【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます (ルルイ)
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原作開始前
プロローグ1


未改修です


 

 

 

「俺は今謎の白い空間にいる。

 そして目の前には謎の人型らしき物体がいる。

 そして俺はついさっきまで病気で死ぬ寸前だったはずだ。

 故に問おう、あなたが神か、と。」

 

「あー、妙な言い回しをされたが、一応お前らが言うには神だ。

 まあ、神って言っても無数にいる神の一柱だがな。」

 

「そしてココは神の間と。

 まさか俺は既に死んでいて神が目の前に現れたということは、よくある話のあなたが死んだのは神の間違いですごめんなさい。なんて展開じゃないだろうな。」

 

「それはよくある話なだけで、実際神がぽんぽん間違い犯してたら大変なことになる。

 大体神なんだから間違いを正すのも割りと簡単だろうよ。

 神にも専門分野ってモンがあるが人間なんかよりずっと出来る事が多い。

 大体神がそうそう人間に頭下げるものか。」

 

「それもそうだな。

 じゃあ何で俺はここにいるんだ?」

 

「最近よくある転生物ってのを俺もやってみたくなってな。

 死んだ人間を呼び込んで転生させてるんだわ、これが。」

 

「じょ、冗談じゃないぞ!!

 俺の人生・・・・・・いや、もう死んでるんだから俺の来世か?

 と、とにかくそれをめちゃくちゃにされたくなんかないぞ!!

 俺は平凡に生きられればそれでいいんだ!!」

 

「ああ、別に強制じゃないぞ。

 そこまで人でなしじゃない、いや神だったな。

 望まないんだったら普通に輪廻の輪に乗って魂綺麗にされてから普通に生まれ変わりだな。

 それに騒動に無理に巻き込んでそれを見て楽しみってわけじゃない。

 物語の世界に生まれ変わったやつが何をするのか見てみたいだけだ。」

 

「ほ、本当か?」

 

「ああ、神も悪魔も嘘はつかないからな。」

 

「かわりに本当のことを言わなかったりして相手を騙す訳か。」

 

「わかっているじゃないか(ニヤリ)

 何ならココでお前の自由意志や運命的に騒動に巻き込まれるようにしないことを誓うぜ?」

 

「神が何に誓うんだよ。」

 

「何にだろうな。

 で、どうするんだ、転生してみるのかしないのか。」

 

「・・・・・・転生する。

 ココで断ったってそれで終わりだしな。

 ただし、今言った事とこれから言う事を約束してくれ。

 転生先の環境の安全を保障する事、転生後の体の健康を保障する事、転生してから5年後に記憶を戻す事だ。」

 

「おいおい、それじゃ転生先の要望を言ってる様なモンじゃないか。」

 

「環境によって騒動に巻き込まれる状況になるかもしれないじゃないか。

 生まれた体の状態によっても同じく。

 記憶を5年後に戻すのは幼児時代をまともに過ごせる自信がないからだ。

 親が気味悪がって捨てたらどうする。

 ろくでもない人生の始まりだ。」

 

「騒動に巻き込まれない状況を確保するための前提条件か。」

 

「ああ、どんな世界にいくのか知らないけど、物語にかかわるかどうかは自分で決めたい。

 その為の安全な環境だけは絶対に保障してくれ。」

 

「なるほど了解した。なかなか考えたじゃないか。」

 

「あ、言っとくが環境は俺の認識基準で安全で平凡なものだからな。」

 

「・・・・・・ほんとに良く考えてるな。 抜け目のないやつだ。」

 

「ありがとうと言っておく。」

 

「はぁ、まあいい。 お前の物語への介入の選択の自由はきっちり保障してやる。

 それ以外のごく普通にありえる騒動は知らんからな。」

 

「普通に生きていてありえる騒動ならしかたないな。

 そういうのを誘導したり引き寄せたりするのも無しだからな。」

 

「解ってる解ってる、いい加減話に進めるぞ。

 次は転生する世界をどこにするかだ。

 お前のさっきの要望から現代社会をベースにした物語の世界にするぞ。

 そうじゃなきゃお前の基準の安全は確保できないからな。」

 

「確かに中世ファンタジー世界なんて治安が良くなさそうだし、近未来SFとかだと戦争物が大半な気がするから平和な環境は期待出来なさそう。」

 

「そういうことだ。

 散々要望を聞いたんだ、世界はこっちで選ばせてもらう。

 そうだな・・・・・・・・・・・・『魔法少女リリカルなのは』でいいか。」

 

「え!! リリなのか!?」

 

「何だうれしそうだな。 ファンか?」

 

「名作だしな!! キャラもみんな可愛いしぜひそこで頼む!!」

 

「別にいいが第一期だと舞台は主に普通の町の海鳴だぞ。

 そこに転生したら騒動に巻き込まれる可能性は上がるが?

 別の町に転生するようにするか?」

 

「あー・・・・・・いや、海鳴でいい。

 別の町に生まれたら原作キャラに会えないからな。」

 

「そうかい、じゃあ海鳴市内に生まれるようにしておくぞ。」

 

「あ、ところで転生後の容姿ってどうなんだ。」

 

「チッ・・・・・・そこは俺の関与するところじゃないな。」

 

「ちょっと待て、今の舌打ちは何だ。」

 

「男の娘(こ)ってのは今の流行だろ。」

 

「おい!! 騒動に巻き込まれる要素はないって話だろ!!」

 

「別に男の娘が騒動の元とは限らないだろ。

 実際そこいらに絶対いないというわけでなし。」

 

「却下だ却下!! 環境の安全を保障するうちの一つとして却下だ!!」

 

「わかったわかった、転生後の容姿に関しては干渉しねえよ。

 だからどんな容姿になっても俺は知らねえ。」

 

「は? どういうことだ?」

 

「つまりは完全なランダム。 男かもしれないし女かもしれない。

 イケメンかも知れねえしブサメンかも知れねえなぁ?」

 

「・・・・・・あー出来たら男でイケメンでお願いします。」

 

「神様にでも祈るんだな。」

 

「あんたが神だろー!!」

 

「つまり諦めろってことだ。」

 

「ノーーーーーーー!!!!」

 

「まあ、いろいろあったが最後に能力決めるぞ。

 一つだけだが転生物ならお約束だな。」

 

「うぅ・・・・・・なんでもいいのか?」

 

「いいわけないだろ。 一応俺も神なんだから世界に悪い影響を与えるような能力は禁止だ。

 良くある無限の剣製や王の財宝、正確には乖離剣エアとかは世界に影響与えるからアウト。」

 

「そういえばなんでこの二つって人気高いんだろ?」

 

「ロマンなんだろ? あるいは厨二病。」

 

「転生とかやってる時点で俺達も厨二病なんだろうか?」

 

「俺を一緒にするな。 誰にも迷惑かけてないんだから問題ないだろ。

 で、どういう能力にする? 世界観的にありえない能力とかも却下だからな。

 たとえばドラゴンボール級の戦闘力とかグレンラガン並の天元突破っぷりとか。」

 

「あー、確かにそれは無茶振りだな。

 んーーー・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・まだか?」

 

「待ってくれ、一個しかないんだから汎用性のある能力がいい。」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・よし決まった。」

 

「ようやくか、でどんな能力だ。」

 

「『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』だ。」

 

「東方か?っというか能力って聞くと大抵『程度の』がつく気がするよな。」

 

「俺もそう思う。」

 

「で、どういう能力なんだ?」

 

「サイヤ人の特性に似た能力か?

 戦えば戦うほど強くなるみたいに、努力すれば努力するだけ努力でどうにか出来る事は割りとどうにかなる能力。

 さすがにサイヤ人みたいに人間の限界を超えて強くなることは無理でも、人間に出来ることなら努力すれば出来るようになるって事。

 ただし血筋的に無理なことは無理ってことにしておいてくれ。」

 

「どういうことだ?」

 

「例えるなら魔眼を習得する場合、写輪眼はうちは一族にしか習得出来ないけど、死に掛ければ習得できるかもしれない直死の魔眼は習得できる。

 リリなのの世界だったら聖王の鎧(カイゼルファルベ)とかか?」

 

「なるほど、多才になれる能力って事か。

 初めから強い能力じゃなくていいのか?」

 

「自分で学んでいったほうが実感あるからな。

 別に戦いたい訳じゃないから強さなんてそんなに要らないし。

 まあ騒動に巻き込まれたら逃げるには十分な力は手に入れたいけど。」

 

「わかったよ、そういう能力にしておくぞ。

 おまけで直死の魔眼も記憶が戻ると同時に開眼するようにしといてやる。」

 

「え、いいのか?」

 

「初期はたいしたこと無いだからそれくらいのおまけは別にいいだろう。

 それにオマエ実際死んでるんだし開眼してもおかしくない。」

 

「あそっか・・・・・・ところで魔眼殺しのメガネとかは。」

 

「そこまでおまけしてやる気はない。

 努力すればON/OFF位出来るようになるだろ。

 そういう能力なんだから。」

 

「自分でやれってことか。」

 

「そういうことだ。 散々めんどくさい注文つけやがって。

 これならチートとか俺TUEEEEって能力にしてくれって言われた方が楽だ。」

 

「そうなのか?」

 

「そうだ。実際そう言われたことが何回かあるからな。」

 

「というか俺以外にも転生者がいるのか?」

 

「さっきも言ったが死んだ人間を適当に呼び寄せて転生させまくってるからな。」

 

「じゃあ、他にもリリなのの世界に転生してる奴がいるのか?」

 

「いるにはいるがお前が行く世界とは別の平行世界だ。

 オマエを原作の世界に転生させることでそこから新しく派生した平行世界が生まれる。

 他のやつらもそうやって派生した世界に送っている。

 転生者が複数同じ世界にいるとぐだぐだになることが多いからな。

 まあ、望むなら同じ世界に送ってもかまわんが。」

 

「遠慮しておく、話が合わん奴だったら厄介ごとの種になるからな。

 ところでチートとか俺TUEEEEって能力は何なんだ?」

 

「文字通りにしてやった。

 チートは改造、自分の能力を改造できる能力だ。

 俺TUEEEEは相手より強くなれる能力だ。」

 

「そんなむちゃくちゃな能力、あげちゃっていいのか。」

 

「かまわん、そもそも自分の能力を上げるのにチートするといったって具体的にどうすればいいと思う。」

 

「えーと、ステータスの数値を上げるとか?」

 

「それじゃあレベルアップと変わらんだろう。

 チートするということはその対象の情報を理解しなきゃならん。

 筋力を上げたいなら筋肉がどういうものかデータ上ででも理解しなくちゃいかん。

 理解できても骨格とかのバランスを考えないと体が大変なことになるぞ。」

 

「うわぁ・・・・・・」

 

「新たな能力を付け加えようとしたら魂に情報を付け加えなきゃならん。

 普通の人間には魂の構造なんて理解できんだろうな。」

 

「詐欺だ・・・」

 

「俺TUEEEEの能力はまだましだぞ。

 相対した相手より間違いなく能力は強くなる。」

 

「複数を相手取った時はどうなるんだよ。」

 

「目の前にいる相手よりだけ強くなるな。

 それに強くなるのは能力だけ、武器などの要素は入っておらん。

 完全武装の相手に丸腰だったら殆ど意味ないな。」

 

「さっきよりはマシではあるけど、殆ど俺TUEEEE出来ないんじゃないのか?」

 

「状況によっては能力を発揮し切れないこともあると説明を入れておいた。

 そいつはそれで納得したがな。」

 

「十分詐欺じゃないか。

 俺にも何か都合の悪いことを隠してないだろうな。」

 

「残念ながら無い。

 最初に言ったが神と悪魔は嘘をつかないからこれは本当だ。

 まあ俺が気づいてない部分もあるかも知れんがそこは知ったことではないな。」

 

「残念ながらって・・・」

 

「まあこれで転生準備は整ったな。

 オマエは少々めんどくさかったが、まあとっとと行け。」

 

「って、下に急に穴が~~~~~~~!!!!!」

 

「お約束だろ。」

 

 

 

 

 

 



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プロローグ2

 

 

 

 

 

 生まれ変わって早五年、つい先日5歳の誕生日を迎えて前世の記憶と直死の魔眼に目覚めた。

 記憶は今世の俺の記憶とちゃんと噛み合って混乱は無かったが、直死の魔眼に困らされた。

 死の線が見えるようになったのはいいが、その線を見ているとだんだん気持ちが悪くなってくるんだ。

 気分を悪くして体調を崩して今世の両親に心配かけてしまった。

 おかげでやりたかった原作キャラ探しは後回しに、直死の魔眼のコントロールを優先した。

 

 ちなみに今世の俺はちゃんと男でイケメンではないがごく普通の平凡な容姿だった。

 女になったらどうしようかとも思ったが、新しい人生なのだからそれもありかと少しだけ考えた。

 

 ともかく魔眼のコントロールの練習をしようと思ったんだが、具体的にどうやればいいのかまったくわからん。

 死の線を見ていても気分は悪くなるが疲れはしない。

 写輪眼みたいにチャクラみたいな何かを消耗してるわけじゃないから、力の供給源を断てばいいという訳じゃない。

 なら遠近感みたいなピントのようなものかと死線を意識しないようにしてみることにした。

 

 幸い死線を意識しないようにしていれば気分の悪化は収まったので、それを繰り返してみることにした。

 三日もすると死線がだんだん薄く細くなってきて、十日もすると意識しなければ死線は殆ど見えなくなった。

 このやり方があってたかどうかわからないが、『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』があるだけあって結果は出てきた。

 

 まだ意識してしまうとすぐ見えるようになって、再び見えなくなるようにするのに数分かかる。

 この辺りの切り替えは今後の課題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一応魔眼の制御が終わり原作キャラ探しを始めた。

 バニングス家と月村家は簡単に見つかった、でかいからな。

 八神家は庶民だから逆に探す当てがまったく無かった。

 そもそも海鳴に住んでたか? 隣町って設定じゃなかっただろうか?

 

 八神家は後回しにすることにして、メインの高町家。

 こっちも家に道場があったりするが、庶民だから家の大きさだけでは探せそうに無い。

 だから喫茶翠屋の方から探してみることにした。

 

 

 そしたら割とすぐに見つかった。

 最近流行りだしたばかりの割と新しい店だそうだ。

 となると、けっこう原作より前の時代なんだろうな。

 

 翠屋がちゃんとあるんだから既になのはも存在してるんだろうなと思い、両親に頼んで翠屋に連れて行ってもらった。

 運良くなのはに会えるとも限らないが、行ってみて損は無いだろうと思い頼んだ。

 

 

 

 

 

 というわけでやってきた翠屋。

 流行っているだけあって席は満員に近い。

 話に聞くおいしいシュークリームは絶品です。

 あまりにおいしくて親にお代わりをねだってしまった。

 正直前世の記憶が戻る前の記憶もあるとはいえ、強請るのは少し気恥ずかしかった。

 そして肝心のなのはだが、

 

 

 

 いるにはいた。

 ツインテールの俺とそう変わらないであろう女の子。

 店の奥のほうにぽつんと座っているのが見えたのだが・・・・・・

 

 

 正直最初は唖然とした。

 あの子がなのはなのかと始めは疑っていたが、店の店員恐らく高町桃子と親しそうに話してる様子からなのはだと確認した。

 何故最初に唖然として疑ったのかだと。

 それは・・・・・・

 

 

 

 

 

 ぜんっぜん萌えないんだよ!!!!!

 確かにかわいくはあるとは思うがどう見てもそこらにいる普通の女の子、いや幼女ではなく幼児!!

 ただの他所のお子さんって感じで、アニメの可愛らしいキャラのなのはとまったく繋がらないんだ!!

 

 

 

 ・・・・・・考えてみれば当然だ。

 前世で見たのはあくまで二次元のキャラだし、あえて可愛く見せる描写もあった。

 だが目の前に存在してるのは三次元、現実の存在なんだよ。

 

 例えるなら好きなアニメをドラマ化されてみてみたら、自信のイメージとギャップがありすぎて萎えてしまった。

 いや、萎えたなんてモンじゃない。 絶望した!! なのはとお話(OHANASIではない)できると楽しみにしてたのにそれをあっという間の失って絶望した。

 今後出会うであろうキャラもこんな感じなのだろうと悟って絶望した。

 

 

 

 

 

 

 急に元気を無くしてまた親に心配されたがそのまま帰路についた。

 今日の一件で転生してやることの半分を失っちまった。

 

 正直あれはなのはじゃない、あの子はなのはちゃんであって知らない他所の子供だ。

 確かにこの世界はリリなのの世界なんだから、将来魔法少女としてバンバン魔砲をぶっ放すんだろうが

、正直それがどうしたって感じだ(萌え的な意味で)

 現実的に考えてあんな子供が戦っていいものかとも考えた。

 まあ下手に手を出せば悪い結果になりかねないから、止める事は到底出来そうにないが・・・

 

 今後のことはまた今度考えるとして、今はこのやるせない気持ちをどうにかしたい。

 今日の遭遇でリリなののファン魂が消し飛んじまった。

 もうこっちじゃアニメも見れやしないし・・・・

 

 

 

 

 

 俺はリリなのの世界に転生したことでリリなののファンをやめた。

 

 

 

 

 

 



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第一話 空への翼(が生えるのは当分先)

 

 

 

 

 

 前回リリなのの世界に来たのに、ファンをやめてしまった俺。

 まだ名前を出してなかったが俺の名前は山本拓海。

 前世の名前はまあ気にすんな。

 

 この世界に実在するなのは、今後はなのはちゃんと呼ぶがあの子に遭遇してすっかり落ち込んだままだったが、とりあえず数日で立ち直った。

 これならはやての方も同じだろうと八神家を探す気もない。

 はやての両親が亡くなるのは知っているが、正直何時何処で亡くなるのかもわからないからどうにも出来ない。

 歯がゆい気持ちにもなるが、現実的に考えて俺がどうにかするのは不可能だ。

 ここは現実なんだし出来ることしかしない。

 

 

 だがココは確かにリリなの世界なのだから魔法は存在しているんだ。

 なら超常的な力というものを使ってみたいじゃないか。

 前も言ったが戦いたいわけじゃなく、ただ自分の力で空を飛ぶくらいのことでいいので出来る様になりたい。

 俺にリンカーコアがあるかはわからないが『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』があるんだから、あるなしに関わらず割とどうにかなるだろう、努力すれば。

 

 という訳で魔法の練習をしてみようと思うのだが、魔法には術式が必要でそれがなきゃ飛べるわけも無い。

 その辺りは後で考えるとして、魔力を使えるように練習するくらいは出来るだろう。

 といってもやり方がわからないから完全な手探りだ。

 まあこれもこの世界来てやりたかった最後の楽しみだ。

 地道にやっていこう。

 

 

 

 

 

 魔力についてだが俺の考えではすべての人間は魔力を少なからず持っていると思う。

 魔法の出てくるリリなの以外の物語でも、魔法を使う術がないから魔力があっても使えなかったり使う術が合っても魔力が低いために使えなかったりすることは多々ある。

 だから例え少なかろうと魔力は誰にでもあるというのが俺の考えだ。

 

 俺自身にリンカーコアという魔力の生成、あるいは制御する器官があるかはわからないが、魔力はあるとここがリリなのの物語の世界だと知っているから自信を持って言える。

 だから自分の中の魔力を認識して意思で動かせるようになるのが最初の目的だ。

 その方法だが・・・・・・

 

 ぶっちゃげ瞑想とか位しか思いつかなかった。

 魔力を使える人がいればその人に俺の体に魔力を流してもらって、魔力がどういうものか感覚を覚えるなんて方法も思いつくが、俺にそんな知り合いはいない。

 両親が管理局員だったり特殊な血を引いていたりとか言う話は良くあるが、神様に頼んでおいただけあっていたって平凡な普通の両親でした。

 おかげで家庭環境はこれでもかというくらい平凡に平和です。

 

 というわけで、瞑想したり集中したりとかは家でも出来るけど外のほうがいいんじゃないかと、出来そうな場所を探しに行きました。

 魔力ってのは自然の力っぽいでしょ。

 マナって呼び方もあるし。(聖剣伝説とか)

 自然の多そうなところで瞑想?っポイ事をしてみようと思いました。

 

 

 自然の多くて人気のなさそうな場所を探そうと俺は街中を一人散策中。

 前回言ったとおり俺はまだ五歳、そう遠くへはいけませんし暗くなる前に帰るのは当たり前です。

 海鳴は山と海に挟まれた町なので自然も割と多いです。

 その中で人気のない場所を探して、大きな公園の近くを通った時一度だけ見た顔が目に入りました。

 なのはちゃんです。

 

 

 

 ・・・・・・これはまさかイベントでしょうか?

 いやいや、神様にはちゃんと運命的そういうことは起こらないように約束させました。

 とすればこれはただの偶然、それに別に目が合ったわけではなくなのはちゃんはこっちを気にしていない様子。

 ならばココはスルー、いえそれ以前にまったく無関係な関係なんですから無関心になりましょう。

 もう前世のリリなののなのはと目の前に現実として存在しているなのはちゃんは別物。

 そしてまったく接点がないのにいちいち気にするのはおかしな話です。

 次からはもう気にしないことにしましょう。

 

 公園で遊んでるのはなのはちゃんだけじゃなく他にもたくさんの子供たちがいます。

 全体を見るようにしてみれば、なのはちゃんはまったく目立つことのない普通の女の子です。

 俺自身にしっかりそういう認識をしなおして、再び自然が多そうで人気のない場所探しに出ます。

 

 

 

 

 

 そこそこ良い場所を見つけました。

 神社の傍の林の中、奥のほうに行くと若干薄暗くて人気があまり感じられないちょうど良い場所でした。

 神社の石段を登るのが五歳の子供にはちょっと辛いが、人気のない場所に行くのにはまあ仕方がない。

 

 そうしてる間にすっかり夕方。

 暗くなりきる前に家に帰らないと両親に心配をかける。

 まだこの身は五歳児なんだから。

 そう思うと某嵐を呼ぶ幼稚園児パネェ。

 

 

 

 帰り道、途中に通った公園を横切ると。

 

「まだなのはちゃんいるし。

 しかもなんか泣いてるし。」

 

 神よぉ、ほんとに自然に騒動に巻き込まれないようにしてくれたのか?

 これ、間違いなくイベントだろ・・・。

 

 確かにこのまま放っておくことも出来るだろうけど、現実的に考えて公園で一人泣いている女の子を放っておくというのも非常に良心を痛める。

 もう夕方だから他に公園で遊んでいた子供達は誰もいません。

 良心的に詰んでるだろ・・・。

 

「ひくっ・・・・・・ひくっ・・・・・・」

 

「君、何で泣いてるの?」

 

「え!?」

 

 ココはさすがに声をかけるしかない。

 誰もいなくなった公園に突然現れた俺に少しなのはちゃんは驚いたようだ。

 

 こっちが一方的に知っているだけなので自己紹介をして泣いている事情を聞く。

 しかし泣いている上初対面だからか、なかなか会話が成立しない。

 そもそも見たところ5歳の俺よりも年下みたいだから、現実的に考えてしっかりとした会話をこんな子供に出来るわけないよ。

 

 少しずつ聞きだした事情と原作知識から、どうも父親の高町士郎が大怪我をしていて大変な時期らしい。

 それで今は他の家族にもなのはちゃんを相手にする余裕がなくこうして一人ぼっちで寂しくて泣いていたらしい。

 一応慰めるために頭撫でたり元気付けるために励ましている。

 

 ナデポ? 現実的に考えてそんなモン存在するわきゃないねえだろ。

 5歳児と5歳児未満でそんなモン起こったらぶっちゃげキモイわ。

 そもそも現実的に考えてナデポが起こってもおかしくない年齢っていつだ?

 小学生?マセガキめ。 中学生?イタタタタな時期だな。 高校生?失敗すれば通報だな。

 

 

 というわけで普通に慰める程度の意味しかない。

 少しは落ち着いてくれたようだから、なのはちゃんを家まで送ってやる。

 手を引きながら送っていき、なのはちゃんはまだ泣き止んではいないが少しは収まってきている。

 家に帰っても誰もまだ帰っていないそうだが、暗くなるまで小さい子供が出歩いていても不味いだろう。

 

 なのはちゃんの家はそう遠くなくて直ぐにたどり着いた。

 アニメで知っていたけど一般庶民にしてはでかい家だな。

 道場まであるし・・・

 

 そのままなのはちゃんを家に入れて俺は帰路についた。

 なのはちゃんを送った分暗くなって、家に着くと両親が少し心配していて怒られました。

 

 

 

 

 

 翌日、幼稚園が終わってから魔力を使う練習の為に神社の林に向かいました。

 途中また公園の前を通るわけで・・・。

 

 また公園になのはちゃんがいました。

 しかも今日はしっかり目が合ってこっちに来ちゃいました。

 なつかれた!?

 

 

 

 

 

 



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第二話 最初の一歩を踏み出し間違えた

 

 

 

 

 

 なのはちゃんに懐かれて一ヶ月。

 幼稚園が終わって公園の前を通るたびになのはちゃんに捕まって暗くなるまで付き合ってから家に送り届ける日々が続きました。

 縋り付く様についてくる子供をさすがに放っておくわけにはいかず相手をし続けました。

 そしてようやくお父さんが良くなったとうれしそうに話してくれたなのはちゃんは、その翌日公園にはいませんでした。

 

 おそらく家族と一緒にいるのだろうと思い、ようやく開放された気がしました。

 これでようやく魔力の訓練が出来そうです。

 

 一ヶ月間何も出来なかったのかって?

 ろくに出来ませんでしたよ。

 お昼はなのはちゃんの相手をして時間を潰し、夜はうちにいるのでこっそり瞑想っぽい事をしてがんばろうかと思いました。

 しかし五歳の体+瞑想=おやすみなさいの法則が成り立ち、気付けば親に布団に入れられて朝を迎えていました。

 

 というわけでココ一ヶ月何の進展もなし。

 あるのはなのはちゃんと仲良くなって後々厄介なことに巻き込まれるのではないかという懸念だけ。

 高町士郎は良くなったのだからなのはちゃんも寂しい思いをしないですむだろうと、ここで縁を切ってしまうことにします。

 幸いなのはちゃんとの付き合いは公園で遊ぶことくらいで、俺が公園に行かなければ会うこともないでしょう。

 

 そういうわけで今後はなのはちゃんに会わないように公園の傍を通らず遠回りして神社に向かいます。

 なのはちゃんはどうやら一つ下の4歳らしく、それくらいの子供ならすぐ俺のことなど忘れるでしょう。

 今は家族のことが気がかりな様子で公園に来なかったことから俺のことも気にしていないでしょう。

 このまま忘れてくれると助かる・・・・・・

 

 

 ああ!!いかんいかん。

 また前世の『なのは』となのはちゃんを混同していた。

 別に多少縁が出来たからってどうってことないはずなのに。

 なのはちゃんに縁が出来てフラグとか、その縁で高町家に連れて行かれたら父士郎と兄恭也とOHANASIなんてイメージがある。

 

 現実的に考えて子供の頃の縁なんてそれほど強いもんじゃない。

 長期に会わなければすぐ忘れちゃうもんだ。

 そもそも娘(妹)の男友達が家に来たからって初対面でボコるなんてありえないだろう。

 そんなことになったら保護者同士の大問題になってめちゃくちゃになる。

 なのはちゃんともそれで縁切れだ。

 まあ積極的には関わる気はないがこの縁は別にどうなってもいいだろうと、俺は気にしないことにした。

 

 

 それよりも魔力訓練だ。

 やることは林の中の適当なところに座って瞑想っぽい事をするだけ。

 これでどうにかなるもんかと俺自身自信がないがやってみる。

 

 一日目。

 とにかくただ座って目をつぶって体の中に意識を向け続ける。

 そしたら30分も持たずに眠たくなってしまった。

 このまま寝たら不味いと思い、しぶしぶ帰宅。

 そのままお昼寝しました。

 

 二日目。

 昨日と同じく瞑想もどき。

 昨日よりは長く続けられた気がするけど眠たくなったら帰宅。

 特に成果なし。

 

 三日目。

 気のせいか体の中に何か暖かいものを感じられるようになった。

 それが魔力なんじゃないかと信じて瞑想を続行。

 成果が出たことに興奮して眠くならずに夕方まで続けられた。

 だけど気疲れしちゃって家についてご飯食べたらすぐ寝ました。

 おやすみなさい。

 

 七日目。

 瞑想しなくても意識すれば体の中の暖かいものを感じられるようになった。

 もう気のせいなんかじゃなくこれが魔力なんだと確信。

 瞑想して魔力を操れるように猛訓練。

 その為興奮して夕方までがんばれるけどとても疲れる毎日。

 この身は五歳なので無茶は厳禁だと自戒。

 疲れたと感じたら無理せず帰宅。

 両親に心配させたくはない。

 

 十日目。

 無理せず練習し続けて体の中の魔力を動かせるようになった。

 体の中のことなので目には見えないから自信を持っていえる成果ではないけど、大きく進歩したと思える。

 だけど十日でようやくこれだけだと思うと、デバイスがとてもほしくなります。

 才能もあるんだろうけどなのはが訓練も無しに空を飛んだり砲撃とかすごいのできるんだから。

 ないものねだりしても仕方ないので地道に瞑想。

 気疲れはするけどもう眠たくはならなくなったよ。

 

 

 十五日目。

 体の中の魔力をだいぶ動かせるようになった。

 そろそろ魔力弾とかを作れないかと試してみることにした。

 右腕に体の中の魔力を集めるように意識する。

 加減がわからないけどある程度集まったら右手の握り拳に泥団子を作るイメージで魔力を押し固めていく。

 右手に集められた魔力の密度が上がって固まったと思ったら、それをボールだと思って地面に投げるように放った。

 

 

-ポコンッ-

 

 

 成功した!!

 右手から出てきた黄色い魔力弾は地面に当たるとはじけて消えてしまったが、地面を少しだけ削って跡を残していた。

 喜んだ俺はもっと威力を上げるべく更に魔力を込めて強く固めて放つ練習をした。

 二・三度放つと腕を投げるよう動かさなくても銃弾のように打ち出す事が出来るようになった。

 

 

 ところが10発も撃つと・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・ちょ、調子に・・・乗り・・・すぎた・・・・・・」

 

 とてつもない疲労感にろくに動いてもいないはずなのの息切れしてしまった。

 魔力弾ってこんなに疲れるものなのか?

 このままでは不味いと家に帰ろうと思ったら、足の力が抜けてその場に倒れた。

 

(やば・・・いしきが・・・・・・)

 

 

 

 力尽きた俺気を失った後、目を覚ました頃には既に真っ暗になっていた。

 時計などもっておらず何時なのかもわからなかったが、いまだ疲れでふらふらな体に活を入れて家を目指す。

 

 何とか家に帰りつくと心配しながらも怒っている両親が出迎えた。

 だがふらふらだった俺は説教も聞き終わらない内にまた気を失って眠りについた。

 

 

 18日目。

 調子に乗りすぎてぶっ倒れてから三日。

 両親に心配かけて病院に連れて行かれたり検査入院などして訓練もすることなく休養を取っていた。

 迷惑かけた謹慎処分だと思って疲れを癒すために安静にしながら俺は考えていた。

 魔力弾とはあんなに疲れるものなのかと。

 

 休んでいたいろいろ考えて思い当たったこともあるが実証しなければわからない。

 もう大丈夫だろうと外出を許可されて三日ぶりの林の中。

 体の状態を確認しながら先日と同じように魔力弾を放つ。

 

 5発も撃つと倒れるほどではないが体の疲労がはっきりと感じられた。

 だが長時間瞑想していた時ほどの気づかれはそれほど感じず体がダルくなるだけだった

 魔力量が少ないから多少使うだけで尽きてしまうとも考えたが、魔力を使うと精神より肉体の疲労がはっきり出るのは可笑しかった。

 

 もしかしてと思い、俺は魔力を使った別の事を試す。

 これまで体の中の魔力を動かしたり一箇所に集めたりするだけだったが、今度は体全体に広げるように操ってみる。

 その際からだの外に漏れ出す感じがしたので、漏れ出さないように意識しながらだったのでだいぶ時間がかかった。

 

 体全体に広がった魔力が漏れない様に維持しながら、俺は近くを軽く走ってみる。

 すると足はバネになったかのように軽やかに地面を蹴りだし、体が驚くほど軽く感じて早く走れた。

 立ち止まって今度は垂直跳び、3メートル近くあるはずの木の枝に手が届きました。

 ちなみの俺の身長は110センチ前後と平均である。

 

 身長の三倍近いところまで跳躍できて、着地しても足はそんなに痛くありません。

 明らかに身体能力が強化されています。

 魔力で体を強化する話も割と多いけどこれは・・・。

 

「もしかしてこれって魔力じゃなくて気なんじゃ・・・」

 

 魔力訓練は割りと最初から踏み外していたみたいだ。

 

 

●拓海は気の操作を覚えた。

●拓海は気弾を撃てるようになった。

 

 

 

 

 

 



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第三話 考察中1

 

 

 

 

 前回魔力じゃなくて気が使えるようになってしまった俺。

 リリなの世界だから魔力と考えていた俺には予想外すぎたが、別に気でもいいんじゃないかと思い直した。

 気の身体能力強化は地味な分派手な副次効果がないから日常生活で便利だ。

 魔法じゃないと出来なさそうなことも多いけど、気だと術式とがなくても感覚でいろいろ出来そうな気がする。

 

 そもそもリリなの系の魔法でやりたい事は飛行、転移、炎熱変換、凍結変換、後は使い魔とか興味ある。

 デバイスの収納機能とかもあったらいいけどデバイスなんてそこらへんに転がってるほどお約束なんて起こるはずがない、現実的に考えて。

 炎熱と氷結は個人の資質らしいけど、資質がなくても使えるでしょ。

 クロノもデバイス任せだろうけどで使ってたし。

 

 電気変換もあるけど使い道がない、日常生活で。

 家電製品を動かすとか簡単に言うけど、電流電圧に周波数とかデバイス無しに調整できるもんじゃないでしょ。

 それに比べて炎熱は寒い時、氷結は暑い時に非常に頼もしい。

 

 

 以上が魔法でだいたいやってみたい事だが、気でも出来そうなことは飛行くらいだ。

 気で一番最初に思いつくのがドラゴンボール、舞空術は誰でも知ってる技だね。

 ビーデルも一般人には無双出来るほど強いけど普通の人間で、空を飛べるようになったし。

 転移は瞬間移動があるけど、どうがんばれば出来るようになるか想像もつかない。

 月をぶっ飛ばすとか無茶なことは出来ないだろうけど、魔力弾改め気弾が撃てたんだ。

 ドラゴンボールは気を使う方法の参考になるだろう。

 

 

 とりあえず気を使う上での目標は舞空術で空を飛ぶこと。

 魔法および魔力だけど、正直気の訓練を優先したほうがいいかもしれない。

 術式がないから魔力を魔法にする方法がないから現状気よりも応用が利かなさそうだ。

 魔力を操作する訓練は練り直して使えるようになるつもりだけど、今は気で何が出来るようになるのかわくわくしている。

 

 そういうわけでこの日はまた倒れたりしないよう気を使う限度を計って終わった。

 翌日からは気の訓練と応用法の模索を始めた。

 

 

 

 

 

 前世の記憶を思い出して約一年、俺は6歳となって私立聖祥大学付属小学校に入学しました。

 なのはちゃんとは年齢が違うから同級生にならないが同じ学校。

 公立でも良かったんだが、海鳴市って公立より私立が多いんだよ。

 だから公立に通うとかなり家が遠くなるので私立聖祥大学付属小学校に通うことになった。

 

 小学校に通うまでの訓練結果だが魔力は使えるようになったと思う。

 何故自信を持っていえないのかというと魔力だと証明する何かがない。

 気と性質が似ていたから体の中から探すのにかなり手間取った。

 何とか違いを見極めて扱えるようにはなったけど、術式がないから身体強化も出来ない分気よりも使えなくてこれ以上の進歩はなさそうだ。

 だから使えるようになるだけに留めておいた。

 

 

 気のほうだがこっちはいろいろな作品を参考にして、気とは何かを考えながら実践してみた。

 参考にしたのはドラゴンボール、ネギま、ハンターハンター。

 ハンターハンタ-は気じゃなくてオーラだけど似たようなものだから大丈夫だろう。

 訓練法もかなり詳しくかかれてたからドラゴンボールより参考になりそうだ。

 

 気って良く知られてる割に使用されてる作品があまり思いつかない。

 ドラゴンボールが名作過ぎるせいだな。

 

 

 ところでドラゴンボールとハンターハンタ、こっちの世界でもちゃんとあった。

 こっちの世界でも名作でちゃんと読みましたよ。

 ネギまはなかったけど前の世界になかった作品があったりなかった作品があったり、サブカルチャー方面はしっかり充実しています。

 休みの日や夜には漫画やアニメ三昧。

 子供のうちの特権ですね。

 もう一度大人になっても手放さないでしょうけど。

 

 

 さて話がそれましたが代表作を参考にした結果、気とは気=生命力ではなく気≒生命力なのではないかと考えました。

 気ってすごい威力が出るけど、人間が内包する力を明らかに超えていると思いません?

 フィクションだからと説明つけることも出来るけど、俺は現実的に考えてみます。

 気とは生命力を自分の意思で増幅してより強いエネルギーにしているのだと思います。

 わかりやすく例えると発電機の燃料を生命力、発生した電気を気、発電機本体を体と当てはめる事ができる。

 

 ドラゴンボールではピッコロが戦闘時に気を爆発させて増やすと言ってましたし、ハンターハンターでは念能力の練がまさにそれに当たる。

 人間に体じゃ内包できる生命力に上限はあっても、それをいかに増幅するかによって気の強さをより高められるのだと思う。

 もっとも体力をつければ元の生命力も限界までは上がるはずなので運動不足にならない程度に体を動かしています。

 何度も言うがが俺は戦う気はない。

 気を使えていろいろ出来るだけで十分なんです。

 限界まで鍛えるなんてマゾい事はしません、気の増幅量を増やすために気を練る方法をいろんなイメージで試しているだけです。

 

 

 

 

 

・ネギま、瞬動編

 気の基礎はここまでで、ココからは実践編。

 気と魔力に共通して出来ることが飛行くらいでしたが、いきなりそれは無理だろうと思い他にないか考えた。

 そこで思いついたのはネギまの瞬動でした。

 

 魔力または気を足に溜めて炸裂させることで直線状に一瞬で移動できる技。

 正直人前だと驚かれそうな技なので日常的には使えないが気の練習にはちょうど良い技だろう。

 早速片足の裏に気を溜めて瞬動の体勢に入る。

 十分に溜まった地面と足の裏を爆発させるイメージをして蹴りだします。

 

 

-タンッ--ドガンッ!!-

 

 

 

「お帰りなさい、早かったわね・・・ってどうしたのその傷!?」

 

「ひくっ・・・ひくっ・・・こ、ころんだ・・・・・」

 

 瞬動は発動したけど着地を考えていませんでした。

 林の中だったので一直線に飛び出した先の木にぶつかって大怪我ではないけど擦り傷だらけです。

 

 

 苦しくったって~悲しくったって~♪訓練のためならーへいきーなの~♪

 だけど涙が出ちゃう、6歳なんだもん。

 

 

 考えていることは大人だけど外面に現れる行動はどうも外見年齢に釣られて子供っぽくなるらしい。

 泣き止もうとしても止まらなくて痛みに耐えられなくて母親に抱きついちまった。

 感情が高ぶると自分でもどうにもならなくなっちまう。

 まあおかげで自然と子供らしく振舞えているんだけど。

 

 

 

 

 

・ハンターハンター、四大行編

 瞬動を試して泣きを見た後は、場所を考えて練習を続けた。

 着地がうまく出来なくてよく失敗するが、発動は割りと簡単で完全にものにするまでそうはかからないだろう。

 習得が終わったら虚空瞬動という空中で瞬動をする上位版の技を覚えてみようと思っている。

 それと舞空術を併用したら面白い軌道で飛べるようになると思っているので楽しみだ。

 

 瞬動の練習とは別にハンターハンターの四大行を元に訓練してみようと思っている。

 四大行とは念における基礎技術で纏・練・絶・発の四つ。

 纏はオーラを纏って漏らさない様にする技術、練はオーラを練って放出量を増やす技術、絶は錬の逆でオーラの放出を絶つ技術、発は念能力者固有の能力を発動すること。

 練はオーラ=気の増幅だから既に練習中、発は能力の発動だけど気で出来るとはどうしても思えない。

 

 試しに気が念みたいに特性を持ってるか水見式をやってみた。

 見た目特に変化もなく水の味が変わるなどもなかったので系統というものはないらしい。

 もしかしたらと思っていたが、系統とかがない以上念能力の開発はやはり出来なさそうだ。

 まあそれ以外の四大行や応用は十分訓練に役立ちそうなので十分だ。

 

 

 

 まず纏だけど気で体を覆う感じにやってみたが、覆い続けるのが非常に難しい。

 服を着ている感じなんだけどすぐに霧散して消えてしまう。

 纏は念能力で最初に覚えることのはずなんだけど、やっぱり気とオーラは微妙に違うものっぽい。

 気は体の中を満たすイメージで身体能力を強化してるけど、オーラは体の回りに纏う感じで身体能力を強化してる。

 試しに地面を殴って身体能力の強化具合を比べてみたら、体の中を満たす強化だと地面に拳が突き刺さって、体の周りを覆う強化だと炸裂する感じにクレーターみたいになった。

 体を覆うほうが威力がありそうだけど、体の中を満たす強化のほうが範囲は狭いけど深く地面を貫いていた。

 

 他にもいろいろ検証してみたが気で体の中を満たすやり方は運動能力が上がり、外を覆うやり方は威力が上がるらしい。

 気の内部強化と外部強化といったところだろう。

 どちらも使い方次第なのでそれぞれ練習。

 両方併用して維持できれば万全だろう。

 

 

 続いて絶だが、これは気配を意図的に消すことと同じでドラゴンボール風にいえば気を消すことにあたる。

 気を体の外に漏らさないようにしてみるのは感覚では簡単に出来た感じはしたが、自分一人では確認のしようがない。

 しょうがないのでそこらの野良猫あたりで試してみることにした。

 音を立てないように近づいてみたら割と気づかれなかったが、手の届きそうなところまで来たら気づかれて逃げられてしまった。

 

 何度か試したけど近づくと皆気づかれた。

 絶が完璧じゃないのかなと思い、何処か穴がないか考え直してみる。

 生きている以上生命力は絶えることはない。

 気は生命力を練り上げて出てくるという考えだが、自分の意思で練らなくても普段から少しずつ生命力から気に生成されて体の力になっているはずだ。

 ならその辺りの活動を自分の意思で抑えてみるのはどうだろうか。

 

 気の扱いがだいぶ慣れてきたので気の生成を抑えるのも割りと簡単に出来たが、体が普段以上に重く感じて動きづらかった。

 気を抑えたすぎた反動で体中の活力がなくなっているからだろうが、気配を消すことは完全に出来ていたようだ。

 野良猫に近づいて体に触れるまで全然気づかれず、絶をしながら歩いていたら目の前を歩いていたのに気づかれずぶつかってしまった。

 街中では危ないので使用は控えよう。

 

 絶は体から気を漏らさない様にする絶と気の生成を抑える絶に分けられそうだ。

 気を漏らさないだけの絶は内部強化をある程度まで併用できる。

 強化を高めすぎると押さえが利かなくなってどうしても気が漏れてしまう。

 気の生成を抑える絶は完全に気配を消すだけじゃなく生命力の消耗を抑える効果がある。

 気の訓練の後にすると消耗がまったく無くなるので回復が早くて助かる。

 

 

 

 気の基礎訓練を確立する事と魔力の操作だけで結果一年はかかってしまった。

 一人でやっているとはいえ、『努力すれば割となんとなる程度の能力』があるのにあまり進歩がない。

 根本的に才能がないんだろうかと少し不安になった新学期の春のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●魔力を使えるようになった。

●瞬動を覚えた。

●四大行を習得した



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第四話 考察中2

 

 

 

 

 小学校に入って学校生活にも慣れた頃。

 気の操作も十分に出来るようになってきて、そろそろ舞空術の方法の模索に取り掛かることにした。

 とは言ってもずっとやりたかった舞空術。

 方法については幾つもの案を頭の中で暇な時に考え込んで十分に練り上げていた。

 これからは実践に移して試行錯誤していくだけだ。

 

 

 

 

 

・ドラゴンボール、舞空術編。

 舞空術の訓練は作中内でもビーデルが孫悟飯に教わる形で出ていた。

 ただあまり詳しい描写はなくて、気の訓練→舞空術にあっという間に進んでいたから参考にはなりそうにない。

 だから舞空術の描写から飛行方法を模索。

 

 まず舞空術の描写は体から燃える火のような気が溢れて飛び立つ場面が多い。

 これは高速で移動する際の風から身を護るために気を体で覆っていると考えられる。

 ビーデルはこれが出来なかったから早く飛べない場面があった。

 だから飛ぶだけなら体中を気で覆う必要はないのではと考えた。

 

 舞空術には気の放出の反動で飛ぶのかと考えたが、それだけだと燃費や出力が足りないんじゃないかと思った。

 実際やってみないと分からない事は多いと思い、気を足から下に向かって放出してみる。

 真下に向かって放出してみたが、放出で起こった風が発生するだけで浮かび上がる様子は無い。

 出力が弱いと思い足から全力で放出してみたら、ちょっとだけ浮かび上がったがバランスを崩してすっころんだ。

 瞬動の時ほど傷だらけではないので涙目ながら泣くのを堪えた。

 

 

 

 気を取り直して、やはり足の裏からだけだとバランスは取れない。

 今度は下半身全体から均等に気を放出してみる。

 加減していてはやはり出力不足らしく、風が巻き起こるが浮かび上がらない。

 だから少しずつ出力を上げていって、もう少しで浮き上がるんじゃないかと思った時・・・

 

 

 

 力尽きました。

 

 

 

 いや、さすがにもう限界ってところで終わってしまって、死んだわけじゃない。

 まあ眩暈がしそうなほど気を放出しきってしまって、絶で全力休養中です。

 今日は体力がある程度戻ったら帰路につくが休みながら考え、やはりただ放出するだけでは飛べなかったとある程度納得いっていた。

 気の量が足りないという理由もありそうだが、どうにもそれだけじゃない気がする。

 

(気にもやはり術式みたいなもが必要なのか?)

 

 いろいろ考えていたんだがどうにも解決策が思いつかない。

 当分は思いつく限りの訓練をして気の増幅量を増やしてから再チャレンジするしかないと思った。

 

 

 

 

 

・ハンターハンター、四大行、応用編

 気の放出による飛行実験は、気の増幅量の確認も含めて週に一回にすることにした。

 ついでに魔力のほうも一日一回全力放出して、魔力量の増加を図っておいた。

 使い道がないから操作練習しか出来ないしね。

 

 舞空術は気の量の成長待ちにして、四大行の応用で気を扱いを高める訓練をする。

 漫画に載ってる応用技は凝、周、堅、円、陰、硬、流だ。(詳しくかWikiで)

 その内の凝、周、堅、円を覚えてみようと思う。

 残りの技能は戦闘技能っぽいので覚える気はない。

 堅も戦闘技能っぽいけど気の総量や出力を上げる訓練になりそうなので覚えてみる。

 

 まず凝を試してみたんだけど、気を手に集めるだけなら最初のうちから出来ていたから難しくなかった。

 そこで目に気を集めてみたらいろいろな物が驚くほど見えるようになった。

 まずそこらじゅうの木からごく僅かな気が漏れ出しているのが見えて、視力も上がって普段より遠くのものが見えた。

 

 あと目に力を入れたせいで直死の魔眼が発動して、凝で強化したせいか死点まで見えるようになってた。

 魔眼の存在、使う機会なんかないからすっかり忘れてた。

 今後もよっぽどのことがない限り使うことはなさそうだ。

 

 ふと思いついたんだが、気による凝で植物の気を見ることが出来たんなら魔力で凝をしたら魔力が見えるのかと思った。

 物は試しと思ったんだが気ほど操作の練習をしていなかった魔力の操作はやりずらくてなかなか凝が安定しなかった。

 

 何とか安定して周囲を見渡してみたら空中に何か粒子のようなものが待っているのが見えた。

 これが魔力なのかと思い、手から少し魔力を放出してみると同じような白い光を放つ粒子が飛び出すのが見えた。

 ちなみの俺の魔力光は白色で、普段は魔力を出しても白い光が見えるだけで粒子のようなものは見えません。

 

 この粒子が魔力素という魔力の原子みたいな物だろうか?

 よく見てみると周囲の魔力素が俺の体のほうに集まってきているように見える。

 体に触れた魔力素はそのまま体の中に入ってしまった。

 もしかしてこうやって魔力を吸収して回復してるのか?

 この事も今度試してみよう。

 

 

 

 次に周だがこれはオーラを自分の体以外の武器などに纏わせる技術。

 ネギま風に言うと神鳴流の気で武器の威力を上げる技能だろう。

 そんなイメージが一番強いので、真剣はどう考えても無理だからそこらの木の枝を木刀代わりに使ってみることにした。

 

 程よい長さの木の枝なんて早々落ちていなかったから探すのに手間取ったけど、早速木の枝に気をこめて見た。

 やっぱり体に流すよりやり難く、まだ纏も完全に習得したとはいえないので枝の中に気を流すよりも周囲に纏わせてもすぐ漏れて霧散してしまう。

 かなり不安定で気をかなり無駄にしているが強化は出来ているだろう。

 威力を測るため体のほうの強化もして地面に振り下ろしてみた。

 

 

-ドゴムッ!!-

 

 

 ただの木の枝で叩いたとは思えないほどの音が響いて、素手で殴った時よりも大きな凹みが出来ていた。

 それに気で高められた俺の身体能力は想像以上にある。

 この威力が出るんだったら普通の木の枝なら簡単に折れてる。

 だが特に木の枝は破損した様子もなく元のままだ。

 確かに強度も許可されてた見たいだ。

 この木の枝も手ごろだし、今後の周の練習用にしよう。

 

 

 続いて纏と錬を同時に行う堅だけど、まだ纏が完全じゃないから気を練り上げる端からどんどん気が漏れていく。

 いっそ纏をせず体の周囲を覆うのではなく、体の中を気で満たし同時に体の外に気が漏れないように抑えるやり方の堅をしてみた。

 そしたらとても面白いことになった。

 

 普通の堅ほど気が漏れ出さなかったけど、それでも少しは気が漏れた。

 体からじわじわと漏れる気が陽炎のようになって、まさにドラゴンボール風の気を高めてるような感じになったんだ!!

 

 自分でこれが出来るようになったのにはすっごい興奮した。

 やっぱりドラゴンボールは男の子の憧れだよ。

 今ならかめはめ波も撃てそうだ。

 どこに向かって撃てという話なので撃てないけど。

 空に向かって撃ったって人に見つかったらヤバイだろう。

 

 堅はハンターハンターで戦闘時に維持する技能というだけのことはあった。

 ドラゴンボールにも共通しているんだから。

 戦闘を行う気はないけど、気を満たしながら消耗を抑える纏は完璧にしておかないといけないな。

 気は実際には密度を高めないと目に見えないから、纏は普段から練習しておこう。

 

 

 最後に円だけど、これも纏の応用なんだよな。

 体の回りを気で覆う纏、これを薄く延ばして自分を中心にいわば気の探知結界を張る。

 纏がまともに出来ないのに出来るだろうかと試してみたが、案の定うまくはいかなかった。

 半径3メートルほどは伸びたけどそこから先は殆ど気が霧散するだけで維持できなかった。

 探知も一応出来たけどぼんやりとしてて、なんとかそこに何かがあるってくらいしか感じられなかった。

 纏をマスターしない限り円の発展も難しそうだ。

 

 

 

 

 

●舞空術、習得中。

●四大行応用、凝、周、堅、円のみ覚えた。

●纏、熟練度向上中



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第五話 考察中3

 

 

 

・試行錯誤編

 とりあえず真っ先に習得しようと思った纏だけど、一週間もすれば十分形になった。

 学校とか授業中でも練習出来たからかもしれないけど、『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』がすごいのか?

 都合の良い能力だけど見た目でわかんないからどうにも実感が湧かない。

 比べる相手でもいればいいと思うけど、リリなの世界は魔法が基本だろ。

 気の使い手なんているわきゃねえ・・・。

 

 ともかく纏がしっかりしたおかげで応用技の熟練度も飛躍的に上がった。

 周は纏ほどじゃないけど十分木の枝に気を纏わせられるようになった。

 同じ木の枝を使い続けてるけど、ただの枝のままだと見てくれが悪いので削って木刀のようにしてみることにした。

 木刀を削るような刃物はまだ子供なので使わせてもらえないだろうなと思ったので、気で刃を作ってみた。

 かなり集中しないと刃は作れなかったが、何とか形になって木の枝から木刀を削りだした。

 おかげで気の制御が一気に上がった気がする、必要は成功の母とはよく言ったものだ。

 ついでに木刀に銘を彫っておいた、拓海が林で作ったから海林(みりん)と名付けた。

 こういうのに名前をつけるのはお約束だろう。

 

 

 

 堅は前回纏からの堅と、体の中から気を漏らさないで練をするドラゴンボール風の気の溜め方み

たいな堅がある。

 やり易いのは後者だけど、通常の堅も十分な鍛錬になるから纏がしっかりしたら日頃から堅をするようにしてみようと思う。

 ただ堅を維持していると当然時間が経つと気が尽きるから、限界がきたら体から気を漏らさない絶ではなく、一般人でも自然に行われる生命力からの気の生成すら抑える強力な絶、名づけて酷絶(こくぜつ)をして全力で生命力の回復を図る。

 通常の絶でも回復は早いけど、体に本来回す気すら酷絶は押さえるので更に生命力の回復は早くなる。

 その御蔭で体に碌に力が入らない状態になるので、授業中など動かない状態でしか出来ない。

 その上、気の守りがない状態なので絶以上に気配を消せるけど、普通の一般人以上に気を持たない無防備な状態になる。

 まあ日常生活をしていれば影の薄い人扱いされるだけですむので特に問題ない。

 

 これを繰り返してればまた気の増幅量や総量が上がるだろう。

 まだ舞空術を試しているが出力はだいぶ上がって少しだけ浮くようになった。

 けど10分ほどで気が底を付くので、やはりまだ飛ぶには気の量が足りないみたい。

 舞空術がこんなに高度な技能だとは思わなかった。

 これならなのはちゃん達が魔法に出会ってから教わった方が先に飛べるようになるかもしれない。

 

 

 

 話を戻して円の様子だが、半径10メートルまで広がって安定した情報を読み取れた。

 これ以上広げると情報と円の形が不安定になってあやふやになってしまう。

 これも常日頃から円を周囲確認のために展開していればどんどん性能が上がっていくだろう。

 

 

 

 

 

・ちょっと息抜き編

 なかなか空を飛べないので、気晴らしに別のことを考えてみた。

 せっかく木刀を作ってみたので、何か剣技を覚えてみるのも良いかなと思った。

 別に剣術を収めたいというわけじゃない、技っぽいものが使えれば満足だ。

 剣技から思いつく作品はネギまの神鳴流だけど、前々からこの流派ダイ大のアバン流に似たところがあると思ったんだ。

 アバン流の剣技は大地斬、海波斬、空裂斬に、この三つの技を同時に放つ必殺技アバンストラッシュ。

 技に自分の名前を入れるって今時ネタでしかやらないよね。

 

 で、大地斬は神鳴流の斬岩剣、海波斬は斬空閃、空裂斬は斬魔剣。

 神鳴流の技はもっとあるけど代表的なのを照らし合わせたら見事に当てはまる。

 ライデインストラッシュなんかまさに雷鳴剣だし。

 神鳴流も三つの技を合わせたら秘儀とか最終奥義とかになったんだろうか?

 

 

 

 ともかく実際に愛木刀海林で試してみる。

 林の中じゃ的になるものがないので、岩場が多い海岸に来た。

 もちろん人気がなくて見つからないような場所を厳選してからだ。

 

 大地斬&斬岩剣はまさに岩すら切る技だろう?

 今の俺の周と気の強化なら普通に海林で殴っても岩が砕ける。

 そんなのが技なわけないから、こういう技なんじゃないかと事前に考えていた。

 

 手ごろな岩の前に立ち、海林の中に気を流し込んで強化し更に周で気を纏わせる。

 ハンターハンターの外側とネギまやドラゴンボール方式の内側の強化を同時にやれば、木刀の強度が上がり打ち込んだときの威力も上がるんだ。

 この状態で叩いても普通に岩は砕けるが、大地斬?斬岩剣?・・・・・・んー斬岩剣って呼ぼう・・・・・・ただ岩を砕くのが斬岩剣とは言えないだろう。

 技ならば工夫して威力を飛躍的に上げる技能。

 たぶん武器を打ち込んだ時に対象内部に気を送り込んで炸裂させたり、浸透頸のように内部に衝撃と伝えて大ダメージを与える技じゃないかと思う。

 

 そういうわけでまずは素手で岩を殴ると同時に気を送り込み効果を検証してみる。

 殴る段階で砕けることも多かったけど、殴ると同時に気を対象に送り込んだら砕けるだけじゃなくて内側からまるではじけ飛んだ。

 これと同じ事を海林を使ってやってみれば、何度目かに成功して武器を使った分強く弾け飛んだ。

 

 何度か試してこつをある程度掴んだら終わりにした。

 前も言ったけど戦いたいわけじゃないので、別に使いこなす必要は無い。

 技の理論を考えて実際に試して使えるようになればそれで満足だ。

 

 

 

 次に海波斬または斬空閃は、普通に気で斬撃を飛ばす遠距離攻撃だろう。

 的はまあ海でいいだろうと、海に向かって海林に込めた気を振り払うように放ってみた。

 気の刃が海林から離れて海を切り裂きながら海中に消えていった。

 

 

 一発で成功したな。

 斬空閃もこれでもういいだろう、気を放つのは割りと慣れていたから。

 気の収束を調整すれば集中型と拡散型にも分けられそうだ。

 

 

 

 本題は次の空裂斬または斬魔剣だ。

 最後の技は実体の無いような幽霊や魔力などを消し去る技だ。

 特に試したいのは斬魔剣の派生、斬魔剣弐の太刀だ。

 この技は対象の近くにある物、あるいは一体化している霊などを傷つけずに限定したものだけを切る技能。

 まるで手品みたいな技だけど、剣技と言うより気を使った技能のはずだから剣術を収めなくても出来ると思う。

 

 的はまた近くの岩で、岩の前に適当な流木を立てかけて流木を切らずに岩を切れれば成功だ。

 改めて海林に気を込めて纏わせた気を刃のように変化させて構える。

 思うにこの技は技量と言うより気に込める意思が重要なんじゃないかと思う。

 そもそも気は本来実体が存在しない体や武器の強さを上げるエネルギー体のはずだ。

 だけど密度が上がれば気だけでも実体のある物を切ったり殴ったりなど物理的に干渉して壊せる。

 密度が上がっても重みも感じないので質量を持ったわけじゃない。

 じゃあ何で気で物質に接触できるのかと言うと、気に込める意思が関係するんじゃないだろうかと結論づけた。

 

 ココに来る以前に、試しに気の玉を作って地面にぶつけてみた。

 当たり前のように気は地面にぶつかって、地面には抉れた跡が残った。

 もう一度気の玉を同じくらいの気の量で作る。

 今度はぶつかった気が地面に染み込むイメージを強くもって地面に放った。

 すると気の玉は地面ではじけずにするりと地面に消えてしまった。

 

 つまりはそういうことだ。

 込める意思によって気は攻撃的な性質にも無害な性質にも変わる。

 ハンターハンターのオーラも思いの強さによって威力が上がったり下がったりするし。

 気もそういった性質があったらしい。

 そもそも気そのものが意思のみで操ってるから、性質も意思次第ということなんだろう。

 

 

 

 話をまとめると斬魔剣弐の太刀は特定の物のみを切ると言う意思を気に込めて放てば出来るのではないかという推論だ。

 正直これはかなり難しいとも同時に思った。

 逆に言えば物理的な衝撃を一切起こさないようにしつつ、気に込められた意思の力だけで物を切れと言っているんだ。

 切らないと言う意思を込めた気の刃なら何も切れず素通りするとけど、切ると言う意思を少しでも込めたら多少なりとも物理的に切ってしまうだろう。

 つまり対象を明確に意識して切るという意思をすべて対象に集中させないと他の物まで切ってしまう。

 切ると切らないという矛盾した意思を込めながら放つ技だと理解し、気の意思の性質に気づいてからは意思を強く込めることも念頭においてきた。

 

 目の前にあるの岩と流木を見据え、海林に込められた気に岩だけを切るという思いを全力で乗せていく。

 岩を睨みつけるように全力で見つめ、それだけを切ることに全力で集中する。

 五分間くらいこれでもかと言うくらいに集中して気に意思を込めて、これ以上強くならないと思ったところで海林を振り下ろし気の刃を放った

 

「斬魔剣弐の太刀!!」

 

 

-シュンッ・・・-

 

 

 意思を込める為に技名を叫びながら放たれた気の刃は、流木と岩のど真ん中をすり抜けて飛んでいき消えていった。

 流木にも岩にも見た目何の変化も無かった。

 失敗かと思い岩と流木に触れると・・・

 

 

-パカンッ-

 

 

「うわ・・・」

 

 岩のほうが真っ二つに割れて、突然だったので驚きの声を上げる

 それもただ割れただけでなく、断面は鏡になるんじゃないかと思うくらいツヤツヤだった。

 気の刃で何度か物を切ったことはあるけど、これほど綺麗に切れたのは初めてで声が出なかった。

 意思を込めすぎたのか?

 

 流木のほうも手にとって切れてないか観てみるけど、切れた様子も無く最初のままだった。

 どうやら成功したみたいだけど、集中しすぎてどれほどの加減で出来るのかわからなかった。

 この後何度か試して、どれくらいの意思と集中が必要かを見極めた。

 やはりかなりの集中に時間が必要で、連続でなんて使えそうも無いが戦うわけじゃないのでこれで十分だろう。

 

 

 

 ふと斬魔剣は実体の無いものを切る技だと思い出した。

 岩切ってたら斬魔剣弐の太刀じゃなくて、斬空閃弐の太刀じゃないか。

 

 慌てて斬魔剣の的になりえそうな物を探す。

 実体の無いものと言うと幽霊だがそんなものどこにいるのか分からないので、岩に魔力を込めてその魔力のみを切ることで斬魔剣の成功を確認した。

 

 

 

 おまけで大地斬、海波斬、空裂斬を合わせたアバンストラッシュと神鳴流の代表技、雷鳴剣についても考えておいた。

 アバンストラッシュは大地斬の気を対象に打ち込む技術、海波斬の気を打ち放つ技術、空裂斬は実体の無い物を切る技術、或いは気に意思を込める技術を一つにした技だろう。

 漫画じゃ初期しか三つの技は活躍しなかったけど、それそれの技の威力と技能を考えればアバンストラッシュが必殺技と言えるだけのものはある。

 気が向いたら三つの技を合わせて使えるようにして、技名も考えておこう。

 

 

 雷鳴剣の方だけど・・・・・・たぶんもう使える。

 気に意思を込めるって部分で雷鳴剣の電気もそれで出来るんじゃないかとやったら、一日ほどで気が電気みたいになった。

 もちろん本物の電気じゃなくて電気っぽい気だろう、本物だったら感電するはずだし。

 気が変化したものだから使い手を傷つけないと言うのもあるけど、本物の電気なんて普通の環境下じゃよっぽど強いで電気じゃないと目に見えたりしない。

 と言うわけで気で生み出した電気は雷気(らいき)と言ったところだろう。

 

 

 

 

 

●拓海は愛木刀海林(みりん)を作った。

●ドラゴンボール風、気溜めを開発。

●絶応用、酷絶を開発。

●神鳴流、斬岩剣、斬空閃(弐の太刀)、斬魔剣(弐の太刀)、雷鳴剣習得



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第六話 方針変更

 

 

 

 

 

 先日習得した拳に宿る雷気を見ていたら、他の物にも変化させられるんじゃないかと思った。

 真っ先に思いついたのは炎と冷気。

 ポケモンで言う炎のパンチと冷凍パンチだね。

 ぶっちゃけ雷気の経験と、見本に出来る物があったのであっという間に出来た。

 火は手を近づけて感覚を覚えてたら、その場ですぐ気を変化させられた。

 冷気は冷凍庫に手を突っ込んだよ。

 

 気って意外と多能すぎてちょっと驚きだ。

 魔法でやりたかった炎熱・凍結変換の変わりに出来てるし、まだ空は飛べてないけど舞空術で飛べそうだし・・・

 凍気(とうき)を全力で込めて水を殴ったらほんとに凍ったよ。

 炎気(えんき)は纏うだけなら暖かいだけだけど、燃える物に当ててたら火がついた。

 雷気と同じで両方とも本物ではないけど、実際に物に当てたら効果がはっきりと現れる。

 だけど気の威力の込め具合で温度の調整は可能そうだ。

 おかげで寒さと暑さ対策が自力でできるようになった。

 

 

 

 現在右手に凍気、左手に炎気が宿っている。

 片手ずつでの同時使用も可能になったんだけど、これを見ていてダイ大のメドローアを思い出した。

 メドローアってメラゾーマの火とマヒャドの氷を合わせたら消滅の性質のエネルギーになるらしいけど、現実的に考えて消滅のエネルギーじゃなくて両方消えて終わるもんでしょ。

 

 凍気と炎気を合わせてみると生温いどちらとも着かない気が残った。

 普通に考えてこうなるはずなんだ。

 だが凍気と炎気の一つの性質を考えたら、理論的に納得いくことに気づいた。

 

 凍気は低温、それを水が受けると凝固して氷になる。

 炎気は高温、それを水が受けると蒸発して水蒸気になる。

 

 凍気も炎気も実際の熱量じゃなくて、そういうものなんだという意思を汲み取った概念だ。

 その概念の中で物質が凝固するという部分と蒸発すると言う部分が一つになったらどうだろう?

 高温と低温なら水はぬるま湯になると思うけど、凝固と蒸発なら氷⇔水⇔水蒸気の状態を変化し続けるんじゃないかと考えた。

 この現象が相転移だということ思い出して、一つの作品を思い出した。

 機動戦艦ナデシコだ!!

 

 作品名の戦艦ナデシコの動力元であり、作品後半部の主力兵器である相転移砲。

 当たればすべてが消し飛ぶまさに最終兵器的な扱いだった。

 俺の考えからメドローアもメラゾーマの中の蒸発させる概念とマヒャドの凝固させると言う概念が一つになることで延々と物質を相転移させ続ける魔法になる。

 

 

 

 つまりメドローアとは魔法版相転移砲だったんだよ!!!!

 

 

 満足のいく説明をさせてもらったところで早速実験。

 再び右手に凍気、左手に炎気を込める。

 そこへ凍気に凝固させると言う意思を、炎気に蒸発させると言う意思を強く込める。

 こうすれば凝固と蒸発の性質が強く出るはずだ。

 

 十分意思も込めたところで二つの力を込めた両手を合わせる。

 青っぽい色の凍気と薄い赤色の炎気が混ざると、先ほどと違って白っぽい色の気が残ってた。

 説明するのに興奮してて的を用意するの忘れてた。

 もともと気をそれほど込めてなかったので、合わせた両手にあるのはそれほど大きな気じゃない。

 仕方ないので地面に向かって白っぽい気を球状にして撃ってみる。

 

「行くぜ、相転移砲!!」

 

 実際は玉だがかめはめは見たいな砲撃でもいけると思ってるので、ナデシコでの名前をそのまま使ってみた。

 先ほども言ってたがメドローアの理論的証明の説明に俺のテンションはかなり上がってて技名まで叫んでしまった。

 叫んだのまでは後悔していない。

 周囲に誰もいないのはいつも確認している。

 問題は・・・

 

「・・・・・・」

 

 我流相転移砲の威力を嘗めきっていたことだ。

 地面に打ち込んだところには炸裂して大きなクレーターが出来たと言うわけじゃない。

 消滅のエネルギーだけあって消滅させながら穴を掘り進めると思っていた。

 実際その通りサッカーボールくらいの大きさの穴が出来ていた。

 そこまでは想像の範囲内だったが予想以上に深かったのだ。

 

 せいぜい五メートルくらいの穴を作ると思っていたが穴の底が見えないんだ。

 どれくらいの深さになったのかと思って石を一個落としてみた。

 

 

-ヒュゥーーーーーーーー・・・・・・・・・カタン-

 

 

 底につくまで何秒かかったのかは想像に任せます。

 ただ言えることはメドローアパネェって事だ!!

 

 当然我流相転移砲は禁術として封印です。

 危なすぎてとても使えん。

 今までそれほどでもない技ばっかだったけど、いきなりとんでもない技作っちゃったよ・・・・

 

 

 

 

 

 とんでもない技を作ってしまったが、それ以外代わり映えのしない毎日。

 気の量は増えてるはずなんだけど、舞空術はいまだ習得しえていない。

 出力が足りないようで全力で気を放出してやっと体が浮いていると言う状態だ。

 全力で気を放出し続けていれば15分で枯渇する。

 最初は3分で枯渇してたから、かなりましになっているのは確かだ。

 

 何か発想が足りないんじゃないかと思っているんだが、どうにも思いつかない。

 仕方ないので日頃からの堅と酷絶の繰り返しで気の増量を図り、ついでに魔力量が増えるように一日一回魔力を全部放出している。

 魔力で凝も出来たので絶などもやってみたら魔力の回復が早まった。

 どうやら魔力も普段から自然と体から漏れる物らしい。

  

 前に発見した魔力素と魔力の回復だが、魔力素が体に入らないように外に向けて絶をしてみたら魔力の回復が出来なかったので魔力素がやはり魔力の元なのも実証できた。

 逆に周囲の魔力を早く吸収できないかと試したら出来るには出来た。

 ただ回復量を上げるために全力で吸収していたら、胸の辺りに痛みが走り始めた。

 

 過剰回復かと思ったけどまだ魔力が満タンと言う感じじゃない。

 どうやら魔力素の吸収速度に自前の魔力への変換が追いつかなかったらしい。

 吸収を止める絶をしていたら自然と痛みは治まった。

 胸が痛かったのは恐らくそこに魔力の核リンカーコアがあるんだろう。

 魔力素の吸収速度を鍛えるのは、リンカーコアと相談しながらがんばっていくことにする。

 

 

 

 

 

 気は舞空術が出来ないので鍛え中。

 魔力は術式が無いのでとりあえず鍛え中。

 技の習得とかは相転移砲なんて危ないものを作っちゃったので当分謹慎。

 

 思い返してみて、ちょっと最近がんばりすぎているんじゃないかと思ってきた。

 戦いたいわけじゃないのに、自分でも割と物騒なほど強くなってる気がする。

 ちょっとここらで一休みして新たな小学生生活を満喫してみるのもいいだろう。

 

 

 

 そう考えて気と魔力は増量訓練のみ、舞空術は気の増量結果を確認するために週に一回いつもの林で気を放出して浮かんでいる。

 ちょっとづつ成果は出ているが、飛べると言えるほどの出力まで届くのはだいぶ先のようだ。

 『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』があっても、舞空術を使えるほどの気の量は遠いと言うことか・・・

 

 そんな細々とした合間の訓練をしながら、夏には海に遊びに言ったり避暑地に旅行連れてってもらったり、秋は運動会で自重しながらもつい気による高い運動能力を発揮しちゃったり、冬にはスキーに連れてって貰ってお正月にお年玉をもらって割と喜んだりと平凡な生活を送っていた。

 自分でも驚きだがだいぶ精神年齢が見た目相応になっているらしい。

 義務教育もやり直しだが一度社会に出た者としては、学校生活は子供っぽさにちょっと呆れつつも楽しいと感じていた。

 

 

 

 

 

●気版メドローア、我流相転移砲習得、直後禁術指定

●魔力素吸収を覚えた。



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第七話 遭遇、そして飛翔

 

 

 

 

 

 魔法を使うには術式が必要だ。

 魔法を使いたいと思うたびにそういい訳付けてきたがもう飽きた。

 

「術式が無いなら作ればいいじゃないか!!」

 

 術式に使う言語は日本語や漢字にしよう。

 ミッド式は英語、ベルカ式はドイツ語らしいし。

 使い慣れた言語の方がやりやすいだろう。

 

 まず魔法陣をどういう物にするか決める。

 魔法陣の基本はやっぱり円、日本語の魔法といえば陰陽術だからそれに関わるものを組み込んでみる。

 陰陽術や五行思想とか名前は結構知ってるけど、詳しい意味は知らなかったからWIKIで調べておいた。

 その情報を元に、まず中心に陰陽の太極図を配置してその外側に二層目の円を書いて五行思想を表す五角形を書き込む。

 更に外側に三層目の円を書いて十二支を現す十二角形を書き込んだ。

 最初は十二支じゃなくて四神の四角形を書こうかと思ったが、調べたら五行思想に四神の意味も含まれてた。

 そして円の線上は帯状にしておいて、そこが術式の文字を書き込むスペースとなる。

 

 早速紙に書き上げてみたら、なかなか様になるかっこいい魔法陣になった。

 術式の部分にはそれぞれの術式が書き込まれるから開けてあるが、中心の太極には陰・陽、五角形の頂点には右回りで上から木・火・土・金・水、十二角形の頂点に子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の文字が書きこんである。

 後はそれぞれ頂点に書かれた文字の意味を覚えて、術式を書き込んでいけば魔法が使えるようになる。

 この魔法陣で俺は大魔導師なる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞空術の進展が無くて魔法も魔力を放出するだけの日々にいろいろ溜まってたんだ。

 『ぼくがかんがえたさいきょうのまほう』、誰でこういうのは一度くらいはやったこと無い?

 イライラしてたからカッとなってやった、反省も後悔もしていない。

 

 

 

 というか勢いでやったけど陰陽五行思想で魔法を使うってほんとにうまくいきそうな気がするんだ。

 だから魔法陣も真面目に作成中。

 WIKIで陰陽五行思想を調べたら驚くほど情報が出てきて自分でもびっくりした。(実際マジで)

 ただそれぞれの意味や関連が多岐に渡っていて、覚えておかないといけない事が多すぎる。

 この世界に昔はホントに魔力で陰陽術を使う陰陽師居たんじゃないのかって思ったよ?

 

 陰陽五行思想については持ちネタ的な意味も含めて勉強中だ。

 こういうのは嫌いじゃないし、『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』のおかげで前世より物の覚えがいいんだ。

 学校はさすがに小学校なので特に学び直すことも無いので、空き時間に集めた資料を読んで頭に入れていってる。

 実際に魔法として使えるようになるか分からないが、その過程を割と楽しんでいる。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで小学校生活も一年が経ち二年生に進級した。

 進級しても特に変わったことも無く、平凡に過ごしながらも気の増強も忘れず行なっている。

 今日も今日とて週に一回の舞空術に使う気の出力測定。

 いつもの林に来て測ろうかとしたところで、周囲に何やら気配を感じた。

 

 散々気を使ってきただけあって、そう遠くなければ生き物の気配を感じることが出来る。

 さすがにドラゴンボールみたいに気だけで誰かを判別とまでは出来ないが、けっこう遠距離まで気の数くらいは数えられる。

 今回はそんなに遠くなくこの林の中に何かの生き物の気を感じた。

 

 周囲を見渡してみたが視界には何も生物は見当たらなかった。

 そこで俺は円を全力で展開して林の中をくまなく捜査した。

 日常的に練習してきただけあって、円は既に半径30メートルまで展開できるようになった。

 円の範囲内の情報も詳しい形を読み取ることすら出来る。

 

 展開した円に気を感じた生き物が引っかかった。

 大きさを探ると小さくて、どうにも人ではなく猫くらいの大きさだ。

 こちらに意識を向けていた様に感じたから、人だと思ったんだけどな・・・。

 

 確認の為、円を解除して気を体から漏らさないようにする普通の絶をする。

 絶もずっと鍛えていたおかげで酷絶に近いほど気配を消せるようになった。

 町内の野良猫達には成果の確認の為に大変お世話になりました。

 

 そして高められた絶の効果を今ココで証明してみせよう。

 一度猫らしき存在からこちらを確認出来ない距離まで気で体を強化して一気に移動する。

 気配は一瞬漏れるが瞬動まで使ったから、もう猫からは俺の姿は見えなくなっているだろう。

 

 以前も言ったが体内の身体強化であれば、ある程度までは絶と併用できる。

 外部に気を張る念能力系の技能は他には使えないが、隠密行動みたいな真似が簡単に出来る。

 円で感知した場所へ大きく迂回しながら近づいていく。

 気分は忍者かアサシン♪

 

 

 

 この辺りかと思い足音を立てないように注意しながら見回すと黄色い何かの後姿が見えた。

 小柄で尻尾が丸っこいモフモフで猫のものではない。

 さっき俺が居た方をキョロキョロ見渡していて探している。

 やはり俺の事を見ていたようだ。

 俺は静かにかつすばやく接近して、それを後ろから両手で掴み上げた。

 

「!? クーーー!!」

 

 俺を探していた生き物は掴み上げられて驚いた後泣き声を上げた。

 当然逃れようと手足をばたばたさせてもがくが、猫の時に慣れてるのでそのまま掴み続ける。

 ひっくり返して全容を見てみるとそれが何か分かった。

 

「・・・・・・きつね?」

 

「クーーー!! クーーーー!!」

 

 海鳴って狐も居たのか?

 確かに自然が多くて栗鼠とか見かけたこともあるけど。

 

 俺が観察している間も泣き声を上げて狐はもがき続けてる。

 もういいと思って下ろしてやると狐は一目散に走り出して俺から逃げていった。

 

 かと思ったら十分に距離をとった所で木の陰に隠れ再びこっちの様子を見ている。

 今度はお互いに視線があっているためか、狐の感情が気のせいか感じられた。

 狐の視線からは、先ほど掴み上げたことで恐がっているのと同時に気になるという好奇心を感じだ。

 

 

 

 こちらを見ている狐を見てつい悪戯心が働いてしまった。

 再び瞬動を使って狐の隠れた木の傍へ移動した。

 一瞬で近くまで来た俺にまた驚いて逃げようとするが、反応が遅かったのでまた捕み上げた。

 

「クーーーーーーー!!」

 

「オマエ、反応が遅いな。

 普通の野良猫でももうちょっと早く逃げ出すのに。

 どっかで飼われてるのか?」

 

 狐は当然また暴れるが、俺は片腕で抱くようにして捕まえて片手で頭を撫でてやる。

 

「ク? クー・・・」

 

 すると狐はあっという間に暴れるのをやめておとなしくなった。

 

 

 

 ふっふっふっ、実は俺はただ狐を撫でているわけじゃない。

 撫でる手に気を込めてるんだ。

 無論傷つけないように弱い力で込め、更に安らぎとか癒しとか落ち着けるような気持ちを気に込めてる。

 これを野良猫にやったら驚くほど素直に撫でられてたんだ。

 

 これが出来るようになった時は、気が使えるようになって一番うれしかった。

 簡単に動物の警戒を解くことのできる撫で方。

 ムツゴロウさんもびっくりの撫でっぷり、まさにゴッドハンドを手にしたって感じだ。

 

 

 俺は正直かわいい動物が大好きだ。

 特に子猫とかの子供が大好きで、現実に存在する癒しの生き物だと思ってる。

 だから意思疎通が出来て可愛がれる使い魔なんて最高じゃないかと欲している。

 原作には絶望しているが使い魔を作る方法を知るためだけに接触するのも悪くないと思っている。

 

 そういえば今考えているネタ魔法で式神とか作れないか?

 まあ理論も半分妄想で出来ているようなものだから無理だろうな・・・

 

 

 

 あ、それと原作のことで思い出した。

 なのはちゃんが聖祥小に入学したようです。

 ふと学校で見かけただけなので話をしたりはしてません。

 一月の付き合いももう数年前なので俺のこと覚えてるんでしょうか?

 まあ原作のことは特に気にしてないのでスルーです。

 

 

 

 ところでさっきから撫でっぱなしの狐はすっかり落ち着いている。

 撫でるのをやめて降ろしてやっても逃げる様子は無かった。

 つぶらな瞳で俺を見上げているのが可愛いじゃないか。

 

「お前、この辺りに住んでるのか?」

 

「クー。(フルフル)」

 

 狐が首を横に振る。

 

「お前、誰かに飼われてるのか?」

 

「クォン。(コクコク)」

 

 狐が首を縦に振る。

 

「・・・・・・お前、人の言葉が分かるのか?」

 

「!! クーーーー!!」

 

 狐は逃げ出した。

 

 つい話しかけて見たけど、普通に首を振って返答してたよな。

 気のせいじゃなければ、人の言葉を間違いなく理解していた。

 言葉を理解できると知られたらなんか逃げ出したし。

 まさか誰かの使い魔だったりしたのか?

 あるいは妖狐だったとか。

 

 

 

 ん? 妖狐?

 あっ!! もしかして今のって久遠てやつか!?

 元祖リリなので、とらは3のおまけストーリーでなのはのお供だったっていう。

 とらハシリーズはやったこと無かったからあまり詳しく知らないんだよな。

 二次創作でたまに出てくる存在だから知ってたくらいだ。

 

 確か人に化けたり話したり出来たはずだ。

 とらハシリーズはリリなのと同じ海鳴が舞台だから設定が生きているのか。

 なのはちゃんの兄の恭也もギャルゲ的展開でリア充状態なんだろうか?

 正直見てみたいような見てみたくないような・・・。

 現実の修羅場なんて生々しいだけだからな~。

 

 

 

 翌週、舞空術の練習でいつもの林に行ってみたら、先週の狐・・・恐らく久遠・・・が昼寝をしていた。

 再び悪戯心で絶をして近づいてゴットハンドで撫でてやると驚いて起きたが、後はそのまま撫でられていた。

 ある程度撫でててから開放してやると、ハッとなって走り出し逃げていってしまった。

 逃げるの遅すぎだろう。 いや、ゴットハンドが凄過ぎるのか?

 自分ではどんな感じかわかんないからなぁ・・・

 

 

 

 

 

 久遠が居なくなった後に舞空術の確認をしたが、特にこれといった大きな変化も無く終わってしまった。

 初めの内は舞空術の確認をするたびに落ち込んでいたが、それにももう慣れてしまった。

 

 帰り道、舞空術に何が足りないのかこれまで何度も考えてきたことを思い直していた。

 浮き上がってはいるんだが飛べるとまではどうしてもいかない。

 気の放出でホバーリングくらいは出来るんだが、俺の目標は空中で自在に飛べるようなる事。

 何かもう一工夫必要なんじゃないかと思ってるんだがそれが何か分からない。

 

 斬魔剣のときみたいに気に意思を込めてみる?

 いや、意思によって性質は変化しても出力は気の量で決まるからそれほど変わらない。

 爆発的な威力を出すにはやっぱり気の増幅量を上げるしかないのか・・・。

 

 

 

 いろいろ思い返しながら歩いていると、とある住宅地の前を通りかかった。

 いつも通っている場所なので普通に歩いていたが、ある家で子供がホースを使って花壇に水をやっている光景が目に付いた。

 ふと子供が手に持ってるホースにハッとなって立ち止まった。

 

 ホースの先からは当然水が出ている。

 花に水をやるなら大抵はホースの先にシャワーノズルが付いてるがそこには付いていなかった。

 なので水をかけてる子供はホースの先をつまんで水飛沫になって吹き出るようにしていた。

 そしてホースの先からは普通に水を出すより何倍も勢いよく飛び出していた。

 

 

 

(これだ!!)

 

 俺はそう確信していつもの林に向かって引き返した。

 気の内部強化を無意識に使っていて、普通の子供では出せない速さで走っていたが気にならなかった。

 神社の石段を駆け上ってすぐ林に中に入っていった。 

 周囲を見渡し同時に円を使って確認するがどうやら久遠は戻って来ていないようだ。

 

 さっきのホースを見てもしかしたらと思いついた。

 気の放出量は同じでも気の出口を絞り圧力をかけてやれば、放出する威力はぐっと上がるのではないかと。

 先ほどの舞空術の練習でだいぶ気を使ってしまっていたが、全力で放出して出力を確認しただけなのでたぶん大丈夫だろう。

 

 俺は気を全力で練ると同時に圧力を掛けるために、気が体外に出るのを抑える・・・すなわち絶と同じことをやった。

 全力で気を練っているので本来の絶の役割が果たされず、漏れ出した気が炎のように立ち昇り、この前やったドラゴンボール風の気溜めになった。

 

 というかこの気溜めって舞空術の前提状態にあたるじゃないか。

 舞空術に足りないのは気の量だと思ってて考えてもいなかった。

 この前出来た時に気づけよ俺!!

 

 

 十分に気が体の中に溢れて、これ以上は練っても気が溜まるより体から漏れるといったところで準備完了。

 下に向かって体に押し込められている気が開放されるように絶を一部解除した。

 

 

--ドオォォォンッ!!!!--

 

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 圧力のかかった気が地面に向かって爆発するかのように放たれ、俺は反動で飛び上がるというより吹き飛ぶ様に空へ打ち上げられた。

 気の放出はまだ続いており上昇する勢いが止まらなかったので、慌てて気を抑えて放出を止めた。

 

「びっくりたぁ・・・・・・って、あわわわわ。」

 

 気の放出を止めたことで上昇する勢いは止まったが、重力に従って今度は落ち始めた。

 再び焦りだしたが、先ほどは予想以上の気の出力で暴発させたが、今度は気の放出口を少しずつ開けて出力を調整しながら落ちる方向に気を放った。

 初めての空中だが日頃からの気の操作のおかげで、慌てていてもしっかりとコントロールして落下するのを抑えた。

 圧力のかかった気の出力具合を測りながら、空中でバランスを整えて何とかその場に停止した。

 

「・・・・・・出来た。」

 

 空中で足場も無くバランスを取りにくいが、気の放出を続けてその場に留まっている。

 気の出力を少し上げればすぐに上昇して、下げれば少しずつ重力にしたがって降下した。

 

「で、で、で、出来たああぁぁあぁぁ!!!!」

 

 漸く出来るようになった舞空術に歓声を上げてしまう俺。

 放出している気は勢いはすごいが、いつも全力で放出していた時に比べ圧倒的に気の消費量は少ない。

 圧力を掛けるなんてこれまで思いつかなかったけど、ここまで違うとは思わなかった。

 舞空術の練習初期より気の量が格段に増えているとはいえ、これに気づいていれば割と最初の内に出来ていたかもしれない。

 

 気はほんとに使い方次第だと思った。

 他にもまだまだ気づいていない画期的な使い方があるかもしれない。

 戦闘系の技は使う気が無いから手を出してこなかったけど、そこから新たな使用法が発見できるかもしれない。

 舞空術の制御も完璧にして自由に飛べるようになったらいろいろ試そうと心に決めた。

 

 

 

 そしてそろそろ林の中に降りようとして、下を見下ろしたら神社の境内に人影が見えた。

 目を凝らすと自然と凝をしてしまうようになって、視力が強化されるとよりはっきりと見える。

 竹箒を抱えて掃除をしていたのであろう緋袴(ひばかま)を着た巫女さんと目がパッチリと合った。

 パッチリと・・・・・・

 

(・・・・・・ヤバイ!!)

 

 見られた!!と思った瞬間、気を放出して一気に降下して、地面にぶつかる直前気を落下方向に放出し着地の反動を殆ど無くして林の中に降り経つ。

 漸く飛べるようになったばかりでこんな精密な飛行は出来ないはずなのに、火事場のバカ力か出来てしまった。

 そんなこと気にしてる余裕も無く、頭は先ほど上空に飛び上がった時よりパニックになっている。

 今は早く逃げようと神社の境内と反対方向に全力で走り出し、迂回しながら神社の敷地内から離れていった。

 

【あれは何だ?鳥か?飛行機か?いや飛行(非行)少年だ!!】

 

 俺の頭の中には明日の朝刊の一面を飾るであろう内容が映し出されていた。

 

 

 

 

 

●拓海は魔法陣の作成を始めた。

●ゴッドハンドを習得した。

●気に圧力を掛けることを覚えた。

●舞空術を習得した。



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第八話 この世は割りと不思議だらけ

 

 

 

 

 

 空を飛んでいるところを見られた翌日、非行少年(笑)が新聞に載ることはなかった。

 さすがにそれは無くてもその内世間で噂になって騒動になるんじゃないかと、ビクビクして極力外に出ないよう家に篭っていた。

 両親にまた心配かけていたが事情を話すわけにはいかなかったので、なんでもないと誤魔化すしかなかった。

 

 ところが一週間が経ち、二週間が経っても特に噂や騒動になることも無く平穏なままだった。

 空を飛んでいたのが気のせいと思われて噂が広まらなかったのかと思ったが、理由は別のところにあることがわかった。

 

 

 

 もしかしたら噂からニュースになっているのではないかとテレビを見ていたら、高機能性遺伝子障害病(通称HGS)という奇病の特集がやっていた。

 原因は分からないがその症状にかかると翼が生えて超能力が使えるようになるらしい。

 翼があるんだから当然空を飛ぶことも出来るんだろう。

 こんな超常現象が世間的ではないとはいえ認知されていることに驚いた。

 

 ネットで情報を集めてみたら、他にも実際に発生する霊障やそれを収める退魔師などが実在しているらしい。

 他にも確かだったり不確かだったりする超常現象は、一般的には早々無くてもあることが認められていた。

 人間一人が空を飛んでいても珍しくはあっても、大騒動になったりする事は無いんだろう。

 

 

 

 正直非常に安心した。

 超常的な力が世間に広まったらごくごく普通の一般人な両親が対応できると思えない。

 迷惑を掛けるのも嫌だが、関係が拗れて気味悪がられて捨てられるのはもっといやだ。

 両親に聞いたらHGSの事も退魔師の存在も一般常識程度に知っている程度で、好きとか嫌いとか特別な関心を持っていないらしい。

 だからいっその事と自分が異能を持っていることを両親に伝えた。

 

 

 

 

 

 病院に連れて行かれました。

 

 

 

 いやいや、頭の心配をされたわけじゃないよ!!

 実際に気弾や舞空術で空を飛んで見せたんだから!!

 病院に連れて行かれたのは、俺がHGSなんじゃないかという両親の心配からだった。

 

 そういえばHGSって超能力は使えるけど一応病気で、個別にさまざまな症状があるんだとか。

 その上最近俺が異能について調べてたり両親に聞いてたから、そのうえ異能を見せればHGSなんじゃないかと心配されるのは当然か。

 安易に教えてしまったと反省するが隠しているよりはずっといい。

 両親との家族関係はかなり良好なんだ。

 隠してて突然知られるようなことになれば、家族関係に皹をいれかねない。

 むしろ早く話せてよかったと思った。

 

 

 

 

 

 で、実際に連れて来られた海鳴大学附属病院。

 HGSは今だ研究が進んでいないらしく一般の病院では対応していない。

 この病院ならHGSに詳しい医者がいて調査してくれるらしい。

 

 診察室で待っているとすぐに白衣をきた女性が来た。

 銀髪のロングヘアーの外人の方で、小柄なせいか若いと言うより幼いという印象があった。

 

「はじめまして、担当をさせていただくフィリス・矢沢です。

 そちらのお子さんがHGSではないかと聞きましたが。」

 

「はい、うちの息子が不思議な力が使えるようになって。 そうなのではないかと。」

 

「どういったものでしょうか? ここで使っても問題ないのでしたら見せていただけませんか?」

 

「大丈夫か、拓海。」

 

 父さんと先生の会話を黙って聞いていた俺は頷いて舞空術で少し浮かび上がる。

 正直俺がHGSでないことは自分でも分かっているのだが、それをうまく説明できない。

 ならしっかり調べてもらってHGSではないと証明してもらったほうが両親も安心するだろう。

 

 舞空術は最初は全力でやったら吹き飛ぶほどの速度で上がってしまったから、どれほどの加減と圧力の駆け具合が分からなかった。

 今は気に圧力をかけるコツが分かったので、ドラゴンボール風の気溜めの炎のような気を出さなくても簡単に浮かぶくらいの事は出来る。

 もっともあの後から練習できていないので、自在に飛ぶのはまだ無理だろう。

 

「確かに・・・浮いてますね。

 ですがHGSかこれだけでは分かりません。

 遺伝子検査をさせていただきますが、HGSとは別の異能の可能性が高いですね。」

 

「どうしてでしょうか?」

 

「HGSを持つ患者には共通して姿形は違えど翼(フィン)が発生します。

 ですが拓海君にはその症状が無いのでHGSではないんじゃないかと。」

 

「なるほど。」

 

 その日は遺伝子検査を含めたいくつかの検査をして終わった

 

 

 

 

 後日結果が出たので改めて病院に来た。

 

「検査結果ですが特に問題ありませんでした。

 やはりHGSとは関係の無い異能ではないかと。」

 

「そうですか・・・」

 

 父さんは安心したような少し落ち込んだような様子だった。

 病気ではないと分かったけど、実際何がどうなっているのか分からないんだ。

 帰ったらもう一度両親と気について話そう。

 ちゃんと制御出来ているから大丈夫だって説得しないと安心できないだろう。

 

「あの、私個人の知り合いに異能について詳しいかたがいます。

 何か分かるか保障は出来ませんが、よろしければご紹介いたしましょうか?」

 

「ほんとうですか? よろしくおねがいします!!」

 

 この騒動はまだまだ続きそうだ・・・。

 

 

 

 

 

 更に後日、フィリス先生の紹介で異能について知っている人に会うことになった。

 あの後帰ってから両親に気の力について話して、ちゃんと制御出来ているから安心してほしいと説得した。

 一応信じてもらえたが、異能について知っている人に会うことに変わりは無かった。

 理論的に説明するのは小学生の俺には無理があるので感覚的な説明だ。

 俺の説得だけでは全部はさすがに信じられないんだろう。

 

 まあ俺自身異能について知っている人とも話してみたい。

 この世界の異能ってのはどういうものがあるのか知りたいしね。

 

 そして会う場所だが、なぜか喫茶翠屋だった。

 誰かの陰謀か? 仕事での紹介ではないから何処かの施設というわけにはいかないのは分かるけど何でココなんだ?

 余計にややこしいことにら無ければいいけど。

 

 

 

 翠屋には家族で指定の時間より先について待っていた。

 着いてすぐに私服姿のフィリス先生が見た目同い年くらいの女性を連れて入ってきた。

 

「こんにちわ、お待たせしてしまいましたか?」

 

「いえいえ、われわれもつい先ほど来たばかりなので。」

 

「そうですか、では紹介させていただきますね。

 こちら神咲那美さん、退魔師をなさっている方です。」

 

「はじめまして、神咲那美です。

 今日はよろしくお願いします。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。

 ところで随分お若いようですが・・・」

 

 父さんがフィリス先生と見た目同い年くらいの神咲さんの年が気になるのは仕方ないだろう。

 フィリスさんと違って日本人だからか、中学か高校生だとしか思えないからだ。

 

「すいません、私はまだ15の若輩者でして。

 本当なら姉を紹介したかったのですが、仕事で遠くへ行っているので。

 よろしければ姉と連絡が取れ次第、改めて話し合いの場を設けさせていただきますが・・・」

 

「いや、かまいません。

 正直私には異能というものがまったく分からないもので。

 この子は大丈夫だと言っているのですが・・・」

 

 仮にも息子の言っている事を信じられないとは言えないのだろう。

 そろそろ気を暴露したことを後悔してきたかも・・・

 

「そうですか、えっと君の名前は?」

 

「山本拓海です。」

 

 神咲さんから見れば俺はたしかに年下だが、前世の価値観から俺からも神咲さんは子供に見える。

 そんな彼女から子ども扱いされるのはどうにも違和感を感じる。

 

「拓海君は空を飛べるって聞いたんだけど、もしかしてこの前八束神社の上を飛んでたりしてませんでした?」

 

「えっと・・・確かに初めて飛んだときその辺りを飛んでました。

 もしかしてあの時境内にいた巫女さんって神咲さんだったんですか?」

 

「ええ、普段はあの神社で巫女のアルバイトをしているんです。」

 

 そういえばいつも気の制御訓練をしていた林がある神社は八束神社という名前でした。

 あの時の巫女さんって神咲さんだったのか。

 見られたのが異能に詳しい人だったから、噂とか話題とかにならなかったのか。

 

 偶然、じゃないよな。

 この町で異能を知ってて退魔師で更には巫女だなんて要素満載の女性。

 絶対とらハシリーズのどれかのヒロインの一人だ。

 その知り合いだって言う、フィリス先生も案外そうかもしれない。

 とらハはPCゲームだったから手が伸びにくかったけど、こんなことならやっておくべきだった。

 まあ転生するとは思わないからなー。

 

「それで神咲さんは拓海の力について何か心当たりがありますか?」

 

「まずは見てみない事には何とも・・・

 ココは人が多いので場所を変えましょう。」

 

 神咲さんに連れられて翠屋を出る。

 今回はほんとに待ち合わせの場所だけだったな翠屋。

 どうしてもリリなのに関わりのある場所だと過剰反応しちゃうな。

 なのはちゃんの家族らしき人たちの姿は見えたが、なのはちゃんの姿は見えなかったし。

 経営者の子供とはいえ、そうそういつも店にいるというわけじゃないんだろうけど。

 

 

 

 神咲さんに連れられてやってきたのは、何時も来ていた林のある八束神社。

 何時も来ていたけど最近は来れてなかったからちょっとだけ懐かしく感じる。

 そのままいつも入っている林とは違う、神社の広めの裏手にきていた。

 

「ココなら広くてそれほど人は来ません。

 拓海君、あなたの力を見せてもらえますか?」

 

「えっと、何でもいい?」

 

「はい、いいですよ。」

 

 単純に力を見せてといわれてもどう知ればいいのか困った。

 とりあえず目に見える気弾を掌から出してそのまま浮かばせる。

 その様子を両親とフィリス先生が離れて見ていた。

 

「・・・・・・触れても大丈夫でしょうか?」

 

「えっと、大して力を込めてないから、たぶん大丈夫。」

 

 実際気弾は勢いをつけないとたいした威力は出ない。

 圧力をかけることを覚えたからそれをすれば威力も増しそうだが、この気弾には特に攻撃性を込めていないので大丈夫なはずだ。

 そもそも他の誰かに触れさせたりすること自体初めてだ。

 

 神咲さんはおっかなびっくりで指で突いて安全を確認した後掌を当てて触れる。

 じっと意識を向けて何なのを感じ取っているような様子だ。

 

「・・・・・・命の力を感じますね。

 たぶんこれは生命力を力に変えてを使う気だと思います。

 直接目にした事は無いですが、おそらくは間違いないでしょう。」

 

「生命力を使うということは、拓海は大丈夫なんでしょうか?」

 

「生命力は生きているなら誰でも持っている力です。

 使いすぎなければ何も問題ないでしょう。

 その力を使えるのは拓海君が気を使うことに人より突出した才能があるからだと思います。」

 

 気を使えるのは努力したからだよ。

 能力で成果が出るのは確信しているのもあるけど。

 

「拓海君、あなたはこの力をどう思いますか?」

 

「え? んー割と便利な力だと思いますよ。

 これを使うと足も速くなるし。」

 

 とりあえず俺の感覚でさしあたりの無い答えを言う。

 実際は戦闘技能にも使えるから、使い方次第でかなりヤバイと分かっている。

 予想外にも気版のメドローア、相転移砲なんか撃てるようになっちゃったし・・・。

 

「確かにあなたにとっては便利な力かもしれませんが、他の人がどう思うかは分かりません。

 その力を恐れてあなたを拒絶するかもしれません。

 そしてあらゆる力はは使い方によっては簡単に危険なものになってしまうものです。

 そのことを決して忘れないでください。」

 

「はい。」

 

 殆ど予想していた内容だ。

 実際使うにあたって他の人からの目を気にすることだから、この前失敗したけど見つからないようにしていた。

 気の力の危険さは先ほどいったとおり危ないって十分理解している。

 そのために気の制御だけは常に練習を続けているのだから。

 

 俺自身の安全を両親に伝えてから、神咲さんは仕事の伝手で他に気を使える人を探そうかと聞かれたが俺が断った。

 他に気が使える人がいるなら話をしてはみたいが、別に気を使って何か特別なことをしたいというわけじゃないからだ。

 平凡な日常が大事なものだと理解しているので、これ以上事を大きくしてほしくない。

 両親も俺の安全が分かったのだから納得してくれてるみたいだし。

 

「では、もし何かありましたら知らせてください。

 気については専門ではありませんが、何かお力になれるかもしれませんので。」

 

「いろいろ有難うございました。」

 

 結果的に両親には迷惑をかけてしまったが、これで騒動のは終わりそうだ。

 しかし、とらハのヒロインぽい人物が現れたけど、この世界ってとらはのストーリーもちゃんと起こってるのか?

 確かなのはの兄の高町恭也が主人公だったよな。

 まさか本当にギャルゲ的展開で複数のヒロインにフラグ立てて、あるいは全部回収しちゃってたりするのか?

 

 

 

 ・・・・・・ナイナイ。

 さすがに三角関係くらいは成立しても、ほんとにハーレム作るなんて現実的に考えてありえない。

 むしろ修羅場でスクールデイズみたいな落ちになるんじゃないか?

 スクールデイズ恐くてやったこと無いけど・・・

 

 

 

 

 

●本日は修得なし



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第九話 霊力と久遠

 

 

 

 

 暴露騒動が終わっても、俺の生活は特に変わる事はなかった。

 舞空術は出来てしまったが練習はこれからだったし、ネタ魔法陣のご都合主義を含んだ試行錯誤とかいろいろある。

 それに退魔師の事を聞いてみようと思い、神咲さんがアルバイトしてないかと八束神社にいくと、傍らに久遠をつれて仕事をしていた。

 

 聞いてみると久遠は神咲さんが飼っている事を知った。

 となるとやっぱりとらハシリーズのヒロインなのかと、かなり微妙な気持ちで彼女を見ていたら不思議な顔をされた。

 いや、ヒロインはヒロインでもPCゲームのヒロインで、しかも目の前の人物がそうだと思うととても複雑な気持ちにならないか?

 初対面の相手の情事が存在するのを知っているだなんて気まずいだろう。

 まあなのはちゃんの時と同じで二次元と三次元は違うんだって理解できてるから、実際に人柄に触れてれば気にならなくなるだろう。

 

 

 

「拓海君、久遠の事知ってるの?」

 

「俺この神社の林の中でこれまで気の使い方練習してたんです。

 その時見かけて・・・・・・ちょっと脅かしちゃったかもしれません。」

 

「クー・・・・・・」

 

 久遠は神咲さんに抱えられて耳を伏せて目が潤んで怯えているように見える。

 怯えてるように見えても可愛いんだが・・・

 

「この子はもともと人見知りが激しくて恐がりなの。

 だから気にしないでね。」

 

「いえ、勝手に抱き上げちゃったんで驚かしちゃったんです。

 ちょっと撫でてもいいですか?」

 

「いいよ、はい。」

 

 飼い主の許可が出たのでゴッドハンドを発動。

 怯えていたのはゴッドハンドが触れるまでで、撫で始めたらさきほどとは比べものにならないほど落ち着いて目を細めている。

 

「え? 拓海君、もしかして気を使って撫でてる?」

 

「はい、気に落ち着きや安らぎといった気持ちを込めながら撫でると大人しくなって素直に撫でさせてくれるんですよ。

 近所の野良猫とかで試してました。」

 

「気ってそんなことが出来るの。」

 

「いろいろ自分で試して気づいたんですけどね。

 ところで神咲さんって退魔師なんですよね。

 やっぱり幽霊とか妖怪が相手なんですか?」

 

「ええ、そうだけど・・・」

 

「久遠も妖怪なんですか?」

 

「クゥ!?」「ど、どうしてそう思うの?」

 

「いえ、普通に人の言葉理解してますし。」

 

 現実的に考えてココまで人の言葉を理解して正確に答えられる動物もいないだろう。

 テレビの動物番組で人の言葉みたいな鳴き声をする動物とかよくいるけど会話にはならないよね。

 そういう可愛い動物を見るのは好きだけどね。

 

「拓海君は久遠のこと恐くない?」

 

「全然、見ての通り可愛いし恐がりだって分かってますし。」

 

「クゥン?」

 

 妖怪だからって皆危険だってわけじゃないのは良くある話だし。

 普通の動物でも警戒させたりしなければ猛獣でもわりと大人しいこともある。

 

 今の俺なら堅で防御できるからまともに戦っても勝てそうだし。

 こっちの世界なら犬や猫科の大型動物に跨って移動するとか出来るかな?

 馬と違ってそういうの憧れがあるよね。

 

「神咲さんはどういうことが出来るんですか?」

 

「どういうことって?」

 

「退魔師って、普通の人には出来ない仕事ですよね。

 だから俺の気みたいな特殊な技能があるんじゃないかと思って。」

 

「私は霊力が使えるよ。」

 

「霊力でどんなことが出来るんです?」

 

「ええと、私が出来るのはヒーリングと幽霊を成仏させる鎮魂術、あとは自信は無いけど退魔剣術が使えるくらいかな。」

 

「(退魔剣術って神鳴流みたいなものかな?)ヒーリングって怪我とか治すことですよね。

 それって俺にも使えますか?」

 

「才能があれば練習すれば出来ると思うけど・・・・・・」

 

「教えてもらえませんか?」

 

「えっと、どうしてヒーリングを覚えたいの?」

 

「怪我した時便利そうですし。」

 

「そ、そう。」

 

 俺の質問攻めに戸惑ってる様子の神咲さん。

 気を使えば傷の直りって早いんだけど、あくまで自然に治るより少し速い程度だ。

 ヒーリングの効果がどれくらいかわかんないけどそれより早いだろう。

 

「けどヒーリングに使うのは霊力だから、まず霊力を使えるようにならないと。」

 

「じゃあ一度ヒーリングを掛けてください。

 霊力がどういうものか覚えるんで。」

 

「それだけで覚えられるものじゃないよ。」

 

「わかっていますよ。

 けど、霊力がどういうものか感覚で知りたいんでお願いします。」

 

「んー・・・・・・まあいっか。

 それと無理に敬語とか使わなくていいのよ。

 名前も神咲さんじゃなくて那美って呼んで頂戴。

 子供に遠慮してほしくないもの。」

 

 名前で呼んでってフラグ?って考えたやつはダメ人間だ。

 しかし、一応年上を名前で呼ぶのはどうだろう・・・

 

「えぇと・・・・・・那美お姉さんって呼んだほうがいいですか?」

 

「お姉さん・・・・・・うん、いいよ!!

 お姉ちゃんに任せて!!」

 

 お姉さんをつけたら妙に張り切りだした。

 お姉ちゃんになってるんですけど・・・・・・

 

「・・・・・・那美さんで勘弁して。」

 

「ええぇー・・・」

 

「クゥン。」

 

 とりあえず呼び方は妥協の末、那美姉さん言う呼び方で収まり、ヒーリングをかけてもらって霊力がどういうものかを感覚で知ることが出来た。

 さすがに感覚で知っただけでは使えなかったので、その日から霊力を引き出す試行錯誤を始めた。

 

 

 

 

 

 そして二週間ほど経った頃に、神咲さん改め那美姉さんと久遠のいる八束神社にきた。

 

「那美姉さん、霊力使えるようになったよー。」

 

「うそ、もう!?」

 

「クゥ?」

 

「はいこれ。」

 

 俺は手の平の上に霊力で出来た六角形の板を出した。

 そう、GS美神で出てた横島のサイキックソーサーだ!!

