まだ荒い息を無理矢理整えながら、黒斗は準備する。

(どこ行くかな……イギリス時代なら迷わなかったのに)

 キャリーケースに荷物を入れて、さっさと旅立つ。

 目指すは日本の古都、京都だ。

 

 

 

 

 ぐちゃぐちゃになった部屋を刀太たちも巻き込み六人で片付けている雪姫。

「……雪姫殿、彼は、黒斗殿は何者なのでしょうか?」

 飛び散らかった資料の整理をしていた九郎丸が、唐突に聞く。

「全く、意味分かんねぇよな。いきなり雪姫を攻撃するし、思ってたより強ぇし」

「まぁ、あれで私より数百年は長生きしているからな」

 そうなの?と聞く刀太に、確か生まれたのは日本の平安中期頃だか末期だかと答える。そうなると、黒斗は千年近く生きているということだ。

「雪姫殿……彼は、本当に生きている(・・・・・)のでしょうか?」

 その質問に、雪姫は感心する。

「どういうことだ?黒斗が三太みたいな幽霊ってことかよ?」

 正しくは幽鬼だけどね、と小さく訂正してから首を横に降る。

「どっちかって言うと荒御霊(あらみたま)が近いかな」

 でも……と口ごもる。

「言ってみろ」

 雪姫が促すと、自信なさ気に答える。

「彼の正体、それは『瘴気そのもの』……ですか?」

 その答えを聞いた雪姫が笑顔になる。それは無言の肯定だ。

「え、でもおかしいじゃない!?」

 しかし、キリヱは反論する。

「瘴気は確かに毒だけど、空気中のチリみたいなものなのよ!?普通じゃない存在は確かに瘴気を放ってるけど、瘴気そのものってどういうことよ!?」

 キリヱの言い分はもっともで、いくら空気中のチリが集まったところでそれはチリの集まりで、ゴミ程度でしかない。そんなものが、あれだけの力を持つだなんて、冗談にしかならない。

「普通はな。ただ、あれが生まれたのは奇跡そのものだ。本当に、偶然瘴気が集まって意思が芽生えた。それが、あいつの正体だ」

 空気中のチリが集まって意思を持つ。

「まぁ、だから確かにあいつは正確に言えば生きては――」

「生きてます」

 生物ではないので、生きてないと言おうとしたところ、夏凛に遮れた。

 それを見た全員が驚く。

 雪姫の言葉に賛同しても、否定するところなど(主に刀太関連の冗談以外)なかったのだから。

「彼は、生きています」

 戸惑う面々の中、雪姫だけが、ふっと笑う。

「そうだな、お前にとっては絶対そうだったな」

 事情を知る雪姫が優しく笑う。

 刀太的にはちょっと面白くない。

「どういうことだよ?説明してくれよ」

「あなたには関係のないことよ」

 ピシャリ、と言われて雪姫を見るが、首を横に振られる。

「黒斗や夏凛が言わないなら、私から言えることはない」

 その言葉に残念そうにする。

 ぶーぶー文句を言いながら手伝いを再開した。

 

 

 ―――今日からお前の面倒を見る奴だ。挨拶しておけ。

 ―――おいこら、せめて最低限説明してけ。

「?夏凛先輩、どうしたんだよ。手、止まってるぜ?」

 言われて、はっとする夏凛。

 そのまま静かに作業を再開する。

(ねぇ、やっぱり……)

(うん。夏凛殿、様子が変だ)

 作業は続けながら、キリヱと九郎丸はこそこそ話す。

(もしかして、昔の男、みたいな!?)

(えぇ!?でも……そんな)

(だって、あの夏凛があそこまで取り乱すなんて、そうとしか思えないわ!)

「こら、サボるな」

 ゴン!という音が二つほど鳴って、九郎丸とキリヱの頭にたんこぶが出来る。

「あまり男女の仲を詮索するもんじゃないぞ」

 その言い方に、じゃあやっぱり!と楽しそうな顔をするキリヱにもう一発ゲンコツを食らわせる。

「まぁ……色々あったんだよ。夏凛も、黒斗もな」

 少し寂しそうに夏凛を見やる雪姫。

 その様子に何も言えなくなってしまう。

 話題が途切れて、静かな片付けがその日は続いた。

 

 

 

 

 一方その頃。黒斗が新幹線に乗って、戦闘の疲れからか寝ていると。

「くすくすくす……もうすぐ、もうすぐあなたを捕まえられる」

 黒斗を遠く、かなりの遠方から新幹線に乗っているその姿を、正確に覗く人影があった。

「待っていてね。愛しの、私だけの……バーナビー(・・・・・)

 愛おしい伴侶を抱くように自分の身体を抱きしめて、人影は消えた。

 回り始める歯車の中心にいるのは、果たして誰なのだろうか。




日常編と言ったはずなのに、まだ続くシリアス…
おそらく今度こそ日常&主人公の正体解説になると思います。

さぁ、瘴気で出来ているとはどういうことなのか?※)自己解釈が入ります
そして、最後の人影は誰なのか?←実はまだアイディアが固まっていないという。


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クエスションタイム~魂のカスについて~

大変長らくお待たせいたしました!

感想に勇気付けられ元気付けられ全力で更新させていただきました。
感想くださった方々、今更ながら誠にありがとうございます。


そしてそして、UA2500&お気に入り20!!

多くの読者様に感謝感激の至りであります!
これからもどうぞよろしくお願いします!!






 

 

 

 ―――――……

 

 最初は渋々だった。

 

 それが段々と普通になって。

 

 いつの間にか、楽しくて仕方がなかった。

 

 だからもっと、と近付いて。

 

 そうして、全てを壊してしまった。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 

 黒斗が京都に行ってから一週間後。

「はぁ、最早久しぶりだな」

 黒斗がアジトへ帰宅した。

「んお?」

「あっ」

「黒兄ちゃんだ!」

 帰って早々、構成員たちに囲まれてしまった。

「どうしたんだよ?今回は。仕事か?」

「消耗したんでね、休暇だよ休暇」

「黒兄ちゃん、遊んでー!」

「後でな」

「黒斗さん、雪姫様が帰ってきたら自分の部屋に来るようにと」

「分かった、すぐ行く」

 適当に流しながら返事をしていく。

 そこでふと、気になったことを聞いてみた。

「……なぁ、夏凛はどうしてる?」

「夏凛様なら今はアマノミハシラ学園都市に行ってますよ」

「んあ?……あぁ、そういやまだ調べる必要があったんだっけな」

 アマノミハシラ学園都市とは旧麻帆良学園であり、つい先日三太を幽鬼にした水無瀬小夜子が世界規模のヴァイオハザードテロを起こしたその中心地でもある。

 何でも、なかったことにしたとはいえ世界が滅ぶほどに用意周到に準備されたテロが行われたのだ。細かい経緯や、繋がってる裏側の調査が必要なのだと言う。

(ま、好都合かもな)

 そちらに掛かりきりになってくれるなら、黒斗に任された件に巻き込まずに済む。

 そう思いながら、雪姫の部屋に入った。

「おぅ、戻ったぞ」

 

 ビュオ!!

 

 入った瞬間、氷の矢が飛んできた。

「うぉおおおお!?」

 全力で横っ飛びに躱す。

「いきなり何しやがる!?」

「黙れ阿呆が。貴様が暴れたせいで処理が遅れた案件がいくつあったと思っている?」

 随分と手間だったのだろう。それが雪姫のいらいら具合から見て取れる。

「あ?てめぇが俺を挑発しなけりゃあんなことにはなんなかったっつうの」

 だが、黒斗としても心外なのである。

 普段は別に感情をあらわにしたり、激情に任せてキレて襲い掛かったりなどしないのだ。

 その琴線に触れると知って色々企んだ雪姫が悪い。

 二人とも主張は折らず、そのまま双方くだらないぶつかり合いはやめた。

 自然とそうなった二人の取り決め。両方が折れなければ、逆に両方ともが意見のぶつけ合いをやめる。そうして妥協案を探すのである。

「それで、今回はどこに行って来たんだ?」

 話を強制的に終わらせて、別の話題に。

「今回は京都、特に嵐山とか雰囲気の悪いところにって感じだな」

 当然、黒斗もその話題に乗っかる。

「ロンドンに比べりゃ、と思ってたがあそこもいいな。漂ってるだけで瘴気が充填されてるのがわかる」

「そうか」

 満足げに頷く黒斗に簡単に返す雪姫。

 近くに寄れば分かるが、黒斗から感じる瘴気は以前よりも遥かに強くなっている。とはいえ存在感などはやっぱり希薄なままなのだが。

「それで?ただ休養しに行っていたわけでもあるまい?」

 睨むように雪姫が聞く。

 黒斗はこれでも雪姫より長く生きていて、力が弱い。それ故に調査や安全策や一矢報いるといった、いわゆる転んでもただでは起きないということに関しては信頼が置ける人物でもある。

 まぁ、不死人にはそこまで必要になる安全策もないが。

 ともかくとして、この黒斗に限って言えば手ぶらで事を済ましてくるなど有り得ないと言っていい。

「いやぁ、京都見学が存外楽しくてなぁ。ほれ、お土産の生八橋」

 だが、雪姫の問いにあっけらかんと笑う。

 

 ビュオ!!

 

 その笑いにイラッとした雪姫が再び氷の矢を放つ。

 しかし生八橋を盾にされたので仕方なく当たる前に消した。

「まぁそんなにイラつくな」

「誰のせいだ!誰の!」

 まぁまぁ、と落ち着かせてから雪姫に背を向けて黒斗が告げる。

「俺に任せてくれるんだろう?」

 その言葉の真意を正しく汲み取った雪姫は。

「話せ」

 黒斗の首筋に氷で出来た刀を出現させた。

 部屋から出ようとすれば首が胴体とさよならするように。

 黒斗は確かに情報を持ち帰り、しかしその危険度が高いために何も話さなかった。

 だから、例え脅してでも聞き出す必要性を感じたのだ。

「断る」

 だが、黒斗は構わず出ようとする。

 当然、その刃は黒斗の首を通り抜け。

 しかし、頭は未だ健在のままだった。

「お優しいね。空気の中の水分を固めただけの、ただの氷とは」

 黒斗の首からは血が流れておらず、刀の通ったところが黒い靄で覆われてるだけだ。

「魔力を纏わせた武器ならともかく、ただの物理攻撃は俺には基本効かない。そんくらいてめぇだって分かってるだろ?」

 生物ではなく、本当に塵芥が集まって出来たような黒斗は身体の構造など、有って無いようなものである。

「あぁ、だがな」

 雪姫が呟くように言い。

 次の瞬間には、至近距離で黒斗に手をかざして立っていた。

「勘違いはするな」

「へぇ、力の差があるから逆らうなってか?」

 挑発気味に聞く黒斗に、首を横に振る。

「お前が、UQホルダー(私たち)に必要だから話してほしいんだ」

 辛そうなその言葉に、やれやれと言いたげに肩をすくめる。

「お前、まだ罪滅ぼしなんてくだらない感情を俺に向けてるんじゃねぇだろうな?」

「……信じてくれるとは思っていない。でも、本当なんだ」

 そうかよ、と言ってそのまま部屋を出て行く黒斗。

「黒斗!!」

 止めようとする雪姫に、一度立ち止まって。

「この前のきな臭かった依頼。あれ、やっぱり繋がってたよ」

 それだけ伝えて、去って行った。

 

 

 

 

 場所は変わって中庭。

「あぁああああああああああああああ!!!!!」

 先ほど約束した通り、子供たちを空中に浮かして遊んでいたら大きな声が響いた。

 声の主は分かっている。

「どうしたんだよ?刀太」

「どうした、じゃねぇよ!!説明しろぉ!」

「いや、だから何をだよ」

「えっと……」

「決めてないのかよ」

「う、うるせぇ!とにかく、一から十まで全部話せよ!」

 無茶苦茶な要求をする刀太にどう断って逃げきろうが考えていると。

「僕も聞かせてほしいですね、黒斗殿」

 そこに九郎丸も、いや、この前仕事について来た全員が集まっていた。

「はぁ、分かったよ。ってか、お前ら学校に行ってたんじゃないのか?夏凛はまだそっちだって聞いたけど」

「それについては雪姫殿が、そろそろ貴方が戻ってくる頃だろうから、と呼び戻してくれたのです」

 九郎丸の返答に小さく舌打ちしてから本題に入る。

「で、お前らは何が聞きたいの?」

「僕たちが聞きたいのは、いくつかある……けどまず、黒斗兄ちゃんは何者なんだ?どういうことか教えてくれよ。小夜子の下位存在ってなんなのか」

 それまで見たことがないほど真剣な表情の三太。

 水無瀬小夜子の存在が三太にとって無視出来ないほど大きいこともあり、嘘や半端な説明は許さないと言外に語る。

 黒斗は諦めて説明を始める。

「俺が瘴気で出来てるって話は?」

「聞いてます」

 黒斗の質問に肯定の答えが返ってくる。

「じゃあまず聞くが、瘴気ってのはなんだと思う?」

 その質問に、えっ、と固まりながら、キリヱが答える。

「瘴気って悪い気……じゃないの?」

「なら、気の善し悪しは?なんなら気そのものってのはなんだ?」

「よく分かんねぇけど、気ってエネルギーなんじゃねぇの?」

 首を傾げながらも今度は刀太が答える。

「じゃあ、それは『何の』エネルギーだ?」

 次の質問には、一同口を閉ざす。

 大して意識して使っていなかったのもあって、すぐに答えられなかった。

「えっと、体力とか精神力とか気合?」

 とりあえず適当に答える刀太に首を横に振って否定する。

「それも間違いではねぇよ?じゃあ、それらの力の大元は何だってことだよ」

 不正解と言われ、悩む。

「……魂、ですか?」

 全員が黙る中、自身の感覚を思い出し、予想を立てて答えたのは九郎丸だ。

「正解だ。詰まる所、瘴気ってのは魂の悪い部分や負の感情の極々小さな欠片だ」

 正解は分かったが、結局黒斗の正体の話には届いていない。

「早い話、瘴気は魂のカスだ」

 黒斗の説明は続く。

 瘴気は魂のカスであり、欠片である。

 そして、魂は外に発することが出来るのだ。

「例えば、物凄く怒ってる奴が近くにいると、直接そいつの様子を見てなくても、『あっ、こいつ怒ってるな』ってのが分かる時があるだろ?魂を外に発している状態ってのはそんな感じだ」

 そういった発せられる魂のうち、負の感情。怒りや悲しみなどがそれに当たる。

 それらは、別に普通に発せられる時には大して意味がない。

 文字通り吹けば飛ぶ、砂っぽいゴミのようなものだ。

 だが、それらが集まりやすい場所がある。

 簡単に表現すれば、汚いゴミの溜まり場が適当だろう。

 その溜まり場の様子を指して、瘴気が濃いと言うのだ。

「で、魂のカスと言えど、集まれば力だ。膨大な量と質が合わされば、ただ生前に力を持ってただけの幽霊を荒御魂に変えちまうくらいにな」

 その説明に三太が俯く。

 水無瀬小夜子は、無念のうちに殺された悲しい魂の受け皿に自らなり、その結果、世界を滅せるだけの力を手に入れたのだから。

「実際、水無瀬小夜子の例を見れば分かる。魂は集まれば他のものに影響を与えるんだ」

「ねぇ、それじゃあ鬼とかはどうなるの?別に瘴気を放ってるからっていつも怒ったりしてるわけじゃないでしよ?」

「あ~、それは属性が関わってくるんだ」

 途中のキリヱの質問にもちゃんと答える。

「炎とか氷じゃなくて、陰と陽な。鬼とかは陰の属性存在だから、瘴気をデフォルトで放ってる」

 その辺の話は今関係ないから、と置いておいて説明を再開する。

「魂が集まれば何かしらの影響が必ずある。なら、集まった魂の欠片同士で影響し合ったら?んでもって、その影響の仕方が周りの欠片をより集めるように作用したら?」

 その言葉に、頭の良い九郎丸とキリヱが理解する。

「そうやって集まった魂の欠片が、もし普通の生物と、人間と似たような量やら大きさやら質やらを手に入れたら?」

 そこまで言われて、ようやく三太が分かった。

 唯一分からない刀太が質問する。

「でもよ、魂が集まって人間のそれっぽくなったからって人間みたくなれんのか?」

「じゃあ、水無瀬小夜子はどうだった?」

 そう聞き返されて思い出す。

「水無瀬小夜子は言っちまえば、ただの怨霊だったよ。確かにな」

 けど、一言区切って告げる。

 

「神に近い存在だと思わなかったか?」

 

 その言葉にゾクリとする。

 確かに水無瀬小夜子はただの幽霊と言うには一線を画すどころか優に超える存在だった。

 言い換えるなら、力が集まればそれまでより高次元の存在になれるということ。

 魂の欠片でも、集まれば人のそれに近い存在になれるということ。

「まぁ、どうして俺がちゃんと一人の人としての意識があるのかは俺にも分からん。が、俺を構成する原理はこんなもんだよ」

 その言葉を最後に説明を終える。

 説明を飲み込むのに、少し時間を要してる面々。だが。

「よぅし、んじゃあさ黒斗。力試しに腕相撲しようぜ!」

 能天気に勝負を申し込む刀太。

「あんたねぇ、少しは悩みなさいよ!」

 叱咤するキリヱに素で疑問符を浮かべる刀太。

「なんでだよ?説明はしてもらったし、敵でもない。んでもって、こいつは俺より強い。なら一回戦ってみるのも別に悪くねぇと思うぞ」

 意外な正論に反論出来ないキリヱ。

「くはっ、面白ぇ。いいぜ、刀太。腕相撲だろ?受けてやる」

 笑いながら承諾する黒斗にやった、と喜びながらついて行く刀太。

「やっぱり、刀太くんは凄いな」

「バカだけどね」

 呟く九郎丸とため息を吐きながら呆れるキリヱ。

 けど勝負が気になるのか、先について行った三太を追って行った。




さて、いかがでしたでしょうか?

今回は説明回なので、分かりづらかったらすみません。


一応の補足をいたしますと、小夜子の構成要素に怨霊やら瘴気やらがあって神に近い存在にまでなったのに対し、黒斗は瘴気のみの構成とどれだけ集まっても人未満にしかならないということで、『超下位存在』を名乗っている、ということです。

では次回はVS刀太(腕相撲)です。お楽しみに。


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お茶目に腕相撲!

