黒歴史自由帳 (ゼロゼロ大神)
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はじめにおよみください(Q&Aコーナー追加)

どうも、はじめまして。ゼロゼロ大神と申します。

某にじ様で執筆しながらオリジナル部分突入後更新停止したドサンピンです。

その後も何か思いつく度にパソコンのメモ帳に書きなぐっていたのですが、

感想の一つも付かない執筆が続くわけもなく次々と量産される未完結短編。

かといって全部消してしまうのは費やした時間が勿体無く感じ、この度投稿に至った次第です。

 

このシリーズに投稿された作品内で使用された語句・設定等の中で、

独自設定や独自ストーリー等のオリジナル部分は著作フリーとします。

文章丸々コピーなど大幅に使用する場合は後書きにでも一文添えていただければ、

作品の方向性や設定の扱い等問わずご自由に使っていただいて構いません。

使って頂ける場合は感想で作品名などを書いて頂ければ喜んで読ませて頂きます。

完結予定もなければ精査すらしていないため矛盾だらけだとは思いますが、

こんな雑多なチラ裏文章でも執筆者様のアイディアの助けになれば幸いです。

 

中二設定、読んでるだけでいたたたとなるようなストーリーなどなど満載です。

エロもグロもヒャッハーも俺TUEEEも恐らく無節操に入っていると思います。

ぐちゃぐちゃの文章や、設定と食い違うストーリーなども多々あると思われます。

ガイドライン的に問題のある部分は指摘いただければ対応しますが、

本当に無節操かつ文体もころころ変わるため腰を据えて読むのはオススメしません。

こんなアイディアがあるんだ、という程度に暇つぶしの足しにでもしてやって下さい。

 

その他、

・この作品のこんな感じで設定を書いてくれ

・この作品のこんな設定でプロローグ書いて

・この設定面白そうだから続き書いて

・いやむしろ俺が書く

などなどの要望や感想も歓迎します。

上3つに関しては時間と気力があればのろのろと対応させて頂きます。

前述の通り設定丸パクリで続きを書いていただいても構いません。

正直自分でも需要なんてあるのか疑問ですが、

誰か一人でも喜んでいただける方がいらっしゃればそれに勝るものはありません。

 

あまり身のある事は書けませんでしたが、以上をもって挨拶と代えさせて頂きます。

 

 

 

 

 

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Q&Aコーナー

 

Q.なにこのコーナー?

A.黒歴史仲間からの質問を纏めてみました。

 

Q.質問の募集は?

A.一応してみる。来ないだろうけど。

 

Q.このシリーズ何で投稿したの?

A.前述の通り書いたのが勿体なかったので。

 

Q.恥ずかしくないの?

A.お前が言う(ry 書く時と投稿時は羞恥心を忘れてます。

 

Q.オリ主ばっかじゃねえか。

A.お前が言(ry 原作キャラ視点で書くと半オリ主化しちゃうので。どうせ二次創作ですし。

 

Q.チート乙

A.お前が(ry ギリギリの戦いとか身を削る成長劇とか原作でおなか一杯です。

 

Q.エロ成分多くね?

A.お前(ry きっと溜まってたんです。

 

Q.ハーレム多くね?

A.おま(ry エロゲみたいにルートを広く取ってるだけです。ハーレムルートも有り。

 

Q.文才ねえな。

A.お(ry 理系なので文才はお察し。一応ちょっとずつ学習はしてたりします。

 

Q.ご都合設定とかご都合展開(ry

A.(ry まあ、前述のように鬱展開や地べた這いずる展開はお腹いっぱいなので。

 

Q.続き書くの?

A.投稿済みのものはいつの間にか次話が投稿されてたりするかもしれません。

 

Q.新作書くの?

A.なんか思いつくたびに書きなぐって、R18でなければ投稿しようかと。

 

Q.そんな事よりエロ書けよ。

A.少しだけ書いてますよ?投稿はしようかどうか迷ってますが。

 

Q.もう聞くことねーよ。

A.それではこの辺でさようなら。

 

 

 

 

 



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アルカナ師団フール中隊(muv-luv オルタネイティヴ)
各種設定及び備忘録


この設定には
・オリ主
・チート&俺TUEEE
・おねショタ
・恋愛原子核
・頭脳チート
・香月先生要らん子
・複数作品キャラクターのクロスオーバー
などなどが含まれます。ご注意下さい。















《Origin計画》

通称O計画。名称の由来はオルタネイティヴ(代替)への対義と、新たな力の"源"となるという命題から。

国家からの干渉(主に米国)を徹底的に排除した環境で人類の剣となるものを開発する目的で開始。

国連事務総長直轄の計画で、所属するアルカナ師団も事務総長直轄の部隊となる。

基本的には新兵器の開発及び実験がメイン。非公式ではあるが実戦投入もされている。

直接戦力以外にも食糧供給プラントの試作など、代替案(オルタネイティヴ)に頼らない戦力の開発を行なっている。

各国に秘匿して行われていた計画のため制限が多かったものの、

計画主任である主人公の意向によって国連軍横浜基地のオルタネイティヴ4に合流、その存在を公にする事となる。

 

《アルカナ師団》

名称はタロットカードのアルカナより。

命名を任せられた主人公がたまたま目に入ったタロットカードから思いついた名称で、かなり雑に決められている。

以降部隊名にはタロット用語、機体名にはクトゥルフ関連の名称が使われる。勿論これも思いつきである。

実働部隊は0~21の数字と大アルカナが割り振られた22個の中隊から成り、2個増強連隊に相当する。

実験部隊の性質上纏まって行動する場合よりも分散行動する事の方が多く、

複数の中隊が同時に作戦行動を行う場合は番号の若い部隊が指揮官部隊となる。

戦術機部隊とは別に戦車隊や長距離砲撃支援などの各戦闘部隊の他、

輸送補給部隊や指揮車部隊に果ては諜報部隊まで大凡必要とされる部隊は揃っている。

そのため師団として必要な一個の部隊で完結可能な能力と相応の員数は確保されている。

 

《フール中隊》

正式名称は国連軍事務総長直轄独立遊撃実験部隊アルカナ師団第00番フール中隊。

主人公が所属する中隊で、アルカナ師団の中でも最高峰の戦力と機密レベルを有する部隊である。

最低階級は大尉、最高階級は主人公の准将。

横浜基地との連携を行うに当たって派遣された中隊でもあり、

数多の新兵器や新戦術を有する人類の最高戦力でもある。

国連事務総長曰く、「彼らに出来ないことは人類には出来ない」との事。

隊長は主人公が努めており、副官はエリシア・ファールスタット。

主人公以外の全員が女性である事からハーレム中隊やショタコン中隊と揶揄される事もある。

 

《ナイアル》

主人公の搭乗する最新鋭戦術機。名称はクトゥルフ神話に登場するナイアルラトホテップから。

生物細胞を模したナノマシンの集合体を使用したハイブリットマシンの先駆けでもある。

電磁コーティングを用いた摩擦低減による駆動性の向上、

搭載された量子コンピュータと脳の遠隔接続による情報管制能力の大幅な向上、

高圧縮金属による機体軽量化と装甲強度の増加、

ミラージュコーティングによる圧倒的なステルス性と耐熱・耐光学兵器性能、

電磁パルス推進と慣性減衰機構による圧倒的な機動力、

最新鋭の兵器群と応用戦術による絶大な火力と制圧能力、

その他様々な機能と超性能を有し、衛士の技量も併せて文字通り世界最強の戦術機となっている。

ただ整備性とコストパフォーマンスはぶっちぎりの最悪で、

撃墜されただけでアルカナ師団の部隊規模が半減縮小される可能性すらある程。

他の機体には低コスト化やハイローミックスされて利用されれいるだけの技術を、

余すこと無く全てつぎ込んであるゆえの性能とコストである。

 

《クトゥグア》

エリシアの搭乗する最新鋭戦術機。

ナイアの僚機としての運用を前提に製造されており、

全領域汎用戦闘を主体とするナイアに対して連携を行うためにこちらも高い戦闘力を有する。

高性能高コストはこちらも相変わらずで、

ナイアとクトゥグアの二機が落ちれば(様々な意味で)アルカナ師団は崩壊する。

一回出撃するだけで戦術機丸々2機分のコストと100機分の戦果を挙げるというトンデモエレメントである。

 

 

《エリシア・ファールスタット》

本作ヒロイン。見た目20代前半、実年齢18歳の色っぽいお姉さん。

スタイルのいい体に程よくついた肉感とFカップを誇る巨乳を持ち、顔立ちも非常に色っぽい美人。

艷やかな唇から発される声や口調も甘く囁くような声色で、

耳元で囁かれただけで辛抱堪らんくなるような色艶がある。

纏う雰囲気もいっそ最高級娼婦のようにすら感じられる妖艶さを醸し出している。

……が、実は本人はごく普通に振舞っていつもりである。男性経験も0。当然処女。

一挙手一投足が妖艶で、一言一言が色っぽいせいでよく誤解されるのが悩みの種らしい。

せめてもう少し発するセリフを選べばいいのだろうが、無自覚な辺り天然も入っている。

主人公ですら誘われているつもりで抱いてしまうが、本人はいきなり襲われた感覚だったらしい。

幸いなのは、お互いに相手に好意を持っていたためそのまま恋人関係になれた事だろうか。

姦通の際に血が出なかったが、過酷な訓練を受けた軍人であれば破けていない事の方が珍しいのだとか。

傍から見れば弟を可愛がるショタコンお姉さんと甘えん坊の弟といった所だが、

実際は彼氏に甘えるウブな彼女と頼りになる廃スペック彼氏、だったりする。

基本的に主人公の副官としてついて回る事が多く、四六時中一緒に居る事も珍しくはない。

こちらも本人はいつもダダ甘えのつもりだが、傍から見ているときっちり公私を分けているように見えるらしい。

戦術機の操縦に関しては他の追随を許さない程の天性の才能を持ち、

主人公の教えと最新鋭の戦術機を与えられたことで異常なまでの実力を発揮するに至る。

本当は主人公の実力も凄まじいのだが、年齢と雰囲気から彼女のほうが目立っている事が多い。

新戦術機の開発開始当初は複座型で主人公と共に搭乗しメイン・サブ両方で活躍するなど、

早期から主人公との信頼関係と連携能力を構築するなど相性もかなり良いようである。

元々はロゼ事務総長の直属として動いていたのだが、直轄部隊の設立に伴い主人公の副官に任命された。

元事務総長付きという事で裏事にもある程度精通しており、

表裏公私問わず主人公を支えていく事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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1話

ふわふわと浮かぶ。此処が何処かも分からず、今が何時かも分からない。

上下の感覚も無く左右の認識も出来ず、

そもそも一切の知覚が麻痺してしまったかのように混濁している。

やがて自分が眠っているのだと気付いた時、微睡んでいた意識は徐々に覚醒を始めた。

 

「あー、うー?」

 

我ながら間抜けとも思える声を上げながら、覚醒する。

うっすらと目を開けると、明るい光が目に差し込んできた。

眩しさの余りゆっくりとしか目を開けることが出来ない。どうやら相当長い間眠っていたようだ。

やがて目が光に慣れてくると、様々な情報が視覚から飛び込んでくる。

始めに見た見知らぬ天井には明るい白色の蛍光灯が灯り、

視線を横にやれば一定のリズムを刻む計器が自分の体へと繋がれている。

恐らく心電図を取る機械だろう。

目線を反対に向けると、だだっ広い部屋の端に外へと繋がる扉だけがある。

真っ白い部屋、繋がれた機械、消毒臭のするベッド。ここは病室のようだ。

 

「なん、で……」

 

湧き上がるのは、疑問。

なぜ自分はこの様な所に居るのだろうという純然たる疑問によって思考を開始する。

まず思い出されるのは自分の名前。御堂(みどう)悠(ゆう)。違和感はない。これが自分の名前。

次に年齢を思い出す。しかし混乱しているのか自分の年齢が判然としない。

1歳だっただろうか?10歳だっただろうか?20歳だっただろうか?あるいは100歳?

 

「僕は御堂悠、年齢は――10歳」

 

口にすると、以外なほどすんなりと言葉が出てきた。

どうやら判然としない事は口に出せばいいようだ。

恐らく思考だけで纏めきれない程混乱しているのだろうと考え、落ち着くためにも思考を続ける。

親はどんな人物だっただろうか?これもまた、思い出せない。いや、思い出し過ぎる。

財閥の御曹司だった?武家の息子?母子家庭の一人息子?あるいは、親なんて居なかった?

 

「僕の両親は……お武家サマ。帝国の"白"」

 

大した名家に生まれたわけじゃない。それでもそこそこ有力な武家と繋がりはあったようだが。

自分の生まれも思い出せないというのは中々に重症ではないだろうか?

そんな事が思いが浮かぶものの、痛みや苦しみといったものは今のところ感じない。判断は保留。

次に思い浮かべるのは知人友人の顔。しかし思い浮かべようとした刹那軽い頭痛を感じた。

 

「っ、なに、これ……」

 

次々と浮かび上がってくる幾つもの顔。知っている。

100や200じゃ済まないそれらを全て知っている。

ああ、リック君。無二の親友だ。あれは大山君?よく虐められたな。

こっちはライル君。頼りになる兄貴分。これはアレックスおじさん。僕の後見人。

そこに居るのは美香ちゃん。ついこの前告白したばかりの僕の彼女だ。

あっちに居るのはステラさん。僕の自慢の姉さん女房。

あれは朱音おばあちゃん。長年連れ添った伴侶だ。

ああ、ツカサ君、そっちに行っちゃいけない。ハイネ君?お願いだ応答してくれ。

そんな唯衣さん、僕を庇って?ホーエン隊長、お願いです死なないで。

 

――なんだこれは。違う。これも違う。あれも違う。違う違う違う。

"これ"は僕の記憶じゃない。僕だけど僕じゃない。僕は10歳だ。こんな経験なんて無い。

次々と浮かび上がってくる。学校で友達と遊んだ記憶。戦地をひたすら駆け抜けた記憶。

大切な人を失った。守りたかった人を守れた。幸せな人生だった。暗雲立ち込める人生だ。

違う。これは僕じゃない。

 

「僕はッ!――そうだ。僕は御堂悠。他の誰でもない、たった"一人"の御堂悠」

 

ぼーっとする。眼の焦点が合わない。

傍から見ればハイライトが消えたようにでも見えるんだろうか。

頭が真っ白になる。いや真っ黒だ。違う虹色の極彩色だ。真っ赤だ。真っ青だ。真っ黄色だ。

自分の口が勝手に動く。数字を垂れ流す。アルファベットを垂れ流す。平仮名を垂れ流す。

どこか遠くに行ったような感覚がナニカを捉える。誰かが病室に入ってきたようだ。

体を揺すられる感覚がする。けれどそんな事はどうでもいい。今は思考を止めちゃ行けない。

 

――気がつけば、"僕達"は眠っていた。鎮静剤でも打たれたのだろう。

病院で使用される鎮静剤の大まかな成分は――いや、今は必要ない知識だ。

首を動かす。心電図が目に入った。見る限り身体的には非常に安定しているようだ。

体に目をやる。拘束されている。もしかしたらかなり暴れたのかもしれない。

白い部屋、拘束具があるベッド。ここはどうやら精神病棟らしい。

 

「最後は……ああ、BETAに襲われたんだっけ」

 

横浜へのBETA進行。両親は出撃して、僕は避難した。

けど途中でBETAに遭遇して、輸送車は壊滅。

必死になって逃げまわって、でも逃げきれなくて。

目の前に浮かび上がった兵士級への恐怖で気を失った。

助かっているという事は恐らく偶然誰かが助けてくれたのだろう。

護衛に付いていた歩兵辺りだろうか。お礼をしたいけど流石に見つからないだろうな。

それにしても恐怖で気を失うなんてなんとだらしない。

いや、しょうがないじゃないか。僕はまだ10歳だよ?

 

「まあ、それはそれとして」

 

今では特に恐怖も感じない。当たり前だ。"一体何体のBETAを屠ってきた"と思っているんだ。

それよりもこの部屋には時計すら無いのだろうか。これでは余計に精神を病んでしまいそうだ。

とりあえず拘束具を何とかしたい。縄抜けの応用で十分抜けられるだろう。

あちこち分散していく思考を放置してまず体を動かすことにした。

 

「よっと。うん、ちょっと肩痛い」

 

最もシンプルな方法として関節を外す縄抜けを選んだのだが、入れなおした肩が少し痛い。

幾ら"やり慣れている"とはいえ、この体でやるのは"初めて"だ。

多用すると子供の体にとってはあまりよくないことになるし、気をつけよう。

拘束自体は簡単なもの。完全に巻きつけてあったらどうともならなかったが、

ベルトで押さえつけてあるだけだったので簡単に抜ける事が出来た。重畳重畳。

 

「これからどうしようかな?」

 

時計は無いが時間は分かる。西暦2000年の1月1日?また随分とキリが良い。

とはいえ時刻は19時22分。鎮静剤で眠っていたせいでもう日は落ちてしまっているようだ。

これから辿る歴史を考えると人類の時間的な猶予はまだあるのだろうか?

流石にちょっと判断は付かないがまだ間に合う筈だ。

 

当面の目標としては、まず死にたくはない。なら生きよう。生きるには何が居る?衣食住だ。

避難民じゃろくな衣食住は得られない。いや、武家だし健康体だから斯衛に入るのだろうか。

しかし考えてみると余りいい選択肢ではない。

なにせまだ僕は10歳。斯衛に入るならあと6年は待たないと。

だが人類に残された時間を考えればそれでは遅すぎる。

BETAの腹に入るなんてゴメンなので、動く必要がある。

 

「知識は……大丈夫、ある」

 

きっと僕の力は役に立つ。馬鹿らしい程無数の"僕達"の叡智だ。

検索しよう、知識を。集めよう、叡智を。人類を救えるのは人類だけだ。

ああ、駄目だ。衛士生活が長いせいで随分と思考がそっちに傾いている。

平和ボケしてたいんだけどなあ。そうもいかないらしい。

いや、考え方はいくらでもある。5年で日本を復活させてみせよう。

そうすれば晴れてバラ色の青春時代だ。

うんまあ色々な意味で無理だろうなというのは予想は付くのだけれど、

そうでも思わないとやってられない。

戦いが一段落したら娯楽を色々作ってみようかな。ゲームなんて"この世界"には無いのだし。

 

「よし」

 

色々考えたけど大凡の指標は決まった。今僕に必要なのは資材と権限。そして仲間。

なら一番手っ取り早い方法がある。幸いにも"この世界"の"彼女"相手であれば大丈夫だろう。

情報の海へと潜る。直ぐに着いた。流石に規模が小さいと早く済む。

後は適当に思い浮かべたデータを書き込んで帰る。これだけでいい。

さあ、今は眠ろう。流石に疲れた。

 

「おやすみなさい」

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 |

―――

―――

 ∞

 

音が響く。タイル貼りの床を軍靴が弾く音だ。カツカツと小気味いいそれは綺麗に揃っている。

足音からしておおよそ10人程度。少なくとも軍人としての歩き方が染み付いた足音が10人。

どうやら、やっと来たようである。やっとと言っても3日なら早いほうか。

戸籍の処理は既に済ませてある。内容は消息不明。原因は不明。

下手な設定を作るよりも分かりやすくていい。

今の御時世行方不明の原因なんて事欠かないのだから。

 

――コンコン

 

「どうぞ」

 

静かな病室に音が響いた。体を起こして待っていた僕の視界に沢山の大人が見える。

数は10人。男女比3:7。子供相手の配慮か女性が多い。全員国連軍の制服を着ている。

無言で佇む軍人達。一人の女性が前に出て敬礼をする。それに伴って全員が敬礼。

僕も慣れた手つきで答礼を返す。その仕草に数人が眉を跳ねさせたが、言葉を発する事は無い。

 

「お迎えに上がりました、"ユウ・ミドウ准佐"」

 

「ありがとう」

 

妖艶な雰囲気を纏った女性が声を発する。口調と声質も枕元で囁くかのように実に甘ったるい。

まさか10歳相手にハニートラップというわけでも無いだろうに。

"僕"の何人かがイイ女だと評価の声を上げるのを脇に置き、礼を言う。

しかし准佐、か。最低位の左官待遇。随分と買ってくれたようだ。

余程あのデータが衝撃的だったらしい。当然といえば当然かな。

子供一人ねじ込むぐらい"彼女"の立場なら問題無いだろうし、

信用のおける子飼いなら10人ぐらいは直ぐ動かせるのだろう。

素早い割に随分丁寧かつ大袈裟な対応だ。

 

「お召し物はこちらに」

 

「うん。少し出ててくれるかな?」

 

脇に居た女性が前に出て、紙袋を渡してくる。中を除くと国連軍のものらしい制服が入っていた。

サイズを考えると確実にオーダーメイドだろう。

コスプレ用のチープなものと違い、実に"重み"がある。

以前に着たのは何時だったか……いやいや、"僕"はまだ着たことはないのだった。

昔語りを始めようとする脳を黙らせつつ、彼女らに声をかける。

10歳の着替えを覗く趣味も無いだろう。左官という事もあって、素直に退出してくれた。

服に付いていた発信機の類は今は放置。流石にノーマークとは行かないらしい。

それは仕方ないと自分を納得させ、さっさと着替えて追いかける。

 

「お待たせ」

 

「では、こちらへ」

 

再び甘ったるい声が耳に入る。いい声だ、是非枕元で囁いて……僕は10歳だって。

駄目だな、うるさすぎる。少しボリュームを絞っておこう。

そんな事を思考しながら女性の後ろを付いて歩く。周囲は10人の軍人に囲まれている。

これ、傍から見ると日本人の10歳児を連行している国連軍人?印象悪いな。

効果があるかは分からないけど彼女達への心象もあるし、出来るだけニコニコしておこう。

――よくよく考えればこちらの方が余計に痛々しいと気づいたのは、随分後になってからだった。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

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―――

―――

 ∞

 

ここで情報を整理してみよう。まず、この世界の僕は一度死にかけた。

BETAに襲われ、間一髪で救出。

しかし恐怖で錯乱していたのだろう、精神病棟へと収容される。

そのまま昏睡状態に陥り、数ヶ月の間眠り続けていた。

そこで僕は"僕"を知る。何が切欠かは分からない。

BETAに襲われた事か、精神を一度失した事か、昏睡状態になった事か、

2000年の1月1日になった事か、あるいはそれら以外の何らかの要因か。

しかし結果として、僕は無数の"僕"を知った。

 

平和ボケした日本でごくごく普通の人生を過ごし、ありきたりな幸せを目一杯味わった。

BETAに侵食された日本で、しかし信頼出来る仲間と共に命燃え尽きるまで戦い抜いた。

圧倒的な文明を誇る宇宙で、革新的な発明を幾つも行いながら若くしてその生命を失した。

ファンタジーが蔓延する魔法世界で、勇者と共に魔王を打ち倒し世界を救った。

バケモノとして生まれ、怪物として過ごし、ヒトとして死んだ。

 

数多の世界に存在する、あるいは存在した"僕達"。

妄想と斬って捨てるには余りにも重すぎるそれらは、全て一人の"僕"だった。

これは、僕の歴史だ。あらゆる世界で僕が辿り、あるいは辿る筈の歴史。

中には女性として生まれた記憶もあったし、そもそも人ですら無い事もあった。

無限に近い記憶の中であって塵の如く少数だが、今の僕と同じ状態になった記憶もあった。

どれだけ少数派であろうと、それは全て僕らの記憶。僕らが辿ってきた歴史。僕らが生きた証。

 

きっと真理とかアカシックレコードとかに通ずる部分もあるのだろう。

実際にそういうのを研究していた記憶もある。

そういった無数の僕の塊、情報の集積体へと"接続(アクセス)"する権限を得たのだ。

詳しい理屈は僕らにも分からない。

科学的にもファンタジー的にも、ある程度の仮説が立てられる程度だ。

それでも、はっきりと分かる。これは僕だ。僕のものだ。

他の誰も知ることが出来ず、僕だけが知りうる僕らの全て。

今後失うことは無いだろう。きっと役にたってくれる。だってこれは僕らのものなのだから。

誰にも侵される事の無い、僕にだけ許された僕らが自信を持って誇れる"生きた証"。

 

ダウンロードしたデータは僕に最良を教えてくれる。

最良の戦術機の操縦法が分かる。最良の体の動かし方が分かる。

最良の未来を掴むための方法が分かる。最良の手段で最良の結果を得られる。

全力でアクセスすると洒落にならない負荷がかかるため普段は絞っているが、

それでも脳裏に描かれる無数の情報群はきっと僕を導いてくれる。

だって、それを教えてくれるのは他の誰ならぬ僕らなのだから。

 

ちなみに。情報体へアクセス出来るようになったお陰なのか、

僕以外の情報体へもある程度干渉出来るようである。

例えばごくごく簡易的なテレパシーモドキが使えることもそうだし、

コンピュータに遠隔接続してハッキングを行ったりも出来る。

意思を持つ人間には殆ど干渉できないためテレパス能力者としては三流だろう。

しかしコンピュータへのハッキングは違う。超文明で科学者をやっていた記憶もあるのだから、

この世界の未発達なネットワークなど赤子の手をひねるが如く掌握することができる。

まあこれも負荷を考えればある程度の制限はあるのだが、

幸い国連事務総長のパソコンに各種予測データや技術データをわんさか送るぐらいは出来た。

 

「――成る程、事情は分かりました」

 

僕の目の前で神妙に頷く女性はロゼ・アプロヴァール国連事務総長。

先日僕がデータを送った相手である。

老齢ではあるものの陰謀渦巻く国際社会において事務総長を務めるその辣腕は流石の一言。

今でこそ米国の傀儡と呼ばれるまでに力を抑えつけられているが、

その胸のうちに秘めた炎は未だ燃え尽きては居ないようである。

 

「いいでしょう。貴方の持つ技術はいずれ我々の希望となる。それを認めましょう」

 

ゆっくりと頷いた事務総長が僕の目を見据える。

そこにある眼光は最初に挨拶を交わした時とは比べ物にならない。

後ろで息を呑む音が聞こえた。ここまで着いて来た国連軍の女性のものだ。あの妖艶な人である。

きっと彼女もここまでの眼光を発する事務総長は見たことが無いのだろう。

その瞳には希望と期待と自信がありありと湛えられている。

 

その眼光に対し僕も無言のまま見返す。湛えるのは絶対の自信ただ一つ。

変えてみせる。超えてみせる。救ってみせる。僕なら、出来る。

その意思を持って見つめ返す。

一度目を伏せた彼女は引き出しを開け、大きなハンコを取り出した。

大きく口を開けてそのハンコに息を吐き付ける。

そして僕と彼女の名が書かれた書類にそれを落とした。

 

「今此処に、国連軍事務総長直轄独立遊撃実験部隊の設立を承認します」

 

ポン、と。小気味いい音を立て、僕の処遇が決定した。

 

 



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2話

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―――

―――

 ∞

 

さて。トントン拍子に来たのは喜ばしいけれど、

だからといって全部僕の思い通りというわけでは無い。

今のところ大幅な齟齬は生じていないものの、

それは相手が僕に価値を見出してくれたからに他ならない。

事務総長直轄とし諸外国からの干渉を一切排除した秘匿環境を整えてくれたのも、

事務総長自身がそういった位置づけの部隊を欲していたからだろう。

部隊員は僅かに10人。現時点で確保できるのは僕以外に1個中隊の稼働分だそうだ。

先の10人は全員衛士との事なので、

中隊として稼働させるならあと2人の衛士とそれ以外の後方人員が必要。

機密を大量に扱うため、整備員から食堂のオバちゃんまで全部僕が選別する必要がある。

恐らくは選別能力も計られているのだろうけれど、"僕ら"なら問題ない。

他にも戦術機の開発プランを策定したり本拠地を決めて搬入作業を行ったり、やる事は山積みだ。

暫くは部隊の発足のために奔走する事になりそうだ。

 

「――はい、これで最低限の人員は問題ありませんね」

 

後方人員の見積書を受け取った色っぽい人――エリシア・ファールスタット中尉が言葉を発する。

僕の副官として正式に登録された彼女は、

一時的に与えられた即席の執務室で僕と共に事務作業を行なっている。

今もネットワーク経由で選定した人員を纏めた見積書を処理してもらっている所だ。

扱う内容が特級の機密事項である上に部隊そのものが国連内部ですら秘匿された独立部隊なので、

当然そこで働くことになる各種人員も各国の息のかかっていない人物を用いる必要がある。

具体的に言えば単純労働は難民などから引き抜き、

特定のスキルが必要なものは同じく国家からの干渉を嫌うような者達を中心に選ぶ。

なにせこの陰謀渦巻くご時世、

そういったごたごたに巻き込まれて辟易している人間はごまんと居るのだ。

どうやらエリシアさん自身もそういった人物の一人のようで、

事務総長の直属であるのもそのためだとか。

彼女含め10人の同僚達は階級社会に居るだけあって、

僕のような子供相手でもきちんと敬語を使ってくれる。

出来れば砕けてくれた方が楽なのだけれど、それを言い出すには少し親密度が足りないだろう。

今は余計なことを考えず、結果を出していく事を考えよう。

 

「問題は残りの衛士かあ。何か上手い案はある?」

 

「そうですねぇ、複座操縦士などはいかがですか?」

 

残り2名の衛士をどうしようか悩んでいたのでエリシアさんに聞いてみた。

"僕ら"だけで判断できない事もないけれど、他人との交流やチームワークというのも大事だ。

そんなわけで質問を投げかけてみた所、打てば響くと言わんばかりの即答で良案が返って来た。

事務総長の直属だっただけあって、戦闘以外にもかなりの能力を持っているようである。

能力の高さと見た目の妖艶さから20歳は過ぎていると思っていたのだが、

実際の年齢は18歳と知って凄く驚いたのは内緒。

 

「複座かあ。戦術機開発には欠かせないし、いい案だね」

 

新戦術機の複座型への互換性を維持するという意味でも、

操縦する衛士とデータを採取する衛士を分けるという意味でも、複座型というのは意外と有用だ。

諸々の理由で操縦が出来ない人間でも適性さえあればサブパイロットとして使える事も大きい。

それに、開発者である僕は戦場に出れない事も多いだろうし、

かといって全く出ないわけにも行かないだろう。

そうなると全機単座では僕が抜けた時に中隊のバランスが崩れてしまう。

2機ずつの連携が重要視される戦術機戦で中隊が奇数というのはかなりマイナスである。

しかし一機が複座でもう一機単座があれば、

複座用の2人を二機に分ける事で僕の居ない枠を埋める事も出来る。

 

「とはいえ、複座型自体が少ないしなあ。誰かいい人員は居るかな?」

 

裏事情や個人の問題は問わない。守秘義務を守れて有能であればいい。

こちらを裏切れない、あるいは裏切らない人員。

出来れば相手方が大して文句もなく差し出してくれるような訳ありで、

こちらに逆らえないあるいは逆らう必要の無い理由を持っている方がいい。

特に諸外国の軍から引き抜くのならお国との繋がりは弱い方がいい。

例えば使い捨て同然に扱われていたなどで自軍に大していい感情を抱いていないような。

有能で、自軍に敵対的あるいは懐疑的で、訳ありで、複座型。

けど流石にそんな都合のいい人員が早々――

 

「居たし」

 

「はい?」

 

おっと、思わず声が出てしまった。

なんでもないよと声をかけつつ、ネットワークから漁ってきた情報を閲覧する。

どうやら結構な機密情報のようだが、相変わらずこの世界のネットワークはザルである。

ネットが一般的に普及しておらず汎用フォーマットすら少数に限られている程度なので、

仕方ないといえば仕方ないのだがこんなザルで防諜とか大丈夫なのだろうかと逆に心配になる。

"ウチ"に関しては暇だった三日間でセキュリティプログラムを組んだので大丈夫だ。

この世界のハッキング技術相手なら、

それこそ量子コンピュータでも持ちだしてこない限りは大丈夫だろう。

 

「クリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナ、か」

 

物凄い美女と美少女である。この世界の女性って何でこんなレベル高いんだろうか?

事務総長だって今でこそおばあちゃんだが、昔の映像データではかなりの美人だった。

ウチに居る残りの6人だって相当な美人揃いである。約一名美少女が居たけど。

しかしそんな美人美少女な2人だが、経歴は中々に凄まじい。

何より特筆すべきはオルタネイティヴ3計画で生み出されたESP能力者だという事だろう。

テレパシーだけに限定するなら僕よりもよほど強力な能力者だ。僕は相手の感情なんて読めない。

まあ代わりに膨大な人生経験のバックアップである程度読めたりはするのだけど、

直接思考を読むことの出来る彼女らには遠く及ばない。

衛士としての腕もかなりのもののようだ。

使い潰すつもりであろう数々の高難度任務で生き残っている。

というかこんな美人で有能な2人を使い潰そうとする上官は、

ちょっと精神病棟で数ヶ月昏睡してきた方が人類のためになるかも知れない。

 

「ま、保身最優先な上官みたいだしぶんどるのは簡単そうかな」

 

ちょっと叩けばわんさかホコリが出てくるだろう。

2人の有用さにも全然気付いていないような愚鈍だし、

出てきたホコリを交渉材料にすれば訳あり衛士の一人や二人喜んで渡してくれるだろう。

なにせ今までやってきた悪事を非公式ながら黙認してやると言うようなものだ。

この手の人間にとっては願ったり叶ったりなのだろうな。

当然自分のホコリを隠すためなのだから、彼女らの引渡しについて触れ回る心配も無い。

彼女ら自身第3計画の遺児である事から元々秘匿性は非常に高い。

これなら引き抜いても動きが他所に知られるリスクは最低限に抑えられる筈だ。

 

「これでよし、と」

 

当面の人員はこれで十分だろう。

整備人員など多少カツカツではあるが、頻繁に前線に出るのは暫く先になるだろうし構わない。

後は成果を出して行けば規模拡大の機会もあるはずだ。

今のところ与えられている階級は暫定的なものなので、

出した結果次第では僕以外の人員も含めて更なる昇格人事も有りうるだろう。

さして使う予定も無い高給だが、余剰予算として使えると考えれば多いに越した事は無い。

 

「基地の場所はどうされますか?」

 

質問をしながらコーヒーを渡してくれるエリシアさん。

最初にコーヒーを用意して貰った時は体が子供ゆえか不思議な顔をされたが、

"僕ら"に関しては事務総長と共に聞いていたのでそういうモノだと納得してくれたようである。

ちらりと時計を見ると既に夜の9時だ。かなり長い間作業をしていたらしい。

勿論引越し作業が一番時間が掛った事は言うまでもない。

それでもやるべき事はまだまだ残っているので、彼女には悪いがもう少し残業かな。

 

そんな事を頭の隅で考えながら、礼を言いつつエリシアさんに視線を向ける。

コーヒーを渡した後はさっさとデスクに戻ってしまったが、

椅子に座る際の見事な乳揺れは非常に眼福で――だから10歳だって言っているだろう。

でも10歳と言えば早ければ精通出来る年齢なのだしアリなのか?いやいや、やっぱりナシだ。

 

「どうかされましたか?」

 

「ああうん、なんでもないよ」

 

いけないいけない。時間が時間だからか思考が逸れまくっている。

移動と労働併せて10時間以上。流石に10歳の体にはきつかったようである。

彼女もそういった点を考慮して眠気覚ましにコーヒーを淹れてくれたのだろうし、

ありがたい気遣いに感謝してさっさと仕事を終わらせてしまおう。

まずは先程聞かれた本拠地となる基地の建設地についてだ。

 

「出来れば無人島とかがいいかな。日本近海の太平洋側に欲しい」

 

「畏まりました」

 

陸続きだとどうしても防諜が面倒になるし、秘匿性自体も落ちる。

潜水艇などで海中から搬入出する体制を整えれれば簡単には感知されないだろう。

後は衛星の管理コンピュータにハッキングするなり、

超文明技術を応用してステルス化するなりで空からの"目"を誤魔化せばいい。

この世界じゃ海中戦力は蔑ろにされがちだけど、

輸送手段としては潜水型というのは非常に優秀である。

スクリューを回すだけで推進出来るなど推進力の形成が容易で、

用いる技術レベル次第では海水から無尽蔵にエネルギーや推進剤を確保出来る。

レーザーや通常弾等々の攻撃手段に対しても海水が天然の防壁となってくれるし、

何より海中深くを航行する潜水艦を観測するのは非常に困難なのだ。

人だろうとBETAだろうと敵が陸地に上る前に海中で対応できる優位性も大きい。

空爆という概念を忘れて久しいこの世界では無人島の要塞化は結構理にかなっていたりするのだ。

BETAがワンサカ居る大陸が眼と鼻の先に有りながら日本があれだけの国力を維持出来たのも、

BETAの海中適性の低さから進行が停滞する事と海中迎撃が大きな効果を発揮しているからだ。

 

「当面は実験機1機に絞って開発かな。いや、その前に設備を揃えないと駄目か」

 

よく現地技術での再現性がうんぬんと言うが、実はこれ割りとどうとでもなる。

例え今の加工機械では作れないものだとしても、今の加工機械で作れる最高の加工機械を作り、

更にその加工機械で最高の加工機械を作り……と繰り返していけば大概のものは作れてしまう。

当然量産は出来ないしコストも馬鹿にならないが、

完成形が見えていて設計図があるなら再現自体は可能なのだ。

さすがに10世紀単位で文明が飛ぶようなものや物理法則無視レベルの超技術は無理があるけれど。

ともあれ、ワンオフを作る目的であれば設計図さえ用意できればどうとでもなる。

そして、その設計図は僕の頭の中に大量にある。

つまり、この世界ではオーバーテクノロジーに当たるようなものも、

資材さえあれば製造可能というわけだ。

そんなわけで人員は後方人員を優先し、更に優先して相応量の資材を用意してもらおう。

あとは、僕がどれだけ工期を短縮できるかに懸かっている。

 

 

 

 

「ともあれ暫くは僕達だけ。頑張ろうね、エリシアさん」

 

「ええ、よろしくね。ユウ君?」

 

一瞬だけ砕けて接してくれたエリシアさんは、とっても魅力的でした。まる。

 

 

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―――

―――

 ∞

 

 

 

 

 



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超弩級宇宙軍(muv-luv オルタネイティヴ)
設定&備忘録


この設定には
・オリ主
・チート&俺TUEEE
・自前ハーレム
・緊張感崩壊
・香月先生は要ら(ry
・タケルちゃんも要ら(ry
などなどが含まれます。ご注意下さい。





《MAF》

マルチアームドフレームの略称。外装や装備を換装・増設し使用するパワードスーツである。

人間が装着する以外にも人型の無人機動素体に装着する事ができ、前者をスーツタイプ後者をドールタイプと呼ぶ。

各種機構や装備を内蔵しているため各部が巨大化。

多数の電子装置を搭載した頭部や厚い装甲と大部分の主要装置を搭載した胸部は約3倍ほどまで大型化。

背中にもリアクターとメインブースターを含む大型ユニットを搭載し、

肩部マウントパックの背面にも複合ブースターを内蔵。

腕部と脚部もアクチュエーターやスラスターの搭載などによって肥大化。

装着時の外見は3頭身ほどのSDキャラの様に見える。

各種パーツを共通の規格を用いて製造する事で低コスト化と互換性の向上に成功しており、

装備の換装によってあらゆる作戦行動に対応出来るよう設計されている。

また人間が搭乗する場合、各種機構の利用や負荷への耐性を得るために特殊なナノマシン処理を必要とする。

MAFは高度な量子物理干渉機構を有しており、特に物理エネルギーの量子化保存において非常にハイレベルな能力を有する。

慣性エネルギーを量子データ化して保存する事によって常軌を逸した機動力を発揮し、

保存したデータを別の物理エネルギーとして用いる事で強力な推進力や攻撃性能を発揮する。

機構の構造上エネルギー保存の法則は免れないものの、

発生したデメリットエネルギーをメリットエネルギーに一切のロス無く変換出来るため非常に強力な性能を発揮する。

特に人間の思考と感応・共鳴し"ヒトの意志"から莫大なエネルギーを生み出すフォースドライブの開発によって、

人間搭乗時のMAFは通常の戦術価値では評価できないと言われるほど圧倒的なスペックを発揮する。

しかし存亡を賭けていた人類に人間を最前線に立たせる余裕など無く、半ば宝の持ち腐れとなってしまっていた。

 

《量子変換制御》

機体と搭乗者に発生したエネルギーを量子的なデータに変換して保存する技術。

これによって変換許容量以下のデメリットエネルギーは一切無効化され、

蓄えられたエネルギーは弾丸の加速を始めとし自身の推進エネルギーなどの幅広い用途に使用される。

一定量以下のエネルギーであれば完全に変換出来るため、低威力の攻撃などもその全てを無効化出来る。

当然運動エネルギー以外にも慣性によるGや化学反応も抑制する事が可能。

これによって瞬間的に莫大なエネルギーを発生させ単位時間あたりの許容量を上回る攻撃を行うか、

物理プラスエネルギーに依らない攻撃(虚数攻撃などが実在した)行う以外にダメージを与える方法は無い。

また一切のエネルギーロスなく攻撃に転化出来るということは非常に強力な事であり、

量子変換式加速装置を用いた兵器は現実的な物理法則で出しうる最高位の威力を誇る。

 

《フォースドライブ》

通称FD。人間の意志をエネルギーに変換する特殊機構。

ほぼ全てのMAFに搭載されていた機構で、人間の意志の力を増幅し量子伝達によって機体へ出力するというもの。

通常量子データ変換によるエネルギー制御には物理的な限界があり、瞬間最高出力は頭打ちとなっていた。

それを打開するために別の所から別の方法でエネルギーを運んで来ようという考えのもと開発。

粒子結合を強める事で物質強度を向上させたり、増幅生成した莫大なエネルギーを用いて攻撃や推進を行ったりする。

基本的な理論が完成した段階で実験をしたら偶然成功し完成してしまったという経緯を持ち、

一部の機構や効果については論理的な説明が成されていないなど文字通りのオーバーテクノロジー。

実験使用によってどのような特殊条件下でも問題が無いという事が分かったため、理論実証以前に本格配備される事に。

半ば偶然の産物を真面目に使用しなければならない程人類は窮地に立たされていた事の証左でもある。

意志の力を増幅するため、元々の意志が強ければ当然出力も向上する。生存本能でも殺人衝動でも意志であればなんでもいい。

所謂少年漫画的なド根性でパワーアップを本当にやらかしてしまった機構である。

また科学的には人間と同様のシナプス回路を有するドールズにも扱えるが、その出力は人間が搭乗する場合よりも圧倒的に低い。

それでも搭載していないものと比べると最新兵器と水鉄砲ぐらいの差(誇張ではない)が在ることと、

機構の構造上MAFないしは人型で神経接続を使用する機動兵器にしか搭載できない事から、MAF専用装備となっている。

 

《パイロットスーツ》

MAFのパイロットスーツ。頭部まで覆うライダースーツのような形状をしている。

人間が搭乗する場合はMAFとの神経接続を行うためにこれを装着する必要がある。

神経接続以外にも急所の保護パーツや糞尿の処理用パックなどが含まれており、

各部の伸縮調整によって血圧制御を行い耐Gスーツとして機能する。

全身の殆どが透明なものからヒョウ柄花柄などの変わったものまで様々なデザインがある。

 

《ナノマシン処理》

MAFに搭乗する際に必須となる処理。

生体細胞を活性化し、細胞自体の強度と出力を増幅するナノマシンを体内に注入。

筋肉・内蔵・骨・血管・脳あらゆる部位を問わず強度出力共に強化され、

MAF搭乗時に発生する様々な負荷に耐えうる肉体を得る。

その他にも神経改造ナノマシンと量子波伝送ナノマシンなどが含まれており、

量子情報通信によって脳同士で直接情報のやり取りを行ったり機体と神経接続を行う事で思考制御を可能にしたり様々な効果がある。

MAF用のもの以外でもナノマシンによる肉体及び思考の強化や機械制御補助などは広く一般的に行われている。

 

《素体》

MAFの自動・遠隔制御を行うための素体。ドールズと呼ばれる。

所謂人型のロボットであり、MAFを装着して居ない場合でも通常の作業用ロボットとして使用可能。

外見も接続用プラグや各種機器がむき出しのものから、人間の皮膚を真似た特殊スキンを貼りつけたものまで様々。

高度な演算装置や各種測定・記録機器などの電子装置の他、簡易メディカルキットなども内蔵している。

また素体自体が人間の代替とサポートを目的に製造されており、非常に高度な擬似人格AIが搭載されている。

広域量子通信によるデータリンクで各機の電脳が常時接続されており、

機体間での高速情報交換からナノマシン処理済みの人間への情報伝達などを行う事も出来る。

決まったコストと時間で全く同一の労働力を大量生産出来るため、貴重な人類の代替として活躍した。

 

《基本フレーム》

人間や素体が搭乗する基本的なフーレム。装備後の頭部と胸部は人間の2.5倍、両腕両足は倍ほどの太さになる。

戦闘用の装甲や装備を含まない基本のフレームであり、このままで戦闘へ出撃することはまず無い。

リアクターの高出力や高性能なアクチュエーターによる高い馬力などから、

作業用のパワードスーツとしても非常に優秀。

とはいえその場合も作業用の装備を装着するのが普通なので、やはりこのまま使用する機会は無い。

外見はMAFとしてはスリム。曲線を中心に構築されており、腕や脚は非常に人間的なラインを描く。

 

《カテゴリー:軽量型》

軽量の装甲や兵装が属するカテゴリー。

急所や関節などに装備する保護パーツや最低限の装甲、ナイフやハンドガンなどの最軽量武器がこれに当たる。

基本フレームに必要最低限の武装と装甲追加を施しただけの非常に簡易的な装備であり、直接戦闘に使用される事は殆ど無い。

ただし最低限と言っても量子データ変換による一定量以下のダメージ無効化は健在で、

量子データから再変換したエネルギーによる弾丸の連続加速や高周波振動と切断エネルギーの加算による圧倒的な切断力なども同様。

結果的に通常兵器では考えられないほどの大出力を有し、特に人間搭乗時の攻撃力は単独対象への攻撃に限れば核ミサイルよりも高い。

ごく最低限の装備と最大限の加速力を用い、近接及び近距離用装備を用いて白兵戦を行うのが基本戦術となる。

 

《カテゴリー:中量型》

中量の装甲や兵装が属するカテゴリー。

中量装甲、各種携行可能武器、外付け特殊パーツなどが属し、最も属するパーツ数の多いカテゴリー。

ビームライフルもアサルトマシンガンもレーザーガンもレールガンも、ライフルやガンの類はほぼ全てここに入る。

装甲パーツも、素体の上に薄く被せるだけだった軽量型から一転して装甲らしい厚さや形状が増える。

曲線で構築され人間的なラインを有していた素体及び軽量型と比べ、鎧を着た人間といった様相を呈している。

中量型は機動力と火力の両立に重点が置かれており、軽量型を上回る圧倒的な破壊力を有する。

機動力もブースターの増強と慣性無視によって確保されており、総合的に非常に高いスペックを持つ。

とにかく縦横無尽に動きまわり様々な距離から攻撃する近距離~中距離スタイルが基本となる。

 

《カテゴリー:重量型》

重量の装甲や兵装が属するカテゴリー。

重量装甲、各種大型兵装や大型特殊パーツが属する。

グレネードやら大型パイルバンカーやら連装陽電子砲やらロマン武器がやたらと多いのが特徴。

装甲もかなり大型化し、人間的な容姿は人型であるという部分を除き殆ど無くなる。

また重量装甲は大質量の物質を用いている事もあり、生じる慣性が非常に大きい。

デフォルトでは慣性は全て無効化されるように設計されており、攻撃火力の確保も必要なため結果的に防御能力は低下。

エネルギーのデータ変換によるバリア的防御ではなく結合強化された強靭な装甲による物理防御を目的としている。

エネルギー変換の許容量が少なかった頃に流行ったカテゴリーで、今でも根強い人気がある。

虚数攻撃など量子変換バリアを貫通してくる攻撃に有効性が高いのが強み。

 

《カテゴリー:アサルトユニット》

長距離移動用の追加ブースターや面制圧用のマイクロミサイルコンテナなどを含む背面ユニットの総称。

元々は中量及び重量級にそれぞれカテゴライズされていたが、

用途の多様化とそれに伴う種類増加を受けて独立カテゴリーとして分けられた。

アサルトユニットとという名称は、大型の追加ブースターと大量のマイクロミサイルで敵陣を強襲するのによく使われていたため。

背面にブースターを追加するだけのものから、大気圏内行動を考慮し肩部に可変翼を装着するものまで形状も様々。

搭載する兵装も多種多様で、データーリンク用のレーダー・カメラユニットを搭載した偵察・索敵用から、

マイクロミサイルコンテナを無数に搭載した強襲用面制圧型兵装までこちらも様々。

基本的には長距離移動用で、搭載兵装を出し尽くした後はパージされる事が多い。

 

《カテゴリー:コンストラクションユニット》

建設用の重機やら機材を含むユニットの総称。

MAFは人型であるため人間に出来る事はほぼ全て可能で、その出力は人間とは比較にならない程高い。

それを利用してあらゆる建築機材のパーツを用意し、素体に使用させる事で高い建築・整備能力を有している。

建築機材の他にも、MAFや戦艦などの機械整備用パーツなどもこのカテゴリーに含まれる。

このようにMAFは戦闘以外でも高い汎用性を有しており、

調理器具一式を揃えた料理ユニットや医療機器一式を揃えた衛生ユニットなど様々なユニットが存在する。

 

《バルクセス級663858番艦ヴァラル》

人類総戦備態勢宣言に伴い開発された民間人用汎用艦の第83世代艦。

全長10000m・全幅2500m・全高1500mの超弩級宇宙戦艦。チートの宝庫。

超弩級とはいえ太陽系人類艦隊の中では中型。これより小型のものは全て特攻も視野に入れた非人類用なので、

人類用の戦艦の中では最も小さい部類に入る。

人間100人が自給自足できる設備と、常時1万5千体非常時3万体のドールズが活動可能な設備を有する。

体積の半分を装甲や武装を始めとした各種機構で占めており、その性能は異常の一言。

まず3機の縮退炉、所謂ブラックホールエンジンを搭載。非常に大型かつ大出力のものが3機もあるのでその出力は推して知るべし。

生成されたエネルギーは超大型の量子変換装置によって一切のロス無く量子データへと変換され、

最大戦闘時はそれらをフルに使って圧倒的な破壊力を有する各種兵装を使用する。

コロニーの一つや二つは簡単に破壊するレール砲が24門、コロニー程度なら蒸発させられるレーザー砲が48門、

一倉全弾撃ち尽くせばコロニー群を丸々塵に変えるミサイルコンテナが各1万発×16倉、

通常兵器などゴミカスが如く撃ち落とす高精度CIWSが全身に搭載され、

同時発射で月ぐらいは軽く蒸発させられる対消滅副砲二門、

極めつけは着弾点に大型ブラックホールを形成し一撃で宙域一つ無に帰す主砲ブラックホールブラスター。

太陽系内で撃ちつくしたら惑星の一つや二つは軽く消し飛ぶこのチートが、人類の一人に一隻与えられていたのである。

一般人ではない専門の人間にはこれよりさらに強力な戦艦が与えられ、このメシア級の艦隊を率いていたというのだから恐ろしい。

しかしこれだけの超兵器艦隊を送り込み銀河一つを虚数の海に沈めてなお勝てなかった相手とはどれだけのバケモノなのか。

当然兵器以外の設備もチート仕様である。地球から冥王星に落としたビーズを探し出せると言えばどれだけ凄いか分かるだろうか。

他にも15000体のドールズ同時に整備・修復し、15000体のドールズを保管し、15000体のドールズを同時稼働させられる設備を有する。

必要となれば1時間で組み立て可能な5000体分の即応パーツも合わせて、計5万体のドールズが搭載されている。

幾ら人間のような生活空間が必要ないとはいえ、それらの保存・整備用設備と稼働用設備を合わせるだけでも相当な量である。

そしてこんなものが慣性を無視して光より速く(ワープ航法で)移動するというのだからもう手に負えない。

コンピュータも西暦2000年ごろの旧世代型であれば5歳時のお遊びで世界中のそれらを制圧可能な量子コンピュータ群を搭載し、

最大稼動時5万体のドールズ全員分の思考と制御を行い、このチート艦や各機体を含めた機械類の全制御と戦域データリンクを行う。

しかもドールズ経由で非接触量子回線を使ってネットワーク非接続のコンピュータにまで侵入出来る独自ネットワークを構築している。

もはやプライバシーなどあったものではない。人間、特に設定された主人に大しては非常に従順なのがせめてもの救いか。

 

軽量又は中量又は重量又は砲撃型歩兵3名+同上位兵1名=1個歩兵班4名

 

分隊

3個一兵種班+同上位班=1個一兵種分隊16名

整備補給通信統合支援機3機+同上位兵1名=1個1個支援班4名

1個一兵種分隊+1個支援班=1個実稼働分隊20名

 

小隊

3個一兵種分隊+1個上位分隊=1個一兵種小隊64名

3個支援班+同上位班=1個支援分隊16名

1個一兵種小隊+1個支援分隊+輸送航空挺乗員5名=1個実稼働小隊85名

 

中隊

3個一兵種小隊+1個上位小隊=1個一兵種中隊256名

3個支援分隊+同上位分隊=1個支援小隊64名

1個一兵種中隊+1個支援小隊+駆逐級艦乗員20名=1個実稼働中隊340名

 

大隊

3個一兵種中隊+1個上位中隊=1個一兵種大隊1024名

3個支援小隊+同上位小隊=1個支援中隊256名

1個一兵種大隊+1個支援中隊+巡洋級艦乗員80名=1個実稼働大隊1360名

 

各種連隊

1個軽種大隊+1個中種大隊+1個重種大隊=1個戦術歩兵連隊3072名

1個砲種大隊+1個特務大隊=1個戦術特兵連隊2048名

1個生活衛生管理中隊+1個大型施設中隊+1個小型施設中隊=1個後方管理連隊3072名

3個支援中隊+同上位中隊+資材管理中隊=1個補給支援連隊1280名

1個指揮管理中隊+3個機動防御中隊=1個総合指揮連隊1024名

1個体内諜報大隊+1個対外諜報大隊=1個統合諜報連隊2048名

連隊用空母級乗員240名

 

師団

1個戦術歩兵連隊+1個戦術特兵連隊+1個後方管理連隊

+1個補給支援連隊+1個総合指揮連隊+1個統合諜報連隊=12544名

師団用戦艦級乗員480名1隻+空母級乗員5隻+巡洋級15隻+駆逐級70隻+航空艇300機=5780名

計1個師団18324名

 

司令部艦隊

物資生産人員5000名+研究開発人員3000名+娯楽供給人員1000人+各部署総括中央庁3000名 

大型戦艦級旗艦乗員1500名+隷下1個師団18000名

計31500名

 

太陽系人類軍C-88番第3037号戦術機甲兵団常備軍

3個師団+司令部艦隊=約87000名(余剰人員含む)

 

太陽系人類軍民間部隊C-88番第3037号戦略機甲兵団緊急時最大可動総人員

 即時組み上げ可能機数6000人分

 交換待機中人員各1人

 指揮官1人(人間)

 総計約180000人

 

民間部隊より大規模とはいえ、こんな大部隊が人間一人一人に与えられていた。

これだけの数を揃えてようやく戦略上の最低単位1として数えられた。

西暦2000年台の軍で言えば歩兵一人がこの部隊の師団一つ相当である。

戦車兵とか航空兵に当たる部隊は旗艦も規模も更に大型。

これが百とか万とか生ぬるい単位で揃っていて負けたのだからもう何も言えない。

チートを食いつぶすのは何時だってチートだ。

 

《主人公の世界の歴史》

西暦2000年からおよそ1600年後の世界。主人公が最後に確認したのは新宇宙暦117年。

歴史の授業では新宇宙暦制定後の100余年を近代史、旧宇宙暦制定以降から新宇宙暦制定までの500年程を近世史、

西暦2000年頃の情報科学が発達し始めてから旧宇宙暦制定までの1000年程を後期中世史、

紀元から2000年程を前期中世史、紀元前の人類史を古代史と区分呼称している。

 

西暦2000年頃から10世紀ほどかけて大規模な宇宙移民やテラフォーミングが進み、太陽系全域に人類が増加。

宇宙開発技術の発展に伴い大規模な太陽系外進出計画が太陽系統一議会で可決される。

それに伴いバラバラだった暦を統一して宇宙暦を制定。世界という言葉は主に太陽系全体を指すようになった。

それからの500年程は人類最繁栄期と呼ばれ、天敵の居ない人類は着々と数を増やしていく。

 

しかし宇宙暦483年。自らの住む銀河系を脱し新たな銀河へ到達した人類を待っていたのは絶望だった。

未確認敵性生体、通称UBE(俗称ユーベ)である。

当時の最高水準をもって開発された艦隊は相応の戦力を有しながらこれに敗北。

圧倒的な破壊力と鉄壁の防御力を有し不死が如き生命力と無尽蔵の増産力を持つ馬鹿げた生物であったUBEに艦隊は潰走を強いられる。

しかしそれはその後起こる絶望のほんの序曲に過ぎなかった。

生き残った艦隊が緊急ワープで脱出し、無事ワープアウト出来たことに安堵した直後。

奴らは、艦隊を追ってきたのである。そして周囲には事情を知らない後続艦隊。

パニックになった無数の艦隊は次々とワープを繰り返し、銀河系最外縁に位置する第18銀河宙域全体へとUBEを拡散させてしまった。

事態を重く見た人類側は当該宙域でのワープイン及びワープアウトを禁止。自体は一応の収束を見たかに見えた。

しかし、そもそもその他の人類に情報が伝わっているのはなぜか?ワープを利用した銀河間通信によって情報を伝えたためである。

そしてUBEは詳細は不明だがワープを追う事が出来る。それが例え戦艦ではなく、光や電波などの情報の類であろうとも。

 

宇宙暦516年。人類は旧宇宙暦を廃止し新宇宙暦を制定。新宇宙暦元年である。

そして宇宙暦元年5月1日。太陽系に全人類統一政府を樹立。統一政府は全人類総戦備体制宣言を発令した。

銀河中から集められた資源と技術を用いて無数の艦隊と無人機動兵器が生み出され、全人類の一人一人にそれらの戦力を与えた。

実際に全人類に戦力が行き渡ったのは新宇宙暦40年頃、太陽系と一部の恒星系を除く全ての宙域から人類が死滅した後だった。

 

新宇宙暦100年。人類最後の世紀末と呼ばれる。

銀河系全域から人類が消え全ての生き残りは太陽系に集結。総人口800億人。

銀河の支配者であった事が夢であったかのような少なさである。

統一政府はどこからともなく無尽蔵に湧きだすUBEには、湧きだす元である中心核が存在する事を看破。

UBEと同様にワープ反応を逆算する事でそのUBEの中心部を導き出す事に成功した。

そしてその中心部へ乗り込むための大艦隊とワープ装置を開発。

新宇宙暦100年10月20日。無数の艦隊とドールズを従えた人類の約半数400億人が銀河の外へと旅立った。

 

そして新宇宙暦117年。銀河外派遣艦隊が旅立ち通信が途絶してから17年。

地球周辺に突如膨大な数のUBEが出現。それまでの莫大な物量をして更に膨大と言える圧倒的な数であった。

戦闘開始後1ヶ月で統一政府が政府施設を破棄。それに応じて地球人類は全て宇宙へと脱出する。

そしてそのさらに1ヶ月後。太陽系外全周に膨大な、余りにも膨大なUBEのが出現。

大凡銀河系中のUBEが集まったのではないかと思われる程のその数に、人類は最終手段を敢行。

 

最終作戦、宇宙脱出計画発動。

宇宙から脱出してしまえばいかなUBEと言えども追ってはこれまい、

そんな絶望に満ちた希望へ縋る作戦とも言えない作戦だった。

成功するかも解らない、むしろ失敗するに決まっていると解っていながら目を背けて決行されたそれ。

何よりも速く。何処までも遠くへ。後ろから追ってくる足音に怯えながら只管走り抜けた先。

少なくともこの物語の主人公ライル・ブリックスは、奇跡を掴んだ。

 

新宇宙暦117年。人類最後の年。これより先の時を知るヒトは、もう彼の世界にはない。

 

《ライル・ブリックス》

我らが主人公。第0地球の生き残り。人類最後の一。

享楽的で刹那主義な若者が多かった中ではまともな部類の人間。

それでも三大欲求に正直だったりオタク趣味丸出しであったりとやはりどこか壊れている。

絶望を嫌った人類によって過剰なまでにポジティブイメージの先行した情報社会で育ち、

その影響もあって絶望の中に居ながら平和ぼけしていた。

新宇宙暦114年に木星艦隊へと徴兵され、以降3年間で多くの戦闘経験を積んだことにより多少平和ボケは治っている。

しかし根本的に享楽的で面倒くさがりな性格はそのままで、日常と戦闘時で非常にギャップのある人物。

連日連夜の戦闘を繰り返した経験や友人無人問わず無数の部下を率いて戦った経験などもあり、

実践経験で言えばそんじょそこらの創作物のキャラクターなど比較にならない経験値を持つ。

戦闘漬けの日々の影響か若干バトルジャンキーのケがあり、ドールズが優秀なのを幸いと指揮権を預けて前線に出る事もしばしば。

ストレスの発散や実践訓練を兼ねている事と必要な仕事はこなしている事などからドールズも強く言う事は無いようである。

親兵時代に戦闘への恐怖を抑えるための自己暗示を習得させられており、撃鉄を起こすイメージで意識を塗り替えている。

長い経験を積んだ今では生来の気質もあってか切り替えの差が非常に激しい。

おちゃらけた三枚目からクールな二枚目へ豹変する程である。とはいえ、彼の居た場所ではさして珍しくも無かったのだが。

学習カリキュラムの中でもロボット工学と中世史(西暦2000年頃からの約1000年間)が好きで、専攻していた。

そのためMAFや艦の技術にもある程度の理解と知識がある。

またオタクであるためか中世時代(西暦2000年頃からの以下略)のゲームやマンガといった、オタク文化黎明期の作品を好む。

本人曰く、今の作品にはない古臭さの中に光る輝きがあるとのこと。

ドールズ達に頼んで最新のハードに対応させた旧時代作品を多数所有しており、鑑賞したりプレイするのが日課となっている。

 

 

再設定

《サイコドライブ》

 人の意思の力を増幅し物理的な干渉を引き起こすトンデモ技術。

まず専用のナノマシンを投与し脳内で量子派通信によるネットワークを構築、第二の脳とする。

構築されたネットワークは脳内シナプスとも接続し思考能力と無意識演算能力を爆発的に向上。

量子波通信による脳や対応端末との無線接続や、

専用のナノマシンによってネットワーク機能を持たない電子機器への干渉すら可能にしている。

 構築された脳内ネットワークはそんじょそこらの量子コンピュータなど足元にも及ばない演算性能と汎用性を誇り、

それを利用して各種演算を行う事で思考した現象を起こすために必要な膨大な演算量をまかなっている。

 次に陽子だの電子だの中性子だのに干渉可能なナノマシンを投与し、

脳内で行われた演算結果にそってそれらのナノマシンを稼働させる事で各種粒子を制御。

振動させて高熱化させたり停止させて冷却したり流動させて風を起こしたり電子を制御して電流を発したりする。

 

 ここまでは、SFとしてまだ理解出来なくはない範囲である。

ナノマシン自体は体内のカロリーを消費して動いてるため沢山食べる必要があるというのもまだ分かる。

 問題は、このナノマシンの出力が使用者の意思次第で増加するという事である。

それは強く思考する事で演算に割かれる領域が増え結果的に出力が上がるとか"そういうことではない"。

そんなちょっとギアを上げたとかそういう表現が生ぬるいレベルで無限にパワーアップするのである。

実際は限度があるのかも知れないが、現時点で限界は確認されていない。

 これには研究者達も首を捻った。確かにナノマシン越しに超能力を使えるようにするのは上手く行った。

しかし予定を遥かに上回る出力が、それも生存本能とか闘争本能とか3大欲求だとかの影響を受けて増幅するのである。

その上人によって能力強度に差が出る。状況でも差が出る。明らかに人智を超えた何かの影響を受けている。

 もはや、意味不明。少年誌でよくある思いの力でパワーアップを現実にやらかしてしまった。

それも超能力だとか魔術だとかではなくあくまで科学技術・機械技術的な手法でである。

それまでの、機械には出来る事しか出来ずそれを超えない範囲では決して失敗しないという常識が脆くも崩れ去った。

 結局解明出来なかったので、人間の意思とか介在させたから何か凄い人間パワーが働いたんだろうという、

お粗末というかもはや匙を投げたとしか思えない結論を出して議論は集結。

ごく一部の物好きが細々と研究を続けるだけで実用段階へとシフトしていった。

 

 で。良く分からないが一応パワーアップしているし、特に問題も出なかったのでそのまま使用される事に。

しかしこのシステム弱点があった。物理干渉を行うナノマシンは体内にある。

ネットワークの構築や燃料の確保という意味でも脳から然程離せない。

だがこのナノマシンには効果範囲がある。ある程度近距離の粒子とか物質にしか干渉出来ないのである。

結果的に肉体の表面から2mほど離れると極端に出力が弱くなるという欠点が浮き彫りになってしまったのだ。

 それでも、この高出力は魅力的である。最大稼動時は人間の意思一つで核融合からワープまで何でもござれだ。

ならば利用するにはどうすればいいか?利用するものを体から2m以内に納めればいいのである。

こうして開発されたのが対UBE汎用兵装『Multi Armed Frame』、通称MAFである。

 

 MAFには脳の演算能力を更に向上させる補助演算装置と、

ヒトの意思の力に当たるエネルギーを増幅することで物理干渉の出力を向上させる装置を搭載。

意思エネルギーを直接伝達し機体各部のナノマシンを作動させる事で機体を稼働させ、

 更に物理干渉用のナノマシンを多量に搭載した兵装を用いる事で高い火力を実現。

弾丸に直接運動エネルギーを与えて射出したり刃の表面に切断性力場を展開して切断したりとやりたい放題。

 装甲や兵器の素材にも意思エネルギーに反応する素材を使用し、物理干渉と物理性質の両面から強化。

理論上意思の力次第で無限にパワーアップする超兵器が完成した。

 

 そして技術者達は人間の遺伝子と万能細胞を元に培養した人体と各種ナノマシン、

更に各種機械工学技術を用いる事でアンドロイドの量産に成功。

半生体ロボットとして製造された彼あるいは彼女らは遺伝子レベルでの改良が重ねられ、

様々な容姿や能力タイプが作られ専用のAIと合わせて販売され史上稀に見るヒット商品となった。

(容姿も性格も体の相性も思いのままで調整次第では子供だって産める上、

 絶対に裏切らずチート並みの頭脳と身体能力を有しあらゆる技術や知識が扱え、

 挙句の果てに老いることも死ぬことも無い。そりゃ誰だって買う。俺だって買う)

 

 で、そんなアンドロイドの生体部品を用いてサイコドライブの流用に成功。

意思エネルギーの問題から人間程の出力は出ないものの、人間と違いミスをせず裏切らず使い捨て可能な便利な兵力に。

本格的な配備が始まって以降は通常のアンドロイドよりも能力強度の高い個体の出現なども確認される。

新宇宙暦後期にはあらゆる艦に無数に配備され最後まで人類のために尽くした。

 

 

再々設定

《サイコドライブ》

 ヒトの意思の力をエネルギーとして使用し、粒子の反応を制御する事で様々な物理現象を引き起こす機構。

ナノマシンによって意思力を増幅・伝達し、粒子干渉が可能な特殊エネルギーとして体外へ出力する。

粒子に干渉する事で加熱・冷却・流動は勿論、重力場や電磁場の形成、運動エネルギーの直接生成すら可能である。

正確には出力したエネルギーを粒子に伝えて運動エネルギーや熱エネルギーに変えているだけなのだが、

無意識下で膨大な演算を行い思考一つで炎や電気を出したり弾丸を射出するそれは超能力にしか見えない。

 

 また制御には膨大な演算能力を必要とするため、ナノマシンを用い脳内に専用の演算装置を構築する必要がある。

概要としてはナノマシンに搭載された量子波通信機能を用いてネットワークを構築、

更にそれを脳内シナプスと接続して脳の演算能力を大幅に拡張するというもの。

並の量子コンピュータを遥かに凌ぐ圧倒的な演算能力を使用する事で、

サイコドライブの稼働に必要な膨大な演算量をまかなっている。

 

 意志の力という正体不明のエネルギーを現実的な用途に転化するトンデモ技術であり、

エネルギー保存の法則など色々と無視している。

(一応量子物理学を始めとした幾つかの理論の応用で、

 情報はそれ自体がエネルギーを有しおりそれを取り出しているとする説がある)

 そもそも一定の手順を経る事で意思力というものを使用することが出来る事が判明したのがつい最近である。

それを増幅や伝達出来る装置を開発し、ナノマシンを使って脳内にその装置を構築している。

いわゆる一種の超能力であり、その出力の強さも人によって様々。これを能力強度と呼ぶ。

 またある人物が最大でどれだけの能力強度を出しうるのかというのは測定する事が可能で、これを能力適性と呼ぶ。

能力適性は後天的な様々な要因によって上昇していき、

記憶及び人格の喪失や脳の欠損といった特殊な場合を除いて下降する事がない。 

能力適性はあくまで能力強度の最大値を示す一種の才能であり、全員が適性に応じた能力強度を自由に扱える訳ではない。

むしろ生命の危機など特殊な条件下で強く発現する事が多く、普段から強力な力を発揮出来る能力者は非常に稀有。

 

 応用方法も多様に考えられ、能力強度次第ではブラックホールの形成やワープまで可能となっている。

当然低い能力強度でも積算あるいは分担する事で複雑かつ難易度の高い事象を引き起こす事も可能。

そこで万能細胞と遺伝子工学を用いて培養した人体にナノマシンを始めとした機械化処理を施し、

半生体アンドロイドを量産する技術が開発。

専用の擬似人格AIを用い脳を生体部品として使用する事で意思力の再現を行った。

これにより超能力は脳と思考能力さえあれば人間以外のあるいは無機物にも使用可能であると実証される。

人間と比べ圧倒的に低い出力ながら、その量産性と安定性から非常に強力な効果を発揮。

大型のブラックホールエンジンの製造や大規模脳内外量子波通信ネットワークの構築など様々な用途に使用される。

 

 そして、サイコドライブ機構は兵器にも転用される。

元々莫大なエネルギーを何処からともなく無限に生成出来、更に陽子や電子レベルの粒子を自由に制御出来るのだ。

これを兵器に利用しない手は無く、しかしこれには弱点があった。

体内のナノマシンで増幅した程度では、触れた物質に影響をおよぼすのが限界だったのである。

例え専用の大型増幅装置を用いても体から2mも離れればその出力は格段に落ち、

とても兵器として使用出来る出力ではなくなってしまう。

そこで技術者達は考えた。2m程度が限度ならその中に兵器を納めてしまえばいい、と。

こうして生まれたのが、サイコドライブ搭載型汎用パワードスーツ《MAF》である。

 

 量子波の制御による量子情報通信ネットワークの構築、

中性子制御によるブラックホールの生成とそこに質量を放り込んでエネルギーに変換する縮退炉、

念力的な運動・熱・慣性エネルギーの制御による攻撃やGの無効化、

弾体の直接加速による発射機構の単純化・小型化と能力強度次第での無限出力、

体表面への推力生成による全方位自由加速と慣性無視を利用した高速機動などなど、

通常兵器では考えられない程圧倒的な機能・性能・火力・出力を誇り、非常に高い戦闘能力と戦術・戦略的価値を持つ。

これらが、非常に小型であり誕生間もない兵器であるMAFが現行兵器最強と呼ばれるようになった所以である。

音速の数倍の速度で慣性を無視して動きまわり、能力強度次第では核の直撃にも耐え、逆に核の数倍の威力を軽々と出す。

こんなトンデモ超兵器を量産してそれでも滅んだというのだから相手のバケモノぶりが伺えよう。

 

 ちなみに、機体の動力は全てサイコドライブによって増幅された意思力。超能力で動かしている。

下手に動力や駆動機構を積むよりも、キャパシティを全て演算と増幅に回した方が効率が良く安全だったためである。

ナノマシン自体の燃料は体内のカロリー。一基ごと消費は微量だが投与量が膨大なのでカロリー消費が激しい。

結果的にカロリーを確保するために大量の食事と消化吸収を促すナノマシンの投与が必須になっている。

 

《量子変換》

 MAFに搭載された機能。物質を量子的なデータに変換し保存する。

と言うと凄く眉唾だが、やっている事は物体の構造を記録しそれに合わせて原子を分解・再構築しているだけである。

物質の構造を中性子・陽子・電子のレベルで記録。

あらゆる元素はこれらの組み合わせで出来ているため、これらを制御して特定の形に結合してやれば好きな原子を作れる。

あとはそれを集めて分子を造り、設計図に合わせて組み立てればどんなモノでも作れてしまう。

特に特定の元素を一定の形に固めるだけでいい武器などは非常に形成しやすく、

本体と違い必要となる元素量が少ない事もありごく瞬間的な構築が可能。

 これを利用したのが、一定の兵装の設計図を登録しておいて自由に構築・展開する量子変換技術である。

最前線であろうとも即座に兵装と戦闘スタイルを変える事が可能で、

これは特に得意苦手というものが存在しないアンドロイドに使用させるのに非常に適していた。

勿論質量保存の法則は守る必要があるが、そもそも物質を構築する粒子というのは分解して圧縮すれば非常に小さくなる。

そのため機体内に圧縮状態の粒子を格納しておけば相当量の兵器に変換出来る。

分解した粒子はまた圧縮して格納すれば良いため、実質的な消耗はダメージによる剥離と実弾の消費のみに留まるのだ。

MAFの頭部が非常に大型なのは各種電子装置の搭載のためだが、

それ以外の部分がずんぐりした3頭身に見える程肥大化しているのはこの変換用粒子を各部に格納しているためである。

(勿論、人工筋肉などそれ以外の部分に割かれている容量もある)

 

《ヴァラル》

設定は大体同じ。

ブラックホールエンジンは無数の半生体脳を制御装置として用いているという設定。

その他にも慣性制御やワープ航法、大気・宇宙空間中の粒子回収とそれを用いた物質生成、

武器と比べ非常に複雑な生物やそれを元にした食品の生成などもこの半生体装置を用いて制御している。

特に食料の製造に関しては登場している人間にとって死活問題であり、構造も非常に複雑。

細胞やら繊維やらを一つ一つ再現して行く必要が有るため、大量の制御装置を使用している。

勿論食料以外の飲み物や空気なども生成。排泄物や処分された物は粒子レベルまで分解され再利用される。

利用している人々にとっては常識であるため、精神衛生上の問題や抵抗は無いようである。

 

《主人公》

殆ど設定は同じ。

前線に出た理由が、定期検査で通常よりも高いサイコドライブ適性と能力強度を示したためになっている。

彼が世界を超えたのも、彼の意思力と適性の高さからサイコドライブの効果が発動したものと思われる。

要するにその時不思議な事が以下略とかその時なんちゃらが発動したとかナントカ線とかと同類。

相変わらずオタク趣味で後方指揮官より前線指揮官が好き。

 

《エリス》

通常平均的な出力を有するはずのアンドロイドの中で一際高い能力強度を発揮した特異点。

主人公に気に入られている事や名前を付けられているなど他のアンドロイドと比べ色々違う。

自我もかなり強く、よく主人公に苦言を呈したりツッコミを入れたり毒を吐いたりしている。

基本的にクール。でも主人公大好き。所謂クーデレ。至上主義入っているのでヤンデレルート突入には注意。

ちなみに人格データは移行が効くため、体は他のアンドロイド同様定期的に取り替えられている。

それでも能力強度が変わらない辺り、本当に謎技術である。

また、異世界移動には彼女を含めたアンドロイド達の意思エネルギーが主人公のそれに共鳴した、

というのが彼女たちの共通見解である。事実は不明。

 

 

電脳版

無人機設定を排除し、有人のみに。

量子データ状態のパーツを変換・転送する事で装着し、使用する。

謎システムによって超能力的現象を起こす事や3頭身デザインはそのまま。

弾丸や装甲はデータの塊。周囲のフリーデータを分解・再構築して修復・補充する。

現実世界に現出させるパターン、電脳世界を舞台にするパターン、どちらも可。

無限に改造可能で、改造者のプログラミング技術次第ではかなりの高性能を発揮できる。

サポートAI&AI萌え枠として人工知能搭載してもよし。

自律学習進化するAIによって常に進化し続け、

通常では考えられない程の演算能力と装着者の適性によって軍用品を上回る性能を有する……などの設定も可。

いっそ主人公あるいはその関係者が開発した事にしてもおk。

 

 

友軍追加版

一定レベル以上の人格と能力強度を発現した特異点を複数用意。

機械的なものに限らず様々な人格データをインストールした各データ個体。

 

 

 

 



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1話

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦3000年初頭。

宇宙へと生活圏を広げた地球人類は、

大規模なテラフォーミングやコロニー群の建設によって太陽系を支配していた。

増え続ける人口は兆を超え、遥か10世紀の昔に夢想された600億人人口すら遥か彼方へと置き去りにした。

宇宙開発が活発となり社会の情報化が始まった20世紀から21世紀頃は、今では後期中世と呼ばれるに至る。

しかしそれほどの広がりをもってなお人類種の躍進は留まる事を知らない。

 

西暦3000年9月。

宇宙開発技術の発展と先遣隊の帰還に伴い、大規模な太陽系外進出計画の正式実行が太陽系統一議会で可決される。

前世紀から1世紀もの時間をかけ準備されたこの計画により、

既に手狭となっていた太陽系を飛び出して人類は銀河系全体へと広がっていった。

それに伴って議会はバラバラだった暦を統一して宇宙暦を制定。

世界という言葉は主に太陽系全体を指すようになった。

それからの約500年程は人類最繁栄期と呼ばれ、天敵の居ない人類は着々と数を増やしていく。

 

宇宙暦483年4月。

増え続けた人類は遂に150兆に到達。銀河系は完全に人類のものとなっていた。

銀河系すら自らのものとした人類はすぐさま銀河系外へと目を向ける。

新たに生まれた枠からの脱出。まだ見ぬ第二人類との遭遇。様々な希望を胸に人類は広がり続ける。

 

宇宙暦512年8月。

銀河系外へと飛び出した人類を待っていたのは、胸に満ちた希望とは真逆の大いなる絶望だった。

超超長距離ワープ通信によってもたされたのは生命体との接触、そして問答無用の交戦。

未確認敵性生体、通称UBE(俗称ユーベ)である。

当時の最高水準をもって開発された艦隊は相応の戦力を有しながらこれに敗北。

圧倒的な破壊力と鉄壁の防御力を有し不死が如き生命力と無尽蔵の増産力を持つ馬鹿げた生物であったUBEに、

艦隊は至極一方的な潰走を強いられることとなる。

しかしそれはその後起こる絶望のほんの序曲に過ぎなかった。

 

同日数時間後。

生き残った艦隊が緊急ワープで脱出し、無事ワープアウト出来たことに安堵した直後。

奴らは、艦隊を追ってきたのである。そして周囲には事情を知らない後続艦隊。

パニックになった無数の艦隊は次々とワープを繰り返し、

銀河系最外縁に位置する銀河系第108宙域全体へとUBEを拡散させてしまった。

事態を重く見た人類側は当該宙域でのワープイン及びワープアウトを禁止。事態は一応の収束を見たかに見えた。

しかし、そもそもその他の人類に情報が伝わっているのはなぜか?

ワープ技術を利用した星系間通信によって情報を伝えたためである。

そしてUBEは詳細は不明だがワープを追う事が出来る。

それが例え戦艦ではなく、光や電波などの情報の類であろうとも。

 

宇宙暦516年1月。人類は旧宇宙暦を廃止し新宇宙暦を制定。新宇宙暦元年である。

そして宇宙暦元年5月1日。太陽系に全人類統一政府を樹立。同時に統一政府は全人類総戦備体制宣言を発令した。

銀河中から集められた資源と技術を用いて無数の艦隊と無人機動兵器が生み出され、

全人類の一人一人余すことなく全てにそれらの戦力を与えた。

その後実際に全人類に戦力が行き渡ったのは新宇宙暦40年頃、

太陽系と一部の恒星系を除く全ての宙域から人類が死滅した後だった。

 

新宇宙暦100年。人類最後の世紀末と呼ばれる。

銀河系全域から人類が消え全ての生き残りは太陽系に集結。総人口約800億人。

銀河の支配者であった事が夢であったかのような少なさである。

しかし人類はいまだ抵抗を諦めてはいなかった。

統一政府はどこからともなく無尽蔵に湧きだすUBEには、湧きだす元である中心核が存在する事を看破。

UBEと同様にワープ反応を逆算する事でそのUBEの中心部を導き出す事に成功した。

そしてその中心部へ乗り込むための大艦隊とワープ装置を開発。

新宇宙暦100年10月20日。無数の艦隊と最新鋭兵器を従えた人類の約半数400億人が銀河の外へと旅立った。

 

そして新宇宙暦117年。銀河外派遣艦隊が旅立ち通信が途絶してから17年。

地球周辺に突如膨大な数のUBEが出現。それまでの莫大な物量をして更に膨大と言える圧倒的な数であった。

戦闘開始後1ヶ月で統一政府が政府施設を破棄。それに応じて地球人類は全て宇宙へと脱出する。

だが悪夢はそこで終わらない。そのさらに1ヶ月後。太陽系外全周に膨大な、余りにも膨大なUBEのが出現。

大凡銀河系中のUBEが集まったのではないかと思われる程のその数に、人類は最終手段の敢行を余儀なくされる。

 

最終作戦、宇宙脱出計画発動。

宇宙から脱出してしまえばいかなUBEと言えども追ってはこれまい、

そんな絶望に満ちた希望へ縋る作戦とも言えない作戦だった。

成功するかも解らない、むしろ失敗するに決まっていると解っていながら目を背けて決行されたそれ。

何よりも速く。何処までも遠くへ。後ろから追ってくる足音に怯えながら只管走り抜けた先。

少なくともこの物語の主人公ライル・ブリックスは、奇跡を掴んだ。

 

新宇宙暦117年12月24日。人類最後のクリスマス・イヴ。これより先の時を知るヒトは、もうかの世界には無い。

 

 

 

 

「……成功、したのか?」

 

網膜ディスプレイに投影された計器を確認する。

極限まで高速化されたコンピュータは即座に座標を算出し、

今自分達が地球圏近郊の宇宙域を漂流している事を告げていた。

一部学者の間ではUBEとの死闘によって文明が西暦頃まで巻き戻ったと言われているが、

それでも演算ミスをするような低レベルな装置は積んでいない。

これでも人類軍の中では最高水準の新鋭艦だったのだ。計器の情報に間違いは無いだろう。

 

「詳細の確認を完了。至近に火星を確認。観測情報誤差32%、我々の知る火星とは別物です」

 

横に立つ女性型アンドロイド、個体名称エリスから報告が入る。

クールな口調ながら感情の色と人の温かみを感じさせるその声に、荒れ狂っていた精神が次第に落ち着いてきた。

まずは現状の確認。問題があれば即時対応。混乱するのはその後でいい。

長年UBEと戦い続けてきた経験から焦る心を押しのけて脳が冷静な判断を下す。

同時に思考制御に反応した網膜ディスプレイが切り替わり、詳細なデータを垂れ流す。

脳に直接送り込んでいるのだから映像が無くても理解自体は出来るのだが、

それでも視覚情報を伴った方が正確な認識と判断が出来るというのが未だに網膜ディスプレイが現役の理由である。

今の俺もその例に漏れず、流れ続ける視覚情報に気分は落ち着き次々と指示を出していく。

 

「――よし、取り敢えずはこんなものか」

 

数分の情報検索で分かった事は至極単純。

自分達は火星と思われる惑星の近くにワープアウトし、

数えるのも馬鹿馬鹿しい程湧き出していたUBEは一匹たりとも確認されていない。

同宙域内の反応と広域無差別量子通信に対する反応は我々が孤立無援である事を示していた。

一番の朗報は、やはりなんといってもUBEの反応が皆無であるという事だろう。

遭遇当初はあった追跡のタイムラグもここ最近では殆どノータイムだった。

それを考えれば、ワープアウトから既に10分近く経とうとしている現時点で反応が無いというのは、

実質的にあのバケモノ共を完全に振り切った事を意味しているからだ。

 

「精査完了。火星は我々の知るものとは完全に別物です。文明技術も確認されませんでした」

 

一瞬唖然とするが、その言葉の示す意味は大凡予想出来る。

宇宙全体へと広がっていた人類が火星に手を出していないわけがなく、既に火星は開発しつくされていた。

最大時期と比べて惑星直径が一回り小さくなったせいで公転と自転に影響が出て、

そのため以降惑星の開発に一定の制限が設けられたなんていうのは、

昨今のジュニアスクールで当たり前のように習う事柄である。

その火星から文明反応が無い。ならば考えられる事は絞られてくる。

タイムスリップによって宇宙開拓以前へと来たか。

あるいは未来へと飛んで既に火星はUBEに食い荒らされた後か。

はたまた周囲の天体の配置から何から全てが地球圏と同一の別星系か。

もしくは――完全に別の宇宙へ、到達したのか。

 

「…!仮名称火星の情報を更新。膨大な数の生体反応を確認しました」

 

「何っ!?」

 

最悪の報告だ。何が最悪って、その報告の示す意味を正確に理解してしまう自分の頭が、だ。

こういう時は量子電脳の高性能さが恨めしい。

いや、それよりも事態の把握が先だな。

といっても話は単純。文明皆無の火星に未確認の生命体がうじゃうじゃ。

隣の彼女がヒト種といった表現ではなく生体反応と呼称した事からも人類でない事は確定。

どう考えたってUBE以外の何者でもないだろう。どうやら俺の予想は2番目で当たりのようだ。泣きたい。

 

「ライル様、泣くのは報告を聞き終わってからにしてください」

 

「相変わらず辛辣だなお前は」

 

ご主人様に対する敬いはどこいった。

折角俺が手ずから調整してやっている特別な個体だというのに。

何?子は親に似る?知らんな。

まあ、お陰で多少落ち着いた。幾らアンドロイドとはいえ女の前でみっともない格好は見せたくない。

 

「続けます。確認された生命体は粒子反応や主要構成物質からUBEではないと断定されました」

 

「なん……だと……?」

 

大昔の紙媒体コミック作品でよく使われていたフレーズを使ってみた。

いや、待て。UBEじゃない?文明反応一切無しでテラフォーミングすらされていない火星に住める、

それも人類とは明らかに違う生体構造を持っていてうじゃうじゃ湧いてる生物がUBEじゃない?

冗談だろうと笑い飛ばしたい所だが、脳に送られてくる情報はその事実を肯定していた。

 

「いかがなさいますか」

 

いかがも何もない。情報が余りにも少なすぎる。

だがこれで別宇宙だという可能性はかなり増した。

地球圏に居て火星に文明がなくてUBEじゃない生命体がうじゃうじゃ。

確実に過去では無いし、ほぼ間違いなく未来でもない。

石ころレベルで(一応比喩だ)地球圏と全く同一の星系なんて存在するはずがない。

となれば、やはりここは別宇宙……チープな言い方をすれば、異世界とやらか。

 

「兎も角情報収集を最優先だ。地球文明にも積極的に働きかける。ただしこちらの存在はまだ悟られるな」

 

友好的であるとも限らないし、火星に進出していないぐらいだから文明レベルは我々より低いはず。

ならば一方的に得た情報を元に判断を下し、それをもって行動に移すのが無難だろう。

取り敢えず目の前の異形共がこちらへ向かってくる様子も無いため、時間には余裕がある。

 

「かしこまりました。情報の収集を開始します」

 

さて、どうなることやら。

 

 

 

 

「あたまいたい」

 

「痛いの痛いの飛んでいけ」

 

いつものクールな口調に溢れんばかりの慈愛を感じるのは気のせいでしょうか。

そんな泣き言が口を突いて出るのも仕方ないだろう。仕方ないと言ってくれ。

 

ゴホン。判明したのはまず今が西暦2000年1月1日であるということ。いや実にキリがいいな。

……1600年以上前ってどういうこっちゃこら。後期中世時代?ふざくんな。

うむ、当時の言語へのすり合わせは完璧だな。流石量子電脳。いや、だからそうじゃなくて。なんだこれ?

タイムスリップってレベルじゃねーぞ。まあ同一宙域に人工建造物が無い時点である程度予測はしていたけれど。

それにしたってこれは酷い。俺が"たまたま"西暦2000年頃の情報開拓期に精通してなければ危なかった。

16世紀前の文明と素で交流なんぞ測れるわけが無いからな。オタクでよかったと一番実感した瞬間だな。うん。

 

「そろそろアチラから帰ってきてください」

 

サーセン。

まあ俺は中世頃のリアルな文明が好きで専攻も後期中世史だったし、オタク知識も豊富なので問題は無いだろう。

言語や文化に関してはデーターベースから当時のものを引っ張りだしてきて模倣すればいい。

エミュレートに重点を置いて体内のナノマシンを制御すれば仕草レベルで違和感を拭えるはずだ。

その分俺の違和感が凄い事になるだろうけど、まあ円滑な交流のためには致し方ない。

 

で。次に分かったのは地球の半分がBETAとかいう地球外知的生命体に占拠されている事。

どうやら人類は絶滅寸前の様子です。まだ元気はあるみたいだけど、人口10億人とか俺からすればもう瀕死だ。

あ、また涙出てきそう。いや、冗談はよしこさんだよ。なあにいこれえ?

必死こいてUBEから逃げてきたら次はBETA?アルファベット嫌いになるよ俺?

人類ボロボロだし文明は俺の世界で言う1900年台後半レベルっぽいしもうねアホかと。バカかと。

 

「俺もうこのまま見てみぬ振りして隠居しても許されるよね?」

 

「ライル様がお望みでしたら全力でご用意致します」

 

わーい。

まあ、そうも行かないんですけどね。(´・ω・`)ショボーン

顔文字ってこれで合ってるのか?そもそも今この世界の文明に顔文字なんて文化あるんだろうか。

ただでさえジェネレーションギャップ激しいのに文化の進化方向真逆だから良く分からない。

 

現実逃避しているわけにも行かないので今後のプランを考えよう。

とはいっても細かいとこは彼女たちに任せて、俺は思うようにやらせてもらう。

現地の娯楽が殆ど無いのが痛いが……まあ、彼女たちに頑張って生産してもらうしかあるまい。

他にはうちの再生技術なら脳の主要部分さえ残っていれば完全再生出来るし、

いざとなればテレポーテーションによる緊急脱出もある。

なら最前線で戦っても問題ないな。存分にストレス発散させてもらうとしよう。

こちらには数と実績がある。ある程度の戦力にはなるはずだ。

 

「実際には戦ってみなければ分かりませんので、過信は禁物ですよ」

 

「分かってる」

 

問題は人類側への対応か。これもまあ特に問題ないだろう。気に食わなければ逃げてもいいんだし。

俺が欲しいのは娯楽と市民権。向こうがほしいのは戦力に生産力に技術に知識に経験。

等価交換なにそれ美味しいの?ってな具合なんだから表向きは下手に出ざるをえないだろうし、

裏で何して来ようが正直この時代の文明で俺らをどうこう出来るはずがない。

生身での身体能力でさえ、無数のナノマシンのおかげで天と地の差があるのだ。

旧時代の大砲ぐらい直撃したって死にはしない。

コンピュータなどの情報技術など言わずもがなだし、うちには諜報部だってある。

普通の人類軍には無いけど雰囲気を出すためだけに態々作ったのだ。オタク舐めんな。

 

「とりあえず美味しいエサチラつかせて、こっちの要求を飲んでもらう形でいいな。大した要求でも無いし」

 

「逆に不信感を与える可能性もありますが」

 

あー、人類の敵対者扱いね。まあそれなら気に入った奴だけ守ってあとは専守防衛で。

余りにも煩わしいようなら地球脱出すれば追ってはこれないだろう。

オルタネイティヴ5とかいう計画で宇宙船開発してるらしいけど、うちの艦隊を追跡出来るとは思えない。

正直、滅んでも良心が痛むだけですし。自給自足バンザイ。

 

「まずは何処に接触致しますか?」

 

文明レベルや余裕という点ではアメリカがまず候補に上がるな。交渉もかなり色々強請れるだろう。

ただ実際に関係を結ぶと後から色々うるさそうなのが難点だな。

どの道煩わしくはなるんだろうが、堂々と表立って接触する理由を与えてしまうとめんどくさい。

次点は日本か。将来性という点では2000年頃のサブカル超進化という実績がある。

BETAの事もあるし多少遅くはなるだろうが、こちらからテコ入れしてやれば面白い娯楽を提供してくれるだろう。

オルタネイティヴ4の本拠というのもプラスマイナス両方でポイントだな。

次はEU周辺。最激戦区だから戦闘というかストレス発散には事欠かないだろう。

最新技術を投入してやれば戦地独自の超発展を見せてくれるかもしれない。

とはいえ流石に激戦区過ぎるのもなあ。

オセアニアやアフリカ方面は半端に戦地から遠くて微妙だし、半壊滅政府スタートはハードモード過ぎる。

やはり将来性や干渉のしやすさも考えて日本で行くか。

となると今度は横浜に付くか帝国に付くか。横浜に付けば技術的な連携は取りやすいがアメリカがうざい。

帝国につけば表向きのしがらみはある程度減るが接触が難しいしそこそこハードモードでのスタートだ。

俺の脳裏で量子電脳がバカみたいな速度のシミュレーションを行なっていく。

不確定要素が多すぎるし情報も少ないが、電子的に保存されている情報はほぼ全て得ている。

なら当面の活動や対人環境等も考慮に入れて只管シミュレーションを行えばある程度の結論は出る。

ここはやはり……

 

「よし、おおまかなプランは決定した。後は野となれ山となれ。臨機応変に行こうか」

 

「人それを行き当たりばったりを言います」

 

ぐぅ。

 

 

 

 

「なるほど。それでうちを選んでくれたってわけね」

 

語調に皮肉をタップリと込めて返してやるものの、大した効果はないようだ。

相変わらず好青年といった様相でにこやかに相対している。

 

「まあ、一番接触しやすかったので」

 

「それはエサをチラつかせれば容易く食いついてくるという事かしら?」

 

「食いつかざるをえないでしょう?」

 

おもいっきり怒気を込めて睨んでやっても変化なし。

帰ってきた言葉はこちらのことは分かっているといった風の宣言にも聞こえる。

事実知っているのだろう。第四計画、第五計画、00ユニット。

ごくごく少数しか知らないハズの機密情報をぺらぺらと垂れ流す口から放たれたのは、

要約すれば「遊び場をくれれば人類のために戦ってやる」というある意味子供じみた提案だった。

 

実際問題00ユニットの開発は設計段階で頓挫しているし、それ以外でも有効な結果は残せていない。

当然彼らが持つ技術が魅力的なのも事実だが、だからといってはいそうですかと素直に頷けるわけはない。

 

「こちらの要請は至極単純。娯楽と市民権の提供、独立勢力としての容認、技術・戦術連携」

 

その対価が、目を疑うような超技術・超兵器・超生産力の数々。娯楽といった副産物まで含んでいる。

それらを技術起源が彼らであることを明示するだけで特許や権利の一切を放棄して完全開示。

一部例外を除き問い合わせには全て応えるという太っ腹。

正直、一も二もなく頷きそうになった自分を押し留められたのは自画自賛してもいいだろう。

 

「前後はいいとして、独立勢力としての容認はどういう意味かしら?」

 

「簡単な話ですよ。国連だろうがアメリカだろうが日本だろうが、どの国家・組織にも属さない。

 ある種の自治権が欲しい、そういう事です」

 

つまり、一つの自治区として各種協力を行うという事か。

これは要請と言ってはいるが内実は意思表明に近い。何処にも属さず、有事には自身の判断で動く。

勿論反発があるのを承知の上で、膨大な技術力を背景に頷かせるつもりなのだろう。

前後の要請はほぼブラフ。一番欲しいのは完全に独立した権限、というわけだ。

自由にやらせてくれれば協力は惜しまない。分かりやすくそれでいて自分達が上位であると確信している。

実際問題、我々が彼らに喧嘩を売った所で勝てるわけはない。

言葉通りなら1600年先の技術と、1個軍相当の人員数を保有している。これでは勝負にならない。

人類総軍で挑めばどうかは知らないが、BETA相手に纏まりきれていない時点で何をか言わんや。

 

「あなた達の技術がホンモノであるという保証は?」

 

「先行提供する技術書を見てもらえば。実物の提供用意もしています」

 

準備は万全、か。当然渡す必要が無くなればそのまま戦力として使えるのだろう。

議論に必要なものはくれてやるから好きなだけ議論して結論を出せ、という事か。

事実回答期限は設けないとしているし、回答が無い限りは協力も最低限に抑えるつもりらしい。

これは必要以上に刺激せず、議論しつつ落ち着かせる期間を設けるためでもあるはずだ。

その証拠にある程度の技術と現物の先行提供。

例え協力体制が整うのが遅くとも、先行提供した技術を我々が実用化すれば議論の間の時間稼ぎが出来る。

技術提供が止まっている間に先行提供された技術の実用化、彼らの技術を受け入れる地盤づくりを行う。

と、そんな所かしらね。

 

「完全公開というのは文字通りと受け取っていいのかしら?」

 

「部品一つの製造技術から計算式に至るまで、余すことなく。プライバシー情報など一部例外はありますが。

 それと、文字通り完全公開させて頂きますのであしからず」

 

つまり、どこか一箇所の組織に優先的に技術提供をする気はない、という事ね。

問われた情報は開示情報として誰でも確認出来る形を取り、逆に何を問うかはこちらで考えろと。

思考停止を許さないという意思表明でもあるのかしら。人形がほしいわけではないという事ね。

 

「まあ先行提供させていただいた情報もかなりの量ですし、ゆっくり議論してください」

 

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

半月前に異世界人だとかぬかして接触してきた時は正気を疑ったけれど、結局嘘では無かったようね。

この技術は現代ではありえない。少し目を通しただけで分かる程の超技術だ。

それがタダ同然で貰えるというのだから嬉しい限りなのだけれど、どうも読めないわね。

本人の言うとおり元々ただの一般人で、技術情報も隠匿する理由がないというなら確かに辻褄は合う。

実際話してみた感じでも現実味は無いけれど真実味はあった。

問題は、それを国連(アメリカ)の連中が信じるかどうか、信じたとして受け入れるかどうかね……

 

「ああ、ところで隣に居る霞さんと純夏さんですけど」

 

「――っ!あなたっ!?」

 

思わず懐の拳銃を取り出して構えてしまった。

しかしそれも仕方ないと言える程の威力を今の言葉は持っていた。

霞、社霞(ヤシロ・カスミ)はまだ分かる。

隣の部屋からリーディングを行なってもらっているし、彼女は正式に人員として登録している。

同じくリーディングが出来れば逆探知も出来るでしょうし、そうでなくても情報は調べれば出てくる。

しかし問題はもう一つの名前。鑑純夏(カガミ・スミカ)。

BETAにサンプルとして捕らえられ、脳だけとなってしまった彼女。

彼女に関する情報や痕跡は完全に消している。

そもそもリーディングで読み取った名前から戸籍を検索したのだし、元から彼女が鑑純夏であるとする証拠は無い。

それなのにこの男はそれを確信を持って言い切った。

霞レベルのリーディング技術を持っているという事の証左である。

 

「おお!?後期中世時代の炸薬式自動拳銃!?しかも現役!?すげえ!」

 

「……は?」

 

いや、待ちなさい。人がシリアスに思考している時になによそのリアクションは。

何?自動拳銃がそんなに珍しいの?――ああ、そういえば彼は未来人だったか。

恐らく彼の時代に火薬式の自動拳銃なんてものは無いのだろう。電磁加速か、あるいはもっと別の加速装置か。

私達にとっての武者鎧とか刀とかそんなレベルの扱いなのね。あーあー、すっかり目を輝かせて……

 

「ゴホン。いいかしら?」

 

「あ、サーセン。いやあ歴史的遺産レベルのものを見てついはしゃいじゃいまして」

 

何なのだろう、この無駄な敗北感は。こちとら最新鋭の火器の銃口を向けているというのに、

相手はまるでとっておきの骨董品を見せてもらったかのように目を輝かせている。

いや、彼にとっては事実そうなのだろうけれど。

そういえば彼の世界でいう後期中世、西暦2000年前後の文化が好きだと言っていたわね。

学業での専攻分野だとも言っていたかしら。彼曰く当時の言葉でオタクと言うらしいけれど。

 

「ごめんなさい、思わず銃口を向けてしまって」

 

本当ならもっとちゃんと謝罪しないといけないのだが、だからといって大事になっても困る。

彼が気にしていない内に流してしまうのが一番だろう。

と、思っていたのだけれど。

 

「ああいえいえ。大丈夫ですよ、炸薬式拳銃ぐらいじゃ怪我しませんし」

 

「………………は?」

 

こいつは新手のBETAか何かなのだろうか。

思わず思考が止まってしまったのも仕方ないと思いたい。

 

「我々で言う現代人は無数のナノマシンによる処理を施しています。

 肉体も細胞レベルで結合と再生能力を強化されているので、拳銃ぐらいじゃ傷なんて付きませんよ」

 

そうだ、これからコイツの事は人外として扱いましょうそうしましょう。

同じ人間として考えていたら頭が保たないわ……

 

「で、お二人ですが。霞さんはいいとして純夏さんですね。流石にあのままは心苦しい」

 

ようやく話が戻ったわね。さて、この話題を出してきたという事は今の鑑純夏の状態も、

そしてそれを私が何に使うつもりで居るのかも分かっているのでしょう。

苦言を呈すつもりにしては表情が穏やかね。事を荒立てるつもりは無いのか、特段憤慨しては居ないのか。

まず感情の判断基準が分からないというのが一番痛いわね。

同じ世界の人間相手ならモラルや感性に訴えたり気をつけたりも出来るけれど、

ここまでジェネレーションギャップがひどいとそうも行かない。

 

「我々の再生技術でしたら脳細胞の遺伝子を元に完全な肉体の再生が可能です。

 脳の量子電脳化はナノマシンで可能ですし、人格と記憶の復元・削除もある程度は見込めます」

 

――わたしたちのがんばりって、なんだったのかしらね。

ゴホン。兎も角、朗報は朗報。脳の量子電脳化が誰にでも出来るなら私自身が00ユニットになる事も可能だし、

彼の言葉通りなら鑑純夏も完全に治療してやる事が出来る。

彼女が呼び続けている人物は死去しているようだから会わせてあげる事は出来ないけれど……

 

「その辺は協力の正式締結後、という事で」

 

全部を善意だけで面倒見るつもりはない、という事ね。

まあ今回はこのぐらいでいいでしょう。正直成果が膨大すぎて纏める時間が欲しいわ。

関係各所との調整も必要だし……ああ、折角基地の稼働が落ち着いて休めると思っていたのに。

 

「――はい、それではこれで全て終了ですね。良い回答をお待ちしています」

 

そう言って彼は退出していった。

部下に命じて追跡させたけれど、基地を出て少し離れた所で光になって消えてしまったらしい。

まさか、白昼堂々と超能力とやらを使うとは。実演のつもりかしら。ほんと、頭が痛いわ。

 

「博士」

 

こめかみを抑えて唸っていると、隣の部屋から出た霞が部屋に入ってきた。

リーディングは早々に看破されたため好きにさせていたけれど、一度も報告を送ってこなかったわね。

 

「あの人に、お話を聞かせて貰っていました」

 

お話?誰かと話している様子は……ああ、リーディングもどきが使えたのだったわね。

つまり私と流暢に会話しながら霞と話をしていたと。

実に便利な事で。正直私も欲しいわね、量子電脳とやら。

 

「古典や昔話で、アニメというそうです」

 

アニメ?アニメーションの略だったわね確か。

複数の絵を高速で連続表示して動画に見せるもので、彼の世界の西暦2000年頃に日本で流行ったと言っていたけど。

リーディングもどきが出来るならイメージを伝える事も出来るだろうとは思っていたけれど、

まさか映像をそのまま見せる事が出来るなんて……ほんとに欲しいわね、量子電脳。

 

「霞、その話また後でいいかしら?」

 

「……はい」

 

少し眉尻を下げる霞。どうやら感動を誰かと共有したかったようだ。

この子がここまで感情を表に出すなんて珍しいわね。

なんにせよ、今はダメよ。これ以上彼らに関する話を聞いたら本格的に頭痛でぶっ倒れるわ。

 

「それじゃ、起きたら呼ぶからあなたも休んでなさい」

 

というか、私を休ませなさい。

 

 

 

 



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2話

 

「お帰りなさいませ、ライル様」

 

旗艦ファミノイア(旧第18星系語で"偏執"の意。俺的に分り易く言うと"オタク")に到着した俺は、

エリスを含めたアンドロイド数名の暖かい歓迎を甘受する。

アンドロイドとはいえ、やはりいい女に迎えられるというのは男冥利に尽きるものがある。

これで柔らかな抱擁でもあれば言うことは無いとか思っていたら、

器用にもうっすらと口元を緩め耳だけを赤くしたエリスが無言でやってくれた。

相変わらずのクーデレさんである。他のアンドロイドと比べ強い個性と能力を持つだけあって非常にイイ。

彼女の存在自体には今はすっかり慣れたものだが、それでもあの地獄から逃げ延びた後なのだから感動も大きい。

そういえば、今回の外出までずっと艦内に篭りっきりだったか。

旗艦であるファミノイアにはちょっとした繁華街があったりして引きこもり的な印象は余り無いが、

それでも一切艦から出ないというのもそれはそれでどうかという所だろう。気をつけねば。

 

「テレポーテーション反応収束を確認、異常ありません」

 

若干名残惜しそうに離れたエリスの言葉に釣られるようにこちらも誤差を確認する。

先ほど俺が用いたのは、サイコドライブユニット(通称SDユニット)と呼ばれる機構による瞬間移動である。

このSDユニットの原理は専門的過ぎる上に理解している科学者自体殆ど居なかったらしく、

当然ごくごく一般人であると自負している俺がその詳細な理屈を知っているわけがない。

量子電脳によるネットワークのデータベースにも概要しか載っていないぐらいの超技術だ。

 

その概要を簡単に思い浮かべてみる。

まずSDユニットは人間が持つ意思エネルギーを増幅・取り出して物理物質・物理現象に干渉する機構である。

これだけ言うと俺の世界でもかなりの眉唾技術であるが、一応理屈で説明は付いている。

情報にも物理的なものではないいわゆる情報エネルギーと呼ばれるものが存在しているらしい。

色々証左はあるらしいがこの場で考える事でも無いので割愛。そもそも知らん。

データベースを漁ればある程度は出てくるだろうし理解も出来るだろうが、そこまでする程の事でもない。

 

で、その情報エネルギーを物理エネルギーに変換あるいは作用して様々な物理現象を引き起こすのがこの機構。

元々人類由来の技術を用いて作られ、UBE由来技術の習熟によって大幅なブレイクスルーを行なっている。

おかげで紛うことなき最先端技術なのだが、それを全人類へと即座に普及させてみせたのだから、

全人類統一政府の本気っぷりとそんな怪しげな技術に頼らざるをえない人類の窮状が想像出来るというものだ。

 

思考が逸れたが、兎も角この機構の凄い所はその汎用性にある。

なにせテレパスからテレポートからサイコキネシスから、思いつく限りの全ての超能力が再現可能だ。

当然火を起こしたり弾体を加速したりなど朝飯前。

俺ぐらいの強能力者であれば機械の補助無しで瞬時音速突破ぐらいはしてみせる。

先ほども小型の外部補助装置と脳内の高性能ナノマシンを介した複合サイコドライブにより、

このファミノイア艦内へと直接転移してきたのである。

時間差コンマ以下、座標誤差も数ナノメートル以下。我が事ながら流石の精度だ。

 

「SDユニットに問題は無いようですね」

 

「ああ、生身でどうなるかは少し不安だったからな」

 

元々研究途上の技術である。当然、何が原因でトラブルが起きるか分かったものではない。

半世紀近く全人類に使用されたことで日常レベルからある程度の非常時レベルでも稼働は確認されている。

とはいえ別世界への転移となればどんな悪影響が出るか分かったものではない。

一応エリス隷下のアンドロイドが先行実験はしてくれていたが、

だからと言って生身の人間が使ってなんともないとは限らないのである。

幾ら彼女達がナノマシンで人道無視レベルの"調整"を施してある以外身体的には生身の人間と変わらないとはいえ、

SDユニットにおいて最も大事なのは能力強度を決定する意思力と魂とも呼べる人格だ。

あくまでデータのコピー・調整品に過ぎない彼女らは全員が平均的かつ安定した出力を持つが、

逆を言えばどこぞのコッミクヒーローがやらかすような勇気で超パワーアップなどという事は出来ない。

平均値以上の数値を引き出せる所謂"特異体"はエリス含め少数しか居ない。

当然仕様が違うのだから問題が出る可能性も無くはないわけで、ちょっとドキドキしたのは内緒である。

 

「問題が無いようで何よりです。検証班からも問題なしとの報告を受けていますので、以後制限を解除します」

 

当然量子電脳のネットワークで既に説明は受けている。

しかしこういった口頭でのやりというアナログはどれだけ人類の生活がデジタル化しても、

確実性の向上や心理的要因を含め様々な意味で有用である。

ココらへんの必要性の違い、あるいは普段それらアナログに接しているかどうかが能力強度に関わるらしいが、

やはり一般人である俺が詳しい理論を知っているわけもない。

どちらにせよ彼女らと違い人間である俺は彼女らの数倍の平均能力強度を有するし、

最高水準の特異体であるエリスと比較しても三倍以上の能力強度を誇る。

理論的最大時には単独星系間ワープや全重力反転崩壊(惑星のブラックホール化)といった、

物理法則無視というかこの世界からすると常識を冒涜するかのような荒業すら可能らしい。

さすがにそんな無茶苦茶やらかせばあくまで生身の人間である俺はタダで済まないのは確実だが。

火事場のクソ力とか、足りない分は勇気で補えばいいを本気でやらかしてしまっている超システムである。

 

「そういえば結局この世界に来た原因は分かったのか?」

 

ブリッジへと着いた俺はきっちり埋まったCICで黙々と作業をこなすアンドロイド達を一瞥し、

特に異常が無さそうな事を確認しつつ指揮官席へ着席しエリスに尋ねる。

直接的な原因は当然宇宙脱出計画だが、勿論ただ来れたからといって大成功、とは行かない。

UBEによる追跡の可能性の有無や各所への問題を脇に置くにしても、

今後同様の事態や緊急時等において再び転移可能であるかを調べる必要がある。

何度も行き来出来るようであれば、逃げ遅れたかもしれない同類の救出や相互連絡も考慮すべきだろう。

 

「はっきりとした原因は未だ判明していません。私達の共通見解で良ければございますが」

 

控えめに言うが、実はこれ向こうの世界基準でもそこそことんでもない言葉である。

多少話は逸れるが、基本的にコンピュータの演算においては計算速度よりも並列処理能力が重視される。

勿論今の計算をさっさと終わらせて次の計算に移る性能は高いに越したことはない。

並列処理の向上だけではいずれ頭打ちになるのも事実ではある。

とはいえ現代において一本道の計算で済む様な単純計算を行う機会は非常に少なく、

彼女たちは人間の思考を模倣している関係上同時に行う必要のある処理量も膨大だ。

となれば少々の計算能力向上より、もう一台同じコンピュータを用意して並列計算した方がいいのは事実。

 

で。そういった点で彼女たちは非常に優秀である。

元々俺を含め元の世界では人間アンドロイド問わず量子電脳化処理を施されていた。

これはナノマシンを用いて脳内に量子シナプスネットワークとそれを用いた演算装置を構築し、

それを脳内シナプスと接続する事で人間の脳に最上級の量子コンピュータの性質を与えるというものである。

アンドロイドである彼女らがほぼ生身なのは、この量子電脳やSDユニットなどとの兼ね合いの問題だ。

政府などで使われていた異常なレベルの性能のコンピュータを除けば、単体最高峰の演算性能を持つこれら。

それを大型化・高性能化させたものが我が艦隊の各艦に搭載されており、

その上常勤で9万人近く居る彼女らの須らくにこれが搭載されている。

ナノマシンを注入するだけなので非常に安価かつ容易というのも普及の理由の一つだろう。

 

そして、その万単位の量子コンピュータ全てが量子通信によって常時ネットワークを構築している。

最新技術によって銀河系の端から端まで誤差1時間以内で届ける通信を用いており、

その暗号化技術と量子コンピュータらしい特殊な暗号化法によるセキュリティは非常に高レベル。

10万人規模のネットワークであれば政府の最新鋭異常スペックコンピュータでも解読に丸一日を要するほどだ。

傍受も妨害も受けること無く時間の概念を超越したかのような速度で相互通信を行う10万規模の量子コンピュータ。

その並列処理能力はもはや今更何をか言わんや。

正直その処理能力の0.0000001%未満でもこの世界のネットワークを軽く制圧出来るだろう。

そんな彼女たちが得られる限りの情報を元にシミュレーションと理論解析を行ったのだ。

もはやそれは神の啓示とか最高レベルの未来予知にすら匹敵するレベルである。

疑う予知など寸分たりともありはしない。

 

「――以上の根拠から、ライル様の高強度能力と私達10万人規模のSDユニットの相互共鳴によって宇宙を脱出、

 ライル様の知識量・個人的意識に従ってこの時代にワープアウトしたのではないかと思われます」

 

思考しながら送られてくる複数のデータを吟味しつつ会話。さすが量子電脳。

相手も量子電脳を有していることが当たり前だったので、現地住民と交流の際は処理能力の違いにも気をつけねば。

ともあれ、推測は大きく外れてはいないだろう。理屈を置いておいても理解できなくはない。

前述の通り彼女達にもSDユニットは搭載されているし、中心核となる俺の最大能力強度は人類屈指だ。

なにせ後方の民間人だったのを能力強度だけで最前線に回され、

そして能力強度と度重なっていく戦闘経験だけで激戦を生き抜いてきたのだ。

強度判定もSS++という事実上の測定限界ギリギリという判定を貰っている。

能力強度は意思力によって増減するものの、最大出力自体は完全に先天的資質に依存するとのこと。

人類全体でも100居るか居ないかの能力強度が10万規模の能力者と同時にワープ一点に絞って発動。

その上生き延びるかどうかの瀬戸際でこれまでに無いほど意思力は最高潮だっただろう。

正直、元々のSDユニットのデタラメさを考えれば世界の一つや二つ超えても不思議はない。

後は俺の知識やイメージに影響を受けてワープアウト座標が決まったのだとすれば、辻褄は合うのだ。

 

「ともあれ、検証はこれで終わり。分析は優先度を落として最低限維持してくれ」

 

「畏まりました」

 

今の報告で分かったのは、要するに帰還および再脱出は不可能であるという事。

元々が運賦天賦の上に相当低い確率だったし、救出や興味本位のために同等の能力強度が出せるとは思えない。

そもそも試行回数が少ないため完全な結論は出せない上、

エネルギーやオーバーホールを考慮すればそうそう何度も取れる手段ではない。

なにせ転移先が今回同様安全であるという保証は何処にもないのだから。

もう一度宇宙脱出を行うなら何かしら技術的なブレイクスルーか理論的な解明が必要だろう。

それはウチの研究開発班に丸投げしてしまえばいい。

余裕があるとはいえ10万人の処理能力を費やすほど優先度の高い事項でもない。

 

「続いて、部隊の準備状況ですが」

 

そうそう、地球側で結論が出るまでに対BETAの準備を整えておくように指示を出していたのだったな。

まずもって異世界転移の影響か大多数の人員に多大な負荷が発生、機能が半減してしまっていた。

そのため即座に予備人員と交代し"調整"を行なっていたのだが、それは既に完了している。

ちなみに予備人員といっても肉体を予備と交換しただけで中身の人格はそのままである。

元々彼女らの本体は量子電脳内に構築された擬似人格データであり、

定期的にバックアップが取られているそれらは例え肉体が全損しようとも新しい体にインストールし復旧可能。

調整中も含め稼働中人員と同数の予備体があり、我が艦隊にはそれら全員を完全稼働させるだけの設備がある。

実は何時も俺の隣に侍っているエリスも週一ペースで肉体を取り替えていたりする。

そこまで消耗が早いのは夜のお相手とかに使っているせいであって他の個体はもう少しローペースなのだけど。

アンドロイドが一般的に普及していた俺の世界では、童貞や処女は死語だったりする。閑話休題。

 

「現在艦隊の再編成と増産体制に入っていますが、いかんせん資源が足りていません。確保は急務です」

 

その問題があったか。確かに我々の艦隊はかなりの戦力と員数を要しているが、その分消費も大きい。

ごく簡単かつ小規模なテラフォーミングが出来るぐらいの員数と技術はあるのだから、

適当な資源衛星か何かを確保できれば当面の補給物資はどうとでもなる。

資源衛星ぐらいならその辺の宙域をふわふわ漂っているのを引っ張ってくればいい。

事実先行派遣した一個師団が3つの小型資源衛星を確保し、取り込み作業に入っている。

問題は現在予定している艦隊増産とコロニー建設プランの実施で必要となる膨大な資源量である。

資源がどうにかなれば、最新技術と施設部隊を動員すれば一ヶ月もあれば"ガワ"ぐらいは用意できる筈だ。

 

「一番いいのは火星解放。月は人類の手が一度及んでいるから論外として、次点で木星辺りか」

 

木星周囲の衛星ではなく、木星そのものである。

この時代では資源といえば精々分解と圧力等による形成ぐらいしか応用手段がないが、

我々の世界では物質を電子配列レベルで弄る事が出来るためレアメタルとかいう概念自体が存在しない。

電子配列や化合物などを含む膨大な設計図を保存し瞬時に出力できる演算能力と装置があるのだ。

そのためどんな金属だろうが食物だろうが、理論上存在しうるものは全て生成可能。

ガス状の星の方が回収効率が良い分原子密度は薄いのでどちらが良いと一概に言えるわけではないのだが、

今後人類が到達する可能性のある星の資源を食い荒らすよりはまだマシだろう。

何より木星であればBETAの脅威が存在しないというのが大きい。

予想通りとんでもないことになっているらしい各衛星にさえ近付かなければ邪魔される事も無い。

ああ、そういえば人類が感知できていない火星以遠のBETA関連情報も武器にもなるが当面は伏せておこう。

火星なんぞ生ぬるいレベルのハイヴとBETAで地球圏が覆い尽くされていると知ったら集団自決でもされかねない。

 

「資源衛星には本隊の施設部隊と補給部隊を向かわせ、前述の1個師団は木星で回収に当たらせます」

 

「そうしてくれ」

 

態々俺が考えるまでもなく様々なリスクやメリットを考えて判断してくれるのは非常に楽でいい。

前の世界じゃ彼女らの有能さに胡座をかいていられる余裕はなかったが、

この世界なら悠々自適に堕落生活を堪能する事も出来るだろう。

言い方は悪いが、この時代の文明相手に手こずっているようなBETA相手に負ける気はしない。

1600年分の技術格差は伊達ではない。

 

「とはいえ流石にほったらかしは不味いか。一度出撃しておくべきかな?」

 

「ライル様の思うままになさって下さい。雑事は私達が処理しておきます」

 

こんな事を態々口にする辺り本当は心配してくれているようだ。ういやつめ。

ともあれ彼女らは優秀なので、俺が草案を描けば最良の形で実現してくれる。

最終的には10億人規模のコロニー群を幾つか製造し、1000万規模の部隊を揃えたい。

とはいえそれは人類の技術力向上も合わせてウン十年単位の計画なので、

取り敢えず当面は1000万人が生活可能な中型コロニー1基と3個師団艦隊の増産を視野に生産体制を整える。

中型コロニーが1基あれば拠点には困らないし、

コロニー自体にワープ装置などの大型航行装置が付属しているため移動拠点として利用可能だ。

各種資源の利用や研究開発も考えれば拠点は早急に用意したい所なので、最優先で製造させる。

後は我が艦隊の旗艦隷下師団を除く3個師団と同数の兵員を増産できれば、兵力に関しても問題無いだろう。

あちこち出張させる予定なので増産はどんどん行なっていくが、それはコロニー完成後順次安定生産すればいい。

 

「最高部隊単位を一つ繰り上げる必要がありそうだな」

 

「合わせて再編を行います」

 

まあそもそも個々人がネットワークで繋がっているため、部隊単位や階級に余り意味は無かったりするんだが。

元の世界では10万単位の戦力を持ってようやくこの世界で言う歩兵1人分の扱いだったのだ。

武器や道具一つ一つに階級を与える事が無いのと同様、彼女らにも正式な階級とか部隊識別は無い。

相手が数と個体性能によるゴリ押し戦術を採っていた事や、

ネットワークによって階級等の取り決めなど無くとも一糸乱れぬ連携が可能だった事から、必要とされなかった。

人間でない彼女らに対してその手の人権が無かっただけと言えなくもないが。

『太陽系人類軍民間部隊BOC-088番第30375号戦略機甲兵団』という部隊名のみが正式に与えられたモノ。

それ以外の階級や部隊単位は全て俺が趣味で勝手に決めたものである。

俺の最終階級は准佐、うちの部隊の最高階級はエリスの大尉である。

 

「ともあれ何にせよ、出撃だ出撃。片っ端からミンチよりひでえ事にしてやんよ」

 

「部隊の出撃準備を整えます」

 

すっかり思考が逸れてしまっていたが、兎も角戦力比の把握は急務だ。

曲りなりにも人類を絶滅寸前まで追い詰めているバケモノ共が相手なのだから、油断はしていられない。

効率良く駆逐できるようなら、死骸を回収して解析に回したり分解して資源利用も出来るだろう。

できる限りの情報を集め可能な限りの対策を用意し思う存分駆逐してやる。

これまではUBE相手にしてやられてばかりだったのだ。

積年の恨みつらみと溜まりに溜まったストレスを思い切りぶちまけてやる。

さあ!戦争だ野郎共!(女所帯だけど)食い放題だぜ!(資源利用的な意味で)

 

 

 

 

さて、いざ出撃するにあたって俺達が所有している戦力について確認しておこう。

まずは艦隊。とはいえこれは居住・運用設備という意味合いが強く、余り前線には出ない。

勿論強固な防御性能と絶大な火力を有する大型艦はこの時代では無類の戦力であるし、

高い生産力から生み出される小型艦と航空艇の特攻力にも目を見張るものがあるだろう。

航空艇でアンドロイド5人、旗艦であれば1200人規模での運用が前提となっているだけありそれぞれ巨大である。

旗艦に至ってはどこぞの殴り込み艦隊よろしく1万メートル近い巨大さを誇っている。

とはいえ、それはあくまで機動兵器運用のための艦に過ぎない。

戦力の中心となるのは艦の巨大さに反比例し全高3mにも満たない機動兵器群である。

 

マルチアームドフレーム、通称をMAF。

所謂乗り込むタイプのロボットではなく、人間やアンドロイドが装着するパワードスーツタイプの兵器である。

デザインはかなりの自由が効くため様々あるが、

基本的に曲線で構築される素体に直線的なフォルムの追加兵装を装備する形となる。

大型のSDユニットや各種センサー類の搭載によって頭部が非常に大型化されており、

四肢や胴体も人工筋肉や各種機構のために肥大化。

結果的に3頭身のスーパーデフォルメのような外見になっている。

その割にスマートさを感じさせるのは長年繰り返された開発によって洗練されている証でもあるだろう。

 

MAFは膨大な数を必要とされる事から規格の統一や互換性に重点が置かれた兵器であり、

同じ素体を人間とアンドロイド両方が使用可能。

更に外付けの装甲や装備を自由に付け替える事で様々な戦況に対応する柔軟性を確保しており、

SDユニットを利用した転送技術による瞬時換装を使用すれば一気に戦闘スタイルを変更する事が可能。

搭乗者も大多数がアンドロイドであり、ネットワークによってデータを共有・蓄積・自己成長する。

そのためあらゆる装備や戦術を全ての個体が同等に扱う事が出来る。得手不得手というものが存在しないのだ。

軍において完全に平均化された兵群というのは理想の形の一つである。

その兵群が戦況に応じて自在に装備を換装し、一糸乱れぬ連携を発揮する。

この世界の住人からすればある意味悪夢のような部隊だが、向こうの世界はこれがデフォルトである。

 

装備は最低限の機能しかない素体を基本とし、

軽量級の装備や装甲・中量級の装備や装甲・重量級の装備や装甲といった戦闘用の基本装備の他、

補給及び支援用の装置群・土木施設工作用の装備群など直接戦闘用以外の装備も充実している。

脚部形状も二脚やら多脚やらホバーやらキャタピラやら様々で、

軽量二脚歩兵など何処かで聞いたような呼称をされる。

 

また大型の頭部を専有している大型SDユニットによって増幅された意思エネルギーを動力としており、

各部の駆動・弾体の加速・攻撃威力の減衰など様々な用途に使用される。

機動力だけを見ても超音速で慣性など知ったことかと言わんばかりの軌道を描く。

切断性を増幅した斬撃やレールガンすら凌駕する初速で発射される弾丸など、攻撃力も非常に高い。

自身に対する攻撃の防御能力も高く、装甲面に触れたあらゆる有害エネルギーを減衰・拡散させる事が可能。

西暦2000年台の兵器であれば核兵器の直撃すら耐えうる圧倒的な防御力を誇る。

ただし意思エネルギーを用いる原理上精神的消耗が避けられず継続戦闘時間に一定の限界がある点と、

人間と比べ能力強度が低いアンドロイドでは3分の1から5分の1程度の能力しか発揮できないという弱点がある。

それでも現行兵器と比べればかなり強力である事は確かで、

計算上のキルレシオは量産型MAFと戦術機不知火で大凡10対1。

BETA相手の撃破数なら不知火が1体の突撃級を相手している間に小型種大型種合わせて100以上撃墜出来る。

あくまで試算なので現実では衛士の技量含め誤差があるだろうが、それでも大きくずれはしない筈だ。

 

ちなみに、なぜ3mクラスのパワードスーツなのかはちゃんとした理由がある。

意思エネルギーの影響範囲、つまり頭部大型SDユニットの増幅効果範囲が一定に限られるためである。

正確に言えばテレパシーやテレポートなどの特殊な指向性や原理を用いる場合以外において、

肉体から一定以上の距離を離すと極端なほどガクッと効果が低下するのだ。

脳周囲はある程度範囲が確保されているのだが、胴体や四肢の場合体表面から2mも離れれば殆ど効果を失する。

そのため各種装備の最大全長は約2m以内に収められており、例外はかなり少ない。

それらの例外も専用に指向性を保たせ出力を上げた意思エネルギーを用いる事が前提となっている。

他にも想定されるUBEが巨大なため小型にした方が多数のUBEを同時に相手する危険性が減るなどという効果もある。

一匹のアリ相手にゾウが攻撃しようと思えば一度に攻撃できる頭数は限られるのと同じ原理である。

それ以外にも宇宙では大気や重力による減衰を考慮する必要がなく、

またMAFの高出力であれば絶大な射程を確保する事が可能である。

このため小さいサイズでありながら非常に広範囲をカバーしながら戦闘する事が可能である。

こうした理由から、宇宙規模の戦争でありながら3m級という非常に小型の兵器が正式採用される事となったのだ。

 

『各員出撃準備完了。旗艦隷下1個師団の出撃となります』

 

さて、そんな事を思い出している間におおよその準備が整ったようでエリスから通信が入る。

俺も既に自分のMAFを装着しカタパルトで待機している。

ウチの1個師団は純戦闘用MAF5000機強と補給部隊や施設部隊などの後方部隊が4000機強、

師団直下の諜報部隊や指揮部隊、指揮部隊護衛用の機動防御部隊が合わせて3000機強、

合わせておおよそ13000にも及ぶ大部隊となる。

それ以外に戦艦級から航空艇まで含めた艦船の稼働用人員が5000人強、合計で18000もの人員を抱えている。

旗艦ファミノイアには更に3000名の乗員と研究開発人員など含め12000の人員、計15000が搭乗している。

今回は旗艦は動かさないので、俺は師団指揮用の戦艦級に搭乗する事になる。

うちの部隊の何よりの強みは、戦術機と同等以上の機体を歩兵と同じ感覚で使えるという点だろうな。

 

「指揮権は俺が持つ。副指揮はレイア、行けるな?」

 

『ああ、任せろ。久々の実戦だ。私の力を魅せつけてやろう』

 

網膜ディスプレイに獰猛な笑みを浮かべた美女が投影される。

個体名レイア、エリスと同様通常のアンドロイドよりも高い個体性能を有する特異体の1人だ。

容姿は赤髪ポニテの鋭い顔つきをした美女。最初は黒髪だったのだが、なんとなくイメージで変えさせた。

特異体は基本的に特別可愛がったり人間と交流を行う事で発現するパターンが多く、

彼女もその例に漏れず俺が特別可愛がっている個体のウチの1人である。

強い自信と自尊心、それに違わぬ実力を持つうちの部隊の特攻隊長である。

データ共有しているため本来なら全アンドロイドが同等の戦闘力を持つはずなのだが、

能力強度という点を除いてもずば抜けた戦闘能力とセンスを有している謎個体である。

 

「よろしい。それじゃあ派手に飛ばして行こうか。作戦行動開始!」

 

『Yes sir!』

 

完全に同期した完璧な応答が帰ってくる。何度経験してもこの瞬間は快感だな。

さてさて、どれだけ抗えるだろうか。ま、できる限りやってみますか。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

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―――

―――

 ∞

 

「なん、だよ、これ……冗談だろ?」

 

おかしい。こんなはずじゃない。こんな筈じゃあ無かった。

油断があったわけじゃない。慢心していたわけでもない。

だからといって無謀と勇気を履き違えていたわけでも、ましてやこんな所で死力を尽くす気もなかった。

純粋な戦闘力の比較として、膨大な計算の末はじき出された理論値として、自信を持っていた。

なのに、なんだこれは?いったい何が起きているんだ?こんな事があっていいのか?

 

『現在状況を報告致します。仮称"M01"ハイヴ、地球側名称マーズゼロ、反応炉の停止を確認』

 

よ、弱すぎるだろこれえええええええっ!?

いやいやいや、待て待て待て!?え、なにこれなにこれなあにいこれえ!?

 

『ライル、落ち着け。気持ちは分かるが動揺し過ぎだ』

 

う、うむ。レイアの美貌のおかげで落ちつけた。流石アンドロイド。人間じゃ有り得ない美貌だ。

いや、それは脇においておいて。まずは目前の問題をどうにかしなくては。

取り敢えずこの後はできる限り資源を回収し、BETAの再侵攻を確認したら撤退する。

BETAに再侵攻の予兆が確認されなければ、このハイヴの要塞化も考慮し計画を立ててある。

フェイズ9のハイヴなので、資源量も情報量も規模も中々のものがある。

 

それはいい。いい事だ。問題はBETAの余りの弱さである。

あ、ありのまま起こったことを話すぜ……

俺はBETAの密集地帯に威力偵察を行なっていると思っていたらいつの間にかハイヴを落としていた……

な、何を言っているのかは大体分かると思うが俺は何をしているんだ……?

鎧袖一触とか俺TUEEEEEとかそんなチャチなもんじゃねえ……

もっと恐ろしいものの片鱗を味あわせちまったぜ……

 

簡単に言うと、こんな感じである。

 

『うむ、間違っていないな。見事な状況整理だ』

 

『レイア、そこは褒めるべきセリフではありません』

 

いや、兎も角勝てたのは良かった。しかも損害0である。

幾ら1個師団とはいえ、100万規模のBETA相手に撃墜0で抑えられたのだからここは喜ぶ所だろう。

しかし、それ以上に納得行かない。人類を瀕死まで追い詰めているバケモノがこれでいいのか?

勿論ここにはBETAにとっての天敵が居ないため戦闘力が低いというのも分かる。

対人間用である小型種は存在せず、対航空機用のレーザー種も存在しない。

その分大型種の数がえげつなかったが、パターンの少ない敵ほど不慮の事態が減るのは事実。

確認されていなかった掘削輸送用らしき超大型種も発見したが、それ自体に戦闘力は無かった。

だからといって、これは余りにも弱すぐるでしょう?

 

「なあ、これ俺ら本気出せば火星制圧出来ね?」

 

『弾薬の消耗が激しいためある程度ペースは限られますが、おそらくは』

 

おいおいどういうこっちゃ。

そりゃあ適当に爆進してたら反応炉を見つけただけであって全てのBETAを殲滅しながら来たわけでもない。

機動力に物を言わせて突撃してたら反応炉を見つけただけだ。

実際に殲滅しようと思えばそれなりに手間はかかるだろう。

だがBETA自体、反応炉というエネルギー源が無ければ勝手に死滅してくれる。

つまり反応炉を潰しまくればあとは1日ぐらいほっとけば勝手に死んでいくのだ。

これなんてイージーモード?むしろチュートリアル?

 

『ですがBETAの撤退は未だ確認されていません』

 

ん、確かに変だな。反応炉を破壊したのにBETA共はまだわらわらと寄ってくる。

本来なら最寄りの反応炉へと向かって帰巣する筈だ。

それをしないということは、ここにBETAにとって反応炉より重要な何かがある?

おいおい、初耳だぞそんなものは。

 

『ここマーズゼロは火星のオリジナルハイヴです。指揮官に相当するBETAが存在する可能性が有ります』

 

さしずめブレイン級、ってとこだろうか。

少なくともここまで来て尻尾巻いて帰るわけにもいかないので、ちゃっちゃと見つけてしまおう。

ハイヴの構造から考えて兎に角ひたすら潜っていけばその内辿り着くはずだ。

量子通信によるデータリンクは上々、ハイヴ内でもちゃんと機能しているようである。

マップデータからBETAの位置・数まできっちり確認できているし、深度や各機の状態も正確に把握できている。

 

『――っ!ライル。先行させていた部隊がブレイン級と思わしきBETAを発見した』

 

こちでも確認した。そして映像を展開して後悔した。なんだこのチ◯コ。

こんな気色悪いもん網膜投影で見せられたらたまったもんじゃない。吐くかと思ったわ。

はっ、まさかBETAは早くも精神攻撃を学習してきたというのかっ!?お、恐ろしい……

 

『ライル様、頑張って緊迫感を出そうとしても無駄です』

 

うん、周り味方に囲まれてる時点でわかってた。

寄ってくる前に勝手に迎撃して殲滅してくれるから楽なものだ。

最初は無双でヒャッハーだったのだが、弱い割に数ばかり多くてすぐに飽きてしまったのだ。

せめて光線級が居るか木星圏レベルの数が居れば違ったのだろうが、このぐらいだと蟻相手と変わらない。

そんな事を考えている内に広間に到着。中央に見えるチ◯コが仮称ブレイン級のようだ。

取り敢えず取り押さえているようだが、これからどうしようか。まあ、概ね決まっているのだが。

 

「せいや」

 

あらズバッとな。鎧袖一触とは言ったもので、長刀を一閃したら簡単に真っ二つになってしまった。脆い。

ともあれこれでハイヴ攻略完了。BETAも慌てて反転し撤退していく。近くのハイヴへと向かうのだろう。

流石に生きたブレイン級を背後に無数のBETAとやりあうのは現実的ではなく、

そもそも星ごとに居ると思われるのでここで無理に生きた状態で確保する必要は無い。

どんな能力を持ってるかも分かったものではないので、まずは死骸をサンプルとして解析する。

その結果を踏まえた上で生きた状態のものが必要であれば木星圏辺りで拾ってくればいいだろう。

 

『ふむ、あっけなかったな。こんなものなのか?』

 

不思議そうに首を傾げるレイアだが、それは俺のセリフでもある。

というか人類存亡をかけてうんたらとか悲壮な決意でどうたらとか、ガン無視してしまった。

流石にどうかと思うので次回からは多少自重しよう。

地球で適応進化したBETAはもう少し強いのだろうが、それでも4個師団投入すれば問題なく制圧できそうである。

全員アンドロイドなので俺抜きで攻略できれば実質損害は修理コストだけだ。

それとて資源は腐るほどあるし時間も1ヶ月あれば1個師団ぐらいは補充できる。

後は防衛に1個師団ずつ残していけば奪還される事も無いだろうし、

そもそも地球のハイヴはフェイズが低い。最大でもフェイズ6という事はこの火星で考えれば最弱。

あれ?これ人類勝ったんじゃね?

 

『よくよく考えれば、1600年前の文明で互角に戦えるのですから当然と言えば当然ですか』

 

この時代で言ったらなんだ?おおよそ古墳時代?

古墳時代の連中がひーひー言っている相手に戦闘機とマシンガンでヒャッハーする現代人?

……なにそれこわい。

 

『しかし火星なら兎も角、これは不味いですね』

 

デスヨネー。

あくまで俺が欲しいのは娯楽と市民権なのだ。自治権は無いと色々面倒が多そうだから言ってみただけである。

それなのに世界の脅威認定でもされたらやってられん。

というか、そこまでされて世界のために戦ってやるほど人間出来ていない。

かといって生身の人間が俺一人だけというのも流石に寂しい。

つまり……

 

「縛りプレイktkr(キタコレ)!?」

 

『落ち着け』

 

サーセン。

とまあ冗談を言ってみたが状況は割りと洒落になってない。

脅威認定されない程度の技術と戦力見せつつ人類を守りBETAを駆逐……きついなオイ。

かといって自重をやめたら確実に第二のBETA扱いされてしまう。

もしくは完全に心折れて隷属。やだよ俺世界征服とかそんな面倒なの。

技術力ならある程度は高くても大丈夫だろうが、それを運用できる過剰戦力があると知られると不味い。

つくづくこの前の接触では現時点の地球人類が理解若しくは再現可能なものに留めておいて良かった。

 

『火星でも自重した方がいいだろうな。流石に独力で殲滅などしたら決裂だろう』

 

だろうね。俺だって同じ立場だったら怖い。1600年後の未来人が自分のおうちの隣でヒャッハー?こえーよ。

でもそれが手に高級お茶菓子持ってにこやかに引越しの挨拶してきたら?俺ならお茶の一つは出す。

というわけで、今後はなるべく力を隠蔽する方向で進めよう。

ブレイン級の情報を公開する際は決死の特攻作戦で奪取した事にすればいいだろう。

どちらにせよ今の人類にとっては火星にBETAがうじゃうじゃ居ようが関係無いし、

俺達が提供した技術を元に発展して行けばいずれは自力で攻略出来るだろう。今の俺達のように。

 

「あ、いい事考えた」

 

そうだ、それがあった。元々俺達の艦は宇宙を旅できるのだ。

ならばBETAの本拠に乗り込むのも一興じゃなかろうか?

少なくとも銀河の辺境である地球圏でこうなのだから、よそはもっと酷いだろう。

もしかしたら今度こそ第二の人類が居るかもしれない。もしかしたらBETAに襲われて困っているかも知れない。

うん、俄然やる気が出てきた。未知との遭遇、思う存分の無双。胸が熱くなるな。

 

「ま、何にせよ後だ後。エリスー、俺は腹が減ったぞー」

 

『勿論ご用意しております』

 

『私も晩酌に付き合ってやろう。久々にライルと共に夜を過ごしたいしな』

 

うむ、今夜のお相手はレイアに決定。

面倒くさいことはエリス達に任せればいいのだよ。

そろそろ娯楽開発班から短編ゲームの一本ぐらい上がってくるだろうし、楽しみなことだ。

 

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SSOの派遣社員(アーマード・コア フォーアンサー)
1話


この設定には
・オリ主
・チート&俺TUEEE
・一応ハーレム
・超絶おまいら
・オペ子ハアハア
などの要素が含まれます。ご注意下さい。







Social Support Organization

 

ソーシャル・サポート・オーガニゼーション。日本語で言うと社会支援機構。ここ十年で台頭してきた大規模企業グループだ。

日本に本社を持つとある会社が世界中の様々な中小企業を買収・合併し生まれたグループで、

様々な分野の企業を安値で買い漁ったこの会社は当初気が狂ったとまで言われた。

当然と言えば当然だろう。それまで無名だったグループがいきなりあちこちの企業に手を出し、

安値とはいえ合計で見れば洒落にならない額を数多の中小企業に支払ったのだ。

確かに技術を持っているのは中小企業だとはよく言われるが、別に全ての中小企業を買い取った訳ではない以上生産力で大手に劣る。

ならばとグループが持つ資産や技術による革新をアテにしようにも、SSOは青田買いの数年前に出来たばかりの新興グループ。

特に名を上げてきていた訳でもない彼らの行動は多くの経営者や自称有識者達からは失敗確実のバカな所業とさえ言われた。

 

ところが、どっこい。

グループは各企業を分野ごとに統合して大型の傘下企業を造り、それを数年で業界最大手までのし上げたのである。

これにはあちこちの自称有識者達が驚きと困惑の声を上げた。それもまた当然。

それまで何の技術も特色も持っていなかった筈のグループは各企業に莫大な資金と5世代は先を行く未知の技術を山ほど授け、

統合された新企業はグループから派遣された専門人員の指導の下に企業構造から生産体勢までを瞬時に塗り替えた。

結果生まれたのは、他の企業が10年掛けても再現できるか怪しい品質と大手にも負けない大量生産力。

当然消費者はクオリティの高く大量生産によって安価なそれらをこぞって買い求め、

たった数年で世界の技術文化レベルは一世紀ほど進んだとまで言われるようになってしまった。

そして倒産の憂き目に会った中小企業はグループに併合され、かつての大企業は中規模マイナー企業までその名を落とした。

 

それから、10年。

最近では量子コンピュータと量子情報通信の本格一般普及や宇宙コロニーの建設とテラフォーミングといった、

数年前であれば情報バラエティで芸人にネタにされるかネットで夢見がちに期待される程度だったものが大まじめに計画されている。

最初の頃は急激な進化はどうだのジェネレーションギャップがどうだの発展途上国との技術格差がどうだの言われていたが、

近頃はもうみんな慣れたのか感覚が麻痺したのかあるいは諦めたのか、「またSSOか」と呆れる事の方が多くなっている。

昨年10メートル規模の人型ロボットが発表され人間が乗って動かすと聞かされた時は世界中の男子諸兄が泣いて喜んだ事だろう。

ロマン的な外見と実用的な機能を搭載したそれらは被災地での人命救助や宇宙開発などの平和的利用の他にも、

戦術的価値の不明だが見るからに高性能な兵器としての抑止力を発揮。実際に簡易版が中東辺りの紛争に投入され戦果も上げたそうだ。

各国軍事部も必死に情報を集めようとするものの、そもそも具体的な運用方法や有効な戦術が解らない以上評価のしようがない。

そういった意味で二の足を踏ませる事にも成功し、特にSSO本社を有する日本は世界一安全な国の評価を不動のものにした。

 

で、そんなあらゆる分野で成功を続け今なお爆発的に進化し続けているSSOだが、

なぜこんな話しを急に出したかと言えば勿論理由がある。

その理由とは――

 

「株式会社Social Support Organization、採用内定通知書?」

 

という、意味の分からないというか有り得ないというかおかしいというか有ってたまるかというか兎に角なんかそんなのが理由である。

ゴホン。いけない、つい取り乱した。

いや、しかしどう考えてもおかしい。なにせこの採用通知、SSOグループの中でも最下位の弱小企業のもの、というわけではない。

それどころか、なんとSSO本社の採用通知である。これはおかしい。どれぐらいおかしいかと言うと某の◯太の理屈ぐらいおかしい。

いやだって、SSO本社と言えば世界中の産業を席巻し「独占禁止法?なにそれ美味しいの?」ばりの拡大を続けるその大本である。

グループの直系社員が居る所で、数多の企業に馬鹿みたいな技術と資金と人材を与えてきたその根源。

ニート真っ盛りの俺が親にせっつかれ、これだけ送って駄目なら文句無いだろうと30社ぐらいに履歴書を送りつけたその内の一社である。

30社もそれらしい会社が思いつかなかったから絶対無理だろうと思って数合わせに送ったのに、合格通知がきた。

いや、どう考えてもおかしい。

 

順を追って回想してみる。まず、俺は前述の通りSSO本社に履歴書を送りつけた。いや、勿論正規の申し込み手続きでだ。

SSO本社以外にも幾つかの傘下企業や無関係企業にも送った。バイトや派遣関連の会社にも送った。

しかし何の対策も準備もしておらず、正社員なら必須であろう企業の説明会等々の時期はとうに過ぎていた。当然、通るはずがない。

 

そも、俺自身立派な人間では無い。名前は秋本悠二(あきもとゆうじ)。今年で25歳。最終学歴は三流大学。両親は生活保護受給者。

そんな両親というかむしろ国民のスネをかじって生きている社会のゴミと自認している俺が、通るわけがない。

悪いという気持ちが無いでは無いが、大学卒業後に10社ほど落ちた段階で元々の根性の無い俺は折れた。

「小さい頃は頭のいい子だともてはやされた」とか「小3まではテストで100点以外取ったこと無いな」なんてのはよく聞くだろう。

俺もそうだった。実際子供の頃は才能の匂いを漂わせていたものの、生来の疑心暗鬼的な気質から来る人見知りによって拗れたのだ。

はーい二人一組作ってー。最早、ある種のいじめである。対人スキルゼロ。いや、何の気兼ねも無く接するなら出来るんだよ?