 やっぱり霊力を使う代表作で使えるようになりたいと思ったら文殊でしょ。

 いきなり使えるようにはなれないだろうから、まず横島の覚えた霊能を順番に習得していこうと思った。

 霊力自体は一週間で出せるようになったけど、サイキックソーサーを形にするのにもう一週間かかった。

 とりあえずサイキックソーサーは縮めてソーサーと呼んでる。

 別にサイキック(超能力)じゃないしね。

 

 他にも霊力の代表作で幽白とかブリーチとかあるけど、どちらも参考に出来そうな所は少なかった。

 幽白は修行法は指先に霊力集中して逆立ちとか位しか覚えてないし、霊丸も霊剣も気で同じようなことは出来る。

 ブリーチなんて殆ど才能と固有技能で、ドラゴンボール並みのパワーバランスの崩れた展開で役に立ちそうに無かった。

 瞬歩とかあったけど既に瞬動出来るし。

 

「確かに霊力ね・・・・・・それもこんなしっかりとした形に・・・」

 

「霊力使えるようになったんで、ヒーリングの仕方教えてください。」

 

「そ、そうね。 所で拓海君、退魔師になりたかったりする?」

 

「あんまし興味ない。」

 

「ど、どうして?

 二週間で霊力使えるようになるなんて才能あると思うけど。(きっと私よりも)」

 

「退魔師になったら戦いとかするんでしょ。

 不思議な力とかは興味あるけど、戦いには興味ないから。」

 

「そっか・・・・・・

 (退魔師なんて危険な仕事なんだし、戦いが嫌なら無理に誘っちゃダメよね。)」

 

 才能があるように見えても『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』のおかげだし。

 たぶん退魔師に誘いたかったのかもしれないけど、俺は自衛以上の戦いとか無理にしたくないし。

 まあ霊力があれば幽霊に襲われるなんて事があっても対処できるくらいで十分だ、早々そんなこと無いだろうけど。

 

 

 

 その日から那美姉さんにヒーリングの使い方を習いに神社へ通った。

 誰かに異能を習う事は初めてだったが、これまで独学で能力を練習していくのに比べて早くヒーリングを習得できた。

 それでも非常に早い習得だったらしく那美姉さんは驚いていた。

 

 それ以上は特に学ぶ事は無かったけど、神社に通っていたことで久遠も俺に怯えなくなって仲良くなった。

 もしかしてもともと久遠と仲良くなるポジションって、なのはだったんじゃないかと思った。

 アニメ版の更に原作のとらハのおまけの魔法少女なのはじゃ久遠がお供だったらしいから。

 何でアニメじゃユーノにポジション取られちゃったんだろう。

 こんなに可愛いのに、と久遠を抱えて撫でながら思った。

 

「クゥン♪」

 

「久遠も随分俺を恐がらなくなったよな。

 まあ最初からこうして撫でてやればおとなしくなったけど。」

 

「クー。」

 

 とりあえずなのはちゃん、君がユーノをお供に選ぶというのならそれもよかろう。

 久遠のパートナーポジションは俺が頂いたぁ!!

 

 まあ実際は那美姉さんが飼ってるんだけどね。

 

 

 

 

 

●拓海は霊力が使えるようになった。

●ヒーリング、ソーサー(サイキックソーサー)を覚えた。



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第十話 相変わらず修行でも、ほのぼのと

 

 

 

 

 霊力の練習をしていたことで、舞空術の練習が更に遅れた。

 普段八束神社には那美姉さんと久遠くらいしかいないので、林の奥ではなく境内で飛ぶ練習しようと思った。

 久遠とも仲良くなっていたので、抱えながら5メートル位の高さをゆっくり飛び回っていた。

 

「久遠、すごいだろ。

 初めはろくに飛べなかったけど最近漸く飛べるようになったんだぞ。」

 

「クーー!!」

 

「いいな~、自由に空を飛べるのって。」

 

「那美姉さんも飛んでみる?

 たぶん抱えればいけると思うけど。」

 

「えっと・・・・・・ちょっと怖いからやめとくね。」

 

「久遠もけっこう楽しんでるんだけど、なぁ。」

 

「クゥ。」

 

「うぅ・・・」

 

 少し悔しそうな那美姉さん。

 

 神社の周りを自由に飛べるようになったけど、高く飛ぶと遠くから誰かに見られるので低くゆっくり飛ぶだけで満足できなかった。

 もっと高く早く飛ぼうと思えば飛べると思うんだけど、人目を気にして出来ないのがネックだった。

 そこで夜になれば空を飛んでいても見えないだろうと、こっそり夜中に抜け出して飛んでみることにした。

 

 

 

 真夜中になってから全力で飛び立つと、地面があっという間に離れていって町全体を見渡せるようになった。

 空から見た夜景だけあって地面に星が輝いているように見えてとても綺麗だった。

 人の目で見えない高さまで来ると、海のほうで自由に思いっきり飛び回った。

 

 

 割と全力で飛び回っていたが一時間経っても気が尽きることは無かった。

 気の圧縮のおかげで使用効率もだいぶ上がっているみたいだった。

 そろそろ帰ろうと思って町の上空まで戻ってきたが・・・・・・

 

 上から見たら自分の家がどのあたりなのか分からん!!

 上空からの風景なんて地図を見るのと全然違うからさっぱり分からない。

 しかも夜なので余計にどこがどこなのかわからない。

 

 場所の確認に人気の無い場所に下りてみたら、そもそも海鳴市ですらなかった。

 飛び回っているうちに少し遠くの町まで飛んで来てしまっていたらしい。

 幸い知っている海鳴近隣の町だったので方角だけ確認して飛んだら、今度は海鳴を通り過ぎて逆の町まで着いてしまった。

 海鳴上空まで来ても家の場所がわかんなかったので降りてから走って帰ることになり、家に帰り着く頃には空が明るくなりだしていた。

 

 

 

「そんなことがあったんだ。

 朝までに家に帰りつけないかと思って大変だったよ。」

 

「夜中に黙って家を抜け出すからだよ。

 拓海くんはまだ子供なんだから、出かけるときはちゃんと親に言いましょうね。」

 

「そういう問題じゃないと思うんだけど?」

 

「クー。」

 

 何処かボケてる那美姉さんの一面を知った。

 

 

 

 

 

「ところで久遠って何か出来るんですか?」

 

「え?」「クゥン?」

 

 仮にも妖狐なんだから何は不思議な力のひとつくらいはあるだろう。

 そうでなきゃ魔法少女のお供でないだろう。

 

「やっぱり妖狐だから狐火とか火を出せたりするの?」

 

「えっと、久遠は火は出せないけど雷は出せるわ。

 後は・・・・・・久遠。」

 

「クー!!」

 

-ポンッ!!-

 

 那美姉さんに抱えられていた久遠が地面に飛び降りると、軽い音を立てて煙が舞い上がった。

 直後その場所には、俺と同じくらいの年の那美姉さんとは違う巫女服を着た金髪のポニーテールの女の子がいた。

 ただし頭から大きな狐耳とお尻からモフモフの尻尾が生えていたが・・・。

 状況から考えて久遠だとは思うけど・・・・・・。

 

「・・・・・・(ぽかーん)」

 

「クォン?」

 

「あら、拓海君驚いちゃった?」

 

 正直どう反応していいかわかんなかった。

 人化の可能性はあると思ってたけど、普通ケモノ耳がついた人間なんて違和感バリバリだろう?

 けど実際に見てみると、割と普通に髪の毛との雰囲気が調和して不自然さを感じなかったんだ。

 それよりも久遠が見た目同い年くらいの女の子だと認識してしまったことに戸惑った。

 とりあえずいつも通り、頭をゴッドハンドで撫でてみる。

 

「クゥ? クー♪」

 

 反応はいつも通りの久遠でも、人の姿だからすごく複雑な気持ちになる。

 ケモノ耳があるとはいえ普通の子供に動物的ななつき方をされてたら困るだろう。

 

「久遠、狐の姿に戻って。」

 

「クゥ? クォン!!」

 

-ポンッ!!-

 

 再び煙が立つと元の子狐の姿に戻る。

 元に戻った久遠を俺は抱きかかえてまた撫でてやる。

 

「うん、久遠は子狐の姿のほうが俺は好きだな。」

 

「クォン♪」

 

「あらあら。」

 

 とりあえず人型の久遠の事はなかったことにした。

 気にしてたらこうやって撫でるのがやりづらい。

 久遠は子狐、久遠は子狐。

 

 

 

 

 

「『~♪~~♪~~~♪

 ~♪~~♪~~~♪』」

 

「~♪」

 

 アニメのリリなの一期のエンディング『Little Wish~lyrical step~』を思い出したので久遠に聞かせてみた。

 さすがなのはCV田村ゆかりが歌ってる曲だけあって気に入ってくれた。

 また俺はまだ声変わりのしていない子供なので、自分でも驚くほど高い音で歌えた。

 歌は得意ではないが歌うこと自体は好きだったので、前世の他のアニソンもそろそろ忘れだしてるし歌って思い出してみるかな。

 今なら女性ボーカルの曲も綺麗に歌えるし。

 

「よし久遠、今度はもっと他の歌を練習してくるから期待してろ。」

 

「クゥン。」

 

 

 

 そういうわけでリリなののアニソンを思い出しながら練習を始めた。

 とりあえず田村ゆかりボイスのエンディングシリーズの一つ『星空のSpica』を練習していたら妙な変化が現れた。

 

『~♪~~♪

 ~♪~~♪~~~♪

 ~♪』

 

 なのはの声に似せるつもりで練習していたら、気のせいかホントになのはの声に似てきた気がしたので録音して聞いてみた。

 自分でもびっくりするほど田村ゆかりボイスです。

 田村ゆかりボイスを出すつもりで努力して歌っていたら能力が働いて、田村ゆかりボイスが出せるようになったのか?

 能力って異能以外にも働くのか・・・。

 とりあえず他にもいろいろ試してみるか。

 

 

 

 

 

 後日、神社にて久遠と那美姉さんの前でミニコンサート。

 

「『~♪~~♪~~~♪

 ~♪~~♪』」

 

「ク~♪」

 

「歌がとってもうまいのね拓海君。

 普段と声が別人みたい。」

 

 別人の真似をしてますからね。

 今度は第一期オープニング『innocent starter』でフェイトCV水樹奈々ボイスです。

 こっちも練習したら出せるようになりました。

 他にも前世の有名な声優のを思い出しながらやってたら、大抵似せることが出来るようになりました。

 

「実際声をだいぶ変えてるからね。

 那美姉さん、ちょっと声をあ~って出してもらえる?」

 

「えっと、あ~~~~~~っと、これでいい?」

 

「うん、あ~、あ~~、あ~~~、こんなとこかな。

 俺の声、どんな風に聞こえます?」

 

「え!? えっと、もしかして私の声かしら?」

 

「クー!?」

 

 更にいろんな声を試すようになって、即席で相手の声を真似出来るようになった。

 那美姉さんも久遠もびっくりしている。

 

「いろんな歌声を真似てたら出来るようになったんだ。

 この声を使って歌手になってみるのもいいかも。」

 

「そ、そうねぇ・・・

 ところで自分の声を聞くのってちょっと恥ずかしいんだけど・・・」

 

「んー・・・久遠、今度はこの声で歌ってみよっか?」

 

「クー♪」「や、やめてぇ。」

 

 面白そうだったが那美姉さんが涙目立ったので諦めた。

 久遠は残念そうに見えたのは気のせいかな?

 

 

 

 

 

●拓海は舞空術を完全習得した。

●声帯模写を覚えた。



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第十一話 戦う力よりも楽しむ力がほしいな

 

 

 

 

 

 ぽかぽかした春が過ぎて、日差しの強い夏に入った。

 海鳴市も連日35度越えの日々が続いていた。

 

 今日も八束神社にて俺は久遠を抱いていて、一緒に那美姉さんの仕事を眺めていた。

 

「日差しが強いな、久遠。」

 

「クォン。」

 

「那美姉さん暑そうだな、久遠。」

 

「クォン。」

 

「ここは涼しいだろう、久遠。」

 

「クォン♪」

 

 こんな時のために使えるようになった気の冷気化。

 威力を強めれば一瞬で水を凍らせられるが、加減をして纏えばクーラー要らずの快適空間を維持できる。

 抱えている久遠も包むように冷気を纏っているので涼しそうだ。

 ただし那美姉さんは仕事のために日差しの下でがんばっている。

 

「那美姉さん、お仕事がんばってー。」

 

「クーー。」

 

「うぅ・・・・・・拓海くんずるい~。」

 

 ずるくないです。

 こんな日の為に開発した能力なんだから、文句言われる筋合いはありません。

 

「ううぅ~・・・・・・もう我慢できない!!

 拓海くん私もー!!」

 

 あんまり煽り過ぎて那美姉さんが我慢できず俺に抱きついてきちゃった。

 役得とは言わん、汗をかいて体温が上がっているので暑苦しいです。

 

「那美姉さん暑苦しいです。」

 

「クゥン・・・」

 

「あー、拓海くん冷たくて気持ちー。」

 

 那美姉さんが仕事にならないそうなので、冷気を使って円を神社一帯に広げてみました。

 円は薄く気を延ばすから高い威力は出ないけど、周囲の気温を下げるのにはちょうどいい力加減になった。

 翌日から仕事の時は那美姉さんに頼まれて、神社に冷気の円を張るように頼まれました。

 我ながら便利な能力を開発したものだと思った。

 

 

 

 

 

「久遠、お前どうやって人の姿に化けたり出来るんだ?」

 

「クー?(コテンッ)」

 

「わかんないのか?」

 

「クォン。(コクコク)」

 

「そっかー・・・。」

 

 俺は久遠と向き合って話をしていた。

 といっても久遠は喋れないので俺が一方的に話しかけて、久遠は仕草で応えるだけだが。

 そこへ那美姉さんがやってきた。

 

「久遠と何を話してるの?」

 

「久遠がどうやって化けてるのか知りたくって。

 それがわかったら逆に俺が久遠みたいな狐の姿に化けれるかもしれないでしょ。」

 

「拓海君ならほんとに出来ちゃいそうね・・・。」

 

 がんばれば出来ると思うな、能力的に。

 ユーノみたいな動物への変身魔法ってのもそういえばあったな。

 気や霊力でも術式がなきゃ出来なさそうだし。

 

 NARUTOの忍術みたいに変化や分身の術って気で出来ないだろうか・・・

 まあ、印を組んだところで出来るとは思えないけど、ネギまの分身は術を使ってた感じはしなかったな。

 気で擬似的な肉体を別に作るとか?

 んー・・・・・・やっぱ術がないと無理っぽいな。

 出来そうなのは頑張れば出来るって感じ出し、出来ないのは無理だってなんとなく分かるし。

 

 変化から分身に話がそれたけど、動物への変身ってちょっと楽しそうだろ。

 犬や猫でもいいからその視点でのんびりしてる感じを味わいたい。

 

「まあ久遠が化けるのはほんとに感覚的にやってるみたいだから、それだけじゃ俺も覚えられないよ。

 久遠みたいな狐の姿に化けるってのはちょっと面白そうだったんだけどな~。」

 

「拓海君ならいつか出来るようになりそうだな~。」

 

「久遠、もし出来るようになったら一緒にお昼寝しような。」

 

「クォン!!」

 

 また一つ不思議な力を使った夢が出来た。

 

 

 

 

 

「那美姉さん、ちょっとこれ見てくれない?」

 

「なにかな?」

 

「クゥ?」

 

 見せたのは俺が前々から作っているネタ魔法陣の書かれた画用紙。

 

「太極図に五行の相関図が書き込まれてるけど・・・

 他にもいろいろ字が書かれてるけど、これがどうかしたの?」

 

「俺が考えて作った魔法陣。

 これでいろんな魔法を使えるようになることが俺の目標なんだ。

 ちょっと見てて。」

 

 地面に魔法陣を敷いて更に魔力を込めてみる。

 すると魔法陣の図形と文字が魔力光を放つ。

 

「んーと、何をしようかな。

 とりあえず火でいいか。『火行、灯火』!!」

 

 呪文自体は適当だが魔法陣の五行のうちの一つ、火行の力を出すような意味を込めて唱える。

 気と同じで魔力も意思を汲み取って、力に変えることが出来るらしい。

 その際呪文などのように何でもいいので意味を含めた言葉を唱えるとよりしっかりと力が篭る。

 言霊というやつだろう。

 

 魔法陣に込められた魔力が言葉と陣に力の方向性を決められて、陣の中心に小さな明かり程度の灯が灯る。

 

「まだこういうのしか出来ないんだけど、いつかもっとすごい術を使えるようになりたいんだ。

 那美姉さんって術式とかの組み方について何か知らない?」

 

「えっと、拓海君魔力も使えたの?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「クゥン?」

 

 そういえば、気の事は教えたけど魔力については教えてなかったっけ?

 魔力は魔力素吸収と全力放出の訓練くらいしかしてなかったからあまり意識してなかったからな。

 魔法陣を使って火とか出せれるようになったの、ついこの前だったし。

 

 魔法陣や術式については那美姉さんはあまり知らないそうで情報を得られなかった。

 実家のほうなら何か分かるかもしれないといわれたけど、そこまでするほど重要なことでもないので迷惑はかけられないと遠慮しておいた。

 

 

 

 ある日、那美姉さんに誘われて自分の住んでる寮に連れてきてもらった。

 住んでる寮の名前がさざなみ寮と聞いて、とらハシリーズの舞台の一つかと思い出した。

 

 住んでいる人たちを紹介してもらうと、病院でお世話になったフィリス先生の姉のリスティさんという人がいた。

 その繋がりで那美姉さんを紹介されたのかと思い、やっぱりあの人もとらハのキャラの一人かと確信した。

 リスティの話でこの寮の半数の人が異能や怪異に関わったりしてたりする人ばかりだと教えられる。

 後は異能の暴露大会とケモノ耳が生えたり羽が生えたりとまさにカオスだった。

 

 この女子寮の管理人が男の人で、この人が主人公かとすぐに分かった。

 既に結婚しているそうで奥さんと一緒に住んでいるが、住んでいるのは結婚前からだろう。

 年頃の女性と仮にも一緒に住んでいるんだからと「皆さん愛人さんですか?」と冗談で言ったら、管理人さんは面白いほど狼狽して、奥さんは涼しい顔をしていた。

 正確には涼しいというより寒さを感じて管理人さんに迫っていき、管理人さんの狼狽っぷりはひどくなる一方だった。

 

 ただ何人かが俺の冗談に何人か満更ではない表情をしていたのを俺は見た。

 修羅場は近い、あるいは日頃から昼ドラ的展開になっているのだろうか?

 とりあえず那美姉さんに気をつけてと言っておいたが、なんだか分かっていない様子だった。

 やっぱりこの人天然だろう。

 

 

 

 常識からだんだん外れつつあるが、割と平凡な日々を送っていた。

 声帯模写みたいな思いついた技能は異能であるなしに限らず練習して習得して、気は舞空術を使える前と同じ基礎訓練をし、魔力は魔法陣の試行錯誤を続けつつ基礎訓練、霊力はソーサーの操作と展開数を増やしていき、栄光の手っぽいのを作れるようになった。

 

 当たり前のように続く平凡な日々が続きまた一年が過ぎ去っていき、また桜の季節が来た。

 そういえばなのはちゃんが魔法少女になるのは春じゃなかっただろうか?

 正確な時間は覚えてないけど、魔法少女になるのは三年生だったはずだ。

 今は俺が三年生でなのはちゃんは二年生になったはずだ。

 

 学校は同じでも学年が違うから接触する機会は殆どない。

 接触しようとも避けようとも思ってないから、気づいたらすれ違っていたりする時もあった。

 向こうも気づいていないようだから、以前の公園のことは本当に忘れてしまってるんだろう。

 

 原作・・・・・・いや、あえてジュエルシードの件と言うが、関わろうかどうかまだ決心していない。

 放っておいたらなのはちゃんが解決してくれるのだから、下手に手を出さないほうがいいのではとも考える。

 だが実際小学三年生の子供に物事を押し付けるのはどうだろうかと思う。

 原作キャラとの接触なんて既に興味はない。

 

 ただ平凡で割と不思議のあるこの生活を護るために手を貸すべきかとも思っている。

 まあまだ一年ほどの時間はある。

 今の自分が、そしてこれからの自分が何が出来るようになるか考えて、それが分かってからでも十分だろう。

 

 

 

 そう思っていたが、割と身近にあった騒動の種がもうすぐ芽吹きそうになっていたのを俺は知らなかった。

 

 

 

 

 

●円の応用を思いついた(冷気クーラー)。

●魔法陣が少しだけ使えるようになった。

●(似せ)栄光の手を使えるようになった。

●さまざまな隠し芸技を覚えた。



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第十二話 約束された勝利の言葉

 

 

 

 

 霊力も使えるようになって、改めて魔力と気の力の性質を見極めるため相性を調べてみた。

 気は生命力から練りだされ肉体の強化などの活力になる。

 魔力は自然にある魔力素を吸収して自分の色に染めることで自分の魔力として行使できる。

 霊力は恐らく実体を持たない思念や幽霊などにもっとも作用する。

 

 霊力は気とも魔力とも相性はよくて、混ぜることで両方の性質を併せ持ったうえに力を向上させられた。

 ただし気と魔力は反発して混ぜ合わせることは出来なかった。

 この辺りはネギまと同じ様だから、合成出来れば咸卦法も使えるようになるかもしれない。

 心を無にするってのは訳解んないから、とりあえず時々気と魔力を合わせて合成できないか試し続けることにする。

 これを無意識にかつ自然に行えるようになれば、咸卦法が出来るんじゃないかと思ってる。

 まあ『能力』もあるし、その内出来るだろうと気長にいくことにした。

 

 

 

 

 

 この日もいつも通り八束神社で久遠と遊びながら、思いついた技をいろいろ試していた。

 ただ最近那美姉さんが元気無い様で少し気になった。

 

「那美姉さん、最近元気ないけどどうかした?」

 

「え、そ、そうかな?

 そんなつもりは無かったんだけどな・・・。」

 

 ふむ、まさか・・・・・・。

 

「もしかして好きな人が出来たんだけど、自分と付き合っておきながら他の女性と彼氏がいちゃいちゃしていて困っているとかですか?」

 

 この人もヒロインの一人だからね、ありえる話だろう。

 そもそもとらいあんぐるハートって、題名からして三角関係が前提のギャルゲか?

 修羅場が前提のギャルゲって今考えればすごいな・・・。

 

「ち、ちがうよ!!

 私は誰かと付き合ったりしてないし、そんな人と付き合う気もないんだからね!!」

 

「それはよかった。」

 

 あれ?ヒロインフラグ叩き折ったか?

 まあそんなの折れちゃったほうがいいな。

 

「じゃあ、何があったの?」

 

「ううん、なんでもないよ。

 ちょっとお仕事のことでちょっと気になることがあってね。」

 

 那美姉さんが八束神社にいるのは巫女としての仕事だからだけど本業は退魔師だ。

 時々久遠を連れて仕事で出ているのを俺は知っている。

 霊力を使えるようになったとはいえ俺は関係者じゃないから、首を突っ込まないように仕事関係の話は遠慮している。

 

「そうなんだ、怪我してたら言ってよ。

 俺でもヒーリング出来るんだから疲れてたらしてあげるよ?」

 

「ふふふ、じゃあその時はお願いするね。」

 

 那美姉さんはこうして俺に対してお姉さんぶりたがる事が多い。

 双子の弟がいるらしいけど、同い年だからと年下の弟とは思えないらしい。

 だから俺を弟扱いしたいんだそうな。

 最初は俺も前世から見て年下の未成年の女性を姉扱いするのは違和感があったが、一年以上経っているのでもう慣れた。

 こういう時位は姉扱いして喜ばせる気遣いくらいはする。

 

「・・・・・・拓海君、今週はお仕事で忙しくなりそうなので神社には来ないでもらえますか?」

 

「ん、いいけど・・・・・・。

 まあ、気をつけてね。」

 

「ありがとう、拓海君。

 じゃあ、またね。」

 

「うん、また。 久遠もな。」

 

「クゥン。」

 

 やはり様子がおかしい気がしたが何か仕事の事であるのだろうとそう納得しておいた。

 退魔師の仕事関係なら俺が関わるべきことじゃないしな。

 

 

 

 

 

 俺が神社から帰路について数分後、入れ違いに一人の女性が那美姉さんの前に現れた。

 

「那美。」

 

「・・・・・・薫ちゃん。」

 

「クォン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神社に通うのをやめて数日、俺は普通に学校生活と家で出来る異能で練習をしていた。

 正直言おう、俺は友達が少ない。

 

 仕方ないじゃないか、別に学校で苛められてる訳じゃないが小学三年生では俺の感性じゃとても馴染めない。

 無難に会話を交わして存在は認知はされてるが、一緒に遊ぶ特定の相手というものがいない。

 これまでずっと学校から帰れば何時も異能練習だったからなぁ。

 

 久遠が唯一の同年代の友達?

 いや、久遠はあくまで子狐、同年代の人間とは認識していない。

 でなきゃ抱っこしたり撫でたりなんて出来ないじゃないか、恥ずかしくて。

 

 

 

 とまあ、神社に通ってはいないが何も問題なく過ごしている。

 ・・・・・・過ごしているはずなんだが、神社に行かなくなってから違和感を感じている。

 

 正確には那美姉さんの様子が可笑しかった事がずっと気になってそれが違和感になってる感じだ。

 更に可笑しいのはその違和感がだんだん強くなってきているのだ。

 体調を崩してるわけじゃないが、何かが俺に何かを伝えようと警告している気がする。

 その何かが解らず、更に落ち着かないという悪循環が起こってる感じ。

 

 

 

 神社に行かなくなって数日後の夜、訳のわからない違和感に苛まれて布団に入ってもなかなか眠れなかった。

 いったいなんなんだとずっと考えてるが、落ち着かない気持ちのまま時が過ぎていった。

 

 そして、それが来たのは突然だった。

 

 

(『クォン。』)

 

 

「!? 久遠!!!」

 

 突然脳裏に久遠のイメージが響いて、体中から響く違和感がこれまでで最大の警告を鳴らしていた。

 このはっきりとした警告で、何が違和感を発していたかわかった。

 俺の霊力だった。

 

 

 最近習得した栄光の手モドキ、霊気手甲を出すとちゃんと制御は出来ているが、同時に何かを訴えるように霊気が波打っていた。

 ここまではっきりとしていたら、これがどういう力か想像がついた。

 恐らく霊感というやつだろう。

 正確には霊力が教える直感みたいなもので、それが教えるのは自身が認識していない不測の事態。

 今見えた久遠のイメージから、恐らく久遠に何かが起こる、あるは起こっているんだろう。

 

 

 

 俺は自分の霊感に従うままに、最近はあまり振っていなかった愛木刀海林を手にとって舞空術で八束神社へ飛んだ。

 高速かつ自在に飛べるようになった舞空術なら八束神社は一分もかからず見えてきた。

 

 神社の境内に人影が見えた。

 不意に凝をして視力を高めて確認する。

 見えたのは那美姉さんと久遠・・・・・・そして久遠に刀で切りかかろうとする髪の長い女性の姿だった。

 

 

 俺はこのままでは間に合わないと思い、とっさに虚空瞬動をして更に加速して墜落するように境内に転がり込み、久遠を抱き抱えて振り下ろされた刀の剣線から逃げ切った。

 虚空瞬動は普段は使う機会のない技だけど、とりあえず習得しておいた技だ。

 

 

-ドカッ!!ゴロゴロゴロゴロ!!-

 

 

「な、なんだ!?」

 

「た、拓海君!?」

 

「いたたたたた。」

 

 普通は痛いで済まないような速度での墜落だったが、日頃から堅を維持することに慣れてたおかげで地面にぶつかった時も衝撃をやわらげてくれて助かった。

 全部とっさの判断だったが、それをやり遂げた俺って割とすごいと思った。

 

「どうして拓海君がココに!?」

 

「嫌な予感がもうバリバリってしたんですよ。

 それも久遠が危ないってはっきりした感じがして。

 ・・・で、どういう事なんですか?」

 

 そういって俺は久遠を切ろうとした女性を睨みながら立ち上がる。

 これまで久遠とは一緒に遊んで来た大切な友達だ。

 妖怪とはいえ動物が友達とはっきり言うのは少し恥ずかしいが、助ける為には俺の力を全力で行使する気でいる。

 戦った事はないから主に逃げる方向で・・・。

 

「君が誰かは知らないが・・・・・・久遠を渡してくれ。

 うちは・・・・・・久遠を切らなきゃいけないんだ。」

 

 ところが切ろうとした女性の様子も可笑しいことに気づく。

 女性の声には感情の揺れがはっきりと現れて、目には涙を浮かべていた。

 

「薫ちゃんやめて!!

 久遠は大丈夫だから・・・・・・私が止めるから!!」

 

「無理だ!! もうすぐ封印が解ける!!

 もう一度封印することなんて私だって自信がない!!

 だから・・・・・・久遠は殺すしかない!!」

 

 ・・・・・・事情がわからなくて蚊帳の外です。

 刀を持った女性は久遠を殺そうとしているけど本位じゃない。

 那美姉さんは女性とどうやら親しい関係で止めようとしている。

 そして問題の中心は俺の腕の中の久遠・・・・・・?

 

 

「・・・・・・久遠?」

 

 久遠の様子が可笑しい。

 先ほどから声を出さず黙っている。

 いや、何か久遠から力を感じる。

 それがどんどん溢れてきて・・・。

 

「!! まさかもう封印が!?」

 

「そんな!!拓海君、久遠から離れて!!」

 

「って、ええぇ!!」

 

 

-バキャアァァァン!!!!-

 

-バチバチバチバチッ!!-

 

 

 何かが砕ける音とともに久遠から衝撃と雷が放たれて俺は吹き飛ばされた。

 とっさに久遠を手放して堅をしていたが、間近だったため衝撃はともかく雷を食らって体が痺れた。

 吹き飛ばされた俺のところに那美姉さんと刀の女性が駆け寄ってくる。

 

「拓海君、大丈夫!?」

 

「ええ、なんとか。

 ちょっと痺れましたけど平気です。」

 

「普通あんな近くで雷を食らったら痺れただけじゃすまないはずだが・・・」

 

 まあ、そりゃそうだけど日々の異能の訓練が護身に役立ったということで。

 

「ところで事情を説明してくれませんか?

 一番危ないのが久遠だってことしかわかってないんだけど。」

 

「那美、この子供はいったい?」

 

「ごめんなさい拓海君、巻き込んじゃって。

 実は久遠は・・・・・・」

 

 

 

 話を要約すると久遠は実は封印されていて、元は祟り狐という理性なく周囲を破壊して暴れまわる妖狐なんだそうな。

 10年ほど前に刀の女性、那美姉さんの姉の神咲薫さんが封印したが不完全だったらしくもうすぐ切れるところだった。

 その前に久遠を殺そうと思ったが那美姉さんの説得にあい遅延。

 それを振り切って敢行したがそこへ俺がダイビングキャッチで久遠を守って失敗。

 直後もう少し持つと思ってた封印が解けちゃった。

 

「というわけですか。」

 

「ええ、だから危ないから拓海君は早く逃げて。」

 

「君も何か特別な力を持っているみたいだけど、子供を巻き込むわけにはいかない。」

 

 それは大人として正しい判断だと思います。

 けど既に巻き込まれちゃった、というより知ってしまった。

 このまま逃げてどうにかなるなら逃げるけど、どうにかならないなら逃げられないじゃないか。

 

「俺も戦う、とは言いませんけどココにいます。」

 

「拓海君、ホントに危ないのよ!?」

 

「頼むから帰ってくれ。

 君を守れる余裕はないんだ。」

 

「身を守ること、あるいは逃げることくらいは出来ます。

 少なくとも那美姉さんよりはすばしっこいつもりです!!」

 

「そう・・・なのか、那美姉さん?」

 

「あはは・・・・・・確かに拓海君は私より運動できるもんね。」

 

 

-ドゴロゴロロン!!!-

 

 

「「「!!」」」

 

 話し合っていると久遠のいる辺りから再び雷が発生して周囲に降り注ぐ。

 薫さんは刀を構えてその先を見据え、那美姉さんは俺を庇う様にして前に出た。

 雷が発生したところを見ると・・・・・・

 

「・・・・・・あれ、誰ですか?」

 

「久遠だ、封印が解かれた。」

 

「久遠・・・・・・」

 

 二人は全力で警戒しているが、俺はかなり戸惑っていた。

 封印の解けた久遠は人の姿をしているが、以前見た俺と同い年くらいの子供の姿じゃない。

 立派に成人したくらいのスタイルがはっきりとした年頃の女性になっていた。

 その上服装は子供姿の久遠に似た巫女っぽい服装だが、足のところにスリットが入って太ももが丸見えだ。

 

 もしかして久遠もとらハシリーズのヒロインの一人だったのかと思いちょっと悲しくなった。

 子供だと思っていた子がいつの間にか恋人を作って結婚して行ってしまったような。

 かなり切迫した状況だというのに、俺は緊張感が持ちきれず二人との温度差を感じていた。

 

「くおーん!!、しっかりしてー!!」

 

「『アアアアアアアアアア!!!』」 

 

 那美姉さんが久遠に呼びかけるが、逆に久遠は人の姿でも鋭い爪を振り上げて叫び声を上げながら襲い掛かってきた。

 すかさず薫さんが那美姉さんと久遠の間に入り込み、刀で久遠のツメを受け止めた。

 

「くっ!! はあっ!!」

 

 更に刀を押し込みながら振り切る事で久遠を退けて、更に追撃に前に出て刀を久遠目掛けて打ち込んでいく。

 よく見れば薫さんの刀には霊力が込められているらしく、淡い霊気の光が炎のようになって取り巻いている。

 

 対して久遠は全身からは黒い煙のような濃厚な霊気が体を纏わり付いていた。

 霊力による凝、いわば霊視をしてみたら何か強い負の感情が読み取れた。

 恨み、怒り、憎しみ。 感じ取れる感情を挙げたら切りがないが、恐怖を感じる以上にとても悲しい気持ちになった。

 久遠がこんな感情を持っているというのもあるが、直に感じ取れた負の感情は俺にそんな感情は悲しすぎると俺に思わせた。

 

 

「那美姉さん、久遠の体から出てる黒い煙のような霊気はいったい何なんです?」

 

「あれが久遠を暴走させている恨みや憎しみの元である祟りよ。

 あれがあるから久遠は理性と優しい心を失って回りを手当たり次第に攻撃しちゃう。

 あの感情に負けないように久遠に心を強くしてほしかったけどダメだった・・・。」

 

 那美姉さんに事情を聞く間も、薫さんと暴走する久遠の戦いは続いた。

 薫さんはすごい速さで切るかかるが、それ以上の力と速さで両手の爪を振るってはずした攻撃が地面や木を削り取っていく。

 

「久遠を元に戻す方法はないんですか?」

 

「前に封印が解けたときに再び封印をかけたのは薫ちゃんなの。

 だけどその時は他にも人がいたし、今の久遠は薫ちゃんでも手一杯だから。」

 

 実際の戦いなんて始めてみたけど、力も早さも久遠のほうが圧倒的に上といった感じ、薫さんはそれを受け流したり避けたりするだけでなかなか攻撃を行えていない。

 

 俺が、戦うべきなのか?

 久遠は助けたいけど、技は練習しただけで刀の打ち合いどころか振り方すらまともに学んでいない。

 気で身体能力を上げれば今の久遠の運動能力くらいには追いつけそうではあるけど、それだけじゃどう考えたってまともな戦いにならない。

 やっぱり身を守るためでも戦いの基礎くらい学んでおくべきだったか・・・。

 

 そもそも学ぶ先がなかったし、戦いに関わるのは一年後のジュエルシード事件だと思ってたからな・・・

 戦いは何時も準備不足って、どっかの格言にあったっけ・・・

 

 

「封印の解けた久遠が手ごわいとは分かっていたが、今のうちでも受けに回るのが精一杯とは。

 クッ、神気発勝!! 神咲一灯流!! 真威・楓陣刃!!」

 

「『アアアアアアアアアア!!!!』」

 

 振り下ろした刀から霊気の球が打ち出され久遠に向かって飛来する。

 それを見た久遠は全身から雷が迸り、霊気の玉を打ち砕くべく雷を開放した。

 雷はろくに制御されてないらしくいくつのも帯になって周囲を破壊し、更には薫さんの放った霊力の玉を撃墜してそのまま薫さんを直撃した。

 

「ガハッ!!」

 

「薫ちゃん!?」

 

 雷を食らってその場に膝を突くが、刀を支えにしているので意識はあった。

 

「だ、大丈夫だ・・・・・・

 私は退魔道・神咲一灯流の正当伝承者・・・・・・

 これは・・・私がやらなければいけないんだ・・・」

 

 再び立ち上がって刀を構えるが、俺から見ても既にふらふらで負けるのもそう遠くないと分かった。

 

 どうすればいい・・・・・・俺の使える異能で何か役立てることは出来ないか!!

 俺じゃ気で強化しても体格の差でまともに打ち合えない、実戦どころか稽古すらやったことない俺じゃ打ち合いなんて出来やしない。

 

「久遠!! お願いだから!! いつもの優しい久遠に戻って!!

 くおーん!!!!」

 

 再び那美姉さんが久遠に呼びかけると反応してこちらを見て認識した。

 こちらに来るかと思い、海林に全力で気と霊力を込めて受け止める体制をとる。

 

「『アアア・・・アアアアア・・・ナ・・・ミ・・・・・・』」

 

「!? 久遠の意識が!!」

 

「!!久遠、そうよ私よ!!

 私はココにいるから!! だから祟りなんかに、恨みや憎しみなんかに負けないで!!」

 

「『アア・・・アアアア・・・・・・アアアアアアアア!!!!』」

 

 まだ完全に理性を失っていないのか、久遠は那美姉さんの名前を呟く。

 久遠はその場で頭を抱えで何かを振り払うように頭を振って叫び声を上げる。

 

「久遠!! 戦ってるのね!!

 負けないで!!」

 

「『アアアアアアアアアアアアア!!!』」

 

「那美姉さん!!」

 

 叫び声と共に再び無造作に周囲に雷がばら撒かれ、そのひとつが那美姉さんのほうに飛んできた。

 俺は防御手段の無さそうな那美姉さんの前に出て、海林を構えてそれで雷を受け止めた。

 

「拓海君!!無茶しないで!!」

 

「大丈夫です、気を張ってたんでちょっとビリッとした程度です。」

 

 実際ほんとにそれくらいの痛みで済んだ。

 現在堅と体の身体強化を全力でやっている。

 とりあえず基礎能力は十分戦闘に耐えられる程度には持っていたらしい。

 

 俺は考える、この状況で俺に何が出来るのか。

 これまで俺はただ不思議な力が使いたくていろいろ実験してきた。

 それは戦いなんてもの使うためでなく、あったら便利だなという程度の好奇心でしかなった。

 ゆえに俺が出来るのは戦う術でなく、この状況をどうにかする方法を考えること。

 

 そして一つ思いついた、この状況にまさにふさわしく久遠を救えるかもしれない手段。

 霊視する先の久遠は祟りと思える体から立ち上る黒い霊気を、頭を振って振り払おうとしあまり動いていない。

 この状況なら・・・・・・。

 

「那美姉さん、久遠が苦しんでいる理由はその祟りってやつが原因なんだよね。

 それってあの久遠から滲み出している黒い霊気?」

 

「ええ、あれは久遠が自分でもどうすることの出来なくなった強い恨みの思念よ。」

 

「アレだけを倒す事が出来れば久遠は助けることが出来るんだよね。

 なら一つ試させて。」

 

「!!ダメよ拓海君!!

 拓海君は才能があると思うけどまだ子供なのよ!!」

 

「那美姉さん、俺は確かに子供だけどあまり子供扱いされるの好きじゃない。

 俺だって久遠を助けたいと思ってるんだ。

 だから出来ると思ったことをやりたい!!」

 

「拓海君・・・・・・」

 

 引き止める那美姉さんを説得して俺は久遠に近づいていく。

 

「『アアアア・・・アアアアア・・・・・』」

 

「すぅっ・・・・・・久遠!!聞こえるか!!」

 

「『!!アアア・・・ああああ・・・・・・タク・・・ミ・・・・』」

 

「俺が何とかしてやる!! だからそこでじっとしていろ!!」

 

 そう言って俺はただ海林を振りかぶる。

 剣術の心得なんかない俺じゃ、きれいに振るとかなんて考えずただ振り下ろすだけ。

 俺はこれまで以上に気を練り霊気を込めて海林に力を注いでいく。

 連続して使える技じゃなくいつまで久遠が止まっていてくれるか分からない。

 急ぎかつ全力で集中して技の体勢に入る。

 

「『アアア・・・アア・・・・・・アアアアアアアアアア!!!!』」

 

「グウッ!!」

 

「拓海君!!」「やめろ、離れるんだ!!」

 

 久遠から再び放たれた無差別の雷が、傍まで来ていた俺に直撃する。

 海林に力を全力で送っていたので防御の堅がおろそかになっていたのか、先ほど食らった雷よりずっと痛かった。

 だがそれでも集中を続ける。

 やめるわけにはもういかないからだ。

 

 この技を習得したのは面白そうだからという好奇心だ。

 ネタ技としてかくし芸に様に皆に披露する日でも来るかとすら思っていた。

 だがこの技が真の意味で、本来の目的で使われる日が来てしまった。

 俺も使うとは思っていなかったが、この状況はまさにあの台詞の使いどころ。

 

「そう・・・こんなこともあろうかと!! この技の練習をしておいてよかった!!

 いくぞ久遠、いつものように撫でてやるだけだ!!」

 

 気と霊気の宿った海林に込める思いは、いつものようにゴットハンドで撫でる落ち着きや安らぎ。

 そして狙うのは今も霊視をして見据えている久遠から出ている黒い霊気、祟りの大元。

 

 この技が失敗するなんて思っていなかった、久遠を切る気持ちなんてこれっぽっちも湧かない。

 ただ久遠とまた一緒に遊んで撫でたり日向ぼっこしたりしてゆっくり平凡な日々を過ごす。

 そんな代わり映えののない日常が頭に過ぎ去り、これからも続くという願いを込めて完成した技を久遠に宿る祟りに向けて放った。

 

 

「斬魔剣 弐の太刀!!!!」

 

 

 目に見えない実体無きものを切り、なおかつ切るものを選ぶ本来神鳴流の真髄の技。

 遊びで覚えた俺がこの技を正しく使う日が来るとは思わなかった。

 神鳴流もまた那美姉さんの使う退魔剣術。

 その心得なんてもののない俺が使うのはよく考えれば非常に失礼なことだが、今ココで使わせてもらうことに感謝した。

 おかげで久遠が救えると・・・

 

 放たれた斬魔剣の剣撃は久遠のまっすぐ突き進み、当たると祟りだけを久遠からはじき出し吹き飛ばした。

 本当はそのまま倒したかったのだが、切る意思を入れると誤って久遠を切りかねないと、弾き飛ばすイメージで久遠の中から叩き出した。

 

 

「『アアアアアァァァァァ』ぁぁぁぁ・・・・・・あぁ(バタン)」

 

「うそぉ・・・・・・」

 

「祟りだけを・・・・・・切り飛ばしたのか?」

 

 久遠の体から叩き出された祟りは、そのまま煙の塊のようになって宙に浮かびあがった。

 祟りが抜け出た久遠は力が抜けてその場で倒れ付した。

 俺も防御が甘い状態で雷を受け、更に全力で気と霊力を放ったので一気に力が抜けそうになるがまだ終わってないと足を踏ん張る。

 

「後は・・・こいつだけか・・・・・・」

 

 眼前に浮かぶ黒い煙の固まり、祟り。

 久遠から抜け出た思念の固まりは、霊視出来るからか俺にこれ以上無い悲壮感を感じさせた。

 後は那美姉さんと薫さんに任せようと思ったが、これだけなら俺がやればすぐ終わる。

 久遠を苦しめた恨みも憎しみも無く、ただこんな気持ちは無くなってしまえという思いを優先して。

 

「那美姉さん、これをどうにかすれば終わりだよね。」

 

「え、ええ。」

 

「待て、後は私たちがやる。

 ここまでしてくれれば十分だ。

 君にもそんなに力が残っていないだろう。」

 

「ええ、一気に使い切っちゃってだいぶ減ってます。

 けどこれくらいなら・・・」

 

 俺は久々に直死の魔眼を開放する。

 これも始めてまともに使用するが、霊視と合わせていたせいか死線と死点がこれまででもっともよく見える。

 俺は無造作に煙状の祟りの死点を、霊力を僅かに込めた海林でトンッと突いた。

 直死の魔眼には実態在る無しに死が見えるから、気の篭ってない武器で突いても効果はあるはずだが、念のため霊力を込めて突いた。

 死点を疲れた祟りは一瞬で収縮して、その後光になってはじけ飛んだ。

 最後はあっけない幕切れだったな。

 

 終わったと思ったら今度こそ完全に力が抜けてその場に座り込んだ。

 それを見て那美姉さんが駆け寄ってきた。

 

「拓海君、大丈夫!?」

 

「ええ、まだ体が痺れていて、力も使いすぎてちょっと眠いです。

 そういえば、もう寝る時間でしたね・・・。」

 

「そう、よかった。

 後片付けは私がやっておくから休んでて。

 それと・・・・・・。」

 

-久遠を助けてくれて有難う。-

 

 

 

 那美姉さんの言葉を最後まで聞く前に俺の意識は落ちてしまった。

 久遠がどうなったかと聞きたかったが、体力的にも精神的にも年齢的のも限界だった。

 このとき既に午前0時過ぎ、8歳の子供は寝てる時間です。

 

 

 

 

 

●霊感を自覚した。

●栄光の手モドキは霊気手甲と命名。

●直死の魔眼で死点がはっきり見えるようになった。



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第十三話 実際幽霊って突然現れたら恐いよね。

 

 

 

 

 

 久遠を助けて意識を失い、目が覚めると病院のベッドの上にいた。

 体には久遠の放った雷を受けて所々火傷を負っていたはずだけど、そんな跡は残っておらず痛みもなかった。

 気を使うようになったせいか、傷の治りが普通の人より早いがこんなにすぐ直るはずは無い。

 たぶん那美姉さんがヒーリングをかけてくれたんだろう。

 

 病室はどうやら個室のようで俺以外誰もいなかった。

 時刻は昼過ぎで、とりあえずナースコールを押して起きた事を伝えることにする。

 あの後どうなったんだろう?

 

 

 

 ナースコールを押してすぐ、見覚えのある銀髪の先生がやってきた。

 那美姉さんを紹介してくれたフィリス先生だ。

 

「あ、お久しぶりです。」

 

「お久しぶりじゃないですよ。

 那美さんに聞きました。

 危ない事して怪我をしたそうじゃないですか。」

 

 フィリス先生に聞くと今は事件が起こった日の昼で、まだ半日くらいしか経っていなかった。

 

「フィリス先生は事情を知ってるんですか?」

 

「那美さん達のお仕事については知っています。

 ご両親には連絡をして那美さん達が事情を説明した後、拓海君が大事無いとわかったので一度帰られました。

 那美さん達は事件の後片付けだそうです。

 拓海くんが起きたらご両親と那美さん達に連絡を入れるように言われてますので、既に連絡を入れておきました。

 もうすぐ来ると思うのでおとなしく待っててください。」

 

「あー、はい。

 やっぱり怒られますよね。」

 

「今後こんなことが無いようにしっかり怒られてください。

 特殊な力を持っていてもあなたは子供なんですからね。」

 

「・・・・・・はい。」

 

 フィリス先生も事情は知っているようで、当事者のように俺のことを怒っている。

 そう何度もあったことのない子供でもしっかり考えてくれるいい先生だと思う。

 ただやっぱり説教されると思うといい気はしない。

 この後夜中に家を飛びたしたから両親にも怒られるのだと思うと気分が沈む。

 子供が早く大人になりたいって思う気持ちが改めて理解できたよ・・・

 

 

 

 

 

 その後両親が先に到着して事情は説明されてたからか、問い詰められたりすることがない分短めに済んだがきっちりと怒られました。

 事情を理解してもらってる分、怒られる理由がはっきりしていて反論する余裕もなかったから、黙って説教を聞いて最後に心配かけてごめんなさいと謝って終わった。

 この日はとりあえずは様子を見るために病院に泊まることになったので、両親は説教が終わったら先に家に帰りました。

 

 夕方になり外が赤く染まった頃に那美姉さんと薫さんが後片付けを終えて見舞いにやってきた。

 そして那美姉さんの後ろには耳と尻尾は無いが女の子の姿の久遠がくっついていた。

 

「えーと、那美姉さん、久遠、薫さん。

 いらっしゃい。でいいのかな?」

 

「気を使わないでいいよ。

 拓海君を怪我させちゃったのは私達のせいなんだから。」

 

「その通りだ。

 うちがもっとしっかりしていれば君に怪我を負わせることも無かった。

 本当にすまなかった。」

 

 薫さんがだいぶ責任を感じているのか深々と頭を下げた。

 

「いいんですよ、勝手に首を突っ込んで怪我をしたのは俺なんですから。

 俺はただ久遠を助けたいって思って、ただそれだけを考えて行動してたんです。」

 

 そう言って久遠を見ると、目が合った久遠はなぜか那美姉さんの後ろに隠れてしまった。

 

「? 久遠?」

 

「久遠は拓海君を怪我させちゃった事を気にしてるの。

 ほら久遠、拓海君に謝るんじゃなかったの?」

 

「・・・・・・(パクパク)」

 

 那美姉さんに言われて久遠は俺の前に出てきて、口をパクパクさせている。

 俺はそんな様子を見て、黙って久遠が何をするのかを見守った。

 

「・・・た・・・くみ・・・・・・ごめん・・・・・・なさい・・・。」

 

「久遠・・・・・・。」

 

 久遠が喋るのを聞いたのは昨日の夜が初めてで、これまで人の姿でもまともに喋ったところを聞いたことは無かった。

 実際の会話はこれが初めてになるが、久遠はうまく喋れない様子でたどたどしい喋り方だった。

 だが、久遠の様子は始めてあった頃の怯えが見えて恐がっているのがわかった。

 だから俺はいつものようにゴットハンドを発動。

 人の姿で撫でるのも初めてだけど、いつものように頭を気を込めた手で優しく撫でてやった。

 

「久遠、俺は気にしてないぞ。

 お前のほうこそ大丈夫だったか?」

 

「ク・・・・・・クゥン(コクン)」

 

 やはりまだろくに喋れないらしく、人の姿なのにいつもの鳴き声で応えながら頷く。

 

「そっか、よかったな久遠。」

 

「クッ!! クォン!!!」

 

 嬉しくなったのか久遠はベットの上に飛び乗って抱きついてくる。

 人の姿で抱き疲れるのは少し恥ずかしいが、今回くらいはまあいいだろうと諦めて抱きとめながら頭を撫で続けてやった。

 

 

 

 空気を読んで何も言わずにいてくれた薫さんがそろそろいいかと質問してきた。

 

「久遠についてはうちからも改めて御礼を言わせてくれ、ありがとう。

 だが久遠から祟りを追い払って、その上一撃で消し去ったあれは何だ?

 斬魔剣弐の太刀と言っていたが、何処かの流派の技なのか?」

 

 まあ、本業の人からすれば気になりますよね、斬魔剣弐の太刀。

 この世界にはネギまの漫画が無いから、名前自体ないし、使えるとも普通は思えない技だよな。

 今思うとよく使えたなあんな状況で。

 結構集中がいるから失敗する可能性のほうが高いはずだ。

 もう二度とこんなこと無いと思いたいけど、もしもの時の為にしっかりと練習しておこう。

 

「俺は流派どころか剣術なんて習ってませんよ。

 全部自分で考えた技を練習して習得しただけです。」

 

「まさか、そんなばかな話が・・・。

 祟りを追い払った一撃は間違いなく久遠自身にも当たっていたのに無傷だった。

 あんな技、うちは聞いたこともないし出来るとも思えない!!

 そんな技を我流で編み出したって言うのか!?」

 

 編み出しちゃったんです。

 元ネタは別にあるけど、自分で手探りでどうやったら出来るのか考えて使えるようになりました。

 そろそろ『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』がハンパなくなってきた。

 ちゃんと努力してるから普通に成長してるようにしか感じないからなぁ。

 本当はもっと努力を重ねなきゃ出来ないことだってのは知ってるんだけど・・・

 

「えっと、実際に俺が考えて編み出したんです。

 それに技は使えますけど、剣術なんてほんとにやったことないから素人ですよ。

 気が使えるからその分普通の人よりは強いですけど。」

 

「そ、そうなのか?」

 

「あはは・・・・・・拓海くんは不思議な子だもんね。

 他にも魔力とか霊力も使えて、術なんか自力で開発しちゃってるし。

 霊力は私が教えたけど二週間で使えるようになったのよ。

 拓海君ががんばっているのは知ってるけど、才能がうらやましいな。」

 

「非常識な・・・・・・。」

 

 そこまで言うかなぁ・・・・・。

 確かにこの年で気、魔力、霊力と三種類も不思議な力を使えるのは普通はいない。

 

 ああ、うん。

 確かに現実的に考えて十分非常識だ。

 いろいろ使えるようになってだいぶ価値観がずれてきてたみたいだ。

 今後は自重するようにしよう。

 

「確かに自分でも普通の子供とは違いすぎてきた気がしました。

 けど、祟りを消した技はともかく、斬魔剣弐の太刀はちゃんと練習すれば誰でも出来る可能性はあると思いますよ。

 何なら教えましょうか?」

 

 直死の魔眼については黙っている事にしておく。

 危険な能力だし、誰かに無意味に教えて変に勘繰られたら嫌だし。

 まあ今回みたいな事は早々ないはずだから、今後使うことも殆ど無いだろう。

 

 自分から厄介ごとに突っ込まなければ、現実的に騒動には巻き込まれることは早々ないはずだ。

 そうだよな、神様!!

 

「な!? 剣技と言うものは伝統をもって正統に受け継がれなければいけないものだ!!

 そんなホイホイと教えるな度々言うものではない!!」

 

「いや、俺が一人で考えた技なんで、教えるかどうかなんて俺の自由でしょ?

 伝統とかなんて当然ないし、流派なんてものじゃないんですから・・・。」

 

「しかし・・・・・・」

 

 剣、あるいは流派に誇りを持っているのか、簡単に教えるという俺にどうにも納得のいかない様子の薫さん。

 確か那美姉さんが使う剣術は神咲一灯流って名前だったな。

 薫さんもたぶん同じ剣術を使うんだろう。

 

「薫ちゃんはね、こう見えて神咲一灯流の正当伝承者なの。

 だからそういう伝統をとても大事にしているから我慢できないんだよね。

 薫ちゃんは、拓海君の技をどう思ってるの?」

 

「む、それは・・・・・・正直興味深いし学べるものなら学んでみたい。

 人を切らずして霊を祓うことが出来うる剣ならば、憑かれた人を容易に祓う退魔師としては最高の技だろう。」

 

 そりゃ退魔行を生業とする神鳴流の奥義らしいからね。

 もともとその為の技だと思うし。

 

「んー、でしたら教えを受けろとまで偉そうな事言いませんが、少し出来るか試してもらえませんか?

 自分の考えた技が他の人から見たらどういうものなのか感想を聞きたいです。」

 

「・・・・・・分かった、斬魔剣弐の太刀是非とも教えてくれないか?」

 

「分かりました、じゃあまた今度空いた時にでも。」

 

「よろしくお願いする。

 しかしタダで教えてもらうわけにもいくまい。

 今回の件も含めて何か礼をさせてほしい。」

 

「でしたら、頼みたいことがあるんです。」

 

「何でも言ってくれ、出来うる限りの事はしよう。」

 

 

 頼んだのは神咲さんが手に入れられる異能の術の情報。

 ブっちゃげ自力で作った魔法陣、今の俺じゃこれ以上の発展をさせられそうにありません。

 現実的に考えて、碌な知識も無しに一人でやるのはもう無理。

 発動しただけで十分な成果と考えていいだろう。

 

 後はミッド式なりベルカ式なり何か手本になるような術式がないと手の加えようがない。

 そう思っていたが、この世界にも一般的ではないが異能は存在する。

 なら日本の異能で有名な式神とか存在しないだろうかと考えた。

 

 式神はさまざまなフィクションに存在していて、日本式の使い魔と呼べるものだ。

 作品ごとに違うが専用の式神から簡易の式神まで存在していた。

 使い魔のほしい俺には、式神の術式も十分ほしい情報だ。

 

「そういう本なら確かに実家にあったと思う。

 門外不出のものは渡せないが、それ以外でもいくつかあったと思う。

 今回の件の報告で実家に戻ったら取ってこよう。」

 

「ありがとうございます!!」

 

 うれしくて少しばかり声を張り上げてしまう。

 式神は何処まで生き物を再現できるかな?

 大きな動物に跨って移動するのって実際どんな気持ちなんだろう?

 俺は想像していた式神の姿に少しばかり興奮していた。

 

「薫ちゃん、剣技を教えてもらうんなら彼女を紹介しないと。

 大事な相棒なんでしょ。」

 

「ん、そうだったな。

 拓海君、紹介しておきたい人物がいる。」

 

「はい? なんですか?」

 

 妄想していて少しばかり現実から遠のいていた。

 最近の俺、ちょっと羽目が外れすぎてるな。

 本気で自重することを意識しておかないと。

 

「この剣だ、十六夜。」

 

-シャキン--パアァ-

 

 薫さんが持っていた真剣を少し抜くと刀身が輝いて傍に仄かな光が集まりだす。

 そこまではよかった。 が・・・・・・

 

「!?!?!?」

 

 仄かな光は人を形作り始め、ぼんやりと現れたのは白い袴のような服装にに金髪の目に光を感じられない異国の女性。

 

「始めまして、拓海様。

 わたしくし、霊剣十六夜と申します。

 ・・・・・・?」

 

「? どうした拓海君。」

 

「拓海君?」

 

「・・・・・・(ポテッ)」

 

「え!? 拓海君!?

 ・・・・・・・・・(ヒラヒラ)

 ・・・・・・薫ちゃん、拓海君、気絶ちゃってる。」

 

「は?」「え?」「くー?」

 

 

 

 

 

 仕方ないだろ!!予備動作はあったとはいえ、いきなり目の前に幽霊が現れたんだから!!

 あの後すぐ気が付いた俺は、落ち込んでいる十六夜さんを慰めることになった。

 だってこの人目が見えないから光が瞳にない上、日本人じゃないから見慣れていない分余計にホラーな感じがして恐かったんだよ!!

 皆も想像してみなよ、美人でも金髪の女性がうっすらと現れてくるところを。

 

 で、俺に恐がられたことでショックを受けていた十六夜さんを慰めるという、インパクトある自己紹介はこれで終わり、また後日話をすることで今日はお開きになった。

 

 久遠の一件に飛び込んだとき、終わってみれば何やってるんだろう俺って思った。

 運命的に騒動に巻き込まれたわけじゃないから、神様は約束を守ってくれているはずだ。

 恐らくこれは海鳴市で起こるであろう特殊な事件だったんだろう。

 久遠自体とらハのキャラだったんだから、関わっていれば厄介ごとに巻き込まれることに気づいたはずだ。

 それに気づかなかったのは俺が悪いし、久遠が大切なのと自分の力を過信して騒動に飛び込んだのも俺が悪い。

 

 だから今回の騒動に巻き込まれたことには何も不満に感じていない。

 そのおかげでこれからも久遠や那美姉さんと楽しく過ごせるだから。

 

 

 

 ふと考えた。

 俺がこの事件に関わらなければどうなったんだろうかと。

 とらハならちゃんとハッピーエンドが用意されているはずだから、結果は変わらず久遠は助かったんだろう。

 だけどここはリリなの世界だし、そもそも現実なんだ。

 何もかもうまくハッピーエンドが用意されてるわけじゃない。

 久遠は俺が助けなくても助かったんだろうか?

 

 

 

 この答えの出ない問いに対する納得のいく答えが出るのは当分先だった。

 

 

 

 

 



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第十四話 師匠と・・・・・・師匠

 

 

 

 

 無事退院して一週間経った頃、実家に事件の報告に行っていた薫さんが戻ってきて、早速斬魔剣弐の太刀の練習を行うことになった。

 今回は薫さんが場所を用意してくれて、さざなみ寮の近くの山の中の開けた場所で練習することになった。

 

 それとお土産として陰陽術や式神の術について纏められた本を持ってきてくれました。

 後で読んで魔法陣の参考にしよう。

 最初から作り直しかもしれないけど。

 

「拓海君、技を教えてもらう前に君の剣の腕を見せてほしいのだが。」

 

「構いませんけど、前も言いましたが素人ですよ。

 気は使わないほうがいいですか?」

 

「その方がしっかりと君の実力が見れるな。

 うちが相手になるから打ち込んできてくれ。」

 

「わかりました。 では・・・」

 

 薫さんは練習用の木刀を構え、俺はいつもの愛木刀海林で打ち込んでいった。

 

 

 

 当然剣の心得などなく気も使っていない子供の俺じゃ、薫さんに一撃を入れるなんて出来るはずもなく全部余裕で受け止められた。

 

「・・・・・・ほんとに素人のようだね。

 構えも太刀筋も振り方も全部めちゃくちゃだ・・・。」

 

「だからそう言ってるじゃないですか。」

 

 まあ薫さんみたいな剣の実力者なら、そんな子供から何か教わることがあるとはとても思えないんだろうけど。

 

「拓海君、技を教えてもらうお礼といっては何だが、神咲一刀流の剣術を学んで見る気はないか?」

 

「エーと、俺技とか考えるのは好きですけど戦いとかはちょっと・・・。

 それに簡単に教えちゃダメだって、薫さん言ってたじゃないですか。」

 

「大丈夫だよ、私の実家では退魔を行う神咲一灯流とは別に、表で剣を教える神咲一刀流があるんだ。

 教えるのはその表のほうだよ。

 護身術くらいに考えてくれてかまわない。」

 

 護身術か・・・・・・そういえば久遠の時は技を放つ以外に碌に戦わなかったけど、まともに戦ってたら火傷だけじゃすまなかったかも。

 いい機会だし身を守るための剣の振り方をちゃんと学んでみるのもいいかな。

 

「分かりました、よろしくお願いします。

 やっぱり教えてくれるだから、薫師匠って呼んだほうがいいですか?」

 

「薫師匠・・・・・・・・・(コクコク)

 よしわかった!! みっちり鍛えて君を一流の剣士にしてみせる!!」

 

「いや、そこまでは・・・。」

 

 何かデジャブ。

 そこまで張り切られると非常にやりにくいのですが・・・・。

 護身術レベルでいいのに。

 

「じゃあ拓海くんも技を教えるわけだから拓海師匠なんだね。」

 

「「え?」」「クォン。」

 

 これまで黙って見ていたが、那美姉さんと久遠も当然一緒にいる。

 俺の呼び方は普通でいいです。

 

 

 

 

 

 教えるに当たって、俺の剣の技を一通り教えました。

 具体的には斬岩剣、斬空閃、斬魔剣の三つの技。

 斬魔剣は魔力弾を中に浮かせての実証です。

 

「とりあえず今のが俺の考えた剣技の基本ですね。

 弐の太刀は気に意思を込めることで意思の力で物を切る技です。」

 

「待ってくれ、うちは霊力は使えるが気は使えないんだが・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「だ、大丈夫!!

 霊力でも使えるはずです、たぶん!!」

 

「たぶん・・・・・・」

 

「と、とりあえず試してみます!!」

 

 俺は栄光の手モドキを展開して更に霊波刀を作る。

 その霊波刀に弐の太刀を使うための意思を少し集中して込める。

 そして隣り合わせに並べた的の柱の両方を霊波刀が通り過ぎて片方が切れるように、意思を込めた弐の太刀で的を振り切った。

 霊波刀の刃が通り過ぎると、狙ったとおりの片方の的だけが切れた。

 

 やっぱり霊気でも問題なく弐の太刀は使えるみたいだ。

 霊力は気よりは威力が弱いかわりに意思の力が通りやすかった。

 御蔭で気よりは斬魔剣弐の太刀を使いやすい。

 

 ただ、かわりに気に比べて物理的な威力が感じられなかった。

 恐らく霊気がもともと非実体に特化してるから意思が通りやすい代わりに物理的な効果が低いんだろう。

 気と霊気は併用出来るからあまり問題はないけど。

 

「大丈夫ですね。

 ちゃんと霊気でも弐の太刀は使えましたよ。

 むしろ気よりも意思を込め易かったです。」

 

「あ、ああ・・・。 ところでそれは何だい?」

 

「それ?」

 

 薫師匠は俺が展開した霊波刀を指差しながら言った。

 

「えっと霊気で作った剣、文字通り霊波刀ですが?」

 

「うちにはそういうことも出来ないんだが。」

 

「わぁ、拓海君何時の間にそんなこと出来るようになってたの?

 霊力を教えたの私だったんだけどなぁ・・・。

 いつの間にか霊力の扱い、私よりうまくなってるし・・・。」

 

 結構前だったけど見せたことなかったからな~

 文殊の作成のために霊力の収束は練習してるけど出来る兆しはなし。

 気長にがんばってみるけど、今度ばかりは自信がないかも・・・

 

「霊波刀は出来なくても大丈夫ですよ。

 さすがに物理法則を無視して切らないように切るのは真剣では無理だから、霊力を飛ばすなりして本来物理的なものじゃない攻撃方法が必要ですけど。」

 

「それならまあ出来るが・・・。」

 

 そんなこんなで弐の太刀の伝授は薫さんが戸惑いながらも進んだが、いろいろ問題が発生した。

 霊気に意思を込めるというものは初めて知った事らしく、攻撃的な意思ならこれまでの経験から非常に容易だった分、逆に攻撃しながら傷つけないと言う意思を込めるのは難しかったらしい。

 その上薫さんの剣には十六夜さんが宿っているので意思が混在してしまうから、弐の太刀との相性が悪かった。

 その為仕事で十六夜さんを使う以上、弐の太刀を使うなら別の刀を使うか十六夜さんの意思が混在しないように統一しなければならないなどの問題が浮き彫りになった。

 

 今回は仕方ないので練習用の木刀でやっていたが、試しに那美姉さんが弐の太刀をやってみたら薫さんより成果が現れた。

 薫さんより込められた霊力が少ないので威力は低いが、切らずに切ると言う意思の込め方は那美姉さんのほうがうまかったみたいだ。

 話では那美姉さんは剣はあまり得意じゃないらしい。

 その為、那美姉さんの方がうまく出来たことが、薫さんにショックを与えて少し落ち込むこととなった。

 

 

 

 斬魔剣弐の太刀の教えられるところは教えたので、その後は剣術の基礎的な事を今度は薫さんから教えてもらいました。

 正しい剣の降り方や姿勢や足運びなどの細かなことなので、癖とかがあるので時間をかけて体に覚えさせていくべき事だった。

 薫さんは翌日からまたお仕事で遠くへ行くそうで、今日は結局基礎的な事を教えあって次会うときまで自己鍛錬ということになってしまった。

 

「忙しいのに時間をもらってしまってすいません。」

 

「それはお互い様だから、気にしなくていいよ。

 うちもまだまだ鍛えるべきことが見つかったからね。

 それよりも教えると言っておいて時間を取れなくて申し訳ない。

 かわりに那美、お前が教えといてくれないか?」

 

「え、わたしが?」

 

「那美も神咲一刀流を納めてはいるんだ。

 剣の腕を鈍らせないためにも一緒に学びなおしたらどうだ?

 うちよりも斬魔剣弐の太刀の適正が有りそうだし・・・・・・」

 

「あはは・・・・・・拓海君、私じゃ薫ちゃんの代わりは勤まりきらないと思うけどそれでもいいかな?

 私も少しだけなら拓海君に教えて上げられると思うし。」

 

「俺は構わないよ。

 その代わりに那美姉さんにも弐の太刀を教えてればいいんだね?」

 

「私もいいの?」

 

「かまわないよ。 那美姉さんが覚えてみたいって言うなら。」

 

「じゃあ、おねがいしようかな。

 私も仕事ではあまり剣を使わないほうだけど、これが使えたらきっと久遠みたいに助けられる人がいると思うから。」

 

 那美姉さんは退魔師の仕事の時霊を倒すんじゃなく、出来るだけ話し合いで霊を成仏させようとするらしい。

 だから相手を攻撃しようとする意思を剣に込めないから、その分弐の太刀の適正があったんだろう。

 

「ところで拓海君。

 何でこの技って弐の太刀って言うの?

 弐があるってことは参があるのかな?」

 

「参の太刀ですか?

 んー・・・・・・」

 

 そういえばこの技に続く技って神鳴流にあったんだろうか?

 俺にはちょっと覚えがないんだが・・・

 弐ってつけちゃったから続きを自分で考えたほうがいいかな?

 

「那美、この技は拓海君が苦労して編み出した技だ。

 相当苦労して編み出したであろう技だから、これ以上となると相当時間をかけるはずだ。」

 

「いえ、技の成功自体はそうかかりませんでしたよ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

 技のネタ自体は他所から仕入れたものだしね。

 考えたのはどうしたら使えるのかってだけだし。

 

「んー・・・・・・・・・・・・あ、そうだ。

 参の太刀になりそうな技を考え付きました。」

 

「へぇ、さすが拓海君ね。」

 

「いや、技と言うものはそう簡単に思いついても出来るものではないんだが・・・」

 

 まあ、思いついた技は弐の太刀の更に発展系だから訓練次第で十分出来る可能性が在る。

 ついでに斬魔剣弐の太刀や他の技も実践で自在に使えるようにしておかないと。

 久遠の件で技は使えても使いこなせないのは結構不味いと言うことが十二分に理解できたし。

 護身術くらいで学ぶんだから戦う事自体そうはないよな。

 ・・・・・・ないよな。

 

「次あった頃に披露できる様に練習しておきますね。」

 

「剣技と言う物は隠し芸じゃないんだが・・・・・・」

 

 俺にとっては隠し芸みたいなものです。

 実践で使えるものから宴会芸まで、最近は面白そうな技術は片っ端から習得して回ってるからな~。

 

 

 

 次の日からは那美姉さんが剣術の基礎を教えてくれることになった。

 ただし那美姉さんの剣の腕は俺から見てもへっぽこっぽかった。

 だから基本那美姉さんには素振りするところを監督してもらうだけにした。

 下手したら気を使わない俺でも勝てそうなんだもん・・・・

 

 

 

 

 

 その後は再び平穏な日々が続いた。

 久遠が喋れる様になったけどまだたどたどしい喋り方だったので、一緒に歌を歌って発声練習したり那美姉さんに弐の太刀を教えながら俺はその発展系を練習したりしていた。

 

 薫さんにもらった陰陽術や式神の本には俺が求めていた術式について書かれていたけど、俺にはまだ難しすぎて少しずつと読み明かして理解していくしかなさそうだ。

 魔法陣に書き込む術式も試行錯誤して効率化を図っている。

 成果が出るのはかなり先になるだろうけど、まあそれでも構わない。

 また修行っぽい日々にもなってるけど、最近はまあ楽しければいいかと諦めてきていた。

 

 嫌でござる!! 戦いたくないでござる!!

 剣術学び始めたからほんとにニート『侍』っぽくなった。

 まだ働く年じゃないけどね。

 

 いや、管理局では俺くらいの年でも働くのか?

 改めて、嫌でござる!! 働きたくないでござる!!

 まだ子供でいていいだろ!?

 

 

 

 

 

●術式の本を手に入れた。

●霊気で斬魔剣弐の太刀が出来るようになった。

●魔法陣の改良を始めた。



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第十五話 式神と奥義

 

 

 

 

 

 薫さんからもらった式神の本は、とりあえず基礎的な簡単なところだけは理解することが出来た。

 式神には主に二種類あって妖怪などの対象と契約を結ぶタイプと、ゼロから作り出す人形みたいな無生物を生み出して操る二種類がある。

 契約を結ぶほうは相手が存在しないのでとりあえずはスルー。

 久遠は那美姉さんの飼い狐だからダメだろう。

 

 そういう訳で最初に作るのは、ゼロから生み出す無生物タイプの式神を作ってみることにした。

 まずは式神の術式を書き込む呪符となる和紙が必要みたいだけど、和紙じゃないといけないとかは書かれてなかったから、たぶん昔の人は今みたいにきれいな紙がないから基本和紙だったんだろ。

 それで和紙なんだと思うけど、術式が書き込めればとりあえず何でもいいのかもしれない。

 術式を書くには墨を使って霊力を込めながら書くらしい。

 これで術式となる霊力の回路が形作られるみたいで、使う時に霊力を込めれば発動するんだとさ。

 

 材料の和紙が高かったり墨を用意するのがメンどかったので、普通の画用紙を和紙代わりに、鉛筆を筆と墨代わりにして霊力を込めながら式神符を作ってみた。

 ホントは魔力で出来ないかと思ったけど、本に書かれてたのは霊力だったので魔力でやるのはまた後でにした。

 

 早速作った式神符をその場で使ってみると、一応は発動したけど碌に動くこともなくすぐに消えてしまった。

 容姿はとりあえず猫をイメージしてみたら、猫っぽくはなったけどなんか歪だった。

 何が悪かったのか分からなかったので、数を作って何度も試してみた。

 途中魔力や気を使ってもやってみたら一応発動した。

 霊力がやはり一番発動しやすかったような気もするけど、まだ式神自体の操作を碌に行えないから効果の違いがまだ比べられなかった。

 

 とりあえずこれまで通りうまくいくまで何度も作り、努力して割とどうにかなるまで続けた。

 延々と書き続ける作業だったので、これまでとは違って精神的に来た。

 何体も式神を作ってはすぐに消えてしまい使い物にならなくなった符の山。

 本命を作るなら絶対消耗品じゃないやつにしようと心に決めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 そして即席の使い捨てとはいえ、形も安定し操作出来るようになった。 

 

「そういうわけで見せに来たよ!!」

 

 いつもの神社に量産した式神符をもって、那美姉さんと久遠に見せに神社に来ました。

 最近こういう披露の場があるから新しい技もがんばれる。

 これまで自分ひとりだったのでいろいろ出来るようになるのは楽しかったけど、それだけで終わりだったから頑張り甲斐が足りなかった。

 今は披露できる那美姉さんと久遠がいるので以前よりとても楽しい。

 

「相変わらず出来るようになるのが早いわね、拓海君。」

 

「クォン・・・・・・拓海、楽しそう。」

 

 久遠も最近しゃべるのがうまくなってきた。

 狐姿でも喋れるけど人前では喋らないようにして久遠のことを知っている人の前でしか喋らない。

 久遠はちょっと子供っぽいと思ってたけど、結構頭がいいのかもしれない。

 

「ちゃんと形にして操作を覚えるのにだいぶ苦労したよ。

 形だけ作ってもその体の動かし方が形によって違うから操るのが難しかったよ。」

 

 式神は使用すると使用者との繋がりが出来て、そこから意思を伝えて式神を操るんだ。

 その繋がりを強くすればより意思の伝わりが良くなって手足のように扱えるようになる。

 代わりに繋がりが強くなった分反動も大きくて、式神の受けたダメージとかが使用者にも伝わる。

 話に出てくる式神の設定でよくある反動だね。

 俺が作ったのはレベルの低い即席のやつなので、繋がりも薄く反動はない。

 

「じゃ、早速出してみるね。」

 

 

-ポンッ!!-

 

 

「クゥッ!?」

 

「あら♪」

 

 早速使ってみた式神符はちゃんと発動し、二人の前に俺の式神が現れる。

 俺が作った式神は・・・・・・。

 

『クォン。』

 

 久遠を真似てみました。

 いやだって、身近な生き物で一番近くにいて触れ合っていたからイメージしやすかったし。

 御蔭で姿形は同じに鳴き声まで出せるようになりました。

 

「即席の式神だから俺の命令がないと動かないけど、見た目も重さもちゃんと再現されてるよ。

 ほらおいで。」

 

『クォン。』

 

 式神は久遠と同じ様に鳴いて飛び上がると俺の腕にすっぽりと収まる。

 おいでとは言ったが実際には式神に意思は無く、俺が繋がりを通じて指示を送ってをして飛び込んでこさせたのだ。

 ちゃんと手足の動きもイメージしないと転ぶので最初は操るのに苦労した。

 毛並みなどの抱き心地はしっかり覚えてたから最初から再現出来てたけどね。

 

「本当に生きてるわけじゃないから自分で動いてくれない分ちょっと寂しいけど、抱き心地は殆ど再現出来ているから久遠のヌイグルミみたいなんだ。」

 

「ほんとに久遠そっくりね。

 声までちゃんと出るだなんて・・・。」

 

 那美姉さんに式神の久遠を抱きかかえながら見せる。

 そのままいつも久遠にやってるように式神の頭をつい撫でていると・・・。

 

「クゥーーーー!!」

 

 

-ボンッ!!-

 

 

 突然久遠が人型に化けて俺が抱いていた式神の久遠を奪い取ると放り捨てた。

 放り捨てられた式神は地面に落ちるとそのショックでもとの札に戻ってしまった。

 

「ちょ!! 久遠!?」

 

「どうしたの久遠!?」

 

「拓海ダメ!!」

 

 

-ポンッ-

 

 

 再び久遠は子狐の姿に戻って俺の懐に飛び掛って服にしがみ付いた。

 俺は久遠を抱きとめるが、久遠はそのまま服に顔を擦り付けて放そうとしない。

 

「? ああ・・・・・・なるほどね。

 久遠は拓海君の式神に嫉妬しちゃったのね。」

 

「ん、そうなのか久遠?」

 

「拓海・・・もう久遠の式神作らないで・・・」

 

 どうやら本当に嫉妬してたらしい。

 式神をいつも久遠にしてやってるように撫でていたからだろうか?

 とりあえず久遠にもいつも通りゴッドハンドで撫でてやる。

 

「クゥ~~♪」

 

 するとすぐご機嫌になって顔を服に擦り付けるのをやめて喜んでいた。

 もしかしてマーキングでもしてたのかな・・・・・・。

 

「ん~・・・・・・やっぱり式神より本物の久遠の方が可愛いな。」

 

「クォン♪」

 

「うふふ。」

 

 今後久遠の式神を作ることはなさそうだ。

 那美姉さんは久遠の様子にうれしそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 久遠の式神事件から少し経って、薫さんが再びやってきた。

 仕事先でも斬魔剣弐の太刀を練習してただろうけど、出来るようになったのだろうか?

 

「お久しぶりです薫さん。」

 

「久しぶり、薫ちゃん。」

 

「薫・・・・・・久しぶり。」

 

「ああ、久遠もだいぶ話せるようになったんだな。」

 

 封印騒動の時は薫さんは久遠を殺そうとしていたけど、もともとは仲が良かったらしい。

 騒動の後は薫さんは久遠に謝って、その後は蟠(わだかま)りも無いらしい。

 

「うん。」

 

「薫さんはどうですか?

 弐の太刀は出来るようになりました?」

 

「ああ・・・・・・一応霊気に意思を込めるという事が認識出来るようになったくらいだ。

 弐の太刀はまだ出来る様子はないが、霊気に意思を込めることを意識したら神咲一灯流の技の切れが増した。

 霊気がこんな性質を持ってるとは思ってもいなかったよ。」

 

「俺もこの技考えて気づいた性質ですから。

 前回の約束通り、斬魔剣参の太刀改め終の太刀、完成させておきましたよ。」

 

「ほ、ほんとに完成させたのかい?」

 

 俺の考えた斬魔剣終の太刀は弐の太刀の発展系。

 集中力が必要な弐の太刀よりも更に集中が必要な技だ。

 なので前提となる弐の太刀は自在に使いこなせないといけないので、練習して連続で放つことも出来るようになった。

 

「使えるようにはなってると思うんですけど、この技は完全に物理的な効果を現さないので成功してるかどうかわかんないんですよ。

 だから薫さんには実際に効果があるか受けてみてほしいんです。」

 

「なに? いったいどういう技なんだ?」

 

「相手の意識に自分の意思を気などを通してぶつける技です。

 だから技の対象に意思がないと効果が確認出来ないんですよ。」

 

「拓海君たら、技の完成は薫ちゃんに最初に見せるから私じゃダメって言うんだよ。」

 

 那美姉さんが文句言ってるがこの技は薫さんに最初に試してみたいと思ってたから。

 別に善意じゃ無くて悪戯的な意味なんだけど。

 

「意思をぶつける技か。

 どういう意図があるのか分からないが、拓海君が考えた技なら意味があるんだろう。

 そこまで言うなら受けてみよう。」

 

「すいません、ちゃんと傷つけないようにしますので。」

 

 そして俺はいつもの愛木刀海林を構えて気と意思をしっかりと込めていく。

 込める意思は当然傷つけない意思と技で薫さんに伝える意思。

 何故意思を伝える事が技になるのかは後で説明するが、どういう内容を伝えるかは事前に考えておいた。

 ちょっと以前から聞いてみたかったことでもある。

 

「ではいきますよ。

 斬魔剣、終の太刀!!」

 

 

-ブワンッ!!-

 

 

 放つ気は薫さんを傷つけるつもりが無いから殆ど込めてないが意思は全力で込めてある。

 放たれた気は物理的な影響を起こすことなく薫さんに当たった。

 俺の予想が正しければこれで薫さんに気に込めた意思が伝わったはずだ。

 

「んな!?」

 

「あ、その様子だったら成功したみたいですね。」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!

 ど、どういうことだ!?」

 

 気を受けた薫さんは伝わった意思に狼狽してかなり慌てている。

 伝えた意思の内容でこうなることはなんとなく予想はついていたので技の成功を確信した。

 

「薫ちゃん、いったい何があったの?」

 

「い、いやそれはな・・・・・・」

 

「出来れば技で伝えた事の返答をお願いします。」

 

「断じて違うと言わせてもらう!!」

 

 予想範囲内の返答だけど、実際はどうなのか怪しいものだ。

 

 薫さんは那美姉さんがさざなみ寮に入寮する以前に在住していたらしく、とらハシリーズの主人公だろう男の管理人さんとも縁があったはずだ。

 つまり薫さんもヒロインの一人だったんだろう。

 前にさざなみ寮に行ったときに結婚している管理人さんを気にしてるっぽい人が何人かいた。

 だから薫さんにはこんな内容を気に込めて伝えてみた。

 

『さざなみ寮の管理人さんに横恋慕狙ってたりします?』

 

 薫さんの性格ならかなり慌てそうな質問だ。

 傍から見てる分にはギャルゲの主人公の恋愛模様って面白いかもしれない。

 

「この技はいったい何が目的なんだ!?

 確かに拓海君の意思は気に乗ってうちには伝わったが目的が分からない!!

 あと、子供がそんなことユナチヨ!!」

 

 薩摩弁になってますよ。

 随分な慌てぶりに割りと怪しいかもしれない・・・。

 まあ、それはともかく、

 

「この技は本当に意思を伝えることを目的にした技ですよ。

 今のは伝えるだけに加減しましたけど、全力でやれば強い意思をぶつけて相手の意思自体にダメージを与えて気絶させられると思うんですよ。」

 

「なるほど、そういう目的なのか。」

 

「ええ、傷つける目的じゃなくても相手に呼びかける方法にもなると思うんです。

 那美姉さんの除霊方法って出来るだけ話し合いで成仏させるんでしょ。

 けど、幽霊の中には意思が漠然となってて話自体出来ない場合が多いって前に聞いたから、この技なら直接意思や感情を直接相手に伝えられるから話し合いの除霊も出来るんじゃないかな?」

 

「そ、そっか!!

 それが出来たらきっと意思のはっきりしない霊も鎮める事が出来るかも。

 拓海君、私にもその技教えて!!」

 

 那美姉さんはよく退魔師の仕事で霊を無理やり祓わなきゃいけない事が絶えないを愚痴っていたから、この技がもしかしたら那美姉さんの為になるかもしれないとも思って考えた。

 自分で考えた終の太刀も結果的に退魔の技に相応しくなっちゃったのがびっくりだ。

 このままじゃ俺、退魔師になっちゃうんじゃないか?

 

「構わないけど那美姉さんは剣術自体がへっぽこだからその辺りをがんばらないとね。」

 

「うぅ、わかりましたぁ・・・」

 

「那美・・・・・・お前は・・・。

 拓海君、君の技は間違いなく退魔の剣に向いている。

 霊力も使えるようだし、いっその事退魔師になる道を選んでみてはどうだ?

 我流で編み出した技も更に磨き、剣その物の腕も上げれば一流派として興せると思う。」

 

 あー、薫さんもそう思いますか・・・・・・。

 戦いに明け暮れるような厳しい世界とか、俺望んでないんだよなぁ。

 というか自分で考えたとはいえ、元ネタ神鳴流を自分の流派にしていいのだろうか?

 まあ技の仕組みは俺の独自解釈だからどこまであってるか分からんし、技名くらいしか同じだとしか言えないしな。

 

「んー、流派を興すのはともかく、退魔師になると霊とかと戦ったりすることが多くなりますよね。

 俺、技を考えたり磨いたりするのは好きですけど、将来戦いを専門にするような職はちょっと・・・。

 まあせっかくある特技を生かせる職には就いてみたいと思うんですけどね。」

 

「そうか、まあ君はまだ子供なんだからすぐに決めることはない。

 君の言ったように戦いを専門にする以上辛い事もあるから無理に進めたりはしない。

 さざなみ寮の住人も自分の特技を生かしたいとそういう職に就くために出て行ったものもいるからな。」

 

「あそこって不思議な力を持ってたり変な特技を持ってたりする人が妙に多かったりしません?」

 

「・・・・・・うちも住んでいた者として否定できないな。」

 

 そんなに大きな寮じゃなかったから住人は少ないけど、半数以上はそっち関係で全員久遠の事も割りと平然と受け入れてた。

 その理由が初めからケモノ耳少女が住んでた事だから驚きだ。

 いくら話の舞台の一つだからって設定盛り込みすぎじゃないかって思った。

 

 

 

 正直俺の将来ってどうなるんだろ?

 リリなの世界に来て魔法に関わると思ったら、何故か退魔師のルートが出来上がってるし。

 だってまだ、原作始まってないんだぜ?

 いろんなことが出来るようになるようにこの『能力』を考えたけど、職業的に困らな過ぎる。

 

 この世界は異能の存在が認知されてるから、それを通常の職に活かしてもいいかもしれない。

 薫さんの話でしょう言う人がさざなみ寮にも多いみたいだし。

 将来職に悩んだら参考にさせてもらおう。

 

 

 

 

 

●式神が作れるようになった。

●弐の太刀を自在に使えるようになった。

●斬魔剣終の太刀を開発した。



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第十六話 ライバ・・・・・・ル?

 

 

 

 

 薫さんに技を披露してから数日後、その間だけ剣術の指南をしてから薫さんはまた仕事で遠くへ行ってしまった。

 退魔師の仕事は活動範囲が広く、全国を回る事になるらしいので頻繁にはこちらに来れないらしい。

 代わりに那美姉さんに見てもらってるけど、見てもらう分には那美姉さんの剣術のへっぽこさは出ないので監督役は果たせていた。

 それを那美姉さんに言ったら膨れて不機嫌になり、その直後久遠までへっぽこと言って凹んでしまい、久遠と二人で笑ってた。

 

 薫さんに自分の流派と言われて、名前をつけるなら何がいいかと思った。

 驚いた事に那美姉さん達の神咲一灯流の兄弟流派に神咲真鳴流(かんざきしんめいりゅう)なんてものがあるらしい。

 そっちの方は弓術らしいけど、これじゃ俺の流派で神鳴流とは名乗れないだろう。

 だから町の名前からとって海鳴流(かいめいりゅう)と名づけてみる事にした。

 字が被ってるし語呂も割りとよかったのでこれに決めた。

 

 

 

 流派の名前を決めたところで、俺いったい何やってるんだろうと思い返してしまった。

 『おれのかんがえたかっこいいまほう』もとい魔法陣を作ったり、流派名乗ったりなんて人が普通に言ったら恥ずかしいこと。

 まあこの世界じゃ技名叫んだり魔法少女名乗ったりするような輩がいるから可笑しくないんだろうけど、思い返してみると俺の第二の人生これでいいんだろうかとちょっと悩んでしまう。

 気や霊力の訓練とか実際出来るから張り切っていたけど、現実的に考えて一般的な人間だったらそんなこと出来なくてすぐやめてしまうはずだよな。

 平凡に生きていたいと思うけど、既に平凡から離れていた事に気づく。

 日頃は久遠と遊んだりモフモフしたりしているから平穏一色なんだけどな。

 

 とりあえずがんばり過ぎないようにしよう。

 俺のやりたかった事はもう殆ど叶ってるんだし、この平穏を壊さないようにすればいいや。

 剣術もせっかく教えてもらってるんだからってくらいで、自作魔法陣は最近は殆ど手付かず。

 式神はいろいろ作って操ったり大型動物や空想の動物が作れないか試行錯誤してる。

 自分で空を飛ぶのもいいけど、動物に乗って飛ぶのも憧れるなと思った。

 こういう本来出来ないような平凡な願いを叶える為に努力するのが俺には丁度いい。

 

 

 

 

 

 今日は久遠と式神を使って遊んでいた。

 式神の操作に丁度いいと思い、猫の式神を作って久遠と鬼ごっこしていた。

 最近感覚などを式神と共有出来るようになったので、遠隔操作で式神の視点から林の中で久遠を式神で追いかけていた。

 本体である俺は神社の建物から式神に指示を飛ばしていた。

 その内自立型の式神も作れそうだ。

 

 ちなみに今回式神に使ってる力は魔力だ。

 気はこれまで十二分に、霊力は文殊を目指して栄光の手モドキで練習している。

 なので魔力のコントロールがこれまで殆どやってなかったので式神には魔力を使っての操作練習だ。

 

 

 

 ここからは式神の視点で見てみる

 式神は猫の姿をさせているから、普段の視点とだいぶ違うので逃げる久遠を見続けるのも一苦労だ。

 その上、式神の体は猫の姿をしているので普通は行わない四足歩行の動きに慣れていないから、よく操作を誤って転んでしまう。

 

『うわっ。』

 

 今も追いかけていたら久遠の方向転換に踏ん張りが効かずにゴロゴロと転がってしまった。

 痛覚は繋いでないから痛みはないけど、大きなダメージを受けると式神はすぐに札に戻ってしまう。

 転んだ程度では問題ない強度はあるので、式神を操作して立ち上がらせると久遠が距離を置いて待ってくれていたのが見えた。

 

『拓海、式神大丈夫?』

 

『ああ、これくらい平気だ。

 動物の視点から走り回るのは面白いけど、やっぱり動くのが難しいな。』

 

 ユーノは一応人間なのにどうしてあそこまで自在にフェレットの動きを出来たんだ?

 相当あの姿に慣れているのか、あるいは魔法自体に動作パターンみたいなものが入ってるんだろうか?

 

 まあ、才能とイメージという説明でも納得出来ない事もない。

 式神の動物の操作もイメージがしっかりしてれば自然な動作が出来る。

 もしコンピューター操作となると筋肉の動きとかを細かく設定しないと自然な動きにはならない。

 イメージをそのまま現実にすることが出来るのが魔法の不思議さの原点なのかもしれない。

 

『ん、那美姉さんが来たみたいだ。

 久遠、式神を札に戻すから拾ってこっちに戻ってきて。』

 

『分かった。』

 

-プチンッ-

 

 頭の中で式神との繋がりが切れた感じがした。

 繋がりを切った事で林の中の様子は分からないが式神が札に戻っているだろう。

 それほど遠くで久遠と式神で遊んでたわけじゃないから、久遠もすぐこっちに戻ってくるだろう。

 

 式神を操りながら円をしていたので、那美姉さんが神社の石段を登って来ていることに気づいた。

 ただ珍しく一人ではなく、誰か他にも一緒の来ている。

 円での認識能力は既に視覚に次ぐほどの認識判断が出来る。

 つまり円の範囲内なら殆ど見てるようにそこにあるものを知る事が出来る。

 

 円の範囲は半径約100mそろそろ達しそうで、神社の敷地くらいなら既にすっぽりと覆っていた。

 ただ最近は範囲拡大の速度が遅くなってきているのでそろそろ限界かなと思ってる。

 既に破格の範囲だからこれ以上広げる必要もないんだけど、これまでの習慣でちゃんと続けている。

 止めたら逆に範囲が縮小しそうな気がするから、暇がある限りは堅や絶と一緒に繰り返し行っている。

 

 

 ところで那美姉さんと一緒にきたのは、円で確認した限り知らない人間だ。

 さざなみ寮の誰かか薫さんかなと思ったけど、円では容姿や体格に気の質や量などが判別できるが誰とも合わない。

 というかこの人物、これまで会った誰よりも気の質と量が高い。

 今の俺よりは少ないっぽいけど。

 

 久遠が林の中から戻ってくるのと那美姉さん達が石段を上がり切って来るのはほぼ同時だった。

 座ってた俺の膝の上に久遠は飛び乗って丸くなり、俺はいつものように撫でてやる。

 石段を登ってきた那美姉さんの後ろから一緒に来ていたのは丸いメガネのポニーテールの同年代の女性だった。

 学校帰りなのか那美姉さんは制服姿で、後ろの人も同じ制服で同じ学校の人だろう。

 

「あ、拓海君。もう来てたんだね。

 紹介する人がいるの。

 こちら高町美由希さん、私の学校の後輩なの。」

 

「こんにちわ。」

 

 ・・・・・・え?

 

 

 

 

 

「じゃ、始めよっか?

 どこからでもかかってきて。」

 

 あ・・・ありのまま起こった事を話すぜ。

 突然高町美由希が現れたと思ったら、気が付いたら相手は両手に小太刀の木刀を構え俺も愛木刀海林を構えていた。

 何がどうしてこんな事になっているのかわからねえが、俺は今から奴と戦う事になる。

 この状況に何か恐ろしいものの片鱗を感じているぜ……。

 

 

 

 ポルナレフの言い回しって面白いなと思いつつ、真面目に何故こうなったと叫びたい。

 原因は那美姉さんなのは百も承知だ。

 

 那美姉さんが剣術と刀について学校で話が合ったという事で、俺の剣術を見ている事が話題に挙がった。

 剣の腕はへっぽこなので相手がいない事から、高町美由希が立候補し那美姉さんが推薦。

 八束神社までつれてきて自己紹介。

 練習用の木刀小太刀を取り出し、俺も渋々海林を構えて臨戦体勢。←今ココ

 

 

 つまり那美姉さんの暖かい気遣いという名の、有難い迷惑らしい。

 しかもどうやら高町美由希も気を使えているようで、俺が気を使えることも那美姉さんから聞いているらしくやる気満々。

 俺は高町家の御神の剣士という戦闘フラグが今後も乱立しそうな展開に気分萎え萎え。

 

 とはいえ相手はネタで戦闘民族とすら言われる剣術家の一人。

 その上、俺が凝で見る限り木刀を構えてから更に気が高まってるのが分かる。

 意識的にか無意識か分からないけど、気を使いこなしていて普通に受けたらただじゃすまないと俺は否応無く体を守る堅の防御を最大にして、内部強化をして身体能力を上げる。

 

 更に海林にも気を込めて強度を上げておく。

 言っていなかったが海林の長さは子供の俺にあった丁度いい長さの木刀だ。

 なので高町美由希が持つ木刀の小太刀と同じくらいの長さで、一般的に見ると短い。

 

「!!・・・・・・(グッ)」

 

 気を高めたら高町美由希はそれに察知し警戒して木刀をしっかり握りなおす。

 この人、間違いなく気を認識していますよ……

 

 とはいえかかって来いと言われたので、相手は待ちの体制。

 こちらからいかなければ始まらない。

 ならば一撃で仕留めるつもりで技を叩き込む!!

 仕留めると言っても殺す気はないから、海林には周は行わず威力を上げないようにしている。

 

「いきます!!」

 

 とはいえ技の出し惜しみをする気は無く、瞬動で一気に相手の懐まで入り込みわき腹に向けて海林を振るう。

 

「は、速い!!」

 

-ガキンッ!!-

 

 意表をついた筈なのに反応されて、木刀小太刀をわき腹と海林の間に挟みこんで防御された。

 だが身体能力を上げた俺の一撃はかなりの威力があるので、そのまま振り切る事で高町美由希を弾き飛ばした。

 

「きゃっ!!」

 

 弾き飛ばされた高町美由希は地面を二・三回転がると跳ね起きるように回転しながら勢いを殺して立ち上がり木刀小太刀を構え直した。

 

「ど、どういう腕力してるのよ!?」

 

「気を使っていれば結構な力が出ますから!!」

 

 稽古とはいえ、俺が気を使って戦うのは久遠の時を除けばこれが初めてだ。

 久遠の時はただ雷に耐えながら技を放つだけだったのでまともに戦ったとは言えない。

 だからこれが初めての対人戦になるが、剣術はまともに習い始めて数ヶ月と経ってない。

 そんな俺が剣術で勝つのは普通に考えて不可能だろう。

 

 だが高町美由希から見れば剣術は付け焼刃でも、気の訓練は自己流でもずっと続けていて自信を持っている。

 だから俺の気による身体能力の強化で御神流とどれだけ戦えるか試したくなってしまう。

 自身があるからこそ負けたくなく、勝つつもりで俺は攻め続ける!!

 

 

 俺は追い討ちをかけるべく再び瞬動で相手に近づき海林を打ち込む。

 今度は防がれるのを承知で打ち込んだので容易に防御されたが、俺の攻撃は一撃で終わらせず身体能力を駆使して連続で海林を打ち込んでいく。

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃっうりゃぁ!!」

 

「くっ。」

 

 

-ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガン!!-

 

 

 身体強化で速くなった剣速での連続攻撃。

 残像が見えるほどの速さなのだが、さすがというか高町美由希は二刀の木刀小太刀で受け止めるのではなく捌くといった感じで連撃を受け流していた。

 

 気で強化された身体能力は勝ってるみたいだけど、技術でいなされてる。

 遠距離からの技にしようかと思った時。

 

「このぉ・・・御神流、徹!!」

 

 高町美由希からの反撃が放たれ、とっさに海林で受け止めたら、

 

-ギャンッ!!バキッ!!-

 

 海林に衝撃が走り、音を立てて真ん中から砕けた。

 

「あ・・・・・・。」

 

「はい、私の勝ちね。

 剣術は力押しだけじゃ勝てないよ。」

 

「おつかれさま、二人ともすごかったねぇ。」

 

「クォン。」

 

 高町美由希が何か言っていて那美姉さんが久遠を連れて傍まで来たが、俺は呆然と砕けた海林を見ていた。

 

 海林は元は其処の林で拾ったただの枝で、それを気の刃で削って作った木刀だ。

 荒削りでささくれが立つから持ち手の部分に布を巻いたお粗末な木刀だった。

 だけど初めの頃から気を使った技の練習に使って、海鳴流の技は元より出来るかなと思った漫画の剣士の技を放って遊んで来た愛着ある物だった。

 その木刀が途中から砕けて半分に・・・・・・。

 

「う・・・うぅ・・・・・・。」

 

「え、えぇ!! な、なんで泣くの!?」

 

「た、拓海君! どうしたの!? 怪我しちゃったの!?」

 

「クォン!!」

 

「みりんがぁ・・・・・・こわれちゃったぁ・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 海林が折れて人前で泣くなどと想像もしなかった恥をさらした俺は、うちに帰ってきても折れた海林を眺めながら落ち込んでいた。

 いくら愛着が湧いていたからといって自分でも泣くとは思わなかった。

 やはり年相応に精神年齢が退化してるみたいだ。

 

 だが今の俺はそんな事を気にしてる余裕はなかった。

 海林で遊んだ事を思い返しては、折れてる姿を見て涙腺が緩む。

 何とかならないかと考え、文殊が出来れば直せると霊気手甲を出して霊力を収束圧縮してみるが、そう都合よく出来るはずもなくただの霊気の玉が出来るだけ。

 三十分もそれを続けて無駄と悟り、霊気の玉を握って体の中に還元して戻す。

 こんな事も制御が上達して出来るようになったが、海林を直す手立てにはならない。

 

 

 

 もうどうしようもないかと諦めかけた時、部屋に置いてた自作魔法陣が目に付いた。

 中心に太極図、その外側に五行の五角形、更にその外に十二支の十二角形が描かれた魔法陣。

 その中の五行の内の二つ、木行と水行に目がついて閃いた。

 

 まずガムテープで砕けて二つに分かれた海林の断面をくっつける。

 次に洗面器に入れた水を用意して海林をその中に漬ける。

 更に水と海林の入った洗面器を魔法陣の上に置いて準備完了。

 

 水生木、木は水によって養われ、水が無いと枯れてしまうという意味。

 海林は木刀、木で出来ている。

 普通ならこの状態から成長するはず無いが、術を使えば成長しても可笑しくない。

 砕けた部分も成長すればもしかしたら繋がるかもしれない。

 

 込める力は魔力と合成させた霊力。

 魔法陣を通して海林に木行の力が流れていくように力を込める。

 洗面器に入れた水は水気として海林を生かす力にする。

 最後に海林が直る様にという気持ちを込めて呪文を唱える。

 

「水生木 木刀海林よ、活きろ!!」

 

 同時に霊力と魔力を合成させた力が魔法陣を光らせて、木行の力となって海林に注がれる。

 最初の内はいくら力が海林に流れても変化が無かったが、少し経つと海林の表面の色が変化を始めた。

 本来木刀などの木材は長時間放置して芯まで乾燥させてから使用されるので、木材表面は大抵薄茶色をしている。

 海林もずっと使っていたので乾いて薄茶色だったが、だんだんと色が濃く成り始めた。

 始めは水分を吸っただけかと思ってたが水分を吸っただけよりもどんどん濃くなっていき、そこいらに生えている木の表面のように黒に近い茶色にまで変色した。

 

 其処からの変化はよりはっきりとしていた

 海林の刀身の表面から枝が伸び始め、柄の先からは根っこが伸びて洗面器の中で立ち上がった。

 全力で合成した霊力と魔力を魔法陣に送り続ける事で海林からなる木はどんどん成長した。

 海林の成長に伴い、洗面器に張られた水はみるみる減っていく。

 洗面器に入っていた水が無くなったところで十分成長したと思い、力を込めるのを止めると成長も止まった。

 

 海林は小さいが確かに木となってまっすぐ立っており、枝からは葉っぱが生えて根っこは洗面器の端から出そうな所まで伸びていた。

 最後に幹に巻かれたガムテープを取るとその部分は裂けた跡を残さずしっかりと繋がっていた。

 

「な、直った。」

 

 半信半疑で賭けというより縋り付く様な思いで行っただけだったんだが、本当に直るとは信じられなかった。

 とりあえず俺は生えた根っ子と枝を指から出した霊波刀で切り落として、ぼこぼこになった樹皮を剥いて再び木刀の形に変えていく。

 きれいに削り落とすと海林は元の長さよりも成長したぶん伸びて、以前よりしっかりとした木刀になった気がする。

 その上、霊力を込めていないのに海林からわずかばかりの霊力が出ていた。

 もしかして霊剣になったとか?

 

 

 これについては那美姉さんに見てもらうとして海林が直ってよかった。

 壊れたとはいえ愛着のある木刀を捨てるのは忍びなかった。

 そういえば柄に彫っていた海林の銘が消えてしまっている。

 新しくなったんだし名前も新しくしよう。

 

「んー、林って漢字が微妙だったから、鈴に変えて海鈴(みりん)にしよう。」

 

 『海鈴』と柄の部分に名前を彫り直して完成。

 今度また折れても直し方が分かったからもう安心だ。

 後やるべき事は・・・・・・

 

 

 高町美由希へのリベンジプランの作成だ!!

 海鈴が直ったとは別に、負けた上に結果泣かされたままでは腹の虫が収まらん。

 というより男のプライドというやつだ。 恥をかいたままではいられない。

 

 まともに剣術で打ち合ったで今日の二の舞になるだけ。

 ならば勝てる技を考えて、それで意表をついて倒す

 それしかない!!

 

 

 

 

 

 海鈴を砕かれて泣いて直してから一週間。

 那美姉さんに頼んで高町美由希を神社に呼び出してもらった。

 

「よく来たな、高町美由希!!

 先日の借り、返させてもらうぞ!!」

 

「えっと、リベンジって事かな。

 いいけど、もう泣かないでよ~。」

 

 そう言って木刀小太刀を出しての二刀流を構える。

 言ってくれるじゃないか!!

 

 あの日から一週間しか経ってないが高町美由希に勝つためのプランをいくつも考え、それに必要な技を一朝一夕でとりあえずではあるが実戦で即座に使えるようにして、最後に剣術の基礎動作をみっちりとやりこんで少しでも対応できるように練習してきた。

 基礎的な技術は一週間で能力があってもどうにか出来るものではないが、実戦で使えそうな小技程度なら前々から数を揃えていた。

 半分以上はかくし芸みたいなものだったりしたが、応用で戦いに使えるものも多かった。

 戦うつもりがなかったから、かくし芸で使うはずだったけどな。

 

 俺も新生海鈴を構えて気の身体能力強化、それに堅の防御を捨てて円で相手の動作の察知をより正確にする。

 リベンジとはいえ稽古方式なのでお互いに怪我させない様にするから堅はいらないと判断した。

 

「いくぞ!!」

 

 今回も俺から打ち込んでいく。

 瞬動は既に見せているので意表は突けないので、そのまま走って海鈴を打ち込んでいく。

 円で高町美由希の動きを全力で認識して反撃に警戒する。

 

-カァン、カァン、カァン、カァン、カァン!!-

 

 前回は力を込めすぎていたので連続の打撃が速く振ってたつもりが遅くなっていた。

 だから今回は力を入れすぎず、より速く振る為に程よい力で海鈴を振るっていた。

 

「前回より振り方がうまくなってるね。

 けど、それだけじゃ負けないよ。」

 

「そんなのわかってるよ!!」

 

「どうかな? 御神流、徹!!」

 

 前回海鈴を砕いた技を高町美由希は放つ。

 同じ技を放つあたり試しているのだろうが、円で動きをしっかり認識していたので海鈴に打ち込んでくるタイミングで高くジャンプして、木刀小太刀の剣線から逃れる。

 

「高くジャンプすると無防備だよ。」

 

「ところがそうじゃないけど、とりあえずこれを食らえ、太陽拳!!」

 

-ピカァァァァッ!!-

 

「きゃ!!」

 

 ドラゴンボールにおいて格上に非常に役立ってくれる妨害技。

 俺は別に顔に両手を広げるポーズはせずに、海鈴を片手にもう片方の手から雷気などのように強く光るようにした気を放って高町美由希の目を眩ませた。

 強い光に咄嗟に顔をガードするように木刀小太刀を高町美由希は掲げた。

 目をくらまして隙が出来たところを狙い、舞空術で急降下して木刀小太刀に向けて技を打ち込む。

 

「海鳴流、斬鉄閃!!」

 

 斬鉄閃、知っての通り元は神鳴流の技名で、文字通り鉄を斬る技と解釈。

 木刀に纏わせた気を鋭くして鉄をも切れる刃を形成して斬る技として完成させた。

 

 実際鉄が切れるかは的が無かったので試してなかったが、前に岩も木の刃でスッパリ切ったことがあったので木刀小太刀くらい簡単に切れた。

 ガードするように構えていたので一振りで二本同時に真っ二つだ。

 

「よし!! 俺の勝ちだ!!