連日投稿失礼します。


活動報告にアンケートを実施しております。
コメント、もとい投票をお待ちしてます。


 

 

 

 ―――――……

 

 世界には、黒という属性がある。

 

 闇でもなく、悪でもない。

 

 それらを含むことは多いが、そうでなくても存在する。

 

 陰ともまた少し違うこの属性は。

 

 大体が存在自体間違っていることが多い。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 アジトの船着き場にて。

 どこから持って来たのかドラム缶が置いてあり、そこに腕相撲の準備万端で刀太と黒斗が対峙していた。

 その周囲、旅館側にたくさんの見物人が集まっていた。

 九郎丸たちに加えて組織の構成員たちである。

「よぅし、準備はいいかよ?」

「あぁ、いつでも来い」

 刀太の問いに頷く黒斗。

 緊張感が周囲を包み。

 審判役の構成員がコインを弾き。

 

 チャリィン。

 

 コインが、落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負は一瞬でついた。

 刀太の肩から右手までをドラム缶に残し、他の身体は海まで飛ばされて。

「「え、えぇぇええええええええええええええ!!!!!!!!!????」」

 刀太だけでなく、周囲の全員があまりの結果に驚いていた。

 そのまま刀太は飛ばされて。

 遠く、ドボン!と刀太が海に落ちる音がした。

 

 

 

 数十分後。

 何とか海から上がってきた刀太が黒斗を問い詰める。

「なぁ!あれ、なんだよ!どうやったんだよ!?ってか海まで腕が千切れるくらいの勢いで飛ばすな!」

「くく、あーっはっはっはっは!!いやぁ、悪い悪い。お前の気の使い方が素直でな、ちょっと遊びたくなっちまった」

 笑いながら軽く謝る。

「大丈夫!?刀太君!」

 そこに九郎丸たちが走って近付く。

 その間に、刀太は自分の腕をくっ付けていた。

「本当にどうやったのよ?黒斗」

 心配して刀太に寄り添う九郎丸に代わってキリヱが質問する。

「あぁ、ありゃ合気道の応用だ」

「合気道?」

 聞き返す三太に頷く。

「合気道ってのは極端に言えば最小の力で流れを制する方法だ。それをちょちょいっとコントロールしてやれば……」

 と言ってチラ、と刀太を見やる。

「でもよ、あそこまで極端なことになんのかよ?」

 文句ありげなジト目で睨む刀太。

「普通はなんねぇよ?俺だってあそこまで行くとは思ってなかったっての」

 本当か?と睨むのをやめない刀太に、慌てたように解説する。

「えっとな、原理としては気をぶつけ合う時に、刀太の力を利用して刀太自身にぶつけたんだよ。だから、身体全部が少し空中に浮くかもな、とは思ってたけど、あんな遠くまで、まして腕が千切れるとか考えもしなかったんだって!」

「でも、ならどうして刀太兄ちゃんはあそこまで吹っ飛んだんだ?」

「そりゃまぁ刀太の力が凄かったから、だな」

「そうなのか?」

 確認の言葉に大きく頷く黒斗。

「そうだよ。刀太君の力を利用してるんだから、刀太君の力が強い分効果が上がるんだからね」

 九郎丸の補足に照れたように鼻を掻く刀太。

 自分が認められることは刀太にとってかなり嬉しいことらしい。

「でも、それでもよくあそこまで飛ばせたわね?」

「まぁ、俺は存在がエネルギーそのものでもあるからな。気を扱うってことに関しちゃお手の物だよ」

 瘴気、つまり気の集まりで出来た黒斗。それ故、気の扱いに長けているのも当然といえば当然である。

 へぇ、なるほどねぇ。と納得するキリヱ。

「まぁ、何はともあれ、悪かったな刀太。今度何か奢ってやるからそれで許してくれ」

「それより!今の合気道だっけ?教えてくれよ!」

「全力で断る」

「そう言わずにさ!な!な!?」

 目を輝かせて頼む刀太に助けを求めるように周囲を見るが、九郎丸たちは全員、諦めてくれと表情で語っていた。

「まぁ、細かく特訓を見る気はないが、基礎だけならな」

「サンキュー!」

 やりぃ!とガッツポーズする刀太。

「まずは、力のベクトルがどう向いてるのかを意識しろ。日常生活の中でもな」

「ベクトル?」

 あぁ、そうだ。と頷いてから説明を続ける。

 力を込める時はもちろんだが、何気ない動作でも動く時には必ず力が発生する。その流れを即座に理解出来るようになるのが第一歩だと言う。

「瞬動術にしてもだが、ただ身体を動かすのと合わせて連動させるだけじゃあまだまだだ。そうやってまともにコツを掴んだだけで何となく扱ってるだけじゃあレベルとしちゃあ低い。腕相撲はコツを掴むのには最適ではあるがな。けど、まだ上がある」

「え!あれよりもかよ?」

 かなり瞬動術をマスターしたという自負のある刀太がその言葉に驚く。

「当たり前だ。むしろ、たかがあの程度でマスターした気になってたら、上のレベルにはついていけないぞ?」

 上?という疑問に頷いて、一人の名前を告げる。

「フェイト・アーウェルンクス」

 その名前に三太以外の三人に緊張が走る。

 その人物は、アマノミハシラ学園の任務に就く前に戦った相手であり、キリヱの能力をフルに使って、ここにはいないロボットの不死人である飴屋一空と夏凛の力を合わせた全員が全力を振り絞って、どうにかこうにか実力の拮抗している雪姫と戦わせることが出来た、強敵以上の難敵である。

 同時に、刀太の両親の仇でもあり、刀太がより強くなろうと決心するきっかけとなった人物でもある。

 黒斗もUQホルダーのメンバーであり、調査は得意。

 ならば当然、フェイトと敵対したことも知っている。

「あれと対峙するのには、正直魔法が欲しいところだが、まぁ仕方ない。闇の魔法(マギア・エレベア)も、別に切り札になるくらい強力ってわけでもない。で、基本瞬動術オンリーで奴と戯れるんでなく、戦いたいのなら、今のレベルじゃあ遊ばれることすら難しいぞ」

 突き付けられた現実に俯く。

 それだけ、彼我の差は開いている。

「だからって一日二日で力なんざ手に入れられるわきゃねぇ。だからまずは、力の流れの把握を指一本どころか毛先一本一本に至るまで感覚で身に付けろ。いいな?」

「おぅ!!」

 元気な返事に気をよくしてその場を去る。

「んじゃ、二、三日調査に行ってくるから、それまでにその辺レベルアップしとけよ?」

 それだけ伝えて船に乗って行ってしまった。

「あいつ、何か急いでなかった?」

「確かにそう見えたね。もしかして、この間の報告で進展があったのかな?」

 黒斗の様子に疑問を抱きつつ、次に会ったら必ず報告を聞こうと決めたのだった。




読んでくださってありがとうございます。

次回は……どうしようか迷ってます。
調査中の黒斗にトラブル(決してToLOVEるではございません)を起こすか、サクッと一、ニ行で調査を終わらせて次の展開に行くか。

前書きでも書きましたが、活動報告でアンケートを実施しました。
なのでなにとぞ、コメントの方どうかよろしくお願いいたします。
m(_ _)m


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セッティングと覗きは基本のセット

アンケートを取りましたが、書き溜めるくらいなら早く投稿してという意見を頂戴したので、調査回はすっ飛ばして合流させました。

調査回は刀太たちと一緒に、ということにしますので調査回が見たかった読者の皆様もご安心ください。


一部、一空についての設定認識ミスがあったので修正しました。


 

 

 ―――――……

 

 何も、全てが絶望に包まれていたわけではない。

 

 希望を抱いた時もあった。

 

 夢を目指した時もあった。

 

 現実に打ち勝てるよう努力したことも、あった。

 

 けれど結局。

 

 その希望が続くことなど、夢が叶うことなど、努力が実を結ぶことなど。

 

 ただの一度もなかった。

 

 ただ、それだけ。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 一応の調査を終えた黒斗は、アマノミハシラ学園にいた。

 キチンと制服を着て。

「……なんで、こうなったんだろうなぁ」

「愚痴ってないで、早く今後のことを話しなさい」

 そして、夏凛と二人きりでテーブルに座り、そのテーブルには紅茶とデザート付き。

 デート以外の言葉が見当たらないシチュエーションの只中に。

 こうなったのには話はほんの数十分前に遡る必要がある。

 

 

 

 

 ~数十分前~

 

 刀太たち一行(一空や夏凛を含めた六人)がお茶をしながらバイオハザードテロについての確認をしていたところに黒斗がやってきたのだ。

「やっほ。皆さんお揃いで」

「黒斗?」

 なんでここに?という顔の刀太に、

「お前らがここにいるっつうからわざわざ来てやったんだろうが」

 少し苛立ちながら伝える。

 その様子からこの学園にはあまり来たくなかったのがありありと伝わる。

「やっほー、久しぶりだね。黒兄(くろにぃ)

「そうだな、一空。調子はどうだ?」

「元気だよ」

 軽い挨拶を交わす二人。

「なんだ?二人は仲いいのかよ?」

「まぁね」

「子供にそんなキツイ態度取れねぇだろ」

 疲れたように言う黒斗に頬を膨らます。

「ひどいなぁ、黒兄は」

「精神年齢はどんな見た目でも誤魔化せねぇだろうが」

 そうかな?と首を傾げる面々。

 確かに一空の精神年齢は十三歳だが、これでも七十二年は病院のベッドの上とはいえ生きているし、子供とは思えないほど能力も高いし、考えもしっかりしていると思うのだが。

 しかし、黒斗的には一空は子供らしい。

「……それで、何故ここに?」

 それまで驚愕で固まっていた夏凛が硬直から脱して本題に入る。

 夏凛にとって、黒斗の方から話しかけてきてくれるということ。

 それは彼女の中で有り得ないこととして確立してしまっていた。

 三百年もの間、それを望まなかった日は無いというのに。

 だが、今はその話は置いておく。

 黒斗が用事ということは雪姫に依頼された調査に進展があったということのはずだから。

「決まってんだろ。例の件だよ……けど」

 報告の前にチラと一空を見やる。

「ん?僕なら問題ないよ、ちゃんと雪姫様から許可出てるしね」

 返答に舌打ちで返す。

 その返しに、酷くない!?と涙目になる一空だが気にしない。

「つっても、大したことは分かってねぇんだけどな。今回分かったのはそこそこでかい組織がバックにいるかもしれないってことだ」

「組織?この前の除霊の件はやはり実験だったということですか?」

 九郎丸の問いに頷いて続ける。

「あぁ、しかも実験の規模が予想より大きい。下手すりゃ日本全国で実験が行われてる」

 その内容に全員が驚く。まさかそこまでとは誰も思わなかったからだ。

「あと、最近物品の盗みも多発してる」

「盗み?」

 一空の確認にあぁ、と返す。

「別にたかが大金程度とかお店の万引きなら気にも留めないんだけどな」

「一体何が盗まれたのよ?」

「いわく付きの物ばっかりだ。しかも、一件や二件じゃねぇ」

 キリヱの質問の答えは空気を少し重くした。

「具体的には?」

 夏凛の質問に、チラとそちらを見て答える。

「一番多いのは呪いが掛かった武器だ。他にもそういった伝承が付いたヤバイもんを中心に盗まれてる」

「それは……」

 確かに良くない事態である、と夏凛は警戒心を強くする。

 黒斗は基本的に報告を最小限にする傾向がある。

 それは仲間を不用意に危険に巻き込まないためであり、大体は舌先三寸で煙に巻くことで関わらせないようにするためだ。

 その黒斗が素直にマズイ状態だと告げる。

 よっぽど危険なのかもしれない。

 少なくとも、ここにいる自分たちに素直に危険を伝えるくらいには。

 自分たちよりよっぽど危険な立ち位置にいるくせに。

(それでも、やはり貴方は一人で背負ってしまうのでしょう?)

 寂しげに、黒斗を見やる。

 黒斗は今、刀太たちに協力を仰ぐか真剣に悩んでいる。

 その視線に黒斗は気付かなかった。

 黒斗は。

 黒斗と夏凛を除いた五人がアイコンタクト。

 一秒すら掛からない完璧な連携で、作戦を実行に移す。

「さぁって、報告も聞いたし俺は修行に行こっかな」

「なら、僕も付き合うよ。刀太君」

「僕も行くよ、刀太兄ちゃん」

「あ、そうだ。さっき季節限定のオススメスイーツの告知がしてあったんだ」

「え、本当?一空。じゃあ私たちも食べにいきましょ。あ、夏凛と黒斗の分も頼んどいてあげるわね」

 一斉に立ち上がり、そそくさと退散。

 言ったとおりにケーキセットを注文するのも忘れない。

 ポカン、とする二人を置き去りに、ミッションコンプリート。

 達成時間は十秒。評価はSだ。コングラッチュレーション!

 そして、数分後。

 ケーキセットが運ばれて、今に至る。

 

 

 

「今後ってもなぁ~」

「貴方が決めかねているということは、相当に危険な案件なのでしょう?素直に私たちに頼ったらどう?」

 その言葉に顔をしかめる黒斗。

 やはり巻き込みたくない、という思いがあるのだろう。

 そのためか、答えようとしない。

「どの道、貴方が抱えられる以上の事態に陥ったら私たちが必要になるのよ?それなら、今のうちから頼っておきなさい」

 久しぶりにまともに話せた上に、黒斗が弱みを見せているという絶好の状態。

 そのせいか、普段の彼女よりかなりグイグイ食い気味に頼るよう迫っている。

「………………」

「頼りなさい。……頼ってよ。ねぇ、黒斗」

 唇をキュッと結び、縋るように言う。

「~~~~~わぁったよ!必要だと思ったら絶対頼るよ」

 目を潤ませて、上目遣い。その上そんな悲しそうな顔までされたら、逆らえない。

 三百年間まともな接触をしてこなかった黒斗だが、別に夏凛が嫌いになったわけでもない。

 夏凛に冷たくは出来ても、夏凛のお願いに聞く耳持たないなど有り得ないのだ。

 自分のお願いを聞き入れてくれたことに嬉しく思って笑っていると、視線を感じた。

 急いでそちらを確認すると、見覚えのある影が五つ。

(もう!あんたたちが変に遠回りするから肝心な部分が見れなかったじゃない!)

(仕方ないだろ!行った道が悪くて、ショートカットしたら絶対にバレるルートしかなかったんだから!)

(それよりも、これは覗きじゃないのかな?)

(でも、九郎丸君も気になったから参加してるんだろう?)

(そ、それは皆が賛同していたからであって……!)

(こ、これが恋愛って奴か……)

(変な関心してるんじゃないわよ、三太!)

(ってか、あんまり騒いでたら見つかるぞ!?)

 小さく喧嘩しながら二人の様子を窺う五人。

 皆を静めるために、全員が二人から目を離した瞬間。

 

 

 

 

「貴方たち、何をしてるの?」

「覗きたぁ、随分と高尚な趣味してるなぁ?」

 

 

 

 青筋を立てた黒斗と夏凛(魔王二人)がそこに立っていた。

「いや、あの……これは」

「言い訳は無用よ」

 そう言って刀を抜こうとする夏凛を必死で止める。

「てめぇら仲良くお仕置きだこら」

 しかし黒斗が指を鳴らして黒針を五人に刺す。

 それ自体は特に痛みも無い。

 だから四人は疑問符を浮かべていた。

 一空以外。

「ごめん!黒兄ぃ!!だから、だからどうかそれだけは!!!」

 必死に懇願して謝る一空にギョッとする。

 そこまでヤバイのかこの針は。

 全員急いで抜こうとするが。

「ダメだ」

 

 パチンッ!

 

 無慈悲に鳴らされる指。

 その瞬間、身体中が熱湯で煮込まれてるかのような激痛が全身を包む。

「「がぁああああああああああああ!!!!!!!」」

 あまりの激痛に全員が叫ぶ。

 空気という空気を全て吐き出した頃。

 もう一度指を鳴らして、お仕置きを終了する。

「「はぁっ、はぁっ」」

 失った空気が愛しいと言いたげに全力で呼吸する五人。

「な、なんなのよ?今の」

「あれが俺の魔法の一つ『黒針 煮式』だ」

「酷いよ、黒兄ぃ」

 ぶぅぶぅ文句を言う一空を見もせずに切り捨てる。

「うっせ。それにほんの数秒だぞ?全開でやったけど」

「全開じゃん!キツかったよ!」

「幻術でぎゃあぎゃあ喚くな」

 黒斗の言葉に驚きながら反応する九郎丸。

「あれが、幻?」

「おぅ。一応教えとくと、黒針は幻術の発動キーみたいなもんでな。術式に合わせた幻術を打ち込むようになってんだよ」

 言われた一空を覗く四人は今でも信じられない。

 あの感覚は本物としか思えなかった。それくらいの痛みだったのだ。

「でも黒斗、全開は少しやり過ぎよ?あれ、殺し用(・・・)の魔法の一つじゃない」

 夏凛の言葉にえ?と冷や汗が流れる。

「まぁ不死人だし」

 あんまりな扱いにさしものメンバーがブチ切れる。

「「黒斗ぉおおおおおおおおおお!!!!!」」

 その後、少し激しい喧嘩になったのは言うまでもない。




さぁさ!珍しく正統なラブコメ回!
シリアスばっかり筆が進む中、ようやく書けました!

次回は……まぁ、はっきりは言えませんが、あんまりすぐにシリアスに再突入させても息が詰まる方もいるかもなので、日常回。出来ればリクエストのあったオマケ回を持って来ようかと思います。

あ、ちなみにオマケ回のカップリングやらシチュエーションのリクエストはいつでもお待ちしていますので、お気軽に感想欄でも活動報告欄でもメッセージでも思い付いたらお送りください。


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デートにデバガメは付き物だよね!

さぁ、今回は刀太×九郎丸のデート&残り面子による尾行というリクエスト回です。

それでは皆さん、準備はいいですか?
なんのって?


そりゃあ砂糖を吐く準備に決まってるじゃないですか~、愚腐腐腐腐。


それではどうぞ。


 

 

 

 ―――――…

 

 自分の存在は灰色だ。

 

 黒か白か、決まっていない。

 

 決めたい色はある。

 

 けれど今は、そんなことは関係なく。

 

 この時を楽しく過ごしたいと思う。

 

 本当に、心から。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 刀太たちが黒斗に調査を手伝うか聞いたところ。

「いや、事態は進んでるが、今から急に動いても大して状況は変わらん。だからしばらくは休暇だ。好きに過ごせ」

 そう言ったので、休養を取ることにした。

「特訓もいいけど、適度に遊んでガス抜きはしとけよ」

 その言葉に修行三昧に浸ろうと思っていた刀太は、まず遊ぶことにした。

 ちなみに、黒斗は休めと言ったのにまた調査に出ようとしたので夏凛に捕まって説教されることになった。

 そんな訳で刀太の選択肢は、誰と遊ぶかに絞られたのだが。

 キリヱはやることがあると言って何処かへ行ってしまい、黒斗と夏凛は付かず離れずの距離で連れ立って行ってしまった。

 また付いて行こうとしたが、黒針で牽制されたので諦めることに。あの幻術には、正直二度と掛かりたくない。

 三太と一空は、ゲーマーVSロボットのゲーム対決のためにゲームセンターへ。

 結局、選択肢は一つしか残っていなかった。

 とはいえ、嫌ということは決してない。むしろ喜ばしいとさえ思う。

「九郎丸、遊びに行こうぜ!」

「ぼ、僕でいいの?」

「ばっか、おめぇ。俺はお前がいいんだよ」

 満面の笑みを浮かべる刀太に少し顔を赤くして、九郎丸は手を引かれながら付いて行く。

 

 

 

 ―――そして。

(なぁ、夏凛よぉ。いくらやられたからって俺にデバガメさせるのはだなぁ……)

(うるさい。何より重要なのは、九郎丸が女の子になるかどうか。それ以外は全部枝葉よ)

(もう、だからって何であたしたちまで巻き込むのよ?)

(キリヱもノリノリで参加してたような……)

(黙りなさい、三太!)

(それにしても、みんな好きだね~)

 適当な木陰の中で、黒斗以外の四人が集まってヒソヒソ話していた。

 ここにいない黒斗は通信魔法で連絡を取っている。

 その黒斗は身体が靄で出来てる特性をフルに生かし、影に潜んで靄状の身体に変化させて二人の様子を観察していた。

 実際にその姿を見てみると、テニスボールくらいの大きさの玉型の靄に目が付いてるという、ホラー映画で大活躍な見た目をしている。

 ちなみに、四人の手には黒針が刺さっており、そこから幻術をコントロールして黒斗が見た景色を四人に見せるという、意外と器用なことをしていた。

(ていうか、黒斗の幻術って便利ねぇ)

(うん、僕もこういう使い方は初めて知ったよ)

(アホかお前ら、昔からの治療法として催眠術を使った精神治療ってのは行われてたんだよ。幻術だって、平和的に使えばセラピーの分野として活躍するんだからな)

 黒斗のプチ講座に関心しながら二人の様子を盗み見――もとい観察する。

 

 

 

 一方、そんな仕返しが実行されてるとは微塵も考えていない二人は。

「ほら、やってみろよ。九郎丸」

「で、でも僕に出来るかな?」

 UFOキャッチャーの景品を取ろうと頑張っていた。

 中くらいの猫のぬいぐるみが数種類並べられていて、細い板に乗った景品を落としてゲットするタイプだ。

 刀太に背中を押されて、とりあえず一回チャレンジする九郎丸。

 灰ブチの猫を狙ってやってみる。

 見事に当たって少し動くが、それだけでは落ちない。

「あっ……」

「大丈夫だって。一回でダメならもう一回、それでダメだったとしても何度でもやりゃあいいんだよ」

「う、うん!」

 刀太に勇気付けられて、嬉しそうに再度挑戦する。

 また当たって動くが、まだ落ちない。

 三度、四度……と挑戦していき、そろそろ落ちそう、というところまで動かした。

「もうすぐだぞ、丁寧にな?」

「うん……」

 刀太が固唾を飲んで見守る中。

 ほんの一瞬だけ、長くボタンを押してしまった。

「あっ!」

 九郎丸は失敗に気付いたが、無慈悲にもアームは降りていく。

「うぅ~、でももう一回だ!」

 意気込む九郎丸がお金を投入しようとするのを手で制する刀太。

「いや、ちょっと待て」

 降りていったアームの先端が灰ブチ猫のチェーンを引っ掛け。

 すぐ隣まで移動していた黒猫に勢いよく当たって。

 二つの猫のぬいぐるみが落っこちた。

 まさかのダブルゲットである。

「おぉおおおおお!!すげぇぞ、九郎丸!二つもゲットした!!」

「やった?……えへへ、やった!」

 跳んで喜びながら、片方の黒い猫を刀太に差し出す。

「はい、二つ取れたから一つ刀太君にあげるよ」

「いいのかよ?」

「うん、刀太君が励ましてくれたおかげで取れたようなもんだし、部屋に置いておいてくれればいいからさ」

「サンキューな、九郎丸!」

「えへへ、どういたしまして」

 そのまま連れ立ってクレーンゲームコーナーから離れていく。

 

 

 

 

 

 そんな二人を見たデバガメ組みの面々。

(……黒斗、あの猫を取って来なさい。出来れば白猫を)

 特に夏凛がとんでもなく不機嫌オーラ全開になっていた。

(馬鹿言うな、夏凛。見つかるに決まってんだろ)

(いいから!)