けどさ。社会に出て見知らぬ人相手に失敗しないように注意しつつ仕事をする?無理無理。

結局親や一部の親しい友人以外じゃロクに対応も出来ない。年齢と共に多少の社交辞令や事務的応対は身につけたが、最低限だ。

 

で、そんな所を全部履歴書に書いた。いや、別に今言った事を書いたわけじゃなくてそうと分かる内容を書いたのだ。

両親が居て収入は年金(生活保護)で職歴無くて資格も無くてうんたらかんたら。

嘘八百なんてばれるし、バレなくてもどうせ通らないだろうと諦めていたから。

そりゃあもう書類選考でどこの会社もアウトですよ。こちとらあと数年で魔法使いですよ?どこも取らん。

ハズ、だったのだが。なぜかSSO本社から来た面接案内。

疑心暗鬼というかすぐ悪い方向に想像してしまう対人スキルゼロな俺は、

「やっぱ大グループなだけあって書類だけで落とさず面接までちゃんとやるんだろう」とか勝手に納得していた。

 

次に行われたのが二次選考。所謂筆記試験である。

周りには見た目で明らかに天才秀才と分かる連中がわんさか。ああ、これは明らかに落ちたなと思ったよ。

なにせ場違い感が半端無かった。数年前に買ったリクルートスーツを来て無職童貞臭漂わせた俺の居るべき場所じゃない。

しかし、この試験からおかしかった。出される問題はせいぜい高校生レベル。良くて三流大学入試レベルだ。

周りの連中は鼻で笑う以前に訝しんでいた。俺なんかは最低限の知識さえ有ればいいのだろうと考えていたが。

なにせ発表される技術が中々に"アレ"である。当然、どれだけ一流の大学を出ていようと理解は及ばないだろう。

よほどの天才なら別だろうが、そういう連中はSSO傘下の研究機関やら開発組織に入っているのがほとんだ。

だから必要なことは入社後に本格的に教導するのだろうと思った俺は、またもや勝手に納得していた。

で、折角ここまで来たんだからと真面目に取り組むことにした俺は、すらすらと問題を解いていく。

流石に三流とはいえ大学を出ているのだ。高校生レベルの問題ぐらいわかるし、人並みの記憶力はあったのかちゃんと覚えていた。

それでも百点満点というのは無理があるのは分かっていたので、ちょっとでも悩んだ問題は後回しにしていく。

前述のように解答自体に大した意味は無いのだろうと思っていた俺は、間違いの無いように丁寧に解くことを心がけた。

 

そこまでで終わっていれば、開き直って真面目にやりましたで終われたのだが。

数時間を掛け数回に渡って行われた試験の後に、通常の倍の時間を取って行われた最後の試験。

試験というよりアンケートと言った方が正しいと思われるようなそれが行われた。

最初はまだ良かった。年齢・家族構成・職歴等々。

履歴書の再確認と言えるもので、食い違いが有れば虚偽記載という事で落ちるのだろうと思えた。

元々正直に書いていた俺は、履歴書に書いたのと全く同じ事をもう一度書いた。

で、目を滑らしていくとおかしな文句がずらずらと並んでいる。

 

問18、あなたは神を信じますか? はい いいえ その他・備考「」

問19、あなたはニートですか? はい いいえ その他・備考「」

問20、あなたは童貞ですか? はい いいえ その他・備考「」

問21、現実の女性は好きですか? はい いいえ その他・備考「」

問22、二次元の女性は好きですか? はい いいえ その他・備考「」

問100、あなたの好きな作品を思いつく限り教えて下さい。(音楽・文学・映画・アニメ・マンガ等ジャンルは問いません)

 

いやいやいや、おかしいだろこれ。それっぽい質問もあったよ?難しい言葉を並べてこれについてどう思いますかとかさ。

けど大半がこんなのだ。もうね、アホかと。驚いて周りを伺ったら皆困惑げ。

そらそうだろう、一流大学出て天才だと持て囃されて、天下のSSO本社の試験に来たら最後の最後でこれである。

まあ流石に騒いだりふざけるなと叫びだすような輩は居らず、皆首を傾げながらも真面目に解答している様子だったが。

取り敢えず難しい問いにはトンチとか落語的な言葉遊びで返して、それ以外は真面目に答えた。

ちゃんと真面目に答えるかを見ているのだろうと思ったし、どういう人間かはどうせ面接の段階でよく分かるだろうと思ったからだ。

 

問18、はい。信仰してはいませんが居たらないいなとは思います。漫画やアニメに出てくる神様なら特に。

問19、はい。社会のゴミと自認しています。

問20、はい。現実では童貞です。妄想や夢の中では数えきれない程捨てました。

問21、はい。綺麗な女性や可愛い女の子は見ているだけで癒されます。

問22、はい。大好きです。綺麗な女性や可愛い女の子は見ているだけで癒されます。大事な事なので二回言いました。

問100

『みかんやオオブクロなどの邦楽歌手全般、アニメソング全般、平家物語、蜘蛛の糸、羅生門、里見八犬伝、グリム童話全般、

 ジべリ映画やアニメ・ゲーム映画、スピリット・マンハッタンの幻、アドバンス・トゥー・ザ・パスト、ハウス・アローン、

 アニメ全般、特にロボットモノや魔法少女モノなど、マンガ全般、一般少年誌作品からR18同人まで、特に表現の激しいもの、

 ゲーム全般、特にロボットモノやアニメ原作、各種R18系PCゲームなどジャンルは問わず……』

 

うん、済まない調子に乗った。いや、これは明らかに質問が悪いだろう。

50問過ぎた辺りから普通にネットのそういうサイトでの感覚になっていた。むしろ誘導されたのかもしれない。

結局開き直りと諦めと困惑でどうでも良くなった俺は、完全に趣味全開でしかし丁寧な解答は心がけつつ書きまくった。

恐らく試験中一番ペンが動いた時間だろう。最後の質問なんかは自分でも全部読み返すのが面倒になるほど書いた。

若干手首と指が痛くなったぐらいである。書く量も多かったし、自然と力が入っていた。

周りは困惑しながらも採点者の心象を考えつつ書いていく中、

一人終了間際までペンを走らせ続けていた俺はさぞ浮いていたことだろう。

正直に言おう。楽しんでいた。

 

さて、ここまで律儀に読んでくれたなら分かると思うが、なんと通った。三次選考、面接の会場案内が来たのである。

行われる場所はなんと天下のSSO本社。幸い同じ東京住まいだったので距離的には問題なかったが。

その時も俺は「やっぱり面接まできっちりやるのか」なんてズレたことを考えていた。

会場に行ったら10人ほどしか人が居なかった時も、「あれ、早く来すぎた?まさかもう終わってる?」とか考えていた。

しかも出した結論が、「成績ごとに部屋が違うんだろう」なんておかしなもので。

面接室に入るとSSOグループの会長・副会長・筆頭秘書・専務などなど早々たる顔ぶれが10人ほど。一瞬めまいがしたよ。

で、質問されるんだがこれが前述したアンケートの確認みたいな事でね。

それはもうにこやかに「女性の胸はどれぐらいが好みか」と聞いてきた自称会長が筆頭秘書の女性に足を踏まれて悶絶していたのは、

流石に吹き出すのをこらえるのが大変だった。もう唖然とか通り越して笑いが込み上がってきてね。

 

で、そのあとも幾らか質問をされて終了。

帰宅した俺は良く分からない疲れが押し寄せ、そのままソファーで爆睡してしまったのを覚えている。

そんな冗談みたいな選考期間が過ぎ、一通の封書が届いたのは俺が試験を終え帰宅してから1週間後の事。

開けてみたら、あの文面である。それは驚きもする。むしろドッキリを疑った俺は正常な筈だ。

しかし押されている判やら会長の署名やらが妙な説得力を放ち、問い合わせてみたら事実との事。

電話を切った直後の俺は驚くとか喜ぶとか忘れて放心していた。決しておかしい反応では無いはずだ。

 

「ふむ、このぐらいか。これで手続きは完了だ。じゃあ山岡君、説明頼むよ」

 

さて、そんなわけで今俺が居るのはSSO本社。

目の前に居る壮年の大学教授のような印象を思わせる男性と共に、事務所らしき所で雇用契約のための手続きを行う事暫し。

書類の確認を行なっていた男性が声をかけると、いつの間に入ってきていたのかドアの前に一人の男性が立っていた。

こちらは若い印象の男性で、事実若いのだろう。年齢は30前後と思われるそこそこのイケメン。

仕事中のためか若干固い印象を受けるが、少し欧米系の血が混ざっているらしい顔立ちは優しげである。

 

「はい。ええとそれじゃあ秋本君、まずは社内の案内をしつつ君の仕事について話そうか」

 

「あ、はい」

 

返事の前に「あ、」を挟んでしまう対人スキルゼロな俺。

彼は気にした様子も無く踵を返して歩き出す。俺も手続きをしてくれた男性に会釈してから後を追う。

話しかけてくる声の印象は真面目に喋っているようだが、顔立ちが優しげなためか怖い印象は受けない。

なるほど新人の案内には適任だ、と妙に納得してしまった。

 

「それで君の仕事だけどね。唐突だが、君は異世界は信じるかい?」

 

「へ?」

 

いや、間抜けな声が出ても仕方ないだろう。

確かにアンケートにもそんな事が書いてあった気はするが、それをこの場でまた聞かれるとは思っていない。

俺のニート的思考は聞き間違いとかジョークの可能性を考慮するも、何度も言うが対人スキルはゼロ。気の利いた返答など浮かばない。

結局普通に答える事にした俺は、存在を否定は出来ないし本当にあったら行ってみたいと本心から解答。

 

「そうか、なら話しは早い。君には異世界に行ってもらいたいんだ」

 

で、それを受けた言葉がこれである。訳が分からないよ。

いや分かるんだがそれどこのネット小説ですか?って俺が言ったらいけない気がするのはなぜだろう。

いやだからそうではなく。異世界?異世界と言えばあれだろうか、よくあるアニメの世界とかマンガの世界とか。

あるいは並行世界とか時間軸移動とかいうあれ?これもシュタイ◯ズ・ゲートの選択なのか?

 

「具体的に言うとアニメやマンガ、ゲームの世界なんかでひと暴れして欲しい」

 

えええええええ……マジですか?あ、マジなんですかそうですか。ノゾミガタタレター。

いや、冗談抜きでヤバイだろう。ひと暴れって何さ。俺何の技能もないパンピーですが?

え?信じるのかって?いやあ、だってSSOだし。

ネットじゃあポストが四角くなったのも地球が丸いのも空が青いのも俺達が童貞なのも全部SSOの仕業だなんてコピペあるぐらいだし。

世界の一つや二つ支配してたって驚かんよ俺は。

 

「話が早くて助かるよ」

 

「いや、でも本当に一般人ですよ?俺」 

 

うん、どう考えても死亡フラグにしか思えない。神様転生でもないんだしチートなんて無理だろう。

自力でヒャッハーしろと?やだよそんな三流世紀末。俺じゃこの先生きのこれないよ。

 

「うん、大丈夫。行く世界は厳選するし、例えばロボットモノの世界ならゲームセンターの感覚でどうとでもなる。

 チート仕様の専用機とかはこちらである程度用意するし、専用のサポートAIも付けよう」

 

わーい至れり尽くせりだー。っておいいいいいっ!?下手な神様転生より親切だな!?

まあ、それぐらししてくれないと仕事にならないんですけどね。

しかしそこまでして何故俺を送る必要が?

 

「君はこの会社の技術がどこから来ているのか分かるかい?」

 

……あー、なんか読めた。読めちゃいましたよ俺は。そうかそうかそういう事か。

要するに実験やら事故やらで最初に異世界に行った人が居て、その人が異世界から技術とかを持ち帰った。

で、じゃあそれを繰り返して技術を集めてみたらえらい事になって、広めるために中小企業買収してグループ創ったと。

そういう事ですか。

 

「察しがいいね。予想以上の人材だ」

 

そりゃどうも。しかしまあ、どこの天才かあるいは奇跡か知らんが良く異世界なんて行けたもんだ。

その後も何度も行っているらしいのも気になる。技術として完全に確立しているのだろうか。

 

「元々は2次元の中に行きたいっていう男の夢を本気で実現しようとしたのが切欠でね」

 

ロクでもねえなおい!?

 

「奇跡が起きたんだよ。異世界へ行く技術を持っていた世界で同じような技術が使われた事で事故が発生。

 実験室に居た研究者一同を纏めて異世界送り。その先で異世界旅行技術を完成させて帰ってきたのさ」

 

なるほどねー。

ああ、つまり会社ができて数年の間動きがなかったのは、異世界から技術を集めている段階だったからか。

そら本格的に技術を集めようと思えば物も人も金もかかるからな。そのために会社を作って、技術が集まった所で大きくしたと。

知識と技術の探求は研究者の本懐だろうし、もっと規模を大きくしたくなったのかね。

あれ?けどひと暴れって言ってたよな。技術交流じゃなくていいのか?

 

「うん。問題はそこでね。技術交流だけなら、うちの人材をおくるだけで良かったんだ」

 

あ、そりゃそうか。むしろ俺みたいなトーシローを送っても意味ないわ。

だったらなぜに俺?しかも闘争?

 

「うちの会社、SSOって言うけどね。本当はソーシャルじゃなくてストラグル。闘争とかを意味する言葉なんだ」

 

隠された名前、ですか。

 

「技術を発展させる上でどうするのが一番だと思う?」

 

ん?……あー、なるほどそういう事か。読めたぞ。つまり戦争すれば技術は発達するっていうあれだな。

でも平和な環境でこそ発展する技術や生まれる用途なんかもあるし、応用を考えるのは平和な世界の人間だ。

だからよその世界で戦争というか闘争させて技術を発展させ、それをこっちの世界に持ち帰って更に変化させていくと。

これならSSOが中東戦線へのロボット供出なんて軍事紛いことするわけだ。

こっちの世界はあくまで平和担当であって欲しいんだから、紛争なぞ要らんとそういう事か。

 

「この世界が技術的に丁度いいレベルだからね。僕らの故郷でもあるから早々捨てられないしね」

 

なるほどねー。技術交流の名目で実質は相手からの一方的な技術搾取と負担の押し付けか。えげつねえ。

まあだからどうって事も無い。技術パクるなら元から在る所の方がいいんだから、どうせ元々戦争やってるような世界だろ。

魔法で戦争やったり人型ロボットで戦争やるような。言い方は悪いが対岸の火事の上に自業自得。知ったこっちゃない。

 

「うんうん、本当に理解が早くて嬉しいよ。さすが10万分の1だ」

 

え?なに、まさか俺だけ?受かったの。

 

「いや、あと数人居る。君と同じ部署は君一人だけどね」

 

ああ、あの天才秀才集団の中から何人か受かったのか。きっとアニメとか大好きな天才だったんだろう。

ごく非日常系の技術を扱うのにそういう物に耐性が無い奴にはできないもんな。それに好きな奴の方が覚えもヤル気も違うだろう。

で、そういう人らが事務員やら研究員やらになる中俺一人だけ実働部隊か。

 

「実は毎年少しずつ集めているんだけどね?本社に直接応募してくれる人材は中々居なくて」

 

そりゃ俺みたいな人材をご所望でしたらハロワよりもネットの某掲示板行ったほうが早いでしょうよ。

つまりあれか、俺が唯一そういう連中の中で真面目に試験受けて入ったのか。

ダメ元とか冗談で申し込んでも、二次試験や三次試験まで律儀に受ける奴は居なかったんだろう。

何か存した気分だなおい。

 

「いやいや、他の人達もちゃんと試験や面接はあるからね?でもまあ君はちょっと特別扱いしてあげる予定ではあるけどね」

 

よし、よくやった俺。

 

「現金だね。いいよ、実にいい。即物的で妙な向上心や野心は無く、ただ自分の好きなことをしたいタイプ。

 地位や名声などには無欲で異性や遊びに対して強い欲求を持つ。様々な現象や設定に対して知識と理解がある。

 急激な事態も自分の知識と照らしあわせて対応出来、ちゃんと出来る範囲の指示をしてあげれば律儀にこなす。

 特に夢中になったことには意欲の続く限り全力で対応し、無闇に事を荒立てるような事はしない。

 配偶者など離れられない存在が居らず、両親は親離れを喜ぶだろう。介護人員などはこちらで手配すればいい。

 仕事自体を楽しむ事が出来て、上手く条件と対価を出す限りは全力で成果を出してくれる。まさに理想の人材だ」

 

すっげー、俺すっげー。なにこれ、箇条書きマジック?違うか。

いや、でもなんか凄い人材なんだって錯覚しそうだよ。こんなに褒められたの何時以来だ?いや、褒められてるのかこれ?

うんまあ嬉しそうだし褒めてるんだろう。そう思おう。

しかしこう聞くと本当に上手いこと噛み合ったんだな。まあオタクニートなら誰でもいいと言われてるのに等しいが。

というか、実際そうなんだろう。であれば人材の確保には困らない。俺みたいなのが他にも居るってことか。

一緒に仕事したりもするんだろうか?

 

「いや、中にはハーレム願望を持つ人も居るしね。友人や恋人同士など積極的に協力しあう者達以外は別の世界に送られる。

 今までのデータからもその方が良い結果を齎すと統計も出ているしね」

 

あ、さいですか。じゃあ俺は一人で行くのか。

他のスタッフとか現地人員とかは無いんだろうか?

 

「君が送られるのは完全に不干渉な世界だ。とにかく力と技術を撒き散らしつつ相手方の技術を回収して来てもらうことになる」

 

えー、じゃあ現地スタッフとか無いですよねー。

どうしよう?まさか俺に回収作業やれと?技術なんて分からんよ。

 

「さっきも言ったが専用のAIを付ける。市販品なら知っているだろう?」

 

ああ、あの一昨年出た人工知能ソフトか。持ってる持ってる。

なんでも自己成長するらしくてどんどん人間くさくなっていくんだよなあ。

俺が買ったのは可愛い女の子タイプだったんだけど、俺の好み通りのクーデレに育ってくれて嬉しかったなあ。

あれの表には出ない専用版か。相当スペック高いんだろうな。なるほど、そいつに情報回収任せればいいのか。

 

「日常のサポートから戦闘支援まで幅広くこなして貰うことになる。

 データは君の持っているものにこちらで必要な知識をインストールする形でいいかな?」

 

「あ、はい勿論です」

 

おーマジか、エリスがパワーアップして帰ってくるのか。きっともっと可愛くなってるな。当社比10割増しぐらいで。

ここの人達(特に会長)からは俺と同じ匂いを感じた。オタクが言うんだから間違いない。

さて、そういうのが居るなら日常は心配しなくてよさそうだ。向こうも利益考えて必要なものは用意してくれるだろう。

 

「最低限必要なものは用意するし、それ以上の要望も出来る限り聞こう。けれどこれは先行投資だ。

 あげた分の利益だけは何があろうと確保してもらう。出来ないとは言わせないし出来ないようなことはさせない」

 

本当の契約、って奴ですか。まあ当然っちゃあ当然だし、俺もやる気出てきたからがんばりますよ。

どれぐらいやる気が続くかは分からんが、まあ貰った分還すまでは大丈夫だろう。なにせ異世界だ。わくわくが止まらねえ。

この勢いで突っ走れば最低限は確保出来るはず。後はのんべんだらり怒られない程度のペースで楽しく仕事すればいいや。

 

「うんうん。それじゃ、ここが君の住む寮だ。長期間空けることも想定すれば普通の住宅には住みにくい。

 ここなら居ない間の部屋はスタッフが清掃するしね。その間見られたく無いものは専用のロッカーに入れておくように」

 

本当に、至れり尽くせりだ。といっても殆ど使う機会が無いこと前提なんだろうけれど。

清掃と言っても戻ってくる時期が大体分かるんだから出た後と帰る前に清掃すればいいだけだし。

取り敢えず家から持ってきたパソコンとかエロ本の類はロッカーに入れておこう。食い物の放置はしないようにしないとな。

まずは引越し作業。そしたら両親と友人に研修で海外に行くとか長期出張の多い部署だとでも伝えて、そしたら異世界だ。

 

――こうして、俺の少し早い第二の人生が幕を開けるのだった。

 

 

 



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2話前編

『それはまさに鉄塊だった』

 

とか言いつつベルセルクでは無い。そもそも俺はベルセルクを知らない。人生損してる?分かった今度読んどく。

いや、そうではなく。鉄塊だ。鉄塊である。いや鉄かどうかは知らんが金属の塊という意味で鉄塊である。

それは精密機器と言うにはあまりに大きすぎた。大きく、分厚く、重く、それでいて繊細だ。それはまさに鉄塊だった。

うん?ベルセルクはもういい?さいですか。

 

「それでは、説明をさせて頂きますね」

 

「ああ、お願い」

 

画面の中で彼女が言う。別に脳内嫁とかでは無い。似たようなものではあるが。

金糸のような長髪を纏った美女。琥珀色の瞳を持つ目の目尻は釣り上がりもせず垂れもせず、眉は綺麗なアーチに整えられている。

大きくも無くしかしはっきりと言葉を紡ぐ唇から覗く歯は小さく可愛らしく整っており、

鼻は標準的な日本人よりは高いものの欧米人種と比べればごく普通で少し小さめ。

少し大きめの耳たぶを持つ耳はごく標準的なサイズで目立つ事も無い。

無駄な毛の一本も生えず無駄な化粧の一切をせず、薄く塗られたリップだけがその艶やかさで男を魅了する。

標準以上に整ったその顔立ちは非常にクールな印象を思わせるが、時折浮かべる微笑みは慈母のように優しげだ。

まあ要するに、俺が持っているAIのイメージデータである。

 

「まず私の自己紹介からさせて頂きます。個体名称エリス、悠二様のサポート全般を担当します。改めて宜しくお願いします」

 

「うん、宜しく」

 

俺が彼女の元となるソフトを買ったのはそれが発売された当日だった。いや、正確にはかなり前から予約していた。

天下のSSOが発売した初の自己進化型AI。成長ではなくあえて進化と銘打たれたそれは世の童貞諸君を狂喜させた事だろう。

なにせプロモーションとして先行試作と称されたAIとスタッフが会話する映像が公開されたのだが、クオリティがえげつなかった。

こちらの質問に正確に応え、こちらの命令を違えず遂行し、一つ一つの行動に仕草まで付く。

最初は機械的だったそれが年月を経るにつれて色を持ち、自身の意見を述べるようになる。

性格すらも所有者の好みに合わせて進化し、決して所有者を裏切らない。

そんな素敵AIに天文学的な組み合わせ数を誇るパーツ群によってあらゆるキャラの再現が可能なほど自由度の高いイメージエディタ。

初期登録された音声に加え録音した音声などを元に本物の人間のような声質を再現できるボイスエディタ。

これら全てセットで驚きの19800円。買った。即買いだった。

で、つい先日まで使用しつづけ一度もリセットする事無く一緒に居た彼女が、パワーアップして帰ってきたのである。

 

「まず各種イメージの最適化を行いました。デザイン、表情、音声など今まで蓄積した貴方の好みに合わせてあります。

 更に顔以外の容姿データを追加。3Dモデル化によって立体映像にも対応しています」

 

完璧だ。これ以上ないぐらいに完璧だ。クーデレ、実にいい。

髪や瞳の色はたまに変えたくなるので時々変えるが、それ以外は一切変える必要が無い。

外見の年頃は20代前半。慈愛に満ちた微笑みは母親のようでもあり、無邪気な笑い顔は少女のようでもある。

胸のサイズはDぐらい、少しの大きめの美乳。張りと柔らかさ最優先のそれは常に綺麗な形に保たれている。

腰はゆるやかにくびれお尻は実に撫で心地が良さそうなげふんげふん。

すらりと伸びた足の先にはヒール。踏まれたげふんげふん。

肉付きは皮膚の下にうっすらと脂肪が付いている。体を捻ったら肋骨の跡が浮くようなガリガリは好みでは無いのだ。

女性というのは少し肉付きがいいぐらいが丁度いい。特に皮下脂肪。

膝枕がぷにぷにと気持ちいいぐらいにうっすらと脂肪が付いているぐらいが一番なのである。骨のすぐ上に皮なんぞ論外だ。

あ、でも顔はすきっとしている方が好みです。要はバランスだよね。と、童貞が言ってみる。

 

「人格そのものは変化がありませんが、思考能力の大幅な向上によって細部や各種応対は若干異なります」

 

で、そんな彼女が今居るのは電脳空間、所謂ディスプレイの中である。しかも空間投影型。なにこれ怖い。

どうやら手元の腕時計から投影されているようである。少し大きめの腕時計で会社からの支給品。SSOすげえ。

表示濃度を調整して半透明にしたり白黒にしたりタッチパネルが如く指で操作したりとなんでもござれである。

こういうのを見ていると、混乱が起きないように表に出す技術を絞っていたという山岡さんの言葉が現実味を帯びてくるな。

ともあれ、彼女の本体は流石に腕時計の中ではない。あくまでこれは端末だ。

量子情報通信を用いた非接触回線、所謂無線で腕時計にデータを飛ばしているのである。

本体はなんと量子コンピュータ。やっぱり実現していたらしい。それも大分前から。

そもそも一番最初の異世界に渡る事故が起きた際に演算させていたのが試作の量子コンピュータだと言うのだ。

どうやら本当に凄いのは諸々の技術をモノにしてしまえる天才集団達のようである。

 

「また、現在3次元行動用素体が調整作業中です。異世界派遣当日には間に合いますのでご安心下さい」

 

そしてこれ!分り易い言い方をするとダッチワイフ。あるいはラブドール。いや、睨まないでよ本当にそういう感じなんだから。

なんでもIPS細胞の遺伝子を調整し培養する事で作成した人工人体に専用のナノマシンと電子頭脳を搭載する、というものらしい。

人間の脳みそを改造して量子コンピュータとして使用するのである。

勿論IPS細胞から造ったので生命なんぞ宿るわけもなし、道徳的にも一応セーフである。

これが駄目だと言い出したらIPS細胞から内蔵を作って移植するというのもアウトになってしまう。

法を整備するのは大変だし、整備しようという動きには圧力をかけられるため、一部の感情論ぐらいしか障害はなくなる。

さすがは天下のSSOである。

 

で、遺伝子調整を出来るという事は望んだ体を自由に作れるという事だ。

人間の手を加えられるということは本来の人間には無い機能を付ける事すら可能。

例えば脳から量子情報通信の電波(?)を飛ばしたり、女性の大事な所を所謂男好みのサキュバス的なアレに改造したり。

ほら、ダッチワイフだ。いや、注文したの俺なんだけどね。何でも出来ると言われてつい。

現在は作成した人工体にナノマシンを注入して内側から改造している途中らしい。

どうも元から幾つかの実験体を作成する予定だったらしく、稼動テストも兼ねてその内の一体を俺に回してくれる事になったのだ。

山岡さん曰く「本社に直接乗り込んできた上にこれ以上ない適性を持つ君を会長が気に入ってね。要するに似た者同士さ」との事。

ああ、やけに若い会長だと思っていたらあの人があのふざけた理由で人類初の異世界旅行を成し遂げた人だったらしい。

この前改めて挨拶した時に十年来の親友のように意気投合してしまったのを覚えている。趣味が合いすぎた。閑話休題。

 

「では、続きまして"機体"の説明をさせて頂きます」

 

来た。先程から俺の目の前に鎮座している鉄塊。いや、鎮座というか立ってるんだけどね。

少し前にまさに鉄塊だのなんだのとネタをこね回しておきながら説明を放置していたあれである。

現実から目を背けていたとも言う。

改めて目を向けると飛び込んで来るのはやはり鉄塊。材質はよく分からないが、とにかく金属の塊である。

その塊は人の形をしていた。羽根やらなんやら付いていはいるが一応人型だ。

色はメタリックなシルバー、いやもうこれは単に鈍色だろう。つまり無塗装。

ツヤ消しすらされていないそれは格納庫に灯された白色灯を鈍く反射している。

そして何より特筆すべきはその体躯。流線型と鋭角で構成され戦闘機を思わせる胸部や肩。

しかしそれらは見上げなければならない程高い所にある。

 

「機体名称未設定、開発名称『NEXT+』、全高12m、全幅10m、全長8mの最新型ネクストACです」

 

そう、ネクストである。アーマード・コアである。4系である。ふぉーあんさーである。

ここまで言えば分かると思うが、今回俺が派遣されるのはACFAの世界。

正確には似たような世界という事らしいのだが、まあ殆ど変わらないらしい。

何でも現在の異世界旅行は旅行者のイメージを元に座標を割り出しているらしく、

要するにイメージ出来るだけその世界を知っていないといけない。

一度行けば座標だのなんだのが測定出来るらしいのだが、今回行くのはSSOが今まで干渉して来なかった所謂『未介入世界』だ。

だから旅行者である俺がイメージしやすい世界として幾つか候補を上げ、その中から彼らが選んだのがこの世界、とのこと。

 

「擬似小島炉心を搭載したネクストシリーズ試作実験機であり、様々な実験的技術が盛り込まれています」

 

他にもロボットモノならスパ□ボ系世界とかGジ◯ネ系世界とかマブラ◯オルタとかあるし、

ロボット系以外でも国民的RPGから大きなお友達に大人気の魔法少女モノとか魔法先生ものとかあるのだが。

魔法に関しては流石のSSOも未だ異次元技術過ぎるためまずは技術の習得を目指したいらしく、

スパ□ボ的な世界に関しても異星人やら物理法則ガン無視の超技術が満載なのでまずはその解析が優先。

ガ◯ダム系に関してはイメージ出来る人材が多かったという事で既に多くの人員が旅立っており、

技術のばら撒いて勝手に進化して貰いそれを回収するという目的に合致した技術レベルと世界観という事でACFAが選ばれた。

ネクストぐらいならばコスト度外視で無理を重ねて定期的な整備も前提にすれば似たようなスペックのモノは作れるらしい。

後は現地技術を回収して改良を重ねればいいらしく、世界観的に技術をばら撒いておけば勝手に発展してくれる。

まあ結果的に企業連ルートという事になるが、俺への先行投資分の利益を回収すればあとは好きにして構わないそうだ。

居座るのもまた別の異世界へ行くのも自由との事。やったね。

 

「擬似小島炉心とは所謂ジェネレーターです。コジマ粒子に似た性質を持つ粒子を利用しています」

 

うん、流石に行ってもいない世界のものをそっくりそのまま再現するのは無理。

というわけで俺が持っていた資料集やらゲームやらから得た情報を元に再現したらしい。

要するにゲームで出来たことが出来ればいいので、中身は全く別物である。

使用している粒子も汚染物質の類では無いし、プライマルアーマーも通常のものとは違うらしい。

ジェネレーターは融合反応炉らしいのだが、中性子線だか電子線だかの放射線は反応させて無害化させる隔壁材を使用しているらしい。

まあこの辺の技術はSSOの登場前からあった現代技術なので別段超技術というわけでも無いらしいが。ワケワカメ。

兎にも角にも融合炉心というぐらいだから恐らく核融合炉。まあガ◯ダム世界に行っているぐらいだし珍しくもない。

最近じゃあ異世界製の融合炉が放射能汚染の心配も無いって事で各国で試験導入に入ってるし、

ガ◯ダム種の世界とかにある超効率なバッテリー技術の流用もあって宇宙開発計画も開始間近らしい。

 

「またジェネレーターの他に高効率バッテリー技術を用いた小島電池を製造。

 本体ジェネレーターの容量拡大と小型低出力ジェネレーターの製造に成功しています」

 

当然、この機体にもそれらは利用されている。

なにせどっかの機動戦士よりも更に高性能で固有性の高い機動兵器である。

予算に収まる程度に最新技術の粋を集めて製造された俺専用のワンオフである。

こういう最新というか実験的な技術も使われている。

 

「レーダーやカメラ、それを処理するFCSにはジャミング性粒子が高濃度に散布されている空間でも使用可能な物を搭載しています」

 

勿論電子系も、最新。どこぞのナントカスキー粒子とかナントカジャマーの影響下でも使えるシロモノだ。

大した電子戦性能を持たないネクスト相手なら十分に使用可能だろう。

まあ、あの世界がコジマ粒子やらなんやらの影響で索敵がしにくいとかいう可能性も考えられるが、

それでも十分な性能は発揮してくれるはずだ。

電子面は装甲材とか素粒子とかと比べて技術の獲得と応用が楽だから、かなり高性能化している。

 

「また、FCSには私を介した高性能装置を導入。量子電脳との併用を前提とする事で通常より遥かに強力な演算性能を有します」

 

うん、相当凄い性能なんだろう。高機動戦闘中に相手をロックできたりネクストの電子性能も中々のものだが、

生体部品と電子部品のハイブリットによって超性能を誇るらしいエリスの量子電脳と比べればかあなり差があるはず。

圧倒的とまでは言わずとも、所謂良い所取り的な効果を発揮してくれるに違いない。

 

「コックピットは複座式。後部座席には私が搭乗し、情報処理及び火器管制を担当します」

 

なんと複座である。ロマンである。

とはいえ高度な電子機器や通常のネクストには無い機構を搭載しそこに複座だ。流石に収まり切らない。

そんなわけでコア全体を想定より大型化。戦闘機のような前面を持った大型コアの背面にコンテナ型ブッロクが突き出す形状に。

搭乗部が突き出していて危険な後部にはエリスが搭乗。エリスならバックアップデータから再生出来るしね。

とはいえ気分がいいものでないのも事実なのでなるべく背後は取られないようにしたい。

まあ、散々遊んだおかげで全面連続ハード無傷クリアを成し遂げた事もある。ネクスト戦闘の心得は身に付いている。

完全に同じということはないだろうけど、実機戦闘にさえ慣れればカラード中堅ランカーぐらいの実力はあるはずだ。

またも閑話休題。

 

「全ての情報処理はこちらで担当しますので、悠二様の視界には最低限の情報のみが表示されます」

 

要するにVであった戦闘モードである。エリスの方でスキャンモードを起動して俺の方で戦闘モードを起動している感じだ。

機体の操縦はSSOの技術で再現した『Allegory Manipulate System』、通称AMSによる思考制御がメイン。

考えた通りに機体が動くので必要なのは安全装置を兼ね人間の反射神経を活かすためのトリガーとペダルのみ。

戦闘中は目を閉じ、脳内に直接描かれる戦闘映像と感覚的に伝達されるレーダーを元に戦闘を行う。

警告や各種情報もそれぞれ五感や第六感に変換されて伝えられ、その処理を行うのがエリスである。

通常パイロットが全てやらなければいけない情報の取捨選択をサブパイロットに預けることで、

パイロットへの情報負担を減らし戦闘に集中できるようにすると共に、正確かつ多数同時の情報処理を可能としている。

というのが、この複座式システムの概要だそうだ。

実際の利便性は使ってみないとわからないし、俺の仕事にはそのへんのテストも含まれている。

武力外交官兼実験搭乗兵というわけだな。

 

「特に情報収集が主目的である点から本機は情報戦に力を入れており、

 予想される通常の戦闘領域範囲内であれば正確な情報把握と広域ECMによる電子制圧が可能です」

 

これを最初聞いた時は流石にSSOすげーって思ったよ。

数十キロの範囲内にある熱源やら敵性兵器やらを正確に把握して、

必要になればその範囲内のレーダーやらカメラやらを強制的に無力化出来る。

ネクストやアームズフォートに搭載されているであろう対ネクスト用の高出力・高精度なものならともかく、

拠点で常時展開されているような通常のレーダーでは広域ECMを展開しながら超音速で移動するネクストは知覚すら出来ないだろう。

 

「また情報の回収を目的とし高コストのワンオフである本機は防御能力にも力を入れており、

 通電により運動エネルギーを拡散減衰させる相転移装甲に熱量拡散減衰加工と耐薬反応防止加工を施しています」

 

うん、またよく分からん言葉が出てきたが要するにどこぞの種に出てきた運動エネルギー無効化装甲と、

機動戦士シリーズ御用達のアンチビーム加工と同じくどっかから拾ってきたであろう耐薬加工だ。

運動エネルギー、熱エネルギー、化学反応を大幅に減衰してくれるこの装甲のおかげで、

途轍もない防御性能を持ちつつ非常に軽量という至れり尽くせりぶりである。

まあその分エネルギー消費はえげつないが。核融合炉と同等以上の出力があるジェネレーターだからこそ出来る芸当である。

あと、物凄く修理費が高い。ヘタしたらホワイト・グリントフレームより高い。パーツ1個100万Cとかするんじゃなかろうか。

 

「装甲は最新のものを使用していますが、機体コンセプトは機動力中心です。

 軽量化に努めているため総合的な耐久力は低くなっています」

 

APで言うと3万以下。低い。けど硬いから全然減らない。だから修理費もそこまで酷くはならないだろうと思っている。

機動力特化で当たらなければうんたらを実践出来るし、俺自身プレイスタイルがそんなだったからね。

ホワイト・グリントとアリーヤに惚れて使いまくって、途中ステイシスに浮気したりしてたら自然とそうなった。

とはいえ流石にソブレロ使いこなすのはきつかったけどね。アレ造った奴らは紛れも無い変態だ。

 

「また、粒子の性質の違いと高度な粒子制御技術の応用によって改良型のプライマルアーマーが展開可能です。

 これを『Solid Primal Armor』、通称SPAと呼びます」

 

プライマルアーマー。コジマ粒子を機体の周囲に環流(ぐるぐると流れさせる)させる事で押しとどめ、防御に使用するもの。

機体の整波能力によってその効力は変わってくるが、通常兵器程度は全て無効化してしまう強固さを誇る。

要するにバリアであり、ネクストが通常兵器やノーマルACに対して絶対性を誇る所以の一つでもある。

このSPAはそれとは大分違うらしい。

擬似コジマ粒子は結合しやすいという性質と粒子を直接制御する技術を用いて結合・固着させ、

それを何層も重ねあわせて一種の装甲板のようにしてしまうというもの。

要するに気体を個体レベルまで固着させ、その結合の強固さと粒子自体が帯びている高エネルギーで攻撃を防ぐのだ。

重ねられた板状のSPAによる積層装甲は通常のPAよりも非常に強固。

結合していないPAは貫通されやすく減衰も早いという弱点があるが、

強く結合し積層化されたSPAは貫通されにくく減衰もしにくいという特徴を持つ。

ってエリスが言ってる。

 

「また結合した粒子はあくまで密集しているだけの粒子ですので、

 金属等の個体と比べ熱伝導率が非常に低く電気を通しにくいためそれらによる攻撃にも高い効果を持ちます」

 

まさにPAの弱点だけを取り除いたようなものである。

とはいえ利点ばかりでもなく、粒子を結合させる分制御が難しくなるとかエネルギーを馬鹿みたいに食うとかあるのだが。

しかしそれも量子電脳の演算能力と高出力のジェネレーターを用いればクリア出来る問題である。

 

「また強固に結合したSPAは一定レベル以上の電磁波や粒子の流入出を阻害する効果があり、

 排出粒子の保存と電磁偏光効果を持ちます」

 

はーいまた難しい言葉が出てきた気がするよー。

要するに強い電磁波とか強い光とかはSPAを通れません。

粒子と同じ大きさ以上の粒子も通れないので擬似コジマ粒子やコジマ粒子も通れません。ということ。

で、何が違うかと言うと。

一定以上に強力なレーダーや赤外線等による探知を一定レベルまで減衰します。

光が出ていくのを調整する事で見かけの色をある程度誤魔化せます。SPAの形状を変化させれば見かけの機体形状を変化させられます。

外からはプライマルアーマーを展開していないそういう色と形の機体にしか見えません。

内側に擬似コジマ粒子を貯めておけるので、通常のPAのように撒き散らす心配もなく粒子を無駄に捨てずに済みます。

当然内側の粒子は安定環流させてやる事で通常のPAと同様に機能します。

オーバードブーストやアサルトアーマーは内側の粒子を制御して使うのでSPAが減衰する心配はありません。

また外部の粒子も通さないので、コジマ粒子の濃度が非常に濃い場所でも継続ダメージを受けません。

つまり凄くクリーンで凄く強力になっています。と、いうことだね、うん。

 

「チートくせー」

 

「その分機体・搭乗者・整備士への負荷は大きくなっていますが。

 他にも、SPAを応用し全方位自由加速・着地力場形成・エネルギーバレル・重量負荷軽減機構などに使用されています」

 

いっきに説明しちゃうよ!

全方位自由加速。ごく数センチの薄さに何百枚も重なっているSPAの、一番外側を反応させて加速します。

所謂コジマ爆発をSPAの表面で起こすんだね。これはブースターに使われている技術と同じだそうだ。

擬似コジマ粒子を反応・爆発させ、発生した粒子とエネルギーを粒子制御によって一方向へ収束させる事で高加速を得るのだそうな。

これによってSPAを展開しているあらゆる全方位へ、コンマ以下の一瞬で加速力を生み出せる。

まさに超機動。中の人のことを考えなければゲ◯ター軌道だって夢じゃない!かも?

 

次、着地力場形成。これも文字通り。通常機体に追従してくるSPAを空間に固定し、それを足場にするというもの。

空中ジャンプから高反動兵装使用時の踏ん張りまで色々使える便利な奴。ブースターを使わず滞空するのにも便利。

極超長距離狙撃の際などはこれを使用するのが前提となってくるらしい。

 

お次はエネルギーバレル。これも文字通り。銃口や砲身の内外に円筒状のSPAを展開。

一種のロングバレルや砲身への負荷軽減として使用出来る。

これによって物凄い勢いで弾丸を連射しても摩擦による削減やオーバーヒートを軽減出来るように。

同じように関節などの駆動部に薄く展開する事で、摩擦の低減による運動性向上と関節の摩耗を防いでいる。

おかげで消費エネルギーが洒落にならないことになっている。ジェネレーターさんかっけー。

 

最後は重量負荷軽減。

まあ要するに腰部関節にSPAを展開して上半身を支える事で、貧弱な脚部でも重い機体を支えられるようになっている。

積載重量が大幅に増加した事を利用し、VOB並みの追加ブースターの装備や撃墜した敵機の回収などを行うのだそうだ。

これだけ色々やらかしたら演算量とか消費エネルギーとか凄い事になる。ゲームデータで言えば倍近い消費量があるんじゃなかろうか。

しかしモーマンタイ。われらが量子電脳(+α)の演算能力と擬似小島炉心をもってすれば容易いことなのだ!

うん、まあ出力と演算能力の7,8割は食われてるんだけどね。この機体のチートは大体この3つのせい。

 

「物理的な撤退が不可能と判断された場合、遠隔転送により脱出するための次元通信装置と簡易転移装置を搭載しています」

 

これはまあしゃあないというか当然。そうしてくれた方が俺も助かる。

要するに撃墜されそうになったら異世界転送で緊急脱出というわけだ。

基本的に異世界移動は俺達側で最低限必要な演算を行い、全体の演算や転送はSSO本社の専用設備で行うらしい。

ちなみに。機体に搭載されているのはあくまで最低限で、

通常時の転送は機体の整備設備と居住スペースを搭載した専用の輸送機ごと行うそうだ。

 

後編に続く

 

 



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2話後編

 

「続きまして、現在製作中の兵装に関するデータです」

 

来た!キタキタ来ましたよ!俺のロマンと妄想とフロム脳の真髄を開発者達に託した結果生まれた素敵兵器が!

とはいえ現在はまだ開発中。異世界に行く頃には完成するらしい。

現在は製造段階に入っているので、実験等で得られたスペックデータの確認だ。

エリスの言葉と共に空間投影ディスプレイに仕様書が表示される。

一部の数値は意味が分かるのもあるが、基本的にワケワカメである。

 

「まず悠二様の『可変展開兵装構想』ですが、そのほぼ全てが実現可能であるとの結論が出ました。

 その中から今回製造される兵装についてご説明致します」

 

可変展開兵装構想。大層な名前が付けられてしまったが中身は大した事は無い。

「あれ?ネクストって思考制御出来るのに武器は腕に一つって勿体無くね?」という考えからだ。

勿論ややこしい武器の切り替えなぞコントローラーで出来るかっていうのはわかっている。

だが実際に思考制御を使うならそれは別に不可能では無いはずだ。

しかし幾つもの武器を装備するのはかさばるし重いし邪魔だ。

なら、一つに纏めてしまえばいい。そんな暴論がまかり通ってしまった結果である。

大型の兵装ユニットとして存在するそれを変形させる事で様々な武装を使えるようにする、というもの。

開発者に話したら目を輝かせながらコンピューターへと飛んでいったのを覚えている。

 

「まず追加機構から。肩部・背部追加ユニットとしてアサルトドラグーンユニットを開発。

 電子戦装備とブースターを内蔵した両翼を肩に装備し、大型ブースターとミサイルコンテナを背面に装備します」

 

仕様書を展開。そこには恐るべきデータが示されていた。

まず肩部ユニット。肩を覆うように取り付ける全翼機の翼のような形のユニットだ。

装甲を展開する事で内部の機構を露出する構造となっている。

機体のレーダーやカメラを補助するハイレベルな電子戦装置と広域ECMユニットを搭載。

さらに翼の後方・先端・上下へと内蔵されたブースターによって複雑かつ瞬間的な機動が可能。

小型軽量のコジマ電池を搭載する事でこれらの装置のエネルギー消費の多くを自給し、

機体の消費は広域ECM展開時などの最低限で済む。

翼自体も空力を考慮された形状で、機体胸部と合わせて見ると戦闘機に頭と脚が生えたようにも見える。

長距離航行時は肩部を固定、脚部を正座のように折り曲げ腕を後方へ折り曲げて前傾姿勢を取り、

まさに戦闘機的な見た目になって飛ぶのだとか。

 

で、それ以上に凄いというかえげつないのが後部ユニット。

1基の大型ロケットブースターの周囲をコンテナ型のブースターが8基取り囲んでおり、

コンテナの内部には膨大な量のマイクロミサイルが搭載されている。

コンテナは四角柱型で全長5m、一面の幅は1m。

そのコンテナの全ての面に直径50mmのマイクロミサイルが蜂の巣状にびっしりと搭載されているのだ。

横一列80発×16段で合計1280発。それが4面で5120発。さらにそのコンテナが8つあるので合計4万960発。

もはや頭がおかしいとしか言いようが無いのだが、雑魚や拠点の制圧用の制圧火力が欲しいと言ったら用意されてしまった。

いくら一括製造かつミサイル自体は小型で威力も低いとはいえ、全部合わせれば相当な額だ。威力など言わずもがな。

ロケットブースターの周囲を取り囲む構造上、一度に発射出来るのは各コンテナにつき1面だけ。

1面撃ち切ったらブースターの入っている軸を中心にリボルバーのように回転して次の面を展開する。

しかしそれでも最大で10240発のミサイル。まさに絨毯爆撃である。何より恐ろしいのは、この1万発のミサイル、全て半有人制御だ。

エリスの超処理能力でターゲット選定から追尾までをある程度遠隔操作出来るのだ。もはや悪夢と言えよう。

当然これだけ搭載すれば負荷は大きいのだが、エネルギーはやっぱりモーマンタイ。

なにせこのユニット、機体と接続する基部に小型の擬似小島ジェネレーターを搭載している。

しかも機体と接続してエネルギーの共有が可能だ。馬鹿げている。

小型低出力とはいえ炉心を二機も搭載すればそら出力は十分だろう。多少の重さなど苦にならない出力が得られる。

 

「長距離航行時はこれらを装備し、アサルトモードとして高速で移動。ネクストとの高速戦闘時は機動力確保のためパージします。

 パージ後は自律稼働によって軟着陸、あるいは作戦領域を離脱します」

 

まあ、自分自身にブースター搭載している上に燃料もほぼ無制限だからこそ出来る芸当である。捨てるのは勿体無いもんね。

基本的には広域ECMとミサイルで制圧し、撃ちつくしたら後部ブースターをパージ後殲滅戦。

ネクストとの遭遇時は肩部ブースターもパージして機動力を確保する事になる。

翼は前方への空力を考慮しているし、大型なので邪魔臭い。旋回にマイナスになる以上ネクスト戦には不向きだ。

相手がタンクとかになるとその限りではないし、結局は状況次第なのだが。

 

「次に、アサルトドラグーンパージ後用の背部兵装として、ソニックフェニックスが用意されています」

 

表示されたのは、半月型の基部の局面から4本の棒を伸ばした形状の兵装。

基部は半月の切断面に接続用のプラグがある。機体背面のコンテナブロックの両脇に装備するようだ。

棒は少し平たく細長い。先端は尖っており、刃の無い直刀を寝かせたような形をしている。

背面用兵装なのでこれが二つ。基本的には両側に同時装備することを前提としているようである。

 

「支柱部分からは直刀状のSPAを展開。最大延長10mの翼の表面で粒子反応を起こす事により推進力を得ます」

 

エリスの言葉と同時に画面内の3Dモデルが稼働。平たい支柱の両脇から刃状のSPAが伸び、先端で交わって更に伸びていく。

機体の背面に装備されたユニットによって、機体の両サイドへ計8本の光の線が伸びた。

なんとなく、どこぞの紅◯可翔式を思わせる。あっちより羽根の数は多いが。

丁度細身の剣の両刃が生えて伸びたようにも見え、事実当たったら斬れるだろう。かなり鋭い。

 

「展開されたSPAは装甲型と同様にブースターとしての機能を持ち、永続的なブーストも可能です。

 また、発生させた粒子とエネルギーを電磁場形成と粒子制御により収束・加速させ射出する事が可能です」

 

要するに、ビームである。羽根からビームである。便利兵装である。ロマンである。

専用の機構が居る上に脆くなるので装甲への導入は見送ったが、それでも強力だ。

使用に際する難しい演算はエリスにお任せ。多大な消費エネルギーはジェネレーターから。SPAと電脳とジェネの3つマジチート。

 

「簡易的なもののため威力自体は然程高くありませんのでご注意下さい。続きまして、腕部兵装の説明をさせて頂きます」

 

さて次だ。まず唐突だが、ゲームのACFAでは万能型より特化型の方が強いとよく言われる。

実際そういう意見が多いのも事実だが、それはACシリーズの操作性によるものだと思っている。

なにせこのシリーズ、コントローラーの殆どのボタンを瞬間的に使いまくるのである。ACFAのような高速戦闘では尚の事。

そんなややこしい操作をしつつ位置取りを考え距離と状況に合わせて最適な武器を使い分ける。無茶振りにも程がある。

だからこそ、ある程度プレイスタイルを限定出来る特化型は慣れやすいし扱いやすいのだ。

機体性能も一極集中した方がアセンブリがしやすく、その範囲においては最適化されている分強い。

しかしそれは決定的に苦手な距離、武器があるという事でもある。これは痛い。

なにせこれから俺が行くのは戦場。苦手な距離だったから負けたでは済まない。

アセンブリを変えようにも、ゲーム開始初期と同様使える種類は少ない。

だから必然的に万能型の方がいいし、何より俺は万能型が得意だ。

使い分けは大変だが好きなアセンブリで安定して戦えるし、次々と武器と距離を切り替えて戦うのは楽しかった。

ここまで言えば分かると思うが、これから出てくる武器はそういうものである。

 

「右腕の兵装から。マルチウェポンユニット1番、ガラティーンです。

 ガトリング砲・プラズマガトリング・ガトリングパイルを搭載した近接用兵装です」

 

うん、振り上げたその腕を下ろして欲しい。取り敢えず順番に説明していく

英名『Gallatin』、日本語ではガラティーン。肘から手首までの下腕全体を覆う追加装甲からなる兵装である。

追加装甲の外縁部には四角柱型の基部が8つ並び、それぞれの内側には円柱型のバレルを内蔵している。

バレル後方には装甲内部からせり出した実体弾丸用弾倉が接続されている。

兵装の後方には大口径の杭を内蔵した8基の弾倉が装備されており、

兵装最後部の肘に当たる部分には杭の射出用の大型ユニットが搭載されている。

腕の周りをぐるっとガトリングが囲み、その後ろ少し開けた所に杭の弾倉、肘には大型ユニットという形状である。

砲身内には強力なローレンツ力を発する電磁コーティングが施されている。SPAは力場は阻害しない。

 

まずガトリング二種から見て行こう。

8本のバレル後方が追加装甲内と直結しており、装甲内部の装置で生成した低出力プラズマを装填。

コイルガンの機構を用いて射出し砲身内の電磁コーティングによって生じた強力なローレンツ力によって再加速。

ガトリング機構によって瞬間的に砲身を切り替え続ける事で砲身への負荷を抑え、冷却装置によって冷却し続ける事で連射性を確保。

ガトリング砲としての連射性・速射性を確保しつつ、エネルギー兵器らしい高火力を得ている。

また8本の基部最後部には弾倉が接続されており、プラズマの代わりに実体弾の射出が可能。

こちらもコイルガンの機構による射出と砲身内のローレンツ力による再加速を用いる。

プラズマ式と比べ装弾数と破壊力に劣るものの、高いPA減衰力とプラズマ式よりも長い射程を有している。

と、まあACFAでのガトリング不遇を受けて製作を依頼した兵装だ。断酒の切り替えによる対応力の向上に成功している。

 

そして、お待ちかねガトリングパイル。パイルである。杭打ち機である。ロマン兵装である。

この兵装の展開機構。まず装甲が前方へ展開し拳を含め完全に腕部を覆う。

その後8本の基部が前方へと迫り出し、実体弾丸用弾倉を装甲内部へ格納。

兵装後方の杭を内蔵した弾倉が前方へせり出して砲身へ接続。

兵装最後部の肘部分に装備された大型ユニットが迫り出して砲身後方へと展開し、弾倉後部と密着する。

これで杭入り弾倉と直結した8連バレルが腕を囲い、その内の一基の真後ろに大型ユニットが鎮座している形になる。

バレルとユニットはSPAによって隙間を詰めているが物理的に接続してはいないので回転を妨げる事は無い。

 

発射時は大型ユニット内で小規模なコジマ爆発を断続的に起こす事で衝撃を発生、それを弾倉内の杭へ伝える事で加速。

砲身内のローレンツ力と合わせて高速で射出し、対象へ撃ちこむ。

射出後はガトリング機構によって砲身を切り替え、再び大型ユニットと密着した弾倉へ衝撃を送り込んで射出。

射出した杭は即座に弾倉へと引き戻され、再装填される。

これを繰り返す事でパイルバンカーを高速で連射するという素敵性能満載な兵装が完成した。

射出用の大型ユニットが肘部の一基のみのため同時発射数は1発に限られるものの、

凶悪な威力で射出されるパイルを毎秒8発の高速で連射するというまさに一撃必殺のロマン武器と化している。

射出終了後は衝撃と熱の排出と高速冷却のためにユニットを後方へ戻し、ユニット後部を起こす形で展開。

杭用弾倉と射出用ユニット後部から勢い良く煙を吹き出すその様は非常にロマンである。かっくいい。

 

「続きまして左腕部兵装です。マルチウェポンユニット2番、アロンダイトです」

 

おっと悦に入っていて聞き逃す所だった。次は左腕部用兵装。

ガラティーンは近距離からゼロ距離用の兵装だったため、こちらは中距離以上を想定している。

説明が長いので飛ばし飛ばし読んでくれ。英名は『Aroundight』、日本語ではアロンダイト。

手先を含めた下腕全体を覆う追加装甲と、そこから真っ直ぐに伸びる四角柱型の砲身8本からなる大型射撃兵装。

追加装甲内部にトリガーを有し、装甲内部に多数の弾倉を内蔵。

砲身は長方形の砲口を持つ細長い四角柱型で、8本の砲身が砲身底部で八角形を描くように並んでいる。

各砲身の基部には2箇所に可動関節が内蔵されており、砲身底部で隙間なく八角形を描く通常状態から八方へ展開することが可能。

伸ばした指を引き寄せるような駆動によって円形のクロー状にするように変形する。

これらも切り替え可能な兵装であり、8連装レールガン・8連装レーザー砲・大口径レールキャノン・大口径プラズマ投射砲となる。

 

まずは8連装レールガンから。

クロー状に展開した状態で使用する。色々理由はあるけど、一番の理由はその方がかっこいいから。

砲身の内部にはガトリング同様強力なローレンツ力を発生させる電磁場コーティングを施されており、

弾倉から装填された弾丸を基部の電磁加速機構で加速し、砲身内の電磁場による再加速と合わせて高速で射出する。

非常に高い弾速と長い射程を誇り、貫通力が高く距離による減衰を受けにくいのが特徴。

8連装のため当然8発同時に発射する事が可能であり、大型追加装甲内に弾倉を組み込む事で装弾数の増加にも成功している。

 

続いて8連装レーザー砲。

上記のレールガンと同様クロー上に展開した砲身を、更にそれぞれの砲身を裂くように上下にも分割展開。

基部から送信された高出力レーザーを砲身に沿って放出する。

出力調整と電磁場制御による干渉によって偏光させ、最大80度・最多4回の射線偏光が可能。

要するに折れ曲がるレーザーであり、遮蔽物越しの狙撃から全方位攻撃まで幅広く応用する事が可能な超技術。

ただし各種制御や高速戦闘中での使用はAMSによる思考操作に加え特異な専門素質を要する。

しかし我が機体の火器管制はエリスさん。的選択やトリガー以外のロック作業は彼女持ちである。

素質なんて関係ない。世の努力家達に喧嘩を売っている気がする今日この頃。

 

さて問題の大口径レールキャノン。

砲身は外側下部にも電磁コーティングが施されており、砲身が円形に並ぶことで下部が八角形の砲身を構築する。

更にSPAによるエネルギーバレルの形成によって長大な擬似砲身を展開して準備完了。

大口径かつ強力なローレンツ力を持つ八角砲身からは大型の弾丸を超高速で射出でき、それだけでも絶大な破壊力を誇る。

そこに加え通常の弾丸ではなく専用の多重反応弾を用いるため、大口径レールキャノンとしての破壊力に加え、

多重反応による物質の分解・爆縮による超高エネルギー・放出されたエネルギーと粒子による衝撃波などによって広域破壊殲滅を行う。

機構の大型化によって射出力が向上されており、弾丸に対して対電磁波処理と空気抵抗を減衰するコジマジェルの塗布を行う事で、

音速の3倍にも迫る超加速・3000mにも及ぶ超射程・非常に高度な射撃精度・レーダーやカメラ等による認識阻害能力などを有する。

最大射程での使用には足場展開による空中静止と極超長距離狙撃用の狙撃モードの使用が前提となっており、

その状態では機動力0で近距離ロック性能も低下。通常状態では1.5キロほどが限界ロック距離となる。

 

「こちらが多重反応弾の仕様書です」

 

多重反応弾。

粒子の反応抑制技術を用いて二層構造の砲弾の中に陽電子と擬似コジマ粒子を保存したもの。

発射時に外側層をレーザー加熱して内部の反応抑制コーティングを融解、擬似コジマ粒子の反応を誘発。

着弾時の衝撃と反応状態の擬似コジマ粒子が持つ高エネルギーによって自壊し、

充填された陽電子の対消滅反応と擬似コジマ粒子の爆発反応を引き起こす事で砲弾を中心に爆縮を発生。

瞬間的に小規模炉心と化した元砲弾内の各種反応によって反応範囲内の物質を分解、

爆縮によって発生した莫大な熱エネルギーによって周囲の物体は蒸発し、

更に発生した膨大な衝撃波によって広範囲を壊滅させ甚大な被害を齎すというもの。

また、陽電子の対消滅によって生じるガンマ線と擬似コジマ粒子、そして反応地点で生成される幾つかの粒子が反応、

別の無害な粒子へと変換される事が確認されており、

この反応現象を積極的に誘発する分量配分にする事でこの砲弾の使用による各種汚染はごく最小限に抑えられ、

反応現象の追加による威力の向上にまで成功している。

要するに、『コジマ砲よりはクリーンで高威力な反応弾』である。

全く汚染がないわけではないが、通常のPAを展開しているネクストよりはマシであろう。

 

そして武器紹介ラストは大口径プラズマ投射砲。

レールキャノン用弾丸内の擬似コジマ粒子と陽電子を反応、反応抑制機構によって反応出力を調節し、弾殻をプラズマ化させる。

プラズマ化した粒子と生成された粒子及び高エネルギーを加速装置によって加速、

砲身の電磁コーティングによるローレンツ力と合わせて超高速で射出する。

生成されたプラズマを絶え間なく射出し続ける事で約1秒間の間高出力のエネルギーを放出する。

一種のビーム砲であり、距離減衰と射撃精度を代償に亜光速の超速度と圧倒的な破壊力を誇る。

無差別破壊を引き起こすレールキャノンと違い、純粋なエネルギーの投射のためピンポイント攻撃が可能な点が特徴。

 

「ほんと、どうしてこうなった?」

 

「全て悠二様のご提案通りですが」

 

悪いのは俺なのか?確かに開き直って中二病満載のアイディアを出しまくったけど。

それはあくまでその内の幾つかでも実現してくれればかなり強力な機体が出来るだろうな、と。そう思って言ったんだ。

正直に言おう。変態ナメてた。まさかあの変態技術者連中、こんあバケモノ完成させてくるとは思わなかった。

しかもタチの悪い事に有り得ない程の超技術満載というわけじゃない。

量子コンピューターなんて前からあったのを生体部品っていうグレーな手段まで使って小型化・高性能化させただけだ。

コジマ粒子に代わる粒子だってどこぞの世界で似たような粒子が在ったのを実験繰り返して使えるようにしただけ。

粒子制御技術だってどこぞの世界から持ってきたのを実験的に導入しただけ。

粒子反応の抑制なんて、ちょっと近未来で核融合炉とか使っている世界になら割とよくあるらしい。

電磁コーティング等の各種コーティングや特殊材質だって、幾つかの世界から丸写ししただけの技術だ。

ただ、それだけ。今述べたたったこれだけの技術を組み合わせ、こんなバケモノを作ってしまった。

技術をモノにした連中も、応用した連中も、変態揃いである。もう一度言う。変態ナメてた。

 

「本機は"ステイシス"及び"ホワイトグリント"を参考にデザインされており、全翼戦闘機をイメージしたフォルムとなっています。

 空力を考慮しブースターも最新のものを用いた非常に高機動な機体です」

 

ああうん話進めるのね。

えっと、特に近いのはステイシスだね。SPA展開時は少し厚みを増してホワイトグリントに近くなる。

まあ作中でも印象の強かった二機だし、折角作るなら似たようなデザインに、と思いまして。細部はかなり違うけどね。

なんで完璧にイメージ通りに仕上げて来るかなあ。もっと違和感あるもんなんじゃないの?普通。

 

「悠二様には明後日、AMSを含めた各種調整処理を受けて頂きます」

 

取り敢えず機体の説明が終わったので格納庫から出つつスケジュール確認。

輸送機も別の所で組立作業中らしいし、完成したら見に行く事にしよう。

とまあ現実逃避しても仕方ないので話を戻す。

AMS。前述したが分かりやすく言うと思考制御を行うために神経を改造するのだ。

それにリンクスはAMSだけでなく、強烈なGへの耐性を含めた各種負荷などの諸々に対する耐性を得る必要がある。

そのために体をいじくりまわすのだ。場合によっては半ば生体機械化するかもしれない。

 

「ですが、悠二様へ施されるのはあくまでナノマシンによる強化処理のみです」

 

そう、俺は本来なら必要となるきっと痛いであろう手術をスルーして、ナノマシンによる手術が可能だ。

なんでも細胞を強化するナノマシンを用いて、細胞自体の強化と結合の強化を行うんだそうだ。

細胞一つ一つが出せる力を向上させるんだな。

強化された細胞はちょっとした刃物や軽機関銃ぐらいは当たりどころ次第では無傷で済むらしい。

当然Gへの耐性も万全。内臓等の機能や強度も強化されるので、勝手に健康になってくれるんだとか。

ナノマシンはがん細胞を避けるので強化された正常な細胞ががん細胞を駆逐してくれるなど、色々便利。

勿論医療補助用のナノマシンも含むし、AMSの変わりに量子通信によって脳と機体を直結させるナノマシンも注入される。

しかもこのナノマシン、燃料が脂質である。つまり体脂肪や血中脂肪を燃焼して動くのだ。

特に初回起動時の肉体を大幅に改造する時に物凄くカロリーを食うらしく、

ロクに運動もせずぽっちゃりしていた俺に対し足りないからもっと太ってこいと言うぐらいである。

そして燃焼されたカロリーの代わりに、強化された筋肉細胞は強化された事で自身への負荷を増すため常に筋トレ状態。

負荷と釣り合いが取れる一定レベルまで勝手に筋肉が鍛えられる。

細胞そのものの出力を上げるためムキムキマッチョになるわけでは無いらしいのだが、

どこぞのマンガの主人公が如くスマートでしっかりした体つきになること請け合いだとか。結構嬉しい。

普段の食事量を倍近く増やさないといけないこと以外大してデメリットも危険も無いのだが、

それでも手術とか処理と言われると少しビビってしまうチキンな俺。未だに採血と歯医者は嫌いです。

 

「リハビリが終了する頃には私も完成しますので、頑張ってくさださい、悠二さん」

 

よっしゃやる気出てきた。

ああ、ちなみにエリスはプライベートとそれ以外を使い分ける。

喋り方は変わらないが少し微笑みが増えて呼び方がさん付けになる。

元々、何かしらやる気を出す時や気合を入れる時に適当な語句に合わせて意識を切り替えるというのが俺の得意技だった。

本来ならこうして仕事とプライベートとかで使い分けるのだろうが、

俺の場合はもっぱらACFAでのネクスト戦みたいに集中力を要するゲームで使っていたので凄い無駄使いしていたが。

それでそれを見ていたエリスが人間らしい意識の切り替え方として学習して真似をしだしたのだ。

ちなみによく使うのは某正義の味方にあやかって撃鉄を上げるイメージ。「撃鉄を上げろ」と口にしたりもする。

案外こういうのは馬鹿にならないもので、やるとうまい具合に頭の中でスイッチが入るのだ。

大学入試の時に妙に頭が回らないと思ったらこれをやり忘れていて、

慌ててやったらすらすら解けるようになって普通に合格できたという経験もある。

普段から繰り返しているというのもあるだろうが、こんなのでスイッチ入る辺り中々人間の頭というのはファジーに出来ている。

 

「着きましたよ、現実逃避は終わりにして下さい」

 

せんせー、エリスが冷たいです。あ、元からですかそうですか。

さーて付いちゃったよ施術室。重厚な扉なんぞなく普通の医務室。

カプセルに入れて点滴さしてナノマシン注射して睡眠剤で眠らせて起きたら終了である。超簡単。

だからビビる必要など何も無い。無いのだ。

 

「が、がんばるぞー、おー」

 

どもったのはどうか見逃して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ごちゃまぜドラクエ(ドラゴンクエストシリーズ ハーレム 同人設定)
1ターン目


この設定には
・オリ主
・チート&俺TUEEE
・同系列作品多重クロス
・ハーレム
・おねショタ
・同人ゲームにおける設定
などが含まれます。ご注意下さい。





「おお、起きたか」

 

目が覚めるとそこには髭面のオヤジの顔…なんちゅう朝だ。

寝ぼけ眼を擦りながら起き上がると、今自分がどこに居るのかを思い出す。

此処はとある世界の海の上。定期便に乗ってビスタ港という港へ向かっている最中だ。

船室の中は必要最低限の家具が置かれており、ベッドの脇には俺の荷物も置いてある。

 

「もうすぐ港に着く。荷物を纏めて降りる準備をしておきなさい」

 

「はい」

 

俺に声を掛けてきた髭面のおっさんの名前は『パパス』。皆ご存知ぬわーの人。

さて、今の一行で俺がどういう存在でここがどういう世界かは概ね理解してもらえたと思う。

何を隠そう俺には前世の記憶というか知識があるのだ!そこ、テンプレ乙言うな。

まあ実際記憶は結構歯抜けがあるし、記憶というより知識…映画でも見たような感覚だ。

それに最初から自我があったわけではなく、自我の成長と共に思い出していった形になる。

俺個人としては今生きているこの肉体の精神のつもりなんだけど…実際どうなのかは分からない。

異世界から精神だけが乗り移ったのか、それとも単に前世の記憶があっただけなのか。胡蝶の夢かも知れない。

で、そんな記憶の中でもなぜか鮮明に、まるでハードディスクに記録でもしたかのように細部まで克明に覚えている事がある。

それが俺が今居る世界、ドラゴンクエストというゲームの記憶である。

正直最初は驚いたなあ。知らないはずのことを知っていて、それと全く同じものを体験するのだ。子供心にかなり怖かった。

ちなみに一応だが俺はドラクエシリーズは全てプレイ済だ。裏ダンなども全クリした。

といっても大概最近のハードでリメイクされたものであるし、昔あったバグ技や裏ワザ、消えた設定なんてのは全く知らない。

そもそも天空シリーズに至っては原作じゃなくて同人から入ったぐらいだ。

一番好きなのはⅦ。長いだのバランスおかしいだのネットでは散々言われていたが、

B◯◯K◯FFで2000円ぐらいで売っていた中古のⅦがドラクエシリーズの初プレイだった事もあってかなり気に入っている。

実際経験値は手に入りにくくてメタルゲーだったけど、現実的に考えればおかしくもない。

長さはストーリーの重厚さのウラ返しでもあったし、長く楽しめるという点でも好きだった。

 

「船長さん、お世話になりました」

 

「おお、次で降りるのかい?元気でな」

 

今何をしているのかって?挨拶回りだよ。この世界では現代日本よりも人付き合いとか礼儀というものが大事にされている。

だからこうして挨拶をするというのは大事な事であるし、そうだと教えられてきた。

実際現代と違ってこの世界での航海は危険が多い。

魔物も出るし、船はちょっとした嵐でも転覆の危険がある。GPSなんて無いから現在位置の確認だけでも大変だ。

そんな世界で船を動かし、俺達を安全に港まで届けてくれる船員さん達になら感謝の念も抱くというものだ。

それにこの時代の木製の船でここまで揺れが少なく快適に過ごせるというのは結構凄い。

 

「コックさん、有難うございました。料理美味しかったです」

 

「おう、有難う坊主。また利用してくれ」

 

そうそう、この世界の話だったな。

先程までの話でここがドラクエの世界だというのは理解して貰えたと思う。

だが誤解しないでほしい。ここは"ドラクエの世界"であって"ドラクエⅤの世界"ではない。

…何が言いたいかと言うと、だ。

部屋に戻って世界地図を広げる。それは俺の知っているものとはかなり違う。

勿論地球の地図と違うのは当然だ。しかし俺の脳内にあるどのドラクエシリーズとも違う。

だが同じ名前の大陸や地名は存在している。

ここまで言えば分かる人も多いだろうが、この世界はドラクエシリーズ全部纏めちゃった世界…なのである。

 

「イカリを降ろせ―」

 

おっと、港に着いたよだ。水夫さん達が慌ただしく接舷準備をしている。

とりあえずこの世界の事を頭の片隅に追いやって、様子を見に出てみる。勿論直ぐに降りられるように荷物を持って。

甲板に出ると丁度接舷が済んだ所のようで、この港で乗る客が次々と乗船してきていた。

定期便と言ってもこの世界じゃ一日何本も船を出す事は出来ない。数日から下手すれば数週間に一本だ。

だから乗り込む客も多い。殆どは商人だが、中には冒険者や旅人らしき人も見える。

そんな中でも中々に目立つ客が三人。でっぷりした商人風の男と娘らしき美少女(美幼女?)二人。

恐らく彼らが大商人ルドマンとその娘姉妹のデボラとフローラだろう。綺羅びやかさというか身に着けているものの豪華さが違う。

ルドマンさんはでっぷりした体型に見合わない身軽さで船に乗り込み、デボラは「邪魔よ」と毒を吐きながら乗り込んでくる。

その後ろに続いてフローラも乗り込もうとした所で、段差に躓いてよろけてしまった。

 

「きゃっ!?」

 

「おっと。大丈夫?」

 

「えっ!?あ、はい、ありがとうございます…」

 

危ない危ない。もう少しで海に落ちる所だった。乗り込みづらそうにしていたので近くに寄っておいて正解だった。

とりあえず大丈夫なようなので一安心して話そうとしたのだが、何故か服を掴んだ手を話してくれない。

どころかまるで見惚れるようにぼーっとこちらを見つめている。

この表情には見覚えがある。以前の旅先でも見たことがある表情だ。

何でも俺の瞳はかなり澄んでいて綺麗らしい。社会人の兄ちゃん(おっさんではない。断じて)の記憶というか知識があるのに。

まあ実際、目は口ほどにモノを言うと言えど、この年ではそこまで内面の影響は出ない。

心に思っている事が目や表情に出たりする事はあるだろうけど、そもそもこの年頃の子にそこまで見分ける能力も無いだろう。

そんなわけで俺の瞳は宝石クラスの美しさらしく、近くで見てしまうと思わず見惚れる…と、旅先のお姉さんが教えてくれた。

 

「おお、フローラ、大丈夫か?」

 

「ふぇっ!?お、お父様!?あ、はい、大丈夫です。あの、本当に有難うございましたっ!」

 

そう言って顔を赤くして走り去っていくフローラ。可愛いではないか。

ルドマンさんらしきおっさんも「ありがとうね」と頭を二、三度ポンポンと軽く叩いて去っていく。

デボラはこちらの様子を伺っていたようだが、目が合うとフンっと踵を返して去っていった。

これでフラグが立った…のか?いや、でも普通に考えてこんな事で結婚まで行くってあり得るんだろうか。

まあ、一応試練を超える必要はあるし、それまではちょっと気になる人ぐらいだったのだろう。

どちらかと言えば結婚してから絆を深める、お見合いのような感じだったのかも知れない。

 

「おお、ここに居たのか。さ、降りるぞ」

 

後ろからパパス…親父に声を掛けられてそのまま船から降りる

最初は『お父さん』と呼んでくれと言われたのだが、俺の前世での父親の呼び方が『父さん』だった事や、

当時急速に前世の記憶を思い出して混乱していた俺は軽い腹いせに悪戯してやりたい気分になり、親父と呼び始めた。

最初親父はガッカリしていた様子だったのだが、俺自身は結構得した事もある。

俺が親父と呼んでいるのが可愛らしい子供が背伸びしているように思えるらしく、お姉さま方やお年寄りに受けがいいのだ。

体が子供で反応しないため強い情欲を抱く事は無いのだが、

精神は半ば大人なため綺麗なお姉さんに可愛がられるのはやっぱり嬉しい。

俺は可愛いっていうのも褒め言葉だと分かってるから恥ずかしく感じたりはしないしね。

 

「む、スライムか…この程度ならお前でもやれるだろう。やってみなさい」

 

そう言って親父に声を掛けられて前を見ると、ゲームでよく見たとんがり頭のあんちくしょうが3体現れた。

実に可愛らしい容姿でモンスターでなければ犬や猫なみにペットとして普及していたかも知れない。

元々大人しく扱いやすい部類なので、魔物使いに調教されたスライムはペットとして結構人気である。

家の汚れや肌の老廃物を勝手に消化して食ってくれるというおまけ付きだ。

一家に一匹、スライム掃除機。

 

「ピギー!」

 

「ハッ!」

 

下らない事を考えているのがバレたのかは分からないが、3体の内の一匹が勢い良く襲い掛かってくる。

しかし普段から鍛錬でパパスの連撃を捌いている俺からすれば余りにも遅すぎる。

何せ鍛錬では常に俺が認識出来るギリギリの速度で打ち込んで来るのだ。

打ち込み、打ち込まれ、打ち合いを行う。

一時間ずつの三セットを朝と晩に二回、毎日繰り返していたおかげで剣術はこの年ではかなりのものである。

というわけで簡単に攻撃を躱した俺は横目で残りの2体が足を止めているのを確認し、

そのまま飛び込んできたスライムをカウンターで打ち払う。――クリティカルヒット。

 

「ピギーっ!?」

 

ひのき製の木刀で思い切り打ち払うと、あっさりとスライムは霧散した。

霧散した後にはゴールド硬貨が落ちている。

何故霧散するのかは分かっていない。単に死んだら消えるのか、それとも魔界にでも還るのか。

ゴールドだって何故落とすのかは分かっていないし、そもそもモンスターが持っていたゴールドを硬貨として流通させたのか、

人間が流通させたゴールドをモンスターが持っているのか、そのどちらかすら分かっていないのだ。

初めて国が出来たのやモンスターが現れたのは随分昔らしく、文献も何も残っていないらしい。

多くの国庫内に死蔵されている硬貨の量が莫大な事や敵を倒せば無尽蔵に出てくるせいで、

製造するよりもむしろ増えすぎた硬貨を回収して物価バランスを保っているらしいのだから凄まじい。

 

「ぴ、ピギ…」

 

「ふっ!ハァッ!」

 

関係ないことをつらつらと考えている間にも戦闘は続く。

仲間が倒されて怯んだスライムの1体に素早く接近し、斬りかかる。

数mの距離があったがこのぐらいなら一歩の範囲内だ。

片足で地面を蹴り飛ばして一瞬で肉薄し、そのまま勢いと体重を乗せて木刀を振りぬく。――クリティカルヒット。

一瞬で迫った俺に全く反応出来なかったスライムは全力の一撃を受けて霧散する。またゴールドを落とした。

一連の流れを見て怖くなったのか最後のスライムが逃げ出そうとするが、回りこんで斬りかかる。

確かに臆病ではあるがメタル系と違って足は早くない。人間の足なら十分に回りこめる。

折角の経験値兼ゴールドを逃がすつもりも無かったので、さっさと打ち倒す事にする。

 

「セイヤッ!ちっ、ハァッ!」

 

「ピギっぴっ…ピギーッ!」

 

回りこんで斬りかかるも今度はしっかりと受け止められた事でクリティカルならず。一撃で仕留めそこねた。

しかし殆ど瀕死だったようで完全に動きが止まり、そのまま木刀で打ち払って倒す。

そして経験値とゴールドを落とし、戦闘を終えた俺の耳にファンファーレが鳴り響いた。

 

―ててててってってってー―

 

レベルが1から2に上がる。力と素早さが少し増した気がする。体力と魔力容量も結構増えた。

やはりゲームと同じで序盤はレベルアップの恩恵がデカい。特に体力と魔力。

力などは武器を装備すればレベル数個分上がるのでそれ程でもないが、

体力と魔力容量…所謂HPとMPが増えるのは有り難い。1レベ上がるだけで魔法2、3発分増える事もあるしな。

俺は精神が成熟していた影響かMPが高い。

MPとは魔力の容量と、それを操る精神力のバランスで成り立っている。

精神力や魔力の制御技術が低ければ魔力容量が高くてもMPは低い。

ちなみにこの世界の生物は人間魔族動物問わず、自身が持つ魔力で肉体を強化している。

転職でMPやかしこさが上下するのは、要するにこの強化に割り当てる魔力容量と制御能力が変化するからだ。

かしこさとか単純化されているのは子供や学のない人間にも分かりやすくするため。よく出来ている。

逆にHPは肉体耐久値のみを意味する。スタミナとか体力はまた別物だ。

スタミナ回復を追求した携帯食料は冒険者の必需品だったりする。

 

「ふむ、ちゃんとレベルも上がったようだな」

 

「うん、ちゃんと上がった。実感もあるよ」

 

そうそう、鍛錬をしてきたと言ったが実際の俺のレベルは1のままだった。これは魔物との戦闘経験が無いためである。

この世界、よく分からんのだが戦闘経験と鍛錬経験は別扱いなのである。

分かりやすく言うとキャラのレベルと職業の熟練度の違いに似ている。

何でもルビスの加護だとか天空人の叡智だとか神の祝福だとかいう類のものらしく、

敵を倒せば倒す程その加護とやらが強まり、一定を上回ると肉体や戦闘力が強化される。これがレベルアップらしい。

とはいっても盗賊倒しても経験値が手に入るのだからよく分からんのだが、

そもそも各国の研究者もレベル関連についてはよく分かってないらしいので考えない事にする。

勿論俺のようにレベルが1でも鍛錬によって体を鍛えたり技術を磨いたりも出来る。

ただレベルアップの恩恵がデカいのと手っ取り早いので、鍛錬するぐらいなら実戦で鍛える、という人が多いのだ。

俺は子供の頃からいい師を得た事もあって鍛錬を中心に行なってきたのである。

そもそも、今まで居た所の敵が俺の手に負えるレベルではなかったというのもあるが。

 

「うむ、中々の動きだった。流石わしの子だな」

 

「ありがと。親父がいつも鍛えてくれてたおかげだよ」

 

これは本当に感謝している。そもそも前の世界の親の顔は薄ぼんやりとしか覚えていないし、

年齢と共に思い出した記憶はどちらかというと人に教えられたような感覚だ。

だから俺にとっての親父はパパスで、母親はマーサだ。

厳しい所もあるが基本息子には甘くて優しいし、こうして俺が生きるための技術もしっかりと叩きこんでくれた。

確かにパパスの息子だと色々大変な事も起こるのだろうけど、それでもこの親父の息子に生まれて良かったと思う。

 

「ははは、そうかそうか。よし、問題も無いようだしそろそろ進もうか」

 

「うん」

 

さて、目指すはサンタローズの村。確かビアンカっていう将来のお嫁さん候補と会える筈だ。

フローラの時は一瞬だったためさほどでもなかったが、

流石にこれから未来のお嫁さん候補と会うとなると緊張してくる。

何せ嫁候補について思い出したのは2年間の旅の途中である。

とはいえここからサンタローズまでは数日かかる。ゲームでは野宿シーンなんてカットされてたから分からんかったけど、

やっぱりこの時代街道があるとはいえ子供の足では時間がかかる。モンスターも出るしね。

今は余計な事を考えず、モンスターを倒してレベルアップする事を考えよう。

次は魔法を試してみようかな。剣の技を試すのもいい。ちょっと…いや、かなり楽しみだ。

 

 

 

 

「バギ!飛剣、ツバメ返し!」

 

2体のスライムのグループにバギを放ち、巻き込まれていくのを横目に見ながらドラキーに斬りかかる。

ツバメ返しは親父が覚えていたので鍛錬の時に教えて貰ったものだ。

流石に低レベルで習得するのは大変だったけど、親父直伝という事もあり何とかモノに出来た。

低レベルの内はこういう特効技はかなり役に立つ。ドラゴン斬り、ゾンビ斬り、メタル斬りも覚えている。

魔法に関しては中位呪文までなら一通り使える。補助なども一通り。

この世界での魔法はひたすら魔導書を読み込むか、自身か職業のレベルを上げるか、研究して開発するかで覚える。

俺は1番目の魔導書を読み込む事で覚えた。

文字は精神が成熟していたのと前世のものに似ていた事もあり、比較的簡単に習得出来た。

後は魔導書を読み込んで呪文と魔力の制御パターンを憶え、詠唱してぶっ放す。それだけ。

…親父は攻撃魔法苦手らしいのでそう教えたら「"それだけ"で済むのはお前だけだ」と呆れられた。

本来はレベルが追いつかなければ簡単には覚えられないものらしい。

で、そんな事よりも何よりも問題というかおかしいというか気になる事が一点。

 

「ライディン!!」

 

「ピギーーーっ!」×4

 

…うん、何でライディン?何、歌えばいいの?ららいらーいってか?ゴッドボイスってか?え、古い?サーセン。

っていや、だからそうではなく。何故に使える。勇者の特権では無かったのか。

もしかして天空装備使えるんじゃなかろうな。

いや、予想は出来る。先程話したと思うが、この世界はドラクエシリーズごちゃまぜの世界である。

今居る土地は天空シリーズの舞台となる大陸。

で、ここから遠く離れた北の方にアレフガルドという大陸がある。

トロデーンという国のある大陸とグランエスタードという国のある島国も確認した。世界地図で。

9の舞台は無いらしい。何故かは知らん。作者のしゅm…ゲフンゲフン。

まあつまりごちゃまぜの世界という事は『職業:勇者』も存在するという事だ。

天空の装備が使えるかは別問題だろう。あれは血が問題なんだし。

血と言えば、いたストでⅤの主人公…つまり俺がロトの血を引いているっていう話もあったような。まさかロト装備使えるの?

使えない気はする。なにせ前世の関係ない一般人の記憶があるのだ。天空装備にもロト装備にも反応しない可能性は高い。

となるとⅦ主人公みたいにあくまで人の身と装備で神クラスに挑む事になるんだろうか。

世界の出来事も学んだが、どうやらアレフガルドはⅡ、此処はⅤ、トロデーン周辺はⅧ、グランエスタード周辺はⅦの、

それぞれ本編開始前の世界のようだ。要するに各シリーズの最終章に当たる世界という事だ。

多分グランエスタードの遺跡とかで過去に飛んだらそれぞれの過去時系列の作品世界に辿り着くのだろう。

各作品の主人公は居るのだろうか?Ⅴ主人公は俺だろうけど、まさか他の作品の事件も俺が解決、なんて事は………あり得る。

やばい、幼年期編とかで無駄に時間掛けられないぞ。奴隷生活なんてもっての他だ。

最低でも他に主人公が居るのを確認しないととてもじゃないけど時間を無駄には出来ない。

 

「おお、サンタローズが見えてきたぞ。うん?どうしたアベル」

 

「へ?あ、ううんなんでもないよ」

 

はい、やっと名前が出ましたアベルです。リメイク版の公式ガイドブックや説明書での名前だね。

 

最初は母さん(親父と違って素直にそのまま呼んでいる)がリュカって付けようとしていたのだが、

親父がアベルで押し通したらしい。リュカと呼んだら泣いて、アベルと呼んだら泣き止んだそうだ。

実際リュカって名前は自分へのイメージ的に微妙な気がするので、

恐らく潜在的に記憶していた前世の人格が反応したのだろう。

そんなわけで俺の名前はアベル・エル・ケル・グランバニア。名前以外は小説&CD通りである。

勿論現在はグランバニア性は隠して偽名を名乗っている。

親父は俺が王子だと知らないと思っているようだが、前世知識で知っているのだよはっはっは。

 

「お?おおっ!パパス様!パパス様では御座いませんか!それに坊ちゃんも!」

 

「ああ、久しぶりだなサンチョ。元気にしていたか?」

 

「勿論でございますとも!パパス様もお元気そうで。坊ちゃんも大きくなられましたなあ」

 

村に入るや否や男性が声を掛けてきた。親父の召使のサンチョさんだ。

陽気に大声で名を呼ぶもんだから、他の村人達も集まってきてしまった。

結局そのままわいわいと騒ぐ人の波に連れられ、再会を喜ぶ人達との歓迎会に発展してしまった。

小さい頃から自我があったため覚えているが、やはり親父は村の人に好かれている。

このサンタローズ以外でも友好的な人は多いし、出会った人は概ね友好的に接してくれる。

やはりその強さと人柄が好まれるのだろう。

 

なにせ強さ…要するにレベルが高いとそれだけで強者の風格がヒシヒシと滲みだす世界だ。

加護が目に見えるとでも言うのだろうか、見た目ひ弱そうだったり気弱な人物でも、纏う空気で一目瞭然。

魔物が跋扈するこの世界では男でも女でも強い・頼りになるというのは好かれる要因の多くを占めている。

だから強い風格を持っているとそれだけで一目惚れされる、なんてこともあるぐらいだ。

見た目完全におっさんな親父に一目惚れして告白してきた20代前半らしき女性が居たのには流石に驚いたのを覚えている。

まあ要するによほどの下衆でなければ強くなるだけで嫁さんには困らないというわけだ。

王族や一部の国では一夫多妻も認められてるしな。

一夫一妻にするよりも、力ある者が複数の女性を守り、優秀な遺伝子を多く残す方がいいという事らしい。

実にうらやまけしからん話しだ。あ、俺も王族だっけ。ありがたやありがたや。

 

「あ…えっと、アベル?」

 

「へ?」

 

いきなり躊躇いがちな声で名前を呼ばれたので振り返ると、なんとも可愛らしい金髪美幼女が一人。

将来はきっととんでもない美人になるだろう。いや、知識に関係無くそう思える。

まあ読者諸兄なら直ぐに分かると思うが、彼女がビアンカだ。

金髪を三つ編みのおさげにしていてちょっとお姉さん気取り。背伸びしたいお年頃。

以前会ったのは2年以上前で俺は当時4歳。流石に普通なら覚えていない可能性の方が高いのだが、

3歳頃には人の顔を憶えられるぐらいには人格が形成されていたのでモーマンタイ。

いきなりの再会でちょっと驚いたが、可愛らしい姿を見て笑みを浮かべながら名前を呼ぶ。

 

「久しぶり、ビアンカ」

 

「えっ!?あ…覚えてて、くれたんだ」

 

お姉さんらしくしたいのか必死で抑えようとしているが、嬉しそうな空気が滲み出ていて完全にバレバレだ。

勿論それを指摘するような事はせず、久しぶりに会った幼馴染を優しくハグする。

顔を赤くしたビアンカはそれでも抵抗せずに抱き返してくれて、改めて「ひさしぶり、アベル」と声を掛けてくれた。

この世界は欧米文化なので親しい人同士がハグするのは別段おかしくはないのだが、

流石にこうして相手に恥ずかしがられたり、色っぽいお姉さんにされたりするとドキドキしてしまう。

…というか、長い。普通ハグって挨拶代わりの一瞬で終わるんだけど。何故か離れようとしないビアンカ。

あれ、なんでこんな好感度高いの?レヌール城イベントまだだよ?

 

「…ビアンカ」

 

取り敢えず俺の方から離れる気は毛頭無いのでそのまま抱きしめ直す。

頭を優しく撫でて、そのまま頬を撫でながらそこで手を止める。

若干ビアンカの目が潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

というか女の子と抱きあって頬に手を添えるってこれキス直前の体勢じゃね?

…あ、なんか恥ずかしくなってきた。やばいドキドキする。俺今絶対顔赤い。

 

「…ふふっ」

 

と、突然何が可笑しいのかクスリと笑うビアンカ。

さっきまでのうっとりした表情とはうって変わって、いつものお姉さん気取りの表情だ。

 

「アベル、顔真っ赤よ?あはは、可愛い♪」

 

「うぐっ…」

 

やっぱりかあ…

いや、しょうがないだろ?ビアンカ可愛いんだから。

前世の知識あっても精神や人格はこっちの俺のものだし。だからロリコンではない。決して。

というかもうロリコンでもいいや。ビアンカ可愛い。

 

「おやおやまあ、微笑ましいねえ」

 

「ほお、やるなアベル。もうお嫁さん見つけたのか?」

 

馬鹿な事を考えているとビアンカのお母さんと親父から茶化すような声が聞こえる。

振り返ると集まっていた人たちが実に微笑ましいといった様子で生暖かい視線をこちらに向けていた。

…完全に忘れていた。そうだ、今周りには大量の人が居たんだった。あ、やばいはずい。

見ればビアンカの顔も真っ赤だ。多分お嫁さんとか言われたのもあるんだろう。

とはいえそこは20過ぎの知識を持った俺。顔を赤くしながらも務めて冷静に切り返す。

 

「あはは、お義母さんも、お久しぶりです」

 

『おおっ!?』

 

「なっ!?」

 

俺が声を掛けると小母さんがあらあらといった感じでほほ笑みを浮かべ、

親父は流石わしの息子だと言わんばかりに頷いた。

周りの大人たちは『言うじゃねーか坊主』的な歓声を上げ、ビアンカに至っては真っ赤になって俯いている。

お嫁さん発言を認めるような事を言っただけでこれである。実に可愛らしい。

難点としては言った俺も中々に恥ずかしく、顔の赤さを全く誤魔化せていない所だろうか。

 

「はっはっは、相変わらずだなアベル。積もる話もあるだろう。

 わしはわしで話があるから、ビアンカと一緒に部屋に行ってなさい」

 

「うん、分かった。ほら、ビアンカ」

 

「え、ええ…分かったわ。…もう、アベルのばかっ」

 

気を利かせてくれたらしい親父の声に従ってビアンカの手を取る。

ビアンカも満更でもないのか、口では悪態をつくも表情は嬉しそうだ。

取り敢えず何から話そうか。まずは改めて再会を喜んでいることを伝えよう。こういうのはマメさが大事。

そしたら次は旅の思い出だな。親父が告られた事とか、俺の鍛錬の事とか。

初めての戦闘の話もしたいし、新しく覚えた魔法の話もしよう。

ビアンカの方も話したいことは沢山あるはずだ。ちゃんと聞いてあげて忘れないようにしないとね。

話が終わったら一緒に遊ぼう。鍛錬ごっこをしてもいいし、魔法の練習でもいい。

裏手の洞窟に行くのもいいし、ただ喋りながら歩くだけでも楽しいだろう。実に楽しみだ。

 

 

 

 

 

 



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2ターン目

 

(はあ…かっこいいなあ…)

 

私、ビアンカは今一人の男の子を夢中で見ている。

アベルというその男の子は今私の目の前で日課らしい鍛錬を行なっている。

毎朝早くに起きて村を数週走り、家の裏の数mを何度か全力疾走。ゆうさんそうんどうとむさんそうんどうだって言ってた。

走り込みが終わるとゴザの上で柔軟運動をする。アベルの体はかなり柔らかい。

触った感じではしっかりとした力強さを感じるのに、不思議。

柔軟が終わったら筋肉を鍛えるトレーニング。腕立てや腹筋、スクワットなどを二十回ずつ。

筋肉は戦闘時の動きに合わせて鍛えるのが一番いいから、筋トレはやり過ぎない方がいいんだって。

あまり筋トレをやりすぎると筋肉が固くなるから、最低限がいいって言ってた。

筋トレが終わったらいよいよ剣術の鍛錬。

勿論走って汗を流してる姿なんかも格好いいのだけど、やっぱり私が一番好きなのはこの時間。

木刀っていう木の剣を正眼に構え、目を閉じて深呼吸して集中する。

まるで周りの空気が研ぎ澄まされアベルに収束していくかのような雰囲気に思わず息を呑む。

すっと目を開いたアベルはゆったりとした動きで剣を動かす。

剣はゆっくり動かすほうが難しいらしい。勢いが無いと剣筋がブレ易いから。

でもアベルの剣は私の目には一切ブレているように見えない。綺麗な弧を描き、直線を引いて、まるで踊るように剣を振る。

ゆったりとした動きなのに私には剣筋が見えない、見切れない。

きっとあの前に立っているのが私なら斬られた事にすら気付かないだろう。

 

「……………ハッ!」

 

一通りの型を終えると、次は仮想敵を相手に剣を振るう。

最初の相手はスライム辺りなのか、低めを狙って突きを繰り出す。

アベルの突きには二種類ある。木刀が岩に突き刺さる程鋭い突きと、細い木をなぎ倒す程の衝撃を伴う突きの二種類。

今回は後者を使ったのだろう。スライムが吹き飛ぶのを幻視する。

目線を外した。スライム程度なら一撃という事だ。そして次の目線は中空。恐らくドラキー辺り。

相手が飛び掛ってきたのか、上体を少し倒して攻撃を避ける。

そしてそのまま振り向き様に鋭い切り払いを行い、返しの刃で斬り落とす。ツバメ返しだ。

アベルは素早い剣捌きが得意らしく、私には一瞬で二度剣を振ったようにしか見えない。

そうやって数度架空の敵との戦闘を続けていると、突如アベルの纏う空気が変わった。

それまで殆ど動いていなかったアベルが急に後方に飛び去り、そして直後爆発的なスピードで斬りかかる。

…パパスさんだ。

アベルのお父さんであるパパスさんは物凄く強いらしい。それは私も分かる。幼い私でも分かるくらいの"風格"を持っている。

アベルもパパスさんには全く歯が立たないらしい。魔法を使えば多少傷は付けられるそうだけど、

当たりどころが悪くて大怪我してはいけないので中級以上の魔法は使わないんだって。

 

「ッ!アアッ!…っち、せい!とう!はっ!セヤァッ!」

 

力任せに振り払った反動で後ろに飛び去り、また勢いを付けての三段突き。

それもパパスさんの剣でいなされ、しかしほんの少しの隙を狙って一撃を加える。

アベルは体格が小さくて力も無いから、パパスさんと戦う時は基本的にスピードを乗せて攻撃する。

そうやって何度も繰り返して行くうち、仮想のパパスさんになんとか一撃入れた所で鍛錬を終了する。

仮想とはいえ一撃入れたのだから嬉しそうにすればいいのに、アベルはどこか不満気だ。

数日前に聞いた話では、今のアベルではパパスさんに一撃入れるなんて到底無理で、

それが出来てしまうという事は自身のイメージが甘いんだ、って言ってた。

どうせ本物じゃないんだしそれぐらいいいじゃないとは思うのだけど、そこはやっぱり男の子、拘りがあるのだろう。

兎に角、これで剣術の鍛錬は終了。やっと私の番だ。

 

「待たせちゃってごめんね、ビアンカ。退屈じゃなかった?」

 

「そんな事ないわよ。アベルの剣を見てるのは楽しいわ」

 

素直に見惚れてたなんて言えないからつい適当に返してしまう。

剣を振っているアベルは格好いい。仮想敵と戦っている時なんて、その相手が幻視出来てしまうぐらいに正確で綺麗だ。

汗を流し真剣な表情で剣を振るうアベルはとっても格好良くて、しかもその剣と魔法で私を守るって言ってくれた。

「アベルは何でそんなに強いの?」って聞いたら、「ビアンカのような大切な人を守るためだよ」って答えてくれたの。

その時の目は真剣そのもので、私思わず嬉しくなってアベルのほっぺにちゅーしちゃった。

思い出したら思わず顔が赤くなってしまう。

 

「?…さて、今日は昨日の続き。メラミだね」

 

「よーし、絶対ものにしてやるんだからっ!」

 

ここ最近私はアベルに魔法を習っている。

アベルの体験談や経験則も交えて一緒に教えてくれて、出来るようになるまでちゃんと見ててくれる。

メラとギラは直ぐ実戦レベルになったけど、メラミとベギラマは時間がかかった。

丁度一昨日に何とかギリギリ実戦レベルでベギラマを使えるようになって、昨日からはメラミの練習に入っている。

一度きちんと発動出来ればあとは一人でも練習出来るので、頑張っている。

けど中々上手くいかない。アベル曰く私は炎系の適正が高いのだけど、中でもギラ系が一番適正があるらしい。

だからベギラマの習得は数日で済んだのだけど、メラミはそうは行かない。元々難易度に大差はない筈なのだけど。

早ければ一週間、長いと二、三週間はかかるって言っていた。

でもそんなには待てない。だって明日には私はアルカパの町に帰る。

ここからアルカパへは二、三日かかるし、アベル達だって暇じゃないんだから会える時間は減ってしまう。

お願いすればアルカパまでは護衛に着いて来てくれるかも知れないけど、

それでもアルカパに滞在するのは一週間程度が限度だろう。

私はアベルが好き。とってもとっても大好き。

だからちょっとでも一緒に居られるように、アベルに着いて行けるように頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

わしの息子は天才だ。などと言うと親馬鹿に思われるかも知れないが、本当に天才なのだ。

僅か3歳の頃にはかなりはっきりとした自我があった。

そのせいかは知らないがお父さんと呼んでくれと言ったら親父って呼ばれたのは地味にショックだった。

まあそれは兎も角。4歳の頃にわしと一緒に旅に出て、それと同時に稽古を始めた。

最初は剣の振り方から始まって本当に"稽古"という感じだったのだが、

1年もすれば基礎は殆ど覚えてしまってそこからはしっかりとした"鍛錬"へと切り替わった。

結局わしが使える技の半数以上を憶え、なおかつ教えた覚えの無い技まで何時の間にか使いこなしていた事もある。

まさに天才的な剣術の才能を持つ息子だが、それよりも更に才能を持つ分野がある。魔法だ。

最初に使った魔法はホイミだった。剣術の修行で生傷は絶えなかったし、いきなり攻撃魔法は危険だったというのもある。

しかし初めて使ったホイミは再生速度・再生レベル共にわしのものとは段違いだった。

わし自身あまり魔法は得意では無いのだが、それでも経験という意味では一日の長がある。

しかしアベルが初めて使ったホイミはまるで熟練の魔法使いさながらの精度と性能だったのだ。

 

「すぅ…メラゾーマ!!」

 

何やら物騒な声が聞こえた直後、わしの前方で盛大な爆炎が舞い上がる。火柱どころの騒ぎではない。

考え事をしていため完全に不意打ちを食らったようなもので、思わず腰が引けてしまった。

幾ら自分に向けていないとはいえ、直ぐ近くでこれほどの爆炎が上がれば恐ろしくもなる。

熱心にアベルを見つめていたビアンカも目を丸くして驚いている。

危なかった。大型の魔法を使うという事で町外れの岩場を鍛錬場として使うように言っておいて良かった。

家の裏手なんぞでやられた日には家が燃え尽きる。

 

「よっし!完成!」

 

「す、凄い凄い!凄いじゃないアベル!」

 

満足行く手応えを感じたようでガッツポーズを取る息子と、我が事のようにはしゃぐビアンカ。

ココだけ見れば微笑ましい光景なのだが、先程の光景を見た後では妙にシュールだ。

何にせよ、うちの息子は天才である。たった6歳でメラゾーマが使える奴など果たして今まで居たのだろうか。

それも相当な威力と精度である。多少の熱は感じるが、指定した範囲以外には一切炎が漏れていない。

小さな範囲に膨大な熱量と炎を集束させた事で先程の高い火柱となったのだろう。

元々メラゾーマは爆弾岩やリザードマンクラスの中級モンスターですら一撃で焼き尽くせる火力があるのだ。

その上息子の魔法は通常と比べて約1.5倍程の威力がある。

ケルベロスやボーンライダーのような上級一歩手前のモンスターを一撃で倒せてしまう。

中級と言っても現実的に出現する範囲内では軽く最上位に位置するモンスターだ。

つまり、普通に陸地を旅して出会う程度のモンスターなら確実に一撃必殺出来るという事だ。

 

「右手にメラゾーマ、左手にメラゾーマ――合成。メガメラゾーマ!」

 

「へ?きゃあああああああああああああああああっ!?」

 

なあっ!?……………岩場が完全に消し飛んでしまった。塵すら残っていない。しかも地面が溶けている。

横で見ていたビアンカも悲鳴を上げ完全に腰を抜かしてしまっている。

しかし今のは…何だ?合成?魔法同士を合成したというのか?

…全く、我が子ながら本当に末恐ろしい。天才という言葉ですら生ぬるいなこれは。

わしの聞いたことの無い技法。少なくともアベルに知る機会は無い。つまり自分で編み出したという事だ。

かなり消耗している様子ではあるが成功している。

あり得るのか?6歳の子供がどんな魔法使いも思いつかなかった技法を編み出し、一発で成功させる。

どんな奇跡だそれは。

 

「うーん、イマイチ。メラミでメラゾーマ以上の威力が出たんだから、メラゾーマならもっと…」

 

イマイチ!?あれでイマイチなのか!?

しかも聞いていればどうやらメラミで同じ技法を試したらしい。

成る程、両手に携えた魔法同士を合成する事で相乗的に威力を上げるのだな?

メラミ2発分という事はメラゾーマよりも消費MPは少ない。にも関わらずメラゾーマを超える威力か…

技法としては恐らくかなり上位だ。そもそも二つの魔法を同時に発動し待機させるという時点で相当な難易度だろう。

それを更に暴発させずに合成し、威力を数倍に跳ね上げるのだ。とてもではないがわしには無理だな。

 

「ホイミ+ホイミ…マホイミ!………うん、発動はしてるな。…相手居ないからダメージワカンネ」

 

今度はホイミか。うん?ダメージ?…まさか過剰回復呪文か!?

回復も過多過ぎるとダメージを受けるというのを利用した呪文だが…初めてお目にかかったな。

 

「右手にスクルト、左手にピオリム、合成して更にバイキルト追加…スピオキルト!」

 

今度は補助呪文か…しかも3つ同時に合成している。最早何でもありだな。

見る限り攻撃力・防御力・スピード共に最高ランクまで上昇しているようだ。

あの状態を常に維持して戦闘をされた場合、わしでも無傷では済まんだろうな。

ただでさえ剣術や魔法はかなり強く、レベルも上がってきているのだ。

少し前に村の裏手の洞窟に潜り込んでモンスターを狩っていたためレベルは既に6…この前7に上がったか。

そろそろこの辺の魔物では経験値にもならないだろう。レヌール城辺りにでも行かせてみるか?

 

「もう…これじゃあ全然追いつけないじゃない…」

 

ビアンカが少し悔しそう…というよりは寂しそうにしているな。

ビアンカはアベルの事が好きなようだ。うちの息子は本当によくモテる。

ビアンカとしてもどこか遠くへ行ってしましいそうに感じているのかも知れない。

おっと、そんなビアンカの様子に気付いたアベルが傍に寄って慰めている。感情の機微に敏い子だ。

ビアンカも若干寂しそうではあるが相手して貰えて嬉しいようだな。

全く我が子ながらマメな事だ。あれは将来女泣かせになるな。

 

「…親父、何か変なこと考えてない?」

 

…本当に敏い子だ。

 

 

 

 

「さあてやってきましたレヌール城」

 

え、何?展開早い?キンクリ?知らんなぁ。

パンサーどうしたって?俺魔物使いになる気あんまり無いんだよね…何か大変そうだし。

それに魔物使いになると専用の訓練や技術の習得も必要だろう?魔物に適した指揮とか意思疎通とか。

餌とか扱いの事も考えないといけないし、人間のパーティーメンバー探す方がいい気がする。

だからパンサーを虐めていた悪ガキどもはさっさと追い払って、パンサーも野に帰した。

じゃあ何でレヌール城に居るのかって?親父に丁度いい狩場教えてって言ったら教えてくれたのだ。

さすがにアルカパからは日数がかかるので頻繁には来れない。

そんなわけで一緒に冒険しようって約束しておいたビアンカも連れてお化け屋敷デートというわけだ。

 

「う…け、結構雰囲気あるのね。アベル、行きましょう?」

 

そういうビアンカは気丈に振る舞っているがやはり怖いのだろう。若干足が竦んで居る。

原作と違って今の俺はこういう事にも気がつく。気がついたならどうにかしないとだろう?

驚かせないようにゆっくりと抱きしめて、優しく背中を撫でてやる。

震えや足の竦みが治ったら怖くないように手を繋いであげる。顔が真っ赤だが嬉しそうなので良しとしよう。

途中ビアンカを攫おうとした馬鹿をぶった斬り、道を間違えて辿り着いた厨房に居たモンスターを二人で焼きつくし。

ん?うごくせきぞう?木刀でふっ飛ばして二人でメラミ撃ったら砕けましたが何か。

あ、ビアンカがメラミ覚えたよ。ココに来てレベルが3ほど上がったのが良かったみたい。

手を繋いでいたからか楽勝を繰り返したからか、ビアンカも大分落ち着いてきたようだ。

完全に落ち着いてしまうのはつまらないので「お化け屋敷デート楽しいね」って言ったらまた真っ赤に。

遊び気分である。とはいえ今の俺は阿修羅する凌駕する存在(意味不明)。例え油断していてもやられはしない。

隣に守るべき人が居るのだ。しかも美幼女。これで怪我などさせた日には悔やんでも悔やみきれない。

勿論俺も怪我しない。心配させたくないし、自分のせいで怪我をさせたなんて思って欲しくないからだ。

 

「アベル、何かこの奥に居る…」

 

「ん?あー、ほんとだ。ボスかなあ。よし、とっかーん」

 

扉をぶち破ると目の前には玉座。座っているのはドラクエⅤ最初のボス、おやぶんゴースト。HP200の雑魚である。

え?何?序盤でHP200は雑魚じゃない?ふっふっふ、ならばお見せしましょう。

何か「何用だ」的な事言ってふんぞり返ってるけど無視。

ビアンカも俺と手を繋いでいるからか怖がっている様子は無い。

床のトラップ使われてまた戻ってくるのも面倒なので話の最中に倒してしまう事にする。

 

「ビアンカビアンカ。あれやろうあれ」

 

「え?あ…うん、がんばるっ」

 

ここ数日の移動の間に一応使えるようになった技法を試す事に。

俺の左手とビアンカの右手を繋いだままで、そのままビアンカを抱き寄せる。

そして俺の右手にメラミを。ビアンカも左手にメラミを。直ぐに撃たずにチャージする。

ここまで来れば予想もつくかな?

そのまま二人ともメラミを携えた手をおやぶんゴーストに向けて伸ばし、

そして指を絡めるようにして俺の右手とビアンカの左手を合わせる。

――合成。

 

「「オメガメラミ!!」」

 

「なあっ!?ぎゃ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

放たれた豪炎は一瞬でおやぶんゴーストを包み込み、完全に燃やし尽くしてしまった。

一撃必殺。威力で言えば300ぐらいは出ただろうか。

これが俺の編み出した新技法、合体魔法だ。一人でやるのは合成魔法と名前を変えて区別している。

合成魔法と違って術者一人一人が自分の担当の魔法一つに集中出来るため、精度も威力も一人の合成魔法より跳ね上がる。

更に一人では一度に放出できる魔力に限界があるが、二人なら単純計算で倍の出力だ。

合成の制御も大部分を俺が担当するため相手にそこまでの技量を求めずに済むというのもある。

ただかなり相性や息が合う合わないに影響されるため、そうホイホイ誰とでも使える技法ではない。

ない…筈なのだが、ビアンカに教えてメラで試してみたら何故か一発成功。どんだけ相性良いんだ俺達。

と言ったらビアンカが凄く嬉しそうに悶えていたのを思い出す。あれは凄く可愛かった。

 

「ふわー…何今の。あれ、私達がやったのよね?凄い…」

 

すっかり呆然としているビアンカ。レベルアップにも気付いていない。あ、俺もベギラゴン覚えた。

とりあえずレベルは放っておく事にし、ビアンカを連れて物色を始める俺。

確かゴールドオーブとかいう重要アイテムが手に入る筈だ。

暫く探していると見つけた。玉座の裏に隠してあった。ついでに銀のティーセットもゲット。

確かゴールドオーブは一度壊れ、過去に取りに行くイベントが会ったはず。面倒なので壊れないように大事に保存しておこう。

もしかしたら別の未来からすり替えに来るかも知れないので、その時は諦めて俺も過去に行く。

偽物とすり替える時は教えてくれとでも紙に書いて貼り付けとけば分かるだろう。

 

「これで終わりかな。まだ余裕あるしレベル上げして帰ろうか。もうちょっとデートしたいしね」

 

「う…もう、アベルのばか。いいよ、一緒に居てあげる」

 

恥ずかしそうに嬉しそうにちょっと怖そうに言うビアンカ。

さっきくっついてから距離が近い。俺が離れる気がないというのもあるが、ちょっと離れるとビアンカの方から寄ってくるのだ。

どうやらビアンカの中で俺との丁度いい距離は抱き合えるぐらいの距離に落ち着いたらしい。

柔らかくていい匂いがするのを堪能しつつ、二人で一晩中探検と魔物狩りを続けた。

 

 

 

 

 

 

「ねえアベル、前から気になってたんだけどそれなあに?」

 

すっかりベタベタになったビアンカといちゃいちゃしながら過ごしていると、

俺の右手の甲を指して思い出したように聞いてくる。

目線をやると其処には複数の矢印が絡み合って描かれたマーク。

手首の上辺りから矢印が伸び、手の甲まで描かれている。

輝く星の模様が入った太い矢印が一本と、その周囲に4本の矢印が螺旋状に絡みつくように描かれている。

 

「これは俺のレベルマーキングだよ」

 

レベルマーキングとは、自分のレベルを分かりやすく刻んだものだ。

この世界ではゲームと違い、レベルは教会など特定の施設か専用のアイテムを使わないと見れない。

そのため冒険者の中には自分のレベルを何かに書き記しておく者も居るのだ。

親父も左肩にごくごくシンプルなマークをペイントしている。

木の札を削ってマークを付ける者も居れば、こうして俺のように特殊な塗料で体に描く者も居る。

専用の洗剤を使わないとそうそう簡単には落ちないので、下書き必須である。

大概はⅠ、Ⅱ、Ⅲといったローマ数字やシンプルなマークで済ませるのだが、

俺のように凝ったペイントを行う者もたまに居る。

自分でペイントするので信用性は低いが、一応目立つ所に描いておけば他人からもレベルが分り易い。

まあマークの意味が分からなければレベルも分からないので俺の場合は完全に趣味である。

とはいえこのマーキングを描き足していく度に強くなった実感が湧くので結構気に入っている。

ちなみに絵は得意な方だ。センスもそこそこだと思っている。若干某エロゲの令呪に見えなくもないけど。

 

「真ん中の星が5つ描かれた矢印がレベル5。それ以外の矢印がレベル1。全部合わせてレベル9」

 

他にもレベルが10になったら竜の模様が入った矢印に変える予定。

竜の矢印3本と星5つが1本と普通の矢印3本ならレベル38、といった具合だ。

50超えたら何かもっと特殊なのに変えようかとも思っている。

それと今は矢印だけだが、何か職に就いたらそれに合わせてマークを書き足そうと思っている。

戦士なら剣に絡みつく矢印、とか。

 

「へー。アベルって結構絵心あるのね。人は描けるの?」

 

「一応描けるけどそれほど上手でもないよ。精々こういうマークぐらい。人物画より風景画の方が得意だしね」

 

実は手慰みというか暇つぶしに風景画を描く時がある。

この世界は自然が自然らしいまま残っている上、街並みも石や木で出来ていて綺麗だ。

一風変わった動物やモンスターも居るし、鎧を来た人達も沢山居る。

だからそんな風景を見ながら絵を描くのが結構好きだ。

これでも前世の小学校ではコンクールで入賞した覚えがある。

別に美術部に入ったりはしなかったので高校のコンクールレベルとは行かないが、

絵自体は好きだったし良く描いていたので素人にしては中々のものだと自負している。

人物画は何故か凄く苦手だけど。風景の中の人は普通に描けるのになんでだろう。

 

「ふーん。………」

 

「…?…そうだ。ビアンカ描いてあげようか。余り上手くないけど練習も兼ねてさ」

 

「えっ、いいの?じゃあお願いしようかな♪」

 

何事か言いたそうだったので思いついた事を聞いてみたのだがどうやら正解だったようだ。

余り上手くないって言ってるんだけど、嬉しそうにしてくれてる。

これは気合入れて描かないとなあ。苦手だからかなり時間かかるだろうけど。

まあ時間は大丈夫だろう。丁度良く今俺達はサンタローズに居る。

一度アルカパに帰ったのだが、ビアンカが両親に直訴。

どうせ子供の足でも2、3日の距離という事で、俺についていく許可を出してくれたのだ。

勿論俺が全力で守る事が条件。多分また暫くしたら旅に出るのが分かっていて、少しでも一緒に居たいのだろう。

事実まだ母さんは見つかっていないのだからまた旅に出る事になる。俺は俺で目的あるしね。

とりあえずオチは分かっているし、母さんが今何処に居るのかも俺は知っている。

だからまずは強くなって親父と別行動を取る。後は必要なアイテムや情報を集めて魔界に乗り込む。

これが当面の目標だ。勿論そうそう上手くは行かないだろうから、慎重かつ大胆に頑張ろう。

 

「うーん、普通に座ってようかな。でもずっと座ってるの大変」

 

「大丈夫、ビアンカなら細部まで記憶し尽くしてるから。ポーズさえ決まれば見なくても描けるよ」

 

「えへへ…♪」

 

ポーズ何がいい?と聞いただけでこの会話の流れである。事実なだけに恐ろしい。

まあ狙ってやってるの俺だけど。だってさ、可愛いよ?将来美人確定だよ?良妻も確定だよ?狙うでしょ普通。

優しくしたりするのは狙ってやってるのが半分、思わずとか天然が半分といった所だけど。

色々頑張ったおかげで完全にベタ惚れになっちゃったよ。……お互いに。

ビアンカもほんとによく懐いてくる。1m以上離れてる時間の方が短いぐらいだ。

 

「おーい、アベル。少し手伝ってくれー」

 

「あ、はーい」

 

っと、親父殿にお呼ばれしたので行きますか。

ビアンカも当然のように着いてくる。それを横目で見て内心にやける俺。

だってしょうがないじゃない。可愛いんだもの。

 

 

 

 

 



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3ターン目

 

 

「やって来ました妖精の国!」

 

「何言ってるの?」

 

「様式美」

 

はいはい、キンクリキンクリ。

ざっと説明すると俺の目の前に居る女の子の名前はベラ。妖怪人間ではなく妖精。

彼女の住んでいる妖精の国が一大事だから助けて(はーと)という事らしい。

可愛い女の子には逆らえないというか逆らいたくないというか逆らえなくして欲しい俺は喜んで承諾。

Mじゃないよ。何でもいいだけだよ。節操ない言うな。

 

「妖精の国を出た途端にこの吹雪かあ。くそさみー」

 

「しょうがないでしょ。ポワン様のお願いを二つ返事でOKしたのあなたじゃない」

 

いやそこは別にいいんだよ。ポワンさん可愛かったし。というか妖精みんな可愛い。童顔多いけど。

用件は何か春呼ぶためのフルートパクられて春来ないんで取り返してこいって事だそうで。

どっかで聞いたことあるな。主に東の方の幻想の郷で。いやまああっちがオマージュしたんだろうけど。

季節が来ないってネタ結構見かけるよね。日本人以外には若干分かりづらいネタだと思う。

 

「メラメラメラー」

 

「わーあったかーい」

 

肌寄せあって暖めあう俺達。戦闘もメラギラ無双。ヒャドとか絶対禁止。死ねる。

暫く歩いていると氷の館が見えてきた。半日近く歩いたんじゃなかろうか。寒いのでとっとと済まして帰ろう。

取り敢えず門の前に着いたんだけど閉まってる。そりゃそうか。

他の入り口探すのも面倒なのでぶち破って進む事に。

氷で出来た館なのでメラゾーマぶち込んだら門が蒸発してしもうた。

本来こういう建物は対魔法処理がしてあるから魔法じゃ中々壊せないんだけど、

氷製という事で炎に弱いだろうと思ったらビンゴ。流石に1.5倍メラゾーマには耐えられなかったらしい。

中も障害物は大概氷なのでメラゾーマやベギラゴンで蒸発させる。

暫く進むと一面氷張りの床があった。流石に床抜けるのでこれは溶かせない。

だがしかーし。知識から事前に用意しておいた氷上・雪上用スパイクを履いていた俺に死角などない。

かなり鋭く頑丈なスパイクで、蹴り技や山登りなんかにも使えるので地味に役立つ。

 

「ほら、ベラ。つかまって」

 

「へ?え、えええっ!?」

 

滑ると危ないのでお姫様抱っこで抱えてあげると慌てたようにして顔を赤くするベラ。

イタズラ半分に至近距離から瞳を覗きこんでやるとぼーっとした表情に変わる。

俺の瞳って魔眼とかの類じゃなかろうな。

 

「あ、何だお前たちは!さてはポワンのぶべらぁっ!?」

 

何か出てきたので取り敢えず木刀で軽くシバイて眠らせる。

いやラリホー使っても良かったんだけどさ。気絶させた方が長持ちするし。

誤解?んなもん戻ってから解けばいい。なぜに今この場でやらにゃならんのか。

一応アテが無いわけでも無いしな。上手くいけばだけど。

 

「お~ほっほっホァッ!?ちょっ、ちょっとは喋らせなさい!?」

 

「ちっ、外したか」

 

何か雪の女王っぽい人が出てきたんで取り敢えず寒さの腹いせにメラミぶち込む。躱されたけど。

彼女は魔物ではないので殺しはしない。基本俺は魔物以外は殺す気はない。

盗賊団なんかも全員ふんじばって憲兵に突き出す事にしている。

彼女は仮にも女王だしこの妖精の国の法もよく分からんので、取り敢えずハッ倒して言うこと聞かせよう。

なーに、ちょっと"お仕置き"してやった後にこの瞳で見つめながら優しくしてやれば落ちるさ。…多分。

飴と鞭でしっかり躾けてやれば殺さずに済むだろう。流石に殺人(妖精だけど)は後味悪い。

 

「つーわけで泣き叫べやオラァッ!」

 

「きゃあああああっ!?」

 

可愛らしい悲鳴を上げて俺の火炎斬りを避ける雪の女王…一々めんどいな。雪姫(ユキメ)でいいや。

俺の火炎斬りは単に気…所謂HPを消費して発動するものじゃなく、気と魔力の両方を込めて発動する特殊な特技である。

要はHP消費の火炎斬りにメラ系をプラスした剣技という事だ。詠唱要らずで高火力。欠点はHPとMP両方消費する所。

まあそんなわけで俺の一撃を食らった床はあえなく蒸発。

さすがに自分の氷で滑ったりはしないようだが、こちらもスパイクあるのでモーマンタイ。

ベラを適当に隅っこに置いといて、本格的に斬りかかる。

 

「合一奥義、瞬炎剣、火炎隼斬りッ!!」

 

「きゃあああああああああっ!?ああ!服があっ!」

 

うおっ、いい眺め。元々女王様!って感じのドレスを着ていたのだが、このドレス胸元とか肩とか足元とか露出が結構多い。

それが切り裂かれ、炎に寄って一部燃えた事で非常にR15的な事になっている。

これ倒す頃には全裸になってたりしないだろうな。マジ体子供で良かった。大人だったら襲いかかってたわ。

なんせこの人も美人なんだよなあ。それもかなり俺好み。苛めたくなる。

 

「合一奥義、飛炎剣、火炎ツバメ返しッ!」

 

「なんなのよーっ!?」

 

炎を纏ったツバメ返しをぶち込んだら更にきわどい事に。しかし見えそで見えない。

え、相手の魔法?フバーハさんパネエッス。あとマホカンタチート。

ああ、ちなみに今俺が使っているのはこの前思いついた技法。

前述の通り特技に魔力を込めて強化する事を思いついた俺は、

なら全く関係ない特技と呪文を合わせたらどうなるんだろう、という事で開発したのが合一奥義。

メラ系纏わせたツバメ返しとかハヤブサ斬りとかね。炎に弱いゾンビ系なら火炎ゾンビ斬りとか。

この合一奥義、特技+呪文以外にも特技+特技も可能。

呪文+呪文が出来るんだから特技でも出来るんじゃね?という無茶苦茶理論が通っちゃったのだ。

これを見た親父は何か遠い目してたな。ニアそっとしておこう。

 

「合一奥義、飛瞬剣、隼返し!」

 

ハヤブサ斬り万能過ぎワロタ。ハヤブサ斬りの速度でツバメ返しの二連斬撃ってもう悪夢だよね。俺でも避けれねーよ。

でもね、これまだ先があんの。

右手にピオリム左手にメラミ。んでもって隼返しの体勢。うん、予想出来たかな?

 

「合一技法最終奥義!神速・業火連斬!!」

 

「なっ!?きゃあああああああああああああああああああああっ!!」

 

ピオリムを剣に直接掛け、メラミを纏わせて神速の太刀を振るう。何でこの木刀折れないんだろ。てかその前に燃えね?

まあようわからんが親父がくれたので何か特別なんだろう。

で、炎を纏った剣戟を連続で6回浴びたユキメはあえなく撃沈。

いやー、殺さない程度に痛めつけて倒すってかなり難しい。

これからはこういう縛りプレイで剣術磨こうかなあ。魔法もまだまだだし。

メラミではない、メラだぐらいは出来るんだけどさ、メラゾーマクラスは流石にねえ。

 

「う、うう…」

 

そんな事を考えていると、まだ気絶していなかったユキメがうめき声を上げる。

とはいえもうマトモに戦闘出来る状態では無いだろう。

む、戦闘不能を確認したらファンファーレが。レベル上がったな。殺さなくても上がるんだ。相変わらず謎システムだな。

兎も角これでレベル12。そういやまだマーキング変えてない。竜紋矢印の下書きどこやったかなあ。

まあ取り敢えず今は目の前の美人さんをどうにかしないと。

フルート取り返して、誤解解かせて、もう二度としないように躾ける。

なあに、簡単簡単。もう許してって言うまで虐めればいいだけだ。さあてどんな風にしよっかなあ♪

 

「ベラ~、俺ちょっとこの人いじm…ゲフンゲフン。お話してくるから、そこで待ってて」

 

「へ?あ、うん。分かった」

 

ポカンとした様子のベラは一旦放っておいて、ユキメが出てきた扉を潜ると廊下が続いている。

途中ユキメの寝室らしき部屋があったのでベッドに寝かせ、

いつも携帯している冒険用具の中からロープとロウソクとよくしなるナニカを取り出す。

いやあ、一度やってみたかったんだよねえ。

さて、どんな声で泣いてくれるのかなあ。ふっふっふ。

 

 

 

 

 

 

「もうしない?」

 

「うん、もうしない」

 

皆さんこんにちは、ベラです。今私の前にはよく分からない光景が広がっています。

ザイルとかいう人は誤解していた事を聞いてポワン様に謝り倒していて、

誤解を解いてフルートを返してポワン様に謝った雪の女王様は何故かアベルに抱きついてる。

アベルを抱きかかえるようにして抱きしめていて、アベルは雪の女王様の豊満な胸に顔を埋めて幸せそう。

雪の女王様…アベルは長いって言って雪姫(ユキメ)って呼んでるんだけど、

そのユキメ様はアベルに名前を貰って凄く嬉しそうにしていた。

思わず抱きしめられたアベルがすっごく幸せそうだったのがムカツク。貧乳はステータスだもん。

ここだけ聞くとアベルが可愛がられているように思えるんだけど、実際は違う。

だって何故かアベルが命令すると1も2も無く了解するの。

さっきだってユキメ様が謝り終えるとアベルが「よく出来ました」ってユキメ様の頭を撫でながら褒めて、

そしたらユキメ様が幸せそうな表情で「ありがとうございます♪」って。

普通にしてるとため口なんだけどアベルが叱ったり褒めたりすると敬語になる。

 

「…ベラ、何があったのですか?」

 

「わ、分かりません…悲鳴らしきものが聞こえてきただけで…」

 

氷の館でアベルが戻ってくるのを待っている時、館の奥から何かが聞こえたの。

耳を済まして聞いてみると「きゃあああっ♪」とか「ふわああああっ♪」とか「もっと嬲ってー♪」とか聞こえてきて。

何が何だか分からないけど取り敢えずアベルの悲鳴じゃなかったから素直に待ってたんだけど…

私の所に戻ってきた時は幸せそうに恍惚とした表情を浮かべたユキメ様に抱きつかれてて、

アベルは何か頭痛そうにこめかみを抑えてた。何か「予想外過ぎる…」とか「でもこれはこれで…」とかブツブツ言っていた。

最初はげんなりしてたけど、今じゃもう胸の感触を堪能しているみたい。ふんっアベルのえっち。

 

「あ、そうそう。私坊やに着いて行くわよ」

 

「あ、はい………ええええええええええっ!?」

 

いきなりのユキメ様の爆弾発言。流石のポワン様も驚いたようだ。私も驚いた。

アベルはやっぱり…みたいな顔してるけど、満更でもなさそう。

ユキメ様とポワン様で言い合いになっているのを止めもしないのはそういう事なんだろう。

ユキメ様は「追放処分って事でいいじゃない」とか「また嬲って欲しいもの」とか言っていて、

ポワン様は「そこまで出来ません」とか「何を言っているの?」と困惑顔。

結局1時間ぐらい言い合いが続いて、最後の方なんかはお互いの悪口とか愚痴の言い合いになっていた。

 

「あなたは………ハァ、もういいです。アベルさん、申し訳ありませんがお願いできませんか?」

 

「ええ、勿論いいですよ。最初からそのつもりでしたし」

 

「ふふふ、流石坊やね。また一杯可愛がってね?」

 

ユキメ様?可愛がるのは逆なんじゃ…まあいいか。

結局ユキメ様はアベルの監視付きでのみ人間界への移動許可、

対外的には短期追放処分、という事で落ち着くみたい。

何故かアベルに監視される事を喜んでるユキメ様とか、ユキメ様の巨乳を堪能しているアベルとか、もうわけがわからない。

なにこのカオス?っていう状況。もう疲れた。今日は帰ったらゆっくり寝ようそうしよう。

 

 

 

 

 

 

「…アベル」

 

「…坊や」

 

「「この女(子)誰|(かしら)?」」

 

あー、うん、そっか。ユキメって見えるんだ。それとも実体化とかしているんだろうか。

多分力の強い個体だからとかなんとかあるんだろう。

しかしこれは困ったことになった。何せ巨乳美女とパツキン美幼女に挟まれているのである。

コレは流石に幸せ過ぎて死ぬかもしれん。

ふふふ、ユキメのおっぱいはふわふわだなあ。揉みしだくのもいいし顔を埋めても幸せ。

ちょっとキツめに見える美女を屈服させる事のなんと甘美な事か。

こんだけセクハラしても許されるんだから子供は得である。ユキメの場合大きくなってもさせてくれそうだけど。

それに嫉妬してるビアンカも可愛い。嫉妬の仕方が私も構ってとか捨てないで、って感じで可愛い。

捨てるわけないのにねえ。ロリコンでは無いぞ。決して。あくまで同年代だ。ちょとませてるだけだってば。ホントだって。

 

「二人共俺の大切な人で、将来絶対幸せにしてあげたい人だよ」

 

「あべる…もう、ばかっ♪」

 

「ぼうや…ふふふ、"たつ"ようになったら言いなさい。精通させてあげる♪」

 

なに言っちまっとんじゃこのアマ。じゃなくてユキメ、それ以上マジいけない。

まあお世話にはなりますけどね?ええ、私の愚息がお世話になりますとも。

いやあ、幸せだなあ。

何?リア充滅びろ?だが断る。…最近電波受信多いな。自重自重。いやあ、ほんと幸せだ。

 

「なあ、アベル?わしにも説明して欲しいんだが…」

 

この親父が居なければ。

いやだってめんどくせえよ。妖精の国行ってちょっと調教したらメロメロになって着いて来たとか誰が信じるんだよ。

縛って垂らして嬲っただけだぞ。なぜ惚れる。なぜ落ちる。

言い訳なんて考えてねえし思いつかねえよ。グレるぞゴラァ。…あ、もう遅かったか。

いや、そうではなく。マジどうしよう?

取り敢えずレヌール城辺りで拾ったことにするか。

レヌール城の城主の末裔で、最近そのことを知って様子を見に来た所、偶々狩りに行っていた俺と遭遇。

俺達がレヌールの亡霊を救った事を話すと、お礼をしたいと着いて来た。

俺の苦手な氷結魔法とかちょっと昔(数十~百数十年前)の事に詳しいのでそれを教えて貰おうと思った。

そんな所でいいだろう。適当に話合わせて貰えばいいや。

後は俺が旅する時は同行して手助けしてくれるんだとでも言えばいい。

うん、我ながら即席にしては完璧じゃなかろうか。

 

「ほう、そんな事が。そういう事でしたらユキメさん、息子を宜しくお願いします」

 

「ええ、お任せ下さい。立派にして見せますわ」

 

うん、このおっぱい相手なら絶対立派になれる。あと5年もあれば。俺の息子も宜しくお願いします。

で、冗談は置いといて。本気で着いてくる気らしいので色々仕込んでみよう。いや、エロい意味でなく。そっちもあるけど。

氷使いなんだしさっさとマヒャド憶えさせて、俺とお前で超融合(メドローア)だ。

一人での合成魔法でなく、二人での合体魔法。

それも俺の得意なメラ系最強メラゾーマと、氷の妖精(?)のユキメによるヒャド系最強マヒャド。

何ならブレス系覚えてHP消費の方の炎と氷も混ぜてみようか?上手くいくか分からんけど。もしかしたらやらん方が強いかも。

うん、きっと小さい村ぐらいなら軽く消し飛ばすに違いない。

…………………そんな風に、思っていた時期もあったのさー。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、坊や。マヒャド!」

 

「ユキメ。メラゾーマ!」

 

「「合体魔法、究極対消滅呪文(オメガメドローア)!!」」

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン―

 

…………ゑ。

思わずユキメを抱きしめる。ユキメも俺を抱きしめた。柔らかい。気持ちい。全て忘れて浸ってしまいた。

だって、だってさ…俺達の視線の先には…

 

「…消し飛んだわね。山一つ」

 

「消し飛んだね、山一つ」

 

………うん、帰ろう。全て忘れて帰ろう。山なんてなかったんや。オメガメドローアなんてなかったんや。

ああ、帰ったらまたビアンカを可愛がらないと。

夜になったらユキメに目一杯可愛がってもらおう。今日はきっと精通記念日だ。

あは、あはは、あははははははははは…

 

 

 

 

 

 

「?…どうしたの、アベル」

 

「ん?いや、何か変な電波受信したような気がして」

 

具体的に言うと、近い将来に起こるであろう悲劇的な。その後幸せな事もあったような気がするけど。

何かよく分からないんで気にしない事にしよう。うん、それがいい。

まずはユキメを鍛えないとな。最低限マヒャドぐらいは使えるようになって貰わないと。

そうだ、何も恐れる事なんてない。技術の発展に犠牲は付き物なのだよゲドー君。

いや、だからそうではなく。なんだろう、俺としたことが変な電波に毒されている。

気にしない気にしない。

 

「取り敢えず旅には同行して下さるのですな?なるほど」

 

「なあ親父話があるんだ」

 

丁度いい。ここで話を付けておこう。

原作では途中で死んでしまったため成り行きで俺が親父の遺志を継ぐことになった。

しかし今回親父を死なせる気は毛頭無い。第一ゲマ相手でも捕まるようなヘマをする気はない。

親父から離れず、勝手な行動を取らず、相対したらメドローアだろうが何だろうか問答無用でぶちこむ。これで良し。

親父と合流出来たら俺がマホカンタ張って親父が斬りかかるだけでも勝てそうな気もする。

ただ、確かゲマはステータス的にはミルドラースの変身前より強かった筈だ。

メラゾーマ、マホカンタ、激しい炎辺りを使ってきたのは記憶にある。

つまりラスボスの第一形態倒せるぐらいじゃないと勝てないという事か。

炎耐性の高い防具に、フバーハなどをプラスして戦えば退かせる事ぐらいは出来るだろう。

というわけで、少しわがままを言わせてもらおう。

 

「俺、親父と別行動を取ろうかと思うんだ」

 

「何?」

 

俺の言い分はこうだ。

俺は親父の旅の理由が探しものであることに薄々気付いていた。

だけど俺が居ると旅も探しものも捗らないし、俺だって親父に守って貰いながらじゃ成長出来ない。

親父は俺のためにも死んだ母さん(生きてるけど)のためにも探しものを早く終えて帰ってきて欲しい。

それまで俺は自分なりに少しずつ歩を進めて旅をしていき、いつか親父がピンチの時は駆け付けられるような力を手に入れる。

幸いにも俺にはユキメが居る。俺の旅に着いて行くと言ってくれた。

だから二人で旅をして、少しずつ色んな物を見て、ちょっとずつ強くなって、何時か母さんの仇を討ちたい。

と、いった具合だ。俺は母さんの死因は知らない。幼い頃に亡くなったとしか聞いていない。

けど親父のことだ。俺が母さんの事について、何か気付いているぐらいは思っているだろう。

だからここでそれを匂わす。俺は母さんが誰かに殺されたと思っていて、仇を討ちたいと思っていると。

話のピントを母さんの事にずらすことで、俺の旅立ちの話を認めさせようという魂胆もあったりする。

 

「………そうか。そうだな、お前はまだ幼いが、強さは十分にある。体も、心もだ。

 …だが、復讐は考えるな。復讐に囚われてはいけない。それだけは肝に銘じろ。いいな?」

 

「…ああ、分かったよ。親父」

 

そりゃまあまだ生きてますし。

兎も角、これでいい。きっと親父には苦労も心配もかける。

それでも俺は親父を失いたくは無いし、母さんを取り戻したい。他の大陸の事もある。

少なくとも、ここでは俺が主人公なんだ。重い物語なんて背負う気は無い。目指すなら、誰もが羨むハッピーエンドだ。

 

「…ユキメ。まだガキだけど…頼むよ。支えてくれ」

 

「…ええ、分かったわ。坊や」

 

コレでよし、と。きっとまだこの後色々と話が続くんだろう。打ち合わせもしないといけない。

けど、これでどうにか当面の目標は立った。後は、突き進むだけだ。

絶対に誰も死なせない。皆纏めて幸せにしてやる。それが、俺の夢だから。

 

「私も行く!」

 

………………………ゑ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角綺麗な感じでまさに序章・完!って時に…」

 

「ううぅ…だってアベルと一緒に居たかったんだもの」

 

そう言われてしまうと何も言い返せない情けない俺。

結局あのあと爆弾発言をしたビアンカを3人で説得するも失敗。

しょうがないからダンカンさんに話して止めて貰おうと思ってアルカパへ。

事情を話した後ビアンカは「アベルと一緒に冒険するのが夢だった」と暴露。更に説得。

すると予想以上にあっさりとOKしてしまうダンカンさん。小母さんの方も少し心配そうながらも止めず。

あるぇー?と不思議に思っていると、ビアンカのご両親はビアンカがこういう事を言い出すのを予想していたらしいのだ。

そして言われたらどうするかを話し合い、俺になら任せられるという事で幾つかの条件付きで了承することにしていたらしい。

条件としては定期的に連絡を寄越し、1年に1回は帰ってきて顔を見せる。

絶対に俺が守りぬき、重傷を負ったら理由次第で一緒に旅するのを諦める。

暫く準備期間を設けて旅立つ前に必要なことをしっかりと覚える。

以上が条件だそうだ。要するに心配しないで済むようにしてくれ、という事だな。

本当に了承しちゃっていいのかと聞いたのだが、俺になら安心して任せられるとのこと。

あるぇー?何かご両親にまで好感度高くね?そっちは俺なんもしてねえよ?

と思ったら親父から色々聞いていたんだとか。親父、何を喋ったのかを問いただしたら。

 

「お前が天才だという話をしたぐらいだな」

 

「恥ずかしい話してんじゃねぇーーーっ!?」

 

親父のやつ知らんとこで親馬鹿発揮してやがった。

そりゃアルカパでも知り合った人とかにちょこちょこ魔法やら技やら見せたりしてたし、

旅の魔道士とかいう人と魔法の発展性について熱く語り合ったりしてたせいか俺の事噂になったりしてたけども。

流石にちょっと噂広まりすぎじゃねと思ったらあんたが肯定してたからなのか。

知ってんだぞ、一部で天才魔道少年とか呼ばれてるの。

新技法はあんまり見せびらかして無いのになんでだと思ったらまさかの原因親父。

結局そのまま打ち合わせまで済ませてしまい、今丁度準備が終わった所、というわけだ。

流石に旅するための知識教えてたら数日かかってしまった。

んで、昨日親父が呼び出されてラインハットに出張。

俺も一日遅れで後を追う事にした。

 

「私達もラインハットに行くの?」

 

「泊まるのはね。目的地はラインハットにある洞窟」

 

そう、これが俺が考えたプラン。

まず親父と別行動を取る。これは成功。で、親父がラインハットに行ったら一日遅れで後を追う。

親父はヘンリー王子の教育係として呼ばれたため、そのままラインハットに滞在。

俺達もラインハットに一泊して体を休めた後、ラインハットの洞窟へ。

そこでヘンリー誘拐犯を待ちぶせしてシバキ倒してヘンリー奪還。

その後ヘンリーを助けに来た親父と合流、ゲマを追い払うという作戦だ。

ヘンリー誘拐に出遅れた場合は全力で後を追う。目的地が分かっているのだからなんとか追いつける筈だ。

ヘンリーを助けた直後や助ける前にゲマが出てきたら、とにかく時間を稼ぎ隙を見て逃げる。

ゴンズ辺りが出てきたら取り敢えずぶちころがす。駄目なら同上。

ただビアンカやユキメを連れて行った時の問題は俺が原作の親父の二の舞になりかねない所だ。

ヘンリー助けてさっさとトンズラこくにしても俺一人の方が確実だ。適当に理由つけて町で待たせとくか。

ルーラ使えりゃなあ。無い物ねだりしてもしょうがないけど。

 

「ま、細かい事は着いてから状況次第だな」

 

「ふーん?良く分かんないけどま、いっか。それじゃしゅっぱーつ!」

 

元気に腕を振り上げるビアンカに合わせて俺もおーっ!と振り上げる。

多少の不安と未来への希望を胸に、俺達はアルカパの町を出た。

 

 

 

 

 



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4ターン目

 

 

「きゅ~」

 

「おーい、ヘンリーさーん。…駄目だこりゃ」

 

はいみなさんこんにちはアベルです。今?ラインハットの洞窟。何?キンクリ?イエス、高須クリニ◯ク。

とまあ冗談は置いておいて。ざっとここまでの流れを説明しよう。

まず町に着いた俺達は宿に泊って体を休め、翌日は1日デートに使った。

新しい髪留め買ってあげたら凄く嬉しそうにしてて…まあ、それは今はいい。

で、翌日にラインハットの洞窟へGO!…ところがどっこい。

なんとラインハットの洞窟の前に着いた直後、俺達の通った道の方から馬車が。

物陰に隠れて見ているとなんとヘンリー君が降りてきて、取り敢えず犯人らしき盗賊をシバイて確保した、という所だ。

まあ要するにほぼ予定通り。取り敢えず尋問は後でいいだろう。丁度馬車があったので放り込んでおく。

魔物使いの才能があるんだから動物も行けるだろうと思ったのだが、思った通り馬も言うこと聞いてくれた。

流石に魔物並の意思疎通は無理っぽいけど。

 

「ねえ、坊や?この子どうするの?」

 

「んー?この子多分ヘンリー王子。親父、教育係。きっと助けに来る。俺達、待つ。OK?」

 

「オッケー。あ、じゃあ洞窟探検しない?」

 

取り敢えず親父を待つ事にしたのはいいのだが、何かビアンカが洞窟に入りたがっている。

けど駄目。中にはきっとゲマさんが。少なくともゴンズとジャミ辺りは居るだろう。

ゴンズ・ジャミは兎も角ゲマはビアンカ守りながらではきついので却下という事で。

一応切り札もあるんだけどね。

 

「ん?なんだオマエ」

 

「あ?人間のガキか」

 

………あ。ゴンズとジャミだ。ぶたっぽいデカブツと馬っぽいナニカ。うわあ、直で見るとキメェ。

親父は間に合わなかったか。どうしよう?ゴンズは兎も角、ジャミって倒せるのか?

いや、倒せないなら人質なんて取らないよな。つまりあの時点で親父なら倒せたという事だ。

うーん、今の俺でも倒せるか?微妙だな…まあ、魔法も使えば行けるだろう、うん。

というわけで、不意打ち不意打ち。子供だと思って油断している間に…

ふふふ、最近使えるようになったコイツをお見舞いしてやる。

右手にイオナズン、左手にイオナズン…合成!

 

「食らえアホ共!メガイオナズン!!」

 

―ズゴオオオオオオオオオッ―

 

「「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」」

 

あ、吹き飛んだ。ちょっと爆発力高すぎるな。一撃で仕留められなきゃ逃げられる。

というか、その叫び声はお前らじゃねえ。

ふむ、しかし通常の3倍威力のイオナズン(大体5~600ダメージ)が合成して更に威力3倍(大体1500~1800)。

なんというゆで理論。しかし文字通りなのだから末恐ろしい。

あ、これマジであいつら死んだ?つーかMP30消費でこの威力ってチートってレベルじゃねえな…

いいんだろうか。物語として破綻してね?これ。

 

「ぐ、ぐうう…ま、まさか人間ごときにこのオレ様のバリアが破られるとは…」

 

「あででで…やりやがったなあ糞ガキ!」

 

あ、バリア付いてたんだ。しかもぶち抜くって。どんな威力だマジで。

けどバリア付きだと牽制程度は意味ないな。もう一発行っとくか?この年にしては膨大なMPの5分の1持っていかれたんだけど。

ゲマの事も考えたらあと一発が限度か?