 海鈴の敵は取らせてもらったぞ!!」

 

「え? あ!! 木刀が切れてる!?

 というか太陽拳なんて卑怯よ!!

 てか、何で使えるの!?」

 

「練習したからだ!!」

 

 想像以上に斬鉄閃は鋭かったみたいで斬られた事を高町美由希は気づかなかったらしい。

 前にも言ったがドラゴンボールの漫画はこの世界にもあります。

 なので太陽拳を高町美由希が知っていてもまったく不思議じゃない。

 

「練習して出来たら私だってやってるよ!!

 それにどうしたら木刀でこんなに綺麗に切れるの!!」

 

「お前だって前回俺の木刀、技で炸裂するように砕いただろうが!!」

 

「あれはうちの流派でそういう技なの!!」

 

「俺のだってそういう技だ!!」

 

「とにかくもう一度勝負よ!!」

 

「断る!! 俺は戦いは好きじゃないの!!

 どうしてもやるっていうならもう遠慮しないぞ!!」

 

「望むところよ!! 私だって遠慮しないんだから!!」

 

 木刀小太刀が切れてしまっているので結局勝負は出来なかったが、高町美由希との言い争いは延々と続いた。

 それを見ていた那美姉さんと久遠は・・・

 

「仲いいな~、拓海君と美由希さん。」

 

「クォン・・・・・・久遠も拓海と遊びたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね、拓海君て子がすごかったんだよ、恭ちゃん。

 なのはと同じくらいなのに力が強くて剣速も速いし。」

 

 拓海とは最後に口ゲンカを続けていたが、美由希は拓海の強さを認めていた。

 具体的には兄恭也に自慢話をするくらい。

 

「ほう、そいつはすごいな。

 なのはと同じくらいで美由希と同じくらい動けるのか。」

 

「うん、剣の技量はまだまだだけどこれからもっと強くなりそうかな。

 今後時々あの子と稽古することになったんだ。」

 

「そうか、何ならその子をうちに誘ってみたらどうだ。

 うちの道場なら外でなくても稽古出来るだろう。」

 

「うん、誘ってみるね。」

 

 拓海に高町家招待(死亡)フラグが立った。

 

 

 

 

 

「だが、なのはと同い年くらいの子供に負けるとは弛んでるな。

 鍛錬の量を増やすか。」

 

「え”!!!」

 

 美由希の死亡フラグが確定した。

 

 

 

 

 

●式神の技術が向上。

●魔法陣の力を新たに見出した。

●太陽拳、斬鉄閃を披露。



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第十七話 昨日の美由希は今日の遊び道具

 

 

 

 

 

 前回に引き続いて、不定期に美由希と稽古することになった。

 海鈴の一件で美由希には負けたくなくなったので、俺が持ちうる技を多用して試合っている。

 

「斬空閃、斬空閃、斬空閃!! もういっちょオマケに斬空閃!!」

 

「わっ、たっ、きゃっ!!

 剣の勝負なのに遠距離攻撃ばっかなんてずるいじゃない!!」

 

「剣術の腕では美由希のほうが上だからな!!

 なら俺は勝てる方法で戦うまで!!」

 

「それなら、このっ!!」

 

「うわっ、なんだ!?」

 

「ただの割り箸よ。

 本来は飛針ていう鉄の針を投げるんだけど、刺さったら危ないからね。」

 

「今の速さで投げたら割り箸でも刺さるわ!!」

 

 怪我させないのは暗黙の了解だが、それ以外は遠慮無しに何でもお互いにする。

 

 

 

 

 

「斬空閃、斬空閃、斬空閃!! 下に向かって斬空閃!!」

 

「何で舞空術まで使えるの~!?」

 

「俺超頑張った!!」

 

「頑張ったからって出来るものじゃないでしょ!!」

 

「だから【超】頑張った。 そして斬空閃!!」

 

「こっのっ!! てぇい!!」

 

「今度は糸!?」

 

「鋼糸よ!! ちゃんと切れない丈夫なやつ使ってるから大丈夫!!

 これで引きずり落としてあげる。」

 

「舞空術の出力をなめるなぁ!!」

 

「きゃあぁぁぁ、お、落ちる~!!」

 

 舞空術を使ったら勝負にならなかったのでさすがにやめた。

 

 

 

 

 

「斬岩剣!! 斬空閃!! 百花繚乱!!」

 

「御神流、虎切!! 徹!! 虎乱!!」

 

「二人ともストップ~!!」

 

「那美姉さん?」「那美さん?」

 

「周りを見てください、二人が暴れてもうぼろぼろなんですよ。」

 

「「あ。」」

 

 周囲を壊しかねない技はお互い自粛する事になった。

 

 

 

 

 

「くぅ・・・・・・、やっぱり剣の腕じゃ勝てないか。」

 

「そう簡単に年下の子に剣の腕では負けられないわ。」

 

「ならば!! でぇい!!」

 

「甘い!!」

 

-ボフンッ!!-

 

「なっ!?」

 

「変わり身の術!! 隙ありぃ!!」

 

-ポコンッ-

 

 最近の稽古は寸止めか加減して相手に打ち込んでる。

 

「イタッ!! うぅ、今のいったい何、変わり身の術って・・・」

 

「最近自分の姿の式神を造れるようになった。

 それと入れ替わっただけさ。」

 

「拓海君、剣士じゃなくて妖術師なんじゃないの?」

 

 剣士だと名乗るつもりもなかったんだけど、そう呼ばれても最近の自分は否定できない。

 

 

 

 

 

「クォン。 拓海、久遠とも遊んで。」

 

「えぇ!! 久遠がしゃべった!?」

 

「そういえば最近美由希の相手ばかりしてたからなー。」

 

「久遠たら二人が稽古してるの見て嫉妬しちゃってうずうずしてたのよ。」

 

「え? あれ? 狐がしゃべってるんだよね。」

 

「しょうがないな、今日は久遠と遊ぶか~。」

 

「クォン♪ 楽しみ。」

 

「ふふ、久遠たら♪」

 

「ねえ、喋ってるんだよね?」

 

 美由希が何か言ってるが、俺は知らねぇ。

 

 

 

 

 

「ねえ拓海君。

 何で私の事美由希って呼び捨てにするの?

 私一応年上なんだよ?」

 

「?」

 

「いや、何を言ってるんだ?って顔をされても・・・」

 

「何で呼び捨てにするかだって?」

 

「だってそうでしょ。

 那美さんは、那美姉さんなんて呼んでるのに。」

 

「m9(^Д^)」

 

「とにかく馬鹿にされてるのは分かるわ。」

 

「そんなの理由ははっきりしてるじゃないか。」

 

「?」

 

「だって美由希だろ。」

 

「うぅ、思いっきり舐められて意地悪されてる。

 なんか恭ちゃんみたい・・・・・・。」

 

 失敬な!!と叫んでやりたい。

 

 

 

 

 

「え、空を飛びたいって?

 俺はドラえもんじゃないぞ。」

 

「でも拓海君は気を使って空を飛べるんでしょ。

 私も気は少しは使えるから飛べるかなと思って。」

 

「ふむ、飛ばしてやる事は今すぐに出来るぞ。」

 

「ほんと!?」

 

「ああ、最近気を風の性質にすることも出来る事に気づいてな。」

 

「?」

 

「風の気で放つ斬空閃の風圧は普通の斬空閃の数倍だ。

 それをぶち当ててやれば大空へひとっ飛びだ。

 さあ、そこに立て。」

 

「やっぱり意地悪だ!!」

 

 

 

 

 

「で、舞空術を教えて欲しいと?

 俺はグレートサイヤマンじゃないぞ。」

 

「私のお父さんも世界チャンプ(笑)じゃないわよ。

 とっても強いけどね。」

 

「(知ってるよ、嫌な予感がするほど)

 実際飛べるかは気の量と操作能力によると思うけど。

 どれくらいの事が気で出来るのさ。」

 

「え? 普段の手合わせくらいだけど。」

 

「(身体強化だけ?)・・・・・・亀の甲羅背負って出直して来い。」

 

「ええぇ。」

 

 話し合いの末、剣術の相手と御神流の初歩の技を教える事を対価に、気の操作を教える事になった。

 

 

 

「徹のやり方はこんな感じかな?」

 

「なるほど。

 ところで自分の流派の技を勝手に教えたりしていいのか?

 那美姉さんのお姉さんはそういうのはダメだって言ってたけど。」

 

「へっ……ああ!!

 恭ちゃんとお父さんに怒られる~!!」

 

「やっぱり美由希だな。」

 

 

 

 

 

 初対面の時はいろいろあったが、最近は剣術の相手をしてもらったり技の実験台にしたりと、美由希とはかなり気を許せる友人になっていた。

 久遠と那美姉さんの次に仲がいいかもしれない。

 ……俺の友人、少ないな。

 

 

 

 で、普段はよく俺、久遠、那美姉さん、美由希と一緒にいる事が多くなった。

 手合わせの時は久遠と那美姉さんが何時も見学しているという形だ。

 

「那美さんからも言って下さいよ。

 私年上なのに美由希だなんて呼び捨てにして。」

 

「仲のいい証拠ですよ。

 拓海君はアレでちゃんと礼儀がしっかりしてますから、美由希さんには遠慮していないということです。」

 

「ただ舐められてるだけです。」

 

「俺が一番仲がいい友達は久遠だぞ。」

 

「クー、久遠も拓海と仲良し。」

 

 美由希には自分でも驚くくらいに無遠慮に付き合い始めたので、那美姉さんお仕事や久遠の事、俺の技能などは程々に話してあった。

 

「ところで拓海君、今夜の事はご両親に話しておきました?」

 

「うん、ちゃんと許可をもらっておいたよ。」

 

 今夜那美姉さんの仕事である除霊があって、俺もそれに同行する事にした。

 前に薫さんが退魔師にならないかという誘いがあった事を両親に話して、とりあえず社会見学という名目で那美姉さんの仕事に同行するのだ。

 実は俺の技、斬魔剣終の太刀の効果を試すためでもある。

 

 技は完成はしているけど実際に幽霊などを成仏させられるか試した事がない。

 そこらへんから幽霊を探して試すというのは、死んでても人道的にちょっと不味いだろう。

 だからこそ経験のある那美姉さんの監督の下、幽霊の浄化にチャレンジしてみようと思うのだ。

 ちなみに美由希も護衛として参加するっぽい。

 

「美由希さんも家族にお話したんですか?」

 

「うん、同年代の子と一緒だって言ったらOKだって。」

 

「お泊り会と勘違いされてない?

 それより美由希って幽霊とか大丈夫なの?」

 

「さあ、一度も見た事ないし。

 でも大丈夫。 御神流は守るための剣術なんだから。

 だから拓海君もちゃんと守ってあげるからね。」

 

「腰を抜かして足手纏いにならなきゃいいけど。」

 

「大丈夫だってば。」

 

 美由希にはどうしても駄目なイメージがあるからなんか頼りない。

 実際には十分強いのはいつもの手合わせで分かってるんだけどな。

 気の扱いを少し教えたら瞬動を一発で成功させるし、武器に気を込めるのもすぐ出来るようになった。

 ただそれ以外の戦闘に直接は関わらない技(太陽拳など)は全然覚える様子がなかった。

 

 完全に戦闘に特化してやがる。

 美由希と恐らく高町家。

 戦闘民族の異名は伊達じゃなかったか・・・。

 

 

 

 

 

 そして夜、那美姉さんに連れられて自縛霊がいるらしい場所へ連れられてきた。

 ここに居る自縛霊はそれほど強いわけでもないらしいが、周囲に事故を起こさせる等の悪さをするらしい。

 俺と那美姉さんと久遠は目の前に現れた自縛霊を前にして身構えるが、美由希の目には見えていなかったらしく・・・

 

 

「きゃあぁぁぁ!! 体が勝手にぃぃぃ!!」

 

「美由希さん!?」

 

「こっち向かってくんなぁ!!

 今は真剣使ってるんだぞ!!」

 

「クー!!」

 

 美由希が霊に取り憑かれて暴れだした。

 しかも実戦だからと本物の真剣の小太刀を持って来ていたもんだからむちゃくちゃ危ない。

 普段那美姉さんが危なくなったら久遠が雷で霊を退治してくれるらしいが、今回は美由希が取り憑かれてるもんだから攻撃できない。

 

 こっちは真剣なんて持ってないからいつもの海鈴だが、気を込めてれば十分に真剣に対抗できる。

 と思ったが、取り憑かれてるせいか小太刀に自縛霊の霊力が流れてやがる。

 たいした事の無い霊力だから問題ないけど、海鈴に傷が~・・・。

 帰ったらまた術で直してやらないと・・・

 

 

「予想通り足手まといになったな!!」

 

「ごめ~~~ん!! だけど早く何とかしてぇ!!」

 

「そんなに動かれると、私じゃとても対応できません~。」

 

 美由希の機動力はぴか一だからな。

 速度自体は気を使いこなしてる俺のほうが速いけど、足捌きなどで回避能力が高いから稽古でも俺の攻撃がなかなか当たらない。

 今は自縛霊に操られてても素早さは普段どおりで厄介すぎる。

 見事なくらいの足手まといっぷりだ。

 

「ぶっつけ本番だけど試してみるか。

 ・・・・・・【縛】!!」

 

「って、今度は体が動かない~・・・」

 

 俺がやったのは薫さんもらった式神とは別の陰陽術の本に載ってた金縛りの術。

 中指と人差し指を伸ばした剣指と呼ばれる印を作り美由希に向けて術をかけた。

 

「初めて人に使ったけどうまくいったな。

 早いうちに美由希で試しておけばよかった。」

 

「何で私に試すのが決定事項なのよ・・・」

 

「美由希以外にかける相手がいないからだよ。

 実際かける事になってるし・・・」

 

「あうぅ。」

 

 この後那美姉さんが美由希から自縛霊を祓って成仏させた。

 那美姉さんじゃ美由希が操られた状態でもまともに戦えるほど動けないし、久遠の雷はあまり手加減出来ないから確実に美由希が傷つくから使えない。

 俺がいなかったら那美姉さん危なかったんじゃないか?

 

 あーそだ、斬魔剣弐の太刀使えばよかったじゃん。

 元は終の太刀を試すために来たけど、美由希が操られて真剣の小太刀振るってくるもんだから焦って気づかなかった。

 

 

 

 

 後日、幽霊が見えない美由希を除いて、那美姉さんの仕事に同行して終の太刀を試した。

 霊に意思を伝える事は出来たが成仏させるには至らなかった。

 伝える気持ちに問題があるんだろうと那美姉さんに言われた。

 

 那美姉さんは鎮魂術を使う時、霊が安らかに眠れるようになどの慈しむ気持ちを込めてるらしい。

 終の太刀の完成の為に那美姉さんに鎮魂術も習う事にした。

 退魔師になるかどうかはともかく、技は完成させたいからね。

 

 

 

 

 

 ある日、美由希が癇癪を起こしながら愚痴を零してきた。

 なんでも兄の恭也に恋人が出来て、家に連れてきて家族に紹介されたらしい。

 おめでとうと言っておこう、主人公。

 

「恭ちゃんに、恭ちゃんに・・・・・・あんなぶっきら棒で無愛想な恭ちゃんに恋人が出来るなんて~!!

 しかも美人でスタイル良くて頭も良さそうな人だなんて~!!」

 

 ああ、そういや高町恭也って無愛想な性格だったっけ。

 それでもギャルゲ主人公なんだからモテる要素多いんじゃないの?

 そもそもお前もヒロインじゃなかったか、美由希。

 実際かなりショックで、こんだけ愚痴ってるんだし・・・。

 

「美由希さん、しっかりして。

 お兄さんなんだからちゃんと祝福してあげないと。」

 

「というより、横から掻っ攫いやがってこの泥棒猫って言いたいんじゃないか?」

 

「!?!?!?!?!」

 

 図星を突かれたのか、面白いように慌てだす美由希。

 その様子に那美姉さんは目を見開いて驚いた様子で美由希を見る。

 

「み、美由希さん? 兄妹同士でそういうのは良くないかと・・・」

 

「ち、ちがうよ!! 恭ちゃんとは確かに兄妹同士だけど家の事情で実際は従兄弟同士なの!!」

 

「この泥棒猫云々は否定しないんだな。」

 

「美由希さん!?」

 

「違うの~~~!!」

 

 その後も俺が茶化す度にボロボロと本音が漏れて自縄自縛に陥っていく美由希。

 那美姉さんはそんな美由希の本音におろおろと狼狽するばかり。

 久遠は我関せずと俺の膝の上で欠伸をして丸まっている。

 

 

 

「で、美由希は結局どうしたいんだ?

 横恋慕はともかく殺傷沙汰はやめとけよ。」

 

「もういい加減にしてよ!!

 拓海君、ドラマの見すぎだよ。

 ……確かに恭ちゃんの事は好きなんだと思うよ。

 けど同時にお兄ちゃんとして大事なんだもん。

 ちゃんと気持ちに決着をつけて祝福してみせるよ。」

 

「美由希さん、よく決心してくれました!!

 私はもうどうなっちゃうものかと・・・」

 

「……那美さんもドラマの見すぎだよぅ。」

 

 那美姉さんは本気で美由希が略奪愛に走ると思ってたのだろうか・・・。

 頭の中でサスペンス劇場が開催されてたんじゃなかろうか。

 

「まあ、元気出せよ。

 素材はいいんだから、その気になれば恋人なんていくらでも出来るさ。」

 

「……拓海君に慰められるなんて思ってなかったな。

 拓海君がもうちょっと大きくなったら恋人になってあげようか?」

 

「素材を活かせる様になったらな、このショタコン。」

 

「美由希さん!! お兄さんがダメだったからって拓海君に手を出すなんて!!」

 

「「那美(姉)さん……」」

 

「クゥオン。」

 

 冗談があまり通じない那美姉さんのボケっぷりに久遠もやれやれといった様に感じた。

 

 

 

 

 

●剣技 百花繚乱を披露。

●人型式神を披露。変わり身の術に応用。

●気の性質変化、風属性を習得。

●御神流の初歩の技を美由希より学ぶ

●陰陽術 金縛りの術を披露。

●終の太刀完成の為、鎮魂術学習



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第十八話 最近式遊びに嵌ってます

 

 

 

 

 

 先日の高町恭也の恋人の件で落ち込んでた美由希だが、今日はなぜか上機嫌でやってきた。

 

「どうしたんだ美由希。

 横恋慕に成功したのか?」

 

「してないよ!!

 その話はもういいでしょ!?

 子供なのにマセてるんだから、たっくんは…」

 

「子供に恋愛関係で愚痴る奴がいるからな。

 …って!! たっくんって何だ!?」

 

「拓海君ってのはちょっと他人行儀過ぎると思って。

 たっくんだって私の事美由希って呼び捨てにするじゃない。

 だいぶ仲良くなったんだからこれくらい良いでしょ。」

 

 『恭ちゃん』と呼ぶようにたっちゃんじゃないだけマシかもしれないが・・・

 俺は甲子園で告白する球児じゃないからな。

 

「お願いだからやめてください美由希さん。」

 

「ふっふーん。 美由希お姉ちゃんって呼んだらやめてあげるよ。」

 

「失せやがれ、このショタコン美由希。」

 

「そこまで嫌!?」

 

 当たり前だろ。

 那美姉さんだってお姉ちゃんって呼び方は勘弁してもらったんだ。

 地球が次元断層に飲み込まれたってお断りだ。

 

「そだ、そんな事言いに来たんじゃなかった!!

 やったよたっくん!! 恭ちゃんとの稽古で初めて勝てたよ!!」

 

「たっくんは確定なのか…

 それはよかったな。」

 

 高町恭也ってかなり強いんじゃなかったのか?

 よく美由希が訓練でぼろぼろにされて、負けたらお仕置きと意地悪な目に合わされると愚痴っていた。

 ああそういや、美由希が高町恭也が俺をうちに誘っているとか言ってたな。

 

 …行かないよ、稽古の相手は美由希で十分だ。

 行ったら最後、泥沼みたいな事になりそうだし…

 

「たっくんが教えてくれた気の扱いと瞬動で恭ちゃんの意表を突けてね、初めて恭ちゃんにクリーンヒットを当てる事が出来たの!!

 もうたっくんの御蔭!! ありがと~!!!」

 

「嬉しいからって抱きつくな!!

 まあ、おめでとうとだけ言っておく。」

 

「うん!!」

 

 なるほど、だからこれほど喜んでるのか。

 というか瞬動を見せたのか。

 高町恭也が俺に興味を持たないといいけど…。

 

 

「でね、瞬動を教えてくれたのがたっ君だって言ったら、恭ちゃんとお父さんがぜひ家に遊びに来てくれって言ってたよ。」

 

「恩を仇で返すか、このど阿呆がぁ!!」

 

 

-バシンッ!!-

 

 

「イッタァ!!

 もうなにするの…」

 

 全力で頭をはたいてやった。

 さすがに気は纏わせて威力は上げていないが、身体強化だけは少しした。

 兄どころか父にまで話しやがったか。

 まあ家族なんだし纏めて話してしまっても可笑しくない。

 

「前に言っただろうが、お前の兄の性格を聞く限り、なんか厄介ごとになりそうだから行きたくないって。」

 

「うぅ、そうだった…」

 

「まったく。 そういう訳だからちゃんと断って諦めてもらっておけよ。」

 

「わかったよ。」

 

 

 

 翌日また美由希はやってきた。

 

「うぇ~ん、恭ちゃんにぼこぼこにされた~。」

 

「…何で俺に泣きつくかな~」

 

 きっと高町恭也も昨日負けたのが悔しかったんだろう。

 俺もその気持ちは良くわかる。

 美由希にどちらかと言えば負け越してるからな。

 勝ち越してきた分、成長は喜べど負ければ悔しいだろうし。

 

 後、断りはしっかりしたらしい。

 これで諦めてくれるといいんだけどな…。

 

 

 

 

 

 今日も八束神社で久遠と式神遊び。

 最近半自立型の式神も作れるようになって、複数同時に動かせるようになった。

 操作もだいぶうまくなったし、そろそろ本格的な式神作りに挑戦してみるかな~。

 

 そう思っていると美由希が神社の石段を登ってくるのを円で感知した。

 最近は自然と円を維持できるようになったからかなり楽だ。

 円の成長もだいぶ遅くなったから、そろそろ何か新しい何時でも出来る訓練法でも見つけるかな。

 

「!?」

 

 そして美由希が神社の石段を登りきる直前に円に新たな人物が引っかかった。

 円の感知能力も視認と同レベルまで上がっていたので、どのような人物かすぐに分かった。 

 

「(久遠、式神遊び終了!!

 そこで気配を消して隠れててくれ!!)」

 

『クゥ? わかった。』

 

 式神を通じて林の奥にいる久遠に伝えると、聴覚を共有した新たな式神を境内の近くの隠れれる場所に出して、俺も絶と身体強化をして林の奥へ向かった。

 その直後に美由希が石段を登って神社の鳥居をくぐった。

 

『あれ? 今日はたっくんいないのかな?

 おーい、たっく~ん!!』

 

 式神との繋がりから美由希が俺を呼ぶ声が聞こえるが、今は無視して久遠と合流。

 久遠と一緒に絶をしながら林の奥で息をひそめる。

 

「(クゥン、拓海どうしたの?)」

 

「(んにゃ、ちょっと会いたくない人が来ただけだ。)」

 

「(クゥ?)」

 

 式神から感知できる感覚で美由希が俺を探し回ってると、美由希の後ろについてきた人物も境内に現れた。

 

『ここだったのか美由希。』

 

『えっ、恭ちゃん!! どうしてここに!?』

 

『お前の言う拓海君とやらに俺も会ってみたかったんだが……逃げられてしまったみたいだな。』

 

『え? 逃げられた?』

 

『ああ、ついさっきまで誰かここにいたみたいだから。』

 

 嘘だろ!! もしかして俺の気配に気づいていた!?

 俺だって円の範囲内に高町恭也が入ったから気づいたのに、その前から俺が神社にいるのに気づいてたのか!?

 どんだけだよ、たかまちけぇ!?

 

『しかし、会った事もないはずなのに逃げられてしまうとは。

 美由希、いったい俺のことをどういう風に教えたんだ?』

 

『え、ええとそれは…』

 

 美由希から聞く高町恭也の話は、意地悪された事の愚痴が殆どだったりする。

 『酷いんだよ恭ちゃん』から始まる内容ばかりで、聞いてる方は印象を悪くしても不思議じゃない。

 この前の本音暴露から、もう殆ど惚気話にしか思えないけどな。

 

『会えないのであれば仕方がない、出直すか。

 美由希ゆっくり稽古でもしながら話をするとしよう。』

 

『いやぁぁぁ!!』

 

 高町恭也に引き摺られて帰っていく美由希。

 何を話すのは想像したくないが、一歩間違えれば俺もああなるのか?

 今度美由希と会った時は少し優しくしてやるか。

 

 

 

 

 

「どうしたの、この式神の数。」

 

「クゥン♪」

 

 俺は今大量の式神を出している。

 すべて動物だが種類はすべてバラバラで那美姉さんはその数に驚き、久遠は式神の牛の頭の上に乗って遊んでいる。

 

「そろそろ即席じゃない専属の式神を作ってみたいと思って、十二支をモチーフにとりあえず即席の式神

で作ってみたんだ。」

 

 式神の作成技術もだいぶ上がってきたし、そろそろ本命の式神を作ろうかと思ってる。

 どういうのを作るのかというと、GS美神の式神十二神将みたいな十二支をモデルにした式神がいいと思った。

 魔法陣の十二角形に当てている十二支なんだけど、魔法陣の補助もしてくれるような式神と考えて配置していた。

 それにいろんな動物の式神を持ちたいとも思っていたしね。

 

 そして今出してるのが十二支に当たる動物たちの式神。

 ちなみに今俺は本来よりも大きな虎の背中に乗っています。

 猫科の大型動物に乗る夢が叶ったよ。

 

「7、8、9……ねえ、拓海君。

 十一匹しかいないよ?」

 

「……ねえ、那美姉さん。

 龍って実物見たことある?

 他の動物なら写真やテレビで見たことあるから簡単にイメージ出来たんだ。

 だけど龍なんて実際にどういう感じか分からないから、イメージがしっかり固まらなくてうまく作れなかったんだ…」

 

「そ、そうなの…」

 

 アニメなんかのフィクションでしか見たこと無いから実際の感じがいまいち想像出来なくて、作ってみたら感触のしっかりしない粘土みたいな式神になっちゃったんだ。

 

 ああ、そうだ。

 空を飛べるような鳥などの式神だけど、ちゃんと空を飛ばす事が出来たよ。

 もともと式神は札と霊力から出来てるから、飛ぶイメージさえ出来ればどんな形でも飛ぶ事ができるみたい。

 つまり俺が乗ってるこの虎もその気になれば空を駆けることが出来るってことだ。

 夢が膨らむな~。

 

「ねえ、那美姉さん。

 龍って実在するのかな…」

 

「うーん…私も見たことは無いな~。」

 

 次元世界なら何処かにいるかもしれないな~。

 龍は蛇みたいな胴体の長い東洋龍だけど、西洋龍は実際に存在するらしいし。

 確かアルザスだったっけ、いつか行ってみたいな~。

 

 

 

 後日何度も龍の式神を作成しなおして、蛇に角と手足を生やして顔をそれっぽくした龍に仕上げられた。

 もともと式神のイメージはかなり曖昧でも作り出せたから何とか作れた。

 もちろん乗って空も飛んでみたよ。

 いっそ式神使いになっちゃおうかな~。

 

 

 

 

 

「たっく~ん、恭ちゃんに苛められない方法考えて~。」

 

「だから俺はドラえもんじゃないっての。

 美由太君て呼んでほしいのか?」

 

 この前、高町恭也に稽古で勝ってからは美由希は鍛錬という名の苛めにあってるらしい。

 泣きつけるなら割と余裕はあるんだろうけど、この前優しくしてやるかと思っていたのでとりあえず話は聞いてやることにする。

 

「だってぇ、たっくんなら何かいい方法を知ってるんじゃないかと思って。

 私との稽古のときもいろんな技を使って逃げ回ってるじゃない。」

 

「確かに俺はいろんなネタ技を開発してるけど、美由希が使えるかどうかは知らないぞ。

 仮に使えるようになったとしても、また稽古で勝ったら鍛錬が厳しくなるんじゃないか?」

 

「う”、そうだね……」

 

 ん~…何かいい方法はないか。

 美由希と同じ流派だから技ならいくらでもあるけど、勝つだけじゃ問題解決にならない。

 というか俺、美由希の愚痴くらいでしか高町恭也のこと知らないぞ?

 前世の知識なんて明確な人柄を知る事なんてて出来やしないし。

 

「ん~、俺が出来そうなのは式神符で囮を作って逃げる隙を作るくらいかな。」

 

「え、その符だって私にも使えるの?」

 

「一応霊力でなくて気でも使用可能。

 使い方はこの札に気を込めながら人物を思い浮かべる。

 そうすればその人物の式神を作る事が出来る。」

 

 最近作ってる式神符に作成段階である程度設定を入れれるようになった。

 人型、四足歩行の動物、鳥型などある程度形を限定しておけば、より性能の高い式神が出来上がる。

 更に作り出す対象を札の作成段階で設定しておけばより高性能となる。

 俺が美由希に渡すのは人型限定の式神符数枚。

 

「わかった。 これで恭ちゃんから逃げ切ってみせるよ。」

 

「まあ、がんばれよ。

 使い捨て札の札だから終わったら捨ててもいいけど、ちゃんと使えたか教えてくれ。」

 

「うん。」

 

 そう言って美由希は札を持って帰っていった。

 果てさて、どうなる事やら…

 

 

 

 翌日、再び美由希はやって来た。

 

「ふぇ~ん!! 恭ちゃんに怒られた~!!」

 

「何やったんだよ。 ちゃんと式神符使えたか?」

 

「うん…ちゃんと使えたよ。」

 

 ふむ、他人が使う分にも問題はないらしい。

 今度は使用者が力を込めなくても符に込めた霊力だけで使えるようなもの作ってみるか。

 強度は確実に落ちるけど誰でも使えるようになるし。

 

「で、どういう風に使ったんだ?

 自分の姿の式神を使ったのか?」

 

「ううん、恭ちゃんの恋人の月村忍さんを出して迫らせてみたの。

 その間に逃げようと思ったんだけど、運悪くそのタイミングで本人が来ちゃって…」

 

「それはまたベタな…」

 

 後で分かればどのみち怒られるだろう。

 相変わらずアホな使い方と落ちをして…

 

「ねえたっくん、ほかに何かいい方法はない!?

 ねえねえ!!」

 

「いい加減にしてよ美由太くん。」

 

 

 

 

 

 いろいろ試したり遊んだりしている内に季節が巡り、春になって俺も小学四年生になった。

 なのはちゃんは小学三年生に進学しただろう。

 ジュエルシードが海鳴に落ちてくる年だ。

 

 新学期を迎えた時からユーノの念話がいつでも来ていい様に、出来うる限りの準備をして俺は警戒していた。

 そしてそれはすぐにやって来た。

 

「!! 来たな。」

 

 無印の物語が始まる。

 

 

 

 

 

●式神半自立型&複数展開可能に。

●専属式神のモデルの十二支を作成練習中。

●作成した式神符を他者の使用が可能に



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無印
原作開始前の主人公のステータス


 

 

 

名前:山本拓海 性別:男 年齢:10才

 

家族構成:父・母・自分の三人

 

保有能力:『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』

・文字通り目的のために努力すれば成功、或いはそれの準ずる結果を出せる能力。

 本人は主に気・魔力・霊力などの不思議な力を使った技術の開発や練習に使っているが、それ以外の通常の技術の取得にも役に立つ。

 実はそれ以外にも危機的状況下で生き延びるために努力すればどうにかなるなどの運命的補正も起こる。

 例えば危機的状況で死にたくないからという目的で努力すると、努力の量次第で結果は変わり命は助かっても手足を失ったりする等代償を持って生き延びるもある。

 努力する事を諦めれば当然能力は効果を発揮しないので、まさに本人の努力次第。

 

 

 

習得技能

●気 ●魔力 ●霊力 ●その他

 

※気、魔力、霊力はある程度まで代行共用が可能。

 気+霊力、魔力+霊力は合成可能。

 気+魔力は合成現在不可(咸卦法)

 

 

 

●気 

・特性:生命力を練り上げて発生させたエネルギーが気。

 その量は生命力の量と練り上げる増幅率によって決まる。

 また、気に意思を込める事で性質を細かに変化させる事ができる。 

 

・海鳴流(かいめいりゅう)

 我流で開発した神鳴流、これまで斬岩剣、斬空閃(弐の太刀)、斬魔剣(弐の太刀、終の太刀)、斬鉄閃、百花繚乱を公開。

 

・性質変化

 雷気、凍気、炎気、風気まで性質を変化させることができる。

 またこれによって雷鳴剣などの技の名前が変化する。

 

・舞空術

 体内の気を圧縮して放出力を高める事で飛行出来る。

 最高飛行速度は自力では測定できてないが時速100キロは超えていると思ってる。

 

・(虚空)瞬動

 足の裏等に気或いは魔力を込めて爆発させる事で直線状に移動する技術。

 

・気弾

 気で作った弾丸。

 複数出す事も出来るし放射型にすることも出来る。

 ただしかめはめ波みたいなのは使うのは危険と判断して使用した事はない。

 

・念能力(モドキ)

 実際に使えるわけではないが四大行などの訓練法を参考にしている。

 この訓練法によって基礎能力が伸びて、さまざまな小技が使えるようになった

 

 

 

●魔力

・特性:自然に存在する魔力素を吸収して自身の色に染める事で自分の魔力に出来る。

 魔力素を認識した事で自分の意思で吸収できるようになったが、全力で吸収すると魔力への変換が追いつかないので、全力放出と吸収を繰り返して自身の魔力量と放出量と回復量を鍛えている。

 

・陰陽五行魔法陣

 太極図と五行と十二支で構成された自分で考えた魔法陣。

 今のところ五行の属性による魔法が使用可能だが、自力ではこれ以上の発展は不可能だったので作成休止中。

 

●霊力

・特性:魂より生み出される力。

 気・魔力よりは物理的な威力は劣るが、残留思念などの非物体などに対して絶大な効果を現す。

 常時斬魔剣状態と考えてもらっていい。

 実は気と魔力の構成物や術式に対しても非常に有効だったりするAMFのような特性もあるが、いまだはっきりしていない。

 

・ヒーリング

 神咲那美に教わったもの。

 ミッド魔法よりは効果が低いが、万能性のあるものでどんな直りにくい傷でも時間をかければ直せる。

 さすがに手足の損失などは不可。

 

・鎮魂術

 上記と同じく那美に教わっているもの。

 霊の無念などを浄化する力があり、これを斬魔剣終の太刀に込めれれば技が完成すると思っている。

 

・ソーサー

 GS美神の横島のサイキックソーサーを真似たもの。

 複数展開したり遠隔操作できたりする。

 

・霊気手甲(栄光の手もどき)

 上記と同じく真似たもの。

 手甲のように霊力を纏ってるだけで栄光の手のようにしっかりとした手甲のようにはなっていない。

 腕の部分だけ延ばしたり霊波刀に変化はさせられる。

 

・式神作成

 材料は鉛筆とただの画用紙で式神符を作ってるがちゃんと機能している。

 複数展開、数多の動物を作れるが全部即席で一回使った札は再利用不可。

 そろそろ即席でない専用式神を作ろうと思っている。

 

・陰陽術

 今のところ金縛りの術を使った事がある程度。

 攻撃系よりも補助や占いなどが多い

 

 

●その他

・声帯模写

 ただの声真似だが非常によく似せることが出来る。

 

・神咲一刀流

 基礎的な剣術として教わっている。

 裏である退魔道神咲一灯流ではない。

 

・御神流 初歩

 高町美由希に教わった初歩のみ。

 徹、貫、虎切、斬、虎乱を教わった。

 

・ゴッドハンド

 気などに意思を込めて動物を撫でると警戒を解いておとなしくなる。

 

・相転移砲(メドローア)

 冷気の凝固と炎気の蒸発の特性をあわせることで、これを浴びた物質は相転移し続けて莫大なエネルギーにかえて消滅させる。

 危険すぎたので禁術指定で封印中。

 

 

 

 

 

 



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第十九話 宝石種はマジで危険

 

 

 

 

 

 原作の開始に気づいたのはユーノの念話からじゃなかった。

 魔力操作も練習していたから、海鳴市の上空に魔力を感じる事が出来たのだ。

 一瞬だったから気のせいかとすら思ったが、それが間違いではないとわかったのはすぐだった。

 

『(誰か力を貸して)』

 

 魔力の感覚と共に頭に声が響いてきた。

 おいおい、ジュエルシードが現れた感じがしてから一時間位しか経ってないぞ。

 助け求めるの早すぎじゃないか!?

 

 だけど今のだけじゃ何処にいるのかさっぱり分からん。

 とりあえずなのはちゃんの方に鳥の式神でもつけておくか。

 それでどうなるか確認できるだろう。

 

 

 

 翌日の夜、動きがあった。

 念話が再び響き渡り、助けを求める声が聞こえた。

 付けておいた式神から、念話を聞いて夜遅くに家を出て行くなのはちゃんを確認できた。

 鳥の式神で上空から追いかけると、動物病院の前になのはちゃんが着いたと同時にジュエルシードの暴走体が現れた。

 

 丸っこいスライムみたいな粘液の塊のようだった。

 以前久遠からたたき出した祟りみたいな感じに見えるが、見る分にはそれほど恐怖は感じなかった。

 

 

 だが直後、それとは別の脅威を感じる事になる。

 合流したユーノとなのはちゃん目掛けて体当たりを敢行したからだ。

 二人に当たる事はなかったが一度の体当たりで塀が吹き飛んだのだ。

 

(ちょっとこれ不味くないか!?)

 

 俺や美由希だったらこれくらいの事はわりと平然に出来るが、一般人だったら大怪我は確実だ。

 暴走体が暴れまわるたびに塀や建物が壊れていく。

 映像とあまりに違いすぎて、これでもかと言うくらいの危険を感じた。

 ほっといても何とかなると考えてた事も忘れて、俺は家から飛び出して舞空術で現場に向かった。

 

 だが現場を見張ってた式神がなのはちゃんが暴走体を封印するところを確認した。

 なのはちゃんはすぐに現場を離れると、直ぐにパトカーなどが現れて人が集まりだした。

 とりあえず今日の事件は終わったと式神を回収して家に戻りジュエルシードについて考え直す。

 

 

 

 前世で見たリリカルなのはのアニメ。

 それはとても楽しくて夢のある物だったが、現実で事件が起これば周りに被害か確実に残る。

 災害にしろ何にしろ、周囲の住人には迷惑以外の何物でもない。

 ジュエルシードを回収したからって、壊したものが直るわけじゃない。

 

 今回は封時結界も張ってなかった様だから、周りの被害も残ってる。

 一般人が戦闘に巻き込まれてたらと思うとゾッとする。

 

 正直関わるか関わらないかと言ってる場合じゃないかもしれない。

 今日は原作通りに進んだけど、何時までそれが保障されるかわかったもんじゃない。

 俺も出来る限りジュエルシードの回収に回ったほうがいいかもしれない。

 

 

 関わる上で一つ気がかりなのが、管理局の気や霊力に対する認識だ。

 この世界では一応認知されてはいる力なので知っているかもしれないが、使い手の存在を知れば確保しようとするかもしれない。

 STSの話から管理局に裏があることを知っているから、必要以上に警戒してしまい関わりたくないと思ってしまう。

 とりあえずなのはちゃん達とは接触しない方向で行こう。

 回収したらそれとない方法でなのはちゃん達に渡せばいい。

 

 次に大きな被害の出る事件は巨大な木の暴走体の事件。

 出来ればそれまでに先にジュエルシードを回収出来ればいいんだが…

 

 

 

 

 

 翌日、俺は学校へは行かずにこっそりとジュエルシードの探索をしてみることにした。

 さすがに理由もなく休む訳にはいかなかったので、俺の姿をした式神を代わりに学校においてきた。

 式神も半自立型まで作れるようになったので、視覚を共有出来るから授業も一応受けていられるし、共有していない時は式神が自己の判断で行動してくれる。

 こういう悪用は不味いと思ったが、少し悩んでまあ仕方ないと諦めた。

 

 この式神の性能からNARUTOの影分身みたく訓練効率を上げられるかと思ったが、視覚などの感覚を共有しても処理するのは殆ど本体の頭なので頭の回転が着いていかない。

 マルチタスクなどの技術が欲しくなるが、よく考えたらミッド式の魔法を学ぶには管理局には自然と関わる事になる。

 魔法は知りたいが管理局には関わりたくないと言う相反する考えに悩まされるが、今はなのはちゃん達に関わらずにジュエルシードの探索を続ける事にする。

 管理局に関わるかどうかは事件が終わってからでもなのはちゃん経由で問題ないだろう。

 

 

 

 そして半日いっぱい探し回って見たがそう簡単に見つかるはずもなく、学校のほうも終わって式神を回収した。

 そのタイミングで近くで魔力の反応を感じた。

 恐らく原作二つ目のジュエルシードだ確信し、被害が出る前に且つなのはちゃん達が来る前にジュエルシードの様子が見れるように、気で身体能力を強化し走って現場に向かった。

 

 向かった先に付くと、そこは俺がいつも来ている八束神社だった。

 

「って、灯台下暗しか。

 いつも来てる場所にあるなんて…」

 

 半日探して見つからなかったのにと思うと非常に複雑だ。

 そう思いながらも石段を数段飛ばしで駆け上る。

 登りきると境内には暴走体らしき巨体で異形の犬と倒れた人、そしてその前に立ち塞がる女の子姿の久遠がいた。

 

「!! 久遠、大丈夫か!?」

 

『ガアァァァァァ!!』

 

「クォン!!」

 

 

-ドゴロゴロロン!!-

 

 

 那美姉さんは学校だから今はいないみたいだけど、いつもいる八束神社だから久遠がいても可笑しくない。

 犬の暴走体が飛びかかろうとすると、久遠が相手の目の前に雷を打ち込んで牽制した。

 

「拓海、こいつ何かに取り憑かれてる。

 だから久遠、こいつ攻撃できない。」

 

「そういうことか!!」

 

 正直なのはちゃん達が来るまで逃げ回って時間稼ぎのつもりだったが、久遠がいるならそういうわけにもいかない。

 俺は海鈴を取り出していつもの様に気と霊力を合成して込めて構える。

 目に霊気と気を集中させ凝をして取り憑かれてる者と取り憑いている者を見極める。

 

「正直、俺が何処まで出来るかわからないが、やれるだけやってやる。

 食らえ、斬魔剣弐の太刀!!」

 

 久遠の一件から更に磨き那美姉さんの仕事に付き添って高めた斬魔剣弐の太刀は、既に自在に使えるようにものにしていた。

 今なら連続で放つことも出来るようになっている。

 取り憑かれているであろう犬を傷つけないようにしていた久遠の為にも、傷つけないように斬魔剣弐の太刀を放つ。

 さすがに一撃では終わらないだろうと、放った後も身構えていたが…

 

 

-バシュンッ!!-

 

 

「は?」

 

 斬魔剣弐の太刀が当たると暴走体の体は黒い煙になって砕け散り、後に残ったのは取り憑かれていた犬とジュエルシードだけだった。

 

「あ、あっけない……

 もしかして見掛け倒しだったのか?」

 

「クゥン、拓海ありがと。」

 

「あ、ああ…」

 

 実戦経験の乏しい俺が強いなどとは思わないが、正直あっけなさ過ぎた。

 昨日の暴走体を見る限り一般人には脅威でも、多少力がある人間なら俺くらいでもどうにかなる程度なのか?

 或いは斬魔剣弐の太刀と相性が良かったのか。

 暴走体は魔力で出来てるから一応魔に属するものだからな……

 

 少し考え込んでるうちに誰かが石段を登って来る気配を感じた。

 すぐに円を展開してみればなのはちゃんとユーノであるのがわかった。

 

「久遠、人が来る。 狐の姿に戻って、隠れるぞ。」

 

「わかった……この石は?」

 

「放って置いていい。

 これから来るやつらが回収してくれるはずだ。」

 

「クォン。」

 

 

-ポフンッ-

 

 

 子狐の姿に戻った久遠を抱きかかえて神社の社の裏に急いで隠れる。

 ここからなら境内の様子を声も聞こえて目で確認もできる。

 そしてなのはちゃんがユーノを連れて石段を登りきり境内に現れた。

 

「ユーノ君、ジュエルシードは?」

 

「おかしい、ジュエルシードの気配が消えた。」

 

「あ、ユーノ君、人が倒れてるの。

 近くに落ちてるのってジュエルシードじゃないかな?」

 

「ホントだ。 確かにジュエルシードの発動は感じたのに今は止まってる。

 けど封印されてないから何時発動するかわからない。

 なのは、レイジングハートを起動して封印を。」

 

「え、えっとどうやるんだっけ?」

 

「昨日言った起動パスワードを言うんだよ。」

 

「あんな長いの覚えてないよ~。」

 

 あとはアニメで見たようなやり取りをして、なのはちゃんがレイジングハートをパスワードを無しで起動しジュエルシードを封印していった。

 発動した筈のジュエルシードが止まってた事を疑問に思っていたようだが、うまくなのはちゃん達の手に渡ってよかった。

 

 

 

 ジュエルシードが回収されたのを確認すると、なのはちゃん達とはちあわないようにに神社から離れて久遠と今日の事を話し合う事にした。

 

「久遠、今日は迷惑かけて悪かったな。」

 

「拓海、さっきの石は何?」

 

「あーそれは…」

 

 正直久遠のどう説明したらいいものか。

 久遠に話すなら那美姉さんも知る事になりそうだけど、そこから世間にジュエルシードの事が広まるのは不味いよなぁ…

 久遠か那美姉さんに口止めして納得してもらうしかないか…

 

「出来れば那美姉さんには黙っておいてくれないか?

 さっきの石は退魔師の人でもどうにかなるかわからないうえ、いろいろ厄介な事情があるんだ。

 そんな石が今、街中にいくつも散らばってる。

 だから出来るだけ人には知られずに、さっき石を封印した女の子の手に渡るようにしたいんだ。」

 

「クゥ、拓海大丈夫?」

 

「俺は大丈夫、斬魔剣弐の太刀が有効だってわかったから何とかなるよ。

 もし本当に俺だけじゃ手に負えなくなったら那美姉さんに相談するから。」

 

 物語通りなら世間に知られずにジュエルシードは回収されるはずだけど、それが絶対とはとても思えなくなってきてる。

 昨日の被害を見る限り、人が巻き込まれたらただじゃすまない。

 そうでなくても発動すれば周囲に多大な被害が出る。

 発動する前に回収するために俺も街中を見回るつもりだ。

 

「クゥン、久遠も手伝う。」

 

「え?」

 

「久遠強いよ。 だから拓海の役に立てる。

 拓海の事助ける。」

 

「…いいのか?」

 

「クォン(コクン)」

 

「ありがとな、久遠。」

 

 正直一人じゃ心細くもあった。

 ジュエルシードの存在を知っている為に、一人で対応しなければならない状況に少し気が重かった。

 なのはちゃんと接触すればいいとも考えたが、同時に管理局に関わってしまう事が受け入れにくかった。

 だから仕方なく一人で行動する事を決意していたが、失敗して被害をもたらしてしてしまわないかという重みを感じていた。

 アニメのなのはもこんな感じだったのかと思ったが、現実で被害が起こればそれに連なってさまざまな問題も発生する。

 そんな事実に力を持っているとはいえ一般人の俺が向き合う事が恐かった。

 

 だけど久遠が一緒にいてくれると思うだけでとても気が楽になった。

 こんな気持ち一人じゃ抱えきれない。

 なのはちゃんとユーノだってお互いがお互いに心を支えあってるんだろうな。

 

 まさか前に言った久遠がパートナーが本当になるとは思ってなかった。

 俺は久遠を抱きしめて改めて久遠と友達になる。

 

「これからもよろしくな、久遠。」

 

「クォン!!」

 

 

 

 

 



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第二十話 びっくり!! 久遠脅威の変身!?

 

 

 

 

 久遠がお供になってくれる事が決まってから約一週間。

 俺は久遠と共に街中を歩いてジュエルシードの探索を続けた。

 その間に発動したジュエルシードはなのはちゃん達がちゃんと封印したのを、追尾させている式神から確認した。

 ちなみに学校のほうは前回と同じく式神に代行させている。

 事件が終わったらちゃんと学校行くんだからね!!

 

 久遠と一緒に探索しているといっても、久遠は俺が抱えるか頭の上に乗っているだけだ。

 俺が円を張りながら歩いてジュエルシードらしき物がないか周囲をしっかりと認識して街中を歩いている。

 その間に未発動のジュエルシードを1つ発見する事が出来た。

 いずれなのはちゃん達にそれとなく渡すつもりだが、今は陰陽術の本に載ってた封印の札で封印して神社の林の奥に隠しておいた。

 ちゃんと封印出来てるか不安なので、そこにも監視用に式神を配置して発動したらすぐ解る様にしておいた。

 最近式神が便利すぎる。

 

 アニメではジュエルシードが明確にどこに落ちているかなんて殆ど描写がされていなかった。

 巨大な樹が生えて町に大きな被害をもたらすジュエルシードも、どこに落ちていたかは描写されていなかったはずだ。

 誰かが拾って、そして発動させてしまったくらいしかわからない。

 俺の見つけたジュエルシードが巨大な樹を生やしてしまうジュエルシードだといいんだが…

 

 

 

 

 

 この日は日曜日。

 確かなのはが翠屋がやっているサッカーチームの応援をしていた日に、巨大な樹のジュエルシードが発動したはずだ。

 マークしている式神の視覚からなのはちゃんがサッカーの試合の応援をしているのが見えた。

 俺も近くの建物の影に隠れて何時ジュエルシードが発動してもいいように準備をしていた。

 確かサッカーチームの選手の誰かがジュエルシードを持っていたと思うんだが…

 

「拓海、ここでジュエルシードが発動するの?」

 

「ああたぶん。

 陰陽術の占いで今日ここで良くない事が起きるって出てたから…」

 

 アニメの知識を誤魔化す為に久遠には陰陽術の占いだと説明していた。

 実際陰陽術の占いは出来るようになっているし、曖昧な結果しか示さないが中る確率は割りと高い。

 俺が見つけたジュエルシードも試しに占ってみた方角に進んだら見つかった。

 偶然かもしれないが、当てずっぽうよりは信用できると思う。

 

 正直アニメの流れを除いた細かなシーンがもう殆ど頭に残ってない。

 大体の流れは十二分に残ってるけど、どうでもいいようなシーンは殆ど覚えてなかった。

 巨大な樹の事件でなのはがジュエルシードをしっかり集めると意思を固める話だとは覚えてるけど、発動者のモブキャラの容姿なんてどうでもいい。

 その上現実描写だから誰が誰だか比べようがないんだよ!!

 

 発動前のジュエルシードはホントにただの石ころみたいなものだから、円で確認しても所持品のアクセサリと判別がつかない。

 発動したらすかさず斬魔剣弐の太刀を放って発動を止めて、気による身体強化で走り抜けそのまま持ち去るつもりだった。

 その為に顔がわからないように帽子を深めに被って準備してきた。

 ジュエルシードの為とはいえ、これじゃただの引ったくりだ。

 事件に関わってから自分の異能、碌な事に使ってないな。

 式神による盗聴とか…

 

 

 とか何とかいってる内にサッカーの試合が終わって、勝った祝いに翠屋に食事をしに移動した。

 なのはちゃんもユーノを連れて友達の月村すずかとアリサ・バニングスと翠屋に付いて行った。

 ジュエルシードはまだ発動しないのか?

 

 

 

 サッカーの試合をしていた子達は店の中で食事を取り、なのはちゃん達は外のカフェテラスでユーノを愛でている。

 俺は近くのビルの屋上から凝でその様子を見ていた。

 ユーノって一応人間なんだよな。

 淫獣だの何だのと言われてるけど、実際同年代の女の子に撫で回されてるのはどうなんだ?

 同年代の女の子に成れる久遠を良く撫でてる俺が言うのも何なんだろうな。

 

「なあ久遠、俺いつも久遠の事撫でてるけど嫌じゃないか?」

 

「拓海が撫でてくれるの気持ちいいよ?」

 

「でも久遠も一応女の子だろう?

 女の子を撫で回すのってどうかと思うんだけど。」

 

「クゥ? 久遠は拓海が好き。

 だから久遠を撫でていいの。

 久遠は拓海に撫でてもらいたい。」

 

 あーうん、こんな風にストレートに好きって言って貰うのは初めてだな。

 親愛的な意味だろうけど、好きだって言って貰うのはとても気持ちが暖かくなる。

 子供に戻って性欲的な感情が薄くなってるからか、異性の好意でも純粋に嬉しくなれる。

 大人になったらこうはいかないんだろうな。

 

「そっか、俺も久遠のことが大好きだ。

 何時までも仲のいい友達でいような。」

 

「クォン♪」

 

 そう言って俺は久遠を抱えなおして優しく撫でてやる。

 俺だってまたいつか大人になるから、何時までこうしていられるかわからない。

 けど、この久遠を愛おしいという気持ちはずっと大事にしていきたいと思った。

 

 

 

 久遠を愛でつつも翠屋のほうに目を向けていると、サッカーチームの子供達が店から出てきて解散してしまった。

 不味い、誰がジュエルシード持っているか分からないままバラバラになっちまった。

 これじゃあどこでジュエルシードが発動するか分からない。

 

「拓海、どうするの?」

 

「待って、もう一度占ってみる。」

 

 俺は霊力を集中して陰陽術による占いを行う。

 本格的なものなら他にもいろいろ準備しなければならないが、何時発動するか分からない以上準備はしていられない。

 せめてジュエルシードが起こす災いが発生する方位だけでも分かればいいと占う。

 

 意識を集中して占いを続ける事約一分。

 何か良くない事が起ころうとしている気配を感じ取れた。

 

「分かったぞ久遠!! こっちだ!!」

 

「クォン!!」

 

 久遠を抱えたまま身体強化をして占いで災いの起こると出た方角に進む。

 同時に俺の中で霊感が働きだした。

 何かが起こるという、久遠の時の様な違和感が示す警告。

 ジュエルシードが発動するのはもう間近だと霊感は言っていた。

 

 家屋の屋根伝いに身体能力任せで飛び越えていく。

 霊感がこの辺りだと示すと、俺は立ち止まって辺りを見回す。

 

「この辺りで何かが起こるはずだ…」

 

「拓海、あそこ!!」

 

「なに!?」

 

 久遠が教えてくれた先には翠屋のサッカーチームのジャージを来た男の子と、それと一緒にいる女の子が。

 凝でしっかり見るとその手にはジュエルシードが…。

 まずい!!

 

 

-キィィィィン!!-

 

 

 そう思った瞬間にジュエルシードは発動して、そこから樹が現れて見る見る成長して枝や根っこが伸び始めた。 

 成長にともない、枝や根っこが周囲の建物を壊していく。

 気づいた周囲の人たちは逃げ出すが樹の成長速度の方が速い。

 こんな状況じゃ、なのはちゃんが来るのを待ってる余裕なんてない。

 

「久遠!! あの枝とか根っこから人を守れるか!?

 俺は発動したジュエルシードを止める!!」

 

「大丈夫、久遠も戦える。」

 

 

-ボフンッ!!-

 

 

 抱えてた久遠が地面に降りると煙と立てて人型に変身する。

 だけど、変身したはいいが…

 

「って、久遠大人の姿に成れたのか!?」

 

 変身した姿は祟りの時の大人の姿だったりした。

 たまに見る女の子の姿だと思ってたから驚いた。

 容姿は俺から見て高い身長に狐耳に五本の尻尾、そして太ももにスリットの入った巫女服。

 目のやり場に困ります。

 

「うん、こっちの姿の方が強い。

 だけど疲れるからいつもは子供の姿。」

 

「そ、そっか、じゃあ頼む。」

 

「まかせて。」

 

 久遠の大人姿にかなり驚かされたが、何時までも驚いていられない。

 ジュエルシードの発動を止めるべく、俺は舞空術で飛んで発動元まで近づいていく。

 ここからだと距離がありすぎて斬魔剣弐の太刀を当てられそうにない。

 

 久遠は雷で成長する枝や根っこを片っ端から打ち砕いて周囲への被害を押さえている。

 雷は複数同時に放たれて、その上威力は普段よりも上がっているように見える。

 上から様子を見る限り久遠の方は大丈夫そうだったので、俺は発動しているジュエルシードに集中する。

 

 ジュエルシードは発動者の二人を巻き込んで樹の成長に乗って上に登っていく。

 俺はそれを追いかけるが、成長する枝がそれを遮る。

 

「邪魔ぁ!! 斬魔剣!!」

 

 魔力で出来た樹だから斬魔剣が有効かと思い放った。

 だが普通に切れただけでそれほどの効果を得られたように感じなかった。

 

「実体化しているから魔力じゃなくて普通の物質扱いか。

 なら連撃!! 斬空閃!!」

 

 ただ連続で斬空閃を放つだけだが、飛ぶ道を遮る枝をどんどん斬空閃で切り開いていく。

 美由希を練習台に連続で撃ってた事があったから、一発目と二発目のタイムラグを殆ど無くして連続で放てる。

 そして発動したジュエルシードと気絶してる発動者二人の前まで来て…

 

「とっとと止まれ!! 斬魔剣弐の太刀!!」

 

 発動者を傷つけない様に斬魔剣弐の太刀を放ちジュエルシードの魔力を吹き飛ばした。

 

 

-バシュウゥゥゥゥ!!!-

 

 

 ジュエルシードの魔力が吹き飛ぶと発動が止まり、そこから巨大な樹は魔力素の粒子になって崩れ始めた。

 俺はジュエルシードを確保して解放された発動者二人を両腕で抱えると地上に降りた。

 降りると枝や根っこの成長が止まった事で役目を終えた久遠が待っていてくれた。

 

「拓海、お疲れ様。」

 

「久遠もありがとう、助かったよ。

 後の騒動に巻き込まれないようにとっととここを離れよう。」

 

「うん。」

 

 抱えていた二人を安全そうな場所に置いて、俺と久遠はその場を離れた。

 さすがに人に見られて噂になりそうなので、今日の事を那美姉さんに話して対処してもらうことになった。

 那美姉さんは仕事の関係で政府の人とも繋がりがあるらしい。

 ジュエルシードの事自体は話せないが、巨大な樹の対処を俺と久遠がした事だけは話した。

 顔も深めの帽子で隠してたし、これで世間に噂は広まったりしないだろう。

 

 

 

 俺達がその場を離れてジュエルシードを封印符に包んだ頃に、なのはちゃんとユーノが対処に現れたのを式神を通して確認した。

 今回は仕方なかったかもしれないが対処が遅すぎる。

 間近にいた俺が言うのもなんだが、それでもそこそこな被害が出てしまった。

 すぐに止められたからよかったが、ほっといたら今頃大地震並みの災害になっていたかもしれない。

 

『ひどい……。 ユーノくん、これは?』

 

『この被害の大きさを見る限り、人がジュエルシードを発動させちゃったんだ。

 けどまたジュエルシードの反応が消えてしまっている。

 どうなっているんだろう。』

 

『だけど早く探さなきゃ。

 またジュエルシードが発動しちゃったら大変なの。』

 

『うん、そうだね。』

 

 二人はジュエルシードを探すようだが、今は俺が回収したものを渡せそうに無い。

 発動現場には人が集まってきてるし、こっそり回収させるには封印符は外す事になる。

 また発動したら堪ったものじゃないので、別の機会に渡すことにする。

 

 今回の事でなのはちゃんもジュエルシードに対する認識を改めてくれたはず。

 もうちょっとしっかりしてほしいと思ったが、そこで俺も考え直す。

 

 何でこんな大事件に9歳の子供が対処しなきゃいけないんだ。

 そういうのは物語の中だけだが、この世界は俺の認識で物語の世界。

 だけど現実に子供が事件を解決しないといけないというのはどう考えても厳しいものがある。

 俺はとっととジュエルシード事件が終わってほしいと願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 



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第二十一話 海鳴の守護者降臨!!

 

 

 

 

 

 先日の巨大樹事件は謎の超常現象としてニュースで報じられた。

 あんな大きな事件、アニメじゃ碌に語られなかったが当分話題として残る大事件だろう。

 那美姉さんの御蔭で俺と久遠の事は噂程度で済んで、日常生活に支障をきたす様な事にはならなかったが、両親には那美姉さんから説明されてしまったのでまた怒られてしまった。

 どちらかというと、【またか】といった感じで呆れられたみたいだったが…

 

 

 

 数日後、式神がなのはちゃんをマークしていたら月村家に遊びに来ていた。

 どうやらフェイトがなのはちゃんの前に初めて現れる日らしい。

 

 それも気になったが、何より発動したジュエルシードの暴走体が気になった。

 発動させるのは月村家の子猫でジュエルシードの力で巨大化するのだ。

 可愛らしい子猫が巨大化するなどどんだけシュールなのだろうと非常に気になった。

 

 フェイト? まあ彼女の事情に関しては問題なく終わるだろう。

 家庭事情は非常に深刻だと思うがジュエルシードが起こす被害に俺は精一杯だ。

 俺が気にしてどうにかなるもんじゃないし、アリシアを生き返らせて問題解決出来るほど俺の能力は非常識じゃない。

 せいぜい原作通りになるのが彼女にとってベストな結果だろう。

 

 

 

 式神を通じて俺と久遠は月村家の庭の様子を観察していた。

 久遠も見ることが出来ているのは。陰陽術の本に載ってた術で感覚を伝達してるからだ。

 式神のみの観察なのは月村家のセキュリティが非常に危険だからだ。

 塀を飛び越えて入ろうものなら、直ぐにセンサーに引っかかってしまう。

 円で塀の前から確認する限り鎮圧用と思える物々しい火器やトラップがゴロゴロしていた。

 全部ゴム弾とかだよな…。

 

 そういうわけで今回のジュエルシードはなのはちゃん任せになる。

 式神にはそれほど戦闘能力がないので任せられないしな~。

 

 そうしていると外からもジュエルシードが発動するのを感じた。

 直ぐに結界が張られるが霊力で作った式神との繋がりが切れることはなかった。

 結界で繋がりが遮られる事を気にしていたけど大丈夫らしい。

 そして式神の目に巨大化した子猫の姿が目に入った。

 

(すっげーシュールだ…

 だけど大きくなっても子猫可愛い。

 あの肉球になら押し潰されていいかも。)

 

(クゥン……)

 

 久遠がまた少し嫉妬してるみたいだが、大きくなっても可愛い物は可愛いんだ。

 あの猫特有の柔らかな毛の上に乗っかってみたいし、つぶらな瞳を間近から眺めてみたい。

 普通抱きかかえる筈の子猫に両前足の肉球で掴まれたらどんな気分になるだろう。

 実際あのサイズなら間違いなく潰されるが、想像するだけなら和やかな気分になる。

 

 妄想が暴走していた時に黄色い魔力光が巨大な子猫に当たった。

 攻撃を受けて横倒しになる子猫。

 魔力の色から攻撃したのはフェイト・テスタロッサ。

 

 わかっていたとはいえ何するんだ!!

 あんな可愛い子猫に無遠慮に攻撃するなんて!!

 見ているのが式神でなかったら暴走して文句言いに行ってたかもしれない。

 

 

 

 後は知っていた通りの展開でなのはちゃんが負けでジュエルシードはフェイトが回収していった。

 今のところなのはちゃんにもフェイトにも手を貸していないが、フェイトには手を貸す事はないだろう。

 フェイトに手を貸してジュエルシードが原作よりも多くプレシアの手に渡れば、次元震による被害が地球に出る可能性がある。

 そうならないためにもフェイトがジュエルシードを手に入れるのをそれとなく妨害する必要があるかもしれない。

 なのはちゃんはこの後フェイトと友達になりたがるが、俺はあくまで町の被害を抑えるのが最優先だ。

 

 

 

 

 

「ねえねえたっくん、最近忙しいみたいだけど何かあったの?」

 

「んーまあね。 美由希とは遊んでる時間ないから。」

 

 最近ジュエルシードを探して回っていたので美由希とは久々にあった。

 前までは数日に一回は必ず会って稽古か技の教え合いをしていたので、美由希からすれば暇が出来てしまったんだろう。

 

「ひどい!! 私のことは遊びだったのね!!」

 

「何を言ってるんだ、当たり前だろ。

 俺の本命は久遠に決まっている。」

 

「久遠に負けた!?」

 

「むしろ久遠と比べるな、失礼な。」

 

 久遠と美由希なんて比べるまでもないだろ?

 この前までは美由希の相手が多かったけど、愛らしさの面で久遠の圧倒的勝利だ。

 久遠が構って~と甘えたら美由希なんて直ぐほっぽり出して相手してやるぞ。

 これまでは久遠も俺の為にと遠慮してたんだ。

 ホントいい子なんだから。

 

「相変わらず辛辣で意地悪なんだから。

 まあそれはおいて、今度家族で温泉旅行行くことになってね。

 良かったらたっくんも行かない?」

 

「いかない、何で他所の家の家族と旅行に行くのさ。」

 

 ああ、フェイトと二戦目の時の温泉旅行のやつか。

 ユーノが淫獣と呼ばれる決定的な事件を起こすアレ。

 現実的に考えて俺なら絶対逃げ出すんだがな…

 

「大丈夫、妹のなのはの友達も一緒だから問題ないよ。

 たっくんと同じくらいだから前々から紹介したいと思ってたの。

 ねえ、一緒に行こうよ。」

 

「お断りだ。」

 

「お願い!! 一緒に来て!!

 連れてこないと恭ちゃんが恐いの~!!」

 

「それが本音か!! とっとと帰れ!!」

 

 どうやら高町恭也はまだ俺のことを諦めてないらしい。

 何時までも逃げられないと思うが、今は事件の関係で高町家の面々に会う気はしない。

 なのはちゃんと接触して魔力があることに気づかれたら、強制的にジュエルシード探しに同行する事になるかも知れないからな。

 

 そもそもあの旅行って男女の比率が可笑しかっただろう。

 男湯に高町恭也と父士郎と三人なんて袋のネズミじゃないか。

 恐ろしくて想像もしたくない。

 

 

 

 

 

 温泉旅行のほうも式神をつける形で様子を確認しておいた。

 式神を使って女湯を覗きなんてしてないぞ、ユーノじゃあるまいし。

 

 夜中に発動したジュエルシードをフェイトが封印し、なのはちゃんと戦ってフェイトが勝利。

 フェイトが合計二つのジュエルシードを手に入れて、今日の戦いは終わった。

 

 なのはちゃんとフェイトの戦いを見た感想だが……むっちゃこえぇよ。

 ビュンビュン飛び回るし、砲撃魔法はぶっ放すわ。

 周りへの被害を考えて、少しは遠慮しろって言いたい。

 

 

 次の戦いは更に苛烈を極めるはずだ。

 戦闘の末デバイスがお互いに破損してジュエルシードが再発動して次元震を引き起こす。

 フェイトが無理に封印して怪我してしまうのもあるが、発生する次元震が町にどのような影響を及ぼすのか想像もつかない。

 最悪俺が直接目の前に現れなきゃいけなくなるかもしれない。

 そうならないようにいろいろ準備しておかなきゃ…

 

 

 

 

 

 更に数日後の夜遅く、なのはちゃんは街中でジュエルードの探索を続けていた。

 式神でなのはちゃんをマークしながら、俺と久遠もジュエルシードの発動に対応できるように町中で警戒していた。

 そして町中に突然大きな魔力が広がって、その直後ジュエルシードが発動して同時に町に結界が張られた。

 魔力を認識していた俺も結界に取り込まれて、抱えていた久遠も一緒だ。

 町に広がってジュエルシードを発動させた魔力はフェイトの使い魔のアルフで、結界を張ったのはユーノだろう。

 

 ジュエルシードを強制発動させたフェイト側は何を考えてるんだ。

 ユーノが結界を張らなかったら、新たな騒動になってたかも知れないんだぞ。

 さすがに一言言ってやらなきゃいけないか。

 

 俺は久遠と共に二組に見つからない位置から様子を窺っていた。

 強制発動させらジュエルシードは既に封印されて、なのはちゃんとフェイトの空中戦は始まっていた。

 結界張られてるからってホントに遠慮無しにぶっ放すなよ!!

 道路や建物がぶっ壊れて何も思わんのか!?

 

「(あの戦いを見てどう思う久遠。)」

 

「(クゥ、二人ともすごい。)」

 

「(ああ、張られた結界で外には影響が出ないみたいだけど、よくもまあ無遠慮に周囲を考えずに戦闘が出来るな。

 俺もこの結界ほしい。)」

 

 周囲への無遠慮な攻撃はどうかと思うが、大技の練習をする場所がない俺には非常にほしい物だ。

 この結界があったら砲撃系の技とか、試しにぶっ放せるんだけどな…

 

 そして戦いに終止符が打たれる。

 放置されてたジュエルシードにお互いのデバイスが交差してぶつかり合う。

 その衝撃でジュエルシードは再び発動した。

 

 

-ギュオォォォォン!!-

 

 

 ジュエルシードから魔力の光の柱が再び立ち昇り、デバイスを交差させていた二人が吹き飛ばされた。

 発動した時、広がった魔力で空間自体がまるで地震が響いたように一瞬揺れた。

 霊感自体はそれほど働かなかったから、今のはそれほど危険なものではなく外への影響もないだろう。

 

 吹き飛ばされたフェイトが破損したバルディッシュを戻してジュエルシードに近づく。

 素手で封印しようとするが物言いの為にここで出る。

 姿を表すのは式神だが、ただの式神じゃない。

 

 この日の為に考えて練習して作り出した特別演出用威圧型式神!!

 登場はこの第一声から始まる!!

 

 

「すぅ…『ぶるあああぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!』(斬魔剣弐の太刀!!!)」

 

 

-ヒュンッ!! バシュウゥゥゥゥ!!!-

 

 

 声帯模写をして発した雄叫びと共に、斬魔剣弐の太刀を遠距離から放ってジュエルシードを止める。

 すかさず今回は霊力ではなく気で式神を作って、ジュエルシードを掴もうとしていたフェイトの前に着地させる。

 

 

ーズドンッ!!ー

 

 

 作り出した式神は二メートルを超える筋肉隆々な体格な為、かなりの重量を表現して着地をすればこのような大きな音が出るようにした。

 

「!?」

 

「なんだいこいつは!?」

 

「なにがおこったんだ?」

 

「い、今の声って…」

 

 フェイト・アルフ・ユーノは混乱しているが、なのはちゃんだけは何かに気づいたようにうろたえた。

 特別演出用式神は着ている服は普通の紺のスーツだが、筋肉隆々の巨体にはち切れそうなほど張っていただ。

 更に赤いマントを背に翻して、頭には某赤い彗星のマスクで目元を隠して口元からは大きな鼻とたらこ唇がはっきり見える。

 

『わぁが名は破壊大帝……ではなくぅ…

 わぁれはこの海鳴の地をまもぉるぅ、やぁみの守護者ぁ。

 ガーディアン・アナァゴだぁ!!』

 

「ガーディアン…」

 

「アナァゴ。」

 

「いったい何者なんだ?」

 

「(若本なの!? 間違いなく若本なの!?)」

 

 俺の声帯模写は若本の特有の声すら再現してみせた。

 田村ゆかりボイスなどが出来るようになった時とは別に笑いが止まらなかった。

 だがインパクトだけは間違いなくあり、忠告をしっかり受け止めるだろう。

 面白そうって理由もあったがな。

 ちなみにこの世界にはサ○エさんは存在します。

 

『少女達よぉ…なぁにゆえこの海鳴の町に災いをもたらすかぁ?

 わぁれはこの地を守る者としてぇ、これ以上町に被害を与える事をぉ、許すわけにはいかなぁい!!』

 

「!! ごめんなさい…でも私にはジュエルシードが必要なんです。」

 

『……』

 

「……」

 

『……よかろぉう。』

 

 式神アナァゴで発動の止まったジュエルシードを拾ってフェイトに投げ渡す。

 本来なら渡したくないが今回は放っておいてもフェイトの手に渡っただろうから仕方がない。

 

 改めて言うがこの式神は演出用で戦闘力はほとんどない。

 戦闘になったら一撃で消えるよ。

 

「え?」

 

『わぁれはこの町を守る者ぉ。

 そのような石自体に興味はなぁい。

 回収するのであぁれば、町に被害を及ぼさぬようにしろぉい。』

 

「わかりました。」

 

『分かればよぉい。

 だぁがぁ、この町に被害を及ぼそうとするならばぁ、わぁれを含む四天王、イソォノ、ナカァジマ、そしてわが盟友、フゥグタ君がお前に制裁を下すだろぅ。

 そぉれを良く覚えておくがいぃ。』

 

 予定通り相手が理解してないのをいい事にちょっとふざけ過ぎた。

 反省はしているけど後悔はしていない…。

 

「はい、いくよアルフ。」

 

「わ、わかったよフェイト。」

 

 フェイトとアルフはジュエルシードを持って飛び去っていった。

 

「あ、まて!!」

 

「待ってフェイトちゃん!!」

 

『まぁつのはお前等だぁ!!』

 

「「!?」」

 

 こっちには忠告は出来たので、次はなのはちゃん達の方だ。

 これまでジュエルシードで起きた被害、一言申しておきたい。

 

「あの…なんですか?」

 

「(生の若本ボイス、すごい迫力なの!!)」

 

『わぁれらはこれまでお前達の行動を監視していたぁ。

 ジュエルスィードとやらがどういう物かは粗方把握しているぅ。

 それによって町の被害、どう思っているのだぁ?』

 

「えっと、その…」

 

「ごめんなさい、僕の責任なんです。

 僕がジュエルシードをこの町にばら撒いてしまったから。」

 

「ユーノ君それは…」

 

 なのはちゃんがユーノを庇おうとするのを式神アナァゴが掌を向けて遮る。

 

『よぉい、お前の事情もすぅべて聞かせてもらっているぅ。』

 

「誰かに見られてたような事はなかったはずなのに。」

 

 霊力を使った式神はどうやら魔法では認識できないらしい。

 いつも鳥の姿等で監視してたからな。

 

『わぁれらにジュエルスィードを封印の術はないが止める術はあったぁ。

 故に先日の巨大樹の件はわぁれらが止めさせてもらったぁ。』

 

「あれはあなた達が?

 この世界に魔法文明はないんじゃ。」

 

『なぁい訳ではない。

 使い手の少なさ故に、表舞台に存在しないだけだぁ。

 そしてこのような理解出来ない超常現象に対応する者達が存在するぅ。』

 

 嘘は言ってない筈だぞ。

 霊力の使い手が一応公式に存在してるなら魔法があっても可笑しくない。

 超常現象に対応するのは那美姉さんや薫さん達の仕事でもあるし。

 

『こぉれはお前達に渡しておくぅ。

 巨大樹とわぁれらが見つけた物だぁ。』

 

「ジュエルシード!?

 それも三つ!?」

 

 三個のジュエルシードは言った通り、巨大な木の件と俺が見つけた物だ。

 

『わぁれらは封印の仕方を知らんのでそのままだぁ。

 直ぐに封印しておけぇ。

 そしてぇ、今後これ以上被害を出す事はゆるさぁん。

 それをよぉく覚えておくがいぃ。』

 

「わかりました。」

 

『そして桃色光線の少女よぉ。』

 

「も、桃色光線!?」

 

 間違ってないよな、魔力光桃色だし。

 こうゆう言い方するとものすごく痛く感じない?

 

『そうだぁ、お前は何を考えてその力を振るうぅ。』

 

「えっと、ユーノ君の役に立てればと思って。」

 

『なるほどぉ。

 だぁがお前はその力がどぉいうものか理解していなぁい。

 見よ、周りの建物をぉ。』

 

「!?」

 

 周りの建物は先ほどのジュエルシードの発動だけでなく、フェイトとの戦闘でさまざまな箇所が壊れていた。

 

『その力は容易に周囲を傷つけるぅ。

 結界の御蔭で実際の町に被害はないとはいえ、お前はそれを理解しているのかぁ?』

 

「えっと、その、わたし……」

 

「なのは。」

 

 なのはちゃんは周囲の被害を自分が行ったものと認識して戸惑っている。

 アニメじゃSTSでも遠慮無しにぶっ放しまくっていたけど、危険性をちゃんと認識してたのかわからない。

 少なくとも使い方を誤れば危ないものだとしっかり認識してほしかった。

 

 これが後にどういう影響を及ぼすかわからない。

 一応フォローも入れておかないと。

 

『桃色光線の少女よぉ。

 お前の力は使い方を誤れば人を傷つけてしまうぅ。

 だぁが、所詮力は力に過ぎぬぅ。

 お前が力とは何かを考え、その力の正しい使い方を見出せば、それは人を救う力にもなろう。』

 

「その…わかりました。

 考えてみます。」

 

 直ぐに答えは出ないだろうけど、これで無茶や危ない事を控えるようになってくれるといいな。

 数年後の無茶の祟った大怪我を防ぐ布石になってくれるとありがたい。

 

『うむぅ、最後にひとぉつ言っておきたい。』

 

「なんですか?」

 

『……シュークリーム美味かったと、お母上に伝えてくれぇい。』

 

「にゃあぁぁぁ、お客さんだったの!?」

 

 今の伝言に特に意味は無い。

 ただ面白そうだったから置き土産。

 

『ではさらばだぁ。 桃色光線の少女と喋るイタチよぉ。』

 

「高町なのはです!!」

 

「フェレットだ!!」

 

 だが答えは聞いてない。

 

『ぶるあああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!!』

 

 

-ドオオオォォォンン!!!-

 

 

「きゃぁ!!」「うわぁ!!」

 

 式神アナァゴを叫ばせると、体を作っていた気を炎気に変え圧縮して爆発させた。

 こうする事で爆発に紛れていなくなった様に見せかけて、式神符を焼いて証拠を残さないようにした。

 追いかけてこられたり、式神符に戻るところを見られても困るしな。

 

「ば、爆発しちゃったの。」

 

「転移したんだと思うけど魔力反応がなかった。

 何なんだあの人は。」

 

「若本なの。」

 

「は?」

 

 

 

 言いたい事言って同時に悪戯も出来たので満足した。

 目的と手段が逆転してた気がしないでもないが、これで何か良い方向に変わってくれるとありがたい。

 あの後直ぐ結界は解けて普通の町並みに戻った。

 

「久遠、あの式神どうだった?

 見ててちょっと面白かっただろう。」

 

「クォン、なんだかすごかった。

 今度あの声で歌って。」

 

「え”?」

 

 若本って何か曲歌ってたかな~

 ……ベリーメロン?

 

 

 

 

 

 



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第二十二話 戦いたくない思いと戦う覚悟

 

 

 

 

 

 魔法少女達の前に式神アナァゴが現れた翌日。

 新たなジュエルシードが発動し、お互いのデバイスも修復が完了して相まみえる。

 当然俺も式神を使って様子を窺っていた。

 

 今回はクロノが現れるはずなので霊力を使った式神を配置。

 魔力は当然使えば気づかれるし、気は生命力から生成されるので生き物と判断されるかもしれない。

 よって探知方法が無いだろう霊力で作った式神で様子を窺う事にした。

 

 暴走体も二人の攻撃で倒されジュエルシードは直ぐに封印された。

 そして封印されたジュエルシードを間に挟んで向かい合う。

 

『ジュエルシードに衝撃を与えたらいけないみたいだ。』

 

『昨夜みたいな事になったらレイジングハートもバルディッシュもかわいそうだもんね。』

 

『うん、だけど譲れないから。』

 

 そういってフェイトはバルディッシュをなのはちゃんに向けて構える。

 だが、なのはちゃんはレイジングハートをフェイトに向けずにそのまま構えを解いた。

 

『…私がジュエルシードを集めるのはユーノ君の為。

 それからジュエルシードの暴走で皆に迷惑をかけたくなかったから。』

 

『?』

 

 なのはちゃんはそのままの体勢でフェイトに語りだす。

 この時ってこんな会話だったっけ?

 

『昨日フェイトちゃん達がいなくなった後、あの人に言われたの。

 私の使う魔法は使い方を間違えれば人を傷つけて周りに迷惑をかけちゃうって。』

 

 あちゃ、言うタイミングが悪かったか…

 ずいぶんと気にして、話の流れ変えちまったし。

 この後の話の流れ、大丈夫か?

 

『私はフェイトちゃんとお話がしたいだけ!!

 フェイトちゃんと戦いたい訳でも傷つけたい訳でもないの!!

 だからお願い!! 闘わずに私の話を『ストップだ!! ここでの戦いは危険すぎる!!

 時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。

 詳しい事情を聞かせてもらおうか。』

 

 ここで出てくるか、クロノォ!!

 話の流れ的には間違ってないが空気読めなさ過ぎるぞ!!

 なのはちゃんががんばって話してる最中じゃないか!!

 

 

-ドゴゴゴゴゴン!!-

 

 

『逃げるよフェイト!!』

 

『……うん。 あ、ジュエルシード。』

 

 そこへアルフが牽制に放った魔力弾が着弾した。

 アルフは更に魔力弾を放ってフェイトが逃げる隙を作る。

 フェイトは封印して放置されたジュエルシードに向かって飛ぶが…

 

『クッ、させるか!!』

 

 それを防ごうとクロノが魔力弾をフェイトに放つ。

 フェイトはその攻撃のせいでジュエルシードになかなか近づけない。

 

 

『なのは、大丈夫?』

 

『フェイトちゃんとお話してたのに…』

 

 戦闘を避けていたユーノがなのはちゃんの下に現れるが、なのはちゃんは俯いて震えている。

 泣いているわけじゃないのは式神の目からもはっきりと分かる。

 

『なのは?』

 

『フェイトちゃんと戦わないでいい様にお話しようと思ってたのに…』

 

 なのはちゃんがレイジングハートを強く握って構える。

 

『な、なのは?』

 

『お話してたのに突然横から入ってきて!!

 ちょっとは空気読めなのーー!!!』

 

【ディバインバスター】

 

 

-ギュオオォォォォンンン!!!-

 

 

『なっ、うわあああぁぁぁぁぁ!!』

 

 クロノがぶち切れたなのはちゃんのディバインバスターに飲まれて海に消えた。

 普通に考えたら管理局員ぶっ飛ばすのは不味いだろうが、今回はクロノの自業自得だろう。

 結局人にぶっ放してるなのはちゃんもどうかと思うが…

 

 

 

 なのはちゃんがクロノをぶっ飛ばしてしまった隙にフェイトとアルフはジュエルシードを持って逃走してしまった。

 これにはぶっ放して落ち着いたなのはちゃんも反省の色を見せて、その後はユーノと共にアースラに行くことになった。

 海の藻屑になったクロノは転送で回収されたっぽい。

 

 

 

 

 

 あの後、さすがにアースラまで式神を追尾させる訳にはいかなかったので、その後の話がどうなったか分からない。

 一時間ほどでその場になのはちゃんとユーノは戻ってきた。

 

『ユーノ君、私どうしたらいいのかな…』

 

『なのは。』

 

『ジュエルシードの回収は管理局の人たちがやってくれるっていうけど、私はフェイトちゃんとお話がしたい。

 けど恐いんだ……向き合えば戦う事になってフェイトちゃんを傷つけたり周りに迷惑をかけちゃうんじゃないかって。』

 

『まだ時間はあるよ。

 ゆっくり考えよう。』

 

『うん、そうだね…』

 

 なのはちゃんは俺の言った事に相当悩みこんでるみたいだ。

 ここまで悩んで身動きが取れなくなるほどとは予想以上だった。

 こうなると、この後のフェイトとの戦いに不参加になるかもしれない。

 

 管理局が来たからジュエルシードの回収はやってもらうだろうから問題ないけど、フェイトが救われないかもしれない。

 もともと俺が手を出すつもりじゃなかった問題だけど、なのはちゃんの邪魔をするつもりじゃなかった。

 これはフォローを入れておかないと…

 

 

 

 

 

 なのはちゃんは家に帰って自分の部屋で休んでいた。

 まだ悩んで答えが出ない様子でユーノがそれを見て心配している。

 式神は部屋の窓の傍に隠して声が聞こえる場所に配置した。

 他に人がいないので丁度いい。

 

『≪悩んでいるようだなぁ、桃色光線の少女よぉ。≫』

 

『んにゃあぁぁ!?』

 

『この声は!!』

 

 今回は式神から通して声を出してるわけじゃない。

 式神からだと見つかる可能性があるので、陰陽術の本に載ってた木魂法(こだまほう)という遠距離に声を飛ばす術を使っている。

 声を飛ばすだけなので聞くには別の術が必要だが、今回は式神に聞き専門になってもらう。

 

『≪そう、わぁれは地球皇帝……でぇわなく。

 この海鳴を守るやぁみの守護者、ガーディアン・アナァゴォ。

 桃色光線の少女よ、先ほどの戦い見せてもらったぁ。

 ジュエルスィードを封印してくれた事には、れぇいを言おう。≫』

 

『(いったいどこから声が)…あ、ありがとうございます。

 後、桃色光線の少女じゃなくて高町なのはです~。』

 

『(念話じゃなくてどこからともなく声が聞こえてくる。

 これがこの世界の魔法?)』

 

 二人は突然の木魂法に驚いてるみたいだ。

 まあ突然若本ボイスが聞こえれば誰だって驚く。

 

『≪だぁが、その後の電気少女とのたたかぁい。

 お前の行動に迷いがぁ見えたぁ。≫』

 

『(フェイトちゃんは電気少女なの?)

 それは…。』

 

『≪昨日のわぁれの言葉にだぁいぶ悩んでいるようだなぁ。

 なぁにを悩んでいるのか申してみぃよ。≫』

 

『……私、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃって。

 フェイトちゃんとはお話したいけど、戦えば魔法でフェイトちゃんも周りも傷つけちゃうかもしれない。

 それがとっても恐いんです。』

 

『≪なぁるほどぉ≫』

 

 俺にも分からない悩みではない。

 久遠の祟りの時だって飛び込んでからは無我夢中だけど、後になってだいぶ恐くなった。

 那美姉さんがいうには、前に封印が解けた時は多くの犠牲が出たって。

 美由希とはよく稽古してるけど実戦とは違う。

 好き好んで怪我したいとも思わないし、誰かを傷つけたいとも思わない。

 

 なのはちゃんはそれを選択しなければいけない立場になっている。

 裏に回って姿を現さない俺と違って当事者だ。

 そもそも9歳の子供が悩むような問題じゃない。

 

 なのはちゃんが戦わなければ恐らくフェイトは救われない。

 だからといって戦えと言うわけにもいかない。

 子供にそんな事言いたくないし、何より俺が戦おうとしていないからだ。

 表立って戦おうとしない俺がそんなこと言う資格はないし、仮に俺が戦ってもフェイトを救う事は出来ないだろう。

 

 俺にはそこまでフェイトに対する思い入れはない。

 フェイトに関わろうとする強い気持ちがあるから、なのはちゃんがフェイトを救える。

 だからこそ俺が足踏みさせてしまったなのはちゃんをフォローしないといけない。

 

『≪桃色光線の少女よぉ、人はそれぞれに譲れない物をぉ、守らねばならない物があるぅ。

 わぁれが守りたいものはこの町で暮らす人々ぉ、そぉしてその者達の変わらぬ平穏だぁ。

 故にあのジュエルスィードは魔術的に価値にある物には違いないが、わぁれにとっては無用の長物ぅ。

 否、町の平穏を脅かすものである以上、有害な物でしかなぁい。

 わぁれの言いたいことが分かるかぁ?≫』

 

『えっと、その…ごめんなさい。』

 

『≪わぁれはジュエルスィードをお前達に渡したぁ。

 電気少女が求める様に、それが価値ある物であるにもかかわらずぅ。

 そうしたのは、ジュエルスィードよりも町の平穏が大事だからだぁ。

 桃色光線の少女よぉ、お前の電気少女と話したいという思いはどれほどのものだぁ?

 諦められるものなのかぁ?≫』

 

『それは…………私、諦めたくないです。

 フェイトちゃんとお話して……私、あの子と友達になりたい!!』

 

 どうやらなのはちゃんの気持ちも固まってきたみたいだ。

 このまま引いてしまうかと思った時は少しハラハラしてしまったが、この様子なら諦める事はなさそうだ。

 後はどう戦う事に対する覚悟を決めさせるか…

 

『≪ならば戦うがいい。

 己の持ちうる全てを懸けて、電気少女にぶつかっていけぃ!!≫』

 

『けど戦ったら周りを壊しちゃって皆も傷つけちゃうかも……』

 

『≪強くなればよぉい。

 魔法の力を理解し磨いて無意味な犠牲を出さぬようにする術(すべ)を考えよぉ。

 それでも戦う以上、何かを壊し誰かを傷つける事はやぁむ負えないだろう。≫』

 

『じゃあ、どうやって戦えばいいんですか!?』

 

『≪だからこそ強くなれぇ。

 力だけではない。 心も鍛え失敗にも挫けずに立ち向かう不屈の心を持てぇ。

 間違えれば過ちから正しい道を学び、そこで立ち止まることなく自分の道を歩んでいくぅ。

 それが成長というものだぁ。≫』

 

『自分の道…』

 

『≪過ちを犯すことは恐かろぉう。

 だぁがお前にはお前を支える仲間がいよう。

 そこにいる喋るイタチと胸に輝く赤い宝石がぁ。≫』

 

『そうだよ、なのは。(フェレットだってば)』【マスター】

 

『ユーノ君、レイジングハート……』

 

 励ます事も若本の喋り方も疲れてきた…。

 言ってる事はそれらしい事だけど、俺自身が戦う者で無い以上、実の篭っていない言葉だ。

 

 俺がジュエルシードを何とかするのはただの作業のようなもので、人と戦う事ではなかった。

 そんなことにそこまでの覚悟も必要なかったが、なのはちゃんはフェイトと向き合うということは戦うという事だ。

 戦う覚悟の無い者に、戦いを語る資格は無いとはよく言ったものだ。

 俺にはなのはちゃんの今の悩みや気持ちが理解出来ていないだろう。

 

 ジュエルシードを一人でどうにかしようと思ったとき、久遠が一緒に居てくれる様になってとても気持ちが軽くなった。

 久遠が俺の心の支えになってくれたからだ。

 一人というものは不安なものだ。

 それを俺は久遠の御蔭で学べた。

 

 だけどそれまでだ。

 なのはちゃんは全力でフェイトにぶつかっていくだろう。

 今の俺には出来ないような覚悟を胸に秘めて。

 

『≪わぁれが教えられるのはこんなものだろぉう。

 良いか、失敗を恐れる事はなぁい。

 お前は一人ではないのだからぁ。≫』

 

『はい!!』

 

 とりあえずは決心は出来たと思うけど、俺自身が信用出来ないから他のアドバイスをしておこう。

 

『≪まだ戦いに対する覚悟が出来ないのであれば、お前のパァパに相談するといぃ。≫』

 

『え? お父さんですか?』

 

『≪聞いた話ではぁ、かつてお前のパァパは優秀な戦士だったぁと言う話だぁ。

 戦う事に関しては、わぁれより良いアドバイスが聞けるだろぉ。≫』

 

 ぶっちゃげ丸投げです。

 俺なんかのノリと勢いのアドバイスより、本職だった人のほうが役立つだろう。

 投げっぱなしでホントに申し訳ない。

 

『えっと、昔お父さんはボディーガードやってたって言ってたような…』

 

『≪心当たりがあるなら真実だろぅ。

 最後に一つだけ言っておく。≫』

 

『はい。』

 

『≪お前の姉上にぃ……≫』

 

『え、お姉ちゃんに?』

 

『≪…………≫』

 

『……あの』

 

『≪…強く生きろと……言わなくてもよぉい。≫』

 

『え!! なんなの!?』

 

『≪でぇは、さらばだぁ!!

 ぶるああああぁぁぁぁぁぁ!!!≫』

 

『お姉ちゃんに何があったの~!?』

 

 最後のは特に意味は無い。

 

 

 

 だけど戦わせたくないと言っておきながら、その道を指し示さなきゃいけない自分に反吐が出る。

 原作通りとか関係なく、分かっていても距離をおいている自分が情けなかった。

 とっととこんな事件終わって平穏な日々に戻ってほしいと思う。

 

 

 

 

 

●木魂法を披露



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第二十三話 星砕く光と勇者の誕生

 

 

 

 

 

 再びアナァゴを演じてなのはちゃんとの会話の後。

 なのはちゃん達はアースラに行ってジュエルシードの探索に協力する形となった。

 さすがにアースラの動きを式神で追うのは無理なので、なのはちゃん達のその後の動きは分かっていない。

 

 管理局が来た事でジュエルシードの暴走の被害も十分対応出来るだろうと、俺は式神任せだった学校に戻って普通の生活に戻った。

 それでも様子を見る為に式神を出せるだけ出して街中を見回らせている。

 何度かジュエルシードの魔力の発動を感じて、直ぐに式神で確認しに向かわせても終わった後だった。

 

 そろそろ街中のジュエルシードは回収し終わっただろう。

 最後のジュエルシードは海底に眠っている。

 フェイトがそれを魔力で一斉発動させて見つける気だが、津波の影響とかが少し心配だ。

 俺はそれを警戒して、いつも海の方を気にしていた。

 

 

 

 そして五月を過ぎた頃。

 海のほうで強い魔力の波を感じ、その後直ぐに更に大きな魔力の発生を感じた。

 どうやら最後のジュエルシードが発動したらしい。

 

 直ぐに俺は久遠と共に海が広く見渡せる臨海公園まで来た。

 なんか見覚えある感じから、たぶん無印最後のフェイトとなのはの別れの場所だと思う。

 まあそんなことは今はどうでもいいと、強い魔力が感じる海の沖の方を見る。

 

 結界はちゃんと張られているみたいで、沖を見渡しても見た目何の違和感も無い。

 でも普通の天気なのに普段より波が高く打ち寄せてきている。

 そして感じる魔力はどんどん大きくなってるように感じる。

 

「なのはちゃん、ちゃんと戦えてるかな…」

 

 この前の様な事があったから、どうもなのはちゃんが原作通りに戦えてるのか不安になる。

 何かの食い違いが大きな間違いにならないかと俺は心配していた。

 

「拓海、式神は飛ばさないの?」

 

「海の上じゃ遮蔽物が無くて、鳥の式神を飛ばしても直ぐ見つかる。

 海の中もこの波を見る限り、魔力が発生している辺りはもっと酷いだろうから式神が持つかどうか。

 ここから魔力を感じ取ってどうにかなる事を祈るしかないよ。」

 

「クォン、拓海心配なの?」

 

「ああ、この波が酷くならないかとか、なのはちゃんやフェイトが大丈夫かとか、いろいろ考えてる。

 けど、一番気にしてるのは俺が今何も出来ない事かな。」

 

 表向きには関わらないと決めているが、それ以上に関わったところでどうにか出来るほど今の俺には力は無いだろう。

 魔力は使えるけどデバイスはないし、あってもどれほどの力を発揮出来るのやら。

 そして前回言ったなのはちゃんに求めた戦う覚悟も無い。

 決めてた事とは言え、何も出来ない事が今はもどかしかった。

 

「久遠も分かってると思うけど、なのはちゃん達が使ってる力はこの世界とは違う別の世界の物だ。

 お互いの世界から見て相手側の力がどう映るのか正直分からない。

 だけどきっと知ってしまえば、其の侭にしておくなんてことにはならないと思う。

 そんな騒動の中心に入り込みたくないし、巻き込まれたくも無い。

 だけど、この騒動を解決出来るなのはちゃんはまだ子供。

 そんな子に任せなきゃいけないのが不安で心配で、何も出来ない自分が酷く情けない気がしてね…」

 

 この間のなのはちゃんへの励ましからそんな思いがずっと強くなってた。

 戦いたくなんか無い、平凡に面白く生きてればいいって今でも思ってる。

 けど、子供に戦うのを任せて暢気にしていられるほど腐ってはいない。

 

 やっぱりリリなの世界に来て絶望した。

 この世界の不思議には面白い事はたくさんあるけど、起こる事件はとてもいいものじゃない。

 最後はハッピーエンドでもその過程がめんどくさすぎる。

 

 それに現実だから実際どこでズレて危ない目にあうか分からない。

 俺の言葉がなのはちゃんにあそこまで影響を与えるとも思わなかったしな~。

 フォローしてなかったらあそこでなのはちゃん退場してたかもしれない。

 

 今は元通りの話の流れになってるように見えるけど、世界の修正力って働いているのかな?

 もしかしたら俺がフォローしなくても家族に相談して覚悟を決めたかもしれないし…

 

 

 …やめよう、仮定の話なんて。

 今はこうしてなのはちゃんは戦う事を選んでる。

 過程はどうあれなのはちゃんが真剣に悩んで選んだ道なんだから応援するべきだ。

 物語とか世界の修正力とか関係なく、一人の女の子が決意した事なんだって。

 

「くぅ、そんなことない。」

 

「久遠?」

 

「拓海は強いよ。

 前に久遠を助けてくれた。

 だから情けなくなんか無い。」

 

「……ありがとう久遠。」

 

 俺が久遠を助けれたのは偶然だとも思ってる。

 たまたま俺が久遠に気づいて助けれる手段を持ってただけだ。

 もう一度やろうとしたら、恐くて失敗しても可笑しくない。

 

 だから久遠の感謝は俺には相応しくないとも思うけど、久遠はきっと俺のことを信じてくれてる。

 そんな純粋な気持ちに応えたいと思うだけで俺はがんばろうと思える。

 俺には少しもったいないなという気持ちと一緒に。

 

「俺もなのはちゃんを信じてみるよ。

 今はそれくらいしか出来ないし、なのはちゃんの気持ちと決心は既に聞いてたから。

 きっと、大丈夫だ。」

 

「クォン、絶対大丈夫。」

 

「ああ。」

 

 

 

 そして一時間も経たない内に魔力の流れは止まり波も穏やかになった。

 最後のジュエルシードも封印されたようだ。

 全てのジュエルシードが回収されたことで町の安全は保障された。

 この件で俺のすべき事はもう無いか。

 

 いや、見届けるべきかもしれない。

 フェイトとの最後の戦いを…なのはちゃんの覚悟を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、先日海での戦いを眺めていた臨海公園で、ついにフェイトとの決戦が行われるらしい。

 ジュエルシードが集まった事で一時帰宅していたなのはちゃんも式神で見つけて、アルフとの接触も確認した。

 流れは物語通りに進んでいると確信して、俺は式神を臨海公園に送り込む。

 

 早朝での戦いだったので、今日は久遠はいない。

 後で今日のことを教えてやらないとな。

 これまで俺に付き合ってくれたんだし。

 

 

 公園になのはちゃんとユーノ、そしてアルフがやってきた。

 フェイトはまだ現れていない。

 

『……見ていますか? アナゴさん。』

 

『え?』『もしかしているの?』

 

 そこで突然なのはちゃんが式神アナァゴの事を呼んだ。

 ユーノとアルフは予想してなかったみたいだが、何か話したいのか?

 

 始めはただ式神で見ていようかとも思ったが、せめて式神の姿だけでも現して戦いを見るのが礼儀と準備していた。

 俺は今状況を通して見ている式神に別の式神符を持たせておいた。

 その式神符にはギリギリまで気の力を込めて発動前の状態を維持していた。

 そしてそれを遠隔操作で発動させ式神アナァゴを出現させる。

 

 

-ボフンッ!!-

 

 

『良く見破ったなぁ、桃色光線の少女よぉ。

 いや戦士高町なのはと言うべきかぁ。

 お前の戦い、見せて貰いにきたぁ。』

 

『うわ!!』『こいついったい何処から!?』

 

 式神符は術式を書き切れれば大きさや形は関係ないので、書いた後の札を丸めておいて小さくしていた。

 この御蔭で見た目唯の紙くずに見えず、小さいのでわからなかったのだ。

 

『アナゴさん、この前はありがとうございました。』

 

『何の礼だぁ?

 そしてわぁれはガーディアン・アナァゴ。

 アナゴさんではなぁい。』

 

 この呼び方重要ね。

 

 で、実際お礼を言われるような事はしていない。

 もともと自分の失敗の後始末だし、それっぽい事言っただけで俺じゃあ説得力に欠ける言葉ばかりだ。

 それでなのはちゃんが納得したなら、それはなのはちゃんが自分で見つけた答えなんだろう。

 お礼を言われても情けない気持ちになるだけだ。

 

『私にいろいろ教えてくれた事です。

 だから私はフェイトちゃんと友達になりたい事に気づく事が出来ました。』

 

『……先日話した後ぉ、パァパに話を聞く事は出来たかぁ?』

 

『え? あ、はい。 お話しました。』

 

『そぉちらのほうが参考になったであろぉ。』

 

『お父さんのお話も役に立ちましたけど、えっとぉ…アナァゴさんのお話も為になりました。』

 

『……そうかぁ、お前がそう思うのであれば構ぁわん。

 わぁれは闇の守護者ぁ、戦う者ではなく守る者ぉ。

 そして普段は普通のサラリーマンなのでなぁ。』

 

『にゃあぁぁ!! サラリーマンだったの!?』

 

『このスーツが目に入らんかぁ。』

 

 改めて言うが、式神アナァゴの服装は紺のスーツにマントをつけたシャア専用マスクです。

 

 俺の言葉が実際どれほどなのはちゃんの助けになったか分からないが、力に成れたならまあいい。

 俺がどう思おうと重要なのは、なのはちゃんの心の在り方。

 間違いであるかどうかはなのはちゃんが決める事。

 それでいいか…

 

『この戦いは始まりにすぎぬぅ。

 お前はこれまで学んだ物と手にした覚悟を持って電気少女に挑むぅ。

 その先に進んで、初めてお前の思いを電気少女に届けることが出来よぅ。』

 

『はい、私も持てる力をぜんりょ≪時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。

 少し話を『ぶるあぁぁぁ!!』

 

 

-バシュン!!-

 

 

 話の最中に空中に出現したモニターを式神アナァゴで拳による斬魔剣、つまり斬魔拳で打ち砕く。

 魔法の技術による物だから、魔力を断ち切って消し去る事が出来た。

 今回は全力で気を込めて作った式神なので、ある程度までは技を使えないことも無い。

 

『話の最中に横槍を入れるとは、無粋なやつよぉ』

 

『クロノ君空気読めなの。』

 

『『(コクコク)』』

 

 空気の読めないクロノの行動になのはちゃんも同意し、ユーノとアルフが一緒に頷く。

 

≪いきなり何をする!! 少し話を『ぶるぁ!!』

 

 

-バシュン!!-

 

 

 再び現れたモニター越しのクロノに斬魔拳を叩き込む。

 そして式神アナァゴで周囲に円を張り、魔法モニターが出る魔力流れを感知して出現を予測する。

 全力では張れないが十分な範囲をカバーできる。

 

『やれやれ、ぶるぁ!!-バシュ!!- このように空気が読めない上、ぶるぁ!!-バシュ!!- しつこい男がいるとは、ぶるぁ!!-バシュ!!- 管理局とやらは社交性が低そうだ、ぶるぁ!!-バシュ!!-

 これが文化の違いというやつかぁ、ぶるぁ!!-バシュ!!-』

 

『すごい、魔力の流れを察知して画面が出た所を全部叩き潰してる。』

 

『これがガーディアン・アナァゴの実力。』

 

『私には良くわかんないけど、クロノくんがしつこいのは十分分かったの。』

 

 こんなの隠し芸みたいなもので、式神アナァゴの戦闘力はたいしたことない。

 戦闘では設置型のバインドの存在を探知できるとは思うけど、今のところ魔導師と戦う予定はない。

 逃げる手段はそこそこあるけどまともに戦える自信は俺にはない。

 

 斬魔剣は結構有効かもしれないけど、ぶっつけ本番で試したいとも思わない。

 通信魔法くらいなら十分有効みたいだが…

 

 何度も発生するモニターを叩き潰して諦めたところに、円に別の存在を感知した。

 どうやらフェイトが来た様だ。

 

『さあ、高町なのはよぉ。

 ダンスの時間だぁ、招待客が来たようだぞぉ。』

 

『…フェイトちゃん。』

 

『フェイト!!』

 

 現れたフェイトになのはちゃんはただ真っ直ぐに見据え、再会したアルフは悲痛な声を上げる。

 

 

 戦いの前の語り合いが終わった後、なのはちゃんはレイジングハートを構え、フェイトもバルディッシュを構える。

 

『フェイトちゃん、私は賭けるの。

 ジュエルシードだけじゃない。

 私が手にした魔法の力、ジュエルシードやフェイトちゃんと戦った経験、困った時支えて励ましてくれた皆。

 その全部を出して全力でぶつかっていく。

 私が私である全てを懸けてフェイトちゃんと戦う。

 だから始めよう、最初で最後の本気の勝負!!』

 

 

 

 

 

 苛烈な空中戦を広げるなのはちゃんとフェイト。

 俺が通して見ている式神アナァゴとユーノとアルフはそんな空の戦いをただ見続けていた。

 

 デバイスがなければなのはちゃんも飛べないんだろうけど、一ヶ月くらいしか経ってないのにあんなに自在に飛んで戦えるなのはちゃんを改めてすごいと思った。

 俺は舞空術で一応自在に空を飛べるけど、よく考えたら空中戦が出来るほどの手札ってそんなにないんじゃないか?