(待った待った!よくないわよ!尾行はどうなるのよ!?)

 慌てて止めるキリヱたち。とりあえず黒斗は尾行を続ける。

(ほら、二人を見て羨ましくなったのはわかるからさ。後で黒兄に取ってもらうといいよ、うん。あ、黒兄、僕にも取ってね?)

(………………羨ましくなんて、ないです)

(間がありすぎだっつの)

(あ、それより二人ともプリクラコーナーに入ってくぞ)

(それよりとは何?今一番重要なことは黒斗があの白猫を取ることであり、それを私に渡すことよ。それ以上の価値など、微塵の可能性すらありえないわ)

(夏凛、睨みが強烈過ぎて三太が脅えてるから!)

 キリヱが夏凛を抑えていると、中々プリクラコーナーの入り口から動かない刀太たちを見て、そうだ、と一空が提案する。

(あ、黒兄!プリクラがよく分かってなさそうな二人に教えてあげに行きなよ)

(はぁ!?本気で言ってんのか!?)

(うん、黒兄なら容姿を変えるなんて手足を動かすより簡単なことでしょ?)

(そりゃ、そうだけどな……)

 実際、言われたとおりにやるのは簡単だ。

 そもそも、手足を使うための身体を作らなければ動かすも何も無いので、それ以前の基本技能とも言える。

 けど、だからって変装してまでやる必要性を感じるかと思えばいや、さすがに……と遠慮したくなってしまう。

(ねぇ、頼むよ黒兄ぃ)

 出来るだけ子供っぽい振る舞いでお願いする一空。

 黒斗の弱点は実は結構色々あるが、これで元々イギリス紳士だった黒斗の一番の弱点は子供だと一空は思っている。

 だからこうして『子供』を強調してお願いすれば……

(ったく、わぁったよ。後で覚えておきやがれ)

(ありがと、黒兄)

 舌打ちしながらも聞き入れてくれた黒斗に一空が満面の笑みになる。

 

 

 

 

 ――さらに場面は二人の方に戻り。

「お客様、何かお困りでございますか?」

 いつもより大分身長を高めに設定。

 金髪オールバックで糸目の若干色黒の青年とくれば、もはや誰かも分からないが、その正体は言わずもがな黒斗である。

「あぁ、このプリクラで撮りたいんだけど、よくわからなくてな」

「すみませんが教えてください」

「かしこまりました。それではカップル様一組ご案内です」

「カ、カップル!!!???」

 最後に添えられた言葉にとんでもなく動揺する九郎丸。

「えぇ、最近のプリクラはちゃんと対策がとられるようになったとはいえ、やはり女性客が多く監視カメラの死角になる場所が多いです。なので男性のみのお客様にはご遠慮願っているのですが……お客様は男性でございますか?」

 捲くし立てる店員の言葉に少し混乱しながらも、男だと言おうとした九郎丸の口を刀太が抑える。

「そ、そうっす!俺らカップルなんすよ!」

「はい、それではご案内します」

 そう言って適当な台へ案内し、簡単に説明してその場を去る。

(ったく、これでいいのかよ?)

(大成功だよ!ありがとね、黒兄ぃ!)

 舌打ちしながら周りの死角へ行き、ホラーな容姿に戻る。

 あとで絶対にあいつら折檻してやろうと思いながら、二人がいるのとは別の場所に移動する。

(あれ?ちょっと黒斗?どこに行くのよ?)

(デバガメは終わりだ。この後続けるならお前らで勝手にやれ)

 用事が出来た、と黒針を消して完全に尾行は終了。

 容姿も元の姿に戻し、自分のやることに取り掛かる。

「さぁって。時間とお金、いくら掛かるかねぇ?」

 

 

 

 ――場面は取り残された四人組みへ。

「どうするんだ?皆は」

 僕は一抜けた、と言って三太はどこかへ行ってしまった。

「もうちょっと見るのも面白そうだったんだけどなぁ」

 そう言いながらも興味を失くしたように一空も去っていった。

「……どうする?」

「まぁ、ある意味もう充分なものを見た気もします」

 そういって、色々やる気をなくして、先の二人のようにその場から離れたのだった。

 

 

 そして、刀太と九郎丸に再び戻る。

「刀太君!どうしてか、か……カップルだなんて言ったのさ!?」

 プリクラの筐体の中で猛烈に抗議する九郎丸。

「気にしてること言ったのは悪かったよ。けど、俺も九郎丸とプリクラ撮りたかったからさ。本当にごめんな?」

 必死に頭を下げる刀太の様子に、善意でやったことを理解して笑う。

「もうこれっきりにしてね?」

「あぁ!もちろんだぜ!」

 笑顔でグッ!とサムズアップして答える。

「それじゃ、やろうぜ!」

「うん!」

 意気揚々とお金を入れて、プリクラを撮り始める。

 途中、『抱き合って』とか『キスして』などと言った指示に、苦笑する刀太と真っ赤になる九郎丸がいて、キチンとその様子はプリクラに写っていた。

 

 

 

 

 プリクラではしゃぐ二人とは対照的に、意気消沈する人影があった。

 夏凛である。

「はぁ、全く私は何をしているのでしょうね」

 自嘲気味に呟くが、その言葉が思ったよりもダメージになった。

「あの馬鹿も、もう少しくらい……こちらを気に掛けてもいいじゃない」

 辛そうに響く言葉は風にさらわれていく。

「せっかく……せっかく三百年ぶりに、まともに話せたというのに」

 一際強く風が吹いて、捲れないようにスカートを抑える。

 そこに、新たな人影がいた。

「なぁに、しょぼくれた顔してんだよ?」

 黒斗が笑顔でそこにいた。

 そのことは嬉しいと言えば嬉しいのだが、この顔を作っている原因でもあるので素直に喜べない。

「……誰のせいだと思ってるの」

 かなり大きなため息と共に文句を言う。

 怒鳴り散らす元気もない。

「そう俯いてんなよ」

 だから誰のせいだと!とせめて睨んでやろうと顔を上げて。

 何かが投げ込まれた。

 タイミングよく顔を上げたためにジャストミート。

「わっぷ!」

「それ、やるよ」

 それが何かを確認する前に、黒斗は背を向けて文字通り風に乗って足早に去ってしまった。

 全く、何を……と投げつけられた物を確認する。

 白い猫のぬいぐるみだった。

 しかも、ちゃんと自分が欲しがってた色の物だった。

「これ……」

 確か、黒斗はこういった細かい作業は苦手だったはずだ。

 一体、いくら使ってこれをゲットしたのだろうか。

 それに、あんなぶっきらぼうに投げ渡さなくてもよいではないか。

 イギリス紳士だったくせに、ムード作りも出来ないのか。

「ふふ……ばぁか」

 それでも夏凛の足取りは、スキップしそうなくらい軽いものだった。




あっれぇ?ラブコメ回を書くごとに、どんどん夏凛先輩がクール()になっていってる気が……

えぇい、知るか!
恋する乙女に冷徹は似合わない!
クール()にだってなるさ!……なるよね?


ともあれ、次回はいよいよ本編へ。
主要メンバーと絡ませた調査回になるかと思われます(確定はしていない)。

それでは感想・評価その他リクエスト、待ってま~す。


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破章~黒という存在
極めてLet's コマ回し!


UAが3700を突破しました!
そしてお気に入りが25件!


読者の皆様に多大な感謝を!!


もしかしたら、UA5000かお気に入り50突破で何かやらせていただく『かも』です。

『かも』ですからね!期待はしないでください。m(__)m


そいでは、どうぞ。


 

 

 

 ―――――……

 

 俺が持ってるものは多くない。

 

 記憶もないし、夢はあるけど具体的じゃない。

 

 けど、自慢の友達はいる。

 

 闘う才能は持ってる。

 

 今あまり持ってないからこそ。

 

 これから多くを積んでいこう。

 

 ―――――……

 

 

 

 

「ふっ!ふっ!」

 夕暮れの学園で、刀太がアルビレオ・イマの重力剣を振るう。

 この黒い剣は柄にあるダイヤルを調整することで何tもの重さにすることも、逆に紙より軽くすることも出来るものだ。

 当然、刀太もt単位の重量で振るっている。

「よぉ、ベクトルの意識は出来るようになったか?」

 そこへ、黒斗が声を掛ける。

「おぅ、中々ばっちりだぜ」

 その質問に、サムズアップで答える刀太。

「ほぉ、じゃあ試してやる」

 そう言って、その辺を歩いてる生徒を指差す。

「あそこの黒髪の男。あいつはどっちが利き腕だ?」

「うぇ!?」

 いきなりの難問に一瞬たじろいだが、真剣に男子生徒を観察する。

 少し距離があって分かりづらいが、歩く時の踏み込みが右の方が強く見える。重心のバランスも傾いてる。

「右利き」

「正解。もうちっと早く答えられるようにしとけ」

 ちぇ~、と口を尖らせる刀太に、しかし黒斗は内心驚いていた。

 自分の力のベクトルの次は、当然他者のベクトルや流れを見極めさせるつもりだったのだが、それを指示を出される前に習得していた。

(こりゃ、雪姫が入れ込む気持ちも分からんでもないな)

 お互いに馬は合わないと思っている雪姫と黒斗だが、意外と意見も合うし息も合わせようとすれば合うのだ。だからこそ、お互いに触れて欲しくないポイントも知っているのだが。

 その辺りは置いておいても、伊達に百年単位の長い付き合いではないのである。

「でもま、流れの把握に関しちゃもう次の段階だな」

「次?」

「あぁ、実際に戦いの中で流れを掴めるようにすること」

「黒斗が見てくれるのか!?」

 期待に満ちた目を向けられるが。

「基本的には九郎丸辺りに頼め」

 素気無く断られる。

 その返答に凹む刀太。

「けど、最初だけ見本を見せてやる」

 来い、と手招きする黒斗。

「後悔すんなよ!?」

 挑発しながら、嬉しそうに刀を振るう。

 素直すぎる袈裟斬り。

 その上から下へのベクトルに対し、さらに上から下へ(・・・・・・・・)気力をぶつける。

 ガクン!

 強制的に地面に剣を叩きつけさせられた刀太の体制が大きく崩れる。

 そのまま倒れこむ方向に、再びベクトルを合わせて気力をぶつける。

 不自然な体制から地面に倒れるはずだった刀太は、その一撃で十メートル以上も離れた壁に激突した。

「どうだ?ちっとは何か掴めたか?」

 上下逆さま状態の刀太に質問を投げかけるが、刀太は笑いながら否定する。

「分かるか!ってか、あの腕相撲の時のやつはどうやるんだよ?」

 聞き返された内容に、黒斗は鼻で笑って応答する。

「はっ!あれを極めるのはもっと後に決まってんだろ?まずは実戦で、相手の流れに合わせることからだ」

 その次に流れの相殺、流れの変化へと続き、最後に流れの掌握に持っていく。

「この修行には手っ取り早く、なんて便利なものはねぇ。どれだけ早く習得出来るかは完全に本人の才能とセンスに依存する」

 先は長そうだ、と逆にやる気に燃える刀太。

「よぉっし!!やるぞぉ!」

 励む刀太に苦笑しながら、再び構える黒斗。

「今言った掌握までの気力の扱い方を一通り段階ごとに教えてやる」

 またも手招きする黒斗に、刀太が挑む。

 全力で近付いて横薙ぎ。

 その出だしに拳を叩き込まれる。

 そのせいで、振り抜くのに数秒遅れる。

 そして振り切る前に横っ腹に一撃もらい、再び吹っ飛ぶ。

「これが相殺だ。ポイントは力が乗る前に叩くこと」

 アドバイスをして今度は黒斗から仕掛ける。

 瞬動術を使って一瞬でまだ空中にいる黒斗の懐へ行き、足下からの逆袈裟斬り。

 しかし気が付いたら、右真横に弾かれていた。

 黒斗の体制から見るに、左の脚で蹴り払われていたらしい。

 方向転換が自然過ぎて、気付けなかった。

「変化」

 そのまま右のつま先が蹴り込まれて刀太の額に当たり、とんでもない勢いで後頭部と地面がぶつかる。

「ってぇ!!」

「慣れるまでは攻撃を少しだけ逸らしていなすところから始めるようにな」

 バク転で起き上がり、もう一度刀太から瞬動術で仕掛ける。

 今度は黒斗の裏を掻くために、黒斗に刀をぶつける直前で重量を極限まで軽くする。

「!」

 そして一瞬で斬撃の方向を縦から横に変え――

 ようとして、くるくる回転してしまった。

「あ、あれ?」

「掌握まですれば、格下相手に遊ぶことも出来る。こいつにコツは無い。今まで学んだことを一度に行えば可能だ」

 そのままくるくる回転を続けさせられて目を回すまで続けられた。

 

 

 

 十数分後。

「うぼぇ……まだ気持ち悪い」

 リバースこそしていないものの、かなり危ない状態の刀太が床に手を突いていた。

 九郎丸や三太、キリヱが背中をさすったりして落ち着けている。

「どんだけやったの?黒兄」

「ベーゴマ目指してみた」

 適当な返しにため息が返ってくる。

「まっ、手本は見せたんだ。これで習得出来なきゃそれはこいつの問題だ」

「いくら何でも横暴じゃないの?」

 淡々とした言葉に異を唱えるキリヱに首を振る。

「これで成長出来りゃあ、才能は認める。逆に何にも開花しねぇってならこいつはそこまでだ。んでもってその程度だった場合に、俺は面倒を見るつもりはねぇし義理もねぇ」

 実際、教えてほしいと言われたからレクチャーしただけであり、わざと間違ったことも教えていない。極端にスパルタなのは否定しないが、教わりたいとそちらから言ってきたのに習得出来なかったからといって、責任を追及される必要性など欠片も感じない。

 才能を人のせいになど、出来ないのだから。

 その正論に、反論も文句もない。

 空気を変えるようにともかく、と言って。

「全部出来れば皆伝だ、免許はねぇがな」

 それだけ伝えて全員に背を向ける。

「もうしばらくしたら、また調査に行く。もしかしたら、誰か付いてきてもらうかもしれん」

 覚悟だけしておけ、とそのまま歩き出す。

「待ちなさい」

 と、その足を夏凛が呼び止める。

「その時は、私を――」

「お前は連れて行かない」

 自分も共に、という夏凛の願いは言い切る前に断たれた。

「お前は、俺の調査には相性が悪いからな。それに……」

「それに、何?」

 珍しく歯切れの悪い言い方に踏み込む。

「……」

 一度黒斗は(かぶり)を振ってから。

「いや何、久しぶり過ぎて距離感が狂いすぎな気がしてな」

 少し悪意の見える笑いで告げた。

「えっ?」

 突然の拒絶に戸惑う夏凛。

 夏凛だけではない。

 周りの面々も、黒斗の言葉に驚いていた。

「でも、だってあの頃(・・・)は……」

 これくらい普通だった、と言いそうになって。

 そこに現実が降りてくる。

 

 

「もう、俺は『違う』」

 

 

 その言葉に込められた感情は何だったのだろうか?

 悲しみか?

 自嘲か?

 はたまた、悪意か?

 その真意は誰にも分からないが、言われた夏凛の顔に浮かんだ表情は誰でも分かった。

 絶望。

 呼んで字の如く望みを絶たれること。

 あまり親しくない三太でさえ理解した。

 膝から崩れ落ちる夏凛に、何て声を掛けていいか迷っているうちに。

 黒斗の姿は見えなくなっていた。




次回は調査回と言ったな……あれは嘘だ。
ということで、またやってしまった次回は~詐欺。すみません。

今回は修行回です。そしてようやく軌道に戻ってきたシリアスかi…新章導入話です。
なんでこいつ、弱く設定したはずなのに師匠やってんだよ、と作者が一瞬本気で考えてしまった。


おそらく今度こそ!今度こそ調査回、やらせていただきます!

しばし、お待ちください。


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完全試合って、やられた方は面白くないよね

はい、お待たせしました。
やっとこさ調査回です。

そしてそして!
UA4000、お気に入り30!!

なんとも嬉しい限りです!

ありがとうございます!!