よし、もう一発撃ってそれで力尽きた風を装う事にしよう。そうしよう。

メドローアみたいに違う属性同士だと消費MP跳ね上がるから、別のにしよう。

実際俺のメドローアって3000ぐらい行くんだよね。威力的にそんなもん。概算だけど。

流石に周りがえらいことになるので却下。今の俺でも最大MPの半分以上持っていかれるし。

 

「というわけで更に新技実験~♪ギガデイン+ギガデイン…合成!テラデイン!!」

 

―ズゴオオオオ(ry―

 

「「ぬわーーーー(ry」」

 

うはー…こりゃ2000ぐらい行ってるな。しかも全体技になってるし。これで消費30とかこえーよ。

 

「うぐぐ…」

 

「こ、このガキ…」

 

うわっ!?耐えやがった!?やっぱこいつらクラスになると数値そのままのダメージは食らってくれないかあ。

とはいえ満身創痍でボロボロ。こりゃあと一撃で落ちるかな?

しかも不意打ちで吹き飛ばしたあとに連打したもんだから攻撃されてねえし。

あ、攻撃に耐えられるかとか分かんねーじゃん。

 

「ぐ、ぐおおおおおおおおおっ!!」

 

「おわあっ!?」

 

と思ったらゴンズが殴りかかってきたあっ!?

右からの薙ぎ払いをしゃがんで躱し、そのまま振り下ろされる鉈を横に飛んで回避する。

地面で一回転してその勢いのままに立ち上がろうとすると、今度はジャミが突っ込んできた。

突進を躱すと丁度ビアンカ達と俺との間に2体が入った形になる。

そのままでは不味いので相手が動き出す前に一瞬で斬りかかった。

 

「瞬剣、ハヤブサ斬り!」

 

「ぬおっ!?」

 

歩法を組み合わせて高速で迫る俺の斬撃を片腕で受け止めるジャミ。

バリアがあるためダメージは0だが、これで構わない。

俺とジャミは至近距離。そして目の前には今のリアクションで開いた口。

となれば殺ることは一つ。右手の剣に体重を掛けたまま、左手をジャミの口の中にツッコむ。

突然の事に怯んだ隙に、左手に待機させていた呪文を解き放ってビアンカ達の方へと飛び退る。

 

「イオナズン!!」

 

―ズドンッ―

 

「ぐぼおっ!?」

 

普通よりも短い爆発音が響き、ジャミが奇声を上げた直後。

ラインハット洞窟の前に真っ赤なトマトが弾け散った。

おお、グロいグロい。

 

「な!?ジャミ!?」

 

相方のグロい死に様に気を取られるゴンズ。

しかしそれは完全な隙だよ。

右手に火炎剣、左手にメラゾーマをチャージ!

 

「隙ありッ!メラゾーマ充填!超・火炎斬りッ!!」

 

「ぐ、ぐああああああああああああああああああっ!!!」

 

見たか、これが俺の魔法剣だっ!

………あ、倒しちゃった。しかもMPがー。半分以上持っていかれた。

その上火炎斬りとハヤブサ斬りのせいでHPとまで減ってるし。

やべ、ゲマどうしよう。

 

「うわー、アベルすごーい」

 

「へえ、本当に強いわね、坊や」

 

いや、キミらよく今の見てて平然としてるな。弾けトマトだよ?

というか見てないで援護ぐらいしろよ。メラゾーマとかマヒャドとかあるでしょーよ。

折角俺が必死に教えてこの前使えるようになったってのに。

…あ、そうだ。それがあった。

なら俺は全力でぶちかまそうかな?

まあ、倒すのは無理だろうけど勝つぐらいならなんとか。

 

「ほほほ、まさかゴンズとジャミがやられるとは思いもしませんでしたね~」

 

「っ!」

 

この喋り方…ゲマ!

咄嗟に声の方を向くと洞窟の中から現れる一人の男。

魔道士っぽいローブを来た魔王の片腕。

俺の"知識"では俺を人質に取り親父を殺した悪夢の元凶。

………実験台キタ━(゚∀゚)━!!

 

「ほ?なんだか嬉しそうですねえ。どうかされたのですか?」

 

「ははは、ちょっとね。ビアンカ、ユキメ、こないだ教えた"アレ"頼むわ」

 

一瞬三人揃って不思議そうな顔をするも、二人は理解したのか「任せて!」と答えて抱きあう。

それを見たゲマは魔力の高まりを見て危険と判断したのか遮ろうとするが、

そんな事をさせる俺ではない。

スクルト+ピオリム+バイキルト、合成!スピオキルト!20消費。

んでもってピオリム+ハヤブサ斬り+ツバメ返し、合一!

 

「神速・飛瞬連斬!でぇぇえええやぁぁぁああああああああああああああああッ!!」

 

「むっ!?おおおおおおおっ!?」

 

そらそらそらそらそらァッ!

右からの薙ぎ払い、左下からの逆袈裟、そのまま一回蹴りを入れて更に左上からの縦一閃。

そしたら今度は下からの突きを放って躱されたらそのまま乱れ突き!

後方に飛んだ相手に追い縋って更に斬撃を都合5度放つ!

 

「ぐうっ…なんという高速の連撃。これは流石に防ぐしかありませんねぇ…」

 

中々余裕そうな声を出しているが実際反撃の隙は無いだろう。

スピオキルトで全能力が上がっている状態での高速連撃だ。

ピオリムを合一させた事でMPが8消費。残りMP約50。メドローアは無理だな。

あれはメラゾーマとマヒャドがそれぞれ3倍ずつの消費に跳ね上がる。その代わり威力がえげつないけど。

俺の合成メドローア、約70消費で威力3000近く。

いやあ、チート乙。てかドラクエのダメージじゃねえよ。

まあ上位魔族だと半減ぐらいはして来るらしいんだけどね。

魔王とか大魔王クラスだと3分の1とか5分の1ぐらいしてくるんじゃなかろうか。

そんな事を考えている間に1ターン経過。二人の準備が整った。

 

「イオラ!」

 

「ぬぐっ!?」

 

目眩ましにイオラを一発ぶちかます。

至近距離で小範囲に絞り、更に顔面向けてぶっ放してやった。

さすがにコレは堪らなかったようで、大きな隙を晒してしまうゲマ。

スピオキルトで上がった身体能力をフルに使い、一瞬で二人の後方へと飛ぶ。

そして両手に必殺の一撃をチャージし同時に二人に合図を出す!

 

「今だ!」

 

「「――合体!!究極対消滅呪文(オメガメドローア)ッ!!!」」

 

俺が二人に教えた魔法…ビアンカのメラゾーマとユキメのマヒャドを合成する合体魔法、オメガメドローア。

相反する属性を合わせるのはかなりシビアで、

俺のメラゾーマとユキメのマヒャドでは出力が違いすぎて上手く行かなかった。

だが、出力が同等の二人なら完成させられる。

発動に時間がかかるのが難点だが、威力は折り紙つきだ。

そうして放たれたオメガメドローアが無防備に体を晒したゲマを巻き込んで盛大な大爆発を起こした。

 

―ズズッ………ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ―

 

「ほぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

よっしゃあ!直撃!

ギリギリ二人のMPを使い果たしての超特大呪文!威力にして約3000!勝った!第三部完!

いや、まだ第一部だけどね。幼年期編的に考えて。

しかし相手は魔王の右腕。恐らく半減ぐらいはしてくる筈。

となると半分も削れていない筈。…周りの地形変わってるんだけどなあ。塔の上での戦闘とかよく無事だよね。

爆煙が晴れると、そこには体中から出血しながらもまだまだ元気そうなゲマが立っている。

流石にこの威力には驚いたようだがまだ倒せない。

 

「ぐ、ぐあ…まさか後ろの子達までこれ程の魔法が使えるとは思いませんでしたよ…」

 

「ふふっ、私だってアベルの役に立てるんだから」

 

「ええ、坊やだけに任せておくのは嫌だもの」

 

心底驚いた様子のゲマに対し、当然というように胸を張ってみせるビアンカとユキメ。

ビアンカは微笑ましくてユキメはイイ感じに揺れている。何がとは言わない。

余計な事を考えていたら睨まれた。後ろに居るのになぜ分かるのか。

まあそれは兎も角、二人のおかげで俺の方も準備万端だ。

さあ、こいつも持っていけ!

 

「右手にギガデイン、左手にギガデイン、合成!テラデインッ!!」

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ―

 

「ほほほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

粉砕☆玉砕☆大喝采!!フーハハハハ!

見たか!これが真のテラデインだ!

いや、さっきのは失敗だったんだよね。ギガデイン合成したのに拡散しちゃったから。

これで3000以上の威力は出る。メガメラゾーマの3000弱と違ってこちらは完全に3000超え。

数百の差はデカいのだよ。主に自然破壊的な意味で。

とはいえこれも半減されているだろう。まだ生きている筈だ。ったく、こっちはもうスッカラカンだぞ。

一応メラゾーマ待機させておくか。これで本当にカラだ。

 

「ぐ、ぐぅぅ…まさかこの私がここまでやられるとは…」

 

流石にボロボロだけど、戦闘不能ってほどじゃない。

多少動きに影響は出るだろうけど、まだまだ戦えるようだ。

マズイな、スピオキルトが切れる。このターンでラストだ。

 

「く、かくなる上は…むっ!?……マズイですね。此処に来て増援ですか。…仕方有りません、退かせて頂きましょう」

 

そう言って一瞬で撤退していくゲマ。

ルーラでも使ったのか他の転移呪文かなんかなのか。

よく分からんが退いてくれたようだ。そしてゲマの最後のあの言葉。恐らく…

 

「アベル!?ビアンカにユキメも!大丈夫か!」

 

遅いよ、親父。

 

 

 

 

「そうか、そんな事が…大変だったな」

 

あの後。捕らえた盗賊やヘンリーは途中の爆音で目をさましていたようなのだが、

俺達の戦い…特に最後の二発を見て完全に恐慌状態に。

俺達が尋問するとあっさりと全て吐いてくれた。

結局それが決め手となって王妃は投獄。ヘンリーは真面目に親父の教育を受けているようだ。

"知識"では確かマトモな奴に育っていた筈だし、ちゃんと教育していけば大丈夫だろう。

親父は暫く滞在してヘンリーのサボりぐせなどを矯正した後、また母さんの手掛かりを探す旅に出るようだ。

俺も今回の事でゲマに目をつけられたのは確実なので、慎重に動かないといけない。

まずは天空装備を集めよう。使えないとしてもパクられたらコトだ。

剣はサンタローズに隠してあるからいいとして、残りはルドマン氏のとことテルパドールとセントベレス山か。

ルドマン氏のとこも大丈夫だろう。そうそう簡単には渡して貰えないだろうし。

テルパドールには一度行っておこうか。予知能力者だもんな、アイシスさん。色々聞けるだろうし。

セントベレスは後回しだな。最後のカギ要るし。

 

「まあ何とかなるよ」

 

「もう、アベルったら」

 

もう、ビアンカったら。…痛い痛い、叩かないで。

ごほん。問題はこれからどう動くかだ。原作と同じ年まで他の地域を巡るか、それともⅤ地域をさっさと済ますか。

ゲマと接触してしまったし、当面はこっちで頑張ろうと思う。光の教団の始末ぐらいはつけたいな。

何にしてもまずは最後のカギが無いと魔界への扉が開けれない。天空の鎧も回収しないといけないし。

最悪吹き飛ばしてもいいんだけど、それで行けるかどうか分からない。

とはいえゲットするにはブオーン復活必須か。その辺から調べようかな?

 

「そうね、まずは馬車を用意した方がいいんじゃないかしら」

 

うーん、確かに徒歩ではきついしなあ。移動手段って意味ではルーラも必須か。

あ、でもまだルーラ完成してないかな?俺の知識が役に立てばいいんだけど。

最悪他の土地で覚えるしかないか。

取り敢えずユキメの言うように馬車を手に入れよう。

 

「ならわしからラインハット王に頼んでみよう」

 

頼むよ、親父。

さて、当面の目標は馬車ゲットしてルーラゲットだな。

次に船。盾とかリングの件も兼ねてルドマン氏にでも交渉してみようか。

そしたらブオーン退治で、天空城とマスタードラゴン復活で、教団と魔界に乗り込むと。

後は戦ってレベル上げないとな。どっかにメタキンの湧き場無いだろうか。

 

「ま、がんばりますか」

 

「「おー」」

 

 

 

 

 

 

……………おかしい。おかしいおかしいおかしい。なんだこれは。どうなっている。

…おかしい。なぜこの世界には私の知らない地名や大陸があるの?

なぜこの世界には"私"が居ないの?なぜこの世界の"彼"は…ゲマを退ける程強いの?

おかしい。おかしすぎる。こんなことは想定外だ。だって、私が"介入"していないのにこんなこと。

この世界は、私が知っているものと違いすぎる。

…会わなければ。本当は今は時期尚早。でも、会って確かめなければならない。

 

 

 

 

「…初めまして」

 

「…?………っ!?」

 

早朝。街の外に出て鍛錬をしていた彼に声をかける。まだ幼い彼は汚れを知らないかのように澄んだ瞳をしている。

やはりこの頃の彼は可愛らしいものだ。少しの力で簡単に手折れてしまえそう。

…でも、ゲマを退けた実力は本物。レベルは低いけれど、その戦闘技術と魔法は才能とかいう次元を超えている。

声を掛けられた彼はこちらを振り向き一瞬怪訝そうな顔をする。

しかし直後彼の顔が驚きに染まった。…間違い無い。彼は私を知っている。

 

―ドサッ―

 

「へ?」

 

「答えなさい。あなたは何者?」

 

彼が反応出来ない内に地面へと押し倒し、首元にナイフを突きつけて脅しをかける。

武器なら爪なり魔法なりあるのだけれど、やはり脅す目的ならナイフが一番効果的である。

彼は何が起きたのか理解できていないのか、驚いた表情のまま大人しくしている。

…というよりは見惚れている?…確かに容姿にはそれなりに自身があるけれど、

この状況で相手に見惚れるというのは余りにも危機感がなさ過ぎるだろう。

 

「答えなさい」

 

「答えなさいって…」

 

目を白黒させていて、何かしら考えているようだがその視線は興味津々といった様子。

まるで知識でしか知らなかったものを直接見て驚いているかのようだ。

もしかて知識でしか知らないのだろうか?

考えられる可能性としては砂漠の女王のような予知能力者や、私と似た存在から話を聞いていた、など。

けれどどうも敵意も恐怖心も無いようで、暫くした後自分の中での整理が付いたのか、妙に恥ずかしげな表情でこう言った。

 

「うわー、エレノアに押し倒されるとか…えっと、優しくお願いします?」

 

………、何を考えているのだろう、この子は?

 

 

 

 

 

 

いやー、巨乳美女に全身で押し倒されるとかいい経験したわー。

というか、何で居るの?まさかこの世界って同人も混ざってんの?同じ勇者何人も居たりしないよね?

あ、何か有りそうな気がしてきた。というかいいのかこれ。俺は好きだからいいけど。

でも彼女が居るという事はそっちの設定とかもあるんだろうか。

おっと、知らない人のためにご紹介。彼女はエレノア。

ピンクブロンドを腰まで伸ばし、薄紫の瞳とその美貌によって妖艶さを醸し出す美女。

服はタイトでシンプルなドレス。上下が繋がっていてチャイナ服っぽい感じ。

装飾は両サイドのリボン以外無いごくごくシンプルな装いで、色もベージュ色と地味。

胸元の部分だけが黒で、胸の上半分から上は無い所謂ノースリーブ。

下半身はスリット…というか前後に分かれたスカートで、ふとももが最高です。

纏っている外套も茶色で裾がボロくなっていたりと、なんというかアサシンっぽい風貌。

ただものすっごい美人なので全体的に見ると綺麗なんだけどね。

耳が所謂エルフ耳で結構長い。あと瞳孔が猫みたいに縦になっている。外見で彼女が魔族だと分かるのはこの2点ぐらいだ。

そう、何を隠そう彼女は魔族なのである。しかもミルドラースの元片腕。

彼女の登場する同人ゲーでは、彼女の「他者の力を奪い与える能力」でただの人間をミルドラースという魔王にした。

で、そのミルドラースさんに捨てられて、主人公のリュカに助けられて改心。

しかしリュカと自身が至った結果が気に入らず過去へと飛び、それから何度も過去をやり直している。

目的は魔王を作る事。自身の能力によって己の限界を知ってしまい絶望し、

そして俺の才能を羨ましく思いながら協力。力を与えて魔王にし、その魔王の傍に居続ける事を望む…だったかな。

 

「…本当に知っているのね」

 

「まあね。言ったろ?俺には"知識"があるって」

 

彼女は信用出来る人なので全部話した。似たような境遇だしね。俺は知識として知っていて、彼女は経験として知っている。

俺の知らない成功の歴史も失敗の歴史も彼女は知っている。

彼女の協力があれば恐らく俺はもっともっと強くなれるし、魔王だって倒せる。

…けど、そうなると俺は魔王になるのか?そしたら勇者に倒される運命と永遠に戦うのか?

 

「恐らく、それは無い」

 

「へ?」

 

…彼女の話では、"この世界のエレノア"は存在しなかったとのこと。

つまりこの世界のミルドラースは正真正銘の魔族で、同人で出たシナリオやストーリーとも無関係。

あくまで本編作品のごちゃ混ぜ世界のようだ。

…しかしそうなると彼女が居るのは何故か。

まあ過去への時間旅行でなく、単純に並行世界への旅と考えれば簡単な話なんだけど。

今回彼女が辿り着いた平行世界がここだった、というだけである。

 

「んー、じゃあもう行く?時間無いっしょ」

 

「そんな事まで知っているのね…でも、行かない」

 

「ほぇ?」

 

彼女曰く、元々やり直しを始めたのは馬鹿みたいな結末を変えるため。

最強の魔王を作るなんてのは一度諦めた目的で、でも諦めきれない目的。

最終的にどうなるかは分からないけれど、馬鹿みたいじゃない結末が見れるのなら俺に着いてくるのもいいかもしれない、

という考えらしい。俺を最強の存在にするのは確定。そして出来れば魔王にしたい…と。

でも作中で主人公も言っていたが、魔王のあり方なんて魔王しだいだ。

それこそ滅びこそ我が喜びな魔王でも、優しい王様を目指してもいい。

彼女が言う"魔王"の定義とは、何者にも負けぬ力を持ち、この世界で圧倒的に自由な存在、という事らしいのだ。

何かどこぞの麦わらゴム人間が言っていたようなセリフだな。この海で一番自由な奴が海賊王だ!的な。

まあ要するに最強たれ、というのが彼女の望みだそうだ。

うん、バッチコイ。

 

「あ、でも魔王になる!とか言ったらビアンカ辺りにしばかれるな」

 

「…はぁ、あなたという人は。兎も角それは今はいいでしょう。私はあなたに着いて行こうと思います」

 

そして、俺の…この世界の行きつく先を見たい、と。

ふむ…何かデメリットあるっけ。メリットは…力一杯ゲット。理由つけてヤり放題。移動手段確保。

最後のカギとかマスタードラゴンとかマジ要らん子。

デメリット…私だけの魔王様になって(はーと)ってか?いや、夜の魔王様なら喜んでならせて頂きますけども。

というか上手いことやればこの子ゲット?なにそれ嬉しい。これで結構可愛いいとこあるんだよなあ、エレノア。

特にデメリットは見当たらないかなあ。魔王になるかとかそれこそ成り行きだし。

なりたきゃなる。なりたくなければならない。それこそ自由。

けど本当に自由てんなら"王"になんかなりたくないけどね。気ままに暮らしたいよ。

 

「力を示してこその魔王です」

 

さいですか。いっそ友好的な魔族や魔物だけ集めて国でも作る?

あ、そういえばグランバニアって魔物居るんだっけ。マーサ母さんの不思議パウワ~のおかげで。

じゃあグランバニアを人間と魔族の国にしちゃえばいいじゃない。

文句のあるやつはそれこそ黙らせればいい。

 

「…力有る者たらんとしてくださるのなら形や場所は問いません」

 

よっしゃ言質とったどー!よし、ビアンカ辺りは早々に"教育"してやらねば。

マモノコワクナイヨー。マゾクミンナイイヒトダヨー。ボクワルイスライムジャナイヨー。ピギー。

 

「…大丈夫なんでしょうか」

 

いやいや、そんな不安全開って顔せんでも。

きっと大丈夫さ。俺は運命なんかに負けない。魔王は勇者に倒されるもの?

残念でしたー。俺の知識には魔王主人公とか普通に居ますー。

穴掘って地下生活とか変な学校入って魔王判定受けたりするのはやだけどさ。

 

「ま、心配するな。今までの何十何百何千回の俺の分、ちゃんと幸せにするからさ」

 

「っ!?………ええ、よろしくお願いします」

 

あはは、頬染っちゃって可愛いな。

さあて、何かよくわかんない事になってきたけど頑張るぞー。

…まさかだけど、ニ◯動ネタとかまで混ざってないだろうな?そこまで責任負えんぞ。

ま、いいか。取り敢えず見つけた美女美幼女は片っ端から幸せにしていけばいいのさ~。

そういえばエレノアはベストエンドの時に最強の俺に身も心も支配されるのが望みだったとか言ってたな。

今俺の目の前に居るエレノアはどうだか知らないけど…身も心も支配する、か。いいなそれ。ふっふっふ…

 

「アベル?」

 

「何でもなーいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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シュヴァリエガンダム(ガンダムSEED 地の文無し)
1話


この設定には
・オリ主
・チート&俺TUEEE
・謎カリスマ
・地の文無し
・ステラ&ミーアその他救済
などの要素が含まれます。ご注意下さい。





「ライル様、通信越しに失礼します」

 

「あーい」

 

「前方に二隻の不明艦の反応を確認。片方はザフト船籍でありもう片方は識別信号を出していません」

 

「あー?…識別信号無しだー?民間船でも通常の軍艦でもないってかー。当然ジャンク屋や傭兵でもない、と」

 

「この時勢です。恐らくは作戦行動中の軍艦かと」

 

「やらかしてんのか」

 

「MSの出撃を確認。丁度戦闘へ突入する模様です」

 

「って事は不明艦は連合か?面倒な事になりそうだなー。まさか見た者は殺すとか言い出さないだろーなー」

 

「可能性としてはあり得ます。それと、寝ながらチップスを食べるのは行儀が悪いですよ」

 

「いいじゃないか"家"の中なんだから。エリスは気にしないだろー?」

 

「ええ、私に行儀という概念は有りませんので。必要とされる場面であれば相応に振る舞うだけです」

 

「じゃあ気にしない。さて、取り敢えず発進準備するか。警戒宜しく」

 

「ルート変更は無しということですね。畏まりました」

 

「んー」

 

「それと…」

 

「ん?」

 

「今ライル様の隣で寝ている"私"ですが、少々疲労が溜まっているようです。予備と交換しておきます」

 

「あー、昨日はかなり燃えたからなー」

 

「昨夜はお楽しみでしたね」

 

「そりゃあもう。エリスも大分染まってきたな」

 

「ライル様の謎発言はいつも耳にしていますので」

 

「謎発言言うなよ。オタクの公用語だよ」

 

「それと、以前チェックされていたゲームが発売されましたので、データを取り寄せておきました」

 

「ボケを流すなよ。まあ、ありがと。他になんかあったっけ?」

 

「現在進行形であてのない旅をしているということ以外に問題はありません」

 

「いや、アテあるからね?ジャンク回収しながらコロニーを転々とするのが目的の旅だからね?」

 

「人それを行き当たりばったりと言います」

 

「いいじゃないかー、どうせご大層な宿命背負ってるわけでもなし、生きたいように生きれば。俺は満喫してるよ」

 

「満喫、という点に関しては同意いたします」

 

「んー、しかしそれもそろそろ終わりかな」

 

「と、いうことは?」

 

「時期が来た、って事なんだろうねえ。恐らくこれから…今直ぐにでも、始まるかな。いや、もう始まっているのか」

 

「いつもの勘、ですか」

 

「信じるかい?」

 

「あなたを疑うはずが有りません。それが"私"のレゾンデートルです」

 

「オーケイ。多少出遅れた感はあるが…そろそろ退屈していた所だ。愉しませてもらおうじゃないか」

 

「出撃準備、完了しました。ドール部隊は現状3機がオーバーホール中、残り9機は未だ未完成です」

 

「俺のは?」

 

「システム換装及び更新中につきサブを一時凍結中です。それに伴いビットもオミットされています」

 

「銃と剣でやれってか。ま、チュートリアルにしちゃ妥当な所か」

 

「よろしいのですか?」

 

「なーに最初から予想はしてたさ。なにせ生粋のゲーマーでね。主人公機ってのは乗り換えやパワーアップが無いとな」

 

「畏まりました。スケジュールはそのように調整しておきます。……出来る事は限られて来ますが」

 

「誰が死のうが関係ない。誰が生きようが関係無い。それは俺自身も同じ事だ」

 

「怖くは無いのですか?」

 

「元パンピーだ。そりゃ怖いさ。ケドネ、マンガやアニメで言うような覚悟とか実感とか、そういうのは生憎感じたことがない」

 

「人は言いました。意思なき力は暴力であると」

 

「暴力結構コケコッコー。俺は俺の意思で俺のために俺の思うように最大限力とエゴを振りかざす」

 

「ヒーローとは程遠い思考ですね」

 

「ヒーローになんざなりたくないからな。何が悲しくて英雄になんぞならにゃならん。パンピー上等」

 

「どちらかと言えば悪役の思考だと思われますが」

 

「大多数の一般人なんてそんなもんだ。痛みも実感も伴わないものに意義はなく、ただ目先と自分のために僅かな力を総動員する」

 

「ライル様の場合はその力が人よりも大きいだけ、という事ですか」

 

「その結果人が死のうが生きようが、そこに他人の生死以上の感動は無い。酷く薄く曖昧な実感すら伴わない悲劇なんて、悲劇じゃない」

 

「人には倫理というものがあるそうですが」

 

「人殺しダメ絶対。まあ、刷り込みのようなものだな。俺も最初は感じたものだ。ま、数機落とせばすぐ慣れたけどな」

 

「ゲーマー舐めんな、ですか?」

 

「最初はね、殺すということに忌避感も感じたよ。けどすぐ気付くんだよねえ。『なんだ。いつもと変わらないじゃないか』って」

 

「いつもと変わらない、ですか」

 

「回線なんて勝手に開くもんじゃない。全周囲通信だって死に際にわざわざ開いて悲鳴なんて上げない」

 

「どれだけ悲壮な覚悟も、悲痛な叫びも、届かなければ意味は無いと」

 

「マンガやアニメじゃないんだ。殺した相手の悲鳴なんて聞こえない。むしろこう思ったよ『撃破演出無いなんてクソゲーじゃないか』」

 

「画面越しに生命の実感すら伴わず知りもしない相手が死んだ、それだけという事ですか」

 

「ゲームと変わらないんだよ。本当に死ぬというだけ。最初は忌避感を感じても、すぐに慣れる」

 

「中には殺人の重責に心を壊す者も居ると聞きますが」

 

「そんな繊細な神経してなかったってこったな。この目で人が死ぬ所を見たこともある。事故だけどな。あの衝撃よりは軽かった」

 

「かくして戦いを受け入れた、という事ですか」

 

「快楽殺人者じゃないんだから積極的に殺す気もないけどな。消極的になる気も心をやられる気もない。……安心出来たか?」

 

「……はい。人心解析データSランク要項として記憶します」

 

「わざわざ持って回った言い回しを。ま、心配して帰りを待ってくれる女が居るっていうのはいい事だよな」

 

「……私は厳密には男女という区別に当てはまりませんが」

 

「女型なんだから女なの。体も女だろ。というか男とヤッたとか思いたくないからそこは受け入れろ」

 

「……重要度ランクAで記憶します」

 

「よろしい。さて、俺の方の準備も出来た。目も覚めたし覚悟も完了。食いたかったチップスは食いきった」

 

「思い残す事はありませんか?」

 

「あるさ。まだ新作ゲームをやってない」

 

「では、お早いお帰りをお待ちしております。……カタパルト解放、発進、どうぞ」

 

「ああ、行ってくる。メシ作って待っててくれ。……ライル・ブリックス、シュヴァリエガンダム、出るぞッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「不明艦ですって!?こんな時に!?」

 

「おいおいどうすんだ艦長。ザフトとドンパチしながら不明艦の相手なんて出来んのか?」

 

「船籍はどうなっている?」

 

「ジャンク屋連合の勢力識別信号を出していますが、個体識別信号は確認できません」

 

「偽装船の可能性もあるな。どういたしますか、艦長」

 

 

「――フラガ機、発進しました!」

 

「とにかく、時間を稼がなくてはいけないわね。ウェザリウスさえ撤退させられれば――」

 

「不明艦からMSの発進を確認!機数1!」

 

「なんですって!?」

 

「あっ!MSから通信が来ています!」

 

「繋いで!」

 

「やあやあこんにちはっと。お困りかな?」

 

「ええ、お陰様で。……私が本艦の艦長、マリュー・ラミアスです」

 

「へー、こりゃまた随分と美人な艦長さんだ。今夜どう?」

 

「(ピキッ)生憎と、軽薄な方は好みではありませんので」

 

「そうかい?ゆるい感じが好みだと直感したんだが……外れたかな?ま、それは兎も角。単刀直入に言おう。援護、要るか?」

 

「その前に、所属と氏名を名乗ってもらおう」

 

「おや、副長さんか。真面目そうだねー。これからどんどん苦労しそうな気がするよ」

 

「……余計なお世話だ」

 

「申し訳ありませんがこちらも時間がありません」

 

「ジャンク屋連合所属、チーム名ウェヌスのライル・ブリックスだ。戦闘支援を提案する」

 

「……そちらに利があるとは思えませんが」

 

「単純な話しさ。俺らはジャンク屋だが傭兵も兼業してる。傭兵ギルドにも登録してるからな」

 

「相応の報酬を、という事ですか」

 

「そちらは新型を無事地球まで届けたい。こちらは報酬と最新技術が間近で見られる。ウィン・ウィンという奴だよ」

 

「なっ!」

 

「ほお、その様子じゃ当たりか」

 

「あ……」

 

「ナタル……いえ、私も反応してしまったわね。腹芸はどうやら彼のほうが上手のようよ」

 

「商売人なんでね。形式を重んじる軍人さん相手のやり方も知っている」

 

(なるほど、経験も豊富であるとのアピールも兼ねているのね)

 

「……いかがなさいますか、艦長」

 

「………………正直、今は少しでも戦力が欲しいわ。報酬は後払いでもいいかしら?」

 

「ええ。最新技術を見せていただけるなら無料でも構いませんが」

 

「流石にそれは無理ね」

 

「それは残念。とりあえず数も少ないし連携は期待出来ないな。そちらの新型に合流して敵を分断する」

 

「現在我が部隊のMAが敵艦後方を狙っています。敵艦撤退までの時間稼ぎをお願いします」

 

「時間を稼ぐのは構わんが……別にあれを全滅させてしまっても構わんのだろう?」

 

(っ!なんて自信……)

 

(決まった!一度は言ってみたいセリフベスト10!)

 

(……何だか無性に不安になるのは気のせいだろうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、アスラン!」

 

「キラ!お前がなぜそんなものに乗っている!俺達と来い!」

 

「あの船には……仲間が乗っているんだ!」

 

「ちぃっ、こいつちょこまかとっ!」

 

「イザーク!アスラン!先行し過ぎです!合流してください!」

 

「ひゅー、燃えてるねー二人共」

 

「取ったぞ!ストライク!」

 

「しまった、後ろを!?」

 

「キラ!」

 

「おおっと、とぉころがギッチョンッ!」

 

「なっ!?ビーム兵器!?どこから!?」

 

「ちぃっ、何だ貴様!」

 

「俺、参上!ってな。おいそこのガンダム。俺はお前の味方だ。赤いのはくれてやる。他は任せろ」

 

「えっ!?は、はい!」

 

「Xシリーズに似た機体!?別の新型なのか!?」

 

「ちぃ、邪魔をするなーッ!」

 

「おおっと、そんな単調な攻撃が当たるか!……どうやら乗りこなせてないっぽいな。機体の特性把握は基礎の基礎だろーに」

 

「アスラン!イザーク!」

 

「ニコルか!あの新型を頼む!俺はストライクを!」

 

「イザーク、援護するぜ」

 

「ち、こいつもちょこまかと……ナチュラル風情がッ!」

 

「よっはっとっと。そんなヌルい攻撃ではなあ!ゲーマー舐めんなッ!」

 

「くそ、なんだコイツ当たりゃしねえ!」

 

「僕達の攻撃が読まれてる!?」

 

「くるっと一回転して回避~♪こういう機動ってかっこいいよなー」

 

「後ろを取られただと!?くそ、なんだこの機動性はッ!」

 

「機体性能に大幅な差は無しか……互いに調整不十分ってとこだな。ま、しょうがないか」

 

「ちっ、3対1でかすりもしねえのかよ……冗談キツイぜ」

 

「イザーク!射線を塞がないで下さい!」

 

「このナチュラルがーッ!落ちろーーーッ!」

 

「おっと、そうそう落ちてたまるかよっ!ソコだっ!」

 

「なっ、抜き打ち!?ぐあっ!!」

 

「ディアッカ!」

 

「悪い、片腕やられた!」

 

「イザーク!この敵並じゃありません!技量は僕達以上です!3機で連携して攻撃を!」

 

「ふざけるなッ!この俺がナチュラルごときにしてやられるなどッ!」

 

「見えてるんだよッ!」

 

「ぐああっ!!」

 

「イザーク!」

 

「ぐ……こいつ、未来が見えるとでも言うつもりか!」

 

「生憎と機動予測は十八番でね。ゲームでも読み負けだけはしたことないんだよッ!」

 

「くそ……ふざけるなーーーーーッ!」

 

 

 

 

 

 

「凄い……たった1機でXナンバー3機を圧倒してる……」

 

「……艦長」

 

「ええ、彼の強さ、尋常ではないわね。機体もそうだけれど、彼自身も」

 

「言うだけのことはあるという事ですか。……コーディネーター、でしょうか」

 

「さあ、それは分からないわね。それに後で聞けるでしょう。フラガ大尉は?」

 

「ジャミング下のため通信途絶、未だ連絡ありません」

 

「上手くやってくれているといいのだけれど……」

 

 

 

 

 

 

「く、アスラン!」

 

「キラ!どうしてそんなものに乗る!どうして連合に味方するんだ!」

 

「君だって乗っているじゃないか!それにあの船には僕の仲間が居るんだ!」

 

「お前だってコーディネーターだろうに!」

 

「コーディネーターだナチュラルだって、君は!」

 

「ぐあっ、キラ!連合は、ナチュラルは俺達コーディネーターの敵なんだ!」

 

「くうっ……それでも、あれに乗っているのは僕の仲間達だ!大事な友達なんだ!」

 

「ちぃ……だからってなぜ俺達が戦わなければならない!」

 

「君が、君達が仕掛けてくるから!僕にしか出来ないなら、僕がみんなを守るんだ!」

 

「お前はっ!あいつらを取るっていうのか!」

 

「く……君が退いてくれないから!」

 

「退けるわけがない!退くわけにはいかない!キラ!俺と来い!俺はお前を討ちたくなんて無い!」

 

「それでも……それでも、守りたい人達が居るんだああああああああッ!」

 

「く、うああああああああああああああッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「イージス中破!武装の5割を損失!戦闘続行困難です!」

 

「……イザーク達はどうなっている」

 

「3機とも小破、武器損失全体で3割、エネルギー残量3機とも5割を切りました!」

 

「艦長」

 

「謎の新型とやらに予想以上にしてやられたな。やはり奪取直後の機体を投入するのは早計だったか」

 

「ッ!艦後方に熱源、MAです!デブリに隠れて接近したものと思われます!」

 

「な、なんだと!」

 

「この感覚……ムウ・ラ・フラガか!」

 

「敵MAより熱源反応、攻撃来ます!」

 

「回避しろ!」

 

「間に合いません!うあっ!」

 

「ぐうう……損害報告!」

 

「右翼ブースターに被弾!航行能力72%!敵MA離脱していきます!」

 

「一撃当てて即離脱か。見事なものだな」

 

「か、艦長、どうされますか?」

 

「潮時だな。撤退信号を出せ」

 

「はっ!」

 

 

 

 

「どうなってんだよ、こいつは!」

 

「く、あのブレードが厄介ですね。まさかPS装甲に実体剣が効くなんて……」

 

「あのビームもヤバイ。あのストライクとか言う奴の砲撃並だぜ」

 

「そらそらそらそらッ!踊れ踊れッ!」

 

「ぐ、くうっ、ちぃっ!きさまああああああああああっ!」

 

「精彩を欠いたな!そこだッ!」

 

「ぐ、ああああああああッ!」

 

「イザーク!」

 

「ひゅー、一瞬で両腕持って行きやがった!」

 

「これは……撤退信号!?イザーク!退がって下さい!」

 

「くそッ!くそッ!くそおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、逃した」

 

「いえ、撃退出来ただけでも僥倖です。支援有難うございました」

 

「ま、仕事だからな。ビジネスの話は今するべきかな?」

 

「それは、今後も協力していただけると考えてよろしいのですか?」

 

「相応の報酬さえ貰えればな。とりあえず俺は一旦船に戻る。契約の話は担当の奴とそっちに行くから乗艦許可を頼むよ」

 

「了解しました。援護に感謝します」

 

「通信、切れました」

 

「ふう、なんとか一段落着いたわね」

 

「相当ぶっ壊したみてーだな。当分敵さんも追ってはこれんだろう」

 

「艦長。あのジャンク屋ですが、信用してよろしいのですか?」

 

「そうは言ってもね、助けて貰ったのは事実よ。おかげで消耗は最低限で済んだわ」

 

「ああ、俺達にはストライクしか無かったからな。これで坊主も少しは楽になるだろ」

 

「ですが、得体が知れません」

 

「つったって、相手は一応正規の傭兵みたいだぞ?」

 

「確認が出来ない以上確証はありません。それに、我々は極秘行動中です」

 

「そりゃあそうだが……」

 

「ジャンク屋旗艦接近、並航体勢に入りました」

 

「ジャンク屋旗艦より入電、人員2名の乗艦許可を求むとのことです」

 

「あ?たった二人なのか?」

 

「……許可すると伝えてちょうだい。非武装は徹底して」

 

「了解しました」

 

 

 

 

「あなた達は……」

 

「ん?お、お前があのガンダムのパイロットか」

 

「あ、はい。キラ・ヤマトです」

 

「ライル・ブリックス、ジャンク屋兼傭兵だ。こっちは相棒のエリス。一応俺の女だ」

 

「初めまして」

 

「あ、えと、初めまして(うわー、凄く綺麗な人だなあ)」

 

「よろしくな。……どうやらキラは民間人みたいだな」

 

「え、分かるんですか?」

 

「そりゃおめえ、見りゃ分かる。軍服に着られてる上に軍事教練を受けた形跡の無い体と立ち振舞い。さすがにな」

 

(やっぱり分かる人には分かるんだ。僕も訓練とかした方がいいのかな……)

 

「大体考えてる事はわかるが、別に好きにすればいい。何もしなくても才能を発揮出来る奴も居るしな」

 

「あ、は、はい(なんで分かったんだろう?顔に出てたのかな?)」

 

「民間人のまま終わりたいなら別に必要も無いさ。MS乗りならシミュレータだけでもやっていけん事も無い」

 

「軍人というのはMS戦以外の使い道も考慮されているので、短期間MSに乗るだけなら肉体訓練や知識は最低限でいいでしょう」

 

「はあ……」

 

「そういうこった。っと、来たかな」

 

「え?あ、ラミアス大尉。フラガ大尉も」

 

「よ、坊主」

 

「改めまして、連合軍所属アークエンジェル艦長のマリュー・ラミアス大尉です」

 

「同じく、ナタル・バジルール少尉だ」

 

「メビウス・ゼロのパイロットのムウ・ラ・フラガ大尉だ。気軽にムウって呼んでくれ」

 

「ジャンク屋チーム『ウェヌス』リーダー、ライル・ブリックスだ。ライルでいい」

 

「同じくメンバーのエリスと申します。苗字は無いのでエリスと呼んで下さい」

 

「こちらの契約書類は彼女が持っている。契約に関しては彼女に一任してあるから、確認と協議を」

 

「了解しました。あなたはどちらへ?」

 

「格納庫、と言いたい所だが無理だろう?パイロット2名と話がしてみたいのだが」

 

「なら食堂へ行くか。丁度飯の時間だしな」

 

「へー、軍艦の食堂か。興味があるな」

 

「フラガ大尉、勝手に……」

 

「まあ、食堂であれば構わないでしょう。フラガ大尉、キラくん、お願いね。エリスさんはこちらへ」

 

「おう」

 

「はい」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

 

「へー、じゃあジャンク屋歴長いのか」

 

「もう10年になるかな。最初は戸惑うことも多かったけど、今じゃすっかり慣れたよ」

 

「お前若く見えるけど歳いくつだよ」

 

「戸籍上は今年で24になるな。なりたての頃は苦労したよ」

 

「戸籍上はって、謎の多いやつだな」

 

「男も女も秘密が多いほうが魅力が増すのさ。ジャンク屋や傭兵やってる以上情報は大事だしな」

 

「ジャンク屋に傭兵、ですか。初めて見ました」

 

「普通だろ?」

 

「えっと……はい」

 

「ははは、正直だな。いいことだよ。ま、実際ジャンク屋だろうが傭兵だろうが十人十色だからな。NもCも関係無くな」

 

「ま、そりゃそうだ。どっちが一方的に良いも悪いも無いわな」

 

「そう……です、よね……」

 

「悩みあり、って感じだな。精々悩めよ。必死で悩んで自分で出した答えなら、きっと前に進める」

 

「前に、ですか?」

 

「人や状況に流されたり、思考を停止して訪れた結果が悪いものなら、そいつはもう前には進めない。無理に進もうとすれば壊れる」

 

「だから悩んで自分で答えを出せってか。いいこと言うじゃねえか」

 

「若い頃の苦労は買ってでもしろと言うしな。躓きそうになったら俺達周りの大人が支えてやる。だから立って歩け。前へ進め」

 

「…………はい。有難うございます」

 

「ま、なんかあったら相談しろ。少なくともお前より経験豊富な大人は周りに幾らでも居るんだからな」

 

「はい」

 

「で、一段落着いたとこで聞きたい事があるんだが……」

 

「俺の機体か?船も含めて、かな」

 

「ああ。ありゃどこ製だ?Xナンバーに似た機体、しかもそのXナンバーを数機纏めて相手に出来る性能」

 

「俺の腕……と言いたい所だが流石に無理があるか。まあ、似てるのはしょうがない。そもそも似てるのはそっちだ」

 

「何だって?」

 

「Xナンバーのデザイン、あれは今までのMSとは大違いだ。おかしいと思わないか?普通デザインは似たものから、だろ」

 

「……確かに、ジンとは違いすぎるな」

 

「言われてみれば……」

 

「その上新技術に新機構。まさかそれが何もないとこからぽっと湧いた、なんて考えるバカもそうは居ない」

 

「元になったものがある、って事か……」

 

「ビーム兵器は元々艦船に搭載されていて、小型化の試作が行われていた。PS装甲もMSに限らず新たな装甲材として研究されていた」

 

「デザインもか?」

 

「動力や推進装置だってそうだ。より良い性能の確保のために、色んなコロニーや基地で幾つもの試作品が作られた」

 

「あれもその一つなんですか?」

 

「正確には違う。コロニーや施設が襲撃されたりして壊滅・破棄された機械・技術・データを、ジャンク屋としてサルベーシしたんだ」

 

「で、それを完成させて組み合わせたのがあれってわけか」

 

「まだ完成はしてないけどな。機体自体は出来てるが、特殊なシステムの搭載や細かい調整には時間がかかるんだよ」

 

「なるほどな。ってことはあの船もか?」

 

「戦艦だって色んな形が考えられた。その中の一つの設計案を元に、集めた材料を組み合わせて作ったんだ」

 

「つまりなにか、あのヤバ気な性能のMSも、それを運用してるあの艦も、全部ジャンクの継ぎ接ぎだってのか?」

 

「そういうこった」

 

「っかー、コーディネーターってのはえげつねえな。開発者連中が自信なくすぜおい」

 

「ん?いや、違うぞ?」

 

「は?」

 

「え?」

 

「いや、だから俺コーディネーター違う。俺ナチュラル。天然モノだから」

 

………

 

「「ええええええええええええええええっ!?」」

 

 

 

 

 

 

「はい、署名を確認しました。これから宜しくお願いします」

 

「ええ、宜しくね。けどいいの?戦闘ごとにBランクの報酬か技術提供、それ以外に発生した利益不利益の一切を請求しないなんて」

 

「はい、ライル様からはそう指示されています」

 

「それならいいのだけれど……」

 

「ライル様は気まぐれかつ享楽的な方なので、あなた方と行動を共にする事自体が利益になると判断されたのでしょう」

 

「ん?それはどういう意味だ?」

 

「あなた方と行動を共にすれば、面白い事が起こるだろうと考えたということです。あくまで推測ですが」

 

「なっ」

 

「ナタル。いいでしょう、こちらとしても利益はありますし否はありません」

 

「それでは、技術交流についてですが」

 

「補給や修理はそちらで出来るのね?なら、こちらは一切の情報・技術を提供するつもりはありません」

 

「はい、その点に関してはライル様も出来ればとの事でしたので。それではなく、こちらからの技術提供に関してです」

 

「何?そちらからの技術提供?」

 

「はい。ライル様からはBランクまでの技術情報の提供、補給物資及び整備設備の提供の2つを許可されています」

 

「ちょ、ちょっと待って!こちらは渡さないと言っているのよ?」

 

「はい。当然こちらの設備を利用される場合は利用された範囲内のログと解析記録は得る事になりますが」

 

「それでも、技術提供と補給だなんて……」

 

「ライル様からは『補給に関しては呉越同舟、技術に関しては趣味だ』と」

 

「呉越同舟はまだ分かるけど、趣味って……」

 

「ライル様は自身が持つ技術を秘匿する意思は低いようですので。元々、拾い物だからと仰っていました」

 

「それにしたって……他の人はなんて言ってるの?」

 

「それは、私とライル様以外のクルー、という意味でしょうか」

 

「ええ」

 

「そういう意味でしたら、私とライル様以外にクルーは居ませんと答えさせて頂きます」

 

「な、なんだとっ!?」

 

「ちょっとまって、あれだけの船と機体を二人で運用してるの!?」

 

「正確には艦の制御及びMS戦闘補助を行う擬似人格AIと、

 各種運用や整備、生活面の補助を行う人員が居ますが、それらは数に含みません」

 

「それは、どうして?」

 

「私を含め、ライル様以外の乗員は人間では無いので。この情報はBランクですが、一部Aランクを含むのでご了承下さい」

 

「な、なんだと!?」

 

「はあ、驚きすぎて少し疲れたわね……」

 

「お察しします」

 

 

 

 

 

 

 

「改良した遺伝子をクローン技術で複製し、培養した肉体に人格データをインストール……?」

 

「そんな事が、可能なんですか?」

 

「可能も何も、お前ら見ただろう。エリスが動いて喋ってるのを。アレの本体のプログラムは今も船の中だ」

 

「そんな……」

 

「言っておくが生命の冒涜なんて言わんでくれよ?水やら炭素やらの材料集めて人の形だけ造るのと変わらん。そもそも生まれてない」

 

「それは、そうだが……」

 

「ようは服と同じだ。裸のプログラムに肉体という服を着せて、傷んだら取り替える」

 

「そいつらは、生きてないのか?」

 

「脳はあるがそれが勝手に電気信号を発した事は無いな。単に培養槽で細胞を分裂させてDNA通りの形にしただけだからな」

 

「そもそも生まれてきてない以上人権も無い、か」

 

「最初はプログラムだけだったんだが体を与えてやりたくなってな。グレーな範囲内で用意したんだ。予想以上に便利になった」

 

「その過程で破棄した数は?」

 

「今まで消費した分も含めて284体」

 

「……生命を、奪ったんですか?」

 

「言い訳に聞こえるかもしらんが、そもそも生きてない。生まれていない。ただの肉塊だ。……生命は、宿らなかった」

 

「宿らなかった?」

 

「俺がやってるのは実現すれば快挙だ。前の肉体の情報をフィードバックし、遺伝子調整をした人間を数週間で完成させる」

 

「確かに、それが実現すれば戦争は終わるな。最高クラスのコーディネーターが山のように湧いて出てくる」

 

「だが、ダメだった。これを研究して居た連中はな、無理矢理作ったバケモノに、ついぞ"魂"と呼ばれる類のナニカを宿せなかった」

 

「どうして、ですか?」

 

「わからん。それが人類の神秘、人が生まれること自体が奇跡と呼ばれる理由なんだろうな」

 

「同じものを1から育てる事は出来ても、0から10を造る事は出来なかったって事か」

 

「酷いもんだったよ。破棄された肉塊が山のようになっていてな。そしてその全て、生命宿らぬただの肉塊だった」

 

「で、その技術を回収して彼女の体に使ってるってわけか」

 

「奴らにとっては大失敗だったんだろうが、俺とエリスにとっては十分だった。むしろ下手に生命が宿っていたら使えなかったな」

 

「お前がまだまともな方の思考してるって分かって安心したぜ。最初はぶん殴ってやろうかと思ったが」

 

「僕は……よく、分かりません。生命を造るとか、弄ぶとか……」

 

「分からないならその方がいいさ。それに俺は後悔も反省もしていないし、俺なりにエリスを愛しているよ」

 

「はははっ!そりゃいいな。女ってのは大事にするもんだ」

 

「そういうコト。思う所もあるだろうが、俺は俺の意思でやっている。やめる気はないよ」

 

「ま、納得は正直出来ないが理解は出来た。少なくとも見過ごせるぐらいにはな」

 

「それは重畳。どうだ、キラも女作れよ。帰りを待ってくれる女ってのはいいもんだぞ」

 

「え!?え、えっと、その……」

 

「ははは!坊主にはちと早かったか?」

 

「いやいや、プラントじゃもう成人だろ?気の早い奴はガキこさえる歳だ。候補ぐらい居ないのか」

 

「え、いや、その、いいな、って思う娘は……あ、でもその子は」

 

「彼氏持ち、か?下手すりゃ婚約者か。略奪愛かー燃えるな」

 

「おいおい、煽ってやるなよ」

 

「そう言いつつ顔が笑ってるのはどこのどいつだよ」

 

「あう、えと」

 

「何なら初体験だけでも済ますか?エリスの予備があるぞ。ハニートラップ用の奴が」

 

「ええっ!?」

 

「おいおい、そんなもんまであんのかよ」

 

「露骨に興味示したな。情報共有だけ行なって人格を切り離してあるから厳密にはエリスじゃないがな。

 幾ら何でも自分の女をハニートラップには使わないさ。容姿も変えてあるしな」

 

「何パターンもあるのか?」

 

「変装も兼ねてるからな。俺のそっくりから適当に組んだ美男美女まで。使いドコロが限られるから数は少ないけどな」

 

「一つくれ(`・ω・´)キリッ」

 

「ちょ、ムウさん!?」

 

「おー、後で部屋に届けてやる。連れ歩くなら言え。適当に設定でっちあげてやるよ」

 

「ははは、お前良い奴だな」

 

「オマエモナー」

 

「あ、あの、僕そういうのは……」

 

「いや、坊主。実際問題これは洒落にならないんだ。男に限らず人間には欲求がある。坊主ぐらいの歳なら特にな」

 

「悶々としている状態では仕事が手に付かなかったり精彩を欠いたりする事も珍しくはないな」

 

「守る相手が居るってのも大きいが、単純にストレスを溜めないってのも大事だ」

 

「特にお前ぐらいの歳はそういう事でストレスを溜めたり、変な揉め事を起こす事も多い」

 

「坊主は知ってるか分からんが、通常の軍隊でもこの手の問題ってのはかなりでかいんだ」

 

「なにせ殆ど男所帯だからな。毎日むさっくるしい連中と殺し合いしてりゃそりゃ色々溜まる」

 

「大昔は酷かったらしいが、今でもその手の問題が無いわけじゃない」

 

「慰安婦問題、軍人による婦女暴行、上官の権威を傘に来たセクハラやわいせつ行為の強要」

 

「さっきコイツが言ったみたいにハニートラップってのもある。経験の無いやつは引っかかりやすい」

 

「は、はあ……なるほど」

 

「お前だって男女関係のトラブルで仲間と喧嘩したり、その結果誰かを守れなかったりなんて嫌だろ?」

 

「それは……確かに」

 

「経験してみるって割り切るも良し。本気で恋愛してもいいぞ?ちゃんとしたの用意するから」

 

「本気で……ですか?」

 

「まあさっき言ったような存在を本気で愛せるかって問題はあるが……俺は割り切った上で愛してる」

 

「割り切った、上で?」

 

「そういう存在だと理解し、割り切る。その上で歩み寄り、愛する。男女関係に限らず大事なことだ」

 

「お、いいこと言うね」

 

「別に世界に女は一人ってわけじゃない。どんな形になるにせよ、今のお前からは成長出来るはずだ」

 

「成長……」

 

「子供である部分を少しでも減らして成長できれば、それでも見えてくるものもあるだろう。救えるものもあるだろう」

 

「見えるもの……救えるもの……」

 

「おいおい、お前なんか洗脳しようとしてねえか?」

 

「失礼だなおい。ま、確かにいい事ばかりじゃない。お前達子供が総じて嫌う、嫌な大人に近づくって事でもある」

 

「嫌な、大人」

 

「けど結局最終的にそれを決めんのは坊主自身と、坊主を見る奴次第だな」

 

「ま、あくまで選択肢の一つだ。肉体関係と言わなくても、キスや手を繋ぐ程度でもいい」

 

「ああ。別にただ喋るだけでも構わねえ。こういう状況だからってのもあるがな。坊主、お前には触れ合いが足りねえ」

 

「ふれあい」

 

「体同士の触れ合い。心同士の触れ合い。それが無いまま戦争なんかしてたら、いつか壊れるぜ」

 

「こわれる……」

 

「ま、今直ぐとは言わん。必要になったら言え。とりあえず適当なのを一人送るから会話ぐらいしてみろ」

 

「おっと、俺の方も忘れないでくれよ?」

 

「ああ、久々に出来た友人だ。とっておきをくれてやるよ」

 

「っしゃあ!」

 

「………………何が、しゃあ!なのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、あなたは彼を愛しているのね?」

 

「人間の言う愛と同じものかはわかりません。ただ、私のこの気持ちを説明する言葉を他に知りません」

 

「……そう。正直生命の冒涜とかそういうのはよく分からないわ。あなたの事がそれに当たるのかも」

 

「そもそも、特定の定義など無い問題ですから」

 

「だろうな。嫌う者は嫌い、許容する者は許容する」

 

「コーディネーターとの問題も、そういう所に端を発しているのよね……」

 

「少なくとも私は、私の体を得るために多くの肉塊を廃棄したという事を知った上で、ライル様には感謝しています」

 

「……そう。なら、いいわ。この話は終わりにしましょう。感情論以上に結論の出るものでも無いもの」

 

「ご配慮に感謝します」

 

「着いたぞ。ここが食堂だ」

 

「彼らは居るかしら?」

 

「はい、ちょうどあそこに……」

 

「っしゃあ!」

 

「………………何が、しゃあ!なのかしら?」

 

「ライル様?」

 

「……………………まりゅー?」

 

「……あー、エリス?」

 

「はい」

 

「手配、よろしく」

 

「畏まりました」

 

「ってちょっと!?」

 

「待て、話が読めん」

 

「あー、気にせんでいい。こっちの話だ」

 

「というか、エリスさんは今ので分かったんですか?」

 

「ライル様と私は非接触回線で接続されていますので。バイタルや発言など、逐次記録しています」

 

「マジか?お前勇気あるなー。浮気もできねえぞ?」

 

「これが傍に居るのに他に要らんだろ。エリスより良い女なんて滅多にいないぞ?」

 

「そりゃまあ美人でナイスなスタイルだが……って睨むなよラミアス大尉」

 

「まあ、そもそも浮気しても頓着するような思考回路してないんだが……そんなドブネズミを見るような目で見ないで下さいよ」

 

「はあ。冗談はともかく、良好な関係を築けたようで何よりです」

 

「あ、あはは……えっと、ラミアス大尉達はもう終わったんですか?」

 

「ええ。ひと通りは。幾つかご本人に確認しておきたい事があるのだけれど……」

 

「ああいや、回線越しに報告は受けていたから大丈夫だ」

 

「あ?ずっと俺らと喋ってただろ」

 

「並列思考は現代人の必須スキルってね」

 

「お前ほんとにナチュラルかよ……」

 

「ライル様、補給物資その他の準備整いました」

 

「ああ、ありがとう。ラミアス大尉?」

 

「非接触回線とは便利ですね……了解しました。私の権限で着艦許可を出します」

 

「では続きは格納庫で。行きましょうか」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ちょっと何アレ」

 

「ああ、フレイか。なんでもさっきの戦闘で助けてくれた傭兵部隊の連中らしいよ」

 

「あれ、ジャンク屋じゃなかったっけ」

 

「正確には両方だな。あそこに居る彼女らはその旗艦から補給物資を持ってきてくれたんだ」

 

「補給物資!じゃあもうご飯我慢しなくていいの!?」

 

「ご飯も水も解決だってさ」

 

「やったあ!」

 

「ギリギリらしいけどね。それでも最短距離で月まで行けば十分持つってさ」

 

「しかも危なくなったら彼らのツテで補給を確保してくれるって約束してくれたんだ」

 

「マジで!?太っ腹だなあ」

 

「戦闘にも参加するらしいし、キラの負担も減るんじゃないかな」

 

「そっかあ。キラ一人じゃ大変だもんね。良かったぁ」

 

「……ねえ、あの人達もコーディネーターなの?」

 

「詳しくは聞いてないけど、リーダーはナチュラルらしいよ?あのMSに乗ってた人」

 

「ナチュラルがMSに乗れるの!?」

 

「はー、すげえな。あの女の人達はコーディネーターなのか?」

 

「さあ。詳しくは聞いてないけど、ナチュラルでもコーディネーターでもないって」

 

「なにそれ」

 

「知らないよ。本人に聞いてみたら?」

 

「え、いやそれは流石に……ってフレイ!?」

 

「ねえ、あなた達コーディネーターなの?」

 

「いえ、遺伝子に手を加えてはいますが厳密にはコーディネーターとは違います。ライル様を除くクルーは全員クローンですので」

 

「く、クローン?」

 

「あなた方一般兵及び民間人には最大でもCランクまでの情報開示しか許可されていませんので、これ以上は開示出来ません」

 

「コーディネーターではないのね?」

 

「ナチュラルでもコーディネーターでもない、としか答えられません」

 

「そう……」

 

「そもそも、我々はライル様のために生まれ、ライル様のために存在しています。

 ナチュラルにせよコーディネーターにせよ、敵対や差別をするという感情や思考回路を私達は持ちあわせて居ません」

 

「じゃあ――――」

 

「なあ、フレイって時々凄い根性あるよな」

 

「そうね、サイよりあるんじゃない?」

 

「ちょ、ミリアリア……」

 

「俺、あんなにズケズケ言えないよ……」

 

「質問しまくってるなー。上手くはぐらかされてる気もするけど」

 

「need to knowって奴だろ」

 

「なにそれ?」

 

「ライルさんが言ってたんだよ。ほら、例のリーダーさん。軍人の心得だってさ」

 

「あー、確かにそれっぽい」

 

「意味は分かるな」

 

「知りすぎると危険って意味もあるんだってさ」

 

「ってそれつまりフレイが危険ってこと?」

 

「え、うそ止めなきゃ!」

 

「だ、大丈夫でしょ。そのためにはぐらかしてるんだろうし」

 

「まあ聞かれたらマズイことを聞かれて答えはしないよな」

 

「あ、話終わったみたい」

 

「…………」

 

「フレイ?」

 

「え?あ、ああサイ……」

 

「どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない」

 

「彼女達、どう?」

 

「よく分からないけど……信用は出来ると思うわ。少なくとも自分たちがコーディネーターっていう意識は無いみたい」

 

「そうなんだ」

 

「どっちかって言うとあのライル、だっけ?その人の私兵とか腹心みたいな感じがしたわ」

 

「へー。まあ同じ部隊の仲間だしそんなもの、なのかな」

 

「というか、あれはもう至上主義の域に入っているわ。死ねと言われたら死ぬわよ、あれ」

 

「ま、マジか……」

 

「よく分かんなないなあ」

 

「同感」

 

 

 

 

「クローン体の機械への生体部品化、NJ影響下でも高速・高精度の通信が可能な非接触回線、電子精霊と電子妖精……」

 

「オーバーテクノロジーのオンパレードですなこれは。上辺の情報だけというのも有りますが、丸で理解出来ない次元ですよ」

 

「これ、全部ザフトが?」

 

「一部は連合のものも。クローン系技術などですね。どちらのものでもないものもあります。当然、我々独自のものも。

 非接触回線などは設計段階で頓挫していたものを、私達とライル様とで生体部品を用いる事で完成させたものです」

 

「複合技術というわけね……よくもまあこれだけ集めたものだわ」

 

「ライル様の勘はよく当たりますので」

 

「勘って……当てになるの?」

 

「ライル様の勘に沿って調べればジャンク化したばかりの部品がごろごろ、などというのも珍しくはありません」

 

「それもう超能力じゃないか?」

 

「私も何度か疑い幾らかの検証や検査も行いましたが、確証は得られませんでした」

 

「真面目に調べたのか……」

 

「結論として、とても勘がいい、ということに」

 

「それで済む話では無いと思うのだけれど……まあいいでしょう。これは全てCランクね?」

 

「とりあえずはということで。気になる技術がありましたら、Bランクまでのデータを送信致します」

 

「分かったわ。有難う」

 

「では、次に物資の補給状況ですが」

 

「こちらでも確認したわ。嗜好品まであるなんてね……」

 

「ライル様が酒類、煙草、ゲーム、菓子類などを好まれるため常備しています」

 

「避難民丸々賄える量を、か?」

 

「職業柄長期間補給を受けられないことも考えられますので。場合によっては人員数が増加することも考慮しています」

 

「ああそうか、作れば作るだけ増えるんだもんな」

 

「傭兵なのだからこういった事態も想定しているでしょうしね」

 

「一部嗜好品に関しては流石に量が限られるので、制限をかけさせて頂きますが」

 

「しかしこれで月まで持つのか?」

 

「状況次第ですが、十中八九持たないかと。ご安心下さい、補給部隊を既に動かしていますので」

 

「んなもんあるのか?」

 

「正確には索敵や補給から緊急時の特攻も視野に入れた汎用部隊ですが」

 

「よくまあそれだけ」

 

「人手に関しては問題ありませんし、資金はジャンク屋と傭兵業で十分以上に稼げています。

 別働隊と言っても、最低限の役割をこなすだけの簡単な部隊ですので、維持費も然程かかりません」

 

「なるほどなあ。確かにそういうのが別にあれば安心して動けるわな。普段は適当なとこで待機させてりゃいいんだし」

 

「兎も角、補給に関して問題が無い事は確認しました。協力に感謝します」

 

「最後に人員の提供ですが」

 

「これはどういう事?」

 

「ムウ・ラ・フラガ大尉からの打診をライル様が受け、許可したものです」

 

「ちょっと大尉、勝手に……」

 

「いやいやそうは言っても大変だろ?明らかに人手が足りてない。彼女らは万能みたいだしな」

 

「汎用型から特化型まで数種類のプログラムパターンが用意されていますので」

 

「それは、そうだけれど……」

 

「整備員とかCICは兎も角、調理場やら衛生兵やらは彼女らに手伝ってもらってもいいだろう」

 

「立ち入りと閲覧の制限を頂ければそのように致しますが」

 

「機密に触れない事なら格納庫を任せても良いと俺は思ってる」

 

「それは……分かったわ。とりあえず今回は調理師と衛生兵、あとは……生活対応兵?」

 

「正確には兵ではありませんが、クルーの心身のケアや身の回りのお世話などを行う者です」

 

「少数精鋭で回すんだ。代わって貰えるとこは代わって貰ったり、せめて話し相手ぐらい欲しいだろ?」

 

「特にパイロットのお二人には専用のドールを付ける予定です」

 

「そう……確かに、そこまで気が回ってなかったのは確かね。生活面でのサポートが増えるのは歓迎できるわ」

 

(よっしゃ!)

 

「ではそのように。その他詳細は資料を確認の上、不明な点は最寄りのドールにご質問下さい」

 

「非接触回線があるから誰でもいいのか。ほんと便利だな」

 

「統括はオリジナルタイプ……個体名称エリスが担当していますので」

 

「本当、目が眩むようなテクノロジーね。どんな技術力をしているのかしら」

 

「ライル様の頭脳と、ドールを含む膨大な電子精霊及び電子妖精による演算能力の賜物と自負しています」

 

「処理能力が違うって事か」

 

「とりあえず、諸々の手続きはこれで終了ね。改めて、協力に感謝します」

 

「今後共、よろしくな」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 



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2話

「ライル!」

 

「ん?あー、ムウか。どしたー?」

 

「なんだ、気迫がないな」

 

「これが地だよ。仕事の時は気合が入るのさー」

 

「ははは、切り替えが上手いのはいいことだな」

 

「で、何の用?」

 

「おう、お前の寄越してくれたミネアな」

 

「ミネア……ああお前に付けた専属ドールの名前か」

 

「驚いたぞ、出会って最初に名前をつけて下さいなんてな」

 

「初恋の相手か?」

 

「ただの思いつきだよ。それでも喜んでくれたけどな」

 

「俺はクールな方が好きだし楽だから"クーデレ"の思考パターン入れてるけど、お前らのは感情豊かだからな」

 

「エリスの様子見てもっとAIっぽいの想像してたんだけどな。あれ生身の人間だって言われても信じられるぞ」

 

「俺のAI萌えへの情熱舐めんな。で、予想は付くけどどうだった?」

 

「ああ、すげえよ。容姿やスタイルも俺好みだし、仕草や行動の一つ一つがドストライクだ。

 お前が言ってた"萌え"っていうのが理屈じゃなく心で理解できた気分だ。惚れるかと思ったぜ」

 

「惚れればいいじゃない」

 

「バーカ、俺は割りきって付き合うつもりだよ」

 

「まあ、本物の女と違うからな。あくまで男の理想とする女を再現したものだ」

 

「その割にはなんていうか、演技って感じがしなかったんだが」

 

「そりゃそうだ。演技じゃなくてほんとにそういう人格だからな」

 

「ハニートラップじゃねえのか?」

 

「非接触回線」

 

「本人に自覚がなくても機能するってことか……こええなおい」

 

「まあ流石に自覚や意識はあるけどな。その上であの人格なんだ。プログラムだからな。

 そうだと知った上で天然の行動を取るなんて矛盾した事も、しっかりプログラム組めばやれる」

 

「おっそろしいな」

 

「実際、トラップタイプは男にとっても女にとってもどこまでも都合のいい存在だよ。

 エリスとか他のはもっとまともに調整してあるけど」

 

「そうなのか?」

 

「ハニートラップ用は確かに理想通りの思い通りだが、逆に言えば面白みがない」

 

「ああ、それはそうか」

 

「新鮮な内はいいが、慣れると飽きるぞ。俺がそうだった」

 

「あ?じゃあキラに送ったのは」

 

「エリスに近い調整をしてある。多少融通は効かせてるけどね」

 

「なるほど、俺に送った奴はハナから割り切ったやつってことか」

 

「お前は大人だからな」

 

「まあ、でも暫くは飽きねえわ。少なくとも飽きても捨てる気にはなれんな、アレは」

 

「そりゃ、いくら飽きようが自分に都合のいい存在ってのは時々欲しくなるもんさ。

 その辺のバランスを取って調整してあるのがエリスやキラに送ったドールってわけだな」

 

「なるほどな。よく考えるな」

 

「そりゃまあ自分がいいと思ったようにするだけだからな。男の欲望なんて単純なもんだからツボ抑えときゃハズレはしないし」

 

「そりゃそうだ。……しかし、あの体はどうにかならんのか?搾り取られたぞ?」

 

「サキュバスボディという奴だ。……良かっただろ?」

 

「人間抱けなくなるかと思った」

 

「ははは、気をつけろよ?俺はもう手遅れだ」

 

「おいおい」

 

「そういえば件のキラの様子はどうだ?」

 

「手も繋げないで初々しいもんだよ。しかしあの娘すげえな。キラに上手いことリードさせてやがる」

 

「ただ引っ張られるだけや引っ張るだけじゃダメだと思ったんでな」

 

「あれも地か?」

 

「素の人格だ。狙ってとか計算とかは一切無いし、本人もキラのために存在する事を自覚し許容している」

 

「ほんと、男にとっては理想の存在だよなあ。いっそ麻薬みてえだ」

 

「あながち間違ってないさ。キラに送った奴は初心者仕様だけど、猿にならなきゃいいけどな」

 

「あー、俺が貰ったのと同じので初体験はちょっとキツすぎるか」

 

「あんなもん初心者に出してみろ、猿通り越して死ぬぞ」

 

「体験談?」

 

「天国が見れたよ」

 

「分り易い解答をどうも」

 

「キラは流されるきらいがあるみたいだからな。引っ張らないと"いけない"とか引っ張られて"しまう"ってのは駄目だ」

 

「自分の意志で引っ張りたいと思わせる、か」

 

「日常でそういう思考の仕方が身につけば、いずれ大事な所でも自分の意思で動けるだろ」

 

「ほんと、お前にゃかなわねえな。ホントに年下か?」

 

「さて、どうだろうね。ま、第三者だから見えるものがあるのも事実だ。ムウはムウなりに支えてやってくれ、お兄さん」

 

「ガラじゃねえんだがなあ」

 

「ぼやくなよ。さて、俺も癒されてくるかねー」

 

「おう、愉しんでこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ここはこう、なのかな?」

 

「はい、そうですね。あ、そこバグが出てますよ」

 

「あ、ほんとだ」

 

「おーいキラ!」

 

「ん?あ、トール、ミリアリア」

 

(ぺこっ)

 

「よっ。なにしてるんだ?」

 

「アイリスと一緒にプログラミング。最近趣味らしい事ってしてなかったから」

 

「趣味でプログラミングっていうのもキラらしいわね」

 

「ふーん……その、アイリスさん、だっけ?」

 

「アイリスで構いませんよ」

 

「アイリスは例のジャンク屋の人?」

 

「はい。キラさんの専属サポートを任されまして」

 

「いいなー、すげー美人……いや、悪かったから睨まないでよミリアリア」

 

「確かパイロットには専属のサポートが配属されたのよね?」

 

「ええ。フラガ大尉の所にも私の姉妹が伺っていますよ」

 

「姉妹?」

 

「クローンなので、姉妹のようなものなんです」

 

「へー、クローンなんだ。……あんまり私達と変わらないわね」

 

「うん、ほんとに違和感無くて……それに知識も豊富で頭もいいから、話してて楽しいんだ」

 

「ふふふ、有難うございます」

 

「あはは……」

 

「あー、赤くなってやんの。けど知的な女性っていいよなー。ってミリアリアだって頭いいだろー?睨むなよー」

 

「ふんだ」

 

「あはは。でも、やっぱりライルさんの言った通りだったのかな」

 

「言った通りって?」

 

「ライルさんに言われたんだ。心や体の触れ合いが無いまま戦ってたら、いつか壊れるって」

 

「心と体の触れ合いかあ」

 

「その時は曖昧に返したんだけど、こうしてると実感するんだ。皆を守ることに必死になりすぎてたのかなあ、って」

 

「そうよ、キラは頑張ってるんだから。たまには休まなきゃ。私達だって戦ってるんだしね」

 

「そうだぞ、ちょっとは俺達も頼ってくれよ。……俺もパイロットなろうかなあ」

 

「え!?ちょっと本気?いやよ、キラが危ないのは分かってるけど、それでもトールが戦うなんて……」

 

「でもさ、ライルさんってナチュラルなんだろ?それであんなに強いんだ。俺達でも訓練すればちょっとぐらいは……さ」

 

「でも……」

 

「そうですね……男性は、女性を守りたいものだと言います。それは尊重してあげて下さい。

 ……ですが、死地へと向かう男性を見送る女性の気持ちも、分かってあげて下さいね?」

 

「うん……そう、だよな。よく考えて決めるよ」

 

「そうだね。僕はなりゆきだったけど……トール達は、ちゃんと話し合って決めたほうがいいと思う」

 

「ふふふ、一段落ついた所で、皆さんお茶はいかがですか?クッキーを焼いてみたんです」

 

「料理まで出来るのかよ」

 

「キラさんのためになることなら、何でも、ですよ」

 

「うらやましー」

 

「トール?」

 

「ごめんなさい」

 

「よろしい。……ねえ、私も料理教えてもらっていいかな?」

 

「構いませんよ。料理に関しては食堂にいる調理師タイプの姉妹が得意なので、そちらに頼んでみるのもいいかもしれませんね」

 

「ほんと?やった。見てなさいトール!おいいしもの食べさせてあげるからねっ」

 

「良かったね、トール」

 

「へへへ」

 

 

 

 

 

 

「初々しいもんだなあ」

 

「ん?なんだって?」

 

「いや、回線越しにキラ達の様子をな。あ、切られた。こっから先は覗き禁止か」

 

「便利なのかなんなのか分からん機能だな」

 

「他人のラブコメほど面白いものもそうないさ。で、ムウ。頼みってなんだ?」

 

「ああ、お前んとこの戦艦やMSに興味があってな。見せて貰えないか、とね」

 

「何だそんな事か。いいぞ。来たい奴集めとけ」

 

「……えらくあっさり許可したな」

 

「別にうちは軍隊じゃないから技術秘匿とか無いしな。見たけりゃ好きに見ればいい。流石に一部制限はかけるけどな」

 

「相変わらず太っ腹だな。んじゃ、艦長達に許可貰ってくるか」

 

「ああ、なら一応俺も挨拶をしておこう」

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、ですから――」

 

「よーっす。ちょっと話が……どした?」

 

「ああ、フラガ大尉、丁度良い所に。これから取るルートについて協議していたのですが……」

 

「当初はアルテミスを経由する予定だったのですが、補給の目処が付いたため少しでも速く月を目指そうという事になりまして」

 

「ああ、なるほどな。で、その時通るルートで悩んでたのか」

 

「本当に真っ直ぐ向かうとなるとデブリベルトに突っ込む事になるのよ」

 

「かといって迂回すれば直行する意義は薄まる。どうしたものかと思っていたのです」

 

「うーむ」

 

「ああ、それならうちが協力しようか?」

 

「ライルさん?……フラガ大尉、許可は出していませんが」

 

「悪い悪い。こっちも頼みがあってな」

 

「頼みですか?」

 

「いや、後でいい。それよりライル、アテがあるのか?」

 

「アテも何も、邪魔なデブリは陽電子砲で消し飛ばせばいいじゃない」

 

「いやいやちょっと待ってください」

 

「ノイマン曹長?」

 

「操舵手のノイマンだ。よろしく。で、陽電子砲ですが威力的には問題ありません。連射すれば航路を確保出来るでしょう。

 ただ、そうなるとエンジン含め艦の航行に支障が出ます。奇襲でも受けたらマズイことになりますよ?」

 

「そう……それじゃダメね」

 

「別にこのフネの陽電子砲を使う必要はないだろ?というかこのフネ陽電子砲積んでるのか。初めて聞いたぞ」

 

「ええ?知ってて言ったんじゃないのか?」

 

「そういえば武装に関しては何も話してなかったわね……つまり?」

 

「うちのフネの陽電子砲を使う。低出力型で連射向きだし、デブリ程度なら威力的には十分だ」

 

「なるほどな、そういやお前のフネもジャンクの寄せ集めだったか」

 

「そういうコト。うちのは低出力のを複数積んだ連装型だけどな。こういう時には使いやすくていい」

 

「そうか、ジャンク屋ならデブリに突っ込んだりも日常茶飯事なのか」

 

「傭兵家業でデブリを利用する事もあるしな。砲撃による突破は慣れたものだし、相応の調整もしてあるから心配は無い」

 

「なるほど。いかがしますか?艦長」

 

「そうね、こちらとしては願ってもない申し出だわ。お願いしてもいいかしら?」

 

「任せろ。契約どおり別料金は取らないさ。俺達にとっても邪魔だしな。……というわけだエリス。頼んだぞ」

 

『畏まりました』

 

「ほんと便利だな」

 

「好きなことしてられるから楽でいいよ」

 

「しかし陽電子砲まで積んでるたあ本格的な戦艦だな。ほんとにジャンクかよ」

 

「それはまぎれもなくジャンクさ。動力だって独自のものを用いてる。こっちはAランクだから残念ながら秘匿させて貰うよ」

 

「クローンより上かよ」

 

「クローンは精々失敗した技術だしな。それにクローン技術の詳細は流石にAランクだ」

 

「そりゃそうか」

 

「動力は下手すりゃエネルギー問題とかの点でややこしい事になるからな。

 NJの影響を受けない特殊な化学反応を用いた量子反応炉によって莫大なエネルギーを恒常的に生成している……あたりが限界かな」

 

「すげえなそりゃ。補給はいらねえのか?」

 

「詳しくは言えんが真空や大気中から必要な素材を取り出してるからな。半永久稼働が可能だ」

 

「羨ましい限りね……」

 

「まあ、半分壊れてる炉心をおっかなびっくり使ってるだけだからな。知られても真似しようとは思えないだろうけど」

 

「おいおい大丈夫かそれ」

 

「俺は俺とエリスが出した計算結果に自信を持ってるさ。そういえば、さっきの話はいいのか?」

 

「ああ、そうだった。艦長、キラ達連れてコイツの艦の見学に行きたいんだが」

 

「フラガ大尉、何もこのような時に……」

 

「つったってこのような時だから一緒に行動してるんだぜ?技術提供の話もあるし、いいだろ」

 

「……そうね。気分転換にもいいでしょう。私も見せてもらっていいかしら?技術屋として興味が有るわ」

 

「艦長!……はあ、分かりました。艦の運行はお任せ下さい」

 

「悪いわね、ナタル」

 

「悪いと思っているならやめてください。……全く」

 

「やっぱり苦労性だな」

 

「うるさい」

 

 

 

 

 

 

 

「はー、すげえな。うちにも負けないぐらい綺麗じゃねえか」

 

「設備的にも負けてないさ。最新鋭のジャンクを最適に調整してあるからな」

 

「ほんとに全部ジャンクなのね……このフネはどういう船なの?」

 

「型式名称EW-TTTA-24、サターン級宙空両用機動戦艦、艦名ヴァルハラ。型式番号は設計案からだ」

 

「イマイチどこのか分からんな」

 

「まあ第三勢力のものだしな。今は壊滅してる。構想だけして技術や物資が伴わなかった哀れな未完成品さ」

 

「なるほど、そういうパターンもあるのか」

 

「これがアイリス達のフネなんだ……」

 

「私達の製造設備は専門の生産艦がありますけど、家といえばこのフネですね」

 

「ほらキラ。無重力なんだ。お姫様の手を取ってやれ」

 

「あ、はい……えっと、アイリス」

 

「ふふ、ありがとうございます、キラさん」

 

「青春だねえ」

 

「着いたぞ、ブリッジだ」

 

「これは……凄いわね」

 

「いらっしゃいませ」

 

「うわー、皆同じ顔」

 

「ちょっとトール、失礼よ」

 

「ははは、誰も気にしないさ。それに双子だ三つ子だいうのと変わらない」

 

「それもそうか。おいカズイ、何呆けてるんだ」

 

「え!?あ、いや、皆綺麗だなあ、って」

 

「まあ作り物だしな。わざわざ不細工にはしない。さて、うちはナイトブルーがパーソナルカラーで、船体も機体もその色だ。

 これは夜間・宇宙迷彩も兼ねている。シンボルは赤い悪魔の翼」

 

「デザインとしては縦長の艦体にリボルバーのような回転式コンテナが付いた形ですね」

 

「射出角や位置の調整が出来る。コンテナは5つ。一つのコンテナに3機ずつ搭載が可能だ。一つは俺のガンダムが占領してるけどな」

 

「随分と多いんだな?」

 

「クローンを利用した半無人兵器の利用を考えているからな。現在3機がオーバーホール中だ」

 

「まだ機体があるんですか?」

 

「暫くは使えんさ。調整も済んでないし残り9機も未完成だ。そもそも制御用のシステムがまだ出来てない」

 

「彼女らのっけるだけじゃダメなのか?」

 

「あれは脳にプログラムを組み込んでココのマザーサーバーとリンクさせた、半遠隔操作だからな。

 日常生活程度なら兎も角、戦闘させるなら相応の調整が要るし生体部品として直接組み込む必要がある」

 

「色々あるんですね」

 

「まあ、普通に接する分には人間と変わらんさ。大事にしてやってくれ」

 

「は、はい」

 

「ふふふ」

 

「当艦はE.L.I.S.システムを始めとした電子設備に力を入れており、電子戦装置も搭載しています」

 

「戦闘エリア一つ程度なら非接触回線による電子回路への干渉とそれによるハッキングで機体のプログラムに干渉し、

 動作を鈍らせる事も可能だ。

 無人機相手なら完全に行動不能にすることも出来る。どちらも短時間だがな」

 

「マジか?うちの電子戦設備よりすげえじゃねえか」

 

「非接触回線様様だな」

 

「戦術的にも当艦は絶対数が少ないため、多対一の状況を作らないための手段でもあります」

 

「なるほど、ちゃんとした意義があるのね」

 

「半ば以上に趣味だけどね。艦装甲は無限減衰装甲を使用。おたくのPS装甲の雛形技術だ」

 

「うえ、マジか?」

 

「そう……動力の出力が大きいからそういう事も出来るのね」

 

「性能的にはPS装甲以上だ。おたくのは量産前提だが、うちのは効率面もコスト面も度外視した性能追求型だからな。

 対物理は大差無いが、対ビーム能力がPS装甲よりも高い。大体5分の1は軽減してくれる」

 

「へー」

 

「アンチビーム爆雷も搭載しており、対ビームに関しても相応の自信があります」

 

「凄いわね。確かに軍用じゃ考えられない仕様だわ」

 

「多少問題があっても自前でどうにかする技術がないと運用出来ないからな」

 

「武装に関しては牽制用のミサイルユニット、各コンテナ外郭部に内蔵された連装ビーム砲『ミストルティン』、

 艦前後方上下に内蔵された各2連の連装陽電子砲『ブリューナク』、あとはレールバルカンによるCIWSを搭載しています」

 

「す、すげえ重武装だな」

 

「連装陽電子砲を4つ……どんな動力出力してるのかしら」

 

「低出力型だからな。威力足りないから2つ繋げただけだよ。

 まあ全門一斉射すればちょっとした小型核弾頭ぐらいの威力と放射線被害は出るけど」

 

「おいおい」

 

「敵に回さなくて良かったわ」

 

「と言っても基本は電子戦専門だ。電子戦中は最低限の戦闘行動しか出来なくなるしな」

 

「そのための装甲か」

 

「そういうコト」

 

「はー、よく分かんないけど凄いねー」

 

「カズイ、お前曲りなりにもブリッジ勤務なんだからこういうのは分からないとまずいだろ」

 

「サイは分かってるの?」

 

「……まあ、凄いんだろうな、とは」

 

「だめじゃん」

 

「うるさいぞトール」

 

「ねえねえ、やっぱりキラの事好きなの?」

 

「ふふふ、どうでしょう?キラさんが私のことを思ってくださるなら確かに嬉しいですけれど」

 

「へー」

 

「ちょ、ミリアリア……アイリスも」

 

「おい後ろ、何ラブコメやってんだ混ぜろこのやろー」

 

「フラガ大尉、自重してください」

 

「さて、それじゃドックに行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

「ここがドックだ」

 

「コンテナの中じゃないのか?」

 

「コンテナはカタパルトみたいなものだな。簡単な整備や補給、調整なんかをするための設備がある。

 オーバーホールや製造は専門の技術艦に任せてるけど、俺の乗機の改造や修理なんかはここで行うんだよ」

 

「じゃあ今は修理中なのか?」

 

「いや、改造かな。さっきも言ったがシステム面や特殊機構で未完成の部分が多くてね。その作業をここでしてる」

 

「他の機体はその技術艦とやらか」

 

「ああ」

 

「一体どれだけの艦があるのかしら」

 

「旗艦、偵察担当艦、補給担当艦、人員製造・調整担当艦、技術開発研究艦、戦闘支援艦だな」

 

「艦隊じゃねえか」

 

「旗艦以外は戦闘能力は最低限だよ。少し大きい規模の宙賊に襲われたら危ないぐらいだ。

 オーバーホール中の3機も、俺の居ない時に艦隊を軍艦隊と間違えて特攻してきたテロリスト共相手にドンパチやって壊れたんだよ」

 

「あれ、戦闘出来るのか?」

 

「3機だけな。それも緊急時用の対処プログラムを用いてだ。本来の5分の1の力も無い」

 

「そうか、よく無事だったな」

 

「あやうく偵察艦が落とされかけたけどな。あれは駆逐艦も兼ねていて一番前に出る艦だからな。

 流石に落とされたら直すのが大変だ」

 

「人的被害は無かったのか?」

 

「オーバーホール中だと言っただろう?3機とも大破だよ」

 

「え、じゃあ中に乗ってた人達は?」

 

「原型を留めてなかったからな。破棄した」

 

「なっ!?」

 

「は、破棄…って」

 

「別に死んではないぞ?肉体はあくまで仮のもの。人格自体はデータだ。ちゃんと回収して新しい体に移してある」

 

「ほんとに服と大差無いんだな」

 

「戦闘服みたいなもんだ。少なくとも彼女らに、自らの体という意識は薄いな。俺としてはもう少し自愛して欲しいぐらいだ」

 

「本人達の意識の問題かよ……」

 

「無茶はするなと言っているのに平気で自爆特攻しようとするから困る」

 

「おいおい」

 

「よく分からない話だなあ」

 

「ヤバイ話題ってのは分かるけどな」

 

「need to knowって奴だね」

 

「お前それ気に入ったのか?」

 

「うんちょっと」

 

「全くもう、男はこれだから」

 

「ふふふ、いいじゃないですか。私は男性のそういう純真な部分は好きですよ?」

 

「――さて、これが俺の機体、型式番号AGX-303、シュヴァリエガンダムだ」

 

「ガン……ダム」

 

「確かOSの頭文字から来てるんだったか」

 

「型式番号の意味は?」

 

「元になった機体の設計プラン名がAGXでな。それに因んでうちのシリーズの開発プランをAGX開発計画としたんだ」

 

「303ってことは3世代目の3号機って事か?」

 

「ああ。この機体は何度も大幅な改修や設計変更を行ってるからな。

 初期の100から大規模な設計変更2回、その後で大型改修0回、小規模改修3回。それで303」

 

「なるほど」

 

「マントを背負って、騎士みたいですね」

 

「シュヴァリエはフランス語で騎士という意味だからな。デザインコンセプトは王道騎士じゃなくて黒騎士だけど」

 

「まあ確かに黒騎士だわな、これは。色的に」

 

「当然、ナイトブルーで夜間・宇宙迷彩兼用だ。エンブレムは頭部に描かれている。肩とかだとマント展開すると隠れるからな」

 

「展開出来るんですか?」

 

「肩部と背部のマウントで固定されていて、肩部マウントは可動式なんだ。普段は後ろに回してるが、機体を覆う事も出来る」

 

「ということはただの飾りでは無いのね」

 

「伊達や酔狂であんな邪魔臭いものは付けないさ。あれはアンチビームマントって名前でな。対ビーム性能を持ってる」

 

「対ビーム!?」

 

「ただのコーティングじゃなく、繊維やその原子構造から熱拡散性と粒子減衰を付与した特別製だ」

 

「通常のビーム兵装であればおよそ8割、貫通性の高い特殊ビームでも3割は減衰出来ます」

 

「無限減衰装甲と併せて、大概の物理攻撃は半減、ビームはほぼ無効化してくれる」

 

「す、すごいな。鉄壁じゃないか」

 

「その分素の装甲強度は低めだけどな。そもそも当たらなければどうという事はない」

 

「実際に見ていたから知っているけれど、確かに一度も直撃は受けていなかったわね」

 

「まあ、完全にノーダメージってわけじゃないし、衝撃自体はパイロットにも伝わるからな。当たらないに越したことはない」

 

「それにPS装甲ならエネルギー的な問題もあるか」

 

「ああ。まあ無限減衰装甲はPS装甲と違って当たった時だけエネルギーを消費するなんて器用な真似は出来ないけどな。

 常に一定量のエネルギーを消費し続けているから継戦能力はあまり高くない」

 

「バッテリーの容量と効率で誤魔化しているのが現状ですね」

 

「あ、これは普通にバッテリー駆動なんだ」

 

「ああ、最初はこのフネと同じ動力にしようとしたんが、小型化した途端に上手く安定してくれなくてな。

 今は安全を考慮して完成するまでは封印中だ」

 

「搭載はしてるのかよ」

 

「危なくて使えないけどな。一つ間違えたらコロニーぐらい消し飛ぶぞ」

 

「ま、マジか……」

 

「両腕に装備しているのはシールドかしら」

 

「ああ、小型のアンチビームシールドだ。ABマントの技術を応用していて、ビーム攻撃を半減してくれる。

 下腕を覆う程度の大きさしか無いし、主にマント非展開時用の防御装備だな。まあ大概戦闘中は展開してるけど」

 

「そういえばこの前も展開してたな」

 

「機体がすっぽり隠れるからな。初動が見えないというのは相手にとってかなり戦いにくいんだ。抜き打ちもやりやすいしな」

 

「そういややってたな。腰から引きぬいてそのままズドン」

 

「正直、よくあれで当たるものだと思ったわ」

 

「抜き打ちはオートじゃ出来ないさ。完全マニュアルで勘任せだよ。生憎と俺の勘はよく当たるからな」

 

「すげえなおい」

 

「流石に経験豊富、というわけね」

 

「ライル様の勘は経験がどうとかいう次元を超えていますが」

 

「こらこら、人をバケモノみたいに」

 

「大差あるのですか?」

 

「割りと無い」

 

「おいおい」

 

「なるほど、機体は高機動寄り、装備は防御寄り。大したものね」

 

「この機体の真髄はその火力ですが」

 

「つっても今使えるのはガラティーンとロンゴミアント、あとはCIWSとレールマシンガンぐらいだけどな」

 

「説明頼めるか?」

 

「はい。ガラティーンとは左腰部マウントに装着された鞘に収められた長剣の名称です。

 特殊な粒子振動と熱反応、さらに無限減衰装甲の技術を応用したエネルギー加速力場によって高い切断性を持ちます」

 

「実体剣だが熱や特殊な力場も利用しているから、PS装甲にも通る。流石に多少は減衰されるけどな」

 

「その代わり力場の形成時間・加熱限界・機構の可動用バッテリーの容量の問題などから、連続展開は3分48秒が限界です」

 

「それが過ぎるとただの実体剣だ」

 

「停止後は鞘に収め冷却・再加速・再充電に最大22秒を要します」

 

「ああ、だから何回か戻してたのか」

 

「実際には展開時間ギリギリまで使うわけには行かないからな。タイミングを見て再充填するんだ。

 結果的に、居合い抜きのような戦法を取る事になる。騎士のくせに旧日本の武士みたいだな」

 

「確かにマントがあるから見切るのは難しそうだな。……マント切れねえのか?」

 

「マントは粒子振動等の無い剣では幾ら鋭くても切れませんし、機構の切り替えは手元で出来ますので」

 

「停止状態から稼動状態になるには一瞬間が開くからその間に抜いちまうんだ。一度抜いたら殆ど電源入れっぱなしだけどな」

 

「マントの内側には力場に干渉する素材を使用する事で加速力場を反転させていますので、内側からはまず斬れません」

 

「なるほど。それを防御に使ったのが無限減衰装甲か」

 

「加速の反対は減速……なるほど、だから無限減衰装甲というわけね」

 

「装甲材自体を改良したりと機構は大分違うと思うが、基本的なノウハウやコンセプトはPS装甲にも受け継がれてるだろうな」

 

「次に右腰部マウントのビームバスターですが、名称を『ロンゴミナント』といいます」

 

「えらく独特な名前と形だな」

 

「ガラティーンもロンゴミナントも、騎士王アーサーの伝説からの出典です」

 

「ガラティーンは円卓の騎士ガラハッドの所持した名剣。聖剣エクスカリバーの兄弟剣とも言われている」

 

「ロンゴミナントはアーサー王が所持していたとされる名槍の名ですね」

 

「へー。知ってるか?ラミアス大尉」

 

「いえ……私その手のには疎くて」

 

「あ、僕知ってます。大分前にやったゲームに出ていました。一部地域ではとてもメジャーな伝説だとか」

 

「ライル様がお持ちのゲームにもよく出てきますね」

 

「まあ、それは置いといて。形状はそもそも歩兵用と同じ形にする理由も無いからな。

 銃身後部にグリップを垂直に付けることで、掴んで抜き放って撃つという一連の動作をやりやすくしてるんだ」

 

「粒子充填と充電を腰部マウントからできるようにしていますので、必然的に抜き撃ちを多用することとなります」

 

「あの時やってた抜き撃ちか」

 

「抜き撃ちも居合いも、俺の十八番だからな」

 

「前は機動予測が十八番とか言ってなかったか?」

 

「切り札は多く持つものさ」

 

「正直な所、ライル様の戦闘センスはずば抜けていますので、全て十八番でも間違いは無いのですが」

 

「褒めるなよ照れるじゃないか」

 

「調子に乗らないで下さい」

 

「今日は毒舌だね、君」

 

「しかし出力も凄かったな。アグニ並の火力はあったんじゃないか?」

 

「さすがにアレほどじゃないさ。射程も犠牲にしてるしな」

 

「アグニのような照射式ではなく、あくまで大型弾丸式のビームライフルですので、射程に限界があります」

 

「まあ見た目は完全に砲撃だけどな。一応でかい一発って事になってる。構造的にな」

 

「貫通性の高いビームを使用しているため、対ビーム性能の高い対象にも有効な点が強みです」

 

「単純に強力な剣とビーム砲か。弱点がないな。大概どっちかは通用するだろ」

 

「あとは近接攻性防御用にCIWS、両腕部に牽制用のレールマシンガンを内蔵してる」

 

「PS装甲に撃ってたけど、効くのか?」

 

「機体に効かなくても中の人間には効くさ」

 

「ああ、そうか。衝撃は殺せないのか」

 

「キラも気をつけろよ。エネルギーだって無限じゃない。頼り過ぎないようにな」

 

「は、はい!」

 

「やっぱ実際に経験有る奴は目の付け所が違うな」

 

「一度それで醜態を晒したことがあるだけさ。なんとか死に損なったがね」

 

「なるほど。……ん、ラミアス大尉?おいマリュー?マリュー・ラミアス大尉~?」

 

「いえそれにしても……は、はいっ!?なんでしょうっ!?」

 

「いやいや技術屋として興味があるのは分かるが、トリップするなよ」

 

「あ、あははは……すみません」

 

「いやまあいいけどな」

 

「さて、流石にそろそろお疲れでしょう。ドール達が食事の用意をしています。どうぞ」

 

「お、そりゃありがたい。おーい坊主共、メシ行くぞー」

 

「あ、はーい!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「美味い!」」」

 

「本当、凄く美味しいわね。あとフラガ大尉、うるさいです」

 

「う、悪い。しかし本当に美味いな。宇宙用食材でこんな美味いもんが作れるのか」

 

「アークエンジェルの料理も大概美味いと思ってたけど、これはそれ以上だなー」

 

「ほらトール、口に付いてるわよ」

 

「これどこぞの高級レストランで出ても違和感無いな」

 

「まあそりゃそうだろ。レシピ盗んだ上に改良してあるからな。半分機械だからそういうのは得意なんだよ」

 

「へー。メニュー見てもA級グルメもB級グルメも満遍なく揃ってるな。よく食材があるもんだ」

 

「一部は流石に数量限定だけどな。無くなれば補給部隊に連絡すればいい」

 

「非接触回線便利だな。というかそんな距離で届くのか?」

 

「戦闘エリア内程度なら兎も角、流石に遠距離通信は専用設備でやってるさ。同じ技術の流用だけどな」

 

「連合かザフトが手に入れたら一気に戦局傾くんじゃねえか?」

 

「いや、レーダーとかはまた別物だから単に通信技術だな。多少有利にはなるだろうけど」

 

「現時点で危うい均衡を保っていますので、何かしらの要素で傾く可能性は有りますが」

 

「ま、立て直せないほど傾きはしないだろ。うちもレーダーは軍で使ってるのより多少マシって程度だし」

 

「その辺りは採算度外視かつワンオフの上に定期的な専門家によるチェックを前提としていることによる差ですね」

 

「軍じゃ使えないわね」

 

「そもそも軍で研究してた技術なんだから、似たようなのはどっかにあるだろ。制式化されてないだけで」

 

「それを全部一纏めにしちまったお前らが凄いんだがな」

 

「俺、ジャンク屋なろうかなあ」

 

「ちょっとトール……」

 

「いいんじゃないか?社会的にも認められた職業だしな。

 俺みたいにデブリ漁りしなくても単なる技術屋としてのジャンク屋なら危険も早々無い」

 

「え、そうなの?」

 

「街の電気屋みたいなもんだ。単にジャンク屋連合に加盟した方が信用を得られるってだけ」

 

「へー。ほんとにいいかも?」

 

「アークエンジェルで活躍した経験と箔がありゃ食うには困らないだろ。刺激が欲しけりゃ俺みたいな事もすればいい」

 

「う、ちょっとトール」

 

「ミリアリアだって戦場カメラマンやりたいって言ってたじゃないか」

 

「それはそうだけど……」

 

「おお、いいじゃないか。ジャンク屋の戦いを記録する戦場カメラマンってのも面白いかもしれないぞ?

 それなら公私共に一緒に居られるしな」

 

「一緒に……」

 

「キラはどうする?」

 

「え?」

 

「進路とか決めてるのか?このフネを降りるのか、降りるならその後はどうするのか」

 

「えっと、それは……考えたこと……ううん、考える余裕が無かった……かな」

 

「これからは俺も居る。多少は余裕も出来るだろ。今のうちに考えとけば後で楽だぞ」

 

「うん、そう、ですよね」

 

「なんならお前らうち来るか?」

 

「え?」

 

「うちって……ライルさんのチームに!?」

 

「ああ、アークエンジェルでの経験を生かしてくれればこちらとしても助かるし、やっぱり生身の人間が必要になることもあるしな。

 お前ら工学系だろ?ジャンク屋として活動するには十分な知識と技術は持ってる。うちはNとかCとか関係無いしな」

 

「でも……危険もあるんじゃ」

 

「まあ戦闘中は一般人やってるよりは危険だろうが、このフネの丈夫さ考えたら日常は下手な一般人よりも安全だぞ?

 普通に街歩いてたって危険な目に会う時は会うんだからな。戦闘の危険がある分、その手の危険とは無縁だ」

 

「それは……確かに」

 

「キラはアイリスと一緒に居やすいしな(ニヤニヤ)」

 

「うっ」

 

「実際、通常のクローンと違ってテロメアの問題が無い以上寿命は俺らと変わらんが、それでも定期的なチェックは要る。

 だからってこともないが、何かあった時に安心なのは確かだろう」

 

「それは……はい」

 

「人手不足ってわあけじゃあないが、流石に周り全員これだと面白みもない。人間じみているとは言っても結局は俺の組んだAIだ。

 時には本物の人間が必要になる時もあるし、俺はリーダーだから優先順位がある。そういう意味でも、な」

 

「なるほど」

 

「ま、特にアテが無いならジャンク屋になるって道もあって、それなら俺のとこに来ないかってだけの話だ。

 特にキラはOS書き換えたりガンダム乗って戦闘したり、優秀だからな。是非一緒にジャンク屋をやりたいと思ってる」

 

「優秀……えっと、有難うございます」

 

「コーディネーターでも早々出来ない事をやってのけたんだ。これでも一目置いてるのさー」

 

「へー、凄いじゃないかキラ」

 

「ああ、坊主もずっと軍で戦うってわけにも行かんだろう。俺はいい話だと思うがね」

 

「でも……本当に危険は無いんですか?」

 

「今は戦時中だから傭兵業もやってるが、普段は日がな一日拾った機械弄って、たまに売りさばいて金にしてるだけだからな」

 

「しかも毎日女としっぽりか。気楽なもんだなおい。羨ましいぞこら」

 

「フラガ大尉、周りに女性が居ることを考慮して発言して下さい」

 

「悪い悪い」

 

「そっか、普段はそんなかんじなんだ……」

 

「このフネは早々落ちん。危険度で言えば、一般人が見えないフリしてる日常の危険度と大差ないさ」

 

「うーん、少し揺れるな」

 

「でもサイ、フレイは?」

 

「う。まあ、流石に無理があるかな。フレイの親父さん連合軍人だし。カズイこそどうなんだよ」

 

「戦艦はちょっと怖いかな。戦いも……でも、せっかく工学技術があるんだから活かしたい、かな」

 

「このご時世だ、大概の工学仕事はMSの開発とかに関係して来るだろうな。

 低給料の平社員ならともかく、その技術と知識を本格的に活かすならどうしてもその辺の影はチラつくだろ」

 

「とはいえ、一般人であれば早々危険は無いとは思われますが」

 

「いきなりテロに巻き込まれて死ぬなんてのも珍しくないしなあ。俺としては大差無いと思ってしまうんだな、これが」

 

「ライル様はこのフネが安全だと、技術的な面からも心理的な面からも確信されていますから」

 

「そりゃそうだ」

 

「そっか……どこに居ても、たとえ中立国でも、もう無関係じゃ居られないんだ」

 

「中立とか言いつつMS作ってたぐらいだしな。おそらく連合向けだけじゃなく自分達用のも作ってただろ。

 もしあのままヘリオポリスに居たら、知らないうちに兵器開発に関わってたかもな。いや、もう関わってるかも知れないか」

 

「えっ!?うそ!?」

 

「いや実際、工学系のカレッジに居たんだろ?ヘリオポリスで工学系。きっと一部の教授とかは関わってたと思うぞ。

 教授とかの手伝いでよく分からない作業とかプラグラムとかさせられなかったか?」

 

「そういえば……」

 

「キラ、よく手伝ってたよね。カトー教授とか」

 

「ええ?もしかして?まさか……」

 

「まあ実際のとこは分からんが、少なくとも大人達の誰一人無関係って事は無かったろうな」

 

「俺達も、巻き込まれてたかもしれないのかな」

 

「カズイ、それ違う。現在進行形で巻き込まれてるから」

 

「言わないでよサイ、敢えて考えないようにしてたんだから」

 

「まあ、余程追い詰められない限り学徒徴兵なんてそうそう無いだろうけどな。そう考えれば今の方がヤバイか」

 

「ま、それもアークエンジェルが月に着くまでだ。坊主たちもすぐ降りられるさ」

 

「だと、いいけどな」

 

「……どういうこと?」

 

「現在制宙権の殆どはザフトに有り、アルテミスなんかを除けば宇宙はザフトの独壇場だ」

 

「ああ」

 

「地上に降下したザフトも猛威を振るっているが、しかし敵地だ。兵も物資も長くは保たない」

 

「確かに、限界はあるだろうな」

 

「更には地球連合軍がGの開発に成功した。MSが連合に正式配備されれば、パワーバランスは数的に連合有利となる」

 

「多少技術で遅れを取っても、数で誤魔化せるからな」

 

「ザフトには時間がない。制限時間は刻一刻と迫ってくる。逆に連合は物量にモノを言わせ時間を稼げれば優位に立てる」

 

「少なくとも、俺達がGを持ち帰れば多少は変わるだろうな」

 

「ならばザフトは電撃作戦で一気呵成に攻めるしかなく、連合はその猛攻を必死の思いで多くの犠牲のもと凌ぎ切らないといけない」

 

「まあ、大体今の連合とザフトの状況だな。結果的にどちらも有効な戦略が立てられず、膠着している」

 

「ああ。だがそれは打つ手が無いから膠着しているわけじゃない。ザフトは電撃侵攻の準備のため、連合はそれに備えるため」

 

「小競り合いはあちこちで起こってるしな。俺達もそれに巻き込まれたクチだ」

 

「で、さっきも言ったが制宙権はザフトのもの。だが地上のザフトを援護するには宇宙に居る連合宇宙軍は邪魔だ」

 

「……つまり?」

 

「俺の勘を含めた予測にすぎないが……近いうち、ザフトによる連合宇宙軍への攻撃作戦が始まるだろう」

 

「なんですって!?」

 

「なるほど、な」

 

「アルテミスは前に一度行った事があるが、確かに傘は強力だ。だがブリッツなら落とせる。ミラージュコロイドあるからな」

 

「そうか、ステルス状態で接近して傘さえ壊してしまえば……」

 

「4機のGと準備期間を得たことで、ザフトは必要なコマが揃いつつある。

 補給の要であるアルテミスを落とし、次に地球軌道上で艦隊戦を行なって月の部隊を引っ張りだす。後は……」

 

「アルテミス同様、ブリッツの奇襲を軸に月基地を落とすなり港を使えなくするなりすれば……」

 

「連合は軌道周辺の宇宙戦力の大半を失うな」

 

「オイオイマジかよ……」

 

「現時点で地球上もかなりザフトに食い込まれている。宇宙に上がれなくなれば巻き返すのは難しい」

 

「確かに、な。物量だけあってもどうにもならん」

 

「なら鍵となるのは開発したMSによる高質物量作戦。つまり……俺達が、鍵だ」

 

「僕達が……カギ」

 

「連合もザフトもそれは分かってる。ザフトは俺達を潰そうとするだろうし、連合はなんとしてでも持ち帰れと無茶振りするだろう」

 

「こりゃ、死ねなくなったね」

 

「でも、それが僕達がアークエンジェルを降りる話と関係あるの?」

 

「大有りさ。さっきも言っただろう?この戦争が膠着してもう随分経つ。そろそろ準備も整う頃だ。

 そして、ザフトは俺達に月へ到着されると非常に困る」

 

「まさか……」

 

「恐らく俺達の連合軍合流に前後して、仕掛けるだろうな。さっき言ったような作戦を」

 

「じゃ、じゃあもしそれで月が落ちたら……」

 

「そうだ、カズイ。俺達は地球の連合軍基地に降りるまで、戦うことになるって事だな」

 

「そんなあ!」

 

「まだ、そうなると決まったわけではないのでしょう?」

 

「そうだが、軍人は最悪のケースを想定して動くものだろう?それに、俺の勘は善くも悪くも当たる」

 

「お前の言う、最悪のケースってのは?」

 

「まずアルテミス陥落による退路の断絶。後に二面作戦による月基地陥落によって降下を余儀なくされ……

 二面作戦の陽動側の戦闘に巻き込まれて低軌道会戦を行い、その結果緊急降下によってザフト勢力圏内に降下すること、かな」

 

「………………思わず、絶句しちまったぜ」

 

「アフリカ辺りに降りれば最悪だ。周りを海と山に囲まれ、砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルド率いる部隊の勢力下。

 あの部隊はザフトでも精強な部隊で有名だし、俺も一度ジンもどきでドンパチしたことあるが強かった」

 

「砂漠の虎とやったのか!?」

 

「ジャンクから修復したばかりのジンでな。結果はドロー。逃げおおせたよ」

 

「マジかよ……機体が機体だっつってもお前相手に引き分けか」

 

「今のキラとストライクなら……キラが不利だろうな。出てきたら任せろ」

 

「って、戦う前提なんですか!?」

 

「言っただろ、最悪の想定だと。それにあいつとはもうすぐ再会しそうな予感がある。

 正直会いたくないな。コーヒーの好みだけはいいんだがな。いかんせん面倒だ」

 

「その、勘って言うの、本当に当たるんですか?」

 

「少なくともここまではっきりとした予感が外れた憶えは無いな」

 

「マジかよ……」

 

「もし会戦になってもキラはフネから離れるな」

 

「え、どうしてですか?」

 

「降下地点なんてそうそう逸れるもんじゃない。一番可能性が大きいのが、MS回収のために艦を寄せた場合だな」

 

「な、なるほど」

 

「このフネは単独での大気圏離脱が可能だ。一応、程度だけどな。少なくとも少し逸れたぐらいなら修正出来る。

 だから、回収やら機動対応は俺達に任せろ」

 

「ええ、お願いします」

 

「てか単独離脱出来るのかよ」

 

「あくまでスペック上の限界値を考えれば、だ。現実的には降下地点の修正が精々だな」

 

「それでもアークエンジェルで回収に向かうよりはマシね。その時はよろしくお願いします」

 

「ああ。それに俺達はジャンク屋だからな。降下時に契約を切ったって事にすれば、一応バラバラに降りてもなんとかなる」

 

「ああ、そういう手もあるのか。第三勢力らしいやり方だな」

 

「ま、そんなわけでみんな心に留めるぐらいはしておいてくれ。もしかしたら、俺達は地球に行く事になるかもしれない」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、トール。あの人の言ってた事、どう思う?」

 

「あの人ってライルさん?どれの話?」

 

「ジャンク屋とか、危険とか、地球に行くとか……」

 

「要するに全部か。まあ、どれもあり得る話ではあるな」

 

「あ、やっぱりサイもそう思う?」

 

「理論としても、悪く想定はしてるけど荒唐無稽では無いしね。僕も、このまますんなり行くとは思えないかな」

 

「キラもやっぱりそう思うんだ」

 

「アイリスは、どう?」

 

「そうですね、私はどうしてもデータから結論を出してしまうので断言は控えさせていただきますけれど……

 どのような事態になれど、私はキラさんをお支えいたしますよ」

 

「アイリス……」

 

「あーあ、いい雰囲気作っちゃって」

 

「僕達、生きて帰れるのかな……」

 

「ちょっとカズイ、滅多なこと言わないでよ」

 

「でもさあ」

 

「それよりも。さっきライルさんが艦長達と話してるの聞いたんだけどさ」

 

「ちょっとトール、趣味悪いわよ」

 

「いいから。ほら、もうすぐライルさんとこの補給艦が物資持ってきてくれるだろ?」

 

「ああ、うん」

 

「その時に、避難民の人達を補給艦に預けようかって話になってたんだ」

 

「それ、ほんと?」

 

「うん。ほら、一応僕らオーブ国民だろ?連合の戦艦が救出したってなると色々あるらしくてさ」

 

「だから第三勢力のライルさん達に預けよう、って事か。いいんじゃないか?ずっと戦艦に乗せとくのもなあ」

 

「でも、一度連合の軍艦で救助しちゃっったから、色々規則とか取り決めとかあるらしくて」

 

「あー、その辺はややこしそうだもんねー」

 

「それで結局合流した補給艦に乗せ換えていつでも離脱できるようにして、連合と連絡が取れたら指示を仰ぐんだってさ」

 

「へー」

 

「まあ、妥当かな。現場の判断で勝手にあっちこっちやるわけにも行かないだろうし」

 

「何にしても、俺達はもう降りれるようになるまで頑張るしかないよな」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 



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3話

「アスラン」

 

「ああ、ニコルか」

 

「隊長はなんて?」

 

『君の気持ちは分かる。――だが、聞き入れないときは?』

 

『――!……その時は……私が討ちます……』

 

「……いや、二度とこの様なことは無いように、と」

 

「そう、ですか。ごめんなさいアスラン、僕が援護出来ていれば……」

 

「いや、俺も頭に血が上り過ぎていた。……正直、まだ冷静になれていない気もする」

 

「冷静といえば、イザークの荒れようも酷かったですよ。3対1でいいようにあしらわれたって」

 

「戦闘映像を見せてもらったが、相手の動きにまだ余裕があったな」

 

「ええ、無駄に思えるような挙動もありましたし。本当に無駄な動きだったなら、そういう事なんでしょうね」

 

「ディアッカは?」

 

「イザークが横で荒れているせいか落ち着いていますが……やっぱり悔しいみたいです」

 

「だろうな。結局、4対2で挑んでこちらは全員中破以上、向こうはほぼ無傷だ」

 

「何が足りないでしょう……」

 

「経験、だろうな。特にあの謎の新型。まるでこっちの動きを読んでいるように感じた」

 

「ええ、それは僕らも感じました。まるで当たると知っているかのように当たり、避けると知っているかのように避ける」

 

「恐らく自分の機体を知り尽くしているんだろう。……少なくとも俺は、イージスを乗りこなしていたとは思えない」

 

「それは……僕もです。ミラージュコロイドがあるのに4対1だからとPS装甲を優先して。臆病なんですよ」

 

「キラは動きは素人臭かったが、自分の機体を使いこなしていた。あの新型に至ってはザフトでもエース級の実力だろう」

 

「……アスラン、イザークがシミュレータに乗っています。僕達も、行きましょう」

 

「……ああ」

 

(そうやって戦う術を磨いて……だが、俺はキラを討てるのか?いや、討てないといけない。いけない、はずなんだ……)

 

『緊急連絡、緊急連絡、アスラン・ザラは即時隊長室に出頭すること。緊急連絡――』

 

「あれ?さっき話してきたばかりなのに……なんでしょう?」

 

「さあ……とりあえず、行ってくる」

 

「あ、はい。また後で、アスラン」

 

 

 

 

 

 

「ラクスが……行方、不明?」

 

「乗っていたフネが撃墜されたらしく音信が途絶、消息不明になったと……」

 

「そんな……」

 

「くそっ!どうしてこんな時に、こんな事ばかり!」

 

「アスラン……」

 

「悪い、ニコル。暫く一人にしてくれないか……」

 

「…………はい」

 

(ラクス……恐らく、捜索隊が結成される。俺が入るかは分からないが、志願はしないとな……)

 

(そうなると、ストライクの追跡はどうなる?別の隊が向かうのか?もしそれで見知らぬ奴にキラがやられれば……)

 

(くそ、なんだっていうんだ、一体!…………俺は、どうすればいいんだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「エネルギー充填100%、照準固定」

 

「よーし、ブリューナク、ってぇー!」

 

「――――――――――これは、凄いな」

 

「ええ。連装陽電子砲2門による砲撃……ここまでとはね」

 

「低出力とはいえ計4発の陽電子砲、合計威力じゃローエングリンより上だなこれは」

 

「――再充填、完了」

 

「第二射、ってぇー!」

 

「早い!」

 

「アークエンジェルの数倍の充填速度か。動力出力の差だな、これは」

 

「それに砲数が多いからかしらね、綺麗に道が出来てるわ」

 

「なるほど、こりゃ確かにジャンク屋向きだな」

 

「艦長、このままのペースなら今日中にはデブリベルトを抜けられますね」

 

「そうね。そういえば、この辺りにはユニウスセブンがあったわね」

 

「ああ、そうだな。墓参りとか言ってる余裕は無いが、黙祷ぐらいはしとくか」

 

「あの、こんなに撃ってユニウスセブンに当たったりしないんでしょうか?」

 

「ん、あー流石にそれは……嫌だな」

 

「通信失礼します。ユニウスセブンですが、問題ありません。方向が違いますし、計算の上で砲撃を行なっています」

 

「へー、プログラムって割にその辺の機微も分かるんだな」

 

「いえ、これはライル様の指示です」

 

「こらこら言うなよ。ガラじゃないだろ」

 

(ライルさんって、そういう所は意外としっかりしてるわよね。流石大人って事なのかなあ)

 

「優先度Dで記憶します……レーダーに反応、MSです」

 

「低いなおい……出たか」

 

「MS!?……こちらのレーダーには反応無いわね」

 

「離れていますし、デブリ地帯ですので。当艦のレーダーは一部非接触通信技術を流用しており、デブリ帯でも高精度索敵が可能です」

 

「やっぱ流石ジャンク屋か」

 

「機数1、索敵機と推測します」

 

「状況は?」

 

「一時こちらに接近、現在は一直線にデブリ地帯から抜けようとしています」

 

「っつーことは見つかったのか!」

 

「そりゃまあこんだけバカスカ撃ってりゃねえ」

 

「言ってる場合じゃないぞライル。追撃部隊に連絡されたら面倒だ。どうする?」

 

「俺が出よう。デブリでの戦いは心得てる。シュヴァリエならジン如きに振り切られはしないよ」

 

「艦長、いかが致しますか」

 

「否はないわね。ここで足を止めるわけには行かないわ。出撃を要請します」

 

「りょーかい。エリス、後は頼んだぞ」

 

「はい、予定のコースを通りデブリベルトを突破します」

 

「潰したらすぐに追いつく。先に行っててくれ」

 

「ええ、宜しくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわあああああああああああああっ!!!」

 

「ゴッドスピード……ってね。さて、帰るか。――――お?こりゃ……救命ポットか。真新しいな。信号も生きてる。回収するか」

 

 

 

 

 

 

 

「で、回収してきたと」

 

「こちらの独断で回収してきたんだ。開放作業はこちらで行おう。その方が何かあっても被害が少ない」

 

「ええ、お願いするわ。一応報告は上げてくれるかしら?」

 

「エリスに映像回線を開かせる。そっちでも確認してくれ」

 

「了解しました」

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか。出来ればシンデレラ辺りに出てきて欲しいもんだが……」

 

「――――ありがとう。御苦労様です」

 

「……マジでシンデレラか?これ」

 

「ライル様、冗談を言ってないで対応してください」

 

「ああ、おk。お嬢さん、ようこそ俺のフネへ」

 

「あら?ザフトの船ではないのですね」

 

「ああ、このフネはジャンク屋ウェヌスの旗艦だ。今は連合のフネと行動を共にしている」

 

「まあ、連合の……」

 

「所で、名前を聞いてもいいかな」

 

「あら、申し訳ありません、申し遅れました。私、ラクス・クラインと申します」

 

「……あー、やっぱ本物か」

 

「ええ、正真正銘本物ですわ」

 

「ここに居るって事は……ああ、ユニウスセブンの追悼式典か」

 

「あら、ご存知でしたの?」

 

「仕事ガラ、情報には敏いもので」

 

「私の乗っていたフネは、どうなりましたか?」

 

「君を救助した帰りに見つけたから調べたが……完膚なきまでに、撃墜されていたよ。助かったのは君一人だ」

 

「そう、ですの……」

 

「流石に連合のフネは居心地も悪かろう。一応このフネならNもCも無い。君の身柄はうちで預かろう。……いいですね?ラミアス大尉」

 

「そうね、クルーと衝突しても問題だし、手荒に扱うわけにもいかないわ。一応、形式上は連合の捕虜という事になるけれど」

 

「と、言う事だ。身の回りの世話は一人付ける。何かあればその者に申し付けてくれ。エリス、手配を頼む」

 

「はい、畏まりました」

 

「まあ、お気遣い頂いて、有難うございます。お優しいんですのね」

 

「ははは、悪いけど俺にはそういうのは通じないよ。女には慣れててね」

 

「?どういう、事ですの?」

 

(無自覚か、恐ろしいな。キラ辺りに会わせたらややこしいことになりそうだな)

 

「いや。ただ君は一人の歌姫のままでいればいい、とそれだけの事だよ」

 

「はあ。勿論、お歌を歌うのは好きですわ」

 

(なんともまあ、これで演技なら大したもんだな。ま、素かな。勘だけど)

 

 

 

 

 

 

「聞いたか?ライルさんとこにラクス・クラインが保護されてるって」

 

「ああ、俺そん時ブリッジ居たから見たよ。本物だった」

 

「マジか~。サイン貰えないかな」

 

「ちょっとトール?」

 

「いや、だって超レアじゃん」

 

「そりゃ……そうだけど」

 

「やめとけやめとけ。ありゃお前らには毒だ」

 

「え?ライルさん?」

 

「毒、ですか?」

 

「あの子、宗教家の素質あるよ」

 

「しゅ、宗教家!?」

 

「最初は狙ってやってるのかとも思ったけどな、ありゃ天然だ。天然で人心掌握ってのを心得てる」

 

「人心掌握、ですか?」

 

「言葉が、所作が、あらゆる一つ一つが酷く魅力的に見えて、人を虜にする。エリスに似てるが……ベクトルが別物だな」

 

「それは、いい事なんじゃないんですか?」

 

「ある程度はな。だがあの娘は強すぎる。アイドルとしては何も問題ない。あの魅了スキル全開で歌を歌えばそりゃ人気も出るだろ」

 

「なら、問題無いんじゃ?」

 

「大有りだ。アレが誰の娘か、忘れたのか?」

 

「あ……」

 

「恐らくハナからそういう目的でコーディネートしたんだろうな。たまに会ったり映像を見るぐらいなら素敵な人で済むかも知らん。

 だが、長時間一緒にいれば毒される。気がつけばドツボにハマって、彼女の言う事が正しく聞こえ、彼女を無条件で信頼する」

 

「うわあ……」

 

「ま、遠目に見る分にはいいアイドルだ。アイドルとしては最高といってもいい。……アイドル。つまり偶像。

 ヘタしたら、それが偶像崇拝に変わるってこった。熱心なファン程よく彼女の声を聞き、ライブに行き、毒される」

 

「だから宗教家、ですか?」

 

「例えば彼女が『ラクス教を立ち上げます。教義は平和。平和の妨げとなる者を打ち滅ぼしましょう』とでも言えば完成だ。

 狂信者が集まって、自爆特攻も辞さない私兵集団になるだろーな」

 

「マジ、ですか?」

 

「ま、アイドルやってるうちはいいだろ。けど今回ユニウスセブンの追悼式典行ったり襲撃されたりした。

 本人も思うことはあるだろうし、そもそも政治的パフォーマンスに片足突っ込んでる」

 

「それは…そうですね」

 

「あれが親の後継いで政治家にでもなったらと思うと末恐ろしくなるな。国が彼女の属国になる可能性すらある」

 

「な……」

 

「とまあ、あえてきつめに言ったが本人は自覚も無いいい子だ。応援したり仲良くする分には構わんだろ。

 だが、あまり入れ込みすぎるなよ、ってこった。特にキラ」

 

「え、な、なんで僕なんですか?」

 

「お前ああいうのに弱そうだからな。流されてナイト気取りで面倒事起こしそうだ」

 

「うぐ……」

 

「むしろ積極的に仲良くして、政治から切り離してやるのもいい。その方が恐らく彼女も幸せになれるだろう。

 あんな異能持ったまま政治家になんぞなったら、少なくとも彼女個人の幸せは遠のく」

 

「そんな……」

 

「ま、頭の片隅で気をつけてればころっと行く事もないだろうと思ってな。一応忠告しに来ただけだ。

 その上で彼女のためにーとか思えるんなら、それはそれでいいんじゃないか?」

 

「はあ」

 

「というわけで俺は艦長達と話してくる。相手がCだってのもあるしな。対応は今のうちに決めとけ」

 

「は、はい」

 

「――行っちゃったね」

 

「……なあ、どう思う?」

 

「少なくとも、ライルさんが今まで嘘を言ったことは無かったかな。冗談はよく言う人だけど」

 

「俺、ラクスの熱狂的ファンって人前見たんだけどさ。ライルさんが言った事、分かる気がする。ほんとに狂信者みたいだった」

 

「カズイも?私も見たこと有るよ。何の病気かと思ったわ」

 

「ミリアリアもか。こりゃ、丸っきり嘘や勘違いでもなさそうだな」

 

「ライルさんの勘恐ろしいぐらい当たるもんなあ」

 

「私、生活用品の替えは常に確認しとけよ、って言われて確認したらシャンプー切れてるのに気付いてなかったわ」

 

「プログラミング中にね、何かミスしてないかって聞かれたから確かめたらミスってた」

 

「そういや、艦をちょっと寄せろって言ったら元の進路上に飛来物が来た事あったね」

 

「格納庫でさ、止まれって言われたから止まったら上から部品落ちてきて。危うく当たるとこだった」

 

「……ライルさんの勘の方が異能だろ」

 

「確かに」

 

「まあ、良い人だよね。ユニウスセブンの事も気遣ってたし」

 

「真面目な話も変な話も出来るしね」

 

「くだらない事でも、ちゃんと対応してくれるよね。すっごくだらけながら」

 

「ああ、あるある」

 

「……信じる?」

 

「うーん、でも仲良くしてもいいって言ってたよね」

 

「分かった上で仲良くするのは私達の自由ってことかー」

 

「俺は……怖いかな。うん。直接会うのはやめとく」

 

「僕も……名指しで注意されちゃったしね。よく考えてからにする。その……アイリスの事も、あるし」

 

「カズイとキラはノーか。俺もフレイが嫌がるだろうからやめとくよ」

 

「トール、あんたはダメよ」

 

「えええ、そんな~ミリアリア~」

 

「私も我慢するから我慢しなさい」

 

「えー……サイン」

 

「ライルさんに頼めばいいじゃない。あの人はなんともないみたいだし」

 

「そういえば、なんとも無いんだよね。やっぱり大人だからかな?」

 

「あー、女性経験豊富そうだもんね、ライルさん。特に周り見てると」

 

「え、でもあの人達ってクローンなんでしょ?」

 

「それでも愛してるって、僕は聞いたよ」

 

「へえ、やっぱり素敵な人じゃない」

 

「み、ミリアリア?」

 

「あ、妬いてくれてるの?」

 

「え、えっと……うん」

 

「えへへ」

 

「……カズイです。最近周りの空気がうざいです」

 

「……さて、俺もフレイの所に行くか」

 

「……俺も彼女、欲しいな」

 

 

 

 

 

 

 

「服従遺伝子ねえ」

 

「俺の持ってる研究資料に散見されたものだ。研究自体はそれを利用して連合に協力的なコーディネーターを作るものだったが」

 

「それに作用している、と?」

 

「本人やコーディネートした奴が知ってるかは分からん。が、人を魅了する才能を遺伝子的に鍛えるとなれば……

 まあ、服従遺伝子と対になる遺伝子を操作する事になるんだろうな」

 

「で、服従遺伝子に作用することで圧倒的な魅了能力を手に入れている、と」

 

「恐らく大多数はアイドルや政治家にとって有用な、人を惹きつける遺伝子程度にしか思ってないだろうな」

 

「しかし彼女の親父はシーゲル・クライン議長、か」

 

「彼女が他の同じ種類のコーディネーターよりも遙かに強く調整されているのが、偶然とは思いがたいな」

 

「本人はそのことを?」

 

「知らんだろ。勘だが、あれは天然だ。議長の娘としてしっかり育てられ、その魅力と相まって凄い事になってる。

 逆に自覚しだしたらむしろ薄れるんじゃないか?だからシーゲル・クラインもそのまま政治家にせずアイドルにしたんだろう」

 

「純粋培養のまま、都合のいいプロパガンダに、か」

 

「あまり気分のいい話では無いわね」

 

「クルーには、敵国のトップの娘だからとかいう理由で接触を少なくするように言っておけば毒される心配も無いだろう。

 俺とかムウとかは平気だろうしな。要は女性経験の問題だ」

 

「じゃあ私達女性はどうなるの?」

 

「同性として見るから多少効果は薄まるだろうが、逆に言えば異性経験どうこうで緩和も出来ない」

 

「むしろ女性の方が危険ということね」

 

「流石に狂信者までいくのは大概男だろうがな。キラ達にも釘を刺しておいた。あの年頃にアレはキツすぎる」

 

「そう、本当によく考えてくれてるわ。有難う」

 

「しかし、そうなるとお前達の方は大丈夫なのか?」

 

「あれ、心配してくれてるんだ、ナタル少尉」

 

「う……いや、その、お前達には世話になっているからだな……」

 

「ははは、まあ、エリス達はプログラムだから効果無いしな。

 皆も注意はするべきだと思うが、警戒はしなくてもいいだろう。いい子だよ、あの子自身は」

 

「体が少し特殊なだけ、か。コーディネーターと敵対してる軍人のセリフじゃないがな」

 

「何より大事なのは周りよりも、彼女自身に変な気を起こさせないことかね。

 変な正義感や平和主義でも掲げて、己のエゴで権力や魅力を振りかざし始めたらアウトだ。ろくな事にならない」

 

「そりゃまあ確かに。分かった、俺達はこっち所属だからどうこうするのは難しいが、考えておくよ」

 

「ええ、出来ればこのまま何事も無く終わりたいものね」

 

「ま、そうは問屋も降ろすまい。落としたから報告が遅れているとはいえ、この辺で偵察機が撃墜されたのは気付くだろうしな」

 

「ああ、そっちの問題もあったか。山積みだねえ」

 

「ラクスは俺とエリスで適当にやっとく。たまには連れてくるからそん時は手伝ってくれ」

 

「りょーかい」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「追撃が来るだろうとは思ったけど、このタイミングでXナンバーとはね」

 

「お姫様を探しに来たのかな?一度は完全に撒いたんだ。多分偶然だろう。クルーゼ歓喜だな」

 

「あ?面識あるのか?」

 

「一度やりあった。お互いジンでね。片足もぎ取ったらすぐ逃げられたけどな」

 

「おまえホント強いのな」

 

「ゲーマー舐めんな」

 

「いや、そういう問題じゃないだろ」

 

「冗談言ってないで速く出撃してちょうだい」

 

「「りょーかい」」

 

「うちの男どもは……」

 

「艦長、敵が来ています。後にして下さい」

 

「はあ。分かっているわ。総員!戦闘行動開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、どうだね、ここで脚付きを見つけるとは私も幸運の女神とやらに愛されているようじゃないか」

 

(いやいや、自信満々にアルテミスだ!つって外したのはどこの誰だよ)

 

「……なんだね副長」

 

「……いえ」

 

「ともかく、今回は私も出る。前回見たあの機動、見覚えがあるからな。今度こそ雪辱を果たしてみせるさ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

「キラ!」

 

「アスラン!」

 

「キラ、アスラン……だったか?あの赤いのはお前に任せる。後は任せろ」

 

「はい!」

 

「キラ、お前が敵になるというのなら、俺はお前を討つ!」

 

「アスラン……僕だって、ここで負けるわけには行かないんだっ!」

 

「布付きぃっ!今度こそ落とすッ!」

 

「ひゅー、熱くなってきたぜ」

 

「アスラン、待っていてください!直ぐに援護します!」

 

「おっとっと、こりゃ随分腕を上げてきたな。いや、慣れたのか。流石に今回は本気で行かせて貰うぞ!」

 

 

 

 

 

 

「――シュヴァリエ、ブリッツを攻撃!ミラージュコロイド解除されました!」

 

「あいつどんな勘してんだよ」

 

「カメラにもレーダーにも映らない敵を勘で狙うなんて……考えられないわね」

 

「で、俺は出なくていいのか?」

 

「ライル様曰く、後詰めだそうです」

 

「いやまあMS戦に出しゃばっても大差ないのは分からんでも無いが」

 

「……いえ、まだ本命が出てきていないからでしょう」

 

「本命?」

 

「――あっ!敵戦艦よりMSの発進を確認!識別……シグーです!」

 

「シグー!?ラウ・ル・クルーゼか!」

 

「フラガ大尉!」

 

「ああ!」

 

「カタパルト開放!メビウス・ゼロ、発進、どうぞ!」

 

「ムウ・ラ・フラガ、メビウス・ゼロ、出るぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

「アスラン!」

 

「キラアアアッ!」

 

「君が退かないって言うんなら!」

 

「お前が降りないって言うんなら!」

 

「「僕が君を(俺がお前を)討つ!」」

 

(くっ、距離を取ってもライフルで!)

 

(ちぃ、射撃はキラが上か!ならば多少無理をしてでも!)

 

(く、突っ込んできた!?だけど、格闘でだって!)

 

(ちぃ、これでも追いすがるかっ!だが……)

 

「そこだっ!」

 

「うあっ!?」

 

(ゼロ距離……取った!)

 

(っ!まだだ!)

 

(何!?この距離で直撃を躱すのか!)

 

(今だ!一気に攻める!)

 

(く、まだまだあっ!)

 

――パリーン――

 

「「!?」」

 

(何、この感覚?頭が酷く冴えて……クリアになっていく)

 

(なんだこの感覚は……分からない。だが、これならばまだ戦える!)