 気弾などは出せるけど飛びながら自在に制御出来るほど練習はしてないし。

 

 最近はジュエルシードの件であまり訓練出来てなかったし、空中でも使えそうな技術を考えてみるかな。

 海鳴流と剣術じゃ空中戦をあまり活かせないしな~。

 出来そうなのは斬空閃とそこからの派生技が使えそうなくらいだし。

 操作系の気弾の練習をしてみるかな。

 

 戦闘技だけどドラゴンボールのピッコロが17号にやった気弾の包囲攻撃をやってみたいな。

 まずは練習に操気弾をやってみるか。

 これを必殺技と言い張ったヤムチャはすごい。

 

 

 

 いろいろ考えている内に、戦いも佳境に入ってきた。

 フェイトが巨大な魔法陣を展開して、なのはちゃんはバインドに捕まっている。

 傍でユーノとアルフが黙ったままワタワタしている。

 

 ……あーたぶん念話してるのか。

 この式神アナァゴは気で作成しているから魔力要素はゼロ。

 当然念話も聞こえない。

 

 気と魔力の性質上、一つの術に併せて使う事は出来ないし。

 そういえば咸卦法、一日一回試し続けているけどなかなか出来るようにならないな~。

 よく考えたらネギまじゃ練習方法とか描写はされてなかった。

 まあ、そんなに使いたがってるわけじゃないからいいか。

 

 

 

 そんな事よりも上空で起こってる戦いだ。

 フェイトのフォトンランサーファランクスシフトがなのはちゃんに放たれた。

 先ほど考えたピッコロの技にも負けないような連続魔力弾。

 なのはちゃんはあの魔力弾の雨を自慢の防御で耐え抜くだろう。

 

 そういえば俺って防御は堅に頼りっぱなしだな。

 魔法戦のような火力の打ち合いなんてやったことなかったから考えなかったな。

 戦うような事にはなりたくないけど、防御の術も考えておくか。

 

 

 

 連続魔力弾によって発生した煙幕が晴れるとバリアジャケットを少し破いたなのはちゃんが現れた。

 

『今度はこっちの番だよ!!』

 

【ディバインバスター】

 

 猛攻を耐え抜いたなのはちゃんは反撃の狼煙を上げる。

 フェイトはディバインバスターを防御魔法で防ぐがそれは次の一手への布石。

 

『受けてみて、ディバインバスターのバリエーション。』

 

 なのはちゃんの展開した巨大な魔法陣に周囲の魔力が集っていく。

 どんどん集まって大きくなる魔力球にフェイトは脅威を感じて動こうとするが、今度はなのはちゃんがバインドをフェイトに掛けていた。

 

 見覚えのある展開にスターライトブレイカーが放たれるのを確信する。

 式神アナァゴでは魔力を感知できないから見るだけしか出来ないが、目に見える魔力球の大きさだけでその力の強大さが分かった。

 周囲の魔力を集めているだけあって魔力球の拡大は止まる事を知らない。

 そしてなのはちゃんが杖を魔力球越しにフェイトに向けて構える。

 

『これが私の全力全開!! スターライトブレイカー!!!』

 

 

-ドゴオオォォォォォンンン!!!!-

 

 

 魔力球を通して放たれた桜色の魔力の激流は、バインドで身動きの取れないフェイトを一瞬で飲み込んで海に高い水柱を立てた。

 スターライトブレイカーの魔力の激流が収まるとフェイトは浮かんでいたが、気を失っていてそのまま海に落ちていった。

 

 生のスターライトブレイカーを見た感想を言おう。

 人に向かって撃つものではない。

 型月風に言うなら対人ではなく対軍・対城宝具と言ったところだ。

 

 なのはちゃん、傷ってのは物や体だけじゃなくて心にも出来るものだぞ。

 あんなもの受けたら体よりも心に傷が残る。

 その辺りちゃんと理解しているかーい?

 二次創作みたいにバンバン撃ってたら魔王って言われて当然だよ。

 

 覚悟は見せてもらったけど、先にスターライトブレイカーを見ていたら戦ったフェイトの覚悟に賞賛を送りたくなる。

 いや、砲撃に飲まれてもそのまま海に叩き込まれずに飛んでた事に賞賛を送ろう。

 

 あ……バインドで固定されてて動けなかっただけか。

 なのはちゃん、やはりそれは鬼畜過ぎるだろう……

 

 

『恐ろしい力だぁ。

 あの力、使い誤らなければ良いがぁ…』

 

『なのは、すごい…』

 

『フェイト、死んだりしてないよね…』

 

 ユーノとアルフもあまりの威力に驚いて口が塞がらない様子。

 非殺傷設定というものがなければ確実に死んでんじゃないか?

 つまり死んでしまうであろうを食らっておきながら生かされたという事だ。

 最高の拷問と言えるんじゃないか?

 

『喋るイタチよ。

 いや、勇者ユーノ・スクライアよぉ。』

 

『ゆ、勇者?』

 

『そうだぁ、お前が高町なのはに魔法を教えたのであろぉ。

 もし高町なのはが魔法の使い方を誤ったとき止めるのはお前だぁ。

 その時あの魔法と向き合わねばならないお前は正に勇者だぁ。』

 

『無理無理無理無理無理ー!!!

 あんなの僕止められないよ!!』

 

『ユーノ・スクライアよぉ。

 己が行いには常に責任が伴うぅ。

 ジュエルスィードの責任は取ろうとする事は出来てぇ、高町なのはの魔法には出来んのかぁ。』

 

『あれと向き合うくらいならジュエルシードをもう一度最初から一人で探したほうがましだよ~!!』

 

『まあ、あんなのアタシも食らいたくないよ…』

 

 なのはちゃんの魔法の扱いは、実際ユーノの責任だから仕方なかろう。

 なのはちゃん怒らせてSLB食らわない事を祈るしかない。

 

『あの魔法の扱いについて言い聞かせておけばよぉい。

 人に向けるには少々危険だぁ、となぁ。』

 

『うぅ、分かりました…』

 

『がんばんなよ。』

 

 ユーノの未来に幸あれ。

 

 

 

 

 

 その後、海に落ちたフェイトをなのはちゃんが救い上げた所に、フェイトに紫の雷が降り注ぎバルディッシュを破壊し、持っていたジュエルシードは虚空へと消えた。

 なのはちゃん達がフェイトを連れてアースラへ戻ろうとした時、俺(式神アナァゴ)の前に再び通信魔法が開いた。

 

『≪時空管理局所属艦アースラ艦長リンディ・ハラオウンです。

 先ほどはうちの執務官が失礼しました。≫』

 

 今度はクロノではなくリンディさんがモニターに現れた。

 現れるとは思っていたが、クロノと違って一応TPOを弁えていたのでちゃんと対応する。

 

『先ほどの男であったなら、また叩き切ってやろうかと思ったところだぁ。

 で、用件は先ほどの謝罪だけかぁ?』

 

『≪いえ、出来ればお話を伺いたいので、あの子達と共にこちらにいらっしゃっては如何かと。≫』

 

『わぁれは話す事などなぁい。

 わぁれの役目はジュエルスィードの回収がすぅべて終わり、町の平穏が守られた事で終わっているぅ。

 そぉもそもこの戦いを見たのは高町なのはの覚悟を見る為ぇ。

 これはわぁれの高町なのはに語った言葉の責任だと判断したからだぁ。』

 

 そもそもそうでなければ式神アナァゴの姿で管理局の前に現れるつもりはなかった。

 だからこそ、向こうの行動も大体読んでどういう返答をして乗り切るか考えていた。

 

『≪ジュエルシードに関しましては、今は時空管理局が全権を持って回収に当たっています。

 後は先ほど持ち去られたジュエルシードとフェイト・テスタロッサの黒幕を抑えることですべて終わります。

 ですのであなたの回収したジュエルシードの調書と、正式なお礼と町にご迷惑をおかけした謝罪をしたいのです。≫』

 

 その言葉を待っていた!!

 

『謝罪だとぉ……』

 

『≪え、ええ。≫』

 

『でぇは、ジュエルスィードによって被害を受けたひとぉびとに補償を要求するぅ。』

 

『≪それは…≫』

 

『出来ぬであろうなぁ。

 お前らの組織がいかぁに次元を越えて活動する組織であろぉと、この世界においては非公式な組織でしかなぁい。

 ジュエルスィードの件で一番迷惑を受けたのは、わぁれでもお前らでもなぁい。

 罪なきこぉの町のひとぉびとだぁ。』

 

 実際巨大樹の一件で家を壊されたり怪我をした人が大勢いる。

 今も病院に入院してる人もいるだろうし、家を壊されて住む場所に困ってる人がいるかもしれない。

 

 なのはちゃんが魔法に出会った動物病院だって、実はさざなみ寮の管理人さんの奥さんがやってる場所らしい。

 病院が半壊しちゃってもう大変だって那美姉さんから又聞きした。

 ジュエルシードの事を話せないから、どっちも原因不明という事で処理されて、何処かから補償が出るはずもない。

 そんな困った状況がまだニュースでも話題になっている。

 

『お前らに出来る事はぁ、これ以上この町に被害を与えぬよう己の仕事を遂行する事だけだぁ。

 でぇはわぁれはここで失礼させてもらうぅ。

 わぁれもそろそろ出勤の時間なのでなぁ。』

 

 式神アナァゴがサラリーマンな設定は忘れてはいない。

 

『もう何か言う事は無いかぁ?』

 

『≪…いえ、いろいろご迷惑をおかけしました。≫』

 

『わかればよぉい。

 最後にぃあの少女達の事を頼んでおこぉ。

 子供を守るのが大人の仕事だぁ。』

 

 今は俺も子供だという事は突っ込むな。

 

『≪わかりました。≫』

 

『でぇはさらばだぁ。

 ぶるあああぁぁあぁぁぁぁ!!!!』

 

 

-ドオオオォォォォンンン!!!-

 

 

 この前の時のように式神アナァゴを爆発させる事で目くらましつつ、式神符を焼き尽くして処分完了。

 繋がりも同時に消えて、これでジュエルシード事件は俺の中で終わった。

 この後フェイトがどうなるかはなのはちゃん次第だが大丈夫だろう。

 原作通りとかじゃなく、なのはちゃんは覚悟を俺に示してくれたから。

 

 

 

 

 

●式神の遠隔発動を公開



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A’s
第二十四話 絆の力


 

 

 

 

 

 式神アナァゴを自爆させて漸くジュエルシード事件を終わらせられたと肩の荷が下りた。

 まだ時の庭園の戦いがなのはちゃん達には残ってるが、手を出さない俺には関係ない。

 今のなのはちゃんならSLBで庭園を撃墜しそうな気がする。

 実際の庭園がどれほどの規模かわからないけど。

 

 

 戦いは終わってもこの日は平日。

 出勤ではないが俺も学校に登校して、終わってから久遠に事件が終わった事を報告に来た。

 

「久遠、漸く事件が終わったよ。

 いろいろ手伝ってくれてありがとな。」

 

「クォン、拓海お疲れ様。

 また一緒に遊べる?」

 

「あーごめん、ちょっと考えなきゃいけない事があるんだ。

 今日はゆっくりしよ。」

 

「クゥン…わかった。」

 

 いつものように久遠を膝の上に乗せて撫でてやる。

 考えなきゃいけないのは闇の書の事。

 魔力を狙われて事件に巻き込まれるかという事はそれほど気にしていない。

 魔力の吸収と放出だけなら熟練してるから、魔力を全放出して回復しないように魔力素の吸収を止めてれば魔力は0を維持できるから巻き込まれないだろう。

 

 町での戦闘はちゃんと結界が張られるから被害は出ないだろうけど、問題は最後の闇の書の覚醒だ。

 物語の最後ははやてを取り込んだ闇の書がなのはとフェイトと戦う事になる。

 過程はどうでもいいが問題はその後。

 フェイトも闇の書に取り込まれてしまうが、後はなのはが一人で戦い続ける。

 闇の書の中でははやてが目覚める事で闇の書は一度止まり、なのはの攻撃はきっかけで闇の書の闇を分離して最終的にそれを倒して事件は終わる。

 

 重要なのははやてが闇の書の中で目覚める事だ。

 簡単に目覚めるようなら過去の事件など簡単に解決している。

 管制人格がはやてに好意的だったというのあるかも知れないが、それでも現実的に考えて難しいだろう。

 つまり事件の解決の鍵ははやてが自力で目覚めると言う気合次第。

 

 

 

 …………無茶だろう、そんな事に世界を賭けるなんて。

 闇の書を止めるのが失敗していればアルカンシェルぶっ放して終わりだったんだぞ。

 アルカンシェルが地上に放たれたら少なくとも町は終わり、世界自体は無事かもしれないけどどれほどの影響が出るか…

 

 世界の修正力なんてどこまで当てになるかわからない。

 なのはちゃんの件だって、俺がちょっと手を出したせいで変化しかけた。

 中途半端に闇の書に手を出す事は出来ない。

 やるなら確実に安全な方法を取りたい。

 

 幸い俺には何でも殺す事の出きる直死の魔眼がある。

 まだこの時期守護騎士達も目覚めていないはずだから、はやてが何も知らずに終わらせる事も出来るだろう。

 管制人格も守護騎士も纏めて闇の書と一緒に殺す。

 

 ……正直恐い。

 何も手を出さなければもしかしたら原作通りの終わるかもしれないがそんなの俺には信用できない。

 よくある二次創作みたいに中途半端に介入して原作通りに終わらせる自信はもっとない。

 確信出来るのは闇の書を直死の魔眼で殺す事。

 

 だけど守護騎士と管制人格をプログラムと割り切る事はできない。

 まだ出現していないからこそ殺す事も考えられるが、もし目の前に人の姿で現れたら殺す覚悟なんて今の俺に出来るかどうか…。

 現時点でも殺す事に戸惑いを覚えているのに…

 

 誰かを傷つけてしまう覚悟。

 なのはちゃんはきっと出来たんだろうな。

 俺は何をやっているんだろう。

 平凡に生きていればいいのに、誰かを殺すか殺さないか悩まなきゃいけないなんて。

 

 原作通りになると楽観視してしまえばいいのに。

 実際世界が滅ぶかもしれないのを知っていて、それをどうにかする手段があると思うとどうにかしなきゃいけない気になる。

 手段がないのなら、いっそ諦めて世界の流れに任せてしまえるのに…

 

 今は五月の下旬に入る頃。

 守護騎士の起動ははやての誕生日の六月四日。

 それまでにはやての家を探し出して闇の書を確認してみるか。

 どうにかするのはその後だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日間、街中に式神を放って八神家を探し続けた。

 車椅子の少女という特徴があったから探し易いとは思っていた。

 そして図書館に張らせていた式神がはやてらしき少女を見つけることが出来た。

 

 式神に追尾させて家に着いたら表札には八神と書かれていた。

 どうやら間違いないらしい。

 今夜寝静まった頃に八神家に侵入して闇の書を確認する。

 …こんな事ばっかに異能使って、俺の将来大丈夫かなぁ。

 

 

 

 深夜、俺は式神を家に身代わりにおいて八神家の近くまでやってきた。

 八神家はギル・グレアムに既に見つけられてたわけだから、何らかの監視があるかもしれない。

 凝に魔力視・霊視に円などさまざまな感知方法を使って周囲を確認したが、魔法による監視はとりあえずはないみたいだ。

 

 家の様子を見る限り、寝静まっていてちゃんと窓に鍵はかかっている。

 俺は窓越しに霊気を家の中に送って、遠隔で凝縮して霊気の玉を作る。

 物理的に干渉出来るレベルまで凝縮にしたら、霊気の玉でうまく鍵を開けて中に入った。

 

 気は家の中や周囲の感知に、全力で円をしている。

 科学的な監視カメラでもあるかとも考えていたからだ。

 入った部屋をじっくり円で探索する限りそれらしきものはないようだ。

 

 闇の書らしき異様な気配の位置も円で確認済み。

 物音を立てないように部屋を抜けて、闇の書があるらしき部屋の前にやってきた。

 

 来たのはいいが同じ部屋にはやてが寝ていた。

 しっかり寝てるみたいだから大丈夫だと思うので、円の展開を一度やめて酷絶を使い全力で気配を消して部屋に入る。

 

 部屋に入ったら探すまでもなく、闇の書らしき本は直ぐに見つかった。

 解り易い様に飾られた、鎖で封じられた怪しい本だったから一目でわかった。

 直死の魔眼で闇の書を見てみれば、しっかりと死線と死点を見ることが出来た。

 これで闇の書を殺せる事ははっきりした。

 

「(だけどどうしよう…

 まだ時間はあるけど闇の書をこの場で殺すべきか。

 闇の書を殺せばはやては歩けない原因が取り除かれて普通の子供として生きる事が出来る。

 だけど真に求めてた家族は得られないまま…

 それを本当に俺だけで決めてしまっていいのか…)」

 

 闇の書を前にすることが出来たけど、どうするかはまだ決まっていなかった。

 世界とはやての望みと守護騎士達と俺の覚悟と…

 俺の中でさまざまな葛藤が巡る。

 何がホントに最善なのかわからない。

 

 はやてに話して決めさせる?

 それじゃあ俺が覚悟を決めずにはやてに押し付けるのと同じ事だ。

 なのはちゃんに覚悟を決めろと言っておいてそれをすることは出来ない。

 はやては何も知らないまま闇の書を殺して健康になるほうがいいかもしれない。

 何もしないで物語通りになれば少なくとも守護騎士だけは残る未来の可能性もある。

 俺が手を出せばその可能性を摘む事に他ならない。

 

 何かもっと良い方法はないかと闇の書を眺める。

 魔力視をしてみれば闇の書自身も魔力素を吸収してるのがわかるし、何かの術式らしき物も表面に見えた。

 何か他にはないかと霊視をしたら魔力視とは別の物が見えてしまった。

 

「(な!! なんだこれ!?)」

 

 霊視で見えたのは闇の書から滲み出る負の気配。

 明らかに魔力の類ではなく恨みや憎しみなどの怨霊の様な思念。

 那美姉さんの仕事の見学で出会った怨霊の気配に似ているがその濃さが比べ物にならない。

 久遠の時の祟りにも負けないような強い気配を感じる。

 

 守護騎士や管制人格の性格などを考えたらこれらの元とは思えず、では何かと考えたら思い当たるのは闇の書の闇。

 改悪された防衛プログラムではないかと考えた。

 まさか闇の書が霊的に呪われたような物だったとは。

 

 ん? 持ち主にあたるはやてに取り憑いて、足を動かせない様にして最終的には取り殺す。

 まんま呪いのアイテムだよな、闇の書なんて名前になってるし。

 それが防衛プログラムになってるって事か。

 守護騎士や管制人格は意思があったから、明確な意思を持たない防衛プログラムに取り憑いたのか?

 

 何が原因でこうなったんだ?

 確かに闇の書は過去に多くの被害を出して恨みは積もり積もってそうだけど、それは闇の書になって暴走を始めた後。

 妖刀みたいに直接相手を攻撃する武器じゃないから、返り血なんか浴びて呪われるって代物じゃないし。

 本来は魔法を集積蒐集するためのストレージデバイスで、守護騎士も最初はいなかったらしいし…

 

 蒐集? 確かリンカーコアを奪う事で魔法を蒐集するんだったよな。

 アニメ本編じゃ誰も殺さないようにしてたけど、過去の事件じゃリンカーコアを全て奪って殺していた。

 もしかしてリンカーコアと一緒に恨みや憎しみなどの負の念も集めてしまったとか?

 

 ありえそうだ…

 そもそもリンカーコアは魔力の源だけど、持ち主の術式を奪える事から情報なども蓄積されてる部分があるはずだ。

 そこに思念が込められていても全然不思議じゃない。

 

 

 

 と、闇の書の考察はこの辺にしておこう。

 ともかく闇の書は霊的に呪われた物でもある。

 それをどうにか浄化すれば元通りの夜天の書に戻る?

 

 わからない。

 物に積もり積もった呪いのアイテムなんて俺は見たことないし浄化も出来るのかどうか。

 那美姉さんに見せれば出来るかどうか解るのかもしれないけど、それにはちゃんと事情を説明しないと。

 どうして知ったのかは予知夢なり霊感が働いたなりで普通に誤魔化せそうだけど…

 

 考えが纏まらない。

 とりあえず今日は闇の書に手を出さずに、そのまま八神家を後にした。

 那美姉さんに事情を話さず聞けるところまで聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は八束神社で那美姉さんと話してみる事にした。

 もちろん久遠も一緒で、俺の膝の上で丸まってる。

 

「拓海君、なんだか久しぶりね。

 最近久遠と一緒に何処かに行っててちょっと寂しかったな。

 でも美由希さんはよく来てくれてお話してたの。」

 

「那美姉さんの役に立てたなら美由希も本望だろうな。

 ちょっと久遠と探し物をしてて、漸くそれも終わったんだ。」

 

「そっかー、じゃあまたここも賑やかになるのかな。

 美由希さんと遊んでる拓海君は楽しそうだもの。」

 

「否定はしないけど俺は久遠と遊んでる方がいいな。

 ぼんやり日向ぼっこしてるだけでも気持ちいいし。」

 

「クォン、久遠もそう思う。」

 

「ふふふ。」

 

 こんな平凡で穏やかな会話が続けられるのが今はとても楽しい。

 闇の書の対処なんて考えてるだけでめんどくさくなる。

 だけど放っておく訳にもいかないから、那美姉さんに聞いてみたい事があった。

 呪われたものの浄化とは別にだ。

 

「那美姉さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」

 

「ん、なにかな?」

 

「前の、久遠と祟りの事。」

 

「え?」「クゥン…」

 

 かつての祟りのせいで理性を無くして暴走する久遠は、闇の書と同じだと思った。

 祟りがなくなった久遠は普通に生活してるし、原作通りなら守護騎士達も解放されて普通の生活を送れるようになった。

 まるで同じだ。

 そして…

 

「祟りはとても危険なものだって言ってたでしょ。

 それを本来どうにかする術はなかった。

 久遠を殺してしまえば何の被害を出さずに済むのに、どうして久遠を絶対に助けようとしたのかと思って。

 久遠がとてもいい子だって知ってるけど、それだけで他への被害を考えないわけにはいかないから。」

 

「……」

 

「クゥン……」

 

 今の俺は闇の書を殺すか殺さないかの選択が迫られている。

 那美姉さんには祟りを抱えた久遠の生殺与奪権があったらしく、まさに同じ様な状況だ。

 

 俺は久遠にとっても辛い話をすることになるから、久遠の体を慰める気持ちを込めて優しく撫でてやる。

 正直久遠には悪いとは思うが今の俺にはどうしても那美姉さんのことが知りたかった。

 

「……」

 

「……」

 

「……そうね、拓海君にはそこまで説明してなかったからね。

 ずっと前に久遠の封印が解けて薫ちゃんが何とか封印した時、私の本当の両親は亡くなってしまったの。」

 

「え、じゃあ…」

 

「うん、薫ちゃんは本当のお姉ちゃんじゃないし、両親を殺してしまったのは久遠。

 だから初めは久遠のことを恨んでいたの。」

 

「クゥ……」

 

 その話に久遠は責任を感じて落ち込んだ声を出すが、那美姉さんはそんな久遠の頭を撫でた。

 

「だけど今はこれっぽっちも恨んでないし、久遠のことは大好き。

 それでどうして久遠を恨まなくなって助けようって思ったのは、夢を見たから。」

 

「夢?」

 

 予知夢ネタの前例キター!!

 

「うん、久遠には夢移しって力もあって、それで久遠の過去を見てどうして祟りが生まれたのか知ることが出来たの。

 久遠の事話すけどいいかな、久遠?」

 

「クォン(コクン)」

 

「ずっと昔に久遠が封印される前に久遠は弥太って子に出合ったの。

 久遠は弥太って子に恋をして恋人同士になったの。」

 

「へぇ、久遠の恋人……って、久遠!!

 お前恋人がいたのか!?」

 

「うん。」

 

 だいぶ過去の話だとしてもお兄ちゃんびっくりだよ!!

 大人の姿に化けられる事を考えたら……

 

「あわわわわわわわわわ!!(久遠がー!! ウチの可愛い久遠がー!!)」

 

「た、拓海君? 大丈夫?」

 

「だ、だだだ、大丈夫!!

(お、落ち着け、平常心だ!!

 久遠だって女の子、いつかはお嫁にいっちゃうんだ!!)」(注:久遠は300歳です。

 

 かなり予想外の話を聞かされて慌てたが、今重要なのは那美姉さんの主観。

 話を最後まで聞かないと。

 

「は、話を続けて那美姉さん。」

 

「え、ええ。

 それで弥太って子と仲良くなったけどそれは長く続かなかった。

 昔は災厄が起こると人柱や生贄なんてものが当たり前にあって、弥太って子は疫病に対する生贄にされてしまった。

 それを見てしまった久遠は恨みから祟りを生み出してしまい暴れまわってその後封印された。

 夢移しでそれを知った私はもう久遠を恨む気になんてなれなかった。

 久遠も恨みが祟りになったのに、それをまた恨んでしまったらきっと終わりは来ない。

 だから久遠を祟りから開放してあげたいって思ったの。」

 

「そっかぁ。」

 

「でも結局久遠を助けてくれたのは拓海君だったんだけどね。」

 

「クゥン♪」

 

 那美姉さんは久遠のことを知ってしまったから助ける事で終わらせようと思ったのか。

 明確な方法なんてなかったのに、それでも助けようと決める。

 直死の魔眼で一撃で倒しちゃったけど、実際はもっと厄介なもののはず。

 その力を目にすればきっとどうにかしようと思うのは難しいだろう。

 

 俺も知識という形ではやての事も、家族になるであろう守護騎士の事も、はやての事を思いながらも苦しめてしまう管制人格のことも知っている。

 それをどうにかしたいとは思わないでもないが、俺にどうにか出来るとは思えなかった。

 だから…

 

「那美姉さんはすごいな。」

 

「ん? そんな事ないよ。

 久遠を助けたのは拓海君なんだから。」

 

「けどあの時、久遠が動きを止めたのは、那美姉さんの声が久遠に届いたからでしょ。

 はじめから諦めてたら久遠には届かなかったと思うよ。」

 

「クォン、那美の声聞こえた。

 拓海の声も聞こえたよ。」

 

「そうだよ、拓海君にも久遠との絆があったから声が届いたんだよ。」

 

「絆…か。」

 

 俺じゃそんな明確でないものに頼る気はなかった。

 けど、よく考えたらそれがあったから久遠は動きを止めて、俺は久遠を助ける事が出来た。

 アニメのはやても守護騎士との絆があったから目覚める事が出来た。

 世界の修正力よりもそれならまだ信じられるかもしれない。

 

「拓海君は何か悩んでるんでしょ?

 私に出来る事があるなら何でも言ってね。

 久遠を助けてくれた時みたいに、今度は私が拓海君の事を助けたいから。」

 

「クゥ、久遠も!!」

 

「那美姉さん、久遠。」

 

 支えてくれる仲間。

 俺が言った言葉が、なのはちゃんにどのように感じたのか、今少しだけわかった気がする。

 一人でどうにかする力はあるかもしれないけど、心まではそうはいかない。

 支えてくれる人がいるからがんばる気になれる。

 

 俺も覚悟を決められそうだ。

 なのはちゃんが戦いに向かっていったように、これはきっと俺の戦いなんだろう。

 剣や魔法をぶつけ合って戦うわけじゃない、心でそれと決めて貫き通す戦いなんだ。

 

 後はなのはちゃんに言った手前、俺も引く訳にはいかない。

 どのような結果になるか分からないけど、遣り通して見せよう。

 それがきっと俺の全力全開だから。

 

「那美姉さん、ちょっと相談したい事があるんだ。」

 

 

 

 

 



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第二十五話 戦う事ばかりが戦いとは限らない

 

 

 

 

 

 那美姉さんと久遠に予知夢として俺の知ってることを全て話した。

 次元世界の事、闇の書の事、はやての事、守護騎士達の事、それに伴い町に被害を及ぼしたジュエルシードの事も全部説明しておいた。

 闇の書が近い未来にこの世界を滅ぼしかねない物として動き出す事を説明したら、さすがに那美姉さんもワタワタと慌てだした。

 被害の規模が久遠の祟りと比べ物にならないからな…

 

「そういうわけなんだけど、那美姉さんどうしよっか?」

 

「どうしよっかと言われても、まず闇の書の念がどういう物か見てみないと…

 けどそれほどの物、拓海君はどうにか出来たの?」

 

「以前久遠から祟りをたたき出して、その後に消し去ったやつでどうにかなるよ。

 ただそれをすると中にいる守護騎士達や管制人格も死んでしまうから。」

 

「えっと、弐の太刀で久遠の祟りみたいに弾き出したり出来ない?」

 

「久遠の時は祟りが表に出てたからしっかり弐の太刀を打ち込んで弾き出せたけど、闇の書の闇は見た限り負の念が滲み出てる位でそこがまったくわかんないんだ。」

 

「そうなの……

 あれ? 闇の書ってそのはやてちゃんの家にあるのよね。

 もう会ってきたの?」

 

「昨日こっそり侵入して確認してきました。」

 

「ちょ!?」

 

 反省はしていますが後悔はしていません。

 確認しない事にはどうにもならなかったし。

 初対面のはやてに会って『お宅の闇の書を見せてください』なんて言えるわけないだろ。

 

「まあ、不可抗力という事で勘弁して。」

 

「はぁ…もうそんな事しちゃダメだよ。」

 

「はーい。」

 

 好きでこんな事してるわけじゃないんだけどなー。

 こっそり行動してるとなぜかこんな事に…

 

「やっぱり八神はやてに会って説明したほうがいいかな?」

 

「そうだね、一番の被害者なのに何も知らないままでいるのは良くないと思う。

 私も一緒にいくから会いに行こう。」

 

「わかった、その前にちょっといいかな?」

 

「なに?」

 

「父さん母さんに話しておこうと思って。」

 

 今回は完全に自分から厄介ごとに首を突っ込むんだし事前に説明しておかないと。

 心配掛ける事もう確定だからなんだかホントすいません。

 

「そうだね、心配掛けちゃうものね。

 じゃあはやてちゃんの家に行くのは明日でいい?」

 

「うん、それでおねがい。」

 

 

 

 

 

 その夜、俺は両親にまた超常的な事件に関わる事になると話した。

 もう何度も事後的に関わっていたから、両親も少し呆れながらも理解はしてくれた。

 ただ今回は危ない事にも手を出さなきゃいけないと言ったら難色を示したが説得した。

 

「毎度毎度心配掛けてごめんなさい。」

 

「まあ、いつもの事だからな…」

 

「そうねぇ。」

 

 やっぱり両親共に呆れた様子。

 心配はしてくれているが、もう慣れてしまったという感じだ。

 

「拓海は何度もこういう事に関わってるが、拓海は将来神咲さんみたいな退魔師になりたいのか?」

 

「え? うーん……興味は無い事も無いけど、将来と言われたらあまり考えたことないな。

 今は不思議な力を試したりするのが楽しかったから、将来はこれを活かせる仕事だといいんだけど。」

 

 正直ジュエルシードやら闇の書やらで手一杯で、最近は能力開発や練習があまり出来ていなかった。

 俺の剣技で退魔師をするのもいいし、ヒーリングをもっと研究して医療に役立てるのもいい。

 今はまだ関わってないけど次元世界の魔法を手にしたら、魔導師が就く職を探す事になるかもしれない。

 管理局の戦闘に関わる職はまったく興味ないけどね。

 

 それに次元世界を旅していろんな魔法生物に会ってみたいな。

 幻想でしか存在しない生物とかホントにいるんだろうし。

 そういえばSTSのキャロがそういう職についてたんじゃなかったっけ。

 そういう職があるなら管理局にも興味は無い事は無い。

 

「まあ将来どういう職に就くかはまだ決めてないけど、とりあえず大学までは行きたいと思ってる。」

 

「そうか、まあ時間は十分にあるんだ。

 じっくり考えなさい。」

 

「うん、わかった。」

 

 原作なのは達みたいに中卒はダメだろう。

 こっちの世界に戻ってきた時に中卒じゃあいろいろ問題ないか?

 んー、とりあえず将来の為に異能を活かせる職の為の資格を取ってみようかな。

 能力がある御陰でその手の技能も習得がしやすいだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼間。

 俺は那美姉さんと久遠と一緒にはやてに会う為に八神家にやってきた。

 念のために、また周囲を凝、霊視、魔力視をして更に円を展開して怪しい物が無いか確認した。

 リーゼ姉妹が猫の姿で監視でもしてるんじゃないかと思ってたが、一応管理局員で仕事があるから四六時中監視はしてないみたいだ。

 それらしき怪しい猫はこの周囲にはいない。

 

 ギル・グレアムの存在も那美姉さんには説明済みだ。

 闇の書の被害をどうにかしたいという考えは賛同出来るが、はやてのような子供を犠牲にしてまで如何にかしたいというのは賛同出来ないと那美姉さんもいった。

 今はこちらの存在を知られないようにする。

 はやてに接触する以上何時までも放置は出来ないから何か考えておかないと。

 

「じゃ、いくね。」

 

「うん、いいよ。」

 

「クォン。」

 

 八神家の呼び鈴を前にして、俺は那美姉さんと久遠の了解を取る。

 

 はやてへの説明は全部俺がする。

 それが俺の責任だと思うし覚悟だと思うから。

 この呼び鈴を押せば俺が知っていた未来は完全に崩壊するだろう。

 それははやての未来の一つを砕く行為であり、はやての本来得るはずだった幸せを否定する事になる。

 

 ここから先は知っている確定された未来じゃない。

 いや、もともと確定された未来なんて無かったが、どうすればいいのかわからない手探りの未来だ。

 

 闇の書を浄化すれば何とかなるものなのか分からない。

 ギル・グレアムに対しどうすれば良いのか分からない。

 闇の書の存在が管理局に露見した時どうすればいいのか分からない。

 

 何もかも分からない事だらけだ。

 正直とても恐いが、後ろにいる久遠と那美姉さんの存在が支えてくれている。

 なのはちゃんと同じ様に、俺は一人じゃない。

 

 

 

 じゃあ始めようか、俺の新しい自分を…俺の戦いを…

 

 というわけで、ポチっとな♪

 

 

-ピーンポーン!!-

 

 

『はーい、どちら様ですかー?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所が変わってさざなみ寮。

 監視や盗聴の危険も考えて、はやてには詳しい話をさざなみ寮の客間でする事にしました。

 とりあえず足が動かない病気は闇の書という超常的な本が原因とまで説明して、さざなみ寮にまで来てもらいました。

 その際、闇の書も持ってきてもらっています。

 

「お茶をどうぞ。」

 

「あ、えっと、お構いなく。」

 

「ありがとうございます。」

 

「どうも。 じゃあ、ごゆっくり。」

 

 寮の管理人さんがお茶を出してくれてはやてと俺がお礼を言う。

 向かいにはやてが座って、俺の両隣に那美姉さんと久遠が座っている。

 管理人さんが出て行くと、はやてに向かい合って話を始める。

 

「それじゃあ八神さんの足とその本の関係について説明させてもらうね。」

 

「えと、君が説明するんですか?

 そちらの神咲さんやのうて。」

 

 まあ子供の俺が説明するのは可笑しいし、那美姉さんはいつもの巫女服だ。

 どちらが説明するかと思えば、那美姉さんが適切だと思うだろう。

 

「私も全力で力になるけど、拓海君のお手伝いなの。

 この問題を本当にどうにか出来るのは、はやてちゃんと拓海君だから。」

 

「うちとこっちの子がですか?」

 

「ええ、はやてちゃんと本の事を見つけたのは拓海君だから。

 話を聞いてあげて。」

 

「わかりました。」

 

 まあ同い年くらいの子供にどうにかできる問題じゃないと思うよな。

 俺だってはやての立場だったらそう思う。

 

「じゃあ説明させてもらうね、八神さん。」

 

「えっと、お願いするわ。

 それと拓海君やったっけ?

 普通に名前で呼んでえな。

 わたしと同じくらいやろ。」

 

「分かった、じゃあはやてちゃんって呼ぶね。

 はやてちゃんの足がその闇の書が原因でオカルト的なものだってのは言ったね。

 はやてちゃんは超常現象とか不思議な力はどれくらい知ってる?」

 

「えっとぉ、それって幽霊とか超能力とかやろ。

 ニュース番組でやってたHGSってのも知っとるけど。

 あー、後この前町で巨大な樹が現れたって怪現象があったゆう話も聞いたな。」

 

「あ、それ解決したの俺とこの久遠。」

 

「クォン。」

 

「そうなんか!? 普通の可愛い子狐に見えるんやけど。」

 

 まあ、見た目普通の可愛い狐だもんね、久遠は。

 ちょっと少しだけ力を見せて信じてもらうか。

 

「久遠、自己紹介してあげて。」

 

「クォン。 久遠です、よろしく。」

 

「おお、喋ったぁ!!

 ホンマに普通の狐やなかったんやな。」

 

「じゃあ俺も…」

 

 俺は鳥用の式神符を出して発動する。

 

 

-ボフンッ!!-

 

 

「おお!!」

 

 作ったのは手に乗る程度の小さな小鳥。

 それを飛ばしてはやてちゃんの肩に乗せる。

 

「漫画とかによくある式神ってやつ。

 すごいのはまだ作れないけど、これくらいの簡単なのなら俺でも作れる。」

 

「いやいや、十分凄いで!!」

 

 はやてちゃんは式神を見て興奮しているが、本題はこれじゃない。

 闇の書と自分の未来について選んでもらわなければならない。

 式神を札に戻す。

 

 

-ポフンッ-

 

 

「ありゃ、札に戻ってもうた。」

 

「話を進めさせてもらうよ。

 俺は予知夢ではやてちゃんと闇の書の事を知った。

 予知夢って分かる?」

 

「えっと、未来の事を夢で見るって事やろ。」

 

「そう、俺は君の未来を予知夢で知った。

 今から半年くらい先に、君は足の問題が解決して新しく出来た家族と一緒になれる。」

 

「え!! ホンマか!?

 私に家族が出来るって!!」

 

「はやてちゃんが家族を欲しがっていたのも予知夢で知ってる。

 その家族もそう遠くない内に君の前に現れるよ。」

 

「そうなんか!! 楽しみやわぁ。」

 

「けどその家族もその闇の書と関係している。」

 

「えっと、それってなんか不味いって事?」

 

「いろいろ複雑なんだ。

 これから起こることを順を追って説明するね。」

 

 

 

 それからははやてに起こるであろう未来を簡潔に説明した。

 

 次の誕生日に闇の書が起動し守護騎士の四人が現れて、はやてちゃんが彼らを家族として迎え入れる。

 最初は戸惑いつつも守護騎士達もはやてちゃんの家族として平穏を共に過ごす事。

 

 けれどその平穏にも終わりが訪れ、はやてちゃんの足の麻痺が進行してくる。

 それが闇の書が原因と知った守護騎士達は、闇の書の特性である魔力の蒐集をして完成させる事ではやてちゃんを助けようと考えた。

 だが魔力の蒐集は他者に多大な迷惑を掛ける行為で、はやてちゃんに禁止されていたが守護騎士は助けるために行動に移す事。

 

 だけど守護騎士達も闇の書についての本当の問題は知らず、それでははやてを助ける事にはならないと知らなかった。

 闇の書は完成されると持ち主を最後に取り込んで、世界を滅ぼしかねない力を振るって暴走すると。

 過去に何度も闇の書は暴走を繰り返してきた事を守護騎士達は知らなかった事。

 

 そして完成された闇の書ははやてちゃんと守護騎士が取り込まれて暴走を始める。

 だけどはやてちゃんは闇の書の中で目を覚まして、書の管制人格と呼ばれる人と闇の書の暴走原因を書の中から分離する事に成功する。

 分離した暴走原因を倒す事で事件は解決する事。

 

 

 

「長々と話したけど俺が見たはやてちゃんの未来はこんなかんじだ。

 だけどこの未来は俺がはやてちゃんに説明しなかった未来だからもう確定じゃない。

 はやてちゃんはこの話を聞いてどうしたい?」

 

「どうしたい言われても、一片にそんな事話されてもよう分からんわ…

 世界が滅びかねない言われてもぜんぜん実感湧かんし…」

 

「……そうだよな~。

 世界がどうのこうのなんて言われてもスケールでか過ぎてついてけないよな~。」

 

「長い真面目な話し終わったら、急にダレたな拓海君。」

 

「だって何でこんな厄介な事を、俺達がなんとかしなきゃいけないんだって思うだろ。」

 

「そらまあ確かに。」

 

 毎回思うが子供が悩むような問題ではない。

 だけどはやてちゃんには闇の書をどうするか選んでもらわなければいけない。

 はやてちゃんの未来を変えてしまったんだから。

 

「今すぐ問題を解決する事も出来るよ。」

 

「え? そうなんか?」

 

「ああ、それが出来るから俺がはやてちゃんに説明したんだ。

 もし俺にどうする事も出来ないなら、予知夢通りになる事を祈って関わらなかったよ。

 この闇の書ってのは破壊されても転生して新たな主を見つけるらしい。

 その上、下手に闇の書を弄っても何らかの機能が働いて主を取り込むかもしれないそうだ。」

 

「とてつもなく厄介やってのはわかったわ。」

 

「けど俺はその闇の書を確実に破壊する方法を持ってる。」

 

「え?」

 

 直死の魔眼なら確実に闇に書を殺して転生も防げるだろう。

 出典もとの作品でも無限に転生する存在とかを殺す事が出来たんだし。

 

「けど、そやったら闇の書の中にいる守護騎士さん達とか管制人格っていうのは。」

 

「ああ、一緒に消える事になる。

 一瞬で終わるからはやてちゃんへの闇の書からの危害も加える暇はないだろうし、原因が無くなる事で足も治るから直ぐ歩けるようになる。」

 

 筋力が衰えてるからリハビリは必要だろうけど。

 

「それは……守護騎士さん達と管制人格さんを殺してまうって事か。」

 

「ああ。」

 

「そんなの!! そんなの……」

 

 はやてちゃんは激昂して何か言おうとするが、直ぐに止めてしまう。

 分かっているんだ、世界を巻き込みかねない物を自分の我侭で壊すななんて言えない。

 

「世界はともかくはやてちゃん自身の命も掛かっている。

 これが俺が出来る唯一確実で安全な方法だ。」

 

「他に方法はないんか?

 予知夢みたいにうちが何とか頑張れば…」

 

「予知夢通りに頑張ったとしても多くの被害者が出るし、同じ結果を出せたとしても管制人格だけは助からない結果になるんだ。

 何よりはやてちゃんが闇の書に取り込まれた後に目覚めたのは奇跡的なものだと思う。

 簡単に目覚めて闇の書をどうにか出来るなら、過去の闇の書の持ち主もそうしている。

 闇の書に取り込まれた後、気合で目覚めろって言われて出来る自身はある?」

 

「……ないなぁ。

 冗談でならともかく、世界が滅びるかどうかを気合で何とかしろなんて無茶苦茶やん。」

 

「闇の書をどうにかする手段がなければ俺はそれに賭けるしかなかったんだけどね。

 後三つ目の方法として闇の書を浄化すれば暴走をなくせるようになるかも知れない。」

 

「って、そんな方法あるんかい!?

 何で最初に言わんのや!!」

 

 はやてちゃんも俺に対してだいぶ砕けてきたなぁ。

 

「完全に未確定な方法だし絶対とは言い切れないんだ。

 闇の書ってのは魔法の産物らしいけど、俺達から見たら呪いの品でもあるんだ。」

 

「えっと、どういうことなん?」

 

「んー分かりやすく言うと人をたくさん切り殺した刀は、妖刀とかの怨念が憑いた呪われた品になる。

 闇の書は魔導書で魔力で動くけど、それとは別に霊的な怨霊が取り憑いてると考えてくれ。

 魔力が魔法の力、霊力が怨霊などの力で違う物だって事。」

 

「この本、怨霊が取り憑いてるんか?」

 

「怨霊一体なんてレベルじゃなく、それはもう百体二百体を超える様な負の念が闇の書から滲み出してるよ。」

 

「わたし大丈夫なんか!?」

 

「大丈夫じゃないでしょ。

 既に足が動かないし、最終的には死に至るって言っただろ?」

 

「あ、そっか…」

 

 呪われてると言われて随分実感が湧いたみたいだな。

 バグだの暴走などと言うよりはっきりしたみたいだ。

 

「闇の書の負の念を見た時に浄化すれば何とかなるかもしれないって思ったんだ。

 そういえば那美姉さんに闇の書を診た結果を聞いてなかった。

 どうにかなりそう?」

 

「正直これほどの負の念が篭った物は見たことないわ。

 浄化をする事は出来ない事はないと思うけど、私じゃどれほど時間が掛かるか…」

 

「闇の書の浄化をするなら俺がやるよ。

 下手に弄れば暴走しかねないって知ってるから、もし暴走したら即座に俺が闇の書を破壊する。

 暴走した際にはやてちゃんが取り込まれたとしてもそうする。

 三つ目の方法に失敗した時の対策だ。」

 

 那美姉さんに習ってる鎮魂術は浄化を行う術でもある。

 それを応用すれば浄化は出来ない事はない。

 

「拓海君、そこまでする覚悟で…」

 

「拓海君…」

 

「クゥン。」

 

 直死の魔眼を持ってたことに感謝はするけど、こんな覚悟をしなきゃいけなくなったのには参った。

 誰も殺さない選択が安全に出来ればよかったのに。

 

「俺が提示出来る選択肢は三つ。

 一つ、闇の書の即座破壊。 誰にも迷惑を掛けずにはやてちゃんは確実に助かる。 ただし、闇の書の中の人は助からない。

 二つ、予知夢通りに頑張る。 魔力の蒐集に多くの犠牲が出るし迷惑も掛ける。 うまくいくかははやてちゃんの気合次第。 それでも管制人格は助からない。

 三つ、闇の書の浄化を試す。 闇の書の暴走の原因が負の念にあるかもしれないのでそれを浄化出来れば暴走はなくなる。 ただし浄化の際に闇の書がどう反応するか分からない。 最悪はやてちゃんが取り込まれてそのまま闇の書を破壊しないといけなくなる。

 対策を纏めたらこんなところ。

 出来れば守護騎士たちが現れるまでに決めたい。」

 

「どうしてなん?」

 

「一つ目の案を実行する場合、はやてちゃんは出来るか?

 目の前に存在する相手に死んでくれなんて言うことが。」

 

「……無理やなぁ。」

 

 俺だって無理だ。

 前世の知識ではあくまで物語の存在で今更どうと言う事はない。

 だけど目の前に存在してしっかり認識してしまったら、その相手を殺す決意なんて早々出来るものじゃない。

 

「まだ時間はあるから大丈夫だけど、あまり先延ばしにしたくない。

 俺が思いつく限りの選択肢はこんなもんだけど、どうしたい?」

 

「どうしたいって…わたしが決めるんやないの?」

 

「確かに当事者ははやてちゃんだけど、独りで抱えるのは話の内容が重過ぎる。

 これらの案を遂行するには俺も必要なんだから、俺も当然考えるよ。

 もしかしたら他にいい案が思いつくかもしれない。

 無理に一人で抱えて悩む必要なんかないんだ。

 俺達も相談に乗って一緒に考えるよ。」

 

「そうよ、私はあまり役に立てないかもしれないけど相談には乗れるよ。

 だから私達にも頼ってね。」

 

「クォン。」

 

 はやてちゃんだけに決定を全て任せる気はない。

 俺だってはやてちゃんに今回のことを話すかどうか那美姉さんに結局相談したんだ。

 独りで抱えるのは辛いと言う事が少しだけ分かった。

 那美姉さんと久遠も一緒になって考えてくれると言っている。

 

 ギル・グレアムの考えで独りで生活する環境を用意されて、きっと寂しくてだけどいつの間にか慣れてしまった。

 それでも寂しいと言う思いはなくならず、原作でも守護騎士たちに家族の役割を求めた。

 現に本人の口から家族の存在に喜びの感情が感じられた。

 

 守護騎士達もそうだけどそのうちギル・グレアム一派も何とかするように考えておかないとな。

 何時まで動かないでいるか分からないし。

 

「拓海君、神咲さん、久遠、ありがとうな。」

 

 はやてちゃんはちょっと泣きそうになりながらも笑顔を見せた。

 

 この子がこんな風に何時までも笑っていられるようにしたいな。

 原作の未来はもうどこにもない。

 だけどこの子が幸せになる未来が少しだけ見えてきた気がした。

 

 

 

 

 



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第二十六話 美由希は人気者

 

 

 

 

 

 さざなみ寮でのはやてちゃんとの会談から翌日。

 俺は久遠を頭に乗せてはやてちゃんを迎えにまた八神家まで来ていた。

 

「いらっしゃい、拓海君。」

 

「こんにちわ、はやてちゃん。

 それじゃあ、どこ行く?」

 

「図書館でええかな。

 借りた本返しに行こう思うて。」

 

「分かった、じゃあ車椅子押したげるね。」

 

「おねがいするわ。」

 

 特に決まった目的もなく、俺ははやてちゃんのうちに来た。

 それは昨日の選択肢を一緒に考えるためだ。

 時間はそれほど無いが慌てて決めていい問題でもないので、こうやって日常生活を送りながら落ち着いて一緒に考えることにした。

 それまで俺ははやてちゃんに出来るだけ付き添う事にしている。

 

 俺は車椅子を押しながら乗っているはやてちゃんのことを考える。

 よく図書館に行くのは知ってたけど、普段は独りだから車椅子をがんばって漕いで行ってるのだろうかと。

 

「はやてちゃんはよく図書館行くの?」

 

「ん、まあそやな。」

 

「これまで独りで車椅子で行ってたの?

 大変じゃない?」

 

「一人での生活長いからな。

 車椅子漕ぐのももう慣れたわ。

 人に押してもらうのも病院行った時の先生くらいやから久しぶりやな。

 楽させてもらってます。」

 

「まあ、いいんだけどね。

 車椅子って漕ぐの結構大変そうだから腕っ節が強そうだ。」

 

「自信あるで。

 これでも家で料理してるんや。

 今じゃフライパンも軽々振るえるで。

 腕っ節の強い女の子になってもうた。

 どないしよう?」

 

「大丈夫、上には上がいる。」

 

 今度来る守護騎士達はもちろん、出会う魔導師達なんか大抵腕っ節が強そうだ。

 原作のはやては魔力はすごいけど、後衛でそれほど近接戦闘に向かないタイプだった。

 腕っ節がどうのこうの言っても、周囲と比べたら全然大した事ないだろう。

 

「それって守護騎士達の女性三人やったっけ?

 騎士って言う位やから皆強いんやろうな。

 あ、あと犬がいるんやっけ?

 何で犬が騎士なん?」

 

「ああ、人の姿に成れるけど大きな青い犬がいる。

 何で犬なのかは知らないけど、自称守護獣って言うらしい。」

 

「ふーん、やけど犬かぁ。

 私、いつか飼えたらなぁって思ってたんや。」

 

「それはいいけど、まずどうするのか考えないと。」

 

「あ、そやったな…」

 

 まだどうするか決めてないが、やっぱり家族になりえる守護騎士達の存在が気になるようだ。

 それを捨てる選択肢がある以上、はやてちゃんも尚のこと悩むことになる。

 

 

「……なあ、グレアムおじさんの事ほんまなん?」

 

「ああ、たぶんね。

 はやてちゃんも手紙で連絡取るだけで会った事ないんだろう。

 おかしいだろう?」

 

「うん、まあわたしもなんかおかしいとは思った事あるんや。

 けど手紙を読む限り優しそうなおじさんやと思っとった。

 ちゃんと私の事心配して親身になって考えてくれとる感じがしたんや。

 間違いやったんやろうか…」

 

「間違いではないと思うよ。

 はやてちゃんの事を考えてたのは、自分の目的からくる罪悪感もあったみたい。

 闇の書の封印の為にはやてちゃんを犠牲にしなければいけないらしいから。」

 

 原作ではそういう感じだったので恐らく間違っていないだろう。

 ちなみにギル・グレアムの使い魔達を警戒して今も円を全力展開して怪しい猫がいないか見張っています。

 久遠も頭の上でのんびりしながらもちゃんと警戒してくれています。

 家だと盗聴の可能性もあったから、外を歩き回りながら相談しています。

 

「なあなあ、グレアムおじさんは闇の書が破壊出来ないから封印するつもりやったんやろう?」

 

「そうらしいよ。」

 

「拓海君は闇の書を破壊する事が出来るんやろう?

 やったらその事グレアムおじさんに話したら手を貸してもらえるんやないかな?」

 

「んー確かにそうかもしれないけど、はやてちゃんはどうして俺が絶対に闇の書を破壊できるって信じる?」

 

「え、それは拓海君が言ったから…」

 

「そ、言っただけ。」

 

 それだけでギル・グレアムは信じることは出来ないだろう。

 過去に何度もアルカンシェルで破壊しても破壊し切れなかった代物だ。

 直死の魔眼が知られた存在でない以上、確実に破壊できる証明が必要だ。

 俺だって月姫で転生する存在を殺す事が出来ると知ってるだけで、何か他に別の予想もしない要素があって破壊出来ないとも言い切れない。

 つまり試してみなければわからないと言う事だ。

 

「破壊できる自信はあるけど、方法は説明してないし信じる要素もギル・グレアムには無い。

 慎重にならざるを得ない事だから、そう簡単に信じてくれる訳無いよ。」

 

「えっと……がんばってお願いすればどうやろか。

 おじさんもやろうとしてることは本意やないんやろ?

 どうやろか……」

 

「……」

 

 確かに親身になって話せば説得できない事もないかもしれない。

 原作でクロノに知られたときはすぐさま諦めるほど潔かった。

 簡単に諦められるほど長期間計画を練ってなかったわけじゃないだろうに。

 

「……今は向こうがどういう行動を取るかわからないから、会う時がきたらそうしてみよう。

 こっちからじゃ接触する手段は無いんだし。」

 

「そやなぁ、わたしも手紙でしか連絡先知らんし。

 けど、いつかちゃんと会って話したいわぁ…」

 

「そうだな……ん?」

 

「どないしたん?」

 

 展開していた円で後ろから付いて来る存在を見つけた。

 円で認識できる特徴から判断してこいつは…

 

「いや、ちょっと後ろから付いて来る奴がいてな。」

 

「え、それってグレアムおじさんの使い魔の猫さん?」

 

「いや、そっちじゃなくて俺の知り合いだ。

 久遠。」

 

「クォン。」

 

 そう言っただけで頭に乗ってた久遠は、飛び降りて歩いてきた方向に掛けていく。

 曲がり角に入ると…

 

「クー!!」「キャッ!!」

 

 久遠の鳴き声と同時に人の声が聞こえた。

 久遠がしっかり付いて来てた奴を見つけたんだろう。

 着いて来てたのは…

 

「何やってんだよ、美由希。」

 

「アハハ、ばれちゃってた?」

 

「クゥン。」

 

 付いて来てたことを誤魔化すように笑いながら久遠を抱いて現れた。

 久遠も動物だけあって鋭いから美由希の存在に直ぐ気づいてた。

 

「拓海君、この人は?」

 

「こいつは高町美由希。

 那美姉さんと同じ学校の友人。

 一応俺とも友人。」

 

「一応なんてひどいなー。

 確かに年齢差はあるけど私もたっくんのこと友達だって思ってるのに~。」

 

 確かに俺は小学生で美由希は高校生だから、友人と言うにはちょっと違和感を感じる付き合いだ。

 まあ、美由希の相手してて楽しくもあるから友人には違いない。

 

 ところで美由希は何かうれしい事があったかのようにニマニマ笑顔を見せている。

 

「何があったのか知らないけど、気持ち悪いな美由希。」

 

「ちょ、もうちょっとオブラートに言えないの!?

 相変わらず辛辣なんだから。」

 

「安心しろ、これだけ辛辣に相手するのは美由希だけだ。

 うれしいだろ?」

 

「ワーイ、ウレシイナー。」(棒読み

 

「な、仲ええんやな…」

 

 俺の美由希への対応に少々戸惑い気味のはやてちゃん。

 まあこういう扱いするのは本当に美由希だけだしなー。

 

「まあ、確かに仲はいいから、こんだけ遠慮無しで遊べるんだけどね。」

 

「くすん…私、たっくん遊ばれちゃった…」

 

「代わりによく愚痴を聞かされたり、恋愛相談に乗らされたりもするんだけどね。」

 

「スルーしないでよ。」

 

「アハハハハ、ほんまに仲がええんやな。」

 

 和気藹々としているがこれからはやてちゃんと図書館に行く途中。

 何の用か知らないがはやてちゃんの事に美由希を関わらせる気はないので、とっとと話を済ませてよう。

 

「それでなんか用なのか?」

 

「別に用って訳じゃないよ。

 偶然たっくんを見かけただけ。

 だけどたっくんにもガールフレンドって子が居たんだね~。

 あ、たっくんが紹介してくれたけど、私高町美由希。

 風芽丘学園の2年生ね。」

 

「八神はやてです。

 学校は今休学してますけど小学三年生です。」

 

「あ、私の妹と同じね。

 たっくんもやっぱり同い年くらいの子が好みなんだ~。

 やっぱりうちのなのは、紹介しよっか?

 恭ちゃんとお父さんが恐いけど。」

 

「やかましい、とっとと帰れ。」

 

 どうやら俺とはやてちゃんの仲を邪推したからニマニマしてたらしい。

 今日ははやてちゃんと相談出来るようにゆっくりするつもりだったのに。

 どうにもタイミングの悪い奴め。

 

「(ごめんはやてちゃん。

 ゆっくり相談するつもりだったのに。

 とっとと追い返すから。)」

 

「(あ、私は別に美由希さんが一緒でもかまわんで。)」

 

「(闇の書の事を話せないだろ。)」

 

「(まだ時間はあるんやろ?

 それに人が多いほうが賑やかで楽しいやん。)」

 

「(まあ、はやてちゃんがそう言うなら…)」

 

 確かに時間は少ないけど、慌てて考えるつもりがないからゆっくりするつもりだったんだ。

 普通に過ごす分には美由希はいいムードメイカーかも。

 

「なになに、私に内緒でデートの相談?」

 

「自分がトンビに油揚げを掻っ攫われたからって、人に恋愛話を求めるな。」

 

「ちょ!! その話はもういいでしょ!!」

 

「なんや? 美由希さん失恋したんか?」

 

「はやてちゃん、興味あるのか?」

 

「私も女の子やからなー。」

 

「OK、じっくり脚色をして話を聞かせてやろう。」

 

「たっくんやめてー!!」

 

 最近美由希で遊んでなかったから、この遣り取り久しぶりだなー。

 

 

 

 

 

 図書館へ行ってからは、俺がいつも来ていた八束神社に来ていた。

 ジュエルシードの発動で来て以来だからちょっと久しぶりだ。

 そう思うと最近ホントに余裕ないなー。

 ここでよく式神で遊んでたのに、事件の最中は監視やら捜索やらで面白みのないことばかり。

 いや、アナァゴだけは割と面白かったけど。

 

 そういうわけで今日ははやてちゃんに式神の有能さを披露中。

 じっくり楽しんでくれとちょっとしたお芝居をやっている。

 

「むーむーむー!!!」

 

『恭ちゃん、うそだよね。

 恋人を作ったなんて…』

 

『本当だよ、美由希。

 僕は僕に相応しい女性を見つけた。

 だからお前との恋人ごっこは終わりだ。

 これからもう普通の兄妹でしかない。』

 

『…無理だよ、今更普通の兄妹になんか戻れない。

 私、恭ちゃんに散々弄ばれちゃったんだもの。』

 

『所詮遊びだったんだ。

 僕は彼女のところへいくよ。』

 

『待って!! 私を置いていかないで!!』

 

『くどい!! …じゃあな。』

 

『キャッ!! うぅ……どうしてこんな事になっちゃったの。

 あの…あの泥棒猫が悪いんだ!!

 絶対許さない!!』

 

 繰り広げられた寸劇は俺が作ったデフォルメ恭也とデフォルメ美由希による式神劇場。

 そして止めようとしてた美由希は俺の金縛りの術を込めた呪符を全身に張った上、口を塞いだので喋る事も出来ない。

 

「これが美由希の恋愛劇場第一章。

 今第二章を美由希本人が展開してて、第三章はついに美由希が切れて行動を起こす予定らしい。」

 

「ほうほう、美由希さんはなかなかのメロドラマ展開を繰り広げとるんやなあ。

 やけど拓海君の式神って面白いな。

 こんな寸劇も即席で出来るんやから。」

 

「最初は質の悪い物しか作れなくて喋る事も出来なかったんだけどね。

 今は複数作り出してこんな人形劇の真似事も出来る。

 この前まではここで動物の式神を作って久遠と一緒に微睡(まどろ)んでたんだけどね。」

 

「それは気持ち良さそうやな。

 なあなあ、何か可愛い動物出してえな。」

 

「いいよー。」

 

「むーむーむー!!」

 

「あ、そろそろ美由希さん離したったら?」

 

「まあ劇も終わったしいっか。」

 

 美由希に貼りまくった金縛りの呪符を全部剥がしてやる。

 最後に口を塞いでいた呪符をとってやると、

 

「ぷはぁ!! ちょっとたっくん、何よあれ!?」

 

「美由希の愚痴から話を纏めた恋愛劇場。

 第二章はいちゃいちゃする兄を見て悶々する内容。

 最終章はついに切れた美由希が行動に移す内容。

 心中する展開だったら、する前に話を最後まで聞かせてくれよ。」

 

「あかんで美由希さん。

 いくら辛くても誰かを傷つけたらあかん。

 ましてや心中なんて。」

 

「しないよ、心中なんて!!」

 

 当然本気で言ってる訳でなくはやてちゃんも解ってるのでノってくれている。

 小学生二人に遊ばれる美由希はさすがに情けなさ過ぎるぞ。

 

「そもそも恭ちゃんは僕とか言わないし!!」

 

「それは肖像権の侵害とか色々あるから俺のイメージで性格を補完した。」

 

 実際にはある程度性格は解ってるけどあえて違うようにした。

 やったら後でひどい目に合いそうだし。

 

「だったら私ももうちょっと変えてよ!!」

 

「本人を前にしながらイメージを変えろと言われても、なあ?」

 

「そやなあ。」

 

「クォン。」

 

「みんな意地悪だ!!」

 

 はやても久遠もノリがよく、俺が振ると同意してくれる。

 美由希も意地悪だと泣き言を言ってるが割りと楽しそうにしてないか?

 

「とか言いながら、美由希って意地悪されてるの楽しんでない?

 お兄さんに意地悪されたと愚痴を言いながら楽しそうに話すし。」

 

「へえ、そんな人ほんまにおるんやなあ。」

 

「ち、違うよ!!

 意地悪されて楽しんだりしてないよ!!

 こんな話されても楽しくないんだから!!」

 

「……そっか、俺たちは美由希とお話しするの楽しいんだけどな。

 そう思わないか、はやてちゃん、久遠。」

 

「そやな、私こんな楽しい会話久しぶりやったんや…

 けど美由希さんは楽しんでくれてなかったんか。

 ちょっと残念や。」

 

「クゥ、寂しい…」

 

 美由希の返答に俺たち三人はちょっとトーンを落として重い雰囲気を作り出す。

 そんな様子に慌てた美由希は、

 

「あの、その、ごめんね。

 ちょっと言い過ぎちゃった。

 私もホントはちゃんと楽しんでるよ。」

 

「ふむ、やっぱり美由希は意地悪されて楽しいらしい。」

 

「世の中いろんな人がいるんや。

 私は美由希さんのこと、差別したりせんで。」

 

「クォン、美由希頑張れ。」

 

「みんなホントに意地悪だぁ!!」

 

 簡単に乗せられる美由希に俺たちは笑うしかなかった。

 こんな風に遊びやすいから美由希とは遠慮為しに付き合える。

 俺の様子にはやてちゃんもいつの間にか一緒に美由希で遊んでいる。

 

「もう、たっくんのせいで会ったばかりのはやてちゃんにまで意地悪されちゃってるじゃない。」

 

「俺のせいじゃない、悪いのは美由希だ。」

 

「そやな、美由希さんおもろすぎるわ。」

 

「クォン。」

 

「くすん、久遠まで…

 私年上なのに~」

 

 俺は美由希を年上だと思ったのは初めて会った時だけだぞ。

 二度目以降はもう何の遠慮もしてない。

 

 

 

 それからはゆっくり駄弁ったり、俺が十二支の動物を久しぶりに出して皆でモフモフ楽しんだしてた。

 結局美由希もはやてちゃんに楽しそうに愚痴を言って、それを再び指摘されて遊ばれていた。

 

 そんな様子を俺は久遠と共に式神動物に囲まれながら眺めてていた。

 いつも美由希との会話を眺めてるのは那美姉さんだったが、俺が美由希と話してるのはあんな感じだったんだろうか。

 こうやって様子を見てるだけでも結構穏やかで退屈しないひと時だ。

 

 本来闇の書の話をする重い内容だったが、美由希のせいでそれは駄目になってしまった。

 まあ、はやてちゃんが決めたことだから無理に拒否するつもりはなかった。

 俺にははやてちゃんに未来を変えた負い目があるし、選択次第では危険な目に遭う。

 だから急かすつもりはなく俺ははやてちゃんの様子を見ながら一緒に選択を決める。

 

 自分の為に逃げると言うなら1の選択を認めるが、誰にも迷惑を掛けたくないからと言うなら認めるつもりはない。

 2の選択は本来の未来の模倣だが、はやてちゃんの性格なら誰かに迷惑を掛ける事を前提の選択を選ばないだろう。

 だからこそ救われる本来の未来を選べない負い目を俺は感じる。

 

 そして3の選択は未確定の可能性の未来。

 誰にも傷つけずにうまくいけば本来の未来以上に幸せが見つけられる可能性がある。

 だけど失敗すれば闇の書が不完全な暴走をして、取り込まれたはやてちゃんごと殺さないといけない可能性もある。

 はやてちゃんが自分を賭けて闇の書を救いたいというならこの選択を認めない。

 だけど家族がほしいからと言う理由でこの選択をするなら認めるつもりだ。

 

 俺ははやてちゃんに幸せになって欲しいとは思う。

 だけど幸せかどうか決めるのははやてちゃん自身だ。

 はやてちゃんには幸せになりたいと言う選択を自分の意思でしてほしい。

 本人が決心して決めてこそ目的を果たす意味がある。

 

 はやてちゃんが幸せを望まなければ幸せとは言えないんじゃないかと、俺は思ったからはやてちゃんが望むように行動させる。

 人の迷惑とか考えて遠慮して自分の意思を後回しにしないように。

 なのはちゃんの時の様に、はやてちゃんが自分が本当に望んで、それを貫き通せるように俺が支える。

 それが俺の今すべき事だと思っている。

 

 

 

 

 

 久々に美由希と会って遊んでから、俺ははやてちゃんの車椅子を押して家に送っていた。

 久遠も今日は那美姉さんのところに先に帰っていった。

 

「今日は楽しかったわ。

 ありがとう拓海君。」

 

「楽しかったのは美由希のおかげだろう。」

 

「そやな、美由希さんはとってもおもろかったわ。」

 

 はやてちゃんはさすがに美由希を馬鹿にしてたわけじゃないけど、話を茶化して偶にからかっていた。

 果たして美由希の付き合いがいいのかはやてちゃんの話し方がうまかったか。

 どちらにしろ仲良くなれたみたいだけど、よく考えたらなのはちゃんとの繋がりになりかねないか。

 美由希のほうには今度釘さしておこう。

 

「ほんま……今日は楽しかったわぁ…」

 

「? はやてちゃん?」

 

「私な、一人で暮らし始めてからなーんも無かったんや。

 朝起きたらご飯食べて、昼間は本読んだりして暇潰して、夜になったら寝てまう。

 ただそんだけの毎日をずっと繰り返しとった。

 両親がいなくなった頃はきっと寂しかったんやろうけど、それももう忘れてもうた。」

 

「……」

 

「家族が欲しいとも足が良くなれば学校へ行って友達が出来るとも思うとったんよ。

 けど今日の事があって、別にそんな事あらへんかった。

 拓海君と一緒に町に出歩いて美由希さんに会っておもろい話いっぱい出来た。

 このままでも楽しい事はいっぱい見つける事が出来る。

 両親がいない事も足が動かん事も別に不幸でも何でもないんや。

 私を見れば不幸やって思う人は多いやろうけど、私はもう不幸やと思わん。」

 

「そうなんだ。」

 

 幸せも不幸も自身がどう思うか。

 はやてちゃんが不幸でないと言うならそうなんだろう。

 俺も少なからずはやてちゃんが不幸だとは思うところはあった。

 だからこそはやてちゃんが幸せを望んで欲しいと思ってたけど、余計なお世話だっただろうか。

 

「やから別に私はこのままでええ。

 誰かに迷惑掛けてまで家族が欲しいとか歩けるようになりたいとは思わん。」

 

「はやてちゃん、だけどどのような選択であれ、今のままではいられないよ。」

 

「わかっとる、どの選択でも私の生き方は変わる事になる。

 ほんまに迷惑な話やな。」

 

「ごめん、はやてちゃん。」

 

「拓海君のせいやないやろ。

 わたしは誰かを責めたいわけやない。

 闇の書の中の人たちやってそうなんやろ。

 みんな、誰かに迷惑掛けたいわけやないんや。」

 

「…そうだな。」

 

 誰も迷惑を掛けたいわけじゃない。

 それは確かにみんな一緒なんだ。

 書の管制人格も主を傷つけてしまう事に嘆いていた。

 

「そやから拓海君、やっぱりわたしは一つ目の選択は選べへん。

 闇の書の中の人達にも相談してどうするか決めたいんや。

 出来るならグレアムおじさんも説得して協力してほしいんや。」

 

「それはきっと難しいよ。」

 

「そうなんか?

 私はそんな事あらへんと思うよ。」

 

「どうして?」

 

 守護騎士達もギル・グレアムも会った事のない存在だ。

 俺もあったことはないけど知識でならどういう人物か知ってはいる。

 知識と実際の存在がイコールでないのはなのはちゃんの件でわかってるけどおおよその性格は把握してる。

 守護騎士達ははやてちゃんを主として従うかもしれないけど、ギル・グレアムはどうだろうか。

 

「言ったやろ、みんな誰かを傷つけたいわけやないって。

 やったら一番ええと思う選択をみんな選んでくれるはずや。」

 

「それは……」

 

 はっきり言って理想論としか俺には思えなかった。

 それぞれに通したい意志があり目的がある。

 だからこそぶつかりたくなくてもぶつからなきゃいけない時がある。

 それはなのはちゃんがフェイト戦ったときの意思であり想いでもあった。

 

 今のはやてちゃんにそれが解れというのは難しい話だろう。

 一人暮らしでしっかりしているとはいえまだ八歳の子供に過ぎないんだから。

 間違いではなくても経験が足りなさ過ぎると言う事だろう。

 

 俺ははやてちゃんが本当に望んだ選択を応援するつもりだったけど、この選択を本気で応援していいものだろうか。

 その望みが叶う可能性がないわけじゃない。

 誰もがはやてちゃんを出来うるなら生かしたいと考えるからだ。

 はやてちゃんの言葉に耳を傾けて協力する可能性は大いにある。

 

 だけど今後もそんな考えだけでうまくいくとは思えないから賛同するのに戸惑った。

 この考え方を認めてはやてちゃんの為になりうるのかと。

 

「話し合う事が悪い事とは言わないけど、それで全てうまくいくとは限らないよ。」

 

「けど、話をせんかったら何も理解してもらえへんやん。」

 

 まるでフェイトと話したがるなのはちゃんだ。

 これじゃあ一度何かにぶつからないとわかってもらえそうにないか。

 

「……解った、とりあえずまずは守護騎士達と話す方針でいこう。

 だけど一つ条件をつけていいかな?」

 

「なんや?」

 

「話し合いで解決すると言う説得には闇の書の主としてではなく、はやてちゃんの考えを知ってもらって納得してもらう事。

 これを条件にする。」

 

「えっと、つまり命令するなっちゅうことやろ。

 それはわかっとる。

 わたしかて家族になるかも知れへん人達にそんなことしとうないもん。」

 

「それならいいんだ。

 説得に関しては俺は協力出来ないけどいい?」

 

「構わんで、それくらいわたしがやったる。

 拓海君ばっかりに任せるわけにいかんからな。」

 

 どうなるか解らないけど、戦いであれ話し合いであれ自分を貫き通すには強い意思がいる。

 守護騎士達には出現当初、主に従うと言う意志以外に特に目的も何もなかった。

 だけどはやての考え方でうまくいくかどうかくらいの意思は示せるだろう。

 そうでなければ、ギル・グレアムとの対話を主の方針としてでなければ賛同しないだろう。

 

 

 

 俺にも何が正しいかなんてわかんないけど、はやてちゃんが幸せだと思える未来を作りたい。

 それを俺だけで決めても独り善がりの我侭になってしまう。

 だからはやてちゃん自身が見つけて、尚且つ俺が望ましいと思える幸せをもつけて欲しい。

 

 難儀な事を考えてるなと思うが、これば別に今まで考えなかったことじゃない。

 ただ単に俺がこれまでやってきたように、平凡でも楽しい生活が出来るようになればいいんだ。

 俺の日常の中にはやてちゃんが加わる。

 それ位に考えればいい。

 

 闇の書の対処はやっぱりめんどそうだけどな。

 

 

 

 

 

 



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第二十七話 なかなか話が進まない件

 

 

 

 

 

 はやてちゃんが方針を決めてから数日。

 ついに守護騎士達が現れるはやてちゃんの誕生日を明日に控えていた。

 それまでは俺の知る守護騎士達の特徴を話したり、先日のようにただ話をして平穏な日々を過ごしていた。

 

 守護騎士達が現れれば加速度的に事態は加速する。

 現時点で闇の書に篭った負の念の浄化は試していない。

 直ぐに防衛機能が働いて暴走を起こす可能性があるわけだから出来る限り万全の体制で行いたい。

 つまりはやてちゃんが守護騎士達と話をつけてから浄化を試してみると言う事だ。

 

 魔法に関しては俺も那美姉さんも何一つ知らない。

 魔法に対する知識の無い者達だけで闇の書に何かを行うのは少々不安だ。

 闇の書相手にどこまで魔法知識が意味を成すか分からないけどいないよりマシだ。

 浄化を試すのは守護騎士達の協力を得てからにしたい。

 そう考えて現れるまで待っていた。

 

 

 

 そうしてはやてちゃんが誕生日に守護騎士達が現れるはずの前日を迎えたわけだ。

 予定では午前0時に現れるはずだから、真夜中だけど俺も居合わせようかと言ったがはやてちゃんは遠慮した。

 

「真夜中なんやから拓海君とこの家族が心配するやろ。

 守護騎士さん達を迎えるのは私だけでええわ。」

 

「両親には前に説明したから必要なら夜中でも別に大丈夫だよ。

 まあ主に従う騎士達が他の人間がいることに難色を示すかもしれないから、いないほうがいいかもしれないけどね。」

 

「主とか従うとか、私はそんなことするつもりはあらへんよ。

 だたお話して手伝ってもらうだけや。」

 

「お話ね…

 まあ、はやてちゃんが納得いくまで説得を試せばいいと思うよ。

 ただ騎士達はこの世界の文化も風習も法律も知らない。

 間違った事を止める時は主でも何でもいいから命令してでも絶対止めて。

 守護騎士達の行動を制限出来るのははやてちゃんしかいないんだから。」

 

「そういうのは嫌いないんやけど仕方ないか。

 ほんまに心配性なんやから。

 じゃあ、また明日な。

 拓海君が来るまでに話を着けといたるわ。」

 

「前も言ったけど面倒事は嫌いなんだ。

 心配して問題が減らせるならそうしたほうがいい。

 それじゃがんばってね、はやてちゃん。」

 

「まかしとき。」

 

 そうして誕生日前日のはやてちゃんと別れて帰る事にした。

 ふと気づいたが、誕生日なんだから何かプレゼントを用意しといたほうがいいか。

 闇の書の事ばかり気にしてて気づかなかった。

 何か丁度いい物を用意しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 俺は一応誕生日プレゼントをもって八神家を訪れた。

 今日は守護騎士達が現れているはずなので安全の為に久遠は連れていない。

 久遠の安全もあるが、守護騎士達は妖狐という存在を知ってるはずもないだろう。

 なので余計な警戒を与えない為にもと久遠は連れずに来た。

 

 途中で神社に寄って久遠にあってそれを説明したら、少し寂しそうな声で鳴いて納得してくれた。

 そんなことされたら俺も寂しいじゃないかと、一度抱きしめてから別れを惜しんでこっちに来た。

 いつも一緒だったからか置いてくるのがたまらなく辛く感じたぜ。

 今生の別れどころか一日の別れでもないのに。

 

 

 

 それはさておき八神家の呼び鈴を押した。

 インターフォンから聞こえたはやてちゃんの声に俺が来たことを伝えると、直ぐにドアが開いてはやて以外の人間が出てきた。

 現れたのは金髪の髪の二十歳くらいの女性。

 

「あなたがシャマルさんですか?」

 

「ええ、はやてちゃんの言った通り、私達の事知ってるのね。」

 

「一通りは…

 説明は全部終わってますか?」

 

「…まだはやてちゃんの話を聞いてるところよ。

 はやてちゃんが待ってるから入って。」

 

「じゃ、お邪魔します。」

 

 ここ数日で何度も遊びに来てたが、はやてちゃん以外が迎えるのは初めてだったので少し調子が狂った。

 家の中に上がって居間に入ると…

 

 

-ギロッ-

 

 

 はやてちゃんの他に守護騎士らしき三人がいて一斉にこちらを見た。

 擬音が聞こえそうな視線で睨まれて、あまりの迫力につい堅をして防御態勢を取ってしまった。

 明らかに友好的な雰囲気でなく空気が重かった。

 三人のうちのポニーテールの女性、恐らくシグナムさんが俺の前に出た。

 

「貴様が主はやての言っていた拓海とやらか。

 何が目的だ。」

 

「シグナム!!」

 

 まあ予想していたが随分と警戒されているらしい。

 はやてちゃんが止めるつもりで名を呼ぶが、シグナムさんは俺を警戒して視線を外そうとしない。

 俺より少し下っぽい子供に見えるヴィータとケモノ耳付きの男性ザフィーラも視線を外そうとせず、気配を探れば後ろからシャマルさんも俺を見ているのがわかった。

 

 なんという四面楚歌、最悪の状況とは言わないが精神的に辛い。

 ただでさえめんどくさい事件で頭が痛いのに、こんなプレッシャー掛けられれば胃がキツイです。

 とにかくソファーでいいから座りたいなと思いながら、状況の悪さにため息をつく。

 

「拓海君は友達言うとるやろ!!

 仲良うせなかん!!」

 

「しかし信用できません。

 闇の書の存在を知っていた事といい、我等が現れるのを事前に知っていた。

 あなたを利用しようとしていないとは限りません。」

 

「拓海君はそんなことせえへんわ!!

 そう何度も言うとるやろ!!」

 

「しかし!!」

 

 予想以上に説得どころか話自体が難航しているらしい。

 これじゃあギル・グレアムの存在まで話せてるかどうか。

 はやてちゃんの足と闇の書の関係すら説明してないんじゃないか?

 いきなり闇の書をどうにかするのが一歩目で躓いてしまった感じだ。

 闇の書をどうにかする覚悟、足りなかったかな…

 

「…はやてちゃん、とりあえず話はどこまで進んだの?」

 

「え、えっとな、皆の歓迎に美味しいもん作って一緒に食べとったらだいぶ時間が経ってもうて。

 その後話し始めたのはええんやけど、拓海君の事説明したらえらい疑われてもうたんや。

 誤解解く為に今いろいろ話してたところなんや。」

 

「つまり話の半分も説明出来てないって事か。」

 

「……ごめんな。」

 

「…はぁ。」

 

 もう一度ため息をついてから騎士達の視線など気にせずにソファーに座り込んで、とっとと話を進める事にする。

 俺の信用とか騎士達の警戒とかはこの際後回しにしていいだろう。

 まず俺の知る事態を全部伝えなきゃ何が正しいのか、騎士達も確認の取り様がないだろう。

 

「はやてちゃん、まず俺が知ってる事を説明するから信用云々はその後でいい。

 シグナムさん達もとりあえず話を全部聞いてから判断して欲しいんだけど、それでいい?」

 

「……いいだろう。」

 

 

 

 

 

 俺がまず話し始めたのは予知夢という形で闇の書の存在を知ったと言う事。

 予知夢と言われても普通ならいきなり信じないが、これについては守護騎士達もレアスキルのような物と納得してとりあえずは信じた。

 聖王教会の某預言者さんの予言は古代ベルカ式のレアスキルらしいから、予知夢=予言のような物と認識してくれたんだろう。

 

 それで知った闇の書は完成すれば主を取り込み世界を滅ぼしかねない暴走を起こすと話すと、そんなことは信じられないと闇の書の守護騎士として否定した。

 ここで俺は闇の書がはやてちゃんの足を麻痺させてる原因だと言った。

 

「闇の書がどういう物か知ってるんだったら、主に対する影響も熟知してるだろ。

 闇の書が主に危害を加えるものじゃないと言うなら、これを否定してくれ。

 確かシャマルさんが治癒や補助の専門なんでしょう。

 魔法ではやてちゃんの足を少し見てくれませんか?

 そうすれば確認出来るはずです。」

 

「……シャマル。」

 

「解ったわ、シグナム。

 はやてちゃん、ちょっと足を診せてもらっていいですか?」

 

「あ、うん、お願いするわ。」

 

 シャマルさんがはやてちゃんの傍に来てベルカ式の魔法陣を展開する。

 以前見たなのはちゃんたちが使っていたミッド式と違って三角形のような魔法陣だ。

 

 シャマルさんは時間を掛けてはやてちゃんの足を診察し続ける。

 途中何かに驚いて念入りに何度も確認してる。

 そして魔法陣が消えて診察を終えた。

 

「その子の言った通りはやてちゃんの足が動かないのは闇の書が原因だわ。

 闇の書との繋がりからはやてちゃんの足に影響が出てる。

 ほうっておいたら麻痺が広がって命の危険も。」

 

「そんな馬鹿な…

 ……魔力を蒐集して闇の書を完成させれば治すことも出来るはず。」

 

「それやっちゃいかん言うとるやろ!!」

 

「しかしそれではあなたの御身体が!!」

 

「はやてちゃんのことも含めてどうにかしようと話してるんだ。

 さっきも言ったけど完成すれば暴走して主であるはやてちゃんを取り込む。」

 

「確かに闇の書が主はやてに害を為している事は認める。

 だがそれだけで闇の書の完成が暴走を起こすと信じるわけにはいかん!!」

 

「あたしらは闇の書の守護騎士なんだ!!

 闇の書の事はあたしらが一番良く知ってる!!」

 

 シグナムさんの否定にヴィータも賛同し、残り二人も黙ってはいるが同意しているみたいだ。

 ところでヴィータってヴィータちゃんなのかヴィータさんなのかどっちで呼んだらいい?

 見た目年下だけど実際は年上になるのか?

 

 ……普通にヴィータでいいか。

 久遠も封印されてたとはいえ生まれた年数から考えたら300歳くらいだし。

 久遠に年下も年上も関係ないよ。

 可愛いは正義なのだから。

 

 と、話がずれたがはやてちゃんが説得しきれないことは予想していたので、他にも闇の書に対する守護騎士達の矛盾内容を考えてきてる。

 俺を信じるかどうかはともかく論破する自信はあった。

 

 戦って勝って納得させる?

 原作なのは達の真似なんか出来ないよ。

 俺武闘派じゃないし、そもそも戦って勝てるほど思い上がっていない。

 だったら戦わずに終わらせる方法を考えて、戦いになるようなら可能なら逃げるよ。

 

 出来ないなら……どうしよう?

 ジュエルシードの時は原作の流れに任せられたけど、今度は流れ完全にぶっ壊してるし。

 後戻りできないのは解ってたから戦わないにしても逃げられないな。

 

 ともかく俺は口で守護騎士達に勝つ。

 この後はギル・グレアムも控えてるんだ。

 はやてちゃんの味方である守護騎士達にいつまでも梃子摺っていられない。

 

 

 

 闇の書に異常があることを示す内容は他にいくらでもあった。

 まず過去の完成後の状態を守護騎士達が覚えているかどうか。

 指摘してみれば完成した事があったはずなのにそれをまったく思い出せない事に戸惑ってた。

 

 次に管理局の闇の書に対する対応。

 守護騎士達の主観で完成後の力に脅威を抱いているから敵対しているというのは納得出来る。

 だけどそれなら何故闇の書は転生してここに存在するのか。

 

 これまで管理局は破壊すれば転生するとわかってるのに破壊するのか?と聞いてみた。

 暴走が無いのであれば主を殺さず倒せば次の主を求めて転生することは無い。

 闇の書がこれまですべて完成したわけじゃない。

 完成してない書の主は制圧出来ないほど脅威ではない。

 例え封印が闇の書に効かないと仮定しても、主を確保しておく事で転生を抑えることが出来るはず。

 なのに何故闇の書を管理局は破壊して転生させねばならないのかと言う説明に、守護騎士達は説明出来ずに口を噤んだ。

 

 そして闇の書の本来の名、夜天の書という名前。

 この名前は闇の書の本来の名前だと言って心当たりが無いかと聞いてみれば、全員何かしらの違和感を感じて否定しきれなかった。

 

「ふむ……はやてちゃん。

 彼らが現れた時に言った言葉を正確に覚えてる?」

 

「え? えーと、騎士の忠誠の言葉っぽかったけど正確には覚えとらんわ。

 それがどうかしたん?」

 

「俺の記憶が正しかったら…

 シグナムさん、確認の為に守護騎士の皆ではやてちゃんに言った忠誠の言葉を聞きたいんだけど。」

 

「それは主にのみ告げる騎士の言葉だ。

 信用できぬ者に軽々しく話す気はない。」

 

「シグナム、話したって。」

 

「…主はやてがそう仰るのであれば。」

 

 はやてちゃんの言葉に従って、シグナムさんははやてちゃん向かって跪く。

 それに従って他に三人もシグナムさんと同じ様に跪いた。

 

「初めて会うた時もそうやけど、こういう風に跪かれるのは慣れんわ。

 やけど拓海君が確認の為言うしお願いな。」

 

「では…『闇の書の起動を確認しました。』」

 

「『我等、闇の書の収拾を行い主を守る守護騎士にございます。』」

 

「『夜天の主の下に集いし』「「「!?」」」」

 

「あ、夜天の主言うとる。」

 

「だろ。」

 

 ザフィーラのセリフのところでしっかり夜天の主と言ってる。

 良く指摘されてた所だったから覚えてて良かった。

 

「もし闇の書なら、闇の主になるだろ。

 闇の書が起動する度に言う前口上みたいなものだから、記憶に残ってなくても名残のような形で残ってたって事だ。」

 

「そ、そんな馬鹿な…」

 

「どういうことだよザフィーラ!!」

 

「い、いや、俺にもわからん…」

 

「えっと、あの、その、え~と…」

 

 自分達の口から自然に出てた『夜天』と言う単語に狼狽する守護騎士達。

 シグナムさんはショックを受け、ヴィータは『夜天』の名を出したザフィーラを責め、ザフィーラも自然と出た名前に困惑するばかり。

 シャマルさんは周りの事態におろおろするばかりで、どうにも他に比べて慌て方が微笑ましい。

 なんか那美姉さんっぽいんだけど…

 

「とりあえず俺の言ってることがいい加減な事じゃないとは納得してくれた?」

 

「……ああ、認めざるをえないな。」

 

「何言ってんだよシグナム!!」

 

「認めろヴィータ。

 我等の知る事の出来ないところで闇の書に何かが起こっている。

 そして我等自身にも自覚出来ていない記憶の損失、或いは改ざんがある。

 少なくともこいつの言ってる事が間違いだと言い切ることはもはや出来ん。」

 

「……訳わかんねえ。

 あたし等に、闇の書に何が起こってるって言うんだよ…」

 

「「……」」

 

 俺の言葉を全面的には認め切れていないが、少なくとも何かがおかしいとは認めてくれた。

 彼らにとっては闇の書あってこそ主が選ばれる。

 騎士達のとって主は重要だが、前提である闇の書がおかしいとなれば自己の存在に疑問を持つことになる。

 既に記憶すら異常があると自覚したんだ。

 不安にならざるをえない。

 

「だ、大丈夫やて、何とかなる!!

 その為に話し合いをしてるんやから。」

 

「主はやて…」

 

「はやてちゃん…」

 

「「……」」

 

 はやてちゃんが重い雰囲気を察して皆を元気付けようとするが、依然雰囲気は暗いまま。

 あまりの落ち込みように自己の在り方に疑問を持ちすぎて、はやてちゃんの意思に従うべきかどうかすら疑問を持たないか心配だ。 

 少なくとも協力してもらえず、闇の書を守る為に浄化の妨害でもされたら、どうすることも出来なくなるかもしれない。

 そこまで深刻に受け止められるとは思ってなかった。

 そんな時に……

 

 

-プルルルルルルッ-

 

 

 家の電話の受信音が鳴った。

 誰からと思い、はやてちゃんが電話の通知を確認すると…

 

「あ、しもうた石田先生や。

 今日定期検診やったのすっかり忘れとったわ。」

 

 はやてちゃんは受話器を取ると話し始めて相槌を何度か打つ。

 

「誰だ?」

 

「確か病院のはやてちゃんの主治医。

 足の件で通ってるんだ。

 こっちの世界は魔法が認知されてないから原因不明の病気って事になってる。」

 

「…そうか。」

 

 俺がシグナムさんに聞かれて答えると、はやてちゃんの足の関係だったからか、またうつむいて気を落とす。

 直ぐに電話は終わって、はやてちゃんは受話器を戻す。

 

「定期検査やったのすっかり忘れとったわ。

 直ぐ行ってくるからちょっと家で待っといてな。」

 

「お供します。」

 

 シグナムさんがそう言うと、他の三人もそれに従って動く。

 少し不安はあったが少なくともはやてちゃんには仕える気は変わらないらしい。

 …が、

 

「そんな格好で外に出たらちょっと不味いで。

 私一人で行って来るから待っとき。」

 

「しかし…」

 

 シグナムさん達は現れたばかりの全員真っ黒な薄着姿。

 服としての機能は果たして無い事もないけど、少々出歩くには不味い格好だ。

 

「だったら誰か一人はやてちゃんに付き添ってやってくれ。

 その間に俺が残りの三人に話を進めておくから。

 …シャマルさん、お願いできますか?」

 

「えっと、何で私なんですか?」

 

「容姿的に付き添うに適した人物だから。

 シグナムさんも当てはまるけどリーダーなんでしょ。

 重要な話には立ち会うべきでしょ。」

 

「…ああ。」

 

 俺の話をとりあえずは聞く気があるらしくシグナムさんが同意してくれる。

 

「残りの二人は見た目が子供と、大人でもケモノ耳付きだし。」

 

「誰が子供だ!!」

 

「むぅ…」

 

 ヴィータは反論するが、ザフィーラはうなるだけで反論しない。

 

「そやな、付き添うてくれるんやったらシャマルかなあ。

 あ、やけど服はどうしよう。

 母さんの服残っとったかなー?」

 

「確か守護騎士達は、主の決める騎士甲冑ってのがあったでしょ。

 それって一度決めたら変えられないの?」

 

「良く知ってるな……

 すべては主の意思だ、変えられない事はない。」

 

「じゃあ騎士甲冑を服代わりに、はやてちゃんがシャマルさんの違和感のない服装を考えてあげれば?

 イメージさえあれば直ぐ出来るもんでしょ。」

 

 バリアジャケットの決定はなのはちゃんの時も直ぐだったし、同じ物だから直ぐ出来るだろうと思った。

 

「それでええかな、シャマル。」

 

「はい、私は構いません。」

 

「ついでに服もみんなの分買ってくるわ。

 拓海君が来る前に寸法測っといたんよ。

 なるべく早く帰ってくるから拓海君お願いな。」

 

「…わかりました。」

 

 はやてちゃんが出かけるときになって俺がプレゼントをもって来てたのを思い出した。

 後でもいいけどしっかりはやてちゃんに渡しておこう。

 

「すっかり忘れてたけど、これ誕生日プレゼント。」

 

「あ、ありがとな。

 忙しいんやから用意せんくってもよかったのに。」

 

「まあ、せっかくの友達の誕生日だしね。

 中身はただの時計付きの置物だから。」

 

 話をして手渡すのすっかり忘れてしまうところだった。

 

 

 

 

 そしてはやてちゃんは服装を変えたシャマルさんと共に病院へ出かけていった。

 正直残りのメンバーの雰囲気が重すぎるが、ちゃんと説明しとかないといけないと気を入れなおす。

 

「シグナムさん、一ついいですか?」

 

「なんだ。」

 

「彼方達は闇の書に何かがあると分かっても、主であるはやてちゃんを守ってくれますか。」

 

「……我等は騎士だ。

 主に仕えてこそ存在意義がある。

 主はやてを守る事に異論はない。

 たとえ危害を加える原因が闇の書であってもだ。」

 

 はやてちゃんの力になる事は確約してくれた。

 これならギル・グレアムの一件には協力してくれるだろう。

 

「だったらまずはやてちゃんの為にやらなきゃいけないことがある。」

 

「何をだ。」

 

「……猫探し。」

 

 

 

 

 

 



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第二十八話 話し合いにならなかった件

 

 

 

 

「さあ、構えろ

 どこからでも掛かって来い」

 

 え?

 なぜが八神家の庭で、俺に向けてシグナムさんがレヴァンティンを構えています。

 どうしてこうなったかと言うと、

 

 

 

 あ・・・ありのまま起こった事を話すぜ。

 ギル・グレアムの一件を話そうとしたらシグナムさんより待ったが掛かった。

 はやてちゃんを守る事に異論はないが俺を信用するかは話は別だと言われた。

 

 そして気づいたら庭にいて、シグナムさんがレヴァンティンを構えて臨戦態勢になっていた。

 ヴィータとザフィーラはそれを静観の構えで見ているだけ。

 戦闘狂とかバトルマニアとかそんな甘っちょろい存在を前にしたわけじゃない。

 もっと恐ろしい存在を前にして訳の解らない困惑とデジャブを感じてるぜ。

 

 

 

 真面目にどうしてこうなった。

 戦う予定なんかこれっぽちもないんだけど。

 というかまともに戦えるわけないだろ!!

 美由希と違って相手はデバイスだぞ!!

 

 俺抹殺されちゃうのか!?

 はやてちゃんのいないうちに存在抹消されちゃうのか!?

 

「って、冗談じゃないんだけど!!

 何でヤり合わなきゃいけないんだ!?」

 

「お前が信頼出来るか見定める為だ

 私も剣士、太刀筋を見れば相手の真意くらいわかる

 その木製とはいえ剣は飾りか?」

 

 飾りです!!と言ってやりたいが持っているのは愛木刀と呼んでいる海鈴。

 飾りだとは言いづらいし、念のために持ってきてたのが裏目に出た!!

 丸腰でも置いてくれば良かった…。

 

「そもそもデバイスと木刀じゃ武器が違いすぎるだろ!!」

 

「私の剣はこれしかないのでな

 安心しろ、魔法は使わん

 お前は魔力は持っているようだが魔法は使えんようだからな」

 

 それでも木刀とデバイスじゃ素材の強度が違うよ。

 非殺傷設定とかあるから切れたりしないよな。

 あれ…でもミッドじゃなくて古代ベルカ製のデバイスだし斬れる?

 気とか使わないと真面目にやばいんじゃないの?

 

「そっちの二人も見てないで止めてよ!!」

 

「無理だな、シグナムバトルマニアだし」

 

「……」

 

 ヴィータは諦めろと言って、ザフィーラは我関せずと黙っているだけ。

 はやてちゃんがいないから味方がいない。

 この状況どうしろと!?

 

「…剣を持つのなら剣で語れ

 男ならそれくらいの覚悟を見せてみろ」

 

「ん…」

 

 ……覚悟、ねえ。

 最近その言葉ばかり考えてたから、そう言われると弱い。

 覚悟というよりどちらかというと諦めで、俺は海鈴を構えてシグナムさんに向き合う。

 

「漸くその気になったか」

 

「男とかどうとかはどうでもいいけど、覚悟と言われると引けなくって

 はやてちゃんを助けるのに協力するって一度覚悟を決めたから

 ただ俺は全力でなくても勝つつもりでいくから」

 

「構わん、来い」

 

 俺は堅ではなく攻撃を察知する円を展開。

 それとは別に海鈴に気の強化と周を全力でしておく。

 武器の性能差が大きすぎるからこれ位しても問題ないだろう。

 

「(何だ、アイツから感じるこの威圧感は…)」

 

「いくぞ!!」

 

 俺は美由希の時のように瞬動で一気にシグナムさんに向かっていった。

 速さに少し驚いたシグナムさんがそれでも剣で受けようとする。

 

「!!(まずい!!)」

 

 が、剣で受け止めるのをやめて、とっさに横に飛びのいて俺の攻撃をかわした。

 

「何やってんだよ、シグナム」

 

「今のは確かに速かったが受け止められない訳でもあるまい」

 

「…いや、無防備に受け止めていれば危なかった

 拓海よ、今何をしようとした」

 

 どうやら直感で海鈴に込めた気の威力を察知したらしい。

 全力でやったからレヴァンティンに材質で負けないくらいにはなったと思ったけど、シグナムさんの様子から大きく上回っていたようだ。

 良く考えたら全力で打ち込んだことなんて、美由希との模擬戦でもなかったからどれくらいの威力がわからん。

 少し加減しておこう。

 

「俺は魔法とかは使えないけど、気という物を使った技はいろいろ使える

 実戦経験なんてないから大して強くないけど、威力だけならシグナムさんの反応を見る限りなかなかあるらしい

 庭を壊したくないから物を壊すような技は使わない

 それ以外の技は使わせてもらう」

 

「気、だと?」

 

「身体強化などに特化した魔力と思ってくれればいい

 だから見た目通りの身体能力じゃないから、そちらも魔法を使ってもらって構わない

 庭の物を壊さない程度にだけど」

 

「ふっ、面白い」

 

 シグナムさんが身をかわした状態から立ち上がり、再び剣を構える。

 

「そういえばお前が知っていたので名乗りをしていなかったな

 私はヴォルケンリッターの将、剣の騎士シグナム

 そしてわが剣、レヴァンティンだ」

 

≪よろしく≫

 

 レヴァンティンがたぶんドイツ語っぽい言葉を喋ったけど、魔法の御蔭か言葉は解んなくても意味が伝わってきた。

 魔法便利だな、デバイス便利だな。

 

「名乗りをするって本気でやるってこと?

 俺戦う気ないんだけど

 まあ名乗られたら名乗り返すのが礼儀なんだろうし

 名前は山本拓海、聖祥大学付属小学校四年生

 一応この木刀にも海鈴って名前付けてる」

 

 前に海鈴に霊力が篭るようになって那美姉さんに見せたら霊刀のようになってると言われた。

 大切にしてきたり、霊力を込め続けたからだろうと言う見解だ。

 それならそれでこれからも大事にするつもりだ。

 木製だからそれほど丈夫じゃないけど、修復方法も見つかってるからいつまでも大事に出来そう。

 

「そうか、海鈴という名があったか

 木刀であろうと己の剣であるなら名を与えても恥ずべき事ではない

 先ほどは完全にお前を侮っていた

 今度はこちらからいくぞ」

 

 勘弁して。

 

 シグナムさんから先ほどとは違い魔力の放出を感じる。

 その力はレヴァンティンにも流れて恐らく全体的に強化された。

 痛くてもワザと負けとけばよかったかな~と少し思ってしまった。

 

 瞬動ほどではないが普通では考えられない速さでシグナムさんは俺に打ち込んできた。

 俺は円を展開していたので、細かな動きを察知して落ち着いて攻撃を回避する。

 その一太刀だけでは終わらずシグナムさんは連続でレヴァンティンを打ち込んでくるが、俺は時には避けて時には海鈴で受け流して守りの体制を取り続ける。

 

 シグナムさんの攻撃は素早くて重いが身体強化で何とか受け止められる。

 動きに関しても美由希と同程度くらいなので何とか避けたり受けたりして捌ききる事が出来ている。

 美由希との遊びを含んだ稽古をやってなかったら相手にもならなかっただろう。

 

 あれ、仮にも守護騎士の将と同じくらいの機動力で動く美由希って…

 気で強化しているのもあるけど能力高すぎないか?

 対応出来る俺が言うのもなんだが、高町家の能力ってどれくらい?

 

「全力ではないとはいえシグナムの剣を捌ききるとはな」

 

「本気でやってんのか、シグナム」

 

「やっているとも

 私の剣を捌いているのはこいつの実力だ

 しかもまだ余裕があるようだな」

 

「いや、全然余裕ないんだけど」

 

「息切れ一つせずに良く言う」

 

 気を鍛え続けたせいか、不本意ながら体力に一番自信がある。

 受けに回ってるから十分捌いてるけど、攻撃に移る余裕はあまりない。

 出来ない事はないけど当てる自信はないし逆に攻撃を食らいそう。

 そもそも本気で殴ったら痛そうだから、攻撃よりも受けや回避が美由希との稽古でも主流だ。

 

「受けでばかりでは勝つ事は出来んぞ」

 

「どうやって勝つかなーって考えてたとこ」

 

「ならその方法、見せて貰おう!!」

 

 シグナムさんが何らかの魔法を使い、俺の正面から消える。

 視界から消え失せたが円を展開していた俺には周囲のことは全部把握している。

 上からの斬撃!!

 

「なに!?」

 

「フンッ!!」

 

「ガッ…」

 

「シグナムが一撃もらった」

 

「拓海というやつ、思った以上になるな」

 

 シグナムさんの上からの斬り下ろしに見る事なく避けて、着地するタイミングに合わせて気を込めた掌底を腹に叩き込む。

 腹に衝撃を受けた事で息を詰まらせて、そのままシグナムさんは少し吹き飛ぶが余裕で着地した。

 気を込めた攻撃を全力で人体に叩き込んだらどうなるか、想像したくなかったので自然と加減してたのでたいしたダメージじゃないだろう。

 

「…今のはなんだ、私を見ていなかった筈なのに見ているかのように避けた

 それに完全に攻撃に合わされて掌底をもらってしまった」

 

「気による知覚技術、俺の周囲に魔法で言うサーチャーを張ってると思えばいい

 そのおかげで周囲にある物の動きは手に取る様に解る

 シグナムさんの細かい動きもね

 だから俺に不意打ちは通用しない」

 

 そうでなきゃ魔法による加速についていけない。

 なのはとフェイトたちの戦いを見る限り、加速魔法で速くなっても反射速度は速くなるわけじゃないから加速中に正確に攻撃は出来ないから、攻撃のタイミングで加速は解ける。

 ああそういえば、美由希の御神流に神速なんてか即時戦闘なんていう魔導師びっくりの技能があったっけ。

 もしなのはちゃんだけじゃなくて家族に魔力があったら、フェイト初戦で終わってたな…。

 なのはちゃんも御神流習ってて高町家総出撃なんて事になってたら…

 

 悪夢だな、忘れよう。

 今はとっととシグナムさんとの手合わせを終わらせよう。

 

「なるほど、面白い技術だな

 最初の一撃を見る限り、今の掌底は手加減したな」

 

「本気で人を殴れないんだよ

 稽古や模擬戦は結構あるけど、あんたらと違ってなりふり構ってられない実戦なんてしたことないんだ」

 

「ただの手合わせとはいえ、それでは相手に対して失礼だぞ」

 

「俺は騎士とか崇高なものじゃないから、自衛さえ出来る力があればいいんだよ

 その為ならある程度卑怯でも別に形振り構わない」

 

 美由希との模擬戦のおかげで太陽拳とかの他にも無数の妨害翻弄技を考え付いたからな。

 この点は真面目に美由希に感謝してる。

 シグナムさんに使ったら怒られそうな気がしたので卑怯っぽい技は控えたんだけどね。

 

「なるほど剣士ではなく戦士と言うわけか

 良くわかった」

 

「いや、戦わないに越したことはないんだけど

 とりあえずもう終わりでいい?」

 

「いや、次で最後にする

 レヴァンティン」

 

≪エクスプロージョン≫

 

「ちょ!?」

 

 シグナムさんの言葉に、レヴァンティンがカートリッジをロードする。

 すると剣の刀身に炎の魔力が取り巻いた。

 

「無理無理無理無理無理ぃー!!!

 それやるってことはアレだろ!?

 危ないからやめて、庭も壊れる!!」

 

「大丈夫だ。

 ヴィータ、封鎖領域を」

 

「しゃーねえな」

 

「見てないで止めてよ!!

 さすがに死ねるよ!?」

 

「……すまん」

 

 封鎖領域が張られて世界の色が変化する。

 結界が張られた事で庭は壊れることはないけど、取り込まれた俺は壊れます。

 ザフィーラもさすがに悪いと思って謝るが、それなら止めてくれ!!

 

「結界を張っていれば周囲の被害を気にせず全力を出せる

 この技を知っているなら説明は必要ないな

 お前も全力の一撃を見せてみろ」

 

「見せてみろって言ったって…」

 

 一応海鳴流の一番の奥義は斬魔剣終の太刀だけど、あれは絶対の非殺傷の剣。

 気に込めた意思を相手に打ち込むことで、相手の意識を攻撃して気絶させるなり思いを伝えたりする技だ。

 技の打ち合いになったら相手に当てることは弐の太刀の性質で出来ても、お互いに攻撃のタイミングだから防御も出来ずにこっちも相手の攻撃を受ける。

 まさに諸刃の剣と言う事だ。

 

 こんな土壇場の状況で終の太刀の弱点に気づくなんて。

 ヤッパリ実践ハ大事ダナー。

 厳しい状況に現実逃避しかけるがシグナムさんからの気迫と魔力に海鈴の構えを解く事が出来ない。

 もう逃げられませんか、そーですか。

 

「もうどうなっても知らないからな!!」

 

 俺は錬で練り上げて気を全力で使う時に行う体内での圧縮を行う。

 全力で気を練って圧縮する事で気の質は向上して、圧縮の為に気を体外に漏らさない絶をしても漏れてくる気が陽炎のように体から立ち昇る。

 

「それがお前の全力か!!

 気という力を感じる事は出来ないが、この威圧感からどれほどの物か良くわかる」

 

「アイツ、唯のガキじゃねえな」

 

「今更だな」

 

「うっせー」

 

 錬だけでなく圧縮によって精錬された気は通常よりも強い力を発揮する。

 それは舞空術などの出力に関係するだけでなく、気そのものの質も向上するのを訓練で気づいた。

 戦闘にも非常に有効だが、気を溜める隙が出来るから戦いながらとかは出来ない。

 まさに大技を使う前の溜めという事だ。

 

 高質化した気を海鈴に流し込んでいく。

 霊刀化してから気の通りなどがどんどん良くなっていく海鈴は、他の物に比べて自分の体の一部のように纏わせ易くなっていた。

 その御蔭で高質化した気による周も維持しやすい。

 更にそこから気の性質をシグナムさんとは真逆の性質、凍気に変えていった。

 

「!! 凍結の変換資質か!?」

 

「魔力と同じで気も性質を変化させることが出来る

 炎気も出来るけどたぶんシグナムさんほどは使えないから真逆のこっちを選ばしてもらう」

 

「お前はほんとに面白いな」

 

「戦う為に覚えた技じゃないんだけど」

 

「では何の為だ」

 

「暑い日対策」

 

「フッ…確かにそれは便利そうだ

 だが今はその力で我が剣を受けてもらおう」

 

「そのつもりだ、暑すぎるのは我慢出来るけど焼かれるのも斬られるのも我慢は出来ないから」

 

「ではいくぞ!!」

 

 シグナムさんが炎を纏ったレヴァンティンを振りかぶって俺に向かってくる。

 俺も凍気を海鈴を中心に収束して、凍気で青白く輝く海鈴で迎え撃つ。

 

「紫電一閃!!!」

 

「極大・氷河剣!!!」

 

 

-ガキャアアアァァァァァンン!!!!-

 

 

 炎を纏ったレヴァンティンと凍気の輝きを放つ海鈴がぶつかると強烈な音が響き渡った。

 ぶつかり合った衝撃で周囲の建物の窓ガラスが一斉に割れる。

 剣達のぶつかり合ってる場所からは、音をたてながら炎の魔力と凍気が鬩ぎ合っている。

 

「うぐぐぐぐ…」

 

「やるな!! 紫電一閃を受け止めるか!!」

 

「嬉しそうに言うな!!」

 

 悔しがれとは言わんが喜ぶなよ、このバトルマニアが!!