 

 

 ―――――……

 

 いつ生まれたのか。

 

 定かではない。

 

 何故生まれたのか。

 

 定かではない。

 

 何のために生かされているのか。

 

 それだけは、定かである。

 

 そして、それ以上に望むものなどない。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 学園内で、黒斗が放った言葉のせいで刀太たちの空気が微妙になっている中、刀太が雪姫から呼び出された。

(雪姫の方から俺だけ呼ぶって珍しいな)

 疑問に思いながらアジトに戻り、雪姫の部屋に入る。

 そこでは雪姫と一緒に黒斗が待機していた。

 思わず、刀太は黒斗に突っかかる。

「黒斗!お前のせいで俺たちの空気が微妙なんだよ、どうにかしろ!」

「貴様何をしたんだ?」

 バk……直情的でコミュニケーション能力に長けた刀太にここまで言わせることをしでかした黒斗を呆れながら見やる雪姫。

「別に、浮かれてるようだったからな」

 その一言で、誰に対してしでかしたのかは即座に理解する。

「全く、三百年ぶりなのだからもう少しくらい……」

 ため息混じりで言う雪姫に、しかし黒斗は折れない。

「幻想に浸っていて許される立場じゃないだろうが。現実が辛いからって甘い幻想に逃げたくても、実行させるわけにはいかねぇよ」

 正論ではあるので、最早雪姫からはため息しか返ってこない。

「んで、何で俺が呼ばれたの?もしかして、黒斗のやってる調査に関することか?」

 本題に入る刀太。

 正直、自分たち学園組を気まずくした原因を作った黒斗に何とかしてほしいが、今は置いておく。

「あぁ、今回はどうにも手掛かりを掴むのが目的らしくてな」

「それで、お前らの中で一番勘がいいやつは?って聞いたら刀太だってエヴァンジェリンが言うんでね」

「もしかして、勘頼りなのかよ!?」

 あまりの調査方針に愕然とする刀太。

「失礼な。一応の目星はちゃんと付いてる。ただ範囲が広い上に情報のノイズがひどくてだな……」

「ノイズ?」

 少し聞きなれない言葉に首を傾げる。

 なんでも、匿名性のおかげで情報発信に躊躇いがなくなることでデマが多くなるのだという。そして、真実を語っている情報は一握りも無いことが多いので、余計な情報のことを指して雑音――ノイズと言うのだそうだ。

「へぇ。んで調査する範囲はどのくらい?」

「東京」

 一体どこの遠方かと身構えていると、案外近くて肩透かしをくらった気分になる。

「なんだ、結構近いじゃねぇか。んで、東京のどこだよ?」

「いや、だから東京だって」

「……へ?」

 黒斗の言っている意味が分からず、思わず聞き返してしまう。

「東京の全域が、今回の調査対象だよ」

 まさかの広域調査。とても一日で終わるとは思えない。

「あ、言っておくけど、調査が終わるまでは俺の方に付いて来てもらうからな」

「ち、ちなみにその間修行とか給料とかは……」

 せめてもの希望を見出そうと聞いてみるが。

「いや、元気が残ってるなら修行は止めないけどよ」

 そこで、ちらっと雪姫を見やる。

「調査の給与に関しては、今回は組織として正式なものじゃないからなぁ」

 言うとニッコリ笑って。

「出来高制だな」

 現実を突き付けた。

「えぇええええええええええええ!!!??」

 刀太の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 そんなことがあった三日後のこと。

「だぁ!!くそ!何にも手掛かりがねぇ!」

 調査の状況は芳しくなかった。

「言うなよ、俺もへこんでるんだから」

 寂れた廃公園のベンチに座りながら項垂れている黒斗の姿はスーツ姿も相まってリストラされたサラリーマンにしか見えない。

「ってか、調査ってこんなに大変だったのかよ?」

 黒斗のあんまりな様子に労うつもりで質問する。

「いや、普通はもうちょっと何かしら欠片くらいは見つかるもんなんだけどな」

 それが、足跡を消した痕跡すら見つからない。

 プロなんてレベルじゃない。

 そうしなければ生き残れない環境で身に付いたものだ。間違いない。

 なぜなら、黒斗自身がそうだったからだ。

 事実、過去のある一定の期間を除いて黒斗は命の保証など、他の生物に比べたら微塵も無い。

 例え瘴気が濃いところに居続けたとして、そんなところは決まって治安が悪い。トラブルに巻き込まれる可能性が大きいのだ。

 しかも、トラブルで対峙した相手によっては一瞬で消されてしまう。

 かと言って、瘴気の薄い場所には長期間居座ることすら出来ない。

 だからこそ、こと『生き延びる』ということに関しての能力は黒斗の中でも随一なのである。

 その黒斗と似たような鮮やかな手並み。

 いや、それ以上とも言える。

 痕跡を消すだけでなく、消したことすら掴ませないのだから。

「なぁ、黒斗。本当に東京でその組織、だっけ?そいつらの証拠とか本当にあるのか?というより、そんな奴らいるのかよ?」

「いる」

 当然の疑問に、黒斗は即答する。

「間違いなく、この東京で奴らの尻尾の先くらいは掴んでみせる」

「けど、この三日完全に空振り三振どころか、このままじゃ完全試合(パーフェクトゲーム)だぞ?」

 言われてへこむが、断言するだけの根拠がある。

「ぐっ……けど、ネットやら心霊スポットの口コミを見ると、確かにこの東京でも色々やってるんだよ」

 そう、実際に見て歩いた分には何にも分からなかった。

 気が付いたのも、たまたま黒斗がそう(・・)だったからに過ぎない。

 それに対し、ネットと口コミによる情報には当然ノイズもたくさんあったものの、『幽霊騒ぎ』に関しての情報がここ最近にしては増えすぎていたのである。

「ただの幽霊騒ぎだってなら、確実な目星って言うには情報として弱すぎる」

 だけど、と一度区切って。

「さすがに鎖付きの幽霊(・・・・・・)の話がここまで多いのは異常だ」

「鎖……」

 そのキーワードで思い出す。

 二週間ほど前の除霊の依頼。

 そこで戦った怨霊が特殊な鎖を使い攻撃してきたこと。

 何より、その鎖を使って浮遊霊から力を奪っていたこと。

 そんな特殊な鎖を持った幽霊が、自然発生でそこら中に現れるなんて(たま)ったものではない。

「でも、そんだけ分かってんのに何でこんだけ何にも掴めねぇんだ?」

 その一言で、ズ~ンと効果音が聞こえそうなほど落ち込む黒斗。

 さすがに心配で声を掛けようとする直前で勢いよく立ち上がる。

「ああもう!!っとに何だってんだよ!この情報統制のちぐはぐ感はぁ!!」

 うがぁ!!と叫び声を上げながら怒りを空に放つ。

「ちぐはぐ?」

 引っ掛かった言葉を聞く。

「そうだよ。完全にこっちに尻尾掴ませないようにするんなら、今まで見てきた場所の足跡の消し方は完璧だ。けど、そいつに対してネットでの情報かく乱が適当っつかザルっつうか、もう完っ全にてんでバラバラなレベル差なんだよ!遊んでんのか!?煽ってんのか!!?マジでよぉ!!」

 説明の途中でまた怒りが沸いたのか語気が強くなる。

「まぁまぁ、ここで暴れたって仕方ないんだから少しは落ち着けって」

「…………わかったよ」

 刀太に諭されたのと叫んだことで少しは発散できたのか、一度冷静に考えてみる。

 今まで見たスポットの数は百に近い。

 その多くがノイズだろうが、それでも当たりはいくつかあったはずなのだ。

 それが全く分からないほどの高度な痕跡消去。

 なのに、ネットを突付けば簡単に候補を挙げられるくらいに情報が溢れている。

 適当なノイズを混ぜていくだけで、追跡など容易に困難に出来るというのに。

 しかもその場所は東京。

 UQホルダーの目と鼻の先。

 これはもう挑発でしかない、と黒斗は考えている。

 前に解決した事件の後すぐに、情報量が爆発的に増えたからだ。

 推測の域を出ないが、おそらく確定だろう。

(問題はこれがプライドの張り合いの結果か撒き餌か、だ)

 前者なら、UQホルダーの力で簡単に叩き潰せるし、尻尾さえ捕まえれば後はするする芋づる式に出てくるだろう。

 しかし後者だった場合、これはいわゆる『釣り』だ。

 今ここで黒斗たちがこうして悩んでいることさえ、相手には想定済みの織り込み済みでしかない出来事のはずだ。

「でもホント。これが狙いでやってるってんなら、相手は絶対ドSだな」

 黒斗の言葉に同調するように頷く刀太。

「だな。マジで嫌がらせの天才としか思えねぇ」

 疲れた感じに笑い合いながら、次の場所に行こうと立ち上がったところで。

 

 

「サディストではない。ただの恋慕である」

 

 

 後ろから、声と共に殺気が放たれた。

 




いかがでしたでしょうか?
今回から、ですかね。そろそろ話が核心に向かい始める頃合です。
急転はどこまでするか分からないですが、展開は進んでいくと思われます。
……おそらく(保険)。


UAとお気に入りが増えたことは本当に心から嬉しいです!その言葉に嘘偽りは一切ございません。
本当に嬉しいのですが、いきなりお気に入りが5件増えてビックリしまして、これは記念回やれというお達しなのか…と、プレシャーが増している作者でございます。

まぁ、まずは楽しいお話を書くことから続けていきたいと思います。

感想、評価その他リクエストやご意見ご指摘等々お待ちしております。


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ゴツいおっさんのストーカーとかないわぁ

どんどん増え続けるUAとお気に入り。
誠にありがとうございます。


これからも、よろしくお願い致します。


感想・評価ご意見ご指摘その他リクエスト等々お待ちしております。


 

 

 

 ―――――……

 

 ねぇ、見ている?

 

 私のこと、考えてくれてる?

 

 想ってくれてる?

 

 ようやくあなたに会える。

 

 あなたを迎えてあげられる。

 

 このお話は、全部あなたのため。

 

 あなたと私の喜劇のお・は・な・し♡

 

 ―――――……

 

 

 

 

「サディストではない。ただの恋慕である」

 声がした瞬間には、黒斗は全力で前へ。

 刀太はいつの間に取り出したのか、剣を構えて防御の体制に。

 ガキィン!!

「うおっ!?」

 武器がぶつかり合う金属音が響いて刀太が少し飛ばされ。

 黒斗が躱しきれずに、身体を一部持っていかれた。

「がっ!……くそっ!!」

 そこから血は流れず、靄が漏れる。

 即座にコントロールして姿を保つ。

「うむ」

 声の主は上出来だと言わんばかりに大きく頷く。

 睨みながら振り返ると、そこに居たのは二メートルに届こうという長身で、力士並みの体格を持った大男だった。

 男は、その身の丈にあった大型の戦斧(いくさおの)を肩に担いで告げた。

「黒い靄で出来た男……貴様がバーナビー・ブラックだな」

「!!!!」

 躱しきれなかった事実より、真昼間から襲ってきた事実より。

 何より、その名前を知っていたことに衝撃を覚えた。

「……俺は、そんな名前じゃあねぇよ」

 一応否定するが、この人通りが少なく瘴気の濃い寂れた廃公園で襲われたことを考えると無駄な抵抗でしかないと分かってはいる。

「そうか、そういえば確か……靄傘(もやかさ)黒斗(くろと)、と現代日本の名前を使っているのだったな。加えて日本では、黒傘(くろかさ)霧男(きりおとこ)として、貴様の怪談話があったはず」

 否定されたことに素直に納得し、情報をつらつらと挙げていく。

「あんた、相当な俺マニアだな?ストーカーとか見た目考えろ。気持ち悪いぞ」

 皮肉を織り交ぜて伝えると、不機嫌そうに鼻を鳴らす男。

「ふん。我は貴様のことなど知らん。だが、執拗に言われれば嫌でも覚えてしまうものだ」

「なるほどねぇ」

 会話をしながら、相手の言葉から情報を掴んでいく。

(直接俺を知って襲ってきたわけじゃない?……ならこいつはただの使い走りってとこか?それにしても、こいつの後ろにいる奴の素性が知れないな)

 しかもバックにいる相手はイギリス時代の黒斗の名前も、室町や江戸の日本で活動していたことも知っている。

 ならば正体はおそらく不死者かそれに連なる超長寿命の人外だろう。

(後は、こいつに出した指令とその意図が問題か……)

 はっきり言って、イギリスを中心に活動していた不死者で黒斗のことを欠片も知らないものなど皆無だ。

 だからこそ、どういう因果かは分からないが目を付けられることも不本意だがあっても不思議はないと思ってる。

「我が主から、貴様を滅せよと指令を承ったので馳せ参じた。私情で悪いが、断たせてもらう!」

「ちっ、やっぱりそういう系かよ!」

 振り下ろされた巨大な戦斧を全力で後ろに飛んで何とか躱す。

 地面が大きく砕かれるが、そんなに重量級の武器を思いっきり振れば当然隙になる。

「黒斗はやらせねぇぞ!!」

 その隙を逃さず、刀太が斬り込む。

 脇腹に一閃。

 ガキィ!

 しかし、戦斧の柄に遮られて強襲失敗。

 だがそれだけで諦めるわけもない。

 瞬動術で高速移動をしながら攻撃を絶え間なく続ける。

 重たい武器相手なら必勝の手だ。

 そのはずである。

 なのに。

(嘘だろ!?こんだけ重い武器使って攻撃に追い付いてる!?)

 男は、高速で動く刀太相手に攻撃に転じることこそ出来てないが、確かに防ぎ続けていた。

 細かく動かし、柄も使っているがそれでも追い付いている。

 魔法を使っている様子もない。

 驚きと、尊敬の念を刀太は抱いた。

 と、大きく弾かれて刀太が後ろへ大きく下がる。

「くっそ~。世界は広いなぁ」

「関心してる場合じゃねぇっつの!」

 言って、今度は黒斗と二人で仕掛ける。

「む!」

 先ほどの刀太の戦闘に黒斗が加わるだけで、流れが大きく変わる。

 男の攻撃は数度だけいなされて、出だしをコンマ数秒遅らされ、自由な動きがほんの少しとはいえ制限される。

 それしか妨害出来ないことは、当然男の実力が高い次元にあるからであり、普通なら歯牙にも掛ける必要はない。

 だが、今展開しているのは高速戦闘。

 少しのズレが、大きな結果を生む。

「当たりぃいいい!!!」

 その攻防の結果、足下に潜り込んだ刀太が男の右太ももを思いっきり斬りつける。

「ぐっ!?」

 堪らず男は膝をつき、全力で斧を大振りして二人を後ろに下がらせた。

「ちっ、畳み掛けたかったんだがな」

「けど、足にダメージは与えたからな。さっきよりは状況は良くなってると思うぞ」

 悔しむ黒斗と、やる気をどこまでも燃やす刀太が男に回復させまいと再び仕掛ける。

 だが。

 

 ビュオ!!!

 

 つい一瞬前とは違う武器の速度に、一度止まらざるを得なくなる。

「やっこさん、ようやく本気ですってか?」

「マジかよ」

 言葉とは裏腹に、不敵に笑う二人。

 しかし、立ち上がった男を見て驚愕に歪む。

「てめぇ、そりゃあ……」

「どうなって……?」

 男の太ももからは血が流れておらず、パックリ割れてはいるのだがそこにあるべき肉が、骨が、一切見えなかった。

「ぐぬ……この剛僧(ごうそう)、一生の不覚」

 悔しそうに立ち上がる男――剛僧には、明らかにダメージが入っている。

 しかし、本来あるはずの肉体が無い。

「まさか、黒斗と同じ?」

 自分で発した言葉が信じられないが、事実目の前の相手の特徴は刀太から見た黒斗と合致する。

「んなはずはねぇ。そんなのがほいほい自然発生なんざする訳、あり得ねぇ」

 目の前の事実に、それでも否と首を横に振る黒斗。

「でも、こいつは――っ!!」

 意見を交わす暇もなく、剛僧が攻撃してくる。

 先ほどよりも鋭く速い速度で振るう戦斧。

 さらに増した攻撃力には、そう簡単に力のベクトルに干渉させてもらえない。

「っそ、なら……『黒針』!」

 黒針を精製し、雨のように降らせる。

 その弾幕を、一度の攻撃で全て弾いてしまう。

 その重たい攻撃は、余波ですら威力がある。

 だが、そこで終わる黒斗ではない。

「『黒荊』展開!」

「む!?」

 弾かれて、剛僧の周囲に散らばっている黒針が落ちる前にそれらを一度粒子状の瘴気に戻す。

 すぐさま繋げて何本もの黒色の荊を形成。

 それら全てを剛僧に絡ませて地面に縫い付ける。

「ぐ、この――」

「無駄だ。そこまで(やわ)に作ってねぇよ」

 何とか抜け出そうとする剛僧の腹に飛び乗って構える。

「見極めさせてもらうぞ。お前の正体を」

 言って右の拳を天高く突き上げる黒斗。

 ベクトルを見切る修行をしていた刀太には分かった。

 今、黒斗の右手に気力が限界を超えて集まってる。

 剛僧にもそれが分かったのか、さっきよりも必死に抵抗するが間に合わない。

 溜めに溜めた気を、瞬動術の勢いを上乗せして。

 重力に従って、真下に。

 

 

 放つ。

 

 

 

 ドッッッ!!ゴガッ!!!!!!

 

 

 

 放たれた強大な気は、剛僧に破壊の一撃をお見舞し、それだけに留まらず地面を大きく穿ち、クレーターを作るに至った。

「がっ!!!」

 剛僧は堪らず悶絶し、ダメージに動けずそのまま気絶した。

 しかし、死んではいない。

「こんだけやって死なない、か……」

「いやいやいや!何で大真面目に殺そうとしてるんだよ!?」

 さすがに殺しは看過出来ないので、大慌てで止める刀太。

「?殺そうとした相手を殺さないとか、自分が危険になるだけじゃねぇか」

 止めた刀太に本気で首を傾げる黒斗。

「いやいや、だからって殺しはだなぁ……」

「あのよぉ」

 それでも殺しを否定する刀太にため息を吐く黒斗。

 あれ?俺そんな変なこと言ってないよな?と逆に首を傾げる刀太。

「俺は、お前と違って死ぬんだからな?普通の命とは違うから長年生き続けられるだけで、不死性そのものは俺は誰より、むしろ生き物よりも弱いんだぞ?俺は」

 その言葉に、少しだけ重みを感じる。

 そうやって命が失われる危険性と四六時中隣り合わせで生きてきたからこそ培われてしまった価値観。

 黒斗の言い分は、極論だが間違ってはいない。

 しかし、それを許容するかは別の話。

「でも、今回は俺もいるし、撃退で済むならそうしようぜ?」

 刀太の提案は、黒斗のそれと比べれば甘ちゃんの考えでしかなかった。

 けれど、受けないつもりは無い。

「それで済めば、俺は何でも構わねぇよ」

 黒斗だって、何も好きで殺しをやっていたわけではない。

 自分の命が危険に晒されて、相手の命を奪わなければ生き残れない選択の時のみ迷い無く選んだに過ぎないのだ。

 これでも、あの意外とお人好しの雪姫と息が合っている黒斗である。

 そんな黒斗もまた、周りに比べればドライな方だがあのUQホルダー(お人好し集団)の一員なのである。

 刀太の提案に頷いたところで、意識を剛僧の方に戻す。

「にしても、こいつは本当に黒斗の同類なのか?」

「誰もんなこと言ってねぇよ……」

 刀太の解釈にため息で返す。

 黒斗はこう見えて正真正銘天然の特別製だ。本当に、神の気まぐれとしか言えないような偶然と奇跡が重なって出来た存在なのである。

 だからこそ、存在感は生物に比べて薄いし、迫力や貫禄なんかも普段は全く感じない。

 それに比べたら、この剛僧という男は威圧感のようなものを受けるし、存在感もはっきりしている。

 ではなんなのか?

「刀太、こいつを見て何か感じないか?」

 黒斗から質問され、よぉく目を凝らす。

 じっと見ても全く分からない。

 けれども、ふと目に入った戦斧を見て違和感を感じた。

(あれ?何か、これ……)

「斧の方が、存在感が強い?」

 見て思ったことが口から出てきた。

「そうだ」

 正解の答えに頷いて、断言する。

「こいつの本体は、この戦斧だ」




さぁ、まだ終わらない調査回という名のほとんどバトル回。
次回はきっと、一度刀太との調査回は終了すると思われます。


けど、その後どうするか……実は全く決まってないという(汗)



少しだけ間が空くかもしれないですが、ご容赦くださいませ~。


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痛くて熱くて苦しいのは如何?

引き続きバトル回です。
最初書き上げた時は七千文字以上になってしまったので、
がっつり二等分しました。


そして、UAが5000目前の4700に!








 

 ―――――……

 

 自分には生命が無い。

 

 残り少ないなどではなく、最初から持ってない。

 

 けれど、そんな自分なればこそ。

 

 命への憧れは誰より持っている。

 

 だから、命を愚弄することを許さない。

 

 例え、どんな生命でさえも。

 

 そう、儚くも信じている。

 

 ―――――……

 

 

 

 

「どういうことだよ?こいつの本体が斧って」

 黒斗の発言の意味が分からず、尋ねる刀太。

「そのままの意味だ」

 それに対し、さらっと答えを返す。

「さっきの一撃。間違いなく殺しきるつもりで放った」

 その言葉に、おいっ!?とツッコむ刀太。

「なのに、手応えが変だったんだ」

「変?」

 首を傾げる刀太に、あぁと頷いて続ける。

「なんと言うか、芯を捉えてなかった感じだ」

 それは、確かに変である。

 男を動けない状態にして、強大な気をぶつけたのだ。

 多少外したとしても、その感覚が全くないのは確かにおかしい。

「けど、斧が本体だったとしてこいつは一体……?」

「なんだ、刀太。お前知らないのか?こういう存在」

 こういう存在?とおうむ返しに聞く。

 すぐに黒斗が答えないので、必死に頭を悩ませる。

「ん~~?」

「ほら、大事にされたり長年使われたりすると物が成るっていう……」

 そこまで言われてようやく分かったのか、ポンと手を打って答える。

「あぁ、もしかして付喪神(つくもがみ)か?」

 大きく頷く黒斗を見て、それが正解だと分かる。

 付喪神(つくもがみ)

 長年使われたりして古くなると、それを依り代に神や霊か宿るという怪談である。

 鎌倉時代に始まり、江戸時代には物を大事に使うために描かれた妖怪でもある。

 そういった付喪神であることが分かったのはいいのだが。

「けど、なんかこの斧、新しくないか?」

「よく分かったな」

 まぁな、と得意げに答える刀太を見て勘が優れているという雪姫の評価に納得した。

 とはいえ関心だけしている場合ではない、と話を続ける。

「問題はそこでな。この斧は新し過ぎる。はっきり言って、付喪神に成るほどじゃない」

「じゃあなんで?」

 刀太の疑問に、表情を少し歪めて即答しない黒斗。

 事情は考えられるが、その答えを出来るだけ認めたくない、と言いたげに、刀太は感じた。

「なぁ、黒――」

 

 

 

 

「そうだ。我は付喪神に成るために『造られた』存在である」

 

 

 

 

 刀太の声に被せるように剛僧の声が響き。

 はっ、とした時には、既に黒斗の目の前に斧が迫っていた。

 避けられない。

 そう判断して身構える黒斗の前に、刀太が飛び込む。

 刀を地面に挿して、ダイヤルを回す。

「『万倍!十t剣』!!」

 ゴッ!