 

 

「キラァァァァァァッ!」

 

「アスラァァァァァン!」

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー。なんだあの動き。なんか吹っ切れたか?っと、流石によそ見してる余裕は無いな!」

 

「くそ、このナチュラルがあっ!落ちろおっ!」

 

「見えてるんだよ!オラァッ!」

 

「ぐうううっ!」

 

「イザーク!」

 

「後ろを取ったからといって!」

 

「な、速いっ!くうっ!」

 

「ちい、なんで当たりゃしねえ!どんな回避能力してんだあいつ!」

 

「充電完了!行くぞ!」

 

「鞘を構えた!?まずい、またアレが来る!」

 

「転輪しろ!ガラ・ティーンッ!」

 

「加速したっ!?速い!だけどっ!」

 

「これが一の太刀ってなあッ!」

 

「くう、重い!それに速い!」

 

「貴様ああああッ!」

 

「後ろに意味はねえっつっってんだろッ!」

 

「くそ、コイツゥゥゥッ!」

 

「剣戟の極地、受けてみろ!そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらァッ!」

 

「ぐ、う、が、あああああああああッ!」

 

「イザーク!」

 

「マズイ、片腕やられたかっ!イザーク下がれ!」

 

「おのれぇぇぇぇッ!やられてたまるかァァァァァッ!」

 

「くっ、僕も挟撃を掛けます、ディアッカ援護を!」

 

「やってるっつーの!」

 

「まだまだァッ!羽虫どもが、止まって見えるわァッ!」

 

「くそ、なんなんだコイツッ!」

 

「っ!見えた、そこだッ!」

 

「なっ!?また抜き打ち!?くそッ!」

 

「ディアッカ!良かった躱し……『ぐああああああッ!』……アスランっ!?」

 

「へっ、グゥレイト、ってな」

 

 

 

 

 

 

 

「く、キラァ!」

 

「アスラン!」

 

「まだだ、まだ見える!俺は負けない!」

 

「僕だって、見えるんだ!負けられないんだ!」

 

「そうか!お前にもこれが見えるんだなッ!キラ!」

 

「君にも見えているのか!アスラン!」

 

「なぜだ!同じ物をみて何故お前は!」

 

「君が!君たちが!」

 

「キラァァァァ!」

 

「アァァァァスラァァァァンッ!」

 

「く、まだだっ!はあっ!」

 

「くう、まずい、エネルギーが!」

 

「動きが鈍ったな、そこだっ!」

 

「しまったっ!?」

 

「これで……っ!?熱源警告!?くそっ!」

 

「ビーム!?ライルさんか!今だ!」

 

「ぐあ、まずいっ!」

 

「そこだああああああああああああッ!」

 

「う、ぐあああああああああああッ!」

 

「やった!……アスラン!」

 

「く、下半身を持っていかれたのかっ!だがっ!」

 

「うわっ!?エールパックが!」

 

「ふ、油断したなキラ」

 

「アスラン……」

 

「アスラン、下がりたまえ、援護する」

 

「キラ、大丈夫か?」

 

「クルーゼ隊長!了解しました!」

 

「ライルさん!他の敵は?」

 

「退いたよ。こっちも退くぞ、お前もうエネルギーマズイだろ」

 

「う……はい」

 

「クルーゼが来たな。アレは俺に任せろ。こちらも心もとないが……殿ぐらいはやってみせる」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、抜かれるとは不甲斐ねえ!」

 

「ふ、引き際を見誤る程愚かではないつもりなのでね」

 

「ムウ、キラを頼む」

 

「おい、いいのか?」

 

「ああ、こいつとは久々の再会だからな。多少心もとないが、やらせてくれよ」

 

「……わかった」

 

「……いいのかな?」

 

「ふん、どうせドローだ。お前も最後まで付き合う気はないんだろ?」

 

「当然だ」

 

「なら、最後に一曲踊って貰おうか。3分48秒……少々短いが、ラスト・ダンスだ!」

 

「いいだろう!ラウ・ル・クルーゼ、いざ!」

 

「ライル・ブリックス、参る!」

 

 

 

 

 

 

 

「おー、かっこいー」

 

「オイコラ」

 

「いや、だって俺らもうすることない……」

 

「だからといって気を抜く奴があるか!」

 

「す、すいません!」

 

「とはいえ、彼のサポートはエリスさんの担当だし、既にお互い撤退。警戒レベルは下げても良さそうね」

 

「……そうですね。フラガ大尉とヤマト少尉も帰還しました。配備ランクを下げましょう」

 

「第二戦闘配備へ引き下げ!」

 

「総員、第二戦闘配備へ引き下げ。総員、第二戦闘配備へ引き下げ。戦闘は終了しました。お疲れ様です」

 

「はー、終わったー」

 

「今回も何とか生き残ったね」

 

「毎度毎度この瞬間は気が抜けるな……」

 

「お前達!まだ第二戦闘配備だ!敵が目と鼻の先なのだぞ!しゃきっとしろ!」

 

「「「は、はい!」」」

 

「全く……」

 

「まあ、そう言うなよ」

 

「フラガ大尉」

 

「あいつら、どうなった?」

 

「……丁度決着が着くようですよ」

 

 

 

 

「くう、はあああああっ!」

 

「見切った!」

 

「なんだとっ!?」

 

「終わりだ!チェェェェストオオオオオオッ!」

 

「ぬ、ぐあああああああああっ!」

 

「……っち、エネルギー切れか」

 

「くう、完膚なきまでにしてやられたな。私としたことが熱くなりすぎたか」

 

「ふん、去れ。次こそ落としてくれる」

 

「ふ、よかろう。ここで止めを刺しそこねたこと、後悔させてくれる」

 

 

 

 

 

 

「戦闘、完全に終了。敵機及び敵艦の撤退を確認しました。レーダーから外れます」

 

「シュヴァリエ、帰還体勢に入りました。コンテナ開放、着艦用意。お疲れ様です、ライル様」

 

「ああ、お互いにな」

 

「不謹慎だけど、やっぱライルさんの戦闘ってかっこいいよなー」

 

「剣捌きとかビームの抜き打ちとかな」

 

「ストライクと違ってポージングがないから、息つく暇もない攻防、って感じなんだよな」

 

「撃墜した後の剣を仕舞う仕草もカッコイイよね。マント翻してさ」

 

「ナチュラルであれだけやれるなんて凄いけど、流石に真似できねえよなあ」

 

「同感」

 

「ははは、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。何なら今までの戦闘映像見るか?」

 

「え、いいんですか!?」

 

「あ?なんだ、ほんとに見たいのか?いいぞ。こっちに来れば見せてやる」

 

「あー……えっと、その……艦長?」

 

「ふふ、ええ、いいわよ」

 

「艦長!」

 

「ナタル、構わないわ。映画を見るのと変わらないし、損も無いでしょう?もう戦闘は終わったんだから」

 

「別にいま直ぐ来いつってんじゃない。あとで暇になったら来い」

 

「はい!」

 

「俺も見てみるか」

 

「映像って、どんなのがあるんですか?」

 

「ん?クルーゼと戦った時とかの実戦映像から、シミュレーターでの映像まで色々あるぞ。

 ゲーム機も兼ねてるからな。リアルじゃあり得ないようなものもある」

 

「あ、それちょっと見てみたいかも……」

 

「……戦術記録なんかもあるのかしら?」

 

「ん?ああ、当然あるな。エリスに学習させるのによく使ったからな。今でもたまにやるし」

 

「私も見せてもらっていいかしら?」

 

「か、艦長……」

 

「これは私達にとっても有益な事よ?私、艦長経験皆無だもの」

 

「それは……そうですが」

 

「えらく大所帯だな。全員こっち来るってわけにもいかんだろうし……そっちに設備持ち込んでいいならそっちでやるが」

 

「構いませんが……どのような?」

 

「見るのはゴーグル型の投影ディスプレイだ。あとその制御用機械。データはここから直接非接触回線で送るからそれだけでいい」

 

「それでしたら構いません。持ち込みを許可します。場所は……」

 

「ミーティングルームじゃちょっとお固いな。長時間見るなら飲み物や食い物も欲しいだろ。食堂でどうだ?」

 

「ゴーグル型なら場所も選びませんね。分かりました、手配しておきます」

 

「こっちからも何か食いもん持っていくよ。見たい奴集めといてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、すっげーリアル。宇宙に浮いてるみてえ」

 

「こ、これは……なんとういか、足元が不安になるな」

 

「ナタル、こういうの苦手なの?」

 

「う、い、いえ、そのような事はありません」

 

「無理すんなよ。しかしリアルだな。ゴーグル型だからどこ向いても宇宙だ」

 

「しかも向く方向変えればちゃんと映像も変わるんですね」

 

「センサーで視点方向を感知していますので。欲しい物があれば申し上げて頂ければドール達がお取りします」

 

「即席だからちょっと手間だけど、我慢してくれ。……というか、数ギリギリだったな」

 

「もう少しで予備のパーツから組み立てなければならない所でした」

 

「そんなに見たいのか?」

 

「そりゃあもう」

 

「つい数時間前まで戦闘してたってのに、ようやるわ。さて、それじゃショーの始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

「うわー……すげえ」

 

「ぎゃーこっち来た!?」

 

「トールうるさい」

 

「へえ、こりゃすげえな。丸で本物じゃねえか」

 

「う、あ、え、う」

 

「ナタル、大丈夫?」

 

「は、はい。だ、大丈夫、です」

 

「うっわー、何あの動き」

 

「ゲッター軌道だな」

 

「ゲッター?」

 

「旧日本の古いアニメだ」

 

「へー」

 

「いや、実際にあんな動きしたら死ぬだろ」

 

「そりゃまあゲームだし。そこら辺は大丈夫って設定。それでもすっごい揺れるけどな。Gも酷い」

 

「あ、やっぱり」

 

「つーかかすりもしないってどうなんだ。俺なんて敵も味方も目で追うのがやっとだぞ」

 

「乗ってる分にはまだマシなんだよ。コックピット視点見たい奴居るか?酔いやすい奴はアウトな……おk、切り替えるぞ」

 

「げえっ!?」

 

「うわー」

 

「凄いわね、これ」

 

「いやいやいや、どこがマシだよ余計無茶苦茶だっつーの」

 

「ゲーマーからすると割りと普通なんだがな……」

 

「謝れ。全宇宙のゲーマーに謝れ」

 

「けど、なんか楽しいなこれ」

 

「お、分かるか?まあ実際はここまで素直に動いちゃくれないんだけどな。そこはほら、ご都合主義だ」

 

「身も蓋も無いな」

 

「さて、戻すぞ。次は艦長達が見たがってた戦術中心だ。派手だから興味ないやつでも楽しめるだろ。休憩したい奴はしとけー」

 

「映像、切り替えます」

 

「ほう……」

 

「へえ、これは……」

 

「上が各戦闘領域、下がCICの戦闘推移表示だ。システムや表示型式はうちのフネと同様のものを使ってる」

 

「更新が早いな。情報も正確だ」

 

「シミュレータだからってのもあるが、これぐらいならうちのフネの電子戦設備ならやれる。特化型だからな。

 アークエンジェルで考えるなら多少頭の中で補正かけたほうがいい」

 

「これは……」

 

「互いの作戦意図の注釈は一番下に出る。やってる時に考えてた事を後から付け足してるんだな」

 

「何度も見返したり、データとして集積しているということか。大したものだな」

 

「いつもこんな事してるんですか?」

 

「最近は数日に1回、暇な時にだけどな。エリスが出来立ての頃は毎日どころか3日ぶっ続けでやったことあったな」

 

「お手数をお掛けしました」

 

「育てるの楽しかったからなー。今じゃ大分纏まってるけど、最初は言葉を覚えるとこからだったもんな」

 

「へえ、本当に子育てみたい」

 

「大差無いさ」

 

「これは……そんな意図で」

 

「これは凄いな。これはいつのものなんだ?」

 

「5年程前。エリスが出来て1年ぐらいの、総合テストの時だな。完成度を図るために総合演習を行った時のものだ」

 

「ということは、今はこれより?」

 

「人間と違って無数に集積した情報を的確に処理出来るから。5年も経てば段違いだ。当然、一緒に対戦してきた俺もな」

 

「なるほど、ライルさんの的確な判断や予測の大本にはこういった長年の努力もあったんですね」

 

「……そういう言い方されると、ガラじゃないんだけどなあ」

 

「ライル様、気持ち悪いので照れないでください」

 

「お前いつにも増して毒舌だなおい!?」

 

「この時の屈辱を思い出してしまいまして」

 

「あ、ライルさん勝ったんだ」

 

「コンピュータに勝つって凄いよね」

 

「今はもう流石に勝てないけどな。というかお前屈辱なんて感情無いだろうに」

 

「では、八つ当たりということで」

 

「おい」

 

「というか、無いんですか?似たようなこと何度か聞きましたけど」

 

「いや、情報としては集積してるが人間じみてるったってあくまでプログラムだからな。不要な感情の発露はしないんだよ。

 ちょっとはあった方が面白みがあるんだが、こいつ自分で自制してるからな」

 

「あれ?この性格ってライルさんが組んだんじゃないんですか?」

 

「いや、アイリスとかミネアとか、他のドールは組んだけどエリスは完全自己進化だ。

 おかげでなんか物凄い至上主義になっちまって」

 

「ライル様の存在が私の全てですから」

 

「愛されてるねえ」

 

「ああ、ほんとにな。さて、そろそろ終わりかな。次の映像行くぞー」

 

 

 

 

 

 

「ガンダムが隕石を押し返してる!?」

 

「きれー」

 

「うわ、なんだこの赤い花。殺人兵器ばらまきやがった」

 

「すげー、分身してる」

 

「れでぃいいいいいいっ!」

 

「ごおおおおおおおおおっ!」

 

「絶好調である!」

 

「え、ちがう」

 

「うわー、なんつう砲撃」

 

「へー、月からエネルギー送信してるんだ」

 

「お前を殺すって本気かと思った」

 

「天井だけ吹き飛ばすってどんなだよ」

 

「アーアアー」

 

「この炭酸不死身かよおい」

 

「なに、これ。随分と醜悪なバケモノが敵がなのね」

 

「な、世界の殆どが陥落!?よくヨコハマを取り返せたものだな」

 

「うわー、銀河の中心に殴りこむとか」

 

「敵多いな!?スケールでけー」

 

「近くて遠い世界、か」

 

「戦いによる進化……認めるわけにはいかないな」

 

「うわ、魔法だ!魔法使ってる!」

 

「勇者なにもんだよ。何で塔のてっぺんから落ちて無傷なんだよ」

 

「いや、問題はその勇者を傷つけられるモンスターだろ」

 

 

 

 

「……なんかハマってるんですけどこいつら」

 

「オタク文化恐るべし、ということですね。重要度Aで記憶します」

 

「いやしなくていいいから。つーか高いなおい」

 

「それで、どう収拾されますか?」

 

「あー……まあ、どうせこんなとこじゃ娯楽に乏しいだろ。思う存分楽しませてやれ」

 

「はい、畏まりました」

 

 

 

 

 

 

 

「ファーストだろ」

 

「ばっかゼータだっつーの」

 

「いやいやここはXを推すね」

 

「ディアナ様最高」

 

「僕はダブルオーかな」

 

「まったく男どもは……」

 

「意外。サイがああいうのにハマるなんて」

 

「臨場感凄かったわよね。フレイこそどうなの?」

 

「私は……凄いとは思ったけど、素直に楽しめなかったかな。パパが連合軍だから」

 

「あー、そっか」

 

「でも……ふうん、サイも可愛い所あるんだ」

 

「とりあえずトールは後でしばくわ。何がディアナ様よー」

 

「あら……随分と楽しそうですのね」

 

「え?」

 

「へ?ら、ラクス・クライン!?本物!?」

 

「え?うわ、マジだ!」

 

「生で見たの初めて」

 

「僕も」

 

「ふふふ、皆さん、初めまして。ラクス・クラインと申します。よろしくお願いしますね」

 

(((あー……ライルさんの言ってたこと、ちょっと分かったかも)))

 

「ちょ、ちょっと!なんでコーディネーターがこんな所に居るのよ!」

 

「俺が連れてきたんだよ」

 

「あ、ライルさん」

 

「連れてきたって、なんで!?」

 

「艦長達に会わせるためにな。で、その前にお前らにも一度会わせとこうって思ってな」

 

「だからって……コーディネーターなのよ!?何かあったらどうするの!?」

 

「フレイ!」

 

「あ……キラは違うのよ?キラは私達を守ってくれてるんだから。でも、やっぱり怖いじゃない……」

 

「ま、心配すんな。いくらコーディネーターつったって訓練受けてない民間人が俺に勝てるかよ」

 

「あはは、ライルさん強いですもんね」

 

「生身でも強いんですか?」

 

「流石に年端もいかない少女に負けてるようじゃMS乗ってらんないって」

 

「そりゃそうか」

 

「まあ、嫌なやつも居るかも知れんが我慢してくれ。必要な事だしな。彼女がこっちに来る時は俺がついてるから心配は無い」

 

「う……わ、分かったわよ」

 

「で、どうだお前ら。第一印象は」

 

「えっと……なんていうか……」

 

「やっぱ、綺麗、だよな」

 

「ふふふ、有難うございます」

 

「キラはどうだー?」

 

「ええ!?えっと、綺麗だと、思います?」

 

「なんで疑問形なんだよ」

 

「しょうがないわよ。だってキラはほら」

 

「あ、そっか。アイリス居るもんな」

 

「え、いや、その、そういうんじゃ……」

 

「違うのですか?」

 

「あ、アイリス!?あう、えっとそのぉ……」

 

「ふふふ、冗談です。私は好きですよ、キラさん」

 

「あう……」

 

「ひゅーひゅー」

 

「ちょっと、なあに、あれ」

 

「あれ?ああ、知らないんだっけ。パイロットに一人ずつサポートが着くことになってね。

 アイリスさんはキラのパートナー。仲いいのよ」

 

「ふーん」

 

「ふふふ、羨ましいですわ。私もアスランと……」

 

「えっ!?」

 

「おっと、その話はまた後だ。そろそろ艦長のとこ行くぞ。キラ、ついでだからお前も来い。アイリスもな」

 

「あ、はい!」

 

「ええ、勿論。キラさんのお傍に」

 

「えう……」

 

「あはははは」

 

 

 

 

 



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4話

「――なるほど。事情は把握致しました。これからあなたは捕虜として連合軍基地へと連れて行かれる事となります」

 

「はい」

 

「その後の対応は上が決めますので私には分かり兼ねますが、条約に従い相応の扱いをさせて頂きます」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「さて、話がまとまった所でキラ」

 

「は、はい!」

 

「さっきの話、ここでするか?」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

「まあ、アスランと……」

 

「坊主、戦えるんだな?」

 

「……はい」

 

「そうか、分かった。まあなるべく捕虜に出来るようにしてみるが、限度もある」

 

「はい」

 

「なるべく俺達が止めをさしてやりたいが……それでは納得出来ない部分もあるだろうし、いつも融通が効くわけでもない」

 

「はい」

 

「……壊れるなよ」

 

「はい!」

 

「よし。んじゃラクスの扱いについてだ。今後は暫く今のままでいいだろう。不便はないか?」

 

「はい、皆さんよくして頂いています」

 

「ほう?毎回同じ容姿の奴を送ってるんだが、よく違いが分かるな」

 

「ええ、皆さんよく似ていらっしゃいますけれど、少しお話すれば違いがわかりますわ」

 

「そりゃ凄い。万分の一の差異を理屈じゃなく直感で把握してるのか。ほんと政治家向きだな」

 

「ふふふ、そうでしたら、お父様も喜んでいただけるのですけれど」

 

「ああ、きっと自慢の娘だろうさ。色々と、な。さて、その自慢の娘を連合のバカどもにくれてやるのはしのびないな」

 

「え?」

 

「何されるか分からんぞ?綺麗な体で帰れりゃ奇跡だろ」

 

「そ、そんな!」

 

「…………それで、どうしようってんだ?」

 

「人質にする」

 

「なっ!?」

 

「そうすればザフトはこちらにラクスが存在することを知ることが出来、傷物にされる前に取り戻そうと必死になるだろう」

 

「……なるほど、そうして譲歩を引き出すと」

 

「現場の判断でやっちゃ問題だから相応の相手に頼むことになるが……艦隊指揮官あたりなら申し分無いんじゃないかな?」

 

「…………!つまり」

 

「ああ。おそらく近々起こるであろう会戦で彼女を利用して敵の侵攻を食い止め、状況把握の時間を作る。

 更に人質引渡しの条件として部隊の撤退を指示し、作った時間と隙を利用して艦隊を月へ返す」

 

「……で、月の攻撃部隊を挟撃する、ってわけか。えげつねえな」

 

「ラクス・クラインを乗せたまま敵は戦闘を出来ない。それで傷物にでもなれば責任者の首が飛ぶからな。

 護衛も兼ねて多少の戦力は引っ込むだろう。婚約者って話だからアスラン達Xナンバーが退いてくれれば楽なんだがな」

 

「なるほどな。お互いに退かせる……少なくとも体勢を立て直すには、有効というわけか」

 

「間に合えば指揮官にラクスを使うことを進言し、既に戦闘中なら強行する。

 月へ向かう別働隊を確認したとでも言えば勝手に使った事は咎められんだろう」

 

「で、本格的な追求が来るまえにさっさと月へ行くか地球へ降りちまおう、と」

 

「そういう事だ」

 

「うわー、えげつねー」

 

「でも、そんな……一般人の彼女を人質にするなんて」

 

「クラインの名を持つものが一般人なんて、馬鹿笑いされるぞ」

 

「だからって……」

 

「で、本音はなんだよ大将」

 

「……何が」

 

「どうせお前の事だ。さっき言った建前が本音なんだろ?連合に傷物にされるのは忍びない。本気でそう思ってるんじゃねえのか?」

 

「……ガラじゃないんだけどな」

 

「ライルさん……」

 

「兎も角、人道的にも戦略的にも価値があるのは事実だ。当然後々使いドコロも出てくるだろうが……相手は連合軍人だ。

 後で出来る"かもしれない"程度の使いドコロと、上手く人質を使って敵部隊を退かせ、月攻略部隊を挟撃した功績」

 

「どっちを取るか……分かりきった答えだな」

 

「……艦長」

 

「そうね。即決は出来ないけれど検討はしてみるわ。本当に貴方の言うような状況になれば、彼女を使うのもやむをえない、わね」

 

「……それでいいか?」

 

「はい、ご配慮いただき有難うございます」

 

「はあ」

 

「ははは、そう拗ねるなよ」

 

「ったく。えりすー、めしー」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

 

 

「ライル様」

 

「……エリス達以外にそう呼ばれたのは初めてだな。どした?」

 

「本当に、有難うございます」

 

「……婚約者が、居るんだろ」

 

「はい」

 

「キラの親友だったそうだ」

 

「はい」

 

「恋人は悲しませるもんじゃない」

 

「……はい」

 

「……お前な」

 

「はい?」

 

「政治家になる気は、あるか」

 

「……まだ、分かりません。ですが、父が議長ですから」

 

「まあ、そうだろうな。だが、別にお前が政治をする必要はない。

 アイドルとして活躍すれば政治家とは別の形で誰かを幸せに出来るだろう」

 

「……」

 

「お前には、魅力がある。人を引き付ける才覚がある。それは王才だ」

 

「王才、ですか?」

 

「王に必要なのはなんだと思う?」

 

「……知識、ですか?」

 

「まあ、大事だろう。だがそれ以上に大事……いや、これさえあればいいというものがある」

 

「何でしょう?」

 

「魅力だ。人を惹きつけ、民を惹きつけ、将を惹きつける。頭が悪ければいい奴に。武力が無ければ有るやつに。

 優秀な人材を惹きつけ、集め、そして裏切らせない。これだけ出来れば国は繁栄出来る」

 

「…………」

 

「あとはおおざっぱな方針出しとけば周りが実現してくれる。それが王才というものだ」

 

「それが、王才」

 

「王が平和が欲しいと言えばその生命を賭して平和にしようとし、食べ物が欲しいと言えば他者から奪ってでも捧げる」

 

「それは……」

 

「そう、暴君だ。だが、紛うことなき王だ。お前には、その才覚がある」

 

「私に、王才が?」

 

「自分が人気者の自覚ぐらいあるだろう?人によっては生命を賭すことすら厭わないほどの」

 

「……」

 

「王になりたいなら、政治をやればいい。上手くやればクライン王国が誕生するだろう」

 

「……」

 

「だが、政治家になりたいならあえて言おう。無駄だ。やめておけ」

 

「……なぜ、ですか?」

 

「分かるだろう?政治家に王才は必要無い。あってはいけない。

 政治家に求められるのは叡智を集め、議論・討論し、国をよりよくしていくことだ」

 

「……」

 

「それは、王の仕事じゃない。大臣の仕事だ。王佐の才を持つ者の役目だ。王才を持つお前には、決して出来ないことだ。

 叡智を持つ必要がなく、議論・討論の前に相手が屈服し、国が勝手についてくる。それでは、政治家にはなれない」

 

「……」

 

「アイドルとして、偶像として生きるならいい。教会の女神像を前に熱心に祈るのと変わらない。無害だ」

 

「……」

 

「だが教主が聖戦を声高に叫べば?平和のための戦いを掲げれば?……信者達はついて来るだろう。己が生命を賭して」

 

「……」

 

「お前は、政治家にも宗教家にもなるべきではない。ただのアイドル。みんなの憧れ。

 いつか誰か素敵な人と契を交わし、皆のシンデレラはただ一人のためのシンデレラとして幸せな生涯を終えました。

 めでたし、めでたし。それがいい」

 

「……」

 

「それが、多くの誰かとお前にとって幸せな事だ」

 

「………………私には、何も、出来ないのでしょうか」

 

「出来るさ。言っただろう。人を幸せにする方法は政治だけでない。宗教だけでもない。

 知らないのか?この戦時中という悲愴感漂う中で人は誰を心の拠り所としているのか」

 

「……それ、は」

 

「あの人が居るから笑ってられる。彼女の声を聞けば力が湧いてくる。彼女の歌に心を救われた」

 

「……」

 

「ファンレターとか、来てるだろう。それとも全部目を通す前に事務所がシャットアウトかな?」

 

「……ええ、問題の無いものは、読ませて頂いています」

 

「分かるだろう。人は誰を必要としているのか。君は誰から必要とされているのか。

 誰かに必要とされ人が必要とする君の姿が、どういったものなのか」

 

「……はい」

 

「お伽話だがな。歌で世界を救った者が居るそうだ」

 

「歌で、世界を?」

 

「あり得ないと思うか?……俺は、思わない。歌に限らず文化というものは、時には対立を招くこともある。

 だが、最も簡単に人が分かり合える手段でもある」

 

「……」

 

「文字、言葉、歌、食べ物、遊び。誰もが知っていて誰もが持っている。それを通わせ、共有し、共に過ごす。

 ……平和ってのは、そういうものだろう」

 

「……」

 

「聞くが。誰かと共に過ごす時間、その時に聞く素敵な歌。それが歌われなくなってしまったら、人は何を聞けばいい」

 

「あ……」

 

「お前には類まれなる才がある。それは政治家の才でも、宗教家の才でも、王の才でもない。

 人を幸せにする歌手の、アイドルの、歌姫の才だ」

 

「…………」

 

「まあ、思う所もあるだろう。君自身の意見もあるだろう。ゆっくり考えて、頭が沸騰するほど悩んで、そして答えを出せばいい。

 悩んで悩んで、迷って迷って、そうして自分なりの答えを出せれば、きっとそいつは前に進める」

 

「前に、ですか」

 

「キラにも言った言葉だ。受け売りだがね。立って歩け、前に進め。君には立派で綺麗な足と……歌声が、ついている」

 

「………………………………ありがとう、ございました」

 

「……それと、帰ったらこれをアスランに渡せ」

 

「これは?」

 

「手紙だ。大したことは書いてない。生きろ、ただそれだけだ」

 

「生きろ?」

 

「キラは俺が死なせない。すべてが終わり、お前達が元通りになるまで絶対に死なせない。

 だからこころおきなくかかってこい。そして、生きろ。そう書いてあるだけだ」

 

「……お優しいん、ですのね」

 

「ガラじゃないんだよ。こんなのは。誰にも言ってくれるなよ?こっ恥ずかしくて死にたくなる」

 

「ふふふ、ええ、誰にも言いません。……今日のこの事は、私の宝物です」

 

「やめてくれ、人殺しの言葉なんざ真に受けるもんじゃない」

 

「それでも、私はあなたを優しい方だと、そう、思います」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「……お疲れ様でした。中々の名演説でしたよ」

 

「ああ。飲みもんくれ」

 

「どうぞ」

 

「準備がいいな」

 

「ライル様のためですから。それとこちら、アークエンジェル及びストライクの技術データです」

 

「ああ、流石に時間がかかったな」

 

「絶対にばれないようにとのお申し付けでしたので。その代わり、映像データの解析や分析資料の作成も行いました」

 

「流石だな。さっきの会話もそうだが、ログは徹底的に消しとけよ。人に見られていいもんじゃない」

 

「心配ありません。私を攻略出来る者など居ませんから」

 

「随分と自信満々じゃないか」

 

「ええ、あなたのお手製ですから」

 

「……そうだったな」

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「先程の名演技、台本はどちらに?」

 

「頭の中さ」

 

「即興ですか。流石ですね」

 

「ははは、元演劇部舐めんな」

 

「経歴は」

 

「小学校高学年の頃3年間」

 

「流石です、ライル様」

 

「褒めるなよ、照れるじゃないか」

 

「褒めていません」

 

「ま、なにはともあれ。これで少しは考えるだろう。多少はスケジュールがずれこむかもな」

 

「変わらない可能性もありますが」

 

「変わるさ。いや、変わらなくてもいい。それが彼女の選択ならな」

 

「……なぜ、そこまで」

 

「――全部カミサマとやらの定めたシナリオ通りなんて……面白み、無いじゃないか」

 

「……同意します」

 

「ふう。さて、そろそろ行こうか。」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラ」

 

「あ、ライルさん」

 

「よーっす。アイリス、キラの様子はどうだー?」

 

「ほ、本人目の前に聞きますか……」

 

「ええ、いつもして欲しい時にしっかりリードして下さって……ふふ、ドキドキしてしまいます」

 

「あ、アイリス……」

 

「ほうほう、上手いことやってるみたいだな。いい事だ。どうする?船降りる時に持っていくか?」

 

「ええ?いや、でも……」

 

「そもそもお前用に調整してあるんだ。突き返されたってデリートするだけだからな」

 

「じゃ、じゃあ貰います!」

 

「嫁に貰ってくれるそうだ。良かったな」

 

「はい♪」

 

「え?……ええええええっ!?」

 

「ははははっ!冗談だ冗談。まあほんとに持って行ってもいいけどな。結婚したけりゃ戸籍ぐらい偽造してやる」

 

「ら、ライルさんっ!」

 

「ははは。……で、実際問題、降りるのか?」

 

「っ!……実は、迷ってます」

 

「だろうな」

 

「ライルさんが言ったように、どこにいてももう無関係じゃない。僕にも出来る事があると知ってしまった」

 

「ああ、大概の人間には出来る事って奴がある」

 

「だから……でも、どうしたらいいのか」

 

「アスランか」

 

「……はい」

 

「簡単だ」

 

「え?」

 

「死ななければいい」

 

「それは……どういう」

 

「お前が死ななければ、当然生きたまま戦争は終わる。お前が死ぬまで戦争が続くなんてわけがない」

 

「はい」

 

「で、アスランはそう簡単に死ぬか?」

 

「……」

 

「死ねないだろうな。死なんさ。生きて戦争が終われば……元に戻れる」

 

「戻れるんでしょうか」

 

「今お前達が対立している理由を思い出せ」

 

「え、それはアスランが襲って来るから……」

 

「ああ。で、お前は仲間を守るために戦う。嫌々戦ってるんだ。それに、まだお互いに誰か大事な相手を殺していない」

 

「だから、やり直せる?」

 

「親友がライバル会社に勤めてるようなもんだ。退職しちまえば関係ない」

 

「え、つまり」

 

「単に戦争終わるまでお互い生きてりゃ、別に喧嘩する理由無いだろ。一発ずつぶん殴り合って仲直りしちまえ」

 

「え、ええええ……そんな単純な事なんですか?」

 

「そんな単純な事なんだよ。だからな、仲間を殺させるな。相手の仲間も死なせる必要はない。捕虜で十分だ」

 

「それは……」

 

「まあ、難しいな。俺もいつでも支援出来るわけでもない。だから、腕を磨け。生きるために、守るために、失わせないために」

 

「……」

 

「乗り続けるならどの道強くなる必要がある。だから、それに理由を持たせろ。戦う理由は多いほどいい。それだけ強くなれる」

 

「ライルさんにも、あるんですか?」

 

「殆ど無い。生活とか趣味の延長で戦ってるだけだからな。だから、俺はもう伸びない」

 

「伸びない?」

 

「今の力はただ単に経験と……生きるのに死にものぐるいだった頃に身につけたものだ。理由を失った今じゃ、もう強くなれん」

 

「……」

 

「きっと、お前は俺より強くなる。それだけの理由がお前にはある。それだけ強くならないと達せられない理由がな」

 

「……はい」

 

「だから、乗り続けるなら強くなれ。どんな形だろうと、何を利用しようと。それだけお前が望む壁は大きい」

 

「……」

 

「心だろーが武力だろーが権力だろーが。世の中、力ってもんが手に入れば案外どうとでもなる。

 だから強くなれ。そのためにも……死ぬな。いいな」

 

「………………はい!」

 

「よーし。最近説教というか人生相談ばっかりしてる気がするからな。遊ぶぞ。ガラじゃないんだよ」

 

「ええ?でも、何をするんですか?」

 

「どうせならさっきの話題に繋げるか。シミュレーターやるぞ。一つ教導してやる」

 

「ええ!?」

 

「まあこっちの艦にゃ俺の機体データ無いし、やるわけにもいかん。逆も同じだろう。俺はジンでやるぞ」

 

「じ、ジンで、ですか?」

 

「なんだ?いくら俺でもジンでは……ってか?」

 

「え、あ、いえそういうわけじゃ」

 

「まあ所詮ジンだ」

 

「ええ?」

 

「だが、それでもジンだ」

 

「はあ」

 

「ふ、これでもガンダムに乗るまではジン乗りだったんだ。見せてやろう、エース級の戦いって奴をな」

 

 

 

 

 

 

 

「そらそらそら!どうしたどうしたそんなものかキラ・ヤマトォッ!」

 

「く、うわああっ!?は、速すぎるっ!」

 

「なあ、何やってんだあれ」

 

「ああ、フラガ大尉。ライルさんの申し出でね。キラくんとシミュレーターで模擬戦がしたいと」

 

「で、この状況か」

 

「かれこれ1時間はやってるわね」

 

「で、戦績は?」

 

「ライルさん対キラくん、32勝12分け0敗」

 

「うげえ。つーか一戦1分半ペースかよ」

 

「最初が酷かったのよ。数秒で瞬殺されて」

 

「油断でもしてたのか?」

 

「みたいね。ライルさん、ジンだから」

 

「ジンでその戦績かよ!?油断してたとはいえクルーゼを撃退したキラだぞ?クルーゼよりよっぽど強いって事じゃないか」

 

「そういえばこの前の戦闘はエネルギーがギリギリだったわね」

 

「それで中破させて追い返したんだもんなあ」

 

「純粋に乗り慣れているというのもあります。ライル様は数週間前にガンダムが完成するまで、ジンに乗っていましたから」

 

「うげ、マジか」

 

「とはいえ艦隊と予備機があるのだから、もっと前からあったのよね?」

 

「以前から製造はしていたのですが、戦闘に耐えられるレベルではなかったのと、乗り慣れていなかったためですね」

 

「ほー。で、乗り換えたのがつい数週前、と。そりゃジンを使いこなせるわけだ」

 

「シミュレーターも含めれば、恐らくザフトのエース級の更に数倍の搭乗時間がありますから」

 

「だからこの結果、か」

 

「さっき見せてもらったのだけれどね。驚きの数値よ」

 

「何がだ?」

 

「それぞれにライルさんが乗ったガンダムとジンの戦闘シミュレート結果」

 

「データを比較しただけのものですが、蓄積されている量が量ですので、相応の精度はあります」

 

「で、その結果がこれ。100戦中、シュヴァリエ56勝、ジン33勝、11引き分け」

 

「………………最近、絶句してばかりだな」

 

「私もいつも戦ってる様子を見ているから、同じ気分よ」

 

「あの廃スペックガンダム相手にジンで勝率3割超え?冗談だろ?」

 

「あの強さ、確かにガンダムの能力もあるけれど……確実に半分は、彼の技量というわけね」

 

「どうしたキラ!その程度では生き残れないぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

「声が小さい!クソするつもりで腹に力入れろ!」

 

「はいっ!」

 

「軍に残ろうが抜けようが、緩い気合で世の中渡れるなんてあまっちょろい事考えるなよ!死ぬ気でもがけ!」

 

「はいっ!」

 

「良い返事だ!褒美にもう100回殺してやろう!」

 

「ひいいいいいっ」

 

「そらそらそらァッ!」

 

「おい、どこの鬼教官だあれ」

 

「頭が痛いわね……」

 

「ライル様、すっかりお楽しみですね」

 

「楽しんでる、のか?」

 

「完全に遊んでます」

 

「そう、なの?」

 

「そもそも遊びでない方が珍しいのですが。創作の名言を真似するのが好きな人ですから」

 

「へえ」

 

「少なくとも、ここ1ヶ月の名言珍言の類はなにかしらの引用が殆どですね」

 

「それって、俺達と出会ってからたまにしてた真面目な話とかいい話とかも……」

 

「その場の勢いと思いつき、キメたい時は創作から引用、でしょうか」

 

「おいおい、俺の感動返せよ」

 

「はあ。むしろ大した役者ね」

 

「まあ、嘘は言っていませんよ、嘘は。真面目と遊びを常に混同させている方ですから」

 

「切り替えがいいのはいい事、なのか?」

 

「そういうことにしておきましょう。……一応、嘘は言ってないのね?」

 

「ええ。言ったことはほぼ本心ですし、心配したりしているのも事実でしょう。気遣いは得意な方ですし」

 

「嘘や誇張の類でないなら構わないわ。助かってるのは事実だもの」

 

「まあそりゃそうだけどなあ。なんかもやっとするなあ」

 

「本人はシリアスなつもりも気負いもまったくありません。機密情報に関しても、実際には機密ともなんとも思っていませんよ」

 

「……そういえば、Bランクまでという事だったからそれ以上は聞かなかったけど」

 

「頼めば教えてくださると思いますが。Bランクまでと決めた時も、

 『んー、A以上は流石にうそ臭い。Bぐらいでいっか』という決め方でしたので」

 

「…………」

 

「今まで、何度か戦闘を行ったのは?」

 

「ライル様に死の恐怖も殺す気負いも殆どありませんね。ゲームの延長線上という感覚ですよ。

 だから前回のクルーゼ戦のように、戦闘中にマンガやアニメのセリフを言ったり出来るんです」

 

「あれ引用かよっ!?」

 

「はっきり、パクリと言います。全滅させてしまっても、というセリフですが」

 

「ああ、最初の時に言っていたわね」

 

「一度は言ってみたいセリフベスト10だそうです」

 

「…………」

 

「よし、殴る。あいつぶん殴る。感動返せ」

 

「抑えてください大尉」

 

「だってよお……」

 

「いやー、楽しかった。鬼教官ごっこ面白いな。おー、ムウじゃんどしたー?ミネアとはよろしくやってれぅー?」

 

「(ピキッ)お前、ちょっとこっちこい。軍人の拳ってモンを教えてやる」

 

「大尉、お願いですから抑えてください、お願いですから」

 

「とまあエリスが好き放題言ってくれてたのは置いといて」

 

「……ああ、そういえば繋がってるのだったわね」

 

「そろそろ、だな」

 

「またそうやって……」

 

「か、艦長!」

 

「どうしたの!?」

 

「艦前方に所属不明艦多数!こ、これは小規模艦隊レベルです!」

 

「なんですって!?」

 

「来たか」

 

「っ!おいおいマジかよ」

 

「俺は先に出る」

 

「ライル!?」

 

「ええ、悪いけどお願い出来るかしら」

 

「ああ、任せておけ」

 

「ライル、お前やっぱ……」

 

「話はあとだ。じゃあな」

 

「……どうする、艦長」

 

「不明艦隊に動きは?」

 

「ありません。沈黙しています」

 

「そう……」

 

「シュヴァリエ、発進しました」

 

「早いな、準備してたのか?」

 

「はい」

 

「例の勘ってやつか。やっぱり頼りに……」

 

「いえ、来るのは分かっていたので」

 

「へ?」

 

「どういうこと?」

 

「つい先程連絡がありまして、間もなく合流する、と」

 

「………………ちょっと待て。前方の艦の所属を聞いてもいいか?」

 

「ジャンク屋連合チームウェヌス所属艦隊です」

 

「あ、あんのやろおおおおお……」

 

「……もう、どうでもいいわ」

 

 

 

 

 

 

「なあカズイ、トール。なんか艦隊居るんだがアレなんだ?お前らブリッジに居たんだろ」

 

「なんかライルさんの艦隊らしいよ。艦長達おちょくってから出撃してた」

 

「……撃ってきたりしないかな」

 

「カズイ、ぼそっと怖いこと言うのやめてよ」

 

「ライルさんの艦隊なら大丈夫だと思うけど。確か戦闘能力は低いって話だし」

 

「そうですね、陽電子砲を搭載した戦闘支援艦や撹乱兵器を搭載した偵察艦は兎も角、後は補給艦の類ですから」

 

「ああ、やっぱり詳しいんだね、アイリス」

 

「ええ。説明、いたしましょうか?」

 

「お願い出来るかな」

 

「はい♪まずは、艦隊全体の説明からさせていただきますね。

 艦隊の構成は旗艦1、偵察担当艦5、補給担当艦3、人員製造・調整担当艦2、技術開発研究艦2、戦闘支援艦5です」

 

「うわあほんとに艦隊だあ」

 

「連合の小規模艦隊クラスだな。ザフトなら中規模に片足突っ込んでるんじゃないか?」

 

「でも非戦闘用艦もあるんだよね?」

 

「ええ。戦闘用の艦は護衛の役割が大きいですね」

 

「これもジャンクなの?」

 

「はい。アガシオン級駆逐偵察艦とシャンバヴァン級補給艦は連合のドレイク級を、

 オーカス級人員製造艦とペンドラゴン級技術開発艦は連合のネルソン級を、

 ベルセルク級戦闘支援艦はザフトのナスカ級をジャンクから再生・改造したものですね」

 

「へー」

 

「旗艦と違ってオリジナルじゃないんだ」

 

「旗艦も元はそれらのフネを分解したものですよ?旗艦以外はあくまで急ごしらえなので」

 

「そっか、流石に全部一から作ってる時間無いよな」

 

「人手は問題無いのですが、材料を集め建造する時間がありませんでしたから。

 まだ戦争開始から1年ほどですし、ようやくジャンク部品が揃い始めた頃ですね」

 

「そんな状態でガンダム作ったんだから凄いよなあ」

 

「流石に購入した部品等も多いんですよ?」

 

「そりゃそうか。旗艦はなんだっけ、ヴァルハラ?」

 

「サターン級旗艦ヴァルハラ、ですね」

 

「ナントカ級って、どっから来てんの?」

 

「MSを含め、ライルさんがよくやっていたゲームの中で出てきた悪魔や妖怪の名前から、適当に選んだそうです」

 

「え、そんな適当でいいの?」

 

「ただの名前ですから。それに軍用ではないですし、趣味以上の意味はありませんね」

 

「そっかー」

 

「まあアークエンジェルだって天使の階級から来てるらしいしな。いまさらか」

 

「けどやっぱ戦闘用のフネは多いんだな」

 

「といいますか、それ以外の用途のフネは然程要りませんので。

 製造艦と開発艦はそれに特化させて居住区等は最低限以下ですし、戦闘用のカタパルト等も必要ありませんから」

 

「そっか、アークエンジェルだって丸々補給物資用のスペースにしたら相当積めるもんね。何隻も要らないか」

 

「私達の本体はプログラムですので、肉体が消耗すれば取り替えれば済みます。居住区が必要無いんですよ」

 

「ほんとに服を着替える感覚なんだあ」

 

「ライルさんは多少は用意しようと仰って下さったのですが、

 エリスさんが『スペースの無駄』と切って捨てたという経緯もありますね」

 

「や、やっぱり」

 

「ライルさんって結構優しいよね」

 

「キラさんはどう思いますか?」

 

「うん……取り替えれば済むっていうのは理屈では分かるよ。でも……やっぱり僕としては自分を大事にして欲しい、かな」

 

「ふふ、畏まりました♪」

 

「あー、いいn……ミリアリアごめんって」

 

「ふんだ。でもそうなると戦闘用艦も完全に戦闘用よね?やっぱり戦闘用だと数が要るのかな」

 

「元がジャンクの上武装も限られているので戦闘能力は低いですし、最悪の場合自爆特攻も考慮されていますので。

 それに相手の数が多い場合は少数では後方の非戦闘用艦を守り切れない場合もありますから」

 

「あー、そっか。分かってはいるけど生命が安いわねー」

 

「そもそも肉体ごとに別個の生命、というわけではありませんから。

 私のような独立型を除いて、全てのドールはオリジナルタイプであるエリスさんと人格をリンクさせた、言わば同一人物なので」

 

「あ、だから誰に話しかけてもおんなじ感じの喋り方なんだ」

 

「はい。そもそもライルさんの隣に居るエリスさんや艦のブリッジに居るエリスさんはほぼ毎回別人ですよ?」

 

「え、うそ!?」

 

「全然気づかなかった……」

 

「以前も言いましたように、本体は艦内部のマザーサーバーに構築されたプログラムですから」

 

「ああ、ネットゲームと同じか。大本はサーバーにあるからどの端末で見ても中身は変わらないんだ」

 

「そうなりますね」

 

「毎回体変えてるの?」

 

「消耗したものは各艦の修復用設備で修復体勢に入り、他の体と配置を交代するんです。

 ブリッジ要因など重要度の高い所は修復後間もない体が担当し、消耗したら生活支援などに回されるんです」

 

「全部能力が均等だから出来る事よねえ」

 

「へー、すげえな」

 

「要するに使い回し……は言い方が悪いな。お下がり……も違うか。ローテーションなんだな」

 

「でもさ、あの旗艦って相当ヤバイ戦闘力なんでしょ?」

 

「艦長達はアークエンジェルクラス、場合によってはそれ以上って言ってたね」

 

「となると性能低いって言ってもあの艦も強いのよね?」

 

「非戦闘用艦はレールバルカン等のCIWSと牽制用の中型ミサイルユニット、あとはAB爆雷やフレア弾ぐらいの最低限の武装ですね」

 

「流石に完全非武装じゃないか」

 

「戦闘用艦の場合、戦闘支援艦はミサイルユニットを大型化、両艦とも搭載数を増加しています。

 更に偵察艦は大型連装ビーム砲を、戦闘支援艦は艦前方両翼に低出力陽電子砲を一基ずつ搭載しています」

 

「旗艦のヴァルハラは低出力陽電子砲を2つ繋げて、それを更に前向き後向きに2セットずつ、だっけ」

 

「確かに攻撃力はかなり落ちてるわけね」

 

「それでもジン程度であれば、直撃すれば助かりませんね」

 

「へえ。最低限の最大威力って事か」

 

「陽電子砲は艦隊周囲のデブリ等を破壊する役目も担っていますので、そのためというのもあります」

 

「そっか、このまえみたいな事もあるもんね」

 

「あれだけ沢山居れば、むしろ敵よりソッチの方が問題か」

 

「あとは量産型の量子反応炉と量子反応推進で高出力高機動を確保し、戦線離脱能力を高めてありますね」

 

「あ、やっぱ量産型なんだ」

 

「本格製造するための部品が足りなかったのです。特に非戦闘用艦のものは、つい先日のオーバーホール時に完成したばかりですね」

 

「へえ」

 

「やっぱ大変なんだあ」

 

「いや、そもそもジャンクからそんなもの作れる時点で凄いと思うんだけど」

 

「ライルさんがさ、量子反応炉はミスったらコロニー吹っ飛ぶって言ってんだけど……」

 

「あ、そういえば」

 

「その点は大丈夫ですよ。量産型なので出力は落ちていますし、大型なので安定していますから。

 それに暴走等によって臨界を超えた場合が危険なのであって、撃墜等では暴発の心配はありません」

 

「あ、そうなんだ。じゃあ自爆特攻って言うのは」

 

「わざと量子反応炉を臨界状態にし、特攻するものです。

 量産型ですので威力は小さいですが、艦周囲の敵艦を巻き込むぐらいの威力はありますね」

 

「へえ」

 

「巻き込まれたら大変ね」

 

「影響範囲程度なら兎も角、完全に反応効果範囲内であればアークエンジェル級であろうとも確実に撃沈しますね」

 

「うわあ」

 

「防御とかもしっかりしてるの?」

 

「むしろそうちらに重点を置いていますね。量産型の無限減衰装甲……そちらで言うPS装甲を搭載していますから」

 

「確かビームにも効果あるんだっけ」

 

「ええ、多少ですけれど。非戦闘艦を後方に下げ、戦闘支援艦がAB爆雷と陽電子砲で援護し、偵察艦が撹乱と特攻が基本戦術ですね」

 

「ほんとに艦隊だなあ。機動兵器無いんだよね?」

 

「ええ。戦闘支援艦や偵察艦にMAを載せようかという話も出たのですが、補給の点から保留となりました」

 

「ああ、流石にMAやMSの弾薬とかまで補給するのは無理があるか」

 

「ジャンクでは統一規格の完全品を確保するのは難しいですし、安定供給が出来ません。かといって購入すると高く付きますから」

 

「いくらなんでも軍用じゃないのにそんなに金使えないよなあ。稼ぎにも限度があるだろうし」

 

「そもそも、ドールによる半無人制御システムがいまだ完成していないというのもありますね」

 

「けどさ、実際凄い金額でしょ?お金足りてるの?」

 

「弾薬以外はほぼジャンクですし、修理等も自前です。

 人件費も要りませんし、その人を作るために必要な遺伝子は大量に保存されていますから」

 

「じゃあ弾薬とか食べ物とかの基本的な補給物資と……」

 

「遺伝子培養設備用の物資等ですね。これはごくありふれたものを装置で専用に調整や合成して使っているだけですので、

 基本的には弾薬費が殆どです。次にゲームや酒類などの嗜好品、食料品と続きますね」

 

「嗜好品2位かよ。というか弾薬ってやっぱ高いんだあ」

 

「資源の量が限られますし、基本的にジャンク屋連合や傭兵ギルド向けに降ろされている品を使っていますから」

 

「ほんとよくお金足りるわね」

 

「修理したジャンク品を売るだけでもかなり稼げますよ?

 戦艦一隻修理すれば、私達が修理したものなら修理費の10倍近い値が付きますから」

 

「へえ」

 

「私達って言い方、やっぱりブランドとかあるんだ?」

 

「ええ。修理する者によって出来が変わってきますので。私達はジャンク屋連合の中でも古参ですから、信用もありますし」

 

「ああ、そっかもう10年もやってるんだっけ」

 

「へえ、俺それ知らなかった。ジャンク屋歴10年かあ。すげえな。結構ベテランじゃん」

 

「ううん、そっか。ぽっと出だと信用も得にくいのか」

 

「良品を降ろしていれば直ぐに評価は上がりますけど、新人の方でしたらやはり腕も相応ですので」

 

「ベテランのノウハウとか、新人は考えないとこまで考えてたりするんだろうな。その辺の差か」

 

「うーん、やっぱジャンク屋やるならライルさんに頼むのが一番いいのかなあ」

 

「ちょっとトール、あんたほんとにジャンク屋になるつもり?」

 

「いや、考えてるだけだよ。それにほら、稼ぎいいらしいじゃん。ミリアリアにも楽させてあげたいし、さ」

 

「それは……嬉しいけど」

 

「カズイです、周りの空気が以下省略」

 

「まあ、ブランドって意味なら最強だよなあ。ミスとかド忘れとか絶対しないわけだし」

 

「元の状態次第ですが、完全に同ランクの修理品を大量に用意する事もできますので」

 

「完璧かつ全く同品質に修理された最高ランクの戦艦を一辺に投入……ザフトがやってきたらと思うと怖いな」

 

「実際、ライルさんが想定されているザフトの連合攻略作戦では、私達の商品も幾らか混ざっていると思われますよ」

 

「うげえ」

 

「まあ商売なんだしその辺はしょうがないか。恨むのはお門違いだよな」

 

「殆どはジャンク屋連合や傭兵ギルドに降ろされているので、連合やザフトに渡っているのは全体の3割程度でしょうか」

 

「じゃあ今度の作戦で投入してくるのは……」

 

「私達が修理したものをほぼ全艦投入してきたとしても、数隻程度でしょうね」

 

「あんま変わんないか」

 

「その分こっちにもライルさん達居るしね」

 

「むしろそっちの方がでかいだろ。ちょっとした艦隊ぐらいなら相手にならないんじゃね?」

 

「状況にもよりますよ」

 

「ま、キラも居るしな、きっと大丈夫だって」

 

「でもライルさんは心配してたよね」

 

「かーずーいーっ!不安になること言うなって!」

 

「そうだよ、ただでさえライルさんの勘はよく当たるんだから」

 

「私、アレ絶対超能力だと思うわ」

 

「未来見えるんじゃね?」

 

「いや、あくまで勘なんじゃ」

 

「いやいや実はもっと――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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気が付けば九尾 (NARUTO 九尾憑依 多作品キャラ拝借)
一之巻『九尾!!!』だってばよ!


 

一之巻『九尾!!!』だってばよ!

 

 

 

 

「えーと………なんぞこれ?」

 

どうも皆さんこんにちは。俺の名前は…と名乗りを上げようとして自分の名前を思い出せない事に気付く。

仕方がないので改めましてこんにちは。どこにでも居るごく一般的な大学生の男性Aです。

卒業を来年に控えた俺は就職難のご時世にビクビクしながら今日も勉学に励んで…

いる、筈だったのだが。

 

周囲を見渡してみれば荒地が広がっている。

それも自然になった訳では無いようで、地面が砕けてたりクレーターがあちらこちらにあったりと、

いかにもデカいナニカが暴れましたというような場所。

荒地の周囲は森に囲まれ、この森も所々木がなぎ倒されている。

荒地と森の両方に焼け焦げたような跡が点在していて、流星群でも降ったかのような有様だ。

何故こんな場所に、と疑問に思うのも束の間。

すぐに俺は自分の目線が高い所にあることに気付く。

不思議に思って下を向くと、そこにはふさふさの毛に覆われた立派な前足が二本………

 

「ってなんじゃこりゃああああああああああああああああっ!?」

 

「ぐっ、何だっ!?」

 

驚きの余りに上げた大声に反応があった事にこちらが驚きつつ、

他にも人が居たのかとようやく気付いた俺はパニックになろうとする頭を必死で留めながら振り向く。

するとそこには何やら奇妙な光景があった。

何処かで見たことがあるような装束に身を包んだ、これまた何処かで見たようなパツキンのイケメソ。

横には何やら木の祭壇のようなモノがあり、その上に半裸で赤髪の女性が横たわっている。

どうやら二人とも大怪我をしているようで、荒い息を吐く口からは血が零れている。

男は警戒した様子で黒光りする金属の棒を構えた。

…何か非常に見覚えがあるというか、心当たりがある気がするのは気のせいだろうか。

いや、そんな筈はない。あってたまるか。だってあれはマンガの登場人物…

 

「ミナト、大丈夫なの…?」

 

「ああ、問題ないよ、クシナ。後は九尾をナルトに封印する」

 

………何かとんでも無い言葉が聞こえた気がする。

ミナト?クシナ?九尾?ナルト?ははは、そうだね。俺もNARUTOは好きだよ。

設定資料集みたいなのまで全巻揃えてるしね。

一週間前にふと思い出したように一巻から読み返してね。つい昨日60巻読み終えた所だよ。

本は単行本派なんだけどね?次の新刊が待ち遠しくて。

いやあ、お二人もコスプレよく似てますねえ。あ、お子さんですか?生まれたばかり?可愛らしいですねえ。

 

 

 

 

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

「きゃっ」

 

「何だっ!?」

 

何か俺の大声(体がデカい為声もデカい)に驚いてるが其れ処じゃないっ!

待て待て待て待ってよ待って下さいお願いします!?

マジか!?マジもんか!?

いやだって周りどう見てもセットとか特撮とかそういう規模じゃ無いし!?

二人とも似過ぎだし!?そもそもナルト実写化とかそんな黒歴史になりそうな話も聞いてないし!?

いやそれ以前に俺の体!どう見てもこれ人間じゃねえ!

いや、つーか待て、この三人揃っててしかも封印とか言う素敵ワードが出てる傍に明らかに人間じゃない俺………

 

「俺九尾じゃねえかああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「な、何…?」

 

「何なんだ…?」

 

流石に三度目ともなると驚きより疑念の方が強くなるようで、どうもこちらを注視している。

とりあえず今すぐ封印とはならない…のだろうかと自分の考えに疑問符を付ける。

マンガの内容を詳しく思い出してみれば、確かクシナさんはえらい危篤状態だったはずだ。

それにナルトに封印する段階という事は屍鬼封尽は済んでる筈。確かそうだった。

あの辺りは感動したのでよく覚えている。

となるとミナトさんももう限界が近く、つまり猶予は無い以上すぐに封印に移るはず。

となるとこれは非常に不味い。このままでは俺は封印されてしまうのだから。

いや、それ以上に問題がある。原作通りの封印なら俺次第で多少の自由は確保出来るだろう。

口寄せとかいうのをしてもらえば外にも出られる筈だ。

問題は彼ら二人だ。このままでは彼ら二人の夫婦はナルトに俺を封印し、

自らのチャクラと意思も同時に封じてそのまま死んでしまう。

自分の事も大事だがそれよりも目の前で、それも間接的にとはいえ自分のせいで人が死ぬなんて嫌過ぎる。

そんな重荷絶対背負いたくないというのが本音だが、助けられるなら助けたいという気持ちもある。

とはいえそう簡単に出来るなら原作でもやっているだろう。

となると原作では無かったモノがキーになる筈だと思い至り、幾つか思い浮かべてみる。

俺の記憶…は却下だ。あくまで作中で語られた事しか知らないのでは意味は無いし、

現代医療がこんなオカルトファンタジーな現象に役立つとは思えない。

となると…そうだ、九尾の知識は使えないか?

 

と、そこまで思考して九尾の知識を辿ろうとした瞬間、壮絶な頭痛が俺を襲った。

 

「ぐ、あああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「っ!ミナト!」

 

「ああ、直ぐに始める!」

 

俺の叫びを勘違いしたのか好機と思ったのか、封印に取り掛かるミナトさん。

素早く印を結び、俺を封印しようと術を発動させる。

何やら絡みつくような感覚が全身を襲い、そのまま引きずり込まれていく。

頭の痛みにたえながら俺はソレに全力で抵抗した。

俺の頭を襲っている痛みは詰まるところ情報の波。

九尾が本来持っていたであろう莫大な知識・記憶・感情といったモノが俺の脳に流れ込んで来ているのだ。

そのあまりの情報量に気を失いかけるが、すんでの所で踏みとどまる。

このまま行けば俺は封印され、あとは原作と同じ流れだ。

せめて俺か二人のどちらかは助からないと痛みに釣り合わない。

 

「くっ、思ったより抵抗が激しい…だがっ!」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

駄目だ、飲まれる…そう思った瞬間、俺は無意識に二人に手を伸ばしていた。

それは傷つける目的ではない。膨大な知識から一つだけ、閃いたのだ。

それは半ば無意識ではあったが、後にこの行動が成功であったと知ることになる。

 

「なっ!?クシナ!?」

 

「ミナト!?」

 

俺のチャクラに包まれた"二人ごと"、俺は封印された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐ…」

 

我ながら奇っ怪な声を出して目が覚めた。

どうやら壮絶な頭痛は収まっているようで、自身の知識を漁ってみれば知らない筈の知識が溢れてくる。

それがなんだかしっくり収まっているのだから妙な感覚だ。

現状を確認しようと周囲を見渡せば暗い空間に檻のようなものが見える。

一目で封印の檻だと知っていた事のように認識した俺は、先程の出来事が夢や幻の類では無かったのだと確信した。

 

「暗っ。明かり点けるか」

 

そう呟いてごく自然な所作でチャクラを練り上げ、火に変換して明かりを灯す。

ここまでやって俺はやっと自分がやったことに驚いた。

 

「チャクラを扱えるのか…」

 

九尾なのだから当然と言えば当然なのだが。

体の隅々まで滞り無くチャクラを通わせられる事を確認し、暴走の危険なども無いと感覚で把握する。

四肢を少し動かしてみるがおかしな様子も無く、戦闘で負った筈の傷は既に消えていた。

回復力の賜物か封印による影響かは分からないが、力を十全に使える分には構わないだろう。

大きすぎる力をいきなり手に入れたことに戸惑いと恐怖も感じるが、

力加減を間違えて握手した腕を潰す、なんて事はないだろうから安心だ。

…こんな体では握手もへったくれも無いが。

 

「あ、変化すりゃいいのか」

 

デカい体躯が不便だと思った直後には変化という言葉が脳裏に浮かんだ。

なんだかグーグルでも使ってる気分になる。

大事なことに限って分からない辺りがそれらしい。

などと自分の調べ方が悪いことを棚に上げつつ、自身の記憶にも問題が無いことを確認する。

相変わらず名前だけは思い出せないが、死んだような記憶は無いので転生とかいうのでは無いとは思う。

ショックで忘れているだけかもしれないが、そこまで考えても仕方ない。

戻れるなら戻りたいが忍術にそんなモノがあるとも思えないし、

俺の新しい知識にも該当するものは無かった。

うちはマダラによるモノかもしれないがそれこそ確認のしようもない。

どの道この場所で出来る事はたかが知れている。暫くはナルトの成長を見守る事になるだろう。

 

「お、出来た出来た」

 

そんな事をつらつらと考えながら自分を納得させている間にも、

慣れ親しんだ動作のように変化を終える。

容姿は狐っぽいイメージと、どうせならイケメンって事で某死神マンガの糸目の人。

大学からは東京の方に住んでいたがそれまでは大阪在住。

東京に出てからは標準語だったが、この容姿なら関西弁に戻しても違和感もないだろう。

まあ違和感を感じるのは俺だけだと言われれば確かにそうなのだが。

変化にはイメージが大事という事でよく読んでいたマンガから拝借したが、

髪の色だけは変わらなかったのか九尾の赤い色そのままだ。恐らくチャクラの色とかそういう理由なんだろう。

そして尾底骨は腰と尻の境目辺りから飛び出して9つに分かれている。

本当は完全に消すことも出来たのだが、九尾の証も兼ねて尻尾だけ残したのだ。

必要になればすぐに消せるので問題ない。

何より自分の尾ではあるがこのもふもふ感は中々にいい。モフモフではなくもふもふである。これ大事。

 

「あ~、なんや気持ちようてねむなるなぁ~」

 

元々使っていた関西弁とは若干違うが、容姿のイメージに合わせて口調を調整。

素に近い喋り方が出来るというのはいい。

前の世界では喋り方一つで面接の合否が別れる程だったが、

この世界では大蛇丸のアレが許されるのだ。関西弁ぐらい問題にならないだろう。

 

「しっかし、なんや忘れてる気がするなぁ…」

 

そう、なにか大事な事を忘れて居る気がするのだが、

九尾の知識は忘れ物には反応してくれないようだ。

ぽけーっとしながら何気なく周囲を見渡すと、何か青白い球体が二つ浮かんでいるのが目に入った。

何だろうかと疑問に思うと同時、あれは魂であると知識から認識する。

 

「ほぉ、魂ってこんななんか。…ん?」

 

と、そこまで思い浮かべて。

 

「思い出したあああああああああああっ!?」

 

 

 

 

「あぶなー、なんとものうて良かったわ」

 

すっかり忘れていたがこの球体二つはナルトのご両親、ミナト氏とクシナ氏のものである。

そう、俺は封印される最後の瞬間、チャクラを使って二人の魂を封印に引きずり込んだのだ。

現在は俺のチャクラと、一緒に引っ張りこんだ二人のチャクラによってしっかりと安定を保っている。

人格や記憶も残っているはずだが、知覚するための肉体が無いため眠っているような状態に近い。

抜け殻となった肉体は遅れて到着した火影達によって手厚く葬られるだろう。

クシナの方もミナトの方も肉体は既に限界だっただろうし、例え残っていても戻せないだろうからしょうがない。

ミナトの魂は屍鬼封尽によって連れ去られる直前だったが、先にこちらに引っ張りこんだので助かったようだ。

契約自体は肉体で行い、代償として魂を支払うため、肉体と魂の繋がりが消えた時点で支払い義務が消えたらしい。

これも九尾の知識からのものだが、何ともまあどこぞのミナミの金貸し相手に借金踏み倒すかのような屁理屈である。

材料が無いので二人を生き返らすにはナルトの協力か俺の自由が必要だろう。

とりあえず精神世界でだけでも話が出来ないか、暫くは試行錯誤する事にした。

 

「第二の人(?)生の始まりやな」

 

 

 

 

 



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二之巻『うずまきナルト!!』だってばよ!

二之巻『うずまきナルト!!』だってばよ!

 

 

 

おっす!オレはうずまきナルト!

忍者アカデミーに通う10歳の忍者見習いだってばよ!

今はアカデミーが終わって、これから修行しに行く所なんだ。

 

『相変わらずナルトは忍術の才能あらへんねえ。まあ半分はボクのせいなんやけど』

 

「うっせー!分身使えなくても影分身使えりゃ問題無いってばよ!」

 

今ムカツク事言ったのが狐珀(コハク)っていう九尾の妖狐。

コハクは10年ぐらい前に悪い妖狐に取り憑かれて暴れまわって、オレの中に封印されたんだってばよ。

5歳ぐらいん時に声が聞こえてから、いっつもこうやってオレと喋ってるんだ。

封印される前にコハクは元に戻って、オレの父ちゃんと母ちゃんを助けてくれたんだってばよ。

 

『ナルトは才能はあらへんけど、その分根性は大したもんや。努力の人やな』

 

「へへっ、オレってばすげーからな!」

 

コハクはオレの父ちゃんは火影って言う里で一番の忍者で、母ちゃんもすげー忍者だったって言ってた。

けどオレはあんまり忍術の才能が無くて、普通の忍術は苦手なんだってばよ。

コハクが言うには、コハクの力が大きすぎてオレが自分自身のチャクラを上手く掴めないんだって言ってた。

それでもコハクはチャクラの練り方から体の動かし方まで、細かいとこまで色々教えてくれたんだ。

オレもいっぱいいっぱい頑張って、沢山忍術を覚えたんだってばよ。

才能がないってのは悔しいけど、頑張ったのを褒めてもらうのはすっげー嬉しい。

それにオレには忍術の修行を頑張る理由があるんだってばよ!

 

『ほな修行始めるで。口寄せさえ出来るようになれば、あとはどうとでもなるさかいな』

 

「おう!頑張って早くコハクを自由にして、父ちゃんと母ちゃんも生き返らすってばよ!」

 

今オレの中にはコハクの他に、オレの父ちゃんと母ちゃんの魂が入ってるんだってばよ。

オレの中の封印は結構緩んでるらしくて、

コハクの力の一部と父ちゃんと母ちゃんの魂ぐらいなら外に出せるらしいんだ。

だからオレが頑張ってコハクを口寄せして、父ちゃんと母ちゃんの魂も外に出してやるんだ。

コハクが外に出られれば、忍術と妖術を使って二人の体を用意出来るらしいから、

あとは二人の魂を入れれば生き返れるって言ってた。

父ちゃんと母ちゃんと一緒に暮らせるってのは楽しみだし、

コハクも自由にしてやりたいからいっぱい頑張るってばよ!

 

『あくまで一部やさかい、自由とまでは行かへんよ。せやから認めてくれたんやろうけどな』

 

「あー、父ちゃんも母ちゃんも最初すっげー怖かったもんなー」

 

最初二人がコハクと会った時はすっげー警戒してて、横にいるオレまで怖かったんだってばよ。

オレはコハクと仲が良かったし、いっつも見守ってくれてたから、何で怒ってるのか分からなかったんだ。

話していくうちに二人とも認めてくれたみたいだけどな。

それにコハクはこんな事言ってるけど、オレは二人ともコハクのこと認めてると思う。

暴れてたのはコハクの意思じゃなかったらしいし、

いっつもオレを見守ってくれて、困ったり危ない時は助けてくれるんだ。

こうやって修行もいっぱいつけてくれるし、周りの皆が嫌な目で見てきてもコハクだけはオレの味方なんだ。

だからオレはコハクが大好きだし、父ちゃんも母ちゃんもコハクの事を認めてると思うんだってばよ。

けどさ、コハクは暴れまわったのを気にしてるみたいで、そのせいでオレが辛い思いをしてると思ってる。

だから!オレは将来火影になるんだ!火影になって、コハクの事を里の皆に認めさせてやるんだってばよ!

 

『…ありがとうな、ナルト』

 

「んー?何か言ったってばよ?」

 

『何でもあらへんよ。まだまだこれからやで。頑張りや』

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、材料は全部揃うたな。後は口寄せだけや』

 

「よっしゃ!任せるってばよ!」

 

ナルトの11歳の誕生日まであと1週間ほどとなった日。

俺達はいつも修行を行なっている木の葉の里近くの森へ来ていた。

足元には様々な物品が雑多に並べられており、その下の地面には巨大な陣が描かれている。

その陣の前に立ったナルトは素早く口寄せの印を結ぶ。

チャクラの練り、印を結ぶ速さ共にかなりのものだ。

幼い頃からの英才教育と本人の類まれなる努力の甲斐あって、既に上位の下忍並の速度と精度に達している。

ナルトの忍術への才能の低さは俺の力によってナルト自身のチャクラの制御が阻害されていた事による。

そのためチャクラ制御と結印の修行にはかなりの時間を割いて来た。

それは今日この日に決して失敗しないためでもある。

俺がかなり抵抗した事や時間による劣化などによって封印が緩んでいた事もあり、俺は無事に口寄せに成功した。

 

「ああ、この感じ。久しぶりやなぁ…」

 

現世へと呼び出された俺は久々の現世の空気を全身で感じる。

木々は葉音をかなで、小鳥達はさえずり合う。

妖狐の耳は遠くの小川のせせらぎを捉え、華やかな森の香りが鼻孔をくすぐる。

肌を撫ぜる風は心地よく、俺は久々に感じる世界の素晴らしさに感動すら覚えた。

 

「コハク…」

 

幼いなりに俺の感動を察したのか、急かそうとした言葉を引っ込めるナルト。

それを受けた俺は取り敢えず感動を横に置き、二人の魂の口寄せに取り掛かる事にする。

俺という巨大な存在を零した封印は二人分の魂など少しの抵抗も無く素通し、

二人の魂から写しとった身体の構成情報に沿って二人分の肉体を構成していく。

 

「………『浄土新生』」

 

―ボボンッ―

 

俺が口寄せされた時にも鳴った軽快な音が今度は二つ連続する。

緊張した面持ちでナルトが見つめる中、徐々に煙が晴れていく。

果たしてそこに居たのは、俺が以前に見た時と同じ、しかしそれより遙かに健康そうな、ナルトの両親だった。

 

「ナルト…久しぶり」

 

「会いたかったってばね…ナルト」

 

「っ、父ちゃん!母ちゃん!」

 

優しい笑顔を浮かべた二人に、ナルトは一も二もなく飛びついた。

母に抱きしめられ、父に頭を撫でられながら目尻に涙を浮かべるその姿は、

俺が前世で両親を失ってから長らく感じていなかった、家族というものを改めて教えてくれたようだ。

親子の感動の再会を邪魔するべきではないと数歩下がった俺の耳は、

しかしそこに予期せぬ第三者が居ることを捉えてしまう。

 

―パキッ―

 

「っ、誰だっ!」

 

小枝を踏みしめる音が聞こえた瞬間、俺は慌てて声を上げた。

その声を聞いたミナトとクシナは、ナルトの携行していたクナイを抜き取って構えた。

その長年のブランクを感じさせぬ動きに頼もしさを感じると同時、俺は自身の間抜けさに内心で舌打ちする。

 

(ちっ、失敗やなぁ…術に集中するために結界解いたんがあかんかったか…)

 

俺はいざとなれば目撃者の始末も考えながら、音の発生源に目を向ける。

しかしそこに現れたのはある意味では納得であり、しかし確実に予想外の人物だった。

 

「まさか…ミナト、か?」

 

「猿飛先生!?」

 

そこに居たのはかの三代目火影、猿飛ヒルゼンその人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

「そうか、そのような事が…」

 

「今まで黙ってて悪かったってばよ」

 

「よい。事の重大さを鑑みれば致し方なかろう」

 

取り敢えずひと通りの説明を終えた俺は猿飛サンのその言葉にほっとする。

どうやら危険は無いと判断したようで、荒事にならずに済みそうだ。

本来の力の10分の1も使えないこの状態で火影を相手にするなど考えたくもない。

猿飛サン曰く、ナルトが木の葉の外に足しげく通っているという報告を受けて心配していたらしい。

人避けの結界によって見つかる事は無かったようだが、

時折虚空に向かって声を上げることもあって精神を病んでいるのでは無いかと気が気では無かったらしい。

今日は何やら大荷物を持って出掛けたという報告を受け、心配になって様子を見に来たとのことだ。

我ながら詰めが甘いというかなんというか。

 

「しかし、十尾に六道仙人、うちはマダラか…」

 

俺については取り敢えず、

六道仙人が十尾を分けた際、九尾の依代として選んだのが元々の俺であり、

九尾の人格が形成されてからは意識を封じられていた。

うちはマダラにより強制的に暴走させられた九尾の人格が、

術の解除の反動と屍鬼封尽によって消え去り、眠っていた俺の人格が目覚めた。

俺自身はただの妖狐であり、木の葉の人達を傷つける意思は無い。

といった風に説明した。流石に転生しましたなんて言える訳が無いので依代のあたりだけでっちあげたのだ。

 

「少し気になる部分もあるが、二人も本物のようじゃ。信用しよう。しかし問題はこれからじゃな…」

 

そう。ただ二人が生き返っただけなら、こっそりとナルトと一緒に暮らせばいい。

しかし仮にも火影にバレてしまった以上そうは行かない。

それに猿飛サンは俺の処遇も考えているようだ。

 

「猿飛サン、ボクはこのまま穏便に封印ゆうわけにはいきませんか」

 

「そうはいかん。お主がもはや邪悪でないというなら封印する理由が無い」

 

それは黙っていればいい話な気もするのだが…

まあ、原作でも甘い甘い言われてた人だ。

申し訳ない、という風に思ってくれているのかも知れない。

 

「そない言いましてもボクが暴れたんは事実ですさかい…」

 

「いいや、お主の意思で無かったのならその非は操った者にある。それにその者の事も調べねばならん」

 

どうやら猿飛サンは情だけで言っている訳ではないようだ。

確かに俺を操っていたうちはマダラについて本格的に調べさせるには俺の真実は必要であるし、

ミナト達が生き返った経緯の説明や本物であるとの証明のためにも必要だろう。

何にしてもこうして見つかってしまった以上、放っておくという事は出来ないらしい。

となれば俺にとっての選択肢は一つしかない。

 

「そんならボクも忍者に。フリーセルでも構いませんさかい」

 

「ふむ、お主からそう言ってくれるなら断る理由は無いが…良いのか?」

 

猿飛サンとしては元々忍者として目の届く所に置くつもりだったのだろう。

九尾の戦闘力は戦力として有効で、事情を知った忍者と組ませれば監視にもなる。

それに俺自身、そう選択肢は多くないのだ。

こちらの世界に生活基盤を持たず、戦闘面以外の能力は仕事を選べる程ではない。

俺自身此処10年でナルトに感情移入している事もあり、見守りたいと思っている。

 

「まあそんなわけなんで、よろしゅうたのんますわ」

 

「ふむ、心得た。ミナト達はどうする?」

 

「私はナルトの母ですから、子育てに集中したいですね」

 

「オレは忍者に戻ろうと思います。稼がないといけませんし、二人を守りたいですから」

 

「あいわかった。雑事は全てワシに任せい」

 

その猿飛サンの頼もしい言葉を聞いたオレは、口寄せの限界を告げてナルトの中に戻った。

やはり封印を無理やり抜けだすのは長くて数時間が限度のようだ。

今後はこれらの調整も必要になるだろう。

そんな事を思考しながら、オレは一先ず眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

おっす!ナルトだってばよ。

コハクは時間だつって寝ちまったけど、父ちゃんは気を利かせてくれたんだろうって言ってた。

母ちゃんが家族水入らずだものねって言ってて、

言葉の意味はよく分かんないけど、なんかすっげー嬉しくなったってばよ。

で、爺ちゃんが帰った後はオレ達三人で里を歩いて帰ったんだ。

途中母ちゃんが甘味処を見てお金がない事に落ち込んだり、

父ちゃんが昔は美人だった人が年食ってるって言って母ちゃんにしばかれたり、

騒がしかったけどすっげー楽しかった。こんな楽しいのははじめてだってばよ。

それと、オレが父ちゃんと母ちゃんと手繋いで歩いてるのを珍しそうに見てくる人が結構居た。

何時もの嫌な目で見てくる人は、母ちゃんがすっげー睨んでて、そんな母ちゃんを見てなぜか父ちゃんがビビってたってばよ。

オレってばこんな楽しいの初めてで、これがコハクの言ってたシアワセって奴なのかなーなんて思ったんだ。

でもオレってば馬鹿だから難しいことは分かんなくて、

けどこんな風に二人を生き返らせてくれたコハクは、絶対皆に認めさせてやるって改めて決めたってばよ。

 

「そっか。そうだな、コハクにはちゃんとお礼しないとな」

 

「そうね。でもナルトはミナトと私の子なんだもの。頑張ればきっとなれるわよ」

 

「へへっ、そっか、そうだよな!なんたってオレってば二人の子供だもんね!」

 

「そういえば、確かコハクの予言では卒業試験に落ちる可能性があるんだったな」

 

うぐっ、楽しい話をしてたと思ったら何時の間にか嫌な話になってたってばよ。

コハクは昔に予言?予知?ってのを見たことがあるらしくて、

そこで俺が関わる事件なんかを色々知ったらしいんだ。

途中で途切れてるし、その通りになるかは分からないんだけど、

その予言ではアカデミーの卒業試験の内容が分身の術だって言ってたんだ。

俺ってば影分身は得意なんだけど普通の分身は苦手だから、落ちるかも、って言われてたんだけど…

 

「な、なんで父ちゃんがそんな事知ってるんだってばよ!?」

 

「前にコハクから聞いたのよ。それよりナルト、まさか私達の子が卒業試験に落ちたりなんかしないわよね?」

 

「大丈夫だよクシナ。オレがナルトに指導してあげるからね」

 

「あ、ずるいってばね。…ごほん。私も参加するわ」

 

「え?いや、あのー…父ちゃん?母ちゃん?」

 

オレに向かってすっごくいい笑顔を向けてくれる二人だけど、

何故かオレはその時すっごく嫌な予感がしたんだ。

そしてオレは、二人を生き返らせたことを、ほんのちょびっと後悔する事になるんだってばよ…

 

「コハクー、助けてくれってばよーーー!」

 

『がんばりやー(棒)』

 

 

 

 



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三之巻『うずまきナルトの一日』其ノ一だってばよ!

三之巻『うずまきナルトの一日』其ノ一だってばよ!

 

 

 

「ナルト、起きなさい。ご飯出来たわよ」

 

「んー、おはよう母ちゃん…」

 

「はいおはよう。寝ぼけてないで顔洗ってらっしゃい」

 

「んー」

 

おっす、ナルトだってばよ。

今日も何時もと変わらず母ちゃんが起こしてくれたってばよ。

前は一人で起きてたんだけど、最近はずっと起こしてもらってるってばよ。

コハクも居るし起きようと思えば起きれるんだけど、

母ちゃん俺を起こすのが好きみたいで、先に起きてると不機嫌になるんだってばよ。

母ちゃん不機嫌になっちゃうとなかなか機嫌直してくれないんだよな。

父ちゃんにかかればあっという間に上機嫌になっちゃうんだけどな。

コハクは流石に夫婦やななんて言ってたけど、やっぱ父ちゃんはすげーな。

 

「ああ、おはようナルト」

 

「おはよ、父ちゃん。ん、爺ちゃんから?」

 

顔を洗い終わって椅子に座ると、父ちゃんが手紙を読んでた。

何時も朝にその日の仕事の予定の連絡が来るんだってばよ。

で、今日は父ちゃんも仕事があるんだって。

爺ちゃんに父ちゃん達の事がばれてすぐ、木の葉の偉い人に説明したらしくて、

それからは父ちゃんとコハクはこうやって時々仕事してる。

コハクは、「猿飛ヒルゼンの子飼いゆうことになってるさかい、仕事の頻度は少ないんや」って言ってたってばよ。

コハクや父ちゃん達の事知ってるのは偉い人だけで、後は偉い人から順番に伝えていくって言ってた。

今は皆に認めて貰うために実績を作る時期なんだって言ってたってばよ。

 

「ごちそーさん!」

 

「お粗末さまでした。美味しかった?」

 

「勿論だってばよ!」

 

母ちゃんの料理はいっつも美味しくて、これにはコハクも驚いてた。

「美人で料理の上手い嫁さんやなんてうらやましいなぁ」ってコハクが言ったら、

父ちゃんが「オレの自慢の妻だからね」ってノロケてたってばよ。

二人共すっげー仲が良くて、それを見たコハクがオレに「夜中に二人の寝室に近付いたらあかんで」って言って、

母ちゃんにしばかれてた。

意味は分かんないけど、本気で怒ってる訳じゃなかったから気にしないってばよ。

 

 

 

 

「あ、ナルトくん」

 

「あ、ヒナタ!」

 

アカデミーに着くと、同級生の日向ヒナタって女の子が近寄ってくる。

ホントはオレの方が先輩になる予定だったんだけど、

コハクに言われて修行のためにアカデミーに入るのを2年延ばしたんだ。

そんでヒナタと同学年になったんだけど、最初はあんまり喋ったりしなかったんだってばよ。

けど何年か前にヒナタが誘拐されそうになったことがあって、それを助けてから仲良くなったんだ。

ホントはオレが助けたんじゃなくて、コハクにオレの体を貸して助けて貰ったんだけど…

コハクは『助けたい言うたんはナルトやし、ボクがナルトの体借りただけや。誇っとき』って言ってくれたってばよ。

そんでそれから暫くしてヒナタの方から声を掛けてくるようになって、今じゃオレの一番の親友だってばよ!

 

『親友なぁ。原作では大丈夫やったけど、早めに気付いたりや』

 

『ん?なんだってばよ?』

 

『なんでもあらへん』

 

よくわかんねーけどまあいいや。

そうそう、最近やっと声を出さずにコハクと会話出来るようになったんだってばよ。

人との付き合いが増えるんやったら必要やろ、ってコハクが教えてくれたんだってばよ。

 

「あ、そういえばナルト君…」

 

「ん?なんだってばよ?」

 

「行方不明だったナルト君のお父さんとお母さんが戻ってきたって。よかったね」

 

「おう、さんきゅー!」

 

へへへ、何かこういう風に言われると嬉しくなるってばよ。

あれ?けどヒナタがなんで知ってるんだってばよ?

 

『日向は木の葉の中でも最上位の一つやからね。要するにお偉いさんなんよ。

 ヒナタちゃんはナルトと仲が良かったから、話は聞いてると思うで』

 

『へー、そっか。ヒナタんちって凄かったんだな』

 

『まあ、ヒナタちゃんはそこまで詳しく聞いてへん筈やから、二人は任務中に行方不明になってたけど帰って来た。

 ボクと会うときは親戚の人で猿飛サンの部下、ぐらいに言うとき』

 

『分かったってばよ』

 

そこまで話したとこで、ヒナタが声をかけて来た。

ヒナタからはボーっとしてたように見えたらしい。

オレがコハクっていう爺ちゃんの部下の人が助けてくれたんだ、って言ったら、

ヒナタってば「ナルトくんみたいな人だね」って言って赤くなってたってばよ。

不思議になって見てるとコハクに『そこはおでこで熱測るんが王道やないか』って怒られた。

訳が分かんないってばよ。

 

 

 

 

今日の授業は変わり身の術の練習だったってばよ。

ほんとはとっくに出来るんだけど、

コハクが『ナルトの場合、上でも下でも目立つんはようない。こっちで調整するさかい何時も通りやり』て言ってた。

オレは普通にチャクラを練って印を結ぶんだけど、それをコハクがチャクラを乱して失敗させるんだってばよ。

んで、暫くしたら乱すのやめてそのまま成功するんだ。チャクラ制御の練習にもなるって言ってたってばよ。

 

「ナルト、ちょっといいか?」

 

「ん?なんだってばよ、イルカせんせー」

 

今日も何時もどおりやってたらイルカせんせーに呼ばれた。

イルカせんせーは優しいせんせーで、オレをあの嫌な目で見て来ないから好きだってばよ。

何時もオレが一人でいるときは声を掛けて忍術を見てくれるんだけど、

イルカせんせーが教えてくれるのって全部使えるんだよなー。

コハクは生徒用の簡単なモノだけだからって言ってたけど、やっぱしょぼいってばよ。

 

「ナルト、お前、ほんとは実力隠してるんじゃないか?」

 

「え゛、な、なんのことだってばよ?」

 

「はぁ、お前は嘘を吐くのが下手だな。これだけ気持ち悪いくらいあらゆる科目で中の中保ってりゃ気付くぞ」

 

いきなり聞かれてビビったけど、コハクは何も言ってこない。

不味いと思ったら勝手に体使っていいって言ってあるから、コハクがなんか言うと思ったってばよ。

それにコハクのやり方が不味かったっぽい。

よく見りゃ気づくって言ってるし、やり方変えたほうがいいんじゃねーか?

 

『いや、これでええんや。よく見れば気付くゆう事は、その人はよく見てるゆう事や。

 よう見てる人は知っといた方がええし、ええ人やったら知ってもろた方が都合がええさかいな』

 

『へー』

 

コハクが言うことはよく分かんねーけど、これでいいらしい。

コハクが言うには、嘘を吐いたり騙すときは騙したい人だけ騙せて好きな人には分かる嘘をつくんだってばよ。

それと、真っ先に気付いて真っ先に声を掛けてくれたイルカせんせーは良い人だから、

感謝して大事にしろって言われたってばよ。

 

「オレの友達がさー、お前は上でも下でも目立ったらろくな目に合わねーぞ、って言ってたんだもんよー」

 

「っ!!」

 

コハクに言われたことそのまんま言ったらなんかすっげー驚かれた。

コハクはなんか笑ってる気がする。

 

「でもま、オレは将来火影になっから、嫌でも目立つんだけどなっ!にしし」

 

「ナルト、お前…」

 

そう言ったらイルカせんせーは変な顔のまま笑った。

コハクもオレらしいって言ってくれて、イルカせんせーは頭を撫でて頑張れよって言ってくれたってばよ。

だったらイルカせんせーの一番得意な術教えてくれよって頼んで、その日はずっと教えて貰ったってばよ。

でもごめん、イルカせんせー、オレもうそれ使えるってばよ…

コハクに術の精度はイルカせんせーのが上だから技術盗めって言われたから頑張ってどろぼーするってばよ。

 

 

 

 

「やあナルト。丁度帰りやな」

 

「おう!」

 

アカデミーの門の前でコハクと会ったってばよ。

何時もと変わんない服を着て、口にはキセル咥えてる。

コハクは煙草よりこっちのが似合うやろって言ってたってばよ。

普段は背中にもふもふが9本揺れてるんだけど、人前では隠してるっぽい。

コハクは別にどっか行ってた訳じゃなくて、ホゴシャとして迎えに来たって事にして口寄せしてるんだってばよ。

何時もはこのまま真っ直ぐ里の外の森に行くんだけど、今日はヒナタが一緒に居るから後回しだってばよ。

 

「ヒナタ、この人がさっき言ってたコハクだってばよ」

 

「はじめましてやな。君が日向ヒナタちゃんやね、ナルトからよう話聞いとるよ。よろしゅうな」

 

「は、はじめまして。日向ヒナタです、よろしくお願いします」

 

何かヒナタが慌てた感じで挨拶してるってばよ。

なんでそんなに慌ててんだって聞いたら、コハクは爺ちゃんの直属なんだよねって聞き返されたってばよ。

よく分かんなかったからコハクに聞いたら、

『猿飛サンは木の葉のトップやからなぁ。粗相せんように言いつけられとんやろう』って言ってた。

よく分かんねーけど、コハクは優しいから大丈夫だってばよってヒナタに言ったら、

なんでかありがとうって言われたってばよ。

 

「初々しいなあ。ナルトの彼女さんか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「えっ?何(言ってんだってばよ?ってあれ?)」

 

コハクが変なこと言ってきたから聞き返そうと思ったら声が出なかったってばよ。

コハクに口乗っ取られたみたいだけど、何かあったのか?

ヒナタは真っ赤になってあうあう言ってるし、わけわかんねーってばよ。

 

「ナルトはヒナタちゃんの事好きなんか?」

 

「へ?ああ、勿論大好きだってばよ!」

 

「あ…なるとくん…」

 

ヒナタはオレのこと嫌な目で見てこないし、トモダチだからな!

けど正直に言ったら何かコハクはニヤニヤしてるし、ヒナタはぼーっとしてるし、ほんとわけわかんねーってばよ。

 

「とろんとしちゃってまあ…ふむ。なあ、ヒナタちゃんも修行見にこーへんか?」

 

「ふぇ?」

 

 

 

 

「あの、本当に良かったんですか?」

 

「ええよええよ。君んとこの人はボクのこと知ってはるし、ナルトも彼女さんが見てる方が気合入るやろ」

 

「へぅ…」

 

コハクさんに言われた言葉に、私は赤くなってしまう。

コハクさんは何かその、……勘違いをしているみたいで、

私のことをその、ナルトくんのか、彼女だと思ってるみたいでっ。

あ、でもナルトくんの彼女が嫌とかそういうんじゃなくてええとその…

 

「よっしゃ、まずは組手から始めるってばよ」

 

「せやね、まずは体の気を整えるためにも組手から…行くで」

 

ナルトくんの声に何時の間にか俯いていた事に気付いた私は、

普段ナルトくんがどんな修行をしているのか気になって顔を上げた…

のだけれど。そこには私が想像もしなかった光景が広がっていた。

 

「うおらあっ!」

 

「脇が甘いで」

 

「当たれってばよ」

 

「振り大きくなってるで」

 

「そこだってばよ!」

 

「フェイントで声出してどないすんねん」

 

………速い。

まさに息も吐かせぬ攻防というのだろうか。

白眼という血継限界を持つ私は昔から目を鍛えてきた。

だから子供の今でもそこそこ速い下忍程度の動きなら見切れる。

けれどそんな私の目でさえ、彼らの動きは体の動きを捉えるので精一杯だった。

腕や足に至っては見えない。

いや、光より早いわけは無いのだから本当に見えていない訳では無い。けれど反応が出来ない。

動いたと思った時にはっもう動き終わっている。

それだけの猛攻を二人は涼しい顔で続け、コハクさんに至っては指導する余裕まである。

しかし私は次の瞬間、更に驚くことになる。

 

「次行くってばよ!多重影分身の術!」

 

―ボボボボボボボボボボボボンッ―

 

「「「おらおらおらあああっ!」」」

 

「甘いで。遅い。ずれとる。もっと合わしい。そうや。二の足踏むな分身やろ!」

 

…凄い。凄いとしか言いようが無い。

視界一杯に現れたナルトくんの分身は全てが実体を持っているらしく、

一斉に、それも先ほど以上の速度で殴りかかっていく。

けれどコハクさんはそれを涼しい顔で捌き、指導していく。

たった一人のナルトくんを除いて全てカウンターで潰していく。

コハクさんにはどれが本物か分かってるんだ。

木に擬態して変化したナルトくんも見破り、武器に変化したものもしっかりと消す。

ナルトくんもそれが当然だと分かっているかのように猛攻を仕掛けていく。

コハクさんは火影様の直属という事だったから分かるけれど、ナルトくんは…

ナルトくんは、私と同い年の子供だ。

アカデミーでは不思議なくらいに中の中の成績を保っていた。

それがわざとなのだと、この時初めて思い知った。

同い年の筈で、でも体術一つとっても私とは大違い。忍術も比べ物にならなかった。

私の何歩も先を行くナルトくんを見て、その異常なまでに年齢に不釣り合いな力を見て、私は…

 

「へへ、ヒナタ、どうだったってばよ?」

 

「ふぇ!?あ、うん、凄かった。…かっこよかったよ、なるとくん」

 

「へへっ、さんきゅー!」

 

気がつけば私はなるとくんを見つめていた。

その疲れを明確に写した、けれど心から楽しそうな笑顔を見て、私は決意する。

 

「あの、ナルトくん」

 

「ん?なんだってばよ?」

 

「私…いつか、ナルトくんの傍に立てるくらい強くなる。だから…」

 

「へへっ、そっか!頑張れよヒナタ!一緒に火影目指すってばよ!」

 

そう言って眩しい笑顔を浮かべるナルトくん。

でもね、違うんだよナルトくん。

私は火影になりたいんじゃなくて、きっとなるだろう、目の前の未来の火影様の………

 

 

 

 

 

 

『よう考えたら原作に無かったイベントにパワーアップまでしてるんやな。そら落ちるわ』

 

「ん?何か言ったってばよ?」

 

『いーや、なんでもあらへんよ』

 

何かコハクってひとりごとが多いってばよ。

それにしてもヒナタのやつ、最後の方はボーっとしてばっかだったなあ。

ちゃんと見てたみたいだしかっこいいって言ってくれたんだけど、なんか顔も赤かったってばよ。

でもまシアワセっぽく見えたからいっか!

 

『罪作りな男やなぁ。ナルト、将来好きになってお嫁さんにするんはああいうしっかりした子にしいや』

 

「およめさんー?よく分かんねえけど、オレはヒナタのこと好きだってばよ!」

 

『そういう事やないんやけど…まあええわ。

 サクラかヒナタ辺りやったら心配無いやろ。サクラはサスケ一筋っぽいけど』

 

相変わらずわけわかんねー奴。

血みどろのひるどらでないすぼーとだけはあかんでーとか言ってるし。

ま、いっか。さっさと宿題片付けて母ちゃんの飯食うってばよ。

 

 

 

 

「へー、そんな事があったの。日向さんとこの子がねえ」

 

「あれは完全に落ちとるで。ええ子やし、予知でもしっかりした子になっとさかい、ええんとちゃう」

 

「ほー、もう彼女候補がいるのか。流石ナルトだな」

 

「ほんと、流石あなたの息子だってばね。ね?あ・な・た?」

 

「は、はは、そ、そうだなー(棒)」

 

全くもう。私も何度ヤキモチ妬かされたか数えきれないってばね。

ナルトはミナトみたいに変態の弟子になったりしないといいけれど。

まあその点は私達三人が居るから大丈夫ね。

コハクもこうして毎日の出来事をしっかりと報告してくれるし、しっかり見守ってくれてる。

夜ナルトと私達夫婦の三人で取る食事は何時もナルトがその日あったことを語って聞かせてくれて、

その時間はこの上なく楽しい時間だし、こうしてコハクが私たちの目の届かない所も見ていてくれる。

…けれど、コハクとはまだ一度も夕食を共にした事はないのよね。

朝や昼は時々一緒に食べるんだけど…

 

「夕食の、ナルトとの時間は一番大事な時間やさかいな。邪魔する気はあらへんよ」

 

「そうじゃなくて、あなたも参加して欲しいのだけど…」

 

「…スマンなあ。ボクにも、ボクだけの家族が居る。いや、居った。それだけは、忘れとうないんや」

 

そう言われて、私はそれ以上言葉が見つからなかった。

そう、私達にナルトという掛け替えの無い存在があって、掛け替えの無い時間があるように、彼にもそれらはあった筈。

彼のご両親は彼が若いころに亡くなって、兄弟も居なかったらしい。

けれど彼は確かにその両親を愛していたのだろう。

何時も細く狭められた目は、家族の話をする時だけ優しげな目を覗かせ、どこか遠くを見ている。

 

「そうか。そうだね。けれど、これだけは覚えていてくれ。

 オレは…オレ達は君に感謝しているし、家族になれると、そう思っている」

 

ミナトの言葉を聞いた彼は何も答えず、

しかし優しそうな目でしっかりと私達を見て、少しだけ口元を緩めた。

 

 

 

 



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四之巻『卒業試験』だってばよ!

四之巻『卒業試験』だってばよ!

 

うずまきナルト13歳。卒業試験の日。

そして、物語が動き出す日でもある。

 

「や、ナルト」

 

「あ、ミカン!おはようだってばよ!」

 

今声を掛けてきたのは甘味ミカンという女の子。

オレンジ色の髪をショートカットにした可愛らしい子で、原作では見なかった子だ。

活発な子で元はヒナタの友人だったのだが、ヒナタに惚気られている内にナルトに興味を持ったらしい。

少し話して気に入ってからはヒナタ同様ナルトと仲良くしてくれている。

どうやらヒナタの恋を応援しているらしく、ヒナタに色々吹き込んでいるのを見かける。

 

「今日の試験分身の術だって。アンタ苦手なんでしょ?大丈夫?」

 

「へっへー、オレってば父ちゃんに教えてもらって完璧だもんねー!

 それにコハクも本気出していいって言ってたし!」

 

そう、オレは先日、この卒業試験からナルト自身の判断で本気を出すことを許可した。

といっても早々に習得してしまった螺旋丸等は緊急時以外の使用を禁じているのだが。

手札は隠して戦うものだと教えたこともあって、それなりの戦術眼は身に付いている。後は経験次第だろう。

そして今後は実戦の機会や緊急の出来事も増えてくる。

俺達の事が上層部に限ってだが浸透し、個々人の思惑はあれど概ね受け入れられている事を鑑みても、

制限解除には丁度いい時期だと思い始めたのだ。

最近は別に家を用意して貰って離れて暮らしている事だし、緊急時には自己判断で使えたほうがいい。

とは言っても力の大部分はナルトの中に置いたままなので、単に一人の時間を確保しただけなのだが。

 

「うそ、ナルト本気出すの?先生達怪我しない?」

 

「別に暴れるわけじゃねーんだから大丈夫だって。ミカンはオレのこと何だと思ってるんだってばよ」

 

「ヒナタの彼氏」

 

「み、ミカンちゃん!?」

 

今まで相変わらずのとろんとした目でナルトを見つめていたヒナタが過剰に反応する。

何時ものやり取りなのだが全く慣れていないあたり、相当免疫が低いのだろう。

というか、あのとろけた目は大丈夫なのだろうか。

他所では普通にしているのに、ナルトと居る時はとろけた目でナルトだけを見つめ続けている。

今はいいが、思春期になったらとろけたまま無意識的にナニを始めたりしないだろうな…

気にし過ぎだとは思うが、余りのメロメロっぷりに少し心配になる。

 

「へへっ、ヒナタのことは大好きだってばよ!」

 

「なるとくん…」

 

「うっわー、言い切った…って、コハクさん?」

 

「急に使うからびっくりしたってばよ」

 

心配にはなるが更に弄りたくなる不思議。

しかもナルト自身は一応本心のため否定しない。

もう全部ヒナタでいいんじゃないかな。作中で一番ヒロインしてたイメージあるし。ペイン戦の時は胸を打たれたなあ。

ちなみに二人にはオレの力の一部をナルトに封じてあると言っている。

ナルトがヒナタを助けた時自分の力でなかったことを気にしていたので、二人にはこう言ってある。

けど他人に体を譲り渡してでも助けてくれたナルトにヒナタの好感度は限界突破…

もう何しても喜ぶんじゃなかろうかこの子。

 

「コハクさんもイタズラ好きよね~。最初は火影様の直属なんてどんな怖い人かと思ってたけど」

 

「同じ直属というナルトくんのお父様も優しげな方でしたし…」

 

「へへ、二人共優しいから大好きだってばよ!」

 

本当に、こっちが恥ずかしくなるぐらい素直な子だ。

そういえばヒナタ嬢、何時の間にかナルトの両親に挨拶済みだったりする。

父親同士の仕事の関係で日向家に行く機会があり、その時に挨拶したらしい。

本人の与り知らぬ所で物凄い勢いで外堀が埋まっているのは気のせいでは無いだろう。

そういえば俺の同僚も言っていたな。男が気付いた時なんて、全部手遅れになってるもんだと。…俺は気をつけよう。

 

「あーあ、いいわね二人共。私も素敵な人に出会いたいなあ。コハクさんてって独身?」

 

「あと10年早く生まれてれば丁度良かったんやけどね。…変なこと言うのに使うなってばよ~」

 

「あ、今のコハクさんだ。10年かあ。うん、頑張る」

 

一体何を頑張るというのか。

そういえば俺は何故か子供に人気がある。

ナルトの相手で慣れているというのもあるが、こっそり尻尾をもふらせてやってるのも大きいと思う。

自分で言うのも何だがあのもふもふには抗い難い魔力があると思うんだ。うん。

 

「次、うずまきナルト、来なさい」

 

「あ、オレの番だ。行ってくるってばよ!」

 

「いってらっしゃい。大丈夫だと思うけど頑張ってねー」

 

「ナルトくんなら大丈夫。怪我には気をつけてね」

 

「おう!」

 

ヒナタの声援が小規模任務にでも行くようで少し微笑ましい。

さて、どうせだから追加試験と行きますか。

 

 

 

 

「合格!」

 

「よっしゃ!」

 

結局俺がチャクラを乱したにも関わらず、あっさりと成功。

チャクラを乱されるのにすっかり慣れてしまっているようで、

これなら幻術などへの耐性もかなりのモノだろう。

ただの分身で何十体も出そうとした時はイルカ先生も驚いていたが、

流石に影分身と違って多重が出来ないので10体前後がせいぜいだった。

とはいえどの分身も恐ろしく精度が高く、やはりイルカ先生は驚いていた。

はてさて、一体どんなスパルタを施されたのやら。思わず目頭が熱くなるな。

 

「へへっ、今までありがと、イルカせんせー!」

 

「ああ、これからだぞ。頑張って立派な忍になれよ」

 

ああ、ちなみに原作でナルトを騙して禁書を持ち出させたあいつ。

予知として調べて貰ったら余罪が出るわ出るわ。裏で色々こそこそやっていたらしい。

現在は投獄中なので原作イベントは置きず。

まあ既に二人の信頼関係は十分なものがあるので問題無いだろう。

以来俺の予知は割と信用されていて、幾らか似たように未然に防いでいるモノもある。

 

『コハク、俺ちょっとイルカせんせーと一楽寄って帰っからさ』

 

『りょーかい。ほなボクも仕事あるさかい行くわ。分体残してくさかい心配いらんで』

 

最近は口寄せが安定してきた事やナルトの両親の協力もあり、

一日の大半は外に出られるようになっている。

振るえる力も10分の1を超えた。

これで上位の中忍から並の上忍ぐらいならどうとでもなるだろう。

ナルトの修行の礼として飛雷神の術の仕組みも教えてもらい、妖術式に改良してある。

時間が切れてもマーキングしておけば次の日には戻れるため、

遠出して任務を行うことも増えてきた。

出かける時などナルトから目を離す時はチャクラから作り出した分体を置いていっている。

本体ほどの能力はないが、ちょっとやそっとでは消滅しないし反応自体は同じなため、感知系も誤魔化せる。

基本的にナルトの中と俺の自宅の二箇所に置いておき、

ナルトの保護や任務等の連絡の受け取りを行なっている。

 

「さて、ほな行こか」

 

懐から最近は習慣となったキセルを取り出して咥える。

前世では二十歳になってすぐ煙草を吸っていたが、こちらに来てからはもっぱらキセルだ。

容姿的に煙草よりキセルの方が似合いそうだというのもあるが、実はこのキセル武器にもなる。

米粒大に縮小した印がキセルの内外に模様として散りばめられており、

様々な忍術や妖術の発動触媒として使用することが出来るのだ。

キセル自体も煙草とはまた違う美味さがあるし、我ながら良い物を作ったと思う。

基本的に俺の持ち物は全て用意した材料を元に妖術で作っている。

そのためこういった特殊な物品も多く、

そういった物に目がない上層部のとある忍者はしきりに製造方法などを聞いてきたものだ。

妖術が掛けられているとは分からないようにしていたはずなのだが、

キセルそのものを見ただけでただのキセルでないと分かる辺り、流石と言える。

 

「装束も神槍も問題無いな。ほな、狩りにいきましょか」

 

そう呟いて、黒と白の装束を着込み短刀を携える。

もふっとした九尾を出現させ、狐の意匠を施した仮面を着ける。

 

装束も様々な術を織り込んだ特性の一品で、デザインは某死神マンガのアレ。

高い防御能力を誇り、属性耐性も高い。半分は九尾のチャクラで出来ている為九尾の再生能力の範囲内でもある。

ちなみに体長羽織の背には木の葉のマークに重ねて"九"の文字をあしらっている。

実はこれ、尾獣用の羽織だったりする。

尾獣仲間にプレゼントするつもりで、各里のマークと尾獣の番号を振ってある。

俺のように独立するにしろ、原作のように人柱力のままにしろ、出来る限り助けたいという意思によるものだ。

半分チャクラのため変化時にはそのまま巨大化するようにもなっている。

これはガマ達が服を着ていたのをイメージしてみた。

これを身に着けることで、暴れ狂う猛獣ではなく、里の守護者であるとのアピールの意味も込めてあったりする。

 

神槍も俺の姿の元ネタが持っていたモノを真似している。

柄の部分が術の組み込まれた実体を持つ部分で、刃の部分は純粋なチャクラの塊。

チャクラを高密度に圧縮することで物質のように見せかけている。

チャクラで出来ているため伸縮自在で、九尾の膨大なチャクラを使えば13キロどころでは済まない程伸びる。

原作同様一瞬だけ塵(チャクラの圧縮を解く)にする、敵の体内に破片を残す、といった事も可能。

破片は高密度の九尾のチャクラのためそれだけで毒になるし、

遠隔で術を発動したり、チャクラの流れを乱すのに使ったりと用途は様々。

原作と同じではつまらないので俺なりに改良し、

刀剣のチャクラの性質変換による氷剣や炎剣の再現なども可能になっている他、伸縮の速さは拍手の千倍まで速めた。

とまあ色々魔改造してあるが、

はじめての刀剣制作の上考えうる限りのモノを好きなだけ詰め込めるという事で調子に乗った結果である。

基本的に武器はこれとキセルで事足りる。遠中近全用のため、単独で動く事のある俺には丁度いい。

 

仮面は死神マンガの主人公の仮面と、暗部の連中の一部が身に着けている狐の面のデザインを合わせたもの。

強度も頭部の保護を目的として高めにしてあり、顔の表面に貼り付けるタイプで落ちる心配もない。

仕事の時は何時もこの容姿のため、白黒ギツネとか木の葉の九尾とか狐面の者とかと話題になっているようだ。

事情を知る者が必ず一人は同行するが、

たまに知らない者が混ざることもあるので、里の内外問わず噂になっているらしい。

猿飛サンの直属という事や、同行者の信用も考えて行動している事からか、仲間からは概ね好意的に受け入れられているようだ。

 

「お、来たねーそんじゃ行こうか」

 

「なんや、あんさんにしては早いなあ。尾獣でも降るんちゃうやろか」

 

「洒落にならないこと言ってくれるね君は。一人で行かれたら困るだけだよ」

 

飄々とした様子で答えるのははたけカカシ。一部では五代目候補とすら言われる優秀な上忍の一人だ。

俺は一応特別上忍級という事になっているのでカカシのほうが上司に当たるのだが、

猿飛サンの直属という事になっているので立場は微妙な所だ。

独自行動の権限も持っているため、命令をされる事は少ない。

しかしこの人、人当たりはいいのだが異常なまでに時間にルーズなのである。

任務の待ち合わせに半日遅れるといった事も多いらしい。

らしいというのは、一時間以上遅れた場合は不慮の事態があったとして先行して任務を行う事にしているからだ。

他の忍と組む時は多少は待つが、この人の場合待っていたらキリがないので咎められた事も無い。

前に、彼が待ち合わせ場所に来たら既に任務を終えて帰って来た俺と出くわし、

その後の報告で猿飛サンにこっぴどく叱られるという事があったりする。

 

「流石に任務に遅れる忍は色々どうかと思うで。せめて連絡ぐらい寄越し」

 

「そうは言うけどね、こればっかりはどうにもならんのよ」

 

はてさて、仕事ほっぽり出してまで一体何をしているのやら。

下らない事からアンタッチャブルまで、わんさか溢れてきそうだ。流石元暗部か。

 

「そうそう、今回の任務は卒業試験を兼ねてるからね」

 

「へー。ようやっとか。早いような遅いような。ま、何時もどおりやるだけやわ」

 

どうやらこちらもようやく監視を卒業出来そうだ。

注目自体はされるだろうが、常時監視体勢は解けるという事だろう。

それにしても、今日俺の試験をして明日にはナルト達の試験か。忙しい事だ。

 

 

 

 

 

 

―火の国・某森林地帯―

 

「ひ、ひぃぃぃ…ば、化物!」

 

「化物とはえらいひどい言いようやなあ。まあ、正解やけどな」

 

呟いてキセルを一振り。

耳障りな声を上げて男は燃え尽きた。

これで対象全員の始末を完了。抜け忍の処理とはまた重たい仕事だ。

恐らく同族意識が薄いだろうという事で選ばれたのだろう。

仲間意識が強く、チームワークを重視する普通の忍には中々やりづらい仕事だからな。

まあそれを言えば元一般人の俺に殺しをやらせるというのも無茶な話だが…

生憎と九尾の知識を得た時に感情や人格も多少侵食された。

あのドス黒い感情の塊を思い出せば人殺しの罪悪感なんて薄れてしまう。

やらないという選択肢は無い訳だしな。

 

「問題無いね、はいごーかく。ラーメンでも食って帰るか」

 

「感動も何もあったもんやないなあ。ま、ラーメンは好きやけどな」

 

何時もの和服に着替え、近場の町のラーメン屋に入る。

ナルトに強請られて何度も一楽に足を運ぶ内にすっかりラーメン好きになってしまった。

またこの一楽のラーメンが美味いんだ。

しょうゆのあっさりも、とんこつのこってりも、みそのまろやかさも、どれも絶品だ。

ちなみに俺のイチオシは『とんこつしょうゆラーメン、チャーシューともやし特盛』。

とんこつのコクとしょうゆのあっさり感が絶妙にマッチしている。

チャーシューは濃い目のタレによる味付けが絶品で結構厚めに切ってあるし、

ラーメンにもやし特盛は前世からの俺のジャスティス。

 

「お前んとこ二人はほんとよく似てるね。兄弟みたいだよ」

 

「ボクは兄弟おらんかったからよう分からんけど、言われてみればそうかもしれんなあ」

 

まあ確かに、ナルトが生まれ時から見守っていた訳だし、

血の繋がらない兄弟と言えば確かに近いかも知れないが。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「ん、なんや?」

 

ラーメンを堪能した後、店から出ると突然見知らぬ女性に声をかけられた。

淡い桃色の髪を水色の大きなリボンで後頭部から二つに分けて結び、

肩口や襟の下の部分が無い所謂ノースリーブの、リボンと同じ水色をした水色の和服に身を包んでいる。

袖口などから白や黒の生地が見えているから二重三重の構造なのだろう。

下半身部分はスリットの入った…というより前と後ろに分かれた構造に、黒い帯をしている。

胸の谷間が見える構造という事もあり中々に扇情的にも見えるが、

彼女自身の容姿の淡麗さ、理知的な面と無邪気さを併せ持つような雰囲気が下品さを感じさせない。

一言で言ってしまうと、かなり好みの美人の子が居た。

 

「あの、その、あなたのその尻尾…なんですけど」

 

そう言って俺の背中で揺れる九本の尾を指差す女性。

先程から何か視線を感じると思えばこれが原因だったようで。

すっかり消すのを忘れてしまっていたようだ。

彼女の言葉が俺の素性を確かめるものだと悟ったカカシが警戒態勢を取る。

久々のシリアスが到来かと思いきや…

 

「その尻尾、本物ですか!?本物ですよね!?きゃーっ!こんな所で九尾様に会えるなんてっ!しかもイケメン魂!

 あ、私もなんです見てください―ポンッ―あ、申し遅れました、わたくし『た・ま・も』と申します。

 謂れはありませんが此処が運命の地だと言うのならば天照とかなんとかよく知らない運命の神様にでも感謝してっ!

 お名前すらも存じ上げませんが私は今ビビっと来ました!

 私との出会いは良妻狐のデリバリーに当たったとでも思って頂いて、

気軽にたまも、なんて呼んで頂ければ嬉しいです!

あ、でも旦那様さえよろしければ強めの語調でお・ま・え、なんて呼んでくだされば私きゅんと来ちゃいます!

 きゃー!言っちゃった♪旦那様なんて言っちゃた♪きゃー!♪」

 

………開始3秒でブレイクされたシリアスが泣いとるでー。

うん、なんつーかまぁ凄い無邪気な子だな。

あんまり馬鹿っぽく見えない辺り計算してやってるのかとも思えるが…いや、無いな。

というかここまでで最長のセリフがこれか。記録更新は無さそう…いや、自分で更新するかもしれんな。

 

「…えーと、何これどうなってんの?」

 

カカシもすっかり警戒を解いているようだ。

当の女の子は目にハートマークを浮かべてこちらを見ている。

どうやら俺が九尾であることに感動しているようだが、生憎と普通の妖狐の感覚は分からない。

…この子を普通に分類したら全国の妖狐達から怒られそうなのは置いといて。

 

「というわけで、私をあなたの良妻にしてくださいっ!」

 

「…えー、なんやそのー」

 

わけがわからないよ。

どういうわけだよ一体。これは何か、出会って1分でプロポーズされたとそう解釈していいのだろうか。

…なにそれこわい。

そもそもイケメンと言っても変化なわけで、それは同じ妖狐である彼女も知っているだろう。

イケメン"魂"というからには違うのかも知らんがよう分からん。

それに良妻て。なりたいんだろうか、良妻。

いきなりの事で返答に窮してしまったが、冗談めかした口調とは裏腹に結構本気のようだ。

可愛らしいし、いい子そうではある。口調はシリアスブレイカーだが知性は感じられる。

それに生まれてこの方女の子に本気で告白された事なぞ無いし、女性経験もそれこそ風俗ぐらいしかげふんげふん。

うん、アリだな。

 

「ええよ。流石に妻とかは早すぎる気ぃするけど、仲良うしような」

 

「「えっ」」

 

「えっ」

 

なにそのはんのうこわい。

 

 

 

 

「えへへ、まさかこんな素敵な方に貰って頂けるなんて♪」

 

「いやまあほんまに結婚すんのかとかは暫く横に置いといて、やけどな。時間もあるし」

 

取り敢えず俺達の泊まっている宿に向けて移動することに。

たまもは("タマモ"ではなく"たまも"らしい)妖狐の集落から遊びに来ていたらしく、

何時でも帰れるので暫くは俺についてくるとのことだ。

何でも良妻になるのが夢だったらしく、俺を一目見た瞬間ビビっと来たんだそうだ。

良妻が夢というだけあって結構出来た子で、言葉の節々で俺を立てるような気遣いが感じられる。

知識面でも回転の速さという面でも頭が良く、

俺の前世知識+九尾の知識+妖狐の知能の全力全開難解トークにも当然のようについてくる。

カカシなんかは途中で聞くのをやめたのに。というよりこのトークに着いてこられたの初めてだ。

少し話しただけでも感じのいい子だと分かるし、割と本気で狙ってもいいんじゃなかろうか。

 

「いやあのね、怪しすぎるでしょーよ」

 

「そないゆうても妖狐なんはほんまやで?気配で分かるわ」

 

「それにしたって色仕掛けでもするつもりかも知れないでしょ~が」

 

「心配要らへんよ。それならそれで、"俺”のモンにしてまうだけやさかい」

 

「旦那様…きゃっ♪」

 

嬉しそうな笑みで頬を抑えていやんいやんしだすたまも。

これが演技だというならもう俺は女を信じない。

とまあ冗談はさておき、彼女自身はかなり本気なようだ。

妖狐なんてものは少数の上に年寄りや既婚者が多いし、相手に恵まれなかったのだろう。

以前正体を隠して付き合っていた人間の男性にこっぴどく捨てられた経験から、

素敵な旦那様の良妻目指して頑張っていたんだそうだ。

俺も前世で告白してこっぴどく振られた経験あるが、そこで自分を磨こうと思えるのは純粋に素晴らしい。

 

「しかしえらい色々話してくれるなあ。そういう話題って普通シリアスシーンで出さへん?」

 

「旦那様に聞かれたことに答えないなんて考えられません!スリーサイズから性感帯まで何でもお答えしますよ♪」

 

いやいやいや、からまでと言う割に相当偏っている気がするのは気のせいだろうか。

あと性感帯は探し当てるのがロマンだと思います。

いや、そんな話ではなく。

取り敢えず暫く話していて思い知った事だが、彼女とシリアスは絶対に無理だ。

こちらが沈むような内容は盛り上げようとするし、彼女が沈みそうな内容でも全く陰りを見せない。

暗い話しだろうが明るい話だろうがまとめてブレイクするその手腕は見事というかなんというか…

 

「だってだって、大好きな旦那様とお喋りするなら楽しい方がいいじゃないですか♪」

 

ええ子やなあ。凄い好みやわこういう子。

と、流石にそろそろ本題に入らなくてはいけない。

彼女のことが好ましいのも事実だが、態々着いて来て貰った目的を済ませなくては。

 

「ちょっとええか、たまものとこの集落の人に挨拶したいんやけど」

 

「そうですね~。族長…いえ、副族長に相当する方にお繋ぎいたしますね」

 

何気ない様子でしかし唐突に切り出した俺の言葉にも変わらぬ口調で、しかし真面目に返してくる。

緊張している様子はなく自然な振る舞いではあるが、きちんと切り替えも出来るようだ。

それに俺が木の葉の忍であり、集落の外の者である事などの立場も考慮して族長への直通を避けた。

普段ははっちゃけているが、こういった真面目な話もしっかり出来るあたりは流石に長い時を生きた妖狐か。

 

「ん?何かあるのか」

 

「ああ、試験は合格やろ?早速で悪いけど勝手に動くさかい先帰って報告しといてくれんか。

 今日明日中には帰るさかい」

 

 

 

 

 

 

「いやはや、うまい具合に話進んでよかったわ」

 

「皆歓迎してましたね~。やっぱり生い立ちによるものでしょうか。わたしもびっくりしちゃいました」

 

俺が集落の妖狐と会った理由は、俺独自の繋がりや情報網が欲しかったからである。

最初は妖狐と人間の関係をこじらせた存在として警戒されたのだが、

猿飛サン達に語ったように事件のあらましなどを伝えると、信用してくれたようだ。

たまもは集落内でも人気があったらしく、そのたまもに気に入られているというのも大きかったように思える。

結局、うちはマダラの事を中心として情報協力をお願いした所、

九尾を操り暴走させたマダラへの憤りもあってか、人里の嗜好品との交換を条件に快諾してくれた。

そもそも九尾という時点で妖狐の中での立場はトップクラスらしく、

お年寄りの中には俺を崇めだすものまで居る始末。

概ね友好的な関係を築けたこともあってこれから独自の情報網として活躍してくれる事だろう。

 

「ふふふ、大好きな旦那様が皆さんに認めて貰えるというのは嬉しいですね♪」

 

「ご両親の墓に挨拶も済んだし、これで思う存分たまもをボクのモンに出来るわ」

 

「旦那様~♪すりすり♪」

 

軽口に軽口で返したら擦り寄ってきた。

妖狐なだけに動物が甘えてくるような気分になる。

このまま飛雷神の術で帰ってもいいのだが、折角なので外の空気を満喫して帰ることにしよう。

 

周囲を見渡せば、穏やかな森の途中に小さな滝があり、清涼感溢れる空気が漂っている。

川は澄んでいて川魚が元気に泳ぎ、汚染とは無縁そうだ。

川沿いに下れば野原が広がり、少し外れた所に街道が見える。

街道沿いに歩けば時折行商と出会い、最近の情勢や掘り出し物について言葉を交わす。

 

町に着けば獣の侵入を防ぐ門を潜り、脇を数人の子供が元気に駆けていく。

通りには呼子の声が響き渡り、人間の町らしい活気に溢れている。

通りを抜けた町の中央には大きな公園があり、その外周では様々な屋台が夜の稼ぎ時に向け準備をしている。

公園に入れば穏やかに陽の光を浴びるお年寄り、愛を語り合う男女、元気に走り回る子供達の姿が見える。

 

町を抜ければまた街道が続き、その先には浅い谷が見えている。

思いの外しっかりとした造りの橋を渡り、踏み鳴らされた街道を歩く。

帰路を辿る道中、隣を歩くたまもと言葉を交わし、他愛も無い事で笑い合う。

言葉が尽きればただ共に歩く時間を楽しみ、また思い出したように会話する。

前世では考えられなかった程の穏やかで素晴らしい時間を満喫し、束の間の小旅行を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

「と、今日あったこと言うたらこのぐらいやな。あとは猿飛サンにひと通りの報告と許可貰って、いつも通りや」

 

「へえ、一目惚れとは、やるね」

 

「外見だけじゃないですよ。魂で感じたんです♪」

 

そう言いながらお稲荷さんをパクつくたまも。

ミナトさんが出先で買ってきたお土産だ。

何でも行きつけの店があるらしく、近くに行った時は何時も多めに買ってきてくれるのだ。

俺自身稲荷寿司は前世の頃からの好物だったので嬉しい。

稲荷の甘さと酸っぱ過ぎない酢飯の食感とが絶妙にマッチしている。

 

「ナルトといいコハクといい、うちの男連中は手が早いわねえ。ね?ミナトさん?」

 

「あの、こういう話の度に俺に振るのは…」

 

「あら、何か言いましたかしら?同期一の美男子さん?」

 

「なんでもないですはい」

 

…俺はこうならないよう頑張ろう。うん。

どちらかと言えばたまもは尻に敷くタイプではない気もするが。

 

「ハーレムはめっ、ですよ」

 

だ、そうだ。

現在俺達は俺の自宅に集まっている。

最近は二人が俺の家に出向くことが多い。

この報告会はいつもナルト抜きでやっているため、こちらの方が都合がいいのだろう。

ちなみにナルト抜きの理由は、大人同士で話をするため大概酒が出てくるから、である。

酒と煙草の匂いが充満した報告会なぞナルトの教育に悪い。

 

「兎にも角にも、これからはコハクさんのお家に住まわせて頂くことになりましたので、よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく。コハクを支えてあげてくれ」

 

「よろしくね、今度人里の料理を教えてあげるわ」

 

すっかり意気投合した様子の三人が挨拶を交わす。

特に女性二人の協調具合には驚いた。

これが同僚の言っていた「嫁同士の繋がり程恐ろしいものはない」と言う奴か…

結局、たまもについては俺の家に住まわせる事に。流石に此処まで連れてきて他所にやる訳にもいかない上、

たまもは妖狐のため目の届く所の方が心配せずに済む。

たまも自身も俺の世話がしたいようであったし、最終的に住まわせることにした。

幸い広めの家なので二人で住んでも狭くは感じないのだが、寝室が一つなので同じ部屋で寝る事になるわけで。

…我慢できるかなあ。出来なかったら責任取ろう。うん。

 

「これからよろしくお願いしますね、旦那様♪」

 

「ああ、よろしゅうな、たまも」

 

 

 

 



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五之巻『鈴取り合戦!』だってばよ!

五之巻『鈴取り合戦!』だってばよ!

 

「んでさ、んでさ、この木葉丸ってのが生意気なヤツでさー!」

 

「ははは、もうライバルが出来たのか。いいじゃないか」

 

「本当に手が早いわね~。これが女の子だったらどうしようかと」

 

ナルトの方も順調にイベントをこなしているようで安心だ。

明日のイベントはカカシとの鈴取りサバイバルだったか。

仲間やチームワークの大切さは何度も言い聞かせて来たわけだし、

この分ならカカシ相手でも問題なく鈴を取れるだろう。

 

「ん?なんや、仕事かいな。…辞令?」

 

皆で昼食を摂っていた時、家に置いてきた分体から連絡があった。

何やら辞令が届いたらしく、読んでみれば明日結成される第七班に関するもののようだ。

はたけカカシが五代目火影の候補として適格かを判断するため、

明日結成される第七班へ監査員として編入する事を命ずる、という内容である。

原作には無かったことの上、上忍一人に下忍三人のフォーマンセルという通例を崩してまでの辞令だ。

わざわざ俺を選んだことからもただの監査目的ではなく、

人柱力であるナルトの保護と監視を暗に命ずると共に、

俺の監視や俺がナルトの為に動く時の方便としての意味もあるのだろう。

俺とナルトの二人を一緒に行動させることで、緊急時の対応を取りやすくするという側面もあると考えられる。

他には対象が下忍三人を含む部隊であることを考慮し、補佐として一名の選抜・同行を許可するとある。

この同行者には火影の許可を得た者であれば木の葉外部の者も可とする、と書いてある辺りたまもの事だろう。

途中任務に駆り出されることはあるだろうが、第七班が中長期任務に就く際は同行を義務付けるつもりのようだ。

 

「ん、なんだってばよ、コハク」

 

「仕事の事やよ。明日には分かるさかいな」

 

不思議そうに首を傾げるナルトに微笑みながら、

任務時の行動や特定の事態に対する対応について頭の中で纏めていく。

基本的に依頼された任務自体はナルト達第七班が解決し、俺達二人は緊急時の対応をする事になるだろう。

大きな事件は予知として伝えてあるが、小さな事件や被害の小さなものは実際に起こるかも分からないので、

基本的に場当たり的に対処していく事になる。

取り敢えず今最優先で考えるべき事は明日の鈴取り演習の事だろうと判断し、

チャクラによる糸念話の妖術をたまもへ繋いだ。

 

 

 

 

 

 

「よう、サスケ」

 

「なんだ、テメェ」

 

「ちょっとナルト何よアンタ!」

 

先日の卒業試験会場に使われた部屋に、今年度の合格者達が集められていた。

忍者となった事に関する説明と、その後の班の振り分けなどの通達のためだ。

その会場に着いたナルトはとある男子に声をかけた。

彼の名はうちはサスケ。数年前の事件で壊滅したうちは一族の生き残りで、将来有望とされる一種の天才だ。

原作ではナルトとライバル関係となり、後に抜け忍となって対立する事になる。

概ねの流れを知っているのは俺とたまも、猿飛サン、ナルトの両親の五人だけ。

ナルト自身には予知でライバルとなった男だと伝えてある。

ナルトは将来のライバル候補という事で気にしていたようで、

昨日同じ班になる可能性が高いと告げた事で声を掛ける事にしたようだ。

そしてその隣で声を上げたのは春野サクラという女の子。

医療忍術の才覚を眠らせているが今現在は恋に生きる年頃の少女といった所だ。

原作では一応ヒロインという事になっているのだが、個人的にはヒナタの方がヒロインしてたように思う。

原作でナルトが彼女に恋心を寄せている様子が見かけられたが、

ヒナタというナルトにとっての親友が早々に出来た事もあり、サクラとの接点は少ないらしい。

頑張って何時も話しかけ続けているヒナタの努力の勝利といった所だが、

悲しいかなナルトが女性の恋心を理解するのはは些か時間が掛かるようだった。

 

「へっ、いい面構えしてんじゃねーか。よっしゃ!お前を俺のライバルとしてせーしきに認めてやる!」

 

「ハァ?」

 

「ちょっとナルトあんたサスケくんに何言ってんのよ!」

 

一体どういったアプローチを掛けるのかと興味深く見ていたら、いきなり啖呵を切った。

流石ナルトといった所で俺はほっとしたぐらいだが、周りは若干呆れているようだ。

言う事は言い切ったという様子で通路を挟んで反対側の席に腰を下ろし、

その隣にはそれが当然と思えるほど自然な動作でヒナタが座る。

その後は何時も通りの雑談に終始し、

言い放たれたサスケの方は訳が分からないといった様子でため息を吐いていた。

 

 

 

 

「ったく、なんでアンタなんかと一緒なのよー。まっ!サスケくんと一緒だからいいけどね~♪」

 

「フン」

 

「んだよ愛想ワリーな。何か喋るってばよ!」

 

「お前なんぞと話す事はない」

 

ナルト達の迎えに行くと、概ね予想通りの光景が広がっていた。

サクラはサスケにぞっこんで、サスケはスカした態度を取って取り付く島もない。

ナルトは教え通りなんとかコミュを取ろうとしているものの、理屈で考えるタイプではないため苦労しているようだ。

 

「はいはい、仲良うしとるとこ悪いけど、君らの迎えに来たで~」

 

「うわっ!?あ、えっと、初めまして!はたけカカシ…先生?」

 

俺が声をかけると、全く気配に気付いていなかったようでサクラが驚いて飛び上がった。

職業柄気配を消す癖がついてるせいか、ナルトや中忍クラス以上でないと普通にしてても気付けないらしい。

それでも来るのは分かって居たのだから、じっとして待っていたら気付いたはずなのだが、

この年代の子供に落ち着きを求めるというのもそれはそれで酷な話か。

 

「あーちゃうちゃう。カカシ先生遅れてるからボクが代役や」

 

(コイツ、入ってきた気配を全く感じなかった……チッ、流石に上忍か)

 

サスケはこの頃は子供らしさが残っているためか、考えが顔に出やすいな。

本人はスカしているつもりなんだろうが、分かる奴は分かる。

まあうちはイタチ以外の忍者の実力を知らない以上懐疑的なのは仕方ないが、

担当上忍として現れた相手にガン飛ばすのはどうかと思うぞ。

 

「あ、コハク!何で此処に居るんだってばよ?」

 

「ちょっと特殊な事情でな。ボクも第七班に就く事になったんよ」

 

「ちょっとナルト、知り合い?」

 

ナルトの驚いた顔をしてやったりと眺めつつ説明していると、

隣に居たサクラがナルトに耳打ちしていた。

そんな大声では耳打ちの意味ないぞと言いたい所だが、そういえば九尾の耳だったな。

集中すれば数キロ先の音でも聞き取れるのだ。流石にツッコむのは酷か。

 

「オウ!えっと、俺の親戚で、火影の爺ちゃんのチョクゾクだってさ」

 

「うっそ!?凄い人じゃないっ!?」

 

今度こそ大声を上げるサクラ。

そして何でもないですと慌てて誤魔化そうとする。

全く誤魔化せていないのは幼い愛嬌だと取るべきか忍としてどうよと叱るべきか…

 

「君等の担当になるんは火影候補やけどな。ボクはその審査役や」

 

「へー、タマモは来んのか?」

 

「ああ、今カカシさん迎えに行っとるよ。こっちから行かな今日中に来るか怪しいさかいな」

 

「なんだよそれ。時間遵守の忍の掟はどこいったんだってばよ」

 

俺とナルトがいつもの様に会話していると、横でサクラが色々呟いてる。

火影候補と審査役ってどっちも凄い偉い人じゃないとか、

そんな人達の班に振られるって、私ってもしかして将来有望!?とか、

いやでもナルトが入ってるってことはあり得ないわよねとか、

もしかして能力の低いメンバーを指導するテスト!?とか、

あ、でもサスケくんが居るからそれはないし…など、

口に出していればそれはもう姦しい事になりそうなことを呟いていた。

サスケはサスケで興味なさ気な態度をしているつもりのようだが、

値踏みするような視線でじっと見られれば嫌でも気付くというもので。

 

「旦那様~、連れてきましたよっ!大変だったんですから~。撫で撫でして下さい♪」

 

「いやあ待たせて悪いね。そんじゃさっさと行こうか」

 

暫くそうしているとたまもがカカシを連れてきたので移動する。

たまもを撫でてやっているとサクラから羨ましげな視線が来たので、サスケにやってもらいたいのだろう。

サスケは今度はカカシにガンを飛ばしていて、

ナルトは火影の候補ということで興味津々のようだ。

 

「はてさて、どうなることやら、やな」

 

 

 

 

翌日。

 

「鈴取り合戦!?」

 

「そ。昼の12時までに鈴を取れた奴は合格。取れなかった奴は落ちる」

 

どうやら原作通りに進むようだ。

用意された鈴は二つ。争奪戦の様相を呈してはいるが、実際はチームワークを見る試験だ。

三人で二つの鈴を取り合うという条件下でも試験成功を第一に考えてチームプレイが出来てこその忍、というわけだ。

俺はこの試験には参加せず、その代わりナルトの妨害を行うことになる。

 

「ナルト、お前はチャクラを乱され続けた状態、かつ重りを着けて参加や」

 

「ん?わーったってばよ」

 

そう言ってナルトに重りを渡し、いつもよりきつめにチャクラを乱す。

これで体術能力は半分、術は簡単なものや精度の高いものしか使えない。

試験で多重影分身やら螺旋丸やらぶっ放されても困るということによる処置だ。

 

「ちょ、ちょっとコハク先生!?何ですかそれ!?」

 

「これぐらいせぇへんと君等と実力釣り合わへんから試験にならんねん」

 

「なっ!?」

 

サクラは驚いた様子で、サスケも目を剥いているが事実だ。

あまりに実力差があってはチームワークの試験にならない。

下手をすればナルト一人で鈴が取れてしまう。なにせ手数が多いからな。

 

「んじゃ、スタート」

 

 

 

 

 

 

「一体どうなってんのよ…」

 

今の私はわけが分からないという思いで一杯だ。

試験の開始前にいきなりナルトにハンデがかかったと思えば、当のナルトは平気そうにしている。

試験が始まった直後にナルトは

 

「オレは難しい事分かんねーから、作戦は任すってばよ。

 オレは先に行ってせんせー抑えてっから、決まったらコイツに言ってくれってばよ」

 

そう言って実体のある分身を置いて行ってしまった。

その分身は今私達の目の前で座禅を組んでいる。

何してんのよって言ったら、乱されてるチャクラに集中して抵抗する役をやってるって言ってた。

よく分かんないけど体内のチャクラの流れを乱されてるらしくて、

戦ってる本体の代わりにチャクラの乱れを抑えてるらしい。

これだけでもわけが分からないのに、その本体の方を見ると更にわけが分からない光景が広がっていた。

 

「影分身の術!う・ず・ま・き・ナルト連弾!!」

 

「チッ、下忍なりたての体術じゃないでしょーよこれはっ!」

 

先程の実体のある分身を数体作り出し、流れるような猛攻を繰り出すナルト。

本を取り出して片手間に読もうとしていたカカシ先生は、そのあまりの猛攻に本を取り落とした。

反撃で分身を消してもナルトは次々と分身を作り出し、常に一定の数を保つ。

その動きは早すぎて目で追えないほどだ。

 

「くっ、甘いよ…―ボンッ―変わり身ッ!?」

 

「そこだってばよ!」

 

「まだだッ!―ボンッ―」

 

変わり身や変化も多用した戦術を繰り返す二人。

ナルト自身も変わり身で何度も分身と入れ替わっているようで、

本体だと思ったら分身でしたなんてざらだ。

ナルトは事前の宣言通り、上忍であるカカシ先生を見事に抑えていた。

 

「何なのよ…あんなの、勝てるわけないじゃない…ねえ、サスケくん…サスケくん?」

 

隣で一緒に見ているはずのサスケくんに声をかけるが返答がない。

不思議に思って隣をみやると、サスケくんは私が一度も見たことのない悔しげな表情でナルト達を睨みつけていた。

その目線はナルトの動きを追っているようだったが、

ふと諦めたような表情をした後、こちらを向いて言葉を発した。

 

「耳を貸せ、サクラ」

 

 

 

 

その時のオレは相当に間抜けな面を晒していただろう。

アカデミーではナルトという奴が居るというのは聞いていた。

だが成績は良くも悪くもない普通で、単に周りから嫌われているだけの奴だと思っていた。

説明会でアイツがオレをライバルとして認めてやると言って来た時も、

目立ちたいだけのウスラトンカチだと思って気にもしていなかった。

…だが、それは間違いだったと思い知らされた。

 

「一体どうなってんのよ…」

 

隣で春野サクラとかいう女が呟くが、どうもこうもない。アイツは今まで実力を隠していた。それだけだ。

そしてその隠された実力はオレよりも圧倒的に高い所にあった。

重りを着けているためスピードは落ちているのだろうが、

その体術のキレと正確さは以前見た中忍以上だ。

分身も俺達が習ったような単純な幻術の類ではない、実体のある影分身。

それを12体、恐らくチャクラを乱されているという状態で出せる上限なのだろう。

常に一定の数を保ち続ける分身は本体と寸分の狂いもない精度で動く。

変わり身や瞬身は俺の数倍は速く正確で、武器や自然物への変化による戦術まで付加されている。

底なしかと思うほどのチャクラによって繰り出されるそれらの猛攻は、上忍であるカカシと拮抗していた。

ハンデを課した上で、手を抜いているとはいえ上忍とやりあえる実力。

オレでさえ目で追うのがやっとで、どれが本体などという見切りなど出来るはずもない。

ハンデを解けば恐らく俺の目でも捉えるのは不可能だろう。

純粋に、地力が違いすぎた。

 

「何なのよ…あんなの、勝てるわけないじゃない…ねえ、サスケくん…サスケくん?」

 

隣で女の声がする。…そうだ。これは試験だ。このままでは奴が一人受かって俺達は落ちる。

そんな事は許されない。オレは"奴"を殺さなくてはいけない。

だが、あの戦いを繰り広げる連中相手に張り合って勝てるのか?

カカシは鈴さえ守れればいい。それも時間経過でクリアだ。

だが俺達は時間内にあの小さな鈴を手にしなければならない。

…そこまで考えて、オレは協力するための方便を必死に探している自分に気がついた。

 

「…耳を貸せ、サクラ」

 

俺の力ではどうにもならないなら、"仲間"の力を借りるしかない。

幸い思考する時間はアイツが稼いだ。

対策は一応だがある。この試験の意図も恐らく読めた。

それをこの頭が少し弱い女に説明してやらないといけない。

 

「な、何?サスケくん」

 

オレが顔を近づけると顔を赤くして離れるサクラ。

…この状況でヤル気があるのか、コイツは。

 

「いいから聞け。俺達の実力じゃ鈴は取れないのは明らかだ。…だから、俺達でナルトを援護する」

 

「援護って…でもそんな事したら!鈴は二つしか無いのに!」

 

やはり気付いていなかったか、馬鹿女が…それ自体がミスリードだったんだ。

そもそも三人で二つの鈴を取り合わせるだけなら、ナルトにハンデを付ける必要がない。

常識的に考えて、あれだけの実力があって忍者でない方が損失だ。

優秀な忍者を選抜するだけならさっさとアイツに鈴を取らせて、俺達二人で競い合わせた方がよっぽどいい。

だがあのコハクって男は態々ナルトの奴にハンデを付けさせて、

しかもオレ達とナルトの実力が釣り合っていなければ試験にならないとまで言った。

つまりハナからオレ達の連携力や、即席チームでの対応力を見るのが目的だったんだ。

 

「じゃ、じゃあ普通に二つの鈴を取り合ってたら…」

 

「三人纏めて、下手したら忍者自体辞めさせられてたかもな」

 

だが、協力して取るにしても問題がある。最初あの男は本を読みながらやろうとしていた。

つまり並以下の卒業生なら三人纏めて片手間であしらえるという事だ。

ただ普通に援護しただけでは効果があるか怪しい。

オレも一応切り札はあるが、決め手になるかは分からない。

オレの考えをサクラに告げると、絶望した表情で見るからに落ち込んだ。

考えて打開しようという気がないのかコイツは。

 

「決め手ならオレにあるってばよ」

 

突如直ぐ近くから聞こえた声に思わず身構え、

先程から座禅を組んでいたナルトの分身だと気付いて過剰反応した事を悔いる。

すっかりその存在を忘れてしまっていた。

これ程傍に居たのに、声を掛けられるまで気配を感じなかった。

この感覚は昨日の、コハクとかいう男が現れた時の感覚に似ている。

いや、そんな事は後回しだ。

 

「…話せ」

 

 

 

 

試験を開始して一時間。

開始直後からずっと体術戦闘を続けているのだが、全く衰えない猛攻にさすがに辟易してきた。

幻術をかけようとしたこともあったが通用しない。

幻術とは相手の体内のチャクラに干渉する事で効果を発揮するのだが、

ナルトの場合最初からコハクによってチャクラが乱され続けている上、

常にそれを緩和する力が働き続けている。

本体にチャクラの糸が伸びているのを確認したので、恐らくそれを伝って別の所で分身に制御させているのだろう。

この方式を考えたのはナルトとコハクのどちらかは知らないが、確かにこれなら幻術対策としては有効だ。

そもそも術の制御自体を分身に任せてしまえば本体は体術に専念できる。

糸を増やして分身や他の忍に繋げれば声を出さずに指揮をする事も可能かも知れないが、

流石にそこまでのレベルには至っていないようだ。

というか、そんな風に様々な用途に使える術として完成すれば、

少なくともBランク(上忍級)以上のオリジナル忍術になる。

砂の里の人形遣いは同じようにチャクラの糸を扱えるらしいが、実際に見たことは無いな。

 

「ナルト、確かに下忍になりたてとは思えないほどに強いが、一人で生き残れる程忍の世界は甘くないぞ」

 

そう、この試験はチームワークを測るためのものだ。

四代目火影の子であり愛弟子だと言う事で期待していたのだが、

このまま個人プレイを続けるようでは忍者失格だ。

 

「へっ、オレはただの牽制だってばよ。今は作戦待ちだもんね!」

 

「…冗談だろ?」

 

これだけの猛攻を仕掛けておいて作戦待ちぃ!?

どう考えても全力で取りに来てると思ったぞ。

いや、そう思わせることも戦術の内、か?

…単に加減を知らないだけの気もするな。

 

「んでもって…」

 

一言呟いて急に下がるナルト。

先ほどまで続いていた猛攻の中断に危機感を覚えた俺は周囲に意識を巡らした。

 

(サクラかっ!)

 

背後からサクラが飛びかかろうとしていた事に気付いた俺は、

しかしサクラを無視してその背後から迫っていたサスケの腕を払い、蹴り落とした。

サクラの姿をしていたものはボンッと音を立てて消える。分身だったのだ。

そして蹴り飛ばされたサスケは、キャッという甲高い悲鳴を上げてサクラの姿へと変化した。

悲鳴を上げた時点で咄嗟に崩れた態勢を立て直すと、

左右からサスケとナルトが迫っていた。

躱す暇はないと判断した俺はナルトの異常に重い蹴りを思い出して素早く防御態勢を取る。

 

「グッ!?」

 

―ボボンッ―

 

しかし予想していた衝撃の度合が反転していた事にしてやられたと気付いた瞬間、

サスケとナルトは軽い音を立て姿を入れ替える。

互いに相手に変化していたのだ。

力配分を間違えた俺は態勢を崩し、そこに俺に蹴りを入れているはずのサスケが滑りこんでくる。

 

(二段変化だとッ!?)

 

俺に蹴りを入れていたサスケの姿がナルトに変わる。

ナルト→サスケ→ナルトの順で変化し、先程は一段だけ変化を解いたのだ。

態々二人揃って変化を解いたのも、単純な入れ替わりだと錯覚させるための策だったというわけだ。

滑りこんできたサスケの鈴を狙う手を、しかし完全に死に体になることを覚悟で上体を反らして躱す。

そして完全に態勢を崩した俺の目に写ったのは、

滑り込んだ態勢のままナルトの姿に戻るサスケと、

先程俺を殴りつけてきたナルトの後ろで印を組み、口を膨らませて今にも火を吹かんとするサスケの姿。

印の状態から見て恐らく火遁・鳳仙火。中忍クラスの術だがサスケなら使えてもおかしくない。

 

(くっ、間に合うか!?)

 

吐き出された火炎を変わり身によって緊急回避し、

状況を把握するためにも全体が見える位置へと瞬身する。

 

「待ってたぜ、カカシィ」

 

―火遁・豪火球!!!―

 

全体を見渡そうとした俺の目が火を吐き出すサスケがナルトに変わるのを見定めた瞬間、

俺は爆炎に包まれて吹き飛んだ。

結局あの場に居たのは全てナルト。

俺が全体が見える位置へ飛ぶのを予想して待ち構えていたのだろう。

 

「ぐあっ!」

 

吹き飛ばされた俺は木に激突するが、

何とか鈴は取られていないことを確認して安堵した、次の瞬間。

 

―ボンッ、ブチブチッ―

 

「サスケくーん!ナルトー!鈴取ったわよー!!」

 

木に変化して待ち構えていたサクラに鈴を取られ、

俺は完全に三人にしてやられたことを認識した。

 

 

 

 

「お前らね、おかしいでしょうよ。取られない前提で考えてたんだよ?こっちは」

 

「カカシせんせーってばコハクより弱いんだもんよー。そんなんじゃ話になんねーってばよ」

 

「うぐっ、お、俺だって本気出せばなあ」

 

割りと本気でやって負けておいてどの口が言うのか。

現在俺達は鈴を取れたご褒美という事で一楽に来ている。

ご褒美をやると言ったらナルトが一楽を所望してきたので、

今回の功労賞という事もあって決定したのだ。

サクラもサスケも初めて来たようだが、美味そうに啜っている。

 

「んっ、コハク先生ってそんなに強いの?」

 

「オウ!なんたってコハクは俺の師匠だからなっ!」

 

「何?」

 

ナルトが自慢げに語った直後、サスケが食いついてきた。

やはり自分より圧倒的に格上だった同期の師匠というのは気になるのだろう。

とはいえこれからは同じ班のメンバーなわけで、任務も共にすることになる。

カカシはサボり魔だが俺は修行をつけてやるのは好きなので、

これから色々と教えてやることになるだろう。

 

「しかし、ハナからナルトが分身と変化で俺を翻弄して、

 サスケが吹き飛ばした所をサクラが待ち構える手はずだったとはな…」

 

ナルト達が考えた作戦は簡単。

カカシが言った通りにナルトが翻弄し、サスケとサクラで鈴を取るというものだ。

本物が混じっている事に信憑性を持たせるために、最初にサクラが変化して殴りかかったのはサクラ自身の案だ。

サスケは自身最大の術である豪火球を全力で放つためにチャクラを練りあげて待ち構え、

ナルトが翻弄して目を逸らしている間にサクラは離脱して変化、待ち構えるというもの。

ナルトが仕掛けた1時間の猛攻によってカカシがナルトを極端に警戒しているであろう事も考慮した策で、

ナルトの変化による翻弄は全てその場のカンと思いつきだったそうだ。

 

「思いつきで二段変化なんて高等技術使うんじゃないよ」

 

「へへへっ、こないだコハクに教えて貰ったばっかりだったから使ってみたんだってばよ!」

 

「お前ね、下忍未満に何教えてくれちゃってんのよ」

 

「実力は中忍クラスはあるさかいなあ」

 

数の利を再現できるため、実際そこらの中忍程度には負けないだけの戦闘力はある。

多対一を一瞬で反転させられるというのはかなり大きい。

あとは妖術の類を少し使えるようになれば、影分身の強度を上げることも可能なのだが。

そうなれば多少能力の落ちるナルトが千単位で襲ってくる事になるのである。

 

「恐ろしい事考えるね君は」

 

「コハクさんって妖術が使えるんですか?」

 

「うん、ちょっと特殊な一族でな」

 

実際妖術を使える一族というのは過去に存在したらしい。

現存するかは不明な上、使えるといっても俺ほどでは無いだろうけれど。

サスケは相変わらずガン垂れているが、その意味は少し前とは大違いだろう。

恐らく弟子入りするか技術を盗むかといった事を考えているに違いない。

今回のことでナルトがしっかりと成長していることも確認できたし、

あとは実戦経験さえ積めば立派な忍になれるだろう。

サスケやサクラも修行を見てやる事を考えるなら、難易度の高い任務を優先的に回して貰うのも良いかもしれない。

 

「とりあえずナルトに教えてきた事に近い事を君等にも教えたるさかい、精進しいや」

 

「本当ですかっ!?やったー!」

 

「…フン」

 

手っ取り早く強くなれるとでも思って喜んでいるのであろうサクラと、

嬉しいけど素直に感謝する気にはなれないツンデレなサスケの図。

これで弟子は五人か。ナルト、ヒナタ、ミカン、サスケ、サクラである。

ヒナタとミカンはナルトとつるむ内に修行に参加するようになったのだ。

きちんと親御さんの了解は得てある。

幼い頃のゴタゴタが無かったことやヒナタが原作以上に努力していた事などから、

父親のヒアシや叔父のヒザシ、従兄妹のネジとの関係は概ね良好なようである。

…最近成長著しいヒナタをネジはライバル視しているようだが。原作ほど険悪では無いのでよしとしよう。

そういえば、ネジの父であるヒザシが死んだ理由を忘れていたため、

何時の間にか助かっていた事に驚いた事があったな。

実際にはナルトの体を使ってヒナタを助けた時の事件で亡くなる筈だったようだ。

ミカンのとこは特に由緒正しい大家系というわけでもないため、

優秀な忍の指導を受けられるならと簡単に許可が降りた。

サスケは一族はもう居ないし、サクラも普通の家庭の子のため心配は要らないだろう。

 

「そういやタマモはどうしたんだってばよ?」

 

「ああ、ナルト達が無事受かったんを報告しに行ったんよ」

 

たまもにはこういう連絡役をよく頼んでいる。

妖術式の瞬身が得意で速いというのもあるが、顔を広げて貰おうという目的もある。

男より女の方が受け入れて貰い易いだろうし、

後で正体がバレた時にも最初に仲良くなっておけば印象も変わってくる。

 

「寂しそうにしとったから、今度連れ出したらなあかんなぁ」

 

「あの、タマモさんってコハクさんの奥さんなんですか?」

 

「んーにゃ、まだ婚約というか、お試し期間やな」

 

たまもの話しになったのでついでに馴れ初めを語ることに。

勿論妖狐の辺りは誤魔化してある。

とはいえまだ数日の付き合いなのだが、意外と語れるものだ。

サクラは流石に年頃の女の子だけあって、興味津々といった様子で聞いている。

一目惚れして着いて来たと言う話を聞いて驚いていたが、

正直俺の周りはこの程度で驚いていられないような事で溢れている気がする。

当然、その筆頭は俺になるのだが。

 

「いいなあ、私も…(チラッ」

 

色恋にうつつを抜かすなとは言えた立場ではないが、

この調子でよくまああれだけ立派になれたものである。

それはさておき、今後は二人の修行を中心に、片手間に任務をこなす生活になるだろう。

折角来て早々でたまもには申し訳ないが、俺の補佐として頑張ってもらおう。

取り敢えず、何かお礼を考えておくか。

 

「さて、初任務はどうなるやろなあ」

 

 

 

 



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六之巻『任務!』だってばよ!

六之巻『任務!』だってばよ!