 海鈴に気を全力で込めたから体を守る気の防御が甘くてレヴァンティンの炎が熱い!!

 それに力では押されていて何とか支えている感じだ。

 足だけじゃ踏ん張りきれんと、舞空術の感覚で背中から気を少し出して推進力にする。

 

「おりゃあぁぁぁ!!」

 

「まだ力を出すか!?

 はああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気の推進力で一瞬だけ押し込めたが、それに耐えてシグナムさんとの鍔迫り合いは拮抗する。

 こうならもう自棄だ!!!

 気を全部使うつもりでやってやる!!

 

 俺が気を更に出せばシグナムさんも更に魔力を発揮して力を出していく。

 お互いの力が負けまいとトンドン力を高めていき、そして…

 

「「あああぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

-ドオオオオォォォォォンンン!!!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー、皆の服買って来たでー

 って、どうしたんや拓海君にシグナム!!

 二人ともぼろぼろやないか!?」

 

「な、何があったんですか!?」

 

 はやてちゃんとシャマルさんが服を買って、漸く帰ってきた。

 その直後、やりあったせいでボロボロになった俺たちを見て驚いた。

 

「いえ、ちょっと拓海と手合わせをしたもので」

 

「て、手合わせ?」

 

「んな訳あるか!!

 家が吹っ飛ぶような戦いを手合わせなんて言わねえ!!」

 

 あの後、お互いの力のぶつかり合いが限界に達して、そこを中心に爆発が起きた。

 気の強化のお陰で重傷は負わなかったが、シグナムさんの炎と爆発でところどころ火傷した。

 おかげで服も当然ボロボロで、両親になんて説明すればいいのやら。

 

「い、家ぇ!!

 どういうことや、どっか壊れたんか!?」

 

「大丈夫です、結界を張っていたので周囲は無傷です」

 

「結界内じゃ大惨事だったがな!!」

 

 爆発の影響で周囲もボロボロ。

 結界内の八神家は爆発で半分が吹き飛んだ状態だった。

 

「そんなボロボロで怪我はないんか!?」

  

「わ、私が治癒魔法使えるので診ます!!」

 

「いや、大丈夫だ

 既に拓海が治してくれた」

 

「「は?」」

 

「霊気という手合わせで見せてもらった気とも違う力の治癒術だったが完治している

 お前はほんとに多芸なやつだな、拓海」

 

「お褒めに預かり光栄と言いたいけど、無意味な戦いをして怪我した時に治すつもりでヒーリングを覚えたわけじゃないんだがな」

 

 ヒーリング覚えといてほんとによかった。

 美由希との模擬戦はさすがに怪我させない様に手加減してるから今まで必要なかったし。

 初めてまともに使う事になったけど、自分で戦った相手と一緒に治す事になるとは思わなかったよ。

 

「無意味な戦いではないさ

 少なくともお前の剣と実力は見ることが出来た

 つまらん嘘を吐くような奴じゃない事は解った」

 

「それは一応信用してくれるってことか

 確かにあんなにがんばったのに無意味だったら骨折り損の草臥(くたび)れ儲けだ」

 

 というかホントに何で戦わなきゃいけないのさ。

 話し合いでいいじゃん、戦う必要ないじゃん。

 戦って何でも決めるようじゃ危ない人だよ。

 ほんとにこの人将でいいの?

 

「と、とりあえず怪我がないんやったらええんやけど

 拓海君が不思議な力使える事は知っとったけど、全部は知らんかったからな

 ……それよりシグナム!!」

 

「は、はい!!」

 

「拓海君と仲良うせなあかん言うたやろ!!」

 

「いえ、これは手合わせなので…」

 

「そんなボロボロになるまでやることやないやろ!!」

 

「そもそも有無言わさずだったからな」

 

「た、拓海…」

 

 これくらいの仕返しくらい別にいいだろう。

 シグナムさんが困ってるがフォローする気はない。

 

「ヴィータとザフィーラはどうしとったんや!!」

 

「あたしはその…」

 

「将の意思でしたので」

 

「止めんかったちゅう事やろ!!

 全員正座や!!」

 

「「「は、はい!!」」」

 

 はやてちゃんの剣幕に反論を許さずに三人は正座することになり、シャマルさんはその様子におろおろするばかり。

 確か今日守護騎士達が現れて初日だったよな。

 はやてちゃん、家長としての素質がありそうだ。

 

 STSで何で管理局の部隊長になんか目指したんだろう?

 魔法を生かすためでも役職になんか着かずに事務仕事でもよかったんじゃなかろうか。

 家族で生活に困らない程度に仕事をすれば、皆と一緒の時間がもっと取れただろうに。

 闇の書事件の償いの延長かな。

 

 まあ、そんな事気にせずに生活出来るようになればいいな。

 それが今のはやてちゃんの小さな願いなんだか。

 

 

 

 

 

●極大・氷河剣を披露



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第二十九話 人形遊びと猫捕獲

 

 

 

 

 

 守護騎士が現れて約一週間。

 はやてちゃんの自分達の扱われ方に守護騎士達は戸惑いながらも生活に慣れてきていた。

 闇の書などの現状を全て話して理解してもらったが、はやてちゃんに仕える事は変わりないようだ。

 はやてちゃんもやはり守護騎士達を家族として受け入れることに変わりない様子で楽しそうにしていた。

 俺も様子を見るために毎日はやてちゃんの家に通っていた。

 

「シグナムさん

 こっちの生活には慣れたか」

 

「ああ、少しはな

 主はやての我らへの扱いに少々戸惑っているが」

 

 手合わせされてとりあえず認められたせいか、守護騎士の中でシグナムさんと一番仲良くなってしまった。

 時々手合わせを求められるから正直勘弁して欲しい。

 スキル的意味合いではシャマルさんかザフィーラと仲良くなりたいんだが。

 治癒専門と防御専門的な意味で。

 

「その子狐が久遠か?」

 

「ああ、俺の友達だ」

 

「久遠、よろしく」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 だいぶ顔見知りにはなったので今日は初めて久遠を連れてきた。

 これまでは妖狐という存在に変に警戒されてしまわないかと思って控えてきてた。

 だから前日に久遠のことを説明してから、今日は連れてきた。

 久遠が久々に一緒だからとても和む~。

 

 他の守護騎士達も居間では思い思いに寛いでいた。

 ザフィーラは既に犬型で今ははやてちゃんに抱きつかれてる。

 シャマルさんはなにやら台所で料理に挑戦してるらしい。

 ヴィータは先日はやてちゃんに買ってもらった人形のろいうさぎを抱いてテレビを見ていた。

 

「あ、拓海君いらっしゃい

 今日は久遠も一緒なんやな」

 

「クォン、はやて久しぶり

 …クゥ?」

 

 久遠が俺の頭から降りるとはやてちゃんが抱き着いているザフィーラに向かっていった。

 

「……(ジー)」

 

「…な、なんだ?」

 

「……久遠」

 

「……あ、ああ、ザフィーラだ」

 

 久遠はザフィーラをじっと見て様子を伺い、ザフィーラもどうしていいか分からずに様子を伺っている。

 

「何や久遠、ザフィーラに乗ってみたいんか?」

 

「クォン(コクン)」

 

「ええんやないの、なあザフィーラ」

 

「あ、ああ、構わんが…」

 

「クゥー♪」

 

 了解を得ると久遠ははやてちゃんが抱きついてる横辺りのザフィーラの毛の上に飛び乗った。

 

「クゥン♪」

 

「む、むぅ」

 

「アハハ、遊ばれてんなザフィーラ!!」

 

「言うなヴィータ」

 

「気持ちええやろザフィーラの毛並。

 拓海君もどうやー?」

 

「俺はいい、自前の式神で出せるしな」

 

 以前式神動物の群れを出した事があるのではやてちゃんも知っている。

 ザフィーラクラスの大きさくらいだったら自由に出せる。

 

「そやったな、拓海君の式神はほんま面白いなぁ」

 

「式神ってこの前見たやつだろ

 ザフィーラみたいなのも作れんのか?」

 

「ああ、ザフィーラよりも大きいのも一応作れるよ

 今は余裕がなくて出せないけど」

 

「見回りに使ってるからか」

 

「まあね」

 

 式神は俺の持つ技術を教えておくために一回見せている。

 ヴィータの質問に答えてザフィーラよりも大きい式神を作れるが戦闘能力はそれほどでもないし、今は見回りの為に式神を出せるだけ出してるから余裕はない。

 見回りとはギル・グレアム側の監視者の探索だ。

 

 守護騎士達にも既に説明してギル・グレアム一派を非常に警戒している。

 逃げたほうがいいのではないかとも言ったが、はやてちゃんが話したがっているということでまた一悶着になった。

 以前言った通りはやてちゃんは主として命令するのではなく、守護騎士達の意見を求めてから説得しようとした。

 だが守護騎士達の意思は全員一致で反対。

 俺の話は聞いてくれるくらいには信用を得たが、会ったこともないそれもはやてちゃんを犠牲にしようとしている存在を信用する要素はまったくなかった。

 

 守護騎士達の選択肢ははやてちゃんを連れて逃げるか返り討ちにするの二つだろう。

 だけどそれでは闇の書の何も解決しないことは説明済み。

 だから俺が守護騎士達には感じられない負の念が闇の書に篭っているを伝えて浄化する方法を話した。

 それが闇の書の異常を引き起こしてる原因かもしれないので、それを浄化出来ればはやてちゃんを助ける事に繋がるかもしれない。

 だが闇の書がどう反応するかは試してみないと分からない。

 

 試してみるなら闇の書の反応を見るために魔法についても詳しい人間は多いほうがいい。

 守護騎士達でも問題ないかもしれないが、闇の書の反応に守護騎士達も影響が出る可能性も十分ある。

 それに管理局員に既に見つかっている以上、闇の書をどうにかしてもいつまでも向こうが動かないとも限らない。

 闇の書をどうにか出来たなら、その後のはやてちゃんたちや守護騎士達の立場を守れるようにする必要もある。

 その為には次元世界の地位の高い者を味方につける事が出来れば安全も確保できる。

 

 結局のところ、まずグレアム一派をどうにかしなければならない。

 はやてちゃんも生活がある以上、逃げるという選択はない。

 戦いになれば一時凌ぎにはなっても、いずれはどうしようもなくなる。

 闇の書のはやてちゃんへの影響と言う時間制限もある為、渋々ながらもグレアム一派との話し合いを守護騎士達は認めた。

 話し合いでの解決を説得されたわけじゃなく、主の為という理由だったのがはやてちゃんの不満として残った。

 

 だけど接触が出来ない事には話し合いも出来ない。

 連絡方法がない以上、向こうの動き待ちという事になる。

 いつまでも動きがなければ、俺達だけの警戒で闇の書の浄化を試す事になる。

 一週間近くの間、守護騎士達も自然に振舞いながら監視してる存在を警戒していた。

 

 ギル・グレアムの計画は自身と使い魔達による独断のはず。

 ならば他の人員はいないはずだから、監視をするのは使い魔の猫達が行ってるはずだ。

 原作でも蒐集中の監視はその二人が行っていた。

 

 八神家近辺での魔法による監視はありえない。

 守護騎士達が見つける可能性があるからだ。

 隠しカメラなどの機械による監視も長期に行うのであれば、見つかる可能性を考慮して行わないだろう。

 ならば使い魔の猫達によるたびたびの確認くらいが妥当だ。

 どれ位の周期で確認に来ているのか分からないが、それを発見して確保する事で交渉の場に持ち込む。

 それが俺の考えた方法だ。

 

 見つける事が出来なければ、話し合いを諦めて浄化を試す。

 ギル・グレアムの計画の内容も守護騎士達に話してある。

 蒐集が行われるまでは何の手出しもしないはずだから、話し合いが出来ないなら今のところは放っておいても問題ない。

 

 そして浄化がうまくいかず、暴走しかねないことになったら闇の書を破壊する事も守護騎士達は認めた。

 はやてちゃんがそれに反対もしたが主に害をなす存在でなどありたくないと言った。

 目の前に現れて出会ってしまった存在を俺も消したくはないが、本当にどうにもならなくなったときはそうするしかない。

 俺の選択で暴走して世界を滅ぼすなど冗談ではないから。

 

 守護騎士達も破壊するのならはやてちゃんを巻き込まないようにと俺に言った。

 浄化に闇の書が反応してはやてちゃんを取り込もうとするならば、その前に破壊する事が俺が闇の書に手を出す守護騎士達の条件だった。

 あくまでも主の為というのが守護騎士達の考えだが、アニメではただのはやての為に行動していた。

 実際始めはそうでもなかったが、だんだん八神家に慣れてきてはやてちゃんと自然な付き合い方を始めている。

 はやてちゃんも守護騎士達との新しい生活を喜んでいる。

 まだ始まりに過ぎないけど、これがもっとずっと続いてはやてちゃんのだけじゃなく皆の幸せになってくれるといいと思う。

 その為にも俺ははやてちゃん達に協力すると決めたんだから。

 

 

 

「そうだ、ヴィータの人形を見て面白そうな札を作ってみたんだ

 ヴィータ、この札を人形の背中に張って魔力を込めてみて」

 

「ん、なんだそりゃ

 式神ってのを作ったやつか?」

 

「それとは別の物

 まあ試してみて」

 

「まあ、いいけどよ

 ほい……なんか魔力が繋がった感じがするけど何も起きねえぞ」

 

「じゃあその魔力の繋がりから動くように命じてみて」

 

「? 動け」

 

 

-ピクンッ-

 

 

「うおっ!?」

 

 ヴィータの言葉に答えての札をつけた呪いウサギが身じろぎした。

 抱えていた呪いウサギを下に降ろしてヴィータが再び命じる。

 

「た、立ってみろ…」

 

 

ーグッ、グッ、コテンー

 

 

 呪いウサギが手足を動かして立ち上がろうとするがうまく立てずに転がった。

 

「おおおぉぉぉぉ!! 動くぞこいつ!?」

 

「式神の術式を弄って、札を貼った対象に操作が効くようにしてみた

 式神の札は何度も作ったからちょっと術式を弄ってみたくなった

 式神を操るのと同じだから、しっかり動きをイメージすれば自由に動かせるよ」

 

「ヴィータ、がんばりぃ」

 

「おう、はやて!! ぬぐぐぐぅぅぅ…」

 

 ヴィータが気合を入れて呪いウサギを動かそうとするが…

 

 

-グッ、グッ、グッ、パスン!!-

 

 

「あれ?」

 

「札が弾けてもうた」

 

「無理して魔力込めすぎたんだな

 札はそれほど丈夫じゃないから」

 

「拓海君、代わりのお札はないん?」

 

「あるよ、予備で二枚」

 

「は、はやくよこせ!!」

 

「はいはい」

 

 残りの操作の札を渡すとヴィータはまた呪いうさぎに背中に張って動かそうとがんばり、皆がそれを見守っている。

 

「本当に多芸なだな、拓海」

 

「これくらい、本職の魔法使いからしたら遊びみたいなもんだろ

 もともと遊びのつもりで作った物だし、やろうと思えばこれくらいシグナムさん達にも出来るんじゃない?」

 

「いや、私は剣が専門なのでな」

 

「俺は盾の守護獣だ」

 

「じゅ、術式を組み上げれば出来ない事もないですけど、こういう事はしたことないです」

 

 ふむ、やっぱり式神というのは日本の生み出した良き技術のようだ。

 少なくともベルカの騎士から一本取った。

 そう話していると張られた二枚目の札が弾けて残り一枚になった。

 

「ヴィータ、そんなに力入れる必要ないぞ

 うまく手足が動くようにイメージしないと立てないからな」

 

「うっせー、解ってるよ!!」

 

 そういってヴィータは三枚目の札を呪いウサギに貼って再度挑戦する。

 今度はいきなり呪いウサギを立たせようとはせずに手足をパタパタさせている。

 くるくると寝返ったりして転がりうつ伏せになった後ゆっくり手足を立たせていく。

 四つん這いになった後にゆっくり二本足で立ち上がろうとして尻餅をついた。

 

「あ…」

 

「惜しかったなぁ」

 

「クォン」

 

 いつの間にか久遠も近くで見守っている。

 

「くぅ、まだまだぁ!!」

 

「そんなに力むな、また札が弾けるぞ」

 

「シグナムは黙ってろ!!」

 

 ヴィータはまた呪いウサギを動かす事に集中する。

 

「ヴィータちゃん、楽しそうね」

 

「ああ、我らがこんな穏やかな日々を過ごす日が来るとは思わなかった」

 

「どんな日々を送ってきたか詮索したくないけど、俺からすればまだ問題山済みだ」

 

「すまんな、我らのせいで」

 

「分かってて自分で決めたことだからいいよ」

 

 自分から関わっていったのだから自己責任だ。

 少なくともこの事件が終わるまでは出来ることをやり通すつもりだ。

 少々後悔していないでもないが、自分にも利益はある。

 

 前々から放置しっぱなしの魔法陣。

 それを完成するために守護騎士達に魔法を教わりたいと思っている。

 ミッド式の魔法にも興味はあるが古代ベルカ式にも興味はある。

 

 式神や陰陽術の本の内容を試していて分かったが、どうやら学習に関しても能力が発動するらしい。

 一回で丸々とまではいかないが、二・三回見直すだけで内容を殆ど覚える事が出来ていた。

 難しい内容だったのに思い出そうと思えば、前世の頃とは比べ物にならないほど自然に頭に浮かび上がってくる。

 更に試せば試すほど術の理解も深まっていった。

 

 『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』、地味だけど非常に便利だと思った。

 これならミッド語やベルカ語も覚えようと思えば直ぐに覚えられて魔法の知識を学ぶ事が出来る。

 ユーノやクロノ、シグナム達も普通に日本語を話してるように見えるけど翻訳魔法だろう?

 この時期のなのはちゃんはデバイスで魔法が使えるけど、魔法陣の読み方や術式の意味とかを理解出来るはずもないし。

 真面目に学ぼうとしたら言語や文字から学ばないと。

 ミッドやベルカ式の魔法陣の仕組みを理解したら、陰陽五行魔法陣に応用して完成させてみたい。

 

 そういえば魔法陣を展開する方法ってどうやるんだろう。

 今度シャマルさんあたりに聞いてみよう。

 それが出来たら式神符の術式を紙無しで出せるかもしれないし。

 

 

 

 

 

 ヴィータの続ける人形遊び(笑)を見守っていたと気に気づいた。

 

「!!」

 

「どうした、拓海」

 

「たぶん、かかった」

 

「何だと!?」「うわっ」

 

 

-パスン!!-

 

 

 シグナムさんの声にヴィータが驚いて、そのショックで三枚目の札が弾けた。

 

「ああーー!!

 何すんだシグナム!!

 最後の一枚だったんだぞ!!」

 

 とは言うが三枚目の札はなかなか長持ちしていて、もうそれほど長くは持たなかっただろう。

 初めて術式を弄って作った札なのでそれほど性能も良くないはずだ。

 結局呪いウサギを立たせて歩かせることは出来なかったのは残念だ。

 

「す、すまん…

 それより拓海

 目的の奴らを見つけたのか?」

 

「なんだって」

 

 シグナムさんの問にヴィータが反応して、他の皆もこちらを見た。

 

「ああ、式神の目で確認したけど、遠くの方からこちらをずっと見てる怪しい猫が一匹いる」

 

「一匹だけか」

 

「この家の周辺に式神を配置して見回しているけど、一匹だけみたいだ」

 

「そいつ何処にいる?

 叩き潰して締め上げてきてやる!!」

 

 ヴィータは最後の札が弾けてご機嫌斜めだからか、八つ当たりで今にも飛び出していそうだ。

 

「落ち着けヴィータ」

 

「乱暴はダメやで」

 

「下手に動けば向こうに気づかれるぞ」

 

「落ち着いてヴィータちゃん」

 

「札ならまた作ってやるから」

 

 あまりの剣幕のヴィータに全員で宥めに掛かる。

 さすがに全員に宥められては留まらない訳にはいかず、とりあえずは落ち着いてくれた。

 

「では、手筈通りにいくぞ

 まず我々が囮になって敵の目を引きつけておく

 奴らの狙いは我らだからな」

 

「その隙に俺がこっそり背後に回って捕獲する

 相手も相当の強さの筈だから、俺じゃうまくいかない事が前提だ

 失敗したときは直ぐ念話で連絡」

 

「お前の力は私が保証する

 やってやれない事は無いだろうが無理はするな

 拓海がうまくいかなかった時は連絡を受けてから、動揺してる間に封鎖領域を展開

 そこを我等全員で捕獲する

 逃げられれば後が無い

 失敗は許されん」

 

 シグナムさんの言葉に守護騎士全員が頷く。

 うまくいかなかったらこちらは逃走しかなくなる。

 闇の書の浄化をするために俺もそれに同行せざるを得ない。

 絶対に失敗したくないな。

 これ以上両親に心配かけたくないし。

 

「拓海君も皆も気をつけてえな

 頼むから怪我だけはせんといて」

 

「はやてちゃんはもう保護者に板が付いてるな

 悪いけど今は約束できない

 怪我一つでどうにかなるならそれくらい構わないよ

 痛いのは嫌だから気をつけはするけどね

 じゃあ、行ってくる」

 

「頼むぞ、拓海」

 

「気をつけてね、拓海君」

 

「失敗してもフォローしてやっから」 

 

「無理はするな、主が気にする」

 

「クゥン、拓海、がんばって」

 

 守護騎士達みたいな強い人たちに応援させるのは心強いなー。

 久遠も応援してくれているし、出来ることなら成功させたい。

 

 

 

 

 

【第三者視点】

 

「(ついに闇の書の守護騎士達が現れたわね

 いつ覚醒するとも知れなかった闇の書に随分時間を取らされちゃったわ)」

 

 八神家の様子を観察出来る家の屋根の上に一匹の猫が座っていた。

 そこから八神家を獲物を狙うような鋭い目で見ていた。 

 

「(けど本題はこれから

 奴らの魔力の蒐集を監視しつつ、管理局側の情報も操作しないと

 デュランダルの準備もある

 これに加えて局の仕事もあるから大変だわ

 けど、お父様の望みのため

 やり遂げなければ…)」

 

 

-ガウン!!!-

 

 

 そんな時に猫に衝撃が走った。

 

「(な、に…いまの……いし…きが…)」

 

 物理的な物ではなく非殺傷設定の魔力による物でもない。

 頭を殴られたわけでもないのに意識に強い衝撃を感じた。

 突然大きな音が鳴って驚いたような感じがして、立ち眩みで目の前が真っ暗になるかのように意識を落とした。

 

【第三者視点解除】

 

 

 

 

 

 予想以上にうまくいった。

 やっぱり野良猫相手に絶を試していたのがいい練習になったか。

 斬魔剣終の太刀も意識を攻撃して気絶させるのは初めてだったがうまくいった。

 

 終の太刀は意思を伝える技。

 会話の出来ない相手にも有効だし、那美姉さんの仕事の手伝いでも最近は何度か成仏に成功し始めている。

 それとは別に意思に絶叫や気合などを気に込めて放つと、受けた意思のある存在は強い意思を持っていない限りショックで気絶する。

 ワンピースの覇王色の覇気っぽいな。

 

 これは特に身構えていない相手に非常に有効だ。

 突然大きな音がなれば誰でもびっくりするように、精神的は不意の攻撃のほうが非常に効く

 自分で受けてみた事が無いからどれほどのショックを受けたのか分からないな。

 今度性能のいい式神を作って、俺に向けて撃たせてみるか。

 性能の向上した式神なら俺の技も数回くらいなら使えるほどの性能を出せるようになって来た。

 努力の成果は能力で出てるけど、何処まで伸びるのやら。

 

 おっと、それよりうまく捕獲できた事を伝えないと。

 魔力を使って念話念話、こんな感じだったよな。

 

『シグナムさん、聞こえるかー?』

 

『ああ、聞こえる

 どうだ、その様子ならうまくいったのか?』

 

『思った以上にうまくいって俺もちょっと驚いた

 気絶させたからすぐ連れて戻る』

 

『そうか、主はやても心配している

 早く戻ってきてあげてくれ』

 

『さっきから十分も経ってないんだけどなー』

 

 予想以上にうまくいって少し恐いくらいだ。

 どうせならこのまま最後までうまくいってくれると助かるんだが。

 

 

 

 

 

●斬魔剣終の太刀・気絶版を披露



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第三十話 すべては神の掌の上

 

 

 

 

 

 猫を捕らえて戻ってきた八神家。

 気絶してる猫の使い魔には俺特性の金縛りの札を貼っておきました。

 更に周囲には守護騎士達が陣取って、何時起きても問題ないように臨戦態勢。

 

 さらに念には念を入れて八神家にのみ封鎖領域を張って転移で逃げられないようにしている。

 範囲を小さくしてる分、強度はより頑固。

 なのはちゃんのSLBにも耐えられるんじゃないかな。

 …ごめん言い過ぎた、ディバインバスターいくら撃っても壊れないくらいだと思う。

 いや、もしかしたら一発くらいはSLB耐えられるかも…

 

 この猫の使い魔がSLB並の攻撃がノータイムで出来るとは思えないので取り会えず脱出は不可能だろう。

 魔力量を感じてみる限りなのはちゃんほどではないみたいだし。

 ところでこの猫の使い魔って、リーゼロッテだろうか、リーゼアリアだろうか。

 人の姿でも髪の長さくらいしか違わない双子らしいから猫の姿だと余計分からん。

 あれ? 長いほうがロッテ、アリア? どっちだったっけ?

 まあいっか、この後聞いてみるんだし。

 

 使い魔の片側を確保した以上、戻ってこなければ何かあったと感じてもう一匹の使い魔が探しに来るはず。

 それの時この使い魔を見つからないように隠す必要ない。

 重要なのはギル・グレアムをはやてちゃんとの話し合いの場に引き摺り出す事だ。

 結果、人質という事になるが致し方ない。

 

 もう一匹の使い魔は恐らく異変を感じる今日中か明日にでも確認に来るだろう。

 そうしたら念話をしてくるだろうから、その子にギル・グレアムの計画が全て知られている事とはやてちゃんが話したがってる事を伝える。

 そうすれば判断を仰ぐためにギル・グレアムに伝えざるを得ないだろう。

 

 これからもう一匹の使い魔が探しに来るのを待つことになるけどどうしよう。

 今日はここに泊まる事になるか?

 

「え、拓海君今日家に泊まるん!?」

 

「まあこの子を見張るだけならシグナムさん達だけでも問題ないんだけど」

 

「かまへんかまへん、友達の初めてのお泊りや

 晩御飯おいしいモン用意せなな!!」

 

「あー、お構いなく」

 

 友達とはいえ女の子の家に泊まるのはどうなんだろうな。

 守護騎士達もいるから問題ないんだろうけど。

 あれ…守護騎士いたほうが女性率上がるのか。

 まあ後で親に連絡しておかないと。

 

 そろそろ猫の使い魔を起こそうと揺すってみる。

 触ってみればなかなかツヤツヤな毛並み。

 撫でてみたいけど猫だけど女の人なんだよね。

 あーでも久遠も女の子だけど子狐で良く撫でてるし。

 

「うーん……にゃ!?」

 

 毛並みのツヤツヤさに少し魅了されていたら漸く起きた。

 にゃって言ったよ、にゃ!?って。

 かーわいーいなー、やっぱ使い魔作るなら猫かなー。

 早く闇の書事件終わらして気楽に魔法研究進めたい。

 専用の式神も余裕が無くて試せてないし。

 

 少々緊張感が欠けてきてたが、気を取り直して猫を見ると周囲をキョロキョロ見渡して現状を把握している。

 気づいたら監視してた敵陣の中。

 あまりいい気分じゃなさそうだ。

 

「(ど、どうして私はここに!?

 確か遠くから監視してたら突然気を失って…

 それよりどうやって逃げよう

 逃げられなくても父さまのことは話せない

 何とかして誤魔化さないと…えーと…)に、にゃー…」

 

 か、可愛い…

 戸惑って冷や汗掻いてる普通の猫とは思えない仕草も逆に可愛い。

 誤魔化すようになく猫真似する猫の鳴き声なんてもう。

 久遠とどっちが可愛いかなんて聞かれたらちょっと迷ってしまいそうだ。

 

 ごめん久遠!! 俺はちょっと間違えた!!

 俺は久遠のこと大好きだ!!

 いくら可愛くてもこの子は今は敵。

 しっかりお話してやろう。

 

「お前が誰かなのは分かってる

 ギル・グレアムの使い魔の猫だろ?」

 

「にゃ!?(な、なんでそれを!?

 お父様の名前は八神はやてに伝わってるはずだけど魔導師とは伝えてないのに!?)」

 

「普通に喋ってくれていいぞ

 リーゼロッテかリーゼアリアのどっちか」

 

「……」

 

「せめてどっちなのかは知りたかったんだが

 まあいいや、俺達はお前らがやろうとしてることを知っている

 お前らが闇の書を完成させるタイミングではやてちゃんごと封印しようとしてる事も」

 

「ど、どうして…」

 

「誤魔化しきれなくなってきたな

 まあ、全部説明してあげるよ」

 

 

 

 俺が知ってることを猫に説明してやった。

 封印するためのデバイス、デュランダルの名前をしっかり言ってやったときが一番驚いていた。

 そしてこっちにはそちらにはない解決方法がある事も言ってやるが、それはさすがに信じなかった。

 

「まあ、そういうわけでそちらのやろうとしてることは全部知ってるから

 こちらに目的が知られてたら計画成功させるのは難しいだろ」

 

「わ、私をどうする気!?」

 

「特にどうにもする気はないんだけどね

 ギル・グレアムの計画は管理局に隠して行動していた

 探しに来るとしたらもう一匹の使い魔

 目的はそっちのほうだ」

 

「ロッテに何する気よ!!」

 

「てことは君はリーゼアリアってことか

 別にどうもしないよ

 君を探した時に主人であるギル・グレアムに伝えて欲しいんだ

 はやてちゃんが話をしたがっているって

 全部知ってるとしたら主人の判断を仰がざるをえないだろ?」

 

「ぐぅ…」

 

 悔しそうな声を出すけど、猫の姿じゃいまいち悔しそうに見えない。

 そこへはやてちゃんがリーゼアリアの前に出て話しかける。

 

「わたしはグレアムおじさんと話し合いで解決したいんよ

 私も皆も誰にも迷惑かけとうないから」

 

「そんな理由で全て解決できると思わないで

 あなたにお父様の苦しみは理解出来ないわ!!」

 

「うっ…」

 

「貴様!!」

 

 リーゼアリアの予想以上の剣幕にはやてちゃんがたじろいで、その様子にシグナムさんが怒ってレヴァンティンに手をかける。

 向こうにも思惑があって覚悟して動いているのはわかっていた。

 そう簡単に説得どころか話を聞いてくれるとは思ってはいなかった。

 はやてちゃんにはこの話し合いで相手に意見が通らない事も理解して欲しいと思っている。

 

「シグナムさん、落ち着け

 危害を加えれば話し合いどころじゃないぞ」

 

「クッ……解った」

 

 少なくともはやてちゃんが望んでいる以上、危害は加えずに監視し続けるしかない。

 言った通りこちらは敵対する事を望んでるわけじゃないから危害を加えるわけにはいかない。

 リーゼアリアもこの包囲から逃げられないとわかってるからか、おとなしくしてくれているから良かった。

 金縛りの札がどこまで効いてるかわからないけど。

 

「恐らく探しに来るだろうリーゼロッテが来るまで大人しくしてて」

 

「私が言う事を聞くと思ったら大間違いよ!!」

 

「けど、守護騎士達に囲まれてたらさすがに逃げられないだろ」

 

「……」

 

 やはり守護騎士全員を相手にするのは無理とわかってるらしい。

 強さが良くわからないから、この状況をどうにか出来るほど強かったらどうしようかと思った。

 

「まあ、それでも大人しくしててくれないなら大人しくさせるまでだけど」

 

「拓海君、乱暴はあかんで」

 

「大丈夫、乱暴はしないよ

 乱暴はね……フフフフフ」

 

 指の骨をコキコキと鳴らすように動かしてから、掌をリーゼアリアに向けていく。

 その時の俺の顔はきっと口角の辺りが釣りあがってニヤリと笑っていただろう。

 その様子にリーゼアリアも少し危機感を覚えて…

 

「な、何する気

 私は絶対に屈したりしないわよ

 にゃ、にゃ、にゃ……にゃあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第三者視点】

 

 闇の所を確認に行ったリーゼアリアが戻ってこなかったことに不安になって、リーゼロッテが探しに海鳴市にやってきた。

 

「いったい何があったのかしらアリアは

 『ちょっとアリア、聞こえるー?

 聞こえるなら何があったのか返事しなさーい』」

 

『……ぁ』

 

『ん、アリア?』

 

『…はぁ、はぁ…、ろ、ロッテ……』

 

『ど、どうしたのよアリア。

 なんだか様子がおかしいけど

 何があったの?』

 

 念話は繋がったがアリアの様子に疑問を抱くロッテ。

 

『ご、ごめん…捕まっ…ちゃった…』

 

『捕まったって、まさか闇の書の守護騎士!!

 まさかとは思ったけど起動したの!?』

 

『う…ん……だけど、それだ…けじゃない…

 こいつら…計画のこと…全部知ってる…』

 

『どういうこと?』

 

『それは…ひゃん!!』

 

『どうしたのアリア!?』

 

『……あー、あー、聞こえるかな?』

 

『!! 誰!? 念話に割り込んでくるなんて。』

 

 ロッテはアリアにのみ向けていたはず念話に突然割り込んできた拓海に驚いた。

 本来念話は対象を限定するなら傍受するための魔法を使わないと割り込めない。

 

『(アリアに触れてたらアリア宛の念話の魔力を感じ取る事が出来るとは

 そこから逆に魔力を送ることでこっちからも念話繋げられたし

 シャマルさんが傍受の準備をしてくれてたけど無駄になったな

 まあとっとと用件を伝えるか)

 とりあえず八神はやての友人とだけ答えておくよ

 悪いけど君達の計画は全て把握している

 闇の書を完成させたタイミングではやてちゃんごと封印する事も、使用するデバイス:デュランダルのことも』

 

『な!?』

 

『ああ、このリーゼアリアから聞き出したわけじゃないよ

 事前に知ることが偶然出来たんだ

 そしてそちらが知らない闇の書の破壊方法もこっちは持ってる』

 

『何ですって!!』

 

『以上の事も含めて、主人のギル・グレアムに伝えてくれ

 はやてちゃんは魔力の蒐集を行うように守護騎士には絶対命じない

 そしてそちらと話し合いで解決したがってる、と

 ギル・グレアムが以前から闇の書を把握していたのは、はやてちゃんの援助者の名前が証拠になる

 管理局にとっては捜索指定を受けている闇の書を報告しなかったことは犯罪に当たるはずだ

 俺は管理局への連絡方法を別に持ってる』

 

 ぶっちゃげ匿名でなのはちゃん宛に事実を伝える方法しかないけど。

 

『…脅しってこと?』

 

『はやてちゃんが話し合いを望んだからだ

 もし応じるなら本人が直接八神家に来るように伝えてくれ

 計画が全てばれてる以上、主人にこの会話の内容を伝えないわけには行かないだろ?』

 

『クッ…アリアをどうしたの』

 

『危害は加えてないよ

 ちょっと遊んであげてるだけ

 出来るだけ早く来てくれよ』

 

『アリアに何かあったら承知しないからな!!』

 

 そして慌ててロッテは転移して、主人の元へ報告に行った。

 

【第三者視点解除】

 

 

 

 

 ふう、作戦第二段階終了。

 これでギル・グレアムにこちらの実情と用件は伝わるはずだから、再び向こうの動きを待つのみ。

 もしこれで管理局の戦力を使った強攻策に出てきたら逃亡生活になる。

 マジでそれは勘弁だぞ。

 頼むから大人しく本人達だけでこっちに来てくれ…

 

 結果がどうなるかはまた待つ事になるが、それまでは八神家で待機。

 そして今俺が何をやっているのかと言うと…

 

「にゃ、にゃぁ、そんなのだめぇ…」

 

「ダメと言いながも体は全然嫌がってないじゃないか

 金縛りの札はもう取れちゃってるのに少しも逃げようとしない」

 

「だ、だってぇ、こんな、気持ちよくて…

 体に力が入らないぃ」

 

「ふむ、今度はここかな?」

 

「あん、だめ、気持ち良いのぉ」

 

「もうすっかり従順になっちゃって

 口でもいつまで反抗的でいられるやら」

 

「言わないでぇ」

 

 俺とアリアの様子に、見ていたはやてちゃんと守護騎士達は…

 

「………(真っ赤)」

 

「拓海君すごいわぁ」

 

「だ、ダメですはやてちゃん、ヴィータちゃん!!

 二人に早すぎます!!」

 

「そ、そうです主はやてには少々早すぎるかと」

 

「(俺はどうすればいい)」

 

 ヴィータは顔を真っ赤にしておりはやてちゃんは興味津々。

 シャマルさんが二人を見せないようにしようとするけど自分も目を離せず、シグナムさんも同じ。

 ザフィーラは犬型のまま前足で両耳を塞いで関わらないようにしている。

 

「ええやないか、シャマル、シグナム

 拓海君はただ撫でとるだけやろ?」

 

「えっと、そうなんですけど」

 

「これは主の教育上よろしくないかと」

 

「………(真っ赤っか)」

 

 その通り、俺はただいつも久遠にやっているゴッドハンドでアリアを撫でているだけだ。

 ただしこれはただゴッドハンドで撫でているわけじゃない。

 久遠を撫でているうちに、凝や触れる事で相手の体の中の気の流れを読み取る事が出来るようになった。

 気の流れと血の巡りは関係していて、気の流れが悪いところは血の巡りが悪くて凝っているらしい。

 それを治すように気を込めて撫でてやると非常に気持ち良いマッサージ効果を現すのだ。

 

 ゴッドハンドの効果を併せることで気持ちよさは数倍に膨れ上がり声が漏れるほど。

 久遠にはいつもやってあげてるんだけど、アリアを手懐けるつもりでやったらこの通り艶かしい声を上げてしまったのでついつい俺も調子に乗って言葉で責めてしまった。

 アリアはちゃんと猫の姿だからエロくないよ、声以外は。

 

 しかし見た目通りのさわり心地の良い毛並み。

 悶える姿もなかなか愛らしくて、ついつい撫で回しが加速してしまう。

 もはや逃げる様子も見せずに俺の手の内で悦んでいる。

 

 ちなみに久遠は那美姉さんが飼っているので、お泊りというわけにはいかず帰りました。

 俺がアリアを撫でているところを見て少し嫉妬してたけど、またちゃんと撫でて遊んであげるからと納得して帰りました。

 久遠もいつもこんな風に撫でてるけどエロい声は出ないよ。

 普通に幸せそうに鳴いていつの間にか寝ちゃうんだよ。

 

 そんな久遠がいつ見ても可愛いなと思いながらもアリアを撫で続けていた。

 今日はこの子の毛並みを堪能させてもらおうとじっくりと撫で続ける。

 俺はアリアの毛並みを堪能するあまり、周囲の様子を気にしていなかった。

 はやてちゃんと守護騎士達は悶えて声を上げるアリアの様子にいつまでも動けずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第三者視点】

 

 翌日、八神家の呼び鈴が鳴った。

 シャマルが出迎えに行くと、玄関にはケモノ耳の付いた女性を連れた老人がいた。

 見た目ほど年齢を感じることはなく背筋がピシッとしており温厚そうな顔付きをしているが、今は目尻が上がって怒っている剣幕が伺える。

 

「お呼びに預かったギル・グレアムだ」

 

「アリアは無事なんでしょうね!?」

 

「ええと…危害は加えてないんで無事と言えば無事なんですけど、そうじゃないと言えば違うんじゃないかなと…」

 

「「???」」

 

 二人の剣幕にシャマルさんは少したじろぎながらも少し言い難そうに応える。

 シャマルさんの言い難そうなはっきりしない答えに、予想していたのと違ったからか二人は少し困惑した。

 

「と、とりあえず上がってください、はやてちゃんが待ってます

 守護獣の方も一緒にいますのでそちらで確認してください」

 

「分かった、上がらせてもらうよ」

 

「……」

 

 グレアムがそう言って上がり、ロッテも黙って付いていった。

 二人は居間まで案内されるとそこにははやてと残りの守護騎士、そして拓海とリーゼアリアもいた。

 そしてリーゼアリアがどうなっているかと言うと。

 

「うにゃぁん、ゴロゴロ」

 

「「……」」

 

 拓海の膝の上で撫で回されながら喜んでいた。

 その様子を見た二人は今までの剣幕から気が抜かれて唖然としてしまった。

 

「ねえ、もっとぉ」

 

「もうすっかり口でも嫌がらなくなっちゃって

 最初の警戒心はどうしたんだ?」

 

「だってぇ、貴方撫でるの上手いんだものぉ

 こんなに気持ち良いんじゃ何も出来ないぃ

 だからもっとぉ」

 

 アリアは一晩の内にすっかり拓海のゴッドハンドに骨抜きになっていた。

 今ではすっかり警戒心が解けて猫撫で声で撫でるのを催促するあまり。

 猫だけに。

 

「はいはい、わかったよ

 君の毛並みは触り心地がいいから撫でるの飽きないしね

 ……ところで、君の主人と姉妹が来てるみたいだけどいいのかな?」

 

「うにゃぁ?

 …………にゃあ!?

 お、お父様、ロッテ!!

 こ、これはその!!」

 

 夢見心地で寝惚けてたような沈黙から突然叫び声を上げて、ようやく二人が来ていたことに気づく。

 ワタワタと慌てた様子に無事であることは理解できた二人は…

 

「「…はぁ」」

 

 同時にため息をついて完全に気が削がれた様子だった。

 そうしてる間もアリアはワタワタと慌ててどうすればいいかと混乱してるが、相変わらず拓海の膝の上から動こうとはしていなかった。

 

【第三者視点解除】

 

 

 

 

 

●ゴッドハンド・改を披露



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第三十一話 お話ってのはこうするもんだと思う

 

 

 

 

 グレアム一派がはやてちゃんとの対話の席に着いた。

 ソファーにグレアムさんとその左右に双子の猫の使い魔がそれぞれ座った。

 それにはやてちゃんが車椅子に座って向かい合っている。

 俺も近くに座って様子を見ている。

 

 先ほどまでリーゼアリアが俺の膝の上にいた。

 対話の席に着く為に主人の隣に行こうとしたが、俺の膝の上から移動するのが少々名残惜しかったようだ。

 なかなか自分で俺の膝に上から移動するのに躊躇していた。

 

 やっと移動して人型になったら、今度は俺が少し動揺してしまった。

 散々撫で回したけど、そういや人型は女性だったなーと忘れていた。

 変身した事でそれに気づいて少し恥ずかしくなってしまった。

 そんなことは気づかれずにはやてちゃんとの対話は始まった。

 

「始めまして、八神はやてです」

 

「ギル・グレアムだ

 知っての通り、これまで君の援助を影からさせてもらってきた

 ロッテに聞いたよ、私のやろうとしていた事を全て知っていると」

 

「…はい、拓海君に教えてもらいました」

 

 そういってはやてちゃんがこちらを向くとグレアムさんも俺の方を見た。

 グレアムさんは見定めるように俺を見て問いかけてきた。

 

「何故、君が私の事を知ることが出来たんだね?」

 

「予知夢、夢で見る予言のような物を見たんです

 その夢にはそちらの世界の話もいくつかありました

 ミッドチルダの聖王協会にも予言のレアスキルを持つ人がいるそうですが知りませんか?」

 

 STSで出てきたカリム・グラシアだけど今現在どういう立場にあるのかは知らない。

 たぶんレアスキル自体は生まれ付きあったから、大きな事件の予言に使われていると思う。

 そもそも年齢がはっきりわかんなかったから、この時期既に大人なのかまだ子供なのかもわかんないし。

 

「なるほど、心当たりはあるよ

 それで私のやろうとしている事を知る事が出来たわけかね」

 

「…やっぱり本当なんですか?」

 

「…本当だ

 私ははやて君を犠牲にして闇の書を封印しようとしていた

 両親の知人と言うのも方便で、君を援助していたのも偽善、いや罪悪感からだ

 全てが終わるまで少しでも良い生活が送れるようにという私の浅ましい考えだよ」

 

「そんな……」

 

 質問に肯定の意思を示すグレアムさんは少し俯いて罪悪感を醸し出しつつもはっきり答えた。

 はやてちゃんはそうではあって欲しくないと思っていたのか、本人の言葉にショックを隠せなかった。

 

 そのままお互いに黙り込んでしまい、会話が一時途切れた。

 その様子を見守る守護騎士達とリーゼ姉妹は下手に口を出す事も出来ずにいた。

 

 俺もはやてちゃんが説得すると言った以上、出来る所までは任せてみるつもりだ。

 グレアムさん達がおとなしく対話の席に座ってくれた以上、ここでの戦闘はないと信じたい。

 こちらの闇の書の対策には俺自身のことを説明する事が必要不可欠。

 いずれにしても俺の出番が来るだろう。

 

「…グレアムおじさんの事たくさん手紙で知りました

 わたしを気に掛けてくれた言葉の全てが嘘やなんて思いません

 グレアムおじさんは本当は優しい人やと思います」

 

「私は君を犠牲にしようとした

 それは本当の事だ

 それでもはやて君は私が優しい人間だというのかね」

 

「はい、わたしはそう信じたい

 おじさんの目的には闇の書の頁の蒐集が必要なんでしょ

 それをするには多くの人に迷惑掛けなあかんと聞きました

 私はシグナム達にそんな事命令したくないし命令しません

 やからおじさんの計画は成立しません」

 

「それで私にどうしろと

 遠くない将来に君は闇の書の侵食で麻痺が広がり死に至るだろう

 それを黙って見ていて欲しいというのかね」

 

「協力して欲しいんです

 闇の書をどうにかする方法を拓海君が考えて教えてくれました

 成功するかどうかわからへんけど、それでも皆で協力すれば新しい方法が見つかるかも知れません

 私は闇の書の為に誰かを傷つけたくないし、シグナム達かて望んでこれまで誰かを傷つけてきたわけやないんです」

 

「主はやて」「はやてちゃん」「はやて」「主」

 

 シグナムさんを庇おうとするはやてちゃんに、言葉を漏らす守護騎士達。

 闇の書の過去の事もはやてちゃんには多少なりとも伝わっている。

 過去の主に守護騎士達がこき使われてきた事や、闇の書の完成のために罪を犯してきたことも。

 だけど全て過去の主に従ってきただけであり、本人達の意思はなかった。

 その事をはやてちゃんは良く分かっている。

 

「おじさんかて優しい人やから誰かを傷つけたい訳やないはずです

 やからお願いです、私達に協力してください!!」

 

 そういってはやてちゃんは深々と頭を下げて頼み込んだ。

 グレアムさんはその様子を見て、ソファーにもたれて何かを思い返すように考え込んだ。

 

 はやてちゃんの考えは甘すぎるが、思いは間違いなく本物だ。

 会って一週間と経たない守護騎士達の為に必死になって頭を下げられる。

 真意になって誰かの事を考えられる事はすごい事だと思う。

 少なくともはやてちゃんからはそれが俺にもはっきり解った。

 

 グレアムさんにもそれは伝わっただろうが、子供の甘い考えと断じられる可能性が十分ある。

 計画の方ははやてちゃんの言った通り守護騎士達が蒐集しない以上成功はない。

 強攻策に出て無理やり蒐集というのも無理がある。

 管理局と守護騎士達両方を相手取る事になるのだから成功のしようもない。

 さて、どうする。

 

「……はやて君、君は何故私がこの計画を立てたのかは知っているかね?」

 

「え、闇の書が暴走してしまうからやないんですか?」

 

「それもある

 だがこの計画は管理局法に反する行為だ

 道徳に反するというだけでなく管理局員として許されない行為だ

 それでもこの計画を決意したのは十一年前に起こった闇の書の暴走が切欠だ」

 

「十一年前…」

 

 グレアムさんから語られた内容は十一年前に起きた闇の書の暴走の結末。

 闇の書を確保する事の出来た管理局は、グレアムさんの部下クライド・ハラオウンが乗った次元船エスティアによって護送していた。

 だが護送中に闇の書が暴走してエスティアの制御を奪われる。

 その事態に手の打ち様が無くなったクライドさんはグレアムさんに嘆願し、自身の乗ったエスティアごと闇の書を破壊するように言った。

 グレアムさんはやむを得ないと判断し、自らの手で闇の書と共にエスティアを破壊しクライドさんを死なせる事となった。

 

「私の判断ミスで彼を殺してしまった事を後悔した

 彼には妻も子供もいて、遺された者達は悲しんだ

 私は謝罪したが彼らは私を責める事はなかった

 それでも何か償えるようにと出来る限りの協力をして、その家族とは今でも縁がある」

 

「……」

 

 はやてちゃんはグレアムさんの話を黙って聞くだけになっている。

 語られる口からはグレアムさんの後悔の念が漏れてきている。

 

「その後、独自の調査で君の元に闇の書が転生したことを幸運にも知ることが出来た

 それを知ったときに決意してしまった

 もうこんな事が二度とないように闇の書を完全に葬ろうと

 彼の無念を、彼の家族の悲しみをなんとしても晴らそうと心に決めた

 はやて君、君は私の決意を揺るがす事は出来るかね」

 

「それは…」

 

 はやてちゃんはそれ以上何も言えない。

 グレアムさんの言葉は先ほどのはやてちゃん以上の思いが篭っていた。

 それはクライドさんの無念ではなく、何よりも部下を死なせてしまった自身の無念であったから。

 

 はやてちゃんが生まれる前から抱えてきた無念。

 それは一週間程度の守護騎士達のと付き合いで築いた思いとは比べ物にならない。

 思いに時間は関係ないだろうが、それでもはやてちゃんとグレアムさんは生きてきた年期が違う。

 ずっと悩み抜いて悩み続けた間違っていてもやろうとする思い。

 

 それを知れば知るほど、はやてちゃんはその思いを否定するのは難しくなる。

 相手の思いを知るからこそ優しいはやてちゃんは相手を説得する事が出来ず、逆に自身の思いが折られてしまうかもしれない。

 思いをぶつけ合うとはそういう事だ。

 

 どちらかが間違ってるんじゃない。

 どちらも正しくてどちらも間違っている。

 そんな時に勝つのは思いの強いほうだ。

 たとえ間違ってても貫くという思いが無ければ相手の心を折ることは出来ない。

 

 グレアムさんは間違ってても遣り通す覚悟で計画を進めてきた。

 はやてちゃんの傷つけたくないという思いは限りなく正しい事だと思うが、傷つけてでも遣り通すという思いの前には無力に近い。

 今のはやてちゃんにグレアムさんの思いを否定するのは無理だろう。

 それだけの差が二人にはあった。

 

「…拓海君は…グレアムおじさんの事情は知らんかったん?」

 

「いや、知ってたよ」

 

「やったらどうして事前に教えてくれへんかったん?」

 

「プライベートな事だったし

 それに知識でしか知らない俺が言っても、はやてちゃんにはグレアムさんの決意は伝わらないと思った

 こういうのは目の前で向き合った本人でないと伝わらないから」

 

 だからあえてはやてちゃんにはグレアムさんの事情を事前に話さなかった。

 知ってしまってたらきっと間違ってるの一言ではやてちゃんは否定しただろうから。

 グレアムさんの決意の重みに気づくことなく。

 

「…そやな、確かにおじさんの思いが伝わってきたわ

 どうがんばっても梃子でも動かないような言葉の重み

 私が間違ってるんやないかと思ってまうような気がしたわ」

 

「闇の書によって傷ついた者達は今も大勢いる

 君の傷つけたくないという思いは正しく尊い物だが、過去に闇の書は多くの物を傷つけてしまった

 その無念の矛先は知れば必ず守護騎士達の元へ向かう

 それは君の思いでは止める事の出来ないどうしようもない物なんだ」

 

「…………」

 

 グレアムさんの言葉にはやてちゃんは今度こそ言葉を無くしてしまう。

 守護騎士達も知ってはいても被害者から語られた言葉の重みに何も言う事が出来ずに気を落としている。

 

 暫くの沈黙の後にグレアムさんが再び口を開いた。

 

「はやて君、君に協力しよう」

 

「え?」

 

「「父さま!?」」

 

 突然グレアムさんははやてちゃんに協力する事を表明した。

 両隣に座る二人の使い魔も突然の事だったのか驚いている。

 協力してくれるのはありがたいけど、どういう心境の変化だろう。

 

「今の闇の書の主は君だ

 君が蒐集を守護騎士に命じないのであれば私の計画は意味を成さない

 それに私も管理局員だ

 もしあるのなら犠牲の出ない方法で事件を片付けたい」

 

「グレアムおじさん…ありがとうございます。」

 

「だが忘れないでくれ。

 闇の書の主であるということは被害者の恨みの矛先を向けられるかもしれない

 私のように言葉に応じるほど冷静でいられない者もいるだろう

 それを良く覚えておいてくれ」

 

「…わかりました」

 

 闇の書の過去の犠牲者達なんて俺には想像もつかない。

 それは本来はやてちゃんが抱える問題ではなく、魔力の蒐集を命じた過去の闇の書の主の責任だ。

 だけどそれで納得出来るほど感情が許さない者もいるあろう。

 グレアムさんの計画なんか遊びと思えるような強攻策に出るかもしれない。

 

 主である限り、闇の書の被害者が存在する限り、その問題ははやてちゃんに振る掛かる可能性がある。

 それをどうにかする為にもグレアムさんの協力が得たかった。

 闇の書の対処が成功した後にはやてちゃんと守護騎士達の生活を守る為の情報規制をやってくれる人が欲しかった。

 それをやれるほどの人物となると管理局の要職に就いた人しかいないだろう。

 

 原作の十年後は管理局に所属していたとしても普通に生活を送っていた。

 守護騎士達は事件後に管理局で数年間奉仕活動をする事になったみたいだが、それだけじゃ管理局に大した保障はしてくれないだろう。

 たぶんリンディさんかグレアムさんがはやてちゃんと守護騎士達の情報保護をしてくれたんだろう。

 そう考えるのが原作の流れでは自然だ。

 

 

 

 

 

 グレアムさんが協力すると約束してくれた後、俺の知っている事と現状と対処法の説明をする事になった。

 俺の知っている事で闇の書本来の名前とか、暴走の原因はグレアムさんも知らなかったらしく確認のためにいずれ調べておくと言っていた。

 その際、夜天の書は古代ベルカの遺産でもあるので対処が成功した後、はやてちゃんの保護に聖王教会に協力を頼めないかと聞いてみた。

 古代ベルカの遺産であれば聖王教会に確保の優先権があるので、確証があれば力になってくれる可能性はあるらしい。

 夜天の書の事実確認に無限書庫で調べてみるといいと言っておいた。

 原作でもそこで夜天の書の情報をユーノが見つけてたし。

 

 闇の書の現状は知っての通りはやてちゃんの足の麻痺。

 守護騎士達が目覚めた事でそれは加速して、予知夢通りなら今年いっぱいがタイムリミットと言った時ははやてちゃんと守護騎士達もその事実に息を呑んだ。

 まだ半年あると言うべきか半年しかないと言うべきか。

 

 それだけじゃなく魔導師には見えない、俺や那美姉さんにはわかった闇の書から漏れる負の念が暴走の原因ではないかと仮定した。

 悪霊のようなものと説明したら、グレアムさんもエクソシストとかの霊能者という存在は知ってはいたがこの世界の魔力保持者かレアスキルだと思ってたらしく、ソーサーを見せて魔力ではないと確認してもらった。

 この力で闇の書を浄化すれば暴走は起きなくなるんじゃないかというのが最初にやる対策の一つ。

 なお、霊力は管理局にとっては未知の力だと思うので、研究対象にされたくないから出来れば秘密にして欲しいと言っておいた。

 

 そしてもう一つの闇の書を完全に破壊する直死の魔眼について説明した。

 魔眼と明確に説明するわけじゃなく、俺が触れた物を確実に破壊する事の出来るレアスキルと説明した。

 先に浄化を試してうまくいけばそれを続ける。

 うまくいかなければ即座に俺が破壊するという二段構えの対処法だ。

 闇の書の負の念を浄化するのがうまくいっても、那美姉さんはだいぶ時間が掛かると予想したので、間に合わなければ直死の魔眼で破壊する事も視野に入れている。

 浄化がうまくいく事がはやてちゃんにとってのベストな結果といえる。

 

 

 

 俺が霊力などの魔導師には無いスキルで対処することはわかったが、グレアムさんは直死の魔眼の効果を一度見てみたいといった。

 そういうわけで一度直死の魔眼の力を見せることになったが、何かとても頑丈な物はないかと聞いてみると、グレアムさんがリーゼアリアに命じて防御魔法を展開させた。

 

「アリアは魔法の制御を得意としている

 この防御魔法もなかなか頑丈な物のはずだ

 試しにこれを破壊してみてくれないかね」

 

「わかりました」

 

 ミッド式の魔法陣が描かれた防御魔法の前に立ち、魔法陣の向こう側にはリーゼアリアがいた。

 俺は直死の魔眼のスイッチをオンにして防御魔法を見据える。

 やはり魔法にも死線と死点を見ることが出来て、適当な死点に指を添える。

 そこを軽く突くと…

 

 

-バキャァン!!!-

 

 

「なんと!!」

 

「な!! 指で突いただけで!!」

 

「何の魔力も感じなかったのに!?」

 

 防御魔法は突いた死点から繋がる死線に罅割れのように切れ目が走って、ガラスが砕けるような音をたてて霧散した。

 その様子にグレアムさん達が驚きの声を上げて、はやてちゃん達は少しビックリしただけだった。

 はやてちゃん達には俺のいろいろな技で結構驚かせたから少し耐性が出来てたみたいだ。

 

「こんな感じで大した力は要らずにどんな物も破壊出来ます

 当然生き物にも有効でこれで破壊したものは治癒なども効かない傷になります

 恐らく闇の書の再生機能も働かずに完全破壊をする事が出来るはずです

 ただ、この通り使い道を誤ると危険なんで普段は絶対使いませんけど」

 

「なるほど…ただ力で壊すようなものでないのはわかった

 闇の書の機能にどこまで有効か分からないが破壊自体は出来そうだ

 そして力の危険性も理解しているのなら間違えることもない

 君に任せる事にしよう」

 

 結局浄化も破壊も俺次第ということになってしまった。

 予定していた事とはいえ大任を預かることになる。

 グレアムさんの過去と決意を聞いた後だと、覚悟していた以上にプレッシャーを感じる。

 こうなるとうまく行き過ぎた原作が非常に腹立たしい。

 なんでもうちょっと計画性のある結果で闇の書を攻略してくれないのかな!?

 奇跡的な結果だからこそ物語は面白いんだろうけど、現状の重みは非常に面白くない!!

 

「…出来ることなら全てをここで終わりにしたい

 十一年前の結末を繰り返すのはもう嫌なのでね」

 

「あんまりプレッシャーかけないでください

 俺には出来る事しかしませんし出来ませんよ

 はやてちゃんみたいに無条件に守護騎士達を抱えられるほど図太くないんで」

 

「ちょっと拓海君

 図太いってどういうことや

 私は図太くあらへんで」

 

「ははは、そいつは済まなかったね

 はやて君の友達だからてっきり同じくらい豪胆な子かと思ってね」

 

「グレアムおじさんまで!?

 わたしってそんなに図太いんやろか

 どう思う皆?」

 

 はやてちゃんは守護騎士たちに話を振るが…

 

「えーとそれは…(チラ)」

 

「主はそれでよろしいかと」

 

「あ、あたしははやてはすげえって思うぞ!!」

 

「そうです!! はやてちゃんは強い子ですよ!!」

 

「…もうええわ、皆がどう思ってるかよう解ったわ」

 

 シグナムさんは目を逸らしてザフィーラはただはやてちゃんを肯定するのみ。

 ヴィータとシャマルさんはフォローしてるつもりだろうけど否定にすらなっていなかった。

 それを聞いてはやてちゃんは少し落ち込むが、先ほどまでの話の暗い雰囲気は既に何処かに行っていた。

 

 

 

 後日時間が合い次第、闇の書の霊力による浄化を試すと決まった。

 グレアムさんは連絡を兼ねた見張り役を一人残して一度局に帰ることになった。

 それを言った時にアリアが残ると即座に立候補してチラチラと俺の様子を伺っていた。

 ちょいちょいと手招きするとアリアは猫の姿に戻って俺の膝の上に飛び乗ってきた。

 その様子にロッテは唖然としていたが、グレアムさんは少し笑っている様子でそのまま帰っていった。

 

 これからが本番だけど漸くめんどくさい交渉関係が終わった。

 守護騎士達もグレアムさん達への説明も重苦しい空気で話さなきゃいけなかったし。

 シグナムさんに関しては剣で語らされたし、アリアを一日撫で回せる役得もあったし。

 …人型を知ってるとどうも撫で回すってエロく聞こえるな。

 というか今も既に撫でてるんですけどね。

 

「うにゃぁん♪」

 

「アリアさん、すっかり拓海君に遊ばれとるなー」

 

「う、うるさいなあ

 私は父さまと違って闇の書を許したわけじゃないんだから

 それを良く覚えといてにゃぁん!!」

 

「はやてちゃんは何も悪くないんだから当たらないであげてよ

 ほら、こうしてあげるから」

 

 これまで違ったところをちょっと強めに撫でてみる。

 一日撫でて手触りでも気持ちよかったり感覚が敏感だったりする場所がわかってきた

 久遠のほうはずっと撫で続けてるので、今何処を撫でて欲しいのかすら言わなくてもわかる。

 初見の動物でもそれが解る様になれば完璧なんだけどな。

 

「にゃあ!! それはちょっと刺激が強過ぎる~!!

 もっとやさしくぅ」

 

「ふむ、こんな感じかな」

 

「にゃふ~ん…そ、それイイ…」

 

「や、やっぱりエロいわぁ

 アリアさんの声」

 

「さあ主はやて、話し合いでお疲れでしょう

 部屋に戻ってお休みください」

 

 シグナムさんがはやてちゃんを車椅子から抱え上げる。

 

「ちょ、ちょい待ちシグナム!!

 わたしは今勉強中や!!」

 

「でしたら本を読んでください

 主はやての年代に相応しい健全な本を」

 

 どうやらはやてちゃんにアリアの声を聞かせたくないらしい。

 だけど俺はそんな様子を気にしない。

 今はアリアの毛並みを堪能しつつ撫でる事に夢中。

 

「本だけじゃ分からん事もあるんや」

 

「分からない方が良い事もあります」

 

「シグナムの分からず屋~

 ん……そや、ムフフフフ」

 

「な、なんですか?」

 

 はやてちゃんはなにやら思いついたらしく嫌らしい笑い方をしてシグナムさんを凄ます。

 両手をワキワキと動かしてシグナムさんの胸を見定める。

 

「やっぱり見てるだけより直接手にとって実地検証や!!」

 

「きゃ!! あ、主はやて何を!?」

 

「シグナムのおっぱい大きいなあと思って、ずっと気になっとったんや!!

 お~、見た目通りの大きさと張り

 私の掌には収まりきらんわ」

 

「あ…んっ…お、お止めください…」

 

「にゃう~ん!!」

 

「む、さすが拓海君、よう鳴かせおるわ

 私も負けへんで~!!」

 

「張り合わないでください!!」

 

「張っとんのはシグナムのおっぱいやー!!」

 

 はやてちゃんが抱えていたシグナムさん襲い掛かり胸を揉み拉く。

 俺はその様子を気にせずにアリアに夢中で、その鳴き声に更に苛烈になるはやてちゃん。

 他の皆はこの混乱した状況に何も出来ずに呆然とするばかり。

 俺が気づくのは撫でて貰おうと八神家にやってきた久遠が飛びついてきた時だった。

 

 

 

 

 

●拓海は女性の鳴き声に耐性が出来た。



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第三十二話 闇の書編 緊急終了のお知らせ

 

 

 

 

 

 グレアムさんとの会談が終わってから、それぞれ出来うる限りの準備をした。

 はやてちゃんは前々から教えられてた全員分の騎士甲冑を考えた。

 見た感じ守護騎士達の服装はアニメの物と違いが出なかった。

 ただ現実視点で見るとどうにもコスプレっぽかったのは仕方ない。

 

 俺は闇の書を見てもらった那美姉さんに話が着いた事を知らせた。

 近いうちに闇の書の浄化を試すと伝えると、那美姉さんもそれに同行してくれるといった。

 闇の書の負の念が見えるのが俺しかいないし、物品の浄化は俺も試すのが初めてなので正直助かる

 けど戦闘能力以前になんかトロくて回避能力の低い那美姉さんを闇の書を試す場に連れて行っていいか少し不安だ。

 そういうと久遠を抱えて、久遠が守ってくれるから大丈夫といった。

 久遠が頼りになるのはこの前のジュエルシードの時に良くわかった。

 まあ、相談に乗ってもらったから、今更関わらないでとも言えないので当日は一緒に行くことになった。

 

 グレアムさんのほうはさすがに仕事があるとの事で早めに終わらせて時間を空けるそうだ。

 開いた日に闇の書の浄化を試して問題ないかの確認に同伴するらしい。

 その日までに浄化を試す場所を探しておいてくれるそうだ。

 安全の為に場所は無人世界を選んでそこで行う予定だ。

 闇の書が暴走を起こして、万一直死の魔眼でも破壊出来なかったら次元船を呼んでアルカンシェルで破壊するらしい。

 魔力を蒐集してない状態での暴走なら、規模も小さい筈なので無人世界内の被害で終わるはずという考えた。

 

 まあ俺次第ではあるが、正直失敗の事など考えていない。

 そんな事考える余裕がないという理由もあるが、失敗の心配するほど俺の技量にあまり関係しないからだ。

 直死の魔眼は触りさえすれば一撃必殺。

 浄化に関しても霊力の出力とかはともかく、何をどうしろとか言うほど繊細な扱いをする必要もない。

 浄化に対する闇の書が反応するかどうかが成功の分かれ目だ。

 主以外の干渉は受け付けないらしいが闇の書は一応魔導と科学の産物。

 魔力でない霊力による力なら認識出来ないのではないかと考えてる。

 結論から言えばなるようになるという事だ。

 

 

 

 

 

 グレアムさんからの連絡が来たそうで、先に無人世界で待機してるそうな。

 俺は那美姉さんと久遠を連れて集合場所の八神家に向かっていた。

 こちらは特に準備らしい物もなく、いつもの海鈴に使えるとも思えない式神や陰陽術の札。

 那美姉さんはいつもの巫女服姿で完全装備なのでなんか準備した気がしない。

 

 八神家に着くと庭ではやてちゃんと守護騎士達、そして猫姿のアリアが待っていた。

 

「拓海君、待っとったでー」

 

「おせーぞー」

 

「時間通りにきたはずなんだけど?」

 

「ヴィータは待つの苦手みたいやからな

 大丈夫、時間通りやで」

 

 ヴィータの文句に少し遅れたかと思ったが、はやてちゃんが言うにとり合えず時間通りみたいだ。

 そこへ猫姿のアリアが俺の胸に向かって飛び込んできた。

 こういう風に飛び込んでくるのは久遠でも慣れていたので優しく受け止める。

 そういて片腕に抱えるともう片方の手で撫でてやる。

 

「うにゃぁ~…やっぱり拓海に撫でて貰うのは気持ちいいわ~」

 

「アリアもだいぶ吹っ切れたな」

 

「だってあんなに撫で回されたんだもの

 責任とってね」

 

「こんな風に?」

 

「にゃ~ん、そこはもっと強めに~」

 

 アリアを抱えて喉の辺りを撫でてやっていると。

 

「ク、クー!!」

 

 久遠が我慢できなくなって俺の所に来て頭に飛びついた。

 頭に乗っかった久遠が前足で催促するかのようにペチペチと叩いた。

 

「あー、ごめんごめん

 久遠のことは忘れてないよ」

 

「え、え、え?」

 

「ク~♪」

 

 アリアを下に降ろすと頭に乗ってた久遠を代わりに抱いて撫でてやる。

 さすがに抱えて撫でてやれるのは一匹だけなのだ。

 

「ちょっとー、私はどうなるのよー」

 

「クゥン、ここ久遠の場所」

 

「な!! そこ退きなさいよ!!」

 

「や」

 

 久遠にしては珍しく厳しい口調で断り、アリアがそれを言い返す。

 ニャーニャークークーと鳴きあう二匹の姿は喧嘩でも和む光景だった。

 そんな光景を見ていたらヴィータに肩を叩かれて呼ばれた。

 

「どうかしたヴィータ」

 

「あのさ、それ見てるのもいいんだけど、あれどうするんだ」

 

「あれ?」

 

 ヴィータが指差すほうを見るとシャマルさんと那美姉さんが話していた。

 二人が話しているのは分かるが、良く見てみると…

 

「いつも拓海君がお世話になってます」

 

「いえいえ、私達も拓海君はお世話になって…」

 

「いえいえいえ、拓海君があなた達のお力になれればと…」

 

「いえいえいえいえ、はやてちゃんも私達もほんとに感謝していて、神咲さんにも…」

 

「いえいえいえいえいえ、私は何もしていなくて相談にのっただけで…」

 

「いえいえいえいえいえいえ、はやてちゃんから話を聞いて神咲さんにも世話になったと…」

 

 那美姉さんとシャマルさんはお互い世話をしながら、挨拶のお辞儀を交互に延々と繰り返している。

 しかも終わる様子がなく止めなければどんどんエスカレートするばかり。

 どうにも性格が似てるせいか謙遜しやすいというか…

 

「……ヴィータはシャマルさんを止めてあげて。

 俺は那美姉さんを止めるから」

 

「わかった」

 

 俺たち二人が介入する事で二人のお辞儀のしあいは止まった。

 

「何やってんのさ、那美姉さん

 シャマルさんも…」

 

「ごめんなさい、なんだかつい話が弾んじゃって」

 

「私もなんだか神咲さんとはとても気が合いそうな感じがして」

 

「那美で結構ですよ、シャマルさん

 私も名前で呼ばせて頂いているので」

 

「ありがとうございます、那美さん」

 

「いえいえ、こちらこそシャマルさんと話すのはなんだか楽しくて」

 

「いえいえいえ、こちらこそ気の合う人が出来てとても嬉しいです」

 

「いえいえいえいえ、私もなんだか他人の気がしなくて「ストップ」

 

「那美姉さん、シャマルさん、またループしてますよ。」

 

「「あら?」」

 

 那美姉さんとシャマルさんが面白いように気が合うのは良くわかった。

 その様子を見てたはやてちゃんは腹を抱えて笑いを堪えるのに必死だったし。

 とりあえず久遠と言い争ってるアリアも止めてそろそろ行くか。

 

「アリア、そろそろ行こうと思うんだけど」

 

「フニャー!!

 あ…そ、そうね

 じゃあ私が次元転送で父さまが待ってる世界まで行くわよ

 一箇所にかたまって頂戴」

 

 久遠との喧嘩をやめてアリアがそういうと、全員一箇所に集まった。

 そしてアリアがミッド式魔法陣を展開して準備に入った。

 

「わぁ、これが魔法ですか?」

 

「那美さんは初めてみるんですね」

 

「ええ、私は話に聞いていただけだったので

 シャマルさんも魔法を使えるんですよね」

 

「ええ、このミッド式とは違うベルカ式というものですが」

 

 初めて魔法を見る那美姉さんに説明するシャマルさん。

 再び世話話がなぜか始まってしまうが、もう放っておく事にした。

 転送はアリア任せなので手を出す必要はない。

 

 

 

 

 

 そして転移魔法によって気が付けば周囲は何もない地平線の見える荒野。

 近くにはグレアムさんと片割れの使い魔リーゼロッテがいた。

 

「お待たせしました、父さま」

 

「ああ、待ってたよアリア

 はやて君たちも」

 

「グレアムおじさん、今日はよろしくお願いします」

 

「ああ、何事もなければいいんだがね」

 

 グレアムさんはこの日のために出来うる限りの準備はしておいたそうだ。

 闇の書の事は伝えてないが、別の任務でこの近くの世界にアルカンシェル搭載の次元船を送っているらしい。

 もし闇の書が暴走して俺が破壊出来ないようなら直ぐ駆けつけることの出来るようにという最終手段

だ。

 

 各々何が起こっても対処出来るように準備を始める。

 守護騎士達はデバイスを起動して騎士甲冑を装着し、リーゼ姉妹もカード型のデバイスを装備する。

 那美姉さんは戦闘能力がないので特ににすることはないけど、久遠が大人の姿に変身して守る様にそばに立った。

 

「久遠変身出来たんか!?」

 

「君の使い魔かね?」

 

「いえ、自然に出来るようになったみたいだから、地球の魔法生物にあたるんじゃないかなと。」

 

「クゥ?」

 

 そういえば久遠は妖狐だから力は妖気という分類になるんだろうか?

 雷は自然に出せてるけど、気に分類されてるのか魔力に分類されてるのかあるいはそのどちらでもないか。

 気が向いた今度久遠に頼んで検証してみるか。

 

「やけど大人姿の久遠ってスタイルええなー」

 

「久遠、大人姿ではやてちゃんには近づかないでね」

 

「クゥ? わかった」

 

 この前のシグナムさんの一件を警戒して言っておいた。

 久遠にあんなことするのは、たとえはやてちゃんでも許せん。

 

「拓海君、私を何だと思っとるんや」

 

「ん? ふむ…」

 

 そう聞かれたらはやてちゃんを見てふと思った。

 はやてちゃんと久遠を交互に見比べて、まず久遠の方に手を差し出して…

 

「可愛い子狐と…」

 

 続いてはやてちゃんのほうに手を向けて…

 

「小粋な子狸」

 

「そうそう小粋な子狸…って、誰が子狸やー!!」

 

 と言うが、はやてちゃんはなんか納得がいかないと反論する。

 いやだってはやてちゃんの印象動物は子狸っていうし。

 

「そういうわけだから久遠

 はやてちゃんはきっと久遠の天敵だ

 気をつけてね」

 

「クォン(コクン)」

 

「なんでやねん」

 

 

 

 はやてちゃんか俺のせいで少々空気が削がれた気がしないでもないが準備は出来た。

 全員が見守る中、俺が闇の書を手に持って霊力を使い浄化を試す事になる。

 何度もやり方を那美姉さんに見てもらって浄化法に間違いはない。

 

 同時に霊視して負の念を見定めて、暴走時の対処のために直死の魔眼のスイッチも入れる。

 闇の書に死線と死点がはっきりと映り、もし暴走が始まるなら何時でも死点を突ける準備が出来た。

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

「拓海君、頼んだで」

 

 はやてちゃんが代表して応えて、他の皆は何も言わず闇の書に集中していた。

 俺は両手に浄化の霊力を集中して闇の書に翳した。

 

 

-パアァァァ!!-

 

 

 浄化の光が発生して闇の書の負の念を僅かだが消し散らし始めた。

 俺から見たところ浄化を行っても闇の書に変化はない。

 まず那美姉さんに浄化が正しく行われてるか聞いてみる。

 

「那美姉さん、これで問題ないよね」

 

「大丈夫、私から見ても負の念の浄化は進んでる

 だけどやっぱり強い念だからごく僅かずつしか浄化出来てない」

 

「それでも出来てるなら問題ないよ

 魔導師側から見て闇の書に変化は?」

 

「こちらから見ても、闇の書にも我々にも変化はない」

 

「こっちもサーチャーを使って緻密に魔力の動きを確認してるけど何の変化も確認出来ないわ

 その霊力って言う浄化って作業自体認識されない

 光ってるのは解るのにどうして認識されないのかしら?」

 

 魔導師側の意見はシグナムさんとアリアが答えてくれた。

 どうやら闇の書は浄化には反応しないらしく、アリアの魔法による認識にすらはっきりと現れないらしい。

 霊力は魔力では認識しきれない特殊な力らしい。

 

「私達には認識し切れないが闇の書の対処は成功しているという事かね」

 

「はい、浄化は間違いなく成功しています

 時間は掛かりますがいつかは完全に浄化出来ると思います」

 

「問題はその負の念とやらと暴走が関係しているかどうかか…」

 

 那美姉さんに質問したグレアムさんが言ったが、実際のところ負の念と暴走が関係している事も確証はない。

 浄化が成功しても防衛プログラムが異常を起こしたままになるかもしれない。

 そうなったらもう直死の魔眼による破壊しかなくなる。

 そうならない事を祈るしかない。

 

 

 

 ん?

 ふとスイッチを入れていた直死の魔眼に、闇の書から漏れ出して少しずつ浄化されている負の念に死線が見えた。

 それ自体が見えるのは可笑しくないが闇の書本体と繋がっていないのが気になった。

 

 直死の魔眼で見える死線と死点には繋がりがある。

 死線は対象にランダムに線が入っているように見えるが、死点は対象に映る死線が集まる交点の部分が死点となる。

 負の念は闇の書と一体化してるから、負の念に見える死点と闇の書自体に映る死点と繋がってなきゃおかしい。

 

 良く眼を凝らして漏れ出した負の念に映る死線を見続けると、映る死線と死点が移り変わり始めた。

 これまで闇の書に映ってた死線や死点がぼんやりと見えなくなっていって、漏れ出した負の念に映っていた死線の先が逆に薄っすらと見え出した。

 負の念の死線が他にも見え出してきて、その線の続く先が闇の書の中に続いていった。

 直死の魔眼に透視能力はないはずなのに闇の書の中に死線が映りだして驚くが、線の先はまだ続くので意識をそこに集中し続ける。

 

 やがて闇の書の中心部辺りで負の念の死線達が交差して死点になった。

 これが闇の書に篭った負の念の根源の死だと直感的にわかった。

 これまで死線や死点は何に映っても同じだと思ってたけど、意識を集中しているとどれが何の死かなんとなく解る。

 もしかしてこの死点を突けば負の念のみを全部殺せる?

 

 俺は半分無意識に闇の書の中の負の念の死点に向けて指先を近づけていく。

 闇の書の中を透視して死点が見えてるので物体である指は突く事は出来ない。

 そのまま触れて闇の書の表紙にぶつかって指は止まったのに、感覚だけは突き抜けて負の念の死点を突いた感覚を確かに感じた。

 

 

-バシュゥゥゥ-

 

 

 その直後、負の念が死線に沿って千切れて闇の書の中から塵になるかのように消し飛んでいった。

 

「え!? 拓海君!!」

 

「な、那美姉さん…」

 

「何や、どうかしたんか?」

 

 負の念の見える那美姉さんだけが声を上げて、俺も少々どうしていいか分からず名を呼ぶ。

 その戸惑った様子を疑問に思ったはやてちゃんが声を掛けてきて、他の皆も何か起こったのかと警戒を始める。

 

「えーと、その…

 拓海君が闇の書に指で触れたら負の念が急に全部消えちゃって…」

 

『は?』

 

 那美姉さんが状況を皆に説明してくれるが、それでも皆は突然の事態に何がなんだか分からない様子。

 

「で、ですから、もう闇の書からは負の念が出ていないんです。」

 

「ど、どういうことなのかね?」

 

 皆が疑問に思ってることをグレアムさんが言ってくれるが俺もだいぶ戸惑っている。

 誤って闇の書の負の念だけ直死しちゃったから、もしかしてこれで終わり?

 そういやさっきも言ったけど、負の念と闇の書の暴走ってどうなったんだ?

 負の念が消えたなら全ての問題がなくなって、はやてちゃんの足も原因がなくなってるはず。

 

「はやてちゃん、足の具合はどう?」

 

「どうって、いつも通り動かんけど…ん?」

 

 はやてちゃんは何か疑問に思って、屈んで太ももから足の指先にかけて手で触って確認する。

 確認が終わるとはやてちゃんは少し呆けた表情で言った。

 

「……足の感覚がある。

 腿から指先まできっちりと。」

 

「本当ですか!?」

 

「わ、私調べます!!」

 

 シグナムさんが驚きの声を上げて、シャマルさんがすかさずはやてちゃんに駆け寄り魔法ではやてちゃんの体を調べる。

 その様子を皆がじっと見つめて結果を待った。

 

「……足への闇の書の影響が無くなってます」

 

「じゃ、じゃあ、私の足治ったんか!?

 感覚は在るけど動かないんやけど!!」

 

「た、たぶん…

 動かないのはずっと動かしてなかったからだと思います

 リハビリすれば歩けるようになるかと」

 

「な、何が起こったのかね、拓海君!?」

 

 グレアムさんが理由の説明を求めるが俺も漸く戸惑いが収まって説明出来そう。

 直死の魔眼の気づいてなかった機能で負の念の死だけを見れるようになるとは思わなかった。

 そして…

 

「す、すいません

 どうやら俺のレアスキルで闇の書の負の念だけを破壊しちゃったみたいで…」

 

「負の念だけを…

 つまり暴走原因のみを破壊してしまったという事かね?」

 

「負の念と暴走原因が一緒とは確信が無かったんですけど、はやてちゃんの足の様子から一緒だったみたいですね。」

 

「で、では…」

 

 グレアムさんは突然の事態に言葉をなくして呆然とする。

 

「ん?…………そか、わかったわ

 拓海君、書を貸してー」

 

「はやてちゃん?」

 

 突然はやてちゃんが闇の書を渡して欲しいと言ってきた。

 良くは判らないが俺ははやてちゃんのところまで行って持っていた闇の書を手渡す。

 

「はやてちゃん、闇の書が何かあった?」

 

「拓海君、この子はもう闇の書やあらへん

 もう夜天の書に戻ったって言っとる」

 

「主はやて、管制人格の声が聞こえたのですか?」

 

「たぶんそうや

 そんでもって私はこの子の名前を付けたらなあかん

 拓海君の話でもそうやったららしいからちゃんと考えといたんや」

 

 はやてちゃんには管制人格の存在は教えたけど、どう言う名前を付けたのかは教えなかった。

 そういうのは自分で考えるから意味があるし、それにきっと大丈夫だろうから。

 

「闇の書から夜天の書に戻って、私が主として最初にやることや

 夜天の主の名において汝に新たな名を贈る

 強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース」

 

 

-キイィィィィンン!!!-

 

 

≪おはようございます、ご主人様≫

 

 

 はやてちゃんが夜天の書を掲げて名前を送る。

 すると夜天の書が輝いて機械音声がベルカ語で流れ、宙に浮かびベルカ式魔法陣が展開される。

 そしてそこに魔力が集まって人の形を形成しだす。

 光が収まってくるとそこにはシグナムさんと同じ位の年の銀髪の女性が立っていた。

 

「新名称リインフォース、認識しました

 始めまして、我が主はやて」 

 

「始めまして

 それからいらっしゃい、私の新しい家族」

 

「っ……ありがとうございます」

 

 現れた完成プログラム、リインフォースさんをはやてちゃんが笑顔で出迎える。

 リインフォースさんは少し驚いた様子を見せて、はやてちゃんに跪く様にして御礼を告げた。

 それが済むとリインフォースさんは立ち上がって俺の方を向いた。

 

「山本拓海、ありがとう

 君のおかげで我が主は救われ、私も破壊の運命から逃れられた」

 

「あー正直、さっきのは偶然というか運がよかったというか…

 結果うまくいったなら良かったんだけど

 リインフォースさんはもう何も問題は無いの?」

 

「ああ、君が書に触れた直後に突然防衛プログラムが正常に機能し始めた

 長い間、私にはどうする事も出来なかった暴走の原因である防衛プログラムが

 君の事は主や騎士達を通して聞いていた

 それが偶然であるはずも無く、私には認識出来なかった君のレアスキルのおかげと考えるのが自然だ

 だからありがとう」

 

「まあ、問題が無くなったならいいんだ

 どういたしまして」

 

 偶然上手くいってしまったから何かをやり遂げた実感が無くて、お礼を言われてもなんだか痒い。

 しかもホントに嬉しそうにリインフォースさんが微笑みながら言うもんだからすごく気恥ずかしい。

 

「リインフォース君…だったね」

 

「はい、なんでしょう」

 

 先ほどまで呆然としていたグレアムさんがリインフォースさんに声をかける。

 だがまだ事態の変化に戸惑ってる様子が見える。

 

「問題が無くなったとは…もう闇の書の暴走は起きないということかね」

 

「はい、暴走原因である防衛プログラムが正常化したことで主に害を為す事も、魔力の蒐集も行う必要はありません

 暴走してしまう事ももう無いでしょう」

 

「…全て…終わったんだね」

 

「終わりました、いろいろご迷惑をおかけしました」

 

 リインフォースさんが深々と頭を下げて謝罪する。

 俺の事を知っていたのなら、グレアムさんの事情の話も聞いていただろう。

 かつての闇の書の暴走の被害者と判って謝罪するのは、リインフォースさんも罪悪感を持っていたということだろう。

 その答えを聞いてグレアムさんは空を仰ぎ見るが、なんだか目の焦点が定まっていない気がする。

 

「そうか……終わったのか…」

 

 

-フラッ-

 

 

「「父さま」」「グレアムおじさん!?」「グレアムさん!!」

 

 グレアムさんがふっと足がふらついて両膝を突くと、直ぐにリーゼ姉妹が駆け寄って体を支える。

 一体どうしたのかと皆も直ぐに駆け寄ってきた。

 

 

 

 どうやら体調を崩したわけでなく、緊張の糸が切れてふら付いてしまっただけだったようだった。

 少し時間が経てば意識もはっきりしてきたし、何も問題は無かったようだ。

 

 グレアムさんは前回の闇の書の暴走からいろいろ溜め込んできてたものがあった。

 それはクライドさんの死だったりその家族だったり、計画のはやてちゃんへの罪悪感などもあっただろう。

 計画を諦めて俺たちに協力してくれたけど、これからだと思ったら突然終わってしまって調子が狂ってしまった。

 俺だって相応の覚悟で挑んだつもりだったのに、突然全て終わってしまって肩透かしを食らい戸惑った。

 

 グレアムさんの覚悟と決意は俺以上のものだろう。

 当然その反動も大きくて、一気に気が抜けすぎてしまったらしい。

 結構な御歳だというのもあるだろうけど。

 原因は言わずもながら俺なんだけどな…

 

 

 

 とはいえ俺の役目はこれで全て無くなってしまったが、はやてちゃん達やグレアムさん達は管理局に夜天の書を認めさせるべくいろいろしなければならないだろう。

 その為にはやてちゃん自身が本局やミッドチルダに行かなきゃならなくもなるだろうし、グレアムさんに至っては今回の事の報告を含めた後始末が大変だろう。

 正直それはグレアムさん以外に出来ない事だからお願いするしかない。

 

 だがこれでホントに厄介な事件は終わった。

 ジュエルシードの回収が終わってから、そう時を置かない内に守護騎士が目覚める事になった。

 余裕が無いせいであまりゆっくり出来た気もしないし、新しい技や訓練も出来なかった。

 これからは十分時間があるからやりたかったこと全部試せそうだ。

 魔法関係の縁も出来たからいろいろ教えてもらいたいし。

 

 不思議な力で平凡な楽しみを追い求める日常がまた始まる。

 

 

 

 

 

●直死の魔眼の扱いが向上



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ほのぼの
As終了時の主人公のステータス


 

 

 

名前:山本拓海 性別:男 年齢:10才

 

家族構成:父・母・自分の三人

 

保有能力

『努力すれば割とどうにかなる程度の能力』

『直死の魔眼』

・感覚のスイッチでON/OFF可能な魔眼

 ONにする事であらゆる物に死線、及び死点を見ることが出来るようになり、それをなぞる或いは突く事で対象を殺す事が出来る。

 実体非実体に関わらず認識できる物なら何でも対象の死を見ることが出来る。

 一体化しているものでも認識さえ出来れば限定して殺す事が出来る。

 闇の書は暴走原因を限定して殺す事で、夜天の書に戻った。

(前回自分でも直死の魔眼の存在を忘れてて書いてなかった)

 

 

習得技能

●気 ●魔力 ●霊力 ●その他

・気、魔力、力には意思を込める事が出来る。

 ただしその浸透性には差があって霊力>気>魔力の順である。

・術を構成する力の安定性に差がある

 その差は魔力≧霊力>気である。

・物理的威力に差がある

 その差は気≒魔力>霊力である。

 

●気  

・海鳴流(かいめいりゅう)

 斬魔拳(魔法破壊可) 斬魔剣終の太刀・気絶、極大・氷河剣を披露

 

・性質変化

 

・舞空術

 

・(虚空)瞬動

 

・気弾

 

・念能力(モドキ)

 円により戦闘対象の動きの細かな動きが察知出来るほど精密さが向上

 

 

 

●魔力

・陰陽五行魔法陣

 式神の十二支を作って補佐をさせることを考察

 

●霊力

・ヒーリング

 

・鎮魂術

 

・ソーサー

 

・霊気手甲(栄光の手もどき)

 

・式神作成

 ある程度力を使える式神を披露

 

・陰陽術

 封印符、木魂法、(術式を組みかえれるようになり)傀儡符を披露

 

 

 

●その他

・声帯模写

 

・神咲一刀流

 

・御神流 初歩

 

・ゴッドハンド

 凝や対象に触れる事により対象の撫でて欲しいところや、疲労の溜まっているようなところを認識出来る。

 それにより撫でられる者はより心地よい感覚が得られる。

 その際対象が女性の声で喘いでも大して気にしない。

 

・相転移法(気版メドローア)

 封印中

 



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第三十三話 戻った平穏と新たな日常

 

 

 

 

 

「平和だな~」

 

「ク~ン♪」

 

 闇の書の一件が終わって、俺の平穏な日々がまた戻ってきた。

 今は久遠と一緒に久々に神社でまったりと日向ぼっこをしている。

 もう季節は夏だけど、俺には凍気があるので関係なく快適な時間を過ごせている。

 

 闇の書を直死の魔眼で誤って夜天の書に戻してしまった後の事だ。

 グレアムさんは闇の書の事件の解決の報告とはやてちゃんの立場の確保の為の資料集めに本局に戻る事になった。

 霊力や負の念など管理局には理解の無い力があるから証明には俺の存在が必要になる。

 だけど、探査魔法にも引っかからない力や幽霊の存在を証明するのは非常に骨が折れる。

 というか本格的な調査になったら俺が研究対象にされそうなので、予知夢の知識通りに闇の書は改ざんされた物だったという事にして欲しいと頼んでおいた。

 直死の魔眼でバグだけ破壊してしまったという事になる。

 

 その事実を証明する為に無限書庫で闇の書に関する資料を集める事になる。

 なので予知夢で知ったということにして、ユーノの存在を紹介しておいた。

 ジュエルシードの事件とクロノ・ハラオウンから伝手が出来ると伝えると、知っていると応えられた。

 まあ闇の書の近くで別のロストロギア事件が起こったんだから、巻き込まれないか把握してても可笑しくない。

 

 アリアはまた連絡役として八神家に残ったよ。

 だけど事件が終わったから俺は八神家にいないと言ったら、口をあんぐりと空けて呆然としてた。

 まあ、その内また行くことになるだろうけどね。

 

 そのはやてちゃん率いる八神家の面々は、リインフォースさんの歓迎会をすると言っていた。

 俺も誘われたけど、気疲れしてたのといわゆる家族水入らずがいいだろうと言って遠慮しておいた。

 俺が遠慮すると久遠と那美姉さんも遠慮してそれぞれ帰る事になった。

 全ての問題が無くなったんだから、もう何事も無く仲良くしているだろう。

 

 

 

 俺ももう事件の事など気にせずに、久遠と仲良く日向ぼっこしてたんだけど…

 

「もう、話を聞いてよ、たっくんたら」

 

「お前はいつでも俺に愚痴りに来るな、美由希」

 

「クゥン」

 

 神社でのんびりしてたら美由希がやってきて、いつもの愚痴を楽しそうに語り始めた。

 なんでも最近家で飼い始めたフェレットが、飼い主が見つかって帰って行ってしまったんだそうな。

 

 フェレットって、ユーノだよな。

 たぶん闇の書の情報探しに無限書庫に引っ張っていかれたか?

 もしかしなくても俺のせいの可能性が高いけど、まあどうでもいいことだ。

 人間としていつまでもペットとして変われる事に疑問を持たんのだろうか、ユーノは。

 

「せっかくフェレット用のエサとか本とかいろいろ買ったばかりだったのに~」

 

 セーフだったのか、ユーノ?

 それともアウトか。

 さすがに使い魔とかとは違ってペットフードは食べられないだろう。

 いや、食えない事はないだろうけど、腹壊しそうだ。

 ペットフードを前に冷や汗を流すフェレットが思い浮かぶ…

 

「まあ、それでよかったんじゃないか?

 飼い主が見つかったって事だろ(人間の尊厳が保たれただろうし)」

 

「うん、まあね

 飼い主がいるならその人も可愛がってただろうから仕方ないって思うんだけどね

 やっぱり寂しいな~

 久遠、ちょっと慰めて~」

 

「やめい」

 

 俺の傍で丸まってた久遠を抱えようとした美由希の手を叩き落とす。

 久遠の愛らしさでユーノが居なくなった寂しさを紛らわそうという気持ちはわからないでもない。

 だが久遠をユーノの代用品になど勿体無さ過ぎる。

 そこらの野鼠でも追いかけてろってんだ。

 

「そもそも俺と久遠は今忙しいんだ

 とっとと帰ってくんない?」

 

「そんなこと言ったってここでボーっとしてるだけじゃない

 私の話相手くらいになってよ~」

 

 …仕方ない、ちょっとからかう程度に遊んでおこう。

 適当に美由希で遊んでるのも平穏な日常が戻ってきたことを実感出来るしな。

 

「あー…≪君は相変わらずだな、美由太君

 だけど御免ね、今クーちゃんと日向ぼっこ中なんだ≫(大山のぶ代ボイス)」

 

「わっ、たっくんの声がドラ○もんに!?」

 

「最近はわさびもまあいいかなって思ってる

 だけど、のぶ代とは年季が違うよね

 ≪そもそも君って奴はどうしていつも僕に頼るんだい?

 ちゃんと一人でがんばらなくちゃダメじゃないか≫」

 

「アハハハハ、似てる似てる!!」

 

「≪学校でまた嫌な事でもあったのかい?

 またテストで悪い点取っちゃったんだろう

 ちゃんと勉強して宿題もやりなよ≫」

 

「あ、あれ?」

 

「≪またお兄さんに苛められて楽しんでるのかい

 いつもいつも思うけどたまには一人で立ち向かってみたらどうなんだい?

 そんなんじゃ僕がいなくなったらどうするんだよ≫」

 

「これって私が説教されてる?」

 

「≪君はホントにダメな奴だな~≫」

 

「ほっといてよ!!」

 

 ふむ、やはり美由希はこうでなくては。

 ドラ○もんの声で責められたり慰められたりするのは地味に効きそうだ。

 じっくり遊んでみよう。

 

 

 

 

 

 美由希を言葉攻めで遊びまくっていたら、神社の石段を誰かが登って来る気配がした。

 この気ははやてちゃんと守護騎士達かな。

 守護騎士達も魔法プログラム体ではあるけど、食事などを行える事もあって気を感じる事は出来る。

 ただし基本が魔法による魔力で出来てるせいか、普通の人より気が小さくて歪な感じがする。

 

 普通の生き物は魔力は無くても平気だが、気が完全に底を突くと死にかねない。

 だけど守護騎士達は食事をしなくても大丈夫らしいから気を生成する必要もないけど、魔法で構成されてる体だから魔力が完全に尽きることは消滅を意味する。

 

 つまり普通の生物と完全に真逆なんだろう、彼らは。

 もしかしたら練習すれば気を使えるようになるかもしれないな。

 彼らにとって気は食事によって生成される不要な力に過ぎないだろうし。

 

 あーでも、プログラム体だから気を貯蓄する為の器なんて無いか。

 気を生成出来てるのは本来の機能にない副次作用で受け止める為の器が無いから、たぶん生成した直後から霧散してしまっているんだろう。

 だから感じられる気も瞬間生成量とイコールだから少ないし、生成のされ方も本来の機能じゃないから歪に感じるんだろう。

 

 守護騎士達と気の関係の考察を自己完結すると、美由希も石段を登ってくる気配に気づいたみたいだ。

 ふっと何かを感じたような顔をして石段の方を振り返る。

 

「ん~、はやてちゃんが来たかな~?」

 

「≪へえ、美由太君にしてはがんばったじゃないか

 えらいえらい≫」

 

「もう、それやめてよ!!」

 

 まあ十分遊んだし、そろそろこの声やめとくか。

 あまりやりすぎると逆に美由希を甘やかしちゃいそうだし。

 そうこうしている内に石段をはやてちゃんと守護騎士達が上がってきた。

 流石にはやてちゃんはまだ歩けるようにはなってないので、ザフィーラに乗せられて石段を上がってきてた。

 前回は美由希が抱えてここまで来たよ。

 

「こんにちわぁ、拓海君

 やっぱりここやったんか

 あれから家に来てくれへんから気になっとったんよ

 久遠と美由希さんも一緒なんやな」

 

「こんにちわ、はやてちゃん、他の皆も

 漸くやる事やり終わって、俺もなんか気疲れしてたから控えてたんだよ

 そっちの皆も生活に慣れる為にいろいろ準備が必要だったんじゃない?」

 

「まあ、確かに新しく来たリインの洋服やら必要な買い物があって大変やったわ

 けど皆楽しんでるで

 拓海君のおかげや」

 

「それはどうも

 それで今日はどうしたんだ、みんな揃って」

 

「町を皆に案内してるんよ

 これからこの町で生活するんやから良く知っといてもらわんと

 神社の近くに寄ったから、もしかしたら居るかな思うて登ってきたんよ」

 

「なるほどね」

 

 今は守護騎士達の皆も私服姿でゆったりしている。

 リインさんも初め見た黒いタイツのような姿ではなく質素なワンピース姿だった。

 その姿を見ているのに気づかれると少々恥ずかしそうに俯いてた。

 初々しいというかなんというか。

 

 そんな彼らの様子を見てると、その後ろから小さな影が飛び出してきて俺の傍まで寄ってきた。

 八神家に在住中の猫姿のアリアだった。

 どうやら一緒に来てたらしい。

 

『拓海、何ではやての家に来ないのよ』

 

 直後、念話で声をかけてきた。

 普通に話さないのは美由希という知らない人物がいたからだろう。

 まあ久遠が話せるのは知ってるから別にいいんだけどね。

 

『あの子の家じゃ私は余所者なのよ

 居心地が悪くてしょうがないわ』

 

『ああ、なるほどね

 やっぱり彼らとは仲良く出来ない?』

 

『そういう問題じゃないわ

 守護騎士達はどうでもいいけど、はやてには負い目があるのよ

 家族が出来て幸せそうな姿を見るのは私にはちょっと辛くてね』

 

 そう言って俺に寄り添ってくるアリア。

 顔を擦り付けてくる仕草で撫でて欲しがってるのがわかったので、片手でいつも通り撫でてやる。

 もう片方の手は俺の膝の上に乗っている久遠の背中に乗せていた。

 

 当の久遠はこの前の一件でアリアと少々険悪なのか、傍に居るアリアを円らな瞳がちょっと睨んでいるように見える。

 それに気づいたアリアも久遠を睨み返すようにして毛を逆立ててた。

 

『久遠だったわよね

 ちょっとそこ退いてよ

 これまで拓海と一緒にいたんでしょ』

 

『や、ここ久遠の場所

 泥棒猫はどっか行っちゃえ』

 

『ちょ、久遠どこでそんな言葉を!?』

 

『クゥ、美由希のお話』

 

 そういやそうだったー!!

 あれで美由希をからかった時、久遠もいたんだっけー!!

 今後美由希をからかう時は久遠の教育に宜しくない言葉は使わないようにしないと。

 

『いいじゃないのよ、ちょっとくらい!!』

 

『ダーメー!!』

 

 ニャーニャークークーとお互い鳴き始めて一発触発になる。

 こんな近くで暴れられるのは勘弁だから、片手ずつ二匹とも纏めてゴットハンドで撫でて諌める。

 

「ク~ン」「うにゃぁ~」

 

 すると一発触発の気配が消えて、あっという間にリラックスしたような感じになる。

 自分でもやってて少し恐くなるな、この技は。

 まあ、二匹とも可愛いんだからいいんだけどね。

 

「二人とも無理に仲良くしろとは言わないけど喧嘩するなよ

 喧嘩するならもう撫でてやらないぞ」

 

「やだ!!」「それは嫌!!」

 

「じゃあ細かいことで喧嘩するなよ、ほら」

 

 俺は少し久遠を隅に寄せてアリアも一緒に膝の上に乗せてやる。

 二匹くらいならギリギリだけど俺の膝の上にも乗る。

 そしてまた両手で二匹とも撫でてやると、二匹とも気持ち良さそうに丸まって寝転がった。

 やっぱり喧嘩するより仲良くしてるほうがいいな。

 違う毛並みだけど二匹ともモフモフしてて気持ちいい。

 足に感じる二匹の重みも温かみがあって心地よい。

 

「たっくん、その猫ちゃんはどうしたの?

 久遠と同じで喋ってたけど」

 

「にゃ!?」

 

 今更念話をやめて喋ってた事に気づいたアリア。

 撫でられるのを気に入ってくれるのはいいけど迂闊過ぎるぞ。

 

「アリア、別に気にしなくていいぞ

 美由希の言ってる通り久遠が喋れるのを知ってるから、お前が喋っても問題ない」

 

「え、そ、そう?」

 

「アリアって言うんだ、可愛いね

 ほらおいでー」

 

「……(プイッ)」

 

 美由希がアリアに手招きして抱こうとしている。

 だけど美由希を一瞥してアリアは再び俺の膝の上に久遠と一緒に丸まる。

 

「ありゃ?」

 

「美由希に遊ばれる趣味はないそうだ」

 

「そんな~…

 うぅ、誰かユーノが居なくなった悲しみを癒してよー

 いっそユーノもお話出来てお別れを言ってくれたらよかったのに」

 

 お喋り出来るけどな。

 次会った時、ユーノは追求されたりしないかな。

 なのはちゃんが魔法の説明を家族にして、ユーノの存在が明らかになったらどうなることやら。

 

「ところではやてちゃん、そっちの人達は?」

 

「あ、私の新しい家族です

 美由希さん、紹介しますね」

 

 はやてちゃんが守護騎士達を美由希にそれぞれ紹介し始める。

 逆に美由希の事は俺との付き合いで出来た友達だって守護騎士達に言ったら、美由希が何か感動してた。

 美由希、友達が少なかったのか?

 

 順番に名前を教えていって、最後のはやてちゃんが乗っているザフィーラの番が来た。

 ペットポジションであるザフィーラはやっぱり最後だった。

 

「そんでもってこの子がザフィーラや

 私を乗せてもちゃんと歩いてくれるからすごいやろ」

 

「へぇー、おっきな犬だねー

 この子も喋れたりするの?」

 

「喋れるで」

 

「へ?」

 

 美由希も流石にザフィーラまで話が出来るとは思ってなかったようで、ボケッとした声を漏らす。

 ちょっとした暴露にザフィーラ自身慌てたようではやてちゃんに念話で話しかける。 

 

『あ、主、よろしいので?』

 

『かまへんかまへん

 久遠もアリアさんも喋っとるやし今更やろ

 ほら、ザフィーラ挨拶』

 

「む、むぅ…

 ザフィーラだ、よろしく頼む」

 

「ホントに喋ってる…

 最近喋る動物って多いのかな?

 なんだかホントにユーノが喋れてても可笑しくないなー」

 

 ホントに次に美由希がユーノに会った時の反応が楽しみだ。

 

「美由希さん、さっきからユーノって名前がよう出るけど何なん?」

 

「そうだ、聞いてよはやてちゃん!!

 実はね…」

 

 そしてはやてちゃんに先ほどのユーノが居なくなったことの愚痴を語りだす美由希。

 その様子を守護騎士達はただポカンと見つめるばかりで手持ち無沙汰になっている。

 とり合えず話は長くなりそうだから、各々近くで寛いでればと俺は守護騎士達に言っておいた。

 

 

 

 その後は美由希の話をはやてちゃんと話に興味を持ったシャマルさんが聞き役になり、はやてちゃんを背負っているザフィーラは必然的に一緒に聞かされることになってる。

 ヴィータは以前遊んだ傀儡符を持ってないかと聞かれたが、一応作って置いたが今は持ってなかったので、代わりに普通の式神符を渡しておいた。

 使い方を教えたら早速札に魔力を込めて特大サイズの呪いウサギを作って動かし始めた。

 試作品だった傀儡符よりは使いやすいだろうし、術式の書き込みも熟練してたからそこそこ強度もある。

 ヴィータ自身も乗れるようなサイズだったので頭に乗ったり、逆に抱えられたりして遊んでいた。

 

 残りのシグナムさんとリインさんは俺の近くで他の皆の様子を見守っている。

 外見年齢の高い二人は、まるで皆の保護者ポジションだ。

 

「リインさんとはやてちゃんの状態はどうですか?」

 

「私の方は今のところ何も問題ない

 一切蒐集をしていないから大した力は出せないが、我が主はそれを必要とはしていないからな

 主はやての足も病院で検査を受けて、リハビリを行い続ければいずれ歩けるようになると石田先生が言っていた

 突然良くなった事に頭を悩ませていたが、原因である私として非常に申し訳ない」

 

「あまり自分を責めるな、リインフォース

 主はやてに何度も咎められているだろう」

 

「そうだったな、シグナム

 本当に主はやてはお優しい方だ。」

 

「ああ、その通りだな」

 

 どうしよう…こいつら忠誠心が高すぎて話し方が硬い。

 正直聞いていると何処の時代劇の忠臣同士の会話だってんだ。

 いやまあ古くて家臣って意味じゃ間違っちゃいないんだろうけどな。

 

「もうちょっと普通に話したらどうなんだ

 そんなんじゃはやてちゃんも堅苦し過ぎるってその内言うんじゃないか?」

 

「…すまない、もう告げられてしまった」

 

「我らも出来る限り主の願いに応えようと思っているのだが、普通に話すというのが良く判らないんだ

 古くから騎士として戦ってきたせいなのだろうか」

 

「だけど、ヴィータ達は平然と話してるように見えるけど?」

 

 視線の先には、美由希が話すだけでなくはやてちゃんやシャマルさんも世話話を始めて、そこへ特大呪いウサギに乗ったヴィータがはやてちゃんの名を呼びながらやってきて、その状況でもなおはやてちゃんの足代わりであろうという忠犬振りを示しながら黙っているザフィーラがいた。

 

「ザフィーラはともかくヴィータとシャマルさんは随分自然とはやてちゃんに付き合ってるけど?」

 

「…私達がおかしいんだろうか?」

 

「同じ守護騎士の筈なのだがな…」

 

 他の面々と比べられて落ち込む二人。

 騎士としては十二分に立派な性格なんだろうけどな

 

「はやてちゃんは自分に仕えるよりも、二人に何か楽しみを見つけて欲しいんだと思う

 何か好きな事ややりたい事を自由にやればいいんじゃないか?」

 

「主はやてにも同じ様な事を言われてしまったのだが」

 

「主に仕えることこそが我らの存在意義だったから、他に何かやりたい事など考えたこともない」

 

 ダメだ、こいつら筋金入りだ…

 はやてちゃんも案外この二人の性格に少し苦労してるんじゃないか?