 剣が急激に重くなって、地面に衝撃が走る。

 相手より重くなれば、力が伝わりづらくなって防ぎやすくなる。

 先ほどまでのぶつかり合いで、この戦斧が何万tもの重さではないことは感覚で理解している。

 故に防御に出たのだが。

「バッ!受けるな、流せ!!」

 黒斗の切羽詰まった声が聞こえ。

 ドッ!!

 二人一緒に吹っ飛ばされた。

 幸いにも大きく体制を崩すことなく構え直す二人。

「我は負けられん。それすなわち我を造り(たも)うた恩義を果たせないも同義!」

 その必死の形相にその言葉が欠片の冗談も含んでいないことが分かる。

「それは我の意義が無くなること!故に、貴様には消えてもらうぞ!!!」

 それから、剛僧の猛撃が始まった。

「っそが!」

 嵐のような攻撃に、自分の間合いまで入れさせてもらえない黒斗。

 刀太も中々踏み込めず、何度かかち合うも弾かれてしまう。

 一言で言えば隙がない。

 言うは易しだが、刀太と黒斗。UQホルダーのナンバーズと、それに連なる強さを持った二人を相手に実行するのはとんでもない話である。

「だっ!」

 そこへ、再び超重量の一撃を入れる刀太。

 さしもの剛僧も、自分より何倍もの重さの一撃には一瞬剣速が落ちる。

「そこだ!『黒針』!」

 その一瞬を逃さずに黒針を打ち込む。

 腕に二本刺さるがそれ以外は躱すか、弾かれてしまった。

「ちゃちな攻撃など、今更関係ないわ!!」

 だが、当然構わず攻撃を続ける。

 そんな剛僧に刀太は勝ったと思った。

 黒斗の黒針は刺さることで、強力な幻術のトリガーとなる。

 その強烈さはつい先日味わったばかりだ。

 だからこそ、必ず剛僧に隙が出来ると判断した。

 その瞬間、刀太は油断してしまったのだ。

「馬鹿、気ぃ抜くな!!」

 その叱責に、はっとして瞬動術で離脱しようとする。

 しかし、その直前で剛僧の戦斧が刀太を捉える。

 ザシュッ!

「ぐぁぁああああああああ!!!」

 鈍い音と共に、刀太の背中が抉られた。

 背骨が破壊されたのか、まともに立つことも出来ない。

「っの、ド阿呆が!」

 即座に回収して、一度距離を開ける。

「すま、ねぇ」

(しゃべるな。今から重要な話を一瞬でしてやるから)

 身体は回復し始めているが、このままでは最長で一分ほどは掛かるだろう。

 さすがに黒斗も抱えたまま戦闘は厳しいので、ほんの少しの時間で必要なことを全て伝える。

(確実に奴を止めるために、俺の針をせめてあと二本、出来れば武器の方にも四本で計六本刺したい)

 伝えられた内容はかなり厳しいものだった。

 今どうにかこうにか二人掛かりで何とか二本刺せたのだ。

 それを後六本分、しかもそのうち三分の二もあの武器の方に刺す必要があるときた。

(お前は回復に専念して、タイミングを窺え。それで、何とかまた決定的な隙を作ってほしい。それまでに、必ず奴の身体には針を刺し終えるから)

 無茶な要求なのは分かっているが、それでも今のままでは勝機が見えない。

 だから、刀太は力強く頷く。

 それを見て、古びた遊具の後ろまで飛ばす。

「休んどけ!クソ馬鹿!」

 ちゃんと、黒斗と剛僧の戦闘の直線状かつ黒斗の後ろ側という配慮付き。

 刀太に止めを刺せるかどうかは置いておいて、攻撃を与えるためには黒斗が邪魔だ。

 加えて、剛僧の目的は黒斗のみ。

 ならば剛僧としても、刀太が回復する前に叩くのみ。

「ぬぅうりゃ!!」

 余波すら必殺になりかねないほどの一撃を見舞う。

「!」

 だが、気付いた時には黒斗が自分の刃圏(はけん)の内側――すなわち武器の持ち手の更なる内へ入っていた。

「だらっ!」

 腹にもろにクリーンヒット。

 剛僧の大きな体躯が少し浮いて、数メートル吹っ飛ばされた。

「ぬぅ!?」

 しかも見れば、腹にまた一本針が刺さっている。

 だが、抜く隙は与えてはくれない。

 一瞬で黒斗は剛僧の顔面に蹴りを放つ。

 剛僧としても、そう何度も当たるつもりはない。

 逆袈裟斬りの要領で、斧を振るう。

 これに対し、黒斗は空中にいながらバク宙。

 そのまま、思いっきり戦斧を蹴りつける。

 気力を集中させて放ったそれはどうにか黒斗を逃し。

 針が一本、刺さっていた。

「ほぉ」

 その威力に一瞬心から感心する。

 剛僧の本体である戦斧は当たり前だが自分自身。

 その頑丈さには自信がある。

 だから、例え針一本でもそれを貫いたことは素直に賞賛できる。

 だが、それでもやることは変わらない。

 黒斗は全力で蹴った代償として、体制が大きく崩れてしまっていた。

 そのまま地面に尻餅をついてしまう。

 チャンスは逃さない。

 それまで以上に強く踏み込み、絶対的な必殺の一撃を与えるべく。

 一閃。

 ガキィン!!

 しかし、それは誰かに阻まれてしまう。

 いや、そんなことが出来る者などこの場に一人しかいない。

 刀太だ。

 下から潜り込み、救い上げるように刀を持ち上げる。

 斧のベクトルに対し、ぶつかり合うのではなく、流す。

(刀太こいつ!まさか、もう流れの変化をやってのけるのかよ!?)

 それを見た黒斗が驚愕する。

 力の流れを変化させるには、相手の流れに同調してその方向を把握して自分のベクトルを相手に合わせ、相殺の時のように力が乗る前に意図した方へ狙いをつけてその流れを変える必要がある。

 すなわち、変化をまともに行うには流れの同調と相殺、この二つの要訣を実行することが不可欠なのだ。

 それをたったの数日で行った刀太。

 正直、戦慄した。

「ぬぐ、こやつ……!」

「おっっっらぁぁあああああ!!」

 完璧に剛僧の一撃を捉えて流したベクトルは、綺麗にその方向を十数センチ上に逸らし。

 盛大に空振りさせた。

 それを驚いた程度で見逃す黒斗では、もちろんない。

「全く大した奴だよ、お前は」

 剛僧の肩を踏みつけて一本。

 振りぬかれた戦斧に、踏み抜くつもりで強く着地しながら一本。

 真下に向けて思いっきり殴り付けてもう一本。

 止めに踵落としで地面に叩きつけながら、さらに一本の針を刺す。

 これで剛僧の身体と本体である戦斧に四本ずつ。

 計八本。

 準備は整った。

「さぁ、見せてやる。殺し用幻術、『黒針地獄巡り』フルコースで味わいやがれ!」

 パチン、と指を鳴らすと、剛僧の身体に刺さった物と戦斧に刺さった物の二本が溶けるように消えた。

 そして幻術が発動する!

『其の(いち) 一骨(いっこつ)

 発動したが、剛僧としては何の変化もなく首を傾げる。

「一骨は骨や間接に影響を及ぼすんだが遅効性でな。最初は風邪を引いた時の関節痛くらいのものでしかない」

 言われた通り、少し間接部分に違和感が出てきた。

「だが、こいつが効いてくると……」

 ばきべきごき!!

「うっ!」

「全身の骨が砕ける感覚と共に、息が詰まる」

 今度は両手を合わせるようにして拍手のように強く叩く。

『其の() 煮式(にしき)

 またそれぞれ二本が消え、今度は全身を灼熱の痛みが襲う。

「がぁぁあああああああああああああああああ!!!!」

 その激痛に堪らず叫ぶ。

「全身を煮込まれる痛みに耐えかね、身体中の空気を全て吐き出す」

 さらに合わせた手を開き、指を間に入れて祈るように握る。

『其の(さん) 惨苦(ざんく)

 再び二本が消え、幻術が続く。

「ぐっ!っっっっっっ!!!」

 心臓がきゅう、と絞まる感覚が襲い、肺や腸が収縮し、逆に胃や脳が膨張したかのように感じる。

「心臓を始めとする臓器全てに苦しみが襲い、息を吸うことも困難になる」

 そして握った手を、弾くように勢いよく解く。

『其の(よん) 死送(しそう)

 唱えた瞬間、最期の二本が消えて。

 剛僧の身体が弾け、戦斧が粉々に砕けた。

 しかし、これは幻術。

 刀太からは、ただ剛僧が倒れたようにしか見えない。

「最後に、自分が死ぬ強烈なイメージを魂に届かせるほど叩きつける」

 黒斗は肩から力を抜いて、自然体へ。

「生きてる奴なら、最後の死の幻覚でショック死確定だ」

 得意気に言って、ゆっくり剛僧に近付く。

如何(いかが)かな?俺の幻術フルコースは?って、もう反応出来ないか」

 剛僧は気絶よりも深く、沈黙していた。

 勝敗が、決した。

 

 




さぁ、バトル回も終わりを見せて次は調査終了回。


そしてその後の展開は未だ…状態です(泣)

まぁ、なんとかなるでしょう!(楽観的)




やるかどうかは置いといて記念回に関しては、アンケートの形になるかと思うのでその時はなるべく多くの方からのご意見を頂戴したく思います。
よろしくお願い致します。

もちろん、そのアンケート以外でも感想・評価その他諸々受け付けております。


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絵面のシュールさをご想像下さい

はい、ぶった切った後半です。
この回でようやく本編からの本題・中心に触れることが書けた気がします。


そして!
とうとう乗りました祝・UA5000!!

かなりテンション上がってまいりました!
プレッシャーとか知るか!
今の俺は誰にも止められないんじゃー!

って感じです。


まぁ、そんなことはその辺にほっぽり投げまして。
本編を、どうぞ。


 

 

 ―――――……

 

 (こいねが)う。

 

 この言葉にどれだけの感情が込められているか。

 

 知る者がどれほどいるだろう。

 

 悲しみ、怒り、苦しみ。

 

 そして、恋慕と狂喜。

 

 それらが混ざり合って、壊れてしまうほどの激情となって。

 

 溢れ出てくる。

 

 そんな感情を、経験した者がどれほどいるか。

 

 とはいえ、言葉で言うのは存外簡単だ。

 

 “あなたに会いたい”

 

 結局は、ただそれだけのことなのだから。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた」

 伸びをして、座り込む。

 もう、地べたとか汚れるとかどうでもよくなるくらいに疲れたのだ。

「それで、こいつどうすんの?」

 刀太も疲れた様子で、地面に置いたままの戦斧と剛僧を指差す。

「まぁ、置いとく訳にもいかないから。うちで引き取って――」

 黒斗の妥当な意見が、最後まで話されることはなかった。

 なぜなら。

 ビシィッ!!

 戦斧にひびが入ったのだ。

「ぐ、がぁあ!」

 苦しそうに呻いて意識を取り戻す剛僧。

「おい!大丈夫か!?」

 心配して駆け寄る刀太。

 剛僧は付喪神。

 斧が壊れなければ死にはしない。

 逆に、斧にダメージが入ればそれはそのまま死に繋がる。

 黒斗はそれを分かっていて、直接攻撃ではなく殺し用とはいえ幻術を使ったのだ。

 しかしまさか、こんなに早く目が覚めるとは思っても見なかった。

 何より、いくら戦斧を攻撃したからといってこれほど簡単に砕けることなど有り得ないはずだ。

 その程度の判断くらいは付いている。

 なのにひびが入った。

 その要因が剛僧でも、刀太でも、黒斗でもないのなら。

 それは外部からしかない。

「がぁっあああ!!」

 ひびが大きくなり、叫び声がより大きくなる。

 刃の中心辺りがどんどん割れていき。

 バカン!

 中から、淡い紫の球体が飛び出した。

「がはっ!」

 その球体が抜け出たからか、ひび割れが止まり少しだけ息を吐けた剛僧。

 その様子に、心配はなくならないが少しだけほっとする刀太。

 

 

 

『ごきげんよう』

 

 

 

 しかし、球体から女の子のものと思われるその声が聞こえた瞬間、鳥肌が立って収まらなくなった。

 黒斗も同様で、警戒心を限界まで上げる。

 声が聞こえた瞬間に分かったが、この球体から感じる禍々しさは異常だ。

 それこそ、下手をすれば水無瀬小夜子にも匹敵するくらいの。

 警戒して、油断もなく、戦闘態勢すら無理矢理にでも整えたのに、冷や汗が止まらない。

 黙っていると焦れたのか、再び球体が話しかけてきた。

『ごきげんよう。無視しないでよ、バーナビー』

 どうやら、目の前の球体は黒斗に話しかけてきているらしい。

「……てめぇ、何者だ?」

 プレッシャーから、最低限の言葉で必要なことだけを聞く。

 普段の黒斗なら、軽い挨拶でもしただろうが、その余裕すら奪うものをこの球体は感じさせ続けている。

『全くもう、紳士のくせに女性に挨拶も出来ないの?』

 ぷんすか、という様子が手に取るように分かる言い方に、選択をミスったかもしれないと思った。

 感じは禍々しいが、どうにもフレンドリーなのだ。

 それでも警戒は解けないのでどうしたものかと悩む。

 相手がフレンドリーでも、冷や汗が止まらないほどのプレッシャーが放たれていてはそう簡単に判断出来ない。

『まぁ、いいわ。どうかしら?気に入ってくれた?バーナビー』

 やれやれ、と言いたげな声。落胆はしているようだが、気に障るほどではなかったらしい。

「何をだ?」

 本当に意味が分からず聞き返すと、笑い声が返ってきた。

『何って決まってるじゃない。その人工付喪神よ。よく出来てるでしょ?』

「はっ、この技術は一応は確立された技術だ。これだけじゃ、驚くに値なんざしねぇよ」

 挑発気味に黒斗は言うが、驚かないのは正直無理があった。

 確かに、武器に意思を持たせる研究はされていて、その結果の一つに付喪神に成りやすい武器の精製があった。

 けれど、そう易々と出来る代物ではないし、出来たとしてそれは『より付喪神に成りやすい武器の精製』であり、『必ず付喪神に成る武器の精製』ではない。

 だが、この球体の口ぶりからすると、確実に付喪神に成ると分かって造りだしたように聞こえる。

 これを黒斗はある程度ブラフと判断。

 確率を大幅に上げることに成功したくらいに考えることにした。

 それでも、本音で言えば十二分に驚嘆に値する技術力ではある。

『あら、残念。もう少し喜んでくれると思っていたのに』

「俺への理解が足りてないな、ストーカー君。ってか、俺を喜ばすって言う割には、こいつに俺を殺すように指示してたじゃねぇか。何でだ?」

 少しだけ慣れたのか日常会話のように口調を軽くしていく。

 どうにか相手の気を良くするためである。

 黒斗の予想では、相手はこの付喪神に自分を殺せと指示した本人のはずだ。

 でなければ、付喪神の本体に魔法を仕込むなんてそうそう出来ることではない。

 だからなんとか気分をよくして、向こうから話させるつもりなのだ。

『ストーカーなんて、私傷付いちゃうわ』

 だが、不用意に発言してしまった言葉に、本気で肩を落としたような口調で返される。

(ヤバ……詰んだか、こりゃ?)

「そうは言っても、俺の昔の名前だの日本での活動だのを細かく知ってたらそう思っても仕方がないだろ」

 およよ、と嘆く球体に内心焦りながらも文句を言う黒斗。

 黒斗が緊張を張り詰めた中でどうにかそれっぽく会話しているのに対し、球体の方は完全にこの会話を楽しんでいる。

 話の流れがさっぱり分からない刀太にも、相手がおしゃべり感覚なことは分かるくらいだ。

『もう、久々の会話なのにせっかちね、バーナビーは』

(!?久々、だと?)

 それが本当なら、黒斗とこの球体――正確にはこれは通信魔術の一種のようなので声から察するにその少女――は、やり取りの軽さから、黒斗の知り合いになる。

 しかし、黒斗の記憶ではこんな過激な少女のことなど知らない。

 一体何者だというのか。

『まぁ、いいわ。答えてあげる。理由は簡単よ』

 ふわり、と戦斧の周囲を一周して告げた。

それ(・・)程度じゃあ、あなたを殺すなんて不可能だから指示したの。挨拶代わりにね』

「結構危なかったんだが……」

 実際、刀太がいてくれなかったらもっと厳しかったと思うし、下手をすれば消滅していただろう。

『そんなはずはないわ。決してね』

 だが、その危惧を声の主は一蹴する。

『私が愛したバーナビーが、こんな程度だなんて有り得ないわ』

「……なるほどね」

 何となくだが、理解した。

 この声の主が言っているのは、全盛期の黒斗の話だ。

 その時の黒斗なら、確かにここまで苦労はしなかっただろう。

 それは確かだ。

 しかし今となっては、それは過去でしかない。

 過去の強さは、決して今の実力とイコールなどではないのだから。

「悪いが買い被りだ。今の俺にそこまでの力はねぇよ」

『そう』

 その答えに、声の主は残念そうに呟く。

「それと、その名前もやめてくれ。俺は今、UQホルダーの靄傘黒斗なんでな」

 それだけ伝えると、声の主が少しだけ沈黙する。

『…………そうなのね……やっぱりあなたは、あの女に……!』

 静かに呟かれた内容はよく聞き取れなかったが、そこに込められたどす黒い感情だけは伝わってきた。

 その、つい溢れ出てしまった程度のはずの力の奔流に、刀太と二人、身体が強張る。

 そこに、計り知れない力を感じた。

 不死人として最高位の吸血鬼である刀太と、悪い魂の欠片で出来ている黒斗の二人が、戦慄だけでなく少しの恐怖を抱いてしまうくらいには。

『今日はもういいわ』

 いつまでも続くと思うほどの圧倒的な圧力が、ふっと止んだ。

 止まらなかった冷や汗が、ここにきてさらにどっと流れる。

 予想以上に、身体が強張っていたらしい。

『けど、覚えておいてね?バーナビー。あなたを手に入れるのは私』

 宣言するように告げる。

『あなたを真に愛せるのも、あなたがまともに愛せるのも、私だけなんだからね』

 しかし、告げた言葉は黙っていられるものではなかった。

「てめっ、本当に何者……!?」

 何故その事実を知っているのか、そう詰問しようとする黒斗だが球体は空高く昇っていってしまう。

「お、お待ち……ください」

 と、そこへ剛僧が声を掛けた。

「おい、おっさん!しゃべんな、身体に障るぞ」

 刀太の忠告を無視して話しかける。

「わ、我は何のために?我は、一体?」

 自分の存在意義はこの声の主のためにある。

 そう信じて疑わなかったのに、話された真実は自分は当て馬でしかなかったということ。

 そして、信じていたのは自分ではなく殺せと言ったはずのターゲット。

 自分の芯が、壊れていくのを感じる。

『あぁ、あなたの役目はもう終わりよ?だって、私をバーナビーに会わせることだけがあなたを使った理由だもの』

 その残酷な言葉は、容赦なく剛僧を崩していく。

「!やめ――」

 声の主が発しようとしている言葉の危険性に気付き、やめろと言う黒斗だが、その言葉を言いきるより早く。

 最期の言葉が剛僧に届けられた。

『あなた、もう用済みよ』

 それが決定打。

 付喪神とは言うが、乱暴に言ってしまえば意思が宿っている道具に過ぎない。

 道具は用途という名の使命があってこそ。

 それを奪われるというのは、何より屈辱で最大のダメージとなる。

 パッキィン。

 その音を最期に、戦斧はバラバラに割れ。

 剛僧が消えた。

 ここに、人工的に造られた付喪神が一体。

 

 

 

 

 死んだ。

 




前回の一文。
UQホルダーのナンバーズと、それに連なる強さを持った
…………

弱いって設定マジでどこ行ったんだよ!?(半ギレ)
勢いって怖い。

そして最近、タイトルが思い付かない。
適当に走り過ぎた結果、シリアスなタイトルが付けられなくなってしまった。

あ、ちなみに今回のタイトルは警戒心と緊張感マックスなのに話してる相手は玉なのでこうしました。
あんまりこういう設定以外の補足はしたくないのですが、タイトルが思い付かなかったので、こんな分かりにくいものになってしまいました。ごめんなさい。

色々迷走する道の前提から間違えてる感がありますが、これからもなにとぞよろしくお願いします。


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今も昔も調べ物なら図書館で

少し間が空いてしまいました。


お気に入りの数ですが、なんと44!
もう本当に50までもうすぐですよ!ナンテコッタイ!