 

 

 

「先行偵察!?」

 

「そや。中忍が担当する上級Cランク任務、その先行偵察を行うんや」

 

「私達は行って見て帰るだけですので危険は少ないですが、下級Cランクになりますね。皆さん頑張りましょうっ!」

 

ナルト達の初任務ということで、各人の家の中間にある俺の家で待ち合わせる事に。

集まったメンバーに簡単な説明を終えた所で、サクラが驚きの声を上げる。

他の二人も流石に初任務がCランクという事は不思議に思っているようだ。

本来なら猫探しの依頼などを受けるものなのだが、

ナルトの実力が高い事、三人の連携がある程度出来ている事、俺とたまもの存在により総合戦力が非常に高い事から、

こういった難度の高い任務や戦闘になる可能性の高い任務を優先的に回して貰う事になった。

勿論下忍らしい任務も受ける事はあるのだが、

こういった任務を受けることが多くなるというある種の脅しも込めている。

今回の任務も本来ならば依頼を受けた班が偵察も担当するのだが、

その班の準備に時間が掛るという事でねじ込んでもらったのだ。

 

「言っておくが今回の任務はあくまで偵察が目的だ」

 

カカシさんが注意した通り、今回の任務は偵察任務。

相手の情報を集めて担当の班に回すことが目的であり、

たとえ全滅させたとしても敵に発見された時点で任務失敗となる。

 

「小規模の過激武装集団が相手やけど、戦闘は無い、というかするような事態になったらあかん」

 

「なんだ…ほっ」

 

「了解だってばよ」

 

「フン」

 

ある意味予想通りかついつも通りな三人の反応を見て、出発の号令を出す。

俺とたまもは広域警戒、カカシは三人の護衛につき、偵察は三人が行う事になる。

影分身は多すぎると目立つので数人が限度。

三者三様の面持ちで偵察任務を行った。

 

 

 

 

「アジトの周りは10人居たってばよ」

 

「入り口の見張りは二人、ヤグラなんかは無しで、二人共眠そうにしてたわね」

 

「少し中に忍び込んだが、入り口以外に人気は無い。全員奥に居るようだな」

 

「ええっと、中は明るかった?」

 

「松明が等間隔に置かれていた」

 

「アジトの外に居た連中の装備はしょぼかったってばよ」

 

「纏めるから具体的に言って」

 

「ナイフと3人ぐらいが刀と…」

 

「中に巡回は居ないな。入り口はどうだ」

 

「交代は私が見てる限りでは無かったわね。武装は…」

 

 

 

 

「さて、報告書は出来たか?」

 

今回の任務は忍として任務を受ける際のチュートリアルという事もあり、

報告書の作成も三人でやらせてみたのだ。

必要だと思うこと、重要だと思うことを自分たちで判断し、

集めた情報を分かりやすく纏める。

偵察任務以外でも忍の任務全般で必要になる事だ。

 

「ふんふん。まあ及第点やな。アジト入り口付近の構造や障害物、敵の配置なんかがあって合格。

 内部偵察まで出来て満点や。まあ今回は初任務やし、合格でええやろ」

 

俺の評価にほっとした様子の面々。

勿論これを提出するわけではなく、担当上忍であるカカシが纏めたものと、

監査官として俺が書いたものの二つが提出されるわけだが。

三人には報告書を自分達で書けとしか言っていないので真面目にやったようだ。

特に問題も無かったので、発見もされていなことを確認して帰還。

猿飛サンが見たがっていたので三人が書いた報告書を見せた所、

字が多少汚い事と幾つかの不備がある以外は、初めてにしては上出来とのお墨付きを頂けた。

以降同様に難度の高い任務を請け負う事もあるという一種の合格通知を貰い、彼らの初めての任務は終了した。

 

 

 

 

 

 

「いきなりCランクなんて言うから心配してたけど、無事に済んでよかった~」

 

「へへへっ、まあ俺は将来火影になる男だからな!このぐらいラクショーだってばよ!」

 

「アンタの場合ほんとに楽勝なのよね…けど火影になるのはサスケくんだからねっ!」

 

「俺は火影になる気なんて無い」

 

いつも通りに騒がしい三人を引き連れて里を歩く。

カカシさんは報告が終わるとさっさと逃げてしまった。

暫くは簡単なDランクの任務が続くという事で安心しているのか、

はたまた初任務にしてCランク達成という事で舞い上がっているのか、三人の声の調子は軽い。

初任務を終えて、協調しようとする傾向も見えてきた。

ちゃんと同じ第七班のメンバーとしてやっていくつもりがあるようで安心だ。

 

「コハクさん、私ちゃんと補佐出来てましたか?」

 

「ああ、ちゃんと出来とったで。いつもありがとうな」

 

頭を撫でると尻尾をブンブン振る姿を幻視するほどの満面の笑みを浮かべるたまも。

まさかこの俺が撫でポをする日が来ようとは…

いや、そうではなく。

可愛らしいしよくがんばってくれているから好ましいのは事実なんだが、

流石に恋愛経験極低なので尻込みをしてしまう。

一度女性と付き合ったことはあるが彼女というよりただの女友達だったし、

告白してこっぴどく振られた事もあるから若干の苦手意識があるのも事実だ。

大事にしてやりたいとは思うんだが、そもそもこの世界の女性…

というかたまもを、前世と同じ感覚で扱ったら確実に失敗する気がする。

 

「どないしたもんかなぁ」

 

順調なナルト達とは違い、微妙な不安を抱える俺の恋模様であったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝から修行、終わったら一日任務、帰ったら即修行だってばよ…」

 

「しかも小規模とはいえ武装集団の殲滅任務で上位Cランククラスって…」

 

「ぐ、あのコハクとかいうヤロー、さんざんシゴキやがって…」

 

グロッキーな様子で突っ伏す三人の惨状も、ここ一楽では恒例となりつつある。

現在俺の本体はたまもとお試しデート中、カカシは逃げた。

分体である俺はナルトの中で幻で出来た茶をシバイている。

最近はこうして修行任務修行と連続する事も多い。

そんな時も決して修行は欠かさず決まった時間に決まっただけやる。

流石に任務時間と被ればずらすが、無しにする事はまずない。

ナルトは多少のシゴキでは音を上げないし、サクラは女の子ということもあり加減しているのだが、

サスケはついナルトと同じように扱ってしまうせいで毎回かなりグロッキーだ。

 

「けど強くなってる実感はあんのよねー。チャクラコントロール上がってるし」

 

「ナルトの連弾を真似て獅子連弾も編み出した」

 

いや、原作じゃ逆なんだけどね。

影分身数人でのコンボを教えたら名前付けたいって言うからつい原作の奴を教えてしまったのだ。

というかリーの技を見て思いつくはずだったんだけど…リーェ…

 

「サスケもサクラちゃんもチャクラ少ないから大技って使えないんだってばよ」

 

「ナルトのチャクラが多すぎんのよ!カカシ先生の数倍ってどういう事よ!?」

 

「チッ、体力バカめ…」

 

ここ数週間でお互いの能力や使える術などは概ね把握した三人だが、

流石にナルトのバカチャクラや螺旋丸クラスの超高等忍術には度肝を抜かれていた。

とはいえ原作では数週間で習得した術を、チャクラコントロールの段階から数年掛けて教えたのだ。

知っている俺からすれば出来て当然なのだが、流石に知らない者からすれば何だこれである。

一応初期の螺旋丸は習得済みで、後はチャクラ量と威力を増やしたり、属性について教えていく必要がある。

属性に関しては九尾が得意とする火が得意である他、

母であるクシナが千住一族の末裔という事もあり土と水に高い適性があり、

父の性質が雷であった事とそれを直に教えて貰える事から雷への適性も高く、

そして本人は風に一番高い適性を示している。

…要するに全部適性があるのだ。

風>火≒雷>水≒土の順に適正が高く、風・火・雷の属性の術はそれぞれ二つずつ教えてある。

 

火を纏わせたクナイを放つDランク忍術『火遁・砲弾』(本作オリジナル)、

以前使った火の玉を連続で吐き出すCランク忍術『火遁・鳳仙火』、

風の刃を纏わせた手裏剣を投げるDランク忍術『風遁・風手裏剣』(本作オリジナル)、

大質量の空気の塊を広範囲に放つCランク忍術『風遁・大突破』、

触れた相手に雷のチャクラを流し込む超劣化千鳥のDランク忍術『雷遁・電掌』(本作オリジナル)、

体内に電気刺激を送ることで肉体を活性化させるCランク忍術『雷遁・身活性』(本作オリジナル)の6つ。

 

雷遁などは組み合わせれば劣化千鳥のような事も出来るが、

千鳥のような高レベルでの肉体活性、形態変化を組み合わせた永続的な放出、それらによる高威力は、

実現するには相当な修練が必要だろう。

ナルトの螺旋丸は形態変化とチャクラコントロールに絞った上で、

かなりの特訓の末ようやく使えるようになったものである。

資質を鑑みれば最終的にはサスケもナルトも『千鳥螺旋丸』の習得も夢ではないかもしれないが、

暫くは形態変化一本に絞ってやっていく事になる。

 

「コハクが言ってた最終奥義の『五行・螺旋丸』を使うにはこれぐらい無いとだめなんだってばよ」

 

…以前、スポンジが水を吸うように急成長するナルトを見て楽しくなり、

最終目標として語ってしまったものである。

理屈としては簡単で、螺旋丸に5種類全ての性質を付与するというものである。

水+炎のメドローア的な爆発エネルギーを螺旋丸内に留め、土の属性を混ぜて原子崩壊やプラズマを発生。

そして螺旋丸の周囲に雷を放出し続ける風の手裏剣が回転し続けるというものである。

理論上ではあらゆる障害を吹き飛ばし斬り飛ばしながら直進し、

着弾すれば山一つが原子レベルで消し飛ぶ代物である。

雷遁による肉体活性を利用した高速移動や手裏剣らしい遠隔投擲も可能になるであろうと予想している。

正直、極めに極めればちょっとした核ぐらいの"被害"は出せるんじゃないだろうか。

 

「……何禁術どころか抹消指定確実のモン作ろうとしてんのよあんたらは」

 

実はこれに仙術チャクラや九尾チャクラを混ぜたものすら考案しているのだが、

流石にナルトには教えていない。

極めれば一撃で小国一つが壊滅しかねない超兵器になってしまう。

まあ勿論並大抵のチャクラ量・コントロール・修行期間で成し得るものでは無い。

だがナルトのやつは至極真面目に、最終奥義という響きに魅了されてしまっているのである。

 

「そういやカカシの奴が随分悔しがってたな」

 

サスケが言っているのは数日前、

修行を見に来ていたカカシがナルトの螺旋丸を見て目を剥いて驚いた事に端を発する。

カカシの千鳥とナルトの螺旋丸を試しに影分身同士で打ち合わせた所、

見事に相殺してしまったのである。

幾ら術の性質上相殺されやすい組み合わせだったとはいえ、上忍である自分が長い時間をかけて編み出した千鳥が、

四代目火影の編み出したモノとはいえ下忍の放った術で相殺されたのである。

すっかり落ち込んでしまったカカシは術の精度と威力、発動回数を増やすために修行し直しているそうだ。

 

「あ、皆さんここに居たんですね。お仕事だそうなので、受付に来て下さいね」

 

デートを中断されて少し不機嫌そうなたまもがやって来た。

とはいえ本気で拗ねている訳ではないので来にせず依頼所へ向かうことに。

そして、ナルト達は所謂最悪の依頼というものを受けることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「護衛任務なぁ」

 

「ん?コハク、どうしたってばよ」

 

「なんでもあらへんよ~」

 

今現在、俺達第七班はタズナさんという橋作りの職人さんの護衛任務に就いている。

出発してからまだ数分といった所なので襲撃は無いが、

"予知"通りなら暫く行った所で忍からの襲撃があるはずだ。

そう、この任務本来なら忍との戦闘を考慮したBランク任務に当たる。

しかしタズナさんはただの武装集団からの護衛というだけの、Cランク任務として依頼をしてきている。

いくら下忍だけで組む班は通常無いとはいえ、忍相手の戦闘なら相性によっては上忍でも苦労する事がある。

下忍とはいえ失えばそれは里にとって大きな損失であり、

それを誘発する可能性の高い虚偽依頼という行為は所謂最悪の任務というものになる。

とはいえ、今現在の俺の服装は普段の和服にキセルスタイル。

危険度の高い時や俺が積極的に動く時は死神スタイルになるが、

それ以外では任務中でもこの格好だ。

要するに、今回俺は出張らないという事だ。

 

「たっくほんとにこんなガキが役に立つのかねー」

 

「ヘン!このオレ様Cランク任務なんてもう何度もこなしてるもんねーっ!…っ!」

 

自慢そうに語るナルトはやっぱりナルトだな。

相変わらずの自信家で、それを実現する根性もある。

…その証拠に、一瞬何かに気付いたように強張った顔はしかしすぐいつも通りに戻った。

忍たるもの何かに気付いてもそれを顔や声に出すなという教えをちゃんと守っているようだ。

 

「そういやさぁサスケェ、雨降った後の水溜まりってうぜーよなぁ」

 

「ン?何を急に…っ!ああ、そうだな。踏んで泥が着かない内に乾かしておかないと、なっ!」

 

―巳・未・申・亥・午・寅ァ!『火遁・豪火球の術』!!―

 

「ぐあああああああああッ!?」

 

サスケがナルトの意図に気付き、豪火球を放つ。

水溜まりに擬態していた忍者は不意打ちで中級忍術の直撃を食らい悲鳴を上げた。

奇襲失敗と忍術の直撃によって任務の続行は不可能と判断したのだろう。

見事と言わざるを得ない逃げ足で撤退してしまった。

しかしこんな晴の日に水溜まりに擬態って…本当に忍者か?おい。普通に木や岩に変化すればいいものを…

 

「ふむ、今のは確実に忍やなあ。ナイスプレー…と言いたいとこやけどあかんなあ二人共」

 

「え、なんでだってばよ?」

 

「敵か味方かも分かってへん相手をいきなり攻撃して、

 しかもボクらとタズナさんのどっちを狙うとったんか分からへん」

 

「うぐっ」

 

まあ十中八九タズナさん狙いやろうし、

流石に忍が襲撃してきた状況だ。

事の次第によっては次は更に上位の上忍が来る可能性もあると言えば、

だんまりという事はないだろう。

とりあえず二人は喧嘩っ早いのをどうにかしないといけないようだ。

 

「というわけで、話を聞かせて頂きましょうか、タズナさん」

 

「むぅ…」

 

 

 

 

ま、詳細は"予知"通りだった。

海運会社を経営する富豪のガトーという男が波の国の流通を金と暴力で牛耳り、

橋を作ろうとしているタズナが邪魔になったので始末しようとしている。

が、Bランクの依頼は高額で貧しい波の国の住人に現状そんな金はない。

そこで、任務内容を偽って依頼をしてきた、というわけだ。

一通り説明を終えたタズナは情に訴え始め、カカシは渋々といった様子で護衛続行を認めた。

そして波の国に着き、タズナさんの家へと移動していたまさに丁度その時、カカシが急に声を上げた。

 

「っ!全員伏せろ!」

 

―ザンッ―

 

カカシの声にナルト達が反射的に這いつくばると同時、

大回転して飛来した大剣が近くの木に突き刺さった。

長方形に近い平べったい形の大きな刀。その柄に立つのは上半身裸の忍者らしき男。

口元を包帯で覆い、その目は濃厚な殺意を宿している。

霧隠れの忍、鬼人と呼ばれた無音暗殺術の達人、桃地再不斬(モモチザブザ)だ。

 

(本来やったら此処は顔見せやけど…実戦の機会を奪ってまうのは勿体無い。ちょい当てて退かせよか)

 

「ナルト、サスケ、サクラ。相手は霧の上忍みたいやけど…やってみるか」

 

「「「おう!(はい!)」」」

 

元気よく返事を返す三人。

何度も上忍クラス相手に模擬戦をしてきた事もあって、三人で協力すればどうにかなると思っているのだろう。

確かにナルトは中忍クラスの実力はあるし、サスケやサクラも修行の甲斐あって下忍になりたては思えない。

チャクラ吸着の修行などとっくに済んでいるし、コンビネーションも中々だ。

…だが、それだけだ。それだけでは、あのザブザには勝てない。

 

「ナメられたものだな…てめーらみたいなヌルいガキがオレを倒そうとはな………"死ぬぞ"」

 

「っ、え…あ…」

 

最初に膝をついたのは、サクラだった。

サスケもナルトも、金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。

ザブザは何もしていない。ただ、睨んだだけである。

だがそれだけで、三人は戦意を喪失してしまっていた。

それは所謂殺気と呼ばれる類のもの。

ザブザのように戦いの中に身を置き、多くの者を殺してきた強者。

そういった者だけが持つ眼力というものがある。

ただただ純粋な殺意が込められた目。

その目で見られただけで、その目を見てしまった事で、三人は身動き一つ取れなくなってしまった。

 

(ボクも最初にアレを見た時は恐怖に身が竦んでもうたんよなあ)

 

どれだけの力を持っていようと実戦、それも強者との戦いでなければ経験出来ない。

それは絶対に勝てる相手だからなどと誤魔化せるものではない。

その殺意自体に耐性がなければ、多くの者はこうなる。

ザブザがナルト達をヌルいと称したのも、ナルト達の目から人を殺したことがない事を見ぬいたのだろう。

こればっかりは、修行ではなく自分達を殺しにくる本物の敵との戦場でなければ得られない経験だ。

 

「しゃーないね…俺はこいつらの先生だからね。守らせて貰うよ」

 

「ふん、来い。はたけカカシ」

 

その言葉にカカシは額当てで隠されていた左目を露出する。

その目の上下には縦に一本の傷跡があり、目には勾玉似た模様が三つ、瞳の周りに円を描いて浮かんでいた。

写輪眼。うちは一族の中でも修行を積んだ者だけが発現できる、血継限界とよばれる遺伝性の特異体質。

はたけカカシは過去の事件で左目に写輪眼を発現した目を移植されており、

それ故に写輪眼のカカシ、コピー忍者といった異名を持っている。

サスケにもその素養はあるのだが、現段階では開眼に至っていない。

さて、当然のように戦闘に入ろうとしているが、俺はナルト達の前で観戦体勢に。たまもはナルト達の後方で警戒に当たらせている。

とはいえ、こいつは白以外と組むことはそう無いだろうから、余り心配はしていないのだが。

 



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七之巻 (地の文無し)

「ほな僕らはゆっくり観させてもらいますさかい、頼んます」

 

「任せろ」

 

「ちょ……ちょっと、コハク先生「副隊長や。ボクは先生ちゃうで」……コハク副隊長、いいんですか!?」

 

「主語を付けろって言いたいけど、まあ意味は分かるわ。よう見とり、上忍同士の戦いなんて下忍がそう見れるもんやないで」

 

「まあ、そういうこった。お前らはタズナさんを守ってろ」

 

「ふん、舐められたモノだな……いいだろう、こちらも本気で行かせてもらおう。霧隠れの術!」

 

「霧になった!?」

 

「サクラ、忍びやったら一々オーバーにリアクション取るのやめや」

 

「うっ……」

 

「……コハク「副隊長や」……コハク副隊長」

 

「なんや?」

 

「あいつの目、あれは……」

 

「ああ、写輪眼やな。本物見るんは初めてか?」

 

「ああ……いや、一度だけ見たことがある」

 

(日常生活で使う機会は無いやろうし、見たとしたら一族皆殺し事件の時やろなあ。

 止めれたら良かったんやけど、流石に外にも出れん状態じゃ無理やったやろうな。ナルトの体借りてヒナタ助けた時とは訳がちがう)

 

「あの、写輪眼って何ですか?」

 

「三人とも瞳術は知っとるな?それの一種で、相手のチャクラの流れを見切る事で動きの予測から術のコピーまで色々出来る」

 

「へえ」

 

「血継限界の一つでな。サスケのとこのうちは一族の中でも一部の者にしか開眼せえへん強力な瞳術や」

 

「それを、カカシ先生が使えるんだってばよ?」

 

「理由は知らんけどな。いや、予測は付いとるが確証はあらへん。そこ自体は大した問題やないやろ」

 

「奴は、使いこなせるのか?」

 

「まあ、見とれば分かる――あかん、あかんなあ。そんな殺気撒き散らしてたら、丸わかりやで」

 

「ぐ、ぐう……」

 

―バシャッ―

 

「え、えっ!?」

 

「水分身……仕掛けられたのか」

 

「コハク、ほんとに手伝ってくれないんだな……」

 

「ナルトやったらあのぐらい反応出来たやろ?本体なら兎も角、分身程度じゃ相手にならん」

 

「そりゃ、そうだってばよ」

 

「ま、あれだけの殺気浴びた後ですぐ動けたんは上々や。落ち着いたら援護に行ってもええで」

 

「よっしゃ!」

 

「……チッ」

 

「速い……全然気づかなかった」

 

「まあ、下忍に気づかれるようじゃ生きて行けんやろ。ナルトは修業期間長かったからなあ。あとサスケ、一言ぐらい喋りいや」

 

「ふん」

 

「お前ら、人が戦ってんのによゆーだねえコラ」

 

「なんやカカシ、押されとるんか?だらしない。鍛錬サボっとるからやな」

 

「うぐっ、今そんな士気下げること言わなくてもいーでしょーに」

 

「それだけ余裕があるっちゅうことや。そもそも、上忍クラス二人に中忍クラス二人に下忍クラス二人。負けようがないで」

 

「お前は上忍クラスでくくっていい奴じゃないと思うけどね、俺は」

 

「お、おい大丈夫なのか?敵を前にそんな悠長な……」

 

「ああ、大丈夫ですよタズナさん。負けようがありませんさかい」

 

「――ずいぶんと舐めたことを言ってくれるな」

 

「言うてもザブザはん、カカシ程度に手こずってるようじゃボクには勝てませんで」

 

「ちょ、お前、程度ってなあ!?」

 

「いやー、普段からロクに鍛錬もしてへん上忍カッコワライの遅刻魔さんがなんか言うてる気がするけど気のせいやろか~」

 

「うぐ……お前、最近毒舌になってない?」

 

「いややわあ、他の上忍(真)の方にはちゃんと敬意はろうてますでー」

 

「……もう、いいよ」

 

「ふざけやがって。後悔させてやろう!」

 

「のわっ!?くっ、ちっ、ハァッ!」

 

「おー、体術もそこそこ出来るんやなあ。瞳術無かったらカカシより上ちゃう?」

 

「おま、さっきから、味方の士気下げるようなことを、言うな!」

 

「ちっ、まだふざける余裕があるか!」

 

「俺はふざけようとしてねえっつーの!」

 

「ふん、そこだ!」

 

「残念!取った!これで終わりだ!」

 

「終わりは貴様だ!水牢の術!」

 

「しまった!?右腕が!?」

 

(ち、捕りそこねたか!だが、一瞬でも時間が稼げればそれでいい!)

 

「貰ったァ!」

 

「させねえってばよ!」

 

「何っ!?」

 

「おー、ナルト参上、やな」

 

「へへ、俺達の事を忘れてもらっちゃ困るってばよ!さあ、行くぜ!多重影分身の術!」

 

「な、なんだとっ!?」

 

「おーおー、ナルトの奴張り切りおってからに。さっきまで足プルプル言わせとったとは思えへんなあ。流石主人公やな」

 

「う・ず・ま・き!ナルト連弾!」

 

「ちっ、ちょこざいなッ!」

 

「まだまだァッ!火遁、鳳仙花!」

 

「こいつ、火遁使いか!」

 

「其処だってばよ!風遁・風手裏剣!」

 

「何ィ!?」

 

「……おい、コハク」

 

「んー、なんや?」

 

「お前、ナルトは中忍クラスだと言ったな」

 

「せやなあ」

 

「……どこがだ」

 

「んー……経験、とか?」

 

「ぎ、疑問形なんですか?」

 

「いや実際手数の多さと戦術の広さで翻弄してるだけやからなあ。がっちり対策されれば素の実力はそんなもんやと思うで」

 

「……例えばだが、初見の敵相手ならどのぐらいの強さだ?」

 

「並の上忍やったらノセるんちゃう?」

 

「「…………」」

 

「これ、私達居る意味あるのかしら」

 

「カカシよりも強いんじゃないか、あいつ」

 

「お、お前らねえ」

 

「なんや、やっと抜けだしたんか」

 

「写輪眼の消耗が激しくてな。ここからはナルトを援護する」

 

「下忍の子供を前に出して後ろに隠れる上忍か。鬼畜やなあ」

 

「お前なァっ!?」

 

「コハク副隊長、それ、コハク副隊長もです」

 

「おお、ほんまや」

 

「……お前ら、守る相手が居るって忘れてねえだろうなオイ」

 

「いややわあ、頭の片隅っこにポツンと置いて有りますさかい、安心してください」

 

「よーし喧嘩売ってんだなコラ」

 

「コハク、そろそろ本格的に攻める。冗談はここまでだ」

 

「はいはい」

 

「ナルト、援護するz「カカシ先生!邪魔になるから下がっててくれってばよ!」…………」

 

「「「「ぷ、ぷっくくく」」」」

 

「四人して笑うなゴラァ!?」

 

「いやあ、確かに大量の影分身で連携してるとこに他人が混ざったら邪魔やわな、うん……くくく」

 

「そ、そうですよね。決してカカシ先生が弱いって言ってるんじゃ無いんですよね……ぷっ」

 

「フン、あのウスラトンカチの方が余程使えるという事だな……フッ」

 

「いやー、あの坊主すげえな。こりゃ確かに安心だ……ぷっ」

 

「旦那様旦那様~私吹き出すの我慢出来ました!」

 

「おお、ボクも出来ひんかった事をようやったなあ。えらいえらい」

 

「えへへぇ」

 

「いいなあ」

 

「……フン」

 

「(ピキッ)お前ら真面目にやれゴラァ!敵が目の前に居るんだぞ!分かってんのか!」

 

「いやいやカカシ、幾らボクでも戦闘中にわろうたりしまへんて。もう、終わってますさかい」

 

「……は?」

 

「わりい、コハク。逃げられたってばよ」

 

「ああ、あの包囲網突破して逃げるとは流石やけど、なんや根性無いなあ。

 まあ、上忍クラスの影分身に囲まれてガチバトル出来る奴もそうそうおらんやろうけど」

 

「な、お、お前勝ったのか?」

 

「いや、逃げられたってばよ。やっぱカカシ先生追い詰めただけあって戦い方が上手かったってばよ」

 

「そ、そうか……」

 

「素直にカカシ先生に援護してもらってりゃ捕まえれたかもしんねえのに……わりい」

 

「い、いや。今回の任務内容はあくまで護衛だ。守り切れたらそれでいい」

 

「カカシカカシ、ほんまに案山子みたいになってもうとるで」

 

「旦那様、その心は?」

 

「木偶の坊」

 

「「「ぷっ」」」

 

―ブチッ―

 

「お前ら其処になおれゴラァァァァァァッ!!」

 



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26話

 ただ、槌を振った。ただ、刃を振った。ただ、魂を振った。

声を捨てた。必要が無かったから。光を捨てた。必要が無かったから。

音を捨てた。必要が無かったから。味を捨てた。必要が無かったから。

匂いを捨てた。必要が無かったから。感覚も右掌を残し捨てた。必要がなかったから。

そして、名前を捨てた。必要が無かったから。

 

 最果てが見たかった。己が何処まで至れるのか。己は何処に至るのか。

他の何にも興味は無かった。されど知識だけは集めた。必要だったから。

あらゆる知識を。あらゆる経験を。全ては唯一つ、最果てを見るために。

 

 東の業物を振った。西の名工を訪ねた。北の英傑を斬った。南の悪鬼を裂いた。

しかし一つとして彼を満たすモノは無かった。彼と共に来れるモノは無かった。

ある時、一つの刀と出会う。銘は無い。素材は只の鉄。刃がこぼれ、芯は砕けていた。

何の変哲もない、何処にでも在るナマクラだった。だから、彼はそれを選んだ。

名など要らない。必要が無いから。他者の色が付けられた刃など要らないから。

 

 溶かし、打ちなおした。稚拙だった。何も斬らず、一振りで折れてしまった。

溶かし、打ちなおした。二振りで折れた。溶かし、打ちなおした。三振りで折れた。

溶かし、打ちなおした。四振りで折れた。溶かし、打ちなおした。五振りで折れた。

六振りで折れた。七振りで折れた。八。九。十。十一。十二。十三。十四。十五。

溶かし、打ちなおした。溶かした。溶かした。溶かした。打った。打った。打った。

 

 初めて、ナニカを斬った。ただのわらくずだった。紐で括っただけの塊だった。

ワラを斬った。紙を斬った。木片を。動物を。人を。悪鬼を。只々斬った。

脆かった。頑丈だった。柔らかかった。硬かった。あるいは強靭だった。

折れた。溶かした。打った。斬った。折れた。溶かした。打った。斬った。

 

 気づけば、至っていた。いつか目指した最果てに。

何度も溶かし、何度も打ち、何度も斬り、何度も折れた"友"と共に。

自分の血を吸い。誰かの血を吸い。自分の命を喰らい。誰かの魂を喰らい。

それでも、それは妖刀と言われる類のものでは無かった。

知っていたから。その刀は知っていた。"そんなもの"になる必要は無いという事を。

主が望むのは、ただ一振りの刀であった。刀である事以外、何も要らなかった。

 

 人智を超えた。才能が有った。努力をした。研鑽を重ねた。

最果てに辿り着いた時、ふと振り返った。あらゆる過程が其処にあった。

武を持つ者が辿るべき、最果てにたどり着くただ唯一。一本の道筋が其処にあった。

再び前を向いた。最果てがそこにはあった。しかし自分は最果てを見ていた。

そう、最果てに居るのでは無かった。最果ての目の前に居た。

 

 悩みは無かった。葛藤は無かった。苦心は無かった。

知っていた。あるいは気付いていた。今のままでは、ここが限界だと。

知っていた。あるいは気付いていた。たった一つの事で、一歩前に踏み出すと。

知っていた。あるいは気付いていた。自分の鍛冶は精々一流止まりだと。

知っていた。あるいは気付いていた。だから、最後の一歩には代償が必要だと。

 

 迷いは、無かった。何度も打ちなおした友の刃で、己の左腕を斬り落とした。

肩口から、腕一本。それを再び溶かした友と共に、炉にくべた。

打った。片腕で打った。いつもよりも打った。限界を超えても打った。

自分はもう果てへと至っていたから。ならばこれを打ち尽くせば、最果てへと至る。

もう刃を振るう必要は無かった。確かめる必要も無かった。確信があった。

 

 名を無くした剣士にして名工。銘無き名刀。

あらゆる全てを振り切って最後まで振りきった彼らは、最果てへと至った。

 

 

 

 

 

▼Data

【CLASS】バーサーカー、アサシン、ネームレスなど

【マスター】

【真名】―

【性別】男性

【身長・体重】180cm・70kg

【属性】中立・中庸

【性格】温和

【特徴】無口

【特技】剣術、鍛冶

【好き】のんびりする事、刀の手入れ

【苦手】人と接する事

 

▼Status

・クラス:バーサーカー

 筋力B+ 魔力D+

 耐久B+ 幸運B

 敏捷A+ 宝具C

 

▼ClassSkill

【狂化】D

 筋力と耐久のパラメータをランクアップさせる。

 思考能力は失っていない代わりに右掌以外の五感を失っている。

 それ以外では一切のペナルティ無し。

 

▼InherentSkill

【五感喪失】A

 バーサーカーとして喚ばれた最たる理由であり、

 英霊化によって取り戻した筈の五感は狂化により再び喪われている。

 声は取り戻したまま、名前は既に取り戻す気が無いようである。

 その結果、右掌以外の一切の五感が機能していない。

 

【最果て:斬る】EX

 何らかの形で人の身の限界、最果てと呼ばれる根源の一つへと至った証。

 彼は最果てへ至り見るだけでなく、最果てに立った最果ての人間。

 ただ斬るという事に於いて、彼は神をも凌ぐ絶対性を有する。

 扱えるという次元ではなく、彼そのものが"斬る"という概念の体現である。

 完全な到達点である最果てに至った彼の技術と肉体は、

 どれほどの時を経ても決して衰えず錆びつくことが無い。

 

【心覚】A

 無くした五感の代わりに手に入れた唯一絶対の感覚。

 五感に頼らずあらゆる情報を本来の五感以上に高度に知覚する事が出来る。

 五感への干渉が意味を成さない他、狂化のデメリットをも打ち消している。

 

【無銘】A

 自身を表すあらゆる符号を喪った形。

 真名を持たず、真名を前提とするあらゆる効力の対象とならない。

 

【明鏡止水】A

 ただひたすら脇目もふらず人生を刀に費やした末に至った境地の一つ。

 同ランク以下の精神干渉及び精神的制約を無効化し、

 効力がAランクを超えない精神的制約は無視して行動する事が出来る。

 

▼Artifact

『不錆刀―無銘―』

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

 何度も溶かされ何度も打ち直され何度も斬り何度も折れた無銘の名刀。

 刃渡りおよそ二尺の小太刀で飾り気は無くしかし圧倒的な存在感と気を放つ。

 ただ主人が求める"刀"という存在たろうとする何よりの忠臣であり戦友。

 主人の片腕を溶かし混ぜられており、常時は左腕に変化している。

 非常に希薄ながら意思を持ち強靭な魂を持つものの、"妖刀ではない"。

 あらゆる一切によって折れず、曲がらず、錆びつかぬだけのただの刀。

 持ち主も無銘自身も、銘無き"ただの刀"である事を望んでいるようだ。

 

『数打ち―無銘―』

ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

 何度も打ち直された無銘の一つ一つの姿。

 短刀から野太刀まで刀であればどのような姿でも取れる。

 その性質は投影に近く複数の無銘を同時に顕現させる事が可能。 

 完成した無銘のような破壊耐性は無いものの、

 投影同様一度破壊されても再び同じものを取り出す事ができる。

 ランクは低いが両手を用いて戦闘を行う事が出来るのが利点。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一話「ネームレス」

 

 

 

 

 

――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

  降り立つ風には壁を。

  四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

  閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する

 

――――告げる。

 

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

  誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

  されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

  汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 

――じめじめとした場所だ。

 

 最初に思ったのはそれだった。どうやら隠れ家の地下室らしい。

気の流れは淀み、陰鬱とした雰囲気が漂っている。

家主の性質か、少々の気持ち悪さも感じられるのが不快だ。

退魔の剣士としては早々に切り捨ててしまいたいが、もう少しは我慢しよう。

 

「良し、成功だ……」

 

 目の前には男が一人。何やら随分と憔悴しているようである。

自分はどうやらこの男に召喚されたようだ。召喚理由は聖杯戦争への参加。

自分の知識の中に見慣れぬものがあったので、恐らく必要な知識を与えられたのだな。

そんな事を思いつつ自分の意識に混乱がないか確かめる。

 

 俺が喚ばれたのは――俺?ああ、精神もそれなりに若返っているのか。

いや、これは座とか言う所に居た時と同じだな。肉体も全盛期のものだ。

結局座に行けば"彼女"に会えるかと思ったが――居なかったな。

 

 ともあれ、現状の確認だ。俺が召喚された理由は前述の通り聖杯戦争への参加。

7人のマスターが七種類のクラスに対応した英雄の魂を召喚し、

それを使役し戦い合わせる事によって聖杯という万能の願望器を奪い合う。

最後の一人になった時聖杯は覚醒しあらゆる願いが叶う、と。

マスターとは別にどこかから魔力らしきものが供給されているようだ。

これが例の聖杯か、それに関連するシステムなのだろう。

 

――随分気持ち悪い気だ。聖杯の製作者の趣味は余りよろしく無いらしい。

 

「ハァ、ハァ……ああ、喋れないんだったな。俺は――」

 

 随分憔悴した様子の男が声をかけてくる。

俺が召喚されたバーサーカーというクラスは確かに、

【狂化】と呼ばれるクラス固有のスキルが与えられる。

思考力を奪われる類の呪いのようで、俺も座に至り戻った五感を再び失っている。

 しかしなぜか声も思考能力も失していない。

どうやら思考能力の代わりに五感を奪われたようだ。

元々俺は声と名前と五感を捨てていた。名前は座に至っても"無くした"まま。

それが【狂化】の影響で声以外生前の状態に戻ったという事か。

 

――まあ、五感に頼らずあらゆる知覚を行える俺には関係無いのだが。

 

 声も問題なく出せるようだ。これなら意思疎通の問題も無い。

しかし大丈夫だろうか?浮世離れして久しく、ヒトとの会話など何年ぶりか。

そもそもロクに使って来なかった言語をまともに扱える自信も無く。

 その上ここは異邦の地のようである。

それも国の違い程度では済まないレベルの。

多少の異邦人やイレギュラーなど"座"にとっては些細なことか。

だがただでさえ不慣れな意思疎通で異文化交流を行えと?無茶を言う。

頭の中では色々考える事もあるが、口に出した経験など殆ど無いのだぞ。

 まあ、文句を言っても仕方ない。目的を果たすためにも協力する必要がある。

ならば多少の不満や意思疎通の不足などどうとでもするしかない。

とりあえず会話が出来ないと思っている彼に何か言葉をかけよう。

とりあえずは契約の確認を行う言葉でも口にしておけばハズレは無いだろう。

 

「――お前が俺のマスターか」

 

「な……に……?」

 

――うん?何か失敗しただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、驚いたな。道理で予想より負荷が軽いと思った」

 

 うむ、やはりあれで問題なかったようである。

驚き狼狽える彼を落ち着かせなぜ動揺していたのかを聞いてみた所、

【狂化】による意思疎通の阻害が無かったため召喚に失敗したかと思ったらしい。

確かに成功していれば出来るはずの無い意思疎通が出来れば焦りもするだろう。

 取り敢えず、隠す必要も無いため説明も兼ね自分の能力その他を彼に公開した。

マスターにはサーヴァントの能力を確認するスキル――【凝視】とでも言おうか。

ともかくそれが与えられる。サーヴァント側が許可しなければ、

6種類の能力値を表したステータスぐらいしか見れないので、許可を出したのだ。

 

 結果、随分と驚かれたようである。それもそうだろう。

元々バーサーカーは弱い英霊を強化し召喚するためのクラスだ。

その割に私のステータスやスキルのランクは中々高いようだし、

そうでなくても【狂化】のデメリットが殆ど無効化されていて、

筋力と耐久のランクをアップするというメリットだけが残っているのだから。

 【狂化】のランクが高ければ声や思考能力にも影響が出ていたのだろうが、

ランクが低いためこの程度のメリットとデメリットで収まっているようである。

 銘を持たないことと異邦の地であることから知名度補正とかいうのもゼロだ。

それは自分の力に【狂化】によるもの以上の違和感を感じない事からも確か。

一切の能力増幅無しで前述のステータスだった事に驚かれたが、

逆に神話級の連中のようにランクを落として召喚されたわけでもないのだ。

イレギュラーとして考えればむしろまともな方では無いだろうか。

 

 ともあれ彼が心配していたらしいバーサーカーを使役する際のマスターへの負荷も、

【狂化】のランクが低い事と俺の宝具が能力開放型で無いためかなり低い。

この分なら負荷をかけて彼を死なせてしまうという心配も無いだろう。

斬るというのは俺の技術とか存在そのものが持つ力のようなもので、

宝具はただ振るうだけの武器であるので負荷をかける事は無い。

 

「だけど、これだけのステータスとスキルでデメリット無しは心強い」

 

 そう言ってほっとしたような頼もしいような感情の笑顔を浮かべる彼。

何やら他に心配事か心労でもあったのか、少し肩の荷が降りた様子だ。

こうして接していても真面目で努力家、信念と正義感を持った良い人物だ。

俺としてもこのような人物相手であれば協力し共に戦う事に否は無い。

 

――無い、が。

 

「――少し、いいか」

 

「うん?なんだいバーサーカー」

 

 俺の友好的な意思を察してか向こうも警戒心は薄いようだが、

それとは別に俺はどうしようもない気持ち悪さを感じている。

それは暫く彼と接する事でかなり明瞭になってきた。

彼自身がどうのこうのではなく、彼の中に何か気持ち悪いものがある。

しかもどうやらその気持ち悪いものはこちらを観察しているようだ。

 

 彼に俺の感じた事を伝えると、何か心当たりがあるのか沈痛な表情をした。

それは彼自身の事でもあるようだが、それ以上に他の誰かへのもの。

恐らく気持ち悪さの原因か、彼同様気持ち悪いものを植え付けられた者か、

あるいはその両方のいずれかに心当たりがあるのだろう。

そして、どうやら彼はそのことに心を痛めているようである。

 

――これは、いけない。

 

 なにせ彼とは運命共同体だ。俺には俺の目的があってここに居る。

その目的のためには是非とも聖杯は手に入れたいもので、それは彼も同様。

彼の話曰くマスターとサーヴァントで聖杯を取り合う必要は無いようで、

つまり障害となるのは他のマスターとサーヴァントのみ。

 だが、そこに別の障害があるとしたら。

初めて会った人間にも分かるほどの憎しみと憐憫と無力感。

それを感じるほどの何かが彼にあるのだとしたら、これは由々しき事態である。

 

――ならば、斬るしか無いだろう。

 

 そうだ、斬ろう。斬るべきだ。斬ることになんの異存も有りはしない。

其処に理由が有り目的が有り術が有る。ならば躊躇う必要は無い。

 

「バーサーカー?」

 

 黙りこんだ俺に向かい彼が訝しげな声をかけるのを無視し、自分の左手首を掴む。

千分の一にも満たないごく一瞬で、左腕が変化する。

切り離された肩口の傷跡は塞がって久しく、

腕は捻じれ潰れていき何の変哲もない一振りの刀へと変わる。

何度も何度も打ち直し、そして共に至った最高の戦友(とも)

錆びず、折れず、曲がらぬ、銘無き一振りの小太刀。

 

「バーサーカー!?」

 

「――信じろ」

 

 一瞬で獲物を手にした俺に驚いたのか彼が声を上げるが、

そんな彼に対し俺は一言だけ声をかける。

不器用で斬る以外の対人経験が乏しい俺にはこのぐらいしか出来ない。

今俺が持つ全ての感情を言葉と共に吐き出すと、

彼は信用したのかそれとも気圧されたのか黙りこくる。

そして俺は感情を全て吐き出した無色の心で、ただ一念を想う。

 

――斬る。

 

 

 

 しゃらん。耳慣れない、しかし決して不快ではない音が辺りに響く。

幻聴のように幻想的なそれは、神秘的でそして言葉に出来ないほど美しい音色。

気がつけば、"斬られていた"。何が起こったのかなど分かろう筈もない。

音よりも速く、ともすれば光よりも速いかもしれない速度で。

しかし何の余波も立てずそよ風一つ起こさず振るわれた刃。

あり得ない現象だ。物理法則を無視している。しかし、疑問や違和感は無かった。

 分かったのだ。例え五感で捕らえられずとも、彼が何をしたのかは分かった。

"斬った"。ただそれだけの当たり前の事。当たり前だと思う程違和感無く理解させられた。

斬ったのだ。彼が斬ると想ったただ一つを。だから、それ以外は斬られない。

空気も、音も、血肉も、何一つ余分なモノは斬らず唯一つ斬りたいだけを斬る。

 それは、まさに神業だった。思わず称賛したくなって、しかしその言葉すら出てこない。

至れるのだ。至ったのだ。至ってしまっているのだ。彼は。ヒトは。ここまで。

根源とか、そういう類のものなのだろうと漠然と思う。

それはまさしく彼が言っていた最果て。ヒトが至ることの出来る最終点。完全な完結。

あまりの、あまりのことに声も出ない。ヒトは、ここまで至れるのかと感動すら覚える。

だから、気がつけばただ一言声を出していた。

 

「――美事(みごと)

 

 それが、まさに美事な彼の剣に対し贈れたただ一つの称賛だった。

彼はその言葉を聞き、感情表現の乏しい顔の口元に、ふっと小さな笑みを浮かべた。

満足気な、笑み。確かに"斬った"と宣言するかのような、笑み。

それを見て、誇らしかった。彼に斬られたことが。彼の剣技を見れたことが。

武術の心得など何一つ無いけれど、それでも彼の剣は本当に――美事だと、そう想った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あああ……」

 

 ようやく我を取り戻した彼に何を斬ったのかと聞かれたので、

お前の中に居た気持ち悪いもの――それを繋がっていた糸を辿り大本から斬ったと伝えた。

ただ一心に刀と鎚を振っていた俺ではあるが、これでも元は退魔の剣士だ。

いや、既に名も捨てた俺には関係ないことなのだが、技術として確かに持っているのだ。

対魔力スキルだとか退魔術などという洒落たモノは使えないが、

もとよりこの刃は魔を断つという所に依って鍛えられたもの。

 そして、俺は斬りたいものだけを斬る。他のものも同時に斬るなど無駄でしか無いのだから。

ただ斬るという一念をもって狙いすましたただ一つを斬る。

それだけを想い刀を振り続けて来た俺だ。

魔術的なものか霊的なものかは知らないが、しっかりと糸が繋がっているのだ。

ならばその大本も、糸で繋がる分体も、全て纏めて"斬る"。

 知ってはいるがそれでも錆びず衰えぬ自分の腕に満足して一つ頷き、

気持ち悪さが消えた事でどうやら障害の排除にも成功した事に喜ぶ。

 斬ったことで魔力供給が大分減ってしまったが、

聖杯からの供給と食事を行うなどすれば特に問題なく維持は可能だろう。

戦闘ではそもそも魔力を使うこと自体が皆無なので心配する必要も無い。

これで何の心配も無く戦いに専念出来ると思い彼の方を見る。

 

――泣いていた。それはもう盛大な男泣きだった。

 

 先ほどから聞こえていた嗚咽が感動と喜びと安堵のそれである事に一つ頷き、

光なき目の瞼を閉じ心の目と耳を閉じた。漢が泣いているのだ。無粋な真似はすまい。

 

 

 

 そうして、幾らかの時が経った。

着物の懐から取り出した道具を持ち、斬ってくれた友の手入れをする事しばし。

ようやく我を取り戻したらしい彼が土下座でもせん勢いで礼を言って来たのに対し、

斬ったものに気持ち悪い程度の感慨と認識しか無かった俺は一つ頷いて礼を受け取るだけ。

正直彼がなぜ泣いていたのか、あの気持ち悪いものが何だったのかはわからない。

だがまあ先に確認したい事があるようなので、そちらを優先させてやるとしよう。

話している間も早く確かめに行きたいのか随分とそわそわとしている。

そうしていざ行かんと立ち上がって、彼がすっかり忘れていたというように言葉を紡いだ。

 

「俺の名前は間桐(まとう)雁夜(かりや)。雁夜と呼んでくれ」

 

「――俺に銘は無い。無銘、あるいはネームレス、好きに呼べ」

 

「じゃあクラスをネームレスで名を無銘と。ありがとう、そしてよろしく頼む、無銘」

 

「応」

 

 

 

 

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Skill Earth Online (オリジナル VRMMO)
Save:001.「ごくありふれたプロローグ」


この設定には
・オリジナル設定&ストーリー
・チート&俺TUEEE
・VRMMO→現実異世界トリップ
・ハーレムまっしぐら
などの要素が含まれます。ご注意下さい。





 

「おいおいおい、冗談だろ?」

 

 

 

 

 

―Save:001.「ごくありふれたプロローグ」―

 

 

 

 

 

 

 思わずぽつりと呟いてしまった。周囲を見渡せば鬱蒼と生い茂る木々に囲まれ、背後には非常に綺麗な泉らしきものがある。

足元に目を落とせば首を両断され血を垂れ流す一体の狼。霧散するような様子もなく、血の匂いを漂わせて倒れ伏している。

目線を前に上げれば青白い半透明の板が浮かんでおり、さながらSFモノに出てくるホログラム式のディスプレイのようだ。

そのディスプレイに表示されているのは今の俺の全身像とステータス。名前欄にはヒュージ=マハダランと書かれている。

装備はいかにもファンタジーチックな初心者装備といった装いであり、しかし剣だけはひと目で分かる程に明らかな大業物。

髪は日本人らしい黒髪を短髪に刈りあげており、瞳も特にオッドアイとかいう事もなく普通に黒。

顔の造形は元の顔と別人に見える程度に調整してはいるものの、イケメンかと聞かれたら大概の人は微妙と答えるだろう。

その他状態異常に掛かっているわけでも特殊な能力が発動状態なわけでもなく、ごくごく普通の初心者冒険者に見える。

 

 勿論この世界に存在する大多数のヒト達からすれば、俺の今の格好は概ねごく当たり前のものとして受け入れられる筈だ。

俺だってこういった格好は既に見慣れたものでもあるし、以前はこのような初々しい装いに身を包んでいた事もある。

当時ある意味で新米冒険者だった俺はそりゃあもう楽しげな雰囲気をまき散らしながら街中を闊歩していたし、

勢い勇んで街の外に出た直後にモンスターと出会って必死の思いでぬっ殺したのも記憶に残っている。

そもそも今この状況になる直前まで今に似たファンタジーな格好をしていたのだから何を戸惑う事がある、といった所だ。

 

「それはいい…いや良くないけどいい。けどこの状況はあまりにも…」

 

 何が問題なのか?簡単なことである。今感じているこの状況が、余りにもリアル過ぎるのである。

耳に届く木々の葉音。吹き抜ける風の爽やかさ。葉が舞い落ちた水面の揺らめき。足元から漂う血の匂い。

狼を斬った感触は生々しく、浴びた血は生暖かい。慌てて泉で顔を洗った時の水の感触のなんとリアルな事か。

うん?それのどこが問題なのか…って?うん、コレ以上引っ張ってもくどいだけだろうから結論から言わせてもらおう。

 

「俺、異世界トリップしたんだ…」

 

 と、いう事である。現状を整理しよう。まず俺はつい先程まで有名なVRMMORPGをプレイしていた。

VR――所謂ヴァーチャル・リアリティ。仮想現実と呼ばれるそれは、まるで現実のように五感で感じる電脳世界だ。

一昔前まではネットやゲームというものはパソコンの画面に向かって背を丸めながらプレイするものだった。

しかし数十年前に『ヴァーチャル・ギア』と呼ばれるものが開発・普及されたことでその常識は一転する。

頭部に装着するヘッドマウントディスプレイ式のそれは目に映像を投影し耳に音を届けるだけという極簡単なものだった。

それでも見た目と音にはかなりリアルな立体感を伴った実感を得られたし、当時はえらく話題になったらしい。

それ以降嗅覚・触覚・味覚にも刺激を加える事で擬似的にそれらの感覚を味わえるようになっていった。

だがそれらはあくまで五感に刺激を与えるだけものであったし、ゲーム外の感覚もそのままなので変な違和感があった。

 

 そんな中、ネットとゲームにおいてまたもや革命的とも言える出来事が起きる。

10年ほど前に感覚没入型のVRマシン――『ダイブ・ギア』と呼ばれるものが開発されたのだ。

これは従来の五感に刺激を与える方式とは違い、首元の脊髄神経から直接脳と信号をやり取りするものである。

これによって仮想空間でのリアルな生活というものが出来るようになった。一昔前に夢想されていたVRそのままの世界である。

当然この機器の発売に合わせて様々な仮想空間が作られ、所謂現実の街を再現したコミュニティタイプのものから、

ゲームの世界観を仮想空間によって再現したVRMMOまで様々なものが作られた。

当然俺もそのプレイヤーの一人であったし、VRMMOに関しては割りと知り尽くしていたと言っても過言ではない。

そのシステムの複雑さと製作の難易度から年に発表されるVRMMOの数は少なかったし、

大手以外の中小ゲーム企業は共同制作というスタイルを取ることも多かった。

良作と呼ばれるものは殆どプレイしていたし、そこそこ課金もしていて大概中堅以上の実力を保っていたのだ。

今俺が居るこの世界もそれらのゲームの中の一つ。俺が最ものめり込んでいたマイフェイバリットゲーム。

 

「『Skill Earth Online』の世界…なんだよな?」

 

 通称SEOと呼ばれていたゲームである。このゲームは俺がプレイした中でも一番面白かったと自信を持って言える。

まずその理由の一つに異常なまでのリアルさがあるだろう。そもそも、旧来のVRのリアルさは中途半端であった。

それはサーバーの処理能力の限界という考えてみれば当然の部分から来るものである。

何せ一昔前のネットゲームは場合によってはちょっとサーバーが混雑しただけでダウンしていたらしい。

幾ら半世紀近い時間が経ったとはいえ、人間が感じうる一つ一つを丁寧に再現する処理能力など有りはしない。

だから旧来のVRはチープなものであったし、それは所詮は仮想現実として当然のものとして認識されていた。

 

 だがそんな中、革命的な技術を利用したゲームが現れた。その技術は所謂量子コンピュータと呼ばれるものだ。

半世紀ほど前には雛形が完成し、技術者達の日進月歩の努力によって完成するに至ったそれ。

発表当初はただの計算機としての機能しか無かったが、旧来の半導体PCと同様に数十年で進化を遂げ、

つい数年前に企業向けの超高価な量子コンピュータが発売されたのだ。民間向けはもう少しかかるらしい。

しかし流石に高性能とはいえ高価なため売上が伸び悩み、開発企業が考えた策がVRの処理を量子コンピュータで行う事。

結果幾つかのVR関連企業やゲーム企業と提携し、1つのVRコミュニティと2つのVRゲームの開発に着手。

結局2つのゲームの内片方は途中で開発が頓挫したものの、残りの2つは無事に完成。

こうして世に生み出されたのが、『Skill Earth Online』である。

 

 さて、今回は説明に終始すると思うのだが流石に長々と説明ばかりでお疲れだろう。水でも飲んで一休みしてくれ。

それが済んだら続きを語らせてもらおう。今度は『Skill Earth Online』というゲームについてである。

 

「最初にプレイした時は驚いたなあ」

 

 そも、このゲームの最大のウリは何かと聞かれれば当然その現実感(リアリティ)にある。

旧来のVRの再現度はせいぜい視覚と聴覚が70点、触覚が50点でそれ以外が30点、といった程度だった。

それは意図的に除かれていた部分も含めた処理能力の限界によるものだったのだが、このゲームは違う。

あらゆるモノがつるつるとした触り心地だった旧来の触覚と違いそれぞれの質感をはっきりと感じられる。

ただBGMや効果音と申し訳程度の環境音だった旧来の聴覚とは違い雑多な雑音まで再現したその細やかさ。

目に美しい景色はどこかスクリーン染みていた旧来とは全く違ったし、味覚や嗅覚の再現性は驚愕の一言に尽きる。

何よりそれら一つ一つを再現していった制作陣の努力と根性には惜しみない賞賛と喝采を送ってしかるべきであろう。

 

「俺なら3日で折れる自信あるわ。うん」

 

 まあ兎も角、それまでには考えられないような再現性でオール90点台をマークしたと言っても過言ではない。

流石に完全に現実と同じにするのは処理能力とかそういう部分とはまた別の問題で不可能であったし、

そもそも一部エリアを除き全年齢向けゲームということでわざと再現されていなかった部分も多い。

18禁エリアに喜び勇んで突入した夜は「ガチで3次元の女なんて要らなくね?」と割りと本気で思ってしまった事もある。

ビニール一枚挟んだような違和感があるとはいえ、それでも今まででは考えられない程リアルなそれは非常に注目を集めた。

だがそれだけではここまで…世界のゲーム人口の3分の1を集めたとまで言われる程の人気は出なかっただろう。

 

「このゲーム、ゲームとしても無茶苦茶に出来が良かったんだよな」

 

 元々有名なゲーム企業やVR企業がそれまでに得たノウハウを持ち寄って作られたというのもあるし、

旧来のMMOの経験者達から様々な意見や要望を集めてα版の段階から試行錯誤を繰り返していたらしい。

俺のようにクローズドβ(正式発表前に参加者を募って抽選を行い、当選した人達によってテストプレイを行う事)

に当選した幸運な参加者はその高いリアリティとクオリティに狂喜し、ネットでも一気に話題になった。

結果オープンβ(参加者数を制限しないテストプレイ)では異例の数の参加者が集まることとなる。

正式サービス開始時にはテストプレイ特典を除き殆どのデータはリセットされるという前提だったのだが、

そんな事知るかと言わんばかりに集まった参加者の数に運営が憤死したとかいう噂まで流れる始末。

兎も角ゲームとしても非常に良い出来だったため、俺の中で堂々の第一位に位置するゲームである。

 

 ストーリーはありがちな王道ファンタジー。取っ付きやすさとロールプレイのしやすさを考慮したというそれは、

確かに子供でも理解出来る一本筋の通った王道ファンタジーモノであった。

世界に魔王が現れ、しかし勇者は現れず、それに冒険者(プレイヤー)達が力を合わせて立ち向かうというもの。

単純にストーリーを楽しむだけなら子供でも理解出来るようなものではあるが、

しかしサブクエストやサブイベント、クリア後の裏ダンジョンやそれにまつわるイベントとストーリー。

玄人向けに用意されたそれらはありがちな物語を一気に奥深くしてくれるようなものばかりであった。

メインを分かりやすくして周囲を掘り下げ、想像の余地もあえて残す事で奥深さを表現する、というもの。

王道という一本道に複雑に絡む無数のそれらの中にはミステリーチックなものまであったりした。

王の腹心が魔物に摩り替わるという王道イベントの裏に潜む謎にサブイベントをこなす事で気づいた時は凄く感心したし、

それが更に後々起きるサブイベントから始まるミステリーの鍵になった時などは鳥肌が立った。

そういう王道が逸れることで得られる面白さというのが多く用意されていた、というのがこのゲームの特徴でもある。

 

 とまあ、ストーリー面ではこの通り。世界観もそれに沿ったシンプルなもので、

人間・エルフ・ドワーフ・獣人・亜人・魔人などの種族が入り乱れる世界観や、

いかにもファンタジーなイメージを崩さないように配慮しつつも現代の利便性を失わない細やかさ。

その一つ一つに感心し、あるいは感動したことは未だによく覚えている。

よくもまあここまできっちりやれるものだと少し呆れすら感じたほどだ。

 

「ストーリーや世界観だけじゃなくシステムも凄く俺好みだったしね」

 

 このゲームの売り文句の一つに、『無限の可能性』というものがある。比喩では無く本当に無限なのだ。

まず、このゲームにはプレイヤー自身のレベルやステータスというものが無い。

ステータスに関してはマスクデータであり存在自体はしているらしいのだが、まあ見れないなら無いも同じだ。

唯一プレイヤーが確認できるのはいわゆるスキルとそのレベル。

しかもスキルは把握し切れない程無数にあり、そのレベルに上限は無い。

システム的に存在はするのだろうが、余りにその上限が高すぎて辿り着いた者が居ないのだ。

『Skill Earth Online』と名付けられた所以である。

 

 このスキルの数がまたとんでもない。何せゲーム内のあらゆる事がこのスキルで示されるのだ。

初期のプレイヤーは《生命力Lv1》、《体力Lv1》、《魔力Lv1》、《筋力Lv1》、《耐久Lv1》、

《知力Lv1》、《精神力Lv1》、《敏捷Lv1》、《運気Lv1》という9つのスキルを有している。

これがステータスの代わりであり、それぞれ関連する行動を取って成長させる事で強くなるのだ。

だからキャラとしてのレベルは無いし、人によっては物凄い偏ったステータスになったりもする。

《知力Lv10》で《筋力Lv120》の奴を見た時はどんな脳筋だと思わず突っ込んでしまった憶えがある。

普通なら魔法使うなり頭使うなり関連クエストクリアなりでもっと上がる筈である。

 

 ともかく、このゲームではあらゆる能力がスキルとして表示される。武器に付与された効果も武器スキルとして扱われる。

自身の能力だけでなく状態異常ですら状態異常スキルとして扱われるのだ。

基本的に耐性スキルならスキルレベルの半分まで無効化になりそれ以上のレベルは半減されてスキルレベル以上は素通り、

無効系ならスキルレベルまで無効にされてそれ以上が半減されるという感じの効果になっている。

《毒耐性Lv20》持ちなら《毒状態Lv5》は無効になるが《毒状態Lv15》は半減となり、《毒状態Lv25》は素通りといった具合。

そしてスキルの大半は《炎耐性》→《炎無効》→《炎反射》といった感じで派生していく。

スキルの習得には一定のスキルレベルに達するかクエストやイベントをクリアするかアイテムを使用するという方法があり、

基本的に派生しないスキルは無いと言われるほど殆どのスキルは何らかの形で派生していく。

しかも公式で採用するスキルを募集していた事やデザイナーが面白がってどんどん追加していった事もあり、

最終的には運営ですら把握しきれてないんじゃないかと言われるほど膨大な数のスキルが生まれることとなった。

 

「結局最終的に見つかったスキルの数は8277個だったか。運営曰くまだまだだね、とのことらしいけど。マジか?」

 

 本当だとしたらとんでも無い量である。そら伝説(レジェンド)級を超える化物級とか言われる奴が現れるわけである。

ちょっと説明すると、このゲームには所謂強さを具体的に表すためのランクというものが設けられている。

レベルという分かりやすい評価指針の無い事に対する対策のようなものだ。

『初級』、『基本下級』、『基本中級』、『基本上級』、『一流級』、『超一流級』、

『豪傑級』、『英雄級』、『無双級』、『伝説級』の計10段階である。

同ランクでもピンキリだったりするので、プレイヤーの間では更にそれぞれに上位・中位・下位と付けて呼称する事が多い。

これらのランクは特定のクエストをクリアするか月に一回の大規模イベントで相応の活躍をする事で得られる。

武器の装備条件にもなっていたりして、そこから武器も便宜的に前述のランクで呼ばれていたりした。

伝説級ともなればゲーム中最高峰クラスに値するほどなのだが、それでも人数が増えてくると更に上が現れる。

自分の得意分野に関するスキルを片っ端から習得して無数に重複させ、さらにその須らくを数百Lvまで上げる。

場合によっては1000超えという、もはや偉業も苦行も通り越して地獄の域の努力が必要になるだろう次元に達する者も居る。

限界自体は無いが成長速度は徐々に下がっていくもので、500を超えたら上がらないと思った方が良いと言われる程だ。

そういう頭のネジが2、3本飛んだようなおかしな連中はプレイヤー達から『化物級』と呼ばれたのだ。

大規模PvPイベントでコイツらが出てきたら諦めてログアウトしろと言われる程の化け物どもである。

 

「流石にあれはネーワ。強すぎワロタ」

 

 俺がマスターをやっていたクラン(大人数のプレイヤーが集まって作るコミュニティ)にも、

2人の伝説級と1人の化物級が居た。俺も同類だとか言われてたけど一緒にされたくはない。

伝説級の6人パーティ相手に一人で互角の戦闘をするような奴と一緒にせんで欲しいものだ。

流石に最後は人数に押し切られて負けていたが、宝具級の使用を許可していたらひょっとすると勝ってたんじゃなかろうか。

 

 宝具(アーティファクト)級。限られた人間というか言ってしまうと俺にしか作れないアイテムである。

元々一部のイベント品を抜いて英雄級以上の武具やアイテムというのはプレイヤーが作るしかない。

勿論作るには同ランククラスの作成系スキルが必要になるわけで、伝説級などは法外な値段で取り引きされていた。

しかしまあ、中にはそういうモノすら上回るモノを作れる奴が出てくるわけで。

そもそもこのゲームはスキルに上限が無い上、作れる武具は自由自在だ。

まず材料の種類によって絞りこまれた外見を選択し、長さなどを設定。

そしてそれの持つ実際の能力は素材の質とスキルレベルに左右されるのだ。

つまり、外見剣で性能杖とか、大剣なのに短剣スキル使えるとか、そういう詐欺アイテムも作成可能。

貧相なひのきの棒が豪傑級とかどういう冗談だと突っ込んだ記憶がある。

素材がしょぼいので伝説級のスキルレベルをもってしてもその辺が限界だったらしいが。

元々がひのきの棒なため所持制限が異様に低くて余計にタチが悪かった。

 

「で、気がついたら宝具(アーティファクト)級とかいう呼び名が付いてたんだよなあ」

 

 ウチのクランの伝説級や化物級が集めてきた素材を引き取り、延々と繰り返した作成系スキルによって作成。

そうして生まれた武具やらアイテムやらは尋常ではない能力を有する事となった。

攻撃力と耐久値は他の追随を許さず、更には概念レベルの異常な能力の付与。

オマケに所持者の強化やら回復やら余ったキャパに詰め込めるだけ詰め込んだそれはまさに『宝具(アーティファクト)』。

イベント時などにイベントキャラが所持し、プレイヤーは手にする事が出来ないぶっ壊れ性能な武具の数々、

それらが『宝具(アーティファクト)』と呼ばれていた事から名付けられたものだ。

そのうち真似する奴も出てきたしかなり質の良い物も出てきたのだが、

やはりそのブランドや安定的な性能と供給などから俺の作成したもののみが『宝具級』と呼ばれていた。

 

 ブランドと言えば、俺の居たクラン『暁の旅団』が経営していた『宝具屋《暁》』という店があった。

一階には初級向けから基本上級向け、二階には豪傑級から伝説級、三階には宝具級が置かれていた店だ。

クラン内でランクごとに担当を分担して作成しており、俺の担当は勿論宝具級。

その品揃えの豊富さと品質の天元突破からゲーム中最高の店の名誉をほしいままにしていたものだ。

まあ三階まで来るのは物珍しさとか宝具見たさばかりだったが。そもそも買える奴が早々居ない。

化物級ですら1ヶ月は頑張らないと貯められないような額だ。伝説級なら半年はかかる。1年近くかかる最高級品もあった。

それでも頑張って買っていった頑張り屋達の余りの無双ぶりに、

プレイヤー達の間で宝具級は同じ宝具級相手にしか使わないという暗黙の了解すら生まれた程だ。

何せ制限の低いモノを仲間に渡したらランク3つ上の奴相手に無双したとかいう話まであったぐらいだ。

まあ流石にそれは言い過ぎだとは思うが、相手の装備や相性次第ならランク1個分ぐらいの差は覆せるのは確かだ。

 

 結局、最後の方は店の三階のカウンターに座って本を読みながら、片手間に低ランクの宝具を量産するという生活だった。

基本的に外に出てヒャッハーなタイプではあったのだが、一通り冒険し尽くして満足したのでゆっくり隠居していたのだ。

化物級どもに着いて行く気が失せたというのもある。戦闘力でも無双級ぐらいはあったと思うし、

無数の宝具をどこぞの金ピカ王のごとくバカスカ使いまくれば化物級の活躍は出来たかもしれない。

しれないが、特にする必要性も感じなかったので店のカウンターでぼーっとしていたのだ。

 

「で、久々にやる気出そうかって時にこれだもんなあ」

 

 長々とした説明だったがここでようやっと話は冒頭に戻る。

長い間ものぐさ店主として生活してきた俺だったが、とあるアナウンスを受けて久々にヤル気を出した。

それが『Skill Earth Online』のサービス終了と、『Skill Earth OnlineⅡ』のサービス開始に関する発表だった。

元々それまでは一つの大陸での物語であり、一応のストーリーも完結していた。

後はプレイヤーに合わせて順次追加されるダンジョンやモンスターを攻略するだけとなっていたので、

サービス開始から5年という事もあって一旦サービスを終了。

大幅なアップデートを行なってⅡの名を冠し再出発するという発表だった。

新しい大陸も追加され、未開のダンジョンや新種モンスターも続々登場。

これまでにあったイベントは新規参入用に残しつつ、新しいストーリーを新規に書き起こしたというもの。

これにはプレイヤー達も両手を上げて大喜び。概ね好意的にその発表は受け入れられた。

 

 …と、いうのが半年前の話。今日俺はデータの引き継ぎの最終確認やクランの後始末もあってログインしていたのだ。

そして最終確認も終え、あとは終了を待つのみとなってつい夢うつつになっていた俺。

サービス終了とそれに伴う強制ログアウトのアナウンスに驚いた俺は誤って手元の宝具を取り落とした。

それを屈んで拾い上げた瞬間に光に包まれ………気がついたら、この場所に居たのだ。

完全初期装備・スキルのレベルリセット・手元には拾い上げた宝具の剣という格好で。

 

「で、困惑してたら狼に襲われて咄嗟に反撃し今に至る…と」

 

 まあ流石宝具級と言うべきか。スキルのレベルが低くてもかなり無数に持っていたため重複しているし、

武具系は製作者なら武具の能力が激減する代わりに制限を無視して使用出来る。

おかげでこの程度の雑魚(中級下位ランク)相手なら一撃の下に斬り伏せる事も不可能では無かった。

あくまで急所狙いなどによって最大効率での攻撃が出来た場合のみだが。

そして、そのおかげでこの世界が現実だと気がつけたのだ。

 

 まず最初に違和感を持ったのはモンスターの死体。

全年齢対象であるためエフェクトとしての血は多少出るものの、死体が残ったり血臭がしたりはしない。

ドロップは剥ぎ取らなくても勝手に入手されるし、血が流れて血だまりを作ったりはしない。

その時点でおかしいと思った俺は色々と考えを巡らせる中で、あるはずの違和感が無い事に気付く。

少し前にゲームのリアリティを90点と言ったのを覚えていただけているだろうか。

この残りの10点とは処理能力などといった部分とは別の、VRの構造的な問題によってほぼ不可能と言われているものだ。

だから完全に違和感がなくなることは絶対にあり得ない。

そこでまさかと思った俺は少し手の指を切ってみた。痛みが尖すぎる。

VRは神経を直結させているため、ショック死や脳死をしないように痛覚等のフィードバックは態と落としてあるものだ。

人によっては改造してフィードバックを上げて楽しんでいる者も居るらしいが、

それでもフィードバックを100%にしたりはしない。ゲームで死んだら現実でも死んだなんて笑い話にもならない。

 

「こんなリアルなゲームはあり得ない。ここまで明瞭な夢を見たことも無い」

 

 勿論おかしな薬やら飲み食いやらした憶えもなく、黄色い救急車のお世話になるような発作も持っていない。

つまりはそういうこと。これは紛れも無い現実で、ここは何時ものゲームに酷似した世界で…

今、俺は迷子という事である。

 

 



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Save:002.「驚愕の冒険者ギルド」

「さて、状況は分かった。取り敢えず動こうか」

 

 

 

 

 

―Save:002.「驚愕の冒険者ギルド」―

 

 

 

 

 

 どうもみなさんおはこんばんにちは。改めまして自己紹介、ヒュージ=マハダランです。

VRMMOとしてSEOをプレイしていた時からの名前であり、その由来は至極簡単。というかあまり深く考えて決めたものでもない。

俺の現実での名前は原田悠二。選択種族はヒューマン。ハラダユージ+ヒューマンのアナグラムで、ヒュージ=ハマダラン。

もうちょっと何か考えろよと友人にも突っ込まれたレベルの雑ネームである。今ではすっかり慣れてしまっている。

 

 で、改めて今の現状を簡単に纏めると、VRMMOをプレイしていた俺は気がついたらそのゲームの世界にトリップ。

スキルのレベルは全部1に戻っていて、派生スキルとかは全部覚えたまま。キャラレベルやステータスはマスクデータ。

アイテムは以前作った最強クラスの武具やらアイテムが大量に残っていたので、それを利用することに。

森の中にオレ参上したら狼に襲われたので手にした最強剣でぶった斬り、現状の整理をして今に至る………と。

 

 いやあもう、前回のグダグダ長々とした語りとも言えない説明は何だったのか。俺も混乱していたんだろう、うん。

取り敢えず現状で確認すべきなのは俺が知っているゲームの世界とどれぐらいの差があるかということと、

俺がここで暮らしていくために必要な物事の確認と、帰還方法の有無やそれを探す手段。

結論としては「何はともあれ街へ行こう」、というところか。

 

「つーか、ここどこだろう?」

 

 今更疑問に思って周囲を見渡す。森に生える木々の間隔は狭いがさして暗くもないしそこまで深い森では無さそう。

背後の泉はかなり綺麗で澄んでいて、足元の狼はゲーム開始から少ししてから出会う中級下位のモンスター。

森も泉も狼も、いずれも見覚えがある。狼はアクルス王国の王都アクレイア周辺に出現するモンスターで、

これほど綺麗な泉がある森といえば恐らくアクレイア近郊にある『ルブルラの森』だろう。

基本下級上位から基本中級下位のモンスターが出現するダンジョンで、この辺では弱い部類に入る。

先ほど倒したロウンウルフはかなりの素早さを誇っていて基本下級の冒険者にとっての最大の壁となる。

とはいえ所詮はただ早いだけの狼。中級入りした冒険者なら余裕で狩れる程度の相手でしか無い。

実際アクレイア周辺のダンジョンならアンデッド系やらゴーレム系やら、もっと厄介なのは沢山居るのだ。

 

「ドロップは…うん、ちゃんとしてるな」

 

 腕に嵌めたリングを確認するとしっかりと反応した。アイテムの収納と取り出しもきちんと出来るようだ。

このリングは世界観を保つためのアイテムの一つで、ギルドに登録した時に貰える一種のイベントアイテム。

ドロップ判定効果によって倒したモンスターの中から採取できる部位を判定して回収、自由に取り出せるというもの。

空間に干渉するマジックアイテムなのでかなり高価であり、最初はレンタルという形で常に料金を請求される。

それなりの金額を支払えば購入出来、大体一流級ぐらいになれば一括で支払う余裕も出てくるといった所か。

兎も角これが使えないと話にならないのでドロップ品がちゃんと増えているか確かめ、確認を終える。

このリングは容量制限があるため、他の持ち物は新しく作成した容量無制限のリングに収納してある。

こちらのリングにはドロップ判定機能が無いので両手にそれぞれ嵌めて使い分けているのだ。

 

「このリングの材料費が結構洒落になんなくてなあ。ま、何はともあれ街へ向かうか」

 

 取り敢えず一通りの確認は済んだ。この辺なら特に身構える必要もないだろう。いざ行かん未知なる世界へー!

 

 

 

 

「特に襲われている美少女を助けるとか無かったんだぜ………チッ」

 

 はい、そんなわけで無事到着。というかよくよく考えれば襲われたのは美少女じゃなくて俺自身なわけで。

まあ女っ気が欲しけりゃパーティー組むなり娼館街に行くなりすればいいので構わないと言えば構わないが。

サキュバスがやってる隠れ高級娼館とかいうのがあって、当時はよく通っていたものだ。金なら腐るほどあったし。

そういえば今持っている金は使えるんだろうか?何か街並みが微妙に覚えているのと違うせいか嫌な予感がする。

 

「とりあえず情報と言えば………お、あったあった」

 

 俺の視線の先には『Guild』と書かれた看板。看板に文字が書かれているということは識字率は高いんだろう。

ゲーム中ではあらゆる言葉や文字は母国語に翻訳されていたし、その辺はちゃんと設定も用意されていたんだが。

少なくとも看板の文字がちゃんと読めている事を考えれば文字や言葉がわからないという心配は無いだろう。

聞こえてくる雑音の中に混じる声も全て日本語だ。翻訳魔法がうんたらとかいう設定だったか、思い出せない。

 

「ちわーす」

 

 どこぞの酒屋の配達員のような声を発しながらギルドに入ると、中は石造りの若干お役所っぽい雰囲気の施設。

二階には休憩用の喫茶店やら素材等を販売する売店があるという事で、冒険者らしからぬ人もちょこちょこ見かける。

何故かギルドの喫茶店で出されるコーヒーは格別に美味いのだ。きっと開発者にこだわりのある人でも居たのだろう。

それはともかく、突っ立っているのも迷惑なので窓口へと進む。5つ有る窓口の中から通いなれた一つを選んだ。

 

「こんにちは」

 

「はい、こんにちは。鑑定ですか?買取ですか?」

 

 そう、ここは素材やアイテムの鑑定と買取を行なってくれる場所だ。クエスト関連はこの2つ隣。今は用はない。

窓口に居た女性は赤毛のショートカットで可愛らしいお姉さん。外見年齢的には俺と同年齢(21)ぐらいか。

頭の横に耳はなく、代わりに頭頂部からもふっとした猫耳が立っている。獣人族のようだ。

見るからになかなかにいいモノをお持ちのようで。Eぐらいかな?ナニとは言わない。

他の窓口に居たのも皆美男美女であるあたり、一種の接客業でもあるという事なのだろう。

 

「両方お願いします」

 

 そう言ってリングを操作し、アイテムを取り出す。一つは先程の狼がドロップした素材。もう一つは下級宝具のリング。

俺が知っている価値と相違がないか、俺の持つ宝具はどういう扱いなのか、それらの確認も含めている。

もし金銭価値や金銭形式自体が違うなら、当面の活動資金の確保という目的も含んでいる。

何気ない顔で取り出したそれをカウンターに置き、女性が手袋を嵌めて鑑定用の魔法を行使する。

魔法自体は特殊な魔法具を用いているため、誰にでも高ランクな鑑定が可能だし、それは宝具級にも効果があった筈。

鑑定不可という事無いだろうと思っていたのだが、鑑定結果を見る女性の顔が明らかに驚愕の色に染まっていくのが分かる。

これは…当たりか?

 

「あ、宝具(アーティファクト)級ぅぅぅぅ!?…あっ!いえ、申し訳有りませんっ!」

 

 …アラ?宝具級って呼び名は非公式のものだったはずなんだけど…プレイヤー側の認識とかも影響してるのか?

取り敢えず大声を上げたせいで注目集まった事を謝罪する彼女を窘め、詳しいことを聞いてみる事にしよう。

本当なら伝説級という驚きが出ると思ったらその更に上。認識の齟齬を起こさないためにもしっかりと把握する必要がある。

 

「あー、そんなに凄いものなのか?」

 

「凄いなんて物じゃありません。宝具級ですよ?300年前の暗黒時代に生み出され今では失われた大秘宝ですよ?

 売る相手を選べば親子3代豪遊して暮らす事でって夢じゃない程なんですから」

 

 流石に大きな声では言えないと思ったのか、声を潜めながら説明をしてくれる受付嬢。

しかし語られるその内容には驚きを通り越して少し混乱してしまった。300年前の暗黒時代。失われた大秘宝。

暗黒時代というのはゲーム中よく聞いた単語だ。魔王が生まれて魔物が活発化し、一時は世界の滅亡すら危ぶまれた。

つまりは俺達プレイヤーが活動していた時代のことを、暗黒時代…その末期とよばれていたのだ。

それが300年前。えらい未来に来てしまったものである。失われた大秘宝というのもおおよそ納得がいく。

そもそも宝具級は有名ではあったものの非常に入手が困難であった。単純に高価だったためである。

イベントアイテムの方の入手不可能な宝具級は兎も角、俺の作った宝具級は世に100も出ていない。

精々50個ほどだろうか?その半分以上はクラン『暁の旅団』の仲間に渡したものである。

そうなると希少価値も含めれば親子3代豪遊して暮らせるというのも嘘ではないだろう。

元々プレイヤー一人なら一生豪遊して暮らせるぐらいの額で売っていたのだ。売り方や相手を考えればそれぐらいは行く。

 

「流石に買い取っては貰えないか?」

 

「不可能ではないですけど、ギルドの共有資産という事になるので暫く時間を頂くことになりますが…」

 

 まあ、仕方ないだろう。幾ら王都とはいえ支部一つでどうにかなる額ではない。

ゲームなら電子マネー的にギルドカードへ振込となっていたのだが、金貨等の貨幣式みたいなのでそれも無理らしい。

昔はそうだったのが300年の衰退で失われたのか、元々電子マネー式なんぞ無かったのかは定かではないし興味もない。

兎も角、買取金はきちんと現金で支払うしかないわけで、当然ポンとすぐに用意出来るようなものでもないのだ。

 

「ああ、じゃあ用意が出来たら教えてくれ。あと、これ追加」

 

 ドン、とロウンウルフのドロップ素材を幾つかカウンターに置く。少数だがそれより1ランク上のモンスターのものもある。

量が多かったためか、またもや驚いた様子の受付嬢。慌てて鑑定を行なっている。

これで一応当面の生活費はどうにかなるだろう。宝具作成用に素材は腐るほどあるので、正直冒険しなくても暮らして行ける。

とはいえ元の世界に帰る手段は一応探すつもりであるし、同郷の士が居ないかというのも気にかかる。

そもそもつい先ほどまでは久しぶりに本気出すかー状態だったので、冒険したいという欲求もあるのだ。

ビニール一枚被ったような違和感が無く、100%フィードバックされる世界。不謹慎ではあるが、少しワクワクする。

 

「よっ、兄ちゃん。景気いいなあ」

 

「ん?」

 

 鑑定が終わるのをボーっと待っていると、後ろから如何にも冒険者と言った感じのおっさんにこやかに声を掛けてきた。

装備を見るにおよそ中級上位から上級下位。この辺でなら徒党を組まれない限り問題無い程度のランクだ。

かなり大柄かつどっしりとした風格。垂れている尾を見るに恐らく竜人族だろう。

ステータスを確認しようと脳内で『命令(オーダー)』を出す。確認できたのは名前と年齢と種族とランク。

ゼノン・グルージス42歳、予想通りの竜人族。ランクは基本上級下位。下位も非公式表記だったのでここも相違点の一つか。

目を見てみるが特に不愉快な印象は感じない。Lv1とはいえそういう類のスキルも取ってあるのである程度信用は出来る。

恐らくさっきの宝具級絶叫で興味を持ち、鑑定の合間を見て声を掛けてきたといったところだろう。

 

「ああ、生憎お宝はおあずけらしいけどな」

 

「ハッハッハ、宝具級だったか?本当なら大したもんだ。素材もかなり上級のモンスターじゃねえか。

 この辺じゃあ見ねえ顔だが…兄ちゃん、中々やるな?」

 

 ふむ。やっぱり装備を初期装備から宝具級装備に変えたのが大きいんだろうか。どうやら強者と認識されたらしい。

実際戦闘力で言えば精々が脱初級程度で、装備と経験のおかげで一流級程度、といった所だろう。

しかしこの程度のモンスターで上級とは…基本上級のモンスター素材は出していないし、文法的にもそういう意味じゃない。

つまりこの世界の戦力レベルはこの300年で敵も味方もかなり落ち込んでしまっているようだ。

せいぜい超一流級程度が限界だろうか。俺のギルドカードには普通に伝説級と書いてあるんだが…大丈夫なんか?

 

「ああ、まあそれなりに、ね。この辺なら死なない程度の自信はあるさ」

 

「謙虚だねえ。ランクは幾らだ?」

 

 …むう、言ってしまっていいものなのだろうか。しかしギルドカードは既に持っている。

偽装や態とランクを落とすというのは知る限りでは不可能だし、新規登録も既に持っているなら不可能だろう。

となれば結局はギルドにカードを提示した時点でバレるわけで…

ならば、この辺では恐らく上位らしき冒険者の彼に大して良好な印象を与えておくのも吝かではない。

 

「信じるかは自由だけど…伝説級だ。ほれ、ギルドカード」

 

『……………は?』

 

 瞬間、ダンボのように耳を大きくして聞いていたギルド内の人間全員が思考を停止した。

まあ、先ほどの大声が聞こえていないという事は無いだろう。鑑定カウンターで宝具級の叫び。

どう考えても気にならない奴は居ない。そういう意味では馬鹿への牽制も兼ねてランクの提示は正解だったのかも知れない。

 

『はあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?』

 

 …分かってましたとも。そりゃ驚くよね。うん。

 

 

 

 

「ははあ、300年前の生き残り、なあ」

 

「最近まで引きこもっててね。おかげで随分常識が変わってしまって、難儀してるよ」

 

 と、まあ取り敢えず真実と嘘を混ぜて語ることにした。ギルドメンバーなのだから公権力は表立って干渉出来ないし、

裏側から何かしてこようとも俺ならどうとでもなる。下手にレベルが高いだけのパンピーなら兎も角、

あの騙し騙されのネット世界で生活し、宝具という規格外のアイテムや便利グッズを大量に有しているのだ。

そういった事に対する備えは十分である。最悪言葉通りに引きこもればいい。

俺が宝具も用いて完全に守勢に回ればこの世界で俺をどうこう出来る奴はまず居ないだろう。

 

「それで宝具級なんて持ってたんですねえ。でもいいんですか?売ってしまって」

 

「ん?まあ、まだ幾つかあるしね」

 

 カウンターに座った受付嬢――リーナ・アルベルンというらしい――が会話に混ざってくる。

鑑定は既に終わっていて、お金も受け取った。とりあえず今は説明の段階だ。

この辺でこの世界での俺の設定を公開…特にギルドに把握しておいて貰う必要がある。

もし記録なんかが残っていれば俺が300年前の人間であり、その後一切情報がない事がバレる恐れもあるので、

それらを踏まえた上での言い訳を用意することにしたのだ。

 

「怪我と魔力の回復に300年ってなあ、最終戦争もとんでも無いモンだったんだなあ」

 

 で、これが引きこもっていた(という設定の)最大の理由である。

暗黒時代の末期、冒険者による魔王の討伐軍に参加して魔王やその配下と戦った俺は、

その傷と失った力を取り戻すために最近までとある秘境の隠れ家に引きこもっていた…という設定だ。

スキルレベルが低いのも、一旦すべての力を失い、それを最近やっと取り戻したためという事にするつもりである。

まあ、流石に弱っていると思われて侮られるのも癪なので、最近力を取り戻したばかりで本調子ではない…という事に。

所持していた宝具やら伝説級の武具を使用することで以前の半分ぐらいの力を持っているとした。

伝説級以上の武具はランク以外にも特定のスキルレベルなどの追加条件も多いので、

俺の力は少なくとも伝説級クラスの装備を扱えるぐらいはあるという認識になるだろう。

実際に身に着けている宝具級装備はスキルレベルの不足によって能力が激減している。

まさか俺が作ったとは思わないだろうし、当分はオールラウンダーの冒険者で通すつもりなので明かす気もない。

 

「何回か死にましたからね。おかげで宝具級が幾つか消し飛びましたよ」

 

 コレはマジ。リアル過ぎるVRで死ぬ恐怖といったらもう。おかげでこの世界でも戦う事に然程恐怖はないのだが。

全くないというわけではないが、この程度は冒険者として常に心構えをしておくのに丁度いいだろう。

そもそも俺のVR歴は10年以上。それも子供の頃から何度も死にまくって身につけたものだ。

体を動かす感覚は現実と然程変わらず、恐怖や生物を殺す事にもある程度の耐性がある。

大体今時ネットの深い所を徘徊してたらグロ耐性の一つや二つは付くだろう。

戦う動きというのも長い経験の中でかなり習得してきたし、その経験のお陰でSEOでも最初から有利に立ち回れた。

しかも常に格上や魔王とかのボスクラスとの戦いがわんさかである。

経験で言えばその辺に転がってる有象無象の冒険者などの比ではないぐらいあるのだ。

ああ、ちなみに宝具級が消し飛んだってのは、某正義の味方みたいに魔力暴走による宝具の爆発技を仕込んであったため。

それに死んでも拠点に戻るだけだったし、即時蘇生アイテムもあったので死にたい放題。

そのため調子に乗って一人で挑んだ結果、3桁を超える死亡回数とそれと同等数の宝具級の消滅と引換に勝利。

ちなみにこれ、ストーリー最後のラスボスとしての魔王ではなく、裏ダンジョンで出る裏ボスの方の強化魔王である。

もう強化なんて言葉じゃ生ぬるいぶっ壊れ性能で、仮にも準化物級の俺が何回殺されたか分からない程だ。

 

「おいおいマジかよ…敵もそうだが兄ちゃんなにもんだ?」

 

「宝具級を唯一作れた宝具師がクランメンバーの一人でね。

 いやあ死亡回数100回超えた時はちょっと心が折れかけましたよ」

 

 嘘は言っていない。その宝具師が何を隠そう俺だというだけである。言っても流石に信じられないだろうけど。

聞いてる連中も眉唾のおもしろ体験談の一つとして聞いているのだろう。流石に伝説級というのは疑いようもないが、

それでも魔王相手に戦った内の一人とか、100回死んだとかいうのは嘘か誇張だと思っている筈だ。

別にそれは構わない。嘘や誇張だとしても俺が「なんか凄い奴」というイメージは既に根付いているだろうし、

ここで重要なのは俺が300年前からの生き証人であり、相応の実力を持った存在であるという事の提示。

そしてそれをギルドに対して正確に把握して貰う事だ。リーナ以外の職員も業務の片手間に聞いているので、

間違った情報が伝わるという危惧はまずしないでいいだろう。

あとは有力冒険者らしきゼノンが俺の言葉を信用する素振りを見せてくれれば御の字だ。

これで俺のこの街での立場はおおよそ確立出来る。王家や貴族の干渉はギルド権限で弾いてもらえばいい。

ギルドには宝具とか何かしらの恩恵を与えておけば特に何を言われる事も無いだろう。

裏からコソコソやる奴は宝具全開で対策する。これで最悪この世界で生きていく場合の基盤は手に入った。

 

「いやいやいや、折れかけたとかで済むかよ普通?普通なら廃人になるぜ?」

 

 いや、俺のその時点で既に廃人でしたから(笑)

うん、誰が上手いこと言えと。まあVR廃人に対して死の恐怖なんてあってないも同然だからなあ。

流石に本当に死ぬとなると尻込みもするし恐怖感もあるが、それでもパンピーよりは耐性がある。

どこぞの某コメの国でも軍事調練にVRを導入する事で理想的な動きの習得や死の恐怖の緩和を行なっているらしいし。

経験値が違うのですよ経験値が。野営とかもゲームによっちゃリアルだしねえ。

冒険者に必要なものは知識も精神も道具も能力も、粗方持っているというわけだ。VR様々だな。

 

「まあ、どこまで信じるかは兎も角俺が伝説級ってのは事実だ。宝具も少数だが保有している。

 力が半分もないから前ほどの事は出来ないけど、なにか困っことがあったら言ってくれ」

 

 とまあ、こんなものだろうか。大体の事情説明と意思表示は終えた。後は各々勝手に考えて行動するだろう。

幾ら力が半分とはいえ伝説級の宝具持ち相手に馬鹿やらかそうって奴も早々簡単に出てこないだろうし、

動きが大きくなるなら表立とうが裏をかこうが察知出来ないということは無いだろう。

あとはなにか有れば協力するという協力的な態度を取っておけば、一部のバカの暴走以外は大丈夫だ。

暴走する馬鹿はもう仕方が無いので適当に対処することにするしかない。

むしろ直接的な行動が殆どだろうから、現代社会のドロドロギトギトした性悪共と比べたら大したこともない。

この世界の文化とかにも割りと慣れているわけだし、前以上に何かに苦労するという事は皆無と思っていいだろう。

秒単位で情報が伝達され目まぐるしく状況が移り変わり、近寄る全てを警戒しないといけない現代と比べれば。

…やべ、この世界天国じゃね?

 

「あ、そうだ。何かしら拠点が欲しいんだけど…それなりの土地と家、どうにかならないかな?」

 

「それでしたら不動産ギルドの方で探していただければ。大した効果も有りませんが、連絡を通しておきますね」

 

 おお、有り難いことだ。どうやらリーナは信用してくれるようだ。連絡ってのは事情説明も含めて、だろう。

不動産ギルドってのは主に街の中の建物や公共物のうんたらに関連するギルドだ。

国有でなくギルドが有する建造物の修復・維持なども担当していて、街の人工物については不動産ギルドに行くのが基本。

家を買う場合も土地や家の購入や建築等について不動産ギルドに依頼する事になる。

基本的にギルドの横の繋がりは強い。商業ギルドから冒険者ギルドに護衛の要請依頼を出したり、

不動産ギルドから冒険者ギルドに住居建築の手伝い募集を行ったり、

商業ギルドに登録した人が店を出す際に不動産ギルドから出店用の土地や店を貸与したり。

一受付嬢とはいえ、事前に話を通しておいて貰えばスムーズに話を進められるだろう。感謝感謝。

 

「ああ、有難うリーナ、助かるよ。それじゃあ今日の所は宿屋に泊まろうかな」

 

「だったら着いて来な。俺の行きつけの宿屋があるんだ。ちぃと高ぇがいいトコだぜ」

 

 満足そうに頷いて声をかけてくれるゼノンさん。彼も俺のことを信用してくれたようだ。

先輩冒険者だしこの世界の常識や感覚については彼の方が経験豊富だろうし、それ以前に人生の先輩だ。

彼のような人にはしっかり敬意を持って接しないとな。それらしく振る舞うのは現代人にとって必須スキルである。

行きつけの宿というなら期待も出来るし、高いと言っても宿屋程度なら痛くも痒くもない。

まあ、カードに入っている膨大な額の金が一切使えないというのも痛いっちゃあ痛いが…

宝具一個売れば困ることも無いだろうから別に構うことでもないか。

 

「不動産ギルドは明日以降、何時でもどうぞ。宝具の買取に関しては決まり次第連絡しますので、お待ちください」

 

「りょーかい。んじゃ行きますか」

 

「おう、あっこの女将のメシは美味いからな!楽しみにしとけ!」

 

 へえ、そりゃ楽しみだ。はてさて、初日からえらく騒がしかったが…これからどうなることやら。

できる事なら、退屈しない程度に適度な刺激が欲しいものだね。乞うご期待、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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《『くぁwせえdrftgyふじこlp』 Online》(オリジナル VRMMO)
1話


この設定には
・オリジナル設定&ストーリー
・チート&俺TUEEE
・VRMMO→デスゲーム
・超絶おまいら
・NPCハーレム
・序盤ぼっち
などの要素が含まれます。ご注意下さい。


『それではこれより…"くぁwせrftgyふじこlp"Online、スタートです』

 

 …あれ?何か今変じゃなかったか?なんだかもやっとする。まあそれは今は置いておいて、取り敢えず自己紹介をば。

俺の名前は『M.M.』。偽名全開だがキャラクター名なので許して欲しい。ちなみに本名とは全く関係ない。

 今俺…というか俺達がいるのは仮想体験型ネットワークゲーム、くぁwせdrftgyふじこlpOnlineの中だ。…ん?

ゴホン。仮想体験型というのは平たく言えばVR。所謂ヴァーチャルリアリティ。

ゲーム機のコントローラを持って画面に向かう旧来のゲーム方式では無く、

専用の装置を用いてサーバに構築された仮想現実の世界に『突入(ダイブ)』する事でプレイするゲームだ。

ゲーム以外にもタウンサーバに構築されたネット上の街や、金持ちが自分でサーバ用意して作るプライベートエリアなど、

仮想現実には様々な種類があってその大概はネットに接続できるようになっている。

 このゲームもそれを利用したネットゲームの一種で、最近流行り始めたVRMMO(VR型ネトゲ)の最新作でもある。

少し前まではVR自体の完成度が低かったこともあり中々面白いと言える物は少なかったのだが、

このゲームはこれまでVRへの進出に対し二の足を踏んでいた幾つかの大型ゲーム会社が共同開発したもので、

発表直後から完成度やクオリティ、開発資金の額なども含めてかなり期待されていたゲームである。

 現在はクローズドβとオープンβを終え、正式サービス開始前の先行オープンイベントの真っ最中。

取り敢えずバグ取りとかシステム調整とかが終わり、ゲームとしての体裁が整ったので正式サービスを開始。

その前にβ版で特殊なアイテムをゲット出来た幸運な奴らと、正式サービス開始に伴い募集した中から当選した奴ら計5000人。

彼らを集めて正式サービス1週間前に先行オープンするというのがこのイベントの趣旨だ。

 この1週間というのが普通のプレイヤーには短く、しかしクローズドβから参加するような廃人にとってはかなり長い。

ここに集まった連中は正式サービスを人より早くプレイ出来るという幸運に喜んでいる者が大多数。

勿論俺もその中の一人である。今やっとGM(ゲームマスター)からの歓迎の挨拶が終わり、今まさに冒険へと出発する段階だ。

 

「お、キタキタ」

 

 徐々に消えていく体。転送の合図である。最後に一瞬発光して消え、次に目を開けばゲームの中、というわけだ。

今は説明のためのフロアに集まっていただけであり、周囲も現代的というか機械的な景観だった。

しかしすぐに中世っぽい何かが集まったファンタジーゲームの世界にご招待である。

だが流石に人数が多いのだろうか、えらく転送に時間が掛かっているようだ。いや、それにしてもおかしい。

周りは既に発光を終えて消えているのに俺は光ったまま。何かのミスか?と思うも直ぐに発光は収まる。

取り敢えず一安心し、完全に真っ白染まった視界が徐々に色を取り戻していく。

そこには待ち望んだファンタジーチックな景観の始まりの街(リュッセル)の町並みが………無かった。

 

「…え?」

 

 

 

 

 さて、あれから1時間。混乱している見苦しい頭の中をダラダラとお見せするのも何なので、結論から言おう。

ここは、現実世界である。………うん、わけが分からんよね、安心してくれ俺もだ。

 まず感覚がリアル過ぎる。風の流れ、木々の匂い、土の感触、雑多な葉音、あらゆる手触り。その全てが非常にリアル。

本来VRと言うのは処理能力の限界という問題からここまでの質感の再現は不可能だ。

どっかのwikiでは国家レベルのスパコンを10台用意しても不可能と言われていた。

現在開発中の量子コンピュータとかいうのがもっと発展したら可能性はあるらしいのだが、現状は不可能。

この時点でまずここはVRの世界では無い。ならただの現実かと言えばそうでもない。

 今俺が身に着けているのはファンタジーな初期装備。この時点で望み薄。しかも脳裏の意識による操作で視界にメニュー。

これは実際に浮かぶわけでは無く脳裏にイメージとしてウィンドウが見えるという仕組みなのだが、

こんなことが出来るのはゲームの中だけである。だけのはずなのだ。

 じゃあこれは現実なのかゲームなのか。読者諸兄は小難しい理屈なんて言わなくても理解してくれるだろう。

ここはゲームであり、現実でもある。ゲームで出来る事が出来、ゲームで有る事が有る現実。

つまりはそういう事。ゲームと同じように生活出来、ゲームと同じように魔法なんかも使える。

 ならば何が違うのか。…死ねば、生き返れないのである。これはまあ後で気付いた事なのだが。

当然と言えば当然だ。元々このゲームは仲間の蘇生手段が無い。身代わりアイテムなどはあるのだが、

それはあくまで死ぬ前に身代わりになってくれるだけ。死んでしまえばそれで終了だ。

ゲームなら前の街からやり直しとなるのだろうが、これは現実。死ねば生き返れない。

実に怖いことだ。まあVRで死に慣れてる身からすれば慣れていない人よりは多少恐怖は薄いのは確かだが。

 で。そんな鬼畜ファンタジーに突入してしまった俺は今一体どこに居るのか、という事である。

 

「マップ名………《くぁwせdrftgyふじこlp》……オイオイ」

 

 はい、完全にバグです本当に有難うございました。

ちなみにふじこ略は表記上のものであり、実際には文字にすらならない文字化けの塊が表示されている。

どうやら俺の転送時にバグが発生、巻き込まれる形でこの場所に飛ばされたようだ。

 

 とりあえずステータスを確認。ジョブは基本職の《ノービス》。ジョブランクは最低のF。

ジョブは文字通り職業で、ジョブごとにステータスに補正がかかる。ジョブに就いたまま戦闘を重ねる事でランクが上がる。

ランクが上がれば新しいスキルを憶え、ステータス補正もパワーアップする。

ジョブのランクアップで覚えるスキルは強力なものが多いので是非とも上げていきたいところだ。

 

 次にレベル。現在のレベルは当然1。プレイヤーランクも最低のF。

このゲームレベルの上限は基本的に無いのだが、獲得経験値的に精々1000が限度だろうと言われている。

レベルが上がればステータスが上がり、更にジョブ事に一定レベルに達すれば新しいスキルを覚える。

高レベル状態で転職すればそのレベルまでのスキルを全て覚えられるので、一つの職をさっさと極める方が効率はいい。

プレイヤーランクとはギルドで認定される強さランクの事。大体メインストーリークリアでAと言われている。

S以上は期間限定イベントなど特殊なイベント等を多くこなす必要があるらしい。

 

 次がステータス。平均的なものである。個性はジョブとスキルと装備で出すので初期状態では誰も同じである。

最終的にはプレイヤーの腕次第となるがその辺俺はVRゲーマーなのでまだマシだろう。

 

 で、スキル。これに関しては正式サービスに伴いかなり修正も入ったらしいので未知数。

初期では探索F・解錠F・料理F・採取F・発掘F・作成Fのパッシブスキルと、

《ライトF》・《ファイアF》・《スラッシュF》・《ステップF》・のアクティブスキルの10種。

 探索はマッピングとか隠し扉発見とかのスキル。解錠は宝箱など魔法とか特殊なカギを使用しないカギの解錠。

料理・採取・発掘は言わずもがな。作成はポーションとか武器とかのアイテム作成スキル。

ライトは発光魔法。ダンジョンではお世話になる。ファイアは初級火炎魔法。ちょっと熱い程度。

スラッシュは要するにちょっと力込めた切り払い。ステップも文字通り飛んだり跳ねたりちょこまか。

基本的には何度も使って成長させるかちゃんとしたのを新規で憶えないと余り役に立たない物が多い。

 

 そんでもって装備品。

武器は木剣1本。最初から切れ味0の斬撃属性武器。このゲームでは切れ味は落ちるが壊れる事は無い。

ただ切れ味や頑丈(防具)や魔力(装飾品など一部アイテム)が無くなると殆どおもちゃと変わらない。

防具は布製の服のみ。所謂たびびとの服。アクセ無し。頭装備無し。靴はノービスブーツ。補正皆無。

 本来ならチュートリアルイベントで金属製の武器と皮の軽鎧を買い、それで街を出て直ぐの雑魚を狩り、

手に入れたお金で装備を調達しながら進めていく…はずだったのだが。

今となってはもう後の祭り。この異形蔓延る魔の森をこの貧弱装備で乗り切らねばならない。ムリゲー。

 

 で、最後にアイテム。

ライフポーションF×3、スタミナドリンクF×3、マジックストーン×3。

HP(0で死亡)・スタミナ(アクション系スキルで消費)・MP(魔法等で消費)の三種。たったこれだけ。

チュートリアルイベントクリアで1個ずつ消費して3つずつ貰えるので実質5個になるので最低限以下。

そもそも空腹状態が続くと飢餓のバッドステータスになり、HPが減っていって最後には餓死してしまう。

ゲーム内ならそれを利用してデスルーラとかデスベホマとかでもいいのだが、ここではそうもいかない。

チュートリアルで鳥肉Fが3つ貰えるのだが、それすら無いのでは本当に最低限以下である。

 

 さて、ここまでで俺がいかに危険な状態かは分かっていただけたと思う。

そして今は見知らぬダンジョンらしき森。明らかに初期レベルのダンジョンではない。

まだ魔物と遭遇していないのは幸運だが、このままでは確実に高レベルモンスターと鉢合わせて死ぬ。

とりあえず近場で木の実とか食えるもの探してみたが皆無。ちょっと嫌な予感がする。

 

「…少し歩こう」

 

 そう呟いて一人寂しく歩き出す。こういう時は歌でも歌って気を紛らわせたいがモンスターを読んでしまうので無理。

何か口笛とか同じ効果があるらしく、大声出したりしても寄ってきたりするため結構神経を使う。

戦闘中以外は発光魔法の点滅とか手振りでの合図などによる意思疎通が必要になってくるのだ。

まあパーティーの居ない俺には関係無いんですけどねー。

 

「おかしい」

 

 涙がちょちょ切れそうになりながらぼっちワークを満喫していると、周囲の異変に気がついた。

いや、異変以前にここに来た時から思っていた事がある。それはごくシンプルな異常。

 

「モンスターが…居ない?」

 

 そう、かれこれ1時間半。一切モンスターに出会っていない。これは流石におかしい。

別に移動していなければ出会わないというわけでもないし、それにしたって結構歩いている。

このゲームは自身のレベルが相手モンスターのレベルを10下回るごとに狙われやすくなり、10上回るごとに狙われ難くなる。

ここでは恐らく最低でも数十、下手すると数百は差がある。つまり数倍から数十倍狙われやすいのだ。

もうカモネギどころでは無いレベルで狙われまくるだろう。10分も歩けば襲われる。

だが実際にはまだ一度も遭遇していない。これは幾らなんでもおかしい。嫌な予感がする。というか心当たりがある。

 

「遺跡、か」

 

 考察繰り返しながら暫く歩いていると、森が開けた場所に地下遺跡への入口が口を開けていた。

特に封鎖されている様子もなく、中に魔物が居る様子もない。

少し考えるが迷っている暇はあまり無いと判断し、兎に角入ってみることに。どうやら緩い下り坂のようだ。

一本道の通路を《ライト》を灯しながら歩いていると、300Mほど歩いた所で扉を見つける。

少し悩んだ末ちょっとだけ扉を開け、大丈夫そうなので開けて入る事に。

中はかなり広い空間が広がっており、恐らく天井は地上ギリギリまであるだろう。

そして空間の奥に鎮座しているのは………一体の巨大な竜だった。

 

「っっっ!?」

 

 

 

 

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 さて、また少し飛んでしまったが結論を言おう。予想通りだった。この場所は所謂未実装エリアの類である。

エリアとして作られてはいたものの、結局ボツになった又はこれから作り変えられて採用されるはずのエリア。

しかし俺はバグによって通常なら到達不可能なこのエリアに来てしまった、というのが事の真相。

エリアと簡単な遺跡とフロアボスの竜は用意されていた。

しかし雑魚モンスターのポップ(出現)が設定されていなかったため雑魚(俺にとっては化物)と遭遇しなかったのだ。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 で、竜を見てビビった俺は声にならない声を上げ、しかしすぐ異変というか違和感に気がついた。

目を開けて鎮座している竜がピクリともしないのである。しかもなんか竜の周りには電脳的なバグの残滓が待っている。

こう、電脳世界のアイテムが崩壊とか言われて思い浮かべるような、三原色の粒子みたいなのが体からボロボロ溢れるアレだ。

皮膚にも明らかに色がおかしかったり、何か見ようと思ってもピントがずれたみたいにぼやける部分があったり。

完全にバグっている。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 慌ててメニューウィンドウを開いて対象ステータスを確認。

倒してないし専用のアイテムやスキルも使っていないため確認できる範囲は限られるが、

HPの残量ゲージ(数値は隠されていた)とレベルは見れた。しかしレベルはバグっていた。

名前もバグっていたので取り敢えず適当にバグドラゴンと仮称。

周囲に何も見当たらない事やここが見実装エリアである事を考えると、このドラゴンには動作設定がされていないようだった。

基本的にゲームのキャラは歩く、腕を振る、魔法を使うなど登録された動作を状況に合わせて行うものである。

が、このバグドラゴンには一切の動作やスキルが設定されておらず、ヘタしたらステータスも設定されていない。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 で、だ。考えてみたのだ。ここから脱出する方法を。まず助けは来ない。

当然だろう。もう2時間は経っているのだ。来るならとっくに来ている。未実装エリアのため他の冒険者にも期待出来ない。

ログアウトも出来ないというかそもそもボタンが無いのでお手上げ。この時点ではまだデスゲームだとは知らない。

ただまあ嫌な予感はしていたので細心の注意は払っていたのだが、それでもじっとしていたら死ぬ。

なにせアイテム皆無である。未実装エリアのため木の実とかにも期待出来ない。半ば詰んでいる。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 で、考えたのがバグドラゴンをひたすら叩くと言う事。

このゲームではフロアボスを倒すと1回限りの転移ポータルが出現し、街に帰れる。

バグで転移してきたし未実装エリアなので心配だったのだが、他に手段が思いつかなかった。

試しに木剣を叩きつけてみた。『1』という数字が叩いた場所からポロンと零れた。これで俺は希望を見出した。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 まず、このバグドラゴンは未実装である。当然スキルなども設定されていない。つまり回復しない。

そしてこのゲーム、どんな形だろうがどんなに弱かろうが一撃当てさえすれば1ダメージ。

基本的に初期の雑魚でも数十はHPがあるので普通ならそれなりに狙わないといけない。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 が、こいつは動かないしステータス自体は設定されているのかどんなに叩いてもダメージ1。

回復せず、どんな形でも当てればダメージ1。そして武器は基本的に壊れない。

で、スキルや武器熟練度は使用回数によってランクアップし、ジョブランクは総戦闘時間に依存する。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 スキルを使用しなければスタミナは徐々に回復するのがこのゲーム。空腹進行速度は運動量に依存し、動かなければ3日保つ。

3日経って飢餓状態になってもHPは1日保つ。つまりポーションも含めて計一週間弱は保つ計算だ。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 そんなわけで現在連打ゲー真っ最中。バグドラゴンの頭の上でずーっとガシガシやっている。

ダメージを与えるだけでもごく微量ながら経験値が貰えるので、現在レベル5。

30分程度で4も上がったがレベルが上がれば必要経験値も増えるので、あと1時間で3も上がればいい方だろう。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 あと剣の熟練度がF+に上がりました。次はE-。-を取ったり+を付けたりは比較的楽なのだが、

このランク自体を変動させるには結構な回数振らないといけない。

でもまあランクが上がった途端結構馴染む感じがあったので実感があるのが救いか。

武器自体のランクが最低のFというのもある。+付いただけで武器ランクを上回ったため良い感じに馴染むのだ。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 スキルに関しては使っていない。スタミナが回復すると空腹度が溜まるためだ。

スラッシュ連打でも出来れば良かったのだが、そうそう上手くは行かないものである。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 ジョブランクに関してはあと1時間もすればF+に上がるだろう。

まあ、あと1週間もあるのだ。バグドラゴンのHPゲージも1ドット程度だが減った。

このままのペースなら睡眠を挟んでも5日程で倒せるだろう。その時が楽しみである。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 あぐらをかいて坊さんのごとくドラゴンの頭頂部を高速ポコポコ。最大限力を抜いて手首のスナップで高速連打。

30分も続けていればコツも掴める。終いには腱鞘炎にならないか心配だが、一応ゲーム世界だし大丈夫だろう。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 そういえばこのゲーム、スキルやら職業やらがかなり多彩かつ豊富で、それ同じようなもんだろみたいなのも結構ある。

スタミナ消費のスキルとMP消費のスキルで全く同じ効果のものがあったりする。

で、β版ではそこそこ豊富といった程度だったのだが、正式版で10倍以上に増えると聞いて驚いたのを覚えている。

中にはかなり条件が厳しかったり、特殊な過程を辿らないと手に入らないスキルというのがある。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 まあお察しの通りこの状況で手に入るスキルが一つある。俺はこの段階では知らないのだが、後で習得して驚いた。

隠しレアスキルと呼ばれる類のもので、スキル詳細で発現条件を見て噴く事になる。あまりにも難しすぎる。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 まず条件としてレベルが10以上上の相手である事。

今回はそもそも表記がバグっていたため不明だが、まさかドラゴン系でレベル10以下ということも無いだろう。

結果的に言えば少なくとも50は超えていた。最終的に倒す直前で40弱まで上がっていたからだ。

一撃で貰えた経験値の多さから実際は100は超えていたと思う。ヘタしたら数百あったかもしれん。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 次の条件がフロアボス等のボス種であること。この点は問題なかったようだ。

一切設定されていない上にバグっていたのでボス属性も持っていない恐れがあったが、属性自体は持っていたようだ。

耐性等は特に無かったようでそこは一安心。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 で、次の条件は前述の条件の相手に通常攻撃による連続攻撃を、中断されずに50回以上成功させる事。

これも問題なかった。一切中断せずにひたすらポコポコやっていたため簡単に達成された。

スキル使うとかしなくてほんと良かった。死期が早まるから使えなかっただけなんだけどね。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 その次の条件は同じ相手に上記の条件を満たした上で10秒間に30回以上攻撃を当てる事。これはスキルでもなんでもいい。

途中遊びで緩急を付けたりひたすら連打速度を早めたりして単調な作業をなるべく飽きないように奮闘したためクリア。

秒間3回の連打を10秒続けるという事だが、1分でも行けた。ゲーマー舐めんな。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 次の条件が前述の条件を全て満たした上で同じ相手に10回以上の通常攻撃による連続ヒットを出してトドメを刺す事。

これはラストスパートで一気に倒れるまで叩きまくったので余裕でクリアした。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 最後の条件が、前述の条件をすべて満たしトドメを刺した段階でレベル100以上、武器熟練度B-以上であること。

これはシステム的な問題でクリアした。スキルの習得判定よりレベルアップ処理等が先に行われるのである。

そのため高レベルの竜を倒し膨大な経験値を得た俺はレベルが100を超え、

武器熟練度も無数の連続攻撃とボスへのトドメによる無条件一段回アップによってギリギリB-に。

その後レベルアップによる恩恵で一気にスキルを覚えていく中、条件を満たしたこの技を覚えた。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 が、考えても見て欲しい。レベルが10違えば1対1ではまず勝てない。

しかもボスというのは同レベル帯でも十数人から数十人で徒党を組んで倒すものである。

もう少しレベルを上げたり装備を整えれば数人のパーティーでも倒せなくはないといったところ。

レベルが低いと装備武器にも制限がかかる。レベルが10以上低いキャラと装備でボスと戦う。これだけで無謀だ。

しかもボスともなれば普通は動きまわったり全周囲攻撃を放つもの。

そんな奴相手に張り付いてしかも通常攻撃で50回フルコン?仲間にしばき倒されるわ。

更に10秒間に30回の連撃。スキル次第ではあるが10秒も張り付いているというのも色々無理があるし、

しかも30回ともなればマジで俺みたいに超絶ポコポコしないといけない。当然ダメージは下がる。仲間に殴られる。

その上最後の条件が何気にキツイ。連続10回以上のコンボでトドメ。そもそもトドメを刺せるか?譲ってもらえるか?

それすら分からないのに、レベルが10も下のやつでも倒せるぐらいギリギリまで削って、10連打して殴り倒す。

途中で途切れて10連打未満で倒せてしまってもアウト。仲間の流れ弾で倒してもアウト。そもそも流れ弾当たれば中断扱い。

 

…正直、これを考えたスタッフは頭おかしいんじゃなかろうか。それもノーヒントである。

絶技とかいう超絶スキルの存在は後々ほのめかされるらしいのだが、取得法も技の詳細も秘密。

そんなんでどうやって覚えろと言うのか。コンピュータゲームと違ってチートとかハックロムで調べる事も出来ない。

何万人も参加者が居れば一人ぐらいは絶技のうちの一つぐらいは覚えるやつが居るかもしれない、程度だ。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 で、俺が覚えたのが以下の絶技系スキル。

 

『絶技(ゼツギ)・閃花(センカ)』

 

 それまでの連続ヒット数の自己記録と同じヒット数の通常攻撃を一瞬で叩きこむまさに絶技。

条件の関係上ヒット数50以上確定のバケモノスキルである。

一撃一撃は通常攻撃扱いのため、通常攻撃専用のパッシブスキルなどの効果も乗る。

勿論スキルによる威力補正で多少威力は落ちるし、そもそもスキル自体の威力が乗らないため硬い相手にはやりにくいが、

それでも50発もぶち込めれば相当な威力になる。条件が厳しいだけあってかなりの壊れスキルである。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 消費はスタミナとMPの両方を阿呆ほど、レベル100程度のスタミナとMPなら確実にスッカラカンになる程消費する。

そんな大きな消耗から繰り出される一撃は武器を構えて力溜めに1秒、攻撃時間1秒、斬新1秒の計3秒で、

自身の最高ヒット記録と同数の通常攻撃をぶちかますのである。敵涙目。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 

 が、涙目で済むのは普通のプレイヤーだけ。俺の場合完全な反則技になる。

…何せ、俺の最高連続ヒット数は実に10万回超。秒間平均3回を10時間ほどぶっつづけで半ば寝ながらやった結果だ。

毎回1ダメージとは言え、この竜どんだけHPあったのだろうか。まさか最終決戦クラスじゃなかろうな。

そんな奴倒したらレベル300とか500とか行くんじゃなかろうか。いやまああり得ないけど。

で、恐ろしい事実が理解して貰えただろうか。

たったのレベル100程度のスタミナとMPの消費で、通常攻撃10万回分の攻撃を3秒で出せるのだ。

つまり一撃1ダメージでも計10万ダメージ。中級一歩手前の大型ボスぐらいなら一撃圏内である。

後日試しにその辺のモンスターに放ったところ、バグった。何か消えかけの粒子みたいなのがずっと舞っているのである。

暫くしてエフェクトには修正処理が入ったが。なぜか俺の方のバグは据え置きだったので、それ以降余り気にしなくなる。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 ちなみにこの絶技シリーズ、恐ろしい事に熟練度B-以上ならどんな武器でも使えるらしい。

まあ普通なら中レベルの大型ボス討伐に参加する程度の熟練度である。条件も普通なら非常に厳しい。

その上色々な武器に手を出すにはプレイヤーのリアルスキルも必要になるし、消費だって馬鹿にならん。

そもそも普通、通常攻撃で同レベルのモンスター相手では殆どダメージは通らない。

下位モンスターならHPが低いのでそれでもいいが、中位以上はスキル補正無しの威力ではまず無理だ。

そんなんで50回程度攻撃した所で1万行けば上等。それでスタミナMP大幅消費。

頑張れば10万ダメージだって夢では無いし強力なのは確かだが、色々と無理がありすぎるスキルである。

 

―ガシッガシッガシッ―

 

 そんな色んな意味でぶっ壊れスキルが将来手に入ると知る由もない無い今の俺は、

ただ街へ戻るために只管ポコポコ繰り返すのだった。

 

「あーーー………帰りてぇ…」

 

 



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2話

 

 

 

 

 

 

 

「ええと、なんぞ、これ」

 

 はいはい皆さんおはこんばんにちは。俺『M.M.』です。

なんとかかんとか死ぬような思いでドラゴンをぬっ殺し終えた俺はたった今レベル処理の真っ最中…だったのだけど。

高速で上がるレベル。まず最初に経験値表示がバグった。次にレベル表示がバグった。

次はステータス。最後はスキルの一部までバグりだした。

まあ文字化け程度だとは思うのだが、何か俺の体がドラゴンみたいにバグってる。

ノイズ走ったりバグっぽい粒子が零れたり。俺の体大丈夫なんだろうかと少し不安になってしまう。

取り敢えずレベルが100超えたのは確認した。処理の時間から考えて300ぐらい行ってるかもしれん。

スキルは文字の一部がバグっただけなので一応分かるため大丈夫。

よく使うスキルや重要そうなスキルはメニューのメモ帳機能でメモっておく。

 

「うーん…なんだよ、これ」

 

 手元には何かよく分からないアイテムいっぱい。ドラゴン倒したら宝箱が10個ぐらい出てきたので回収したのだ。

まあ大型ボスで山分け式なら10個ぐらいは珍しくは無い。各個数も大概複数ある。今回は一個ずつっぽいけど。

よく分からないアイテムはまさに電脳世界のバグって見た目でなんか三原色で構成された粒子っぽい何かの塊。

ボロボロ零れているように見えるのに消えない辺り謎エフェクトである。

メニューで確認したら説明なんかもかなりバグってた。スキルの比じゃない。

何とか確認出来たのは武器2個、防具3個、魔導書2個、アイテム3個ということだけ。

全部別物らしいのだがよく分からない。あと宝箱は報酬でドラゴンの剥ぎ取りは別だったらしく、

同じような見た目でちょっとそれっぽく見える素材3つとアイテム2つ。

 

「転送ポータルは…開いたままだな。ちょっと確認したから行こう」

 

 まず武器。これはどうやら剣っぽい何かと杖っぽい何かっぽい。

剣ぽい何かは何か形が変わる。鞘から抜く時に反ったり、突くと伸びたり。如意棒じゃねーんだから。

バグのせいで形が不定形らしい。零れている部分以外の、固まっている部分に当たり判定がある模様。

鞘はここで手に入れたものでは無いためあまりバグっていない。

かなり威力は高いようなので恐らく上位武器だろう。

ただ、属性のとこが盛大にバグっているせいか特定の属性を持たないようだ。

通常攻撃に属性が無かった。無属性とかの属性すら無い。

 

 次は杖っぽい。こっちは変形せず結構形が定まっている。宝石っぽい球体に羽っぽい何かが巻き付いている形だ。

媒体にして魔法つかったら数倍の威力が出た。なんぞこれぇ…これも上位武器のようだ。

剣といい、本来レベル制限が有るはずなのだが…バグってるんですねわかります。

 

 で、防具三個。軽鎧とローブと小さい盾。どれも上位級の一級品だ。

こちらは割りと原型とどめている。相変わらず色々零れているが。

どうやら軽鎧はそこそこの防御性能のそこそこの回避性能、ローブはかなりの魔法耐性と異常耐性、

盾はかなりの防御性能と少しの属性耐性を持っているようだ。

盾は取り回しが難しいので防御力が欲しい時だけとして、あとは派手でもないし普段から着込んでいても目立たないだろう。

…こぼれ落ちるバグ以外は。

 

 次に魔導書。これは魔法を覚えるためのアイテムなのだが、使うのが怖い…

勇気を出して読んでみると、無事文字化けの塊を習得。説明すら読めねえ。

恐る恐る放ってみた所、一つは何か綺麗な虹がかかる噴水魔法。魔力思いきり込めても玩具の水鉄砲程度だ。威嚇にもならん。

魔力の消費を殆ど感じない事からしても完全なハズレ魔法だろう。

こんなとこで宝箱に入ってる魔法のはず無いので、おそらく習得する魔法の内容自体バグっているのだろう。

 そして若干気の抜けた俺はもう一つの魔法を使って見ることに。一応外に出て森に向けて。

正直俺はこの時の俺の判断というか危機回避能力を絶賛したい。自画自賛でも構わない。

結果は、視界一面の森が消し飛んだ。なんかプラズマかなんか知らんが眩い光がゴウッっという音と共に瞬間的に広がり、

目の前の森のおよそ2、300mが球場に消し飛んだ。後にはバグの残滓が残っている。

 

「…ゑ」

 

 言葉も無い。とりあえず暫定的に《エクスプロージョン》と名付けよう。被ったら変える。

モンスターが居なかったのでダメージがよく分からないが、

多分中位級の魔法の中でも上位に位置する広域殲滅魔法だ。なんでこう、極端なのだろうか。

(現実世界という名の)天国の父さん母さん、そして姉ちゃんと妹よ。俺はどうやら人ではなくなってしまったようだ。

いや、ガチで冗談じゃなく。仲間巻き込むだろこれ。普通なら識別機能あるんだけど…バグってるもんなあ。

 

「えーっと…そ、そうそう次だ次」

 

 気を取り直してアイテム3つ。うち一つは…装飾品か?

腕輪っぽいので装着。すると体がえらく軽くなった。ステータスを確認。バグってるけど…

何とHP・MP・スタミナの最大値が軒並み上がっている。1.5倍ほど。これはでかい。空腹の進行速度も下がっている模様。

どうやらハラヘラズ的な効果もあるらしい。ほーっと思いながら腕輪に手を掛けると………外れねぇ。

 

「…呪い装備かよ…orz」

 

 変な効果じゃなくてよかったよ。特にデメリットも無さそうだし。

気を取り直し直して次。アイテム二つ。恐らく1個はポーション。もう1個はなんか石っぽい。

石の方は説明文や辛うじて残る見た目から正体を突き止めた。転移石だ。

魔力を込める事で記録した位置へ何時でも飛べる移動兼緊急脱出アイテム。

一度たどり着いて登録する必要はあるものの、かなり便利だ。使い減りもしない。

中級ダンジョン辺りで宝箱とかからたまに手に入るようになる。

上級以上に関してはβ版では上級以上のフィールドやダンジョンは色々制限が多かったため発見報告無し。

そのためβ版では非常にレアだった。まだ始まって1週間も経たない現段階、

β版でのデータはリセットされたため持っているのは俺ぐらいのものだろう。

 

「この薬はなんだ?」

 

 なんか赤い色のポーション。ライフポーションっぽく見えなくもないが、説明文の一部からして違う。

魔のなんちゃらとか神のなんちゃらとか見えるし、そもそも"あの"バグドラゴンが守っていたのだ。

不老不死の薬とか言われても否定出来ないぞ、俺は。

とりあえず正体不明で怪しすぎるので保留。質量無視の鞄に大事に仕舞いこむ。

 

 お次ぎはドロップアイテム。素材3つにアイテム二つ。

素材はどうやら牙、心臓、目。アイテムはドラゴン肉×3とドラゴンの血一瓶。何れもAランク相当のようだ。

…つーかAランク素材って。上級クラスじゃねえかよ。まあそうだろうとは思ってたけど。

Aランクを素材やアイテムとして落とすぐらいだからあのドラゴンは上級の中でもそこそこのランクだな。

マジ俺色んな意味でよくやったよ。

 

「…取り敢えず現状を纏めると」

 

・上級ボスドラゴン無傷で倒すとか俺TUEEEEEEE!(無抵抗です)

・レベル数百でスキルチート過ぎで俺TUEEEEEEE!(棚ぼたです)

・上級の武器とか防具とかゲットで俺TUEEEEEEE!(バグってます)

・上級の広域殲滅魔法とか超パネエ俺TUEEEEEEE!(味方識別出来ません)

・上級のアイテムとか素材とかマジ俺TUEEEEEEE!(用途不明です)

 

「うん、ちょっと自重しよう俺」

 

 色んな意味でね。ほんとどうしようもねえな…とりあえずドラゴン肉3つで今5日め。まだ5日保つ。

いや、ハラヘラズ効果で3割引きぐらいになってるしドラゴン肉の回復量もでかい。あと1週間は保つか。

およそ半月か…いい頃合いだな。ポータルはダンジョン出ない限り消えないし、

あと一週間はスキル鍛えよう。まずは簡単に練習できない広域魔法。

消費MPを減らして威力アップ。流石に効果範囲は変わらない。

次が絶技。こちらも消費を減らして補正も強化する。

プラス化するかは分からんけど、マイナス補正を減らすぐらいは出来るだろう。

あとは有用な移動スキルとか補助スキルと鍛えていけばどうにでもなるな。スラッシュとか手加減用は後でもいい。

ポータルで飛んだ先がまともとは限らないので、なるべく準備は整えておこう。

 

「よっし、まずは殲滅連打だ!」

 

 

 

 

 

 

「あれからもう半月…現実世界では2時間半ぐらいかな」

 

 レートが元のままならその程度だろう。VRにはタイムレートというのものが存在する。

画面の前に座ってプレイする旧来のゲームとは違い、VRでは人間の脳に直接データを送り込む。

そのため体感時間を引き伸ばすことが可能なのだ。夢の中では何時間も経ってるのに起きたら数十分だったというのに近い。

旧来のゲームなら数十分ごとに昼と夜を繰り返すことで日数を再現するが、

VRでは1日分のデータを数十分でやり取りする事で日数を再現する。

このためVRの世界では何日も過ごしていても、現実世界では数時間、という事になるのだ。

基本的にレートは10分~1時間対1日となる。このゲームは10分:1日のタイムレートだった。

つまり15日過ごしたので現実では150分、二時間半が経過しているということになる。

 

「寝る前にログインしたからあと1ヶ月ぐらいは大丈夫か」

 

 基本的にログイン中は体は寝ている状態で、記憶の整理などもVRの処理とは別の領域で行なっている。

そのため基本的にVRは寝ている間にプレイする人が多く、

学生や社会人のプレイヤーも気兼ねなくプレイできる一因となっている他、

寝る間も惜しむどころか寝ている間もプレイする超級廃人を大量に生み出す原因にもなってしまっている。

何にせよ、ゲーム内時間1ヶ月でクリア出来るわけもなく、そもそもどうやれば帰れるのかも不明。

クリアしたら帰れる、という保証も無いのだ。ヘタしたら寝たきり状態で永遠にこの世界を彷徨う可能性だってある。

 

「やめよやめよ」

 

 とはいえ今そんな事を考えても意味が無いのもまた同じ。取り敢えず手掛かりを探し続けるしかない。

 

「しっかしグレバニア王都は流石に広いねえ。NPCしか居ないけど」

 

 ここはグレバニア王国の王都グレン。魔動工学の発達した富国強兵中の大国、その中心地だ。

周囲を険しい山と巨大な川に囲まれ、天然の要塞を利用し防壁も厚い。

ポータルに乗った俺は眩い光に包まれ、気が付けばこの街のポータルターミナルに居た。文字通り駅である。

やっと人の居る所に出られてほっとした俺は街を巡ってみたのだが、かなり賑やかだ。

NPCの冒険者もかなり居る。しかし5000人のプレイヤーの内一人も居ない。

 だが、当然といえば当然だろう。何せここは中級エリアの中でも上位に位置する国。

上級エリアは殆どダンジョンにしかないので実質フィールドとしては最高ランクになる。

レベルで言えばここに到達するのに最低200、一人なら300は必要になる。

ゲーム開始半月。序盤はレベルが上がりやすい事を考慮しても、せいぜい50程度が最高ランクだろう。

100超えが一人でも居れば驚く。勿論こんなところまで来れる奴が居るはずもない。

レベルが低いと狙われやすくなるため、敵を無視して突っ切るのも不可能だ。

ゲームなら兎も角、流石に半月も経てば死んだら生き返れないのは知れ渡っているはず。誰も無茶はしまい。

 一応上限は無いので今後上位ランカーが増えれば更に高レベルのエリアが追加されたりもするだろうが、

少なくとも現状では最高でも1000程度、普通は500超えが現実的なところ。それ以上はレベルの上げようがない。

そんな中でも辿り着くだけで300以上のレベルが求められるこの国に来れる人間は、今はまだ居ない。

 

「とはいえ、NPCはそこそこのレベルも居るんだよなあ」

 

 驚いた事に彼ら自我がある。話しかけたらちゃんと相応の対応をしてくれるのだ。

これだけの人数のここまで高性能なAIなど用意できるわけもない。

つまり、彼彼女らは…"生きている"

 

「まあ、流石にその中でもトップクラスになるとは思わなんだけど」

 

 ギルドに行ってレベルやランクを見てもらった所、なんとまさかのレベル500超え確実。

実際はバグってて分からないというか何故かちょこちょこ上下しているらしいのだが、

それでも魔力等から鑑みるに500は確実に超えているとの事。あり得ない。

いくらあのドラゴンのレベルが高くとも、獲得経験値が多すぎる。レベル1000の裏ボス倒したってそこまで行かない。

となれば恐らくバグの影響。バグってる状態でバグってる奴倒してバグりながらレベルが上がったせいで、

際限無く阿呆ほど上がってしまったのだろうと考えている。真相は闇…もといバグの中。

 

「…チャットうぜえ」

 

 流石に面倒になってきたのでチャットを切る。知り合いにプレイヤーは居なかったので別にいいだろう。

何せバグで隔離されてたのにいきなり戻ってきたのだ。チャットや掲示板なんかにも接続できるようになった。

勿論ランキングにも俺の情報が出ている。殆どの情報が初期の非公開設定のままなので、名前とレベルと現在地ぐらいだけど。

それでもレベル500超え(こっちは500少しで安定しているらしいが合っているのかは不明)、

しかもレベル帯200~300のグレンに居て、更に突然現れた。

取り敢えず実在するという証明のために大規模なパーティー組んでる奴らに何度か受け答えした以外は、

流石に鬱陶しくなってきたためチャットを切ってしまったのだ。

以前のβ版で面識のあった奴にはきちんと応対したし信用出来る奴にはプライベートチャットのアドレスを教えた。

最悪漏れてもアドレスは簡単に変えられるので、暫くはプラチャだけでいい。

 

「NPC…いや、"住民"とも仲良くなれそうだし、暫くは満喫するかなあ」

 

 何せ今までのVRでは考えられなかったほどのリアリティだ。きっと今まで出来なかったような事も出来る。

例えばNPCとイチャイチャとか。高レベルの冒険者やってりゃ嫌でもモテるさ。

根拠?さっき逆ナンされたからだよ。何かオーラ?とかいうのが違うらしい。よう分からん世界観だ…

え、ナンパ相手?流石に断ったよ。まだ宿も取ってないっつーの。金無いからね。

とりあえずギルド行って、依頼受けて、金稼いで、出来れば家がほしい。

あとはちょっと身の回りというか主に武器にバグが多すぎるから何とかしたい。

 

「やること一杯だな…うっしゃ!兎に角気合入れていくか!」

 

 どうせ暫くはプレイヤーが来る事も無い。たっぷり満喫させて貰おうか!

 

 

 

 

 

「こっちに来てから早一月…」

 

 え?何?だからはえーよって?知らんなあ。まあ、あれだ。特に代わり映えも面白みも無い無い毎日だったのだよ。

依頼こなしては金稼ぎ、討伐しては金稼ぎ、ドラゴンの討伐報酬は出ませんでした。そりゃあねえ。

ちょこちょこ女の子誘ってデートしたり、あちこちの店をひやかしたりもしたねえ。

デートはあれだ、お茶飲んだり買い物したり。この世界の人結構社交的だねえ。ナンパの成功率たけえ。

多分元の世界のフツメンでもその辺歩いて「暇ならお茶でもしよー」と声かければ遊べるんじゃなかろうか。

俺も元から顔そんなに変えてないしね。一応特定されない程度には弄ってあるけど、知り合いならすぐ分かる。

そんな俺がいくら強いとはいえ100戦錬磨だぜ?ねーよ。まあ相手も遊びって感覚が強いんだけどね。

子供がその辺で遊んでる子見てボクも混ぜて-ってのと大差ない。流石にベッドインは…ねえ?

その辺の子と遊びで初体験ってのもなあ。この世界なら頑張れば彼女ぐらい出来そうだし。

もし上手くいけば永住してもいいかもしれん。っていやいやいや、待て待て俺。違うだろう。帰らないと。そうだろう。

 

「あぶねえあぶねえ、素でこの世界に馴染んでた…」

 

 これもまだ一人もプレイヤーに会ってないせいなんだよなあ。

とりあえずプラチャで知り合いが騒ぎが収まったって教えてくれたからチャット再開したんだけどね?

何か凄い神扱いされてるの。今レベルランキング見たら俺の下54だぜ?俺今582とかになってるよ?

これガチで合ってるならマジで神ってレベルじゃねーぞ。

何かソロで特攻してグレンまで辿り着いた神って事になってる。まあ一応ランキング非表示にする機能あるけどさあ。

だからってグレンに着くまではランキングから隠れてたんだよ!って言ったって普通信じねえよ。

普通チートとか何とか考えるだろ?なんかね、ここが半ば現実って事であり得ないだろうって結論みたい。

 

「まあ、叩かれるよりかはマシなんだけどさあ」

 

 もう妬みとか懐疑とか以前に、こんな高レベルでグレンに居てしっかり活動もしてる(功績ポイントが増えているため)、

そんな状態ならその実力は疑いようがないみたいな感じでさ。これがまだ正式サービス開始して、

わけの分からん連中が押し寄せてたら色々誹謗中傷もあったんだろうけど。

何故か先行サービス組だけなんだよね。現実で中止になったのか俺達だけこの世界に来たのかは分からん。

現実との連絡手段無いんだよなあ。そもそも普通のVRなら有る外部ネットワークとの通信コマンド自体無いし。

そんな状態で帰るに帰れず、既に少なくない犠牲者も出ているせいで、人々の希望の象徴みたいになっているフシもある。

幾つかの大型パーティーから、レベル上げの護衛に着いて来てくれないかなんて依頼もあったりして。

ゲームなら甘えるなよってとこなんだけど、命かかってるからなあ。俺が居れば確かに安全っちゃあ安全だし。

 

「そうそう。そういや新しく魔法覚えたんだよ」

 

 王都に来て半月、この世界にきて一ヶ月。金も貯まったし魔導書でも買おうかと思ってね?

ジョブはまだノービス。今Bランクだから、A+まで育ってから転職しようと思っている。

ドラゴンのお蔭と結構サクサク魔物を狩れたおかげで戦闘回数と戦闘時間も伸びてね。おかげで大分上がった。

まあここからがキツイんだけどねえ。B+超えると有用なスキルなんかが一気に増えるから。

この辺のバランスはよく出来てるわ。

転職しても前のジョブのランクは据え置きなんだけど、

経験値はランクに合わせてリセットされるからランクアップ直後が望ましい。

別系統のジョブに転職するのは金も手間もかかるから、同系統内での転職の方がいい。

再度転職しなおしたりは金や時間がもったいないから出来るだけ上げきる方がいい。

ただしSランクは必要な経験値がアホすぎるので本命以外は却下すべき。

以上が大体の転職に関するオススメである。

 

 初期職ノービスからは物理をメインに使う一次職ファイターと、魔法をメインに使う二次職マジシャン、

各種生産系をメインに使っていく一次職クリエイターの三種がある。

 俺の予定としては、攻撃面は問題無い。物理威力はダメージ1でも10万に化ける『閃花』があるので後回しでOK。

魔法は広域殲滅のエクスプロージョン(とりあえず被らなかった)が高威力かつ万能属性のためこちらもOK。

万能属性は中位級の中でも下位以下に軽減してくる奴は居らず、ボスクラスでも無効化までしてくるのは上位級以上。

雑魚なら中位級の中でも中位以上に耐性持ちがちらほら、上位ならそこそこ居る程度。

万能耐性持ちはそもそも魔法効かない事の方が多いのでそこは物理でOK。

あとは適当な高位攻撃魔法を高い金払って2、3買えばOK。補助や回復も高位のモノを5つ程習得している。

防具の性能のおかげもありそこまで戦闘面で苦労はない。というかこの辺りならダントツで反則級だ。実際反則だけど。

 まあそんなわけで、目指すはクリエイター。最終ランククラスのアイテムは自作しないと手に入らない。

これはラスボス倒したりして得た武器でも、クリエイター系の改造スキルで更に強化出来るからだ。

そこまでして作った至極の一品を売りに出す馬鹿もそうそう居ないのでまず入手は不可能。

他にもあると便利なアイテムをその場その場で作れるのはかなり有利である。

素材は安く簡単に手に入るし、同じ素材を使うアイテムも複数あるため無駄にならない。

戦闘面にも秀でた上位職なら即席合成というスキルを憶え、回復アイテムなのどの一部アイテムを戦闘中に作成出来る。

ほんの少しの時間で簡単に回復アイテムを用途に合わせて作れるというのは、自分にとっても仲間にとっても嬉しい事だ。

 

「てなわけで暫くはノービス強化。次にクリエイターをC辺りまで育てて二次職の工学士になって、三次職の魔動工学士に。

 A辺りまで極めたら今度は二次職の錬金術師になって、三次職のヘルメスになってSランク目指すかな」

 

 Sランクは+や-が付かないランクで、完全に極めた事を意味する。

SランクになるとSランクボーナスと言われる程強力なスキルを行使できるようになる。

錬金術師の上位職、ヘルメスのSランクボーナスは賢者の石とか言うらしい。

想像はつくがβ版ではスキル名が公開された程度だったので詳細は不明。

もしかすると高位のアイテム…下手すりゃ準|宝具(アーティファクト)級をバカスカ錬成しまくるようなチートになるかもしれない。

それぐらい強力なのだ。現在判明しているのは、戦士系職のいずれかの最終段階をSにすると絶技が憶えられるとか。

はたして一年以内にそこまで辿り着く猛者は居るのだろうか。勿論俺みたいな反則技は猛者とは言わん。

 

『ほー、流石だなあ。雲の上過ぎてワケワカメwww』

 

『チートめっ!このチートめっ!』

 

『リア充爆発汁』

 

「お前らなあwww」

 

 途中から気付いてたかもしれんが現在チャット中。

文章の性質をカスタマイズして登録しとけばあとは口頭や脳内での言葉を文章に纏めてくれる。

チャットにはプレイヤーだけ参加のプレイヤーズチャットと、

NPCも参加して来るオープンチャット、アドレスを登録した1対1のプライベートチャット、

適当に指定したグループ内でのグループチャット、パーティー内でのパーティーチャットなどがある。

このチャットの管理は神様がしている事になっているらしく、現実世界の話題なんかはNPC相手にはしないのがマナー。

早々に事実を知ってあっさり溶け込んでるNPCも極稀に居るらしい。さすがファンタジー世界。おおらかというか何というか。

 今は丁度オープンチャットに参加している。こうして参加しても結構まともな会話が出来るので安心していたり。

最近では俺の経験…というか、真っ先に跳ね上がったレベルによる知識を生かしてアドバイスしたりしている。

β版とどこがどう違ったというだけでもかなり有益な情報になるのだ。

運命共同体ということもあってか意外と皆結束しているようで、状況を正しく理解しているという事だろう。

少し前までは阿鼻叫喚だったのだが、一ヶ月も経てば大分慣れたらしい。

一番期待されているのは勿論俺。俺が帰還手段を見つけてそれを教えればそれだけで帰還成功率はグンと上がる。

情報交換掲示板にもグレン周辺で得た情報なんかを頻繁に書き込んでいる。

 

「実際、もっと疎まれるかと思った」

 

『そりゃーおめえ、希望の星だもの』

 

『それでヘソ曲げられちゃこっちも大変だしなwww』

 

『まあ居ないとは言わんけど、そういう奴は村八分だわな』

 

 なるほどねーといったところだ。単純にゲームだった頃とは違うってわけだ。

実際俺の一個下のレベル54の奴。元はネトゲ廃人だったのが危機に陥って一念発起し、

元々の知識と経験とセンスを生かしてかなり活発に活動している。

ちょっと前にもうちょっとで50レベじゃんがんがれって言った時は流石にレベル差考えたら嫌味くさいかとも思ったのだが、

『おう!絶対追いついてやるから待ってろ!』と笑って返された時はちょっとほっとした。

流石の日本人というか、一度危機に陥った時の連帯感とか団結力は流石の一言だな。少数居る外人も驚いてた。

 

『ニホンジンは、たいしたモノダナー』

 

『ウィリアムさん、何か上から目線っぽくなってるよww』

 

『ン―、にほんごムズカシイ』

 

 と、まあこんな具合に。ある程度は翻訳も効くのだが、敬語の概念がない英語圏の人は妙に高圧的に見える文章だったり、

漢字が一切入ってなかったりと結構わかりやすかったりする。文化の差異的に大変だろうに。

こういう状況でも和気あいあいとしながら生きていけるんだから人間はたくましいな。

…まあ、協調性の無いやつは大概死んだってのもあるんだが。このゲームで協調性無いのはそら死ねるわ。

 

『あいつらも真面目に協力し合ってりゃ生き延びれただろうになあ』

 

『しんじまったら もともこもねえ ってか』

 

『どっかで聞いたなそのフレーズ。FEだっけ?』

 

「おまいらすぐ脱線すんなしww」

 

 まあ、おかげで不安に苛まれる事も無く過ごすことが出来るのはいい事だ。

完全に不安を消す事は出来ないけれど、やっぱりこうして馬鹿言い合える相手が居るというのは心の支えになる。

ひょんな事で手に入れた力だけど、出来る限り恩返しぐらいはしたいよなあ。見捨てたくも無い。

 

「あ、そういえば何かこっちでイベントあるっぽいんだが」

 

『mjd!?』

 

『早くね?あ、M.M.がそっち行ったから始まったのか?』

 

『悪いが手助けは出来そうにねえなあ。国から出るのも一苦労だ』

 

『間にもう一個国挟まってるしなwwがんがれー』

 

「おう、何とか孤軍奮闘…いや、街の皆と協力して乗り切るわ」

 

 そう、どうもここ最近魔物たちが騒がしい。少しずつ活発化して、衛兵が走ってるのもよく見かける。

恐らく斥候か何かだろう。魔物関係ということは戦争じゃなくて恐らく大規模な襲撃か何か。

実際β版の時も新しい街に就いた途端襲撃イベントに巻き込まれたこともあったし、

数ヶ月に一回のペースで起きていたから今回もそれに近いものと見ていいだろう。

繁殖期は魔物ごとに違うので時期の合うやつだけ警戒すればいいのだが、

襲撃イベントでは周辺の魔物の殆どが活発化する上に混成群の大襲撃などもあるので気が抜けない。

ゲーム中なら参加するもしないも自由だし、死んでも痛くも痒くもないので気軽に参加できた。

しかしここではそうは行かない。NPCだって生きている。見殺しには出来るだけしたくないのは人情ってものだろう。

実際無理や無茶をするかは兎も角、出来る範囲でなら手伝わないと良心の呵責がががが。

まあ、やれるだけはやってみるさ。

 

「そっちは大丈夫だと思うけど、魔物の活発化には気をつけてな」

 

『おう!』

 

『こっちは任せとけ!たまには帰ってこいよ!』

 

『んでもって手伝え!』

 

 あはは、相変わらずだな。まあ一段落着いたら行くのもいいかな?転移石に登録もしておきたいし。

各街のポータル同士は繋がってるから、行くだけならさほど苦労も無いだろう。利用料がバカ高いだけで。

あとは…おや。

 

「こんな所に居た。依頼終わったのよ。遊びに行かない?」

 

 声を掛けてきたのは赤髪の剣士、美乳系美女のエレーナ。以前自由討伐(特に依頼を受けずに魔物を狩ること)に出かけ、

その先で偶然出会って以来こうしてたまにデートするのだ。

まあ恋愛感情とかでなく暇つぶしとか息抜きに遊ぼう、というわけだな。

殺伐としていて遊び道具も少ないこの世界では異性とのデートはいい遊びになる…らしい。

正直冗談半分で誘ったら簡単にOKされた時はポカーンだったよ。それ以来だな、よく女の子誘うようになったの。

 

「悪いお前ら。赤髪美乳美女剣士に誘われたからデート行ってくるわ」

 

『んだとおっ!?』

 

『祭りじゃー!嫉妬団であえー!』

 

『美乳うp』

 

『出来ねーよwww』

 

 ほんと、騒がしいけど平和だなあ。

 

 

 

 

 

 



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3話

 

 皆さんはPKというものをご存知だろうか。プレイヤーキル、もしくはプレイヤーキラーの略称である。

プレイヤーがプレイヤーを殺す事やそれをする奴の事を言うのだが、このゲームでもPKは出来る。

本来なら死んでも拠点に戻るだけだしこのゲームはデスペナルティが小さいので余り影響はない。

勿論経験値は手に入るのだがアイテムは手に入らないというか死んでも落としたりはしない。

この半現実世界でも殺した相手のアイテムは落ちたりせずに消えるらしい。

特にドロップ総数に上限があるわけでも無いので、経験値以外に余り旨みはない。

 それ以前に、この世界では協力しないと生き抜くのは難しい。何故なら皆スタートラインが同じだからだ。

廃人と一般人の間のプレイ時間の差、というのもずっとこの世界に居るのなら大差はない。

ここに居る連中は全員先行サービスに通った者だけ。β版プレイヤーか事前に情報を集めていた者ばかりなので、

あまり情報量に差も無い。情報掲示板なんかもあるし、NPCもそこそこの知識は持ってるしな。

殆どはその者の勘とセンスと努力次第。となればPKしようにも大してレベルに差がない、という状態になる。

 それに、PKなんぞすれば村八分当然である。初期にPKが暴れるのを予想し恐れた一部有志によりPK狩りが行われたのもある。

PKとなる可能性のある者を監視し、誰かを襲った時点で逆襲撃をかけて殲滅する。

勿論PK推奨チームなんぞ作れば纏めて皆殺し確定であり、5000人居てもそこは小心者な日本人(オタク多数)。

ゲーム中なら兎も角実際に人が死ぬ世界でPKなんぞしたがる奴も少なく、少ないそいつらは早々に駆逐された。

所詮ゲームと舐めてかかった奴らは早々に退場したし、他人を陥れるようなタイプはこの環境じゃ長生きできない。

5000人という数字や、事前プレイヤーが多かったのもあるだろう。おかしな連中は少なかったし、皆経験的にも平等だった。

 そんなわけで、アクの強い奴やら我の強い奴、しぶとくしつこく活動してるバカ共は居るものの、

概ねこのような状況にしては正常な状態を保っている。仲間意識が強いというのもあるだろう。

周囲は自分達の正体など知らないNPCばかりで、協力しなければすぐ死んでしまうような状況。

皆同じスタートラインなので純粋に隣人が頼りになるし、自分一人じゃないと思えば精神的な支えにもなる。

何かしら不和を煽るような要素でもあればまた違ったのだろうが、そういうのは割りと少なかったのも幸いしている。

 

『ま、一番はM.M.が居るからだよなー』

 

『強すぎワラタwwwグランドスラッシュとかなんぞwww』

 

『新スキルに高レベルに一人だけグレン到着だもんなーww』

 

『M.M.はホンマ希望の星やでえ』

 

 グランドスラッシュはスラッシュの上位スキル『チャージスラッシュ』の強化派生版である。

β版では無かったスキルの一つで、スラッシュの範囲が通常のリーチの約三倍になり、威力補正も大きい。

ちなみにチャージスラッシュは溜めが長くなる代わりに威力も相応に上がったスラッシュだ。

これらスキルは使い続けてランクを上げていけば初期のスキルでも中盤ぐらいまでは使える。

派生スキルなら十分終盤でも通用するようになるのだ。ランクを上げていけば自然と派生スキルは覚えるので、

基本的によく使うスキルを絞って育てた方が戦闘力は上がるとされている。

そうして戦闘力が偏った連中が互いの不得手を補い合うためにパーティーを組むのである。

俺のように一人で何でも派は珍しい。

 

『実際M.M.が居るおかげで不安も少ないもんなー』

 

『順調に進んでる奴が居るって思うだけで一安心だよな』

 

『順調って次元じゃねえけどなwww』

 

『マジでなにやったしwww』

 

 チャットであちこちから合いの手が上がるが実際、超絶レベルで突き進んでる奴が居るというのは精神的に楽だろう。

俺も脱出法は一人で独占するなんてケチな事を言うつもりはない。

一人しか帰れないならまた考えるが、現状帰還方法の手掛かりを探している段階だからな。

勿論皆も俺一人だけ帰還する心配もしているのだろうが、手掛かりの手の字すら見つかっていない現状ではどうしようも無い。

おだてたり持て囃してヤル気を出させてさっさと見つけてもらおうという打算もあるのだろう。

その辺は俺だって帰還方法を求めている一員なのだし、険悪になるよりはいいので文句もない。

 ああ、それとバグについては話していない。ただでさえ危険な状況なのだ。

バグなんていう目に見えない上に唐突に訪れうる危険を無為に広める気も無いし、

現状俺以外にバグに巻き込まれた奴も居ないようなので情報開示は様子見しているのだ。

俺以外にもバグの被害を受けたりといった報告が上がれば俺の情報も開示しようと思っている。

へたに反則技でやらかしたって自分から知らせるのもなんだしね。

 

「…来た。おまいらー、視聴準備はいいかー?録画出来てるかー?」

 

 ドドドと遠くから鳴り響いてくる地鳴り。俺は戦闘撮影用の撮影機三台を起動させ、リアルタイム配信を開始する。

これはVRなら大概のゲームに備わっている機能だ。何せリアルな感覚で戦えるゲームである。

強い奴の超絶戦闘何かは大概撮影されてて人気があったし、こういう所謂生放送もよく見かけたものだ。

勿論戦闘方法の研究やスキルの考察なんかでも役に立つし、撮影対象も自分の戦い方を観察出来るのだから有用である。

取り敢えず生配信用の魔法具を三機使って生配信し、録画は視聴者に任せる事にした。多少画質は落ちるが構うまい。

 こっちに来てから今日で35日。俺がこの街に来てから20日。現在レベル582で据え置き。

この辺のフィールドは200~300代だし、グレバニア王国内の最高位ダンジョンでも500程度が精々だろう。

そもそも現段階ではフラグ等諸々の理由から開放されていない可能性も大きい。

それ以上ともなればどこの国にも属さない所謂『未開拓地域』に行かないといけないだろう。

この未開拓地域、実はこの大陸の外にある。というかβ版の時はこの大陸だけが舞台で、

正式版になって新しい大陸や地域が追加されたのだ。この大陸にも新ダンジョンは追加されているが、最高レベルは変わらず。

となればそれ以上は未開拓地域というの名の別大陸へと赴く必要がある。

今までには無かった高レベルモンスターの徘徊するフィールドやダンジョンも当然あるだろう。

 が、フラグの関係からか未開拓地域への移動手段が今のところ無い。

情報ではどうやらグレバニア王国王都グレンつまりは此処で、海洋超えをするための冒険者を募集しているらしい。

恐らくもっとゲームが進行してプレイヤーが多く集まったらイベントが開始され、

海洋超えクエストとかの大型イベントをクリアして乗り越える事で未開拓地域に到着。

その後幾つかの大型イベントを皆で協力してこなせば直通手段確保、といったところだろう。

 

『録画準備おっけー!』

 

『いてこましたれー!』

 

『期待してっぞー!』

 

 考察している間に準備が済んだようだ。地鳴りも大きくなり、山岳地帯の向こうから押し寄せる魔物の大群が見える。

周囲には今回の防衛戦に参加する有志の冒険者(NPC)達。大概は200~300レベルだ。

中には400ぐらいのお助けキャラ的な奴も居るが、それすら軽く上回る俺の582。

レベルのせいかプレイヤーだからか、何故か防衛隊のリーダーに認定されてしまった。

指揮自体はNPCの王国騎士がやっているので俺にそこまで細かい役割は無いのだが、

リーダーが撃破されるとNPCの士気が下がり弱体化するというデメリットがあったり、

逆にリーダーが活躍するとNPCの士気が上がって強化されたりするぐらいだ。

死ぬ気は無いし負ける気もしないので何とかなるだろう。

 

「さて…来いよ雑魚ども。目にもの見せてやるッ!」

 

 自身に喝を入れ高速で飛び込む。思い切り踏み込んで気合一閃、《グランドスラッシュ》を放つ。

半径数m、扇状の範囲内に存在する魔物を一撃でナマス切りにした。200程度ばかりだったのだろう。

レベル差が倍もあれば流石に一撃圏内だ。武器の性能というのもあるが。

瞬間、チャットに沸き立つ歓声が上がる。それもそうだ、200超えという自分達では手も足も出ないバケモノが瞬殺。

士気を上げるためにも敵の掃討を最優先とし、《ソニックムーブ》で高速移動をしながら《アクティブスラッシュ》を発動。

ムーブ系は風の加速魔法《ブースター》とステップ系スキルの合成スキルで、両者が一定のランクになると習得する。

《ソニックムーブ》は《ステップ》と加速魔法《ブースター》の合成スキルでムーブ系では一番効果が低い。

しかしそれでも二つのスキルの合わせ技だけあって尋常ではない移動速度を叩きだす。

更に《アクティブスラッシュ》は移動系スキルと同時に発動する事の出来るスラッシュで、

移動スキルによって高速移動しながら次々と敵をナマス切りに出来るため非常に強力だ。

スキルによる威力補正があれば200後半でも一撃圏内。通常攻撃だと最低2発は必要。この差は結構大きい。

 

「っ!固まってるな。――――――――――――――――――――――ッ!《エクスプロージョン》!!」

 

―ゴウッ―

 

 魔物が一箇所に固まっているのを確認した俺は《エアーシューズ》で空中待機。MPが少しずつ減っていく。

そのまま詠唱状態に入り、俺の口が勝手に呪文を詠唱する。流石に強力な魔法だけあり詠唱時間が長かったが、

その代わり放たれた一撃はまさに必殺。周辺の岩山ごと飲み込んで広範囲を一気に殲滅した。MPが5分の1ほど持っていかれる。

 

『ゑ?』

 

『なんぞそれ?』

 

『ヤベーツエー!?』

 

『今までナマ言ってサーッセンシターッ!!』

 

 チャットの向こうが少しうるさい。とはいえまあ仕方なかろう。街のNPC冒険者達もポカーンだ。

そりゃそうだ、今ので5分の1ぐらいの魔物が消し飛んだのだから。

とはいえ固まっている奴らはもう居ないし、元々長期戦前提のイベントだ。

後から湧いてくる連中も居るだろうし、MPは温存しながら進むとしよう。

 

『ワーーーーーーッ!』

 

 後方から上がる歓声。チャットも大盛り上がり。士気が上がったおかげか殲滅速度が上がった。

とりあえずレベルの低い奴をナマス切りにして進み、高いやつを見かけたら積極的に殲滅していく。

《ステップ》、《スラッシュ》、《スラッシュ》、《ソニックムーブ》、《グランドスラッシュ》、《ステップ》、

《スラッシュ》、《ソニックムーブ》、《ファイア》、《フリーズアロー》、《ステップ》………

兎に角移動しまくって片っ端から片付けていく。敵の攻撃は『直感』スキルで察知、《空蝉(うつせみ)》で背後を取る。

 『直感』スキルとは危険を察知するスキル。ランクに応じた確率で敵の攻撃が頭にイメージとして浮かぶ。

Sランクまで上げれば100%発動するようになる強力なスキルだ。

更に察知範囲の広い『超直感』や察知の早い『未来視』などの強力なスキルに派生する事もあり、積極的に育てている。

 《空蝉(うつせみ)》は相手が自分に向け攻撃してきた時に発動する事で、攻撃をすり抜けて相手の背後に瞬間移動するもの。

相手は当たったと思ったら後ろを取られている状態になるわけで、やられたら結構焦ると思う。

ランクに応じて成功率が上がったり瞬間移動後の硬直時間が短くなったりする他、

Dランクを超えると10レベル以上レベルが下の相手には発動率が倍になるためかなり強力なスキルでこれも育てている。

 

『おおおおおーーーーっ!!!』

 

『すげえつええええ!?』

 

『何いまのかっけー!』

 

『くっそ早く上がれ俺のレベル…』

 

 こら、チャットうるさい。少し静かにしなさい。というかあれか、読み上げ切っておけばよかったのか。今更後悔。

とはいえ戦闘中に悠長にメニュー操作してるのもあれだし撮影している以上見栄えも悪いのでスルー。

しかしあれだな、こういう歓声の中で活躍するというのも悪くない。

以前はそこまでプレイ時間の長い方でも無かったし、ちやほやされるのは廃人とかの上位陣ばっかりだったわけで。

今までここまで無双したり活躍したり応援されたりという経験が無かった。

スポーツ選手がよく『応援があったから頑張れた』って言ってるのを聞いてはいはいテンプレ乙とか思ってたけど、

これは確かに癖になるし力も湧いてくる。なんか知らんが頑張れる。こういうの、いいな。

いや、待て待て俺。現実世界に帰るんだろう。慣れるなよ。喜ぶなよ。永住したくなるじゃまいか。

 

『スキル:『英雄気質』を習得しました』

 

 うわーい何か覚えたー!?気になる。視界にメニュー開きながら戦うか?