 後で聞いたら、その通りでもうちょっと何とかならんかな~って相談されたよ。

 

「私に出来ることは剣を振るうことだけなのでな

 …そうだ、拓海

 よければ一戦「却下」……そうか」

 

「私は自由に行動できる事自体が無かったから、本当にどうしていいのかわからない

 ただ…」

 

「ただ?」

 

 リインさんは楽しそうに会話をしているはやてちゃんを見ながら、嬉しそうに薄っすらと微笑む。

 そんな様子の横顔を見て、俺は少しだけ見惚れてしまった。

 

「もう壊さなくて済む、この平和な日常を私は楽しいと感じている

 私のしたかった事はきっとこんな日々を送る事だったんだと思う

 主と騎士達が笑い合える光景を見続けられるだけでもう一杯なんだ

 これ以上、今は何も望めない」

 

「…そっか、ならそれでいいんじゃないか?

 無理に探したってはやてちゃんの願いに応えるだけになる

 はやてちゃんと一緒に過ごしてれば何かしたい事、自分に出来る事が見つかるさ」

 

「……そうか」

 

「自分に出来ることか…」

 

 

 

 後日聞いた話によると、シグナムさんは近くの剣道場で非常勤講師をしてみることになる。

 リインさんはシグナムさんの話を聞いて、自分もどこかで働けないかとアルバイトを探してみることにするそうだ。

 はやてちゃんにいろいろ買ってもらってるからせめてもの恩返しだそうな。

 二人とも少しずつではあるがはやてちゃんとの生活で新しい自分を見つけ始めていた。

 

 

 

 

 

 



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第三十四話 八神家の日々1

 

 

 

 

 

 数日の休みを空けて、再びやってきた八神家での事。

 俺がやってくると直ぐに猫姿のアリアが飛びついてくるのはいつもの事。

 俺の頭に久遠が乗っているけど、前回の一件で喧嘩するのはやめたらしくお互い黙ったままだった。

 

「拓海君が来るとアリアの様子が面白いように変わるわぁ

 いつもは私らから距離置いてご飯も別で食べとるんや

 一緒に食べたいんやけどな」

 

「私はあなた達と馴れ合う気はないの

 父さまの指示じゃなかったら拓海の所にでも転がり込んでるわ」

 

 うちは一応ペット禁止って事はないから問題なんだけど、喋れる猫が来たって言ったら母さん達どう思うだろうか。

 驚くか呆れられるかのどっちかだろうな。

 

「流石に行き成り俺の家に来られると困るんだけど」

 

「物の例えよ

 もういっその事、外で生活しようかしら」

 

「外じゃおいしいモン食べられんで」

 

「保健所の人とか注意しないとな」

 

「…おとなしくここに居るわ」

 

 それが賢明だ。

 

 

 

 

 

 俺は今シャマルさんと話をしている。

 以前考えていた魔法についての事を教えてもらっていた。

 とはいえ俺は基本的な何も知らないから、ホントに基本的なことから教わってる。

 

「大体こんな感じですね」

 

「んーどっか見覚えのある様な無いような感じだな」

 

「拓海君とシャマル、二人で何しとるん?」

 

「これ」

 

 俺はシャマルさんに書いてもらった紙を見せる。

 

「えーとなんや、この文字っぽいの」

 

「ベルカ語らしい

 ベルカ式の魔法を学んでみたかったから、まずはベルカ語を教えてもらおうと思って

 それでまず文字だけを並べて書いてもらった」

 

「ふーん…拓海君、シャマルに魔法教わるんか?」

 

「本来でしたらデバイスがあれば簡単な魔法なら直ぐに使えるんですけど、私達は余分に持ってたりしないので

 少しくらいなら貸してあげても構わないんですけど」

 

「デバイスって魔導師にとって重要な物なんだからいいって断った

 それに術式そのものをしっかり理解したいから言語から教えて貰う事にした」

 

 能力のおかげで覚えたりするのが早いし、文字だけなら直ぐ覚えられる。

 言語を覚えるのはもっとかかるだろうけど、無駄にはならないだろう。

 

「そうなんか、なんか大変そうやな」

 

「はやてちゃんもその内他人事じゃなくなるんじゃないか?」

 

「へ?」

 

 その内、グレアムさんの紹介で聖王協会に行って、夜天の書の所有者として名前を連ねる事になるだろう。

 まだ子供なんだから名前だけでも問題ないだろうけど、いずれ何かしらの役職に付く事になるかもしれない。

 だからベルカの最低限の知識を持っておかないといけなくなるかも知れない。

 

「じゃあ、私もベルカ語覚えたほうがええんかな?」

 

「どうだろ?

 今の内は話が来るまで特にする必要は無いと思うよ

 慌ててなきゃいけないわけじゃないだろうから」

 

「はやてちゃんはリインがいれば魔法も使えますので大丈夫ですよ」

 

 今ははやてちゃんがやるべき事は足を早く治す事だろうし。

 

「んー……やっぱり私も教えてもらうわ

 勉強が嫌いなわけやないし、皆の主として皆の言葉くらい知っときたいしな」

 

「じゃあ、聞いてみる?

 シャマルさん」

 

「?」

 