あぁ、それと最初に言っておきます。




図書館島なんぞ、わしゃ知らんぞい。


 

 

 ―――――……

 

 甘い幻想に浸るのは悪いことなのだろうか。

 

 現実では実現出来ないことを幻想に託すのは。

 

 辛い現実から目を背ける間だけでも、許されないのか。

 

 いや、本当は分かっている。

 

 悪いなんて話ではない。

 

 幻想に逃げて現実に立ち向かうことを止める。

 

 そんなことを許容など、出来るはずがない。

 

 誰かのためにも。

 

 自分のためにも。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 刀太と黒斗が調査している間。

 夏凛もまた、水無瀬小夜子の件について調査を進めていた。

 今は図書館にいる。

 水無瀬小夜子が、世界を滅ぼすに至ることが出来たその足跡や積み重ねてきたこと、良し悪しに関わらずその研究成果などを調べている。

 特に、不死者にも有効な魂魄浸食型屍鬼ウィルスについてだ。簡単に言えば人をゾンビに変える猛毒である。

 調べているのは、水無瀬小夜子が成仏した今、そのウィルスは既に完成して何処かに保管してあるのか。より重要なのは他の者がそれを使用出来るのかどうか。精製出来るかどうかである。

 おそらく、自分には効かないだろうが、だからと言ってそれでいいなんてことは絶対にない。

 また世界が滅ぶなんてことにならないためには、ウィルスが使われる可能性をゼロにしなければならない。

 そのためならば、いくらでも調べてやる。

 覚悟を持って、誇りを持って調査に臨んでいるものの、成果は芳しくない。

 それは、滅んだものをキリヱの能力でやり直してこの世界が一度なかったことになったからなのか、学園での水無瀬小夜子の殺害記録以外は、『トイレの小夜子さん』という怪談話くらいしか出て来ない。

 彼女と関わりの深かった三太に聞いても、それらの詳しい情報は、さすがに出てこなかった。

(本当にこれで大丈夫ならいいのですが……)

 これが杞憂に終わることが一番だが、杞憂であると確認が取れないことには安心出来ない。

 今一度気合いを入れて、新しく本を取って来ようと立ち上がる。

 ふらぁ。

 しかし、その瞬間に立ち眩みをしてしまった。

 けれども、そんな体調不良など文字通り(しゅん)で治る。

 神に愛された身体は伊達ではないのだ。

 そしてそのまま本棚の方へ歩き出そうとして、その進路を遮られた。

「駄目だよ夏凛ちゃん。少しは休まなきゃ」

 犯人は一空だ。

 ここ数日、己の不死性に任せて一睡もしていない夏凛を心配してのことだろう。

 いくら肉体的に健康でも、精神はやつれる。

 身体が完璧である夏凛だからこそ、精神的ダメージはそのまま弱点なのだ。

「大丈夫です。この程度、何ともありません」

 しかし、強情にも一空の忠告を跳ね除ける。

 そうやって無理をする理由には、一空も心当たりがある。

黒兄(くろにぃ)

 その言葉に、動かそうとした足が止まる。

「いやぁ、僕知らなかったよ。夏凛ちゃんと黒兄がそんなに親密な仲だったなんて」

「何が言いたいのですか?」

 楽しそうに笑う一空とは対照に彼を睨む夏凛。

 だが、怖くなどない。

 何故なら、夏凛の行動の理由がよく分かるから。

「夏凛ちゃん、よっぽど黒兄が大事なんだね」

「一体何のことですか?」

 夏凛の雰囲気の温度が下がる。

 一空の言葉が、この前あんな対応されたのに、と言外に語っているからである。

 確かに、数日の前の黒斗の発言には隠しきれないほどのショックを受けた。

 だが、言われた内容に関しては当たり前のことでもある。

『あの頃』とは違うのだ。

 甘えていい段階など、とうに過ぎている。

 そして、自分と黒斗との関係は、既に修復不可能なほどに終わっているのだから。

 ……久しぶり過ぎて不覚にも忘れていたが。

 だから、今調べていることは昔のことなど関係ない。

 そういった意味を込めて聞き返した。

「だって、そこに広げてる新聞ってこの前黒兄が言っていた泥棒事件についての奴だよね?」

 ピク、と一瞬眉を動かして。

 ヒュバッ!

 文字通り光速と思えるほどのスピードで証拠隠滅。

「何のことですか?」

 そしてしれっと答える。

 白々しいのは百も承知だが、それでも認めてはまた何かこう、ニヤニヤ笑われるに決まっている。

 あれは非常に不愉快極まりない。

 それに、実際休憩の読み物くらいに読んでいたに過ぎない。

「さすがに、その数の新聞紙を隠して白を切るのは厳しいんじゃないかな?」

 夏凛の後ろには、辞書くらいの厚さにまで積まれた新聞紙があった。

「…………」

 黙ってはいるが、本当に休憩中に読んでいただけだ。

 数日間徹夜の調査での休憩に、だが。

「無理したら、黒兄心配するよ?」

 一空に言われて、少しイラッとくる。

 そんなことは言われなくとも分かっている。

 そう言おうとしたが、口を開く前に閉ざしてしまう。

 ――もう、俺は『違う』

 別れ際の言葉が脳裏をよぎる。

 その言葉は、頭から冷水を掛けられたような衝撃と、昔のイギリス時代での生活を思い起こさせ。

 決して忘れてはいけない出来事を思い出させた。

 あの時に、自分は希望と夢が奪われた。

 否、奪ってしまった。

 その事実は、夏凛に重くのしかかっている。

 三百年経った今でも、だ。

 どれだけ後悔しても捨てられない、希望を持ちながら。

「それで、どれくらい分かったの?」

 何も答えない夏凛に痺れを切らしたのか、話題を変える。

「いえ、水無瀬小夜子のことは何も」

「いやいや、黒兄の案件の方だよ」

 何を言ってるのかと言わんばかりの一空に、少しむっとする。

「調べる必要はあるでしょう?何せ、世界が滅んだのだから」

「なかったことになったけどね」

 だから良いなどとは言えないし、言ってはいけない。

 その可能性を潰すのは、UQホルダーとしても必要なことだからだ。

「けど、今は何も問題ないよね」

「しかし、可能性は捨てられない」

 二人の主張は正しく、平行線を辿る。

 当然一空だって、その可能性が大きくなったときには解決のために動くだろう。

 しかし、今大丈夫であるならば既に発生している問題が他にあるのだからそちらに取り掛かるべきだと言っているのだ。

 夏凛だって、見過ごせないから並行して調べていたのだし、平行線になる意見以上の文句は言えなかった。

 ため息を一つ吐いて、夏凛は調べたことを報告する。

「黒斗の言っていた通りよ。本当に、日本全国から武器だけじゃない。とにかく『力を秘めていたり』、『呪いが掛かっていたり』、『碌でもない噂を抱えていたり』する物を各地から盗んでいるわ」

 言われた一空は、その意味や危険性について考える。

(そんなに色々集めたところで何が出来るんだろうか、今のところ特に暴れているとは聞いてない。……なら普通に考えればコレクションの線が濃厚のはずなんだけど……)

 しかし、その考えが楽観的過ぎることは分かっていた。

 報告で知ったが、その組織では怨霊に力を与えて霊力・魔力といったエネルギーを集めさせているという。

 (くだん)の武器にそんなエネルギーを注入したら、どうなるか分かったものじゃない。

 少なくとも、それが危険なのは間違いないと思われる。

「何でこんなことしてるんだろう?」

 それでも、一空の頭からは疑問が尽きない。

 それはその通りで、このような盗みのことも含めて止める必要はある。あるのだが。

 けど、だから何だと言うのか。

 確かにそれは危険な行為だ。

 カタギに手を出しかねない、つまりUQホルダーの理念を害する行為になるかもしれない。

 それはそれで充分に放っておけない問題ではある。

 かと言って、目的がさっぱり見えない。

 ただの破壊活動にしては何かしら組織的で目的有りきな行動に思われる。

 わざわざ日本全国からそういった物を探し出し、盗む。

 そして、その犯人は全く捕まってはいないだろう。

 力を持っていて、実行力もある。成功率もとんでもなく高いはずだ。

 とはいえ、それらもノーリスクということは有り得ない。

 なのに、特にそれ以上の行動を起こしていない。

 まるで訳が分からない。

「それが分かれば苦労はしないわ」

 調べても結論を出せないのに苛ついてるのか、ぶすっとした態度で呟く夏凛。

「けど、そのうち狙われるかもしれない場所は一つ見つけたわ」

 その報告に目を丸くする一空。

「本当!?夏凛ちゃん!」

 詰め寄る一空を遠ざけながら、その予測地点を伝える。

 

 

「旧上野公園国立科学博物館――今は、国立海中魔法美術館。おそらく、そこにある『呪具』が狙いよ」

 

 

 そして、夏凛と一空が予想の結論を出した頃。

 黒斗と刀太も、決着をつけていた。

(なんか、荒れそうだなぁ……)

 ロボットだが、嫌な予感の止まらない一空はそう思った。

 それは夏凛も同じようで、一空よりも少し複雑な光を瞳に宿していた。




一空の夏凛の呼び方…多分これで合ってたはず!
違ったら教えてください。


そろそろ、展開だけでなくオリジナル設定までもが加速を始めました。

そのうちなんじゃそりゃ?ふざけてんのかてめぇ!って設定が入るかもなので、出来れば!出来ればレベルでいいので!!

……ご容赦ください。



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青空作戦会議!

お待たせしました。


さぁ、そろそろクレームが飛んで来ても仕方なくなり始めたぞ☆



下手したら完全に世界観壊し始めるかも……


それでもと言ってもらえるなら、本編をどうぞ!






 

 

 ―――――……

 

 悪夢。

 

 それはただの夢とはまるで違う。

 

 夢は醒めたら夢でしかない。

 

 だが、悪夢は醒めてからこそ纏わりつく。

 

 文字通り、寝ても覚めても逃れられない。

 

 本当に厄介で嫌なもの。

 

 だから。

 

 私がそこから救い出してあげる。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 国立海中魔法美術館。

 様々な理由で海水の水位が上がったために、東京は約半分が水没。

 埼玉や千葉もその陸地を海の中に沈めていってしまった。

 だが日本とて、ただ沈んだ陸地を捨てるということはしなかった。

 魔法を使える一部の者たちを中心に、海中都市の建造に着手。

 塔の真下を中心点に設定し実に三十年もの月日を掛けて、都市としての機能を全うするに至った。

 その理由の一つに、文化的に損失させるわけにはいかない場所や施設がある、というものがあり、その保護・存続が真っ先に適用されたのが上野公園国立科学博物館というわけだ。

 残念ながら当時の展示物は大半が水没してダメになってしまい、展示内容を含めてごっそり入れ替えようということで話が進んだ。

 そしてこの都市の建造にも使われた魔法技術に関する博物館にしようという結果になった。

 ちなみに、美術館と銘打っているのは、最初に掻き集められた展示品が美術的価値の高いものが多かったことが理由である。

「という場所なわけだが……」

「誰に説明してるのよ?」

 呆れながらツッコむ夏凛に、お約束だよと言って話を続ける黒斗。

 実際、歴史の教科書を開けば必ず乗っていることなので、復習程度の意味合いしかない。

 刀太や三太でもちゃんと覚えていたくらいなのだから。

「でも、一回行ってみたいって思ってたからね。少しわくわくしてるよ」

 そう言う一空はかなり楽しそうだ。

 その言葉には何人かの面々も頷いていた。

「確かにな~、でも俺はやっぱりあの塔の上に行きたいけどな」

 刀太は長年の夢の場所でもある塔の上の方が優先みたいだ。

「おいお前ら、これから行くのは戦闘込みの任務なんだからな?観光じゃねぇぞ」

 注意する黒斗にはーい、と適当に返事してまた談笑に戻る。

 黒斗も、ったく、と悪態をつきながら船の運転に集中することにした。

 今、彼ら七人は海中都市に向かうためアジトの船に乗っている。

 あの後、意気消沈して帰ってきた刀太と黒斗。

 その二人に敵組織が次に狙う可能性の高い美術館を告げると、二人とも妙にやる気を出して手配を完了させたのだ。

 そうして学園にいた七人総出で呪具防衛任務のためにこうして現地に向かっているのである。

「それにしても、そう簡単に行くかしら?」

「何がだ?」

 キリヱの質問の意図が分からず聞き返す黒斗。

「だって、海中魔法美術館なんてそんじょそこらの警備なんて目じゃないほど厳重なのよ?わざわざ捕まるリスクを極端に上げてまで来るかしら?」

「「来る」」

 当然と言えば当然のキリヱの疑問に、黒斗と夏凛が即答する。

「どんな警備とか関係なく各地から盗んでいるんです。警備が厳重だからと、そう簡単に諦めるとは到底考えられないわ」

「あぁ、それもあるし……」

 夏凛の言葉に頷きながら、黒斗が言い淀む。

 言葉の続きを待つが、一向に喋らない黒斗。

「何か知らないけど、相手の狙いが黒斗だしな」

 それに代わって刀太が話す。

「そ、それ、どういうこと!?」

 その驚きの発言に九郎丸が問い詰める。

 他の者も同様に刀太や黒斗に詰め寄っている。

「どういうも何も、この間の調査中に俺らを襲った奴……いや襲わせた奴がそう言ってたから」

 正直に答えると、夏凛の目がかなり獰猛な感じになり、黒斗を睨む。

「何があったの?」

「……別に、ちょっと色々あっただけだ」

 少し気まずそうに目を逸らす黒斗。

 それ以上詳しく話す気は無いらしい。

「…………まぁ、いいわ」

 全然よろしくなさそうだが、答えないのにいつまでも固執するわけにもいかない。

「それで、今回はどうするの?」

 本題に入る。

 今回は防衛戦。

 しかも複数箇所だ。必然的にチーム分けをする必要がある。

「とりあえず、展示品のリストを見せてもらったんだが……」

 そう言って、デジタル画面を表示させる。

「リストに書かれた特にヤバ()な『いわく付き』の物品は十種類。そん中でも付喪神に成る可能性が高い品は三つだ」

 そう言って三つの物品の資料を見せる。

 刀と鏡、そして日本人形だ。

 それぞれが人を殺すことに長年関わってきた代物だ。

 刀は平成の世で悪い魔法使いに使われたもの。

 鏡は三角縁神獣鏡(さんかくえんしんじゅうきょう)。三角形の縁に乗せられた古代の鏡で、裏側に獣の絵が掘られた神聖な鏡である。これの伝承には人の死をその鏡に予言する、その威光で直接人を殺したこともあるという少し曖昧だが、不吉な言い伝えがある。

 最後の日本人形はありきたりに聞こえるかもしれないが、呪いの人形である。切っても切っても一晩で生えてくる黒髪は、少しでも人形を愚弄した者の首を絞め殺すと言われていて、実際にこの人形の持ち主が何人も死んでいる。

 これら分かりやすくヤバイ物品が今回の防衛対象になる。

「思ったより少ないのね……」

 少しホッとした様子のキリヱ。

 そこに、黒斗の補足が入る。

「いや、物そのものは少なくない。けど、全部は守れねぇからな。他に比べて失いたくないもの、特に相手の戦力に変わるかもしれないものに的を絞ったんだよ」

 そこまで言ってキリヱを見る黒斗。

「何よ?」

「一応聞いておくが、この判断は間違ってないか?」

 念のために確認する。

 もしかするとキリヱ的には二週目以降の可能性もあるからだ。

 なので用心のためにキリヱには、出発前のアジトにセーブポイントを作ってもらった。

「私も今回が初めてよ。だから確実なことは言えないわ」

 しかし、まだ一週目の初チャレンジだと言う。

 だから、この作戦が失敗するか成功するかは誰にも分からない。

「よし、ならこのままプランは変えない」

 それを聞いて、作戦を説明する。

「まず最初にチーム分けなんだが……キリヱは留守番だ」

「えぇ!?何よそれ!!?」

 まさかの待機命令に文句を言うキリヱ。

 意気込んでの参戦なら仕方ないかもしれない。

「まぁ、俺らの作戦が完全に失敗か全滅したら連絡を入れるから。そしたら悪いけどやり直してくれ」

 少しバツが悪そうに言う黒斗。

 さすがにやり直せるからと、わざわざ死んでもらうのは忍びないらしい。

「それに、今回の戦闘にキリヱの実力だとどんな高価な魔法アプリを使っても参戦は厳しいかもしれないんだ」

「……分かったわよ」

 不満たらたらだが、自分にしか出来ないことなので仕方ないと受け入れる。

「それじゃあ、残りのチームだが……」

 そう言って、作戦とチームを伝える。

 まず、黒斗と三太。

 この二人は鏡を守る。

 ここには他にも多くの展示品があり、その関係でショーケースがたくさんある。

 力のコントロールと対応力を鑑みての編成となる。

 次に一空と九郎丸のペア。

 こちらは刀を盗まれないようにする役目だ。

 刀の展示が通路の中央に飾られているので、機動力と連携の取れやすさがある二人に頼むことに。

 最後に、刀太と夏凛。

 日本人形が二人の守る対象である。

 この日本人形が一番ヤバい代物らしく、最も強敵が来る可能性が高いとのこと。

 そのため、どんな相手でも踏みとどまれる不死性の高いこの二人に任せるという算段である。

「異議を唱えます」

「おい!」

 即答でプランを拒否した夏凛にツッコむ。

 ただ単に、これだけの選択肢の中で刀太と組むのが嫌だったのだろう。

 そんな我が儘は無視して話を進める。

「ともかく、各員それぞれ戦闘とキリヱに連絡する準備はしておけ」

「しかし黒斗殿、さすがに必ず全てを守りきるのは厳しいのでは?」

 そう質問する九郎丸に頷く黒斗。

「まぁな。だから別に、ただ失敗しただけでやり直す必要はないと思ってる」

「では、どういう事態なら?」

 人差し指を伸ばして説明する。

「まずは、誰かが復活不可能なほどにやられた場合」

 次に中指を伸ばす。

「次に、大量の物品が根こそぎ盗まれた場合」

 最後に薬指を伸ばす。

「後は、相手の情報が全く得られなかった場合だ。このうち一つでも実現したら必ずやり直してもらう」

 それぞれ全ての失敗でやり直すことは全員納得がいった。

「まぁ、着いたらまずは館長に話を通す。そんでもって閉館した後から翌朝までが任務時間だ」

「ふぅん、でもそんなすぐに来るの?」

 三太の質問に首を振って答える。

「いや、さすがに正確な日取りは分からない。けど、奴らがこういった施設から物を盗む時は閉館時間中にしかやってないからな。それでこの時間帯なわけだ」

「それに、ここを選んだのもまだ何も盗まれてなくて盗む価値の高い物が置いてある場所だったからという理由が大きいわ」

 黒斗と夏凛の否定の言葉に、刀太は嫌な予感がする。

「な、なぁもしかして襲撃が今夜なかったら……」

 その不安から来る言葉に、厳しい現実を無慈悲に落とす。

「そりゃ、それまでは何日も張るぞ」

「襲撃されることは目に見えているのだから当然でしょ」

 またも無期限任務の開催である。

 あのどれだけ苦労を重ねても手ごたえも任務完了に向かっている達成感も全くない時間を過ごし続けるのは、刀太にとって苦痛になるほどのことになっていた。

「勘弁してくれぇぇえええええええ!!!!!」

 情けない悲鳴が上がる船は、もうすぐ塔にたどり着く。

 

 

 

 海中都市の入り口へと。

 

 

 

 




はい、前回の終わりに出てきた単語の解説&次の戦闘の作戦回でした。


いや~まさかね。
あの塔の下にそんな世界が広がっていたとはね。
書いてて自分がビックリしましたよ。ええ本当に。


ここまで来て何言ってんだ?って思われると思いますが、もう原作の設定とか時系列とかアチョー!です。
どこかに吹き飛びました。
それでもまだ読んでくださる読者様が居たら心から感謝します。

次回はまた少し空いてしまうかもです。本当にすみません。


活動報告でアンケート実施中です。
ご意見お待ちしております。


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こう、お祭りって意味もなくテンション上がるよね

全く更新できずにすみませんでした!!