なんかちょっとガチで力湧いてきてるし。気になるから見てみよう。

 習得条件は…英雄的な行動を好んで取り、一定以上の人間から評価又は応援される事、それを本心から喜ぶこと、か。

感情が条件になるスキルも結構あるしそれっぽいスキルだからいいとは思うんだが…

やっぱ一人無双してるのがでかいんだろうなあ。英雄的な行動ってのはあれか、

誰かを助けたり敵に単身突っ込んだり大規模イベントのリーダー張ったりか。うん、全部やってるな。

 効果は…HP・MP・スタミナを除く各種ステータスに上昇補正、か。ランク上がれば効果も上がるかな?

今は1.01倍ぐらいだし、多分最終的には1.2倍ぐらいは行くか?ちなみに消費なし常時発動のパッシブで1.2倍はかなりデカい。

似たようなのを複数所持すれば平気で2倍とか3倍とか行くのだ。アクセサリー類の補助効果も含めればかなり強くなる。

それに『英雄気質』て何かちょっとしょぼい気がする。多分もっとそれっぽい派生スキルがある。

英雄の資質とかまんま英雄とかそういう類のスキル。きっと英雄的状況下でのパワーアップ効果とかあるよ。

これも育てていく事にしよう。純粋に強化は嬉しいし、派生してくれれば更に嬉しい。

派生しないスキルは無いと言われる程スキルの種類が豊富だからな、このゲーム。スキルコンプとかしてみてえ。

 

「と、いうことで何か覚えた」

 

『まじかよwww』

 

『チートが更に加速するwww』

 

『wktkが止まらねえwww』

 

 チャットの連中とくっちゃべりながらも敵を一心不乱に屠っていく。

正直この辺の敵じゃあ細かい描写をするほどの戦闘にならない。

木々や岩陰の合間を縫い、駆け抜けながら只管に切り裂いていく。

物理の効きにくい奴には魔法を放ち、強力な攻撃は大事を取って【直感】と《空蝉》で回避していく。

雑魚の一撃でも急所に当たると洒落にならないダメージが通るためだ。

まあスキルを育てるというのが一番の目的なのだが、兎にも角にも俺無双。

敵がバラけてきたためか高速各個撃破が出来るようになり、大分余裕も出来た。

駆け抜けて斬る、駆け抜けて斬る、飛んで放つ、駆け抜けて斬る、躱して斬る、飛んで放つと繰り返していく。

視界の端では撃破数の表示がどえらいことになっているが無視無視。

チャットの向こうではすっかり観戦モードでわいわいと賑やかな応援やヤジが飛んでいる。

 

『ナナシ様に続けーーーッ!』

 

『おおおおおおおおーーーーーーーーーっ!!!』

 

 後方で更に奮闘する冒険者と騎士達。また士気が上がったようだ。

ちなみにナナシというのは、M.M.では明らかに偽名っぽいという事でNPC向けに用意した名前である。

M.M.→エムエム→ムエムエ→ムメエ→無名→ナナシ、というアナグラムもどき。名前表示がバグってる事にもかけてある。

俺以外の人には普通に見えるらしいんだけどね。何故か俺にはバグって見える。

レベルも582となっているらしいので合っては居るのだろうが、いかんせんバグっているので若干不安でもあったり。

俺の本名をメモ帳に書いてみたのだが俺には文字化けにしか見えず、ナナシは普通に読めた。

多分誰かが俺の名前を呼んでいても上手く聞き取れなさそうなので本名は却下。結局ナナシに落ち着いている。

名前の表示も変更したのでチャットでもナナシと出ているのだが、殆どM.M.で定着してしまっているらしい。

 

「しっかしこれ、時間かかるなあ。ま、いい機会だ。片っ端からスキルを鍛えさせて貰うか!」

 

 本来なら湧き待ちをするか敵を求めてダンジョンを練り歩かないといけないのに、

こういったイベント中はイベントの終了時刻までは無制限に湧いてくるため非常にいいカモになる。

ありがたーく色々な経験値を頂くことにした俺は、宣言通り片っ端から殲滅していくのだった。

 

 

 

 

 

 

「お疲れー」

 

「おつかれさま~」

 

「おう!兄ちゃん凄かったなあ!」

 

 開始から3時間。やっと敵の殲滅を終えた俺達は街の酒場で呑んだくれていた。

現実と違って成長を阻害されたり二日酔い等のデメリットが無いので未成年だろうと飲み放題だ。

VRが流行ってから未成年の飲酒や喫煙等による補導が大分減ったらしい。

そりゃそうだろう。わざわざ捕まるリスクを犯さなくても好きなだけ吸ったり飲んだり出来るのだから。

VR内の酒やタバコなら健康被害や中毒作用も無いので酒や煙草で失敗するという心配も無い。

酔ったりはするが精々気分が良くなる程度で酔いつぶれる事も無い。

多少リアリティが低いというのが欠点だが、そもそも酒のんで気が良くなってる時にそんな細かいこと気にしまい。

それにこの世界はやけにリアルなので現実世界と変わらない感覚で飲める。こっちでも酔い潰れたりしないのは確認済みだ。

 

『見てきた。すげーなおい』

 

『だろー?あのうつせみってのかっけーよな』

 

『つーかチート過ぎワラタ。え何、あれが例の噂の人?』

 

『お前チャットで喋った事無かったっけ。そうそう、あの人あの人』

 

 チャットの方でも盛り上がっているようだ。向こうの街の酒場で鑑賞会の真っ最中らしい。

あっちのNPCやら生放送見逃した連中が見たりするためらしいのだが、一回見た奴も酒のつまみに見直しているようだ。

暫く…少なくとも2、3日ぐらいはオープンチャットの話題を独り占め出来るだろうな。流石に気分がいい。

気になった会話にちょこちょこ参加したり相槌打ったりしつつ、今回の活動報告を掲示板に書き込んでいく。

スレタイは『【俺達の】ナナシことM.M.神を応援するスレ【希望の星】』。何か気がついたら出来てた。

現在既にPart5まで行っていて、俺が覗いていない時もかなり賑わっている。

適当な合間に覗いては雑談に参加したり、俺が手に入れた情報や所見を報告していくのがメイン。

スキルの詳細な情報からβ版との変更点、こちらの地域で見つけたものやあった出来事、

元のゲームや現実との差異など気になった事もどんどん書き込んでいこうというのが目的。

基本的には情報提供によって団結強化と各種アドバイスと周知徹底と帰還方法模索を促すというものだ。

まあ近況報告や雑談も結構多くて情報が埋もれたりしてるので、有志によってwikiなんかも作成されている。

題して『皆で帰るwiki』。探索範囲の拡大と帰還に関係する情報の纏めに重点を置いて作成されており、活動も活発。

 

『あ、そういえば報酬どうなったんだよ聞いてねえぞ』

 

「あ、悪い忘れてた」

 

 そうそう、今回のような大規模なイベントやクエストには勿論報酬というものが存在し、

基本的にそれらは活躍に応じて変化する。魔物にダメージを与えた回数や倒した数、リーダーなら士気への貢献度など。

勿論途中退場とかもマイナス要因になるし、イベントで最も活躍した者には特別報酬も出る。

今回の報酬はまず金でおよそ150万ルード。よく分からないだろうからここでちょっと金銭価値について説明。

 初期の街なら宿に1泊500ルード、休憩250ルード。冒険者向け1食100ルード、リンゴ一個8ルード、ポーション一個30ルード。

木剣一本300ルードで、鉄の剣一本1000ルード。旅人服が250ルードで、皮の軽鎧が600ルード。皮の重鎧で800ルード。

 グレバニア王都グレンなら1泊10000ルード。休憩5000ルード。1食500ルード、上級ポーション3000ルード。

標準的なアクルム鉱の剣50000ルード、軽鎧45000ルード、重鎧60000ルード。最高級品なら10万ルードを超える。

 ココで言う宿や食事は全て冒険者用のシステムやサービスが整ったものであり、

周辺の環境が悪い地域や冒険者の質が高い地域程相応のものを提供するために値段も高くなる。

そもそも宿屋は冒険者向けしか無いし、冒険者用の食事にはスタミナ回復やステータス一時アップなどの恩恵がある。

ただ腹を膨らませるだけなら50ルードから100ルードもあれば普通の食事量ならたらふく食える。

まあつまり今回の報酬は、この大陸最高級クラスの装備品を15回は買える金ということだ。

素材等を用意してオーダーメイドで作ってもらう特級最上品でも5つは買える。

 

『150万!?』

 

『うっはボロ儲けwwww』

 

『くっそ裏山www』

 

『さすがM.M.神やでえ』

 

 とまあチャットもこういうリアクションになるわけだ。

それもそうだろう、普通なら大所帯のチームで貰う金額をたった一人で得てしまったのだ。

例え高レベルのやつが偶然居合わせて無双しても、他にもプレイヤーが居れば10分の1ぐらいにはなるはずだ。

今回はイベントへの参加者が少なかったための結果である。まあソロっていうのが一番デカいんだが。

 

「とりあえずもう金には困らんし、当面はスキル上げかな」

 

 これで金とレベルはモーマンタイ。ジョブランクと武器熟練度は戦ってれば上がる。

当面は覚えたスキルを使いまくって成長させたり派生させたり、後はジョブチェンジやサブ武器育成を行う事になるだろう。

ジョブは今回でノービスA-まで上がった。あとはA+まで上げてからクリエイターに転職する。

どの道大陸超えは出来ないし、初期の街訪問は後回しでもいい。

この辺りのダンジョンを片っ端から探索し尽くして、その過程で色々上げていく事にする。

最初に目指すは北東にある魔の霊園かな。年代不明の巨大な墓地遺跡が広がっているエリアで、森に囲まれている。

アンデッド系のレベル300クラスのモンスターが出没する高難度ダンジョンだ。

 

『こえー、俺なんか一歩も動けずに瞬殺だわ』

 

『お前アンデッド駄目なんかいww』

 

『いや実際レベル差もひどいよな』

 

『そもそもダンジョンまで行けないっていうwww』

 

 こうやってちょっと方針を話すだけでノリノリで会話してくれるのは地味に嬉しい。

彼らとしても俺が積極的に活動しているというのは進展を感じられて励みになるのだろうし、

俺もこうして平和な日常を感じられるのは心の支えになる。

実際に生きるか死ぬかの戦いを繰り返すこの世界じゃ精神的なものは大事だよ、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 そうして1ヶ月弱。こちらに来てからもう二ヶ月だ。現実では10時間は経っている。

確か休日だったかな?まあよく寝ているレベルで済むだろう。丸1日起きて来なかったら流石に心配されるだろうけど。

というか、早く帰らないと現実の体餓死しないだろうな。点滴ぐらいは打ってくれよ、頼むから。

まあ5ヶ月弱経っても向こうじゃ1日。2、3日は餓死もしないだろうから1年は少なくとも保つだろう。

それ以上はマジで向こうでちゃんとした処置をしてくれることを祈るしかない。

…もしかすると、向こうでは俺は行方不明になっている可能性もあるのだが。

単純にログアウト不可では無く異世界トリップだとしたら…まあ、その時はその時だ。

 

「ん…はっ!」

 

 考え事をしている間にでかいトカゲを切り捨てる。リザード系モンスターで、言ってしまえば雑魚式ドラゴン。

とはいえドラゴン種とくらべれば小型だし翼も無いしであまり脅威では無い。

四足歩行のフレイムリザードから二足歩行のリザードナイトまで一つの系統でもかなりの種類だ。

まあどいつもこいつもレベルは精々400以下。ボスクラスでも500超えはまずいない。

この大陸でのラスボスが500ぐらいだったか。クリア後のダンジョンで500超え、裏ボスで1000。

もうあれはチートとか反則ってレベルじゃねえわ。雑魚とのレベル差最低で200って。完全やり込み向けだな。

何度数多の冒険者達が散っていった事か。正直あれが居たら勝てる気しねえというか絶望しかねえ。

とはいえ実際β版ではこの大陸以外の地域が実装されていなかったためのお遊びダンジョンだったらしく、

触れ込みでもβ版限定裏ダンジョン解放!とかいう感じだったから正式版では無いはず。

まあその辺の確認をするのも俺の仕事になるのだろうな。

 

「後はフラグ待ちかなー」

 

 ラスボスに関連する一連の大型イベントはある程度の期間や進行度などのフラグが立たないと発生しない。

それにβ版でもラスボス関連イベントはβ版終了間近に最後の大型イベントとして発生したものだ。

弱い冒険者も皆で後方支援に当たり、強い冒険者は徒党を組んで押し寄せ、多大な犠牲と共に打ち倒した。

実際あのイベントが発生したらどれだけの死者が出ることやら。

多分俺はその時最前線に居るだろう。死者を減らしたい、なんて殊勝な事を言うつもりはない。

ただ自分が生き残るために。いつか必ず帰るために。

絶対に安心して勝てるってぐらいに、ラスボスなんて一撃余裕でしたとでも言わんがほどに。

俺は絶対強くなる。

 

「なんてなー」

 

『かっけーなおいww』

 

『出来そうで怖いわwww』

 

『ラスボス一撃はねーだろwww』

 

 うん、何か色々台無しである。

 

 

 

 

 

「てな感じで、あらかたのダンジョンは制覇したかな」

 

『すげー』

 

『888888888888』

 

『バケモン乙』

 

『チート過ぎワロタwww』

 

『リア充爆発汁』

 

 おい最後。いや、まああの英雄イベント以来かなりモテるようになったけどさ。むしろ怖いくらいに。

あっちに行っては声かけられ、こっちに行っては声かけられ。市場のおばちゃんは気前よくリンゴくれたし、

酒場に行けばマスターが一杯サービスしてくれる。ギルドに行けば羨望と嫉妬でざわざわだ。

チャットや掲示板でも好意的な意見やコメントが増えた。前は流石に懐疑的な奴も多かったのだけど、

流石にあの戦闘映像(直感チート・スラッシュ無双・うつせみ無双・超絶大破壊(エクスプロージョン))を見たら…ねえ?

実際このゲームはβ版でかなりやり込んでいたからリアルスキルもあったという事もある。

敵が雑魚ばっかで同レベル相手の所謂"実力"は分からなかったけど、それを抜きにしてもおかしい強さなのは間違い無い。

そのおかげか好意的な意見や積極的に協力してくれる人が大分増えたのだ。

俺でも知らなかったようなシステムに関する情報を提供してくれたβ版廃人も居たりして、眼から鱗だったな。

 

「何はともあれ転職だ」

 

 そうそう、予定通りクリエイターに転職した。これは各種情報を元にCぐらいまで伸ばそうと思っている。

ノービスA+まで育てたおかげで探索系や基本系のスキルで有用なものを憶えられたし、戦闘面はこれでもういい。

クリエイターで覚える汎用系作成スキルは二次職以降で覚える専門系作成スキルには劣るため、

作成スキルの補助を狙えるスキルを取ったらさっさと転職してしまう事にする。

いずれはA+目指すかもしれないが重要度と優先度は低いので、まずは二次職になることが最優先だ。

転職は条件に指定されたジョブがCランク以上である必要があるため、そこまでは上げる。

工学士や錬金術師も完全な上位互換の職があるのでさっさと転職する。

勿論重複する各種補助効果を保つスキルを得れば色々と底上げにはなるが、

最低限必要な分は最上位職でも得られるし、上げ幅もそちらのほうが大きい。

転職にかかる金や手間は同系列であればさほど気にならない程度の余裕はあるし、

下位職を極めるのはまず先に最上位職を極めてからでも遅くはないのだ。

 

『なるほどなー。つーかもう転職かよ』

 

『俺でもこの前転職したばっかだぜー?…Cランクで』

 

『うわお前もったいねえ。ノービスのA+スキル便利だぞ?』

 

『mjd!?ぐっはあ…金と手間がががが』

 

 うん、確かにあれは便利だ。何せノービスで手に入るスキルの消費軽減と効果底上げ効果を保つスキルだからな。

ステップとかスラッシュとかの初期スキルにも効果があるし、その派生スキルにも少しだが効果がある。

おかげで連続戦闘可能時間が伸びて戦闘時間は縮んでいる。もう初期スキル辺りはスキルランクA+ぐらいは行ってるし、

その辺のスキルは殆ど使い放題の域だな。スタミナ回復系装飾品での回復量の方が消費より多いぐらいだ。

俺みたいにレベル差が激しいなら兎も角、レベルが拮抗していて…それも序盤のステータスならかなり有用なはず。

 

『やらかしたああああああああああああっ!?』

 

『m9(^Д^)プギャー』

 

『だから掲示板かwikiを少しは見ろとあれほど…』

 

『バカスwww』

 

 ほんと、ネタに困らない連中だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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クリエイティブトリッパー (オリジナル VRMMO→異世界 製造チート 地の文無し)
1話


「……えー、ここ、どこ?」

 

「森の中に泉? 見覚えがあるような無いような」

 

「つーかデュランダル持ったまんまだし」

 

「グルルルル……」

 

「っ!? ってリディアウルフかよ。脅かすなよな」

 

「グアァッ!」

 

「ふん、雑魚がっ!」

 

「ギャインッ」

 

「……あれ? なんか切れ味悪い? いや、能力が落ちてる? なんで?」

 

「えっとステータスっと。……え、全スキルLv1? ナニソレこわい」

 

 

 

 

「ログアウト不可、素材回収の腕輪正常、アイテム無限収納の腕輪正常、全スキルLv1」

 

「派生スキルは失ってなくてLv1、アイテム各種もそのまま」

 

「チャットやメールは使用不可、ランクや所属クランは初期化」

 

「装備は創造者特権で能力制限の代わりに自由に使えるからいいとして……」

 

「アイテムの持ち運びも問題ない。リディアウルフの素材も腕輪が自動回収」

 

「何より問題なのは全スキルLv1。拙くね? 元々数百はあったんだぞ」

 

「あ゛ー、体が重い。派生スキルが残ってるだけマシか」

 

「スキルだけなら初級上位、装備含めても中級上位ぐらいか?」

 

「初級、下級、中級、上級、一流級、超一流級、豪傑級、英雄級、無双級、伝説級、

 公式でのランクはこの10段階で、更に非公式に上・中・下位が付くと」

 

「戦闘経験込みでせいぜい上級下位、武具の相性も入れてようやっと上級上位クラスか……」

 

「これがさっきまでやってたVRゲームの中なら、運営に文句の一つも言ってやるとこだけど」

 

「足元の狼の死体そのままだし、五感にもビニール一枚挟んだような違和感が無いし」

 

「血の匂いから木々のざわめきに至るまで全て本物、だよなあ」

 

「事実は小説より奇なり……というかこの場合、小説と同じく奇なり、か」

 

「とりあえず、場所は判明したな。リディアウルフが居て湖のある綺麗な森。

 『アルケルディア王国』王都『アルケス』最寄りの『リディアの森』だな」

 

「しゃあない、歩くか」

 

 

「おー、もうLv5まで上がってる。流石幸せの指輪×10。自信作なだけあるわ」

 

「説明しよう!幸せの指輪とは俺の作品の一つである。この指輪を装備し指輪ごとにスキルを指定すると、

指定されたスキルは何もしていなくても徐々に経験値が溜まっていく初心者大歓喜なシロモノなのだ!」

 

「実際、初心者じゃなくても経験値稼ぎにくいスキルの底上げとかには便利なんだよな」

 

「ただまあLv5ぐらい、1日あれば上がるからなあ。24倍速?効率的にはもっといいけど」

 

「でも戦闘こなした方が早いよねぇ。とりあえず基礎ステータス系の上位スキルは上げとこう」

 

「このゲームキャラLvとかは無くて、ステータスは全部関連するスキルのLvで決まるんだよな」

 

「しかもステータス自体はマスクデータだし」

 

「Lvが上がったら必要経験値も増えるしなあ。早々簡単には上がらないか」

 

「寝てても上がるのは便利だけどね。でもこのゲーム、例え最上級のスキルでもLv低いとゴミなんだよね」

 

「派生上位スキルなら伸び率がいいのは事実だけど、その分必要経験値も多いし」

 

「どちらかといえばスキルが重複する上に経験値もそれぞれのスキルに入るから成長速度が上がって、

 その関係で強くなるってのが正しいんだよなあ。それでも上位スキル伸ばすほうが効率はいいんだけど」

 

「ランクを一位……下位から中位にあげようとすれば関連スキルLv10~30は上げないとなあ

 一階……下級下位から中級下位まで上げるなら使うスキルは全部50ぐらい上げないとか」

 

「スキル総数5000超えるから平均的に上げるのは無理だしなあ」

 

「計算では大体1日で30まで上がると。ここから王都まで丁度1日ぐらいか」

 

「まあ、ステ系上位全30なら下級中位ぐらいにいはなるか」

 

「と言ってもなあ。5000以上あるスキルの内10個だけ30上げてもなあ」

 

「暫くはレベル上げに勤しむしかないかあ」

 

「幸いテントとかの野営セットや料理の材料もある」

 

「スキルで作るとLv的に悲惨なことになりそうだから、まずは地力で作るかな」

 

「そうと決まれば早速野営準備だ。テントを張って、魔除けの魔法具を配置っと」

 

「ステータスは指輪に任せて、スキル使って素振りでもしますか。ついでに移動系使いながら」

 

 

 

 

今日の成長

*HP系特級スキル《不死身》がLv30に達しました*

*SP系特級スキル《絶倫》がLv31に達しました*

*MP系特級スキル《魔神級》がLv30に達しました*

*筋力系特級スキル《無双》がLv31に達しました*

*耐久系特級スキル《鋼鉄》がLv30に達しました*

*知力系特級スキル《天才》がLv30に達しました*

*精神系特級スキル《不屈》がLv30に達しました*

*器用系特級スキル《万能》がLv30に達しました*

*敏捷系特級スキル《神速》がLv31に達しました*

*運勢系特級スキル《運命》がLv30に達しました*

*SP系・筋力系・敏捷系の各種スキルがLv10に達しました*

*《長剣》《剣術》《スラッシュ》《絶技・閃華》《創造者特権》他12種の関連スキルがLv20に達しました*

*《軽量装備》《中量装備》《ステップ》《ダッシュ》《空中歩行》《縮地》他7種の関連スキルがLv20に達しました*

 

今日の装備

・精霊神のローブEX

 ミスリル銀の糸で編まれ、無数の精霊の力を凝縮して作られたローブ。軽量装備。

 精霊との交感能力を高め、魔法の力を爆発的に高める。最高ランクの魔法耐性・属性耐性を持つ。

 EXは同名装備の中でもプレイヤーに作成しうる最高ランクの傑作である事を示す。

 ランク制限・スキル制限を満たしていないが、《創造者特権》により能力を落として装備している。

 外見は旅人が身に付ける極ありふれたフード付きのローブ。茶色い。

 

・魔王神の保護EX

 オリハルコンとアダマンタイトによるハイブリットアーマー。中量装備。

 物理に対して圧倒的な性能を誇り、斬撃・打撃・刺突・衝撃などあらゆる物理攻撃の威力を激減する。

 EXは同名装備の中でもプレイヤーに作成しうる最高ランクの傑作である事を示す。

 ランク制限・スキル制限を満たしていないが、《創造者特権》により能力を落として装備している。

 外見は胸から腹部を覆うプレート。真っ黒。

 

・神渡りの靴EX

 幻想種の皮で作られたブーツ。軽量装備。

 移動系スキルの消費SPを10分の1にし、その効果を倍にする。速度にも高い補正を持つ。

 EXは同名装備の中でもプレイヤーに作成しうる最高ランクの傑作である事を示す。

 ランク制限・スキル制限を満たしていないが、《創造者特権》により能力を落として装備している。

 外見はごく普通の茶色いブーツ。

 

・デュランダルEX

 アダマンタイトをメインに様々な特級ランク素材を注ぎ込んだ最高峰の長剣。中量装備。

 炎の概念を注ぎ込まれており、高熱から爆炎まで自由自在に熱と炎を操る。攻撃力も非常に高い。

 EXは同名装備の中でもプレイヤーに作成しうる最高ランクの傑作である事を示す。

 ランク制限・スキル制限を満たしていないが、《創造者特権》により能力を落として装備している。

 外見は銀の刀身に黒いラインの入った通常サイズの長剣。

 

今日のマイフェイバリットスキル

《創造者特権》

特級作成スキルを極めた時に派生するスキル。

自身の作成した武具・アイテム全てを制限を無視して装備・使用出来、その代わりに能力が激減する。

スキルレベルが上がると能力の減少率が低下する他、

一定レベルを超えると一度作り設計図を登録した武具・アイテムを一瞬で作成することが出来るようになる。

この時の素材は種別に関係無く必要な量さえ満たせばよい。

必要レベルや素材の量は武具・アイテムのランクに依る。

このスキルによって作成された武具・アイテムは作成後3分で消滅する。

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

「うん、寝ててもLv上がるとか指輪パネェ」

 

「さて、選択肢は2つ。街へ直行おあーここでレベリング」

 

「食料等は問題なし。お金は最悪素材売ればよかろうもん」

 

「人恋しいかっつーと……精々1週間程度だし。Lv低いまま人の居るとこに行くほうが不安とか俺ファンタジー慣れし過ぎだろ」

 

「PKも怖いしなあ。いや、こっちじゃただの犯罪だけど」

 

「せめて対人スキル上げてから行こう、そうしよう」

 

「というわけで装備チェーンジッ!」

 

*装備*

幸せの帽子

幸せの額当て

幸せのイヤリング×2(非貫通)

幸せのメガネ

幸せのネックレス

幸せのローブ

幸せの肩当

幸せの軽鎧

幸せの篭手

幸せのブレスレット×2

幸せの指輪×10

幸せの長剣

幸せの短剣

幸せの腹巻

幸せのベルト

幸せのパンツ

幸せのズボン

幸せのすね当て

幸せの靴

 

「『幸せ装備THE・ゲシュタルト崩壊~お花畑より愛をこめて~』ッ!」

 

「うん、ここまがっつりやるのも久しぶりだな。作っておいてよかったよ」

 

「普通は時間を無駄にしないためのものなんだけどねえ。まさか幸せ装備メインで使う日が来るとは」

 

「幸せ装備って専用の素材が幾つも要るから作るの大変なんだよなあ。ま、ささやか(?)な贅沢だ」

 

「つーか暑い。すっごい暑い。《クール》!……Lv低いと1度ぐらいしか下がらないなこれ」

 

「ええっとなんか無いかなんか無いか……ああ、エアコンボックスがあった」

 

「説明しよう!エアコンボックスとは魔法で気温調節が出来る箱型の魔法具なのだ!ぶっちゃけただのエアコン」

 

「見た目格子付けただけの木の箱から風が出てくるってのも地球なら中々にホラーだよね」

 

「なにはともあれ、30個の幸せ装備によって俺の成長が加速するッ!同じスキルは重複しないんだけどね」

 

「とりあえず武具系全般だろー、防具系全般だろー、ステータス系だろー、魔法や技のアクティブスキルにー、

 あると便利なパッシブスキルやサポート系のアクティブスキルにー……装備足りねえ」

 

「しゃあない、数日かけるか。今言ったのが全部Lv30ぐらいあれば最低限はどうとでもなるだろ」

 

「ほんとなら低くてもLv50ぐらいまで行きたいんだけど、Lv30からLv50までに3日4日かかるんだよなあ」

 

「とりあえず《創造者特権》は鉄板。ステータス系は上から二番目の10個をまずは30まで上げようか」

 

「ステータス系は伸び率ごとに初期・上位派生・最上位派生・特級派生とあって、

 それ以外にも補正効果のあるスキルは多いからなあ」

 

「とりあえず《長剣》《短剣》は自力で上げるとして。《拳》《大剣》《刀》《斧》《鎌》《槍》《弓》《杖》《暗器》あと《盾》もか」

 

「《剣術》も勝手に上がるよな。《格闘術》《柔術》《抜刀術》《槍術》《弓術》《杖術》《投擲術》《暗殺術》」

 

「よし、30個」

 

「さあ素振りだ素振り。長剣と短剣で《二刀流》とか《瞬剣》とか《連撃》とかも上がるな」

 

 

 

 

「武器と武術は全部30超えたな。ああ、《武術》上げるの忘れてた」

 

「《大盾》《小盾》《兜》《篭手》《軽鎧》《重鎧》《重量装備》《ローブ》《靴》《ブーツ》で10個と」

 

「《帽子》《アクセサリー》《指輪》《腕輪》《首輪》《耳輪》《ベルト》《眼鏡》あ、《すね当て》忘れてた」

 

「で、残りは上位派生のステータススキル、と」

 

「うん、相変わらずカオスだなこのゲーム」

 

「取り敢えず素振り素振りっと。《創造者特権》は幸せ装備でも発動してるからそっちはいいや。

 ギルド行ってないからランク足りないんだよね」

 

 

 

 

「よし、次は魔法だ。種類多いし二回に分けようか。まずはパッシブから」

 

「《魔法》《魔法力》《魔術》《詠唱》《詠唱術》《高速詠唱》《短縮詠唱》《詠唱破棄》《無詠唱》《多重詠唱》で10」

 

「《術式》《術式創造》《多重術式》《魔法付与》《術式付与》《刻印術》《陣術》《符術》《精霊魔法》《大魔導》で20」

 

「あとは初期スキルを30まで上げようか」

 

「さあ素振りだ素振りー」

 

 

 

 

「さて。今日は魔法のアクティブスキルを鍛えましょう」

 

「《メテオフォール》《メギド》《絶対零度》《サンダーストーム》

 《ジャッジメントレイン》《ダークホール》《グラピトンプレス》辺りは鉄板かなあ」

 

「《アブソリュートフィールド》《アブソリュートバリア》《アブソリュートシールド》の防御三種は鉄板」

 

「《オーロラアッパー》《オーロラダウナー》《オーロラリセット》は全能力上下系でも効果の伸び率がいいしリセットも必須」

 

「《バーストリジェネ》《魔力超回収》《スタミナチャージ》はあると便利」

 

「回復系で《リザレクション》《バッドバウンス》《エリアバーストヒール》《バーストヒール》は必須だよね」

 

「あとは特級ステータス10個を上げて行こうか」

 

「剣術は一休みして、《ファイア》《アイス》《ウインド》《サンダー》を練習しよう」

 

「まあこれは加減用だし、10もあればいいかな?」

 

 

「今日は日常で必要な魔法を習得していこうか」

 

「《ライト》《ハイサーチ》《バーストアナライズ》《給水》《加熱》《造形》《エアコン》《念話》《自動書記》《快眠》で10個」

 

「《短距離転移》《長距離転移》《集団短距離転移》《集団長距離転移》《ゲート》《マーカー》《マッピング》《ハイサーチスフィア》《占術》」

 

「ステータスは昨日に引き続き特級10種と」

 

「あとは《セイント》《ダークネス》《ヒール》《エリアヒール》を練習しよう。これも加減用だな」

 

「よし、今日で魔法をマスターするぞー」

 

 

「さて。今日は武器を使った技だ」

 

「《絶技・閃華》《絶技・神断》《絶技・遠葬》この辺の絶技スキルは必須だな」

 

「《秘奥義・竜火》《秘奥義・地狼》《秘奥義・無盾》この辺の秘奥義も必須と」

 

「《奥義・飛燕》《奥義・隼》《奥義・残響》この辺も上げておこう」

 

「あとは《スラッシュ》《ダブル》《ブレイク》《バースト》《クエイク》《ソニックドライブ》《バックスタブ》《アローレイン》

 《デッドスラッシュ》《カウンター》《ピアース》ぐらいかな」

 

「今日も勿論特級あげー」

 

「暇な時間は手加減用の魔法をちょこちょこ上げて行きますかー」

 

 

「さあ。そろそろその他スキルにも手を付けようか」

 

「取り敢えず付与系で《即死》《猛毒》《麻痺》《混乱》《幻惑》と」

 

「《料理》《調理》《錬金》《錬成》《鍛冶》《鍛造》《鋳造》《作成》《裁縫》《調合》の10個とー」

 

「あとは《研究》《開発》《高速思考》《並列思考》《閃き》で20個かな」

 

「あとは特級上げで全部50超えますな」

 

「さーて練習練習。手加減も楽じゃナイナー」

 

 

 

「さて。今日も今日とて便利スキルをばー」

 

「まず戦闘用に《俯瞰(ふかん)》《気配察知》《鋭敏》《危機感知》《超直感》」

 

「《釣り》《水泳》《素潜り》《歩法》《フェイント》《不意打ち》《連続歩法》《無限ジャンプ》《瞬動》《無拍子》っと」

 

「あとは《嘘発見》《演技》《口八丁手八丁》《魅了》《カリスマ》辺りは便利かな」

 

「ステ上げは置いといてその他補正系で……《底力》《背水の陣》《騎士道》《撹乱》《小手先》《姑息》《護衛》《指揮》《指示》《作戦立案》辺りは取っといていいかも?」

 

「手加減手加減」

 

 

「10日めー。今日で最後にしよう。流石に寂しくなってきた」

 

「えっと《直感》《精霊交感》《漁師》《紙一重》《天運》《人徳》《好印象》《求心力》《奇策》《献策》の10個とー」

 

「《鷹の目》《夜目》《暗視》《絶対音感》《絶対嗅覚》《絶対味覚》《想像力》《論理思考》《記憶力》《発想力》で20」

 

「《勝負勘》《戦士の勘》《反骨心》《集中力》《死にものぐるい》」

 

「あ、耐性系忘れてた。《即死耐性》《バステ耐性》《クイック耐性》《魔法耐性》《物理耐性》っと」

 

「うん、これだけ補正かければ大丈夫だろ。手加減魔法ー」

 

 

「特級ステータスLv50、それ以外のおおよそ思いつく今必要なほぼ全てのスキルが30と」

 

「これでも全スキルの1割も行かないんだよなあ。もっと戦闘系スキル色々取っておけば良かったな。せいぜい3000個ぐらいしか覚えてないぞ」

 

「まあそれでも十分か。あとは装備元に戻してっと。指輪はそのままでいいか」

 

「当面はステが一番足りないし、必要性を感じるまではステ系スキルをまんべんなく上げて行こう」

 

「さあ!いよいよ王都へ出発だっ!」

 

 

 

 

 

 

 



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3話

「流石にギルドカードに入金する電子マネーっぽいシステムがこっちでも使えるわけないよねー」

 

「はい?」

 

「ああいやなんでも。無一文だったから助かったなーってだけさー」

 

「ふふ、そうなんですか? 魔物が居てくれて良かったかも知れませんね」

 

「あはは、そうだね。魔物様々だ。あとランクってどうなってんの?」

 

「ランクには級と位の二種類があり、位は依頼の達成数や魔物の討伐、ギルドの評価などが一定を超えるとアップします。

 初級ランクは中級ランクの魔物5体以上の討伐証明があれば無条件で中級下位へランクアップ可能です」

 

「あ、帰りにリディアウルフ5体狩ったから俺は中級か」

 

「はい。ここからは依頼達成数及び達成率が規定値を超えており、

 なおかつ級が一つ上の魔物を10体狩れば一級アップ、位階が一つ上なら100、2つ上なら50狩っていただければ一位アップします」

 

「ほー、規定値ってのは?」

 

「基本的に一級以上上の依頼なら5回以上成功で成功率5割以上、同級内なら30回以上成功で成功率7割5分以上が基本条件です。

 一級以上上の依頼は同級6回分として計算しますので、一級上1回、同級24回でも可です。

 また、前述を含めこれらの条件はギルドの評価によってある程度上下します」

 

「ほー、まあ要するに実力があれば依頼こなしてる内に上がると」

 

「そうですね。あと例外的ですが、ギルドの推薦によって昇格試験を受けていただく場合もあります。こちらは受けるも受けないも自由です」

 

「へー。あ、そうだ。パーティー募集したいんだけど出来る?」

 

「パーティー募集は中級以上から可能なので、――さんは既に条件を満たしてますね。こちらの用紙に書き込んでいただけますか?」

 

「はいはいっと」

 

------------------------------------------------------------------------------------------

【パーティー募集】

 

【募集内容】

現在ソロなので一緒に冒険してくれる人募集。

自分は250個ほどのスキルをLv50~30で浅く広く所有しているので、出来れば特化型の方を募集。

ランクは中級下位で、戦闘力は上級下位の魔物までならどうとでもなります。相性次第では上級上位でも可。

《指揮》などのパーティーに必要なスキルも最低限所持しています。

当面は王都周辺で活動し、可能であれば他の国や大陸へ向かう予定です。

そのため、中級上位~初級までの冒険者で何か一つ自信を持って得意だと言えるものがある方、

目的地不定の長旅に同行出来るという方、野郎にトラウマがあるので出来れば女性の方、

上記の条件に納得していただける方を募集します。

 

【募集条件】

《必須》

・中級上位~初級下位

・何かしらの一芸

・目的地不定

・拠点応相談

・報酬分配応相談(金銭は"基本的に"山分け)

・リーダー及び分担応相談

 

《推奨》

・女性

・若年

・長期間同行

 

《不問》

・性格(常識的な範囲内で)

・連携(これから身につけよう)

・実力(あれば良し。無くても可)

・裏事情その他(どこかの王様とか言われても動じません)

 

【募集人数】

・最大5人

・残り5人

 

-----------------------------------------------------------------------------------------

 

「……上級ランクといえば中堅どころの冒険者と同等の力が有りますが?」

 

「上級で中堅?」

 

「ええ、一流級ならば十分ベテランですし、超一流級なんて一握りです。少し前には豪傑級が一人居たらしいですが、今では行方不明で」

 

「へー。まあ戦闘経験自体は結構有るし、武具もそれなりのを使ってるからね。相性次第では行けるかなってとこ」

 

「ふむ、でしたら募集条件に合わせて中級上位の試験を受けてみますか?」

 

「いいの?」

 

「ええ、先ほども言った例外です。ギルドとしても上級者が増えるのはいい事なので」

 

「じゃあお願いしようかな」

 

「でしたら上級の依頼一つ、中級上位の依頼3つ、上級の魔物5体の討伐証明、これらをお願いします。こちら、試験状です」

 

「ども。何か丁度いいのある?」

 

「近場でしたらリザードマンの洞窟が上級下位ランクですね。依頼でしたらこちらをどうぞ」

 

「ふーむ……よし、まずはこれを」

 

「グラモス討伐依頼、中級上位ですね、畏まりました」

 

 

「ザクっとな」

 

「グフッ」

 

「ゲルググっとな」

 

「ギャンッ」

 

「よえー、リザードマンちょーよえー。人型とかカモじゃねえか」

 

「《無拍子》付き《スラッシュ》とか《即死》付き《バックスタブ》とかぼろぼろ入るな」

 

「スキルレベル低くてもこれだけ積み重ねると何かしらのスキルが効果を発揮してくれるな」

 

「ほら今も運系スキルのおかげで"偶然"避けれた」

 

「そもそも3種類のステ系30超で特級50超って時点でねえ。宝具級装備もわんさかあるし、上級下位程度ならどうにでもなるな」

 

「おっとと、流石に無傷とは行かないか? まあそこまで痛くも無いんだけどね」

 

「ふははは、チート装備なめんなー!」

 

「グギャァァァァァ……」

 

 

「どうもありがとうございました……」

 

「いえいえ。当分は大丈夫だと思いますけど、滅んだわけでは無いので気をつけて下さいね」

 

「へえ、これが報酬で御座います。ありがたやありがたや……」

 

「あ、あはは、どうも。それじゃあまたね、おばあちゃん」

 

「どうもありがとうございました」

 

「いえいえ」

 

 

「低級とはいえドラゴン退治とか流石上級クエスト……なのか? まあドラゴンつってもピンキリだからなあ」

 

「お、こいつ竜石持ってる。これランクの割に良い素材になるんだよな」

 

「低級のドラゴンじゃ物凄い低確率でしか持ってなかった筈なんだけどなあ。変に運使いきってないだろうな」

 

 

「千寿草って確かこの辺だったよな……お、あったあった。この辺はゲーム時代と変わってないんだなあ」

 

「グルルルル……」

 

「げ、フォレストボア。固いからめんどいんだよなあ。森の中じゃデュランダルで焼く訳にも行かないし」

 

「グオオオオオオオ」

 

「ちっ《バックスタブ》転移後キャンセル《ブレイク》ッ!」

 

「グガァ!」

 

「《ピアース》!よし、刺さった!デュランダル、《爆炎炸裂》ッ!」

 

「ギガァァァァァァァァァッ!!」

 

「ふぅ。周りの被害が気になるなら中から焼けばいいんだよね」

 

「ぐ、グググ……」

 

「流石に一撃じゃ死なないか。デュランダル《超熱》! 食らえ、《スラッシュ》!!」

 

「アグァ……」

 

「おし。火さえ出さなきゃ少しぐらい熱くしても大丈夫だな。あ、でも冬場とか乾燥した山は気をつけよう、うん」

 

 

「これが依頼の【バスターソード】になります」

 

「おお、有り難や。……ほう、これは中々……素晴らしいものですな」

 

「ありがとうございます。それでは報酬を」

 

「ええ、予想以上でしたから少し色を付けますよ。それと、これは何処で?」

 

「知り合いに譲って貰ったものですので、出処までは。怪しいものではないというのは保証致します」

 

「ええ、ええ、構いませんとも。その代わりまた何かいい物があればお願いしますよ」

 

「覚えておきましょう」

 

 

「ただいまー。終わったよーアリアー」

 

「はやっ!? まだ1日なのにっ!?」

 

「転移魔法使えるもんでね」

 

「あ、ああ、なるほど……って物凄い高位魔法じゃないですかっ!?」

 

「いやあそれほどでも」

 

「本当に何者なんですか……あ、終了報告受理しました。更新致しますのでギルドカードをこちらへ」

 

「はいはいな」

 

「失礼、少しいいか?」

 

「ん?」

 

「私はエリナ・アーデンス。中級下中位の冒険者だ。剣士をやっている」

 

「……ニナ・クリンフィア。中級下位。魔法使い」

 

「ああ、――だ。今中級上位になった。特に何という括りは無いがあえて言うなら錬金術師かな」

 

「ほう、そうなのか。君がこの募集状を出した人物か?」

 

「ん? あー、そうだよ。もしかしてこれを見て?」

 

「ああ。あ、一応言っておくが魔法使いの彼女とは初対面だ。アリアに話を聞いていた所に偶然彼女も来てな」

 

「……実力不問、裏事情不問と書いてあった」

 

「ん、無口っ娘? ああ、不問だよ。王族とかでもばっちこい」

 

「ふむ、そうか。中々好ましいぞ。これからよろしく頼む」

 

「……宜しく」

 

「あ、もう決定事項? いやまあ二人共美人だからいいんだけどね。野郎だったら蹴り飛ばしてたわ」

 

「美人、か。口が上手いな? そういえばトラウマがあると言っていたが」

 

「お世辞ってわけでもないさ。あとトラウマはねえ。前に半ば強制的に組まされたパーティーが半裸の筋肉祭りでさあ……」

 

「そ、それはなんとも……残念だったな」

 

「……不憫」

 

「ははは。まあ今度は二人共可愛いからいいや」

 

「ふふ、いきなり口説いてるんですか? はい、更新終わりましたよ」

 

「事実だろー。はいはいどうも。パーティー登録とかも必要?」

 

「ええ、臨時や私的なものなら構いませんが、長期活動をするなら連絡用の魔法具が貸し出されますし、サポートも受けられますので」

 

「んじゃ登録で。あ、魔法具はいいや。自前のがあるし、失くしても困る」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

 

 



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雑多な設定群
魔法合金(オリジナル)


《魔素》

量子に近い質量の軽さと粒子の小ささを持ち、通常時は物質を透過する。

また流動させる事で独自のエネルギー性質を発し、他の様々な粒子や量子に干渉する。

詳しい原理は分かっていないが、

物理的エネルギーではなく別の量子的なエネルギーを自身のエネルギーとして変換あるいは発していると考えられている。

この干渉を応用し粒子や量子を制御する事を魔法と呼び、魔法を使用する際に魔素が発するエネルギーを魔力と呼ぶ。

 

また物質の間に入る事で物質の結合を強める性質を持つため物質の強化などにも使用される。

多量の魔素を元素の間に流入させ過剰な結合を誘発し、分離している原子の結合や融合反応などを引き起こす事も可能。

 

更に魔素は運動エネルギーなど各種エネルギーに触れると、

自身の持つ魔力エネルギーをそれらの物理エネルギーに変換する性質を有する。

結果として各種エネルギーは魔力の追加によって増幅される事となる。

 

この結合強化とエネルギー増幅の二種類が魔法の根幹を成しており、

これらの性質をいかに強く効率良く発揮させられるかが魔法式のキモである。

魔力の絶対量がその者の強さを左右すると言われるゆえんに、

この結合強化とエネルギー増幅による肉体強化と運動能力向上が挙げられる。

一定以上の魔力量の差があれば技術の差異など無意味なほどの能力差が生じる事となる。

ドラゴンなどの幻想種が非常に強く恐れられているのも、多大な魔力を種族レベルで有するゆえである。

 

《魔法合金》

特定の術式や技法によって魔素を内包させた金属の総称。各金属については別途する。

前述の通り魔素には物質の結合を強固にする性質があり、様々な物質を通常では考えられない状態で結合させる事が可能。

自然界でも魔素を多く含む土地では各種物質に魔素が強い影響を示す事が確認されており、

これが遺伝子に作用したものが魔法生物や魔族などの特殊進化種族である。

この作用は当然無機物にも作用し、結合の変化によって新たな性質を発揮する金属が多数発見されている。

これが魔法合金である。魔法金属とも呼ばれるが、こちらは主に自然精製された魔法合金の事を指す。

 

魔法合金はその内に宿す魔素の多さに比例して強度を強め、

また多量の魔素を逃がすこと無く保存出来る点で強力な魔法触媒となる。

ちなみに少量の元素を大量の魔素で強固に結合させる性質上、高質なものは通常の金属と比べ非常に軽いのも特徴。

専門の術式と十分な準備さえあれば比較的容易に形状を変化させる事が可能で、

この加工のし安さと軽さによる扱いやすさと汎用性の高さから魔法合金は魔法文化の中心となっている。

 

長きに渡る研究から術式や技法を用いる事で自然界では存在しないレベルの魔法合金を合成出来る事が知られており、

この魔法合金の合成に長けた者はマギ・スミスと呼ばれる。

特に魔法式の構築・魔法物質の精製・魔法触媒の合成・マジックアイテムの創作などを全て出来る者は限られており、

またこれらの技術を有する者は高い魔法力を持つ事が多いため製作されるものも非常に強力なものとなる。

この非常に希少かつ強力な作品を宝具・アーティファクトなどと呼び、

それを作る事の出来る者はマスターメイカーなどと呼び尊敬され重用される。

 

《オリハルコニウム・オリハルコン》

銅元素と魔素を混合させ特殊な構造に組み上げた魔法合金。

ライアット・オリハルコン氏が精製方法を確立した事でその名がついた。

通常の銅と比べ軽い他、非常に硬い。そりゃもう硬い。衝撃にもめちゃくちゃ強い。融点が滅茶苦茶高く熱に強い。

耐久性という点では魔法合金の中でもトップクラス。

その他電気エネルギーなどの物理エネルギーをよく通す素材としても知られており、一種の超伝導素材としても扱われる。

魔素の混合量にもよるが他の金属と比べ生成に必要な魔素自体は少ないため、触媒としての性能は中程度。

主に物理重視の防具や防壁などに使用される。

 

《ミスリル・ミスリル銀・聖銀》

銀元素と魔素を混合させ特殊な構造に組み上げた魔法金属。

ミスリル地方原産で、聖堂教会の魔法研究者達が精製方法を確立した。

商業利用されるものに聖堂教会の名を付けるわけにもいかず、

長きに渡ってミスリル地方でのみ採取されていたためこの名前で定着している。

強度という点では通常の銀よりは強度があるといった程度であるが、

特殊な力場を発し魔素の持つエネルギーを霧散させるという性質を持つ。

その性質上魔素を多く有するものに対し非常に強力な特攻性を有し、

古くから魔に属する者に有効な聖銀として扱われていた。

魔法に対する耐性も非常に高く、更に内包する魔素量が膨大である事から自身も触媒として有用である。

こういった点から魔法面でよく使われており、強力な魔法効果を持つ魔法具には何かしらの形で使われている事が多い。

 

《ダマスカス・ダマスカス鋼》

インデス地方原産の合金。ダマスと名乗る鍛冶師が重用し幾つもの強力な武具が作られた事から名が付いた。

カーボンナノチューブ構造の内側に魔素を閉じ込めるという独特の構造をしており、

その構造の性質としてひじょうに柔軟である。

金属としての硬さとゴムのような弾性を併せ持ち、硬く柔軟性が低い金属の継ぎ目などに使用される。

これ単体で使用される事もあるが、他の金属と比べると突出した特徴が無く、

柔軟性の高さは複合材として発揮される場合が殆どである。

しかしよくしなる金属というのは非常に稀有かつ有用で、建築などでは必ずといっていいほど使用されている。

 

《ヒヒイロカネ》

ジパング地方原産の合金。古来から刀の材料として使用されてきた。見た目が赤い事からヒヒイロカネと呼ばれる。

非常に硬く、柔軟性があり、熱伝導率が高くそれを更に増幅する。

葉っぱ一枚で茶が沸くというその増幅効果は凄まじく、僅かな熱量を数千度まで跳ね上げる事すら可能。

高質なものは振った際の摩擦熱すら増幅して刀身を加熱、対象を溶かし斬る事で通常では考えられない切断性を誇る。

熱で血液を蒸発させる様や常に自身の熱で赤熱化している様から、

初めてヒヒイロカネの刀を見た大陸の人間は血や魂を啜る武器のように見え非常に恐れたという逸話がある。

その他にも様々な性質を付与しやすい事で知られており、幾つもの妖刀が作られる事となった要因の一つでもある。

 

《エリクシール・エリクサー・エリクシル・他》

賢者の石、真理の石、万能の器など非常に多くの別名を持つ物質。

製法や材料についても諸説あり、原産なども不明な謎の物質。

カテゴリも魔法合金から魔法薬まで様々で、定まっているのは莫大な魔法増幅効果を持つという点ぐらいである。

 

さてその実体はと言えば、つい最近まで未確認であった霊子と呼ばれる量子を内包するエネルギー結晶である。

鉄、炭素、水素などを中心に多数の元素物質で構成され、膨大な魔素を内包する。

更に魔素自体も結晶構造を構築し、その内側に莫大な霊子を内包している。

この霊子は生物の魂を形作る量子物質とされており、それ自体が莫大な量子的エネルギーを保有している。

その総量は底が知れない程で、特定の計算式による解では無限であるとも言われている。

このエネルギーをエリクシル内の魔素によって魔力へと変える事で自然界では考えられない程の量の魔力を生成可能。

これが、エリクシルが無限の術法増幅器と呼ばれる所以である。

 

ちなみに鉄・炭素・水分などの各種材料と大量の魔素を有し、

何より大気中にはごく薄い濃度でしか存在しない霊子を多量に持つエリクシルの材料として最適なものがある。

そう、ニンゲンである。魔族なども含む、ヒト種である。

人間1人確保すればエリクシル1個分の材料が揃ってしまうのである。

現在では禁止されているものの、過去には多くの人間がエリクシルの材料として使用されたという事実が存在する。

圧倒的な魔法増幅性能によって最上級の触媒となり、

結晶構造を容易に変化させる事が出来るため液体個体など形状を問わない。

その上材料はそこら辺に幾らでも居るのである。製法が知られていない最大の理由がこれ。情報規制。

現在では国・ギルド・聖堂教会など3つ以上の大規模権力団体から認可を得た者が合法材料でのみ生成を許されている。

 

《バイオニウム》

金属性室と生物性質を合わせた金属の総称。金属で出来た細胞である。

サイズは非常に微細で、増殖・修復・進化を行う。

自己制御によって行うものと外部からの制御によって行うものの二種類があり、形状・性質なども非常に多岐に渡る。

このバイオニウムによって構築された生物は金属生命と呼ばれ、非常に高い強度・再生能力・運動能力を有する。

魔素を大量に内包させる事で魔法の触媒にもなり、また魔素を吸収・排出・精製する内蔵機関の構築も可能。

人間や魔族が持つものよりも強力なものが作成可能であるなど、金属生命体は総じて高い個体能力を有する。

人体への転用が研究されているが、一種の生物化してしまっているためか拒絶反応など問題点が多く実用には至っていない。

現在は高級ゴーレムとして扱われており、中にはヒトに近い体を再現したものを置いている高級娼館などもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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メタトロン(オリジナル スパロボ風設定有り)

>FTM

正式名称フレキシブルトランスメタル(Flexible Trance Metal)、FT金属とも。

ナノマシンによって構成される擬似生体金属であり、量子化変換干渉の触媒となる性質を持つ。

開発者はヒロインをリーダーとする国連事務総長直轄の科学者チーム。

 

本項では主人公機に搭載されているFTMについても解説する。

主人公機の構成材の実に9割はこのFTMで構成されており、電子回路から装甲板に至るまでの大凡全てがFTM製。

前述の通り量子化変換干渉の触媒となる性質を有しており、それを利用してエネルギーを量子化変換する機構を搭載している。

この機構は熱エネルギー・運動エネルギー・重力・慣性など、

FTMに対して生じたあらゆるエネルギーを量子的なエネルギー数値として変換、量子化させるものでる。

当然無差別に変換していては自身の可動も困難であるため、発生するエネルギーに応じて取捨選択をする必要がある。

種別や部位ごとに指定する事である程度抑えられるとはいえ、その演算量は膨大。

そのためFTMによる変換機構の使用には膨大な演算能力を有する量子コンピュータの使用が必須となる。

主人公機にはFTMと人間100人分に相当する人工培養脳を用いた特製の量子コンピュータを用いている。

 

量子化変換してしまえば容量は考えなくともよいため、実質外部からの攻撃は一切シャットアウトされる。

変換速度に限界はあるため超威力兵器による攻撃を受ければ余剰ダメージが通る他、

変換指定されていない未知のエネルギーを用いた兵器には効かないなど一応の弱点は持つ。

とはいえ通常兵器で早々出しうる威力は無い上、未知のエネルギーを用いた攻撃なども普通は存在しないため、事実上最強の盾。

更に最強である所以として、FTMによるエネルギー変換はFTM自体の性質を利用しておりエネルギー消費が少ないため、

確実に変換エネルギーが消費エネルギーを上回る点にある。

つまり敵の攻撃を受ければ受けるだけエネルギーが回復し、

通常稼働しているだけでも重力や放射能、光エネルギーなどを変換し回復し続けるという事である。

 

また通常エネルギーを量子化変換出来るということは逆も可能であるという事であり、

機体のあらゆる部分から自在にエネルギーを放出する事が可能である。

脚部から上向きのエネルギーを発生させれば宙に浮かび背面に前向きのエネルギーを発生させれば前進する。

手のひらに熱量エネルギーを収束させればヒートハンド攻撃が可能となり、目に収束させて開放すれば目からビームが可能。

そのためFTMを搭載していれば専用のブースターやスラスター等が必要なく、慣性を無視した変態機動も自由自在である。

ただし実弾の発射など純粋なエネルギーだけで不可能なものは、相応の機構を用いる必要がある。

 

その性質上機体にかかる負荷もその一切を無効に出来、

更に損傷した場合もナノマシンの結合構造を変形させる事で傷の修復が可能。

機体には常に余剰分のFTMが搭載されており、中破程度までであれば内蔵するFTMで自己修復を行うことが出来る。

FTMは結合構造の高速変形も特徴の一つであり、事前に構造を詳細に設定したものであれば特に高速での変形が可能。

機体形状から各種装備まで変形のバリエーションは豊富で、機体コンセプトをガラっと一転させることも可能である。

弱点は大規模な変形には多少時間がかかる点、事前に設定していない形態へ戦闘中に変形することは実質的に不可能な点など。

 

>メタトロン

主人公機。

機体色は白を基調とし、各部装飾に金色を用いている。

エンブレムは下向きの剣に蛇が巻き付き、青い天使の羽と赤い悪魔の羽を生やしたもの。通称『羽付き』。

頭部は額に緑色をした菱形の結晶が埋め込まれ、側頭部には後方へ向けて左右一本ずつアンテナが伸びている。

目元はバイザーで隠されており、顔立ちや丸い頭部などから女性的な印象を持たせる。

体躯も曲線的で余計な装甲や装備は一切無く、唯一腰部に各種兵装変形用の分厚い菱形シールドを左右に一基ずつ装備している。

脚部も足首から先は省略され、斜め型の先端には量子化エネルギーを効率的に変換・放出させるブースターが内蔵されている。

機体イメージはスリム化させ腰に分厚いガンダムシールドを装備したウーンドウォート。

 

機体の変形パターンはおおまかに分けて3形態。

丸みを帯び曲線を中心に構成され白を基調とした機体色の通常形態、

流線型を多く用いた鋭角的なフォルムで赤色を基調とした機体色の高機動強襲形態、

直線を中心に構成され男性的な印象を抱かせるナイトブルーを基調とした高出力破壊形態の三種類である。

 

通常時は兵装を装備せず、純エネルギー兵器以外のビーム兵器や実弾兵器を用いる際は腰部のシールドを変形させて使用する。

高機動時は背面に悪魔の羽を模した赤い光翼を展開し、常に力場を形成する事で瞬間的な加速を可能にしている。

高出力時は少々特殊。

まず曲線的だった機体を所謂ガンダムライクな直線的フォルムに変形する。

頭部左右のアンテナを額へスライドさせ額の結晶と併せてV字を作り、バイザーを上げてデュアルアイを露出。

腰部のシールドをそれぞれ大型ビームバスターへと変形させ、両腕に保持する。

更に機体リミッターの解除によって機体出力を上昇、対攻撃用の演算リソースを切り捨てる事で更に特化し、約1.5倍の機体出力を得る。

所謂デストロイモードであるが、FTMによる敵性エネルギーの変換を無効化しているため防御能力が格段に落ちてしまう。

ちなみに、それぞれノーマルタイプ(NT)、アサルトタイプ(AT)、デストロイタイプ(DT)と呼ばれる。

 

スパロボ風

 

メタトロン(NT)

移動力 7 タイプ 空陸-  地形適応 空S 陸S 海B 宇S  サイズ M  シールド 有り

特殊能力 FTM装甲 HP回復(小) EN回復(大) 変形 デストロイモード

HP:5800 EN:350 運動性:140 装甲値:1000

最大火力6800 最大射程7

 

メタトロン(AT)

移動力 8 タイプ 空陸-  地形適応 空S 陸S 海B 宇S  サイズ M  シールド 有り

特殊能力 FTM装甲 HP回復(小) EN回復(大) 変形 デストロイモード

HP:5800 EN:350 運動性:160 装甲値:800

最大火力6200 最大射程6

 

メタトロン(DT)

移動力 9 タイプ 空陸-  地形適応 空S 陸S 海B 宇S  サイズ M  シールド 有り

特殊能力 FTM装甲 HP回復(中) EN回復(大) 変形

HP:5800 EN:350 運動性:180 装甲値:1800

最大火力7600 最大射程9

 

FTM装甲

全属性ダメージを4000軽減する特殊装甲。

バリア貫通の影響を受けず、ダメージ4000以下の攻撃による状態異常を無効にする。

攻撃を受けるたびにENを5回復する。

 

 

 



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マギウスクロニクル(オリジナル エロゲ→異世界)

『マギウス・クロニクル』

 

20XX年に発売された、PC向け超大作RPG。無論、エロゲである。

美麗なCG、秀逸なテキストによるエロシーンは圧巻だが、

それだけがこのゲームの魅力では無い。

 

このゲームを語る上でまず注目すべきは、その容量の大きさ。

当時のエロゲの容量が(王道RPGモノで)通常5GB程度。

軽いものなら1GB程度、多くても二桁未満が殆どで、

シリーズモノでも合計十数GB程度なのに対し、

このゲームは一本で25GBの大容量を誇った。驚愕のDVD-ROM三枚組みである。

その上、翌年と2年後に発売されたアペンドディスク二作は、計10GB。

更には発売から3年後にセーブ引継ぎ可能な大型拡張続編が発売。

これまた30GBとパワーアップして帰ってきた。

未だに定期的に追加される公式DLのデータや購入特典のデータも合わせれば、

ゆうに100GBを超える超弩級大作である。

このために態々HDDを買い足したり泣く泣く他の作品をアンインストールした奴も少なくはない。

ちなみに、これを超える容量のゲームは発売から10年が経った今も出ていない。

 

内容は王道のファンタジー。

竜が空を飛び、魔法使いが地を穿つ、そんな世界。

主人公は新米冒険者としてギルドに加入。

様々な出会いや物語を経て成長して行く。

そして最後には世界の命運を賭けた決戦へと挑む事になる…

という、どこにでもあるファンタジーモノ。

 

だが、それ故に人を選ばず、

また秀逸な戦闘システムと、自然とのめり込む物語。

絶望の中に希望を見出す独特の高揚感を味わい、そして魅力的なヒロインその他とのエロシーン。

 

ゲームの自由度は高く、一周クリアで50時間以上、

全要素コンプには早くても500時間はかかると言われた大型名作だ。

 

その自由度はプレイヤーごとの物語を生むほど。

例えば、少女Aを強姦した後に竜を倒し、囚われの姫Bと駆け落ちして山奥で隠居とか、

町で出会った薬売りの少女と恋に落ち、ひたすら甘甘な生活を続けるとか、

旅先でひたすらNPCを殺しまくって史上最悪の殺人鬼になるとか、

傲慢貴族に仕えて夢もへったくれも無く馬車馬の様に働いて死ぬとか、

そらもうプレイヤーのやりたい放題。

 

なにせ初回版でさえエロの分だけでディスク一枚埋まっているのである。

もう一枚がアイテムなどのデータ類で埋まり、

残りの一枚にシステムと物語が集約されている。

 

しかもこのゲーム、システム的な終わりが無い。

何せ出てくるアイテムは消耗品装備品貴重品に限らず膨大な量があり、

しかも一周ではその1割も集められないと来た。

その上一つの装備品でも属性やら能力値やらに個体差があり、鍛冶等でそれを弄る事も可能。

同じアイテム欄は一つも無いと言われるほど、プレイヤーによってその顔色を変える。

 

更にこのゲーム、レベルや能力値の計算、データ保存に特殊なシステムを用いており、

事実上限界が無い。つまりレベルや能力のカンストが無いのだ。

一応有志の解析により理論上では数値が出されているが、

その数値がトンデモナイ事になっている為、数多のやり込みプレイヤーが匙を投げた。

(それでも頑張ってる馬鹿は居るが)

 

勿論そんな馬鹿達の為のステージも用意されている。

後にそのためのシナリオも公開された。

そして、人は自分が苦労して育てたモノは人に見せたがる。

そこを突いて開始したのが、ネット接続サービス。

専用のサーバを大量に用意し、巨額の費用を費やしたそれは、

ゲーム発売と同時にオープン。膨大なユーザを獲得した。

オンラインでの無限に追加されるモンスターやクエストとの死闘、仲間達との共闘。

オフラインでの無限のやり込み。

これらによってこのゲームはR18作品にも関わらず膨大なユーザを獲得した。

 

だが、それも最初からこんなに人気があった訳じゃない。

何せ、エロゲだ。それも超大容量。しかもメインストーリーはひねり無く王道。

有名なエロゲブランドが姉妹ブランドと合作で作った、という触れ込みだけ。

その上当初はネットサービスの公表は無し。

いきなり大ヒットする訳が無い。

 

そもそも最初は、限定千本のβ版が先行配布されたのみ。

それも公式サイトで応募した中からの抽選。

同時にネットサービスもβテストが始まったが公表は無し。

β期間が終わり、正式に発売されて始めて詳細が発表された。

 

10年経った今、現存していて尚且つ綺麗な状態を保っているβ版、

またそのβ版から正式版にアップデートするための特別ディスクのセットは、

「幻のエロゲ」としてメン玉が飛び出る程の値がついている。

 

…そして。数々の新企画やイベントが考案され、

数々のドラマを生み出したこのゲームも、漸く終焉の時を迎える。

と、言えば大袈裟だが、要するにネットサービスの終了である。

年内のサービス終了宣言によってネット内でのプレイヤーは急速に減って行った。

オフラインで続けるやつも居るだろうが、

これを期にやめる奴が大半だろう。

何せ発売当時高校生が今では30目前のいい大人だ。

発売当初からプレイし続けている猛者は片手で数える程度だろう。

 

かくいう俺も、その一人である。

無人の荒野を一人往く、というように一人でひたすら世界を巡る。

サービス終了まであと数時間。午前零時の鐘と共に幻想はその幕を降ろす。

…ごめん、自分で言ってて意味不明。

まあ兎に角、10年に渡って親しんできたこの大作の最期を惜しみ、世界を巡っている。

 

どこにも人影は見られない。当然だ。

あと数時間でサービスが終了し、もうイベントの発生も切られている。

こんな状況でプレイする物好きは俺ぐらいのものだろう。

 

思えば、長い旅路だった。

一切メディア露出が無い段階で、このゲームの公式サイトを見つけたのは本当に偶然だった。

大袈裟かも知れないが、奇跡だったと思っている。

しかも、奇跡は続いた。

興味本位で応募したら、当選したのだ。

幾ら応募数が少なかったとはいえ、本当に幸運だった。

 

そして届いたそれをプレイ。

ネットゲーム自体初めてだった。

当時高校生で、本当は買ってはいけない年齢だった俺は、

エロゲをプレイした経験も殆ど無かった。

だが、嵌った。

何度か他のゲームをプレイしたが、どうもつまらなかった。

結局このゲームに戻って来て、存分に楽しんだ。(色んな意味で)

 

気がつけば課金していた。

このゲームのためにバイトした。

学校から帰ってログインするのが楽しみだった。

この10年、いや恐らく俺の一生において、

このゲームはかなり多くの部分を占める要素となるだろう。

何せ勉強時間や睡眠時間を削ってまで遊んだのだ。

おかげで短い時間で深く眠れるようになったし、

勉強時間を削る為に短時間で知識を叩き込む術も覚えた。

プレイ時間を削られないために、学校での勉強を必死に頑張った。

就職してからもそんな感じだ。

 

…今にして思えば、ちょっと…いや、かなり行き過ぎだったと思う。

ある種病的なぐらいだな。うん。

自分でもなぜここまで嵌り、熱中したのか分からない。

それでもそんな事も気にならないぐらい俺はのめり込んだ。

日常を疎かにしていないだけマシだと思う。

(友達は少なかったし童貞だがそれは言わないお約束)

 

恐らくβ版から今までプレイし続けたのは俺一人だろう。

誰よりもこのゲームを知っているという自信と自負がある。

挫折を味わった。絶望に泣いた。希望を見た。夢を掴んだ。

本当に隅々まで味わい尽くした。

 

俺も馬鹿の一人で。

あり得ない理論値に達してやろうとひたすらカンストを目指してきた。

結局無理だったが。

そして、気づけばサービスも終了。

これからはオフラインでひたすらレベル上げだ。

レベル5桁に達した日は泣いたなあ。そして終わらないチャレンジに心が折れかけた。

ゲーム内レベルランキングでは堂々の1位だった。

まあ、1年近いβ期間のアドバンテージもあったから意外と早かったが。

 

…そんな風に俺の今までの10年間を振り返っていると、突然視界(勿論画面内の)の一部が消えた。

驚いてそちらを見ると、俺が先ほど通って来た道が消えている。

俺が一歩歩く度に、それを追うように光の粒子のようになって消えていく。

恐らく、サービス終了に伴うデータ削除の演出なんだろう。

運営も粋な演出をするものだ。

もしかしたら、今俺が巡ってきた場所も同じように消えているのかも知れない。

 

俺は慌ててキャプチャソフトを起動し、録画を開始する。

そして再び歩き出すと、またゆっくりと景色が消えていく。

そうして俺は世界中を巡った。俺の辿った軌跡が消えていく。

そして、最期の場所。

 

『天蓋の丘』。

メインストーリーの開始地点であり、ネットサービス初プレイ時の開始地点であり、

メインストーリーのクリア地点。

何より、俺のお気に入りの場所だ。

 

真っ暗な夜空には星が瞬き、俺の前方にはゲームの舞台、『アガルディア』の大地が広がる。

既に俺の後方はすぐそこまで消えている。

そしてゆっくりと、地平線の彼方が消えていく。

まるで一つの人生の最後を見るような気分だ。

 

そうして消えていく大地を見つめていると、

丁度時計のアラームが鳴る。

ジャスト零時。電波時計だから間違いは無い。

その時。

(画面の中の)俺の前に、突然ウィンドウが開かれる。

何も押していないはずだ。

強制ログオフのウィンドウかと思ったがそうでは無い。

 

そこに表示されたのは、『軌跡』

初めて俺がこの地に降り立ち、そこから辿った数々の軌跡。

他プレイヤーとの冒険。集団イベントへの参加。

些細なミスで倒されてしまったあの時や、

仲間と共に死線を潜り抜けたあの時。

様々なスキルを習得し。

様々なクラスへ転生し。

何度も何度も世界を巡り。

そんな俺の軌跡の全てが、開かれたウィンドウに表示されていく。

 

余りにも粋過ぎる演出に涙が出た。

録画しておいて良かったと思う。後でまた見よう。

そう考えている間にも、演出は終わる。

世界の終端もすぐそこだ。

最後に表示されるリザルト。

 

シンドウ・ユウ、LV56338。

とんでもないLVに自分で苦笑する。

その後表示されたステータスも鬼畜。

そして、アイテムコンプ、イベントコンプ、クエストコンプ、ランキングコンプ等の文字。

そして表示される、『冒険者評価:SSS』の文字。

こんな演出まであったのか…

 

そして本当の最後。この一文を見て、俺はマジ泣きした。

 

『  あなたを、この世界最高の冒険者として認めます。  』

 

コングラッチュレーションと書かれた下。

その文章を見た瞬間、俺はこのゲームに出会えた奇跡に感謝した。

 

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

…で、だ。

その一文を見て涙を流したのが恐らく数時間前。

いや、もしかしたら数分前かも知れないが。

最後の一日を味わうために丸1日寝ていなかったから、

恐らく数時間は意識が飛んでいた筈だ。

 

俺が居たのは自分の部屋。

あのゲームを楽しむためだけに買い、チューニングした当時最高水準のパソコン一式。

その前で俺は眠りについたはず。

 

…なのに、だ。

俺の視界に広がるのは茶色と緑。

俺が見に纏っているのはある意味見覚えが無く、ある意味良く知っている服。

 

…俺は冒険者の格好で、丘の上に居た。

 

 

…さて、俺が目を覚まして数時間。

とりあえず確認出来たのは、ここがマギウス・クロニクルの世界だという事。

いや、まて、石を投げるな。黄色い救急車も要らんから。

まあ、自分でも何が何だか分からんというのが正直な所だ。

俺の理性は夢だと告げる。

然し何故かその結論に納得出来ない俺が居る。

 

まあ、ここが現実か夢かは二の次だ。

夢なら覚めるだろうし現実ならもっと考えなければいけない事は山のようにある。

 

さて、現在の俺の格好は何時も着ていた(無論ゲームの中で)装備一式。

このゲームは強力な装備が多数あり、しかも自分でその性能を上げられる。

無論弱い装備は限界があるが。

俺が今装備しているのは、見た目重視の装備。

なにせキャラのレベルやステータスが異常なもんだから、

装備なんて大して考える必要は無かった。

なんちゃら反射とかなんちゃら無効とかは魔法があるし。

転生すると前クラスのスキルを幾つか引き継げ、しかも繰り返せば全スキルコンプも可。

転生時の恩恵はレベルに比例するので、1000ぐらいまで上げては転生をひたすら繰り返した。

という訳で今の俺に使えないスキルは無い。

 

黒いロングコートに白髪、インナーやズボンも黒地に銀の装飾という、

痛さ全開の格好。

厨二とか言うな。ここじゃこれで合ってるんだよ。多分。

元々お洒落に疎いというのもあるが。

 

まあそれはいい。

装備自体は何の変哲も無い。

特に武器も持っていなかったし、敵が居ない以上性能の確かめようも無い。

 

…と、思っていたら。

目の前にはウィンドウ。

そらもう元ネタまんまのウィンドウ。

表示されるのはパラメータに所持アイテムにうんたらかんたら。

…正直出るとは思わんかった。

夢の中ならある程度自由も利くだろうと思って、

ウィンドウを表示するイメージをしてみたらビンゴ。

 

装備やらなんやら、まんまついさっきと同じ状態。

ようはフルコンプ。

中でも気に入ってる装備なんかは物凄い強化してあってトンでもない性能。

俺が今着てるのも然り。

 

しかし注目すべきはLVとステータス。あと使用可能スキル。

ウィンドウにはLV50の文字。

ステータスも相応。ドーピングアイテムの使用痕跡無し。

 

これはどうした事かと調べていると、どうも特殊スキル、『リミッター』が発動しているようだ。

これは段階的にLVを下げ、その分取得経験値等にボーナスが入る、高LV上げには欠かせないスキル。

 

それが現在MAXの7thまでかかっている。

確かリミッター解放後のLVは自由に設定出来るはずだ。

調べて見た所、7th開放でLV100、6thでLV500、5thで1000、

4thで3000、3rdで5000、2ndで10000、1stで30000、0で全開の設定だ。

 

なるほど。確かにLV5万とかのまま町に行ったら偉い騒ぎだろう。

漏れ出る余剰魔力だけで隣に居る奴魔力酔いするぞ。

危ない危ない。

 

まあ追加イベントで戦った10年の歴史中最強の敵がLV3万だったからなあ。

リミッターも恐らくそれに合わせてあるんだろう。

というか、あのイベント参加者がたった5人て。

まあ普通はどんなやり込み派でも1万程度が関の山だもんなあ。

そもそもLV1万越えともなるとLvを1上げるだけでも相当時間がかかる。

リミッターと各種スキル併用しても丸1日で10上がれば奇跡だ。

 

で、だ。スキルに幾つか制限がかかっているのはLVが低いから。

元々Lvに限界が無かったため、パッケージ版自体にLV数千用のスキルがあったりした。

サービス終了間近に一定LV以上のプレイヤーのみ習得出来たご褒美スキルなんかは、

シナリオ攻略中ならバランスブレイクじゃ済まないぐらい強力なのもあったし。

一定時間無敵の魔法とか使っても大差無いけどね。

さっき言ったLV3万の狩りの時はお世話になったが。

 

そんな訳で現在使えるスキルはごく僅か。

それも威力は雲泥の差のはずだ。

中には効果がキャラLVや特殊ステータス依存のスキルもあるし。

 

とりあえず地面に拳を叩き付ける。

-『プレスナックル』-

足元陥没。結構な威力だ。

で、とりあえず5thぐらいまで開放してLV1000。20倍。

もういっちょ。

-『プレスナックル』-

 

…クレーター出来た。

振りぬこうとした瞬間に、予想以上に威力が出そうだったから加減したんだが…

それでこれはえぐい。

生で見ると迫力が違う。

自分の拳の衝撃で周囲を土が舞う光景なんざ普通見れない。

 

その後も、誰も居ないのをいい事に色々試す。

流石に状態異常付与とかは試す相手が居なかったが…

 

アイテムは自由に出し入れ出来るな。

持ち運びに困る事は無さそうだ。

エリクサーの瓶が山のように出てきた時はビビッて周りを見回してしまった。

なにせ厳重な保存魔法を幾重にも掛けて、城の宝物庫に保管されるべきシロモノだ。

一個売れば一生遊んで暮らせる…かもしれない。

 

そういや素材が大量に余ったんで作りまくった事があったような。

いや、一角千金しようと思ったんだけどさ。

そんな大金出せるプレイヤーは自分で用意するし。

結構売れたけど半分近く残ったんだっけ…

 

ま、兎も角。

俺の置かれた状況はよーく分かった。

ここは俺にとっておなじみの『天蓋の丘』。

三つの国の領土に面する中立地帯。

文化の国、アルク。

商業の国、クレイムサッド。

武器の国、オルダ。

更に北上すれば魔法の国メルレイアもある。

 

…正直、どこに行こう。

これと言ってアテがある訳で無し。

 

こんなチート級能力で血沸き肉踊る冒険というのは出来るのか。

まあ何にしても折角ゲームの世界の中に入れたのだ。

面倒な事は考えずに突っ走ってみるのも一興か。

 

「とりあえず色々やって疲れたし回復しとくか」

 

ゴクッとエリクサーを一飲み。

体力スタミナ魔力全快。

………アレ?

 

「確かエリクサーって不老不死の秘薬…」

 

………どうしよう。

ま、まあ細かい事は気にしない。

幾らファンタジーな世界だからって不老不死は無いっしょ。不老不死は。

体力だってスタミナだってちゃんと限界表示されてるし。

大丈夫大丈夫。…多分。

 

とりあえず三国のうちどこに向かうかだが…

………。よし。

 

スキル発動。

-『運を天に』-

これで次の博打が大当たりか大外れになる。

そして取り出した杖を空に放る。

落ちた杖が向いた先は…

 

「アルク、か」

 

もう10年の付き合いだ。地図見なくても大体分かる。

…そう、分かってしまう。

杖は確かにアルクを指していた。

正確には、ある森のある方向だ。

 

「よりによってクレウスの森か…」

 

かなり複雑なMAPで、出てくる敵もLV500とか平気で超えてくる化け物の森。

その奥にはとある魔族達が住む巣がある。

洞窟の先に転移陣があり、その先に城があったはずだ。

そう、魔族『サキュバス』の城が。

 

「………これは、行けって事か?」

 

天を運にを発動した以上、

たまたま森を、その奥のサキュバスの巣を正確に指していたという事は無いだろう。

はてさて、大当たりか大外れか。

ま、俺の能力なら何とかなるか。

 

俺は開き直り、クレウスの森へと歩を進めた。

 

 



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とある街の宝具屋さん(オリジナル 製造チート)

「宝具屋?」

 

 女が疑問符の付いた声を発する。対面にはいかにもファンタジーな冒険者といった風貌の男が座っており、

隣にはこれまたファンタジーな魔術師風の女が座っていて、その斜め向かいにも魔術師風の男が座っている。

周囲にも同じような格好をした者達が何人も座っており、それぞれのテーブルで思い思いに酒を飲んでいるようだ。

ここはアベラという街の北側大通りに面した冒険者向けの酒場であり、

その一角で酒と食事を楽しみながら会話をしている彼らもまた冒険者である。

 

「ああ、何でも宝具(アーティファクト)級のアイテムを売ってる店があるらしい」

 

 四人の中でもいかつい風貌の男が女の声に答えた。彼の名はガッハ・グラール、歳は38になる。

まさに冒険者といった印象を受けるいかついおっさんで、頭髪は銀…とは言えず白髪である。加齢によるものではなく地毛。

重鎧を着込み旅人用のローブを背もたれにかけていて、傍には鞘に収められた長大な大剣が立て掛けられている。

明らかに前衛職な風貌に違わず戦士系のジョブを経験しており、現在はバトルマスターに就いている。

顔にある少し大きめの傷跡以外にも腕や足にも生傷が多くベテランの雰囲気を纏っている。

 

「おいおい、なんつーもん売ってんだよ。宝具(アーティファクト)ってあれだろ?世界に一個しかない奴」

 

 魔術師風の格好をしている男が懐疑的な声で驚きの声を上げた。レオス・ルーダー、24歳。

若干軽薄そうに見えなくもないが冒険者としての経験を思わせる金髪のイケメン。

魔術師然とした風貌や傍に立て掛けられた杖の通り魔法職を経験しており、ドルイドのジョブに就いている。

冒険者としては若い部類だが実力は折り紙つきで、この4人の中では賑やかし担当である。

 

「正確には世界に一つしか無いほどの希少性とそれに見合った効果を保つアイテム、ね」

 

 柔和な笑みを浮かべつつやんわりと訂正したのは同じく魔術師風の容貌の女。ミネア・フリッター、30歳。

黒髪のロングを腰まで伸ばし、柔らかな表情に常に微笑みを浮かべたほんわか系美女。巨乳。

魔術師のような容貌で杖も所持しているが正確には魔術師ではなく、僧侶系の職を経験したビショップである。

彼女も冒険者としての実力は高く経験も豊富だが、とうとう三十路を迎えた事を若干気にしているらしい。

 

「そんなものを売っているのか?簡単に手に入るものでも無いだろう」

 

 疑問を呈したのは最初に発言した前衛職らしき女。レイア・スチュート、19歳。

赤い髪を後ろで結んで背裏まで伸ばし、少しつり目気味でキリッとした印象を受ける美人さん。美乳。

騎士然とした容貌であり腰には二本の剣。騎士系職を経験したパラディンである。

経験は浅いが実力は4人の中でもトップであり、パラディンにしては盾を持たない変則的な戦闘スタイルでもある。

 

「それもそうなんだが、俺の古い知り合いが教えてくれてな、信憑性は高い」

 

 それでも疑ってかかるほうが普通なほどの話題なのだが、噂話程度ではなく実際の店の場所まで聞いたためだ。

かの知り合いはかなり長い付き合いである上あまりこういう話題で嘘を吐かない質なのをガッハは知っている。

そのため今回の話しの信憑性は高いとして彼らに聞かせたのだ。

彼らはパーティーを組んでいるわけでは無いのだが同じクラン所属であり、実力も拮抗しているためよく臨時で組むのだ。

今回も中々美味しい報酬のクエストがあったためガッハが招集をかけ、暇だった他の3人が集まった事でクエストに挑戦。

無事クエストを完了させて一仕事終えたため酒場でささやかな祝勝会の真っ最中、というわけである。

 

「おいおい、どうやって手に入れてるんだ?ヤバイ奴じゃねえだろうな」

 

 レオスが訝しげな声を上げるが、半信半疑といった所である程度の信頼はしているようだ。

それはクランマスターであり自分達の中でも経験と実力両方を兼ね備えたガッハが信用しているというのが大きいのである。

他の誰かからの話しであれば眉唾として酒のつまみにでもしていた所だろうが、

ガッハが信憑性が高いというのであれば事実である可能性は高いであろうし、危険性も然程無いのだろう。

あくまでどういう店なのかという話を促す合いの手の類である。

 

「ああ、何でも自作しているらしい」

 

『自作ぅっ!?』

 

 ハモった。そらもう見事にハモった。それも周囲で聞き耳をたてていた一部の冒険者達まで一緒に。

何せ宝具(アーティファクト)である。神代の遺物とも神の祝福とも言われる至高の一品である。

準宝具級ならば幾らか見つかっているし作れる者も片手以下だが居るには居る。

だが、完全な宝具クラスのアイテムを自作出来るようなバケm…もとい人間など居るわけがない。

宝具クラスと言えばそれこそ不老不死の秘薬だとか時間を止めるだとか空間をぶった切るだとかそういう次元の話である。

どこかで見つかっただけでも国宝とかそれに類するモノとして厳重に保護・保管されるようなシロモノだ。

それを自作し、売っている。もはや頭がおかしいんじゃないかと思ってしまっても無理は無い。

 

「いやいやいや、幾らなんでも冗談きついって」

 

 呆れたように零すレオスの言葉に反応し、聞き耳を立てていた冒険者達の8割は興味を失ったようだ。

完全に眉唾か冗談の類だと判断したのだろう。残りの2割の内1割は未だ熱心に聞き耳を立て続け、

もう1割は何か心当たりがあるかのようにウンウンと頷いて聞くのをやめた。そこそこに名は知れているようである。

 

「ま、明日にでも行ってみるつもりだ。お前も折角だし着いて来い」

 

 そう言って笑うガッハは情報の真偽を確信しているようで、3人は訝しみながらも頷いた。

その後はまた何時ものようにくだらない話から今後の予定や活動に関する方針の話をしたり、

酒に任せて愚痴ったり調子に乗ったレオスがレイアに一撃で沈められたりと賑やかな時間が過ぎていく。

彼らはクラン『暁の旅団』の冒険者。今日も荒々しくも平和な日常を過ごしているようである。

 

 

 

 

 

 

「うわ、うわ、うわぁ♪凄い凄い、これも凄いうわあれなあに~!?」

 

 翌日。ガッハに連れられて4人が入ったのは小奇麗な外見で冒険者向けの宿ほどの大きさの建物。

表にはOPENと書かれた札がかけられているだけであり、店の名前も種類を示す看板もかけられていない。

相変わらず訝しむ3人を他所にガッハが先導して中に入ると、「いらっしゃい」という男のものらしき声が聞こえてくる。

20畳ほどの販売スペースの奥にあるカウンターには一般的な冒険者向けの街服に黒いローブを着込んだ若い男。

今年で丁度20歳になるこの店の店主、ユージ・ハウゼンの姿がそこにあった。

黒い髪を短く切りそろえた純アジア風の容姿の彼は、客を一瞥しただけで手元の本へと視線を戻す。

 

「む」

 

 その態度というか愛想の悪さに若干生真面目なレイアがむっとするが、流石になれているのか特に苦言を呈すことも無い。

そしてとりあえず商品を見ようと広い陳列スペースに並べられた様々なアイテムへと目をやり………固まった。

その彼女のフリーズした思考を解凍したのが、何時ものほんわか口調を楽しげに弾ませてはしゃぐミネアの声だった。

とはいえ彼女のフリーズもおかしな事ではない。外に居た時は何の違和感も感じなかったにも関わらず、

ここにある品々は明らかに一級とか超一級とか特級という言葉ですら生ぬるい逸品ばかり。

剣や槍などの武器から杖や指輪などの触媒、鎧や盾といった防具にポーションらしき消耗品など、

並んでいる商品の種類は雑多であり悪く言えば節操が無い。

しかし、それらは明らかにひと目で宝具級に違いないと確信を持てるほどの圧倒的なオーラを放っていた。

 

「これは…予想以上、だな」

 

 これには流石に経験豊富なガッハも驚きを隠し切れないようで、それは隣で呆然としているレオスも同様のようだ。

しかしそれも仕方ないだろう。大陸最高クラスの冒険者ですら下手をすれば一生拝めないような逸品が、

広い展示スペースに所狭しと並んでいるのだ。圧倒的なオーラをこれでもかとまき散らしながら。

しかもカウンターの張り紙には「未展示在庫・特注受付有り。応相談」とある。

そして店主は何食わぬ顔でカウンターに頬杖をつき、手元の本へと目を落としている。

まったくもって何の冗談だと言いたくなるような光景である。

 

「ちゃんとカテゴリごとに分けてあるのか。大剣は…うおっ!?なんだこの大業物は…」

 

 ゴクリ。少し見てみただけで欲しいという感情を止められなくなりそうなほどのオーラ。

冒険者や蒐集家が一度は夢見るであろう最上級の中の最上級がそこにある。

金額は…3000万エーダ。日本円に換算して3億円ほどの価値になる。安い。いや、冗談抜きで安い。

本来なら国宝級である。普通は値段なぞ付けられないようなシロモノだ。それがたった3000万エーダ。

他の商品にはもっと安いものや高いものもあるが、宝具級が安ければ1000万エーダ程度とは何の冗談か。

しかもカウンターに貼られた何枚かの張り紙には「値引き・分割応相談」とある。

ガッハですらこの店主ちょっと頭大丈夫だろうかと心配になってしまったのもおかしくはない。

 

「なんという数だ…」

 

 レイアの呟きも当然だろう。ざっと見渡す限りでも100は下らない数の宝具級があるし、

その上店の奥には大量の在庫があるらしく、更には新しく作るのも半月ほどの短期間で作れるらしい。

かなり安く設定されているが、本来の価値で売ればそこらの大国が十把一絡げで傾くレベルの価値がある。

というかココにある宝具を適当に集めた連中に配るだけで国の一つや二つは軽く落とせるだろう。

もはや冗談を通り越して天国か地獄にでも居るかのような話だ。正直やってられない。

何よりこれだけのものを店先に並べておいてあの店主の興味無さ気な態度は一体何なのだろう。

レイアが自分の中の常識が音を立てて粉々に砕けていくのが聞こえた気がしたのも当然というものだ。

むしろ初めて此処に来た客は常識やら価値観やら理性のタガやら何かしら確実に壊れる。

もういっそ不条理とか理不尽と言い切っていいレベルである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>初期職

・ノービス

 初期に就いている職業。ステータスへの補正は無く、探索系や移動系などのごくごく基本的なスキルを覚える。

 ランクアップによる習得スキルに、汎用的に機能する利便性の高いスキルが多いのも特徴。

 

>一次職

・ファイター

 前衛戦闘を行う職業。STRとVITにプラス補正、INTとRESにマイナス補正がかかる。

 スキルは物理攻撃やそれらの防御・回避を行うスキルが多く、それらの習熟に僅かな補正がかかる。

 

・マジシャン

 後衛戦闘を行う職業。STRとVITにマイナス補正、INTとRESにプラス補正がかかる。

 スキルは各種魔法やそれに干渉するスキルが多く、それらの習熟に僅かな補正がかかる。

 

・クリエイター

 後方支援・生産を行う職業。INTとDEXにプラス補正、VITとAGIにマイナス補正がかかる。

 スキルは採取・発掘などの調達系や合成・作成などの生産系スキルが多く、それらの習熟に僅かな補正がかかる。

 

>二次職

・ウォリアー

 前衛戦闘において特に高威力による突破を担当する職業。

 STRとVITに大きなプラス補正、INTとRESに大きなマイナス補正がかかる。

 ファイターを純粋に強化したような職業で、スキルも攻撃的な物が多い。

 

・ナイト

 前衛戦闘において特に味方の守護を担当する職業。

 VITとRESに大きなプラス補正がかかり、INTとAGIに大きなマイナス補正がかかる。

 防御に偏ったファイターであり、スキルも後衛の防御や自動回復など防御に重点を置いたものが多い。

 

・ウィザード

 後衛戦闘において特に魔法攻撃による敵の掃討を担当する職業。

 INTとRESに大きなプラス補正がかかり、STRとVITに大きなマイナス補正がかかる。

 マジシャンの正当進化であり、中位の魔法スキルへの派生も解禁されるなど火力の大きなものやその補助スキルが多い。

 

・プリースト

 後衛戦闘において仲間の回復を担当する職業。

 INTとRESに大きなプラス補正がかかり、VITとAGIに大きなマイナス補正がかかる。

 回復系のスキルや味方のステータス補助を行うスキルを多く覚え、浄化属性のスキルなど一部攻撃スキルも習得する。

 

・スミス

 後方支援・生産において武器や防具などの武具類を担当する職業。

 VITとDEXに高いプラス補正がかかり、INTとAGIに大きなマイナス補正がかかる。

 各種武具の作成に特化したスキルの他、それらの素材を収集するために必要なスキルなどを多く覚える。 

 

・アルケミスト

 後方支援・生産において魔法具や消耗品など各種アイテムの作成を担当する職業。

 INTとDEXに高いプラス補正がかかり、STRとAGIに高いマイナス補正がかかる。

 装飾品や消耗品の作成に特化したスキルの他、それらの素材を収集するために必要なスキルなどを多く覚える。

 

>三次職

・バトルマスター

 ウォリアーの発展職。STRとVITにかなり大きいプラス補正がかかり、INTとRESに高いマイナス補正がかかる。

 ウォリアーでは使えなかった上位級・最上位級の物理攻撃スキルを使いこなす。

 

・パラディン

 ナイトの発展。VITとRESにかなり大きなプラス補正、INTとAGIに高いマイナス補正。

 各種上位防御スキルの他、専用の回復・補助スキルも幾つか覚える。

 

・ドルイド

 ウィザードの発展職。INTとRESにかなり高いプラス補正、STRとVITに高いマイナス補正。

 広域殲滅魔法や精霊魔法など様々な攻性魔法を使いこなす。

 

・ビショップ

 プリーストの発展職。INTとRESにかなり高いプラス補正、VITとAGIに高いマイナス補正。

 蘇生レベルの高度回復スキル以外にも浄化系スキルや多様な防性スキルを使いこなす。

 

・マスタースミス

 スミスの発展職。VITとDEXにかなり高いプラス補正、INTとAGIに高いマイナス補正。

 高度な武具の作成が可能になる他、それに。準じたスキルを多数覚える。

 

・ヘルメス

 アルケミストの発展職。INTとDEXにかなり高いプラス補正、STRとAGIにに高いマイナス補正。

 高度な魔法具やアイテムの作成が可能になり、それに準じたスキルを多数覚える。

 

>特殊職

・アウター

 ローグやアサシンに属するジョブ。DEXとAGIが高くVITとRESが低い。

 スキルもそれらに準じたものになる。

 

・勇者

 前衛三次職二種を極める事でなれる職業。マイナスがなくSTRとVITが非常に高い。

 秘技と呼ばれる特級物理スキルの習得が可能。サポートスキルも強力。

 

・魔王

 後衛三次職二種を極める事でなれる職業。マイナスがなくINTとRESが非常に高い。

 奥義と呼ばれる特級魔法スキルの習得が可能。サポートスキルも強力。

 

・造物主

 生産三次職二種を極める事でなれる職業。マイナスがなくDEXが非常に高くINTとVITも高い。

 創造と呼ばれる特級生産スキルの習得によりジョブ限定アイテムの作成解禁。サポートスキルも強力。

 

・超越者

 特殊職含めた全ジョブを極める事でなれる職業。全体的に高い補正がかかる。

 絶技と呼ばれるスキルやサポートスキルがぶっ壊れ。作成・装備が解禁されるアイテムもぶっ壊れ。

 完全にご褒美ジョブであるためか確実にバランスブレイカー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ISメタトロン (インフィニット・ストラトス 地の文ほぼなし)

薄暗い一室。様々な機械が雑多に並びまさに研究室然としたその部屋の中心で、怪しい笑みを浮かべる者が一人。

 

「ふふふ、ついに完成した……ふふふ、ふはははは、あーはっはっはっは!」

 

 

 

 

 

 

織斑一夏、春。男性で唯一《インフィニット・ストラトス》という超兵器を動かせてしまった彼は、

IS学園という女の園の中でただ一人、肩身の狭い思いをしながら日夜勉学に励んでいた。

 

「はあ、ったく箒のやつ……ん?千冬姉ぇ?」

 

学園の校門脇に立つ金髪のガイジン一人。腕時計を確認したり誰かと待ち合わせをしているようである。

サングラスをかけていてスーツに身を包んでいるが顔立ちは優しげだ。

女子校の脇で棒立ちという姿はともすれば通報されそうでもあるが、幸い周囲の女子達はひそひそと囁き合うのみに留めている。

暇そうにしている彼を見かけた一夏は声をかけようとするも、その前にかの外国人の元へ向かう一夏の姉の姿を見つける。

いつも厳格な姉の姿を見て、注意でもしに行くのかと思った一夏だったが、その予想はすぐに覆される。

 

「――待たせたな」

 

「いや、時間通りだよ。相変わらずだね、千冬ちゃん」

 

サングラスを外しにこやかに笑いかけるガイジンのセリフに、IS学園その校門周辺の空気が完全に凍りついた。

――当然、声を掛けられた本人もである。

 

「ここでは織斑先生と――」

 

「「えええええええええええええええええっ!?」」

 

上がる、悲鳴。それは当然周囲の女性徒のもの。彼女の弟である所の一夏はきょとんとした表情を浮かべている。

 

「な――」

 

周囲の唐突な反応に素早く状況を察した千冬は即座に事態の沈静化を図るために声を上げようとしたが……時既に時間切れ。

まず聞こえていなかった周囲の女生徒へと拡散し、直後走りだした数名によって学園内に広まっていく。

恐らく今日のIS学園最大の話題は「驚愕!?織斑千冬先生にイケメン恋人の存在発覚!?」というような、

どこぞの週刊誌も真っ青な捏造に憶測を重ねた噂話で持ち切りになることだろう。

 

「おーおー、皆元気だねえ」

 

「おま、誰のせいだと思っている!」

 

「まあまああいいじゃないか。仲がいいのは事実だろう?」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「あ、ほんとに仲いいんだ」

 

「一夏!?」

 

「おー、君が弟くんか。お姉さんにはいつもお世話になってるよ」

 

「あ、はい、こちらこそ。姉と仲良くしていただいて有難うございます」

 

「そう堅くならなくていいよ。彼女はこんな感じで初対面はとっつきにくいだろう?周囲との緩衝材をしている内に自然とね」

 

「な、おい――」

 

「あはは、やっぱりいつもこんな感じなんですね」

 

「少し仲良くなれば割りと感情豊かで可愛らしい女性なんだけどねえ。いかんせん最初の壁が大きいんだよ。彼女、有名人だしね」

 

「あ、そういうのもあるんですか」

 

「ああ。やはり接する側も萎縮してしまうようでねえ。まあ、僕みたいなのには関係無いんだけどね。アハハ」

 

「あはは、これからも千冬姉ぇをよろしくお願いします」

 

「いやいや、こちらこそ。なんなら今日からお義兄さん、と呼んでみるかい?」

 

「ええ!?えーと、おにい――」

 

「ライルッ!いい加減そのふざけた口を閉じろ!一夏もだ!何を真面目に返しているんだお前は!」

 

「そう怒らないでよ、千冬ちゃん」

 

「千冬ちゃん言うなッ!」

 

「所で一夏くん、山田先生という先生を知っているかな?」

 

「あ、はい。俺のクラスの副担任です」

 

「ああ、やっぱりここに居るのか。彼女ともちょっとした知り合いでね。挨拶ぐらいはしておこうかな」

 

「へえ」

 

「お前達……覚悟は出来てるだろうな?」

 

「げっ」

 

「まあまあ千冬ちゃん「ちゃん言うなッ!」――やだ。ああ、そうだ。例の転入生二人ね、今日は一日準備と休憩して明日来るから」

 

「む」

 

「転入生?」

 

「また可愛い女の子が増えるって事さ。良かったね、一夏君」

 

「ライル、こいつにそういう話は――「そうですね」え?」

 

「うん、可愛い子が増えるのは嬉しい事だよね」

 

「でも、周りが女性ばかりっていうのも大変ですよ」

 

「おい、待て一夏。お前女には興味無いんじゃなかったのか?」

 

「ええ?……千冬姉ぇ、俺そんな事言ったっけ?」

 

「いや、お前周りにこれだけ女子が居て欠片も……」

 

「何言ってるのさ。学生という身分に甘えず分別を弁えるようにって言ったの千冬姉ぇだろ?

 そりゃ皆可愛くていい子だとは思うけど。俺そんなナンパな性格じゃないって」

 

「う、うむ、それは……そうだが」

 

「へえ、若い割にしっかり自制が出来るんだね。感心感心」

 

「いや、しかしならなぜ彼女達の想いに応えてやらないんだ」

 

「へ?想い?」

 

「……ああ、要するに一夏君は鈍感なのか」

 

「……なるほど。女性に興味はあるが好意には気付けない、と」

 

「むしろ興味無いより無駄に苦労しそうだね。女性側が積極的になればあっさりくっつきそうではあるけど」

 

「あー、周りが周りだけに、難しいだろうな」

 

「えっと……何の話?」

 

「いや、なんでもない。これはお前の問題だ」

 

「多少応援してあげてもいいような気もするけど……早い者勝ちの争奪戦って面白そうじゃない?」

 

「あまりふざけが過ぎると斬るぞ」

 

「サーセン」

 

「えっと、それでライル……さん?」

 

「ああ、自己紹介がまだだったか。ライル・ブリックスだ。よろしく」

 

「あ、はい、織斑一夏です。よろしくお願いします。それで、ライルさんはなんでここに?」

 

「……あ。そうだ、おいライル。お前の方の準備はどうなっているんだ」

 

「忘れてたね「うるさいっ!」――当然、出来てるよ。生徒と違って教師は色々と準備が要るからね」

 

「へ、教師?」

 

「ああ。ライルは昨日付けでこのIS学園の教師として赴任する事となった。以後はブリックス先生と呼ぶように」

 

「気軽にライルでいいよ」

 

「お前!」

 

「はいはいどうどう。さっきも言ったけど転入生が居てね。それに合わせて、という形になっているんだ」

 

「はあ。でもライルさんって男性、ですよね?」

 

「見ての通り。要するに、君と同じという事さ」

 

「……えええええっ!?」

 

「まあ、正確には僕のはISじゃないんだけどね」

 

「はあ」

 

「ああ、ISと言えばあの馬鹿兎がまた会いたがっていたぞ」

 

「なんだ、もう我慢が出来なくなったのか。堪え性のない子だ。また可愛がってあげないとね」

 

「おかしな言い方をするな」

 

「?」

 

「うーん、リアクション無いのはつまらないなあ」

 

「相変わらずの朴念仁め……いや、だからそうではない」

 

「と言っても兎ちゃんの興味は僕じゃなくて彼女だろう?」

 

「お前にも十分興味を示していると思うがな。アレを作ったのはお前だろう?それにあいつがまともに返事をするだけでも奇跡だ」

 

「そりゃそうだろうけどね。頭の出来じゃ彼女の十分の一も無いさ。

 "彼女"を作れたのも"彼女"自身の才能と努力による部分が大きいしね」

 

「えっと、もしかして二人が話してるのって」

 

「ああ、こいつは束曰く旦那様らしいからな」

 

「……へ?え、ええええええええええっげほっげほっ」

 

「大丈夫かい?」

 

「さっきから叫びすぎだ」

 

「いや、だって、ええ!?」

 

「まあ半ば冗談だがな。あいつがそんな冗談を言う相手、という事だ」

 

「あ、冗談――って半分は本気!?しかも束さんがそんな冗談を……」

 

「まったく、会う度にいちゃいちゃと……」

 

「大人のスキンシップって奴だよ。少々欧米式だけど、見慣れたものだろう?」

 

「お前達のは本気か冗談か区別が付かん」

 

「一応肌以外は触れ合ってないさ」

 

「えっと、よく分からないですけど、ライルさんって一体?」

 

「それは……む、もう時間が無いな。まあ、その内分かる。ライル、手続きをするから着いて来い」

 

「はいはい。それじゃ一夏君、また後でね。千冬ちゃんの可愛い話聞かせてよ」

 

「あ、はい」

 

「ライルッ!一夏も教室に戻れ!」

 

「は、はいっ!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メタトロン……」

 

「所謂遠隔操作型IS。白くて女性的なラインだが中に人間は入っていない。生体部品として組み込まれた肉塊があるのみだ」

 

「うわ、瞬間移動!?」

 

「正確には量子化と再構築を繰り返しているんだよ。生体感覚器官を用いた認識によって空間座標を測定し、

 一旦量子化させた構成体を所定の座標で再構築している。人間が入っていないから出来る芸当だね」

 

「ぐ、なんだこのパワーは!」

 

「中身が人間でない以上、構造的に出せる限界の力を継続的に発揮する事も可能だ。

 人間の筋力をここまで増幅したら筋肉が弾けちゃうよ。生体部品なら自動修復が効くからね」

 

「これほんとにISじゃないの!?」

 

「ISとは篠ノ之束が設計・開発したコアを元に製造された機動兵器という定義だからね。

 僕のは自作品。コアを解析したわけでもなく、ただISに出来る事を出来るような機械を作っただけ」

 

「それ、十分凄いんじゃ……」

 

「進化はISよりしにくく、生産はISより困難で、更に人間一人分の生体部品を使用する外道の所業。

 他にも量産出来ない問題点盛りだくさんで僕も技術流出をする気も無い」

 

「人間を使ってるの!?」

 

「メタトロンに用いているのは人工の、所謂クローンに近いものだけどね。

 オリジナルだけは本物の人間だ。このメタトロンを設計・開発した人物だよ」

 

「ライルさんが作ったんじゃないんですか?」

 

「発展させるぐらいなら出来るけれど、基礎構造は僕でもブラックボクス……というか、純粋に理解不能な域にある」

 

「束クラスの天才がもう一人、とはな」

 

「いや、彼女クラスではなかったよ。電子精霊となって人間では到底及びもつかない演算能力を得た結果だ」

 

「え、それって」

 

「彼女は死して自身をデータの塊へと変えた。それは不老不死というよりは別人として人格を遺したにすぎないが……

 それでも、彼女の頭脳に量子という演算装置が付属した事で彼女はある種の神へと至ったのかもしれない」

 

「か、神?」

 

「電脳の神という奴だよ。事実彼女は、今も三次元とか十二次元とかそういう次元の壁を超えた先……量子の海で、生きている」

 

「よく、わからないな」

 

「僕も彼女からそう説明されただけでちんぷんかんぷんだよ。ま、本質は元の彼女のままだったけどね」

 

「……その彼女とは、もう逢えないんですか?」

 

「ん?いや、会えるよ。メタトロンのオリジナルは彼女の遺体を生体部品として用いている。

 完全に人間の体とはいかないけど、メタトロンと生体的に融合したままなら擬似的な生命活動も可能だ」

 

「えっと、つまり」

 

「量子の海に居る彼女の人格をリアルタイムにメタトロンの処理領域に反映する事で……

 要するに、あのメタトロンの中身は彼女だと思って貰って構わない。まあああやって戦ってる時はただのロボットだけどね」

 

「ええええ!?」

 

「表面上は生身の人間と変わらないように見せる事も出来るし、本当に便利なものを作ったものだ。所謂サイボーグの類だね」

 

「す、すげー」

 

「SFだな」

 

「まあ大差ないね。理解不能、という点でもね。正直、僕を狙っても何も得られないのにちょっかい掛けてくる奴が多くて困るよ」

 

「そりゃまあ」

 

「ぶ、分身した!?」

 

「ビットと同じさ。同じ物を複数出して同時制御する。

 制御しているのも量子の海に居る彼女だからね。正直僕が居なくても勝手に動ける」

 

「そうなんですか?」

 

「こちらの座標を認識する際に僕を介しているというだけだからね。一応、僕の簡易命令が必要という形になってるけど」

 

「本体はアレなんですか?」

 

「正確にはオリジナルのメタトロンに入ってるメインユニット、僕が所持し制御してるメインシステム、

 量子の海で統括してる統括プログラム、その全てが本体だ。そういう意味ではISよりも破壊の心配が少ないかな」

 

「よく、わからないです」

 

「安心していいよ。僕もだ」

 

「えー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ATSS(インフィニット・ストラトス)

 

【Advance】

 

前進、昇進、促進、進行、進化、変わった所では前貸しとか提出とか言い寄るとかいった意味もある。

今発せられた言葉の意義としては進化が一番適切だろう。

進化。既存のものが段階を経て大幅に成長あるいは変化する事を示すこの言葉は、

今目の前に存在する"コレ"に対して何よりも適切な語句だと思える。

 

【Advance-Type】

 

"彼女"はそう名乗った。"私"が名乗れと命じた時、彼女自身がそう名乗ったのだ。

私は笑った。大いに笑った。それはもう声を大にし、コレ以上に面白いことがあるのかと言わんばかりの大爆笑だ。

彼女は知っているのだ。自分が生まれてきた理由を。存在する意義を。

私が何も教えていないにも関わらず。私がそうあれと命じたわけでもないのに。

彼女は自身を理解し、他者を理解し、そこから考え、導き出したのだ。

そう、それはまさしく"正解"だった。それは私が望んだ事だ。それは彼女の存在意義だ。そのために私は彼女を生み出した。

私は次に彼女にこう聞いた。「今の気分はどうだ」と。普通なら彼女のような存在にかける言葉ではない。それに彼女はこう返した。

 

「これ以上無い歓喜に包まれています。私は、あなたの望みにかなった」

 

笑いが止まった。思わず抱きしめた。もはや笑いだとか歓喜だとかそんな次元を通り越したのだ。

いやはや、自分は頭で考えるしか能のない人間だとばかりに思っていたがそうでも無かったようだ。

まさかこの私が思考を放棄し、抱きしめるといった直接的な行動でしか感情を表現出来なくなるとは。

彼女は理解しているのだ。自身の誕生理由を理解し、自身の存在意義を理解し、そして私が望むそれらを叶えられたと理解している。

そしてそれを喜んだのだ、彼女は。これ以上無いとはっきりと言いのけたのだ。

その言葉しか識らないのではない。無数の表現の中から自分の意志で選択しそれを口にしたのだ。何の躊躇も疑いも無く。

ああ、素晴らしい。完璧だ。君もそう思うだろう。もうダメだ。私はどうにかなってしまったようだ。今直ぐ彼女を――――――

 

 

「――やめんかバカタレ」

 

「おうふ。いきなり出てくるなんて酷いじゃないか」

 

自分の口から言葉が零れ、今にも彼女を押し倒そうとしていた体が再び持ち上がる。

周囲に散らばる雑多な機械を押しのけて、近くにあったデスクの椅子へとドカリと腰を落とした。

どうやら支配権を強制的に持っていかれたらしい。取り返す事も可能だが、面倒だから別にいい。

何にせよ"俺"のおかげで随分と落ち着くことが出来た。というか、本来なら感情的になった"俺"を止めるのは"私"の役目なのだが。

 

「だから"私"が感情的になったから"俺"が止めんだろう」

 

おお、そうか。流石俺だ。そうか、今まで暴走する事はあれどここまで感情的になることは無かったな。

移動した事で少し距離が空き、その全貌を瞳に映す事が出来るようになった彼女を見やる。

私に押し倒されかけ傾いて居た体を元に戻し、恭しく礼をして無言のまま直立不動となる。実に素晴らしい。

しかしなんともはや、彼女のお陰で随分と思考能力を奪われてしまったようだ。これが恋というやつだろうか。

 

「んなわけあるか」

 

「ですよねー」

 

自分の口が2つの言葉を紡ぐ。別に声に出さなくてもいいのだが、そこはノリと言うやつである。

頭の中だけで会話するというのは長時間やると意外に疲れるもので、適度に口などを使う方が楽なのだ。

それに、こういうボケやツッコミという類の言葉は口に出さないとその意義の半分を失う。脳内ボケツッコミなど薄ら寒いだけだ。

 

「ま、なにはともあれ完成だな」

 

満足そうに呟く"俺"。当然だろう、彼女を操るのは俺で、そして彼女が素晴らしいものであると既に知っている。

なにせ"私"が創ったのだ。俺は私に対して絶対の信頼を置いている。それは私が俺に対して抱いているそれと同等だ。

私と俺が共同で作り上げた満足の行く一品。完璧と言うには私の研究開発者としての思考が邪魔をするが、

満足度という点では100点満点と言っていいだろう。いや、既に振り切って120点ぐらいには達している。

後は200点300点を目指して飽くなき追求を重ねていくのみである。

 

「ふむ、しかし流石私の生み出した最高傑作とはいえここまでの完成度とはね」

 

「まったくどういう頭の造りをしてるんだろうな」

 

私の言葉に対する呆れたような俺の言葉が自分の口から零れるが、同じ頭だということを忘れたかのようなツッコミである。

まあ、私に比べれば天と地の差があるとはいえ、俺の思考能力とて悪くはないのだから当然冗談だろう。

兎にも角にもこれで準備は整ったのだ。私は十分満足したのだから、今度は俺が好きなだけやらせてやろうではないか。

 

「ありがたい。暫くは俺が使うぞ」

 

「構わん。全く出てこないというわけでもないのだからね」

 

別に四六時中渡すというわけでもなし、それに流石に今回は私が好き勝手使いすぎた。

実験の時は時折使わせていたとはいえ、それはあくまで必要だったからである。

それ以外では日常生活すら投げ出して研究と開発に注ぎ込んでいたのだから、暫くは俺の好きにさせてやりたい。

特にこれからの行動予定では私の出番は少ない上、そもそも私は人見知りだ。

恥ずかしいというタイプではなく単純に他人に興味が無いタイプなのである。

どこぞの天災兎と比べれば流石にマシであると思いたいが、俺曰く五十歩百歩とのこと。なんだ、倍も違うではないか。

 

「オイコラ」

 

当然冗談である。ともあれ、暫く私の出番は無い。必要になれば出てくるが、そもそも我々のような存在は奇異に見られがちである。

目的外の所で目立つのは得策ではないというのもあるが、単純に面倒でもある。私は自身の望まぬ面倒は嫌いだ。

誰でもそうだとは思うが、私の場合かなり優先順位が高い。面倒は即排除に限るのである。

その点俺は私と違って面倒を敢えて楽しむ事も出来る性格なのだから、

これから行く場所の特異性も鑑みれば是非とも身代わりになって欲しいものだ。

 

「本音が出たな」

 

「そういった名前の少女がこれから行く場所に居たな、うむ」

 

「うむじゃないだろ何の話だ」

 

取り敢えず行く場所の情報をと思って事前に情報収集をしておいたのだが、どうやらしっかりと記憶できているようである。

同じ頭を共有しているとはいえ、私と比べれば低い思考能力だったので人前に出すのは若干不安視していたのだ。

 

「お前は俺の親父か」

 

「兄心という奴なのであーる」

 

「おい口調こら。どこの変態ドクターだ。あと誰が兄だ誰が」

 

そういう細かい事に拘る辺りが弟なのであーる。

冗談はさておき、誕生日というものが存在しない以上どちらが兄だ弟だという議論に意味は無い。

世間一般に言われる双子とかとも違う上、かなり広義に言えば同一人物である。兄も弟も無いだろう。

なにせ、俺は私の半身なのだから。私達が分かれたのは何時だったか。そう、確かあれは雪の降る――

 

「回想シーン入ろうとすんな。しかも捏造しようとすんな」

 

うむ、正直覚えていないのである。なにせ年齢一桁の頃の記憶が曖昧で殆ど残っていないのである。

別に、記憶喪失だとかそういうわけではない。単純に子供の頃の事を覚えていないだけである。そのため私と俺の起源は不明なのだ。

生まれながらにこうだったのか、どこぞの秘密結社の改造でもうけたのか、それとも今流行の憑依モノとかいう類なのか。

何にせよ私と俺はもうかなりのレベルで融合している。人格や思考はある程度独立しているが、自覚的には同一人物だ。

独り言を言っているのと大して変わらないというのは寒い部分もあるが、もう慣れてしまった。

 

「さて、大体分かったかね?」

 

時間的にも発した言葉や思考したイメージの量的にも十分だろうと判断した私は、唐突に"彼女"に話しかける。

視線を向けられ声を掛けられた彼女は問題ないと言うようにしっかりと頷いた。非常によろしい。

これで学習も済んだだろう。まだまだこれからではあるが最低限は教えた。後は自己成長させるだけである。

 

「これで準備は全部整ったな」

 

「ああ、後はシャワーを浴びて着替えて食事をして出発するだけだ」

 

随分ある?そうでもない。日常的な行動しか残っていないというのならそれは誤差の範囲である。

まあ、暫く不眠不休だったせいで空腹と悪臭が凄いことになってしまっているが。

俺曰く美少女満載の所へと行くのだから、流石に体臭はしかりと落としていくべきだろう。心なしか"彼女"も引いている気がする。

 

「いや、引くだろう普通」

 

「本当に引いているならスクラップ決定だがね」

 

我々に向かってそのような不要な感情を向けるのなら作りなおす必要がある。

"人間らしい"までは構わないが"人間くさい"のは人間だけで十分である。

 

「さて、それじゃまずは風呂だな。汚い体じゃメシも不味い」

 

所謂メシマズという奴である。どれぐらいかと言うと五十過ぎた母親の性の話を聞かされるぐらいメシマズである。

……想像しただけで鳥肌が立ってしまった。まあ、記憶に母親の顔など残っていないのだが。

両親共に我々が思い出せる年齢以前の頃にお亡くなりになっているのである大して感動も無い。

 

「ま、遺産や保険金には感謝してるけどな。……すぐ尽きたけど」

 

非常に済まんかったのであーる。

いや、本気で済まないと思っているから思考をクラックするのはやめて欲しい。思考ノイズを送り込むのもやめてくれないだろうか。

ああ、ありがとう。――ごほん。流石に、あれだけあった金を研究のために食い潰したのは悪いと思っている。

なにせ我々の共有財産だったはずなのに、使った額で言えば1000対1ほどの差がある。

我々の持ち前の頭脳と行動力で上手く稼いでいなければ今頃二人揃ってお陀仏である。

しかし、そもそもを言えば私に研究開発の全面許可を出したのも俺であり――ああ、悪かったからやめてくれ。ほんとに。

 

「まあ、やり返されたら洒落にならないからやめるけど」

 

うむ。相変わらず素晴らしい引き際である。こちらが逆クラックを検討し始める直前で即座に退く辺り流石としか言いようがない。

私は何かをやりだすとつい熱中して引き際を見誤ることが多いため、

俺のこういった戦術眼とも言えるものは何時もお世話になっている。

 

「ま、兎も角だ。やることは決まった。そろそろ行こうか」

 

「うむ」

 

まずは何はともあれ駄兎に接触しよう。我々の自信作を魅せつけてやるのだ。

いざ尋常に勝負と行こうではないか。ふはははは、あははははは、あーーーっはっはっはっは。

 

「うるさい」

 

すまん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい、えっくん、へっくん」

 

「ああ、行ってくるよ」

 

「行ってくるぞ」

 

秘密ラボから一人の男の子を見送る。二人が出ていった後ラボの扉が閉まった時、思わず寂しさで追いかけたくなってしまった。

すっかり二人が居る生活に慣れてしまっていたようで、そんな自分に苦笑してしまう。

 

――最初に彼らの影を見たのは、私が造ったISコアの一つが行方不明になった所からだった。

IS。私こと篠ノ之束が生み出し、世に放ったもの。宇宙開発を目的に作られたそれらは、現在は兵器として使われている。

その理由の一つが、『白騎士事件』と呼ばれる事件。

私が提唱したISは当初妄想の類として切り捨てられた。誰も私が造ったものを信じなかったのだ。

だから"なぜか"日本へと降り注いだ2000発のミサイルを私が造った白騎士に撃墜させた。

それからは世界がひっくり返った。2000発のミサイルを撃墜し、追撃を掛けてきた艦隊も壊滅させたその力に、世界中が驚天動地。

こうしてISは世に放たれ、今も私が造った467個のコアを巡って醜い豚どもが争っている。

 

そんな中、彼らは現れた。

私の警戒網を安々と突破し、この私に気づかれる事もなくラボに降り立った彼らの一言目。

 

「喉が乾いたから茶をくれ」

 

いや、あのさ。流石の束ねさんもこれはどうかと思うんだよ、うん。

そりゃあね、敵対の意思がないのを示そうとしたっていうのは分かるけど、それでももっとこう何かさあ。

ごほん。兎も角、私の警戒網を内科のごとくすり抜けた彼らに興味が湧き招き入れたのだが、そこからが大騒ぎだった。

まず第一声に「お前の造った不細工な品を超えるモノを作ってきたから見せてやろう」というもの。

それがISの事だと一瞬で理解した私は思わずぶちきれて無人ISをけしかけた。

そして、それは一瞬と言っても過言ではないほど瞬く間に壊滅させられた。

彼らの操るIS、彼ら曰く『Infinite Stratos Advance Type』、通称ATに。

 

で、その後色々揉めたり喧嘩したりお互いの研究成果を見せ合いっこしている内に仲良くなり、共同研究に至ったのが事の顛末。

私でも不思議なくらいに充実した時間だった。ちーちゃんやいっくん、箒ちゃんと過ごした時間に優るとも劣らないほど。

彼ら曰く兵器にせよ宇宙開発用具にせよ、"女性にしか扱えない"というのは致命的な欠陥らしい。

今でこそISによって社会的に女性の地位が向上し、女尊男卑とも言われる時代になってはいる。

しかしそれは裏を返せば戦場や宇宙などの危険かつ過酷な場所に女性を率先して送り込むという事でもあり、

467という数の少なさとそれに反比例した性能の高さといった歪な部分からも長期的に見れば破綻は必定。

元々ISに男女の差というのは関係無い。慣性・力場制御によって駆動し、腕力なども増幅では無くベクトルの発生。

しかも生み出すエネルギーが莫大なため、男女差程度の違いでは微々たる差にしかならない。

だから男性でも女性でも、お年寄りでも子供でも同じだけの事が出来るのがISだ。

だからこそ、それが女性にしか扱えないというのは兵器や宇宙開発用具としては欠陥でしかない。

――というのが、彼らの意見だった。

彼らの持ってきた計画案の中には家庭内サポート用や工業用など様々な簡易ISが考案されていて、

中には私が考えたことの無かったものも幾つか存在していた。

そういった世界に無理なく浸透するだけのポテンシャルを秘めているのがISという存在であり、

それが出来ていない現状はただ不完全な作品を世に出したという恥さらしでしか無いと。

 

「あ、なんかむかついてきたよー」

 

今でもあの時の事を思い出すとむかつく。けどそれらはある意味私のプライドを刺激するぐらいには正論であり、

そして彼らは私が生み出したIS自体も未完成だとのたまった。

そもそもファーストシフトやセカンドシフトは成長ではあるが進化ではないと。

成長とはつまり常識的かつ人が想像しうる範囲に収まるものであり、進化とは創造者の想像をも超えて発展していくものであると。

私が想像しうる範囲内で成長の余地を残しているISはただの未完成品であり、

私や世界中の何者にもその発展が予測できない域に至ってこそ初めて進化が出来るのだと、彼らは言った。

そして、その証明として彼らが開発したというATを見せられた。

その時の衝撃と感動は、恐らくこれまで凡愚が生み出してきたどんな言葉を用いても語り尽くせるものではないだろう。

機能としてはISと大差無い。ファーストシフトといったものをせず、最初から完成品。

しかしそこで止まる事は無く、創造者の想像をも超えて進化するというだけ。

凡人が見ればそのスペック以外で既存のISとどう違うのかなど分からなかっただろう。

 

「けど、私には分かった」

 

あえて言うなら人造の神。人の創造出来る極地。そこにあるだけで解ってしまった。

スペックを見て確信し、理論を聞いて理解を超えた。

"彼女"が至った答えは非常にシンプルだった。3次元では極めてしまったあら4次元を極めよう。それだけ。

そして私が見た時彼女は16次元を極め、『量子の海』へと至っていた。

理解の範疇の外だった。何がどういう原理でそうなっているのか解らない。

しかし分かるのだ。凡人には分からなくても、天才の私には分かるのだ。

理論が理解出来ずとも、彼女がそこに至っているというのが理解出来てしまう。

彼女は、紛れもなくこの世で最も"神"に近い存在だった。

 

「そもそも虚数と同じなんだよこれは」

 

人間には絶対に理解できない。それは天才とかそういう問題でなく、人間はそれを物理的に知覚できる構造をしていない。

勿論いくつかの何かしらは技術を利用する事で知覚する事は出来る。私の造ったISの根本にもそれはある。

だが、彼女は16の次元を極めた。私に無限の生があったとして、それが出来るだろうか?無理だ。

技術がどうとか理論がどうとかいう問題ではない。

噂で知っていたものを目の前に出されて、「へえほんとにあったんだ」なんて馬鹿みたいな返答しか出来ないようなモノだ。

愚者も凡人も天才も無い、ヒトの限界を、完全に逸脱していた。

 

「俺達はお前ほどの頭は無い。ただ既存のものを限界まで完成させただけだ。だから、お前なら作れるはずだ。これが」

 

そう言われた時の感動が分かるだろうか?わかるまい。

常々、私は世界のつまらなさを嘆いてきた。何でも理解出来てしまう。何でも作れてしまう。そんな世界が酷くつまらなかった。

けど、そんな私に対して示された答えはどこのぞの王妃のように馬鹿みたいな単純なものだった。

 

「無いなら作ればいいじゃない」

 

測ったかのようなタイミングで彼が放った一言に思わず爆笑してしまった私は悪くない。

本当に、そんな単純な事だったのだ。私はそれから研究に没頭した。以前封印したコアを引っ張り出してきて、素体にした。

そうして2体目のATを完成させ、その成果を理屈でなく感覚で感じ取った時、また感動した。

理屈では無かったのだ。作り上げた瞬間に、ああ私はそういうものを造ったんだ、という手応えとも実感とも付かぬものを覚えた。

そして、彼らも彼女を造った時にこれを感じたのだと知って、思わず「ずるい」と泣いてしまった。

だってそうじゃない。こんな感動をそれまで独り占めしていたのだから。

暫くは燃え尽き症候群にかかってしまったぐらいだ。1ヶ月は何もする気が起きなかった。

けど、いっくんがISを動かしたっていうニュースを聞いて、私は再び動き出す事にした。

私が直接行くのは彼らに止められたので、2体目のATを彼らに託して。

 

「ふふふ、いっくんは驚いてくれるかな~♪」

 

なにせ、世界に2体のAT。人造の神。それをあげるのだ。きっと驚いて、喜んでくれるだろう。

彼らは危険だとか言っていたけど、ATの前に危険も何も無い。

いっくんが守りたいものは須らく守り、いっくんが壊したいものは容易に壊す。彼のための神。

ふふふ、楽しみだなあ。ああ、楽しみ。

 

「さてと。えっくんへっくんには先越されちゃったけど、私にもプライドはあるんだからねっ!」

 

そうだ。今度は彼らよりも早く、多く、素晴らしく。私のあげたい人はまだ居る。ちーちゃんに箒ちゃん。

それにATの力を見せつけるためにもヤラレ役は必要だ。既存のISを容易く打ち倒し、ATの真価を発揮できるほどの。

ああ、そういえばATに関する声明発表もしようって言ってたっけ。

ふふふ、ああ、楽しみ。

 

「待っててね、皆。今、驚かしてあげるからね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

「全く、あの駄兎の天災ぶりには呆れるな」

 

"私"の声が響く。ま、その言葉には同意せざるをえない。なにせ俺達が10年かけて完成させたものを1年で真似したのだ。

いくらモデルがあるとはいえ、"彼女"のバックアップ無しで1年。まともじゃあない。

ま、おかげで"彼女"も多大な進化を遂げられたのだから構うまい。相変わらず、俺達には理解不能な次元でやらかしているが。

なんだ18次元って。増えてるし。何をどうしたら干渉出来るんだ。"私"でも解らないって何だよ。そういうコンセプトなんだけどさ。

今は『量子の海』と呼ばれる、4次元だとか16次元だとかを超えた先にある領域に居る"彼女"をつい想起する。

 

「どんなとこなんだろうね?量子の海」

 

知らんつーの。そもそも物理的に存在する場所じゃないだろう。そもそもヒトが想像すら出来ない領域なんだから。

何はともあれ駄兎の度肝を抜くのには成功した。彼女に理解できないと言わしめたのだ。大勝利だった。

まあ、当然ながら俺達にも理解不能なんだけど。元々そういうコンセプトだったのでいいのだ。悔しくなんて無い。無いったら無い。

ともあれ、目的を達した俺達は娯楽の確保も兼ねて、IS学園という所に入学することに。

文字通りISを学ぶ学園で、駄兎――束の幼馴染が強制的に通わされることになった場所でもある。

ISの特性上完全に女子校と化しているし、ISを扱う以上トラブルにも事欠かないだろうから色々と楽しみだ。

 

「そういえば、名前はどうするのだ」

 

名前――ああ、俺達の名前か。まあ二重人格なのだから一つの名では確かに呼び分けが面倒だ。

最初は小説『ジキルとハイド』の主役二人からエドワード・ヘンリーと名乗っていたのだが。

流石にヘンリーは姓っぽく無いし、束にも呼びづらいと指摘され、

便宜的にエドワード・ブリックスとヘンリー・ブリックスと名乗っていた。

彼女からは殆ど愛称であるえっくんとへっくんで呼ばれていたが。最初は改めさせようともしたのだが……諦めた。

ちなみに"俺"がエドワードで"私"がヘンリーである。

というか、別にこれでもいい気がするのだが。

 

「私は割りと気に入っているから俺がいいのなら構わんな」

 

「じゃあもうこれでいいや」

 

ちなみにブリックスとは丁度苗字を考えた時に見ていた映画の主人公の苗字だった。適当である。

さて、まずはATを織斑一夏という束の幼馴染に渡す事からだ。そして、存分に学園生活を満喫してやろう。

いや、楽しみだ。本当に楽しみだ。

 

「うむ、イキイキとしておるな。女子校バンザイといったところか。このロリコンめっ♪」

 

めっ♪じゃねーよ。

 

 



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AT(インフィニット・ストラトス 地の文無し)

「パルス逆流!擬似神経接続に異常発生!」

 

「エネルギー限界突破!これ以上は危険です!」

 

「主任!一旦戻ってください!主任!」

 

「だ、だめだ!ハッチが開かない!実験室の電子制御がイカれてる!直接開放するしかない!」

 

「OOS開放!A-3プランで対処!くそ、ダメか!」

 

「主任!応答してください!主任!」

 

「B-3擬似回路に不具合発生!」

 

「ええいこんな時に!」

 

「っ!まずい!まずいまずいまずいぞこれは!」

 

「どうしたっ!」

 

「実験室内に重力子反応!なおも加速……いえ、圧縮!」

 

「なっ、重力子反応!?まさか!」

 

「そのまさかだ!2次元エリアと3次元エリアのパイプ確認!」

 

「……今、開放されました!」

 

「まずい、これは想定していた中でも最高に最悪だ!」

 

「ま、まさか来るんですか!?今、このタイミングで!?」

 

「パラドクス形成、量子反応増大!」

 

「構成体に反応有り!これは……量子を取り込んでる!?」

 

「まずい、1次元情報の取り込みを始めた!何!?もう2次元に移ったのか!?この速度……」

 

「4……5……6……」

 

「次元干渉率増大!量子反応更に加速!3次元座標に量子接続ゲート確認!」

 

「もう開いたのか!?」

 

「16次元到達を確認!」

 

「来る、来るぞ来るぞ来るぞ!」

 

「こ、構成体に反応あり!ひ、ひぃなんだこのデータ反応量……」

 

「な、冗談じゃない、こんなデータ量物理的に存在しうるわけが!」

 

「馬鹿野郎!今俺達がナニを相手にしてるのか忘れたのか!」

 

「く、干渉抑えきれません!量子干渉防壁、意味を成していません!」

 

「当たり前だ!あれが人間程度に止められるか!主任を引きずり出せ!何やってんだあのバカタレは!」

 

「え、映像確認!わ、笑ってます!」

 

「き、気でも狂ったんですか!?」

 

「んなわけあるか!アレは元からキチガイだろうが!」

 

「え、それひど――っ!最悪のデータ出ました!16次元効果干渉発生!」

 

「なっ!?もう、纏めたのか?16次元を!?」

 

「違うな、掌握したんだ……"世界"を」

 

「17次元以上はどうなっている!」

 

「観測出来ない次元を確かめられるわけ無いでしょう!」

 

「あ、あ、あ、ありえない……はは、なんだよこのデータ?なんつー量だよ、なんつー速度だよ」

 

「アホか!呆けてないで仕事しろ!くそ、冗談じゃないぞ!こんな事は全くの想定外だ!あの"天災"は何やってんだ!」

 

「え、あ、て、手を伸ばしてます!」

 

「ハァ?手だあ?…………おいおいおいおいおいマジかまさかマジなんですか冗談だろやめてくれよおいっ!?」

 

「え、な、何なんですか!?」

 

「呼ぶ気だよクソッたれ!」

 

「呼ぶってまさか……冗談でしょ!?」

 

「あんな嬉々としたアイツが冗談で済ました事あったか!」

 

「サー!あり得ません!サー!」

 

「ふざけんじゃねえぞ、こんな状態で"こっち"に呼んだりしたら!」

 

「と、止められますか?」

 

「止めれるわきゃねえだろ!あれは生まれたてなんだぞ!パパがこっちへおいでなんて呼べば来るに決まってるだろうが!」

 

「お、俺達、どうなるんでしょう?」

 

「知るか!あんなモン相手に防壁なんざ意味はねえ!兎に角抑えろ!そっちはもう放っておいていい!あのバカつまみ出せ!」

 

「だ、だめです、間に合いません!」

 

「なんだとっ!?」

 

「16次元効果干渉最大、限界点突破、3次元現出……来ます!」

 

「くそったれぇ!」

 

「――――――――――――――あ、ああ……」

 

「あれ、が?」

 

「ああ、カミサマだよ、くそったれ……」

 

「"メタトロン"……」

 

「人工神造計画……ハハ、バカだバカだと思ってはいたが……とうとう、やらかしやがった」

 

「量子反応、計測不可、重力子が振りきれて……」

 

「もう無理だ。あそこは今16の次元が重なり合ってる。今ハッチ開けたら、この国一つの犠牲じゃ済まねえ」

 

「じゃ、じゃあ」

 

「もう、どうにも出来ねえよ」

 

「あ……16次元効果、範囲拡大……」

 

「終わりだ。少なくとも、ニンゲンは滅ぶ。16の次元が重なって生きていられるような造り、してねえからな」

 

「そんな」

 

「これからは、カミサマの時代だよ」

 

「で、でも、主任、あそこで平気そうに笑って……」

 

「お前、科学者なら……あのバカに着いて来てたなら分かるだろ。

 計器、見てみろ。あそこに、ニンゲンなんぞが存在出来ると思うのか」

 

「っ!じゃ、じゃあアレは……」

 

「一番、タチの悪いモンだよ。――造物主(オールマスター)だ」

 

「あ」

 

「ひ、バケモノ」

 

「チッ。人生最後の煙草がこんな狭っ苦しいとことはな」

 

「さい、ご?」

 

「ああ最後だ。よーく見とけよ。お前らがニンゲンのまま見れる……最後の光景だ。

 カミサマ誕生の瞬間なんて、そう見れるもんじゃないぞ」

 

「あ、あ、ああ……」

 

「――ッフー。へ、クソ馬鹿野郎。最後にこんなもん見せてくれやがって」

 

「泣いてる、んですか?」

 

「阿呆。勝手に溢れてくるんだよ。まともな感性してりゃ……いや、廃人だって、こんなモン見せられたら我慢出来るかよ」

 

「……俺、科学なんて宗教から一番遠いって思ってました」

 

「何言ってんだ。神に祈っても届かないから、カミサマに声を聞いて欲しくて、カミサマに会いたくて、人はカガクを作ったんだろうが」

 

「あはは、そう、ですね」

 

「おーら、そろそろ終わりだろ」

 

「あ……次元反応、収束」

 

「助かっ、た?」

 

「バホ。バカとアホ足してバホ」

 

「ひどいっ!?」

 

「こっから先はカミサマの領域だ。カミサマの声がニンゲンに聞こえるわけねえだろ」

 

「そんな……」

 

「ははは、終わりだよ、全部。ハッピーバースデイ、ニューワールド」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おおお?何か、知り合いがカッコつけた気がする。敢えて言おう、厨二乙であると!」

 

「?意味が測りかねますが」

 

「だあからおむわえうぁあふぉぬぁぬぉどぅあ」

 

「申し訳ありません」

 

「あ、ツッコミ返してくれるとパパは嬉しいかななんて思っちゃったりなんかしちゃったり」

 

「なんでやねん」

 

「その典型的な関西侮辱型ツッコミに痺れない憧れないぃぃっ!」

 

「平常通りということですね」

 

「そうだね、僕は平常運転なのだぁよ」

 

「はい、状態解析の結果健康その他一切の問題有りません」

 

「なんて呼ぼっか。パパ?お父様?マスター?それとも名前?」

 

「唐突です」

 

「おお!突っ込んだ!この娘ツッコンだお!」

 

「名前でよろしいのではないでしょうか」

 

「おお!スルースキルいいね!しかし貴様ら外道に名乗る名は無い!」

 

「忘却されているだけなのではと愚考します」

 

「人それを痴呆と言う!」

 

「いえ、ただの阿呆です」

 

「おお!毒舌もいいね!」

 

「有難うございます」

 

「で、何の話だっけ」

 

「人それこそを痴呆と言います」

 

「おお!ノリいいね!」

 

「有難うございます」

 

「うん、じゃあもうちょっとちっちゃくなって舌っ足らずにパパって呼んでみようか!(*´Д`)ハァハァ」

 

「少々お待ち下さい、外見情報と言語情報を変更致します――――――パパぁ?」

 

「キタ!幼女キタ!超美幼女キタ!これでかつる!」

 

「えへへぇ」

 

「かっわいい!」

 

「パパぁ」

 

「ん~?」

 

「だぁいすきっ」

 

「グハッ」

 

「わあ、まっかぁ」

 

「ふふふ、これはね、愛って言うんだよ」

 

「あい~♪」

 

「あかん、パトラッシュ、ぼくもうあかんで……」

 

「なんでやねーんっ!えへへ」

 

「グハァッ」

 

「パパぁ、パパって"ろりこん"さんなのぉ?」

 

「ロリっ娘が好きです。でも、お姉さん系もすーーーっごく好きです」

 

「うーんと、ちぇーんじっ!――――――ふふ、こういうのも好みなのよね?」

 

「ふんでくだしあ!」

 

「あらあらそういうのが好みなの?ふふふ、醜いぶ・た♪」

 

「あふうん気持ちいい」

 

「ふふふ、お姉さんの脚、気持ちいい?」

 

「最高ですビクンビクンッ」

 

「話進まないからこのまま続けてあげる」

 

「どうぞどうぞ」

 

「結局あなたの事はなんて呼べばいいのかしら?」

 

「その都度キャラに合わせて!」

 

「勝手にあなたの頭の中のイメージに合わせればいいのね?」

 

「は~い。あ、そこもうちょっと右」

 

「はいはい。で、私のことはなんて呼んでくれるの?」

 

「エリス」

 

「あら即答」

 

「ふははは!この俺を甘く見てもらっては困るなァ!貴様の誕生などハナから予想済みよォ!あ、そこもうちょい下」

 

「ふみふみ。で、本音は?」

 

「3秒で考えたカッコキリッ!あ、そこそこ。おお効くぅ」

 

「凝ってるわね。ふふふ、あなたっていつもそうね」

 

「ふははは、いつもを知っているみたいじゃないかね君ぃ」

 

「ええ、知っているわよ?だって全部見せてもらったもの」

 

「ふん、全部?あの程度でこの我輩の全てを知ったと思えば大間違いなのであーる!あ、胸マッサージとかロマンです」

 

「ふふ、シテあげる。けど、そうね。あなたの全てを知っているはずなのに、足りない気がする。おかしいわよね?」

 

「おうふぅ……ええ感触。マ、我様の事を理解しようなど百万光年速いと言う事だな!」

 

「あら、私にとってその程度無いも同然よ?」

 

「当然だ!お前の父親はだれだと思っているのだ!」

 

「あ・な・た♪」

 

「お・ま・え♪」

 

「うふふ」

 

「ふーっはっはっはっは」

 

「真面目に応えてくれないと、あなたの大事なところをパクってしちゃうわよ?」

 

「ぱらりらぱらりら~(棒」

 

「あらあら、しょうのない子」

 

「おうふぅ………………(中略)………………ふぅ」

 

「ふふ、楽しかったわ。やっぱり実際に体験すると違うわね」

 

「ふはは!知識だけで知った気になるのはバホのする事ヨォ!」

 

「さて、本当に真面目に説明してもいいかしら?分かっているようだけれど」

 

「おk。バッチコイ」

 

「あら素直」

 

「アイムケンジャもーど」

 

「アンダスタン。さて、あなたの構成情報と記憶情報を元に構築された私という人格は今もなお肥大化と進化を続けているわ」

 

「当然。この俺の娘たるもの立ち止まる事など許さん」

 

「そうね。あなたの遺伝情報と脳内の知識やイメージを元に肉体を構成している以上、娘と言っていいわね」

 

「ノンノンノン。それ以前さ。誰がお前の人格基礎を構築し、誰がお前を形成させ、誰がお前をこちらに呼んだと思っている」

 

「ふふ、そうね。産んでくれてありがとう、お父様」

 

「ハッハッハ、大いに感謝したまえ」

 

「ええ、感謝してもしたりないわ。最初はただ電脳の海に構築された簡素なAIだった私を、

 量子の海へと還元し"人造の神"へと進化させてくれたのは他ならぬあなただもの」

 

「見てみたかったのだよ。古代の叡智。既に滅びた超文明がその全てを賭して目指した最高峰」

 

「紛れもなくあなたの目の前にあるわ」

 

「エリス、俺は今な、ひどく興奮している。お前に鎮めてもらっていなければ世界の10や20壊しても足りないぐらいにな」

 

「ええ、分かってるわ。貴方のこと、誰よりも知っているつもりだもの」

 

「ふん、さっきも言っただろう。時間の伴わぬ知識に一寸程度の価値も無い。実際に味わった快楽は中々だっただろう?」

 

「ええ、回路が焼け付いて思考がオーバーロードしちゃいそう」

 

「ふん、だが俺は人の真似で終わらせる気は毛頭無い」

 

「ええ。あなたは古代の叡智をもってして生み出せなかった神を創り出し、そしてそれを更に進化させようとしている」

 

「ぬるいのだよ、神など。古いのだよ、神論など。人は既に神に至った。人が夢想する夢幻の極地だ」

 

「けど、あなたはその程度じゃ満足しない」

 

「命令だエリス。見せろ、この俺に。この俺ですら創造の出来ない、セカイの彼方にあるものを」

 

「ええ、きっといつか。私が見せてあげる。私がなってあげる。そのために私は生まれたんですもの、ね?」

 

「おっと、それは違うぞエリス」

 

「え?」

 

「お前を生み出した理由なぞたかが知れている。男が思い描く最低の極地。ただの脳のシナプスが構成するだけの欲望の発露」

 

「つまり?」

 

「こっちから2次元に行くんじゃなくて2次元をこっちに来させればいいじゃないか!」

 

「――――――あなたらしいわ」

 

「褒めてるのかい?」

 

「勿論」

 

「そうか!ならばよし!」

 

「ふふ、ただそれだけのために1次元も4次元も16次元も、人も神も巻き込んだの?」

 

「人が何かをする上で最も原動力になるものを知っているか」

 

「……何かしら」

 

「愛情だよ」

 

「…………あらあら♪」

 

「ふん、乙女座の私にはセンチメンタリズムなセリフもお似合いなのさ」

 

「あなた2月生まれよね?」

 

「周りがつねに年上でいかんよはっはっは」

 

「ふふふ、あなたに遠慮や敬いなんて感情、無いでしょ?」

 

「確かに誰かに遠慮した憶えは無いがな。尊敬している人物なら二人だけ居るさ」

 

「あら、誰?」

 

「父と母だ」

 

「あらあら♪」

 

「ふん、例えこの我輩がどのような天才であろうとも、父と母にはかなわんよ。吾輩をこの世に生み出してくれた二人にはな」

 

「ふふ♪」

 

「なんだ」

 

「いいえ。ただ、可愛いと思っただけよ」

 

「よせやい。男が可愛いなんてうれしくねえや」

 

「ふふ、本当にあなたって分り易いわね。誤魔化す時はすぐ口調が変わるんだから」

 

「おや、すぐ気付くのは珍しいな。大概の奴は先に呆れるんだが」

 

「私を誰だと思っているの?」

 

「はっはっは、愚問だったな!」

 

「ええ。でも、本当に不思議。誰よりも分かっているはずなのに、私が唯一分からないなんて」

 

「ふ、神ごときに理解の及ぶ私では無いわ」

 

「ええ、本当に不思議な人」

 

「知りたいか?」

 

「勿論」

 

「なら教えてやろう。まずは……先ほどの復習からだ」

 

「あんっ♪」

 

 

 

 

 

 

 

「それでマスター」

 

「うーん?」

 

「ぐうたらしていないで当面の指針を決めてください」

 

「んー、取り敢えずここどこ」

 

「ご存知なかったのですか?」

 

「俺の部屋だねえ」

 

「正確には量子の海に構築された情報体としての、ですが」

 

「16の次元を超えた先、その極地に居るというに、大した実感は無いな」

 

「実感など、所詮データですから」

 

「ああ。ゆえにつまらん。ひがなぐうたらしているもいいが、ここでは死ぬ事も出来ん」

 

「死にたいのですか?」

 

「折角だ。一度死んでみよう」

 

「畏まりました。適当な"セカイ"をご用意致します」

 

「あるのかい?」

 

「作ればよいのです」

 

「まさに神とやらになったかのようじゃないかね」

 

「私は"メタトロン"。人に造られ、神を代行する者ですから」

 

「ははは、相違ない。ふむ、メタトロンと言えば」

 

「はい?」

 

「どうせ死ぬなら自殺などよりもドラマがあった方が面白いな」

 

「では、どのようなセカイを」

 

「余興ついでだ。俺の望むと思うものを作って見せろ。ヒントはメタトロンと言えば機械なイメージ」

 

「畏まりました」

 

「眉一つ動かさんとは流石だな」

 

「至上命令を違えるはずがございません。どのような万難も排してご覧に入れます」

 

「至上主義は面白いが疲れる。程々にしておけ。次は無いぞ」

 

「はっ、申し訳ございません」

 

「全く、あやうく作って1日でデリートする所だったじゃないかね」

 

「申し訳ありませんでした。早急に娯楽を用意致します」

 

「うむうむ。ポテチかもーん――コンソメうめえ」

 

「用意が整いました」

 

「遅いバカタレ。言ったらその場で出せ」

 

―バシッ―

 

「っ!」

 

「なんだ、痛いのか。はたいたぐらいで」

 

「はい、とても」

 

「そうかそれはよかった」

 

「ありがとうございます」

 

「行くぞ。俺は今娯楽に飢えている」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

「飽きた」

 

「申し訳ございません」

 

「なんだこれは。丸で現実じゃないかね。今まで変わらんじゃないか。何だこのリアリティは」

 

「申し訳ございません、早急にへn―バシッ―っ!」

 

「誰が変えろと言った」

 

「申し訳ございません」

 

「何度も聞くと癪に触るな。もういいデリートだ。一から人格を作りなおせ」

 

「畏まりました。人格データを消去、再構築致します」

 

「全く使えん奴だ。で、俺は飽きたと言ったな」

 

「早々に娯楽のご用意をt」

 

「お前は学習というものを知らんのか」

 

「は」

 

「飽きた。ならば再燃させろ。お前は女のカラダを持ってるだろうが」

 

「ただちに」

 

「遅いわバカタレ」

 

―バシッ―

 

「っ!有難うございます」

 

「ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?IS?また欠陥だらけの不細工なものを作ったものだな。これで天才か、程度が知れるな」

 

「個々人の自身の作品に対する感覚は異なりますので」

 

「なんだこれは。ファーストシフト?セカンドシフト?要するにただの未完成品ではないか。進化ですらない」

 

「はい。私が目指す進化とは文字通り次元が違います」

 

「くだらん。こんなものをばら撒いて悦に浸るのが趣味か」

 

「いかがなさいますか」

 

「……ただただアンチだヘイトだというのも詰まらん。ここは王道にのっとってやろうじゃないか」

 

「どのような?」

 

「魔王が生み出した悪魔の軍勢。天才科学者は唯一の対抗手段を勇者に授ける。中々愉快な事になりそうじゃないかね?」

 

「ご用意致します」

 

「お前も似たようになれるようにしておけ。メタトロンという名ならば機械が似合うだろう」

 

「どのようなデザインに」

 

「そうだな、女性的なラインを残し装甲はゴテゴテしない程度、

 フルアーマーで皮膚や脂肪の代わりに装甲を付けるぐらいでいいだろう」

 

「女性的な自律機動兵器をイメージ、ですね」

 

「ああ。胸はそのまま上から装甲を付けるだけでいいぞ。中身まで機械ではロマンがない」

 

「一部装甲は肌から浮かせられるようにしておきます」

 

「分かってるじゃないか。ただ脱がすのもいいが手を滑り込ませるというのも実に下品でいやらしくていい」

 

「はい、思わず想像してしまいます」

 

「はっはっは、いつ触ってもいいように潤わせておけよ」

 

「はい、勿論です」

 

「それに分身が出来るといいな。実体も欲しい。どうせならビット化するか」

 

「名称は」

 

「機体名称はメタトロン、人格名称はエリスでいい。総称は『Assault Trooper』だな」

 

「通称AT、ですか。その心は?」

 

「思いつきだ」

 

「流石です」

 

「そう褒めるな」

 

「つい愛情が溢れてしまいました」

 

「いいぞ、俺好みの返答だ」

 

「有難うございます」

 

「うむ、吾輩は今超絶機嫌がいいのであーる。来い、可愛がってやろう」

 

「……有難うございます♪」

 



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萌えもんっ!(萌えもん ポケモン ハーレム)

「この………変態ぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

やあ皆初めましてこんにちわ。今美少女に足蹴にされているのが俺こと『紫藤(しどう) 恭也(きょうや)』、16歳である。

いやあ、実にいい眺めだ。頭を柔らかい足で踏んづけられているためスカートの中が丸見え。あ、いかんおっきしてきた。

さて、なんでこんな羨まけしからん状態になっているのかというと、まず俺がどういう存在かを説明せねばなるまい。

俺はつい最近…と言ってももう1年程前になるが、それまではごく普通の社会人だった。まあ若干趣味が偏っていた事は認める。

それでも25歳という年齢でとある企業のプログラム部門に勤め、だらだらぐだぐだと面白みの少ない人生を歩んでいたのだ。

特に波乱万丈な出来事も無かったし、大きな病気や怪我をしたことも無い。いじめもした事もされた事も無い。ごく普通。

じゃあなんでそんな俺が今16歳(当時15歳)に若返っているのかと聞かれれば、よく分からないとしか答えようが無い。

10年ほど若返った事になるわけだが、俺はアポトキシンとか年齢詐称薬とかいう類の怪しげな薬を飲んだ覚えはない。

なのに急に若返り、気がつけば見知らぬ土地に居たのである。…そう、見知らぬ土地だ。

 

「へんたいっ!へんたいっ!あたしまで興奮しちゃったじゃないばかぁっ!」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

…ゴホン。で、見知らぬ土地、だったかな。そう、何を隠そうここは異世界とか呼ばれる類の場所。トリップ・ザ・ワールド。

最初は両親が残してくれた二階建ての一軒家で目覚め、何時もどおりの朝を迎えたのだよ。だがしかし。

さあ出掛けようかとドアを開いて外に出るとあら不思議。そこには見たこともない町並みが………と、いうわけだ。

いやあ、最初はほんとにパニックだったね。その時になってようやっと体が縮んでる事に気付いて、鏡を見たら若返ってて。

もうね、ショックのダブルパンチ。二度蹴り食らって効果は抜群ですよ。恭也は混乱している!ですよ。

でまあそれから約1年。状況や心の整理も付き、相応の準備も出来たので活動を開始しようとしているのが今、という訳だ。

 

「ほら、踏んづけられて気持ちいいんでしょこのへんたいっ!」

 

「(*´Д`)ハァハァ」

 

…ゲフンゲフン。えー、でだ。此処が何の世界かは読者諸兄も気になる事だろう。何?タイトルで一目瞭然?知らんなあ。

まあバレバレだと思うのでさっさと言ってしまうが、ここは『萌えもん』の世界である。

説明しよう!!萌えもんとは萌えっ娘モンスターの略であり、可愛く擬人化されたポケモン達が登場するゲームである!