「判りました、じゃあ…

 ~~~~~~~~~~~」

 

「シャ、シャマルがなんだか良くわからない言葉を!?」

 

 翻訳魔法切って話し始めただけだ。

 そうでなきゃ初めから日本語で話が出来るはずがない。

 

「シャマル達って今更やけど、外人さんやったんやな」

 

「それどころか異世界人だろ」

 

 むしろ人ではなく魔法プログラムだという話。

 見た目よりも言語の差がお互いの違いをハッキリと感じさせた。

 言葉の壁は思った以上に厚いのだと再認識、翻訳魔法が便利すぎるのだとわかった。

 今後はやてちゃんもベルカ語を学ぶ事を決意する。

 

「拓海君より先にバイリンガルになったるからな」

 

 能力がある分負ける気がしないが、あっても負けたら居た堪れないので俺も本気で頑張ることにしよう。

 ああ、あとアリアにその内ミッド語を教えてとも言っておいた。

 二つ同時に覚える自信はないが、早めに頼んでおいても問題ないだろう。

 

 

 

 

 

「なあなあ、拓海君

 式神って最近ヴィータがよう遊んどるけど、私にも使えるんか?」

 

「ん、知らなかったっけ?

 魔力でも気でも霊力でもいいから、使える人には式神符は使えるよ」

 

 最近俺の式神符はヴィータの遊び道具になってる。

 動きは俺ほど洗礼されてないけど、人形扱いで歩かせたりのったりして遊んでいる。

 ただイメージを浮かべて式神を形作るのが苦手らしくて、サイズは違えど呪いウサギしか作り出せていないんだがな。

 

「そやけど私、まだ魔法すら一度も使ったことないで

 念話ってやつくらいやったら出来るんやけどなー」

 

「そういや日常生活には必要ないもんなー」

 

 俺も技とか考えても日常生活で役立つようなのは殆どない。

 物の持ち運びとかは身体強化でどうにかなるし、怪我しなけりゃ治癒魔法も必要ない。

 

「けど、空とか飛んでみたくないか?」

 

「あ、それはやってみたいわ」

 

「俺も以前は空飛んでみたくて我武者羅に頑張ったことがあるし」

 

 それほど昔じゃないような気がするけど、一年以上は頑張ってたんだよな。

 発想の転換であっさり出来るようになったけど、見つかってちょっと焦ったのもいい思い出だ。

 

「リインさんってユニゾンしてはやてちゃんの補佐をする能力があるんでしょ

 それではやてちゃんを飛ばしたり、魔力の使い方を教えて上げられない?」

 

「可能です」

 

「じゃあリイン、お願いしてええか?」

 

「かしこまりました

 では…ユニゾンイン」

 

 リインさんが魔力の光になってはやてちゃんの中に入っていく。

 するとユニゾンした証としてはやてちゃんの髪と瞳の色が変化した。

 はやてちゃんはパタパタと自分の体に触れて変化を確認している。

 

「リインと一緒になった感じはしたんやけど、なんか変わったんやろうか?」

 

「髪と瞳の色が変わってるよ」

 

「え、ほんま!?」

 

「はやてちゃん、鏡です」

 

 気を利かせて準備したシャマルさんがはやてちゃんに鏡を渡す。

 

「おーほんまに髪と瞳の色が変わっとる

 拓海君、私が不良になった感じせえへん?」

 

「しないしない」

 

 髪を染めるとかは俺も以前は良い印象なかったけど、最近は茶髪くらいなら普通に染めてる人多いしな。

 俺は染めたりはせずに自然な黒髪派だよ。

 自分が染めたりするのが好きじゃないだけだから、他の人は別にどうでも良い。

 というか、はやてちゃんはもともと茶髪だし。

 

「じゃあ早速飛行魔法でも使ってみたら

 家の中だから勢いが付かないように、リインさんがその辺りの調整出来る?」

 

『大丈夫、それくらいの調整は容易だ

 主はやて、飛行魔法はこのようにお願いします』

 

「えっと、こうやな

 『スレイプニール、羽ばたいて』」

 

 はやてちゃんが短いながらも詠唱を行うと、その背中に黒い三対の羽が現れた。

 

「おお、羽が生えよった」

 

『実物ではなく魔法による物です

 これで我が主の意思で自由に飛べます』

 

「そなんか?

 ん…おー、ホントに浮んだわ」

 

 車椅子から浮かび上がってふわふわと空中を遊泳している。

 部屋の中を楽しそうに飛んでいるのと、狭い部屋だからかだんだん危なっかしくなってきた。

 

「主はやて、少々落ち着いてください

 あまり速く動かれると怪我をしてしまいますよ」

 

「ええやないの別に」

 

「魔法を初めて使ったばかりで無茶しないでください

 いくらリインが制御してくれていると言っても我等が心配します」

 

「しゃあないなー

 足は動かんでも自由に動き回れるのが楽しうてな

 やけどもうちょっとこのままでええか、リイン」

 

『はい、大丈夫です

 融合状態も安定していますので』

 

 まあはやてちゃんにとっては車椅子の生活が当たり前だったから、自由に飛べるならその便利さが良く感じられるんだろう。

 俺のときとは違った感動のしかただな。

 

 

 

「浮んでたら忘れとった

 拓海君の式神を使ってみたかったんや」

 

「そういやそうだった

 魔力の出し方はわかった?」

 

「なんとなくやけどな

 出したい物はイメージするだけでええんやったね」

 

 式神符を一枚はやてちゃんに渡すと、両手で持ちながら眼を瞑ってしっかりとイメージをしている。

 札に魔力が篭って書かれた術式が魔力光で輝くと音を鳴らして式神が現れた。

 

「おお、成功やな」

 

「何を出すかと思ったらはやてちゃん自身か」

 

 現れたのはまるで同じ姿のはやてちゃん自身。

 ただし式神の方はちゃんと両足で立っている。

 

「私自身が立てへんのに作りモンの私の方が立てるってのはなんか納得いかんなー」

 

「自分で作っておいてそう言うか?」

 

「そうなんやけど実際見てみると複雑や

 立てるようになった自分と思えば感慨深くも感じられそうやけどな

 ところでこの私って何が出来るんやろう?」

 

「≪何でも出来るでー≫」

 

「うお、喋りよった!!」

 

 はやてちゃんが質問に答えた式神はやてが喋った事で驚く。

 様子を見ていた皆も、さすがに喋った事には驚いていた。

 

「質がだいぶ上がったから作り出した式神のイメージ対象次第で喋る事も出来るよ

 まあ命令しなければ基本何もしないけど、一度命令すればある程度自動で判断してやってくれる。」

 

「そうなんか

 じゃあもう一人の私、お昼ご飯食べた後のお皿洗いと夕飯のしたくやれる?」

 

「≪お安い御用や≫」

 

 命令を受け取った式神はやてが台所に行って、独りでに食器洗いを始める。

 知識は作った術者基準で物事を判断するから、術者に出来ない事は出来ないけど手が足りない時はとても役立つ。

 

「おー、ほんまにちゃんと洗ってくれとる」

 

「はやてちゃんが自分をイメージして作った式神だから、能力や判断もはやてちゃん基準で行動出来るよ」

 

「便利なモンやな

 もう一人の自分がいてくれるなんて、まるで分身の術や」

 

「そうだな……ん?」

 

 分身の術と言われてふと思った。

 俺ってこれまでいろんな式神を出した事があったけど、自分自身の姿をした式神は美由希との手合わせで変わり身の術でしか出した事なかった。

 大して強度がないし自分自身を相手に手合わせとか、防御の練習に攻撃させても大した威力を持ってなかったからだ。

 使えないと思ってたけど最近は性能が上がってそこそこ使えるようになった。

 もしかしたら…

 

「はやてちゃん、ちょっと庭借りるよ」

 

「え、どうしたん?」

 

 ちゃんとした返事も聞かずに窓から庭に出ると、持ってた式神符に気で自分自身の式神を作った。

 一体作ってはちょっと考え込んで、再び自分自身の式神を気を札に込めて作る。

 二回だけでなく何度も式神が気に力を消費して作られるのを感覚で感じ取る。

 その様子をはやてちゃん達も窓の前から見ていた。

 

「一体どうしたの言うのだ?

 突然庭に出たと思えば、自分と同じ式神ばかり作り出して」

 

「はやてちゃんの言葉がちょっとヒントになってね

 気ってのは術式とかにはあまり向いてなくて、感覚で技を作ったり操作したりするのが向いてるみたいなんだ

 だから俺は気を使った技を感覚でいろいろ編み出してるんだけど、前々から使ってみたい技があった

 ただどうしたらいいかわかんなかったんだけど、式神を気で作ることでなんとなくわかった

 これなら…」

 

 シグナムさんの問いに答えると、今度は気は式神符に込めるのではなく両手を合わせて、そこに気を溜めていく。

 そして何度も気で自分自身の式神を作り出した感覚を込めながら両手の気を前に放つ。

 

 

-ボンッ!!-

 

 

 すると放たれた気が式神が現れる時に出る音と同じ音を出して煙を生み出す。

 直ぐに煙が晴れるとそこには俺自身の分身が出来ていた。

 

「おし、分身の術成功!!」

 

「え、式神とちゃうの?」

 

「札は使ってなかっただろ?

 まあ同じ理論で作ったから大した違いはないんだろうけど

 これは札を使わずに気だけで形作ったから分身でいいと思う」

 

 

 

 その後何度も分身を作ってみたり動かしてみたら、式神で作るより強度があることがわかった。

 式神は札を基点にしてるけど分身はそういうのがないから、込めた気の量次第で持続時間も強さも自在に変わる。

 代わりに視覚共有とかは出来なくなっていて、偵察とかには使えなさそうだ。

 

 それに札を使わずに他の姿の分身を作れないかと思ったけど、なんだか良く判らない物が出来たので無理だとわかった。

 自分自身の生み出した気を使ってるから、自分の姿にしか出来ないらしい。

 式神なら自由な姿を作れるから、変化の術にならないかとも思ったけど、そこまでうまくはいかなかった。

 だけど久しぶりの真新しい技の開発が出来た。

 次は何をやってみるかなー。

 

 

 

 

 

●ベルカ語習得中

●分身の術習得



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第三十五話 八神家の日々2

 

 

 

 

 

 本日も八神家にてシャマルさんの魔法講習会続編。

 お題目は【ベルカ式魔法陣を書いてみよう】

 まずは実際に画用紙に大きく書いて、その上を魔力でなぞって魔法陣を形成する。

 俺はそれを何度も繰り返して、なぞらなくても自然に魔法陣が展開出来るように感覚で覚えこむ。

 はやてちゃんもリインさんがいるから魔法を使ってれば自然に覚えるけど、勉強の為にと俺の様子を見ていた。

 

「なかなか形が安定しない」

 

「ですけど、初日からデバイスを介さずに魔法陣を展開出来るのは凄いですよ

 基本的な術式もほぼ間違いなく書き込まれてますので、もう少し頑張れば簡単な魔法くらいは出来ると思いますよ」

 

 やっぱり『努力すれば(略』が効いているらしく習得が早いみたいだ。

 今俺が作り出してる魔法陣は確かに形には成ってるけど、どことなく文字が歪んでたりして形が安定してない。

 しかもじっくりと集中して維持し続けているので、他のことをする余裕があまりない。

 これじゃあ発動した魔法を制御する事もできないだろう。

 

 シャマルさんに教わったが次元世界のミッド式やベルカ式の魔法は、魔法陣とそこに書き込まれている基本術式をベースに発動する。

 魔法陣に書き込まれている基本術式に使用したい魔法の術式を繋げる事で、使用したい魔法の発動が可能となる。

 なのはちゃんがディバインバスターを使う時に魔法陣以外にレイジングハートの周りに付く円環の術式も繋げる術式の一部だ。

 念話などの簡単な魔法であれば魔法陣すら必要ないが、強力な魔法であれば魔力量に耐える為や術式の膨大さから魔法陣自体が大きくなる。

 ともかく魔法陣が展開できて漸く初心者というところだろう。

 

「魔力ってみんな色がちがうんやな

 拓海君は私と同じ白やし」

 

「そうえばはやてちゃんも白だっけ」

 

「おそろいやな

 皆は何色やったっけ」

 

「私は紫です」

 

「あたしは紅色だな」

 

「私は緑色ですね」

 

「私は主と似ていますが少々青みが掛かった白です」

 

「私はシグナムよりも濃い紫色です」

 

「私は一応青よ」

 

「こんだけ魔法が使える人がおると結構色が被るんやな」

 

 まあ魔力光に資質の違いは現れないらしいから、ただの個性の違いなんだろうけどね。

 魔法陣を維持しながらそんな事を考えられるようになってきたのは、少しは慣れて余裕が出てきたからか。

 この調子ならホントに二・三日で簡単に出せるようになりそうだ。

 

「けど拓海、あなた古代ベルカ式を正式に学ぶつもりなの?

 昔はベルカ式も栄えてたけど、今はミッド式が主流でそんなに使い手がいないわ

 だから古代ベルカ式デバイスってなかなか手に入らないし、術式とかもそんなにないはずよ

 それにミッド式も勉強してみたいって言ってたけど、魔法系統は一つに絞ったほうがいいわ

 最近はミッド式でエミュレートした近代ベルカ式ってのもあるらしいんだけどね」

 

 古代ベルカ式の魔法を学んでいる俺にアリアが忠告してくれる。

 確かにアニメでも両方の術式を使いこなしてるなんて、蒐集をして暴走した闇の書時のリインさんくらいしかいなかなかった。

 両方の術式を学ぶというのはまあやっぱりいろいろ無駄が多いんだろう。

 

「どっちかが好みだから優先して学びたいって訳じゃないんだ

 本格的に極めるくらい学ぶかどうかはまだ決めてないけど、とりあえず初歩の魔法が使えるくらいにはなりたいと思ってる

 使っていて気に入ったなら本格的に学ぶかもしれないけど、今はほどほどでいいよ」

 

「それは残念だ

 拓海なら良い騎士に成れそうだというのに」

 

「…やっぱりベルカ式はいいかな

 俺に騎士って向きそうに無いし」

 

「な!?」

 

 シグナムさんに指摘されて、ベルカ式の使い手は騎士って呼ばれるのをすっかり忘れてた。

 騎士には強さとか高潔さとかの憧れはないこともないけど、だからこそ俺には騎士とか立派な役職は勤まらないと思う。

 立派な騎士を名乗ってる人たちに失礼だと思うし。

 

「別にいいんじゃねえか?

 細かい事気にしなくても」

 

「そうですよ

 拓海君なら立派な騎士になれます」

 

「そうやで、シグナムとリインはともかく他の皆はそんなに騎士っぽくないしなー」

 

「「え?」」「むぅ」

 

 はやてちゃんの言葉にヴィータとシャマルさん、そしてザフィーラが声を漏らす。

 逆にシグナムさんとリインさんは少しだけ機嫌が良くなった感じがした。

 

「は、はやて!! アタシ、はやての騎士らしくないか!?」

 

「はやてちゃん、私に何か至らないところが!?」

 

「主、我は…」

 

 ヴィータとシャマルさんが慌ててはやてちゃんに尋ねて、ザフィーラもそれほどではないが少し気にしている。

 

「ああ、そやない

 皆が悪いわけやあらへんよ

 ヴィータは可愛い妹みたいやし、シャマルは良く家事の手伝いもしてくれる(よく失敗もするけど)

 ザフィーラは……そのままでええと思うよ」

 

「そ、そうか//////」

 

「よかった、お役に立ててたんですね(失敗しすぎちゃったかと)」

 

「心得ております」

 

 ヴィータは少してれながら納得して、シャマルさんはほっと安心した。

 ザフィーラははやてちゃんが初めからどう思ってるのか察していたのか落ち着いていた。

 まあ、ペットポジションだという事に本人が納得してるならそれでいいんだろうけど。

 

「んんっ、まあ、なんだ…

 我らと同じベルカ式を学ぶというなら私も手を貸そう

 お前には主と我等を救ってもらった借りがあるのだからな」

 

「シグナムのいうとおりだ

 私は仮にも魔導の本

 知識については自信がある

 主はやてと同じようにとはいかないが、必要ならば知識を授けよう

 遠慮なく言ってくれ」

 

「そんなに気負わなくてもいいんだけど

 ベルカ式を学びたいと思ったのは好奇心からなんだ

 闇の書の一件も借りとか思われると気が滅入る」

 

 ほっといたら不味そうで、自分に何とか出来そうな感じがしたから手を出しただけ。

 感謝よりも被害を被りたくないと思ってやったことだから、あまり気にされ続けると少々困る。

 

「私も皆も拓海君には感謝しとるんやで

 だからなんか恩返ししたいと思っとるから、貰えるもんはありがたく受け取っとき」

 

「んー、まあはやてちゃんがそういうなら…

 だけどはやてちゃんってやっぱり図太いよね」

 

「図太いっていうなや!!」

 

 後日からはシャマルさんだけじゃなくて、守護騎士の皆が魔法についていろいろ教えてくれる事になった。

 補助と防御が興味があるからシャマルさんとザフィーラ、全般に知識のあるリインさんと万能型なヴィータの順で学ぶ物があり、シグナムさんが一番教える物がなかった。

 なので今度剣道場の講師を務める予行練習を含めて剣の指南をしようと張り切られるのは想像してなかった。

 

 

 

 ベルカ式の魔法陣の展開→維持→消去→再び展開を繰り返してだいぶ扱いを覚えてきた頃、霊力でもしかしたら陣を書けないかと考えた。

 試しにまずは魔力+霊力でベルカ式魔法陣を展開してみると、特に何事もなく展開出来た。

 ただし魔力だけの時より魔力光がより一層輝きを増した感じになった。

 

「あれ、拓海君何かしましたか?

 拓海君から出る魔力の質が変わった感じがするんですけど」

 

「試しに霊力と混ぜて出してみたんだけど、特に問題無く出せるみたいだ」

 

「霊力と混ぜて使うとどうなるのだ?」

 

「さあ? 俺まだ魔法自体は使えないからなんとも

 使えるようになったらいろいろ試してみるさ

 それじゃ次」

 

 魔力+霊力の魔法陣を消すと、今度は霊力だけでの魔法陣を展開を試みる。

 描く感覚は同じだから、魔力から霊力に切り替えてもちゃんと展開出来た。

 ちなみに霊力は薄く青白い色で光っている。

 

「こっちも成功か」

 

「? 何が成功なんだ?」

 

「なにって、これ」

 

「何もあらへんよ」

 

「え? ああ、霊力だから見えないのか」

 

 霊力は魔力や気よりも存在を感じ取るのが難しい。

 なんとなくで感じ取れない事もないけど、実体への影響が少ない分かなり密度を上げないと普通の人には見えない。

 なので魔法陣に込める霊力を最大にしてみる。

 

「んぐぐ…これで、見えるようになった?」

 

「あ、ぼんやりと見えるようになってきたで」

 

「やはり魔力とは違う物なのだな

 ベルカ式の陣が描かれていたのにも気づかなかった」

 

「というか、霊力でベルカ式の魔法陣も展開出来るんですね」

 

「霊力から魔力に切り替えただけで簡単に出来た

 術が使えるかどうかはまた今度だな

 で、本題はこれから」

 

『?』

 

 みんなは俺が何をやろうとしているのかさっぱりの様子。

 だけどこれが成功すれば術に新たな可能性が開ける。

 ちょっとだけわくわくしながら霊力によるベルカ式魔法陣を消して、新たに出す霊力を手に溜める。

 他の皆にも見えるように霊力量は出来るだけ多めにして、ベルカ式とは別の紋様を出した。

 

「これが何かわかる?」

 

「えーとなんやったっけ?」

 

「私も見覚えがあります

 たしかごく最近で…」

 

「あ、それって式神を作る札の模様じゃねえか」

 

「ヴィータ、正解」

 

 俺が出したのは式神の札に書き込む術式の内容。

 ヴィータからすれば唯の模様にしか見えないけど、一応文字なんだよな。

 昔の文字は達筆すぎて、現代人には殆ど読めないよ。

 式神や陰陽術の本の一部がこういう字だったから読むの苦労した。

 今はだいぶ慣れたから別の本でもそこそこ読めるだろうけど。

 

「霊力で魔法陣形作れるなら、式神の術式でも形作れると思った

 問題は発動するか……よし、これでいこう」

 

 何を出そうか考えて、ふとザフィーラが眼に入り思いついた。

 俺は展開している式神の術式の紋様に生み出す物のイメージと発動を命じる。

 

 

-ボオンッ!!-

 

 

 発動には成功して周囲に煙が発生する。

 ちょっと大き目の物をイメージしたので、その分煙の量も多かったようだ。

 

「凄い煙の量や」

 

「拓海、周りが見えんぞ

 こうなるなら先に言っておけ」

 

「ごめんごめん

 じゃあ、出て来たものにも驚かないようにしといて」

 

「なに?」

 

 だんだんと煙が晴れてくると俺の作り出した式神が姿を現す。

 そこには白い毛並みと口角から見せる牙、二本の尻尾。

 そして五メートルを優に越える巨体を持った犬が横たわっていた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「でっけー犬だな」

 

「も、モロや!! モロの君や!!」

 

「モロ、ですか?」

 

 俺が出してみたのは式神はもののけ姫に出てくる山犬の長、モロの君だ。

 はやてちゃんはジブリアニメの有名度とリアル差に直ぐに気づいたが、作品自体知らない皆は式神と知っていてもその巨体に少し警戒していた。

 

 式神符で出せる式神の最大の大きさは3mくらいだ。

 それ以上は素材の紙が持たなくて弾け飛んでしまう。

 ヴィータが出してた特大呪いウサギが限界サイズだ。

 

 だけど今やったのは紙に書かずに術式を魔法陣のように宙に描いて発動させた。

 その御蔭で術式の容量に理論上限界はない。

 もしかしたら数十m級の怪獣のような物も作れるようになるかもしれない。

 そう考えるとわくわくが止まらない。

 こういうことが出来るから不思議な力に興味が尽きないんだ。

 

 せっかくなので式神に思念を送ってモロを演じる事を命令させる。

 その辺りのイメージも纏めて作るときに収まってるからそれくらいは簡単だ。

 

『いかにも私がモロだ』

 

「おおー、しゃべった!!

 しかも声がちゃんと美輪さんや!!」

 

「なんと貫禄のある声」

 

「なんだかひれ伏したくなっちゃいます」

 

 俺のイメージが反映されているとはいえ、実際そんなことは無いと思うんだが…

 声優さんのキャラのイメージを生み出す声には感服する。

 あれ? 美輪さんって声優じゃなくて俳優だったっけ。

 

「だけど思ったよりも大きく作っちゃった

 シャマルさん、悪いんだけどまた結界張ってくれません?」

 

「わかりました」

 

 モロの大きさはしゃがんでても塀を越えて見えてしまいそうなほど大きい。

 これを見られると少々騒ぎになりそうなので結界を頼んだ。

 シャマルさんはあっという間に結界を展開して、周囲の空の色が変わった。

 

「なあなあ、拓海君

 モロの背中に乗ってええか?」

 

「作った感じからかなり強度がありそうだから全然大丈夫だよ

 この大きさなら何人も乗れそうだし」

 

「よっしゃ、シグナム、リイン手伝って!!

 ヴィータも一緒においで!!」

 

「は、はい!!」「わ、わかりました!!」

 

「あたしもいいのか、はやて!!」

 

「もちろんや、一緒に乗ろう」

 

「おう!!」

 

 シグナムさんとリインさんの二人ではやてちゃんをモロの背中に押し上げ、ヴィータはさっさと飛び乗ってはやてちゃんを上から引っ張り上げる。

 二人が乗るとモロを立ち上がらせて少し歩かせた。

 

「おお、やっぱり大きいからけっこう揺れるんやな」

 

「だけどなんかスゲー

 でっかいから見晴らしいいし」

 

「視点がザフィーラ乗った時より高いから、歩くと自分が大きくなった感じがするわ」

 

「む、むぅ…」

 

 はやてちゃんとヴィータは庭を歩き回るモロの上で楽しそうにしている。

 話題にザフィーラの名前が出てきたら本人が少し唸った。

 

「ふふふ、大丈夫ですよ、ザフィーラ」

 

「な、何を言っておるのだ、シャマル」

 

 動揺するザフィーラを気遣うシャマルさん。

 いくらザフィーラより大きい犬でも式神だから、八神家のペットポジションは変わらんよ。

 

「拓海、外まで行って走っていいか?」

 

「庭ん中だけじゃ狭くてちょっと退屈やわ」

 

「だけど結界は家の周りにしか張ってないよ」

 

「シャマル、結界ってもっと大きく出来へん?」

 

「出来ますよ」

 

「ほんならおもいっきり大きくして!!」

 

「判りましたー」

 

 はやてちゃんの願いに応えて、シャマルさんが結界の範囲を一気に拡大する。

 結界の隅が一気に遠くなっていって、町全体を超えて広がっていった。

 

「これなら街中おもいっきり走れるな、はやて」

 

「そやな

 ほんならモロさん、お願いします」

 

『仕方が無いな』

 

「ちょっと待った、行くなら俺も行く

 久遠、アリアもおいで」

 

「クォン」

 

「しょうがないわね」

 

 せっかくだから俺もモロに乗ってみたい。

 猫と子狐サイズなら一緒でも問題ないから、二人を抱えて俺もモロに跨った。

 前から順番にヴィータ、はやてちゃん、俺が乗っている。

 走るならはやてちゃんが落ちないように俺が後ろから支える形だ。

 久遠とアリアは俺の肩に乗っかっている。

 

「ヴィータ、はやてちゃんが落ちないように気をつけてやれよ

 はやてちゃんもちゃんと気をつけてね」

 

「わかってるよ」

 

「了解や!!」

 

「じゃあモロ、頼むぞ」

 

『判った』

 

 準備が整うとモロは一足で塀を飛び越えて外の道に出てゆっくりと走り出した。

 シグナムさんとリインさんが飛んで直ぐに追ってくる。

 

「はやてちゃんに置いて行かれちゃったわね、ザフィーラ

 よかったら私がはやてちゃんの変わりに乗ってあげましょうか?」

 

「……シャマルは俺には重過ぎる

 追いかけるぞ」

 

「な!? 私は重くなんか無いですよ!!」

 

 二人から一足遅れて、ザフィーラとシャマルさんも俺たちを飛んで追いかけてきた。

 

 

 

 モロに命じて出来る限り揺らさないようにゆったりとした速度で走らせる。

 だけどそれはモロの感覚を基準にしたもので、乗っている俺たちには結構な速さと揺れだった。

 それでも恐いというわけではなく乗っている俺たちは楽しんでいた。

 

「アハハハハ!! よっしゃ行けー!!

 もっと早くー!!」

 

「ヴィータ、おもろいけど私にはこれくらいが限界や

 これ以上速いと掴まりきれんで落ちてまう」

 

「あ、ごめん」

 

「大丈夫や、もっとしっかり掴まらせて貰うで、ヴィータ」

 

「ああ、しっかり捕まってろよ、はやて」

 

「ここまで大きいと思ったより揺れるな

 久遠とアリアも大丈夫か?」

 

「クゥ、大丈夫、面白い」

 

「これくらいで振り落とされるほどやわじゃないわ」

 

 はやてちゃんは足がまだろくに動かないから、下半身で踏ん張りきれない。

 なのでヴィータに抱きついて体を支えてる状態だ。

 俺も後ろから支えてるが走る勢いで落ちてしまったら十分怪我をする速度だ。

 いっそリインさんとユニゾンしといてもらったらよかったか。

 

 久遠とアリアは俺の肩に捕まってるだけだけど平気そう。

 軽く俺が痛くない程度に爪を立てて捕まってるからかな。

 久遠はちゃんと楽しんでくれてるけど、アリアはどうなんだろう?

 ついてきてくれる分、付き合いはいいんだろうな。

 

 

 

 街中を一通り走り回って十分楽しんだと判断したらそろそろ戻る事にした。

 式神のサイズが大きい分、普通の式神を使うより少々負担を感じた。

 まだ数体出せるほど十分余裕あるけど、今度いろいろ検証しておこう。

 

「はやてちゃん、ヴィータ

 そろそろ戻るよ」

 

「えー、もう戻るんか?」

 

「もうちょっといいだろ」

 

「感覚ではまだ十分大丈夫だと思うけど、皆は飛んで追いかけてきてるんだ

 程々にしとかないと」

 

 それほど速く走っていないとはいえ、人が走って追いかけるには少々速すぎる。

 なので追ってきてる皆はザフィーラを含めて飛行魔法でついてきていた。

 

「それもそうやな

 戻ろう、ヴィータ」

 

「むぅ、しょうがねーな」

 

 返事を聞くと式神に指示を出して八神家のほうへ戻っていく。

 八神家に戻ってから式神と結界を消そうと思ってた。

 そこへシャマルさんが俺たちに追いついてきた。

 

「ちょっと待って、みんな

 誰かがこっちに向かってきてる」

 

 式神を立ち止まらせて他の皆を見回すと空を見上げて警戒していた。

 

「誰かって、誰やろ?」

 

「はやて、ここはあたし達の結界の中だぜ

 普通の人間は入れねえよ

 間違いなく魔導師だ」

 

「魔導師……あ、忘れてた」

 

 そうしている内に空から、一人の魔導師が降りてきた。

 町中に結界を張ったから町にいる魔導師なら気づく。

 今俺たち以外にいる唯一の魔導師。

 

「あのー、すいません

 何してるんですかー…って、にゃあああ!!

 おっきな白い犬!? モロなの!?」

 

 高町なのはが飛んできてしまいました。

 こんな形で会うとは予想外だ。

 

 

 

 

 

●ベルカ式魔法陣形成成功

●魔法陣応用による式神作成成功



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第三十六話 八神家の日々3

 

 

 

 

 

 なのはちゃんと遭遇して、とりあえず全員で八神家に帰還。

 改めて全員で自己紹介することになった。

 

「改めまして、高町なのはです」

 

「これはおおきに、八神はやてです

 こっちは私の家族のヴィータや」

 

「…よろしく」

 

 突然現れたなのはちゃんに少々警戒気味のヴィータ。

 皆は大人しく一緒に来てくれたからもうそれほど警戒しておらず、様子見といった感じ。

 そこへシグナムさんがこっちにやってきて耳打ちしてきた。

 

「拓海よ、あの少女はお前の知り合いか?」

 

「俺は知ってるけど、向こうは覚えてるかどうかは知らない

 シグナムさん達が目覚める少し前に、この近くで別のロストロギア事件があったんだ

 あの子はその時管理局に協力した民間協力者」

 

「なるほど、信用は出来るのか?」

 

「何の問題もないよ

 あの子もこの世界の住人で、魔法を知ったのもその事件が切欠

 資質はともかく知識は俺とそう変わんないと思う

 魔法戦なら皆にちょっと劣るくらいじゃないかな」

 

「何、それほどの力を持っているのか」

 

「たぶんね

 だけど、それほど気にしなくてもいいだろ

 もう管理局とかに追われる理由も無くなってる訳だし」

 

「…そうだったな、すまん」

 

 まだ情報整理や立場の確保などの後始末をグレアムさん達が準備してるけど、慌てて逃げ出すようなことはもう無い。

 だけど俺は正直どうなのはちゃんと向き合っていいか少々悩んでる。

 なんとなくで顔を合わせないようにしてきたけど、突然顔を合わせることになって正直困った。

 ジュエルシード事件でコッソリ様子を見てたことが負い目に感じてるんだろうか…

 前にも意識しないって考えたけど、実際会うと少々困惑してきた。

 

「皆の事も紹介するな

 こっちからリインにシャマルにシグナム

 おっきな青い犬がザフィーラや」

 

「えっと、ザフィーラさんって使い魔さんですか?

 アルフさんとなんだか似てる」

 

「ミッドではそう呼ぶかもしれんが、ベルカでは守護獣と言う」

 

「ベルカ? ミッドチルダとは別の世界なのかな?

 あれ、さっきの大きな白い犬さんは?

 モロみたいなの」

 

「あれは本物や無いけどモロやで

 あっちの拓海君が出してくれたんや」

 

 なのはちゃんの視線が遂に俺の方を向く。

 何を最初に言われるのかと思い、何故こんなにも緊張せねばならないのかという気持ちでいっぱいになる。

 だがその視線は若干下がり、俺の腕の中に向けられた。

 俺の腕の中にはさっきまで肩に乗っかっていた久遠とアリアがいた。

 

「わぁー、かわいい

 ネコさんは良くすずかちゃんちでたくさん見るけど、キツネさんは初めて見た

 えっと、触ってもいい?」

 

「…本人に聞いてくれ」

 

 どうやら俺本人より久遠達に興味を持ったらしい。

 ちょっぴり助かったが、とりあえずなのはちゃんに応えて、判断は久遠に任せる。

 

「本人?

 キツネさん喋れるの?」

 

「クゥ、喋れる」

 

「わぁ、キツネさんお名前なんていうの!?」

 

「久遠」

 

「じゃあ、クーちゃんだね!!

 抱っこしてもいいかな?」

 

 久遠が返事するとなのはちゃんはパァっと笑顔になって嬉しそうになる。

 ちょっと興奮もしてきた様子で、久遠もちょっと押され気味。

 抱っこしていいかと聞かれた後、久遠は俺のほうを見上げて困惑の表情を向けられる。

 久遠は強いし甘えん坊だが気の弱いところがあったのを忘れてた。

 強く押されるとどうしていいか判らず少々困ってしまうのだ。

 

「まあ、程々にしてあげてね」

 

「はい!! じゃあおいでー」

 

「クォン」

 

 俺の腕の中からなのはちゃんの胸辺りに向かって飛び移り、なのはちゃんも飛びついてきた久遠をしっかりと抱きとめた。

 抱きとめた久遠を両手で抱えながら頬ずりして可愛がる。

 

「毛がツヤツヤでモフモフしてるー

 ユーノくんとは全然違うの」

 

「クゥン…」

 

 なのはちゃんのかわいがりっぷりにやっぱり困惑している久遠。

 かわいいのは判るがユーノと比べるな。

 久遠のほうが何十倍も可愛い。

 

 なのはちゃんと出会うのに何で意識してたのか少し判った気がする。

 この世界とはまったく関係してないが。原作の更に元祖のリリなのでは久遠がなのはちゃんのお供だった。

 なのはちゃんと久遠が仲良くなる事に俺は少し警戒していたようだ。

 今もなのはちゃんが久遠を可愛がってるのを見ると嫉妬が湧き上がってくる。

 我慢出来ないほどじゃないけど、ちょっと不愉快に感じてしまう自分が情けない。

 

「クゥ、もういい?」

 

「え、うん

 もうちょっとこのままでいたかったけど」

 

「クォン」

 

 なのはちゃんの腕の中から飛び降りて、直ぐに俺の元まで駆けて来る。

 そのまま俺の腕の中に飛び込んでくると、アリアの横にすっぽり収まる。

 

「あのまま、あの子に撫でられてたらよかったのに」

 

「拓海の方がいい

 アリアに全部譲らない

 半分だけ」

 

「ん、そうね…」

 

 久遠はちゃんとアリアと喧嘩しないようにと覚えていたらしい。

 基本的に争いが嫌いな良い子だからな。

 

「久遠はホント良い子だな

 ほれほれ」

 

「クゥン♪」

 

「えっとクーちゃん、私迷惑だったかな?」

 

 俺がいい子いい子といつものように撫でてあげていると、久遠の言葉が効いたのかちょっと申し訳なさそうになのはちゃんが聞いてきた。

 久遠もそんなつもりじゃなかっただろうから直ぐに弁解する。

 

「ちょっと困ったけど迷惑じゃない

 拓海が撫でるの気持ちいいから」

 

「そうなんだ、よかった

 えっと、拓海君だったよね

 この子達は拓海君の使い魔なの?

 さっきのモロもはやてちゃんが出したっていってたけど、拓海君の魔法?」

 

「この子達は俺の使い魔じゃないよ

 二人とも他所の子で俺と仲がいいだけ

 それと俺は魔法はまだ使えない

 モロは俺の出した式神だ」

 

「へー、式神なんだ……って、ええ!?」

 

 さすがになのはちゃんも式神がこの世界に実在してるのを知らなかったらしく、驚きの声を上げる。

 ちなみに使っているのは基本魔力ではなく霊力だから、魔法には部類されないよと言っておいた。

 まあ札の作成さえ霊力でやれば、発動自体は魔力でも気でも使えるんだけどね。

 

「この世界にもそんな技術があったんだ」

 

「一応オカルトや超常現象は存在が認知されてるよ

 この世界の魔法使いは俺も会ったことないけど、存在しないという確証は無いね

 少なくとも異世界からの魔法使いと言うよりは信憑性がある」

 

「あはは…

 それもそうだね…」

 

 次元船なんか見るとSFなのかファンタジーなのか判らなくなるからな。

 杖なんかもデバイスって呼ぶくらい機械的だし。

 もうちょっとファンタジックで原始的な杖で長い詠唱を行う様な魔法は無いのかな?

 そういう魔法とか将来探してみるのも面白いかも。

 

 

 

 その後はなのはちゃんとはやてちゃんとヴィータが中心となってのお話会になった。

 主にお互いの魔法関係の話になって、はやてちゃんは最近の皆との出来事を話していた。

 さすがにまだ管理局での立場が確立してないので、危なげな内容は抜きにしてだ。

 

 変わって今度はなのはちゃんが魔法と出遭った話を始める。

 ある日突然念話が聞こえてきて、助けを求められた。

 求められた先で出会ったのがフェレットのユーノ君と魔法の杖レイジングハート。

 

「あれ、ユーノ君?

 それってもしかして美由希さんの言ってたフェレットの事やないの?」

 

「はやてちゃん、お姉ちゃんの事知ってるの?」

 

「お姉ちゃんやったんか、気づいたら苗字が同じやん

 私も最近会ったばかりなんやけど、拓海君の紹介で知りあったんよ」

 

「じゃあ、お姉ちゃんが良く話してたたっくんて、拓海君の事だったんだ」

 

「なんか変な事言ってなかったか?」

 

「? 変なことって?」

 

「いや、なんでもない…」

 

 美由希の事だから何言ってるのか想像が付くが、同時に想像したくない。

 どうせ碌な事、いや碌でも無い事に成りそうなことを話してそうだ。

 なのはちゃんとも出会っちゃったし、そろそろお兄さんとの遭遇も覚悟しておかなきゃいけないか。

 

 いや、そこまで警戒するな。

 現実的に考えてやばい事になるような事は無いだろう。

 いや、美由希もあれで現実的にやっちゃいけないような行動をとる。

 幽霊退治で操られたとはいえ真剣向けられたし。

 幽霊に普通の武器が通用するはず無いだろ、現実的に考えて。

 

 こ、ここはシャマルさん……いやザフィーラに頼んで防御の心構えだけでも学んでおくべきかもしれない。

 重傷でない程度の治療なら自分でヒーリング出来るからな。

 シグナムさんとの手合わせも了承して、一度身を引き締め直したほうがいいかもしれない。

 美由希との手合わせも最近やってなかったから受けておくか。

 同流派なら戦い方も似てるだろうし。

 

 

 

 俺が今後の訓練、いや対高町恭也戦を警戒しての準備内容を考えてるうちに、なのはちゃんの話は巨大樹事件へと差し掛かっていた。

 ジュエルシードの暴走を見過ごしてしまった事件として、なのはちゃんはちょっと気を落としながら話してた。

 

「あの大きな樹もそのジュエルシードちゅう奴のせいやったんか

 やけどそれって拓海君が久遠と解決したって言うとらんかったっけ」

 

「あ…」

 

「え、拓海君が?

 アナァゴさんじゃないの?」

 

「誰やねん、アナァゴさんて」

 

 はやてちゃんの問いになのはちゃんが身振り手振りでアナァゴの容姿や印象を説明し始める。

 忘れてた、はやてちゃんには巨大樹事件を解決したの俺と久遠だって言っちゃってた。

 そしてなのはちゃんにはガーディアン・アナァゴとして巨大樹を止めたと言ってジュエルシードを渡したんだ。

 

 こんな形であのいいかげんな誤魔化しがばれるとは思わなかった。

 まあグレアムさんとの接触で管理局にももう繋がりが出来ちゃったし、隠す必要はそれほど無いんだよな。

 まあ管理局に提示する予定なのは直死の魔眼のレアスキルだけにしときたいし、なのはちゃんにも一応黙っといて貰えるように頼んどこう。

 そう考えているうちになのはちゃんの説明が終わった。

 よし説明しやすいように出しとこう。

 

 

 

「なのはちゃん、そんなけったいな存在ホンマにおるんか?」

 

「ホントにいるよ、変な格好だったけどすごい迫力だったんだから」

 

「ホンマにおるなら、私もそのガーディアン・アナァゴってのに会ってみたいわ」

 

『わぁれを呼んだかねぇ』

 

「「きゃあぁぁぁ!!!」」

 

 突然現れたガーディアン・アナァゴにびっくりして悲鳴を上げる二人。

 なのはちゃんはその場でひっくり返って、はやてちゃんは車椅子から転げ落ちそうになる。

 狙ったとはいえ、こうまで面白い反応をしてくれるとは思わなかった。

 

「ほ、ホンマにおった!!

 というか何処から現れたんや!?」

 

「また突然現れたの!!

 しん……えとー、神…」

 

『神出鬼没かぁ?』

 

「そう!! 神出鬼没なの!!」

 

 とても面白く反応してくれてる二人にそろそろ笑いを堪えられなくなってきた。

 今は二人に背を向けて笑いを堪えている。

 他の皆は俺が出したのを見てたから何も言わないが、式神アナァゴの姿にちょっと唖然としている。

 

「拓海君、なに笑っとるんや

 あ、そうや!!

 これ、拓海君の式神やな!!」

 

『正解だぁ、子狸少女よぉ』

 

「え、ええ!!

 どういうことなの!?」

 

「誰が子狸や!!」

 

 事情説明中。

 俺の出せる式神は大小様々で、イメージした物であればなんでも作り出すことが出来、視覚も共有することが出来る。

 これによって鳥に化けさせてなのはちゃんのジュエルシードを集める様子を見たり、俺の存在をばらさないようにガーディアン・アナァゴと称して介入したりしたことを話した。

 いわゆるネタバレである。

 

「じゃあ、闇の守護者とか四天王とかフェイトちゃんとの戦いの後の出勤とかは…」

 

「ごめん、ただのでまかせ」

 

「にゃああぁぁぁ!!!

 そんなぁ、あの後アナァゴさんの事を探して大変だったんだよ!!

 探しても全然見つからないし、サザ○さんの話したら変な目で見られちゃって!!」

 

「なんやねん、闇の守護者とか四天王って」

 

 あーうん、真面目に考えさせちゃったのか。

 なのはちゃんにはちょっと申し訳ないことをした。

 真面目に考えてた管理局の方達には想像するだけで笑いがこみ上げてくる。

 いい仕事してますね(笑)

 

 はやてちゃんには俺がその場で適当に考えた、アナァゴのバックストーリーを話してあげる。

 アナァゴの姿を見ながら一つ一つ話していく内に、だんだんはやてちゃんも口角が引きつり始めて口とお腹を押さえる。

 

「プッ…ククッ…

 海鳴の守護者て……フゥグタ君って……さ、サラリーマンて…

 この格好で言うてたんか…」

 

『たぁしかにフゥグタ君はわぁれの盟友だぁ』

 

「ブハッ!!

 たっくんやめてや……お腹いたい…」

 

「は、はやて、だいじょうぶか!?

 拓海、とっととこの変なの消せよ!!」

 

 はやてちゃんも笑いを堪えるのが限界に来て腹筋が痛くなり出したようだ。

 堪えるために上半身を屈ませて耐えている。

 笑い処の解らないヴィータがはやてちゃんを心配して駆け寄る。

 まあ、見せるだけだったからもういいだろう。

 

『むぅ、どうやらわぁれがいると子狸少女の体によぉくないらしぃ

 では、さぁらばだぁ』

 

「だ、誰が子狸少女や…」

 

 

-ボフンッ-

 

 

 はやてちゃんの返事も聞かずにアァナゴは煙となって消えた。

 まあ、思念で命令して俺が消したんだけどな。

 ちなみに今回式神を出した方法は、前回の霊力で術式を書いたやり方です。

 

 アナァゴが消えた事で笑いも治まってきて、はやてちゃんも上体を起こす。

 少々息を切らしてはいるが、面白い物を見たという感じで満足顔だ。

 対してなのはちゃんの方はなんだか言いたそうにふくれっつらを浮かべて不機嫌そうだった。

 

「拓海君があの大きな樹のジュエルシードを何とかしてくれたんだよね

 だったらどうして直ぐなのはの前に現れてくれなかったの?

 見てたんだよね」

 

「あー、うん、それね…

 初めは事情がわかんなかったから式神の眼で様子見をしてたんだけど、見てたら被害がバカにならないから自分でもジュエルシード探すことにしたんだ

 だけどどういう事情かはっきりするまで様子見てたらフェイトって子が現れただろ

 だから余計状況がわかんなくなったから、どっちにも着かずに裏方に回って出来ることをやってたの

 俺、デバイスなんてないから魔法戦なんて出来ないしね

 ジュエルシードくらいはどうにか出来るけど、あんな空中戦広げるのは無理とわかったからね」

 

 ほとんど嘘は言ってないよ。

 関わりたくないって思ってたら、完全に暗躍することになっちゃっただけで。

 実際デバイスもないから魔法戦も出来ないし、気による空中戦も加減とか出来ないから勝つのも負けるのも不味かったし。

 今思えば、関わっても関わらなくてもあまり大差なかったんじゃないかな。

 

「むぅ、わかったの

 私達とは別にジュエルシード集めてくれたのはホントだもんね

 だけどやっぱり名乗り出て欲しかったの

 そしたらもっと早くお友達になれて、フェイトちゃんのこと相談出来たのに」

 

「ああ、そう、お友達ね…」

 

 出会った初日でお友達認定とは。

 悪いとも間違ってもいないけど、純粋というか素直というか。

 こういうのって普通は恥ずかしくてなかなか言い出せないよな。

 なのはちゃんの友達のアリサとか絶対そういうタイプだ。

 

 だけど、なのはちゃんとはもっと前に会ってるんだよね。

 俺がもう10歳だからもう五年前になるのか。

 なのはちゃんが4歳だから覚えてなくても不思議じゃない。

 というか覚えてないのが普通だよな。

 

「そういえばさっきはやてちゃん、拓海君の事たっくんて呼んだよね」

 

「え、そういえばそやったな

 美由希さんがよう呼んどるから、その呼び方でなんとなく呼んでもうた

 なんや呼びやすかったからなあ」

 

「じゃあ私も拓海君のこと、たっくんって呼ぶね

 それでおあいこ!!」

 

「ほんならわたしもたっくんて呼ばせてもらうわ

 よろしくな、たっくん」

 

「しょうがないな、なのはちゃん

 だけどはやてちゃん、お前はダメだ」

 

「なんやとー!!」

 

 なのはちゃんにはジュエルシードまかせっきりにした負い目があるから文句は言えないけど、はやてちゃんには十分反論することが出来る。

 美由希に何度も呼ばれてるからその呼び方ももう気にはしていないが、広められるのは勘弁して欲しい。

 そしてはやてちゃんが呼ぶのを断ったのは……ノリだ。

 

 とり合えず話し合って、はやてちゃんがアナァゴ(俺)が子狸って呼んだことを出してきて、まあ別にいいかとも思い、渋々といった感じを出しながら了承しといた。

 無条件にOKというのはなんだか納得がいかないな。

 

「やけどたっくん

 私ってそんなに狸っぽく見える?」

 

「んー、はやてちゃんの髪の色的にイメージしちゃうのが狸だね

 子供だから子狸だけど、結構可愛いと思うよ」

 

「そ、そうなん?

 そんなら別にええかな//////」

 

「久遠には完敗だけどね」

 

「わ、私のライバルは久遠ちゅうことか…」

 

「いや、引き立て役

 あるいは当て馬」

 

「たっくんは私が嫌いなんか!?」

 

「大好きだよ(にっこり)」

 

「笑顔が嘘っぽいわ!!」

 

 はやてちゃんもからかうと割りと面白いなと思った

 

 

 

 

 

 



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第三十七話 八神家の日々4

 

 

 

 

 

 先日なのはちゃんと八神家に繋がりが出来て、アナァゴの正体を暴露する事となったが特に問題もなく済んだ。

 アナァゴの正体の事は一応秘密にしておいてと頼んでおいた。

 式神の技術は一般的ではないけど完全に秘事されてる技術って訳じゃないから別にいいんだけど、結果的にはただの出任せばっか言ってましたってのはちょっと不味いからな。

 

 まあ町の人間として被害を被ったという文句自体は真実だけどね。

 ユーノを最初に預けた動物病院が俺の知り合いの人って言ったら、なのはちゃんも何も言えなくなった。

 良心にと弱みに付け込むようだけどごめんね、なのはちゃん。

 

 

 

 その後は事件の続きを話して管理局が来たりフェイトと一緒に封印したりして、フェイトとの最後の決闘。

 戦闘の内容は俺も見てたから、はやてちゃんに内容を判りやすく説明する。

 止めのバインドの上からSLBで倒したという説明は、相手を貼り付けにして身動きが取れない所を元気玉の様なチャージからかめはめ波を打ち込んだと、判りやすい例えで教えてあげた。

 SLBを無防備に受けたフェイトは、まるでかめはめ波に飲み込まれて消えていくセルみたいだったという感想を述べた。

 

 判りやすい例えに想像したはやてちゃんは戦慄し、なのはちゃんは心外だとばかりに否定していた。

 そこでなのはちゃんがはやてちゃんに自分なりの説明でフェイトとの戦いを解説するが、聞いている方は俺との説明の内容に差がなくて、はやてちゃんはなのはちゃんの止めの刺し方に戦(おのの)いた。

 怒らせない様にした方がええなと言うはやてちゃんに、なのはちゃんは何度も弁解をして否定するが事実と真実は変わらなかった。

 なのはちゃんにとってSLBかどういう認識なんだと思った。

 

 その日はゆっくりお話をしてなのはちゃんは何事もなく帰っていった。

 はやてちゃんの次にヴィータともそこそこ仲良くなれて楽しそうだった。

 ただしSLBの認識の違いはお互いに解けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日も八神家にやってくると、珍しくザフィーラとアリアも人型に成って全員で本を読んでいた。

 俺が来た事に気づいたはやてちゃんが近くまで寄ってくる。

 

「たっくん、いらっしゃい

 ちょっと聞きたいことがあるんやけどええかな?」

 

「なに?」

 

「たっくんてかめはめ波って撃てる?」

 

「は?」

 

 何を突然言ってくるのかと思えば、はやてちゃんの手にある本は漫画ドラゴンボール。

 見渡してみれば皆の手に持ってる本もドラゴンボールそれぞれの巻だった。

 

「主はやてに拓海の使っている気とは何か聞いてみたら、この本を紹介されてな」

 

「それでどういう本か皆で読んでみる事になったの」

 

「バラバラに読んでるけど結構面白いぜ

 後で最初から読んでみよっと」

 

「最初の方はそれほどでもないが、後の話ではなんと苛烈な戦いか

 かめはめ波、盾の守護獣である俺でも耐えられそうにない」

 

「衛星すら消し飛ばせるほどの力とは…

 お前はやっぱりすごいな、拓海」

 

 守護騎士の皆さん、気を完全に勘違いしていらっしゃる。

 概念は同じだけど、月を吹き飛ばせるほどのパワーなんて出ないよ!!

 さすがにアリアは信じてないようで、本を持ちながら呆れた様子で皆を見てる。

 

 はやてちゃんはこの様子に口を押さえながら笑いを堪えている。

 わかってて皆に説明してなかったな!!

 

 

 

 

 

 流石に月は吹き飛ばせない。

 たぶん強さは魔導師の魔力と同じくらいじゃないかと守護騎士達の誤解を解いておいた。

 はやてちゃんには軽い拳骨を一発あげておいた。

 ほんとにドラゴンボール探しに行ったらどうするんだ。

 

 最初のはやてちゃんの質問に戻るが、たぶん見た目は同じ物なら撃てると思うと言った。

 街中じゃ危険だからとても試せないし、だからといって海や山でも撃つには派手すぎる。

 なので出来そうでも試した事はこれまで一度もなかった。

 

 そこではやてちゃんの鶴の一声で実地検証。

 この前と同じくシャマルさんに結界を張ってもらう事で検証場所を確保。

 八神一家が見守る中でかめはめ波を試す事になった。

 

「たっくん、かめはめ波を試す今の感想は?」

 

「正直オラ、ワックワクしてきたぞ!!」

 

 いやマジで。

 実のところ試したくてもずっと試せなくてちょっと残念だったんだ。

 かめはめ波はドラゴンボール見たことのある男の子達の憧れ。

 出来ることなら撃ってみたいじゃん。

 

 こっちの世界で気が使える様になった時は真っ先に思いついたな。

 けど使う環境も必要もなかったから練習する事もなかった。

 だけど漸く試せる環境が出来てちょっとドキドキしてきた。

 気功波系は最近操気弾の練習をしてるくらいで、大抵は海鈴を使った技に気を回してたからな。

 一応イメージし易いからやり方は大体想像が付く。

 どうせならアニメのなのはの結界破りSLBな感じにしたいな。

 

「結界の強度は出来る限り高めてます

 大抵の攻撃じゃ壊れることはないはずですよ

 月を吹き飛ばしちゃうほどの物だったら、どうにもなりませんけど…」

 

「いやシャマルさん、実際月なんて吹き飛ばせませんから

 現実的な考えで漫画の内容を判断してください」

 

「そ、そうですよね

 けどもしかしたらって思っちゃって…」

 

「そ、そうだな、流石に出来るはずがないな!!」

 

「あ、ああ、あれほどの戦士が存在しないのは残念だが、良く考えればいるはずないな!!」

 

「拓海ならもしかしらと思ってしまった…」

 

「けど、出来たらスゲーよな

 拓海、月ぶっ飛ばすくらいでやっちまえ!!」

 

 ヴィータ以外、信じてしまった事にちょっと恥ずかしがってる。

 だけどリインさん、ちょっと俺の評価高くないですか?

 最近割りと多くスキルを持っているけど、殆ど常識から外れるような物じゃないはずだぞ。

 古代ベルカには衛星吹き飛ばすような魔導師がいたんだろうか?

 

「まあ、ヴィータの言う通り全力でやってやるさ

 ハアアァァァァァ!!!」

 

「おおぉ!! たっくんからホントに炎みたいなオーラが出とる!!

 ホントにドラゴンボールっぽい!!」

 

「ついに出るのだな、かめはめ波が…」

 

「ああ、拓海が出すかめはめ波は一体どれほどの物か」

 

「私、ちょっと緊張してきました」

 

「拓海、お前ならきっと出来る」

 

「あれカッコイイな

 あたしにも出来ねーかな?」

 

 守護騎士が予想以上にドラゴンボールに嵌ってる気がする!?

 というかアニメを思い出す限り、あんたらも似たようなこと出来てなかったか?

 

 とり合えず雑念を捨てて、気を高める事に専念する。

 ハアァァなんて声出さなくても出来るんだけど、ノリでやりたくなってしまった。

 実際に気合も入るから悪くはないんだろうけどね。

 

 この気の高め方は何か強い技を試す時に大抵やっている。

 前に説明した通り、気を体外漏らさない絶をしながら錬をすることで体内の気に圧力をかけて質を向上させると同時に、かめはめ波に使う気を溜める事が出来る。

 その余りで漏れ出した気が炎のように成ってドラゴンボール風のオーラになる。

 実際は出ないほうが完璧なんだけど、絶の技量が上がっても錬の技量も上がるからイタチゴッコで結局漏れる。

 この炎のようなオーラは全力時には結局デフォルトになるらしい。

 

 十二分に溜めれるだけ溜めたらかめはめ波の体勢に入る。

 まず両腕を併せて前に突き出し、掌も半開きで前に向ける。

 

「か~…」

 

 続いて半開きの両手を右下から後ろに回して、前方から隠すようにする。

 同時に体に溜めた気を両手の掌の間に集めていく。

 

「め~…」

 

 そのままの体勢で両手の掌の間に気の弾を更に圧縮しながら作っていく。

 こうすることで弾の貫通力と威力は確実に上がるはずだ。

 

「は~…」

 

 気の圧縮は俺もまだまだ特訓中でどんどん向上している。

 どこまで行くかはわからないけど、圧縮が出来れば威力に際限はなくなると思う。

 そう思いながら掌の気の弾がソフトボールくらいのサイズになるまで気を送り続ける。

 同時にその間も気を高め続ける。

 これが出来なきゃかめはめ波にはならない。

 

「め~…」

 

 かめはめ波はただの放射型に見えるけど、たぶん気の弾をまず生成してからそれを撃ち出す推進力となる気を後から送り込むことで、敵を力尽くで撃ち抜くのだと思う。

 悟飯VSセルのかめはめ波の撃ち合いで後から気を追加して押し込む描写は有名だ。

 

 気の弾は万全、撃ち出す推進用の気も常に気を高めて生み出している。

 準備完了と感じたところで、俺は上空に向けて気の弾を両腕で押し出しながら、気を両手の掌から放射して気の弾を撃ち出した。

 

「波あああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

-ギュオオオオォォォォォォォ!!!!-

 

 

 予測どおり、気の弾が掌からの気の放射に押し出されてまっすぐ飛んでいった。

 気の弾・・・いや、かめはめ波は真っ直ぐ上に飛んでいって結界の天井まで届く。

 そこで止まることなくかめはめ波は結界の天井を突き破っていった。

 両手の掌からの気の放射も、撃ってから五秒ほどでやめて撃ち終えた。

 

 流石かめはめ波を再現しただけあって結構気を使って疲れたが、気持ちはとてもすっきりしていた。

 唯の真似をするだけでも結構気持ちいいけど、実際に撃てるようになったのがとても気分よかった。

 普通に使う機会なんてまったくないだろうけど、とても満足した。

 気の圧縮や錬の向上で気の力自体上がるから、練習はそれだけやってればかめはめ波ももっと凄くなるだろう。

 基本だけで気は強くなれるから便利で助かる。

 他にもいろいろ何処でも出来る訓練法を考えておくか。

 

「…ホンマに撃てよった」

 

「というか、はやてちゃん信じてなかったの?」

 

「いや、たっくんが気を使えるゆう話は聞いてたけど、実際眼で見たことあらへんかったもん

 やけどまさにかめはめ波やったな~

 ホンマ凄かったわ」

 

「結界は壊れなかったけど突き抜けちゃったわ

 たぶんヴィータちゃんのギガントか、シグナムのファルケンに近い威力だと思う」

 

 へぇ、全力でやったとはいえそれに近いんだ。

 俺の気の力もかなりのものだと、ちょっとだけ自信が持てた。

 

 なのはちゃんのSLBが結界を破壊出来て、結界を突き抜けたけど破壊出来なかった俺のかめはめ波は、たぶん結界破壊の術式が無かったからだろうなと思った。

 多少結界に穴が開くだけなら直ぐ修復出来るんだろうけど、バリアブレイクみたいな対抗術式がアニメではSLBにも込められていたんだろう。

 

「それじゃあたっくん、次は元気玉試してみてくれへん?」

 

「いきなり次の注文か

 まあ、試してみてもいいけど」

 

 結界がまだ残ってるんだから試してみるのも悪くない。

 大気中には魔力素が存在している。

 それを吸収知ることで自身の魔力に変換できる。

 

 同じ様に草木などの生命からから溢れ出す気が大気中にも薄く広く拡散している。

 それを集めるようにすれば元気玉になるんじゃないかな?

 俺の意思でそれを集める事が出来るかわからないけど。

 とり合えず両腕を上に掲げて、元気玉の真似をしてみる。

 

 

 

「…………あ、ごめん無理だわ」

 

「あ、そうなんか

 やっぱりたっくんでも元気玉は無理なんか」

 

「いや、結界内だから他の生命が居ないから気を集められない」

 

「あー、なるほどな」

 

 元気玉に意外な弱点発覚。

 

 

 

 その後はせっかくなので守護騎士達の技の披露会になった。

 とはいっても、補助専門のシャマルさんと現在魔法があまり使えないリインさんは見てるだけになった。

 シグナムさんがレヴァンティンの三形態からの技を見せ、ヴィータがグラーフアイゼンの形状の割に多彩で汎用性ある魔法を使い、ザフィーラが盾の守護獣の名を見せるべく二人の数々の技を受け抜いた。

 その結果にザフィーラも結構な評価がされたが、二人の大技は受けきれないと断念。

 シグナムがボーゲンフォルムからのシュツルムファルケン、ヴィータがギガントフォルムからのギガントシュラークで締めとなった。

 どっちもすごい威力だったけど、迫力の差でヴィータの勝ちとはやてちゃんは判定。

 ヴィータはその結果に勝ち誇り、シグナムさんは少々悔しそうにしていた。

 

 ああ、あと結界が解けた後に試した元気玉だけど、円の範囲内の周囲の気だけは集めることが出来た。

 周囲から集めた気だけあって不思議な感じのする気だったけど、大きさはバレーボールくらいにしかならなかった。

 見た目に関わらずすごい威力というわけでもなさそうで、どうやらたいした力はなさそうだ。

 円の範囲内の制御されてない気だけしか集められないので、あまり威力の向上も期待出来ない。

 地球中の元気を集めるとか、まあ当然無理だろうな。

 もしかしたらどこかで使えるかもしれない程度の、気の収集技としか思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日は久々に神社に新しい技の練習をしていた。

 かめはめ波を試すことが出来たのでもうちょっとドラゴンボール系の技から試してみる。

 試してみるのは前にも言った操気弾を基本とした、誘導あるいは自動で追尾する気弾だ。

 魔法的にはなのはちゃんの使ってたディバインシューターみたいな物だ。

 

 始めは操作に苦労するかと考えてたけど、この前覚えた分身の術を応用すれば容易に出来るようになった。

 一つの気弾を作り出して集中しないと操作できないと思ってたけど、式神を作る感じで気弾を作ればある程度自立させて飛んでくれるし、意思を伝えればいつでも操作出来て操る事が出来る半自立性のあるものになった。

 出せる式神の数=操作気弾の数と言う方式も出来上がった。

 

 それで早速操作訓練を行って技を磨くことにした。

 最大数の気弾を維持し続ければ使い慣れて増やせるし、それは同時に式神の操作数を増やせる事を意味する。

 もっとも維持するだけでなく瞬時に作成できるようにしておかないと、戦闘などでは使えないだろう。

 

 戦闘したくないという意思は変わらないけど、使いこなしておけるようにとは考えている。

 斬魔剣も直死の魔眼もちゃんと使えたからこそ緊急時の対応が出来たといえる。

 今後使えるようになった技は即座に使える程度に極めておく事にしている。

 備え在れば憂い無しには違いないからな。

 

 

 

 そういうわけで操作弾の練習に最大数を維持しながら、全弾を林の中に向けて飛ばした。

 木々の隙間に飛ばして当たらないようにしながら潜り抜ける事を繰り返している。

 同時に常に舞空術で宙に浮んでいる。

 舞空術も自然に出来ないと空中戦なんて無理だからな。

 

 操作弾が木に当たる可能性もあったから込めた気はほとんど威力の無いもので、一度林を抜ければ消えてしまうほどに押さえた物だ。

 威力の心配もあるが作成速度も上げる為に、毎回消えては作ってを繰り返している。

 それと木々を速く潜り抜けるようにも気弾に命じている。

 遅い操作弾だと当たらないからな。

 

 

 

 割と一度にいろいろな成果を得られる気弾操作の練習を、今日はシグナムさんとヴィータが見学していた。

 前日にこっちで訓練を行うと言ったら見に来てしまった。

 はやてちゃんや他の守護騎士達もまた来るものかと思ったが、邪魔になるのとはやてちゃんも魔法の練習をリインと一緒に家で行ってるらしい。

 俺がいろいろ訓練しているのに触発されたかな?

 

 そうして見学してたのは別に構わなかったんだけど、偶然とは思えぬタイミングでまた美由希がやってきた。

 何故来たのか聞いてみると、なんとなく俺がここに来ている様な気がしたんだと。

 妙な直感が発達してないか?

 気を感知してきたんならともかく。

 

 俺は今日は気弾の操作練習だから相手する気はなかったけど、見学していた者にシグナムさんがいたのが不味かった。

 美由希の持ち物には何時もの木刀小太刀、シグナムさんの手にははやてちゃんに買ってもらったという竹刀袋があった。

 二人の目が合った瞬間、どうなるかなんとなくわかってしまった。

 ヴィータもシグナムさんの顔を見て呆れ気味にどうなるのか予想出来たようだ。

 

 シグナムさんが竹刀袋から竹刀を出せば、美由希も木刀小太刀を二本取り出して構えた。

 後で聞いてみればシグナムさんは前に会った時から美由希に目をつけてたらしい。

 初めに会った時は皆がいたから遠慮していたらしい。

 この場でも遠慮して欲しかったが、もう止めても止まらないだろうと諦めた。

 とりあえず周りに気を配ってやれとだけ言って放っておく。

 

 ヴィータにもし周りに被害が出そうになったら結界を頼むと言っておいた。

 美由希は気は使えるけど魔力はないから、結界に取り込む際は注意してくれとも言っておいた。

 魔法の使えないやつの前で魔法使っていいのかと聞かれたけど、美由希なら別に問題ないだろう。

 気が使えてる時点で一般人じゃないし、俺の式神も知ってるんだし気にするほどではない。

 

「確か高町美由希だったな

 手合わせ願おうか」

 

「なんとなく剣士だなーって感じがしてたんですよ

 もしかしたらたっくんの剣の先生かなって」

 

「そういうわけではない

 一度手合わせした程度だ

 もっとも拓海が望むなら剣の指南も吝(やぶさ)かではないが…」

 

「気に入ってるんですね、たっくんの事

 私もたっくんのとの手合わせが結構楽しいんですよ

 手段選ばない戦い方もするけど、正攻法でも結構強いし

 ちょっと意地悪だけど」

 

「ふっ、そうか

 拓海とよく剣を交えるというお前との手合わせも楽しみだ」

 

 そしてシグナムさんと美由希がお互いに名乗りあう。

 

「八神はやてが騎士、シグナム」

 

「永全不動八門一派・御神真刀流、高町美由希」

 

『参る!!』

 

 同時に駆け出しお互いの模擬刀がぶつかりあう。

 まだお互い相手の見極め段階だろうが、俺からみてもかなり早い殺陣。

 俺にはついていけないとは言わないけど、多少剣術を収めたおかげか一閃の鋭さが違うように見えた。

 やっぱり修練した時間が違うからなのだろう、力技の剣が多い俺とは違う感じがした。

 戦いたいとは積極的には思わないのに、あれくらい出来るようになりたいと思うのはどうなんだろう。

 

 今の俺には見てるだけで何かを学べるほどの経験を持ってないし、一応操作気弾の訓練中だったので視線を気弾の方に戻す。

 もう少し俺も剣術の腕を上げたいなと思い、また今度二人との手合わせを受けてみるかなと考えた。

 まあ純粋に気や魔法を使わないなら剣術の練習になるだろう。

 

「そういうわけだから、ヴィータ

 二人のことは任せたぞ」

 

「まかせんなよ!!

 あれをあたし一人で止めろってのか?

 魔法使えばともかく口で言って止まるやつじゃないぜ、シグナムは」

 

「まあ、どうにかなるんじゃない?」

 

 話して止まるとは思ってないからもう投げやりに諦めて、こっちの訓練を再開する。

 ヴィータが何か言ってるが俺にもどうすることも出来ないんだから無視する。

 他にも模擬刀同士がぶつかりあう音が聞こえるか、もう気にせずに操作気弾について考える。

 

 良く考えたら操作気弾を何度も作成して生成速度上げるのはいいけど、威力が弱い分気をそれほど込めなくていいから、このままじゃダメなんじゃないかと考え直した。

 なので十分な威力になる操作気弾を作ってみると数秒もかけてしまった。

 これでは使えないと思い、最大数を維持しながら一個を残して林抜けを行う。

 残した一個は気を無駄にしないように体に吸収し直し、再び作成を繰り返して使える操作気弾の生成速度を上げることに専念する。

 

 一個の生成速度が十分になったら、二個三個と一度に作る数も増やしていこう。

 一度に作成出来なきゃ包囲攻撃とかも即座に出来ないもんな。

 分身の応用で全てうまくいくと思ったら、実際に使うときの事を考えると問題がどんどん出てくる。

 そう簡単には何でもうまくいくって訳じゃないかー。

 

 

 

 

 

 操作気弾を実際使用したときの事を考えながら練習をして、ゆっくりだけど着実に操作性も生成速度も向上している。

 何度も思うが【能力】の成果をすごいなと思っていたら、強い魔力の立ち昇りを感じてしまった。

 嫌な予感をなんとなく想像してそちらを見てみると、シグナムさんから魔力が炎熱変換によって炎として立ち昇り、それを見た美由希が警戒して気が高まっていく。

 

「想像以上の速さと手数だ

 これは本気で侮れんな」

 

「し、シグナムさんから炎のようなオーラが見える!!

 これは本気の一撃が来るってことね」

 

 訂正、美由希はシグナムさんの炎を自分の感じた威圧感が見せていると勘違いしてる。

 ほんとに炎が出てるんだよ!!

 出してるほうも自分が魔力を炎にしてるのが無意識だったのか気づいていない。

 戦いになったら手に負えないって、まさに本物だな。

 

「(美由希から感じる威圧感が更に強まった

 この感じは拓海と同じ気の力だろう

 本気で来るという事か

 ならば出し惜しみはせん)」

 

 シグナムさんが無意識に出していた炎の魔力が蠢いて、手に持っていた竹刀に集まっていく。

 って、まさか紫電一閃やるのか!?

 カートリッジがないし竹刀だから、俺の時より威力は低くても更に高まる魔力を感じる限り普通の威力じゃない。

 もう無意識とか言うレベルじゃなくて本気で魔力使ってる。

 

「(炎のオーラが竹刀に集まった!?

 もしかしてあれって拓海君が使う炎気ってやつ?

 気の力は感じないのに

 だけど普通の攻撃じゃないってのはシグナムさんからの威圧感で判る

 なら私も本気で迎え撃たなきゃ)」

 

 美由希もシグナムさんの魔力の向上に合わせて気が高まっていく。

 お互いのぶつかり合いで力が向上するって話はあるけど、状況は悪循環だ。

 

 ここは普通の神社なんだよ。

 人が来る気配がないか常に気を配ってるけど、こんな力でぶつかり合ったら大きな音と周りに被害が出る。

 二人とも場所と状況を考えなくなってる。

 止めるのは無理でも早く結界を!!

 

「ヴィータ、早く結界!!」

 

「おう!!

 何やってんだよ、あいつらはよぉ!!」

 

「行くぞ、美由希!! 紫電一閃!!!」

 

「迎え撃つ!!」(御神流、雷徹)

 

 

-ガアアアァァァァァン!!!!-

 

 

 二人がぶつかりあう直前にヴィータが何とか結界を張って周囲の被害を無くすが出来た。

 間一髪だった。

 

 そしてぶつかりあった二人はというと…

 

「……!! しまった!?

 主はやてに買っていただいた竹刀が!!」

 

「アチャチャチャチャチャ!!

 小太刀が折れて燃えたぁ!!」

 

 相打ちになったらしい。

 これは俺も流石に説教せにゃならんな。

 

 

 

 反論を許さずに今回は俺がシグナムさんと美由希をその場に正座させる。

 俺の横にはヴィータがいて流石文句を言いたげな顔をしている。

 

「た、たっくん、ここ石畳の上なんだけど…」

 

「反省せねばならんのは分かるが、せめて家のほうで…」

 

「黙れ、このバトルジャンキーども!!

 もうちょっと加減というものを覚えろ!!」

 

「お前ら馬鹿じゃねえのか!!

 あたしが結界張らなかったらどうするつもりだったんだよ!!」

 

「め、面目無い…」

 

「あれ、そういえば周りの風景が…

 これどうなってるの?」

 

「シャラップだ!!」

 

「アウッ!?」

 

「み、美由希!?」

 

 先ほどから練習で出して上空浮ばせたままの操作気弾を、美由希の頭に一発叩き込む。

 拳骨程度の威力に抑えてあるが、美由希は気弾の直撃によって強制的に土下座体勢になる。

 そのような事になった美由希にシグナムさんが驚きの声を上げる。

 

「事情は後で説明してやるがまずは説教だ

 黙って聞け!!」

 

「わ、わかった…」

 

「ぼ、暴力反対…」

 

「お前が言う資格はないわ!!」

 

「フギャ!!」

 

「待て拓海、せめてそれくらいでカッ!?」

 

 バカな反論をした美由希に更に一発落とし、美由希を庇おうとしたシグナムさんにも遠慮なく一発叩き込む。

 俺は少々切れているのか二人に対してかなり強気だ。

 減った分の操作気弾を追加で生成して上に浮ばせる。

 せっかくだから操作気弾の練習台にしてくれる。

 

「口答えは許さん

 今は反省の時間

 反省以外のことは出来ると思うな!!」

 

「「は、はい…」」

 

 その後は暴走した二人の起こしかけた被害や日頃のさまざまな文句をヴィータと共にしつこく言い続け、時にバカな反論をしたりすれば容赦なく操作気弾を頭の上に叩き込んでいった。

 気や魔力で防御したらグラーフアイゼンが唸ると言って、ヴィータがセットアップした所を美由希が尋ねたところも操作気弾を叩き込んだ。

 実際シグナムさんがとっさに魔法で防御してしまったところに、グラーフアイゼンが叩き込まれた。

 美由希が我慢出来なくなって逃げ出そうとした時には、操作気弾で包囲して集中砲火してやった。

 おかげで操作気弾の相手を傷つけない手加減を出来るようになってしまった。

 それだけは美由希とシグナムさんに感謝だ。

 

 ある程度説教と操作気弾を撃ち込みまくって満足したら、開放してやると石畳の固さに足が痺れていて、ヴィータと一緒に突きまくって俺たちの最後の罰を与えてやった。

 だけどそれは最後の俺たちの罰で、すべてはまだ終わっていない。

 はやてちゃんにはヴィータから今回のことを伝え、美由希にはなのはちゃんからいろいろやらかした事を家族に伝えるように頼んでおいた。

 

 どうなったかは後は知らない。

 二人とも剣を鍛えるより、自制心を鍛えるべきなんだ。

 

 

 

 

 

●かめはめ波を成功、類似技も恐らく使用可能

●元気玉、微妙な威力で作成可能

●操作気弾、分身の数と同じで作成可能。 あらゆる面で能力向上中



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第三十八話 八神家の日々5

 

 

 

 

 

 本日もシャマルさんのベルカ語勉強会。

 はやてちゃんの魔法の実践はリインさんが担当してるけど、言語のほうは俺と一緒に学んでいる。

 そうしていると今日はなのはちゃんも八神家にやってきた。

 

「いらっしゃい、なのはちゃん」

 

「お邪魔します、はやてちゃん

 たっくんも来てたんだ」

 

「まあね

 これは時々シャマルさんに魔法の勉強をしてもらってるから」

 

「え、魔法のお勉強♪」

 

 なのはちゃんがなにやら魔法の勉強と聞いて反応する。

 

「私もレイジングハートに見てもらいながら一人で勉強してたの

 よかったらご一緒してもいいかな?」

 

「かまわへんよ、ねえたっくん」

 

「まあ今日ははやてちゃんと一緒の座学だし、一人くらい増えても問題ないよ。」

 

 あれ、でもやってるのはベルカ語だよな。

 なのはちゃんはミッド式だからミッド語になるんじゃないか?

 

「ほんならこれが勉強内容や

 私も大体覚えたから使ってええよ」

 

「ありがとう、はやてちゃん

 ……え?」

 

 はやてちゃんに手渡された紙を見て固まるなのはちゃん。

 じっくり紙を見直した後にはやてちゃんの方を向く。

 

「…………は、はやてちゃん、これ何?」

 

「ベルカ語の文字表や」

 

「べ、ベルカ語?

 私、ベルカ式じゃなくてミッド式の魔法使うんだけど…」

 

「あ、そやったな」

 

「それならこっちの方をを使うか?」

 

 今度は俺がなのはちゃんに紙を渡す。

 言語を学ぶのはベルカ語の後だが、ミッド語の文字表をアリアから貰っていた。

 

「……英語?」

 

「ミッド語、似てるけどちょっと違う

 魔法の術式を学ぶなら読めるようにしておかないと思ってね

 はやてちゃんはベルカ語を学んでるけど、俺は両方覚えるつもりで学んでる」

 

「ベルカ語……ミッド語……」

 

 両方の文字表を交互に見比べ続けるなのはちゃん。

 首を左右に振って見比べるのが速くなっていき、遂にはふらついて…

 

「はぅ~…」

 

「ああ!! なのはちゃんの目がグルングルンに!?」

 

「なのはちゃん、文系ダメなのか」

 

 小学三年生にして既にAAAランクの魔導師である高町なのは。

 その資質は砲撃に特化しており、感覚でSランク魔法を構築してしまうほどの天才型。

 その為理系に向いており、文系はちょっと苦手。

 

 なのはちゃんにとって魔法と出会ってからの最大の天敵がここに現れた。

 その後、当分自分の出したミッド式魔法陣を見ると文系を意識してしまい、魔法の集中を乱してしまうなのはちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気ままに散歩している日のことだった。

 ふと入ったコンビニでシャマルさんとヴィータがいた。

 

「シャマルさん、こんにちわ」

 

「あら拓海君、こんにちわ

 拓海君もお買い物?」

 

「いえ、ちょっと立ち寄っただけです

 ヴィータは…」

 

 ヴィータはコンビニのアイスコーナーの前でじっとアイスを眺めていた。

 

「ヴィータちゃんがはやてちゃんにお小遣いを貰ってアイスを買いに来たの

 私はその付き添いよ」

 

「なるほど、そういえばヴィータはアイス好きだったな

 何買うか迷ってるってところか?」

 

「ええ、はやてちゃんに貰ったお小遣いでどれが一番多く食べられるか悩んでるみたい

 もう10分以上もここに噛り付いたままなのよ」

 

「なるほど…」

 

 それはまた付き合わされる方も困ったもんだ。

 まあ俺もアイスを買う時は悩むことはある。

 種類が多いし、美味しい物は高いけど量が少なかったりするからなー

 

 ふと、そこで前々から気になってたことを試してみたくなった。

 俺はそれを試してみるべくヴィータに尋ねる。

 

「ヴィータ、ちょっといいか?」

 

「ん、何だ拓海か

 今アイス選んでんだ

 邪魔するなよ」

 

「ちょっと試してみたい事があってね

 ヴィータ達の使う結界って魔導師だけ取り込んで、他の生き物は取り込まないだろ

 それで建物とかの物は壊しても結界の外には影響を出さない

 そうだよな?」

 

「そうだけど、それがどうしたんだよ」

 

「じゃあ、結界内の食べ物とかって食べられるのか?」

 

「!! じゃあ結界内のアイスは食べ放題!?

 お前、天才か!!

 よっしゃ、直ぐ結界を!!」

 

「落ち着けヴィータ!!

 ここでやるのは不味い!!」

 

「そうよヴィータちゃん!!

 人がいるんだから!!」

 

 興奮して我慢出来なくなったヴィータがすぐに結界を張ろうとして、慌てて取り押さえる俺とシャマルさん。

 果たして店員や他の客の眼にはどのように映ったのだろうか。

 

 

 

 一度店を出て人気のないところで結界を展開。

 店を結界内に取り込んで準備完了。

 準備が出来たところでヴィータが店の方に突撃して行ってしまい、自動ドアのガラスを割って店内に侵入。

 

 結界内は電気が通ってないから中に入るなら壊さなきゃいけないけど、まるでコンビニ強盗だな…

 とっととヴィータはアイスコーナーでアイスの袋を手にとって食べに掛かる。

 

「いただきます!!

 …………」

 

「どうだ、ヴィータ

 食べられたか?」

 

「……食感はあるけど味がしねえし、冷たくねえ」

 

「やっぱり結界内の物だから擬似的な物で食べられないのよ

 結界を消したら消える物だからお腹も膨れないし」

 

「うぅ~~、畜生!!」

 

 ヴィータは心底悔しそうに結界内の食べかけのアイスを投げ捨てた。

 その後は結界を解いた後に結界内で口にしたアイスを買って帰った。

 味が解らないままじゃ気になるとのことらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて八神家に来ていた。

 といっても何時も魔法の勉強とは限らず、今日は遊ぶ事になった。

 今回はヴィータの発言から始まった。

 

「なあなあ、拓海

 トトロって出せないか?」

 

「トトロ?」

 

 トトロってジブリアニメのトトロだよな。

 何でまた突然?

 

「ほら、前にたっくんがモロを出してくれたやろ

 それでみんなでジブリアニメを見てみたんよ

 そしたらヴィータが気に入ってもうてな」

 

「ああ、確かにトトロは子供に人気がありそうだ」

 

「い、いいじゃねえか別に!!

 大体はやてもたくみも子供だろ!!」

 

 まあそりゃそうなんだけど、強がるヴィータがなんだか微笑ましくって。

 はやてちゃん達もなんだかヴィータを見る眼が優しいし。

 

「まあ、出せると思うよ

 イメージもし易いし

 庭のほうでいいね」

 

「おう、頼むぜ」

 

「私もちょっと楽しみやわ」

 

 庭のほうに移動すると霊力で描いた式神の術式を発動する。

 最近式神を出すときはいつもこっちのほうを使ってる。

 紙に書いたやつは質の限界があるから長持ちしない。

 だけど、紙に書いたやつじゃないと俺以外の人が使えないんだよな。

 まあ大抵ヴィータが遊んでるか美由希が時々何かに使ってるくらいだけど。

 

 

-ボフンッ-

 

 

 いつもの様に術式が発動すると煙を出して、その中から3mくらいの丸っこい毛むくじゃらの物が現れた。

 ポテンとした感じで愛嬌の顔をしたトトロである。

 

「おおぉぉぉ!!」

 

「ホンマにイメージ通りのトトロや

 さすがたっくんやな」

 

「こういう空想の生物もだいぶイメージするのに慣れたよ

 操作もこんな感じに簡単に出来るようになったしね」

 

「およ?」

 

 俺は作り出した式神トトロに指示を出す。

 すると式神トトロは長いツメではやてちゃんを優しく掴むと、そのまま背中から寝転がってお腹の上に乗せた。

 

「おー、フカフカや

 こんならメイも眠ってまうわな」

 

「はやて、アタシも!!」

 

「ほら、おいで」

 

 ヴィータが寝転がったトトロの毛に捕まってはやてちゃんの所までよじ登って行く。

 後ははやてちゃんと一緒にトトロのお腹の上でまったりしている。

 

「ホンマにたっくんの式神はすごいなあ

 私も使えたらええのに」

 

「式神の術式は基本霊力で編まないと作れないみたいだから、魔導師の魔力で編めるかどうかわかんない

 まあ、似たような魔法も探したらあるんじゃないかな?」

 

 変身魔法の応用で対象を変身させるとかそういうのがあっても不思議じゃない。

 そういえばジュエルシードの効果も魔法で再現可能なんじゃないかな?

 STSのフリートリヒの巨大化も似たようなもんだろう。

 場所さえあれば巨大化ってのも興味あるな。

 

 そんな時八神家のチャイムが鳴り、玄関のほうにシャマルさんが窺いに行った。

 直ぐに戻ってくると、後ろにはなのはちゃんと美由希が来ていた。

 一緒に来るってのは初めてだな。

 

「なのはちゃん、美由希さんいらっしゃーい」

 

「お邪魔するよ、はやてちゃん

 あれ、これって…」

 

「はやてちゃん、こ、これって!?

 あ!! お姉ちゃん、これはその!!」

 

 はやてちゃんがトトロの上から出迎えると、美由希がそこにいるものが何か気づき、なのはちゃんはそれを見て焦った様子で美由希を気にする。

 あれ、そういえばなのはちゃんて美由希が俺の式神を知ってることを知ってたっけ?

 

 というか前回美由希はシグナムさんがガチンコして、結果的に八神家の魔法の存在を知ることになってるし。

 どれくらい美由希となのはちゃんのお互いの認識内容を確認してるんだ?

 少なくとも式神のことはなのはちゃんの様子から魔法と一緒と考えてるみたいだし。

 

「これってトトロ?

 またたっくんが出したの?」

 

「え、お姉ちゃん?」

 

「まあな、出して欲しいってヴィータにせがまれて」

 

「え? え? え?」

 

「たっくんははやてちゃん達に甘いんだから

 私にも優しくしてほしいなー」

 

「どういうこと、なの?」

 

 なのはちゃんは美由希が式神のトトロを見て平然としてる事に混乱している。

 美由希となのはちゃんが俺の式神を知ってはいるが、それについては話し合ってはいないらしい。

 まあなのはちゃんに俺が平然と見せてるから、美由希はなのはちゃんも知ってると思ってたみたいだけど。

 

「俺は十分やさしいと思うぞ

 それでなのはちゃん、どうした?

 そんなにオロオロして」

 

「どうしたの、なのは」

 

「だって、あのトトロ…

 お姉ちゃん、魔法、知ってる?」

 

「ん? たっくんの式神でしょ

 結構前から知ってるけど…

 あれ、だけど式神と違って魔法の事は秘密って、この前言ってなかったっけ?

 何でなのはも知ってるの?」

 

「へ、あ…あの、それはそのー!?」

 

 なのはちゃんと美由希のお互いの認識がはっきりしなくてややこしい事になってる。

 ちょっとそこでお互いの認識を確認し合いなさい。

 

 

 

 なのはちゃんが少々パニックになりながらも美由希とお話。

 なのはちゃんは魔法=式神と思ってたけど、式神の技術は認識の薄いこの世界の技術とは知らず魔法と同じだと思っていた。

 美由希は魔法≠式神の認識で、式神の技術は退魔師などの使う物だから見せびらかす物じゃないけど知ってても問題なくて、魔法は他所の世界の技術で秘密にしなきゃダメだとはこの前教えたばかりだったのでちゃんと覚えていた。

 

 美由希がどういう経緯ではやてちゃん達の魔法を知ったのか話すと、今度はなのはちゃんがどういう経緯ではやてちゃん達の魔法を知ったのか尋ねられて、なのはちゃんが観念してレイジングハートとジュエルシード事件のことを話す羽目になる。

 結論から言うと自分も魔法少女になりましたということだ。

 

「なのはも魔法をねー

 この前出かけてたのはそういうことだったんだ」

 

「隠しててごめんなさい」

 

「秘密にしないといけないことだったんならしょうがないよ

 お父さん達にはどうする?」

 

「今は話せないけど、いつか話そうと思ってるの」

 

「じゃあそれまで私もお父さん達には秘密にしておくね」

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

「いいのいいの

 だけどユーノもお喋り出来たんだ

 お話したかったなー」

 

 いまだにユーノに未練があるか、美由希。

 まあどうでもいいが、なのはちゃん。

 今の話にユーノが人間である事を告げてないぞ。

 あえてそれは言わないんだけどな!!

 

「じゃあ、これでお話は終わりなの

 はやてちゃんヴィータちゃん、私もトトロに乗ってみたいの」

 

「かまわへんけど、もう一人乗るにはちょっと狭いわ

 たっくん、トトロもう一匹出せへんか?」

 

「出せないことはないけど、トトロが二匹ってのも違和感あるな

 ならこっちを出してみるか」

 

 式神の術式を描くと先ほどよりも小さめな煙が起こる。

 現れたのは1mにも満たない中トトロ。

 

「乗れないけど、こいつで遊んだらいい」

 

「わぁ~、可愛い」

 

 なのはちゃんが抱っこしようとすると、手の触れるところでピューと中トトロは走り出して逃れた。

 距離を置いてから振り返ると、そこで立ち止まってなのはちゃんのほうを見る。

 逃げ出した中トトロにポケッとした様子のなのはちゃんは、駆け寄って触れようとしたところをまた逃げられる

 中トトロもまた距離をとってからなのはちゃんの様子を伺う。

 

 どういうことなのかとこちらを見たなのはちゃんに、俺はにっこりと笑いながら頷いてやる。

 その応答に一瞬なのはちゃんはなんだか分からない様子だったが、直ぐに察しが着いて中トトロを嬉しそうに追いかけ始める。

 

「待って~♪」

 

 なのはちゃんが追っかけ始めると中トトロは逃げて追いかけっこが始まる。

 中トトロって初登場時はメイから逃げ回ってただろ。

 そんなイメージで追いかけたら逃げるという感じで出してみた。

 

「おもしろそう!!

 はやて、あたしも行ってくる!!」

 

「いってらっしゃい、頑張りやー」

 

 追い掛けてたなのはちゃんにヴィータが加わり、一緒の楽しそうに遊びだす。

 回り込んで挟み撃ちにするなんて無粋な真似をせずに、ただ自分の足で後ろから追いかけている。

 魔法を使えば簡単に捕まえられるけど、追いかけるのが面白いからこそそういうことはしない。

 

 二人ともそれが分かっていたから自分の足だけで追いかけてた。

 運動神経がそれほど良くないなのはちゃんは時々転んだりしたが、ヴィータが手を貸して起き上がると直ぐにまた追いかけ始める。

 中トトロも二人から捕まりそうで捕まらない距離をずっと維持している。

 俺からも指示を出してるけど、だいたいが式神の自己判断だ。

 直接霊力で術式を組んだ式神の性能がかなり上がっている証拠だ。

 御蔭で小さい体の中トトロは小さな足でもかなりの速さで二人から十分逃げ回れている。

 

 だけどそれも一般人レベルの運動能力を超える程度。

 空気の読めなかった美由希が素早い動きで、サッと中トトロを捕まえてしまった。

 あの素早い動きは気も使ってたな。

 なのはちゃんのために捕まえたんだろうけど、今は逆にヴィータと一緒に怒られてる。

 

「お姉ちゃん、何で捕まえちゃうの!!」

 

「えっと、なのはが抱っこしたかったんじゃないかと思って…」

 

「追いかけるのが楽しいんじゃねえか

 トトロ見たことあんのか、美由希!!」

 

「ごめーん!!」

 

 二人に責められてた美由希だが、それが終わると中トトロをとり合えず抱っこしあったり、ヴィータが大トトロから降りて空いたところになのはちゃんが登って遊んだりしていた。

 どうせなら小トトロも出して一緒に駆け回らせることになり、今日はトトロの日としてなって遊びつくした。

 

 最後にヴィータがどうせなら猫バス出せないかと聞かれたけど、流石にサイズがでか過ぎて今の俺には出せそうになかった。

 まあいつか出せるようになりたいと思っている。

 ああいう移動手段があったらちょっと素敵だ。

 街中じゃとても使えない乗り物だけどな。

 

 

 

 

 

 



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第三十九話 管理局へ

 

 

 

 

 

 グレアムさんからアリアを通して連絡が来た。

 闇の書及び夜天の書の資料が集まり、管理局への報告や聖王教会からの協力を得る事が出来たそうだ。

 管理局への主な報告内容は次の通り。

 

 

 

 グレアムさんが独自の調査で闇の書を発見し、下手に手を出して封印しても十一年前の二の舞になると判断して極秘として監視に留めていた。

 その間に何とか闇の書を攻略する方法は無いかと様々な案を考えるが、闇の書の暴走する力は計り知れず確証の低い方法を練り出すのが限界であった。

 

 そして遂に守護騎士達も覚醒して暴走の予兆と成ろうとした時に、偶然破壊に特化したレアスキルの保有者を闇の書の主の近辺で発見した。

 物理的な力でも魔力的な破壊でもなく対象の強度に関わらず破壊する事が出来る為、闇の書の破壊に有効ではないかと判断。

 また、今回の闇の書の主は闇の書の特性である魔力の蒐集を望まない人間であり、レアスキル保有者とも顔見知りであった為、最悪の場合における闇の書の破壊を依頼する事に成功。

 

 事前検証でレアスキル保有者に闇の書を破壊出来るか見てもらった際に、偶発的に闇の書の暴走原因であるバグのみを破壊してしまうという想定外の事態が発生。

 直後、闇の書のバグが原因である主の足の麻痺が回復。

 更に闇の書の管制人格が起動して暴走の恐れがなくなったと宣言。

 闇の書は夜天の書に戻り危険は無いと判断し、管理局及び聖王教会へ報告を行った。

 

 

 

 以上がグレアムさんが管理局と聖王教会に送った報告らしい。

 闇の書を極秘に対処した事とかは叩かれそうだが、それ以上に長年大きな被害を出してきた闇の書を止めたという事で功績として扱われるらしい。

 また、負の念とかも次元世界では説明が難しくロストロギア、また霊力はレアスキル扱いされそうなので、前に俺が言っておいた通りバグとして処理してくれたらしい。

 

 しかしグレアムさんが偶然見つけて、偶然闇の書の主が蒐集を行わない人間で、偶然闇の書を破壊出来そうなレアスキル保有者が近くにいて、偶然闇の書のバグだけを破壊する事が出来て夜天の書に戻った。

 俺から見ても都合が良過ぎると思うけど、実際ホントに偶然ばかりなんだよな。

 原作の方と比べてどっちのほうが偶然が多いんだろう…

 

 聖王教会の方には報告の他に無限書庫でユーノが集めてくれた闇の書と夜天の書の古代ベルカの遺産である証明と一緒に、はやてちゃんの夜天の書の所有権と支援協力を要請したらしい。

 その内容には守護騎士達の事も当然書かれていて、それを見た聖王教会は喜んで協力してくれるとのことだ。

 古代ベルカから夜天の書と共に生きてきたのなら、守護騎士達は歴史の生き証人のようなものだ。

 本人達はどれほど記憶しているかは知らないけど、古代ベルカ式の使い手というだけでも十分価値を示せる人物だろう。

 

 

 

 そういうわけで俺は八神家一同と共に、アリアに連れられて管理局のほうへ行く事になった。

 今日は流石に仕事という事で人型を保ってるが、こちらを時々見て少しうずうずしている。

 

 俺が行く理由は闇の書のバグを破壊したレアスキルの証明の為。

 管理局にどういう反応をされるかわからないけど、触れられなきゃ効果がないと認識してくれればそれほど問題にならないだろう。

 直死の魔眼はどうやら概念的なものも破壊出来るみたいだから、認識さえすれば際限なく様々な物を破壊出来る。

 使いこなせばたぶん想像以上の事も出来るような気がする。

 そこまで出来るようになって知られたら大変そうなので、やっぱり直死の魔眼はあまり使わないようにしよう。

 レアスキルとしての証明も下手な事しなければ大事になったりしないだろう。

 ……大丈夫だよね。

 

 そしてはやてちゃん達こそが管理局への用事の本命だ。

 俺とは別行動に成りそうだからそんなに聞いてないけど、まずは夜天の書の安全証明に時間を食うことに成りそうなんだとか。

 その後は夜天の書の調査と、はやてちゃん達の魔力検査諸々。

 それが管理局で終わったら、次は聖王教会に行っての調査や質問、さらには騎士としての表彰授与まであるんだとか。

 だから当然日帰りになりそうではなく、はやてちゃん達は泊まりの荷物を持ってきている。

 俺は日帰りで済みそうだけど、まあ頑張れ。

 

 で、いきなり管理局に転移で行くというわけではなく、とある場所で少々待つことになってる。

 とある場所とは、以前なのはちゃんとフェイトが戦っていた臨海公園で、たぶんお別れをしたであろう場所。

 ここってなんか特別な場所なんだろうか?

 

 そんな事を考えながら待っているとミッド式魔法陣が現れて、誰かが転移してきた。

 黒っぽい服に黒い髪の黒い杖、でもって肩のトゲが特徴的な見覚えのある人物。

 

「管理局執務官クロノ・ハラオウンだ

 グレアム提督から君達を迎えを頼まれた

 八神はやてと夜天の書の守護騎士達、そして山本拓海で間違いないな」

 

「は、はい!!

 よろしくお願いしますぅ!!」

 

 クロノの硬い喋り方にはやてちゃんが少し緊張気味で応える。

 そこへアリアが前に出て、クロノの頭に手を乗せて撫でる。

 

「クロノ、ちょっと硬すぎよ

 守護騎士達はともかく二人は普通の子なんだから、もうすこし大らかに話しなよ」

 

「アリア、今は仕事中だからやめてくれ

 まあ、善処しよう

 君もそんなに形式に拘らなくていいから」

 

「あ、うん、わかったわ

 よろしくな、クロノくん」

 

「ああ、よろしく

 ……この世界の子は皆こんな感じなのか?(ボソッ)」

 

 形式に拘らなくていいと言われたはやてちゃんは、緊張を解いて普通に笑って挨拶した。

 クロノは普通に受け答えしたが、後の方はこっちに聞こえないようにボソッと何かを言った。

 

「クロノも年頃なのね

 女の子に挨拶されたくらいで照れちゃって」

 

「て、照れてない!!」

 

 アリアが言うにはどうやら照れてるらしいが、反応からして間違いではなさそうだ。

 御蔭で完全に緊張が溶けたのか、はやてちゃんは面白そうにニコニコ笑っている。

 逆に守護騎士達からは少しだけ警戒心を感じさせた。

 

「んっん…失礼した

 早速君達を本局へ案内したいが少し待ってくれ

 別件でもう一人連れて行きたい者がいる

 直ぐ来るはずなんだが…」

 

 別件でもう一人。

 この町でクロノが連れて行きたい者というと一人しかいないだろう。

 そうしていると駆け足でこちらに走ってくるなのはちゃんが見えた。

 

「はぁ、はぁ…クロノくん、久しぶり…

 フェイトちゃんに…会えるってホント?

 あ、あれ…はやてちゃん達もいる…」

 

「なのはちゃん、落ち着きぃ

 ほら、深呼吸して」

 

「すー、はー、すー、はー…」

 

 よっぽど急いできたのか随分息切れしている。

 フェイトに会えるとの事だが、俺達のついでに一緒になのはちゃんも管理局に行くってことか。

 

「なんだ、知り合いだったのか?」

 

「ついこの間、魔法使ってたらなのはちゃんが釣れたんだ

 まだ何度か会ったくらいだけどはやてちゃんと仲良くなってる」

 

「なるほど

 随分近所のようだから気づいてもおかしくはないか」

 

 俺は知ってたんだけど、迂闊だったよな。

 まあ、近くに住んでればいずれ会っただろうし。

 

「なのは、息が整ったら直ぐに行きたいんだがいいか?」

 

「う、うん、大丈夫…

 けど、はやてちゃん達は何の用事なの?」

 

「本来こっちに来たのは彼女達の迎えだ

 事件に関わる事だから僕からは何も言えない

 用が済んでから彼女達に聞いてくれ

 フェイトに会わないかとなのはに声をかけたのはそのついでだ」

 

「そっか、クロノ君ありがと」

 

「……礼はいい、さっさと行くぞ」

 

 なのはちゃんにお礼を言われた後にさっと背を向けて杖を掲げるクロノ。

 

「クロノったら、また照れてるね」 

 

「照れてない!!」

 

『(照れてるな)』(全員)

 

 どうやら初心という奴らしい。

 年頃の男とはこういうものなんだろうか。

 一回人生やり直してるからか、あの年頃の感性はいまいち思い出せない。

 

 あれ、そういえばクロノって背は低いけど15歳じゃなかったか?

 15歳なら高校生くらいで、なのはちゃん位の年の子を子供扱いしても可笑しくない年頃。

 どうやら身長だけでなく精神年齢も思ったより低いのかもしれない。

 

「ん、なんだ?」

 

「いや、なんでも」

 

 俺がクロノを見ていたことに気づいて振り返る。

 やはり自分の気にしてることを考えられると察知しやすいらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転送はまずアースラを経由してから本局へ行くことになった。

 アースラでなのはちゃんはクロノがエイミィと呼んだ人に連れられていった。

 フェイトはどうやらアースラで預かっているらしい。

 はやてちゃんも前になのはちゃんから話を聞いていたのでフェイトに会いたがったが、自身の用事があるのと一応裁判前の容疑者なので無関係な人との接触は断っておきたいとクロノが言った。

 確かに正論だなと納得しつつ、俺たちはクロノに連れられて再び転送魔法で本局に飛んだ。

 

 本局に着いてからははやてちゃんとは直ぐに別行動になった。

 はやてちゃんは夜天の書の主として色々あるのでクロノがグレアムさんのところまで案内する事になり、俺はアリアに連れられて直死の魔眼=レアスキルの調査を受けることになった。

 

 

 

 事前に準備がされてたらしく、ちょっと大きな部屋で直ぐに実験を行うこととなった。

 まず最初に行ったのは硬い装甲を破壊するというもの。

 目の前にある分厚い鉄板は次元船の装甲でもあるらしくかなり丈夫らしい。

 

 これをレアスキルで破壊してみろとの事だが容易だった。

 直死の魔眼をONにすればどんな物質にも死線と死点が浮かび上がる。

 装甲の死点の適当な物を突けば、そこから死線に沿って裂け目が走ってバラバラに砕けた。

 調査に付き添ってた人たちも何の脈略も無く頑丈な装甲がバラバラになったので、唖然としててちょっと面白かった。

 

 

 

 調査は一回では終わらず、次は大出力の防御魔法障壁を用意された。

 最上位の魔導師が張れる防御魔法に匹敵するらしいが、アリアの防御魔法と見た目的には大きな違いを感じられなかったので死点を一突きで破壊した。

 続いて先ほどよりは弱くても複数の魔法障壁を重ねる事で強力な防御となる的を用意された。

 こればっかりは一枚一枚死点を突かないといけないかと思ったが、魔力の供給源は同じと考えたらその大元の死点が見えて、それを突く事で纏めて全ての障壁が消え去った。

 どうやら大本の魔力の供給源を殺したことで、供給元の機械自体が壊れたらしい。

 

 

 

 少し時間を置いて、別の魔力の動力を直ぐに用意したらしく調査を再開された。

 次に出されたのはなんでも次元船の魔法障壁として扱われるディストーションシールドだそうだ。

 次元船の装備に採用されるだけあってその防御力はかなり高いらしい。

 その名の通り空間を歪めて行う障壁らしく、俺の目の前の魔法障壁の向こうが歪んで見える。

 流石にこれは指で突くのは憚られたので、適当に用意してもらった棒で空間の歪みに見えた死点を突いてディストーションシールドを破壊した。

 これで物越しでもレアスキルを使えるって認識されたかな?

 

 

 

 最後に用意されたのはデバイスの杖

 管理局員の量産支給のストレージらしく、この中には態とバグを混ぜたデータが入っているらしい。

 これを闇の書に見立ててバグのみを破壊してみろとのことだ。

 闇の書の時は実際にはバグを破壊したのではなく篭っていた負の念を殺したから、実際にデータで判断して殺すというのは無理だ。

 

 データというのは目に見えないけど、概念で理解すれば殺すことは出来ると思う。

 だけどバグと正常なデータを見比べるのは碌に魔法を知らない今の俺には無理。

 データをしっかり理解して区別出来るようになれば出来るかもしれないけど、データのバグなんて実際動かしてみないと判らなかったり気づかないものが大抵だ。

 つまり、このデバイスのバグだけを破壊しろというのは俺には荷が重過ぎる。

 

 だけど闇の書はそういう形で正常化されたってことになってるから試さないといけないよな。

 まあ偶然成功したって事になってたし、やれるだけやってみよう。

 魔眼でデバイスを見てデータを殺すとイメージする。

 するとデバイスの内側に新たな死点が浮かび上がるのが判る。

 それがデータなのは判るけど、バグのみというのはやはりイメージ出来なくてそこから分けるのは無理だった。

 なのでデータの死点のみを突いて終わりとなった。

 

 そのデバイスを調べてもらうと、俺の予想通りデータのみが真っ白に消え去っていた。

 どうしてバグのみを破壊出来なかったのかと聞かれると、闇の書の時は殆ど偶然か幸運だったんだろうと答えた。

 俺が自覚してやれるのはデータのみの破壊までだと言っておいた。

 嘘じゃないし自分でも全力でやったからね。

 それを追求されても困る。

 

 

 

 レアスキルの調査の方は以上で終わったが、アリアの勧めで魔力量と魔導師登録を行わないかといわれた。

 デバイスを持ってないから暫定的な魔導師としての登録になるが、魔力量についてはちょっと気になるところだ。

 そこでOKを出したらちゃちゃっとした検査で直ぐ終わってしまい拍子抜けした。

 

 検査結果は魔力量AAの総合ランクB+らしい。

 デバイスも持ってない上術式も未確定だし、特に実績もある訳でないから細かい資質も不明なので魔力量はそこそこあっても総合=暫定Bランクと言ったところらしい。

 +がついたのはレアスキルを加味しての事だとか。

 まあ、自分の魔力量がどんなもんかわかっただけでもいいか。

 日頃の成果が出てたのかどうかはわかんないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず俺の検査は終わったので、グレアムさんの執務室で待たされることになった。

 連れてきてくれたアリアも用事が入ったようなのでいなくなってしまった。

 今後の訓練法やネタ技を考えながら待っていると、グレアムさんが戻ってきた。

 携帯の時計を見たら執務室で待ってて一時間が経っていた。

 考える事にだいぶ没頭していたらしい。

 

「すまないね拓海君、待たせてしまって」

 

「構いません、事件の後始末は全部グレアムさんに任せてしまいましたし

 色々大変だったんじゃないですか?」

 

「上との話には少々骨は折れたがたいした事は無い

 日頃の仕事よりも少々手間取ったくらいだよ」

 

 そうは言うがグレアムさんの顔を見る限り、以前会った時と比べて疲れがはっきりと見える。

 事件の後始末の情報整理やら根回しやらで相当苦労したらしい。

 

 この事件は少々強引だがグレアムさんが解決した事件となる。

 俺やはやてちゃんは自分の資質などで今の日常を壊すことを望んでいない。

 だから事件解決の噂が広まって俺達の日常に被害が出ないように、極力自分達だけで情報整理をして根回しやらをしてたらしい。

 

 この事件の事を知っていたのはグレアムさんとロッテとアリア、そして少数の協力者達らしい。

 それでも事件の全容を知っていたのは自分と使い魔の二人だけだったので、八神家に居たアリアを除けば二人で後始末をした事になる。

 どれほどの仕事量か知らないけど、通常勤務と一緒にやっていたらかなり大変だろう。

 

「…だいぶ疲れてるように見えますよ

 やっぱり大変だったと思うんですけど」

 

「ははは…そうかね…

 まあ、ホントにこれくらいの事はなんともないよ

 私は事件が終わるのを見守る事しか出来なかった

 これくらいのことはさせてくれ…」

 

「まあ、そう言うんでしたら…」

 

 少々疲れすぎてハイになってるようにも見える。

 直ぐに休んだほうがいいんじゃないかな…

 

「少し話をしようか

 君に言われた通り、なるべくはやて君の生活が保障されるように手配した

 はやて君は数日はこっちで色々忙しいことになるだろうが、終われば時々こちらに来る事になるだろうが元の生活を保障出来る

 君の持ってる次元世界に無い技能もあまり詮索されないようにしたよ

 まあ広い次元世界、我々の知らない魔法技術は日々見つかっている

 よほどの物でない限り気にすることではないがね」

 

 直死の魔眼は諦めてたけど、気や霊力とかは大丈夫だろうかと思ってグレアムさんに詮索されないように頼んでおいたけど、要らない要求だったみたいだ。

 有名なのはミッド式とベルカ式だけど、他にもさまざまな魔法体系が次元世界には存在しているらしい。

 

 その殆どはミッド式とベルカ式で補えるような物ばかりだから大して気にされないらしい。

 同じくレアスキルも管理世界内外に把握しきれないほどあるから、直死の魔眼と一緒に気や霊力も普通のレアスキルと思われてるらしい。

 複数のレアスキルを持つ人間も居ないわけじゃないらしいから。

 

「色々要望を聞いてくださってありがとうございます

 俺は魔法とかには興味はありますけど、騒動とかはちょっと遠慮したいんで

 少し前に俺の町で起こった魔法関係の事件、知ってますか?」

 

「ああ、はやて君の状況確認で直ぐに気が付いたよ

 だが極秘で行動してる私が動くわけにもいかなかったので、せめて少しでも早く局員を派遣する様に手を回すしかなかった

 それでもだいぶ時間が掛かって、町の人にも迷惑を掛けてしまったようだ

 知人の報告で次元世界の存在を知った特異能力を持つ市民に苦情を言われたらしい

 君達の住む町には他にもレアスキルを持った者達がいるのかね?」

 

「え!? ええ、まあ…

 俺はそんなに知らないんですけど…」

 

 苦情を言った市民って、式神アナァゴを通して言った俺だよな…

 単なるジョークのつもりの容姿だったけど、もしかして記録に残されてたりする………よな。

 流石に管理局の前に出るときはまともな姿にすればよかったと、ちょっと後悔した。

 

 だけど実際俺が知る限り、海鳴は特殊な人間が割と多いよな。

 もしかして前世の知識とか関係無しに特殊な人間がもっと居るんじゃないか?

 クラスメイトに二・三人位、特殊能力を持った人間が居たりとか。

 将来なのはちゃんのクラスはそうなるんだよな…

 

 あれ…フェイトって海鳴市に住むことになるのかな?

 闇の書事件が切欠で住む事になったから、事件が起こらないとどうなるんだろう。

 まあ、まだ裁判も始まってない頃だろうし、なのはちゃんとの交流が途切れるってこともないだろう。

 今日も楽しそうに会いに行ったみたいだし。

 

「そうかね

 だが結果的に我々は君に迷惑を掛けっぱなしだったね

 魔法に興味があると言っていたが、もしよかったらこれを貰ってくれないか」

 

「これは?」

 

 グレアムさんが差し出したのはカードサイズの金属板。

 真ん中に水晶っぽいのが付いてるからたぶんデバイスだと思うんだけど…

 

「君も知っていただろう

 『氷結の杖 デュランダル』だよ」

 

「ああ、これがぁ……って、これ貰ってもいいんですか!?」

 

「使用目的を無くしてしまった物だが、一応普通のデバイスとしても使えないことはない

 私が持っていても、もう役には立たない物だ

 処分と言ってもいいがよければ受け取ってくれないか

 望むのであれば他のデバイスを用意しても構わない

 私に出来る礼はそれくらいしかないのでな」

 

「えっと…じゃあ遠慮なく貰います」

 

 そうして待機状態のデュランダルを受け取る。

 これって原作ではクロノの手に渡ったんだよな。

 性能の方はどうか知らないけど、名高い闇の書を封印しようって言うんだからかなり高性能のはず。

 クロノの持ってたデバイス:S2Uよりも性能はいいんだろうな。

 

 史実を知る俺としては少しクロノに悪い事をした気がする。

 アナァゴの時も結構散々な事してるし、ある意味俺のせいでなのはちゃんにディバインバスターで吹っ飛ばされたし…

 なんかホントにごめん、クロノ。

 機会があれば何か埋め合わせするから。

 

「使い方はアリアにでも聞いてくれ

 当分ははやて君の家に居る事になりそうなのでな」

 

「わかりました」

 

 

 

 そこから先はグレアムさんの思い出話というか、自分の行いに対する謝罪のような物になった。

 俺自身も知識では知っている事ばかりだったが、グレアムさんの話を黙って聞いた。

 

 全ての始まりである11年前の闇の書事件に始まり、その時の後悔と無念。

 独自の調査での闇の書とはやてちゃんの発見に、闇の書の封印方法の立案による罪悪感と良心の葛藤。

 闇の書をはやてちゃんごと封印すると決意しながらも常に悩み続けてきたと、そんな思いが語られた

 

「だが、漸くそれも終わりを迎えた

 誰の犠牲も出すことなく最高の形で終わった

 何も出来なかったことが心残りではあるが、それでも長年の重荷を降ろす事が出来た

 それで十分満足している

 本当にありがとう」

 

 グレアムさんは改めて俺に深々と頭を下げて礼を言った。

 

 俺自身が予想外の結果で闇の書を終わらせちゃったから、こんなに感謝される事に少々戸惑っている。

 だけどグレアムさんから本当に感謝しているのだという思いが伝わってきて、謙遜の言葉も言い返すことが出来ない。

 ただグレアムさんが頭を上げるまで黙って待っていた。

 

「……はやて君のことが完全に落ち着いたら、私は管理局を引退しようと思っている」

 

「引退ですか?」

 

 そういえば原作でもグレアムさんは辞職と言う形で管理局を辞めている。

 計画がクロノに露見した事で、辞職と言う形で罪を償うという結果だった。

 グレアムさんにとって闇の書事件自体が最後の仕事と考えていたからか、結局管理局を辞めるということだろうか?

 あるいは世界の修正力でも働いたか?

 

「ああ、君達のおかげで私は罪を犯さずに済んだが、未遂でも罪は罪

 法を守る立場である管理局員としては許されない事だ

 ならば出来うる限りの償いをしてから、管理局員としての立場から身を引くつもりだ

 それが私なりのケジメのつけ方だと思っている」

 

「そうですか…」

 

「無論、それは私がやるべき事を終えてからだ

 名前だけだったとはいえ、はやて君の後見人を私はやっている

 彼女が独立するまでは援助をするつもりだよ」

 

 確かにはやてちゃんにはそういう人が必要だ。

 一応守護騎士達が一緒に居るとはいえ、地球では明確な立場を持った人間ではない。

 まあ、今回の一件ではやてちゃん達はこっちの世界に立場を持つことにはなる。

 だけど当分は地球で暮らすなら後見人は必要だ。

 

「もし君が管理局に将来就職するなら、私が良い職場につけるように口添えをしても構わない

 これでも局内では重職についているのでね」

 

「管理局に就職ですか?」

 

 以前は管理局の魔導師は大抵戦闘職というイメージが大きかったから就職する気はなかった。

 だけど最近はそればっかりとは限らないと思っている。

 もしかしたら気にいるような仕事もあるかもしれない。

 将来地球で就職するか次元世界に移り住むかは今は決めてないけど、自分の力を有効に使えるような職に就きたいと思っている。

 選択肢としては管理局も入れているつもりだ。

 

「…管理局に就職している魔導師って戦闘ばかりな気がするんですが…

 俺はそういう危険の多そうな仕事には就く気はないんです

 魔導師だとしたらそれ以外の役職には就きにくいですか?」

 

「ああ、確かに魔導師であれば前線に就く事が多い

 だが戦闘を得意とする魔導師ばかりではないから、それ以外の仕事もちゃんとある

 私もすぐ辞めるわけではないから、今度で良ければ紹介しよう」

 

「いや、地球じゃこっちと違って俺の年代は学生ですから

 就職するとしてもまだ先のつもりですよ」

 

「む、そうだったな」

 

 管理局じゃなのはちゃんの年頃でも実力さえあれば普通に働けるからな。

 そう遠くない内になのはちゃんも原作通りに局の仕事を始めるんだろうか…

 文化の違いがあるから、俺はこの年頃の子供が就職するというのは納得がいかないけど、ミッドチルダでは別になんて事ない事情なんだろうな。

 

 幼い内から就職というのは日本の価値観からすれば悪い事にしか感じないけど、向こうからすれば色々と利点がたくさんあるんだろう。

 納得は出来ないがそういう文化なんだと理解出来ない事はない。

 

 まあ俺は地球の価値観から漏れず、学生の内に働くよりは色々学びたいと思ってる。

 というか、次元世界の魔法や不思議について学びたい。

 異世界旅行とかして、地球じゃ見れない物も見てみたいな。

 

 

 

「私の話はこんなところだ

 長々と話をして済まなかったね

 何か聞きたい事が無いなら元の世界に送ろう」

 

「聞きたい事…………」

 

「何かあるかね?」

 

 そういえば話すべきかと思ったことがあった。

 ちょっと管理局の内部とかにも興味がいってて、グレアムさんと話をする頃にはすっかり忘れてた。

 

 だけど話してもいいんだろうか。

 グレアムさんはこの一件が終わったら局をやめるって言ってるし、そういうことなら知らないほうがいいのかもしれない。

 闇の書事件みたいに直死の魔眼だけでどうにか出来るような事でもないしな~。

 

 ………やっぱり話しておくか。

 迷惑掛けるかもしれないけど、管理局に所属しないなら上位の人間と話せる最後のチャンスかもしれないし。

 

「少し話し辛いですけど、聞いてもらえませんか?」

 

「何か重要そうな事だが、私に出来ることなら何でもしよう」

 

「いえ、頼み事ではなくて、話しておきたい事が…

 ところで、この部屋って会話が聞かれたり記録に残ったりしますか?」

 

「いや、個人の執務室だから重要な話もすることがある

 通信などを拒否していれば誰にも聞かれることはない

 ……何か事情のある内容かね?」

 

「ええまあ、出来るなら誰にも聞かれたくはありません」

 

「……ちょっと待ってくれ」

 

 グレアムさんが宙にモニターを出して、それを少し弄るとすぐ消した。

 

「これで通信を受けることもないし記録にも残らない

 話してくれて構わないよ」

 

「ありがとうございます

 正直、この内容は非常に厄介ですから、俺には内容を使えることしか出来ません

 言っておきたい事とは、予知の続きです」

 

「予知の続き!?

 まさか闇の書事件はまだ終わってないというのかね!!」

 

「いえ、闇の書事件はもう終わっています

 後はグレアムさんの事故処理だけで俺が知る限りは十分だと思います

 俺が言いたいのは、後に起こるだろう大きな事件です

 管理局が大きく関わる事件なんで、職を辞するならグレアムさんは聞かない方がいいかもしれません

 どうしますか?」

 

「……聞かせてもらおう

 私も管理局に就いて長いが、いずれは歳で職を辞すことは決まっている

 だが、まだ私は管理局員だ

 事件に関わる事なら聞く義務がある」

 

「……判りました

 では…」

 

 

 

 語りだすのは10年後に起こるであろうSTSの事件内容。

 すなわちジェイル・スカリエッティが起こすだろう事件と、それに関わる事件。

 数年後に起こるだろうゼスト隊の全滅も含めて話す事になった。

 

 もっとも最初の事件はガジェットと呼ばれる無人兵器の出現。

 ロストロギアを探索する無人兵器は次元世界各地で出現する事になる。

 そして陸のゼスト隊が関わる戦闘機人の事件。

 これもまたジェイル・スカリエッティが関わってる事件だ。

 

 他にもさまざまな事件に関わっているだろうが、大きく動くのは10年後の聖王のゆりかごの起動。

 これの出現と同時に管理局地上本部は壊滅状態に陥り、その後ミッドチルダ全域と本局自体も危険にさらす事になった。

 その事件になのはちゃん、はやてちゃん、フェイトが大きく関わるけど、今はそこを話す必要はない。

 確かにあの子達は優秀な魔導師なんだろうけど、事件解決にはあの子達に限定する必要はないだろう。

 管理局全体から見れば、あの子達は魔導師の上位であっても最上位って訳じゃないんだろうし。

 

 大まかな事件の流れを説明すると、グレアムさんはじっくりと考え込んでいた。

 事件が発生するのは俺の予知で十年も先の話。

 原作ではグレアムさんはまったく関わっていなかったから、気にすることはないはず。

 だけど重要なのはジェイル・スカリエッティじゃないんだよな。

 

「なるほど、十年後とは随分先の話だが警戒するべきか

 ジェイル・スカリエッティの名前だけなら私も知っている

 現在の奴の所在はわからないかね」

 

「残念ながらそれは判りません

 次元世界の地理なんて俺は全然判りませんから

 ですが起こる事件自体は正しく対処すれば解決出来るので問題じゃないんです

 俺が問題視してるのはそいつの黒幕です」

 

「黒幕?

 スカリエッティが事件の首謀者ではないのかね」

 

「確かに十年後の事件の首謀者はスカリエッティですけど、奴の研究等に出資している存在が居るんです

 いえ、それどころかスカリエッティという科学者を作った存在がいるんです

 いわば事件の元凶とも言える者達です」

 

「確かに研究と言う物は資金が必要だからな

 何者かが出資してていても不思議はない

 その者を逮捕出来れば十年後の事件も防ぐ事が出来るな」

 

「いえ、たぶん逮捕は出来ません」

 

「なぜかね?」

 

「管理局には一番上に最高評議会というのがあるんですよね

 そいつらがスカリエッティという存在を生み出したんです」

 

「なんだと!?」

 

 管理局の知られてはいけない部分であり、暗部といえる所。

 最高評議会は管理局の地位を確保し続けるために、効率の良い違法研究によって技術力を還元する科学者を求めた。

 そこで最高評議会はアルハザードの遺児と呼ばれる、スカリエッティという人造生命体を作り出した。

 その頭脳にはアルハザードの技術が残っているのだとか。

 

 それ以来さまざまな違法といえる研究をスカリエッティにやらせてきた。

 俺が主に知っているのは人造魔導師と戦闘機人という、管理局の人手不足を解消するのを目的とした研究だが、他にも色々やらせているはずだ。

 目的は管理局の為にということらしいが、既に手段を選ばなくなっている。

 スカリエッティ以外にもいろいろと良くない事をしていると俺は思っている。

 

 その事をグレアムさんに伝えると、先ほどとはかなり真剣になって悩んでいた。

 まあ、自身の組織の一番上が犯罪行為を行っているなんて言われたら困るだろう。

 いつの間にか片棒担がされてたりなんて事にもなりかねない。

 ましてや法を守らねばいけない管理局なのにな。

 

「…俄かには信じられん

 だが君の予知が夜天の書において間違っていなかったのは事実だ

 絶対に有り得ないとも言い切れん」

 

「グレアムさんは最高評議会の人間と会ったことはありますか?」

 

「……いや、無い

 最高評議会は大きな方針を決めるだけで局の運営そのものに関わらないという役職らしい

 接触することはあっても代理人を通したものか、通信でしか話をすることは無い」

 

「まったく姿を見せない存在に不思議に思ったことはなかったんですか?」

 

「存在を知った時に気になったことはあるが、局内は問題なく運営されていたから直ぐに気にはならなくなった

 殆どの局員も関わることが無いから、存在すら知らないものも多いだろう」

 

 なるほど、気にするものが殆どいないから見つかることも無いという事か。

 問題ってのは問題が起こらなければ発覚はしない。

 管理局がしっかり運営をされていれば最高評議会の存在は明るみにならず、問題が起こっても表立って運営してる世間に知られた最上位の役職までに責任を取らせることで問題を沈静化するってことか。

 

 良く出来た隠れ蓑といったところか。

 組織ってのは何かしら裏があってもおかしくないって感じはするけど、どういう裏があるのか分かってる組織になんて就職したくないよな。

 暗い部分に関わる事なんて殆ど無いんだろうけど、どうしても気になっちゃうからな。

 管理局への就職とかは当分見送るよ。

 

「管理局が設立されたのってどれくらい前です?」

 

「局として明確に設立されたのは新暦となった60年以上も前

 前身となる組織が存在したのは100年以上前らしいが…」

 

「最高評議会はその前身となる時代から生きているらしいですよ」

 

「まさか、普通の人間がいまなお生きているというのか!?」

 

「既に脳だけの状態でカプセルの中で生きているみたいです

 本当にそんな状態になってまで生き続けたいとは、俺は思いませんけど」

 

「…なんという」

 

 語った内容にグレアムさんは先ほどにも増して、疲れと思い雰囲気を感じる。

 俺の話が本当だと仮定して考えれば、グレアムさんのショックもわかる。

 長年勤めてきた組織の裏側なんて知らずに、やはり退職させてあげたほうが良かったかもしれない。

 俺じゃ手の出しようの無い事だし、グレアムさん位の高い役職でもなきゃ調査出来ない内容だろう。

 

「この事を調べて対処するかどうかはグレアムさんが決めてください

 最高評議会は10年後の事件でスカリエッティの裏切りで殺される事になります

 予知通りにスカリエッティに対処するのもありかもしれません」

 

「放っておくというのかね」

 

「組織の問題なんて部外者の俺がどうにか出来るようなことじゃないです

 精々地位があって信用出来る管理局の人間に、予知の内容を話すことくらいしか出来ません」

 

「なるほど、局の問題を解決すべきは局の人間だ

 完全に部外者の君に頼るべきことではないな」

 

 それもあるけど、俺に何か出来るとは到底思えないんだよな。

 原作の10年後ははやてちゃんもそこそこな役職についてたけど、この事実をどうにか出来る程とは思えない。

 つまりはやてちゃん並に俺が頑張って管理局の役職に就いたとしても、10年じゃどうにか出来るほどの役職には就けない。

 

 そもそも管理局を良くしたいなんていう思いは無いし義理もない。

 根っからの地球の人間…あ、前世も地球に入るのかな?

 まあ、次元世界に対しては今回の事件で知り合った人物にしか関わりは無い。

 STSで六課には入る気なんて100%ありません。

 興味で関わる事はあってもゆりかご突入とかは絶対無いね。

 

 

「俺が話しておきたいことは以上です

 この話をどうするかはグレアムさんにお任せします

 この事はもう誰にも話す気はないので」

 

「そうだな

 もし事実なら君の身が危ない 

 この事は私の方で調べてみよう」

 

「…すいません、辞めるつもりの人にこんな事話してしまって

 こんな話があるなら放置する事も出来ないでしょう」

 

 実際ほんとに申し訳ない。

 俺だけで抱えておくのも無理だったし

 将来的にもしかしたら高官の知り合いが出来るかもしれないから、それを待てばよかったかもしれない。

 

「なるほど、いい辛い理由はそちらのほうか

 気にしなくても構わない

 私は辞めるつもりであっても管理局員としての誇りを捨てるつもりは無い

 護るべきものを護り、間違っていると思うものを正す

 人それぞれ誇りは違うかもしれないが、私は正しいと思う事をしたい

 その為には惜しむ事など何も無いよ」

 

「そうですか…」

 

「君のおかげで過ちを犯さずに済んだ身だ

 これからは…いや、これからも私は管理局員として正しいと思う事をしよう

 引退はするべき時にすればいいさ」

 

 結局俺の話でグレアムさんは引退を撤回する気らしい。

 新たな仕事を任せてしまったようなものだが、先ほどと違って顔に疲れは見えても逆に生き生きしてきたように見える。

 根っからの仕事人なんだろうか?

 

 管理局に入ったら仕事に夢中になっちゃうとか?

 原作のなのは達もそんな感じだったし。

 まさかどっかのアンチ小説みたいに暗示とか洗脳とかじゃないよな。

 暗示とかは前世にあっても不思議じゃなかったから、魔法のある世界じゃ確実にありえそう。

 

 流石に一般局員までそういうことは無いと楽観視したい。

 アンチ的展開なんて実際に見たら痛ましすぎる。

 

 

 

 

 

●デバイス、氷結の杖デュランダルを取得

●デバイス取得に伴い、ミッド式魔法使用可能



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第四十話 デュランダルとレイジングハート

 

 

 

 

 グレアムさんには俺が知る限りの未来の事を伝えてから管理局から地球に戻った。

 今後起きる事件は全て次元世界での事だ。

 自分の住む場所でなければ無理に関わろうとする気は無い。

 出来ることに関しては多少は手を尽くすが、無理なことはしないつもりだ。

 

 なのはちゃんの撃墜事件に関しては正直どうしたものか。

 疲労の蓄積が大きな原因だから、俺が気を見れば疲労してるかどうか位はわかるけど、それ以上の事は出来ない。

 何時何処で事件が起きるとも知れないから、健康管理を見極めるのが精一杯。

 後はなのはちゃんの心理状態くらいか。

 

 今のなのはちゃんって原作とどう違うんだろう。

 魔法で相手を倒す事にちょっとくらい躊躇してると思いたいし(SLBを見る限り、見込み薄いが)、魔法に対する依存はどういったものだろう。

 事の原因は昔の父親の怪我のときの孤独だけど、俺が多少は相手をしてたからマシになってると思いたい。

 

 

 

 少しなのはちゃんの様子に気遣ったほうがいいと思いながら、今日はなのはちゃんと一緒に魔法の練習をすることになった。

 デバイスが手に入った事を話したら、一緒に練習しようと誘われた。

 デュランダルも実際に使ってみたかったので好都合だった。

 

 ちなみに管理局に行ってきた翌日だが、はやてちゃん達はまだ向こうに残っていろいろ手続きがあるみたいなので帰ってきていない。

 一週間くらいは掛かるんじゃないかとグレアムさんは言っていた。

 色々大変だと思うがグレアムさんがいるので危険な目に遭うとも無いだろう。

 戻ってきたら色々話を聞いてみよう。

 

「ねえねえ、早くたっくんのデバイス見せてよ」

 

「そんなに急かさすなって

 貰ったばかりでまだ慣れてないんだから」

 

 デバイスってのはこっちの機械と違って音声や意思起動が当たり前。

 ボタンなんて付いてないからちょっと戸惑うんだよな。

 声で起動なんてちょっと恥ずかしいじゃん。

 

「それじゃ、デュランダル起動」

 

【スタートアップ】

 

 カード型の待機状態のデュランダルを持ちながら命じると、俺の声に反応してカードが魔力光になってその場に青と白の杖が現れた。

 先っぽの方はなんだか戦闘機の頭のような鋭角で、一見槍のようにも見えなくは無いが長さはなのはちゃんのレイジングハートと同じくらいで、やはり杖として機能するのだろう。

 まあ容易に形が変形するんだから長さ調整位は簡単に行えるだろう。

 

 フェイトのバルディッシュみたいに魔力刃を出して槍としても使えるかもしれない。

 今のところそういう魔法はデュランダルに入ってないらしいけど。

 

「へー、それがたっくんのデバイスなんだ」

 

「ああ、氷結の杖デュランダルって言うらしい

 その名の通り氷の魔法が使えるみたい」

 

「そうなんだ

 こんにちわ、デュランダル」

 

【…………】

 

 デュランダルに向かって挨拶するなのはちゃん。

 だけどインテリジェントデバイスじゃないデュランダルはなのはちゃんに答えることは無く沈黙を保ったまま。

 もしかしてなのはちゃん、デバイスは喋るもんだと思ってる?

 

「なのはちゃん、デュランダルは基本的に会話は出来ないよ」

 

「え、でも私のレイジングハートはお話出来るよ

 フェイトちゃんのバルディッシュだってお話出来たもん」

 

「それはインテリジェントデバイスだからだよ

 デュランダルはストレージだから会話機能は無い」

 

「インテリジェント? ストレージ?」

 

 なのはちゃん、その辺りから知らなかったらしい。

 まあ事件中は知る必要の無い事だっただろうしな。

 一般的なデバイスが喋れる物だと思っても不思議じゃない。 

 

「デバイスにも色々種類があって、人工知能を備えてるのがインテリジェントデバイス

 ある程度デバイスの意思でも魔法を発動出来て、緊急時などには防御魔法を自動で使って持ち主を守ってくれる」

 

「そういえば初めてジュエルシードと戦った時にも、レイジングハートが魔法を使って守ってくれたっけ」

 

「で、人工知能を持たないのがストレージデバイス

 こっちは自動で魔法を使ってくれたりはしないけど、AIが無い分処理速度が速いらしい」

 

 実際の所に種類のデバイスには処理速度とか大差があるようには感じないんだよな。

 インテリジェントデバイスのほうが上級者向けだって話だけど、もしレイジングハートがストレージだったら最初のジュエルシードでやばかったんじゃないか?

 AIによる補佐がある分、どちらかと言うとインテリジェントのほうが初心者向けだよな。

 

「じゃあ、たっくんのデバイスはお話出来ないんだ」

 

「そういうことだね

 この二種類の他にもいくつか種類があるらしいよ

 はやてちゃんとこのシグナムさん達が使うベルカ式は、近接戦闘を主体としたアームドデバイスって言うらしいし

 魔導師と融合する事で魔導師の能力を拡張するユニゾンデバイスなんてのもある

 リインさんがそのユニゾンデバイスなんだって」

 

「へぇー……って、えぇーー!!

 リインさんがデバイスなの!?」

 

「普通の人にしか見えないよな」

 

「うん、レイジングハートとは全然違うの」

 

 どっからどう見ても普通の人間にしか見えないよな。

 日本人には見えないから容姿は特殊だけど、デバイスみたいな機械要素がこれっぽっちも見えない。

 まあシグナムさんたちみたいな魔法プログラムとして体を作ってるんだろうな。

 良く考えたら俺の式神も擬似的に生物を作る辺りは同じだし。

 

 今の所デバイスは大きく分けて四種類だけど、STSでは補助専門のブーストデバイスなんてのもある。

 調べてみれば他にもいろんな種類のデバイスがあっても不思議じゃない。

 デバイス自体にも興味は尽きないな。

 

「インテリジェントの方にも興味はあるけど、俺はデバイスが話せても話せなくてもどちらでもいいよ

 魔法自体に興味があるから使えるのなら今はこれで十分だし

 そろそろ魔法の練習始めようと思うけど、結界張ってくれる?」

 

「え!? えーとその…」

 

 デュランダルは闇の書の封印が目的だったから、凍結封印のエターナルコフィン以外には初歩の魔法の術式は入っていなかった。

 はやてちゃん達が戻ってくるのと一緒にアリアが戻ってきたら教えてもらえるけど、それまでは初歩の魔法しかデュランダルは使えない。

 

 ちなみに入っているのは誘導弾のシューター・プロテクション・バインド・バリアジャケットのみ。

 バリアジャケットはストレージじゃレイジングハートみたいに自動ではやってくれないから結局使えない。

 まあ、まだどういう服装にするか決めてないからいいんだけどね。

 なのはちゃんみたいな制服にも見える出歩いてても可笑しくない普通の服装っぽいのがいい。

 クロノのトゲ付みたい服装は、こっちじゃ恥ずかしくて出歩けない。

 

 ともかくデュランダルには結界の魔法は入っていないので、魔法の練習をするならなのはちゃんに結界を張ってもらうことになる。

 たとえデュランダルに結界魔法が入っていたとしても、いきなり俺に使えるかわからないけど。

 ところがなのはちゃんに結界を頼んだらドモられた。

 もしかして…

 

「もしかしてレイジングハートにも結界魔法が入ってないの?」

 

「そ、そうじゃないの…

 ただその、私じゃうまく使えないの」

 

「使えない?

 レイジングハートには魔法自体は入ってるのに?」

 

「うん、ユーノ君に何度かやり方を教わってるけど、どうしても出来なくって…

 ユーノ君が言うには適正の問題なんだって

 だ、だけど他の魔法は使えるよ!!

 砲撃魔法とかすごく得意なんだから!!」

 

「いや、知ってるから…」

 

 なのはちゃんと言えば砲撃魔法の代名詞。

 魔砲少女とすら呼ばれるくらいだからな。

 そういえばなのはちゃん自身が結界魔法を使ったことは無かったっけ。

 大抵はユーノが代わりに結界を使ってて。

 攻撃魔法が得意じゃないユーノとはまるで逆ってことか。

 

「じゃあ、どうやって魔法の練習するつもりだったの?

 結界が無いと派手になる魔法とか使えないよ」

 

「たっくんが使えるかなと思って…」

 

「俺はデバイス貰ったばかりの初心者なんだよ

 それにデュランダルには結界魔法が入ってないから使えないし」

 

「あうう…

 いつもユーノ君に結界張ってもらってたから忘れてたの」

 

 魔法の練習しようと思ったらいきなり行き詰った。

 今はユーノも守護騎士達もいないから結界魔法は誰も使えないし。

 派手にならない程度の練習でいいか。

 俺の方には大した魔法は入ってないし。

 

【マスター、よろしいですか】

 

「どうしたの、レイジングハート?」

 

【彼に結界魔法を試してもらってはいかがでしょうか】

 

 結界が使えなくて困っていたらレイジングハートがなのはちゃんに声をかける。

 だけどデュランダルには結界魔法入ってないんだけど。

 

【私から彼のデバイスに結界魔法の術式を送ります

 適正があれば使うことが出来るかもしれません】

 

「えーと……どうしよっか?」

 

「俺は構わないけど」

 

 いきなり結界魔法を使えるか判らないけど、使えるならデュランダルの魔法が増えるのはありがたい。

 実質使える魔法が三つというのは寂しいからな

 まあ物は試しとデュランダルに術式を受け取ってみるか。

 

 

 

 

 

 デュランダルでレイジングハートから結界魔法を貰って試してみると、案外簡単に成功してしまってなのはちゃんが少し落ち込んだ。

 術式の構築はデバイス任せだけど、使用する魔力は俺の物だ。

 その御蔭か術式を構築する感覚がなんとなく判った。

 何度も使ってればデバイス無しでも使えるようになるかも。

 

 術式の構築後に結界が広がっていく感覚が円に少し似ていた。

 そのせいか円と同じくらいで結界の広がりは止まった。

 シャマルさんの結界だったらもっと大きく出来たけど、初めて使って成功したなら上出来だろう。

 

「初めて魔法を使ったのに一回で成功させちゃった

 私が何度やってもうまくいかないのに」

 

「適正の問題なんだろ

 なのはちゃんだってジュエルシードの時には魔法は始めてばかりで使ってたじゃないか」

 

【その通りです

 マスターは恐らく魔力の収束に適正があり、逆の拡散か広範囲には適性がないのでしょう

 結界などの広範囲維持はもっとも適さないのだと思われます】

 

「そっか…

 やっぱり何でも出来るって訳じゃないんだ」

 

「魔法ってのは生まれ持った資質が一番重要らしい

 出来ない事をやろうとするより出来ることを伸ばしたほうがいいよ」

 

 俺は能力の御蔭でいろいろ出来るんだろうけど、それでも基本となる資質はどうしようもないんだろう。

 フェイトやシグナムさんみたいに無条件での魔力変換資質は生まれつきらしいし。

 デュランダルには元から凍結の為の機能がついてるから俺にも凍結変換が使えるけど、無ければ変換する術式を覚えないと出来ないだろうな。

 効率も生まれつきの資質よりは悪いんだろうし。

 

「うん、そうだね

 私も出来る魔法で頑張るよ

 ところでたっくんが結界張ってからなんだか寒い気がするんだけど何でだろう?」

 

「たぶんデュランダルの特性が原因だな

 こういう風にも効果が現れるのか」

 

 デュランダルには凍結変換の術式が入ってるわけではなく、変換機能としてついているらしい。

 完全に凍結魔法に特化させる為なのか、固定機能なのでデュランダルで使った魔法は全て凍結変換がされることになる。

 つまり今張った結界も凍結変換がされているので、結界内部が寒くなるのは当然の事だろう。

 

「そういうわけだから多少寒いのは我慢して

 多少の調整くらいは出来ると思うけど、まだデュランダルの使い方はあまり知らないから」

 

「うん、これくらいはへっちゃらだよ

 じゃあ、魔法の練習始めよっか」

 

 幸い我慢出来ないほどの寒さではないので問題はなかった。

 威力を上げる事が出来たなら結界内を冷凍庫みたいな低温環境に出来そうだ。

 そういう魔法も面白いかもしれない。

 

 

 

 漸く始まったなのはちゃんとの魔法の練習。

 結界は展開出来たら維持自体はそれほど手間ではないみたいで、デュランダルで他の魔法も使えた。

 とはいえ俺は魔法初心者だし、なのはちゃんは感覚で魔法を使っていたので知識は殆ど無いから誰かに教えられるような物じゃなかった。

 

 始めに使ったシューターのスフィアも、なのはちゃんのアドバイスはパッとしてギュッとしてビューんなんていう擬音を使った説明だった。

 まあ魔力の玉を出すだけならなのはちゃんと同じ位の数は出せた。

 だけど高速で複数飛ばして制御するのは、なのはちゃんに全然及ばなかった。

 流石射撃魔法を得意としてるだけあって、明確な才能の差を感じられた。

 

 結局はシューター同士で空中鬼ごっこをするという、いつもの遊び兼訓練になった。

 俺のシューターがなのはちゃんのシューターを追いかける形になる。

 逆だとあっという間に追いつかれるから練習にならなかった。

 

 プロテクションはとりあえずなのはちゃんのシューターを受けることで試し、防御することは容易に出来た。

 そこでなのはちゃんがディバインバスターを試そうとした所で流石に止めた。

 さっきも言ったがバリアジャケットは設定してないから纏ってもいないので、俺の魔法防御は低いだろうからプロテクションを抜かれたらまともに食らうので遠慮したい。

 とりあえずシューターを止めれるだけの防御魔法は使えたからいいだろうと思った。

 

 バインドはなのはちゃん相手に試したらとりあえずは成功したけど、バリアジャケットごと凍りついた。

 凍った部分は魔法も阻害するらしく、なのはちゃんがバインドを破るのに少し苦労していた。

 普通のバインドでも凍結変換が付くだけで結構違う物になるらしい。

 変換機能は強制でも割と使えそうだ。

 

「凍結変換って面白いんだね

 私と同じ魔法でも違う魔法みたいなの」

 

「確かに特性が付くという時点で別の魔法とも言えるかも知れないな」

 

「レイジングハートにはそういう機能ってないんだよね」

 

【はい、ありません

 そもそも魔力の変換を自動で行われるデバイスは一般にはありません

 本来は本人の資質か専用の魔法を持って魔力が変換されます】

 

「えっと、レイジングハートや普通のデバイスじゃ無理ってことだよね

 デュランダルが出来るのは特別だから?」

 

 確かにデュランダルはストレージでも特別なデバイス。

 魔力変換が自動で行われる機能が一般的なら、誰でも当たり前のように使ってるだろう。

 そうしないのは恐らく結果に見合わないほどの異常なコストが掛かるんだろう。

 ストレージよりインテリジェントのほうが高価って聞くけど、デュランダルは闇の書を封印する為に作られたデバイス

 普通のストレージよりも金を掛けてそうだ。

 もし壊れたりした時、修理出来るかな…

 

【はい、デュランダルは例外的なデバイスです

 彼女、フェイト・テスタロッサのような魔導師が普通の魔力変換資質の持ち主です】

 

「フェイトちゃんが?」

 

【彼女の魔法が電気になっているは魔力変換資質によるものです】

 

「ちなみにはやてちゃんとこのシグナムさんは炎熱変換

 つまり魔力を炎に出来る資質を持ってる

 他に使える人は知らないけど、出来る人は初めから当たり前のように出来るんだって」

 

 気の性質変化では俺も色々な性質が出来たので、魔力では出来ないかと試してみた。

 だけど気みたいにうまく変化させることは出来なかった。

 変化しなかったわけじゃないけど、変化させるのに時間は掛かるし効率も悪かった。

 魔力の性質変化には資質が重要みたいで、資質が無いなら術式を使わないと出来ないらしい。

 まあ、デュランダルみたいに特別な方法も存在するみたいだけど。

 

「魔導師にも色々あるんだね」

 

「というか、なのはちゃんはユーノにそういうこと聞いてないの?」

 

「え!?

 えっと……ユーノ君には魔法の上手な使い方を教わってただけだから…」

 

「つまり実戦ばかりで知識はあまり手を出してないわけか」

 

「あうぅ…」

 

 なのはちゃん、運動神経無い割に脳筋だな。

 勉強はそこそこ出来るほうだと思ってたんだけど。

 この様子だとあまり勉強をしてたわけじゃないか。

 

「なのはちゃんも実戦ばかりじゃなくて勉強もしてみような」

 

「うん…」

 

 数日後にはやてちゃん達が戻ってきた後の勉強会になのはちゃんはちょくちょく参加することになる。

 それからせっかくなので結界のように、レイジングハートから魔法の術式をいろいろ貰う事が出来た。

 なのはちゃんの結界のように適性がなければ無用の長物になるけど、なのはちゃんは高い魔力と資質を持ってるけど特殊な資質を持ってるわけじゃないから、大抵俺にも使える可能性のある魔法ばかりだろう。

 

 まとめてデュランダルに送られてきたみたいなので、今日の魔法の練習が終わって帰ってから確認したらSLBも入ってたのにちょっと驚く事になった。

 これまで入ってるなんて思ってなかったけど俺に使えるのだろうか?

 かめはめ波と見た目似てるのに、湧き上がる感情はとても恐れ多いという畏敬を覚えるんだが…

 

 そもそもこれ、簡単に誰かに教えていいのか?

 フェイトとの決戦見たらやばいモンにしか思えないんだけど。

 核兵器のスイッチをポンと渡されてしまった気分だ。

 

 まあこれにも適正とかもあるだろうし、感覚で編み出した物だからなのはちゃんにしか完全に使いこなせないだろう。

 なのはちゃんは先天性の特別な資質は無いけど収束魔法の適正が高いから、溜めて放つ砲撃魔法に向いている。

 もし俺が同じ魔力と魔法を使っても同じ威力にはならないだろう。

 それでも使えないことは無いんだろうけど。

 まあ魔法の練習の参考にさせてもらおう。

 

 

 

 

●レイジングハートの所有する魔法取得



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第四十一話 誘われて高町家

 

 

 

 

 

 ここ数日、なのはちゃんとの魔法の練習は続いていた。

 デュランダルに登録されてる魔法を使うだけだったら、一応は全て使うことが出来た。

 デバイスってホント便利だな。

 魔力を送るだけでほぼ自動で術式を構築してくれる。

 なのはちゃんが結界を使えなかったのが不思議なくらいだが、魔力そのものに資質が関係してるんだろう。

 

 だけどやはりデバイス任せだけじゃ色々限界があるらしい。

 自分でも魔力を制御すれば魔法はもっと向上するし発動も早くなる。

 SLBも使えたけど、威力はなのはちゃんのディバインバスターと同じくらいだった。

 魔力量や資質の違いもあるだろうけど、他の魔法も使い慣れてたなのはちゃんには劣っていた。

 

 まあ練習していたらどんどん使い慣れて、砲撃などの得意分野を除けば数日でなのはちゃんに追いついた。

 結界魔法も最初は円の感覚だったから狭い範囲だったけど、直ぐに改善出来て半径数キロほどの結界を張れるようになった。

 成長の著しい俺になのはちゃんがまた落ち込んだりもしたが、なのはちゃんも似たようなもんだと言って納得させた。

 

 事件中は練習なんてしてる時間なんて無かったのに、なのはちゃんだって同じかそれ以上の結果を出してるだろう。

 それにストレージであるデュランダルじゃレイジングハートみたいにSLBを開発とかは出来ない。

 持ち主の感覚を術式にして組み上げてくれるのは、AIがいないと出来ないだろうし。

 デュランダルじゃこれ以上新しい魔法を試すにはアリアが帰ってきてから教えてもらうしかない。

 

 だから今ある魔法を練習し続けている。

 貰った魔法を含めても殆ど戦闘かその補助ばかりなのでそれ以外の特殊な魔法はなかった。

 変身魔法とか試してみたかったんだけどな。

 

 

 

 今日もなのはちゃんと魔法の練習をしてた。

 ただし今日は魔法を使えない美由希も結界内で見学している。

 結界は大抵魔導師のみを対象に入れるが、ちゃんと指定すれば魔導師以外の人も入り込ませる事が出来る。

 原作のアリサもすずかも闇の書事件の時に結界に取り込まれてたしな。

 あれって、何で取り込まれたんだろう…

 

 ああ、もちろん久遠も一緒にいるよ。

 なんか久遠も魔力を一応持ってるみたいで自然に結界に入ってた。

 最初に結界張った時はそういう設定しなかったのに久遠も一緒にいたし。

 美由希を結界に取り込む際に気づいた。

 今度久遠にも魔法を教えてみるのも面白いかな。

 

 一通りの魔法を練習し終えてから魔法以外の練習をしようと思った。

 自分で結界が張れるようになったから、気や霊力を使った派手な技も練習出来るようになったし。

 そっちの練習に切り替えようとした時、同じく練習の終わったなのはちゃんに聞かれた。

 

「ねえ、たっくん

 これから私の家に遊びに来ない?」

 

「え、なんで?」

 

 突然だったので少し意表を突かれた。

 どうにも美由希と色々話してたり原作の予備知識から、高町家は鬼門というか苦手意識の塊になってるんだよな。

 

「最近たっくんと魔法の練習してたからお母さん達に誰と遊んでるのかって聞かれちゃったの

 それでたっくんの事話したら家に来るように誘ってみなさいって」

 

「ああ、そう…」(チラッ

 

「な、なに?」

 

 見学していた美由希を一瞥する。

 俺の視線に気づいた美由希が反応するがどうでもいい。

 以前も同じ様な事を言われたが、美由希だったら適当に貶すかボコってたな。

 

 しかしなのはちゃん相手にそんな扱いするわけにはいかない。

 可愛さゆえに苛めたくなるという気持ちもわからなくはないが、意味も無く苛めるほど俺は子供ではない。

 

 美由希? そっちの方はいわゆるスキンシップってやつだ。

 暗黙の了解の上で適当に弄っている。

 本人も実はそれほど嫌がってないから何にも問題ない。

 そうだよな美由希。

 

「なんだかわかんないけど貶されてる気がする

 たっくん、今何考えた?」

 

「いやなに、いつもの美由希の遊び方を思い返してな

 俺たちって結構仲良いな~って思って」

 

「仲良しって思われるのは嬉しいけど、私の遊び方ってのがすごく不愉快

 やっぱり私の事貶してるじゃない!!」

 

 一応俺も好意をもって接してるつもりだが美由希は不満らしい。

 その割に良く俺の所へ遊びにくるのはホントになんでだろうな。

 

「そんなつもりは無いぞ、いつも通り遊んでるだけだ

 なのはちゃんは俺と美由希が仲良く見えるか?」

 

「え!?

 う、うん……仲良しに見えるよ

 なんだかお姉ちゃんがお兄ちゃんに遊ばれてるみたいで」

 

「なのはまで私が遊ばれてるって言うの!?

 けどやっぱりそう見えるのって恭ちゃんとたっくんが意地悪な所で似てるから?

 たっくんと仲が良いって事は、恭ちゃんとも仲良く見えるって事になるから喜ぶべきなのかな…」

 

 なのはちゃんにまで遊ばれてると言われてショックを受ける美由希。

 だけど兄と仲が良いって言われて少し喜んでるなよ。

 まだ踏ん切りついてないのか、ただ単に兄妹として割り切ってるのか。

 

「美由希、お前の横恋慕物語の続きが出来た時は教えてくれよ

 内容を脚色して式神劇にするから」

 

「物語にしないし、作ってないし、やらないよ!!!

 もうその話で混ぜっ返すのやめてよ!!」

 

 俺も本気で言ってないが、そろそろこのネタもやめておいたほうがいいかもな。

 一応美由希の大事な思い出なんだろうし。

 続きを適当に考えてはやてちゃんと美由希の前で劇をまたやってやろうかと思ったんだが。

 

「ねえ、よこれんぼってなに?」

 

「え、ああ…

 なのはちゃんはまだ知らなくていいよ

 そうだよな、美由希」

 

「そ、そうそう!!

 なのはももうちょっと大きくなったら分かるよ」

 

「む~、そうやって子ども扱いされるの嫌だな~

 たっくんだって私より一つ上なだけなのに」

 

 横恋慕の単語自体知らなかったなのはちゃんの前でこの手のからかいは不味かったな。

 久遠も前に泥棒猫の意味を結果的に教えちゃったのは失敗だった。

 可愛い子はこういうことを知るべきじゃないよな。

 出来るだけ純粋無垢であってほしいと言う願いは悪くないはずだ。

 

「それでたっくん、うちに来てくれる?」

 

「え、あ、うーん…」

 

 少々悩ませられるが、特別断る理由も無いし逃げてもしょうがないか。

 まあ、いきなり模擬戦を要求されることは流石に無いよな。

 なのはちゃんも一緒にいるだろうし大丈夫だろう。

 

「まあ、いいよ」

 

「ほんと!!

 じゃあ、明日魔法の練習が終わったら一緒に来てね」

 

「わかった」

 

 そういうわけでなのはちゃんの誘いを受けることにした。

 

「ちょ、ちょっとたっくん!!

 これまで私が誘ってきてくれなかったのになんで!?」

 

「そりゃ美由希じゃなくてなのはちゃんだから」

 

「差別だ!!!」

 

「アハハ……」

 

「クォン」

 

 だけど相変わらず美由希はからかい甲斐があるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで翌日の魔法の練習の後に、なのはちゃんに連れられて高町家前までやってきた。

 なのはちゃんに道案内されたけど、一応俺は高町家の場所を知ってるんだよな。

 小さかった頃にあったなのはちゃんを一ヶ月ほど送ってたし。

 どうやらそのことはさっぱり覚えないみたいだけど。

 

「準備は万全と」

 

「何の準備?」

 

「いや、こっちの話」

 

 ふと漏らした一言をなのはちゃんに聞き取られたので、とり合えず誤魔化す。

 準備とは以前の八神家訪問時にシグナムさんと戦わされることになったことの教訓だ。

 シグナムさんの時は木刀の海鈴を持ってきたから戦うことになったので、今回は海鈴を置いてきた。

 原作ヴィータが和平の使者は武器を持たないって言ってたもんな。

 持ってたら絡まれる可能性が上がる。

 

 デュランダルは持ってるけど待機状態だし、なのはちゃんはまだ魔法の事話してないから問題ない。

 一応式神符も置いてきて完全無防備の武装解除状態。

 まあ海鈴がなくても気刃や霊波刀を出せるから武器は問題ないんだけどね。

 式神符も最近は自分では必要なくなったし。

 

 更に二つの意味で俺を守ってくれる心強くて可愛い味方、久遠。

 いつもよりギュッと腕の中で抱きしめております。

 二つの意味とは戦闘的な意味と精神的な意味だ。

 久遠はこう見えて強いし、可愛いので精神的な癒しと励ましになってくれる。

 

「久遠、よろしく頼むぞ」

 

「クゥ?」

 

 本人は自覚してないが精神的には非常に頼もしい

 流石に久遠を抱えたまま高町家で戦うようなことはありえないから、ほんとに居てくれるだけで助かる。

 飼い主ではなく事件も終わったのでいまはパートナーと呼べないのが少し寂しいな。

 

 とりあえずこれで準備万端。

 戦闘民族と言われた高町家に入る事になる。

 覚悟が揺るがない内にとっとと行こう。

 

「じゃあ行くぞ!!」

 

「クォン!!」

 

「えっとぉ……私のお家に入るだけだよね」

 

 いざ、高町家!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構えろ」

 

 あ……ありのまま起こった事を話すぜ!!

 俺は今高町家の道場にいる。

 道場には複数の人間がおり、内高町恭也が木刀小太刀を両手に持って構えていた。

 どうしてこうなったというが、気が付いたらこうなったというわけじゃない。

 今回ばかりは順序があって、事情もだいぶ違う。

 一つずつ説明していこう。 

 

 

 

 まず腕に抱えた久遠から勇気を貰って高町家に入ったら、割と普通に一家で出迎えられた。

 父士郎、母桃子、兄恭也が俺が来ると知っていてなにやら期待していたらしい。

 ああ、あと美由希も一緒に居たけどな。

 

 まず俺が自己紹介をしてから腕の中の久遠を紹介。

 一応久遠には喋らないでいてもらうことにした。

 高町家に来た時点でちょっとてんぱってるのに、お喋りして余計ややこしくしたくない。

 

 久遠に一番反応したのが桃子さん。

 抱かせて欲しそうにしていたので、久遠に了解を取ってから渡した。

 非常に嬉しそうに久遠を抱きしめて愛でていた。

 

 

 

 そこまでは良かったが、桃子さんが落ち着くと美由希に教えられた御神流の件が士郎さんから語られた。

 門外不出というわけではないが、基本的に他所の人間に教える武術ではないそうな。

 それが語られている間、美由希の肩身を狭くして小さくなっていた。

 

 ただ、だからといって俺に何かするというわけではなく、ただ無闇やたらに他所に教えるなという事だ。

 そういうのであれば俺も誰かに教える気はないので、特に断る理由もなく了承した。

 ついでに御神流についてちゃんと知ってもらおうと道場に来る事になった。

 

 海鈴はあえて持ってこなかったのだが、高町家の道場には木刀の予備くらい当然あった。

 なので海鈴が無いことに意味はなく、御神流なので木刀小太刀を二本渡された。

 そして木刀を持って構える恭也さんの前に立つ……………美由希。

 

「ちょっと!!

 何で私が恭ちゃんの相手なの!!

 こういう場合、たっくんじゃないの!?」

 

「何を言ってるんだ美由希

 まずは手本を見せるのが当たり前だろう」

 

「初めて来てくれたなのはと美由希の友達を怪我させるわけにはいかないからね

 今日のところは家の剣を見学していってもらおう

 いつもやってることをやりなさい、美由希」

 

「俺に押し付けようとするな」

 

「お姉ちゃん…」

 

「クゥ」

 

 美由希の文句に恭也さんがバカにするかのように言い、士郎さんは優しく宥めながらも美由希を推す。

 俺は道場の隅で正座しながら美由希に文句を言い返して、なのはちゃんも俺の横で座りながら呆れた様子を見せている。

 ちなみに久遠は俺の膝の上で、桃子さんは家の方にいる。

 

 渡された二本の木刀小太刀は、この後で士郎さんが俺が使う御神流の技を見るためらしい。

 といっても俺は二刀で使うわけじゃなくて、一刀の海鈴で使ってたから二刀には慣れてないんだけどな。

 

 

 

 

 

 そして開始した美由希と恭也さんの模擬戦。

 

 やはり同じ流派だからか、恭也さんの動きは見慣れた美由希の戦い方と似通っていていた。

 早さも美由希に劣らず、恭也さんのほうが美由希を攻めている。

 大して美由希はどちらかといえば守りを主体にしているが、時には隙を突いて反撃をしている。

 二人とも二刀流だからか手数が多く、俺との手合わせの時よりも素早く見えた。

 