こんなほぼ失踪しかかった作品を待っていてくださった皆さん。

本当にありがとうございます!

そしてごめんなさい!

これからはちゃんと更新していきたいと思います。




 

 

 

 ―――――……

 

 取り戻せないことは、多々ある。

 

 捨てなければいけないことも、間々ある。

 

 どれだけ輝かしい未来を手に入れられるとしても。

 

 やはり、過去という宝石だけは。

 

 ずっと持っていたいと思う。

 

 ―――――……

 

 

 

 アマノミハシラの海中都市直通エレベーター駅。

 そのホームにUQホルダーたちがいた。

 人数は八人。

「ふん。遅かったじゃないか、貴様達」

 何故かそこに雪姫が居た。

「雪姫!?何でここに!?」

「ちと、この街に用があってな。ついでに貴様たちの案件がスムーズに行くように手伝ってやろうと思って来てやったのだ」

 雪姫が着いてくれるという安堵がメンバーに広がる。

「それは助かるけど、いいのか?」

「手伝うとは言っても私も忙しい身だ。ここの館長に話を通すくらいしか出来んぞ?」

 しかし、戦闘の方はどうやら手伝えないらしい。

 残念だと肩を落とす。

「いや、助かる。むしろそっちの懸念の方が強かったくらいだ」

 その中で黒斗だけが喜んでそれを受け入れた。

「ではさっさと行くぞ」

 そう言って、雪姫が先導する。

 一行は、海中都市へ。

 

 

 

 

 エレベーターの中で。

「うひゃあ!すっげぇ!潜ってる!俺たち海の中潜ってってるぜ!!」

 超ハイテンションな刀太がえらく興奮していた。

 海中都市にはものの数分で着くという。

「それにしても、運がいいな。貴様らは」

 はしゃぐ刀太を楽しそうに見やりながら雪姫が呟く。

「運?どういうことですか?雪姫様」

「あぁ、今そんな時期か……」

 黒斗以外の面々が首を傾げている中、エレベーターが到着した。

 改札を出て、駅の外に行くと先ほどの二人の言葉が何を指しているか、すぐに理解出来た。

 

 第五回・海中都市竜宮都(ルグト)創立祭!!

 

 出てすぐのところに大きくその文字が空中に浮かんでいて、街を見渡せば、提灯が飾られていたり、屋台が連なっていたりと、街中がお祭り色に染まっているのが分かった。

「わぁ!二人が言ってたのはこのことだったのね」

 精神的に擦れ……大人なキリヱもテンションがかなり上がっているようだ。

「そんじゃ、お前らまず宿を教えるから、そしたら時間近くまで自由時間だ。楽しんでこい」

「いいのか!?」

 黒斗の言葉に最高だったテンションが否応にも限界を突き破って上がる。

「そんなにウズウズされちゃ、そう厳しいことも言えねぇよ。それに、予定時間以外に敵が行動することはデータ上は一度もないからな」

「じゃあ早く行こうぜ!」

 そのまま駆け足で進んで行く刀太に慌てて付いていく九郎丸や三太。

「私たちも同行しなくてもいいのですか?雪姫様」

 祭りでも冷静な夏凛が館長への話を通すのに、自分たちも行った方がいいのでは?と思い聞く。

「まぁ、こういうのは大勢で行かなくても見た目の印象一つで何とかなるんでな。私と黒斗だけで充分だ」

「え、でも見た目は黒斗も充分お子様じゃない?」

「なら、これでどうだ?」

 キリヱの言葉に指を鳴らすと、一瞬で姿を変えた。

 身長と髪を伸ばし、少し老けさせたので三十代ほどに見える。

「俺は元々不定形な存在だからな。外見はどうとでもなる」

 目の色だけは何故か変わらんがな、という黒斗に、さすがに感心したキリヱ。

 そういうことなら、と地図のデータをもらい一足先に残りの三人で宿へ向かう。

「一応、後で刀太たちを宿まで引っ張ってやってくれ」

「はーい」

 一空が適当に返事しながら街へ向かった。

「それでは、我々も行くか」

 雪姫に頷いて並んで歩いていく。

「久しぶりだな。お前と二人で組むのは」

 美術館に向かいながら遠い目をして言う黒斗。

「懐かしむような思い出でもないがな」

 対し、雪姫の目には少し苦いものが混ざる。

 その頃は、ある意味最も世界の闇に触れていた時期でもあるのだから。

「ま、な」

 黒斗本人も、深く触れたい話題でもないので適当に濁す。

「会った時はああ言ったが、本当に余裕はないのか?」

 ああ、とは有事の際に加勢は出来ないと言ったことだろう。

「他にも早急に解決するべき案件があってな。どれも下っ端に任せるだけでは解決が見込めそうにない」

「要は人手不足、と」

 コクン、と頷く。

 UQホルダーのナンバーズ、つまり力を持った幹部は少なくはない。

 けれども決して多いわけでもない。

 そして、その多くが今ここの任務に参加している以上雪姫にも負担や仕事は回ってくる。

 緊急性や危険性の潜在値を考えると、どうしてもこちらの人員を減らすわけにもいかない。

「人数をそっちに回したいっつっても、十蔵と甚兵衛さん借りるのは無理だしなぁ……」

 当然だ、とその考えを即座に却下する。

 十蔵とは、UQホルダーで力・強さにおいて最強のナンバーズ。

 甚兵衛は、最古参の不死者であり、UQホルダーの原型を作った人物だ。

 甚兵衛自身はそこまで強くないと自称しているが、千四百年も生きていて長いこと戦闘もしている。

 これだけの圧倒的経験値を持った御仁が弱いわけはない。

 そんな二人がいてくれれば、何も気兼ねすることなく任務を完了して元凶まで辿り着けるだろう。

 二人とも別に頭脳派という訳ではないが、戦闘面での心配がなくなるだけで充分心強いのである。

「こちらの件にこれだけの人数を割いてるんだ。これで進展しなければ酷いぞ?」

「進展はするだろうよ。ただ、早期解決出来るかは保証出来ない」

 脅しも含んだ言葉に、見栄は張らずに正直に話す。

 敵の情報がほとんど手元に無い以上、先手を取れないのが手痛い。

 かといって、ここでああだこうだ言ったところで意味はない。もう既に話し合うべきことは話したし、この雪姫に言っても今の段階では何も進展に繋がらないのだから。

「……………………」

 そのまま特に喋ることもせず歩いていた。

 そこでふと、黒斗が口を開く。

「……なぁ、俺を愛せる存在って何だと思う?」

「はぁ?」

 いきなりの質問に面食らうを通り越してドン引きだ。

 いくら何でも意味不明過ぎる。

「何を言い出すのだ、貴様は?」

「いやなに、敵の一人の狙いが完全に俺みたいでな。そう言われた」

 報告の時に言わなかった会話内容を簡潔に伝えると、これ見よがしにため息を吐かれた。

「なんだよ?」

「これがため息を吐かずにいられるか」

 そう言ってもう一度ため息。

「貴様、愛に格が必要だなどと本気で思っているのか?」

「いや、んなことは……」

「ましてや資格など……そんなものが関係ないと初めて教えられたのは、紛れもなく貴様だぞ?」

「誤解を招く言い方をするな。俺とお前の間にあるのはギブアンドテイクの信頼関係だろうが」

 からかう様に言われた言葉をピシャリと否定する。

「それは違いない。だが、貴様は夏凛と……」

「言うな!」

 突かれたくない部分に触れられそうになって、強く止めた。

「言うな。それに、結局は何の意味も無かった……いや、無くなったんだから」

 遠い目をして、これ以上話し掛けるなという空気を作る。

 その目には寂しさよりも諦めの色が強いように見えた。

「全く、相変わらず不器用な……」

「ほっとけ」

 それきり会話は無くなり、少し入り組んだ道を抜けて美術館に辿り着いた。

「UQホルダーだ。ここの館長と話がしたい」

 警備の者に伝えて、応接室に通される。

 ここからは仕事の話し合いだ。

 

 

 

 

 雪姫と黒斗が館長と話している間に、残りのメンバーは既に宿に荷物を置いて、祭りに参加していた。

「ふぉ~い、ふふぉふぁふふぉほっひほいお」

「刀太くん。とりあえず、口の中の物を飲み込んでから喋ろうか」

 中でもテンションの高い刀太を九郎丸が時々ブレーキを掛けながら見て回る。

 ちなみに今のは、「お~い、九郎丸もこっち来いよ」と言っていた。

「お、射的じゃねぇか!」

 と、昔懐かしい射的の屋台を見つけた。

「なぁ、三太。これやってこうぜ!」

「いいよ」

 一緒にいた三太とお金を払って弾をもらう。

「それじゃあ、僕もやろうかな」

 そこに一空が加わろうとする。

「いやぁ、ロボットの一空先輩が射的をするのってかなり反則気味な気が……」

 そうかい?と首を傾げる一空に揃って頷く面々。

 それなら、と今回は不参加になっておく。

 パコン!

「だああ!上手く当たったのに!!」

 最後の一発で傾きそうだったにも関わらず、残念ながら倒れず失敗。

 パコン!

 おぉぉおおおお……

 逆に当たれば倒しては歓声が静かに上がるのは三太だ。

「ふふん」

 珍しくドヤ顔まできめている。

「すげぇな、三太!」

「ま、まぁ、これでもFPSのランカーだし……」

「マジか!?すげぇ!」

 幽鬼としての存在と力に目が行きがちな三太だが、同時にかなりのゲーマーでもある。

 そこで培ったスキルで、しっかりと的に当てていく。

 そして最後の一発。

 パコン!

 パタリ。

 おぉぉおおおお!!!

 全弾で商品ゲット。しかも最後にはなんかお高そうな封筒も倒したのだから盛り上がらない訳がない。

「なんつう腕してんだよ……ほれ持ってけ泥棒!」

 悔しそうに雑に景品を渡される。

「へへっ」

 得意気に受け取って中身を確認する三太。

「なぁなぁ!何が取れたんだよ!?」

「ちょっと待って。えっと……」

 お菓子、ぬいぐるみ、タバコ、ライター、そして。

「なんだ?これ」

 最後に封筒の中身を確認すると、出てきたのは『竜宮都ベストコンビ大会特別出場枠権利』と書かれた紙が入っていた。

「「ベストコンビ大会?」」

 揃って疑問符を浮かべるメンバーに、やれやれと言った感じで説明する屋台の店主。

「なんだよ知らねぇのかよ。そいつぁ、この祭りの名物でな。つってもやるこた簡単だ。登録した二人が祭りを一緒に見て回るだけだからな」

「え?それだけ?」

「けど、その様子を祭りに参加してる全員から見られる。んでもって、祭りをいっちゃん盛り上げたコンビは誰だ?ってのを決めるんだよ」

 そして、その優勝者には豪華景品があるとか。

「まぁ要は、祭りを皆で一緒に盛り上がった奴らは誰だってのを投票形式で競うってこった」

 細かい部分は全くもって分からないが、とにかく祭りを楽しめばいいってのは理解したメンバーたち。

「んで、三太。どうすんだ?」

「い、いや!俺はいいよ」

 大勢の人間から注目されると聞いて、全力で首を横に振る三太。

「はいこれ!刀太兄ちゃんが誰か誘ってやれよ」

 乱暴に渡して別の屋台に行ってしまった。

 その後を一空が着いていく。

「おう、なんなら男女ペアで出とけや。その方が盛り上がるし、優勝者も大抵はカップルだからよ」

 アドバイスのつもりで店主が出した情報に、パッと食い付いた人物が一人。

 ジーーーーーーー……

「え、えっと……」

 ジーーーーーーーーーーーーー。

「…………」

 ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

「夏凛先輩。これ、どうぞ……」

「そう、くれると言うのなら貰っておくわ」

 素っ気無いような言い方だが、その手の動きは光速と見紛うほど速かった。

「あら?」

 早速中身を確認したところ二枚入り。

 なんと二つ分の枠を獲得したらしい。

「片方はあなたに返すわ」

「あ、あざす……」

 口調は淡々としてるのに、滲み出る嬉しさの迫力が凄くてドン引きしか出来ない。

「ん~、でも誰と参加すっかな?」

「あ、男女ペアってことなら私が出てあげなくもないわよ?」

 貰ったはいいが、相棒に悩む刀太にキリヱから声が掛かる。

「でも、キリヱ。お前そんなはしゃげるのか?」

「うっ」

 何気なくされた指摘がキリヱに過剰クリーンヒットする。

 自分の固有能力(やり直しスキル)で多くの(特に死の)体験を経ているために精神的に大人なキリヱは、怒りなどの感情表現は素直でもリアクションはあまり大きくない。

 いや、正確にはプライドのためにオーバーリアクションをしないよう心掛けていると言った方がいいかもしれない。

「でも、他に組んでくれる女性なんて……」

 悩んでいる横で夏凛の視線がある一点に突き刺さるが、当の本人は顔を背けてこれを拒否。

 と、そこへ。

「あ?お前ら、屋台の前で集まって何してんだ?」

「何やら困った様子だったが、何かあったのか?」

「「あ」」

 丁度いい人材が合流した。

 

 ~かくかくしかじか説明ちう~

 

「はぁ。つまり、俺らにそのお祭り盛り上げ大会に参加しろと?わざわざ任務に来て注目されろ、と?」

 基本的に表舞台に立とうと考えようともしない黒斗はため息を吐きながら確認をとる。

「ほぅ、中々面白そうな企画だな」

 完全呆れ顔の黒斗に対し、意外にもノリノリな雪姫。

「お前がこういう催し物に参加すんのは珍しいな、どういう風の吹き回しだ?」

「なに、こういったうるさいほど賑やかな騒ぎは……久々、でな」

 黒斗の質問に、遠い目をして返す雪姫。

 その目は少しだけ寂しそうに見えた。






はい、というわけでお祭り回&次回のデート準備回です。

刀太のお相手は、前回九郎丸だったので雪姫に。

あと、キリヱファンの方々にはごめんなさい。

なんか色々ディスり気味ですけど、作者個人としては別に嫌っているわけではありません。

むしろ成長して戦えるようになったら一番好きになる気すらするし。



まぁ、そんな話は置いておいて、次回はデート回です。


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デートの甘さに苦味のアクセントって至上

お待たせしました!

ようやく更新できました。

亀更新で本当に申し訳ないです。


しかし、ラブコメよりシリアス、バトルの方が執筆が進む。不思議。



何はともあれデート回です。

どうぞ。


 

 

 

 

 ―――――……

 

 どんな愛がこの世にはあるのだろうか。

 

 仲間意識は、分かる。

 

 大切も、分かる。

 

 師弟愛も、理解している。

 

 恋愛も……不本意ながら。

 

 家族愛は…………

 

 まだ、もう少し。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 お祭りを盛り上げたコンビを競うというイベントに、刀太と共に参加した雪姫。

「あ、おい雪姫!あっちにたこ焼き売ってるぜ!」

「分かった分かった。今行くから」

 はしゃぎ回る刀太にやれやれ、といった様子で追いかける雪姫。

 その様子はどう見てもカップルよりも親子のそれだったが、それでも二人は楽しそうに見えた。

 その二人の腕には腕章が着いている。

 コンビ大会参加の証だ。

 今のこの様子もお祭りの参加者に微笑ましい視線でもって見られている。

(あいつ、一応警戒しとけって言われたの忘れてるんじゃないだろうな?)

 表向き楽しそうに――いや、実際楽しんでいるのだが――その裏で静かにため息を吐く。

 こうしている間も、敵が潜んでいる可能性は十二分にあるのだから。

 

 

 

 ~一時間と少し前~

 

「とりあえず、俺のイベント参加が決まった以上は行動の指示を出させてもらうぞ」

 苛ついた様子の黒斗が全員に警戒するように伝える。

「あれ?でも相手は今、行動を起こさないって言ってなかった?」

 特に何もしなくてもいいと言われていたのに、とキリヱが疑問を口にする。

「本来ならな」

 青筋が立っているのを見ると、これから出す指示を黒斗一人でひっそりと行う予定だったらしい。

 その黒斗に、射的を当ててしまった三太と完全お祭り気分の刀太は少し反省した。

 しかし、夏凛はそっぽを向いて反省した様子はない。

「おい、お前は特に反省しろ。浮つきやがって……」

「……別にいいじゃない。これくらい」

 小さな呟きは全員の耳に届かなかったが、それでも不服なニュアンスは伝わってきた。

 そんな夏凛に新鮮さすら感じているメンバーとさらに青筋が増える黒斗。

「このっ……!ごほん。とにかく、このイベントに参加しない四人には例の美術館を張ってもらうからな」

 しかし、ここで言い争いをしても何も始まらないので気を取り直してやることを説明する。

「一空、超小型カメラはあるか?出来れば目線で録画出来るものがいい」

「ちょっと待ってね……え~っと、ほらこれ」

 そう言って右腕の中が開いて出てきたのは耳に掛けるタイプの、どう見ても盗さt……立派な隠しカメラが出てきた。

「よし、そいつを使って一日一人ずつ交代で観察してくれ」

「え?でもちゃんと見張るなら全員で見たほうがいいんじゃねぇの?」

「刀太君、それだと敵に対して『僕たちは全力で警戒していますよ』って教えているようなものだよ」

 九郎丸の答えに頷きながら詳しい指示を話していく。

「あそこは広いからな。全体をそうだな……二回か三回、んでもってそのカメラに客の大半が映るように軽く見渡すようにしてくれ」

「あれ?よく見ないと……あ、そっか。さっき九郎丸の兄ちゃんが言ってたのと同じか」

 小さい声で三太が質問しようとするが、同じ事の繰り返しだと理解する。

 実はデータの通りならば、敵は閉館して警備の者しかいないタイミングで行動するのでこの見張りは意味がない。

 なにせ警戒するべき時に警戒すればいいだけなのだから。

 けれど、ダメで元々。収拾出来る情報が欠片でもあればそれで良し、という訳である。

「それに、もし上手くいけば……俺の方に何か釣れるかもしれないしな」

 さらには今回のイベントで黒斗が注目されれば、黒斗狙いの敵が接触か何かしてくる可能性もある。

 通信魔法越しであれだけのプレッシャーを放つ相手では危険度が高く、リスクリターンは良くないと思う。

 それでも今は少しでも情報が欲しい。

 もしもそれが知っている相手なら対策も立てられる。

「あれ、でも黒兄」

 と、そこで何かに気付いた一空が質問する。

「そういうことなら、このイベントに参加出来たのってプラスじゃないの?」

 少し意地の悪い笑顔で聞く一空だが、それが地雷だったようで再び青筋が浮かび上がる。

「『本来なら』、俺が一人でこの街全体を安全に観察する予定だったのを、誰かさんが乗り気なせいで『リスクの高い』囮作戦なんてものを実行するハメになったんだからな?」

「えと、その……ごめんなさい」

 しゅん、とする一空だが下手に突付いたのが悪いので誰からもフォローは入らない。

「まぁ、当面は余程熱心に展示物を見てるわけでもないのに同じ奴が何日も長時間居るようなら、顔を覚えておいてくれって程度の話だからあんま気負わなくていい」

 一応、警備開始前に確認するけど、と言って立ち上がる。

 作戦会議はこれにて終了らしい。

「んじゃ、俺たちも行こうぜ。雪姫」

 