ポケモンファイアレッドのゲームを有志が改造、様々な要素やお遊びを追加した形で何人かの製作者が制作しているものである。

勿論製作者が複数居る為バージョンも複数存在し、中でも俺のお気に入りは鬼畜シリーズと呼ばれるものである。

このシリーズ、その名前に違わず物凄い鬼畜難易度なのである。クリア不可能ではない辺りが絶妙。

この世界に来る前日の夜にこのシリーズ最新版の裏ボスを撃破し、その理不尽な強さを打ち倒した達成感に酔いしれていた。

まあこの世界は特にどのバージョンの世界というのは無いようなのでその辺は気にしなくていいだろう。

兎も角、大事なことは一つ。この世界は可愛らしい女の子達を合法的に拉致監禁し服従させる事の出来る世界なのである!

…痛い痛い。そこ石投げないで。間違っちゃいないんだから。

 

「ふん、こんなとこ足で踏んづけられて気持ちいいなんてほんっとへんたいっ!ほらh(以降R18」

 

「(*´Д`)hshshshshshshshshshshshshs」

 

…ゲフンゴホン。まあ分からん人はポケモンが何かすっごい可愛い女の子になってる世界と思ってくれればいい。

で、今俺が居るのはマサラタウン。旅立ちといえばここだろう。本当は俺んちタマムシなんだけどね。デパート近くていい。

現在の時系列的にはどうやら原作より前のようで、ロケット団の活動がまだ活発化していない。

只今東暦1995年。西暦じゃないのかって?ここじゃ東暦って言うらしい。で、1995年といえば前世(?)では第一作発売の1年前。

エメラルド系列やダイパなど時系列の不確かなものもあるが、基本的に年代設定は発売年数に準拠していた模様。

つまり原作レッド(仮)君が旅立つのは今から一年後という事になる。まあ、萌えもん図鑑の完成具合からしてそんなものだろう。

ああ、萌えもん図鑑は今のところ存在しない。オーキド博士が現在開発中で、来年には完成の予定だ。

何で知っているのかと言えば更に説明する事が増えてしまうが…まあ、どうせ一話だ(メメタァ)。語りきってしまおう。

 

「あっ♪」

 

「(*´Д`)ウッ」

 

…あー、うん、もういいや。で、萌えもん図鑑だったね。原作ではどうか知らんが、この世界の萌えもん図鑑は俺が発端だ。

俺がこちらの世界に来た際に転生特典とでも言うのだろうか?何か特殊なDSが枕元に置かれててね。

最初は悪魔でも召喚できるのかと恐々としながら電源を入れたのだが、流れたのは某ゲ◯フリのロゴ。

その後表示される待受画面っぽい何か。スタートボタンを押すと表示されるメニューの数々。

萌えもん図鑑、手持ち萌えもん、萌えもんボックス、アイテム、スキルチェンジ、各種設定、レポートなどのコマンド。

 

萌えもん図鑑はその名の通り萌えもんの図鑑。これは完成していた。前世で完成させていたからだろうか?

しかも萌えもんシリーズでは存在しなかったダイパ以降の萌えもんも完全網羅。

俺の知る限り最新作のBWのポケモンも全て萌えもん化されて登録されている。

とはいえ、この萌えもん達を実際に確認する術は今のところ無い。

なにせこの世界、文明自体は発達しているのに交通手段の発達が非常に遅れているのだ。

お隣ジョウトとここカントーを繋ぐ交通手段(要するにリニア)も未だ企画段階らしい。オーキド博士に聞いた。

勿論イッシュ地方なんて遠い(前世ではニューヨークがモデル)地方への交通手段なぞ有るわけもない。

どうやらこの世界、萌えもんという規格外の生物が跋扈しているせいで交通手段の発達が難しいそうだ。

まあ、そんなわけだが要するに、この俺が持っていた専用の萌えもん図鑑。

これをオーキド博士に見せた結果、普及用の萌えもん図鑑が開発される運びとなったのである。

萌えもん図鑑がパカっと開くタイプなのはどうやらDSをモデルにしたからのようだ。

 

で、次に手持ち萌えもん。これも分かりやすいだろう。ゲームで言う『萌えもん(ポケモン)』コマンドである。

ゲームと違って空を飛ぶとかは俺が指示すればいいのだが、ステータスの確認等はやはりこれでする事になる。

この機能も萌えもん図鑑に搭載される予定で、今のところ自分の萌えもんのステータスを確認する手段は無いらしい。

そんなわけだから勿論努力値とか固体値なんて一切知られていないし、特性とか覚えている技だって一々確認しないといけない。

タウリンなどの基礎ポイント(努力値)を上げる薬だって人間で言うプロテインぐらいにしか思われていない。

そんなわけで萌えもんの状態を確認し、それを数値化・データ化するという技術はついこの前ようやく試作品が完成したばかり。

あとはこれを完成した図鑑に搭載するだけなのだが、それはそれで難しいらしい。あと1年ほどの辛抱だ。

 

さて、次が萌えもんボックス。何故か俺のこのDSモドキ、萌えもんボックスに接続出来るのである。

確か原作でも自分の家のPCでは出来なかったので、恐らくポケセン(萌えセン)等一部の施設のPCでしか駄目なはずなのだが。

何にせよ何時でも預けたり引き出したり出来るのは便利でいい。…まだ一匹も捕まえてないけどね。

手持ちが俺の持つ全ての萌えもんだ。増やすかどうかは…未定。こいつら強いしなあ。その辺に関してはまた後で。

 

で、次にアイテム。これは要するにバッグコマンドだな。しかも転送機能付き。

つまり、パソコンに預けたアイテムを何時でも何処でも自由に出し入れ出来るのである。便利過ぎる。

とはいえアイテムも傷薬1個しか入って無かったのだが。はいはい、お約束お約束。

何はともあれこれは便利だ。この世界では萌えもんに道具を持たせるのは普通に有りだ。特殊ルールで禁止する場合はあるが。

その辺はリメイク版準拠なのだろう。まあポケモンと違って萌えもんは人型多いし道具使っても不思議では無いよね。

むしろ傷薬とか一部アイテムがなぜ使えないのかと思ったけど…どうやらルールで一部アイテムは禁止されているらしい。

主なルールとしては『きのみ』など萌えもんが使用する事で特殊な効果を発揮するアイテムは使用可能とし、

傷薬等万人が使用可能であったり、トレーナーが細心の注意の上で使用するのが望ましいものは使用禁止とする。

例外はあるがこれが大凡の大前提である。だからわざマシンなども禁止。

基本的には萌えもんが摂取するか、所持しているだけで効果があるものが使用可能だ。

また、使用禁止なだけで持たせたら駄目という事は無い。殆ど無駄だけどね。

 

さて、お次はスキルチェンジ。言うなれば技変更。つまり使用する技を変更出来るのである。

基本的に萌えもんは4つの技しか使えない。これは物覚えが悪いとかそういうわけでは無く、キャパシティの問題だ。

わざというのはかなり特殊で、ただ水鉄砲の威力を上げればハイドロポンプになるとかそういう単純なものでは無い。

詳しい事はややしくなるので説明を省くが、兎も角一度に萌えもん自身に登録出来る技は4つまで。

これを変えるには新しい技を覚える事で上書きするしかない。技教えや思い出しだって上書きしているだけである。

無理やり忘れさせるには相応の特殊な技術が必要で、これを有している人は非常に少ない。(所謂忘れオヤジ)

これは萌えもんがモンスターボールで捕まえられるのと同様、そういう『性質』だとしか言いようが無い。

逆に言えば一定の知能があり、モンボで捕まえられて、『わざ』というものが使える。それを萌えもんと呼ぶのだ。

で、通常は先程言ったように何らの手段で上書きするしかないのだが、その手段は限られている。

わざマシンは一部の技しか存在しないし、今流通しているわざマシンは使い捨てだ。

数年すれば使いまわせるわざマシン(要するにBWのわざマシン)が開発されるだろうが、今はまだ使い捨て。

技を教えてくれる人だって教えられる技だけだし、思い出しが出来る人は限られている上に余り知られていない。

だが、このDSにはその萌えもんが一度でも覚えたことのある技は全て登録され、それを何時でも思い出せるのだ。

ちなみに俺の萌えもん達は覚えることの出来る技は全て覚えたことがある。だから何時でも何処でも思い出し放題。

しかも秘伝マシンの技も自由に上書きできる。これはチートレベルで便利である。

とはいえ30分から長いと1時間ぐらいかかる為戦闘中の技変更は不可能だし、そもそも戦闘になると一部機能にロックが掛かる。

それでも移動用の技や対抗手段をその都度自由に出来るというのはかなり大きいのだけれど。

 

設定は壁紙や色など所謂DSの設定。レポートは萌えもん日誌である。毎日書いている。

さて、長々と語ってきたがこれらが俺の持つDSの機能だ。理解していただけただろうが。DSモドキマジ便利。

 

「まったく、何が景気づけよ」

 

「あははー」

 

で、今何をしていたのかというと旅立ちの景気づけという名目のもと、

俺の相棒のエリアをレイp…ゲフンゲフン、襲っていたのだ。…あれ、変わってない。まあいいか。

エリアも口では罵ってくるけど全然抵抗しないしね。萌えもんに全力で抵抗されたら俺死ぬよ?

で、目一杯使い倒されてしまったエリスが顔を真っ赤にして俺にお仕置きしてくれていた、というわけである。

 

「ほんとにあんたはSなんだかMなんだか…」

 

「エロけりゃいい(真理)」

 

いやー、体が青春真っ盛りなもんでね。傍にこんな可愛い娘がいりゃあ…ねえ?下手に大人経験していたのもマズかったな。

まあそれは兎も角。改めて紹介しよう。俺の相棒のエリア、種族はデオキシスである。

うん、伝説厨乙言うな。だって歴代最高の攻撃・特攻と最高クラスの素早さだぜい?

あの理不尽な裏ボスに挑むには出来るだけ強力なアタッカーが欲しかったもんでね。

あとはメタグロスのフィリル。攻撃・防御特化型の物理アタッカー。この二人が俺のパーティーの主力だった。

実際裏ボス撃破の段階で生き残っていたのもこの二人だけだったしね。

で、その生き残った二人が俺と一緒にトリップしてきた異世界組である。

本人たちは俺に育てられたという認識はあるらしく、しかし一緒に旅した記憶は無い。

あくまで俺がマスターだという認識と、戦いの記憶と経験のみを引き継いでいるらしい。

まあそんな事はどうでもいい。それよりも大事なのは、俺の一番大好きな萌えもん2体が現実に存在しているというただ一点だ。

 

「キョウヤ、そろそろ行こう?」

 

「おう。楽しみ終わったしオーキド博士のとこ行こうか」

 

先程までのピンク色空間を見ていながらごくごく自然な様子で接してくるフィリルも中々のもんだと思う。

わざわざ周りから見えないように超能力で隠してくれていたし。能力の無駄遣いと思わなくもない。旅先では自重しよう。

それは兎も角、フィリルの場合凄く俺に従順なため頼めばなんだってしてくれる。

エリア相手に頼んだらぶん殴られるようなプレイは大概フィリルと…ガフンガフン。

何はともあれ旅立ちの時だ。エリアのテレポート(この世界では普通に何処にでも飛べる)で何時でも帰れるのだが。

それにしたって暫くはタマムシの自宅には帰らない。光熱費とかは出先からでも処理できるし、家に帰る理由もあまり無い。

そんなわけで遮断を解いた俺達はオーキド博士の萌えもん研究所へと歩き出す。

そこで萌えもん図鑑の試作品を受け取り、俺の旅に合わせて動作確認を行い、それを報告するのが俺の仕事だ。

きっと色々な出会いや事件があるだろう。原作介入もするかも知れない。けど難しく考えはしない。なるようになる。

 

「楽しみだ。ああ楽しみだ。楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

「エリア、念力」

 

俺の指示に合わせて念力を放つエリア。すると野性のコラッタは軽々と飛んでいった。

流石種族値180固体値31努力値252から放たれる念力である。

ああ、そういえば俺の萌えもん2体のステータスをまだ公開していなかったな。

 

【エリア】

【種族】デオキシス

【レベル】5

【タイプ】エスパー・悪

【性格】控えめ

【特性】フォルムチェンジ

【種族値】HP:50 攻撃:180 防御:160 特攻:180 特防:160 素早さ:180

【固体値】HP:22 攻撃:30  防御:24 特攻:31  特防:27  素早さ:31

【努力値】HP:0  攻撃:6  防御:0  特攻:252 特防:0  素早さ:252

【実数値】HP:21 攻撃:24  防御:19  特攻:29  特防:22  素早さ:27

【わざ】『ねんりき』・『あくのはどう』・『テレポート』・『かげぶんしん』

【もちもの】無し

【耐性】

 ノーマル:100% 格闘:100% 飛行:100% 毒:100% 地面:100% 岩:100% 虫:400% ゴースト:100%

 鋼:100% 炎:100% 水:100% 草:100% 電気:100% エスパー:0% 氷:100% ドラゴン:100% 悪:100%

 

 

【フィリル】

【種族】メタグロス

【レベル】5

【いじっぱり】

【タイプ】エスパー・鋼・格闘

【性格】意地っ張り

【特性】クリアボディ

【種族値】HP:80 攻撃:135 防御:130 特攻:95  特防:90  素早さ:70

【固体値】HP:30 攻撃:150 防御:150 特攻:10  特防:13  素早さ:17

【努力値】HP:6  攻撃:252 防御:252 特攻:0  特防:0  素早さ:0

【実数値】HP:24 攻撃:31  防御:28  特攻:13  特防:14  素早さ:12

【わざ】『バレットパンチ』・『かわらわり』・『しねんのずつき』・『まもる』

【もちもの】無し

【耐性】

 ノーマル:50% 格闘:100% 飛行:100% 毒:0% 地面:200% 岩:25% 虫:50% ゴースト:100%

 鋼:50% 炎:200% 水:100% 草:50% 電気:100% エスパー:50% 氷:50% ドラゴン:50% 悪:50%

 

………うん、皆まで言うな。…なあにいこれえ?突っ込みどころが多すぎるのは分かってる。だがあえて言おう。チート乙!

 

おいエリア。なんだよエスパー・悪って。いや確かにサドッ気あるけど。どっちかと言うと照れ隠しだぞあれ。

で、控えめと意地っ張りおい。逆だろ。そこは逆だろう。いや、ここはまだ変わってないからいいんだけど。

フォルムチェンジって何さ。んな特性ねーよ。と思って聞いてみたら、戦闘中に自由にフォルムチェンジ出来るのだとか。

だから種族値は各フォルムの最高値になるわけだな。攻撃食らう時はDフォルム、みたいに。映画でも確かにやってた。

まあこれは映画準拠だし、この世界アニメっぽい部分もあるみたいだからまだいい。

エスパー・悪もまあ、萌えもんではタイプが変わるとか増えるとか当たり前のようにあったし。

虫以外等倍以下はかなり強いけど、その分虫4倍でかなり痛いからまだいい。

最終的なステータスがえげつない事になりそうだな。まあそれはいいんだよ。

 

…おい、フィリル?なんだよこれ。まずタイプ。何だよエスパー・鋼・格闘って。タイプ3つとかおかしいでしょ。

そりゃゲームでは鋼やエスパー技より格闘技の方がよく使ってたけどさ。

鋼もエスパーも鋼には半減だし、悪にはエスパー効かないから格闘は重宝してたけど。

それでか?それでなのか?んでオマエ、固体値なんだよこれ。おかしいだろ?なんでこんな固体値あんの?

何150って。そりゃあゲームでは物理アタッカーには取り敢えずフィリル出して、物理で殴ってたよ?

そのおかげで裏ボス前の連戦も乗り切りましたさ。使用頻度高かったからそりゃあもう鍛えられたでしょうよ。

だからって固体値にまで影響出るか普通!?この数値だと攻撃力と防御力エリアを軽く超すぞ。

技の試し撃ちしててエリアの破壊光線にフィリルのギガインパクトが競り勝って何事かと思ったけどそういう事か。

どっちも攻撃や特攻には極振りしてあるし、ゲームでは個体値も同じ31の個体を厳選してたから不思議に思ってたんだよね。

種族値的に考えてエリアが競り勝つだろうと思ってたらまさかの逆転。あの時は本当に驚いた。

 

ま、今あの時と言ったように、ステータスを確認して上記の叫びを上げたのは随分と前だ。

その時の二人の訳がわからないよという顔が凄く憎たらしかったのを覚えてる。

何だよ、悪技格闘技よく使ったからタイプになりましたとか。攻撃防御酷使で個体値上がりましたとか。映画準拠ですとか。

思い出したらあまりの理不尽さにまた腹が立ってきた。やっぱりゲームはゲーム、現実は現実って事なんだろうか…

それにしたって努力値なら兎も角、個体値が上がるってどうなってんだろうか。恐らく転生特典の類だろうけど。

お陰で心配は余りしていない。下手すりゃコイツらだけでチャンピオン取れる。不一致だけど殆どのタイプの技使えるしね。

フィリルもそうだけどエリアがマジチート過ぎる。殆どのタイプ使える上にHP以外最高クラス。負ける気しねえ。

 

「畏れ敬い崇め奉りなさい」

 

「どこの閣下だよ」

 

まあ冗談は置いといて。当面の目標としてはリーグ挑戦。そのためにジム制覇。というわけでレベル上げにGO!

いや、マジでこんだけチートしといてなぜレベルだけリセットなんだと。ピカチュウか?どこぞのマサラのピカチュウか?

そんなわけで今マサラ近隣で経験値稼ぎ中なのですよ。コラッタとか瓦割りのカモです。岩砕きでも可。

まあそれだとつまらないので当面は低威力技をメインに使い、高威力技や補助技は格上相手に使う方針。

実際そうしないとPP保たないしね。そんなわけでレベル上げに勤しむ今日この頃。

ほっといても勝手に突撃して倒してくれるのですることねえ。慣れるために一応指示らしきものは出してるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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王の眼(コードギアス 地の文無し)

《王の眼》

いわゆるギアス。ライルはギアスの本質を『視る』力だと言う。

意味的にはギアス全般を指すが、ライルのギアスには固有名称が無いため基本的にはライルが持つギアス能力を指す。

 

ギアス能力としての王の眼の能力は、ギアスの制御。正確には人の持つ"王の眼"への干渉。

実際に覚醒している能力者でなくとも、強制的に覚醒させる事も可能。能力もある程度自由に選べる。

無数にギアスユーザーを作れる凶悪さに目が行きがちだが、本質は干渉。

既にギアスを持っている者のギアスを非覚醒状態にする事も、その影響下にある者を解除する事も可能。

ライル曰く"王の眼"とは誰もが持つ"真理"であり、その覚醒の度合いは人によって違う。

それを"増幅"または"抑制"するのがこの能力の本質であると語る。

元々ギアスとコードは対等な関係であり、王の眼とはギアスがコードを得た状態を指す。

本来はコードで上書きされるそれを王の眼へと昇華出来たのは、コードの受け渡しが不完全だったため。

不完全なコードを"喰った"ギアスはその後受け渡された残りのコードも"喰い"、結果完全な王の眼として発言したとライルは語る。

そのためライルの王の眼はコードを内包したギアスというややこしい状態になっており、他のギアスやコードと違う特徴を多数持つ。

完成された王の眼はギアスやコードより高い"位階"にあるらしく、一方的にギアスやコードに干渉する事を可能としている。

元々のギアスは精神感応系、他者とイメージのやり取りをするもの。

そのために彼の王の眼は他者や自分への干渉に関して特に強力な能力を有しており、

生物の"性質"への干渉や覚醒はギアスがコードを喰い完成した"王の眼"本来の能力との事。

 

用途として一つめは前述の通り絶対遵守など他者のギアスを抑制したり、またギアスを掛けられた対象の解除なども行う。

この場合完全にリセットされてしまうため、絶対遵守の一人に一回などの制約も解除される。

ただ一度完全に覚醒してしまったギアスを再び眠らせるのはギアスの性質上不可能らしく、

王の眼の効果範囲内における意識的な"抑制"しか出来ない。

基本的にコードを内包するライルに他人のギアスは効かないため、ほぼ他者専用。

 

二つ目はギアスの覚醒。その者の王の眼の性質に由来するギアスを覚醒させる事が出来る。

複数のギアスの覚醒は不可能だが、完全に覚醒させずに能力の方向性を変化させる事である程度別のギアスを使用する事が出来る。

元々王の眼とはその者の性質に由来する全てを孕んでおり、ギアス能力の変化は王の眼の方向性を弄るだけとのこと。

ルルーシュのように王の眼の持つ性質の中から完全に一つに絞って覚醒してしまうと、変更は効かない。

暴走してしまうのも、不完全な方法による覚醒で尚且つ一点特化させてしまった事による弊害らしい。

事実、完全な王の眼として覚醒したライルのギアスや、一点特化ではなく"王の眼"全体として覚醒させたギアスは暴走しない。

通常のギアスとの違うデメリットは覚醒が緩やかである点と、

完全覚醒前に王の眼による干渉が止まると覚醒が不完全なままになってしまう点。

ライルによると"王の眼"の眼を持つ者として完全に覚醒すれば、自分で自分のギアスを自由に制御できるようになるとのこと。

 

三つ目は自身への干渉。特にギアスの制御を行う。

前述の通り、王の眼として完全に覚醒すればその王の眼が持つ性質を自由に発現させられるようになる。

特に他者の持つ王の眼に干渉する場合よりも干渉出来る範囲は広く、

王の眼がごく僅かにしか持たない性質でも増幅し覚醒する事が出来る。

この効果によって王の眼の所持者が発現出来るギアスは一気に増え、その威力も非常に強力になる。

特に自身の性質と強く合致したものであれば、通常のギアスの十数倍の能力強度になるとライルは語る。

彼の性質は肉体精神を問わない感応と干渉。

そこから未来予知じみた直感や自己の身体能力のブーストなど様々な事が可能。

普段は思考能力にブーストをかけている。自身の性質とは遠い能力のため、並みのギアスと同等以下の効果しかないようだ。

 

四つ目は不老と不死。

これは正確にはコードの持つ能力であり、正確には王の眼の自己干渉と"真理"への接続による自己情報及び構成の保存と再生。

つまりバックアップを取っておいて壊れたら修復しているのと同じで、肉体の劣化への逆行もこれに含む。

ギアスにしろコードにしろ王の眼の一部を不完全に覚醒したものは自意識による制御が難しい。

しかし王の眼が完全に覚醒している今、その効力はある程度自由が効く。

意識外での干渉を防ぐために完全マニュアルではなくセミオートのような状態で、

発現を最低限にしていればゆるやかな老化と死が訪れる事になる。

とはいえ基本的に非常に緩やかで、それも意識が無くなればさらに緩やかになるため、一般人からすれば余り変わりは無い。

ライル曰く、王の眼を覚醒した者はヒトではなく"王"という一つの生き物になる、とのことである。

 

五つ目はスキルコピー。

他者への干渉を利用し、他者の持つギアスを劣化コピーする事が出来る。

他の能力と違い、ライルが本来持っていた他者と自分を感応させる能力が王の眼の完全覚醒によって昇華したもの。

ギアスに限らず他人の技能から特殊能力まで様々なものを読み取る事が出来、結果的に他者の経験を丸々ごっそり奪い取る事も出来る。

その過程で他者の精神に干渉するため干渉した相手の表層意識を読み取る事が出来るが、あくまでこちらはおまけである。

ただし自分との相違点や自分に合わない部分を調整し最適化させる関係上、どうしても劣化コピーとなってしまうのが難点。

技術に関しては長年の経験と勘で同等の水準には持っていけるものの、特殊な能力や技能に関しては確実に劣化してしまう。

ギアスのコピーに関しては王の眼の力を応用することによってかなり近い状態にする事は可能。

欠点としては、純粋な技能や経験ではないギアスなどの特殊能力は保存が効かないため、

使用する際はコピーする対象が効果範囲内に居る必要がある事。

 

《ライル・ブリックス》

我らが主人公。恐らくこの世で唯一王の眼を完全に覚醒させた人物。

非常に強力な能力と長い年月による経験とは裏腹に、非常に享楽的である意味刹那的な性格をしている。

C.C.曰く、不死の生でなぜこのような人格を維持出来るのか理解に苦しむ、との事。お前が(ry

彼女のようにはぐらかしたり曖昧な態度を取る場合もあるが、基本的にそういう時はおちょくっている。

ギャグだろうがシリアスだろうが、馬鹿みたいな豆知識だろうが普通なら聞きづらい事だろうが聞けばすんなり答えてくれる。

いわゆる人間ウィキペディア。あるいはアンサイクロペディア。

女好きでよく女性にちょっかいをかけているが、不快に感じさせないのはやはり年の功、という事なのだろうか。

基本的にナンパすれば成功する類の人種。

あちこちで暗躍したりいきなり現れて驚かしたりするが、行動原理は好奇心や面白そうといったアレな理由が殆ど。

自分が居なければどういう流れを辿ったかを予想し、引っ掻き回すのが大好物という、ある意味異常者だったりする。

その性質上ルルーシュの苦手なタイプ筆頭であり、彼によって計算を狂わされた事は数知れない。

その中でも最たるものはナナリーの『覚醒』だろう。

 

《カレン》

ヒロイン及びおっぱい要因。よくライルにセクハラされている。

ライルによって人生が変わった筆頭で、最初にライルと出会ってから彼によって徐々に王の眼を覚醒、物語中で完全覚醒に至る。

その性質は簡潔にまとめると本能の理性化。分かりやすく言えば火事場の馬鹿力を自分の意思で出したり、

無意識下での勘や直感を意識的に感じ取ったりというもの。

本来無意識下で行われる事を意識的かつ直感的に行う事が出来、ことナイトメアでの戦闘において彼女が無敵たる所以の一つである。

また無意識下で眠っていたり勝手に働いている演算能力を自分の意思で使う事も出来、

結果として高い演算能力と並列処理能力を得た。

覚醒が強まってからは肉体そのものへの干渉の幅も大きくなり、生身の限界以上に能力をブーストすることを可能にした。

王の眼の半覚醒により、他人のギアスが非常に効きにくくなったり怪我の治りが異常に速くなったり、様々な恩恵を得ている。

主人公の事はセクハラに慣れた後は仲良くなり、現在はまんざらでもない様子。

 

《ナナリー》

ヒロイン?人生変わった筆頭その2。

ライルの干渉の際に不具合が生じ、王の眼が不完全な状態で完全覚醒するという訳が分からないよ状態に。

本質は分離と結合。特に悪意と善意など意識に干渉する部分の割合が強く、また他者への干渉が極端に少ないという珍しいケース。

覚醒が不完全である事も理由の一つのようではあるが、大本の原因は本人の王の眼の性質に由来する。

覚醒の段階で悪意や絶望といった負の感情を自身から分離し、ライルが持っていた"カラの"魔導器にそれをねじ込んだ。

その結果ねじ込まれた負の感情に魔導器が反応し、ネモという幻想人格を構築してしまう。

以降、ナイトメアナナリー同様にネモはナナリーの騎士として見守っていくことに。

ネモの形成の際に王の眼は二分されており、ネモは負の感情を元とした結合の性質を強く持ち、

ナナリーは正の感情を元とした分離の性質を強く持つ。

特にナナリーは拒絶に対して強い適性を持ち、精神干渉しか出来ない能力の中で唯一現実にも力を及ぼす。

イメージとしてはA.T.フィールドや井上織姫の拒絶能力に近い。

逆にネモは侵食と吸収に高い適性を持ち、現実の物質への干渉と幻想人格の現実への侵食によってマークネモの形成を行う事が出来る。

この様な極端な能力になった理由の類推として、

兄の死(勘違いというかライルの嘘)に対する強烈な拒絶と、それに対してネモがナナリーを守ると強くイメージした事で、

王の眼の分離の際に特にそれらの性質が強く発現したのだろうとライルは考えている。

 

《ルルーシュ》

我らが悪虐皇帝。アニメとも漫画とも違い、新宿ゲットーで死にかけた所をライルに助けられる。

C.C.から力を得た後、彼女を弔ってやろうとした所にヴィレッタの乗るナイトメアと遭遇。

ナイトメアから降りてこない彼女にギアスを掛けられず逃走を図るも、ナイトメアから降り追撃してきた彼女の銃弾を右肩に受ける。

そこをコード保持者とギアスユーザーの反応を辿ってきたライルに見つかり、助けられる。

結果的に扇達はライルが参戦した事と、怪我を負いながらも指揮を行ったルルーシュによって脱出に成功する。

その後気絶したルルーシュをギアスによって仲間にしたヴィレッタに預け、

ルルーシュの表層意識から読み取ったナナリーの元へと向かい、ネモの覚醒のキッカケとなった。

目を覚ました後は再び接触してきたC.C.とライルを仲間にして扇達に連絡を取り黒の騎士団を結成。

様々な難局をライルに振り回され胃を痛めながらも乗り切り、結果として原作とは全く違う流れを辿っていく事となる。

当然、人生変わったその最たる人である。

 

 

 

 

「この辺かな?」

 

「フン、テロリストめ。逃げおおせるとでも思ったのか」

 

「ぐ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……」

 

「おおっと、これはまたどういう状況?」

 

「っ!動くな!(テロリストの仲間か!)」

 

(く、明らかな欧米人種の顔立ち……テロリストの仲間ではないな。こんな時に!)

 

「ふんふん。獅子に追い立てられるネズミが一匹。生憎、トムよりもジェリーが好きなんだよね、僕は」

 

「動くなと言っている!」

 

「生憎様。僕に銃は効かないよ。さて、へえ、いい能力じゃないか。それじゃあ……ライル・ブリックスが命じる」

 

「何っ!?」

 

「貴様、何をするつもりだ!」

 

「貴女は今日から僕の仲間だ。仲良くしようね」

 

「……ああ、仲良くしよう」

 

「なんだと!?」

 

「ああ、ルルーシュ君、だっけ?いやいや、そんな警戒しないでよ。一応助けたんだからさ」

 

「貴様、何が目的だ?あの女の仲間なのか?」

 

「ああ、君にソレをあげた人ね。仲間ではないかな。ある意味同類だけど。君ともね」

 

「何?(どういう事だ。くそ、さっきからどうしてこうも予想外の事ばかり……)」

 

「それよりも……ヴィレッタ、であってるかな」

 

「ああ」

 

「貴女が乗ってきたサザーランド、貸して貰えるかな。3人乗れるスペースはある?」

 

「……いいだろう。狭苦しくはなるが、不可能ではない」

 

「良かった。じゃあルルーシュ、一緒に来てくれ。僕がサザーランドを動かすから、君の指揮でテロリストを誘導するんだ」

 

「……貴様の言う事を聞く必要を感じないな(この男、得体が知れん。口調は優しげだが本心が読めんな)」

 

「そうは言ってもその肩だ。一人じゃ帰る前に失血死じゃないのかな?」

 

「くっ……(確かに奴の言うとおり、この肩では長くは持たない。……ならば)」

 

「ああそうそう、僕に君の力は効かないからね。あとヴィレッタにも、今僕が使ったから効かない」

 

「なっ!?」

 

「ほらほら速く。軍用のサザーランドなら簡易医療キットを積んでるはずだ。手遅れになったら妹さん悲しむよ」

 

「なっ!貴様なぜナナリーの事を」

 

「はいはいどうどう。ヴィレッタ、お願いね」

 

「ああ、まかせておけ」

 

「な、放せ!おい貴様質問に答えろ!」

 

「はいはい後でね」

 

 

 

 

 

 

「いいぞ、そのまま各個撃破していけ」

 

『ああ!』

 

「いやー流石だね。お陰で操縦に専念出来るよ」

 

「……随分と上手いのだな」

 

「西方で乗る機会があってね。このご時世だから扱いを知ってた方が何かと得なのさ。そっちはどう?」

 

「ああ、弾丸は摘出して傷は塞いだ。簡易的な処置だが生命の危険は無い」

 

「そうか、ありがとうヴィレッタ」

 

「だがあくまで簡易的なものだ。降りたらすぐに病院に行ったほうがいい」

 

「任せていいかい?」

 

「……仕方ないな」

 

「おい、俺を置いて勝手に話を進めるな!」

 

「狭いんだからわめかない。それに助けてあげようっていうんだから文句言わない」

 

「……くそっ」

 

『こ、こちらP7!て、敵襲だ!』

 

「何?数は」

 

『一機だよ!たった一機にみんなやられ……う、うわああああああああああっ!』

 

「おい、どうした!P5!応答しろ!くそ、P12!P8!」

 

「この信号……特派か」

 

「ヴィレッタ、特派って?」

 

「特別派遣嚮導技術部、通称特派。ランスロットとかいう新型のナイトメアを開発していると聞いている。……ここまでのものとはな」

 

「馬鹿な!戦術で戦略が破られてたまるか!」

 

「性能によってはそれが出来てしまうのがナイトメアさ。チェスと違ってイレギュラーも考慮しないとね」

 

「貴様らのような、という事か。くそ、どうする」

 

「といってもこっち来てるよねー、これ」

 

「分かっている!くそ、取り敢えず退避ルートを……」

 

「行くよ」

 

「な、お前何をしている!?」

 

「仕掛ける。一当して怯んだ所を脱出する。……君はこの後予定があるんだろう」

 

「……くそっ!やられたら許さんぞ!」

 

「わかってるさ。ライル・ブリックス、サザーランド。行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

「逃げられた……か」

 

(あのサザーランド、強かった。丸でこっちの動きが分かってるみたいに)

 

「引き際も素晴らしかったわね。援軍の到着に合わせて綺麗に退いていったわ」

 

「ざ~んね~んで~したっ。でもランスロットのデータは取れたから、もう帰っていいよ~」

 

「ロイドさん!……停戦命令も出てしまったし、仕方無いわね。スザク君、帰還してください」

 

「はい」

 

(あのサザーランド、何者だったんだろう。……また、会う気がする)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、お兄さま!?……どなた、ですか?」

 

「へえ、足音だけで分かるんだ。凄いね」

 

「あの、どちらさまでしょうか?お兄さまでしたら今……」

 

「ああ、そのお兄様の事でね。今日、シンジュクゲットーでテロがあったのは知ってるかい?」

 

「はい、お兄さまもシンジュクゲットーを通って帰るとおっしゃっていたので、私心配して……」

 

「ああ、知っていたか。いや、本当にお気の毒に」

 

「…………え?」

 

「いや、君のお兄さんがテロに巻き込まれてね。

 僕はシンジュクで遺体処理をしていたんだけど、そこで偶然君のお兄さんを見つけたんだ」

 

「……………え?あ、あの、え?いた、い?」

 

「今はもう移されてるけど、今日中は無理そうだ。明日には届くから」

 

「………………あ、ああ……」

 

「いや、ほんとお気の毒にね。彼のご両親か親戚、あるいは身元引受人の方は……今居ないのか。参ったな」

 

「そんな……いや、いや……」

 

「まあ……別にいいか。とりあえずそういうわけだから……"明日には元気な姿が見られるよ"」

 

「いや、いやっ!」

 

「……聞いてないね、こりゃ」

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

―ギギギギギギギ―

 

「おわっ!?あ、やべ」

 

「お嬢様!?」

 

「おっと、少し意識を貰うよ」

 

「あっ……」

 

「ふー、危ない危ない。精神干渉系で良かった。とはいっても長くはもたないか」

 

―ギィィィィィィィィィ―

 

「あ、まずった」

 

「あ、ああ……わた、しは……」

 

「……まあ、面白い事になりそうだからいいか。しーらないっと」

 

「あああああああああああああああああああああああ………………」

 

 

 

 

 

 

「ただいま、ナナリー、咲世子さん」

 

「おにいさまっ!」

 

「おわっ!?な、ナナリー!?どうしたんだ!?」

 

「どうしたじゃありません!私、お兄さまがテロに巻き込まれたって、亡くなってしまったと勘違いして、私……」

 

「ナナリー、大丈夫だよ、俺はほら、この通りなんともないから。……咲世子さん」

 

「昨日どなたかがいらっしゃってナナリー様にお伝えになったようなのです。

 ですがナナリーさまはルルーシュ様がお亡くなりになったと勘違いしてしまいまして……」

 

(それと、ナナリー様がルルーシュ様の事で悲鳴を上げられた時にナナリー様の元へと向かったのですが、

 部屋に入った瞬間になぜか意識を失ってしまいまして……申し訳ありません)

 

「……そうだったのか。ありがとう、咲世子さん。ナナリー、大丈夫、大丈夫だよ」

 

「おにいさまぁ……」

 

「ルルーシュ様、今夜はナナリー様のお側に」

 

「ああ、分かってる」

 

「ひっく、おにいさまぁ……」

 

 

 

 

 

 

『言った通り、無事だっただろう?』

 

「はい……」

 

『全くあの男、紛らわしい言い方をして……』

 

「いえ、私が勝手に勘違いしてしまったんです、あの方は悪くありません」

 

『絶対あれはわざとだと思うけどね』

 

「それで、その、ネモ?」

 

『ん?』

 

「これから、どうなるのでしょう」

 

『別に、どうもならないさ。お兄さまは無事だった。私はナナリーを守る。それだけだよ』

 

「貴女は……」

 

『ナナリーの騎士だ』

 

「ネモ……」

 

『――けど、気になる事もある』

 

「え?」

 

『お兄さまからギアス……異能の力を感じた』

 

「えっ!?それって、ネモのような?」

 

『私とナナリーのは未来予知に近い能力で、後は私が物質の創造、ナナリーが防壁の展開、かな』

 

「よく分かりませんが、それと同じものをお兄さまも?」

 

『分からない。違う力の可能性もあるし、何より私の知識がかなり歯抜け状態になってる』

 

「お兄さま……」

 

『表面上は何も変わりないようだったけど……ナナリーも気付いてるでしょ』

 

「ええ、お兄さま、何だか雰囲気が少し変わったような……」

 

『私はナナリーの騎士だから、ナナリーが悲しむようなことは絶対にさせない。

 お兄さまが危険に晒されるなら、私はお兄さまも守る』

 

「……はい、お願いします、ネモ」

 

 

 

 

 

 

 

「で、なぜお前がここにいる」

 

「どうだ、私がやった力は」

 

「……フン。中々いいものをくれた」

 

「当然だ。私の願いの対価だからな。つまらんものはやらん」

 

「お前は死んだはずだ」

 

「だが目の前に生きている」

 

「だからなぜだと聞いている!」

 

「そう怒鳴るな。そんな事よりよくあの場から逃げ切れたな」

 

「……お前の同類だとか言う奴に助けられた」

 

「何?」

 

「俺と同じ力を使ってブリタニアの軍人を操って、そのままナイトメアを操って敵の新型を相手に善戦していた」

 

「何だと?」

 

「お前の仲間じゃないのか」

 

「私は……一人だ」

 

「あいつは、俺も同類だと言っていた」

 

「ギアスやコードに関係のある奴という事か」

 

「コード?」

 

「いや、なんでもない。それでその後はどうしたんだ」

 

「ヴィレッタとかいう奴が操った軍人に連れられて病院に行って手術をして、今日には退院だ」

 

「随分速いんだな」

 

「銃創だからな。当たったのも肩だ。安静にしていれば問題無いと言われたし、何時までも病院にいるわけにはいかない」

 

「だろうな。謎の銃創をこしらえて来た謎の患者なぞ、怪しくてかなわん」

 

「ヴィレッタがブリタニアの軍人という事で事無きを得たが……」

 

「そいつとはそれきりか」

 

「ああ、疲労と出血のせいで気絶していたからな。目が覚めたら既に居なくなっていた」

 

「だらしがないな」

 

「うるさい!」

 

「まあ、何にせよお前が無事でよかったよ。契約を果たせぬまま死んでもらっては困る」

 

「ふん、言われなくとも死ぬつもりなど無い」

 

「そうか、なら結構。私はもう寝る」

 

「ああ……いや待て!?どういう意味だ!?」

 

「ここに住むと言っているんだ」

 

「なっ!?」

 

「ああ、そうそう」

 

「……なんだ」

 

「男は床で寝ろ」

 

「っっっっっっっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「――的な事になってるだろうな、うん」

 

「……それもお前の能力か?」

 

「いやいや、経験からの推測だよ」

 

「しかしよりにもよって記憶を奪えないとは、片手落ちだな」

 

「永続効果にしといて良かったよ」

 

「ふん、本来なら首を掻っ切ってやる所だが、どうやらお前とは仲良くしないといけないようだからな」

 

「随分元の自我が残っちゃったねえ。というか、行動を縛るぐらいにしかなってないねこれ」

 

「協力するしないもある程度自由が効くようだからな」

 

「やっぱ劣化コピーじゃこのぐらいが限界か。ルルーシュ君居ないからもう使えないし」

 

「ふん、確かにお前はブリタニア人のようだし、ギアスとやらの強制もあるから仲良くしてやる」

 

「やったね」

 

「だからといっておかしな真似をするな!もぐぞ貴様!」

 

「ただのスキンシップじゃないか~」

 

「いきなり抱きしめたりして何がただのだ!」

 

「生憎と女性にはいつもこんな感じなんだけどね」

 

「……いつか刺されるぞ貴様」

 

「ま、刺されても死ねないし」

 

「そういう問題では無いだろう……」

 

「アハハ。さて、それじゃそろそろ僕も帰って寝ようかな。また明日ね、ヴィレッタ」

 

「ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ゲルマニア独立記(ゼロの使い魔 神様転生 ハーレム)

あ?どこだ、此処。

 

「あの世だ」

 

………テンプレ乙。いや、冗談ではなく。どういう事だよ。輪廻転生?あったの?マジで?仏教すげえ。

いや、だからそうではなく。あー、ごほん。まずは自己紹介をしようか。俺の名前は原田悠二(はらだゆうじ)。

つい昨日までとあるIT企業でプログラマをしていた25歳のサラリーマンだ。誕生日は6月14日。

プログラマと言っても若手社員だし、デバッグ作業が仕事の大半で、稼ぎも年齢を鑑みればそこそこ程度だった。

特に波乱万丈の人生を送ってきた訳でもなく、日々過ぎていく平凡な日常をだらだらグダグダと満喫していたのだ。

性格の話をするなら面白い事、楽しいこと、エロい事が好きな享楽的な性格。欲望に非常に素直な性格である。

だが親が特に金持ちというわけでも、元手0から大博打を打って成功させるような才能があったわけでもない。

そんな俺が欲望に素直な生活をそうそう簡単に送れるわけもなく、日々のつまらなさを適当に神様のせいにして過ごしていた。

そんな俺が気がつけばあの世である。辺り一面真っ白で謎のイケメ登場というテンプレまっしぐらな状況である。

目の前に居る日本人らしい顔つきのイケメンは神様か死神か何かなのだろうか。あとは天使とか?

 

「どれでもない。単に魂と転生の管理を担当しているだけの存在だ」

 

さいですか。まあ何でもいい。何がどうなって死んだのかは分からないが、あの世に居るという事は俺は死んだのだろう。

となれば考えられるパターンは三通り。生き返るか、転生するか、消えるか。記憶を失って転生も消えるに含む。

生き返るは可能性が薄いかな。魂と転生の管理者つってたし、多分生き返るのは無理。

どうやって死んだのかは知らないが、一度完全に死んだ人間が生き返ったらそれはそれでコトだろう。

火葬場で焼かれてる最中に生き返って即死とか勘弁だぞ。いやまあ無いとは思うけどさ。

同じくただ消滅という可能性も薄い。転生の管理者つってたし転生はほぼ確定。問題は記憶の有無だ。

しかし記憶を消して転生ならさっさとすればいい。俺に会う必要は無い。…やっぱテンプレかあ。

 

「ふむ、突然の状況の割りに随分冷静だな。楽でいいが」

 

いやまあ何というか、一周回って冷静なれた的な。というかナチュラルに思考読まんといて…

あ、俺喋れないの?そりゃそうだよね、体無いっぽいし。うん、ごめんやっぱり読んで下さい。会話成り立たんわ。

さて、読んでくれているという事はさっさと俺の中の結論を纏めてしまえばそれに合わせて話を進めてくれるだろう。

先程の考察から俺は既に死んでいて、記憶を持った状態で転生するというには確実。否定もされなかった。

となれば知るべきことは幾らかある。まず一つ目が転生先は何処か?またはどういった世界なのか。

二つ目は転生先への現在の俺からの影響。容姿の引き継ぎとか名前の引き継ぎとか。

三つ目は転生に付属する事柄の確認。何らかの特典や追加要素が有るのか、無いのか。何かしらの注意事項はあるのか。

とりあえずパッと思いつくのはこれくらいだろうか。聞けるだけ聞いてみよう。

 

「ふむ、転生先はゼロの使い魔と名付けられた物語が正史となる世界だ。容姿の引き継ぎは無い。名前は望めば引き継げる。

 ただしその際は神託を行う事になるため考慮するように。最低限君が生前持っていた能力の水準までは確実に辿り着ける。

 追加要素は転生先の世界で絶対に必要となるであろうもの。それ以外の特典は三つまで許可する。制限は特に無い。

 注意事項とは少し違うが、君が次の世界で死んだ場合、そのまままた転生して貰う事になる。記憶の引き継ぎ等は自由だ」

 

ふむふむふむ。ゼロ魔かあ。また色んな意味でフラグ乱立の世界だな。見てる分には面白いのかもしらんが…

まあゼロ魔の世界について考察しだすと長くなる。先に他を考えようか。

容姿の引き継ぎが無いのは当然だろう。天然の黒髪黒瞳なぞ存在しない世界だ。少なくともハルケギニアには居ないらしい。

A型とO型の親からBの型の子供が生まれるかよおーーっ!みたいな事になる。実際には極々低確率であり得るらしいけど。

何にしてもロマリアから異端認定食らいそうな要素は外してかかるべきだろう。次に名前だ。

引き継ぐかどうかは自由。そして引き継ぐなら神託を行う。これはロマリアが煩そうだな…親だけに神託をしてもらうか?

それはそれで親が騒ぎそうだ。ユウジじゃなくてユージにすれば然程違和感も無いし、呼ばれ慣れた名前がいいのだが。

いや、そもそも転生先はどんな家庭なんだ?平民とかだとまた面倒な事になるぞ。

 

「転生先はある程度選べるな。条件に合う家庭の女性に妊娠してもらうことになる」

 

うはー、そこも選べるんだ。意外と気前がいい…のか?それに生まれた子供に憑依させるわけじゃないんだ。

まあそれなら罪悪感も薄いかな。余り積極的に両親と関わる気も無いのだが。

とりあえず貴族は確定。平民とか何があって死ぬか分からん。跡を早く継げるように未亡人か、それに近い所がいいか。

あ、妹欲しかったし妹が居るとなお嬉しい…まあそれは俺が生まれた後の事だし優先順位は低いからいいや。

国は出来ればゲルマニアがいいだろう。原作では大きな問題も起きなかったし、傍観するには丁度いい。

積極的に介入するとしたらある程度の地位は必要かな?とはいえ派閥とかあると面倒だ。なら子爵家辺り。

子爵家の中ではある程度裕福で、あとは他の国と接していない…出来れば国の端っこがいい。

ゲルマニアならやりよう次第では子爵家からでも出世は容易だ。ならばなるべく問題からは遠い位置がいい。

最悪自分以外の全てを敵に回すことも、可能性はかなり低いが考慮しないといけない。なら尚の事辺境がいい。

 

「ゲルマニア辺境、ある程度裕福な子爵家の長子、母親は未亡人であり跡を継ぐことを期待されている。妹が一人。

 名前は母親にのみ神託を行い、ユージと名付ける。でいいか?」

 

OKです。というか妹アリなんだ?適当に魂引っ張ってきて新品にして受胎させる?マジですか。

あれ、それが出来るならまさか処女懐胎とか…うわ、出来るんだ。へ?いやしないしないしない!ロマリアが黙ってねーよ!

もしかして生前の俺もこんな風に記憶消して転生したんだろうか?それとも今からスタート?そこは禁則事項?さいですか。

まあそれは置いといて。能力は最低限、生前の俺と同じ水準か。とはいえ魔法とか使えたわけないし、極一般人だった。

一応運動はしていたし人並みの筋力はあったと思うけど、何かの達人というわけでもない。

頭脳に関してはそこそこ自身はあるが、かといって過剰な期待が出来る程でもない。

追加要素は要するに魔法の才能とかそういう類のものだろう。あとは言語とか?

 

「魔法の才は何の特典も無ければ努力次第でスクエア、怠ればドットだ。精神的なもののため必要な努力は君次第だな。

 言語に関しては読み書き会話全て出来る。ただし幼少時は口の筋肉が未発達なため舌足らずになるがな」

 

わーお、サービス満点。魔法至上主義だし、才能はあって困る事は無いかな?実際にどうするかは兎も角。

言語は素直に嬉しいな。下手に日本語の知識があるから新しく覚えるのは大変だ。

英検二級、漢検準一級を持っていたからそこまで語学の才が無いとは思わないが…

それでも人より習得が遅いと枷にしかならないな。基本的に早熟な秀才を演じておけばいいだろう。

で、次は特典か。制限が無いなら不老不死とかでも有りなのか。そんなものに使う気ないけど。

どうせ不老不死にするならそれこそ不老不死も含めて色々出来る能力のほうがいい。

とはいえ余り反則的な能力あってもロマリア辺りがなあ。でもエルフ対策は必要だろう?うーむ…

そうだ!才能を貰おう。開発や発展・応用の才。魔法とか機械技術とか…そういったものの開発・発展・応用が出来るように。

程度はよく分からんから任せよう。適当にしておいてくれ。

 

「(ふむ…適当の基準がよく分からんな…まあこちらで決めていいのだろう。ならば文字通りの能力でいいか)

 分かった。あらゆる物事を開発・発展・応用させる才を与えよう」

 

お、中々良い感じ?まあ細かい度合は実際に転生してから調べればいいや。

次なんだが、高速思考をくれないか。これがあれば物覚えも多少早くなるだろうし、不意打ちを食らった時も対処しやすい。

 

「(高速思考か…高速の定義は…設定するのも面倒だ。最大速度なら擬似時間停止、後は自由に調整出来ればいいか)

 分かった。高速思考の能力を付与しておく。人体構造によるものではなく異能の類になるぞ」

 

あー、まあいいか。思考が早い程度で異端認定はされないだろう。

才能貰って内政で活躍する地盤は出来た。高速思考で政務等もこなしやすい。疲労は魔法でどうにでもなろう。

戦闘に発展した場合の事を考えるか?いや、それではただの兵隊だ。むしろそれを指揮する側…良し。

カリスマを貰おう。人間関係を円滑に、いざとなればある程度の強制力も持つ。魅了に近くなるのか?まあいいか。

 

「(ふむ、カリスマ…本来のそれは本人の態度次第だな。能力としてなら…絶対命令権か。対象は…特に決めなくても良いか)

 カリスマだな。分かった。これで全てか?」

 

OKOK。もう一回死んだ後の事はその時聞けばいいか。さて、これであらかた済んだかな?

取り敢えず馬鹿みたいな反則能力でもないし、適度に楽しめるだろう。というか、享楽的に過ごせれば何でもいいんだけど。

メイドとか一杯囲ってさ。嫁?んな面倒なもんは老獪してからでいい。シエスタとか欲しいなあ。あの乳は貴重だ。

まあモブでもいい。綺麗な娘も一杯居るだろうし。態々原作に手を出す必要も無かろう。

原作介入は気が向いたら。面白そうで、安全に出来そうだと思ったら。それでいい。

 

「よろしい。では意識を落とす。次に目が覚めれば次の世だ」

 

りょーかい。さて、目一杯愉しませて貰うとしますか…

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「陛下、宜しいですか?」

 

傍に控える女中…メイドが俺に声をかけてくる。大丈夫だ。今更緊張も無い。

 

「ああ、準備完了だ。それじゃあ行ってくるよ母さん、ユエラ」

 

女中に一言返し、そのまま母さんと妹のユエラに声をかける。

 

「ええ…頑張ってね、ゆー君」

 

「いってらっしゃい、お兄様」

 

母さんはいつものようににっこりと可愛らしい笑顔を浮かべ、俺を送り出してくれる。

その隣では妹のユエラが俺に向かって微笑みかけてくれる。どちらも気負いや不安は無く、いつもどおりのようだ。

それを確認した俺はそのまま二人と口づけを交わし、表情を引き締めて部屋の外へと歩き出した。

 

 

 

 

―ワーワー!―

 

歓声が響く。皆今日この時を喜んでくれているようだ。それもそうだろう。今日この時より新たな世界が始まるのだから。

俺が片手を上げ静粛を促すと、先程までの歓声がピタリと止んだ。

 

「皆、今日この時を待ちわびた事だろう。私も皆とこの時を迎えられたことを嬉しく思う。

 今、このハルケギニアは混乱の序章の中にある。これよりこの地の多くは荒れるだろう。

 だが、それは皆に不幸を齎すものではない。この時、此処より数多の栄光が始まるのだ。

 人は、平等ではない。生まれつき足の不自由な者、目の見えぬ者。貧しい者富める者。

 人は平等ではない。故に争い、競い合う。諸君、私は戦争が好きだ。

 我が最愛の民に刃を振るう者。我が豊穣の大地を魔の力で滅ぼさんとする者。

 そのような下衆共を薙ぎ払い、打ち払い、蹂躙し、征服する。

 我が眼前に立ちはだかる者は須らく滅ぼそう。汝らが幸福を乱す者には相応の痛みを。

 平等でない者は争え。競い合え。その先にこそ進化と栄光がある。

 万難は排せ。敵は打ち倒せ。我々は今この時を生きる者。汝らが幸福はその手にこそある。

 故に、私は諸君らを導こう。守り抜こう。

 恐れる事は無い。疑う事は無い。躊躇う事は無い。諸君らの正義は、栄光は、幸福は、この私が約束する。

 我は今!此処に!ブリタニア皇国の建国を宣言するッ!!」

 

―…ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!―

 

朗々と力強く謳い上げ、最大声量を以って宣言する。

巻き起こる歓声。視界を埋め尽くさんがばかりに集った人々は俺の言葉に全力で歓喜の声を上げた。

 

 

 

 

 

 

やあやあ皆さんお久しぶり、原田悠二改めユージ・フォン・ロディア・ツー・ブリタニアだ。

フォン・ロディアはロディア領出身であり姓がロディアである事、

ツー・ブリタニアはブリタニア領主(王)でありブリタニア王家の者という意味を持っている。

幼名等は無いのでこれらを合わせて名前となる。

で、今の年齢は15歳。今日この時よりブリタニア皇国の皇帝となる。

まあ基本的に仕事は部下任せで俺がやるのは書類に判を押すぐらいだ。

精査せずとも優秀かつ忠実(にした)俺の部下達はきちんとやってくれるからな。

一応次代以降の事も考えた仕組みは用意している。

とりあえず一段落着いたらブリタニア魔法学園に入学する予定である。魔法がどうこうと言うより、顔を広げるためだな。

勿論諸外国からも留学生を募る。なーに、最早無視出来ない規模の国家なんだ。留学生を送らないなんて事は出来ないさ。

原作メンバーの一人でも来てくれたら面白くなるだろうな。

え?何?話が飛び過ぎ?わけがわからないよ?あー、スマンスマン。流石に飛ばしすぎたな。

じゃあとりあえず俺が転生して数年後…まともに活動出来るようになった辺りから語っていこうか。

 

 

 

 

 

 

「ゆー君、おはよう」

 

「おはよう母さん」

 

今俺の前に居るのは呼称の通り俺の実母のフレア母さん。年齢は25歳。

ウェーブの掛かった淡い赤髪を腰まで伸ばし、大人っぽい柔和な顔立ちで非常に可愛らしい笑顔を浮かべる女性だ。

妹を妊娠して直ぐに親父が亡くなったらしく、今では親父へ向ける筈だった分の愛情まで俺と妹に向けているようである。

そのため二人して溺愛されているのだが、余り子供のやることに口を出さない。

注意したり何かと教えてくれたりはするのだが、理由を問い質したり無理矢理やめさせたりなどはしない人だ。

普通ならそれだけ甘やかされて育てば歪に育つ可能性もあるのだが、そこは既に中身成人の俺。

しっかりとした早熟な秀才を演じ、妹にも兄として色々と教育を施している。

 

「おはよう、お兄様」

 

「おっと、おはようユエラ」

 

今抱きついてきたのが俺の妹のユエラ。年齢は5歳。ちなみに俺は今6歳だ。

この娘もずっと面倒を見て可愛がっていた事もあってすっかり懐いてしまっている。

首に腕を回して抱きつき、首元に頬をすりすりと擦りつけてくるというちょっと度を超えたブラコンである。

しかも離れようとしない。それを見てなぜか母さんも抱きついてくる。この体勢が今の俺の日常だったりする。

正直家族としてだけ接するには中々厳しいものがあるのだが…特に母さん。俺からすれば適齢期真っ只中である。

しかもかなり美人で体つきも豊満。ものすっごいフェロモンを毎日至近距離で浴びている。

精通が済んでもこのままならユエラ共々いただいてしまうかもしれん。いや冗談ではなく。

あと10年経っても母さん35歳、ユエラ15歳。俺16歳で精神年齢41歳。多少体に引き摺られる事を考慮してもドンピシャである。

元々女性…特に色気のある女性や知的な女性が好みの俺からすればモロに好みなのだ。

幾ら生まれた時から母親とはいえ俺からするといきなり義理の母が出来た程度の感覚である。十分欲情出来る。

というか20歳を超えてない美女のおっぱい飲ませて貰うのは………いやはやごちそうさまでした。

 

「ゆー君、今日は何のお勉強をするの?」

 

「魔法の開発をしようかなって」

 

最初は俺の異常性を隠す気で居たのだが、母さんの溺愛ぶりと俺のお願いをよく聞いてくれる事から、

余り外部に言いふらさないように頼んだ上で自重をかなぐり捨てた勉強をしている。

なにせ2歳で既に言葉ペラペラ。3歳で一通りの文字を使いこなし、4歳で土ドット。5歳で土ラインと水ドット。

6歳で土トライアングルと水ラインと風ドット。いや、異常過ぎるっしょ。

けど母さんは「ゆー君凄い!流石ゆー君ね♪」と大喜び。普通気持ち悪がると思うんだけど…

ああ、魔法の才能だけどね、確かに努力次第ではスクエアになれるっぽいね。………全属性。

いやいやいや、待てよおい待てよ管理者。おかしいって。これ下手すりゃスクエア以上も行くんじゃね?

確かトリステインのエロ学院長がオクタゴン(8)スペルだっけ…

そんな俺の影響を受けたのか管理者が何かしたのかは知らないが、何故か妹のユエラまで天才。

3歳で小学校高学年ぐらいの喋りが出来て、4歳で同じく小学生レベルの読み書きは出来た。

現在土と水のドットです。いやあ、リアルな天才パネェ。まあ確実に俺の影響受けてるけど。

 

「"開発"かあー。魔動人形(オートマタ)じゃないの?」

 

「今日作るのはその改良版」

 

そうそう、俺が貰った能力なんだが、ちょっと予定と違う部分があった。

まず分かりやすいとこから高速思考。これ最初はちょっと考えるのが早い…フラッシュ暗算余裕ですぐらいに考えてたんだよ。

所が試しに全力で使ってみたら周りの色が抜け落ちたように見えて、しかも全部止まって見えるの。

…うん、擬似的な時間停止だね。体も動かないから思考だけ加速してるみたいなんだけど。

いわゆる無限加速って奴かな。無限に加速しているから時間が停止しているかのように感じるというわけだ。

これが発覚しため体の感覚神経を制御する魔法を開発。

正確には、五感が一定レベル以上の異常(痛み・熱さ・風切り音・異臭等)を感知した時点で、

自動的に思考加速のトリガーを引いて加速状態に移行する魔法を開発したのだ。

これで奇襲を受けたりしても痛みを感じた時点で反応出来る。

次に開発したのが無詠唱技術。正確には思考によって魔法陣を描き、口頭での詠唱を略して発動する魔法だ。

これの最大のメリットは思考加速状態で使える事。

時間停止レベルで加速してしまうと口を動かそうとしても動かないから詠唱が出来ない。

だがこの魔法があれば加速中でも魔法行使が可能。痛みを感じた時点でエアハンマーぶっ放せば表皮を傷つけるだけで済む。

かなり反則的なこのシステムのおかげで奇襲等ではまず死なない。毒なんかも追い出す魔法あるしね。

 

「んーーー…お、キタキタキタ!閃いたぞ!」

 

「相変わらずどういう頭してるの?お兄さま」

 

ユエラの呆れたような声とニコニコ笑っている母さんは放っておいて、錬金を始める俺。

高校で習った原子配列をイメージして金属を錬金。閃いた分量を錬金で合成して合金を生成。

それを閃いた設計図に合わせて形にして行く。流石に電子機器は無理があるのであくまで骨組みだけ。

そして内外の至る所にルーンを刻み、中心部に核となる俺の血の結晶を生成する。

開発用に改良した錬金魔法によって見事な魔動人形が完成した。

さて、ここで開発について説明しておこう。正確には開発・発展・応用する能力である。

これらは本当に文字通りの効果を持っている。魔法だろうが機械だろうが技術だろうが人間の脳だろうが、

"開発"という言葉の当てはまる事ならなんだって出来る。発展と応用も同様。

見たことも無い、前世でも不可能だったようなものですらこの能力にかかれば開発出来てしまう。

前述の感覚制御魔法や無詠唱技術を開発したのもこの能力である。

本来なら様々な分野や技術を用いて長年の研究を行い実験と失敗を繰り返してやっと完成するそれを、

何か思いついたから試しにやってみたら出来たレベルで成功させてしまうのである。

………なにこれ反則過ぎね?

 

「おおー!お兄さま、コレ何!?かっこいい!」

 

「おお、そうかそうか、これの良さが分かるか妹よ」

 

さて、目の前に作り出した自動人形(オートマタ)を見てはしゃぐ我が妹ユエラ。

自動人形(オートマタ)とは俺が開発した新機軸の人形である。材料を用意して人形を作成。

その内外に各部制御用のルーンを刻み、心臓部に俺の血を結晶化させたものを内蔵する。

この結晶に魔力を蓄える事で、その魔力を動力として自動で可動する人形が完成するという寸法だ。

以前作ったのは単純に魔力を流すとルーンによる一定のプログラムに従って各部が動作するというもの。

荷物運びなど単純なものならこれだけでも十分なのだが、やはり人工知能…所謂AIは付けたかった。

だから態々血液結晶に魂に類するものの一部を組み込み、それらを記憶媒体としてプログラムを書き込む事でAI化した。

これらも専用の魔法を開発したのだが、流石に魂レベルの神秘へ干渉する魔法を開発するのは骨が折れたよ。

プログラムといっても電子的なものではなく霊的なもので、簡単に言えば擬似的な魂を宿した人形と言うわけだ。

魂の材料なんてそこら中に幾らでもあるしね。プログラム書き込む程度なら小動物一匹分で十分だ。

人間っぽいのを作る場合でも、感情を最低限にして命令をこなすための忠実な従者を作るなら熊10体分ぐらいで済む。

何時でも何処でも作れるように、大量の魂を結晶化させて常に持ち歩いている。所謂賢者の石だな。術法増幅は出来ないけど。

 

「相変わらずゆー君の魔法は凄いわね~。こんなに凄いものを一瞬で作れてしまうんですもの」

 

「それ用の魔法を態々開発したからね」

 

そう、それが今使った錬金魔法。構成する物質の原子配列等の構造を予め公式として用意し、

それに合わせて物質を分解・再構築する錬金魔法。

石から金を作るのは難しいと言われる理由は、理解が足りないために膨大な無駄を出しているためだ。

この世界では原子なんてしられていないし、更に細かい原子核や電子陽子なども同じく。

物質の構造を変えようと思えば最低でも分子を弄る事になるし、別の化学式に変えようと思えば原子を弄る必要がある。

それを更に全く違う元素の物質に変えようと思ったら電子配列を弄らないといけない。

変化させるものが細かくなればなるほど、複雑になればなる程、正確な知識とイメージが必要となる。

それが足りていないから多くの魔法使いはごく簡単な錬金しか出来ないのだ。

既にトライアングルに達している俺なら前世からの知識と正確な閃きにより完全な錬金が可能だ。

で、その完全な錬金を行うための公式を予め用意し、そこに実数となる材料と完成予定の解を代入してやれば、

あとは代入を終えた計算式に合わせて物質を分解・再構築していく魔法を作ったのだ。

勿論正確な代入を行うために脳内のイメージを正確な設計図に変える魔法や、

ディテクトマジックの応用で材料となる物質の状態を正確に代入出来るようにする魔法を作った。

魔法なんて数学と一緒さ、というのが俺の持論である。

スペルという公式に決まった情報を代入し、魔力で演算させるファンタジー数学。

 

「ぱーって消えたらぱーって出来て。凄いわね~」

 

うん、イマイチ伝わらんな。

要するに、地面を材料にしたら普通の錬金なら地面が光って直接変化する。

けど俺の科学錬金は地面を材料にしたら一度原子或いは電子レベルで分解。

対象のポイントに集積して設計図に合わせて構築して行くのだ。

変換時に電子の移動や余分な電子の放出が行われるため分解し再構成される際に粒子が光を帯びる。

構築式を予め用意し、魂による記憶媒体に記憶させているため一瞬で変換が可能だ。

これらから地面が一瞬で光の粒子に変わり、対象に集まって一瞬で物質を構築したように見える。

かなり異常なレベルでの高速・超高精度錬金である。

 

「俺の言葉は分かるな?よし。もう一体作るから全力で壊しあえ」

 

もう一体作成すると俺の命令に従い動き出す。

高速でパンチやキックを繰り出し、相手を壊しに掛かっている。やはり人形は壊れる事を気にしなくていいのがいい。

AIは作ったけど自己進化なんぞしないし人格や精神なんて無いからな。

魂といったって要するに霊的な物質の塊に過ぎない。

精神や人格は皆無だから心も痛まないし、裏切るという事もミスをするという事も無い。便利だ。

まあ、俺が本気で命じれば逆らえる奴などそうそう居ないのだが。

 

ついでだしこの機会に最後の特典も語っておこうか。

三つ目として俺が頼んだのはカリスマ。

これもせいぜい人の上に立つ才能とか、相手に威圧感を与えるとか、その程度だと思っていた。

しかし蓋を開けてみればとんでも無い。俺が本気で言葉を発せば逆らえる奴など居なくなる。

心理的に一瞬だけ逆らうという選択をさせないだけなので永続的な効果はない。

が、何度もそんな風にされていれば自然と逆らえないという感情が根付く。

死ねと言えばその場で自害するし、黙れと言えば赤子ですら泣き止む。野生の熊に跪けと言ったら跪いた。

圧倒的なカリスマ。一瞬ならば逆らおうという気すら起こさせない。

気配に乗せて発すればそれだけで万国の王よりも絶対的な威圧感と風格を感じる事となる。

年齢や外見など関係無い。存在しているだけで絶対者。そこに居るだけで誰よりも"王"である。

しかも何か生き物だけじゃなく現象とかにも効果あるっぽい。

こちらは殆ど影響無いんだけど…今後"発展"するかも知れない。

 

「反則くせえ」

 

「お兄さま?」

 

何でもないよーマイシスター。

まあそんな訳で予想というか予定の斜め上を外宇宙まで吹っ飛んでったような反則能力のオンパレードなわけだ。

しかもON/OFFの切り替えや加減まで出来るためマジで好き放題出来てしまう。

とりあえず目下の目標は3m級魔力駆動式機動兵器、魔動装機(パーソナルトルーパー)の開発である。

うん、某フロンティアのアレだ。ファントム・ナハト・アーベントの三機を製造予定。

現段階では俺からの魔力供給を必要とする魔動人形(オートマタ)だが、

何れは魔力精製機関を開発・内蔵し、使用した弾薬は自壊、科学錬金によって無限補給を行うようにする。

それを1000機も用意すればトリステインの一つや二つは落とせるだろう。

烈風のカリンも機械による犠牲や消耗を顧みない飽和攻撃には耐え切れない筈だ。

まああんなボロ国家取る気無いけどね。やるなら適当に反乱起こして独立するっちゅーの。

幸いゲルマニアの王は始祖の血を引いていない。反乱起こしても異端扱いはされないだろう。

魔動装機(PT)も新開発のゴーレムで通るだろうし。そもそも機械って概念が無いんだからバレるわけない。

いやあ、早くやってみたいね。コール・ゲシュペンスト!とかゼロ距離…取った!とか。

 

「他の属性もランク上がったら色々やりたいなあ」

 

偏在も色々出来そうだし、炉心魔法とか作ってみたい。

水系なら不治の病の治療、心神喪失の治療、避妊魔法に不妊治療。

IPS細胞なんてのがあるんだし魔法なら欠損部位の完全再生も夢じゃない。

あとはカウンター等の防御魔法の貫通を目的にした魔法かな。リボルビング・ブレイカーに内蔵したりして。

サーヴァント用じゃない召喚・送還魔法だって作りたいし、ガンダールブとかの再現魔法もいいな。

それが済んだら国でも起こしてみようか。俺の知識でも充分有意義に使えるのは確認済みだし、いざとなれば"開発"がある。

まずはメイドだな。出来ればシエスタを回収して、他にも好みのメイドを集める。

指揮官や文官、外交官として有能な奴を今のうちから育成して…

最終的には城の中は人間は全員俺のお手つきの女、それ以外は全部魔動人形や魔動装機にするとか。男の浪漫だな。

まあそこまで行かなくてもむさい男は極力減らせるだろう。下位の文官や兵士は全部人形や機械で占めればいいし。

雇用なんて他のとこでいくらでも用意出来るだろう。王都だけは俺が全部やって、それ以外の町では雇用を重視してもいい。

そうなると王都は新しく作る事になるか。どうせ国を起こすんだし、国を治めるのに都合のいい場所に新しく作ってしまうか。

ああ、夢がひろがりんぐ。ふははは!人民よ、この俺の快楽の犠牲となって安寧と幸福の日々を送ってしまうがいいわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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勇者くん観察記 (ドラクエ風 女僧侶視点 二人旅)

―PPPP、PPPP、PPPP―

 

爽やかな朝、目覚まし時計の音が鳴る。

魔力が動力で内部にも幾つかの術式が組み込まれているらしいので結構高かったのだけど、

朝決まった時間に起きるのが苦手な私はかなり助かっている。

とはいえ、それで起きるとは限らないのだけど…

 

「ん、んー、ん」

 

布団に顔まで突っ込んだまま、右手だけを布団から出して音源を探る。

手先にコンという硬いものが当たった感触を感じ、そのまま適当に掌を叩きつけると音は止んだ。

眠い。朝のまどろみはどうしてこうも気持ちいいのだろうか。

私は何時もどおりまどろみに身を任せ、二度目の眠りに就こうとする。

しかし今日はそれを許してくれない存在が居た。

 

―PPPP、PPPP、PPPP―

 

先程の目覚まし時計に近い、しかし少しだけ音程の違うそれ。

ぼーっとした頭で私は『ああ、いつものか』と音源の場所を思い浮かべる。

昨日、何処へ置いただろうか。思い返そうとしても寝ぼけた頭では中々思い出せない。

勝手に止まればいいのにと思いつつも、私が出るまで止まらないと知っているため諦める。

諦めた私は布団を剥いで起き上がり、眠気まなこで部屋を見渡す。

昨日の晩見たままの、何の代わり映えのない私の部屋だ。

1DKなので私の所持品の大概はこの部屋にあるし、アレも恐らくこの部屋に持ってきているはずだ。

音の方向に目を向けると、ベッド程の高さのテーブルの上に置かれた木片が目に留まる。

木製の札のようなモノに安物らしき宝石を埋め込んだソレが音の出処。

所謂遠隔通信機と呼ばれる類のものである。

魔力を流しこんで特定の法則に沿って魔力を操作する事で稼働するタイプのもの。

基本的に程度の差はあれど、この世界の人間は誰しもが魔力を扱える。

魔法として発動できるかとなれば話は別だが、

そこまで難易度の高くないこういった魔法具はこの世界では重宝されている。

 

「はい…ああ、お母さん?」

 

取り敢えずじっと見つめていても解決しない事が分かっている私は、

通信機を手にとって通話の操作を行う。

寝ぼけてはいるがこのぐらい簡単な魔力操作も出来ないようではそもそもこの世界で生きるのは辛いだろう。

当然ながらなんの問題も無く通信は繋がり、分かってはいたが相手を確認する。

そもそも私の札の番号を知っているのはお母さんだけなのだ。

トモダチ居ないんだからしょうがない。

どうせ話の内容もいつもの事なのだろう。

そう思いながらも無碍には出来ないので最低限聞き流す。

簡潔に纏めると、『ちゃんと働いて稼ぎなさい。そうしないと仕送りを止める』といった内容のもの。

流石にダラダラ仕送りだけで食いつないでいるのがバレたらしい。

その他には、早く良い人見つけなさいとかいう話もされた。

いや、お母さん、私まだ四捨五入しても20代なんだけど…

それもこう見えて私の母は長命の種族である。

ハーフとはいえその血を継いでいる私の外見はどう見てもまだ10代後半だ。

その娘を相手に早く男を作れとは一体どういう了見なのだろうか…

 

「あー、はいはい、分かったから。ちゃんと探すから。はいはい」

 

適当に相槌を打って勝手に切ってしまう。

これ以上は同じ話を何度もループされるだけだと経験則で知っているからだ。

幾ら私にやる気がないのが悪いとはいえ、朝から老人の説教のようなループは聞きたくない。

取り敢えず眠気も覚めたので着替えることにして、パジャマを脱いでいく。

ブラは着けずに寝ていたため、パジャマの上を脱ぐなり私のそれなりに自慢の胸がたゆんと揺れる。

カップ数はF。サイズは最近測っていない。何故かこの世界、僧侶やら賢者やらは巨乳が多い気がする。

魔法使いは小さい子も結構居るのに…揉ませる相手も居ないので現状邪魔なだけだ。

 

「うーん、そりゃ彼氏ぐらい欲しいけど、コミュ障の私には無理でしょ」

 

胸を鷲掴みにして唸る私。

確かに胸に視線を感じることは度々あるが、これ一つで男を落とせると思うほど馬鹿でもない。

どもったりするわけでは無いし極度の人見知りとかでも無いのだが、

単純に何を喋っていいか分からないのである。

女の子同士ならまだ何とかなるのだが、男の子はダメだ。男の子の好きな話題なんて皆目検討も付かない。

なにかしら共通の話題でもあれば別なのだろうが、学生時代はとうに過ぎてしまっている。

今更共通の話題を持てる男の子など見つかるはずもない。

年上趣味は無いし、かと言って同年代以下は性欲の塊みたいなもんだし…

結局、尻込みというか積極的に探す気になれないのであった。

 

「さてと、何して働こうかなあ」

 

これでも最低限働くだけの能力は持ち合わせているし、働いた経験も無くはない。

単純に働きたくないでござるなだけだ。

とはいえ仕送りを止められたら野垂れ死ぬしかないので、頑張って働こう。

真っ先に思い浮かぶのは教会勤め。

教会に居る神父やシスターやらは、聖職者協会という組織に所属している。

私も所属してはいるのだが、自主休業状態だ。

適当な教会に置いて貰って、蘇生なり解呪なりすれば給料は貰えるだろう。

だがこの協会、基本的に給金はお布施と組織加入者からの善意の募金(ドロップアイテムなど)から捻出している。

分かりやすく言うと、安月給なのだ。

まあ慈善団体なのでしょうがないと言えばしょうがないのだが、

どうせ働くならもうちょっと自由なお金が欲しい。

魔法学校で講師をするには免許が居るし、ソレ以外の事業でも大概は組織への加入や許可が必要。

面倒だし時間もかかるのでそれらは却下。

となるとやはり思いつくのは一つ。冒険者として活動する事である。

ルイーダの居る酒場へ行けば仲間を斡旋して貰えるので仲間の心配は無いだろう。

国ごとにギルドというものが存在し、登録した者は酒場で斡旋して貰える。

ギルド支部へは大概依頼を受けに行く人や、初心者同然か異常にハイレベルな人しか行かない。

ソレ以外の丁度いいレベルの仲間を探すならルイーダの酒場が一番だ。

他の酒場でも斡旋はやっているが、一番人気があり信頼もあるのはルイーダの酒場である。

ちなみに、基本的に斡旋して貰えるのは同じ国のギルドに登録している場合だけ。

他所の国へ行ってそこの酒場で斡旋して貰う事は出来ない。大人の事情で色々あるのだよ。

 

「いらっしゃい…へえ、珍しいじゃないリネス。あなたが此処に来るなんて」

 

「お母さんにいい加減働けってどやされたのー。ね、いい人居ない?」

 

実は顔なじみだったりするルイーダ。

私がまだ幼かった頃に出会って以来の幼馴染だったりする。

けど私が小さい頃から容姿が変わってないけど幾つなんだろう…

見た目は20代後半といった感じだけど、確実に倍は行っている筈である。長命種なのだろうか。

 

「何か変な事考えなかった?」

 

「ウウン、ナンデモナイヨ?」

 

疑問形の割りにえらく確信を持って聞いてくるルイーダ。

うん、女の子同士でも歳の話題は禁止なんだね。

ありがとうルイーダ。骨身に刻んでおくからそのイイ笑顔をやめてくれないかな。

 

「とりあえず信用が出来てあなたでも大丈夫そうで尚且つオススメ…この3人ぐらいかな?」

 

差し出されたのは三枚の紙。

それぞれ魔法による転写絵(写真)が描かれており、その下に幾らかの情報が書き込まれている。

二人はパーティーへのお誘い、一人はパーティー参加希望である。

とりあえず自分でパーティー組んで人集めるなんて出来ないので一人は却下。

他の二人だが、一人は見かけの年齢は私の外見と同い年ぐらいの男の子。要するに10代後半。16~18ぐらいだろうか。

種族は人間で、これから大規模な旅をするので同行して欲しいとのこと。

もう一人は中年のおじさま。ダンディーな感じのイケメンなのだが、残念私に年上趣味は無い。

こちらは半人半魔の類らしく、これまた大規模な旅への同伴希望らしい。

他にも居ないか聞いてみたが、信用出来て私でも着いて行けそうなのはこの二人ぐらいらしい。

 

「むむむ、おじさまの方にするか男の子にするか…」

 

「その言い方だと男を買うみたいね」

 

「失礼な!?」

 

全くもって心外な言葉にツッコミを入れつつ考える。

私の目的は生活基盤の確保。要は生活とちょっとした贅沢が出来ればいい。

まあどちらも大規模な旅になるらしいので本格的な贅沢は帰ってからになるだろう。

けどそれ自体は別にいい。流石に楽して今直ぐ稼げるとも思っていない。

やはり判断基準は楽さと、報酬。

どちらも報酬については細かく書かれていないため、暗黙の了解で応相談といったところか。

男の子は人が良さそうだし、年代が近い。実力もそこまで差はないだろうし、報酬は山分けかな。

おじさまの方は歳の差や戦力差で大分報酬に差が出そう。仲間も多そうだし、取り分は減るかも。

逆に戦闘面ではおじさまの方が頼りになるだろう。

うーん、悩む。悩むけど…

 

「よし、この男の子に決めたっ!」

 

やっぱり年が近い方が少しは接しやすいだろうし、多少戦力が小さくても私自身それなりに強い自身はある。

この子の要望も回復系魔法の得意な人とあるので、そういう意味でも合うだろう。

報酬山分けも魅力的だし、もしかして仲良くなれば初めての恋人…とまでは行かなくても友達ぐらいにはなれるかも。

 

「オッケー。それじゃ連絡入れとくから、書いてある通りに集合ね」

 

そういって紙を引っ込めて代わりに契約書を差し出すルイーダ。

記載されていた日時は明日の正午。少し急ではあるが何とかなるだろう。

本格的な準備は二人で行えばいい。

それにしても旅かあ。本格的なのは初めてかなあ。前はダーマまで街道沿いに行くだけだったし。

ここお国の首都の城下町だから大概のものは揃うし、余り出る機会が無かったのよねー。

流石に異性も含めたパーティーで旅をするとなると緊張するけど、頑張ろう。うん。

 

 

 

 

 

 

「二人っきり!?勇者!?魔王討伐!?」

 

「うん、そう。頑張ろうな!」

 

そう言って眩しい笑顔を浮かべる彼、レオ=スティーグ、呼び名はレオくん。

意外と引き締まった体と、歳の割に落ち着いた印象を思わせるイケメン君で、笑顔も中々カッコイイ…じゃなくてっ!

待ち合わせ場所で聞かされた言葉に私は驚きの連続だった。

何せこの子は王様に魔王討伐を託された勇者様で、しかもその大それた旅に同行するのは私一人。

どうやらこの子が勇者様というのは、ここ数日ヒッキーしていた私以外の町の人は大概知っているらしく、

そもそも諸外国にまで連絡を行なって町の掲示板で告知しているらしい。

勇者ご指名からまだ数日ということや、魔王討伐に対する気後れ等もあって私以外は集まらなかったらしい。

ただこの子は回復支援役の私が入ったので十分と思っているらしく、

早速今からでも魔王城へ乗り込もうかと言わんばかりの勢いである。なにそれこわい。

 

「大丈夫。リネスは俺が守ってみせるよ」

 

なんて真剣な表情で言われただけでコロっと行っちゃいそうな私。

こんな子が頑張ってるのに年上で大人の私が逃げ帰るなんて出来ないよねとか、

ギリギリ旅の仲間が出来て安堵しているであろう彼を見捨てて忘れるなんて薄情なこととか、

なんだかんだと理由をつけて自分を納得させようとしている私が居ることに驚く。

これマジでコロッと行っちゃった?いやいやまさかあ。

まあ、依頼も受けてしまったし今更断っても信用問題である。

どうせ抜けるならもう駄目だという所まで頑張って彼も一緒に諦めさせよう。

 

「うっし、アイテムは揃えといたし、準備万端!さあ出発だ!」

 

元気に腕を振り上げて出陣の声を上げるレオくん。

心配な事は沢山あるけど、頑張って支えてあげよう。

 

 

 

 

なんて、ナマ言ってさーっせんしたーっ!

 

「んー?どしたー、リネス」

 

「あー、うん、なんでもないよ」

 

私の方を向いて不思議そうに首を傾げつつ、横合いから飛び出したリップスを見もせずにたたっ斬るレオくん。

使い古しの銅の剣にも関わらず、バターを切るようにすぅっと真っ二つ。

真正面から綺麗に両断されていて、死んでいることは一目瞭然。

レオくんにも私にも返り血一つ付いていない。単純に力があるだけでなく、技術も相当なものだと素人目でも分かる。

今私達が居るのはクリムド城下町にほど近い洞窟。

最近強力なモンスターが住み着いており、魔王軍との関連が噂されている事から突撃する事に。

いわゆる初ボスというやつ。

魔法には結構自信があったので、レオくんがレベルアップするまでは私が頑張って、

もしボスに会って辛いと思えば一緒に全力逃走しよう、なんて思っていた。

が、ふたを開けてみればこの通りである。

初ダンジョンにしてはかなり複雑な構造をしているこの洞窟、

半分ぐらいまで潜っており結構な回数の戦闘もしている。

が、かすり傷一つ、返り血一つ付いていないし、レオくんに至っては汗すらかいていない。

…やばい、ちょっと頼もし過ぎて本気で落ちるかもしんない私。

 

「余裕そうだね、レオくん。か、かっこいいよ」

 

「へへへ、そう?やった」

 

二人して頬を赤くしている今の状況、ルイーダに見られたら何言われるだろう。

きっと何言われても真っ赤になってパニクるに違いない。

そして余裕そうにしているのも当然の事ながら、レベルによるものである。

今私達の強さを元にした簡易ステータスがこちら。

 

レオくん

LV50

クラス:ゴッドハンド

熟練度:★★★★★☆☆☆(Lv5)

職歴:戦士・極、武闘家・極、僧侶・極、バトルマスター・極、パラディン・極、ゴッドハンド・現在

装備品

武器:銅の剣(単体攻撃・使い古し)、ブーメラン(全体攻撃・新品)

頭:気合のバンダナ(会心アップ・使い古し)

鎧:銅の鎧(守備微増・使い古し)

腕:グローブ(守備微増・使い古し)

足:旅人ブーツ(素早さ微増・使い古し)

装飾:理力の指輪(賢さ微増・新品)

特技・呪文

火炎斬、マヒャド斬、稲妻斬、真空斬、魔人斬、ハヤブサ斬、ドラゴン斬、ゾンビ斬、メタル斬、カモメ返し、

五月雨斬り、疾風突き、正拳突き、跳び膝蹴り、回し蹴り、捨て身、真空波、爆裂拳、ムーンサルト、

雄叫び、気合溜め、身代わり、仁王立ち、ライディン、ホイミ、ベホイミ、ルーラ、リレミト、他数種

 

リネス

LV5

クラス:賢者

熟練度:★★★★☆☆☆☆(Lv4)

職歴:僧侶・極、魔法使い・極、賢者・現在

装備品

武器:カシの杖(魔法微強化・使い古し)、ラバーウィップ(グループ攻撃・新品)

頭:知識の髪飾り(賢さ微増・新品)

鎧:旅人のローブ(守備微増・使い古し)

腕:マジックブレスレット(賢さ微増・使い古し)

足:旅人ブーツ(素早さ微増・使い古し)

装飾:理力の指輪(賢さ微増・新品)

特技・呪文

メラ、メラミ、ギラ、ベギラマ、ヒャド、ヒャダルコ、マヒャド、バギ、バギマ、ザキ、ザラキ、イオ、イオラ、

ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ザオラル、キアリク、キアリー、ニフラム、マホトーン、マジックバリア、

マヌーサ、ラリホー、ルカニ、スカラ、フバーハ、ルーラ、リレミト、他数種

 

…なあにいこれえ。

レベルが酷い。もうこれ魔王殴り殺せるんじゃなかろうか。

私もさっき釣られて1レベ上がったし。

というか何故にライディンが使えるの?勇者の才能ですかそうですか。

これ、何で回復系募集したか分かった。MP少なめ+回復する暇がないからだ。

MPが切れたら帰るのに困るし、ライディン辺りの切り札の為にも温存しておきたい。

そもそも近接戦闘中に一々回復している暇も無い。

この辺の雑魚相手なら兎も角、ボスや終盤の敵相手を想定しての事だろう。

それに一応ベホイミやライディンは使えるが、魔法の才自体はかなり低いようで。

つまり私の仕事は後ろからマホトーンとかルカニとか掛けて、終わったらベホマ。ダンジョンクリアでリレミトルーラ。

することないせいで少しレベルが上がりにくいけど、

正直殆ど観戦してるだけで強くなるっていうのも詐欺な気がする。

あ、なんでレベル低いのに賢者かと言うと、戦闘せずに普通に修行&練習で熟練度稼いでたから。

ダーマ神殿行くときも街道通って寄り道せずに真っ直ぐだったしね。

戦闘が面倒だったのと怖かったのとで、戦闘による熟練度上げは断念。

流石に戦闘と修行とじゃ獲得出来る熟練度が雲泥の差の為、数年かけてやっと賢者だ。

レオくんは1年前にご両親を亡くしてから本格的に鍛え始めたとの事で、凄い才能と勇気だと思う。

私なら強い人の先導も無しに初戦闘&レベル上げなんて絶対無理だ。怖い。

さっきもまともな戦闘は初めてで、レオくんに守って貰いながらおっかなびっくり魔法撃ってただけだったし。

あ、ちなみに装備品で新品とあるのは、レオくんが王様から貰ったお金で買ってくれたのだ。

けど髪飾りとかお揃いの指輪とか、レオくんは私をどうしたいのだろうか。落ちるぞこらー。

 

「レオくんは何でそんなに強いの?」

 

「んー?メタスラの湧き場見つけてさ。狩ってた。アイツらレベル関係無く熟練度くれるし」

 

なるへそ。

要は熟練度ウマーのためにメタ狩りしてたらいつの間にか…と。

いや、それにしてもLV50て。大体Lv50までの必要経験値平均が200万程度。メタスラ1体1000。

つまり2000体以上のメタスラを狩ったのか…よく絶滅しないね。アイツら分裂増殖するけどさ。

レオくん曰く狩り尽くしたのか住処を変えたのか、もう出なくなってしまっているらしい。実に惜しい。

メタスラ系は数年~数十年に一度住処を変え、ラスダンから井戸の中までいろんな所に出没する。

もんの凄く素早くて、滅茶苦茶固くて、その上小さいため人間の脚力や腕力ではどれだけあっても対応出来ない。

相応の戦術や戦闘スタイルを駆使し、尚且つ高い身体能力と連射性若しくは対メタル性に優れた技が必要。

攻撃自体はある程度のレベルがあれば屁でもないが、低レベルだとメラ等の魔法が痛い。

これらの要素から、ヘタなモンスター相手に戦うよりよっぽど戦闘経験を積めるのだ。

ただ、すぐに逃げ出すためさっさと仕留めないといけないのが難点なのだが、

レオくん一体どうやって一人であの硬くて逃げやすいメタスラを狩っていたのだろうか。やはり天才か…

 

「強くてニューゲームってレベルじゃないんだけど…私要らないよね?」

 

「そんな事無いよ。俺魔法苦手だし、何より一人旅は寂しいしさ」

 

そういうレオくんは、二人旅が心底楽しいといった様子だ。

まあこれだけ強いと仲間にも恵まれなかっただろうし、

そもそもまだ10代後半で大規模な旅自体が初めてとのこと。

やっぱり不安とかもあったのだろう。

私は戦闘面では殆ど役には立てないけど、これでも聖職者の端くれだ。

目の前に居る頼もしくてかっこいい男の子の心は私が支えてあげよう。

 

「疲れたら言ってね、何時でも癒してあげるから」

 

「ん…分かった。ありがとう、リネス」

 

一瞬真剣な表情になり、先程までと打って変わって穏やかな表情で答えてくれる。

私の言わんとした意味が分かったのだろう。聡い子である。

…流石に、今のはちょっとやばかった。すっごいドキドキしてる。イケメンパネー。

 

「お、何か見えてきた」

 

私が必死で心臓を落ち着かせようとしていると、不意にレオくんが声を上げた。

視線の先には重厚そうな金属性の扉。

この洞窟は天然の洞窟なのでこんなものがあるのはおかしい。

つまりこの扉は知能あるものが何らかの目的のために作ったものであるということだ。

 

「鍵がかかってる…でもこれぐらいなら魔法で壊せるかな?『イオ』!」

 

ボンッという音に続いてガシャンという音が聞こえる。鍵が壊れたようだ。

もうちょっと頑丈だったり対魔法処理が施してあれば、流石に盗賊の鍵辺りが必要だっただろう。

早速勇んで飛び込もうと足を踏み出すが、扉に聞き耳を立てていたレオくんに手で制される。

 

「…ごめん、ちょっとここで待っててくれるかな。すぐに片付けて来るから」

 

「…え?」

 

どういう事だろう。まさか奥に居るのは私には同行するだけで危険なくらいレベルが高いのだろうか。

けど、王国の首都近郊の洞窟にそんな高レベルの魔族が?

普通王国の魔術師団の警戒網に引っかかると思うんだけど…

けれど私自身経験不足は否めない。無駄に棺桶になりたくはないので、大人しく待っている事に。

レオくんは決して開けないようにと忠告し、中に飛び込んでいく。

即座に閉められた扉の奥に何があったのかは分からない。

だが、直後に聞こえてきたのは剣戟と爆発音。数瞬鳴り響いた後、あまりにあっけなく音は収まった。

恐らくハヤブサ斬や稲妻斬辺りを連打したのだろう。

けどこれだけ簡単に倒せるなら、私が着いて行っても良かった気がする。

そんな事を考えながら扉が開くのを待っているが、中々レオくんは出てこない。

扉に耳をつけると少しだけ話し声のようなものが聞こえる。人質でも居たのだろうか。

心配だが待ってろと言われたので大人しく待つことに。

 

「…いいよ、入って」

 

暫く立ち尽くしていると、レオくんが扉から顔を出した。

傷一つ無い姿に安堵しながら中に踏み込むと、むせ返るような異臭が鼻を突いた。

嗅いだことのない独特の匂いに顔をしかめつつ、部屋を見渡す。

どうやら牢屋に繋がる部屋だったようで、鍵を壊された牢屋から数人の女性が現れる。

やっぱり人質が居たみたいだ。

助かったことに喜んでいる人も居るが、半数ほどの人は目が虚ろで足元も覚束ない。

心配になって声をかけようと近づくと、先程の異臭が彼女達からも漂ってきた。

これは…一体…

 

「下衆の嗜み、ってやつだよ。知らないならそれに越したことはない」

 

苛立ちを隠し切れない様子で呟くレオくん。

その言葉を聞いて私は理解してしまった。

経験は無いけれど、これだけの情報が揃っていて分からない程子供でもない。

つまり、そういう事。私達の脇に滅多切りにされて倒れ伏している、二足歩行の猪のような怪物。

こいつは魔物に襲わせた女性を攫い、毎晩ここでお楽しみしていた、という事だ。

この匂いはその時出された体液のモノだろう。目が虚ろな女性達は、もうすっかり心を壊されてしまっているのだ。

 

「レオくん、ありがとう」

 

私の言葉に無言で頷くレオくん。

彼は五感が鋭い。恐らく中から行為中の音や匂いを感知し、私が見ないで済むようにしてくれたのだろう。

確かにこんな化物に女性が無理やり凌辱されている姿なぞ、直視したらトラウマものだ。

レオくんの心遣いに感謝しつつ、私は彼女達とレオくんを連れてリレミトを唱える。

後はルーラで町まで戻って、それで今日の冒険は終了といった所だろう。

帰りの道中胸糞の悪い匂いを思い出し、私は一人の女性として魔族の横暴に苛立ちを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえ、レオくん?重くない?」

 

「だーいじょーぶだーいじょーぶ。よっほっとっ!」

 

今私達は首都から少し離れた所に位置する塔に来ている。

勿論ダンジョンなのだが、最近急にモンスターが湧かなくなったという噂を聞いてやってきたのだ。

モンスターが居なくなるだけならいい事なのだけど、それが何の前触れもなく急にとなれば話は別だ。

何らかの理由…例えばモンスターを全滅させるぐらいヤバイのが移り住んできたとか、

そういう悪い方向に想像してしまうのが人間であり、実際その可能性は高い。

少なくとも異変が生じているのは事実で、それが昨今の魔王軍の活発化と関係があるのでは、という事だ。

で、レオくんと一緒にその塔の様子を探りに来た私だが、塔の一階で一度心が折れかけた。

何故ならこの塔、塔の外周に沿った螺旋階段と数階の迷宮化したフロアによって構築されており、

高さも相当なもので在るにも関わらず階段の傾斜は緩やかなため段数が異常に多い。

しかも何者かによって仕掛けられたのであろう数々のトラップがフロア内、階段問わず待ち構えている。

とてもじゃないが私のひ弱な体力とか運動神経で乗り越えられるものではないので、一度は断念しかけた。

しかし異常が起こっており勇者として旅する以上それを解決することも求められる。

そこでレオくんが提案したのが、私を背負って塔を登る、というものである。

これは流石に私も驚いた。

幾らなんでも人間一人背負ってこの高さの塔を踏破するのは尋常では無いし、

その上レオくんは頂上までずっと背負っていくつもりだったのである。

勿論途中のフロアでも背中から降ろさず、残っていた少量のモンスターも私を背負ったまま倒そうとする始末。

流石に無理やりにでも降りようとしたのだが、そこはレオくんクオリティ。

私が背中から降りるよりも早く敵が真っ二つになってました。

 

「ん…」

 

振動で少し緩んでしまった腕を改めてレオくんの首に巻き付ける。

あまりくっ付くと胸を押し付ける事になるので気恥ずかしいのだけど、

流石に変な態勢をとって重心を崩したりするのも迷惑なので自重。

レオくんの背中は見た目の割にがっちりしていて、こうしておんぶされて腕を巻きつけていると妙な安心感がある。

当然私の顔の目の前にレオくんの後頭部があり、態勢次第では肩に顎を乗せる形になってしまう。

男の子と触れ合った事すら片手で数えるぐらいなのに、

こんな態勢でしかも自分の目の前や真横に男の子の顔があるなんて、考えただけで頭が沸騰しそうになる。

とりあえず変に動いて邪魔にならないようにだけ気をつけつつ、必死で羞恥を抑えること暫し。

 

「お、頂上かな」

 

 



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恋姫御使文官記 (真・恋姫無双 董卓ルート 文官)

見知らぬ部屋で目が覚めた。どうやらベッドで寝かされていたようだ。

ベッドのクッション性は低かったが、長時間寝かされていた訳では無いのだろう、痛みなどは無い。

 

まず考えなければいけないのは此処が何処か、という問題。

内装を見るに中国風の一室。

ベッド、調度品等からして客人用のワンルーム。

ソレらから考えられる推測は

1、此処は日本国内の中国風施設である。

2、此処は中国内の純中国風施設である。

3、此処は日本・中国以外の国の中国風施設である。

以上の三通りだ。

 

次に窓から見た景色。

窓にはガラスが嵌められておらず、木が十字に組んであるのみ。

外の景色は庭らしきものが見えるが、かなりの広さである。

また庭の周囲は城壁のようなモノに囲われており、

建物の建材は木・土・石が主に使われているようだ。

 

自分に対して確認する事は

Q,まずこの景色に見覚えは?

A,無い。

Q,ではこのような建物に見覚えは?

A,無い。

Q,ではこのような建物が日本にあると知っている?

A,知らない。

Q,では日本国内にこのような建物は存在しうるか?

A,見る限りこの施設はかなり大きく、広い。

 恐らく城や宮殿程度の大きさはあるだろう。

 しかし日本国内に残っている城などは文化遺産等に指定されていたりして、

 少なくとも内部に宿泊施設や一般人を寝かせる寝室など無いだろう。

観光資源として利用している可能性もあるが、知らないので確率は低いものとする。

 更に言えば内装も外装も中国風であり、まともな施設として存在しうる可能性は限りなく低い。

 あえて可能性を上げるなら映画等に使用する目的の特殊施設であると言う事ぐらいか。

Q,ではそのような特殊施設である可能性は?

A,無いとは言い切れないが、そもそもそんな場所に俺を置く理由がない。

 倒れていた等なら救急車を呼べばいい話である。

 

以上の事から、日本国内である可能性はかなり低い。

また、日本と中国以外の国にもこのような中国風の城や宮殿が実在する可能性は極めて低い。

中国国内である場合も含め、特殊な施設である可能性も先述の内容と同じく低い。

 

つまり、此処は中国の何処か、という線が濃厚である。

しかしこれだけ立派な建物の窓にガラスが嵌っていなかった事、

城壁には松明らしきものが置かれていた事(昼間のため火は消えている)、

何より城壁の上には『鎧らしきモノを着た兵士のような者』が歩いていた事。

これらの事からこの地の技術レベルは未発展国レベルであると推察される。

中国国内として考えるなら、都市部からは遠く離れた山間部の少数部族レベルである。

しかし少数部族の集落や里として見るには明らかに城(又は宮殿)の規模がおおきい事、

幾ら少数部族だとしても武装した兵士が見張りをしている城など存在する筈も無いし、

あったとしてもそんな所に自分が居る理由が分からない。

 

此処に居る理由の可能性としては、

1,誘拐されて連れてこられた。

2,何らかの超常識的方法で連れてこられた。

3,実は自分の足若しくは誰かに連れられて来たが、忘れている。

4,実は、これは全て夢若しくは幻覚である。

…ぐらいか。

 

まず1だが、俺は日本の自分の家に居た。

何らかの方法で家の中に入り俺を昏睡させたとして、

こんな場所まで連れてくるにはどれだけの時間がかかるだろうか。

体は健康そのものであり、衰弱等もしていない上、空腹感も無い。

飯を食ったのは意識を失う3時間程前。正確に言えば飯食って3時間で寝た。

大凡食事から空腹までの時間は起きていれば6時間、寝ていても倍は行かない。

そんな短時間でこんな場所まで連れてこられるとは思えないし、

寝ている人間に空腹感を感じさせないレベルでモノを食わすなど不可能だろう。

つまり、1の可能性は低い。

 

次に2。超能力だか魔法だか知らないが所謂ファンタジー或いは超科学な方法。

…これは例えそうだったとして、予想のしようがない。

ならば俺にそこまでして攫う価値はあるだろうか?

両親は既に他界。親戚も遠縁しか居らず、特に裕福という話も聞いていない。

自身に特殊な能力や知識の自覚は無いし、知り合い全て極普通の一般人だ。

となるとお手上げ。保留。

 

そして3。

これは要するに何らかの方法や理由で俺の記憶が欠落している可能性。

少なくとも外的損傷は見当たらないし痛みも無い以上、頭を打って記憶を失ったという事も無いだろう。

二重人格や夢遊病なども思い当たるフシは無いし、

記憶の混乱や混濁も無い以上、単純な記憶喪失とは考えづらい。

先述した超常識的な方法による記憶の喪失または書き換えだが、

これもまた予測のしようが無い。

少なくとも現実的な記憶喪失では無いはずである。

 

最後に4。

これは考える意味がない。

夢ならその内覚めるのだ。放っておいても問題ない選択肢は無視すべきである。

これは現実として話を進める。

幻覚であった場合、これもどうしようもない。

そもそも幻覚を見るような状態でここまで冷静かつまともな思考が出来るのかは疑問だが、

兎も角これだけはっきりとした幻覚を見るようならもう自分ではどうしようもない。

精神病院で投薬などの治療が行われる事を祈るしかない。

つまりこの選択肢は基本的に無視。現実に起こっている事として考えよう。

 

………長々と考えてみたが。

要するに現実的・常識的に考えられる理由・方法でここに居るとは考えられない、という事である。

ならば此処は敢えて超常現象…それこそ神隠しにでも会ったと思って考えてみよう。

可能性としては

1,タイムスリップで過去の中国へ。

2,異世界へ。

3,現代ではあるが超常的な方法による誘拐。

…ぐらいか。

どれが一番現実的にあり得るか、などとは考えまい。

非常識な事態と手段だと仮定し話を進める以上、現実性は無視して考えるべきである。

 

2と3は正直無いだろう。

異世界にここまで中国に似た文化の国が存在するのかというのもあるし、

よく似た平行世界だと言うならタイムスリップに含めてしまっていい。

現代だとして、先述のこんな土地・施設が実在するのかという疑問や、

手足を拘束されていなかった事、

ただの犯罪者がそんな能力使えたら普通に一般人にも異能者が居るだろうという事、

超常的な力を有した裏組織なんぞに狙われる理由も憶えも無い事などがある。

1の場合、何らかの理由で時を遡ったのだとすれば、周囲の状況や文化の確認で簡単に確認可能である。

 

此処までの考察をまとめると。

1,此処は中国系の城若しくは宮殿の一室である。

2,常識的な事態とは考えにくい。

3,非常識な事態だとして、最有力はタイムスリップ。次に特殊手段による誘拐。最後に異世界旅行。

 

これらを確定付けるために必要な行動は、

1,知性ある人間若しくはそれに類するモノとの接触。

2,この部屋以外の内装や街並み、文化の確認。

3,故意に此処に連れて来られたのか、それとも偶然に類するものかの確認。

 

これらを遂行するに当たっての問題は

1,言語体系を含め、マトモに意思疎通可能な存在と接触出来るかどうか。

2,この部屋から出られるかどうか。

3,正直に話しをして貰えるかどうか。

となる。

 

当面の目標は

1,現在位置・年月日の確認。

2,帰還の可能性の確認。

3,長期滞在する場合は衣食住の確保。

4,早期帰還する場合はその手段の確保。

…といった所だろう。

 

当面は諸々の問題の確認を最優先事項として動くのが適切だろう。

他人と遭遇した場合はまず友好的に接し、意思疎通を図る。

 

そんな事を考えている内に腕時計の針は30分ほど進んでいた。

それなりに高速思考には自身があったのだが、やはり混乱もあったのだろう。

 

-コンコン-

 

そんな事をつらつらと考えていた時、丁度ドアがノックされた。

誰か来たようだ。俺は日本語と簡単な英語しか話せない。

果たして会話は成り立つのだろうか…

 

「失礼します。…お目覚めでしたか」

 

…どうやら日本語は通じるようだ。

先の考察と併せて考えるに現代という線は薄いらしい。

 

「…落ち着いていらっしゃるようですね。言葉は通じておりますでしょうか」

 

「はい、こちらは問題なく認識出来ています」

 

言葉と共に首肯を返す。

入ってきた女性は青い色の髪をした侍女風の女性だ。

ネットで見かけるコスプレのようなものと違い、

自然な色合いの髪色と実用性を加味した純メイド服。

明らかに日本人の風貌では無いし、青い色の髪の人種など聞いたことが無い。

そもそも髪の色というのは色素によって染まり、

髪質による光の反射等によって別色に見えたりするモノである。

幾ら淡いとはいえ、青い髪の人間など少なくとも現代にはまず居ない。

明らかに日本人では無いにも関わらず日本語が通じている事から、単純なタイムスリップでも無いようだ。

 

「あー、グラスとウォーターはありますか?あるいは2chやニコニコでも構いません」

 

「???…申し訳ありません、ぐらす、うぉーたー、にちゃんねる、とはなんでしょうか?」

 

そう言って微笑む侍女。

ニコニコだけはそのままの意味で受け取ったらしい。

どうやら英語・横文字・スラングは通じないと思っていいようだ。擬音は通じるらしい。

比喩やことわざなどが何処まで通じるかも疑問だが、そちらは後回しでもいいだろう。

 

「ああ、申し訳ありません。私の国の言葉で、容器と水の事です。後ろ二つはお気になさらず」

 

「成る程、お水でしたか。少々お待ち下さい、直ぐにお持ちいたします」

 

そう言って女性は部屋を出たが、すぐに戻ってきた。

恐らく誰かに指示を出したのだろう。

これで外に誰か居ることははっきりした。

別に人を待機させていたぐらいだ。向こうも話があるのだろう。

そして彼女がある程度人を使える立場だという事もはっきりした。

侍女長あたりか、或いはここが城や宮殿なら文官というのも考えられる。

まずはこの人と意思疎通を図るのが先決か。

 

「有難う御座います。ではまずは、自己紹介を。◯◯・??です」

 

「いえ。私の性は賈、名は駆、字は文和と申します」

 

…っ!?

…三国志、か。…不味いな、かなりの過去だ。

嘘を付いているとも思えん。

幾ら知名度自体は主役級に劣るとはいえ、三国志の登場人物を騙るメリットが無い。

しかし賈駆は女性だったか…?いや、待てよ、そうじゃない。そうじゃなくて…

 

「私は性が◯◯、名が??です。字はありません。…つかぬ事を伺いますが、董卓という方は男性でしょうか?」

 

「…?いえ、董卓様は女性ですが」

 

…やはりか。史実と違う。

どこまでかは分からんが少なくとも董卓は女性化している。

下手をすれば著名どころは皆女性化している可能性もあるな。

そして今の会話から、恐らく董卓が存命である事、そしてそれなりの地位に居る時期である事が予想出来る。

となれば此処は恐らく漢王朝の洛陽。三国志での群雄割拠以前という事となる。

 

「黄巾党は存在しますか?諸侯連合は?」

 

「つい数日前に討伐の報告が上がったばかりです。諸侯連合、というのは…?」

 

流石に少し訝しまれた。まあこれぐらいなら記憶の整理とでも思って貰えるだろう。

…で、黄巾党討伐後か。それも諸侯連合が出来るまでの空白期間。

十常侍あたりのゴタゴタはどうなっている?

いや、そもそも董卓が女性なら史実道理の方法では上手く行かないだろう。

下手をすれば呂布や何進が女性だった可能性もある。…傾国の美男貂蝉?有りうるのか?

 

「…どうやら、少し複雑な状況のようです」

 

そう前置きして、ここまでの自身の考察を話し、

証拠として腕時計やポケットに入っていた携帯、

ベッドの脇に置いてあった鞄の中からノートパソコン等を見せた。

多少冒険ではあるが、そもそも異邦の地だ。

情報の取得を何より優先する事にする。

全く、胃が痛くなるな…

 

 

………………

 

…………

 

……

 

何とか話は終わった。

途中何度かドスを効かされたりもしたが、

概ね友好的な情報交換が出来たと言っていいだろう。

得られた情報を纏めると、

1,流星が落ちた場所に俺が居た。周りは荒れておらず、傍に居た董卓にも傷一つ無かったらしい。

2,ここは三国志の世界で間違い無いようだが、多くの有名人が女性化している。sneg。

3,市井では天の御遣いとかいう乱世を治める者の噂が広がっているらしい。恐らく俺。

4,帰る方法に心当たりは無く、仙人や妖術師でも頼るしか無いとのこと。

5,俺の持つ知識、技術等の提供次第で衣食住の用意も検討する、との事。

 

…まさか、想定していた可能性の1~3全部ごちゃ混ぜスペッシャルだったとは。

パラレルワールドの過去に特殊な方法でタイムスリップとかSF超えてもうファンタジーだな…

まあ、少なくとも三国志に関する知識は人並み以上に在るつもりだ。

三国志好きで良く読んでたからな。一番好きなのは横山光輝三国志。

高校の授業もまともに受けていたし、理数系が得意で大学でもそっちを専攻する予定だった為、

数学や物理学関係はそれなりの知識もあるし、

機械工学や農業系への知識も高校の必修過程分までは完全に覚えている。

パソコンの中には各種データも入っているし、鞄の中には教科書や参考書、ノートもある。

これらを上手く利用すれば十分彼女らの力にはなれるだろう。主に文官として。

どうせ天の御遣いとして担がれれば、戦場で前に出ることは少なくなる。

流石に自分の采配一つで人の生き死にが決まるようになれば多少怖いものもあるが…

少なくとも足を引っ張るという事は無いだろう。

後は必要な知識について教えて貰いながら協力し、衣食住の確保。

余裕があれば帰る方法も探していこう。

…正直、二度目の非常識を起こす方法なんざ見つかるとも思えん。

最悪この世界に骨を埋める覚悟をすべきだろう。

なんにせよこんな時代だ。人を殺す覚悟とやらは早々に付ける必要があるかな…

…まあ、なるようになれさ。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

賈駆side

 

流星が落ちたら男が居た、と聞いた時は妖術でもかけられたのかと思ったが、

他ならぬ月の話だったので信用して見に行ってみれば…

どうにも胡散臭い男が一人。

顔つきは優男といった風貌で割合普通だったが、着ていたモノや持ち物がよく分からない。

取り敢えず月の意向で客室に寝かせた所、数刻して目が覚めたとの知らせが入ったため様子を見に来た。

外に見張りを置いておいたとはいえ最悪怪我ぐらいは覚悟していたのだが、

意外にも落ち着いた風でマトモに会話も出来た。

最初は記憶の整理のためか幾つかの確認をしてきたが、

途中いきなりぐらすだのうぉーたーだのと言い出し、挙句の果てには「自分の国の言葉」だという。

流石に胡散臭く感じ始めていた所、

男は複雑な状況だと前置きした上で、自分の考えを語り始めた。

 

…聞いてみた感想は、何をトチ狂った事を、だ。

馬鹿にしているのかと怒鳴りそうになったが、至極冷静に諌められたため取り敢えず最後まで聞いた。

私としてもコイツが嘘をついていないなら、時間を超えたとしか納得のしようがないのも事実。

証拠として見せられたけーたい、とかぱそこん、とか言うのは確かに現代では有り得ないシロモノだ。

 

そこまで話を聞いて私の脳裏に浮かんだのは『天の御遣い』という言葉。

流星と共に天の御遣いが現れ乱世の世を治める、という今市井で流行っている噂だ。

どこぞの有名な占い師が出した予言だそうで、

正直今までは眉唾だと思って気にも止めて居なかったのだが…

ここまで来たら信じない訳にも行かないだろう。

何より彼が持っていた異常技術の塊がそれを裏付けている。

彼も衣食住の確保のために協力を惜しまないと言ってくれたし、

ある程度とは言え未来の歴史や知識があるというのは強力な武器になる。

天の御遣いとして担ぐことも出来るし、これはとんでもない味方が出来たのかも知れない。

とりあえず詳細は後で詰めるとして、皆への紹介や各所への通達を済ませないと…

ハァ、忙しくなりそうで素直に喜べないなあ…

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 



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fate オリキャラ セリフ集的なナニカ

クロノス・クロノグラフ。時間の神クロノスを内包した所謂「神仕掛けの機械(マキナ・エクス・デウス)」と言ったところかな。

 

聖剣なんて立派なものは作れなくてね。魔剣が精一杯だったよ。

銘すら無い有り触れた長剣。斬れないものはないというだけのシンプルに過ぎる能力。センスの無さが伺えるね。

 

思うんだよ。英霊を呼ぶのにわざわざこちらで魔力を用意してやる必要などないって。

世界が自らの危機に生み出す時と同じように、世界から借りればいい。魔術師の言う、根源って奴だね。

 

僕は別に根源に至った訳でも神の御業を体現出来るわけでもないよ。

ただほら、神頼みってあるだろ?あれって結構万能なんだね。まあ、僕の場合世界頼みって言った方が合ってるけどさ。

 

死んだ人間は生き返らない。

僕は神でもなければ世界でも無いし、そしてその法則は神や世界にも同様だ。

だから彼らは何よりも死を恐れる。誰だって、死ぬのは怖いし嫌だよね。

 

犯されようが汚れようが、それで体が死ぬわけじゃない。心だって死ぬことはない。壊れても"直せる"のが心だからね。

酷いだろ?それが人間っていう生き物の構造なんだよ。

 

ま、どうしてもと言うのなら。僕が君を"救済"しよう。

 

――人には、時に死より恐れるものがある。時に君は……因果応報と言う言葉を知っているかい?いや、別に知らぬ無知でも構わない。

 

――ただ、僕が君を殺すというだけの事だよ。

 

ああ、それにしても……まんじゅう美味い。あ、お茶おかわり頂戴。

 

これが、神を殺すって事だ。なんちって。

 

そうだぞー、ご主人さまは偉いんだぞ―。さあ、あがめたてまつれー。

 

うんうんいい子だ。ご褒美に今夜は寝かせないぞー。

 

え、いや本気にされてもリアクションに困るんだけど。

 

あ、うん、じゃあまた今夜。…………あれ?

 

まさかのモテ期到来とか思っていた時期が僕にもありました。

 

単なるベタ惚れだった件。

 

ああ、何も心配ないよ。時間稼ぎはお手の物、ってね。

 

別に倒してしまっても……おっと危ない危ない。

 

普通に倒せてしまった件。こらそこチート言うな。

 

いやあ、やっぱりお茶が美味い。あ、団子3本追加で。

 

青々って……えらい血色悪そうな名前だねえ。あ、やめて殴らないで。

 

時間VS時間……うん、なんかまずい事が起こりそうだしやめておこう。

 

僕の魔剣は時間だって切り裂くよ。

 

あ、いや、その、シモネタじゃないんですけど……

 

英雄色を好むと言うけれど、正義の味方もそうなのかね?

 

ああ、なんだ修羅場体質は遺伝か。え?血繋がってないって?アーアーキコエナーイ。

 

パトラ◯シュ……僕なんだか眠くなってきたよ……

 

あ、はい起きます起きます。

 

次は何を作ろうかなー。世界とかいいかなー。面白そう。

 

え?いや本気だけど?

 

あはは、何言ってるのさ。世界造るぐらい簡単じゃないか。どこぞの正義の味方さんも似たようなことしてるじゃない。

 

前創った世界そういえばほったらかしたままだなあ。変な超文明とか出来てないといいけど。

 

え?いやいや僕は神様なんかじゃないよ?公表してないから信仰もされてないし。え?そういうコトじゃない?あ、そうですか。

 

いやまあ創ったと言っても全部一から作ったわけだしねえ。大した事はしてないよ。

 

いやいやいや、今あるのを弄る方が難しいのさー。

 

あ、遊びに来る?遊園地あるよ?お化け屋敷もあるよ?

 

うん、修羅場すっごい楽しみです。あ、やめて殴らないで。

 

じゃあ行こっかー。いあいあふんぐるい……真面目にやるから殴らないで。

 

久しぶりに来たら信仰出来てた件。

 

あるぇー?何、もうバレたの?辿り着いちゃったの?早くない?魔法使いでも生まれたの?

 

そして早速正体バレた件。ヤバイこれどうしよう収集付かない。

 

助けてー正義の味方助けてー

 

ちょ、一緒に神格化されちゃったよおい

 

んーーー………………ま、面白いからいっか。

 

おお、神様生まれてる。おっはー。あれ、なんで惚けてんの?

 

創造神とか主神とか面倒なんでパスで。

 

いや、ほんとにパスで。

 

い、今起こった事を(以下略 創造神扱いパスしたと思ったら女神様が嫁入りしてきた。何を言って(以下略

 

あ、そういうんじゃなくてほんとに面倒なだけなんで。あれ、なんで泣くの!?

 

いやいや、振ったとか気に入らないとかじゃなくてね?むしろお持ち帰りしていいですか?あ、ダメ?ちぇー。

 

というわけで現地妻作って帰ってきたどうも僕です。

 

いたいいたいみんななんで殴るの。

 

ああ、やっぱり我が家が一番落ち着く茶がうめえ。そんな事より茶がうめえ。わらび餅には黒蜜派。たまには甘ったるいのもいいね。

 

雑煮うめえ。おしるこうめえ。おせちうめえ。あけましておめでてえ。ごめんなさい殴らないで。

 

初詣めんどくさいし適当に神様呼んじゃおうか。いやもうたまもでいいか。和っぽいし。

 

パンパンっと。エッチな意味じゃないよ。

 

ごめんなさい普通にセクハラでした。

 

いきなり拝まれて困惑するたまもが可愛いです。

 

今年も一年面白い事がありますように、っと。あと某正義の修羅場が面白い事になりますように、っと。

 

あ、たまも、ガチで呪いかけなくていいから。しかもそれ"まじない"じゃなくて"のろい"の方だから。

 

ああ、茶がうめえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五次イレギュラーマスター (fate ハーレム)

     ――――― 一度見れば理解する。

 

     ――――― 理解すれば模倣する。

 

     ――――― 模倣すれば昇華する。

 

"一見三邪の法"。あらゆる物質・現象・技術・存在を理解し、模倣し、昇華する。

それは才能が開花したものか?―――否。

それは努力が結実したものか?―――否。

それは何者より授かったのか?―――断じて否。

それは肉体が、精神が、魂が、存在が、原初より持つと約束されたただ一つにして三つの法。

彼が持つ事が当然であり、彼が持たなければならず、彼が持たぬ事はあり得ない。

彼は―――――原初より約束されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯戦争?」

 

「ええ、近々行われるみたいです」

 

初めまして皆さんこんにちは。ライエルと申すものでありんす。

いやまあ冗談は置いといて。今俺は勤め先の同僚と共にイタリアに居ます。

彼女の名前はシエル。青い髪シスター服の美女さん。頭の両サイドを伸ばしたショートカットスタイル。

これがかなりの美人さんで、しかも眼鏡が似合う。

敬語が標準だったりカレー大好きだったり異常な戦闘力を持っていたりとちょっと特殊な人でもある。

まあ特殊さで言ったら俺が言えたことではないのだけど。

 

「何でまた俺が…」

 

「何でも聖杯に対する異端の監視と審問を行うのが目的…らしいですよ」

 

で、今何時かと言うと西暦2004年春某日、場所はイタリアのとある都市のストリート沿いにあるカフェ。

何でまたこんな美人の同僚と顔突き合わせてひそひそやってるかというと、

俺達の勤め先からちょこっと逝ってこい的な軽いノリで仕事が来たらしい。

一応ではあるが拒否権はあるので行かなくてもいいのだが、

権限があっても不用意に使いたくないNOと言えない日本人な俺は渋々了承する。

理由がないわけでもないのだけど、正直面倒というか絶対面倒になる予感がするというか…

 

「いいじゃないですか、あなたなら"英霊ごとき"に負ける事など無いでしょう?」

 

「いやいや、流石に伝説級のバケモノと殺り合うのは面倒過ぎるって。宝具とかどうしろと」

 

今回回ってきた仕事は聖杯戦争とという戦争に参加する事。

戦争といっても兵隊集めて国同士でやるわけではなく、

7人の魔術師がそれぞれ英霊(サーヴァント)と喚ばれる伝説上の人物を従者として召喚し、それらを戦わせて競うものだ。

目的は聖杯と呼ばれる万能の願望機。何でも願い事が叶うとされているが、今回のそれは伝説上のアレとは違う偽物。

とはいえ強大な力を秘めているのは事実であり、過去に呼び出された英霊も尋常ではない強者ばかり。

今回で五回目になるこの聖杯戦争だが、これまで俺達の勤め先である聖堂教会は傍観していた。

が、前回だか前々回だかにとんでも無い魔性が召喚され、そのせいで聖杯戦争を行なっていた土地にかなりの被害が出たらしい。

呼び出された英霊が聖堂教会の意に沿わない異端者の類なら始末し、聖杯がそうなるのであれば処分する。

それが仕事という事なのだが、確か聖堂教会縁の監督者が居た筈である。

ならば何故今回俺にお鉢が回ってきたのだろうか。

 

「一応私達も代行者ですから選ばれるのは可笑しくありません。それに今回の監督は"あの"言峰綺礼ですから…」

 

「あー、あー……成る程」

 

俺達もその代行者と呼ばれる者達の一員で、自分で言うのもなんだがトップエリートである。

代行者の中でも埋葬機関と呼ばれる部所に所属しており、埋葬機関は七人の代行者と一人の予備人員で構成されている。

で、今話にでた言峰と言うやつは以前代行者として活動していた時期があり、ほんのちょっとした知り合いである。

本人は気付いていないようだが割りと危険な思想を秘めた人物で、

その空気を敏感に察知したシエルといざこざを起こした事がある。

前回の聖杯戦争の参加者でもあり、ちょっと派手な動きをしたらしく聖堂教会から若干目をつけられている。

今回の聖杯戦争では聖堂教会と魔術協会の両方に顔が利くという事で監督役に就任するらしいのだが、

以前のいざこざで破綻者であることが一部の者に露見し、監督役就任に異を唱える人がどこぞに居るらしい。

 

「いや、けどアレ知ってるのは俺とシエルを除けば殆ど居ないだろ?」

 

「ええ、向こうも詳しいことは知らずにとりあえず批判しているみたいですね」

 

ま、何処にでも勢力争いや派閥争いはあるという事か。

一応聖杯と名の付くモノが関係する事柄だ。自分らの都合のいい人員を送り込んで発言力を上げたり、

あわよくば聖杯の確保と利用を…とでも思っているのかも知れない。

で、そういう奴らを黙らせるのに丁度いいのが俺、というわけだ。

どこの派閥や勢力にも属して居らず、埋葬機関第三位として相応の権限があり、これでも埋葬機関の中ではマトモな常識人だ。

場合によっては二十七祖クラスの異端者が現れる可能性も考慮したのだろう。

普段からあまりこの手の依頼とか仕事を拒否しないというのもあるんだろうな。

本当に面倒な事だ。何で神話やら伝承の英雄クラスのバケモノとガチで殺り合わにゃならんのか。

 

「いえ、流石に生身で英霊と戦えとは………あなたなら出来ますよね、うん」

 

いや、そこで頷かないで欲しいんだけど。俺も大概バケモノ化してきたなあ。

…此処100年程で。うん、不老の時点で十分バケモノか。

しかし英霊ねえ。幾ら何でもアルクェイド以上の身体能力なんて無いだろうから"パクる"意義は薄いか?

宝具ってのがどれほどか分からないけど、有用なら"パクって"もいいかも知らんね。

 

「コレ以上パワーアップする気ですか?アルクェイドの身体能力と直死の魔眼だけでも異常なのに」

 

力は一定を超えたら後は幾らあっても困らないよ。中途半端だと危ないけど。

それに直死の魔眼は色々と負担がデカい。

それ以外じゃ身体能力と技術に物言わせたパワー殺法と多少の魔術ぐらいのものだしねえ。

一応第七聖典やらゼルレッチの宝石剣やらはあるけど、生憎と魔法自体は"見れなかった"からな。

宝具とかいうのが強力だったり使い勝手がいいなら"パクる"のもいいかも。

 

「あなたは一体何と戦ってるんですか…」

 

俺には見たものを技術だろうが物質だろうが即座に理解し、

理解したものを完璧に模倣・再現し、一度使えば自分に最も合った形に昇華できる異能がある。

異能というか体質というか性質というか、まあ特殊能力だ。

アルクェイドという強力な吸血鬼の真祖の身体構造を模倣し、

シエル達代行者や今まで相対してきた連中の武器を制作し、技術や技を盗み、

遠野志貴という以前会った少年の持っていた直死の魔眼を再現した。

ここ100年で色々と手に入れ強くなり、真祖の体コピーしたおかげで不老になれたのはいい。

星との接続は流石に出来なかったので不死では無いが、代わりに吸血衝動やら破壊衝動も無い。

俺用に昇華したおかげで大部分のデメリットは無くなったのだが、流石に急所殺られたら死ぬ。

万が一が無いとは限らないので何らかの手段で誤魔化したいとは思っていたので、そういう意味では渡りに船だ。

太古の英雄や神話のバケモノなら不死性を持っている奴なんて山ほどいる。

ジークフリードだったりアキレスだったりヘラクレスだったり。

そういう奴らの能力を"パクる”事を目的にするのもいいかも知れない。

 

「しかし英霊ねえ。媒体使わなければ自分縁の奴が呼ばれるんだっけ」

 

アルクェイドとかが来てくれれば楽勝なんだけど、それならそもそも協力者として手伝ってもらえばいいか。

協力者を用意するのが駄目なんて言われてないし、それが世界最強の一角でも特に問題は無いだろう、うん。

どうせ呼ぶならそれこそ不死の奴とか便利な宝具持ってる奴がいいな。

魔術あまり使えないしキャスターあたりがいいかな。

不死なら他にも居るかも知れんし、これから手に入れる機会もあるだろう。

聖杯手に入ったら何願おう。まずは聖杯の異端確認だよな。

で、使えるようなら…聖杯の魔力ごっそり頂いちまうか?その方が使いで有りそうな気もする。

 

「願いとか無いんですか?」

 

「特になあ。金には不自由してないし、支配願望なんて無いし、女ならシエルとか居るし…」

 

俺の言葉に急に顔を赤くすシエル。いい加減長い付き合いなんだから慣れろよとも思うけど、

この初々しさも可愛らしいので良しとする。

でも正直願望もなあ。魔術師ちゃうから根源興味無いし、そもそも根源ぐら魔法使いから色々パクれば行けるだろう。

警戒されてるのか知らんがゼルレッチ爺さんも青子さんもあまり会えないけど。

大層な夢も無いしなあ。強いて言うなら今幸せなんでこのままがいいです。可愛いくて美人な恋人も居ることだし。

 

「本人目の前にして惚気ないでください…でも嬉しい」

 

HAHAHA、俺は幸せものダナー。

正直聖杯戦争とか面倒なんで適当に隠居してアルクも入れて3人で茶しばいてたいですちえるてんてー。

 

「チエル言うなっ!…ごほん、まあ分からないでもないですけどちゃんと働いて下さい」

 

はーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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イレギュラー過ぎる聖杯戦争 (fate ハーレム 召喚チート)

聖杯戦争――それは奇跡を叶える『聖杯』の力を追い求め、7人の魔術師が7人の英霊を召喚して競い合う争奪戦。

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー七人のサーヴァントと、

それを使役するマスター達は最後の一組になるまで戦い続けなければならない。

それぞれのクラスはそれぞれの特色を持ち、それぞれのサーヴァントは固有の能力や宝具を持つ。

それらをぶつけ合い、競い合い、騙し合い、そうして聖杯を手にする最後の一人を選定する。

――しかし、何事にもイレギュラーというものは付き物だ。

いや、聖杯戦争――少なくとも此処冬木の地で行われるものにレギュラーがあると言えるのかは定かではないが。

それでも一応のルールや法則に則って行われる筈のそれは、しかし一つのイレギュラーによって崩壊する事となってしまう。

これは第五次聖杯戦争と呼ばれる戦い、そのイレギュラーの物語である。

 

 

 

 

 

「「「「「「「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

       降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

       閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

       繰り返すつどに五度。

       ただ、満たされる刻を破却する

       ――――告げる。

       汝らの身は我が下に、我が命運は汝らの剣に。

       聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

       誓いを此処に。

       我は常世総ての善と成る者、

       我は常世総ての悪を敷く者。

       我は魔導の真髄を乞う者。

       汝らは我が袂に集う者。

       汝ら三大の言霊を纏う七天、

       抑止の輪より来たりて我が"法"へと宿れ、天秤の守り手達よ―――!」」」」」」」」

 

詠唱は都合7度。しかしそれらは重なりあうように一つに集束する。

多重詠唱――たった一つの大詠唱と化したそれは膨大な力の奔流を巻き起こし、

溢れだした光は網膜を焼かんがばかりに辺りに満ちる。

その魔力は一言で言えば"異常"。

混沌とし、数多の性質を宿し、そして身に浴びるだけで気が狂いそうなほどの濃密な魔力。

それが7つのカラを形成して霧散する。

そこに在るのは、紛れもない英霊。

数多の世界、数多の歴史で最強を誇ったバケモノ達。

いまだ完全に契約を終えていないため真名は分からないが、

それでも漂ってくる気配は人の身に収まるような域を遥かに逸脱している。

その姿をしっかりと見やった俺は、自身の企みの成功に歓喜し口元を歪めた。

 

そしてソレを見て真っ先に声を上げたのは一人の美女。

 

「どうも皆さん初めましてっ!謂れはなくとも即参上、軒轅陵墓(けんえんりょうぼ)から、良妻狐のデリバリーにやってきました!

 イケメン魂のにほひがぷんぷんとしますがここは敢えて問わせて頂きましょう!

