究極の卵を求めて (ヨイヤサ・リングマスター)
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究極の卵を求めて
短編なので、原作を知っている人が、くどく感じるような設定は省いていきますので、未プレイの方は分かりにくい描写があるかもしれませんがお許しください。
私自身が連載作品としてではなく、短編で書きたかったためです。
そしてこの短編は三人称です。
細かい前振りなど要らないだろうが、一応説明しておこう。
魔物使いとして、十五歳の成人を迎えた少年コウが<魔物の塔>に入ろうとするところから物語は始まる。
少年は早く塔に入りたいと思っていたので街の住民との会話もせずに、即行で塔に入ろうとしたのだが……、
「……おい、てめぇ魔物使いだろ?
俺の名前は……いや、過去の名は捨てた、フッ。
良かったらあんたが付けてくれよ。
オイラとオマエの仲だからな」
塔に入ろうとしたコウに、馴れ馴れしく声を掛けてきたのはキューンという魔物だった。
この魔物、魔物でありながら人語を話し、「ドラゴン」を小型化させた青い魔物で、コウの仲間になることを望んでいるようだが、
「色が赤じゃないから嫌なんだがな……、『ああああ』なんてどうだ?」
「なめてんじゃねぇぞ、ド低脳がァァァー!」
魔物使いとしてデビュー初日。
少年コウは塔に入る前に、突然現れた人語を話す謎の魔物キューンに燃やされた。
これが後に「ビーストマスター」と呼ばれるコウと、その最初の使い魔との出会いだった。
……
…………
………………
「いやぁ~悪かったよ少年。
え? 名前はコウだって?
じゃあオイラの名前はシュジンにでもするか。
深い意味はないが、シュジン様って呼んでいいぜ?
オイラはこう見えて絶滅が危惧される数少ない種族なんだ。
それ相応の扱いってもんを学んでもらわなくちゃいけねぇからな」
「分かった(ガクガクブルブル)」
「ハハッ、オイラみたいな小さい魔物におびえているようじゃ、この<魔物の塔>に入った途端に塔に住む魔物に殺されっぞ、コウ。
オイラが守ってやっから、褌締めて気張っていきなッ!」
何処からか葉巻を取り出してくわえるシュジンに、すかさずライターを取り出して火をつけるコウ。
二人の間に明確な主従関係が生まれた瞬間でもある。
「さぁてと、そんじゃ長ったらしい話はもういいだろう。
今日中にこの塔の天辺を目指すんなら時間は少しでも惜しいからな。
てめぇは黙ってオイラについて来いや、コウ」
そうして多くの大人の冒険者でさえ、夢半ばで散っていった難易度の高い<魔物の塔>の攻略を開始したシュジンとコウ。
何故かシュジンはあり得ないほどに強く、出てくる魔物を軒並みぶちのめし、塔の二階に現れた嫌味ったらしい馬鹿を殴り飛ばすとどんどん進んでいく。
おっと、一番最初に塔に潜った時、ゲームでは、あの金髪の「バラの戦士」が出ないってのは突っ込んじゃいけないぜ?
いや、「バカの戦士」だったかな?
「ヒャッハー!
オイラに殺されてェやつは、どんどんかかってこいやァァァー!」
遅れないようにシュジンのあとを追いかけるコウだが、シュジンが倒す魔物の経験値が入るからか、階を進むごとにコウ自身も強くなっていった。
塔に入るには最低でも15歳の成人を迎えていなければならない。
その規則に触れない15歳になった瞬間に塔に入ったものだから、コウは身体的にも精神的にも、また知識も装備も未熟極まりないものだった。
◆ 塔の15階 ◆
「おいコウ。この油が無限に湧き出る壺に火を付けてやっから魔物にぶつけてみろよ」
「了解だ、シュジン!」
グルの油壷を火炎瓶として使う二人。
◆ 塔の20階 ◆
「あん? なんだァ、このきったねぇ<青いケープ>は?
オイラはいらねぇけど……いるか、コウ?」
「お、それじゃあもらおうか。
ちょっとそこ柱の陰で大をしてくるから待っててくれ」
◆ 塔の28階 ◆
「うぉぉぉぉぉぉーーー!!!
みなぎってきたぜぇぇぇぇーーー!!!」
「おい、シュジン。<ナオルル草>なんて病人でもないのに食べて大丈夫なのかよ?」
「オイラってば最強だぜぇぇぇーーー! ストロングだぜぇぇぇーーー!」
「あ、聞いてないやこりゃ……」
……
…………
………………
最初、コウは足手まといだった。
だが、それもレベルが上がっていくうちに筋骨隆々のムキムキとなり、シュジンと揃って拳で魔物を抉れる程度には強くなっていたのだ。こう、グシャっと。
「へっ、やるじゃねぇかコウ。
こりゃ、オイラもウカウカしてたら抜かれちまうな」
「強くなるきっかけをくれたのはシュジンだ。
しかしこれは、本当に今日中に塔の攻略が出来てしまうかもしれないな……」
コウの頭の中には3つの野望があった。
一つは冒険者としても魔物使いとしても高名な、今は亡き父を越えること。
二つ目は塔の中で手に入れた財宝や魔物の卵を売って多金持ちとなり、母や妹に楽をさせてあげること。
自宅の風呂がドラム缶風呂なので母や妹の裸を誰にも見せないためでもある。
以前、母の髪型が「サザエさんみたい」と言われてプッツンしたのは記憶に新しいことだったりする。
そして最後の一つ……それはハーレムを作ることなのだ!