 

 

 

 

 ――という経緯があったのだが、刀太の様子を見ていると何処まで理解しているのか不安になる。

 ふと、祭りの賑やかな光景を見やってまた遠い目をする。

(本当に、煩いな……)

 言葉にすると悪意満点だが、懐かしむ表情で笑っている雪姫。

 その目に映っているのはいつの頃の話なのか。

「おいどうしたんだよ?雪姫」

 いつの間に戻ってきたのか刀太が目の前に来ていた。

 しかもその手にはたこ焼きが乗っかっている。

「ほら、美味そうだろ?」

 そう笑いながら楊枝で刺して口元に持っていく。

 いわゆる、あ~んというやつだ。

「あむ……むぐむぐ、んぐ。ほぅ、確かに美味いな」

 今更照れるわけでもなし、素直に口を開いて食べる。

「だろ!?」

 やっぱこれだよなー!と言いながら、自分で食べたり雪姫に食べさせたりしてあっという間に完食。

「ん~、美味かった!」

 ゴミを捨てると、次の屋台を探してキョロキョロし始める刀太。

 また何処かに行ってしまいそうだったので、雪姫は苦笑しながら刀太の傍へ。

「馬鹿者、女連れの男が勝手にほっつき歩くな。ちゃんとエスコートしろ」

 そう笑いながら刀太の手を取る。

「お、おう。そうだな」

 少し戸惑い気味で顔を赤くする刀太。

「ん?どうした刀太。恥ずかしいのか?」

 その隙を逃さずからかう雪姫。

「んなわけあるか!」

 まだ顔は赤いが、それでも手を強く握り返して引っ張って行く。

「……ふふ」

 その様子がなんとも微笑ましくて、小さく笑いながら付いて行く。

 そんな二人はやはり親子にしか見えないが、それでも楽しそうだった。

 

 

 

 一方でよろしくないのが黒斗・夏凛ペアだ。

 手を繋ごうとしたり、腕を組もうとしたり、お店に並ぼうとしたりするのたが、その全てをむすっとした様子で躱し続ける黒斗。

「いい加減に観念しなさい」

「断る」

 それを幾度か繰り返した後に言葉でもアタックして、これも躱される。取り付く島もない。

「……イギリス紳士のくせに」

 なので、攻め方を変えた。

「なんだと?」

 そして予想通りに黒斗が反応を示す。

 生き残るためならプライドなんて欠片も役に立たないと思っている黒斗だが、イギリスで長年活動し、民間人に紛れ込んで過ごすこともあって、紳士としての振る舞いは決してそこらのカッコ付けの見栄っ張りには負けない自信がある。

「こういう場で紳士として対応出来ないのに、よくもまぁ胸を張って言えたものね」

「~~~~~!!!」

 だから、結構簡単に揺さぶれる。

 黒斗のことを知っているのはなにも雪姫だけではない。

 長いこと一緒に住んでいた夏凛だ。このくらいは朝飯前である。

 夏凛に対する苛立ちと紳士のプライドの葛藤の末。

「……………………………………………………ほらよ」

 プライド大勝利。

 差し出された手を握り、掴んだ戦果に微笑む夏凛。

 そのまま二人は連れ立って歩いていく。

 先ほどよりゆっくりとした、夏凛がいつも歩いている速度で。

 

 

 

 

「なんか、久しぶりだな」

 ゆっくり手を繋ぎながら歩いていると、突然刀太が呟いた。

「何がだ?」

「いや、雪姫と二人で……こう、ゆっくり過ごすのがさ」

「たかだか数か月前の話だろ?私にとっては一瞬だ」

 暗にそのうち刀太もそうなると語っていた。

 不死者にとって、よりよく生きるためにとか、生き抜くためにといった普通の人間が持つ感覚は持つこと自体意味がない。

 なぜなら死なないから。

 生きることを強制されるから。

 だからこそ、どう生きたいかが重要になる。どんな存在になりたいか、それを追い求めることこそ不死者にとって意味が生まれる。そこで何を為すか、それがなければそれは不死者ですらなくただの浮浪者、漂流者でしかないのだ。

 UQホルダーを作った雪姫はそう思う。この組織で過ごす者たちにとって生きることに意味を見出せるような居場所になるように。

「まぁ、そうかもしれないけどよ、最近は色々あったからな」

 とは言ったところで、刀太は不死者になって日が浅いどころか生きている年数そのものがまだまだ短い。

 死生観は置いておいても、まだまだ普通の人としての感覚は残っているのだろう。

「退屈などではなかったのだろう?」

 その言葉にもちろん、と頷いて、

「でもやっぱこんな時間もたまにはいいかなって」

 そう言って無邪気に笑うその顔が、意外にもいつぞやの誰かと重なり格好良く思えて。

「なんだ?私とデートしたければ暇があればやってやるぞ?」

 ついからかってしまう。

「そっ、そんなんじゃねぇ!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ刀太に笑いが止まらない雪姫だった。

 

 

 

 

「そら、お待たせ」

「あ、ありがとう」

 ぎこちない仕草で黒斗が買ってきてくれた飲み物を受け取る。

 ちょうど喉が渇いていたところだ。

 中身もちゃんと冷えたお茶を用意してくれている。

 好みもタイミングも完璧に合わせてお店に並ばせず、座って休憩する場所も確保。

 非の打ち所のない紳士たる振る舞い。

 その辺りは流石としか言いようがない。

 とはいえ、ここまでピッタリ合わせられるとちょっと引く。

 でも嬉しく思う。

「…………なんで」

 黒斗が自分の好みなど細かいところを覚えていてくれたことも、自分を気遣ってくれることも、今自分のことを見てくれていることも素直に嬉しい。

 そう、嬉しいのだ。

 しかし、だからこそ。

 だからこそ言葉が口を突いて出てくる。

「なんで、今まで……」

 黒斗は、何も言わない。応えない。

 どんな顔をしているのかは俯いている夏凛には分からない。

 辛そうな顔をしてくれれば、少しは救いだ。

 けど、そんなことはないのだろう。

「今まで、ただの一度も」

 そう思うと、言わないと決めた言葉が。

「会うことも、声を掛けてくれることも」

 これまで三百年もの間我慢してきた文句が。

「なんで一度だってしてくれなかったのよ!?」

 溢れて止まらない。

「答えがいるのか?」

「分かってる……分かってるわよ!!」

 予想していた通りの返答に、涙が浮かんでくる。

 けれど夏凛は、いや夏凛以上に理解している者などいない。

 だが、しかし。

「けど……けど!!」

 それでも。

 例えどうだったとしても追い求めたくなる。

『あの頃』の、穏やかで優しい日々を。

「俺に、希望を持てとでも言う気か?」

 その願いをばっさり切り捨てられた。

 予想できていたこととはいえやはり言われるとキツい。

 だが、黒斗に希望を持てと言うことは同時に絶望しろと言っていることと同義だ。

 それくらい黒斗の希望は、光は最悪の形で黒斗を絶望と闇の底へ叩き落してきた。

 確かにそんな黒斗には酷かもしれない。

 それでも。

「私と居てよ。ここに、居てよぉっ……!」

 求めずにはいられない。

 黒斗と共に希望を持っていたい。

 その願いをどうしても黒斗と見たいのだ。

「俺は……」

 何かを言いそうになって。

「……………………」

 口を噤んでしまう。

「何?」

 言葉の続きを求めて聞くが、黒斗は口を閉ざしたままだ。

 夏凛はこの沈黙を、言いたい希望があるが言うべきではないと判断してのものだというポジティブな捉え方をしていた。

 しかし、黒斗の頭にはそれとは違うことが思い浮かんでいた。

 

 ――あなたを真に愛せるのも、あなたがまともに愛せるのも、私だけなんだからね

 

 それは少し前に言われた言葉。

 人ですらない自分を愛せるという少女(らしき人物)。

 思い当たる人物はいなかった、と思う。

 よくよく記憶を思い返してもあれだけ自分に心酔したような者も、自分の正体を知っていても愛せると宣言する者も誰一人引っ掛からない。

(けど、俺をそこまで知る奴が敵なんだ。気を引き締めないと最悪……)

 そこで、涙目の夏凛と目が合う。

 拳を強く握る。

『あの頃』からこれ(・・)は決めていたことだ。

 これからも変わらない。

 でも、今この瞬間くらいはいいだろう。

「とにかく今はお祭りを楽しまねぇともったいねぇ」

 もう一度手を差し出す。

「幻想の中くらい、夢を見ようぜ」

 その言葉に涙がこぼれそうになるが、寸でのところで留まる。

「……そうね」

 無理矢理にでも笑って着いてこうとしたところで。

「おう、兄ちゃん。可愛い娘連れてるじゃねぇか?」

 チンピラ三人が絡んできた。

「いいところで……」

 もはや殺意すら漏れるほどの恨みを込めて呟く。

 チンピラの方は何も気付いてないのか夏凛の肩に手を回そうとする。

 それを力尽くで振り払う前に。

 ポイッ。

 そんな音が似合いすぎるほど見事にチンピラの一人が宙に舞った。

「げはっ!」

 重力のまま地面に叩きつけられて気絶する。

 綺麗すぎて一瞬何が起こったのか誰も理解していなかった。

 が、それも数秒。

「このやろっ!!」

 怒ったチンピラ二人が飛び掛る。

 とはいえ所詮は素人。

 ヒョイっと簡単に躱すとチンピラ二人の流れを攻撃しながら操作する。

 と、一人の重心がずれて体勢を崩したので仕掛けた。

 胸元を掴んで横に引っ張り、もう一人をキック。

 するとキレイに二人の顔が近付いて……

 ぶっちゅううう!!!

 図体のややでかい野郎二人の熱烈キッス。

 吐きそうになってorz状態になっている二人の顔の間に踵を本気で落とす。

 バキィイ!!

 地面のコンクリートにヒビが入った。

「まだやるか?」

 優しく語り掛けるように聞くと、顔を青くして気絶したチンピラを連れて全力疾走で去っていった。

「まったく……ああいう手合いはいつどこでもいるのな」

 呆れていると、周りから拍手が上がった。

「あ、注目されてるんだっけ」

 完全に今の今まで忘れていた。

 しかしまぁ、結果オーライだろう。

「その、ありがとう」

 注目されて恥ずかしいのか顔を赤くして傍によって来る夏凛。

「まっ。何もなくて良かったよ」

 紳士としての対応でそそくさとその場から歩いていく。

 その気遣いをまた嬉しく思って着いていく。

 もちろん、手は握られたまま。





はい、一応以前言った記念回です。
いったいどんだけ掛かってんだよって話ですよ、ええ。
UA5000どころか9000ですよ。
お気に入りだってその頃から増えてるし。


もう、本当にこんな失踪しかかった小説を読んでくださって、気に入ってくださってありがとうございます!!

更新速度は残念ながらそこまで戻りませんが、亀ながら更新は完結までちゃんと続けていきますので、どうかよろしくお願い致します。

感想・要望・文字や設定の訂正あればよろしくお願いします。


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飲み過ぎ食べ過ぎ居心地悪過ぎには注意!

リアルが忙しいという言い訳と共に、読者の皆さんに深〜くお詫び申し上げます。
本当、長らく空いてすみませんでした!!( ̄^ ̄)ゞ


 

 

 ―――――……

 

 長い、とても永い時間、病に臥せっていた

 

 生きることが辛いと思った。

 

 けど死にたくないと思い続けた。

 

 それが報われた時、あったのはただ感謝。

 

 だから「生きよう」と決意した。

 

 それが、最初の恩返し。

 

 ―――――……

 

 

 

 

 

 

 ――美術館にて。

「これが……」

 今日の監視担当は一空だ。

 キリヱは相手にされなかったと怒って屋台巡りに行き、残りの三人で相談し三太と九郎丸がキリヱをなだめる役に。そして一空が美術館を担当することとなった。

 とはいえ監視の初日だ。余程怪しい行動をとっていないなら注意・警戒する必要もないだろう。

 なので、全体を一時間ほど掛けて見て回った後、一空は件の展示物を見に行くことにした。

 今見ているのは日本人形だ。

 魔法には少々疎いサイボーグの一空だが、この人形のヤバさははっきり伝わってきた。

 まず、傍目にも分かりやすく封印がなされている。

 ショーケースの内側に札がいくつも貼ってあり、ショーケースの周囲にも工夫が施されていた。

 そこには普通の模様のようにデザインされた床に見せかけた魔方陣が描かれていたのだ。

 さらにこれは一空だからこそ分かったのだが、封印が破られた際にいつでも破壊できるように銃口がいくつも人形に向けられている。

 これはもう異常と言う他ない。

 しかし真正面から人形を見て。

 

 

 

 

 悪寒が、駆け巡った。

 

 

 

 

 その瞬間納得する。

 この厳重な警戒は当然のことだと。

 もしも一空が生身の人間だったなら、滝のような汗が流れていただろう。

(こ、これは……とんでもないな……)

 たかが人形、などとは決して言えないねっとりとした負の感情。それがプレッシャーとなって一空にまとわり付いてくる。

 数十秒も経ってようやく一空はその場から離れたが、その緊張感は仲間たちと会うまで弛むことはなかった。

 

 

 

 

 

「もう!なんだってのよ!?」

 あむ、もぐ。

「何が『お前そんなはしゃげるのか?』よ!失礼しちゃうわね!」

 もぐもぐ……ごくん。

「そりゃ一瞬、優勝は難しいかなとは思ったわよ!」

 ごくごく、ぷはぁ。

「だからって……!」

「うん分かった。分かったから一回手を止めよう、ね?」

「そ、そうだって。今回はたまたま雪姫様が来たからそっち行っちゃっただけだって」

「ふん!」

 なだめられ、一度ヤケ食いの手を止める。

 目の前にはまだまだ山のようにある屋台の食べ物。

 行く先行く先でささっと買えるものをごっそり買っていった結果である。

 もう分かりやすいほどの暴飲暴食ヤケ食い祭りだ。

 よっぽど刀太から言われたダメ出しがプライドを傷つけたらしい。

 さすがにまだまだ肉体年齢的に子供のキリヱに自分の体重の一割近くありそうな食事をさせるわけにも行かないので、止める二人も必死である。

 この三人でも食べるのが無理そうな量なのに限界を超えて食べてしまったら――主に体重計の上で――後悔すること必至なのだ。

「うぷ」

 数分もすると、もうすでに満腹を越えてたのか若干辛そうな顔をする。

「大丈夫かい?」

「………………へ、平気よ」

((駄目だなこりゃ))

 二人の心は一致した。

 とにかくうちわで扇ぎながらキリヱを休ませることに。

「で、これからどうする?」

「う~ん、とりあえずキリヱが動けるまでここで待とうか」

 さんせ~と三太から同意が上がったのでそのまま寛ぐことにした。

 

 

 

 

 チンピラを撃退してからしばらくして。

 夏凛が小腹が空いたと言うので屋台に並んだのだが……

「お、兄ちゃん。さっきは格好よかったぜぇ?」

「あらまぁ、べっぴんさんだこと!こりゃたぁんとサービスしなきゃだね」

「ねぇねぇ!あの時どうやって倒したの?」

「あいつらが熱~いベーゼを交わした時は腹抱えて笑わせてもらったわ!」

 な、なんというかむず痒い!

「ほら!いっぱい盛ったからしっかり食べな!」

「お、おう……」

 こういった純粋な善意に中々馴染めない黒斗の動きはぎこちない。

「礼くらい言いなさい。ありがとうございます」

「なぁに、良いってことさね!」

 逆に嬉しく思い、柔らかく微笑むのは夏凛だ。

 彼女は普段こそ鉄面皮だが、誰かからの温かい心に触れることが好きで、時折こうして微笑むのである。

 その表情は一輪の花を思わせるような美しさで、周りの男たちを魅了している。

「と、とにかく行くぞ!」

 居づらそうな黒斗が夏凛の手を引っ張ってその屋台の付近から連れ出した。

 瘴気でできている黒斗は、こういった温かみのある空気というのが苦手で、かなり強引に進んでいく。

 囃し立てる口笛をBGMに。

 

 

 

 

 

「ともかく、やることはキチッとやらないとね」

 日本人形の寒気は取れないが、かと言ってそれで逃げ帰るつもりもない。

 一空は内心嫌なものが燻っていても己の役割のために美術館を周っていた。

 ささっと見回る程度なので、それほど大変でもない。多少の広さを持っていても2時間3時間もあれば充分見れる。

 今は特におかしなところはない。

(いや、すでにおかしいところだらけだけどね)

 一空も黒斗からリストをもらっているが何より、曰く付きの物品の多さが目に着く。

 何せ可能性の低いものを合わせれば百を下らないのだ。

 よほど最初に集まったものがそういったものだったのか。

「あるいは、それらを集めようとしたのか。かぁ……」

 黒斗がどう考えているかは知らないが、そう考えるとここも充分きな臭い。

 警戒は怠らない方が――

 トン

「おっと、失礼」

 考え事をしていたら、途中で人とぶつかってしまった。

「いえいえ、こちらこそ申し訳ない」

 ぶつかったのは、シルクハットとステッキが見事な紳士だった。

「ふふふ、若いのに随分と渋い趣味ですなぁ。あなたほどの年齢なら外の方が楽しいでしょうに」

「いえ、これからお祭りには参加しますよ。ただ、ここの美術館は有名ですからね」

 咄嗟に取り繕った意見だが、上手くまとまった。

「ほぅほぅ、それはそれは。勉強熱心で良いことです」

「ありがとうございます。ムッシュはまたどうしてここに?」

「ほっほっほ。こうして歳を取ると、中々どうして同じように時を歩んだものを、見てみたくなるものでしてなぁ」

「そんなものですか?」

 ベッドの上とはいえ長年生きていてもそんな考えには至らなかった一空からしたら新鮮な意見だ。

「ええ、言うなれば彼らは同志、と言っても過言ではありません」

「変わった考え方ですねぇ」

「ほっほっほ。よく言われます」

 朗らかな笑みを浮かべて老紳士はその場を立ち去る。

「それでは、またご縁がありますように」

「次はぶつからないように気を付けますね」

 ほっほっほ、と笑う老紳士のおかげで、張り詰めたものが少し緩和してくれた気がした。

「……ありがとうございます」

 小さい声で、その背中にお礼を言った。

 

 

 

 

「はぁ、この辺なら大丈夫だろ」

 あれから注目され続けるのが嫌になった黒斗は、人目につかなそうな場所まで走ってきてようやく息をついた。

 その様子はだれがどう見ても疲れ果てている。

「何もそこまでしなくてもいいじゃない」

 涼しい顔をしている夏凛はあきれ顔だ。

「そうは言っても仕方ねぇだろ?俺、あんなとこに長時間居たら浄化しちまうよ」

 以前にも言った通り、黒斗の身体は瘴気で出来ている。

 それ故に、澄んだ空気の中に居続けるだけで存在の維持のために自身の身体である瘴気を消費してしまうのだ。

「ふふっ」

「何だよ?」

 くすっと笑った理由が分からず聞き返すが、夏凛は答えない。

 首を傾げて、しかし理解できないので、まぁいいかと流す黒斗に夏凛は笑みが零れて止まらない。

(そう言う割に、手は離さなかったのね)

 神に愛され常に浄化されていると言っても過言ではない夏凛と触れることは、黒斗にとって間違いなくダメージになるにも関わらず、その手は離さなかったのだ。

 これを嬉しく思わず、どう思えというのか。

 しかも、本人はそれに気が付いてないのだから笑ってしまう。

 紳士としての対応以上の何かを確かに感じられるのだから。

「少し休んだら、そろそろいい時間だし、ホテルに戻って雪姫様たちと合流しましょう」

 その提案に頷いて、腰を落ち着ける黒斗と、それを笑顔で見守る夏凛。

 周りに人がいれば、二人はカップルにしか見えないだろう。

 それほどまでに、二人の間の空気は柔らかかった。

 

 

 



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