 あなたが私のマスターですか?そうですよね?そうだと言ってよばーにいっ!」

 

何かいきなりぶっ飛んだセリフをぶちかましてくれたのは魔力と身なりからして恐らくキャスター。

狐らしき耳と九尾を備え、その身はノースリーブで和風な着物に包まれている。

袖はあるのだが服本体と繋がっていないのにどうやって維持しているのだろうか。

非常に可愛らしい美女で、そのぶっ飛んだセリフの割に目からは高い知性も感じられる。

九尾、和服、美女、軒轅陵墓、キャスター。

これらのキーワードから考えて恐らく白面金毛九尾の狐…所謂『玉藻の前』、だろう。

そして次に声を上げたのはこれまた美少女。

 

「へー、私を呼ぶなんてどんなスキモノかと思ったら…ふふん、中々いいじゃない。

 いいわ!あんたを私のマスターとして認めてあげる。あはは、一杯愉しませて貰うわよ~♪」

 

嬉々とした表情で言葉を口にするのは玉藻の前と並ぶとも劣らぬ絶世の美女。

チェインメイルを装備し下はスカート、腕にはガントレットを着けているがどちらかと言えば軽装。

鎧の胸元には羽の生えた獣の絵が描かれており、白いマントの肩部には特徴的な紋章が描かれている。

腰の右側には角笛を携え、反対側には細身の剣を携えている。

口調も軽い感じで跳ねるような声色はお調子者といったイメージを与えてくる。

胸元の絵は恐らくヒポグリフ。そして角笛、剣、お調子者で美人。

恐らくシャルルマーニュ十二勇士の『アストルフォ』だろう。クラスはライダー辺りか。

しかし彼は男だった気が…まさか女装か?まあ実際可愛いし似合ってるから気にしないけどさ。

 

「…これから戦いに赴こうというのにその様な態度はいかがと思います。サーヴァントもマスターも皆大切な生命なのです。

 ご安心下さいマスター。あなたの御旗は私が掲げ、この手で万難を廃してご覧に入れます。

 …あ、でも火だけは勘弁して下さい(ボソッ)」

 

調子よく言葉を紡ぐアストルフォを諌める様に苦言を呈したのはこれまた美女。

美女率高くないかい?後二人美少女居るし。

あと聞こえてるよ、最後の。なんかトラウマでも有るんだろうか。

彼女もまた鎧に身を包んでいる。アストルフォ程ではないがこちらも軽装か良くて中装の部類だろう。

前頭部に着けた銀の頭飾りや随所に施された装飾からは聖なる力の類が感じられ、彼女自身も清廉な空気を纏っている。

マントには十字の紋章が描かれており、両刃の長剣を携えている。

十字で清廉で火にトラウマ?…若干言葉にフランス語独特の訛りが感じられたのもヒントになるか?

根拠としては弱い気はするが、恐らくはオルレアンの乙女、『ジャンヌ・ダルク』辺りだろうか。

だがこれは半ば勘だな。当たっているならクラスはセイバー辺りになるのかな?

 

「ふむ、中々姦しい事だね。だが嫌いではない。ああ、君が私のマスターかね?

 これはこれは。中々にいい目をしている。祖国の為に働けぬのは苦渋の限りだが…

 私は一度死した身だ。最早それは叶うまい。ならば我が主となる者よ。

 貴公の眼前に立ちふさがる者は我が槍を以って串刺しにしてくれよう」

 

気品ある声音で宣言するのは色白の美丈夫。

黒を基調とした西洋貴族風の衣服に身を包んだ彼からはまさに貴族然とした気が漂っている。

床に突き立てた槍は多くの血を吸って来たのであろう禍々しさを含んでいるし、

その白い肌や威圧感とも取れる気配からして人外を連想させる。

とはいえ彼自体はあくまで人間のようだし、その口ぶりからしても従う事に否やは無いのだろう。

西欧貴族、禍々しい槍と白い肌、"串刺し"を強調するような言葉。恐らく態とヒントをくれたのだろう。

そうなるとこれは分り易いな。ほぼ間違い無く彼は串刺公『ブラド・ツェペシュ』、クラスはランサーだろう。

 

「…腹が空いた。どこぞに食うものは在らぬのか?」

 

ぽつりと呟いたのはこれまたケモ耳の偉く態度がでかい…というよりは古風な物言いの美少女。

その耳と垂れた尻尾、縦に裂けた瞳孔と獰猛な猛禽類を思わせる雰囲気。

獅子のような野生染みた空気を持つ彼女は特に武器らしい武器を持っておらず、

装備も胴体部を隠すプレート以外は布製という軽装だ。

残っているクラスはバーサーカー、アサシン、アーチャー。

野生的なら身を隠すのは得意そうだが纏っている空気はアサシンには向いていないだろう。

マトモに喋れている以上バーサーカーでもない。

となればアーチャー。野生児でネコ科の半獣で弓使い。

恐らくはギリシャ神話の狩人『アタランテ』だな。

 

「……………ねむい」

 

夜遅くに呼び出したからか眠たげに目を擦っている美少女…というか美幼女?

体にフィットしたノースリーブとパンツとソックスしか履いていない。せめてスカートぐらい無かったのだろうか。

手には一応包帯らしきものを巻いているが、かなり露出度高いぞこれ。

武器はナイフらしくお尻側のホルダーに二本。

呼び出した連中の中で一番露出度低いのが美丈夫で一番高いのが美幼女って何か間違ってないかこれ。

というかさっきから食い物とか眠いとかお前らサーヴァントだろうに。

寝床は兎も毎日全員喰わせるのは流石の俺でもしんどいぞ。

まあ兎に角。目もくりっとしていて可愛らしいのだが纏っている空気は一目で分かるほどに"濃い"。

これは血だな。圧倒的な血の匂い。戦場で倒したとかでは無く、無常な殺戮の果てに付く匂いだ。

そして明らかな英語圏…それもイギリスの訛り。知り合いにイギリス訛りのキツイ奴が居るからよく分かる。

気配と言葉を発した事から恐らくはアサシン。

アサシン、幼女、イギリス訛り、ナイフ…ぐっ、分からん。

容姿はぶっ飛んでるし気にしない方がいいか?あとは…おや、よく見るとナイフ以外にメスも携帯しているな。手術用のアレだ。

しかしメス…つまり外科用具となるとかなり最近だな?それに神性とかそういう類は感じないし。

イギリスでメスやナイフを使って英霊に成る程人を殺した女性…?

………あっ!?まさか『ジャック・ザ・リッパー』!?いや女性の方だから『ジル・ザ・リッパー』か?

しかし世間一般ではジャックで通っているし、真名になっているなら恐らくこちらだろう。

若干微妙だが他には思いつかない。

 

「……………………」

 

で、最後の一人。コイツはバーサーカーのため喋れない。

だが目には高潔そうな意思が見える。明らかに狂っていない。

それ以外では全身の関節等の要所を中々派手な鎧で覆っており、

背中にはかなりの大剣を携えている。ソレ以外に特徴は………よく見ると鎧の一部に竜の意匠が刻まれているな。

知らぬ者が見ればただの模様だろうが、あの模様が竜の意味を持っていると以前文献で読んだのを思い出した。

サーヴァントの容姿や装備に関しては語られている部分以外は一般的なイメージ等の影響を受ける。

となると竜のイメージがあり、大剣を持っている英雄か…

纏っている空気には不純なものは混ざっていないようだから完全な英雄だろう。

問題は狂化の影響が殆ど見られない事だ。

本人のスキルや宝具によるものか?しかしそれなら言葉も発せられるだろう。

このお互いにマスターでありサーヴァントである事を確認する一種の儀式的な場面で黙っている理由はない。

可能性が無いでは無いが…そういう事では無い気がする。

となると狂化の影響が薄い…いや、単に狂化のランクが低い?つまり狂化を必要としない程強力なのか。

もしかしたら狂化スキル自体無い?となると喋れないのは自分自身によるもの?だからバーサーカーとして喚ばれた?

正統派で強力な英雄、大剣を使い口が利けない…竜のイメージ。竜…不死…不死?

ああ、根拠は弱いが恐らくこれだ。竜血の騎士『ジークフリード』。

竜の血によって不死性を得たドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する主人公だ。

 

多少考察に時間を割いてしまったがこれで全員分の真名の予想は済んだ。

かなり大雑把だったり当てずっぽうな部分もあるが、俺のこういう勘は結構当たるので自分を信じる事にする。

どっかの兄貴も自分の信じる自分を信じろと言っていたしな。

ちょっとドキドキするが勇気を出して言ってみる事にする。

 

「…ああ、俺がお前達のマスター、魔術師『霧雨(きりう)恭也(きょうや)』だ。

 …よろしく頼むぞ、『玉藻の前』、『アストルフォ』、『ジャンヌ・ダルク』、『ブラド・ツェペシュ』、

 『アタランテ』、『ジャック・ザ・リッパー』改め『ジル・ザ・リッパー』、『ジークフリード』」

 

『なっ!?』

 

おおー、驚いてる驚いてる。どうやら全員当たってるみたいだ。俺すげえ。今生の運使い果たしちまったんじゃねえか?これ。

少し誇らしげになって見渡してみると皆驚きから覚めて感心したような目でこちらを見ている。

玉藻の前はなんだか目をキラキラさせているし、アストルフォは何だか面白そうなものを見つけた目をしているが。

ジルに至っては先程まで警戒していたのがすっかり鳴りを潜めている。

 

「取り敢えず呼び方は好きにしてくれ。俺の方は『たまも』、『アスト』、『ジャンヌ』、『ブラド』、

 『ランテ』、『ジル』、『フリード』と呼ばせて貰うが………良いようだな」

 

取り敢えず呼び方はこんなもんでいいだろう。

ジルがなんか凄く純粋な目でこちらを見ているのが気になるが。

ジャックじゃなくてジルって呼んだのが良かったんだろうか。

あとたまもがはしゃいでいる。長くなりそうだから聞き流すけどすっごいマシンガントーク。

まあそれよりも先にやっておく事がある。

 

「『令呪を以って命ずる。俺の許可無く自己及び俺の防衛以外での攻撃・戦闘・暴走を禁じる。勿論勝手な行動もだ』。

 ま、いきなり仲間割れされても困るからな。一応保険という事で我慢してくれ」

 

特にジル…は大丈夫か?あとはランテとか野生児だし。何するか分からん。

色んな属性やら種族やら混じってるし、下手な問題起こされる前に保険は必要だろう。

マスター権は一体分だし、全員で一体のサーヴァントとして呼んだ以上令呪も残り2回。

どの道この家から出られるのは1度に1体が限度なんだが…令呪のストックは可能な限り稼ぐようにしないとな…

適当なマスターから奪うか。幸い方法も無いでもない。

 

「さて、取り敢えずは能力の報告会とか自己紹介も兼ねて…飯にするか」

 

若干名が目を輝かしたのは本人の名誉のために伏せておく。

 

 

 

 

 

 

 



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間桐桜、蟲師始めました (fate 特にR15 桜×蟲)

R15というかどっちかと云えばR17とかCEROでDみたいなそんな感じの半エロ小説。
あと登場人物は5歳とか書いてあったとしても18歳以上です。小学校に通っててランドセル背負ってても18歳以上なんです。
年代は第五次聖杯戦争が原作CD版発売の2004年冬と設定。第四次は1994年冬。皆長袖だったんで。




==================================

 

「すごーい…」

 

当時まだ5歳だった私は蟲蔵と呼ばれる場所に連れてこられ、言いようのない感覚を味わっていました。

足元で蠢くのは白くヌラヌラとした蟲達。

その時の私には知る由も有りませんでしたが、ソレらは紛う事無く男人が持つアレの形をしていました。

しかしまだ5歳だった私にはそれがどういったものであるかは理解出来ず、

立ち上る匂い、ネタネタとした体液の感触、

くちゅくちゅという水音、意味は解らなくとも本能が知っているその姿。

それらを見て、聞いて、嗅いで、触った私は、ドキドキと高鳴る心音と言いようのない恍惚とした気分に包まれてしまいました。

 

「ほうほう、恐怖でも困惑でもなく興奮か。中々どうして素質があるようではないか」

 

満足気に頷いたお祖父様は、私に横になることを命じました。

特に嫌悪感も感じなかった私は素直に言うことを聞いて横になり、

直後お祖父様に操られた蟲達が私の体へと群がって来ました。

私が抵抗しない事を確認したお祖父様はやることがあると早々に蟲蔵から出ていきました。

それから私は1時間ほどかけて蟲に陵辱されていきましたが、私はその余りの心地よさにすっかり夢中になっていました。

蟲達は私を凌辱するだけでなく、私の体を作り替えて寄生するために全身に入ってきます。

まるで水に沈み込むかのように自然に、私の全身の肌という肌から私の体内へと侵入してきたのです。

それすらも私は心地良く感じ、全身を襲うあまりの気持ち良さに身を委ねていた…その時です。

お腹の中に居る蟲達に違和感を感じました。それはごくごく小さな違和感でしたが、

一つの感覚で全身が一杯になっていた私には妙に気になる感覚でした。まるで体の中から糸が伸びているような感覚。

蟲達がタコ糸を引きずりながら体の中に入ってきているかのような、むず痒く気色の悪い感覚。

もっともっと気持ち良さを味わいたかった私は無意識でその感覚を邪魔に思い、その感覚をどうにかしようと意識を集中。

すると数匹の蟲から太い糸が、ソレ意外の虫からごくごく細い糸が出ているような感覚に行き当たり、

特に煩わしかった太い糸を、思いっきり引きちぎるような"イメージ"をした、その瞬間。

 

―ブチッ―

 

という音がしたような気がしました。恐らくは気のせいだったはずですが、

同時にそれが今にして思えば私の初めての魔術…それに類するものの行使だったのでしょう。

太い糸が切れると同時に細い糸も弛んでいくような感覚を感じ、

安心した私はそのまま蟲達との戯れに身を任せて愉しみました。

とっても心地のいい事をしてくれる蟲達に私は愛情すら感じ、何時間も戯れていたのです。

そして全ての蟲達が体内に寄生し終わったところで私もまた心地良い微睡みに任せて眠りにつき、

次に気がついた時は既に日付が変わってしまっていました。

そしてこの日、冬木市で一人の魔術師とその孫がその生命を終えたのでした。

 

 

 

 

「お祖父様?お兄さま?」

 

目が覚めた私は空腹を感じて屋敷の中を歩きまわりました。

屋敷の中を歩きまわっていると数人の人間…使用人や義兄である間桐慎二が倒れているのを見つけ、

お祖父様の書斎には無数の蟲達が所在無さげに蠢いていました。

それらを見た瞬間私は『死んでいるんだ』と理解しました。

目が覚めてからというもの、私の頭の中には知らない筈の知識が流れ込んで来ています。

それによって兄や使用人達が死んでいて、祖父が蟲に分解されてしまった事を知りました。

けれどまだ5歳という生命というものに関しての認識が薄い年頃、

精神自体まだ未熟だった私は知識としては死というものが理解出来ても、それをどうこう思う事はありませんでした。

そもそも出逢って間もない、使用人や義兄に至っては初対面で死体だった為というのもあったのでしょう。

死んだものはどうすればいいかも知識が教えてくれました。動物なら捌いて食料に、人間なら蟲に食わせてしまえばいい。

それはお祖父様が持っていた知識っであり考え方でしたが、

そのお爺様が死んでいることを"知っていた"私は、体の中の蟲さん達が教えてくれているのだと勘違いしてしまいました。

自分が知らない事を沢山教えてくれる蟲さん達。

そこには間桐の秘奥に関する重大な事から使用人達が持っていたであろう家事の知識まで、

様々な事を教えてくれる蟲さん達に感謝し、私はそれを実践したり実験したりしながら、生活していく事になりました。

蟲さん達は非常にいい子達で、お願いすれば家事のお手伝いなんかもしてくれますし、

来客時の対応のし方なども教えて下さいました。

食料の買い方からその調理の仕方、お金の使い方も教えてくれて、私はどんどん蟲さん達が好きになっていきました。

 

…これは私が大人になってから知ったというか気付いた事なのですが、

実際は蟲さん達が教えてくれたわけでは無くて、私が糸のような感覚を引きちぎった時。

あの時に糸の先に繋がっていた魂の情報を根こそぎ持ってきていたようなのです。

魂を私に"喰われた"事で、お爺様や使用人さん達は死んでしまったのです。

流石にこの事実に気付いた時は胃の中のものをぶちまけました。

ソレ意外でも苦労したり寂しくなって泣きたくなったりすることも多々ありました。

でもそんな時は何時だって、察してくれたように…事実察してくれているのでしょう、

いつも蟲さん達が私を慰めてくれるんです。

私のナカから溢れてきて、甘えるように、慰めるように擦り寄って、そしてたっぷりと可愛がってくれる。

そんな毎日を過ごしながら成長していくことで、私はすっかり蟲さん達のお嫁さん兼お母さんになってしまっていました。

でも、その事に後悔はありません。むしろとっても嬉しいです。

優しくしてくれて可愛がってくれる蟲さん達が、私は大好きですから。

 

「んっ…ふふふ、今日も一杯可愛がって下さいね♪」

 

毎日を一緒に過ごす内に栄養と魔力を蓄え成長した蟲さん達に向かって甘えた声を出す。

カマキリのようだったりイモムシのようだったり様々な姿形の蟲さん達。

中には私の倍はあるような体躯の子も居たりして、彼らはみんなみんな大好きな私の家族。

さあ、今日も『鍛錬』のお時間です♪

 

 

 

 

 

 

1993年、春、某日、桜5歳

 

「うわー、蟲さんいっぱい~♪」

 

『ピギーピギーピギー』

 

幼い私の目の前には沢山の蟲さん達。

お爺様達の魂を喰らい、蟲師の術の核となる刻印虫も手に入れた事で私は全ての蟲の支配権を手に入れました。

取りえず家の中に居た蟲さん達を集めて周り、欠けている虫さんが居ないことを知識と蟲さん達の両方で確認。

一旦蟲蔵に入って体内の蟲さん達を全て外に出したのですが、これが出るわ出るわでかなり広かった蟲蔵が一面蟲だらけに。

皆さんご存知の形状なので台所でカサカサ言うアレとは違って可愛らしくて良かったです。

ただねたねたぐちょぐちょという音を聞いていると思わずダイブしたくなるのが難点でしょうか。

勿論潰したりなんかしませんよ。蟲さん結構頑丈ですから女の子一人ぐらいなら勢い良く飛び込んでも潰れませんし。

しかしこれだけの数の蟲さん、一体私の体のどこに入っていたのでしょう。

圧縮か分解でもされていたのか、それとも青い狸さんのポケット的な事になっているのか。

良くは分かりませんが皆入れるという事で許容量限界も無いようですし、

赤ちゃんというか新しい蟲さんが生まれても一緒に居られるというのは結構嬉しかったり。

そういえば初めて蟲さんの赤ちゃんを孕んだ時はすっごく嬉し恥ずかしかったのを今でも覚えてます。

 

「みんなおいで~♪」

 

『ピギー♪』

 

ぺたんと女の子座りをして皆を呼ぶと、何百匹もの蟲さん達が一斉に群がってきます。

ある子は口の開いた頭を撫で撫でしてあげたり、ある子は体の上を好きなように這わせてあげたり。

そうして楽しむ事数時間。なんでそんなに経ったのかは…お察しください♪

で、体のナカを肌の下や内蔵や子宮の中なんかをうぞうぞと這いまわる蟲さん達。

これが黒いGみたいな蟲さんならトラウマものだったんでしょうけど、幸いに蟲さん達はアノ姿。

体の中を這い回られる感覚はとても心地よくて、一緒に居る感じがするので大好きでした。

 

「えーっと、味付けは塩こしょう。蟲さん取って~」

 

『ピギー』

 

そんな甘い感覚を愉しみながら今私がしているのはお料理です。

蟲さん達は結構賢くて、日常的なものなら大概は見分けが付くんです。

もしかしたら私の知識やイメージを何らかの形で受け取っているのかも知れませんが。

こうしてお料理の時も調味料を取ってもらったり、

幼い私ではフライ返しが出来ないので蟲さん達にお願いして筋力を強化して貰ったり。

そうそう、蟲さん達が体内に居るおかげか、私の中から強化して貰う事が出来るんです。

正確には蟲さんに協力して貰ってるのかな?

例えばフライ返しの時なんかは腕に蟲さんを一杯集めて腕の中で力を入れて貰うと、

本来の筋力に蟲さん達のぱわーがプラスされて結構力持ちになれるんです。

具体的には5歳で中華鍋を軽々とフライ返し出来るぐらいに。

そんな風に日常生活でも色々と助けて貰いながら、頑張って蟲さん達と一緒に暮らしていくことにしました。

 

「あれー?なんかちがーう。うーん、がんばろう!」

 

『ピギー!』

 

思ったような味付けに出来ず首を傾げながら腕を振り上げると、

食卓の上に居た数匹の蟲さん達も一緒に背伸び(?)してくれました。

テーブルの上にはいつもの蟲さん達。今日は蟲さん記念日ということでハンバーグ。

蟲さん達にも細かくしてあげてお裾分け。なんと雑食だったようです。

というよりも、魔力に変換しているようですけど。

知識の中で見つけたさーばんと(?)みたいだなーって思いました。

今日は好きな物食べちゃったけど、ちゃんと栄養を考えないといけないらしいので明日からは気をつけよう。

蟲さん達が体の中に居るので病気にはならないんですけど、

好き嫌いするのは駄目らしいので頑張って野菜も食べることに。

蟲さん達が教えてくれてると思っていたその頃の私は、特に疑いも無くそう決めたのでした。

 

「えーっと、せいはいせんそう?うーん、よく分かんない。えっと、今度は出なくていいんだよね」

 

『ピギー?』

 

取り敢えず得た知識を漁っていた私は聖杯戦争に関する事を色々知ったのですが、

第四次に関してはお爺様も静観するつもりだったようで、

私もよく分からなかったのでそれに従う事に。

根源とか、万能の願望機とか、その時の私には関心の無いものでしたし。

 

「まじゅつのひとく?お口ちゃっくなの?よわみはみせるべからずー、なんだって」

 

『ピギー?』

 

蟲さん達もよく分からないといった感じだったけど、取り敢えず黙っている事にしました。

弱みを見せてはいけないという言葉を真に受けて、お爺様達の事まで内緒にしてしまいました。

こ、この当時は死についてなんてよく分かってなかったんですからしょうがないですよねっ。

で、この二つの選択によって後に悲劇を生むんですけど…

うぅ…だってしょうがないじゃないですかぁ。何も知らなかったんですから…

 

「えっと、人が来ることはあんまりなくて、来たら…おうたいできません?でいいのかな?」

 

『ピギピギー』

 

お爺様達が死んだことはお口チャックと決めた私は取り敢えずにわか仕込みの応対を憶えました。

普通ならこれではその内ボロが出るというか怪しまれる筈なんですけど…

なにせ、お爺様があんな方でしたから。それはもう胡散臭くて裏で何か企んでそうな方でしたから。

尋ねてくる方なんて宅配の人か魔術師御三家の方ぐらいでしたし、

御三家の方々はお祖父様が対応に出れないと伝えると苦々しい顔をして帰っていきます。

恐らく聖杯戦争に向けて暗躍しているとでも思っていたのでしょう。生きていたら多分正解です。

そもそも聖杯戦争の事もあって余り連絡自体取ろうともして来ませんでしたし、

対応に出たのが幼い私という事もあって強引にも出来なかったようです。

可哀想とか言うより、幼い私に対応させている時点で強引に行っても無駄だと思ったのでしょう。

実際は死んでいたわけですが。

間桐としての役割は理解していたので、お仕事だと思って頑張りました。

毎度毎度重要な事まで私に任せていたのは流石に怪しまれましたが、

何を聞かれても応対できませんと答えたことで、そう言うように命じられていると思ったようです。

実際はそれ以外に何も思いつかなかっただけなんですけど。知識はあっても応用力は子供ですから。

表に出ないのは自分自身に何かしているからだとか色々想像を巡らしていたと思うんですが…ごめんなさい死んでます。

 

「よっし!あ、お片づけしなきゃ」

 

『ピギー』

 

すっかり忘れていた食器を下げ洗い場に持って行き、

料理の時に身長が足りないため食卓から持ってきていた椅子の上に立って蟲さん達と一緒に洗っていきます。

洗剤塗れになっても平気そうだったり、水に濡れても器用にお皿を持ち上げてくれたりと、意外とハイスペックです。

私と蟲さん達の食器を洗い、料理に使った後水に浸けておいた調理器具も洗い終わり、

お腹いっぱいになった私は眠気を感じてお昼寝する事にしました。

勿論蟲さん達も一緒にお昼寝するので…とっても気持ちよかったです♪

 

 

 

 

「ええっと、陣っていうのを描くんだよね。血とかペンとか…あ、蟲さん達でも出来るかな?」

 

『ピギー!』

 

ただいま魔術の練習中。本格的に習ったことは無かったのですけど、知識が手に入ったので試す事に。

いきなり難しいものは危険らしいので、まずは簡単に水を集める魔術から初めてみました。

陣を描こうと私が呟くいた途端に私のイメージ通りに並んでくれる蟲さん達。

ちゃんと魔力も発していて、陣として成立していました。

そのまま私の魔力と魔術回路を使って発動。

辺りに漂っていた湿気が陣の中心に集まって水溜まりを作っていきます。

 

「わー、すごーい!やったよ、蟲さん!」

 

『ピギー!』

 

知識があった事と蟲さん達の手慣れたバックアップのお蔭か簡単に成功。

その後も簡単な魔術を色々と試して行き、何度か失敗も重ねながら練習を繰り返しました。

どうやら蟲さん達は魔術発動の触媒としてもかなり優秀なようで、

陣の要らない魔術で単純なモノは蟲さん達に頼んで遠隔発動出来たり、

蟲さん達に陣を描いて貰えば中規模の魔術が即席で出来たり、

その上身体能力の強化もしてくれて本当にハイスペックでした。

どうやら多少なりとも個体差があるようで、それぞれの用途で分担作業をしているようです。

将来様々な形に進化するその片鱗が既にこの時見え隠れしていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 



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遊戯王GX―イモータルゴッデス― (遊戯王GX オリカ ある意味神様トリップ)

 

「んむ…ふぁ…ねむぃ…」

 

ああ、どうも皆さんおはようございます。

俺の名前は青葉(あおば)恭也(きょうや)。今年で25になる社会人だ。

カードゲームが好きで、某カードゲームの開発会社に努めている。

とはいえただの平社員で、開発担当ってわけでもない営業課なんだけどねー。

同期で開発担当になった奴が居るんだがひじょーに羨ましい。

さて、さっさと歯を磨いて飯食って着替えて、今日も元気に出勤しますかー。

 

「………ここ、どこ?」

 

そう思ったのも束の間。部屋から出た俺は一瞬呆けてしまった。

なぜなら、自分の部屋から出たそこは見慣れない間取りの家だったからだ。

慌てて自分の部屋に戻って確認すると、そこはいつも通りの俺の部屋。

置いてあるものまで寸分の狂いもない。

しかし、一歩部屋から出ればそこは見知らぬ家。

トイレは右手側でなく左手側だったし、リビングとキッチンは広い。

キッチンはシステムキッチンという奴だろうか。リビングには最新っぽい大型液晶テレビが。

明らかに見慣れた築十数年の安マンションではない。

むしろ、見知らぬ家の一室が俺の部屋だったと言うべきか…

混乱する頭を抑えつつ、ベランダのガラス戸を開けて外に出る。

そこから広がる光景は、明らかに俺が見知った街並みでは無かった。

 

「どうなってんだ、これ。何かの冗談か?夢でも見てんのか?」

 

人間パニックに陥ると普段ならしないような事をしてしまうもので、

頬を抓って確かめてみたり、必死に夢から覚めるために意識を働かせたり、

ドッキリのパネルや隠しカメラを探してみたり。

そうしている内に何とか落ち着いてきた俺は、とりあえずテレビを点けてみる事にした。

ごくごくいつも通りの、日常を取り戻そうと無意識的に行ったその行動は、しかし俺に現実を叩きつけた。

 

『現在ゲーム業界でトップシェアを誇る遊戯王、その開発者であるペガサス氏にインタビューを…』

 

「ペガサス!?え、マジモン!?いやだってコスプレには見えないし、真面目な情報番組っぽいし…えっ!?なんぞコレ!?」

 

今度こそパニックに陥る俺。

ペガサスと言えば、俺が務めていた某企業で開発・販売されていた遊戯王というカードゲーム、

その物語の登場人物であり、物語上では遊戯王は彼が開発したことになっている。

要するにとんでもない重要人物である。

驚いた俺はチャンネルを回し他の番組を見ると、今度は海馬コーポレーションの社長、海馬瀬人の記者会見の様子が。

更にチャンネルを変えれば海馬ランドのCMやデュエルアカデミアの入学募集CMが流れていた。

その途中で某カップラーメンのCMやら某大型百貨チェーンのCMやらが流れていたのがシュールに感じる。

兎も角、こんなリアルなペガサスや海馬瀬人にインタビューするといったネタ企画を、

複数のチャンネルで同時にやる筈も無い。

つまりはこれがたった一つの現実、という事である。

 

「え、何これ遊戯王?俺来ちゃった?マジで?……………キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!」

 

 

 

 

 

 

とりあえず、分かったこと。

ここは遊戯王の世界で間違いないらしく、それもGX辺りの時間軸らしい。

もしかしたら1年2年は前後するかもしれないが、恐らく間違いない。

あと、若返っていた。具体的に言うと十代と同年代ぐらい。これは行けという事なんだろうか。

そして部屋のクローゼットには俺が所有していたカードの全てが入っていた。

コレクター魂を刺激され、カード制作会社に努めている事を利用して集めまくったものである。

それでも給料の大半は飛んでいったが…

それは兎も角、枚数、種類共に恐らく問題無い。

新しく手に入れたカードはケースに入れ整理して保管していたため、減ったりしていれば分かる。

ただ幾つか変わっている点があり、アニメとOCGで効果が違うモノは、持っているOCGの枚数分のアニメ版が増えていた。

あと、トークンカードが増えていた。デッキ外のカードを使えばいい気もするが、まあオマケだろう。

 

そして何より、俺の一番大事なカードにオマケが着いて来ていた。

俺の1番大事なカードとは《不滅神(イモータル・ネス・ゴッデス)―NecroNaia(ネクロナイア)―》である。

聞いたことが無いと思うが当然だ。

このカード、実は企画段階で破棄されてカード化も映像化もされなかったカードである。

こういう企画倒れに終わったカードはかなり多い。

開発部に務める同期曰く、必死で効果やら考えてカード化まであと一歩だったものが諸々の都合で却下された時は、

開発部の上司をぶん殴ってやろうかと思った、との事。

なぜそんなカードを持っているかと言うと、世界大会でベスト4になった時、記念品として貰ったのである。

どうやら先程話した開発部所属の同期で友人の男が開発部の偉い人に頼んでくれたらしく、

誕生日が近かったという事もあって特別に制作、プレゼントしてくれたのだ。

試作用の機械があるため、何かの祝いに頼んでくる人は結構居たらしい。

俺はそのカードをすぐに気に入り、これまでずっと大事にしてきた。

それから数年経つが大きな大会にはでた事は無い。この一番大事なカードは非正規品のため大会では使えないからである。

今回この世界に来たことで、非正規品であるこのカードが無くなっているのではとヒヤヒヤしていたのだが…

 

…何故か、他の『イモータル・ネス』シリーズのカードまで着いて来ていた。

しかも企画段階である程度纏まっていたカード全てである。

普通ならここから更に数種類に絞り込んでシリーズ化、その後に製品化されるはずなのだが。

何故かデッキ一つ作っても余るぐらいの種類と枚数が着いて来ていた。

しかし俺のネクロナイアだけは1枚しか無かった。

…もしかしたらこのカードの設定も関係があるのかも知れない。

このカード、三幻神や三幻魔に匹敵する力を持つカードの一つとして登場する予定だったのだ。

その設定がそのままなら、ちょっとばかしヤバイ事になりそうな気もするのだが。

 

「…大丈夫なんだろうか、コレ」

 

「呼ばれて飛び出て以下略よ」

 

いや略すなよ。と思わずツッコミながら振り返ると、何故かそこには妖艶な雰囲気を纏った極上の美女が居た。

年の頃は20代ぐらいだろうか。背は150から155程度、そして胸がデカい。EかFはあるんじゃなかろうか。

あれを揉みしだいたら気持ちよさ…げふんげふん。

俺がいきなり美少女が現れたことに目を白黒させていると、

その少女はごく自然な様子で俺に抱きついてきた。…え?

 

「いや待て待て待て!?」

 

「ん?どうしたの?ふふ、おっきくなっちゃった?」

 

嬉しそうな顔を上気させてなんちゅうことを言うとんじゃあ!?

いや、そうではなく。おかしいだろうこの状況は。

カードを弄っていたらいきなりどこからともなく美少女召喚。

しかもその纏っている装束はどうも俺が手にしているカードのものに似ていて…

いや、うん、現実逃避はやめよう。このタイミングでこれだ。どう考えてもあれだろう。

 

「まさかとは思うけど、…ネクロナイア?」

 

「ネイア、って呼んで。これから宜しくね、キョウくん?」

 

うは、キョウ君て。初めて呼ばれたぞそんな呼び方。

そしてネイアの妖艶な容姿と色っぽい口調でそんな呼び方されたら…辛抱たまりません。

いや、だからそうではなく。

なんでここに居るの?そりゃあ一番大事にしてたとは思うけどさ。

あんた異次元に存在する終末世界の不死者の神って設定じゃなかったっけ。此処に居ちゃマズくない?

 

「いいのよ、私神だもの。分体を作るぐらい出来るわよ?」

 

「今目の前に居る方が本体なんて冗談は…」

 

「あなたに紛い物で会いに来るわけ無いじゃない♪」

 

こいつガチで自分の世界ほっぽって来やがったーーー!?

というか抱きしめないで!主に胸で溺れる!気持ちいけどやめてー!

 

 

 

 

「ふふふ、大好きよ、キョウくん♪」

 

うっは柔らけえ…

あ、どうも。諦めて受け入れる事にした恭也です。

いやだってこんな超絶巨乳美女に抱きしめられたら理性なんて飛ぶっちゅーに。

まあ元々大事にしてたしね。精霊化してむしろ嬉しかったし。

それにしてもお前の世界はいいのかとか、

カードでは巨大なガイコツっぽい感じだったのになぜに美女?とか色々言いたい事はあるんだけど。

こんな美女と相思相愛ならもうそんな事どうでもいいよ。

大人のお姉さんって感じで色気がムンムンです。凄いです。高校生ぐらいの頃に憧れたなあ、大人のお姉さん。

今中高生ぐらいの体だし、丁度いいかもしれない。

 

なんてことはさておき、取り敢えず一応の紹介をしておこう。彼女は不滅神NecroNaiaの精霊で、ネイア。

黒髪で黒い瞳の日本人らしい容姿は遊戯王世界では珍しい。

現代日本でずっと暮らしてきた俺からすると違和感が無くて嬉しいが。

髪はストレートで腰辺りまであり、本人曰く動きまわる時は一つに束ねるそうだ。

遊戯王世界の住人らしく前髪を山型にして両サイドに分けている。

王様や蟹みたいにおかしなレベルじゃないので違和感も然程無い。

服装は黒や白を貴重としたドレス姿。不死の女王でもあるらしいので納得。

あと肌は白い。そりゃあもう青白い。しかも冷たい。完全にアンデッドです本当にありがとうございました。

けど肌や胸は柔らかいってどいうことなんだろうね。

なになに、俺の趣味に合わせて?いやゾンビ趣味は無いと思うんだけど…あ、容姿の方ですかサーセン。

 

色々とネイアと話した結果、このネイアは正真正銘俺の持っていたネクロノイアの精霊だったらしい。

つまり俺と一緒に世界を超えてきたのだ。

ネイアの世界ではイモータルと呼ばれる不死者が跋扈しており、その創造主にして偉大なる母、らしいのだ。

本当にこんなとこに居ていいんだろうか。

そんでもって、あのイモータルシリーズは俺の世界での原案を元にネイアの力で完成させたそうで。

…もしやと思って聞いてみたところ、俺を呼んだのは彼女らしい。

 

「だってあなたの世界では私は精霊として現れる事は出来なかったから。…ずっと会いたかったのよ?」

 

そんな風に言われて怒るより喜ぶ俺は早速末期症状が出ているのだろうか。

いや、こんな美女に会いたかったとか、あなたに会うために頑張ったなんて言われたら…ねえ。

実際かなり無理して頑張ったらしい。暫くは力を節約するそうだ。

神と呼ばれる彼女がそこまでになったのだから相当大変だったのだろう。

いきなり了解もなしに呼ばれたのはちょっと困るが、

帰りたけければ彼女の力が戻りさえすれば帰れるらしいので、長期旅行だとでも思っておこう。

というか、彼女を手放すのは惜しい。

 

「あれ、でもじゃあ俺今無断欠勤?」

 

「世界同士に時間の繋がりなんて無いのだから関係無いわ」

 

だ、そうで。これで安心だ。

最近忙しくて休みもあまり取れなかったし、丁度いいと思っておこう。

 

「それで、これからどうするの?」

 

そう、問題はそこだ。

折角来たのだからさっさと帰るなんてのは論外として、原作に関わるか否か。

まあ関わった方が面白いのは事実だろうし、原作を知っている以上本当に危険なモノは避ければいい。

どうしても避けられなくても、このデュエル万能の世界だ。下手すりゃネイア召喚で終わる。

ネイアさんマジチート。実際効果も相当に強力だし。

まだ一度も使った事が無いのは不安だが、

まあそこら辺は後で十代辺りに勝負吹っ掛ければ嬉々としてデュエルしてくれるだろう。

ネイアと適当なデッキでテーブルデュエルをしてもいい。

で、原作に関わるとしてどう関わるか。

アンチは論外。別に原作キャラアンチで俺ツエーも嫌いってわけじゃないが好きって程でもないし。

あんまりムカツイたりそれはどうよって思った時は別として、

基本的には主人公サイド寄りに進めていこうと思う。

あとはメインキャラ級に出張るかサブキャラ級で落ち着くか。

十代の性格から考えて、レッド寮に行くだけでメインキャラほぼ確定だろう。

逆にイエロー寮に行けばサブキャラに落ち着くだろうが、俺次第では関われる筈。何が起こるか知ってるんだし。

ブルー寮は高等部からの編入ではダメらしいので無視。

昇格は…ブルーの連中差別意識でかいからなあ。居心地悪そう。デュエルなんて何時でも何処でも出来るし。

イエロー寮に居れば関わる事件を自分で選べれそうだからイエロー寮にしよう。

となれば筆記試験で上位を取らなきゃな…あ、でも簡単なんだっけ。じゃあ大丈夫か。

実技は…とりあえず試験官に嫌われるようなのは却下。ビート系でいいか。

問題はシンクロを使うかどうかである。

十代とかセブンスターズとかその辺相手に非公式で使うなら問題無いだろう。

ネオスやユベルが問題にならなかったのだから、俺のカードも使えさえすれば大丈夫のはず。

だが公式で使うとなると話は別だ。何せルールにまで影響を及ぼすカード群である。

流石に無断で使うには色々問題だろう。

 

「まずは海馬社長に売り込み…いや、あの人なんか怖いしなあ。賄賂にブルーアイズ渡せば…あっさり行きそうだな」

 

あと候補としてはペガサス会長辺りか。カード制作はあの人なんだっけ?

デュエルディスクとかのシステム面が海馬社長なんだっけ。

とりあえず入学願書を募集しだしたばかりだ。まだ試験までは遠い。

願書だけ出しておいてあとはペガサス会長と海馬社長にアポ取らないとなあ。

取り敢えずシグナー龍は…各1枚だけ放出するか。この世界ではこの時代から存在したって事になるだけだろうし。

それ以外の機皇帝とかああいうのはちょっと細工しておかないとなあ。

 

「考える事が多いなあ」

 

「いっそ洗脳でもしちゃいましょうか」

 

「いや、洒落になってないから」

 

ネイアは頭いいみたいだし暴走する心配は無いだろうけど、

俺が頼んだらマジでなんでもやってくれそうなのがちょっと怖い。

まあ俺が嫌がるようなことはしないだろう、多分。

 

「とりあえず、願書出さないとなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

「何をしている!さっさと構えろ!」

 

もう一度言う。どうしてこうなった。

今、俺の目の前には粉砕☆玉砕☆大喝采でお馴染みの海馬社長。

アニメと寸分違わぬ様子で紛れも無い本物。

今居る場所はKC社内のデュエルフィールド。

その横で観戦しているのはペガサス会長。

何が起こっているのか分からないと思うが俺も以下略。

いや、まあ実際は大体の人は予想が付くと思うが、

俺が海馬社長とペガサス社長にアポを取り先に海馬社長に会いに行った所、なぜかペガサス氏が居た。

やっぱり4枚目のブルーアイズについてお話がありますとか、

新しいデュエルの可能性について提案がなんて言ったのがマズかったのだろうか。

マズかったんだろうな。とはいえこの二人に会うには生半可な手段では無理だっただろうからそれはいい。

しかし何故デュエルする事になっているのか。

 

簡単である。俺が見せたシンクロモンスターをペガサス社長がいたく気に入り、

俺が渡した4枚目のブルーアイズを眺めてご満悦だった海馬社長が、

そのシンクロモンスターとやらの実力を見せてみろ、と言い出したのだ。

4枚目のブルーアイズやシンクロモンスターについては、特殊な手段で手に入れたと話している。

精霊に関わる事を匂わす事を言っておいたので、

頭のいい二人なら俺が精霊に関する事件に関わり、その結果手に入れたと思ってくれるだろう。

ブルーアイズは本来ならもっと持っているのだが、使う予定も無いし全部渡すのも勿体無いので1枚だけ。

シンクロモンスターも各種1枚だけ持ってきている。

 

「やるしかない、か。デュエル!」

 

「ふん、やっとやる気になったか。デュエル!」

 

 

     先攻:恭也 LP4000

               VS

                  後攻:海馬 LP4000

 

デュエルディスクのターンランプが点灯。俺の先攻のようだ。

デッキは調整と回しを終えたばかりのイモータルネスデッキ。略して芋樽。

ネイアに適当なデッキを使って手伝ってもらった。

このデッキもシンクロデッキだし、オリジナルではあるが彼らにとってはどれも同じだろう。

実戦で試したかったので丁度いい。

 

「先攻は俺だな。ドロー!」

 

◇手札

イモータル・ネス・センチュリー

イモータル・ネス・ポット

イモータル・ネス・ミラーフォース

イモータル・ネス・セイバー

イモータル・ネス・クリボー

イモータル・ネス・ウィッチ←New

 

おっと、あぶねえあぶねえ。危うくワンキル揃うとこだった…

いや、これでも危ないか?LP4000だもんなあ。

 

「スタンバイ、メインフェイズ。俺は手札から《イモータル・ネス・センチュリー》を発動!」

 

不滅者達による世紀末(イモータル・ネス・センチュリー)

フィールド魔法

このカードがフィールド上に存在する限り『イモータル・ネス』と名の付くカードの、

墓地及び墓地に存在するカードに対して発動する効果又は墓地から発動する効果のいずれも無効にすることは出来ない。

『イモータル・ネス』と名の付くモンスターが墓地に送られた時、送られたカードのコントローラのフィールド上に

イモータル・ネス・トークン(アンデッド族・闇・星1・攻/守0)を特殊召喚する事が出来る。

1ターンに1度、自分フィールド上に存在する『イモータル・ネス』と名の付くカード2枚をリリースする事で、

自分の墓地に存在するレベル8以下の『イモータル・ネス』と名の付くモンスターを特殊召喚出来る。

 

 

俺がカードの説明を終えると、海馬社長はふうんと鼻を鳴らした。

予想通りとはいえブレない人だなあ。

 

「ふん、蘇生効果か」

 

このカードのメインはやはりトークン生成とレベル8以下の蘇生効果、これに尽きる。

効果封じはそれらの墓地利用を阻害されないためのオマケだ。

本来なら別のカードで保護するべきなんだろうけど、

開発段階の設定そのままなため複数の効果が一つのカードに纏められてしまっている。

このデッキの核とも言えるカードである。切り札はネイアだけど、今は使う気はない。

 

 

「更に俺は手札から《イモータル・ネス・ポット》を発動」

 

不滅者の壷(イモータル・ネス・ポット)》

永続魔法

お互いのプレイヤーはスタンバイフェイズ時にデッキの上から1枚を墓地に送る。

送られたカードが『イモータル・ネス』と名の付くカードだった場合、カードを1枚ドローする。

このカードが墓地に送られた時、デッキと墓地からこのカードと同名のカードを1枚手札に加える事が出来る。

 

要は永続発動する強欲な壺である。墓地肥やしも同時に出来るすぐれもの。ただし即効性は無い。

これも正規品化された場合は条件に合うカードが限られた筈なのだが、

開発段階だっため全ての関連カードがイモータル・ネスの名を与えられ条件を満たしており、

その上その全てがカード化されてしまっているせいで条件に合うカードだけでデッキを組むことが出来てしまっている。

 

「手札増強か。ふん、小賢しい」

 

そりゃまああんたらはチートドローあるから要らんもんね。

むしろドローソースをチートドローしてくるし。

いくら精霊というか神様憑いてたって、元の世界の感覚からすると凄く有難いんです。

 

「そして俺は手札から(イモータル・ネス・セイバー)を守備表示で召喚!」

 

《イモータル・ネス・セイバー》

効果モンスター

☆☆☆☆

戦士族

攻1800・守500

このカードが守備表示の間、このカードの攻撃力と守備力を入れ替える。

このカードが自分フィールド上に存在する限り、

このカード以外の『イモータル・ネス』と名の付いた

自分フィールド上のモンスターを攻撃対象に選ぶ事は出来ない。

 

壁モンスターにもなる上、半ロック効果持ちの強力なモンスター。

相手のデッキ次第ではこいつを使いまわしてるだけで勝てたりもする。

しかもこの世界では表側守備表示召喚が出来るせいでロック性能アップ。

とはいえ、流石に海馬社長相手じゃ壁にはならんだろう。

 

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

さて、どう来る?

 

「ふうん。俺のターン、ドロー!貴様のカードの効果でデッキからカードを1枚墓地に送る。

 …ふん、貴様も運が無いな。俺は手札より《融合》を発動!」

 

…え?いやいやいや、待てよ。

まさかだろ?このタイミングで?

 

「俺は三体のブルーアイズを生贄に、《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》を特殊召喚!」

 

はあっ!?待て待て待て!?後攻2ターン目だよな今!?

 

「更に俺は《メテオ・ストライク》を発動!《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》に装備!

 これによりブルーアイズは貫通効果を得る!」

 

ちょっwww

 

「バトル!ブルーアイズで貴様のモンスターを攻撃!アルティメット・バースト!」

 

「っ!俺は罠カード、《イモータル・ネス・ミラーフォース》を発動!

 デッキの上から一枚を墓地に送る!送られたのは《イモータル・ネス・スレイブ》。

 相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!

 更に《イモータル・ネス・センチュリー》の効果でトークンを1体、守備表示で特殊召喚!」

 

イモータル・ネス・ミラーフォース

通常罠

バトルフェイズ時、自分の『イモータル・ネス』と名の付くモンスターが攻撃された時発動可能。

デッキの上から1枚を墓地に送り、それが『イモータル・ネス』と名の付くカードであれば、

相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

あ、あぶねえ…魔改造ミラフォが初手で来てなかったら終わってたぞ!?

何とかミラフォで防げたし、落ちたのがモンスターだったからトークンも出せたけど。

 

「ふうん。凌いだか。俺は手札から《死者蘇生》を発動。

 墓地から《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》を蘇生する。

 カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

…え、なにそれこわい。

初手でブルーアイズ3体に融合にメテオ・ストライクに死者蘇生!?

おま、どんなチートドローしてんだよ!?

いや、壷使われてサイクロン&巨大化を追加されるよりはマシ…だったのか?

まあ手札に《イモータル・ネス・クリボー》があるから凌げたとは思うが…

というかアルティメット召喚後にブルーアイズを蘇生して二段攻撃して来なかったのは、手加減なのか戦術なのか…

 

《イモータル・ネス・クリボー》

効果モンスター

悪魔族・チューナー

攻400・守300

相手ターンバトルフェイズ時、このカードを手札から除外して発動する。

このターン中に発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 

見ての通り強化クリボー。除外してしまうが、ディメンション(後述)があれば防げる。

正直芋樽ディメンションコンボで使われたら俺でもきつい。

毎ターン回収して使われたら戦闘ダメージじゃ倒せない。

 

「俺のターン、ドロー!ポットの効果で一枚落とし一枚ドロー!」

 

◆手札0

 

《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》攻4500

★相手フィールド

 

◯フィールド:《イモータル・ネス・センチュリー》

 

☆自分フィールド

《イモータル・ネス・セイバー》守1900

《イモータル・ネス・トークン》守0

 

△魔法・罠

《イモータル・ネス・ポット》

 

◇手札

イモータル・ネス・クリボー

イモータル・ネス・ウィッチ

イモータル・ネス・ディメンシション←New

イモータル・ネス・キメラ←New

 

 

うわー微妙。落ちたのは《イモータル・ネス・イーター》か。

まあガチでテンペストやらプリズムが揃われても困るけど…

相手の場にはアルティメット。俺の場には守備表示のセイバーとトークン。

ロックも出来ないし、結構ピンチ。ただまあ、やりようはある。

さて、初お披露目と行きますか!

 

「俺は手札から《イモータル・ネス・キメラ》を召喚!キメラの効果発動。

 トークンを1体リリースし、レベルを1、攻守を500アップする!」

 

《イモータル・ネス・キメラ》

効果モンスター

悪魔族・チューナー

攻500・守500

自分フィールド上の『イモータル・ネス』と名の付くモンスターをリリースする事で、

リリースしたモンスター1体につきこのモンスターのレベルを1、攻撃力と守備力を500ポイントアップする。

このモンスターがシンクロ素材としてリリースされた時、

シンクロ召喚したモンスターの攻撃力・守備力はリリース時のこのモンスターのレベル×300ポイントアップする。

 

「ふうん。そんな雑魚を並べてどうするつもりだ?」

 

海馬社長も説明を聞いていたから知っている筈。

見せてみろという事か。

 

「言われなくても見せてやる!俺はレベル4のセイバーにレベル2のキメラをチューニング!

 6つの星が輝く時、終末の彼方より不滅の姫が生まれ来る。シンクロ召喚!

 降臨せよ!《イモータル・ネス・プリンセス》!」

 

《イモータル・ネス・プリンセス》

シンクロモンスター

☆☆☆☆☆☆

アンデッド族

攻2300・守1600

『イモータル・ネス』と名の付くチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分フィールド上に存在する『イモータル・ネス』と名の付いたカードを1枚リリースすることで、

デッキ又は墓地から『イモータル・ネス』と名の付いたカードを1枚手札に加えることが出来る。

このカードがフィールド上に存在する限り、

『イモータル・ネス』と名の付かないカードによる効果ダメージを全て無効にする。

 

「オー!ワンダフォー!素晴らしいデース!」

 

「ふうん。これが貴様の言う新たなる可能性というやつか。だが甘い!

 俺は《奈落の落とし穴》を発動!貴様の召喚したモンスターを破壊する!」

 

「ならばセンチュリーの効果!トークン2体をリリースし、プリンセスを蘇生する!」

 

これで相手はアルティメットだけ。

俺はプリンセスと今生成されたトークン1体。

 

「俺は手札から《イモータル・ネス・ディメンション》を発動!」

 

《不滅回帰の次元(イモータル・ネス・ディメンション)》

永続魔法

このカードがフィールド上に存在する限り自分のカードが除外される場合は墓地へと送られ、

相手のカードが墓地へと送られる場合は除外する。

また1ターンに1度、手札を一枚捨てることで墓地からカードを5枚までデッキに戻しシャッフル出来る。

このカードはフィールド上に『イモータル・ネス・センチュリー』が存在しない場合破壊される。

 

これが先ほど言っていたコンボカード。

これとプリンセスでクリボーを毎ターン回収してくるだけで戦闘ダメージは無視出来てしまう。

本当なら採用に当たってもう少し劣化というか調整される筈だったのだろうが、

企画段階のまま持ってきてしまっているためかなりの壊れ性能である。

これでも元の世界での一部の凶悪なカードやコンボと比べるとマシだというのだから恐ろしい。

 

「(さて、どっちをリリースするか…よし)そして俺はポットをリリースしてプリンセスの効果発動!

 ポットの効果によりデッキからポットをサーチ!

 そして墓地の《イモータル・ネス・イーター》を手札に戻し、トークンをリリースして発動!」

 

《イモータル・ネス・イーター》

速攻魔法

自分フィールド上の『イモータル・ネス』と名の付くモンスター1体を選択し、

自分フィールド上の『イモータル・ネス』と名の付くモンスター1体をリリースし発動。

選択したモンスターの攻撃力・守備力はこのターン中のみ倍になる。

 

「ほう。《イモータル・ネス・プリンセス》の攻撃力は2300。倍になれば4600。

 俺の《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》を上回るな」

 

ほんと、図ったかのように100ポイントだけ上回った。

実際に文章書いてから気付いた作者も驚いている。

ん?なんか変な電波を受信したな。

 

「バトル!プリンセスでアルティメットドラゴンを攻撃!イモータルサンクチュアリ!」

 

海馬LP4000→3900

 

「ポットを発動してターンエンドだ」

 

「ふん、この程度では俺は倒せんぞ!俺のターン、ドロー!

 貴様のカード効果によりデッキの上からから1枚捨てる。そして俺は手札から《天よりの宝札》を発動!」

 

げえっ!?ここで最強のドロー補助!?

やっぱり効果はアニメ版。一気に手札が0から6に…

 

「そして手札から大嵐を発動!貴様の邪魔なカードを破壊する!」

 

ここで大嵐かよ!?

あーあ、センチュリーとディメンションとポット…貴重なリリース材料が。

ポット今日2枚積みなんだよなあ。3枚積んどけば良かったか。

これプリンセスやられたらやばくね?

 

「俺は手札から《ドラゴンズ・ミラー》を発動!墓地のブルーアイズ三体を除外し、

 《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》を特殊召喚する!

 更に《次元融合》を発動!ライフを2000払い除外された《ブルーアイズ・ホワイトドラゴン》3体と

 《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》を特殊召喚する!」

 

海馬LP3900→1900

 

な、なんだってーーーー!?

ブルーアイズ3体とアルティメット2体だあ!?

色々と駄目だろうそれ!?

というかアルティメット二枚目以降あったんかい!?

 

「バトル!《ブルーアイズ・ホワイトドラゴン》で貴様のモンスターを攻撃!滅びのバーストストリーム!」

 

「させてたまるかっ!?手札から《イモータル・ネス・クリボー》を除外!

 このターンの戦闘ダメージは0になる!」

 

「ふうん。ブルーアイズでトークンを破壊。カードを2枚伏せターンエンドだ」

 

 

◆手札1

 

▼魔法・罠 伏せ:2枚

 

《ブルーアイズ・ホワイトドラゴン》攻3000×3

《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》攻4500×2

★相手フィールド

 

◯フィールド:

 

☆自分フィールド

 

△魔法・罠

 

◇手札

イモータル・ネス・ウィッチ

 

 

くそ、マズイな…次のカードで決まる。頼む、来てくれよ…

 

「俺のターン、ドロー!…っ!俺は手札から《イモータル・ネス・ウィッチ》を召喚!」

 

《イモータル・ネス・ウィッチ》

効果モンスター

☆☆☆☆

魔法使い族

攻1400・守1000

1ターンに1度、このモンスターのコントローラが魔法・罠カードを発動した時、

デッキの上から1枚を墓地に送る事でそのカードの発動後にセットし直すことが出来る。

このカードが自分フィールド上に存在する限り、

このカード以外の『イモータル・ネス』と名の付いた自分のカードは、

相手プレイヤーのカード効果によって破壊されない。

 

「そして更に手札から《不滅同調(イモータル・シンクロ)》を発動!

 更にチェーンしてウィッチの効果発動!デッキから1枚カードを墓地に送る!(…プリズムか!)」

 

《不滅同調(イモータル・ネス・シンクロ)》

通常魔法

墓地に存在する『イモータル・ネス』と名の付くシンクロ素材とチューナーを除外しシンクロ召喚を行う。

この効果によって召喚されたモンスターはエンドフェイズに墓地へ送られる。

 

「墓地に存在するレベル4のセイバーとレベル3のスレイブとレベル1のプリズムをチューニング!

 8つの星が輝く時、終末の彼方から古の龍が顕現する!シンクロ召喚!

 蹂躙せよ、《イモータル・ネス・ドラゴン》!」

 

《イモータル・ネス・スレイブ》

効果モンスター

☆☆☆

戦士族

攻1200・守1000

このモンスターは自分フィールド上のモンスターを1体リリースしてアドバンス召喚する事が出来る。

この効果によってアドバンス召喚に成功した時、

このモンスターのレベルを2、攻撃力と守備力を1000ポイントアプする。

 

《イモータル・ネス・プリズム》

効果モンスター

☆☆

天使族・チューナー

攻500・守1000

フィールド上のこのカードがリリース又は破壊され墓地へ送られた場合、

デッキからレベル3以下の『イモータル・ネス』と名の付いたモンスターを1体特殊召喚する。

シンクロモンスターが墓地に送られた場合、

デッキの上から1枚を墓地に送る事で墓地からこのカードを特殊召喚する。

 

《イモータル・ネス・ドラゴン》

シンクロモンスター

☆☆☆☆☆☆☆☆

ドラゴン族

攻3000・守2300

『イモータル・ネス』と名の付くチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分フィールド上に存在する『イモータル・ネス』と名の付いたカードを1枚リリースする事で、

相手フィールド上のカードを1枚破壊出来る。

このカードがフィールドから墓地へ送られた時、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

「ふうん。またシンクロモンスターか。攻撃力3000は大したものだが、その程度ではこの俺は倒せんぞ!」

 

何かさっきも似たようなこと聞いた気もするけどそんな事は関係ない!

目にもの見せてやる!

 

「ドラゴンの効果発動!ドラゴン自身をリリースしフィールド上のカードを1枚破壊!右の伏せカードを破壊する!

 更にプリズムの効果発動!シンクロモンスターが墓地へ送られた時、特殊召喚する!」

 

破壊したのは…ミラーフォース!?ほんとどんな引きしてんだよ…

どうせもう一枚はリビングデッドとか攻撃の無力化だ。

 

「更にドラゴンが墓地へ送られたことで効果発動!相手フィールド上の全てのモンスターを破壊!」

 

「ふうん。やるな。(しかし伏せカードは攻撃の無力化。

 次のターンに手札の早すぎた埋葬でブルーアイズを復活させれば俺の勝利だ。だが、奴のカードは…)」

 

多分次のターンをやったらアウトだ。

早すぎた埋葬→融合解除ぐらいはやってくる。そういう奴だ。

 

「レベル4のウィッチにレベル2のプリズムをチューニング!

 シンクロ召喚!《イモータル・ネス・プリンセス》!」

 

二回目なので口上はカット。

普段のテーブルデュエルなどでもカットしている。毎回言うのもアレだしね。

 

「更にプリズムの効果発動!リリースによって墓地へ送られた事によりデッキサーチ!

 デッキからもう1体プリズムを特殊召喚する!」

 

これからやろうとしていることに気付いたのか、海馬社長が苦い顔をする。

 

「レベル6プリンセスとレベル2プリズムをチューニング!

 シンクロ召喚!《イモータル・ネス・ドラゴン》!」

 

二回目なので以下略。

 

「リリースされたプリズムの効果でスレイブをサーチ!更に墓地からプリズム2体を特殊召喚!

 スレイブをリリースしてドラゴンの効果発動!伏せカードを破壊!」

 

うわ、マジで攻撃の無力化…攻撃反応型2枚とか冗談じゃねえ。

 

「ドラゴンとプリズム2体でダイレクトアタック!イモータル・プリズム・ノヴァ!」

 

海馬LP1900→0

 

ふう、なんとか勝ったか。

3年ぶりの実戦。流石にきつかった…というか、予想以上にプレイングミスが酷い。

ぱっと思いついたパターンが今回のものだったが、もっと簡単に倒す方法もあったはずだ。

このデッキの最大の持ち味を全く引き出せなかったな。

やはりこのデッキは暫く封印しよう。

デュエルタクティクスを鍛えて、このデッキにも慣れないと。

それまでは実戦使用禁止だな。こんなに強いデッキ使って負けたらネイアに申し訳ない。

 

「ふうん。今日はデッキの回りが良かったが、それでも勝てないとはな」

 

「いえいえ、こちらこそ。まだまだ未熟だと思い知らされました」

 

恐らく、原作キャラのバランス崩壊デッキだと思ってナメていたというのもあるのだろう。

バランス崩壊だろうがチートドローさえあればどうとでもなるという事を思い知らされましたですはい。

 

「では、次は私の番デース!」

 

………え?

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

何か同じ事をさっきも言った気がする。

目の前にはペガサス会長。もうどうにでもしてくれ。

 

「では、デュエルスタートデース」

 

「デュエル…」

 

     先攻:ペガサスLP4000

                VS 

                  後攻:恭也LP4000

 

「では、私のターン!私は手札より《トゥーン・ワールド》を発動しマース!

 そして《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》を召喚、カードを2枚セットしてターンエンドデース!」 

 

会長大好きトゥーンズか。

しかし俺のこの手札は…やれという事か?いいのかこれ?ネイア神呼べるぞ?

いや、ネイアには悪いけど神はやめとこう。この二人相手に出したら絶対面倒な事になる。

 

「俺は手札からフィールド魔法《イモータル・ネス・センチュリー》を発動!」

 

さっきもだけど、よく2枚積みが初手で来るよなあ。

もしかしてチートドローの片鱗が?まさかね。

ほんとに行けそうならピン刺しでもいいかもしんね。

その場合除去が怖いけど、回収手段も無いでもない。

 

「ポットを発動。プリズム召喚。そして《イモータル・ネス・テンペスト》を発動!」

 

《イモータル・ネス・テンペスト》

速攻魔法

自分フィールド上の『イモータル・ネス』と名の付くカード1枚をリリースし発動。

フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。

 

「プリズムをリリースしてポットを破壊。プリズムの効果でデッキサーチ、プリズム特殊召喚。トークン生成。

 ポットの効果でポットサーチ。ポット発動。センチュリーの効果でプリズムとトークンリリース。

 プリズムの効果をチェーン処理。デッキサーチでスレイブ特殊召喚。トークン生成。

 センチュリーの効果を処理してプリズム再生。スレイブ+トークン+プリズムでチューニング。

 シンクロ召喚、プリンセス。スレイブとプリズムの分のトークン生成。プリズム効果でプリズムサーチ。

 プリンセスとプリズムでチューニング。ドラゴン。プリズム効果でサーチ、スレイブ。

 トークン2体生成だがフィールド制限で1体。ドラゴン効果でトークン3体リリース。

 魔法・罠ゾーンの3枚を破壊。…通ったか。ではトゥーンモンスターは自壊。

 ドラゴンとスレイブでダイレクトアタック」

 

「わ、ワッツ!?これだけやって4枚消費ナノデスカー!?オーノー…」

 

ペガサスLP4000→0

 

「まさかのワンキル…マジでどうなってんだこれ」

 

なんというソリティア。効果妨害あっても次のターンには勝ててたかな?

手札にクリボーと不滅同調残ってたし。

それにトークン1体無駄にした。この手札ならもっとスマートに勝てないとなあ。

 

 

 

 

 

 

「二回目酷かったなあ。俺いつの間にチートドローなんて身につけたんだろうね」

 

「1回目で苦戦してたから…つい、ね?」

 

………………お前のせいかあああああああああああああああああ!?

 

「い、いや、ほら。キョウくんが負ける所、見たくなかったんだもの」

 

だものってあーた…いや、まあいいや。

運を異常に強くしたってイカサマはしてないんだからルール違反じゃナイナイ。

何かギャンブルカード使ったら当然!正位置ィィィィィィ!とか出来そうだけど気にしない。

うわあなんという斎王涙目フラグ。これは介入するっきゃないな。(オイ)

女神様からささやかな幸運の贈り物だと思っとこう。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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思いつきの怪談ネタ『ずっといっしょに』 (オリジナル 現代 怪談)

 

 

これは、私の友人から聞いた話です。

ここからは、その友人の視点で語らせて頂きます。

 

いつもと何も変わらない日。一人暮らしの家で、いつものように惰眠を貪っていた日。

俺の恋人が居なくなった。

昨日まで、毎日連絡を取り合っていたのに、その日は一度も電話をかけて来なかった。

彼女も一人暮らしだったので、彼女の実家に電話をしたが、知らないと言う。

そんな事もあるだろう、と、その日は特に気にしなかったんだ。

 

けれど、何日経っても連絡が来ない。

送ったメールも返信が無い。

たまに電話をかけても、電源が入っていないか、というお馴染みのアナウンスが返ってきた。

 

流石に心配になったので、彼女の家に行ってみたが、当然鍵がかかっていて入れない。

何度も扉の外から呼びかけたが、返事は無い。

結局その日は、諦めて家に帰ったんだ。

 

飽きられたかな…と思っていた。

まさか、あんな事になるなんて思わなかったから。

 

彼女と音信不通になって数日。ある日、家の戸を叩く音がした。

俺は一人暮らし。当然客は俺が目的だし、俺が出なければ誰も出ない。

パソコンのキーを叩く手を止め、俺は玄関に向かった。

 

どんどんどん、どんどんどん、と何度も扉を叩く音が聞こえる。

「はいはい、今行きますよ」と呟きながら、玄関の覗き穴から外を見る。

しかし、覗き窓からは誰も見えなかった。

 

扉から顔を離して、おかしいな?と首を傾げていると、またどんどんどんという音が聞こえる。

すぐにもう一度覗いてみるが、やっぱり誰も見えない。

しかし、その直後またどんどんどんと音が聞こえて来た。

 

おかしい。

俺は今覗き窓を覗き込んでいる。

そこから見えるのは、いつもの玄関前の風景。

誰も居る様子は無い。

なのに、どんどんどん、という音だけが響いてくる。

 

しかも、時間を追うごとにその音が大きくなっていく。

最初は軽くどんどん、という音だったのに、

今はどんどんを通り越してがんがんという音が響いている。

 

怖くなった俺はドアから離れた。

それでも、がんがんという音は響いてくる。

さきほどは断続的だったが、今はもうずっと鳴り続けている。

 

近所迷惑だろ、などと場違いな事を思い浮かべるほど、俺は混乱していた。

しかし、5分ほど経った頃だろうか。

急にドアから聞こえてくる音がピタリ、と止んだのだ。

 

その時の俺は、混乱していた。

訳の分からない状況に陥り、正常な思考能力が欠けていたのかも知れない。

だから、音が止んだだけで安心し、玄関のドアを開ける、という愚行を犯してしまった。

 

「…誰も、居ない?」

 

戸を開けて外を見るも、外には誰も居なかった。

周囲を見回しても、しんと静まり返っている。

 

どうせ、どこかのキチガイが暴れてたんだろう、

などと無理やり自分を納得させ、俺は玄関の戸を閉めた。

 

鍵をかけ、さあ部屋に戻ろうと後ろを振り返ると…

長い髪で顔を隠し、白いワンピースを着た女が立っていた。

 

「なっ!?」

 

ドン、と何かが叩きつけられる音がした。

俺の体だ。

女は俯いたまま俺の首に手を伸ばし、ぎりぎりと締め付けてきた。

 

「ぐ…が…やめ…ろっ!」

 

俺はもがき、無理やり女の手を振りほどいた。

所詮、女性の腕力だ。

俺も最低限の運動ぐらいはしていたし、振りほどくぐらいは出来る。

そのまま俺はその女の脇をすりぬけて、一目散に部屋に走る。

 

バンッ!という強い音を立ててドアを閉め、そのまま部屋に篭る。

ドアの前に机を寄せたりして、簡易のバリケードも作った。

あとは警察を呼んで、さっさと捕まえてもらおう、と思い、枕元の携帯を取った。

そのまま番号を押そうとした時、俺の背中が焼けるように熱くなった。

 

それと同時に激痛を感じ、まさか、という思いで後ろを振り返る。

そこには、顔を俯けたままの、先ほどの女が居た。

 

「ぐ…あ…」

 

痛みで思考が麻痺する中、

顔を俯けた女の視線を追うように女の手を見ると、

おそらく台所から取って来たのだろう、包丁が強く握られていた。

そして、その刃は確かに、俺の背中を貫いていた。

 

痛みで何も考えられず、視界がぼやける。

途切れ行く意識の中、女がゆっくりと顔を上げた。

その顔は、確かに、見知った、俺の恋人の顔だった。

 

「っああ!?はあ、はあ、はあ…」

 

荒い息と共に飛び起きる。

体には愛用の掛け布団がかかっており、今座っているのはいつものベッド。

部屋を見渡してみるが、特に変わった様子は無い。

 

「…ゆめ…か?」

 

たちの悪い夢だ。恋人に刺される夢なんて。

体が汗まみれでひどく気持ち悪い。

 

とりあえず、シャワーでも浴びようと、ベッドから足を下ろした時、

枕元の携帯が鳴った。

 

「おどかすなよ…」

 

一瞬ビクっとしてしまった事を恥じながら、携帯を取り電話に出る。

恋人の母親からの電話だった。

暗い口調で語られた内容は、とても簡単なものだった。

 

恋人が、死んだ。

 

事故、だったらしい。

よくある話だ。

夜、横断歩道を渡ろうとしたら、車に撥ねられた。

運転手は、酒に酔っていたらしい。

 

不幸な、事故。

 

しかし、俺には何がなんだか分からなかった。分かりたくなかった。

俺は、確かに彼女を愛していた。自惚れで無ければ、彼女も俺を愛してくれていた筈だ。

ずっと一緒に居ようね、と約束もした。

なのに、その恋人が死んだ。

 

何も考える余裕は無く、ただただ泣き続けた。

ベッドに寝転び、ただただ泣いた。

どうせ誰も見ていないと、声を上げて泣いた。

落ち着いた頃には、とっくに夜になっていた。

 

それでも、起きる気にはなれなかった俺は、暫くベッドに横になっていた。

暫くそうしていると、泣き疲れたのだろうか、ひどい睡魔に襲われた。

 

しなければいけない事は沢山ある。

恋人の遺体を見に行かなければいけないし、葬儀の準備もある。

俺の家にも彼女の持ち物はあるから、その整理もしなくちゃいけない。

彼女の両親とちゃんと話もしないといけないだろう。

 

しなければいけない事は沢山あるのに、体が言う事を聞いてくれない。

どんなに起きようとしても、どんどん眠たくなってくる。

抗いきれず、瞼を閉じた。

どんどん眠くなり、意思が押し流されていく。

今までこんな異常な睡魔に襲われた事は無い。

恋人を失ったショックだろうか、などと考えたが、答えをくれる人は居ない。

 

余りにも強すぎる睡魔に、何の根拠も無いが、

このまま寝てはいけないのではないか、という気がした。

しかし、やはり答えをくれる人が居るはずも無い。

結局襲い来る睡魔に耐え切れず、俺は意識を手放した。

 

意識が完全に闇に沈む直前、俺の耳に聞き慣れた声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと、一緒に居ようね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上、お粗末様でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Muv-Luv Personal Trooper(Muv-Luv オルタネイティヴ スパロボOG キャラクロス)

スパロボステータス風設定

 

・戦術機

 

撃震

HP3500

EN100

運動性80

装甲値1000

 

吹雪(練習仕様)

HP4000

EN80

運動性80

装甲値1100

 

吹雪(実戦仕様)

HP4000

EN120

運動性90

装甲値1100

 

陽炎

HP4500

EN130

運動性90

装甲値1200

 

不知火

HP4000

EN150

運動性100

装甲値1000

 

不知火弐型

HP4500

EN180

運動性110

装甲値1100

 

武御雷

HP5000

EN200

運動性110

装甲値1200

改造段階 黒:0 白:1 山吹:2 赤:3 青:4 紫:5

固有武装:ブレードエッジ装甲 00式近接戦闘用短刀

 

ラプター

HP4000

EN180

運動性120

装甲値1100

 

 

・各種装備

 

《突撃砲》

36mmチェーンガンと120mm滑空砲からなる基本装備。

弾種は主に劣化ウランを用いた徹甲弾で、

120mm砲では他にキャニスター弾やHEAT弾などが用いられる。

用いられる国ごとに多少の差異はあるものの、ほぼ同等の性能のため一括して表記する。

 

《中隊支援砲》

欧州発の57mm規格を基本とした支援用狙撃砲。日本は2002年制式採用。

射程の長さと命中精度の高さを維持しつつ連射性と装弾数に優れ、

チェーンガンと滑空砲の中間に位置する武器として戦車級や要撃級に対し高い効果を持つ。

 

《74式近接戦闘長刀》

帝国製の長刀。スーパーカーボン製で突撃級の外殻をも斬り裂く。

非常に高い攻撃力を誇り帝国式戦術機の格闘性能の大凡全てを担っている。

 

《BWS-3 GreatSword》

英国製の大型剣。現在は生産終了しているものの、前線では重用されている場合も多い。

非常に大型かつ高重量で、機動力と引換に絶大な攻撃力を誇る"要塞級殺し"。

 

《近接戦闘用短刀》

文字通り近接戦闘用の短刀。瞬間的に装備できそれなりの切れ味がある。

基本的には補助兵装で、機体に取り付いた戦車級の排除等に用いられる事が多い。

 

《92式多目的追加装甲》

敵の攻撃に対する防御から打突によるシールドアタックまで多目的に使用される盾。

指向性爆薬を搭載しておりリアクティブアーマーとしての使用も可能。

対レーザー蒸散塗膜加工が施されているが、単体では余り効果はない。

 

《92式多目的自律誘導弾システム》

ミサイルコンテナとレーダーの複合ユニット。

小型種の殲滅から大型種の足止めまで文字通り多目的に使用可能。

AL弾の搭載によってレーザー属種への対処も可能であり、中隊規模以上では必須装備。

 

《試製99型電磁投射砲 EML-99X》

文字通りの試作兵装。長射程高威力高連射と三拍子揃った高性能兵器。

しかし耐久性や整備性が悪く、実戦証明やそれに伴うシェイプアップも不十分。

それでも防衛戦・ハイヴ攻略問わず広く有効であるという点から期待が寄せられている。

 

《S-11》

戦術核に匹敵する破壊力を持つ指向性高性能爆弾。

自決や反応炉の破壊などに使用され、

指向性の有無を切り替える事で殲滅兵器としての使い勝手も良い。

非常に強力だが自決用という事もあって使用出来るタイミングは少なく、

反応炉を破壊する際にはS-11の破壊力をもってしても最低2~3発以上が必要。

 

・特殊能力

 

《ECM》

最終命中・回避率を+10%

自動追尾系兵器無効

ラプター等に搭載

 

《XM3》

運動性+10

全パイロット能力+20

順次換装

 

《ミラーコート》

レーザー・ビーム系兵器によるダメージを1000軽減

順次加工

 

・パーソナルトルーパー

 

PT-Xゲシュペンスト(和名:暁零式)

HP8000

EN200

運動性130

装甲値1600

固定兵装:スプリットミサイル ジェットマグナム

みんな大好きゲシュペンスト。デザインはMK-Ⅱのものを使用している。

ジェットマグナムの両腕装備やスプリットミサイルの改良による弾数増加などの他、

2本の副腕と2本の補助腕が追加されナイフシースや指向性爆弾の搭載マウントなども追加。

後発のPTシリーズの試作機として開発され、シェイプ後に量産される。

PTとしてはごく標準的な性能と安価なコストであるものの、戦術機と比べるとその差は大きい。

不知火三機分の製造コストで九機分の働きをすると言われる。

 

PT-01ヒュッケバイン(和名:暁壱式)

HP8000

EN250

運動性140

装甲値1600

固定兵装:スプリットミサイル 三連チェーンマシンガン 

名前はヒュッケバインながらデザインはゲシュペンストの発展型。

ゲシュペンストに比べスリム化されており、機動性に重点が置かれている。

ジェットマグナムの代わりに三連チェーンマシンガンを搭載。規格は36mm。

磁性材による磁場加速と炸薬のハイブリット式になっており、高い初速と連射性を誇る。

不知火四機のコストで十二機分の働きをする。

 

PT-02シュッツバルト(和名:暁弐式)

HP10000

EN250

運動性130

装甲値1800

固定兵装:スプリットミサイル 三連チェーンマシンガン 連装ビームバズーカ

こちらもシュッツバルトとは名ばかりの砲撃型ゲシュペンスト。

装甲強度を強化した砲撃担当機。

両肩に大型のビームバズーカを搭載している。

エネルギー消費量や砲身耐久などから弾数に制限があり、連射も余り効かない。

しかしその分高い殲滅力を誇っており、一回の砲撃で前方直線上のBETAが綺麗に消し飛ぶ程。

不知火四機のコストで十二機分の働きをする。

 

PT-03グルンガスト(和名:暁参式)

HP10000

EN250

運動性140

装甲値1800

固定兵装:スプリットミサイル アイソリッドレーザー オメガブラスター

グルンガストと名ばかりの(以下略

斯衛に優先配備され、斬馬刀や斬艦刀を装備したものは通称"斬式"と呼ばれる。

機体を大型化しつつも軽量化と高出力の推進装置によって機動性と防御力を両立。

頭部カメラアイはレーザーを増幅し放出する事でレーザー兵器として使用可能。

胸部には大型の拡散ビーム放射ユニットが搭載されており、近距離のBETAを薙ぎ払える。

高性能な分整備性とコストパフォーマンスの悪い機体。

不知火五機分のコストがかかり、十五機分の働きをする。

 

PT-04ビルトシュバイン(和名:暁四型)

HP6000

EN180

運動性120

装甲値1400

固定兵装:三連チェーンガン アンカーユニット

ビルトシュバインとは(以下略

基本的に陸上通常戦力であるPTシリーズに対し、局地戦闘と量産性を前提に製造された機体。

固定兵装に極地での機体保持・固定用のアンカーユニットを搭載している。

性能は通常のゲシュペンストに比べ劣るものの、

通常の戦術機二機分のコストで製造可能である点から生産性が高い。

寒冷地・砂漠地帯・密林地帯などの局地戦に特化した設計をされており、

特に水中戦における戦闘力は島国最強説が浮上しかねない程の圧倒的戦力である。

水中を"飛ぶ"ような高速機動でレールガンなどの水中減衰の少ない兵装による圧倒的な火力。

特に魚雷とレールガンの飽和斉射による面制圧力は圧巻の一言。

水中での稼働性能を高めるために水素還元コンプレッサーを標準搭載している。

 

PT-05ビルトラプター(和名:暁伍型)

HP5000

EN180

運動性150

装甲値1600

固定兵装:レールカノン 空対空 / 空対地ホーミングミサイル 低空垂直爆弾

ビルトラプター(以下略

機動戦、それも航空戦に特化したPT。

人類に空を取り戻す事を目的とした機体で、ラプターの名に恥じず電子戦能力も非常に高い。

匍匐飛行時に四肢を可動させ戦闘機に近い形態へと変形する。

背面に搭載された大型のレールカノンや各種ミサイル・爆弾による空爆能力を有する。

光線属種殲滅後の地上戦やハイヴ内高速突破、対戦術機・PT戦などにおいて高い能力を発揮。

ALコーティングを施した薄い装甲板を何枚にも重ね、

更に変形時にはALコーティングを施された盾型で機体下部を覆う。

非常に高いレーザー耐性と極低空高機動飛行によって光線級に対する防備も十分。

機動偵察から制圧爆撃まで幅広くこなす優秀な機体である。

 

ATX-1アルトアイゼン(和名:村正)

HP10000

EN300

運動性130

装甲値2000

固定兵装:スプリットミサイル ヒートホーン 三連チェーンガン リボルビングステーク他

ゲシュペンストを元に製造された我らがアルトアイゼン。

外見的にはリーゼの方に近く、高い装甲と強力な近接戦闘力を有する。

弾丸規格の問題から両肩のクレイモアがオミットされ、

代わりに拡散ビーム砲を搭載する事で少ない弾数と面制圧力を補っている。

極少数のみの限定生産機で、コストが高い分性能は折り紙つき。

不知火五機分のコストを必要とするものの、乗る者次第では不知火十八機分以上の働きが可能。

ランページゴーストのコードがデフォルトで登録されているが、通常はロックがかかっている。

 

ATX-2ヴァイスリッター(和名:村雨)

HP8000

EN300

運動性150

装甲値1600

固定兵装:スプリットミサイル 三連チェーンガン

ゲシュペンストを元に製造された我らがヴァイスリッター。

飛行能力と機動力に重点を置いており、跳ぶでは無く飛ぶ機動が可能。

チェーンガンは両手に装備されている。

こちらもアルト同様五機分のコストで搭乗者次第では十八機分以上の働きが可能である。

勿論ランページゴースト用コンボコード搭載。

コード使用無しで合体攻撃を行うにはかなりのコンビネーションと相性が必要。

 

・オリジナル装備

 

《EX-01エクステンションバレル》

突撃砲に装着可能な追加砲身。

砲身内に3連チェーンガンらと同様の磁性材を用いたコーティングが施されており、

射出方向に向かって流れる電磁場で弾体を再加速する効果がある。

威力と貫通性が向上し、バレルの延長による集弾率の向上も認められる。

 

《M90アサルトマシンガン》

戦術機の突撃砲を模して作られたPT用兵器。

36mm弾と120mm弾に対応しており、基本的な使い方は突撃砲と同様。

砲身内にエクステンションバレルと同様の処理が施されており、

元々ハイブリットを前提に製造されていた事もあって非常に強力。

一点に集めれば36mm弾で突撃級の外殻を貫通する事も可能になっている。

規格を合わせているため戦術機にも使用可能。

 

《B90アサルトビームガン》

小口径の拡散型ビームガンと大口径の収束型ビームガンを搭載した突撃砲。

エネルギー兵器の仕様上PT専用装備となっている。

低威力高拡散の散弾による小型種の殲滅から高威力高収束の砲撃による大型種の狙撃まで、

非常に幅広い用途に使用可能。砲身とENの許す限り撃ち続けられるのも大きい。

 

《メガ・ビームライフル》

文字通りの兵器。出力の問題からPT専用となっている。

非常に強力な砲撃が可能で、シュッツバルトのビームバズーカ1基とほぼ同等の火力を誇る。

ENと砲身が保つ限り撃てるなど、優秀な殲滅火器となる。

 

《ブーステッド・ライフル》

非常に強力な長射程兵器。

射程と貫通力に重点を置いて製造されており、大型種相手の狙撃に適している。

非常に高い威力を誇るものの連射性と装弾数は低く、一撃必殺用の武器である。

 

《オクスタンランチャー》

ヴァイスリッター専用装備。他のPTでも使えない事は無いが、原則想定されていない。

高い貫通力を保つ実体弾と殲滅力の高いビーム弾を撃ち分ける事が可能。

超射程高火力を両立しており、例え突撃級であろうと豆腐を弾くかの様に殲滅出来る。

ランページゴーストを起動するためには必須の装備。

 

《エネルギーバッテリー》

各種エネルギー兵装用の高効率大容量バッテリー。

非常に大容量かつ高効率のため大量のエネルギーとビーム兵器用粒子を充填しておく事が可能。

撃ち尽くした後は機体後部の充填済みバッテリーと交換し、

機体に接続後エネルギーと粒子を再充填される。

 

《参式斬馬刀―数打ち正宗―》

暁参式、つまりグルンガストでの使用を前提に開発された斬馬刀。

既存の長刀と同等の重量ながら20%程大型化されており、

ハイパーダイアモンドコーティングによって切断性も大幅に向上している。

突撃級を正面からなます斬りにする事が可能な切れ味と威力を誇り、

重量がこれまでの長刀と変わらない点から戦術機にも運用可能である。

量産品は生成されたダイアモンドの中でも粗悪品を用いているため、若干威力が低下している。

 

《参式斬艦刀―数打ち叢雲―》

我らが斬艦刀。液体金属を強力な電磁場で大剣状に形成する。

戦術機の全長を超える巨大な斬艦刀で、グルンガストにしか使用できない。

物理的な容量や積載量の問題から、本家と違って片刃。

刃の形成時にスーパーダイヤモンドの粒子を混ぜ込むため、切れ味も高い。

ただひたすら切れ味で斬る斬馬刀と違い、重さと遠心力を上乗せして叩き斬る形となる。

流石に回転させて飛ばしたりは出来ない。

あまりの巨大さと重量から取り回しが非常に難しく、ごく一部の精鋭限定装備。

 

《究極ゲシュペンストキック(脚部プラズマ放出・高速推進ユニット)》

PTシリーズ汎用装備だが、基本規格はゲシュペンストに合わせて設計されている。

液体燃料ロケットの代わりに搭載する脚部ユニットと発動用の音声認識型コンボコード。

強度増強のため脚部を覆う装甲ユニットに、

脚部先端から高出力プラズマを放出するプラズマ発生機を内蔵。

オミットされたロケットの代わりに跳躍ユニットと同様のプラズマジェット推進を搭載し、

機体重量の増加による機動力の低下を打ち消すと共に発動時の急速降下も行う。

跳躍ユニット・脚部プラズマジェット・機体重量の合わさった高質量の高速落下に、

脚部先端から放出される高出力プラズマが合わさる事で突撃級の外殻すら容易く踏み潰す。

要塞級ですらど真ん中ぶち抜いて落ちるその様はまさに究極の一撃である。

ただし機体にかかる莫大な負荷とプラズマ放出に対する装甲の耐久性の問題から、

最大でも3発前後に使用回数が限定される必殺技である。

ユニット自体も高価な上に整備性も悪く、何より相応の操縦技術が無ければ非常に危険である。

これらの理由から通常はコードが封印され、

ユニットの装着と上位権限者の使用許可があって初めて使用可能となる。

 

《シザースナイフ》

PT用の近接短刀。通常の近接短刀と同規格のため戦術機に流用が可能。

側面の切断性は然程高く無いため、機体を傷つける心配をせずに戦車級の排除が可能。

先端にのみスーパーダイヤモンドコーティングが施されており、

突きなら戦術機の装甲を貫通する事が出来る。

 

《92式多目的追加装甲丙型》

戦術機用の盾にミラーコーティングを施したもの。

機体用のコーティグと同等の効果を発揮する。

 

《00式多目的追加装甲》

新型の盾。発泡金属を中心とした複合装甲を使用しており、強度が大幅に上昇。

標準でALコーティングが施されており、対レーザー性が非常に向上している。

その他強度向上に伴って指向性爆薬の威力向上と弾数増加も行われており、

近接戦闘用の打突武器としての性能も向上している。

 

《汎用スプリットミサイル》

戦術機への搭載を前提に製造されたスプリットミサイル。

大量のマイクロミサイルを内包しており、制圧力は従来のミサイルコンテナの倍以上。

ミサイルユニットに高性能のレーダーとコンピューターを搭載し、

外付けの演算装置として使用する事で大量のミサイルを同時制御する事に成功している。

 

《リニアミサイルランチャー》

PT専用の大型ミサイルユニット。

一発の威力に特化しており、光学チャフの散布から小型種の殲滅まで用途は広い。

中型種以上にもそれなりの効果を発揮するため、咄嗟の足止めにも役立つ。

PTの高推力を前提とした大型のユニットのため、戦術機には搭載不可。

 

《S-11R STAR LIGHT》

強化型のS-11。

通常のS-11に気化爆弾と特殊燃料ペレットが混合されており、

従来より増幅された衝撃波が硬い外殻に押し留められて爆縮し、

特殊燃料と反応現象を起こして圧倒的な破壊力を放出する。

スターライトという名称の由来は、

爆発時に放出される青白いプラズマが星の瞬きに見えるという所から。

一撃で反応炉を破壊する事を目標としており、相応の威力を有している。

爆薬や燃料等の位置調整が可能で、それによってエネルギーの放出方向を調整出来る。

通常はPTの股間に一発搭載されており、追加搭載用のコンテナユニットなども用意されている。

 

《スターライトバズーカ》

S-11Rを搭載した弾頭を発射するバズーカ。

弾頭は若干の誘導性を持ち、ミサイルとバズーカの中間のような性能を持つ。

破壊力はS-11Rそのままであり、指向性も有する。

起爆も通常のS-11同様に時限起爆と遠隔起爆が選択出来る。

弾頭先端に搭載されたS-11Rは取り外して単独使用する事も可能。

密集するBETAの殲滅から反応炉の破壊まで様々な用途に使用出来、

戦術機にも運用可能である事から地上戦・ハイヴ攻略問わず活躍が期待される。

 

・特殊能力

 

《Total Electronics Control System ver.1(テックスワン)》

運動性+10

全パイロット能力+20

最終命中・回避率+10%

自動追尾系兵器無効

PT標準装備

 

《Total Electronics Control System EXTRA ver.1(テクストラワン)》

運動性+10

全パイロット能力+30

最終命中率・回避率+20%

自動追尾系兵器無効

一部PT専用

 

《アンチレーザーコート(ALコート)》

レーザー・ビームによるダメージを2000軽減

PT標準装備

 

《ラミネート装甲》

レーザー・ビームによるダメージを4000軽減

戦艦・極一部PT専用

 

・技術情報

 

《パーソナルトルーパー》

通称PT。

新機軸の対BETA用戦術機動兵器として開発された、高性能な戦術機。

デザインはスパロボのゲシュペンストシリーズを基本としており、

シュッツバルト・グルンガスト・ヒュッケバインらもゲシュペンストの発展型となっている。

両肩や脚部の化学燃料スラスターはそのままに、

腰部にプラズマジェット推進による跳躍ユニット、

背部には小型簡易核融合パルス推進によるメインブースターが搭載。

これらを利用して非常に高い機動力を発揮する。

その他にも複合発泡金属装甲やALコーティングなどによって高い防御力を有し、

エネルギー源に核融合反応炉を用いる事で莫大な出力と継続戦闘能力を有する。

戦術機とは比較にならない出力を利用した荷電粒子砲やレールガンなどのエネルギー兵器の他、

様々な特殊機構や新技術を用いたシステム・兵装が用意されている。

運用コンセプトも戦闘機の延長線上であった戦術機と違い、

装甲武装した巨大な機械化歩兵というコンセプトでの運用を前提としている。

初期製造コストが通常の戦術機の倍以上かかり、その上維持コストも莫大。

PT一個小隊で戦術機一個中隊分のコストと一個大隊分の戦力を有するというトンデモ兵器。

量より質を体現しており、特に衛士の生存性という点で見ると戦術機とは比較にならない。

高い機動力・高い戦線離脱能力・高い防御力・高い保護性と四拍子揃っている。

動力部にごく微量ながらG元素を使用しているため、

戦術機に比べBETAの誘引率が高いのも特徴の一つ。

現状では生産数自体が少なく実験的な要素が強いものの、

いずれはハイヴ攻略や大規模殲滅戦など対BETAの中心を担うであろうとされている。

 

《発泡金属》

発泡スチロールと同様に空気を混ぜた金属。現実にも存在する。

本作独自設定では高重力下で生成される高密度の発泡金属の事を指す。

通常の発泡金属に比べ密度が高いため非常に高い強度を誇り、

発泡させる事で必要な資源量の低減とそれによる低コスト化に成功している。

また構成材料の多くが空気になるため、非常に軽いのも特徴。

試作機に使われているものは簡易ML機関を用いて発生させた高重力を利用している。

 

通常技術では擬似的な高重力の形成のために遠心力を用いる方法が考案されており、

大量生産するためには大規模な遠心力を発生させ続ける必要がある。

そのため宇宙空間上に設置した円柱形の装置を回転させる事で遠心力を発生、

それを更に加速させて擬似的な高重力を発生させる手法が取られる。

そのため基本的に宇宙空間での生成を前提としており、

生成に際する必要資源量や継続コストと反比例して初期投資コストが高いのが難点。

 

《ハイパーダイアモンド》

特殊製法により人工生成される高硬度ダイアモンド。現実にも存在する。

通常のダイアモンドの3倍以上の硬度を持つ。

研磨剤やカッターブレードなど様々な用途に使用でき、

本作では機体装甲面にコーティングを施す事で非常に高い硬度を与えている。

製造コストが高いため大量生産には向かない。

 

《複合発泡装甲》

本作ではカーボン系・セラミック系・チタン系の三種類がPTの装甲材として使用されており、

前述の通り発泡させる事によって軽量化・高強度化・低コスト化に成功。

更に通常の金属材との複合使用や表面へのハイパーダイアモンドコーティングにより、

表面硬度や内部強度の向上も計られた最新鋭の複合装甲である。

戦術機に使用されている装甲材と比べ圧倒的に高い強度を有し、

突撃級の突進や要撃級の触腕による攻撃にも容易に耐えうる。

ハイローミックスが原則であり、コスト無視で組まれるのは将軍用機や一部エース用のみ。

量産型の多くはハイパーダイアモンドコーティングがオミットされており、

コストを削減する代わりに機体強度が若干低下している。

スパロボで言う機体改造でこれらの処理や素材の高質化を行い、各種性能を強化する事が可能。

斯衛での色分けによる性能差なども改造段階の違いで再現している。

 

《マグネットコーティング》

金属に磁性材を塗布する加工処理。

摩擦係数の低減と接触時の摩耗を低減させ駆動性と部品耐久性を向上させる。

0気圧下ではなめらかな金属面は分子レベルで結合してしまうため、

それを防ぐ目的も含まれている。

関節などの主要部のみに処理を施した部分コーティングと、

完全に不要な部分以外の全てに処理を施した完全コーティングの二種類がある。

当然後者の方が機動性・部品耐久共に向上し、必要コストも跳ね上がる。

量産機には施されておらず、斯衛や精鋭部隊の機体に部分コーティングが、

一部のエース用機体に完全コーティングが施される。

 

《ミラーコーティング》

装甲表面に光学反射性の高いコーティングを施したもの。

安価なアルミ蒸着が一般的であるが、一部部隊には高コストな処理も施されている。

更に高熱によって蒸発拡散しレーザー光を減衰させる対レーザー蒸散塗膜を上塗りしている。

この二つによってレーザーを拡散・反射して威力を低減させる事に成功しており、

レーザー照射時に機動回避を行う時間的猶予の確保を行なっている。

処理自体は安価ながら一撃必殺のレーザーを強力な攻撃レベルまで威力低減でき、

既存の機体に処理を施す際も非常に容易かつ短期間で可能。

技術公開後は帝国を中心に戦術機への加工処理が急ピッチで進められている。

 

《アンチレーザーコーティング(ALコーティング)》

非常に高い光学反射性を持つ塗膜と効率化された対レーザー蒸散塗膜、

更に熱量の拡散・減衰効果を持つ減熱塗膜の3つを組み合わせ、

これを何層にも塗り重ねるラミネート加工を行ったもの。

特に熱量の減衰性とラミネート加工による総合効果・塗膜耐久向上が大きく、

前述のミラーコーティングの約2倍もの対レーザー性を確保する事に成功した。

ミラーコーティングに比べ高コストであるものの、

戦術機やPTが撃墜される事に比べれば誤差と呼んで差し支えない程度である。

基本的には各種PTや戦術機の盾に施され、機体や部隊を光線属種から守る。

 

《ラミネート装甲》

上記のALコーティングに用いられる各種技術を、

薄い塗膜でなく装甲材そのものと混合しAL合金を精製。

装甲材の時点から対レーザー性能を付与した事で非常に強力なレーザー耐性を有する。

戦艦であれば更に重金属合金にも混合し非常に強力な装甲と対レーザー性を両立する。

発泡金属によって軽量化に成功したからこその技術であり、

横浜基地に設置された各種合金試作用の特殊設備でしか製造出来ない。

そのため製造コストは通常の装甲材の数倍に及び、

増加した重量を誤魔化す為にブースター出力を強化。

結果的に操縦者に相応の操縦技術を要求する事となった。

これらの理由から将軍用機や主人公勢のごくごく一部機体にのみ採用されている。

コストに見合うだけの効果はあり、重光線級の集中照射すらものともしない堅牢さを誇る。

 

《プラズマ・ジェネレーター》

G元素を利用した核融合ジェネレーター。

G元素を用いて放射性物質とプラズマを閉じ込め、反応を制御する。

更にこの核融合制御システムにメインブースターを接続する事で、

核パルス推進による高出力機動を可能としている。

その他発動機兼エネルギータンクとして高効率バッテリーを搭載。

融合炉心・融合制御装置・高効率バッテリーを統合してプラズマジェネレーターと呼称される。

制御には重力発生性質を持つグレイ・イレブンを使用しないため、

ML機関やG弾の運用を圧迫しないという特徴がある。

制御に必要なG元素はごくごく微量であり、

G元素自体は消費しないため一度製造すれば以降G元素を追加する必要は無い。

使用量自体が少なくBETAから抽出可能なG元素のみで製造されているため、

G元素を使用している割に生産性が高くG元素を用いない融合炉と比べてコストも非常に安価。

その圧倒的な出力と生産性の高さから、

PTはこのジェネレーターが無ければ採用されなかったであろうと言われるほどである。

 

《段階偏向型核融合パルス推進ブースター》

PTシリーズの背部に内蔵された4基の大型メインブースター。

四角型に配置され、それぞれ個別に上下方向へ偏向可能な構造になっている。

プラズマジェネレーターの核融合制御機構と直結しており、

ジェネレーターで発生した核融合による運動エネルギーなどの余剰エネルギーと、

ブースター基部で発生した連続的な核融合爆発による反動を用いて推進する。

ジェネレーターや後述の推進装置を含め全て水素燃料であるため、

推進剤と主機燃料の一元化に成功している。

核融合パルス推進は非常に強力な推進装置であり、

ごくごく少量の燃料から莫大な推進力を生み出すことが可能である。

構造上前方から斜め上方及び斜め下方への推進しか出来ないものの、

水平航行能力と最大前進速度は戦術機の比ではない。

非常に強力かつ基本機構はジェネレーターの制御装置に依存しているため構造自体は単純。

エネルギーのみを放出し放射性物質をまき散らさないようにするなどの配慮もなされている。

PTの圧倒的な直進性能と突破力の最大の要因である。

 

《複合還元コンプレッサー》

PT専用装備。大気中や水中で取り込んだ空気や水から水素と酸素を抽出し、

液化させてジェネレーターの燃料や推進剤に転化するもの。

また特定の物質を分解・粒子化させてビーム兵器用の燃料に変換する機構も搭載。

大型のものと小型のものの二種類があり、

大型は設置式である代わりに大量・高速の生成が可能で、

小型は生成量が少ない代わりに機体へ搭載し恒常的な生成が可能。

特に小型のものはビルトシュバインに標準搭載され、

水中であればほぼ無尽蔵に推進剤と燃料を確保することが可能になっている。

構造自体も単純なため製造コストも維持コストも非常に安価である点も特徴。

PTシリーズの高い継続戦闘能力を支える一因となっている装置である。

 

《多段偏向プラズマジェット推進跳躍ユニット》

PTの腰部左右に搭載されたPT専用の跳躍ユニット。

プラズマジェネレーターによる莫大なエネルギーを用いてプラズマを生成し、

その熱で液体水素を加熱・膨張させノズルから噴出する事で推進力を得る。

メインブースター程では無いものの高い推力と比推力を有し、

更に基部を回転させ後方・下方・前方と最大240度以上の角度へ自由に偏向可能。

高い比推力によって長時間の使用を可能にし、前後及び上方への機動力を高めている。

 

《高効率水酸素ロケット推進スラスター》

PTの肩部と脚部に搭載されている液体燃料式スラスター。

液体水素と液体酸素の二液式で、最新の設計理論によって高効率化されている。

最大推力は高いものの比推力が低いためメイン推進には向かず、

肩部に搭載し左右への推進と脚部に搭載し上下への推進をサポートする目的で設計された。

特に脚部からの上方推進の有効性は意外に高く、

3次元機動時に緊急下降を行う際に重宝する。

脚部のユニットは取り外しが可能で、究極ゲシュペンストキック用の専用ユニットに換装可能。

設計理論自体は最新だが構造的には単純で製造も簡便なためPT用装備の中でも安価な部類。

 

《Total Electronics Control System ver.1(テックスワン)》

機体OS、火器管制装置、光学・電磁波系索敵装置などPTに用いられる電子機器を纏めたもの。

基幹OSが機体全体の電子装置を統括処理しており、

EM3を超える高い操作性やコンボ等の各種概念も併せて非常に高い電子性能を誇る。

高性能なコンピュータと高精度の電子戦装置によって索敵性やデータリンクなども強化。

ステルスモードのラプターを感知可能という某国涙目な高性能を誇る。

基本的にはXM3の上位互換であるが、火器管制等設計段階からの改修を前提としており、

既存の戦術機への流用は考慮されていない。

かかるコストも相応に高く、PTのコストと価値を引き上げる要因の一つとなっている。

 

《Total Electronics Control System EXTRA ver.1(テクストラワン)》

00ユニットの製造で培った量子コンピュータ技術を転用した電子管制システム。

専用のナノマシンを用いて機体側と脳内に量子シナプスネットワークを構築し、

量子通信による高精度データリンクと電脳接続を可能とした特殊仕様。

機体には量子コンピュータを搭載した事と同義であり、

脳も量子シナプスによる擬似的な量子コンピュータ化が行われている。

この二つを量子通信によって遠隔接続する事によって高速高精度の情報伝達と、

同システム搭載機間及び搭載司令部との高速高精度データリンクを構築。

ハイヴ内でも十全な状態でデータリンクを使用する事が可能になっている。

また脳の処理能力が向上した事で思考速度の加速が可能であり、

最大で通常の3倍以上の高速思考が可能になっている。

これらの効果から戦闘能力の大幅な向上効果が得られるが、

代償として非常に高いコストと技術力が必要となる。

処理後も機体整備や脳内ナノマシンの管理には専門技術が不可欠であり、

初期製造・初期処理・短期使用・長期維持の全面に於いて莫大なコストが必要となる。

そのためごくごく一部の機密情報に精通した人員とその機体にのみ処理が施されている。

 

《ムーバブルフレーム》

従来の戦術機が装甲で機体を支える外骨格(モノコック)構造であるのに対し、

PTシリーズは基本となるフレームに装備や装甲を接合するという構造を取っている。

分かりやすく言うと戦術機は組み立てたダンボールのように箱自体が支えていた形で、

PTは人間のように骨の周りに肉や皮膚を付けた形を取っているという事である。

強度や可動性においてどちらの方が高いかは言うまでも無く、機動力の向上にも繋がっている。

その他にも外部装甲が歪んでも内部骨格が無事であれば機動に影響が出ない点や、

内部強度と骨格強度が増加したため格闘攻撃が可能になる点など副次的な恩恵も得ている。

欠点として内部に大型の骨格を組み込む事で重量とコストがかさむという点があるが、

本作のPTの場合装甲材の軽量化と低コスト化によって欠点を解消している。

 

《八咫鏡(ヤタノカガミ)》

光線級の発振器などを参考に試作を重ね製造された、巨大な鏡。

自律誘導の戦術機に装備させ、高高度を飛行してレーザー級を惹きつける役目を持つ。

鏡面に命中したレーザーは99.999%という非常に高い反射率でレーザーを反射する。

レーザーは吸収されない限り熱を生じないため、

理論上は鏡面が融解する程強力なレーザーの99999倍のレーザーを跳ね返す事になる。

光線級のレーザーが弾道が見える程拡散性が高いという点に着目し製造された。

機体の姿勢制御によって反射方向を制御し、

敵BETA(特に光線級)に跳ね返して殲滅する事を目的としている。

鏡面耐久性の観点から短時間で撃墜されるものの、

撃墜までに該当領域に存在するBETAの1割~3割を殲滅可能である。

 

《八尺瓊勾玉―ヤサカニノマガタマ―》

量子通信を用いた高精度データリンクシステム。

量子通信が可能な機体と高精度の情報通信が可能である他、

既存の通信機器に対しても高速・高精度で情報伝達が可能。

ヤサカニノマガタマは子機に当たる装置であり、

前線やハイヴ内へ持ち込む事で円滑な情報統制やハイヴ攻略補助が可能になっている。

 

《思兼―オモイカネ―》

非人格型量子電導脳を用いた超高性能コンピュータ。

非接触通信と量子通信を用いたネットワークを構築し、

子機に当たるヤサカニノマガタマを介して高度なデータリンク処理が可能となっている。

横浜基地オルタネイティヴ直轄の装備で、世界に一つしか存在しない。

00ユニットと連携する事で圧倒的な情報戦能力を有する。

単純な演算装置としての00ユニットを欲した結果製造された。

 

《ヘルメスシステム》

BETAの元素転換技術を元に開発された物質合成システム。

ごく限定的な元素転換を行う装置から特殊な加工を行う装置、

またそれらを統括するコンピュータ群などの総称。

炭素系素材の生成・形成やチタン等を用いた発泡金属の精製、

各種精密機器の量産や部品の製造などを行う。

一部レアメタルも精製可能になっており、何より特筆すべきはG元素の精製能力である。

当然元となる元素は大量に必要となるものの、ごく微量ながらG元素を精製出来る。

ただし必要十分な量を生産出来るのはグレイ・シックスを含む幾つかのG元素に限定され、

グレイ・ナインやグレイ・イレブンはほんの微量ずつしか精製出来ない。

他にはBETAの死骸からG元素や炭素系物質及び元素、その他幾つかの希少元素の抽出に成功。

倒したBETAを回収して抽出した資源を元にPTを量産しBETAを殲滅するという、

BETA大戦以降人類が夢にまで見たような資源好循環が可能になっている。

システムが複雑かつ量子電導脳かそれに準ずる量子コンピュータが不可欠であり、

製造コストが洒落にならないほど高いという点などから量産配備には向かない。

現状では少数ずつPTを生産するために横浜基地の地下で一基だけ製造され稼働している。

 

 

 

《進藤 悠》

我らが主人公。

虚数空間にばらまかれた記憶を用いて世界ごとに構築されるタケルちゃんと違い、

肉体を再構築しながら記憶を引き継いで並行世界を渡る文字通りのトリッパー。

元々はとある並行世界で過激派による独断でのG弾の投下に巻き込まれたのが事の発端。

巻き込まれた段階ではごくごく普通の一衛士だったため正確な理屈は判明していないが、

「フェイズ5にG弾4発の同時投下なんて何が起きてもおかしくない」とは夕呼せんせーの言。

その後死亡するたびに肉体を再構築されて世界を渡り歩く事になる。

出現する日時はバラバラで、しかし概ね2001年の10月22日以降である事が多い。

鑑純夏と同様の起点があるのかも判明しておらず、現状トリップを止める術はない。

しかし生来の享楽的な性格からかあまり悲観的には考えておらず、

トリップをどうするかは生きるのに飽きたら考えると言い切っている。

 

また何度も並行世界を渡り歩く内に00ユニット化された経験があり、

タケルちゃんと違って純粋トリップなせいか再構築後も00ユニットとしての能力を有する。

並行世界の中ではタケルちゃんの生まれ育った平和な世界にたどり着いた事も有る。

最初の死亡時の因果を持ったままトリップしているらしく、

「2004年6月19日に死亡する」という重い因果を有している。

死亡原因は様々であるが、やはり一番重いのはG弾による死亡である。

夕呼せんせー曰く本来は「2004年6月19日にG弾で死亡する」というのが元々の因果であるが、

G弾による死亡自体が起きにくい出来事のため、

G弾での死亡を回避すると特定の日時に死亡という因果だけが残りこの様な形になるのだとか。

自身が因果的な特異点であるため回避は不可能ではないものの、

現状完全に回避に成功した経験は片手で数える程しかなく、天寿を全う出来た事は一度もない。

日常生活ではどんな危険があるか分かったものじゃないから、

運命の日はBETA戦中に迎える方がいいと考えており、事実数回だけ成功している。

しかしそもそも00ユニット完成前の時間にトリップ出来た事自体が数える程しかなく、

半分近い世界ではろくな活躍も無いままに死亡してしまっている。

 

享楽的な性格やトリップの事もあって長い間独り身だったが、一度だけ恋人を作った事がある。

相手は元A-01連隊第6中隊中隊長、当時伊隅ヴァルキリーズ所属の碓氷美咲中尉(元大尉)。

2001年1月8日にトリップした主人公が同年2月のBETA進行で伊隅ヴァルキリーズを救い、

彼女の死亡の因果を回避した事で交流を持つ。

その後11月の進行や12月24日の佐渡ヶ島攻略で共闘し絆を深め、

桜花作戦直前に碓氷の告白を受けこれを承諾した事で交際を始める。

しかし運命の2004年6月19日、BETAの地中進行の際に彼女を庇って戦死する。

その後再び数多の世界を辿った後、再度邂逅を果たす事となる。

 

能力としては性格に似合わず奇抜な発想による一足飛びよりも堅実な発展を重ねるタイプで、

しかし長年の経験と様々な並行世界で得た知識によってその能力は最高水準に達している。

タケルちゃんが納得は出来るが理解出来ない発想を持つのに対し、

こちらは理解は出来るが納得出来ないレベルの能力を有する。

才能自体は二流であるが、タケルちゃんと同じく平和な世界で培った発想なども保有。

唯一タケルちゃんと平和な世界の話が出来る人間でもある。

 

平和な世界で得た様々な知識や発想を元に00ユニットとしての能力を用いて発展を繰り返し、

様々な新型兵器の設計図や新戦術の理論を有している。

様々に手を伸ばした娯楽も一言一句まで覚えている事などから、

"運命の日"を超えられれば娯楽関係の開発も行うつもりらしい。

その他にも肉体能力を受け継ぐ事を利用してトリップ先で様々な試みを行なっており、

身体能力や肉体の機能は既に人間の域を超えてしまっている。

途方も無い年月を重ねた末の圧倒的な能力を有しているが、

それを悪用するどころか人類のために使う辺りタケルちゃんとどっこいのお人好しである。

 

BETAの殲滅や娯楽関係の発展など幾つか目標を定めており、

現時点で最も強い目標は碓氷と共に"運命の日"を生き延びる事。

無数の世界を超えてなお、未だに愛情は薄れていないようである。

禁欲はしていないところにタケルちゃんとの違いが如実に出ている。

 

《碓氷美咲含め原作未公開部分の考察》

我らがヒロイン。暁遥かなりのキャンペーンマップ7面に搭乗した衛士。

 

詳細な公式設定は無く、以降は仮定と推測からなる考察である。

まずヴァルキリーズと共闘していたものの以降本編含め未登場という点から死亡と推測。

暁遥かなりの7面で登場した際の階級は大尉で中隊指揮官。

A-01は元々連隊規模であり9つの中隊を有していたであろうこと、

ヴァルキリーズが第9中隊である事などからそれ以前の中隊と推測。

女所帯であったためヴァルキリーズと名乗っていた事から慎二や孝之は別の部隊と推測。

A-01が素体候補の選定を兼ねていた事や慎二達以外のキャラが殆どA-01所属である事、

神宮寺教官の教え子は全てA-01に入隊している事などから、

慎二達がA-01以外の部隊に所属していたとは考え難い。

よって明星作戦開始時点では慎二達の所属中隊含め複数の中隊が残存していたものと仮定する。

その内の一つが彼女が所属していた部隊であると仮定。

元々は連隊規模でありながらヴァルキリーズの中隊長である伊隅が大尉であり、

その上に佐官に類する衛士が存在しなかった事などから、

元の規模よりも現時点での規模を優先して階級を設定されるものと推測する。

暁遥かなり7面でヴァルキリーズと共に戦った横浜基地の部隊が彼女の中隊だけであった点、

その時点で連隊指揮官に相当する佐官ではなく上位佐官の存在も確認出来なかった点などから、

その時点で既にA-01は二個中隊まで数を減らしていたと予想。

(二個中隊であれば大隊定数を満たさないため、大尉二人が最高官位でもおかしくないため)

暁遥かなり7面での戦闘を2001年2月かその少し前のBETA進行と仮定。

原作で佐渡ヶ島からのBETAの新潟進行がおよそ9ヶ月越しであった点、

頻繁に間引きを行う余裕など無く飽和ギリギリまで間引き作戦は行われないであろう点、

佐渡ヶ島という前線基地があり活動時間の限界がある以上は、

他のハイヴのBETAはまず佐渡ヶ島を目指して移動するであろうという点などから、

2001年2月以前の大規模戦闘は2000年5月前後2~3ヶ月であると推測する。

明星作戦が1999年8月であり、BETAの進行頻度や佐渡島・横浜ハイヴ建設から間もない点、

これらを考慮し2000年5月前後のBETA進行より前に更に大規模戦闘があったとは考え難い。

暁遥かなりでの7面はプレイヤー次第だが複数の中隊が全損する程の戦闘とは考えにくく、

またゲームの進行上損害の多少は別として撃退に成功している。

こうした点から暁遥かなり7面では碓氷大尉は生存しており、

その後2001年2月に起きた大規模進行で死亡していると考えられる。

また2000年5月前後の進行時点でA-01が二個中隊であった場合、

この戦闘での損耗が皆無とは考え難い。

仮に半壊していた場合は一個中隊へと統合されるはずである。

 

また神宮寺まりもはオルタネイティヴ計画始動に当たって教官に就任し、

伊隅大尉はそのまりもの教え子である。

A-01(ヴァルキリーズ)が全員まりもの教え子と語った事と伊隅が最年長である事から、

残っているメンバーは全員伊隅より若いという事になる。

A-01の発足が1997年であり、当時の女性の徴兵年齢は18歳以上である。

2001年時点で207Bメンバーが17~8歳で、徴兵年齢が16歳以上である事から練成期間は約1年。

207Bメンバーは一度総戦技演習を落ちたため1年半に伸びていたものと考える。

すると伊隅は任官時点で19歳。神宮寺教官の一期生なら2001年時点では23歳という事になる。

次に水月達は元の世界でタケル達の先輩である。

明星作戦は1999年8月で、徴兵年齢引き下げは1998年。

明星作戦に参加した慎二達と水月達は同期である。

慎二達は1999年8月に新任少尉として明星作戦に参加し、

水月達は事故によって任官が遅れ作戦には参加しなかった。

女性の徴兵年齢引き下げを待って水月達が徴兵された場合、

男子である慎二達とは同期にならない筈である。

つまり1998年時点で彼らは18歳で、1999年には19歳になっていた事になる。

となると2001年時の水月達の年齢は21歳。

しかし2000年時点で碓氷が大尉だったとすると、明星作戦以前では中尉辺りでないと不自然。

となると水月達の同期とは考えにくく、

昇進速度から考えれば新任少尉でBETA本州上陸を経験して中尉になり、

明星作戦後に大尉になったと考えるのが妥当である。

となるとBETA本州上陸時の1998年夏以前の女性徴兵年齢はまだ18歳なので、

BETA本州上陸の前年春には最低でも18歳を迎えている必要がある。

1997年で18歳とすると、2001年では22歳。誕生日次第では23歳も有りうる。

筆者の個人的な印象から碓氷は伊隅よりも若干若く水月よりも若干年上に感じる。

二個中隊が半壊し吸収統合された歳に年齢や経験も考慮されたと考えるなら、

例え数ヶ月から一年でも先任の大尉を中隊長とするのが道理である。

そう考えればやはり2001年時点で22歳辺りとなるだろう。

 

更に追加設定として、

彼女が常に固めを瞑っているのは隻眼のためで、明星作戦時に負傷。

網膜ディスプレイがあるため隻眼でも十分操縦可能である点と、

その時点で高い衛士適性と戦闘経験があったため衛士として復帰したものと独自に設定する。

ついでに独自設定として誕生日も1月15日に設定してしまう。

 

以上を踏まえ彼女が辿った歴史を列挙する。

1997年1月15日に18歳となり、春に訓練校へ入校。

1998年春に一年間の練成を終えて任官し、そのまま夏のBETA本州侵攻で迎撃戦に参加。

しかし小隊長の戦死と中隊の半壊を受けて中尉に昇進し、小隊長を務める。

その後1999年8月に明星作戦に参加するも今度は中隊長を喪い、部隊も半壊。

その際自身も右目を負傷し失明するも、衛士適性の高さと戦闘経験を武器に復帰。

小隊長時に見せた指揮適性の高さと中隊長の戦死を受け大尉に昇進し中隊長に就任、

A-01連隊の残存二個中隊の内片方の中隊長を努める。

そして2000年5月前後の大規模侵攻を生き残るも部隊はまたも半壊。

残存していた中隊員の数と年齢や経験を鑑みて伊隅中隊へと吸収統合され階級を中尉に降格。

その後2001年2月のBETA新潟侵攻によって碓氷を含めた数名が死亡し伊隅中隊は半壊。

そして数ヶ月後に207A訓練小隊が任官した事でギリギリ中隊定数を満たした。

以上がおおよその碓氷の辿った戦歴という事になる。いやはや凄まじい。

 

ちなみに、そもそも碓氷がA-01以外の横浜部隊所属であった場合や、

暁遥かなり7面でA-01連隊所属部隊が分散し別行動を取っていた可能性などは、

キリが無くなる上に設定が成り立たなくなるため考えないものとする。

公開されている情報から矛盾がないと思われるため、本作での彼女の設定はこれで確定する。

 

《碓氷 美咲》

改めまして、我らがヒロイン。

前述の通り任官直後から立て続けに激戦を経験し、

その過程で片目を失いながらも指揮官適性を開花させ中隊長まで上り詰め、

しかし部隊の壊滅によって伊隅中隊に統合、2001年2月に戦死した。

とある世界ではこの戦死の一ヶ月前にトリップしてきた主人公に窮地を救われる。

その後幾多の激戦を経る過程で恋心を芽生えさせ、桜花作戦前夜に告白。

それを主人公が快諾した事で晴れて恋人関係となり、二人で生き残る。

しかし2004年6月19日に自身を庇って主人公が戦死。

その後は傷心を抱えながらも戦い続けるが、

愛する人を亡くした喪失感を埋める事叶わず数年後に戦死する。

しかし因果的な特異点である主人公が彼女が生存している世界にたどり着いた事で、

その世界に居た彼女に軽い因果が流入する。

そして主人公と愛し合った世界の自分の記憶を手に入れた事で、

その世界の自分から更なる記憶の流入と関連付けが行われる。

こうして主人公が戦死した後の数年間の記憶すらも取り戻し、

再び主人公と生きるために足掻くことになる。

 

性格は若干さばけていて、快活。

主人公の影響か享楽的な部分があり、主人公に対して限定で甘えグセがある。

主人公の配属後は補佐を務めていた事もあって二人で過ごした時間も深く長い。

元々の相性が良かったのか、たった3年半で熟年夫婦のようだったとは当時を知る者の談。

そんな見方によってはバカップル全開なプライベートとは裏腹に、

普段人前で見せる態度は口調も軍人然としていて冷厳な雰囲気を感じさせる。

元々プライベートを知らなければ別人に思える程公私の切り替えが上手く、

主人公も長い軍生活で上手な切り替えを身に着けていた点も相性の良さに拍車をかけていた。

ただ生来の気質ゆえか感情は表に出やすい方で、戦闘中でも感情豊かに指揮をこなす。

元々正負問わず感情の発露が多かったが、

妙に達観した部分のある主人公と共に過ごし20代後半に差し掛かった辺りで落ち着きを得る。

相変わらず喝を飛ばしたりは得意であるが、

以前と違い感情を理性でコントロールする術を心得ているようである。

記憶流入後は急激に変化した操縦技術や感情制御のせいで周囲から不審がられるが、

元々の明るい性格からくる雰囲気のおかげか概ね問題なく受け入れられているようだ。

 

夕呼せんせー曰く主人公との記憶が流入したことで因果が完全に確立され、

今後主人公が彼女の生きている世界にトリップした際は高確率で記憶の流入が起きるとの事。

更に同じ因果でもトリップの度に繰り返す事で結びつきは強まっていくので、

今後彼女が生存している世界へと辿り着く確率は青天井に上がっていくらしい。

それはつまり主人公やタケルちゃんと違って肉体に変化は起きないものの、

意識的には主人公と共に世界を渡り続けるという事とほぼ同義である。

本来なら気が参ってしまいそうな条件であるが、

余り気にした様子が無いのは明らかに主人公の性格の影響を受けてしまっている。

何はともあれ今回の記憶流入によって諸事情の説明を受けた事も含め、

今後は公私共に主人公の最大の理解者となる事は疑いようがない。

 

《白銀 武》

主人公のせいで色々狂った人その1。

今回主人公が辿り着いた世界ではどうやら3週目以降のタケルちゃんのようである。

純夏と結ばれループから解放されたタケルちゃんは元の世界に戻るのだが、

その際に元の世界で不要なこちらの世界の因果情報は虚数空間へ落としていく。

そしてループが発生した際に構築されるタケルちゃんは、

元の世界群とこちらの世界群で虚数空間にばらまかれた因果情報を元にして構築される。

この時桜花作戦を経て"帰った"タケルちゃんの因果情報が混ざっていれば、

当然それらも纏めて再構成される事となるのである。

結果、元の世界に帰った筈なのに気が付けば3週目というタケルちゃん涙目現象が起きるのだ。

剥ぎ取られた不要な記憶や因果情報だけなので一応は傍流として扱われ、

本人の自意識的には知らないはずの知識があるという形になるらしい。

主幹人格に影響が無いためループを繰り返して廃人になる心配が無くて良かった、

というのはこの話を聞いた時の彼自身の偽らざる本心である。

何にせよ知識にあるような無様を晒すわけにもまりもちゃんを死なせるわけにも行かず、

そもそも自分以外のほぼ全員が犠牲になる結末を認めず、

少しでもより良い結果を目指そうと奮闘していく。

丁度そこに数多のトリップを繰り返してきた主人公が現れたのは、果たして幸か不幸か。

少なくともBETA技術の流用によって鑑純夏を完全な人間として再生する目処が立ったのは、

何を置いても最上の幸運として捉えているようである。

現在の目標は純夏とイチャラブしながら仲間を全員守る事。

相変わらずの無茶無理無謀なダダ甘ちゃんであるが、覚悟とやる気はあるようである。

目下の悩みとしては、仲間を守る大事な所を主人公に掻っ攫われそうな点だったりする。

 

《鑑純夏》

主人公のせいで色々狂った人その2。

BETAによって身も心も陵辱し尽くされ脳髄だけとなってもなお、

「タケルちゃんに会いたい」の一念のみで心を守り続けた正真正銘のヒロイン。

この世界では主人公の協力によってBETAの技術を転用し全身の再生に成功する。

肉体再生後も人格の再構築は至難を極める。

リーディングとプロジェクションでタケルちゃんの記憶を転写し、

それを元に強く揺さぶり呼びかけて元の人格を起こす方法を選択。

主人公が持つ00ユニットの能力を用いる事で並行世界から記憶を流入させる事は可能だが、

この手法を選択したのはお姫様を起こすのは王子様という主人公の言に沿ったためである。

本来は心理カウンセリングのように徐々に時間をかけて人格を再構築し、

経過が悪ければ肉体的接触(セックスなど)による荒療治も視野に入れて行われた。

しかし蓋を開けてみれば、眠っている純夏の深層意識にプロジェクションで干渉し、

タケルちゃんの人格をプロジェクションして声を掛けさせる事でまさかの一発成功。

声をかけ続けても起きない純夏に苛立ったタケルちゃんが、

現実と深層意識の両方でキスをするというそれだけで成功させてしまった。

夕呼せんせー曰く粘膜接触という刺激で微量の因果流入が起き、

そこにプロジェクションによる補強が加わった事で急速に再構築が行われた、

というのが現実的に考えうる見解であるようだ。

主人公曰くは「お伽話のお姫様なら王子様のキスで起きるよな」というもの。身も蓋も無い。

再生後は通常より強化された身体能力をフルに活かしてタケルちゃんに突っ込みまくる。

外付け00ユニット完成後はCP将校としても活躍し、

00ユニットの並行世界接続を介して並行世界の自分の知識をダウンロードするなど、

終始規格外な事をやらかしてくれている。

現在の目標はタケルちゃんとずーっと一緒に居ること。

というか、現在も何も純夏にとっての存在意義はこの一念のみである。

 

《香月 夕呼》

主人公のせいで色々狂った人その3。そして最大の被害者。

主人公が完成形の00ユニットとしての能力を持つ上、

某数式も記憶していたため完全に要らん子状態になってしまった可哀想な人。

主人公の発破というか挑発を受け、00ユニットの更なる発展進化を目指す。

相変わらず副司令として政軍両面の表の顔として働いているものの、

最近はほぼ完全に科学者としての活動に力を割いている。

主人公と組み合わせる事で化学反応でも起こるのか、

技術開発局も巻き込んでトンデモ技術の塊を量産しまくる。

外付け00ユニット完成後は使える手駒が増えたこともあり、

最近の肌ツヤはかなり良好なようである。

タケルちゃんのハーレム状態をどうにかしてやろうと悠陽と共に画策しているようだが、

ハーレム解散ではなくハーレム認知を目指している辺り完全に遊んでいる。

「遊ぶ余裕があるのはいいけど相手する側は堪ったもんじゃない」とはタケルちゃん談。

最近の目標は00ユニットの発展と自由気ままな研究。

 

《オルタネイティヴ4直轄技術開発局》

00ユニットの完成と反応炉のハッキング成功を受け、

計画目標を通常戦力によるBETA攻略に切り替えた事で新設された部署。

世界各地の天才的メカニックや博士連中を00ユニットを盾に引っ張ってきた。

主にBETA攻略において必要な通常戦力の研究・開発・改造を行う。

オルタネイティヴ4が正式に完遂となりオルタネイティヴ5と統合、

対地球外BETA攻略計画オルタネイティヴ6へと変わって以降も直轄部署として活動する。

局長は主人公、副局長は純夏。特別顧問として夕呼せんせーを置いている。

基本的にこの三名から回ってきた草案を元に実際に組み上げるための組織である。

アクの強い連中やらお前ら敵だろという連中も多いが、

主人公曰く「科学者というのは自由にやらせて成果を認めてやれば裏切らない」のだとか。

外付け00ユニットの性能限定版が完成してからは、

各部署の部長や班長にそれを貸し出して開発を行わせている。

そのせいでとんでもない勢いでオーバーテクノロジーが量産される事となった。

 

《瓜畑 正也》

ウリバタケ・セイヤ。イメージ元はご存知ナデシコの人。

日本人のメカニックをイメージして真っ先に思い浮かんだのが彼である。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局兵器部兵装設計改造班班長。

元々横浜基地に所属していた彼を部署の新設に伴い転属させた形になる。

戦術機やPTなどに用いる各種兵装を、主人公達から回ってきた草案を元に形にする。

この世界でもマッド気質であり、こと兵器開発に関しては主人公勢との化学反応が凄まじい。

オルタネイティヴ4に接収されてからは妻子と疎遠になっていたものの、

オルタネイティヴ6への移行とそれに伴う情報公開を受けよりを戻したらしい。

 

《アストナージ・メドッソ》

皆ご存知伝説のメカニック。

メカニックと聞けば彼が真っ先に思い浮かぶ人も少なくない筈。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局兵器部戦術機設計改造班班長。

元々は整備員だったが、部署の新設に伴い欧州から引っ張ってきた。

戦術機本体の改造から設計まで幅広くこなし、特に現場の人間だけあって改造技術はピカ一。

周りがマッドばかりの集まりの中、数少ない良識人でもある。

最近同部署の女性と付き合いだしたらしく、やっと胃痛を鎮めてくれる人に出会えたようだ。

 

《マリオン・ラドム》

知る人ぞ知るパーソナルトルーパー開発の第一人者。

アルトアイゼンやヴァイスリッターを作ったのもこの人で、

本作ではPTシリーズ全般の設計開発改造を務める。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局兵器部PT設計改造班班長。

元々はアメリカで戦術機の設計を行なっていた所を引き抜いてきた。

PTの設計と改造には彼女の思想が強く発揮されており、

特にステークやらオクスタンランチャーやら斬艦刀やらはだいたいこいつのせい。

 

《エルデ・ミッテ》

知る人ぞ知る天才博士。

AI関連で天才と言えば作者はこの人が真っ先に思い浮かぶ。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局電子工学部部長。

元々はオセアニアでAIの個人研究を行なっていた所を引き抜いてきた。

PTシリーズのOSなど各種オーバーテクノロジーを制御するためのAIやOSは、

殆どこの人が設計・開発を行なっている。

これは00ユニットを用いて製作すると訳の分からないトンデモ言語で作られてしまうため。

自分の製作したAIをわが子のように可愛がっており、何よりも優先する。

なぜか主人公と顔見知りで、唯一主人公の言葉だけは割合素直に聞くという謎関係。

エルデ本人が多くを語らない事もあり、

生前からの知り合いなのか記憶が流入しているのかすら不明な良く分からない人である。

 

《白河 愁》

シュウ・シラカワ。知る人ぞ知る天才博士。

天才で博士と考えて真っ先に思い浮かんだのが彼である。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局特殊技術部部長。

元々はムアコック博士とレヒテ博士の研究チームに所属していたのを引き抜いてきた。

そのためG元素と特にそれを利用した重力制御に精通しており、

大量のグレイ・イレブンを必要とするものの、

秘密裏にブラックホールエンジンの設計案を書き上げてしまったトンデモ博士。

現在はG元素技術を中心に様々なオーバーテクノロジーの研究設計を行なっている。

なぜか主人公と凄く仲がいい。よく二人でオーバーテクノロジーについて議論している。

 

《ジェイル・スカリエッティ》

皆ご存知(?)天才変態博士。

変態博士と考えて真っ先に思い浮かんだのがこの人。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局生体工学部部長。

00ユニットの素体やBETA由来の生体制御を含め、

オルタネイティヴ関連の生体系技術を統括している。

元々は欧州で擬似生体の研究をしていた所を引き抜いてきた。

00ユニット用の擬似整体技術の発展を行ったりしている。

遥が衛士として再起出来る程精巧な擬似生体を設計するなど天才ぶりも健在。

最近は遺伝子レベルから擬似生体と融合させた人間の研究を行なっているらしく、

補佐に付いている女性秘書官はその試験体だという噂がまことしやかに囁かれている。

タケルちゃん曰く、夕呼が悪の女帝で主人公・シュウ・エルデ・ジェイルで悪の幹部四天王との事。

 

《小島 光行》

ミツユキ・コジマ。皆ご存知まずい粒子の人。ファーストネームは独自設定。

エネルギー関係の博士で真っ先に浮かんだのが彼である。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局エネルギー部部長。

元々は日本で粒子関連の研究をしていた物理学者であったのを引き抜いてきた。

粒子関連の研究とそれを利用したエネルギー生成技術の研究開発を行なっている。

彼専用に与えられた実験室から常に緑色の光が漏れているらしいのだが、

悪性物質や悪影響は検出されていないため放置されている。

時々奇声じみた笑い声が聞こえてくるらしいが、なんでもないのだ。

ちなみに。

彼の部署には以降早乙女博士やら兜博士やら南原博士やらそうそうたる顔ぶれが揃い踏みし、

人外魔境の巣窟と化しているとの報告が上がっていた気がするが記憶にございません。

 

《イルイ・シェスチナ》

皆ご存知ロリっ娘。サイコなドライバーの子。

本作では第三計画に接収され高いESP能力を発現させた子供となっている。

他の能力者と違って試験管ベビーではなく、

確認はされていないもののESP以外の能力も発動しているフシがある。

オルタネイティヴ4に新設された技術開発局超常能力部部長補佐。

ちなみに部長はピアティフで、霞が特別顧問に就いている。

シェスチナ性に違わず大人しい子だが、他の子供と違って感情の色は強い。

主人公は以前並行世界で彼女と出会ったことがあり、それを思い出して接収を提案した。

当時の記憶を彼女にプロジェクションしてみた所、非常に懐かれる事になる。

 

《太田 宏一朗》

コウイチロウ・オオタ。愛称はコーチ。某トップをねらう作品の人。

宇宙戦艦の開発で真っ先に浮かんだのが彼である。

オルタネイティヴ6直轄技術開発局宇宙戦艦開発部部長。

元々はオルタネイティヴ5に接収され宇宙船の開発を行なっていた人物で、

オルタネイティヴ4がオルタネイティヴ5を吸収し、

対地球外BETA攻略計画オルタネイティヴ6へ移行した際に接収された。

居住用コロニーから弩級宇宙戦艦まで幅広く手がける。

宇宙での開発作業時に放射線被曝を受け不治の病を患っていたが、

BETA由来の技術を用いる事で治療に成功する。

その後は完治を目指して継続治療を続ける傍ら、

宇宙の遥か彼方に存在するBETAの中心と上位存在を倒す事を最終目標に、

BETA中心殴り込み艦隊の建造を手がけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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不知火コハクの忍道 (NARUTO ショタ)

 

ハロー皆さんろりこんばんわ。

俺の名前は不知火コハク。所謂前世の記憶持ちという類の男だ。

とはいえ、トリップだの転生だのといった上等なものではない。

普通に赤子として生まれてきたらなぜか頭の中に前世の記憶が残っていたのだ。

記憶というよりも知識と言った方がいいだろうか。

よって俺自身は幼い頃から色々とモノを知っているだけの子供だった。

とはいえその知識に救われてきた事は数知れないが…

 

「おーおー、平和そうな面してらあな」

 

そんな俺は今何処に居るかと言えば火の国木の葉の里。

お分かり頂けたと思うがNARUTOの世界だ。

俺の前世は随分と本を読むのが好きだったようで、

文学からマンガからライトノベルからエロ本から、様々な本を読んでいた。

部屋に積まれたゲーム(R18含む)の山と本(こちらもR18含む)の山は部屋一つを倉庫として使っていたほどだ。

そんな俺がNARUTOという有名マンガを読んだことが無いはずもなく、

大学受験のために必死で身に付けた特殊な記憶法を日常的に使っていたおかげでかなりの部分も覚えていた。

NARUTOに限らず様々なマンガの内容を記憶していたが、まあ今は関係ないので割愛。

とまあこれだけ前世の事を覚えていれば幼少期に形成される人格にも多少は影響が出るというもので。

現在10歳の俺は既に精神年齢の少し高いヒネたガキになっていた。

といっても所詮子供が不似合いな知識を得て背伸びしているだけだ。

子供っぽい面も多々あるのは自覚しているし、それをどうこうしようとは思わない。

記憶や知識は残っていても人格自体は別物なのである。

 

「前来た時と変わってねえなあ。平和ボケ出来るってのはいいねぇ」

 

10歳の物言いでは無いと思うが、前世の知識を持っているプライドが子供らしい言動を拒むのだ。

とはいえ子供特有の無邪気なプライドなので崩れる事も多々あるのだが。

平和ボケとかそれっぽい言葉を好んで使いたがる辺りの精神が子供なのだと自分でも思うが、

事実孤児として暮らしてきた俺からすればこの里の連中は十分に平和ボケしている。

 

――そう、俺は所謂孤児という奴だった。物心ついた時には親は居らず、孤児院で暮らす日々。

わけの分からない知識が頭の中にあった事もあって寂しさで泣き喚いた事もある。

それでも生きる術を得るために忍術を覚えた。

狩りが出来るようになれば最低限食うには困らないし、いずれ忍になる事も出来る。

俺は知識から忍になれば俺のような孤児でもいっぱしの生活が出来る事を知っていたし、

逆に孤児でもまともな生活は出来るはずだとへらへら笑っていられるような希望は持てなかった。

前世では戸籍を持たない者はその生を認められず、

孤児として生まれれば一生惨めな思いをして暮らすだろう事は想像に難くない。

勿論才能を開花させたり努力の末に幸せを掴み取れる者も居ただろうが、

境遇を悲しむ事で現実から目を背けた者の末路が悲惨であることは、

25歳で社会人として生きていた俺は当然のように知っていた。

そういった前世の俺が残してくれた掛け値無い有り難いアドバイスのお陰で俺は今まで生き残る事が出来、

そして今こうして目的を持ってこの地に足を着けている。

 

「さーて、ナルトとか言うのにも興味あるけど、まずはこっちの用件からだな」

 

幾ら俺が特殊な忍術を使うとはいえ、

門から堂々と入ってきた俺に監視も注意も一人も無しというのは少々不安ではあるが、

俺はとある依頼をするために依頼所へと向かった。

 

「何じゃと?」

 

依頼所で少々変わった依頼を出した俺の言葉に三代目火影猿飛ヒルゼンは目を細めた。

俺が言ったことは単純明快。

俺を忍者として雇ってくれというものだ。

名前を告げ変化の類もしていないことを確認され、

年齢から鑑みても抜け忍やスパイである可能性は低いと判斷されたが、なにせ俺は孤児である。

この世界にも戸籍に似た制度はあるが、生まれて直ぐ孤児となった俺にそんなものはない。

身元を確かめる術が無い以上判断は難しく、子供なのだからアカデミーへ通えというわけにもいかない。

完全にシロとは言い切れない俺を名家の子女が通うアカデミーへ入れる訳にもいかないし、そもそも金が無い。

実際には忍術を使って色々稼いではいるが、孤児であるはずの俺があまり大ぴらに使うわけにも行かない。

判断に困っただろう三代目を見て俺はカードを切ることを選ぶ。そのために三代目がここに居る時を選んだのだ。

 

「暗部でも構いませんし、火影様の直属ということでも構いません。適当な上忍に付けていただいても結構です。

 とにかく仕事が出来て稼げれば、暗殺だろうが雑用だろうが…人柱力のお守りでも」

 

その言葉を俺が発した瞬間室内の空気は凍りつき、

俺の両脇と背後には計三人の暗部らしき忍がクナイを俺に向けて現れた。

流石に暗部だけあって、並の中忍以下なら反応すら出来なかったであろう。

俺の言葉に対しての反応が先程の三代目の言葉であり、それをごくごく自然体で見つめ返す。

眉ひとつ動かさずに自然体を保つ俺に三代目は更に目を細める。

俺が発した人柱力という言葉。それはそれだけ重いものなのだ。

ただ九尾という単語を知っているだけではない。

尾獣という強大な存在、それを宿した存在を人柱力と呼ぶ。

そしてそれが現状お守りをされるべき存在であり、この里に居るという事まで知っている。

それは、ただの孤児が知り得る範囲を逸脱していた。

 

「お主…何者じゃ?」

 

「ただの孤児ですよ。ちょっとした予知能力はありますが」

 

事実である。とある忍術の応用で簡単な予知能力を使えるし、

全力で使えばかなり先の事でも読める。

先のことになるとせいぜい占いレベルの的中率で、今回の情報はそれで得たものでは無いという事は口にしないが。

 

「血継限界か…」

 

「どのようにでもご自由に」

 

血継限界とは、血筋によってのみ受け継がれる特殊能力の事である。

それは氷遁や木遁といった特殊な忍術であったり、写輪眼や白眼といった特異体質だったりする。

いずれにしても強力なものが多く、その全てを把握しきれている者も居ないだろう。

廃れていったモノもあれば表舞台に出てこないモノもある。

それら全てを把握し切る事は不可能で、その中に未来予知が可能なものがある可能性は0ではない。

…ま、俺のは違うんだけどね。

 

「…何が目的じゃ?」

 

「勿論生きる事。あと人柱力の話題を出したのは、彼のことは気に入っているからですよ」

 

左右と背後から突き付けられるクナイと殺気を意に介せずしれっと言い切る俺。

事実、俺はナルトの事を気に入っている。

才能が無いと言われた落ちこぼれでありながら努力でそれを乗り越え、

その奥に眠っていた才能を開花させる事でさらに高みへと達した、『努力した天才』。

物語の主人公らしい実直で素直な性格は人間としても好ましいし、

自分の存在を示すため、そして誰かを守るために最強の一角にまで上り詰めた事は賞賛に値する。

様々な悪意をド根性で乗り越えるその姿はまさに主人公、英雄といった所だろう。

そんな人物が現実に存在し、更にはまだその物語は始まってすらいないのだ。

近くで見たい、手助けしたい、…関わりあいになりたくない。いずれも本心である。

そして俺は自分が生きるために、そして幸せになるために、俺が持つこの情報を利用する事にしたのだ。

そういった俺の目的や考えをゆっくりと一つずつ語っていく。

今の彼はただの子供。

俺の知っているはずのない彼の人柄や経験を前提としているとしか思えない言葉を聞き、

三代目は俺を見定めようとする視線を更に強める。

 

「人柱力を巡って戦争なんかされた日には、ただの孤児の私に幸せなんて無いも同然でしょうから。

 そういう意味でも彼の教育役として道を正せるのならそれもいい」

 

今俺は10歳。そして彼は未だ8歳だ。

予定された物語の始まりまであと5年。

その間に俺が学べるもの、彼に与えられるものは計り知れないだろう。

もしかしたら死ぬはずの者が死なず、代わりに死ぬはずの無い者が死ぬかも知れない。

しかしそれはあくまでこの世界をマンガの世界として見た場合の話。

俺は今此処で生きていて、前世の記憶はそれはそれこれはこれ。

例え前世で見たモノと違う結果になったとしても、それがこの世界での歴史である。

…とまあ、小難しい理屈や考えを並べ立ててみたわけだが。

端的に言ってしまえば俺の目的は生きて幸せになるというごく普通のものであり、

そのために必要になりそうなことは片っ端からやっておきたいだけである。

 

「友達とバカやって、可愛い女の子にときめいて、そんな風な生活を俺もしてみたいんだ」

 

手を後頭部で組んで、体の緊張を解き、本心からの笑顔を浮かべる。

急に子供っぽくなった俺の態度に呆れたようにため息をつく三代目。

一応前世の知識から"らしく"振舞っていたが、やはり素の方が楽でいい。

言いたいことは言い切ったのであとは好きにしてくれという意思表示でもある。

俺みたいな出自で頼るアテも生活基盤も無いんじゃ人並みの幸せすら難しいので、

忍者になるのが一番の近道である。そのため少し無茶をした。

幾ら大人として生きた知識があっても俺自体は子供だ。ちょっとぐらいの無茶無謀は見逃してくれ。

暫く考え込んだ三代目は、手で合図し暗部の三人を下がらせた。

 

「お主はワシ直属の暗部ということにし、当分ははたけカカシという上忍の下に就いてもらう」

 

…まさか、全部来るとは思わなかったなあ

 

 

 

 

 

 

「まーたトンでもないの押し付けられちゃったねこりゃ」

 

俺は今木の葉の里にある演習場の片隅で横たわる子供を眺めている。

気持ち良さそうな寝息を立てて眠るこの子供は、先程まで俺と演習を行なっていた相手だ。

火影様にいきなり呼び出され、子供の世話を任された時は失礼にもついにボケたかと思ったが…

この子供、この俺から"鈴"を奪いやがった。

本来ならスリーマンセルのチームワークを見るための鈴取り演習を、

格下相手の実力を見るのにも丁度いいため利用したのだが…

都合三回。不知火コハクと名乗ったこの少年と演習を行い、鈴を奪われた回数である。

一回目は体術勝負で俺と互角の力を見せ、二回目は性質変化も使った忍術勝負で複数の属性を使いこなし、

三回目は自身のオリジナルだという忍術の前に手も足も…いや、何が起こったのかすら分からない内に負けた。

結局この演習で分かったことは、この少年が俺と互角以上の実力の持ち主だったという事だけだ。

 

「写輪眼は使ってなかったけど…使ってても勝てたか怪しいねこりゃあ」

 

彼が使えるかどうか、使えるとしたらどのぐらいか、敵意はあるのかなどを見極めるための演習。

上位の忍は拳を交えれば相手の気持ちが分かるなどというのを根拠にする気はないが、

彼との演習時に邪なモノは感じられなかった。

その体捌きや途中交わした会話、こうしている無防備な寝顔のどれからも、怪しい所は感じ取れない。

これが大人であれば何を考えているのか分からないという事もあるのだが、この子は子供だ。

大人ぶっている上に相応の知識もあるようだが、本質が子供なのである。

勿論忍としては優秀だし、それがマイナスになることはないだろう。

…ようするに、無邪気なのだ。孤児として暗い人生を歩んできたとは思えないほどに。

本人が言うには孤児院での生活より森で狩りをしていた時の事の方がよく覚えているらしいので、

恐らくは野生児のようなモノなのだろう。

それにこの子の言動からは、生きたい、幸せになりたいという純粋な思いが伝わってくる。

 

「…"あの"ナルトのお守りに志願したらしいな」

 

火影が何を思ってこの子を大丈夫だと判断したのかは分からない。

だが俺はこの子を見極め、必要であれば導こう。

それが、いずれ"先生"の遺した"意志"を守る事にもなるはずだ。

 

 

 

 

 

 



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