「俺の夢は最強の魔物使いとなって街一番のハーレムを作ること!!!
男が金を手に入れたらすることはハーレムだろうがぁぁぁぁーーー!!!!!」
また一匹。コウの拳が魔物を殴り殺す。
一人と一匹の間には拳を交わしたことで芽生えた奇妙な友情があった。
「おっと、コウ。
こっから先は気をつけろよ?
オイラがある程度は守ってやるが、生き死には基本的にゃぁ、自分の責任だ」
「分かっている。
少なくともシュジンがいれば問題はない」
二人はどんどん進んでいく。
中にはいやらしい攻撃をしてくる敵も多いし、素手では倒しにくい魔物もたくさんいる。
普通なら……なんだが。
「筋肉パンチ!」
コウの拳はゴーレムのような固い魔物ですら砕ける破壊力!
華麗なステップで相手の攻撃は全て回避し、こちらの攻撃は岩をも砕くというありえないほどの戦闘力である。
まぁ、なんだかんだあって塔の最上階についたわけだ。
「ご苦労だった。
よくぞ奴を鍛え、ここへ導いた」
塔の最上階では謎の男がいた。
コウもシュジンもきょとんとしている。誰だこいつ?
「……おい、まさかとは思うが、お前達が塔を登る途中でホログラム的な登場をし、意味深なセリフを残したと言うのに忘れたと言うのか?」
青い髪の不気味な男、ベルドは問う。
「「忘れた!」」
しかしコウたちは覚えていないようだ。
「くっ……、だがまぁいい。
驚くのは無理もない。こいつは私の一部だァァァ!
(こいつら馬鹿だから、無理矢理ラスボスっぽい流れに持っていこう)」
そう言うと謎の男――ベルドはシュジンを吸収し、自らの右腕とした。
ここは原作通りの流れなのでスルーしてほしい。
ベルドはきっちりと雰囲気を大事にして行きたいようだ。
そしてベルドは語る。
聞かれてもいないのに語る。
悪役としてもボスキャラとしても半端な理由である、この「語り」の部分を、雰囲気を盛り上げたいがために語る。
かつて<魔物の塔>の最上階にあるという、究極の魔物の卵を求めて冒険をしていた時、凄腕の魔物使い――コウの父、ガイと協力して最上階まで上り詰めた。
しかしそこでベルドは、ガイを裏切って卵を独占しようとしたら逆にガイに右腕を切り落とされ、さらに究極の卵に封印をかけられてしまったために、息子であるコウが最上階にまでたどり着けるようにあれこれと策を弄していたと語ったのだ。
早い話がのんびり息子が育つまで待って育ったら自分の使い魔をスパイとして送りつけよう大作戦。
ちなみにベルドは本気で成功すると思っていたようだ。
……が、完全に自身の右腕として吸収したはずのシュジンが反旗を翻し、勝手に右腕から逃れてしまう。
「オイラの下僕(マスター)はこいつだぜ!」
「おいシュジン。何で『下僕』と書いて『マスター』と読むんだ?」
スルーするシュジン。そういう流れと言うことで。
「うわぁ、うわぁァァァァァァ!
死ぬのはいやだぁぁぁぁぁぁ!」
だがシュジンもコウも躊躇いなどない。
シュジンにとっては無駄に偉そうな元主人。コウにとっては父親の仇。
二人の恨みがベルドをフルボッコにした。
「うわぁ、うわぁァァァァァァ!」
何故か攻撃を受けて小さくなるベルド。
なんかミニマムの魔法効果でもあったのだろうか?
「てめぇの愚かさを悔いるんだな。
まっ、オイラもてめぇの一部だ。殺しやしないさ」
そう、シュジンにとって、ベルドを殺すことは自身の消失にも繋がるのだ。
だから殺さない。
小さくなったベルドを自分が死なないようにするために食べたのだ。
哀れなベルドは、シュジンの腹の中で永遠に死ねない地獄を味わうこととなった。
「さて、これでコウは“ビーストマスター”となって父親の仇を討ったわけだが……。
バレちまったから言うが、オイラはお前の父親の仇の体の一部だったわけさ。
だがッ! 許してくれるんだろ?」
最高の笑顔で問うシュジン。
これは暗に、許さなければこの場でてめぇを殺す、という意思の表れだろう。
少なくともコウはシュジンに勝てるほどは強くない。
「ユルス、ナカマ」
「さっすが“ビーストマスター”だぜ♪
そんじゃ、これからオイラはコウの家で暮らすことになるわけだが、てめぇをビーストマスターに育ててやったのはオイラなんだから、そのこと忘れんじゃねぇぞ?」
居候が増えましたが、コウはシュジンがいなければ何も出来ないので仕方がないでしょう
これにて一件落着めでたし、めでたし♪
……ちなみに、塔の最上階にあった究極の魔物の卵はとても美味しかったそうな。
この短編をきっかけに、アザアザの二次創作が増えるといな、と考えているヨイヤサでした。
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