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも速い…」

 

「なのはちゃん、見た事なかったの?」

 

「練習してるのは時々見るけど、模擬戦を見るのは初めてなの

 二人が戦うのを見るのは嫌だなと思って」

 

 なるほど、なのはちゃん本来の性格ならそう考えるか。

 でもやっぱり血筋なのかフェイトとの戦いはしっかりやりこなしたし、魔法を使ってればだんだん戦闘思考になりそう。

 出来ればそうなって欲しくないな…

 

「そうか、なのはは二人の模擬戦をまともに見るのは初めてだったか

 以前までは美由希は恭也にやられっぱなしだったが、最近は良い勝負をするようになったんだ」

 

「そうなの、お父さん?」

 

「ああ、どうやら拓海君のおかげみたいだがね」

 

「俺ですか?」

 

 確かに美由希とは手合わせの他に気の扱い方のアドバイスをして身体能力が伸びたように感じる。

 気功波は無理だけど斬撃に併せた斬空閃は放てるし、最近は虚空瞬動が成功し始めてる。

 瞬動の使い方自体は俺と同じくらい使いこなしており、御神流の戦い方に併せるようになってからは今の俺じゃ追いつけなくなっている。

 

 今は御神流の模擬戦だからか使わないみたいだけど、瞬動を併せた戦い方は素人目には消えているように見えるだろう。

 俺は普段から凝をしているから目が追いついてるけど、凝をしてない場合だと美由希の動きに追いつく自信が余り無い。

 教えた俺としては成果が出て嬉しい反面、あっという間にモノにされて少し悔しい。

 

 色々思い返してみると美由希もかなりの天才なんだよな。

 普段がどうも抜けてるように見えて、とても強いとは思えない。

 学校の成績も結構良い方らしいから余計に信じられない。

 文武両道だけど性格がへっぽこといった感じか。

 これで性格までしっかりした完璧超人だったら…

 

 …やめた、どこぞのお嬢様風の美由希をイメージして変な気分になった。

 容姿も普通に良いから見る分には違和感無いのに、目の前に存在する美由希とのギャップがすさまじい事になった。

 似てない双子どころか、赤の他人の空似としか思えなかった。

 見た目や能力より、やはり人格がもっとも印象強いんだな。

 

 美由希を改めて再評価していると、難しい顔をして考えてる俺になのはちゃんが気づいた。

 

「たっくん、どうしたの?」

 

「あーいや、美由希はあれで強いのにどうして普段は情けないんだろうかと」

 

「そ、そう…」

 

「家ではそれほどそんな事もないんだが、君の前では美由希はそんな感じなんだね

 以前から君の事を美由希が話題に出すようになった頃から、美由希の成長が急に伸び始めたんだ

 剣を交える時の美由希の気もどんどん洗練されて、恭也ともまともに打ち合えるほど成長した

 正直美由希を成長させたのが自分じゃ無いのが残念だよ」

 

「すいません、やっぱり美由希に俺なりの気の使い方を教えたのは不味かったですかね」

 

「いやいや、美由希が何を糧にして強くなるかは美由希次第だ

 君さえよければ教えてくれるのは構わないよ

 だが、本当に君は独学で気を使えるようになって、瞬動という技を美由希に教えられるほどになったのかい?」

 

「ええ、まあ

 瞬動は自分で編み出しましたけど、美由希は俺より使いこなしてるくらいなんですよね

 編み出した俺としては少し悔しいんですけど」

 

 ネタは漫画だけど実践して開発したのはこの世界じゃ俺だしね。

 まあ、どういう技なのかも説明されてたし、慣れれば簡単に使えるんだけどね。

 

「それは仕方ないかもしれないよ

 どうやら瞬動と言う技はうちの流派とうまく噛み合うみたいで、それを使った美由希が恭也を瞬殺しちゃったくらいだから」

 

「そういえばおにいちゃん、初めてお姉ちゃんに負けた事を嬉しそうに言ってたの」

 

「恭也も美由希の成長が嬉しかったみたいだからね

 ただ、うちの技で強くなっても欲しかったから、普段の模擬戦では使わないように言ってるんだ」

 

 やっぱりあえて瞬動は美由希に控えさせてるのか。

 美由希も前に恭也さんに初めて勝ったとか言って、次の日にボコボコにされたって言ってたな。

 たぶんその時の事だろうな。

 

「今回はうちの技を見て貰うために控えさせてるが、制限無しの模擬戦になれば恭也も瞬動を使っている。

 美由希から教わってしまったけどよかったかい?」

 

「簡単な技なんで構いませんよ

 真似しようと思って少し練習すれば出来るようなものですし

 それより俺も美由希からそちらの技を少し教わったんですけど…」

 

「それは美由希が不用意だったから君を咎める気は無いよ

 だけど教えた技をあっという間に使えるようになったそうじゃないか

 才能があるなら美由希達と一緒にうちの技を学んでみる気はないかと思ったんだ

 そういう意図もあって美由希たちの手合わせを見てもらってる」

 

「ああ、そうだったんですか」

 

 御神流を学ぶか…

 奥義の神速とかは興味ない事は無いけど、流派とかってそれぞれ掟というか信念みたいな心構えがあるだろ。

 御神流も確か守る為って信念があったような気がする。

 

 俺は自分の力は自由に使いたいって主義だから、自分の行動を束縛するような約束事は持ちたくない。

 口だけで信念を語って学ぶ事も出来るけど、それは真面目に掲げている士郎さん達に失礼だ。

 信念を持って行動する人は尊敬するし憧れはするけど、俺は俺で自由にしたい。

 

 だから俺は堅苦しい流派を学ぶ気は無く、あくまで真似の領域で技を使うことにしている。

 尊敬するからこそ同じ業(・)を使うのではなく、自己流で真似ることで憧れを満足させている。

 これまで考えてきた技だって元は前世からの憧れだったんだしね。

 その憧れを自分で貶したくは無いよ。

 

「とても嬉しいお誘いですけど遠慮しておきます」

 

「どうしてだい?」

 

「美由希から聞きましたけど、そちらの流派って結構古い武術があるんですよね

 そういうのって仕来り(しきたり)とか約束事があるんじゃないですか」

 

「まあ、武術を扱う心構えや独特の考えはあるけど、そんなに堅苦しく考えなくてもいいと思うよ

 正しい事に使おうとするのなら、特に気にすることもないさ」

 

「悪用とか考えてるわけじゃないんですけど、俺はいろんな技を考えて習得したり学んだりしてみたいんです

 これまでもそうして技を考えたり練習したりしてきましたから

 もしかしたらここと別の流派に出会って学ぶ機会があるかもしれません

 御神流を学んでたら別の流派を学ぶってのは不味いでしょう?」

 

「確かにあまりいい気はしないけど、絶対駄目だと言う事はないよ」

 

「けど別の流派がそうとは限らないでしょう」

 

「まあ確かに」

 

 普通に考えればダメと考えるのが普通だ。

 まあ俺は前世では流派と呼べる武術をやってたわけじゃなくて、一般的な認識での考えだからな。

 これもやっぱり漫画やアニメの知識。

 けど、現実的に考えれば一つの流派を学ぶ事になれば、他の流派を学べるほどの余裕はないんだろうな。

 今の俺なら能力のおかげで学習能力が高いから出来ない事もないんだろうけど。

 

「いつか別の流派に入門するかもしれないからってわけじゃありません

 いろんな事を試したいから一本に絞るような流派に入りたくないんです」

 

「うちは別に気にしないんだが」

 

「それだけじゃなくてさっきも言った仕来りとかの枷を気にするんです

 色々やっていたら仕来りに反することをすることになるかもしれません

 そういうことになったらやっぱり失礼なんで本格的に学ぶことはお断りします」

 

「…そこまで考えてるなら仕方ないね

 まあ、それでも今日は見学していってくれ

 見て学ぶくらいならお互いに何も問題ないだろう」

 

「そうですね

 参考くらいにはさせてもらいます」

 

 といった感じで、士郎さんのお誘いは断ることになった。

 会ってみて思った以上にいい印象の人だったけど、先入観が根強すぎてこの一家に囲まれるのは少し息苦しい。

 断った理由も本当だけど、ここの道場通いになるのは遠慮したい。

 時々来るくらいはいいけど、やっぱり普段は美由希を相手に新技の実験や見様見真似で自己流の技にするくらいがいい。

 対価として美由希に気の使い方を教えてるんだし。

 

 その後は黙って美由希と恭也さんの戦いぶりを見たけど、最後は美由希が隙を突かれるかたちで負ける事になった。

 流派の技だけではやっぱり勝てないと美由希は悔しがっていたけど、俺が教えた技を解禁して戦えば恭也さんと互角以上に戦えるんだと。

 美由希は斬岩剣と斬空閃が使えるし、瞬動を混ぜればすさまじい速さになる。

 

 大して恭也さんも美由希から学んで瞬動だけは使えるそうだが、神速も使えるそうだからとんでもない高速戦闘になるんだろう。

 ちなみに神速の話は美由希から以前聞いた。

 美由希はまだ使えないから、使われたら最終的には負けそうになるんだと。

 神速使われてもなかなか負けないようになってきているあたり、美由希のスペックがもしかして想像以上に上がってるんだろうか。

 

 

 

 模擬戦が終わった後は士郎さんにちょっとだけ剣の振り方を見てもらったりなど、基本的な動作や足運びなどを指摘してもらった。

 やっぱり美由希たちに教えてるだけあって、的確で分かりやすい指導をしてくれた。

 一つ模擬戦でもどうかと言われたときは冷や汗が出たが、一度断ると直ぐに諦めてくれた。

 美由希との戦いぶりを見てみたかったらしいが、俺の戦い方は気弾とか斬空閃とかを使うから道場を壊しそうだったので納得してくれて助かった。

 

 帰る時には剣の腕を見てほしかったら遠慮なく来てくれとも言われた。

 流派を学ぶ気はないけど基礎的な剣術のアドバイスなら問題ないだろうと。

 美由希じゃ実践的というか実験的なものにしかならないから、感謝の言葉を述べながら了解した。

 

 ホントいい人達だと思った。

 戦闘に関わらない限りは…

 

 

 

 

 

 



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第四十二話 誕生!!ニューパートナー!!

 

 

 

 

 月明かりが降り注ぐ満月の晩。

 俺はとある目的の為、真夜中ながら家を抜け出して八束神社に来ていた。

 目的とは前々から試そうと思っていた専属の式神の作成だ。

 

 前にも言ったと思うが、式神には大きく二種類に分けられる。

 即席で作られるその場限りの式神と、事前に作っておいて使い捨てで無い専属の式神。

 即席の物は簡単に作れるがそんなに強くない。

 そして専属の物は作成に時間は掛かるが、その分強力で一回で消えることは無く同じ式神を使うことが出来る。

 

 作成に手間が掛かるし使い捨ての式神に慣れてから作ろうと思ってたけど、予想以上に即席の式神が便利な上、色々応用も利き過ぎたので、応用技を修めてたりしてたらだいぶ後回しになってしまった。

 その上、ジュエルシードや闇の書の事件も時期的に重なったりしてたから、なかなか試す機会がなかった。

 

 だけど漸く試す機会と環境が揃った。

 専属の式神の作成は即席の物とは違い、地面に複雑な陣を形成する儀式魔法のようなものだ。

 即席の物とは書き込む術式量が桁違いなので、霊力光による即席の陣を形成するのは無理だ。

 なので昼の内に那美姉さんに許可を貰って地面に陣を書き上げた。

 書き上げるのに三時間は掛かった事から、術式量の多さを窺えるだろう。

 

 満月の晩を選んだのは、その時が月の光が一番強いので力が充実するからだ。

 儀式に部類されるだけあって周囲の環境によっても効果が変化するので、満月が出ているときが一番いいらしい。

 月の光には強い魔力があるなんて話は有り触れてるけど、実際には魔法で使う魔力では無くただ純粋な力らしい。

 聖王のゆりかごの設定にも月の魔力の重要さが載っていたが、これも実際には魔力ではなく月の光の力という事なんだろう。

 ともかく式神を作るには月明かりがもっとも強くなる満月がいいということだ。

 

 

 

 書き上がっている陣の大きさは半径三メートルほど。

 その中にはびっしりと術式の内容が記されている。

 ずっと試そうと思っていたから本に書かれていた術式内容を何度も読み返しているのでほぼ暗記している。

 それでも魔法陣のように霊力光で書き上げられないのは内容が複雑すぎるからだ。

 霊力光だけで書き上げるには術式を書き上げてくれるデバイスみたいな物が必要だろう。

 まあ霊力はデバイスでは認識すら出来ないから無理だろうけど。

 

 陣の中心には式神作成で依代となるものを置く。

 それを素材にして式神を作成するのだ。

 

 専属の式神は術者である俺の能力とは別に、素材によって式神の能力が決まるらしい。

 力量は確かに術者の霊力等によって左右されるけど、素材の性質によって能力の方向性が決まる。

 魔導師の使い魔のように犬を素材にすれば犬の使い魔、猫を素材にすれば猫の使い魔が出来るようなものだが、この式神は生物である必要はなく、条件さえ合えば無機物でも問題ない。

 なので石であれば土の属性の能力、樹であれば樹に由来する能力を得やすい。

 水生生物を素材にしてれば水の能力を持つ可能性が高いだろう

 

 ただその条件が少々厄介で、何かしらの思念が篭っているような物でないと難しいらしい。

 判りやすくいうと思い入れのあるものとか、年代物の古い品物とかだ。

 他にも動物の爪や角などの一部も素材として使える。

 それに生物の一部なら、元となる生物の思念が篭ってて当然だからだ。

 

 そこらへんの犬猫から爪なり毛なり拝借して試せばいいとも思ったけど、専属の式神だから長い付き合いになるし少々つまらないと思い却下。

 なら久遠の毛を一部貰って素材にすれば、出来上がる式神は久遠似の狐の式神なるだろう。 

 だけどそれじゃ普段一緒にいる久遠が少し機嫌を悪くするかなと思い、それも断念。

 そもそも他の式神の作成方法に妖怪を使役する方法もあり、久遠をそれに当てはめる事も出来る。

 けど久遠は那美姉さんに飼われてる立場なので、以前にそれを諦めているので一部を素材にするのも気が引ける。

 

 そうなると自分の周囲で見つかりそうな素材は余り思いつかなかった。

 骨董品店とかになら思念の篭った古い品は見かけたけど、由来とかが解らないとどんな式神が出来るか想像もつかないので試したくはない。

 悪い物だったりしたら大変な事になりそうだし。

 仕方ないので那美姉さんなら何か心当たりがあるかもしれないから相談しようと思ったけど、その前に一つだけ俺の身近で式神に出来そうな物があったことに気づいた。

 

 素材にしようと思ったのは俺の愛木刀海鈴だ。

 海鈴は唯の手製の木刀だったけど霊力などを込め続ける事によって霊刀化している。

 俺と相性が良くなっていて、体の一部のように気も魔力も流す事が出来る。

 霊力自体が俺の手を離しても篭っているので、素材としても十分だろう。

 

 ただ、どんな物が出来るのかあまり想像は出来ない。

 樹が素材だからそれに関係する式神になりそうだけど、篭ってる霊力は俺自身のが宿った物だから俺自身に関係する式神になるのかもしれない。

 

 だけど式神の儀式が成功しないとは思わなかった。

 長年というほど今世は生きてないけど、そこそこ長く使っている愛木刀だ。

 悪い事になるはずは無いとなんとなく確信していた。

 

 

 

 海鈴を陣の中心に置いて陣に霊力を流すと、書かれた陣に沿って霊力光が浮かび上がり準備が完了した。

 ここからは魔法の呪文ならぬ、呪言を霊力を発しながら唱える。

 呪言には正しい発音などは重要ではなく、言葉の意味を霊力に乗せて唱える事が重要らしい。

 これも何度も本を見返してしっかり意味を理解しきっているので問題ない。

 

 こういう大掛かりなことは闇の書の時にも感じたが、やはり何度やっても緊張する物だ。

 軽く深呼吸をして緊張を少しだけ解けたと感じたら、ゆっくりと呪言を唱え始める。

 人の中心にある海鈴を見据えて成功を祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の学校の授業中、はやてちゃんから念話が来た。

 

『たっくん、久しぶりやなー

 元気にしとったー?』

 

『ああ、はやてちゃん、おかえり

 だいぶ長く向こうに居たんだね』

 

『ホンマになあ

 なかなか帰ってこれへんかったわ

 もう少しは早う帰ってこれるはずやったんやけど、引き止められてもうて』

 

『なんか問題でも起こったの?』

 

 原作とは違う結末を迎えたから何処かから圧力でも掛かったのか?

 無事に帰ってこれたみたいだからいいけど、今後の問題になるかもしれない。

 

『いや、そういうわけやあらへんよ

 むしろ逆に私が思うとったよりすごく歓迎されすぎたんや』

 

『歓迎されすぎた?』

 

『うん、夜天の書が聖王教会にとってすごい物やって解っとったけど、あれほどとは思うとらんかった。

 式典があるって聞いとって学校の表彰式みたいなものかなと思うとったけど、始まってみれば騎士風の格好をした人がズラーっと並んで、その間のレッドカーペットを私ら歩かされたんよ!!

 分かる!? 私、心臓が飛び出そうなほど緊張したんやで!!』

 

『それはまた……大変だったね』

 

 闇の書だったというのはマイナス要素だけど、夜天の書は蒐集機能にリインさんのユニゾン、シグナムさん達守護騎士プログラムと今はない古代ベルカの技術の集まりだ。

 それにシグナムさん達自身も古代ベルカの知識をそのまま蓄えてるに等しいから、重要な文化財ともいえるだろう。

 高い評価を受けてはやてちゃんの後ろ盾になればいいと思ってたけど、予想以上の評価を受けてしまったらしい。

 

『そこで私が夜天の王って言う称号を聖王教会から貰う事になったんよ

 ただ偶然私んとこに夜天の書が来ただけやからあまり実感湧かんのけど』

 

『それは大変だったね

 それで帰ってくるのが遅くなったの?』

 

『確かにそれで私もなんかいろんなお偉いさんと話をしたり聖王協会の事を聞く事になって時間は掛かったけど、それだけやったらもう少し早くに帰ってこれたんや

 やけどシグナム達が教会の騎士さん達に引き止められたんや』

 

『どうしてまた?』

 

『シグナム達の使う古代ベルカ式って今じゃあまり使い手がおらんらしいんよ

 それでその技を見せて欲しいって皆が教会の騎士さん達と模擬戦をすることになったんや

 負ける事はなかったんやけど、勝ったら勝ったで皆の人気に火がついてもうてな

 色々教えて欲しいゆうてなかなか返してくれへんかったんや』

 

『そういうことだったのか』

 

 模擬戦って、またシグナムさんが中心になって暴れたって事か?

 いや、シグナムさん以外に積極的に戦いに行くやつはいないよな。

 ヴィータは好戦的で熱くなり易い性格だけど、節度を弁える位には冷静に判断出来るし。

 逆にシグナムさんは冷静に見えて戦いになると熱くなり易かったりする。

 普段はしっかりしてるように見えるんだけどなー。

 

『滞在してる間は綺麗な部屋に豪勢な食事を用意してくれたんやけど、庶民育ちの私には少し息苦しかったわ

 帰ってきてから作ったお味噌汁がこれまでで一番美味しく感じたで』

 

『まあ、無事に帰ってこれで何よりだよ』

 

『ホンマやな、豪勢過ぎてストレスで死ぬかと思うたわ

 まだ話したい事もあるけど続きは後でにしようか

 お土産もあるから今日家に来てくれへん?』

 

『いいよ、はやてちゃんがいない内に色々進展もあったし』

 

『進展? なんの?』

 

『色々ね、まあそっちに行ったら教えるよ』

 

『しゃあないなぉ

 じゃあ、待っとるでー』

 

 そうしてはやてちゃんとの念話を終えた。

 デュランダルの事もあるけど、先に海鈴のことを紹介したいな。

 昨日の儀式はうまくいったことだし。

 

 

 

 

 

 学校が終わって家に戻って準備をしてからはやてちゃんの家に向かった。

 途中で俺の円に引っかかった久遠も一緒に連れてだ。

 最近は何時でも円を維持出来るくらいに手馴れているので、知り合いが範囲内で擦れ違えば直ぐに分かる。

 まあ久遠はいつも学校が終わる頃に俺を探しに来るのですぐ会える。

 

 久遠の飼い主である那美姉さんとは最近会えていない。

 今の那美姉さんは高三で大学受験を控えているからだ。

 さざなみ寮にいるにはいるのだが、最近は勉強が忙しいらしくて神社にもあまり来ない。

 久遠の相手もあまり出来ないので普段から俺と一緒にいる。

 

 俺としては一緒に居られるのは嬉しいが、久遠は時々那美姉さんと遊べないとぼやいていたりする。

 やっぱり付き合いが長い那美姉さんとの絆は強いようだ。

 

 

 

 八神家に着くとインターフォン越しに出迎えられて中に入っていく。

 俺の腕の中には久遠と一緒に久遠と同じくらいの茶色い猫を抱いて。

 

「待っとったで、たっくん

 ん? 久遠も一緒やけどそっちの一緒に抱いとる猫は見慣れへんな」

 

「何ですって?」

 

 久遠と一緒に抱いている猫とはやてちゃんが言ったことで、人型のアリアが反応した。

 他の皆も久しぶりだけど何時も通りそれぞれリビングで寛いでいたが、何時も猫姿だったアリアが人型でいるのが珍しかった。

 

「あ、アリアもお帰り…でいいのかな?

 こっちで人型でいるのは珍しいね」

 

「どちらでもいいんじゃないかしら

 知ってると思うけど当分こっちで厄介になる事になったから、普通の生活をするなら人型でいた方がいいのよね

 まあ拓海が相手してくれるときは猫型になるわよ

 それともこの姿でも撫でてくれるかしら?」

 

 とアリアがからかう様に言った。

 ふざけてるのは分かるけど、そういうのは最初の喘ぎ声を経験してしまったのでそれほど驚かない。

 なので冷静に対処する

 

「撫でるとしても人型だと失礼なところとかは撫でる気はないよ?

 頭くらいな普通に撫でてあげるよ」

 

「あまり戸惑わないのね

 クロノだったらムキになって反論するのに

 やっぱりこういう冗談はロッテ向きね」

 

 そういえばアリアと双子のロッテは良くクロノにこの手の悪戯をしてたんだっけ

 アリアが当分こっちにいるというのは、グレアムさんがはやてちゃんの保護監察官になったからだ。

 と言ってもはやてちゃんが別に何か罪を犯したわけではないからその言い方も少し間違っている。

 夜天の書に戻った闇の書が安全かどうかを監視するためだから、ある程度の期間問題が起こらなければ直ぐに終えてしまうものだ。

 

 それでも恐らく数ヶ月は様子見の期間があるらしいので、その間はグレアムさんの代理として使い魔であるアリアがはやてちゃん達と行動を共にすることになる。

 まあ俺からしたら当分ミッド式の魔法の先生に困らないと言うことだ。

 

「それで私の場所をとっている猫は何かしら?

 魔力を感じないから普通の猫かと思ったけど、拓海だと何かありそうな気がするのよね」

 

「確かにたっくんなら猫又連れてきても私は驚かへんで」

 

 二人の意見に賛同するように守護騎士達にも同時にに頷かれた。

 失礼だなと言いたいけど、腕の中の猫も確かの普通の猫じゃない。

 猫又ではないから尻尾はちゃんと一本なんだけどな。

 

「まあ猫又じゃないし猫ですらないんだけどね

 じゃあ、挨拶してごらん」

 

『はい、わかりました、ご主人』

 

 茶色の猫が流暢にそう返事をする。

 喋った事自体にはここに居る皆は誰一人として動じない。

 まあ何度も動物が喋りだすような事があったからな。

 

『改めまして自己紹介させて頂きます

 私、昨日をもってご主人の式神となりました海鈴(みりん)です』

 

「海鈴というとお前の木刀の名前ではなかったか?」

 

 海鈴の名前に一番最初に反応したのはシグナムさんだった。

 以前に手合わせをした時にしっかり海鈴の名前も教えたからな。

 戦いに関わったことなら律儀にしっかり覚えてくれてるんだろう。

 

『はい、確かに私はご主人の木刀である海鈴です、シグナム様』

 

「けど式神って拓海がいつも使っているあれだろ

 何で拓海の木刀が式神になるんだ?」

 

「この海鈴は何時も使っている式神とは違う

 この子はどちらかというと、たぶんミッドの使い魔と似てるんじゃないか」

 

「使い魔と?」

 

 使い魔と言う単語を出したことで、ミッド式の使い魔であるアリアに視線が集まる。

 アリアも使い魔と似たような物と聞いて興味が沸いてきたのか海鈴を凝視する。

 

「昨日、普段使ってるのとは違う式神の作成術を試してね

 その時に海鈴が式神化の条件にあったから試してみて成功したんだ」

 

 専属の式神の特徴と素材の内容を簡潔に説明する。

 アリアには作成方法が使い魔と似たような所があるということに納得がいき、他の皆はそんなものなのかと普通に理解をしたみたいだ。

 

「じゃあ、たっくんの木刀を猫の姿の式神にしたってことなん?」

 

「いや、猫の姿は仮の物でちゃんと元の木刀に戻れる

 海鈴、元の姿に戻って」

 

『はい』

 

 

-ボフンッ-

 

 

 腕の中の海鈴が煙に包まれると腕の中の猫の毛触りが消えて、そこに無骨な小太刀サイズの木刀があった。

 左腕で久遠を抱えて右手でその木刀海鈴を右手に持つ。

 

 

「この通りいつでも元の木刀の姿に戻せる

 それから、海鈴出といで」

 

『はい』

 

 俺が呼び掛けると木刀の中から緑色の光の玉が現れて人の形になる。

 大きさは15cmくらいで三頭身程だが、輪郭が微妙にぼやけていて形が定まっていない。

 手足は間接部はあるように見えても指先ははっきりしておらず、頭部も髪の毛や顔の造詣はあってもちょっと鋭い感じの目の部分が黒いだけで口や鼻の穴はない。

 

 まさに精霊といった感じの人型は海鈴の霊体だ。

 以前から海鈴に宿っていた霊力が式神化により形を成した物らしくて、これが海鈴の本当の姿といえる。

 その為、霊力が宿ってからこれまでの事もぼんやりとだが記憶に残ってるんだとか。

 ご主人とか初めて呼ばれたときはちょっと困惑したけど、素直で礼儀正しい子みたいだ。

 

「これが海鈴の本来の姿になる

 基本的に俺と自分の霊力で構成されるけど、俺が気や魔力を送れば海鈴が使うことも出来るみたい」

 

『ご主人の力を使うのはご主人の為です

 今までもこれからもご主人の力になる事が私の務めですから』

 

 作成が終了して現れた姿はもともとこの姿だ。

 この姿でも結構愛嬌はあるけど普段使ってる式神と違って生き物を基にした姿にならなかったので少し残念だと思った。

 そしたら海鈴が何とかならないかと考えたら猫の姿になれた。

 同じ位のサイズなら他の動物にもなれたけど、質量に差のあるものにはなれなかった。

 簡易の式神っぽい能力だけど、こういう能力を持つとは式神の本には書かれてなかったな。

 

 式神の本に載ってた専属の式神の作成法には、素材と術者の資質と霊力量、そして生み出す式神をどのようにするかをイメージする事で能力が決まるらしい。

 イメージが重要になるのは式神を形作る方向性がより定まるからだ。

 簡易の物でも出来たが視覚共有による探査を目的とするために素早い小動物や鳥になるように望んだり、戦いに向いた鬼みたいな巨漢になるように望んだりすればそのようになる。

 素材だけでは方向性を決めきれないこともあるから、イメージする事によってより己の望んだ式神を生み出せるんだとか

 

 今回は初めてだったので素材と自分の今の能力に方向性を任せたが、普段使っている式神が色々変身できて便利だったから、専属の式神もそうだったらと願ってしまっていたかもしれない。

 その御蔭で変身出来るようになったかもしれないけど、海鈴自身も変身出来る事には試してみて初めて気づいた。

 もしかしたら他にも何か出来ることがあるかもしれない。

 昨日の内に調べられるだけのことは調べてみたけど。

 

 ちなみに両親には既に紹介して猫の姿で家に居着く事を了解してもらっている。

 あくまで猫は仮の姿で霊力さえあれば活動出来るから食事も要らないし当然排泄もない。

 知恵もあるので普通の猫のように世話を必要としないから容易く了解を貰えた。

 まあそれでもちゃんと責任を持って世話しろよと言われたのが、信用されてるのか普通のペットと変わらないと判断されたのか。

 

「いい子なんだけどちょっと忠誠心みたいなのが強くて硬いんだよね」

 

「まるでシグナムやリインみたいやな」

 

「そ、そうですか、主はやて」

 

「とても良い心意気だと思うのですが」

 

 シグナムさんが戸惑い、リインさんは海鈴に賛成的みたいだ。

 だけど俺は久遠くらいに甘えてくれる感じだといいんだけどな。

 せっかく普段は猫の姿でいるように決めたのに。

 

「そんなに硬くならないでもっと楽にしていいよ」

 

『ご主人の意思とあらばそうするように努めますが…』

 

「あくまで海鈴の意思でそうして欲しいんだけどね」

 

 まあ、個性って言うんならしょうがない。

 シグナムさんやリインさんもそういうもんなんだし。

 

「なあなあ、海鈴ちゃんは他に何が出来るん」

 

『さあ…私自身もまだ生まれたばかりなので良く分かりません

 ですがこれまで以上にご主人の力になれる事は断言出来ます!!』

 

 何が出来るか尋ねたはやてちゃんに力強く応える海鈴。

 変身や俺の力を使える事以外にはちょっと便利程度の能力しかない。

 

「まあ後は持ち運びがしやすくなったくらいかな

 海鈴、伸ばすよ」

 

『はい、ご主人!!』

 

 元気良く応えた海鈴が本体の木刀に戻ると、俺は霊力を海鈴に込める。

 すると本体である木刀がスススっと伸びていつもの長さの木刀にまで成長した。

 いつもは(主に美由希に)斬られたり折れたりしても水を用意して木行の力を操って成長させてたけど、俺が霊力を送るだけで海鈴が自分の意思で体を伸ばせるようになった。

 海鈴が自分で伸びるから無駄に根っこや枝が伸びたりしないので、今後は再生の度に木刀になるように切り揃えなくて済む。

 

 逆に縮めたりも出来ないかと海鈴が試したらそちらも出来た。

 これなら縮めておけば持ち運びしやすいので、学校カバンの中にも入れられたりする。

 

「こんな感じで伸ばしたり縮めたり出来るようになったくらいだ

 もしかしたら他にも出来るかもしれないけど、今はこれくらいしか判ってない」

 

「作り方は使い魔に似てるけど魔法とは違うのね

 霊力だから探査魔法とかには全然引っかからないし」

 

 皆が霊体姿の海鈴に注目しているが、一番近くまで寄ってきて興味を持って見ててるのはアリアだ。

 魔法を使って今の海鈴を調べてるみたいだけど何も分からないみたい。

 

「さっき、気や魔力を送れるって言ってたけど普段は霊力を送ってるの?」 

 

「ああ、普通の使い魔みたいに維持するだけだから微々たる物だけど送ってる

 それに併せて気や魔力も自分の意思で送れる

 まあそれは即席の式神でも同じようなことは出来たし、海鈴はしっかりとした意思を持ってるから自分の意思でも使える」

 

「だったら魔法の使い方を教えれば海鈴は拓海の魔力を使って魔法を使えるのかしら

 そしたらまるでインテリジェントデバイスね」

 

「あ、そうか

 そういうことが出来る可能性もあるのか」

 

「(無機物を使い魔にしたようなものだけど、魔法が使えるとしたらデバイスと使い魔の中間みたいみたいね

 その可能性があるなら魔法として興味深いけど、魔力で感知出来ない霊力で作られる式神は魔法技術として確立させるのは難しいか)」

 

 なにやらアリアが何かを考え込んだ後にため息をついて残念がってた。

 これまでは海鈴に気を送って強化したり気の刃を作り出したりしてたけど、魔法の杖にもなりえるかもしれない。

 海鈴に補助魔法を任せでデュランダルをメインに攻撃魔法を使うとか。

 …面白そうではあるけど、どうしてもこういう発想は戦闘系の事になっちゃうな。

 戦闘以外にも色々魔法は使えそうなんだけどな。

 

 

 

 式神化した海鈴の紹介が終わった後は、ここ数日こちらであった事を話したりはやてちゃんからお土産を貰って向こうでの話を聞くことになった。

 聖王教会で買ってきたお土産は洋風のお菓子などが中心だった。

 発展してる文明でもお土産屋とかはこの世界と似たような感じだったそうだ。

 

 教会の騎士相手に暴れたシグナムさん(達ではなく)は、今後古代ベルカ式の使い手として色々教えるために時々聖王教会がある世界に行くことになったようだ。

 やることは結局向こうで暴れるだけとはやてちゃんには呆れられながら言われたのをシグナムさんは少し応えてたみたいだ。

 他の皆も似たように持ってる技術を教会の騎士に教える仕事を貰った。

 はやてちゃんは称号を貰ったとはいえ、知識はまだ管理外世界の住人が少し魔法を知った程度なので何かを教えることなど出来ないが、将来的に役職に就く可能性もあるので聖王教会の事を時々学びに行くことになるらしい。

 それでも月に一回くらいで、後は資料を家で読みながらリインさんから夜天の書の魔法をしっかり学び続けるだと。

 

 ベルカ式は基本的に近接戦闘を主体にする魔法がメインだけど、リインさんが使う魔法は広域型と真逆であることから非常に珍しい。

 そして夜天の書に選ばれたはやてちゃんは当然その資質があるから広域型の古代ベルカ式使いというレア中のレアな魔導師の卵と言える。

 だからこそ今はリインさんから魔法を学んで夜天の書の知識を自分の物にするのが一番いいと聖王教会も判断したんだろう。

 教師役もリインさん以上に適任な人は聖王教会にも居そうにないし。

 

 聖王教会の人に言われた管理世界への移住は、今の所は特に考えていないらしい。

 原作でははやてちゃんはSTSの時期には既にミッドに移住していたけど、中学までは確かこっちで生活していたみたいだし。

 まあ、いきなり生まれ育った故郷を離れるなんて望みはしないだろう。

 

 それに向こうの雰囲気は庶民生まれのはやてちゃんには辛い物があって、滞在する間は全然落ち着かなかったらしい。

 待遇も良過ぎる上に食事も洋風の高価な物ばかりで、早く帰って味噌汁が飲みたいなんで思うことになった。

 向こうへの移住を断った最大の理由はそれだそうだ。

 

 将来どうなるかはわかんないけど、当分はこっちの世界で暮らし続けるつもりだとはやてちゃんは言った。

 グレアムさんがこれからも援助してくれるといってくれたそうで、せっかく友達や家族が出来て楽しくなってきたのだから、まず学校にも普通に通ってみたいんだと。

 まあたぶんなのはちゃんあたりと同じクラスになるだろうと予測はしている。

 原作でもフェイトの編入には管理局が手続きしたのだから、はやてちゃんが望んで保護責任者に当たるグレアムさんが手続きすればそうなるだろう。

 

 そういえばフェイトは聖祥に通うことになるのだろうか?

 原作では闇の書事件が起こったから滞在のついでに編入した。

 事件が起こらないのであれば聖祥に突然編入するということはないだろう。

 まあなのはちゃんとの縁が切れたりする事はないだろうけど、もしかしたらこっちで暮らすことすらないかもしれない。

 

 まあホントにこれで事件に関わることは全て片が付いたんだ。

 裁判が終わればフェイトもなのはちゃんに会いに来るだろう。

 そしたらなのはちゃんからポンとフェイトを紹介される日も来るだろう。

 

 

 

 

 

 後日、なのはちゃんや美由希にも海鈴を紹介しようとした時の事だった。

 

「きゃあぁぁぁ!!

 なにこれ、根っ子!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「どうなってんだ?」

 

 突然海鈴から霊力が発せられたかと思うと、地面から根っ子が伸びて美由希に巻きついて宙に吊るし上げる。

 その間もなお海鈴から霊力が発せられていて、美由希を吊り上げてる原因はこの子に違いない。

 

「海鈴、どうしたんだ突然?」

 

『申し訳ありません、ご主人!!

 ですが奴を見たら以前斬られた事を思い出してしまって!!

 感情で溢れた霊力が暴走してしまいました!!』

 

「ふむ、つまり斬られた時の事を思い出したらイラッと来た感情が霊力に作用して、その霊力が根っ子を動かして美由希を吊るし上げたという事か

 こんな能力も海鈴にはあったのか」

 

『そうみたいです…

 私を直す度にご主人の手を煩わせてしまった事を思い出すと、とても悔しく申し訳なく思います』

 

「それくらいの事は気にするな」

 

 あれが切欠で五行の術を多少なりとも使えるようになったんだ。

 それに海鈴に霊力が篭るようになったのもそれが原因だ。

 霊力が篭り始めた頃から海鈴の記憶が疎(まばら)らにあるらしいから、斬られた時の記憶なら特に印象に残ってるだろう。

 霊力を込めてた俺も悔しくかった記憶があるから、それも海鈴に引き継がれてるかもしれない。

 

「いきなりなんでこうなるの~!!」

 

「何でたっくんの木刀が喋ってるのかわかんないけど、早くお姉ちゃん降ろしてあげて!!」

 

「ん~、海鈴、霊力を制御して暴走してる根っ子を止められるか?」

 

『ご主人の命令とあれば止めてみせます

 自分の感情よりもご主人の意思を優先すると自負してしますから!!』

 

 そんな力説しなくても。

 素直ないい子だけど俺に仕え過ぎるのはちょっと困惑する。

 俺がしっかり命令すればたぶん止められるという事か。

 だったら…

 

「やり過ぎない程度だったら海鈴に任せる

 まあ、ほどほどに仕返しする気持ちでな」

 

『了解しました』

 

「いやぁ~!!

 振り回さないで~!!」

 

「お姉ちゃん!?

 たっくん、どういうこと!?」

 

「ああ、実はな、なのはちゃん」

 

 まず海鈴が式神化したことを話して、暴走した原因を話す。

 以前海鈴をばっさり叩き斬り、その後も手合わせで何度かやられてしまっていること。

 叩き斬られたのは俺がしっかり気で強化しきれなかったこともあるかもしれないが、その都度俺が直しては宿る霊力も増えていったことから、海鈴の霊力=美由希への恨みとも考えられなくないかもしれない。

 流石に何度も叩き斬られた恨みと言われたら、止めようとしていたなのはちゃんも押し黙ってしまった。

 

「えーと……それだと仕方ないのかな?」

 

「納得しかけないで、なのは~!!」

 

「海鈴が怒りを霊力と一緒に発散したら止まると思うし

 耐えろ、美由希」

 

「理不尽だよー!!」

 

 数分ほど海鈴は根っ子を通じて美由希を振り回した後、霊力の放出が止まった。

 怒りを発散しきって報復を終えたのかと思ったが、海鈴自身の霊力が尽きてしまったらしい。

 そのせいで海鈴が喋れなくなってしまったので、一瞬消えてしまったかと思ったくらいだ。

 だが霊力を多めに送ったら直ぐに霊体で姿を現したので安心した。

 

 その後に改めてなのはちゃんと美由希に海鈴を紹介したが、美由希は海鈴にばつ悪そうな表情をしながらも終始足元を警戒していた。

 逆になのはちゃんは海鈴の霊体姿に興味津々だったと言っておこう。

 

 

 

 

 

●専属式神、海鈴作成完了

●海鈴、変身、霊体形態、植物操作能力取得



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第四十三話 拓海の一日

 

 

 

 闇の書事件の事故処理も終わって、平和な毎日が戻ってきた。

 事件前までの不思議な力の探求と技術の向上を続ける日々に戻ったが、事件の間に魔法関係者と知り合えたおかげで探求内容にも幅が広がった。

 なので一度俺の一日の鍛錬内容を振り返ってみようと思う。

 休みの日は技の練習をしてるか遊んでるかだから、平日の日常生活に溶け込みながら行っている力の訓練を見直してみよう。

 

 

 

 

 

 朝、俺は普段から7時頃起床する。

 小学校に行く子供なら大抵それくらいの時間に起きるものだろう。

 何時もは目覚ましで起きるものだが、最近ちょっと変化が起きてる。

 

 

-ペチッ、ペチッ-

 

 

『ご主人、起きてください

 朝になりましたよー』

 

「んぁ……んー……おはよう、海鈴」

 

 猫姿の海鈴が目覚まし代わりになって起こしてくれるようになった。

 ベットで寝ている俺の顔に控えめに猫パンチを受けて起こされるのは、気持ち的にとてもに目が冴える。

 頬に当たる柔らかい肉球がなんだか嬉しい気持ちになるのだ。

 何で動物の肉球って癒しを感じてしまうのだろう?

 

 まあそんなことはどうでもいいと思うほど優しい目覚ましなのだが、目覚めが悪いとそのまま海鈴を掴んで布団に抱き込んでしまったりした事があった。

 そうなると主人である俺に逆らえない海鈴は大した抵抗も出来ずにされるがままになる。

 普通の猫だったら引っ掻いてでも逃げ出そうとするだろうが、それが出来ないので一緒に二度寝することになってしまい、なかなか起きて来ない俺に母さんが起こしに来ることになった。

 まだ10歳でも前世持ちである俺には少々恥ずかしい事になってしまった。

 

 今回はちゃんと起きれたので背伸びをしたり首を回して固くなった体をほぐす。

 ベットから起き上がると勉強机の上に置いてあったデュランダルを手に取る。

 

「…デュランダル、起動」

 

【スタートアップ】

 

 少々意識がぼんやりしながらも起動させると、杖状になったでデュランダルと掴む。

 別に寝惚けて起動させた訳じゃなくて、ちょっとした朝錬をするためだ。

 続いて結界魔法をデュランダルで発動させる。

 

「…封時結界」

 

【封時結界展開】

 

 俺達を中心に封時結界が広がるが、範囲は俺の家周辺に留めている。

 特に広くする必要はないからだ。

 

 まだ寝起きでノソノソと動いて部屋の窓から外に出て、家の屋根に上がる。

 ちなみに俺の部屋は二階で、その上の屋根に当たる。

 最近はあまり意識せずに気を使えるようになっているので、ぼんやりしてても屋根に飛び上がるくらいのことは余裕で出来る。

 

 周囲の風景が色褪せており結界がしっかり張られている事を確認してから、体の中の魔力を何の操作もせずに全力放出する。

 

 

-ブオォォォ!!!-

 

 

 何の操作もしない放出された魔力が俺を中心に突風のような風が巻き起こる。

 これは俺が魔法を手に入れる以前からやっている魔力の訓練だ。

 

 魔導師の資質で重要なのは魔力だが、魔力と言ってもその強さを測る方法は色々ある。

 魔力変換資質や使用魔法適正は以前語ったが、更に根底には魔力量、魔力出力、魔力制御力等と基礎的なものが当然ある。

 魔法の使い方がわからずに魔力を自覚した以上、やれる事は魔力を出す事と後で気づいた魔力回復である魔力素の吸収くらいだ。

 

 そこで俺はただ魔力を放出して、魔力素を吸収して魔力を回復する事を繰り返すことで自身の魔力を強化しようと考えた。

 魔力は使わなければ満タンの状態からの余剰回復分が体から溢れ出るだけだ。

 それなら将来魔法を使えるようになることを考えて、魔力を使いまくってた方がいいだろうと無駄な放出を毎日行うことにした。

 

 その成果は一日二日じゃ全然判らないが、初期の頃に比べれば放出による風の起こり方が強くなってるし、魔力を放出し切るまでの時間も少し延びてきている。

 放出力の増加を考えれば魔力量もたぶん増えてるはずだ。

 

 原作の事件が起こる間は魔法関係者がうろつくから控えてたけど、今は結界が使えるから気にせずに魔力放出を行える。

 既に魔法は使えるようになったけど、常に使い切るようにしておけば魔力量は上がり易いと言うのは鉄則だろう。

 後で魔力素吸収による回復を意識的に行うから、学校後の魔法の練習を行う頃にはだいぶ回復している。

 

 

 

 10分ほどで体の中の魔力をあらかた放出しきって朝の鍛錬は終了。

 ラジオ体操すらしていないのに鍛錬といえるかわからないけど、朝早く起きて体を鍛えるほど健康的過ぎるスポーツマンみたいな真似はしない。

 必要な事さえ出来ればいいんだから、必要以上の事はしないんだ。

 そういうのは美由希んとこがやってるしね。

 

 魔力放出が終わる頃には既に目もしっかり覚めた。

 屋根から下りて部屋に戻ってから結界を解いて家族と朝食を取る。

 結界を覚える以前は家族には朝の空気を吸って来ると言って、近くの空き地に出向いて魔力放出を終わらせていたが、その必要が無くなって楽になった。

 

 朝食を済ましたら学校に行く準備をしてから玄関に向かう。

 玄関では海鈴が待っており、靴を履いてから向き合う。

 

「じゃあ行こうか、海鈴」

 

『はい』

 

 

-ボフンッ-

 

 

 海鈴は答えると煙を立てて姿を変えて、依代でもある木刀の姿になる。

 と言っても以前言った通り、今の海鈴は伸縮自在で30cm程度の小刀サイズだ。

 このサイズなら鞄の隅に入れられるので、最近は学校にも一緒に連れていっている。

 霊力による念話モドキも出来るので、誰にも聞かれずに話すことが出来る。

 まあデュランダルもカード型だから持ち運びやすいので持っているが…

 

 

 

 学校への登校は徒歩だが家からは普通に歩けば一時間は掛かる距離だ。

 入学当時はバスに乗って通っていたけど、気が上達したおかげで身体能力が高くなったから走って登校している。

 本気で走ればとんでもない事になるので常識レベルに加減はしているが、学校まではノンストップで走りぬく。

 

 走る事自体も訓練になりえそうなものだが、加減をしている時点で訓練にはなりえない。

 なので走りながら普段から何時でも出来そうな力の訓練をしている。

 

 まずは起きて行った魔力放出の逆、魔力素吸収から。

 その名の通り、大気中の魔力素を意識的に全力で吸収するだけだ。

 ただしそれだけで魔力は全快になることはなく、恐らくリンカーコアが魔力素を自身の魔力に変換しきる事で回復した事になる。

 だけどその変換効率は自発的な魔力の吸収速度に劣るので、一定量以上魔力素を吸収すると変換が追いつかなくなって胸の辺りに痛みが走るようになる。

 痛みという警告でそれ以上は不味いだろうと考えているので、そこで吸収をストップして後は自然回復に任せる。

 

 これで魔力の回復速度を上げられないかと思い、いつも続けている。

 魔力の自然な回復では、普通に考えて魔力素を吸収するより魔力素を変換の方が早いだろう。

 変換し切って空いた部分に新たな魔力素が流れ込んで再び変換が行われるはずだ。

 

 だけど意識的な魔力素の吸収を行なえば、変換が追いつかなくなって胸に痛みが走る。

 なので変換待ちの魔力素を大量に吸収しておけば、リンカーコアは変換をより多く行なわないといけなくなるはずなので変換効率の向上に繋がるはずだ。

 

 無茶な理論ではあるけど効果がありそうならやっておいて損はないだろう。

 まあ腹一杯食べ続ければ食べ物の消化効率がどんどん上がるというような物だ。

 自分で考えててかなり無茶だと思ったが、意識的な変換は流石に出来なかったので自然な変換効率の向上を望むしかない。

 学校が終わったら俺の魔力訓練内容、アリアに相談してみるか。

 

 

 

 魔力素吸収はものの数分で終わったので、これからが登校時の訓練の本番だ。

 やる事は気の操作に尽きる。

 以前からやっていた円や堅の維持などの発展だ。

 

 円も堅も範囲の拡大や持続時間を延ばすこと自体はもう余裕で出来ている。

 ならば今度はその両方を同時に出来るようにならないかと考えた。

 

 日頃の美由希やシグナムさんとの手合わせで堅で防御、円で回避に向いているのがはっきりしている。

 ならその両方を同時に行えばより実践的と言えるが、力を分割して同時に維持するのはこれまで以上に骨が折れる。

 両手にそれぞれ気を貯めるのは出来るが、片手で気を収束して片手で円を展開するのはやりにくい。

 なのに気を薄く広げる円と気を体の周囲に固める堅は、体に纏いながらも拡散と収束の真逆の行動を行うという物だ。

 いきなり成功させるのはとても無理だ。

 

 なのでまずは円をしながら纏をするという訓練を始める事にした。

 堅は纏をしながら錬を行う技術なので、纏を維持出来なくなれば錬で膨れ上がった気が暴発して危険なので、その前段階の纏と円を同時に出来るようにする。

 纏に出している気の90%、円に残りの10%を使い自分の周囲のみを察知するセンサーにすると言った感じにだ。

 近接戦闘なら半径10mも円を展開出来れば十分なので10%の気でも足りる。

 

 これがしっかり出来るようになれば、次は堅と円の同時使用にステップアップする。

 目標は美由希との手合わせに使用出来るようになるくらいといったところか。

 

 

 

 学校についてからは普通に授業を受けるが、授業を受けながらも今後の訓練内容や技の考案に魔法陣の構成を思い返すなどの反復を行なっている。

 授業については前世の知識があることから特に学ぶ必要はそれほど無いんだが疎かにしてるわけじゃない。

 レイジングハートから貰った術式の中にマルチタスクの術式が入ってたんだ。

 

 前々から意識の平行作業の出来るマルチタスクは欲しいと思ってたが、レイジングハートからもらえるとは思わなかった。

 思考分割による作業効率の向上はもちろんだが、これを分身に利用してNARUTOの影分身みたいに経験値のフィードバックみたいなチートが出来ないかと考えたんだ。

 これが出来れば技の習得速度の向上や分身を使った新しい技の開発が出来るかもしれないと。

 

 

 真っ先に試してみたけど、早々うまくはいかなかった。

 確かに式神を応用した分身にマルチタスクで分割した思考を割り当てる事で一人なのに二人以上という状態を作り出すことは出来たけど、現段階で分割出来る思考は自身を含めて二つだけ。

 なので経験を得ることの出来る分身も一体だけなので、多重影分身みたいに無数に出す事など出来ないんだ。

 

 そもそも影分身の経験は術を解いた時に本体に戻ってくる物だから。マルチタスクだと単にリアルタイムで分身の行動を体感してるだけなんだよな。

 俺の分身もちゃんと実体を持って思考する事が出来るからその経験を本体に回収させられればいんだけど、そんな都合良くはいかないか。

 

 まだ二つしか出来ないけど、マルチタスクを使い続けて慣れていけばもっと分割出来る思考が増えるだろう。

 そうすれば加速度的に体感出来る分身……影分身ととりあえず呼ぶけど、それをもっと使えるようになれば同時に学習なり作業なりすることが出来るようになるだろう。

 普通の分身は式神の術式をベースに気か魔力で作り出すので、それぞれ10体は同時に出せる。

 分割思考の数はいくらでも欲しいくらいだ。

 

 まあ元々思考を分身が持っているから経験を回収出来なくても、ちゃんと指示すれば手が足りない時にはとても役に立つ。

 危ない技の練習の代役などにもなってくれるから便利だ。

 使い捨てられる分身の特性を利用して自爆特攻技でも考えてみるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼には屋上でお弁当を食べながらも纏と円の同時使用の維持。

 これを行なう前にもまた結界を使ってから魔力の全放出をしておいた。

 昼頃になると魔力変換もほとんど回復し切ってる感じだったし。

 

 クラスメイトや先生は当然気を認識出来ないので授業中にも訓練出来そうなものだが、万が一制御を誤ると暴発したりして大変なので流石に控えた。

 元ネタのハンター×ハンターでも念能力者のオーラが纏から漏れると使えない者にはすごい威圧感に感じる。

 授業中に纏を誤って失敗してクラスメイトを威圧することになったら、どう対処すればいいのやら。

 俺は付き合いの良いクラスメイトとは言えないが、クラスの空気を悪くするような気まずい立場にはなりたくないからな。

 

 そういうわけで授業中はマルチタスクで考えることに集中している。

 なのはちゃんのレイジングハートだと、マルチタスクによって分割した思考に仮想空間を投射してシュミレーションまで出来るんだとか。

 コレもストレージとインテリジェントの差で、魔法を使うにはデュランダルで十分だけど、俺も少しインテリジェントデバイスが欲しくなってしまった。

 

 

 

 午後の授業もマルチタスクで技の考察。

 そもそも分割数を増やしたいから、マルチタスクを多用している。

 ユーノが無限書庫で使ってたように、これは情報処理に向いてるはずだから、今後はこれでミッド語とベルカ語の勉強を同時に受けようかな。

 視覚と聴覚に限定すれば、マルチタスクと分身を使って同時に学習を受けられるだろう。

 

 午後の授業が終われば部活などには当然入ってないからそのまま帰宅だ。

 今日は久遠を連れて八神家に行く予定。

 早速マルチタスクと分身でシャマルさんとアリアに同時に教わってみるか。

 

「たっくん!! たっくーん!!」

 

 と、校舎を少し出たところで最近良く言われる愛称で呼ばれた。

 学校じゃあこの呼び方で俺を呼ぶのはなのはちゃんしかいないけど。

 振り返って校舎の方を見てみると、なのはちゃんが後ろに二人の女の子を連れてこっちに向かってきてた。

 なのはちゃんと学校で一緒にいる二人の女の子となると、アリサ・バニングスと月村すずかだろう。

 

 まだ魔法関係でなのはちゃんと知り合ってない時にも学校で一緒にいるのを見かけた。

 アリサちゃんはブロンドの髪の白人の血が流れてるだけあって肌が他の子より白くて、すずかちゃんは原作では紫っぽい髪だったけど実際に見てみれば艶のある黒髪だ。

 光を透かしたら青に近い紫のように見えるかもしれない。

 

「後姿からたっくんかなと思ったけど当たってた

 初めて学校で会えたね」

 

「ん、そういえば学校では会ったことなかったっけ」

 

「そうだよ、違うクラスだから会わないし、何処のクラスか知らないんだもん

 知ってたらお弁当一緒に食べようと思って誘いに行ったのに」

 

「いや、それは遠慮しとく」

 

「えー、なんで?」

 

 いあ、普通に考えて女の子に誘われて弁当を一緒に食べるというのは恥ずかしいだろう。

 なのはちゃんくらいの子なら異性としては気にしないんだが、周りの目を気にしたらやはり恥ずかしくはないか?

 なのはちゃんのことだから、当然後ろの二人も一緒だろうし。

 男女比が2対2ならともかく3対1は余計人の目が気になるだろう。

 それともこれは俺の自意識過剰か?

 

「ねえ、あんたがなのはの新しい友達?

 なのはが男友達を紹介した言った時は少しびっくりしたけど………まあ普通ね」

 

 アリサちゃんが俺を頭から爪先までざっと見渡してからそう評価した。

 普通でいいだろう?

 変にイケメンとか目がオッドアイとか目立つようなのは、目立ちたがりがしてればいいんだ。

 俺は普通に平凡な容姿を通しますよ。

 

「アリサちゃん、初対面なのにそれは失礼だよ

 こんにちわ月村すずかです」

 

「アリサ・バニングスよ

 あんた何処のクラス?

 見覚えがないんだけど」

 

「山本拓海だ

 見覚えがないのは、そりゃまあ俺は四年生だから学年が違うし」

 

 三年生のなのはちゃん達とは学年が違えば教室も当然離れるので会うことなど早々ない。

 すれ違う事位はあったが、流石にそれだけじゃ記憶に残る事もないだろう。

 

「って上級生だったの!?」

 

「なのはちゃんが親しげな呼び方してるから同級生だとばかり思ってた……じゃなくて思ってました」

 

「えっと、その………あんたとか言っちゃってすみません」

 

 一つ上だと解ると二人が話し方に敬語を含めるようになる。

 目上をちゃんと気配るのは立派だと思うけど、ホントにそこまで気にされることじゃないので気遣われた俺のほうが気まずい。

 特にアリサちゃんは態度の変化が激しすぎて違和感バリバリだ。

 

「なのはちゃんと同じ様に呼べとは言わないけど、特に上級生だとかは気にしなくていいから

 というかなのはちゃんと同じ呼び方は勘弁して」

 

 これ以上のたっくんとか言う呼ばれ方は正直は恥ずい。

 初対面の相手にまでそういう呼ばれ方は流石にされたくない。

 そう思ってたから元凶の美由希をボコりたくなってきた。

 明日は手合わせをしてやることにしよう。

 

「わかったわ

 敬語付け直すのもなんだか妙な感じだし、一年しか違わないんだから」

 

「私もそうします……じゃなくて、そうするね」

 

 そういえばこの二人は闇の書事件の終盤でなのはちゃんの魔法関係を知ることになるんだっけ。

 もうこの町じゃ魔法関係の事件は起こらないだろうから、この子達が知る日はくるのだろうか?

 教えるかどうかはなのはちゃん次第だろうな。

 

「ねえたっくん、この後どうするの?

 確かはやてちゃんが帰ってきてるんだよね」

 

「ああ、だから今日ははやてちゃんの家に行くつもりだ」

 

「私も行こうと思ってるんだけど、一緒にアリサちゃんとすずかちゃんを連れてってもいいかな?

 はやてちゃんに紹介したいなと思ってるの」

 

「俺は別に構わないんだけど…」

 

 魔法関係とは関係無しにはやてちゃんと会わせるのは構わないだろう。

 はやてちゃんの方にも先に念話で連絡を入れておけば、魔法関係の秘匿は出来るだろう。

 

「あ、ごめんなのは

 私達、今日はお稽古が入ってるの」

 

「はやてちゃんって前になのはちゃんが話してた子だよね

 今日は用事があるから無理だけど、また今度誘ってね」

 

「あ、そうなんだ…

 じゃあ、また今度紹介するね」

 

 そういって俺にも別れの挨拶を言ってから、二人は校門で待っていたそれぞれの迎えの車に乗って帰っていった。

 何度か見かけたことはあるけど、リムジンの迎えなんて実際に見たら異様に目立つよな。

 高級さが目立つもんだから気とは違った威圧感を感じてしまう。

 

「まあ、次の機会に紹介すればいいさ

 あっち関連の事もあるから、事前にはやてちゃんに説明しておかないと」

 

「うん、そうする…」

 

「それでなのはちゃんははやてちゃんの家に行くのか?」

 

「うん、帰ってきたのならお帰りって言ってあげたいし

 アリサちゃん達とは一緒に行けなかったけど、たっくんと一緒に行くよ」

 

「途中で久遠を探していくから寄り道するけど?」

 

「クーちゃんを?

 神社の方かな?」

 

「さあ、どうだろう?

 久遠は結構街中をうろうろしてるから、神社には見に行くけど道中で会うことも多いし

 はやてちゃんの家に行くなら先に行っておけば」

 

「うん、じゃあ先に行ってるね」

 

 なのはちゃんとも帰りの道中で別れてから、俺も帰宅する。

 ちなみに帰りの道中もなのはちゃんとも話しながら纏と円の同時使用の維持を練習していた。

 ここ一週間ほどやってきたけどそろそろ堅と円を試してみるかな。

 だいぶ同時使用も慣れてきたことだし。

 

 

 

 帰り着くと家の前の塀の上に久遠がいた。

 俺が家に帰ってくる時間を覚えて待っていたらしい。

 これまでもたまにそういうことがあったので、両親も久遠と顔見知りだ。

 喋れる事も知っていたから海鈴を住まわせる事も簡単に受け入れてくれたんだろう。

 

「ただいま、久遠」

 

「お帰り、拓海」

 

「この後はやてちゃんの家に行くから海鈴とちょっと待っててくれ」

 

 鞄から木刀状態の海鈴を取り出すと霊力を送って猫型に変化させる。

 海鈴を塀の上の久遠の隣の置いておく。

 

「海鈴、荷物を置いて着替えてくるから久遠と一緒に待っててくれ」

 

『わかりました、ご主人

 久遠、こんにちわです』

 

「クォン、こんにちわ」

 

 塀の上でハイタッチするように片前足を合わせて海鈴と久遠が挨拶する。

 海鈴と会わせたときは少々戸惑ってたけど、今はだいぶ気が合っているみたいだ。

 一緒にも遊ぶ事があって、ゴロゴロとじゃれあう姿を見れたときはだいぶ癒された物だ。

 アリアは精神が一応大人だからか子供っぽいしぐさがないからそういうのは見れないし。

 

 鞄を置いて着替えてから二人(匹)を抱えて八神家に向かった。

 道中でなのはちゃんとも合流した。

 その間も纏と円の同時使用の維持を続けた。

 こういう訓練は大抵出歩く時はやっている。

 

 

 

 

 

「拓海、あなたバカじゃないの?」

 

 八神家でアリアに俺なりの魔力訓練の事を伝えたらそう言われた。

 やはり魔力ってのは使ってるか年齢を重ねて成長によってリンカーコアも成長するらしい。

 そして老いによって魔力の衰退もあるが、魔力の全放出はともかく魔力素吸収による変換効率の向上などやる人は普通はいないらしい。

 

「魔力の大本であるリンカーコアは本来人間には有っても無くても生きるには必要のない器官なの

 一部の世界には魔力が有ってこそ生活出来るところもあって、リンカーコアが当たり前のように存在する生物がいるわ

 けど人間にリンカーコアが有ったり無かったりするのは生物学的に必要が無いからで、本来魔力は人間にとっては異物と成りえるのよ

 そんな魔力の元である魔力素を変換し切れないほど吸収するのは体の害にしかならないわ」

 

「けど、これをやり続けてもう一年以上経ってたりするんだが

 それに始めたの頃よりも魔力の量も回復速度も上がってるし」

 

 始めた頃は朝に魔力を全部放出すれば回復し切るのはたぶん翌朝になってたけど、今じゃお昼ごろには殆ど回復してる気がする。

 魔力放出時に起こる風も扇風機の弱から強になったって感じだから、確かに上がってるはずなんだけどな。

 

「そっか…ミッドの常識的に考えればそういうことは絶対しないものなんだけど、こっちではそんな知識は無いのよね」

 

「そもそもこの方法は魔法知識の無い俺が魔法が使えない代わりの魔力訓練だったんだぞ

 魔力素の吸収しすぎは悪いのは感覚でわかってたけど」

 

「ともかく今後は魔力素の意図的な吸収なんてやめたほうがいいわ」

 

「まあ、そういうなら今後は控えるよ

 魔力の全放出自体は問題ないんだろ」

 

「問題無いけど普通に魔法の練習に使ったほうがいいわよ」

 

 平日に魔法の練習をするのは放課後だから、朝に全放出しても練習する頃にほぼ回復してるんだよな。

 授業の無い休日なら午前中から練習できるけど…

 

 

 

 アリアにはそれからデュランダルについて色々聞くことにした。

 レイジングハートから色々魔法は貰えたけどなのはちゃん向けの遠距離と補助魔法ばかりでそれ以外の魔法は入っていなかった。

 それでアリアに本来のデュランダルへの魔法のインストール方法などを聞くことにした。

 

 とりあえず俺が望めばアリアが知ってる魔法は直ぐにでも入れてくれるそうだ。

 それにデュランダルにはデバイスフォーム以外のモードが未登録で、他にどういう物がいいか考えておいて欲しいといわれた。

 一般的にはあと二つくらいモードが作れるらしい。

 入れて欲しい魔法の種類と一緒に考えておこう。

 

「マルチタスクは一人前の魔導師なら大抵使いこなしてる魔法だけど、拓海の分身と合わせたら思考も体も二人分なるのね

 その体も分身を通してマルチタスクで話してるんでしょ」

 

「ああ、一度で二倍以上の訓練が出来るようになるのは便利だな

 これのおかげで同時にミッド式とベルカ式を学ぶ事も出来るし

 今は本体が体を動かす訓練でこっちが魔法の訓練をするつもりだけど」

 

「便利な物ね

 私も仕事が忙しかった時は体が二つ欲しいなんて思ったりもするのに

 何とか魔法に出来ないからしら?」

 

「基本が霊力を使った式神の術だからな

 もっと理解を含めれば魔術式で置き換えられるようになるかもしれないけど…」

 

「そうはうまくいかないんでしょうね

 まあレアスキルだと思って諦めるわ」

 

 アリアは簡単に言ってるようでやはり何処となく残念そうだ。

 一人で二人分以上の働きが出来るようになるなんて絶対覚えたい魔法だもんな。

 思考分割の量を増やせればもっと効率が上がるし。

 

「ところで思考分割の数はやっぱりマルチタスクの熟練次第なのか?」

 

「そうね、慣れれば大抵の魔導師は三つ以上の分割が出来るし、一流と呼ばれる魔導師は五つは確実ね

 私も七つまでは思考分割出来るけど、ロッテに聞いた話だと夜天の書を無限書庫で調べたユーノって子は十以上の思考分割をして情報整理をしてたって話よ

 最近会う子供はどの子も才能がずば抜けてるわ」

 

 まあ主人公グループだもんな。

 原作ではA'sまではキャラの能力は拮抗してたけど、STSのフォアードメンバーの下位の能力が出てからはそれまでのメンバーの能力が以上に高い上に集まりすぎてるみたいだったし。

 

 A'sではなのはちゃんとヴィータ、フェイトとシグナムさんがぶつかる形で互角に描写されてたけど、実際の戦闘経験を考えれば明らかになのはちゃんとフェイトが負けているだろう。

 カートリッジと自分達の長所を生かした上でシグナムさん達が殺してしまわないように加減していたから渡り合えたんだと思う。

 本当に形振り構ってなければなのはちゃんとフェイトは初戦で終わっていただろう。

 まさにストーリー上のご都合主義だな。

 

「やっぱり管理局全体から見てもここにいる全員能力が高いのか」

 

「高すぎるわね

 経験は少ないけど拓海となのはとはやてはそれを補えるほどの資質があるし、守護騎士達の経験は十分な上に全員高ランク魔導師

 管理局の一部隊を上回る戦力を持っているわ」

 

「えっと、それって凄いんですか?」

 

 久遠と海鈴の遊び相手、或いは二人が遊び相手をしていたなのはちゃんが話が聞こえたのか尋ねてくる。

 STSではしっかり部隊を結成していたけど、全体の能力が高すぎて制限をかけられるほどだったらしいからな。

 まさに無駄に凄いんだろう。

 

「ええ、なのは達の魔導師としての資質は管理局の一般魔導師の平均を大きく上回ってるわ

 管理外世界の住人じゃなかったら人手不足の局は確実にスカウトしてたでしょうね

 ところでなのはは管理局の仕事に興味はある?」

 

「え、管理局のお仕事ですか?

 んーと……ちょっとよくわかんないです

 フェイトちゃんの時にリンディさん達と一緒にお仕事したけど、私はただお手伝いをしただけですから」

 

「そう……もし興味があるなら言ってちょうだい

 なのはみたいな将来有望な魔導師は大歓迎だから」

 

「はい!!」

 

 元気よく返事をするなのはちゃん。

 基本的に頼まれたら断れないのがなのはちゃんだから、積極的にスカウトすれば管理局員になる可能性は高いだろう。

 何をどうしろと言うつもりはないけど、将来のことはしっかり考えてから決めて欲しい。

 早い内から就職すると子供のうちにしか学べないものを得られないだろう。

 

「けどたっくんとはやてちゃんはどうなんですか?

 二人とも私と同じくらいなんですよね」

 

「拓海はお父様から誘われたみたいで、ゆっくり考えるって聞いたわ。」

 

「ああ、まだ小学生だし色々調べてから決めたいと思ってる

 魔導師の仕事って言ったって管理局に限られるわけじゃないだろ」

 

「まあ、そうね

 はやての場合は既にそれに当てはまってるような物だし」

 

「はやてちゃんが?」

 

 なのはちゃんが疑問に思い首を傾げる。

 はやてちゃんは先日の聖王教会訪問で称号を授与された。

 これは聖王教会に認められたと同時に重要なポストについたようなものだ。

 現時点ではあまり拘束されるようなことはないが、将来的に重要な役職に就く事になる可能性は高い。

 

 そしたらSTSでの管理局の部隊長なんて役職に就くことなんて出来ないんじゃないか?

 前にも言ったが古代ベルカ式で広範囲型の騎士なんてレア中のレアだ。

 局員には成れても前線なんて出さしてくれないだろうし、魔導師と関係ない重役に納められるのが関の山だ。

 六課建設なんて完全に潰されそうだな。

 

「はやては既に聖王教会に就職してるようなものなのよ

 夜天の書の所有者ってだけで聖王教会の評価が高いみたいだから

 望めばたぶん簡単な仕事に就く事も出来ると思うわ」

 

「確かにあの歓迎のされ方なら大抵の我侭は聞いてくれそうやな

 まあ私も将来の事はまだ先の話やと思うとる

 今は魔法の勉強とはよ歩けるようにリハビリや」

 

 はやてちゃんはまだ病院に通っているが、異常が無いかの定期的な検査とリハビリの具合を見てもらってる。

 だんだん足が動くようになってきているのを喜んでいるが、ずっと通っていた病院に行かなくなるのは少しい寂しく感じるといっていた。

 本来嬉しい事なんだろうけど、主治医の先生と仲良かったらしいからな。

 

「なのはちゃんも将来の事を考えるのはいいけど直ぐに決める必要は無いよ

 じっくり調べて色々考えてから自分の将来を決めればいい

 俺達まだ子供なんだから」

 

「うん、わかったよ

 魔法でお仕事するならきっと大変だろうからもっと魔法をうまくならないとね

 アリアさん、また魔法の勉強をお願いします」

 

「才能が有るから二人とも教え甲斐があるからいいわ

 しっかり学べばクロノよりも伸びそうだし」

 

「クロノくんに魔法教えたのアリアさんだったんですか?」

 

「ええ、そうよ

 今は結構しっかりしてきたけど、昔はてんで大したことなかったんだから

 昔のクロノのこと聞きたい?」

 

「はい」

 

「じゃあクロノと同じ勉強をしながら教えてあげる」

 

 そしてクロノの過去話を交えながらアリアの魔法講習が始まる。

 

 

 

 

 

 変わってこっちは本体の思考。

 俺は外で結界を張ってシグナムさん相手に、気を中心とした組み手を行なっている。

 今回は円と纏の両方を試しながらの守りに回ってシグナムさんの剣を避けたり受け止めている。

 

 海鈴は今は分身側の傍にいるので今は素手で防御をしている。

 纏でも纏わないよりは防御は高まってるけど、それでも素手では痛いと思っていたら自然に体に纏っていた気が腕に集まって防御をより高めていた。

 練習してなかった流もどうやら出来るみたいだな。

 

「気というものは本当に騎士向きの力のようだな

 魔力は全力ではなくても本気でレヴァンティンで打ち込んでいるのに顔色一つ変えんとは

 打ち込んだ感覚もまるで鉄を叩いているかのようだ」

 

「普通の纏の防御なら多少は痛いだろうけど、今は腕に気を集めて防御してるから大したことないな

 まあその分他の防御が下がる事になってるけど」

 

「ならばそこを突かせて貰おう」

 

「遠慮する

 というかあくまでこれは組み手なんだけど」

 

「実戦を想定するのに越したことはないだろう」

 

 確かにそうなんだけど嬉々として打ち込んでくるシグナムさんが恐いんだよ

 箍が外れて本気でやってきそうで。

 

 円によって動きを細かく感じ取り、避けられないものは気を集中させた腕や足でガードする。

 気を腕に多めに回すことにも慣れたので足にも回して防御の手数を増やしている。

 

 目標は纏ではなく堅による戦闘維持だけど、現段階ではとても気を制御しきれない。

 今でも纏と円を維持しながらでは守りの回るだけでいっぱいいっぱいだったりする。

 だからこそ更なる気の制御訓練になってるんだが。

 

 

 

 組み手に一息を入れてシグナムさんからの評価を聞く。

 力だけなら渡り合えるが経験の差は圧倒的に負けている。

 戦い方について何かアドバイスを貰えればと思って今日は相手をしてもらった。

 

「お前の戦い方は私よりもザフィーラに似ているな」

 

「そうなのか?」

 

「盾の守護獣という名は伊達ではないからな

 攻めよりも守りを主体に置くのが俺の戦い方だ」

 

 組み手を見守っていたザフィーラも答えてくれる。

 確かに俺はあまり攻めるという戦い方よりも守りを固めるほうが性にあっている。

 俺が技開発だけじゃなくてこうして模擬戦を受けているのは、もうないと思うけどもしもの時の為の自衛のためだ。

 自分から事件に飛び込むような気は一切ないけど、覚えた技を自在に使いこなせるようにしておくことは前に事件に関わる事になった時からの課題だ。

 だからこそ時々手合わせなどをして何処まで使えるか確認をしている。

 美由希相手だと何故か新技の実験になってしまうことがあるが。

 

 とはいえ積極的でないからこそ攻めより受けに回る戦い方が俺には噛み合う。

 もし厄介事に巻き込まれたら必要でない限り戦わずに隙を見て逃げ出すつもりだからな。

 主を守る為の戦い方とは違うが、無手の戦いであればザフィーラが参考になるかもしれない。

 

「無手での戦いは俺も同じだ。

 守りを主体に置いた戦いであれば自信はある

 人に教えたことはないが少しくらいは参考になるかもしれん」

 

「じゃあ、頼んでもいいか

 とりあえず荒削りでいいから徒手空拳の基本は押さえておきたい」

 

 基本さえ抑えて練習を続ければ能力の御蔭で伸びるところまで伸びるだろうし。

 後は考えた技を組み合わせるだけでそこそこな戦い方は出来るようになるだろう。

 

「拓海は徒手空拳にも手を出すのか

 私としては剣一筋に絞ってくれれば嬉しいのだが」

 

「俺が色々やってるのは好奇心からで、実際に使うことになるのは自衛だけのつもりだ

 積極的に戦いに行くような事はしたくないんだ」

 

「お前なら良い騎士になれると思うのだが…」

 

「いい加減それは諦めてくれ」

 

 シグナムさんは事ある毎に騎士の道を進めてくる。

 気に入られているといわれれば嬉しい物だが、実際に騎士と言われてもピンと来ない。

 漫画とかのイメージだと確かにかっこいいんだろうけど、実際にやるのは仕来りとかありそうでかなりめんどくさい気がする。

 この場合の騎士は聖王教会に当たるんだろうけど、俺はベルカにも聖王教会にも思い入れとかはないので、騎士を目指すような理由も無い。

 

 けど、主に忠義を尽くすってのは憧れない事はないし眩しくも感じる。

 行き過ぎれば妄信とも思えるような忠義も貫き通せばとても眩しく思える。

 と言ってもそこまで眩しく感じるような騎士的行動をシグナムさん達が取ってたわけじゃない。

 普段から忠義一杯でもそれを示す場は戦場のような場所ばかりだ。

 

 というか、俺の騎士のイメージは全部フィクションで構成されてるしな。

 騎士を名乗って感動してしまうような活躍をしてたのは、やっぱりあのオレンジが印象強い。

 忠義の嵐は最高だった。

 今度、DVDでも借りてこようかな。

 こっちの世界にもあった作品だし。

 

 

 

 

 

 魔力で作った分身はアリアに魔法を教わって、本体は直に体を動かして気の操作訓練。

 今後はミッド式とベルカ式を交互に教わろうと思いながら、八神家での訓練を終えて帰宅した。

 久遠は途中までは抱えて帰り、さざなみ寮と自宅への分かれ道で別れた。

 毎日八神家に行って訓練をしようとは思っていない。

 時には前のように久遠と遊びながらも式神などを使っての訓練にしている。

 

 色々な技を覚えるたびに遊びの幅も広がってたりするんだよな。

 たとえばソーサーの制御の練習に久遠を乗せて浮かせてみたり、バインドを締めるのではなく輪っかにして複数出して宙に浮かせて久遠が潜り抜けてみたり。

 久遠が愛玩動物以外の何物でもないな。

 この時が一番訓練をしてて癒されてたりするんだよな。

 

 分身とマルチタスクのおかげで魔法と気の練習を同時に練習出来るようになった。

 魔力と気は性質なのか同時に出して触れ合わせると反発してしまうので、魔力と気を使った合成技や分身を作る際には霊力+魔力か気のみの分身しか作れないので、分身が使えるのは霊力+魔力か気のみになる。

 それでも同時に練習出来るようになったことで訓練効率は上がった。

 

 

 

 魔力も気も霊力も量を増やすなら使いきるのが基本だと思ってるので、一日の終わりには体調を崩さない程度に使い切っている。

 一日の最後の訓練と言うほどではないが咸卦法の動作を試している。

 左手に魔力、右手に気を同じくらいの量に集めて、出来るだけ無心になって魔力と気を掌の中で合わさる様にする。

 これをそろそろ一年くらい続けてるかな?

 

 事件の間は余裕がなかったから休んでたけど、能力があるからそろそろ出来てもいいんじゃないかとすら思っている。

 もしかして舞空術の時みたいに何か気づいてない要素でもあるんじゃないか。

 咸卦法は魔力と気を合成させるってのは単純だけど、心を無にするってどういうことだ?

 判ってる要素がこれだけだったから、とりあえず無意識に出来るくらいずっと続けて動作に慣れ親しんだけど、それでも出来るようにはならなかった。

 

 他に俺が思いつく限りで心を無にするとは気と魔力の波長を乱さない様にするためと考えて、そっと波立たせないように合わせてみても変化はなかった。

 いっそ混ぜ合わせるように気と魔力をグルグル回しながらと交わらせたらどうかと考えて、反発する力が一気に強くなって弾けとんだ。

 気と魔力にそれぞれ霊力を混ぜて合わせてみても弾かれる威力が強くなることはあっても弱くなることはなかった。

 

 進展がずっとないままだがこの動作はずっと続けて、心を無にするくらいに自然に出来るようになるのを目指している。

 漫画でももともとかなり高難度な技って言われてたんだ。

 どれくらい掛かるかもわからないけど気長に続けよう。

 舞空術もふとした拍子に出来たし、咸卦法もそんな風に出来るようになるかもしれない。

 

 それに舞空術ほど拘ってる訳ではない。

 出来るようになっても総合的に身体能力が上がるだけと思ってる。

 難しいだけあって桁外れなほどなんだろうけど、制御があまり利かなそうな力だと思うんだ。

 爆発的に膨れ上がるような力だと思うから、単純な技や素の攻撃力を極端の高めるくらいにしか使えないだろう。

 元ネタでも咸卦法の力を術式に流して使ってるところとか見たことないし。

 まあ、術とか使えないキャラばかりだったけど。

 

 

 

 そんな感じで普段の平日を俺は終えて眠りにつく。

 海鈴も寝る必要はないが一緒のベッドの上で寝て、また明日の朝起こしてくれるだろう。

 明日はどんな事をやろうかな。

 

 

 

 

 

 



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第四十四話 今日は猫盛だー!!

 

 

 

 先日、学校の帰りになのはちゃんにアリサちゃんとすずかちゃんを紹介された。

 その時にはやてちゃんに二人を紹介しようと息巻いていたが、二人は用事で来れずに顔合わせは次回となった。

 で、今回すずかちゃんからのお誘いでなのはちゃんとはやてちゃんとヴィータの四人で月村邸へお茶会に招待される事となった。

 アニメでフェイトの初登場の時と同じ様なものだな。

 

 ただし今回はユーノはおらず、動物組みに海鈴と久遠とザフィーラも連れての参加だ。

 流石にアリサちゃんとすずかちゃんは魔法関係を知らないので、海鈴と久遠とザフィーラには普通の動物のフリをして貰う事にしている。

 一応アリアを誘ってみたが、流石にペット扱いされてまで着いて来る気はなかったようだ。

 ザフィーラはペット扱いに不満の声を上げているが、はやての護衛と自称する事で自分を納得させたようだ。

 

 ヴィータも一緒なのははやてちゃんが誘った事と子供の集まりだからということらしい。

 一緒に行くのは構わないが子ども扱いされるのは気に食わないと言っていた。

 まあヴィータもザフィーラと同じくはやての護衛と称して自分を納得させていた。

 

 子供の集まりでふと気づいたが、俺も子供なんだなと今更ながら思い返した。

 確かに小学校に通ってて身長などもなのはちゃん達とそう変わらないので、何処からどう見ても普通の子供だ。

 そんな俺から見るとなのはちゃん達はかなり離れた年下の子供にしか見えない。(ヴィータは例外と一応認識)

 だから俺はなのはちゃん達には『ちゃん』とつけて、年下の子供扱いをしてしまっている。

 この年代の子達なら普通にそう呼んでるだろうけど、俺の場合はずっと変わらないだろな。

 初めから大人目線なんだから。

 

 

 

 

 

 月村家の大きな門を抜けて、月村邸のインターホンを押して出迎えを待っていた。

 

「ホンマにおっきい家やな~

 庭も広いし聖王教会行ったときみたいな豪邸や

 ここ、日本やろか

 途中で次元転送されとらへん?」

 

「されてねえって、はやて

 確かにこの家に比べたらあたし達の家って小さいな」

 

「グハッ!! ち、小さい…

 い、痛い所を突かんといてえな、ヴィータ…」

 

「え、あ、あたしなんか悪い事言ったか!?」

 

 ヴィータがどういう感覚を持って家の大きさを判断してるか分からないけど、八神家の大きさは普通だ。

 俺の家とそう変わらない大きさの平凡な家だ。

 決して一般より小さいわけではない。

 

「いいかヴィータ、ここの家の人はお金持ちで私は庶民なんや!!

 私の家が小さいんやない、この家が大きすぎるんや!!

 それから贅沢はあかん、私らは庶民なんやからな!!」

 

「お、おう…」

 

「はやてちゃん落ち着いて

 俺達は一般人なんだ

 下手をしないよう、粗相のない様にな」

 

「そ、そうやな…

 下手なもん壊して弁償なんて恐ろしいわ」

 

「なんか、花瓶とか肖像画とか飾ってそうだよな」

 

「聖王教会じゃ飾っとったで

 廊下の隅にポンと飾ってあるもんやから、なるだけ真ん中歩かなへんかった

 ヴィータ、下手に物を触ったらあかんで」

 

「はやて、それ、聖王教会でも言ってたぞ」

 

 どうやら聖王教会でもはやてちゃんはかなり窮屈な生活を強いられてたようだ。

 現状のはやてちゃんの様子からも想像出来るが、将来向こうに住むなんて出来るんだろうか…

 

「ちょっと大きな家くらいやと思っとったのに予想以上や

 なんか高価なお菓子でも持ってくるべきやったか」

 

「今更だけどお茶会って一体なんなんだろう

 普通に考えればお茶を飲むだけだろうけど、そうじゃないんだよな」

 

「私、作法なんて知らんで」

 

「俺も知らない

 ヤバイ、なんか緊張してきた」

 

「私はとっくに心臓バクバクや」

 

 月村邸を前にして急に緊張してきてしまった。

 目の前で見たらかなり大きな家で高級感に当てられてしまった。

 こんなデカイ建物なんて学校かどっかの施設にしか入ったことはない。

 なのにこれが家なんだぜ、信じられるか?

 

「はやてちゃんもたっくんも落ち着いて

 私も何度か来たことあるけどそんなに沢山壷とか絵とか飾ってないから」

 

「飾ってはあるんだ」

 

「私、胃が痛くなってきたかも

 帰ってこれて漸く治まっとったのに」

 

≪主、気を確かに≫

 

「大丈夫かよ、はやて」

 

 なのはちゃんが俺達二人を落ち着かせようとし、ザフィーラとヴィータが緊張で体調を崩しかけるはやてちゃんを気遣う。

 向こうで大変だったんだな、はやてちゃん。

 その上思った以上に長引かされたんだし。

 

「いらっしゃいませ、なのはお嬢様とご友人の方々」

 

「こんにちは、ノエルさん」

 

 その時、家の扉が開いて出迎えの人が着た。

 現れたのはショートカットのメイド服の女性。

 メイド服を着た人なんて、秋葉とかのメイド喫茶の雑誌でしかみたことないぞ。

 俺の主観でメイド喫茶のメイドさんなんて痛いだけだけど、目の前に現れたノエルさんは普通にメイドだ。

 メイド服だの萌だのを引っこ抜いてただ仕事着として着こなしているメイドさんだ。

 つまり本物のメイドさんということだ。

 

 別に俺に思い入れがあるわけじゃない。

 俺はメイド服がどうとかというより、可愛ければそれでいいと思う派だ

 ノエルさんは……普通に美人なんだろうな。

 それ以上に思う事はない。

 

「さあどうぞ、アリサお嬢様も既にいらっしゃってます」

 

「お邪魔しまーす」

 

「「お、お邪魔します」」

 

 普通に挨拶して入っていくなのはちゃんに続いて、俺とはやてちゃんも声を上ずらせながら入ってく。

 中を見ても広くてとても家だとは思えない感じだ。

 これが施設だと思えばどうって事ないけど、家だと思うと格の違いを思い知らされる感じだ。

 

「な、なのはちゃん、ここって靴脱ぐんやろうか?」

 

「そのまま入って頂いて構いませんよ」

 

 はやてちゃんがなのはちゃんに問いかけると、先にノエルさんが答えた。

 靴脱ぐ所がないからそのままでいいとは思ったけど、やっぱり日本の家じゃないよ、ここ。

 

「そ、そうですか、有難う御座います」

 

「はやてちゃん、流石に緊張しすぎだ

 ちょっと深呼吸でもして落ち着け」

 

「そ、そうやな」

 

 関西弁が抜けて敬語になって礼を言ってしまうくらい落ち着きを無くしている。

 俺も流石に落ち着かないといかんな。

 何度も来ているからか、なのはちゃんの平然とした様子を見てたら少しだけは落ち着いてきたし。

 はやてちゃんを少しでも落ち着かせながら、ノエルさんに案内されていく。

 

 

 

 案内された先には、先に来て待っていたアリサちゃんとすずかちゃん。

 それからすずかちゃんによく似た年上の女性と恭也さんがいた。

 

「お兄ちゃん、来てたの」

 

「ああ、忍に誘われてな」

 

「いらっしゃい、なのはちゃんに友達の皆」

 

「あ、えと、お招きに預かりどうも…」

 

 すずかちゃんに似た女性、忍さんにはやてちゃんが丁重に挨拶しようとする。

 だけどどうにもまだ緊張しててうまく応答が出来ていない感じだ。

 

「そんな緊張しなくてもいいわ

 すずかの新しい友達を見てみたかっただけだからもう行くから、あとは皆で楽しんでって

 恭也、私達は部屋に行きましょう」

 

「そうだな」

 

「私も下がらせていただきます

 皆さんごゆっくり」

 

 そう言ってさっさと二人は部屋を出て行ってしまった。

 ホントに顔を合わせるために待ってただけみたいだ。

 ノエルさんも二人に続いて部屋を出て行った。

 

「なのはちゃん、今お兄ちゃん言うとったけど…」

 

「うん、私のお兄ちゃんだよ

 一緒にいたのはすずかちゃんのお姉さんの忍さん

 二人は恋人同士なの」

 

「ほぉ~、あれが美由希さんの…

 たっくん」

 

「あいよ」

 

 はやてちゃんに名を呼ばれただけでどうするか直感的に悟り、行動に移す。

 携帯電話を取り出してアドレス帳から呼び出し。

 数回のコールの後、呼び出し相手が出た。

 

『たっくん、何かようかな?』

 

「あ、美由希か?

 今なのはちゃんに誘われて月村邸にいるんだ」

 

「お姉ちゃん?」

 

 呼び出した相手は美由希。

 なのはちゃん達は何故突然美由希に電話をかけたのか疑問に思っており、はやてちゃんだけ分かってる様子でニマニマとニヤついている。

 まあ何時もの美由希弄りだ。

 皆にも聞こえるように携帯のスピーカーをオンにする

 

『月村邸って忍さんの家?』

 

「ああ、はやてちゃん達も一緒に来てるんだ

 そんで来てみたら恭也さんも来ていてな、初めてみたけど忍さんと仲良さそうにしてるな」

 

『そ、そうなんだ

 たっくんたら、またその事でからかって…』

 

「あ、二人だけで部屋に行くってさ

 ちょっと後をつけてみるな」

 

『ふ、二人だけで!?

 いやいやいや、たっくんダメだよ、そんなことしちゃ!!』

 

 当然、後をつけるなんて事はせずに、美由希に聞こえないように携帯のマイク部分を押さえる。

 そして、喉を抑えて声を帰る声帯模写の調整をする。

 

「あー、あー、あー、あー!!

 ≪はやてちゃん、こんな感じでどうかな≫」

 

「バッチリや!!

 さすがはたっくんやな」

 

「え!? お姉ちゃんの声!!」

 

「うそ、どうやったのよ?」

 

「たっくんの声が忍さんになっちゃった…」

 

「相変わらず面白い事が出来るよな、拓海」

 

 俺が声真似したのは忍さんの声。

 初めて聞いた声だったので一発で真似出来るか解らなかったが、周囲の反応を見る限り問題ないようだ。

 さて、また電話越しの劇場を始めるか。

 塞いでたマイク穴を開けて美由希に声をかける。

 

「部屋の前に着いたぞ

 扉に携帯押し当てるから様子を聞いてみるがいい」

 

『だからダメだって、私まだ心の準備が…』

 

 と、美由希に言葉は無視して完全アドリブで変えた声を出す準備をする。

 はやてちゃんは皆に喋らないように人差し指を口に当ててシーと喋らないように合図している。

 

「『恭也、ダメよ

 まだ昼間じゃない』」

 

『な、何がダメなの、忍さん』

 

「『いいじゃないか、忍

 この部屋には俺達二人しかいない』」

 

『ふ、二人だけ…』

 

「『けど、今は子供達が皆いるし』」

 

「『部屋は離れている

 声も何も聞こえやしないさ』」

 

『聞こえてる、聞こえてるよ恭ちゃん…』

 

「『じゃ、じゃあちょっとだけよ』」

 

「『ちょっとだけで済むか?

 それで何時も最後まで行くだろう』」

 

『さ、最後までって…』

 

「『だって恭也がすごすぎて』」

 

「『仕方ないだろ、お前が俺を本気にさせちまう』」

 

『ほ、本気にって恭ちゃん…』

 

「『もういいや、恭也早く…』」

 

「『ああ、俺もこれ以上我慢出来ない』」

 

『ダメだって恭ちゃん!!

 お願いだから待って!!』

 

「『もう準備万端だよ』」

 

「『ああ、じゃここからは…』」

 

『ダメーーーーー!!!』

 

「≪ここからは子供がいるので劇場を中断させて頂きます≫」

 

『へ?』

 

 俺が恭也さんの声で締めくくると美由希の気の抜けた声が聞こえた。

 周りを見渡してみるとはやてちゃんは口を押さえて笑いを堪えており、すずかちゃんアリサちゃんヴィータは顔を赤くしており、なのはちゃんだけは疑問符を浮かべて首を傾げている。

 最近の子はマセ過ぎているのか、或いはなのはちゃんが純粋すぎるのか。

 劇場を実行した俺が言うことではないが…

 

 ちなみに動物組みの三匹は動物姿なのでよくわからないが我関せずと言った感じで気にしていない様子だ。

 しまった、また久遠の前でこんなことやってしまった。

 これも美由希が弄り易すぎるのが悪いんだ。

 

『え? え? え?』

 

「だから今のは俺の声真似劇場

 美由希の憎愛劇第二章、相思相愛を目撃して嫉妬を募らせるの巻きだ」

 

『………………………そ』

 

「ん?」

 

 長い沈黙の後美由希の声が僅かに漏れる。

 何時もの美由希から創造するにこの後の行動は…

 

『そんなこったろうと思ったよーーーーーーーー!!!!』

 

 美由希の絶叫がスピーカーを通じて部屋に響く。

 まあ、こんな感じで爆発するだろうとは思っていた。

 経験で解っているのかわかっていないのかは知らないけど、必ずこういうのには引っかかるんだよな。

 

 美由希の絶叫が響いたところではやてちゃんが限界を超えて笑い始める。

 こうやってはやてちゃんが大笑いするのも何時ものことだ。

 最近二人でいる時は美由希弄りが神掛かってきてる。

 

 

 

 

 

「ったく、いきなり電話かけて何をやりだすと思ったら悪戯だなんて」

 

「ホントびっくりしたよ、拓海君の声がお姉ちゃんと恭也さんになるんだもの」

 

「し、ししし、しかも、あ、あんな内容を!!」

 

「あはははは……(真っ赤)」

 

 確かに初めてお邪魔した家でやるようなことじゃなかったな。

 はやてちゃんのフリに乗せられて勢いでやってしまったこと少し反省している。

 

「つい、いつもの勢いでやってしまった

 悪かった、ごめん」

 

「流石に他所様の家でやることやなかったわ

 ホンマにすいません」

 

「はやては普段はしっかりしてるのに、時々羽目外すよな

 ほどほどにしろよ」

 

『自重してください、主』

 

 謝った俺達にヴィータとザフィーラに注意されてしまう。

 主にはやてちゃんへの注意だが皆の視線は俺達二人に訴えるように向いている。

 ただ一人、なのはちゃんだけは目をキョロキョロさせた様子で…

 

「ねえアリサちゃん、あんな内容ってなんなの?

 たっくんがお姉ちゃんに悪戯したのはわかるんだけど、お兄ちゃんと忍さんの声で何がしたかったの?」

 

「「なのは(ちゃん)…」」

 

「かわええな、なのはちゃん」

 

「ガキだな、なのはは!!」

 

「むー、ヴィータちゃんだって子供じゃない!!」

 

 皆反応はそれぞれだがなのはちゃんの疑問符に呆れ気味だ。

 まあこの年頃の子供ならこういう反応のほうがあってるだろう。

 子供の集まりでそんな反応だったのがなのはちゃんだけだったのは少々冷汗物だが…

 

「まあ、それはもう置いといて

 改めて自己紹介させてもらうけど、アリサ・バニングスよ」

 

「私は月村すずか

 よろしくねはやてちゃん、ヴィータちゃん」

 

「八神はやてや

 車椅子に乗っとるけど、今は歩けるようになるためにリハビリ中や

 今は休学中やけど歩けるようなったら学校にいくつもりや

 一緒のクラスになったらよろしくな」

 

 なのはちゃんの疑問はアリサちゃんに置いていかれて、改めて自己紹介に入る。

 二人の自己紹介に対して、はやてちゃんがいつも以上に気合を入れて応える。

 今は車椅子には乗っているが足はだいぶ動かせるようになってきたそうだ。

 まだ立つ事は出来ないけど、半年もすれば歩くだけの筋力を取り戻せるらしい。

 なのでこの手の話をすると気はとても嬉しそうに話す。

 学校への復学も楽しみにしてるみたいだ。

 

「ほんでこっちの子はヴィータや

 遠い親戚の子で一緒に暮らしとる家族や」

 

「ヴィータだ」

 

「ヴィータはちょっと人見知りでな

 初対面やとどうしても仏頂面になってまうんよ

 ほんでもええ子やから仲良くしたってな」

 

「や、やめろよ、はやてぇ」

 

 ふざけてる時は年相応のはやてちゃんだが、守護騎士達の事になると保護者姿勢になる。

 こちらのはやてちゃんは年相応とは思えないほどだが、守護騎士達の主であると同時に家長としての責任感を自然と持ってるって感じだな。

 決して無理している感じではなく、家族が大事だからこそ世話を焼きたがってるようだ。

 

 もっとも世話をされてるヴィータはそうやって紹介されるのが恥ずかしいようで顔を赤くして困っている。

 決して嫌がってるわけではないんだろうが、ヴィータはそういう性格だからな。

 

「そんで、こっちがザフィーラや

 おっきい犬やけどとても大人しいんよ」

 

「プッ、犬」

 

≪黙れ、ヴィータ≫

 

 はやてちゃんが紹介した後にヴィータがザフィーラを茶化す。

 それに対して魔法を知らない二人が居るので表立って文句を言えないから、ザフィーラは睨みながらも念話で文句を言い返す。

 やはりはやてちゃんに犬とは言われるのは我慢出来ても、他の物には言われたくないらしい。

 一応狼らしいし。

 

「大きな犬ね

 私の家は犬を沢山飼ってるからいろいろ知ってたつもりだけど、この子の種類は知らないわ

 はやて、この子の品種は?」

 

「え、えと、どうなんやろう?

 たぶん雑種やないかな?」

 

「ざ、雑種…(プルプル)」

 

≪ヴィータァ!!≫

 

 誤魔化すためとはいえ色々ザフィーラの尊厳を傷つけるはやてちゃん。

 ヴィータはそれがだんだんツボに嵌ったのか笑いを堪え始めて、ザフィーラは念話で怒鳴りながら睨む事しか出来ずにいる。

 まあ、怒りながら一見大人しくしているように見えるのは流石ザフィーラと言っておこう。

 

「ねえ、拓海くん、その子達の名前は?」

 

 アリサちゃんがザフィーラに興味を持ったのに対して、すずかちゃんは俺の連れている久遠と海鈴が気になったようだ。

 アリサちゃんは犬を、すずかちゃんは猫を沢山飼ってるらしいので、それで興味が分かれたらしい。

 

「この狐が久遠で猫の方が海鈴

 久遠の飼い主は俺じゃないけど、最近はよく一緒にいるから連れてきた

 海鈴は俺のだけど」

 

「クォン」

 

「ニャー」

 

 二匹は普通の動物を演じるため、喋らずに鳴き声をあげる。

 久遠はもともとキツネだけど海鈴は容姿を変えただけの偽者の猫だ。

 ここに来る前に猫の鳴き声をリハーサルをしたら、微妙な鳴き声だったので来るまでに少々練習をすることになった。

 とりあえず鳴き声を上げるのは違和感を持たれない程度にするようにして、あまり鳴かない様に言っておいた。

 気づかれることは早々ないと思うけど

 

「拓海君も猫を飼ってたんだね

 私も家で沢山猫を飼ってるから、後で紹介するね

 こんにちわ、久遠、海鈴」

 

 挨拶するとすずかちゃんは二匹の頭をそれぞれの手で撫でて上げる。

 自分で生み出したとはいえ海鈴の猫姿もなかなか可愛いし、久遠は独特の愛らしさがある。

 撫でたくなるのは当然だよな。

 

「え?」

 

「ん、どうかした?」

 

 撫でていた手を止めて突然疑問の声を上げたすずかちゃん。

 

「えっと………ううん、なんでもない」

 

「ん、そうか」

 

 そのままそこで二匹の頭を撫でるのを辞めたすずかちゃん。

 もしかして普通の動物じゃない事に気づいたか?

 この家もとらはでは普通の家じゃないって設定だったと思うし。

 

 まあ、だからってどうってことない話なんだけどな。

 そうだとしても一般人なのはアリサちゃん一人だけだし。

 むしろ何も知らないアリサちゃんが知ってしまったら涙目だ。

 

 

 

 

 

 とりあえずこちら側の動物組も含めた自己紹介が終わった後、お茶会の準備をしている庭に移る事になった。

 そこには外用の白いテーブルと人数分の椅子があり、テーブルの上に洋風のお茶菓子とティーカップが既に用意されていた。

 その周りには月村邸で飼われてる猫たちをすずかちゃんに紹介された。

 一匹一匹名前を教えられたけど、とりあえず覚えきれないほど数だったと言っておこう。

 

 ここまでいるからにはゴッドハンドで猫の群れをヘブン状態にせずにはいられない。

 初めて見る人間には大抵警戒心を持って近づいてこないのが猫で、当然初めて来た俺には一定以上近寄っては来ない。

 それでも警戒心の低い猫はいるので、サッと素早く近づいて撫で回す。

 

 

-……ニャ~ン♪-

 

 

 今日も俺のゴッドハンドは冴え渡っているようだ。

 10秒と経たない内に気持ち良さそうに横になって俺にされるがままになる。

 一匹を篭絡すると近くいた他の猫に移って撫で回し、また篭絡する。

 

 気持ち良さそうに篭絡されてしまう猫を見て、警戒心を持ってた猫たちも少しずつ俺の傍に寄ってきて、手の届く所まで来た猫から順繰りに撫で回して篭絡していく。

 一匹一匹やっていたが近くにいる猫が増えてきたので片手ずつ二匹同時に撫で回し始めたが、初めに撫でていた猫達が催促のように顔を擦り付けてくるので、手が全然足りなくなった。

 すずかちゃんとアリサちゃんがいなければ分身をして足りない手を増やすところなんだが、それも出来ない。

 

 そこで思いついたんだがゴッドハンドは気に敵意の無い安らぐ様な意思を込めて相手に伝える、いわば終の太刀の亜種だ。

 なら別に撫でる必要もなく、撫でるのはどちらかと言うと俺が撫でたいだけだったりするからだ。

 だから何時もゴッドハンドに込めている気持ちを纏で纏って座り込み、俺の周りに猫達を寄せてみた。

 すると…

 

 

 

 撫で始めて十分もしない内に、ゴッドハンド・纏バージョンの影響を受けた猫が自然と俺に寄り添ってきて、最後には猫で俺の下半身は完全に埋まって、肩や頭にも乗れる者は乗っかっている。

 子猫から大きな猫まで大小様々だが、もう重なり合うように俺の体を埋め尽くしているのでどれがどの子やら。

 ちなみに久遠と海鈴も山盛りの猫達の一部になっている。

 

 モコモコした猫達の毛並みと暖かい体温に囲まれて気持ちがほんわかして非常に和む。

 現実的にハーレムなんてありえないなんて考えてたけど、動物ハーレムなんていいかもな。

 将来、次元世界の可愛い動物を集めて俺だけの動物ハーレム王国作りたい。

 

 

 

 そんな時に席に座りながらこちらの様子を伺っていたアリサちゃんが声を掛けてきた。

 他の四人も椅子に座っており、お茶やお菓子に手を伸ばしている。

 特にヴィータのお菓子に手が伸びる早さが際立っている。

 ちなみにザフィーラははやてちゃんの傍で忠犬の様に座っている。

 やっぱり犬にしか見えん。

 

「ちょっと拓海、せっかくのお茶会なんだから猫とばかり遊んでないでこっち来なさいよ

 というかあんた猫に懐かれすぎよ!!

 どうやったらそんな簡単に埋もれるくらい懐かれるのよ!!」

 

「家の子達が全部懐いちゃった

 他所の人には全然懐かない子もいるのに」

 

「相変わらず動物に対する手際の良さには驚かされるわ

(思えばアリアの時が一番凄かったわ

 あれが人の姿になってるアリアやったら…………アカン、あれはエロ過ぎや)」

 

「たっくんって猫に好かれやすいんだね」

 

≪いやなのは、あれは拓海がなんかの力を使ってるらしいぞ≫

 

≪え、そうなの?

 魔法だったら私も教えて欲しいな≫

 

 反応は色々だが、流石に猫の山盛りに埋まっては驚かれるらしい。

 思った以上に猫がいたからこうなってしまったが後悔はない。

 少々埋まりすぎてしまったが、それでも動物に囲まれるというものはいいものだと思ったからだ。

 

 俺も一応お茶会と判って一緒に来たのだが、よく考えてみれば男は俺一人なんだ。(ザフィーラは動物型なので数に入らない)

 どう考えても女の子の話についていけないだろう?

 だからあえて話に混ざらないようにも(・)していたんだが…

 

「やれることをやったらこうなってしまった

 モコモコで暖かいから気持ちいいんだけど、これじゃあなかなか動けないから

 まあ、俺の事はこのままでいいから、お茶会進めといてくれ」

 

「そういう訳にはいかないわ

 あんたも招待されたんだから参加しなさい」

 

「そうだよ、たっくんも一緒にお話しよ

 猫退かしてあげるから『ニャア!!』わっ!!」

 

 なのはちゃんが俺に乗っかってる猫を退かそう抱き上げたら、その猫が鳴き声を上げて嫌がって身を捩り腕から逃れると、また俺の傍に寄って来て猫盛の一部になる。

 

「あうぅ、普段なら私が抱き上げても怒んないのに」

 

「そんなに拓海君に懐いちゃってるんだ」

 

「まあ、そんなわけだから俺はこっちで猫と待ったりしてるから

 それに面子的に男女の比率がキツイから」

 

「……あーそう、つまり恥ずかしいわけね」

 

 納得いったという感じと共に嫌らしい笑みを浮かべるアリサちゃん。

 エロい意味じゃなくて悪戯的な意味の嫌らしい笑みだからな。

 

「まっ、それじゃあしょうがないわね

 こっちに入るって事は、こんな美少女達に囲まれるって事だもの」

 

「うんうん、そやな

 たっくんも男の子なんやから」

 

 自慢気に言うアリサちゃんに頷きながら賛同するはやてちゃん。

 俺の美的感覚が可笑しくなければ、他の三人も含めて何も知らずに初見であれば、普通に可愛い女の子だとは思う。

 無論アニメ描写じゃなくて現実的に見た描写だぞ。

 いやまあ間違ってないと思うけど、自分達で美少女って言ってそれに同意するってのはなんだかな。

 

 すずかちゃんは困ったように乾いた笑いを出して、ヴィータは特に気にせずにティーカップを口につけて、皆の様子になんだかよくわかってないようななのはちゃんは首を傾げている。

 最近仕草が妙に可愛らしく思えてきたな、なのはちゃんは。

 久遠と同じ様な感じの可愛らしさだが。

 

 女の子に囲まれるのは気恥ずかしくあるが、俺には子供であって異性とは見ていない。

 一応価値観は大人の物だから、そういう対象には見る気はない。

 だから俺が二人の自己評価に対して出来ることは…

 

「……ふぅ」

 

「何でそこで溜め息が出るのよ!!」

 

「いや、ごめん

 正直どう反応していいか判らん

 美少女であるかどうかはともかく、自称してたらとても美少女とは思えんぞ

 まあ、見方によっては微笑ましくあるがな」

 

「なぁ!?」

 

 いかにも微笑ましげな笑みを浮かべながらアリサちゃんに言う

 バカにされたと思ったのか、或いは微笑ましいと言われて恥ずかしくなったのかは知らないが、アリサちゃんは顔を赤くする。

 

「たっくんの反応、面白くないわ

 もうちょっと恥ずかしがったり照れたりせえへん?」

 

「そうは言っても実際にどうとも思わんからな

 まあ、後十年経ったら違ってると思うけど」

 

 もし初対面がSTSの時代だったら色々違っただろうな。

 子供とは見れなかっただろうし、普通の女の子としたには見れなかっただろう。

 そうなるとやっぱりSTS時代には魔法少女はタイトル的に間違ってるな。

 

「まったく失礼ね!!

 一つ年上だからって子供扱いして

 小学生でも立派な乙女なのよ」

 

「そうか、それは悪かったな」

 

「全然悪いと思ってないじゃない!!

 ふんっ!!」

 

 俺は特に悪びれた様子を見せずに謝る。

 相手にされてないとわかったのか、少々機嫌を悪くして踏ん反り返ってそっぽを向くアリサちゃん。

 別にアリサちゃんとの仲を拗らせようと思ってこういう話し方をしてる訳ではなく、これも冗談を含めた俺なりの付き合い方だ。

 アリサちゃんもからかわれてるのは判ってても悪意がないのは気づいてる様子なので、そのままどかっと席に座った。

 

 だけどその様子を見て、なのはちゃんは仲を拗らせたと思ったらしい。

 慌てた様子で仲裁に入ってきた。

 

「アリサちゃん、たっくん、喧嘩はダメなの!!

 せっかくのお茶会なんだから仲良くしようよ」

 

「「え?」」

 

「…え?」

 

 なのはちゃんの慌てた様子に本気で喧嘩をしていたと思われてたと事に気づいて、その様子になのはちゃんも何か変だと気づいて声を漏らした。

 

「なのはちゃん、俺達は別に喧嘩してないぞ」

 

「そうよ、これくらい冗談を交えた他愛のない会話じゃない」

 

「そ、そうだったんだ

 私、早とちりしちゃった…」

 

「やっぱりなのはちゃん達くらいの子は微笑ましいな」

 

「あうぅ…」

 

 さっきから猫を撫で回してたせいか、ついそのままなのはちゃんの頭を撫でてしまう。

 そうすると恥ずかしげに唸り声を上げるなのはちゃん。 

 

「やったらたっくんはどんな女の子が好みなんや?

 ちょ~っと興味あるなぁ」

 

「そうね、同年代の男子の好みには興味あるわね

 すずかもそう思わない?」

 

「えっと、私は別に…」

 

 非常に答え辛い事を聞いてくるな。

 正直好みと言われても、前世でも誰かと付き合ったことなんてなかったからな。

 すずかちゃんは遠慮してる感じに見えるが俺に注目してるし、ヴィータはまだお菓子をモグモグと食べ続けている。

 というか、食べすぎじゃないか?

 

「好みと言われても正直答えづらいな

 とりあえず俺と同年代の子はあまり興味が湧かないとだけ言っておく」

 

「つまり年上が好みちゅうわけやな

 もしかして美由希さんとかが実は好みやとか?」

 

「それは絶対ない……と普段は言うところだけどどうだろうな

 今のところ、そういうこと自体に興味がないからな

 仲が良いのは事実だから将来的なことなんてわからん」

 

「うーん、曖昧な答えやな

 こんなんじゃからかい様がないわ」

 

 この子達からすれば恋愛というも自体に興味を持つ年頃だが、俺は前世があるので改めて持つようなこともない。

 この世界に来た時は原作キャラに興味はあったけど、恋愛対象としては今では違うと言い切れる。

 例えるならアイドルや芸能人に会ってみたかったといったところだ。

 会ってみれば美人ではあるが普通の人達だからな。

 

「まあ、俺が一般的な小学生の反応とは思わんでくれ

 普通は異性に興味があるもんだと思うから

 皆だってそういうのに興味があるから聞いたんだろ?」

 

「えっとまあ、たしかにそうね…」

 

「私もまあ興味はないことはないんやけど…」

 

「私達って学校では仲の良い男の子っていないよね」

 

「そうね、なのはが紹介した拓海が初めてなんじゃないかしら

 そうでしょ、なのは」

 

 アリサちゃんがなのはちゃんに話を振ると、視線がなのはちゃんに集まる。

 そこで気づいたが俺の手がなのはちゃんの頭に乗って撫でっぱなしだった。

 そして話を振られたなのはちゃんはというと…

 

「……ふにゃぁ?」

 

「「「「…………」」」」

 

「もぐもぐ」

 

 猫になってた。

 

 いや、実際に猫になってたわけじゃなくて、俺の周りで寛いでいる猫達と同じ様にダレていた。

 そういえば全身でゴッドハンドしっぱなしだったから、なのはちゃんをゴッドハンドで撫でていたような物だった。

 どうやら人にも効果はあるらしいな。

 とりあえず俺は撫でるのをやめて手を退かす。

 

「おーい、なのはちゃん」

 

「ポケー………え?

 えっと、なになに?」

 

「なのは、あんた今話聞いてた?

 ていうか、聞こえてなかったわよね」

 

「ご、ごめんアリサちゃん!!

 たっくんに撫でられてたらなんだか気持ちよくてポカポカしてきちゃって…」

 

「ふーん、そう

 拓海、もっかいやってみて」

 

「あいよ」

 

 俺はアリサちゃんに言われるままに、またなのはちゃんを撫で始める。

 

「あうあうぅ…………ふにゃぁ~…」

 

 ちょこっと撫で始めただけで戸惑いからすぐに安息状態に変わって表情がダレた猫と同じような状態になった。

 やはり人にも効果がある程度あるみたいだ。

 猫っぽいのはまあなのはちゃんだからと思っておこう。

 

「恋愛云々はともかく、このなのはちゃんは可愛いなあと思ったのは俺の素直な気持ちだ」

 

「そうね、今のなのはには私も負けるとだけ言っておくわ」

 

「なのはちゃん、かわいい」

 

「なのはちゃん、お菓子やでー

 あーんや」

 

「メイドさん、このお菓子のお代わりくれ」

 

 

 

 この後、意識をはっきりさせたなのはちゃんがとても恥ずかしがってたのを皆で笑っていた。

 ただヴィータもいくらでもあるからってお菓子食べすぎだ。

 他所の家なんだからと度が過ぎたと思われた辺りではやてちゃんに叱られてた。

 

 俺も猫に埋もれながらも話に加わってお茶会は楽しく進んでいった。

 魔法関係の話はアリサちゃん達がいるから話題に上げられないから、普通の日常の話題ばかりだった。

 そこで俺自身があまり普通の話題を持ってないことに気づいた。

 ずっと力の練習とか技を考えるなどで一般的な遊びに手を出してなかったから。

 今度久遠とでも技の練習とか抜きに普通の遊びにチャレンジしてみようかな。

 

 

 

 

 

●ゴッドハンド:纏、その他応用が可能に



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第四十五話 技を考えてみよう

 

 

 

 

 

 今日も八神家に参上して、魔法の勉強と気の訓練と動物組みとの遊びをしている、同時に。

 マルチタスクに慣れた為か、並列思考が三つになったんだ。

 そのおかげで影分身も二体出せるようになったから一体を気製影分身、もう一体を魔力製影分身にして、それぞれの技術の向上を図らせている。

 

 本体の俺は久遠に海鈴を含めて遊び相手になっている。

 影分身に余力を与えるために魔力も気も殆ど注ぎ込んでいるので本体の俺には大して力が残ってないから、前みたいな訓練を含めた遊びじゃなくただ遊び相手になっているだけ

 この前も言ったが遊びを含んでいたとはいえ、ちょっと余裕が無いんじゃないかと思ったからだ。

 偶にはこういうのんびりとした過ごし方もいいだろう。

 力を全部分身に預けて任せきってるだけなんだけどな。

 

 

 

 それで訓練に関わらない遊びを久遠たちとしようと思ったんだが、何をすればいいのか思いつかなかった。

 今の俺の年代の子供なら気ままに遊びを思いつくんだろうけど、これまで訓練を含んだ遊びばっかりで普通に遊んだ事なんてないことに気づいた。

 まあ、今更遊びを考えるなんて必要なかったからな。

 

 それにこれまで遊ぶ友人なんて久遠くらいしかいなかった。

 必要なかったのもあるけど、少々人付き合いに問題があるか?

 同年代の友人は結局なのはちゃんだけ。

 年上でも那美姉さんとかがいるけど、あまり遊ぶという事柄じゃあないな。

 

 美由希は一応友人だけど、やることが剣術第一だからどうしても殺伐となる。

 美由希で(・)遊ぶことはあっても、美由希と遊びに行った事は無いな。

 そもそも美由希は誰かと遊びに行ったりするのだろうか?

 俺も知らない友人が居るとはなぜか思えない。

 人の事は言えないがな。

 

 美由希に人の事は言えないと思ったのは、なのはちゃん達を除けば一般の友人が俺もいないからだ。

 逆に言えば友人関係が結局原作キャラ寄りになりすぎてると気づく。

 今更原作キャラが悪いとは思わないけど、それだけじゃちょっと不味いんじゃないかと思い始めた

 実年齢の差でやり辛いかもしれないが、もうちょっとクラスメイトとの付き合いを改め直してみようかな。

 

 と思ったのだが、もう直ぐ学校は夏休みに入るんだった。

 学校の付き合う云々は夏休みが明けて二学期からになるな。

 それに夏休みに入れば沢山時間も取れるし、普通に遊びに興じる事も出来るだろう。

 宿題は分身を使えば影分身でなくても手数にはなるから、総掛かりで終わらせる事も出来る。

 異世界見学を頼んでみるのもいいかもしれないな。

 

 

 

 色々考えが脱線したがあまり遊ぶ事が思いつかなかったので、はやてちゃんの持ってる漫画でも読ましてもらっている。

 久遠と海鈴とはちょっとじゃれあっていた後は、ゴッドハンド纏バージョンで俺の膝の上で寛いでいる。

 前回の一件で使うようになったこの状態も二人は気に入っている。

 撫でられるのもいいがこっちも心地良いそうだ。

 

 ちなみに今日はアリアが魔法の先生をやっているので、影分身の俺が相手をしている。

 シャマルさんが教師役の時は久遠たちと一緒にこっちにいるんだがな。

 マルチタスクで影分身から送られてくる情報で教えてもらいながらも、本体が寛いでいるのは少し複雑な気分だ。

 勉強しながら怠けるって同時に出来るようなことじゃないし。

 

 そのキーワードでNA○UT○の螺旋手裏剣の修行を思い出した。

 実は螺旋丸自体は普通に練習して気で再現出来ている。

 まあ両手でしか作れないけど影分身も出来るようになったし、その内試してみるかな。

 性質変化も出来てるんだし。

 

 

 

 寛ぎながらも何故か技の考察になってしまうのに、自分自身心配になっていた時にシグナムさんがこっちに来た。

 手には鞘に収まったレヴァンティンがあり、あまりいい予感がしない。

 

「拓海、ちょっと付き合ってもらえないだろうか」

 

「手合わせならお断りだぞ

 今は影分身に気も魔力も殆ど回しちゃったから、俺自身には殆ど力が残ってないからな」

 

「いや、手合わせを求めているわけではないが、式神を出す事も出来ないか?」

 

「? 大した強さのは出せないが、それでもいいのか?」

 

「それで構わない

 ちょっと試してみたい技があるんだ

 これなんだが…」

 

 そしてシグナムさんに渡されたのは漫画の単行本。

 題名は【る○うに剣○ -明治○客浪○譚-】

 

「って、何読んでるんだよ…

 いや…読むのは構わないが何でまたこれなんだ」

 

「いや、先日お前が物語の技を披露しただろう

 それで主が私達にも物語の技を使えるんじゃないか言われたんだ

 主が私に勧められたのがこの本だったのだが、読んでいてなかなか面白い

 これがこの国の剣士なのだな」

 

「流石に漫画に出てるような事は有り得ないからな

 …いや、有り得なくはないのか

 今なら俺でも見せ掛けだけなら十分出来そうだし」

 

 下位の奥義なら十分に真似出来る。

 技法が伴うのは練習しなきゃ無理だけど、出来ないとは言い切れない。

 天翔龍閃の完全版は剣技だけじゃ無理としか思えないけど、高町家の剣を考えたら出来ないとは言い切れない気がする。

 九頭龍閃辺りも頑張れば十分出来る気がするし…

 

 というかシグナムさんにこの漫画なんてなんてチョイスだ、はやてちゃん。

 判ってるなと言えばその通りだが、なんか不味い物を教えてしまった気もする。

 本気でニート侍になったりしないよな…

 

「物語と実際には違う事くらい解っている

 だが技が参考になると思ったのは事実だ

 そこで拓海には技の的代わりに式神を出してもらいたい

 お前の式神なら倒しても問題ないし、技の手応えも掴めるからな」

 

「まあ、そういうことなら…」

 

 要望に応えて俺は標的になる式神を作成する。

 と言っても影分身の構成をより頑丈にするために霊力も殆ど使っているので、今出せるのはホントにショボイ中身スカスカな物だけだ。

 普通の攻撃でも消えてしまいそうな物だが、まあ唯の的だから問題ないだろう。

 姿はどういうのにするか………アイツでいいか。

 

 

-ボンッ-

 

 

 式神の術が発動して、その場に煙が舞い上がる。

 そこから現れるのは二メートルを超える大きな人型にマントをなびかせたアイツ。

 

『ひぃさびさの出番だと言うのにぃ、たぁだの的とは納得いかぁん』

 

「こいつは確か…」

 

『そぉう、わぁれはガーディアン・アナァゴ

 海鳴の守護の使命を持ったぁ、形無き幻影よぉ』

 

「以前なのはちゃんとの話の時に出したやつ

 適当にイメージしたやつだったけど、標的には丁度いいだろう」

 

 式神だから動物だろうが無機物だろうが形だけで何でも出せるが、剣で打ち込むとなれば人を想定したほうがいいだろう。

 知り合いをモデルにするのは流石に引けたから、使い捨てネタのこいつを出してみた。

 

「対人を想定するなら確かに人型のほうが打ち込みやすい

 ではガーディアン・アナァゴよ

 私の剣、受けてもらえるか」

 

『そぉの為に此度は呼ばれたのだぁ

 是ぇ非もない、全力で来るがいぃ」

 

 シグナムさんの頼みにアナァゴはいつでも来いといった様子で仁王立ちをしている。

 式神相手に了承をとるシグナムさんも可笑しいだが、それに対応したアナァゴもなんか可笑しい。

 式神は命令遂行に対してある程度自己判断が出来るんだが、こんなに流暢に受け答え出来る式神はいなかった。

 イメージが固まりすぎて、ある程度人格が確立してしまったとか?

 

「ではいくぞ

 レヴァンティン!!」

 

≪エクスプロージョン≫

 

 シグナムさんはレヴァンティンを腰にまわして、漫画通りの抜刀術をするような構えをしている。

 鞘にはレヴァンティンを収めたままでカートリッチをロードさせると、鞘ごと刀身がシグナムさんの魔力の炎に包まれる。

 いつもならこの技は紫電一閃の体勢だが…

 

「紫電!!!」

 

 レヴァンティンを鞘から抜き放ち、炎を纏っている刀身で逆袈裟にアナァゴを斬る。

 この時点で耐久力の無い式神であるアナァゴは消えるだけのダメージを受けてるが、消えるまで少しのタイムラグがある。

 そこそ更にシグナムさんは追撃をかける。

 

「双閃!!!」

 

 左手に持った炎を纏ったまま鞘で、今度は袈裟切りに切り込む。

 鞘を使った紫電一閃を打ち込む二連攻撃だ。

 当然一撃目で消えるのが確定していたアナァゴはオーバーキルを受けて消える直前だ。

 

『見事だぁ…』

 

 

――ボフンッ――

 

 

 そう最後に呟いてからアナァゴは煙になって消え去った。

 確かにイメージ通りではあるんだがちょっと行動が活発すぎないか?

 普通の式神だったら命令以外には基本的に喋らないのに。

 

「うむ、まあまあな手応えだ

 これなら多少調整すれば実戦でも使えるだろう」

 

「紫電一閃を連撃に出来れば十分有効な技ではあるね

 だけどシグナムさんの剣は刀じゃなくて片刃でも西洋剣だろ

 刀身が反ってる訳でもない直刀だから抜刀術はやりにくくないか」

 

「ああ、それが一番ネックになっていてな、技の力をなかなか出し切れない

 それでも鞘と合わせた紫電一閃の二連撃は魅力的だ

 いっそレヴァンティンが刀とは言わなくても、曲刀であったならだいぶ違うのだが…」

 

「デバイスなんだから別の形態として曲刀の状態でも追加したら?」

 

「おお!! その手があったか!!

 ならばいっそ刀の形態にして、鞘も振りやすいようにすれば完璧だ

 だがどうやってその形態を追加するか

 リインフォースに相談すれば何とかなるか?

 或いは聖王教会に当たってみるか…」

 

≪…………≫

 

 気のせいかレヴァンティンが魔改造されそうな状況にシグナムさんに何か言いたげに見えた。

 よっぽとるろ剣に嵌ったのか、技に憧れたのか。

 なんにせよ、シグナムさんは騎士から侍にクラスチェンジするようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィータは何やってるんだ?

 さっきからアイゼンを振っては考え込んだりを繰り返してるけど」

 

「ああ、拓海か

 はやてがあたしに新しい必殺技のヒントをくれてよ

 それでどうやったら出来るようになるのか考えてんだ。」

 

 ヴィータもか。

 そういえばシグナムさんが私たちって言ってたな。

 てことは守護騎士全員にか。

 なんだか面白い事になってきたな。

 

「そうか

 で、どういうヒントをはやてちゃんはヴィータに出したんだ

 シグナムさんと同じで漫画か何か参考にしてるんだろ」

 

「まあな、見てみたけどなかなか格好良かったからあたしもやってみたいと思ってな

 だけどその技の再現の仕方がよくわかんなくって悩んでたんだ

 なんかいい案がないか拓海も考えてくれよ?」

 

「かまわないけどどういうのを参考にしてるんだ」

 

「コレ」

 

 ヴィータが差し出したのは漫画ではなくDVD のケース。

 そこに書かれているタイトルは【勇○王ガ○ガ○ガー】

 

「ゴル○ィオンハ○マーかよ!!」

 

「あれはまさにあたしの為にあるような必殺技だな

 完成したらギガントを超える切り札になるな」

 

「完成すればな」

 

 光になったら不味いだろ。

 どう考えても非殺傷設定とか出来ない技だな。

 まあハンマーを使うならヴィータ好みな技には違いないんだけど。

 

「で、どういう風に再現しようと思ってるんだ?

 そのまま再現出来そうな魔法は流石にないんだろ」

 

「似たような効果の魔法はあるかも知れねえけど、あたしはそんなの覚えてねえからな

 魔法の知識が一番あるリインなら知ってるかと思って聞いたけどダメだった

 そうなると管理局か聖王教会にいって調べるくらいしか思いつかねえ」

 

「諦めるって選択肢はないのか」

 

「ない、あたしの辞書にそんなもんはねえ」

 

 見ての通りの負けず嫌いだからな、ヴィータは。

 ゴ○ディオ○ハンマーを打ち込むヴィータも見てみたくない事も無い。

 出来るかどうかはともかく、応援はしよう。

 

「応援はするけど、俺には魔法は学び始めたばかりだから知識面では力になれないぞ」

 

「かまわねえって

 拓海はいろいろな技を自分で再現してるんだろう

 なんか参考になりそうなアイディアがあれば教えてくれ」

 

「まあそれくらいなら」

 

 専用の魔法を探す事から始めるから完成は遠そうだ。

 その魔法をグラーフアイゼンと組み合わせて再現するかも考えなきゃならないし。

 何か力になれるなら、手を貸してやりたいんだがな。

 

「やっぱり前提の必殺技のヘルア○ドへブ○から覚えなきゃいけないのか

 攻撃と防御のエネルギーを併せるってどういう意味だ?

 それでどうやって強い力になるって言うんだよ」

 

「まあ、フィクションの技なんて合理的でないことのほうが多いんだ

 自分で独自に解釈して通用できるような技の在り方を考えて…」

 

 そこでふとある技を思い出した。

 それと式神の術を組み合わせればもしかして…

 俺は即座に式神の術式を霊力で編んで発動。

 

『まぁた、わぁれかぁ』

 

「こいつって前にはやてが笑って耐えられなくなってたやつじゃねえか

 こんなの出してどうするんだよ」

 

「コレを守るように全力で強力な防御魔法を張ってくれるか」

 

「まあいいけど…」

 

『随分とひどい扱いではないかぁ』

 

 ぼやくアナァゴは無視して、ヴィータがアイゼンで防御魔法を使う。

 アナァゴは多面体のガラスに包まれるような形で防御魔法に閉じ込められた。

 コレなら内部から出ることは出来ないが、外部からもアナァゴに触れることも出来ない。

 

 準備出来た思うと俺は少ない気を使って、両手に炎気と冷気を宿す。

 更に胸の前に新たに式神の術式を出して、術式を挟むように両手を合わせる。

 合わせた手には炎気と冷気の混ざった白い気が残っており、式神の術式も残っている。

 問題無いと判断して、手にある白い気を宿す式神の術式を起動する。

 

 出すのは俺の体よりも大きなハンマー。

 これまでは大抵生き物ばかりを出してきたが、無機物を出せないとは言っていない。

 ただ武器などとしては式神の耐久度の問題であまり使えないからだ。

 

 だけど俺の予想ならこのハンマーは普通に使えるだろう。

 先ほど込めた白い気がハンマー全体で輝いている。

 

「なんだ、そのハンマー?

 式神の術で出したっぽいけど妙に光ってるぞ」

 

「ああ、ヴィータ触るなよ

 俺以外が触れたらたぶんヤバイ」

 

 気や魔力ってのは使い手の波長かなんかが合うからか、出した本人が意図しない限り自身を傷つけることは無い。

 判りやすく言うとシグナムさんが炎熱変換で出した自分の火で火傷することは無いってことだ。

 それ以外の火であれば普通に火傷するらしいから、自身の出した力は自身を傷つけることは無い。

 だからこそ俺がこの力を手で持っても大丈夫だが、他人が触れたらそこから消滅の可能性がある。

 それを確かめるためにもハンマーを振り上げて…

 

「ひかりになあれ」

 

『なにぃ、行き成『ジュワ!!』』

 

 少々棒読み気味にセリフを言いながら、防御魔法を掛けられているアナァゴに振り下ろした。

 ハンマーは防御魔法の抵抗を感じさせる事も無く素通りするように触れたところから消滅させ、アナァゴも黒板にチョークで書かれた絵を消すようにハンマーにそって消滅しながら消えた。

 あまりに抵抗が無さ過ぎたのでそのまま地面まで叩きつけそうになったが、このままでは地面も消滅させると思って振り下ろし切るのをやめた。

 

「やっぱこの技じゃ威力はあっても光にならないから再現とは言えないな」

 

「って、なんだよ今のは!!

 あたしの防御魔法素通りするように消えちまったぞ!?」

 

「そういう性質の技だからな

 どちらにしろ、普通に人に向かっては使えない」

 

 久しぶりに相転移砲の気を作って、更にその気で式神製のハンマーにしたけど、思ったより簡単に性質をそのままに武器にして形にすることが出来たな。

 まあ使うような機会は早々ないだろうけど、放出系の技であるよりは使いやすいかもしれない。

 というか、威力的には直死の魔眼にもそうそう劣らないな。

 使い勝手の良さならこっちだろうしな。

 

「それでそれはあたしにも使えるのか?」

 

「これは気と霊力での技だからヴィータには無理だな」

 

「なんだ、あたしには使えないのかよ

 威力は凄いみたいだし、見た目は似てなくもなかったのに」

 

「だけど、理論を応用すれば魔力で同じ事は出来るようになるかもしれないぞ」

 

「本当か!?」

 

 もともと相転移砲は魔法のメドローアの理論をベースに編み出している。

 なら魔力で炎と冷気を出せれば理論的には使えない事はないだろう。

 

 ただ魔力で発生させる炎と冷気には術式が必要だ。

 俺はデュランダルがあるから冷気は出せるけど、炎に変換する術式は持ってない。

 ヴィータは古代ベルカ式だからそれに合った術式を探さないと。

 

 その上、ただ発生させるだけじゃダメだ。

 炎には融解や蒸発を、冷気には凝縮や凝固する術式を付け加えて相転移させる事を明確にしないといけない。

 それを併せる事によってメドローアの理論が完成するのだから。

 

 そういえば原作で氷の魔法を使うって言うならデュランダル以外にはリインフォース・ツヴァイがいたな。

 リインさんが生きてるから誕生する可能性を奪ってしまったけど、それは仕方ないよな。

 残念だとは思うけど、それは原作の話だから罪悪感を感じると言う事はない。

 あくまでここは現実だからな。

 

「ただ、俺も魔力では出来ないし威力が威力だ

 出来るようになるのに時間は掛かるだろうし、誰にも教えない条件の上で協力してもいい」

 

「……はやてにもか?」

 

「まあ、使い方を教えないだけでいい

 使える様になるかはまだ分からないけど」

 

「なら頼むぜ

 ちゃんと出来る様になるまで付き合えよ」

 

「わかってる

 俺も出来るようになるのは見てみたいからな」

 

 この技を魔力でやると言う事は、完全なメドローアの再現になる。

 その前提となる魔法術式による炎と氷の習得から始める事になるから、俺も一応は覚えておきたいと思っている。

 そこからどう技に転用するかはヴィータ次第だ。

 

 時間は掛かるがコレが後のヴィータの新必殺技の出発点となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の中に戻ってみればシャマルさんが一人で珍しくテレビを見ていた。

 シャマルさんは料理を除けば家事に大抵板がついていたので、一人でゆっくりテレビを見ているなんてことはあまりない。

 ふと何かの昼ドラでも見てるのかと、微妙に先入観があるなと思いながら覗いてみると…

 

『俺のこの○が真っ赤に○える!!』

 

 

-ズテンッ!!-

 

 

 予想の遥か彼方の内容だったので足を滑らせてしまった。

 というか、もしかしてコレがはやてちゃんが勧めた技か?

 

「あら、拓海君どうしたの?」

 

「いや、何でそんなの見てるのかと

 もしかしてはやてちゃんが勧めた?」

 

「ええ、そうよ

 その様子なら他のみんなの練習を見たのね

 はやてちゃんから勧められたから、みんな頑張ってるでしょ」

 

「シグナムさんもヴィータも結構乗り気でしたね」

 

 だけど何でシャマルさんがコレなんだ?

 そもそもシャマルさんは直接の戦いは専門じゃないから○ガンとは全然合わないはずなんだが。

 

「何ではやてちゃんはコレを参考にしろっていったんです?

 この話は全然シャマルさん向きじゃないはずなんですけど」

 

「そうなのよね

 確かにここまで見てみると私が扱うような技はないわ

 そもそも私って後方支援が専門だから、直接戦うような魔法は殆ど持って無いんですよ

 少ない内の一つをはやてちゃんに教えたら、ここのシーンの後に私に合った技があるんですって」

 

「この後のシーン?」

 

『爆○ゴッド○ィンガー!!』

 

 テレビには必殺技を相手にはなってる。 

 爆熱って単語からどちらかと言うとシグナムさん向けだよな。

 それでも無手の攻撃だから相性が合わない。

 

「どう見てもシャマルさん向きの技じゃないと思うんだけど

 一体どういう魔法をはやてちゃんに見せたんです?」

 

「旅の扉って言う魔法よ

 本来は攻撃魔法じゃないんだけど空間を繋げて遠距離から相手に直接触れることが出来るの

 昔はコレを利用してリンカーコアの蒐集を行なってたりしてた事があるから、攻撃もすることが出来るわ」

 

 ああ、原作でなのはちゃんの魔力を蒐集した奴か。

 思い付く限りシャマルさんが攻撃魔法を使ってるのといったら、あとは闇の書を使ったときくらいだからな。

 しかし旅の扉を基にしてこの技を提示したって事は…

 

『○ート○ンド!!』

 

 必殺技の締めに相手の胸に打ち付けた手の炎が爆発して止めを刺した。

 それを見たシャマルさんが目を見開いて気づく。

 

「ま、まさかはやてちゃんはコレが言いたかったの!?

 相手のリンカーコアを掴んで爆破しろって」

 

「たぶんそうだけど、危ないから

 場合によってはたぶん死ぬんじゃない?」

 

 この後はやてちゃんにリンカーコアの大切さと損失の危険性をシャマルさんから詳しく説明されて、この技は没となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シグナムさんやヴィータの技再現の為の素振りを、俺は眺めていた。

 隣にはザフィーラがいて同じく二人の練習を眺めている。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「…なあ」

 

「なんだ」

 

「ザフィーラは何かはやてちゃんに漫画の技でも勧められたりしなかったのか」

 

 シグナムさん、ヴィータ、シャマルさんと来れば、ザフィーラにも何かはやてちゃんが入れ知恵をしているだろう。

 リインさんははやてちゃんとユニゾンして魔法の練習をするので、ネタに走る余裕はなかったらしい。

 

「俺は盾の守護獣だからな」

 

「えっとそれは…」

 

「俺は盾の守護獣だ」

 

「いや、答えになって…」

 

「盾の守護獣に必殺技など必要ない」

 

「……あ、そうなんだ」

 

「ああ…」

 

 つまりザフィーラに勧められるような技が思いつかなかったわけか。

 徒手空拳なら幾らでも思いつくけど盾の守護獣って名前にあった技は俺もあまり思いつかないな。

 守護主体の徒手空拳ってなんだろう?

 

 ただ必要ないって言ってる割にシグナムさん達の練習を眺めてる姿に哀愁を感じるぞ。

 何故自分だけって雰囲気が薄っすらと…

 

 八神家って女性比率が高いから唯一男性であるザフィーラの肩身は狭い。

 まあ普段から狼(犬?)の姿だから女性陣はあまり気にしてる様子はないが、ザフィーラ自身はどう思ってるのやら。

 性別は関係ないが今回は割を食らってるように思える。

 

「ザフィーラ」

 

「…なんだ?」

 

「前に徒手空拳の話をしただろ」

 

「ああ」

 

「実はちょっと面白そうな技の案があるんだ

 主に素手の技になりそうなんだが、徒手空拳はまだまだ練習不足だ

 一緒に練習に付き合ってくれないか

 技の理論は簡単だからザフィーラでも使えるはずだ」

 

「!?………いいのか?」

 

 慰めとしか言いようの無い内容だが、実際に技の案自体はあるしザフィーラにも使えるものだ。

 極める事が出来ればちょっとした武術になりえるかもしれない。

 

 しかし、今の一瞬の反応を見る限り、やはり気にしていた様子。

 ザフィーラと一緒に技開発も悪くないだろう。

 

「もちろんだ

 徒手空拳、ちゃんと教えてくれよ」

 

「ああ、こちらこそ頼む」

 

 俺とザフィーラの武術の頂点への道が始まった。

 

 

 

 

 

●シグナム、○天御○流を練習開始

●ヴィータ、○ルディオ○ハンマー(メドローア方式)の開発開始

●シャマル、ゴッ○フィン○ー(ヒート○ンドのみ)の開発を断念

●ザフィーラ、新たな武術の開拓



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第四十六話 動物の事情

 

 

 

 

 

 はやてちゃん達が聖王教会から帰ってきて少し経って、俺やなのはちゃんは夏休みに入った。

 はやてちゃんは足の調子は良くなってきてるけどリハビリ中で、学校はまだ当分お休みらしい。

 病院の判断でリハビリが順調なら来年度には学校に行けるとはやてちゃんが喜んで話してた。

 

 学校なんてのは普段行ってればどうってこと無い物だが、行けない者にとってはとても大事に思える時間だ。

 俺のクラスにも学校に来る事に冗談半分な様子ではあるが不満の声を上げる者もたまにいる。

 それでも学生時代というものは終わってみれば貴重な時間と思えてくる。

 まあ一度転生した人間だから思えることなのだが…

 

 ちなみになのはちゃんに学校をどう思うかと聞いたら、毎日アリサちゃんとすずかちゃんに会えて楽しいと言う返事が返ってきた。

 勉強と言わない辺りは優等生とは言えないが、まさにいい子を地で行く発言だった。

 ついつい久遠のように頭を撫でてしまったのは仕方がない。

 そのなのはちゃんの反応はご想像にお任せする。

 

 

 

 で、夏休みに入ったからといって俺の日常はあまり大きく変化しなかった。

 学校がないから朝起きるのに少々だらけてしまったりするが、それでも魔法の練習や技の考案などするために神社に行ったりはやてちゃんの家に行ったり、たまに高町家に窺う程度だ。

 

 普段と特に変わらない生活をしているが夏休みの宿題は当然出た。

 といっても今年の俺には分身の術がある。

 式神で分身の座る机を作って宿題を総攻撃。

 絵日記などの時間の掛かる宿題を除けば一日でほぼ終わらせられた。

 

 こんなに簡単に終わってしまうと前世の苦労がちょっと物悲しくなってしまう。

 前世ではギリギリまで宿題を残してしまったほうだ。

 今の俺はまだ小学四年生だから問題も簡単だし、子供なせいか頭の回転が早い気がする。

 若いってほんといいんだなと思い、逆に精神の老いを感じてしまった。

 

 

 

 

 

 今日も今日とて八神家に久遠と一緒にお伺い。

 けど普段通りに行くのもあれなので、今日は趣向を凝らしてみた。

 

 部屋に入ってみれば各々が寛ぎ、はやてちゃんは魔法陣を出しながらリインさんに教わってる最中な様子だった。

 

「いらっしゃい、久遠

 人の姿でくるなんて珍しいな

 今日は一人なんか?」

 

「違う…一緒」

 

 久遠は両手で抱えていたものをはやてに見せるように差し出す。

 腕の中には久遠とは別の狐がいた

 

「ん? 久遠の動物姿によく似た子やな

 久遠の友達なん?」

 

「俺だよ」

 

「へ、俺って………って、その声たっくん!?」

 

「おう」

 

 抱えられていた狐は実は俺だったりする。

 この間、アリアに変身魔法をデュランダルに入れてもらって、ちょっと練習してから今回で初お披露目だ。

 式神に感覚を通して動物視点で行動したことはあるが、やっぱり自身が変身してみると体を動かすのにも実感が違う。

 

 何より全身に体毛があるというのがちょっとサワサワする感じだ。

 まあ悪い気分はしないので昨日はこの姿で丸まって寝てみた。

 結構暖かいが夏はちょっと暑苦しいかった。

 

「変身魔法はうまくいったのね

 コレでも使い慣れるまでは難しいはずなんだけど」

 

「式神を介しての動物の姿や動きは十分に練習済みだったからな

 自身に魔法を掛けるってのがちょっと手間取ったが、この通り出来るようになった」

 

 一番最初に反応したのが教えてくれたアリアだ。

 今日も人の姿で俺の姿を伺っていたら、サッと手が伸びてきて久遠からアリアの腕の中へ移ってしまった。

 

「ん~、毛並みもいい感じに再現出来てるわね

 コレなら十分合格点よ」

 

「ありがとう

 でも何で撫でてるのさ」

 

「いつも撫で回されてるお返し」

 

「自分から来てるくせに」

 

 アリアに抱えられながら毛並みを整えるように撫でられる狐姿の俺。

 久遠の時も思ったけど、やっぱり抱えられるのって少し心地良くはあるが気恥ずかしい。

 ユーノはこういう状況を当たり前のように感受してるんだろうか。

 それだと少々手遅れに感じる。

 

 ちなみに逆に抱えるほうとしては久遠やアリアだと別に恥ずかしいとは思わない。

 純粋な人間じゃなくて使い魔とかなんだし。

 

「なぁなぁ、たっくん

 わたしも抱かせてもらってもええかな」

 

「え、あ~……」

 

 はやてちゃんの要望に俺は少し悩む。

 大人ならともかく同年代に抱えられるのは少々恥ずかしさの限度を超える気がする。

 精神年齢がどうとかいう問題じゃないんだ。

 

「いいじゃない、拓海

 コレも経験よ

 はい、はやて」

 

「ありがとな、アリア」

 

「経験って…」

 

 答える間もなくアリアがはやてちゃんに俺の体を預け渡してしまった。

 まあ、まだ変身すると言う新鮮さがあるから、この状態は面白くあるんだか。

 動物扱いの経験がなんの役に立つんだろう?

 何か悪いって訳でもないんだが。

 

 両前足の脇をはやてちゃんに両手で持たれて俺は抱え上げられている。

 それで下半身は宙ぶらりんな状態だが、この状態って犬などの四足歩行動物にはあまり良くないって話だ。

 俺自身はそれほど負担ではないんだけど。

 

「おー、ホンマにそのまんま動物やな

 重さも見た目くらいの重さしか感じへん」

 

「確かにそういうことが結構気になるんだよな

 魔法って変化した質量とかどうやって補ったり減らしたりしてるとか」

 

 その辺りがまさに現代の科学では証明出来ない魔法だ。

 実質巨大化とか縮小とかなんでも有りだからな。

 魔力さえあれば普通にウルト○マンに変身出来そうだし。

 

 そういえばジュエルシードで巨大化する子猫もいたな。

 変身魔法とは別に巨大化魔法とかもありそうだ。

 巨大化してSTSのキャロのヴォルテール相手にしたら、実写の怪獣映画になるぞ。

 それもそれで面白そうだ。

 

「ん?」

 

「どうかしたはやてちゃん」

 

 そこではやてちゃんが疑問符を浮かべる。

 何かと思って視線をはやてちゃんに向けると、逆にはやてちゃんの視線は俺の視線とぶつからずに僅かに下に逸れてる様に見える。

 その視線の辺りには宙ぶらりんになってる俺の下半身があって…

 

「ああ、やっぱりたっくんも男の子なんやな」

 

『!!!!!!』

 

 

 

 

 

「主はやて!!

 いくらなんでもあれは思慮に欠けると思われます!!」

 

「そうですよ、はやてちゃん!!

 男の子も意外と傷つきやすいってテレビで言ってました」

 

「あー…んー…ごめん、はやて

 今回は流石にフォロー出来ないや」

 

「ぐすん……」

 

「拓海、涙を拭いてください

 あなたが強いと言う事を私は知っています」

 

「だ、大丈夫よ

 動物の姿だったんだからなんてことないじゃない!!

 拓海がいつも私を撫で回してるほうがもっとすごいんだから」

 

「ご主人、気を確かに」

 

「拓海、いい子

 泣かない…」(なでなで)

 

「む、むぅ……」

 

 俺は泣いた。

 何か言う事も無く、喚くでも無く、目から涙がボロボロと零れ落ちてしまった。

 コレが泣かずにいられるかと言わんばかりに、体を隠すように体毛と尻尾で丸まって不貞腐れるように引き篭もった。

 

 周りははやてちゃんを怒る声と俺を慰める声が聞こえるが今は何もしたくなかった。

 変身していたとはいえ、女の子に≪オトコノコ≫を見られて宣言されるなんてなんて恥辱だ。

 こんな恥ずかしい思い、前世で生まれてから死んでからまた生まれてから初めてだ!!

 

 涙ぐむ俺の姿にはやてちゃんはかなり気まずいというか反省しているみたいで、まだ大して動かない足で俺に向かって土下座しているが、今の俺には気にしてる余裕は無かった。

 そして、他のみんなとはまた違う様子でソワソワして伏せの状態を維持しているザフィーラ。

 普段から動物の姿なんだから、今更気にしたってしょうがないだろうと言う突込みを心の中で思う事すらやはり余裕は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺の咽(むせ)び泣きが収まってきた頃になのはちゃんが美由希を連れてやってきた。

 まだ騒然とした様子に何事かと二人は戸惑った様子を見せている。

 その間に俺はアリアの指示の元、変身魔法に修正を入れた。

 

 その名の通り文字通り修正だ。

 とりあえず大事なところは何もない状態にした。

 有るとか無いとかではなく、ほんとに何もない状態。

 ヌイグルミみたいに普通に体毛で覆われている状態にした。

 愛玩動物に必要の無いモノは必要無いんです。

 

 

 

 色々落ち着いてきたところで、なのはちゃんと美由希に俺が変身魔法を使ってることを説明した。

 二人は今の騒然とした様子はなんだったのか当然気になっていたが、とりあえず先ほどの事はなかったことにしてほしい。

 他の皆も話すのは勘弁してくれてる様子だからとても助かる。

 

 言いづらい皆の様子に、流石に二人も追求してくることは無かった。

 もししつこく聞いてくるのが美由希だったら、割と本気で締め上げてたな。

 今の俺はテンションが上がったり下がったりで少々可笑しいぞ。

 

「何があったのかよくわかんないけど……

 とにかく、この久遠じゃない狐はたっくんって事でいいのかな?」

 

「だからそう言ってるだろう

 お前の頭はレンコンか?」

 

「この私に厳しい口調はたっくんだ

 何でレンコンなのよ」

 

「スカスカでも丈夫、丈夫でもスカスカ

 入った物は右から左に抜けていく」

 

「そういうんだと思った

 けど本当に見た目は普通の狐なのね

 抱えてみても普通の犬猫と変わんない重さだし」

 

「ていうか、何いきなり抱えてんだ

 はなせ」

 

 

-ポフッ-

 

 

 ちょっと美由希に観察されたと思ったら、サッと抱え上げられてしまった。

 油断してたとはいえ、美由希は本気で動いたら素早いから時々対処に遅れる。

 不意に俺は大きな狐の尻尾を振って美由希の顔を軽くはたく。

 動物姿でもイメージさえ出来れば普段は無い尻尾とかも自在に動かすことは出来る。

 

 その辺りも魔法の術式に組み込まれているらしい。

 でなきゃ骨格が人間とまるで違う体を自然に動かすことなんか出来やしない。

 その分仕草とかも本人のイメージが反映されるみたいだから、変身すると気づかない所でも動物的行動をとってしまうこともあるらしい。

 ユーノの動物的行動が様《さま》になっていたのには、そういう裏もあったようだ。

 

「ッ…、な、なんだか普段より元気がない感じがするけど

 皆の様子もちょっとおかしいし何かあったの?」

 

「今の俺はナイーブになってるんだ

 ほっとけ…」

 

 

-ポフッ-

 

 

 再び尻尾で先ほどとは逆の頬をはたく。

 大して力を入れてないし体毛に覆われてるから痛くないだろう。

 というか力を入れる気力が出ない。

 

「ぁぅ…、な、何か悩んでるなら相談に乗るよ

 友達なんだから」

 

「ならこの話題に触れるな

 今はカタツムリのように閉じこもりたいんだ」

 

 

-ポフッポフッポフッ-

 

 

 いい加減にしてくれという気持ちで美由希の顔を三度叩く。

 そろそろうっとおしく思ってきたので、次は気でも込めて叩いてやろうかと思い始めてた時に美由希が行動を起こした。

 

「ぅあ……あああぁぁぁぁ!!

 もうたっくん、カァイイィィぃ!!!」

 

「むぎゃぁ!!

 はっ、はなせぇぇぇ!!」

 

 

-ギュウウゥゥゥゥ!!-

 

 

    -ジタバタ!!ジタバタ!!-

 

 

 先ほどとは段違いの強さで抱きしめてくる美由希。

 突然のことに流石に驚いて美由希の腕の中から抜け出そうとする俺。

 新たな騒動はなのはちゃんが何とか美由希をなだめるまで続き、御蔭で落ち込んでた俺の気持ちはどこかいってしまった。

 少しばかり美由希に感謝するくらいはした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、お姉ちゃん

 たっくんがきつねに変身してたからって、無理やり掴んで乱暴にしちゃダメだよ」

 

「さっきの事といい、変身魔法を披露してから碌な事がない

 当分変身魔法は使いたくない」

 

「ごめんごめん

 長めで柔らかい尻尾がユーノみたいで我慢できなくなっちゃって…

 もう乱暴にしないから、もう一回変身してみてよ」

 

 俺は流石に嫌気がさしたので変身魔法を解いた。

 たまに遊ぶかもしれないがこの場ではもう変身したくない。

 美由希に遊ばれる気がしてならない。

 

「断る、お前の手の中にあるので我慢しろ」

 

「むぅ~、仕方ないかー

 けど流石たっくんだね

 まるで本物みたい」

 

『キュー』

 

 美由希の手の中には俺が逃れるのに作った身代わりの式神のフェレットユーノがいる。

 俺を掴みながらも時折ユーノの名前が何度も出てきたので、式神で偽者を出して注意を引いて、その隙に美由希の手の中から抜け出した。

 その後すぐに変身を解いて魔の手を逃れたが、偽者と判っていても美由希は式神ユーノをしっかりキープしていた。

 

「手触りはなんだか違う気がするけど鳴き声とかそのままだし

 たっくん、当分この子出しててよ」

 

「直接触った事はないから手触りの再現は無理

 出し続けるのはめんどくさいからヤダ

 最初に込めた霊力がなくなったら消えるよ」

 

 後から霊力を送れば存続させる事は出来るが、美由希の鬱憤晴らしにそこまでする気はない。

 

「しょうがないか

 それなら今の内にこのユーノを堪能しておこう

 ほらほら、ユーノー」

 

『キューキュー』

 

 とりあえず偽者だからキューキューとしか鳴かないそれっぽい反応をするだけの物を作ったが、遊んでる本人が楽しんでればなかなか様になる動きをしてるように見えるな。

 さっきの変身魔法もそうだが、術者のイメージで補正がかかる術の類はどうなってるんだろうか?

 

 動物の動きをCGやデータなどで再現するとかなりの内容になるはずだし、式神がもつ自己判断能力はまんま人工知能に当てはめる事すら出来る。

 理論的に説明したらかなり難解な内容になるはずなのに、イメージ一つだけで補えるってのはどういうことなんだろう。

 ご都合主義でもちょっとは納得のいく理由が知りたい。

 この辺りも今後調べていきたい魔法の要素かな。

 

 そう考えていると、ふとなのはちゃんがなにやらソワソワした様子をしている。

 視線の先には美由希が遊んでいるユーノの式神がいて…

 

「お、お姉ちゃん…私もそのユーノくんを抱かせてもらっていい?」

 

「うん、いいよ

 なのはもユーノがいなくなって寂しかったんだよね」

 

「それは…ちょっとだけなの」

 

 そう言いながらも美由希から式神ユーノを受け取ると顔を綻ばせて嬉しそうな顔を見せるなのはちゃん。

 改めてユーノが完全に高町家のペットという認識が固い事理解した。

 ユーノって今は何処までなのはちゃんの事を意識してるんだろうか?

 

 原作じゃ実際のところの恋愛事情はハッキリしてなかったけど、意識はしていたのは確実だと思うんだがな。

 STSまでの10年でそういった進展もない様子だったから、もしかしたらユーノ本人は折り合いを着けてしまってるのかも知れない。

 まあコレは原作の話だし、これからどうなるかは本人達次第か。

 

「本物じゃなくてもユーノくんを見るのはなんだか久しぶりなの」

 

『キュー』

 

「アハハ、お喋りしないユーノくんもなんだか変な感じ」

 

「そっか、なのははユーノとお喋りしてたんだっけ

 私もユーノとお喋りしながら遊びたかったなー」

 

 なのはちゃんと美由希が式神ユーノで遊んでいた時、庭の辺りでちょっとした魔力の高まりを感じた。

 誰かが魔法を使ったような感じで、最近では気を感じるというほどではないが察知するのに慣れてきている。

 なのはちゃんは式神ユーノに夢中で気づいておらず、まだ魔法を覚え始めて間もないはやてちゃん以外の魔導師は全員それに気づく。

 それで庭のほうを見てみると…

 

 

 

「ユーノくーん♪」

 

『キュー』

 

「キューじゃわかんないよー」

 

『キューキュー』

 

「な、なのは…?」

 

「なあに、ユーノくん?」

 

『キュー』

 

「こんなユーノくんもなんだか可愛いの」

 

「あー……なのはちゃん?」

 

「どうかしたの、たっくん?」

 

「あっち」

 

「あっち?

 んっと……あ」

 

 キューキューと鳴くだけの式神ユーノ相手にお話(・・)してたなのはちゃんに呼びかけて、俺は庭のほうを指差す。

 なのはちゃんが俺の指差す方向を見ると、そこには小動物姿でもハッキリ解る呆然とした表情の本物のユーノがいた。

 

 本物のユーノの姿を認識したなのはちゃんは、手に持っている式神ユーノと何度か見比べて状況を判断しようととしている様子。

 突然現れた本物のユーノの姿に少々混乱しているなのはちゃんの変わりに、美由希が俺に対して問いかけてきた。

 

「あのユーノもたっくんの出した式神?」

 

「んにゃ、俺が出してる式神はその一匹だけ

 だからあれは本物だな」

 

「じゃあ、戻ってきたんだ!?

 お帰「ごめん、なのは!!」」

 

 なのはちゃんが帰ってきた事を喜んだ様子で呼びかけようとしたところで、ユーノの謝罪の声が遮った。

 

「ゆ、ユーノくん?」

 

「すぐ帰ってくるって言ったのになかなか帰って来れなくて

 約束を破ってごめん」

 

「う、ううん、大丈夫

 気にしてないよ」

 

「気遣ってくれなくていいんだ

 もう遅すぎたんだって解ってるから」

 

「えっと、どういうことなの?」

 

 ユーノの様子のおかしさに少々戸惑うなのはちゃん。

 

「僕が早く帰ってこないから、別のフェレットを飼い始めても仕方ないんだ」

 

「え!? えっとあのね!!

 コレは違うの!!」

 

『キュー』

 

 原因が手の中にいる式神ユーノである事に気づいたなのはちゃんは取り乱し、喧騒とした雰囲気の中でも存在をアピールするかのように鳴く式神ユーノ。

 

「約束を破ってしまった僕が悪いのは解ってる

 けど………だからって………」

 

「ユ………ユーノくん?」

 

「僕の名前を付けなくてもいいじゃないかーーーー!!!!」

 

「ユーノくーーーん!!!」

 

 その場にいるのに耐え切れなくなったユーノは窓から外に走り出していき、慌ててそれを追うなのはちゃん。

 その手にはいまだに式神ユーノは握られたままだった。

 

 様子を見届けていた皆は呆然として二人(一人と一匹?)が出て行った庭の窓を見ていた。

 シンとした沈黙を終わらせたのははやてちゃんの一言からだった。

 

「修羅場やな」

 

「いやはやてちゃん、それは違う………とは言い切れないのか?」

 

「ユーノが二匹ともいなくなっちゃった

 たっくん新しいの出してー」

 

「今の騒動の後にそれを言うか!?」

 

 

 

 その後何とかなのはちゃんが連れ帰った本物のユーノは、式神のことを説明されて事は収まった。

 美由希が事情を知ってたり式神と言う物に興味を持たれたりなどいろいろあったが、この集まりに人が一匹加わったということ以外大きな変化はなかった。

 

 

 

 

 



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お知らせ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 今更ですが更新停止のお知らせを記しておきます。

 自分なりに面白そうだからと考えて執筆していた作品でしたが、この後の展開に煮詰まっていた事と、この作品の終わらせ方がイメージ出来なかった事でスランプに陥り、完全に更新が停止してしまいました。

 

 今更の更新停止宣言ですが、久しぶりに新作の執筆活動を始めて投稿したことを切っ掛けに、こちらの方も改めて更新停止宣言させてもらいました。

 続きを期待して度々感想を送ってくださっていた方々には申し訳ありませんが、今後この作品の更新は難しいと思います。

 

 新作は中編予定で一応の完結までは連続更新する予定ですので、興味がありましたらそちらの方もご覧になってください。

 

 このつまらない作品を応援してくださっていた方々。

 更新停止以後も非常に励みになった事を心から感謝いたします。

 出来る限り、今後も執筆活動が続くように頑張っていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、現在更新中の作品は中編で完結予定ですが、そのさらに続編をゆっくりとですが執筆しています。

 中編が完結した後にすぐ更新するのは流石に無理ですが、切りのいいところまで書き上げたら載せていこうと思っています。

 多重クロスの作品を予定していますが、まだ構想ばかりですので具体的な作品の内容は公開できません。

 

 ただ今作のリリカルなのはがそこそこうまくいっていたので、多重クロスの最初の世界にまたこのリリカルの世界を使おうと思っています。

 ”またリリカルか”って自分でも思ってますし、”この作品自分でもこんなに好きだったかな?”と疑問に思うのですが、またリリカルが舞台になりそうです。

 嫌いな作品ではないんですが、こだわりを持つほど好きという訳でもないのにリリカルを舞台にしてしまうのはなんでなんだろうなと、自分でもわかっていません。

 

 ですが、今作をしっかり完結出来なかった事は悔いがあるにはあるので、多重クロスリリカル編くらいはしっかり終結させたいと思います。

 ただし今作の世界観から派生した作品ではないので、今作で活躍した巧は登場する予定はありません。

 普通に原作に干渉した新しいオリ主の活躍する作品になる予定です。

 

 だいぶ先になると思いますが、投稿後はよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあ、字数を稼ぐのに頑張りましたが、ようやく1000字に到達しそうです。

 無駄な事ばかり書きましたが、改めてこの作品を読んでくださっていた方々、ありがとうございました。

 



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